達也だった。
佐知子が開け放ったままのドアのところ。
左手で松葉杖をつき、右肩を市村に支えられて立った達也が、
もみ合うふたりを睨みつけていた。
「高本っ!」
再度、怒声を迸らせると、達也はその不自由な体で飛び出した。
市村の手を振り払い、前のめりになりながら、杖と右足で進んで、
佐知子と高本の間に体を割り込ませる。
「う、宇崎クン…」
「離せよ、コラッ!」
うろたえる高本の腕を、手荒く叩き払った。
佐知子は解放された腕を胸元に抱き寄せながら後退って、
茫然と達也を見上げた。杖にあやういバランスを取りながら、
自分と高本の間に立ち塞がった達也の背を。
「おまえっ、佐知子さんになにしてんだよ!」
また、凄まじい怒気が咆哮となって叩きつけられる。
これが、あの温厚な達也だろうかと、佐知子が目を疑うほどの苛烈さ。
「い、いや、だって、このアマがさ」
その鬼気に圧されて、しどろもどろに弁解しながら、
高本は咄嗟に床の吸殻を指さしたが。
その言葉と行動は、達也の激発を招いた。
「ザケんなっ!」
ガスッ、と重たい音が響いて。
達也の右拳を顔面にくらって、高本の巨躯が尻から床に落ちる。
ヒッと、思わず悲鳴を洩らした佐知子だったが、
殴りつけた勢いのまま、達也も倒れこむのを見て、
「や、やめなさい!」
ようやく制止を叫びながら、達也に飛びついた。
「達也っ」
緊迫した声を上げて、市村も駆け寄る。
市村と佐知子の手で抱き起こされながら、高本を睨みつける達也。
「……こんな場所で煙草ふかして。それを注意されたら、逆ギレで、女相手に
腕ずくで出るってか? カッコいいなあ、おまえ」
まだおさまらぬ怒りに震える声で、苦々しく吐き捨てた。
高本は尻もちをついた体勢のまま悄然とうなだれて、
「……つい、カッとしちゃって……」
蚊のなくような声で答えた。
「頭に血が昇れば、なんでもアリか? この馬鹿ッ!」
「達也、落ち着け」
「二度と佐知子さんにこんなことしてみろ、俺がっ」
「達也くん、もういいから」
達也の二の腕をギュッと掴んで、佐知子が必死に訴えた。
「私も、言いかたがきつ過ぎたわ。だから、もう怒らないで、落ち着いて」
「……………」
ようよう昂ぶりを抑えて、達也は佐知子に案ずる眼を向ける。
「佐知子さん、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「大丈夫よ。別に、なにもされてないし」
「そっか……」
力をこめて無事を告げる佐知子に、ホッと安堵するようすを見せて。
「……浩次、そのバカ、連れて帰って」
「わかった」
即座に了解して立ち上がりながら、市村は佐知子に眼を合わせた。
「すみません、あとはお願いします」
「ええ」
真剣な面持ちで、佐知子はうなずきを返した。
(続)
>>350 俺は344じゃないぞ。
お前こそ@傍観者って奴だろ(w
もしくは349が@傍観者て奴かな?
自作自演すんなよ。