【FBI失踪者を追え】ダニー・テイラー萌え【小説】
ダニーに暗号メールを打つ。「トレス書記官と二人で打ち合わせ。」
ダニーは複雑な気持ちで返事を打つ。「了承。注意せよ。」
その日も目立った事件はなく、暇なチームだった。
「これだけ暇だと身体がなまっちゃう。」サマンサが伸びをしながら言う。
「それだけアメリカが平和ってこっちゃ。」ダニーが軽口をたたく。
「じゃあ、お先に。」マーティンが先に席を立った。
エンリケは運転手つきのリンカーンを支局の前に付けて待っていた。
マーティンはあらためて彼が外交官だったのを思い出した。
「今日はヴィレッジに行く。僕が行きたかったレストラン。」
着いたのは、グリニッジ・ヴィレッジの「ゴッサムバー&グリル」だった。
「よく予約が取れたね。」マーティンは驚いていた。
「僕の名刺、効き目あるからね。」ウィンクするエンリケ。そんなところも
ダニーそっくりだ。
なんとシェフのポーターレ氏自ら挨拶をしにくる。
うわ、ニューヨーカーで見た写真の人だ! 出てくる料理はすでにエンリケが
オーダーしておいたものらしい。次から次へと運ばれる料理はどれも見た目
味ともに素晴らしく、さすがのマーティンも驚きの連続だった。
こんな中じゃ、ラルフの事、聞けないや。
口火を切ったのはエンリケだった。「この間、家にいた男ね、びっくりしたでしょう。」
「うん、鏡見てるみたいだったよ。」「可愛そうな男。スラムで育って、
ろくに学校も出てない。その上、醜形・・」「醜形恐怖症?」マーティンが助ける。
「そう。それで人前に出られなかった。アランが助けてあげた。」
「でも、何で僕とそっくりにしたの?」
「それは・・・僕、寂しいね。マーティンはダニーとお似合いだから。
アランからのプレゼント。」「何だかシュールな世界だなぁ。」
「彼、スペイン語しゃべれる。住むところない。だから僕の家に今住んでる。」
「エンリケ、君はそれでいいの?」マーティンは思わず情にほだされてきた。
友達もいない国に自国の命を負って派遣されてきた外交官。どれだけ孤独だろう。
「マーティンと住むこと出来ない。だから仕方がない。」
「僕がもっと君と一緒にいたら、彼をどうする?」「うーん、一人で暮らさせる。」
「わかった。話してくれてありがとう。」エンリケはほっとしたようだった。
帰りもリンカーンでマーティンのアパートまで送ってもらう。
「寄って行く?」思わず尋ねるマーティン。「いや、今日はここで。じゃ、
もっと電話していいか?」「うん。エンリケ、誰かと話したくなったら
僕に電話して。」「シー。エストイコンテント!」「何?」
「思わず言った。沢山うれしいということ。」「じゃあお休み。」「お休み。」
根がまっすぐなマーティンは気がついていない。これもすべてアランが
お膳立てしたことなのだと。マーティンは人助けをしたような気持ちになり
口笛を吹きながらジョンに挨拶した。「ご機嫌ですね。フィッツジェラルド様。」
「ああ、いい事すると気持ちがいいね。おやすみ。」「おやすみなさいませ。」
明日、ダニーに報告しよっと。今日も安眠できそうだ。
家に着くとたちまち携帯がなった。エンリケからだった。
「言うの忘れたから、電話で言う。僕、マーティンを愛してる。おやすみ。」
「あぁ。おやすみ。」マーティンは初めて自分が今日したことを反芻してみた。
果たしてよかったのかな。とにかくダニーと話しなくちゃ。
留守電にはダニーからの簡単なメッセージが入っていた。
「エンリケを連れ込まないで一人でいい子で寝るように。おやすみ。」
「そうしてるよ!」マーティンはぷぅっとふくれてシャワーへと向かった。
マーティンが支局から出ると、ボスが先回りして待っていた。
無理やり乗せられ、走り出すボスの車。
「ボス、僕は一人になりたいんだ。降ろしてください」
「他人行儀な言い方だな、マーティン」
「・・・どこに行くの?」ふくれっ面のまま聞く。
「家だよ、お前の家」ボスはマーティンのアパートに向かっていた。
家に入ると、ボスは部屋の点検を始めた。
「ちょっと、何やってんの?」怪訝そうなマーティン。
ひととおり見て回ると、ボスは携帯を取り出した。
「マローンです、副長官。いえ、何も異常はありません。
ええ、取り越し苦労ですよ、ハハハ。マーティンに代わりましょうか?はい、では失礼いたします。」
「親父さん、妙な女を連れ込んでないか確かめろってさ・・・」ボスは爆笑している。
マーティンは無視して手を洗いにいった。
着替えていると、ボスが入ってきた。
「マーティン、ダニーと別れたって本当か?」
「ああ、もう僕とは付き合えないって・・・」泣きそうなのを隠すマーティン。
「なぜだ?お前に見切りをつけたのか?」いびるボス。
「違うっ、そんなんじゃないっ!!ボスの・・ボスのせいじゃないかっ!!」
「私の?なんのことだかさっぱり」マーティンはボスを突き飛ばした。
「あんなひどいことしといて・・・よく言うよ!!」とうとう、ポロポロ涙がこぼれた。
「ひどいって?あいつが虫を怖がるなんて知らなかったんだ、嘘じゃない」
ボスは必死に知らなかったと力説した。徐々に信じ始めるマーティン・・・。
「本当?ほんとにわざとじゃないの?」
「ああ、そんなひどいことするわけないじゃないか、信じてくれ」「うん・・・」
トロいお坊ちゃんだ、コイツとあのヴィクターが親子だとは到底思えん。
もっともヴィクターも相当親バカだがな・・・ククク。
マーティンを抱きしめて慰めながら、ボスは心の中で笑い転げていた。
ダニーは夕食の後、ソファーに寝そべっていた。
アイツ、オレの他に友達いいひんて・・・そんなん孤独やなぁ・・・。
同じキーホルダーに付けている、マーティンの鍵と自分の鍵とを重ねた。
今頃どうしているのか気になり、携帯を開けたり閉めたりしていた。
そのうち、きっぱりとあきらめ、バスタブに湯を溜めるため立ち上がった。
その時、携帯が鳴った。慌てて着信画面を確認するが見慣れない番号だ。
「はい」「テイラー捜査官?」「はい、そうです」「ヴィクター・フィッツジェラルドだが・・」
ふっ副長官から電話や!!ダニーは焦る心を静めた。
「副長官、こんばんは。テイラーです。この前は途中で退席しまして、大変失礼いたしました。」
「いやいや、仕事なら仕方ない。夜分遅くにすまないね、息子のことでちょっと。今、話せるかね?」
「ええ、もちろん大丈夫です。フィッツジェラルド捜査官のことといいますと?」
「ああ、様子がちょっとおかしいので気になってね。」
ダニーの心臓は破裂寸前だ。動悸がする・・・。
「以前、マローン捜査官から妙な交際相手がいると聞いて以来心配でね、
その時は誤報だったんだが、あの子が急に反抗的になってしまって」
「いえ、僕が知る限り、交際しているような相手はいないと思います。
今はキャリアを積むのに一生懸命ですよ。お父上が目標なんじゃないでしょうか?」
「そうか。たまたま虫の居所でも悪かったのかもしれんな・・。
ありがとう、テイラー捜査官。助かったよ、また四人で食事でもどうかね?」
「はい、ありがとうございます。ぜひご一緒させてください。」
「ああ、近々また会おう。」
「はい、副長官。お会いできるのを楽しみにしております。失礼いたします。」
ダニーは恭しく電話を切ると、フゥーっと息を吐いた。
これがまた火種になるねんなぁ・・・ダニーは気が重くなった。
ダニーはすぐにマーティンに電話しようとしたが、時計を見て止めた。
23:30、また眠れない夜を過ごさせるのも、かわいそうな気がした。
明日オフィスで言うほうがええな。ダニーはどっと疲れを感じ、
バブルバスはやめ、シャワーだけにしてベッドにもぐりこんだ。
しばらく寝返りばかり打っていたが、やがて眠りについた。
マーティンはボスに抱きしめられていたが、急に腹が立ってきた。
「わざとじゃなくても、やっぱりボスのせいだ!!」
「私が悪かったよ、マーティン。ダニーにも謝るから・・・」
「いまさらそんなこと・・・。もうここには来ないで!」
「わかったよ、今日は帰る。おやすみ、マーティン」
キスしようとするボスを撥ねつけた。ボスはそのまま帰っていった。
マーティンは冷凍庫の中からシュリンプグラタンを取り出した。
ダニーが作り置きしておいてくれたものだ。
レンジで温めると食べ始める。一口食べるごとに泣けてきた。
ダニィ・・・今すぐ会いたいよ・・・でも・・でも我慢しなくちゃ!
マーティンは腕で涙を拭うと、グラタンを口に運んだ。
次の日はハードだった。三ヶ月前の少年失踪事件の目撃情報が入り、
チーム全員が情報確認に追われた。
ようやく見つけたときには覚醒剤を打たれ、男娼としてこき使われていた。
「この子は別人なんじゃ・・・」頬がこけ、目には光がない少年を前にみんな息を呑んだ。
軽い気持ちで出会い系サイトで知り合った男に会いに行き、
廃人同様にされてしまったのだ。犯人はその場で自殺した。
見つかったものの、手放しでは喜べない事件の結末だった。
みんなが帰った後、マーティンは一人オフィスに残っていた。
やっと一段落つき、帰ろうとすると土砂降りの雨が降っていた。
まいったなぁ・・・マーティンは窓の外を見つめ佇んでいた。
携帯が鳴っている。ん?ダニーからだ!マーティンは急いで出た。
「マーティン、今どこなん?」「今から支局を出るとこ。ダニーは?」
「買い物の帰り。五分ぐらいしたら着くけど、送ったろか?」「ほんと?」
「うん、ほな五分後に角を曲がったとこな」「了解!」マーティンは踊りたい気分だった。
マーティンが待ち合わせ場所に着く頃には、雨はいっそう激しくなっていた。
ダニーのマスタングに素早く乗り込み、ジャケットを脱いだ。
「ほれ、頭びしょびしょやんか」手早くタオルを渡され苦笑いした。
「さすが!、だね」マーティンは感嘆した。用意周到=ダニーだ。
「ちゃんと拭いとけよ、もう夏も終わりなんやから」
「ん。ダニー、何買いに行ってたの?」「いろいろ。歯ブラシとか」
ダニーは嘘をついた。本当は迎えに来たなんて、口が裂けても言えない。
「これは?」「バンブー、日本の竹やて。ええやろ」
「うん」マーティンは竹の包みをそっと後ろのシートに戻した。
あっという間にマーティンのアパートに着いた。
「じゃあな、早よ着替えろよ」ダニーの言葉に渋々頷くマーティン。
「ねぇ、寄って行かないの?」「ああ、今日は帰るわ」
「家に食べ物がない」「え?なんて?」
ダニーは、何を言っているのか一瞬わからなかったが、意味が分かると笑いをこらえた。
「これ、食べてええで」さっきデリで買った夕食を渡す。マーティンの泣きそうな困った顔。
「しゃあないなぁ、食べたらすぐ帰るで」ダニーは車を停めた。
翌朝、マーティンが出勤してPCを立ち上げると、もうダニーから暗号メール
が届いていた。「報告待つ。」マーティンも即座に返信。「8:00Mにて」
Mとはマーティンの家という意味だ。昨晩早帰りをしたマーティンは書類整理
に手間取り、ダニーの方が先に支局を後にした。
「ジョン、こんばんわ〜。マーティンと約束してんねんけど、よろしいか?」
「はい、テイラー様。フィッツジェラルド様からご連絡ありましたので、どうぞ。」
ボンにしては今日は気がついたもんや。少しは成長したかな。
合鍵でマーティンの部屋に入る。一応、キッチン、ベッドルーム、
バスルームを確認する。エンリケが寄った形跡は見当たらなかった。
よっしゃ! ダニーは冷蔵庫からサン・ペリグリーノを取り出すと
一気に飲んだ。
マーティンの携帯に連絡する。「今どこや?」「まだオフィスだよ。」
「何してんねん?」「ボスが報告書上げるように指示してきてさぁ。」
「ボスは?」「もう帰った。」「なら家でやろ。手伝ったるわ。」
「わあい!じゃあすぐ帰るから。」マーティンはがたがたPCを片付け、
オフィスから走り出た。
ダニーはデリで買ったミートローフの付け合せにと、トマトのカポナータを
作ってマーティンを待った。「はぁ、はぁ、」ドアが開き、息を切らせた
マーティンが入ってきた。「おかえり。」「はぁ、はぁ、た、ただいま〜」
ダニーに抱きつくマーティン。「何や、何があったん?」
「だって、ダニーがおかえりって言ってくれたもん。」
子供の頃学校から帰ると迎えてくれるのは、いつもマーガレットだった。
母親に抱きしめられた事すらない。ダニーといると家庭の匂いがするのだ。
「今日はミートローフと野菜のカポナータやけどええか?」
「カポナータって何?」「野菜のトマト煮込みや。」「美味しそう!」
「お前、ほんまに家庭料理の名前知らへんのな。」
「いいじゃん。僕の担当は食欲だよ。」マーティンは冷たい家庭の様子を
ダニーに知られたくなかった。
マーティンはモンダヴィのジンファンデルを開けた。「ええワインやん。」
「へへへ。ワイナリーから直送してもらったんだ。」マーティンは胸を張る。
「それで、昨日はどやった?」「それがさぁ・・・」口ごもるマーティン。
「エンリケが何考えてるか、判ったんやろ?」ダニーは待っている。
マーティンは話し始めた。エンリケが孤独を癒そうとラルフと住んでいると。
「お前、そんなん信じたんか?」
「え、だって知らない国に一人で来てるんだよ。寂しいじゃない。」
「あいつ、パーティーアニマルやで。友達もぎょうさん出来たみたいやし。」
「週末のミッションに行ってみ?4人で行って以来はまったらしいで。」
「・・・そうなんだ。友達多いんだ。・・・」ミートローフをつつくマーティン。
「まぁ、それがお前のええとこなんやろな。俺は好きやで。マーティン。」
「じゃあラルフを何でそばに置いてるんだろう?」「当たり前やん。お前の
代わり。お前が手に入ったら、ポイ捨てするで。きっと。」
「ラルフ、可愛そうだ。」「ほらほら、また同情する。」
「じゃあこれからどうする?」「そやなぁ。」それを言われるとダニーも
答えがない。自分の中でアランを拒絶出来る自信がまだないのだ。これは
マーティンに絶対知られてはならないことだ。
「俺はアランがサマンサに近寄らないよう見張るわ。」「ふぅん。僕は?」
「ラルフ、ええたちの男やないで。エンリケから引き離せ。」
ダニーは二人のコカインパーティーを思い出していた。
「何だか二人で囮捜査してるみたいだね。ワクワクするよ。」
お前はまっすぐでええな、マーティン。俺はもっと腹黒いで。
ダニーは心の中でそうつぶやき、ジンファンデルを一飲みした。
マーティンが誤解して「かんぱーい!」とやりだした。「乾杯!」
ダニーもグラスを合わせて、マーティンの気持ちを汲んだ。
食事の後、マーティンの報告書の手助けをしているうちに夜中になって
しまった。二人ともタイプスピードはそれほど速くない。
24:30になってやっと仕上がった。「マーティン、明日も勤務やから
今日はこれでお別れな。」「えっダニィ・・泊まらないの?」
「だからぁ、明日も勤務やいうてんやん。」「判ったよ。」ぷいっとするマーティン。
ダニーは流しのタクシーを拾ってブルックリンに向かった。
家に着くとダニーはドキリとした。ドアの下から明かりが漏れている。
ドアの鍵も開いている。とっさに拳銃を手にし、ドアを蹴破る。
「おいおい、素手の相手を撃ったら起訴されるよ。」アランだった。
「どうして、入れた?」「大家さんはいい人だなぁ。ドクターバッグ見せたら
鍵を開けてくれたよ。」どこまでも悪知恵の働く男だ。ダニーは舌を巻いた。
「マーティンがラルフと会ったんだって?」アランが笑いながら聴く。
「ああ、マーティン、ショックだったみたいやわ。」「想像つくね。」
ダニーはぐったりとダイニングチェアに腰掛けた。
「何だい、僕の隣りが空いてるってるのに、随分だね。」
「俺、残業で疲れてんねん。今日は帰ってくれへん?」
「OK。じゃあ今週末は、我が家で過ごそう。」「あぁ、判った。」
アランはうつむいているダニーの額にキスをするとドアから出て行った。
俺、一体、何やってんのやろ。めちゃ疲れたわ。
ダニーは立ち上がると、着替えのためにクロゼットに歩いていった。
週末、ダニーは胸に砂が詰まったような重い気持ちでアランの家に出かけた。
一応の用意のためプラダのパンツとグッチのTシャツ、ロエベのスェード
ジェケット着用だ。家に着くと、パーティーの真っ只中だった。
ジュリアンやトム、ギルバート、ビル以下いつものメンツも揃っている。
エンリケも来ていた。連れているのはラルフの様だが良く見えない。
アランがダニーとおそろいのグッチのTシャツを着て、ダニーを迎えた。
「アラン、今日は何?」「僕の友人の誕生日だ。紹介するよ。マーク、
ダニーだ。」マークは分厚い眼鏡をかけ、どうにもイケてない服装の
冴えない男だった。「ダニー、よろしく。マークだ。」おどおどしている。
「彼はメディカルスクール中退して、IT企業を起業して、今や億万長者だ。
僕も出資した関係で恩恵に預かってるというわけさ。」
ダニーはこれで納得した。一介の医師の給与ではとてもこの暮らしを賄える
わけがないと、前から犯罪の影を捜していたのだ。ストックゲインだったのか。
「ダニィ・・」後ろから聞き覚えのある声がした。「マーティンか!?」
「そう、エンリケに連れて来られちゃったよ。」
「ラルフは?」「来てるよ。」見るとラルフは女性たちに取り囲まれて
悦に入っていた。「みんなが兄弟かって聞くんだよね。」「話し方聴けば
違うってあきらかやん。」「それがラルフ、言葉使いが変わってきててさ。」
また、アランか!アランを睨むと笑いながらシャンパングラスを掲げて
乾杯のマネをしている。
「ダニー!ちょっとこっちへ!」アランに呼ばれた。「行くで。エンリケから
離れるなよ。」「うん。」「ダニー、マークのために誕生日の歌を弾いて
くれよ。」スタンウェイを開き、アルペジオを二度ほど弾くと、皆の会話の
声が静まる。弾き始めたのは、スティーヴィー・ワンダーの「ハッピー・
バースデー」だ。皆がダニーの曲に合わせて歌う。冴えないマークが顔を赤くして
聞いている。
アランは奴も利用したんやな。どこまでも食えない男や。
ダニーは1曲で演奏を止め、キッチンへ行きクラブソーダを取ってきた。
「アプローズ!」アランが近寄ってくる。「君はどこまでも素晴らしい。
ダニー。誇らしいよ。」デザイナーのビルも寄ってくる。
「全く、おそろいのTシャツなんか着ちゃって。部屋の温度が5度位上がったわ。」
ビルはダニーに耳打ちする。「あんたはアランの本命よ。絶対に別れないでね。」
そういえばアランの同僚のトムにも同じ事を言われた。一体何なんだろう。
マーティンを見るとエンリケとラルフと3人で話し込んでいた。
気にはなったが中に入る気にはなれなかった。どうせ皆にはやし立てられる
のが落ちだ。マーティンはラルフと並んでまんざらでもなさそうに話している。
あいつ、何やってんねん。守るのはエンリケやって言うてるのに!
弁護士のギルバートがアペタイザーを取りに来たので、ダニーは尋ねる。
「なぁ、ギル、アランの前の相手ってどんなんやったん?」
「それを聞いてくるか。いつかは聞かれると思ってたけどね。色々いたけど
アランが夢中になった唯一の相手が君と同じエスニシティーでね。
結局、アランの金を持ち逃げしたんだよ。それでアラン、しばらく
薬物中毒になって停職になるし、荒れるし大変だったんだ。」
「そやったのか。」「だから君にはアランを落胆させて欲しくない。友人
全員からの心からの願いだよ。ダニー、よろしく。」
マーティンじゃないがダニーも思わずホロっときた。
愛する相手に裏切られる程心に深い傷を負うことはない。
アランも人の子やったんや。
ベランダに出て、一人ソーダを飲んでいると、アランがやって来た。
「今日はどうしたんだい。いつもの陽気なテイラー捜査官じゃないのかい?」
「俺かて感傷的になる時位あるわい!」「夜風が冷えるから中に入ろう。」
中に入ると皆がクラッカーを二人に向けて鳴らした。
「今日の素晴らしいホストであり幸せ一杯のカップルであるアランと
ダニーに乾杯!」グラスの合わさる音が続く。
ダニーはマーティンに目を向けた。するとマーティンは目をそらせ下を向いた。
アランは満面の笑みでダニーの身体を自分に向けると熱烈なキスをした。
皆の拍手が止まない。 まるで結婚式や。
ダニーはほんの1分の出来事なのに数分間であるかのように耐えていた。
マーティンがとうとうトイレに駆け込んだのが見えた。エンリケが後を追う。
音楽がシガー・ロスに変わっていた。荘厳なメロディーだ。
アランは皆に手を振りながら「まだパーティーは続きます。どうぞ、料理も
ワインもまだありますから、ご歓談ください。」と仕切った。
ビルが泣いていた。「ダニー、ありがとう!アランを幸せにしてやってちょうだい!」
エディターのジュリアンも「ダニーがFBIじゃなかったら社交欄に載せたい位
絵になってるよ。二人とも。」と祝福している。
トムが「やっぱり君は本命だったね。おめでとう。」と声をかける。
はめられた! ダニーは思った。これはマークの誕生日パーティーじゃない。
自分たちをさらに公のカップルにし、マーティンに知らせるための策略だ!
目を赤くしてマーティンがトイレからエンリケに付き添われて出て来た。
ラルフが如才なくシャンパングラスをマーティンに渡す。一気飲みする
マーティン。 あいつ、あの調子じゃ今日やばいわ。どないしよ。
ダニーのそばには次から次へと祝福の人が訪れる。アランも全く拒んでいない。
「どうだい、ダニー、NYの社交界は?」「俺のいる所やない。」
「すぐ慣れるよ。君は順応性があるから。」ダニーもシャンパンが飲みたくなり
行こうとするとアランに止められる。「ハニー、僕の役目だ。」
気がつくとマーティンとエンリケ、ラルフが消えていた。
ダニーも去ろうとすると、アランの友達全員に止められた。ビルが言う。
「聞いたわよ。元彼がここに来てたんでしょ。今日は帰さないわよ〜。」
アランがシャンパンを持ってきた。また乾杯が始まる。ダニーも目まぐるしい
出来事の連続で一杯で酔いがきた。
新スレ立ったからこちらに感想を書き込もうと思いまーす。
1さん、2さん!!
この先ダニーとマーティンはどーなるんでしょうか!?
二人には幸せになってもらいたーい!!
お願いだから妨害入らないでー!!
と、思いながら読んでいます。以前マーティンがうざいと書いた私ですが、そのうざさは女心に近いモノなんですよね(笑)
まぁ、難関がなきゃ話は成り立たないと思いますが、ダニーに余りヒドイ事しないで〜とお願いしてみたりして。
何はなくとも、毎晩楽しませて戴いてます!!この先も頑張ってください!!