1 :
B・R大会委員会:
2 :
はらたりら:01/12/17 14:42 ID:7bsHBeeq
\ | /
⊂⌒⊃ ⊂⌒⊃ ―‐ ● ―‐ ⊂⌒⊃
⊂⊃ / | \ ⊂⊃
⊂⊃
/~\へ/~\へへ/~\/~\へ/~\へ/~\へ/~\へヘ/~\/~\
,、,,,,,、,,,,、,,,、,,,,,,,,,,、,,,/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\_________
,, ,,,,,, ,,,, ,, ,,,, ,,,,,| 立った立った!クララが立った! | \
,,,, ,,, ,,,,, ,,,,,,, ,,,, , \ _____________/ 駄スレも立った! |
||=||=||=||=||=||∨=||=||=||=||=||=||=||=||\__ ______/
,,,,,,, ,,,,, ,,, ,, ,,,, ,,, ∧_∧ ,, , ∧_∧,, ,,,,, ,, __ ,,,, ,,,,, ∨ ,,,,, ,,,, ,, ,, ,,,,
,, e@@e ,,,,,, ,,, ( o´∀`) ,,,,, (∀・ ; ) ,,, , , | || ,,, ,,,, e@@e , ,,,, ,,, ,, , ,,
,,, (,・∀・) ,,, ,,⊂ ⊃,,, ,,⊂⊂⌒ヽ、, ,,, |!____i|| , ,,,♪ (・∀・,)_ノ ,,,,, ,,,, ,, ,
,〜(( ,,), ,,,, ,,,○( ノ ,,,, プル )) )○/_/) ,,,, ,, とと,,__つ , ,, ,, ,,
,,,, ,UUU ,,, ,,, ,,,,,, )__)_) ,, ,,, ,(( (_(_ノ ))プル,,,,◎ ,, ,,, ,, ,,,,, ,,,,, ,,, ミ ピョン
| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |,,, ,,,,| |
| |二二| |二二| |二二| |二二| |二二| |二二| |二二| |二二| |二二| |二二| |二二| |
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧(⌒) )) /
(# ゜∀゜),/ < ティン子も立った!!
(っ / \
ノ ,つ ) \______________
(__)(__)
3 :
名無しさん@初回限定:01/12/17 14:43 ID:sIxaBcBy
ユリーシャ (アリスソフトのDARCROWSから)
4 :
名無しさん@初回限定:01/12/17 15:03 ID:Zh8c+W/I
ランス (アリスソフトのランスシリーズから)
5 :
名無しさん@初回限定:01/12/18 13:06 ID:QDNn5Eyr
遺作・臭作・鬼作
タイガージョー(アリスソフトのOnly Youから)
7 :
名無しさん@初回限定:01/12/18 13:25 ID:LhMuI6i0
堂島 (TOPCATの果て青から)
高町恭也(ivory、とらいあんぐるハート3から)
グレン(Fifthから)
貴神雷贈(大悪司から)
11 :
:01/12/18 14:43 ID:ZqOs3WuZ
エーリヒ・フォン・マンシュタイン(ドイツ軍から)
12 :
名無しさん@初回限定:01/12/18 16:00 ID:tfF0QYmS
魔屈堂(ぷろすちゅーでんとGOOD)
海原琢磨呂(野々村病院の人々)
アズライト(デアボリカ@アリスソフト)
タカさん(ガッツ)
16 :
:01/12/18 17:06 ID:ONRUIJD+
朽木双葉(グリーン・グリーン)
真人(最後に奏でる狂想曲の主人公)
星川翼(夜が来る、大悪司)
19 :
名無しさん@初回限定:01/12/18 17:34 ID:ONRUIJD+
松倉 藍(TOPCAT、果てしなく青いこの空の下で)
注!彼女は大虐殺モードです。
勝沼紳一(悪夢・絶望)
殺しても霊体になって蘇ります。
21 :
名無しさん@初回限定:01/12/18 23:24 ID:ONRUIJD+
age
22 :
B・R大会委員会 :01/12/19 10:27 ID:qw7Ss2MP
規約
・あまりマイナーなキャラはエントリーを控えてください。
・不死系キャラはエントリーを控えてください。
(尚、アズライトに関しては首を落とした時点で死亡とさせていただきます。)
23 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 10:37 ID:i56Ep9Yh
柏木千鶴(痕)
24 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 10:58 ID:sffw47Wj
ランス&シィル
25 :
B・R大会委員会 :01/12/19 12:31 ID:5rhA7ArE
規約
・同一人物の複数参加は認められません。
(24については無効とさせていただきます。)
26 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 12:42 ID:2bg8+txK
紫堂神楽(神語)
巫女代表でがんばります♪
27 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 12:42 ID:KKjt1NeS
アイン (ファントム オブ インフェルノ @ニトロ+)
なみ(ドリル少女スパイラルなみ)
29 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 13:49 ID:DE/V84S3
涼宮 遙(君が望む永遠)
30 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 14:54 ID:JReWf/DV
グレン様(EDEN1、EDEN2、EDEN3)
31 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 15:05 ID:JReWf/DV
常葉愛(ぶるまー2000)
32 :
:01/12/19 16:33 ID:rM8JBgN2
>23
葉鍵はこないだまでやってたろーが。
葉鍵系キャラのエントリーは却下だ。
しおりちゃん&さおりちゃん(はじめてのおるすばん)
だいたい今27人ぐらい。適当に数えた。
木ノ下泰男(Piaキャロのオーナー)
36 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 17:49 ID:XTb7I9a1
篠原秋穂(五月倶楽部)
37 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 17:53 ID:Uf+KGRUd
法条まりな(イヴ・バーストエラー)
38 :
名無しさん@初回限定:01/12/19 17:54 ID:Uf+KGRUd
クレア・バートン(殻の中の小鳥・雛鳥の囀)
アリスメンディ(ローデビル)
薬レベル5の状態で。
41 :
名無しさん:01/12/19 19:05 ID:1UOk2XFa
広田寛(家族計画)
基地外のほうね
月夜御名 沙霧(Rumble)
ワープ番長 猪乃 健 (Rumble)
45 :
B・R大会委員会 :01/12/20 02:26 ID:8k09tCDd
一応今回は『本気』なので40人で開始したいと思います。
上手くまわらず、駄スレとなりそうなときは、終了宣言を出します。
その後、第2回として次スレへ移行し大人数による未曾有の殺戮ゲームを楽しんでください。
悪しからず。
規約
・1000レス到達でタイムリミットです。参加者全員の死を脳内補完してください。
現在エントリーしているキャラは37人です。
広場まひる(ねがぽじ)
シャロン(ワーズワース)
知佳(とらいあんぐるハート2)
以上40人決定。
49 :
B・R大会委員会:01/12/20 11:00 ID:Q3IJGYpC
以上で締め切りとさせていただきます。
本編の方にも奮ってご参加ください。
50 :
B・R大会委員会:01/12/20 11:05 ID:Q3IJGYpC
なお、この後細かい点をすり合わせますので、しばらくお待ち下さい。
使用武器、会場、その他ご意見ありましたら書きこんでください。
1・ユリーシャ(アリスソフトのDARCROWSから)
2・ランス(アリスソフトのランスシリーズから)
3・遺作(エルフの遺作)
4・臭作(エルフの臭作)
5・鬼作(エルフの鬼作)
6・タイガージョー(アリスソフトのOnly Youから)
7・堂島(TOPCATの果て青から)
8・高町恭也(ivory、とらいあんぐるハート3から)
9・グレン(RUNEのFifthから)
10・貴神雷贈(アリスソフトの大悪司から)
11・エーリヒ・フォン・マンシュタイン(ドイツ軍から)
12・魔屈堂(アリスソフトのぷろすちゅーでんとGOOD)
13・海原琢磨呂(エルフの野々村病院の人々)
14・アズライト(デアボリカ@アリスソフト)
15・タカさん(オーサリングヘヴンのガッツ)
16・朽木双葉(GROOVERのグリーン・グリーン)
17・真人(たっちーの最後に奏でる狂想曲の主人公)
18・星川翼(アリスソフトの夜が来る、大悪司)
19・松倉 藍@大虐殺モード(TOPCAT、果てしなく青いこの空の下で)
20・勝沼紳一(スタジオメビウスの悪夢・絶望)
21・柏木千鶴(リーフの痕)
22・紫堂神楽(EuphonyProductionの神語)
23・アイン(ファントム オブ インフェルノ @ニトロ+)
24・なみ(エヴォリューションのドリル少女スパイラルなみ)
25・涼宮 遙(アージュの君が望む永遠)
26・グレン様(フォレスターのEDEN1、EDEN2、EDEN3)
27・常葉愛(ライアーソフトのぶるまー2000)
28・しおりちゃん(ZEROのはじめてのおるすばん)
29・さおりちゃん(ZEROのはじめてのおるすばん)
30・木ノ下泰男(カクテルソフトのPiaキャロのオーナー)
31・篠原秋穂(デザイアの五月倶楽部)
32・法条まりな(C'sWareのイヴ・バーストエラー)
33・クレア・バートン(STUDiO B-ROOMの殻の中の小鳥・雛鳥の囀)
34・アリスメンディ(ブラックライトのローデビル)
35・広田寛@基地外(D・Oの家族計画)
36・月夜御名 沙霧(ペンギンワークスのRumble)
37・ワープ番長 猪乃 健(ペンギンワークスのRumble)
38・広場まひる(アクティブのねがぽじ)
39・シャロン(エルフのワーズワース)
40・知佳(ivoryのとらいあんぐるハート2)
半分程度しか知らん(w あと、マンシュタインって、いいのか?
52 :
B・R大会委員会:01/12/20 12:49 ID:QUCenB+t
>51
ご苦労様でした、男爵。ありがとうございます。
規約
・死者が出た際には改行して「番号 キャラ名 死亡」
と書きこんでください。
なお、当委員会が不定期に死亡者の名を列挙します。
・知らないキャラについては無理せず、書くのを控えましょう。
53 :
B・R大会委員会:01/12/20 12:49 ID:QUCenB+t
規約
・基本的にレスのついたレスを本筋としてください。
二つくらい同時についた場合は任意に選択し続きを書いてください。
なお、あまりに多くの筋が氾濫し、
収拾がつかなくなった場合は当委員会が恣意的に選択します。
悪しからず。
半角で >X とうち、どの続きを書いているかを必ず明示してください。
・他の人が読んでも楽しめる文章を心がけてください。
情景・心理の描写があるとよいかと思われます。
「〜が〜を殺した。」のような文章はやめましょう。
(´Д`)/<展開をバトロワ原典に準ずるのなら
導入部及び最初の犠牲者の決定は大会委員会殿にお願いしたいのですが。
(´-`)。o O(26・グレン様は触手化、分身、機械との同化など
異様に実戦的なスキルが多くて他よりも強すぎると思うが・・・うちうぢんだし・・・)
(´-`)。o O(そりゃやっぱ最初の犠牲者になるんだろう
バナナの皮で滑って頭打ったとかで)
(´-`)。o O(あずやんか、タイガージョーと相打ちじゃないか?)
>B・R大会委員会
別スレを避難所にたててみてはどうでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
866 名前:名無しさん@初回限定 :01/12/20 15:34 ID:Umwacyp5
バトロワ、1000レスで強制終了らしいので、感想や意見なんかは
別スレとして監視所とでもいったものをたてたほうがいいと思うけど
どうだろ?
867 名前:無名戦士 ◆Haxo.DM. :01/12/20 17:26 ID:sjohNsBn
>866
取り敢えず避難所に立てては?
↓
エロゲネタ&業界板避難所
http://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/erog/index2.html ネギ板内に立てるとまた揉めそうな気がします。
∧_∧
(´┏┓`) 正直、ハカロワに比べてぶっ飛んだ展開になりそう
/。∪ ∪\
/ 0 |
/ ― ― |
|. - - |
| (6 > |
| ┏━┓| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ┃─┃| < 正直、いつ始まるのかな、このゲームは?
| \ ┃ ┃/ \________
|  ̄  ̄|
/ ドッカン
/ / ,,_ ドッカン
━━━━━'), )= ☆ゴガギーン
∧_∧ヽ\ / / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ) 〉 〉_ _ ____ ∧_∧ ∠
>>1はやく出てこい、ヴォケ
/ ⌒ ̄ / "'''"'| || (`∀´ ) \___________
| | ̄l | |/ / \
. | | | | || | | /\ヽ
| | .| | | へ//| | | |
( | .| ロ|ロ ゙!l''ヽ/,へ \|_ | | |
| .lヽ \ | | ヽ\/ \_ / ( )
| .| 〉 .〉 | | | |
/ / / / | | 〈| | |
/ / / / | | || | |
/ / / / └──┴──┘ | |
まあ、しょうがねえやな。
出てこねエなら、書くまでよ……。
どう考えても恭也は誰かを護って死ぬ展開が予想されるので早くも鬱気味(w
いや、らしいといえばらしいんだけど
涼宮 遙は車に跳ねられてあぼーんですか?
勝沼伸一は既に死んでますか?
ラストはタイガージョーとランスのバトルですか?
追加
しおりとさおりは手をつないで崖から飛び降り?
能力制限とかあんの?
なかったらアズライトとかの独壇場になりそうなんだけど
68 :
B・R大会委員会 :01/12/21 03:12 ID:7DILAyMq
最初から知り合いが少ないってのもなぁ・・・
只の頃しあいになりそうな気も。
面子的に、ハカロワ以上に各人が参加せざるをえないように話を
持っていくのが難しそうだなぁ。
一部を除いて(藁)、極限状況でも理性保ちつつ状況打破に向う強者が
多すぎる。
比較対象が少ないので再度ハカロワを例に出して悪いが、あれでは能力制限の
理由をなんとかこじつけしていたから、今回の企画でもその辺り上手くやってほしい。
知佳VSアズは面白そうな気がする。
71 :
名無しさん@初回限定:01/12/21 13:58 ID:rf8XVD2i
ヴウウーーーーーーンンンーーーーーーンンン…………
真夜中の鐘がなり、眠れるものたちは目を覚ます。
そのいずれの首にも鈍い光沢を放つ金属製の首輪がかけられている。
一人の少女が見なれぬ光景,非日常の現実に気付いたのか体を起こし,
あたりを見まわす。15メートル四方の薄暗い部屋に雑多な人々が
投げ出されるようにして身を横たえている。
そして絶命したテイラーは最後にコバルト爆弾の起爆スイッチを押した。
73 :
名無しさん@初回限定:01/12/21 17:49 ID:85Za0+pi
>71
パチ、パチ、パチ。
暗闇のなか、突然拍手の音が響く。皆が一様にそちらへ振り向く。
薄暗い部屋の中、そこがおそらく上座なのだろう。
一人の男が玉座のごとき豪奢な椅子に腰掛けこちらを睥睨している。
その後には四人の男が直立不動の体勢で侍っていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
(なんだろう、あの人すごく恐い。)
「お前達にはこれから殺し合いをしてもらう。」こともなげに男は言い放った。
ユリーシャは己の耳を疑った。
他の皆も今告げられたことに多かれ少なかれ衝撃を受けているようだ。
男はそれを見て、愉快そうに「フン」と笑った。
74 :
名無しさん@初回限定:01/12/21 17:54 ID:d9uWTavU
>73
タイガージョーは黙して男の説明を聞いていた。
ここは絶海の孤島で廃村が一つあること、
ここには男とその後に控えるものを含めて45人いること、
今から一人につき一つ武器がランダムに与えられること、
首輪には爆薬がし込まれていること、
今から最後の一人になるまで戦うことなどを流暢に説明し最後にこう言った。
「最後の一人はこの私の仲間にしてやろう」と。
75 :
名無しさん@初回限定:01/12/21 17:59 ID:8niImpjj
>74
そこまで聞いたとき、タイガージョーはやおら立ち上がり男の言葉を遮って言った。
「この痴れ者がぁ!己のために殺し合えとは何たる傲慢!?
漢たるもの己が命のかわいさに人後に甘んじる事が出来ようか?
否、否、三度否!己の主はただ己のみ!!」
そういうが早いか、彼はその虎の瞳を炯炯と輝かせ、男に踊りかかった。
「タイガージョーとかいったか、お前は優れた使い手だ…殺すには惜しい。」
「わたしはもとより死せる身。貴様の野望。粉砕してくれる!!」
ドドドドドドドドドド
「フン!ならばしようがない…………。死ぬしかないなタイガージョーッ!」
「閃真流人応派奥義、地竜鳴動……」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
次の瞬間、タイガージョーの身体は後方へ吹き飛び、
大きな音を立ててコンクリートの壁を突き破ったところで止まった。
そして二度と立ち上がる事はなかった。
それを目の当たりにした七十八の瞳は、
得体の知れぬ男に得体の知れない恐怖を感じた。
男はそこから動いておらず、どうして虎の男が死ぬ事になったのか、
誰にも分からなかったからである。
6番 タイガージョー 死亡 ↓
すげぇ、いきなりタイガージョーが氏んだ
確かにジョーなら間違いなく組織自体に反抗するな、納得の展開ではある。
しかし組織の親玉はDIO様なのか・・・
78 :
名無しさん@初回限定:01/12/22 02:01 ID:ilSFEKlJ
79 :
名無しさん@初回限定:01/12/22 22:08 ID:Z7KhMtJ4
>75
たった今眼前で虎の覆面を被った男がいとも簡単にその命を奪われた。
堂島薫はいたって平静な表情を崩さなかったが,内心の狼狽は抑えようがなかった。
自分は常に奪う側の人間であり,望むものは手に入れてきたからである。
金,女,地位や名誉,そういった世俗の栄誉の全てを堂島は掴み取ってきた。
だが,今の彼にはそれを彼になさしめた部下も人脈もない。
まわりを見まわしても珍妙な恰好をしたものや年端もいかぬ少女が混じっている始末だ。
挙句の果てには虎の覆面を被った男は武術の素養があるようだったが,
いともたやすく葬り去られてしまった。彼の胸中に様々の思いが去来する。
ややあって堂島は彼一流の下卑た微笑を口元にたたえて「ヒヒ」と笑った。
(生き延びれば部下にするといっとるんだ。だったら生き残ればいい。
たったの40人,いや一人死におったから39人か。堂島薫をなめるなよ)
虎男の死に静まりかえる一同を尻目に,彼はほくそえんだ。 ↓
ゲーム開始が宣告された建物から、数分おきに人影が出てくる。
ある者は小走りに茂みに隠れ、またある者は悠然と歩を進め。
貴神雷贈は、そんな彼らの流れを二重顎を震わせつつ草陰から見つめていた。
自分には戦闘力は全く無い、ならば部下が必要だ。
雷贈が第一に考えた事はそれだった。とにかく腕の立つ用心棒を雇う。
偽善的な台詞は原稿用紙100枚分でも言える自信があったし、何より彼には財産があった。
人間、誰しも欲がある。財力の前に自称「無欲の人」が屈するのを彼は何人も見てきたのだ。
ましてや、強欲な人間ならば……この状況だろうと心は動く。
雷贈の数十年に及ぶ裏の人生訓が語る、最大の訓示であった。
(さっきの連中の中に一人、ちょうどいい男がいました……)
一瞬で抹殺されたタイガージョーの死体に、眉一つ動かさなかった奴が数名。その一人。
顔を見るだけで分かる強欲さと単純さ。はっきりと覚えている。
(さあ、はやく出てきなさい……)
それから数分後、新しい人影が入り口から出てきた。
茶色い髪、重厚な鎧。美形だが、どちらかと言えば野生的な容貌。
(……彼です!)
その青年は、何やらぶつぶつ呟いていたかと思うと、すたすたと歩き出す。
雷贈は、必死に自分なりに気配を消しつつ彼の後を追った。
81 :
80:01/12/22 22:18 ID:tShhgNPL
>>79 失礼。被ってしまいました。
どうぞ先にお書き下さい。
82 :
79:01/12/22 22:24 ID:bFCZQTuf
>80
あれで終わりです,続きをどうぞ。
と思ったら「TO BE」マークが付いてましたね。では続けて。
84 :
名無しさん@初回限定:01/12/22 22:31 ID:EC23XTx0
あ、始まってますか。今ランスとユリーシャのくだり書いてるんですけど、いいですか?
85 :
B・R大会委員会 :01/12/22 22:39 ID:Lc916kJa
参加してくださる皆さんありがとうございます。
ありがとうなんですが,避難所のリンク先に会議を設置してあります。
そこを一通り読んでから書き込んでいただければ,さらにありがとうです。
このスレは一応純粋に物語を進めるスレとしたいので,
出来れば雑談・連絡などはあちらでしていただけるよう統一したいと思います。
ご協力お願いします。
86 :
84:01/12/22 22:42 ID:EC23XTx0
OKっぽいので、出します。
87 :
名無しさん@初回限定:01/12/22 22:42 ID:EC23XTx0
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
ランスは、内心の動揺をひた隠しにしていた。
あの男。タイガージョーという反乱者を一撃のもとに葬り、
他の屈強なものたちを一瞬で黙らせた男。
あの瞬間、このランス様ともあろうものが、戦慄した。
ちくしょう、許せねぇ。俺様ともあろうものが、あの程度の
プレッシャーにビビっちまったことが許せねぇ。
「次、2番、貴様だ。そこに置いてある袋からひとつ持って、外に出ろ」
男がいった。
1番目は、ユリーシャとかいう小娘だった。彼女は、
ランスが考え事をしているうちに外に出たようだ。
2番は、俺だ。ランスは立ち上がると、袋を取った。
1番から順番に、2分間隔で外に出ることになっていた。
外に出てからは、何をしようと自由だ。とにかく殺しあって、
最後の一人だけが命を助けてもらえる。
だが、ランスには、男のいう通りにするつもりは毛頭なかった。
88 :
名無しさん@初回限定:01/12/22 22:42 ID:EC23XTx0
俺様が勝つ。それは絶対だ。確定事項だ。
だが、その前に、あの男だけはぶっ殺す。絶対に殺す。
ククク、俺様にこんな屈辱を味わわせたんだ。後でたっぷり後悔させてやるぜ。
他の奴らは……。まず、男は全員殺す。女は全員犯して、俺の女にする。
それで決まりだ。何を考えることがあろうか……。
廊下で、袋を開ける。ずいぶん重いと思ったが、中に入っていたのは斧だった。
よし、幸先はいい。俺様が本当に得意なのは剣だが、
何、大天才たるこの俺にかかれば、この斧ひとつで他の全員を殺すことだって簡単だろう。
見ていろ、あの野郎。今度あったときは、俺様が貴様を八つ裂きにする時だ。
通路を出ると、そこは深い森の入り口だった。
自分たちがいたのは、木造の2階建ての建物だったらしい。
ランスには、それが学校というものだとはわからなかったけれど、
今の彼にとって重要なことはそんなことではなかった。
重要なことは3つ。
今が夜で、月が出ていること。
すぐ目の前に森があって、その入り口までの50メートルは、
誰でも飛び道具から無防備になること。
そして、森の入り口に、先に建物を出たユリーシャという名前の少女が、
弩弓を構えて立っているということだ。
「おい。俺は、女を殺したくねぇ」
ランスはそういって、ユリーシャに一歩近づく。
「こ、来ないで……ください」
ユリーシャは、か細い声で抗議した。ランスは聞き入れず、もう一歩踏み出す。
弩弓につがえられた矢は彼の心臓を狙っていたが、その手がぶるぶると
震えていることにランスは気づいてた。
「よせ。慣れないことをするもんじゃねぇ」
「で、でも…」
「お前は、殺さない」
「………」
2歩、3歩と近づく。
「わ、私は……」
「撃ちたきゃ、撃ちな。ただし、当たらなかったらお仕置きだ」
もう、一歩。
緊張に耐えかねたユリーシャが、ひっ、と悲鳴を上げて、引きがねをひいた。
矢は大きく狙いを外れ、校舎の屋根に突き刺さる。
ユリーシャが呆然とする隙に間合いを詰めたランスは、彼女の手から弩弓を
もぎ取ると、そのまま地面に組み伏せた。
「な、何を……」
「お前は今から、俺の女だ」
「な……っ」
「しっ。次の奴が出て来る。こっちに来い」
「え、その……」
「黙ってついて来い。俺は女は殺さん。あの傲慢な男を殺して、お前もこの島から脱出させてやる。
だから、今はさっさと来い」
歴戦の勇士たるランスは気づいていた。自分の次に出て来る男が、
自分より遥かに卑劣で、生き残る為なら容赦のない男であることを、直感で悟っていた。
ユリーシャは、つかの間ランスの瞳を眺めいたが、やがてコクっとうなづくと、立ちあがった。
「この弩弓は…あなたが持っていてください」
「俺は、弓なんて使えねぇよ。お前が持っていろ」
そう吐き捨てて、ランスはユリーシャの手を引き、森の中に入って行く。
ユリーシャは、すでにこの男に自分の身を預ける気になっていた。
それは、彼女の持って生まれた勘、とでもいえばいいのだろうか。
彼女は、知っていたのだ。この男が、彼女を決して裏切らないということを。
もっとも彼女の貞操は、この十分後に奪われることになるのだが。
↓
92 :
名無しさん@初回限定:01/12/22 22:47 ID:tShhgNPL
「ひい、ふう……ひい、ふう……」
少し走っただけで心臓が悲鳴を上げる。
自分の配給袋の重さに驚きつつも、何とか雷贈は青年に追いついた。
「きっ、君!」
青年の体が一瞬こわばり、雷贈の方に顔を向ける。
次の瞬間、雷贈に向かって吹き付けられる殺意。
(さあ、ここが勝負ですよ……)
今にも失禁しそうな恐怖に何とか耐えつつ、雷贈は用意した次の台詞を言う。
「待ってくれ!武器は持っていない!……話がしたいんだ」
「……話ィ?」
青年は気が抜けたような返事を返してきた。ここまでは彼の予想範囲だ。
「ああ、君に……私の財産を受け取って欲しいんだよ」
「???」
青年の顔に疑問符が浮かぶ。殺気が薄れたのを感じ、雷贈は彼に近づいた。
「私は……本土で事業家をしていてね……故郷にささやかだが財産を残している」
「ほう……で、それを何でまた俺様にくれるんだ?」
「(乗ってきた!)」
内心で喝采を挙げつつ、雷贈はあたかも慈愛に満ちた表情を作る。
「はっきり言うが、私はこの大会で自分が生き残れない事は知っている。
君達のような若者に、私のような老人が勝てる訳がないだろう……」
「わっはっはっ、当たり前だ!」
自慢気に胸をそらす青年。
「……このままでは、息子もいない私の遺産は宙に浮いてしまう……
だから君達にあげたいんだ……ただ、一つだけお願いがあるんだよ」
「……何だ?」
>>80 >>92 「私を……ぎりぎりまで守って欲しいんだよ。
……最後まで残ったら、私を殺して構わない」
無論、これは大嘘である。最後になったら相討ちにでもさせればいいのだ。
が、
「『……相討ちにでもさせればいいのだ』ってか?
噂通り腐ってるねェ、貴神雷贈さん」
「!?」
何時の間にか、青年の雰囲気が変わっていた。
どことなく口元に悪戯めいた表情を浮かべて、彼は更に言葉を続ける。
「貴神雷贈……全国に存在する貴神学園理事長。
その実態は……人身売買のエロ爺ってな……」
「ななな……」
もはや演技をする余裕も無く、雷贈はがくがくと体を震わせる。
「……はっきり言って、あんた生きる価値……無いぜ」
銃声は一回のみ響いた。
「よいしょ……っと。何入ってるんだこれ……?」
青年……海原琢磨呂は、雷贈の袋を担いで、その場を後にした。
「まずは……一人っとな……」
10番 貴神雷贈 死亡 ↓
94 :
名無しさん@初回限定:01/12/23 00:19 ID:YjFv07EV
>93
アズライトは一人の少女と一人の青年が部屋を出て行くのを見ていた。
少女は自分の置かれた境遇におののき,配給された袋を受け取るときも足をよろつかせていてた。
対照的に青年は自信があるのだろうか,不適に笑う男のほうを
殺意を秘めたまなざしで一瞥しゆっくりとした足取りでこの部屋を去って行った。
(あの男の人は大丈夫,多分一人でも戦える人だ。
でもあの女の子、きっと一人じゃ死じゃうな。助けてあげたいけど…
レティシア,僕どうすればいいんだろう?)
アズライトは沈痛な面持ちで次々と部屋を出て行く人を見送っていた。
気弱な彼の瞳にはいつしか涙が浮かんでいた。
95 :
名無しさん@初回限定:01/12/23 00:22 ID:BfxRle5J
>94
(僕は生き残ってもう一度君に逢いたい。
けど,ここにいる人たちだって自分の意志で来たわけじゃないんだ。
この人たちだって帰りたいのは僕と同じなはず。
デアボリカとしての「力」を使えば,生き残ることは出来るけど…
レティシア,君に逢いたいけど,とてもとても逢いたいけど,
自分のために誰かを犠牲にするなんて僕には…出来ない。)
いよいよアズライトの名が呼ばれる。
食料と水,そして一つの武器が収められた袋を受け取る。
ズシリと重い,その袋の重みが何だかやけに悲しかった。
96 :
名無しさん@初回限定:01/12/23 00:28 ID:7Uyqh3CM
>95
(だから,僕は僕の力を使わずにこの大会に臨もうと思う。
こんな大会馬鹿げてるけど,もう君には二度と合えないかもしれないけど…
その時はごめんね。ごめんね、レティシア…)
いまや決意を固めた彼は部屋を出る。
青い鉱石と同じ名を持つ孤独な闇のデアボリカは,
思い人のことを胸に抱きつつ窓から射しこむ月明かりに照らされた
長く続く廊下を一陣の風となって走りぬけた。
遥かな先を見渡す彼のその双眸にはすでに涙はなかった。
↓
>96
こりゃまた、とんでもないことになったのぉ。
魔屈堂は、腕を組んで思索を巡らしていた。
ちらり、と自分の前の男の顔を見る。
生粋のオタクである彼は、当然のごとく熱烈なドイツ軍ファンであった。
目前の静観な顔つきの老人は、
エーリヒ・フォン・レヴィンスキー・ゲナント・フォン・マンシュタイン。
ドイツ軍屈指の電撃作戦の司令官であり、
ハリコフでは「バックハンドブロウ」と呼ばれる芸術的な機動防御で全軍の瓦解を防いだ名元帥である。
ただし、痛いことをずけずけいうという、権力者に煙たがられる人間の典型でもあった。
結局1944年に解任、そのまま終戦と共に連合軍の捕虜となったはずの男だ。
問題は、何でそのような男が、この場にいるかである。
見たところ、齢60過ぎ。記憶が確かなら、第二次世界大戦時の彼の年齢がそのくらいなのだ。
>97
「とんでもない裏がありそうじゃな」
魔屈堂は、そう呟いて、自慢の白髭を撫でた。
見まわせば、まるで中世ファンタジーから出てきたような男がいる。
どこぞの姫君と見紛う扮装の少女がいる。
どこからこれだけの人材を集めてきたというのだろう。
彼は、己の命の前に、そういう細部のディテールにこだわってしまう男であった。
「コスプレさせているわけでは、あるまいな」
それは、確かだった。歴戦のオタクである彼が、まがい物の扮装と真の闘士を見紛うはずがないのである。
だとすれば。
クローン。多次元宇宙。リバーワールド。
ろくでもない妄想が、一瞬のうちに魔屈堂の頭の中を駆け巡った。
>98
自分の番が来る。袋を選んで、建物を出た。袋はズシリと重い。
目の前には、深い森。魔屈堂は、周囲に人の気配がないのを確認すると、ためらわず森の中に踏み込む。
自分がやるべきことが殺し合いなどではないことは、明白だった。
まずは、現在の状況を確認することだ。続いて、全員が生き残る道を探す。
「ほっほっほ、オタクの血が騒ぐわい」
袋の中を確認すると、食料と水と一緒に、何ダースものチョークの箱が入っていた。
黒板に文字を書く、白墨である。ハズレであったが、オタクの自分にとってはこの上もない武器にもなるかもしれない。
魔屈堂はニヤっと笑って、チョークの何本かを懐に収めた。
ひと飛びで、頭上の木の太い枝に飛び乗る。
木の影から影へと機敏に動く、エーリヒを見つけた。
それと同時に、エーリヒの鋭い眼光が、魔屈堂を射抜く。
互いに歴戦の古強者だ。一瞬で相手の力量を察知し、射線を遮る位置に移動する。
>99
「待て、待て。今お主と戦うつもりはない」
木の影に隠れて、魔屈堂はドイツ語で叫んだ。真なるオタクにとって、
英語・ドイツ語の習熟は必須項目である。
エーリヒの答えはない。
「お主の考えが聞きたい。この事態を、お主はどう捉える?」
意外にも、帰ってきた答えは日本語だった。
「少なくとも、貴様が私の為にドイツ語を使う必要はない」
「ぬ……」
一瞬、気をとられる。
次の瞬間には、彼の目の前にエーリヒがいた。
その手には、見たこともない拳銃が握られている。
>100
「どういう、ことじゃ?」
「私と貴様は、明らかに別の言葉をしゃべっているつもりだ。
だが、互いに意志は通じる。そういうことだ」
「………。テレパシー…とはちと違うの」
「難しいことはわからん。正直、殺し合いをする気もない。
私のような老いぼれより、未来ある男女に生きる道を与えるべきだとは思わんか」
魔屈堂に敵意がないことを見抜いたのか、エーリヒは拳銃を懐にしまってそう問いた。
「ワシは、そもそもこの勝負自体に興味がない。この勝負の裏側にある真実にこそ、興味がある」
魔屈堂は、エーリヒの視線を正面から受け止めた。
「エーリヒ・フォン・レヴィンスキー・ゲナント・フォン・マンシュタイン。
偉大なるドイツの英雄よ。ワシに力を貸してはくれんかな」
「それが、栄光あるドイツ軍人にとってもっとも正しい選択であるならば」
「約束しよう。ワシのこの、熱くたぎるオタク魂にかけて」
それが何の保証になるかはまったくわからなかったが、魔屈堂という老人の真摯な瞳に、
エーリヒは深くうなずくのだった。
↓
102 :
名無しさん@初回限定:01/12/23 02:23 ID:14P7k31Z
,一-、
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■■-っ < いったんCMはいりまーす
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| У.. |
>101
「ねえ,君名前は?僕は星川翼、王子様だよ。ホッシ―と呼んでくれていいよ。」
その場に似つかわしくない軽い調子で近くに座る少女に声をかける。
ただし女の子にだけ。
自分のことを王子様と呼ぶ少年を見て,女の子は怪訝な顔する。
やがて,その女の子は名前を呼ばれて行ってしまった。
「行っちゃた。かわいいねェ。」翼は一人うそぶく。
ぼんやりと窓から見える月を眺める。ここには月は一つしかない。
彼の端正な顔,その中心よりやや上の眉間にしわが寄る。
先ほど女の子と話していたときとは打って変わって真剣なまなざしで男のほうを見る。
(この首輪,デザインがいまいちだな。爆発するとか言ってたけど,
僕の目貫の能力でならなんとかならないだろうか?
サンテグジュペリがあれば破砕点を突いて破壊できるんだけど…)
彼の承有するレイピアは男達によって没収されている。
男の手下が彼の名を呼ぶ。いつもの彼の柔和な表情に戻っている。
「サンクス」などと袋を手渡す手下におどけてみせる。
廊下に出た彼は自分の袋をまさぐり,その武器を知って破顔した。
それは一本のアイスピックだった。
「ちょっと小ぶりだけど,これならみんなを助けられるね。」
(でも,その前に誰が味方かをしっかりと見極めなくちゃね。)
先ほど覗かせた真剣な表情に戻って彼は一人つぶやく。
「やれるな,翼?」
先ほどの少女が彼の頭をよぎる。まだ彼女が無事ならいいのにと思う。
彼は自分の力では自分の首輪をはずせないことは知っている。
けれど,他の誰かの助けることは出来る。
「僕は王子様だから,ね。」
>104
「ここには誰もいない,と。」
建物を出た翼はその周囲をぐるりと回ってみた。
そこに生きているもの姿はなく,
貴神と呼ばれていた男の亡骸があるだけだった。
「とりあえず,さっきの女の子を探そうかな。」
そう言って翼は,遮蔽物のない大通りを軽快に歩いて行った。
彼もまた皆で生還する道を考えていた。 ↓
(一日目 1:52)
廃村 病院跡
何故こんな状態になったのだろう?
洗面器の水にタオルを濡らしつつ、アインは考えた。
彼女の横、診察用のベッドには一人の少女――と言ってもアインよりは年上だが――
が寝かされている。
涼宮 遙―――アインが確認した中では最弱と呼べる参加者だ。
何故―――私は助けてしまったのか?
再び彼女は同じ質問を自分に問いかけ、つい数十分前の事を振り返っていた。
(0:46)
アインの前に、遙が倒れている。
死んではいない―――眠っているのだ。
正直、判断に苦しむ状況であった。
後続を早期に仕留める為に自分が戻ってきた時には、彼女は眠っていたのだから。
無論アインは遙が外見以上に年上の、いわゆる成人である事も知らなければ、
彼女が最近になって三年間に渡る昏睡状態から回復したばかりである事も知らない。
何にせよ、絶好の好機である筈であった。
「……………」
無言でアインは配給された武器―――刃渡り20p程のナイフを手に取った。
旧ソ連特殊部隊仕様スペツナズ・ナイフ。必要とあらば手元のスイッチで刃を射出
する事も可能、白兵・奇襲どちらにも使える、彼女にとっては大当たりの得物だ。
すやすやと眠る遙の顔をアインは再度見つめる。
微かな記憶に残る、童話「眠れる森の美女」とはこの様な寝顔だったのだろうか。
「……大丈夫……痛みを感じる事無く、死なせてあげるわ……」
僅かに芽生えてしまった感傷を必死に殺しつつ、アインはナイフを振るい―――
彼女の背後に迫っていた、触手を切り落とした。
「………!?」
校舎入り口、そこから這い出る触手達。
更にその奥からは高笑いのような叫びが聞こえてくる。
「クッ……!」
自分が判断に時間を掛け過ぎた事を悔やみつつ、アインは自分に向かう触手を切断する。
相手の能力が未知数である場合、撤退せよ。
訓練で叩き込まれた戦略が、今度は迅速に判断を下す。
とっさにアインは傍らの遙の体を軽々と持ち上げると、森の中へ逃げ込む。
触手が触れた所が、少しひりひりと痛んだ。
―――何故、私は彼女を助けてしまったのか?
それは、ここに辿り着いてからアインが幾度と無く自問してきた事だった。
このゲームが絶対的強制力によって管理される以上、感傷・同情は致命的の筈だ。
幾度と無く死線を潜ってきたアインの本能はそう告げている。
では何故?
「んっ……うぅん……」
その時、遙が少し苦しそうな声を挙げた。近づき様子を見る。
「……凄い寝汗ね……」
やむなくアインは遙の服をはだけさせ、寝汗を拭う。
「………?」
ふと、彼女の服のポケットから一枚の写真が落ちた。拾い上げて、月の光に照らす。
三年前の日付の写真であった。少し恥ずかしげな遙。その横の活発そうな友人。
―――後ろの二人の少年はボーイフレンドだろうか?
アインが生きていた世界の中では絶対に存在しない「日常」がそこにはあった。
「………ああ、そうなのね」
アインの口元に、自嘲にも似た笑みが浮かぶ。
なんのことは無い理由だった。私は―――彼女に憧れてしまったのだ。
彼女は目覚めれば、やはりこの状況に怯え、恐怖するのだろう。
―――それすらも、アインにとっては決して手に入らない感情だったのだから。
「とりあえず、守る……後の事は……」
戦闘を司る本能が懸命に遙の抹殺を指令するのを、アインは無視しつつ呟いた。
「後になってから―――考えるしか、ないわ」
↓
(一日目 3:00)
あー、あー。
只今マイクのテスト中……
あ、ちゃんと録音されてますね。 よしよし。
えー、こんにちは、ご主人様。
ナミです。
突然ですがご主人様、ご存知でしたか?
ナミの体には、ブラックボックスがあるんですよ。
桜子さんのお茶目でつけられた機能なんですが、
飛行機のコクピットにあるものよりも小型で頑丈なんだそうです。
これが、こんな風に役に立つ日が来ようとは思ってもみませんでしたけど。
ナミのHDはドールファイトに耐えられるように頑丈に出来ているので、
txtやlogファイルとして記録することも出来るんですけど、
ナミの声で……
無機質なデータや文字の羅列では無くて
ナミがどれだけ頑張ったかを、ナミの声でご主人様に聞いて欲しい。
感じて欲しい。
どうしてかわからないけど、感情回路がそういう答えを出したから、
これからナミはこのブラックボックスに向けて、
その向こうにいるご主人様に向けて、
たくさんメッセージを残そうと思うんです。
…正直に言いますね。
ナミが壊れないでご主人様の元へ帰りつくことは、殆ど不可能です。
ナミのエネルギー残量は現在30%を割っています。
日常生活レベルの駆動で40時間程度、
バトルモードでは4時間と保たないでしょう。
だから、ナミが生き残るためには、
大体一日半で、38人を殺し終えないといけない計算になります。
1時間に1人がノルマです。
てんてこまいしちゃいますね。
あと、右手のドリルを没収されたことも痛いです。
配布された武器がチェーンソーだったので、
ちょっと加工して、右手パーツとして接続してみましたが、
慣れない振動なので扱いに苦労しそうです。
でも、ご主人様。
ナミは、あきらめていません。
絶対に勝てないと言われた勝負を、何度も努力と根性でひっくり返してきたナミですから。
一縷の望みがある限り、決して絶望したりしません。
ご主人様に再び会うためなら。
もう一度お傍で尽くすことができるのなら。
ナミは、やります。どんなことだって。
見つけたら、殺します。
見つからなかったら、探し出して殺します。
みんな殺します。
大虐殺です。
だから、ご主人様。
どうかナミの無事を祈っていてくださいね。
この声は届かなくても、気持ちは届いている…
そう、ナミは信じています。
銀のチェーンに想いを込めて、響け正義の大振動…
スパイラル改め、チェーンソーなみ、行きます!!
↓
【所持武器:チェーンソー】
【現在位置:スタート地点から北北西1km程度の森林】
【スタンス:正気のままで殺る気。無差別】
【能力制限:エネルギー切れまで、あと40時間】
>111
(一日目 2:30)
上に体操服、下にブルマという涼しい格好の常葉愛は、左右にフラフラ揺れながら、大通りを歩いていた。
左右にフラフラ揺れているのは、身長にして30センチは低い双子の少女に両腕を捕まれているから。
そして身を隠しやすい森ではなく捕捉されやすい大通りを歩いているのは、この栗色の髪の、愛くるしい双子の片割れが森の中に住む毛虫や蜘蛛を物凄く嫌がったからだった。
生き残ることに対して真面目な奴の態度じゃないよね。
愛は嘆息して、3人分のリュックをかつぎ直す。こんな重いものを彼女たちに持たせるわけにはいかないし、かといって捨てていくわけにはいかない。
正直なところ、自分ひとりが生き残ることにさして興味はなかった。
だけど、こんな無垢な少女たちが目の前で殺されるのを黙って見ていられない程度には、熱い正義感を持っていた。
>112
「ねえ、ちょっと。逃げたりしないからさ、もうちょい離れてくれないかな」
二人の少女が、あまりにべったりとくっついてくるのに閉口して、愛は足を止める。
「そんなぁ……。お姉ちゃん、私たちのこと嫌いになりました?」
愛の右腕をぎゅっと握って離さない、姉のしおりが寂しそうにうなだれる。
「わ、私は腕を離しても平気だよ。でも、しおりだけお姉ちゃんと一緒は、ずるい」
愛の左腕にしがみついている、妹のさおりが口を尖らせた。
愛は、はぁ、と溜息をついて、天を仰ぐ。
星が綺麗だなぁ。
思わず現実逃避しそうになる。
でも、まあ。
少なくとも、こうして周囲が真っ暗なうちは、道沿いが一番安全かもしれない。
確かに月の光でこちらの位置は丸見えだけど、それは逆に、
接近してくる者がいれば、一発で発見できるということだ。
愛は、自分のつけている、神のブルマのことを考えた。
このブルマの力があれば、不意打ちさえなければ、この2人を守ることはできるだろう。
であれば、木陰からいつ襲われてもおかしくない森の中より、
開けた場所の方が安全なのは明白である。
長射程のライフルを持った者がいたとて、この暗闇の中では狙撃もできまい。
幸いにして、双子の袋から出て来たものは、暗視スコープと連射式のモデルガンだった。
出発前の説明によれば、同じ武器は2つ存在しないらしい。
ここに暗視スコープがあるということは、
彼女たちは夜の情報戦で大きなイニチアチブを取ったことになる。
後は、朝になる前に安全に休める場所を探そう。
そう、当座の予定をまとめて、愛は、彼女たちの唯一の護身用武器である
金属バットを握り締めた。
>113
建物から建物へ、愛たちから距離を置いて、3つの人影が移動していた。
遺作、臭作、鬼作の3兄弟である。
体操服にブルマの少女と、まったく無害と思われる幼女2人。
脅迫、監禁、だまし打ちといった弱者を徹底的にいたぶる行為に喜悦を覚える彼らにとって、
今尾行している3人は、この上ない獲物に思えた。
見たところ、武器は体操服の少女の金属バットだけ。一方彼らは、
遺作がコンバットナイフ、臭作がワイヤーロープ、鬼作が警棒と、
まずまずの装備を手に入れている。
何より彼らは男で、尾行相手の少女3人は見るからに無防備だった。
長男の遺作の合図で、鬼作と臭作が彼女たちの正面にまわりこむ。
大人2人の登場に足を止める少女たち。そこに浮かぶ恐怖の表情を想像しながら、
遺作は彼女たちの後ろにまわりこんだ。
>114
「何よ、あんたたち」
常葉愛は、おびえる双子を道路の脇に避難させ、
袋を肩から下ろすと金属バットを構えた。
前に2人、後ろに1人。自分たちに逃げ道はないが、
相手はどいつも飛び道具を持っていないと思われる。
兄弟と思わしき男たちは、各々下卑た表情を浮かべながら、
じりじりと近寄ってきた。
「参考までに聞くけど、あんたたちがしたいことをいってみなさい」
「はぁ? こいつ、頭がオカシイのか。男と女がヤることといったら、
1つしかねぇだろ」
「つーまり! あたしとエッチなことしたいわけね!」
ビシっと人差し指を真っ直ぐに伸ばして、指摘する。
「お前だけじゃねぇ。そこで震えている、2人のガキもだ」
「ふん、この常葉愛様を相手に、いい度胸じゃない。
このナイスバディだけじゃ飽き足らず、発育不全のお子様にまで手を出そうたぁふてぇ野郎だ」
「お姉ちゃん、ひどいです」
「発育不全じゃないもん。発展途上なんだもん」
啖呵を切る愛に、味方側からブーイングが上がる。遺作たちがつかの間呆然とした隙に、
常葉愛は自分のブルマの中に手を突っ込んだ。
>115
「あん?」
「こいつ、自分からオナニーしてやがる」
「誘ってるのか?」
もはや唖然とする男たちと双子を尻目に、愛は一心不乱にブルマを濡らす。
そして。
ブルマに充分な湿度が与えられたとき。
神のブルマは、その真の力を目覚めさせた。
「あんたたち、身を伏せて頭を抱えてな!」
「え?」
「は、はい!」
風が、巻き上がるようにしてブルマの少女を包む。
常葉愛のブルマが、金色に光った。
「うおおおっ」
「こ、こりゃ、なんじゃ――!!」
「死ね、この女の敵、痴漢ども! ブルマー衝撃波!!」
次の瞬間、音速の衝撃波が、周囲の男たちを吹き飛ばした。
「い、今のは……」
痛む身体に鞭打ち、遺作は何とか立ち上がった。
月の光の背景にして立つ、ブルマの少女の鋭い眼光が彼を射抜く。
彼はひっ、と悲鳴を上げると、武器のナイフを拾って一目散に逃げ出した。
もうこれ以上、一秒でも彼女の前にいたくなかった。
>116
3人の男たちが逃げたのを確認して、常葉愛は緊張を解いた。
瞬間、身体中に鈍い痛みを感じて、呻き声を上げて地面に倒れる。
「お姉ちゃん!」
「だ、大丈夫?」
慌てて双子が駆け寄り、愛を助け起こした。
「だ、大丈夫だよ……これ、くらい………」
そういって笑うものの、それが強がりにすぎないことは双子にもわかった。
「ご、ごめんね……あいつら、とどめ刺しておかなきゃいけないのに……」
「いいよ、もういいよ、お姉ちゃん! とにかく、そこの小屋で休もう!」
まだ何かしゃべろうとする愛を遮って、双子は、泣きながら彼女の身体を引っ張る。
「うんしょ、うんしょ……」
「ごめん…ね……。あたし、本当は身体が……もう駄目なんだ……」
「さおり、もう少しだよ。うんしょ、うんしょ」
「どんなにがんばっても、20歳まで生きられないっていわれてるんだ……。
全身、もうボロボロなんだって……」
「しおり、小屋の扉開けておいて。うん、お姉ちゃんを支えてるから」
「ごめんね、ごめんねぇ……。思ったより…キツいなぁ……。
ひょっとしたら……あんたたち、最後まで守ること……できない…かも……」
「うんしょ、うんしょ、うんしょ。うん、このベッドの上に乗せよう」
「でも……がんばるからね……。はは、あんたたちに支えられているくせに、
エラそうなこといってるけど……。最後まで、あんたたちの為に戦うから……だから、そんな哀しい顔するなよ……」
双子の助けを得て何とかベッドの上に這い上がった愛は、
涙を瞳いっぱいに溜めた双子を抱きしめると、そのまま奈落に落ちるがごとく、意識を失った。
↓
【グループ:常葉愛、しおり、さおり】
【所持武器:金属バット(常葉愛)、暗視スコープ(さおり)、連射式モデルガン(しおり)】
【現在位置:スタート地点から西に3km程度の道沿いの小屋】
【スタンス:双子を守る】
【能力制限:不治の病(常葉愛)】
【グループ:遺作、臭作、鬼作】
【所持武器:コンバットナイフ(遺作)、ワイヤーロープ(臭作)、警棒(鬼作)】
【現在位置:スタート地点から西に3km程度の道沿いから、どこかに逃走】
【スタンス:弱い女性を狩る】
(一日目 05:39)
朝の訪れを最初に知ったのは、皮肉にも朝日を最も憎んでいる男だった。
島の東端に位置する灯台の見張り台に立ち、今まさに昇らんとする太陽を暗い眼差しで睨めつける男。
名をグレン(No.9)と言う。
伝説の『天魔』を発見し天使へと育て上げた、魔術史に名が残るほどの偉大な魔術師だ。
だが、今の彼からは、才気の一片すら感じられなかった。
こけた頬。黄色くにごった目。乾きにささくれ立った唇。
伸び放題の髪。垢のたっぷり詰まった爪。
悪臭を通り越し、異臭すら漂わせているローブ。
その姿はどう見ても浮浪者でしかなかった。
(まばゆく輝くあの光が、全てを奪ったのだ……)
かすれた声で憎々しげに呟き、グレンは決別の日を思い出す。
娘であり、恋人であり、実験対象であり、崇拝対象であり……
グレンの全てだった、マナとの別離の朝を。
(追憶)
いつのことなのかは記録に残っていない。
もしかしたらこの世界とは違う世界なのかもしれない。
とにかく、はるか昔。はるか遠く。
獣人や妖精たちと人間が共に暮らしていた、神話のような時代のこと。
冬の凛とした空気に映える見事な朝焼けの中、若き日のグレンとマナは、
屋根の上で昇り来る太陽を見つめていた。
二人並んで、身じろぎもせず。じっと見つめていた。
いつまでも太陽が昇らなければと、心の中で願いながら。
なぜなら、この太陽が完全に昇ったら、天魔の娘・マナは天使として、
里親・グレンの元を巣立たなくてはならない定めだからだ。
いつしか父と娘という絆を越えて、男と女として愛し合うようになっていた2人にとって、
この別れは身を裂かれるよりなお苦しいものだった。
それでも。
2人は別れなくてはならなかった。
天使は一つ所に留まってはいけない。誰か一人を想ってもいけない。
多くを愛し、多くを助ける。
それが天使の決まりであり、存在理由なのだから。
一介の魔術師や天使ごときが逆らうことなど不可能な、神の決めたルールなのだから。
「ありがとう、お父様…… だいすきだよ」
マナはかすれた声でそれだけを伝えると、くるりとグレンに背を向け、立ち上がった。
その勢いのまま太陽めがけて飛んでゆく。振り返らずに。
まっすぐ、前だけを見て。
グレンは、屋根の上に立ち尽くし、マナを見送っていた。
姿が見えなくなるまで。
見えなくなっても。
日が沈むまで。
日が昇っても。
彼は来る日も来る日も、マナの飛び去った東の空を眺めて暮らした。
気高く清楚な純白の翼を、金色に輝く髪を、
女の子から少女へと移り変わる、その危ういバランスの上に乗っかったシルエットの美しさを、
ただ、思い出し、反芻し、涙して暮らした。
マナのいない世界のことなど、興味は無かった。未練も。
(一日目 05:55)
水面は、真っ赤な太陽の光をギラギラと乱反射し、追憶に浸るグレンの濁った目を照らす。
網膜に浮かんだマナの後姿をかき消すには十分な光だった。
(お前は… 思い出に浸ることすら邪魔するのか!)
呪詛の篭った目で太陽を睨み返すグレン。
その時。
グレンは太陽より手前の空に、何かの影を認めた。
人型の、翼を持つ影を。
(まさか…)
彼は目を擦った。何度も何度も。
そして目を凝らす。
その影は、気高い純白の翼をはためかせていた。
その影は、陽の光を浴びて金色に輝く髪をたなびかせていた。
その影は、女性ではなく少女のシルエットを持っていた。
その影は。
「マナ!」
歓喜にグレン五体が打ち震える。
帰ってきたのだ、マナが。
再び、このグレンの、お父さんの元へ!
「こっちだ!!」
近年の脳医学者たちが、こぞって研究している障害がある。
和名を変異性遺伝子障害。
この障害は原因・治療法共に不明だが、生命を脅かすような症状は殆ど無い。
ならば大仰に研究などせずに、そっと放置しておけば良さそうなものだが、
学者が騒ぐには騒ぐなりの理由がある。
その障害を持つ者の、20人に1人が超能力者なのだ。
よって研究も医学的見地というより、科学的な見地で進められていると言える。
あるいは、表立ってはいないけれども、軍事的な見地で。
一口に超能力と言ってもその表れは多種多様だ。
空を飛ぶ力。外見を変化させる力。衝撃波を放つ力。……などなど、挙数に暇がない。
そんな能力者の中で最も高い能力を持つとされているのが、種別XX(ダブルエックス)障害だ。
あまりに膨大なエネルギーは、手術やアクセサリーでコントロールしないと暴発してしまい、
感情的になると、周囲のあらゆるものを意図せずして破壊してしまうとさえ言われている。
そんな種別XX障害者が、この殺人ゲームの参加者の一人に選ばれていた。
仁村知佳(No.40)である。
(一日目 05:55)
今、知佳は島の東端から離れること2kmほどの沖合いを、島に向かって飛んでいた。
「天使のようだ」と耕介を感動させた、純白のフィン(光の翼)を力弱く震わせながら。
(夜、明けちゃったよ……)
昨晩、学校から出発するや、知佳はXXの飛翔能力を使って島からの脱出を試みた。
しかし、進めども進めども、波の向こうに広がるのはただ波ばかり。
島や船など影も形も見当たらなかった。
それから4時間余り経ち、今。
飛びつづけたことでの疲労と、深夜から明け方にかけての冷え込みは相当堪えたらしい。
休養を取るために、本当なら2度と足を踏み入れたくないあの島へと、
泣く泣く戻っているところだった。
この瞬間にも人が人を殺しているかもしれない、恐ろしい島に。
唐突に。
(……あ。あれ?)
ふ、と目の前が暗転すること数秒。
超能力を濫用したときに起こる、猛烈な倦怠感が襲ってきた。
意志の力を無視して、肉体の力で無理やりブレーカーが下ろされる前兆だ。
(おかしいな、いつもならもう少し飛べるのに)
それは緊張・疲労・恐怖が、脳に過負荷を与えていることを考慮に入れず、
ラボの実験と同じ感覚で自分の限界を測ってしまった、知佳自らが招いた危機だった。
集中力が途切れたら、飛翔能力は解除されてしまう。
海の藻屑になってしまうことは明白だ。
……血の気が引く。
そして、引いた血の気と共に再度意識が途切れかかる。
(お姉ちゃん、リスティ、さざなみ荘のみんな……)
(おにいちゃ…… ん……)
またしても暗転。
(あいたい、よ。)
知佳の願いも虚しく、引力は無慈悲に彼女の体を下へ下へと押しやる。
(もうだめ…… なの、かな……)
知佳の頭を『あきらめ』がちらついた、まさにその瞬間だった。
「こっちだ!!」
ぼやけた意識に、叫びという名の楔が打ち込まれた。
視界がクリアになる。
「こっちだ!!」
声のするほうを見やると、灯台の上から、誰かが知佳を呼んでいた。
ぶんぶんと手を振って。声を限りに。励ましている。
(だれ、だろう…… 遠くて…… 顔が見えない……)
聞いたことの無い声だと気付きかけた知佳だったが、
疲れきった体と麻痺した頭では、物事を深く考えることはできなかった。
(わたしを待っていてくれる人、が、あそこにいる…… 行かなくちゃ……)
(おにいちゃん、かな…… それとも、おねえ、ちゃん…… か……)
知佳は疲労と重力に耐えながら、声に向かって飛んでゆく。
ふらふら、ふらふら。
誘蛾灯に誘われる蛾さながらに。
(一日目 05:59)
−−数分後。
灯台に到着するも、精も根も尽き果ててしまった知佳をふわりと抱きとめたグレンは、
優しく暖かく、その薄桃色の耳に囁いた。
「おかえり、マナ。」
そして、知佳は答えてしまった。
「ただ、い、ま……」
知佳の意識は、そこで闇に落ちた。
↓
【グループ:グレン(No.9)、知佳(No.40)】
【所持武器:両者共に不明】
【現在位置:島最東端の灯台】
(一日目 00:00)
勝沼紳一は恐怖に震えていた。
ここに来る前、
かつて聖エクセレント女学園の修学旅行中のバスをジャックし多くの少女を拉致して
青い果実を貪ったもののその後官憲の手により捕らわれ拘置所で死刑執行の時
を待つ身であった時も幼少の頃から体を蝕んできた病魔も今ほどの恐怖を
彼に感じさせたことはなかった。
それほどの恐怖を虎の仮面の男を倒した者に感じたのだ。
「死」の恐怖ではない「殺される」恐怖を。
やがて、自分の順番が近づくに連れて其の恐怖は増加していく。
子供の頃から面倒を見てくれた古手川も頼りになる木戸、直人といった部下もここには
いない。
孤独だ。
そして今まで頼ってきた金も権力もない。
そんな自分が愚かしくすら思える。
「20番、出ろ」
そう言われて我に返る。
すぐに大小さまざまなバッグの中から適当に一つひったくり紳一は外へ
飛び出していった。
いつもならこの様な輩にはこの世のありとあらゆる苦痛を味あわせて
なぶり殺してやるものを、しかし今の紳一にはその様に思考する余裕もなかった。
>125
(01:00)
どれぐらい走っただろうか?
紳一は島の南側の砂浜に来ていた。
「ぐがあぁぁ……」
周囲に誰もいないことに安心したその直後発作が紳一を襲う。
幼少の頃から体を蝕んできた病魔だ。
もがきながらも懐から薬の包みを取り出し服用する。
やがて発作は収まり紳一は自分を取り戻す、この薬を没収されなかったのは幸いだった。
没収されていたら自分の人生はここで終わっている、
そして恐怖も幾分和らいだのか紳一は出発地点の方を見て一言つぶやく。
「馬鹿馬鹿しい。 こんな所で死ねるか」と、
そう、まだ足りないのだ。
青き果実が。
早く、ここから帰り更に多くの果実をむさぼるのだから。
それだけだ。
そしてバッグをひっくり返して中身を確認する。
出てきたのは当面の食料と水、そして地図と時計。
武器は、武器はどこだ?
暗闇の中で手探りであるはずの武器を探す。
数分後に手に触れた物を取り上げようやく暗闇になれてきた目で「それ」を見る。
手の中にあったのは「必勝」と書かれたはちまきであった。
「ハハハ……」
あまりの阿呆らしさに思わず笑ってしまった。
いや、笑うしかなかった。
この様な物で何が出来るというのか。
そして、部下もいない状況とこの体で。
↓
【No.20 勝沼紳一】
【所持武器:「必勝」と書かれたはちまき】
【現在位置:スタート地点から南へ行った砂浜】
【スタンス:本人やる気なれど現在現状に呆れる】
【能力制限:持病持ち(要常備薬)】
>126
第一日目 AM.3:30
「ちくしょう,なんなんだあのブルマー女は。」臭作が苦々しげにはき捨てる。
先ほど出会った女は突然自慰行為を始めたかと思うと,彼と彼の兄弟をふっ飛ばしたのである。
未知の恐怖に中てられた臭作は無我夢中で森の中を逃げ回り,
いつしか彼の弟達ともはぐれてしまっていた。
「ちくしょう,ちくしょう,ちくしょう。あの女,俺様の美学を踏みにじりやがって。
この臭作様をこけにしたこときっちりと後悔させてやるぞ。
死にたくなるほどの恥辱を与えてやる。絶対に,絶対に,だ。」
こめかみに青筋を浮かべ,歯をギリギリと噛み締めながら
怒気をはらんだ声でわめき散らし道なき道を走りつづける。
やがて体力の限界が訪れ,彼は茂みに身を潜め近くにあった木に体をもたれかけさせた。
とても壮年から老年への過渡期にあるとは思えぬ体力を持つとはいえ,
やはり肉体は衰えは隠せないのだろうか?
>127
彼は所持していたコンバットナイフを握り締める。唯一の仲間であった兄弟ももういない。
「生き残れるのは一人だ。結局やつらとも殺し合うことになるんなら,
もう少し利用したかったがな…まったくあの小娘のせいで俺様の計画が台無しだ。
いまいましい女だ。」
配給袋から水を取り出し,口元から水が零れ落ちるのもかまわずに一気に飲み干す。
そして空になったペットボトルを苛立たしげに地面に叩きつけた。
その時、臭作は遠くにかすかな足音を聞いた。
そう思う暇も有らばこそ,次の数瞬のうちに彼の身に起こったことを彼はもはや知ることもないだろう。
いまや彼の心臓の部分に正確に七つの穴が穿たれている。彼が背にしていた木を突きぬけ,
彼の胸をも貫通していた。
>128
そして遅れることわずかに数秒、彼を一瞬のうちに葬った男が音もなく現れる。
「悪く思わないで…なんて言えないよね…」自嘲気味に笑う。
臭作の命を絶ったのはただの石ころである。
風のごとく疾走するアズライトの手から放たれた七つの弾丸は狙いを過たず、臭作を襲った。
アズライトは一瞬悲しげな表情を臭作のほうへ向け,再び闇にとけた。
3番 伊藤臭作 死亡 残り37人 ↓
【アズライト】
【所持武器:?】
【現在位置:?】
【スタンス:最大戦速】
【能力制限:デアボリカとしての能力は一時封印,
身体能力に関してはその限りではない】
130 :
名無しさん@初回限定:01/12/24 01:26 ID:VXk81CMe
>129
(一日目 3:30)
「よし。ここなら見つからねぇだろ。おい、降りろ」
「は、はい」
そういって、ランスは背中に抱えたユリーシャと荷物を下ろした。
ここは、校舎の近くにある森の奥、岩が盛り上がって複雑な丘を形成している、
その脇にひっそりと隠された洞窟だった。
慣れぬ徒歩での移動に疲れ切ったユリーシャと2人分の荷物を抱え、
このような時に不意を打たれては対処できぬ、と考えたランスは、
ユリーシャをどこか安全な場所に待機させておくことにしたのである。
「まったく、あの程度歩いてくたばるなんて、本当にお嬢様かよ」
ランスは、彼女が本当の王女であることを知らない。もっとも、そんな肩書きなど、
今のこの状況ではまったく無意味なのであるが。
>130
「ご、ごめんな…さい。でも…ありがとう。命を、助けてくださって」
「ガハハハ、そうだ、もっと感謝しろ。命を助けて、
その上このランス様に処女膜をぶち抜いてもらったんだからな」
豪快に笑いながら洞窟を奥まで探索し、安全と判断したランスは、
自分の荷物を手に取ると、自分は出かけるからここで待っているように、とユリーシャに告げた。
「これから……どうされるんですか」
首輪を両手で不安げにさすりながら、ユリーシャはおずおずと尋ねる。
「他のいい女を、助けにいく。俺様の愛は、世界中のいい女全てに平等に注がれるのだ」
あえて、目に付いた男は全て殺す、とはいわない。そんなのは当然のことで、
考えるまでもないではないか。
だからユリーシャは、単純にランスの言葉を信じた。
それとも信じたのは、ランスの真っ直ぐな瞳に対して、だったのかもしれない。
そんな相互の些細な誤解には一切気づかず、ランスはガハハと高笑いをすると、
次なる獲物を物色する為洞窟を後にした。
↓
【グループ:ランス、ユリーシャ(現在別行動)】
【所持武器:斧(ランス)、弩弓(ユリーシャ)】
【現在位置:スタート地点から北に2kmほどの、森の中の洞窟】
【スタンス:女は食う、男は殺る】
(一日目 4:13)
貴神雷贈(No.10)の死体を発見した広場まひる(No.38)が最初に感じたのは、恐怖よりも悲しみだった。
恐怖と驚きを貼り付けたまま固まっている雷蔵の死に顔を見るだけで、その死に方のおおよそは想像がつく。
「どうしてひとは、ひとを傷つけることができるのかな。」
まひるは、雷蔵の両目をそっと閉じさせ、その両手を胸の前に組ませる。
組ませた腕の下、ちょうど心臓の位置に穴が空いていた。
(このおじさん、鉄砲で撃たれたんだ)
反射的にスカートのポケットに手を突っ込むと、冷たく硬い感触が手のひらに返ってきた。
支給武器、グロック17(拳銃)だ。
貫通力・殺傷力は低いものの、銃身のほとんどがプラスチックで出来いるので軽く、扱いやすい拳銃。
非力なまひるにも十分扱えるものだった。
そういう意味で彼は、当たりの武器を手に入れたと言えよう。
しかし。
まひるは銃身を指でもてあそびながら自問する。
それは、彼が学校を出発してから、何度も何度も繰り返してきた問いだ。
(あたしは、人を撃てるの?)
(殺されそうになったら、反撃できるの?)
相手の痛み。苦しさ。悲しみ。そして日々の生活を想像する。
家族もいるだろう。友達も。もしかしたら恋人もいるかもしれない。
ちくちく、ちくちく、胸が痛む。
(あたし、人を傷つけることなんてできない。
それで自分が傷つくことになっても。)
結局、その結論に落ち着く。
「あたし、お経とか分かんないけど。
安らかに眠ってね、おじさん。」
(一日目 4:41)
しばらく道なりに歩いたまひるは、病院脇の小さな公園のブランコで、足を休めていた。
なんとなく揺らしてみる。
ぎい、ぎい…
全然楽しくないけど、少しだけ気がまぎれる。
その時、公衆便所の中から
「ヒヒヒ、ヒィィィ!!
ゆ…… 許してくれ……」
甲高く裏返った、しかし悲痛な叫びが聞こえてきた。
「おっちゃん、おねんねにはまだ早いだろ」
ドスの聞いた、しかしキーそのものは男性にしては高い声が続き
ズダン、バダン。
なにやら物騒な音が聞こえてきた。
「大変だぁ!」
まひるはブランコから飛び降りて公衆便所へと数歩走り……
そこでピタリと足を止めた。
(あたしに何ができるの?)
(あたし、ひとを傷つけることは出来ないのに)
「死ぬ、死んでしまう!!」
さっきよりも一層、切羽詰った声。
(やっぱり、放っておけない!)
その後の具体的な行動など何も決めないまま、まひるは公衆便所へ飛び込んだ。
そこに広がっていたのは、凄惨な修羅場だった。
但し、まひるの想像とはかけ離れた意味で。
ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!
ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!
よく日に焼けたマッチョが、ちょび髭おじさんの上に跨っている。裸で。
マッチョは摩擦熱で発火しそうなくらい激しく腰を動かしている。裸で。
高原美奈子(No.15)と、堂島薫(No.15)だ。
「はっはっは、そうか、死ぬほどキモチいいのか!」
「ち、違います、もうダメです、カラダの限界です」
「いやよいやよも好きのうちっていうだろ?」
初めて性行為を目撃して、まひるは硬直した。
いや、この光景を目の当たりにしまったら、かの鬼畜・ランスでさえ放心してしまうだろう。
それほどの交わりだった。
エロチックさのカケラも無い。
筋肉が奔放にダイナミックにうねり、汗が、唾液が、体液が(堂島の涙も)しぶきを上げて飛び散る。
ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!
ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!
と、タカさんの腰の動きが更に速度を増した。
「うぉおおおお、おま○こ、いっちゃう、おま○こ、いっちゃう!!」
彼女はだらしなく開けた口から舌を突き出して、胸筋をピクピク痙攣させながら海老反る。
全力で達していた。
「痛い、痛い、痛い!!
千切れてしまう、ワシのモノが千切れてしまうぅ!!」
堂島はそう絶叫し、泡を吹いて白目を剥いた。
「ふー、いい汗かいたな」
ボダボダボタッ!!
タカさんが立ち上がると、さっきまで堂島と繋がっていたところから、
小便かと疑いたくなるほどの大量の白濁液が零れ落ちる。
「よう、おまえもそんなトコでぼーっと突っ立てないで、参加したらどうだ?
ストレス解消はセックスに限るぜ」
タカさんはとてもさっぱりした顔で、まひるを振り返った。
ぶんぶんぶん。
凄い勢いで首を左右に振るまひる。
その眼差しには恐怖と嫌悪が見て取れる。
「んあ?
ああ、これ、別に強チン(オーサリング用語。逆レイプを指す)ってワケじゃないぜ。
和姦だよ、和姦。
ションベンしようかと便所に入ったら、このおっちゃんが隠れててな。
『女をいたぶる』だの『調味料』だのブツブツ呟いてオナニーしてたから、
溜まってんならオレが相手してやるよって。」
「は、はぁ……さようで。」
「だからそんなに怖がんなって。とって喰いやしねぇよ。」
先ほどの荒淫ぶりからは想像も出来ないような爽やかさで、タカさんははっはっはと笑った。
小麦色の肌に、真っ白な歯。真夏の太陽のような笑顔は男性的な魅力が溢れている。
(あ、このひと、悪い人じゃない)
まひるはタカさん笑顔を見て、そう感じた。
すー、っと緊張が解けてゆく。
「あ、オレ、高原美奈子。タカさんって呼んでくれ。あんたは?」
「広場まひるです」
まひるはにっこりとわらった。柔らかく、それでいて元気さを含んだ、花のような笑顔で。
「さて、と。
おっちゃんが風邪引いたらかわいそうだから、なんか服でも着せてやっかね。」
↓
【グループ:タカさん(No.15)、まひる(No.38)、堂島(No.7)】
【所持武器:まひる(グロック17+弾17)、不明(タカさん、堂島)】
【現在位置:病院脇の小さな公園】
(一日目 3:12)
何人かの者達が協調し、あるいは早過ぎる死を迎えていた時。
村落から少し北西に離れた農道でも、一つの戦いが繰り広げられていた。
ぱらららららっ
タイプライターを高速で叩くような音と共に、畑に弾痕が穿たれる。
「(1……2……3……32秒!)」
法条まりな(No,32)は音のした秒数をカウントしつつ、トラクターの陰に隠れていた。
彼女の手には何も握られてはいない、配給された武器には回数制限が存在している。
今はまだ使うべき時ではない。
そして……使うまでも無い。まりなは確信していた。
相手が完全に火器の、否、戦闘の素人であることははっきりしていたから。
あのタイプライターのような音は、明らかに機関銃であった。
しかし、配給袋に入るサイズとなると……間違い無くサブマシンガンとなる筈だ。
両者の距離は50メートル以上。月は雲に隠れてちょうど闇夜となっている。
足音さえ消そうとしない(その為、まりなは不意打ちを予測できた)素人が、
当てられるものではない。
一瞬だけ物陰から顔を出す。
ぱららららっ
慌てたように向こうの人影は動き、当らない射撃を繰り返す。
「2……3……45秒、よしッ!」
止んだ瞬間、まりなは自分に喝を入れると突然トラクターから飛び出した。
飛び出したまりなを見た人影は一瞬動揺したが、再び銃口を向けた。
ぱらららっ……。
まりなの足元に撃ち込まれる銃弾。しかし……。
……………。
すぐに止んでしまう。
「!?」
人影は焦ってサブマシンガンを抱えるが、
「遅いわよっ!」
既にまりなの姿は彼の眼前まで迫っていた。
「くぅっ!」
とっさに手にしていた得物をまりなに投げる影。だが、難無く避けられる。
サブマシンガンが地面に落ちる前に―――
「ハッ!」
まりなの一撃が影の鳩尾に叩き込まれていた。くの字に折れる体に、更に追撃が来る。
次の瞬間には影は手首を捕まれ、地面に組み伏せられていた。
「安心して。抵抗しなければ危害は加えないわ」
力を緩めずにまりなが言った。観念したのか、影の体から力が抜ける。
その時になって初めて、まりなは自分が組み伏せている人物が何者かを知った。
「あっ、あなた……!」
今回の参加者の中で最も彼女好みの顔だったから、はっきりと覚えていた。
木ノ下泰男。職業は……確かレストランのオーナーだったろうか?
部長に見せてもらった資料では、狂暴な側面は全くない男の筈であった。
「……………」
その時、泰男が笑った。この場には最も似つかわしくないであろう、さっぱりした笑い。
「ハハ……やっぱり駄目だったか……」
「!?」
「……大丈夫、もう抵抗はせんよ……手を、解いてくれないか?」
その自然な言い方に、思わずまりなは手を離してしまった。
撃ち付けた所をさすりつつ、泰男は彼女に向き直る。
多少タキシードが汚れている所を除けば、実に紳士的な壮年であった。
「さあ、君の勝ちだ……私を殺してくれ」
「ち、ちょっと待ってよ!」
慌ててまりなが言った。
「誤解しないで。私は殺し合いをするつもりは無いわ」
「?」
「協力してほしいの、一人でも多い人にね」
説明しつつ、ヒールに隠していた手帳を取り出す。
「君は……?」
「内閣調査室……まあ、言ってみれば日本のCIAみたいなものね……そこの諜報員
って訳。目的は……この馬鹿げた大会の調査って所かしら?」
この大会の情報は極めて奇妙であった―――存在こそすれ、確認したものなし。
噂と失踪者のみが存在し、現物を知るものはいない。
このゲームに参加し、内情を調査し、生き残れ……成功率99%を誇る法条まりなに
託された、それが指令だった。」
「しかし、私は君を……」
「気にしてないわよ。誰にも引けない物がある事くらい、私も知ってるわ。
……それに、オジサマには負けない自信があったから」
そう言うとまりなは悪戯っぽく笑い、軽くウインクした。
「………すまない」
深深と頭を下げる泰男。その顔には後悔の念が浮かんでいる。
「……駄目だな……私は。あの場でルールが説明された時、私はもう自分の事しか
考えられなくなっていた。家に帰って……息子と……娘に……会いたかった。
だから……生き残るために、君を……殺そうとしてしまった……」
「それが……普通だと思います……。息子さん、いるんですね」
「ああ……私の店の支店長をやっている……自慢の息子だったよ……」
「……帰りたくありませんか?皆で、一緒に」
まりなは力強く言い放つ。泰男は驚いてまりなの顔を見つめた。
美しくも凛とした瞳。そこには泰男が感じていた不安を消し飛ばす強さがあった。
「……できると思うのかね?」
「思うのか?じゃないわ……やるのよ、絶対に」
一片の迷いも無い返事に、泰男は微笑み、手を差し出した。
「……分かった……私で良ければ、力に……」
その瞬間―――
「な……」
泰男の右腕が、消えた。
「!?」
まりなの目が見開かれるのと同時に―――
とさっ
何かが地面に落ちる。
―――泰男の、右腕だった物だ。
「ああっ、外しちゃいました!やっぱり精度ではイマイチですね」
何時の間にいたのだろう?二人から数メートルも離れていない所に、一人の少女が
立っていた。唯一普通の少女と違う所は、片腕がチェーンソーになっている所だろうか。
「(遠距離からの超高速移動……バトルモード!?)」
瞬間的にまりなは事態を把握した。
そして、いきなり自分が最悪に近い相手と会ってしまった事も。
「ああ、大丈夫です。次は一瞬ですから………」
にこやかな表情で語るナミ。一方、泰男は片膝をつき、次第に強まる痛みに耐えていた。
彼のタキシードが見る間に赤黒く染まってゆく。
「……あまり人間を舐めない方が良いわよ」
まりなは、自分の得物を手に取り、口元に持っていった。
「オジサマッ、目を閉じてッ!」
次の瞬間、まりなの手からそれは放たれ―――昼の明るさを放出した。
対人閃光手榴弾―――スタン・グレネード6個―――それがまりなに配給された得物だった。
数十秒後、ナミが集光カメラの視界を取り戻した時、二人の姿は消えていた。
不思議な事に、血痕すら残さずに……。
「……死なせないわよ……」
泰男の血痕を落とさないよう自分の服に吸わせつつ、まりなは泰男の体を支えて必死
に走っていた。
「……約束……したからね……」
その足は、全力で村落を目指していた。
↓ 【グループ:法条まりな・木ノ下泰男】
【所持武器:スタングレネ―ド5個
サブマシンガン(紛失)】
【スタンス:泰男の治療 大会の調査】
【能力制限:なし】
(01:45)
皮肉な物だな。
あの頃と違い発作の起こるまでの間隔が長くなってきている。
まあ、爛れた不摂生な生活から規則正しい生活を送るようになればそれも
当然かもしれないな。
もっともそれが死刑を待つ拘置所の中で健康になったというのは喜劇としか言いようがないがな。
あれから紳一は海岸沿いを時計回り方向(西側方向)に向かって歩いている。
いつまでも「必勝」はちまきを手に笑っていることも出来ない。
砂浜に散らばった支給品は再びバッグに戻されている。
ただ、「必勝」はちまきは頭に巻いていた。
最初は武器としての効果はないといえど捨てる理由もなく仕方なく巻いているだけだが、
今では上手くいけば遭遇した相手を笑わせ警戒心を解くぐらいの効果は期待できるかもしれないと
考えてだ。
しかし、武器がないのは痛い。
だからこそ紳一は武器になりそうな物を求めて移動しているのだ。
(そういえばバスジャックの時木戸はライフル、直人は刀を持っていたな。 せめて
刀でも手に入れられたらいいが)
そういった事を考えている内に視界には幾つかの人工物が入ってきた。
(02:00)
たどり着いた場所は漁港だった。
しかし、港にボートはなくどことなく寂れた様な雰囲気が漂っている。
港には興味も示さず紳一は其の一角にある漁具倉庫(倉庫と言うよりは大きな納屋)に向かった。
幸い倉庫の扉には鍵はかかっていなかった。
倉庫に侵入した紳一は武器になりそうな物を探し始める。
しばらくして一言ポツリと
「駄目か」
期待はしていなかったが目当ての物がなかったというのは残念だ。
立ち去ろうとした時紳一の足に何かが当たる。
「?」
それを拾い上げてみるとそれは40p程の長さの筒だった。
筒には「救難信号発煙筒」と書かれている。
「まあ、持っていても損はないな」
紳一は発煙筒をバッグにしまうとき苦笑し思った。
部下に恵まれても武器には恵まれんものだな、と。
↓
【No.20 勝沼紳一】
【所持武器:「必勝」と書かれたはちまき(頭に巻いている)、発煙筒】
【現在位置:砂浜から海岸沿いに西へ行った港の漁具倉庫】
【スタンス:本人やる気。今は武器探し】
【能力制限:持病持ち(要常備薬)】
143 :
名無しさん@初回限定:01/12/24 22:54 ID:dBd14/Wx
なんだこのスレは
おもしろいage!!
(一日目 3:12)
ほら、見てみなよ。
月夜御名沙霧が深夜の廃村を、軽い足取りで散策しているよ。
え、そんなヤツ知らないって?
じゃあ、『バンカラ夜叉姫』って言えば分かるかな?
あの鋼鉄番長の懐刀にして、希代の軍師にして…悪魔のような毒舌家の、あの女だよ。
そんな彼女がさ。
死と隣り合わせのこのゲームの最中に、なぜ懐中電灯なんか堂々と照らしてるんだろう?
なぜ、鼻歌なんか歌ってるんだろう?
私を見つけてくださいって言ってるようなもんじゃないか。
恐怖でアタマがイっちゃったのかな?
…いやいや、そうじゃない、そうじゃないんだ。
彼女は、自分の周りに誰もいないことがわかってるから、リラックスしてるんだ。
バトロワ好きの皆なら、ピーンと来たよね?
そう、彼女の配布武器は、対人レーダーだったんだ。
<沙霧の思考>
……ガスは、どの家もプロパンみたいですね。
まあ、ガス会社も慈善事業ではないのですから、こんな産業も未来も無さそうな寒村は黙殺なのでしょう。
水も予想通り井戸水。
トイレも汲み取り式ですし、なんて文化水準が低いのでしょう。
経済水域を広げる為だけに存在してるんでしょうね、この島は。
電気が通っているのは意外でしたが。
さて、この村で見るべきところは全部見ましたし、纏めに入りましょう。
この村で重要なポイント。それは、
1)食料品店………食料は必須
2)雑貨屋…………細かい道具やガスボンベ、若干の食料が置いてある
3)井戸……………水は必須。各家庭の蛇口は同じ水脈からのポンプ吸い上げ
4)病院……………医薬品は必要。もしかしたら毒物があるかも
この4個所ですね。
私がトラップを仕掛けるべき場所は。
次は具体的なトラップの種類を検討しましょう。
毒物が手に入ればラクなんですけどね……井戸の水源にポイって。
病院に行けばいろいろ手に入りそうなのですが、2:00頃から2人ほど居座っていますからね……
病院内の毒物のセンは、捨てましょう。
雑貨屋にあるモノだけでも毒物製作は可能ですからね。
それも、吸引→即死のとんでもないシロモノが。
あとは…ガスボンベと灯油ですね。
ガソリンの方が燃焼力が高くていい感じなのですが、この村、車の一台すら見当たりませんからね。
こんな自然以外に何も無いような島で、エコライフ気取らなくてもいいと思いますけど?
……っと、北からこっちに向かってくる人が2人いますね。
それも結構な移動速度で。
目測で約2.5kmの距離だから、この速度だと……
あと20分くらいですかね、この集落の入り口に達するのは。
行動は常に余裕を持って行わないといけませんしね。
焦りは判断を誤らせますから。
残念ですけど、トラップを張るのはまた後日のお楽しみに取っておいて、
きっかり10分だけ、雑貨屋を漁りましょう。
ええと、逃走ルートとして最適なのは……
一旦さらに南西へ向かい、海岸に沿って北上するのが、ベストですね。
<沙霧の思考、終了>
さすがは『バンカラ夜叉姫』だね。
考えることがコワいね。
でも、何が一番コワいかってさ……
彼女がこの状況を楽しんでるてことだよ。
ほら、見てごらん。
口元が片方だけ吊り上ってるだろ?
あれ、彼女の機嫌がいいときのクセなんだ……
↓
【所持武器:対人レーダー、カビキラー、トイレマジックリン他雑貨】
【現在位置:島の南西に位置する廃村】
(一日目 3:31)
(やっぱりここでも、一人なのね……)
学校の北東の森を抜け、農道に出たその女性は、腰まで伸びた髪を指先でくるくると弄りながら、
深いため息をついた。
彼女は、とても責任感が強い女だった。
しかし、裏を返せば人に頼るということが出来ない女でもあった。
気立ても良い。器量も良い。良縁が無かったわけでもない。
けれども、家庭では3人の妹たちの母親代わりをしなくてはならないという責任感が、
社会人としてはグループ500人の生活を護らなければならないという責任感が、
自分の幸せを追うことを『無責任』であると位置付けてしまい……
もう31だ。
去年から、彼女は一人で暮らしていた。
かつては確かに暖かな団欒のあった、あの大きな家に一人きりで。
次女は、学生結婚してしまい今では立派な2児の母になった。
四女は、自立することを決意し、彼女の制止を振り切って単身上京してしまった。
そして三女は……従兄の青年の元に嫁いでしまった。
「耕一さん……」
柏木千鶴(No.21)は、三女の夫である従兄の名前を、愛しげに呟いた。
31年の人生の中で、唯一、彼女が愛した男。
しかし、その思いは遥か昔に封印したまま、彼に伝えたことはない。
妹の幸せを願う母心が勝っていたから。
彼を殺そうとした自分に、彼を愛する資格はないと思ったから。
年甲斐も無く涙ぐみそうになり、慌ててそらを見上げると、西の空に丸い月が赤く光っていた。
あの『覚醒夜』、水門の上で見た悲しい月と同じ色の。
「耕一さん。」
もう一度名を呼んだその時
ぱららららっ!
胸に衝撃を感じた。何度も何度も。
視線を戻すと、10メートル程先に、メイド服を着た少女が見えた。
(迂闊だった…)
千鶴の体はサブマシンガンから発射される銃弾を全身に受け、奇妙なダンスを踊っていた。
(これだけ撃てば、さすがに死にますよね?)
あとは倒れるだけだ。見るまでもない。
ナミは勝利を確信し、ブラックボックスに報告を開始した。
「ご主人様、ナミは今、一人目を殺しました。
さっき2人組に逃げられたのは残念でしたけど、サブマシンガンを手に入れることが出来たので、
エネルギーを温存しながら戦えます。
結構生存確率が高まりま」
「有無を言わさず……ですか。」
ナミは言葉を失った。
計算上、とっくに死んでいなければならないはずの攻撃対象が、話し掛けてきたのだ。
それどころか、ダメージも軽微なものでしかないように見受けられる。
(????)
「それならば、私も。」
千鶴の目が、真っ赤に光る。爛々と。
空気そのものが緊張しているかのように張りつめてゆく。
「あなたを、殺します。」
シュ…
言葉と共に千鶴の姿が消えた。
ナミの情報処理機構は、この現象を人工網膜のエラーと判断した。
原因は、さきほど喰らったスタングレネードの後遺症の確立81%だと分析する。(total:0.06秒)
では、今千鶴はどこにいるのか。
サーモセンサで半径20mの温度を瞬時に分析。
それと同時に同範囲の気流の乱れをチェック。(total:0.20秒)
……サーモセンサ、異常なし。
気流の乱れ…… 上空地表に向けて2m程度。(total:0.68秒)
風圧訂正。2.5mに上昇。(total:0.70秒)
風圧訂正。3mに上昇。(total:0.73秒)
(どういうこと?)
この急速な気圧変化を、中枢コンが異常事態と認識。
即座に目視による確認を神経系に要求する。(total:0.92秒)
首を上に向けたナミの目に映ったもの。
それは、満月を背にナミへと向かい落下してくる、千鶴の姿だった。
結論 → 対象は目視レベルでは確認できない速度で跳躍した。
データ変更 → 対象はデータに登録されているどの生物でもない。未知なる脅威である。
この間、1秒。
すぐ頭上に迫る千鶴に、咄嗟にサブマシンガンで応戦しようとしたナミだったが、
ガイン!!
目の前を凪いだ何かによってマシンガンを砕かれてしまった。粉々に。
その破片と共に、千切れたナミの指も飛ぶ。
目に映る、5本の赤い残照。
「な、なんなのですか、その武器は……
なんなのですか、あなたは!!」
「私は、鬼です」
静かな声で答えるや否や、千鶴は猛攻撃を開始した。
ザシュッ!!
袈裟斬りに、左肩から一撃。
ザシュッ!!
ナミに体勢を整える間を与えず、返す刀で右脇から左肩へ。
ナミの小さな……しかし100kgを越す重量のある体が、宙に浮く。
そこへもう一発。
ドゥ!!
強烈なショルダータックルを鳩尾に受けたナミは、農道を超え、顔面から水田へ突っ込んだ。
その飛距離、約14m。
どの一撃も、今大会1・2を争う防御力を誇るナミが相手でなければ、致命傷を与えていたであろう。
それほどまでに圧倒的な、鬼の……狩猟者のパワーだった。
ナミの自己保存プログラムは一連の攻撃におけるダメージの算出を、各神経系デバイスに命ずる。
破損個所、確認。
ボディ、肉感性シリコン、断裂多数。アーマー層に亀裂一本。
高速移動用冷却装置、応答せず。
左手、人差し指と中指紛失。神経ケーブルより漏電あり。
自己保存プログラムはメインプログラムに演算結果を返す。
(大丈夫です、まだまだ戦えます。でも……)
先ほどのコンボを成す術も無く喰らったとき、ナミのレンズは身を切り裂く赤い残光の正体を見極めていた。
それは、赤く肥大化した『手』そのもの。
禍々しく伸び、異物に弯曲した5本の『爪』。
(武器を奪って敵を無力化することは不可能です。
どうすれば……何か方法は……)
ナミは、持てる演算回路を全て起動させ、その解を求めた。
(今、私は完全に押している。
あの子がリズムを取り戻さないうちに、畳み掛けないと。)
水田でよろよろと立ち上がったナミを見て、千鶴は瞬時にそう判断した。
今度は上空ではなく、前方に向かって跳躍する。
とぷん。
瞬きする間に水田まで到達。
ナミは防御するでも反撃するでも無く、だらりと左手を下げた。
「さようなら」
必殺の手刀を繰り出す千鶴。
しかし、それより先に、ナミの左手が水面に触れた。
……神経ケーブルが剥き出しになった左手が。
バリバリバリバリ!!!
千鶴の体全体に、落雷のようなショックが走り。
「!」
悲鳴をあげる間もなく、ばしゃりと前のめりに倒れこむ。
カッと見開いた目に、「さようなら」の「ら」の形に開いたままの口に、容赦なく泥水が沁み込んでくる。
(いったい、何が……)
千鶴には状況が飲み込めなかった。
ヴイィィィィィ…
甲高くヒステリックに唸る音が千鶴の耳元に迫る。
その音を鳴らしているものが、千鶴の首に触れた。
ぎゃるぎゃるぎゃるぎゃる……
ぶぢゅるるるるるる……
振動にあわせて、全身がガクガク揺れる。
(耕一さん……
私があなたに甘えることが出来ていたなら、違う未来があったのでしょうか……)
高圧感電により肉体感覚が麻痺していることが、千鶴にとってせめてもの慰めだった。
「ご主人様。
さっきは話の途中でごめんなさいでした。
改めて報告しますね。
今、一人目を殺しましたよ。」
ナミは、泥水にぷかぷかと浮かぶ千鶴の生首を眺めながら、
ブラックボックスに向かって報告の続きを始めた。嬉しそうに。
↓
【現在位置:村落から少し北西に離れた農道】
【死亡:柏木千鶴(No.21) 残り36人】
154 :
闇の獣と闇のデアボリカ(1):01/12/25 16:15 ID:iw8QacX2
>153
(AM.0:00)
少女は薄暗い部屋で目覚めた後に、眼前で起こったことを見ても眉一つ動かさなかった。
目の前の男と渡り合うだけの力がいまの彼女にはある。
儀式を終え、墓守の獣として覚醒た彼女には。
「堂島薫を殺さなくちゃ。」
彼女は堂島を殺害するための獣であり、そのための儀式だったのだから。
彼女の存在に気付くことなく、反対側の壁際に堂島はいる。
相変わらず下卑た笑いを浮かべている。いま堂島を殺すことはたやすい。
問題は、他のものたちである。おそらく、堂島との戦いを始めれば、
ルールを聞いて敏感になっている他のものもわが身を守るための戦いを始めるだろう。
「私、お兄ちゃんにもう一度会いたいょ。」彼女には幼い頃から慕ってきた少年がいる。
もう一度、死ぬ前にもう一度彼に会っておきたい、そう思っていた。
だから、堂島を殺すのは、外に出てから。そう、決めた。
>154
(AM1:30)
煌煌たる月明かりのした、彼女はとぼとぼと歩く。堂島薫を探して、あてどなく。
配給されたズック鞄は建物を出てほどなくそのあたりに捨ててしまった。
彼女には必要ないから。
獣としての習性だろうか、人目につかぬ茂みにはいるとそのまま西へと向かった。
茂みがやがて鬱蒼とした森へ変わる頃、体操着姿をした彼女と同年輩の女の子と、
その腕にぶら下がるようにして歩く二人の少女を見かけたが、方向を変え素通りした。
彼女には関係がないから。
建物を出てから数時間も歩いたろうか。
やがて森を抜け、視界が開ける。空には満天の星空、眼前には遮るものもなき小高い丘、
大地は遠くに見える山の噴火の名残であろう火山灰、堂島はいない。
>155
(AM3:35)
一人の参加者を殺害した後、すぐにアズライトは遠くを行くかすかな足音、枯葉を踏みしめる音を察知した。
(まだ、この近くに誰かいる。また…人を傷つけて、殺して……僕は…レティシア…)
人から畏怖されるデアボリカの身であっても、彼には人を傷つけ、あまつさえその命を奪うことに強い抵抗がある。
それも自分のためにというのだからなおさらである。
「でも…戦うことに決めたんだ。」
(…レティシアに会うために。)
落ち葉が舞い上がり、アズライトはその姿をかき消した。
>156
薄暗い森を抜けると、一人の少女が視界に飛び込んできた。
先ほど男を殺したときの要領で、走りながら腰を落とし地面に転がる小石をいくつか拾い上げる。
(せめて、苦しまないように…)
空気の壁を突き破るドンという轟音とともに、四つの小石が飛ぶ。
その先には月明かりに生み出された長い影を引きずるようにして歩く少女、
松倉藍が、ふらふらと歩いていた。
音速の小石は彼女の心の臓を撃ち抜き、それで終わりのはずだった。
しかし、事実はさにあらず。
命中のその瞬間、愛は猫科の動物を思わせるしなやかな動きでその場を飛び退った。
と同時に、、彼女は「闇」になる。
「あの子、ただの人じゃない!?」アズライトは思わず息を呑む。
これが藍の覚醒、その力。
彼女を中心とした闇は、いまやアズライトをも呑もうとしていた。
>157
月の光も届かぬ闇がアズライトを覆い尽くす。
少女は完全に闇となってしまったのか、アズライトの鋭敏な五感をもってしても位置を特定できない。
ぞわり、先ほど少女がいたあたりで何かが蠢く。
それがアズライトから遠去かりつつあることに気付き、再びそちらへ石礫を放つ、
と同時にそちらへ向け残像だけを残し疾走する。
「逃がさないッ!!」気を吐き、さらに加速する。
突然、アズライトの右の闇が動く。
「こんなところに!?」
不意をつかれたアズライトは力任せに大地を蹴り左へ飛ぶ。
胸のあたりの薄皮が裂け、衣服に血がにじむ。
その闇の体を翻し、獣が遠くへ走り去るのが分かる。
やがて闇はひき、そこに少女の姿はすでにない。
「逃がしちゃった…けど…」
アズライトは少女が逃げたであろう方を見やり、悲しげに眉をひそめた。
>158
(AM4:00)
遮二無二になって走りまわった松倉藍は
先ほどとは別の森の中を流れる小川のあたりでがくりと膝を落とした。
大きく肩を上下させ、呼吸も荒い。
しばらくそのままの体勢でいたが、やがて息も収まるとよろめきながらも立ち上がり、
震える足で再び歩き始めた。
「堂…島…」地を這う蔦に足をとられ、何度となく転びそうになる。
それでもおぼつかない足取りで歩くことは止めなかった。
彼女の通ったあとには点々と赤い血痕が続く。脇腹には二つの銃創のようなものが刻まれている。
「お兄ちゃん…もう、会えそうにないょ」光るものが頬を伝った。
↓
【アズライト】 【松倉藍】
【変化なし】 【武器:放棄】
【居場所:東の森】
【スタンス:1、堂島殺害
2、生還】
【制限:傷のためあと1・2回しか力を使えない】
(一日目 4:00)
学校の北に広がるうっそうと生い茂った森。
その中央部に巨大な楡の古木が、森の主よろしくどっかと腰を下ろしており、
周囲は少し開けた草原になっていた。
紫のストレートロングに黄色いキャップをかぶったスレンダーな少女、
16番朽木双葉は、その巨木にもたれかかりながら、
両手に抱えた、黄色い小さな花を咲かせた鉢植えを相手に、愚痴を零している。
「てゆーかさ、こけしぃ。
こーゆーヒロインのピンチにこそ、白馬の王子様って駆けつけるものだと思わない?」
……彼女の配布武器は『植木蜂』だった。
それを始めて見たとき、思わず、
「ふざけんじゃないわよ!!」
と怒鳴ってしまうほど頭に来たものだ。
しかしその数十分後、森の中でこの花『こけし』に出会ったときには
「もう、サイコー!」
と全く逆の感想を述べながら植木蜂に移植したのだが。
双葉の愚痴は、いつのまにか夢想へと変わっていた。
「あ〜あ、アタシをさらっていってくれないかなぁ。」
「がはははは、それはちょうどいい。
この俺様がさらっていってやろう。」
「え?」
>131 とリンク。
緑色の鎧に赤いマントを身につけた時代錯誤な青年が、双葉の元にスタスタと歩み寄ってくる。
2番ランスだ。
「はぁ?
アンタみたいな自信過剰野郎なんて願い下げよ。
出直して来な、しっし。」
めんどくさそうに手のひらをひらひらさせる双葉。
「かーーーーーーっ、その志津香みたいな態度、むかつくむかつく!
お前のような生意気コムスメは、ハイパー兵器で更正してやらにゃならん!」
ランスはいきなり、すぽぽーーーーんと身に纏っている全てを脱ぎ捨てた。
「え、あ…… な!?」
余りの展開の速さというか強引さに狼狽する双葉。
ランスの股間のものは、すでに臨戦状態だ。
「こ、こけ」
「がはははは、とりゃ!」
双葉は何かを言いかけたが、すぐにランスの唇で唇を塞がれてしまった。
このナマイキな女は、このランスさまがちょっと舌を入れただけで、もうメロメロになってしまった。
半眼で見下していた目がとろんと霞んで俺様を見返す。
がはは、さすがは俺様のテクだ。
そこいらの包茎野郎とは年季も効果も違う。
♪ちゃっちゃっちゃっちゃん、ちゃっちゃっちゃっちゃん
どこからとも軽快に流れてくるブラスバンド。
俺様の半生を良く表した、すばらしい名曲。
これが流れたらもう後は決まったようなものだ。
どれ、それではたっぷりと可愛がってやるか。
「うむ、この手のひらにすっぽりと収まるつつましいサイズの胸も、
それはそれでグッドだ。
かえって乳首のコリコリが良く分かる。」
「いや……恥ずかしい……」
「いやなら乳首など立つものか。
ほれ、ふにふにと手のひらを押し返してくるぞ。」
「私、初めてなの……優しくして。」
「がはははは、任せろ。
このランスさまのテクにかかれば、処女でもすぐに天国でアッハ〜ンだ!!」
ずぶり!!
俺様はすでにとろとろになっていた女のあそこに、勢いよく突っ込んだ。
ランスは心底楽しそうな高笑いを上げながら、ずんずんと腰を前後させている。
―――誰もいない空間に向かって。
そして、その脇でランスを見下す双葉。
クールな半眼には情欲も羞恥心も宿っていない。
「ホント男ってのは、何かあるとすぐにえっちな方向に持ってこうとするんだから。
あーあ、ホンモノの白馬の王子様って、やっぱりいないのかなぁ……ねぇ、こけし。」
黄色い小さな花に向かって、また一人ごちる双葉。
まるで首を縦に振っているかのように、花びらが揺れた。
そう。
全ては双葉の『幻術』だった。
鉢植えの花―――芥子の麻薬成分を抽出し、空気中に散布。
朦朧とした意識に言霊でもって幻を吹き込む―――幻術。
ランスが服を脱ぎだしたとき、それはもう完了されていたのだ。
双葉はランスが服を脱ぎ捨てた際に放っぽった斧を手に取る。
ずしりと重い手ごたえ。
「さてと、コレは危ないから没収ね。あとはこのバカをどうするかだけど……」
「がはははは、グッドだ、お嬢ちゃん!!」
ランスは幻覚の中で絶好調のようだ。
「ま、いっか。アタシはこの森の中では無敵なんだし。
放っときましょ、こけし。」
朽木双葉―――平安より伝わる陰陽師、朽木家の跡取。
植物を操る能力に秀でるこの一族の中で、近世稀に見る逸材といわれる天才児は、
後ろを振り返ることなく悠々とその場を立ち去った。
↓
【No21:朽木双葉】
【所持武器:植木蜂+ケシの苗(名づけてこけし)、斧】
【現在位置:学校北部の森、中央付近から東へ】
【No2:ランス】
【所持武器:なし】
【現在位置:学校北部の森中央】
スミマセン… ミスしました…
>162
×どこからとも
○どこからともなく
それは、盛大なパレードだった。
人々は各々満面の笑みを浮かべ、口々にその男の名を呼んでいる。
その男が乗るパレード車にはでかでかと『万歳!神民皇帝誕生!』
と書かれた垂れ幕がいくつも貼られていた。
男はゆっくりと周りを見渡す。
称えたまえ。もっと私を称えたまえ。
この腐敗した世界に降り立った、神たるこの私を。
ここまで、様々な苦難があった。何度も死の危機に瀕した。
だがしかし、私は全てを乗り越えたのだ。
奇跡。
これを奇跡と呼ばずなんといおうか。
その体現者たる私を、この肉体を、支配されることでしか安堵できぬ愚民達よ、もっと称えるがいい!
彼の名を呼ぶ歓喜の声は次第に熱狂的な怒号へと変わっていく。
もっと。もっとだ。もぉぉぉぉぉぉぉぉっっっとととおおおおおだ!!!
私の偉大な名を!もっと!叫びたまえ!
「グレン様!グレン様!グレン様!」
「あいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
(一日目 0:00)
ヴウウーーーーーーンンンーーーーーーンンン…………
突然鳴り響いた鐘の音で、グレン・コリンズ(No.26)は目を覚ました。
はて?パレードに酔いしれすぎたせいで、居眠りでもしてしまったか?
ゆっくりと辺りを見回す。
そこには、雑多な人間達が40人ほど身を横たえ、今の鐘の音で自分と同じく何人かは目を覚まそうとしていた。
頭の中に疑問が巻き起こっていく。
私は、なぜこのような場所にいる?
この者達は、何者だ?こんな薄汚いところで、私の生還パーティでもしてくれるというのか?
それにしては、不可解な面子だった。
少女、少年、汚らしいオッサンから中世の貴族が着るような衣服を身にまとった者、
果てはプロレスラーがつけるような虎のマスクをかぶっている者までいる。
ゆっくりと、だが確実に記憶が蘇ってくる。
月からやっとの思いで『グレン・スペリオル・V3』で脱出し、大気圏を突破して地球の海に不時着した。
残りの燃料で陸地にたどり着いたは良かったが、そこは建造物はあれど無人島。
しょうがなく泳いで海を渡ることにし、途中漁師に蛸と間違われて捕獲されそうになったりはしたが、
何とか人気のありそうな港にたどり着いたのだ。
それから・・・それから?
そこからの記憶が全くなかった。まるでぽっかりと空いた火山の噴火口のように、記憶が抜け落ちてしまっている。
ただ一つ覚えているのは、何者かに頭部を鈍器のような物で殴打されたということだった。
その時、部屋の一角からパチパチと拍手の音が聞こえた。
無駄に豪奢な椅子に腰掛けた男が皆を見渡している(本来ああいう椅子はこの私が座るものだ)。
あの男がパーティの主催者だろうか?
「お前達にはこれから殺し合いをしてもらう」
瞬間、グレンは自分の耳を疑った。
何?今なんと言った、この男は?
殺し合い・・・だと?
蕩々と男の説明は続く。
つまり、この無人島で、一人になるまで殺し合い――デスゲームをしろというのだ。
そして、その優勝者は男の仲間になれる。
こんな馬鹿な話があっていいものだろうか。
無理矢理拉致されたことや、殺し合いをさせられることに怒りを覚えたのではない。
下等で醜悪で卑猥で矮小で救いようのない人間ごときが、私に仲間になれとはいかなる了見だ。
無能な下等生物は、私に支配されてこそ初めて『神民』となれる。
このような輩に言われる筋合いはなかった。
一言苦言を弄そうとしたとき、急に虎男(虎のマスクをかぶった男をグレンはこう呼ぶことにした)が一喝して男に挑みかかった。
フン・・・やはり人間とは醜いものだな。
何でも暴力で解決しようとする。やはり私に支配されなくては。
そんなことを考えながら、グレンは虎男に期待してもいた。
この虎男があの尊大な男を倒してくれれば、無駄な事をしなくてすむ。
しかし、彼の甘い期待は一瞬でうち砕かれた。
虎男は凄まじい勢いで壁に叩きつけられ、即死したようだった。しかも、どういう方法でやられたかもまったく分からずに。
「あぎゃーーー!」
ついでに、壁際にいたグレンは瓦礫に押し潰されてしまった。
(一日目 0:42)
次々と参加者の名前が呼び上げられていく。
ある者は苦悶の表情を浮かべ、またある者は思案気な顔つきで出ていく。
そしてとうとう26番、グレンの名が呼ばれた。
だが、彼はいまだに瓦礫の下だった。
先程からずっと助けの声を出しているのだが、参加者達はまったく気づかない。
まったく、無粋な者達だ。
「26番、グレン。どうした、早くしろ、グレン・コリンズ」
早くしろ、と言われても。
まったく身動きがとれなかった。
「何をしている」
例の、椅子に座った男がゆらりと立ち上がった。
コツコツコツ、と靴音を立てながらゆっくりとグレンに近づいてくる。
「何をしていると聞いているのだ、グレン・コリンズ」
屈みながら、抑揚のない声で男は話しかけてきた。
「い、いや・・・見たら分かると思うがね、出られないんだ、助けてくれないか」
「・・・フン」
男は乱暴にグレンの頭を鷲掴みにすると、一気に引っこ抜いた。
「きぃぃひぇぇぇぇぇぇ!も、もっと丁寧にしてくれたまえ!高貴な私の体が・・・」
グレンの体を初めて目の当たりにし、参加者達は一斉に息をのんだ。
部屋は薄暗く、彼は壁際にいたので、誰もよくよくその『異形』を見ていなかったからだ
(タイガージョーが吹き飛ばされたときは既に瓦礫の下だった)。
グレンの首から下は、何もなかった。ただ、ぬらぬらと黒光りする五本の触手を除いて。
「早く行け。グレン・コリンズ。貴様の番だ」
「わわわ分かったから、その手を離したまえ!助けてくれた礼はしよう、
しかしこのままでは動くに動けぬ!まずはその手を・・・」
フン、と鼻を鳴らしながら男は手の力を緩めた。
ようやく、自由に動けるようになったのだ。
異常な事態の中で、心の中に爽快感が吹き荒れる。
この呑気さとポジティブシンキングな思考が彼を彼たらしめるものだ。
それに何より、この部屋から出られる。薄暗く、陰気くさい場所にいるのは苦痛だった。
センスの最悪なディパックを触手の一本で取り(以外に軽かった)、部屋の出口に向かう。
「待て」
男が、また例の抑揚のない声でグレンを呼び止める。
「な、何かね?」
男は顔をグレンの耳元に寄せると、ゆっくりと言った。
「頑張れよ、グレン・コリンズ。貴様には期待している」
「な・・・」
期待している・・・だと?この私に?
それは・・・つまり・・・私がこの殺戮ゲームの「優勝候補」だということか?
さらに心の中に爽快感が吹き荒れる。
そうだ。やはり私は、この世界の王になるべき人間なのだ。
このゲームに勝つことが、その第一歩になりはしないだろうか?
「ふ・・・ははは、任せたまえ、君ぃ!私を誰だと思っているのかね?
陸島万物、森羅万象全ての生物ピラミットの頂点に立つ男、それがこの私、グレン・コリンズなのだからな!」
さあ、行くぞ、グレン・コリンズ!これは聖戦である。
まさしく、極上の戦争だ。これを勝ち抜けるのは、私をおいて他に無し!
浮かれ気分のグレンの耳には、その後男がぼそりと放った一言は、耳に入らなかった。
「せいぜい踊れよ、グレン。貴様は我々のいい研究材料なのだからな」
(一日目 0:44)
「あう。あう。あう。あう。あう。あう」
単純明快なグレンはしかし、落ち込むのも早かった。
意気揚々と部屋を出たのは良かったが、ディパックの中に入っていた武器――大阪名物ハリセンチョップを
見たときは、さすがに落ち込んでしまった。
こんな武器で、どう戦えというのだ・・・相手がもし、もしも、マシンガンやロケットランチャー等の
物騒な武器を持っていた場合、何の役にも立たないではないか。
月の薄明かりが射す校舎の廊下を、とぼとぼと・・・いや、ぬめぬめと歩いていく。
ハリセンで戦って勝つことは、この神民皇帝グレン様にとっても、かなり難しいことに思われた。
ならば、取るべき手段は三つ。
まずは一つ目。誰かを倒し、武器を入手する。
しかし、これは・・・ハリセンでは無理だろう。第一、徒手空拳で戦っても、この高貴な肉体でどこまでやれるのか?
ならば二つ目。誰かを仲間にする。
あの部屋での愚民共の反応を見るに、これも机上の空論にしか思えなかった。
愚かな人民では、この肉体の素晴らしさ、得難さが分からないのだ。
最後に残る手段――それは。
この島からの『脱出』。
だが・・・グレンはそっと触手の一本で、首にぎっちりと食い込んだまるで犬にでもつけるような首輪に
そっと触れた(これではまるで飼い犬だ、ええい)。
この首輪がある限り、脱出も容易ではないだろう。
まさに、八方塞がり。打つ手なし。
絶望がグレンの心の中を支配しようとしていた。
ふと、校舎の窓から月を見上げてみる。
煌々と輝くその美しさは、どんな夜でも絶景だった。
あそこにいた方が、まだマシだったのではないか。
思えば、グレン様奇跡のストーリーの第一幕は、あそこで上がった。
月面遺跡での地球外生命体との接触。融合。半壊寸前の月基地からの華麗なる脱出劇・・・幾多の奇跡を
自分は起こしてきたのに、ああ、なぜまたこのような試練に私は晒されなければならないのだ。
「なぜ私ばかり、こんな目に・・・」
呟きとも独り言とも取れる声を出し、またぬめぬめと出口に向かって緑光色のタイル張りの廊下を歩いていく。
その時。
――違和感。
しこりのような、拭えない違和感がむくむくと鎌首をあげていく。
何かがおかしい。なんだ、なんなのだ・・・。
再び窓から月を見上げる。
しかし、何も代わり映えはしない。月はその滅びの時を迎えるまで、いつまでもあのように美しく輝くのだろう。
違う、違う。ならば、なんだ?
月の下側に目を移す。
うっそうと生い茂る木々に邪魔され、幾分視界が悪かったが、島の東端に位置する灯台をグレンは訝しげに見つめた。
私はあの灯台を・・・見たことがある。
そうだ、間違いない。頂上に据え付けられたあの独特な風見鶏。今にも崩れそうな、クリーム色の外壁。
どこだ。私はあれをどこで見たのだ。
思い出せ。グレン、お前はいつでも困難な状況を打破してきたではないか。思い出せ・・・!
瞬間、頭の中に電球が灯った(彼は何かを思いつくと、頭の横に電球が灯る)。
『グレン・スペリオル・V3』の残り少ない燃料で漂着した無人島・・・間違いない。
あの灯台はそこにあった物と同じだ。
つまり、私は再びあの無人島に連れ戻されたというわけか。
せっかく苦労して脱出した場所にこんな形でまた来るなどとは思いもしなかったし、それは怒るべき事であった。
そんな事よりも。
私が『グレン・スペリオル・V3』を乗り捨てたのはどこだった?
ディパックの中から島の地図を取りだし、眺める。
島の南東には、海岸沿いに砂浜が広がっている。
ここだ。ここに私は『グレン・スペリオル・V3』を乗り捨てたのだ。
そこでまた、彼のポジティブセンスが復活した。
一度来た場所でこのゲームが開催されるのは偶然か故意かは分からない。
しかし、自分にとっては有利な展開に他ならないだろう。
もし、『グレン・スペリオル・V3』を動かすことができたら・・・。
この首輪は、どこまで有効なのだ?対流圏か?成層圏か?中間圏か?それとも・・・宇宙まで?
まさか。
主催者側も、まさか宇宙までこの首輪の有効範囲を決めてはいないだろう。
せいぜい、島の周り、高度においても上空二〜三百メートル程度ではないだろうか?
『グレン・スペリオル・V3』が撤廃されている可能性もある。
しかしあれは、せいぜい小型自動車並みの大きさだし、中に人が入れるようには設計していない。
中途半端な大きさのロケットなど主催者側は気にも止めていないだろう、粗大ゴミ程度にしか。
だが、私は・・・宇宙でも生身で生きていれる(何せ、半人間半宇宙人だ)。
難しいことは分かっている。
燃料は確かもうほとんど残っていないはずだし、入射角が少しでもずれれば、一巻の終わりだ。
それこそ、奇跡でも起きない限りは。
だが、このグレン・コリンズは幾たびも奇跡を巻き起こしてきた。
今回だって、神と見紛おうばかりの奇跡を演出してみせる。
絶望の中、人を人たらしめるのは希望だ(グレンの場合は、神を神たらしめるもの、か)。
自分には今、それがある。
脱出という、希望が。
そうと決まれば話は早い。
まずは海岸に行き、『グレン・スペリオル・V3』を確保しなければ。
しかし、その途上、もし敵に出会ったら?
彼の心配事はその一点だった。仲間が欲しい。弾よけにするための、仲間を。
ふと校舎の入り口を見ると、一人の少女がすやすやと眠っていた。
こんな異常事態の中、余程の強心臓だ。
なかなか可愛い少女である。A・B・Cで区分けすれば、Aランクには入るだろう。
ふむ。もしうまくいけば、弾よけにできる上、『お楽しみ』を味わえるかもしれない。
しかし、驚かしてしまっては意味がない。
ここはグレン様特有の安らぎの笑顔を浮かべながら話しかけなければ。
「ふはははははははははは!そこのレディー!この私、グレン・コリンズ様と一緒に・・・」
少女はまったくと言っていいほど起きる気配はなかった。
「あのう・・・お嬢さん?」
起きない。
「もしもし・・・これ、目を覚まさんか・・・」
起きない。短気なグレンは、切れた。
「こ・・・小娘ぇ!この最も高貴な私を無視し、居眠りを続けるとは!ただの猿の出来損ないの分際でぇぇぇ!
この私がいかに優れた存在か、その体にとくと味わらせてやる!あんぎゃああああああああ!」
グレンは少女に向かって一気に間合いを詰めた。
あと一歩(一触手?)、少女に触れられるというところで・・・校舎出口、左側から別の少女が飛び出してきた。
手には――ナイフを握っている!
目にもとまらぬ早業とは、この事をいうのだろう。
彼女はグレンの触手のうち、一本の先端を切断した。
「ぎ・・・ぎにゃーーーー!小娘共がぁぁぁぁぁぁ!許さんぞ!修正してくれるわぁぁぁぁぁ!」
グレンは触手の一本をその少女に叩きつける。
しかしあえなく、それも切り落とされてしまった。
「うげぇ!あいーーーーーーーーーー!わたわた私が、何をしたというのだぁぁぁぁぁぁぁ!」
ナイフの少女は、眠っていた方の少女を軽々と抱え上げると、あっという間に走り去ってしまった。
ついてない。誤解が積み重なって、貧乏くじを引いてしまった。
「な、なぜ私ばかりがこんな目にぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
グレンの絶叫が、むなしく校舎に響いた。
↓
【No.26 グレン・コリンズ】
【所持武器:大阪名物ハリセンチョップ】
【現在位置:校舎出口】
【スタンス:ロケットによる脱出】
【能力制限:突発的にパワーアップ、だがあまり意味はない】
(一日目 0:10)
高町恭也(8番)は驚愕していた。
(何だったんだ? あの男の動きは)
もともと彼はこんな馬鹿げた殺し合いなどするつもりはなかった。
ルール説明が終わった後、虎の覆面を被った男が主催者に刃向おうとした時には、援護しようとしたくらいだ。
だが、男はその場を一歩も動かずに、必殺技らしきものを放とうとしていた虎男を壁にふっ飛ばして絶命させた。
小太刀二刀・御神流と呼ばれる武術の心得がある恭也だったが、男の動きを捉える事は全くできなかった。
まるで、一瞬男以外の時間が止まったようだった。もちろんそんなことはありえないが。
他の参加者をそれとなく観察しながら、恭也は全員助かる方法を模索する。
(俺一人で奴に刃向かってもまず殺られる。だが、この状況下で協力者を探すのはかなり難しい。八方塞がりだな)
「8番どうした! 高町恭也。早く出ろ」
ふと恭也は自分が呼ばれているのに気がついた。
どうやら考え込んでいて、自分が呼ばれたのに気付いていなかったらしい。
恭也は少し慌てて立ち上がると、無造作にバッグを手に取り部屋から出た。
廊下に出ると、校舎の出口へと歩きながらバッグの中身を確かめる。
中身は………消毒薬・抗生物質・包帯・絆創膏などが入ったポーチだった。
(救急医療セットって感じだな。殺し合いに乗るつもりのない俺にはピッタリだ、はは)
恭也は少々乾いた笑みをもらす。
確かに殺し合いに乗るつもりはなかったが、だからといって全くの丸腰という状況は望んでいなかった。
彼の見たところでは、参加者の中にはかなりの手練が何人かいるようだった。
そんな相手と遭遇した場合、武器なしで立ち向かうのはかなり不利だろう。
それに、膝の古傷のこともあり長時間の戦闘は無理だ。
学校を出てすぐに森の入り口に隠れて、闘いに慣れていない一般人を保護するつもりだったのだが、
支給品が武器でないとなると、一般人どころか自分の身さえ守れるかどうか微妙だ。
(仕方ない、どこかで武器になりそうなものを探すしかないな)
恭也は学校を出ると、森の中へと入っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(一日目 1:44)
(約1時間半経過。そろそろ休息を取るべきだな)
学校を出てからずっと森の中を走っていた恭也は、腕時計を見て足を止めた。
当然、足に負担を掛け過ぎないようペースは調整していた。
(ここまで誰とも会わなかったな。ツいているのか?。……いや、本当にツいていれば、武器が支給されてるか)
周囲を観察する。森の外れまで来たらしく、すぐ近くに山が見える。
(夜が明けるまでは木の上で気配を消して寝ておくか)
本当は今この瞬間にも起こっているかもしれない無益な殺し合いを止めたいのだが、武器になりそうなものは見つからず今の自分は無力だ。
焦っても仕方がないと、無理矢理自分を納得させて恭也は休んでおくことにした。
(山で夜を明かす…か。状況はかなり違うけど、稲神山で美由希と鍛錬していたのを思い出すな。はは)
妹である美由希のことを思い出しながら、恭也は浅い眠りに落ちていった。
(一日目 3:07)
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
篠原秋穂(31番)は走り疲れていた。学校らしき建物を出てから森の中を闇雲に走り続けること約2時間。
とある企業の総務部人事課で毎日コピー取りとお茶くみに追われ、普段あまり運動する機会がない秋穂にとってはかなりの運動量だ。
体力は既に限界に近い。
「はぁ、はぁ……もうこれ以上走るのは無理だわ。どこか簡単に見つからない安全な場所は…」
秋穂は立ち止まって周囲を見渡す。
目の前には小高い山が見える。どうやら森の外れまで来たらしい。
「ふぅ……確か建物を出た時には遠くに見えてた山がすぐ近くに……こんなに運動したのはて久しぶりね。
いきなり殺し合いさせられるのはムカつくけど、全力でマラソンする機会を与えてくれたのには感謝してもいいかも。
10kgくらい痩せたかしら?」
疑問形だが、もちろん返答など期待していない。
ともすれば恐怖に壊れそうな心を安定させるため、意識して軽口を叩いているだけだ。
だが、意外なことに返事があった。
「ぷっ、はははっ、そうですね。10kgくらい痩せてるかもしれませんよ」
秋穂が声のした方へ振り向くと、木の上から高校生くらいの少年が地面に降り立った。
「…一応訊いておくわ。あなたはこのくだらない殺し合いに乗るの?」
支給されたバッグに入っていた小太刀を咄嗟に構えながら秋穂は少年に問う。
秋穂に殺し合いをする気は全くない。脅して追っ払うつもりでいた。できるかどうかは分からないが。
「奇遇ですね。俺も殺し合いなんて馬鹿げてると思っているんですよ」
「え! 嘘でしょ」
当然、秋穂は肯定の返事が来ると思っていた。
いや、返事もせずにいきなり自分を殺そうとすることもありえるとさえ思っていた。
まさか少年が自分と同じように考えているとは思いもしなかったので、秋穂は言葉が出てこない。
「…そんなに驚くことですか?」
少年は秋穂の驚きようを見て、心外そうな顔をする。
もちろん、これはただの演技で秋穂が油断して隙を見せたところで殺すつもりなのかもしれない。
だが、秋穂は少年の澄んだ目を信じてみることにした。
「ご、ごめんなさい。最近の若者ってすぐにキれる暴力的なのが多いと思っていたから」
「まあ、それは否定できませんけど」
苦笑する少年。
「あ、俺は高町恭也といいます。私立風芽丘高校の3年で、小太刀二刀・御神流という流派の師範代でもあります」
「ふーん、小太刀二刀流……師範代……ね」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないわ。私も自己紹介しておくわね。篠原秋穂。毎日コピー取りとお茶くみに追われるしがないOLよ」
「あ、そうなんですか」
「ええ。私は営業にがやりたいんだけどね」
「なるほど」
殺し合うのが当たり前な状況下にも関わらず、二人は世間話をしていた。
(一日目 3:12)
浅い眠りについていた恭也は、接近してくる足音にすぐに気付いて目を覚ました。
足音は1つ。誰かに追われている様子はなさそうだ。
音のする方角をしばらく見ていると、足音の主が姿を現した。女性だ。
その女性は、恭也のいる木の近くで立ち止まると、独り言を言い始めた。
(壊れた? いや、違うか。理性を保つためにわざとやってるのか?)
静観していた恭也だが、女性の「10kgくらい痩せたかしら?」という発言に思わず笑って返事をしてしまう。
そして、恭也は地面に降り立ち……
「ところで、殺し合いに乗るつもりがないなら、あなたはどうするつもりなの?」
ふと会話が途切れ、秋穂に姿を見せた経緯を思い返していた恭也は、質問されて我に帰った。
「俺は力無き人を守リたいと思ってます」
「ふぅん。でも、見たところ何も武器持ってないんじゃない?」
「今は丸腰だから、重武装した殺人鬼相手は少々荷が重いですけど」
苦笑する恭也。ふと、いつもより自分が饒舌なことに気付く。
自分はどうして大して警戒せずに彼女に姿を見せたのだろうか?
異常な状況下にも関わらず、最初に遭遇した相手が冷静に会話できる女性だったので、
ゲーム開始以来張り詰めていた緊張が解けたのかもしれない。
(油断は禁物だ。気を引き締めないと。でも、何だか彼女とは話し易いな。
…少し月村と似てるのかもしれない。髪の色も同じ紫だし。)
恭也は、クラスメイトの大人びた、でも子供っぽいところもある月村忍のことを思い出した。
それをきっかけに妹の美由希となのは、母の桃子。フィアッセ、レン、晶、那美……知人たちの顔が思い浮かぶ。
(俺はあの日常に帰れるんだろうか?……いや、弱気になってちゃダメだ。俺は必ず帰ってやる)
「どうしたの? 急に黙っちゃって」
「いえ、ちょっと家族とかのことを思い出して…」
「そっか。……そういえば、恭也君は礼儀正しいわね」
「そうですか?」
「ええ。肇みたいに初対面から馴れ馴れしくないし」
「…その人は秋穂さんの恋人ですか?」
「んー、まあそんなもんかな。実際に会った事は無いけど」
「実際に会った事がない? ネットで知り合ったとかですか?」
「違うわ。五月倶楽部でよ」
「メイクラブ? 何ですか、それ」
「知らないの!?」
「…はい」
「どこの街にもあるはずよ。本当に知らない!?」
「俺の住む街には無かったような…それに全く聞いたことないです。
印象的な名前だから一度聞いたら覚えてると思うんですけど…」
>116 & 129
(一日目 5:15)
「臭兄ィ!!」
「バカ、でけぇ声上げるんじゃねぇ!!」
思わず叫んじまったおれの頭に、遺兄ィは強烈な拳を落しやがった。
「わ、悪かったよ遺兄ィ……」
ああ、そうだな。
大声なぞ上げたら、またあのブルマに見つかるかも知れねぇしな。
おれが迂闊だったよ。
でもよ、遺兄ィ……
あンた何でそんなに冷静なんだよ?
目の前に転がってる屍体は、おれ達の兄弟なんだぜ?
どうせ冷め切った兄弟仲だ。
涙をこぼせとまでは言わねぇさ。
でもよ。
「フン、この役立たずが。」
自分の弟の屍体に唾吐き掛けるのはやりすぎだろう?
「おい鬼作、ぼさっと突っ立ってんじゃねえ。行くぞ。」
「行くぞって、遺兄ィ、臭兄ィは?」
「そんなもンほっとけば、ウジがキレーにしてくれるさ。」
「でもよ…」
「でももだってもねぇ!」
うぐわっ、痛ぇ、痛ぇよ。
あンた、なに本気で殴ってんだよぉ。
「おまえはおれのいう事を黙って聞いてりゃいいんだよ。
ボサッとするな」
「わかった、わかったよ遺兄ィ…」
「とりあえず、遺作の荷物はお前が持っとけ。
おれはこのナイフをいただく。」
(一日目 3:24)
秋穂は信じられないといった顔で恭也のことを見る。
「本当に知らないの?
実際の街そっくりに作ってある仮想世界―ヴァーチャルスペース―で、容姿や服装が正確に再現されてて。
視覚や聴覚はおろか物の感触もフィードバックされてて…」
「…ヴァーチャルリアリティってやつですか? 俺、コンピュータにあまり詳しくないんですけど、
でも、そんな技術が実現されたって話は聞いたことないです」
「何言ってるのよ。実現されてるに決まってるじゃない!
超リアルな仮想現実で主にカップルの出会いの場として利用されてて…」
今の秋穂にとって、五月倶楽部での工藤肇とのデートの記憶は心の拠り所になっていた。
それを恭也に否定されて、彼女は必死に五月倶楽部について説明する。
だが、恭也は…
「……もしかしたら」
「何?」
「もしかしたら、俺と秋穂さんは違う世界の人間なのかもしれない」
「はぁ? 何言ってるのよ。そんなことあるわけないでしょ!」
「参加者の中に、緑色の鎧に赤いマントを身につけた、まるでファンタジーの世界から抜け出てきたような男性がいたのを覚えてますか?」
「ああ、確かいたわね。そんな変な奴が。不敵な顔して殺る気満々だったわね。全くどういう神経してるんだか」
「もし、あの男性が本当に剣と魔法の世界から来たんだしたら…」
突然恭也に突拍子も無いことを言われて、秋穂は目を白黒させる。
「そんなことあるわけないじゃない」
「そうでしょうか? でも、もしそうだとすれば説明がつくこともあります」
「何がよ?」
「あの男が虎男を倒した方法です」
「あの男ってのはえらそうな主催者のことで、虎男ってのはタイガーなんとかって変な名前の人のこと?」
「はい」
「私はよく知らないけど、あの男が使ったのは何かの武術じゃないの? 奥義とか何とか」
「いえ、アレは奥義というレベルじゃないです。普通、技というものには準備動作があります。
でも、あの男にはそれが無かった」
「……単に見えなかっただけじゃないの?」
「そうかもしれません。でも、あの男が一種の超能力を使えるのだとしたら説明がつきます」
秋穂の堪忍袋の緒が切れた。
……そうだったよ。
あンた、そういうヤツだったよ。
いつでも自分のことだけ考えて、おれと遺兄ィを暴力で支配して。
ちょっと思い通りに行かないと、すぐおれと臭兄ィに八つ当たりして。
15年以上会ってねぇから忘れてたがよぉ。
おれも臭兄ィも、あンたが大嫌いだったんだよ。
あぁ… オヤジになった今だからこそ分かるぜ。
臭兄ィの美学ってヤツぁ、あンたの暴力を否定するところから生まれたんだな。
あンたの暴力に怯えている自分が許せなくてよぉ。
そこから脱却するために、自分のプライドを保つために、美学を産み出したんだな。
切ねぇ話じゃねぇか…
考えてみりゃ、臭兄ィにはいろんなことを教えてもらったよなぁ…
盗撮の仕方とか、追い込みのかけ方とか、縛り方とか。男の美学とか。
性行為よりも排泄行為を見られる方が絶望する女がいる、なんて、
臭兄ィに教わらなきゃ知らないままだったろうしな。
そういやぁ、おれの盗撮ビデオコレクションを見ながら、くせぇ息でハァハァしたあとよぉ、
「デキスギ君じゃねぇか、おい、鬼作」
って、おれの頭を撫でてくれたよなぁ…
追い込みかけた女にさんざっぱら罵られて、悔し涙を流していたおれを、
「その屈辱が大きいほど、陥としたときの快楽は大きいんだぜぇ」
って励ましてくれたよなぁ…
「……作、おい、鬼作」
おっといけねぇいけねぇ、物思いにふけっちまったよ。
「遺兄ィ、なんだい?」
「そろそろ寝るとするからよ、見張り頼むぜ。」
「ああ、分かったよ遺兄ィ。何時間交代だい?」
「そんなもん決めてたら気持ちよく眠れやしねぇ。
俺が起きるまで見張ってろ」
「……わかったよ」
気持ちよく眠れやしねぇ?
また、なんともあンたらしい身勝手な理由だなぁ。
で、目が覚めたら「さっさと行こう」とか言うんだろ?
「おれの睡眠は?」とか文句言ったら、ぶん殴って言うこと聞かせるんだろ?
……けっ、もう寝付いちまったか。
どういう神経してンだろうね、この男は。
だけどよぉ、まぁ、おれとしては、この寝つきのよさは好都合だ。
たった今、あンたと別行動を取ることを決めた、おれとしては、な。
まぁ、腐っても兄弟だからよぉ、寝首は掻かないでおいてやるさ。
あンたの分の武器とバッグも、お情けで置いていってやるぜぇ。
おいおい、仏様みてぇじゃねえか、おれは。
じゃあな、遺兄ィ、いい夢見ろよ。
(一日目 3:31)
「…ちょっと、アンタ」
「何ですか?」
返事をしながら、恭也は秋穂の様子にちょっとした違和感を感じていた。
(あれ? 今俺のことをアンタって…それに何か目つきが変わってるような)
「はんっ、五月倶楽部が存在しないだの、アンタとあたいは違う世界の人間だの、果てはあのムカつく男が超能力者ですって?
気の利いたこといってくれるじゃないのさ!」
「……あ、あの、秋穂さん?」
「あたいはねえ、真面目にしてるべき時にそういうふざけたこという奴が大嫌いなんだよっ!」
「い、いえ、これはあくまで推論であって…」
「あぁ!? 推論だったら何言ってもいいってか? 大人を何だと思ってるんだよっ」
「……え、えーと」
「どうせあたいのことただのOLだと思って舐めてるんだろ? こう見えてもあたいはなぁ、元レディースで暴れまわってたんだぜ!」
「……い、いや、別に舐めてるわけじゃ…」
「いーや、アンタ絶対あたいのことを見くびってるだろ! じゃなきゃそんなふざけたことは…」
「! 誰か近づいてきます。そこに隠れましょう」
恭也は咄嗟に秋穂を近くの繁みに連れ込む。
「な、何すんだよっ。離せこの下衆野郎っ!」
「静かにしてください。相手が既に殺し合いに乗ってる危険があるから、隠れて様子を見ないと…」
秋穂は興奮して静かにしてくれなさそうなので、仕方なく恭也は口を塞いで黙らせる。
「むぐー。もがー」
(痛て。噛み付かれた。はは、元気な人だな。
さて、近づいてきてるのは……メイド服を来たロボット? ちょっとノエルに似てるかな)
息を殺しながら、接近してきた人物を繁みの中から観察し、知り合いの自動人形のことを思い出す。
(センサーでこっちのことがバレるかもしれないな。 その時は逃げた方がいいか?)
刹那、こちらに向かってロボットが接近してくる。
(バレた!)
恭也はすばやく秋穂を背負う。
「ちょ、ちょっと。どこ触ってんだよ! こら、離せって!」
「文句は逃げ切れたら気のすむまで言って下さい! とにかく今は逃げるのが先決です!」
「……分かったわよ」
不貞腐れたように言う秋穂。それを確認すると恭也は全力で走り出す。
(頼む、何とか逃げ切らせてくれよ!)
恭也は森の中央部を目指していた。
「あら? 逃げられちゃいました。せっかく獲物が二人もいたのに残念です。
でも、ナミはくじけません。ご主人様、見ていてくださいね!」
取り残されたナミはそう言うと、再び移動し始める。
新たな獲物を探す為に。
↓ 【グループ:高町恭也・篠原秋穂】
【所持武器:〔恭也〕救急医療セット(消毒薬・抗生物質・包帯・絆創膏など)
〔秋穂〕小太刀×1】
【スタンス:〔恭也〕力無き人を守る 〔秋穂〕誰も殺さず生き延びる】
【能力制限:〔恭也〕膝の古傷のため長時間の戦闘不能
〔秋穂〕特になし】
>179
……臭兄ィ、おれは、またあンたから1つ学んだよ。
死んじまったら、女を抱くどころじゃねぇってな。
生き延びてやる。
臭兄ィの分まで生き延びてやるさ。
そのためにゃあ、まず、強いやつに取り入らなきゃなぁ。
なぁに、簡単簡単。
人をだまくらかして取り入るなんざ得意中の得意だし、
「この島からの脱出法を知っている」
このハッタリの誘惑を退けられるなんざ、いやしねぇさ。
↓
【No.3 伊豆遺作】
【現在位置:西の森(熟睡中)】
【No.6 伊豆鬼作】
【所持武器:警棒・コンバットナイフ】
【現在位置:西の森から廃村へ向かう】
(一日目 04:01)
クレア・バートン(No.33)は一人、島の北端の断崖にいた。
大体スタート地点の分校から真北に森を抜けた所である。
ここに達するまで、彼女はできるだけ「目立つ」ように移動し、
今もこうして遮蔽物の存在しない高地に立っていた。
もし現在が昼間だったならば、クレアの姿は1〜2km先でも確認できたろう。
いや、この闇夜でもアズライトやナミなどの特殊能力保有者(機?)
ならば難無く見える筈だ。
しかし、彼女を狙う者は未だ現れなかった。
「フフ……『いっそ殺して欲しい』って思うと、逆に死ねないものね……」
疲れたようにクレアは笑い、懐の小瓶を取り出した。
掌にすっぽり収まる大きさのその瓶には、とろりとした無色透明の液体が詰まっている。
彼女に支給された武器、毒薬であった。
用法については付属の説明書で既に理解していた。
即効性の強い、少量でも死に到る強力な奴だ。
問題はこれを他人に飲ませるのか―――自分で飲むのか。
クレア・バートンと言う女性は火の属性を持った女である。
日頃は温厚かつ優雅な反面、一度感情が吹き出すと止まらない一面もあった。
故に迷う。狩る側に回るか、この遊戯そのものから脱落するか。
「……フォスター……」
既に幾度となく口にした男の名をもう一度言う。
かの欧州の島国の館にいるであろう、クレアの主人にして恋人の名。
彼ならば、この状況に面したならばどうするだろう?
「……決まってるわね」
我ながら愚問だ。彼ならば―――間違いなく狩る側に回る。
贖罪の言葉と苦渋の表情を浮かべながらも、彼は狩る側に回る。
そうして彼は、今まで不器用にあがいて生きて来た。
そんな所が、彼の魅力の一つであった。
「じゃあ……私は?」
自問する。私に他人を殺す事ができるのか?
参加者の顔を何人か思い出す。
彼らを皆殺しにして―――正気を保てるのか?
否、これは一方的な殺戮ではなく殺し合いだ。
宇宙生物や機械仕掛けのメイドなどが跋扈しているこの島で、クレアの
勝率は極めて低いと言えるのは間違い無い。
むしろ無残に殺されるのは自分の方だろう。
―――ならば今自殺しても変わり無いのではないか?
「……結局、どうどう巡りね……」
思わずクレアは苦笑する。
さっきから同じ思考の回廊をぐるぐる回っているのだ。
せめてもう少し自分が聖者なら、迷わず毒を飲み干すのだろう。
だが、クレアとて此の世に未練はあった。
―――今一度、あの人の許に帰りたい。
心配していたそぶりをわざと隠すあの人に、微笑みつつ言いたい。
「留守にして申し訳ありません、御主人様。朝食はお済みですか?」
するとあの人はいつもの調子で、
「まだだ。早く作ってくれ」
笑い返してそう答えてくれるだろう。
その声が聞きたい。
クレアはエプロンドレスのポケットを探り、一枚の金貨を取り出した。
あの男達が金貨を奪わなかったのはこれを予期していたのだろうか。
「表が出たならこの毒を私が飲む、裏なら……」
細く、白い指がコインを弾く―――
(04:10)
数分後、クレアは断崖を背に一路南に向かって歩き始めていた。
まずは誰かと合流し、親しくならねばならないだろう。
それからじっくりと混入するタイミングを計ればいい。
相手が好色ならばなお好都合だ。飲ませる方法は幾らでもある。
聖書が袋に入っていない事が悔やまれる、贖罪の言葉は上手く言えないかもしれない。
裏を示した金貨を握り締め、クレアは呟いた。
「フォスター……私を守ってとは言わないわ……。
私の……邪魔な優しさを少し預かっていて……」
クレア・バートン、彼女の目にはもはや迷いは無かった。
↓
【クレア・バートン:No.33】
【所持武器:毒薬】
【現在位置:島北端の断崖】
【スタンス:皆殺し・正気・表面上は友好的】
【能力制限:無し】
>184
(AM1:00)
大通りをしばらく行くと、道のど真ん中に配給された袋が無雑作に投げ出されていた。
「もったいないことするなぁ」翼は罠がかかっている危険性を顧慮することなく中から武器を取り出す。
「大当たりなのに」手に握られているのはスパス12、
イタリアのフランキ社が開発したコンバット・ショットガンである。
そして袋から取り出した水と食料も袋に詰めなおすと、
アイスピックを後のポケットに入れ、ショットガン片手に歩き出した。
そのモデルガンとは明らかに違う質感が、この大会の全てを雄弁に語っているように思えた。
「うーん…女の子はどこにいるのかな。
僕みたいな美男子がこんな素敵な月夜を一人で歩いてるなんて」
しかし、五分と立たないうちにこのような軽口を叩きながら、建物の北にある森へと歩を進めた。
(AM5:30)
「…なんか、さっきから同じところをぐるぐる回っている気がする。」
森に入ってから、かれこれ四時間以上歩いている。今通りすぎた木も先ほど見た覚えがある。
「道に迷っちゃたかな?」
どこを見ても同じような木ばかり生い茂っており、自分がどこにいるのかさえ見当がつかない。
「僕を待っている女の子のためにも急がなくちゃ…」
その時、突然眼前の茂みが動いた。そこには…
>185
「あーあ、あの場所結構気に入ってたのになぁ。あのバカ男がこなけりゃもう少し時間つぶせたのに。
思い出しらまた腹立ってきたわ。」
双葉は胸元に抱える植木鉢に向かって話し掛けている。
事情を知らないものが見たらさぞかし危ないやつに見えたことだろう。
「それにしても大きな森ねぇ。私にとっては好都合だけど…」
そう呟いて茂みをかき分けて進むと、少し開けた場所に出る。
次の瞬間、双葉の背筋が凍りつく。
そこには片手にショットガンを携えた制服姿の少年が立っていた。
(や、やばいわね…)脇腹のあたりを嫌な汗が伝うのが分かる。コクリと喉がなる。
少年が一歩踏み出す。膝が震えて、上手く動けない。
その間にも、少年はどんどん近づいて来る。
今や目の前にまで迫る少年は手にしていたショットガンを放り投げると
双葉の顔を覗き込んだ、満面の笑みを浮かべて。
予想外の行動に唖然とする双葉に少年は明るい声でこう言った。
「ねぇ、君の名前は?僕は…
>186
目の前の茂みが蠢き、植木鉢を抱えた女の子が出てきた。
肉付きの薄い華奢な体つきだが、整った目鼻立ちをしている。
嬉しくなった翼は手にしていた武器をその場に投げ出し、いつもの自己紹介を始めた。
…と呼んでくれていいよ。」いつもの柔和な表情を浮かべて自己紹介を終える。
「あ、あんたバカじゃないの?自分のこと王子様だなんて。」呆気にとられたことへの照れ隠しか、
はたまたその時の顔(さぞかし間抜けな顔をしていただろう)を見られたことへの羞恥心か、いささか語気が荒い。
それに顔が燃えるように熱い。
「何をそんなに怒ってるんだい?可愛らしい顔が台無しだよ。」
さらりとそんなことを言う翼にさらに顔を赤らめて双葉は、
「あんたみたいなやつに褒められたって全然嬉しくなんかないわよ。」
そう言いつつも、まんざらではなさそうだ。
「つれないねぇ」きびすを返し去ろうとする双葉に、翼はため息などついてみる。
そういう翼を尻目に双葉はスタスタと歩き出す。
「まぁ、待ちなよ。助かりたくはないかい?」去りゆく少女に追いすがりながら、そういってみる。
少女は立ち止まる。振り向こうかどうか決めかねているようだ。
「僕なら君の首輪をはずせる。」きっぱりと真剣な表情で翼はそういった。
(こいつ…今なんて言ったの?首輪をはずせるですって?
こんなゲームに参加してやる気はないけど、はずせるのならはずしてもらったほうがいいかも…)
などと考えつつ、首に手をやり首輪に触れる。ヒヤリと冷たい、硬質な手触りが感じられる。
「本当にはずせ…」
そう言いながら後ろを振り向いた瞬間、双葉の目に映ったのはすぐそこまで近づいた少年
、その右手は…腰のあたりから何かを抜こうとしている!?
(だまされた…さっき捨ててた銃は誰かを殺して奪ったんだ…)
死を覚悟し、かたく目を瞑る。
ガクリ、と双葉の膝が落ちた。
>188
(ああ、やっぱり信用するんじゃなかった。
こんな状況でへらへらしてるようなヤツがいるわけないじゃない。
死ぬ前に王子様に会いたかったなぁ…お父様、お母様、若葉、先立つ不幸をお許しください
………それにしてもなかなか意識がなくならないわね。こんなものなのかしら?)
「大…丈…、ねぇ…夫かい?」誰かが肩を揺さぶる。
(私はもう死んでるんだから起き上がれないっての、まったく。
それにしても、お花畑とか大きな光なんて嘘ね。真っ暗だもの。)
なおも、体の振動と呼びかけは止まない。死者に鞭打つものに対して腹が立ってきた。
「うるさいわね!死んでるんだ…か…ら……」目の前で先ほどの少年が笑っている。
「起きあがらないから、手元が狂ったのかと思ったよ」などといっているが、双葉の耳には届かない。
首もとをまさぐると首輪が無くなっている。少年に目を移せば、
相変わらず屈託の無い笑顔を浮かべ、手にはアイスピックを握っている。
どうやらあれで首輪を破壊したらしい、とそこまでは冷静に判断していた。
が、そこでふつふつと怒りが込み上げてきた。
何よりもこの短い期間に二度も勘違いして醜態をさらしたことに腹が立った。
「あんたねぇ、いきなり何すんのよ。死んじゃったかと思ったじゃない!!」
先ほどまでの冷静さが嘘のように、すごい剣幕で翼に詰め寄る。
「首輪をはずしてあげるから、首をアイスピックで突かせてくれるかい
といっても、素直に承知しないだろう?」
「う……」そういわれると双葉は言葉に詰まった。
たしかにそう言われてもにわかには信じられなかっただろうし、
現に首輪は外れているのだ。悔しいけど…
「もういい!!」そう言い捨てて双葉はもと来た道を戻ろうとした。
背後で星川と名乗った少年がショットガンを拾い上げつつ、
深く嘆息するのが聞こえた。
>189
一人になって双葉は考えてみた。
星川と名乗る少年は別にひどいことをしたわけではないこと
(方法にかなり問題はあったけど)
自分が動転してしまったことに対する腹立ちが彼に転嫁されていること
(原因はあいつだけど)
あの少年は命を奪うつもりがなさそうで協力できるかもしれないこと
(利用するかもだけど)
少年が自分のことを王子様と言っていたこと(
たしかに見た目は良かったけど…)
何よりも少なくとも彼はこの状況から一部とはいえ自分を解放してくれたこと
そんなことをつらつらと考えてテクテク歩いていた。
「ねぇ、どう思うこけしぃ?」
傍らの植木鉢に問いかけてみる。
双葉の気持はきまっていた。
「失敗しちゃったかな?うん、次はもっとスマートにやらなくちゃね」
気を取り直して他の女の子を探すべく再び森の中を歩き始める。
「さっきの女の子に道を教えてもらえば良かったかな?」
見上げても夜空すら見えないこの森の中では方角すら知りえない。
「待ちなさいよ」がさがさと背後で音がしたかと思うと、呼びとめられ翼は振り向いた。
少しはにかむようにして先ほどの女の子が立っている。
「あんた、自分の首輪はどうすんのよ?」
「ん…なんとかなるさ。」嘘だ、この首輪は自分でははずせない。
もしはずせるとしたら、それは大勢の人間を殺害し優勝した時だ。
もちろん、そんなことをするつもりは無い。
翼の言葉を聞いて少女は少し思案顔をした。そして再び、桃色の唇から言葉がつむがれる。
「朽木…双葉よ」そっぽを向いてそう言った。
「か、借りもあるし。双葉様が力を貸してあげるわよ。」今度はややうつむいてそう言った。
「ありがとう」双葉に近づき、手を取る。
「一応、首輪…はずしてくれたし、借りを作ったまま死なれたら、寝覚めが悪いからよ…」
と言いつつも差し出された手を握り返してしまう。
「うん、うん、OK、OK。」と嬉しそうに双葉を見て破顔させる。
「道、迷ってたんでしょ。案内してあげる。」と言って歩き出す。彼もそれに従う。
しばらく歩んではたと立ち止まる。
双葉が翼を見つめる。
それに気づいて翼も双葉を見つめる。
二人の時間が止まる。
翼の目に映る双葉の眉がキリリと危険な角度に吊りあがる。
「あんた、いつまで手ぇ握ってんのよ!」 ↓
【朽木双葉】
【位置:東の森北東】
【武器:芥子の花(こけしと命名)、斧】
【スタンス:とりあえず星川の様子を見る】
【星川翼】
【位置:同上】
【武器:アイスピック、ショットガン】
【スタンス:女の子を助ける。】
192 :
名無しさん@初回限定:01/12/26 21:02 ID:rnBXNwmP
保全カキコ
(一日目 02:00)
「よかったです。神条さんのような、理性的な方と最初に出会えて」
「そうですね、ボクも紫堂が平和主義者だと分かってほっとしましたよ」
学生服を着たスマートな少年と巫女服をきた小柄な少女が、肩を並べて歩いていた。
神条真人(No.17)と紫堂神楽(No.22)だ。
2人から受ける印象は共に「生真面目」そして「優等生」だった。
彼らは先ほど波止場で出会い、お互い戦意が無いことを確かめたのち、行動を共にしていた。
「体は大丈夫ですか? 出発してからずっと動き詰めだったんでしょう?
ちょっと休憩を入れたほうがいいのではありませんか?」
「お気遣いありがとうございます。
しかし、こうしている間にも、誰かがどこかで望まぬ戦いを強いられているかもしれません。
先を急ぎましょう」
「紫藤さんはとても真面目なんですね」
「堅苦しくて、申し訳ありません……」
「いえいえ、こちらこそ。
他の人が大変なときに、自分たちだけ休憩なんて、自分勝手なことを提案してしまって
恥ずかしい限りです」
「いえいえ……」
……出会ってからずっとこんな感じで会話をしている。
「おや?」
真人が歩みを止め、闇の中に目を凝らす。
「どうされました?」
「いえ、あの倉庫のような建物のあたりで、何か動いたような……」
「誰かいるのでしょうか?」
「分かりません。確認してみましょうか」
「そうですね。」
2人はその建物……漁具倉庫へと足を向けた。
漁具倉庫に、神楽が入るや否や、
かちゃり。
真人は後ろ手に扉を閉め、鍵を掛けた。
「どうして扉を閉めるのですか?
月明かりが無いと中がよく見えませんが……」
「見えなくても問題ない。動く影なんてウソだよ。
オレはお前を連れ込みたかっただけだ。」
彼女は始め、その声が真人のものだとは思わなかった。
それほどまでに声の質が変化していたのだ。
低く、重く、凶暴な何かを孕んだ声に。
「さて、と。
知ってることを全部ゲロってもらおうか?」
チャリ。
神楽は、自分の側頭部にあてられた冷たい筒の感覚に総毛立つ。
「え?」
「オレの妹を殺したヤツはだれだ?」
「え……何のことをおっしゃっているのか、私には……」
「知らないはずないだろう!!
オレにはわかるんだ、分かってるんだ!」
バシン!!
怒声と共に神楽の頬に平手が飛ぶ。
平手とは言え、女の顔を打つのにそれほどの力をこめる必要があるのかと問いたいくらい、容赦ない一撃だった。
「と、突然なにを!?」
「お前が正直にっ!!
答えないからだっ!!」
バシン!
もう一発。
「ど、どうか正気に戻ってください。落ち着いて。深呼吸をして。
こんなことをする真人さんではないはずです」
「ほんの20分くらい前にあったばかりのお前に、俺の何がわかる?
アレは演技。こっちが本当のオレなんだよ!!」
バシン!
さらに一発。
神楽は知らなかった。
真人は、善人の皮を被ることの出来る、被害妄想系の分裂症患者だということを。
全てを妹の死と関係があるのだと妄想し、偏執的に追求してしまう症状だということを。
そして、その妄想が暴走して、5人もの少女を拉致監禁、拷問の末人格破壊に追い込んだ過去を持つことを。
「で、ですから本当に私は何も存じ上げておりません。
妹さんのことは、本当にお気の毒だとは思いますが……」
「尻尾を出したなっ!!
赤の他人のお前が、なぜ妹が殺されたことを知っている?
お前がその死に関係していたからだろう!!」
「先ほどからご自分でおっしゃっているではありませんか。
どうかお気を確かに」
「まだシラをきるのかっ!!
だったらお前が吐きたくなるまで痛めつけてやる。
お願いだから言わせてくださいといいたくなるくらい、激しくやってやる。
陵辱して、剃毛して、浣腸して、拷問して、中出しして、妊娠させてやるっ!!」
「陵辱!?」
その時、倉庫の網棚の奥から声がした。
>142
(しまった!!)
網棚の上で、投網に包まれるように身を隠していた勝沼紳一(No20)は、
心臓痛が発生してしまいそうなほど緊張した。
(私はなんと愚かなんだ。いくら青い花に飢えていたとは言え、
監禁、陵辱などという魅力的な響きに、思わず声を上げてしまうとは……)
発煙筒以外使えそうな道具がないことを確認した紳一は、外に出ようとした矢先、
真人と神楽が近づいていることを知り、倉庫の奥に身を隠していたのだった。
「おい、そこに誰かいるな!?
出て来い、出てこないと撃つぞ!!」
真人は声を荒げ、紳一を脅す。
覗き見ると、確かに真人はその手に黒い筒状のものを握っている。
(くっ、銃を持っているのか……しかも、あの男は……)
気が触れている。
先ほどまでの支離滅裂な言動、妹についての偏執ぶり。
(素直に出て行ったら……殺られるな。)
紳一はそう判断した。
(ならば?)
(発煙筒と鉢巻きしかもっていない私に、何が出来る?)
「早く出てこい!!」
押さえ切れない苛立ちを声に乗せ、威圧する真人。
「わたしに敵意はありません。
怖がらないで出てきてください、そして、話し合いをしましょう。」
神楽は大いに正しく、それと同時に大いに間違っていることを口にする。
(どうする… どうする… どうする!!)
焦りが焦りを生み、やがて思考が真っ白になってゆく。
俗に言う、思考停止。
紳一は、いま、ここがどこで、自分が何をしているかすらわからなくなっていた。
しかし、そんな紳一の都合とは関係なく時は刻まれ……
「タイムアップだ!!」
宣言した真人は銃口を紳一に向け、引き金を引いた。
「ぽん。」
………………。
…………。
……。
「?」
予想した衝撃が全く来なかった紳一は、恐る恐る目をあけた。
……銃口からは無数の糸が垂れ、色とりどりの万国旗がその先にぶら下がっていた。
「……。」
真人は紳一より、遥かに呆然としているようだ。
(今しかない!!)
紳一は網棚から飛び降りると、非力なりの渾身の力でもって、網棚を蹴り倒した。
真人に向かって。
「!!」
網棚が脳天を直撃する寸前に、真人は我に返り、両腕でがっしと支えた。
だが、既に斜めに傾いてしまった重々しいそれを押し返すほどの力は、真人にはない。
支えるだけで精一杯だ。
「く、くそっ!!」
「よくもこの私を脅してくれたな、物狂いめ。
お礼はたっぷりとしてやろう!!」
紳一は網棚を蹴る。蹴る。蹴る。
ハハハハと笑いながら。
「つぶれるがいい、つぶれるがいい!!」
「ぐ、ぐぅうううう……、
うわぁあああああ!!」
ズ、ダァアアアアアン!!
重々しい音。地響き。もうもうと立ち込める砂埃。
網棚はついに倒れた。
「ハハハハハ、やった、やったぞ!!」
逆転勝利に有頂天になる紳一。
「確かに神条さんはあなたを殺そうとしました。
身を護る為に網棚を倒す……そこまでは、悲しいことですが仕方ないと思います」
もうもうと立つ砂埃の向こうから、幼いものの凛とした声が聞こえてきた。
「ああ、そういえば、きみもいたのだったね、頭のユルい巫女さん」
「しかし、その後潰しにかかることはなかったのではありませんか?
殺す気だったのですか?」
「殺す気? 当たり前でしょう。
これはそういうゲームですから」
「成る程、よく分かりました」
会話をしているうちに、砂埃は落ち着いた。
神楽は、倒れた網棚を挟んだ真正面に立っていた。……神条を、その小さく華奢な肩に担いで。
「神条さんだけでなく、あなたにも、冷静さを取り戻してもらわなくてはいけませんね」
「!!」
紳一は見た。
神楽の体が青白い炎のようなものに包まれるのを。そして、その目も青白く光るのを。
紫堂神楽。
大宮能売神(オオミヤノメノカミ)の力を受け継ぐ神人(カムト)。
世の荒ぶる心を和め奉る鎮魂の神の生まれ変わりだ。
「冷静になれば、きっとこのひとたちも分かってくれます。
ゲームに乗せられる愚かさに。
でも……どうしたら……」
神楽は思案した。
(一日目 5:54)
顔に差す朝日の眩しさに、真人は目を覚ました。
悪くない目覚めだったのだが、起き上がろうとして体のあちこちに痛みを感じた。
「おはよう。目覚めはいかがかな?」
目の前に紳一がいた。 真人を網棚で潰そうとした紳一が。
「てめぇ!!」
反射的に彼の首を絞めにかかる真人。
「待て!早まるな!!
お前には私を殺せないんだ!!」
「命乞いにしては高飛車なセリフだな」
さらに圧力が加わる。
「ひ、左手…… 左の薬指に……」
「……指輪?」
真人の薬指には、彼自身に全く覚えの無い指輪がはまっていた。
無骨でシンプルな、銀の指輪。
……背筋にぞわりと走る悪寒。
(こいつの話、聞いたほうがよさそうだ。)
真人は腕を離した。
「ふぅ……お前は乱暴な人間だな。
とにかく、まずこれを読んでくれないか」
一枚の紙を真人に差し出しす紳一。
それは神楽から2人に宛てたメッセージだった。
デスゲームに乗せられて冷静さを失ってはいけません。
冷静になればお2人も、先ほどの行動の愚かさに気付いていただけると信じます。
その反省を促すために、僭越ですがお2人に私の支給品『他爆装置』をつけさせていただきました。
(他爆装置?)
初めて目にした単語に真人は首をひねる。
発信指輪を装着しているものが死亡すると受信指輪が爆発する指輪です。
発信指輪と受信指輪の距離が3M以上離れても、受信指輪が爆発します。
指輪を外したり、指ごと切り落としても爆発するそうです。
また、発信機と受信機は外見で区別することはできません。
「ハッタリだろう!!」
どっ、と冷や汗が吹き出す。
が、意識を薬指に集中すると、一定感覚で、僅かに振動しているのが感じられる。
ちっ、ちっ、ちっ……
……少なくとも、ただの指輪ではない。
「わかっただろう、そういうことなんだ」
紳一は自嘲めいた溜息を漏らした。
この機会に協力することの素晴らしさを学ばれてはいかがでしょう。
それでは、ご自愛ください。
文末の心遣いが憎憎しい。
(くそっ、くそっ、くそっ!!)
真人はやりどころのない怒りに臍を噛むしかなかった。
「ハハハ……私たちはしてやられたのだよ。あの小娘に」
追伸
おふたりは人間です。
なにを当たり前のことをとお思いかも知れませんが、このゲームには人間でないもの、
人間というには余りにも特殊な力を身に付けたものが多く参加しています。
相手がどんな外見であれ、決して戦わないでください。
↓
【グループ:紳一(No.20)、真人(No.17)】
【所持武器:紳一(発煙筒、必勝鉢巻き)、真人(パーティーガバメント)】
【現在位置:漁具倉庫】
【神楽(No.22)】
【現在位置:港から廃村へ移動中】
199 :
名無しさん@初回限定:01/12/27 01:13 ID:0zGlz17f
200 :
名無しさん@初回限定:01/12/27 01:44 ID:9TR1yE6q
今だ!200番ゲットォォォォ!!
``)  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
`)⌒`) ( ∧∧ ∧∧ ) (´⌒(´
≡≡≡;;;⌒`)≡≡≡⊂´⌒⊃ ゚Д゚)⊃ ⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡ ;;⌒`)⌒`)  ̄ ̄
ズザーーーーーーーーッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
``)  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
`)⌒`) ( ∧∧ ∧∧ ) (´⌒(´
;;;⌒`) ⊂´⌒⊃; ゚Д゚)⊃ ⊂(゚Д゚;⊂⌒`つ (´⌒;;; ;;⌒`
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
( ケコーンしよう・・・ )
。o ○\____________/
.∧∧ヘヘ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
( ノ ) 。o○( うん・・ )
./ | \ \_________/
(___ノ(___ノ
/ \
>92
(1日目 4:00)
その男は、屋上で紫煙を燻らせていた。
オールバックの髪、エリを立てたベージュのトレンチコート。
そして左手に、COLT.45 M1911A1 コンバットコマンダー。
飾り気のない無骨なデザインの、男のための銃。
ハードボイルドの主人公のイメージをそのまま投影したかのような外見のその青年、海原琢磨呂。
貴神雷蔵の企みを見抜き、一撃で葬り去った男。
「ロシアじゃ、銃で凍傷を起こすことがあると話に聞いていたが……」
琢麿呂は銃を右手に持ち替え、左手にはぁ、と息を吐く。
「洒落にならんな、この冷え込みは」
ならば屋内に入ればよい。
銃を懐に仕舞えばよい。
しかし、そうもいかない十分すぎるほどの理由があった。
「ヤツが……ファントムがいるからな」
そう。
ここは、病院の屋上。
琢麿呂は胸ポケットから愛用のマルボロを一本取り出すと、ジッポで火をつけた。
……3時間ほど前。
琢麿呂は病院に侵入し、万一のための救急用具を漁っていた。
そこへ、少女を担いだ、銀髪の少女が侵入してきたのだ。
……人を背負っているにもかかわらず、足音1つさせないで。
息を切らすことなく。
「近づいてきたら殺る」つもりだった琢麿呂は、少女の顔を見て思い留まる。
その顔は、しがない私立探偵でしかない琢麿呂でも知っている顔だった。
―――インフェルノ1の殺し屋、ファントム。
あるいは……世界一の。
勝ち目がないと判断した琢麿呂は、彼女たちが近づく前に、屋上へ転進したのだった。
……そして今。
「1時間もすれば出てゆくかと思ったが……」
病院の出入り口を見下ろしながら、琢麿呂は一人ごちる。
ファントムは、いつまで経っても出てゆかない。
眠っているのかもしれない。
ならば、仕留める絶好のチャンスだ。
しかし、眠っていないのだとしたら、十中八九返り討ちに会う。
「持久戦だな」
生あくびをかみ殺しながら再び出入り口に目をやった琢麿呂は、そのとき、
病院に侵入しようとする2つの影を見とめた。
「……チャンスなのかもしれん」
咥えていたマルボロを吹き捨てると、彼は屋内へ続く重々しい扉を開けた。
>101
♪やっちゅ〜 げっちゅげっちゅげっちゅ〜
♪おも〜〜〜いとどけ ラヴ ミ〜〜〜
「……なんなのだ、ヘル野武彦、その珍妙な歌は」
魔屈堂が口ずさむその意味不明な歌に、エーリヒは顔をしかめる。
「ああ、これはの……萌え歌じゃよ」
「萌え歌?」
「萌えの心を言葉で説明することは不可能じゃ。黙ってこれを聞かれい、エーリヒ殿」
魔屈堂はその耳に付けていたイヤホンを外し、エーリヒの耳に繋ぐ。
♪ひ・み・つ!
♪い〜つものふく〜に〜 き〜がえて〜〜
♪あはん マジカル・ぶっくま〜く……
「……ヘル野武彦。日本は既に音波兵器を完成させていたのか?」
「わしも始めはそう感じた。みなみおねえさんの歌声は敷居が高いからの。
だが、それにじっと耐え、何度も何度も繰り返し聞いているうちに、
(;´Д`)な気持ちが(´▽`)に変わってゆくのじゃ」
「なるほど、音波兵器ではなく洗脳兵器であったか。あなどれんな、日本の科学力は」
病院の待合室を歩きながら、大いにずれた会話をする2人。
彼らは森での邂逅の後、今後の身の振り方を相談した。
テーマはひとつ。
『若い命を無駄に散らせないためには、どうするのが良いのか』
・脱出方法
・情報収集
・主催者打倒
・資材収集
・人命救助
2時間以上に渡る密度の濃い討論の末、2人は身の振り方を決した。
サバイバルに必要な資源を集めつつ、島の全体像を把握すること。
争いを見たら止めること。
情報と資材の収集メインに、余裕があったら人命救助をこなすというスタンスを決め、
最初の目的地―――病院へとたどり着いたのだった。
「ヘル野武彦。君は薬品についての知識をもっているか?」
「オタクの知識量を甘く見ないで頂きたいのう、エーリヒ殿。
古くは『BlackJack』から新しくは『Dr.コトー診療所』まで愛読しておるわい。
しかし、あのWebアニメのピノコは……ピノコは……
まさにアッチョンブリケじゃったのぅ……」
エーリヒには、並べられた単語の意味は解らなかった。
しかし、魔屈堂の自信漲る様子を見て、「大丈夫であろう」と判断した。
……単語の意味が解っていれば別の判断を下しただろうが。
「それではヘル野武彦、君は薬品を頼む。私は医療器具を手に入れてくる」
「了解した」
老成した男たちはてきぱきと持ち場に向かった―――いや、向かいかけた、その時。
「きゃああああああ!!」
2階から悲鳴が響いた。
「む、絹を裂くよな乙女の悲鳴!!ゆくぞ、エーリヒ殿!!」
「うむ」
言葉を交わす前に、体は動いていた。
>108
アインは床に耳を押し当てていた。
侵入者の声と足音を聞くために。
(男が2人……一人は……歩くリズムが一定している。
それにあの足音の響きは特殊な軍用靴の響き。戦いのプロのようね。
もう一人は……体力には自信のある素人といったところかしら。)
(……どうやら薬品を探しに来たようね。ならば、2階まで上がってくることはない。)
分析の結果そう判断し、顔を上げた、その時。
―――遙と目が合った。
(いつの間に目覚めたの?)
数秒、無言のまま見詰め合っていた2人だったが、根負けした遙が目線を下の方に逸らす。
アインの手にしっかりと握られた、スペツナズナイフがあった。
グレンの触手を切り裂き、その血液を生々しくこびりつかせたナイフが。
「きゃああああああ!!」
遙は恐怖の余り絶叫すると、一目散に病室の出口へと駆け出す。
「待ちなさい」
素早く立ち上がったアインは、廊下に出てすぐのところで遙を捕まえると同時に、
(いまの声は階下の2人組みにも聞こえたはず。逃げてくれればよし。そうでなければ……)
ナイフを逆手に持ち替えた。
「いやっ、やだっ、やめて、殺さないで、助けて!!」
「おちつけ。私は危害を加えるものではない」
鼻をつんとつく刺激臭が漂い、アインの足先に生暖かい感触が。
―――遙は恐怖の余り失禁していた。
「いやっ、やだっ、やめて、殺さないで、助けて!!」
恐慌状態の遙に、アインの言葉は届いていない。
そこへ、バタバタバタと、階段の方角から2つの足音。
(向かってきたか……早いな)
とす。
遙に軽く当身を食らわす―――始まろうとしている戦いに巻き込まないために。
「う……」
一瞬にしてがくりと崩折れる遙。
「くうっ!!間に合わなんだか……」
階段を上りきった魔屈堂とエーリヒが目撃したのは、まさにその瞬間だった。
「あきらめるな。気絶しただけかも知れん。とにかく倒れた少女の身柄確保を第一義に。」
エーリヒは感情的になりつつある魔屈堂を冷静にたしなめ、銃を構える。
―――アインとの距離、約10M。廊下の幅、約2M。
(この2人、この少女を助けようとしている?)
アインは2人の会話を聞いて、思案する。
―――和解可能。
判断を下したアインの判断は迅速だった。
からん。
唯一の武器であるスペツナズ・ナイフを、床に放り投げる。
そして、両手を上に。
「私に戦意はない。誤解が重なっただけ」
「なぜ、その少女に危害を加えた?」
「錯乱したから、気絶させた。怪我はない」
必要な言葉を、装飾なく、鋭角に伝える。
魔屈堂とエーリヒは、アインの態度と言葉、何よりも眼差しの真摯さを信じ、戦闘体勢を解いた。
「和解? くっ……」
戦闘の末の漁夫の利を狙っていた琢麿呂にとって、この展開は誤算だった。
彼が身を潜めているのは西側の階段。
魔屈堂たちとは正反対の位置にいる。
「ならば、ヤツらがこちらの存在に気がつかないうちに、病院から抜け出すか」
そう思い、そっと階段を2段ほど下ったとき、ふと琢麿呂は思い立った。
戦闘を誘発する妙案を。
それは彼の身もある程度危うくするが、たった一人しか生き残ることのできないゲームで、
強い敵を叩ける時に叩いておかないことは愚かだと、琢麿呂は判断する。
次にファントムに出会ったとき、今より有利な状況だとは限らない。
「……やるか」
アインと魔屈堂たちの距離が詰まるのをじっと待つ。
6M―――5M―――
―――4M。
「……このあたりだな。」
琢麿呂は勢い良く廊下へと飛び出した。
「ひっかかったな、バカめ!!」
琢麿呂は叫びと共にCOLT .45を連射。
ダン!!
ダン!!
1発目は見事、魔屈堂の左肩を撃ち抜いたが、
2発目はその反動で狙いがぶれたため、天井にぶち当たる。
「ぐむっ!!」衝撃で後ろへと倒れこむ魔屈堂。
「……謀ったのか!!」銃を構えなおすエーリヒ。
「……え?」銃声に目覚めた遙。
そして。
「……。」無駄のない動作で、素早くナイフを拾うアイン
それを見た琢麿呂は、作戦の成功を確信する。
「ファントム、さっさと逃げるぞ!!」
駄目押しの一言を残し、琢麿呂は階段に向かい、駆ける。
↓
【所持武器:琢麿呂(COLT.45 M1911A1 コンバットコマンダー:残弾4)と判明】
※コンバットコマンダー = 抜き撃ちのために重心を短くしたモデル
【現在位置:病院2F階段〜廊下】
>204
「糞、失敗だったか!!」
階段を駆け下りながら琢磨呂は毒づく。
脱出の時間は稼げたもののその後は女性の悲鳴が聞こえた後は銃声も怒号も
聞こえてはこない。
代わりに歌声ともなんとも言えないダミ声が聞こえてくるだけである。
揃いに揃って音痴コーラスか、おめでてーな。
そんなことを考えながらも出口に向かって突っ走る。
琢摩呂のアイデアは間違った物ではなかったが
いかんせん相手が悪かったとしか良いようがない。
あの場所にいた4人の内3人は物事に対して冷静な対処が出来る人間であったし
更に二人は琢摩呂以上の人生経験を積んでいた。
「まあいい、今はこの場を離れることが出来れば……うわッ!!」
どんっ
正面にふりむいた瞬間琢摩呂は何かとぶつかり尻餅をついた。
しかし、それでも冷静さをすぐに取り戻したのは彼が優秀な探偵故か。
ダン!ダン!
彼はそのまま正面の何かに向けて立て続けに引き金を引いた
上の>204は>205の間違い。
>206
(一体今のは何だったの!!)
シャロンは茂みに身を隠し相手の出方をうかがう。
少し前に城塞のような建造物(彼女は病院という物を知らなかった)の中から
小さな爆発音らしき音が聞こえてきたので侵入しようとしたときいきなり
建物から飛び出してきた男と鉢合わせになったのだ。
彼女の方は幸い尻餅をつくこともなく体勢を立て直していた。
だが、男の正体を確認しようとした時、男が手に持っていた筒からあの音とともに
火花と何かが飛び出してきたのだ。
「あれが何かは分からないけど飛び道具というのは確かみたいね」
彼女は支給品の日本刀でマントを切り取って作った包帯を巻きながら考える。
先の銃撃で彼女は左の太股に弾丸を受けていた。
直撃ではないが弾丸が肉をえぐり取ったため傷が痛む。
それでも彼女は闇の一族の戦士として光の一族との戦いの最前線にいた
歴戦の勇者とも言うべき存在である。
すぐに現状を把握し最善の戦闘方法を割り出す。
これ以上の距離をとるのは不利。
相手の飛び道具を避けて懐に飛び込むしかない。
それが彼女の出した結論だった。
>207
(心許ない。 残りは2発か)
銃を構え直し琢摩呂もまた茂みに飛び込んだ相手の出方をうかがっていた。
あの時銃のマズルフラッシュで相手が女であることを確認していた琢磨呂だったが
肝心なことを忘れていた。
予備の弾丸をバッグの中に入れっぱなしにしていたのである。
バッグは手元にあるがそのジッパーは閉じられている。
相手の出方も武器も分からない状況ではチンタラ弾丸を取り出す訳には行かない。
バッグのジッパーを開き弾丸を取り出している内に相手が突っ込んできたら
目も当てれられない。
(どうする? このまま突破を図るか?それとも相手の出方を待つか?)
刻一刻と時間が過ぎていく。
どうやら既に上の騒ぎは収束したらしい。彼等が降りてきたら挟み撃ちだ。
ならば、突破しかない。
残り二発の弾丸を威嚇に使いその間に安全圏に逃げる。
そう結論を出した琢磨呂はCOLT.45 をにぎり直すと一気に駆け出した。
「こっちへ来る?! まさか!」
シャロンにとって琢磨呂の行動は以外だった。
相手が飛び道具を使う以上リーチの長さを利用して動かないと彼女は判断していたので
琢磨呂の行動に驚かされたのである。
しかし、相手から自分との距離を詰めるのは都合がいい。
すぐに彼女は茂みから飛び出すと琢磨呂に向かって日本刀を振り上げた。
「くっ!」
その奇襲を予期していたのか琢磨呂はバッグをシャロンに向かって投げつけ
彼女の胸に向かって発砲する。
ダンッ!!
しかし弾丸はシャロンの身につけていた金属製の胸当てに弾かれてしまう。
それでもシャロンがその一発でよろめいたのを見逃さず琢磨呂は再び引き金を
今度は脳天に向けて放とうとする。
ガジャッ!!
しかし、弾丸は発射されず銃はスライドしたまま動かなくなる。
「ジャムっただと!!」
薬きょうが排莢口に引っかかってしまったのだ。
その間に体勢を立て直したシャロンが斬りかかってくる。
琢磨呂もCOLT.45 でシャロンの斬撃を受け止め距離が詰まった所で彼女左足を
蹴り付ける。
「くうっ!!」
撃たれた部位を蹴り付けられたシャロンは思わず膝を突く。
ドガッボゴッ!
そこに琢磨呂のパンチが立て続けにたたき込まれる。
しかし、シャロンもバックステップで後退すると刀を構え直し突きを繰り出す。
グサッ
「グアアアッ!」
その一撃は琢磨呂の左脇腹にヒットした。
琢磨呂はそのまま苦痛に耐えられず倒れ込む。
「ハァ……ハァ……やった、の?」
殴打された顔面を押さえながらシャロンは琢磨呂を見てそうつぶやいた。
↓
【No.39 シャロン】
【所持武器:日本刀】
【現在位置:病院中庭】
【スタンス:脱出、やる気にはなり切れていない】
(1日目 5:36)
星川の首輪を通じて、双葉の首輪の破壊を知った主催者は、
即座に星川に罰を下すことを決定した。
それは罰というより、これ以上首輪を破壊されないための自衛手段だった。
首輪から彼の体内に、極小の異物が進入する。
麻酔物質にコーティングされたそれは、細胞の隙間を縫って上昇。
ほとんど体を傷つけずに右目の視神経まで到達。
束状に絡まる数多くの細胞、その数本だけを、異物は鮮やかに断ち切った。
さぱっ。
「ん……」
軽い立ちくらみを覚えた星川は、こめかみに手を当て、溜息を漏らす。
「どうかした?」
「ん〜、双葉ちゃんの可愛さにね、ちょっとクラっときただけ」
「バ、バカなこと言ってないで。先を急ぐわよ」
星川は、自分の体の異変に気がつかなかった。
「目貫」の核となる視力。
その左右のバランスを崩され、正確な「目貫」が使えなくなったことに。
↓
【No.18 星川翼】
【能力制限:目貫の精密度低下。首輪の破壊が不可に】
>180
(1日目 5:48)
その男は、恰幅が良かった。
より正しく表現するなら、丸々と肥えていた。
てゆーか百貫デヴ。
まさに白豚。
……だが、感覚の鋭敏なキミになら、その滑稽な外見にそぐわない威圧感を、
不遜に歪んだ表情から読み取れるはずだ。
ただの豚ではない、と。
高町恭也と篠原秋穂は、東の森の中央に位置する開けた場所でそんな男に遭遇した。
37番 猪乃健。
かつてワープ番長と恐れられた男。
「俺達に戦う気はありません」
恭也が話し掛けると、ワープ番長は警戒の色を緩めず、こう答えた。
「ボクは、キミたち次第だ」
彼は続ける。
「ボクはね。気の合う仲間なら、大切にしたいと思っているんだ。
過去にとても大事な友達だと思っていたヤツにね、裏切られたことがあってね。
……タライで島流しされたんだ。
その失敗以降、ボクは人を軽々しく信用すべきではないと思っている」
「そうですか……では、どうしたら信用してもらえるのですか?」
「たとえばね。AM3:00。ボクは、徹夜で仕事をしている途中で腹が減って、
コンビニへ夜食を買いに自転車を走らせたんだ」
「??」
突飛な例えに、首をひねる恭也と秋穂。
「その時、なにげなく夜空を見上げたら、そこには一面の流星雨……
ぼくはその美しさに心震わす。
そして思う。この感動は独占してはいけないと。友と分かち合うべきものだと」
恭也はその情景を想像する。
深遠な宇宙と、煌く星々が織り成す壮大なファンタジー。
美由紀、なのは、フィアッセ……皆目を輝かせて喜ぶだろう。
「だからね、ボクはコンビニ前の公衆電話から、君に電話したんだ。
『寝てる場合じゃない、今すぐ起きて、空を見上げるんだ』とね。
さあ、君はどう答える?」
「ありがとう。俺もさっそく友人や家族に伝えるよ……ですね」
「それだ!」
ワープ番長は指をパチンと鳴らし、嬉しげに頷く。
「その気持ちが大切なんだ、キミ。
つまり、信頼とは―――互いの感性を共有できるかということ。
嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは共に泣く。
心の一体感こそが、信頼感なんだ」
恭也はその言葉に深く感動すると同時に、外見だけで猪乃に警戒心を持ってしまった自分を恥じた。
この人とならやってゆける。
「猪乃さん。あなたは正しい。是非俺たちと……」
「ちょっと待って」
……行動を共にして欲しい。
そういいかけた恭也の言葉を、秋穂が遮る。
「ちょっと結論を出すのを待ってくれないかな、恭也くん。
私も1つ、聞いてみたいことがあるの」
「健くん……っていったわね。きみが嫌いなものって何?」
「SCEだ」
即答する。
「ヤツラは記号論者だ。拝金主義者だ。ゲームの文化性を認めず玩具の括りに従属させる白痴共だ」
いまいましげに吠える。
「じゃあ、私もたとえ話をするわね。
あなたの友達がね、SCEの人とも仲良くしているの。」
「ありえない」
「その友達は君にこう言うの。
『猪乃、視野を広く持とう。SCEと仲良くすることは、君のためになる』」
「そんなことはいわない」
「心の底から君の為を思っての発言よ?」
「ボクの心を知る者が、ボクを不快にさせるわけがない。
キミはボクを怒らせたいのか?」
「わかったわ。あなたはこう考えているのね?
仲間はあなたの考え全てを否定しない。仲間はあなたの言うことを何でも聞く。
仲間はあなたを不快にさせない。そういう存在を指すのだと」
秋穂が言葉を紡ぐたび、猪乃の白い顔は、どんどん紅潮してゆく。
「猪乃くん。私たちはね、それを仲間とは呼ばないの」
秋穂は恭也に小太刀を手渡しながら、言った。
「奴隷って呼ぶのよ」
「キミはボクの仲間たり得ない。仲間でないものとは何か?
それは敵だ、エネミーだ!!」
ワープ番長はそう叫ぶと、秋穂に向けて突っ込んで来た。
「早い!!」
恭也は決して油断していたわけではなかった。
―――相撲太り。
あの志望の下には、相当な筋肉が発達しているはず。
そこまでは解っていた。
だが、これほどまでのスピードが出るとは誤算だった。
「エネミーはいらない!!エネミーは排除する!!
つまり!!エネミー・ゼロだ!!」
秋穂に向かって失踪するワープ番長の前に身を差し込む恭也。
ドドドドドドドド!!
ラッシュを、左腕と右足でそれぞれ受け止める。
「あれ?恭也くん、猪乃くんどこへ行っちゃったの?」
「ねえ、恭也くん。こっちを向いてよ!」
「恭也君ってば!!もしかして怒ってるの?私が猪乃くんを挑発したから?」
「ねぇねぇ、無視しないでよ……。」
猪乃健。
彼が、何故ワープ番長と呼ばれるのか。
それは、常人が目視できないほどのスピードで移動できるからである。
「ワープ」したとしか思えないほどの。
そして、その攻撃を防御しきる恭也もまた、超人的といえた。
常人の秋穂は、今目の前で死闘が繰り広げられていることに気付かなかったのだ。
(ちょっと風が強くなってきたかな?)
そう感じる程度で。
戦いは続く。
ヒット&アウェイを繰り返し、恭也に攻撃させる隙を見せないワープ番長。
しかし、全ての攻撃は防御か回避している恭也のダメージも皆無といってよい。
2人がその気なら、いつまでもそうしていられそうだった。
しかし。
(このまま手を出せないでいると、俺の足に限界がやってくる……
かといって、秋穂さんに手を出させないためには、
俺が全ての攻撃を受けるしかなく……攻撃に転じる暇はない)
(どうする……秘奥義を出すしかないのか?
しかし、あれは手加減できないぞ。
重症を……当たり所によっては致命傷を与えてしまう……)
その思考が、スキを生んだ。
ワープ番長は2つほどのフェィントを重ね恭也を巻き、
背後で守られていた秋穂に向かって再突撃をかけた。
何が起きているのかわからない秋穂は、恭也に無視されたと思い込み、
ぷうとそっぽを向いてしゃがみ込んでいる。
―――守るべきものが、襲われようとしている。
もう、恭也に遠慮は無かった。
小
太
刀
神 御二
神刀
流
速 秘
奥
義
!
ワープ番長は、自分の真横に突如出現した恭也の姿に驚愕した。
自分を上回るスピードで、小太刀が振り下ろされる。
このままでは右鎖骨を、肩甲骨を確実に折られてしまう。
もしかしたら、肺まで潰されるかも知れない。
「ひ!」
既にかわしようが無くても、体は無意識の回避行為を取る。
(頼む、死なないでくれ。)
それは恭也の優しさの表れわれでもあったが……
同時に、必ず命中すると、絶対に自信を持っているからこその思いでもあった。
しかし。
ぶおん!!
刀を振り下ろし切ったとき、ワープ番長の姿はそこに無かった。
彼はそのすぐ脇に、立っていたのだ。
「な―――」
恭也には信じられなかった。
自分の剣筋は完全に彼の肩口を捉えていたはず。
ならば。
(神速を避けたというのか!!)
満を持して放った神速がかわされる……
それは恭也にとっての拠り所、御神流の敗北を意味していた。
がくり。
膝から崩折れる恭也。
「恭也くん!?」
「避けた……避けたぞ。ボクは。あの神のような速度の斬撃を!!」
どうやって避けたのかは彼自身にも定かでない。
しかし、極限状態に追い詰められたヒーローが新たな力に覚醒することは、
ある意味お約束といえばお約束。
ヒーローの器でないにもかかわらず、ワープ番長はそう結論付けた。
「猪……猪乃くん!? あなた、いつの間に……」
狼狽する秋穂を無視して、高揚した声で恭也に語りかけるワープ番長。
「キミは弱い。ボクには勝てない。脅威ですらない。
パワーアップしたこの猪乃健の、足元にも及ばない!!」
「……」
「だから、ここは見逃してあげよう。どこへなりとも失せるといいよ。
ボクは武士の情けを知る者だからね」
「……」
「さて、ボクはそろそろ行こう。ボクの仲間を見つけるためにね。
そして、あのいまいましい主催者を倒すためにね」
そう言い残し、ワープ番長は森の奥へ姿を消した。
「なに、あれは。ねえ、恭也……
くん……?」
恭也は膝をついたまま、微動だにしなかった。
―――ワープ番長はまだ気付いていなかった。
彼が「神速」からの攻撃を回避できたのは、所持アイテムによる恩恵だったということを。
『素早い変な虫』―――回避力を大幅に上昇させるアイテムの力で、辛くもピンチを逃れただけだと。
↓
【No.37 ワープ番長】
【所持武器:素早い変な虫(の死体)】
【現在位置:学校北の森から西へ】
【スタンス:仲間を集めて主催者打倒。ただし彼の「仲間」観は上述の通り】
>217
(一日目 4:10)
アインの後方から、目の前の老人に向けて銃弾が放たれ、
撃った男が自分の通り名を叫んでから、きっかりコンマ5秒。
撃たれた男が肩口を押さえて後ろ向けにのけぞり、
その連れの軍服の老人が見たことももない銃を反射的に構える。
アインは、状況を冷静に判断して、目の前の2人との関係の修復は
困難であると結論づけた。
罠に嵌った。それは仕方がない。ならば、現状を打開すべし。
ここまでを咄嗟に判断すると、落としたスペツナズ・ナイフを拾い上げ、
前方に跳躍する。
相手の武器は銃。ならば、距離を詰めるしかない。
一撃で首根っこを掻き切れば、こちらの勝ちだ。
エーリヒは、心の中で舌打ちしつつ、仲間の魔屈堂を守る為に手元の銃を
構えざるの得なかった。
後ろから射撃した男が、目の前の少女を罠にかけた。
それは、少女が後方ではなく前方に跳躍した時点でわかった。
しかし、こうなってはもはや、互いの関係を修復することは困難だ。
であれば、殺すしかない。
エーリヒは、手元の銃の原理はわかっていなかった。
だが、その性能だけは信じるに足るものだと思っていた。
このの銃を魔屈堂の目の前で試射したところ、何の反動も音もせず、
目の前がチカっと光り、次いで標的とした木に親指の先くらいの穴が開いた。
何かがこの銃の先端から発射され、木を貫通したのだ。
だが、それが何であるのか、エーリヒにはさっぱりわからない。
魔屈堂はそれをレーザーガンであると結論づけた。
レーザーガンがどういったものであるか、エーリヒも知ってはいた。
キャプテン・フューチャーのようなパルプ・フィクションのヒーローが使う、
空想上の兵器だ。
だが魔屈堂は、自分の生きていた時代にはレーザーガンが実用化されている、
と自信を持っていった。
ならばそうなのだろう、とエーリヒは思った。
もっとも魔屈堂が、自分が生きていた世界についてもうちょっと詳しく説明すれば、
エーリヒも考えを変えたかもしれない。
巨大ロボットを操縦するヒーローがいて、宇宙から攻めてくる異星人がいる、
まさしく出来の悪いパルプ・フィクションの世界。
それこそが、魔屈堂の住んでいた世界なのだから。
そんなことは知らないからこそ、エーリヒは自信を持ってレーザーガンの性能を信じた。
目覚めて、おろおろしている少女を射線から外しつつ、引き金に手をかける。
しかし、その銃口から必殺のレーザーは発射されなかった。
いつの間にか起き上がった魔屈堂が、エーリヒの右腕をつかんでいたからである。
魔屈堂は、現場で動く者たちの誰も知らない、知るはずもない能力を保有していた。
彼は、今こそその力を使うべきだと判断する。
自分が撃たれたことにより、取り返しのつかない誤解が生じている。それは、
後ろに倒れながらも悟っていた。
ならば、ヒーローとしてやるべきことはひとつ。双方を和解させるのだ。
焼けつくような左肩をかばいながら、奥歯に力を入れる。
カチッ、と装置にスイッチが入った。
急に周囲が、自分以外の全員がスローモーションのように動きを遅くする。
いや、魔屈堂の動きが、認識速度が、とてつもなく速くなっただけである。
加速装置。それが、魔屈堂の秘密兵器だった。
サイボーグ戦士に憧れ、正義のバッタ型改造人間に憧れたオタクが辿りついた、
人体改造の究極である。
加速装置を発動させた魔屈堂は、左肩の痛みを極力無視して、
左腕でエーリヒの右腕をつかむ。
そのままの勢いでエーリヒとアインの間に滑り込み、紙一重、
ナイフがエーリヒの喉笛に到達する直前に右腕で、アインのナイフを持つ腕をがっしりと受け止めた。
「なっ」
「お前!」
両者、共に驚愕の声を上げる。
2人に、そして傍から見ていた遥にとっては、一瞬魔屈堂が消えたように見えたことだろう。
魔屈堂は、一流の暗殺者すら目で追いきれぬ、気配さえ感じられぬスピードで動いた。
だが、そうと気づくには、皆己の常識に頼りすぎていた。
「……ぶ風がよく似合うぅ」
呟くような、声。
まだお互いに攻撃態勢を解いていない2人の間で、呟く声。
「…人の戦士と、人のいうぅ」
魔屈堂が、歌っていた。
「だが我々は、愛のため。戦い忘れたぁ人のためぇ」
ただ一人朗々と、歌い上げていた。
「涙で渡る血の大ー河。夢みて走る死の荒ー野」
魔屈堂は、キッと2人を睨みつけると、身体を引く。
「さあ」
そういって、呆然とする遥の方を向き、ニヤっと白い歯を見せた。
「え、え」
遥は、その魔屈堂のスマイルが、自分に向けたサインだと勘違いした。
実際のところ、魔屈堂はただ「画面に向かってポーズを取った」だけであり、
端的にいうならばカッコつけてみただけにすぎない。
だが遥にはアニメーションやコミックのお約束など知らなかった。
ましてや、それをリアルで実行する人間がいようとは、想像の外だった。
「え、えと、その」
だから、遥はこう思ったのだ。
次は、自分が何か歌え。あの老人は、そういっているのだと。
慌てた。もとより、人見知りが激しく、童話が好きな以外に何の取り柄もない少女である。
国語の授業が頭の中を駆け巡る。
昔、恋文として和歌を送られた女性は、下の句を返歌として文を返したという。
いや、それは何の関係もない。今老人が歌っていた歌は、アニメか何かの歌だ。
「ぽ、ぽ」
「ぽ?」
おうむ返しに、魔屈堂が尋ねる。
カッと身体中が火照った。
「ぽっぽっぽー、はとぽっぽー」
遥は、歌った。力強く、朗々と。
「まーめが欲しいかそらやるぞー」
ゆっくりと、力一杯。お腹に力を入れて、肺から空気を搾り出すようにして。
歌い終わって、改めて冷静にまわりを観察すると、全員が武器を下ろしていた。
「え、えと。次、おじさんです」
「わ、ワシか?」
遥に指名されて、慌てるエーリヒ。
そのとき、ドサっと音がして、傍らの魔屈堂が今度こそ床に倒れ伏した。
「い、いけない。血、血、ほーたい!」
一旦は落ちついた場が、再び騒がしくなった。
(一日目 4:30)
もとよりそれが利点でこの場に立て篭もることを選んだとはいえ、
ここが病院であるのは僥倖という他ない。
「よし、銃弾は上手く貫通している。止血はした。あとはしばらく休んでいれば大丈夫だろう」
そういって、魔屈堂の包帯を巻き終わったアインは、エーリヒと遥に向き直った。
エーリヒも軍人としてそれなりの治療訓練は受けていたが、現代医療には無知であった。
そういうわけで、魔屈堂の治療はアインが行うことになったのだ。
「よかったぁ」
「それと、お前」
アインは、遥に向き直って事務的な口調で告げる。
「パンツの換えだ。履き替えて来た方がいいと思う」
「え、え」
遥は、先ほど失禁したまま、すっかり忘れていたことに気づいた。
↓
【グループ:アイン、遥、魔屈堂、エーリヒ】
【所持武器:アイン(スペツナズ・ナイフ)、遥(不明)、
魔屈堂(チョーク)、エーリヒ(レーザーガン)】
【現在位置:病院】
【スタンス:状況を把握し、資材を収集し、人命救助及び
可能ならば主催者を打倒する】
>231
(1日目 5:50)
鬼作2
鬼作は、目の前を行く人物に置いていかれないよう、足早に後をつける。
その人物こそ、先ほど鬼作が「利用するに足る」と判断した人物だった。
(ククク……コイツを篭絡しちまえばよぉ、勝ったも同然だぜぇ……)
鬼作は用意したノートに、ミミズの這ったような汚い字を記す。
首輪は盗聴器だ。声を出すな。
……実のところ、首輪に盗聴器の役割があるのかどうか、彼は知らない。
(まぁ、こうしたほうが信憑性ありそうだって感じるよなぁ……
おいおい、おれは、とんだ策士じゃねぇか。)
そしてもう一行。
「その人物」を篭絡するための文字を記して、しばし瞑目する。
……足の震えを感じる。
(怖い)
鬼作は臭作の死体を思い浮かべてしまい、震えが全身に伝染してゆくのを感じた。
(やっぱり、こいつの相手ぁ、おれじゃあ役不足なんじゃねぇか?)
踵を返して、相応の人物を探す。
そのほうが危険がないのでは?
しかし、それでは、「勝ち残る」確立が下がってしまう。
強いヤツ。
その条件だけは、譲れない。
(ここは引けねぇ。勝負どころだ。)
鬼作は深呼吸し意を決すると、ノートの文字を指差しながら、その人物に声をかけた。
「よぉ……耳寄りな話があるんだがねぇ?」
(1日目 5:30)
>180
時は20分ほど遡り……
ナミは、またしても物騒な武器を手に入れていた。
千鶴のデイバッグから入手した手榴弾(×3)だ。
今、ナミは山の麓に位置する火成岩ばかりの荒れ野で、50Mほど先を歩いている男・広田寛に、
それを使用するところだった。
ピンを抜き、狙いをやや対象の手前に設定して放り投げる。
ひゅるるるるる……
広田は、ふらりとよろめいた。
それから遅れること0.3秒後、ナミが投じた手榴弾が、彼の4M手前で爆発する。
轟く爆音と渦巻く炎、舞い上がる白煙。
泥土や削岩が機関銃のように飛び散り、広田を無数の肉片へと分解した。
……しかしナミは、その爆発を確認することなく、
0.3秒前の映像のリプレイを、コマ送りで脳内解析していた。
その奥のほうに、なにやら小さなノイズが発生している。
(爆発前によろめいていたのは、このノイズと関係しているのでしょうか?)
command:画像拡大。
command:画像拡大。
command:画像拡大。
command:ジャギ処理。
command:色調補正。
…………。
100を超えるプロセスを2秒ほどでこなし、
ノイズ部分の画像を信用度93%の確立で導き出した結論は以下のようなものだった。
*対象者の北西4Mほどの岩陰に潜んでいる男が投じた何か(その何かの解析は不能だったが)が
*対象者の身体を貫通し、手榴弾が爆発するより先に、対象者を絶命させた。
銃器やそれに類する道具でこの結果ならば納得である。
しかし、ズームアップされた画像に映る眼鏡の男は、明らかに素手でその何かを投じていたのだ。
昨日までのナミの中枢コンならば、解析エラーを返したであろう。
しかし、2時間ほど前の死闘で、ナミの人工知能はいやというほど学習していたのだ。
UNKNOWNで、脅威クラスS級のヒト型生命体が存在することを。
「この島は、本当に、信じられないことだらけですよ、ご主人様。」
メッセージを送りながら、手榴弾のピンを抜いたナミは、それを岩陰の男に向かい、投じた。
>159
「悪く思わないで…なんて言えないよね…」
自分が投じた小石が広田の胸部を貫いたのを確認し、アズライトは悲しげに呟いた。
そして目を閉じる。
人を殺めた後に自分を責める、自虐的な贖罪―――その時。
どぉぉぉおおおん!!
大地を揺るがす振動と爆音が、アズライトを襲った。
あわてて目を開けると、多数の石片や土くれが四方八方に乱舞している。
「つ!!」
白煙が彼の視界を奪ったため、通常なら難なく避けることの出来るそれらが、次々と直撃する。
常人ならばそれだけで絶命するであろう勢いと量で。
だが、その力を自ら封印してるにしろ、彼は闇のデアボリカだ。
ナミや千鶴には及ばぬものの、一般人とはケタの違う防御力を持っている。
8M先で起きた爆発で飛んでくる火成岩のかけら程度では、皮膚を切り裂けても筋肉までは貫けない。
(何が起こったの?)
アズライトは未だ晴れぬ煙に目を凝らすが、何も見えない。
(爆発が起きたのは間違いない。でも、どうして?)
状況の把握が出来ないまま、皮膚に突き刺さった小石を払い落とすアズライト。
そこに、少し大きめの何か飛来する。
ぱしっ。
反射的に払い除けたそれは、ただの石では無かった。
閃光。
「え?」
―――そして爆音。
爆発を確認すると同時に、ナミは攻撃対象に向けて移動を開始。
それと同時に動体センサーを前方60Mまでの扇状の範囲にかける。
「やっぱり、生きていましたか」
爆心地から3Mほどの地点に、アズライトの存在を確認する。
彼は南へ向かって走っている様子だ。
煙の中からの脱出を図っているのだろう。
(残念ですね……煙の中でしたら、各種センサーのあるナミに有利な状況でしたのに)
ナミもまた、彼を追って、南へと走る。
そこに、男がいた。
全裸に近い格好で、
チリチリに焼け焦げた長髪で、
顔の右半分を真っ赤に火ぶくれさせて、
二の腕から先の右腕を失って、
それでも、苦痛をその面に表さない涼やかな男が、戦闘体勢で待ち構えていた。
シュタッ……
「ごめんね……遠慮はしないよ」
アズライトはナミに向かい、地を蹴る。
こうして、第二ラウンドが開始された。
「僕は、死ねない。レティシアに会うまで。この胸に再び抱きしめるまで!」
アズライトが、そう言いながら飛燕の蹴りを繰り出せば、
「ナミだって、ご主人様の元へ帰るんです!!
ご飯を作ったり、お掃除をしたり、お洗濯をしたりするんです!!」
なみは、右手チェーンソーの裂魄の薙ぎで切り返す。
高速移動装置用の冷却タービンが故障しているナミの速度は、
アズライトの半分ほどのしか出せない。
また、爆風によって右腕を失い、上半身に幾つもの火傷を負ったアズライトは、
ナミの半分の手数しか出せない。
お互いが大きなハンデを背負っての戦闘だ。
それでも。
彼らの戦いは軽く人の次元を陵駕している。
身長より高い跳躍。
重力に逆らうような身のこなし。
地響きすら生じさせる踏み込み。
相手を数メートル吹っ飛ばす攻撃。
「君は、愛する者のために、全ての参加者を殺すつもりなの?」
「あたりまえです。ご主人様への想いは、全てのタスクに優先されます。
あなたもそうなのでしょう?
ナミには分かります。
どれだけの人の想いを、夢を、希望を踏みにじることも、
恋人の為ならば厭わないのですね?」
「呪詛と怨嗟でこの身が朽ち果てても。
何度別れ、何十度すれ違い、何百年過ぎようとも。
ぼくはレティシアだけを想い、追い続ける。」
2人は思いの丈を言の葉に乗せながら戦う。
今、2人は敵であると共に、理解者にもなりつつあった。
「ぼくたちは、ギリギリまで協力することが可能ではないですか?」
アズライトは振り上げた拳を下ろし、そう提案した。
「このまま戦い続ければ、どちらが生き残ったとしても、大きなダメージを負うよね。
生き延びるために戦う者が、目先の勝利の為に消耗することは本末転倒だと思う」
「なるほど……ナミとあなたで殺し合うよりも、
その分のエネルギーと時間を他人に向けたほうが効率よく参加者を減らせる。
決着は最後につけよう。そういう考え方ですね。」
「冷たい言い方をすると……そうなるね」
自嘲するアズライト。
「合理的な判断です。ナミもその意見に賛成します」
ナミもまた、チェーンソーを下ろした。
「ナミはタイムリミットを迎えるその直前まで、あなたに攻撃的行動をとりません。
お互い効率よく参加者を殺害してゆきましょう」
「効率よく殺害、か……ぼくも君ほど割り切ることが出来たらよかったのにな」
アズライトは深く、溜息をつく。
―――この盟約を以ってして、今大会の二大災厄、アズライトとナミの戦いは終わった。
兄・遺作に見切りをつけ、山の方角を目指していた鬼作は、
近くに生えていた広葉樹の低木に姿を隠し、
その壮絶な第二ラウンドの一部始終を観察していた。
(ブルマといい、この2人といい……おれ達みてぇなパンピーじゃ太刀打ちできんぜ。
こりゃあ、遺兄ィに見切りつけて正解だったなぁ、おい。)
鬼作は興奮していた。
握り締めたその両手の爪が掌に突き刺さり、血が流れ出していることにすら気付かないほど。
(レティシア……ご主人様……恋人のため、皆殺し、ギリギリまで協力……)
記憶に残る印象的な単語を頭の中で反芻する。
(ククク……いい、いいじゃねぇか……ぐっとクるじゃねぇか……
残してきたスウィート・ハートに未練タラタラならよぉ、
このおれの懐柔と相性ピッタシカンカンじゃねぇか!!
たまんねぇなぁ、おい)
邪にほくそえむ。
「さようなら。ナミは西の方へ行ってみようと思います」
「じゃあ、僕はこの山の向こうへいってみるよ」
「殺戮、がんばってくださいね」
「……そうだね、迷いは吹っ切らないと」
アズライトとナミはお互い背を向け、それぞれの方向へ向かって歩き出す。
(迷ってる時間はなさそうだ。おれが利用すべきは……どっちだ?)
そして鬼作は、決断した。
↓
【アズライト】
【現在位置:山の麓→北】
【スタンス:最大戦速。ただしナミとは戦わない】
【能力制限:右腕喪失。火傷多数。運動能力低下】
【ナミ】
【現在位置:山の麓→西】
【所持武器:チェーンソー、手榴弾×1】
【スタンス:無差別虐殺。ただしアズライトとは戦わない】
【能力制限:エネルギー切れまで、あと22時間程度】
【能力制限:高速移動不可、防御力若干低下】
【鬼作】
【現在位置:山の麓】
【スタンス:生き残り。アズライトかナミに取り入る。】
35番広田寛 死亡――――――残り35人。
232 :
この闇夜を統べる大魔王アリスちゃんが:01/12/29 12:48 ID:6g6iwsdc
>163
(1日目 4:15)
けらけらけら!!
あー、もー、おっかしくってわらける。
アリスちゃんはおっきな木にぶら下がって、おばかさんの生態観察をしてるとこ。
なにがおばかさんかって?
幻覚見せられてるの気付かないで、マッパでパコパコ腰ふってるんだよ!!
ガハハハ、とか笑いながら。
術かけた女の子、とっくにどっか行っちゃったのに。
あ、今度は騎乗位にとつにゅー?
なによ、その手つきは?
おっぱい揉んでるつもり?
ぷ、
ぷぷぷぷぷ!!
けらけらけらけら!!
むちゃばかい。
おなかよじれすぎ。
これは、はらをかかえなくちゃいかんでしょ〜〜〜〜!!
…………はて。
アリスちゃんは、今なにかとんでもないミスを犯してしまったような?
そうでもないような?
……あ、
アリスちゃんは、木にぶら下がってたんだ。
てーことは、つまり。
「あーーーーーーーーーーっ!!
落ちるーーーーーーーーっ!!」
どしん!!
ひ〜〜〜ん、腰うったぁ〜〜〜!!
腰ってば女の子にとってすんごい大事なとこなのに〜〜〜〜!!
骨盤がずれたらど〜〜してくれるんだ〜〜!!
木のおばか〜〜〜〜〜〜!!
「なんだもう腰を動かすようになったのか!!
お前には素質がある、このランスさまが言うのだから間違いない!!」
……ん〜〜にゃ、ちがうよ。
おばかなのは木じゃなくって、アリスちゃんをわらかした、このエロにいちゃんだ。
エロにいちゃんがアリスちゃんをわらかさなきゃ、落っこちることもなかったし。
ちょっと文句言ってやんないと、おなかがおさまんないぞ、ぷんすか!!
「アリスちゃんはね、はらわたがにぇーくりかえってたりなかったり!!」
「むお、締まる、締まるぞ!!」
「ちょっとエロにいちゃん、アリスちゃんの話をきいてるわけ?」
「うほほほほ〜〜〜〜〜、たまらんぞ〜〜〜〜〜〜〜」
「いくら幻覚見てるからって、闇夜を統べる大魔王アリスちゃんを無視するなんて、
許されないことだぞっ!!」
あったまきた。
これはちょっとおしおきしてやんなきゃ。
おち○ちんひねってやる。
………………。
…………。
………ななななな、何なの?
何のマチガイですかこれわ!?
なんで、おち○ちんこんなにでっかいの!?
……ごくり。
ちょっとさわってみたりして。
ちょん。
ちょっと握ってみたりして。
ぎゅむ。
ちょーぜつ硬いよ!!
白人のクセに、アジア系みたい!!
白人の大きさ + アジア系の硬さ = 女の夢
ちょっとだけ、咥えてみたり、みなかったり。
うわ、熱っ!!
すごい元気に、びくんびくんしてる!!
……てゆうか、おばかさんなのは、エロにいちゃんじゃなくて、あのツンツン姉ちゃんじゃん。
ちょ〜〜〜ぜつすんごいおち○ちんをほっとくなんて。
それに間近で見ると、なんだかこのエロにいちゃん、結構アリスちゃん好みだったり。
やぁああああん、も〜完璧っ!!
じゅんじゅんのじょびじょびになっちゃったよ〜〜〜〜。
ぬぎぬぎ。
よいしょ、よいしょ、と。
いいよね?
だいじょぶだよね?
「それじゃ、いただきま〜〜〜〜〜〜〜〜っす!!」
(1日目 4:58)
ぽよよよ〜〜〜〜ん……
……もう、とにかくすんごかった。
腰抜けそう。
このひとホントに人間なの?ってくらい
突いて、突いて、突いて、突いて、体位変えて、
突いて、突いて、突いて、突いて、体位変えて、
突いて、突いて、突いて、突いて、体位変えて、
熱いどろどろをアリスちゃんのお口のがいっぱいいっぱいになるくらい出した。
このエロにいちゃんは飽きるまで手離せないわね。
胸板だってガチガチのばんばんだし。
すりすり。
ちゅっちゅっ。
ん〜〜〜〜〜〜、オトコってかんじ!!
「む…… ふわ〜〜〜ぁあ……」
「ん、どおしたの?
もしかして幻覚から醒めた?
おかえり〜〜〜〜〜!!」
「がはははは、うむ、お前は実によかったぞ。」
「うん、アリスちゃんもちょ〜ぜつ大満足だよ♪」
「そのちっちゃ胸が……
ちっちゃな……」
「ぷんすか!
しっつれえしちゃうなぁ、アリスちゃんのおっぱいはほーまんだよ?」
「……お前、誰だ?」
「アリスちゃんだけど、何か?」
「何かって……あれ?
俺様は紫の髪の毛のナマイキ女とズコバコ……あれ?
じゃあ、アイツは?」
「どっか行った」
「お前は?」
「アリスちゃんだよ」
「なんでここにいるんだ?」
「おち○ちんがすごかったから」
「……うーむ」
「こまかいことは気にしてもキリがあったりなかったり。
アリスちゃんは超絶よかった。
エロにいちゃんも大満足。
何か問題ある?」
「むぅ……まぁ、無いな。
いい女は自然といい男の元に集まる。
当たり前の話だ。ガハハハ」
「だよね、だよね、そ〜〜〜〜だよね♪
けらけらけら!!」
「ガハハハハ!!」
「けらけらけら!!」
↓
【グループ:ランス、アリスメンディ(+ユリーシャ)】
【所持武器:アリス(不明)】
【現在位置:東の森広場→洞窟】
【スタンス:アリス飽きるまでランスとH】
夢を見ている
ドレス姿のアタシは、真っ白な建物の前に立っている
アタシは泣いていた。
雪の降り続く中、アタシはいつまでも―――
って、なんでこんな板違いの夢を見てるんだ?アタシは。
まどろみの中、アタシは心の中で手をぶんぶん振ってその夢を追い出した。
冗談じゃない。癒されるのは病院で墓場に片足突っ込んでからで充分だ。
正直、気分が悪かった。
嫌な夢を見たからって訳じゃない。発作の「なごり」って奴だ。
全く、天下無敵の常葉愛様がみじめなもんよ。
―――アレ?
そういえばアタシ、なんで発作なんて起こしたんだっけ?
BB団……はこの間アタシが滅ぼしたし。
最近はそこまで暴れた事、無かったんだけどネェ。
それに、アタシが目覚める頃になると来る筈のあゆみも来ない。
どうなってんだ、こりゃ?
えーと、昨夜の記憶を思い出してみよう。
確か昨夜は笑う犬を見てて、内村の熟年主婦のマネが無性にやりたく
なって……どうせならってんでサンシャイン60の外壁駆け上がりを
やったんだ。うん、覚えてる。
それが成功して、屋上で一息ついてたら……急に意識が遠くなって……
……次に気がついた時には暗い建物の中にいて……。
武器渡されて、どうしたもんかと思ってたら……
さおりちゃんと……
しおりちゃんが……
!!?
アタシのアホッ!寝てる場合かッ!?
(一日目 5:47 廃村西の小屋)
「アタシのアホッ!寝てる場合かッ!?」
「わあっ!?」
「きゃんっ!?」
突然叫んで跳ね起きた愛に、ちょうど様子を見ていたさおりとしおりは
揃って驚きの声を上げた。
「お姉ちゃん!」
「もうだいじょうぶなの!?」
「ああ、アタシは平気……アンタ達こそ、大丈夫だったみたいね」
二人に気付いた愛は、安堵の表情で言った。
「うんっ、ちょっと恐かったけど、私がんばったよっ!」
さおりの元気のいい返事に、思わず愛は彼女の頭を撫でる。
「そっか……ありがと(なでなで)」
「えへへっ……それに、クレアお姉ちゃんが助けてくれたの」
「……『クレアお姉ちゃん』?」
聞きなれない名前にきょとんとする愛。横のしおりが続ける。
「実は、お姉ちゃんが起きるのを待ってる間に……さおりが泣き出しちゃって……」
「あーっ!しおりお姉ちゃん、それ言わないでって言ったのにー!」
「ダメよさおり、お姉ちゃんに嘘ついちゃ。……で、それを気付かれちゃって……」
「な……それじゃ!?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん!」
再び語気を荒げる愛を慌ててなだめるしおり。
「クレアお姉ちゃんはすっごく良い人なんだよ。ここにあるものを色々
探してくれたし、お姉ちゃんの看病もしてくれてたの」
「……看病?」
言われてみると、小屋の様子が少し変わっていた。
入った時には真っ暗だった小屋には小さいながらも蝋燭の火が灯され、
まだ夜明け前の室内をぼんやりと照らしている。
しかもご丁寧に外に光が漏れないように、窓には黒布まで付けられていた。
愛自身も、脱がせられない神のブルマーは別として、少し厚手の寝間着
に着替えさせられている。
それに、どこからともなく匂ってくるこの香りは……?
「あ、気付かれたんですね」
その時、小屋の裏口に当る扉が開いた。
エプロンドレスの似合う、栗色の髪の女性が顔を出す。
「……もうすぐ朝食の準備ができますから、少し待ってて下さいね。
裏にまきが残っていたので、火が起こせそうなんです」
「……あー」
その余りに自然な態度に、少し愛は面食らう。
「どうかしましたか?」
「あー、その、何か世話になったみたいね」
「フフッ、お互い様ですよ。私も一人で心細かった口ですから……。
一緒に行動する相手が欲しかったんです」
そう言ってクレアは微笑んだ。
「オートミールは食べられますか?」
「え?あっ、うん」
「良かった……配給された食糧だと、それくらいしか作れないので。
それじゃ、まだ休んでいてください……」
ぱたん。
そう言ってクレアは扉を閉じた。しおりが愛に尋ねる。
「ねっ、良い人でしょ!クレアお姉ちゃん」
「……え?ええ、そうね」
一瞬とまどいながらも、愛はしおりに笑って答えた。
(……あの女、何か一枚持ってそうね……しばらくは様子見かな……)
一方、小屋の裏口では
(……あの双子の娘はともかく、あの娘は勘が良さそうね……)
懐から例の瓶を取りだし、しばし見つめるクレア。
(……さて、今使うか……まだ待つか……?)
↓
【グループ:愛・しおり・さおり・クレア】
【スタンス:個人的には変化無し。
クレアに対しては
しおり・さおり:完全に信用。
愛:まだ疑心。様子見中】
>131 & 234
(1日目 5:39)
「どんどんぴ〜ぴ〜ぱふぱふぱふ〜〜〜〜〜!!
島のあなたは知らないけれど、魔界のみんなは知っている。
闇夜を統べる大魔王・アリスメンディだいとーじょー!」
帰ってきたランスさんの脇には、赤い髪をした女の人がいらっしゃいました。
「他のいい女を、助けにいく。
俺様の愛は、世界中のいい女全てに平等に注がれるのだ」
確かにランスさんはそうおっしゃっていました。
ですから、女の人を連れて帰ってきたことは、不思議でも何でもありません。
でも、その人を見たとき私は―――
どうしてか分かりませんが、少しだけ淋しい気持ちになりました。
「……ユリーシャ。こんなやつだがこいつも俺様の女だ。仲良くしてやれ」
「はい」
「こんなやつってどおゆうこと、ぷんすか!!」
「意味不明な擬音語であいさつをするようなヤツということだ」
「ぜんぜん意味不明じゃないよ?
たいことらっぱと名前知らないやつの音。
ほら、黒いゴムまりに、らっぱの先っちょがついてるやつ。
こんなふーにつまむと、ぱふぱふぱふって」
「……ユリーシャ。俺様は疲れたから、寝ることにする」
「あははははは、そりゃとおぜん。
ランスてばあれからもっかい、ちょ〜〜〜〜ぜつおっきいのでズンズンするんだもん。
わたしのおま○こはあかあかのひりひりだよ!」
え?
ランスさん、この女の人にも、私にしたような、はしたないことをされたのですか?
―――私は、どうしてか分かりませんが、また少し、悲しい気持ちになりました。
「ユリーシャ、お前も疲れてるだろうが、見張りを頼めるか?」
「はい」
「何かあったらすぐ起こせ。
何も無かったら、3時間で起こせ」
「分かりました」
「じゃあアリス。寝るとす」
「おねえさんはわたしより疲れてるよね、ね、ね!?
だからわたし!!
最終見張り兵器ことアリスが、ずずいっと見張りに立ちま〜〜〜〜〜〜す!!」
「却下だ。お前に見張りを任せるのは不安だからな。
ユリーシャが適任だ。」
わたし、頼られているのですか?
「はい、ご期待に添えるよう、努力いたします」
「うむ、良い返事だ。さすがは俺様の女だ。ガハハハ」
そうお笑いになりながら、ランスさんは私の頭をがしがしと撫でられます。
それはとても乱暴で、髪の毛が引っ張られて少し痛かったのですが、
―――それでも私は、なぜか嬉しいと感じました。
「ちょ〜〜〜〜〜ぜつおこれる!!
わたしの視力を見くびらないで欲しいなっ!!」
「……視力じゃない。注意力の問題だ。
お前と会話してるとリアみたいで疲れる。
ほれ、いいからお前も寝ておけ。奥に行くぞ」
「……わかったり……」
「なんだって?」
「…………洞窟、怖かったり怖くなかったり」
「アリス、お前、闇夜を統べる大魔王なんだろうが」
「暗いのとせませまなのとは別だよ〜〜〜。
せませまはすんっっっごい怖いじゃん!!
カベがどんがらがっしゃんってなったらど〜〜〜するよど〜〜〜するよ!?」
「そんなことは滅多に起こらん」
「それわ、めったにはおこらなくてもさ、たまにはおこるってことじゃん?
せめてさ、ダッシュ10秒で出口のとこで寝よ?」
「むう……仕方ない、妥協してやるから黙って寝ろ」
「ね、寝る前にもっかいする?」
「せんわ!!」
(5:55)
ぐご〜〜〜〜、ぐご〜〜〜〜。
すぴ〜〜〜〜、すぴ〜〜〜〜。
すぐにランスさんの鼾とアリスメンディさんの寝息が聞こえてきました。
鼾はとても粗野な感じがして、私は好きではありません。
でも……
…………。
鼾が聞こえなくなると、胸がざわざわするのはなぜでしょう。
ランスさんは、今私のすぐ後ろで寝ていて、どこかに行ってしまった訳ではないのに。
…………。
……ランスさん、ちゃんとそこにいらっしゃいますよね?
…………。
私はランスさんに頼られて見張りをしているのですから、
しっかりとその期待に応えないとなりません。
後ろを振り返って、ランスさんの姿を確認するなんて、してはならないことです。
…………。
ランスさん、おねがい。
鼾をかいてください。
…………。
ランスさん……
「ごめんなさい」
ユリーシャは悪い子です。
胸のざわざわが押さえきれなくなって、後ろを振り返ってしまいました。
……ほっ
ランスさんは私のすぐ後ろで、大の字になってお休みになっていました。
そして、そのすぐ隣に、アリスメンディさん。
ランスさんの左脇の下で丸まって、その胸に頬をすり寄せて、お休みになっていました。
おへそを出して、すぴすぴと。
とても気持ちよさそうに。
幸せそうに。
そのとき私は、どうしてか分かりませんが、
本当に、分からないのですが、
アリスメンディさんを好きになれそうにない―――そう、思いました。
↓
【グループ:ランス・ユリーシャ・アリス】
【現在位置:洞窟】
【所持武器:アリス、未だ不明】
>231:226
(1日目 5:50)
鬼作は考えをまとめた。
「(‥‥どっちに取り入る? そんなこたぁ簡単よ。安直に考えりゃ、あの小娘の方だ。
だがよ。さっきの二人の話からすりゃ‥‥ヤベェのも、あのロボットだかサイボーグ
だかの小娘の方だ。まだ兄ちゃんの方が付け込む隙がある‥‥)」
もうナミには明らかに迷いは無い。言っていた通りに、いかにして自分以外の敵を
効率的に倒すかを考えている。多分、交渉どころか、話に持ち込む前にやられてしまう
公算の方が遥かに高いだろう。当然、逃げられるはずも無い。
だがアズライトの方には‥‥未だに僅かながらも迷いが見て取れる。
相手を騙し上手く取り入るのなら間違いなく“迷い”がある方だ。その迷いに付け
入れば、より成功率は高まる。
無論それでも“如何にして交渉に持ち込むか”と言う問題はあるが、彼我の戦闘能力
の差は歴然なのだから、それも巧みに話に盛り込めれば‥‥。
「(それによ、あの小娘の方の相手は名前が判らねぇしな。ネタは多いに越したこたぁ
ない)」
楽観的観測には違いないが、とにかく今は生き延びることにだけ集中した方がいい。
下手なことを考えて自分の首を締めるようになったら身も蓋も無い。あわよくば‥‥
などと二兎を追った挙句に自分が死んでしまっては元も子もない。
そう言うことは、こんな物騒な場所では考えない方がいい。
「(追い込み掛けた女が化け物だった、なんざシャレにならねぇからな。とにかく今は
生き延びることにだけ知恵を使った方が利口ってもんよ)」
あとは如何にして交渉まで持ち込むか。
ヘタに卑屈に近づくのは得策では無いだろう。また自分が“完全な弱者だ”などと
思われるのもまずい。武力・戦闘能力は無くとも‥‥と思わせなければ。
「(さぁて。これからが俺の腕の見せ所ってな‥‥)」
自分の荷物の中に必要なものがあることを鬼作は確認した。ノートとペンだ。これ
を使えば間近まで近寄る必要はなくなる。
「(おっと。ヤツ‥‥アズライトとか言ったっけな。ここでヤツを見失ったら元も子も
ねぇ‥‥)」
鬼作はアズライトを見失わないよう注意しながら、その後を追い始めた。
鬼作
【スタンス:とにかく生き延びる。アズライトに取り入る】
(1日目 6:00)
アズライトと別れたナミは西に向かって歩き始めていた。
しばらく行けば海岸線に出ることだろう。
そこでナミは、ふと立ち止まった。
−−その脳裏に一瞬だけ、ライバルでもあり、また仲間でもあるサファイアや恵たちの
表情が浮かんできたのだ。
あのDoll-Fightでナミは色々なことを経験してきた。そして今の戦闘能力を獲得したと
言えるだろう。そして今のナミは、本来、かなり強力な軍事用Dollをベースにして、更に
カスタマイズされているサファイアとも互角以上に渡り合えるだけの実力を得ている。
あの(今や)懐かしいDoll-Fight、そしてサファイアとの戦いの記憶も浮かんでいた。
感傷に浸っている場合ではないのだが、だがそこでナミは気付いた。
「‥‥今まで使っていなかったですけど“オートリペア”使えないでしょうか‥‥」
今までの戦闘でナミは少なくないダメージを負っている。
各部の破損もそうだが、何より冷却系のダメージは非常に手痛いところだ。あれが正常
に使えれば、戦闘能力は飛躍的に回復する。
しかし。オートリペアは、その代償としてエネルギーを消費してしまう。
今のエネルギー残量が少ないナミにしてみれば正しく諸刃の剣だ。
むしろ今のままの状態を強いて維持してでも活動可能時間を延ばしたいところだ。
大きくエネルギーを消費する“スパイラル・ドライバー”は、強力な一撃が出せる
代わりに命中率が落ちることにもなる技だ。加えて、このチェーンソーではまともに
使えるか判らない。これでは使うだけエネルギーの無駄だろう。それ故に今後も使う
ことは無いはずだ。
ロケットパンチは−−論外である。チェーンソーを飛ばしてみたところで、それは
最早“曲芸”である。
「でも、まだリペア機能なら‥‥うん。まだリペアシステムは稼動できますね」
この状況を鑑みるに、どうも色々と不自然な点が多い。
先ほどのようにDollとは違う、特異かつ強力な力を有する人外の生物もどうやら色々と
紛れ込んでいるようだ。また普通の人間もいれば、何かが違う人間もいる。
この場所は‥‥調べた限りは普通の、地球上の環境との相違は無い。
とはいえ、それを以ってして「普段の環境と全く同じ」と断定するのは早急だろう。
そして、それが自分にどのような影響を及ぼすかも同様に「未知数」である可能性が
否定できない。
だが。そこに僅かでも、譬えほんの微かな可能性だったとしても、自分に有利に働く
のであれば‥‥それは‥‥そう。
ナミの総てでもある「ご主人様」の許へと生還できる可能性が、多少なりとも増える
のであれば‥‥それがたとえ可能性論でしかなかったとしても。
改めて周囲を見渡す。無論、同時にあらゆるセンサーによるスキャンも行なっている。
「どうやら、この付近には誰もいないみたいですね」
そしてナミは決断した。
「‥‥リペア機能、作動します‥‥」
ナミの華奢な身体を光が包み込む。
「‥‥あ‥‥ん。え? えぇっ?!」
ナミはオートリペア機能を働かせた。すると、どうだろうか。
装甲などの損傷は当然回復できなかったものの、内部機構は概ね修復されていた。
何より驚いたことは乏しかったエネルギー残量が、このバトル・ロワイアルの開始
当初を超える、約40%ほどにまで回復していたことだ。
「‥‥間違い、ない‥‥ですけど、どうしてエネルギーが‥‥」
もう一度モニターしてみたが、やはり結果は同じであった。
ただ。内部機構の修復効果は思った以上ではなく、とりあえずは良くなった‥‥と
言ったところである。特に冷却系は、全力の稼動には全く耐えられそうもなかった。
折をみて補助的に使うのが関の山−−無いよりはマシ、と言う程度だ。
しかし。これはナミにとって予想以上の効果であった。
一番の懸念材料である「エネルギー残量」に著しい効果があったのだから。
非常に不自然な結果ではあったものの、むしろ嬉しい誤算であった。
そしてナミは、またリペアシステムを作動させた。
「リペア機能、作動します‥‥」
すると今度は‥‥いや今度も、またナミは驚くことになってしまった。
「こ・これは、どうなっているのでしょう‥‥?!」
今回のリペアでは各部とも殆ど修復されておらず、しかも肝心のエネルギー残量が
約30%にまで低下していたのだ。まだこれでもリペア前までと比べれば充分な量とは
言えるのだが。
「‥‥これで当座のエネルギーは確保できましたけど、でも肝心の冷却系は殆ど変化
なしですね‥‥」
どうやらリペア機能は作動するが、その効果に非常にムラがあり、加えて必ずしも
修復が行なわれるとも限らないようだ。
「これではリペア機能はあてにならないと思っておいた方がいいのかも‥‥やっぱり
今後も、できるだけ効率よく‥‥敵を倒していかないといけませんね。エネルギーの
消費を少しでも抑えないと。少しでも早く、ご主人様の許に帰るために‥‥」
そこでナミは“くるっ”と向きを変えた。その方向は南‥‥。
思い返してみれば‥‥かなりスタート地点から離れれているこの辺りで出会った敵
と言えば‥‥ナミにしても強敵と言えた、あの二人だ。その前に遭遇した敵と言えば、
巧みに逃げられはしたものの大した敵ではなかったはずだ。
すると。スタートの順番の問題もあるが、強い者か自分を良く知っている者ほど、
遠くへ移動しているのではなかろうか。
そして、そうでもない者は案外、まだスタート地点付近にいるのではなかろうか?
またそのような相手は、このような状況下では身を隠すことができ、奇襲ができる
ような場所にいる公算も高い。
だが、この場合は可能な限り厄介な相手を先に倒しておくべきだろう。そうすると
このまま西に向かうよりも北か南に行った方が良い結果に結びつくだろう。しかし、
北にはアズライトが向かっている。
何より、この付近、ましてやナミよりも先に進んでいる者など考えにくい。
「ご主人様‥‥ナミは必ず、必ずご主人様の許に帰ります‥‥それまでナミのことを
見守っていて下さいね‥‥敵を総て倒す、その時まで」
そしてナミは南東の方向へと歩き始めた。
↓
【ナミ】
【現在位置:山の麓→南へ】
【スタンス:無差別攻撃、ただしアズライトとは戦わない】
【能力制限:現状ではエネルギー切れまで約40時間以下】
【能力制限:事実上高速移動は不可、防御力若干低下】
【能力制限:リペア機能の動作不全を確認】
訂正
>>243 ×:そしてナミは南東の方向〜
○:そしてナミは南の方向へと歩き始めた。
‥‥スマソ。
>243
(AM5:40)
暗い緑の木立の中を歩く二つの人影、一人の少女と一人の少年。
先ほどまでつながれていた二人の手はすでに解かれ、所在なげに空を切る。
少年は二つのズックを肩にかけ、前を行く少女を眺めて歩く。
「ねぇ、双葉ちゃん。お腹すいてない?」
「すいてないっ。それから、人のことを気安く名前で呼ぶな。」
「ご機嫌斜めだね。…照れてるのかい?」
「バカじゃないの?」
立ち止まることも振り向くこともせず、
双葉は黙々と歩きつづける。
首輪から開放された安堵感からか、そういう双葉の声に棘は無い。
翼は笑いながらため息一つつくと荷を背負いなおし、
再び少女の道案内にしたがった。
深夜の森は(と言ってもこの深い森では日中であっても光が届くかは疑問だが)
文字通り一寸先は闇で、支給された懐中電灯が照らすわずかな光を頼りに歩く。
そうして数分も歩いたろうか?
双葉はやにわに立ち止まる。
そして、決まりが悪そうに翼のほうに向き直る。
幾分頬が紅潮しているようにも見えるが、なにぶん暗くて良くわからない。
「ねぇ、星川…」
>245
「ん……」
少女の喉がコクリとなまめかしく動く。
唇に触れているものの先端からあふれ出る液体を一息に嚥下する。
少女は少年を見つめる。
「それ…欲しい。」
「それって、これのことかい?」
少年は微笑みながら問い返す。
「アン、それじゃ…ない。」
双葉が非難めいた声を上げる。
「ん、これなら…どう?」
「だから、…んく…違うって、バカ。」
「だったら…こう…かな?」少年の指が止まる。
「違う。もっと…。うん、…そう。もう…少し。」
互いの視線と視線を絡ませ、しばし静寂が支配する。
欲求を満たそうとする二人の間にが言葉が交わされることもない。
ただ、ひたすらに……貪る。
>246
「…星川、あんたさっきからスゴイ字面になってるわよ。」
「そうかい?気のせいだよ、きっと。」
そういって支給されたパンをちぎって手渡す。
双葉はそれを受け取りながら手にしたミネラルウォーターをあおる。
二人は彼女の提案で遅すぎる夜食とも
早すぎる朝食とも決めがたい食事をとっていた。
「それから、双葉ちゃん。さっきも言ったけど、僕のことはホッシ―と…」
「ねぇ、星川。それとって。」
そう言って、先ほど彼女を驚かせたショットガンを指さす。
話をさえぎられた翼は少し切ない顔をしてそれを手渡してやる。
「わ、本物の銃って初めて持ったけど、結構…重いわね。」
そう言いつつ生まれてはじめて手にした火器をためつすがめつしている。
双葉の表情が少し翳る。
その手に握られたものをぼんやりと眺め、何かを思案しているようだ。
翼はその真意をつかみかね、見るともなしにそうの光景を見やり、
手にしているパンの一かけを口にする。
>248
「ねぇ、星川。この大会って一体なんなんだろ?」
先ほどまでの明るい声色とは打って変わって、その声は暗く沈んでいた。
「そっちへ行ってもいいかい?」
双葉はうつむいたままイエスともノーとも言わなかった。
その沈黙を肯定ととらえることにし、
翼は膝小僧を抱えて座りこむ少女の隣に腰を下ろす。
それでも双葉はなんの反応も示さず、
ただ自分のローファーのつま先をじっと見ている。
「不安かい?」
返事のない双葉に向かってさらに言葉を継ぐ。
「この大会がどんなものでも、双葉ちゃんのことは僕が…」
そこまで言ったとき、双葉は少し顔を上げ翼の顔を覗き込む。
そんな双葉を安心させるかのように、翼は優しく微笑む。
「僕が守ってあげるよ。」
いつも軽薄な彼には珍しい真剣な面持ち、
言葉にもいささか熱がこもっている。
「…王子様、だものね?」
ぎこちなく笑って。双葉はそう言った。
「ああ、そうだね。」
それに気づいてか気づかずにか、屈託のない笑みで翼は双葉を見つめた。
>248
↓
【朽木双葉】
【位置:東の森北東部入り口】
【武器:芥子の花+植木鉢(こけしと命名)、斧】
【スタンス:もう少し星川の様子を見る】
【星川翼】
【位置:同上】
【武器:アイスピック、ショットガン】
【スタンス:女の子を助ける。】
【能力制限:目貫の精密度低下。首輪の破壊が不可に】
>135
駅前。夕方。
選挙カーの上に一人の青年がいた。
その青年は初の選挙戦の真っ只中だった。
「来るべき高齢化社会のため、介護保険料の引き上げは必要なことなのです。
弱者の立場を向上させ、社会の底上げをはかりましょう。」
家路を急ぐ勤め人の群れに向かい、選挙カーの上から訴えかける。
先ほどから青年は、妙に粘着質な視線を感じていた。
嘲りと見下しが絡み合った、嫌な視線だ。
(なんだろう、この感じは……)
青年は、その不快感の根源を探す。
……そこに、初老の男がいた。
やや猫背気味に丸めたその体は、年のわりに逞しかった。
四角い輪郭に下卑た笑みと口髭をへばりつかせた、イボの無いガマガエルのような顔をしていた。
その男は青年が自分を見ていることに気付くと、彼に向かってこう言った。
「ヒヒヒ……青臭い小僧だ。
理想や情熱などに振り回されておっては、この世界を渡ってゆけんぞ?」
「そこのお方、ご忠告ありがとうございます。」
野次を軽くいなす青年。なかなかの態度だ。
しかし、初老の男は臆面も無くこう続ける。
「お前は先ほどから弱者、弱者と連呼しているが、
その「弱者」とはいったいどんなものであるのか、分かっているのだろうな?」
「?」
「ヒヒヒ……政界の先輩として、ワシが少し昔話をしてやろう。」
世界は暗転。
雑踏も選挙カーも消え、闇の中、青年は男と2人きりで向き合っていた。
「かつて……
お前と同じように、理想を持って政治家となった男がいた。
彼はその理想を叶えるための助成金を手に入れるため、日々奔走した。
足を棒のようにして駆けずり回り、額に擦過傷が出来るほど土下座を繰り返し、
私財を全て投げ打ってまでワイロを包み。
家庭を顧みないことを理由に妻に家を出てゆかれ、子供を裁判の末に取られ。
理想以外の全てを捨てて、彼はやっと国庫から12億の助成金を引き出した。」
「ワイロはともかく…… 政治家として、彼は非常に正しいと思います。」
「そう。彼は不退転の決意の下、見事初志貫徹したといってよい。
だが…… それに対し弱者は、何と言ったか知っているか?」
「何と言ったのです?」
助成金を利用できぬ者は、『税金の無駄遣いだ』と文句をつけたのだ。
助成金を利用できる者は、『少ない』と文句をつけたのだ。
皆が口々に『公約と違う』『真面目に働け』『有権者を舐めるな』と責めたのだ。」
「……。」
「……それが、お前が守ろうとしている、弱いものの正体だ。
それは、努力せぬ者どもだ。知恵を働かせぬ者どもだ。
雛鳥のように上を向いて口を開け、ただ座して待っている者どもだ。
機嫌を損ねるとぴいぴいと泣くだけの。」
「ですが……」
「そんなヤツらに施しを与える義理がどこにあるのだ?
お前は政治家になることを渇望した。努力した。知恵を絞った。
その成果は、おまえ自身への報酬とするべきだ。
政治家という特権を生かせば、人の意思や命すら左右できるほどの大金を手に入れられるぞ。」
「……。」
「ヒヒヒ……お前はそこらにいる有象無象とは違う。弱者たちを踏みにじる資格がある。
人生の勝利者だ。ワシと同じ、な。」
「そうでもないと思いますが。」
「ほほう、それはどういう意味かな?」
「私ももちろんそうですが……そういうあなただって、弱者ではないですか?」
堂島薫(No.7)は、闇の中でその青年と向かい合っていた。
青年は、彼の威圧感のたっぷりとこもった目線を真正面から受けているにもかかわらず、
物怖じもせずにそう言い放った。
「ヒヒヒ……いっぱしの口を利きおるではないか、小僧。政界を目指していながら、ワシを知らんのか?」
「存じ上げておりますよ、堂島先生。」
「ほう……それを知っていながら、ワシに意見するか。ヒヒ…… 面白い。
少しだけ付き合ってやるから、言いたいことを言ってみろ。
ただし。面白くなかったときは…… 分かっておるな?」
「先生、脅してらっしゃるおつもりですか? ……ならば勘違いも甚だしい。」
「勘違い。」
「ええ、勘違いです。」
「20人以上のボディーガードを抱え、わかめ組とのパイプを持つ堂島と知っておりながら、
なお、勘違いだと言うか。」
「ええ、勘違いですね。なぜなら今のあなたには…… 誰一人付き従っていないではありませんか。」
「なん…… だと?」
「思い出されるといい。ここがどこなのかを。」
「ここは……」
「島、だ。」
……場面転換。
虎の仮面をかぶった男が殺された、あの時のあの部屋に、堂島がいる。
『たったの40人、いや一人死におったから39人か。堂島薫をなめるなよ。』
「おやおや、先生が笑っていますよ。さすがは数々の修羅場を潜り抜けてこられた堂島先生。
命のやり取りなどは恐れませんか。」
「……そうだ。勝つつもりでいた。」
「先生は生粋のサディストですからね。周りの皆が萎縮していれば萎縮しているほど、
やる気をお出しになられるんでしょう。」
……場面転換。
配布された『ジンジャー』に乗り、背後から聞こえてきた一発の銃声に、顔面蒼白となっている、堂島がいる。
『こんなもので、拳銃相手にどう戦えと言うのだ!! 不平等だ!!』
「おやおや、先生が震えておいでですね。」
「……そうだ。震えていた。」
「世の中はなべて不平等。そんなこと、先生はとっくにご承知のはず。いまさら何をおっしゃるのやら。」
……場面転換。
公園の洋式便所に腰掛けながら、必死で己の一物を擦り続ける堂島がいる。
『女なんて調味料のようなものだ適度に楽しみ飽きたら捨てる女なんて調味料のような……』
「おやおや、女教師をいたぶられるときは萎え知らずの先生の一物が、全然大きくなりませんね。」
「そうだ。勃たなかった!」
「恐れの余り萎縮しているご自身の心を、一物に投影されたのですね。勃てば恐怖を克服できると。」
……場面転換。
腹の上で暴れ狂う筋肉の塊に対して抵抗することも出来ず、体を自由にされている堂島がいる。
『ヒヒヒ、ヒィィィ!!ゆ…… 許してくれ……』
「おやおや。先生が泣いていますよ? 泣くことでしか自己主張できない赤ん坊のように。」
「そうだ、泣き叫んでいた!!」
「実際のところ先生は、何を許して欲しかったのですか?
陵辱を? デス・ゲームを? それとも、犯してきた数々の過ちを?」
「……。」
「……これが、弱いものを見下している、先生の正体です。
それは、努力せぬ先生です。知恵を働かせぬ先生です。
雛鳥のように上を向いて口を開け、ただ座して待っている先生です。
機嫌を損ねるとぴいぴいと泣くだけの。」
「違う。ワシは勝利者だ。己の才覚で財を掴んだ。」
「先生はさっき見てきたものを、もう忘れたとおっしゃる?
この島に着いてから、先生は何をしましたか?
得物がハズレだと言い訳して、逃げ、隠れ、萎縮して、泣き叫んだだけで、
生き残るために必要な努力は、何一つしていないではないですか。
これを弱者と呼ばずして、なんと呼びますか?」
「違う。ワシは勝利者だ。己の才覚で財を掴んだ。」
「いい加減認めましょうよ。
結局のところ、先生は拗ねていただけなんですよ。
自分は頑張った。その身を犠牲にしてまで、みんなのために尽くした。
だけど、だれも頑張ったねと頭を撫でてはくれない。
褒めてとねだるには大人になりすぎた。
だったら、周りがバカだということにしておけば、自尊心が保てる。
……実に幼い精神の持ち主だったのですよ、先生は。」
「違う。ワシは勝利者だ!!」
「金の力をご自分の力だと錯覚されていただけですよ。
金を持たない先生に残るのは、根拠のない自信と矜持だけ。
そしてさきほど、その自信と矜持すら筋肉女にズタズタに引き裂かれた今の先生には、
もう何も残っていない。まるで体の大きな5歳児だ。」
「違う!!」
「何度でも言いましょう。先生は子供だ。」
「違う!!」
「先生は子供だ。」
「なにを、わかったような!!」
「わかりますよ。」
「……なぜわかる。」
「なにせ私は…… あなたですから。」
慄く堂島を見下すその顔は…… 若かりし堂島のそれだった。
(一日目 05:58)
「あ、泣いてる?」
朝もやにけぶる公園。
ベンチに腰掛け、未だ目を覚まさない堂島を膝枕している広場まひる(No.38)は、
彼が、幼子のように顔を歪めて涙していることに気付いた。
「ぐ……し。 ヒ、ヒくっ…… ぐっ……」
それは悲しみに流す涙の様でもあり、悔しさに流す涙のようでもあり、
後悔に流す涙の様でもあり、同時に絶望に流す涙のようでもあった。
「大丈夫だよ、大丈夫。ね?」
ぽん、ぽん、ぽん。
まひるは幼児を慰める母親のように、堂島の頭をやさしくなでる。
「なんだかぐずる子供をあやす母親みたいだな。」
ベンチの脇で屈伸運動をしていたタカさん(No.15)は、まひるのその様子を見て、からかい半分に声をかける。
「え?そうですか?……えへへ。」
「母親なんて言われて嬉しいのか?その若さで。」
「うん。将来の夢は専業主婦、だったりしたんで。」
笑顔で、そう答えるまひる。
……鈍感なタカさんは、その笑顔には陰が含まれていたことに気が付かなかった。
そして、見た目にはまだあどけなさすら残る『彼女』が、その夢を過去形で語ったことにすら。
「専業主婦ねぇ…… 俺にはよくわかんねぇな。」
「タカさんは……なんてゆうか、いろんな意味で、男っぽい……か……」
へぷちっ!
可愛らしいくしゃみを、1つ。
見るとまひるはTシャツ一枚で、その細い腕に鳥肌を立てていた。
「まひる、お前、そんな格好してるからだぜ。さっきまで着てたパーカーはどうした?」
黒のタンクトップ一枚でも汗すらその額に浮かべている、タカさんはそう忠告する。
「え? えへ。あたし元気な子だから、ちょっとくらい寒くてもだいじょぶ。
それよりも…… 寝てる間は、体温下がってるから。」
……彼の小さなパーカーは、堂島の腹にかけられていた。
「俺も男臭ぇが、お前もいろんな意味で女臭ぇよなぁ……」
いつのまにか泣き止んだ堂島は、今では安らかな寝息を立てている。
その右手は、いつのまにか頭を撫でていたまひるの左手を握っていた。
彼は、優しくその手を包み返す。
「ん…… む……」
ぱちり。
それに呼応するかのように、堂島が目を覚ました。
その顔には笑顔。
彼一流の下卑た笑顔ではなく、誰も見たことの無いような、穏やかな笑顔の堂島が、そこにいた。
誤解を恐れずにあえて表現するならば、それはまひるよりも無垢な笑顔だった。
「おかーたま、おはよ。」
えへ。
堂島は元気に挨拶すると、まひるの胸に飛びついた。
↓
【グループ:タカさん(No.15)、まひる(No.38)、堂島(No.07)】
【所持武器:タカさん(不明)、堂島(ジンジャー)】
【現在位置:小公園】
【能力制限:堂島(幼児退行)】
>217,249
(6:00前のどっか)
??:たとえばね。AM3:00……
ラヴ街道を突っ走る青春コンビの背後から、突然かかる太い声。
双葉:えっ?
星川:誰だっ!?
トレードマークの(前が少し薄くなった)長髪を風になびかせて、ワープ番長イノケン、ここに参上!!
猪乃:……その時、なにげなく夜空を見上げたら、そこには一面の流星雨……
ぼくはその美しさに心震わす。
そして思う。この感動は独占してはいけないと。友と分かち合うべきものだと。
双葉:(……夜空?)
双葉の頭に、フラッシュバックされるあの夜空。
『星、見る、股、濡れる。』『ロマンティック ア〜ンド セックス!』
猪乃:……さあ、君はどう答える?
双葉:だっ、れっ、がっ!!
二度と星空なんて眺めるもんですかっ!!
出たァ〜〜〜〜っ!!(バキの最強トーナメント実況風に。)
双葉の18番、一番星を沈めたヤクザキック・ラッシュ!!
ズガズガズガズガ!!
しかし、そこは素早い(だけが取り得の)ワープ番長。間一髪でスルリと身をかわしたぞ!!
猪乃:むぅ…… キミたちもボクの仲間たりえないか……
だがボクは武士の情けを知る者。広い心で見逃してあげようじゃないか。
そしてワープ番長は、風のように……去る!!
ひゅん!!
星川:あのさ…双葉ちゃん、その顔……
双葉:何ッ!!(逆三角白目で。)
星川:な、なんでもないです……
……気をつけろ、参加者諸君!!(と書き手さん)
ワープ番長が次に姿を現すのは、キミのところかもしれないぞ?
↓
(一日目 03:17 雑貨屋店内)
(紗霧が雑貨屋の物を物色している)
ふむ、この位でしょう。飲料水にトイレ洗浄液、あと雑貨をいくつか……と。
今はここまでですね。あとは必要な時に再補給するとしましょう。
さて、あとは……私以外の者が来た場合の対処法ですか。
今は必要無いとはいえ、他の人が有利になるのは少しでも避けたいですね。
ここはひとつ、やはり何か仕掛けておいた方が良いでしょうか。
再び私がここに来る事を考えると、爆発系のトラップは考え物です。
できれば個人レベルで、かつ致命傷を与えうるトラップを……?
(土間の方に移動する)……ふむ、これは使えそうですね。
(一日目 4:05 雑貨屋前)
「ここに、救急箱でもあればいいんだけど……」
泰男の身体を支えつつ、ようやくまりなは雑貨屋の前に辿り着いていた。
本来ならば病院がベストだったのだが、中から聞こえてきた銃声により
方向転換を余儀なくされたのだ。
今のまりな達は直接攻撃力を持つ武器を持っていない。
戦闘は極力避けたいところだった。
「お邪魔しまーす……」
小さな声でゆっくりと中に入る。どうやら店内は誰かに物色された後らしく、
棚のあちこちが空になっていた。
「お願いだから、誰もいないでよ……もうここしかアテが無いんだから……」
まりなはそう祈りつつ、更に奥へ進む。
店の奥のガラス戸は開いており、窓から月光が差し込んでいた。
「オジサマ、段差があるけど我慢して……」
「うっ……」
苦しげに頷き返す泰男。既にその顔色は蒼白である。
「(失血量が多すぎる……!)もう少しで治療できるから!」
居間に上がり、まりなは泰男の身体をゆっくりと床に下ろした。
「今救急箱を探すわ。待ってて……!?」
背負っている時には全身が見えなかったが、泰男の姿は凄惨なものであった。
右腕は根元から完全に切断されており、黒いタキシードの半分を赤黒く染めている。
正直なところ、失血死してもおかしくない状態であった。
「……………っ!」
「法条さん……大丈夫だよ。だいぶ落ち着いてきたからね……」
思わず言葉を失うまりなに、泰男はそう言って微笑む。
大嘘だ。
まりなはそう言いたくなるのを抑えて、再び店内に戻った。
―――10分ほどで救急箱は見つかった。
「よしッ!」
すぐに泰男の所に戻る。
「っと、いけない……」
ぴしゃん。
少しでも中が分からないようにガラス戸を閉める。すりガラスだからすぐには
バレないはずだ。
「オジサマ、服……脱がしますね」
「……すまない」
タキシードとシャツを脱がし、傷口を露わにする。
「(傷口は思ったより鋭い……せめてもの救いね)」
店にあった縄跳びの紐で肩を強く締め付け、傷口を飲料水で洗い流す。
救急箱には包帯は入ってはいたが、流石に消毒液は入っていなかった。
やむを得ずこれ以上の消毒は諦め、包帯を巻く。
完璧には程遠いが、これで応急処置にはなる筈だ。
「止血は済んだわ。あとは少し休みましょ」
「……すまない。君の足を引っ張ってしまって……」
「ストップ」
多少落ち着いてきたのか、先程よりははっきりした口調で泰男が言った。
それをまりなは人差し指を立てて遮る。
「オジサマは私に言ってくれたわ、力を貸してくれるってね。
だから私もオジサマに力を貸しただけ。お互い様よ」
「……やれやれ、法条さんには叶わないようだ。
……それで、私が力を貸せる事は?」
真剣な瞳でまりなを見つめる泰男。
「(ポッ……じゃなくて)今はいいわ。少し休んでからで……」
「いや、今の方がいい。私が質問に答えられる内にね……」
「……………」
正論だった。正直、応急処置が済んだとはいえそこまでの時間が掛かりすぎて
いる。まだ泰男の衰弱は激しいし、何より移動中に傷口に菌が入ってしまって
いたら破傷風の可能性もあるだろう。
「……分かったわ」
うなずくと、まりなは再度手帳を取り出した。
「それじゃオジサマ、とりあえず幾つかの質問に答えてもらえる?」
「ああ……」
「まず第一問、オジサマのいた国は?」
「?……日本だが……」
「第二問、ここに連れて来られるような心当たりはあるかしら?」
「……いや、全く無いな」
「第三問、……ここに連れて来られる直前の記憶を教えて」
「ええと……少し待ってくれ……」
泰男はぼやける頭から自分の記憶を何とか引き出そうとする。
「……確か、新しくできた4号店の視察に行って……その帰りに急に意識が
薄れて……」
「その季節は?」
「それは当然夏……!?」
「……やっぱり」
目を見開く泰男に対し、まりなは冷静に答えた。
「どういうことだ?今は……」
「断定はできないけどおそらく秋……もしくは初冬ってところでしょうね」
「つまり、私は数ヶ月間あそこで眠らされていた……?」
「……少し違うわ」
まりなは手帳の1ページを泰男に見せる。
法条まりな・日本・春
高橋美奈子・日本・夏
涼宮 遙・日本・夏―――
「これは?」
「行方不明者から割り出した『ゲーム』参加者予測リスト。あくまで予測
だけど、多少ならデータもあるわよ」
「……………」
「見ての通り、参加者が行方不明になった時期はみんなバラバラ……いいえ、
時期どころか、明らかに人間じゃない奴等もいる」
「ああ……」
泰男は自分の腕を切り落とした少女の事を思い出した。チェーンソーを腕に
つけた、ヒトならぬ動きをするメイド。
「これはあくまで私の推測だけど、おそらくここは私達の知る世界じゃないわ」
「馬鹿な……と言いたい所だが、信じるしかないようだな」
「ええ、もしこの仮定が正しいなら、私達がここを脱出する為には3つの壁が
存在することになるの」
1・首輪の破壊、もしくは解除。
2・主催者の拿捕、もしくは殺害。
3・元の世界への帰還。
「……全く、どうしたものだか……?」
「まずはこの首輪の解除法を探る必要があるでしょうね。それと同時に一緒に
戦ってくれる仲間を探す。今は……それしかないわ」
「うむ……」
「……さてと」
話しが一段落して、まりなは立ち上がった。
「それじゃオジサマ、外の様子を見てくるわ」
「待ってくれ、私も……」
それを追って立とうとする泰男だが、眩暈でよろめく。
「無理しないで。私なら大丈夫よ」
そう答えて、まりなはガラス戸を開け―――
―――それは落ちてきた。
「え……?」
それが何なのかを確認する暇もなく、
「………ッ!」
どこにそんな余力があったのだろう?
突然、まりなと「それ」の間に泰男が割って入った。一瞬も間を開けず、
ドッ!
何かが叩き込まれる音とともに、まりなの顔に血が跳ねる。
「……オジサマ?」
「……どうやら、君の役に立てたようだな……」
呆然とするまりなに泰男が微笑みかける。
彼の腹部から、一本の杭が突き出ていた。その後ろには、餅つきの杵のような
物体が、太目のテグスでぶら下がっている。
そのテグスは天井の梁を通って―――ガラス戸に伸びていた。
「!?」
瞬間、まりなは自分が致命的な見落としを犯したことを悟った。
ガラス戸は先客が閉め忘れていったのではない……わざと開けていったのだ。
閉める事が罠のトリガーとなるように―――一度中に入った者を仕留める為に。
「オ……オジサマッ!?」
まりなはとっさに泰男に駆け寄った。
「今っ!今抜くからッ!」
「……いいんだ」
「……っ!」
「これを大丈夫と思えるほど……私は楽天家ではないよ」
小さな声で答える泰男の口から大量の血が吐き出される。
「(肺も……!)」
「ほ……法条さん……お願いが、2つあるんだが……聞いてくれるかな?」
「な、何!?」
「………」
もはや声を出す力も残ってはいないのか、唇を振るわせる泰男。
まりなは、かろうじてそれを読唇術で読み取る。
「首……輪?サンプル?」
「……(こくん)」
「ッ……そんなっ!それって……ッ!」
「………」
「………分かったわ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
まりなの頬を涙が落ちる。泰男は震える手でその頬に触れ、雫を拭った。
「………もう一つは、何?」
「………」
「生き……延びてくれ?
……ええ、約束するわ。絶対にみんなと一緒に……生きて、帰る」
「………」
その返事を聞き、泰男は優しげに笑い―――そして、絶命した。
263 :
Zakkaya of the dead(7):02/01/02 10:12 ID:+fL9Q74n
(一日目 4:35 雑貨屋前)
まりなは一人、雑貨屋を出た。
その手には一本の血染めの首輪が握られている。
「ごめんなさい……」
一言だけまりなは呟き、歩き出した。
この首輪の解除法をなんとしても捜す。そのために。
「今度こそ……貴方との約束、守るから……」
手にした首輪に、涙が一粒落ちた。
↓
【法条 まりな】
【現在位置:村落 雑貨屋付近】
【スタンス:大会の調査
首輪の解除法の解明】
【能力制限:なし】
【備考:aD30木ノ下泰男の首輪入手】
30番木ノ下泰男 死亡――――残り34人
一日目 4:27)
>147,263
ピピ、ピピ、ピピ……
おや?
夜叉姫が持ってる対人レーダーがアラームを鳴らしているよ。
また、哀れな子羊が、このゲームで死んだんだね。
陰ながらご冥福を祈らせてもらうよ。
ところで、これを見て夜叉姫はどう感じてるんだろうね?
ちょっと様子を見てみようか。
<沙霧の思考>
あら?また光点が1つ消えましたね。
この位置……雑貨屋あたりですね。
ということはもしかして、私が仕掛けたトラップで絶命したと言うことですか?
怪我でもすれば御の字と、間に合わせで作った陳腐でなんのひねりも無いトラップで?
緊張感と注意力と気力と知力と体力と時の運と根性の足りない参加者ですね。
こんなに簡単に逝ってしまっては、冥福を祈ってあげようという気すら起こりません。
しかし、他の参加者もこの程度の人物ばかりならば、どうしましょうか。
折角のゲームですから、もう少し手に汗握る展開にならなくては、面白みに欠けるのですが。
せめて、倦みきった私の人生に、ひとときの彩りと充実感程度は与えて欲しいものです。
ん?
この、島北東の光点の移動速度は……あいつしかいませんね。
猪乃。
体力の無い彼のことです、常にこの移動速度を保てるわけでは有りませんが、
油断していると、気付いたときには目の前……という事態も起こりかねません。
注意は怠らないようにしましょう。
他に動きは……
おや?島の北西部から南下してくる光点がありますね。
予定通り海岸沿いを行けばやり過ごせそうですが……
大事を取ってしばらく様子を見ることにしましょう。
ちょうどトラップの素案もいくつか浮かんでいることですし、
しばらくこの磯で休憩を入れつつ、トラップの製作実験でもしていましょう。
<沙霧の思考、終了>
……こんな女に殺された泰男さんは浮かばれないね。
まりなさんに仇を取って欲しいと思ってしまうよ、全く。
あ、目を逸らせている間に、バッグから日用雑貨をいろいろ取り出したね。
醤油入れ2つにそれぞれ海水を吸い込んで、
画鋲を放り込んだ紙コップの内側に、セロハンテープで止めて……
ビニール袋でも同じことをやってるね。
どんな罠を思いついたのか知らないけど……
これ以上彼女の犠牲者が出ないことを祈るよ。
心の底から。
↓
【所持武器:対人レーダー、カビキラー、トイレマジックリン他雑貨】
【現在位置:南西端の磯】
>197
(一日目 197直後)
真人:……畜生、紫堂め!!復讐してやる!!
紳一:いや、残念ながら私たちでは太刀打ちできない。
手紙の最後に「人間でないもの」と書いてあっただろう?
……あの巫女がその一人だったよ。
真人:何?
紳一:お前が気絶している時、私は見たのだよ。
あの巫女の目が、体が、青白く燃え上がるのをな。
私は、何をされたのかも気づかないうちに、気絶させられていたよ。
真人:そうか……わかったぞ!!
それはつまり、紫堂が妹を殺した犯人だということだ!!
捕まえてやる……捕まえて吐かせてやる。
監禁して、陵辱して、剃毛して、浣腸して、拷問して、中出しして、妊娠させてやるっ!!
紳一:監禁、陵辱……万が一それが出来たなら、処女は私が頂くがかまわんか?
真人;まあ、かまわねぇけどよ。
紫堂が処女かどうかなんて分かんねぇじゃねえか。
紳一:あの巫女……処女のニオイがした。
真人:ニオイで分かるのか?
紳一:50人からの膜を破っているとな。自然と分かるようになる。
真人:50人!?それは凄え!!
紳一:巫女服はそのままに、袴だけ脱がして犯してやろう。
真人:それにしてもあんたの処女へのこだわりは尋常じゃ無いな。
紳一:ハハハ……好きなのだよ。苦痛に歪む顔が。泣き叫ぶ声が。
真人:だったら処女に拘らなくてもよ、殴ればいいじゃねえか。
まあ、あれは歪むというより、腫れる、か。
紳一:殴る?
拳でか?
真人:もちろん。殴る。蹴る。髪を掴んで引きずり廻す。踏んづける。
基本だろ?
紳一:それを基本というのか……お前も業の深い男だな。
参考までに聞くが、何人くらい陵辱したのだ?
真人:あんたに比べたらたいしたことはねえよ。5人だ。
ただし、全員孕まして人格壊したけどな。
紳一:……最低な奴だな、お前は。
真人:……そういうお前こそ。
>267
紳一:しかし、処女の魅力がわからないとは心外だな。
想像してみろ。
「許して下さい……」涙すら浮かべる彼女に、酷薄な笑みで以ってこう答える……
「口で満足させたら、処女を奪うのは許してやろう」
初めて見るいきり立った男根に恐れおののきながらも、「純潔を守る」その一心で、
悔し涙を流しながらぎこちない舌使いで自分の物を舐め上げる、その様を。
必死の想いでお前のモノを何とかイかせ、ほっと安堵する彼女に
「誰が一回で満足するなどと言ったか?」と冷たく言い放ち、
「そ、そんな……」と絶望する彼女に無理やり肉の楔を打ち込む、その様を!!
紳一:暴力の魅力がわからねえとは哀れなヤツだぜ。
想像してみろよ。
「あなたのような下衆には屈しません」って態度の紫堂の頬骨に容赦ない鉄拳を叩き込み、
鼻血を噴き出させながら突然のショックに茫然自失となる様を。
「一発でブッ飛んでんじゃねぇ!!」へなへなと崩れかかる紫堂の下腹に蹴りを入れると、
じょろじょろじょろ……
膀胱に溜まってた尿を勢い良く放出してしまい、「イヤ……イヤァアアア!!」と絶叫する様を。
「床が汚れちまったじゃねぇか、綺麗にしろ!!」紫堂の伸びた後ろ髪をグイと引っ張り、
四つん這いにして、床の尿を舐め取らせる、その様を!!
真人:(……想像中……)
紳一:(……想像中……)
真人:ハァハァ……良いかもしれんな。
紳一:ハァハァ……いや、素晴らしいような気がしてきたよ。
真人:もしかしたらお前とは、気が合うのかも知れんな。
紳一:私もそう思うよ。
真人:これから、よろしくな、紳一。
紳一:ああ、私こそ。真人。
……紳一と真人、意気投合。
↓
【グループ:紳一(No.20)、真人(No.17)】
【現在位置:漁具倉庫】
>226
(一日目 05:50)
(まず、火傷を冷やさないと。)
アズライト(No.14)は新鮮な水の臭いを嗅ぎ付け、山へと分け入っているところだった。
痺れに麻痺していた痛覚が時間を負うごとに蘇ってきている。
基本的にデアボリカという種属は不死身だ。治癒力も高い。
上半身に受けた無数の火傷は、半日もすれば完治するだろう。
焼け爛れた顔も、手当てさえきちんとすれば3日程で戻るだろう。
しかし右腕は……いかにデアボリカの治癒能力を持ってしても、失われたものは戻らない。
(火炎王も、ぼくに切られた腕、不便だったんだろうな……)
アズライトは敵であり、友でもあるそのデアボリカを思い出す。
事有るごとに彼をいじめに来る男。逞しい肉体に不釣合いなほど、細やかな神経をした男。
(それでも、火炎王なら……)
人を殺すことを躊躇わないだろう。
愛する者とそれ以外の者。その線引きはキッチリと出来ているからだ。
アズライトには、それが出来ない。
彼はニンゲンという種が好きだ。信仰も持っていた。
それがために仲間内から異端と呼ばれたりもした。
その上、輪廻の内にある身のレティシアに恋して以降、
他人の心の内を想像したり、共感したりすることを覚えてしまった。
だから……彼は参加者を殺すごとに、深く傷ついていった。
殺してしまった2人の生活を想像すると胸が張り裂けそうになる。
アズライトは、どの参加者よりも強大な力を持ちながら、どの参加者よりもナイーブであったのだ。
やがて視界が開け、空気に清々しいものが含まれてくる。
湧水による泉が眼前に広がった。
「よぉ……耳寄りな話があるんだがねぇ?」
そこで、背後から声。
振り返るとそこに、一人の中年がいた。
「あなたは!?」
アズライトは、その顔に見覚えがあった。
忘れようはずも無いその顔……
ほんの数時間前に、森の中で彼自身が命を絶った男の顔だった。
鬼作(No.05)は、その表情を見逃さなかった。
(後ろから声をかけられて驚いた……って感じじゃねぇなぁ。)
アズライトが何に驚いたのか分からないが、とりあえず手札の一枚として、胸にしまっておく。
とん、とん
彼はアズライトの注意を文字に向けるため、数度軽く紙を叩く。
「……。」
ばさり。
鬼作は、手に握っていたノートを落とした。わざと。
アズライトの目線が、手元の文字を読み終えたのをしっかりと確認してから。
「やや!!
大した怪我ではないのかと思っていましたが、こうして見るとひどい火傷ではありませんか!!
この鬼作めのお話は後回しでようございます。まずはお体のお手当てを。」
青い顔をして泉に走りこみ、首にかけた伊頭家のトレードマーク、黄色いタオルを泉に浸す。
「お体をお拭きいたしましょう。ささ、お胸をこちらへ。」
アズライトは、その様子に困惑した。
(今、ぼくたちは……殺し合いのゲームをしてる最中だよね?
このおじさん、どうしてぼくの体を気遣うの?)
……油断させて、近づいたところで首を掻く。
一瞬、そんな考えが頭をよぎるアズライトだったが、彼の五感が、その考えを否定する。
殺意、なし。敵意、なし。
(だとすると……)
先ほど男が握っていた紙に書かれていた言葉を反芻する。
『首輪は盗聴器だ。声を出すな。』
『この島から脱出する方法を知っている。』
(盗聴器……なんのことか分からないな。
でも、この島からの脱出方法を知っているとすれば。)
この男は、自分を助けようとしているのではないか。
「え……えとあの、ぼくは……
ご心配していただかなくても、すぐに治る体質なので。」
なぜか真っ赤になってうろたえるアズライト。
その表情からは、既に4度の戦いをこなし、2人を屠っている者とはとても想像がつかない。
「なにをおっしゃいます。お体こそ資本。自分をもっと大事にしなくてはいけませんですよ。」
「ぼ、ぼくは……」
少しの躊躇い。そして。
「デアボリカですから……」
俯き加減でそう告げる。その名は災厄。
誰もが恐怖を覚え、無言で立ち去っていく。その宣言。
しかし。
「お兄さんが何者であっても、この鬼作、怪我人を放っておくなどできませんです。」
鬼作は別段気にする風もなく、タオルを絞っている。
さすがの彼でも、アズライトが生きる世界の住人だったらこうも平静ではいられなかっただろう。
たまたまデアボリカが何であるのか、知らなかっただけだ。
だが、己の正体ゆえ辛い思いをし続けてきたアズライトにとって、鬼作のこの態度は福音だった。
(ぼ……ぼくがデアボリカだって分かっても、この人は普通に接してくれる……)
「……なにを泣いていらっしゃるのでございますか?」
「ぼ、ぼく……嬉しいんですよ……
人間に体の心配をしてもらったなんて、レティシア以外初めてで……」
ただでさえ殺戮と疲労に張り詰めていたアズライトの硝子の心は、
鬼作の見え透いた親切心と1つの誤解によってたやすく打ち砕かれてしまった。心地よく。
「ささ、準備が出来ました。こちらへお越しください。
この鬼作が、綺麗綺麗に、お体をお拭きしましょう。」
「お、お願いします……」
アズライトは、陶然とし、鬼作に身を任せる。
「そういえば、まだお名前を伺っておりませんでしたねぇ。」
「ぼ、ぼく、アズライトといいます。」
「アズライト!!
くっくっく……実に異人さんらしい、格好よろしいお名前でございますね。」
「そ、そうですか?あなたのお名前は?」
「ワタクシは鬼作と申しますです。
とっても気さくな鬼作さんとでも覚えといてくださいまし。」
(ふぁーすとみっしょん・こんぷりーとだぜ、おい。
次は、どうやって『計画』に乗せるかだが…… このアズやん、とんだ純情ちゃんみてぇだな。
だったら、利より情……で攻めるかねぇ。へっへっへ。)
照れるアズライトの背中をタオルで拭きながら、鬼作はほくそ笑む。邪悪に。
↓
【鬼作(No.05)】
【現在位置:山麓・泉】
【アズライト(No.14)】
【現在位置:山麓・泉】
>209
(1日目 4:20)
「私の腹筋は、意外にがんばり屋さんのようだな」
刀で切られたわき腹の傷口を開いて、その深さを確認したが、腸までは届いていないようだ。
失血も収まりつつある。
輸血をするまでもなさそうだ。
だが痛い。
痛いが、それでいい。
私の細胞が元気な証拠だ。
―――私が目を覚ましたとき、既にあのポン刀美女はいなかった。
ふむ。天が味方したか。
天才の私はこの様なところで犬死には出来んというわけだ。
それとも、あの美女、この私に惚れたか?
ならば、両手いっぱいの医療器具を持って舞い戻るに違いない。
驚きの余り反射的に私に攻撃してしまったことを詫び、かいがいしく治療するだろう。
しかし……
待っている間にファントムたちが私を見つけたらどうする?
むぅ、仕方がない。
あの美女の期待に添えず残念ではあるが、ここは身を隠すほうが賢明だろう。
「つぅ……」
さすがに、体を動かすと厳しい。
収まりかけていた失血もぶり返して来ている。
近距離で、しかもファントムたちに見つからない場所。
そんな場所で早急に怪我の治療を施す必要が有るな。
そのような都合のいい場所があるか?
きょろ、きょろ……
庭の端に、レンガ造りの焼却炉が見える―――かなり大きいもののようだ。
「あそこならよかろう」
病院内は調べる価値のある沢山の物で埋め尽くされている。
ファントムたちもわざわざゴミの終着地を調べにはこないだろう。
ハンカチ……、そうだ、コートのポケット。
これを傷口にあてて、と。
血痕をたどられてはかなわないからな。
よし、それでは血が滴り落ちないよう細心の注意を払いつつ。
「微速前進、と」
キ……イィィ……
焼却炉に体を潜り込ませ、扉を慎重に締める。
「存外広いな。それに温かい」
3畳分くらいの広さに。こんもり積まれた灰とシュレッダーにかけられた紙。
ふむ。寝心地は悪くなさそうだ。
それに、何と言っても灰は清潔だ。
雑菌を含まない。
そういう意味でここは、屋外よりも縫合手術にふさわしい場所といえるな。
シュボ。
ジッポのオイルを多めに絞り、灰に突き立てる。
よし、傷口と手元は十分視える。
この灯りで縫合だ。
確か、背広の内ポケット……
あ、あったあった。
涼子君が私に持たせたお針子箱。
これがこんな所で役に立つのだから、涼子君、きみは有能な助手だ。
帰ったらたっぷりとお礼をしてあげよう。
針に糸を通し、ジッポで針先を熱する。
闇の中でゆっくりと赤く染まってゆく針先。
なかなかに幻想的だ。
それに熱そうだ。
射したら痛そうだ。
だが……そうしなければならんのだから、しょうがないだろう。
すー、はー。
深呼吸。
ぐさ
(4:40)
「はぁ、はぁ……」
これで縫合完了だ。
痛みに何度か意識が飛びかけたが、そこは私だからこその精神力でカバー。
8針……まあ、本職の医者よりはかなり荒い縫い目だから、実際は10〜12針程度か。
とにかく、疲れた。
背広は脂汗でびしょびしょだ。
やれやれ。
体力の低下を防ぐためには、これも脱がないとな。
まだ眠るわけにはいかん。
ずり……ずり……
く。
脱いだはいいが、体中が灰まみれだ。
気持ち悪い。
シンデレラも、寝汗などかいたら翌朝はさぞ大変だったろう。
……ふむ。
さすがは超が3つほど付く名探偵の私だ。
図らずも童話の裏に隠された日常的真実を推理してしまったではないか。
しかし―――シンデレラか。
それはいい。
ならば最後には、この私に大いなる幸せが待っているだろう。
……さて、縁起の良い連想が頭に残っているうちに、寝るとするか。
―――む、いかんいかん。
意識を落とす前に、栄養を補給せねば。
折角病院で手に入れた点滴だ。
利用すべき時に利用しなくては意味が無い。
基本はブドウ糖だから、口から摂取しても十分な栄養となるはずだ。
チイィィィィ……
デイバックのファスナーを開く、と。
ボト。
貴神から手に入れた鉄の箱が転げ落ち、灰の山に埋もれかける。
……まあ、いい。
点滴が先だ。
ジー……ジジジ、ガガ。
ピーーーーー。
ん?
何の音だ?
「ザー……止血……た。……ジらく……いれば大……だ……」
ファントムの声!!
奴ら、私を追ってきたのか!?
「よかったぁ」
「……と、お前。パンツの換……ジジ……方が……思う…ザ」
「え、え」
……いや、違う。
この反響は、焼却炉内で声が聞こえているということだ。
転げ落ちた鉄の箱……ここが発生源だ。
ジッポを手に取り、箱に近づけてみる。
「ふむ。蓋が開いているな」
鉄の蓋を開けると、中に入っていたのはボタンが沢山あるた装置だった。
そのボタンの上には全て発光ダイオードが付いていて、うち1つが点っている。
浮かび上がる「25」の数字。
それから、装置の後ろから伸びるヘッドフォンのコード。
「これは……」
ヘッドフォン、装着。
適当にボタンを押してみる。
ポチ
ダイオードの発光位置が、そのボタンの上のものに変わる。
数字は「16」。
―――そして、音声も。
「ま、いっか。アタシはこの森の中では無敵なんだし。
放っときましょ、こけし。」
その横のボタン。
ポチ
ダイオードは「15」を示す。
「うぉおおおお、おま○こ、いっちゃう、おま○こ、いっちゃう!!」
……こいつ、何をやっているんだか。
でも、まあ。
やはり、これはそういうことなのだ。
「―――盗聴器、だな」
どうせ体力が戻るまでここでじっとしているつもりだった。
ならば、その時間をこれで有効活用させてもらおう。
情報収集は、探偵の基本中の基本だからな。
↓
【所持武器:COLT.45 M1911A1 ccd:残弾1+予備弾、首輪盗聴器】
【現在位置:病院中庭・焼却炉内】
【スタンス:変わらず。ただし体力が回復するまで潜伏、盗聴による情報収集を行う】
カチリ、時刻む針が正確に一直線にならぶ。
太陽が上がったとはいえまだ薄暗い。
時刻は正確に午前6:00。
日の光の届かぬ薄暗がりの中、
その男は六時間前と変わらぬ姿勢で
その部屋には不釣合いなきらびやかな椅子に腰掛けていた。
やおらその腕を肩の高さにまで上げると男は一つところを指差す。
その先にはなんの変哲もないマイクスタンドにマイクがすえつけられていた。
やがて男がゆっくりと手を下ろし、先ほどと同じ体勢に戻ると
傍らに控えていた部下の一人がマイクスタンドに向かいマイクを手に取った。
朝日を受けて浮かび上がる男の姿は異様なものだった。
ミイラ男よろしく左目と口元を除いて全身が薄汚れた包帯に覆われていた。
だらしなく口を開き、さも楽しげにマイクに向かって話し始めた。
278 :
第一回放送 6:00AM(2) :02/01/06 03:39 ID:ITpIpCct
>277
「へ、へひひひひひ…へけけけけけ…
お、お、おまぁら、元気にしちゅうがか?
おらぁが、素敵医師ちゅうが、
あ、ああ-……ただ本名ちゃうき、芸名ちゅうか、通り名やき。
そ、そ、その先生の六時の定時放送がやき。
この放送は一日四回、六時間ごとに流すき、よぉーお聞きとおせ。
い、今まで死んだがは、
6番タイガージョー、10番貴神雷贈、4番伊藤臭作、
21番柏木千鶴、30番木ノ下泰男、35番広田寛
い、以上六名が死んでしもうたきね。
どうなが、殺る気になったがか?
つ、つ、次の放送まで六次間あるき、ぎちっりやるがええがよ。
ひ、ひへひへひひひ、ひ、ひへ…」
狂人を思わせる気味の悪い笑い声でその放送は終わった。
↓
>225
(2ndPeriodのどっか)
??:たとえばね。AM3:00……
遙が休んでいたそのベッドの下から、突然かかる太い声。
遙:きゃあ!?
トレードマークの(前が少し薄くなった)長髪を風になびかせて、ワープ番長イノケン、ここに参上!!
猪乃:その時、なにげなく夜空を見上げたら、そこには一面の流星雨……
ぼくはその美しさに心震わす。
そして思う。この感動は独占してはいけないと。友と分かち合うべきものだと
遙:(……夜空?)
遙の頭に、フラッシュバックされるあの夜空。
『夜空に星が瞬くように、解けた心は離れない。』
猪乃:……さあ、君はどう答える?
遙:例えこの手を離れても?
猪乃:??
遙:離れても?
猪乃:ボ、ボクが答えるの……か?
遙:離れても?(甘えるように。)
猪乃:……。
遙:……。(不安そうな上目遣いで。)
猪乃:……ごめん。
出たァ〜〜〜〜っ!!(キン肉マンのアデランス中野さん風に。)
遙の18番、夜空の誓い!!
……コレが無きゃ迷わず水月に行けたのに、ずりぃよ、遙(筆者魂の嘆き)
猪乃:むぅ…… キミたちもボクの仲間たりえないか……
だがボクは武士の情けを知る者。広い心で見逃してあげようじゃないか。
そしてワープ番長は、風のように……去る!!
ひゅん!!
遙:わたし……誰かとこの誓い、したような気がするの……
……気をつけろ、参加者諸君!!(と書き手さん)
ワープ番長が次に姿を現すのは、キミのところかもしれないぞ?
↓
>124
(一日目 08:37)
賃貸住宅で言えば3LDKに相当する間取り。
灯台守が宿直時に使用していたその部屋には、生活に必要な一通りの物が揃っていた。
その寝室に当たる奥の部屋で、ベッドにその身を深く沈めている少女がいた。
そして、その脇に、息をする間も惜しんで少女の顔をじっと眺めている男もいる。
仁村知佳(No.40)とグレン(No.09)だ。
【マナマナマナマナやっと出会えたねもう離さないぞマナ早く目を覚まさな】
【いかなでも体の具合が悪そうだから心配もしこのまま目覚めなかったらど】
暗闇の中に、瀑布の様に流れ込んでくる言葉にならない言葉。想いと思考の断片。
徐々に覚醒してくる意識の中で、知佳は薄ぼんやりと、今に至る経緯を思い出そうとしていた。
(殺し合いをしろって言われて、飛んで島から脱出しようと思って、でも、脱出できなくて。
力が切れそうになったから、島まで戻ろうとして。それで……)
それで、どうなったのだろう。
(……誰かに呼ばれて。)
【マナの頬に赤みがさして来たぞ瞼もピクピクと動いているもうそろそろ目】
【覚めるんだなああよかったいつもの鈴を転がすような声でお父様って呼ん】
知佳の思考を邪魔するように、絶え間なく流れ込む想いの奔流。
それは夢ではなく、どうやら近くにいる何者かの心の内のようだ。
(あ、私、読んじゃってるみたい……)
そう思いながら、知佳は目覚めた。
「マナ!!」
目を開いた瞬間、抱きすくめられた。
それはたっぷりと愛情のこもった抱擁だったが、知佳には全く身に覚えのない愛情だった。
【お父さんマナをマナだけをずっと探していたんだマナを大きくなったな頬】
【もスッキリしたなマナがちゃんと成長していてお父さん嬉しくてちょっと】
【だけ悲しいぞでもその純白の羽はそのままだその亜麻色の髪も大きな瞳も】
そして気付く。
(このおじさん、私のことをマナちゃん……娘さんと勘違いしているんだ)
同情心に囚われ、グレンの抱擁をしばらく黙って受け入れていた知佳だったが、
やがてグレンの想いの雲行きが怪しくなってきたことに気付く。
【魔力消費には精液だよなマナのちっちゃな体がいっぱいになるまで注ぎ込】
【んであげないとそうそうマナは感じると左にばかり首を振るんだお父さん】
(この人……娘さんにこんなことを……)
その行為は、天魔の命を保つために必要な行為だったが、知佳はそんな事情など知る由も無い。
ただ、父が娘と交わっている。インセスト・タブーを犯している。
その事実のみに愕然とし、そして恐怖していた。
知佳の背に回されていたグレンの右手が、いつのまにか知佳の臀部で妖しい動きを始めている。
その圧倒的な嫌悪感に、知佳は、感情を暴発させた。
周囲のあらゆるものを意図せずして破壊してしまうXXが。
「いやぁあああああっ!!」
……だが、続いてやってくるはずの大破壊は訪れなかった。
壁は放射状に割れず、家具は乱舞せず、空気も振動しなかった。
(ちから、出ない!?)
知佳は愕然とした。
体も動かない。だるい。力が入らない。集中できない。
そして、思いつく。
極度の疲労による強制休眠。
能動的な『ちから』が使えなくなるだけでなく、体すら動かなくなる、『ちから』の反動。
この状態は優に丸1日以上……長ければ3日ほど続く。
(よりによって、こんなときに。犯されそうなときに!!)
知佳は絶望感に囚われた。
……しかし、上げた悲鳴は功を奏していたらしい。
「驚かないで、お父さんだよマナ……」
慌てて知佳の体から離れたグレンは、ベッドの脇でぶんぶんと両手を左右に振っていた。
知佳はその様子を見てぼうっとする頭を必死に回転させる。
今のうちに誤解を解かなくては。
このまま誤解されていたら、このインモラルな男の成すがままになってしまう。
「あ、あの、おじさん。私、マナちゃんっていう子じゃないです。」
「え!?」
グレンの胸の内が揺れる。
知佳にはそれが、手にとるように分かる。
【今マナ変なこと言わなかったかマナじゃないとかお父さんのことをおじさ】
【んって他人行儀に呼ばなかったかマナはお父様じゃないと間違ってるじゃ】
「そ、そんなこと違うんじゃないか?マナはマナだよ。」
信じられないといいたげに、グレンは頭を振る。どこか怯えたような瞳で。
「……ごめんなさい。私は仁村知佳と言います。」
グレンは、確かめるように知佳の顔を凝視する。
知佳の頬に両手をあて、輪郭をなぞる。
【まさか本当にマナじゃないのかいやでもそんなはずはまてよ天使はこの世】
【に結構な数存在するはずお父さんの勘違いそういえばこんなに細い頬をし】
「日本の、海鳴の、さざなみ荘に真雪お姉ちゃんと一緒に住んでて……」
【マナじゃないマナなのかただの天使かだったらそんなモノいらないなお父】
【さんはマナしかいらないお父さんを騙すような性悪な天使なんて…………】
グレンの煩いまでの思考が、そこで沈黙した。
(この間は、自分の勘違いを受け入れるために、一旦頭をクリアにしてるんだ。)
知佳は、そう理解した。
「君は、本当に、マナじゃないんだね?」
ゆっくりと、尋問するかのように、グレンは知佳に向かって言葉を搾り出す。
(分かってくれたみたい。)
「わたし……」
マナさんとは違います。
そう言いかけて、知佳は口をつぐんだ。
頬に添えられた手に、妙な力が入ったからだ。
恐る恐るグレンに目を合わせると……
マナでなければ、殺す。
読心など使わなくても明らかだった。その目が語っていた。狂気と殺意を。
……それを悟った知佳には、こう言い逃れることしか出来なかった。
「わたし……なんだか頭がぼーっとしてて、体に力も入らなくて……
でも、ちょっとずつ思い出してきたみたい。お父様。」
その時の、グレンの顔。
辞書の『歓喜』という項目に挿絵を添えるならば、こんな絵になるであろう表情だった。
「お父様。」その一言だけで生じた変化だ。
グレンはマナとの愛と安らぎに満ちた日々のひとコマひとコマを、断片的に思い浮かべていた。
あのときのこと、このときのこと。笑顔。些細なケンカ。夜の生活。
……それを、知佳は読み逃さなかった。
必死で彼の心を盗み読み、『マナ』なる少女とこの男の過去を構築する。
そして、畳み掛ける。命がかかった思い出話を。
「お父様、お花畑のピクニック、とても楽しかったね。」
「うんうん、そんなこともあったね。お父さんもいまそのことを思い出していたよ!」
「今でもあのドレスを着たら、貴婦人みたいに見えるかな?」
「うんうん、もちろんだよ。あのときよりもずっと、マナは綺麗になったよ!」
【やっぱりマナだ間違いないきっと疲労の余り一時的に記憶混濁が起きてい】
【たんだけだだってお父様と呼んでくれたしお父さんはマナだけのお父様な】
グレンの心から疑心と殺意は消え失せ、再びマナへの愛情一色に染まった。
知佳は辛くも死の危機を脱したことに、ほっと胸を撫で下ろす。
シャツの背中は、汗でびっしょりだ。
「ごめんね、お父様。
マナももっとお父様とお話したいけど、凄く疲れてて……」
ボロが出ないうちに一旦この場を収めたほうが良い。知佳はそう判断した。
「ああごめんね、お父さんマナの保護者なのに、浮かれていて気付かなかったよ。
マナは安心して眠るといい。ゆっくりと体を回復させるといい。
大丈夫。お父さんがマナを守ってあげるから。」
「でも……この島では皆が殺し合いをしてるよね……」
「安心して、マナ。お父さんの配布物はね、これだったんだ。」
ちゃり、ちゃり……
グレンは風化しかかっているそのローブの袂から、古びた鍵の束を取り出した。
「この灯台の扉はね、重ーい鉄の扉だったんだ。
お父さんはこの鍵があったから灯台に入れたけど、他の誰もここには入りこめないさ。
だから……」
安心して。
知佳はそう続くものとばかり思っていた。
「だから……ここで暮らそうね。あの頃みたいに。幸せに。」
うっとりとした表情で、グレンはそう告げた。
「いつまでも2人で。2人だけで。」
……がしゃり。
知佳の耳に、聞こえる筈のない重々しい施錠音が響いた。鉄格子の。
284 :
名無しさん@初回限定:02/01/07 12:48 ID:L/cT5EyQ
____
,: 三ニ三ミミ;、-、 \/  ̄ | --十 i 、.__/__ \ , ____|__l l ー十
xX'' `YY"゙ミ、 ∠=ー  ̄ヽ | __|. | | / ヽ / __| ,二i ̄
彡" ..______. ミ. (___ ノ. | (__i゙'' し ノ /^ヽ_ノ (__ (__
::::: ::;
,=ミ______=三ミ ji,=三ミi
i 、'ーーー|,-・ー |=|,ー・- | ,-v-、
i; ':: ::: ーー" ゙i ,ーー'j / _ノ_ノ:^)
ーi:: ::i: /`^ー゙`、_ ..i / _ノ_ノ_ノ /)
|:::. ゙"i _,,.-==-、;゙゙i / ノ ノノ//
〉::.:.. 丶 " ゙̄ .'.ノ ____ / ______ ノ
/ i, `ー-、.,____,___ノ\____(" `ー" 、 ノ
ー'/ 'i. ヽ、 ,二ニ/ \ ``ー-、 ゙ ノ
/ 'i、 /\ / > ( `ー''"ー'"
\ 'i," (__) / / \ /ノ
(一日目 8:09 村落の一軒)
カタカタカタカタ……。
「……………」
カタカタカタカタ……。
「……………」
カタ……。
「……駄目だわ〜」
ノートパソコンを叩く指を止めて、法条まりな(No,32)はぐったりと椅子の背もたれに
体重を預けた。
「そう簡単にいくとは思ってなかったけど、ここまでとはね〜」
雑貨屋近くの民家で分析用のノートパソコンが手に入ったのは幸運だった。
だが、それだけではどうにもならない。
「(結局、今の所分かったのは発信機以外に集音マイクが内蔵されてる事ぐらい)
(……それにしたって、『ある』って事が判明しただけだもんね……)」
正直、内部構造については全く不明のままと言って良かった。
いかんせん、うかつに分解しようものなら爆発しかねない代物だ。
その爆発力は不明だが、まりなの指を吹き飛ばす位は確実にあるだろう。
「(第一、ここで分解できても……本番では『こいつ』他人の首に嵌ってるわ……)」
つまり高熱や激しい衝撃など、首輪を嵌めてる本人に被害が及ぶ方法は不可と言う事になる。
「(て事は……、私はこれを外部を破損する事無く内部を解析して、かつ対象者に被害が
及ばない解除法を見つけなきゃならないのよね……)う〜〜〜〜……」
思わず頭を抱えて机に突っ伏す。
確かに調査員の訓練過程で多少の電子機器の取り扱いは学習していた。
しかしながら、それはあくまで「多少」―――専門の工具があれば無線の修理ができる―――
その程度のレベルだ。本業には叶わない。
だが、諦める訳にはいかなかった。
「(オジサマが残してくれた首輪だもの、絶対に解明しないと……!)」
ではどうするか?
「まあ、ベストは専門の技術者が解析用の機械を使う事なんだけど。
機械工学の技術者に内部スキャンが可能な機械……ハァ、
そんな大病院か研究所クラスのがこんな島に揃ってる訳……?」
ふと、彼女の頭に何かが引っかかった。
「……………!」
突然まりなは傍らの手帳に手を伸ばした。あわただしくページをめくってゆく。
「(部長からデータを見せてもらった時には悪い冗談と思ったけど!)……あった!」
―――そこには、3人の名が書かれていた。
1・なみ
確実性 A
・ある程度のスキャン、及び分析機能を保有している。
間違いなく、この島における最高の性能を持つ機体。
協力できれば首輪の内部構造を把握できる可能性が高い。
危険性 A
・数時間前の遭遇から推測するに、彼女は殺戮側のスタンスで行動している。
再度遭遇した場合、交渉の余地なく攻撃を受ける可能性が高い。
2・グレン=コリンズ
確実性 B
・機械工学、ロケット工学、その他もろもろの権威。
知識面では今大会参加者の中でも上位に位置している。
やはり、首輪の構造分析にはかなり役立つ人物になるはず。
危険性 B
・そもそも既に人間ではない。
1に比べれば交渉は容易だが、協力要請には困難が予測される。
また、生理的にどうも好きになれない(まりなの趣味的に)
3・星川 翼
確実性 B−
・物質の破砕点を見抜く「目貫」と呼ばれる能力の保有者。
もし首輪の破砕点を見抜くことが可能ならば、破壊が可能となるはず。
データ上の性格が正しければ、交渉は可能と思われる。
危険性 C
・破壊された場合、内部構造の分析が不可能になる可能性がある。
「まずはこの3人を探すところから始めた方が良さそうね……」
正直、危険性は極めて高いと言えた。どちらかといえば無謀の範疇だろう。
「……でも、やらない訳にはいかないわよね。オジサマ」
まりなはそう呟き、立ち上がった。
↓
【法条 まりな】
【スタンス:大会の調査
首輪の解除法の解明
協力者の捜索】
【ノートパソコン入手】
>159
(1日目 6:20)
ペロペロペロ……
ペロペロペロ……
怪我したところを舐めてるうちに夜が明けちゃったょ。
わたしが獣の力を引き出せる時間が、終わっちゃったょ……
『私、このまま死ぬのかな……』
心の深いところで、藍が呟いてる。
藍―――わたしの宿主。この体の持ち主。
弱虫で淋しがり屋の、普通の女の子。
『大丈夫だょ。私の生命力でカバーできてるから、このくらいじゃ死なないょ』
それは……ウソ。
じっとしてれば死ぬことも無いけど、動き回ったら、獣の力を使ってしまったら。
多分、死ぬ。
それでも……
『堂島を、殺すんだよね?』
『そうだょ』
『堂島を殺したら、私は死ぬんだよね?』
『死なないょ。第三界に還るだけ』
『でもそこって……行ったら帰れないよね?』
『……そうだょ』
『だったら、死ぬのと同じだよ……』
『……』
『私はいやだよ!安曇村に帰りたいよ!お兄さんに会いたいよ……』
藍……泣かないで。
わたしだってお兄ちゃんに会いたいょ。
ぎゅってして欲しいょ。
なでなでして欲しいょ。
でも、これは「決まり」なんだょ……
わたしの本体を焼き捨て、封じていたオドを復活させようとした堂島は、殺さないといけないんだょ。
そうしないと、ヤマノカミ様がお怒りになってしまう。
わたしと藍の大事な安曇村が、大事なお兄さんが、祟りに遭っちゃうんだょ……
くんくんくん…
あれ?
人の匂いがするょ。
藍と同じくらいの年の、女の子の匂いが。
……でも、それだけじゃないょ。
なんだろう、この違和感。
なんだろう、この重圧。
ガサガサガサ……
近づいてくる。
茂みの中、迷わずわたしに向かって。
……殺気?
なに?
なんなの?
わかんない。
わかんないけど凄く……怖い。息苦しい。
『誰かな?』
藍が暢気に聞いてくる。
わかんないの?この威圧感が?
近づいてくるにつれ、相手の力量がわかってくる。
この怪我を負わせた男の人ほどの強さじゃない。
力だけなら、獣になったわたしょり、多分、弱い。
だけど、なんなの?
わたしの主人、ヤマノカミ様よりも大きな、この気配は?
ガサガサガサ……
藪の向こうに、切れ切れに映る白い服と赤い袴。巫女服。
その周りを薄く取り巻く、青い―――燐光!?
……最悪だょ。
あれは、天津神の神人だ。
私たち「妖」の存在を許さない、狩人。
それも、ヤマノカミ様ょり、ずっと格の高い。
『あ、良かった。武器持ってない巫女さんだ』
『……藍。あの巫女さんにわたしのことをしゃべっちゃ駄目だょ。
私に関すること、安曇村に関すること、全部しゃべっちゃ駄目』
『どうして?すごく優しそうな女の子だよ?』
『多分、藍には優しいと思う。でも……わたしにとっては天敵。
私がイズ=ホゥトリャだってバレたら、間違いなく殺される……
主導権を藍に戻すょ。すごく痛いと思うけど、何とか耐えて』
『え!?』
「うぐぁぅうるぅぅっつ!!」
藍が痛みの余り悶絶してる。
ごめんね、藍。
人間のあなたには、辛すぎる痛みだょね。
でも、わたしが表に出てたら、殺されちゃうから……
「大丈夫ですか!!」
神人が駆け寄ってくる。
お願い。わたしの存在には気が付かないで。
ヤマノカミ様、あなたの忠実な下僕にご加護を!!
「い、ひぐ……」
「大変!!ひどい怪我!!」
ぽぅ。
神人の手に、ひかり。
青いのに、とても熱くて、そして柔らかいひかり。
わたしの傷口にそれをかざして……
「あれ? ……痛くない?」
「ふぅ。これで大丈夫だと思います。良かったです、間に合って」
脇腹の穴が、無い。
わたしの怪我、治ってる?
一瞬にして、あれだけの怪我を……なんて恐ろしい力なの?
「巫女さんが、怪我を治してくれたの?」
「ええ、私は、こんなことでしかお役に立てませんから」
「さて、輸血をしなくてはいけませんね。
すぐ南に病院があるので、そこに向かおうと思いますが、歩けますか?」
「う、うん……」
「あ、肩をお貸しします。こちらに」
「ありがとう、巫女さん」
「私は紫堂神楽と申します。あなたは?」
「えと……松倉藍、だよ……」
藍……何、本名を名乗ってるの!?
それに、その安心した顔は何?
駄目!!
その女は敵だょ!!
絶対に心を許しちゃ駄目な相手だょ!!
天津神が優しいのは、自分の仲間と、その民にだけだょ。
くぅううう……
浮上して、藍にそれを伝えられないのがもどかしいょ……
↓
【グループ:神楽・藍】
【現在位置:東の森南部 → 病院】
【藍】
【能力制限:夜しか闇の獣化できない。神楽の前では獣が浮上できない】
【スタンス:獣 @堂島殺害 A神楽からの逃亡】
【スタンス:藍 @生還 A治療】
【神楽】
【スタンス:@団結説得、人命救助 A種の異なる人外は狩る】
>291
(6:30AM)
「ほら、こっち。」
双葉に導かれ翼は久しぶりの太陽を目にした。
鮮やかな色彩があふれる。
眼前に広がるのは広大なお花畑。
朝の薄明かりの下には熱帯性らしき色とりどりの花が咲き乱れている。
二人は立ちつくし、しばし言葉も交わすことなくその光景を眺めている。
不意に少し強い風が吹き、空に無数の花びらが舞う。
やがて二人はその花吹雪のなかを一面に広がる花の海のほうへ歩いて行く。
遠く前方には水平線がかすむまで何一つさえぎることなく続く海が広がる。
水面が南洋独特の深い青をたたえ、陽光をはじき輝く。
このような状況でなければ夢の世界かおとぎの国かといったところだ。
そんな幻想の景色の中、あたりに人影はなく、二人だけ。
非現実的な美しさをたたえた世界で、二人だけ。
一人は二つのズックを肩からかけ、一人は片手に植木蜂を抱えている。
二人はただただ無言でつかず離れず、寄り添うようにして歩く。
言葉をなくしたかのごとく押し黙って歩く二人。
双葉が足をもつれさせる。
一瞬、大地がたわんだかのような錯覚を受ける。
地震だ。
双葉は思わず近くにいた翼の腕に両手ですがりつく。
抱えていた植木鉢が地面と衝突し、砕け散る。
揺れはまだ収まらない。
翼は双葉を抱きかかえるようにして、あたりを窺う。
周囲に建物が一つとして見当たらないので、
それがどれくらいの大きさなのか見当もつかなかった。
それほど大きな揺れではないようだが、
随分と長い揺れだったようにも思う。
やがて揺れは収まり、立ちあがった翼は傍らの少女を見やる。
双葉は先ほど翼にすがりついたのと同じ体勢のままうずくまっている。
その肩が小刻みに震えている気がしたのは彼の気のせいだろうか?
少女は揺れのなか取り落としてしまった植木鉢の残骸を眺めている。
正確にはそこに植えられていた花を。
翼はそれがなんの花であるかを知らなかったが、
双葉がそれをこけしと呼び大事にしていた様子を見ていた。
「…鉢、割れちゃったね。」
呼びかけてみるが応えはない。
双葉は割れた鉢の破片を握ると土を掘り返し始めた。
双葉の望みを察した翼もそれに倣う。
穏やかな朝の光のもと、二人は黙々と手を動かした。
先ほどまで少女の傍らにあった花は今や大地にその根を下ろしている。
二人は立ちあがり、それを見下ろしている。
「…ありがと、ね…」
うつむいたままの双葉がポツリとこぼす。
果たしてそれは誰に向かって投げかけられた言葉だったか?
双葉は顔を上げ、しばらく翼の顔をまじまじと眺めると
何も言わずに歩き出してしまった。
黙ってその小さな背中を見ながら、
地面に下ろしてあった荷物を再び肩にかける。
またもや先ほどのような風が吹き、空いっぱいの花弁が舞い散る。
微笑んで少し小走りになって翼は彼女に駆け寄る。
やがて追いつき、二言三言ことばを交わすと双葉の怒鳴り声が聞こえた。
↓
【朽木双葉】
【位置:北東部海岸付近】
【武器:斧】
【スタンス:もう少し星川の様子を見る】
【星川翼】
【位置:同上】
【武器:アイスピック、ショットガン】
【スタンス:女の子を助ける。】
【能力制限:目貫の精密度低下。首輪の破壊が不可に】
>271
(一日目 06:02)
「……い、今まで死んだがは、
6番タイガージョー、10番貴神雷贈、4番伊藤臭作……」
どのような仕組みでかは分からないが、ここ山麓の泉にも、定時放送ははっきりと聞こえていた。
「臭兄ィぃぃいいい!!」
突然の絶叫にアズライト(No.14)は困惑する。
「畜生!!畜生!!畜生!!誰がアニキを殺したんだ!!
なんでだ!!どうしてだ!!誰が殺したんだ!!
あんなに優しい男なのによぉ……どうして殺されなきゃならねえんだ!?
残った義姉さんや子供たちはどうすりゃいいんだ!!畜生ッ!!!
おれぁ、臭兄ィを殺したやつを許さねぇッ!!ああ、許さねぇぞ!!」
鬼作(No.05)は慟哭した。喚き散らした。身も世もあらずといわんばかりに。
醜い顔をなお醜く歪めて。
多分に甘すぎる感傷を持つアズライトは、鬼作のあまりの嘆きっぷりに、再び重い罪悪感に駆られる。
(似ているとは思ったけど、兄弟だったんだ…… ぼくが森の中で命を絶ってしまった、あの男と……)
苦渋。その思いは顔に出る。
海千山千の鬼作にとって、表情から事実を読み取ることは容易だった。
出会いの時の驚いた顔も、そういうことなのだ。
(はっは〜ん。てめえか、臭兄ィを殺した奴ぁ。)
泣き濡れた面のその裏で、鬼作は舌を打ち鳴らす。
その意味は、喜び。
(これでまたアズやんを一歩追い込めるってわけだぁ。
くっくっく……恋心で。生存欲求で。罪悪感で。同情で。孤独感で。仲間意識で。
ありとあらゆる感情と欲望を鎖で繋いで、お前をがんじがらめにしてやるぜぇ。)
……この男は、身内の死さえ交渉の道具としていた。
さらに彼は、情念をぶつけ、ノートに書きなぐる。
アズライトの罪悪感に追い討ちをかけるべく。
『アズライトさん、お頼み申します。この鬼作めに協力してくださいませ!!
鬼作が帰らなくては……この鬼作すら、帰れなくては……
ワタクシの家族だけではありません、アニキの家族も路頭に迷ってしまいます。』
涙を零しながらアズライトにすがりつく。
大粒の涙を。ぼとぼと、ぼとぼと。
(ぼくが奪ってしまった1つの命が、何人もの心を傷つけ、何人もの生活を脅かす……)
「あ、あの……ぼくでご協力できることなら、お手伝いしますから……」
罪ほろぼし。
アズライトの動機は鬼作の狙い通り。
……しかし、鬼作とアズライトは別世界の住人だ。
何故か、言葉や文字は通じても、文化風土や科学についてはお互いに全く理解が無い。
彼らは具体的な話に移る前に、それぞれの世界を説明するところから始めなくてはならなかった。
そして、2時間余りの情報交換ののち、鬼作はようやく作戦説明を開始する。
(8:17)
始めに正体を明かさせていただきます。お仲間にウソはいけませんですからね。
この鬼作め、実は、某国軍部に所属する情報将校でございます。
ありていに申しまして、日本に潜伏している工作員……と言うわけでございますね。
そのワタクシがこの島でまず考えたことは、「軍部と連絡を取る」ということでございました。
ところが、携帯電話や無線機の類が没収されているは愚か、
村落にも電話線の一本すら引かれておらず、また電波も送受信されている場所は見当たりませんでした。
ただ一箇所を除いては。
学校…… 廊下を歩いているときに、鬼作めは見たのでございます。
ワタクシどもが閉じ込められていたあの部屋の隣に、主催者の物と思しき通信機を。
それは、ただの通信機ではございませんでした。
ひどく旧式の……今では誰も使いこなせないようなシロモノでございます。
しかし、そこはそれ。この鬼作めは情報将校にございます。
少々手を加えれば、通信が可能だと踏んでおります。
……ですが、この鬼作め、戦いに関してはシロウトでございます。
あのような恐ろしい主催者や不気味な手下たちの目をくらまし、学校に侵入することなどできません。
ましてや、通信機を改造する時間など確保できません。
そこで、アズライトさんにご登場願おうと愚考したわけでございます。
ほンの10分……長くて20分、主催者たちを校舎の外に引き付けていただきたいのです。
それだけあれば通信機で母国に連絡が取れますです。
連絡さえつけば、漁船にしか見えない高速艇で、鬼作めを助けに来ること、確実でございます。
それに、よく考えてくださいませ。
アズライトさんがらすと・まん・すたんでぃんぐとなったとしましょう。
そこで得られるのは自由では無く、手下になる権利でございますよ?
すンなりと、レティシア様とやらを探す旅に出していただけるとお思いですか?
あのそら恐ろしい主催者が。
鬼作の望む未来も、アズライトさんの望む未来も、勝ち残りの先には無いのでございます。
『鬼作さんの計画は分かりました』
アズライトはそこまで書き記し、慎重に考える。
(主催者と、戦う……)
主催者の、虎男を倒した攻撃の正体が、分からない。
本性を晒した自分ならば、アリを踏み潰すかの如く容易に倒せるかもしれない。
逆に、歯が立たないまま謎の攻撃を受け続け、倒されても不思議が無い。
全く、読めない。
その読めなさ一点が、アズライトの生存本能をして、これまで主催者との戦いを避けさせていた。
……だが。
防御・回避に専念するとしたらどうだろう?
あれは確かに正体不明の攻撃だが、虎男の死体はどうであったか?
原型は留めていたし、衝撃で校舎の壁を幾分砕いた程度ではなかったか?
ならば、本性を晒した自分にとっては、恐るべきと言うほどの破壊力ではない。
20分程度の時ならば、稼げるのではないか。
それで、自由が手に入るなら。
この危険な賭けに乗る価値は、十二分にあるのではないか?
『やってみましょう』
アズライトは、力強く、そう記した。
(こんっぐらっっっっっちゅれいしょん!)
鬼作は口に出しかけたその言葉を飲み込み、小躍りしたくなる自分を抑える。
(おっと、すぐ調子に乗る悪い癖が出ちまったぜぇ)
……言うまでもなく、鬼作の計画は、全て嘘だった。
嘘を嘘で塗り固めた上で、嘘でコーティングしたくらいの、嘘。
ただし、彼は気付いていないが、嘘から出た真も含まれていた。
『首輪は盗聴器だ』
信憑性を増すためのデタラメでしかなかったそれが、
結果的にこの密約が主催者に知られるのを防いでいたことを。
鬼作は計画の裏に忍び込ませている思惑を再確認する。
強い奴を、主催者にぶつける。
そこで主催者を倒してくれればよし。
もし挑戦者が主催者に倒されてしまってとしても、強力なライバルが減るので、それはそれでよし。
しかし、どうせなら、他の参加者を根こそぎ屠ってから主催者にぶつけた方が望ましい。
その時点で、鬼作が最後の一人となるのだから。
(アズやんに参加者を屠らせる方法、学校に攻め込ませるタイミング……
まぁ、その辺のことはおいおい考えるさ。
欲張りすぎるのはよくねぇ。今はここまでで満足しとくべきだぜぇ。)
「それでは、アズライトさんとこの鬼作めは一蓮托生、ということで。
今後ともひとつ、よろしくお願いしますです。」
「あ、あの、こちらこそ……」
「さて、それではしばらくここで休憩をとりましょう。アズライトさんのお怪我が癒えるまで。」
↓
【グループ:鬼作(No.05)・アズライト(No.14)】
【現在位置:山麓・泉】
【鬼作】
【スタンス:極力参加者を減らしたのち、アズライトを主催者にぶつける】
【アズライト】
【スタンス:鬼作の策に従う】
300 :
名無しさん@初回限定:02/01/08 12:03 ID:btN0xLdl
わ ,..-―-、 今
| /:::::::::::::::::l 300 だ
∩ /::::::::::::::::::::| ,、 番 !
-―-、 |⌒ヽ/::::::::::::::::::::::| _/|ノ ゲ
/´Y (´ヽ ,、 l: : : i::::::::::::::::::::::::|-―'´: :丿 ッ
,、 _し' l lヽJ/|ノ \: |∧/l/|ノレ : : : :/ ト
Y: : `ー`ー-―'´一': : | /: : : : : : : : : : ::i-‐'′ や
\: : : : : : : : : : : : / /: : : : : : : : : : : | |
Y: : : : : : : : :r'´ /: : : : : : : : : : : :|
/: : : : : : : : : :| /: : : : : : : : : : : : |
/:: : : : : : : : : ::| / : : : : : : : : : : : : |
/: : : : : : : : : : : | /: ::_: : : : : : : : : :|
`77ー--┬r一'  ̄/ / ̄`ー-┬r-'
l'´) ├| l'´) |~|
し' (ニ⊃ し' (ニ⊃
__
/〃 ┼‐┼〃__
/\ ノ __
__ , -――-、 /\ノ
ヽ/\l::::::::::::::::::::\ /: : /
,..-―-、/) |: : :|::::::::::::::::::::::/: : /
/⌒Y (_ノ /) |: : :|:::::::::::::::::::::|: : : /
 ̄l ̄l、 ) /`〉 ヽ:: :|::::::::::::::::::::l: : :/
l: : :`ー--‐'‐'´: :/ \|∧ハ/l/: ::〈
\: : : : : : : : : :く |: : : : : : : : : : `ー-┐ ,.、
l: : : : : : : : : :`ー―┐ ,、 |: : : : : : : : : : : : : : |二lニノ
ヽ.: : : : : : : : : : : : : :|ニノ |: : : : : : : : : : : : : : |
ヽ: : : : : : : : : : : : :| ヽ: : : : : : : : : : : /
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ノ|  ̄ ̄ ̄ ノ)
ノしノ し'( ノ)__ノ (ノ(
'――――-'′ '-――一-'′
301 :
名無しさん@初回限定:02/01/08 15:26 ID:JuHcYvYA
,,, ., ---
,〃~
,, -‐'''''''ヘ~~~~''''‐:、 // ,,,,,,,,,
,/ , -ッテ7ゞゝ‐、ヘ=¥〆~ ~゙'‐,,
/ // / i´./ ヘヽ \\~'' ,, ゙ヽ
/ // ./ .∧ i i i ヽ ヽ ヽ
/. /./ /l //l .l l l ゙i. ゙i. iヽ
l i /l. /l ‐幵-l ll_ l l_|l_ :l| | l.ヘ
| l リ. l l ||リ _リ_ ヾ!i iT7 リ i :l| .l^!i
| | l lヽ!. i''iテ"゙iン !i ノ,r''''テリ :/i /. リ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,! ,! .,! l ゙l!; :::,リ i! ::ノ!ノノ イ |
>>300おにいちゃん あのね
/ / / 八 i`'''''' ___’`''~! .i l | < ここはSSだけあげるスレなの
// /,rェェ,,,___゙_ミ- ,_. `-' ,,. '~ l l .| | 邪魔しちゃやだよぅ
// /´ ~ェ,‐ ''''ノ `''t-'' | | .l | \_____
//./ _,, -`ニュ ヾ,ニ'ヘ-,! l ! |
/./ i. r'~/ ヾ;、 ̄ ゙i.!ヽ l l、 |i
/ / ,! .| / .ヾi,,, ェ=====キ i,ヾヾヽヾ
/ / | .l' i.!~ ゙i, .iヾ ヾヾ
302 :
名無しさん@初回限定:02/01/08 21:37 ID:vUqpUcxX
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄」
――――――――――――――┬┘
| はいはい、
>>300-301。邪魔はだめよ
____.____ |
| |._______|. |
| |ヽ=@=ノ|. |
| |( ´∀`)つ | ミ
| |/ .⊃y ノ | | ∧∧
 ̄ ̄ ̄ ̄' ̄ ̄ ̄ ̄ | ( ゚Д゚)_⊃ 注意しただけじゃねぇか〜!!
| ⊂、 /
| | 301|
| ∪∪
>225,291
(1日目 7:30)
「なんと!?」
魔屈堂野武彦が、右肩をぐるぐると、大きく回す。
「え、うそ……」
「このようなことが……」
エーリヒと遙が、目を丸くする。
俄かには信じ難いことだが、魔屈堂の狙撃による怪我は完治していた。
先ほどまで手をかざしていた、小柄な巫女の手によって。
「巫女さんで僧侶!!まるでRPGじゃの!!」
いかにも彼らしい例えで、魔屈堂は喜びを口にする。
「こんなことでしか、お役に立てませんから」
そこはかとない気品と、あどけなさが同居した笑顔で神楽は微笑む。
神楽が藍を伴い、病院を訪れたのは今から30分ほど前。
彼女たちは、とても幸運だった。
病院に根を下ろしている者たちが皆、戦闘回避のスタンスを取っていたこと。
医療知識のある者がその中に含まれていたこと。
既に6人もの死者を出している殺人ゲームでのこの巡り合わせは、奇跡といっても差し支えない。
「藍の輸血、終わったわ」
アインが背後から声をかける。
隣室で藍の輸血作業をしていた彼女が、いつ病室に入ってきたのか、誰もわからなかった。
「どうでした?」
「結論から言って、持ちこたえると思うわ。
ただ、失血はかなりのものね。体も冷えてる。
いまは寝せておくべきね。」
「よかった……」
ほっと胸を撫で下ろす神楽。
そして、他の3人も同様に、口々に藍の無事を喜ぶ。
(よかった……こんな状況でも、他人の怪我を気遣える方たちに出会えて……)
神楽は、目的を同じくするこの集団に、加わる決意を固めていた。
(同日 8:00)
遙が出した番茶をすすりながら、しばし神楽の話を聞いていたエーリヒは、驚愕した。
人外―――人ならぬ者。デーモンの眷属すら、この殺人ゲームに参加していると言うのだ。
「まさか……」
頭を振るエーリヒと遙。
「私は、首から触手を伸ばしてくるバケモノに襲われたわ」
アインは冷静に事実を伝えた。
それを受け、魔屈堂は続ける。
「いや、エーリヒ殿。生きる時代の違う我々が同じ時、同じ場所に存在する不思議を思えば、
どんな不思議があってもおかしくはない……のではないかのぅ?」
「うむ、確かに……」
しばらくの沈黙の後、エーリヒはこう切り出した。
「しかし……だからといっていつまでも穴熊のように病院に篭っていても仕方あるまい。
我々が戦っているのは防衛戦ではないからな。
そろそろ行動を再開すべきだと思うが、どうだね、ヘル野武彦?」
「そうじゃな。
残念な事ながら、すでに殺し合いは始まっておるようじゃし、
今すぐにでも飛び出すべきじゃろう」
「あの……行動、って?」
遙の遠慮がちな質問にエーリヒは、
「情報と資材の収集メインに、余裕があったら人命救助をこなす」
というスタンスを説明する。
「あの。差し出がましいことを申しますが、まずは人命救助ではないでしょうか?」
それを聞いた神楽は、異を唱えた。
おとなしい口調で、小さな声ではあったが、堂々とした主張だ。
「今、殺し合いをしている人たちは、死ぬのが怖いだけなんです。
説得すれば、皆さんに分かっていただけるものと信じます」
神楽の主張は、そのうわべだけを聞けば、甘ったるい理想論だ。
しかし、その理想論を現実のものとするだけの力を、神楽は持っている。
「うーむ……しかし……」
「私からもいいかしら?」
今まで沈黙を守っていたアインが、口を開いた。
「最終目的は、この島からの逃亡。もしくは、主催者の打倒。そうですね?」
「うむ」
「だったら、当初の行動目的、物資と情報の収集優先は自明の理だと思うわ。
人命救助は、戦力増強の一点でのみ、有用ね。
力ある者は取り込み、ない者は―――捨て置く」
とても冷たい、しかし、事実のみが持つ重みがある、言葉。
「なんということをおっしゃるのですか。あなたには、感情というものがないのですか?」
神楽はその物言いに噛み付く。
しかし、アインは彼女の言葉を聞いておらず、一点を凝視していた。
―――悲しみと絶望に青くしている、遙の顔を。
遙は、アインの言葉を聞き、捨て置かれる力ないものと、自己認識していたのだ。
アインが憧れた笑顔の持ち主は、アインの冷徹な発言によって沈みかえっている。
(……失言ね。)
今にも泣き出しそうな遙。
黙りこくってしまったアイン。
とうとうと人の道を解く神楽。
議論は、途絶えてしまった。
305 :
名無しさん@初回限定:02/01/08 23:28 ID:JuHcYvYA
「……うんうん。
熱い議論、友情、悲しみ……青春ドラマじゃのう!!」
沈黙を破ったのは魔屈堂だった。
その背に、雲ひとつ無い青空の書き割りを背負って。
なぜかだくだくと涙を流して、感動をアピールする。
「……」
「……」
余りに場違いな発言と態度が、場にエアポケットを発生させた。
その空洞化を利用し、彼は話を強引に進める。
「まあ、いろいろ意見はあるじゃろが。
ここはエーリヒ殿に一任したいと思うが、どうじゃろう?
彼が最も場数を踏んでいると思うのじゃが」
……神楽と遙は異議を唱えなかった。
そして、アインも同意した。
「決められたことには従うわ。
命令が下ればやり遂げる。完璧に。」
自分の正体を隠すつもりなのか、エーリヒの才覚を図ろうとしているのか。
それとも、先ほど遙を傷つけてしまったことから慎重になっているのか。
氷のような無表情に戻ってしまったその顔からは読み取れない。
「了解した、それでは、組みたてよう」
エーリヒは魔屈堂の意を受け、即座に答えた。
少女たちのよくわからない理由による中座が、ぶり返してはかなわない。
「まず。基本スタンスは変更しない」
「そんな……」
「ただ、必要な資財を集め終えたら、即座に人命救助を第一義の目的に変更する」
「……わかりました」
神楽は、しぶしぶではあるものの、納得したようだった。
「次に、部隊編成だが―――ハルカは、戦力にならない。アイも同様だろう。
この2人は本陣、つまり、この病院に残しておくしかない」
エーリヒは、まずこの2人に戦力外通告をした。
遙がまた落ち込むのも理解するが、軍人として情でないところでの判断は必要であった。
それから、残りの3人を見回す。
(ヘル野武彦―――多少の失血はあるものの、怪我は治っている。
彼の判断力は信頼に足るし、目にもとまらぬ速さで動くという隠しダマもある)
(アイン―――正体はわからないが、戦いなれているようだ。
柔軟性をベースに、鍛え抜かれた無駄のない肉体。そして、恐ろしく冷静……)
(カグラ―――この少女の治癒力があれば、不意に襲われた時や怪我人を発見した時に重宝するだろう。
徒手による武道の心得も有るらしいが、甘い。冷静な判断は期待できない)
(そして、私―――正直、この3人に比すと、見劣りするコマだ。
体力的な問題もあるし、単独行動は取らないほうがいいだろう。
判断力と総合的な知識には長じているのだが……)
「本陣の守りに1人か2人。
行動部隊として、2人組みを1部隊か、2人組と単独行動の2部隊―――
以上の編成を組むことにしよう」
そして、数秒間再考したエーリヒは、編成を告げた。
↓
【グループ:魔屈堂・エーリヒ・アイン・遙・神楽・藍】
【現在位置:病院】
>237,243
(7:30)
結局、クレアは朝食に毒を混ぜなかった。
情け心が出たからというわけではない。
クレア:(愛は、私を疑っています。まずは彼女の信頼を得ないと、私の身が危ないですから)
その判断に基づいてのこと。
事実、朝食前の愛の態度は、以下のようなものだった。
しおり&さおり:いただきま〜〜〜す。
愛:あー、ちょっと待った、アンタ達。
作ってくれた人差し置いて、先に食べちゃうのはレディとしていかがなもんかね?
クレア:あら、そんなに気を遣って頂かなくても……
愛:気を遣うとかじゃなくて、礼儀の問題かな。
アタシ達の国ではまず、作った人が食べることになってる。
さおり:え〜〜、そうなんだ。しおりお姉ちゃん、知ってた?
しおり:知らなかったけど、言われてみればそんな気もする。
クレア:そうですか……でしたら、お先に頂きますわ。
……食事の後、4人は思い思いに過ごしている。
クレアは、台所まわりの掃除。
愛はベッドに横たわり、なにやら考え事。
しおりとさおりは、暗視スコープを覗き込んではわいわいと。
一見、殺人ゲームとは縁遠い平和な日常のひとコマ風味だが、
愛とクレアは、双子の頭越しに、お互いの行動に意識を集中してる。
そんな、静かな緊張の中。
こんこんこん。
小屋の扉がノックされた。
>307
??:ごめんくださ〜い。
それは、場違いなほど暢気な口調だった。
しおり:はーーーい、今開け
愛:待て。
飛び出そうとするしおりを押さえ、愛はクレアに目配せする。
愛:用心に越したことはないやね。様子を見てもらえる?
クレア:わかりました。
クレアがのぞき穴から様子を伺うと、にこやかに微笑んだメイド服の少女が目に入った。
なみ:ごめんくださ〜い。
……だが、その青と白のメイド服は、血の赤と泥の茶に彩られてる。
ブゥゥゥゥゥ……
気付くと、クレアの手に伝わる、微妙な振動。
クレア:(地震……かしら?)
次の瞬間。
ギュイイイイイイイン!!
扉を突き破ったチェーンソーが、クレアのすぐ横で、唸りを上げていた。
舞い散るおがくず。
左頬から迸る鮮血。
クレア:きゃあああああ!!
なみ:あらぁ、狙いが外れてしまいましたね。扉の抵抗値の予測ミスでしょうか。
腰が抜けたクレアは、その場にへなへなと座り込む。
愛:アホッ!なにやってるッ!!
愛がクレアを引っ張り倒す。
ギュイイイイイイイン!!
コンマ2秒前までクレアが座り込んでいた位置に、2撃目のチェーンソーが差し込まれた。
>308
ギュギュギュギュイィイイイ……
息をのむ2人の目の前で、チェーンソーはゆっくりと引っ込んだ。
それから、一撃目のチェーンソーが開けた穴に左手が突っ込まれる。
ズリズリ……
ドアのノブを探るようにその手が動いて―――鍵を開けようとしている。
愛:させないッ!
ガイン!!
愛はその手に向けて、咄嗟に金属バットを振り下ろした。
愛:(つっ!? この固さ……ロボットか!?)
愛:しおり、さおり!! 雨戸全部下ろせ!!
しおり:……。
愛:返事!!
さおり:は、はい、お姉ちゃん!!
愛:そこのメイド、腰抜かしてる場合か!? 食卓!椅子!ベッド!!
裏口にバリケードだ!!
クレア:わかりました……
愛はてきぱきと指示しながらも、鍵を開けようと這いずるなみの手を、金属バットで叩き続ける。
その手は叩かれる度にドアノブから遠のくものの、あまりダメージを受けている様子はない。
むしろ、金属で金属を思い切り叩くその衝撃に、愛の腕が痺れかけていた。
クレアは、重々しいベッドを裏口まで引きずる。
テーブルを立てかける。
椅子を放り投げる。
どの動作も、彼女の腕力を超えている。
火事場だからこその動きだ。
幼い双子は、健気に震えをこらえ、アルミシャッターを下ろしている。
キッチン、バス、リビング。
ガラガラガラ。
丸太用のチェーンソーでそれを切り裂くのは不可能だろう。
さおり:お姉ちゃん、雨戸全部閉めたよ!!
愛:よくやった。あとはその辺の隅っこでじっとしてな。
しおり:うん……。
>309
防衛準備が一通り整った頃、なぜか、なみの左手が扉の亀裂から引き抜かれた。
…………1分。
…………2分。
…………
静寂が3分目に突入する。
愛:アンタにこれを渡しとく。動きがあったら、とにかく叩け。
クレア:愛さんは?
愛:……蒸らす。
愛はそう告げると、右手を紺色のブルマーの前に手を突っ込んだ。
左手は乳房に添えられる。
愛:あ、……はぁ、くぅん……
クレア:な、なにを!?
突然のオナニーショーに目を白黒させるクレア。
愛:錯乱してるわけじゃない。
因果なもんでね……こんな恥ずかしい行為が、アタシの戦い方なんだ。
愛の手の動きは、次第に大胆になっていく。
愛:アタシのことは気にするな。意識は扉に集中してろ。
クレア:もちろん、ずっと見ていますが…… 動きがありません。
…………さらに1分。
…………さらに2分。
…………
静寂は、2度目の3分目に突入する。
しおり:行った、の?
クレア:……そのようですね。
さおり:……よかったぁ。
3人の緊張が、少しだけ緩んだとき。
愛:(そろそろブルマの中も蒸れてきたが…… 追撃するか?)
愛が次の行動に思いを巡らせたとき。
コツ。
東側の壁に、何かが当たる音がした。
>310
轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟!!!!!!!
なみが使用した最後の手榴弾が、炸裂する。
耳を劈く、爆音。
クレア:な!?
衝撃。
閃光。
赤々と燃える空気。
さおり:痛!!
煙。
ストップモーションで崩れゆく壁。
耳鳴り。
愛:爆弾かッ!?
悲鳴。
落ちてくる天井。
世界は色を失い。
しおり:さおりちゃん!!
――――――――――――――――――ホワイトアウト。
↓
【現在位置:小屋跡】
【なみ】
【所持武器:チェーンソー】
>240
(一日目 11:55)
「アリスメンディさんは、どうして私のことをお姉さんと呼ばれるのですか?
私のほうが年下だと思うのですが」
「棒姉妹だから」
ガスッ!
「い、いった〜〜〜〜〜ッ!
ど〜ぉしてわたしがゲンコでゴッチンされないといけないそのワケは?」
「下品だからだ」
「ぼうしまい?」
「……よいこは、知らんでいい」
仮眠を3時間ずつ取ったランス一行は、
配布された非常食を頬張りつつ、軽い雑談をしていた。
この緊迫したゲームの只中にあって、和気藹々とした空気を醸し出しているのは、
ランスの無根拠な自信と、アリスメンディのおばかさん加減の賜物だ。
「しかし、このランス様の斧を盗むとは、あのナイチチ娘にはむかつくな。
今度会ったら、きっついお仕置きをしてやらにゃならん」
「縄ムチ浣腸バイブに蝋燭〜〜ッ♪」
「……あの、お仕置きよりも先に、斧を取り戻すことを考えたほうがいいのでは」
ユリーシャの指摘する通りだった。
今、3人の手元にある武器は、ユリーシャの弩弓のみ。
ランスが森の中で手折った『棍棒もどきの枝』はあるものの、
今後激化するであろう戦いを生き抜く上では、余りにも心許ない。
「そういえばアリス。お前の配布物はなんだったんだ?」
「剣だったよ。おっきいの」
「何!?」
ランスはアリスの発言に目の色を変える。
「お姉さんの身長位の長さだったよ」
145cm……バスタード・ソードと言ったところか。
それは戦の申し子、ランスが最も使い慣れた武器。
十分な固さが備わっていれば、必殺のランスアタックを放つことも可能だ。
「おもおもだったから、とちゅーでポイってした。
あんなの、わたしには振れないし」
「なーーーーんちゅう気の利かないヤツなんだ、お前は!」
「おっこること無いじゃんか、ぷんすか!
あのときは、まだランスと会ってなかったんだし」
普段は自信過剰な楽天家でしかないランスだが、
人生の要所・転機では、獣のような嗅覚を発揮する。
その嗅覚が、アリスが捨てた剣を『必要』だと訴えていた。
「ビビっと来た。それは、俺様のための武器だ。
剣のヤツもランス様を待っているに違いない」
314 :
俺様のための武器:02/01/10 17:20 ID:lK11P4cp
「で、どこに捨てた?」
いつに無く真剣な表情で、アリスに尋ねるランス。
「海岸」
「何ィ!? ……で、どのあたりだ?」
「えっとねぇ……とーだいが見えたような、そうでもないような」
「ユリーシャ、」
「地図ならここに」
ユリーシャは既に地図を開き、灯台を指差していた。
「……お前は気が利くな」
「ありがとうございます」
灯台―――島の東海岸線にある。
距離は、ここから約2km。
「とにかく、東の海岸線の、どっか。それだけは超絶正しいハズ」
「わかった」
ランスは地図から目を離し、すっくと立ち上がると、脱ぎ捨ててあった鎧を手に取る。
「とにかく案内しろ。細かいことは歩きながら思い出せ」
無言でランスの鎧装着を手伝っていたユリーシャは、
真紅のマントを彼の背にかけながら、おずおずと尋ねた。
「あの……ついていってもよろしいですか?」
「いいこで待ってろ」
「……はい」
↓
【ランス・アリス】
【位置:洞窟 → 灯台付近】
【武器:ランス(棍棒もどきの枝)】
【スタンス:ランス @アリスの配布武器回収 A女は犯る、男は殺る】
>311
(1日目 8:10)
―――小屋の爆発から、3分余りが過ぎようとしていた。
立ちこめていた煙と埃が落ち着くにつれ、しだいに小屋の惨状も顕わになってゆく。
小屋は、コント劇の舞台セットで使われているような、断面図そのものだった。
東側半分だけが、綺麗に瓦解している。
火の手は、上がっていない。
小屋の基本素材は、耐火ボードと鉄筋コンクリートだったからだ。
また、屋外に大型のプロパンタンクは設置されておらず、
ガス器具の類は、カセット式のコンロだけだったことも、二次災害を防ぐ重要な要因だった。
しかし、幸不幸はたいていの場合、表裏一体である。
火災を防いだ鉄筋とコンクリートは、木材とは比べ物にならない破壊力を持つ凶器となる。
……元は玄関があったその場所に、常葉愛は仰向けに倒れ、苦痛にうめいている。
コンクリートの塊に右足を潰され、身動きが取れない状態で。
(くそっ、なんて重さなんだい、このコンクリは!!)
怒りと痛みでかなり感情的になっている彼女は、がむしゃらにコンクリ塊を持ち上げようとしていた。
しかし、それを持ち上げようと上半身を起こすと、肺が焼け付くように痛む。
折れた肋骨が、肺を刺激しているのだ。
こつ、こつ、こつ……
そんな愛の耳に、煙の向こうから、かろやかな足音が聞こえてくる。
そして、無感情な声も。
「生体反応は……3つ、ですね。」
(……3つ?)
私、しおり、さおり、メイド―――全部で、4人。
それは、つまり。
(一人死んだ……のかッ!?)
愛は、その数から除外される。
単純に計算して、幼い双子のうち、どちらかが死んだ確率が66.6%ということだ。
「守るって……誓ったのに」
実際のところ、ナミの各種サーチ系は、小屋の範囲にのみかけられていた。
つまり、爆風で吹っ飛ばされた者、直後に小屋から逃げ出した者がいた場合は、
反応にかからないというわけだ。
現時点で誰かが死んだと結論付けるのは早計であったし、もちろんナミもそのことは分かっている。
しかし―――愛にそのようなことが分かろう筈もない。
(人に作られた分際で人を殺すたぁ……許せん、この機械野郎め!
ぶつけてやる。Lv4のブルマー技を!!)
愛の中に、確かな殺意が芽生える。
痛みなど吹き飛んでしまうほどの、怒り。
(ムレろ、ムレろ、ムレろ…… 煮え立つくらいに!!)
くちゅくちゅくちゅ。
性器に指を2本突っ込み、乱暴にかき回す。
通常よりもかなり大胆な愛撫だ。
しかし、いつもなら痛みを感じるであろう行為に、愛は激しく愛液を分泌させていた。
殺意と性欲、二つの熱い衝動が絡み合った結果だ。
(来た……十分高まったッ!!)
「あ、生体反応の1個目、見つけました」
タイミングよく、ナミが愛の正面に立つ。
(壊す!!)
愛は肺の苦痛に耐えて上半身を起こすと、
全身全霊の怒りを込め、ブルマに食んだ下着をピチリと弾いた。
『チェルノブルマーーーーーーッ!!』
愛の予備動作を目視した瞬間、ナミは全力回避を選択。
バックステップを5連続で行い、約7Mの距離をおくことに成功。
しかし―――
先ほどの攻撃に多少風のようなものを感じはしたが、衝撃が全く来ない。
それどころか、対象は意味不明な叫び声を上げた直後、血を吐いてパタリと倒れ込んでしまった。
キルリアン反応も低い。
―――つまり、死にかけている。
(口先だけでしたか。脅威レベルSと連戦したので、用心が過ぎたようですね)
ナミは倒れた愛に向けて、洗濯体勢で歩み寄る。
(―――は?)
洗濯。
この局面では、使用する意味の無い機能だ。
(私、チェーンソーを振り上げようと……)
改めてナミは、掃除を開始した。
(え!?)
……何かが、おかしい。
「ドリルは地面を掘るためのものじゃないですか」
(ナミは今、何を言いました?)
「だってすばらしいですよね、お米、お米、お米。……スーパーは年内無休ですよ?」
(違います、違います!! ナミはこんなことを言いたいんじゃありません!!)
ここに来てようやく命令系統の不調を感じ取ったナミは、中枢コンより各系への、故障走査を開始する。
command:ドリル回転。
command:録画予約。
command:アナル拡張。
command:眼球、エアウォッシュ。
(命令と違います!!)
command:キャンセル。
command:キャンセル。
command:キャンセル。
command:キャンセル。
ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー……
ナミの中枢コンは一時、空ネスト状態に陥ったが、(混乱した)
4秒後にそれを抜け、(少しだけ冷静になった)
1秒ごとに故障走査と誤命令キャンセルを繰り返す。(やっきになった)
しかし、それもすぐビジー状態となってしまうので……(テンパった)
不正アクセス!!強制終了!!不正アクセス!!強制終了!!(キレた)
ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー……
ナミには計器類や可動部補助サブコンに、不吉な鳴動がこだましているように感じられた。
(ダメ……この状態で人前にいては危険……)
彼女はシステム修復の必要があると判断し、小屋前からの転進を決意する。
足の挙動を補佐しているサブコンに命令を下すと誤命令となってしまうので、
それを介さず、中枢コンから直接神経系をコントロールする。
走る―――たったそれだけの命令に、中枢コンのメモリの70%を占有。
ぎくしゃく、ぎくしゃく。
森へ向かって、走る。
ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー……
(1日目 10:00)
ナミは日本で開発され、ドールファイト用に改造されたロボットだ。
攻撃力・防御力・処理速度は、日本ロボット工学の粋を集めたものであると言えよう。
しかし非合法とは言え、ルールあるドールファイト用だからこそ、排除された能力や知識もある。
例えば、放射能対策。
そして、愛が放ったチェルノブルマーこそ―――その放射能で相手を汚染する攻撃。
強烈な放射線に、ナミのほとんどの計器と処理装置は正常動作不能に追い込まれていたのだ。
(機能が正常に働いているのは……)
・中枢コン
・動力炉
・HD
・ブラックボックス
(この4点、だけですか……他の機器類は全滅ですね。)
これらの機能が正常動作していることは、偶然ではない。
中枢コンとHDは、ナミの命と言ってもいい。
極論、これらだけを他の機体に移植しても、ナミたる『個』は持続できるからだ。
それゆえ、他の枝葉機構より数段高い防衛システムを持っている。
動力炉は爆発の危険を防ぐ為、高い耐性を発揮するよう設計されていた。
また、ブラックボックスはあらゆる災害に耐え抜くことを前提に開発されるものだ。
熱暴走を避けるため、ナミはデフラグをかけつつ、省電力モードに入る。
目覚めたときに、全ての不調が解消されていることを願いつつ。
そうでなければ、全ての挙動を中枢コンのみで担当しなくてはならなくなる。
ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー・ガイガー……
耳障りな鳴動は、夢の中でも鳴り止みそうに無かった。
↓
【ナミ】
【現在位置:西の森】
【能力制限:防御力を除く全能力が一般人並に】
【能力制限:放射能汚染。エネルギー残量不明】
【愛】
【能力制限:不治の病。怪我により重態】
>255
(一日目 07:17)
「ぶぅ〜〜〜ん、ぶぅ〜〜〜〜ん!!」
朝の爽やかな空気の中、木漏れ日を受け照り輝くその公園で、
五十過ぎのヒゲオヤジ・堂島(No.07)が、心底楽しそうにジンジャーを乗り回していた。
目を疑うような絵ヅラだが、この情景は紛れも無い真実だ。
「ひひ……早いぞ早いぞ!!薫の『Let's号』!!」
そんな彼の様子ベンチから眺めて、頭を抱える大小の影。
タカさん(No.15)とまひる(No.38)だ。
「っかしーなァ…… 頭がどーにかなっちゃうほどの事ぁ、してねぇんだけどなぁ?」
「……おじさん、死ぬとか許してとか言ってた。」
ジト目でタカさんを見上げるまひる。
「ア、アタシが悪かったよ…… 反省してる。おっちゃんの面倒はしっかりみる。」
タカさんは所在無さげに目を逸らす。
この堂島の幼児退行は、タカさんの強チンが引き金となって起こったからだ。
実のところ、原因は堂島に積み重なった幾つもの心理的負荷が並列しての退行だったが、
読心能力を持つ知佳ならいざ知らず、この普通人2人では、因業親父の胸中までは覗けない。
「面倒みるって、守ってあげるってこと?」
「守る?」
まひるの当たり前な問いに、タカさんは本気でクエスチョンマークを出す。
「守るっつーか、メシの世話とか、寝床の確保とか、性欲の処理とか、そーゆーこと。」
「いらないいらない、最後のはいらない。
……って、そーゆーことじゃあなくって!」
だむだむだむ!
ベンチを掌で叩きながら、まひるは感情的に言葉を続ける。
「あたしたちは今、「なんだこりゃ〜」って叫びたくなるような
殺人ゲームに放り込まれてるじゃないですか。
守るって言ったら命!ライフ!これ一点に決まってるでしょ!?」
「そんなこたぁ、主催者のバカチンが勝手に言ってるだけじゃねえか。
アタシはそんなのに乗ったつもりはないぜ。」
「あいたたた……
タカさんがどう思うかは関係ないところで話は進んでるんですってば!
さっきのキモチワルイ放送でも言ってたでしょ?
6人!6人も死んでるんですよ!?」
「吠えるな、悩むな、メシを喰え!!腹が膨れれば、ほとんどの悩みなんて解決するモンだ。」
だむだむだむ!!
「うわぁ、も〜、全然分かってない人だなっっ!!
あたしたちに殺す気はなくても、あたしたちを殺す気マンマン人達がいるんだってばさ!!」
「……キーキーうるせぇんだよ。これだから女ってのは鬱陶しい。
いいか?守るとか逃げるとか、そーゆーことを考えちまう時点で、
すでにお前もこの糞ゲームに乗っちまってるんだよ、まひる。」
「え?」
その言葉は、盲点だった。
殺せる、殺せない。撃てる、撃てない。生きる、死ぬ。
公園にたどり着くまでのまひるの思考のほとんどは、それで占められていた。
日常生活に於いて、彼はそのようなことを一度も考えたことがないのに。
確かにそれはタカさんの言うとおり、ゲームのルールに乗った上での思考だ。
「じゃあ…… じゃあ、タカさんは、どうするんですか?
あたしにどうしろと?」
「アタシは、暮らすね。普通に。悠々と。」
「暮らす。」
「そ。まー、折角島に来たんだし、まずは釣りでもすっかね。」
「はぁ……釣り。」
「こう見えてもアタシゃ、港町の出でね。堤防釣りはお手のモンさ。
今晩は黒鯛の御造りだね。」
「鯛の御造り。
よくわからんが、マジだね、タカさん。」
「おうとも。」
ニッ!!
キラリと歯が光る、タカさんスマイル。
一連の発言は、普通に考えれば現実から目を背けた、逃げの姿勢だ。
退行してしまった堂島と、さして変わりないとも取れる。
しかし……タカさんの言葉には、刹那的の一言で片付けられない、底抜けにポジティブな響きがある。
自暴自棄さが感じられない。
この豪快な女性は、ゲームと状況を理解し、その上で、普通に暮らそうとしているのだ。
「ま、アタシはこんなだが、お前がどうするかは、お前が決めな、まひる。」
「え?」
お前も付いて来い。
てっきりそういわれるものとばかり思っていたまひるは、その言葉を聞いてショックを受ける。
「逃げる、殺す、主催者の糞ヤロウをブッ叩く……
お前の人生だ、好きに生きるといい。
ただ、自殺だけはすんなよ。
せっかく授かった命だ。大切にしねえと勿体無いからな。」
それは、優しさなのか、厳しさなのか。
「……。」
「欲しけりゃ、アタシの武器もやる。使うつもりねぇからな。
なんかよくわかんねぇでっかい筒だけどよ。」
そう言いながらタカさんは、自分のデイバックの脇に立てかけてある、筒状のものを顎でさした。
『M72A2』……
最終兵器にすらなり得る携帯用バズーカも、タカさんにとってはただの筒のようだ。
「じゃ、アタシらは行くよ。元気でな、まひる。
おい、おっちゃん、荷物持ちな?」
勢いよくベンチから立ち上がり、堂島に向けて声をかけるタカさんだったが、
堂島は反応することなく、ぶんぶんとジンジャーに熱中している。
「おっちゃん!!」
「あの……あの人、今、子供ってるんで。
坊や、とか呼ばないと気付かないのでは?」
「……そこのボウズ。」
ビクッ!
そこで、ようやく堂島は反応した。
その場で数秒、硬直する。
「ボウズ、荷物の用意しろ。行くぞ。」
たたたたっ!!
堂島はベンチに向かって駆け寄る。
そして、タカさんの脇をすり抜け、まひるの後ろへ。
ブルブルブルブル……
顔を真っ青にして、彼の手を握る。
「やだ。」
「は?」
「おじちゃんはコワいから、薫一緒に行きたくない。おかーたまと一緒に、ここにいる。」
ぎゅっ。
まひるの手を握る。
「な……」
……堂島が、タカさんに怯えるのは、ことのいきさつを考えれば仕方ないことだった。
「おじちゃんってのはどーゆーこった!アタシは女だ!
お前、アタシのおま○この中でイキまくったの、もう忘れたか!!」
「ヒ! 助けておかーたま、おじちゃんがいじめる……」
堂島の手を握り返しながら、まひるは考えていた。
(タカさん、よく分からない。でも……)
彼女のスタンス、言葉の端々に、自分には無い何か……
自分のように揺れず、波立たず、そこにどっしりと鎮座している、「強さ」のようなものがある。
たった一日で忘れかけていた、日常の匂いがする。
……難しく考えることはない。
(この人といれば、いつものあたしでいられそう。)
それだけで、ついて行く理由には十分だ。
「まあ、薫ちゃんもこー言ってるんで、あたしも一緒に行きます。」
「まひるがおっちゃんに合わせる義理はないだろ?」
「義理とかそんなじゃないです。
悩んで暮らすより笑って暮らしたほうが楽しいかなって、そう思っただけで。」
「そっか。そーしたいんなら、そーするといい。」
「……おかーたまも、おじちゃんと一緒に行くの?」
「あのね、薫ちゃん。この人はおじちゃんじゃなくて、お父さんなの。」
「ハァ!?」
「えへへへ。タカさん、薫ちゃんの面倒みるんでしょ?
だったら親子った方が楽しいな、って思ったんで。」
「おいおい……アタシはこれでも女だぜ?
おままごとなら、アタシが母親、まひるが姉でいいじゃねえか。」
「だ〜め!お母さん役はあたし!!ね、薫ちゃん?」
「おかーたまはおかーたま役じゃなくって、薫のおかーたまだよ。」
だむだむだむ!
「はい、表決は2:1でまひるがおかーたまに決定しました!」
「ち、キズつくぜ……」
ポリポリと頭を掻くタカさんに、まひるは微笑みかける。
「じゃ、行きましょうか、あ・な・た ♥」
鉄腸すら蕩かす、大輪の花のような笑顔。
タカさんは、やれやれと肩を竦めて背を向ける。
まひるたちは気付かなかったが……背けた顔は赤く染まっていた。
(おいおい……アタシゃ、なに女の子の笑顔でドキっと来てるんだ!?)
……タカさんはまだ、『彼女』が『彼』であることを知らない。
↓
【グループ:タカさん(No.15) まひる(No.38) 堂島(No.07)】
【所持武器:タカさん(M72A2) まひる(グロック17:弾17) 堂島(ジンジャー)】
【現在位置:小公園 → 漁港】
【スタンス:日常生活】
スレ汚しすんません、だけど、だけど、一言だけ、一言だけ言わせてくれ・・・
あんたたち最高だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!
>306
(1日目 8:30)
「本陣の守りは…」
「エーリヒ殿、編成を決めるのは少し待ってもらえんかな?」
エーリヒが編成を告げようとしたまさにその時、魔屈堂がそれを止めた。
「どうしたのだ? ヘル野武彦」
予想外の相手に話を遮られ、エーリヒは少々は鼻白んだ。
「あ、気を悪くさせてしまったようじゃの。すまぬ。
いや、一つ重要なことを確認し忘れていたことに気付いての」
「重要なこと?」
「それは何なのですか?」
「?」
「……」
不思議そうな顔のエーリヒ・神楽・遙。
無言で魔屈堂を見詰めるアイン。
魔屈堂は彼らを見回し、おもむろに言った。
「そう、わしらはお互いに支給されたアイテムの情報交換をすべきではないかの」
「なるほど」
「確かにそうね」
「一理あります」
「……えっと、私も……そう思います」
魔屈堂の言葉に他の4人は相槌を打った。
「それでは、私から順番に自分に支給された物を言っていくことにしよう。
私に支給されたのはレーザーガンだ」
『レーザーガン!?』
エーリヒが自分に支給された物を告げて懐から取り出すと、魔屈堂を除く3人が驚きの声を挙げる。
「私のいた時代にはまだフィクションにすぎなかったが、今では実用化されているのではないのか?
ヘル野武彦にそう聞いたのだが……」
「私の知る限りでは、研究はされているものの、まだ実用化はされていない筈よ」
「私もレーザーガンが実用化されたという話は聞いたことがないです」
「え、えと、私はあまりそういうのには詳しくないです、ごめんなさい」
「うーむ……どうやらレーザーガンが実用化されているのは、わしのいた世界だけのようじゃな」
アイン達3人の反応を見て、魔屈堂はポンと手を叩き納得する。
「どうやらそのようだな」
「……あなたが嘘をつくメリットはないから、そういうことになるわね」
頷くエーリヒ。半信半疑ながらも信じることにするアイン。
「違う時代や世界に住む私たちを同じ島に集めることができる。
……一体、主催者って何者なのでしょうか?」
神楽がふと口に出した問いに答えられる者は誰もいなかった。
「まあ、主催者について考えるのは後にして、支給品の確認を続けんかな?」
沈黙を破ったのは魔屈堂だった。
「……そうね。主催者について考えようにも、今はまだ情報が少な過ぎるわ。
考えるのは後にしましょう」
アインは首肯し言った。
「私に支給されたのはスペツナズ・ナイフよ。旧ソ連特殊部隊仕様のね」
そして、皆にナイフを見せる。
「『旧』ソ連? ソ連は滅んだのか?」
「ええ、今から10年程前に解体しました」
「そうか……」
エーリヒはかつて戦ったこともある国家の消滅を思い、しばし感慨に耽った。
「それと、さっき輸血をしていた時に藍の所持品を調べておいたけど、何も持っていなかったわ。
何者かに攻撃されて逃げる途中で落としてしまったようね」
エーリヒの反応は気にせず、アインは淡々と言った。
「ふむ、何も持っていなかったということは、そういうことになるのう」
「おそらくそんなところだろう」
アインの推測に魔屈堂とエーリヒは同意した。
「わしに支給されたのは箱入りのチョークじゃ。
武器としては役に立たんが、たくさんあるから、木などに目印をつけたり、
他の参加者にメッセージを残すのに使えるじゃろう」
魔屈堂は自分のバッグから何ダースものチョークを取り出し、皆に見せた。
「私に支給されたのは『他爆装置』というものでした。
……既に使ってしまったのでもうありませんが」
魔屈堂に続いて神楽がそう言った。
「他爆リング?」
「何だねそれは?」
「はい、一緒にあった説明書によると、発信指輪と受信指輪のセットになっていて、
発信指輪を装着しているものが死亡すると受信指輪が爆発するというものです。
発信指輪と受信指輪の距離が3M以上離れても、受信指輪が爆発します。
指輪を外したり、指ごと切り落としても爆発するそうです。
また、発信機と受信機は外見で区別することは不可能だそうです」
「ほぉ、それはまたユニークな指輪じゃな。できれば見たかったのう」
魔屈堂は残念がった。彼は珍しいアイテムには目がないのだ。
それを尻目にエーリヒは神楽に質問する。
「それで、カグラはそれを誰に使ったのだね?」
「途中で会った方2人に付けました。
冷静さを失って殺し合いをしようとしていたので、反省を促すために」
「なるほど。その2人は反省しそうかね?」
「それは……分かりません」
「そうか、もし再びその2人に会った時に冷静になっていたら、
この病院に連れて来るのも良いかもしれんな」
「私はそこまで楽観的にはなれないわ。
一度人を殺そうとした人間が、そう簡単に改心するとは思えない」
「あなたはどうしてそのようなことをおっしゃるのですか!?
あなたは他人を信じることができないのですか!?」
「……私には盲目的に他人を信じることはできないわ」
「なっ、何という事を言うんです。撤回してください!」
神楽とアインの間に険悪な空気が流れた。
「まあまあ、2人とも落ち着かんか。
仲間割れしていては、人命救助も島からの脱出も主催者の打倒もできんぞ」
魔屈堂は2人に割って入った。
「……ごめんなさい。言い過ぎたようね」
「いえ、私の方こそ申し訳ありませんでした」
アインと神楽は、この場でこれ以上言い争っても無意味なことに気付き謝り合った。
2人とも納得はしていないが。
その様子を魔屈堂は満足げに見眺めた後、先ほどから会話に参加せずボーッとしていた遙に声を掛けた。
「さて、残るはお嬢ちゃんの支給品だけじゃな」
「えっ! あ、は、はい!
えと、そういえば私、何が支給されたのか確かめてませんでした。何が入ってるのかな……」
そう言って遙はバッグの中をごそごそと探り、中身を見た。
その途端、遙の顔色が真っ青になった。
「ん? どうかしたんじゃ?」
「ご、ごめんなさい! 私、ただでさえ役立たずなのに、支給品も役に立たない物でした」
不思議そうに尋ねた魔屈堂に、遙は申し訳なさそうにバッグから小麦粉を取り出した。
「小麦粉ですね」
「小麦粉じゃの」
見たままの感想を言う神楽と魔屈堂。
「……やっぱり、こんなもの武器にならないから役に立たないですよね」
「いや、そんな事はない。小麦粉は使いようによっては強力な武器になる。
そうだろう? アイン」
そう言って、エーリヒはアインの方を見た。
アインは試されているのに気付き、求められている答えを言う。
「粉塵爆発という言葉を聞いたことがないかしら。
密閉された部屋を、塵や石炭の粉などの粉末状の物が空気中に充満した状態にして、
火花や閃光などで引火させると大爆発が起きることよ。
そして、小麦粉でも粉塵爆発を起こすことはできるわ」
「その通りだ、アイン。
だからハルカ、君が落ち込む必要はない」
「え? そうなんですか?」
「うむ、落ち込むどころか喜ぶべきじゃな」
「それに、小麦粉はお料理にも使えるじゃないですか」
「……よかったぁ」
小麦粉が役に立つと言われて、遙は心の底から安堵した。
「ただ、いざという時に確実に粉塵爆発を起こすなら、ライターがあった方がいいわね。
誰かライターを持っている人はいる?」
「ライターなら私が持っている」
アインの問いにエーリヒが応じ、ポケットからライターを取り出した。
「おお! エーリヒ殿、それはもしや軍用のオイルライターでは?」
「その通りだが、それが何か?」
「この島から無事脱出できた暁には、ぜひそのライターをわしに譲ってくれんかの」
「別に構わんが、これは、形が弾丸に似ている以外はこれと言って特徴のないアルミ製のライターだぞ」
「いや、そんな事はない。
わしにとっては、ドイツ軍で使われていた軍用ライターというだけで価値のある物なのじゃ」
「……そうなのか。日本人はドイツ軍の事をそんなに愛してくれているのか」
それは違うと女3人は思ったが、感動しているエーリヒに水を指すのも悪いと思い、指摘しないことにした。
「さて、支給されたアイテムの確認も終わったことだし、エーリヒ殿、部隊編成を発表していただきたい」
「ああ、了解した」
エーリヒは数秒間黙考した後、口を開いた。
「ハルカとアイは、先程も言ったように本陣であるこの病院に残しておく。
そして、本陣の守りは治癒能力を持っているカグラに任せる。
残りの3人は行動部隊で、私とヘル野武彦の2人組とアインの単独行動に分ける。
以上だ」
↓
【所持品追加:遙(小麦粉)・エーリヒ(軍用オイルライター)】
【現在位置:病院】
【グループ:遙・神楽・藍(スタンス:病院にそのまま残る)】
【グループ:魔屈堂・エーリヒ(スタンス:島の探索に向かう)】
【単独行動:アイン(スタンス:島の探索に向かう)】
ランス一行が灯台に到達する数時間前……。
(一日目 8:52 森の西端の樹木)
「……くか〜……すぴ〜……むう、もう食えぬ……」
往年の漫画ですら使わないような古典的寝言を言いつつ、グレン・コリンズ(No,26)
は眠っていた。
「うう……違うよヘンリー……給食袋盗んだのは僕じゃないよ……!」
……何やら過去のトラウマが蘇っているようだ。
「あー、おじいちゃんがおじいちゃんが」
ぴちょん。
その時、木の葉に乗った朝露が一粒グレンの頬に落ちた。
「……うう……」
その冷たさに少し彼の目が開けられる、ただし、まだ目覚めるには至らない。
グレンは再び目を閉じると、軽く寝返りを打った……つもりで触手を捻った。
瞬間、
どどどどどっ!
その樹木の全ての葉に乗った朝露が、滝のごとく降り注ぐ。
「どわぁーっ!?」
思わず悲鳴をあげて地面に落っこちるグレン。
木の枝に触手をツタの葉よろしく絡ませて、空中で寝ていたのだから当然である。
「(ごんっ)グハッ!?……ん?もう朝か……」
したたかに額を打ち付け、今度は流石に目が覚める。
既に夜が明けてから結構な時間が経過してしまったようだ。
とりあえずバッグから歯ブラシを取り出し、朝の洗顔を行う。
「(しゃこしゃこ……)全く、昨夜はえらい目に会ったものだ……(しゃかしゃか)
しかし、今日こそはこのグレン・コリンズ様の晴れやかな門出の日となる……!
ふは、ふはははははははははは!!!」
口の端から泡を吹き出しつつ、グレンは眼下に移る灯台を見ていた。
地図を見れば分かるのだが、実はスタート地点の学校と灯台とは意外と近い。
直線距離で1km強と言ったところである。
ましてや現在のグレンの位置からは500mも無い。
では何故、ここまで接近しておいてグレン・コリンズは灯台に行かなかったのか?
理由は極めて単純であった。
―――眠かったのだ。
「全臣民を統率すべき天命を受けたこの私が健康を損なう事は地球規模の損失だ。
このような状況でも、否!このような状況だからこそ日々の生活のリズムを保たねば
ならん!」
―――変なところで真面目な男であった。
ともあれ歯磨きが終わり、朝食を摂る。
今のグレンの位置からは彼の『グレン・スペリオル・V3』は確認できない。
しかし、近づけば近づくほどにその灯台がかつて自分が見たものであるという確信は
深まっていた。
「げふっ……さて、いざ行かん!我が愛しの船よっ!」
小さなげっぷを一つすると、グレンはぬめぬめと歩き出した。
この数十分後、彼はこの睡眠時間の浪費を猛烈に後悔することになる……。
ぺたこん、ぺたこん……。
砂浜を幾本もの触手が粘液を残して進んでゆく。
「確か、あの先に……」
『グレン・スペリオル・V3』の位置を正確に思い出そうとする。
ちょうど灯台の真下。東側の辺りにそれは落下しているはずだった。
「……!?」
その時視界の先で何かが光った。海の照り返しとは明らかに異なる鈍色の反射光。
「くっ、くはははははは!!!あれだ、あれで間違い無い!!」
思わずグレンは哄笑し、更に速度を上げる。
「よくぞ残っていてくれた!我が『グレン・スペリオル・V3』よっ!!さあ、今お前の
偉大なる主が再び旅立つ時だ!我を星の海へと……」
だが、グレンの自慢の口上と歩みはそこで止まった。
……ボゥンッ!!!
彼の足元に火の玉が落下したので。
「……………はい?」
一瞬自体が理解できず、グレンは足元を見た。
ちょうど彼の一番先に伸びている触手から5cm先に、小さな穴が空いている。
直径20cm程のその穴はついさっき空けられたものらしく、焼けた砂がぷすぷすと嫌な
匂いを放っている。
続けて、その火の玉が飛んできた方向を見る。
目の前の灯台、その観測塔の頂上付近………。
そこに一人のぼろ布を纏った男が立っていた。
「……………」
「……………」
しばし無言で見詰め合う二人。
この二人が同じ名を持っていたのは偶然だったのだろうか?
やがて……先に口を開いたのは、灯台のグレンの方だった。
「お……」
「お?」
「お前などにマナを連れ戻させんぞ!妖魔あぁぁぁ!!」
こんな話がある。
ある病気に罹っている人間は、自分と同じ病気の人間を見抜くという。
別にそれが外見で分かる類のものでなくても分かってしまうのだそうだ。
いささかカテゴリは違うかもしれないが、この瞬間グレン(以下グレン「様」)は直感
的に理解した。
コイツはまともじゃない。
この場合、グレン(様)が首のみ&触手という、(グレン以外には)非常にモンスター
的な外見をしていた事も不幸と言えるだろう。
「火の赤子よ!」
そう叫ぶと灯台のグレンは懐から何かを取り出した。
「(……マッチ?)」
グレン(様)が疑問に思う暇もあればこそ、
「行けっ!」
擦ってもいないマッチが突然発火し、そこから小さな火の玉が飛来してきた。
「なっ!?」
あわてて避けようとするが、今度は触手の一本に命中する。
「アチャチャチャチャチャチャホォアッチャァァァ!!!」
故・ブルースリーの怪鳥音を思わせる叫びを上げるグレン(様)。
焼け焦げた触手の先端が香ばしい匂いを放つ。
「まままままま待ち給え君!私には何の事だか……アッチャアッ!?」
更に火の玉が一つ掠める。
「マナは渡さん!絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に!!!」
一方のグレンはうわ言のように呟きつつ次々と火球を放つ。
「ええいっ、ナンセンスだ!魔法とは何と非常識なっ!」
自分の事を完全に棚に上げてグレン(様)は毒づいた。
しかし、今度の火球群は何とかかわす。
流石に4回目ともなると攻撃のパターンが読めてきたようだ。
「(ふむ、最初は驚いて食らってしまったが……弾道は単なる直線ではないか。
これならば……)フッ、フハハハハハッ!!笑止!この程度の攻撃でこの現人神、
グレン・コリンズを倒そうというのかね!?」
グレン(様)的には人差し指に当たる触手でびしっとグレンを差す。
完全に悪役の台詞なのには自覚が無いようである。
だが、次の攻撃は違っていた。
「風の童女よ!火の赤子乗せ彼の者を追い詰めよ!」
ぽんっ!
いままでよりも少し大きい、青白い火球が出現する。陽炎が揺らめいている所から
すると、結構な高熱を放っているようだ。
例によってグレン(様)に向かってくる火球。
「ふはははは!無駄だと言っておろう!」
しかしそれもひょいと避けるグレン(様)。
「だが私は海よりも寛大な心を持っている。君の行為を私は笑って許そうではないか!
さあ、大人しく私をその『グレン・スペリオル……』」
その時、一度は離れたはずの熱気が急速に戻ってくるのをグレン(様)は後頭部に感じた。
「!?」
ほとんど本能レベルで触手を折り曲げて頭を下げる。
一瞬後、グレン(様)の頭のあった位置を先ほどの青白い火球が通過していった。
しかもその火球は通過後ゆっくりと減速し、再びグレン(様)の方に加速してくる。
「………なあああああぁぁぁぁっ!?」
数秒前の余裕を全て吹き飛ばしてグレン(様)は灯台に背を向け、一目散に逃げ出した。
そしてその後を猛スピードで追撃する火球。
「なんで私がこんな目にぃぃぃぃっっ!?」
滝のような涙を流しつつ、グレン(様)の絶叫が響いた。
↓
【グレン・コリンズ】
【スタンス:とりあえず火球から逃げる
(魔法効力切れまで)】
>319
(一日目 08:21)
じゃーーー……
クレア・バートン(No.33)は、濡れたエプロンスカートが肌に張り付くその心地悪さに目を覚ました。
爆発のショックで破裂した蛇口から、水が留まることなく噴き出している。
クレアの周囲は、その水に解けたコンクリート粒子や土台の土でどろどろだった。
(無事……ですね。)
彼女の怪我はかすり傷程度の微々たるものだけだったが、これは偶然ではない。
小屋の崩壊を感じた瞬間、咄嗟に食卓を盾とした機転が、彼女を守ったのだ。
それが証拠に食卓には、数多のコンクリート片が突き刺さっていた。
立ち上がる。
たっぷりと泥水を含んだエプロンスカートがずっしり重い。
その手には、爆破前に愛に手渡された金属バットが、握り締められたままだった。
(しかし、これほどとは……)
『これほど』とは、彼女のゲームに対する認識を指す。
これは、殺人ゲームだ。
そのことをクレアは十分認識していたし、その上で、ゲームに乗るつもりでもいた。
しかし、チェーンソーを扉に突っ込み、小屋を半壊させるほどの戦いとは、思いもしなかった。
(甘かったのだ。)
クレアは下唇をかみ締める。
この惨状。この破局。……これが現実。
クレアはとりあえず小屋跡を脱しようと、歩みだす。
いつ、断面を顕わにする残り半分が崩落しないとも限らないからだが……
「1人はアンタか。」
その声は、クレアの脱出を邪魔するかのように、足元からかけられた。
常葉愛(No.27)の意識は、ナミとの戦いから今に至るまで、痛みと苦しみに耐え抜いていた。
双子を守り抜けなかった(かも知れない)自責の念と、その元凶たるメイド型ロボへの憎しみが、
意識を落とすことを許さなかったからだ。
だから……テーブルの影から姿を現したのがクレアだと分かったとき、彼女はこう言った。
「1人はアンタか。」
意味するところは、落胆。
生存者が3人なら、クレアの無事が確認された時点で、双子のどちらかが死んでいることになる。
「愛さん、ご無事で……」
「おいおい悪い冗談はよしとくれ。この姿のどこが無事だって?」
吐血で真っ赤に染まった顔を自虐に歪め、愛は自分の右足を指差す。
「……!」
クレアはその様子を見て顔を青くする。
重くごつごつしたコンクリ塊の下で、愛の右足はひしゃげていた。その色は暗紫色。
既に壊死が始まっているようだ。
「それに肺もやられてるやね。
まあ、すぐ死ぬってことは無いが、アンタが助けてくれなきゃ、
余裕で死ねるってことは確かだ。」
ははは、と乾いた笑い。生死の瀬戸際でも強がってしまうのが愛という少女だ。
「悪いけど包丁か何か、探してきてくれる?……出来れば出刃か肉切りがいい。」
「包丁?」
「アンタの力じゃこのコンクリ、どかせないだろ?
アタシも情けないことに疲れ果てちゃってさ、ブルマー技使えるほどの元気は残ってないし。
右足、サクっと切断しようかと思ってね。」
そのとき、クレアはふと気付く。
いや、気付いてしまう。
……手には金属バット。
……愛は動けない。
手には金属バット。
愛は動けない。
「おい……メイド……」
手には金属バット。
愛は動けない。
「なにをボーっと突っ立ってる?」
金属バット。
「おい……」
動けない。
「……アンタ、まさか。」
「私は、生き残る。」
ば ギ !
「ぎ ゃ ぁ ぶ ぅ ぅ る」
クレアの耳には、そんな風に聞こえた。
……愛の搾り出した断末魔が。
バットに弾き飛ばされた愛の頭は、数本の鉄骨が剥き出しになったコンクリ塊に激突。
その鉄骨数本が後頭部やぼんのくぼに突き刺ささり、
真っ赤な鮮血と、生卵をかき混ぜたような色の髄液を撒き散らしている。
クレアは2発目を見舞うべく、バットを振り上げるが……
「………。」
もう、愛は動かない。
クレアが渾身の力を込めて打ち下ろしたバットの先には、淡い栗色をしたものが付着していた。
ぞ、ぞ、ぞ
それが、ゆっくりと、グリップの方へ……クレアの手元の方へとずり落ちてくる。
赤黒い軌跡を、ナメクジのように残しながら。
「……。」
クレアは、黙ってそれを見ていた。
腕が痺れている。頭も。世界も。全部。
やがて栗色の何かは、バットを握るクレアの手まで達した。
ぬ"るり。
生暖かく柔らかな感触と、無機質でサラサラした感触とが、同居していた。
そこで、初めてクレアは気付く。
手に触れているもの……
それが、ずるりとむけた、愛の頭皮と髪だと。
「ぅぐおえええぇぇぇ!!!!」
クレアは膝をつき、吐いた。
オートミール、水、胃液、一切合切、ありったけ、全部。
呼吸を忘れるぐらい吐いた。
空になっても、嗚咽は止まらない。
「げぇええっ!げぇええっ!」
涙も。鼻水も。汗も。
人がその顔から流すことの出来る体液の全てを、とめどなく流した。
その苦しみの中で、クレアは実感する。
これが「殺す」ということ。
命を奪うということ。
たった一撃。
その簡単にして、途方も無い重み。
ひとのいのち。
「私は、愛を、殺した。」
私の意志で。
「私は、愛を、殺した。」
私のために。
「私は愛を殺した!!」
私だけの、幸せの為に。
「私はっっっっっっ!!!!!!!」
……嗚咽は、いつしか絶叫へと変わっていた。
(一日目 09:01)
瓦礫と灰燼の中に、動くものは何一つ無い。
いつのまにか、蛇口からの流水は止まっていた。
だから今、ここには音も無い。
それ自体が巨大な墓標であるかのように、ただそこに、静かに在る。
クレアは、一度だけそこを振り返る。
そして、エプロンドレスのポケットから何か小さなものを取り出し、
ひゅ。
小屋の残骸に向かって、それを投じた。
それは放物線を描き、日の光を反射しながら2秒ほど滞空し、
ちゃりん。
コンクリの上に、澄んだ音を響かせて落ち着いた。
彼女は、その音を聞くと、再び小屋跡に背を向ける。
迷いのない足取りで歩き出す。
廃墟に残されたのは、コイン。
数時間前、彼女の意志と行動を決定した小道具。
……もう彼女に、それは必要ない。
自分の意志で人を殺し、その事実を乗り越えた彼女には。
その一部始終を、瓦礫の下から見つめるまなざしがあった。
しおり(No.28)。
しかし、庇護者たる愛の無残な死にも、恩人たるクレアの卑劣な裏切りにも、
彼女は声1つ上げなかった。表情も変わらなかった。呼吸すら乱れていない。
……彼女の心は、凍結していた。
爆発からこちらの全てを、現実だと認識できていない。
小屋が崩れたということ。
体を圧迫する瓦礫の痛み。
最愛の妹・さおり(No.29)が、すぐ隣で死んでいること。
彼女が絶命するまでの数分間、「痛い」と、ネジの壊れたオモチャのように呟き続けていたこと。
徐々に失われていった彼女の体温……『死』を肌で感じたこと。
蝋のような白い顔が、苦痛に歪んだ表情のまま、しおりに向いていること。
……その顔の向きを変えられないこと。
幼い心に、それらを事実として受け入れるキャパシティはなかった。
だから。
その目はカメラのレンズのように、事実のみを映していただけだ。
クレアが愛を、撲殺した。
その事実を。
↓
【クレア・バートン(No.33)】
【所持武器:毒薬、金属バット】
【現在位置:小屋跡 → 廃村】
【スタンス:変わらず。意志はより強固に】
【しおり(No.28)】
【現在位置:小屋跡・ガレキ下】
【所持武器:無し】
【死亡:常葉愛(No.27)、さおり(No.29)】
―――――――――――――残り32人
>279.329
(8:50頃)
??:たとえばね。AM3:00……
トイレで排尿していた魔屈堂の真横から、突然かかる太い声(とハネた尿)。
「なんじゃ、おぬしは?」
トレードマークの(前が少し薄くなった)長髪を風になびかせて、ワープ番長イノケン、ここに参上!!
「その時、なにげなく夜空を見上げたら、そこには一面の流星雨……
ぼくはその美しさに心震わす。
そして思う。この感動は独占してはいけないと。友と分かち合うべきものだと」
(……夜空?)
魔屈堂の頭に、フラッシュバックされるあの夜空、この夜空。
『そう。男は皆、宇宙(そら、と読む)を目指すもの……』
猪乃:……さあ、君はどう答える?
魔屈堂:♪宇宙〜〜〜の海は〜〜〜 俺〜〜〜の〜〜〜〜〜海〜〜〜〜〜っ
猪乃:いや、ハーロックはいいから
魔屈堂:♪どっこかっらみ〜〜ても スーパーマンじゃない
猪乃:サジタリウスもいいから
魔屈堂:ほっほ〜〜。どうしてどうして、わかっておるようだの?
ならば、これはどうじゃ?
猪乃:……いや、ボクはイントロクイズをしに来たのではな
魔屈堂:♪コスモスそら〜〜を〜〜
猪乃:それ、EDじゃないか。(思わず反応。)
魔屈堂:♪はっしっれェっ!
猪乃:特撮もアリか!(ちょっと楽しそう。)
魔屈堂:……お主、『解っている』ようじゃのう? ならばこれはどうじゃ?
♪つ〜きもかっせい〜も はっるかっにこ〜え〜て〜〜〜〜〜〜
♪ぇえ〜〜っえ〜〜〜〜〜〜〜
猪乃:な? なんだ、この歌は!?
魔屈堂:♪う〜ちゅ〜う〜へ〜 とっびたっつシュッピイゲルゥ〜〜〜〜〜
♪ぅう〜〜っう〜〜〜〜〜〜〜
猪乃:く……(屈辱感に脂汗を浮かべつつ。)
魔屈堂:ふふふ……若いもんにはチト辛いかのぅ?(勝ち誇った笑みで。)
ほれ、
♪しゅっぴぃげる!!しゅっぴぃげる!!しゅっぴぃげる!!
>340
出たァ〜〜〜〜っ!!(プロレス中継時の古館伊知郎風に。)
魔屈堂の18番、アニソン当て!!
しかも舞台は宇宙(そら)限定だっ!!
……正解は、空白のあと、13行後。
猪乃:むぅ…… キミたちもボクの仲間たりえないか……
だがボクは武士の情けを知る者。広い心で見逃してあげようじゃないか。
そしてワープ番長は、風のように……去る!!
ひゅん!!
エーリヒ:……長い便所だと思ったら、また歌っていたのか、ヘル野武彦。
魔屈堂:歌? それは違うぞい、エーリヒ殿。
オタクのプライドを賭けた、熱き勝負じゃったよ。(右手を顎に、目を閉じて。)
エーリヒ:君は非常に有能な人間だが、時々わけがわからないな。
そろそろ我々も出発しないか?
魔屈堂:了解じゃ。
♪そ〜〜〜〜れゆ〜〜〜〜けキャ〜〜プテ〜〜〜ン(大袈裟なくらいの息継ぎ。)
♪ウル〜〜〜〜トラぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ボーイソプラノを思わせる裏声で。)
……気をつけろ、参加者諸君!!(と書き手さん)
ワープ番長が次に姿を現すのは、キミのところかもしれないぞ?
↓
(7:00AM)
白砂が続く海岸線を寄り添うようにして歩く二つの人影、
一人の少女と一人の少年。
少女は押し黙って少し考え事をしているようだ。
(…なんかこいつと当然のごとく会話なんか交わしてるけど、
よく考えたら出会ってからそんなに時間たってないのよねー…)
双葉は海辺の砂を見ながらそんなことを考える。
(…こいつが王子様とか、守ってあげるとか
恥ずかしげもなくのたまうもんだからこっちも変に意識しちゃうんだ。
…でも、ひょっとしたら…本当に…)
そこで思考が中断された。
隣を歩く翼がうれしげな声で話し掛けてきたからだ。
343 :
南下 朝の光景 (2):02/01/14 23:56 ID:maoo55NM
「ねぇ、双葉ちゃん、灯台が見える。
あそこで女の子が僕のことを待ってるかもしれない。急ごう。」
(…やっぱ、違うな。…こいつは…)
そうして一つ嘆息し、侮蔑の表情を浮かべて
傍らの少年を半目でねめつける。
「はぁ?あんた何言ってんの。
誰もあんたのことなんか待っちゃいないわよ。
自意識過剰なんじゃないの?
それから人のことを気安く名前で呼ぶな。」
「何を言ってるんだい、双葉ちゃん。
あの灯台で可憐な少女が
今しも危険にさらされようとしているかもしれない。
ちょうど森の中で君が僕を待っていたように。」
「はぁ…、それが自意識過剰だってのよ。
大体、私はあんたを待ってたわけじゃないっ。」
「照れなくてもいいよ、双葉ちゃん。さぁ、行こう。」
そういって双葉の手をとり、歩き出す。
「あ…」
少し体温が上がった気がした。
↓
【星川翼・朽木双葉】
【スタンス:ともに変化なし】
【武器:ともに変化なし】
【現在地:島の東端】
(一日目 9:48 森林)
「あ〜〜〜あ〜〜〜あああぁぁぁぁぁっっ!!」
森林の中、謎の物体が雄叫びをあげて飛んでいる。
否、正確には凄い勢いで木から木へと飛び移っているのだ。
どことなくジャングルの王者ターザンを彷彿とさせる勇姿であった。
―――もっとも、その雄叫びはあくまで悲鳴だったのだが。
「ええいっ、何と言うしつこさだっ!」
グレン・コリンズ(No,26)は前方の枝に触手を伸ばしつつ後ろを
振り返った。
彼の数10m程後方に、相変わらず例の火球は存在していた。
障害物の多い森林に逃げれば避けきれると踏んでいたが、それは
甘かったようだ。
どうやらあの火球はグレン自身を認識しているらしく、きちんと
障害物を避けてこちらに向かってくる。
幸い、最高速度こそあるものの方向転換に弱く減速が遅かった。
だからこそ体力にそれほど自信の無いグレンでもなんとか逃げられて
いたのだが……流石にそれも限界のようであった。
「ゼエ、ハァ……くそっ!あの既知外め!私は何もしないと寛大にも
言ってやったというのに!!」
言ってない。
その時、突然前方の視界が開けた。
その先には数件の家屋が見える。
「……村落かっ!?」
まずい、非常にまずい。
グレンの触手はあまり高速移動には適していない代物である。
だというのに、ここから先はまた走りで勝負せねばならないのだ。
あの疲れ知らずの火球と限界のコンディションで。
「……おおぉぉぉのぉぉれぇぇぇぇっっ!!」
絶叫しつつグレンは着地し、全力で走り出した。
「あああああああぁぁぁぁっ!!」
自分の限界以上の体力を叫ぶことで強引に引き出そうとする。
「エンドルフィンよ!アドレナリンよ!!我に力をぉぉぉっ!!」
その祈りが通じたのだろうか?
グレンは一瞬の内に体が軽くなった事を実感した。
駆ける触手達に至ってはまるで空を飛ぶが如くである。
「ふ……ふははははぁっ!!見たかっ!私はまた己の限界を越え、
更なる領域へと達したのだっ!!これこそが神の力あぁぁっ!!」
ここぞとばかりに勝ち誇るグレン。
だが……何かがおかしかった。
幾ら触手を動かしても、一向に風景が変わらないのである。
先ほどまで感じていた風圧も嘘みたいに止んでいる。
後ろを振り向いてみる。
例の火球はグレンの至近距離まで接近していた。
―――嫌な予感がした。
「……………まさか」
ゆっ……くりと真下を見る。
井戸。
「!!!……なああああぁぁぁぁぁぁ………」
悲鳴と共に落下してゆくグレン。
着地地点に井戸がある事に気づけなかったのは、視点の高いグレン故
の悲劇であったと言えるだろう。
更にその一瞬後、ぽんっと音を立てて火球は消滅した。
ちょうど魔法の効力が切れたのだ。
………どぽーん………
かくして静寂を取り戻した周囲に、水音のみが響いた。
(10:12)
一時間が経過した。
「くぬっ!くぬぅっ!?……ダメ、か……」
必死に伸ばしても触手が井戸の縁に届かないことが分かり、グレンは
ぐったりと首を下げた。
が、
「(ゴボッ)げほげほげほっ!?」
鼻に水が入ったので慌てて首を上げた。
現在、グレンは水面からかろうじて首のみが出ていた。
その下ではクラゲのように触手がゆらゆらと揺れている。
「うむむむむ……」
渋い顔で現状を再認識する。
苔の生えた壁面は非常につるつるしており、爪も無い触手では滑る
ばかりであった。
井戸のつるべを登ろうとも考えたがこの井戸は滑車は使っておらず、
外に置かれた桶を下げるという単純な仕組みのようだ。
故に今は一本の紐も下がってはいない。
そしてさっき、触手が上に届かない事も確認した。
せめて体力が万全な時ならば伸ばすことも可能だったかもしれない。
だが、火球に追われつづけて疲労困憊している現在の体力では……。
「グレン・コリンズよ、今は耐えるのだ……!」
自分に言い聞かせるようにグレンは呟いた。
「お前がやろうとしている事は確かに屈辱的だ。だが、明日の栄光を
望むのならば今日の誇りを敢えて捨てようではないか……!」
そう重々しく言うと、グレンは大きく息を吸い込み―――
「おぉぉぉ〜〜〜たぁぁぁ〜〜〜すぅぅぅ〜〜〜けぇぇぇ〜〜〜!!」
―――全力で助けを呼び出した。
「助けてくれぇぇ〜〜〜っ!もし私を助けたならば恩に感じてやらん
事も無いと思えぇぇ〜〜〜っ!!」
謙虚なんだか傲慢なんだか分からない悲鳴である。
「かぁ〜〜みぃ〜〜さぁ〜〜まぁ〜〜!……は私か。ええい、私より
偉くは無いけどそれなりに力のある……!」
その時、上で声が聞こえた。
「……誰?どこにいるの!?」
若い女性の声だ。グレンは今にも出かかった情けない声を引っ込め、
彼にできる精一杯の渋い声で答える。
「い、いやははははは!ここだ!井戸の中を見るが良い!!」
数秒後、一人の影がひょこっと上に現れた。
逆光で顔は分からないがスーツ姿のようだ。
「……なんでそんな所に!?」
「フッ、ちょっとした事故でねぇ」
呆れたように言うその人影に、グレンは少し意地を張って答えた。
「事故って……」
「まあそれよりもお嬢さん、頼みがある。私をここから出してはくれないかね?
そこにつるべがあるだろう?それを落としてくれればいい」
「……………」
人影は迷っているようだ。まあ、無理も無い反応である。
しばしの間を置いて、人影が言った。
「悪いけど……完全には信用できないわね」
「何!?」
「罠にしては露骨すぎるけど……本当に井戸に落ちたとも思えないわ」
「ななな……何と無礼なっ!!この偉大なる私が嘘を言っているというのか!?
このグレン・コリンズ、生まれてこの方嘘をついたことが無いのが自慢なのだぞ!」
正確には「嘘が言えるほど賢くない」なのだが、堂々と言い放つ。
その時、人影の態度がにわかに変わった。
驚きと期待が入り混じった声で尋ねてくる。
「グレン!?本当にグレン・コリンズなの!?」
「え?あ、ああ。人類開闢依頼の大天才にして偉大なる科学の申し子!新世界を司る
偉大なる神!!グレン・コリンズとは私の事だ!!!」
少々戸惑いつつも誇らしげに答えるグレン。
一方の人影は、今度は何やら考えを巡らせているようだ。
「……その口調、確かに本物のグレン・コリンズね」
「だから私は嘘をつかないと……!」
「……分かったわ」
「へ?……フッ、フハハハハ!!わ、分かれば良いのだ!!さあ、早くつるべを私の所まで……」
「でも、交換条件付きよ」
『交換条件』その言葉で、グレンの表情が一瞬にして不安に染まる。
「交換……条件だと?」
「今、私は例の首輪を一本持っているの。―――自分の奴以外でね。
それを分析して、解除法を発見してほしい。それが条件よ」
「……ふむ」
それはグレン自身にとっても損ではない提案であった。
彼の最終目的は『グレン・スペリオル・V3』よる脱出だったが、その為には仲間が
必要だった。
特にあの忌々しい既知外魔術師が灯台に居座っている以上、弾除け役は必要であろう。
更に(上のあの女がどこまで本気かは知らないが)あわよくば首輪を解除できるかも
しれない。
自分の首に嵌っている為に分析は諦めていたが、自由に扱える奴があるなら話は別だ。
『グレン・スペリオル・V3』に搭載されている機材や突入角計算用コンピューター
が上手く稼動してくれれば十分に可能であろう。
ただし、一つだけ問題はあった。
彼は人の下に就く事が大嫌いだったのである。
「ふっ、ふははははははっ!見損なうな小娘っ!!このグレン・コリンズを下僕に
してこき使おうなどとは無礼千万奇妙奇天烈落書無用!!とっととどこかに行って
そこらの男でも犬にするが良いわぁっ!!!」
「………そうね、そうするわ」
「……へっ?」
「別に分析ができるのはアナタだけって訳じゃないし。それじゃ、別の人が通りかかる
までそこで水に漬かっててね。……もっとも、次に来る人は問答無用でアナタを殺すかも
しれないけど」
そう冷ややかに言い残すと、女は井戸から早足に立ち去ろうとする。
「まっ、待て待て待てっ!」
思わずグレンは彼女を呼び止めた。
「ん、まだ何かあるの?この無礼千万な小娘に?」
「えー、いや、その、なんだ。私はこう見えて寛大な紳士だ。今の君の発言は大目に見よう」
「………それで?」
「いやっ、だからだな、あー……さっき君の言った話に……乗ってやらん、こともない
……こともなくもなき感じで……だな……」
「………つまり?」
「うー、やー、たー……わ、私を助けさせてあげようではないか!」
「………『お願いします、協力しますから助けて下さい』」
「なっ!?」
「………制限時間は3秒」
「ぐっ、ぎっ、貴様ぁっ!!」
「ちなみに今度は迷わず去るわよ。―――3」
「小娘ぇっ!!見ておれよっ!この私が本気になったら貴様など……!」
「―――2」
「ぬっ、ぐぐっ……!!」
耐えるのだグレン・コリンズ!「あしたのためにその1」だ!!
「き、協力してやるから助けるが良い!!」
「―――1」
「んぎぎぎぎっ……!!」
「―――はい」
「……お……『お願いします、協力しますから助けて下さい』」
「はい、よろしい。いまつるべを降ろすわ(カラカラ)。
―――まだ名前を言ってなかったわね。私の名前は法条まりな。よろしくね」
「こ……」
「こ?」
「これで勝ったと思うなぁっ!!」
「―――やっぱりここでお別れみたいね―――」
「……という言葉は私の故郷では最大限の感謝を示す意味で……」
こんな話がある。
動物園の動物達は人間の上下関係を見抜き、格下の飼育員を「なめる」という。
その為、新人の飼育員はまず第一に動物達に自分が上位にいる事を理解させるそうだ。
そうしないと「なめられて」しまい、まともに相手されなくなってしまう。
これは犬の躾にも言える事で、第一にこちらの上位性を叩きこむのが重要だ。
「(とりあえず躾の第一歩は成功ってところかしらね)」
つるべを落としつつ、まりなは考えていた。
油断のならない相手だ、この関係を分析完了までは維持しなくては。
こうして、このゲーム始まって以来の奇妙なチームが結成された。
―――それは春先の薄氷なみの不安定な代物ではあったが。
↓
【グループ:法条まりな
グレン・コリンズ】
【スタンス:大会の調査
首輪の解除法解明
島からの脱出(グレン)】
【現在位置:村落東部の井戸】
>217
(1日目 7:00)
「俺は、あなたを、守りきれなかった……」
恭也が放心してからずっとセールストークかまして、営業スマイル振り撒いて。
ようやく重い口開いたと思ったら、その第一声が、コレさ。
そういえば、出会ったハナに「俺は力無き人を守リたいと思ってます」とか言ってたね。
てぇこたぁ、ナニかい?
元レディース総長の秋穂さんをつかまえて、力無き人、こう、のたまうわけかい?
「高町さんとしては、私を、守っていてくれてたと、そういう訳なんだ」
「ええ……そのつもりでした。でも俺は、負けてしまったんです」
それから恭也は、ぽつりぽつりと、ことのあらましを話し出した。
猪乃のデブが、あたいを襲おうと向かってきていたこと。
それを、恭也が防いでたこと。
あたいが危なくなったので、恭也の流派の秘奥義とやらを繰り出したこと。
そいつが避けられたこと。
で、それらの戦いは、あたいの目には見えない速度で行われていたこと。
だいたい、そんなとこ。
それが本当かどうかは、彼語るところの「常人」であるあたいにはわからないけど、
あの時の恭也の奇妙な動きや、白豚が突然あたいの前に姿を現したことを考えると、
まんざらウソでもなさそう。
それに、この落ち込み方ね。
「敗れたんです。御神流秘奥義が……」
人生これでおしまいって感じの、悲痛な表情でこぼされりゃ、信じるしかないって。
(1日目 10:00)
「でも……、ね。2人ともこうして無事だったわけだし」
いらいらいらいら……
あれから3時間、落ち込む恭也をなだめたりすかしたり褒め上げたり。
あたいも大人になったもんだね。
レディースやってる頃のあたいだったら、10分待たずにケツに釘バットの一発もブッ込んでるとこだよ。
お茶汲みで培った精神的な持久力が、まさかこんな所で役に立つとは思わなかったね。
人間、苦労はしてみるもんだ。
それにしても、この恭也ってコ、ダメだねー。
典型的なお坊ちゃまなんだろうね。
挫折を知らないで、プライドだけ高くて、生真面目すぎて、妥協とか折り合いとかを卑怯だって思っちゃって。
一回ヘコむと、際限なく内省的になって。
スイッチの切り替え方もわかんなくて。
さっき白豚に喰らったっていう敗北も、数ある勝負のうちの一回だってわかってない。
あー、もー。
出来の悪い部下を持った上司の気持ちが分かるってもんよ。
「俺がいけないんです」
「高町くんの『神速』は避けられたのかもしれない。
でも、私は無事こうしているわけだし、高町くんは立派に私を守ってくれたと思うわ」
「俺が弱かったからです」
「体調とか、」
「何をどう言っても、言いわけになってしまいますから」
「偶然だったんじゃないのかな?」
「すみません」
あーいえば、こー。
こーいえば、あー。
それも全部自虐的なヤツ。
その上、かみ合ってない。
あーーーーー、っっ!!
なんでここまで優しく、お母さんみたいになぐさめてやんないといけないわけ!?
あたい、もーーーーーガマンの限界。
「くぉら恭也ッ!!
いつまでもうだうだうだうだ言ってるんじゃねぇ!!」
「……え?」
「あたいは、今こうして生きてんだから、気にしてないっていってるだろ!?
それをアンタは、いつまでも陰々滅々もじもじクヨクヨ泣き言ばかり言いやがって!
それでも男か!?
それでもキンタマついてんのかっっ!?」
「あ、あの、秋穂さん……」
「あたいはね、アンタみたいにはっきりしないくせに強情なヤツが大嫌いなんだ!
大体、いつあたいがアンタに『守って』なんて頼んだよ?
勝手に人を妄想の舞台に上げるんじゃねえ!!」
「あの……エリを……」
気が付くと、あたいは恭也のエリを締め上げてた。
あっちゃぁ〜〜〜。
まーた、出ちまったね。
キレると地が出る悪い癖が。
五月倶楽部で肇と出会ってから、かなり自制できるようになってたんだけど……
「……熱くなっちまったことは悪かったよ。
猫かぶってたことも、アンタを騙してたみたいで悪かった。
これも謝る」
「いえ、気にしてません」
「でもよ……終わったことは終わったことなんだよ。
悩んでも苦しんでも結果は変わらねぇんだ。
だったら、次にどうするか、だろ?」
「秋穂さんの言っていることはわかります。
解りますが……少し、考えさせてください。
気持ちの整理がつかないんです」
ダメだ、コイツは。
全然解ってない。
「整理も何も、状況は日を見るより明らかだろ?
生きるためには、悩みこんでるヒマはないんだよ。
いいから黙ってお姉さんについといで」
「俺には、秋穂さんと共に歩む資格がありません」
資格ときたか。
コイツ、どこまで自分に無意味な枷をかければ気が済むんだろうね?
「それじゃ、ここでお別れだよ?」
「それも、しかたないと思います」
「あ、そ。
あんたみたいな弱虫にはもう愛想尽きたね。
この木で首吊って死んじまいな!!」
冷たい言い方。
見下して、バカにした、プライドをえぐる言葉。
さすがに、ここまで言うとあたいでも心が痛むよ。
でもさ。
もう、あたいの思いつく手段は、これしかないんだよ。
恭也……腹を立てるんだ。
これで発奮しなきゃ、恭也、アンタほんとに生き残れないよ?
「これ、お返しします……」
恭也は目を伏せ、あたいの配布武器、小太刀を差し出す。
―――答えは、それかい。
どうしても、自分の中しか見ないのかよ。
恭也……アンタ、とことん脆いよ。
切なくなるくらいナイーブだよ。
そこまで一本筋通ってるヤツ、あたい、結構好きだよ。
でもよ。
この島で生き抜くためには、そんなアンタといることは枷になるんだ。
「はんっ!そんなもん、餞別代りにくれてやるよ!」
たとえ、この島で死んでしまうとしても、あたい、自分の進む道は自分で決めたい。
生きる努力して、死なない工夫して、逃げられるだけ逃げ回るんだ。
その先に、やっぱり避け得ぬ死が待っているだけだとしても。
そりゃ、死ぬのは悔しい。腹立つ。
その瞬間は「死にたくね〜ぞ、畜生っっ!!」って叫ぶに決まってる。
それでも、それは、自分が決めたことの結果だ。
少なくとも後悔はしないね。
背後から迫ってくる死の足音。
それを聞いても立ち止まったままのヤツとの心中なんて、まっぴらごめんだよ。
―――ゴメンな、恭也。
今のあたいにゃ、あんたの世話を焼いてる余裕はないんだ。
↓
【グループ:解消】
【篠原秋穂】
【現在位置:楡の木広場 → 北方面】
【高町恭也】
【所持武器:救急医療セット、小太刀】
【現在位置:楡の木広場】
運命の中に偶然は無い。
人間はある運命に出遭う前に自分でそれをつくっているのだ。
―――T・W・ウィルソン(米大統領)
(一日目 10:18 島南西の磯)
日の出から数時間、辺りには濃い霧が立ち昇っている。
月夜御名紗霧(No.36)は一人、何かを砂に埋めていた。
「……まずは実験ですね」
たった今埋め込んだ物―――家の雨どいから外したパイプ―――に耳を近づけ、
片手に持った紐を引っ張る。
―――カコーン―――……。
パイプの遥か遠くから小石の落ちる音が聞こえた。
「伝声管参号、準備良し」
満足げに頷くと、紗霧は今度は袋の中から固形燃料を取り出し、点火する。
青白い炎を上げて燃焼する固形燃料。
「あとは……」
その顔は平素通りの無表情ながらも、どことなく楽しげですらある。
続けて取り出したのは―――ロケット花火数十本。
「さて、それでは―――」
良く見ると彼女の周囲には数本のパイプが突き出ており、それらには『壱』から『参』
までの数字が刻まれていた。また、その近くには様々な色のビニールテープが巻かれた
紐が置かれており、それぞれどこか遠い所まで伸びているようである。
「こちらから攻めましょうか?」
紗霧はまるで散歩にいくような軽さで言った。
既にその岩場全体は紗霧の城―――否、要塞と化していた。
紐の一本一本は全て何処かの罠の起動スイッチになっており、致命的な物からあくまで
実験的なお遊びまで十数種仕掛けられており、この場所から発動させる事が―――
緊急時には別の場所からでも―――可能である。
更に埋め込まれた伝声管は数十m離れた所まで届いており、全く別の場所から声を発する
ことができる。
そして―――対首輪レーダー。
準備は万全であった。
「せいぜい私をてこずらせて欲しいですね……」
小さく呟き、伝声管の蓋を全て外す。
そして大きく息を吸って―――
「……キャアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!」
あらん限りの声で紗霧は叫んだ。
そして次の瞬間蓋を下ろし、手元のレーダーを見つめる。
数秒後、早くも少し離れた光点がいくつか動き始めた。
向かう所は―――この場所だ。
どうやら紗霧が計算した以上に声は遠くまで聞こえたようだ。
おそらくこちらに向かっている連中は、今の悲鳴の主を心配して向かって来ているのだろう。
心底うんざりした口調で紗霧は言った。
「やれやれ、本当にこの島にはお人好しが多いみたいですね……幻滅です。
これじゃ生き残るなんて無理に決まってます。絶対O%、愚かの極みです。
―――だから、ここで死んで下さい。その方が消費される酸素分だけお得ですから」
↓
【月夜御名 紗霧】
【現在位置:島南西の磯】
【備考:周辺一帯に罠あり】
356 :
ざおざおのカレーと最狂の悪夢:02/01/17 20:52 ID:gbVT+w2X
>323
(1日目 11:21)
海は、荒れ模様だった。
ざざーーーーん、どぱぁぁん!!
ざざーーーーん、どぱぁぁん!!
透明度が高く、見事な青色をしている水面は、テトラポット周辺で、恐ろしいほどの波涛を立てている。
しかし……そこからは潮の匂いがしない。
『潮の匂い』と我々が普通認識しているものの半分は、実は屍臭だ。
海は多くの生命を育み、またその生命を死を常に抱きとめている。
そして、その死が数多の生命を養う。生命の円環。
それが、感じられない。
清潔だが、生命の豊穣を感じさせない、海。
「造られた海……」
防波堤の先端。遥か彼方に霞む水平線を見やりながら呟いたのは、まひる(No.38)。
「んー、なんだって?」
波の音にかき消されて、まひるの呟きは届かなかったようだ。
「あ、独り言なんで、気にせずに。」
「そっか。」
「で、あなた。鯛の御造りは?」
「あなたはやめろ。」
釣り糸を垂れたタカさん(No.15)は不機嫌そうに言う。
糸を垂れてから2時間。今だ浮きはピクリとも動いていない。
その脇では堂島(No.07)……『薫ちゃん』が、小冊子を地面に広げ、寝転がりながら読んでいる。
「すっげー。かっきー!」
目をキラキラさせ、興奮に頬を赤く染めるその様子は、初めてプラモデルの組立書を読む子供のようだが、
実際はそんなのどかなものではない。
「んーと……全長508mmの66mmHEATロケット弾が初速145m/秒で……」
彼が手にするそれは、今大会最大の破壊力を持つ配布武器、M72A2の取扱説明書だからだ。
難解な横文字で記されているこの取説は、子供の読解力では読めるものではない。
それを、薫はすらすらと読んでいる。
タカさんやまひるは気付いていないが、彼の心は退行していても、知識量は老獪な元代議士のままだったのだ。
子供の好奇心と大人の理解力を併せ持つ彼にとっては、難解な兵器も単純構造のオモチャ同然だ。
タカさんとまひるは、まだ言い合いをしていた。
傍目にはカップルがいちゃついているようにも見える。
「やつらの動きが活発になるのは、日が沈んでからだ。
日中は釣れないモンだと、相場は決まってんだよ。」
「負け惜しみ?」
「うるさいッ!!
アタシの腹が減ってるから、魚がかかんねぇんだ。
まひる、ウチに戻って、昼飯作って来い。」
イラだっているタカさんには、理由も理屈も通じない模様だ。
ウチ、とは漁協の詰め所を指す。
2時間前、港についたタカさんがまず探したのが、この建物だった。
漁師が入出漁の度に報告を入れ、休憩や仮眠を取り、しけの折には港番のため宿泊する施設。
そこには生活に必要なものが一通り揃っているだろうし、ともすれば生活拠点になりうる。
そう判断してのことであり、その予想は当たっていた。
外観は古びたバラック造りの平屋だが、その中には生活に必要な全てが揃っていた。
20畳ほどの居間に、仕切りすらなく流しとガスレンジが備え付けられており、
便所と風呂も備わっている。
今、タカさんが使用している釣具一式も、ここから探し出したものだ。
「昼ごはん……」
なぜかまひるの顔色が悪くなる。
「流しの下に、野菜とか調味料があったろ?
肉がないのはもの足りねぇけど、まあ、適当に見繕ってくれや。」
「実は……折り入ってお話が。」
「なんだ?」
「でへへ……えと。あたし、お料理って苦手だったりして。」
笑顔で誤魔化そうとするまひるだった。
>268
「ほんとにもー。タカさんは強引なんだから。」
すったもんだの押し付け合いの末、結局、まひるが昼食を作ることになった。
「カレー、ぐらいかな……」
思い出した食材で作れるレパートリーは、そのくらいしかない。
「えへへ。カレー、か。なんかキャンプにでも来たみたい。」
キャンプ。
その言葉が醸し出す日常のイメージに、まひるはタカさんについてきたことが正解だったと強く思う。
そして、ほんのちょっとした悪戯心で始めた家族ごっこも。
「旦那さんの帰りを待って、お料理かぁ……マジで新婚さんみたい。
でへへへぇ♥ がんばってざおざおに作るぞー!!」
1人で照れ笑い。
自分の性別が『男』であることが発覚してから、『かわいいお嫁さん』というささやかな夢を
諦めざるを得なかったまひるにとっては、こんなおままごとでも幸せを感じるようだ。
しばし、幸せな妄想に浸っていた彼の目に、漁協詰め所が映ったとき、
「ピンクのパーカー。白のミニ・フレアにニーソックス。
化粧は、薄く引かれたパールのリップのみ。……いい。実にいい。」
建物の影から、顔色の悪い青年が、彼の行く手を遮るように現れた。
(何故に必勝はちまき?)
まひるがその思いを口にしようとしたとき、
とす。
首筋に衝撃を感じた。
……暗転。
「で、真一。コイツは処女か?」
気絶したまひるを担ぎながら、学生服の詰襟を几帳面に閉じた少年が問う。
「うーん、難しいところだ。印象は明らかに処女なのだが、私のカンは疑問符を発している。」
オーダーメイドのスーツに身を包んだはちまきの青年が、難しい顔をして答える。
それはそうだろう。まひるは処女ではなく、童貞なのだから。
真人(No.17)と紳一(No.20)。
2人は暗くて淫靡な笑みを交わしながら、その場を立ち去った。
現場から、少しだけ離れた建物の陰で、薫は苦悩していた。
取説の解読に夢中になっているうちに、まひるが『ウチ』に戻ったことに気付いた彼は、
タカさんと2人でいる恐怖に耐え切れず、まひるを追いかけて来たところ、
白昼堂々の誘拐劇を目撃してしまったのだ。
(おかーたま!!)
衝撃の現場に踏み込もうとして、薫は思い留まる。
相手は2人の大人。対する自分は、1人だけで、しかも子供。
大人の理性は、こんなところでも有効に機能した。
薫は必死で頭を回転させ、解決策を練る。
(M72A2を……)
ダメだ。
余りに破壊力が大きすぎるそれは、2人の男はおろか、まひるまで跡形も無く吹っ飛ばしてしまうだろう。
(おとーたまを呼んで……)
それも、ダメだ。
タカさんが釣り糸を垂れている堤防の先端まで、600b近くある。
たとえジンジャーに乗って戻ったとしても、往復する間にまひるを見失ってしまうだろう。
(大声で呼べば……)
それも、ダメだ。
自分の存在が気付かれてしまうし、激しい波と風の音に、声はかき消されてしまうだろう。
薫の焦燥と苦悩を他所に、まひるを担いだ二人組みは西へと立ち去ってゆく。
(おかーたま、どうしたら……)
(11:57)
「なんだ、このおもちゃは?」
真人は、まひるのポケットから落ちたグロック17を手に取ると、そう呟いて投げ捨てる。
銃身の殆どがプラスチック製のこの銃は、銀玉鉄砲と同じくらいの重量しかない。
銃器の知識が無い彼らが、それをおもちゃと思い込んでしまうのは、意味当然といえた。
「私たちは、悲しいくらい武器との縁が無いな。」
紳一が愚痴をこぼす。
ここは漁具倉庫。
漁協詰め所からは港を挟んで正反対の位置にある。
今、獲物は後ろ手に縛られ、猿轡をかまされ、水揚げされたマグロよろしく床に転がされている。
「1つ聞くが……君は、処女か?」
気絶から覚めたまひるに、最初に投げかけられた言葉はこれだった。
「これは重要なことだ。返答次第で、君のいたぶり方が決まる。」
混乱している彼には、質問の内容が理解できず、ぼーっとしていると、
「セックスをしたことがあるかって聞いてんだ!!」
真人のバスケットシューズの先端が、容赦なくまひるの鳩尾に蹴りこまれた。
「ぐっ!! が、はっ!!」
猿轡のせいで声を上げることも出来ず、悶絶するまひる。
「おいおい真人、前座の余興で壊してしまっては勿体無いぞ。」
「安心しろ、真一。暴力のことは俺のほうが良く知ってる。壊すようなケリじゃねえ。」
「で、どうなんだ?セックスをしたことはあるのか?」
椅子に腰掛け、歪んだ笑みを浮かべ。
左脚をぶらぶら揺らしながら、真人は再度尋ねる。
足の動きは、無言で語っていた。答えなければ、また蹴ると。
ふるふるふるふる……
まひるは恐怖の余り、何度も何度も首を左右に振る。
「そうか。」
2人は、同時にそう返した。真人は嬉しそうに。紳一は少し悔しそうに。
「俺の出番ってことだな?」
「約束だからな。青い果実のわななきを、存分に楽しむといい。」
「それじゃ、準備、準備、と。」
まひるの猿轡を強引にひっぺがす真人。
「声を上げたら、私の銃が火を噴く。君のようなオモチャじゃない、本物の銃が。」
紳一の手には、黒々と不吉に光る銃が握られていた。
パーティーガバメント。
その銃口から噴くのは火でも銃弾でもなく、万国旗だ。
だが、グロック17とは打って変わって実にリアルな造詣と重みを備えたこのオモチャは、
知らぬものの目には本物の拳銃にしか映らない。
「わかっていると思うが……私たちは、君を犯そうとしている。」
他人事のように、感情を乗せることなく紡がれる紳一の言葉。
「己の欲望が赴くままに、君の体に思うさま排泄しようとしている。」
それが却ってまひるの恐怖心を刺激する。
きゅー……
睾丸は萎縮し、腹部に埋没してゆく。
彼が恐れているのは、犯されることではなく、殺されることだった。
この2匹の淫獣は自分のことを『女』だと思い込み、情欲にもだえている。
それが……その対象が『男』であることが発覚したらどうなるだろう。
性のエネルギーが怒りに転嫁され、なぶり殺しにあうのではなかろうか。
「許して下さい……」
涙を浮かべ、懇願するまひる。
「口で満足させたら、処女を奪うのは許してやろう。」
真人は、予定通りの酷薄な笑みで以って、そう答え、
じじじじじ……
ジッパーを下ろす。
見事に反り返った醜悪な凶器が、まひるの眼前に突き出された。
(タカさん……助けて!!)
まひるは涙の溢れる瞳をぎゅっと閉じ、ゆっくりと口を開いた。
↓
【グループ:真人(No.17)、真一(No.20)】
【まひる(No.38)】
【所持武器:まひる → なし】
【現在位置:漁具倉庫】
【薫(No.7)】
【所持武器:M72A2】
【現在位置:漁協詰め所前】
【タカさん(No.15)】
【現在位置:釣具】
>181
(1日目 11:00)
あー、良く寝たぜ。
昨日ブルマ女にぶっ飛ばされた疲れもふっとんだってモンよ。
「おい鬼作、メシの用意だ」
……。
「鬼作……おい、鬼作!!」
俺を無視するたぁ、いい度胸じゃねえか?
ガキの頃から、懇切丁寧に体に教え込んでやってただろ。
俺に逆らうと、痛い目見るってよぉ?
「鬼作っ!!」
まだ出て来ない?
だったら悲しいことだけどよぉ、臭作のナイフで、ちょいと罰を与えちまうぜ?
ナイフ……
がさがさがさ
―――ナイフが無い!?
やつめ、まさか……いや、間違いねえ。
あの芋虫、この俺を置いて、トンズラしやがったんだ。
畜生ッ、畜生ッ、畜生ッ!!
がつッ、がつッ、がつッ!!
「痛ってえじゃねえか、畜生ッ!!」
怒りに任せて木を殴り飛ばしたら、拳が痛ぇじゃねえか。
これも芋虫のヤロウが消えちまったからだ。
銀蝿のヤロウも死にやがったし。
どうしてこうもクソ面白くねえことばかり続きやがるんだ!?
俺が何か悪いことをしたかよ!?
何も悪いことぁしてねえだろ?
好きなことをしてただけだ。
……しかし、なんで鬼作が俺の元から逃げる必要がある?
ウマい思いは組んでたほうがありつきやすい事ぁ、ヤツにだって十分解ってるはずだ。
俺、よ〜〜〜く思い出せ。
あの芋虫、どっかへんなとこ無かったか?
………。
『おい鬼作、ぼさっと突っ立ってんじゃねえ。行くぞ。』
『行くぞって、遺兄ィ、臭兄ィは?』
『そんなもンほっとけば、ウジがキレーにしてくれるさ。』
『でもよ…』
そーいや、銀蝿の屍体を見つけたとき、芋虫にゃ珍しく口答えしやがったよな。
それにその後、黙りこくってたし……命が惜しくなったってことか?
鬼作よぉ……俺達の命なんて、惜しむような命か、おぉ?
戸籍も無く、愛するものも無く、愛されることも無く。
路地裏でいつ野垂れ死んでも、誰一人気付くヤツもいないような社会のダニの俺達の命。
そんなモンを守りたいと、てめぇは考えたのか?
鬼作よぉ。
だいたい、生き延びて、それでどうするよ?
生きて帰ったとして、社会最底辺を這いずり回る虫ケラに過ぎねぇ俺達に、何の希望があるよ?
俺は、明日なんぞいらねえ。
死ぬ時ゃ、死ぬ。
あがいても、もがいても、どうしようもなく、ただ、死ぬ。
そんだけのこった。
だったら、今。
今、この瞬間の快楽が大事だろうが、おぉ?
明日のレイプを想像するより、目の前のオメコに突っ込むほうが何倍もキモチイイだろうが。
俺達にゃ、ここは天国なんだぜ?
ムカムカきたら、殺してもいいと。
ムラムラきたら、犯してもいいと。
社会や法律に抑圧されていた全ての欲望をぶちまけていいと。
そう、主催者様々がおっしゃてるんだからな。
おまけに、参加者にゃメスが一杯いるんだぜ?
可愛いの、別嬪なの、色っぺえの、よりどりみどりだぜ?
すんっっっっばらしいじゃねえか。
何の文句があるってんだよ、鬼作。
俺達は、この島に閉じ込められたんじゃない。
この島で開放されたんだよ。
よし、決めたぜ。
俺の人生の楽しみを、もう一つ増やしてやる。
鬼作―――癇に障る芋虫をブチ殺すって楽しみをな。
↓
【伊頭遺作】
【現在位置:西の森】
【スタンス:@弱い女を狩る A鬼作、弱い男をなぶり殺す】
(一日目 7:30AM)
寄り添うようにして歩く二つの人影、
一人の少女と一人の少年。
視線の先には海岸に向かい合うようにして建てられた円筒状の建築物。灯台だ。
彼らは他の参加者を探してとりあえず目に付いたこの建物へと足を向けたのだ。
黙って歩いていた双葉の足が止まる。
彼女と手をつないでいた翼は怪訝そうに振り返る。
「どうしたの、双葉ちゃん?」
「ちょっとアンタ、ほんとにあそこに行く気なの?」
「…そのつもりだけど?」
「はぁ…、ホントおめでたいわね。敵がいるかもしれないのよ。」
翼は珍しいものでも見るような目で双葉を見ている。
その沈黙に耐えかねて双葉はさらに言葉を継ぐ。
「な、何よ。敵…、いるかもしれないでしょ?」
「ああ…、そうだね。考えてなかった。」
そして、再び沈黙。
「はぁ?アンタどうかしてんじゃないの?
こんなバカみたいなゲームでもマジになってやってる
奴だっているかもしれないじゃない。
そ、そんなんでよく守…あげるとか…とか…わね」
最後のほうは口篭もってしまい何を言っているのかわからない。
そんな双葉の様子に気づいているのかどうか、翼は明るい声でこう宣言した。
「うん、そうだね。じゃ、双葉ちゃんはしばらくここで待ってて。
少し様子を見てこよう。」
そういうとズックからショットガンを取り出し一人で灯台のほうへ歩き出す。
双葉はあっけにとられた。
今度は彼女が珍しいものを見るような顔つきをしている。
再び、彼女の眉がつりあがる。
「人の話を聞けっ!あそこには敵がいるかもしれないってのよ。
あんた、ホントにバカなわけ?」ズックのベルトをつかんで声を荒げる。
「ああ、だから様子を見に行くんじゃないか?」
双葉は一つ嘆息すると観念したかのように口を開いた。
「はぁ、わかったわよ。だったらそれよこしなさいよ。
あんたにはアイスピックがあるんでしょ?」
「いいけど、使えるのかい?」
「こんなもの、引鉄引けば何とかなるわよ。」
「さぁ、行こうか。」
一通り火器の扱い方をレクチャーしたあと、
やや引き締まった面差しで翼はそういった。
彼とてやはり緊張しているのだ。
「う、うん。」それに答える短い返事。
その声の主、双葉は、緊張のあまりいささか体を硬くしている。
そんな彼女のこわばりを見て取ったのか、
翼は彼女の正面に立ち、少女の震える手を取る。
双葉はそれの意味するところを解さず、きょとんとしている。
とまどう双葉の瞳をじっと見つめ、安心させるように微笑む。
ついで少女の前に傅くように膝を屈し、
小刻みにゆれる手の甲に口づけする。
そして立ち上がる。
とても自然で、とてもスムーズな動き。
「大丈夫、双葉ちゃんのことは僕が守ってあげるよ。」
変わらぬ笑顔をたたえ少女の耳元に囁く。
「う、うん。」
双葉は首をコクリと頷かせた。
ガチャリ、灯台の扉が開かれ、そこから一人の男が姿をあらわす。
物語の隠者のような風貌、目を爛々と輝かせ、
口元には喜悦の笑みを浮かべている。
押し殺した声で笑っているようだ。
突然、狂気にみちた彼の笑い声がやむ。
あたりが怒気で覆われる。
顔には嫌悪とも憎悪ともつかぬ表情を張り付かせている。
「私のマナ。私だけのマナ。マナ、マナ、マナ。
誰にも渡さん、絶対に、誰にも。邪魔をするなら…排除だ。」
口をうごめかさせ、小声で呪文を詠唱する。
彼の視線の先には二つの人影、一人の少女と一人の少年がとらえられていた。
やがていくつかの火球が男の前に出現し、その人影に向かって飛ぶ。
双葉はいまだに半ば放心したまま翼の背中を見て歩いていた。
(こいつ、今、私に、何した?)
先ほどから同じフレーズがリフレインしている。
驚き、喜び、怒り、さまざまな感情が浮かんでは消えていく。
ショットガンを両手で持ち、おぼつかない足取りで歩く。
周りは見えていないようだ。
当然、迫りくる火球にもまるで注意を払っていない。
「双葉ちゃんっ!!」大声で名を呼ばれ我に帰る。
燃え盛る火の玉が眼前に迫っていた。
(ッッ、ダメだっ!!)
どうすることも出来ず、硬く目を閉じた。
(…あれ、なんともない。
…おかしいわね、確かに目の前に火が迫ってたのに…
あれ一体何だったんだろ?
火の玉が飛ぶなんて魔法じゃあるまいし…
ン…、なんか焦げ臭いわね。
それになんか重いわね……)
次の瞬間、重力が消失したかのような気がした。
そして上下に揺られながら動き出す。
不信に思い、目を開くと見覚えのある服がゆれている。
「ほ、星川?」
「しゃべらないほうがいい、舌噛むよ。」
そう言いながらも走りつづける。
双葉は一瞬で自分が置かれている状況を理解した。
背と太ももに手を回されて抱き上げられている。
いわゆる「お姫様だっこ」だ。
顔が火照る。おそらくいま自分の顔は真っ赤だろう。
星川が顔を見ていないのがせめてもの救いだ。
そのとき、鼻をつくこげた匂いに気づいた。
どうやら星川の背のあたりからそれは漂っているようだ。
当たり前のことだ、目の前にまで迫った火がわけもなく消えるはずがない。
ここからでは見えないがどうやら背中に火傷を負っているらしい。
星川の苦悶の表情を見れば一目瞭然である。
(私のこと守って…くれたんだ。それで怪我したんだ。)
「大丈夫?」
答える代わりに彼は微笑んで見せた。
が、その笑みも少し痛ましい。
侵略者の人影が遠ざかってゆくのを確認すると、
男は満足そうに再び灯台の中へと戻っていった。
今しがた彼が守り抜いた愛しい娘の顔を見るために。
数十分後。数時間前までいた森の中で二人して座り込んでいた。
上半身裸になった星川の背に支給されたペットボトルから水を注ぐ。
「んっ。」星川が顔をしかめる。
「ゴメンね、私のせいで…」
先ほどから何度となく繰り返した台詞をまた口にする。
「気にしなくていいよ、僕が言い出したことだしね。」
「うん…」そういわれても双葉はしょげ返ったままだ。
「…僕の首に腕を回してしがみつく双葉ちゃん、可愛かったよ。」
「バカ…」
それでもまだ意気消沈といった風情だ。
「私がボーっとしてたから…ゴメンね。」
372 :
灯台にて(9):02/01/19 02:12 ID:JKg+3MWG
「それはいいんだって。」
と、そこで言葉を切って、
「…でもどうしてあんなふうに突っ立ってたの?
それまではガチガチに緊張してたのに。」
先ほどまでのおどけた口調ではなく、じっと双葉の目を見ながら問う。
「それは…」視線を地面にさまよわせ、ためらいがちに口を開く。
「うん、それは?」
「アンタが…」そこまで言って目の前にいる星川の顔を見つめる。
「僕が?」目の前にいる少女に顔を近づける。
「アンタが…」双葉の喉がコクリと鳴る。
顔を薔薇色に高潮させ、夢見るように目を潤ませる。
星川の真摯な眼差しが目の前にまで迫っている。
星川の両手が双葉の震える頬にあてがわれる。
そして囁くように問いかける。
「…キス…したから?」
その問いかけには答えず、視線をそらす。
ゆっくりと星川の顔が近づく。
「………ぁ…」
双葉は意を決して、硬く目を閉じた。
↓
【星川翼・朽木双葉】
【スタンス:ともに変化なし】
【武器:ともに変化なし】
【現在地:東の森南部】
>276,329
(1日目 11:00)
病院の待合室。
背筋をピンと伸ばし、顎をしっかり引き、凛とした美しい立ち姿の少女がいる。
まだあどけなさすら残る顔立ちに、雪のように白い肌。
しわ1つ無い巫女装束が、その清楚さをさらに引き立てる。
そんな―――少女22番 紫堂神楽は、今まさに病院に侵入せんとする男に、しずしずと歩み寄った。
「こんにちは」
やや緊張した面持ちで挨拶する神楽。
微妙に輪郭が青白いのは、万が一に備えての下準備だ。
「お出迎え、ご苦労。
ふむ。巫女装束の看護婦とは、この病院もなかなか良い趣味をしている」
ところが埃っぽいワイシャツの男は、まるで緊張感のない口ぶりで、こう返した。
13番 海原琢麿呂。
表情の読み取れない顔立ちだが、害意は全く感じられない。
「お互い、争う気はないようですね。よかったです」
「うむ。私は天才的平和主義者だからな。この島では人命救助にいそしんでやっている」
「人命救助ですか!ご立派な志です」
「ふん。人として当然のことをしてやっているまでだ」
柔和な笑みの神楽に対し、なぜか、そっくり返って偉そうに答える琢麿呂。
そんな態度を取っても威圧感を感じさせない、どこかとぼけた空気が、彼の持ち味だ。
「ところが……実は昨晩、ちょっとした行き違いから争いに巻き込まれてな。
日本刀でザクリとやられてしまったのだ」
そう言ういながら琢麿呂は、ワイシャツの裾を捲る。
そこには、不器用に縫合された痛々しい傷痕があった。
「応急処置はしたんだが、痛みがひどくてな。それに、感染症も怖い。
それで、薬でもなかろうかと、足を運んでやったわけだ」
「まあ。でしたら……」
そう言うと神楽は左手を琢麿呂の傷口にかざした。
ぽう。
一瞬、青くて優しい光がその掌を包んだかと思うと……
「な―――?」
縫合した糸はそのままに、傷口が、綺麗にふさがっていた。
反射的に指でつついて確認してしまう琢麿呂。
「痛くない……」
「私は、こんなことでしかお役に立てませんから」
神楽はくすぐったそうな笑みで、お決まりの文句を返した。
「神楽ちゃん、藍ちゃんが目を覚ましたよ。お礼が言いたいって……」
25番 涼宮遙が待合室に着いたとき、神楽は30歳前後の青年と談笑していた。
「あれ?このお兄さんは……」
遙は、彼を知っているような気がした。
少なくとも、どこかで会ったことがありそうだ。
「うむ、それでは失礼する」
琢麿呂は遙の姿を認めるや、慌てて病院を出ようとするが、
「お待ちください。私たちは志を同じくする者同士。少々お話をお伺いしたいのですが」
神楽に腕を掴まれてしまう。
「あ、あの、どこかでお会いしませんでしたか?」
頬に人差し指をあて、記憶を呼び起こそうとする遙。
トレンチコートを脱いでいること。叫び声しか聞いていないこと、
なによりほんの一瞬しか見ていないことが障害となり、琢麿呂の正体になかなか行き着かないようだ。
「むぅ……争いは避けたいしな。ここは謙虚に謝ってやるとするか」
琢麿呂は深呼吸し、ゆっくりと遙に向かって歩き出す。
かちゃ、かちゃ
同時に、何故かベルトを外しだす。
「あ、あの、なにを」
「いや、なに。反省の気持ちを表してやろうと思ってな」
そう言う頃には、目に眩しいホワイトの、ピチピチの、生々しいブリーフが露出していた。
「きゃあっ!!」
「え……え?」
真っ赤になって目を覆う神楽(異性と手を繋いだことすらない)に、
唖然として腰を抜かす遙(恋人と1回だけ、寸止めHの経験アリ)。
2人とも実にシャイで初心な乙女だ。
だが、思わずこちらが謝ってしまいたくなるような乙女の羞恥にも、彼の脱衣は止まらない。
ブリーフすら、膝まで下ろす!
ずぱあああん!!
そして、そんなに立派でもない彼のシンボルを握るとっっ!!
―――ぺとん。
……遙の頭に乗せた。
「許してちょんまげ」
「きゃあああああああ!」
「やぁあああああああ!」
「こんなに喜んでもらえるとは、謝罪してやった甲斐があるというものだ。
それでは私は、人命救助に飛び出してやるとしよう。
さらばだ、かわいい巫女さんと夢見る瞳のお嬢さん!!」
鳴り止まぬ悲鳴を背に、琢麿呂は病院を飛び出し、北の森へ飛び込んだ……
【No.13 海原琢麿呂】
【現在位置:東の森】
【スタンス:人命救助】
【能力制限:なし】
(同日 11:25)
……と、見せかけて。
迂回した琢麿呂は、再び焼却炉へと戻っていた。
天才的平和主義者も、人命救助も、言うまでも無く対神楽用の大嘘だ。
「私はシンデレラだからな。舞踏会までは灰をかぶっている必要がある」
彼が抱いた「縁起の良い連想」は、まだ継続しているようだ。
(盗聴していたときは半信半疑だったが……)
すっかり傷の言えた脇腹をぽんぽんと叩き、彼は続ける。
(本当に完治してしまうとはな。……どうせなら抜糸してから直させるべきだった)
琢麿呂は、健康な皮膚から糸を抜くときの痛みを思い、溜息をつく。
盗聴を開始して約6時間。
縁の深い病院組を中心に、ざっと一通りの状況を把握した彼がまず驚いたことは
ゲームに乗っている人間が、存外少ないということであった。
小グループが乱立し、その大半が脱出や主催者打倒をスタンスに据えている。
神楽のような特殊能力者、人外が参加しているらしいという情報もまた、彼を驚かせた。
彼が危険を冒してまで病院を訪れた真の理由は、治療では無い。
神楽の力の真偽を測ること、ひいては人外の実在を確認することが主たる目的だったのだ。
今の所確認できたのは彼女だけだが、どうも神秘的な力は存在するらしい。
ならば、もし盗聴で得た人外情報が全て真実なら―――
(主催者打倒も十分ありうるな)
現実主義者の琢麿呂ですら、そう思えてくる。
しかし―――
(私がこうして盗聴しているのだ。主催者たちも当然、全てを聞いているはず)
琢麿呂は、そう分析する。
彼らから見た自分たち参加者はゲームのコマのようなものだろう。
そのコマが、意図に反した―――ゲームそのものを壊すような動きを始めたら、どうだろう?
(私が主催者なら、ゲームを遵守させる機構を用意してやるぞ。罰則も用意してやるかも知れん)
40人もの人間を、本人たちが気付かぬ間に拉致し、この島まで運んだ手際の良い主催者たちのこと。
その点についても手抜かりは無いだろうと、彼は思うのだ。
(だとすると……それとなく「ゲームに乗っている」ことをアピールしてやらんとな)
それが、主催者側から自分への干渉を防ぐことになる。
幸い琢麿呂は、貴神雷蔵を射殺し、病院で姦計を働かせた過去を持っている。
彼がゲームに乗っているという印象は十二分に与えているはずだ。
ただ一点、先ほどの神楽との接触を除いては。
「巫女を騙して怪我を治療させるなど、お茶の子さいさいだ。
天才探偵である私にこの盗聴器は、まさに鬼に金棒。
慎重に様子を伺い、スキをみて鉛玉をぶち込んでやれば、
ゲームの勝利者はこの琢麿呂さまに大決定する」
主催者サイドは、この呟きで、神楽との接触すら姦計の一環と受け取るだろう。
しかもこの言葉は、全くのブラフというわけではない。
現実主義者のこの男、状況いかんによっては、言葉どおりの行動を躊躇わない。
(勝利でも、脱出でも、主催者打倒でもいい。
生き残ることが出来るなら、どんな手段であろうと。
……まあ、強いて言うなら、華麗で天才的な手段が望ましいが)
片足だけゲームに乗ったグレイゾーンの男・海原琢麿呂は、
灰と廃紙に深くその身を横たえながら、また、意識を盗聴器に集中し始めた。
↓
【No.13 海原琢麿呂】
【現在位置:病院中庭・焼却炉】
【スタンス:@生き残り(殺しも辞さず)A盗聴による状況把握】
【能力制限:怪我完治により制限解除】
(一日目 9:14 小屋跡)
瓦礫の下、しおり(No,28)は泣いていた。
数分前と変わらず、能面のように一切の感情を否定している表情で。
叫ぶでもなく、悲しむでもなく、ただひたすらに瞳から涙が流れつづける。
心を閉ざし切れないから。
開放すれば狂ってしまうだろうから。
しおりは涙を流し続けた。
悲しみ、怒り、恐怖、怯え、焦り、痛み。
今にも自分を押し潰してしまいそうな感情を少しでも軽くする為に。
しおりは泣き続けた。
「………何泣いてるの?」
―――すぐ側から、声が聞こえた。
「……えっ?」
しおりの顔に感情が戻る。
彼女はとっさに傍ら―――既に冷たくなっている筈の―――さおりを見た。
「ひっどい顔になってるよ。しおりちゃん」
そこには、自分の顔を心配そうに覗き込むさおりがいた。
「さおりちゃん!」
「……愛お姉ちゃんが、死んじゃったの?」
「う、……うん。それよりさおりちゃんこそ大丈夫なの!?」
「うん、あたしは平気よ。……ちょっと眠っちゃったけど」
「そ……そうなんだ……良かった……良かったよぅ……ヒック」
しおりの眼から更に涙が溢れる。
しかしこれは―――嬉し涙だ。
「そんなに泣かないで、しおりちゃん。……ねえ、ここから出れる?」
「グスッ……うん、どうかな……よいしょ、よいしょ……」
先ほどクレア達を覗いていた隙間から這い出てみようとする。
だが隙間は狭く、小柄なしおりでも出ることはできないようであった。
「……ダメみたい……どうしよう?誰か近くにいるといいんだけど……」
―――しおりは気づいていない。
先ほどからの全ての言葉が、さおりの物も含めて全て自分の口から出ている事に。
さおりの死体が既に死後硬直し始めている事に。
そして―――己が発狂しかかっている事に。
『……そこに誰かいるの!?』
その時、瓦礫の外から女性の声が聞こえた。
(9:12)
「これは……ひどいわね……」
その光景に思わずシャロン(No,39)は呟いた。
複数の人間の気配を感じた病院近辺を避け、一路西へと向かっていた彼女が聞いた物は
爆音であった。それに続いて絶叫、金属音、悲鳴。
ある程度状況が落ち着くのを待って来てみたら、そこは廃墟となっていた。
(よほど激しい戦闘があったのね……これだけの破壊となると、魔法かしら?)
今にも二次崩落を起こしそうな部分に用心しつつ、辺りを調査する。
「………ん?」
少し向こうに誰かが倒れていた。顔は見えないが、ブルマー姿の少女のようだ。
腰の日本刀に手を掛けつつ、ゆっくりと近づく。
「うっ!?」
しかし、シャロンには彼女の顔を確認することはできなかった。
右足が潰れているその体には、首から上が存在しなかったのである。
シャロン自身戦争の最前線で様々な死体と直面し、また自分で光の戦士達の死体を
数多く作り上げてきたのは事実である。
だが、年端も行かぬ少女の死体というのは何度見ても慣れるものではなかった。
「かわいそうにね……」
闇の勢力での祈りの言葉を静かに言う。彼女がどういった神を信じていたかは知らないが、
これがシャロンにできる精一杯の弔い方だ。
その時、
「(………ダメ……誰……近くに……)」
微かな、本当に微かな声が耳に届いた。
「!!……そこに誰かいるの!?」
再び構え、声のした方向を見やる。
しかし、そこには一見誰の姿も無かった。だだ瓦礫が積み重なっているだけ……
「……ここですっ!この下ですっ!!」
いや、声が聞こえてくるのはその下からだ。
あわててシャロンはそこに駆け寄った。
「この下!?」
「は……はいっ!!」
幼い声が返ってくる。
スタート地点にいた面々の内、二人の幼い少女がいた事をシャロンは思い出した。
その一人だろうか?
「体が挟まって出られないの!助けてっ!」
「わ、分かったわ!」
シャロンはそう言うや日本刀の鞘をてこ代わりにして、上のコンクリートの撤去を開始した。
彼女自身、このゲームには決して乗り気ではない。
救える者がいるのなら、それを手助けしたかった。
―――20分後、ようやく瓦礫が取り払われた。
埃が静まるのを待って、中の状況を見る。
そこには、二人の少女が倒れていた。
一人は大きなコンクリートの塊が上に乗っており、既に死んでいた。
幸い、もう一人の方は直撃を受けることも無く、外傷は少ないようだった。
「……平気?立てる?」
ゆっくりと差し伸べた手を弱弱しく握り返す少女。更に近づいて抱き起こし、とりあえず
瓦礫の所から脱出する。
「……も、もう大丈夫です……立てますから……」
そう言われてシャロンは彼女の体を静かに下ろした。
「……あ、ありがとうございました……」
小さい声ながらもはっきりと礼を言う。とりあえずは大丈夫なようだ。
「いいわよ、別に……私はシャロン。貴方は?」
「あ、しおりです。……あと、こっちが私の妹のさおりちゃん」
あらぬ方向を示す少女。無論、そこには誰もいない。
良く見ると目の焦点もあまり合ってはいない。
(……肉親の死によるショックからまだ回復しきっていないのね……)
戦場で、似たような症状の兵士を見たことのあるシャロンはすぐに理解した。
まだこの少女と別れるのは彼女にとって危険であった。
最悪、自殺を計り兼ねないのがこの状態なのだ。
死者が生者を呼ぶのだ、などと神官は言っているがまんざら嘘ではないのだろう。
一瞬だけシャロンは考え、決めた。
「ねえ、貴方……私と一緒に来ない?」
「え……?」
「お互い一人じゃ不安でしょ?どう?」
「は……はいっ!お願いしますっ!!」
彼女も不安だったのだろう。ぱっと表情が明るくなった。
良い笑顔をする少女だ。
「さて……と、それじゃ少し待ってて。自分の荷物を取ってくるわ。貴方の……」
少し癒されたシャロンは振り返り、先ほどの所に置きっぱなしになっている日本刀を
取りに行くために歩き出した。
その時、
とすっ。
妙に軽い音と共に、シャロンの首に何かが当たった。
「ん?」
少し眉をひそめて首筋に手をやる。
ぬるりとした生暖かい感触。
眼前に戻したその手は朱に染まっていた。
「な……!?」
瞬間、首筋に当たっていた感触にずしっと重みがかかる。
誰かが体重を乗せたのだ。
「だ……?」
更に何か言おうとするシャロンの口から大量の血が吐き出される。
口中が鉄の味で一杯になり、視界が揺らぎ始める。
薄れる意識の中、シャロンは自嘲した。
誰が?ハハッ、決まってるじゃないか、シャロン。
油断したアンタが悪いんだよ?
あの子がガラスの破片を握っていたことにも気がつかなかったのかい?
だいたいアンタは―――
ぐりっ
しかしそれも、傷口を更に抉られた事で中断された。
永久に。
え?何?
自分の手が行っている行為を、しおりは完全に別の場所から見ていた。
自分の手の届かない場所で、自分の手が行っている行為。
―――殺人。
何で!?何で!?なんで!?なんで!?なんでなの!?
ああ、こうして驚いている間にもシャロンさんの首筋にガラスが突き刺さってゆく。
あ、今「ぐりっ」って抉った。
あ、シャロンさんが白目になった。
あ、返り血が私の体にかかってゆく。
ああ、お気に入りの洋服だったのに、もう着れないや。
なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?
「―――それはわたしがやったからよ、しおりちゃん」
顔を押さえて泣き出したしおりの横に誰かが立っていた。
誰とは聞かない―――聞く必要が無い。
「なんで!?なんでこんなことをするの!?さおりちゃんっ!?」
今、シャロンさんの体から引き抜きました。
今、噴水みたいにシャロンさんの首から血が出ています。
今、それをわたしは綺麗と思って見ています。
「なんで?」
呆れたようにさおりは答えた。
「決まってるじゃない。あの人はわたし達をだまして殺そうとしてたのよ」
「そんな事ない!あの人は……」
「クレアお姉ちゃんもそうだったわ!」
否定しようとするしおりに対し、さおりは強い口調で反発する。
「しおりちゃんも見たでしょ!?愛お姉ちゃん、クレアお姉ちゃんに……!」
「でっ、でも……!?」
「……みんな敵なのよ」
「……さおりちゃん」
私は歩いています。
私はシャロンお姉ちゃんの荷物を奪おうとしています。
私はシャロンお姉ちゃんの持っていた刀を持ちました。何とか持てそうです。
「だからわたしも殺すの。じゃないとわたしが殺されちゃうんだもの」
「……違うよっ!!」
しおりは叫んでいた。自分が生まれてから一度も感じなかった程の激情が溢れ出す。
「違う!違う!!違う!!!」
「違わないわ!」
「違う!違う!!違う!!!そんなことない!そんなことないよ!!
さおりちゃん意地悪だ!!嫌い!!嫌い!!きらい!!きらい!!!」
「しお……」
「きらい!きらい!!きらい!!だいっきらい!!!
そんなこというさおりちゃんなんてだいっきらい!!!」
「……………」
「きらい……き……ら……」
次第に沈黙してゆくさおり。
しおりも少し落ち着いたのか、静かにさおりに言う。
「ねえ、さおりちゃん……いい人を探そうよ。
愛お姉ちゃんみたいな人……きっと他にもいるよ……」
「……分かったわ」
「えっ?」
「ごめん、さおりちゃん。困らせちゃって……」
「うっ、ううん……いいの。私こそお姉ちゃんなのに怒ったりして……ごめんね」
「えへへっ……私こそ……」
悪戯っぽく微笑む「さおり」、しかしその笑顔が作られたものであることに「しおり」は
気づかない。
「……それじゃ、行こうか?」
「……うん!」
そして彼女は歩き出した。少し足が痛むが、大した事は無いようだ。
―――彼女は未だ気づいてはいない。
自分の人格が「しおり」と「さおり」に分裂してしまった事も。
「さおり」が「しおり」の眠っている間に行動しようとしている事も。
その目的達成の為に、「しおり」を利用しようとしている事も。
↓
【No,28:しおり】
【所持武器:日本刀(シャロン所有)】
【スタンス:人格によって異なる。
「しおり」:誰かの庇護を求める。
「さおり」:殺る気。 】
【備考:二重人格化。
変化は不定期。】
No,39 シャロン死亡
―――残り31人。
>363,383
(1日目 9:40)
「勿体ねえなぁ……
もうちょい綺麗に壊してくれてりゃ、死体でもよかったんだがよぉ」
小屋から離れようとしていたしおりが振り返ると、愛の死体の脇に、初老の男が立っていた。
薄汚れ、縮れ煤けた鼠色の作業服。
粗野と好色の悪いところだけを掛け合わせた容貌に、猛禽類の獰猛な瞳。
しおりの記憶に、この島の現実を刻み付けた男―――伊頭遺作。
「こっちの別嬪さんは、十分使えそうだな」
愛の死体を無造作に踏み越えた彼は、シャロンの死体まで歩み寄り、しゃがみ込むと、
「あぁ、柔らけぇなぁ……それにまだ温いぜ……」
もにゅ、もにゅ……
恍惚とした表情でその質感たっぷりの胸を揉みほぐす。
「これ、テメエがやったのか、嬢ちゃん?」
そこで、初めて遺作はしおりに目を向けた。
「こ、来ないで!」
しおりは、咄嗟に日本刀に手を伸ばす。
が、短いリーチが仇となり、がちゃがちゃと音を鳴らすだけで、刀身を鞘から抜き出せない。
「おいおい、末恐ろしいガキだなぁ。ポン刀振り回すってかぁ?」
大袈裟に肩を竦め、身を震わす真似をする遺作。
明らかに状況を―――子羊の怯える様を楽しんでいる。
「そんな物騒なもん、子供にゃ危険だぜ。俺が預かってやるから、こっちへ来な」
へらへらと笑いながら両手を広げ、しおりに歩み寄る。
「こないでっ、こないでっ、こないでっ」
かちゃ、かちゃ、かちゃ、かちゃ。
日本刀は抜けない。
遺作はさらに数歩近づき。
「ぃやあっ!」
重圧に負けたしおりは日本刀を投げ捨て、一目散に森へ向かって駆け出す。
―――直後。
「ぎっ!」
しおりのふくらはぎに鋭い痛み。
そのままがくりとバランスを崩し、前のめりに転倒。
……しおりの右足には、遺作の投じたワイヤーロープのフックが突き刺さっていた。
「おいおい。まだおぢさんのお話は終わってないんだからよ……」
遺作は、片手にワイヤーロープをしっかりと握りながら、余裕の表情で歩み寄る。
「助けて、さおりちゃん!」
「何座り込んでるの、しおりちゃん!速く逃げないとダメだよぉ!!」
「あ、足が痛くて、立てないの……」
「うわっ!とげとげしたのが刺さってるぅ!!抜くよ、いい?」
「しおりちゃん、わたしのことはいいから、はやく逃げてぇ!!」
この会話は全て、1人の少女の口から出た言葉だ。
しかし遺作は、余りにも奇妙な情景を、全く意に介さなかった。
混乱したメス、演技するメス、壊れたメス。
この男は見慣れていた。
「くるなぁ!この「へんたいじじい」めっ!」
「……ひあっ!」
「これからナニされるか、わかってるってか? 嬢ちゃんはおませさんだなぁ……」
身動きの取れないしおりは、とうとう遺作にゼロ距離まで詰め寄られてしまう。
這ってでも逃げようとするしおりに、遺作は悠々とのしかかる。
しおりは感じた。
尻に擦りつけられている熱い剛直を。
大好きなおにいちゃんに買ってもらった、宝物のスカートの上から。
そのとき彼女の心を満たしたのは、恐怖感でも嫌悪感でもなかった。
―――屈辱感。
おにいちゃんとの想い出が、恋する想いが、汚されている。
涙が出てきた。
ぽろぽろ、ぽろぽろ、ぽろぽろ。
「スカートはやだよぅ……」
そう哀願したのは、しおりなのか、さおりなのか。
そんな彼女の切なる願いを耳にし、震えを体全体で受け止め、遺作はたまらない興奮を覚える。
ジッパーを下ろし、直にそれを取り出すと、あえてスカートばかりに擦りつける。
「やめてよぅ、やめてよぅ……」
嫌がれば嫌がるほど、行為がエスカレートするのだとは、幼い頭では思いもよらないのだろう。
「やめないよぅ、やめないよぅ!」
しおりの泣きまねすら始める始末だ。
「いやだよぅ、スカートはいやだよぅ……」
「いいよぅ、スカートがいいんだよぅ!!」
遺作の腰の動きに、余裕が無くなる。
それまで回したり、微妙な緩急をつけたりと、変化を楽しんでいた動きが一変。
尻たぶに挟み込んだ格好で、一直線に、速いペースの上下動がくりかえされ……
「うぉっ!!」
「だめぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
どくん、どくん、どく、どく、ちゅる……
蕩けるような快美感の中、遺作はしおりの想い出を白濁液で汚した―――
(1日目 11:00)
「世も末だぜ……まさか非処女とはなぁ……俺ぁ、じぇねれーしょんぎゃっぷを感じたね」
きし、きし、きし、きし……
摩擦音に湿り気が足りないのは、レイプの対象がシャロンの死体だからだ。
しおりに2度、その精を放っておいて、休憩なし。
彼女の破瓜役を務められなかったことに落胆した彼は、口直しと称してシャロンにも挑みかかったのだ。
じき還暦を迎えようという身としては、超人的ともいえる精力だ。
しおりは―――目を覆いたくなるような姿で、小屋脇に放置されていた。
身に付けているのは、ピンクのシューズと、ぽんぽん付きの靴下のみ。
幼い顔に、薄い胸に、か細い四肢に、余すところ無く刻印された歯型とキスマーク。
陰りの無い脚の付け根から太ももへと続く濁ったぬめりは、容赦なく体内に放たれたことの証。
そして、何より痛々しいのは―――しおりの首輪にワイヤーロープが括り付けられていることだ。
まるで、外飼いの犬のように。
しかし―――今の彼女は、抵抗もせず蹂躙されていた先ほどまでと、目の色が違う。
身に纏う空気も、鋭いものに変容している。
未熟ながらも、それは「殺気」とすら呼べるものだ。
(お爺さん、シャロンお姉ちゃんを犯すのに夢中。今なら……)
逃げられる。
これがしおりであれば、そう思っただろう。
(わたしとえっちしていいのはお兄ちゃんだけなのに……
あのスカートを脱がしていいのはお兄ちゃんだけなのに……)
しかし、今の彼女は……放心したしおりに取って代わった、さおりだった。
(「れいぷはん」は、殺す)
しおり(さおり)は、音を立てないよう、慎重に遺作の背後に歩み寄ると、
再び手に握ったガラス片を水平に握り、首筋に向けて全力で薙いだ。
ざしゅ!
肉を切り裂く、確かな手ごたえ。
388 :
あいがんどうぶつ(遺作2):02/01/20 21:57 ID:syief2us
「残念だったなぁ……俺ぁ気配にゃ敏感でなぁ」
すぐ横から、聞こえる筈のない声を耳にし、しおり(さおり)は反射的に首を横に回す。
そこには、大動脈を切りつけたはずの、遺作がこわい笑みを浮かべて立っていた。
「うそ……」
握ったガラス片の先を見やると、そこには褐色の肌。
それは遺作の肌の色ではない。
「シャロン……お姉ちゃん!?」
しおり(さおり)が切り裂いたのは、遺作が盾代わりに突き出した、シャロンの体だった。
ゲリラ戦まがいの拉致監禁を常套手段とするこの男のスキを突くなど、
幼い少女には荷が重すぎたのだ。
「元気なのは結構だが、そういうおイタはいけねえぞ」
遺作は、素早くしおりの手をねじり上げ、ガラス片を取り上げると、
「主人の手を噛むようなわんころは、しっかりしつけねえとな」
その掌を強引に開く。
「な、何する気っ!?やめてよ!!」
―――ぱき。
乾いた音。
それに続く甲高い悲鳴。
……しおり(さおり)の親指は、手首の方を向いていた。
「あぎいいいいいいいいいい!」
折れた親指を抑えながら、転がりまわるしおり(さおり)。
遺作は彼女の前髪を掴むと、その顔を自分の正面に持ってくる。
吐息を感じられる距離まで。
そして、射抜くような目線でしおり(さおり)の瞳を捉えると、
「嬢ちゃんは俺のペットだ。飽きるまで飼ってやるから、黙って尻尾振ってろ」
重々しい声で、宣言した。
(1日目 11:59)
遺作は、さおりとの身長差も右足の怪我も考慮しないで、自分のペースで歩き始める。
彼が目指すのは、湯治場。
地図によると、山の北東の麓、西に大きくカーブを描く農道の突き当たりに、それはあるらしい。
「年ィ考えずに、はっするしちまったからな」
満足げな、けだるい笑みを浮かべて、遺作は舌なめずりする。
「今夜は露天風呂で月見酒と行きたいねぇ。けへっ」
しおりはそんな彼にロープで引きずられ、びっこを引いて付いてゆく。
身に付けているのは、ピンクのシューズと、ぽんぽん付きの靴下のみ。
フックの傷も、折れた親指も、全く手当てされていない。
「えく、えく……さおりちゃん、さおりちゃん、足が痛いようぅ……」
「がんばれ、しおりちゃん。わたしが肩を貸してあげるから」
「ありがとう……ゴメンね。さおりちゃんも、親指、折れてるのに」
「気にしないでいいよぅ。わたしは足を怪我してないから、歩くのはだいじょぶだし。
それに……しおりちゃんは、たった一人のお姉ちゃんだもん!
ずっといっしょにいようね」
「うん、やくそく。ずっといっしょだよ」
言葉だけの空約束ではない。
さおりとしおりはいつもいっしょ。
心も体も、融け合って一つ。
♪じーんせーい らーァくぅあーりゃぁ くうぅぅもあぁるゥさァ〜〜 っと。
しおりは、調子外に歌いながらロープを引く遺作の背中を見つめる。
右目を怯えに潤ませ、左目を殺意に燃やして。
↓
【グループ:伊頭遺作・しおり】
【現在位置:小屋跡 → 湯治場】
【遺作】
【スタンス:@弱い女を狩る A鬼作、弱い男をなぶり殺す】
【所持武器:ワイヤーロープ、日本刀】
【しおり】
【スタンス:しおり @遺作から逃亡 A誰かの庇護を求める】
【スタンス:さおり @遺作殺害 A殺る気】
【所持武器:なし】
【能力制限:二重人格、右手親指骨折、右足裂傷につき歩行に難】
>266
(一日目 6:01)
なんだか気持ちの悪い放送だったね。
聞いてるこっちの神経がどうにかなっちゃいそうな笑い声でさ。
それにしても6人も死んでるんだね。
悲しいことだけど、殺る気になってるのは夜叉姫だけじゃないんだね。
……おや?
夜叉姫の実験作業の手が止まっているね?
束ねた髪を、指で弄っているよ?
これ、彼女がうろたえているときのサインなんだ。
沈着冷静、卑怯千万が売り物の彼女にしては珍しいね。
ちょっと様子を見てみようか。
<沙霧の思考>
今の放送、「以上六名が死んでしもうた」と言っていましたよね。
六名?
どういうことでしょう。
このレーダーで消えた光点は、七つだというのに。
私が勝手に光点消失を死亡だと思い込んでいただけで、実際は何か別の要因で消えたということ……?
それとも、一人分のレーダー反応物が誤動作を起こしているということでしょうか?
……いずれにしろこのレーダーの信頼性について、考え直す必要がありますね。
幸い、ここは開けた土地で見晴らしも良好です。
接近者の目視も容易ですし……そうですね。
ここで迎え撃つ。
いえ、誘い出して、レーダーの有効性を確認するというのはどうでしょうか。
目視で確認した死と共にレーダーの光点が消失するなら、
完全に信頼は出来ないまでもこれに利用価値はあるということです。
この場合、トラップを設置しつつ逃げ回るというスタンスを継続できますね。
死とレーダーに関連性がないと分かったら、スタンスは篭城に変更したほうが良いでしょうね。
むやみに動き回るより、安全性が高いですから。
その場合は……そうですね。
山の中腹にある「竜神社」あたりが、狙い目でしょうね。
竜神と名が付けば、たいていの場合、水神。
この島の水源が近くにあるということでしょう。
雑貨屋で非常食やビタミン剤は十分手に入れましたし、新鮮な水が常時手に入るのなら、
長期の篭城が可能ですからね。
さて、そうと決まれば。
篭城戦になったときのことを見越しての、トラップテストも兼ねましょう。
頭にあるトラップのアイデアを一通り試してみて、利便性や有効度を分析しておけば、
今後、より有利に戦局を運べるでしょうから。
一から十まで思い通りになるのがとてもつまらないということは、
今までの人生でイヤというほど経験してきましたし、
このくらいのハプニングと計算違いは、程よい緊張感を与えるエッセンス。
ふふふ……私、久しぶりに高揚しているみたいですね。
<沙霧の思考、終了>
……なんだ、いつもの夜叉姫じゃないか。
むしろ、さらに殺る気をつのらせたみたいだよ。
凹んだ彼女の泣き言が聞きたかったんだけど、がっかりだね。
彼女、凝り性だからね。
きっとものすごい質と量のトラップ群を設置するんだろうね。
で、また死人を出す、と。
くわばらくわばら。
↓
<お知らせ>
書き手さんたちの話し合いの結果、
作中の時間変更がありましたのでお知らせします。
>>354,355 10:18→ 14:00頃
>>362,363 11:00→ 09:00頃
(一日目 8:44)
「アイン、一つ訊きたい事があるのだが」
今まさに病院から出発しようとしていたアインに、トイレに行った魔屈堂を待っている
エーリヒが声を掛けた。
「……何ですか?」
アインは訝しげにエーリヒを見る。
「ドイツ語で"一つの"という意味の"ein"というコードネームらしき名前、
参加者が殺し合いを強制されるというこの非日常的な状況下においての沈着冷静ぶり、
……君は何らかの特殊な組織で訓練を受けたことがある、そうだろう?」
「……ええ、その通りです。それが何か?」
エーリヒの質問に、アインはしばらく沈黙してから答えた。
「やはりそうか。その組織はドイツにあるのか?」
「いえ、アメリカにあります。……すみませんが、それ以上は協力関係にあるあなたにも
言えません」
「いや、それだけ聞ければ十分だよ。答えてくれてありがとう」
「訊きたい事はそれだけですか? それならもう出発しますが」
そう言って、アインはエーリヒに背を向け出発しようとした。
「もう一つだけ。君は実際に人を殺したことがあるのか?」
アインの背中に向かって、エーリヒが声を掛ける。
「ええ。何人も」
振り向かずにアインはそう答えた。
「そうか。……分かっているとは思うが、我々の行動基準は、情報と資材の収集をメインに、
余裕があったら人命救助をこなす、だ。無用な殺人は……」
「その点は理解しています。
……ただし、殺人ゲームに乗った人間は躊躇なく殺しますが」
「できれば殺す前に説得を試みて欲しいのだが……」
「それは約束できません。先程も言いましたが、私は神楽ほど楽観的にはなれませんから。
では、私は廃村の方へ行きます」
「昼頃にはここに帰還するようにしてくれ」
「分かりました。それでは」
(アイン……彼女はいわば研ぎ澄まされた刃だ。果たして、私に御しきれるのか)
病院を出て行くアインの背を見ながら、エーリヒの胸にそんな思いが浮かんだ。
↓
【アイン:単独行動】
【現在位置:病院 → 廃村】
(一日目 10:23 廃村・井戸付近)
アイン(No,23)は、自分が見ている光景が何を意味しているのかを考えていた。
今自分が隠れている家屋の影から十数メートル先、そこに井戸がある。
問題は井戸の近くで何かを話している二人の―――否、一人と一匹の―――姿であった。
彼らの話の内容までは聞こえないが、話しつつ手帳らしきものを交互に渡している。
片方の物体の事はアインもはっきりと覚えていた。
うねうねと蠢く五本の触手の上に、ちょこんと乗った白人男性の頭部。
間違い無くスタート地点において自分と遙を襲った怪物だ。
もう一人のスーツ姿の女性については分からなかった。
(どうやら、襲われていた訳ではないようね……)
遠くから二人の姿を見た時、アインはそう判断して駆けつけたのだ。
だが近距離から見る彼らは明らかに対等に話している。
いや、むしろ女の方が上位に立ってあの怪物に何かを言っているようであった。
(!?)
突然、アインの目が驚きに見開かれた。
怪物の方が急に笑い出したかと思うと、次の瞬間女が怪物の顔面に蹴りを入れたのである。
盛大に吹き上がる鼻血。
怪物の方は何やら抗議をしたようだが、二言三言言った所で渋々と引き下がる。
この時点でアインの考えは確定した。
(おそらく、あの女性も人間では無い……って事でしょうね……)
それも、間違い無くあの怪物よりも強い存在。
ここまでの事象はそう示していた。
(なら……迷っている暇は無いわ)
幸いにしてあの怪物達(とりあえずアインはそう認識している)は話に集中しており、
こちらの気配に気づいてはいないようだ。
腰のナイフを引き抜き、じわじわと距離を詰める。
一挙動で仕留めれる所まで、あと数m―――。
「……つまり、どうしようもないって事?」
(……大体の状況は分かってもらえた?)
「あ、当たり前だー、機材が無ければどうしようも無いにきまっておろうー」
(ふむ、まさか既に6人も死んでいたとはな……愚かな事だ)
「参ったわね……」
(ちょっと、その台詞丸分かりの棒読み、何とかならないの!?)
井戸の側でグレン・コリンズ(No,26)と法条まりな(No,32)は情報交換を行っていた。
盗聴を避ける為、口で適当な事を言いつつ慌しく手帳に文を書きこんでゆく。
もっとも情報交換とは言っても先ほどまで眠っていたグレンが何か知っている訳も無く、
まりなが彼に説明する形になっていた。
(それよりもこんな方法で騙し切れるのかね、ミス法条?君の意見が全て正しいと仮定
するならば、君の目的も既に筒抜けの筈だが?)
(そうでしょうね……でも、それならとっくに私の首輪は爆発してる筈よ。
……協力を頼んだ貴方を含めてね)
ぎょっとして触手の一本を首に当てるグレン。
(わっ、私は何も知らなかったぞ!貴様が私を強引に……)
(はいはい。……ところがこうして私達は生きてる。何故だと思う?)
まりなの謎かけにグレンは一瞬眉をひそめ、次に苦虫を噛み潰したような顔になった。
(!……おのれ、連中はこの私を甘く見ているというのかっ!?)
(そう言う事。多分、主催者側は私達の行為を無駄な事だと思ってわざと泳がせている。
私達が勝つには、その過信につけ込むしかないでしょうね)
(ぐうっ、馬鹿にしおって!!この現人神グレ……)
怒りに任せて書き殴ろうとするグレンの手からまりなは手帳を素早く奪い取る。
(やめてよ、そんなにページないんだから。文句なら地面に書いて)
(んぐぎぐ……!何と生意気な女だ!)
(そんな事より、本当に解析はできるの?)
(ふんっ、当たり前だ!灯台の所にある私のロケットを利用すればこの程度の首輪の解析
など簡単な事!)
(信頼してるわ。『紙一重を突破してしまった天才』グレン・コリンズ)
書いた直後、まりなは自分が書いてはいけない言葉を出してしまった事に気付いた。
予想通りグレンは大声で笑い出す。
「ふ……ふははははははははははははははっっっ!!天才!!そぉぉう天才ぃぃっ!!
この私の頭脳を甘く見た連中なぞ敵ではないぃぃぃッ!!」
「……始まっちゃった」
うんざりした口調でまりなは呟いた。
決してさっきの異名は誉め言葉ではないのだが、そんな事は彼にとって問題ではない。
「天才」この言葉が重要なのだ。
井戸から引っ張り出してから数分で、既にまりなはそれを理解していた。
(よっぽど周囲から認められてなかったんでしょうね……)
何となく哀れみを込めた目で彼を見てしまう。
だが、本当の問題はこの後だ。
まりなは静かに右足を上げた。
「ああ今こそ天よ照覧あれっ!今再び至高神グレン・コリンズが奇跡を起こすのだ!
我が愛しの『グ……(がすっ!!)はぎょおっ!?」
手加減なしの突き蹴りがグレンの人中に叩きこまれる。
盛大に吹き上がる鼻血。
「ななな……いきなり何をするのだっ!?」
「大げさね、虫を追い払っただけじゃない」
怒りの抗議をするグレンに、まりなはにこやかに返答した。
しかしその目は全く笑っていない。
(それはこっちの台詞だわ!主催者に方法がバレたら今度こそ爆殺よ!?)
「ぬ……ぐ……」
渋々とグレンは引き下がった。
だが……その口元に微かな、本当に微かな笑みが浮かんでいる事にまりなは気付かない。
(クククク……せいぜい今の内に威張り散らしておくが良いわ。あとほんの数分後には、
貴様は私の美しい体に頬擦りして永遠の隷従を誓う事になるのだからな……)
グレンとて、ただへいこら彼女に従う気は毛頭無かった。
彼女を自分のいいなりにしてしまえば、グレン的には結果は同じなのだ。
いや、それどころか首輪の情報を独占してしまえば強力な交渉材料となる。
そうすれば他の女性参加者を、首輪解除を餌にして好き放題にもできるだろう。
(私の受けた屈辱、百倍にして返してくれる……)
良く見れば、ちょうどグレンの背後にある触手が一本地面に埋まっている。
それはミミズのように少しずつ地中を進み―――今はまりなの足元まで伸びていた。
あとは彼女の気を一瞬だけ他所へそらし、その隙をついて締め付ければ良い。
(思い知れっ!)
「ミス法条!後ろだッ!」
「えっ!?」
グレンの思惑通り、まりなは彼の示した方向に体を向けた。
(もらったァッ!!)
ボコォッ!
地面から触手が出現する。その先端は狙い過たず―――
―――物陰から飛び出したアインを直撃していた。
「……………はい?」
(そんな……っ!?)
アインは驚きを隠せなかった。
完全に気配は殺していた、それこそ一流の暗殺者クラスでなければ彼女の存在には気が
つかなかった筈だ。少なくとも人間ならば。
―――と言う事は、こいつらはそれと同等の戦闘力を持つことになる!
「ぐっ……!」
何とか途中でブレーキをかけて飛び退くものの命中は避けれず、したたかに胸を打つ。
肺の空気が強制的に吐き出される感覚。
それに耐えつつナイフでその触手を切り落とす。
「んぎゃああああぁぁぁっ!ききき貴様あっ!一度ならず二度までもぉぉぉっ!?」
男の方が悲鳴をあげ、大きく触手をのたうたせた。
「……『ファントム』!?」
女の方が構えを取った。どうやらこちらは自分の通り名を知っているようだ。
(一度退くべきね)
その名を言われた事が逆にアインに冷静さを取り戻させた。
相手は二人、かつ正体不明の能力を持っている。
不意打ちが失敗した時点で勝率は無いといって良いだろう。
今仕留めれないのは残念だが、犬死では意味も無い。任務を優先せねばならなかった。
アインはバックジャンプで再び物陰に隠れ、走り出した。
向こうでは声が聞こえていたが、追ってくる気配は無いようだ。
(……ここで村の東は終わり、次は西ね)
そして再び、アインの気配は消えた。
「……どうやら退いてくれたみたいね」
「あうあうあう……な、何なのだあの小娘は!?」
「通称『ファントム』、世界屈指の殺し屋の一人よ。ひょっとしたら世界一かもしれないわ。
―――正直、命拾いしたって所ね」
「拾っておらんわっ!ああ、私の神聖な体がぁぁ……」
「どうせまた生えてくるんだからいいじゃない。……それより、お礼を言わないとね」
「……ん?」
「ありがとう、貴方が言ってくれなかったら多分やられてたわ」
「あ……ふ、ふはっ、ふはははははははっ!何、私を助けてくれたほんの礼に過ぎんよ!
わは、わははははははははは……(言えん……)さあ!それでは行こうではないか!!
我が『グ……』(バキィッ!)ごめすっ!?」
「(だから名前出すなって言ってるでしょうがっ!)」
↓
【アイン】
【備考:まりな&グレンを敵と認識】
【法条まりな:グレン】
【変化無し】
>339,341
(10:23)
??:たとえばね。AM3:00……
古びた民家の台所、渋茶色の和服になぜか割烹着姿のクレアが鍋に火を通していたところに、
窓の向こうから突然かかる太い声。
クレア:どちらさまでしょうか?
トレードマークの(前が少し薄くなった)長髪を風になびかせて、ワープ番長イノケン、ここに参上!!
猪乃:……その時、なにげなく夜空を見上げたら、そこには一面の流星雨……
ぼくはその美しさに心震わす。
そして思う。この感動は独占してはいけないと。友と分かち合うべきものだと。
クレア:(……仲間を探している、と言ったところでしょうか?)
クレアの頭を駆け巡るのは夜空ではなく、番長の分析。
『なんて尊大でマヌケなお顔。こういうお方は、自尊心をくすぐればイチコロですわ』
猪乃:……さあ、君はどう答える?
クレア:流星雨……とても素敵ですわ。
是非、もっと素敵なあなた様のお隣で共に眺めたいものです。
出たァ〜〜〜〜っ!!(天兆五輪大武会での富樫&虎丸風に。)
クレアの18番、憂いを含んだ上目遣いでの媚態!!
しかも、相手は非モテを極めたワープ番長。鼻の下をだらしなく伸ばしているぞ!!
カンカンカン!!
番長、ここに来てついにTKOっっ!!
猪乃:むふ……♥ キミはボクの選ばれし仲間のようだ。(目線 → 胸)
隣と言わず、膝の上でも、一向に差し支えない!!(目線 → 尻)
そしてワープ番長は、風のように……玄関に向かう!!
ひゅん!!
靴を脱いだら綺麗に揃えて、風のように……台所に向かう!!
ひゅん!!
クレア:おなかは空いてらっしゃいませんか?
ちょうどコンソメスープが出来上がったのですけれど、
よろしければ召し上がっていただけませんか?(極上の笑みで。)
猪乃:流石は選ばれし仲間。友の腹具合は先刻承知ときたか。
よし、それでは美味しく頂こう!!(だらしない笑みで。)
……気をつけろ、ワープ番長!!
綺麗なバラには棘があると、昔から相場は決まっているんだぞ!?(しかもイギリスはバラの本場。)
↓
【グループ:猪乃健、クレア】
【スタンス:両者共に変更なし】
(8:15)
監察官・御陵透子は木造校舎の窓枠に腰掛け、空を眺めていた。
雲ひとつ無い一面の青空だ。
しかし彼女の目に映る世界は、それだけではない。
「すてきなお店の店長さんにゃの」「エックスタシーがやき」「耕一さん……」
「……天敵だょ?」「うおおお、おま○こ、いっちゃう!」「たとえば、AM3:00」
今生まれた思考、過去に生まれた気持ち。
すぐそばで生まれた感情、遥か遠くで生まれた記憶。
彼女の焦点の合わない瞳には、それら全てが形あるものとして映っていた。
思いの数は余りにも多く、互いに押し合い潰しあってかろうじて存在している。
傍目には放心しているように見える彼女は、
それら無数の思いの記憶を、真剣に、丹念に選別していたのだ。
……手のひらに今までは無かった感触を感じ、彼女は検索を中断する。
そこには金属的な手触りに僅かな振動を備えた、輪状のものがあった。
「……仕事ね」
突如現れたそれに眉一つ動かすことなく彼女はそう言うと、
ゆっくりと立ち上がり―――
………。
彼女は姿を消した。
その場には初めから、何も存在しなかったかのように。
>372
ここは学校に程近い、森の中。
(うぅ……これからどうすればいいって言うの?)
16番 朽木双葉は初めてのキスに頭を混乱させ、体を緊張させていた。
いつか白馬の王子様と夢見ていたこの行為は、想像していたものと違って
レモンの味もしなければミントの味もせず、なんとも生々しくて熱かった。
(私の顔、真っ赤になってるんだろうな……お願い星川、目、閉じてて!)
そう思ったとき、18番 星川翼の唇が僅かに動いた。
(……これでおしまいかな?)
双葉は残念なような、ほっとしたような複雑な気持ちになる。
しかし、実際は彼女の予想とは違った局面に移行しようとしていた。
星川の舌が、双葉の固く閉ざされた唇の谷間に割り込もうと動き始めたのだ。
(え!?うそうそうそ!!)
初めてでディープキスはあり得ない。
少女漫画の影響でそう信じ込んでいた双葉には、想像もつかない怒涛の展開だ。
(大人のキスは、大人になってからでしょうがっ!!)
突き飛ばして、そう叫ぼうかと思った。
しかし、膝にも方にも力が入らない。
(え、マジ?ホントにそうなんて嘘でしょお!?)
思考は混乱方面へ一直線。
震える双葉の唇を突破した星川の舌は、彼女の前歯にまで辿り着いていた。
その時―――
「警告対象はNo.16 朽木双葉……」
聞こえてきた声に双葉の金縛りは強制解除されたが、
勢い余って星川を突き飛ばしてしまう。
「やっ!!」
緊張で溜めの効いていた張り手に、思わず尻もちを突いてしまう星川。
「あ〜、双葉ちゃん、調子に乗っちゃってゴメン!」
憎めないウインクを一つ決め、すかさず立ち上がり両手を合わせる。
「これは違うのっ!!わ、わたしはいやだっていったのよ?」
「うー、そんなつれないこと言わないでよ。
僕は、確かに心が触れ合ったなって思ってたんだけど……」
「あー、わたし、コイツのことなんて何とも思ってないんだからね?」
双葉の言葉は、星川の後ろにぼうと立っている少女に向けられている。
キスシーンを見られてしまったことに対する照れ隠しが、
否定的な言葉となって口をついているだけだ。
しかし、その言葉が自分に向けられているものと勘違いし、星川はしょげ返る。
「何とも思ってない……何とも……」
本気で傷ついていそうだ。
そんな彼らの、ほほえましい誤解と混乱などまるで意に介さず、
第三の人物・透子は、飄々と言葉を続ける。
「警告事由はゲーム管理の阻害」
……ここで初めて星川は声に気付いた。
次いで言葉の意味するところも理解する。
「この人……」
双葉に目配せを送ると、彼女も冷静に戻っていた。
「うん、「あっち側」の人みたい」
星川は半歩前に踏み出し、双葉を自分の背の後ろへと誘導する。
その動きはとても自然だった。
「話し合いの余地って、あったりする?」
硬い笑顔で透子に尋ねる星川の後ろで、双葉は指をせわしなく動かし呟いている。
星川が知らない双葉の力―――陰陽師の呪の準備の為に。
この少女は、ただ守られることに満足するようなお嬢様ではない。
だが、彼らの用心は杞憂に終わる。
「首輪……」
「このスペアの首輪を嵌めなさい」
「正午の放送までに」
「さもないと」
「死ぬことになる……」
透子は手のひらを開き、握っていたものを落とすと、そのまま、
………。
表情一つ変えずに消えてしまった。
音も、風も、空間のゆがみも、痕跡も無く。
光狩を撃つ火者の星川と陰陽の秘術を受け継ぐ双葉。
どちらも、超常現象を日常として暮らす人間だ。
だがその彼らにも、透子がなんであるのか、見当もつかなかった。
ここに彼女が確かにいたのか、いなかったのか。
それすらわからない。
……暫くして、ようやく星川が口を開く。
「ホログラムとか……かな?」
「そうでもないみたいよ」
双葉が指差すそこ―――透子がいた場所には、鈍く光る首輪が草に埋もれていた。
405 :
青空を検索する少女:02/01/23 09:16 ID:UxZf0qZF
(8:45)
少女は木造校舎の窓枠に腰掛け、空を眺めていた。
雲ひとつ無い一面の青空だ。
しかし彼女の目に映る世界は、それだけではない。
今生まれた思考、過去に生まれた気持ち。
すぐそばで生まれた感情、遥か遠くで生まれた記憶。
彼女の焦点の合わない瞳には、それら全てが形あるものとして映っていた。
思いの数は余りにも多く、互いに押し合い潰しあってかろうじて存在している。
「あなたが、どんどん埋もれてしまう……」
宇宙船の墜落で失われた彼女の半身―――
最愛のパートナーが僅かに残した記憶を探して、彼女はまた検索を始める。
↓
【双葉】
【武器:首輪(未装備)】
>377
(1日目 11:15)
闖入者の破廉恥な行為からしばらく経ち、落ち着きを取り戻した神楽(No.22)と遙(No.25)は、
意識を戻した藍(No.19)に、今に至るまでの経緯と状況を伝えていた。
「皆さんがお戻りになるまで、遙さんと藍ちゃんは、私がお守りしますから。」
そして、神楽はこの言葉で締めくくった。
彼女の言葉は、2人を安心させるための方便ではなく、本気で守る覚悟の宣言だ。
治癒力に目が行ってしまいがちだが、この少女は古流柔術の一流派を極んとする手練でもある。
徒手空拳の戦い……ことに締め技の正確さ・華麗さに於いては、参加者中でも群を抜いた存在だ。
守り切る自身は十分にあった。
そんな彼女の言葉を受けた2人の態度は、好対照だった。
「うぅ……神楽ちゃんは優しいよ……私は嬉しいよ……」
藍は、その言葉に感動し、涙を流していた。
……彼女は、両親の愛を与えられず、常に孤独感を胸に抱いていた少女だった。
親の気を引くために家出しても、なぜ家出したのかすら聞いて貰えず。
数少ない友人たちも、それぞれの抱える問題に集中し、震える彼女に目を向ける余裕を失っていた。
だから彼女は、神楽の守るという言葉に、感動したのだ。
(神楽ちゃんは、私のこと、要らない子じゃ無いって言ってくれたよ……)
「わたし、いつも迷惑かけてばかりで、いつもお荷物で……」
遙は、その言葉に内省し、俯いた。
……彼女は、人の重荷になることの辛さ、重圧感を、誰よりも知っている女性だった。
何年も植物状態で過ごして以降、彼女の愛する人たちの時を止め、人間関係の糸をもつれさせた。
最愛の男性を縛りつけ、苦しめ、傷つけ、消耗させた。
だから彼女は、神楽の守るという言葉に、負い目を感じたのだ。
(強くなりたい……心も、体も。誰にも迷惑をかけないように……)
そんな好対照な2者の反応を他所に、澄んだ声が、病室に響いた。
「警告対象は以下六名……」
3人の誰の物でもない。3人の誰も聞いたことが無い。か細い少女の声が。
「1、No.11 エーリヒ・フォン・マンシュタイン」
「2、No.12 魔屈堂野武彦……」
3人は、声のする方を振り返った。
「3、No.19 松倉藍」
「4、No.22 紫堂神楽」
4人部屋の病室、藍の横たわる窓際のベッドからは対角線上に位置する扉側のベッドの脇……
閉ざされた仕切り用のカーテンに閉ざされたその向こう側にシルエット。細く淡く、微かな。
「こんにちは。どちら様でしょうか?」
3人の中で最初に口を開いたのは、やはり神楽だった。
「6、No.25 涼宮遙」
「5、No.23 アイン」
しかし、影は神楽の質問が耳に入っていないかのように、言葉を続ける。
「警告事由は以下三点……」
神楽の背後には、手を取り合って震えている藍と遙。
「こちらには戦う意志がありません。」
「1、主催者への反乱準備」
……無視。
「あなたにも戦う意志はないのですね?」
「2、島からの逃亡準備」
……無視。
「話し合いに来られたのなら、姿くらいお見せになってくださいっ!」
ざぁぁぁぁぁっ!
対話に応じない影に業を煮やした神楽は、強気にカーテンを引き開いた。
が、しかし。
「え?」
……カーテンの向こうには、誰もいなかった。
「消えた……」
神楽には、何故透子がそこから消えたのか、まるで解らなかった。
彼女はその目や耳以上に敏感な皮膚感覚を持っている。気配を感じるための。
その感覚は確かに、カーテンの向こうに人が居ると告げていた。
人外ではなく、人がいる、と。
その只のヒトが、どうやって瞬時に姿を消したというのか?
「きゃあっ!」
「ウソ……」
遙と藍の悲鳴が聞こえ、神楽は振り返る。
藍のベッドと窓との間。
現実から遊離しているかのような少女が、風にその長く艶やかな髪をたなびかせていた。
「3、馴れ合い、戦意無し」
監察・御陵透子。
その存在感は希薄。しかし、明瞭。
例えるなら、油絵ばかり展示されている美術館に、一枚だけ飾られた水彩画の存在感。
神楽は混乱するより先に体を動かし、藍と透子の間に割り込むが、
透子には攻撃の意志は無い様で、緩慢に両の眼を左右させている。
まるで、自分が今、どこに居るのかを確認しているかの様に。
そんな動作を5秒ほど行った後、今度は神楽たちの顔を一つずつ眺め、口を開いた。
「該当する六名は」
「正午の放送までに……」
「協力関係を解除し」
「単独行動を取りなさい」
遙が息を飲む。藍が神楽の背中にしがみつく。
2人が庇護も無く島をうろつくことは、飢えた野獣の檻の中に、羊を放つのと同義だからだ。
神楽は臍下丹田に力を込め、深く細い息を吐く。
青白い燐光が、その身に燃え上がる。
「いやです……と、答えたら、どうなるのでしょうか?」
覚悟を固めた神楽の、最後の問い。
その背は、戦いのことなど全く知らない遙が見ても、十分に「怖い」物だった。
が、そんな神楽の無言の圧力も涼風程度にしか感じていない風に、透子は相変わらずの表情だ。
しかし、ここに来て始めて、透子は神楽の問いに答えた。
「……死ぬことになる」
ふ……
そこまで言うと、透子は姿を消した。
神楽は窓から身を乗り出し、下を見やるが……やはり透子の姿は無かった。
「怖いよ……1人はいやだよ!死にたくないよ!!」
恥じることなく涙を流し、嗚咽を漏らし。沸きあがる感情をそのまま口に出す藍。
「……。」
俯いたまま押し黙る遙。その顔色は蒼白。膝は震えている。
「大丈夫です。」
そんな2人に微笑み返す神楽の瞳には、いつもの余裕が無かった。
そして、藍の心の奥底に息を潜める獣も、また。
『解らない……解らないけど。アイツには勝てないょ……』
その嗅覚で以って、透子の圧倒的な……しかし正体不明の威圧感を、嗅ぎ取っていた。
↓
>400
(1日目 10:42)
廃村西側のとある古びた民家の台所。
そこでは、和服に割烹着姿の女性と丸々と肥えた男が食事をしていた。
「ボクはね…モグモグ…この島で目覚めてからずっと共に戦ってくれる仲間を探していたんだ。
でもね…ガツガツ…出会った人間はみんなボクの仲間たり得ない者たちばかりで、パクパク…正直
困っていたんだ。…ゴクゴク…キミのような理解者が現れてくれてとても嬉しいよ」
ワープ番長こと猪野健(No.37)は、クレア・バートン(No.33)が料理したパンやハムエッグを食
べたり牛乳を飲んだりしながら、彼女に今までの経緯を説明していた。
猪野は口に入れた物を食べきらないで喋っているので、ポロポロとパン屑などが落ちているのだが、
彼は全く意に介さないでいた。
(下品な男。テーブルマナーが全くなっていない。それに恐ろしいほど単純。
見ているだけで不快になるわ)
クレアは苦虫を噛み潰したような表情になりそうなのを堪える。
(でも、この男が毒薬入りのスープを飲むまでは我慢しないと)
「それにしてもキミの料理は美味しいね。美人で料理の上手な人に会えてよかったよ。
なにしろ目覚めてから何も食べていなかったからね」
「そんな、褒められるほどの物ではありませんわ。
(見え透いたお世辞はいいから、さっさとスープを飲みなさい)」
「……あれ? そういえば君は食べないのかい?」
「ええ、私はメイドですので、後でいただくことにします。お客様をもてなすのが仕事ですから。
……今は御主人様がいらっしゃいませんが(フォスター…私は必ず生き残るから待っていて…)」
「ほう、そうだったのか。良かったらボクがキミの御主人様になろうか?」
そう言って、猪野は欲望丸出しの目つきでクレアを見る。
「ふふっ、考えておきますね。
(誰があなたのような男のメイドになるもんですか。私の主人はフォスターだけよ)」
思いとは裏腹の言葉がクレアの口から紡ぎ出される。猪野を油断させスープを飲ませる為だけに。
「おっと、そういえば、このスープをまだ飲んでいなかったね。
もともとスープを飲まないかと誘われたのに、つい他の料理を先に食べてしまったよ。申し訳ない」
そう言いながら、猪野はコンソメスープの注がれたカップを手に取り口をつけ……食べた。
「いえ、お好きな順番で食べていただいてかまいませんわ
(飲んだわね。説明書によると即効性の強い毒薬らしいけど、効果は…)」
「うん。じっくりと煮込まれた野菜ごブッ、ゲホッ、ゴホッ、ガホッ…」
猪野は味の感想を言う途中で咳き込み始め、カップを取り落としテーブルに頭を強く打ちつけた。
(バッ、バカなっ。これは毒? そんな、やっと選ばれし仲間に会えたと思ったのに……
この女もエネミ―だったのか!? クソッ、軽々しく信用するんじゃなかった!)
激しい後悔とともに、猪野の意識は闇に落ちていった。
しばらくの間は体を痙攣させていたが、数分後には痙攣も止まりピクリとも動かなくなった。
「……成功ね。念のため多めに使ったけど、その必要はなかったかもしれないわね」
そう一人ごちると、クレアは自分の姿を改めて見る。
(血まみれのエプロンドレスでは怪しまれるだろうと思って、目に付いたこんな物に着替えたけど……
慣れない物を着るものじゃないわね。落ち着かないわ。普通の服に着替えて来よう)
クレアはテーブルに突っ伏した猪野の死体を放置したまま、2階へと上っていった。
No.37 ワープ番長 猪野健死亡
―――残り30人。
(1日目 10:46)
グレン・コリンズ(No.26)と法条まりな(No.32)との戦闘後、アイン(No.23)は廃村の西側に
移動して周囲を調べていた。
(先程の2人組の怪物。ゲームに乗っている上に、正体不明の能力を持っていてかなり危険ね。
出来るならエーリヒと魔窟堂と協力して排除しておきたいところだけど……。
それに、神楽が他爆装置を付けたという2人組の男性。もし遭遇したら、彼らも殺しておくべきね)
後者はともかく前者は大いなる誤解なのだが、アインはそんな事を知る由もない。
(あれは……煙? 誰かがあの家にいるようね)
アインは前方の民家から煙が出ているのに気付き、そこへ向かうことにした。
(1日目 11:01)
(テーブルに突っ伏している太った男の死体。床に落ちているカップ。
自然死という可能性も全くないとは言えないけど、料理に毒薬を入れて殺した可能性が高いわ。
……疑問点は2つ。殺した人間の正体と既に逃走したかどうかね)
気配を消しつつ民家に侵入したアインは、キッチンで発見した男の死体を前に冷静に分析していた。
と、その時、2階でドアを開け閉めする物音がした。
(どうやら、まだ殺人者はいるようね。
毒殺である以上、あの男を殺した理由は自衛の為ではなくゲームに乗ったからだということになる。
そして、初めて人を殺した人間は大概の場合、罪悪感や恐怖に囚われて冷静な思考が出来なくなり
自滅する。説得して仲間になどせず殺しておいた方が、私達が生き残る可能性は高くなるわね)
そう結論付けると、アインは静かに2階へと向かった。
(1日目 11:07)
2階の一室。
箪笥やクローゼットの中には何故か、洋服、和服、割烹着、エプロンドレス。果ては水着にウェデ
ィングドレスと様々な衣服が用意されていた。
『殺し合いで服が汚れた者へ。好きな服を選んで着るがいい』
そんなふざけたメッセージカードと共に。
先程猪野の応対をした時には和服に割烹着を選んだが、クレアは着替えにいつも着ているエプロン
ドレスを選んだ。
そして着替え終わった後、クレアは窓から外を見ながら今後の方針を考えていた。
(毒薬の威力は説明書通りだった。まだ、あと数回は使えるわ。
でも、さっきのように簡単にいくとは思えない。有効に使うには……)
「1階の死体はあなたが殺したのかしら?」
突然背後から声を掛けられ、クレアは驚愕した。
慌てて振り向くと、そこには黒髪の少女が立っていた。
(いつの間に? 階段を上ってくる音が聞こえた筈なのに、どうして気付かなかったの?)
内心の動揺を押し隠しつつクレアは、笑顔を作って少女に話しかけた。
「あら、いらっしゃい。チャイムを鳴らしてもらえらば玄関で出迎えましたのに」
「1階に男の死体があったわ。殺したのはあなたなの?」
クレアの言葉を無視してアインは尋ねる。
「まあ! 1階に死体が! 知らなかったわ。いつの間に……」
「男は料理を食べて死んだ様子だった。あなたの支給品は毒薬で、料理にそれを入れて彼を殺した。
違うかしら?」
「…………。ふう、勘の鋭い子ね。ええ、そうよ。私があの男を殺したわ」
「ゲームに乗ったということね。なら……殺させてもらうわ」
そう言って、アインはナイフを構えた。
「ゲームに乗ったから殺す? おかしな話ね。
私を殺したら、あなたもゲームに乗った事になるじゃない。殺した後であなたも死ぬとでも?」
クレアはアインを見据えた。
「私は今、島からの脱出もしくは主催者の打倒を目指す人達と行動を共にしているわ。
計画を成功させるには、殺すために生かされていた私のような暗殺者はともかく、
ゲームに乗って初めて人を殺した人間を野放しにしておくのは危険なの。
だから、殺させてもらうわ」
「その年齢で暗殺者!? 冗談にしては笑えないわね。
……悪いけど、そう言われて、はいそうですかと殺されるわけにはいかないの。
私は生き残ってあの人の所へ帰るんだからっ!」
クレアはそう言うが早いが、エプロンドレスのポケットから毒薬の入った小瓶を取り出して、アイ
ンに投げつける。
アインはクレアの反応を予期していたのか、難なくそれをかわす。
(不意打ちを狙ったのにかわされた!? でも、まだっ!)
クレアは用心のため傍らの壁に立てかけておいた金属バットを掴み、アインの頭めがけて振り下ろす。
アインは金属バットを片手で払いのけクレアの動きを止めると、躊躇なくナイフを彼女の心臓に突き立てた。
ゴボッ!
クレアは血を吐き、床に倒れていった。
クレアは屋敷のチャイムを鳴らす。
すぐに玄関に足音が近づいてきて、愛する人が扉を開けて出迎えてくれる。
クレアは笑顔を浮かべて彼に抱きつく。
「ただいま、フォスター」
「クレア! 一体今までどこに行っていたんだい。突然いなくなってみんな心配したんだよ」
「ごめんなさい、心配をかけてしまって。でも、もう大丈夫ですから」
「謝らなくてもいいさ。君さえ無事でいてくれれば。
……何だか顔がやつれているな。今日はもう寝た方がいいよ」
「すみません。留守中ご迷惑をおかけして」
「文句は君が元気になってから言わせてもらうよ。だから、今は休養してくれ」
「ありがとうございます」
それは、本来あるべき日常。今後もずっと続いていくべき日常。
クレアは薄れゆく意識の中、自らの望む幻影に包まれながら二度と目覚めることのない眠りに落ちた。
No.33 クレア・バートン死亡
―――残り29人。
(1日目 11:22)
(安らかな死に顔ね。死ぬ間際に幻覚でも見たのかもしれない)
アインは床に仰向けに倒れているクレアの腕を取り、脈拍が止まっているのを確認してから胸に刺
さっているナイフを抜いた。
すぐにナイフを抜かなかったのは、返り血を浴びてエーリヒ達に不信感を持たれることを避ける為だ。
ナイフに付いた血は目に付いた洋服で拭う。
(過去の記憶など無い私は、死ぬ時に幻覚を見るなんて絶対にあり得ないでしょうね。
……いえ、もしかしたら彼の、ツヴァイの姿を見るのかもしれない)
ふと、そんなことを思いつつ、アインは部屋を出た。
そのまま階段を下りて、玄関を出る。
(そろそろ病院に向かった方がいいわね)
そして、アインは歩き出した。
↓
【アイン:単独行動】
【備考:ゲームに乗った者は殺す】
【現在位置:廃村西側の民家 → 病院】
折から続く雨が俄かに激しくなり大地を打つ。
煤けた壁に囲まれた診療所が幽鬼のごとくその中に佇んでいる。
突如、真っ赤な塊がその戸をはじくように飛び出してくる。
それは迷うことなく鬱蒼と生い茂る森の中へと走り去る。
一瞬の出来事だった。
雨に洗われたその塊は……
(9:00AM)―北の森―
二人の老人が森の中にいる。
一人は茂みの前に隠れるようにしてかがみこんでいる。
もう一人は少し遅れてきたのか、その男に張りのある声で呼び掛ける。
「ヘル野武彦、そんなところにしゃがみこんで何をしているのかね?」
野武彦と呼ばれたつれあいは唇に指を当てると声を潜めて言った、
それもダクダクと涙を滝のように流しながら。
「エーリヒ殿、今しばらく静かにしてはくれまいか。
今若き男女が愛を語らっておるのじゃ。
それを邪魔だてするのはあまりに無粋。」
そういって魔窟堂が再び向き直る、
しかしそこに睦みあっていた二人の姿はすでになく、
彼らのものであろう二つの鞄だけが残されていた。
(おかしいのう、さっきまで――)
不審に思う暇も有らばこそ、
がさっ、すぐ隣の茂みがゆれ、その少年が姿をあらわす。
「覗きはあまり感心しないなぁ。
二人とも両手を頭の後ろで組んでくれるかい?」
人当たりのよさそうな笑み、しかし隠そうとしてもにじみ出る苦痛を
その端正な顔に湛えて少年は立っていた。
このような状況にも関わらず魔窟堂はその突然の出来事よりも
少年の持つエモノに心を奪われている。
(おお、あれはイタリアのフランキ社が開発したコンバットショットガン、
確かS.P.A.S.12-S・3S+Mと言ったか?
無骨ながらも野性味と精悍さを感じさせる見事なフォルムじゃ…)
そして相変わらず彼はダクダクと涙を流していた。
それより少し前のこと、
老木の下に寄り添う二つの人影、
一人の少女と一人の少年。
突然の来訪者と残されたものを間に挟んで座り込んでいる
「さっきの続き、しようか?」
穏やかに問い掛ける。
少女が頬を赤らめ視線を泳がせる。。
木漏れ日の下、互いの瞳に互いの姿を映しあいながら無言で見つめあう二人、
互いの吐息を感じられるほどに顔を寄せあい、
今しも二つの唇がその境界を失おうという瞬間、翼は小声で囁いた。
「双葉ちゃん、残念だけどお客さんだよ。」
「え……?」
その言葉が届いているのかどうか、
双葉はまだ夢見るようなとろんとした目をしている。
対照的に翼は周囲に気配を探り
茂みの向こうでの動きを推し量る。
(一人…いや、二人か。)
先ほど感じた気配は一つだったが、
合流したのだろうか今やそれが二つになった。
しばらくしてこちらへの注意が薄れた瞬間、
双葉をかき抱き傍らの火器を掴み取る。
途中の小さな茂みに双葉を隠れさせ、
一人その向こうに踊り出る。
「覗きはあんまり――――
翼は銃口を向けたまま二人の真意を探ろうとする。
一人は何故か涙を流してはしきりに頷いている。
もう一人は背筋を伸ばし、直立不動の体制だ。
そのとき、やにわに涙を拭いながら老人が喋りだした。
「なぁ、少年。儂の名は魔窟堂野武彦、
一人のおたくとして逃げも隠れもせんよ。こっちは…」
「エーリヒ・マンシュタイン、ドイツの軍人だ。
その名誉にかけて君に危害を加える真似はせんと誓おう。
…それとも君はこのゲームに乗った口かね?」
いささか挑戦的な口調で問い掛ける。
「違うならその物騒なものを下ろしてわれわれの話を聞いてもらいたい。」
一時の沈黙と逡巡、そして口が開かれる。
「OK、信じるよ。こっちも…そろそろ…」
そういうと翼は膝をついてしまう。
「星川ッ!」
少女が茂みから飛び出してきて少年に駆け寄る。
「…双葉ちゃん、さっきの続きは…またあとで…、ね。」
「…バカッ」
午前中であるにもかかわらず森の中は薄暗い。
いま二人の老人の肩を借り、翼は病院へと向かっている。
そこにはこのゲームを覆すべく集まったものたちがいるらしい。
中には一人傷を癒す力を持つ少女がいるという話だ。
「…それにしても、危地にある少女の身代わりになって
負傷するとは『王道』じゃな、ホッシー君。」
相変わらず涙を流し、しきりに頷いている。
エーリヒと名乗った老人は黙々と歩を進めている。
その後ろをショットガン片手に双葉が従っている。
そうして赤く爛れた星川の背中を見てはため息をついている。
やがて森を抜け、小さな建物が目に入る。
「ここがわれわれの本陣だ。」
エーリヒは簡潔に一言でそのように告げた。
目が醒めてはじめに眼に映ったもの、それは見知らぬ天井。
はじめに耳に入ったもの、それはさぁっという静かな雨音。
「目ぇ、覚めたの?」
「ああ、おはよう、双葉ちゃん。」
そういって体を起こし、やわらかく微笑む。
つられて双葉もやわらかく微笑んでしまう。
「しばらくこの部屋を使わせてくれるって。」
「ン…」
ひとしきり部屋を見渡す。
「神楽さんたちは?」
「あんたの治療が終わったあと、
あっちの部屋で待機してるって言って出て行ったわよ。」
翼は再びベッドに体を横たえ、天井を見ている。
それを見ている双葉は何かいいたげにそわそわしている。
そんな彼女をほうを見て、
「さっきの続きをお望みなのかな?」
双葉の顔が瞬時に朱に染まる。
ボッという音が聞こえてきそうだ。
「はぁ?あ、あんた何いってんの、そ、そんなわけないじゃない!!」
「…ホントに?」
悪戯っぽく問い掛ける。
双葉が何か言い返そうと口を開いたとき、
不意にドアが開きエーリヒが部屋に入ってきた。
不吉な訪問者のことでも考えているのだろうか、
後ろには不安そうな顔をした神楽と遥が従う。
「…ふむ、なるほど、ではその「目貫」という能力で
君は双葉殿の首輪を破壊したというわけか…」
「では…では、私たちにお力添えいただけませんでしょうか?」
神楽が幾分身を乗り出して問い掛ける。
その後ろで遥がその大きな瞳に期待と不安を湛えてじっと見ている。
考えるまでもなく、答えなどすでに出ている。
「もちろん♪」
神楽の手を取り、遥に微笑みかける。
「な〜に鼻の下伸ばしてんのよ。」
ベッドの反対側に座った双葉が背中越しに悪態をつく。
「…やきもちはみっともないよ、双葉ちゃん?」
「誰がっ!」
「取り込んでいるところ申し訳ないが善は急げという、
早速だが星川君、まずは私からお願いできるかな?」
OK、そういって星川はベッドを降りる。
双葉からアイスピックを受け取り、エーリヒに相対する。
そんな二人を尻目に双葉は所在なげにショットガンをいじっている。
「少し顎をあげてもらえますか?…OK、行きますよ。」
星川の目が真剣なものに変わる。
ヒュッと一息吐き出すと利き腕を一閃させる。
ピックの先端は過たず首輪の破砕点を突く。
……はずだった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰のものとも知れぬ悲鳴が病院中に響き渡る。
ゆっくりとエーリヒの体がくず折れる。
この老人のどこにこれだけの血液が流れていたのだろうか、
そう思わせるほどの血が壊れた蛇口のような勢いで噴き出す。
瞬時にして病室は血の海になった。
血の海どころではない、床は言うまでもなく天井から壁紙の剥がれた壁まで、
この部屋で彼の体液を浴びていない場所などない。
「…ぁ………」
目の前の光景に遥は気を失い、床に倒れこんでしまった。
そんな中、まともに降りかかる返り血を厭うこともなく、
たった今人を殺めた本人は呆然として立ち尽くしている。
「どうして……」
一言そういうのが精一杯だった。
(11:35AM)―病院前―
霧雨の中、病院というよりは診療所といった趣の我らの本陣まで
あと少しというところまで迫ったとき、
パァン、
何かが破裂したような乾いた音、続いて耳を劈くような悲鳴。
「!」
私は全力で走り出した。
建物入り口の壁に張り付き、耳を欹て中の様子をうかがう。
誰もいないことを確認して突入する。
ある部屋の入り口から止め処もなく赤黒い液体が溢れ出している。
おおかた頚動脈をやられたのだろうとあたりをつけると、
足音を殺して件の部屋へ近づく。
隣の部屋の戸をガチャガチャと動かしているものがいる。
私は誰かが閉じ込められているかもしれないという懸念を捨て、
気配を消すことに神経を集中させる。
首だけを出し、慎重に室内の様子をうかがう。
部屋の中央に位置するベッドの横に
文字通り頭からつま先まで余すところなく血に濡れた少年が立っている。
手には短い棒状の何かを握っている。
(あれが、敵…か)
ナイフを握りなおし、目標めがけて走り出す。
部屋に飛び込んだアインは躊躇することなく「敵」へと突撃する。
「待ってください、この人は…」
彼女を認めた神楽が間に入ろうとする。
「チッ!」
立ちはだかろうとする神楽に当身を食わせ昏倒させる。
そしてなおも速度を落とすことなく一直線に敵へと走りより、
その無防備な背中――その心臓の真上――に鋭利な切っ先を突き立てる。
「…まずは、一人。」
敵は声もあげず絶命した。
次の標的は…ベッドの向こう側で放心しているショットガンを持った少女だ。
「え…?」
眼前で起こった一連の出来事に双葉の心は麻痺しようとしていた。
目の前でエーリヒと名乗った老人が死んだ。
そして、あとから部屋に入ってきた女が、星川を、殺した?
どうして?
「星川ッ!?」
頭の中が白んでいくのを感じる。
敵、星川、血、ナイフ、神楽、老人の亡骸、
ゲーム、ゲーム、ゲーム、殺人ゲーム、
…彼女の手の中にはショットガン。
ベッドを迂回して一直線に近づいてくるものが目に映る。
たった今、星川を殺した女だ。
あれは、敵だ。
双葉は敵にショットガンの銃口を向けた。
標的に接近しながら、アインは敵の分析を開始した。
(あの構え方…素人か?それとも素人を装ってる?だとしたら何のため?)
ベッドを挟んで対峙している少女の持つ揺れる銃口が向けられる。
こんな狭い空間で打たれたら逃げ場はない。
敵に向かってベッドをけりつける。
まともにその衝撃を受けた敵の上体が大きく傾ぎ、銃口が上を向く。
そして、そのまま発射される。
(…仕留める。)
さらに加速する。
しかし彼女は一つの誤算を犯した。
あるいは一つの不幸というべきか。
ぶれる銃口から放たれた弾丸はそのほとんどが
天井に無残な弾痕を残しただけだった。
しかしいくつかの弾丸がそれを掠めたのだろう。
パァン、蛍光燈が爆ぜる派手な音がする。
(しまったっ!?)
アインの目にはそれが降り注ぐ幻想的な光の粉に見えた。
時間が引き延ばされたような瞬間、破片のひとつが彼女の目に映る。
映画の中のスローモーションのようにそれは舞い落ちてくる。
非現実的な美しさを伴って。
「くっ!」
思わず顔を伏せ、目のあたりをおさえ立ち止まってしまう。
破片は彼女の左の眼に突き刺さり、永久に光を奪った。
ガシュコンッッ。
軽快な音をたててフォアグリップがスライドする。
そしてアウターバレルから銃弾が放たれようとしている。
今度はあやまたず、アインの方にその銃口が向けられている。
その気配を察したのか、アインは胸中で舌打ちする。
(二度の失敗は期待できない、か。)
唯一のスペースであるは右前方に飛ぶ。
いまや左は完全に死角である。
そして敵は左側、部屋の隅で照準を合わせているのだ。
状況は芳しいものではない。
暗殺者としての勘に一縷の望みを託し、
スペツナズナイフのスイッチを押しこむ、
敵がいるであろう方向に向けて。
「んぁぁぁぁぁあああああああっっっッッ」
魂も凍らせるような叫び声、
そして銃声がほとんど同時にアインの耳に入る。
次の瞬間、もんどりうって彼女は吹き飛ばされる。
被弾した右半身が焼けるように熱い。
(右肩に二つと右太股のは良いとして脇腹で止まったのは、まずい……)
そのようなことをぼんやりと考えながら、彼女の意識は急速に薄れていった。
ごとりと何かが床に落ちる音が聞こえた気がする。
藍の付き添いをしていた魔窟堂は焦っていた。
隣の部屋から聞こえるはずのない破裂音が聞こえたからだ。
ドアのノブをガチャガチャとやってみるが開かない。
「さっきの地震のせいかのう、しかしこんなときに…」
そんな魔窟堂を藍は心配そうに見ている。
ドアの外に人の気配がする。
やがて隣の部屋から今度は銃声が聞こえてくる。
それも二度。
「あー、まったくどうなっとるんじゃ。
友の危機に駆けつけるのがヒーローの本道だという…の・・・にっ!?」
先ほどまで頑として開くことのなかったドアが突然開いた。
力任せにドアを押していた魔窟堂は
その勢いそのままに廊下に出た瞬間、
真っ赤な何かとぶつかりは倒れてしまった。
しかも運の悪いことにその際にしたたかに後頭部を強打してしまい、
そのまま気を失ってしまった。
森の入り口、強まる一方の雨を気にすることもなく少女は木に寄りかかる。
左肩が別の生き物であるかのように小刻みに痙攣する。
「くうぅっ」
痛みをこらえ深々と刺さっている金属片を抜き取る。
雨でぬかるんだ土の上にそれを音もなく投げ捨てる。
まわりは水であふれているのにひどく喉が渇く。
今まで感じたことのない、たとえようもないほどのひどい嘔吐感。
時間も空間も奇妙にゆがんで間延びして感じられる。
(…星川ぁ………)
やがて薄暗い森の中をあてどもなく走りだす。
何度となく地面から露出した木の根に足を取られる。
(星川、星川、星川……私…)
やがて、彼女の足は止まった。
(??????) ―森―
大洋に浮かぶこの島の森の中の朽ちたる巨木の洞の中、
己の華奢な両肩を抱くようにして双葉は震えている。
右の肩から夥しい血が流れ、雨に打たれてしとどに濡れた彼女のシャツに赤が滲む。
そんなこともまるで意に介さず、虚ろな視線を宙に泳がせる。
その表情には今は全く生気が感じられない。
(そう…守ってくれるの…)
木の葉が揺れる。
まるでそのとおりだと言わんばかりだ。
(ありがと…)
そういって静かにまぶたを閉じる。
巨木の周りに無数の蔦が絡みつき、
茨が幾重にもかの洞を鎧うように生い茂る。
そのようにして、
おとぎ話のねむり姫さながらに、
彼女は、洞の内にて閉ざされる。
外の世界には、ただただ静かに、ただただ物憂げに
やむ気配も見せず細やかな雨が柔らかに降りそそいでいる。
↓
「11番 エーリヒ・フォン・マンシュタイン 死亡」
「18番 星川翼 死亡」
433 :
ねむりひめ (17):02/01/25 22:30 ID:NDA8RY8k
【魔窟堂野武彦】
【現在地:病院】
【失神中】
【朽木双葉】
【現在地:森】
【武器:無し】
【紫堂神楽】
【現在地:病院】
【失神中】
【アイン】
【現在地:病院】
【左目失明・数箇所被弾】
【スペツナズナイフ(刀身喪失)】
【涼宮遙】
【現在地:病院】
【気絶中】
434 :
星川・双葉の人 :02/01/25 23:47 ID://S3LnGO
ショットガンは部屋に落としてあります。((14)参照)
良かったらどうぞ。
(一日目 11:14 森南部)
「そこで私は天からの啓示を受けたのだ!この神の体もて全臣民を統治
せよ、と!それからは苦難の連続だった……(しみじみ)私の偉大な
思想を理解せぬ無知蒙昧な連中をちぎっては投げちぎっては投げ……」
「あーはいはい」
「それはもう凄まじい戦いだった!恐るべき兵器を操る悪人ども!!
そして私を憎みつつも最後は愛してくれた女達!!ああっ、彼女達は
今もなお夢枕に私の勇姿を想ってくれているだろう……!」
「あーはいはい」
「一番苦労したのは帰還の方法を模索する事だった!!しかし、優秀
かつ勇敢な私は基地の資材を利用し……」
すぱあんっ!!
法条まりな(No,32)は、更に自慢話を続けようとするグレン・コリンズ(No,26)
の脳天をハリセンで引っ叩いた。
「あぎゃあっ!?」
「いい加減にしなさいっ!」
「ひっ、酷いではないかミス法条!私が何を……!?」
「……それじゃ、その後何を言うつもりだったの?」
「それは無論私が『グ……』」
すぱぱんっ!!
「……わ、私が悪かった事にしておいてやろう……。
だからぱんぱん私の頭を叩くのは止めてもらえないかね?」
「『蹴りとこれとどっちがいい?』って聞いてこっちを選んだのは貴方よ、
グレン・コリンズ?」
「……『暴力を振るうのは野蛮』と君の国の学校は教えなかったのかね?
ミス法条?」
「―――話の通じる相手なら、そうしてるわ」
アインとの遭遇後、二人は一路灯台を目指していた。
目的は無論『グレン・スペリオル・V3』の機材を利用する事だ。
移動を開始して数十分、他の参加者に出会うことも無く行程は順調であった。
が、既にまりなの精神は激しく疲労していた。
原因は言うまでも無くこの男、グレン・コリンズである。
今まで自慢話ができる相手に恵まれていなかった故か、ひたすら喋りつづけるのだ。
特に彼の脳内では、この姿になってから地球へ帰還するまでの思い出は一大叙事詩
として存在しているらしく、ようやく『グレン伝第3部序章〜今までのあらすじ〜』
が終わった所だった。
まあそれは何とか我慢するにしても、問題はその話に首輪解析の情報に繋がりかねない
個所が多々あった事である。
その為、まりなはグレンが所有していたハリセンを使ってこうして危険な所でツッコミを
入れているのであった。
(やっぱり人選ミスったかしらね……?)
枝の隙間から見える空を眺めて、まりなは思わずそんな事を考えてしまう。
―――その時、突然グレンの歩みが止まった。
「どうしたの?急がないと……」
そう言ってまりなはグレンの方を見た。
しかし、何故かグレン自身も怪訝な表情で自分の触手を見つめている。
「ん?んん?」
首を左右に振るグレン。
「ん〜〜〜〜〜っ!?」
思いっきり首だけ前に伸ばす。しかし触手はまるで根が生えたように動かない。
「ゼェ、ハァ……こ、これは一体どうしたことだ!?」
「ど、どうしたって言うのよ!?」
「分からん!いきなり私の足だけが……くぬっ!くぬっ!!」
グレンは更に必死に触手を動かそうと、額に汗をかきながら力を込めるが……
「……のわあああぁぁぁぁっ!?」
今度は凄い勢いで走り出した。あわててまりなが追う。
「何処行く気よっ!?」
「しっ、知らん!?こいつらに聞いてくれええぇぇぇぇ………」
ドップラー効果を残しつつ走ってゆくグレン。
たちまちまりなが遠くなってゆく。
「ええいっ!我が足の分際で私に逆らうとはなんたる事かっ!」
何故か首しか自由にならない。まるで全ての触手が反乱を起こしたかのようだ。
風のように森を一直線に駈け抜けてゆく触手達。その動きはグレン自身が操る時とは
比較にならないほど素早い。
しばらくして、グレンの眼前が急に開けた。どうやら森の南側に出てしまったようだ。
再びぴたりと止まる足。
「なっ!」
グレンの目の前に、一人の少女が立っていた。
「警告対象は二人―――」
長い髪を潮風に揺らしつつ、彼女―――監察・御陵透子が言葉を放つ。
その声を聞いた瞬間、グレンの触手達は怯えるように震え出した。
だが、透子は全く意に介す事無く言いつづける。
「No,26 グレン・コリンズ」
「No,32 法条まりな」
「(ガサッ!)……ハァ……ハァ……ちょっとグレン!貴方……」
その時、ようやくまりなが森から抜け出した。
荒い呼吸を整えてグレンに文句を言おうとするが、眼前の透子に気がつき言葉を失う。
「……!この子は……!?」
「ソいつには近ヅくなっ!」
彼女に近寄ろうとしたまりなを、グレンが激しい口調で止めた。
ようやくグレンは自分の触手達の暴走理由に気づき始めていたのである。
全ての動物は自分が絶対に叶わない存在と接した時、例外無く一つの感情を抱く。
すなわち―――怯え。
「警告事由は2点」
「1・当ゲーム参加者拘束用首輪の分析」
「及びそれによる大会運営の阻害」
「2・島からの逃亡準備」
「シッ……」
グレンは小さく息を呑み―――
「シャアアアアァァァッ!!」
もはや人間には発音不能な声で触手を透子に振り下ろした。
だが、彼女を締め付ける筈の触手達はむなしく地面を打ち付ける。
「!?」
「該当する2名は」
続けて声が響く―――今度は背後から。
驚いて振り向くと、透子は全く先ほどと変わらない姿で立っていた。
「本日正午までに」
「所持しているNo,31 木ノ下泰男の首輪を廃棄し」
「調査を中止しなさい」
「さもないと―――」
「死ぬ事になる」
それだけを一方的に言い放ち、透子は消えた。
一陣の風だけが後に残る。
「……警告役……って訳ね……」
ようやく冷静になったまりなが疲れた様に言った。
少し不安げに傍らの俯いているグレンを見る。
「グレン……大丈夫?」
「あ、ああ。私は平気だ。……もっとも、私の体が本能的に反応してしまったようだが」
「体が?」
「うむ。―――私のこの体は地球の物ではない」
「まあ、それは見れば分かるけど……」
「おそらく、この体に残った遺伝子レベルでの生存本能が勝手に反応したのだろうな」
「つまり……あの子も宇宙人って事?」
「うむむ……断定はできんがそれに近い物ではないかとは……思う」
「随分とあいまいね」
「ふんっ!神の体には秘密が一杯なのだ。恐れ入ったかね?」
ようやく元の口調に戻るグレン、触手の制御も戻ったようだ。
「で……どうする?貴方だけここで降りてもいいわよ」
「ふはははは!私をどうやら甘く見ているようだねェ、ミス法条!?
このグレン・コリンズに『諦め』と『敗北』の2文字は存在しないのだよ!」
―――それに、君と別れては大事な弾除けがいなくなってしまうではないか。
心の中でこっそりと付け足す。
「ありがとう……見た目によらず結構良い人ね、貴方って」
「当然ではないかっ!おお!良い人といえば私が昔ロンドンのさる研究所に客員として
招かれた時の話をしてやろう!あれは今から―――」
「……これが無ければ文句無しなんだけど……」
↓
(一日目 12:00 校舎内?)
ゴォーン……ゴォーン……ゴォーン……
正午を知らせる時計の鐘が鳴った。
それと同時に暗闇の中、玉座の周囲に立つ3つの人影の一人が動き出す。
「けひひ……そそそ、それじゃ先生、行ってくるがよ……」
その一人、全身が悪臭を放つ包帯に包まれた怪人―――
素敵医師はそう言って首を玉座に向けた。
「……………」
鷹揚に頷き返す玉座のザドゥ。
「ねーねー素っちゃん、どこから行くの?」
ふと、別の一人が素敵医師に声をかけた。この場に似つかわしくない陽気な女性の声。
「まま、まずはクスリが要るがね。モルヒネ、ハルシオン、水銀に赤チンキに…………
ととにかく色々必要じゃき、そいつを取りに行くのが最良がね。それを取ったら、
今度はいっぱいおクスリ作るがよ。媚薬に麻薬に筋力増強剤に利尿剤に……とにかく
沢山作って沢山みんなに配るが。みんなハッピーハッピーで極楽超特急ぜよ……」
うっとりとした口調で答える素敵医師。質問した声の方も一層楽しげに答える。
「楽しそうだねぇ素っちゃん!ねぇねぇ、アタシの分も残しといてくれる?」
「それ、それ、それは患者さん次第が……へきゃ、へきゃきゃきゃ……!」
「……早く行け」
ザドゥが少しいらついた口調で言う。一瞬で沈黙する二人。
「(ぶー、もう少し話したっていいじゃん)」
「へけっ……わわ分かってるがよ……」
焦点の合わない右目をしきりに動かしつつ、素敵医師はふらふらと出ていった。
再び沈黙が部屋を支配する……
「あーっ!もうっ!ザっちゃん、なんで素っちゃんが先なのよ!?」
と思われた矢先、先程の女性がザドゥに大声で言った。
それはまさに『歩く和洋折衷』といった感じの女性だった。
青い瞳とウェーブのかかった金髪は、明らかに白色人種のそれ、
しかし、その豊満な肉体を申し訳程度に包んでいるのは和服を思わせるツーピースである。
何より彼女を異質に見せているのは、上から羽織っている「誠」の一文字が染め抜かれた
青と白のだんだら模様の羽織であった。多少歴史に詳しいものであれば、それが幕末に
その名を馳せた人斬り集団「新撰組」の制服である事が分かったろう。
新撰組局長・カモミール=芹沢。それが彼女の名であった。
「フフッ、芹沢……そんなに暴れたいのか?」
無礼な口を聞く彼女に、ザドゥはむしろ愉快そうに答えた。
「だーってさ、みんな楽しそうにヤってるのにアタシ達だけお留守番だしー」
少し頬を膨らましつつ、カモミールは玉座のザドゥに寄り添うようにしゃがんだ。
「ザっちゃんは全然構ってくれないし……」
そう言いつつザドゥの股間に指を伸ばす。
「フン、奇妙な奴だ……」
そう言いながらもザドゥはカモミールを止めず、彼女の指がまさぐるままに任せる。
だが、
「ルール違反者への一次警告」
「終了しました」
その営みは突然出現した透子によって中断された。
「ご苦労……」
答えつつカモミールを引き剥がすザドゥ。カモミールも不満を見せつつも一歩後ろに下がる。
「定時報告の」
「時間となっています」
「うむ……芹沢、今度はお前がやれ」
「えーっ!?アタシよりとーこちゃんの方がいいと思うけど?……ってとーこちゃん!?」
そう言って彼女の居た位置を見ると、既に透子はどこかに消えていた。
「えーっと、それじゃあの子に……」
「……芹沢」
「……………!」
彼女を見据えて再び言うザドゥ、その視線には無言の威圧感が存在している。
「は、はーいはい。そんな恐い顔しなくてもやるってば……」
カモミールは内心の動揺を隠しつつ、スタンドマイクの前に立った。
「(すぅぅ……)はろーえーぶりばぁでぇっ!?ないすつーみーちゅーっ!
あははっ、みんな元気してる!?京都の街の夜のアイドル、カモちゃんよん♥
それじゃ6時から今までの死亡者から発表するわね。
えーっと、27番常盤 愛、29番 さおり、39番 シャロン、37番 猪乃 健、
33番 クレア・バートン、11番 エーリヒ・フォン・マンシュタイン、
18番 星川 翼
以上七名がこの6時間で死んじゃった訳。チェックできた?
もう30人切っちゃったけどみんな頑張ってねー!
……っと、あと一つあったんだった。
みんなの中の何人かはとーこちゃんから警告を受けたと思うけど、ちゃんと守るのよ。
もし守らないと……何かが起こるかも……。
……何が起こるか……気になる?
あははっ、それはなってからのお・た・の・し・み!
それじゃ、まったねーっ!」
441 :
雨宿り:02/01/31 13:25 ID:SNDjtzuh
>314 >353
(12:05)
「あー、もー。高いスーツだったのになっっ!!」
降りだした雨を逃れようと、目の前に口を開けていた洞窟の入り口まで
秋穂が辿り着いたとき、奥から蚊の鳴く様な音量の警告が聞こえてきた。
「こ……来ないで下さい」
秋穂は気配を慎重に探りながら、シャツを左腕に巻きつける。
レディースで学んだ、ヒカリモノ(刃物)対策。
シロウトの扱うナイフ程度ならこれだけで防御できる。
「…誰か居るの?」
「……来ないで下さい……」
岩陰から現れた少女―――ユリーシャは、へっぴり腰で弩弓を構えていた。
幼い容姿に、遠目に見てわかる程の震え。
秋穂は彼女に戦意は無く、怯えから防御行為に出ただけだろうと推測する。
(こんなガキにまで殺し合いをさせるとは……マジで許せんな、主催者め!!
…いやいや、まずはあたいの身の心配だね。
錯乱して弓を発射されちゃあ目も当てられないよ。
怖がらせないように…刺激しないように……弓を収めさせないと)
「私には戦う気はないわ。ちょっと雨宿りさせてくれればいいの。
止んだらすぐに出て行くから。ね?」
秋穂は両手を上げ、微笑みながらユリーシャに訴える。
「ほら、お姉さんこんな格好だし、武器だって持ってないでしょ?」
巻きつけたシャツをくるくると解き、両手を大袈裟に開いて見せる。
「…ごめんなさい。脅かせてしまって。」
ユリーシャは長い睫毛を伏せ、弓を下ろした。
442 :
雨宿り:02/01/31 13:26 ID:SNDjtzuh
「あーもーっ!下着まで濡れてるじゃない。
でも、素っ裸って訳にはいかないわよね……」
下着姿でカッターシャツを絞りながら、溜息をつく秋穂。
彼女はこの10分程、ひっきりなしにユリーシャに話し掛けていた。
その甲斐あってか、先ほどまではただ黙して聞くだけだった彼女は、
今では軽く微笑むまでになってきていた。
「あ、雨、止んだわね」
秋穂の言葉を受け、ユリーシャは洞窟の入り口に目を向ける。
外は随分明るくなっていて、さわやかな風が吹き込んできた。
「それでは、ごきげんよう。
秋穂さんの頭上に、幸運の星のご加護がありますように」
ユリーシャは、にっこりと微笑んで秋穂に別れを告げる。
しかし―――秋穂は曖昧に頷くばかりで、腰を上げようとはしない。
「ちょっと雨宿りするだけだと、おっしゃってましたよね?」
「そのつもりだったんだけど……」
秋穂は少しだけ考えるような間を置いてから
真っ直ぐにユリーシャの顔を見つめて、
「一緒に行動しない?女1人では無用心でしょ、お互い」
そう提案した。
443 :
雨宿り:02/01/31 13:26 ID:SNDjtzuh
ユリーシャは秋穂の強い視線に思わず目を逸らした。
『俺様の愛は、世界中のいい女全てに平等に注がれるのだ』
ランスの自信に満ちた顔が、すぐさま思い浮かぶ。
(秋穂さん……意志の強そうな眉毛と、大きくて真っ直ぐな瞳。
八重歯も魅力的だし、胸もすごく大きい……)
秋穂はユリーシャの視線を自分の能力を測るものと勘違いし、
セールストークを開始する。
「ほら、2人だと何かと便利でしょ?
1人だったら眠ることが出来なくても、2人なら交代で見張れば眠れるし、
移動するときもね、1人が前に、もう1人が後ろに気をつけてれば安全でしょ?
私、こう見えても昔は……」
営業の第一線で活躍するキャリアウーマンを目指すだけのことはあり、
合流することのメリットが次々と口にのぼる。
その積極的な姿勢は、ユリーシャの目にはとても眩しいものに映った。
それは、ユリーシャに決定的に足りない能力だからだ。
(この人が一緒になったら、ランスさんはますます私を見てくれなくなる……)
押し黙るユリーシャの胸中を測りかねた秋穂は、のびをしたり首を回したりして、
募りだした苛立ちを押さえにかかる。
(恭也のヤツもそうだったけど、この子もはっきりしない子だね。
あ〜、も〜、この大会にゃグズとメソしかいないのか!?)
しかし、ユリーシャはその時、提案に対する決断を下していた。
秋穂の思惑とは正反対の決断を。
444 :
雨宿り:02/01/31 13:27 ID:SNDjtzuh
「雨は、止みました」
すちゃ…
いつのまにか弩弓を構えていたユリーシャが、秋穂に矢先を真っ直ぐ向けていた。
「ユリーシャ、さん?どうして……」
「雨は、止みました」
ユリーシャは秋穂の質問に答えず、そう繰り返す。
キリキリキリキリ。
弓を引き絞る音が、洞窟内に反響する。
「殺そうとは思っていません。でも私、慣れていないので、
威嚇のつもりでも怪我をさせてしまうかもしれません」
秋穂の運動能力と判断力ならば、機先を制し弩弓を奪うことは不可能ではない。
しかし、争いは彼女の望まぬところだった。
「わ、わかったわよ。わかったってば!」
岩に掛けてあった上着を手に取り、ユリーシャの方を向いたままジリジリと後退する。
「雨宿りはこれでおしまい。出てくから後ろから撃たないでよ!」
入り口まで後退した秋穂はそう言いながら東へ向けて走り出した。
(仲良くなれたと思ったのに……なにがいけなかったってんだ?)
人を見る目に掛けては自信を持っていた秋穂だったが、
ランスの存在を知らない彼女には、ユリーシャ豹変の理由は分かろう筈もない。
「……ふぅ……」
腰が抜けたユリーシャはへなへなと崩れ落ち、荒い息を繰り返す。
胸に走る苦い思いは罪悪感。
「私は、留守を守っただけです」
「ランスさんの言い付けを守っただけです」
ここに来て激しくなった膝の震えを両腕で必死に抑え、何度も何度も言い聞かせた。
残された秋穂の靴を見つめながら。
『私は悪くない』と。
↓
【秋穂】
【現在位置:洞窟→東】
>361
(1日目 12:01)
まひる(No.38)の震える唇が真人(No.17)の男根に触れようとした、正にその時だった。
ぎぃ……
漁具倉庫のドアが少しだけ開いたのは。
「誰かいるのか!?」
紳一(No.20)が動揺を隠し切れないやや甲高い声で問いかけるが、返答はない。
「いちいちビビんな、風だろ? 扉、閉めなおしてくれ。」
「ここから扉まで、7メートル以上ある。真人も来なければ閉められない。」
「ち、これからって時によ……」
端正な顔をした2匹の淫獣は相憐れむかのような視線を交わし、肩を並べて扉へと向かう。
まひるには知る由も無かったが、この2人はお互いの身を、他爆装置という名の見えない鎖で縛られているのだ。
3メートル以上離れることは、即、どちらかの死に結びつく。
扉を閉めなおした2人は、まひるが何かを考える間もなく、戻ってきた。
「すまねぇな、お預け食わせちまって。」
欲情に濡れ光る瞳でまひるを睨み、真人がそう口にした時、
ぎぃ……
またしても扉が再び開いた。
「……建てつけ悪ぃな。」
「やはり、誰か居るのではないか?」
再び立ち上がり、扉へ向かう2人。
「……誰も居ねえぞ。ビビり過ぎなんだよ、紳一は。」
倉庫から顔を出し、キョロキョロやっていた真人はそう結論付け、扉を閉めなおした。
「すまない。私が神経質すぎ」
ガシャン!
今度は、扉とは反対側の壁にある窓ガラスが割れた。
飛び散ったガラス片に一つだけ小石が混ざっている。
「マジかよ……」
事ここに至っては、真人も気のせいとは言っていられない。
再度まひるに猿轡をかませ、首をコキコキと左右に振ると、
「逃げようなんて思うんじゃねぇぞ。」
脅しをかけてから、紳一と共に倉庫を出た。
倉庫を出てすぐ、紳一は倉庫の北側の角からこちらの様子を伺っている男と目が合った。
角張った顔に、蓄えられた口髭の壮年と。
その男、堂島薫(No.7)は、すぐに倉庫の陰へと引っ込んでしまった。
「真人、北に男が!」
「追うぞ!」
真人は言うが早いか、薫目掛けて駆け出し、紳一も慌ててそれに続く。
だが、6秒ほど後に倉庫の北の角に到着した時には、薫の姿はもう見当たらなかった。
「ち、逃がしたか……」
「まあ、逃げたなら逃げたでいいのではないか?
我々を脅かす存在ではないとわかったのだから。」
「ま、それもそうだな。」
2人がそうして薫の追跡を中止しようとしたとき。
「わるものめ、おかーたまをいぢめるな!!」
また、倉庫の西角から薫が姿を現した。
赤いふんどしと高級そうな革靴だけといった、妖しげな格好で。
「まだ居やがる!」
「止まれ!止まらんと撃つぞ!」
薫は、紳一の警告を無視して逃げる。今度は南に。
「紳一、俺が追う。お前は向こうから回りこめ。挟み撃ちだ。」
「私もそうしたいが……お前とは離れられない。」
「くっ……」
「それに、ヤツの動き、何か妙ではないか?
まるで」
時間稼ぎでもしているかのような。
その言葉を言い終わる前に、真人は薫を追い、駆け出してしまった。
追い詰めることに快楽を見出す真人は、既に狩猟モードに入っていたのだ。
「まて真人!私を置いていくと指輪が……」
なにやら嫌な予感を胸に、紳一も真人を追う。
(たいへんだぁ……何とかしなきゃ、何とかしなきゃ……)
2人が外に出て行ってから、まひるはずっと縄を解こうと努力していた。
しかし、どう腕を動かそうと、どう体をよじろうと、それは解ける気配を見せない。
それどころか、動かせば動かすほど荒縄は皮膚を傷つけ、手首の何箇所かは擦過傷から出血していた。
「おかーたまを……いぢめるな……」
倉庫の外から、息切れ寸前の、それでいてとても強い意志が感じられる声が聞こえてくる。
さきほどから何度も耳にしているその言葉は、聞くたびに息が乱れ、苦しげなものになってきている。
今の所まだ逃げ続けているようだが、熟年の体力では、若い2人に捕まってしまうのは時間の問題だろう。
(あたしのことはいいから逃げて!薫ちゃん……)
(ああ、あたしに力があったら……)
(助けたい……)
(縛を……)
ザンッ。
(……え?)
どうもがいても解けなかった戒めが、解けていた。
特にどこかを動かしたわけではない。
強いて言うなら、今までで一番強く「縛を解きたい」と願っただけだ。
(そーいえば知恵の輪とかでも、考えてるときには外れなくて、
なんか「もーダメだぁ」って適当にカチャカチャやりだした時に外れるもんだよね、なんでか。)
そんなことを思い浮かべながら、まひるは解かれた縄に目をやる。
「?」
その縄は、解けていたのではなく、切断されていた。
(どうして……?)
一瞬、理由を探ろうと考えたまひるだが、
(そんなの、あとあと!!それよりも薫ちゃんを助けないと!!)
そう思い直しグロック17を拾うと、その場で天井に向けて一発。
パン!!
「薫ちゃん、逃げてぇ!!」
パン!!
「ありゃ……チャカだ!」
視界の先にある漁具倉庫から聞こえて来た放銃音を耳にしたタカさん(No.15)は、
「うおおぉぉぉおお!!まひるっっ!!」
土煙すら上げながらダンプカーの如く倉庫に向かう。
このタカさんの到着は、決して偶然ではなく、薫の誘導によるものだ。
今から30分と少し前……
「ち、雨かよ……」
相変わらず反応のない浮きをだらんと眺めていたタカさんは、頬にあたる冷たい感触に顔を顰めていた。
(昼飯食いに戻るまでに、1匹くれぇ釣れて無いと、面目が保てねぇよなぁ。)
そんなことを考えていた彼女には、この雨xx
コーーーーー……
一定したリズムの、軽い音が背後から聞こえてきた。
「ん?」
徐々に近づいてくるその音に振り返ったタカさんの目に映ったものは、走り寄るジンジャーだった。
ただし、無人の。
「どーいうこった?」
嫌な胸騒ぎを覚えた彼女がジンジャーに歩み寄ると、そこには2つほどの雨ざらしのブロックが乗っており、
それに挟まれる形で、一枚のメモがあった。
『おかーたまがさらわれた』
「まひる!!」
タカさんは釣具を放り投げ、駆け出す。
ぼしゃん。
背後でジンジャーが、海に落ちる音が聞こえた。
500メートル以上ある防波堤から港まで全力疾走で戻ったタカさんは、そこに薫の背広を見つける。
30メートルほど西には、今度はズボンが落ちていた。
それらは強風に飛ばされないように、何らかの重しが乗せられていた。
「そうか、そういうことか……」
こうしてタカさんは薫の脱ぎ捨てた衣服を目印に、漁具倉庫まで真っ直ぐ向かうことになり。
そして、今……
「あのヒゲオヤジ……馬鹿にしやがって!!」
憎々しげに吐き捨てる真人。
よく分からないうちに、彼らは薫に倉庫を丸々3周させられ、今は東側の壁面まで戻ってきている。
「待て……私はこれ以上走れない……」
体の弱さと日頃の運動不足が祟って、すでに息も切れ切れな紳一が真人に言う。
その時。
パン!!
倉庫内という予想外の場所から聞こえてきたその音に、真人は判断に迷う。
「ぜぇぜぇぜぇ……」
酸欠で既に意識が朦朧としつつある彼は、銃声に気付いていないようだ。
それに続き、今度は港方面から、
「うおおぉぉぉおお!!まひるっっ!!」
雷鳴のような怒号が聞こえて来た。
どどどどどど!
筋骨隆々の巨漢がこちらに向かい、猪のような勢いで突っ込んでくる。
「くっ!」
真人はまず、迫り来るこの巨漢をなんとかする必要があると判断し、紳一の手からガバメントを取り上げると、
タカさんに向けて、それを構えた。
「近づくんじゃねぇ、止まらねぇと撃つぞ!」
しかし。
「うぉおおおおお!!」
血走った目のタカさんは、まるで止まる様子を見せず、真っ直ぐ駆けてくる。
その距離、10メートル。
「止まれっ!撃つぞ!」
その距離、5メートル。
「聞こえんのか!?撃つ」
目と鼻の先。
「な!?」
タカさんは勢いを緩めること無く、真人と紳一に突っ込んだ。
そして、一顧だにすることなく駆け抜ける。
それは、軽4とダンプの正面衝突のようなものだった。
「うぎぇ!」
「はーん……」
2人は手を繋いだまま、弧を描いて吹っ飛んだ。
……その意識は、さらに遠いところまで吹っ飛んでいた。
タカさんの頭の中にはまひるのことしかなかった。それだけで手一杯だった。
だから、まひるに向けての最短距離を、最速で駆けた。
彼女には銃など……いや、2人の存在すら、障害物のひとつとしてしか映っていなかったのだ。石ころと同程度の。
「タカさん……」
小屋に飛び込んだタカさんは、グロック17を片手に脱力しているまひるの無事を確認すると、彼を抱きしめた。
その逞しい腕で、不器用な優しさを込めた力強さで。
「あの……ちょっと苦しい。」
タカさんは無言で抱きしめ続ける。
激しく脈打つ鼓動。荒い呼吸。立ち上る湯気。汗と雨でずぶぬれのタンクトップ。腕と胸の圧力。
そして、鼻を啜る音。
まひるは腕の中から、そっとタカさんを見上げた。
「タカさん、泣いて……」
「見るんじゃねぇよ、バカ野郎。」
「おかーたま!!」
そこへ、薫が飛び込んできた。
タカさんとまひるの間にぐいぐいとその身を割り込ませると、
「ヒヒ……薫もだっこ!」
無垢な笑顔で2人に甘える。
「薫、グッドジョブ!」
タカさんは薫に向かって、ばちりとウインクを決めると、
「おとーたまも、ぐっじょ〜ぶ!」
薫も、ヒヒ、と笑いながらタカさんに返した。
……ままごとの家族は、ままごとを超えた確かな絆で結ばれた。
(12:26)
「なんでぇ、ただの強姦目的か。焦って損したぜ。」
縛り上げられている真人と紳一は、タカさんの言葉に耳を疑ってしまった。
「こいつら結構かっこいいしよ、ヤらせてやりゃあよかったのに。」
まひるは経験上、彼女のその言葉は冗談などではないことを悟る。
「あはははは……謹んで遠慮させていただきます。」
「じゃあ、アタシがもらっちゃうぜ?」
「あ、どぞどぞ。」
まひるがそう返事したときには、タカさんすでに全裸になっていた。
猪のような首。こんもりと盛り上がった両肩。
良く発達した胸筋の上にでんと乗っかる乳房の下には、ぼこりぼこりと6つに割れた腹筋が並んでいる。
そして、特筆すべきは臀部。
お尻とかヒップとか言った軟弱な曲線を持っていない。
ケツ。
角張ったそれは、余りにも見事に、ケツでしか無かった。
「お前たちは精子が余ってるから、強姦なんていうバカなことをしちまうんだ。
このタカさんがキッチリ粉まで搾り取ってやるから、更正するんだぜ?」
「い、嫌だ……」
圧倒的な恐怖感と敗北感に身を震わせながら、真人は許しを乞う。
「はっはっは。嫌よ嫌よも好きのうちって言うだろ?」
豪快に笑ったその口にばくりと、萎縮する真人のものを咥えるタカさん。
「えひぃっ!!」
にゅちゅわっ、ぐぉぷぐぉぷ、じゅろおぉっ!!
にゅちゅわっ、ぐぉぷぐぉぷ、じゅろおぉっ!!
いやらしさを軽く踏み越えたディープなフェラ音があたりに響いて、数秒。
「ほら、もう勃っちまった。」
タカさんは勝ち誇ったように真人に目線を送る。
「ああ……なんで勃つんだ、勃ってしまうんだ……くっ……」
真人の体は「もっともっと」と快楽を求め、心は「いやだいやだ」と悲鳴をあげている。
紳一は未だ整わぬ息で、その様を魅入られたように眺めている。
「そろそろ頃合かね?」
タカさんは真人のものをピンと軽く弾くと、強引に仰向けにひっくり返し、その上に跨る。
「紳一〜〜〜っっ!!」
叫びと共に、タカさんの良く熟したそこが、真人の反り返ったそれを丸呑みにした。
ぎゅももももも……
「あぁ……」
真人は絶望の吐息を吐く。
(……終わった。)
その無力感が周りのものにヒシヒシと伝わってくる吐息を。
「はっはっは! いい感じだ。」
タカさんは大臀筋の見事に発達した自らの臀部をパンパンと叩いて位置を微調整した後、
「次はこっちだな。」
ニカッと爽やかな笑みを、紳一に向けた。
「あひゃぁぁぁぁああ〜〜〜〜っっ!!」
その恐ろしい笑顔でようやく我に帰った紳一は、後ろ手に縛られた格好そのままに、
一目散に駆け去ろうとした。
しかし、その逃走は彼のパンツ引く何かによって阻まれる。
「ひほりれにへるひは!?」(1人で逃げる気か!?)
彼を抑えているのはタカのさん手ではなく、相方・真人の歯だった。
パンツの裾に噛み付いている。必死の形相で。
「ほれはひはひっひんろうはいらろ?」(俺達は一心同体だろ?)
「行かせてくれ真人!!
ここで辱めを受けるくらいなら、私は栄光ある爆死を選ぶっ!!」
「ほはへがひぬらへならほうふるは、はふはふふるのはほれらたらろうふる?
ふほうすひるらろうはっっ!!」
(お前が死ぬだけならそうするが、爆発するのが俺だったらどうする!?
不幸すぎるだろうがっっ!!)
命と誇りを賭けて、2人の監禁陵辱魔は激しくマヌケな舌戦をしばし展開するが、
「はっはっは。まあ、細けぇことは気にすんな。
2人とも満足するまでちゃんと可愛がってやっからよ。
このタカさん、男の生理にゃ理解があるんだよ!!」
という、まるで解っていないタカさんの言葉に収束してしまう。
タカさんは腰の動きを緩めることなく、器用に紳一のジッパーを下ろす。
「お願いだ……やめてくれ……見ないでくれ……」
「んあ、お前……」
……驚くべきことに、紳一の中心はいきり立っていた。
彼の名誉の為に述べるが、その反応は決してタカさんの肉体に触発されたものではない。
外見には少女のようにも見える端正な顔立ちの真人が、泣き叫びつつも快楽を感じている様子に、
どうしようもなくサディストの血が反応してしまったのだ。
「紳一、お前って奴は……」
「言うな!言わないでくれ……頼むから、何も……」
紳一の目尻から、涙が一筋、流れた。
「まひる、欲しけりゃ遠慮するな?」
「いらないいらない、全然いらない。」
「そっか、じゃ、こっちもアタシが貰うぜ?」
そう言いながらタカさんは腰を浮かせ、深く刺さっている真人のものを抜き取ると
四つんばいの格好でケツを高く掲げ、膝を付き力なくうなだれる紳一のものに照準を合わせた。
「あ、あははははは……お手柔らかにね、タカさん。」
まひるは引きつった笑みを浮かべながら、薫と共に倉庫を出て、ぱたりと扉を閉める。
「置いてかないで〜〜〜〜っっ!!」
どちらのものともつかないが、どちらのものでもある、魂の叫びを背に。
……はらり。
こうして、別に青くもない果実が2つ、散花した。
「おかーたま、だいじょうぶ? けが、ない?」
薫は心配げに訊ねる。
「うん、大丈夫。お母さん、大丈夫だから……
ありがとうね、本当にありがとうね……」
まひるはそう言いながら、その薄い胸に薫の頭を抱き、繰り返し、繰り返し頭を撫でる。
「ヒ、ヒヒ、ヒ」
もじもじと、嬉しそうに笑う薫。
(タカさんも薫ちゃんも、あたしを助けに来てくれた……
もしかしてあたしってば、愛されちゃってる?
でへへぇ……)
不謹慎だとは思いながらもお姫様気分に酔っていたまひるは、堂島の独特な笑い声が
いつのまにか聞こえなくなっていることに気付く。
「薫ちゃん?」
「すぅ……すぅ……」
母の胸で安心感を得たのだろう。
幼いナイトは、満足げな笑みを浮かべて眠っていた。
まひるは膝枕の体勢に移ろうと、彼の頭をそっと包み込み……
「!?」
……息を飲んだ。
そして、縄が切れた理由を理解した。
視界に映った自身の左手には、禍々しい光を放つ真紫の爪が、優に5センチ以上伸びていたから。
そして、それがワサワサと動いていたから。指を動かしていないのに。
↓
【グループ:タカさん(No.15)、まひる(No.38)、薫(No.7)】
【現在位置:漁具倉庫】
【まひる】
【能力制限:天使化進行。爪は鋭利な刃物並】
【所持武器:グロック17:弾16】
【薫】
【所持武器:M72A2】
【グループ:真人(No.17)、紳一(No.20)】
【現在位置:漁具倉庫】
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|Д`) ダレモイナイ イマノウチダ!
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♪ Å
♪ / \ ランタ タン
ヽ(´Д`;)ノ ランタ タン
( へ) ランタ ランタ
く タン
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名無しさん@初回限定:02/04/26 12:16 ID:MjOLqpV+
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マジカルバナナ: