【妖魔】現代退魔戦記 第八章【退魔】

このエントリーをはてなブックマークに追加
624五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/08/31(金) 23:42:20 ID:36Lpmb5h
【すみません、確認遅かった;】
【携帯でも確認しましたが、したらばの方が落ちてますね】
【了解でありますー】

>>620
【はじめまして、宜しくお願いします】
625 ◆HgBRPBx536 :2007/08/31(金) 23:55:37 ID:rzIsc+RF
【とりあえずしたらば書き込めるようになったようです】
【まだ様子見の段階ですが】
626御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/01(土) 22:05:45 ID:6AhI6DR+
――蝉の声が聞こえた。

都立白清高校の放課後。その屋上にひとつの人影がある。
まだ陽も高くも気温も高い。夏だった。
その人影は金色の髪をしていた。明らかに校則違反である。
その鋭くも静謐な双眸は、遥か彼方に視線を投げている。
無駄なく鍛えられた肉体が開襟シャツの上からでもわかる。
その身に纏った空気は、人の接近を許さない鋭く冷やかな物である。

「――――暑い・・・・・・」

今現在、暑さにやられている時を除いて、だが。
此処は学校で一番風通しがよい場所であり、彼が時折脚を
運ぶ場所でもあるのだが、今は季節が悪かったとしか言いようがない。
ともあれ、額に薄っすらと汗を掻き、ぼんやりしている彼からは凶戦士
としての雰囲気は感じられない。
627八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/01(土) 22:25:57 ID:nIAiMrrz
>>626
「夏は暑いから夏だと言う――そうは思いませんか?」

義虎の呟きに投げかけられる声。
涼やかな、だが少々辛辣なその声は義虎のよく知る「彼女」のもの。
昇降口に目をやれば、白い小袖に緋袴、黒髪の「彼女」――八雲天音が立っていた。

「支部長にでも頼めば、クーラーの効いた部屋ぐらい用意してくれると思いますよ」

苦笑混じりに言いながら、義虎の隣に腰を下ろす。
風に髪が、さぁっ、と揺れる。

「確かに、ここなら風通しは良いですけれどね、ふふ」

微笑みながら、身体を滑る風に心地よさげに目を閉じる。
628御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/01(土) 22:35:35 ID:6AhI6DR+
身体を鍛えようが、心頭滅却しようが、暑いものは暑い。
そんな当たり前の現実。購買部で購入した清涼飲料水で
水分補給しつつ、思考は止め処なく渦を巻く。

例えば――最近妖魔の動きに変化があったこと。
特に七妖会について。白清支部の管轄から少し離れた風見ヶ原。
彼の地の小さな神社や稲荷が、相次いで『血で穢されている』。
神社仏閣はそれ自体が土地の結界の要である。
それが穢されたということは、要石としての機能を破壊されたということである。
何故七妖会の手による犯行であるとわかるのか。
それは一連の行動が組織的な犯行であるからだ。
あの地で活動している組織的な行動をする妖魔たちは、現在判明している
限りでは――

背後からの声で思考が遮断される。
その双眸はまだ遠くを見ている。けれど気配は彼女を感知している。

「代わりに書類仕事させられるから、それは止めとく」

現支部長と前支部長。どっちがマシだったかな、などと益体もないことを考える。
前支部長は少なくとも、嫌がらせのような大量の書類仕事をさせたりはしなかった。

「――なんだ、まだ学校に残ってたのか」

ちらりと彼女に視線を向けて、また前方に戻す。
斬鬼衆の放課後は様々だ。
訓練に費やす者もいれば、任務に就く者もいる。
学生らしく遊興に費やす者もいれば、勉強をする者もいる。

「あっという間だな・・・・・・もうここに入って三年生の夏。
 卒業まであと半分くらいだが、お前、進路とかどうなんだ?」

口について出たのは、学生らしい話題。
しかし彼らしくは無い話題だった。
629八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/01(土) 22:56:17 ID:nIAiMrrz
>>628
「それは義虎が書類を溜めているからじゃないのかしら」

さらりと言葉を返す。
事実、義虎の書かねばならない書類も多い。
とは言え、他の者がしてもいいことではあるのだが……

「立っている者は親でも使え、でしょうね、ふふ」

現支部長が言っていた言葉を思い出し、思わず笑みを漏らす。
確かに猫の手でも、虎の手でも借りたい気分なのはよくわかる。

「――ええ。少し訓練をしていましたから」

よく見れば、白い肌がうっすらと汗で濡れている。
夏の日差しのせいだけではない、と言うのは一目瞭然だ。

「進路? いきなりなんですか。
 ちょっとらしくないような……」

義虎の口から出た言葉に少し驚く。
確かに「らしく」ない。だが、考えねばならない時期でもある。
だが――天音はもう決めていた。

「私はもう決まっていますよ。神職になりますから――まずは大学ですね」
630御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/01(土) 23:05:31 ID:6AhI6DR+
「やるべき分はやってるよ」

がりがりと頭を掻く。太陽に照らされた金髪が燃えるように輝く。
妖魔退治と書類仕事。
どちらを取るかと問われれば0・5秒で前者を選ぶ彼にとって書類仕事は
鬼門であった。しかし、それも仕事なら諦めもつく。そして妖魔撃墜数でも
負傷率でもトップクラスの彼は、その分書かされる書類も他の者より多い。

「俺に任せる方がどうかしてるだろ。風間か槙にやらせとけってんだ」

明らかに問題発言ではある。
だが、それでも明らかに関係ない書類まで書かされるのは御免蒙りたかった。
確かに支えあいの精神は肝心だ。そして支部長のこなす執務は半端ではない。
それを手伝えと言われれば否とは言えない。しかしそれにも限度があって然るべきだ。
ある意味、親愛の表現とも言えるのだろう。それを理解しているから余計に腹が立つ。

「ふん、そうか――まあそう言えばそうか」

進路。将来。就職。進学。人生設計。未来。
彼には無縁の言葉だった。退魔士だからではない。
退魔士であれ、未来に希望や展望があるからこそ戦える。
それが一般的なものではないにせよ、斬鬼衆も進路を考えていて当然だった。
だが、彼にはそれがない。やりたいことがないというのがひとつ。
それ以上に、果たさなければならない事があるというのがひとつ。
復讐。あの過ぎ去りし日の出来事。積み重ねた戦いと殺戮の日々。

「俺は・・・・・・何にも無いけどな、そういうの」

その顔が、その声が、寂寥と孤独に彩られる。もう何もない。たったひとつの復讐以外は。
元々、それ以外は余計で余分だったはずだ。それでも、過ごせてこれたのは彼女を含む
周りの者たちのお陰だと理解はしている。
けれど――最早消えることもない業(カルマ)に染まったこの身。
復讐を果たしても、失ったものは二度と戻ることはない。
それでも、その果てにある決着を求める。

「まあ、それ以前に生きて卒業できる可能性を考えるべきか」

斬鬼衆として三年間戦い抜き、無事卒業できた者は少ない。
大きな戦争を経験すれば尚更のことである。
631八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/01(土) 23:33:33 ID:nIAiMrrz
>>630
「風間さんも槙さんも自分の仕事がありますからね」

義虎の問題発言に苦笑を返す。
確かに人のいいあの二人なら、頼まれればいやとは言うまい。
その様子が目に見えるようだ。

「ええ。社を守らないとなりませんから。
 お祖父様もお年ですし……」

家に縛られ、血に縛られる。
そして、運命にも。
本人は気付いていないが、それこそが天音の業、宿業だ。

「……何も、ないわけではないと思いますが」

寂しげな義虎の横顔にぽつり呟く。
天音がそうだったように、義虎もまた、この三年間で変わったはずだ。
こうやって会話をする、そのこと自体が雄弁な証拠だ。

「それもそうですね。そろそろ――また大戦もありそうですから」

空を見上げる。
待機に舞う瘴気は、この夏の日差しの中にも厳としてあり、そしてその強さは日々増している。
ならば――そう遠くない未来、また起こるのだろう。大戦が。
632御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/01(土) 23:45:13 ID:6AhI6DR+
「家族ってのは、そういうもんか・・・・・」

家族。
それもまた彼が無くしたもののひとつ。
もうどうやって過ごしたのか、思い出せない。
まるで百年前の出来事のようだった。
鮮明に思い出せるのは、父親の身体が爆ぜる場面。
狂った母親の哄笑。
そして妹が――

「――疲れた」

その顔には、拭い去れない絶望だけがあった
全ては不毛の極地であった。精神が安息を求めていた。
自分が疲れていることに、気づいた。
そして、自分を癒せるものも、この世界にはないのだ。

「・・・・・・・・少し、休ませてくれ」

唐突に呟いて、そのまま彼女の身体にしな垂れかかる。
押し倒すように、そのまま顔を埋め、頭を膝の上に乗せる。

「また、か・・・・・・今度こそ死ぬかもな・・・・・・・」

また大きな戦いが起きる。《御柱》の託宣がなくても、その程度のこと
は最前線で戦っている彼らには容易に察することができる。
その時はどうなるのか。彼は、そしてこの仮初めの彼女は。

「まあ・・・・・・・俺が死んで、お前が生き残ったら・・・・・
その時は、一日だけ泣いてくれ。それで充分だから」

――それは遺言だったのか。

復讐を果たすこともなく死ぬ。
それは避けたいが、不可避なことなど幾らでもある。
633八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/02(日) 00:00:18 ID:MWnfOcGf
>>632
「――さあ? 私もお祖父様だけしかいませんから、よくわかりません」

家族。
それがどういうものなのか、未だに判らない。
確かに祖父がいる。
――それは家族、なのだろう。
だが、父はいない、母もいない。
――それは家族、なのだろうか。

「え? ああ、はい――」

無防備に身体を預ける義虎。
それはまるで道に迷い泣き疲れた幼子のように。
――だから、素直にその身体を受け止められたのかも知れない。

「――いやです。泣くぐらいなら、血を流します」

穏やかに。だがはっきりと。

「だから、私に血を流させたくないなら――」

膝の上でまるで嗚咽のような言葉を漏らす少年に、覆い被さるように。
その身体を、寄せた。
634御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/02(日) 00:12:27 ID:r5vZadHk
膝の上で、彼女の体温を感じる。
この身体が覚えている体温だった。
彼女の微かな体臭を嗅ぎ取る。
この身体が覚えている体臭だった。
訓練で流した汗の匂いは、しかし不快ではなく。

「天音――」

彼女の声と身体が近くて。
けれど、直視することは敵わなかった。
横を向いて、視線を外しているから。

「天音、人は死ぬんだよ・・・・・・・みんな俺の前で死んでいったよ。
 善人も悪人も凡夫も天才も、優しかったあの人も・・・・・・・
 人間も妖魔も、なんの区別も無く一切合財命を落として消えてゆく」

それが嫌だと。それは嫌なことだと。
わかっていて、それでも抗えないことはある。
虫の良い話だった。今まで、どれ程の人間と妖魔を殺してきたのか。
だから、彼に命の価値を語る権利はない。弔いの言葉すらない。

「だから、命を賭してすら、お前を守れないかも知れない・・・・・」

彼が歩むのは悪鬼を喰らう羅刹の道。
けれど、その心の在りかたは余りにも脆く儚い。
そしてどうしようもない虚無と矛盾を孕んでいる。

「それに――俺ではお前を・・・・・・・
 本当の意味で救い上げることなど、できないんだろうな」

それは、ずっと思っていたこと。
自分では、誰かを、彼女を、その心を救えないことを。
彼自身が、誰かに救いを求める存在だったから。
635八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/02(日) 00:32:49 ID:MWnfOcGf
>>634
「――ええ。皆、死んでいきます。
 老いも若きも男も女も」

義虎の髪を撫でながら、言葉を落としていく。
彼の言葉が、思いが判るから、同意するしかない。けれど。

「――だから、立ち向かうんです。
 私たちには理不尽な死に抗う術があります。
 なら、抗えばいい。立ち向かえばいい」

けれど。抗うためにこそ、命はあるのだと。
そう、教えられたのだから。
そう、気付いたのだから。

「だから、命を賭して抗って。
 そうすれば、どんな結果が待っていても私は受け入れられるから。
 ――それに、泣くのは、嫌い」

抗うことは藻掻くこと。
藻掻き苦しみ、そして前に進む。
それが、命。

「――今更、降参ですか?
   そんなのは最初から判っていたことでしょう?」

そうだ。
救いなど与えられることはない。
何故なら、それは――

「自分を救えるのは、自分だけ。そうでしょう、義虎?」
636御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/02(日) 00:46:32 ID:r5vZadHk
守るという言葉を口にしても、守られているのは常に自分だった。
その誓いで、崩れそうな自分を支えているに過ぎない。
崩れないように必死に。飲み込まれないように懸命に。
どうすればこの虚無は消せるのだろうか。
自分の内側から生じた洞を、どうやって埋められるというのか。

けれど、彼女はそれを否定する。必死に否定する。
命の儚さを知り、それでも足掻くのだと。
不条理な死に抗うこと。戦うというのはそういうこと。

「所詮、血塗られた道か・・・・・・・」

彼の顔が、彼女の顔を向く。
その双眸に宿る光は硬質の硝子のようでいて、とても儚い。
まだ足りないのだと、自分を引き上げるには足りないのだと。

「この世界は煉獄だ、大切な物が次々と不条理に奪われてゆく。
 誰も誰かを助けることも守ることも出来ない」

あの日、誰かが言っていた言葉。

「ならば、肝心なのは それを理解した上で『それがどうした』って
 覚悟して開き直って進むこと、か。俺たちにはそれしか出来ない」

手を伸ばす。その手が、彼女の頬に触れる。
その肌触りと温もりが、自分と他人の存在を明確にする。

「――そうだ、そうするしかない。
 誰も誰かを救えないなら、せめて自分で引き上げるしかない」

その眼に輝きが戻る。
この世界と対峙する覚悟を決めた、不遜な凶戦士の眼だ。

「すっかりと、忘れてたぜ・・・・・俺の人生のモットーじゃないか。
 誰に教えてもらったんだ、その台詞?」

ニヤリと不敵に笑う。

――せめてその生に意味を。
どれだけ無惨に見える人生だとて、その幕引きまでに何か意味のあることを、
意義のあることを見出せたなら。きっとその人間は救われたのだろう。報われたのだろう。

637八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/02(日) 01:09:21 ID:MWnfOcGf
>>636
「でも、私たちが血に濡れれば、どこかの誰かは濡れずにすむ」

自分たちの道は血に濡れていても。
いつか誰かが辿り着くそこが、楽園であるように、戦う。立ち向かう。藻掻く。

「そう、私たちは諦めるのではなく、諦めを捨てて戦う。
 開き直りでもなんでも――始める前から諦めれば、そこで終わるから」

義虎の手が頬に触れる。
その手に手を重ねて。

「――ふふ。そう、誰かを救えないなら、自分を救うしかないですから。
   あら。そのモットーを話していたのは誰でしたっけ?」

くすりと微笑む。

命の価値は、生の意味は自らで掴み取るしかない。
藻掻き苦しみのたうち回って――そうして掴むのみだ。
638御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/02(日) 01:23:39 ID:r5vZadHk
「俺たちは、刃で盾。返り血を浴びるのも使命の内だ。
 まあ幸せには、なれないだろうけど、な」

いつか砕けるその日まで戦い続ける。
その身で誰かの代わりに穢れを引き受ける。
その果てに、守りたかった誰かの笑顔があるのなら。
もう、守りたかった誰かはいないけれど。
肩を並べて戦ってくれる相手は、此処に居る。

「―――あれ?お前に話たことあったっけ?」

彼女に自分のモットーを話した覚えは無い。
いや、あったとしてそれはどんな状況でだったのか。
ヤバイくらいに覚えていない。

「――ありがとな・・・・」

小さく、感謝の言葉を伝える。
重なった手と手。想いが伝わるなんて嘘だ。
だから言葉で伝えるしかない。不器用でも、不確実でも。
曖昧で遠回りになったとしても、想いの丈を口にするしかない。

「・・・・・そろそろ帰ろうか。どっかで冷たいものでも喰って行こう」

脚を折り曲げて、その反動で起き上がる。
我ながら失態を演じてしまったが、お互い様だろう。

「行こう」

手を差し伸べる。
過去は消えない。現実は変わらない。
狂気も懊悩も絶望も、消えることなく渦巻いている。
だが、それだけが心を形作る全てではない。

【そろそろ〆に向かいますか】
【時間も時間ですし】
639八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/02(日) 01:39:19 ID:MWnfOcGf
>>638
「でも、どこかの誰かが幸せになれますよ」

顔も知らない誰か。
ここには居ない誰か。
だが、確かに誰かがいて、誰かが救われる。
それならば、血に塗れてもいいだろう。

「――さあ? どうでしたっけ?」

はぐらかすように微笑んで、そっとその手を離す。
身体と身体は離れても、心と心は繋がっているような、そんな感覚。
先程までの手の温もりを、感謝の言葉が繋いで。

「ええ。義虎の奢りで?」

他愛もないやりとりでさえ、幸せなんだと思わせてくれる。
そして、もう一度手を繋いで――


【はい、遅レスすみません……】
【こちらはこれで締めるか、次で締めるかで】
640御影義虎 ◆HgBRPBx536 :2007/09/02(日) 01:50:15 ID:r5vZadHk
「無料奉仕は好みじゃないんだけどな」

顔も名前も知らない誰か。その誰かの為に刃を震えないのが、彼。
守る相手の顔が見えていないと、使命を肯定することすらできない。
我ながら即物的だが、それは変えられない性分なのだ。
そのことを言えば、呆れられるのが関の山だろうが。

「おーい、天音さん?アナタそういう性格でしたっけ?」

その微笑にこそ励まされる。
我ながら即物的だが、それくらい簡単な方がいい。
人の心ほど複雑怪奇なものはないのだから、時には
わかりやすくシンプルに行きたいものだ。

「了解だ。さて餡蜜にするか、フルーツパフェにするか」

繋いだ手の温もりが。この他愛の無いやり取りが。
そしてこのささやかな幸せが、果たしていつまで続くのか。
誰にも分からない。ならばこそ、離さない様に、しっかりと繋いで。

【では、こちらはこれで〆です】
【内容的にこういうロール他の人とはできませんし】
【感謝しています。お疲れさまでした】
641八雲天音 ◆HUf.GGVQpw :2007/09/02(日) 01:58:52 ID:MWnfOcGf
【こちらは先程ので締め、と】
【こちらこそお付き合いいただき感謝です、お疲れ様です】
642五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/03(月) 02:18:29 ID:GNI03G2I
【すみません、時間が飛びました】
【時間の浪費を強いた形になって申し訳ないです……】

【30分ほど待って落ちます】
643ハナ ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/03(月) 21:38:31 ID:GNI03G2I
……お土産。

<第八章>
【508-524】【研ぎ澄ますは、誰かの】【御影義虎/鳴神真郁】【T/B】
【525-561】【転落者たちの密室】【世死見】【S/H】
【562】【吸血姫に捧げる】【リトル・T・シルヴァニア】【S】
【565-589】【思惑ひろい】【御影義虎/沢渡紫乃】【T/B】
【590-618】【悪意の満ちる場所】【九尾真理/名無しの男】【H】
【626-641】【残照、または甘い時間】【八雲天音/御影義虎】【T】
644戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/07(金) 21:02:25 ID:/ELZgTOz
【青姫さんとのロールにお借りします】
【それでは、よろしくお願いしますね】

ふらりと。
ふいに気が向いて夜の空中散歩と洒落込むことにした。
――あるいは、虫の知らせを無意識のうちに感じ取っていたのかもしれない。

空気が涼しさを増し、季節の移り変わりを実感させる夜。
街路樹では相手を探して蝉が鳴き、
草むらでは馬追いやコオロギが同じく相手を求めてシンフォニーを奏でている。

当てもなく飛んでいたはずだが、気がつけば思い出深い場所の近くに来ていた。
(あいつの入院していた病院か……)
長らく通っていた場所を見まがうはずもない。
かつて一心に身を捧げた日々がなんだか懐かしくなって、建物の近くへと寄っていった。

(――おかしい)
音もなく屋上に降り立つと、違和感を覚えた。
それまで彼の地で受けた印象とはどこか違う――そんな感じだ。
その原因を探ろうと目を閉じ、短く呪文を唱える。

「Windfliustern(風の囁き)」

魔術の発動と同時に軽く息を吐けば、
大気中に拡散した魔力が意のままに周囲を調べ始めた。
645五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/07(金) 21:08:39 ID:cfneQEzy
【では、宜しくお願いしますー。】

漆黒の魔女が、己が吐息を行使したのと同刻。
同じ病院の敷地内で、それは起こっていた。

踵が、かるく土を叩く。その刹那、風が、文字通りに乱れた。
地場に蓄積されたあらゆる感情、生まれ来るものの歓喜が、死に行く者の悲憤が、
一点に収束する。収束し、志向性を与えられて破裂する。
人口の灯が覚束無く周囲を照らすその場所に、人影はひとつを除いて無い。
力の収束点に立つ、影。響き渡る亀裂。

立ち尽くした娘の瞳は茫と、虚空を凝視している。
やがて風も収まり、いつのまにやら正気を取り戻した娘は屈みこむと、
足元に配置された呪符の中でも大きな一枚を取り上げた。
「湿気た場所。つめたくて、陰気で―――嫌いじゃないけれど」
頬を撫でる夜風に目を閉じて囁く。

数日前からこの地に足を踏み入れて、仕掛けられた霊符を置き換えた。
今や、この土地の要は、彼女の「子供たち」によって肩代わりされている。
周囲は彼女の従僕たちによる証拠堙滅の真っ最中だった。
水気の多い土の上、一見無秩序にばらまかれた白片が、食い破られて消失する。

夜中も煌々と輝く人工の光と逆方向。移した目線の先には、泰然と佇む石碑がある。
この地にて、退魔師が敷いた封魔の結界を成す、要の一つ。
龍脈の溜まり場でありながら、人の気に強く染まった場所。
「これで、この要の任は解かれた」
七妖会、日妖。その肩書きを持つ「妖術師」は呟く。
霊脈の要を掌握して欲しい。これが、知り合いの日妖からの依頼だった。
646戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/07(金) 21:28:04 ID:/ELZgTOz

しばし静寂が訪れる。
こうしている間にも、この真下では命が失われ、そして助かっているのだろう。
だが――そういったこととはおそらく関係のない部分で事は起こっている。

「……来たか」

魔力を与えられ、擬似的に精霊と化した大気が情報を伝えてくる。
それは言葉というよりも意思に近い。
種々雑多な情報の中から必要なものを取捨選択し、判断を下す。
それはあくまでも術者の仕事だ。

「なるほどね、違和感の原因はそれか」

病院内の外れにひっそりと立つ石碑のことは、もちろん知っていた。
病院のような、人工的な施設の中に石碑があることを不思議に思ったのだ。
古株の医師いわく、江戸時代から風水上の要地であったとか。
龍脈の要として配されたその石碑に、何かが起こったと考えるのが筋であろう。
そう結論付けて杖に跨り、音もなく飛び上がると石碑のある場所へと向かった。


そして、石碑の前。
近づいた時点で既に気づいていた所ではあるが、何者かがいる。
できるだけ気配を隠して降り立ったものの、相手が妖魔なら気付かれないとも限らない。
静かに、足音を殺して忍び寄る。そして――おもむろに声をかけた。

「そこで何をしている」

できるだけ無感情に、考えていることを気取られないような声色で。
さて鬼が出るか、蛇が出るか。
647五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/07(金) 21:54:33 ID:cfneQEzy
封魔の要石、その役目は外法の妖術師の手で解かれ、術式は彼女の手に落ちた。
妖魔組織においては異端たる利を最大限に生かした一手は、打たれた。
しかし事を為した当人は、安堵には程遠い。

異質な気配は、はるか頭上。
黒に似て、漆黒には遠い双眸が険を帯びる。
気配を消して「見回り」をさせていた烏を一羽、呼び戻す。
(妖魔ではない……でも)
鳥の視界から服装を見るに、一般人ではない。
退魔師と呼ぶにも、気配がどこか異なる。

(此方に向かうか。面倒)
相手の意思が自らに向くのを確かめて、
取り出した呪符の一枚を、蚕に変じさせて宙に放つ。
宙に紛れて、羽虫の群れは姿を消した―――
いざというときの護身。威力は期待できないが、盾くらいにはなる。
未だ全てを手の内に納めたわけではないが、この空間は彼女に味方している。

そして、背後で軽い音がした。
『そこで何をしている』
「休憩時間、夜の散歩と洒落込もうか……そんなところね」
あなたも、似たようなところかしら? そう言いながら
物憂げに振り返る。実際、厄介事は避けたい。
今の服装は、白の袖無しのブラウスに浅紺のスカート。
「週末のこんな時間、困った仕事。嫌いではないけれど」
……とはいえ、言い逃れは、どうとでも出来るだろう。

【えーと、夜はスーツかローブ……で、良いのでしたっけ】
648戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/07(金) 22:09:04 ID:/ELZgTOz

「夜の散歩か。ふふ、私もだ」

無表情から一転、微笑を浮かべながら答える。
見知らぬ相手との会話において、まず必要な事は何か。
相手に不信感を抱かせないこと、そして第一印象を悪くしないこと。
表も裏も関係ない常識の範囲内で自然に振舞う。

「散歩に、仕事か。
 好きでもないことを、何故しなければならないのだろうね?
 それに……何をしていたのかな?」

いわば、今は相手の出方を互いに探っている状況だと言えよう。
どうやら手ごわい相手であるらしいことは交わした言葉からも感じ取れる。
しかし、場所が場所故に自分には看過し得ない。
――良くも悪くも、想い出の詰まった場所だから。

「答えられないかな?それはそうだろうね。
 そこに立っている石碑を……君が汚したのだろう?」

先の魔術で得た情報を元に鎌をかけてみる。
まあ、だからと言って私が困るわけではないけどね、と心の中で呟きながら。
当たっていようと外れていようと、事態の突破口は開けるはずだ。


【一応そんな感じです。今回は黒のローブということで】
649五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/07(金) 22:20:20 ID:cfneQEzy
「汚す、なんて―――落書きをするような歳に見える?」
苦笑……とりあえず、嘘はついていない。
行われたのは、穢すよりもっと忌むべきことだろう。退魔師達からすれば。
目線を上げて、あら、と呟く。
「確かに酷い有りだけれど」
年月を経た上、外観上は手入れもされていない。
刻まれた文字を読むには、この時間は暗すぎる。

他愛ない応酬。
「こういったら何だけれど……めずらしい服装ね?患者さんのお付き添いかしら」
心象を害さない程度に相手を気遣いながらも、物珍しさは禁じえない、そんな口調で問う。
650戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/07(金) 22:40:39 ID:/ELZgTOz

「さあね。見た目どおりの年とも限らないし」

あっさりとかわされたので、どうとでも解釈できる表現で食い下がってみる。
おそらくはこれも適当に流されるだろう。
狐と狸の化かしあい。そう形容するのが適当だろうと思う。
そして放たれた言葉につられて石碑を見る。
記憶が正しければ、苔むした石碑は長年の風雪に晒され、
刻まれた文字は読めなかった。
故に、どのような由来で建っているのか自分には分からない。

「そう見えるか?……ならば、そういうことにしておこうか」

ぽりぽりと頬を掻く。
自分の服装に言及されてしまうと返す言葉がない。
もともと気分で服装を選ぶタイプだ。
場にそぐわないのは理解していてもこればかりはどうしようもない。

「……では、他愛のない話はこれまでにして本題に戻ろう。君は、何だ?」

強引に話題を転換しにかかる。
痛いところを突かれての必死の抗弁だ、怪しまれるのも仕方がない。
651五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/07(金) 23:00:47 ID:cfneQEzy
「あら酷い。幾つに見えたのかしら」
笑み混じりに受け流す。
「子供っぽいって、時々言われるんだけど……嬉しくはない」
だって、そういうものでしょう?

会話の最中、先ほど放たれた気配の正体を探っている。
(同業……じゃない。それにこの服装)
予測が正しいとしたら、望まざる客を呼び込んでしまったかもしれない。
西洋魔術の使い手だとしたら、対峙した経験はほとんど無いのだ。

『君は、何だ』
―――とんだ力技だ。
その蛮勇は評価してもいい。

それはまた、と口元に手を当てて呟く。
「……哲学的。知らない人に質問することじゃないわ、お姉さん」
捉えどころなく笑いながら、歩み寄る。
土が、パンプスの足元で音を立てる。「ふふ」
場を弛緩させる。最初から、それを意図した解答。

身を屈めて、女性のすらりと長身を見上げて、もう一度笑顔。
普段、柔和な趣を崩さない双眸が、すうと細まる。
「七妖会が日妖、五通の青」
世間話の続きのように、娘はそう名乗った。
652戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/07(金) 23:22:02 ID:/ELZgTOz

「確かにな。だが、これ以上禅問答を続けるよりは手っ取り早い」

笑いながら歩み寄る少女。
――果たしてそう表現するのが正しいのかは知らないが。
極めて軽い口調に一瞬空気が和むが、次の瞬間にそれも終わった。

「……七妖会。そうか。
 ならばもっと詳しく事情を聞かせてもらわねばならないな。
 この石碑の件、それに個人的に聞きたいこともある。
 おとなしく従わなければ少し痛い目に合うかもしれないが……いいね?」

緊張が走る。
かつて七妖会を名乗る妖魔に、苦杯をなめさせられた事があった。
もちろんその妖魔と目の前の彼女は違うが、
何らかの形で連なっている可能性はある。
自分の主に頼らずとも、自分の手で殺せるのなら最良。
気がつけば、その手がかりを掴めるかもしれないこの機会を逃すまいと、
いつもの自分らしからぬ強引な手段を採っていた。
相手の返事も聞かずに。

「――Windschuneide(風の刃)」

奇襲は、疾さが何よりも物を言う。
杖の補助も借りず、ほんの短いタイムラグで放たれた風の刃は
相手を殺傷するほどの威力はない。
ただ、自分が優位に立てさえすればそれでよかったのだ。
653五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/07(金) 23:39:56 ID:cfneQEzy
この場合、名乗りは、そのまま宣告だ。
―――ただでは、帰さない。

七妖会の名に相手が反応したのは思わぬ収穫だったが、
(引きだせる情報はこれくらいか)
その結論は変わらない。
魔術師の先手に、散開していた白い羽蟲が集合した。
(防いだ、が、これは小手調べか)
直感はそう告げている。

退魔師たちに気付かれないように大きく事を起こすことを避けたとはいえ、
病院内の敷地ひとつを彼女の陣に変じさせたからには、魔術師相手にも
相応の圧力が及んでいるはずだ。しかし、その影響はあまり見られない。
歳若いが、高位の。そう判断する。

距離は今の応酬で離れた―――
蟲を媒介しなければ、打てる手段は限られている。
結論を下すと、複数の呪符を一度に蚕に変じさせて、駆け出した。
足止めにすらならない可能性もあるが、万全を期するなら時間は稼がなければならない。

結界を扱う術においては、『方位』が大きな意味を持つ。
向かう先は、方位にして西―――病棟の裏。今の陣の影響力では、人払いが充分
でない可能性があるが、そこは事後処理に任せるしかないだろう。
654戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/07(金) 23:59:47 ID:/ELZgTOz

「な……?!」

必殺とまでは行かないまでも、相手を倒れ伏すには十分なはずのそれを、
難なく防がれた――それも蟲に。
つまり、かなり高位の蟲使い、ということか。
自己判断に自分で納得しつつ、不意に駆け出した彼女―青と名乗ったか―を追う。
足止めのために仕掛けられたと思しき大量の蚕が顔面や四肢にまとわりつく。
ここは病院の敷地内、事を荒立てるのはできるだけ避けたい。
しかし彼女を逃がしても意味がない。
しばしの逡巡の後、魔術に頼らず素手で蟲を振り払い、再び走り出す。
鱗粉が、体液がローブのあちこちに付着した。

ずいぶんと離されてしまった。
かろうじて逃げる相手を視界に収めつつ、必死で走る。

「こんなことなら、普段から体力を作っておけばよかった……!」

息を切らしながら独り言を言うが、大して意味はない。
そうこうしているうちに相手の足が止まった。
(ここは……?)
周囲を見渡してみる。どうやら病棟の裏手のようだ。
窓の中には明滅する蛍光灯の白い光と、非常口を示す明かりの緑の光。
深夜故に誰も居ない廊下を横目で見つつ、口を開いた。

「さて、鬼ごっこももう終わりだ。
 観念したまえ、抵抗しなければ手荒な真似はしない」
655五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/08(土) 00:26:16 ID:2a5/qeOo
つ、と頬を伝った血を確かめる。
(……あら)
やり手だ、と判断したのは間違いではなかったらしい。
「七妖会と接触済み、力量は……まだ、充分には測れないか」
しかし、と、内心で呟く。それでも頃合だろう。
相手の土俵に乗れば、おそらく勝ち目は無い。

『さて、鬼ごっこももう終わりだ。
 観念したまえ、抵抗しなければ手荒な真似はしない』
彼女の意図が逃走ではないことに、相手は気付いていないらしい。
「そうね、貴方の言う通り」
首肯する。でもごめんね、と小さく口にして、
「此方は、少々手荒なことをするわ」
手早く、方陣の描かれた紙片を取り出す。
指を当てる。霊符が、異なる図象によって塗り潰される。
ずん、と圧力にも似た気配。

鈴と、声を振り落とす。
「臨める兵、闘う者、皆陣烈べて此処に在り!」
四方を支配するのは、使い古された呪言。

九字。たったの一言にて、支配下に置いた力の指向性を限定する。
この術が、流派を問わず好んで使われる理由は簡単だ。
一能に優れるが故、誰が使っても強い効力を持つ。
病院の敷地、結界全体からあつめられた力が、一言にして束ねられた。

全ては、相手を『縛る』、それだけの意図の元に。
「……出し惜しみは、勇ましい貴方に失礼でしょう?」
膨れ上がった力が、とぐろを巻いて漆黒の魔女の元に殺到する。
人間一人圧壊させることなど造作もないであろう密度で。
656戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/08(土) 00:50:16 ID:hH9Uxm9p

「……なに?」

完全に追い詰めたと思っていた。
だが、どうやらそれは思い違いであったらしい。
じっとこちらを見つめるその瞳には、まだ十分な力があり。
口から出た台詞は抗う意思を込めたもの。
そして、とった行動は。

静寂が支配する病棟の裏手に、呪言が響き渡る。
その呼びかけに応えた力が周囲から殺到した。
圧倒的な密度を持ちながら、たった一つの目的のために振るわれる力。
(単に逃げた訳ではなかったのか――!)
驚きに大きく目を見開いた。今更ながら意図に気付く。
猟犬に狩られる哀れな兎は、目の前の少女ではなく自分であった。

防御は――あまりに力の発現が早すぎて間に合わない。

「ぐぅ……ッ」

為す術もなく捕らわれた。
あたかも大蛇が獲物を絞め殺すかのように力に縛られ、全身の骨が軋む。
胸を強く圧迫され、肺の中の空気は強制的に搾り出された。
たちまち呼吸困難に陥る。

「がッ…かはっ……」
657五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/08(土) 01:09:45 ID:2a5/qeOo
一瞬、病棟側の光が明滅した。
強引に力を吸い上げた影響で、電子機器に影響が出たらしい。
今、その内部では外を意識する余裕は無いだろう。
じきに、病棟内部は慌しくなるはずだ。
この暗所なら、敢えて人払いをする必要も薄いかもしれない。

力を下ろした重圧は強く、苦痛も僅かにある。
それでも、獲物を捕らえた喜びに、口元は僅かに歪む。
………あは、と淡い吐息が唇から漏れた。

わざわざ位置を移した理由は一つ、道教の影響色濃い日本古来の呪術においては、
「方位」それ自体が意味を持つ。もとは呪禁師として道を納めた彼女でも同じこと。
西方、を目指したのは、そこが彼女の得意とする金の領分だからだ。
蟲を行使するには時間が足りない、戦闘を長引かせるわけにはいかない。
だとすれば手札は限られる―――その、結界内の大きすぎる力を、如何に使うか。
そこに至るまでの、全ては布石。

先手必勝。
考えたことは、奇しくも、漆黒の魔女と同じだった。
違ったのは、彼女の『一手』は、相対する以前から既に置かれていたということ。
単純な事実だった。しかし、それが、勝負を決した。

「さて、と。この状態を続けるのは、少々疲れるの」
囁く表情には、なるほど、僅かな苦痛の色がある。
「だから、貴方にはちょっと仕掛けをさせて貰うね」
言葉と共に取り出したのは、掌ほどの長さのつるりとした蟲。
それを、女性の肌の露出した場所に落とす。
「差し当たっては、気持ちよくなって頂戴」
くすくす、と笑って、自らの手ごと、さらに肌の見えぬ場所へと差し入れる。
相手の力を抑制するための呪符。だが、効果はそれだけではない。
「気持ち悪いかしら?……でも大丈夫、すぐに『其処』に辿りつくから」
衣服の下へ潜り込んだ蟲は、のたくりながら一所を目指す―――
女の急所、とでも形容できるその場所を。

【この辺でこちらは凍結させて下さい】
【明日は同じくらいの時間…ということで良いでしょうか?】
658戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/08(土) 01:15:27 ID:hH9Uxm9p
【うい、了解〜】
【こちらも頭が回らんのでここまで】
【時間は同じで問題なし。一応待ち合わせスレに行きますね】
【では、明日もよろしくお願いします】
659五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/08(土) 01:16:40 ID:2a5/qeOo
【よろしくお願いしますー】
【最後レス、もうちょっと余韻があっても良かったと思った<展開が】
660戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/08(土) 20:55:19 ID:NWTMeOjY
>>657

耐え難い痛みに加えて呼吸さえも封じられ、意識が飛びかける。
苦悶の時間は長く続いたように感じられたが、
おそらく実際にはわずか数秒の出来事であったろう。
その数秒が過ぎたと思しき頃、不意に拘束が緩んだ。
無意識に人体の機構が働き、肺に新鮮な空気が入り込んでくる。
それと共に、徐々に明瞭になる意識。

「こ、この期に及んで何を……」

相手の囁きを聞きとがめて言う。
同時に状況を再確認。
自分自身は――首に胸の下、腹、太腿そして膝下にかけて
力が具現化したモノに巻きつかれ横向きに引き倒されている。
一方の彼女とは言うと、身体のあちこちにこちらの攻撃による
切り傷が見られるものの、さほどダメージを負っている様には見えない。
むしろ、先ほどの言にあるように、力を用いたことによる疲労の方が色濃い。
(……万事休す、か)
(だが、この場を脱すればあるいは……?!)
逆転の機会を窺っていた所に相手の宣告。
直後に感じたのは、這う蟲独特のうねうねとした感触。
一般人なら卒倒しそうになるであろうその感触に眉をしかめつつ
なんとか振り払おうと身を捩るも、ろくな抵抗もできぬままに進入を許してしまう。
女性の肉体で最も神秘的な器官であるその場所へ。

「ん……っ、やめ……」

もぞもぞとデリケートな部分を這い回る蟲に、図らずも甘い吐息が漏れる。
知性の介在しない愛撫ではあるが、開発され感度の高められた肉体には
その無遠慮な動きさえ愉悦をもたらすものへと変じる。

「あ……」

愛液が分泌されているのを自覚した瞬間、それはぬるりと内側へと滑り込んできた。
言うなれば自ら招きいれた形であることに愕然としてしまう。
だが、それも一瞬のこと。
661五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/08(土) 21:34:21 ID:2a5/qeOo
夜中の喧騒は近くも遠く。
内部の人間は、こんな戯れよりも余程切実で過酷な状況を強いられている。
こんな場所で、誰が居ようと居まいと変わらない。

「あら。喪服のような色を着ているから、身持ちが硬いひとかと思ったのに」
あっさり迎え入れてしまったのね、と、邪気のまるでない笑みと共に囁く。
「でもよかったね。その子、入れて貰えないと酷く暴れるもの」
嫌悪の表情を浮かべた瑞希を見下ろしたまま、蟲使いは囁いた。

「気持ち悪い?ごめんね、皆、最初は嫌がるの―――わたくしが扱うのは、
 もっと蕩けてから、事に及びたかったけれど、無粋でごめんね、
 だけど、貴方はこうしないと大人しくしてくれそうにないんだもの」

異能の人間の異能を侵すのに、最も有効な方法は性的快楽だ。
だから、この手の仕掛けは陳腐だが効果が高い。

―――先手必勝。
考えたことは、奇しくも、漆黒の魔女と同じ。
ただ、蟲使いの一手は魔女のそれよりも早く、しかも執拗だった。

魔術師の意思が、未だ折れてないことを彼女は理解している。
だから、歌でも口遊むように続けるのだ。
聞き分けのない子供に、言い聞かせるように。

「それの習性は単純。女の愛液を好み、それを啜るために甘い唾を吐き、
 己が身をくねらせる―――でも、その子の毒はつよいから」

この子を受け入れたあなたなら、きっと直ぐに足りなくなるよ。
言いながら、倒れ伏した漆黒の魔女の頭上、蟲使いの黒髪が落ちる。
濁った瞳が、魔女の視線を絡め取る。

蟲の体表からじわりと滲みだすのは懐柔する毒。
人間の理性を凌す魔性の快楽。
662戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/08(土) 22:04:53 ID:NWTMeOjY

「く……不覚はとったが…耐えてみせる……そして、その後で……」

体内に感じる異物の感触。
ただひとつ違うのは、その手の道具のような無機物の冷たさではなく、
仮初の物とは言え有機物の温もりを有していること。
だから耐えられると信じた。再び立ち上がり、反撃できるはずだと。

言い聞かせるかのような、楽しげに紡がれる言葉にも
不敵な笑みを浮かべながら応じる。

「媚毒……と、言うわけか?
 ふ……その手の経験、無いとでも……?」

蟲を扱う者ならではの台詞だが、自分にとっては聞き飽きた台詞。
似たような経験はこれまでにもあった。
植物の樹液、妖魔の体液、自らも扱いなれたそれらの分泌物は
ある程度までなら意識を強く持てば耐えうるものだ。
余裕、とまではいかないものの経験に裏打ちされた態度は
相手の目にじっと合わせた視線からも窺い知れるだろう。
その裏にはらんだ危険すら感じさせぬ程度には。

「う……ぁん……」

しかし、そんな外界のことは知らぬげに蠢く蟲が状況を変化させる。
甘い唾と蟲使いの評した毒が、徐々に浸透し始めたのだ。
全身が桜色に染まり、しっとりと肌には汗が浮き始める。
(身体が、熱い――)
内心の動揺を押し隠すように歯を食いしばり、
嬌声を上げぬよう気を紛らわせようと試みる。

「っ……ぁ……」

ままならぬ体をじたばたと捩りながらも、視線だけは相手を捉えたまま。
瑞希は精神力で肉の疼きに無謀な戦いを挑みつつあった。
663五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/08(土) 22:39:08 ID:2a5/qeOo
「ふふ。ふふ」
くすくす。
「素敵な目。こう見えてもあなたの事は評価しているのよ」
瑞希の顎を捉えて、自らに固定する。
「まぁ、その子は黒子だと思って。―――ね?」
楽しげに笑って、言う。
「今はお話しましょう」
たおやかな手つきだが、表現し難い強制力を持っている。
喉元をそっと撫でる。同性の勘所を押さえた、蠱惑的な手つきで。
……毒は所詮は毒、蟲にできることは限られている。

子猫の喉元を甚振るように、そっと。
「っは、あなたが沢山の蜜を出すから、その子が喜んでいる」
まるで自らが感じたことのように、熱っぽい声で囁く。
瑞希の耳元で、高められた感覚を煽りながら。
664戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/08(土) 22:56:45 ID:NWTMeOjY

「……何がぁっ、おかしい」

ひんやりと冷たい手でおとがいを持ち上げられる。
その仕草、勝ち誇るかのような笑み、全てが気に入らない。
自然と棘のある物言いを返してしまう。

「んん……話す、だと?」

喉元を撫でられると、その感触に一瞬心を奪われてしまう。
そのことにすら気付かずに問い返した。
こちらには山ほど聞きたいことがあるが、相手にはあるのか?
一抹の疑念がよぎる。
そうした思考を打ち消すかのように喉をくすぐられ、耳元で囁かれる。
手つきだけではなく吐息にも魔性が込められているのか、
また一段と身体の熱が温度を増したように感じた。
ちょうど頃合を見計らったかのように、大きく膣内の蟲がのたくる。

「あっ……あぁん」

思わず喘いでしまう。
素直に快楽を享受している肉体と、必死に快楽に抗っている精神の
葛藤が限界に達しようとしていた。
665五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/08(土) 23:38:03 ID:2a5/qeOo
「おかしい?……おかしいって、何?」
呆ける、というより、はぐらかす口調。
「軽蔑なんかしていないわ。その子を腹に入れれば、誰でもこうなるもの。
 寧ろ、感心しているくらい。よく壊れないなって」
髪をすく仕草にも、明確な媚性が含まれている。
その度に反応を見せる様子を楽しむように、前髪を掻き揚げた場所に唇を落とし、
そっと額を舐める。やわらかく、優しく。

「だって、あなた………わたしに、訊きたいことがあるのでしょう?」
問いかけ、それ自体が誘惑だ。
相手が抗えないと知っての。
自分よりも長身の女性の目蓋に舌を延わせながら、熱を帯びた声が囁く。

「ふぅん……魔術師、ってこういう構造をしているのね」
ふいに、囁きが冷めたものとなる。
どこまでも冷ややかな、微笑の皮を拭い去った彼女の本質。
「巫、に近いのかしら。いえ。使鬼……あちらの術師は式つかいのようなものと
 聞いていたけれど、これはまるで逆」
くすり、と笑う。嘲るように。

これもまた誘い。
肝腎なことを口にしない―――の、ではない。
確証が無いが故に、最後を濁すことで、相手を誘導することを狙ったのだ。
666戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/09(日) 00:05:15 ID:YOiH4otw
【残り5kb……いけるかな?】

「あぁ……ん、ふぁ……ぁんっ!」
感度が、際限なく上がっていく。
全身が性感帯になってしまったかのような感覚。
軽く髪に触れられただけでぞくぞくする。
額に舌が触れたときには身体が跳ねた。
あまりの快感に意識が朦朧としてくる。
その瞳は茫として焦点が定まっていない。

「ぅん……」
もうどうでもよかった。
ただ内から、外から湧き起こる快楽に身を委ねてしまいたい。
甘美な誘惑の前に理性は蕩け、自身を構成する本質的な部分が顔を覗かせつつある。
もっと、もっと触れて欲しい――
内なる声と外なる魔性に突き動かされ、自然に口が動いていた。

「使い魔はぁ…もう要らないの……わたしの肉体があるからぁ……んんっ」
霞の掛った脳内ではあるが、最低限のガードは崩さない。
もっとも、大分そのガードも下がっているのだが。
もう十分応えただろう、と一人合点して舌を突き出し、媚びた視線で褒美をねだる。
667五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/09(日) 00:26:19 ID:gALWoi6b
質問の意図が通じたことに苦笑。
この魔術師は、怜い。素直に驚嘆すべきなのだろう。

蟲が、魔術師にとっての魔力、彼女にとっての霊力を吸い上げる、
それを吟味しながら、うわ言めいた問答が、意味するものを思考する。

(……もう?)
それはつまり、「以前は持っていたということ」。
彼女が選択したのは、魔術師の言に相槌を打つこと、だった。
「へぇ。使い魔を持っていたのね。わたしの、この子みたいなものかしら」
応じるようにびくん、と蟲が蠢いた。
668五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/09(日) 00:36:11 ID:gALWoi6b
【あ、1KB=1000バイトですね】
【ってことはあと3000字行けるんだった……何誤解してたんだ;】
【混乱させてすみません、次お願いします】
669戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/09(日) 00:49:38 ID:YOiH4otw
「あん……あぁぁん」
望んだ刺激は与えられずとも、下腹部で蠢く蟲が欲を満たす。
だが、まだ足りない。
息は荒くなり、汗は珠になり、陸に上がった魚のように身を震わせる。
魔力を吸い上げられる感覚さえも悦びに変じていく。

「それだめぇ……もう……」
ひときわ大きな脈動に、軽く達した。
蟲が舐め切れなかった愛液がぷしゃ、と音を立てて噴出する。
呼吸を整えるためのしばしの沈黙。
少しだけ落ち着きを取り戻すが、再び蟲が動き始めた瞬間にその表情は蕩けた。

「はひぃ……喚び出したモノをぉ…あん……憑かせるんですぅ」
熱に浮かされた思考だが、ここまではまだ「話せる」。
そう自分を納得させながら淫らに腰を振り、
少しでも快感が増すように角度や深さを調節する。
更なる高みを目指して。


【大丈夫大丈夫……忘 れ て た か らw】
【篭絡モードですがどうしましょうねぇ】
670五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/09(日) 01:16:15 ID:gALWoi6b
満ちたりさせては意味が無い―――
感じやすく、また、貪欲な相手は、蟲使いにすれば恰好の獲物。

「………っ、ふふ」
達するに合わせて、腰を押し当てながら笑う。
直接肌を触れさせているわけではないというのに、じっとりと湿った汗が感じられる。
―――何を「話すまい」としているのか。それを探る必要があった。
けれど、直接水を向けはしない。

「憑かせる、か。へぇ……西洋魔術には明るくないの。もっと教えて欲しいな」
会話を続けることで、矛先をずらす。
意識の空隙を招く為に。
「あなたの使った術、あれは風のものよね?」
昂ぶる瑞希とは裏腹に、彼女自身、汗ばんではいるが―――口調は至って平静だ。
「式、いえ、使い魔無しでもあれだけの術が使えるなんて、凄いわ」
媒介も無しで呼び出したということは、彼女にすれば、それなりに感嘆に価する。
しかし、維ぐ言葉の調子が長閑なのは、相手を焦らすため。
腰を振って快楽を貪る瑞希の背を、娘の腕が抱く。
密着する体温が相手の衝動を昂ぶらせるものだと知りながら、ローブ越しの肩甲骨に指を延わせる。

交わす言葉は睦言に似て、しかし歴然と違う。
あら、人が来る。そんな、ちいさな囁き。
「人払いはしていないものね。ね、お仕舞いにする?」
残念、とでも言いたげに。
「あなたと、もっとお話したかったんだけど……でも、あなたはどうしても
 わたくしに心を許してくれないみたいだもの」
稚拙といえば稚拙、そして強引な論理だ。
相手の思考能力の低下を見越して差し込む、陥穽。
蠢動に合わせて、吐息と声音が瑞希の聴覚を内側からくすぐる。
「あなたのこと、ぜんぶ知りたいのに」

【あらら……っていうか、ははは;】 
【次スレまでに終わるかなぁ、微妙なとこですね】
【あ、(伸びるから)解説は適当に省いて下さい】
671戸田瑞希 ◆3gLUZ2c4N. :2007/09/09(日) 01:24:09 ID:YOiH4otw
【残り1kbもなく。このまま埋めたほうがいいのでは……と判断】
【終わるまでにレス数が微妙な数になりそうですが、次スレに移行します】
【……そういうわけで書きたいように書くので悪しからずw】
672五通青姫 ◆8H.MHFz.Ts :2007/09/09(日) 01:26:18 ID:gALWoi6b
【らじゃーですー】
【よかった……フライング無駄じゃなかった……!(←それはない】
673名無しさん@ピンキー
引退者続出な今日この頃なわけですが、
ある意味今が新規参加のチャンス。
というわけで、興味がある方はこちらへとどうぞ。

■現代退魔戦記板
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/6589/

そして次スレはこちら

【妖魔】現代退魔戦記 第九章【退魔】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/erochara2/1188745145/l50