【Without a Trace】ダニー・テイラー萌え【小説】Vol.2
NHK-BS2で放送中の海外ドラマ「FBI失踪者を追え」
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
4 :
1の訂正:2005/09/16(金) 04:17:43
5 :
書き手1:2005/09/17(土) 00:18:35
旧スレのストーリー少しアップさせていただきます。
983 :書き手1 :2005/09/17(土) 00:07:21
ダニーのそばには次から次へと祝福の人が訪れる。アランも全く拒んでいない。
「どうだい、ダニー、NYの社交界は?」「俺のいる所やない。」
「すぐ慣れるよ。君は順応性があるから。」ダニーもシャンパンが飲みたくなり
行こうとするとアランに止められる。「ハニー、僕の役目だ。」
気がつくとマーティンとエンリケ、ラルフが消えていた。
984 :書き手1 :2005/09/17(土) 00:14:51
ダニーも去ろうとすると、アランの友達全員に止められた。ビルが言う。
「聞いたわよ。元彼がここに来てたんでしょ。今日は帰さないわよ〜。」
アランがシャンパンを持ってきた。また乾杯が始まる。ダニーも目まぐるしい
出来事の連続で一杯で酔いがきた。
6 :
書き手1:2005/09/17(土) 00:26:10
ダニーは気が付くと、ビルとギルの間で眠っていたようだ。
空がうっすらと明るい。アランがキッチンで何かしている。
「アラン、おはよ。」「ああお目覚めはどうだい?」「ぼっーとしてる。」
「アルカセルツァーでも飲むか。」「ん。他のゲストは?」
「君の可愛い寝顔を見ながら帰って行ったよ。」ダニーは頬が赤くなるのを感じた。
「昨日のあれって・・・」「もう過去の事は言いっこなしって前も言ったろう。」
ダニーは過去に触れられたくないアランの気持ちを知ってしまった今、
昨日までと微妙に心が動き出したのを感じていた。 まずいわ、俺。
7 :
書き手1:2005/09/17(土) 00:38:44
その頃、マーティンはエンリケの家で目を覚ました。ベッドにエンリケと
ラルフがいる。身体中から精液の匂いが立ち込めていた。
うわぁ〜、僕、何やっちゃったんだよ!!
自分のペニスにも射精の跡がしっかり残っている。
エンリケを守るってダニーと約束したのに、自分の身も守れないなんて。
FBI失格だ!
エンリケが「うぅぅん」と目を覚ました。「マーティン、昨日、最高!
僕、この国に来て本当に幸せ!」その声でラルフも目覚めた。
「るせいな〜。まだ早いんだろう!」元のラルフの言葉使いだ。
「僕、シャワー借りていい?」一刻も早く身体を清めたかった。
「シー、僕も入るね。」エンリケがついてくる。
8 :
書き手1:2005/09/17(土) 00:41:07
マーティンがだまってボディーソープで身体を洗い始めると、エンリケが
ソープを柔らかく泡立て、マーティンの身体に触り始めた。二日酔いで、
だるいマーティンは拒むことも出来ず、そのままにしていた。
エンリケは性的な行為は行わず、身体を綺麗に洗ってくれるとバスタオルを
取ってくれた。
9 :
書き手1:2005/09/17(土) 00:53:21
「マーティン、やっぱり僕のお姫様。特別ね。僕、ラルフにアパート見つけた。
来週引越しするよ。」「そうなんだ・・・」
二人で話していると、ラルフがあくびしながらシャワールームにやって来た。
「俺は引っ越さないぜ。ここが気に入った。メ・アグラーダ・アキ!」
「困る。ラルフ。君、自立すること大切ね。」
「ノー!ヤー・ノー・アグアント!」
二人でスペイン語で喧嘩が始まってしまった。なす術がないマーティン。
10 :
書き手1:2005/09/17(土) 00:56:15
仕方なくキッチンに行って、コーヒーメーカーでコーヒーをいれ始める。
一応治まったのか、二人がシャワールームから出てきたが、エンリケの
顔にはなぐられたアザがあった。「エンリケ!大丈夫!!」
「だいたい、お前がいけないんだよ。お前さえいなけりゃ、俺がエンリケと
住めたのに。」今度はマーティンになぐりかかる。
11 :
書き手1:2005/09/17(土) 00:59:51
さすがに鍛えているFBI捜査官ではあったが、ラルフもストリート・ファイト系で
攻撃してくる。互角の戦いになった。やっとのことでマーティンがラルフを
組み敷いて一応の決着はついた。「なかなかやるじゃん。」「お前もな。」
二人息を切らしながら座り込んだ。マーティンはフリーザーから氷を出すと、
その辺にあったスーパーの袋に詰めてうずくまっているエンリケに渡す。
12 :
書き手1:2005/09/17(土) 01:02:54
マーティンは散らかっている自分の洋服を集めると素早く着替え、
エンリケに目で挨拶して、アパートを出た。朝日がまぶしい。
ダニーはどうしてるだろう・・・
昨日の光景が思い出され、一度出した携帯をしまった。
僕ら、本当に一緒にいられるんだろうか・・・
マーティンは流しのタクシーをつかまえてアパートへと向かった。
13 :
書き手1:2005/09/17(土) 01:32:04
「俺、アルコール抜きたい。バス入ってええか?」ダニーは尋ねる。
「ああ、お湯を張ってあるから好きなアロマオイルを使いなさい。」
すべてに用意周到なアランだ。バスタブのお湯にミントのオイルを入れ、
身体をダニーは沈めた。ぬるめのお湯で気持ちがいい。汗が滝のように
出て来た。アランが手にミネラル・ウォーターを持って入ってきた。
「水も飲むといい。アルコールが早く抜けるから。」「ありがとう。」
14 :
書き手1:2005/09/17(土) 01:38:07
バスから上がるとガウンが置いてあった。身体をくるんで出てくると、
ビルとギルが起きていた。「おはよう、ダニー。ほんとにあんたって
男前だわ。FBIやめて私のモデルにならない?」ビルが本気なのか
冗談なのか尋ねる。「やめてえな。俺FBIが気に入ってんねん。」
「あぁもったいない。こんないい男がアランだけのものなんて!」
「ビル、もうジェラシーは止めろよ。お前にもそのうち本命が現れるから。」
ギルが諭す。「ふん、ギルだって独り者の癖に。」
「まあな、うらやましいのは右に同じだよ、アラン。」
キッチンからリゾットの匂いがしてきた。
「昨日のシーフードプラターの残り物でリゾット作ったけど、食べるかい?」
ダニーは思い出すと昨日ろくに食べていなかった。空腹感がある。
15 :
書き手1:2005/09/17(土) 01:45:46
ギルとビルは「お二人のお邪魔だから退散するわ。」と帰っていった。
さあ、アランと二人きりだ。「いただくわ。」ダイニングに座るダニー。
「片付け、手伝おか?」「いやメイドを頼んだから心配ご無用だよ。」
「アラン、いい友達沢山いてるんやな。」「そうかい?」
「俺、仕事が忙しゅうて、友達作る暇ないんや。FBIのチームが仲間って
感じで、それ以外は結構孤独やねん。」
「君が自分の事を話すのは珍しいね。カウンセリング以外で。」
ダニーも驚いていた。自分がアランの前で素直になっているのを。
「これからは、僕がいるじゃないか。前にも言ったろう。僕がここにいるって。」
ダニーは考えていた。マーティンと自分はどうなっていくのだろうと。
16 :
書き手1:2005/09/17(土) 02:52:06
「今日、メイドが入るから、君のアパートに行ってもいいかな。」
「えっ?俺のアパート!汚いし狭いで。」「知っておきたいんだよ。僕の
ハニーの色々を。」ダニーはしぶしぶ承知した。
アランのボルボでブルックリンに出かける。大家のおばさんが声をかける。
「ああ、この間のお医者さん、今日も治療?」
「アランと呼んでください。ちょくちょく来ることになりますから。」
おばさんは年甲斐もなくぽぉっと頬を赤く染めた。アランの魅力は絶大だ。
17 :
書き手1:2005/09/17(土) 02:57:19
部屋を簡単に案内する。ふんふんと聞いているアラン。ふとクロゼットの隣りの
IKEAのクロゼットが目についた。「これは?」「ガラクタ入れてる。」
「ふうん。整頓好きの君らしくないね。」さっとカーテンを開く。
こぼれ落ちそうなマーティンの衣服。「なるほどね。」アランの顔がこわばる。
「これは?」「ウクレレ。」「君は楽器は何でも出来るんだね。1曲弾いてみてくれ。」
ダニーはわざとけたたましくジミヘンの「パープルヘイズ」を弾く。
ハワイのウクレレアーティスト、ジェイク・シマブクロの編曲だ。
18 :
書き手1:2005/09/17(土) 03:00:53
「ウクレレもいいがこの間のリュウイチ・サカモトが良かったな。」
ダニーはヤマハを開き、「戦場のメリー・クリスマス」を弾く。
「この映画、見たかい?」「いや。」「リュウイチ・サカモトとデヴィッド・
ボウイが目線を交錯させるんだよ。禁断の愛情を描いた名作だ。主題歌が
Forbidden Colour ほら、禁色だろう。「「へぇ〜、アラン本当に物知りやね。」
19 :
書き手1:2005/09/17(土) 03:05:01
「雑学だけだけどね。君だってプロはだしのピアノやウクレレの腕を持ってるのに
活用しないなんて本当にもったいないよ。それにビルが言うように容姿も
今のモデルのトレンドに合ってるしね。」「だから、俺はFBIが好きなんや。」
「それに孤独も実は好きだろう。自分の本心を人に隠して生きてきたね。」
「・・・・」「過去に何があったか知らないが、人生は自分で作るもんだよ。」
20 :
書き手1:2005/09/17(土) 03:06:27
二人はどちらともなくベッドへ行き、衣服を脱いで横になった。
セックスのためではない、癒しのためだった。いつしか、二人とも、
ぐっすり眠りに入っていった。
「あーおなかペコペコ」マーティンはむしゃむしゃとタイ風チキンにがっついた。
ふと見るとダニーがワインを飲んでいる!!?
「ダニー!・・飲んじゃダメなんじゃ・・・・」
「ん?ああ、ちょっとだけなら大丈夫や」ダニーはグラスを持ち上げた。
「ダメだよ」マーティンはグラスを取り上げ、中身を捨てた。
「また前みたいになったら困るよっ!それも僕のせいで」
ダニーは違うと説明したが、マーティンは飲むのを許さなかった。
22 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:40:35
「今日の事件、痛かったな」「うん、あの子どうなるんだろ・・・」しばし無言で案じた。
「あっ、昨日、副長官が携帯に電話してきたで」「なんて言ってた?」
「お前に交際相手がいてるかやってさ」「またそれか。僕、見張られてんだ」
「あの子が反抗的になったって嘆いてはったわ」マーティンは苦笑した。
「で、またみんなでメシ食いに行こうってさ」さりげなく付け足した。
「今度はさそりじゃなきゃいいね」マーティンがからかった。
23 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:41:21
食事が終わり、ダニーが後片付けをしようとすると、
すでにマーティンが食器を運び始めていた。
「えらいやん、マーティン」ダニーはニヤリとしながら褒めた。
マーティンは嬉しかったものの、何でもないような顔をした。
「さてと、ほなオレは帰るわ」
「あ、うん・・・今日はありがと」やっとそれだけを言うと俯いた。
「また明日な」ダニーはそのまま帰っていった。
24 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:42:04
ダニーは家に着くと、買ってきたミリオンバンブーを活けた。
8本の竹は、オリエンタルな空間を醸しだしている。
しばらく満足げに眺めていた。電話が鳴っている。絶対マーティンやで・・・。
「はい」「ダニー、私だ」マーティンだと思っていたダニーは拍子抜けした。
「ボス、事件すか?」「いいや、この前のことを謝ろうと思って」
「あ・・・」「すまなかった、頭に血が上ってしまって、つい・・」
「いいんすよ、ボス。もうプライベートで会うこともないんやし」
「うん?なぜだ?」「軌道修正ですわ、ボス」
「言ってる意味がわからんが」「もう付き合ってないってことですよ、それじゃ」
ダニーは一方的に会話を終わらせると、電話を切った。
25 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:42:46
朝のミーティングで、マーティンはぼんやりとしていた。
「マーティン、聞いてるのか?おいっ」ボスの叱責が飛ぶ。
「っ!」テーブルの下で、ダニーが足を蹴ってきた。
はっと我に返ると、みんなが自分に注目していた。
「すみません・・・」マーティンはボードに目をやった。
26 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:43:28
聞き込みに向かう車の中で、マーティンはあくびを連発した。
「どないしたん?昨日、寝てへんの?」「ううん、ソファーで寝ちゃったから」
「ふーん、それで疲れが取れてないんや、着くまで寝とけ」
「ううん、大丈夫。それより、またお酒飲んでないだろうね?」
「ああ、心配ない。またクラブソーダに戻したがな」ごまかすダニー。
「そっか、よかった」マーティンは安心して目を閉じた。
27 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:44:08
道路は大渋滞で、なかなか前に進まない。
イライラしてきたダニーの人差し指が、コツコツとハンドルを叩く。
「ダニー、犯人が出頭してきたって。戻れって言ってるよ」
「なにぃ!もっと早よ出てこいや、ボケが!」ダニーは大通りから裏道へ入った。
ダニーはスピードを落とさないまま角を曲がる。
「ダニー、怖いよ。ほらっ、あそこに人が!!」びびるマーティン。
28 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:44:50
ダニーは急に車を寄せると、ショッピングバッグレディーに近寄った。
なにやら楽しそうに話し、現金を渡すと手を振って戻ってきた。
「ダニー、もしかしてあの人と寝てるの?」マーティンは怪訝な顔で聞いた。
「まさか!そんなわけないやろ、あの婆さんは情報屋のミセス・ノリス。
もち偽名やろけど。男娼事件の黒幕がいてるらしいんや。それの情報をな。」
「へぇー、またまたダニー・テイラー大活躍か・・・ボスも喜ぶね」
自嘲気味なマーティンに、ダニーは何も言えなかった。
29 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:45:33
「マーティン、今夜付き合え!」ボスに誘われた。
「今夜はちょっと・・その」マーティンは断る理由を探したがうまく見つからない。
「長い間誰とも寝てないだろ?かわいがってやる」ボスは卑猥な笑みを浮かべている。
「でも・・・」「もうダニーと別れたんだろ?火照った体を慰めてくれるのは私だけだ」
マーティンは迷ったものの、結局ボスに付き合うことにした。
30 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:46:16
下を向いたままのマーティンに、ボスはあれこれ話しかけてくる。
生返事しか返さないマーティン。「痛っ!」急に耳を引っ張られた。
「人の話はきちんと聞くもんだ、マーティン」「はい・・・」
「もうパパと呼んでくれないのか?」「呼ばない・・だってパパじゃない!」
「そうだな、お前の親父はあの冷たい、ヴィクター・フィッツジェラルドだもんな」
「・・・」「私ならもっと愛情を込めてやるのに・・・なぁマーティン?」
「息子がゲイでもそれは変わらない。愛するわが息子だ、だろ?」
マーティンは声を押し殺して泣き出した。
31 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:46:57
「ダニーはもういないし、お前の味方は私だけだ」
泣いてるマーティンに追い討ちをかけ、肩に手を置いた。
マーティンもそれに応えるように手を重ねた。
ハーレムのモーテルに着くと、ボスはマーティンの体を丁寧に洗った。
「少し痩せたな、ちゃんと食事してるのか?」「うん」「今度何か作ってやろう」
ボスはマーティンの体を拭きながら言った。
32 :
書き手2:2005/09/17(土) 03:47:58
「いい子だ。さあ、おいで」ボスはマーティンを仰向けにすると、全身を愛撫し始めた。
無抵抗のマーティンはされるがままだ。徐々に息遣いが荒くなる。
ボスがペニスに舌を這わせたとき、思わず手でペニスを隠した。
「どうした?」「あの、ごめんなさい、僕・・帰ります」マーティンは慌てて服を着た。
逃げるようにモーテルを後にすると、タクシーでアパートへ帰った。
家に着くとそのままベッドにもぐりこんだ。何もかも、もうどうでもよくなっていた。
ダニーは18:00に目が覚めた。隣りで寝息をたてている人物を見て
ぎょっとしたが、昨日のパーティーからの一連の出来事を走馬灯のように
思い出していた。アランを起こさないように静かにベッドを出る。
思いつきでカモミールティーを入れた。精神安定剤の代わりだ。
ダイニングでぼっとしていると、アランが「うぅん。」といって寝返りを打つ。
34 :
書き手1:2005/09/17(土) 23:44:48
そういえば朝のリゾットから何も食べていない。
腹減ったなあ。アラン起こしてディナー行くか。
寝ているアランに近付き、耳元で「アラン、アラン。」と呼ぶが、目覚めない。
見ると、目の下にクマが出来ている。
アランは色白いからすぐクマが出来んのな。
無防備で寝ているアランを見るのが初めてのダニーは新鮮な気持ちを感じていた。
35 :
書き手1:2005/09/17(土) 23:48:31
「アラン、夜やで、起きんと。」次の瞬間、ダニーはベッドに引きずり
こまれた。「キスしてくれないと目が覚めない。」頬にキスするダニー。
「違う、ここだよ。」頭を抑えられ唇を合わせる。「アランのイケズ!」
「カモミールのいい香りだ。」アランは全く取り合わない。
「シャワーに案内してくれないか?」ダニーはバスルームに連れて行く。
36 :
書き手1:2005/09/17(土) 23:50:24
「アランんとこみたいに揃ってへんけど、その辺のボディーソープ使って。」
ダニーがシャワーカーテンごしに言う。「君は入らないのかい?」
確かにまだシャワーを浴びていなかった。ええいままよ。ダニーも一緒に
シャワーを浴びることにした。
37 :
書き手1:2005/09/17(土) 23:53:32
しみじみ見るアランの裸体。同じWASPでもマーティンと違って、もっと皮膚が
薄い感じだ。青白くさえ見える。自分の浅黒い身体との大きな違いだ。
「君と同じエスニシティーの恋人に金を持ち逃げされて・・・」ギルの話を
思い出す。アランもまた自分の人種ゆえに気に入っているのだろうか。
普段、差別や違いを感じないように過ごしているだけに、やけに今日は気になって
しまったダニーだ。
38 :
書き手1:2005/09/17(土) 23:57:06
ダニーが先に出て、バスタオルを渡す。いつもマーティンが使っているタオル。
「ありがとう。」アランが気持ち良さそうに身体を拭いている。
「どういたしまして。」ダニーも妙に神妙な気持ちになって答えた。
「今、何時だい?」「6時過ぎ位かな。」「腹減ったな、さすがに。どこか
行こうか。」「ん、賛成。」アランは考え始めた。
39 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:05:53
「日本食は好きかい?」「サシミ、テンプラ、スシみたいな?」ダニーは
知っているだけの日本食を羅列する。「じゃあ今日は違うところに行ってみよう。」
アランは着てきたロエベのポロに黒ジャケット、チャコールグレーのパンツ、
ダニーはヘインズのTシャツにロエベのスウェードジャケットを合わせて、
リーバイスのヴィンテージジーンズを穿いた。
「ドレスコードあり?」ダニーが尋ねる。「今の君なら誰も断らないさ。」
ボルボで向かった先はイーストヴィレッジのLANという日本料理店だった。
40 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:08:38
「いらっしゃいませ。」着物を着た日本人ウェイトレスが挨拶する。
アランは慣れた風で「しゃぶしゃぶ席は空いてますか?」と日本語で聞く。
「はい。お二人様ですね。」「シャブシャブ?」「まぁお楽しみに。」
ダニーが初めて聞く響きの日本語だ。だいたい日本語なんだろうか?
41 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:13:03
席は二人だけの個室だった。テーブルに鍋が置かれる。
「今日はコーベビーフはあるかい?」「はい、ございます。」
「じゃあ、サシミとしゃぶしゃぶをお願いするよ。」「はい、かしこまりました。」
ダニーはただただ見つめるばかり。日本人ウェイトレスの着物姿がエキゾチックで
魅力的だ。アランが掘りごたつ式のテーブルの下で脚を蹴る。
42 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:15:29
「痛て!」「ハニー、いい子にするんだよ。ここはザガットでも常に評価の
高い店だからね。ヤンキーズのマツイを知ってるかい?」
「俺、メッツファンやから、メッツのマツイなら知ってる。」「とにかく、
マツイ推奨の店でさらに評価が上がったんだ。ここのしゃぶしゃぶは
すごいぞ!」
43 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:19:38
さらにアランは日本が米国牛の輸出を禁止している話やコーベビーフの素晴らしさを
教えてくれた。ダニーはまたまた驚嘆した。神戸牛の刺身がきた。
「うわ、生やんか!」ダニーがたじろぐ。「まあ食べてごらんよ。サシミより
よっぽど美味いんだから。」アランがポンズにもみじおろしとあさつきを
入れて、食べ始める。「うぅん、いい感じだ。」ダニーもマネして一口食べる。
「うまい!口の中でとろけるわ!」「だろう?」
44 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:22:48
ダニーがびっくりしながらパクパク食べているうちにしゃぶしゃぶの肉と
野菜が運ばれてきた。「アラン、向こうが透けそうに薄いで、この肉。」
「これが日本のデリカシーなんだよ。」ウェイトレスが、一枚一枚丁寧に
お湯の中で動かす。「この動きを日本語でシャブシャブというらしいんだ。」
「へぇ〜。」ダニーは最初の一枚を食べてみる。「うわ〜、口の中でとろけそうや。」
45 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:25:42
「アメリカ人は悲しいかな、ステーキしか知らない。ビーフの深さが
判るだろう。」ダニーはほおばりながら頷く。結局、ダニーは肉を追加し
最後の〆の雑炊まで残さず食べた。「本日のデザートはゆずのシャーベット
でございますが。」「二つください。」日本語でアランが答える。
46 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:28:48
シャーベットを食べて、またダニーは驚いた。今まで知っているどの柑橘類
とも違った繊細な味だ。「これは日本特有のシトラスなんだよ。口がさっぱり
するだろう?」「うん!」ダニーにとっては大発見のディナーだった。
今度、マーティンを連れてきたろ。あいつびっくりするやろなぁ。
そういえば、マーティン、昨日どないなったんやろか。
47 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:33:00
ダニーは目が覚めてからマーティンの事を全く考えなかった自分を恥じた。
あいつに電話せにゃ〜。 でもアランの前では出来ない所為だった。
「アラン、ありがとう。俺、日本の事、何にも知らへんのや。ユキオ・ミシマ
も読んでみようと思う。」「無理しなくていいんだよ、ダニー。」
「俺が読みたいんや。もっとアランが知ってる事を知りたい。」
「ハニー、ここでキスしたい気分にさせないでくれよ。」
48 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:36:37
さすがのアランもくたびれたのか、ダニーを家に送って、そのままアッパーへ
戻っていった。 昨日のパーティーも盛大だったもんなぁ。ようやるわ。
ダニーは家へ着くやいなや、携帯を取り出しマーティンに電話をかけた。
「もしもし、ダニィ・・・」弱弱しい声が聞こえる。
「昨日、どうした?」「どうしたもこうしたもないよ。僕、馬鹿やっちゃった。」
49 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:39:12
「何や、今から行こうか?」「うん、来て!」ダニーはマスタングのキーを
片手に飛び出した。ジョンにそれとなく尋ねる。「ジョン、こんばんわ。
マーティン、今日外出しはった?」「いえ、朝戻られてずっと家におられます。」
マーティンの引きこもりは大体悪い事が起こった時の症状だ。
ダニーは急いでエレベータに乗り込んだ。
50 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:42:41
ノックすると玄関がすぅーっと開いた。マーティンがパジャマ姿で立っている。
「マーティン・・」「バカダニー!昨日のあれはなんだったんだよう!!」
お披露目パーティーを怒っている。「アクシデントや。俺知らなかってん。」
「僕がどんな思いしたかわからないよね!」「お前かてエンリケと仲良うしてた
やん。その上ラルフまで一緒になって・・・」「ラルフは悪い男だ。」
51 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:46:44
良く見るとマーティンの頬が腫れている。「お前、ラルフと喧嘩したのか?」
「ああ、したよ。ダニーの言うとおりにエンリケを守ったよ。」
どこまでもまっすぐなマーティン。ダニーはそんなマーティンを置いて、
日本食に舌鼓を打っていた自分を心から恥じた。「何か食ったか?」「ううん。」
「じゃあ、俺がデリ行って来るから待っとき。」ダニーは飛び出した。
52 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:52:15
とりあえずディーン&デルーカでペンネトマトソースとシーザーズサラダを
買って戻る。ダイニングでぼうっと座っているマーティン。
ペンネを電子レンジで温め、サラダをボールに移す。
「ほら、食べんとだめやで。」「ん。」のろのろと口にフォークを運ぶ。
「で、馬鹿やったって、何やったん。」「たぶんコカイン・・・・」
53 :
書き手1:2005/09/18(日) 00:56:07
「ええ!何やて!お前、何で!!」「アランの家出る時にはもうヘロヘロ
だったんだよ。で次に目が覚めた時は、エンリケとラルフと同じベッドに
いた。サイドテーブルに白い粉が残ってた。僕、やっちゃったんだよ。」
そう言うと、マーティンは号泣した。とりあえず抱き締めるしかないダニー。
「お前は正気じゃなかったんや。お前は悪くない。コカインの出所は
ラルフや。あいつがお前を引きずりこんだんや。」
「でも、僕、クリーンじゃないよ。もう前の僕じゃないよ!!」
54 :
書き手1:2005/09/18(日) 01:00:51
「これは二人だけの秘密にしよ。常習者にならなければお前はクリーンや。
気を強く持てよ、マーティン。もう二度とやらないことが、肝心やで。」
「うん。判ったよ・・でも、僕、エンリケを守れる自信がないよ。」
「お前しかいないんや。エンリケは外交官やぞ。アメリカで不祥事起こしたら
国際問題や。それに俺たち、もう巻き込まれてるんやで。」
55 :
書き手1:2005/09/18(日) 01:03:11
二人はお互い、とんでもない蜘蛛の糸にからめ取られてしまった事を
実感していた。もうお互いを信じるしか手立てのないがけっぷちだった。
「な、マーティン、頑張ろうな。俺たちは心の絆で結びついてるんやから。」
「そ、そうだよね・・心の絆だよね。」
ダイニングで手を固く握り合う二人だった。
56 :
書き手1:2005/09/18(日) 01:54:23
デリの食事を半分も残して、マーティンは「疲れた。」といってベッドに
入る。ダニーはジャケットとパンツだけを脱いで恐る恐る添い寝する。
「くっくっ」まだマーティンは泣いていた。ダニーはアランの言葉を
思い出していた。「泣くだけなくんや。涙は心を浄化させるからな。
明日はまたいい日になってるで。」「くっくんくっ。」
そのうち、マーティンはダニーの腕の中で眠り込んだ。
57 :
書き手1:2005/09/18(日) 01:58:01
翌朝、涙の跡を頬に残して眠っているマーティンを起こさないように、
ダニーはベッドから出た。あいつの好きなH&Hベーグル買うてこよう。
歩いてショップに向かう。マーティンにはオリーブチーズ、自分には
ハラペーニョチーズを塗ってもらい、スモークサーモンとディールをフィリング
してもらった。
58 :
書き手1:2005/09/18(日) 02:00:59
マーティンを起こさないようにコーヒーメーカーを仕立てる。
ニューヨークタイムズを読んでいると先週解決した男娼の少年の記事が載っていた。
思わず心が暗くなるダニー。ラルフもどんな人生を送ってきたのか。
いや、同情は禁物や。あいつとエンリケを別れさせなければ。
それの手っ取り早い方法が、エンリケにマーティンを差し出す事だと
判っていながら、否定し続けるダニーだった。
マーティンは、あの日以来おとなしくしていた。
どこにも行かず、まっすぐ自分のアパートに帰る日々。
父からは何度か電話が掛かってきたが、当たり障りのない答えで対処していた。
お前と付き合うのはもう限界や・・・この言葉が、マーティンを臆病にしている。
手持ち無沙汰なせいか、次第にアルコールの量が増えていた。
酔って大胆になった自分を誇りに思うような、虚構の世界に身を置いていた。
60 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:30:12
「マーティン、今日の帰りにメシ食いに行こか?」ダニーは久しぶりに誘った。
「ああ。メキシカンは?」「それええなぁ、よし決まりや!!」
仕事が終わると、アッパーウエストのローザ・メキシカーノへくりだした。
ひととおりオーダーすると、テキーラとクラブソーダで乾杯。
ダニーは、マーティンが楽しそうなのを見て安心した。
61 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:31:08
だが、塩を舐めてはテキーラを煽るマーティンを見て不安になった。
次々と料理が運ばれてきたが、ほとんど手をつけていない。
ライムだけが異様な早さで消費されていく・・・。
タコスをほお張りながら、マーティンの様子を観察する。
食べるより、飲むほうが多いぐらいだ。一人で笑っている・・・。
62 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:31:51
すっかり酔っ払ったマーティンを、アパートへ送り届ける。
「ダニー、水、水まだー」ダニーは水を取りに行った。
キッチンにはワインやテキーラ、ジンの空きボトルがたくさん置いてある。
ダニーは冷蔵庫を開けてみた。「え・・・」ワインクーラーと化した冷蔵庫。
申し訳程度にペリエとコントレックスが二本、冷やしてあった。
ダニーは水を手渡した。グラスの水をすぐに飲み干すと、ペットボトルごと煽る。
「ダニー、僕さー、カミングアウトするよ!!そしたらもうゲイ度100%♪あっはっはー」
「何いうてんねん、ほら、シャツがビショビショやんか!」
ダニーはシャツを脱がせた。体がほんのりピンクになっている。
63 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:32:33
暴れるマーティンをベッドに運ぶと、マーティンはいきなり嘔吐した。
「うわぁー、吐きよったー」ダニーは慌てて飛び退いた。
シーツも布団も吐瀉物にまみれている。
「あかん、もらいゲロしそうや・・・」ダニーは窓を開け、ハンカチで口を覆う。
素早くシーツをはがし、布団といっしょに丸めて袋に入れた。
メイドの人、すまんな・・・。ダニーは申し訳ない気持ちになった。
マーティンは吐いたまま眠っている。顔にも髪にも吐瀉物がついていた。
ダニーはタオルを濡らし、丁寧に拭いてやった。
64 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:33:13
マーティンを横向きに寝かせ、ダニーは後ろから支えるように眠っていた。
どうしても心配で放置できなかった。無情にも目覚ましが鳴る。
ハァー、もう朝か・・・。休むわけにいかんからなぁ・・・。
「おいマーティン、朝やぞ、起きなあかんで」「うーん・・・もうちょっと」
「あかんて!お前ゲロ臭いねん、シャワー浴びやな人前に出られへんで」
寝ぼけたままのマーティンをバスルームに連れて行き、熱いシャワーをかけた。
徐々に目を覚ますマーティン。ダニーもいっしょにシャワーを浴びた。
しゃきっとしたマーティンに、カミングアウトのことを訊ねた。
「え?何それ、僕知らないよ」まったく憶えていない。
65 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:33:54
ダニーは、勤務中もマーティンの様子が気になった。
勤務態度は普段と変わりないが、帰ったら酒浸りかもしれない。
「マーティン、今日泊まりに来いひんか?」「本当?もちろん行くよ」
マーティンは浮かれていた。最近ずっと一人ぼっちだった。
「何か持っていこうか?」「いいや、身一つで来たらええ。荷物置いてあるんやし」
「うん!」マーティンは時計ばかり見ていた。今日は時計の針がいつもより遅い。
66 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:34:32
ダニーは、マーティンが来るまでにパエリアとミモザサラダを作り、
オーブンにタンドールチキンとポテトを入れた。これでよし!後は待つだけや。
マーティンは時間ぴったりにやって来た。手土産にタルトを持っている。
ダニーはアルコールじゃなくて安心した。ちょっとは正常やな・・・。
「もうちょっとやから、座っといて」「ん」マーティンはキッチンでダニーを見ていた。
「何や?」「ううん、何でもない」キスしたいなんて言えやしないや・・・。
「さあ、出来た。食べよ」ダニーは手際よく料理を運んだ。
67 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:35:12
ダニーはクラブソーダを二本置いた。「今日は酒なし、休肝日や。」
「うん」マーティンも今日はいつものように食べている。
ダニーは次から次へとおもしろい話をして、マーティンを笑わせた。
マーティンは笑いすぎてクラブソーダが器官に入り、
咳き込んで苦しんだが、それでも笑い続けた。
ダニーもまた、久々に楽しい時間を過ごしていた。
68 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:35:56
ベッドに入るとお互いに気まずくなり、ダニーは横を向いた。
マーティンも、もぞもぞしている。
「ダニー起きてる?」マーティンが沈黙を破った。
「ああ」「こっち向いて」ダニーはマーティンのほうを向いた。
二人は見つめあった。どちらもそれ以上動けない。
「手、繋ごうか」ダニーはマーティンの手を握った。
「もっとこっちに来い」手を引っ張り、二人の距離が一気に縮まった。
69 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:36:37
「ダニィ・・・」目を閉じるマーティン。
どうしよ、このままキスしてもええんやろか・・・ダニーは迷っていた。
ダニーは恐る恐る顔を近づけた。息が顔にかかる。
そっと唇に触れると、マーティンの吐息がもれた。
ダニーはそのまま離れた。マーティンもじっとしている。
繋いだままの手は小刻みに震えていた。
コイツ、けなげやなぁ・・・ダニーは思わずマーティンを抱きしめた。
70 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:37:20
「ダニィ?」言いかける口を塞ぎ、舌をこじ入れた。
味わうように舌をねっとりと絡ませる。ダニーの手は止まらない。
マーティンのパジャマを荒々しく剥ぎ取ると、素肌に舌を這わせる。
「ぁぁ、ダニィ」マーティンの喘ぎ声を聞くと、ダニーはますます興奮した。
ペニスを口に含むと、すでに先が濡れていた。
ダニーが奥まで入れた途端、マーティンが射精した。
「早っ、しかも味が濃いなぁ」「ごめん・・・」ダニーは精液を飲みこんだ。
71 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:37:53
「入れるで」ダニーはミントのローションを塗ると、一気に挿入した。
「んんっ、前より締まる・・・」ダニーは呻いた。
マーティンのペニスに手を添えると勃起してきた。
「あぁっ、ダニィ・・」ダニーは腰を掴むと引き寄せ、ペニスを打ちつけた。
「はぁはぁ、出そうや・・」さらに数回動かすと動きが早まった。
「んくっ・・あぁぁー」ダニーはそのまま中出しした。ペニスが痙攣している。
マーティンのペニスも射精が近い。ダニーはそのまま動かした。
「んっあぁぁー」マーティンもイッた。
ダニーは上に覆いかぶさるようにキスすると、横に寝転んだ。
72 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:38:45
「ごめんな」ダニーは謝った。
「なんで謝るのさ?」マーティンはぴとっとくっついている。
「んー、こんなことしてしもたこと」「僕は嬉しいよ、ダニーは違うの?」
「いいや、オレ男らしくないなと思ってな・・・自分から別れを切り出しといてこんな・・・」
「あれは不可抗力だったんだもん、ダニーは悪くない」言い切るマーティン。
「マーティン」「ん?」「愛してる」ダニーは真剣に告白した。
「えっ・・・僕もダニーを愛してるよ」一瞬固まったが、マーティンも答えた。
73 :
書き手2:2005/09/18(日) 03:39:28
「ボスに知られんようにせんと。また虫プレイなんてごめんやで」
「うん、ボスは要注意だ。またやられたら、僕も今度こそ捨てられちゃうよ・・・」
「あいつ、オレの足元にチョコボール転がしたんやで。
オレがゴキと間違えて飛び上がったん見て笑うてたんや」
思い出すとまたムカついてきた。
「とにかく内緒やで」ダニーはマーティンにキスしながら目を閉じた。
マーティンが目をこすりこすり起きてきた。案の定まぶたが腫れて目が真っ赤だ。
「おはよ。」「あ、うんおはよう。昨日はごめんね。」「まぁシャワー浴びて来いや。」
マーティンはだまってバスルームに入っていった。いつもより長めのシャワーだ。
「ダニー、僕のバスタオルは?!」
しまった、おとといアランに貸してしもうたわ!
75 :
書き手1:2005/09/19(月) 00:22:15
「待っててや!洗濯中やから違うの持ってく!」換えのタオルを
バスルームで立ち尽くしているマーティンに渡す。「サンキュー。」
「ごめんな。」「何で謝るの?」「いや、何でもない。」寝た事は言えたが
ここに泊めた事をマーティンに知られるのは最悪のシナリオだ。
「コーヒー飲むか?」「うん。」とりあえずボンは平静を取り戻したようだ。
76 :
書き手1:2005/09/19(月) 00:32:03
「下で何か食べ物買ってこようか?」「うん、僕お腹すいちゃった。」
「お前、いつも食欲な。」「昨日沢山泣いたからエネルギー使ったんだよ。」
ダニーは野菜とラムがたっぷり入ったジャイロ(ピタサンド)を二つ買って
部屋に戻った。戻るとマーティンがダニーの携帯を覗いていた。
「何や?」「アランから電話があったよ。」「そか。」「コールバックしなくていいの?」
77 :
書き手1:2005/09/19(月) 00:36:14
「急用だったらまたかけてくるで。」「遠慮しないでかけなよ。」
マーティンはジャイロをほおばって、ダニーと目を合わさない。
ダニーはベランダに出た。着信2回。アランだった。
「ダニーやけど。」「ハニー、おはよう!今日はブランチのお誘いだ。」
「俺、今・・・」「マーティンといるのかい?じゃあ一緒においでよ。
プラザのメインダイニング、11時30分だからね。」ガシャ。
78 :
書き手1:2005/09/19(月) 00:40:12
「マーティン、アランやけどプラザのブランチ行くか?」「・・・ダニーさえ
良ければいってもいい?」マーティンには彼なりの考えがあった。
ダニーとアランの関係がどれだけ深いか観察したかったのだ。
「じゃあ11時頃家出ような。」「うん。」
マーティンの家の設定が、ダニーの家に変わってしまいました。
お詫びの上、訂正いたします。
ここから先、マーティンの家で、H&Hベーグルを食べる二人です。
マーティンはラルフローレンのポロにブルーのパンツを合わせ、ブレザーを
着た。ダニーはパーティーから同じ洋服だ。少しタバコの匂いがするので
マーティンのフレグランスを借りる。ジバンシーのウルトラマリン。
マーティンらしい香りだ。11時20分にプラザに着く。ダイニングに行くと
フロアマネージャーが「ショア様のゲストの方で?」と聞いてくる。
81 :
書き手1:2005/09/19(月) 00:50:09
「そうですが・・。」「すでにお待ちですのでご案内いたしましょう。」
アランは昨日よく眠ったのか目の下のクマが消え、ブロンドが光り輝いていた。
「やぁやぁ、お二人さん。パーティーに来てくれてありがとう。さぁ、
シャンパンで始めようか。」ソファータイプの席にダニーが案内され
アランと隣り合って座る形になった。マーティンは対面だ。
82 :
書き手1:2005/09/19(月) 00:54:52
フロアマネージャーが恭しくシャンパンとメインディッシュのメニューを
持ってくる。今日は、フォアグラのポアレか生ハムを巻いたアンコウのロースト。
ダニーとアランは魚、マーティンは肉を頼んだ。アランはダニーの肩に腕を
回しながら、しゃべっている。ダニーのまんざらでない様子にマーティンは
圧倒される。 僕よりお似合いなんじゃないのか?
83 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:01:31
3人で立ち上がり、オードブルを取ってくる。パテ・ド・カンパーニュ、
オイスター、ロブスター、生ハム、キャビア、ずらっと並んでいる。
一通り回って、席にマーティンが戻ると、ダニーとアランがまだテーブルで
料理を選びながら歓談していた。 二人並ぶとGQのグラビアみたいだ。
マーティンは自分のいかにもプレッピーな服装を恥ずかしく思った。
84 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:05:05
シャンパンを一気飲みすると、給仕を待たず、自分でグラスに注ぎいれた。
すでに顔が赤くなっている。「マーティン、ペース早いんとちゃうか?」
「そうだよ、マーティン。今日は4時までブランチタイムだ。ゆっくり
やろうじゃないか。」アランの大人のしゃべり方。全て比較してしまう
マーティン。「そういえばエンリケはパーティーの後、どうした?」
85 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:09:05
キャビアをクラッカに乗せながら何気なくアランが尋ねる。
顔を見合わせるダニーとマーティン。「僕が酔いすぎたんで、ラルフと看病
してくれました。」「そうか。良かった。心配していたんだよ。」
医者らしい顔になるアラン。しかしこの男の心は鋼のように冷たいのだ。
「ラルフも可愛そうな男だよなあ。醜形恐怖症で軽犯罪なのに独房で
3年過ごしていたんだ。」「アラン、でも何で僕と同じ顔にしたんですか?」
86 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:13:32
「君と骨格がそっくりだったし、背格好も似ていたんで、思わずね。いや
申し訳なかった。」「思わず父に双子の兄弟がいなかったか聞いてしまい
ましたよ。」「そりゃ、すまなかったね。あいつをどうにか更正させて
やりたくてね、育ちの良さそうな顔を選んでしまった次第だ。本当に
許して欲しい。」アランは深々と頭を下げた。
87 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:15:59
マーティンはまたグラスをあおった。ダニーが心配気に見つめている。
「事情は判りました。でも、あいつ、エンリケに暴力をふるったんですよ。」
「ええ?本当かい?日常的なんだろうか?」アランも身を乗り出す。
「日常的かは判りませんが、エンリケが彼にアパートを用意したって言ったら
キレて殴りかかってきて、僕も殴られました。」
88 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:18:29
「それは穏やかじゃないなあ。なあマーティン、君の方でその後の進捗を
僕に知らせてくれないかい?彼は外交官だからそこらの医者には行けない
だろう。」「はい。そうします。」ダニーは舌を巻いた。結局、アランは
自分の向かいたい方向に話を進めてしまう。それも自然に。
俺みたいに脅したりなだめたりすかしたりやってるようじゃ、まだ
大人の男にはなれんわな。
89 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:23:48
ダニーがアランの言葉に聞きほれている様子に気がつき、マーティンのグラスは
さらに進んだ。「僕、サラダもらってきます。」ふらつきながら、席を立つ
マーティン。ダニーが脇をささえるが、腕を振り切った。席に座るダニー。
「アラン、ラルフの件やけど・・エンリケほんま危ないで。あのままやと
スペインへ強制送還されるかもしれんねん。」
「そうか、ラルフもそこまでやったか。エンジェル・ダストだろう?」
声を潜めるアラン。頷くダニー。「よし、僕の知り合いのクリニックに入れよう。
ラルフの事は僕に考えがある。FBIの手は汚せないからね。」
90 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:28:32
ダニーはアランの底知れぬ恐ろしさを感じた。ラルフをどうするんやろ。
マーティンが席に戻ってきた。「二人とも、ほおんとに仲がいいんだねえ。」
段々呂律が回らなくなってきている。危ない兆候だ。そうこうしているうちに
メインディッシュが運ばれてきた。マーティンはがつがつフォアグラを食べては
シャンパンを口にする。「マーティン・・」ダニーの言葉を制してアランが
「マーティンは僕が送るから、ダニーは心配するな。」「でも。」
「僕は医者だよ。君より看護は慣れているさ。」「・・・・」
91 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:33:04
メインディッシュも終わり、食後のデザートの時間に入った。
周りのご婦人たちは、こちらのテーブルを意識しながら、デザートテーブルへ
向かう。「僕、オレンジのシャーベット!」マーティンが叫ぶ。
「はいはい。僕らはどうする、ダニー?」「俺、パス。もう腹一杯や。」
「僕はフランボワーズのムースを頂こう。」給仕に頼んで、特別に取り分けて
持ってきてもらう。
92 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:35:24
コーヒーも終わり、マーティンはうつらうつらし始めた。
昨日泣いてたから眠りが浅かったねんな。マーティン。
「じゃあ、ダニー、マーティンは任せて。また連絡するから。Rの事も
考えておくよ。」R=ラルフのことだ。
ボルボとマスタングが街の反対側へと分かれていく。
93 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:39:42
マーティンはアランに担がれて、アランの部屋に入る。窮屈なブレザーと
ポロシャツ、パンツを脱がせてベッドに横たわらせる。アランはシャワ−を
浴び、全裸のままマーティンの隣りに身体を横たえる。マーティンが
「うぅん、ダニー、愛してる。。」と寝言を言う。
そうか、でも僕もダニーを愛してるんだよ、あいにくね。
94 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:43:40
アランがマーティンの前に手を回すと、ダニーの夢を見ているのか、
マーティンのペニスは半立ちしていた。「これはこれは。」
アランも久しぶりのマーティンとのセックスに興奮が隠せなかった。
いつもダニーに抱かれている身体だ。僕のマークをつけよう。
マーティンに媚薬入りのミネラルウォーターを飲ませると、トランクスを
剥ぎ取った。「うぅん、ダニー・・・」ココナッツオイルをアヌスに塗ると
アヌスの内側が痙攣していた。「たまらないな。」アランは静かに挿入した。
背中のあちこちにキスマークと歯型をつけたが、マーティンは起きない。
95 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:47:22
アランは静かに出し入れを繰り返し、マーティンの身体を思う様弄んだ。
マーティンは夢の中でダニーとセックスをしていた。「ダニィ・・もっと。」
「そうか、もっとだな。」アランは起き上がると、戸棚の奥から箱を出してきた。
中には巨大なディルドーが入っている。「これでいかせてやろう。」
アランはオイルで濡れそぼったマーティンに一気にディルドーを突き入れた。
「うぁあ、ダニー!」その瞬間、マーティンははぜた。
96 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:51:56
アランはちょっとした遊び心で、切り出しナイフを出すと、歯型やキスマーク
だらけのマーティンの背中に優しく「E」の文字をなぞった。薄く血が出た
ので、舐め取る。「さて、これをダニーが見るのはいつかな。」
アランはバスルームで自分の屹立したものの処理をして、上がってきた。
マーティンはまだ寝ていた。局部から出血している。「おっとやり過ぎだ。」
アランは応急処置をして止血すると、マーティンの下着をそっと穿かせた。
97 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:55:33
「マーティン、起きるんだ。」頭に氷嚢を乗せた姿でマーティンは目が覚めた。
「あ、アラン!僕どうしたの?」「プラザで撃沈したから、看護したよ。
もうアルコールが抜ける頃だろう。」「ダニーは?」「家に帰ったよ。」
ダニー、僕の看病もしてくれなくなっちゃったんだ。僕ってもしかして
お邪魔虫なんだろうか。
「アラン、ありがとう。すみませんでした。」「いいんだよ、具合の悪い人の
面倒は医者に任せる。ダニーが同意したからね。」「そうなんだ・・・」
98 :
書き手1:2005/09/19(月) 01:59:12
アランはマーティンをイーストサイドに送り、ダニーに電話した。
「やっと酔っ払いさんがお帰りになったよ。良く寝ていた。」
「あいつ、吐きませんでした?」「いや、君の夢を見ていたようで寝言が
うるさかったけどね。」「ごめん。」「謝る必要ないよ。」
「さぁ明日から新しい一週間だ。また連絡する。」「うん、バイ、アラン。」
「バイ、ダニー、愛してる。」
翌日、マーティンはしゃっきりした様子で出勤してきたのでダニーは安心した。
よっぽどアランの看護が良かったんだろう。医者だからとは思うが、嫉妬の
気持ちは否定できなかった。 俺がもっとしっかりしてれば・・・
朝礼でボスが言う。「新規の事件がないからといって、暇な時間を作らず、
過去の未解決ケースから洗い出すのも仕事だと思え。以上。」
確かに、チェットの例もある。失踪者が皆死亡しているとは限らないのだ。
チーム全員が過去のファイルの洗い出しを始めていた。そこへ、新しい事件の
連絡が入った。「氏名ラルフ・ウェイレン、29歳、白人、匿名の通報だ。」
マーティンとダニーは顔を見合わせた。特にダニーは震撼していた。
もうアランが手を下したとは・・・。
「住所は?」「ミッドタウンのアパート。引っ越してきたばかりだそうだ。」
「ダニーはマーティンとアパートへ向かえ。ヴィヴィアンは匿名情報を洗え。
サムは賃貸契約の調査だ。」「了解!」チーム全員が動き出す。
支局のフォードに乗り込むダニーとマーティン。「賃貸契約、エンリケが
やってんとちゃうか?」「判んない。エンリケがまさか殺したとか、
ないよね。」「今はまだ失踪者や。時期尚早やで。」「うん。」
アパートはミッドタウンの低所得者向け住宅だった。古くからある建造物を
修復してアパートに改造したものだ。部屋に入る。キッチンからコカインが
見つかる。「やっぱり奴がこれをエンリケに流してたんやな。」「ああ。」
「エンリケの跡があったらまずいから、捜せよ。」
二人は違法捜査を承知で証拠隠滅のため必死にアパートを探った。
幸い、エンリケにつながる物は見つからなかった。ほっとする二人。
サムから連絡が入る。「賃貸契約は本人が現金で家賃3ヶ月払っているって。
そんな人が失踪するかしら?」「こっちからはシャブが見つかったで。」
「麻薬がらみか。ボスに報告するね。」「頼んだわ。」
ヴィヴィアンから匿名情報はヴィレッジのインターネットカフェからのメールと
判明した。防犯カメラがないため、全く用を成さない。
捜査3日目、あっけなく事件は終わった。
ブロンクスでヤクの取引があったらしいとの情報で、DEAが向かうと、
そこに、失踪者ラルフ・ウェイレンがコカイン多量摂取で死体になっていたと
言うわけだ。「ダニー、これって・・・」「シー、だまっとき。ヤクの売人が
やりすぎて命取りになってしもうたんや。判ったか!」「うん・・・」
ダニーも半信半疑だった。アランがここまで仕組んだのか、ラルフの身から
出たサビなのか。恐ろしくて、アランに直接聞くことは一生出来ないような
気がしていた。今はびびるマーティンの世話が先決や。ダニーは、マーティンの
家に泊まる用意をして、アッパーイーストに向かった。
ジョンがいつもの調子で迎えてくれる。ダニーは簡単に挨拶すると
マーティンの部屋をノックした。マーティンが抱きついてくる。
「おいおい、何や、デリの食事がひっくりかえるで。」
「だって、ラルフの事、どうなってるんだか不安なんだもん。」
「もうあの話はよそう。俺らに結びつく証拠はないねんで。」
「でも僕とうり二つだよ。」「他人の空似で押し通すんや。お前の意志が
大事なんやで。」「僕に出来るかな。」「出来るかなやない、やるんや!」
ダニーは段々イライラしてきた。優柔不断なボン! 怒ってキッチンに立つ。
「今日はタイ・ディナーやええか。」「うん。」ダニーは手際よくパッタイ
をフライパンで温め、その間にヤムウンセンを皿に盛る。チキンミンチの
バジル炒めも皿に載せ、タイライスをあしらった。
マーティンは手持ち無沙汰にしていたが、料理を見て、ビールを持ってきた。
ミラーの瓶だ。ダニーはしゅっと栓を抜き一口飲む。「うは〜。喉に潤いや。」
マーティンもマネをする。「わ〜、美味しいね!」「さて食事や。お前、
スパイシー大丈夫やったろ?」「うん、大丈夫。」「今日のは美味いねんで。」
二人は事件のことに触れないで、食事を楽しんだ。
食事の片付けを一緒にしていると、マーティンがダニーを後ろから羽交い絞めに
した。「今日、泊まっていって!僕、不安でどうにかなりそうなんだよ!」
「わかったわ。泊まるわ。」マーティンの意志は壊れそうになっていた。
一緒にシャワーブースに入る。ダニーはマーティンを後ろ向きにして背中を
洗おうとして驚いた。このキスマークと歯型、それに「E」の文字って・・・
「お前、エンリケともう寝たんか。この大事な捜査の間に、寝たんか!」
「え、何で?寝てないよ。誰とも寝てないよ。」「うそいうな。俺にうそ
つくようになったんか!」ダニーは久しぶりにラテン系の怒りを爆発
させていた。 自分はアランと寝たことを告白したというのに、マーティンは
何故うそをつくのだろう!
「俺、今日は帰るで。お前とはしばらく口きかんからな。」
「なんで?」「自分の胸によーう手を当てて考えてみるんやな。ほな、
さいなら。」ダニーは急いで着替えをすると、出て行った。
途方にくれるマーティンを残して・・・・・。
マーティンの携帯が鳴った。「ダニー!」「ノー・エンリケ。」
泣いている声が聞こえる。「エンリケ、大丈夫?」「ラルフ、死んだ。」
「ああ、知ってる。」「ラルフ、僕が原因で死んだ。」「えぇっ!僕、
これからエンリケのところ行くよ、いい?」「シー。」ひくひく泣いている。
マーティンはタクシーに飛び乗った。
ブザーを鳴らすとセキュリティーがやってきた。
「エンリケ・トレスさんに面会なんですが。」FBIのIDを見せる。
ドアを開けてくれる。どうしたんだろう、この厳重警備は?
エンリケのアパートのドアをノックすると鍵が開いていた。
エンリケがソファーで頭をかかえて座っていた。隣りに携帯が置いてある。
「エンリケ・・・」「マーティン!」エンリケは立ち上がり、マーティンに
飛びつき、号泣した。「僕いけないことした。」マーティンは弱りながら、
「座って。落ち着いて、話して。」とゆっくり話しかけた。
「この前、マーティン来た後もずっと喧嘩した。お金とアパートの地図
渡した。怒ってラルフ出て行った。帰って来なかった。」
「エンリケは当然の事をしただけ。ノープロブレモ。君のせいじゃない。
あいつは自滅したんだよ。アクシデンテ。エンリケ。」
「でも僕はラルフを捨てた。」「違うよ、自立を手伝っただけだ。」
エンリケの大きな黒い瞳からは涙が次々と流れ落ちる。
思わず、頬にキスをするマーティン。「メ・ムエロ・・・」「え?何?」
「僕、死にそうだ。」「馬鹿!そんな事言うなよ、エンリケ!」
「君はスペインのために派遣された外交官なんだよ!気を強くもって!
僕がここにいるから。」「デ・ベルダー?」「シー。うそじゃない。」
エンリケはやっと泣き止むとマーティンをぎゅっと抱きしめた。
心細かったんだろうな。誰にも言えずに。今日まで我慢してたんだ。
マーティンはほだされて、当分の間、エンリケと同居することにした。
彼の自責の念が強すぎると自殺する可能性すらあるからだ。
当面必要な最小限の着替えを取りに一旦アパートに戻った。留守電は0件。
ダニーからの連絡はなしだ。マーティンの心はダニーとエンリケの二つに
裂けそうだった。だがまずは心配なエンリケの方の面倒を見ることに決めた。
僕とダニーは心がつながっているんだから。
そう思い込んで、この場をしのごうと自衛本能が叫んでいる。
翌日からマーティンとエンリケの同棲生活が始まった。
自分がダニーにやってもらってきた事をまねて、デリで買い物したり、
簡単なサンドウィッチを作ったり出来るようになっていった。
エンリケはまだウツ状態から脱してはいないものの、執務につける程に回復し
大使館へ出勤し始めた。送り迎えつきだからその点は安心だ。
むしろ多忙を極めたのはマーティンの方だった。エンリケのアパートも
メイドサービスがあったので掃除と洗濯は免れたが、2度の食事を考え、
携帯で何度も安否を確認し、支局では通常業務をこなす毎日だった。
ダニーの事など眼中にないような状態になり、ダニーも「E」マークの
怒りが癒えていないため、没交渉となっていった。
支局と自宅の往復だけになってしまったダニーは、さすがに飽きてきた。
ラルフの原因不明の死亡以来連絡を取るのを避けていたが、今日は、アランに
連絡をとろう、そう決めていた。アランは携帯にすぐ出た。「ダニー、久し
ぶりじゃないか。元気かい?」「まぁまぁや。アランは!」「ばたばたして
いるが元気だよ。会おうか。」「うん。」「じゃあ家においで。」
パーティー以来のアランの家だった。 あの時はラルフもいてんねんな。
親しく口をきいた事はなかったが、ダニーの心にも幾ばくかの喪失感が宿った。
「で、お坊ちゃまとは仲良くしているかい?」サン・ペリグリーノを渡しながら
アランが尋ねる。「いや、大喧嘩して没交渉や。もうだめかもしれん。」
ほほう、背中のマーキングが効いたかな?
「それはまた、どうして?」「だってラルフが失踪したっちゅうのに、
あいつエンリケと寝てたんやで。それもアブノーマルセックスや。
俺、もうあいつ信じられへん。」
「ラルフか。今日は君はラルフの事を僕に尋問しに来たのかと、実は思って
いたんだよ。」アランはポーカーフェイスだ。
「まさかな〜っちゅう気持ちもあってんねんけど、まさかのまさかや。」
「そのまさかだったらどうする?」ダニーの顔が凍りつく。
次の瞬間、アランが爆笑した。「バカな子だ。医者は命を救う者。時には
不幸にも奪う結果になることはあっても、わざとはやらない。」
「あーもう!!心臓が口から出そうになったで!」「ごめん、ごめん。」
「お坊ちゃまのことだが、それじゃあ、エンリケと同棲してるのは知らない
わけか?」「ええっ!」息を呑むダニー。 だから毎日忙しそうだったんか。
「エンリケがウツ状態になって、ずっと看護してるよ。抗ウツ剤を取りに
家に週1回来るけど、すぐに帰っていくから、相当心配なんだろう。」
「そうやったんか。」 俺よりエンリケってこっちゃな。決定的や。
サン・ペリグリーノを一気飲みして、息を切らせるダニー。
相当動揺しているな。今がチャンスか。
「どうだい、ダニー、家で暮らしてみないか?」「う、うん?何でまた?」
「転機だよ、人生の転機。」「・・・申し出は有難いけど、考えさせてくれる?」
「ああこの孤高の魂よ、いつ我が物に!!」
アランは芝居めかして大げさに身体を折って跪いた。
「アラン、恥ずかしいやんか。立ち上がって。何か食いに行こう!」
ラルフの死因に関して、まだダニーはアランへの疑惑を捨ててはいなかった。
が、マーティンがエンリケの元に去った今、自分にはアランしかいないのだ。
捜査官としての正義感とダニー自身の孤独感で心が引き裂かれそうになっていた。
二人は歩いていけるトラッテリア・ポモドーロで軽くイタリアンを食べていた。
ペンネポモドーロとペパロニピザを仲良く取り分け、シーザーズサラダを
つまむ。キャンティークラシコも随分進んでしまった。「アラン?」
「うん、何だい?」「エンリケ、ウツ病の他は?コカインの禁断症状は?」
「幸い中毒になるまで常習していなかったようだ。不幸中の幸いだよ。」
「中毒抜くの辛いしな。」「おや、君は何の中毒かな、恋愛中毒?」
アランが茶化す。ダニーはまだアランに自分の過去をカミングアウトして
いなかった。「俺、ひどいアル中やってん。」「ほう、初耳だね。」
「元々親父がそうで、その後の里親もそうで、気いついたら自分もなってた。」
「良く抜け出せたな。そしてFBI捜査官か。大出世じゃないか!」
ダニーはワインの魔力かいつもより軽口になっていた。
「まだまだや。FBIや〜!なんて現場にいるんやなくて、俺、幹部に
なりたいねん。マーティンの親父さんみたいに。」
「マーティンのお父上はそんなに偉いのかい?」「副長官。」
アランには初耳の話だった。 これは面白い!すごい駒だな、ぼっちゃんは。
「君にはなれる素質があるよ。しかし、そのためにはもっとずる賢くならねばね。
要は政治力だよ。ワシントンDCなんて街は。」「俺、直情型やからなぁ。」
「それがダニーのいいところでもあるんだよ。リーダーになったら慕われるだろう。」
「そうやろか。」「そうだとも。そうだ、君の上司のジャック・マローンは
どういう人物だい?」
「人情派で正義感が強いけど、政治は不得手なタイプや。後・・・・」
「あと?」「実は変態や。一時期俺とマーティンを慰み者にしやがった。」
「ええ〜!!」アランにとっては驚きの連続だった。だいたい、これほど
色々な話をダニーがしてくれた事はこれまでにないのだから。
「じゃあ、君がレイプされたと言った相手は。。」「ボスや。」
「ねじれているなぁ。人情派の一方では専制君主か。FBIってのは、
すごい組織だな。」「俺のチームだけかもしれへんけど。」ふあ〜っ。
ダニーが欠伸をした。「そろそろ帰ろうか。「ん。今日、アランちに
泊めてくれへんか。帰るの面倒になってきた。」「もちろんだとも。」
ダニーがジャケットのそでで隠しながら手を握ってきた。
いい兆候だ。ラルフはいいタイミングで消えてくれたものだ。
アランは心の中で大笑いしていた。
マーティンはミーティングのとき、ウインクばかりしていた。
「何、マーティン?」デスクの向かい側のサマンサが気づいた。
「うん、さっきから目が痛くて・・チクッとするんだ」
「どれどれ?見てあげる」ヴィヴィアンが左目を覗き込んだ。
「わかった、逆まつ毛だ!抜けば治るよ。ピンセットはと・・・」
「ちょっと待って、そんなの怖いよ・・」マーティンは怯えた。
「あっ、ちょっと待って。」サマンサはビューラーを取り出した。
「何それ?ハサミじゃないの?」「違う、これで挟むだけよ」
サマンサはビューラーでまつ毛を挟んだ。
「どう、痛くないでしょ?」「あれぇ、本当だ。治ってるよ」
「サマンサ、反対側もしてあげれば?このままじゃ不自然よ」
ヴィヴィアンのアドバイスに従い、反対側もカールさせた。
「マーティン、かわいい〜」「本当、お人形みたいだね」
お目目パッチリのマーティンになり、ダニーは後ろを向いて笑いをこらえた。
ボスも興味があるのか、面白そうに見ている。
「さあ、続けよう」咳払いをすると、ボスはミーティングに戻った。
マーティンはトイレに行き、鏡を見た。「わっ、何だよ・・・」言葉もない。
そこへボスが来た。誰もいないか素早くチェックする。
「マーティン、なかなかかわいいぞ。今夜空けとけ!」
マーティンの返事も聞かず、ボスは行ってしまった。
嫌だなぁ・・・どうしよう・・・マーティンは朝から気が滅入ってしまった。
部屋に戻り、ダニーを探すが席を外していた。
「ダニーは?」「ああ、倉庫に行ったわよ」「そう、サンキュ」
仕方なく、マーティンは目の前の書類に取りかかった。
ダニーが戻ってきたものの、ボスが見張っているので、話すのを避けるしかなかった。
知られるわけにいかないんだ!、我慢、我慢!!
自分を励まし、マーティンはボスの視線を振り切った。
時間が立つにつれ、次第にボスのことが頭をよぎる。
「マーティン、書類に不備がある。ちょっと来い」
呼ばれていくと、案の定待ち合わせの相談だった。
「ボス、僕はもうダニーと別れたのに行く必要があるんですか?」
マーティンは小声で尋ねた。
「ダニーのことはもう関係ない。だが、お前の性癖のことはどうだ?
ゲイのようですと一言話せばどうなるかわかるな?」
「はい・・・わかりました、行きます」マーティンはうなだれたまま了承した。
「ダニーも呼んでやるか?」ボスは意地悪そうに聞いた。
「いいえ、僕だけで結構です・・・・」ダニーを巻き込むわけにいかない。
「じゃあ、地下に18:00だ。仕事に戻れ!」マーティンが出て行きかけると
「マーティン!ほら書類!注意力が足りないぞ」ボスはやれやれというように書類を渡した。
僕ってダメなヤツ・・・マーティンは凹みに凹んだ。
一つのことしか出来ないなんて・・・まったくバカだよ。
ダニーはまた席を外している。
午後もどんよりと過ごし、約束の時間になった。
ボスの車に素早く乗り込む。「ボス、行き先は?」
「ウォルシュと呼べ」もうなりきっちゃってるよ・・・マーティンは情けなくなった。
「お前は何だったかな?」「ええっと、ダニーはクルーズなんだけど・・・」
「バカッ、他人のを覚えていて自分のを忘れるヤツがいるか!!」
マーティンの気分は最悪だった。
イーストヴィレッジに着くと、ボスは車からブリーフケースを降ろした。
マーティンは嫌な予感で胸がざわついた。
いつもの部屋ではなく、鏡張りの部屋に案内された。
きょろきょろするマーティンに、ボスは包みを投げ、着替えるよう命じた。
「うへぇー」中には純白のキャミソールとレースのガウンが入っていた。
「ボス、こんなの嫌だ!」「うるさい、早く着ないかっ!」ボスが怒鳴った。
渋々着てみたものの、自分自身をまともに見ることができない。
「どれどれ、ぱっちりのお目目にぴったりじゃないか!」ボスは感嘆している。
「マーティン、顔を上げろ。全ての鏡にお前が映っているぞ」
マーティンは嫌々顔を上げたが、鏡に映る自分を見て泣きそうになった。
唇を噛みしめて涙を堪えるが、その仕草がボスにはたまらない。
「よし、ベッドへ行こう。じっくりお前を味わうとしよう。お姫様抱っこしたいが、私には無理だな」
ボスはマーティンをベッドに連れて行った。
「マーティン、初夜のつもりでやれよ。声を上げちゃダメだ、はしたないからな」
マーティンは天井に映る自分の姿を見ていた。どこを向いても鏡、否応なしに目に入る。
ボスがギラギラした目で舐めるように見る。思わず身震いした。
「大丈夫、怖くないよ」猫撫で声のボスにさらに身震いした。ボス、気持ち悪いよ・・・。
ボスはガウンを脱がせ、キャミソールをめくった。
ボスは、頭を突っ込むとフェラチオを始めた。天井に映る痴態、マーティンは目をつぶった。
「ぅん・・・」ボスはアナルにも手を入れてきた。心とは裏腹に感じている・・・。
「マーティン、目を開けろ。」ボスに言われ目を開けると、全裸のボスがペニスを突き出していた。
「さあ、舐めて」マーティンは遠慮がちに口に含んだ。そっと舐め始める。
「もっと舌を使え、転がすように」ボスの命令どおり丁寧に舐める。
「もういい、次は新製品だ」ブリーフケースから何かを取り出すボス。
ライトブルーのきのこ?マーティンは不思議そうに見つめた。
「これは暗闇で光るんだよ、見てろ」ご丁寧に実演までするボス。
「わぁ、きれいー」マーティンは思わず褒めた。ボスは満足そうだ。
「よしよし、今すぐ試してやる」ボスは四つんばいにさせると、アナルに少しずつ入れた。
「ぁぁん・・・」「マーティン、鏡を見ろ。よがるお前は最高にセクシーだ」
マーティンは、犯されてよがる自分をなるべく見ないように下を向いた。
「ん?おい、お前の携帯鳴ってるぞ。誰だ・・・おおっとダニーだ」
「何か話せ!」ボスは電話を差し出すと、バイブの振動をMAXに上げた。
「マーティン?」「んっっダニー・・・そっ倉庫の鍵返しといたから。うん、じゃあっ・・」
「ああっ・・ボスっ・・はっはぁはぁ」電話を切るなり、マーティンはイッてしまった。
「もうイッたのか、お前はまったく。」ボスはバイブを抜くと、ひくつくアナルに挿入した。
ほとんど動かさず、マーティンの表情を観察する。
カールしたまつ毛に涙が溜まっているのを見たとき、残忍な喜びで溢れた。
部屋中の鏡に犯される自分が映っている・・・泣いて当然だろうよ・・・。
ボスは満足すると、そのまま数回激しく揺さぶり中に射精した。
帰りの車の中でも、マーティンは一言も口を聞かなかった。
「ダニィ・・・」電話のマーティンは明らかに泣き声だった。
ダニーは放っておけず、マーティンのアパートに向かった。
ベッドの上にはいつものだんご状態の布団。
「マーティン?また丸まってるんか」ダニーは布団の塊に手を置いた。
「うう・・・」ダニーは布団をそっと開いた。
「ほんで、今日はどうしたんや?」「ダニィ!」マーティンはしがみついた。
ダニーの体は少し酒臭い。「飲んでるんだね・・・約束したのに・・・」
マーティンはまた布団に丸まろうとしたが、ダニーが体を抑えて離さない。
「オレはお前の、お前が懸念している事柄に関して、遺憾を伝えることが出来る。
その事柄に対面しているのは、オレとお前の両方ではなく、オレのみである。」
「なんだよ、その翻訳みたいな話し方」マーティンは怪訝な顔をした。
「もう大丈夫っちゅうこっちゃ。量も加減できるで。」
「どうなっても知らないよ。僕がこんなに心配してるのに・・・」
「ごめんな、心配させて」ダニーはようやくマーティンの体を自由にした。
「そっちは?なんで凹んでるんや?」「・・・・・」
「また黙秘か・・・まあええわ。なんかあったんやろ」
ダニーはマーティンのジャケットを脱がせ、ハンガーにかけた。
ネクタイを外し、シャツのボタンを外しかけて、手が止まった。
「さっき倉庫の鍵がどうとかって・・・またボスにやられてたんか?」
「僕は平気だよ・・・僕たちのこと、気づかれてないよ」
「マーティン・・・」ダニーはマーティンを強く抱きしめた。
くそっ、オレってほんまに卑怯や。ダニーは忸怩たる思いでいっぱいだった。
翌朝、ダニーは大騒ぎした。アランが買ったオックスフォードシャツを
絶対着ないと言い張るのだ。「オックスフォードなんてWASPが着るもんやで。
俺は無地や無地!!」「うるさい子だなぁ。じゃあ僕の着るか?大きいぞ。」
「うん、その方がなんぼかいいわ。」白のアルマーニをあわせているダニー。
そこへ弁護士のギルが尋ねてきた。「おはよう、アラン。あ、ダニー。」
ちょっとびっくりしている。「うはぁ、ギル、おはようさん!」
ダニーはアルマーニのシャツにトランクスの姿でベッドルームに姿を消した。
「住み始めたのか、アラン、早過ぎないか?」「まだだよ。それより
今日はすまないね。仕事前に寄ってもらって。」「この間の株の売却、
君の指値より30ドル上乗せで売れたから。」「うわぁありがとう!
助かるよ。」「また、恋人に入れあげるための大金じゃないだろうね。」
ギルは明らかに心配顔だ。「いや、心配しないでくれ。ダニーは金目当てじゃない。」
「それならいいが。」「また連絡するよ。」「ああ。それじゃ。」
思わず聞き耳をたててしまっていたダニーは「なぁ、アラン、大金が入用
やったん?」と聞いた。しまった尋問風やな、これ。
「ああ、親戚が結婚したんでね、インテリアの代金をプレゼントしたのさ。」
「ふうん、そうかいな。」大金の流れをすぐに犯罪に結び付けてしまうのは
捜査官の悪い癖だ、そうダニーは思い込んだ。
ダニーは若干袖丈の短いアランのYシャツを着て、出勤した。
身ごろはブカブカやねんけどなぁ。アラン、贅沢太りやな。
マーティンが出勤してくる。顔を見た瞬間、昨日の驚愕の事実、エンリケとの
同棲を思い出したダニーだ。嫉妬で形相が変わっていくのが自分でも判る。
律っせにゃあ、ここは仕事場や。恋愛は外でや。
ダニーは挨拶することもなく、目の前の書類に目を通し始めた。
マーティンからも暗号メールやポストイットのメモが途絶えて久しい。
エンリケの世話で忙しいねんな。俺のことなんか二の次なんやろな。
目の前の書類の内容が全く頭に入ってこない。ダニーの頭の中はマーティンで
溢れそうだった。 小便でもして頭冷やそ。 トイレに立つダニー。
とそこで、ボスに会った。「どうだ、捜査進んでるか?」
「はい。まだこれっちゅう確証に当たりませんわ。」「お前にしろ、マーティン
にしろ、最近、注意力が散漫だぞ。女性軍に負けないように頑張れ。」
「了解っす。」 ボスにバレてたか。気いつけなあかんな。
ダニーは家で集中してやろうと仕事を持ち帰った。しかし、頭に入らないのは
支局と同じ状態だ。 そや、マーティンの荷物、整理して送ったろ。
嫌がらせ同然だが、嫉妬心が、ダニーをつき動かしていた。
マーティン専用の棚を開けると、ドサっと中の物が流れ出てくる。
「何やこりゃ!」一枚一枚丁寧にたたんで段ボール箱に詰めるダニー。
作業をしているうちに泣けてきた。 女とつきおうてた時、同じ事しても
涙なんか出えへんかったのにな。なんで泣けるんやろか。
ぐすぐす鼻をすすりながら、段ボール箱を4箱作った。
UPSを呼んで、エンリケのアパート宛てに宅配にした。
これで俺とマーティンの同棲は終了や。あいつには新しい相手が
おるねんから。俺には・・・俺には・・・
昨日、アランから言われた「家で暮らしてみないか?」という言葉が
頭の中を木霊する。俺も落ち着きたいんやろか。判らん、自分が判らん。
しばらく空になったIKEAの棚とにらめっこしていたが、一念発起して、
アランに電話をした。「ダニー、今どこだい?」いつもと変わらぬアランの声。
何故か安心する。「今、家。これから行ってもええか?」「もちろん!ただし
着替えを忘れるなよ。」朝の騒動を思い出して、家に帰ってダニーの顔に
初めて笑みが戻る。「ああ、わかった。持ってくわ。」
とりあえずスーツ上下2着とシャツを2枚その他こまごまとしたものを
バッグに詰めて、マスタングに乗せる。出発だ。
アッパーウェストのアランの家に着くと、ビルの玄関でアランが待っていた。
駐車場のセキュリティーをはずしてくれる。地下の薄暗い駐車場で二人は
抱き合った。「ようこそ、ダニー。」「こんばんわ。アラン」
二人とも恥じらいが顔にあった。バッグをアランが運んでくれる。
「今日はメキシカンチリを作り過ぎてしまってね。晩餐の友を捜していた
ところだったんだよ。」部屋はオレガノやタイムのいい香りが漂っていた。
「メキシカンチリ、大好物や!」ダニーはマーティンの荷作りに夢中で、
何も食べていなかった事に今気がついた。ダニーがバッグを開けて、スーツを
取り出すとアランが「こっちへ。」と案内してくれた。アランのウォークイン
クロゼットの一角がきれいになっている。「ここに下げるといいよ。」
「小物類は僕のと混じらないように、引き出しの一番上へ。」
まるでダニーの行動を予期していたかのような準備だった。
精神科医と付きおうてると心読まれるんかな。
「しまった!靴忘れたわ!!」ダニーが思わず「Damned」と悔しがる。
「君の靴のサイズに合ってるのがあるよ。」
みるとグッチのローファーの黒と茶が1足ずつ置いてあった。
「こんなん、もらえへん。」「じゃあ所有権は僕にあり君に借用権を譲渡した
というのはどうだい?」思わず、二人で笑う。
ダイニングで、アランがよそってくれるチリを待つダニー。
まるで家でかあちゃんの料理待ってた時みたいや。
11歳以前のうっすらとした記憶が蘇る。
メキシコのテカテビールにライムを搾って二人で乾杯する。
「何への乾杯?」ダニーが尋ねると即座にアランが返事をする。
「二人の新しき第一歩のために!」「乾杯!」
やっぱりそうねんな。これは俺の新しい第一歩なんや。マーティンと
決別するための。
ダニーはきっと口を結び、しばし思いにふけった。
「アラン、今日な、俺、マーティンの荷物まとめたんよ。」「ほぉ〜?」
「それでUPSでな、エンリケの家に送ったった。」
「良くやれたね。もういいのかい?」「心の整理はまだつきへん。だって
職場で顔合わせるし。かなり難しいねん。」「そうだろうなぁ。職場恋愛
が破局したら、どちらかが異動するのが精神衛生上いいからね。」
「もう少し時間くれへんか。」「ああ。いいとも。いつまででも待つよ。何度も
言うけれど僕は君のためにここにいるからね。いつも。」
初めて持てた家族のような気がした。誰かが自分のためにいてくれるって。
「それにエンリケがマーティンを必要としてるんやし。」
「うーん、ちょっと厳しい話になるが、共依存という関係を知ってるかい?」
「共依存?」「ああ、よくいるだろう、アル中患者を次々に彼氏にする女性
とか。」「ああ、何で懲りへんのやろかと思うで。」「そういう女性は、
『この人は私がいなければだめなのよ。』と自分からアル中に近付いて
いくんだよ。結局、アル中の彼氏に依存することで自分の生きがいを見出す
んだな。マーティンは、今まで頼りにされたことがおそらくないだろう。
エンリケに頼られる事で共依存になる可能性は高いよ。」
「じゃあ、エンリケがうつ病から脱しない限り、マーティンはエンリケの
ところにいることになるんか。」「その可能性は大だね。それに今日、
君は荷物をエンリケの家に送った。それは彼へのメッセージだろう?」
「よく判らへんのや。夢中でやってしもうた。」「怒り、嫉妬、そして
諦め。このプロセスがあったはずだ。」「そうかもしれん。」
「とにかくダニー、君もゆっくり自分の心と相談するんだね。僕は無理強い
するつもりはないから。」「アラン、サンキュ。なんでアランはいつも
そんなに冷静やねん。俺には出来んわ。」「精神科医の悪い癖だよ。本当は
愛している相手を分析するのはご法度なんだ。もう止めるよ。その方が、
ダニーもいいだろう?」「ん、俺どっちでもええで。アランの話はために
なるから、聞いてて面白い。」「そうか、ははは。ありがとう。」
しゃべっているうちに、チリボールも一緒に食べていたバケットも無くなった。
「アラン・・・」「何だい?」皿を片付けながら答える。
「今日、一緒に風呂入りたいけど、ええか?」「僕がNOと言うと思うかい?」
「じゃお湯張ってくるわ。」バスルームに走るダニーを見つめるアラン。
なんとまぁ。もう十中八九僕のものじゃないか。狩りはもっと長い方が
楽しいのに・・・・。
お湯の中にラベンダーのエッセンシャルオイルを入れる。リラックスの香り。
アランががたがたとワインクーラーに入ったシャンパンを運んできた。
「ラベンダーか。じゃぁバスジェルもラベンダーだな。」戸棚からジェルを
出し、あわ立てるアラン。「さぁ準備できたよ。」ダニーは何故か恥ずかしかった。
まるで童貞捨てた時みたいや。アランはしゃっしゃか服を脱ぐ。
ダニーも負けじと脱いで、先にバスタブにつかる。ぼしゃーん!
「何かプリティーウーマンみたいやね。」「どっちがジュリア・ロバーツ?」
二人で泡を掛け合う。シャンパングラスに注がれたピンク。
「うわ〜、ドンペリのロゼや!」「たまにはね。」アランがウィンクする。
口移しでシャンパンを飲みあう。そのうち、シャンパングラスを床に置き、
二人はお互いのペニスを順番に含みあうプレイに突入していた。
ダニーが壁に両手をつき、尻を突き出した。 おねだりの合図か。
アランはバスジェルを手につけてダニーの菊口に塗りこむと一気に挿入した。
「んんはぁはぁ、アラ・・ン、いいぃ。」もだえるダニーの声にアランの硬度が
増し、ダニーの中で大きくなった。「うぁはぁはぁ。」アランはじらして動こうとしない。
「もぅう俺、だめや、イクぅ!」ダニーは壁に向かって発射した。
それを見てアランは満足の笑みを浮かべ、ダニーの腰を両手で持ち前後に
激しく動かした。「ぅぅう、ああぁん。」ダニーがまたもだえ始める。
アランは速度をさらに増し、やがてダニーの中へ射精した。
二人でまた湯船に入る。しばし弛緩する身体。「ダニー、分かってるかい?
今日は僕らの初夜だよ。薬も使わないしスカーフもない。二人の気持ちが
触れ合った初めての日だ。」「あぁぁ、すごくよかった・・・」
「え!おじさんには聞こえないぞ」アランが茶化す。
「すごくよかった!アラン!」ダニーはアランの首に抱きついた。
「ダニー、朝だよ。」「うぅん・・」額にキスを感じる。かあちゃん・・・
「ダニー、遅刻するぞ!」「うわ!アラン!」
「何が、うわ!だ、5分も起こしていたのに。寝起きが悪い子だ。」
急いでシャワーに向かうダニー。アランは部屋着でコーヒーをマグに入れていた。
シャワーから出ても部屋着のまま。「??アラン、病院行かへんの?」
「ああ、言い忘れてたよ。ERは退職した。」「へ?」
「これからは、自宅でのプラクティスだけだ。精神科のね。」
「そうなんかぁ。ここが職場かぁ。」「使っていない部屋がまだ2つあるし、
一つをカウンセリングルームに改造するよ。」「ふーん。」
「秘書とか雇うん?」「何だ、問題でも?」「ブロンド美人とか?」
「ははは、秘書は雇わないよ。電話取次ぎサービスを使うからね。当面、
トムから患者を紹介してもらうことにした。」「そうなん?」
「心配するなよ。ベッドでのセラピーもお終いだ。」ほっとするダニー。
俺、何や、嫉妬深い恋人みたいやんか。変な気持ちや。
着替え終わるとアランが近付いてきてネクタイの曲がりを直しながら、
唇に優しくキスをする。「さぁ、行っておいで!」「ほな、行ってくるわ。」
部屋の改装は1週間かかった。邪魔になるからと、ダニーはアランの家では
なく、自分の家から通勤していた。何か心に穴が開いたように足りなかった。
支局では相変わらずマーティンが常に携帯片手に仕事している。
エンリケの様子を見ているのだろう。するとマーティンからEメールが来た。
「捜査会議12:30」いつぶりだろう。ダニーは即答する。「OK。ダイナー集合」
いつも二人でディナーを取っていたダイナーだ。懐かしい匂いがする。
マーティンはいつもの特大チーズバーガーにフライドポテト、ダニーはワイルド
ライスサラダにする。「久しぶりやな。」ダニーが口火を切った。
「ああ久しぶり。」マーティンの顔がこわばっている。
「荷物のことだけど、ありがとう。僕がエンリケのとこにいるって誰から
聞いたの?」「アランや。薬取りにいってるんやて?エンリケ、どうや。」
「まだふさぎこんでる事が多いよ。死にたいって口癖だしさ。」
荷物、ありがとうって、こいつアホか?俺のメッセージ伝わってへんのかな。
「ダニーが整理して送ってくれたから、荷物解きも楽だったよ。すごく助かった。」
「・・・そうか、良かったな。」「ごめんね、連絡しないで。僕、一つの事に
集中しちゃうと他が出来なくなっちゃうから。」「いいって。エンリケの事は
俺も気になっとってん。何しろ外交官やしな。」「うん。まだしばらく
エンリケの家にいると思う。許してくれる?」
「許すもなにも、お前、人助けしてるんやないか。自信持てよ。」
「うん、実はね、こんなに人に頼られた事って生まれて初めてなんだよ。
だからね、何だか、毎日が充実してるっていうか・・・」
やっぱりアランの言うてた共依存関係や。
「まぁ晩は無理やろうから、またこうしてランチでも一緒に食おうや。」
「そうだね!僕たちの絆は固いんだもんね!!」
すぐに返事が出来ないダニーだった。
ランチを終え、オフィスに二人は別々に戻った。ボスの目につくのを避けての
行為だった。また携帯を片手に仕事を始めるマーティン。
サマンサが「マーティン、彼女でも出来たの?いつも携帯で電話してるよね。」
と聞いてくる。「何やろなぁ。知らんけど。」ポーカーフェイスで答えるダニー。
「それより、アラン、元気?」「うん?元気と思うけどな。」
「アランが彼女と別れたら教えてね、テイラー捜査官!」「了解!」
サマンサ、まだアランに気があるのか。しゃあないな。
いかんいかん、仕事や。集中せんと、またボスに怒られる。
急いでPCに向かって、仕事を始めるダニーだった。
177 :
fusianasan:2005/09/21(水) 02:56:27
>>書き手1さんへ
ダニーとマーチィンを別れさせないでください。
>>177 さんへ
感想ありがとうございます。
二人の絆を確かめる試練だと思って、ちょっとの間
別れるかもしれません。
久しぶりに寄るアランのアパートだった。セラピー室だけでなく、
リビングやベッドルームにも少し手を加えたらしく、黒の木目とゴールドを
基調とした豪華な雰囲気になっていた。
なんかホテルみたいや。
アランがうれしそうにセラピー室に案内する。
そこは逆に濃茶の木目と白が基調の清潔な感じの部屋に仕上がっていた。
「へえ、俺もまたセラピー受けよかな〜。」ダニーが感嘆すると
「君の場合は前金、身体でのお支払いを要求するよ。」といって額にキスする。
「このままじゃプリペイドが貯まるで。」ダニーが恥ずかしそうに言う。
「ははは、そうかもしれないね。で今日は何がちょっとパーティーが
あるんだが、一緒に行ってくれるかな。」「ふぅん、今度は何?」
「ビルがNYファションウィークで賞を受賞してね、お祝い。」
あのゲイ丸出しのビルか〜。ダニーは正直ちょっと苦手だったがアランの
頼みだ。一緒に出かけることにして、ワードローブを選ぶ。
アランはお気に入りのロエベの黒レザージャケットに黒のTシャツ、グレーの
フラノのパンツを選ぶ。ダニーはグッチの上下にVネックの白Tシャツだ。
乳首が立っているのが透けて見える。
「うわ〜、今日の君はいつも通り強烈にセンセーショナルだ。」
「アラン、やめてえな。こそばゆいで。」「じゃあ行こう。」
場所はミッドタウンのハドソンだ。この前HIVのチャリティーが行われた
場所だった。思わず、ダニーの脚が止まる。「ハニー、今日はあんなことないよ。
もう一生あんなことしないよ。」アランに腕を取られて先へ進む。
ラウンジバーは人が入る隙間がないほどの大喧騒だった。スーパーモデルも
チラホラいるのが見える。ダニーは新しい世界へ来た気分だった。
主役のビルにやっと近付けた。アランがプレゼントを渡す。
「受賞おめでとう!これでもっともっと沢山いいデザイン書いてくれ。」
「何〜、ワーオ、カランダッシュの色鉛筆!私の趣味覚えててくれたのね!」
ビルがアランと抱き合う。目のやり場に困るダニー。「はぁい、貴方モデル?」
いかにも記者らしい女性が話しかけてくる。「いや、ビルの友達。」「そう。」
アランが腕を引っ張る。「僕から離れるな。」「うん。」
正直、ダニーは目が回りそうだった。人、人、人の波。
「ダニー・ボーイ、来てくれたのね!うれしいわ。」「俺はプレゼントない
からハグで許してや。」ぎゅっとハグする。「きゃ〜、ダニーとハグよ〜。」
アランがバーからシャンパンを持ってきてくれる。「はい、ハニー。」
「サンキュ。」頬にキスするアラン。「アラン・・」驚くダニー。
「大丈夫、ここにいる80%以上がゲイだよ。」「そうなん?」
そう意識して回りを見ると男・男、女・女のカップルが多かった。
「ファッション業界ってやっぱすごいわ。」ダニーはまた感嘆した。
「FBIだってそうだろ。」アランがウィンクする。 ボスとの事か・・・
ライブバンドの演奏が始まる。「今日も踊るかい?」アランが誘う。
久しぶりに会えた喜びにダニーの身体はすでにリズムに乗っている。
今日はDJも入っているので、ファットボーイスリムやアンダーワールド、
ケミカルブラザーズといったトランス系のレパートリーが多い。
ダニーは身体をひたすらリズムに任せて踊り始めた。意識しないのに、
仕草がどんどん官能的になっていく。「もうぅ、ダニー・ボーイ、本当に
FBIなの〜?」ビルが悔しがる。アランがさすがにエスカレートする
ダニーの動きを制して、ハグする。目をつむっていたダニーは気がついた。
「だめだ、ダニー。君のダンスを見ていたら、こうなっちゃったよ。」
アランが自分の股間にダニーの手を持っていく。すでに半分立っている。
「アラン・・」「ちょっと座ろう。」「俺、水持って来るわ。」
バーのカウンターでミネラルウォーターを二つ頼んで待っていると、
「わぁ〜、ダニー、何してんの?」またサマンサだ。
「サマンサこそ、何やねん?」「エディターの友達に連れてきてもらった。」
さっきダニーに質問してきた記者の女性だった。
「こんばんわ。貴方もFBIなんですって。信じられないわ。モデルかと
思った。」「俺なんかチビやし、身体貧弱やねんから、無理無理。!」
「でも筋骨隆々よね〜。」乳首が透けて見えているTシャツを眺める。
「うぁ〜、ダニー、セクシー!それで今日の彼女はどこにいるわけ?」
「いや、俺、アランと来てんねん。」「ええアラン!会いたい!!」
ダニーはアランが座っているソファーにサマンサを案内した。
アランは立ち上がり「これはこれはFBIのお嬢様。意外な場所で
お目にかかります。」手の甲にキスをするアラン。
「今日はダニーがお相手なんですって?」「ええ、おじさんになってめっきり
もてなくなりましたから。」「またそんなぁ。」
ダニーはアランの前にクラブソーダを置いた。「ちょっと失礼。」
喉を鳴らして飲むアラン。「ほな、アラン俺もう少し踊ってくるわ。」
サマンサにあんな気い遣わんでもいいのに。ダニーはくさくさして
またリズムに身を任せた。音楽がストレートに頭に入ってきて、全てを
忘れさせてくれる。マーティンの事、サマンサの事、仕事の事・・・
気がつくと目の前にブロンドのハンサムな男性が立って一緒のリズムに合わせて
踊っていた。耳元でささやく。「俺、ジム、君は?」「ダニー。」
しばらく一緒に踊る。息がぴったりだ。気持ちがいい。
ライブが終わって、DJタイムに入ったが、二人ともまだ踊り続けていた。
ビルが急いでやってくる。「ダニー、アランがおかんむりよ。なに、ジム!
いつNYに戻ってきたのよ?」「ミラノもパリも飽きたよ。しばらくここで
仕事する。また俺を使ってくれるかい?」「もちろんよ。じゃあとにかく
ダニー戻って!」「ビルの知り合い?」「俺モデルだから。」「そうか。」
「じゃあ、連れが待ってるので。」「これ俺の携帯番号。」ジムがジャケットの
ポケットに紙を入れる。「じゃあ。」
アランはまだサマンサと話していた。「このFBI君は女ったらしでつとに
有名だとか?」「はぁ?サマンサ、何話してんのや!」「ふふふ。」
「今日は僕と一緒だからサマンサも安心したろう?」「ううん、私、ダニーに
興味ないもの。」「これははっきりしたお嬢さんだ!」アランは笑う。
「それではまた。」「オゥルヴォワール」
アランが耳打ちする。「さっき踊ってたのは誰だい?」「ビルの知り合いの
モデルや。ヨーロッパで仕事してたらしいで。」「誘われたかい?」
「ううん」首を必死で横にふる。その仕草が可愛くて、アランは思わず
肩を抱く。「そろそろ帰ろうか。」「うん、疲れたわ。」「じゃあビルに
挨拶しよう。」まだまだ人に囲まれたビルに二人でおいとまする。
「来てくれてありがと!チャオ!」ビルは終始ご機嫌だった。
アランはダニーの腰に手を回し、ロビーを通っていった。
その様子を目にしてしまったサマンサ。 もしかしてあの二人・・・・
「まさかあのダウンタウン・テイラーがねえ。」頭に浮かんだ想像を追い払う
ようにまたパーティー会場に戻っていった。
「サマンサが来て、肝冷やしたで。」「僕もだよ。NYは狭すぎる。」
「サマンサ、アランが彼女と別れたら教えてって言うてたで。」
「ははは、未来永劫ないって答えておいてくれよ。」ダニーは頬が紅潮した。
「今日、アランんとこ・・・」「もう判ってるよ。さぁ帰ろう。」
早速シャワーに入って、タバコの香りを消す二人。じゃれあうように
身体を洗いっこし、ふかふかのバスタオルで身体を拭き合う。
二人でベッドインしようとしていた瞬間、アランの携帯が鳴った。
「はいショア。マーティン?どうした?え、エンリケが??すぐ行く。」
「エンリケがどうしたん?」「ベランダに出て内側からドアを開けられない
ようにバリケード張ってるらしい。」「そりゃ大変や。行こう!」
二人はアディダスの上下を着て、とりあえずミッドタウンに向かった。
玄関のセキュリティーもバタバタしている。アランの医師免許IDで
やっと入れてもらえた。
エンリケの住む階へ急ぐ。玄関ではマーティンが待っていた。
「エンリケ、どれ位ベランダにいる?」「30分位。」「そろそろだな。」
「マーティン大丈夫か。」ダニーが聞く。「僕、無力だよ、ダニー。」
「そんなことない。お前、良くやってたやんか。責めるんじゃないで。」
アランが静かにエンリケとドア越しに話している。
1時間が経過しただろうか。マーティンとダニーは手持ち無沙汰で、
部屋を行ったり来たりしている。そうこうしているうちに、バリケートが
動かされる音がして、ドアが開いた。アランに抱きつくエンリケ。
「今日は危険な状態だから、睡眠薬を注射するよ。マーティン、朝まで
付いていられるか?」「はい、大丈夫です。」「じゃあ頼むよ、精神
安定剤も処方するから今から飲ませるね。」「はい。お願いします。」
「うつ病の怖いところはね、どん底の時は死ぬ気力もないんだが、治りかけの
時に自殺する確率が上がるんだよ。今のエンリケがその状態だ。」
「僕はどうすれば?」「申し訳ないが監視を強めて欲しい。」
「わかりました。」「マーティン、大丈夫か?」「僕なら大丈夫。」
ぼんも逞しくなってきたな。ダニーは正直驚いていた。
二人はエンリケのアパートを後にした。「大丈夫なんやろか。」
「一応強い睡眠薬を投与したから、朝までぐっすりだろう。それより
マーティンの方が参らないかな。」「マーティンは今が一番充実してるって
言ってたわ。」「やっぱり共依存関係に入ったか。その絆を断ち切るのは
並大抵のことではないんだ。マーティンがうつ病になる恐れも出てくる。」
「ええ、そうなん?」「人間の精神は複雑なんだよ、ダニー。」
「今日は俺いっぱいっぱいや、もう寝たい。」「じゃあそうしよう。」
ダニーはアディダスの上下のまま寝ようとすると、アランが脱がせる。
「アラン・・?」「今日は何もしないよ。二人で静かに寝よう。」
アランのベッドに横たわる二人。ダニーが寝返りを打って、アランの方を向く。
アランは唇にキスをし、ダニーを軽く抱きしめた。
「ダニィ・・・」「ん?どうしたん?」「おなか空いた」
コイツはほんまに・・・ダニーは苦笑した。
「わかった、何かあるか見てくるわ」ダニーはキッチンへ行きかけたが、
「ひゃあっ!!」叫ぶなり、ベッドに飛び込んだ。
「なっ何?ダニー?」「でっかい蜘蛛が!足、足、足元に・・・」
マーティンは部屋の灯りをつけたが、何もいなかった。
「大丈夫、どっか行ったみたいだ」「もっとよう見てくれ」懇願するダニー。
マーティンがもう一度確認したが異常なし。
「キッチンまで一緒にいくよ」マーティンはダニーの手を引いた。
ダニーは終始きょろきょろしていたが、ようやく落ち着いた。
手早くBLTサンドを作ると、オレンジジュースと一緒にテーブルに置いた。
「ダニーの天敵は虫だね。」マーティンががっつきながら言った。
「ああ、どうしても怖いんや、暗示療法でも試さんとあかんなぁ」
「僕は虫は平気だから、ダニーのこと守ってあげるよ」
マーティンは嬉しそうだ。「ほな頼もうかな」ダニーも応じた。
ダニーは蜘蛛を目撃した以上、マーティンの家に泊まることができなかった。
「ごめん、今日は帰るわ」「じゃあ僕も一緒に帰る!」
マーティンは手早く荷物をまとめると、手をダニーの腕にからませた。
「お前、なんか手馴れてるなぁ・・・」
「さっ、帰ろ」マーティンの勢いに押されるように、アパートへ向かった。
「ねぇ、虫が苦手なのって何か原因があるの?」マーティンが車に乗るなり聞いてきた。
「えっ・・・うん・・・昔、近所にかわいがってた犬がおったんやけど、急に姿が消えてな、
三日ぐらいして道端で死んでるのを見つけて、近寄ったら全身虫にまみれてた・・・。
それ以来や、気持ち悪くて辛抱できひん」ダニーは思い出して身震いした。
マーティンは黙ってダニーの手を握った。ぎゅっと力を入れる。
「大丈夫、僕がいるから」マーティンは力強く言い切った。
「なんか喜んでへんか?・・・」ダニーはマーティンを不審そうに見た。
「うん、だって僕もダニーの役に立つことがあるってわかったんだもん」
マーティンは無邪気に答えた。
部屋に入ると、ダニーはマーティンを誘って風呂に入った。
ボスの痕跡を消すかのように、丁寧に体を洗う。
「ごめんな、オレが不甲斐無いばっかりに。お前一人に辛い思いさせて・・・」
「もういいんだよ、今こうして二人でいられるんだから。」
マーティンはダニーにキスをねだった。ダニーは軽くキスをする。
「ダニィ、もっと」ダニーは舌をこじ入れると、マーティンの舌の根を舐めまわした。
「のぼせそうや、出よう」ダニーは先に出ると、マーティンの体を拭いてやった。
二人はパジャマを着るとリビングでくつろいだ。
マーティンが口移しで水を飲ませてきた。「うぅーん、ぬるいわ」ダニーは冷たい水が好きだ。
ふくれたマーティンを押さえつけ、ペットボトルごと水を飲んだ。
「飲むか?」「いらない!」「飲ませたろか?」「・・・うん」
ダニーは水を含むと、マーティンに飲ませた。「おいし〜」にっこりするマーティン。
「お前あほやろ!」「へ?」「やっぱり!」ダニーは言うなりベッドルームへ消えた。
「何だよ、それ!」マーティンも笑いながら追いかけた。
「ボス、おはようございます」よりによって三人一緒のエレベーター。
「ああ、おはよう」ボスは胡散臭そうに二人を見た。
ダニーは平然としているが、マーティンは心もとない。
「マーティン、昨夜は素晴らしい乱れっぷりだったな。最高のプレイだ!」
マーティンは俯いたまま、何も言わない。ダニーも聞こえないフリをした。
「もっと過激なことをしてみたくなった」ボスはダニーの出方を見ている。
ダニーは昇降階数をカウントして、無関心を装った。
ボスと別れると、ダニーはマーティンをトイレに連れて行った。
誰もいないのを確かめると、話を切り出した。
「おい、何や今の!ひどいことされてるんちゃうんか?」
「・・・大丈夫、まだ耐えられるよ」マーティンは必死に弁明する。
「ちょっと行ってくるわ」怒るダニーをなだめ賺して止めた。
「いいから・・・ねっ、お願いだよ」泣きそうなマーティン。
「ええい、放せっ!」ダニーの怒りは収まらない。
「もうええ、今度はオレも一緒に行く」足音も荒々しくダニーは出て行った。
どうすればいいんだか、もう僕にはわからないよ・・・マーティンは頭を抱えた。
それ以来マーティンは、ボスに呼び出されてもダニーに隠していた。
ボスの変態プレイは回を追うごとに激しさを増した。
「ダニィっ・・っ」夜、枕を濡らして眠る日々。誰にも言えない辛さ。
ダニーもまた、マーティンの行動を怪しんでいた。
ランチを食べない日は決まって帰りが遅い。
ダニーは仕事が終わるとマーティンの後をつけた。
ボスの車は、半泣きのマーティンを乗せてクイーンズへ向かっている。
ダニーはタクシーで追跡した。案の定、車はモーテルへ消えた。
ダニーが部屋の前まで行くと、マーティンの泣き叫ぶ声が聞こえた。
「もうやめてっ、そんなの無理だよー、嫌だったら」
ダニーはドアをノックした。開くなり中に踏み込む。
「ダニー!!?」驚くマーティンとボス。
「ダニー、こんなところで何やってんだ?」ボスも驚きを隠せない。
「それはこっちのセリフや!」ダニーはマーティンを見た。
両手をベッドに繋がれ、膝に棒をかまされている。アナルも丸見えの状態だ。
マーティンの横にはコンドームに包まれた物が置いてある。
「何やそれ?」ダニーは凝視したまま尋ねた。
「ダニィ、いいから早く帰って!」マーティンが泣きながら訴えた。
「ちょっと待った!お前たち、私を騙してたんだな!!」
「いいえ、そんなんじゃありません。僕は誰とも付き合ってなんかないっ」
マーティンは懸命に否定した。
「ダニー、どうなんだ?答えてもらおうか」ボスが尋問した。
マーティンが目配せしているのが見えた。
「オレは・・・今でもマーティンと付き合っています」ダニーはボスを見据えて答えた。
あぁー・・・マーティンのため息が漏れた。すすり泣きしている。
「卑怯だな、ダニー。マーティンだけを人身御供か」ボスはねちねち責めた。
「違う、僕がダニーに口止めしたんだ!ボス、ダニーは何も知らないんだ!」
マーティンはダニーをかばった。
「マーティン、お仕置きだ!」ボスはアナルにさっきのコンドームを入れた。
「痛い!早く取ってーボスー」マーティンの体はのた打ち回った。
「ボス、それ何ですの?」ダニーはあまりの様子に息を呑んだ。
「さて何だろう」ボスはニヤニヤしている。
ゆっくり出し入れをするうちにマーティンの腰はくねりだした。
「どうだマーティン、よくなってきただろう?
ダニー、これはマーティンの親父さんのゴルフボールだ。
三つほど数珠繋ぎに詰めただけだ。おっ、そろそろだな」
ボスの言葉どおり、マーティンは全身をビクンとさせると射精した。
「親父のゴルフボールで射精か。いやらしい息子だな。
今度のコンペでいい話の種になりそうだ。」ボスはひけらかすようにボールを出した。
マーティンは拘束されたまま、ぼんやりとしている。
「ボス・・・」ダニーはボスに畏敬の念を抱いていた。
だが、目の前にいる男はもはや尊敬に値する人物ではなかった。
ダニーはボスに襲い掛かった。突然の不意打ちにボスはなす術がなかった。
翌日、アランより早く目が覚めたダニーは、コーヒーミルで豆を挽き、
サイフォンでコーヒーを入れた。いい香りがキッチンに立ち込める。
新聞を取り、リビングのテーブルに置く。コーヒーが入っても、アランは
目が覚めない。ダニーはシャワーを浴びて、出勤のしたくをした。
やっとアランが起きてくる。「さすが若さかな、早いね。コーヒーありがとう。」
今朝はダニーがアランの額にキスをする。
「そんなのアランがしてくれた事の数百分の1や。」「シャワー浴びるよ。」
「うん。」こんなホーミーな雰囲気を感じることが自分に訪れるとは、
ダニーは思ってもいなかった。マーティンとの生活は、ボスやマーティンの
親父、皆に気を配りながらの生活だったからだ。
バスローブで現れたアランにマグのコーヒーを渡し、解凍したベーグルに
オリーブクリームを塗った後ハムとチーズをはさんでアランの前の皿に盛った。
「こんなこと誰もしてくれたことがないなぁ。」本当かウソかわからないが、
アランはうれしそうだった。誰かが自分の所為によって嬉しいと思うのを
見るの楽しい。この前までは相手がマーティンだった。それだけの違いだ。
「今日は忙しいんか?」ダニーが聞く。「トムの紹介で新規の患者が3名来るよ。」
「大変なんやろうな。個人の悩みの根っこを突き止めるのは。」
「ははは、そのためにメディカルスクールで自分に投資してきたんだからね。
それに人助けはいいことだと思うよ。」「うん、俺の場合、時期既に
遅しって場合も多いけどな。」「でも君が守ってくれているおかげで、
アメリカ国民は幾ばくかの平和を得ているんだ。ありがたいよ。」
「うーん、ありがと。俺そろそろ行くわ。」アランが立ち上がり、ダニーの
額にキスする。「ああいっておいで。」「ほな。またな。」
ダニーはこの幸せに充足したい気持ちが日増しに強くなっていくのを
感じていた。
ダニーはボスを床に押し倒すと、後ろ手に手錠を掛けた。
「こんなことをしてどうなるかわかってるんだろうなっ」
ボスの怒鳴り声を無視し、マーティンの拘束を解いた。
「ダニーやばいよっ」マーティンが心配そうに見つめる中、
ボスの体を立たせると、ベッドまで歩かせた。
「マーティン、体押さえとけ!」マーティンはびくびくしながら体を押さえた。
「マーティン、今すぐやめさせろ!さもないとヴィクターに連絡してやる!」
「ダニー・・・」マーティンが様子を窺うが、ダニーは構わずベッドに拘束した。
「どうや、さっきのマーティンとおんなじ格好や」あざ笑うように眺めるダニー。
ダニーはボスのシャツをはだけ、パンツを下ろした。
「なんやこの太鼓腹は!うまいもん食い過ぎとちゃうんか!」
「ダニー!いい加減にしろ、どうなっても知らんぞ」
「やかましい、これでも食うとけ!」ダニーはハンカチを口に詰めた。
ダニーはボスのアナルにローションを垂らし、指でいじくりはじめた。
「んくっはぐ」ボスは嫌がって暴れるが、ペニスが少し反応している。
「そうや、ええもん飲ませたろ」ダニーはブランデーを口に含むと、アナルに吹きかけた。
「ぐが゛゛ぁ」焼けるような痛みにボスは呻いた。
「ダニー・・・怖いよ」マーティンはオロオロしている。
ダニーはさらにローションを塗ると、またアナルを弄び始めた。
ボスの呻きはいつしか甘い吐息に変わっている。
「どうや、気持ちええやろ?オレの指使い」ダニーはにゅぷにゅぷと挿入を繰り返す。
「んがふがー」ボスのペニスから透明な液体が出てきた。
「なんやなんや、我慢汁が出てきよったで!まだまだ若いなぁ」
ダニーはペニスの先を擦った。「はがっ・・・」ぴくんと仰け反るボス。
「またブランデー飲ませたろか?」ダニーの問いかけにボスは激しく首を振った。
「いらんのかいな、まあ遠慮すんなや!」言うが早いかまたブランデーを吹きつける。
「ぐがぁーひぃぐ」ボスのうめき声が一段と大きくなった。
「そないに喜んでもろたらオレも嬉しいわ」
ダニーはブランデーを飲みながらペニスの先を弄ぶ。
「ダニー、もうやめようよ・・・」マーティンの制止を払うと、ダニーはアナルに指を入れた。
ボスのアナルはひくひくして収縮をくり返している。
ダニーは容赦なく指で嬲った。ボスのペニスは透明な液体を滴らせた。
「オレが欲しいか?どうや?」ダニーはボスの目の前でペニスをしごき見せつけた。
はちきれそうなほどペニスは勃起している。ボスが何かを呻いた。
ダニーはハンカチを取り出した。唾液がべったりのハンカチを汚そうに床に捨てる。
「何やて?」「ダニー、早くイカせてくれ。どうにかなりそうだ・・・」
「ほな約束してもらおか。オレとマーティンに手出しはせえへんて。
あと副長官のこともや。いらんこと言わへんて約束できるか?」
「ああ、約束するよ。お願いだ、早く・・・」
「でもなぁ・・そんな口約束、オレが信用すると思うか?」ダニーは自宅に電話した。
留守電のメッセージに言うよう強請する。ボスは言われるまま約束をくり返した。
「ついでやから実況中継や!」ダニーは携帯を枕元に置いたまま挿入した。
「あぁっ、ダニー・・・もっと奥まで入れてくれ」ボスは自ら腰を打ちつけてくる。
「こうか?」ダニーは奥まで挿入すると、激しく出し入れした。
「ぅっあっああ」ボスの声が大きくなる。ダニーはペニスに手を添えると動かした。
「アァッダニーもっもう出るぞっうぅっ・・くっ・・はっはぁはぁ」ボスの射精を見届けると
ダニーは動きを早めた。イキそうになった瞬間、ペニスを抜くとボスの顔に顔射した。
「はぁはぁ、全部飲め!」ダニーは精液をすくうとボスの口に擦った。
「マーティン!」ダニーは部屋の隅で縮こまっているマーティンを呼んだ。
ダニーを見る目が怯えている。今にも泣きだしそうだ。
「どうしたん?」ダニーはわけが分からず訊いた。
「もう帰りたい」「えっ?お前はせーへんの?」ダニーは訝った。
「僕はダニーが怖い・・・」とりあえずマーティンを座らせ、ベッドに戻った。
ボスはベッドの上でじっとしている。
「ボス、拘束外しますよ?」返事がなかったが、ダニーは両手を自由にした。
殴られるかもしれん、ダニーは身構えていたがボスも心ここにあらずだ。
ダニーはブランデーを飲み、二人の様子を見ていた。
支局に出勤するとマーティンが困り顔で待っていた。
「おはよ。マーティンどうしたん?」「実はおりいって頼みたい事があるんだ。」
「内容によるけどな・・」「エンリケの事。」「ああ、大丈夫やったか?」
「寝不足だよ。」確かに白目のところが眼底出血している。
「エンリケとスペイン語で話してくれない?」「うん?」
「寝てても、寝言がスペイン語でさ、全然判んないんだよ。」「ほう?」
「もしかして祖国が恋しいんじゃないかと思ってさ。」「あり得そうやな。」
「じゃあ、ディナーでも一緒に食おうか?」「そうしてくれる?」マーティンは
安心した顔をした。「アランも一緒でええかな。」
「あ、アラン・・もちろんいいとも。」「じゃあ連絡してみるわ。」
携帯でアランと話すダニーの表情が生き生きしているのを、マーティンは
見逃さなかった。 僕たち、もしかしてすごい距離が開いて来てるのかも。
「アランがスペインレストラン予約してくれるそうや。」「ありがと。」
「何か他人行儀やないか?お前と俺の仲やろ。」「うん、そうだよね。」
マーティンはさっきの予感が杞憂であることを信じたかった。
サマンサとヴィヴィアンが次々と出勤してきたので、二人は仕事を始めた。
今日は書類整理が主な仕事になりそうだ。
ボスがワシントンに出張しているせいで、チーム全員リラックスして仕事を終え
定時で帰ることが出来そうだった。ダニーが携帯をかけるために席を立った。
マーティンが目で追う。ダニーが戻ってきて、暗号メールする。
「7:00手配完了。」マーティンも返信する。「Eをピックアップ予定。」
マーティンが先に席を立った。「サマンサ、ヴィヴ、お先!」
「マーティン、きっと例の彼女だよ。」ヴィヴィアンがサマンサをこずいて
話している。「俺もお先に!」「ダニー、ずるい!!」怒る女性軍を残して
二人は1階で別れた。ダニーはアランの元へ、マーティンはエンリケのところへ。
1階にはすでにアランのボルボが止まっていた。ダニーが乗り込む。
キスが出来ないので、アランの右手をぎゅっと握る。「ただいま。」
「やあおかえり。今日は深刻そうだなぁ。」「昨日の今日やしな。」
「君が僕を誘ってくれてうれしかったよ。」「だって専門家やし・・・」
「それから?」「その先言わすな!」ダニーはアランの右手の甲をつねった。
「場所はどこ?マーティンに伝えにゃあ。」「ユニオン・スクエア。」
「了解。」マーティンの携帯につなぎ場所を伝える。
「何や、おのぼりさんみたいやな。」「でもレストランに行ったら驚くぞ!」
「まぁアランにまかせときゃ、グルメには困らんからなぁ。」
運転で両手が使えないのをいいことに、ダニーはアランの少し出っ張りかけた
お腹をくすぐる。「おいっ、こら!悪い子だ!!」アランが笑う。
ユニオンスクウェア近くの駐車場に車を止め、スクウェアに行くと、
青白い顔のエンリケと心配顔のマーティンがすでに待っていた。
「お待たせ!」わざとテンション高くダニーが挨拶する。
「コモ・エスタス、エンリケ?」「ノー・ビエン」
「当たり前だわな〜。元気なさそうや。」「今日はエンリケのために
スペシャルレストランを予約したからね。」アランが皆を案内する。
場所は歩いて2分位のところにある「BOLO」というレストランだった。
雑誌のレストランガイドは必ず目を通すマーティンが「あ、すごい!」と言った。
「ここってボビー・フレイってスターシェフがいる店だよ。」「へぇ〜。」
ダニーはマーティンの知識にも驚いていた。ニューヨーカーしてるわ。
フロアマネージャー自ら席に案内してくれる。「アラン、前にも来たことあるん?」
「まあね。」 誰と来たんやろか。あーいかん。俺、また嫉妬深い恋人になっとる。
「適当に頼むけどいいかい?」アランが3人に尋ねる。誰も異論なし。
「それじゃ、本日のタパス盛り合わせとイベリコ豚のグリルと季節の野菜の
エスカリバータ、あとオジャを適当に。」「かしこまりました。」
エンリケは給仕たちがスペイン語をしゃべっているのを聞きつけ、少し顔を
上げた。「エスパニョール!」「そうだよ。君の言葉だ。」アランが静かに
話しかける。すっかりカウンセリングが始まっている。
「ダニー、スペイン語でずっとエンリケと話すように。」「了解!」
ダニーは店の内装の話や運ばれてくる料理の話をし続けた。段々、エンリケの
表情が明るくなってくる。エンリケからもダニーに話しかけている。
「マーティン、どうやら、君のアイディアは大成功のようだね。ホーム・シック
は辛い。が彼の地位ではすぐに交代できないだろう。」
フレシネのカバが1本空いたところで、リオハの赤ワインを追加するアラン。
マーティンはやる事がなく、ただ飲むばかりだった。
「うははははっ!」エンリケが笑った。3人が目をあわす。ラルフの死以来の
出来事だった。ダニーも一緒になって笑っている。
僕が入ることなんて出来ないや。 またワインを注ぐマーティン。
タパスが終わり、メインのイベリコ豚のグリルが来る頃には、エンリケは
英語でも話し始めた。出会った時のエンリケのように快活だった。
「来週からまたアメリカとの通商会議始まるから忙しいね。残業、残業。」
「前みたいに原稿書くの?」マーティンが聞いた。「うん。仕事沢山。」
「へぇ、通商会議はエンリケのシナリオで成り立ってんのか。すごいやんか。」
ダニーが驚く。アランもびっくり顔だ。
「このイベリコ豚もアメリカ、輸入禁じてた。でも解禁になってみなで
食べられる。」「すごいなぁ。」3人が褒めちぎってエンリケを称える。
エンリケはすっかり前に戻ったようだった。トイレに行くというので、
エンリケが立ち上がると、アランがダニーに一緒に行くよう、目で合図する。
「俺も連れ何とかや。」ダニーが一緒にトイレに行った。
「マーティン、うつ病は振り子だ。今日快活だからといって明日もそうだとは
限らない。気をつけてやってくれ。でも仕事にやる気が出て来たのは本当に
いい兆候だよ。君は本当にエンリケの事を考えてあげてるんだね。」
「判った。アラン、本当にありがとう。ここを選んでくれたことも、一緒に
来てくれたことも。」「そんな事、大したことじゃないよ。君がエンリケに
していることに比べたら小さいものだ。」
瓜二つの二人が席に戻ってくる。二人とも笑っている。
「エンリケがこの後、ミッションに行きたいねんて。どうする?」
「僕は異存ないが、FBIのお二人は?」「今、抱えてる事件ないし・・」
「じゃあ行く、決定ね!」エンリケがウィンクした。
その上、支払いも外交官カードを気前良く切ってくれた。
マーティンはさっきのアランの「振り子」という言葉が心配になってきた。
ミッションは週の半ばだというのに超満員だった。
「なんでこんなに込んでるんや?」ダニーがバーテンダーに聞く。
「ファッションウィークが終わったばかりなんで・・」
「席は空いてるかな?」アランが言うと、VIPルームに通された。
エンリケはすでに踊りたがっている。「マーティン、エンリケが踊りたいらしい。」
アランが言う。「マーティン、踊ろう!」ダンスの得意でないマーティンは
気が重くなりながら、二人でダンスフロアへ降りていった。
「先生、今日のテイラー助手の働きを採点すると?」ダニーがアランに尋ねる。
「先生へのキスがあったら、100点満点だ。」ダニーがアランの唇に唇を
重ねる。舌で唇をこじあけ、アランの舌とからませる。
「おっと、そこまで。二人がいるのを忘れるなよ。」「了解っす!」
ドンペリと季節のフルーツが持ち込まれる。
「君も踊りたいんだろう。」「うん・・」「踊っておいで。おじさんは
ここから君を見てるから。」ダニーは外出許可の下りた子供のように
フロアに駆け下りていった。おそらくフロアを席巻してしまうだろうダニーに
アランは満足していた。自分の所有物の価値がわかる瞬間だ。
ダニーはすでにリズムを自分のものにして動き始めている。
ダニーが目をつむってリズムに身を任せていると、肩を叩く人物がいた。
「ん?」「ダニー、覚えてるかい?」ビルのパーティーで会ったモデルのジム
だった。「電話くれないんだね。」「電話?」「ポケットに電話番号入れたのに。」
「うそやん、俺クリーニングに出してしもうたわ。」「うわ〜、最悪!」
「今日は一人?」「いや、友達3人と来てる。紹介するわ。」
ジムをエンリケとマーティンに紹介する。一緒に踊り始める3人。
「ダニー、エンリケは兄弟?」「いや赤の他人。」「そっくりだね。」
「まあな。」音楽がうるさいので自然と耳元に口をつけるように話すことになる。
「今度はなくさないで欲しいな。」また紙切れをジャケットのポケットに入れる
ジム。「わかったわ。」席に戻るとアランが冷たい砂色の瞳でダニーを一瞥した。
「この間のモデルだろう?」「あん?見てたん?」「奴としたいか?」
「アラン、何言うてんのや。俺、好きなんはアランやで。」「それならいい。」
「アラン、踊らへんの?」「今日は新患3名でくたくただよ。」
「じゃあ、俺ももう踊らない。」「いいのか?」「アランとここにいたいねん。」
「本当は家に早く帰りたいんじゃいのかい?」「あたり。でもマーティンと
エンリケ心配やし。」「君は心が温かいよ。」「アランだって。」
アランは、いつまでこの子をだまし続けなければならないか考えて胸が痛んだ。
スローダンスタイムになって、エンリケたちが席に戻ってきた。
汗だくだ。ドンペリで喉をうるおし、苺を口に運ぶエンリケ。マーティンにも
あーんとさせて食べさせている。ダニーは思わず目をそらした。その様子を
観察するアラン。 まだ未練ありか、僕のハニーは・・・
「そろそろ帰ろうか?」アランが急に言う。「まだ楽しい。」エンリケが残りたがる。
「じゃあ僕はダニーとお先に失礼するよ。」言うが早いかダニーの手を取り
出口へ向かうアラン。ダニーは驚きながらも後をついていった。
「アラン、唐突やな〜。あの二人残して大丈夫なんか?」「エンリケも今日は
大丈夫そうじゃないか。二人にしてやろうよ。」「そうなんか・・・」
「さてブルックリンに帰るかい、それとも・・」ダニーは恥ずかしそうに
「それともの方でもいいやろか?」と尋ねる。
「実は、君のダンスを見ていたら、したくてたまらなくなってね。」
「アラン、エッチやな〜。俺踊ってただけやん!」「君はどんなに自分が
センセーショナルか判っていないようだね。」
二人はアッパーウェストに上がっていった。
家へ着くとアランは豹変した。「ダニー、シャワーへ行け」命令口調だ。
「了解」一応雰囲気をあわせるダニー。シャワーブースに入ると、
アランが全裸で入ってきた。手に手錠を持っている。「何?」
言う間もなくダニーはシャワーホースに手錠でつながれてしまった。
「アラン、何やねん。」
「今日、君は2回僕の心から離れたね。お仕置きだよ。朝までそうしてなさい。」
アランはダニーと一緒にシャワーを浴びながら、ダニーのペニスに手を沿え
前後に動かす。「うはぁん、あ〜」ダニーが悶え始める。
シャワージェルを手に取り、ダニーのひくつくアヌスに十分に塗りこむ。
指を一本入れて出し入れを繰り返す。「うぅん、はぁ、はぁ、アラン・・
いかせてくれ〜!」「まだまだ」ダニーを後ろ向きにし、アランはいきり立った
ものを挿入する。「うわ〜、うぅん、あんあん」わざと静かに動かすアランに
我慢できず、ダニーが自ら動き始める。「うぅん、うぅん、ああ、いい」
ダニーがいきそうになるのを察知し、アランはダニーの首を両手で締めた。
「ぐは、げほっげほっく、くるし・・」言葉とは裏腹にペニスを屹立させ、
アヌスをぐっと締め上げるダニー。アランは我慢できなくなりダニーの中に
存分に果てた。ダニーもほぼ同時に射精した。 力なくシャワーブースの床に
ころがるダニーにアランはお湯をかける。
「今日はここでおねんねだ。おやすみ。ハニー、愛してるよ。」
アランはシャワーを浴び、ブースから去っていった。
朝、ダニーは冷たいシャワーブースの床で目が覚めた。
右手首が手錠で無残に傷ついている。
立ち上がり、自由な左手でシャワーをつかんで温水を身体に浴びせる。
体温を戻していると、アランがガウンを着てやってきた。
「おはよう。ダニー。」額にキスをする。ダニーはそっぽを向く。
「さあ手錠をはずしてあげよう。傷も手当しなければね。」
「アラン、どうして、こんなんした・・俺、アランが判らん。」
「言ったろう。僕から心が離れた瞬間があったからだよ。さあ温まっただろう。
コーヒーとサンドウィッチを用意したからおいで。」
ふかふかのバスタオルを身体に巻かれて、ダイニングに案内される。
「右手を消毒するから、ちょっと染みるよ。」「っつ〜!」
丁寧に包帯を巻くアラン。昨日とはまるで別人だ。包帯の上から傷にキスする。
「アラン、俺、誰にも何にも感じてないよって、誤解や。」
「精神科医を見くびらないで欲しいものだね。ダニー君。君のジャケットの
ポケットからこんな紙切れが見つかったがこれは何だい?」
ジムが入れた携帯番号の紙だ。「俺、知らんし、くれとも言うてへんのや。」
「今回は信じよう。君だってもうあそこでは寝たくないだろう。」
「俺、俺はアランの家畜じゃないで!」「そう、それでこそ、僕のハニーだ。
その尊厳、そのプライド。だから僕が惚れたのがわかるだろう。」
ダニーは、ますますこのアラン・ショアという人物が判らなくなってきた。
しかし、離れることが出来ないだろうことも判っていた。
マーティン、お前と俺はどうなるんやろか。
ダニーは静かにコーヒーマグを口にしながら、思っていた。
着替えながら鏡を見るダニーは、首についた両手の跡に驚いた。
いつか、アランに殺されるかもしれん。本気で締めた跡や。
専用のリキッドファンデで跡を隠す。後ろが隠しきれない。
仕方がない。「アラン!アラン!ちょっと手伝ってや!」
支局に遅刻寸前に到着したダニー。マーティンが席から話したそうに見つめていた。
「おはよ。」「おはよう。ダニー、今日、ランチ一緒にどうだい?」
自然にふるまっているが、目が真剣だった。「ああ、ええで。聞き込みが
なかったら、一緒しよ。」
幸い午前中はデスクワークに追われた二人は、いつものダイナーに座っていた。
「昨日、あの後、どうやった?」ダニーがルーベンサンドを食べながら尋ねる。
「昨日は楽しかったよ。久しぶりにあんなに安心して眠れた夜はなかった。
二人には感謝の言葉がないよ。」 俺の夜は最低やったのに、ボンは幸せや。
「エンリケの今日の様子は?」
「それが、朝から急降下だよ。ジェットコースターみたい。ベッドから
引きずり起こして、着替えさせて、リムジンに乗せたけどね。」
「お前、大人になったな。」「え?そうかな〜。なんか弟が出来たみたいでさ。」
「ええなぁ。」思わず、本音が出るダニー。
「ダニーの方はどうなの?その・・・・アランとは本気・・なの?」
ダニーは昨日の出来事を話そうかと逡巡したが、これ以上、マーティンの
心配の種を増やしたくなかったので、口をつぐんだ。
「本気っちゅうか〜。兄貴みたいな父みたいな感じやからな〜。」
「そうなんだ〜。本当に仲がいいから羨ましいよ。それに、寂しい・・・。」
マーティンは目の前のステーキサンドに一口も口をつけていない。
「食べんと、冷めるで。」
「うん。そうだね。エンリケには今僕が必要なんだし、精一杯がんばるよ。」
「志高いねんな。」このマーティンの無垢さにダニーは惹かれているのだ。
「また、4人で食事してもらってもいいかな?どう思う?」
「ああ、アランもきっとええ言うと思うで。一応確認しとくけどな。」
昨日の件があるので、軽請負をしないよう注意しなければ。
マーティンがアランの一番の嫉妬の対象なのだから。
「そうやアラン、ER辞めてフルタイムの精神科医になったんや。
アパート改装してセラピールームが出来たんやで。」
「そうなんだ。じゃ、また僕も通おうかな〜。エンリケと一緒にいると
ウツに引っ張られそうでさ。」「そうなんか〜。複雑やな。」
マーティンがステーキサンドをほおばっていると、携帯が鳴った。
「ごほっ、ごくん。エンリケ?どうしたの??だめだよ!そこにいて!」
「どうした?」「国連ビルの吹き抜けの上にいるらしい。」
「一緒に行くわ。」「ありがと。」「釣りはとっといて。」お札を投げて
二人は国連ビルに向かう。
吹き抜けのはるかかなたで、エンリケが右左に歩いているの見える。
「マーティンは右から行け、俺、左から回りこむわ。」「了解!」
ダニーの方が早く階に着いた。「エンリケ、ノーテプレオクテパス、
心配いらない。こっちへ。」エンリケは泣いている。「ダニー、僕辛い。
マーティンもダニーもアランも優しい。僕にそんな価値ない。」
「そんな事ない。大事な友達だからだよ。」マーティンがエンリケの背後に
近付いた。エンリケが吹き抜けのフェンスに手をかけようとしたところで
後ろから羽交い絞めにする。
ダニーが前に回って抱きしめる。セキュリティーが数人走ってくる。
「大丈夫です!FBIです!」IDを見せるダニー。「これからどうする?」
「とりあえずアランの所へ連れて行こう。」マーティンは支局に聞き込みすると
ウソの報告をいれ、ダニーはアランに電話する。「アラン、セラピー中や。」
「じゃ、エンリケの家へ行こう。」
エンリケは憔悴しきっていて言葉がない。涙は止まっていた。
マーティンが大使館に電話を入れて、国連ビルで貧血で倒れたと作り話をした。
エンリケの家は、メイドが入る前のようで散らかり放題だった。
うわ〜、掃除したいな〜。 ダニーは入るなりそう思った。
スナック菓子の包みが散乱し、グラスがあちこちに置いてあった。
「とりあえず精神安定剤飲まそ。どこにある?」「バスルーム。取ってくる。」
マーティンが走っていった。アラン処方の薬だ。ミネラルウォーターを
グラスに入れて、マーティンが戻ってきた。ソファーに力なく座るエンリケに
ダニーがスペイン語で何事か言って飲ませる。
僕もスペイン語が出来たらなぁ。 マーティンはまた孤独になった。
「マーティン、エンリケをベッドにつれてってやれよ。」ぼうっとしている
マーティンにダニーが声をかける。「あ、そ、そうだよね。」
エンリケの手を引き、ベッドルームに入る二人。ダニーはどうしても、
ベッドルームに入る気にはなれなかった。マーティンとエンリケが寝ている
場所なんぞ見たくないわ。マーティンが戻ってくる。
「僕の手を握っていたいって。」「それじゃ、お前残れ。俺支局に戻るわ。」
「う・・ん」「心細い顔すんなや。お前なら出来るって。」
「じゃあ、またな。電話くれよ。」「うん、判った。ありがと、ダニー。」
「いいって。」ダニーはエンリケのアパートを後にした。
携帯を見るとアランから留守電が入っていた。コールバックすると
心配気なアランの声「どうした?取次ぎサービスから連絡があったが。」
「エンリケがまたやりおった。今度は国連ビルや。」「今は?」
「アランの薬飲ましてアパートで休んどる。マーティンを置いてきた。」
「いい判断だ。お疲れさま。」「他は何かせんでもええ?」「マーティンに
電話しておくよ。上出来だよ、テイラー助手君。それじゃ。」
エンリケ、強制送還になるとちゃうやろか。そうしたらマーティン、
孤独やな。 ふとそこまで考えて、ダニーは気がついた。
マーティンには俺がいるやん。何考えてるんやろ。
しかし一方では、昨日のアランの折檻が記憶に新しい。
ダニーはミッドタウンを歩きながら、気分がどんどんふさいでいった。
「マーティン、帰るで」ダニーはマーティンを呼んだ。
マーティンは無言で立ち上がり、ドアのほうへ行こうとして立ち止まった。
「ボスは?」「うん?自分の車で帰るやろ。オレらはタクシー拾わんと」
ダニーはそのまま出て行った。マーティンはボスのことが気になり、困ったように見つめていた。
「マーティン、いいから帰れ」ボスはしっしと追い払うような仕種をした。
「でも・・・」「もういい、早く行け」マーティンは何度も振り返りながら部屋を出た。
外に出ると、ダニーがすでにタクシーを停めていた。
「マーティン、何してんねん!」「ああ・・・今行く」
どちらも黙ったままの気まずい雰囲気の中、ダニーのアパートに着いた。
ダニーは部屋に入るなり、留守電に飛んでいった。急いで再生ボタンを押す。
さっきのボスの約束と、セックスの模様が入っていた。
聞きながらダニーははじけるように笑った。しまいにはおなかを抱えて床に寝そべっている。
マーティンは複雑な表情のまま突っ立っていた。
「どないしたん?これでオレもお前も自由やで。そんないんけつな顔すんなや!」
マーティンは黙ったまま頷いた。複雑な表情は変わらない。
「ボス、あの後どうしたかなぁ・・・」
「そんなん知るかっ!大人のおっさんや、どうにでもなるやろ」
ダニーは面倒くさそうに答えた。さらに再生ボタンを押し、何度も聞いている。
「ねぇ、ちょっとやり過ぎたんじゃないの?」マーティンが横に来て呟いた。
「はぁ?何言うてるんや。あんな変態のオモチャにされてたのに」
「でも・・・」マーティンは下を向いた。
「でもって何や!せっかくオレが助けてやったのに。
お前の頭、どないかなってるんとちゃうか!」
ダニーはマーティンの態度が気に入らない。信じられないというように睨んだ。
「オレよりボスのセックスのほうがええんか?どうなんや、答えろ!」
ダニーはマーティンを押さえつけた。酔っているせいか、神経が高ぶっている。
「そんなんじゃない、離してよっ」マーティンの否定する声はダニーに届かない。
ダニーはマーティンのシャツを引き裂いた。ボタンが飛び散る。
「やめてよっ、怖いよダニー」マーティンは泣き出した。
ダニーは異様な高揚感に包まれていた。泣き声が情欲をそそる。
マーティンの服を無理やり剥ぎ取り、ダニーはいきなり挿入した。
「痛いっ・・やめて」ダニーは無視して挿入し何度も上下した。
自分勝手に精液を吐き出すと、ようやくマーティンの体から退き、
そのままいびきをかいて眠ってしまった。
マーティンは泣きながらシャツのボタンを拾い集めた。
ダニー、ひどいよ・・・ポタポタと涙が床に落ちた。
しばらく泣いていたマーティンだったが、やがて服を着替えると出て行った。
ダニーはひどい頭痛で目が覚めた。体がアルコール臭い。
テーブルの上に引きちぎれたシャツと、ボタンが置いてある。
これマーティンのシャツやんか、ボタンもとれてしもてる・・・。
ダニーはパンツを半分ずり下げた自分の姿に気づいた。
まさか・・・オレがやったんか?!!ダニーは青ざめた。
急いでマーティンの携帯に電話するが、留守電につながっただけだった。
支局で謝ろうと思い、急いで熱いシャワーを浴びると慌しく出勤した。
「ダニー、おはよう。」「あ、おはよう。」「うわぁー二日酔い?酒臭いよ」
サマンサが顔をしかめた。「そんなに臭いか?」ダニーは体のにおいをかいだ。
「今日マーティン休むって。ボスも遅れるから、先に始めるよ」
「ヴィヴ、マーティンどうしたん?」
「風邪だって。さあ、三人しかいないんだから気合入れて!」
なんとも寂しいミーティングだった。今のところ事件がないのが救いだ。
ダニーは仕事が終わると、一目散にマーティンのアパートへ向かった。
ボスが何か言いたそうな顔をしていたが、気づかないフリでエレベータの扉を閉めた。
「マーティン?」部屋の中は真っ暗だ。
灯りをつけ、とりあえずベッドルームへ行った。
マーティンは布団にくるまって寝ている。ダニーはそっと横に座った。
規則正しい静かな寝息を立てて、ぐっすりと眠っている。
枕元には、ゲームの電源が入ったまま置かれていた。
ダニーは電源を切ると、起こさないように部屋を出た。
ダニーが自宅に戻ると、アパートの前でボスが待っていた。
「ダニー!」いきなり呼び止められとまどう。
「ボス?なんでこんなとこに?」ダニーは驚いて聞いた。
「話があるんだ、いいか?」「いいっすけど、部屋はちょっとまずいんですわ」
「ああ、構わん。ちょっと乗れ」ボスはダニーを車に乗せると走り出した。
支局に戻ったらすぐさまヴィヴィアンが「聞き込みどうだった?」と
聴いてくる。「昔の事件やさかい、収穫ゼロや。」「マーティンが半休だって?」
「あいつ消化不良で腹痛起こして家に帰ったわ。」「マーティンらしいね。」
ヴィヴが笑う。 ほんまは深刻やねんで。 ダニーは心のもやもやが晴れなかった。
定時寸前にダニーの携帯が鳴る。 マーティンか? 着信を見たらアランだった。
席を立って携帯に出る。「最近、うちのボーイズたち忙しそうだよね。」
「どうせ、デートでしょ?いいなぁ。」サマンサは心底うらやましそうだった。
「はいテイラー。」「ダニー、昨日の埋め合わせをさせてくれないか?」
「今晩?」「ああ、もう用意はしてある。」「じゃあ行くわ。」
「お先!」PCをぱたぱた閉めて席を立つダニー。「また先越されちゃった!」
サマンサは悔しそうに一人ごちた。
アランの家に着くと部屋はスパイシーないい香りに包まれていた。
「これって?」「そう、南部料理のガンボを作ってみたんだが、君より
上手に出来たか自信がなくてね。」「アランの事やから完璧やと思うで。」
「その前に包帯を取り替えよう。」ダニーはアディダスの上下に着替えると
ソファーに腰掛けた。ダニーに跪くようにしてアランが包帯を取る。
「まだ少し残ってるね。本当にすまなかった。昨日の僕はどうかしてたよ。」
「・・・もうあそこでは寝たくない。」「当たり前だよな。」
「さぁ清潔な包帯になったし、ガンボを食べようじゃないか。」
ダイニングに付くと、シャブリとオイスターが用意されていた。
「今日暇だったんでね、バーグドルフ・グットマンのオイスターバーで仕入れた。
新鮮だよ。」レモンをジューっと絞って生牡蠣を堪能する。
「美味い!」「そうだろ。わざわざグランドセントラルのオイスター・バーに
行かなくても自宅でも食べられるんだよな。」「うん。」
「アラン・・言いたかないけど、俺、もう昨日みたいな扱いご免やで。俺、
アランを裏切るようなことしてへんもん。理不尽や。」
アランはダニーのイータラにシャブリを注ぎながら、「本当にすまない。
シャンパンで酔った目には君とあのモデルが仲睦まじくしていたように
見えてね。我慢が出来なかったんだ。」
「いつも冷静なアランが信じられへんかったわ。」「僕は今、恋愛の微熱に
冒されている40代のおじさんだよ。若い恋人が気が気でない。」
「俺は無実や。」「判ったよ。ほら、シャブリのお代わり」
ダニーはまだわだかまりがあるものの、アランの甘い笑顔と引き込まれそうな
砂色の瞳に思わず見惚れていた。大人の男が俺のために我を忘れる・・・
そんな人生が来るなんてな。不思議なもんや。 ダニーはふぅとため息をついた。
アランは空気を察して、立ち上がり、ガンボを用意すると、ダニーの後ろから
皿を並べ、首に抱きついた。「ゴメン、許してくれ。ダニー。」
「うん、もう判った。アラン、ガンボ食いたい。」「ありがとう。」
アランのガンボはプロはだしの腕前だった。スパイスの入れ具合といい、
シーフードの量、オクラの茹で具合、ご飯の量、完璧だ。
シャブリも空き、お腹が一杯になったせいか、ダニーはうつらうつら始めた。
アランはダニーをお姫様だっこでベッドに運ぶと、静かに服を脱がせる。
昨日の今日だ、今日は何もしないよ。ハニー。額にキスをする。
「うぅん。」ダニーがうなる。この無邪気な顔の子がFBIか。
アランはダニーのスーツをクロゼットに掛けるとシャワーへと向かっていった。
287 :
fusianasan:2005/09/24(土) 07:14:38
書き手2さんのキレたダニー萌えです。
おびえるマーティンが可愛い。
>>287さん、感想ありがとうございます。
キレたダニー、また登場するかもしれません。まだ白紙なので、なんとも言えませんが・・・。
ダニーは、ボスと寿司ディナーをして帰ってきた。
話らしい話もなく、ただ単に食事をしただけだ。
口止め料のつもりやろか?・・・ダニーは見当もつかなかった。
ボスは、蹂躙されたことに関する話題には触れさえしなかった。
ダニーは帰り際に礼を言い、ボスと別れた。
アパートに戻ると、マーティンのシャツのボタン付けをした。
針仕事は苦手なので、何度も針で指を突いたが何とか出来上がった。
ダニーはシャツを持って、もう一度マーティンのアパートへ行った。
マーティンは起きていたが、あまりそばに近寄ろうとしない。
PSPから目を離さず、黙々と続けている。
「オレ、なんかひどいことしたみたいやけど、覚えてないんや・・・ごめん」
「何も?何も覚えてないの?」マーティンは歯を食いしばるように尋ねた。
「うん、ほんまに思いだされへんのや。何したんかわからへん・・・」
「僕をレイプしたんだ!!」睨みつけながら怒鳴るマーティン。
「レイプ・・・」ダニーは言葉を失った。
マーティンの横にゆっくりと近づき、そっと肩に手を触れた。びくっとするマーティン。
一瞬、離れたそうな素振りを見せたが、そのままじっとしていた。
「痛かったやろ、ごめんな。オレ覚えてないし、ほんまに最低やな・・・」
マーティンは何も言わない。ただ固まっているだけ。
「どうやって償えばええのやら、それすらわからん・・・」ダニーはうなだれた。
「これ、一応ボタン付け直したけどヘタやから、気に入らへんかったら弁償するわ」
シャツの入った紙袋を置くと、もう一度謝った。マーティンはチラッと一瞥をくれただけ。
「ほな、帰るわ。おやすみ・・・」ダニーはそのまま出て行った。
ダニーは自分の失態を悔やんでいた。よりによってレイプとは・・・
人の尊厳を踏みにじる最低の行為だ。思わず酒に手が伸びた。
砂糖抜きのダイキリを作ると、床に座って飲み始めた。
これ以上は仕事に差し支えると思ったが、さらに何杯もグラスを重ねた。
そのうち何も分からなくなり、ひたすら勢いまかせに飲み続けた。
いつしか酔いつぶれて眠ってしまった。
電話が鳴っている。ダニーは電話のところまで床を這っていった。
「はぃ・・げほっ・・」思うように声が出ず、かすれた声で応対した。
「ダニー、なんだその声は!今何時だと思ってるんだ!」
ダニーはまぶしそうに時計を見た。10時半・・・うわっオレ遅刻してるやん!
「すぐに行きます」ダニーは電話を切り、慌てて支度すると飛び出していった。
一週間ほど遅刻、もしくはぎりぎりの日々が続いた。
ついにボスのオフィスに呼ばれ、こってり絞られた。
「以後気をつけます・・・」神妙にしていたが、心の中は上の空だった。
ダニーはチームのみんなに詫び、仕事に取り掛かった。
「ダニー、また酒臭い」サマンサが横を通り過ぎながらささやいた。
マーティンが見つめている。ダニーが顔を上げると、慌てて視線を逸らした。
すまん・・・ダニーは様々な反省で身の縮む思いだった。
ダニーは帰りにボスに呼び止められ、車に乗せられた。
「ボス、どこに行くんすか?」ダニーは警戒しながら尋ねた。
「すぐそこだ」ボスはそっけなく答える。
この前の仕返しする気やろか?・・・ダニーはボスの動きを逐一目で追った。
それっきり何も言わないまま、車はグリニッチビレッジをひたすら走る。
「着いたぞ、降りろ」すたすた歩いていくボスについていくしかなかった。
「私の家だ」ボスは鍵を開けるとダニーを案内した。
「お邪魔します・・」ほんまに家やろか・・おっかなびっくりのダニー。
普通のアパートで、家具も必要最低限しかなく、こざっぱりとしている。
熱帯魚の大きな水槽が、唯一目を引いた。
「ボス、なんでオレを自宅なんかに連れてきたんすか?」
ダニーは水槽を見ながら尋ねた。
「内密な話だから、誰かに聞かれるとまずいだろう」
「でも誰か来たら・・・その、サマンサとか・・」
「ここには家族以外に入れた者はいない。サムも知らないんだ。」
ダニーは何も言わずにただ頷いた。
おなかが鳴り、ダニーは空腹なことに気がついた。
「ペペロンチーノでいいか?」「えっ、ボスが作るんすか?」
ダニーは驚いてボスを見た。「簡単なものしか作れんがな」
「手伝いましょか?」「いいや、くつろいでいてくれ」ボスは手馴れた様子だ。
ダニーは、腕前を拝見とばかりにキッチンへ行った。
「ボス、にんにくの芯は取らんと焦げまっせ」「うるさい、これでいいんだ!」
「先にお湯を沸かさんと・・・」「もうあっちへ行ってろ!」
ダニーはいつしか楽しんでいた。並んでブルスケッタとルッコラのサラダを作った。
「よし、それじゃ食べよう」「では、いただきます」
ダニーはペペロンチーノを食べてみた。「おいしい・・・」
ボスは満足そうにグラスを持ち上げた。
「お前の様子がおかしいから気掛かりで、どうしても話がしたくてな。
この前のことをまだ引きずってるんじゃないか?」切り出すボス。
「私は、お前に対してわだかまりを持ってないことを伝えたかった。
仕事に響くのはよくないし、何より、お前は信頼できる部下だからだ。」
ダニーは黙々と食べている。
「ボス、オレも実はやり過ぎたと思ってます。すみませんでした。」
ダニーも素直に謝った。
「もういいんだ、どんどん食べろ。これも飲め」ボスはダニーにスプマンテを勧めた。
「いえ、当分アルコールは控えますわ」ダニーはやんわり断り、ペリエを飲んだ。
これ以上、遅刻するわけにはいかない。
「なんだ、また水槽を見ているのか」ボスが呆れるほど、ダニーは熱心に見ていた。
「これいいっすね!落ち着くわぁ」ダニーはうっとりしていた。
「ああ、癒されるだろ。だが、お前には勧められん」
「何でですの?」「エサがミミズなんだよ、無理だろ?」
「無理っすね・・・」ダニーは渋々水槽から離れた。
「そろそろ送っていこうか?」「いえ、タクシーで帰りますから」
「遠慮するな、ダニー」ボスは強引に車に乗せた。
1ブロックも行かないうちに何度もぶつかりそうになり、ダニーは運転を代わった。
アパートに着いたものの、ボスは運転できそうもない。
「ボス、上がって休まんと・・・」ダニーはボスを抱えて部屋に入った。
ボスをソファーに寝かせると、水を飲みながら様子を窺った。
酔いが回ったのか、ぐっすりと眠っている。
ダニーはグラスを洗うと床に座ってボスを見つめた。
首の辺りが苦しそうだ。ボタンを外し、ブランケットを掛けなおす。
「ボス・・おやすみなさい」ダニーは灯りを消して出ていった。
まだ早いわ、もうちょっと寝よ・・・ダニーは五時に目が覚め、また目を閉じた。
しばらくまどろんでいたが、下半身がくすぐったい。
「ん・・マーティン?」寝ぼけたダニーが目を開けると、ボスがペニスに跨ろうとしていた。
「ちょっ、ボス!??」驚くと同時にペニスがアナルに呑みこまれた。
「んっあぁ」喘ぐボスの声。「何やってんねん!」
ボスは腰を激しく振る。ダニーもイキそうになってきた。
「うっああっ・・・イッイク・・・」ボスのザーメンがダニーのおなかに飛んだ。
ダニーも思わず声を上げ、中で果てた。
心地よい疲れと、久々の射精の快感でダニーはうとうとしていた。
やがて目覚ましが鳴り、ダニーは起きあがった。あれっ、ボスは?
ソファーの上には、ブランケットがきちんと畳んで置いてあった。
他の部屋も見たが、ボスの姿はどこにもない。
いつの間に帰ったんやろ?ダニーは訝りながらトイレへ。
リビングに戻り、何気に部屋を見渡すと・・・留守電の件数表示が消えている!
やられたっ!!ダニーは再生を押してみるが、メッセージは全て消去されていた。
くっそー・・・あの狸オヤジ!まんまと騙された・・・ダニーは悔やんだが、後の祭りだった。
朝のミーティングの後、ボスのオフィスに呼ばれた。
「ダニー、これでイーブンだ」ニヤリとするボス。
「惜しいなぁ、他にもコピー済みなんですわ」ダニーは悟られないよう、余裕で切り返した。
「それはどうかな?」ボスは半信半疑のようだ。
「まぁ嘘やと思うんは勝手ですけどね。今朝はええ運動させてもらいました」
ダニーはウインクするとオフィスから出て行った。
「もういい加減にぶすっとふくれるのを止めなさい!」
「スパにゴルフコースに、お、室内プールもあるねんて。えーなー、
パームスプリングス。」ソファーに寝転んでパンフレットを読み上げるダニー。
「だから、遊びじゃなくて、学会だと言ってるだろう!それもお堅い全米精神
医学会なんだ。連れて行ったら、カミングアウトじゃないか。そんな勇気
僕にはないんだよ、ダニー。」
「テラスでのブランチにバンケットディナー、うまいもん出んのやろな〜。」
「もう出かけるよ。ダニー用の鍵はスタンウェイの上に置いたから。」
アランはダニーに素早くキスをするとリモアのキャリーバッグ片手に出て行った。
「何が学会や!つまんない週末やな〜。」ダニーは、ぽーん、ぽーんと
アラン愛用のムートンのスリッパをサッカーボール代わりに蹴りながら部屋を
ぐるぐる回ってみた。10分も経たない。「そうや、マーティンに電話したろ。」
携帯にはエンリケが出た。「ダニー!」元気そうな声だ。「元気か?」
「ムーチョ元気ね。マーティンと運動した。」へへへと笑う。
「マーティン、寝てる。起こす?」何や二人でええことしてたんか。
「いや起こさんでええ。そんじゃ。」「アディオス!アミーゴ!」
マーティンがエンリケと同居してすえに1ヶ月以上経っていた。
アラン、うつ病患者は性欲ないって言うてたのウソやん!!あー腹立つ。
何で俺だけ一人なん?
「そや、家帰って掃除でもしたろ。」ダニーはスタンウェイの上の鍵をつまみあげる。
ご丁寧にグッチのシルバープレートのキーホルダーにダニーのイニシャルが彫ってある。
アランらしい趣味やな。きっとおそろい持ってるで。
マスタングで家に戻り、ダニーは掃除を始めた。フローリングがキュッキュ
言うまで磨き上げる。「ああ、ええ気持ちや。そや、クリーニング取りに行こう。」
なじみの中国人の店主が「テイラーさん、こないだの上着にこれあったよ。」
と紙切れを渡す。「JIM'S TELEPHONE ・・・」「あーあんがとさん。」
モデルのジムの番号や。これがあったのも何かの縁かもな。電話したろ。
しばらく呼び出し音が鳴り女性が出た。
「あ、あのジムいますか?」驚くダニーはどもってしまう。
「ジーム!お友達から電話!」足音が聞こえる。「はいジムです。」
「もしもし、ジム。俺、ダニー。」「ダニー!やっと電話くれたんだ!
何してるの?」「暇してる。」「じゃ、晩でも会わない?俺、今仕事中
なんだけど、良ければ来る?」「寄ってもええの?」
「ぜーんぜん。じゃあ住所言うね・・・・」場所はグラマシーだった。
「フーン、撮影か。スタジオなんて初めてや。」
スタジオに入ると、バインダーを持った女性が「貴方、どこのエージェンシー?
遅いわよ!」とすんなり中に入れてくれた。「え、あの、俺・・」
「さぁ服脱いで!」そこへジムが腰にタオルを巻いただけの姿で飛んできた。
「違うよ、キャサリン、彼は友達。モデルじゃないよ。」
「何だ、そうなの?いい線いってるのに・・」
「ごめん、ダニー。驚かせて。」「たまげたで。裸になるのが入信の印の
新興宗教かと思った。」「あははは!」うわ、こいつ、天使みたいな顔で
笑う奴や。誰かに似てるよな似てないよな・・・
「あと2ショットで終わりだから、待ってて。」
そう言うとジムはステージへ上がり、腰のタオルを取った。
うわっ!オールヌードやん!!
さすがモデルだけあってジムの身体は完璧なプロポーションだった。その上、
中心にぶらさがるモノのサイズにダニーは度肝を抜かれていた。
で、でか〜!! 思わず劣等感で下を向く。
「お疲れさん!」皆が声をかけている。終わったようだ。
「すぐ着替えるからね。」「ああ。」
着替えてきたジムはナイキのトレーナーにジーンズというまるで学生のような
いでたちだった。
「どこへ行く?」「何食いたい?」「NY久しぶりだから普通のものがいいな。」
「じゃあダイナーに決まりやな。」
ダイナーに入るとジムに目が集まる。ウェイトレスたちが我さきにと
メニューを持ってくる。「俺、ミラーとバーガーとフライ。」「俺もおんなじもん。」
「それにしてもダニーはいじわるだよな。2度も番号渡したのにさ、全然
音沙汰無しだもん。」「まあ色々あってな。」「ビルから聞いた。付き合ってる人
いるんだって?」「まあな。」「今日、その人は?」「出張や。」「ふーん。」
「ねえダニーどこ出身?」「俺、マイアミ。」「俺、シカゴ。じゃあ、二人
ニューヨーカーじゃないんだね。不思議な縁だね。」
「ヨーロッパで仕事してたんやろ?」「うん、コレクション中心。でも、
いじめはひどいしさぁ、厳しいよ。言葉できないし。それで、3年ぶりに
戻ってきたって訳。」「モデルも大変なんやな。」「ダニーはFBIなん
だって?」ビルのおしゃべりめ。ダニーは次に会う時には口止めせねばと思いつつ
「ああ。お堅いやろ。」「見えないね。ビルも言ってたけど、モデルやれば
いいのに。軽く稼げるよ。」「俺、堅実主義やねん。」
「でも、クラブじゃいつもはじけてる。」ダニーは頬が紅く染まるのを感じた。
「ダンスは別モンや。素の自分になれる。」「今日も行く?」
いたずらっ子のような目でダニーを誘う。「ああ、ええで。明日も休みやし。」
「決まりだ!じゃあミッションじゃないところに行こうよ!」
「ハードなところはゴメンやで。」「ふーん、普通っぽいところがいいのか。」
「ああ、ちょっと昔あってな。」「じゃあミックスクラウドの店にしよう!」
ジムの案内でチェルシーの「マーキー」というクラブに繰り出した。
さすがモデルだけあって業界御用達風のクラブだ。ジムが入るなり皆がジムに
注目する。 当たり前やな〜。今晩の俺はお釣りみたいなもんや。
ダニーは自嘲した。しかし二人がフロアで踊り始めると、関心はにわかに
ジム一人からペアで踊る二人に移っていった。
「まるでインとヤンだね。」「何やそれ?」「中国の言い伝え。全く異なる
二人が力を合わせると想像を超えた力が生まれるって奴。」
踊りながら話すので、まるで二人が接吻しているように見える。
周囲はそのハプニングに歓声を上げていた。「喉かわいた。」「俺も。」
二人がフロアを去ると拍手が沸いた。
「俺たち、息ぴったりだね。」ジムがシャンパンを飲みながら言う。
「ああ、こんな気持ちいいダンス久しぶりやねん。」ダニーも頷く。
「他のことも息ぴったりなのかなぁ。」またいたずらっ子の目でダニーを見つめる。
「どうやろか〜。それはまた今度にせんか?」「そうか、残念だ。」
引き際がきれいでダニーは安心した。 今日は良く眠れそうや。
ジムがダニーの携帯番号をせがむのでコースターの裏に書いて渡す。
「これで一方通行じゃなくなった!」ジムは大喜びしている。
しかし、どうしてジムのように誰でも手に入るような人間が俺なんかに興味を
示したんやろか。ダニーには解せなかった。
クラブでジムと別れて、ブルックリンに戻る。アルコールは入っていたが、
踊ったせいか全くセックスに対する欲求がなかった。
留守電にはアランからの伝言が入っていた。
「いい子にしてるかい?僕はすこぶる快調にプログラムをこなしてるよ。
明日の夜帰るから、良ければ家で待ってて欲しい。じゃあねダニー、
愛してる。おやすみ。」
ダニーは覚えたてのブラジル料理をふるまおうと決め、買い物リスト作りに
励んだ。
俺ってなんか健気やな〜。次の休暇は絶対パームスプリングス行きを
ねだったろ。
ダニーは久々に自分のベッドに大の字になって眠りに入った。
マーティンは残業の後、ゲームソフトを買いに行った。
お目当てのソフトを探し、閉店間際の店内をうろうろする。
やっと見つけて外に出た途端、店のネオンは消え、通りは暗くなった。
「遅くなっちゃった・・・」こんな日に限ってタクシーがつかまらない。
マーティンは仕方なく歩き出した。
曲がり角に年配の男が立っている。目をあわさないように通り過ぎる。
呼ばれたような気がしたが、空耳だと思い込み足早に歩いた。
後ろに人の気配を感じ、恐怖でマーティンは走り出した。
3ブロックほど走り、やっと少し人通りのある通りへ出た。
ここは・・・ポートオーソリティバスターミナルの近くじゃん!!
どうしよう、危険区域だ・・・。マーティンは思わずダニーに電話した。
「はい、テイラー」「ダニー、今すぐ迎えに来て!!」
「え?どうしたん?」「早く来て、急いで!!」マーティンはあたりを窺いながら話した。
「場所は?」「ポートオーソリティバスターミナルの裏のあたり」
「他に何かないか?」「ええっと・・あっ教会がある。早く来て」「わかった、そこから動くなよ」
ダニーを待つ間、マーティンは目立たないように身を潜めていた。
車が通るたびにドキッとする。酔っ払いが寄って来た。どうしよう・・・怖い・・・。
「$50で買ってやるよ」「えっなっ何・・ですか・・・」「お前を買うって言ってるんだよ!」
大声で喚かれ、マーティンはびくついた。「い、いえ、結構です」
「吊り上げか?じゃあ$60だ、文句ないだろう!」「僕は売り物じゃない・・・」
「何だって?聞こえねーよ」「あの、ですから僕は売り物じゃなくってですね・・」
「いいから、いいから」男はマーティンの腕をつかんだ。
「おいっ、お前何してんねん!汚い手放さんかい!!」ダニーが腕を振り払った。
「なんだ?コイツはオレが買ったんだよ、引っ込んでろ!」
「コイツは売約済みなんじゃ!今すぐ消えたほうが身のためやで」
ダニーは酔っ払いの腕をねじ上げた。「やっやめてくれ・・」
「ボケが!!今度会うたらいてまうぞ!失せろ!!」
「ダニィー、怖かったよぉ・・・」半泣きのマーティン。
「あほっ!危ないとこやったんやで。こんなとこ、夜は危険て知ってるやろ!」
ダニーに叱られ、マーティンはしょげた。
マーティンをアパートまで送り、帰ろうとしたが降りようとしない。
「着いたで、ほら」「今日は一人になりたくない」
駄々をこねられ仕方なく連れて帰ることにした。
「こんな時間に、あんなとこで何してたんや?」「買い物・・・」
「何買うたん?」「うん・・ちょっとソフトを」
「またゲームか、幼稚やなぁ」ダニーは呆れた。
「こんな時間に出歩いたらあかんで。お前の家の近所とちゃうんやから」
「うん」ダニーはマーティンの手を握った。もうビクッとはしない。
「オレのこと許してくれたんか?」「うーん」「どっちやねん」「じゃ、許してやるよ!」
ダニーはマーティンの手を自分の太腿の上に置いた。
テーブルには、食べかけのラザニアが置きっぱなしになっていた。
グラスは水滴がしたたってぬるくなり、灯りもつけっぱなしだ。
「失踪したばかりって感じだね」マーティンは見回して言った。
「そら、心配で飛んで行ったからな」ダニーがデコピンする。
「ありがと」マーティンは久しぶりにダニーに抱きついた。
「僕って売約済みなんだよね?」やんちゃな顔でダニーを見つめる。
「んー、そんなこと言うたっけな?」ダニーはとぼけてキスした。
ダニーはそのまま服を脱ぐと、マーティンのも脱がせシャワーへ誘った。
少し太ったマーティンの体を丁寧に洗う。
「ゲームのし過ぎやな、デブちん!」ダニーはからかいながら、おなかを突っついた。
「デブちんは言いすぎだよ。それにそんなに太ってない!」
マーティンはダニーの体と見比べた。ダニーのしなやかな体を抱きしめると
肩を思いっきり噛んだ。「痛ー!」くっきりと歯型が残っている。
「痛いやろが、何すんねん!」「ダニーは僕のもの、ダニーもやって」
ダニーも言われるまま噛みついた。「痛い!」嬉しそうなマーティン。
向き合うと、それぞれの歯型が残っていて照れくさかった。
ダニーはマーティンのペニスを咥えた。見る見るうちに硬くなる。
「ダニィ、今すぐ入れたい」「ああ、オレもや」ダニーはバスタブに手を着いた。
マーティンはローションを塗ると、腰をつかんで挿入した。
「ぐはっ」ダニーのアナルがキュッと締まる。
マーティンはゆっくりと動かした。「イキそうになったら言って」「ん」
ダニーも動きをあわせるように腰を動かす。
「オレ、イキそう・・んん」マーティンは肩を噛みながら動きを早めた。
「あっぁぁあー」強く噛まれた瞬間、ダニーは射精した。
マーティンは噛むのを止めずに腰を振ると、中出しした。
荒い息遣いがバスルームに響く。
マーティンはペニスを抜くと、振り向かせてキスをした。
ツーっと糸を引く唾液がいやらしい。そのまま咽喉仏にもキスした。
さっき噛んだところが赤くなっている。ダニーは余韻に浸ったままだ。
「ダニー、よかった?」「うん、イキまくりや」
マーティンはダニーにくっついた。「熱い!」わざと邪険に扱うダニー。
拗ねたマーティンを抱きしめるフリをして肩を噛んだ。「お返しや♪」
二人はパジャマを着ると、ラザニアを食べた。
「ダニィ、シュリンプグラタンが無くなった」
「え?あんなに作ったとこやのに?食べすぎやで」
「また作ってくれる?」「いやや」「なんでさ?」「太るから!」
「ダニーがいなかったから運動不足になったんだ・・・」ふくれるマーティン。
「うわぁー、いやらし。エロいピノキオやで!嘘やがな、また作ったる」
ダニーは、マーティンとの関係を修復できたのが何よりも嬉しかった。
ダニーは朝から大忙しだった。ミートマーケット、フレッシュマーケット、
チャイナタウンと周り、やっと買い物リストのアイテムを全て消すことが
出来た。
夜までに作るの間に合うやろか。
初めてのブラジル料理に気合いが入る。アランが作ってくれた合鍵で
アランのアパートのドアを開ける。主のいない部屋に入るのは初めてだ。
「こんにちわ。」一応挨拶する。キッチンに買って来たものを広げる。
相変わらずピカピカに磨き上げられたキッチン。気持ちよかった。
携帯が鳴る。アラン? メモリーしていない番号だった。「はいテイラー。」
「他人行儀な挨拶だな、ダニー。」ジムだった。「おはようさん、どうした?」
「教えてくれた番号が本物か確認電話だよ。良かった。」
「俺がそんな姑息なことすると思ったんかい?」「FBIは信用できない。」
そう言ってまたおかしそうに笑った。「今何してるの?」「家事や。」
「想像すると、今日出張から帰ってくる彼のためって感じかな。」
「お前、勘がええなあ。FBIにリクルートしたろうか?」
「結構です。それに秋からロースクールに復学するからさ。」
「へ、学生だったんか?」「3年ブランク空いたけどね。一応コロンビア大」
「優秀やねんな。天は二物を与えるとはこのこっちゃ。」「何それ?」
「まぁええわ。それじゃ。」「ダニー、電話したら迷惑かな?」
「相手がちょっと嫉妬深くてな。でもお前とは友達になれそうや。」
「もう友達じゃないの?」「あと2回は食事せんとわからん。」
「FBIらしいや。用心深いんだね。了解。それじゃね。バーイ!」
アランに知られたら、今度こそ殺されるやろな。なんで断られへんかったんやろ。
それはあまりにジムが普通だったからだ。普通の友達が少ないダニーは、
野球やアメフトの話をして笑える仲間が欲しかった。ジムがそれをかなえて
くれそうな気がしていた。「俺って自らトラブルメーカーやわ。」
そういいながら、パン作りを始めた。ブラジルのチーズパン「ポンジケージョ」だ。
パンを焼いている間に、シュラスコにつけるマリネソースを作る。
たまねぎとピーマン、トマトを細かく微塵に切ってヴィネガーに漬ける。
あとは、黒豆と肉の煮込みの「フェジョアーダ」を作って、肉を串に刺せば
ほとんど出来上がりだ。「フェジョアーダ、アラン食ってくれるやろか。」
材料が材料だけにチャレンジだったが、食通のアランの事だ。知っているかもしれない。
肉と黒豆を鍋にかけ、超弱火で煮込む。その間に、ブラジルビールと料理に合いそうな
ワインの買出しにD&Dに出かける。つい鼻歌が出てしまうダニー。
携帯が鳴る。今度はアランからだった。「予定通りの便で帰るから、8時には家に着くよ。」
「飛行機じゃ何も食べんで帰って来てや。」「ああそのつもりだよ。ダニー挨拶は?」
「はん?何?」「愛してるって言ってごらん。」「恥ずかしいやん。」
「誰と話してるかなんて分かりゃしないよ。」「愛してる。」「誰を?」
「アランを愛してる!」結局D&Dの中でカミングアウトしてもうた!!
アランの策略にうまく乗せられてしもうたやないかい。レジの女性がくすくす
笑っている。お釣りを渡す時に「お幸せに。」とまで言われてしまった。
家に帰るとちょうどフェジョアーダの肉が柔らかくなっていた。
形が分からなくなるまで、細かく裂いて、さらに赤ワインを入れて煮込む。
暇になったので、スタンウェイでポロポロと適当にドビュッシーやショパンを
弾いて、8時になるのを待った。果たして8時ほとんど丁度に階下を眺めると
タクシーが止まって、アランが降りてくるのが見えた。
牛肉とポテトとたまねぎの串刺しをグリルから出す。
わざと気がつかないふりをして、キッチンをうろうろしていると、アランが
自分の鍵でドアを開けた。「ハニー、ただいま。」「おかえり、アラン。」
「おかえりのキスは?」ダニーは頬にチュっとしたが、顔の向きを変えられ
ディープキスになった。「アラン、酒臭い。」「ちょっとだけだよ。」
「今日はまたいい香りがするねえ。BBQかい?」
「初めて、ブラジル料理にトライしてみた。食う勇気ある?」
アランは着替えながら、「いいじゃないか。シュラスコだろう?楽しみだ。」
喜んでくれている。ダニーは心から幸せを感じた。人のために何かする幸せ。
アランがシャワーしている間に、ダイニングにチーズパンとフェジョアーダと
シュラスコを並べる。「あ、忘れずにシュラスコソース。」冷蔵庫からきんきんに
冷えたビールとグラスを取り出す。我ながらええ感じやな。
アディダスの上下に着替えたアランがダイニングに着く。
「うわ〜。ご馳走だな〜。準備大変だったろう。」「まあね。俺チャレンジ好きやねんから。」
「じゃあまずブラジルビールで乾杯だ!」「今日は何に?」「我が家の名シェフに!!」
「くー、冷えてて最高に美味いよ。じゃあ、まずこの黒豆の煮込みを行こう。」
ダニーはアランが一口食べ終わる瞬間を待っていた。「美味い?」「ああ。すごく美味い。」
「この肉なぁ、豚足と耳やねんけど・・・」アランが一瞬ぎょっとしたが、飲み込んだ。
「このゼラチン質が何ともいえず味わい深いねえ。」負けず嫌いのアランはひるまない。
「次はシュラスコ切ります!受け取ってください!」ダニーが包丁で、
肉の串刺しを立てて薄切りにする。スライスを受け取るアラン。
「まさかこれは犬ですとか言わないだろうね。中国人は食べるらしいから。」
「これは牛のランプ肉だから心配ないで。ソースつけてどうぞ。」
モンダヴィのメルローを開けて、食卓に持ってくる。
「これだけダニーがするってことは、いい子にしていなかったとも受け取れるが
どういう週末だったんだい?」また精神科医の分析や。当たってるだけに怖い。
「家帰って、家事やってたわ。床なんかぴっかぴかやで。」
「昨日、留守電の時いなかったが?」「ミッドタウンのダイナーで食事してた。」
「一人で?」「一人で外食だってあるわい。」「そうか。それならいいが。」
「俺の事信じてくれへんの?」「ごめんよ。僕は君に会ってから、恋愛の
熱病に冒されてるって言ったろう。」「うん・・・」「口うるさい中年だと思ってるだろう。」
「そんなことないで。俺かてアランの事心配やもん。」「そうかい?」
うれしそうなアラン。ワインを一気飲みする。
ディナーが終わり、片付けをしていると、アランがリビングのソファーで
転寝を始めていた。家族の団欒の真似事だが、ダニーにはうれしいひと時だ。
台所をきれいにし、アランが脱ぎっぱなしにしているスーツをランドリー
バッグに入れようとしたところ、ぽろっとコースターが落ちた。
「何やろこれ?」パームスプリングスリゾートのロゴだ。裏を返すと、
「イヴ・アンダーソン、部屋番号808、携帯番号・・・・」とある。
アラン!また女と寝たんや!俺は昨日我慢したっていうのに!!
ダニーは知らず知らず泣き出していた。コースターを細かく破り捨てる。
アランからもらった合鍵をスタンウェイの上に置き、部屋を後にした。
アランの自宅と携帯を着信拒否にして、ダニーは風呂に入った。
バブルバスでプリティーウーマンごっこをした事や手錠につながれた事など
様々思い出す。「俺、アランの事こんなに好きやったのか。」
バスタブでまた涙するダニー。「俺かて娼婦買ってマーティンに怒られてたやん。」
しかし、あまりにアランに近付き過ぎたせいか、アランの裏切りがどうしても
許せなかった。
翌日の月曜日は最悪だった。涙でまぶたを腫らしたダニーは、書類ミスで
ボスに怒られ、居眠りしてサマンサに蹴飛ばされ、散々の状態だ。
「そうや、聞き込み行ってきます。」あてもなく街をさまようダニー。
「あ、クライスラービルや、ギルに会おう。」弁護士のギルバートが勤めている
大手弁護士事務所を訪ねることにした。
「やあダニーじゃないか。忙しくて10分程度しか時間ないけど、いいかい?」
広い部屋とNYの眺めに圧倒されながら、ダニーは「いいっす。」と答える。
「アランのことだろう?何があった?」「ギルはアランとどれ位長くつきあってる?」
「そうさなあ、5年位だね。」「その間、俺と同じ人種の奴がアランに悪さしたって・・」
「ああ、そうだ。でも今うまくいってるようじゃないか。」「それが・・・・」
「またあいつやったか?」「へ?」「浮気だろ、ワンナイトスタンドの。」
「ええ、週末、学会でパームスプリングス行って。」「悪い癖だよなあ。」
「前にもあったんすか?」「奴さ、本気になる相手が現れると、相手を試すんだよ。」
「じゃあ、これはテスト?」「奴流のね。ダニー、もしそれが嫌なら早めに別れる方がいい。」
「・・・」「その顔じゃ別れたくないようだね。彼の友達だから言うが、彼を大事にしてやってくれ。」
ダニーの10分間は終わった。「テストされてんのか、俺。」
ついでにトムに会おうと市立病院に向かった。トムも超多忙のようで、
5分と時間を区切られた。「ごめんね。火災が発生して、これから急患が20人来るんだ。」
「忙しい時にすんません。」「アランか。」「はい。」「そろそろだと思ってたよ。」
「?」「奴が本気出すと必ず相手が尋ねてくるんだよなぁ。」
「奴が誰と遊ぼうが、火遊びだよ。それだけは信じて欲しい。ダニーでもやったか。」
「それより君が去った場合の方が心配さ。また薬物に溺れるかと思うと・・・」
「そんなにひどかったんすか?」「今度やったら医師免許剥奪だからね。」
「トム、ありがとう。」「どういたしまして。またパーティー呼んでくれよね。」
ダニーなりのセオリーで、アランの行動の種は理解できた。
「本気だからって、相手を試す?それが信頼を築くとでも思ってんのやろか。」
ダニーは、携帯の着信拒否の解除ボタンを押す。
「でも裏切りは裏切りや。俺がジムとダンスしただけで、シャワーに繋ぐような相手に
容赦は無用や。」ダニーはまじにむかついていた。アランの歪んだ愛情に。
支局に戻ると、マーティンが小声で「さっきアランが来たよ。」とささやいた。
「サマンサが応対してたけど、何かあったの?」「ありもあり、大有りや。」
マーティンは暗号メールで「晩御飯8:00」と伝えてきた。「了解」と返す。
久しぶりの二人のディナーだというのに、話題がアランとは・・・
ダニーは、自分が心から情けなくなった。
二人はハイデルベルグにいた。ダニーはアイスバインとザワークラウトを、
マーティンは子牛のシュニッツェルをオーダーし、ダニーはジントニックを飲み始めた。
「ダニー、アルコールいいの?」マーティンが心配そうに聞く。
「ええんや。飲まなきゃやってられんわ。」「随分荒れてるね。どうしたの?
アランと仲良くやってたじゃない。」「それがな、アランが女と寝たんや。」
「何だよ、ダニーが僕にしたことじゃないか!」「そやったな。その節はすんません。」
ダニーはばつが悪い思いをした。そうだ、因果応報なのだ。「アランと話したの?」
「いや、話してない。」「話しなよ。僕だって許したじゃない。ダニーだって許せるよ。
きっと。」マーティンがいやに大人の回答をする。
「マーティン、お前、変わったな。」「そう?」
「何か包容力あるっちゅうか、大人になったな。」「照れちゃうな。」顔を紅く染めるマーティン。
それに比べて自分は駄々っ子のようだとダニーは恥じた。
アランと付き合うようになってダニーともあろう者が依存心の塊になっていたとは。
「そやな。本人に俺がどう思ってるか伝えなきゃいかんわな。」
「そうだよ、それが最初だよ。うじうじ悩んでたって仕方がないしさ。」
「マーティン、ありがとな。俺、自分がやらにゃああかん事がわかったわ。」
「ダニーの役に立ててうれしいよ。」二人に沈黙が訪れた。
「で、エンリケはどうしてる?」「随分元気になったよ。通商代表団が来てるから、
スペイン語で話が出来て、気晴らしになってるみたいだし。」
「それで、いつまで一緒に住むんや。」
「それがさ、僕が家に戻る話すると急にふさぎ込むんだよね。それが怖くてさ。
出るに出られないよ。」「そうか、お前も大変なんやな。」
「なんだか僕ら、変な関係になっちゃったね。」「ああ。」
お互い嫌いになっていないのに、物理的に付き合えないもどかしさが二人を襲った。
「それにしてもダニー、アルコールの量増えてない?」
気付くとジントニックを5杯も飲んでいた。マーティンはドイツビール3杯。
「アランが酒が好きだからなぁ。自然と増えたんちゃうかな。」
「ダニーの生活にアランってすっかり入り込んでるよね。なんか今日の話も
痴話喧嘩みたいに聞こえるよ。」マーティンはうつむいてつぶやくように言う。
「お前かて看病のつもりでいるっちゅうても、エッチしてるやろ。エンリケが
言うてたで。」「それは・・・」「お互い、そういうこっちゃ。後戻りは出来へんのや。」
「そうなの?」ダニーはアランに対する怒りの矛先を、マーティンに向けて
闇雲につっかかり始めた。「もう止めようよ。ダニー、怖いよ。僕らを決定的に
終わりにしないでよ。」マーティンは泣きそうだった。
マーティンは自分の分の勘定を置いて、ハイデルベルグから逃げるように
出て行った。残されたのは酔っ払いのダニー一人。アルコールの力で今日なら
何でも出来るような気がしていた。「そうや、アランと会うんや。」
携帯でアランに電話する。「ダニー!今どこだい。」いつもより慌てているアラン。
「アッパーイーストにおるから10分でアランとこ行くわ。」
アランがビルの前で待っていた。足をふらつかせながらタクシーから降りるダニー。
「おい、ダニー、大丈夫か?」「大丈夫なわけないやろ!」「まあとにかく部屋に行こう。」
アランが肩を貸し、ダニーを運ぶ。「アランのあほ!死んじまえ!」「はいはい。」
「わかっとんのか、このあほんだらが!」「ああ、聞いてるよ。」部屋に着くなり、
ダニーはアランの腹に一発かました。「ぐっ・・」アランがうずくまる。
「このダニー様を裏切るなんて、なんて奴や、アラン、お前の根性叩き直してやる。」
ダニーはうずくまるアランにさらに蹴りを入れ、立ち上がらせる。
痛みと驚きでアランの瞳孔は開いたままになっている。ダニーは素早くアランの服を
脱がせると、シャワーブースに連れて行った。「この間のおあいこや。今日は
アラン、ここで寝るんや。おやすみ。」アランを手錠で拘束するとそのまま捨て置いた。
翌朝、激しい頭痛と吐き気でダニーは目が覚めた。スーツを脱いで下着姿で
床に横たわった状態だ。「何や?ここ、アランの部屋や。」
ベッドルームにアランの姿を捜す。ベッドはメイキングされたっぱなしだった。
「アラン、留守かな。シャワーするか。」シャワーブースに行って、ダニーは驚愕した。
アランが手錠につながれて床で丸くなっている。
「アラン!どうしたんや!」手錠は間違いなくダニーのものだった。
「えっ、俺、何したんやろ!アラン!返事して!」「うぅぅん」アランが目を覚ました。
ダニーは急いで拘束を解く。「アラン、俺・・・」「言い訳の前にシャワー浴びさせてくれ。
寒くてたまらない。」温水を出すダニー。急いでバスローブを持ってくる。
とりあえずインスタントのコーヒーを入れて、震えるアランの口元にマグを運ぶ。
バスローブで包むようにしてアランの身体をソファーに運ぶ。
「昨日はよく暴れてくれたよ。FBI仕込のパンチとキックは効くなあ。」
「え、俺、そんなことしたんか?」「ああ、酔っ払ってやってきていきなりだ。」
「ごめん・・でもアランがパームスプリングスでした事に我慢がならなかったんや。」
「僕が何をしたって?」「イヴ・アンダーソン、覚えてるやろ。」
「あぁ、彼女か。バーで飲んだだけだよ。誘われはしたが、断った。」
「ほんま?」「ああ、僕がバチェラー生活とおさらば宣言したのを一番良く知ってるのは
ダニーじゃないか。」「でも・・・ほんまにほんま?」「ああ。それより仕事に遅れるぞ。」
「ほんまや!」「またプラダを新調しといたから着てきなさい。今晩ゆっくり話し合おう。」
ダニーはあたふたと着替えると出て行こうとした。「ダニー忘れ物!」
アランが投げたのはスタンウェイに置き去りにした合鍵だった。
遅刻寸前でオフィスの席に駆け込んだダニーにサマンサが話しかける。
「今日はアランとお出かけ?」「はぁ?」「だってまたブランド物着てるし。
昨日アランが来てダニーのこと捜してたのよ。」「そやったん?」とぼけるダニー。
「全く二人してどこにハンティングに行ってるんだか。」サマンサはアランを
諦めてくれたようだ。ありがたい。悩みが一つ減った。次はマーティンだ。
ダニーは先に目が覚め、トイレに行った。マーティンが後をついてくる。
「ダニィ、おはよ」「ん、おはよう」ダニーは幸せの余韻に浸っていた。
「何で座ってするのさ?」「朝勃ちしてるから、おしっこしにくいやん」
「えー!!」「なんで?飛び散るやろ?」ダニーは不思議そうにマーティンを見た。
「そんなこと、考えたこともなかった!」ケタケタ笑うマーティン。
「オレ、ちょっとおかしいんかな・・・」「いいから!早く代わってよ、漏れそう!」
「はいはい、飛んだら掃除しとけよ」ダニーは交代するとマーティンの背後から観察した。
「ちょっとぉ・・恥ずかしくて出ないよ」ダニーはマーティンのペニスに手を添えた。
「ほら、持ったろ」「もうっやめてよ」マーティンはダニーをトイレから追い出した。
またニアミスしてしまいました、申し訳ない。
後で来ます。
「マーティン、昨日、俺、からんだやろ。ごめんな。」ダニーの方を見ようともしない。
「根本的な解決策は講じた?」マーティンがそっぽを向きながら尋ねる。
「いや、今日かな。」「そう、幸運を祈るよ。」そして書類に没頭し始める。
ダニーはほとんどおぼろげな記憶の中で、マーティンを傷つけたのかどうかを
探ってみたが、思い出せなかった。
書き手2さん、もう終わりましたのでどうぞ!
パンケーキとアイスラテの朝食を食べながら、マーティンは今日の予定を尋ねた。
「今日は秋物を買いに行くんや」「どこに?」
「ソーホーのクラブ・モナコ。あそこ好みやねん」「僕も行っていい?」
「ええけど、カジュアルやで?お前が普段買うのと全然ちゃうけど・・・」
「いいの!僕も見るんだから。」「他のとこも見に行くし、まあええか。」
二人はのんびりと支度した。
なんだかんだ言っても二人とも買い物を楽しんだ。
アルマーニ・エクスチェンジで、新作のニットキャップを見つけたダニーはごきげんだった。
「オレ、髪の毛が最近怪しいからな」小声でマーティンにささやいた。
「いつかはカジュアルじゃないアルマーニがええな。
オレのアルマーニは唯一の一張羅だけやもん」
マーティンも$200のドレスシャツを買った。「それええやん、オレも買おかな」
ダニーの言葉に舞い上がるマーティン。ダニーと御揃いだ!!
結局、ダニーもドレスシャツとジャケットを買った。
すっかり疲れた二人はカフェに入った。
オーダーを取りに来たウェイトレスを見てダニーは驚いた。
「スーザン・・・」マーティンも驚いて顔を上げる。
スーザンは態度を崩さず、淡々と接客を続ける。
とりあえずダブルショットのエスプレッソを2つオーダーした。
「ダニー、どうしよ?僕、謝ったほうがいいよね?」
「いいや、出方次第や。それと飲むふりして絶対に飲むなよ」
「どうして?」「何か入れられてるかもしれへんやろ」
エスプレッソが運ばれてきた。ダニーは礼儀正しく礼を言った。
スーザンはダニーをチラリと見た。
「この前はごめん。一言、謝りたかった」ダニーさりげなく詫びた。
スーザンは伝票を置くと、軽く頷いて戻っていった。
「ダニー、今の見た?」「ああ、許してもらえたみたいや」
マーティンは焦っていた。もしかして、また浮気する気なんじゃないの?
マーティンが何を考えているのか、ダニーは一瞬で理解した。
「二度と会わへんて、心配すんな。さあ出よう」
ダニーはチェックを済ませると立ち上がった。
憂鬱そうなマーティンをなだめながら、ダニーは歩いた。
ダニーは熱帯魚の専門店を見つけると急いで入っていった。
「ダニー、急にどうしたのさ?」「ちょっと待って」
ダニーはいろいろ見て回った。値段もピンからキリまである。
「熱帯魚買うの?」マーティンも見とれながら聞いた。
ダニーは気に入った魚の説明を読んだ。生餌・・・これはあかん。
これは、乾燥赤虫か・・・これもちょっとな。人工飼料も手に負えそうになかった。
「ダニー、これ見て!ボスだよ!!」マーティンが笑いながら指で示す。
ポテンと太った大なまずが、糸ミミズを次々と襲っては食べていた。
ダニーは笑う気になれず、店を後にした。
「きれいだったね」マーティンがスーザンのことを忘れているようなので、
とりあえずホッとした。熱帯魚への興味も急速に薄れた。
「そろそろ帰ろか」ダニーはマーティンに運転をまかせた。
マーティンが手を伸ばしてきた。「危ないやん、お前は運転に集中しやな」
「へーきなのに・・・」またスーザンのことを思い出してるんじゃ・・・。
ダニーをチラリと見ながら、マーティンの心配は急激に増していた。
月曜日、マーティンは買ったばかりのドレスシャツとサスペンダーで出勤した。
「マーティン、若手の弁護士みたい」サマンサも褒めてくれた。
ダニーはマーティンを見て凍りついた。同じシャツを着ている!
あちゃー、やってもうた・・・今日は上着を脱がんように気をつけな。
ダニーは気づかないフリをして席に着いた。
「ダニー、マーティン見て。ボンて感じ。」サマンサがクスクス笑う。
幸いダニーのシャツには気づいていない。やれやれ、ダニーはホッとした。
マーティンはこっそりダニーのアパートの貸主に連絡を取っていた。
ダニーの真下の部屋が空いていないか確かめるためだ。
運良く空いたところだと言う。マーティンは今夜、下見に行く約束をした。
マーティンが部屋を見せてもらっていると、上の部屋で音がした。
「結構、音が響きますね。」マーティンはさりげなく聞いた。
「その分お安くしてるんですよ。」「うーん、もう少し見せてください。」
マーティンはダニーの足音をたどるように、部屋を見て回った。
聞こえるのは足音だけで、それ以外は何も聞こえない。
エッチの声が聞こえてなくてよかった・・・。
マーティンは、早速契約した。ここならダニーの様子が手に取るようにわかる。
「FBIですか、もう一人捜査官が住んでるんですよ。防犯上、安心できますね。」
「へぇー、そうなんですか。でも、僕のことは話さないでください。
プライベートでは干渉されたくないものですから。」マーティンは釘をさした。
「ええ、わかりました。それでは、これが鍵です。新しく換えてありますから」
「それは安心ですね、どうもありがとう。」貸主は鍵を渡すと出て行った。
ダニーの足音が、キッチンからリビングへ移動し、そのまま止まった。
ダニー、何作ったんだろ?マーティンは携帯を取り出すと電話してみた。
「ダニー、何やってんの?」「メシ」やっぱりね!笑いを堪える。
「僕の分ある?」「ああ、あるで。来るか?」「うん、今下にいるから上がるね」
マーティンは電話を切ると吹き出した。下は下でもまさか真下とは思わないよ。
ダニーの足音はキッチンを行き来している。
マーティンは鍵を掛けると、ダニーのフロアへ上がっていった。
2さん!!マーティンが完全にストーカー化してるじゃないですか!!
なんか、これからの展開を思うと楽しみが倍増してきましたよ!!
お坊っちゃん風の純粋無垢な所が、ある意味壊れていて薄ら寒さを感じますね…
この先の展開、楽しみにしてます☆
1さん、2さん、共に頑張ってください!!
マーティンがトイレに行くのを見て、ダニーは後を追った。
他の誰もいないのを急いで確認し、マーティンの隣りに立つ。
「何か用?」マーティンはそっけない。
「俺、昨日飲み過ぎて、ほとんど記憶ないんやけど、お前に何したか教えてくれへんか?」
「もう僕をほっておいてよ!自分だって僕以外の人といるくせに、僕ばっかり責めて。
ダニーにはついていけないよ!」
マーティンは用を足すと、すたすたとトイレから出て行った。
どうやら相当マーティンを傷つけたことは分かった。
俺って最低や。アランの事で頭一杯でマーティンにえらい事してしまったらしい。
席に戻ってもマーティンは書類から全く目を離さない。ダニーにとってオフィスは
重苦しい空気に満たされているようだった。
携帯に電話が入る。アランからだった。「はい、テイラー。」席を立って話をする。
マーティンが一瞥をくれたのが見えた。「今晩、話し合おう。」アランはきっぱり言った。
「ああ、じゃあアランの家に行くわ。」「ああ。待ってるよ。」
サマンサが「アランでしょう?」とダニーの顔を覗き込んで尋ねる。さすが、いい勘だ。
「ああ、今日はどこでナンパしようか話しおうてた。」「もう、男って最低!」
午後はデスクワークで明け暮れた。定時になってすぐダニーはオフィスを出た。
タクシーの中で反芻する。
「まず昨日の事を謝る。パームスプリングスの事を聞く。それから、どうしよう?」
ダニーが怖かったのは、アランが浮気したと分かった時の自分の感情だ。コントロールできるやろうか。
そうこうしているうちにアッパーウェストに着いた。合鍵で正面玄関を開ける。
アランの部屋はノックして内側から開くのを待った。
「やあ、ダニー。待ってたよ。」中からは料理のいい香りが漂ってくる。
「こんばんわ、アラン。」アランはダニーを抱きしめようとしなかった。
アランが俺を怖がってる? ああ、どうしよ。
「さぁ、着替えたらどうだい。今日はボルシチとピロシキだ。」
ダニーは言われるがままに、アディダスの上下に着替え、プラダをクロゼットに掛けた。
ダイニングに座ると、揚げたてのピロシキが山と置いてあった。
「ワインにするかい?それともウォッカ?」「今日はクラブソーダにするわ。」
「じゃあ僕はワインを頂くよ。」目の前によそわれた美味しそうなボルシチ。
また家庭的な雰囲気にのまれそうになるダニー。
ふと気がつくとアランが左手首に包帯を巻いている。俺の傷・・・。
「その傷。ごめん。」「ああ。」いつもより言葉少ななアランに不安になるダニー。
「俺、その・・・アランが女と寝たってことで頭一杯になっとって、何であんなことしたか。
分からんのや。」「怒りの暴走。」「え?」「理性を超えた感情の発露を君は暴力に求めた。
それだけのことだ。」「でもアランにあんな事して。」「非は僕にある。」「じゃあ。」
「今朝は本当の事を言えなかったが、今言おう。僕はイヴ・アンダーソンと関係を持った。」
「やっぱり、そうだったんやな!」ダニーは顔が紅潮するのを感じた。怒りが沸々わいてくる。
「なーんてね。そうだったらまた拘束プレイをしてくれるかい?」
アランはからからと笑って、ピロシキを一口かじった。
「アランのいけず!あほ!俺がどんな気持ちでいたか・・・」
ダニーは思いがけずほろほろと涙を流した。「おいおい、ダニー、泣かないでくれよ。」
アランがダニーを抱きしめる。いつものアランの匂いだ。暖かさだ。
ダニーはそのままアランの胸で泣き続ける。困ったアランはソファーに移動して、
そのままダニーを泣かしておいた。頭をなでたり、髪の毛を触ったりして、あやす。
「ほら、料理が冷めるから、まず食べようね。」
子供に言うようにアランはダニーに優しく語り掛ける。こくりと頷くダニー。
二人でダイニングにもどる。ひっくひっくまだダニーは泣いていた。アランが
ボルシチを温めなおす。やっとひとしきり涙を振り絞ったダニーは、自分から
ワインを注いで、一気に飲んだ。ピロシキに手を伸ばす。「美味い!」
「よし、食欲が出て来たのはよろしい。じゃボルシチも出すからね。」
その後はアランの学会の話やダニーの職場での笑い話を話して和やかに食事が終わった。
「ダニー、ピロシキのオイル臭いからシャワー先に浴びてもいいかい?」
「アランの家やん。何してもええよ。」「合鍵持ってるから君の家でもあるんだよ。」
アランはシャワールームへと消えた。水音と鼻歌が聞こえる。
と、そこで携帯が鳴った。アランの携帯だ。気になってダニーは着信画面を見る。
イヴ・アンダーソン!! 悪いとは思いながら、つい出てしまうダニー。
「はい、ショア。」「ハーイ、アラン、何か声が違うみたいね。」「風邪をひいてしまってね。」
「この間は楽しかったわ。私来週NYに出張するの。会えるかしら。」「さぁそれはどうかな。」
「じゃあまた電話するわ。本当に貴方素敵だった。それじゃあね。」
ダニーはピンと来た。やっぱりアランはこの女と寝てると。
ダニーは急いで服を脱ぐと、シャワーしているアランの後ろに回り、
ボディーローションをアランのアヌスに塗り、自分のペニスにも塗りたくると
一気に挿入した。「ダ、ダニー、一体・・・」いつも入れるばかりのアランがひるむ。
「アラン、俺のアランでいてくれへんの?!」叫びながら腰を打ちつけるダニー。
「うっぅ、痛いよ、ダニー、もっとゆっくり・・」「嫌や!こうしてやる!!」
さらに激しくアランの腰を持ち前後に動かすダニー。アランのペニスを触ると
立っていた。「アラン、感じてるやんか。本当はMちゃうか?」
ダニーは自分の欲望を満足させると中出しして、アランを放りっぱなしにして、
シャワーブースから出た。アランは壁に手をついてショックに耐えている。
シャワーから出て来たアランは局部から出血していた。
ダニーはアランの携帯を上へ投げたり、取ったりしながらもて遊んでいた。
「イヴから電話あったで。『本当に貴方素敵だった。』やて。」
「誤解だよ。ダニー、本当にバーで飲んだだけなんだから。」
「キスは?」「キス位したかもしれない。」「その先は?」「ない、絶対にない!」
「俺は一体アランの何を信じればいいんや。!もう分からへん。!!」
冷蔵庫から冷えたウォッカを出して飲み始めるダニー。
アランはバスルームに行って、傷の手当をしていた。とりあえず止血したようだ。
「ダニー、アルコールをあおるのは良くないよ。」「うるさい!」
ダニーは飲むだけ飲んで、ダイニングで寝てしまった。
アランは痛む下半身をかばいながら、ダニーを担ぎ上げて、ベッドに運んだ。
「この坊やは本物だ。」アランは歪んだ愛情テストの結果に満足していた。
さっきの電話もイヴからではなく、知り合いの娼婦に頼んだものだった。
この年になってやっと本物にめぐり合えた。アランはベッドでいびきを
かいて眠るダニーの額にキスすると、ダニーを全裸にし、隣に横たわった。
「かぁちゃん・・・」ダニーが寝言を言う。また額にキスをする。
明日はグッチの上下でも出しておいてやろう。アランは幸せにひたっていた。
質問ですがwwアラン・ショアって、ザ・プラクティスのアランですよね?
萌えですwwww
今日は書き手2さんのレスはなしですか?楽しみにしてたのに。
>>381さん、
>>396さん、どうもありがとうございます。
昨日は体調不良でしたので、今夜続きをUPする予定です。
こんな駄文を楽しみにしていただいて、本当に光栄です。では、また。
>>395さん
はい、ザ・プラクティスのアラン・ショア
あの複雑で奇妙な性格のロンパリ男をイメージしてみてください。
「おはよう、ダニー!」頬に優しい唇が触れている。
「かあちゃん・・・」「ダニー!朝だぞ!!」次は頬をぴたぴた叩かれる。
「うぅんん。」「ほら、寝ぼけてないで、遅刻してもいいのか?」
やっと意識がはっきりしてくる。「あ、アラン!おはよう!」飛び起きると
朝立ちしているペニスがトランクスから覗いた。「おやまあ、元気な子だな。」
はははと大笑いするアラン。 まるでいつもと同じ朝のようだ。
しかしアランはいつにも増して上機嫌だった。
「コーヒーとマフィンがあるから、早くシャワーに行っておいで。」「うん。」
二日酔いでがんがんする頭をクールシャワーでしゃきっとさせようとするが
無理だった。昨日の記憶が曖昧だった。俺は怒ってた・・・んよな。
そして、まだ怒ってる・・・ようや。でも何でアランは上機嫌なんやろ?
シャワーブースを出るとふかふかタオルを持ったアランが待っていた。
「すっきりしたかい?」「ん・・分からん。」「とにかく今、君に必要なのは相当量のカフェインだ。」
ダイニングに座って、マグに注がれたコーヒーを口に運ぶ。アランはマフィンを温めている。
「ほら、マフィンだよ、ハニー。」ブルーベリーマフィンが目の前に並ぶ。
「アラン、俺、昨日、めちゃ不機嫌やったやろ?」「ああ。僕をレイプするほどにね。」
「うそやん!」「本当だよ。」「最低や。」「でもこうして僕は機嫌がいい。ダニーは
悩むことはないんだよ。」「頭がぐちゃぐちゃや。」「ほら、グッチの新作の上下があるから
機嫌を直して出勤だ。」「続きまた話してええ?」「ああ、いつでも。」
ダニーは狐につままれたような気持ちで支局に出勤した。
「ダニー、今日も決まってるじゃない?毎晩お出かけ?」サマンサは目ざとい。
「まぁな。俺も適齢期やから。」「はあん?」マーティンは相変わらず一瞥くれると
書類に目を落とした。 俺、アルコールの量減らさんとだめや。人間関係を壊すわ。
ボスが出勤し、あわただしくミーティングが始まった。
ダニーはその晩、アランを呼び出した。外食ならアルコールが抑えられるはずだ。
アッパーイーストサイドの「サイゴン・グリル」の窓側の席に通される。
生春巻きとビーフサラダ、チキン・フォーとフライドライスを注文する。
「アラン・・・」言い出しにくそうなダニーを促すようにアランは答える。
「なんだい、ハニー。」「俺、とにかく最低な奴や。怒りに任せてアランにひどいことした。」
「そんな事、これからの人生何度もあると思うよ。」「ん?」「ダニー、君はまだ判っていない。
君は僕にとってベストパートナーなんだよ。」「そうなんかな?」
「ダニーはFBIの幹部になりたいんだろう?」「そうやけど。」
「父親の影で昇進しようとしている同僚を出し抜きたいと思わないかい?」
「そこまで考えたことなかったけど、そういえばそうやな。あいつにはコネがある。」
「色々策略を練ろうじゃないか。僕の専門を知ってるよね。」「精神科?」
「いわば、人間の心を操る事だよ。やれそうかな、直情型の君に。」
「生まれてからの夢やったFBIの幹部になれるなら、何でもやるで!」
「ほら、僕らはいいチームだろう?」「でもアランにとって何がメリットなん?」
「君の幸せの実現だよ!チァーズ!」ハイネケンで二人は乾杯した。
高揚した気持ちのまま、二人は「ミッション」に繰り出した。
いつも座る奥のソファーに通される。アランは当然のようにドンペリを注文した。
何回も乾杯を繰り返す。「今日は何のお祝いで?」ウェイターが尋ねる。
「最強チーム結成祝いだ。君もどうかい?」アランがウェイターにも乾杯を勧める。
乾杯の輪がどんどん大きくなっていく。しまいには、訳の分からない客まで乾杯し始め
店中で乾杯の声が響いていた。「おーい!ダニー!!」その時、ダニーを呼ぶ声がした。
「おお、ジム!久しぶり!!」ダニーが立ち上がって手を振る。ジムが人を掻き分け
近付いてきた。「初めまして、ジムです。」「アラン、ジムはビルの知り合いや。」
アランは砂色の瞳でジムを上から下まで眺め回し「モデルかい?」と聞いた。
「今はモデル兼学生やってます。」「コロンビア大のロースクールやて。」「ふーん。」
「アランは精神科医なんや。」「へぇ、心のお医者さんなんだ。怖いなあ。心の中読まれそうだ。」
くくっと笑うジムはアンドロギュノスのようだった。隠れていた女性らしさがにじみ出てくる。
アランの目がきらりと光った。「ジム、ダニーと踊りたいんじゃないのかい?」
「やっぱり心の中読まれてるよ。その通りです。」「ダニー、行っておいで。」
「ええの?」「ああ、僕はここで君を見ているよ。」
ジムに手を引かれてダンスフロアに下りるダニー。そして、例のごとくリズムに身を任せて
官能的な動きをし始めた。周りの人間が息を呑んでいるのが分かる。
セックスを思わせるような動きさえ取り入れて、一心不乱に踊る二人。
「彼がダニーの彼氏?」ジムが耳元で囁く。「ああ、一応な。」「いい人そうじゃない。」
「まぁ色々あるんや。」離れてはくっつく動作を繰り返す。トランス・ミュージックも
佳境を迎えていた。ジムがダニーの耳を噛み、アランを見つめる。挑戦というよりは誘惑的だ。
アランは恋人をピーピングショーに出しているような錯覚を覚えた。思わず股間がうずく。
音楽が止んだ。皆が拍手する。アランの元へダニーとジムは戻った。
「ブラボー、二人とも素晴らしいダンサーだ。さぁシャンパンをどうぞ。」
汗だくの二人は、シャンパンを一気に飲み干した。「ああ、ええ運動した。」「本当だね。」
ダニーの隣りから、ジムはアランを見つめていた。今度も誘うようなまなざしだ。
アランは、この若者の本当の顔を見てみたい衝動にかられた。天使のように笑う悪魔かもしれない。
ダニーのような人間には危険すぎる。引き離さなければならない。アランの直感だった。
「そろそろ僕らはおいとましよう。」「ええ!まだ踊り足りない気持ちや。」
「明日も仕事だろ?」「はいはい。じゃあジム、またな。」
「ダニー、元気で。アランお会いできて良かったです。」そういってウィンクするジム。
ミッションから出ると、アランはダニーに釘を刺した。「ダニー、ジムとは会うな。」
「何で?ええ奴やんか。」「とにかく会うな。」「いう事聞けん!」ダニーはアランの手を振り切り
タクシーを拾って、ブルックリンに向かった。
マーティンは、ダニーの部屋の前で呼吸を整えた。
深呼吸してドアを開ける。
「ただいま」「おう、早よ食べよ。手、洗って来い」
マーティンは手を洗うと、テーブルに着いた。
「今日はフライドチキンやねん。急に食べたくなってな」
「うん、僕も食べたい!」マーティンはチキンをかじった。
「今日泊まってもいい?」「月曜やのに?そら、ええけど・・」
「じゃあ、泊まるね。」マーティンは心の中でガッツポーズした。
「スーザンのことだけどさぁ・・・」言いかけたマーティンをダニーは遮った。
「もう関係ないから。あれっきりやし、向こうかて何も考えてないわ。」
「でも・・・」「オレの携帯調べてもええで。連絡先も、一切知らんのや。」
「・・・うん」ダニーはマーティンの肩を抱いた。「心配ないって。」
マーティンは頷いたものの、ほとんど信用していなかった。
もう騙されるもんか!以前の嫌な思い出が頭の中をよぎった。
ダニーの目覚まし時計をチェックし、起床時間を調べた。
逆算すると、朝の六時にはここを出ないといけない。
僕に出来るかなぁ・・・不安になったが、そんなこと言っていられない。
「マーティン、風呂入るでー」ダニーが呼んでいる。
マーティンはそっと時計を戻すとバスルームへ行った。
ダニーと一緒に乗った地下鉄は、ラッシュで生き地獄だった。
マーティンの不安はますます増大した。毎日これじゃ死んじゃうよ。
ダニーは平然と揺れに身を任せている。
マーティンの視線に気づくとウインクしてきた。
タフなヤツ、フラつく自分との違いに苦笑するしかなかった。
マーティンは仕事が終わるとデリで食料を調達し、急いでブルックリンへ戻った。
食べながらダニーの帰りを待つ。マーティンが帰ってしばらくすると、上の階で音がした。
ダニー、帰って来たんだ。あ、まず手を洗ってる、えらいなぁ。
そのうちキッチンからリビングで音が止まる。いつものパターンだ。
マーティンは床に寝転び、ブリーフケースを枕にしていた。
冷蔵庫とベッドが欲しいなぁ、マーティンはぼんやり考えていた。
朝6時にマーティンはアパートを出た。これから自分の家まで帰って支度だ。
まだ朝のラッシュは始まっていない。これならなんとかなるかも、欠伸をしながら思う。
家に着くと、着替えと洗面用具、予備のノートPCを出張用のバッグに入れた。
これで明日からは直接支局に行ける。時間さえ間違わなければダニーと出くわす心配も無い。
そのまま慌しく支局に向かった。早く行かないと。誰かに荷物を見られるとやばい。
マーティンはデスクの下にバッグを押し込んだ。思わず安堵のため息が出る。
何やってるんだろう、僕・・・
誰もまだ来ていないオフィスで呟くと、コーヒーを買いに行った。
ブルックリンのアパートに潜伏して二週間、ダニーの生活に何も怪しいところはなかった。
平日はほとんど決まった時間に帰り、週末は二人で過ごす。
出かけてもせいぜい一時間で帰って来た。
もしかして、僕の考えすぎだったのかも・・・。
マーティンの猜疑心はほとんど消えかかっていた。
いつものようにダニーを待っていると携帯が鳴った。
「はい」「マーティン、今どこにいてるん?」
「えっ!あ、あのダニーのアパートの近く」
「なんや、もうちょっとで迎えに行くとこやったで。ほな早よ来いや、オレももう少しで帰るから。」
「何かあるの?」「ああ、スペアリブ焼くから。お前、すごい気に入ってたやろ」
「うん、じゃあ行くよ」あー、びっくりした!!まだドキドキしてるよ・・・。
マーティンは自分のしていることが恥ずかしくなった。
ダニーは僕のことをこんなに気に掛けてくれているのに・・・。
マーティンが階段を上がると、丁度エレベーターから出てきたダニーと出くわした。
「おっ、デブちん!階段とはなかなか感心やねぇ。」
「まあね」マーティンは焦ったものの、曖昧な笑いでごまかした。
ダニーがスペアリブを焼いている間、マーティンはベランダで夜景を見ていた。
「ひゃぁっ!」ほっぺに冷たいグラスが押し当てられる。ダニーがダイキリをくれた。
「あれ?ダニーは飲まないの?」「ん、アルコール控えてるんや。お前への償い」
マーティンは申し訳なくて下を向いた。心配したダニーが抱きしめる。
「この前のレイプのこと思い出したんか?ごめんな、オレ覚えてなくて・・・」
マーティンはただ首を振るしかできなかった。
スペアリブとカリカリのジャガイモが焼けた。マーティンが即座に手を伸ばす。
「ダニー、僕レイプのことは気にしてないよ。もう忘れて。」
「そうか?でもほんまにごめんな。」
「本当にもういいってば!怒るよ」マーティンはダニーの手を握った。
「それにレイプって言わないで。僕だって男なんだから恥ずかしいよ。」
「そやな。許してくれてありがとな。」ダニーもジャガイモをほおばった。
「ちょっとゴミ捨てに行ってくるわ」「あっ、僕が行くよ」
マーティンはゴミ袋を持つと、下の部屋に寄り、自分のゴミも取ってきた。
出くわすのを恐れて、今までのゴミを溜め込んでいた。
階下でエレベーターを待っていると、ダニーがもう一つの袋を持って降りて来た。
「ちょっと待っといて、捨ててくるから」「ん、いいよ」
ダニーが戻ってきたので、マーティンはエレベーターのボタンを押した。
「おい、オレんち12階やで!」「えっ!ああ、押し間違えたみたい」
マーティンは慌てて12のボタンを押した。
「お前ってほんまにトロいなぁ。でもそこがかわいい。」ダニーがデコピンしてくる。
マーティンの心臓は早鐘のように打っていた。
送っていくと言い張るダニーを断り、マーティンは下の部屋に戻った。
ダニーへの後ろめたさで涙が溢れてくる。
ベランダで風に吹かれてぼんやりしていると、歌が聞こえてきた。
ダニー?ダニーが歌ってる!!ええっと、COLDPLAYのFIX YOUだ!
マーティンはデッキチェアに寝そべると、ダニーの歌を聞いていた。
かなりうまい!!歌が終わると、思わず手をたたいてしまった。
やばっと思った瞬間、thanks!と返ってきた。
マーティンは逃げるように部屋の中に戻り、暗闇の中で息を潜めて天井を見つめていた。
アランは苛立ちながら家に戻った。留守電が点滅している。ダニーか?
再生してみると、次の伝言が入っていた。
「アラン・ショア、僕ジムですよ。これから、ダニーを貴方から奪います。
覚悟しておいてね。ははは。じゃあチャオ!」
アランはしばし呆然として電話機を見つめていた。
ダニーは、アランの理不尽な要求が解せなくて、その週末一人で過ごす事にした。
アパートをくまなく掃除する。ベッドの下も、バスタブの内側も、トイレも
神経質な位何度も何度も掃除をした。掃除していると頭の中が晴れてくるような
精神安定剤的な役割をダニーにもたらしていた。
携帯が鳴った。誰とも話したくないと思いつつ、ふたを開ける。
マーティンからだった。「ダニー、今どこ?」「家やけど、どうした?」
「今日、家に行ってもいい?」「ああ、ええで。何か作っとくわ。」
沈んだ声だった。マーティンがエンリケと暮らし始めて2ヶ月近くが過ぎようとしていた。
マーティンがやって来た。表情も暗く覇気がない。
「おじゃまします。」「何や他人行儀やな。」「だって久しぶりだから。」
「エンリケは?」「大使館の人たちとラスベガス旅行。」「そうか。ええなぁ。」
ダニーは昔、ギャンブルにはまった事があった。はまり過ぎて数万ドル借金した嫌な思い出がある。
「カルボナーラのパスタ作ったで。材料買いに行く暇なかったから手抜き料理や。」
「ダニーの料理はいつも美味しいから大丈夫だよ。」買い置きのキャンティクラシコを開ける。
アランと付き合うようになってから、ダニーもワインセラーを買い、常に数本ストックするようになっていた。
「へぇ〜ワインセラー買ったんだ。」マーティンが小さな冷蔵庫の中を覗く。
「いつぶりやろうな、お前が家来るの。」「ずうっと昔だよ。」ぽつんとつぶやく。
「それで、今日は何か話があって来たんやろ。」「うん、エンリケの事。」
「元気にしてるか、あいつ?」「ああ、日常生活はもう普通通りだよ。だから僕さ、家に戻りたいんだよね。」
「ああ、それで?」「でも、その話するとギャーギャー騒ぎ出してさ、ふさぎこむんだよ。」
「仮病だと疑ってるんか?」「うん、勘でね。」「アランはまだ薬処方してるか?」
「今は2週間に1回カウンセリングに通ってる。」「アランに聞いてみるか?」
「でも守秘義務に触れちゃうね。」「そやな〜。それに俺も今アランと話したい気分やないしな。」
「何かあったの、そっちも?」「俺の交友関係に首突っ込んできてな、うるさい親みたいになっとる。」
「へぇ〜、パーティーとかで会うと、すごく仲良さそうなのにね。」そう言って上目使いでダニーを見る。
「何事も一線があるやろ。それをアランは超えてんのや、最近。俺、金で買われてるジゴロみたいな気分や。」
「そんな事ないよ。僕が言うのも変だけど、二人はお似合いだよ。本当に。寂しいけどさ。」
マーティンはパスタを口に運びながら、重々しくしゃべる。ほんま、かなり参っとるわ、マーティン。
「そや、エンリケいないんやろ?今日、荷物を運ぼうや。荒療治も必要やて。」
「手伝ってくれる?」「もちろん!」
二人はパスタを食べ終わると、ミッドタウンのエンリケのアパートに繰り出した。
ダニーが送ったUPSの箱が部屋の隅に無造作に置かれている。
「な、これ使おう。」マーティンはあちこちに散らかっている私物を箱に詰めるが、
全てパンクしてしまう。「そうやなくて、ひとつずつ丁寧に畳んでしまうんや。」
ダニーがお手本を示す。「僕、出来そうにないから、箱詰めはダニーにまかす。」
2時間かけて箱4つが出来上がった。それを二人してダニーのマスタングの
後部座席に乗せる。「エンリケ驚くだろうなぁ。」「心配か?」「やっぱり、心配。」
「お前ってほんま優しいな。アフター・ケアは頼んだで。」「うん。分かった。」
アッパーイーストのマーティンのアパートに着く。ジョンが「これは、エ、あ、テイラー様、お久しぶりで。」
「ああ、ジョン、元気しとったか?」「おかげさまで。ありがとうございます。」
マーティンのアパートに着く。「わぁ〜久しぶりの我が家だ!」マーティンが見違えたように元気になる。
ぼんもホームシックやったんやな。ダニーが合点がいった。さて次は荷解きだ。
マーティンはソファーに座ったり、ベッドに寝転んだり楽しんでいる。
ダニーは次々と箱を開封し、下着や靴下とカジュアル、スーツを分けて、クロゼットにしまっていく。
「ダニーの仕事みてると神業みたいだね。」「お前が出来なさすぎんのや。」「そうか。」
「ランドリーに出しとくもんは別にしといたから、ちゃんとやるんやぞ。」
「うん、分かったよ。今日から家で眠れるんだ!何だかドキドキするな。」
マーティンはマーティンなりに抑圧された生活を強いられていたのだ。ダニーは不憫になった。
「ねぇ、ダニー、今日、泊まっていかない?」「ええんか?」「泊まっていって欲しい。」
「分かった。じゃあ、まずグローサリーの買い物や。ミルクとかいるやろ?」「うん!」
二人はディーン&デルーカに出かけて、一通り、マーティンが明日から困らないだけの
品物を選んだ。「これもいい?」キャラメルポップコーンだった。「お前、また太るで。」
「大丈夫。今日、運動するから。」そう言って恥ずかしそうに笑う。可愛い奴。俺のマーティンや。
マーティンがご馳走すると言ってきかないので、アパートから近くのギリシャ料理店
「ベヨグル」に行った。フェタチーズのサラダとグリルの魚を注文する。
「ギリシャワインも結構いけるんねん。」「へぇ、ダニー、ワインに詳しくなったね。」
マーティンはダニーと離れている間、ダニーがスポンジのようにアランの知識を吸収してきたことを悟った。
「特に白がいいで。頼むか?」「うん!」主人が飛び切りの一本といってセラーから選んでくれた。
「じゃあ、二人の再会を祝して乾杯!」「かんぱーい!」マーティンは本当にうれしそうだった。
昼の沈みこんだマーティンとは別人のようだ。
二人でワインを2本空け、上機嫌でアパートに戻る。マーティンがバスの用意をしている。
「一緒に入ろうよ!」「ああ。」ダニーもその気だった。しかしいざ、裸になってみると、
二人とも気恥ずかしい思いに囚われた。二人の距離。お互いに身体を海綿で洗いあう。
ダニーもマーティンもすでにペニスが誤魔化せないほど立っていたが、お互い何も言わなかった。
バスローブを着て、ベッドルームへと行く。さすがサービスアパートだけあって、塵一つない。
ダニーは満足し、バスローブを脱いでベッドに入った。マーティンが後ろを向きながらバスローブを脱いでいる。
「お前、何してんの?」「だって、もうすごく大きくなっちゃってさ。恥ずかしいんだもん。」
マーティンが後ろ向きでベッドに横たわる。二人ともお互いに触れられない。
マーティンが手を繋いでくる。ダニーは手から二の腕、肩へと移動させ、ついに顔を自分の方に向かせる。
首筋を優しく噛む。「うぅぅん、ダニィ・・、キスして。」ダニーは最初、ついばむようなキスを繰り返し
そして唇を舌でこじあけ、マーティンの舌とからませる。「あぁ。ダニーのキスだ。」
二人が向き合うとお互いのペニスがこすれて、たまらなく感じる。「ダニー、僕行っちゃいそうだ。」
「まだまだ!」ダニーがベッドに潜りマーティンのペニスを口に含む。
「うわぁ〜、だめ〜!」マーティンはダニーの口の中で果てた。「お前、早すぎ!」
「だって感じすぎたんだもん。」「じゃあ口で俺のも行かせてくれるか?」
マーティンはベッドに潜り込んでダニーの屹立して大きくなったペニスにキスをする。
「あぁぁ・・ええ気持ちや。マーティン、俺も行くで〜。」ダニーはマーティンの口の中に
精をぶちまけた。ごくんごくんと喉を鳴らして飲むマーティン。音がいやらしい。
「ダニー、すごく濃かった。」「そうか?」ダニーが顔を紅くした。
一息ついて、ダニーがクラブソーダを2本冷蔵庫から持ってくる。飲みながら
マーティンは「このまま時が止まればいい。」とつぶやいた。ダニーとて同じ気持ちだった。
ほんの数ヶ月前までは二人だけの世界だったのに、何が二人を分けてしまったのか。
お互い、口には出さなかったが、安らかさと温かさの中で、二人の絆をかみ締めていた。
マーティンはひと月もすると、ブルックリンでの生活に慣れてきた。
早起きも、ダニーの気配を感じるためなら苦にならない。
ダニーが帰ってくるまで、スポンジボールでスカッシュをしていた。
壁にテープを貼ってスカッシュコートにしている。
家具のない部屋には打ってつけの遊びだ。
寝袋で寝るのだけが気に入らなかったが、仕方がない。
毎晩のように、ダニーの歌が聞こえるのが楽しみだった。
上の階で音がした。ダニーが帰ってきたんだ。
足音は慌しくバスルームに消えた。あれっ、いつもと違う?
しばらくすると足音はバスルームからベッドルームへ・・・。
マーティンの心拍数は一気に跳ね上がった。
誰か来るのかな?それとも、もしかしてスーザンとデート・・・。
ダニーはそのまま出かけてしまった。
マーティンは不安な気持ちで時計を睨んでいた。
いつもならすぐに戻ってくるはずなのに・・・。
22時になり、ようやくダニーが帰ってきた。マーティンは携帯を取り出した。
「ダニー、僕だよ。」「ああ、どうしたん?」ダニーの声に変化はない。
「別に用はないんだけど、何してるかなと思って」「テレビ見てたんや」
「そう、おもしろい?」「んーまあまあかな・・」「何見てるのさ?」「ええっと・・なんでもありや」
ダニーが咄嗟にごまかしたのを聞き逃さなかった。
「じゃあ、おやすみ。また明日ね」「ああ、おやすみ。マーティン、愛してるで。」
愛してるなんて、普段は言わないのに・・・。怪しすぎる!!!
その間にも、ダニーの足音はバスルームへ移動していた。
マーティンは天井を睨みつけたまま、なかなか眠れなかった。
ダニーは隠し事をしている。やっぱり女と会ってるんだ・・・。
さまざまな疑惑が後から後から湧いて来る。やがていつしか眠ってしまった。
マーティンは目覚ましが鳴ったのに気づかなかった。
ダニーがバタバタと音を立てている。うるさいなぁ、ダニー何やってるんだろう・・・。
寝ぼけたまま目覚ましを見ると、7:30!!マーティンは飛び起きた。
早く出かけないとダニーと鉢合わせだ。マーティンは急いで着替えると飛び出した。
エレベーターが下りてきた。やばい、ダニーが乗ってる!!
マーティンは階段に身を潜めた。地下鉄も数本遅らせないといけない。
もう遅刻決定だ。マーティンは開き直るとゆっくり階段を下りた。
奇跡的に遅刻は免れたものの、ラッシュで体力を消耗していた。
「あんたが寝癖のままなんて珍しいね、寝過ごしたの?」
ヴィヴィアンに聞かれ、マーティンは頷いた。
「目も充血してるし、もっと早く寝ないとダメよ」「はーい、ママ」
ヴィヴがくすっと笑った。ダニーがちらっとこっちを見ている。
やがて朝のミーティングが始まり、マーティンも気持ちを切り替えた。
それにしても今日は動きにくい。ベルトもきついし、また太ったのかな・・・。
マーティンはトイレで用を足そうとしたが、なかなか引っ張り出せない。
「んんん???どうなってるんだ?」マーティンは個室に移動した。
パンツを下ろそうとして、パジャマを着たままなのに気づいた!
あまりにも慌てていて、上は脱いだものの、下はそのまま穿いてしまったらしい。
バカだよ、僕・・・マーティンはパジャマを脱いだものの、始末に困った。
また今日に限って派手なパジャマだ。
マーティンはとりあえず用を足すと、パジャマを小脇に抱えこっそりと個室から出た。
トイレの入り口のところでボスとぶつかりそうになった。
「おっと、失礼!」マーティンはそのままオフィスまでダッシュした。
引き出しに隠そうとまごまごしていると、ダニーに見つかってしまった。
「何でパジャマなんか持ってんの?」ニヤニヤするダニー。
「穿いたまま来ちゃったんだよ・・」小声で説明するマーティン。
ダニーはいつもの癖でデコピンをお見舞いした。「ちょっ、やめてよ・・」
「今夜行ってもええか?」「えっ、僕んちに?」「そう、たまにはええやろ?」
「うん、わかった」マーティンが頷くと、ダニーはデスクに戻った。
どうしよう・・・ええっと部屋の中どうなってたっけ?、マーティンは気が気でなかった。
仕事が終わると、一目散にアッパーイーストへ急いだ。
部屋の中はメイドに掃除されたままで、人の気配はない。
唯一、時々置きに来る洗濯物があるだけだ。
マーティンは適当に散らかし、以前の部屋ようにカモフラージュした。
点検していると、ダニーが入ってきた。
「マーティン、オレ早かったやろ?会いたかったで」いきなり抱きしめてくる。
「ん、なんだかご機嫌だね。いいことでもあったの?」「いいや、お前に会いたかったから」
何だよ、怪しすぎるじゃん!マーティンは夕べのことも考え、疑惑が確信に変わりつつあった。
「今日はパジャマパーティーや」「へ?」「何や、パジャマパーティー知らんの?」
「知ってるけど・・・」「じゃあ、まずメシやな。ピザでええやろ」
ダニーはピザをオーダーした。手土産のハーゲンダッツをしまい、冷蔵庫を開ける。
「なぁ、何も入ってないんやけど?朝にジュース飲むのやめたん?」「う、ううん、切らしたとこ」
「それにしても酒類しかないで?お前の食生活って謎やな」
ダニーの私生活のほうがよっぽど謎だよ!、マーティンは生返事を返した。
ピザとポテトチップスをつまみながら、ダニーは饒舌に笑い話をした。
マーティンはますます怪しんだ。コロナビールにライムを入れながら様子を窺った。
「なんや、アイスか?」視線に気づいてダニーが聞く。「ううん、まだいいよ」
「ほな風呂上りに食べよか。はい、あーんして」ダニーはポテトチップスを食べさせた。
いつもよりも優しいダニーに不信感が募るだけだった。
バスルームから出ると、二人は裸のままアイスクリームを食べ始めた。
ダニーはカシス&クリーム、マーティンはベルジアンチョコレートを選んだ。
「マーティン、味見」ダニーはマーティンに食べさせる。
「僕も、はい」マーティンはほとんど食べ終わっていた。
ダニーはマーティンの乳首にアイスをつけると舐め取った。
「ぁん、くすぐったいよ・・」硬くなった乳首にさらにアイスを塗りつける。
反対側にもアイスを塗ると、ダニーは舐めまわした。
ダニーは指でアイスをすくうとマーティンの口に入れてきた。
マーティンもダニーの指を、舌を絡めるように舐める。
ダニーの舌は徐々に下へ・・・とうとうペニスに触れた。
すでにぬるぬるのペニスを味わうようにフェラチオする。
マーティンの体は呼応するかのようにピクンと反射する。
「ダニィ、うちにはローションないよ・・どうするの?」
「そうやったな、待っとけ」
ダニーはキッチンに行くとオリーブオイルを取ってきた。
手のひらに適量垂らすと、両手を擦り合わせて温めた。
オイルのついた指でそっとアナルを愛撫する。
「ぅぅん・・そこダメ、出そうになっちゃう・・」マーティンが甘えた声で止めた。
「出してもええんやで、オレにまかせろ」ダニーはさらに指を動かした。
「やだよ、ダニーのでイキたいんだ」「そんなにオレが欲しいんや?」
「うん、ダニーじゃなきゃ嫌だ」ダニーは一瞬戸惑ったものの、ゆっくり挿入した。
マーティンはダニーに抱かれながらスーザンのことを考えた。
女なんて大っ嫌いだ!!思った瞬間、マーティンはザーメンを飛ばした。
「ああっ、マーテインすごい締め付けや・・イクで・・」
アナルで律動しているダニーのペニスが一段と大きくなった。
中で射精すると、マーティンの上に倒れこんだ。
ダニーとマーティンはシャワーを浴びるとベッドに寝転んだ。
「ねぇ、パジャマパーティーってエッチするの?」
「いいや、みんなでおしゃべりするんや。エッチしたら乱交パーティーやん」
「じゃあ、これはパジャマパーティーじゃないね。バカダニー」
「そやな・・・まあええやん」ダニーはマーティンを抱き寄せた。
「今日は特別に子守唄を歌ったろ」ダニーは何を歌うか考えているうちに眠ってしまった。
マーティンはダニーの腕にもたれると、いつまでもダニーを見ていた。
ダニーとマーティンはそれぞれアランとエンリケの電話攻撃に見舞われる
月曜日を迎えた。サマンサもヴィヴィアンも機嫌が良くない。始末が悪い事に
ボスに「私用の電話は控えるように」と厳重忠告を受けてしまった。
「お互いうまく対処しような。」ダニーがマーティンにささやく。
「何か僕出来そうにないよ。」自信なさげなマーティンが答える。
その頃アランはビルに連絡をしていた。「ビル、すまないがモデルのジムって子の
ポートフォリオをくれないか?」「何、アラン、もうダニーに飽きたの?」
「違うよ。ちょっと裏を取りたくてね」「いいわよ、アシスタントに持っていかせるわ。」
「すまないね。」アランはあの挑戦的な天使の狙いが何なのか調査を始めたのだ。
ダニーをあいつの元になぞやれない!強い思いがアランを支配していた。
アランの携帯が鳴った。エンリケだった。「アラン、マーティン出て行ったよ。」
「いつ?」「昨日かおととい。僕留守だった。」エンリケのうつ状態はとっくの昔に
脱し、ほとんど健常者と同じ精神状態になっていたのを、アランが仮病を使うように
指導していたのだった。ちょうどアランがダニーと過ごさなかった週末の出来事だ。
「やられた!」アランは一人ごちた。
ダニーとマーティンは夜を一緒に過ごそうと決めていた。
週末に確かめ合った心の絆が自然とそう行動させていた。
晩はロバート・デニーロが経営していることで有名な「トライベッカ・グリル」を予約していた。
事件もなく定時に出た二人は、おのおのタクシーに乗って、レストランへ向かった。
予約席にダニーが座っていると、ほどなくマーティンがやってきた。
キスしたい! 気持ちが先行したが我慢して立ち上がって挨拶する。
「いい感じの店だね。」マーティンは初めてのようだった。
「トライベッカじゃ一番の店じゃないんかなぁ」ダニーはそう言うとドリンクメニューを渡す。
「ダニー、ワインでいい?」「ああ。」「じゃあベリンジャーのジンファンデルもらおう。」
「今日、エンリケから何回電話きた?」「8回だよ。」「俺はアランから4回。半分か。」
「どうしよう、僕。」「一度きっちり話したらええやん。相手かて大人やから、分かってくれるって。」
「ダニーはどうするの?」「俺か〜。」ダニーはまだアランとの間に築いた関係を切れずにいた。
「まぁ、ダニーが決めることだからさ。僕、待ってるから。」マーティンはやせ我慢で答えた。
「ごめんな。すっぱり出来ない自分が情けないわ。」ダニーは心からマーティンに頭を下げた。
アンティパストの盛り合わせと、ダニーは秋刀魚のトマトソース・フェットチーネ、
マーティンはいわしとズッキーニの白ワインソースパスタを頼む。
「週末、楽しかったね。」マーティンが遠いところを見るようなまなざしでつぶやく。
「ああ、お前、まだ片付けヘタなんやな。」ふふふとダニーが笑う。
「ダニーみたいに出来る人はそういないよ。」ぷっとふくれてマーティンが答える。
前菜が運ばれてくる。取り分けはダニーの役目だ。
にしんのマリネとラタトゥーユとビーツサラダを綺麗にマーティンの小皿に盛り付ける。
神の手を見るように見とれるマーティン。「すごいね。」「何がや?」「いいよ、笑うから。」
ジンファンデルで乾杯する。数ヶ月間のわだかまりが段々と溶けていくようだった。
「とりあえず今日に感謝!」「感謝!」その後他愛のない話ですら盛り上がる二人。
あたかも与えられた限られた時間をむさぼるように二人は楽しんだ。
お互い目の前で携帯の電源を切った。それが約束であるかのように。
二人は自由だった。何のしがらみもなく二人でいられる。しかし一方そうしなければ
二人でいられない不都合もお互いに負わされているのだった。
「うまいな〜、ここのパスタ。」二人は半分食べるとお皿を換えっこして残り半分を味わった。
ダニーはドルチェをパスしたが、マーティンはティラミスとココナッツアイスの盛り合わせを頼んだ。
「お前、良く食うな〜。また太るで。」「いいんだよ。ダニーとは体質が違うんだもん。」
「今日、これからどうする?」「僕、踊りに行きたい。」珍しくマーティンが提案した。
「お前、踊り苦手って言ってたやん。」「うまくなりたいんだよ。」「そうか。じゃあ行こか。」
ダニーもそれほどクラブ・カルチャーに染まっていない。知っているのはミッション位だ。
マーティンも行ったことがあるし、いいかと思って、ソーホーへと歩く。
ミッションに着くと、顔なじみのウェイターが奥のソファーに案内してくれる。
「ショア様のシャンパンをご用意します。」「いや今日はええんや。」
ダニーとマーティンはショットでテキーラを飲み始めた。ポワンと紅くなるマーティン。
ダニーの方は慣れたもので塩を舐めながら楽しんでいる。「そろそろ踊ろう!」
気が大きくなったマーティンがダニーを連れてフロアへ降りる。音楽は90年代ヒットソング。
カッティングクルーやデッドオアアライブが流れている。
リズムを取るのがやっとのマーティンの前でダニーは例によって挑発的な仕草を繰り返す。
すると、背後で同じ動作をする人物が現れた。「ハイ、ダニー!」ジムだった。
「うぁ、びっくりした〜!マーティン、こっちはジムや。」「ジム、マーティン。」
「ハァイ、マーティン。君は見るからにFBIだね。」「ジムはモデルやねん。」
「はじめまして、ジム。」「よろしくマーティン。」紹介が終わると、ジムは離れていった。
「すごい綺麗な人だね、トロイのブラピみたいだ。」「そうやねん。だけどさばけててええ奴なんや。」
「ダニー、交友関係が広がったね。」「幸か不幸かそうやね。もう囮捜査できへんかも。」とウィンクする。
「ダニーは街の捜査がうまいからいいよ。僕は不得意だからな〜。」「お前はデスクワーク得意やんか。」
「やっぱり街の捜査で手柄を立てたいよ。」アランの言葉が蘇る。
『父親の影で出世しようとしてる同僚』「まぁいつかはな。」ダニーは答えを誤魔化した。
マーティンはジムがカウンターから自分たちを見ている視線を感じていた。
ダニーはダンスに夢中で気が付いていない。「ジムってさ、ダニーの事好きなんじゃないの?」
「今んとこそんな感じないけどなあ。普通の男友達って感じやけどな。」「ふうん。」
マーティンは痛いほどジムの視線を身体に受けて、余計に身体がかちんこちんになってしまった。
「おい、力抜けよ、マーティン。」「うん、やってるんだけど・・・」
ダニーはマーティンの動きに笑いを禁じえず、席に戻った。
「やっぱり僕、ダンスの才能ないのかなぁ。」マーティンが泣きそうな顔で言う。
「力が入り過ぎてるんや。あの時みたいにもっと身体を柔軟にせいよ。」
マーティンは顔を紅く染める。「あの時みたいに・・なんて出来ないよ。」
「お前、身体すごい柔らかいんやからさぁ。ダンスの時もそうすればええやん。」
ダニーは、はははと笑ってテキーラをあおった。「そろそろ帰ろうよ。」マーティンが促す。
「そやな、明日遅刻したらまたボスからお目玉食らうしな。」
ダニーはマーティンの手を取り、人ごみから出口へ出ようとした。ジムがさえぎる。
「もう帰るの、ダニー?」「明日も仕事やからな。」「じゃあまたね。マーティン、会えてうれしいよ。」
「ジム、おやすみ。」二人はミッションの出口から外で出た。
ふふふ、メンツが揃ってきたな。ジムはカウンターでジントニックを飲みながらほくそ笑んでいた。
インターフォンが鳴っている。マーティンはドキッとした。
今までもずっと居留守を使っているが、今回のは相当しつこい。
次は携帯が鳴った。「はい・・」「マーティン、私だ。」
「ボス、事件ですか?」「いいや、今アパートの下にいる。開けてくれ。」
「すみません、僕、出先なんです。」「わかってる、21階じゃなくて11階だろ?」
「えっ・・・なぜ」「いいから、さっさと開けろ!」マーティンはロックを解除した。
指先が震えている。なんで知ってるんだろう?マーティンは血の気が引くのが分かった。
のろのろと玄関を開けるとボスが立っていた。
「入るぞ」返事も聞かずに部屋に入ってくるボス。
「なんだこりゃ!」ボスは部屋の中を見て愕然とした。
たまったゴミに、買い置きのペットボトル、食べかけのチャイニーズカートン、
PSPに散らばったソフト、敷きっぱなしの寝袋・・・。
脱ぎっぱなしの洗濯物の山・・・おまけに部屋の隅には綿埃が舞っている。
「ボス、どうしてここが?」マーティンは尋ねた。
「副長官からの電話でだ。いつ電話してもいないから調べろとさ。」
「でも、どうやって?」「お前の後をつけたんだ、それにしても張り込み中でももっとマシだろうよ」
ボスはゴミをまとめながら呟いた。「ダニーの部屋と同じアパートとは到底思えん・・」
「マーティン、何をやってるんだ?ストーキングか?」
「いっいえ・・・僕は・・その」マーティンはうつむいた。
「副長官になんと言えばいい?ご子息はストーカーですってか?」
ボスは奥の部屋に行ってさらに驚いた。
「なんだこりゃ!」またまた驚くボス。「あの・・ちょっとスカッシュを・・・」
「マーティン・・・」ボスは呆れた。「何を考えてるんだ、え?頭は大丈夫か?」
「とにかく副長官にご報告しておこう。ダニーにも言わないとな」
「待って、待ってください。ダニーには言わないで!」マーティンはボスにすがりついた。
「今回はダメだ!じゃあな、マーティン」ボスはマーティンを引き離そうとしたが、断固として離れない。
「ボス、お願いします。これには事情があるんです、お願い・・・」
二人がもみ合っていると、上の部屋に帰ってきた音がした。
「丁度いい、今から話してくる」ボスはそのまま立ち去ろうとした。
「やめてよ、ボス・・・」マーティンはとうとう泣き出した。
「お前は簡単に泣きすぎる。男だろっ!」ボスに叱られ、ますます嗚咽を上げた。
「マーティン、こんな常軌を逸した行動に目をつぶるわけにはいかんのだ。」
ボスが諭していると、上の階でドタバタと大きな音がした。
音はベッドルームまで続いている。しばらく静かになり、やがて足音はバスルームへと消えた。
「なるほど、目的はこれか。マーティン、今すぐ行けば謎が解けるんじゃないのか?」
マーティンは黙って部屋を飛び出すと、階段を一気に駆け上がった。
しばらく躊躇していたが、思い切って合鍵でドアを開けた。
そのまま音を立てないように部屋の中を進む。ダニーはシャワーの真っ最中だ。
気づかれないようにベッドルームへ行ったが、まったく怪しいところはなかった。
マーティンは何の収穫もないまま、こっそり出て行った。
「どうだった?、何か分かったのか?」ボスが問いかける。
「誰か連れ込んだんじゃなかったのか?」マーティンは黙って首を振った。
「そりゃそうだよな、いくらなんでも早漏すぎる」笑うボス。
ボスは携帯を取り出した。ダニーの足音がリビングに向かう。
「はい、テイラー」「ダニーか、今日は忙しいのか?」
「ええ、ちょっと」「マーティンとデートか?」ボスは鎌を掛ける。
「まあ、そんなとこです。では、また明日。」ダニーは切ってしまった。
「おい、お前とデートだと言ってるぞ」マーティンはいたたまれなくなってベランダに出た。
デッキチェアに寝そべると塞ぎ込んだ。ボスもベランダに出ると、マーティンの横に座った。
ダニーの部屋からは掃除機の音が聞こえる。
「お前も借りたらどうだ?」ボスは小声でささやいた。
マーティンはボスを一瞥すると、部屋に入った。
「マーティン、これはなかなかおもしろいな。」ダニーの足音はリビングを歩き回っている。
「モップでもかけてるんだろうよ。」ボスは笑いながら言った。
「さーて、副長官にはなんて言おう?やっぱり正直に話すしかないか・・・」
マーティンは恨みがましい目でボスを見つめた。
ボスは携帯を取り出した。「マローンです。マーティンの件ですが・・・」
マーティンは思わずボスの足にしがみついた。
「ええ、理由が分かりました。電話の音を切っていただけですね。
はい、ええ、もちろん確認済みです。いえいえ、それでは失礼いたします。」
ボスが電話を切ると、マーティンは全身の力が抜けた。
「ボス、ありがとう・・僕・・」
「マーティン、副長官殿には隠したが、ダニーには隠せないぞ」
マーティンは黙って服を脱ぎ始めた。
「おいおい、何やってんだ?そんなことをしても無駄だぞ」
「じゃあ、どうすればいいの?何でもするから黙ってて・・」
ダニーの足音はベッドルームから玄関に向かっている。
「ダニーはデートかな?」ボスが見上げていった。
「何ぐずぐすしてる!後をつけるんだ」ボスは素早く行動した。
マーティンも後に続いた。ボスは意外な速さで階段を駆け降りる。
ダニーの車が地下から出てくるころには、すでに二人とも少し離れて車に乗っていた。
マスタングはソーホー方面へ。ボスは的確な距離を置いて追跡する。
ダニーの車が停まった。曲がり角で誰かと話している。
「娼婦かな?」ここからは黒髪のポニーテールしか見えない。
マーティンの拳は、握りすぎて手のひらに血が滲んでいる。
「おい、あれは男だ」「え・・・男・・」女ならまだしも男を買うなんて!!
ダニーが戻ってきた。車はまた動き出す。今度はミッドタウン方面だ。
「ボスちょっと待って、あの人知ってる。ダニーの情報屋だよ。」
ダニーはミセス・ノリスにドル札を握らせると車に戻った。
「事件の情報をつかんだんだ、きっと。じゃあ仕事してるのかな?」
「そうかもな。あいつの野心はなかなかのものだ。」
ダニーはそのままアパートへ戻った。マーティンとボスも後を追う。
ダニーは部屋に戻ると、仕事部屋に入ったきり出てこなかった。
マーティンは気が滅入ってしまった。ダニーは仕事に励んでいるのに
自分はごみ溜めの中でただぼんやりしているだけだ。
ボスは年甲斐もなくラケットで遊んでいる。
「もういいだろう、マーティン。こんなことはやめるんだ。何にもならないぞ。」
「はい・・・」マーティンは渋々返事をした。
「これは何だ?」ボスはマーティンの荷物を物色している。
「ああ、それ。貸して」マーティンはスイッチを入れると灯りを消した。
天井に広がる星空。「プラネタリウムか、いいじゃないか」
ボスはマーティンの寝袋に寝そべった。
「天井ばかり見てたから・・・」マーティンの声は暗い。
その時、ダニーの足音がリビングで止まった。
ダニーはベランダで誰かと話している。
マーティンもベランダに出た。デッキチェアに座って耳を澄ます。
楽しそうな笑い声に混じって、ニッキーと聞こえた気がした。
ニッキー?・・・思わずボスと二人で顔を見合わせた。
「ボス、僕はもうしばらくここに留まるよ。真相が知りたいんだ」
「そうか、それなら私もしばらく黙認しておこう。ただし、大きな借りだぞ?」
「はい、感謝します。」マーティンの決意は固かった。
ダニーの電話はさらに延々と続いていた。
翌日、ダニーはミーティングで事件の背景を驚くような推理で話した。
南米からの不法移民が姿を消すトリックについてだ。
全て辻褄が合っている。チーム全員が舌を巻いた。
「ワーォ、ダニー勲章ものだわね!!」ダニーの晴れがましい顔。
マーティンも祝福していたが、ニッキーのことで頭が一杯だった。
午後にはフィッツジェラルド副長官が電話してきた。
「テイラー捜査官、見事だ。こちらでも話題になっているよ。」
「ありがとうございます、副長官。これからもより精進いたします。」
「ははは、頼もしいね、君は。来週そっちに行くから食事に行こう」
「はい、喜んで。それでは、失礼いたします。」
ダニーは電話を切った後、大きく息を吐くと天を仰いだ。
ふとマーティンを見ると、上の空で考え事をしていた。
ダニーは首をすくめると、次の仕事に取り掛かった。
マーティンは、スーザンが働いているカフェに行ってみた。
カプチーノとレモンスフレをオーダーし、店内の様子を窺う。
今日はスーザンの姿はない。がっかりしながらスフレを食べる。
マーティンはチェックを頼み、おつりを待った。
「今日はスーザンは休み?」思い切って聞いてみた。
「いいえ、今日はもう帰りました。メッセージをお預かりしましょうか?」
「いや、いいんだ。また来るから」マーティンは店を出た。
スーザン=ニッキーではない?謎は深まるばかりだ。
大体、ニッキーって男なのか女なのか、それすらわからないよ。
男だったらどうしよう・・・もう立ち直れない。
マーティンは疑惑に翻弄されながら、ソーホーを彷徨っていた。
たまたま入ったモスで、ベッドに一目惚れしてしまい衝動買いした。
配達日を確認すると、急いでアパートに戻った。
週末までに部屋を掃除しておかなくてはならない。
自分で片付け始めたものの、途中で投げ出してしまった。
マーティンは迷ったもののボスに電話した。
「なんだ?」ぶっきらぼうなボスが出た。思わず切ってしまう。
すぐにボスからコールバックが来た。「はい・・」
「マーティン、どうした?」「あのすみません、いきなり切っちゃって・・・」
「トラブルか?」「いえ、ハウスキーパーを頼みたいのですが、よくわからなくて」
「掃除か?ゴキブリでもわかしたか?」「いえ、ベッドを買ったので・・・」
「お前、そこに住み着く気じゃないだろうな?・・・よし、待ってろ」
ボスは電話を切ってしまった。
しばらくするとボスが来た。手にモップを持っている。
「ボス、何で?」「モップだよ、こんな家具もない部屋、これで十分だ。」
「あっいいよ、僕がやります。」「まずはゴミをまとめるんだよ。」
ボスは散らかったゴミを手早くまとめた。それだけでも大分片付いた。
「ボス、すごい!」「バカっ、直接ゴミ箱に捨てときゃいいのに・・」
ボスはマーティンを追い立てるようにモップをかけた。
ほんの小一時間ほどで部屋は元通りきれいになった。
マーティンがゴミを捨てに行くと、ダニーが入ってくるところだった。
どわぁー・・・ゴミ袋を抱えて階段へ猛ダッシュする。
ダニーがエレベーターに乗ったのを見届けると、ようやくゴミを捨てることが出来た。
部屋に戻ると、ボスがバスタブに湯を溜めていた。
「お前も入るか?」「いえ、僕は後で」「そうか、じゃあお先に」
ボスはバスルームでくつろいでいる。マーティンはそっとドアを開けた。
「何だ?お前も入るのか?」突っ立っていると促され、マーティンも一緒に入った。
「久しぶりだな、お前の体。ちょっと痩せたか?」「ええ、二重生活で」
ボスは笑いながら体を洗っている。マーティンはボスの背中を洗った。
「来週は副長官殿も来るしな。また一苦労させられそうだ・・・」
ボスは大きなため息をついた。「お前の親父はどうもいけすかない」
「すみません、僕、迷惑ばかり掛けて」マーティンは詫びた。
「お前はいいんだよ、息子みたいなもんだから。先に出るぞ」
ボスはそう言い残すとバスルームを出た。
マーティンがバスローブを着てリビングへ行くと、ボスがベランダで手招きした。
ベランダに出てみるとダニーの話し声が聞こえた。今日も楽しそうだ。
マーティンは合鍵をつかむと出て行こうとした。
「マーティン、ちょっと待て。バスローブで乗り込んだらばれちまう」
ボスの言葉にマーティンは冷静さを取り戻した。
「まあとにかく落ち着け」ボスは鍵を抜き取った。
マーティンは服を着ると、ダニーの部屋に行った。
ダニーはまだ電話中だ。いきなりドアを開けた。
マーティンが入ってきたのに気づくと、ダニーは慌てて電話を切ってしまった。
「ダニー、ただいま」「おっおう、おかえり。急にどうしたん?」
「用がなきゃ来ちゃいけないの?」マーティンは意地悪く聞いた。
「いいや、そんなことないで」ダニーは明らかにうろたえていた。
「ねぇ、さっき携帯で誰と話してたの?」「え?何で?」
「電話したんだけど、繋がらなかったんだよ。」「ちょっと連れとな」
「ふーん、もしかしてスーザン?」
「スーザンとは何でもないって言うてるやん、しつこいなぁ」
「携帯見てもいい?」「何で?」「この前は見てもいいって言ってたじゃない」
ダニーは渋々携帯を渡した。着信履歴も発信履歴も全て消去されている。
「さすがダニー・テイラー!パーフェクト!!」マーティンは携帯を投げ返した。
そのままダニーの部屋を飛び出すと、階下の部屋に駆け込んだ。
ダニーはマーティンを追いかけたが、すでにマーティンの姿は消えていた。
どないなってるんやろ・・・ダニーはわけが分からず自分の部屋に戻った。
マーティンが戻るとボスが服を着替えていた。
「どうだった?ニッキーの正体は掴めたか?」
「発信も着信も履歴が全て消されてた・・・」ボスはくくっと笑った。
「ダニーは手強いぞ、お前にできるのか?」マーティンは黙って寝袋に入った。
「その寝袋、きちんと干したほうがいいぞ。なんか犬の匂いがする」
「じゃあ、私は帰るから。戸締りしとけよ」ボスは寝袋に声を掛けると出て行った。
翌日、マーティンはダニーに無理やり倉庫に連れて行かれた。
「痛い、押さないでよ」「黙れ、マーティン!!」
「何?こんなところで」「お前、昨日帰ってこんかったやろ。どこに泊まったんや!」
「帰ったよ」「嘘つくな、俺はアパートで待ってたんや。早よ言え!」
「僕はダニーのアパートに・・・」「えぇっ、何でやねん?」
「ダニーひどいよ・・・だって」マーティンは言いかけたが黙った。
「それやったらええけど・・・ごめんな」マーティンはダニーの手を振り払った。
今日から1週間、秋休みを頂きます。
次のストーリーアップは、10月9日を予定しています。
以上 お知らせでした。
アランは着々とジムの身辺調査を行っていた。私立探偵を雇い、24時間
張り込みさせている他、家族構成などの調査資料も続々と届いていた。
「ふーん、兄が一人か。しかし過去3年ヨーロッパにいたから家族とは
会ってはいないわけだな。」張り込み情報からも怪しい箇所は見当たらない。
昼間はロースクールに通い、夜、友達と食事してクラブに繰り出す位。
仕事は定期的にグラビア中心の撮影を入れているようだ。
しかしアランの精神科医としての長年の勘から、あの天使の微笑みの裏には
何かあると確信していた。それを暴かなければ、ダニーはあいつに奪われるかもしれない。
アランの心の中に警戒信号が点滅していた。そのダニーといえば、ミッションで
気まずい別れをしてから、連絡を取っていなかった。そろそろわだかまりを取る機会が欲しいな。
アランはダニーの携帯に電話をしたが、留守電になっていた。
とりあえず、コールバックをお願いして、電話を切る。果たしてかかってくるか。
午後遅くになりダニーから連絡が来た。「アラン、何か用?」「いや〜この間の埋め合わせしたくてね。」
「ふうん。そうなん?」「理不尽な事を強いて悪かったよ。一緒に食事してくれないか。」
「分かった。行くわ。場所は?」「ヴィレッジの「フィッシュ」はどうだい?」
夜8時にダニーはレストランに着いた。ショーケースを飾る魚介類から自分の好みを選んで
調理してもらう、有名店だ。アランはすでに到着して、ダニーを見ると席を立った。
「久しぶり、ダニー。元気そうだな。」「まぁぼちぼちや。」「今日はいいクラムとなまずが入荷してるよ。」
「じゃあクラムチャウダーとなまずのフライにする。」アランはサーモンの香草焼きを頼んだ。
「ワインは白だな。ピリュレリーモンラッシェでももらおうか。」
二人とも当たり障りのない話で前菜を終える。パンを食べながら、ダニーが
口火を切った。「アラン、あのな、どうしてジムとは会っちゃあかんの?」
「それは・・直感だよ。」アランはジムがかけてきた挑戦状の電話の事は
話さなかった。「あいつのあの人を釘付けにするような微笑の影には何かある。」
「服装も普通の学生みたいやし、悪意は感じられへんけどな〜。」
「ここはお願いだ。ダニー、深入りはしないでくれよ。あとで面倒なことにならないように。」
メインディッシュが運ばれていた。ダニーはなまずのまん丸のフライを
ボスだと思って、バリバリ香ばしい音をたてて食べていた。
食べっぷりに満足げなアラン。自分のサーモンを半分ダニーの皿に載せる。
ダニーもなまずフライをアランと交換し、サーモンに取り掛かった。
極上のワインのせいで、ダニーの機嫌はいつも通りに戻ってくれた。
「今日はどうする?家に泊まるかい?」アランが誘う眼差しでダニーを見つめる。
「いや、今日は遠慮しとくわ。ありがと、アラン。わだかまりは溶けたで。」
「じゃあ僕らの関係も今まで通りだね。」「うん、そのつもりでおるけど。」
「ありがとう。ここでキスしたい気分だよ。」アランはダニーの手をぎゅっと握ると甲にキスをした。
アランがブルックリンまで車で送ってくれた。車から降りる時、
思わずアランはダニーを抱擁し、長い長いキスをした。
階上からマーティンが見ているのも知らずに、二人はそこで別れた。
「ダニーは二枚舌だ。僕が好きなのか、アランが好きなのか、もう分からない!」
そういうとマーティンは犬臭い寝袋に身体をうずめて、静かに涙を流していた。
503 :
fusianasan:2005/10/03(月) 10:42:26
書き手2さん マーティンのストーカーぶりがエスカレートしてきて、サスペンス
要素も含み、ますます目が離せなくなりました。今度どうなるのか楽しみです。
書き手1さん 秋休みですか。アランやジムとの関係がとても気になりますが、
ゆっくり休んで下さい。来週からまた新たな展開を期待します。
でも、なぜマーティンが寝袋に??
>>503 感想ありがとうございます。
サスペンス要素なんて、そんな・・・拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
マーティンはデスクに戻ってからもダニーを無視した。
仕事が終わると、さっさとオフィスを後にした。
すぐに携帯が鳴る。「ダニーか・・・」マーティンはそれも切ってしまった。
今日はアッパーイーストに戻らないとばれるかも。
マーティンは嫌々ながら自分のアパートへ帰った。
案の定、留守電にダニーからの伝言が入っていた。
やっぱり、今日はこっちに帰ってきてよかった。
ベッドにはダニーが寝た形跡か残っていた。ダニーの匂いがする。
マーティンは引き寄せられるようにベッドに入った。
やわらかいシーツの滑らかな感触。思わず唸るほど気持ちいい。
ダニーがいつの間にか横に立っていた。
「マーティン、メッセージ聞いた?」「ああ、聞いたよ」
「昨日は行き違いがあったみたいやな・・・」
「ダニー、浮気してる?」マーティンは突然聞いた。
「え、いきなりなっ何で?」「なんとなく、僕のカン」
「携帯の履歴消してたからか?あれはいつもの癖なんや」
「ふーん、で、浮気はどうなのさ?」「そんなんしてへん」
「僕は浮気した」「えっ嘘やろ?」マーティンは首を振った。
「本当なんだ、ごめん」マーティンは嘘をついた。
「相手は誰や?マーティン!!」「・・・僕自身さ」
「はぁ?何言うてるんや、アホかっ」ダニーは怒り出した。
「僕が浮気したら怒るんだ?」「当たり前やろ!怒るに決まってるやろ」
「そう・・・」「言いたいことがあったらはっきり言えや!」
「何もないよ」ニッキーのことを聞こうとしたものの、どこで聞いたのか問われると困る。
ダニーは怒ったまま帰っていった。
マーティンは、またスーザンの働くカフェに行った。
入ろうとするとちょうどスーザンとすれ違い、呼び止めた。
「スーザン?」「え、ああダニーの・・」「今日はもう帰るの?」「ええ」
「ダニーとデート?」「ううん、それよりダニーのこと教えてくれない?」
「ダニーの?」「そう、彼の仕事とか、いろいろ」「直接聞けばいいじゃない?」
「それがね、あれ以来会ってないのよ。連絡先もわからないし・・・」
「そうなんだ・・・じゃあダニーには僕から伝えておくよ。勝手に教えるわけにいかないから。」
「本当に?じゃあお願いしようかな。どうもありがとう。」
マーティンはスーザンと別れた。
ニッキーはスーザンじゃない!・・・じゃあニッキーって誰なんだ?
土曜日の午前中に、モスからベッドが届いた。
わざわざダニーが寝ている時間を指定して、運んでもらった。
マーティンは大の字でベッドに寝転んだ。寝袋とは段違いの心地よさ。
これであの異臭がする寝袋とはおさらばだ。
ダニーを呼びに行きたい衝動に駆られたが、なんとか抑えた。
ベッドの上で寝転んでいると、ダニーが起きたのがわかった。
またトイレで座っておしっこか、ここに来て初めて僕も意味がわかったよ。
マーティンは一人でくすくす笑った。あーあ、今日は父さんが来る・・・憂鬱だ。
本日の待ち合わせ場所は、グリニッチビレッジのイル・ムリノ。
入り口でダニーと一緒になった。父とボスは先に来ていた。
「やあ、マーティン。調子はどうだ?」「ええ、なんとかやってます・・」
「テイラー捜査官、よく来てくれたね。今回の君の活躍は素晴らしい。」
「ご無沙汰しております、副長官。本日はお招きいただきありがとうございます。」
「今日は楽しくやろうじゃないか」副長官は上機嫌で料理をオーダーした。
「マーティン、いつ電話してもいないから心配したんだぞ。」
「音量を下げたのを忘れてただけですよ。」ダニーがちらっとマーティンを見た。
マーティンはダニーの視線に気づかないフリをしている。
「マローン捜査官の手を煩わせちゃだめじゃないか。」
「僕の心配は結構ですから。」思わず語気が強くなってしまった。
ダニーは思わず副長官を見た。ものっすごく気を悪くしてるがな・・・。
「副長官、ニューヨークまでのフライトはどうでした?」
「ああ、セキュリティの強化で待ち時間が増えたが、仕方がない。」
「そうですね、安全第一ですから。」ダニーはあれこれと話題を振った。
同じように生チョコのケーキを食べる副長官とマーティン。
ほとんど同時にパインナッツ・ビスコッティを追加した。
ダニーはふと寂しさを感じた。環境で好みも似てくるもんやろか・・・。
ジェラートを食べながら二人を見ていると、ボスと目が合った。
エスプレッソをすするボスは、疲れたような顔をしていた。
ボスも大変やなぁ、休日に副長官の付き添いなんて・・・。
食事が終わり、副長官を見送ると三人とも疲れがどっと出た。
「ダニー、家まで送ってくれ」「了解っす。マーティンも乗り」「僕はいいよ」「遠慮すんなや」
ダニーは強引に乗せると、ボスの家に向かった。ワシントンスクエアパークの近くだ。
「ダニー、ボスんち知ってるんだ?」「ああ、この前連れて行かれたから」
マーティンはダニーに嫉妬した。ボス、なんで僕は連れて行ってくれないんだよ・・・。
家に着くと、ボスは二人を招きいれた。マーティンも熱帯魚に引き寄せられる。
「ダニー、これ見て欲しくなったんだ?」「うん、ええよなぁ」子供のような二人。
「おい、今日は一段と疲れたな・・・私はもう限界だ、年かな。」
ボスは言いながらソファにひっくり返った。
「メシもどこに入ったかわからん。ダニー、水くれ」
ダニーはキッチンへ行くと、水とおしぼりを持ってきた。
「気が利くなぁ、お前は。」ボスは水を飲むと、おしぼりを顔にのせた。
「ボス、ベッドで横になったほうがいいっすよ。腰にきますから」
「そうだな、そうしよう。明日はゆっくり寝たいな」
「ほな、オレらは失礼しますわ。ゆっくり休んでください。」
二人はボスの家を後にした。
「お前はこれからどうするんや?」「ダニーは?」
「オレは家に帰るで」「じゃあ僕も一緒に」
「ほな帰ろか。ボスやないけど、オレも疲れたわ。親父さんに会うと体力消耗するわ」
ブルックリンに向かって走行中、ダニーの携帯が鳴った。
マーティンは思わず手を伸ばした。JPモルガン・チェース?
「ダニー、銀行からだよ」マーティンは携帯を渡そうとした。
「ええわ、今は話に集中できんから。」ダニーは携帯を横に置いた。
「ダニーもJPモルガン・チェースと取引してるんだね」「まあな」
言葉少なく答えながら、ダニーは内心焦っていた。
ニッキーの番号をJPモルガン・チェースで登録していた。
マーティンを盗み見たが感づいていないようだ。
だが、薄々気づき始めているかもしれへん・・・用心や用心。
ダニーは後ろめたさを隠すように、マーティンの手を自分の股間に近づけた。
無抵抗のまま手を置くマーティン。だが、内心は穏やかではなかった。
ダニーのアパートに着くと、携帯がまた鳴り出した。
「ダニー、出れば?緊急の用件かもしれないじゃん」
「ん、うん、そうやな・・・ちょっと席外すわ」
ダニーは仕事部屋に入っていった。
こんな時間に銀行が電話なんてしてくるもんか!
マーティンは電話の相手がニッキーだと確信した。
ダニーはすぐに戻ってきた。「何だったの?」
「ああ、小切手のことでちょっとな」「もう問題なし?」
「ん、心配ない。風呂入ろ。お湯溜めてくるわ」
ダニーがバスルームへ行った隙に、携帯を見てみた。
案の定、着信履歴は消されている。
ダニーの携帯をソファに投げつけると、そのまま出て行った。
マーティンは階段を駆け降りながら、涙を堪えていた。
目を擦った瞬間、バランスを崩し、一段踏み外してしまった。
「痛たたた・・」足首をひねったようだ。痛みと情けなさで涙が溢れた。
「くっそー・・・」マーティンはよろよろと立ち上がると、足を引きずりながら部屋に帰った。
階上では、ダニーがバタバタしている。
携帯が鳴っている。ダニーからだ。マーティンは意を決して出た。
「何だよ」「今どこにいてるん?」「そんなのどうでもいいよ」
「心配してるんや、部屋にいてないから・・・」
「もう着いた!」マーティンは電話を切った。
腹立ち紛れに何度も天井にボールをぶつけた。
また携帯が鳴っている。「今度は何?」「マーティン勘違いしてない?」
「だから何」「オレ何もしてないで、ほんまや・・・あーもうやかましいなっ」
「僕は何も言ってないよ」「ちゃうちゃう、下の奴がさっきからガタガタうるさいねん」
あっ僕のボールか・・・マーティンはさらに思いっきりぶつけた。
「ちょっと後で掛けなおすわ、文句言うてくるから」
「ダニー、待って!話の続きがしたい」マーティンは慌てて引き止めた。
「そうか?何で帰ったんや、わけがわからん」
「こんな時間に銀行から電話なんてありえないよ!」
「ほんまやって。小切手が不渡りやったんや、それで調べてもろてたんや」
「それで?」「行員の手違いやったってわかって、それで説明の電話くれたんや」
ダニーは必死に嘘の説明した。「そう、それならいいけど。ごめん」
「マーティン、最近おかしいで。疑いの塊みたいになってるやん」
「ん・・・わかったよ。ごめんね。もう寝るから」マーティンは電話を切った。
ベッドは買ったものの、布団がないのに気づいた。
マーティンは寝袋をすっほりと被ると丸まった。ボスの言うとおり犬の匂いがする。
挫いた左足がズキンと痛む。ダニーのことを考えると、眠れそうになかった。
ダニーの足音はバスルームから出て、ベッドルームへ入った。
今、この真上にダニーがいる。僕がここにいると知ったらどんな反応を示すだろうか・・・
月曜日、マーティンはいつものように6時に部屋を出た。まだ左足が少し痛む。
エレベーターを待っていると、誰かが階段を下りて来る音が聞こえた。
こんな時間に誰だろ?マーティンは訝りながらエレベーターに乗った。
「マーティン?!!」降りるといきなり背後から肩を叩かれ、マーティンはひっくり返りそうになった。
「あっダニー!」「どないしたん?こんな時間に。出勤前にわざわざ来たんか?」
「うん、でも・・」「オレ、走りに行くとこやったから行き違いになったんやわ。」
「そ、そうみたい」マーティンは適当に相槌を打った。
「いつもより早いね」「ああ、今日は早く目が覚めたんや。」
ダニーは言いながらキスした。「おはようのチューやで」
「じゃあ、僕もう行くよ。邪魔しちゃ悪いから」「ええって、一緒に行こう」
「足を怪我してるから、ラッシュはちょっと・・・」
「じゃあ車で行こう、今なら混んでないから」
ダニーはマーティンの手を強引に繋ぐと、エレベーターで部屋に戻った。
ダニーは手早く着替え、マーティンのブリーフケースを一緒に持つと、地下に降りた。
「ほな、行くでー」ダニーは楽しそうに出発した。
「足どうしたん?」「ちょっと捻っただけだよ、大したことない」
「そうか、それやったらええけど。今日は事件がないとええな。外回りはきついで。」
「ん、そうだね」早朝の道路は空いていて、この分だと早く着きそうだ。
ダニーは途中の朝食屋台でベーグルとマフィンを買った。
「ボンのマフィンはチョコでええやろ?」「うん・・・ありがと」
二人はオフィスに着くと、コーヒーを入れ朝食を食べ始めた。
まだ誰も来ていないのをいいことに、ダニーはマーティンの世話を甲斐甲斐しく焼いた。
無事に一日が終わり、ダニーはマーティンを乗せてデリに寄った。
「ここで待っててな」ダニーは言い残すと、イーライズ・マンハッタンに入った。
マーティンは待っている間、シートにもたれてぼんやり考え事をしていた。
コツンと窓を叩かれ、マーティンは顔を上げた。キュートな女の子が窓を叩いている。
「何か用?」マーティンは窓を開けた。「ダニーは?」「え・・・」「ダニーの車でしょ?」
「そうだけど、君は?」「私はニッキー、ダニーの彼女」
「かっ彼女?」素っ頓狂な声が漏れる。
「彼女は嘘だけどね。必死にアタックしてるとこなんだ♪」ニッキーは舌を出しながらニッコリした。
「ダニーとはどこで知り合ったの?」マーティンは平静を装った。
「楽器屋でね、彼がウクレレの弦を買いに来たの。それで一目ぼれしちゃったー」
「そう。それでダニーはなんて?ダニーもその気なの?」
「それがさー、電話では割と話すんだけど・・。
なかなか会ってくれないんだよね。私じゃダメなのかなぁ?」
「ダニーはもてるからなぁ・・・」「彼って超セクシーだもん、仕方ないっか」
ニッキーはケタケタ笑った。こんな軽い女、絶対ダメだ。誰でもいいくせに・・・・・。
ダニーが荷物を抱えて戻ってきた。「ごめんごめん、めっちゃ混んでてな、でも」
ニッキーに気づくと、ダニーは凍りついた。
「ニッキー・・・」「ダニー、久しぶり♪」「あっああ。オレ急ぐから、またな。」
ダニーは車に乗ると急いで車を出した。ニッキーが嬉しそうに手を振っているのが見える。
「マーティン、あの」「ダニーの彼女のニッキーだって」
「彼女?そんなんとちゃうで。ただの顔見知りや。」「いいよ、別に。弁解はいらない。」
「マーティン?」「超セクシーなダニーに一目ぼれしたんだってさ。娼婦より手軽だね。」
マーティンはそれっきり口をつぐんだ。
秋休みを早めて戻って参りました。
拙文ではありますが、本日よりまたご愛顧のほどお願い申し上げます。
>>503 さま
読んでいただいてありがとうございます。アランとジムとの関係について
大きく転換期を迎えるストーリーを用意しました。
お気に召しますかどうか・・・
マーティンがデリにランチを買いに出たところ、思いがけない人物に出くわした。ジムだ。
「マーティン、久しぶり!」「やぁ、ジム。」「オフィスってこの当たりなの?」
屈託なくジムが尋ねる。「あぁすぐそこだよ。」「見学させてもらってもいいかな?」
「別に構わないよ。来る?」マーティンに連れられてジムは支局の中に入った。
ジムの姿にダニーはぎょっとした。どうして奴がここにいるねん?
マーティンが中を案内している。あちゃ〜、あいつ、サービスしすぎや。
ジムがダニーに手を振っている。
サマンサが気付き「うぁー!カルバン・クラインのモデルがいる〜!」ときょう声を上げた。
ダニーが「そうなん?」と言いながらジムに近付く。
男3人が立ち話している姿は、女性局員の注目を集めた。
サマンサは「ダニーの友達、みんなグレード高いよね。どうしてだろ?」とため息をついた。
「へぇ〜ここがオフィスなんだ。意外と普通の会社みたいだね。」
ジムはきょろきょろとあたりを見回している。
「俺たちの仕事、地味やもん。ほな見学ツアー終わり〜。」
ダニーはなるべくジムの顔を見ないようにしてお引き取り願おうとした。
するとジムがダニーの二の腕をぎゅっと握り「ねえ、また踊りに行こうよ。約束だよ。」と微笑みながら言った。
マーティンが席に戻ってダニーに囁く。「いい奴だよね。気さくでさ。」「そやね。」
サマンサは気が気でない。「ねぇ、今のトロイの時のブラピみたいな人、二人の知り合い?」
「まぁな。」「今度紹介してよ!」「またかよ、サマンサ、自分で探す努力位せいよ。」
「いいじゃない、コネは最大限利用しなくっちゃ。」サマンサはウィンクした。
ヴィヴも「いつになったらウィル・スミス連れてきてくれるの?」とダニーを促す。
「今度な。」ダニーはヘラヘラ笑いながら、ジムが偶然通りかかったのではないと確信していた。
ジムはその後もちょくちょく支局に現れるようになった。
ダニーを尋ねて来るので、「ダニーの彼氏」というあだ名がついた。
いつも革ジャンにTシャツ、トレーナーにジーンズといったラフな服装だったが、
際立つ美しいルックスと均整の取れた体躯は、一目見れば誰もの心に焼きつく。
マーティンは心穏やかでない。気もそぞろで仕事でポカをやる事が多くなり、
ボスからお目玉を食らっていた。ダニーは気にせず淡々と仕事をこなしている。
マーティンはダニーのような度胸のよさが自分に備わっていない事で
劣等感を逆撫でされた思いだ。
ジムは誘いの内容をコーヒーからランチ、ランチからディナー、ディナーからクラブへとステップアップさせていた。
ダニーも男女誰もの目を引くアンドロギュノスを連れてNYのナイトライフを送る楽しみに快感を覚えていった。
一方、ダニーとジムの行動は逐一アランの耳に入っていた。私立探偵からの報告をほぞを噛む想いで聞いている。
アランは実感した。ジムの先日の伝言は本気なのだということを。
ある夜、ダニーはアランの家に寄っていた。市場でいいムール貝が手に入ったからと
バケツ一杯もある白ワイン蒸しを饗してくれた。
ガーリックトーストをつまみながら、シャブリプルミエクリュを飲む。
ダニーが慣れてしまったアランとの贅沢な日常。
「今日は泊まっていくかい?」「腹がふくれて動けへん。」「それじゃ決まりだ。」
アランは大理石のバスタブにお湯を張り、ユーカリのバスジェルを入れた。
「さぁ用意が出来たよ。」二人でバブルバスに浸かる事も日常と化していた。
アランが最近覚えたてのリフレクソロジーをダニーに試す。
これをやると決まってダニーは寝てしまう。
その寝顔見たさにアランはやっているようなものだったが、今日のアランは違った。
気持ち良さそうに転寝するダニーの足を引っ張り、お湯の中に引きずり込む。
「ごほっごほっ、なんやアラン!」「さぁベッドに移動する時間だよ。」
アランの心の中は嫉妬で熱く溶けた鉄のように泡立っている。
ダニーはこのところ穏やかなセックスを過ごすことが多いので、今晩も眠い目のままベッドに横たわる。
アランがピローの下にパープルパシュミナを敷いているのに気がつかない。
ダニーが完全に横になった瞬間、アランはパシュミナの両端を持ち上げる。
「うぐっ!アラン、な、何すん・・」ダニーがひるむ隙に身体をうつ伏せにし、
パシュミナを一回転させるとどんどん締め付ける。
「四つんばいだ、ダニー。」ダニーはのろのろとひざを立てる。
苦しみに反比例してダニーのペニスが段々固くなっていく。
「ダニー、すっかりこの遊びの喜び方を覚えたようだね。」
アランはパシュミナを片手に持ち替え、ダニーのペニスを前後に動かす。
ダニーはほどなく果てた。ダニーの精液をすくい取ると後ろに塗りたくる。
くちゃくちゃといやらしい音がダニーのアヌスの中から聞こえてくる。
「いくよ、ダニー。」アランは一気に挿入した。
悲鳴がダニーの喉から漏れる。「ひぃ〜、ア、アラン、苦しい!」
アヌスが一瞬激しく痙攣したのと同時にアランも果てた。
「ダニー、ジムと会っているだけだからこの程度だが、
寝たと分かったらこんなものじゃないからね。」
ダニーは涙をためてこらえるしかなかった。
「今日、俺、帰る。」かすれ声でそれだけ言うと、静かに着替えてアランのアパートを去った。
その後だ。ダニーが跡形もなくNYの闇に消えた。
マーティンは足を引きずりながら、アパートへ入った。
気まずそうに続くダニー・・・。
「なぁ、夕食食べるやろ?」「・・・・・」「おなか空いてるって言うてたやん」
ダニーはデリで買ってきたものをテーブルに置いた。
マーティンはジャケットをベッドに脱ぎ捨て、ネクタイも放り投げた。
ベッドに座り、黙々とシャツのボタンを外しながらため息をついた。
「マーティン・・・」ダニーはジャケットをハンガーにかけ、マーティンの横に座った。
「嫌な思いさせて悪かった。でもただの友達なんや。」
「もういいよ、銀行からって話も嘘だよね。僕はいつも騙されるんだ・・・」
「銀行はほんまやで。嘘やと思うんやったら電話してみろや!」
マーティンはダニーの携帯から、メモリ登録してあるJPモルガン・チェースに電話してみた。
「はい、お電話ありがとうございます。
JPモルガン・チェース銀行、ニューヨーク本店でございます。」
無機質なオペレーターが出た。慌てて電話を切り、ばつの悪そうな顔でダニーを見た。
「だから言うたやろ、今度はメリルリンチでも調べるんか?」
ダニーはマーティンから携帯を取り返した。
「ただの友達や。お前も友達と話したりすることぐらいあるやろ。」
「僕には友達なんていない。それにニッキーだってダニーと寝たがってたじゃないか!」
「いや、オレはニッキーのことそんな風に見てなかったから、全然気づかへんかった。」
「ダニーはそうでもニッキーは違うよ!どうせほいほい寝るんだろ!」
マーティンは脱いだシャツでダニーを叩いた。何度も何度も・・・。
ダニーは無抵抗のまま叩かれ続け、マーティンが叩くのをやめるのを待っていた。
マーティンを欺いた罰を受けるかのように、されるがままだった。
「ハァハァ、バカっ・・」マーティンは叩くのを止め、シャツをダニーにぶつけた。
「気が済んだか、マーティン」ダニーはシャツを適当にたたむとベッドに置いた。
「とりあえずメシにしよ。腹ペコで話し合いなんかしたってろくなことないんや」
ダニーはぐずるマーティンを抱えてリビングへ行った。
「座って待っとき、すぐやから」ダニーはグラスとお皿を取ってきた。
デリのカートンを次々と開き、お皿とフォークを渡した。
「さあ、どれでも好きなの食べ」そう言うとダニーはシーザーサラダを食べ始めた。
マーティンも空腹には勝てず、ポークチョップを取り分けるとがっついた。
さらにベーコンチーズバーガーにも手を伸ばす。
ダニーはクラブソーダを二本開け、グラスに注いだ。
食事が終わるころ、部屋の電話が鳴ったが、すぐに留守電に切り替わる。
「マーティン、今夜もいないのか。母さんも私も心配している・・」
マーティンは慌てて電話に出た。「父さん、マーティンです。」
「はい。今ですか?食事してるんですよ。いえ、大丈夫です。違いますよ。代わりましょうか?」
「ダニー、代われって言ってる。」マーティンが受話器を押さえて困ったように言った。
「はい、テイラーです。こんばんは、先日はご馳走様でした。ええ、捜査資料の件で。はい、そうです。」
ダニーは適当に話をでっち上げた。「はい、承知いたしました。失礼いたします。」
「フィッツジェラルド捜査官、副長官がお話があるそうです。」ダニーは電話を渡した。
「父さん、そのことは前にも話したでしょう。もう切りますよ、はい、おやすみなさい。」
マーティンは電話を切ると舌打ちした。
「何やったん?」「ん、見合いの話」「ああ、またか・・大変やなぁ」「うん・・・」
「オレにはお前のこと頼むってさ。それより、心配されるほど家空けてるんか?」
「ちっ違うよ、鬱陶しいから出ないだけさ。しつこいから・・・」
「ほなええけど。一瞬浮気疑うたで。」ダニーは笑いながらクラブソーダを飲んだ。
マーティンもぎこちなく笑った。ストーキングより浮気のほうがまだマシかも・・・。
「なっ、ご飯食べたら落ち着いて話できるやろ?」ダニーはニッコリした。
「まあね、少しは違うね」認めたくはなかったが、仕方がない。
「ニッキーってキュートだね。楽器屋でバイトしてるの?」
「いいや、楽器屋の娘。音楽の話とかするんや。」「ふーん・・・」
「誓って、彼女とかそんなんとちゃうで。ニッキーも言うてたやろ?」
「うん、でも・・」「でもも、しかしもないねんて。オレにはお前だけや」
ダニーは話を打ち切るように、マーティンの手を噛んだ。
「心配やったら全身にキスマークつけてもええで。見えるとこはあかんけど。」
マーティンはダニーの腕にキスマークをつけた。
「足が治ったら全身につけるからね!バカダニー」「おう、待ってるで」
ダニーもマーティンがつけたのと同じ場所にキスマークをつけた。
[NIP/TUCK]を見ているうちに、マーティンは眠ってしまった。
ダニーは起こさないようにブランケットを掛けるとアパートを出た。
ブルックリンに向かいながら、ニッキーに腹を立てていた。
ニッキー、なんちゅうおしゃべりな女や!寝てなくてよかった。
ベッドの中身までしゃべられてまう。あいつとはこれまでや!!
やっぱりオレには娼婦が性に合うてるんや。
ダニーはレキシントンの角でUターンすると、ブロンクスに向かった。
道路わきの娼婦を物色し、好みの女を探す。
ベテラン娼婦の奥で縮こまっている、不安そうな顔の女を見つけた。
ダニーは女を手招きした。「なんぼや?」「100」「高いなぁ・・ほなええわ」
ダニーが窓を閉めかけると「70」に値下がりした。「よし、決まり」
早速、裏のモーテルに連れ込んだ。「この商売はどれぐらい?」「一週間・・」
「そうなん、時間ないからフェラチオはええわ。」
ダニーはコンドームを二枚被せると、ローションを塗って挿入した。
大げさに喘ぐ女・・・ダニーは辟易した。
「悪いけど、感じたふりせんでええから。よくなくても黙っててくれや」
ダニーは適当に腰を振ると、あっけなく射精した。
久々の女の体なのに感動も快楽もなかった。
「よかったで。ほなこれ。」ダニーは金を渡すと足早に部屋を出た。
あーあ、しょうもなかったな・・・金、損したで。
ダニーは自分を罵りながらアパートに戻った。
戻るとマーティンからメッセージが入っていた。
朝まで寝といたらええのに・・・。ダニーはマーティンに電話した。
1コールもしないうちにマーティンが出た。
「マーティン、どうしたん?」「んーと、ダニーの声が聞きたくて」
「あほやなぁ、パジャマ着て寝ろよ。風邪ひくで。」「ん、ダニーもね」
「今日はキリンさんか?お前のパジャマは幼稚な柄ばっかりやから笑えるな」
「今度ダニーにもプレゼントするよ、お揃いのをさ。」「オレはええわ、そんなん」
「ダメだよ。じゃあ、おやすみ。」「ああ、おやすみ。また明日な」
ダニーは電話を切ると大きく息を吐いた。疲労がピークに達していた。
マーティンはダニーがつけたキスマークを見ながらにやけていた。
ベッドに入ると、キスマークの後をなぞるように自分でキスする。
せっかく着たパジャマの前をはだけ、ダニーがするように体を撫で回した。
ペニスが勃起するのを感じると、パンツを下ろしオナニーし始めた。
イキそうになった時、不意にNIP/TUCKのクリスチャン・トロイが脳裏に浮かんだ。
えっ、トロイ先生?と思うと同時にあっけなく射精し、呆然とした。いつもはダニーなのに・・・。
布団についた精液が冷たい。マーティンは冷たさを我慢しながら目を閉じた。
☆☆☆WARNING☆☆☆
本日の本編には、過激と思われる表現箇所がありますので、
ご留意の上、ご高覧されるかどうかご判断頂きたく
よろしくお願い申し上げます。
翌日、無断欠勤のダニーに連絡するようボスがマーティンに指示した。
自宅の電話は留守電、携帯は電源が入っていない。
もしやと思い、アランに電話する。アランも驚いて支局に駆けつけた。
参考人としてボスがアランから話を聞く。
「それでは、昨日の23時頃別れたわけですね。」
「はい、そのまま家に帰ると言っていました。」
ホワイトボードにダニー・テイラーの名前と写真が掲示された。
アランは胸騒ぎを覚えた。家に戻るやいなや、私立探偵に電話をする。
「この2週間、ジムが出向いた場所のリストを送ってくれ。」データは30分で届いた。
場所名で並び替えをしてみる。様々なスタジオ名が並ぶ中、
スタジオ・ナインス・ゲートだけ8回も行っている。
「ナインス・ゲート、確か、17世紀に書かれた悪魔書のタイトルだ。」
アランはすぐさま探偵に電話し、このスタジオの詳細と地図を送るよう頼んだ。
情報は1時間でアランの手元に届いた。
貸しスタジオでなく、ルシファー・クリエイティブという会社名義になっていた。
「ミート・マーケットエリア?あんな倉庫街にスタジオとは怪しい。
それに堕天使ルシファーの名前を使うとは、あいつの考えそうな事だ。」
アランは外へ出ると露店でNYヤンキースのキャップを買い、
目深に被って一番近いインターネットカフェに入る。
PCにアクセスし、運を天に任せ、FBIのダニーのアドレスにスタジオの情報を送った。
支局でダニーのPCを調査していたサマンサが「新着メールが来たわ!」と叫んだ。
「何これ!身代金要求じゃなくて、ただの地図じゃない?」
ボスが「とりあえずマーティンと現場へ向かう。
ヴィヴとサムはここで情報収集を続けてくれ。」と指示する。
その頃、スタジオ・ナインス・ゲートではフィルム撮影が行われていた。
主役はジムとダニーだ。ダニーは意識を失い、
全裸でベッドヘッドの両端に両手を皮ひもで縛り付けられていた。
ジムも全裸で、ダニーにホースで水をかける。
「うわ〜っ!」覚醒したダニーは恐怖で目を大きく見開いた。
目の前にメスを手にし、巨大なペニスを屹立させたジムが立っていた。
「ジム、何かの冗談やろ。」やっと声が出た。「ダニー、今までが冗談だったのさ。」
ジムは今まで見せたことのない残忍な微笑みを浮かべて話し続ける。
「昔々シカゴに二人の兄弟がいました。親を失い二人だけで育ちました。
大きくなり兄は警官に、弟はモデルになりました。ある時、兄は
FBIの人と出会います。兄はその人が自分の夢だった連邦政府の仕事を
世話してくれると思い、付き合いました。しかし裏切られ、
地方に飛ばされた挙句の果てに刑務所に入れられてしまったのです。
その頃、弟ははるかかなたヨーロッパにいました。兄の便りを受け取り、
復讐のためにアメリカに帰る決心をしました。
わかっただろ、俺、ピーター・バーンズの弟なんだよ。」
話はまだ続く。「ブロンドの元警官が刑務所でどんな目に遭わされるか、
想像つく?まさに人間トイレだよ。今日はその屈辱の半分でもダニーに
味わってもらいたいなぁ。」メスがきらめく。
拘束されたダニーの右手首にすぱっと一文字の傷がつき、血がどくどく流れ出した。
「さぁ、どの位持つのかなぁ。ダニーの血液。でもそれだけじゃつまらないから、僕と遊ぼうよ。」
そう言うと、何の準備もなされていないダニーの局部に巨大なペニスを一気に突っ込んだ。
「うわぁ〜!!」局部がめりめり裂けていく。ジムが腰を振るたびに手首から大量の血が流れ出る。
「ダニー、知ってる?スナッフ・フィルムって高い値が付くんだ。オランダで随分稼がせてもらったよ。
今日はその集大成の作品を撮ってるんだよ。主役に選ばれた事を光栄に思って欲しいね。」
腰を激しく動かしながらジムはまたメスを握る。
「さぁ、次は何がいい?その首についた赤い跡をまあるくなぞって大動脈切断?
それとも心臓メッタ刺しがいいかな?」
こいつは狂ってる。ダニーは恐怖で凍りついた頭を必死で働かせようとしていたが、
手首からの出血で意識が段々遠くなっていく。
メスをジムが振り上げたその時、一発の銃弾がジムの右耳を貫通した。
引きつった笑いを浮かべながらジムが振り向くと、そこには、跪いたマーティンがいた。
「止まれ!FBIだ!!」「これはこれは、マーティン。ようこそ。兄も喜んでくれるだろう。
それではフィニッシュだ。」メスをさらに振り上げるジム。
マーティンが二発目を放とうとした瞬間、ジムは自分の腹を真一文字に切り裂いた。
腹膜が破け、ジムの腸がダニーの身体の上に飛び散る。ダニーは完全に意識を失った。
ボスは携帯で「サム、救急隊を大至急だ!」と叫ぶとダニーのそばに近寄った。
「ダニー、死ぬんじゃないぞ!!」拘束を解き、皮ひもで切られた右手首の上部をきつく縛る。
マーティンは初めて人を撃ったショックとあまりの凄惨な光景にスタジオの隅で
胃の中の物を全て吐き出していた。駆けつけた救急隊員もジムの死体を見て呆然としている。
「早く搬送を!」ボスは隊員たちに向かって冷静に指示を出す。
ジムの死体と共にダニーは搬送された。
「ダニー、ダニー。」人の顔がおぼろげに見える。
「やあ、眠り姫、ご機嫌はどうだい?」「アラン、目がうさぎみたいや。」
「それが4日間意識がなかった挙句の第一声かい?」
ほとんど寝ずの看病のせいでアランの両目は眼底出血を起こしていた。
「ここどこ?」「僕のアパートだよ。トムにお願いしてERの処置の後、移送してもらったんだ。
手と局部の傷は順調に回復しているよ。」「ジムはどうした?」
「自殺したそうだ。その当たりの記憶は曖昧な方がいいね。」
インターフォンが鳴った。ボスだった。「ダニー、大丈夫か。まだ顔色が悪いな。」
「ボス、すんません。」「ダニー、マローン捜査官は命の恩人だよ。君の手首を
現場で止血してくれたんだから。」「えっ本当っすか。何といえばいいか・・」
「まぁ、お礼はこれからの事件の解決件数で返してもらおう。今日はこれを持って来た。」
ボスはブリーフケースからデータチップを5枚取り出した。
「ジムが撮影していた全データだ。コピーはない。」「でも、証拠品じゃないんすか?」
「お前にとっては公にはしたくない代物だろうからお前に渡すよ。」「ボス・・・」
「犯人は死んだんだ。支局内ではストーカーによる誘拐・殺人未遂事件で通っているからそのつもりで。」
「ありがとうございます。」
「でも何で俺の居場所が判ったんすか?」「匿名のメールがオフィスのお前のPCに届いてね。」
ボスはちらっとアランの顔を見る。アランは顔色一つ変えず「ほう。誰なんでしょう。」
「今、ネットカフェを突き止め、防犯カメラを解析中ですが、ヤンキースの帽子しか分からないようで。」
「それでは、NY市民の4分の1が怪しいわけですか。」アランは笑った。
「そうだ、ダニー、ピーター・バーンズが今朝、刑務所で自殺しているのが発見されたそうだ。
全く、お前はおかしな奴ばかりを惹き付ける引力があるのか。もうこれ以上優秀な部下を失う
心配はゴメンだ。」「ほんまに、いつもすんません。」
「それではそろそろ失礼するよ。ダニー、お前はドクター・ショアのような親代わりがいてラッキーな奴だな。」
「ええ。そう思います。」
ボスが帰るとダニーはアランに言った。「俺、ほんまに大馬鹿もんや。アランの言う事を
聞いていれば、こんなことにならへんかった。」
「いや、相手はサイコパスの快楽殺人犯だ。遅かれ早かれこういう事態を招いていたさ。」
その時、ダニーの目の前にメスを振り上げ狂気の微笑みを浮かべるジムが現れた。
フラッシュバック現象だ。ダニーの黒い瞳が大きく見開かれ、大粒の涙が流れ落ちる。
アランが思わずダニーを強く抱きしめた。
「アラン、お、俺、すごく怖かった。今度こそ終わりやと思った・・」
そこまで言うと嗚咽が号泣に変わった。
「泣いていいんだよ。出来るだけ一杯泣いて、治まったら、今日から心の治療を始めよう。
僕が必ず君を治すから。」ダニーは号泣しながら大きく頷いた。
事件から1ヶ月してダニーは職場復帰を果たした。「おかえり!」支局の皆が迎えてくれる。
歓声に手を振り、投げキッスを返す姿は、いつもの通りのダウンタウン・テイラーだった。
「マーティン!」ダニーはマーティンを呼び止めた。「ありがとな。お前がジムを撃ったんやて?」
「ああ・・・」「でも何で耳やったん?」「それは・・・」サマンサが代弁した。
「どうやら腕を狙ったらしいわよ。」「僕、SWATじゃないから・・」マーティンは顔を紅くした。
「俺に当たらんかったのは奇跡ってこっちゃな。」ダニーはやれやれと席についた。
「あ〜痒い〜、もうあかん、痒くて死にそうや」ダニーは陰部をぼりぼり掻いた。
激しい痒みでじっとしていられない。引っこ抜いた陰毛を見て凍りついた。
カニのような小さな虫が陰毛にくっついている。
「ひゃあっ、む、虫やー」ダニーはバスルームに駆け込むと陰毛をチェックした。
「何やこれは!」次々と陰毛を抜くと、カニのような虫と小さな粒々がくっついていた。
抜いても抜いても虫と粒はくっついている。ダニーは急いで陰毛を剃った。
虫とは離れられたものの、強烈な痒みは治まらない。
掻き毟りながら病院に行こうか迷っていた。
ダニーはネットで検索し、原因が毛虱だと突き止めた。
薬の種類を確認し、着替えると薬局へ駆け込んだ。
うわっ、薬剤師がべっぴんや!恥ずかしいわ・・・。
「あの、クロタミトン軟膏のステロイドが入ってないのを下さい。
それと、ピレステロイド系のフェノトリンも・・・」
「クロタミトン軟膏はありますが、フェノトリンはないですね。」
「あー・・それやったら軟膏だけでいいっす・・」
ダニーは軟膏を買うと、アパートへ急いだ。
部屋に入るなり、服を脱ぎ捨てると軟膏を擦り込んだ。
ほんの少しかゆみが治まった気がする。
潜伏期間から考えて、あの娼婦や、あいつや・・・地団駄を踏んでももう遅い。
痒みの鎮まりと同時に、マーティンのことが気になってきた。
こんなツルツルの状態見せられへん、どうしよ・・・・・。
毛虱やなんて、あいつに浮気したんがばれてしまう・・・。
ダニーは頭を抱えた。
マーティンは階下の部屋で騒々しい天井を見上げていた。
ダニー、何やってるのかな?さっき出掛けたのにすぐに帰って来たし。
マーティンは電話してみた。
「ダニー、僕だよ。忙しい?」「いいや、いけるで」
「あのさー、今から行ってもいい?」
「えっ、今から・・オレ大掃除してるんや。始めたばっかりやから、相手できひんで」
「じゃあいいよ、邪魔になっちゃうもんね。また明日。」「ん、ごめんな」
大掃除かぁ、僕もそろそろやらなきゃね。もうボスに頼めないんだから。
マーティンは納得すると、自分も洗濯を始めた。
あぁー危なかったー・・・ダニーはまだドキドキしている胸を押さえた。
鏡に映った自分の下半身を凝視しながら、自分の間抜けさに呆れていた。
どうしよう、ほんまに困った・・・考えても考えてもごまかす方法なんて思い浮かばない。
ダニーは諦めてバスルームを掃除し、最後に消毒をした。
チン毛が生え揃うのにどれくらいかかるんやろ・・・。ダニーには見当もつかなかった。
仕事中も痒みは容赦なく襲ってくる。無意識に掻きそうになるのを必死で堪えていた。
「ダニー、おなかでも壊したの?」何度もトイレに行くダニーにマーティンが尋ねた。
「そうなんや、ヘンなもん食ったんかなぁ?」「僕の薬、あげようか?」
「いや、もう飲んだんや。サンキュな」
「病院行きたくなったら言ってね。付き添うからさ。」
心配そうに見つめるマーティンの気遣いが心苦しかった。
午後からもダニーのトイレ通いは続いていた。
「ダニー、ちょっといい?」人目をはばかりながらマーティンが寄って来た。
「今日は僕のアパートに泊まりなよ。ブルックリンまで帰るの疲れるじゃん。」
「え、ああ、うん。もうちょっと状態見てみるわ。薬飲んだとこやし・・」
「わかった。遠慮なんてしなくてもいいんだからね。」
マーティンは自分のデスクに戻ったものの、ダニーが気になっていた。
一週間もすると、痒みは治まった。あとは生え揃うのを待つだけだ。
伸びかけの陰毛はチクチクして、痛いようなくすぐったさだ。
「ダニー、今日行ってもいい?」「ああ、ええで。メシでも食おか」
マーティンをごまかすのも限界だった。部屋に呼ばないことで怪しまれている。
ダニーは今夜のことが気になり、ミスを連発していた。
「ダニー、私のオフィスに来い」とうとうボスに呼ばれてしまった。
「今日はどうしたんだ、おかしいぞ」「すみません」
「もっと集中しろ!!戻ってやり直しだ!」「はい、ボス」
ダニーは部屋を出て行きかけてひらめいた。
「ボス、ちょっといいですか。」「何だ?」
「この前のテープありますよね?あれを削除する代わりにお願いがあるんですわ。」
「あれなら私が消してイーブンだろ?」「いえ、まだコピーが手元に・・」
「はったりじゃないのか、ダニー?」疑わしそうにダニーを見つめる。
「それならもういいっす。失礼します。」ダニーはさっさと後ろを向いた。
「おい、待てっ」ボスは慌ててダニーを呼び止めた。
「信じてもらえたようっすね。いいですか、オレのチン毛を剃ったことにしてほしいんです。」
「え、何だって!」「ですからツルツルに剃ったのはボスということに・・」
ボスは笑い出した。笑いすぎで息が上がって苦しんでいる。
「ボス、お願いできますか?笑ってないで答えてください。」
「ああ、わかった。でもなぜだ?どうしてそんな・・」ボスはさらに笑い続けた。
「毛虱がうつったんですよ。」「マーティンから?」「まさかっ!娼婦からっす・・・」
「わかった、マーティンには私が剃ったと言え。テープは処分しろよ。
もしもまた、あのテープの話を持ち出したら浮気の話をヤツに話す、いいな?」
「了解っす」ダニーは意気揚々とボスのオフィスを出た。
マーティンは約束の時間にダニーの部屋に行った。
「ダニー、ただいま」「ああ、おかえり。ん、何やその荷物?」
マーティンの重そうな紙袋を覗き込んだ。「またいらんもん持ってきたんか?やめてくれよ」
「違うよ。ちょっとこれ着てみて」マーティンはTシャツを手渡した。
「何で?」「いいから、早く」ダニーが着てみるとサイズがぴったり合った。
「これ僕のなんだけど、乾燥機に入れたらみんな縮んじゃってさ、よかったらと思って」
「じゃあもらうわ。お前が洗濯?なんでやねん!」「何となくね」
「温度調節したか?」「何それ?」マーティンはきょとんとした。
「あちゃー・・そんなんでよう乾燥機使うなぁ。服は絶対に低温やで。タオルは高温でもええねん」
「へぇー、そうか。トランクスもダメにしたんだよ。それはさすがに嫌がると思ってさ」
「トランクスなぁ・・・んーと、一応置いとけ」ダニーは気を遣って言った。
食事が終わり、しばらくくつろいだ後、ダニーの恐れていたバスタイムになった。
「ダニー、早く入ろうよ」「う、うん。」ダニーはトランクスを脱ぐと手で覆いながら入った。
「どうかしたの?」「いや、別に・・・」「何?ん、何だよこれ!!!」
生えかけのまだらな陰毛を見て、マーティンは目を剥いた。
「ダニー説明してよ!」「実はな・・ボスにやられたんや・・」
「ボスが!どうして?」「この前の仕返しやて・・」
「約束のテープがあるのに?」「あれも取られてしもたんや・・・」
「えー!なんで?僕もやられちゃうのかな?」「それはわからん・・・」
次は僕かも・・・マーティンは頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
「ダニーが僕を呼んでくれなかったのはこれのせいだったんだね。
疑って悪かったよ。また浮気してるかもって先走っちゃったから。」
マーティンのあどけない笑顔に、ダニーは胸が痛んだ。
「オレももっと早く言えばよかったんや、ごめんな」
「ダニィ」マーティンは甘えて体を寄せた。
複雑な心境で髪をくしゃっとするダニーだった。
586 :
fusianasan:2005/10/08(土) 02:53:25
書き手1さんのストーリーも書き手2さんのストーリーも最高です。
毎晩ハラハラドキドキしながら読ませてもらってますww
これからもがんがってください。
>>586 さん
読んでいただいてありがとうございます。
お言葉通り、これからもがんがりますので
よろしくご高覧くださいませ。
サマンサが幹事になり、チームでダニーの復帰祝いのディナーを催すことになった。
ダニーが驚いた事に、ボスがアランを招待したいと言っているらしい。
「お前がこれだけ早く復帰出来たのも彼のお陰だろう。ぜひ呼んでくれ。」
「いいんすか?」「皆も違う分野の人の話を聞く事は刺激になるだろうからな。」
リトルイタリーのトラットリア「グロッタ・アズラ」に集合する。
スプマンテでまず乾杯することになり、乾杯のスピーチをボスはアランにお願いした。
一瞬とまどいの表情を見せたが、アランは立ち上がり、良く通る声でこう始めた。
「家族とは決して血のつながりだけを意味するのではありません。
ここにお集まりの皆さんはダニーをずっと支えてこられた家族そのものであります。
私も不幸な出来事からダニーと出会いましたが、信頼と友情を堅固なものにしてきました。
今では僕の弟と言えましょう。・・・」よどみない言葉でスピーチを見事に締め、乾杯する。
皆から拍手が起こる。ダニーも心から誇らしげな表情をしていた。
マーティンは落ち込むばかりだった。
今回の事件をきっかけに、チームにまで存在感を示すアラン。
こんな立派な人と張り合うなんて出来ないよ。
ディナーが始まった後も、アランが面白おかしく「ヘンな患者シリーズ」を披露し、皆を笑わせる。
サマンサなど笑いすぎて涙でマスカラを流していた。
気持ちがふさいだマーティンは一人でピザとパスタをぱくぱくたいらげ、スプマンテをがぶ飲みする。
気がついたダニーがテーブルの向こう側から目で合図しているが、
酔っ払い始めたマーティンには分からない。
「ワイン頼みましょう!」
マーティンはウェイターにソアヴェ・クラシコとスーパー・トスカーナを頼んでいる。
ボスがアランに「貴方ならわが支局にプロファイラーとしてお迎えしたい位です。」と話している。
「いえ、僕、犯罪心理学は専門外でして・・」とアランは静かに辞退した。
突然、マーティンが立ち上がり、アランにからんだ。
「血のつながった肉親と冷めた関係しか結べない奴は欠陥人間なんでしょうか〜、先生!」
さすがに座はしーんと白け、沈黙の時が流れた。
ダニーがウェイターに水を注文し、マーティンをトイレに連れて行く。
「マーティン、お前おかしいぞ!どうしたんや!」ダニーに叱られて泣き始めるマーティン。
だめや、こいつ完全酔っ払いや。マーティンにハンカチを渡し、トイレに残してダニーは席に戻った。
「マーティン、大トラ状態ですわ。今晩は俺が連れて帰ります。」
「ドクター・ショア、失態をお見せしてすみません。」ボスが謝罪する。
「いや〜、実に人間的でいいじゃないですか!」アランが笑い飛ばしてくれたお蔭で、その場は保たれた。
ダニーはトイレに戻り、めそめそしているマーティンの涙を拭いてやった。
「形だけでもええから、アランに謝れよ。」「やだよ!」
「じゃ、ここにいろ。とりあえず散会してくるから。」
席に戻ると、気を利かせたボスが皆を出口に連れ出していた。
アランを見るとダニーにピースサインを出して去っていく。
サマンサが「マーティン大丈夫?」と心配そうに聞く。
「あぁ、こうなったら水かけてでも連れて帰るから、心配無用や。」
ヴィヴ、ボスも三々五々去って行った。
ダニーはトイレに戻ると、だらしなく床に座り込むマーティンがいた。
「マーティン、起きるんや!帰るで!」両頬ビンタでやっと目を覚ました。
「家帰るぞ〜!!」「はいはい。ほな家帰ろうな。」
抱き起こし立ち上がらせると、肩を貸して歩く。
店の人にタクシーを呼んでもらい、アッパーイーストへ向かう。
タクシーを降りてへたり込むマーティンをドアマンのジョンが助け起こす。
「こらダニー!アランはどこへ行った〜!!話つけてやるぞ〜!!」
「もうお前しゃべるな!ジョン、おやすみ。」「おやすみなさいませ。テイラー様。」
部屋へ着くやいなや、マーティンが気持ちが悪いと言い出した。
急いでジャケットを脱がせ、ネクタイを取ると、トイレに押し込める。
「一人で吐けるか?」中から吐いている音がする。
ダニーは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、トイレのドアを少し開け差し入れた。
これで、30分は出てこんやろ。バスタブにお湯を張り、自分もクラブソーダを飲む。
「ダニィ・・」トイレからかすれ声がする。「終わったか?」「終わった。」
「水飲んで出て来い。」「分かった。」怒られるのを待つ子供のような表情で
マーティンは出て来た。「風呂行けるか?」「うん。」のろのろと服を脱ぐ。
幸い、服は汚れていなかった。「汗かいてアルコール抜け。」「うん。」
さっきの喧騒がうそのように従順なのがかえって怖い。「一緒に入ろうか?」「いい。」
20分ほど湯につからせ、バスローブを着せると、マーティンは一人でベッドルームに向かった。
「今日泊まろうか、マーティン?」「いい。」
マーティンはダニーに背を向け丸くなって寝てしまった。
やれやれ、アランに謝らないとあかんなぁ。
アランに電話すると「待ってたよ。おいで。」という答え。
ダニーは布団の中で静かに泣いているマーティンを残し、
アッパーウェストサイドへとタクシーを飛ばした。
マーティンはブルックリンのアパートで夕食を食べていた。
ダニーも足音から予想するに、食事中のようだ。
カリフォルニアロールを食べながら、上の様子を聞いていた。
不意に携帯が鳴った。ボスからだ。
「はい、何ですか?」ダニーの剃毛事件以来、ボスを恐れていた。
「今、アパートの下にいる。開けろ」「どっちのですか」「11階!」
マーティンは渋々ロックを解除した。
「どうぞ」マーティンが言うまでもなく室内に入るボス。
「食事中か、それは悪かったな」「いえ。もうすぐ終わりますから。食べます?」
「いや、結構。ゆっくり食べろ」ボスは部屋を点検するかのように見回った。
「これか、新しいベッドは。いいじゃないか。」ボスはベッドに寝転んだ。
マーティンは急いで食べ終わると、ベッドルームへ行った。
「ボス、今日はどんな用件で?」「この上でダニーと寝たか?」
「そんなわけないでしょう、僕がここにいるのは内緒なんだから」
「まだ誰ともか・・・するか?」「やだ!嫌ですよ、そんなの・・」
「ダニー!!!」ボスはいきなり大声で、ダニーの名前を叫んだ。
「ちょ、ちょっボ、ボス!」マーティンは慌ててボスの口を塞いだ。
「何てことするんですか!ダニーが気づいちゃう」マーティンは慌てふためいた。
「くくっ、あっはっはー、お前はかわいいなぁ」
ボスはマーティンの手首をつかむと体を入れ替えた。
「お前の困った顔は私を欲情させるんだよ、マーティン」
「もしかして僕と寝るために来たの?」「さあな、どっちだろうな?」
「今日は嫌だ」「じゃあ明日ならいいのか?」「明日も嫌だ!」
マーティンはますます困ってしまった。
「ボス、まさか僕の、その、あそこの毛は剃らないよね?」
「あぁ、ダニーか。くくくっ、面白そうだがなぁ・・」「絶対やめてよ、恥ずかしいよ」
「お前のパイパンは映えそうだな、よし剃ろう」ボスは夢見るような目つきをしている。
「嫌だ、やめてよ」マーティンは逃れようと必死でもがいた。
「もう一度ダニーって叫んでもいいのか?」「それは、それだけは・・・」
「じゃあ、バスルームへ行け」ボスの命令に、マーティンは嫌々ながら従った。
服を脱がされ、シェービングクリームをたっぷり塗られた。
「ボス、本気なの?冗談ならもうやめて」「じっとしてないと切っちまう。動くなよ」
ボスはマーティンのペニスを持ち上げると、丁寧に陰毛を剃った。
「・・・ひっ・・・っく」マーティンのすすり泣きがバスルームにこだまする。
「さあ、見てみろ!子供のマーティン君になったぞ」ボスは満足そうだ。
マーティンは恐る恐るペニスを見た。つるつるで、子供の体のようだ。
ボスはマーティンと一緒にシャワーを浴びた。
「ダニーよりマーティンのほうが似合うな、どうだ?」「もう出たい・・・」
「よし、出たら服に着替えろ。出かけるぞ」
マーティンは泣きながら体を拭いた。
ボスも上がると服を着替え、携帯を取り出した。
「ダニーか、今から五分後に行くから。そう、緊急事態だ!」
ボスはマーティンを連れて、一旦アパートの外に出た。
ダニーの部屋のインターフォンを押す。すぐにダニーが出た。
12階まで上がると、ダニーがドアを開けて待っていた。
「ボス、あれっマーティンも?!!」ボスはマーティンを引っ張るように部屋に入れた。
「ボス、緊急事態って?事件ですの?」「マーティン、パンツを下ろせ!早く!!」
マーティンはぐすぐずとパンツを下ろしたが、すぐに手で股間を覆う。
「手を退けろ!」マーティンが手を退けると、白いつるつるの股間が現れた。
「ボス!まさかっ・・・」「さぁ、今度はダニー君の番だ。バスルームへ行け」
「えっ、せっかく生えてきたのに・・そんな」「うるさいぞー、ダニー」
ボスは有無を言わさずダニーをバスルームに連れて行った。
同じようにダニーの陰毛も剃ってしまった。
ボスはダニーとマーティンを並べ、ペニスを観賞した。
ダニーはマーティンのうつむいた顔をまともに見られない。
「ダニー君もマーティン君もベッドに行こうか」ボスは二人の背中を押した。
ベッドの上に仰向けに寝かせると、ボスはペニスを弄んだ。
マーティンのペニスは否応なしに反応している。
「ダニー、どうした?恥ずかしいのか?」「いえ・・・」
ボスはマーティンを四つんばいにすると、アナルを弄り始めた。
「ぁぁ・・く・あ・ん」マーティンの喘ぎ声が漏れる。
ボスはペニスを取り出した。「ダニー、咥えろ」ダニーは嫌々口に含んだ。
ダニーの頭を抑えると、ボスは奥まで入れて奉仕させた。
ボスの興奮は最高潮に達している。ペニスを抜くと、マーティンのアナルに挿入した。
「ぁん・・ああ・・」「ダニー、フェラチオさせろ!」ダニーはマーティンに咥えさせた。
「んっ・・くっ・」ボスに突かれるたびにマーティンは唸り声を上げる。
いつしかダニーのペニスも勃起していた。
ボスは挿入したまま、マーティンの体を横向きに寝かせ、片足をあげさせた。
ダニーにはボスのペニスの動きが丸見えだ。見せつけるように腰を振るボス。
ボスが激しく動いた瞬間、マーティンのペニスから精液が飛んだ。
ダニーも見とれて思わず射精した。いきなりの射精に咽るマーティン・・・。
「うっ・・イク・・」ボスはさらに数回嬲ると中出しした。
マーティンの体は全身精液にまみれている。部屋に精液の匂いがたちこめた。
三人はベッドに横たわった。ダニーはマーティンの手をそっと握った。
「マーティンからシャワーを浴びて来い」ボスが命じた。
ダニーがバスルームに行くと、マーティンがしくしく泣いていた。
「マーティン・・大丈夫か?」「ん・・へーき・・っ・・っ」
強がるマーティンを抱き寄せてキスした。
「まぁな、お揃いやから恥ずかしがることないな。ほれ、見てみ」
「ん、そうだね」マーティンはくすっと笑った。
マーティンと入れ替わりにボスが体を洗った。
「ボス、なんであいつまで?」「理由?そんなの自分で調べろ!」
ボスはさっと流すと出てしまった。ダニーは意味がよくわからずにいた。
「マーティン、帰るぞ」「僕も?」「早くしろ!」「はい・・・ダニィまたね」
ダニーは二人を玄関まで見送った。
マーティンは、ボスが先に出ると素早くキスして出て行った。
ダニーは剃り跡を指でなぞった。
はぁーあ、せっかくチン毛生えたのにまたツルツルかぁ・・・。
落胆しながらキッチンへ行き、アイスクリームを取り出した。
ボスは再びマーティンの部屋にいた。
「マーティン、もう拗ねるな」「だって、こんなのひどい・・」
「かわいいじゃないか。よく似合うぞ」ボスはマーティンの横に寝転がった。
「今夜はここに泊まるからな」勝手に宣言するとクローゼットを開けた。
「ボスに合うようなサイズのはないよ」マーティンはぶすっとして言った。
「もっと片付けろよ、ごちゃごちゃじゃないか」
「ダニーみたいなこと言わないで。どこにあるかちゃんとわかってるんだから」
「やれやれ、お前はまったく」ボスはTシャツとトランクスだけでベッドに入った。
「ボス、僕の歯ブラシ使わないでよ」「誰が使うか、そんなもん!」
ボスは寝袋を被り、犬がどうのとぶつくさ言うと寝てしまった。
マーティンはベランダに出るとデッキチェアに寝そべった。
ダニーの部屋は静まり返っている。
もう寝たのかな、今夜はダニーのとこに泊まりたかったな・・・。
涙でマンハッタンの夜景がぼやけていた。
マーティンはいつまでも佇んでいた。
ダニーは朝6時に目が覚めた。アランは隣りで規則的な寝息をたてている。
マーティン、どないしてるやろ。ダニーはアランを起こさないようにそっとベッドから
出ると、素早く着替えた。新聞を取り、ポストイットに「また電話する。D」と書いて貼り、
ベッドサイドテーブルに置いた。
アッパーイーストサイドにタクシー移動し、合鍵でマーティンのアパートに入る。
マーティンは昨晩別れた時と同じ姿勢で、まるまったまま寝ていた。ダニーは服を脱ぐと
マーティンの隣りに横になる。「うぅん、ダニー。」ダニーの心臓が止まりそうになる。
寝言か、ぼんは夢見てるんやな。後ろから手を回し、マーティンの身体をそっと抱きしめる。
こいつ、俺がいなくなるとダメなんやろなあ。どっちつかずの俺が苦しめてるんやなあ。
考え事をしていると、マーティンが寝返りを打った。その拍子に二人の鼻が当たる。
「あいたたた!」「あっダニィ・・・」「おはよう!具合どうや。」「どうしてここにいるの?」
「お前が心配やったから戻ってきたわ。」「・・昨日はごめんね。なんか迷惑かけちゃって。」
「俺より今日出勤したらチームに謝りや。」「うん、そうだよね。」「そろそろシャワーしよか。」
「うん。」うれしそうにベッドから出るマーティン。
ダニーの手を引いてシャワーブースに向かう。お互いの身体を洗い合っている間、
マーティンはダニーの唇を求めて何度もキスをする。「おい、身体が洗えないやないか。」
「だってぇ、久しぶりだもん。」確かに事件以来、ダニーはずっとアランの家で療養していた。
「仕事に遅れるで、さ、出よ。」ダニーはぐずるマーティンを抱えてシャワーブースから出て、
タオルで身体を拭いてやると、お尻をたたいた。「ほら、着替えて!」「うん!」
何をされてもうれしそうなマーティンの姿が切なくなった。
二人でアパートを後にする。ダニーがスタバで時間をつぶし、時差出勤をした。
マーティンがボスの部屋で謝っているのが見える。ボスが何事か言っている。
戻ってくると、ばつの悪そうな顔でヴィヴィアンとサマンサにも謝っている。
ヴィヴィアンが「ドクター・ショアにも謝らないとだめだよ。」と釘を刺した。
「はい、そうします。」これが一番やっかいねんな。ダニーはまた問題を抱えてため息をついた。
ダニーの携帯が鳴る。アランからだった。「ハニー、何かあったのかい?」
「いや、早起きしたから一旦家に戻った。」嘘をつく。
「それならいいんだが・・またフラッシュバックかと思ってね。取り越し苦労だったか。
じゃあ、愛してるよ。」愛してるよ・・・この言葉がこれほど重たいとは、今までのダニーは知らなかった。
気がつくとダニーの傍らにマーティンが立っていた。「アランでしょ。」「まぁな。」
「もし良ければ、今晩謝罪させてくれないかな。」「お前・・」「うん、今の素直な気持ち。」
「分かった。連絡しとくわ。」「ありがと。」
アランが自宅で夕食を用意してくれることになった。マーティンがD&Dでワインを入念に選んでいる。
「あった、オーパス・ワンだ!」ワイン1本に200ドル払うマーティンを見ていて、
ダニーは「あっち側の人間とこっち側の人間」の境界線を感じていた。
マーティンとアランはあっち側、自分は誰と付き合おうがこっち側でい続けるのだろう。
「さ、行こう。」マーティンは意を決したような様子だ。
ダニーは合鍵を使わず、インターフォンでアランを呼び出し、玄関を開けてもらう。
アランのアパートに着くと、中からいい香りが漂ってくる。
「ようこそ。二人とも疲れただろう。さぁジャケットを脱いでくつろいで。」
マーティンがワインを渡しながら、「アラン、昨日は本当に失礼なまねをしてごめんなさい。」と謝罪した。
「僕は過去を振り返らない主義だが、その言葉は粛々と受け止めるよ。」
ダニーはそんな二人を見て、ほっとした。とりあえず第一関門通過だ。
「今日はラムチョップとミモザサラダだけれどいいかな?」「お腹ぺこぺこや。早よ食おう!」
早速アランはオーパス・ワンを空け、イータラのグラスに注いでいる。「うれしいねぇ。モンダヴィの最高傑作だ。」
食卓には、ガーリックトースト、チーズ、マッシュポテトなども賑々しく並んでいた。
マーティンが目を輝かせる。「まずは乾杯やね。」「それでは友情に!」「友情に!」
3人はグラスを重ねる。アランのラムチョップはジューシーで最高の焼き具合で、
マーティンは5本をぺろっと平らげた。「お前よく食うなぁ。」
「健啖家と食事すると気持ちがいいね。」アランも驚いている。
食事が終わり、アランは葉巻をくゆらせながらブランデーを始めた。
ダニーはスタンウェイで適当にイーグルスのデスペラードやコールドプレイのクロックスを弾いている。
マーティンは所在なげにソファーに座っていた。これが二人の時間の過ごし方なんだなぁ。
なんて二人とも大人なんだろう。僕なんかいつもダニーにまとわりついてるよ。
マーティンは「今日、遣り残した仕事があるのでそろそろ失礼するね。」と嘘をついた。
「そんなの明日やればいいやん。」
そう言うダニーを振り切るようにマーティンはアランのアパートを後にした。
ここで落ち込んだら、昨日の繰り返しだ。僕もダニーの邪魔にならないような人間にならなくちゃ。
マーティンは気持ちを新たにして、アッパーイーストサイドへ向かった。
どれぐらい時間が立ったのか、体がすっかり冷え切っていた。
マーティンはバスタブに熱めの湯を溜めると、ゆっくり浸かった。
下半身はなるべく見ないようにするが、どうしても見てしまう。
ふと天井を見上げ、ダニーのことを考えていた。
また慰み者に逆戻りか・・・早速、剃毛とは参ったなぁ。
この後も横に寝るのが怖いよ。よし、ボスよりも早く起きよう!
ボスを起こさないようにパジャマを着ると、ベッドの端に座った。
布団代わりの寝袋はボスがしっかり体に巻きつけている。
どうしよう、もう被るものがない・・・。
マーティンはありったけのバスタオルを被り、ボスの横に横たわった。
「うぅーん・・」ボスの寝言にビクビクする。マーティンは身を縮めるようにして眠った。
朝の五時半、マーティンはいつものように目覚ましの音で起きた。
「ボス、起きて。朝ですよ。」体を揺すり、ボスを起こす。
「何時だ?」「五時半ですよ、早く起きて」「バカ・・・まだ早いだろ」
「僕は六時には出ないと。ラッシュが苦手だから。ボスだって道路が混むんじゃないの?」
マーティンは着替えながら起こし続けた。
「ふぁーあ、うるさいヤツだ。鍵を置いていけ」「ダメですよ、さあ急いで!」
ボスは嫌々起き上がったが、うつらうつらしている。
「ほら、もうあと20分しかない。早くして!」
マーティンは髭剃りと歯磨きを済ませ、ネクタイをした。
「ボスだって家に帰って着替えないとダメじゃないですか・・もうっ!」
マーティンは身支度を済ませると、脱ぎ散らかしているボスの服を目の前に置いた。
「ん・・わかった、わかった。コーヒーくれ」ボスは、やっとシャツに手を通しはじめた。
「そんなものありませんよ。途中で買わないとないんです」マーティンはイライラしてきた。
「なんか犬臭い・・・シャワー浴びたい」「えっ?そんなの自分ちでしてよ!!」
マーティンの足は高速の貧乏ゆすり状態だ。あと5分で家を出なければならない。
「急いで、それにダニーがジョギングに行くかもしれないから注意して。」
なんとかボスを部屋から引っ張り出し、エレベーターを待っていた。
今日は誰も乗っていない。階段も静かだ。
マーティンは辺りを窺うと、ボスを連れてアパートを出た。
ボスは車に乗るとやっと目が覚めたようだ。「途中まで乗ってくか?」
「いいえ、どうせ地下鉄に乗らなきゃならないから。じゃ、お気をつけて。」
マーティンは腕時計を見ると、地下鉄の駅まで急いだ。
支局の近くで朝食を買い、デスクで食べていた。
朝のゴタゴタですでに疲れていた。ドーナツを食べ、ため息をつく。
残りをコーヒーで流し込むと、もう一度、歯を磨きに行った。
まだ誰も来ていない。マーティンはデスクに突っ伏すと眠ってしまった。
「マーティン、朝でちゅよ。はーい、起きてー」「ぅん・・マム?」
「マム?だってー!マーティンかわいい。マムじゃなくってサムよ」
「サム?あっ!」マーティンはがばっと顔を上げた。
「仕事始まるわよ。ほらほら、ほっぺにボタンの型がついてる」
みんなに笑われ、マーティンはうつむいた。あー、恥ずかしい・・・。
ミーティングが始まり、マーティンはボスを観察した。
いつもとまったく同じの、眼光鋭いボスがいた。
ダニーも見解を述べている。それに的確に答えるボス。
さっきと全然違う。今朝のことが夢だったように思われるほどだ。
ダニーもボスもすごいなぁ、マーティンは感心するばかりだった。
マーティンは帰りにブルーミングデールズに寄り、布団とシーツを買った。
ブルックリンへの配送を頼み、久しぶりに自分のアパートへ帰った。
いつもどおりの清潔さが、なんだか落ち着かない。
冷蔵庫からコーラを出し、ダニーの作り置きのグラタンを温める間飲んでいた。
冷蔵庫も買おうかな、マーティンは迷っていた。
テーブルで食事するのも、考えてみれば久しぶりだった。
ブルックリンのアパートにはテーブルなんてない。家具はベッドだけだ。
マーティンはふとリビングに置いてある、パントンのファントムチェアに目をやった。
これならテーブルにも椅子にもなる!確か何通りにもなるんだったっけ。
マーティンは持って行くことに決めたが、ダニーに頼むわけにもいかない。
UPSを呼ぼうかとも思ったが、今すぐ持って行きたかった。
マーティンはボスに電話した。「ボス、1mぐらいの荷物って車に乗せられますか?」
「うん?何の話だ?」「荷物を運びたいんですよ、今すぐに」
「私の車で?」「そうです、お願いします。」「ああ。どっちに行けばいいんだ?」
「いいの?じゃあアッパーイーストまで」
やったー!マーティンは思わず飛びはねた。
ボスが来てファントムチェアを一緒に載せに行ったものの、大きすぎて入らない。
「マーティン、これは無理だ。業者を呼べ」「どうしても今日欲しいのに・・・」
「ダニーのコンバーチブルなら運べるだろうがなぁ・・・とにかく無理だ」
二人はまた荷物を運んだ。「大体なんだこれは?わけのわからん」
「パントンの遺作の椅子ですよ。ミッドセンチュリーモダンの・・」
「結局は椅子なのか・・」
「椅子とベンチとテーブルになるんです。すごいでしょ?」
「あー、すごいすごい。早く歩け!」ボスは面倒くさそうにせっついた。
元の場所にファントムチェアを置き、マーティンは悔しそうに見つめていた。
「今日はここで寝るのか?」「いえ、ブルックリンに戻ります。」
「お前の根性も中々だな。毎日あんなに早起きとは見直したぞ。」
「それはどうも」「そういえばニッキーはどうなった?」
「キュートな女の子でしたよ。スカーレット・ヨハンセンみたいな」
「スカヨハン?誰だそれは?」
「ボス・・・映画見ないんですか?若手女優ですよ。ゴーストワールドとかに出てる」
「それが彼女?娼婦なのか?」
「いいえ、学生みたいだったけど。楽器屋の子ですって」
「ふーん、そんなガキがダニーと出来てるのか。世も末だな」
「まだ寝てませんってば。それにボスのほうが世も末ですよ・・」マーティンは苦笑した。
ボスと食事をし、ブルックリンまで送ってもらった。
部屋の中は出かけたときのまま散らかっている。
ダニーは上で歩き回っている。またモップかな?
マーティンは鍵を掛けると、ダニーの部屋に行った。
「ダニー、ただいま」「んっ?ああ、おかえり。びっくりしたわ。」
ダニーは洗濯の真っ最中だった。
「洗濯たまってたの?」「いいや、昨日のシーツとバスタオル」
「ああ、あれ」マーティンは赤くなった。「ごめんね、汚しちゃってさ」
「こんなん大したことないから気にすんなって!メシ食ったか?」
「うん、でも今日は何?」「ペスカトーレ」「えー、何で呼んでくれないのさ?」
「多分来ると思ってたんや。だから」「うーん・・明日食べるよ」
マーティンのおなかはグラタンと飲茶で満腹だった。
ダニーは出かけようとしていたが、エレベーターでばったりマーティンと出くわした。
「あっマーティン!」「ダニー、どっか行くの?」
「う、うん、ちょっとな」マーティンはダニーの態度に不信感を抱いた。
「僕も行っていい?」「そらええけど・・・」
マーティンのブリーフケースを部屋に置くと、二人はエレベーターに乗り込んだ。
「どこに行くの?」「イーストビレッジや」
実はニッキーの楽器屋に行こうとしていた。
マーティン、また怒るやろなぁ・・・。ダニーは心の中で自問自答していた。
「アスタープレイスのキューブの横通る?」「たぶんな、お前あれ好きやなぁ」
「うん、動くなんてかっこいいよね!」マーティンはダニーと手を繋いだ。
「あ、それとニッキーの店も行くで」「え・・」思わず繋いだ手を離してしまった。
「こんなチン毛で何ができるねん?オレらお揃いやろ」「うん・・」
ダニーはマーティンが離した手をギュッと繋ぎなおした。
「ほら、ブラックキューブが見えてきたで。回して来るか?」「いや、いい」
「オレ行ってくるわ。待っててな」「待ってよ、僕も行く」
ダニーは車を止めると、キューブを回しに行った。
追いかけたマーティンも一緒に回す。機嫌が直ったようでダニーは安心した。
「おもしろいね、あれ」「オレにはようわからんけどな」
マーティンはキューブが見えなくなるまで窓に張り付いていた。
セントマークスプレイスの端にニッキーの両親の楽器屋はあった。
店の入り口で、鼻と唇をたくさんのピアスで結んでいる若者とすれ違い、マーティンは唖然とした。
「おい、こっちやで」ダニーに呼ばれ、中に入る。
「ダニー!!来てくれたの!」嬉しそうに応対するニッキー。
「ああ、今日は連れも一緒やねん。マーティンや。」「あ、この前の彼!よろしくね!」
「いや、こちらこそ」マーティンはニッキーと軽く握手した。
「ニッキーはジュリアードに通うてるんや」「へぇー、それはすごいね!専門は?」
「そんなのウソウソ。この店の楽器、全部寄付しても入れてもらえないわよ。」
「マーティンは素直やねん。」
ダニーの言い方にムッとしたマーティンは店内を見て歩いた。
「あんまり触るなよ。高いのもあるから」「いいの、マーティン遠慮しないでね。」
二人は楽しそうにおしゃべりしている。マーティンはバイオリンのコーナーで立ち止まった。
$6000の値札がついたバイオリンが目に入った。
弓をチェックすると、松脂もついている。さっそく取り出し、肩に当ててみた。
突然聞こえてきたハンガリアン舞曲第5番に、ダニーとニッキーは振り向いた。
「マーティン?」ダニーは驚きのあまり口がポカンと開いた。
「やるじゃん!!」演奏が終わると、ニッキーは拍手した。
マーティンの横に行き、腕前を褒めた。「あ、どうも。勝手に弾いてごめん」
「いいよ、そんなの。上手いね、習ってたの?」「あ、うん、子供のころに」
「弾いた感じどうだった?」ニッキーは身を乗り出している。
「うーん、指板がちょっとね。まっすぐに直すといいよ。これじゃ剣の舞が弾けない。」
「わかった、オヤジに言っとく。」マーティンはバイオリンをケースに戻した。
「ほな、そろそろ行くわ。またな」ダニーはニッキーに声を掛けた。
「もう?せっかく来たのに・・ダニーのいじわる!」
「悪いな、また今度。マーティン、行こか」「ああ。それじゃ、さよなら」
「マーティンもまた来てね。バイオリンの感想聞きたいから」
ニッキーは茶目っ気たっぷりにウインクしてきた。曖昧に頷くマーティン。
ダニーはマーティンを連れて店の外に出た。
「マーティン、バイオリン弾けるんやなぁ。びっくりしたで。」
「昔、習ってたんだよ。それにそんなに上手くないし・・・」
「いいや、すごいよかったで。」ダニーに褒められ、マーティンは照れた。
「まだまだお前には謎がいっぱいやな。」
「ダニーもね」マーティンは謎と言われビクッとした。
「よし、なんか食べて帰ろう」店を選びキョロキョロする二人。
不意にマーティンが声を上げた。「ダニー、あそこ・・ボスの秘密クラブのビルだ」
「ほんまや、ずらかろう」ダニーは急いで左折した。
少し走り、リトルジャパンのエリアに入った。
「あれ何かな?」マーティンが指差した。観光客が見学している。
ドライバーのような物で何かを回している。「行ってみよか」ダニーは車を端に寄せた。
アジア人が器用に丸いものをひっくり返している。おもしろい食べ物だ。
出来たものは次々とボート型のカートンに乗せられていた。
「これ何?」「タコヤキ!日本料理」片言が返ってきた。
ダニーは一つ買ってみた。アジア人はフォークを二本付けてくれた。
「ちょっと塩がきついけど、おいしい」マーティンの感想を聞き、恐る恐る食べる。
「うん、いけるな。」二人は半分ずつ分けあって食べ、そのまま近くのえびすで寿司ディナーを楽しんだ。
帰り道、マーティンは居眠りをしている。
ダニーは考え事をしながら、ブルックリンに向かっていた。
ニッキーがマーティンに興味を持った様子に、ダニーは憤慨していた。
マーティンやったら取り合いにはならへんけど、ニッキーの態度が気に入らんわ!
誰でもええっちゅう感じやん!そういえば、娼婦より手軽やってコイツが言うてたな・・・。
割と鋭いやん、マーティン。最近、聞き込みもマシになってきてるしな。
まぁ、オレがお手本やからな。ダニーはニヤリとすると運転に集中した。
ガレージに駐車し、マーティンを起こした。歩きながら何度も立ち止まるマーティン。
「自分で歩けや、重たいねん!」ダニーは後ろから押しながら歩いていた。
マーティンはエレベーターを待つ間にも、壁にもたれて眠りこけていた。
ダニーが抱きかかえるように体を持ち上げたとき、マーティンのポケットから鍵が落ちた。
何気なく拾いポケットに戻そうとしたとき、鍵が3つついているのに気づいた。
自宅とオレんちと、後はどこのやろ、実家か?ダニーは深く考えずにポケットに鍵を戻した。
ダニーはスタンウェイの蓋を閉めると、ベランダで葉巻をくゆらせているアランに声をかけた。
「そろそろ寝るけど、アランどうする?」「じゃあシャワーしようか。」「うん。」
いつものようにお互いの身体を洗いあう。ダニーのペニスはアランの海綿でのマッサージに反応して立ち始めていた。
「おやおや、坊やは元気そうだね?」アランがくくくっと笑う。「知らん!」
「坊やはそう言ってないよ。」「でもまだ・・・」「分かってるよ。」
スナッフフィルム事件以来、二人はセックスしていない。
アランはダニーを連れてベッドルームに向かうと、ダニーを静かに横たわらせた。
「これならいいだろう?」アランはダニーの立ち上がったペニスを優しく口に含んだ。
「あぁぁん。」ダニーは久しぶりの快感に思わずよがる。「口の中にイっていいんだよ、ダニー。」
「うぅん。」ダニーは我慢しきれず、アランの口の中で果てた。アランは精液を飲み込んだ。
「良くお休み、ダニー。」「アランはいいん?」「おじさんだからね。お休み。」
そう言うと、アランはパジャマを持ってきて、ダニーに着せ、自分も着替えた。
夜中、ダニーは自分の悲鳴で目が覚めた。隣りのアランも目を覚ました。
「どうした!」「ジムが・・」そういうとダニーは泣き出した。アランはダニーを抱き寄せた。
「ジムはもういないんだよ。安心してお休み。僕が守ってあげるから。」「うん。」
すぐ寝つくダニー。このフラッシュバックは長くかかりそうだ。
アランは治療プランをあれこれ考えながら、眠れぬ夜を過ごした。
翌日、ダニーは目の下にクマを作って寝ているアランを起こした。
「寝坊すけアラン、もう朝やで。」昨晩のフラッシュバックの事は覚えていないらしい。
「うぅぅ、もう朝か。」アランが眠りについたのはついさっきのことだった。さすがに辛い。
シャワーを終えたダニーは「コーヒー入れるわ。」とキッチンに向かった。
ベーグルを解凍するとトマト・バジルチーズを塗って二人分用意する。
アランはシャワーから出るとバスローブでダイニングに座り、新聞を読みながらコーヒーを飲み始めた。
これだけ見れば、いつもの朝の光景だ。
「ダニー。」「ん?何?」
「今週からプライベートプラクティスを再開させようと思うんだがいいかな。」
ダニーの療養の間、カウンセリングを休業していたアランだった。
「もちろん!俺、もう大丈夫やし。」「夜の時間はダニー・テイラーと書いておくよ。」「ええっちゅうに!」
それがよくないんだよ。ダニー。アランはダニーの奥深いPTSDの治療法を考えあぐねていた。
マーティンは久しぶりにエンリケと食事していた。
突然の引越しの件をきちんと説明していなかったし、
ダニーと心が触れ合えない寂しさがマーティンを孤独にしていた。
居酒屋「祭り」で日本酒を飲みながら、刺身の盛り合わせと天ぷらを食べている。
「エンリケ、まだ怒ってる?」マーティンは恐る恐る聞く。
「怒ってないといったら嘘になるね。引っ越す前に言って欲しかった。」
「僕もホームシックにかかっちゃったんだよ。本当にごめんね。」
「その気持ちなら分かる。僕、病気よくなったし、マーティンを許すよ。」
通商代表団のアテンドを経て、エンリケは以前の元気を取り戻していた。
「許す代わりに今日、ミッションに踊りに行こう。」「踊り・・」
マーティンはジムにしつこく眺められて以来、踊ると身体がかちんこちんになる癖がついてしまっていた。
「どうした、マーティン、行こうよ。」「う、うん。」仕方なく頷くマーティン。
ミッションは相変わらずの混雑ぶりだった。
エンリケが馴染みのウェイターを探し、VIP席に案内してもらう。
「エンリケ、いつからVIPになったの?」
「マーティンと会えない間、ここに来てたからね。」と平気で言う。
浮気の一つや二つあったに違いない。
音の方は懐メロの日らしく、アース・ウィンド&ファイアーや
クール&ザ・ギャングといったブラック中心だった。
エンリケは早速フロアへとマーティンを誘う。自由奔放に身体を動かすエンリケとは対照的に、
右足を右に出すと左足まで一緒についてきてしまうステップのマーティンは、
何度も人の足を踏んでは「ごめんなさい」を言っていた。
「マーティン、お酒が足りないね。僕持ってくる。」エンリケがそばを離れた。
マーティンははぁとため息をつきながら、他の人のステップをまねて踊っていた。
僕って何でも中途半端だよ。するとマーティンの横へするりと並んだ人物がいた。
その人のステップに思わず注目する。簡単そうなのにちゃんとダンスになっている。
マーティンはいつしか夢中になって隣の人のステップをまねて踊っていた。
「上手になりましたね。」隣りの人が突然口を利いた。イギリス訛りだ。
「はい?あ、あなたは?」ずっと前、ここで声をかけてきたジェイムズ・ボンド似の紳士だった。
「今日もスペイン人の彼と一緒ですか?」「あ、友達です。友達。」「またいつか踊りましょう。」
そう言って名刺を渡すとすっと人ごみの中に消えていった。
エンリケが戻ってきたので急いで名刺をポケットに入れる。
「はい、ジントニック。」「グラシャス、エンリケ。」
「楽しんでる?」「うん。色々忘れられていいよね、ダンスって。」
「僕も悪い事、ダンスで忘れたよ。これから楽しい事沢山起きると信じてる。」
「そうだよね、エンリケ。人生、前向きにいかないとね。」
おのおの思い浮かべる事は違っていた。エンリケはマーティンとのこれからを、
マーティンはダニーとのこれからを想像して、ジントニックを傾けていた。
その時、つかつかとエンリケに近付いてくるブロンドの女性がいた。マーティンを押し飛ばし、
エンリケの頬にビンタを食らわせる。「エンリケ、電話くれるっていったのに嘘だったのね!」
あぁ、やっぱりエンリケ遊んでたよ。マーティンは落胆した。誰も僕の事を待っていてくれない。
「君、誰だっけ?」エンリケの冷たい態度にマーティンは驚いた。これが彼の本性かも。
エンリケが「マーティン、出よう。」と出口へ向かう。ブロンドは背中に向かって
叫んでいる。「あんたもきっとすぐ捨てられるわよ!」「エンリケ、今のって?」
「ごめん、マーティンいない間、自暴自棄ね。ワンナイトスタンドした。でも
マーティンへの気持ち変わってない。僕はマーティン愛してる。」
ミッションの入り口でキスしようとするエンリケを制し、「とにかく今日は帰ろうよ。」と
タクシーを止めた。
マーティンはミッドタウンでエンリケを落とし、そのままブルックリンの
ダニーのアパートに行った。合鍵で入るが主はいなかった。
やっぱりアランのところなんだ。マーティンの孤独は楔のように心に突き刺さった。
僕とダニー、もうだめなんじゃない?修復できないところまでいってるんじゃない?
涙がほろほろと出て来た。服を脱いでダニーのパジャマに着替えると、ベッドに入る。
ダニーの匂いに囲まれて眠りに入る。ダニーに抱かれている夢が見られますように。
664 :
fanですw:2005/10/11(火) 02:16:21
書き手1さん、ダニーとマーティン、別れちゃうんですか。悲しいです。
書き手2さん、ニッキーは結局どっちも好きになっちゃうんですか。
今時の子って感じですが、スカーレットヨハンセンはポイント高いですww
>>664さん
感想ありがとうございます。
行き当たりばったりで書いているので、自分でもどうなるのかわからないんです。
いつも読んでいただき感謝してます。つまらないときもあると思いますが、よろしくお願いします。
マーティンはエレベーターに乗ると、無意識に11を押した。
「マーティン寝ぼけるなや、12やっちゅーねん!!」ダニーが押しなおす。
焦ったマーティンは手当たり次第にボタンを押した。
各駅停車のように止まるエレベーター・・・。
「マーティン、なにすんねん!」ダニーはマーティンにデコピンした。
マーティンの眠気は吹っ飛んでいた。
マーティンがジャケットを脱ぐと、ポケットにAD CARDが入っていた。
ザガロフ楽器と書いてあり、なかなかセンスのいいデザインだ。
「何やそれ?」「ザガロフ楽器だって。ニッキーが入れたみたい」
ニッキーのヤツ、油断も隙もない!ダニーはまたムカついた。
「ザガロフって東欧っぽいね」「親が東欧からの移民やろ」「そっかー」
マーティンはテーブルの上に置いた。「それ、冷蔵庫にでも貼れば?いいデザインだよ」
「え?」「捨てるの惜しいじゃない。モルヴァンっぽいからさ」
オレなら止められても破り捨てるけどな、ダニーはマーティンに呆れていた。
「ダニー、そろそろチクチクして痒いんだけど、こんなもんなの?」
バスルームでマーティンがペニスを覗き込んだ。
「オレもチクチクするけど、お前のは柔らかい毛やからまだマシやと思うで」
「そう?どれどれ」マーティンはダニーの陰毛を撫でてみた。
「本当だ、僕よりチクチクしてる。触ってみて」「柔らかいなぁ、お前の」
ダニーは念入りに撫で回し、ペニスを執拗に触った。
「やっ、ちょっ待ってよ。ベッドでやろうよ。」「了解!」
二人は体を拭くとベッドルームへ急いだ。
「今日はコンサートマスターにおまかせや」
ダニーはそういうと仰向けになった。「ダニィ?」
「ん?何でも好きなことしてええんやで。痛いのはお断りやけどな」
マーティンは頷くとダニーに圧し掛かった。全身に舌を這わせ吸いつく。
腕や肩、胸や背中にたくさんのキスマークがついた。
ダニーも吸われる度に体が収縮するような快感を感じていた。
ダニーを横向きにすると、後ろから手を伸ばしペニスに触れる。
先っぽが濡れているのを確認すると、妙な優越感を感じ硬度が増した。
背中を舐められながら、ペニスの先を弄られたダニーはひゃあっと声を上げた。
「まだダメだよ」マーティンはローションをアナルと自分のペニスに塗った。
少しだけ挿入し、肩を甘噛みしながら浅いピストンを繰り返す。
ダニーのペニスの先はぬるぬるして艶々に光っていた。
「マーティン、もうイカせてくれ・・」「ダメだよ!我慢するの!」
マーティンは手にローションを塗ると、ダニーのペニスを擦り始めた。
「あぅん・・ハァハァ・・」ダニーはイキそうになってきた。察したマーティンは手を止める。
ダニーは苦しそうに喘いでいる。体を起こし対面座位にさせると、奥まで一気に挿入した。
「あっあぁー・・イッイキそうやっ、そこっあぁっうっ・・」あっけなく果てたダニー。
マーティンは容赦せず突き上げた。ダニーの肩を噛むとアナルのひくつきが大きくなった。
「ダニィ、よく締まる・・僕もうダメだ・・うっあっああー」
マーティンはダニーを抱えると後ろに倒れこんだ。
ダニーはマーティンの口に自分の精液を擦った。さらに耳たぶと肩に噛みついた。
「ダニィ、くすぐったいよ」ダニーは笑いながら横に寝転んだ。
「うわっ!」ダニーは自分の体を見て驚いた。全身が水玉模様だ。
急いで鏡を見に行くと、赤紫のキスマークで覆われていた。
心配していた首筋には見当たらないので、とりあえずホッとする。
冷蔵庫からクラブソーダを取り出すと、ベッドルームに戻った。
「大丈夫だった?」マーティンが不安そうに待っていた。
「ああ、でも気持ち悪いな。チン毛もないし、なんかあっても病院にも行かれへんわ」
「ごめんね、つい・・」「ええねん、かわいいやろ」ダニーはクラブソーダを渡した。
マーティンは目覚ましなしで五時半に目が覚めた。
すっかり習慣になってるよと苦笑しながらトイレに行く。
朝は座って排尿するのも身についていた。僕って順応性があるよね!
わけのわからない納得をすると、シャワーを浴びた。
ダニーはまだ眠っている。マーティンは先に行こうか迷ったが、一緒に行くことにした。
着替えを済ませ、シリアルとミルクを用意しているとダニーが起きて来た。
「おはよう」「おはよ・・・早いなぁ。ん?それ朝メシ?」
「そうだよ、早くシャワー浴びなよ」「わかった」ダニーはニヤっと笑うとバスルームへ行った。
マーティンはリンゴを見つけたが、皮剥きができないので、洗っただけで丸ごと置いた。
「よーし食べよ、食べよ」バスローブ姿のダニーがテーブルに着いた。
「リンゴどうするん?」「かじる・・・」「えっ・・何で?」「皮が剥けないから・・」
ダニーはリンゴをさっと剥くと8等分して皿に置いた。
「ボンが用意した朝メシを食う日が来るとはな!」ダニーは嬉しそうに食べた。
「もうっ、ボンじゃないよ。それに箱から出しただけじゃない」
「すごい進歩やんか。それすらせんかったんやから。」
「早く食べないと遅れるよ!」「まだまだ大丈夫やって。」
ダニーはシリアルにミルクをかけずに食べている。
「ミルクかけないの?」「ふにゃっとしたの嫌いやねん。」
「ふーん、変わってるね。じゃ、歯磨きしてくる」マーティンは先にお皿を下げた。
「感心やね、お坊ちゃま!」「うるさいよ!」ダニーはとことんからかった。
ドアを施錠しながら、ダニーはマーティンの鍵を思い出した。
「マーティン、実家の鍵まで持ち歩いてるんか?」「ううん、どうして?」
「鍵が三個ついてたから。」「えっ・・ああ、あれか。ええっと・・前のアパートの鍵だよ。」
「そんなん外したらええのに。邪魔になるやろ」「そうだよね・・」
マーティンは冷たい汗を全身に感じていた。
ダニーを盗み見たが、怪しんだ様子はない。マーティンは小さく深呼吸した。
「おい、もう行くで」「ねー、待ってよー」先を行くダニーを慌てて追いかけた。
マーティンはベランダを訪れた小鳥のさえずりで目が覚めた。今何時?わ、もう7時半だよ。
でも今日はダニーと鉢合わせする心配なく支局へ出勤出来るので気が楽だった。
自分用の棚からスーツとシャツ、下着を取り出すと、シャワーを浴びた。
昨日の日本酒とジントニックで頭痛がする。コーヒーは近くのスタバで買う事にして、
ダニーのアパートを出た。ダニーの夢、見られなかったな。孤独感が心を襲う。
こんなことじゃだめだよ、マーティン、心を強く持て!自分を鼓舞して支局へ向かう。
ダニーはすでに仕事を始めていた。「おはよう、ダニー。」
「おはよ。昨日、家に電話したんやで。どこ行ってたん?」「エンリケと食事。」
「ふーんそうかいな。今日、俺と食事せいへん?家で何か作ったるわ。」「いいの?」
「遠慮せんでええで。」「うん、行く。」
やっぱり前向きになるといい事があるもんだな。マーティンは心の中でハイファイブした。
今日も事件がなく、書類整理に追われた二人はほぼ定時にオフィスを出た。
ダニーと一緒にタクシーに乗り込む。家につくとダニーは怪訝そうな顔をした。
ベッドは寝乱れているし、シャワーも使った痕跡がある。
「お前、昨日、ここに泊まったんか?」
「ごめん、ミッションで踊ってたら帰れなくなっちゃってさ。」嘘をつく。
寂しかったなんで口が裂けても言えない。
「あんまり食材の買い置きないから、適当でええかな。」
ダニーは手早くうどんを茹で、切った野菜と炒める。
オイスターソースを加えてパッタイの出来上がりだ。
牛肉を軽く湯に通し、レタスとたまねぎとあえて、タイ・ドレッシングで和える。
「今日はアジアン料理や。」「おいしそう。頂きます!」
ミラービールで乾杯し、二人の食事が始まる。
いつも通り、綺麗にマーティンは食事を平らげ、お腹をさすっている。
「お前の食欲って恐ろしいもんがあるな。こないだもラムチョップ5本食べたやろ。
アランがびっくりしてたで。」「だって、絶妙の焼き具合だったんだもん。」
「アランの料理の腕はプロはだしやからな。」またアランの話だよ。
「僕、シャワーしていい?」「ええで。」「一緒にしないの?」「俺、片付けするから。」
ダニーは自分がPTSDにかかっていることをマーティンに言えずにいた。
二人でシャワーしたら、絶対セックスまでいくだろう。その時の自分を想像すると怖い。
マーティンを拒んだら、マーティンがどうなるか分からない。
マーティンがシャワーから上がると交代でダニーがシャワーに入った。
マーティンが歯を磨いている音がする。今日は泊まるつもりか。
ベッドインをどないしたらええんやろか。
シャワーしながらダニーの頭はフル回転だった。
「ダニィ・・ベッドに行ってるね。」マーティンはベッドで待っている。
「そや、まだ傷が完治してないことにすればええねん。」
ダニーは「おう、俺も行くで。」と言ってシャワーから出た。
何も着ていないマーティンにパジャマを渡す。俺のパジャマ、なんか乱雑な畳み方やな。
ダニーの頭の中は「??」が並んだが、とりあえずはベッドインが問題だ。
ベッドに入るとマーティンがパジャマに着替えながら泣いていた。
「どうしたん?」「もう僕と寝てくれないの?」「違うんや。まだ傷が治ってないからエッチ厳禁なんや。」
「そうなんだ!」マーティンの顔が明るくなる。
ああ、ややこしいなあ。アランといる方が気を遣わんと過ごせるなぁ。
マーティンがダニーの手を握ってきた。二人は手を握ったまま眠りについた。
翌朝、マーティンは先に出勤した。ダニーは安眠できなかった昨日を思い出していた。
前はマーティンとなら幾らでも眠れたのに、今はアランと眠る方がなんぼか楽や。
コーヒーを飲みながら、ぼんやりマンハッタンの摩天楼を見ていた。
マーティンは上着のポケットに何か入っているのを見つけた。
名刺だ。あぁあのイギリス人の。貿易会社の社長なんだ、あの人。
ジェイムズ・ダーシー。ふーん。優しそうな人だったなぁ。
名刺をファイロファックスにはさむとブリーフケースに入れた。
マーティンがPCを立ち上げていると、カフェラテを持ったダニーが出勤してきた。
「おはようさん。」「おはよう、ダニー。」二人とも仕事に集中する。
ダニーに暗号メールを打つ。「夕刻捜査会議OK?」「所用あり。」
即座に返事が来た。どうせアランの所なんだろう。
マーティンはくさくさしながら午後の仕事をこなしていた。
報告書にミスがありボスからお目玉を食らう。気分は最悪だ。
そうだ。気分転換に、この人に連絡取ってみよう。
席を立ち、携帯で、オフィスに電話してみる。
「ダーシー・トレーディングでございます。」丁寧な電話交換手の声。
やはりイギリス訛りだ。「ダーシーさんをお願い致します。」
「少しお待ちください。」「はい、ダーシーですが。」
「僕、昨日お会いした・・・」「ああダンサーさんだね。電話ありがとう。」
「僕、マーティンって言います。」「初めまして、マーティン。」
「突然ですが、今日、ディナーでもどうかと思って。」相手はからから笑った。
「本当に突然の申し出ですね。幸い、今晩は何も予定がないから大丈夫ですよ。」
「何がお好きですか?」「NYの食べ物は全てロンドンより美味しいから何でも。
何なら僕の方で予約しましょう。君の電話番号を教えてください。」
マーティンは携帯番号を伝える。「それじゃ今晩。」「それじゃ。」
ダニーがアランと過ごすなら、僕だって新しい友達を作って見返してやる。
それも大人の友達だ!
マーティンが席につくとダニーからメールが入っていた。「所用変更可能。」
「当方所用有。」思わず振り向くダニー。マーティンは目もくれず書類を読んだ。
あわててるよ、ダニー。僕だって用事くらいあるんだ。午後に入り、マーティンの携帯が鳴った。
ダニーが耳を澄ませているのが分かる。マーティンは席をはずし、電話に出る。
ジェイムズからだった。「ミッドタウンの「ジャンゴ」を予約しましたから。8時にどうぞ。」
「伺います。」「楽しみだなぁ。それではまた。」
ジャンゴは中近東を思わせる豪華な内装とロブションで修行したスター・
シェフがいるのが有名なフレンチの名店だった。8時5分前にマーティンは
到着した。すでにジェイムズは席に付いていた。フロア・マネージャー自ら
案内してくれる。フランス人シェフのトヴァー氏も席に挨拶にくる。
わ、何だかすごいVIP扱いだ。マーティンはびっくりした。
「今日は僕から誘ったのに逆にお招きを受けてしまったようですみません。」
マーティンはぺこりと謝った。「いや、電話をもらって本当にうれしかったので、
僕こそ過ぎた事をしていたら謝らなければ。」「いえ、とんでもないです。」
「良かった。ここのシェフとはロブションの頃から顔なじみでね。よく食べに来るんですよ。」
ここが常食の場所?この人物って一体?
考えてみたらマーティンはジェイムズの何も知らなかった。
「貿易会社を経営されているんですね。」「そんな堅苦しい言葉使いはやめませんか?」
「はい・・」マーティンはジェイムズがかもし出すオーラに飲み込まれていた。
「先祖代々貿易商でね。わが祖国が世界を席巻していた頃の話なので、つまらなかったら
やめるけれど・・」「やっぱりイギリス出身?」「ああ、ロンドン生まれ。君は?」
「ワシントンDC。」「生粋のWASPという感じだね。」「そうなのかも。」
「君は何をしているの?」「言って引かれると困るんだけど、司法省。」
「連邦政府の人間がクラブではじけてるなんて思わなかったな。」
「あれは友達の趣味で。ジェイムズのおかげで僕の無様なダンスがそれなりになった。」
「君は身体が緊張してしまうようだね。もっとアルコール飲めば変わるかな?」
ジェイムズがウィンクした。「そうだ、今日はシャトーマルゴーでいいかな?」
「もちろん!」「シェフが今日お勧めのメインはダック・ブレストと言ってたから
よく合うと思うよ。」マーティンのお腹がくぅぅと鳴った。顔が紅くなる。
「正直な胃袋の持ち主と食事するほど楽しいことはない。」ジェイムズは笑った。
おしゃべりに花が咲いているうちにあっと言う間に食事の時間は過ぎた。
「マーティン、これからも君を誘ってもいいかな。」「ええ、喜んで。」
「君とは馬が合いそうだ。これから楽しく過ごそう。」「うん。」
バレットパーキングで、ジェイムズは車を取り寄せた。ジャガーのクーペだ。
うわ〜豪華だよ。「家まで送るよ。」「ありがとう。じゃあアッパーイーストサイドまで。」
「え、イースト?僕もイーストサイドだ。偶然だね。」「ご近所さんなのか。」
マーティンも驚いた。「ますますこれからの友情の進展が楽しみだ。」
ジャガーがマーティンのアパートの前に止まる。「じゃあ、ここで。」
「今日はありがとう。」「こちらこそ。」「今度は僕におごらせて。」
「ありがとう。マーティン。それじゃ、おやすみ。」「おやすみなさい。」
ドアマンのジョンが様子を伺っている。「お帰りなさいませ、フィッツジェラルド様」
「ああ、ただいま、ジョン。お休み。」「お休みなさいませ。」
マーティンは気がついた。ディナーの間、ダニーの事もアランの事も
考えることなく、楽しく過ごせた自分に驚いた。まだ謎の多い人物だったが、
しばらく一緒に過ごしても楽しそうな予感がしていた。
留守電なし、携帯に着信なし。ダニーの気持ちは分かったよ。
マーティンは急いで服を脱ぐとシャワーブースへと入っていった。
「今度はいつ来るの?」「うーん・・また近い内にな」
ダニーはニッキーと電話で話していた。
「ダニー、すぐに帰っちゃうんだから!」「ああ、ごめんごめん」
「ねぇ、マーティンは元気?」「うん、元気やで。何で?」
「この前のバイオリン、修理できたから見てほしいの。一緒に連れてきてくれない?」
「わかった。都合が合うたら連れて行くわ」
「じゃあね、ダニー」「おう、またな」なんかなぁ・・・釈然としないダニーだった。
マーティンは届いた布団にカバーをつけようと悪戦苦闘していた。
シーツとピローケースは簡単だったが、布団カバーに手を焼いていた。
羽毛布団の角がなかなかカバーに合わない。
一つを合わせると他の角が合わなくなる・・・。かれこれ一時間もやっていた。
きちんと入れても中でぐちゃぐちゃになっちゃう、どうなってるんだろう?
試行錯誤の末、中でこんがらがったまま、あきらめて放置した。
デッキチェアに干していた寝袋をラグのように敷き、
ファントムチェアをテーブル代わりに置くとリビングらしくなり、マーティンは大満足だった。
日光のおかげで犬臭さも消えている。思わず上に寝転んだ。
ふと床を見ると、所々白く見える。
ん?と思って近づくと埃がうっすら積もっていた。
マーティンは、ボスが置いていったモップをかけたが、
埃が舞うだけでちっともとれない。あっ、濡らすんだっけ?
ボスの様子を思い出してやってみると、床はキレイになった。
「ダニー、今から行ってもいい?」「ええで。どれくらいで着くん?」
「5分ぐらいかな」「えらい早いなぁ、待ってるで!」
だって真下にいるんだもん、マーティンは笑いながら階段を上がった。
「たっだいまー!」「早っ!5分どころか3分やなぁ。」驚くダニー。
「せっかくの金曜日なんだもん。ダニーと過ごそうと思ってさ」
「まあええけど。メシは?」「もう食べたよ。」
「たまにはDVDでも見よか?」「いいね、ポップコーンある?」
「好きやなぁ・・・でも、オレも食べよ!」ダニーはキッチンへ消えた。
[スリーピー・ホロウ]を見終わると、夜も更けていた。
バスルームでくつろぎながら、ダニーはニッキーのことを切り出した。
「バイオリンが直ったから来てくれへんかやってさ」「僕に?」
「そう、感想が聞きたいんとちゃうか」
「僕は別にいいけどさ、ダニーが嫌なんじゃない?」
「オレ?オレは気にならへんで」ダニーは平静を装った。
「じゃあ、いいよ。」「ほな明日行くか?」「ダニーにまかせる」
ダニーは、風呂から上がるとニッキーにメールしておいた。
土曜日の午後、ザガロフ楽器店はそこそこ賑わっていた。
「ハーイ、ダニー!マーティンも来てくれてありがとう!」
「結構繁盛してるなぁ。」「みんなただ見てるだけなのよ。」ニッキーが小声でささやいた。
「マーティン、指板やっぱりゆがんでたって。オヤジが感謝してた。」
「そう、よかったね。」「見てくれる?」「いいよ」ニッキーはバイオリンのケースを渡した。
「マーティン、何か弾いてくれ」「ここで?みんながいるのに?」
「ええやんか。」「でも・・・」「オレも何か弾くから。ニッキー、ピアノ弾いてもええか?」
「合奏?すっごーい。どうぞどうぞ!」ニッキーはグランドピアノに案内した。
「ダニー、本気?」「本気や。それより何弾く?剣の舞は?この前言うてたやろ?」
「ハチャトゥリアンなんて無茶だよ。」「でも弾けるんやろ?」「僕、自信ない・・」
「ニッキー!剣の舞の楽譜貸して」ダニーはやる気十分だ。
「はいはい、待っててー」ニッキーはいそいそと持ってきた。
マーティンもあきらめて楽譜を確認し、弓に松脂を塗った。
「よし、やるで」ダニーがピアノを弾き始めた。みんなの注目が集まる。
マーティンも思い切ってバイオリンを弾いた。
緊張で頭が真っ白になりながら弾き終えると、客から拍手喝采を浴びた。
ダニーがマーティンの手をとり、二人は恭しくお辞儀した。
「もう緊張して死ぬかと思ったよ・・」「何言うてるんや、堂々と弾いてたで。」
「そうよ、素晴らしい演奏だった。バイオリンとピアノは売れなかったけどね。」
「ニッキー、商魂たくましいなぁ。恐ろしいわ。」「もぅー、ダニーったら!」
マーティンは、女の子と話すダニーを見ても平気なことに気づいた。
相手がニッキーだからかな?もしもスーザンなら嫉妬してしまうだろう。
三人は近くのウクライナ料理店で食事をした。
マーティンとニッキーもすっかり打ち解けた。
ダニーが職業を偽っていることにも驚いたが、ニッキーが19才だと知りもっと驚いた。
「でもね、来月で20才になるのよ!」それでも年の差はかなりある。
ダニー、こんな子供を騙して平気なの?・・・マーティンは少し気になった。
寝る気がないからかも?自分の希望的観測をバカバカしく思いながら
レモンウォッカを口にした。
ダニーがトイレに立つと、ニッキーが携帯の番号を聞いてきた。
マーティンは一瞬迷ったが、番号を教えた。
「この前のAD CARDに私の番号書いてたのよ、気づかなかった?」
「ごめん、デザインがよかったからさ、そっちにばかり気をとられてた。」
「あのデザイン気に入った?」「うん、センスいいね。君が書いたの?」
「そう!マーティンが気に入ってくれてうれしー♪」にっこりするニッキー。
マーティンはニッキーの一挙手一投足にドギマギしていた。
ダニーが戻りチェックを済ませると、ニッキーを店まで送り届けた。
「ダニー、ニッキーっていい子だね。ダニーがおもしろいって言ってたのわかったよ。」
「そうか。お前、惚れたんか?」「まっさかー、そんなのありえないよ!」
「てっきり宗旨変えしたんかと思った。」
「何言ってんだか!バカダニー!!」マーティンはケタケタと笑い飛ばした。
「嫉妬しなくても大丈夫だよ。僕のこと知ってるくせに。」「そやな、ごめん」
「そんなにニッキーが好き?」「そんなわけないやん、ただの友達やもん」
「じゃあ嫉妬することなんてないじゃないか・・・」マーティンはしばらく黙った。
「今日は楽しかったよ。ダニーと合奏できたし、最高だった!」
マーティンは吹っ切れたように話した。
「オレも。またやろな。」「今度は二人っきりがいいな。身がもたないよ。」
マーティンは、ニッキーに携帯の番号を聞かれたことを言えずにいた。
今のこの雰囲気を壊したくなかった。ダニーは何も知らずに話し続けている。
明日話すことに決め、ダニーの話に聞き入るマーティンだった。
マーティンが家に着いた頃、アランのアパートではダニーが脂汗を流して
フラッシュバックと戦っていた。「ダニー、もうジムはいないんだ。僕はアラン。わかるよね。」
ダニーの目は大きく瞳孔が開き、身体が痙攣している。アランはミネラルウォーターを持ってきて
ダニーの口に運ぶが、ダニーは飲もうとしない。ただただ震えている。可愛そうに。
アランはダニーを抱き締め、ダニーが流す涙や鼻水まみれになりながら、じっとしていた。
「アラン・・怖いよ。怖いよ。」幼児期に退行現象だ。
「ダニー・ボーイ、心配いらないよ。悪い人はもういない。君は無事なんだよ。」
号泣しながらアランにしがみつくダニー。一体、どうしたらこの症状が改善できるだろう。
アランは途方にくれていた。
翌朝、睡眠不足のダニーはアランに起こされた。「ハニー、朝だよ。」
「うぅん、今日休みたい。」「いいのかい?」「事件ないねん。」
「じゃあ僕が支局に電話してもいいかい。」「ん。」
そういうとまた眠りに入るダニー。昨晩がよっぽど辛かったんだろう。
それはアランとて同じ事だが、当事者の心の傷は想像を超えた辛さだという。
アランは、定時になるのを待ち、ボスに電話をして、ダニーの病欠を伝えた。
ダニーは規則的な寝息を立てて静かに眠っている。さて、朝食でも作ろう。
アランは買い置きのベーグルが無くなったので、H&Hまで急いで買いに出かけた。
戻ってくると、またダニーが泣きじゃくっている。
「ダニー、どうした?」「俺、切り刻まれる。怖い!」アランにしがみつくダニー。
「それは全て、幻想なんだよ。君はこうして五体満足で無事にいる。僕が証人だ。」
こっくり頷くダニー。
「じゃあコーヒー入れて朝食作るから、まだベッドで寝てなさい。」
言うとおりにするダニー。あの誇り高いダニーが今や子供のようだ。
アランはダニーの症状の重さを測っていた。またダニーは眠りについた。
アランはダニーが起きるまでそっとしておき、一人で朝食を済ませた。
今日は新患が4人か。結構ハードな一日だな。
1ヶ月カウンセリングを休んだため、レギュラーの患者の他、
トムから紹介の患者が列を成す状態になってしまっていた。
しかし、それもダニーのためだ。自分が頑張らねばと、
アランは覚悟を決めて、最初の患者を迎えた。
マーティンは支局で病欠の知らせを聞き、ダニーが気になって仕方がなかった。
あんなに元気だったのに。見舞いに行こうと決心し、ダニーの好きなチキンとバジルのピタサンドを買って、
アランのアパートを訪ねる。「やぁマーティン、今ダニーは寝ているんだ。」
「どこが悪いんですか?」「あの事件以来、具合があまり良くなくて。」多くは語らないアラン。
マーティンはダニーとアランの間に入っていけない自分を実感した。
「ダニーの好きなサンドウィッチを買ってきました。起きたら、ランチにでもしてください。」
「ありがとう。ダニーも喜ぶと思う。」マーティンは一刻もここにいられない気持ちになっていた。
この二人の絆がこれほどまで固くなっていようとは。
前は何でも打ち明けてくれてると思っていたのに、ダニー、どうして僕には話してくれないの?
アランとの関係は、僕らの「身体だけの関係」とは違うんだね、ダニー。
マーティンは目に溜まった涙を拭きながら、タクシーを呼び止めた。
ダニーのいない夜は長かった。二人で身体を洗いっこしたり、
キスマークを付け合ったり、愛し合ったその全てが幻のような気がしてきた。
マーティンはダニーお気に入りのミントのローションをゴミ箱へ投げ捨て、
衝動的に泣き出した。携帯が鳴る。涙を拭いて出る。
「はい、フィッツジェラルド」「マーティン?僕、ジェイムズだけれど、今いいかな?」
「あ、ジェイムズ!昨日はご馳走様でした。」「気に入ってくれたのかな?」
「どの料理も最高だった。」「いや、僕の事をだよ。ははは。」快活に笑うジェイムズ。
マーティンも曖昧に笑う。「どうしたの、ジェイムズ?」「いや、どうしてるかと思ってね。」
「掃除してたところ。」嘘をつく。
「昨日分かった重大な事実は僕が君より3ブロック上に住んでるという事だよ。
これって奇遇だと思わない?」「そんなに近いの?」
「ああ、驚いたよ。今度、週末に朝食でも一緒に食べないか?」
マーティンはダニーの事をちらっと考えたが、振り払った。
「喜んで。」「じゃあ、また連絡するね。おやすみ、マーティン。」「おやすみ、ジェイムズ。」
マーティンはダニーの事でうじうじ悩む自分が嫌だった。
変えてくれる起爆剤が欲しくなっていた。「ジェイムズ・ダーシーか・・・」
テーブルに置いた名刺をじっと眺めていると、ジェイムズの群青の瞳を思い出した。
見つめられると、引き込まれてしまいそうな力がジェイムズの瞳にあった。
ダニーは一日うとうととベッドで過ごし、夜になりやっとベッドから出た。
パジャマのままダイニングについて、アランが作った実だくさんのミネストローネを食べ始める。
キッチンの上に見慣れたデリの袋があるのに気がついた。「ん?その袋・・・・」
「あぁ、昼にマーティンが見舞いに来たんだ。差し入れのサンドウィッチを持ってね。」
「起こしてくれてもよかったのに・・・」ダニーは不満げだ。「あまりによく寝ていたからね。」
アランは嘘をつく。マーティンに会わせたくなかった、嫉妬だ。
「そのサンドウィッチも食べるわ。俺」そう言うとのろのろ立ち上がり、
デリの袋をダイニングの上に置く。「もう乾いてひすばってるだろう。」
「ええんや、マーティンの真心やからな。」ピタサンドを口に運ぶダニー。
アランの心の中は、再び嫉妬の炎がぱちぱちと燃え盛り始めている。
こんなに君のために尽くしているのに、君の気持ちはまだマーティンにあるのか?
アランもダイニングに座り、ダニーを見つめながらミネストローネを口に運ぶ。
「ん?アラン、何見てるん?」「やっぱり元気な君が一番素敵だよ。」「照れるやん。」
ダニーが笑う。何がきっかけでフラッシュバックが起きるのか、アランは観察しているのだった。
こうしている時は、いつものダニーなのに、発作の時の彼は全く別人になってしまう。
弱虫で怖がりのダニーに・・・。
アランがつけているダニー・ノートはすでに3冊目に入った。しかしまだ
治療のきっかけをつかみあぐねている。アランにも焦燥の色が出ていた。
他の専門医に相談するべきなんだろうか。僕の力を超えているのかも。
自信家のアランが珍しく弱音を吐きたい症例がダニーなのだ。
アランは明日トムに相談しよう、そう決めて、シーザーサラダを取り分け始めた。
数日後、マーティンの携帯にニッキーから電話があった。
「マーティン?」「そうだけど・・君はニッキー?」「ピンポーン、正解!」
「ごめん、今仕事中なんだ。あまり長く話せないよ。」
「わかった、用件だけ言うね。書くものある?」「え?ああ、あるよ。どうぞ。」
「今夜7時に店に集合。ダニーには内緒よ。じゃあね♪」
「やっ、ちょっあのニッキー!」
返事も聞かず電話は切れてしまった。父さんぐらい強引だなぁ・・・。
コールバックしたものの、電源も切られていた。
マーティンは、指定された時間にザガロフ楽器に行った。
「こんばんは。ニッキー?」もう客は誰もいない。きょろきょろしながら奥に進んだ。
「マーティン、時間ぴったりね。いらっしゃい。」「今日は何の用なの?」
「ちょっとこれ見て!」ニッキーが差し出したバイオリンのケースを開けると、
中には色褪せたバイオリンが入っていた。
「オヤジがパリの蚤の市で手に入れたんだって。ビヨームの作品」
「すごいじゃない!あの天才の?」マーティンは思わず興奮した。
「もう売れちゃったから、弾くなら今日しかないの。」
「こんなの弾けないよ、壊したら大変だもん」「大丈夫よ、ご遠慮なくどうぞ。」
マーティンは手を洗ってから、恐る恐るバイオリンを取り出す。
ゆっくり深呼吸すると、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲ホ短調を弾いた。
重厚な物悲しい音色に胸がキュンとするのを感じ、
体が音楽とひとつになる感覚に包まれた。
「ニッキー、素晴らしい音色だ。僕は一生忘れないよ!」
マーティンは丁寧にケースに収め、ニッキーに礼を言った。
「まだドキドキしてる。鳥肌になっちゃってるし・・・」
「どれどれ?」ニッキーは両手でマーティンの頬に触れた。
「本当、鳥肌だ。それに震えてる・・」「え・あ・・」
マーティンはニッキーの顔が間近にあるので、余計にドキドキした。
ニッキーの手はシャツ越しにマーティンの胸の辺りを押さえている。
「すごく鼓動が早い、ほら、自分でも触ってみて」
マーティンの手を胸に当てると上から手を重ねた。
「ねっ!」「う、うん・・・もっもういいよ。大丈夫だから」
「あ・・・」手を退けようとした瞬間、柔らかいものが唇に触れた。
ニッキーにキスされ、マーティンはパニック寸前だった。
慌てながらもなんとかニッキーを引き離す。
「ニッキー・・・君はダニーが好きなんだろ?こんなことしちゃダメだよ。」
「マーティンのことが好きになったんだもん」そういうと抱きついた。
「えっ?でもさ、急にキスなんて・・・僕も困るよ。」
「マーティン・・・」しがみつくニッキーをどうすればいいのか困惑していた。
「もう離れてもいいかな?」「まだ!」
「こんなとこ誰かに見られると困るよ・・・」強引にニッキーの体を押しのけた。
「もう帰るね。あの・・今日は誘ってくれてありがとう、じゃあ・・」
マーティンは逃げるように店を出た。
とにかくタクシーを拾い、逃げるようにアッパーイーストへ帰った。
帰るなりベッドに飛び込み、布団の中で丸まった。
ニッキーにキスされ、ショックで体がガタガタ震えていた。
積極的な女は昔のことを思い出させる。
マーティンは自分の体を抱きしめ、記憶を消そうともがいたが、
記憶の渦に飲まれたように、何度も何度もニッキーの唇の感触を思い出していた。
気がつくと夜が明けていた。夕べから何も食べていない。
久しぶりにジョギングに行くことに決め、着替えて外に出た。
セントラルパークを横切り、H&Hベーグルまで走っていった。
シナモンレーズンをトーストしてもらい、帰りにセントラルパークで食べると気分が落ち着いた。
いい天気だなぁ、マーティンは思いっきり体を伸ばして深呼吸した。
よし!と気合を入れると、アパートまで駆けていった。
シャワーを浴びているうちに、さっきまでの勢いは消え失せ、
また、もやもやしたものが心を覆っていた。
ダニーに何て言えばいい?まともに顔も見られない・・・。
もしかしたら嫌われるかもしれない・・・マーティンは怯えた。
ニッキーがダニーに話したかも!そう思うと居ても立ってもいられなくなった。
慌てて身支度をすると、支局まで急いだ。
「おはよう、マーティン」「あっ、サマンサ、おはよう。」
局内を見回すが、ダニーはまだ来ていない。
「そろそろ始めようか」ボスの声にみんな集まった。
「おい、ダニーはどうした?」「すんません、遅れました!」
ほとんど同時に寝癖でボサボサのダニーが席に着いた。
「じゃあ全員揃ったことだし、始めよう」
ミーティングの間も、マーティンはダニーが気になって仕方がなかった。
「ダニー、おはよう」「おはよ、ファーア・・」
「寝るのが遅かったの?」「うん、ちょっとな。顔洗ってくるわ。」
ダニーの後を追っていきたかったが、ヴィヴに通話記録の分析を頼まれ断念した。
僕がブルックリンに戻らない間、一体何をやってたんだろう?
「よぉ、色男!これからデート?」
髪を濡らし、タオルで拭きながら戻ってきたダニーをサマンサがからかっている。
「デートのお相手していただけますか?」あら〜残念!三分前に先約済みざます」
「さあ、ほらっ仕事仕事!」ヴィヴの一言で二人は仕事に戻った。
「今日の帰りに菓子折り買わんとあかんねん。お薦めあるか?」
「菓子折り?どうして?」マーティンが不思議そうに聞いた。
「昨日の夜、お風呂の湯を溢れさせてな。下まで漏れたかもしれへん。」
下って僕の部屋じゃん!・・・大変だ、どうしよう???
思わず食事の手が止まり、マーティンは血の気が引くのを感じた。
「まだわかんないんだよね?何かあったら下の人だって言いに来るよ。」
「それが行ってみたけど留守やったんや。メモは挟んできたけど。」
「だから寝過ごしたんだ?」「ああ、ほんま拭くのが大変やったで。疲れたわ。」
「下に漏れてないといいね。」言いながらもマーティンは動揺していた。
ダニーは一日休んだだけで仕事に復帰した。しかし明らかに消耗している感じが見て取れ
た。「ダニー、大丈夫?」サマンサが声をかける。「俺?全然OKや。」
強がるダニーがマーティンには痛々しく映った。「ダニー、昨日の分書類整理しておいたから。」
マーティンがファイルを置く。開くとポストイットが貼ってあった。
「ディナー行かない?」ダニーは、メールで返信する。「捜査会議の件承諾。」
マーティンはほっとため息をついた。
ディナーはいつものダイナーにした。ダニーはミートローフ、マーティンは特大チーズバーガーだ。
「マーティン、豆食うか?」豆が不得意な事を知っていてからかうダニー。
「いらないよ!」マーティンは答えながら、このダニーのどこが仕事を休むほど悪いのか分からずにいた。
アランが嘘をついているのではないかと疑う位に。
「ダニー、調子はどう?」「まぁまぁって感じやな。夜が良く眠られへん。それが悩みや。」
不眠症なんだ。マーティンは少し納得した。「仕事に支障がないとええんやけど、
休みがちになると、ボスが何言い出すか分からへんし。アラスカに飛ばされるかもしれん。」
「アラスカ?!」「ボスとの約束やねん。俺をマイアミ市警から引っ張ってくれた時の条件ちゅうか、
俺が使いものにならなくなったら、アラスカ行きやて。」「そんなの嫌だよう。」
「まぁ、俺かて、ダウンタウン・テイラーや。転んでもただじゃ起きへんから、心配するなって。」
マーティンは安心して、チーズバーガーにがっついた。
「今日、ダニーのとこに泊まっていい?」「ああ、ええけど、俺、不眠症やねん。それでもええか?」
「ダニーがよければ。」「じゃあ、ブルックリンに帰るとするか。」
ダニーにとっても久しぶりの我が家だった。
留守電が点滅している。アランからだった。「ダニー、今日は来ないのかい?心配しているよ。愛してる。」
マーティンは複雑な思いで聴いていた。アランは本気なんだ。
「ちょっと電話するわ。」そう言ってベランダに出るダニー。
アランに電話してるんだろう。寂しくなった。
ダニーのワインセラーから、シャルドネを出すと一人で飲み始めた。
「何や、お前、今日飲みたいんか?相手になるで。」ダニーもグラスを持ってきた。
二人で買い置きのブリーチーズを肴にグラスを重ねる。
「うぅん、眠うなってきたわ。シャワーしよ。」「うん。」
マーティンは今日はどうしてもダニーとひと時も離れていたくなかった。
いつものように二人で身体を洗いっこする。ダニーの身体は全く反応しなかった。
ショックを受けるマーティン。アランの言うように、本当に具合が悪いんだ。
互いをタオルで拭きながら、パジャマに着替える。
「そんじゃお休み。」マーティンに背を向けて眠るダニー。
マーティンは余計に寂しさを募らせていた。
夜中、マーティンはダニーの悲鳴で目が覚めた。
「ダニー、大丈夫?」「ああ悪い夢見たわ。起こしてごめんな。」
ダニーは汗だくだった。マーティンがタオルを取りに行ってダニーに渡す。
「ありがと。」ダニーは身体をタオルで拭くと、また背中を向けて眠りに入る。
マーティンはその後のダニーが心配で眠れぬ夜を過ごした。
「朝やで!マーティン、遅れるぞ!」ダニーが精力的に動いている。
ほっと一安心するマーティン。シャワーを浴びて出てくるダニーと入れ替わりにシャワーを浴びる。
「今日はフレンチトーストでええか?」「うん!」ダニーのフレンチトーストは絶品だった。
メイプルシロップも上物だ。コーヒーとフレンチトーストのいい香りで、マーティンのお腹が鳴った。
「今日も時差出勤な。」「うん、僕が先に出るよ。」「了解。」
フレンチトーストでお腹が膨れたマーティンは身支度を整え、先に出て行った。
昨日は発作が一回で良かった。ダニーは一息ついてコーヒーを飲んだ。
ボンに心配をかけるのは気が引ける。過剰な反応をしそうだからだ。
アランに朝の報告をする。「アラン、お早う。昨日は一回目覚ましただけだったで。」
「それでも心配だよ。どうして家に引っ越してこないんだい?」
「うぅん、分からん。でも今日はアランのとこ泊まってええかな?」
「ああ、もちろんだとも。待ってるよ。」
ダニーはオレンジジュースで呼吸を整えてから、支局へと出勤した。
今日も特に際立った事件がなく過ぎる。ダニーはPCを素早く片付け、
「お先に!」とチームで一番早く帰宅した。
マーティンは、どうせアランのところにいってるんだろう、と不快な思いを抱いていた。
ダニーがアランの家に着くと、サフランのいい香りがした。
「おかえり。今日はパエリアに挑戦したが、食べてみるかい?」「リオハのワインと一緒だったらええで。」
ダニーはアディダスの上下に着替えてダイニングに座る。
アラン、今日は忙しくなかったん?」「スケジュール調整してね、20名に限定したよ。」
「それでも20名がアランのアドバイスで救われてるんやね。」
「救われてるかどうか分からないけれど、一応のカウンセリングはしたよ。」
魚介のパエリアは絶品だった。「すごく美味しい。アランって名シェフやな。」
「君ほどじゃないよ。」「またホームパーティー開こうよ。」ダニーが珍しく前向きな言葉を放った。
「ダニー、パーティー嫌いじゃなかったのかい?」「なんか自分のペースを変えたくなった。」
「じゃあ、早速企画しような。」「うん。」
アランは、調子のいいダニーがむしろ心配になったが、睡眠薬を投与することで、ダニーの安眠を確保しようと考えた。
「今日は薬が増えるけどいいかな。」「アランの言う事なら、何でも聞くで。」
「素直ないい子だ。」シャワーを交代で浴び、ダニーが先にベッドに入った。
ワインと睡眠薬で軽くいびきをかいている。これなら朝まで平気か?
アランもパジャマに着替え、ダニーの傍らに横たわった。
アランは早速ホームパーティーの企画をした。ダニーの症状を考えて、
まず顔見知りだけの小さい会を考え、マーティンに連絡した。
マーティンは、意を決してジェイムズを誘った。ジェイムズの快諾を得て、二人して現れた。
「これはこれは、新顔だ。」アランがシャンパンを渡しながら話しかける。
「初めまして。ジェイムズです。」「アランです。ようこそ。」
ダニーはスタンウェイの前に腰掛けて、モーツァルトやショパンを適当に奏でていた。
が、マーティンが連れてきた紳士に目が釘付けだ。
数曲弾いて、アランがシガーロスのCDを用意してくれたので、ピアノから離れる。
飲み物を取りがてら、マーティンに挨拶する。「どうや、調子は?」
「上々だよ。ダニー、こちらジェイムズ。イギリスから来た人。」「初めまして、ダニー。」
「初めまして。」ダニーはマーティンが新しい友達を連れてきたのに度肝を抜かれていた。
それも大人の紳士だ。
「それでは、ご着席ください。今日は内輪の会ですから、楽しくやりましょう。」
アランが出張を頼んだザ・ピエールのシェフがアスパラガスのポタージュを運んでくれる。
「ジェイムズ、お仕事は何を?」アランが話しを向ける。「貿易会社をやっていましてね。」
ダニーは聞きたくてうずうずしていた質問を口にした。「マーティンとはどこで?」
「ははは、恥ずかしながら、クラブでナンパしましたよ。」「ジェイムズ!」マーティンが顔を紅くする。
「お前、物欲しそうな顔してたんじゃないんか?」「またぁ、ダニーたら!」
からかわれてマーティンがますます紅くなる。「ダニーとマーティンはどういう知り合いで?」
ジェイムズがダニーを群青の瞳で見つめながら尋ねる。「職場の同僚っす。」
「じゃあ司法省?」「ちゅうかFBI・・」「へぇ〜、知らなかった。二人は捜査官ですか?」
「マーティン、話してなかったんか?」「うん・・」「こいつ口下手ですねん。ジェイムズ。」
「だが、ダンスは上手だ。ね、マーティン?」
いいダコのマリネに続いて、ローストビーフが運ばれてきた。顔を輝かせる
マーティン。「ほんま、お前、肉好きな〜。」
「ほう、ホースラディッシュもソースも本格的ですね。国を思い出しますよ。」
ジェイムズもメインディッシュに喜んでいた。アランも満足そうだ。
「アランのお仕事は何ですか?」「ダニーのお守りといいたいところですが」
ダニーにウィンクする。「精神科医でして、ここが仕事場です。」
お互い、性癖をさぐりながらの会話になる。
「どうです?お返しに今度は拙宅に皆さんをご招待させてください。」
ジェイムズの申し出にアランが即座に答えた。「うれしいですね。なぁダニー。」
「いいんすか?」「僕の家はマーティンの家と3ブロックしか離れてないんですよ。」
ダニーは二人の仲の深さを訝った。もう自宅を知っている仲?二人は寝てるのか?
不快さが心を曇らせる。「マーティン、来てくれるよね。」
ジェイムズの問いに口をもごもごさせながら頷くマーティン。
「それでは、来週の週末では?」ジェイムズはやり手のビジネスマンらしく
スケジュールをどんどん決めていった。アランが飲み物の手配を申し入れたが
びしっと断られていた。アラン、気を悪くしてないやろか。ダニーはアランを気遣う。
「手土産持たずにおいで下さい。イギリス人も味音痴でないことを証明させて下さいよ。」
いつしか、ダニーとアラン、マーティンとジェイムズという図式になってしまう。
マンゴーのシャーベットとエスプレッソでディナーはお開きになった。
アランとジェイムズはブランデー片手に葉巻をくゆらせ始めた。
マーティンはダニーが弾いているスタンウェイのそばに立って、ダニーの手さばきを
見ている。ロビー・ウィリアムズやデビッド・ボウイといったイギリス系の曲を選んで
弾いているダニー。ジェイムズが拍手してくれる。アランも鼻高々の様子だ。
僕も何か出来ればいいのにな。マーティンは一人ぼっちの気持ちになった。
「おいマーティン、後で話しがあるから。」ダニーが弾きながらつぶやく。
「うん?いいよ。」マーティンはダニーの不機嫌の理由が分からない。
「さてそろそろおいとましましょう。マーティン、帰らないか?」「は、はい!」
ジェイムズに連れられて、マーティンは帰っていった。
「ダニー、今日は君の家に泊まっていいかい?ここがこんな有様だから。
明日の朝、メイドが片つけてくれる。」「OK。」「じゃあ、行こうか。」
「それにしても思いがけないゲストだったね。」「ジェイムズ?」
「ああ。マーティンも社交的なんだかよくわからない子だね。」
「ジェイムズがリードしてたから、ひきずられてるんとちゃうかな。」
「マーティンらしいね。今日はエンリケが来ると思っていたが。」「うん。」
ダニーがガレージの鍵を開け、シルバーのボルボは中に吸い込まれていった。
761 :
fusianasan:2005/10/14(金) 03:07:37
毎日楽しみに見てます。ニッキーはマーティンの事が本当に好きなんですか?
なんだかマーティンがもて遊ばれてるようで可愛そうです。
>>761さん
詳細は徐々に明らかにしていく予定です。
お楽しみに。
「すみません、なんだか熱っぽいので早退させてください。」
マーティンはボスに言った。「熱?どれ・・・冷たいじゃないか」
「でっでも、体感温度が高いんです。」「わかった、気をつけて帰れな。」
ボスの許可を得ると、マーティンは急いでブルックリンへ戻った。
ドアの下には、見慣れたダニーの字で、お詫びと事情説明が書いてあるメモが挿んであった。
急いで中に入ると、バスルームの天井に水滴が連なっていた。
下にも水がたまり、びしょびしょに濡れている。
うわぁー、水漏れしてる・・・どうすればいいんだ?
とにかくモップで天井と床を拭き終えたが、この後の処置がわからなかった。
よくわからないものの、もう一度バスタオルで乾拭きし、ダニーへのメモを書いた。
[メモ読みました。水漏れはしていませんので、ご心配なく。]
たったこれだけのメモなのに、筆跡がどうしてもバレそうで怖い。
マーティンは何枚もメモを書き、ものすごく丁寧に書けたものを選んだ。
これなら大丈夫だろうと思い、ダニーの部屋のドアに挿む。
急いで戻らないとダニーがアッパーイーストに来るかもしれない、
マーティンは慌ててブルックリンを後にした。
ダニーは帰りにベルギーチョコの詰め合せを買うと、アパートに急いだ。
早退したマーティンのことも気になっていたが、水漏れのほうが優先事項だった。
どんな人が住んではるんやろ?男か女かもわからへん。
べっぴんやったらどないしょ、あー緊張するわ・・・・・。
地下鉄の駅から走って帰り、ドアを開けるとメモがあった。
よかった、水漏れしてなかったんや。ダニーはほっとした。
それにしても汚い字やなぁ・・・これは男やな。
気が抜けたものの、マーティンに電話し今から行くと伝えた。
マーティンはアパートに戻るとパジャマに着替え、オレンジジュースを飲んだ。
熱があったフリをしなくてはならない。とにかく寝転ぶとダニーを待っていた。
うとうとしかけた頃に、ダニーが来た。「オレンジジュース飲んだか?」
「うん、ダニーにいつも言われるからね」「そうか、ほなすぐ熱下がるわ」
ダニーは買ってきたリンゴや、オレンジジュースを冷蔵庫に入れ、
氷を用意した。「おなか空いてるんやったら何か作るで」「いらない」
ダニーは冷たいタオルを額にのせ、マーティンの横に座った。
「さっきアパートに帰ったんやけど、水漏れしてへんかったわ」
「そう、よかったね」「けどなぁ、これ見てみ、すごい汚い字や」
「ああ、うん」僕はこれでも丁寧に書いたつもりなのに・・・。
マーティンは笑いそうになり、咳をしてごまかした。
「そうや、チョコ食べるか?もう持って行く必要なくなったから」
「生チョコ?」「そう」「食べる!」ダニーは一つ口に入れてやった。
「ダニー、僕、話さなきゃならないことがある・・・」マーティンは思い切って切り出した。
「話?一体なんや」「昨日、ニッキーにキスされた・・」「えっ?」
「来いって呼ばれて、断ろうとしたけど電話も繋がらなくなってて・・・
それで行ったら幻のバイオリンを弾かせてくれたんだ・・で・・その」
「その?はっきり言わんとわからへんやん」
「感動してドキドキするって言ったら・・抱きつかれた・・」
「それでキスか?」「違うよ、ダニーが好きなんだろって聞いたら・・・」
「聞いたら?」「んと・・僕のことが好きだって・・・それで急に・・キス・」
ダニーの冷たい表情に、マーティンは身が縮む思いだった。
「どうやったん?」「何が?」「勃起したんか?」「なっ、そんなわけないじゃん!」
「お前もニッキーのこと好きやから会いに言ったんやろ」
「違うよ、そんなのダニーが一番よく知ってるくせに!!」
「やっぱり宗旨替えしたんやな」「違うって言ってるじゃないか!」
「熱計れ!」「え?」「ええから熱計れや!」
ダニーは無理やり体温を測らせた。「どうや?」「・・98F (36.6℃)」
「平熱や、着替えろ」「何で?」「うるさいっ、そのまま出かけるか?」
「できるもんならやってみなよ」マーティンはダニーを睨みつけた。
ダニーは強引にパジャマのまま部屋から引きずり出し、車に乗せた。
「どこに行くのさ?」不安になったマーティンが聞くが、何も答えない。
マスタングがアスタープレイスに差しかかった時、行き先がようやくわかった。
「ニッキーのとこだね?」ダニーは何も答えずそのまま進んだ。
「ニッキーを抱いて来い」それだけ言うと楽器屋の前で降ろされた。
ダニーはそのまま走り去ってしまった。
まだ人通りのある時間帯に、パジャマ姿で通りに佇むのは滑稽だった。
マーティンは泣きそうになりながらも、楽器屋に入るわけにも行かず歩き出した。
お金も携帯もない上に、タクシーすらつかまらない・・・。
アメコミ柄のパジャマを着た30男など、危険人物とみなされて敬遠されても仕方ない。
マーティンは途方にくれていた。人通りも途切れがちになり、恐怖も増してきた。
「ウィリアムズ様、ウィリアムズ様ではありませんか?」
振り向くとボスの秘密クラブのドアマンが立っていた。
「やはりそうでしたか、こんばんは、ウィリアムズ様」「あっあの僕・・・」
「ウォルシュ様のお仕置きですか?」ドアマンはウィンクしながら話しかけた。
「僕は・・その」「あの方のお戯れには愛敬がありますね」「ええ、まあ」
「今日はウォルシュ様のご予約は入っていませんが?」
「いいんです、僕一人で帰りますから。それじゃ失礼します」
「お待ちください、ウォルシュ様にご連絡してみましょう」
「でも・・・」「さあ、こちらへどうぞ」ドアマンはラウンジへ案内してくれた。
「すぐに迎えに来られるそうです。これをお召し上がりになってお待ち下さい」
ドアマンはロイヤルミルクティーとクッキーを勧めると、仕事場に戻っていった。
マーティンは出されたロイヤルミルクティーを飲み、不安そうに座っていた。
「おい、帰るぞ」顔を上げると、ボスが険しい表情で立っていた。
「はい・・・」マーティンはボスの後について部屋を出た。
「お世話になりました。失礼します」ドアマンに礼を言い、マーティンは車に乗った。
「どういうことだ?せっかくのデートを邪魔しやがって」ボスは怒っている。
「ごめんなさい。歩いてたら引き止められて」しどろもどろに説明する。
「そうじゃない、なんでそんな格好をしてるんだ?熱で早退したはずだろが!」
「ニッキーとキスしたら、ダニーがキレちゃって・・抱いて来いって・・」
「キスしただと?ゲイなのに?」「無理やり・・僕は嫌だったのに・・」
「ニッキーの店はこの辺か?」「ええ、すぐそこの・・あっ今通り過ぎた」
ボスは角を曲がるともう一度同じ通りに入り、ザガロフ楽器の横に停めた。
「ちょっと見てくる」「あっボス!」ボスはすたすたと店に入って行った。
ボスはしばらくすると出てきた。手に袋を提げている。
「かわいいな。一度お相手願いたい」ボスは相好を崩し、エロオヤジそのものだ。
「何を買ったんですか?」「娘たちにハーモニカをな」
ニッキー、こんなオヤジまで手玉か・・・僕なんてちょろいもんだよね。
「どこに送ればいいんだ、ダニーは戻ってくるのか?」
「もうわからない、ダニーが許してくれるかどうかも・・」
ボスは携帯を取り出した。「ダニーか、今どこだ?そうか、今から行く」
「ブルックリンにいたぞ。どうする?」「・・・・・」ボスはダニーのアパートに向かった。
アパートに着くと、不機嫌なダニーが応対した。
「どうやった、ニッキーの体は?」「まあ待て、ダニー」
「コイツにそんな芸当ができるわけないだろ?チン毛も生え揃ってないのに」
「でもキスしたって・・」「無理やりにな、あのガキならこんなトロいボンボンなんて一発さ!」
「ボス、ニッキーに会うたんですか?」驚くダニー。
「ああ、さっきな。私なら飛びつくが、コイツには何の役にも立たないだろうよ」
「携帯も金もないのにボスにどうやって連絡したんや、ニッキーに頼んだんか!」
「違うよ、歩いてたら秘密クラブのドアマンが助けてくれたんだよ」
マーティンは消え入りそうな声で説明した。半泣きで今にも泣き出しそうだ。
「で、バン・ドーレンとのお楽しみを邪魔されちまった」
ボスはマーティンの肩をたたいた。「まだイッてなかったのに・・・」
「ところでダニー、あんな危険な所にマーティンを放置するとはどういうつもりだ?
この坊やに何かあったら、責任は私が取らなければならないんだぞ」「それは・・・」
「こいつはなぁ、あのムカつくフィッツジェラルドの一人息子だ。わかってるのか?」
「ええ、一応は」「お前の出世もパーなんだぞ、よく考えて行動しろ!」
「はい・・・」「わかったらさっさと服を脱げ!」すかさず命じるボス。
「オレだけ?」「そうだ」「何でオレだけ・・」ぶつくさ言うダニー。
「ボス、僕が脱ぐよ。軽率だった僕が悪いんだから」マーティンはパジャマを脱ぎ捨てた。
「そうか?じゃあベッドを借りるぞ、ダニー」ボスはマーティンとベッドルームへ消えた。
ダニーは居たたまれなくなり、ベランダで夜景を見ていた。
しばらくするとボスが出てきた。「おい、何か飲み物くれ」
「はい。あの、マーティンは?」ダニーは、マーティンが一向に出てこないので心配になった。
「何もしないうちに寝ちまった。熱があったからだろう」
ボスにリンゴジュースを渡し、ダニーはベッドルームへ行った。
寂しそうな寝顔で静かに眠っているマーティン。
ダニーはしばらく見つめると、布団をかけ直して部屋を出た。
780 :
書き手1 760の続き:2005/10/14(金) 22:20:47
週末がやってきた。今日はジェイムズの家での晩餐会だ。
アランの家で洋服選びをするダニー。「カジュアルでいいんじゃないかい?」
「相手はイギリス紳士やから・・」「じゃあ、これは?」グッチの秋冬物のセーターだ。
「どうしたの?」「また誰かさんがグラビア見て欲しがると思って買っておいたよ。」
「ありがとう、アラン!」ダニーはアランの頬にキスをした。
「ここには?」アランが唇を指差す。キスをする二人。すっかり自然な振る舞いになっている。
「なぁ、アラン。ジェイムズってゲイやろか?」
「そうだなぁ。マーティンをナンパしたのが本当ならゲイかな・・ひょっとしてバイかもしれないね。」
「ふうん。もう二人は寝たと思う?」「まだだろう。マーティンが緊張してたからね。」
「よう見てるね。」「仕事柄、マン・ウォッチングが癖でね。さぁ行こうか。」
二人してアランのボルボで出かける。
アッパーイーストサイドの上の方、グッケンハイム美術館と横並びの通りにジェイムズのアパートは面していた。
ペントハウスが住まいだという。「ペントハウスか〜。初めてや。」
ダニーは子供のように目を輝かせていた。
自分が夢見ている世界がここにもあった。
インターフォンを押すとドアマンが開けてくれる。
「ダーシー様のゲストの方で?」「はい。」「そちらの専用エレベータでどうぞ。」
「やっぱすごいね、アラン。」アランも度肝を抜かれていた。
直通でペントハウスに着く。エレベータのドアが開くと、そこは玄関ホールだった。
踊る象の像や仏像、漢字が書かれた掛け軸などオリエンタルな調度品で飾られている。
「やぁ、お二人さんようこそ。」ジェイムズが出迎えてくれる。
マーティンはすでに来ていて、フィッシュ&チップスをかじりながら、
庭からセントラルパークを見下ろしていた。
「うわぁ、すごい眺めや!」ダニーも子供のように庭へ飛び出る。
イギリスのバスペールエールとフィッシュ&チップスが庭のテーブルに置かれている。
「アランもどうです?イギリス庶民の味ですよ。」「喜んで頂きます。」
「貴方はイギリス系でしょう。」ジェイムズがアランに尋ねる。「祖先はメイ・フラワー号でこの
国に渡ったと言っていますがどうでしょう。」「出身はボストン?」「ええ。」
「じゃあ本物だ。今日は祖国の味を十分に楽しんでください。」
「ありがとう。」ビールで乾杯する二人。
「アメリカ人は必ずトマトソースをかけるが、モルトビネガーで食べて欲しいですよ。」
ジェイムズはタラのフライをビネガーに浸しながら口に運ぶ。
「もっともで。」アランもマネをする。
「ジェイムズ、ご家族は?」「両親がロンドンにいます。まだ父親が会社で
会長職から退かないので、半人前ですよ。」「それでは結婚は?」アランの詰問は続く。
「いえ一度も。アランは?」「僕は彼の面倒見るのが精一杯ですから。」と目でダニーを追う。
「なるほど。それでは僕も同輩ということですね。」「そうですか。」
「マーティン、彼は実に素直な子ですね。」「ええ、ダニーがやんちゃな分、
マーティンは自分の気持ちを外に出すのがへたくそでね。正反対ですよ、あの二人。」
「アラン!こっち来てみい!すごいで。アランの家も見えてる!」
ダニーが興奮しながらアランを庭へ連れて行く。
ジェイムズは料理人に合図し、料理の準備をさせた。
「さぁ、皆さんお席へどうぞ。」ざわざわと席に着く4人。
「今日は小エビのカナッペ、ドーバーソールの蒸し焼き、マッシュポテト、グリーンサラダ。こんなものですが。」
「お腹ぺこぺこですねん。」ダニーは好きな魚料理なのでほっとした。
アランが尋ねる。「ドーバーソールとはわざわざドーバー海峡でとれたヒラメを空輸させたんですか?」
「僕がこの国に来て心から楽しめる友人と出会った記念ですよ。」
料理は素晴らしかった。ジェイムズが料理人のウォンを紹介する。
「彼は香港のマンダリンオリエンタルにいたんですが、僕が気に入ってしまってね。
わが家の専属になってもらいました。」
皆が拍手する。ウォンは長々とお辞儀をして、キッチンへと帰っていった。
これがイギリスの上流階級なんか〜。ダニーは雰囲気に飲まれてしまっていた。
アランは気が気ではなかった。ジェイムズがゲイと分かった今、ダニーすら奪われるのではないかと。
ダニーは無邪気にマーティンと会話しながら、食事を楽しんでいる。
ワインはシャトームートンロートシルトで揃えていた。
マーティンはジェイムズの生活ぶりに心を動かされていた。
これはすごいよ。父だって驚くな。
食事も終わり、大人二人組みはまた、葉巻とブランデータイムだ。
ダニーはグランドピアノを見つけ、ドビュッシーをかなで始める。
マーティンはダニーのそばでワインを飲みながら聞き入っている。
「おい、マーティン、すごい人と友達になったな。」
「うん、僕も今日まで知らなかったよ。」
ダニーはほっとした。まだこの二人は寝ていない。
でもこれから先がどうなるか分からない不安が影のようにつきまとう。
アランとジェイムズは談笑しながらこっちを見ている。
ダニーはアランにウィンクをして、コールドプレイの「イエロー」をを弾く。
ピアノに合わせてアランが歌う。思いがけない美声にジェイムズもマーティンも驚いた。
さびの部分はダニーも歌い、ハモリも披露した。二人の息はぴったりだ。
♪You know I love you so ♪のところでアランはダニーの頬にキスをした。
「ブラボー!」ジェイムズは惜しみない拍手を送ったが、マーティンの心は複雑だった。
「今日は本当に楽しかった。ありがとう。ジェイムズ。」
「こちらこそ。先週のお返しです。アラン。またちょくちょくやりましょう。
近所なんですから。」ダニーはマーティンに囁いていた。
「これからどうするねん?」「ジェイムズ次第だよ。ダニーはアランと帰るんでしょ。」
「そやけど・・」「帰りなよ。僕の事はほっておいてさ。」
どうやらアランの歌が良くなかったようだ。マーティンがヘソを曲げている。
とりあえずダニーはアランとおいとますることにした。「それではご機嫌よう。」
「おやすみなさい。ジェイムズ。マーティン。」「気をつけて。」
専用エレベータを降りながら、「すごかったな。ペントハウス。」とアランに感想を言うダニー。
アランの嫉妬心がめらめら燃える。ボルボに乗ってアランの家に戻る二人。
家に着くやいなや、アランがダニーの耳を噛む。
「い、痛!アラン!何や!」「ダニー、ジェイムズに惹かれてないか?」
「何で?俺にはアランがいてるから、惹かれるわけないやんか。」ダニーの瞳はおびえていた。
「ごめん、ごめん、つい、かっとなってしまったよ。さ、シャワーしようか。」
「うん・・。」ダニーはマーティンの方が心配だった。
ジェイムズ、何か分からんけどうさん臭い感じもする。
マーティンがへんな事に巻き込まれんとええけど。
ダニーは一晩中むしゃくしゃして、なかなか眠れなかった。
ニッキーの真意がわからない。オレとマーティン、どっちが好きなんやろ。
オレもキスはした。自分からやけど。マーティンはニッキーからや。
ニッキーはしたたかやから、二股としか思われへん。
それにマーティンは利用されてるだけかもしれへんし・・・。
そうは思うものの心穏やかではない。眠っているマーティンを見つめていた。
「ダニー、起きて。」「ん・・・」マーティンに起こされ不機嫌そうに目を開けた。
「おはよう・・・」「ぁぁ」返事もろくに返さないダニー。
「まだ怒ってるよね?もう二度とニッキーには会わないから・・・。
ごめんね・・・先にシャワー浴びてくる。」マーティンはそそくさとベッドから出た。
マーティンがシャワーを浴びていると、ダニーが入ってきた。
「あ、すぐ出るよ。」「いいや、いっしょでええやん。」「うん。」
「ニッキーにオレに話したこと言うなよ。」「どうして?」
「真意が知りたいんや、二股かどうかをな。オレは人に試されるのが大っ嫌いや!」
マーティンはきょとんとしていたが、重い口を開いた。
「でもさ、僕はニッキーとは会いたくないんだよ。
体に触られたくないんだ。たぶん、ウブな童貞みたいに思われてるよ。」
「そうか・・・昨日は悪かったな。怖かったやろ?」
「路上で泣きそうだったよ。でもさ、ダニーは真剣にニッキーが好きなんだね・・・」
悲しそうにつぶやくと、マーティンはそっぽを向いた。
「お前には悪いけど、違うとは言われへんねん。オレはゲイとちゃうから・・」
「うん、わかってる。ニッキーならいいよ。僕も我慢するから・・・」
そう言い残すと、マーティンはバスルームから出た。
ダニーがリビングへ行くと、マーティンはすでに出勤した後だった。
「ボス、おはようございます。昨夜はご迷惑をお掛けしました。」
マーティンは出勤すると、真っ先にボスのオフィスに行った。
「ああ、おはよう。もう熱はないのか?」
「ええ、おかげ様ですっかり良くなりました。」
「そうか、よかったな。気をつけろよ。」「はい、失礼します。」
部屋を出て行きかけたマーティンに、ボスは声をかけた。
「お前が先に眠ってしまって残念だった。」マーティンは顔を赤らめながら部屋を出た。
一人でランチを食べていると、マーティンの携帯にニッキーから電話が入った。
「マーティン、この前はごめんね。反省したんだ。」
「ううん、僕も気にしてないよ。」マーティンは言葉を選んで答えた。
「本当に?よかった〜、嫌われたらどうしようかと悩んじゃった♪」
「でもさ、ダニーが好きなのにそんなこと言ってもいいの?」
「マーティンが好きって言ったでしょ?」「うっうん・・・でも・・」
「今夜デートしない?」「デート?!!」
「ちょっと、大きな声出さないでよ。びっくりするじゃん・・・」
「ああ、ごめん。」「デートだめ?マーティンに会いたいなぁ〜」
「今日は仕事が忙しくてさ・・・」慌てながらも、何とか断る理由を探した。
「なーんだ、つまんな〜い。マーティン、電話もくれないんだもん」
「うん・・・じゃあまたね」「もう切っちゃうの?」
「ごめんね、それじゃ」マーティンは困惑していた。
「ダニー、ちょっといい?」ランチから戻ってきたダニーをつかまえ、経緯を話した。
「わかった、オレに話したことも一切しゃべるなよ。」「ん、言わない。」
ダニーは今夜、ニッキーに会いに行くことにした。
マーティンも薄々感づいていたが、ゲイではないダニーを止めることはできないとあきらめた。
それに、ニッキーなら他の女よりは我慢できる。苦渋の決断だった。
ダニーはニッキーに会いに行った。
「やぁ、ニッキー!」「ダニー、急にどうしたの?」
「ディナーに行かへん?誘いに来たんや」「二人だけで?」「そう」
「マーティンは来ないの?」「マーティン?何であいつ呼ばなあかんの?」
「ううん、用意してくるね」さらっと流すと、ニッキーは奥に消えた。
ニッキーがいない間、商談用のテーブルで考えていた。
マーティンのこと、ほんまに好きなんかもしれへん・・・。
ノリータまでドライブし、カフェ・ハバナで食事したがダニーは楽しめなかった。
ニッキーの話が素通りしていく。「ダニー、聞いてる?」「ああ、聞いてるで。」
「この前の剣の舞が評判になってるの、またやってよ。」「うん、そやな・・」
「ダニーもマーティンもかっこよかったもんね!」「そうか?そろそろ出よか・・」
ダニーは、無意識のうちに頼んだテイクアウトのブリトーを受け取り、チェックを済ませた。
楽器店で少し話し、別れる間際にニッキーにキスした。
「ダニー・・・」少し抵抗したニッキーの唇をこじ開け舌を入れる。
「ん・・ぁ・・」おずおずとした舌の反応が返ってきた。
ダニーはそのまま押し倒したい衝動に駆られたが、ニッキーから離れた。
「じゃあ、またな」「うん」そのまま別れると、アパートへ戻った。
マーティンは天井を見つめたまま、動けずにいた。
ダニーとニッキーの仲を認めた自分に、ご褒美としてとっておきのロマネ・コンティを飲んでいた。
本当は二人の記念日にと思い、大枚をはたいて買ったはずだった。
ダニーは出かけたまま帰ってこない。今頃はニッキーとベッドかも・・・。
じりじりと身を焼かれるような思いで、帰りを待ちわびていた。
コツコツと足音がした。あっダニーが帰ってきた!
マーティンは大きく息を吐いた。ずっと息をするのを忘れていたような気がする。
一人でグラスを傾け乾杯し、虚しい宴を続けていた。
マーティンは酔った勢いでボスを呼び出した。
ボスは異常を察したのか、すぐにやって来た。
「ボス、ロマネ・コンティをどうぞ〜」気前よくワインを注ぐマーティン。
「お前、こんな高い物よく買うなぁ・・・」ボスは一口試飲して唸った。
「記念ですよ、記念」マーティンはどんどん勧めた。
「僕はもう十分ですから、ご遠慮なく」そういうと床に寝転がった。
「マーティン、何かあったのか?」「ダニーがニッキーと寝るのを許しただけ・・」
「お前が?」ボスは口笛を吹いた。「それは予想外の決断だったな」
「ニッキーならいいんだよ、いい子だと思うから」
「いい子?娼婦まがいの女だ!」ボスはきっぱり切り捨てた。
「でもね、仕方がないんだ。ダニーが好きになったんだし、止められない・・・」
ボスは黙って抱きしめた。「現実を受け入れただけ、お前はえらいぞ」
マーティンはしくしく泣きながら頷いた。
マーティンはベッドでボスに抱かれた。いつもと違ってそっとやさしく・・・。
快楽も何もない、癒しのための行為だった。
僕はここにいる・・・ダニーの気持ちが少しでも僕に残っていればそれでいい。
マーティンは静かに果てると目を閉じた。
ボスもそれ以上何もせずに、ただそばにいてくれた。
ダニーはジェイムズのペントハウス暮らしに相当感化されたようで、
ブルックリンの家に帰らず、ほとんどの晩をアランの家で過ごすようになった。
アランにとっては渡りに船だが、きっかけがジェイムズのパーティーというのが気に入らなかった。
「ねぇアラン、
あのペントハウス、幾ら位何やろうな?」「さぁ200万ドル(2億円)くらいじゃないか?」
「俺には一生の夢やな〜。」「なんだ、ペントハウスがいいのかい?」
「今のアパート、庭がないから・・・」「だからここに引っ越してくればいいのに。
ダニー、ここのベランダなら庭位造れるよ。」「うぅん、まだ踏ん切りつかないんや。ごめん。」
「僕はいつまでも待ってるからね。」
ジェイムズが現れてからというもの、アランは自分でも忍耐強くなったと思っている。
あのスノッブ野郎に負けてたまるか!という不屈のアメリカン魂が、アランを熱くしていた。
ダニーは、そろそろアランと同居してもいいかなという気持ちに傾いていた。
しかし、そうしたら、マーティンはどうするだろう。
ジェイムズとの仲もよう分からんし、ショック受けるやろうなぁ。
その時アランの携帯が鳴った。サマンサだった。
「アラン、私、カウンセリング受けたいんだけど、予約とれる?」
「ああ、明日の7時なら大丈夫だよ。」「ありがとう。恩に着るわ。それじゃ。」電話を切る。
「サマンサがカウンセリング受けたいそうだよ。」
「へぇ〜、あのサムがなぁ。まぁ不倫してりゃ、悩みは尽きないやろうからなぁ。」
「不倫?」「そう、うちの変態ボスと深い仲やねん。」
「全く、君のチームはどうなってるんだい?」「知らんわ。そろそろ寝たい。」
「じゃあシャワーに行こうか。」「うん。」
例の事件以来、二人はセックスを全くしていない。
ダニーの心を慮って、アランが行動に移さないのだ。
二人で手をつなぐか抱き合って寝るのが常だった。
シャワーで入念にダニーの身体を洗うアラン。
ダニーの身体は少し反応していた。
恥ずかしげに両手で隠すダニー。
我慢できず、アランはダニーの両手を磔の姿勢にして、ダニーのペニスを口に咥える。
「あぁぁん、アラン、だめや、すぐにイく!」ダニーは即座に果てた。
ダニーとてそろそろと思っているが、ジムの姿が目の前に浮かんだらどうしようという恐怖に勝てずにいた。
「アランは?」「僕はいいさ。ダニーが気持ちよければ。」
二人でベッドへ向かう。今日もダニーが安眠出来ますように。アランの祈りだ。
翌朝まで発作がなく、ダニーはすやすや眠っていた。アランは眠れぬ目をこすりながら、
新聞を取り、コーヒーを入れた。ダニーが起きてくる。「おはよ。」「良く眠れたようだね。」
「昨日はアランの夢見たで。」「ほう。どんな?」「花畑の中でピクニックしてたわ。」
「平和そうだね。」「ねぇ、今度、ピクニックせいへん?ジェイムズとマーティンも呼んで。」
「ああ、いいよ。」「約束やで。」「OK。」ダニーは上機嫌で出勤していった。
調子が良すぎるのが怖いくらいだ。ゆり戻しがあるのではないかと、アランは心配でならなかった。
今日は、昨日失踪した証券マンの捜査で外回りが続き、ダニーはへとへとだった。
だが、サマンサがアランの家に行くのだから、ブルックリンに帰らなければならない。
久しぶりに顔なじみのインド料理のテイクアウトをし、サグマトンとナンとサラダを買った。
家に戻ると、部屋の明かりがついている「??」ドアも開いている。マーティンだった。
「マーティンどうした?」「ダニー、僕、寂しいよ。ダニーが全然かまってくれないじゃん。」
半べそで抱きつくマーティン。「ごめんな。色々忙しかってん。」
「どうせ、アランの家でしょ。」「カウンセリングやて。誤解するなよ。お前こそ、ジェイムズとは
どうなんや。」「いい人だよ。優しいし。無理強いしないし。」「肉体関係あんのか?」
「そんな!ジェイムズは紳士だよ。そんなのないよ。」人の表面を信じてしまうマーティン。
ダニーはだからこそ心配なのだ。
「今日、泊まっていい?」「ああ、ええで。でもまず夕食や。」
買い置きのナンを解凍して、食卓に並べる。またダニーに大問題だ。
セックスが出来なくなって2ヶ月余りが経っている。ボンにわかってもらえるやろうか。
二人の沈黙のディナーが過ぎた。「じゃぁ風呂にお湯張るわ。」ダニーはバスルームへ行った。
ボンの好きなラベンダーのアロマオイルを入れる。
マーティンは、ダニーのワインセラーからまたワインを出して、一人で飲んでいた。
「お前、アルコールの量増えてないか?」「大丈夫。」
そういってワインを一気飲みするマーティン。
心がかさついている感じが見て取れる。
「何かあったんか?」「ダニーに会いたかっただけだよ。」
冷蔵庫の中からオリーブの瓶詰めを出して、つまみに飲み始める。
マーティンの酒はウォッカに変わっていた。
「お前、飲み過ぎや。風呂入れるか。」「ダニーと一緒なら何でも出来るさ。
このベランダから飛び降りてもいい。」「あほ!なに抜かしてる!風呂入るで!」
ダニーは酔っ払いをおいて一人でバスに浸かった。トイレでマーティンが吐いている音がする。
「またかいな。」「大丈夫かぁ?」返事がない。「おい、マーティン!」
急いでトイレに行くとマーティンが倒れていた。
「まずい、急性アル中や。」急いでアランの携帯に電話する。
「ダニー、眠れないのかい?」「そうやなくて、ボンが飲み過ぎで意識失った。」
「すぐ行く。」市立病院のトムのいるERに運ぶ。トムはマーティンに付き添って処置室に入っていった。
処置室から出てくる。「アルコールの多量摂取。胃を洗浄したから、明日の朝まで点滴する。
本人は寝てるから、君たちは帰っていいよ。」
トムがにやにやしている。「二人、もう暮らし始めたのかい?」
「いや、この子がまだYESと言ってくれないんだ。」
「ダニー、アランは移り気だから、本気だったら即決がお勧めだよ。」
「アラン、移り気なん?」「それは昔の話だよ。今は一人しか心の中にいないからね。」
ダニーはほっとした。今の自分の生活は、アラン抜きでは考えられないからだ。
「俺がふらふらしててごめん。アラン。」「ダニーにはダニーの事情もあるだろうからね。僕は待つよ。」
「ありがと。」二人はトムに礼を言う。「またパーティーに呼んでくれれば帳消しさ。」
トムはアランにウィンクした。
病院を出ながら、アランが尋ねる。「何でまた、あんなになるまで飲んだんだい?」
「分からん。家に帰ったら、不機嫌のあいつがおって、一人でぐいぐい飲んでバタンきゅーやわ。」
「そろそろ僕らの事をはっきりさせた方がいいんじゃないのかな。」
ダニーにとっては最も難しい選択だった。出来れば先送りにしたい。
曖昧に答えて、ボルボに乗った。
825 :
fusianasan:2005/10/16(日) 01:52:31
マーティンの気持ちが切ないです。
書き手1さんも2さんもマーティンの幸せをどうか忘れずに!
ダニーはニッキーと付き合い始めた。
週に一度か二度デートを楽しむ。
念願の陰毛もやっと生え揃い、お気に入りのコンドームもどんどん消費されていた。
マーティンはニッキーとの関係に何も言わない。
後ろめたさを感じてはいるが、ダニーにはどうしようもなかった。
それにニッキーにそろそろ飽きてきたのも事実だった。
「ダニー、今日会える?」仕事中にニッキーから電話が入った。
「ごめん、疲れてるから寝る予定やねん」
「そう、じゃあゆっくり休んでね」「ああ、ありがとう。ほな」
ダニーは人目をはばかるように電話を切った。
「ニッキー?」気づいたマーティンが話しかけた。
「ああ」「うまくいってるんだね」「ぼちぼちや」
それ以上何も言わずに、二人は仕事に戻った。
マーティンはイーライズ・マンハッタンで夕食を調達してきた。
アパートに入りかけたとき、携帯が鳴った。
「はい」「マーティン♪」「え・・あ・・ニッキー?」「そう!忙しい?」
「う、うん、仕事中だからね」「嘘だぁ!紙袋抱えて仕事なの?」
「え?」「後ろ向いてみて」
マーティンが振り返ると、ニッキーが立っていた。
「ニッキー!?どうしてこんなところに?」「買い物の帰りに見かけたから」
「もしかして僕の後をつけたとか?」「そんなことしないって。偶然見かけたの」
「そっか・・何買ったの?」「クッキーの型。ハロウィンだからね♪」
「ふうん」「クッキー好き?」「まあね」「焼いてあげるから楽しみにしててね」
「僕に?」「だって、マーティンお菓子好きそうじゃん」「そうかな・・・」
マーティンはダニーに見られないかヒヤヒヤした。
「じゃあ、僕は帰るから」「マーティンちは何階?」「21階」
「うわぁー、眺め良さそう!いいなぁ、見たーい」
「あのさ、ダニーに見られると怒られるんじゃないかな?」
「言わなきゃいいじゃん!」
「いや、そういうことじゃなくってさ・・・」「少しだけならいいでしょ?」
仕方なくマーティンはニッキーを部屋に案内した。
部屋に入ると、仕事部屋に鍵をかけ中を見られないようにした。
ダニーが職業を偽っている以上、見られるわけにはいかない。
「わぁー!広いし、ピカピカだー」ニッキーは感嘆の声を上げながら部屋を回る。
ベッドルームやキッチンも入念にチェックしているようだ。
ひととおり見終わると、リビングに戻ってきた。
「キャー、これ、すっごくかわいいー」
イームズのサイドシェルチェアに座られそうになり、慌てて止めた。
「それには触らないで」「マーティンの宝物?」「そう、大事だから・・」
「わかった」ニッキーはおとなしくソファに座った。
「ジュースでいいよね?」「うん、ありがと。マーティンは飲まないの?」
「僕は後でアルコールを飲むから」「いいな〜」「君はまだ子供だろ」
「こんな広い部屋に一人で住んでるの?」「そうだよ」「寂しくない?」「え・・いや」
ニッキーはグラスを置くとマーティンの横に座った。
「寂しいんだ?」「そんなことないよ・・」「また震えてる・・・恥ずかしいの?」
「ちょっちょっと、僕のこと童貞とかって思ってない?僕だって30過ぎてるんだよ?」
「童貞なんて思ってないよ。かわいいなぁ」すっかりニッキーのペースにはまっている。
「あのさ、元の席に戻ってくれる?話もできないよ」
「ダニーのこと気にしてるの?」
「うん。君もダニーのことが好きだって言ってたじゃない」
「前はね。今はマーティンが好きなの」「僕は困るとしか言えないよ」
ニッキーはマーティンのネクタイをほどいた。「ねぇ、やめようよ・・」
シャツのボタンも外され、胸があらわになった。
「鍛えてるのね、逞しい」ニッキーの手は胸をなでまわし、乳首に触れた。
「ぁ・・」「どうしたの?」「なんでもないよ」「ここ?」さらにコリコリと触れる。
「んっ・ぁ・・・ちょっとニッキー!!」マーティンはニッキーを押しのけた。
「もう帰ってくれる?ダニーと付き合ってるのにこんなことするのはよくない」
マーティンは急いでシャツのボタンを留め、服を整えた。
「マーティンは私のことをどう思ってるの?」
「え・・かわいいし、おもしろくていい子だと思うよ」「それだけ?」
「他になんて言えばいいのさ?」「好きとかそういうのは?」
「ダニーの彼女にそんなこと言えないよ」マーティンはめまいがしてきた。
「ダニーの彼女じゃないったら!」
「え?もうヤっちゃったんじゃないの?僕はダニーとは親友だから、君とはどうにもならない」
言い終わらないうちにニッキーが抱きついてきた。
「ニッ・・」マーティンはニッキーに上から圧し掛かられ、唇を奪われた。
「じっとしてて」ニッキーはマーティンのシャツのボタンを再び外し、
ベルトに手を掛けた。マーティンは必死でニッキーの手を掴んだ。
「どうして?私じゃダメ?」「ああ、ダメ。他に好きな子がいるからね」
マーティンは掴んだ手を離し、ニッキーから逃げるように離れた。
「わかった、今日は帰る。でもマーティンのことあきらめないから!」
ニッキーはそう言い残し帰っていった。
ダニーはニッキーに騙されてる?
二度と会わないと言った手前、部屋に上げたことを話したらまた怒らせてしまう。
言おうかどうか、マーティンは悩んでいた。
「ダニー、僕だけど」「うぅん・・何?」「寝てた?」「ああ、何か用か?」
「ニッキーのことだけど・・もうセックスした?」「え・・・」
「いいよ、言わなくてもわかった。当然だよね。ニッキーに愛されてるって思う?」
「どうやろ?ようわからんねん」「どういう意味?」「ええ加減な女やからな、あいつは」
「ならいいんだ。ダニーはそれでもいいんだよね・・わかったよ、起こしてごめん」
マーティンは電話を切るとため息をついた。セックスか・・・。
不意に体を動かしたくなり、マーティンはスカッシュをしに行った。
一人で黙々とボールを打つと何もかも忘れられた。
いつのまにかギャラリーが集まってきた。マーティンは気にせずに続ける。
ゲームを終えスカッシュコートから出ると拍手され、驚いたが手を挙げて応えた。
「ねえ、私のこと覚えてない?」いきなり声をかけられ、見るとスーザンがいた。
「スーザンだったよね?」「そう、以前ダニーのこと頼んだでしょ」
「ああ、そうだったね。言いにくいんだけど、ダニーさ、新しい彼女がいるんだよ」
「そうだったの・・・たぶんそうだろうなとは思ってたんだけど」
「ごめん」「あら、あなたが謝らなくてもいいのに。どうもありがとう」
スーザンはがっかりしながら行ってしまった。ダニーって罪な男だよなぁ。
爽快な気分が一瞬にして鬱になってしまった。
ロッカールームで着替えていると携帯が鳴った。父・携帯と表示されている。
「はい、マーティンです」マーティンは顔をしかめながら出た。
「マーティン、夜遊びしてるんじゃないだろうな?」「近くにスカッシュしに来てるんですよ」
「そうか、夜は出歩くなよ。危険だからな」「僕はもういい年なんですよ、父さん・・」
「とにかく早く帰れ、わかったな」「はい。それで何かご用なんですか?」
「ああ、来週空けとけ。ゴルフに行くぞ」「僕とですか?」
「ジャックもだ。それとテイラー捜査官も呼ぼうかと考えている」
「ダ、テイラー捜査官も?どうして?」「あと一人必要じゃないか。お前から誘っておけ」
「はい・・わかりました。おやすみなさい」「ああ、おやすみ」悩みがまた増えてしまった。
マーティンはそのままダニーのアパートへ行った。
部屋の中は真っ暗で静まり返っている。また寝てるんだね。
リビングの灯りをつけ、ベッドルームへそっと入った。
「ダニィ?」ベッドの中はもぬけの殻だった。どこに行ったんだろう?
マーティンはそのままベッドに横たわった。
ダニーはそのころ、ハーレムのモーテルで二人の娼婦と戯れていた。
もちろん前回の教訓もあり、娼婦たちの陰毛を丹念に調べた。
日ごろのストレス発散にハードなプレイを楽しんでいる。
一人に全身をくまなく舐めさせ、もう一人にはオナニーショーをさせて見物していた。
「おいおい、びちゃびちゃやんか。オレの出る幕ないやん」淫靡に笑うダニー。
「そろそろ乗ってくれ」仰向けになると娼婦に跨らせ腰を振らせた。
「この子の乳、舐めたってくれや」ダニーはもう一人の娼婦に命令した。
言われたとおりにする娼婦。レズプレイにダニーは興奮しゾクゾクした。
「うっ・・イクで・・うぅ・・・ハァハァ・・・自分ら最高やで!」ダニーは大満足だった。
二人に$100ずつ渡すと、鼻歌を歌いながらアパートへ帰った。
シャワーを浴び、ニュースを見ながら余韻に浸る。
「ダニィ・・・」「うわっ、来てたんか!」ダニーはこけそうになった。
「どこに行ってたの?」「えっと、ニッキーとデートしてたんや」ダニーは嘘をついた。
「そう、楽しかった?」マーティンは気がつかないフリをした。
「ああ、まあな。お前、何でいてるねん?」
「父さんから来週のゴルフにダニーを誘えって言われたから。来れる?」
「ええけど、ゴルフなんかしたことない。道具もないし・・・」
「クラブは僕のを使うといいよ。じゃあ、来週の予定空けといてね」
マーティンはダニーのことがよくわからなくなった。
どうして嘘なんてつくんだ?階下の部屋に帰るなり涙がとめどなく溢れた。
翌日、ダニーは早起きしてマーティンを見舞った。点滴につながれて寝ているマーティン。
「ごめんな、俺が優柔不断なばっかりに。」当直明けのトムがやって来た。
「おはようダニー。」「トム、マーティンの容態は?」
「もうアルコールも抜けてるし、今日一日安静にしてれば、明日は仕事に復帰できるよ。」
「良かった!」「ダニー、君は今苦渋の選択を迫られているんだろう。」「はい?」
「アランと暮らすか、マーティンの面倒を見るか。」「ああそれすか。」
「自分の人生をもっと大切にした方がいいよ。40代はすぐ来るからね。」
「そうすよね。ありがとう、トム。」
「友達だから言うわけじゃないが、アランは本当にいい奴だよ。」
「はい、考えてみます。」
マーティンが目を覚ました。「ここどこ?」
「市立病院だよ。お前急性アルコール中毒で運ばれたの、覚えてないんか?」
「全然。」「アランが迎えに来てくれたんだよ。」
「またアランに迷惑かけたの?最悪だ〜!」枕につっぷすマーティン。
「トムが明日には仕事復帰できるって言ってたで。」「良かった!」
「じゃあ、俺、オフィス行くで。また夜に来るよ。」「うん、待ってる。」
あんなに心細そうなマーティンを初めて見た。
俺は一体どうすればいいんやろか。ゆっくり考えて結論だそう。とにかく出勤や。
支局へ着くと、すぐにアランから電話がかかってきた。「マーティンの様子はどうだい?」
「明日には復帰できるそうや。」「良かったな。急性アル中で命を落とす場合もあるからね。」
「アラン、ありがとな。」「「なんだい、かしこまって。」「本当、感謝してんねん。」
「じゃあ、今日は家で食事だ、いいね。」「ああ、また電話する。」アランのペースに乗ってしまうダニー。
サマンサが浮かない顔をしている。
「どうした、ミス・サンシャイン。今日は暗いんやな。」
「私だって悩みくらいあるんだから。」書類に目を落とすサマンサ。
昨日のカウンセリングが辛かったんやろか。
不倫は出口がないからな。自分で出て行かない限りは。
事件は伸展なく、ダニーは定時に仕事を終えて、病院に行った。
マーティンはすやすや眠っていた。仕方がないので、アランの家に直行だ。
「おかえり。」「ええ匂いや。」「今日はビーフストロガノフだけどいいかな。」
「もちろん!」薄切りにしたバケットが山ほどと、ポテトサラダが並んでいた。
「うまそう!」「何を飲むかい?」「軽めの赤ワインがええわ。」
アランがメルローを出す。「ああ、最高やな。」
ダニーのイータラのグラスにワインを注ぎながら、アランが尋ねる。
「ダニー、これからどうする?」「うーん、まだ決められない。俺ってダメな奴やね。」自嘲するダニー。
「いや、君とマーティンの絆が固い事くらい分かるさ。だから僕は時間を置いて待ってるわけだ。
トムが言うように、以前の僕は待てなかったからね。」
「そうなん?ごめん、アラン。」「いいって。こうして今、君は僕のそばにいる。それだけでも十分幸せなんだよ。」
「PTSDを抱えてるのに?」「だからこそだよ。君を僕の手で治したいんだ。」
ダニーは目に涙を溜めた。これまで、自分の事をこれほど考えてくれる人がいただろうか。
くしゃみをするふりをして涙を拭いた。
ダニーの心は完全にマーティンとアランに引き裂かれていた。
翌日、マーティンは退院した。
仕事で迎えにいけなかったダニーの代わりにアランが車を出す。
「ありがとう。アラン。」「これからは自分のペースで飲酒するんだよ。」
「はい。先生。」マーティンもいつも通り素直だ。
アッパーイーストサイドに送って、アランは家に着く。
今日は、15人の患者が待っている。ダニーに電話を入れる。
「マーティンを家まで送ったよ。」「ありがと。アラン。」
「いいって。さぁ、今日も仕事だ。」「そうだね。またね。」
「今日も家に来るだろう?」「今日は、マーティンんとこ行くわ。」
「あぁ、そうだね。わかったよ。じゃあ。」「ありがとう、アラン。」
ダニーの心は複雑だった。俺、そろそろ、決めなきゃいけないんやろか。
マーティンは定時に出勤してきたが、心なしかまだ顔色が悪い。
朝のミーティングが始まり、ボスがマーティンの様子に気がついた。
「マーティン、まだ具合が悪いなら、早退するか?」「いえ、大丈夫です。」
ダニーが昨日の休みの理由を食あたりと言っていた。「何でもぱくぱく食うからっすよ。」
「ダニー!」「さぁミーティングを始めるぞ。」皆、書類に集中した。
事件はまたしても進展なく一日が終わった。帰り仕度をしているマーティンに
ダニーが声をかける。「今日は送ってくわ。」「大丈夫だよ!」「送らせてくれよ。」
「わかった。」会話に緊張が走る。タクシーでアッパーイーストサイドに上がる間も
会話はなかった。「先に部屋にいっとき。俺、デリで夕食買うてくるから。」「うん。」
D&Dで、ワイルドライスサラダとポタージュスープ、ポークリブと温野菜を買う。
部屋に入ると、服が脱ぎ散らかされ、マーティンはパジャマを着て、
すでにベッドの中で丸まっていた。「お前、晩飯食べへんの?」
「僕ってお荷物だよね。」「よせよ、早う、冷めるからこっちへ来いよ。」
のろのろとベッドルームから出てくるマーティン。
「哀れみとか憐憫で付き合ってくれてるんなら、いいからね。」
「何言ってるんや?」「トムとしゃべってるの聞いた。」今朝の会話か!
「憐憫とかで付き合う暇あったら、俺はここにいいへんで。お前といたいからいてるんや。」
「本当に?」「本当の本当や。」「じゃあ、アランとはどうするの?」
「ちょっと待ちい。俺、今日めちゃ疲れてんねん。重い会話はやめてくれる?」
「ごめん。僕、一日寝て、夢見てたからさぁ。」「夢?」「ダニーと暮らす夢。犬も飼ってるんだよ。」
「随分アットホームな夢やな。ほら、食った食った!」
ダニーは自分が逃げている事を十分に分かっていた。それしか出来ない自分が情けなかった。
ダニーは嘘がばれていることにまったく気づかなかった。
マーティンはニッキーと寝るのは了解しているんやし、
娼婦と寝るのも同じことやと勝手なことばかり考えていた。
それより来週の予定はと・・・ニッキーと映画か、断らんとあかん。
ダニーは忘れないうちにニッキーに電話した。
「オレやけど」「ダニー、よく眠れた?」
「あんまり・・」「添い寝してほしいんじゃないの?」
「そうかもな。ところで来週の映画やけど、ごめんな、都合が悪なった」
「えぇー・・・どうして?」「接待があるねん、ほんまにごめん」
「接待って女の子も来るの?」「いいや、男ばっかりや。おもろないで」
「マーティンも?」「ああ。あいつも」「わかった。仕事だもんね」
「ほな、またな。おやすみ」ダニーは電話を切った。
「本当は今夜どこに行ってたの?」マーティンが立っていた。
「何なん、また戻ってきたん?」「ごまかさないで答えてよ」
「ニッキーとデートやって言うてるやん」「ニッキーなら僕んちに来たよ」
「えっ・・・」「どうして嘘なんてつくのさ?まだ他に誰かいるの?」
「・・・・・」ダニーは何もいえない。
「僕はニッキーと寝るのを許したのに・・・ニッキーまで騙してる!」
「ニッキーのことはお互い様やろ!あいつはお前にも気があるねんで」
「だからって騙していいのか?ダニーは卑怯だよ!」
「お前がニッキーを気に入ったんやったらええで、あんな女、お前にやるわ!」
「僕が女を抱けないの知ってるくせに!」マーティンはダニーを突き飛ばした。
「ダニーがそこまで言うならいいよ、僕はニッキーと寝るからね!」
「ああ、好きなようにしたらええ。あいつも喜ぶやろよ!」
マーティンは派手な足音を立てながら出て行った。
「ダニー、お前も行くんだって?」「ゴルフのことっすか?」
「ああ、ゴルフをするとは知らなかったぞ」「オレ、今回が初めてなんですよ。」
「じゃあ断ればよかったのに。まごまごしてたらどやされるぞ。」
「マジっすか?一応ルールは暗記したんですけど・・・」
「ルールもだが、実際のプレーは難しいぞ。マーティンに教えてもらえ。」
「はい・・・」ダニーは憂鬱な気分でエレベーターを降りた。
マーティンとは二日間プライベートな会話をしていない。
視線すら合わせてもらえない状況に、ダニーは焦っていた。
「マーティン、ちょっとええか?」
デスクでランチを食べているマーティンに思い切って話しかけた。
「何?」そっけないマーティン・・・。
「ゴルフのことなんやけど、教えてくれへんかな?」
「嫌だ」「頼むわ、副長官にどやされるらしいやんか・・」
「そんなのいつものことさ。僕を見てたらわかるだろ!」
マーティンは一瞥をくれるとランチに戻ってしまった。
午後から行方不明の少女が最後に目撃された周辺を捜索していた。
古い屋敷に迷い込んだ可能性が高い。
「うわぁーお化け屋敷みたいね。」「ほんまや、かなり古いな。」
「二百年以上経ってるよ。でも、一部は百年ほど前に増築されてる。
そのときに、正統派のゴシック様式を復興させて造ったんだ。すごいなぁ!」
ダニーとサマンサはマーティンを見つめた。
「どうしてそんなに詳しいの?」
「FBIを目指す前は、僕の専攻は建築だったから。」
「へぇー、意外だわね。人に過去ありってやつね。」サマンサがいたずらっぽく言った。
ダニーも知らなかったマーティンの一面にすっかり驚いていた。
屋敷の裏に回ると、パントリーの窓が開いていた。
「マギー?マギー、いたら返事してちょうだい!」
ガタガタと部屋の奥で音がした。「中にいるんだ!」
マーティンは窓枠を外し、中に入った。
蜘蛛の素が垂れ下がり、不思議にきれいな模様がちりばめられている。
「マギー?どこだい?」音は段々近づいてきた。
床下から叫び声がする。見ると、冷蔵庫ごと床下に抜け落ちていた。
「冷蔵庫の中にいるの?」ガタンと返事が返ってきた。
「待ってて、すぐに助けてあげるから!」
マーティンはダニーとサマンサを呼びに行った。
「レスキュー隊が必要だと思う。早くしないと窒息しちゃうかも」
ダニーが室内に入ったものの、蜘蛛の素で足がすくんで動けない。
「ダニー、蜘蛛の巣だけだ、主はいないよ!」
ダニーは恐る恐る奥に進んだ。
二人で冷蔵庫の扉を開けるが、10cmほどしか開かない。
「これで窒息の心配はなくなったね、マギー、もう大丈夫だよ」
レスキュー隊が到着し、後を任せて支局に戻った。
「もう少し遅ければ危なかったそうだ、みんなよくやった!」
無事救出の連絡が届き、チーム全員ホッとしていた。
仕事が終わると、マーティンはアッパーイーストに帰った。
ダニーがニッキーと付き合い始めてから、ブルックリンの部屋へ足が遠のいている。
ほとんど毎日支局からデリに寄り、アパートヘ帰る日々だった。
デリの夕食にも飽き、今夜はピザのデリバリーを待っていた。
ダニーの作る夕食が恋しいが、今は顔も見たくない。
スプマンテを飲み始めたころ、ピザが届いた。
ドアを閉めかけたとき、急に引っ張られニッキーが顔を覗かせた。
「ニッキー!何やってんの?こんなとこで」
「マーティンに会いにきた」「どうやって入ったのさ?」怪訝なマーティン。
「ちょっとここを使ったの!」頭を指差しながら入ってきた。
「お邪魔します」「え、ちょっと・・ニッキー」ニッキーは部屋に上がりこんだ。
「これ食べたら帰ってね」マーティンはジュースとお皿を持ってきた。
「これはなあに?」「スプマンテ、お酒だから君は飲めないよ。」「わかってるってば!」
マーティンはピザを取り分けて食べ始めた。ニッキーはがっつくマーティンを見ている。
「何?僕おかしい?」「ううん、よく食べるなぁと思って。」
「君も遠慮せずに食べなよ。見られてると恥ずかしいよ。」
ニッキーはクスクス笑いながらジュースを飲んだ。
食事が終わると、ニッキーは後片付けをした。
「子供なのにしっかりしてるなぁ」「子供じゃないよ、もう大人!」
マーティンはアイスクリームを取り出すと、リビングに戻った。
アイスを食べていると、後ろから首筋にキスされ飛び上がった。
「うわっ、何すんの!」「あ〜ん」「ああ、アイスが食べたいんだね、はい」
ニッキーの口にアイスを入れてやる。「冷凍庫にまだ入って・・」
マーティンの口に柔らかくなったアイスが入ってきた。
「ぅん・・」ニッキーは舌をマーティンの舌にからませる。
「ニッキー・・・」ニッキーはマーティンをソファに押し倒した。
「あの・・・」「しー、黙ってて・・」マーティンはおとなしくしていた。
シャツを脱がされ、胸を愛撫されている。ニッキーの手は段々と下に下りていった。
服の上からペニスを擦られ、マーティンは身震いした。
「脱がせるよ?」「いや、あの自分で脱ぐよ・・」マーティンはトランクス一枚になった。
ニッキーも服を脱ぎ始めている。
マーティンはニッキーを抱きかかえると、ベッドルームに行った。
手が震えてブラジャーのホックがなかなか外れない。
ニッキーはくすっと笑うと自分で外した。
マーティンの目はニッキーの裸に釘付けだった。
男とは違う豊かな胸の膨らみ、滑らかな体のライン・・・。
見ているうちに気分が悪くなってきた。
ニッキーが乳首を吸わせた瞬間、嘔吐してしまった。
「マーティン!大丈夫?しっかりして」ニッキーの体はゲロまみれだ。
「ごめん、シャワー使って」「そんなの後でいいよ、大丈夫なの?」
「ああ、早く洗っておいでよ」マーティンは醜態を晒したショックで打ちひしがれていた。
ニッキーを帰らせ、後始末を済ませるとシャワーを浴びた。
マーティンは無意識にダニーに電話していた。
「ダニー・・・僕さ、やっぱりダメだった」「何が?おい、どうしたんや?」
「ニッキーが迫ってきて・・・」嗚咽でこれ以上話すことが出来ない。
「待っとけ、すぐ行くから」ダニーは電話を切ると飛び出した。
合鍵で中に入ると、マーティンが裸のまま泣いていた。
「マーティン?」ダニーはバスローブを取りに行った。
ランドリーバッグにゲロ臭いシーツが丸めたまま突っ込んであった。
マーティンにバスローブを着せ、水を飲ませる。
「落ち着いたか?」「うん・・・やっぱり女は抱けないよ・・・吐いちゃった・・」
そういうとまた号泣した。ダニーはここまで追いつめた責任を感じた。
「今日、泊まってってくれる?」「ああ、ええよ。」「ありがと、ダニー。」
いつからこんな他人行儀な仲になってしまったのだろう。
ダニーもマーティンも歯に物がはさまったような言葉を言い合っている。
「なぁ、マーティン。」「俺って悪い奴やね。」
「そんな事ないよ。僕にとっては最高の相手だと思う。」
「だってお前は家柄も良いし、ルックスも良い。
性格だって素直そのものだし。俺じゃなくてもええんじゃないかと思って。」
「それって、僕に飽きたっていうのを言いたいの?」
「そうやなくて、ああややこしいな。飽きたとかそんなんやなくて、俺以外でもええやん。」
「だめだよ!僕はダニーじゃなくちゃだめなんだ!」見る見るうちに涙を目に溜めるマーティン。
「あぁ、マーティン、やめてくれよ。」マーティンを抱きしめるダニー。
ごめんな、マーティン。俺、そんなにいい奴やないねん。
今だって、心の隅ではアランの事を考えてる。
お前のためには俺がいない方がええんやないやろか。
「シャワーしよか?」ダニーが言うと、こっくり頷くマーティン。
二人してシャワーブースに入る。
身体を洗い合うがセックスにつながるような行為はあえて避けている。
無言のまま、シャワーを出て、またベッドに戻るマーティン。
ダニーも後を追って、裸でベッドに入る。
マーティンの身体に腕を回すと、静かに腕をはずされた。
「マーティン・・・」「おやすみ、ダニー。」
ベッドの中での二人の距離ははるかかなたのようだった。
早朝、目が覚めたダニーは、マーティンを起こさないようにして、アパートを出た。
セントラルパークを散歩しながら、気がつくと、アランのアパートの前に立っていた。
インターフォンで呼び出すと、眠そうなアランの声。「俺、ダニー。」「上がっておいで。」
アランはニューヨークタイムズを読みながらコーヒーを飲んでいた。「早起きやね。」
「あぁ、昨日はよく眠れなくてね。早く起きてしまった。」「そう。」「コーヒー飲むだろう。」
「うん。」「マーティンはどうしてた。」「混乱してるわ。弱気になってるし。」「そうだろう
な。僕でも弱気になるさ。」「アランでも?」「僕を鉄面皮だと思ってるのかい?」「そんな
事ないけど。」「誰かのために涙する事だってあるんだよ。」アランがダニーを抱き寄せた。
温かい身体、広い胸。ダニーがほっと出来る場所がここにはあった。
「バケットサンド、食べるかい?カマンベールチーズと生ハムだけど。」
「ああ頂くわ。」コーヒーもサンドウィッチも絶品だった。
ここにいると、自分が甘ったれになっていく気がする。しゃきっとせねば。
「今日は患者何人?」「今日は洪水だよ。30人だ。」「疲れるんやろうね。」
「まぁね。でも誰かの面倒見る方が疲れるかもしれないよ。」くくくっと笑うアラン。
アランとの間にはユーモアが存在する。それが救いだった。
「じゃ、そろそろ、行ってくるわ。」「ああ、行っておいで。今日は家に来てくれるかな。」
「多分。」「連絡待ってるよ。」「うん。」
支局でマーティンにすれ違った。全く無視された。
やっぱり、何も言わずに帰ったのが悪かったんかな。ダニーは反省した。
1週間、ダニーとマーティンはまともに会話していなかった。
その間、ダニーはアランの部屋へ入り浸りになり、お互いの手料理を食べたり、
近くのレストランで外食して過ごした。家に戻ると、アランは葉巻を吸い、
ダニーはピアノやギターを弾く。そんな毎日の繰り返しだった。
「そうや、ピクニック!」「なんだい、藪から棒に。」「ジェイムズとマーティン誘ってピクニックせいへん?」
「いいけど、マーティンが承諾するかな。」「うーん、気分転換でやってみよ。」
「あまりいい考えとは思えないけどなぁ。」アランは及び腰になっているが、ダニーはやる気満々だった。
「そや、ジェイムズに電話しよ。」「はい、ダーシー。」「ジェイムズ、俺、ダニーやけど。」
「やぁ久しぶりだね。」「来週の週末あいてへん?」「どうして?」
「セントラルパークでピクニックやりたいんやけど。アランと二人じゃ寂しいから。」
「いいねぇ。マーティンには僕が伝えようか?」「そうしてくれる?じゃあ約束やで。持ち寄りパーティーな。」
「了解、誘ってくれてありがとう。」「いえ、どういたしまして。」「それじゃあ。」
「アラン、D&Dで、ピクニックセット作ってもらおう!」「そうだね。明日手配しよう。」
「楽しみや。気候もええしな。日焼けもするかな。」「紫外線は僕の方が大敵だな。」
ダニーはこのピクニックでマーティンとの間のわだかまりを打開したかった。
ピクニック当日になった。これ以上望めないほどの快晴で、日差しが燦々と輝いている。
「うわ〜、これじゃ日焼け止めが必要かな。」アランが空を見上げて言う。
「日焼けしたアラン見たいな。」「ただ紅くなるだけだよ。」「それでも見たい!」
集合時間は午後1時だ。D&Dでピクニックセットをピックアップして、
セントラルパークの約束の場所に向かう。
ボートハウスカフェが近くのザ・レイクの水際にシートを敷く。
ジェイムズとマーティンもほどなくやって来た。
「ここにくると、ハイドパークを思い出すよ。」
ジェイムズが言う。ダニーが気がついた。
「俺たち二組ともD&Dでピクニックセット用意してるわ。」
全員大笑いする。
しかしメニューは二組の個性で分かれていた。アランの方は、スモークサーモン、
キャビア、野菜のマリネ、白身魚のワイン蒸し。ジェイムズの方はローストビーフ、
パテドカンパーニュ、鯛のマリネ。温野菜。パンはどっさりある。
ワインも計4本だ。「これはご馳走やね。」ダニーは大喜びしている。
マーティンも釣られて笑い出す。アランがシャンパンを空ける。
ヴーヴクリコのイエローラベルだ。「乾杯!」皆でプラスティックのグラスを傾ける。
「シャンパンといえばキャビアやな。」ダニーがクラッカーにキャビアを乗せて口に運ぶ。
「うーん、幸せや〜。」「どれどれ。」アランにも食べさせる。
「本当だね、屋外もいいもんだ。」ジェイムズもマーティンもキャビアから手をつける。
パテもとろけるできばえで、パンがシャンパンとともにどんどん進む。
「次は白ワインあけまーす。」ダニーがプラスティックグラスを配る。
ふくよかなカリフォルニアのシャルドネだ。「次は鯛のマリネと白身魚のワイン蒸しだな。」
アランが白身魚を見事な手さばきで取り分ける。「ありがとう。」ジェイムズはいつも礼儀正しい。
ダニーがマーティンとじゃれている。わだかまりが解けたのか、二人ともいい酔っ払い状態だ。
「あの二人は兄弟みたいですね。」「ああ、僕が出会った時からあの状態ですよ。」
「ダニーという子は実に興味深い。」「そうですか?」アランが警戒する。
「彼はあまりいい家の出ではないでしょう。」「ええ、そう聞いています。」
「それなのに物怖じしない。貴方がしつけたんでしょうね。」「しつけたなんて・・・自然とこうなったんですよ。」
「付き合ってどれ位ですか?」「さぁ半年位かな。」「僕とマーティンも貴方たちのようになれるでしょうか?」
「どうでしょう。当人の問題ですからね。」アランは答えをはぐらかした。
ダニーとマーティンはとうとうレスリングを始めた。「おいおい、あんまり暴れるなよ!」
アランが声をかける。一汗かいて戻ってきた二人は、赤ワインとローストビーフをまた口にし始める。
「全く、飽くなき食欲だな。」ジェイムズが呆れてみている。
アランは慣れたもので、二人のグラスにワインを継ぎ足していた。
赤ワインはカベルネ・ソーヴィニオンで少し重たい味だったが、
いい頃合に出来上がった4人は気にせず、ぐいぐい飲んでは、食べていた。
「ああ、腹いっぱいやぁ。」ダニーが寝転んだ。
マーティンが隣りに寝転ぼうとすると、アランに先を越された。
「ダニー、ローストビーフのソースがついてるよ。」
そういって指ですくって舐めるアラン。マーティンは目を背けた。
ジェイムズはそんなマーティンを見て、「散歩でもするか?」と誘った。
「うん。」「じゃあお二人さん、これから散歩してくるので、ここで解散ということで。」
まどろんでいるダニーを置いて、アランが答える。
「ああ、今日は楽しかったですね。またやりましょう。」「ぜひ。」
マーティンは目に涙を溜めていた。「そんなに二人を見るのが辛いのか?」ジェイムズが聞く。
「うん。」「それなら、見ないようにすればいい。」「だって!」
「今日だって断っていい誘いだよ。君は自らそこに身をさらしている。自虐的なんだか・・・」
「わからないよ、ジェイムズ。今日は僕のそばにいてくれる?」「ああ喜んで。」
二人はジェイムズのアパートに向かって歩き出した。
ダニーはマーティンがパジャマに着替える間にベッドを整え、床を拭きなおした。
空気の入れ替えを済ませると、マーティンを寝かせた。
「ダニィ・・もう帰っちゃうの?」心細そうにシャツの裾をつかんで離さない。
「いいや、今夜はずっと一緒やで。安心して寝とき」
ダニーはマーティンの髪をくしゃっとしながら添い寝した。
「ごめんな、最近お前に辛く当たってしもて・・・」
マーティンは起きていたが、眠ったフリをして聞いていた。
マーティンが目覚めると、ダニーの姿はなかった。
寝ている間に帰ったのかとがっかりしながらトイレに向かった。
なんかいい匂いがする!慌ててキッチンへ走った。
「ダニー!」「おはよう、おなか空いたやろ?お気に入りのペスカトーレやで」
「わぁー!材料はどうしたのさ?」「さっき買いに行ってきたんや」
「もう食べられる?」「シャワーは?」「そんなの後!」
昨夜吐いたせいで、おなかがペコペコだった。
「お前ってミルク飲み人形みたいやなぁ」ダニーは呆れながら料理を出した。
「今夜、ちょっと遅くなると思う」「どうして?」マーティンの顔が曇った。
「ニッキーと別れてくるわ」
「ダニィ、僕なら気にしてないよ。そりゃ嫌だけどさ・・」
「いいや、二股かけるような女、いらんねん!」
「別の女は?」「ああ、あれか。あれは女とちゃうねん。仕事や」
ダニーはまたもやマーティンをごまかした。
ダニーは仕事が終わるとニッキーに会いに行った。
「ダニー、急に来るなんてびっくりした」「オレもびっくりしてんねん」
「どうしたの?」「お前、オレよりマーティンのほうが好きなんやろ?」
「えっ・・・」「ちょこちょこ会ってたやん。二股かけてんの?」
「違う。そんなんじゃない・・・」「じゃあ、どんなんなん?」
「本当は、私、マーティンが好きなの・・」
「マーティン?それやったらオレと寝る前に言えや!」
「ごめんなさい・・」「もう会うこともないから。ほな!」
ダニーは振り返りもせず出て行った。
マーティンはアッパーイーストのアパートでそわそわしていた。
ダニーがニッキーと別れると言ってくれたことが嬉しい。
女よりも自分を選んだのだと天にも昇る気持ちだった。
ニッキーと過ごす時間は、友達がいないマーティンにはとても楽しかった。
少し寂しい気もしたがそんなことは言ってられない。
携帯が鳴っている。どわー!ニッキーからだ!
「はい」「マーティン、私ダニーに捨てられちゃった・・・」泣いている?
「えっ、またどうして?」マーティンはとぼけて聞いた。
「マーティンのことを愛してるって言ったの・・」
「えぇーっ、なんでそんなこと言ったのさ?」「だって事実なんだもん」
ここまで話すとニッキーはしくしく泣き出した。
「ねぇ、泣かないでよ・・僕にはどうすることもできないよ」
「マーティン、私のこと嫌い?」「そんな・・・」マーティンは何も言えなかった。
「僕には他に好きな人がいるって言ったろ?だから君とは付き合えないんだよ」
「昨日はそんな風じゃなかった。セックスしかけてたじゃん」
「それは・・・」「酔ってなかったら絶対寝てた・・」しつこいニッキー。
「とにかく困るんだよ、僕は」「やだ!」「もう切るよ、ごめんね」
マーティンは思い切って電話を切った。
後味の悪さが心の中に広がっていた。
ダニーは帰りにこの前の娼婦たちと3Pした。
ニッキーにマーティンが好きだと言われ、悔し紛れに娼婦を抱いていた。
マーティンへのあてつけでニッキーと付き合ったものの、
自分のほうへ振り向かせることができなかったことに苛立ちを感じていた。
やっぱりオレには娼婦しかないなぁ・・・射精しながら悟った。
普通の付き合いはできない、自分の生き様に妙に納得したダニーだった。
マーティンのアパートに行くと、マーティンが夕食を作っていた。
目玉焼きの目玉がつぶれたのと破裂したソーセージ、びしょぬれのちぎったレタスに
微妙な切り方のベーグル、クラッカーとチョコミルクなど、???なメニューが並んでいた。
「これって朝めし?」「全力で作ったんだよ、食べてみて」「おう、手洗ってくるわ」
ダニーは手を洗うとテーブルに着いた。
「いただきます」塩辛い目玉焼きに目を白黒させ、水の滴るレタスに舌鼓を打つ。
「おいしい?」「ああ、うまい。マーティンも食べ」
マーティンは満足そうにチョコミルクを飲み、続いて目玉焼きを食べた。
「辛〜い、舌がびりびりする・・・」「気持ちは嬉しかったからまあええやん」
「うん・・・」ダニーは残さずに全て食べ、チョコミルクでしめた。
「ニッキー泣いてたよ」「電話してきたんか、あいつはほんまに怖ろしい女やな!」
「本当に別れたんだね?」「当たり前やん、すでに過去や、過去!」
「もう女とは寝ない?」「約束はできんけど・・・今のオレにはお前だけや」
ダニーは気が引けたが、嘘をつくしかできない。
「父さんに僕の大切な人だって紹介したいよ」「えーっ!そんなことするなよな?」
「しないよ、したいけど出来ないもん・・・」マーティンは遠い目をしていた。
「二十年辛抱したら言えるかもな」「どうして?」「オヤジさん、死んでるやろ?」
二人は顔を見合わせると吹き出した。
「ジェイムズ、家はどこ〜?」シャンパンとワインの後、レスリングですっかり
アルコールが血流を回っているマーティンは、ただの酔っ払いになっていた。
「こりゃ、タクシーだな。」ジェイムズがパーク内でタクシーを拾って、イースト
サイドの家に連れ帰る。
「ジェイムズ、何か飲もうよ!」「まだ、飲めるのか?」「今日はもっと酔いたい。」「それじゃ、ワインを開けるからね。」「うん、ワイン!」つるつるの玄関ホールで、マーティンは大きくこけた。「大丈夫か?」「平気、平気、それよりおしっこ。」
「こっちだよ。」マーティンは身体を大きく揺らしていて安定しない。仕方がない。後ろからジェイムズがマーティンをかかえ、ペニスを持って用を足させる。
「こんな状況じゃなくて、君のここに初めて触りたかったよ。」「んん?ジェイム
ズが僕のちんちん触ってるよ!」「そうだよ、さぁ、ダイニングに行こう。」
ジェイムズはミネラルウォーターを冷蔵庫から出して、グラスに注いだ。
マーティンの口に持っていく。マーティンは子供のように喉を鳴らして飲んでいる。
「落ち着いたかな?」「ジェイムズ、僕ってバカだよね。」今度は泣き出した。
とんでもない酔っ払いだな。ジェイムズは胃薬を持ってきてマーティンに飲ませる。
「香港で買った漢方薬だよ。胸焼けがすぐに治まる。」マーティンはぐったりして
いる。ダニーとの仲がどうなのかは分からないが、マーティンにとっては辛いピク
ニックだったのが分かった。二人は付き合ってたのか?アランが横恋慕?
アメリカ人も節操がないものだな。
「ジェイムズ!」「マーティン、こっちだよ。」「僕、横になりたい。」
「ああ分かった、じゃあゲストルームを開放するからね。」「ん。」
静かに後をついてくるマーティン。ジェイムズは今にも押し倒したい気持ちを抑え、
マーティンのセーターを脱がせTシャツ一枚にするとベルトを緩め、パンツも脱が
せる。「ううん。」マーティンはもうほとんど意識がない。
ジェイムズは水枕を用意してタオルでぐるぐる巻きにするとマーティンのピロー
の下に置いた。「ああ、いい気持ち。ジェイムズ、キス!」ジェイムズがおずおず
とキスをする。唇をつけたとたんに、マーティンは眠りに入った。ジェイムズの股
間は先ほどからうずいている。こんなに可愛い子をそばに置いて、何もできないなんて。「おやすみ、マーティン。」
今日はジェイムズは料理人のウォンに休みをやっていて、ディナーをデリで済ませ
ようと、またD&Dに買い物に行った。昼が重かったので、ライスサラダと白ネギ
のスープをオーダーする。すると携帯に電話だ。ダニーからだった。「ジェイムズ、
マーティンどないしてる?」「家で寝てるよ。」「迷惑かけへんかった?」
「ああ、静かに寝てるよ。」「良かった。今日は楽しかったで。またやろうよ。」
「ああ、そうだね。それじゃ、また。」ダニーはマーティンの気持ちが自分に残っ
ているのを意識しているのだろうか。それでなければ、生殺し状態だ。ジェイムズ
は心からマーティンに同情した。
家に帰ると、マーティンがしくしく泣いていた。
「どうした、マーティン!?」「僕、一人かと思って、ジェイムズ捜してた。」
「ごめんごめん、ディナーを買って来たよ。食べるかい?」「うん。」
相変わらずの食欲でジェイムズは安心した。スープを口に運びながら、ライスサラ
ダをほおばっている。この子の食欲はすごいな。ジェイムズは感嘆した。
CDではアクアラングや、デヴィッド・グレイといったメロー系のUK音楽がかか
っている。
マーティン、今日は家に帰る?ここに泊まってもいいんだよ。」
「ここに泊まってもいいの?」「ああゲストルームは開いているし、朝食はウォン
が作ってくれるから、わびしいデリ料理よりはいいだろう。」「ありがとう。世話し
てくれて。僕、手間がかかるでしょ。」「そんな事気にすることないさ。誰でも雨の
日があるものだから。」マーティンはジェイムズの言葉一つ一つにうなずいていた。
マーティンは言葉に甘えて、ゲストルームのシャワーを使い、歯磨きを借りて、用
を済ませ、Tシャツとトランクスで眠りに入った。
夜中、がさごそ音がする。ジェイムズが驚いて、ベッドサイドライトをつけると、
マーティンがジェイムズのベッドルームにいた。「マーティン、どうした?眠れな
い?」「ジェイムズ、僕を抱いて!」そういうとジェイムズの隣りにダイビングし
た。「おいおい!」「何も言わないで、僕を抱いて!」ジェイムズは静かにマーティ
ンを万歳させると、Tシャツを脱がせ、トランクスに手をかけた。「いいのかい?」
「うん。して欲しいんだ。」ジェイムズは一気にトランクスを下げた。
マーティンのペニスはすでに半立ちになっていた。ジェイムズは思わず口に咥えて
前後に動かした。「うっはっはぁ、ジェイムズ!早く裸になって。僕もしたい。」
ジェイムズはシルクのパジャマを脱ぎマーティンの隣りに横たわった。マーティン
がベッドにもぐりこみ、ジェイムズのペニスを咥える。静かに飲み込むような動き
を繰り返す。「あぁ・・マーティン、いい気持ちだ。」ジェイムズはマーティンの頭
を押えて、さらに奉仕させた。マーティンも嫌がっていない。舌を使いながら、裏
まで舐め亀頭をぐるりと一周する。
「はぁ・・君は入れるのと入れられるのとはど
っちがいい?」「ジェイムズ、入れて欲しい。」「よし。」サイドテーブルから、エキ
ゾチックな香りのするローションをマーティンに塗りこむ。「すーっとする。」「痛
みも和らげるよ。」そしてジェイムズは少しずつマーティンの中に自分をめり込ま
せていった。「ああ!」マーティンは快感でもだえた。ジェイムズはなかなか動か
ない。「もっと動かして。」「君が動いたらどうだ?」マーティンはその言葉を聞く
ないなや、身体をうつ伏せに回転させて、四つんばいになって、前後に激しく動き
出した。「うぁ、マーティン、すごすぎる!」そういうや、ジェイムズはマーティ
ンの背中に精液を放出した。ベッドサイドにあるタオルでマーティンの背中を拭い
てやる。
マーティンは仰向けになり、「ジェイムズ、僕もイカせて!」と甘え声を
出した。ジェイムズの上に乗ったマーティンはジェイムズの下から突き上げる刺激
と自分の律動で、アヌスが痙攣するのを感じた。その瞬間、マーティンも果てた。
しばしの沈黙の後、「シャワーしようか。」「うん。」二人で初めて入るシャワー。
メインベッドルームのバスルームは全て大理石だった。「お湯を熱くするよ。」
「うん。」二人で身体を洗いあう。泡をジェイムズがマーティンの鼻にこすりつけ
る。「やん!」この子は根っからのMだな。ジェイムズはこれから先が楽しくなっ
て仕方がなかった。
副長官とのゴルフが近づいていた。ダニーは何も持っていないので、
帰りにナイキタウンに寄り、ゴルフウェアやシューズを選んでいた。
ウェアはともかく、シューズはどれを買えばいいのか見当もつかない。
マーティンはボールを買いに来て、途方にくれているダニーを見つけた。
あれ?ダニーがいる。困ってるみたいだ。うーん、仕方ない、助けてやるか!
「ダニー」「あっマーティン、お前も買い物?」「ん、ボールをね」
「実は困ってるんや・・・」「知ってる、後ろで見てたから」マーティンはニヤリとした。
「お前ってほんまは性格悪いんやな」
「誰のせいさ?」「そうでした、僕のせいでした」おどけるダニー。
「何言ってんだか!いいよ、選ぶの手伝うよ。これ履いてみて」
マーティンはAIR MAX SUMMERのタイガーモデルを薦めた。
「これ?普通のスニーカーみたいやん」「オヤジっぽいほうが好みなの?」
「いいや、けどこんなんでええの?」「気に入らない?」
「気に入ったけど・・・副長官が変に思うかも」
「う〜ん・・ありえるね、じゃあこれは?」
「これのほうが履きやすい気がする」ダニーは鏡を見た。
「よし、決まり!よく似合うよ。次はグローブだね」
「グローブ?」「そうだよ、はいこれ。はめてみて」
「きもい・・」「サイズは合ってる?」「ああ」マーティンはカゴに入れた。
ゴルフクラブの試打コーナーで、マーティンは最新のドライバーを試した。
感覚は悪くない、この調子なら週末もいいショットが打てそうだ。
「マーティン、オレにもやらせて」ダニーと交代し、後ろから見ていた。
シュッ!空振りの音・・・ボールは元の位置のまま動いていない。
マーティンは思わず吹き出した。「笑うな、初めてなんやから!」
「ごめん、もっとボールをよく見て。スイングはゆっくりね」
ダニーは何度かやってみたが、ボールにかすりもしなかった。
「もうあかん、どうしよう・・・」ダニーは頭を抱えた。
「ねぇ、断ろうか?これじゃ1ホールも回れないよ」
「でも今更断れんやん・・・どやされるの嫌やなぁ」
「帰りにさ、練習場に行ってみようよ。アッパーイーストにあるから」
二人はボスも誘い、練習場に行ってみた。
ボスとマーティンはガンガン飛ばしてご満悦だ。
ダニーは空振りばかりだ。
「こりゃダメだ。マーティン、断ってやれ」「はい・・・」
マーティンは父に電話した。「父さん、コースはどこですか?」
「ベスページだ。今回はブラックを回るぞ」ヴィクターは上機嫌だった。
「えっブラックコースですか・・・実は、テイラー捜査官は初心者なんで回れないんですよ」
「ブラックは難関コースだからな。誰か他にいないのか?」
「ええ、それが誰もいないんですよ・・」
「テイラー捜査官に根性で回れといえ!」
「そんな無茶な・・・三人でも回れますよ、父さん」
「ううむ・・仕方ないな、そうしよう」
「あ、テイラー捜査官に代わりますので待ってください」マーティンはダニーと代わった。
「副長官、こんばんは。テイラーです。この度はせっかくお誘いいただいたのに申し訳ありません」
「初心者なら仕方あるまい。また次の機会にどうだね?」
「はい、ありがとうございます。今回は雑用係として参加してもよろしいでしょうか?」
「雑用係?」「はい、雑用です。荷物を運んだり、運転でしたら僕にもできますから」
「そうか?プレーもしないのに悪いんじゃないか?」
「いえ、プレーしないからこそ雑用が出来るんです」
「じゃあ君に任せよう」「はい、それでは週末に。お待ちしております。ええ、失礼いたします」
「ダニー、お前の処世術は実に見事だな」ボスはニヤニヤして話しかけた。
「オレがいてないと会話も弾まへんやないですか」
ダニーは困惑しているマーティンに携帯を返した。
「ダニー、バカだなぁ。プレーもしないのに退屈だよ?」
「ええねん。何でも経験やからな」
「ベスページはパブリックだから早起きしないと・・」
「マーティン、ベスページのブラックなんて早起きどころじゃない。真夜中だ!」
「知らなかった振りしてさ、普通に行こうよ。行く前から疲れちゃう」
「そうだな、他のコースなら余裕なんだし。ダニー、五時に私の家に来い。
その後マーティンを拾って、ヴィクターのホテルに回ろう」
「了解っす。ボスの車ですか?」「お前のじゃヴィクターはブーブー言うだろうよ」
「確かに!」マーティンも相槌を打った。「オレの車、最高やのに・・・」
「とにかく五時だ。絶対に遅れるなよ。セックスは控えとけ!」
ボスの言葉に苦笑いするダニーだった。
ダニーは目覚まし時計で四時に起きた。すぐにマーティンにモーニングコールを入れる。
「ふぁい・・」「おい、早よ起きろよ。あとで迎えに行くから」「ん・・」「マーティン!」
あかんわ、コイツ。あとでもう一回電話いれたほうがええな。
ダニーはシャワーを浴び、ボスの家に向かった。途中でマーティンに電話を入れる。
ボスの家で車を替え、マーティンを迎えにいった。
さっきまで寝ぼけていたはずのマーティンは下に下りて待っていた。
「おっはよー」「おはよ」「次はいよいよヴィクターが乗ってくる。生き地獄だな」
「今のうちにさ、いっぱい話そうよ」「何をやねん?」「いろいろさ」
「もうあかんみたいよ。ほら、もう立ってはるもん!」思わず全員のため息が漏れた。
ロングアイランドまでの二時間、車内は重苦しい空気に包まれていた。
ダニーは挨拶以降の話題を考えたものの、ゴルフネタなんて思い浮かばない。
ボスは助手席で目を閉じ、マーティンは流れる車窓を見ていた。
もうこれ以上耐えられへんと思ったとき、ベスページ・ゴルフクラブに到着した。
ダニーは正面玄関横に滑らかに滑り込ませた。
恭しくドアを開け、いそいそとゴルフバッグを運ぶ。
「テイラー捜査官を連れてきてよかったな」副長官がマーティンに話しかけた。
「ええ・・」「ジャック、今日は真剣勝負だ!」「もちろんですとも、副長官」
マーティンはダニーを手伝いたかったが、父の手前、手を貸すわけにはいかなかった。
念願のブラックコースを回ることができ、副長官はご機嫌だった。
午前中はスコアは別として、何事もなく過ぎた。
ランチタイムにダニーがマーティンの専攻の建築の話を持ち出した。
マーティンはダニーに目配せするが、ダニーは気づかない。
テーブルの下の足を蹴飛ばした。「あ痛っ!」「どうしたジャック?」「いえ、何でも」
間違えてボスの足を蹴飛ばしてしまった。ダニーは父に話している。
「お前まだそんなことを言っているのか!」「違いますよ、そんな・・」
「いつまでも夢みたいなことを言うんじゃない!バカ者が!!」
怒鳴る副長官に、ダニーもボスも呆気にとられている。
「あの、僕はただ、見ただけで年代まで分かるのはすごいという意味だったんです。
余計なことをお話して申し訳ありません」
「そうですよ、副長官。マーティンはFBIの幹部目指して頑張ってますよ」
ボスもダニーも助け舟を出した。
「それならいいが・・・」副長官の怒りは収まったものの、場はしらけてしまった。
午後からのプレーは荒んだ雰囲気のまま続いていた。
マーティンと副長官は意地の張り合いをし、飛距離までも競い合った。
ボスはコンスタントにスコアを伸ばし、淡々とプレーしていた。
副長官のボールを追ってラフを探しているときに、ボスはダニーを呼んだ。
「あいつらを見てみろ、バカな連中だ。こんな球一つにむきになりやがって」
「ボス!聞こえたらどうするんすか!」「聞こえるもんか、バカバカしい!」
ボスはうんざりしていた。こんなことなら家で寝てたほうがまだマシだ。
18ホール全てを終え、結果はボス+7、マーティン+12、副長官+16だった。
「ジャック、ここで7オーバーならたいしたもんだ」
「ありがとうございます。こんなのまぐれですよ」
「マーティンも腕を上げたな」「ええ、まぁ」「よし、次回は負けないぞ!」
「テイラー捜査官も次回は一緒にな」「はい、ありがとうございます」
副長官の機嫌も直ったようで、ダニーはホッとしていた。
この後食事をする予定だったが、国家安全保障会議の開始時間が早まり、
副長官は早々にワシントンへ帰ることになった。
ラガーディア空港までの見送りが済むと、三人ともくたくただった。
マーティンを送り、ダニーはボスの家に向かった。
「ダニー、眠そうだな」ボスもトロンとした目で話しかける。
「そりゃ眠いっすよ。めっちゃ気遣うたんと長距離ドライブですもん」
「おいおいミラーが当たりそうだ、しっかりしてくれよ」「ふぁい・・・」
ボスの家に着き、少し休ませてもらうことにした。
ボスはベッドに、ダニーはソファに寝そべると、たちまちうとうとしてしまった。
マーティンがアパートに入りかけると、名前を呼ばれ
振り向くと黒ブチメガネをかけたニッキーが箱を手に立っていた。
「何?何してるの?」「ずっと待ってたのよ!ゴルフに行ってたの?」
「うん、疲れてるんだ。もうくたくただよ・・」肩のゴルフバッグが重い。
「じゃあね、ニッキー」マーティンはすたすたとアパートへ入った。
ニッキーもついて来る。「今日はダメだよ、すごく眠いんだ」
「わかった、これ食べてね」ニッキーは持っていた箱を渡した。
「何これ?」「クッキー、約束してたでしょ」「そんなこと言ってたね」
「マーティンのために焼いたんだよ」「そう、ありがと。でもさ・・」
「食べないの?」「え、いや、食べるよ。食べるけど、僕は・・」
「食べるとこ見たい」「えっ」「見たいの!」
「じゃあさ、食べたらすぐに帰ってね。本当に疲れてるから」
マーティンはまたニッキーのペースに乗せられてしまった。
マーティンは紅茶を入れると言って聞かないニッキーに
仕方なくまかせ、ベッドで横になった。
「マーティン?」ニッキーが呼びに来ると、すでに眠っていた。
あどけなく眠るマーティン、ニッキーのいたずら心に火がついた。
苦労して服を脱がせると、フェラチオをした。
「ぅ〜ん・・ぁぁ・・」無意識にマーティンの声が漏れる。
ニッキーは巧みに舐め、しごき上げた。
「んん・・あっん・・んっ」射精したマーティンの精液を口に含んだままキスした。
「う〜ん・・・」マーティンは生暖かいものが口に入ってきて目が覚めた。
目の前のニッキーに気づき、飛び起きた。
僕、全裸にされてる・・・しかも、この匂いは僕の精液だ!
「ニッキー、僕と寝たの?」「ううん、まだ。続きしようよ」
「続きって・・・」「もう少し時間おかないと無理かなぁ」ニッキーはペニスに触れた。
「何するんだよ!」「この前はやる気だったんだから怒らないでよ」
「それは・・・」ニッキーは自分の服を脱ぎかけた。
「待って!今日はコンドームがないんだ。だから・・・」
「大丈夫だよ」「ダメダメ、妊娠したら困るじゃない。さあ服着て!」
ニッキーを急かし、自分も慌てて服を着た。
「マーティンの子供なら産みたいなぁ」「子供なんていらないんだよ」
「え?」「子供なんか大っ嫌いだ!」マーティンはきつく言ってしまったことに驚き謝った。
「とにかくもう帰って」「わかった・・・」ニッキーを帰らせると、ベッドに戻った。
今日は散々な一日だった。
父さんには怒鳴られ、寝てる間に女に射精させられ・・・まったく!
考え事をしながら布団にくるまると、あっという間に眠りに落ちていった。
マーティンは、ヴィヴァルディーの「春」の音色で目が覚めた。
隣りを見ると、ジェイムズはいなかった。寝ぼけまなこで、リビングに行くと、
ファイナンシャル・タイムズを読んでいたジェイムズが顔を上げた。
「おはよう。よく眠れたようだね。」「お、おはよう。」
初夜の翌朝のような気恥ずかしさで、マーティンは顔を赤らめた。
「シャワーするだろう、こっちへ。」メインのバスルームへ案内される。
「わぁ〜。」大きな窓があり、セントラルパークが見渡せる。
広さもマーティンの家の2倍以上あった。「タオルはここだから。」
「はい。」シャワーを終えたマーティンは、リビングに戻った。
そこには、コンチネンタル・ブレックファストのフルコースが用意されていた。
「さぁ、召し上がれ。」「わぁ〜、ホテルみたいだ。」
「卵は何がいい?」「サニーサイドアップ・・・」ウォンが聞きに来る。
ジェイムズは自分はスクランブルドエッグを頼んだ。
山ほど盛られたデニッシュの中からチョコクロワッサンを見つけて、
ほおばるマーティン。そんな様子をうれしそうにジェイムズは眺めていた。
「今日はどうする?」突然聞かれて、むせるマーティン。
「仕事が溜まってるので、家に戻ります。」「そうか、残念だけれど仕事なら仕方がない。また会えるよね。」
「もちろん、ジェイムズ。 昨日は本当にありがとう。」
「そんなかしこまって言われると、照れるね。」朝食を終え、アパートを後にする。
「なんか、圧倒されるな。疲れた。」
ぐったりのマーティンは3ブロック下って、自分のアパートに着いた。
部屋に入り、また寝ようとベッドに向かい、マーティンはぎょっとした。
ダニーが寝てるよ!どうしよう!
無断外泊を見つかった子供のような気持ちで、ただただバタバタしてしまう。
「うぅん、マーティン、帰ったんか?」「あぁ、おはよう。」
「昨日どこにいたかなんてウソつくなよ。」「うん。」
「で、どうだった、ジェイムズは?」「どうって。」「エッチしたんやろ。」
「そ、それは・・・」「俺が使い物にならないと、すぐ代替を捜すんやな。」
「そんなことないよ!」「そやないか。俺がお前と寝なくなって2ヶ月過ぎたもんな。」
「・・・・ひどいよダニー・・・・」
「俺が寝ない理由も知らんと・・」そこまで言うと、ダニーは涙を浮かべた。
「ダニー・・・どうしたの?」「あの事件以来、出来ないんや。セックスが。」
「え?」「今、アランが治療してくれてるんやけど、ダメやねん。」
「そうだったんだ。僕、ダニーがアランのところに行ってしまったと思ってた。」
「治療や。」「僕・・ごめん。」
「あぁ、やっと言えない事が言えたわ。」鼻をすするダニー。
マーティンは静かに服を脱ぐと、ダニーの隣りに座った。
「こうして、ベッドの中にいるだけでいいよ。セックスなんてなくてもいいよ。」
「マーティン・・」マーティンはダニーの前髪をなで、涙の後を唇でぬぐった。
「お前さえ良ければ、口でならいかせられるで。」
「無理しなくていいよ。ダニー、フェラチオするの好きじゃないの、知ってるもん。」
「マーティン・・俺に遠慮しないでエッチしてええんやで。
やっぱり、俺の病気のとばっちりでお前がエッチしないのは、おかしいわ。」
「ダニー・・」マーティンはダニーの中で二つの気持ちがせめぎ合っているのが見て取れた。
「ダニー。無理しないでいいよ。」
「だって俺は治療とはいえ、アランとベッドに入る事あるんやで。」
ダニーはアランといる事を治療と偽ることで、マーティンの気持ちをやわらげようとした。
「そ、そうなんだ・・・僕、ダニーが負担に思わない方でいいよ。
話してくれてありがとう。」
「俺こそずっとだまっててごめんな。」
マーティンは、ダニーの身体を抱きしめた。
事件の前より随分痩せた気がした。
ダニーはボスの家のソファで昼過ぎまで眠りこけていた。
寝返りを打った拍子に落ちそうになり、目が覚めた。
「ぅぅん、腰痛たぁ・・・あれ?もう昼やん!」
ダニーはボスのベッドルームを覗いてみた。
「ボス?起きてはります?」「ああ、何だ・・・」
「オレ、そろそろ帰りますわ。すっかり寝込んでしもて、お邪魔しました」
「ああ、気をつけて帰れ。私はもう少し寝る」
「はい、失礼します」ダニーはボスの家を出た。
携帯にも留守電にもマーティンから電話は入っていなかった。
ボンもまだ寝てるんやろ、オレも寝よう。
ソファでは疲れはとれない。まだまだ寝足りなかった。
ダニーはパジャマに着替えると、自分のベッドにもぐりこんだ。
眠気はあるのになぜか眠れず、しばらくまどろんでいたが、
あきらめてベッドから出た。
熱いシャワーを浴びていると完全に目が覚めた。
昨日の副長官の剣幕を思い出し、知らなかったマーティンの苦労を思った。
マーティンは苦労知らずのお坊ちゃんやと思てた。違ったようや・・・。
オレ、ゴルフは性に合わん、辛気くさいわ。二度と行きたくない!
ウェアとシューズは使ったものの、グローブは手付かずのままだ。
ダニーはナイキタウンに返品に行くことに決めた。
休日のナイキタウンは人でごった返していた。
やっと返金してもらうと、メイシーズに寄りOXOのサラダスピナーを買った。
丁寧にラッピングしてもらい、マーティンのアパートへ向かう。
これでもうびしょびしょのサラダを食べずに済む。
マーティンのためというより、自分のために近かった。
そっと部屋に入ると、マーティンが服のまま眠っていた。
見覚えのある状態で丸められたティッシュが落ちている。
ダニーは勃起しているペニスをつかんだ。
「マーティン、オナニーマン!」「ん・・・何だよ・・・ダニー?!!」
「これ何?」ダニーはティッシュをポンと投げた。
「あっそれ・・・」マーティンはドキドキしながら布団にもぐりこんだ。
「マーティンいやらしー」ダニーは自分も布団にもぐった。
「やめてよ、漏れそうっ」マーティンは言うが早いかトイレに走った。
その間にダニーはキッチンにオリーブオイルを取りに行った。
ココナッツオイルやローションはここには置けない。
オリーブオイルを手にトイレに行くと、マーティンが座って用を足していた。
「あれっお前、この前オレのこと笑ったくせに」
「えっ・・・ダニーの真似したらさ、飛び散らないことに感動したんだよ」
「そうやろ、ベッドで待ってるからな」ダニーはオイルのボトルをちらつかせた。
「ん、シャワー浴びるから待ってて」「あかん、そのままや!」
ダニーはベッドルームへ消えた。マーティンも慌てて後に続いた。
明るい日差しの中で全裸になり、お互いの体を貪りあった。
「なんかチンチンのとこ、フローラルみたいな匂いがする」
やばっ、ニッキーの匂いだ!マーティンは慌てて言い訳を考えた。
「ベスページのボディソープじゃないかな」「ああ、そうかもな」
ダニーはまたフェラチオに戻ったが、マーティンのペニスはふにゃっとしてしまった。
「オレってヘタクソ?」「ううん、そんなことないよ。僕のほうが上手いけどね」
ダニーは笑いながら、マーティンの体を組み敷いた。
「指の使い方はオレのほうが上や」ダニーはオリーブオイルをアナルに塗りこみ、
ゆっくりと抜き差しを繰り返した。徐々に勃起してくるペニス・・・。
ダニーは満足そうにニヤッとすると、咥えたまま指を動かした。
「ぁぁん・・ダニィ」マーティンの頬が上気している。
ダニーはマーティンの口元にペニスを持っていった。すかさず咥えるマーティン。
「あぁ、マーティン!もうイキそうや・・入れるで」「来て、ダニィ」
ダニーは正常位で挿入すると、マーティンにキスしながら腰を打ちつけた。
「んふぅー・・はぁっぁぁ」マーティンの漏れる吐息にダニーは興奮した。
ダニーの腕をつかんでいたマーティンの手にグッと力がこもった。イクのが近いようだ。
「ダニィ・・・」「ああ、わかってる・・オレもイキそう・・」
ダニーは一層激しく腰を振った。「んっあっぁぁー」マーティンの精液が飛んだ。
アナルのヒクヒクした締めつけに耐え切れず、ダニーも果てた。
ダニーはマーティンにキスすると、横に倒れるように寝そべった。
「ダニィ」マーティンが甘えて顔を擦りつけてきた。
「マーティンは甘えんぼやなぁ。そうや、忘れてた!」ダニーはプレゼントを渡した。
「僕にくれるの?」「うん、開けてみ」マーティンは包装紙をびりびりに破いた。
「わぁ!サラダ作るやつだー」嬉しそうに何度も押しては回すマーティン。
「気に入った?」「うん、ありがとう。ダニーにサラダ作ってあげるね」
「今日?」「そうだよ、冷蔵庫見てくるね」マーティンはキッチンへ飛んで行った。
「材料あったんか?」「ない・・・」「ほなシャワー浴びて買出しに行こ」
ダニーはバスルームまでマーティンの背中を押していった。
ゼイバースまで散歩がてらに歩き、H&Hベーグルと食料品をしこたま買って帰って来た。
「あっ!」アパートの玄関にニッキーが立っていた。
「ニッキー・・・久しぶりやん」「ええ、ダニー」二人の間に不穏な空気が漂う。
「今日は何の用?」マーティンはダニーの顔色を窺いながら恐る恐る尋ねた。
「マーティンに会いにきたの」「あっそう、そうなんだ・・・。でもさ、今日は忙しいから」
「マーティン、はっきり言うたらええやん。好きか嫌いかはっきりしたれや!」
ダニーがいらついた様子で間に入った。「う、うん、そうだね・・・」
「ダニーは引っ込んでて!もう関係ないでしょ!」
「ちょっと、二人とももめないでよ。とにかく今日は帰って、ね?」
マーティンは二人の間に挟まれ困り果てていた。
ダニーはまだアランのアパートで過ごす時間が多かった。
マーティンは、ゴルフの打ちっぱなしやスカッシュで雑念を振り払うように努力していたが、
二人がベッドインしている姿が頭に浮かんで離れない。「ダニー、会いたいよ。」
スカッシュコートで一人ごちた。
アランは、遅々として進まない治療方法の突破口を開こうと各国のインターネットにアクセスして、
調べものをしている時間が増えた。ダニーは、その間、ギターを弾いたり、ピアノを奏でたり、
雑誌を読んだりして、アランのリビングで過ごしていた。
「アラン、ココア作ったけど、飲む?」書斎のドアから顔を突き出し、
ダニーはアランに聞いた。眼鏡姿のアランは、とてもセクシーだ。
「ああ、ありがとう。リビングで一緒に飲もう。」
アランがリビングのソファーに座ると、ダニーは膝に頭を乗せてネコのようにゴロゴロした。
「甘えん坊だなぁ。」「だって、アランずっとPCとエッチしてるんやもん。俺、飽きた。」
「おいおい、君のための調べものだよ。」「分かってる。」「PCにも焼もち焼くんだな。」
「ヒスパニックは情熱的やねん。」アランがダニーにそっとキスする。
アランの頭をぐいっと押し付け、ダニーが情熱的なキスをお返しする。
「今日は欲求不満かい?」「うーん、風呂に入りたい。」
「じゃあそろそろ今日の仕事は終わりにしよう。」
二人だけの濃密なバスタイム。泡の上から静かに愛撫を繰り返すアラン。
「あぅん、アラン、ええ気持ちや。」ダニーもアランのペニスに手を伸ばす。
すでに硬く屹立していた。「アラン・・・」
「無視していいんだよ。君の癒しが目的だ。」「でも・・・」
ダニーはアランのペニスにお湯をかけ、口に咥えた。
「んふぅ、うぅん、はぁ。あぁ。」アランは思わず声を出した。
「俺の口の中に来て!」「いいのかい?」「ああ、来て欲しいんや。」
ダニーはさらに口を前後左右に動かし、後ろや亀頭を舐めまわした。
「ああ、いく〜!」アランは果てた。
ダニーは音を立てて、アランの精液を飲み込むと、褒めてもらいたい子供のような顔をした。
アランがダニーを抱きしめる。「ダニー、僕のものだよ。」
ダニーはアランの告白に曖昧に頷いた。
二人と関係しているニッキーになりたいよと思うのは私だけですか?
960 :
fusianasan:2005/10/20(木) 09:29:39
私にとってはニッキーはとてもじゃまです。できれば娼婦も辞めて欲しい。
こちらの世界に女は不要です。
ダニーとアランの絡みに萌え〜です。
書き手1さん、書き手2さん、これからもがんがん書いて下さい。お願いします。
NYも秋を迎え、陽がどんどん短くなる毎日だ。ただでさえ人恋しい季節なのに加え、
ダニーと思うように会えないマーティンの寂しさは日に日に積もっていった。
意を決して、アランにアポイントを取る。「やぁ、マーティン、どうした?」
アランはいつもの調子をくずさない。この男が僕のダニーと寝ている。
マーティンは気がつくと両手のこぶしを固く握り締めていた。
「リラックスして。カモミールティーでも飲むかい?」
「いいえ結構です。今日はダニーの事で来ました。」
「やっぱり。ダニーの事か。」「治療の具合はどうなんですか?」
「申し訳ないがそれは親族にしか話せないよ。」「治る見込みは?」
「あれほどの体験をした後だ。そんなに簡単にはいかない。君に
話せるのはこれくらいだよ。マーティン。」
「ありがとうございました。」「ダニーは幸せ者だね、君みたいな友人がいて。」
アランはわざと友人という言葉を強調した。 僕は恋人なのに・・・
マーティンは来た時と同じ位暗い気持ちでアランのアパートを後にした。
ダニーは久しぶりにブルックリンに戻って、デリで買ったチキンソテーと温野菜でディナーを取ろうとしていた。
チャイムが鳴る。「誰です?」「僕、マーティン。」「おぅ、上がってこいよ。」
「どうした、他人行儀な。合鍵失くしたんか?」「違うよ。」
「夕食食うか。」「うん。」「デリで一人前しか買わんかったから、
ピザ頼もう。」「うん。」素直なマーティンの時が怖い。
正論で責めてくるからだ。ミラービールをマーティンに渡す。
ぐいっと一気飲みするマーティン。「何かあったんか?」
「アランのところに寄ってきた。」「それで?」
「ダニー、僕は治療に役立たないのかな。」
「それは専門医に聞かんとわからんわ。」「それってアラン?」
「ああ。」「医者変えたらどう?」「何で?」
「アラン、治療を長引かせてる可能性ない?」
ダニーはビールの缶をガンとテーブルに叩きつけた。
「俺が一番信頼してる医者を信用できないと言うんか?」
「そんなんじゃなくて・・」
「アランも必死で各国の同じ症例を調べてくれてるんや。
軽はずみで言うことやないで!」
「ごめん!そんなつもりなかった。ただ早く治って欲しくてさ。」
「俺だってこのまま一生エッチのない人生なんて考えたくはないわ。」
「そうだよね。ダニーにとっては深刻な問題だよね。」
「そうや。お前と一生寝られんようなったら、どうしようと思うで。」
「ごめん。僕が出すぎたマネして、傷つけちゃったね。」
タイミングよくピザの宅配が来た。「さぁ夕食食おう。」「うん。」
その晩は、葬式の後のような夕食になってしまった。
マーティンは自分の行動がどれだけダニーを傷つけたか計り知れないと大きく反省して、
ダニーのアパートから出た。
人恋しくて、思わずジェイムズの携帯に電話をかける。
「マーティン、久しぶりだね。」「ジェイムズ元気?」
「昨日、香港から戻ってきたばかりでね。いたって元気だよ。」
「これから、行ってもいい?」「大歓迎だ。」
マーティンはタクシーを止めて、アッパーイーストサイドへ上っていった。
ジェイムズは庭で葉巻をくゆらせていたようだった。
「今日はどうした?」「アランとダニーの事でバカやっちゃって。」
「自分のやった事がわかっているならまだ罪は軽いよ。ブランデー飲むかい?」
「うん。」ブランデーが喉を熱くして胃の腑に染みる。「話なら聞こうか。」
「うん。」
マーティンはダニーの名誉のため詳細への言及は避けたが、
PTSDでアランにかかっていて治療が長引いているあらましを伝えた。
「それで、君はアランが私欲のために治療を長引かせてると疑っていると。」
「そうです。」「僕にも精神科医の知り合いがいなくもない。
アラン・ショアの評判を聞いてみよう。」「ありがとう。ジェイムズ。」
「朝飯前だよ。」「今日はこれからどうする?」「明日、仕事なので帰ります。」
そう言って立ち上がろうとしたマーティンはバランスをくずし、
ソファーに座りこんだ。
「今日は泊まったらどうかな。ゲストルームを使うといい。」「はい。」
マーティンはジェイムズの言うなりだ。ジェイムズは面白くてたまらなかった。
ヴィクター・フィッツジェラルド、君の息子は僕の手中に落ちたよ。
>>959 >>960 ニッキーや娼婦の存在は、賛否両論悲喜こもごもなんですが、
一応ダニーはバイの設定ですので、試行錯誤しながら書いてます。
>>960さんの、こちらの世界には女は不要との意見も参考にして
徐々に軌道修正しながら考えたいと思います。申し訳ありません。
私はダニーがバイの設定なら、女の存在は許せます。それがあって
話にふくらみが出るから。書き手2さん、がんがってください。
応援してます。
>>960 さん
ザ・プラクティスのアランとダニーの関係はまだまだ続きます。
応援ありがとうございます。
ダニーとアランの絡みに飽きてきました。
書き手1さんが書いてる小説は好きなんだけどなぁ・・・。
>>977 さんへ
飽きられましたか〜。
孤独なダニーがやっと見つけたホーム/ファミリーがアランなので、
もう少しの間ご辛抱いただければと思います。
ストーリーが単調になってしまっていたら、すみません。
筆力不足です。精進します。
ダニーとアラン、確かに飽きてきたけど、
ダニーに一夜だけの関係をする男になってほしくないので
安定した関係は歓迎です。
ただ、今の関係の中では、マーティンが邪魔ですね。
これからも楽しませてください。
>>979 さんへ
アランに飽きましたか〜。
新スレの展開はどう思われますか?
マーティンは確かに今は邪魔者ですが、WATの原点ですから、
はずせないと思っています。