山の牧場

すごく怖い話だと聞いたが詳細ｷﾎﾞﾝ

山の墨汁

恐怖の味噌汁

http://3.bp.blogspot.com/-p6-uqS9ls_0/TWZb-3VGmZI/AAAAAAAADe8/i1uAL_Z9Hrg/s1600/SDMT-339.jpg
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　|＿＿＿
　|　　 　＼　　知らないほうが
　|　 ,ノ　 ＼ 身のためだ・・・
　|　（ ●）ｕ ＼
　|人__）　　　|
　|⌒´　　　 ／
(⌒ー─'　 　）

新耳袋買え

http://kobatech.iza.ne.jp/blog/entry/386074/

大阪弁講座 第一回「なんや」
今回はイントネーションやアクセントによって多彩な意味を持つ「なんや」について扱います。
例文では住人が「コレなんや」と言おうとして間違えて「なんやコレ」と言ってしまい他住人とケンカになってしまいます。
大阪弁では語順が入れ替わると大変失礼な言い方になってしまう事があります。気をつけて使いましょう。

DION A「なんやコレ」　　　　　　　 (何ですかこれは)
DION B「なんやと！」　　　　　　　(何を言っているんだ！)
DION A「『なんやと』ぉ!?」　　　　　(「何を言っているんだ！」だって!?)
DION B「なんや!?」　　　　　　　　　(何か言いたい事でもあるのか!?)
DION A「なんや!?」　　　　　　　　　(何でそんなに怒るんだ!?)
DION B「なんや!?」　　　　　　　　　(何だやる気か!?)
DION C「なんや」　　　　　　　　　　(何事だ)
DION DEF「なんやなんや」　　　　　　(何が起きたのだろう)
DION C「なんやケンカやて」　　　 (何だかケンカだそうだ)
DION DEF「なんや」　　　　　　　　　　(なんだそうだったのか)
DION A「なあんやあ」　　　　　　　 (※威嚇の声)
DION B「ねえあんやあ」　　　　　　(※威嚇の声)
DION G「もうなんやなんや」　　　　(まぁいい加減にしなさい)
DION H「なんや？なんやねん」　　(何があったんだ？)
DION B「なあーやねん！」 　　　　 (何で関係ない人間が入ってくるんだ！)
DION G「なんやねんてなんや！」　(関係ないとは何だ！)
DION A「なんや！」　　　　　　　　　(お前もやる気か！)
DION B「なんやーーーーー！」　　(※怒りを爆発させた声)
DION ABCDEFG「ああ、なんや…」　(新スレ立ったのか、>>1乙」

川

山

山

山

前すれが容量オーバーで書き込み不能になったため、当スレに移住する

まえスレ「シェリル濃霧」
http://uni.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1352239602/l50

当スレは、物語の下書きないし清書、および献立の羅列として使用する
宗家の識の語部が物語を、宗家の識の献立が献立を、それぞれ担当する
今までに騙られた物語、
および今後騙られる予定の物語の一覧は、概ね下記のとおり

主伝
第一話　最後の宗家
第二話　虎御前を継ぐもの
第三話　悪魔の棲む島
第四話　双頭の鷲たち
第五話　竜彫りの男
第六話　紅の騎士たち

副伝
歳の左近妖怪退治秘話
其の壱　退魔師、歳の左近
第二話　識神合戦
第三話　楢山ブス考
紀の家の古き伝へ
其の壱　紀の子とウンコ
緒万の方様欧州怪異談(未定)
其の壱　ロンドンの仰せの通り魔
第二話　アムステルダムの魔婿とロッテルダムの血婿
第三話　伯林人蝋伝説
第四話　北の都の怪僧

シェリルの有無には下記の物語が在り。
主伝
第一話　最後の宗家
第二話　虎御前を継ぐもの
第三話　悪魔の棲む島
第四話　双頭の鷲たち
第五話　竜彫りの男
歳の左近妖怪退治秘話
其の壱　退魔師、歳の左近
第三話　楢山ブス考
紀の家の古き伝へ
其の壱　紀の子とウンコ

p.s.
主伝第六話「紅の騎士たち」と
副伝「識神合戦」の完全版は、クリトリスの酸壱煮に在り。

　 ∩_,,∩
　(　・ x ・) 　　　これより、主要aaの移管を行う
　( つ旦と　,.-､ 　
　と＿)＿) (,,■)

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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i::l:::::i:::/ﾞl:::::::::itf'芹��ﾐヾ／／　" 　 ﾉﾉ:::ﾉ::/}:::/
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　 / i::i:::::::i::::::::l::::::::ﾄﾐx､ 　 `::.._..，　　_.ノ!ﾉ}::::::ﾉ
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　　　　　　　　　　　　　　　　こんばんは。黄泉の国より、只今参上。

ま、適当に・・・
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歳の左近妖怪退治秘話
其の２【識神合戦】序

式神は識神または単に識・式、とも言う
陰陽道の概念で、呪術者が創造しかつ駆使する精霊魑魅魍魎の類。
識はそのクリエーターである呪術者の指示にのみ従う、とされる。
すなわち
「宗家の式神」とは、
「馬蹄等最後の宗家であった源朝臣鞠子が創造し、
　かつ彼女のみが駆使し得る式神たち」という意味である

それゆえ、
彼ら式たちはクリエーターである源鞠子以外の指図は受け付けない
それがたとえ馬蹄等最強の呪術者であった歳の左近であるとしても、
宗家の式たちを制御することは出来ないのである・・・

ココは見捨てられた地、栗と栗鼠の里。
その名のとおり栗の木が繁茂し秋になるとそれに実がなり、
その実を求めて栗鼠たちが集まってくる。
そんな鄙の里である

そのような長閑な風景とは裏腹に、
ココは痩せ地で穀物の実りは甚だ芳しくなかったために、
一時わずかばかりいた里のものたちも一人去り二人去り、
いまでは古くから里の長者を勤めている慈円家のものと、
安住の地を求めて、この地にやってきた歳の左近と羊水。
現在確認できる住人は、今のところ彼らしかいなかった。
・・・
いや。まだ他にも、いた。
そう、宗家の式たちもココにひっそりと佇んでいたのだ…


緒万戸の里からココクリトリスの里にやってきた左近と羊水は
ココがあまりにも鄙びている、と言うよりむしろ
無尽の荒野に近いことに驚いたものの、さりとて他に行く当ても無く
やむなく暫くの間と言うことでココクリトリスに逗留することにした

茶に一家言を持つ羊水は、当地のお茶である慈円茶の葉と
緒万戸の里を去るときに持ってきた羊水茶葉をブレンドし、
新茶の精製などの試行錯誤に時を費やしていたが、
左近のほうは何をするということも無く、暇をもてあましていた

「コレなら黄泉の国におった方がまだ楽しかったかも知れんな…」

宗家守役という身分でありながら、
自分を現世に呼び戻した宗家のことを少し恨みがましく思う左近であった

　 ∩_,,∩
　(　・ x ・) 　　 どうも。当地の長者で慈円と申します
　( つ旦と　,.-､ 　当地は何も無きところゆえ、さぞや退屈でございましょう
　と＿)＿) (,,■) せめて茶など、召しませ

・・どうぞ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ､
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↑これは握り飯。つまり米ではありませんか
　・・慈円殿。
　失礼ながら当地は痩せ地で、穀物も満足に取れぬと聞いております
　このような贅沢な食い物をわれら旅のものに振舞ってはなりません
　また我らもこのような貴重な食い物をいただくわけには参りません


と、左近は言った
その左近の言葉に傍らにいた羊水も頷いた

　 ∩_,,∩
　(　・ x ・) 　　
　( つ旦と　,.-､ 　お気に触りましたのなら何卒ご容赦くださいませ
　と＿)＿) (,,■) 　実はいささかお願いしたき儀がございまして…


さればまず、その願い事とやらをお聞かせいただけませんか
こう申し上げては何ですが
ご当地に参ってよりこの方、何もすることとて無くいささか退屈しておりました
何かお困りのことがあるのでしたら、私でよろしければお手伝いいたしましょう
しかしその見返りとして、このような華美な食物を頂戴するわけには参りません
食い物欲しさに事を請け負ったとあっては、
この歳の左近、馬蹄等の一人として生涯の名折れとなりましょう
まずは、この握り飯をお片づけくださいませ
その上で何なりとお話など伺いたく存じます

・・と、左近は言った

　 ∩_,,∩
　(　・ x ・) 　　 これはまた、ご配慮の行き届いたご挨拶、痛み入ります
　( つ旦と　,.-､ 　 さすがは「馬蹄等にその人あり」とまで言われる左近様。
　と＿)＿) (,,■) 　この慈円、深く感じ入りました

さりながら、
もとより左近様ほどのお方を握り飯にて釣り上げよう、
などという浅ましき気持ちはこの慈円にもございません
このお握りメシは真にもてなしの心よりお出ししたものでございます
またせっかくお出ししたものを引っ込めるというわけには参りません
なぜなら、もう炊いちゃったわけですから。でしょ？
炊いた飯は暖かいうちに食べるのがよろしゅうございます

それでもやはり気兼ねがあると仰るのでしたら、
一個の握り飯を我らで等分に割っていただくというのはどうでしょう？
コレなら左近様、羊水様も異論はございますまい。いかが？

・・と、慈円が応じた


その慈円の言葉に
傍らにいた羊水も深く頷いた 「ではみんなで割って頂きましょう」


いただきます、っと

　　　∧ ∧ 　　 ∧ ∧　 ∧ ∧　 　∧ ∧
　　　(*ﾟーﾟ)　　 (*ﾟーﾟ)　(ﾟーﾟ*)　　(ーﾟ*,,)
　　　/ 　 つ　　 ( つＯ　∩ と)　　 と 　 |
　〜（＿つ|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣|__ノ〜
.　　 |￣|し| 　 　 　　 　 　 　 　 　 　 ||￣|

　 ∩_,,∩
　(　・ x ・) 　　
　( つ旦と　,.-､ 　では皆で仲良くおにぎりを割って食べ終わりましたところで
　と＿)＿) (,,■) 　そろそろ本題に入りたいと思いまふ。

・・・
そもそもココクリトリスの里には古より伝わる三種の神器というものがございまして、
ひとつがアヌスの鏡。
もうひとつがヴァギナの勾玉。
そして最後が、この里の名にもなっておりますクリトリスの剣です
この三種の神器が
この里の南にあります栗と栗鼠神社に納められていたころは、
この里も今のような貧しい寒村ではなく、
穀物の実りも豊かで四季の草花も咲き乱れ、
優雅で麗しい里だったのでございます

しかしあるとき、
何処よりかやってまいりました悪しきものがこの神器に取り憑き
それを神社の内より盗み取って、
この里の北にありますココクリ山という山の中に隠してしまったのです
神器を奪い取られたココクリトリスの里はそれ以来、神の加護から見放され、
穀物も満足に実らぬ貧しい鄙の里になり果ててしまったしだいでございます

このようなお願いを通りすがりの旅のお方であるご両所にお願いするのも
如何なものかと存じますが、左近様。羊水様。
もしできることでしたらココクリ山まで参って
その言い伝えの悪しきものより三種の神器を取り戻していただけないでしょうか？
もしその神器がわれらの手に戻り、再び栗と栗鼠の神社に納められますれば、
この里も昔の豊かで麗しい姿を取り戻すことができるのではないのか？と
この里の長者である、わたくし慈円はそのように考える次第でございます


・・ご静聴、ありがとうございました

「なるほどそのようなことがございましたのか…
　ならばこの歳の左近、微力ながらご当地のために一肌脱ぎましょう
　しかし、悪しきものというだけではとりとめのない雲をつかむような話。
　そのご当地の神社より神器を盗み出していったものを追うに当たって、
　そのものの情報あるいは何らかの手掛かりなどはございませんか？」

「手掛かりでございますか…さしたるものはございませんが、
　そのものがクリトリスの神社より神器を盗み取っていった際に、
　このような置手紙を残しおきました」

慈円はそう言うと、左近・羊水の二人に一通の手紙を差し出した
そこにはこう書かれてあった


　　　　　　|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣|
　　　　　　|　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 |
　　　　　　|　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 |
　　　　　 /　　三種の神器　　 　　　/＿＿＿__
　　　 　 /　　　頂戴しました　　　　/　　　／/
　　　　/　　　 　　ﾊ,,ﾊ　　　　　 　 /　　／　/
　　　 /　　　　　（ ﾟωﾟ )　　　　　/　　/　　/
　　　/　　　＿＿＿＿　　　　　/　　/　　/
　 ／　　　土田喜屋武　　　　　／　　/　　/
／　　　　　　　　　　　　　／ 　 　/　　/
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣/　　　/　　/



　　　　「つちだ…きやたけ？」

恐れながら左近様。
その字は喜屋武とかいて「きゃん」と読むではございませんかな？
熊襲よりさらに南に下ったところに琉球という島がございまして、
そこには「きゃん」という地名がございまして、
それを漢字で書きますとこのように「喜屋武」と書くのでございます

羊水の指摘に左近は思わずうなった「ううん…これをきゃんと読むのか」
「はい。最近では喜屋武千秋、喜屋武豊、などといった河原乞食の類も
　本朝に来ておるようでございます」
「なるほど。それにしても羊水殿、ソナタ顔に似合わず物知りであるな」
「・・・・」
「では三種の神器を盗み取った不届き物の名はツチダキャンと決まった
　名さえわかれば相手の居所もおのずからわかる」

その左近の言葉に慈円は小首をかしげた
「しかし、左近様…ココクリ山はたいそう広うございます。
　その山中に何処にそのツチダキャンなるものが潜んでいるのか、
　探し当てるのは容易なことではありますまい」
「いやいや、慈円殿。
　こう見えても私は馬蹄等ではその人ありとまで言われた呪術者。
　相手の名さえわかれば、あとは我が式神を使って追跡は可能でございます」
「敷き紙、でございますか？」「・・・・」

宗家式神献立語部。双翼双輪双頭双璧。
生者必滅会者定離。唐揚げ五つは食べ過ぎだ
その上さらにきつねうどん・・・


歳の左近が↑のような怪しげな呪文を唱えますと、あら不思議。
左近の傍らにあった一枚の敷き紙が風もないのにひらひらと舞い上がり、
それに目鼻がついて手が生えて、あっという間に妖しの姿となりました

「これぞ我が式神が一、イッタンモメンよ。
　イッタンモメン、目指す相手はこの里の北に有るココクリ山に隠れ棲む、
　悪しきもの。その名もツチダ・キャン。
　そのもののところまで我らを案内いたせ」

左近がそう命じますと、目鼻のついた左近の式神イッタンモメンは
舞うように踊るようにひらひらとココクリ山目指して飛び始めます

「それ、道案内ができた。羊水殿参ろうぞ」
こうして左近と羊水のふたりも式神の後を追って
ココクリヤマニ向かって走り出したのでありました…

さて、ココクリ山のふもとまでは
意気揚々と一直線に飛んできました左近の式神イッタンモメンでしたが、
山中に入りましてからはなにやら道に迷っているようで
あちらにフラフラこちらにフラフラと空中を漂っており、
いささか頼りなげな様子です

「どうした、イッタンモメン。ここに至って迷うということはあるまい？」
「しかし、そう仰られても左近様。
　相手の名のみで、その者の棲家をピンポイントで探り当てることなど、
　左近様の式神といえども、果たしてできることなのでございますか？」
「羊水殿。名のみと申すが、その名のみこそが大事なのでござる
　相手の名を知ればその実も知ることができる、というのが陰陽道の考え方。
　相手の名はツチダキャンとわかっているならば、その居所もすぐに知れるはずなのだ」
「しかし、実際のとこ迷っておるようですな、左近様の式神イッタンモメン殿も…」
「うむ、確かに・・・・私にもそれが解せぬ」

と、そのとき。
微かな悲鳴とともに式神イッタンモメンは空中で八つ裂きにされ、
元の敷き紙の姿に戻ってひらひらと地上にに堕ちてまいりました

「なんと。これは如何なる事ぞ」
「ひょ〜ほほほほほほほ…。
　これが馬蹄等随一の呪術者と言われた歳の左近の式神かえ？
　なんとも頼りなきもの」

哄笑とともに姿を見せたそのものは、
男だか女だかなんだかよくわからない中性的な雰囲気を漂わせ、
右手には剣を、左手には鏡を持ち、
首からは何やら勾玉らしきものをジャラジャラと提げております

「おのれ…そのほうこそが
　クリトリスの里から三種の神器を奪い去った悪しきものツチダキャンだな。
　三種の神器をフルセット身につけているから、見るからにすぐわかるワイ」
「ヴァァァァカ。私の名はツチダキャンではなく、ドタキャンだ。
　喜屋武と書いてキャンと読む。土田と書いてドタと読む。
　すなわち、土田喜屋武と書いて、ドタキャンと読むのだ。
　土田をツチダと読んだのはお前の勝手な思い込み、読み違いじゃ。
　我が名を間違えていたゆえに、お前の式神も道に迷ってフラフラしておったのじゃ。
　このまま黙って隠れてやり過ごしてもよかったのだが、
　そうすると物語が先に進まず、何かと面倒くさいので、
　こうしてわざわざ姿を見せてやったのじゃ。有り難く思え」
「ううむ、そうであったか…
　丁寧かつ詳細に解説してくれて有り難う、ドタキャンさん」
「・・・・」

【式神合戦】

「さて、歳の左近。
　おのが式神の程度はこの程度と知れたわ。ワロスｗ
　さすれば今度は我のほうの式神を見せてくれよう」

土田の喜屋武はそう高言すると、
右手に持ったクリトリスの剣と
左手にあるアヌスの鏡を胸の前で交差させ、
怪しげな呪文を唱えだしました

「我が名は土田の喜屋武北惟。我が名のもとに式神をば召喚せん。
　一件目：ドタキャン 二件目：ブサ 三件目ドタキャンキタコレｗ
　夕方からセフレ候補と飲みがあるけどテンション下がってきたぁ…ワロス！」

土田の喜屋武がそんな感じの呪文を適当に唱えますと、あら不思議。
土田の右手にあった剣が巨大な陰の核に、
また左手にあった鏡が巨大な尻のアナに、
そして首に下げていた勾玉が巨大な膣に、それぞれ姿を変え、
いっせいに左近めがけて襲い掛かってまいりました

「三鷹。…いや、見たか。
　これこそ我が式の術と当地の三種の神器の魔力を合体させた進化系式神じゃ。
　冥土の土産にとくと拝んでから、さっさと逝くがよいわ。wwww」
「・・・・」

【ヴァギナ・デンタータ】（ラテン語: Vagina dentata）

ヴァギナデンタータとは、
ラテン語で「歯の生えた膣」または「歯のある膣」を指す言葉。

歯の生えた膣に陰茎を噛み切られたり
膣の中に武器を隠し持った女に殺されたりする民話や神話、
あるいは御伽噺の類は世界各地に存在する。

歯の生えた膣という概念は精神分析でも重要な意味を持つ。
フロイトはヴァギナ・デンタタについて、
男性の持つ「去勢不安」に関係していると述べた。
またこの恐怖の源を、膣の入り口である女性器の形が
口のようだと連想されることにあるとする見方もある

(原典はwiki。抜粋、推敲済み)

道案内の式神イッタンモメンをアッサリ切り裂かれ、
次の式神を召喚する間もない左近様は、
襲い掛かってくる三匹の進化系式神を迎え撃つべく
やむなく腰に差していたオニギリを抜き放ちました

…歳家伝家の宝刀「鬼切り」に関しては、
「馬蹄等の物語」の第二話他をご参照ください
しかし、いかに伝家の宝刀オニギリといえども、
敵が三匹もいるとあってはどうにもなりません。
右からは巨大なクリトリスが、
左からはでっかい尻のアナが、
そして中央からは鋭い牙をむき出したヴァギナが、
同時に左近様目掛けて襲い掛かってまいりました。危うし、左近様・・・

と、そのとき。
突如として中空が裂け、
その裂け目から二匹の新たな式神が姿を見せました
獣の頭に人の身を纏ったその二匹の式は、
姿を見せるやいなや、
左近様の左右から襲い掛かるクリトリスとアヌスをがっちりと受け止めました

「そなたらは・・コンダテ！カタリベ！」

鬼切りでヴァギナの牙を抑えつつ、左近様は驚きの声を上げました

そうです。その獣頭人身の二匹の式こそ、
「宗家の式神」献立さんと語部さんだったのです…

　　　　 　 ,､　　　 　 　 ,ィ!　　　　　　　　　　　　　　　　 　
　 　 　 　 !＼ヽ--‐- '" /　　　　　
　　　　　　V/::::::::::::::::::V:!　　
　　　　　　 |::::tｪ:::::ｨｪｧ:λ　　　　 お待たせしました・・・・
　 　 　 　 　!:::::(,,o,,):::::/::ヽ　　
　　　　　　 　>::::´｀::イ:::::::::ヽ　　
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【ちょっと道草話〜緒万戸羊水とは？】

お話の本筋からは外れますが、ここらで少し息抜きとして
このお話で左近さまの御供を勤めている羊水さまについて
少し補足しておきたいと思います

羊水さまは今回のこの事件の後も左近さまの相方を度々こなし、
万事にそつがなかったので終には馬蹄等の一門として迎えられ、
その出身村の名を苗字として「緒万戸羊水」と名乗り、
嫁も娶って一家を興すことになりますが、
これが今に続く馬蹄等緒万戸氏の始まりとされています

皆さんは「緒万戸」と聞くとすぐに
馬蹄等伝説の勇者の一人であった草稲(くさいね)のことを思い出すでしょう
しかし彼、緒万戸草稲は緒万戸の家のものとしては特異な存在だったのです

緒万戸の家はそもそも初代の羊水からして茶人でありまして、
その子孫も羊水の子の腐羊水から以後、
割徳斎、南鶴斎、八白菜(やっぱくさい)…というような優れた文人を
次々と輩出してきました
いわば緒万戸の家は馬蹄等の文化担当部門の一郭を担ってきた家柄なのです

そういう意味で、
武人として名高い緒万戸草稲は
緒万戸の家のものとしては特殊な存在であった、ということでございます


…道草であるにも関わらず、いささか話が長くなりました
ここら辺で蛇足のお話はお開きということに致しましょう

クリトリス進化系式神と左近様＋宗家の式神である献立＆語部。
この３対３の対決は、
互いの力量が均衡していたのでありましょうか、
相撲で言うがっぷり四つに組んだ状態で両者一歩も動きません。

「ええい、何をしている。クリトリス、アヌス、ヴァギナ。
　神器とまでいわれたお前たちの力はその程度か？
　さっさとそいつらを屠ってしまえ！」

悪の陰陽師、土田喜屋武は
この意外な展開に焦りの色を浮かべ、声高に叫びます
左近様のお供、緒万戸村の茶人羊水のほうも、
これはうかつに手出しができぬと
傍らで手に汗握って事態を見つめるばかりです。…と、そのとき。

「羊水。これを取れ」

その声とともに宗家の式神の一、献立さんが
一瞬開いた片手を使って一振りの太刀を羊水に投げてよこしました
投げられたその太刀をかろうじて受け取った羊水。

「こ、この御太刀は？」
「その太刀こそ宗家の守り刀、虎御前。
　羊水。いま我らと左近はクリトリス三種の神器と相対している為、動けぬ。
　ゆえにそなたがその太刀を使って悪の根源、陰陽師土田喜屋武を切るのだ」

工ｴｴｪｪ(´ﾟдﾟ｀)ｪｪｴｴ工

わ　た　く　し　が、　で　ご　ざ　い　ま　す　か？


「し、しかし式神さま。私は一介の茶人でございますよ？
　太刀を持ったことすら、今この時が初めてだというのに、
　それを振るって土田喜屋武を切ることなど、わたくしには到底…」

狼狽し、ドモリぎみに言う羊水は、
そのとき直接自分の心に語りかけてくる声を聞きました

（緒万戸村の茶人、羊水。心配せずとも、よい。私がやる）

（え？この声は…いったい何処のどなたで？）

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　　　　　　　　　　　　　　　こんばんは。馬蹄等宗家源鞠子、黄泉の国より、只今参上。

【羊水と鞠子、心の中での会話】

御声の主は、馬蹄等の御宗家様？されど・・・
左近様からお聞きしましたお話では、
御宗家様と左近様は召喚呪文を唱えることで
ココ現世とアソコ黄泉の国を往還し、
その身の居どころを互いに入れ替えることができる、
というふうに伺っております

このことはすなわち、御宗家様と左近様は
一方が現世にいるならば、もう一方は必ず黄泉にいる、
両者が同時にひとつの世界に存在することはできない、
ということになるのではございませんか？

いま、現世には左近様がおられます
さすれば御宗家様は黄泉の国にとどまらねばならず
御身をココ現世に入れることはできない
・・ということになりませんでしょうか？

【宗家回答】(羊水の心の中で)

そなたの疑問、至極もっとも。
確かに左近殿が現世にいる今、
私がこの身をそちらの世界に入れることはできない

しかし体は入れられなくても、心はアクセスできる
ゆえに今このときだけ、そなたの体を一時、私に貸し与えよ
そなたの体を借りて、私が悪の陰陽師土田喜屋武を切る

・・・・
（承知いたしました。
　馬蹄等の御宗家様が仰ることに何の否やがありましょう
　私ごときの体でよろしければ、存分に使いください）

羊水様が心の内でそのように答えますと、
御宗家も莞爾としてそれに応じました

（天晴れ、羊水。されば今より、そなたの体に入るぞ）
・・・・

【宗家憑依】

羊水さまの眼が一瞬閉じ、
次の瞬間再びその眼が見開かれたときには
そこにいるものはすでに羊水であって羊水にあらず。
おなごの身でありながら武家の棟梁、馬蹄等一門の宗家を勤めた、
あの源朝臣鞠子さまの瞳になっておりました

羊水の身を借りた御宗家は、
手馴れた所作ですらりと愛刀「虎御前」の鞘を払うと、
ドタ・キャンに向かって声をかけます
「クリトリスの里より三種の神器を盗み取った悪の陰陽師、土田喜屋武。
　私がそなたを成敗いたす」

このものには武技の心得無し、と見て取って
当初から歯牙にもかけずに無視しておりました羊水様から、
そのような言葉をかけられた土田喜屋武は一気に頭に血が上ります

「おのれ…一介の茶坊主の分際で、ぬけぬけ大口ほざきおって。
　事が終わってから最後に楽に死なせてやろうと思っていたが、
　それほどの高言を吐いた以上、ただでは済まさぬ。覚悟せよ！」
と喚くいなや、腰の刀を抜き放ち無造作に間合いを詰めてまいりました

羊水様(…実はすでに御宗家様が乗り移っているわけですが…)のほうは、
そんな土田喜屋武を落ち着いて待ち受けます
土田喜屋武も悪と言えどもそれなりのレベルに達している陰陽師、
落ち着き払った羊水様の態度に違和感を感じますが憤りは治まりません
しかし接近して羊水様の瞳を見たときに、すべてを悟りました
（こいつは・・・今までここにいたやつとは違う！）

しかし…時、既に遅し。
無造作に太刀の間合いに飛び込んできた土田喜屋武を
御宗家は、目にも留まらぬ虎御前の一振りで真っ二つに切り裂いたのでした

「そんな・・・バナナ」

そう一言つぶやいて、土田喜屋武は息絶えました

（羊水。見事。)
心の中のその声に、羊水様が我に返りますと
目の前には血まみれになって既に事切れている土田の骸が転がっておりました

（これは…本当に私の体で御宗家様はこれを成しえたのでございますか？)
（いかにも。・・・羊水。
　私がそなたの心の中に降りていたこと、左近殿には秘めて言うな。
　どうせ言うても信じまい。ゆえに、このことはこのままそなたの手柄とせよ)
（それは御宗家様のお言葉といえど、従えませぬ。
　私は武人ではございませんが、茶人としての矜持もそれなりにございます。
　人の手柄を我が手柄と偽るような腐ったまねなど、断じてできませぬ。
　私はただ、御宗家様に身をゆだねただけ。
　これは御宗家様ご自身のお手柄でございます）

羊水様のその言葉を聞き、御宗家はニッコリと微笑まれました

（羊水にその誠心あればこそ、私もそなたの身に乗り移ることができたのだ。
　…誠心といっても４００万でゾッとしてしまう玲子さんのことではないぞ。
　私は誠心ある者にのみ乗り移ることができる。
　それが私の憑依の術の制約なのだ。
　ゆえにこれは誠心を持っていたそなた自身の手柄。遠慮することはない）

緒万戸氏の系譜

�@黎明期
　羊水(緒万戸の初代)⇒腐羊水(羊水の子)
　
羊水は元々緒万戸村の茶人であったが、
緒万戸村の水没により故郷を失い、
たまたまその水没時に緒万戸村に居合わせた馬蹄等の歳の左近とともに
婚活世界を放浪することとになる

さまざまな冒険を経て
左近の故郷である馬蹄等の里にまで同行した羊水は、
馬蹄等の里に根を下ろし、嫁を娶り小さな庵を編み、
その庵の傍らに旅の途中もずっと持参してきた茶の種子を植え、茶畑の経営を始める
羊水の子の腐羊水も父の後を継ぎ、茶畑の育成に精進した結果、
馬蹄等の里の一郭に広大な緒万戸の茶畑が出来上がる

これが後世、「お茶といったらそれは緒万戸」
とまで言われる高級ブランド「緒万戸茶」の礎となるのである

緒万戸氏の系譜

�A中興期
　緒万戸割徳斎(わりとくさい)
　緒万戸南鶴斎(なんかくさい)
　緒万戸八白菜(やっぱくさい)

羊水から数代を経て、緒万戸は三人の名匠を世に送り出す
それが上記の緒万戸割徳斎、南鶴斎、八白菜の三名である
彼らは先達の工夫によって高品質の極みに達していた緒万戸茶を、
さらに美味しく頂くために、
美味しいお茶の入れかた飲みかたその他礼法一式を整備し確立する

ここに緒万戸茶は単なる飲み物というだけではなく、
緒万戸流茶道とでもいうべき伝統文化にまで昇華されることとなった
緒万戸流茶道家元は「宗匠」と呼ばれ、
これ以降、緒万戸の当主は茶のみならず
馬蹄等の伝統文化全般の保護管理育成に貢献していくこととなる

当時のわらべ歌にこういう歌がある
「馬蹄等に御宗家様はふたつあり、おもて源、裏が緒万戸」

緒万戸氏の系譜

�B近現代
　仁王(におう)⇒香(かおる)と草稲(くさいね)

こうして長きに渡り馬蹄等の文化担当部門として、
その職責を実直に果たしてきた緒万戸の家からも、
ついに武官となるものが出てきた。それが緒万戸仁王である。

仁王は伝統文化である緒万戸茶の宗匠を勤める一方で
同時に武技にも傑出したものがあったために、
当時の馬蹄等当主であった源ウマイヤは
彼を武官に抜擢し、側近として重用した

その仁王に一男一女あり、
娘の名を香といい、息子を草稲と言った
その二人の子もいずれも優れた人物であったが、
いかなる運命のいたずらか、それぞれに数奇な人生を歩むこととなる

しかしそのことは、また別の折節に物語ることといたしましょう…

羊水殿・・いや、御見それいたしました。
　息を呑むほどの見事な太刀技。
　いったいいつどこであれほどの武技を会得されたのか？
　羊水殿があれほどの業持ちとは見抜けなかったこの歳の左近、
　汗顔の至りでござる」

左近様に声をかけられ、ふと気づくと
御宗家は既に羊水様の心の中から去り、
左近様と献立語り部の宗家の二式が、羊水様の傍らにやってきておりました

アクの陰陽師ドタキャンの死とともに、
クリトリス三種の神器も進化系式神としての神通力を失い、
クリトリスアヌスヴァギナの禍々しき姿から、
本来の剣鏡勾玉の神々しい静かな姿に戻っていたのでございます

血をぬぐい鞘に戻してから
宗家の守り刀「虎御前」を恭しく献立さんにお返しした羊水様は、
御宗家さまより口止めされていたことはいえ、
やはり真実を告げずにはいられませんでした

「左近様。ただいまの太刀技は私の成したことではございません
　馬蹄等の御宗家様が、私の体を使った成した御業でございます」
「御宗家？…羊水殿、何を申している？
　以前にもお話したとおり、
　御宗家と私左近は常にその身は入れ替わり。
　私がこの世にいる間は、御宗家は必ずやあの世にとどまらねばならない
　今私がココにいる以上、御宗家がこの世に戻って来られるはずはないぞ」
「でも本当なのでございますよ。
　本当に先ほどのわずかな時間だけ、
　御宗家様が私の体に乗り移っていたのでございます」

懸命に主張する羊水さまの様子をしばらく黙って見つめてから、
左近様はぼそりとつぶやきました

「羊水殿…クリトリスの里に戻ったら、
　近在の腕のいい医者にお薬を処方してもらうことにしよう。・・ね？」

・・・・
かくして悪の陰陽師ドタキャンを倒した左近様と羊水様は、
邪気の解けたクリトリス三種の神器を抱えてココクリ山をあとにし、
慈円殿の待つ栗と栗鼠の里へと戻っていかれました

帰路、左近様は
時折気遣わしげに羊水様のほうを眺めやりますが、
羊水様はそんなことは素知らぬていで楽しげに歌を口ずさんでおりました
その歌とは、イカのような歌詞でございましたそうな。

宗家式神献立語部。双翼双輪双頭双璧。
虎の御前に御宗家憑依。これに勝れるものは無し。
えんやらさ〜ホイサッサっと♪



歳の左近妖怪退治秘話その弐　「識神合戦」　完

このお話に登場した主な人々

【歳の左近】
　馬蹄等の武士にて呪術師。馬蹄等の宗家源朝臣鞠子の守役。
【緒万戸羊水】
　緒万戸村の茶人。左近のお供。
【栗と栗鼠の慈円】
　栗と栗鼠の里の長者。三種の神器の奪還を左近と羊水に依頼する。
【土田喜屋武(ドタのキャン)】
　陰陽師。 栗と栗鼠の里から三種の神器を盗み取った悪い人。
【イッタンモメン】
　左近の式神のひとつ。道案内の式。いわゆるカーナビみたいなもの。
【献立・語部】
　馬蹄等の宗家源朝臣鞠子の式神。
【源朝臣鞠子】
　馬蹄等宗家。
　馬蹄等のすべての物語の出発点にして、かつ帰結点ともなる人物

ちんぽ

蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物醍醐菓子胡瓜漬物似
即席麺似果実菓子似鮭缶詰福豆珈琲紅茶残

馬蹄等の物語　主伝第六話
【紅の騎士たち】プロローグ

幼いころよりお転婆な娘だった
どのくらいのお転婆だったかというと、たとえば
そこらへんの野や山を男児たちと一緒に走り回り、
草むらで地を這う蛇を見つければ、敏捷にその尾をむんずとつかむや
その蛇を頭上でびゅんびゅん振り回して周りの男児を追っかけて泣かすというような、
まぁその程度のお茶目なことは日常茶飯事、というぐらいのお転婆だった

「私の育て方が悪かったのでございましょうか
　おなごだと言うのにあんなお転婆に育ってしまって…」
「いやいや良いではないか。あの子は聡い。
　その上にあれだけ心身闊達ならば、何も申すことはない
　そなたの育て方が悪いなどということは決してないぞ
　健やかに育っているではないか。気に懸けるようなことはない」

母の心配をよそに父の方は楽しげに目を細めて、
そんなお転婆な愛娘を見つめていた

しかしそんな父も、やがて娘に驚かされるときがきた。
お転婆だった娘が成長し成人のときを迎えると、
父は家の慣わしに従い、娘に一振りの太刀を与えるとともに
そなたの願い事をひとつだけ聞いてやる、と告げた
これはそのときに何を願うかによってその子の資質を見極めるという、
養育の最終確認の意味合いを持つものでもあった

長ずるに及んで容姿はすっかり女性らしくなってはいたものの、
幼いときよりのいたずら好きの瞳を依然としてもっていた娘は
その利発そうな瞳で父を見つつ、こう願い出たのだ

「私、一度べつの世界を見てみとうございます」

【邂逅】

まず履歴書に書かれてある名前が、読めなかった

緒万戸源朝臣紅

これは何だ？何と読むのか？どこまでが苗字で
どこからが名なのか？・・さっぱりわからない

「ええっと…失礼ですが貴女のこのお名前ですが…どう読むんですか？」
「おまんこのみなもとのあそんのくれない、と申します
　『おまんこのみなもとのあそん』までが苗字で、
　『くれない』というのが私個人の名になります
　普段は源朝臣という部分は省略することが多いのですけど、
　本日は採用試験と伺っていたので正式の名乗りを書かせていただきました」
「・・・・・」

こういう訳のわからない人をパートに採用するのは
本来であれば極力避けるべきことなのかもしれない
しかしそのときは他の応募者がとにかく酷かった
デブスの家事鉄で経験無しなのに最低時給三千円くれとか、
中年の多重債務者のオッサンで前金で10万もらいたいとか、
ろくでもない連中ばかり。

そんな中で、彼女の印象はぶっちぎりで良かった
面談していても頭の回転は速いし、言葉遣いも礼儀正しい
容姿もこんな場末のコンビニで雇うのが勿体無いくらいだ
少々変わった点があることぐらいは大目に見るべきだろう、
むしろ掘り出し物かもしれない・・・

そう考えた私は、結局彼女を採用することにした

【与一の視点】

私の名は奈須与一。
両親は早逝し、結婚もせず、ずっと一人で生きている
生家はさほど裕福な家庭とはいえなかったが、
それでも亡き両親は、私に小さな自宅と土地を残してくれた。
会社勤めが性に合わなかった私は両親の死を契機にサラリーマンを辞め、
その相続した土地にコンビニエンスストア「エイトテン」を建て、
以後、そこの店長をしている
小さな店ではあるが一人で切り盛りするのはさすがにきついので、
パートさんを一人か二人、常時雇ってきたのだが、
今までにいいパートさんに恵まれるということはなかった

しかし彼女・・緒万戸紅は違っていた
レジ打ち棚卸しなどという作業はあっという間に覚え、
さらに帳簿のつけ方まで知らないうちに会得しており、
店長としての私の仕事は一気に楽になった。

しかし当初感じた彼女の風変わりさもまた、健在だった
たとえば彼女は商品の値段相場というものをまったく知らなかった
プッチンプリンが百円なのか一万円なのか。知らない
海苔弁当が三百円なのか三億円なのか。全然知らない

…このひとは今までどこでどういう暮らしをしてきたのか？
これほど物の値段を知らずにどうやって今まで生きたこれたのだろう
本当に日本人なのだろうか？ しかし日本語はちゃんとしている。むしろ丁寧すぎるほどだ
帰国子女か何かだろうか？　とにかく不思議な人だった

いまひとつ風変わりなことといえば、
彼女は私のことを店長とは呼ばず、与一様と呼んだ
どう考えても普通は「店長」だろう。与一様て…
まるで愛人みたいな感じがして少しこそばゆかったが
潤いに乏しい人生を送ってきた私にはそう呼ばれることが妙に嬉しくもあり、
あえて「店長と呼びなさい」とは言わなかった
私も妙齢の女性に対して「おまんこさん」とは言いづらかったので
彼女のことを「くれないさん」と呼んでいた
「くれないさん」ではなく「くれないちゃん」と呼んでいいほど、私と彼女の年は離れていたし、
彼女自身も決してお高くとまっているような女性ではなかったのだが、
なぜか「ちゃん」づけで気安く呼べない、
そんな雰囲気が彼女には漂っていたのだ・・・

【紅の視点】

今日は初めての給料日。
与一様からお給料の入った封筒を渡されたので畏まって礼を述べ、
着替えを済ませてから私はお勤め先のコンビニ「エイトテン」を後にした
与一様は少々モッサリとしたお方だが、良きおひとだ
私がお給料の礼を述べると、なぜか少し顔を赤らめながら
「今日は早めに帰っていいよ。遅くなるとここら辺も物騒だからね」と仰ってくれた
そんなこと心配なさらなくともよいのに…
しかしいずれにせよ、良きおひとである

いまは黄昏時。
家路に向う私の傍らに下郎が一人、スッと寄ってきた
「ようよう、お姉ちゃん。暇なら一寸一緒にお茶でもどうよ？
　で、お茶飲んだ後はさ、ホテルでも行って気持ちいいこと…」
下郎がそこまで言い掛けたところで、
私のこぶしが相手の顔面に炸裂した
相手は数メートル吹っ飛んで鼻から血をだらだら流しつつ、
それでもおなごに殴られたということが沽券にかかわるとでも思ったか、
「このクソアマがぁぁぁ！」と叫びながら殴りかかってきたので、
今度はしっかりと腰を入れた肘撃ち一発で、相手を昏倒させた

ざわつく人の群れを後にし、私はそそくさとその場を離れる
少し行ったところで今度は二つの人影が私を待ち受けていた
その人影のひとつが私にこう言った

「相変わらずのお転婆ぶりでございますな、姫。
　もそっと、女子(おなご)らしゅうなさいませ」

「青海。静蛇。そなたたち、いつから見ておったのじゃ？」
「最初から最後まで、とくと拝見いたしておりました」
「これはまた、ひとが悪いものたちじゃな
　そなたらはお父上の近衛のものたちとはいえ、
　いまは私の護衛がお役目であろうに、
　なにゆえ早うに私を助けてはくれぬのじゃ」
「お助けするも何も…」 静蛇が髪をポリポリと掻きながら言った
「あんなにアッサリと片付けてしまわれては、
　われらがお助けする暇(いとま)など、ございませんよ」
「そもそも下郎の一匹や二匹、
　我等がお助けせずとも、姫お一人で十分でございましょう？」
　と青海もニヤニヤ笑いながら答えた。
「あのような些細な輩から、いちいちお助けするために
　我等、姫の護衛をしているわけではありませんので。
　あの程度のもののお相手は、姫ご自身でなさいませ」

「まったく頼りにならん護衛じゃな。つれなきものたちであることよ」
と私は嘆いてみせたが、勿論本気ではない
この二人の真の実力は十分に承知している

「そうじゃ。そういえば今日は初のお給料日であった
　さらには、明日は私のお仕事がお休みの日でもある
　されば私がそなたらにおごってやるゆえ、明日は一日、私に付き合え」
「一日と仰いますと、どこぞ行ってみたい処でもおありなので？」
「うむ。こちらにきたときから一度は行ってみたいと思っていた
　下総国は鼠園に参ろうと思っているゆえ、そなたらも付き合え」
「姫…その鼠園とはもしや…デぃずにーらんどと申す遊戯場のことでは？」
「存じておったか♪ならば好都合。
　明日は三人でディずにニーランドに参るとしようぞ
　お金のことなら心配いたすな。すべて私の奢りじゃ」
「・・・・・」

【もう一人の「紅」】

ディズニーランドのお供と知って、悄然とする青海と静蛇、
そして彼ら二人の気持ちも知らぬげにひとり嬉々とする紅。
黄昏の街中に消えていくその三人の馬蹄等の後姿を、
遠くからじっと見つめている一人の女がいた

やや老けているとはいえ面差しは美人である
しかしその瞳は、冷たくかつ鋭い
紅たちの姿が視界から消え去ってから、
その女はおもむろに傍らに控えているものたちに言った
「あれが馬蹄等の『姫』か」

「いかにも、さようで。馬蹄等当主の娘で、緒万戸紅と申すおなごでございます」
「緒万戸？『みなもと』ではないのか？」
「公の場では源紅と称することもあるようですが、
　平素は母方の姓を採り、緒万戸と名乗っておりますようで」
「…ふん。小娘の分際で生意気な」

どこらへんが生意気だというのかいまいちよくわからないが
その女は同性と相対したときはとりあえず相手を馬鹿にする
という性癖があるようで、口を歪めて侮蔑の嗤いを浮かべた

・・・・
この女はコウセイと言われている人物で、
赤色シナ帝国の初代皇帝、故・毛沢山の未亡人である

毛沢山は毀誉褒貶入り乱れる謎の人物であるが、
いずれにせよ当時混乱を極めていたシナ大陸を統一して
強力な中央集権体制の一大帝国を築き上げ、
その初代皇帝に就任したという事実からも
並みの人物ではないということは知れよう

コウセイは、
その赤色シナ帝国初代皇帝毛沢山の四番目にして最後の妻であった
前の三人の妻は、コウセイによって全員殺された
またコウセイは毛の妻になる前は女優業などをしており、
その頃どうしても勝てなかったライバルの女優がいたが、
その女優もコウセイが皇帝の妻になった後、無実の罪で捕縛され獄死した
コウセイは自分より優位な点を持っている女性、
あるいは今はそうでなくても将来自分より優位になりそうな女性、
そういう女性は皆、殺した

コウセイのこの苛烈な性格は、
政争の舞台においてもイカンなく発揮された
毛のライバルたちは言うに及ばず、たとえ毛の側近であったとしても、
コウセイの気に添わない人物はことごとく消された
毛の死後、コウセイを排除しようという動きがシナ帝国の内部で画策されたが
その動きにも素早く対応し、反乱を試みたものたちは全員虐殺された

その苛烈さに恐れをなした人々は
彼女のことを陰でこう呼んだ。「紅色女帝」と。
・・・・

「やはりここで片付けてしまおうというご意向で？」

傍らに控えていたものの一人がコウセイに問いかけてきた
それは問いかけというよりむしろ念押しに近いものがある
コウセイも深くうなづいた

「言うまでもないこと。馬蹄等の当主の娘がわずかふたりばかりの供連れで、
　こんなところでぶらぶらしているとは勿怪の幸い。この機を逃してなんとする。
　そなたたちはこういうときに備えて、キムの王家から取り寄せたものたちじゃ。
　拓、チ、羅塚麻呂。そなた等の殺しの腕前、今こそ我が前に示せ」
・・・・

コウセイの前半生は殺戮の歴史そのものである
しかし彼女自身は決して自らの手を汚そうとはせず、必ず人にやらせた
そのために彼女は常にその道のプロ即ち殺し屋を己の身辺に置いていた
それは必要のためやむなく雇っているというよりも、
むしろ彼女の趣味嗜好であるかのようにすら思えた

彼女はそういったものたちを平時は自らのボディガードとして使い、
有事に際しては殺し屋として現場に投入した。今このときのように。
今回帯同させているものたちは、
赤色シナ帝国の保護国であるキムの王家から取り寄せておいた、
キム拓、キム智、キム羅束麿の三人。いわゆる『三匹のキム』
と呼ばれている殺しのスペシャリストたちである

【隠し札】

三匹のキムを去らせた後もコウセイは独りその場に佇んでいた
黄昏時も半ばを過ぎ、周囲は次第に夜の帳が降りはじめている

緒万戸紅の倍近くの歳月を生きているコウセイは
いわゆる婆ではあったが、若いころ女優業などをやっていただけのことはあり、
その容色は衰えたりとはいえ未だ艶っぽさを残していた
こんな時刻、こんな所に一人で佇んでいたら、
婆専の男から声を掛けられてもおかしくはないのだが、
不思議なことに彼女の周りには男一匹寄ってこない
それどころか、虫の音すら聞かれない
ただひたすら屍のような闇が広がっているばかりだ

彼女は懐からシガレットを一本取り出し火を点けた
口から吐き出された紫の煙が淡い渦を巻き、闇に溶けていく
と、そのとき、コウセイが不意にその闇に向って声をかけた
「あのキムの王家から来たものたちだが・・・いかが見るか？」

誰もいないはずの闇。しかしすぐに応答があった

「まあ無理でしょうな。到底勝ち目はありますまい」

闇の中から一人の男が姿を現した
長身痩躯に整った顔立ち。美男子と言ってもよい。
ただ、何かが無い。
それが何なのか明確には言えないのだが、
人間であるのならば生まれたときから死ぬまで
本来持っているはずの何かがこの男には欠落していた

この人物こそ、
コウセイの過去の重要な殺し全てにかかわってきた男。
紅色女帝の切り札とも言うべき殺し屋「淋彪」であった

「やはりキム王家程度のものたちでは使い物にならんか？」
「いや、そういうわけではありません。
　あの三人もそこそこの腕前はあるでしょう、
　しかし…馬蹄等のほうが凄すぎますな」
「そなたの買い被りではないのか？
　こんな遠目から少しみただけで腕前などわかるものか」
「わかりますとも。そうでなければ、
　この苛烈な世界で長く生き延びることはできませんよ
　私も、そして貴女も…ね」

【与一の視点】其の二

いままでパートさんとは、私的な事柄は極力話さないようにしてきた
どうせすぐ辞めてしまうし、親しくなっても仕方ないし。
特にパートさんが女性だった場合、
うかつに私的なことを尋ねたりすると妙になつかれたり、
その反対にセクハラだの職権乱用だのと絡まれたりして、
いずれにせよ、ろくなことにはならない
だから女性のパートさんとは私的な話は一切しないようにしてきたのだが、
あの時はどうして彼女に話しかけてしまったのか
今でもあのときの自分の気持ちがよくわからない

「紅さん、なんか妙に楽しそうだね。
　昨日の休日、何かいいことでもあったのかな？」
「え？ええ、とても楽しかったですよ、与一様。」
「彼氏とデートとか？」
「いえいえ、そういうのではなくて(笑)
　お供…じゃなくてお友達と一緒に
　ディズニーランドというところに行って来たのです
　生まれて初めての体験だったのでとても楽しかった…」

「へえ…紅さんぐらいの年齢の女性が、
　今まで一度もディズニーランドに行ったことがないとは珍しいね」
「田舎育ちなものですから。
　私が生まれ育った里の近隣には、ああいうものは御座いませんでした」
「紅さんはやっぱり少し変わってますねぇ・・
　いや、これは決して悪い意味ではないですよ」
「変わっている？そうでしょうか？
　私自身はごく普通だと思っているのですけど。
　ただ、与一様はここ東京でお生まれになったのに対して、
　私はちょっと田舎の、いわば鄙の里で生まれ育ちました
　環境が少し違っていただけ。それだけのことで御座いましょう？」
「その、紅さんのいう『鄙の里』というのはいったい何処なんですか？」
「・・・・」

彼女が急に押し黙ってしまったので、私は一寸慌てた
尋ねてはいけないことだったろうのか？何かマズイことでも…
しかし暫しの沈黙の後、彼女は何か意を決したかのように再び話し始めた

「私が生まれたところは馬蹄等の里と申すところで
　とても良い処です。もし機会がございましたら、
　与一様もぜひ一度遊びにいらしてくださいませ」

【三匹のキム】

「なんじゃ、あのおなごは。
　オッサンと和やかに会話などしておって、隙だらけではないか
　…いま殺らんか？やってしまおうぞ」
「コウセイ様が言っておったろう『殺るときは事前に私に告げよ』と。
　俺たちは雇われの身。気ままなことはできぬわな」
「けっ。今ここにはあのクソ婆はおらんではないか。
　おらんやつのことをいちいち様付けで呼ぶな。全く胸糞悪い」
「言葉が過ぎようぞ。どこに誰が耳を立てているやも知れず、罵詈雑言は極力慎め」
「しかし・・」
「智。羅塚麻呂。少し黙って耳を澄まし鼻を立ててみよ
　馬蹄等のおなごがいる店内だけではなく、
　周囲の気配も、よくうかがってみるのだ」

拓のその言葉に、
智と羅塚麻呂も言い争いをやめて口を閉ざし、辺りの気配を窺った

「・・・外にふたり、か」
「そうだ。いる、ということはわかる。
　だが何処にいるのかまでは、こちらに悟らせぬ
　…さすがは馬蹄等の当主近衛。たった二人だけで、
　姫を守っているだけのことはある。見事な腕だな」
「奇襲は無理、ということか。下手に踏み込めば逆にこちらが背後を取られかねん」
「そういうことだ。とりあえず今日はここまでとしよう。
　そもそも今日は偵察が目的。これ以上留まる事は無用。
　戻ってコウセイ様に事の次第を報告し、裁断を仰ぐことにしよう」

【淋彪とコウセイの会話】

・・・・
「ほう、あの連中、偵察をしてきたと。
　それはまた拙いことをされましたな」
「いかんのか？」
「あのものたちが馬蹄等の護衛の気配を察知できたということは、
　当然馬蹄等の方もあのもの等の気配を感知したということです
　わざわざ危険を知らせてやったようなもの。人数も読まれておりましょう」
「・・では、もはや無理か？」
「コウセイ様のお望みがあの馬蹄等三人を皆殺しにせよ、
　というのであればお断りします。それはもう無理です。
　しかし…殺すのはあのお姫様一人でよろしいのでしょう？
　それでしたら、まあなんとか」
「いかなる手立てか？」
「あの三人のキムを捨て駒に使います」
「ふん…まあよかろう。して、仔細はいかに？」
「あの馬蹄等たちには小細工は通用しませんので、
　三人に正面から当たらせるように仕向けなされ
　彼等三人が護衛二人の動きを一秒だけ抑えてくれれば、
　その間に私が馬蹄等の姫を仕留めましょう」
「一秒？たったそれだけでよいのか？」
「コウセイ様。
　たったそれだけと仰いますがね、一秒というのは結構な長さですよ。
　少なくともコンマ以下の動きで生死が決まる我々殺しの世界では、ね」
・・・・

【紅の視点】其の二

お勤めを終えた私がお店から外に出ると、
青海と静蛇の二人がいつになく厳しい顔つきで待ち受けていた

「二人ともどうした？そんな険しい顔をして」
「姫。どうやらこの世界から退くべきときが参ったようでございます」
「なんと？」
「さきほど不穏なものどもが三人ほど、
　姫がおられます店内を仔細にうかがっておりました
　われらに害意をもつものとみて間違いありますまい」
「・・・いずれの手のものか？」
「さてそこまではわかりかねますが、
　顔立ちが我等とおなじモンゴロイドでありましたゆえ、
　おそらくは半島か大陸のものどもかと思われます
　姫・・いま少しこの地に留まりたいとう姫のお気持ち、
　我等も重々承知いたしておりますが、これ以上のご滞在は危険でございます
　速やかに身づくろいいたし、里にお帰りあるが肝要かと存じます」
「・・・あいわかった。そなたたち程の手練を緊張させるような敵が
　現れたというのでは詮方もなし。里に戻るとしよう。されど…」
「なんぞ心残りなことでも御座いますのか？」

「青海。静蛇。・・このたびの帰郷に際して
　与一様を一緒にお連れする、というわけにはいかんかな？」
「与一様と申しますと？」
「私がこちらに来てより働いているコンビニ『エイトテン』の主。
　こちらの世界での私の雇い主に当たるお方だ。
　あのお方にわれらのふるさとである馬蹄等の里を一度お見せしたいのだ」
「それは・・・・」

物に動じぬのはずの青海と静蛇の二人が、
この私の言葉には暫し絶句していた
呼吸を整えてから漸く青海が諭すように訥々と私に語りかけてきた

「いかに姫様のご所望といえど、それはご無理で御座います
　我等のおります彼方の仮初のの世界と
　与一殿がおられる此方の移し世の世界では、生きる世界が違います。
　このたびは姫のご成人に際しての願い事ということで、
　馬蹄等の呪術によって、我等ごく一時だけこちらに参っているだけの事。
　まして、こちらの世界のものを我等の里にお連れするなどと言うことができるのは、
　馬蹄等最強の呪術師といわれた歳の左近様か、
　その左近様の薫陶を受け自らも一流の呪術者となられた御宗家源朝臣鞠子様。
　このお二方ぐらいしか、おわしますまい」

【与一の視点】其の三

翌日、出勤時刻になっても紅さんは姿を見せなかった

これが今までのパートさんだったら
出勤時刻に遅れるなどということはザラで、こちらも特に驚きはしない
給料を手渡した翌日から何の連絡も無くぷっつり来なくなる、
などという手合いも珍しくない
こちらとしても「ああ、あいつバックレたか」で御仕舞いだ
しかし紅さんはそういうことをするひとではない
今まで無断欠勤はおろか遅刻などもまったく無い、
本当に優秀なパートさんだったから…
やはり昨日、私的な話をしたことがまずかったのだろうか？

・・私は酷く気を揉んでいた

そのとき、入店者を知らせる鈴の音が聞こえた
商品の棚上げを中断してカウンターに戻った私は、
入店者たちの姿を見て、一瞬思考が停止した。
薄い藍色を基調にした地味な色合いではあるが、
明らかに時代錯誤な、鎌倉武士のような身なりをした人たちが三人、
カウンターの前に立っていたからだ
彼らは皆一様に腰には太刀を差し、
頭には…これは烏帽子というのだろうか…そのようなものをかぶっている

(なんなんだこのひとたちは・・・)
ぼんやりとそんなことを思いつつ、
しばらく彼らを凝視してから漸く私は、
その三人の真ん中にたっている小柄な人物が紅さんであることに気づいた

「紅さん・・・これはいったい・・・」
「与一様。長らくお世話になりました。
　このたび火急のことが起こりまして、
　私、馬蹄等の里に帰郷いたすことになりました。
　本当に急なことで与一様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません
　お名残惜しく存じ、かかる挨拶に参ったしだい。
　…こちらのものたちは、
　私とともにこの世界に参り今まで私を守護してくれていたものたちにて、
　歳の青海と紀の静蛇と申すものたち。
　青海、静蛇ともども、与一様にはお礼申し上げます」

・・・
なんと答えてよいものか、私にはわからなかった
辞めるときにこんな礼を述べてくれたパートさんは
いままで老若男女を含めて唯の一人もいなかったし、
それより何よりそもそも世界が違いすぎる…
呆然として答礼もできずにいる私に、
紅さんの傍らにいた男性が声をかけてきた

「与一殿と申されるか。
　我は紅姫のお供の一人にて、紀の静蛇と申す者。
　さぞや驚かれておられることと存ずる。
　実は我等、そなた殿には黙って姿を消そうと思っておったのだが、
　姫がどうしてもそなた殿に最後の挨拶をしたいと仰せられたので、
　かようなことと相成った次第。
　与一殿。・・・全ては夢であったと思われよ
　そのほうが互いのために宜しかろうと存ずる 　
　・・姫。そろそろ参りましょうぞ」

紀静蛇と名乗ったその人物が紅さんを促すと、
紅さんはもう一度私に深々と頭を下げてから、
男性ふたりと共に店の外に出て行った

三人が店内から姿を消した後も、私はしばらく呆然としていた
なにがなんだかさっぱりわからない
あの男がさきほど言ったように、全ては夢だったと思うべきなのだろうか？
しかし・・それでいいのか？ 本当にそれでいいのか？・・与一。

私は自分でも知らぬ間にふらふらと店の外に出ていた
彼らがどちらの方角に向かったのかすら、わからない
それでも私は彼らの姿を求めて歩き出した
もうコンビニのマネージメントなんかどうでもいいという心境になっていた


・・・・
ふと気づくと私は多摩川の河川敷にまでやってきていた
(確かここらへんにはホームレスの集落があったはずだが…)
しかし今はそんなものは何も無い
ただ川面から立ち上る靄が河畔一帯を包み、
なにやらこの世のものとも思われない幻想的な空間がそこには広がっている…

そしてそこに、紅さんたちがいた

【紅の視点】其の三

馬蹄等の里に帰ろうとしていた私たちの行く手を
いま三人の男たちが立ちはだかりさえぎっている
彼等は全員既に剣を抜き、殺気を隠すこともなく私たちを睨み付けていた

「そなたらが申していた『不穏なものたち』というのが、こやつらか？」
「いかにもさようで。・・後方にもうひとり、おりますな
　ウマに乗っているおなごが一人・・ご覧になれますか？」
「うむ。見える」
「あれはシナのコウセイですな」と青海。
「本人は帝位にはありませんが、紅色女帝と言われているシナ帝国の陰の実力者です」
「そうか・・青海。静蛇。そなたらには済まぬことをした。
　私が我侭を申して与一様のところに立ち寄ったばかりに、
　こやつらに待ち伏せする時間を与えてしまったようじゃ」
「何を仰せられますか、姫。姫あっての我等でございます。
　いずれは倒しておかねばならぬ相手ならば、
　いまここで仕遂げてしまいましょうぞ」

【決闘】

青海が歳家伝家の宝刀「鬼きり」を、
静蛇が紀家伝家の宝刀「雲きり」を、
それぞれ抜き放つのに合わせて、紅も静かに腰の太刀の鞘を払った
成人の折に父から譲られた馬蹄等宗家伝家の宝刀「虎御前」である
青海と静蛇がキム拓キムチと、紅は羅塚麻呂と、それぞれ相対した

彼ら三匹のキムは正規の兵ではない。殺し屋である
それゆえに彼らの剣構えもきわめて変則的なもので、
もし相手が初心のものであったならば、
或いは彼らのその特異な構えに幻惑されたかもしれない
しかし馬蹄等の三人にはそのような小手先のまやかしは通用しなかった

太刀の間合いに入るや、青海の鬼きりと静蛇の雲きりが
目にも留まらぬ速さで撓り、キム拓・キムチは即死した
同時に紅も敵の一の太刀をかわすや虎御前を振り切って
一瞬にして羅塚麻呂を切り裂いた。
が、しかしその瞬間、
骸と化した羅塚麻呂の背後から大きな黒い影が飛び出し、
紅の頭上に舞い上がったのだ。淋彪である。

己の気配を完全に消す術を心得ていた淋彪は、
羅塚麻呂のすぐ背後にあたかも影のように寄り添い、
紅が太刀を振り切るこの瞬間を待っていたのだ
刀を振り切っている紅は、頭上から襲ってくる淋彪の攻撃に対処できない
青海と静蛇の二人も、今この一瞬には間に合わない
これこそが淋彪がコウセイに語っていた「一秒の間」であった

「馬蹄等の姫…お命頂戴いたす」
悪魔のような微笑を浮かべた淋彪が囁くようにそう呟いて
手にした剣を紅の頭上から振り下ろそうとした、その瞬間。
横から黒い影が淋彪に飛び掛りその体にしがみついた「！」

振り下ろされた淋彪の剣はその黒い影を刺し貫いたが紅にまでは届かず、
淋彪とその黒い影は両者一体となって紅の傍らに横転した
「与一様！？」
…そう。その黒い影は与一であった
玄人には見えないものが、素人が素人であるがゆえに見える、ということがある
己の気配を完全に消し去って人ではなく物と化していた淋彪を
玄人である馬蹄等の三人は認知できなかったが、
ずぶの素人である与一にはありありと見えていたのだ

「こ、この下郎が！」
思惑を外された淋彪は日頃の冷静さを失って激昂した
そしてそのときに淋彪自身の命運も尽きた
紅の許に駆け寄ってきた青海と静蛇の太刀が、淋彪の頚動脈を裂き心臓を貫いたのだ

後方から馬蹄の音が聞かれた
そこには『切り札』淋彪の死を見、
慌ててウマに鞭をくれて現場から逃げ去っていくコウセイの姿があった

「追うな、逃げるに任せよ！与一様の御身のほうが大事！」
紅のその言葉に青海静蛇も太刀を収め、
与一を淋彪の骸から離し、傷の程度をあらためた

重傷であった

【臨死幻聴】

「ああ与一様・・・私のためにこのようなことに・・・
　申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません…
　青海。静蛇。なんとかならぬか」

直垂が汚れるのも厭わず、
血まみれの与一の体を抱きかかえた紅は
すがるような視線を青海と静蛇に投げかけたが、
一目で与一の傷の深さを悟った彼等護衛の二人も
安易に慰めの言葉を掛けるわけにもいかず、黙然として固まっている
「与一様。与一様。私の声が聞こえますか？どうかお気を確かに…」
その紅の声は、かすかに与一の耳に届いていたが
彼はもう既に口は利けず目も見えなくなっていた

（ああ、もうこれは死ぬんだな・・・）
与一は淡々と、そう思った
痛みも無く恐怖もなかった
不意に目前にやってきた自らの死を、
与一は自然と受け容れようという心境になっていた
そのとき与一の耳に、
紅とも違うもう一人の女性の声が聞こえた （与一。与一。私の声が聞こえるか…）

【宗家降臨】

幻聴と思っていた与一は当初そのまま聞き流していたが、
その声は何度も繰り返し与一に呼びかけてくる。
与一もふと答えてみる気になった

（あなたは誰です？）
（私は源の朝臣鞠子。緒万戸紅の始祖に当たるもの）
（始祖？というと紅さんのご先祖様ですか？おかしなことを…
　ご先祖様ならもうとっくに死んでいるはずじゃないですか）
（そなたもいま死にかけているではないか。さればこそ、私の声も聞こえるのじゃ）
（ハハハ…なるほど。これは一本とられたな
　そうするとあなたは私を迎えに来た死の国からの御使いということですか？）
（そうとも言えるし、そうでないとも言える。
　そなたはこのまま私と共に死の国、すなわち黄泉に行くこともできる
　しかしそれ以外の道もいまひとつ、ある）
（それはどういうことですか？）
（そなたはもはや今までいた世界に立ち戻ることはできぬ
　そなたのようになったものは大抵は黄泉の国に参ることになる
　それがいわゆる死というもの。
　しかしいまひとつ、そなたが望むのであれば、
　私の術によりそなたの魂を生と死の狭間に留め置くこともできる
　紅がそなたに語った我等の故郷『馬蹄等の里』もまた、その狭間の世界にある）
（・・・・・）
（死ねば人は黄泉に行く。それが自然の理というもの。
　生と死の狭間に魂を置くというのはあくまで仮初のものであり、
　決して自然な姿とはいえぬ。ゆえにそなたにこのことを強いることはせぬ
　狭間にとどまるか。それとも私と共に黄泉に参るか。
　それは、あくまでそなたの意思に委ねよう…）

【帰郷】(エピローグ)

ここは生と死の狭間の世界、馬蹄等の里。
里の入り口付近で無心に遊んでいた童たちがふと顔を上げると
地平のかなたに微かにウマの影が見えた

「あ、姫様だ。姫様がお戻りになられた」

童たちは
或るものは紅の帰還を知らせるべく馬蹄等の館に走り去り、
またあるものはそのままそこにとどまって
次第に近づいてくる騎馬に向かって手を振った

「…あれ、おかしいな？姫様、青海様、静蛇様…
　外の世界に出かけられたのはお三人のはずなのに…」

騎馬たちの先頭に立っていた紅が童たちの姿を認め、
にこやかに笑いながら手を振ってきた
その紅の後ろにはウマに乗った男たちが三騎、付き従っていた…


　　
　　馬蹄等の物語　主伝第六話「紅の騎士たち」　完

「紅の騎士たち」に登場した主な人々

【緒万戸紅】(おまんこくれない)
　馬蹄等の一人。正式名は緒万戸源朝臣紅。『虎御前』継承者。
　父は馬蹄等当代当主、母は緒万戸茶宗匠という、馬蹄等のサラブレッド。
【歳の青海】(としのせいかい)
　馬蹄等の一人。 当主近衛にして紅の護衛官。『鬼きり』継承者。
【紀の静蛇】(きのせいじゃ)
　馬蹄等の一人。 当主近衛にして紅の護衛官。『雲きり』継承者。
【コウセイ】
　赤色シナ帝国初代皇帝毛沢山の未亡人。
　毛の死後もシナ帝国内部に隠然たる勢力を持つ陰の実力者。異名は「紅色女帝」。
【淋彪】(りんぴょう)
　紅色女帝の過去の重要な殺しのほぼすべてにかかわってきた、
　コウセイの切り札とでも呼ぶべき存在の殺し屋。
【三匹のキム】
　コウセイがシナ帝国の保護国キム王朝から取り寄せた
　三人の殺し屋、キム拓キム智キム羅塚麻呂の一括呼称。
【奈須与一】(なすのよいち)
　コンビニエンスストア『エイトテン』の店長。
　こちらの世界に来た緒万戸紅をパートとして採用する

　　　　　　　　∧∧　　ミ　＿　ドスッ
　　　　　　　 (　 　,,)┌─┴┴─┐
　　　　　　　/　　　つ.当分休養 │
　　　　　〜′　/´　└─┬┬─┘
　　　　　　∪ ∪　　　 　 ││　_ε３　　　宗家式語部
　　　　　　　　　　　　　　 ゛゛'゛'゛

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【緒万の方様欧州怪異談】序

轟音と共に夜空に浮かんだ銀翼が次第に遠ざかっていくその後姿を、
私は空港のロビーからヨーロピアンティーを飲みつつ見送っていた

いままさに漆黒の夜空に消えていったあの旅客機に乗っている人々が
「世界一蹴マンコのたび」を続けている方々であることを、
私は知っている
先ほどガイドの方が丁寧な別れのご挨拶にこられたので、
「私の苗字にゆかりある世界の各地を経巡っているとのこと、
　嬉しく思います。またいずれ、日本でお会い致しましょう」
と、答礼した

そう。私の名は緒万戸。私はこの苗字に誇りを持っている。
たとえこの名が、東日本の、特に関東圏において
女性生殖器の隠語として使われているとしても、そんなことは関係ない
そんなことは私にとって、どうでもいいことなのだ

初代羊水公以来、連綿と続いてきたこの名跡こそ、我が誇り。
遥かなる古のときに「おもて源、裏マンコ」とまで謡われた、
その源の家と緒万戸の家がいまひとつになっているのだ
私は馬蹄等の当主源死魔の妻として、
また緒万戸茶の第24代目宗匠として、　
その勤めを果たさねばならない・・・

・・・・
「…お方様。
　プライベートジェットの仕度、相整いましてございます」
「わかりました。すぐに参ります」

彼らマンコのたびの一行は、
南米はクスコのマンコを目指してココレマン湖を去っていったが、
私はロンドンヒースロー空港を目指してココレマン湖を後にする
彼らに彼らの人生があるように、私には私の人生があるのだ

一期一会。…この言葉が深く心にしみる
先ほどガイドの方に申し上げたように、
またかの人たちと再会するときが来るのかどうか
それは、私にはわからない
私はただ、己が勤めを果たすだけ。
それが馬蹄等当主の妻としての私の責務なのだから。
・・・・

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【ロンドンの仰せの通り魔】　冒頭部験し書き


バッキンガムの宮殿でエリザベスのババアに挨拶を済ませた後、
私は護衛のイヴと黒岩と共に、
三人で宮殿の横にちんまりと店を構えている御茶所で
ロイヤルミルクティーなどを緩々と飲んで一休みした

馬蹄等はウイーンのハプスブルクとは姻戚関係にあり、
また巴里のブルボン家とは友好関係を維持しているが、
英国王室とは特段のゆかりは、無い
ただ、スウェーデンのグスタフアドルフとは
我が父仁王の殺害をめぐって敵対関係にあり
また、英国王室さんも
ウイーンと巴里で馬蹄等がヒト暴れした噂は耳にしているだろうし、
ここらで一発、表敬訪問ぐらいはしておいたほうがよかろう
ということで、挨拶に立ち寄ったまでのことである

とりあえず英国は中立を守ってくれればそれでよい
それ以上のことはこの国の王家には期待していない

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とりあえずは不安定なブルボンの家を保護すべく、
ブルボン家と海峡ひとつ隔てて隣接しているエリザベスの婆さんの家と、
地続きでお隣さんのネーデルランドのオラニエ＝ナッサウ家に面通しをしておく。

しかるのちに、
バルト海の領有をめぐってスウェーデンと敵対している
ベルリンのホーエンツォレルン家とサンクトペテルブルクのロマノフ家に立ち寄り、
グスタフアドルフにプレッシャーをかける

これが今回の「表敬外交」の目的だ

馬蹄等当主の妻ともなれば、
好むと好まざるとにかかわらず多少は政治外交にも関与せねばならない
メインは夫にゆだねるとしても、側面からの援護ぐらいは引き受けねば。
それが妻としての勤め。
婚活ババアのように
夫そっちのけで自分磨きなどしているわけにはいかないのだ

プライベートジェットの支度が整うのは今晩深夜と聞いているので
それまでは手持ち無沙汰だ
いまさら自分磨きの観光などしても意味はなし、
ということで私は何気なくお供のイヴ・黒岩に
「何ぞ面白い噂話でも耳にしておりますか？」と聞いてみた
特に何かを期待していたというわけでもなかったのだが、
私の問いに二人は期せずして顔を合わせた

「ん？何ぞありますのか？」
「はあ…あると言えばあるのですが。
　しかし、些か下世話尾篭な話でございますので、
　お方様のお耳の障りになるかと思い、差し控えておりましたが」
「いえいえ、かまいません。尾篭な話、大好きです。
　どんな話ですか？」
「ただいまココロンドンの巷では通り魔連続猟奇殺人の話が
　もっぱらの評判でございまして」
「ほほう、連続猟奇殺人…具体的にはどのような？」

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【イヴ・黒いわの話】

本朝ほどではないにせよ、
御当地英吉利におきましても
ネットコンカツなるものがいささかのブームになっておりまして
お方様もご承知のことと存じますが、
あの世界は悪貨が良貨を駆逐すると申しますか、
ろくでもない輩がオオウございます
槍眼男に飯目女などというのはまだ可愛いほうでございまして、
やはり最大の癌は金目女。
いわゆるコンカツ娼婦と呼ばれている女子たちでございますな
コンカツ娼婦につきましては馬蹄等の物語主伝第四話で、
源のエル様も遭遇しておりますので、
詳細はそちらにお譲りいたしますが、
今回の連続猟奇殺人の被害者というのが
まさしくそのコンカツ娼婦たちなのでございます

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　　　 `-､　 　''（(〔9! 　　　_　　ﾄ､　　　　 _,-'¨
　　　　　 `'‐､_ 　 _ﾟ入　　-‐　,jｉ.|__,,-‐'¨´ふむふむ…で、猟奇と言われるその訳は？
.　　　　　　　__,¨イ 　　`　,-‐ ' _,,!､, _
.　　　　　　ｆ 　　　!　　　 ｉ　ｆ^¨　! 　 ヽ,
　　　　 　 i 　 　 　!　　　|　.!　　!　　　/

Jerry Lee Lewis - Johnny B Goode
http://ime.nu/www.youtube.com/watch?v=gu247GKesyg
Why??? - Funky usako
http://www.youtube.com/watch?v=J9VOlO-4xAA
高橋真梨子
http://www.youtube.com/watch?v=x-_X-LTqIcg
流鏑馬
http://www.youtube.com/watch?v=GoClxyx8xAY

From Dusk Till Dawn: ZZ Top - She's Just Killing Me
http://www.youtube.com/watch?v=po0-btla07c
Terminator 2: ZZ top - Bad to the Bone
http://www.youtube.com/watch?v=Djj7jW6ny2M
Iron Man : AC/DC - Shoot to Thrill
http://www.youtube.com/watch?v=_bKLJ9jahCM

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ジャック座立派
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%87%E3%82%8A%E8%A3%82%E3%81%8D%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF

(>>96つづき)

やはり殺し方の残忍さが「猟奇」といわれるゆえんでございましょう
被害者はメスのような鋭利な刃物で喉を掻き切られたり
或いは杭のような尖ったもので腹を貫かれたりしております由。
それだけならまだしも、さらに殺害の後に、
犯人は被害者の腹を切り裂いて腎臓子宮膀胱などの臓器を丁寧に摘出し、
それらの臓物をきれいな水で丹念に洗い、
灰汁を拭い取ってから三枚におろしてから伊万里の皿に盛り付け、
傍らには刻みキャベツと酢橘などを添えてあったりしております。
そのような事実から
犯人は解剖学的知識がある医師か、
或いはそれなりの修行を積んだ料理人ではないか、と言われております」

ふむふむ…なにやら、
古の切り裂きジャックを思い起こさせるような事件でありますな
連続殺人といい、
猟奇的なころし方といい、
なにより殺しの対象とされているのが娼婦である、
という点が共通していますね」

お方様、仰せのとおりにございます
ココロンドンのものたちもジャック・ザ・リッパーを連想しましたようで、
その犯人には『立派ーなイチモツ』というニックネームがつけられております」

「・・・」

「なるほど、なかなか興味のある噂話ですね・・・
　どうでしょう、イヴ・黒いわ。
　プライベートジェットの用意が整うのは深夜。まだずいぶんと時がある。
　あなたたちが良ければ、の話ですが、
　これから、
　その『立派ーなイチモツ』なる変態通り魔が出没しそうないかがわしき場所、
　すなわち婚活娼婦たちが徘徊していそうなところに行ってみませんか？」
「ええ！？　お方様が、でございますか？」
「普通の観光など、もううんざりです
　幸か不幸か、今私のそばにいるのはイヴ。黒岩。
　昔から気心の知れたそなたたちしかいない
　ここは少しぐらい羽目をはずして、
　胡散臭い、いかがわしい、金目女がうじゃうじゃいる…
　そういう淫らふしだらな世界をちょっとのぞいてみるのも一興ではありませんか」
「また、なんと物好きな・・・」
「当主の妻というのは肩が凝るものなのですよ
　余人がいたら、こんなハシタナイはできません。
　でも私とそなたたちだけなら…いや、でもやはり止めておきますか
　そなたたちは私の護衛が務め。そなたたちに負担を強いるようなことはやはり慎むべきでしょうね」

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緒万の方様こと緒万戸香が
やや名残惜しげな口調で自らの提案を取り下げる様を見て、
逆にイヴと黒いわの心は決まった
「いや、お方様。遠慮なさいますな。
　ロンドンのいかがわしき娼婦街とやらを一緒にのぞいてみましょう」
「え、いいのですか？
　…そなたたち護衛官に余計な気遣いをさせたくはないのですが」
「なに、万が一そのイチモツと遭遇するようなことがあったとしても
　たかが殺しと人体解剖が趣味というだけの変質者でございましょう？
　その程度の猟奇通り魔を相手にして、
　私たちがてこずるなどということはございません
　心配ご無用でございます」

イヴと黒岩は、
幼いころから緒万戸香のことを母以上の存在として思い慕ってきた。
そんな香が彼等にたいして
「余人がいればさておき、私とあなたたちだけなら少々ハメを外したって…」
と言ってくれたことが何よりうれしかったのだ

お方様は自分たちのことを別格の身内として見てくれているのだ
そんなお方様の望みなら何でもかなえてあげたい
イヴ・黒岩はそんな心境になっていた

kuu0003

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おまけ
馬蹄等名コンビシリーズ
�@源鞠子と太郎由家
�A源ジャンヌと歳のウコン
�B源エルと西の沙羅
�C歳の左近と緒万戸羊水
・・・
緒万戸香るとイヴ黒岩は如何に

kuu1850

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「本当にいいのですか？イヴ。黒岩」という香の問いに
「もちろんですとも」イヴと黒岩は声をそろえて答えた
・・・もっともその声は、ひとつしか聞こえなかったが。

「でも困ったわ。
　私はコウ見えても女ですから、そんな婚活娼婦などという、
　胡散臭いいかがわしい金目のただ飯ぐらいのずうずうしい
　ぐうたらの自分勝手で怠け者で股がゆるい連中がたむろしている場所が、
　ココロンドンのどこにあるのか、定かには存じません」
と、困惑顔のイヴに対して、
黒岩のほうはむしろ嬉々とした表情を見せた。

「それなら私にお任せを。私は男なので、そのような
　胡散臭いいかがわしい金目のただ飯ぐらいのずうずうしい
　ぐうたらの自分勝手で怠け者で股がゆるい娼婦まがいの連中が
　どういうところにたむろしているか、
　ココロンドンにきたときに直ちに調べております。」
「アラ、いけ好かない。これだから野郎は好きになれないのよね」
「何を言うか。そもそも私が調べておいたからこそ、
　こういうときに速やかにお方様を案内することができるのではないか。
　お前だってまんざら嫌いでもなかろう」
「嫌いですよ」「嘘を言うな」「まあまあ・・・」

口喧嘩を始めたイヴと黒岩の間に香が割って入った
「私のために喧嘩はやめてください、イヴ・黒岩。
　まったく、二人は幼いころから喧嘩ばかりして。そのくせ仲がいいんだから。
　喧嘩するほど仲が良い、というのはあなたたちのことですよ」

余りにも遅すぎる神聖羅馬粘着帝國

などとワイワイ言いながら三人がやってまいりましたのが、
こちらロンドンの歓楽街のひとつ、
ホワイトチャペルというところでございます
が…歓楽街というには余りにもうらぶれた感じで、
むしろ場末の売春婦たちのたまり場、と言ったほうが当を得ているかもしれません

しかしまあここに
いわゆる「ジャックザ立派ーなイチモツ」が出現したとかしないとか、
そういう噂がありましたものですから、
イヴ黒岩はとりあえずここホワイトチャペルに緒万の方様をいざないました

「ふむふむ・・なかなか面白そうなところでありますな」

緒万の方様というのは、
馬蹄等の名家緒万戸家の娘でございますから、
まず第一に育ちがいい。
次いで緒万戸家初の武官となった仁王の娘ですから、怖いもの知らず。
そのうえ本人が好奇心旺盛と来ていますから、
初めて目の当たりにする売春街というものに興味シンシンでございます

「イヴ。黒岩。
　この界隈、そこかしこに人三化け七みたいな連中がうろうろしておりますが、
　これがいわゆる婚かつ娼婦と呼ばれているものたちですか？」
「仰せのとおりでございます。
　若いころから上から目線で好き放題やってきた報いで、
　このようにうらぶれて、いまは飯目、金目、老後の安定などを求めて、
　上客はいないかと鵜の目鷹の目でこの界隈をうろついているものたちでございます」
「ふむふむ・・・」

などと、緒万の方様がイヴと会話していると、
そこに数人の娼婦たちが寄ってまいりました
「ちょっとあんたたち。見かけない顔だけど、ちゃんとショバ代は払ってるんだろうね？
　この界隈で商売するためには、それなりの胴元に
　きっちりとショバ代を払わないといけないんだよ
　そうじゃなきゃ、商売させるわけにはいかないね」
「いえいえ。私たちはただの通りすがりでして・・」

と、イヴが言いますと
娼婦たちの群れの中から人の女がそれに応じます。

「はぁ？馬鹿言ってんじゃねえよ。
　こんなクソみたいな掃き溜めで女が二人ぶらぶらしてて、
　ただの通りすがりです、って？舐めんじゃねえぞ
　あたしゃこの辺りいったいを取り仕切っているステマのお龍ってもんだ。
　商売したいのなら、まずあたしにショバ代を払いな」

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弱い犬ほどよく吠える、と申しますが
そのとおりきゃんきゃん吠えつづけるステマのお龍に対して
イヴ黒岩は何も言わずゆっくりと顔を向けました。その瞬間。

「な、なんだこいつは。女かと思ったら男じゃねえか・・・
　そ、それならべつにいいんだよ。じゃじゃじゃ邪魔したね」
ステマのお龍は急におびえたような表情になり、
震え声でモゴモゴ言いながら去っていきました
他の婚活娼婦たちもやや釈然としない面持ちながら、
首領のお龍が引きさがったからには
カツ揚げもゆすりもできないと判断したのでございましょう、
緒万の方さまとイヴ黒岩の周りから去っていったのでございました

「またやりましたね。イヴ。黒岩。
　私以外の人の前では、あまりそういうことはやらぬようにと、以前から申していますのに」
「申し訳ございません。されど、お方様、
　あのような輩が相手ならば別にかまわぬのではありませんか？
　どうせ行きずりのズベ公でございますよ。
　…それとも武技を繰り出して瞬時に殺してしまったほうがよろしかったので？」
「そんなことは申しておりません。…ま、この際は仕方ない
　でも公の場ではあまり今のようなことはしないように、ね
　相手がおびえます」

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蟹鮨野菜漬物鮭缶煮豆果実菓子似胡瓜似狐天蕎麦醍醐菓子残存

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拾四日献立
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物真鯛刺身鰊焼物珈琲暫定
残存分
蟹鮨野菜漬物鮭缶胡瓜漬二狐天蕎麦煮豆果実菓子二醍醐菓子二。以上。

【緒万戸香】(おまんこ・かおる)

馬蹄等の一人。通称、緒万の方様。
緒万戸羊水の末裔。馬蹄等当代当主源死魔の妻。
仁王の娘にして草稲の姉にして紅の母であるとともに、
自らの専任護衛官であるイヴ黒岩の育ての親でもある。
緒万戸茶第二十四代目宗匠兼任。

年齢アラフォーにいたるも容色なお衰えず、さらに加えて
良妻賢母、頭脳明晰、品行方正、学業優秀、質実剛健、大胆不敵、
豪放磊落、馬耳東風、東西南北等々・・数々の美点を兼ね備えているため、
馬蹄等の里のものたちから敬慕されること斜めならず、
一門の者たちから尊敬を集めること、やぶさかでなし。

良き妻、良き母、良き補佐官として、
馬蹄等の裏方一切を束ねる扇の要のごとき存在である

拾伍日献立
蟹鮨野菜漬物鰹刺身鰤刺身粒貝刺身鶏肉揚物珈琲醍醐菓子。
残存分
蟹鮨野菜漬物鮭缶狐天蕎麦煮豆醍醐菓子(胡瓜果実菓子)二。以上。

【訪欧前の死魔と香の会話】

「そなたの身の回りの世話役としては稗田の阿礼を、
　航路の確保および運航に関しては阿蘇古賀の爺を、それぞれ帯同させる。
　また、そなた自身が欧州言語に通暁していることは重々承知しているが、
　念のためということで、
　多言語同時通訳者であるマイヨールも同行させよう。
　・・いずれも経験豊富なものたちゆえ、粗相はあるまいと思う」
「アリガトウございます」
「そなたにこのようなことを頼むのは心苦しいのだが、
　私自らが動くわけにはいかんのだ。相済まぬと思う」
「何を仰いますやら。
　だんな様が御自ら欧州に行かれたら
　向こうさんのほうがひっくり返って緊張いたしましょう(笑
　ここは私ぐらいのものが代理として参ったほうが差し障りもなく、
　万事好都合で何かとよろしゅうございますよ」
「そなたは、やはり聡いな
　頼み事ひとつにしても、こちらの意図をすぐ理解してくれる。有り難い」
「ほほほ…女房をおだてても何も出ませんよ」
「さて護衛の件だが」
「私にはイヴ・黒岩がおります」
「わかっておる。
　しかし護衛は常に左右を守るため最低二名をつけるのが馬蹄等の慣例。
　黒岩のほかにあとひとり、青海か静蛇を帯同させようと思っているが」
「青海も静蛇も、だんな様の近衛のものたちではございませんか。
　手元に置いておきなさいませ。
　私にはイヴ・黒岩がいれば十分でございますよ」
「しかし護衛が一人だけというのは」
「２人、おりますよ。イヴと黒岩と」

香のこの反駁には、死魔も苦笑いせざるを得なかった

「そうだったな。そなたには『見える』のだったな」

kuu2340

さて、イヴ黒岩のひと睨みで
ゆすりたかり目的で寄ってきた婚活娼婦たちを
さっさと追い払った緒万の方様たち『三人』は、
その後、ロンドンの娼婦街ビーエヌの八十四番地をぶらぶらと散策いたします

なんと言ってもココは
マンコとチン子がせめぎ会う娼婦街でありますので
婚活娼婦のマンコ目当ての野郎ども、
すなわちヤリ目男といわれる連中も
そこらへんを三々五々ぶらぶらしておるわけでございまして、
そういった連中の中には緒万の方様を婚活娼婦と勘違いして、
掃き溜めに鶴を見つけたとばかりに
「ハウマッチ？」などと言って寄ってくる馬鹿もおるわけです。
が、
そのような馬鹿野郎に対しましては、
緒万の方さまの傍らに控えておりますイヴ黒岩が、
飛び蹴り、回し蹴り、腕折り、足固め、腕固め、チキンウイングフェイスロック等々の
多彩な技を繰り出してまして、適当に半殺しにいたします。

「世の中にはこのような場所もあるのですねえ…十分堪能いたしました
　とおりいっぺんのお上品観光では決して見られぬものでありましょう
　それができたのも、イヴ。黒岩。あなたたちのおかげですよ。有難う」
「いえいえ、お方様。私たちのほうこそ、
　護衛という名目で適当に体を動かしてそこらへんの馬鹿野郎どもを
　おにぎりボコボコ…じゃなくてボコボコにできまして気分爽快です
　このような変態巡りの観光を提案していただきまして、感謝しております」

このようなしだいで変態観光を堪能しました緒万の方様たちが、
ではそろそろ引き上げようかということになりました、ちょうど其の折。
物語の法則、お約束に従いまして、
「ぎゃああああ！！！」という、
猫の断末魔のような悲鳴が娼婦街の一角から聞かれました

このような悲鳴が聞かれた場合。普通の人は、逃げます。
が、幸か不幸か、
緒万の方様は通常のお人ではなかったので、
その悲鳴が沸きあがった方角目指して一目散に走り出しました
まさに命知らず、怖いもの知らずの野次馬と申せましょう
それを見て、あわててイヴ黒岩も後を追いました


　　(((;;;:: ;: ;;　　　　　　　　　 ;; ;:;::)) ::)
　　　( ::: (;;　　　∧_,∧　　 );:;;;)) )::: :; :))
　　　　((:: :;;　　(´・ω・)っ ;;;; ; :))
　　　　　((;;;　　(っ　,ｒ　「待ってよ〜お方様〜」・・・・・
　　　　　　　　　 i_ノ┘

　((;;;;゜;;:::(;;:　　∧__,∧　'';:;;;):;:::))゜)) 　::)))
　(((; ;;:: ;:::;;⊂(´・ω・｀)　 ;:;;;,,))...)))))) ::::)
　　((;;;:;;;:,,,."　ヽ ⊂ ） ;:;;))):...,),)):;:::::))))
　　　("((;:;;;　 （⌒） ｜「そうら、なんか起こったぞ」・・・・・
　　　　　　　　 三 `Ｊ

拾6日献立
蟹鮨野菜漬物鮪刺身鶏肉揚物珈琲醍醐菓子二＋ホーエンツォレルン迄。
残存分
鱒鮨野菜漬物鮭缶狐天蕎麦煮豆胡瓜二果実菓子二コールスローサラダ。以上

イヴ黒岩も決して足が遅いほうではなかったのですが、
緒万戸村の女子陸上短距離走の記録保持者である緒万の方様には敵いません
あっという間にイヴ・黒岩との距離を開け、
ただひとりで現場に到着した緒万の方様が
そこで目にしたものは、
まさにスプラッター系ホラー映画のグロシーンそのものでございました
・・・
(お食事中の読者のために、ここの描写は自主規制)
・・・
その凄惨な後継を目の当たりにして、
緒万の方様は思わず
「なんというむごいことを。
　胡散臭くていかがわしい金目でぐうたらのただ飯ぐらいの
　ずうずうしい自分勝手で怠け者で股がゆるい婚活娼婦が獲物だといっても、
　このようなむごい目にあわせることもあるまいに…」

と、つぶやかれました

緒万の方様のその呟きを耳にして、
人体解剖に熱中していた人物が顔を上げました
その男、決してブサ男とか肝男とか、そういう容貌ではなく、
むしろ端正な顔立ちといってもいいかもしれません
今風に言えばまあイケメンということになりましょうか
しかし、その人物の何かに取り憑かれているような異様なまなざしが見る者をしてぞっとさせる
そのような雰囲気をかもし出しておりました
その者が緒万の方様を上から下まで嘗めるように吟味して、ぼそりとつぶやきました

「ほぅ、またひとり来たか・・・上玉だな
　腕が鳴る。解剖のやりがいがありそうだ」

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　｜　　　　　御食事中の読者のために　　　　　　　　|
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　｜　　　この場面の描写は自主規制とします　 　|
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re-test
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　｜　　　　　御食事中の読者のために　　　　|
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　｜　　　この場面の描写は自主規制とします|
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鱒鮨煮豆鶏肉揚物醍醐菓子こーるすろーさらだ暫定
蟹鮨鮨野菜漬物鮭缶狐天蕎麦胡瓜似果実菓子二残存

いかに怖いもの知らずとはいえ、緒万の方様は所詮はお嬢様。
その男の異様なまなざしに射すくめられ、
恐怖のあまり、身動きもままなりません
一方、男のほうは
殺しと人体解剖が趣味の変態さんですから手馴れたものです
緒万の方様に素早く接近すると、手にした牛刀を無造作に一振り。
哀れ、お方様は首と胴体が泣き別れに・・

と思われたその瞬間、
お方様は後ろから襟髪をぐいとつかまれ、引き戻されました
お方様の目の前を間一髪で通過する牛刀の刃先！

「大切な御身の上であるにもかかわらず、
　おひとりでちょこまかと走りなさるな。
　そんなことではこちらも満足な護衛ができません」
「・・イヴ。黒岩。」

緒万の方様の懐刀、
ただ一人の護衛官、
イヴ・黒岩がぎりぎりのところでお方様の命を救ったのでした・・・

・・・
「お方様。…離れなさい」

『離れていてください』ではなくて、『離れなさい』という指示口調。
イヴ黒岩がこの口調になったときは・・ヤバイ。超やばい。
それは、イヴ黒岩がマジになっているという兆し。

そのことを長年の付き合いで知っている緒万の方様は、
そそくさと隅の方に退避いたしましたが、
そんなこと全く知る由もない変態通り魔さんは、
「…ほぅ。また新しい獲物か。今日は大漁だな」
とボソッとつぶやいただけでした

(>>134-135推敲結合)

いかに怖いもの知らずとはいえ、緒万の方様は所詮お嬢様育ち。
その男の異様なまなざしに射すくめられ、
恐怖のあまり、身動きもままなりません
一方、男のほうは
殺しと人体解剖が趣味の変態さんですから手馴れたものです
お方様に素早く接近し、手にした牛刀を無造作に横殴りに一振り。
哀れ、緒万の方様は首と胴体が泣き別れに・・

と思われたその瞬間、
緒万の方様は後ろから襟髪をぐいとつかまれ、引き戻されました
そのお方様のすぐ目の前を、間一髪で通過する牛刀の刃先！

「大切な御身であるにもかかわらず、おひとりでちょこまか走りなさるな。
　そんなことではこちらも満足な護衛ができません」
「・・・イヴ。黒岩。」

緒万の方様の懐刀(ふところがたな)。 ただ一人の護衛官。
イヴ黒岩がぎりぎりのところでお方様の命を救ったのでした

・・・
「お方様。…離れていなさい」

『離れていてください』ではなくて、
『離れていなさい』という指示口調。

イヴ黒岩がこの口調になったときは・・ヤバイ。超やばい。
それは、彼等がマジになっている、というしるし。
そのことを長年の付き合いで知っている緒万の方様は、
そそくさと部屋の一隅に避難いたしましたが、
そんなこと全く知る由もない変態通り魔さんは、
「…ほぅ。また新しい獲物か。今日は大漁だな」
と、ボソッとつぶやいただけでした

銃も刀剣も手にせず、
平然と変態通り魔と相対するイヴ黒岩。
その顔が、一瞬で「イヴ」から「黒岩」に入れ替わった
イヴという女性人格が後退し、
黒岩という男性人格が表に現れたのだ。その憤怒の形相。

「…面白い芸だな。百面相か？」

さすがは変態通り魔。
先ほどステマのお竜をおびえさせた
イヴ黒岩のこの形相の変容を見ても、いささかもひるみません。
しかしそんな剛毅な変態さんも
イヴ黒岩の変容が顔だけではないことを悟ると、
さすがに沈黙しました
人格の交代だけでなくイヴ黒岩の体全体が女から男へ、
さらには男でも女でもない、人にあらざるものに変容している…

「…化け物か」

物怖じしない変態通り魔さんもさすがに恐怖を感じたのでしょう、
自らの恐怖心を振り払おうとするかごとく、
牛刀を大きく振りかざしてイヴ黒岩めがけて振り下ろしましたが、
イヴ黒岩はそれをよけようともせず、
逆に踏み込んで
左腕でその牛刀を跳ね飛ばすと同時に、
右腕で変態さんの頭をガシッと鷲づかみ！

そして変態さんの頭を掴んだまま体ごと持ち上げ、
一気に部屋の壁に叩きつけました

…これはもはや人間の腕力ではありません
熊か虎か、とにかく獣の膂力でございます

『グシャ』というスイカがつぶれるような音とともに、
変態さんの頭が割れ、血が噴出しましたが、
なおもイヴ黒岩は攻撃をやめませんでした
二度。三度。四度。五度。延々と変態の頭を壁に叩きつけます
グシャ。グシャ。ぎしゃ。ぐちょ・・・デンデろりん

男の頭蓋骨などはとうに潰れ、壁に亀裂が入りへこんでなお、
イヴ黒岩は狂ったように変態通り魔の頭を壁に叩きつけます

「イヴ！黒岩！もうよい！相手はもうとっくに死んでおる！
　収まりなさい！オサマレ！人に戻れ、戻るのじゃーー！！！」

緒万の方様が必死で叫びながら、
イヴ黒岩を後ろから抱きすくめました
一瞬それに抗うような素振りを見せたイヴ黒岩でしたが、
緒万の方様が必死に抱擁し続けるうちに
徐々にその獣の性が収まっていき、
やがて再びもとのイヴの顔に戻っていきました

【イヴ黒岩】(いぶ・くろいわ)

馬蹄等の一人。緒万の方様付き専任護衛官。
両性具有者にして二面人格者かつ半人半獣。
イヴという女性人格と、
黒岩という男性人格が、ひとつの体の中に同居している

以下、馬蹄等文書より抜粋
・・・
過ぐる年の瀬の師走二十四日の出来事。
里の入り口付近に在りし黒岩の傍らに、
籐にて編みし籠に入れられ置き捨てられたる赤児あり、
里のものが見つけ拾い、御当主の御館にまで届けたり。
緒万の方様、この赤子を哀れみ、
そのまま手元にお引き取り遊ばさし、養育されぬ
この赤子、当初より両性具有(ふたなり)なりといふことは知れていたが、
長ずるにおよび、さらに一つの身の中におなごの心とおのこの心が住まうことと知れり。
緒万の方様、それと知るもいささかも動じず、
おなごの心をイヴと名づけ、おのこの心を黒岩と名づけ、
両者分け隔てなく、愛され、育まれぬ
摩訶不思議なることに、
余人にはイヴ在るときは黒岩見えず、黒岩が在るときはイヴが見えぬものを、
緒万の方様のみはイヴと黒岩を同時に見ることができる由。
このことにより、イヴ、黒岩の両者の心、
表に出ずとも緒万の方様は我を見てくれていると悟り、
互いに我を張らず相和し成長せり。
後年、武技諸般を体得し、緒万の方様付き専任武官となりぬ
・・・

　　　　（　^ω^） ∩　
　　　／　 　　／／　　　 　 　　( ´；ω；)
　 ⊂／ ) ..／／つ　　＼从/ ／　　、 つ
　　　　 (＿／　　　　　 ・、 .（_(__ ⌒)ﾉ
　　　　　）.ノ　　　　　　／Ｗ .∪ (ノ
　　　　ノノ

【エピローグ】
・・・
「それではただいまより、
　当機は次なる目的地アムステルダム国際空港を目指して、
　ココロンドンヒースロー空港より離陸いたします
　…お方様。シートベルトをお締めくださいませ」
「ハイ。既に締めております」
「かたじけのうございます。イヴ黒岩殿はいかに？」
「準備完了です」
「重畳。マイヨール殿はいかがか？」
「オーケーです」
「ご配慮、痛み入る。
　・・で、稗田のババアはどうだ？ちゃんとベルト締めとるか？」
「ゴラァ！！！他の方たちは皆さん殿付けなのに、
　なんで私だけがババア呼ばわりなんじゃ、このクソジジイ！」
「お前なんぞババアで十分じゃ」
「ジジイしばくぞ、こら！！！」「こらこら・・・」

いつものように始まった稗田の婆と阿蘇古賀の爺の口げんかを
いつものように緒万の方様が適当なところで仲裁し丸く収めて、
馬蹄等のプライベートジェット愛称「エアルージュ」は、
どうにかこうにかロンドンヒースロー空港を離陸いたしました

水平飛行に移り、皆がベルトを外し、
ゆるりとお茶などを飲み始めたころ。
ロンドンタイムズを読んでいらした緒万の方様がクスッと笑われました

「お方様、どうされました？何か面白い記事でも？」
「ええ、ちょっとね。・・イヴ。黒岩。あなたたち、英語は読めますか？」
「まあ少々でしたら」
「では、ここを読んで御覧なさい」

そう言って、緒万の方様は
イヴ黒岩にロンドンタイムズを渡されました

そこには『ビーエヌ84番街の惨劇』という見出しで、
また新たにコンカツ娼婦の他殺死体が発見されたこと、
しかし今回はいままでとはいささか異なり、その遺骸の傍らに、
頭部をぐちゃぐちゃに破壊された白人男性の他殺死体があったこと、
さらには指紋を照合した結果、その殺された白人男性こそが、
まさしく婚活娼婦連続猟奇殺人の犯人であると判明したこと、

などが記載されていた

その記事は以下のように締めくくられていた

「…かくして、婚活娼婦連続猟奇殺人事件は
　当事者である犯人の死により、終わりを告げた
　が、しかしこれは、新たな惨劇の始まりを告げるものでもある。
　猟奇殺人犯は頭部をぐちゃぐちゃに破壊され殺されていた、
　これはすなわち、
　彼を殺した人物がまた別にいる、ということである
　その人物は今もここロンドンのどこかに身を潜め、
　次なる獲物を狙っているに違いない
　現場の、人間離れした殺しの状況から推測するに
　恐らくその人物は、丸太のような太い腕を持つ、熊のような大男。
　とりあえず私はこの犯人を『恐怖の熊男』と名づけることとしたい
　恐怖の熊男。その次なる獲物は・・・或いはあなたかも知れない」

・・・
記事を読み終えて顔を上げたイヴ黒岩に
緒万の方様はニコリと笑って声をかけた

「これからもヨロシクね、私の可愛い熊男ちゃん♪」



緒万の方様欧州怪異談　
第一話「ロンドンの仰せの通り魔」　　完

このお話に登場した主な人々

【緒万戸香】
　馬蹄等の一人。通称、緒万の方様。詳細>>122参照。
【イヴ黒岩】
　馬蹄等の一人。緒万の方様付き専任武官。詳細>>140参照。
【源死魔】
　馬蹄等当代当主。欧州諸王家との関係維持改善を目的として、
　妻である緒万戸香を自らの代理人として欧州諸国に派遣する。
【ジャック・ザ・立派ーなイチモツ】
　殺人と人体解剖が趣味の変態通り魔さん
【その他、緒万戸香欧州歴訪に際しての随行者の人たち】
　�@稗田(日枝)のババア　
　　緒万の方の身の回りの世話役。
　　もともとは馬蹄等の御館のメイド長さん。
　�A阿蘇古賀のジジイ
　　馬蹄等保有のプライベートジェット「エアルージュ」のパイロット。
　　今回の緒万の方様欧州歴訪に際しての運航責任者。
　�Bムスクルス・ツィゴマティクス・マイヨール
　　馬蹄等お抱えの言語学者、多言語同時通訳者。
　　現存の欧州諸言語はもとより、
　　既に死語となっているヨーロッパ古語、
　　ラテン語、アラム語、ルーン文字、ケルト文字といったものにも造詣が深い

通読する際のアンカー　>>省略

COPY....
Jerry Lee Lewis - Johnny B Goode
http://ime.nu/www.youtube.com/watch?v=gu247GKesyg
From Dusk Till Dawn: ZZ Top - She's Just Killing Me
http://www.youtube.com/watch?v=po0-btla07c
Terminator 2: ZZ top - Bad to the Bone
http://www.youtube.com/watch?v=Djj7jW6ny2M
Iron Man : AC/DC - Shoot to Thrill
http://www.youtube.com/watch?v=_bKLJ9jahCM
Why??? - Funky usako
http://www.youtube.com/watch?v=J9VOlO-4xAA
Mariko Takahashi
http://www.youtube.com/watch?v=x-_X-LTqIcg
Yoshida brothers
http://www.youtube.com/watch?v=GoClxyx8xAY

拾8日献立
蟹鮨野菜漬物鰤刺身鶏肉揚物天蕎麦珈琲醍醐菓子
残存分
蟹鮨野菜漬物野菜揚物鮭缶(即席麺胡瓜果実菓子)*2

kuu0002
オラニエ＝ナッサウ家
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%8B%E3%82%A8%EF%BC%9D%E3%83%8A%E3%83%83%E3%82%B5%E3%82%A6%E5%AE%B6
阿蘭陀
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80
http://image.space.rakuten.co.jp/lg01/79/0000986179/79/imgfaa36c12zikdzj.jpeg

Leiden
http://www.leiden.edu/discoverleiden/index.php3-c=28.htm
map
http://www.i-wanna-travel.com/map-netherland1.gif

拾九日献立
蟹鮨野菜漬物野菜揚物鮭刺身鯖煮物珈琲果実菓子醍醐菓子
而してホーエンツォレルン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%83%B3%E5%AE%B6
更にはプロイセン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%83%B3%E7%8E%8B%E5%9B%BD

残存分
蟹鮨野菜漬物野菜揚物鮭缶醍醐菓子(即席麺胡瓜果実菓子)*2
而してsage

ホーエンツォレルン城
http://ja.listofimages.com/wp-content/uploads/2012/09/World-%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%83%B3%E5%9F%8E%E3%80%81%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84.jpg
http://south-germany.jp/ac/2011/07/post-42.html
http://hmpiano.net/koharu/shuyu/funatsu/year2005/bw_01.gif
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/image/15351.gif

緒万の方様欧州怪異談　
第二話【ホーエンツォレルンの怪】　冒頭部験し書き


「噂には聞いておりましたが、噂にたがわず、いや噂以上にお美しい
　貴女のようなご婦人をココホーエンツォレルンの城にお招きできて
　私としても光栄の至りですよ。フラウ・緒マンコ」
「あら、ココはイタリアだったかしら？(笑
お口がお上手ですわね、国王陛下。
　私のようなものにそんなお世辞を使われなくとも」
「いえいえ決して世辞などではありません。真実、お美しい」
「陛下のほうこそ、眉目秀麗・紅毛碧眼・長身痩躯と、
　イケメンを絵に描いたようなお方でございますわ
　聞けば、いまだ独身でいらっしゃるとか。
　欧州社交界でも貴婦人たちから引っ張りダコでございましょう？
　陛下。くれぐれも婚活の世界には、いらっしゃらないように。
　万が一、陛下のような方がいらっしゃったら、
　婚活ババアどもが全員発狂して雪崩のように殺到いたしましょう
　お気をつけ遊ばせ」
「はははは。それはきついですな」
「おほほほ」
「わははははははは」
「ひょ〜ほほほほ。ほほ。ほ」
・・・・
延々と続く二人のお世辞合戦を、
緒万の方様の随行者たちは半ば呆れ、内心憮然として聞き入っていた
(阿蘇古賀の爺さんが、ワシは残る、と言った理由がよくわかったわ)
緒万の方様と同じテーブルに並ぶという栄誉に浴しているにもかかわらず、
稗田のババアは、あえて『エアルージュ』に残った阿蘇古賀の爺さんを羨ましく思った

残存分改訂
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物鮭缶紅茶醍醐菓子(即席麺胡瓜果実菓子)*2

阿蘇古賀粥磐
阿蘇古賀伊磐
稗田の鉄阿礼
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物紅茶珈琲醍醐菓子予定
蟹鮨野菜漬物鮭缶紅茶(即席麺胡瓜果実菓子)*2

(前略)

婚活などをしてると、
どうしてもその種の言葉に馴染んでしまうのでしょうが、
「スペック」という言葉を使った時点で、あなた自身がそもそも難あり、です
自営業のあなたに相ふさわしい女性は
「一緒に苦労してもいいよ、何かあったら私も働きます」
と言ってくれる気立てのいい働き者の女性であり、スペックとかは関係ありません
そもそもスペックと言うのは本来、機械の性能を示すときに使う言葉です
そういう冷たい言葉を平然と、
生ものである相手さんを評するときに使う。それが日常化している。
そういう「婚活の世界」というものが、
そもそも異常なのだということに気づくこと。
それが成婚に至る第一歩です

(中略)

詳しく言わないとわからないのですかねぇ・・・
あのね。
スペックとは、本来はマシンの性能を示すために使われた言葉。
それが転用されて人間にまで使われるようになってきた
あなたは「もう転用されているなら、使ってもいいじゃないか」
そう言うかもしれない
しかし、ね。
もともとは機械に対して使う言葉だったわけですよ
そういうもとの使い方を知らずして
「あなたのスペックはどうのこうの・・」
と連呼するような女、あるいは男がいたとして、
もし相手がスペックという言葉の
もともとの、その本来の使われ方を知っていたとしたら、
「あなたのスペックは云々・・」
などという言い方をされて、気分がいいと思いますか？
そういう言い方をする異性に好意を持つと思いますか？


以上の内容を一言で要約すると「無知は罪」
そういうことです

(>>154のつづき)

当初はベルリンの王宮で行われるはずだったプロイセン国王、
フリードリヒ・フォン・ホーエンツォレルン三世との会見が
急遽、南ドイツの、糞田舎の、怒僻地の、山の上にぽつんとある、
メッチャ不便なホーエンツォレルンのお城で実施されることになったのは、
ひとえに当のプロイセン国王から緒万の方様あてに送られてきた一通の私信によるものであった。

「馬蹄等当主細君　フラウ・カオル＝緒マンコ殿宛」
で始まるそのメールは、
緒万の方様の表敬訪問を大いに歓迎すること、
しかしながらベルリン王宮は政府関係者の出入りも激しく気ぜわしいこと、
できうることならばプロイセンの王家の家名の由来ともなっている
我が故郷のホーエンツォレルン城にてご一行を内々で歓待したきこと、
などが記されており、末尾には
「プロイセン国王　
　フリードリヒ・フォン・ホーエンツォレルン三世　記」と署名がされていた

緒万の方様一行は
オランダの王家オラニエ＝ナッサウ家との会見も無事終え、
さて次はいよいよベルリンに参りましょうというところで、
エアルージュ宛に送られてきたこのメールを受け取ったのだった

「どうされます、御方様」
「私は別にベルリン王宮だろうが、
　ホーエンツォレルン城だろうが、
　そこらへんの道端だろうが、一向に構いませんよ
　『馬蹄等の当主の妻がプロイセンの国王と会見した』という情報が、
　ストックホルムにいるグスタフアドルフの耳に届けば、それでよいのですから。
　それよりも粥磐殿のほうこそ、どうなのですか？
　急に航路が変更となれば大変だと思うのですけど」
「いや、さしたることはございません。
　領空を通過する諸家の管制官たちに事前にこのことを通知し、
　了解を取り付けておけばよいだけのことですので」
「そうですか。
　では、ホーエンツォレルン城とやらに参るといたしましょう」

(註)粥磐殿
　　
馬蹄等のプライベートジェット、エアルージュの操縦士にして、
今回の緒万の方様欧州歴訪の航路管理、
および運航担当責任者である阿蘇古賀のジジイのこと。
阿蘇古賀粥磐(あそこが・かゆいわ)、
というのがこのジイさんのフルネームである

阿蘇古賀の家も古い家柄であり、
もともとは阿蘇家と古賀家という、二つの家であったのだが、
婚姻を重ねるうちに次第にめんどくさくなってきた両家が統合し、
その結果、「阿蘇古賀家」となったものである
代々馬蹄等の当主の家に仕え、かご、人力車、馬、その他、
時代時代に応じて当主の足となる交通手段を担当してきた。

たとえば馬蹄等の物語の主伝第二話「虎御前を継ぐもの」で
ちょっとだけ登場した「馬車の御者台に座っていた男」、
彼もまた、阿蘇古賀の家のものである

粥磐はその阿蘇古賀家の現当主。過ぐる年に妻に先立たれ、現在はやもめである

残存補正
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物鮭缶紅茶即席麺二御新香二果実菓子二

memo:
本家黒の故障箇所はモニターでもケーブルでもなく「基盤」である
パーツはすべて転用可能

test
　　　　　　　　　　　　 　 　 r　ﾆﾆ==─_- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　 , --ゝ　-=ﾆミ　｀ヽ､
　　　　　　　　　　　　　 　 ／　　 　 l^ 、 　 `ヽ、＼　　　　　　　／￣｀ Y' ￣ ｀ヽ､
　　　　　　　　　　　　　　/　　　　　ハヽ＼ ､　　　　＼　　　　 , （￣｀Ｙ^Y^Y´￣） )
　　　　　　　　　　　　　　V 　 /／__⌒ヾ 、ヽ＼　　　 ､ヽ _　 /　 し-‐ゝ‐ ｲ‐-J　｀ヽ
　　　　　　　　　　　　　　,」 ｌ 〃ｙ'⌒゛　＾＼､⌒ ＼ヽ､＼｀ヽ､{／　　　　　 　 　 ｀、｀ヽ
　 　　　　　　　　 　 ｛ﾍl/l! `　f:'!　 　 '⌒ヽ_ >､＼-ヾヽ､/　　 　 ,　ｧ／ヽ　　　､ﾍ ｝.　　　　　　
　　　　　　　　　　　(|'){.　´｀´　,　 f:'!　 ﾀｈ　}｀lヽ､　〃　　 ∠､〃　r＝＼､　V丿.　　　 　
　　　　　　　　　..彳,　ヽ(⌒ ー‐-､｀ /)|ﾉ’・|ﾉ　　.|l {　／￣_'　 　 __　　l＼ヽ
　　　　　　　., -─┴ ｙ'-く＞----ｲ く｛ ′　 '　　..|ハ｛ ｙ'⌒　 　 '⌒ヽ, ﾚ‐､ヽ)
　　　....r‐-＜´_＿_＿__ノ｛ 　 ヽ__｀!　ﾉ)ﾊ }`　　　　　　　　(^ }｀ _{:!　　　{:!_　´_)^ﾉ　ヽ.　　　　 　
　 　　_..し'ひ┐ｒﾍ_几ﾉ＾´/ 　 　 ） Y´￣ｿ′　　　　 　_／　 ハ 　 　 '　ｎｎ　ノ^うヽ　 ＼　　　 　
　　　＼ヽ　＿＿, -‐く　　 とﾆﾆフ-r'─っ{ ヽ 　 　 ,　 ´　,　'´　r「hn､_rl^|‖ｈ　´＼　＼　｀ヽ､
　　　　 ｝｝´　　　　　 ヽ　∠_　ノ ｰ{ ￣｀Yｰ､|,　 '´　　／　 ハ ﾄ |j | |　｝Y⌒Y　ハヽ＼　＼　　ヽ
　　　- '^′　　　　　　　ｙ'´,　'´￣｀ヽ⌒ﾒ¬_ゝ　　／ 　 ノ/⌒|∧｀X) 「｀ﾌく⊥'⌒ヽ `､ヽ　 ＼　 }
　　　 　 　 　 　 　 Y´　　　 ．　 Ｙへ 　 ＼/　　/　 |　　( w!　 ト┤(_,J |丿　　}　｝ ｀､ 　 )丿

・・・失敗

【醍醐菓子】(だいごがし)

馬蹄等の日常用語の一。
チーズケーキ、モンブラン、カスタードシュークリームなどの、
乳製品類をふんだんに使用してつくられた西洋系お菓子の総称。
醍醐は『醍醐味』の醍醐に由来する。
この醍醐菓子という呼び方は、
ココオマンコ村やアソコクリトリスの里は言うに及ばず、
馬蹄等たちの故郷・出生地である馬蹄等の里においても古くから用いられている
彼ら馬蹄等にとっては、チーズ乳製品系の菓子はすべて『醍醐菓子』なのである

(>>154>>158-160辺りからのつづき)

メシを食い終わったところで、デザートがでてきた
「アラ、これはまた美味しそうな醍醐菓子…」
「ダイゴ？何ですか？」
「あ、いえいえ。私ども馬蹄等の俗語ですの。お気になさらないで。
　本当に美味しそうなチーズケーキですこと」

…美味い。確かに美味い。
しかし稗田の婆さんは、相変わらず居心地の悪さをぬぐいきれなかった
十五歳のときに馬蹄等の御館に奉公に上がってから、メイド一筋三十年。
冥土に逝ってもメイドをやるぞ、と心に決めている稗田の婆さんにとっては
馬蹄等の御当主や緒万の方様のお世話をしているときこそが、
自分の存在意義が感じられる、生きがいを感じられるときなのであり、
自分が接待される側にいるということが、どうにも落ち着かないのだ

その居心地の悪さから
つい意地悪な心境になって相手さん、
すなわちプロイセンホーエンツォレルン家のメイドの粗探しをしてみたものの、
これがまた非の打ち所がないのだ
オードブルの出し入れ、メインディッシュの上げ下げ、
デザートを出すタイミング、飲み物の注ぎ方にいたるまで、すべて完璧。
そしてなによりも空気に要に軽やかに動き、
ホストにもゲストにも存在感を感じさせず、
しかし必要なときには必ず傍らに控えている。その見事な挙措動作。
おまけに美人で若い、と来てるんだからこれはもうどうしようもない

(うぅぅぅむむむ・・さすがは欧州の名門王家でメイドをやるだけのことはあるわ)
稗田の婆さんは心中、そうつぶやいた

(註)ホスト

ホスト。といっても、歌舞伎町とか六本木あたりで
クソババアにお世辞を使ってアブク銭を稼いでいるあの下種野郎たちのことではない。
ホストとかホステスという言葉は
本来は上流社会でお食事会とか、歓迎会とか、
そういう催し物がある際の接待主のことをさす言葉である。
このお話の例で言えば、
フリードリヒフォンホーエンツォレルン３世がホストで、
緒万の方様たちがゲスト、になる

(験し書き)

オードブルは植物の屍骸を炒めたもの、
メインディッシュは牛の屍骸の焼き物、
デザートは牛の乳を発酵させたもの、
そして食後は定番の欧州紅茶と
一通りウンコの原材料を皆が胃袋に仕舞い終えたところで、
フリードリヒフォンホーエンツォレルン三世(長ったらしいので以後フリードリヒと表記する)は、
自ら先頭に立って、緒万の方様一行に城内を案内いたしました

まぁお城と申しましても江戸城とか大阪城とか、
そんなスケールのでかいお城ではございません
ホーエンツォレルン家がまだ南ドイツの、糞田舎の、怒僻地の、
一諸侯に過ぎなかったころに住んでいたお城でございますから、
ぐるり一巡でおしまいでございます
伯爵の間、家系樹の間、王妃の青の間など、
それぞれの部屋が個性豊かかつ華美優雅な造りになっておりまして
「ああやはりホーエンツォレルン家は王侯貴族の家なのだな」と、
改めて納得させられる豪華絢爛振りでございます

kuu2352

(>>169書き直し)

食後、緒万の方様たちは
フリードリヒフォンホーエンツォレルン三世(長ったらしいので以後フリードリヒと表記する)のいざなうままに、
ホーエンツォレルンの城を一巡りした
この城はホーエンツォレルン家がまだ南ドイツの、糞田舎の、怒僻地の、
一諸侯に過ぎなかったころに住んでいた城なので、
そんなに広いお城ではない。いたってこじんまりとしたものだ。
しかし、そうは言ってもそこはやはり王侯貴族の住まい。
大広間から始まって辺境伯爵の間、家系樹の間、王妃の青の部屋など、
それぞれの空間が個性豊かでかつ豪華絢爛な造りとなっており、
「ああやはりホーエンツォレルン家は王侯貴族の家柄なのだな」と、
一同実感させられた

「…おや。もうこんな時間か。
　フラウ緒マンコに城内をご案内しているうちに
　日もすっかり暮れたましたようで。
　今日は当城にお泊まりくださいな。
　供の方たちにもそれぞれ一室ずつ用意させましょう
　テュービンゲンの空港には、明日お送りいたします」

・・・
「どうも気に入りません」

平素穏やかな物の言い様をする緒万の方様が、
やや強めの口調できっぱりと言い切ったので、
お供の者たちはやや驚いて緒万の方様の方に目を向けた

用意された部屋に各人が引き上げる直前に、
緒万の方様が馬蹄等にだけわかる微妙な仕草をして見せたので、
いったんそれぞれが各室に引き取り、
それから少し間をおいて、三々五々お方様の部屋に集まってきていた
ここからは馬蹄等たちだけの身内の会議である


「何がお気に召さぬので？」
「国王の供連れが少なすぎます。
　いくら『内内で歓待したい』と申したとしても、
　仮にもプロイセンの王、ですよ
　奏者、執事、護衛、その他ごく身近なお付きの者たちだけに絞ったとしても
　最低でも五人や六人は引き連れているはず。
　いくら己が領内、己が城といえど、
　供連れがメイドとコックだけで、護衛すらいないというのは、
　国王の身にしてはあまりに軽率・無用心だとは思いませんか？」

memo
護衛は冥土。ゲルマンルーン。マイヨール。

弐拾弐日献立
蟹鮨野菜胡瓜漬物鶏肉揚物初鰹刺身鮭刺身珈琲醍醐菓子第弐帝國魔で
残存分
蟹鮨野菜漬物鮭缶狐饂飩天蕎麦御新香果実菓子弐

第三帝國到達

(>>171-172のつづき)

緒万の方様の問題提起に皆がしばし沈黙した
その静寂を破って発言をしたのは、緒万の方の護衛官、イヴ黒岩だった
「お方様。
　余のことは存じませんが、護衛に関してましては
　あの国王の横におりますよ。・・あのメイドです」
「え？なんと？」
「あの女は『業持ち』です」

業持ち(ワザモチ)。
全世界におそらく一人か２人ぐらいしかいないであろう、
この馬蹄等物語の熱心な読者なら既にご承知のことと思うが、
業持ちとは、物語の主伝第五話で、
緒万の方様の亡き父仁王も使っていた言葉。
何らかの武技の心得があり、かつそのレベルが尋常ではない者。
そういう相手を指し示すときに使われる馬蹄等用語のひとつだ

「業モチ？
　婚活ババアが一目でも見たら嫉妬で発狂してしまいそうな
　綺麗で美人で若くて可愛らしくて金髪の乳がデカイ、あのメイドが…業モチですと？」
「あの身のこなしは尋常のものではございません。
　恐らく相当の遣い手でありましょう」
「へぇぇぇ・・・」
このイヴ黒岩の指摘には、マイヨールも目をむいた
「あんな綺麗で美人で若くて可愛らしくて巨乳のおなごが、業モチとは」
「見かけに騙されてはいけません。身のこなしから、相手の潜在的戦闘力を見抜くことが大切です」
「しかし、あれほど綺麗で美人で若くて可愛らしくて巨乳のおなごが・・・」
「それはもうよい。そのギャグは、せいぜい二回が限度です」

id変更があるかどうか。test

残存分補正
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物鮭缶狐饂飩天蕎麦御新香紅茶果実菓子弐

本日献立
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物鱈子煮物鰹刺身。
珈琲紅茶果実菓子醍醐菓子予定。
残存食料
蟹鮨野菜漬物鮭缶狐饂飩天蕎麦御新香果実菓子二

(>>176のつづき)

「実は私もひとつ、気になることがあるのですよ」
と、
しつこくギャグを連発して緒万の方様にたしなめられたマイヨールが、
めげることもなく、口を開いた

「先ほどプロイセンの国王陛下御自らが、
　このホーエンツォレルンの城内を案内してくださいましたよね？
　大広間、伯爵の間、家系樹の間、青の部屋・・・
　確かにどれもみな素晴らしい造作でございました
　しかし私が気になったのは、そういった見た目の華麗さではありません。
　この城内にある魔除けの数の異常な多さです」
「魔除け？そんなものがどこかにありましたか？」
「壁、柱、窓枠、扉の取っ手・・ありとあらゆるところにありました」
「へぇ…まったく気づきませんでした」
「ああ、そうか。そうですね。
　普通の人には、ただの紋様にしか見えなかったのかもしれませんね。
　魔除けはヨーロッパの古語で書かれていたのです。ゲルマンルーンです」
「・・・ゲルマニウム？」
「・・・違います」

【マイヨール、かく語りぬ】

ゲルマンルーンとは、ルーン文字の一種です
勿論現在では日常使われることはありません。いわゆる死語です。
しかしココホーエンツォレルンのお城が造られた西暦11世紀ごろには、
まだゲルマンルーンという言葉、文字は生きており、
実際に使われてもいたのです
魔除けの言葉は、そのゲルマンルーンという文字で書かれてあるのです・・・

・・・

「なるほど。で、その魔除けの言葉の意味は？」
「ほとんどの魔除けは一文字だけで、
　意訳すれば『魔よ、立ち去れ』みたいな意味合いのものです
　ただ一箇所だけ、
　『汝、おぞましき魔性に魅入られしときはこの扉を開けよ。
　　それ以外のときにはいたずらにこの扉を開くことなかれ』と、
　そういう言葉が刻まれていた扉がありました
　案内者であるプロイセン国王陛下は、
　その扉の前をそそくさと通り過ぎてしまわれましたので、
　お方様のお供の一人に過ぎない私としては何も申すことできませんでしたが、
　もしこの旅行が
　お方様の欧州諸王家歴訪のたびでもなんでもない単なる観光ツアーで、
　私がお方様のお供でもなんでもない単なる一般の観光客で、
　案内者が国王陛下もクソもない、ただのツアーのガイドだったとしたら、
　断固としてあの部屋の前で
　『この扉を開けてくれ。部屋の中を見たい』と、言い張ったことでしょう
　…実は今でもあの部屋に何があるのか、知りたくてうずうずしている
　これも言語学者のサガでしょうかね。覗いてみたくて仕方ないのです」

【二通目のメール】

緒万の方様たちが
ホーエンツォレルンの城の中で身内会議をしていた時と、ほぼ同じ頃。
一人だけテュービンゲンの空港に居残っていたアソコガの爺さんは、
鼻歌交じりでマルちゃんの天ぷらそばなどを啜っていた

「姫様の名を戴いたこの馬蹄等のプライベートジェットを
　もぬけの殻にして全員でお城に行くというわけにはいかん
　誰かが機内に残って待機せねば。
　で、誰が残る？と言ったら、それは運行責任者の私しかおるまい
　私が残りますワイ。皆の衆はお城に行ってきなされ。
　留守はこの私がお引き受けます」

一見職務熱心とも取れる発言だが、
実際のところアソコガの爺さんの心中は
よその家の貴人たちと会食するなんて真っ平ごめんだと思っていたのだ
「あんな気疲れするものは、世の中にそうそう無いわな
　緊張して飯もうまいもまずいも、そもそも喉を通らん
　姫様の名を冠したエアルージュの機内で、
　こうしてカップめんなど食ってるほうが
　はるかに気楽で精神衛生上もよいというものジャワ」

・・・
爺さんが天ぷらそばを食い終わり、
鼻くそなど丸めて遊び始めたころ、メールの着信を告げる音が聞かれた
「何じゃ、こんな時間に。馬蹄等の里からかな？」
そう一人つぶやきながらメールを開封したアソコガの爺さん。
読み始めるときは少し怪訝な表情をしているだけだったが、
次第にその顔が青ざめ、読み終える頃には蒼白になっていた

そのメールの発信元はベルリン。
宛名は『フラウ・香る緒万戸様』
そして発信者名は・・・フリードリヒフォンホーエンツォレルン�V！？

内容
フラウ・香る緒万戸様。
本日ベルリンに来られるご予定とお聞きしておりましたので、
王宮を上げて一同歓迎の用意をしてお待ちしておりましたが、
お越しになられませんで、非常に残念に思うとともに
ご旅程に何か支障でも生じたのかと危惧しております
私どもは当初の予定通り、
首都ベルリンの王宮にて馬蹄等の奥方たるフラウ・香る緒万戸さまを
歓待する意向でありますので、何か不都合が生じたのであればご一報ください
我が領内に関わることでしたら、万難を排してご助成させていただきます

ご返信、お待ちしています。草々　　

プロイセン国王・フリードリヒフォンホーエンツォレルン�V

メールを読み終えると同時に
アソコガの爺さんは直ちに緒万の方様の傍らにいるはずの護衛官、
イヴ黒岩の携帯電話に向けて緊急事態を告げる信号を発信した。
しかしその緊急信号は何者かに遮られているかのように、
空しく『送信不能。未達』として送り返されてきた
何度繰り返してもつながらない

アソコガの爺さんは、
エアルージュのコックピットから
遥かかなたに見えるシュヴァーベンの山を見やった
その山頂にホーエンツォレルンの城があり、
その城内にいま緒万の方様たちがいる。そしてその同じ城内には…

「お方様・・・」

アソコガの爺は祈るように呟き、下唇を強く噛み締めた

()
・・・
舞台は再びホーエンツォレルンの城内。

時は深夜。
馬蹄等たちの身内会議も散会し、各人が部屋に引き取り、
緒万の方様も御寝間着に着替えてお床に就いております
室内は常夜灯の淡い光のみで、
聞かれる音は緒万の方様のかすかな寝息のみ。

そのとき部屋の扉が音もなく開き、
人影がひとつ、室内に忍び込んでまいりました
そのものが抜き足差し足忍び足で、
緒万の方様のベッドの足元にまでやってまいりました、そのとき。
室内のメイン照明がパッと点き、
寝ていらしたはずの緒万の方様がベッドの上で上半身を起こし
そのものと向き合いました「こんな時刻に何の御用ですか？　陛下。」

そう。侵入者は誰あろう、
プロイセンの国王、フリードリヒその人だったのです

「嗚呼、フラウ・カオル緒マンコ。
　私は貴女に恋をしてしまったようだ。
　あなたは美しい。美しすぎる。
　あなたのもつアラフォーの大人の女としての妖艶な魅力に、
　引き込まれない男など、誰一人としておりますまい
　恥を忍んでまいりました。どうか私と一夜をともにしていただきたい」

「・・・陛下。お気は確かでございますか？
　私は馬蹄当主源揣摩の妻。人妻でございますよ？」

「あなたが人の妻であろうとなかろうと、
　そんなことは今の私には関係ありません。恋は盲目。略奪愛です。
　馬蹄等の当主などとは別れてしまいなさい。私のもとに来られよ。
　私はプロイセンの王だ。
　馬蹄等の当主などより、はるかに裕福。
　あなたにも好きなように贅沢をさせてあげます。
　子育ても必要ありません。もちろん専業主婦で。なんだったら家事も分担してもよい
　私のお小遣いは月一万で、洋服はイトーヨーカドー、お昼は手弁当でもかまいません
　馬蹄等当主などとは別れて私と結婚してください。
　その代わりフラウカオル緒マンコ。今夜私と一夜をともに・・・」

()
今夜だけ今夜だけとうわごとのように言いながら
フリードリヒは緒万の方様のベッドの上にあがり、
お方様の足を押さえつけ、逃げられぬようにして、
じりじりと迫ってまいりいます

「今夜だけ…今夜だけ…一発やらせ・・ぐぇっ！」

口の中を唾液まみれにして目の色を変えて
緒万の方様の目前までにじり寄っていたフリードリヒが
不意に奇声を上げて上半身をのけぞらせました
後ろから伸びてきた腕が、彼の髪をわしづかみにして強引にグイと後ろに引き戻したのです

「・・この怒スケベ変態やろうが。これ以上、お方様に近づいてみろ
　てめえのチンポコもぎ取って口ん中に突っ込んで窒息しさせるぞ、こら」

フリードリヒの髪を荒々しく掴んで恫喝したのは、
お察しのとおり、緒万の方様の専任護衛官イヴ黒岩。
どうもプロイセン側の挙動に不審ありと看破した緒万の方様一行は、
身内会議で協議した結果、イヴ黒岩には自室には戻らず、
そのままお方様の部屋に残り護衛してもらうことにしたのです
お方様ご自身も恐らく深夜に何かあると思っていたのでしょう、
プロイセン側がどう動くのか、寝たふりをして待ち受けていらっしゃったのでした

「こ、こ、こ、この下郎が。護衛ごときの分際で、
　プロイセンの王たる私の髪を掴むとは無礼千万！」
「無礼も糞もあるか。この歩く生殖器が！」

そう言うなり、
イヴ黒岩はフリードリヒをお方様のベッドから引きずり出すと
プロレス技で言うボディスラムの要領で彼の体を軽々と抱え上げ、
部屋の隅っこのほうに、ぶん投げます
もんどりうって背中から床に落ちたフリードリヒは、
一転二転、コロコロッと部屋の隅にまで転がって、そのまま動かなくなってしまいました

「ちょっと。イヴ。黒岩。やりすぎなんじゃないの？
　いくら歩く生殖器の、怒スケベ変態野郎とはいえ、
　相手はプロイセン国王ですよ。ほどほどにしておきなさい」
「これでも十分手加減したつもりですが」
「でもさっきからピクリとも動きませんよ？
　まさか死んでしまったなんてことは…」

緒万の方様が不安そうに眉をひそめたそのとき。
部屋の反対方向から若い女の声が降ってきました「あなたたち。私のお人形を壊したわね」

本日献立
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物狐饂飩中華春巻珈琲紅茶醍醐菓子
残存食料
蟹鮨野菜漬物鮭缶鶏缶天蕎麦中華麺御新香二果実菓子二

kuu2326

GEORGE THOROGOOD "Bad To The Bone"
http://www.youtube.com/watch?v=_7VsoxT_FUY
ZZ Top "She's just killing me"
http://www.youtube.com/watch?v=8PUc13GfzTs
nausicaa's theme
http://www.youtube.com/watch?v=i_g8y4ZgPeQ
get9 (from "ghost in the shell")
http://www.youtube.com/watch?v=0W02j-LxAEI

ワルキューレ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AC

()
その声の主は、
イヴ黒岩が『あの女は業モチ』と指摘した例の
売れ残りの婚活ババアがひとめでも見たら嫉妬で発狂してしまいそうな
綺麗で美人で若くて可愛らしくて金髪で八頭身モデル体型の乳がデカイ、・・あのメイドであった

「その『フリードリヒちゃん』は、
　私の大のお気に入りのお人形さんだったのに。それを壊すなんて」
「お人形…？」
「私が泥とウン子をこねくり回して人の形にして、
　かりそめの命を吹き込んであげた。私の可愛いお人形。それがフリードリヒちゃんよ」
「おまえ…脳みその中にウジ沸いてんのか」

「ちょっとお待ちなさい、イヴ黒岩」
いきりたつイヴ黒岩を、
傍らの緒万の方様が穏やかに制して諭されます
「或いはこのものは『ホムンクルス』のことを言っているのカモ知れません」
「ホムンクルス？あの山本英夫のマンガのことですか？」
「・・違います。ホムンクルスとは、
　古来よりここ欧州に伝わる人工生命体及びその作成技法を示す言葉です
　詳しくは以下のウッイキペディあの記載を御覧なさい
　http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%A0%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%82%B9」
「…ふん。
　ユーラシア大陸の東の端っこにあるちっぽけな島国の、
　その中でもさらにクソ田舎の弩僻地の馬蹄等の里にも
　少しは頭の巡りが良いやつがいたみたいね。
　そうよ。その『フリードリヒちゃん』は、
　私がこしらえたホムンクルスのひとつ。大のお気に入りだったのよ」

(>>194-195推敲結合)

その声の主こそ誰あろう、
イヴ黒岩が『あの女は業モチ』と指摘した例の、
売れ残りの婚活ババアがひとめでも見たら嫉妬で発狂してしまいそうな
綺麗で美人で若くて可愛らしくて金髪で八頭身モデル体型の乳がデカイ、
・・あのメイドでございました

「その『フリードリヒちゃん』は、
　私の大のお気に入りのお人形さんだったのに。それを壊すなんて」
「お人形…？」
「私が泥とウン子を丹念にこねくり回して人の形にして、
　かりそめの命を吹き込んであげた。私の可愛いお人形。
　それがその『フリードリヒちゃん』よ」
「おまえ…脳みその中にウジ沸いてんのか？
　ちゃんと医師に指定されたとおりにお薬飲んでるか？」
「ちょっとお待ちなさい、イヴ。黒岩。」

いきりたつイヴ黒岩を、
傍らの緒万の方様が穏やかに制して諭されました

「或いはこのものは『ホムンクルス』のことを言っているのでは？」
「ホムンクルス？あの山本英夫のマンガのことですか？」
「・・違います。ホムンクルスとは、
　ここ欧州に古くから伝わる人工生命体及びその作成技法のことです
　このものが言う『お人形さん』とは、
　そのホムンクルスのことかも知れません」
「ふん。
　ユーラシア大陸の東の端っこにあるちっぽけな島国の
　その中でもさらにクソ田舎の弩僻地の馬蹄等の里にも
　少しは頭の巡りが良いやつがいるみたいね
　・・そうよ。
　その『フリードリヒちゃん』は、私がこしらえたホムンクルスのひとつ。
　大のお気に入りだったのよ」

・・・
「ホムンクルスの作り手。…ということは、おまえは錬金術師か？」
「ヴぁぁぁか。
　あんな無知蒙昧な連中と、私を同列にするな
　私の名はゲンドゥル。ワルキューレの一人だ」
「…割るキュウリ？」
「…耳鼻科に逝け」

　ワルキューレとは北欧神話に登場する半神の女性。
　戦場において死を定め、勝敗を決する存在。
　語源は valr （戦場の死体）と kjόsa （選ぶ）を合わせたもので、
　『戦死者を選定する女』を意味する
　英語では valkyrie （ヴァルキリー）と発音する

「と、まあ、以上概ねウィキペディアからのパクリだが、そういうことだ。
　私は天界の宮殿ヴァルハラでラグナロクに備えて日々鍛錬をしている
　エインヘリャルをもてなすワルキューレの一人で、その名をゲンドゥルというもの。
　わかったか」
「なるほど、よくわかった。 やはりおまえは・・・
　一度精神科医にきちんと診てもらったほうがいい」
「・・・・」

25日確定
蟹鮨野菜漬物鰹刺身鯥煮物鶏缶詰珈琲醍醐菓子第二帝國迄
26日予定
鱒鮨野菜漬物鮭缶即席麺二御新香二果実菓子二紅茶醍醐菓子鶏肉揚物

()
・・・・
一方こちらはマイヨールと稗田のばあさん。
この二人もお方様の護衛をイヴ黒岩に任せて
自分たちだけ、さっさと惰眠をむさぼっていたわけではありません
例のゲルマニウム…じゃなかった、
ゲルマンルーンなる欧州古語が刻まれた扉の前に来ております

「ふぅん…これが先ほど>>182で、
　あなたが言われていた開かずの扉ってやつですか」
「さようです。御覧なさい。紋様のように見えるでしょうが、
　これが現代でも呪いなどによく使われるゲルマンルーンという欧州の古語です」
「その古語でこの扉に
　『汝、おぞましき婚活婆に魅入られしときはこの扉を開けよ』
　と刻まれているわけですね？」
「・・婚活婆ではない。おぞましき魔性、です」
「どっちも似たようなものでしょ。
　さぁ、扉を開けて中に入りまょう…っとととと。
　開かない。鍵がかかってますよ」
「開かずの扉なんだから鍵ぐらいかかってますよ。当然です」
「当然ですって・・そんなに落ち着き払ってどうすんですか。
　鍵がかかっているんじゃ、中に入れないじゃないですか」
「心配ご無用」

そう言ってマイヨールは、
懐からジャラジャラと錠前破りの七つ道具を取り出しました
それを見た稗田のばあさんがぼそりと一言。
「あんた…言語学者と称しているけど、本職は空巣狙いさん？」

「失敬なことを言わんでください。
　私は今回、多言語同時通訳者として
　お方様欧州歴訪のお供をさせていただいておりますが、
　本来は欧州古語の研究が本業なのです。
　本業というか、趣味、ライフワーク。
　自分で言うのも何ですが、まあオタクですよ。言語オタク。
　・・だいたい古語の世界なんてものはね。
　鍵がかかってる古い箱とか羊皮本とか開かずの間とかがあって
　そこに勿体つけて何か荘重な言葉が書いてある、それが古語だ、
　なんてことがよくあるんです
　考えても御覧なさい。
　古代においては文盲率が半端じゃなく高かったわけで、
　文字の読み書きができるってだけで、もうインテリなんですよ
　インテリってのは勿体つけるのが大好きでしょ？
　だから大抵は『汝、この箱をみだりに開くこと無かれムニャムニャ…』
　なんてことが書いてあって、その箱には鍵がかかってる。
　そういうことがよくあるのです
　そういうときに備えて、私は常に錠前破りの七つ道具一式を肌身離さず持ち歩いているのです
　これが空き巣狙いではない、とお分かりいただけましたか？稗田殿」

「・・・能書きはもういいからさっさと開けてください」

・・・

「ゴラァァァ。。。おめえたち、
　こんだた時刻にこんなとこで何やってるだぁ」

マイヨールの長ったらしい言い訳がようやく終わり、
さてお部屋の扉をこじ開けましょうかというところで、
不意に後ろから二人に野太い声が浴びせられました
見ればそこにはフランケンシュタインのようなブッサイクな大男が
可愛らしいお花のアップリケ付のエプロンを身にまとって、
立っているではありませんか

「おまえは・・ホーエンツォレルン家のコック。
　・・さきほどの醍醐菓子、大変おいしゅうございました」
「話をそらすんでねえ。おらはそもそも料理人でも何でもねえ
　ゲンドゥルさまが料理せえと仰ったから、料理しただけだべさ
　…おめえら、どうも胡散臭え連中だな。ここで殺しちまうべか」
「ちょ、ちょっと。胡散臭いってどういうことよ
　私たちはれっきとした馬蹄等当主の奥方、緒万の方様のお供のものたち。
　あんたはあんたで、プロイセンホーエンツォレルン家のご当主、
　フリードリヒ様のお付きの料理人でしょ
　殺しちまうべかって、そんなことしたら
　馬蹄等一門とホーエンツォレルン家の関係がただではすまなくなるわよ？」
「おらはゲンドゥルさまの下僕でエースっちゅうもんだ
　ホーエンツォレルンだかヤーレンソーランだか、
　そんなことは知ったこっちゃねえだ」
「エース？…料理人のエース…コックのエース…エースコック…チキンラーメン」
「何をわけのわからんこと言ってるだ。モーめんどくせえ、殺しちまうべぇぇ！」

コックのエースはそう叫ぶなり、
手にした中華包丁を振りかざして二人に襲い掛かってまいりました
「うわぁぁぁぁ！！！」
馬蹄等の一員とはいえ、マイヨールと稗田の婆さんは
単なる学者さんとメイドさんに過ぎません。戦闘力ゼロです
大男に中華包丁を振りかざされては、必死で逃げ惑うしかありません。。。

26日分献立
鱒鮨野菜漬物鶏肉揚物二鮪刺身鯖煮物紅茶珈琲醍醐菓子
27予備
蟹鮨野菜漬物鮭缶天蕎麦中華麺御新香二果実菓子二

(>>201のつづき)
・・・
場面替わってココは再び緒万の方様の寝室。
金髪巨乳メイドちゃんと睨み合うイヴ黒岩の傍らから、
緒万の方様が問いただされます

「そなたがワルキューレの一人ゲンドゥルなるものだとして、
　なにゆえこのようなことをする？
　プロイセン国王の名を騙り、我等を欺き、
　ココホーエンツォレルンの城に招き寄せて、
　そなたに何の益があるというのか？」

「駅？あの最底辺の男女の集いのことか？
　ふん。あんな掃き溜めは私には関係ない。これはただの暇つぶし、憂さ晴らしさ
　・・遥かなる古のとき、この城に取り憑いていたずらをしていた私を
　ホーエンツォレルン家のお抱え呪術師が城ごと封じ込めやがったのさ
　以来数百年、私はこの城から出られない
　恨みを晴らそうにもホーエンツォレルンの連中は、
　とっととベルリンに逃げやがってこの城にはやって来ようとしない
　頭に来たから、
　ホーエンツォレルンのゆかりがあり、
　事の経緯を知らぬよそ者がのこのこ欧州にやってきたら
　有ること無いこと言ってこの城にまでおびき寄せ、
　散々からかってからいたぶり殺すという、
　とってもお上品なことをやっているのさ
　…おまえは女でしかも人妻だから、
　フリードリヒちゃんに誘惑させてあんなことやこんなこと、
　果てはそんな淫らふしだらな体位でナニをしているところを撮影し、
　それをネタにゆすりたかりをしていた自称会社役員武田勝伸容疑者を福岡東署は結婚詐欺の容疑で逮捕…
　じゃなかった、
　それをネタにゆすったりたかったりして、
　いろいろいたぶって遊ぼうと思っていたのに。
　あっさり見抜かれたとあっちゃ仕方ない。お前らにはココで死んでもらうわ」
「…ゲンドゥル」
「なんだ」
「そなた、話が長すぎる。三行以内に要約してくれ」
「・・・・」

・・・
「お方様…離れなさい」

お話し合いももはやこれまで、
と判断したイヴ黒岩が静かにお方様に告げました

全世界におそらく一人か二人ぐらいしかいないであろう、
この物語の熱心な読者なら既に先刻ご承知のことですが、
敬慕するお方様に対して指示出し口調になったときのイヴ黒岩は…怖い。マジ怖い
それは『これからバトルモードに入りますよ』という、
イヴ黒岩の宣言に他ならないからです

お方様がそそくさと部屋の片隅に退避するとともに、
イヴ黒岩の容貌が、
見る間に女性人格のイヴから男性人格の黒岩に、
そして体躯は女からオトコへ、
さらには人にあらざるものに変容してまいります
しかしその変容を目の当たりにしても、
ワルキューレのゲンドゥルはいささかもひるみません
それどころか、うっすらと笑いすら浮かべているではありませんか

「ふん…面白い。なるほど、人狼であったか。
　しかしたかが人と獣の合いの子に過ぎぬおまえが、
　半神半人であるこのワルキューレのゲンドゥルに、
　勝てると思っているのかな？」

ゲンドゥルが、その薄笑いを引っ込めますとともに、
三人のいる寝室の空間が微妙にグニャと歪みました
気のせい？いえいえ決してそうではありません
ゲンドゥルが半神としての魔力を発揮して、
緒万の方様の寝室そのものを別の時空間に移し変えたのです
「ワルキューレの時空間へようこそ。
　…さてと。この私の世界で人狼のおまえがどれほどの力をだせるものか
　ひとつ、お手並み拝見といこうか」

・・・
さて再び場面替わってココは開かずの扉の前。
中華包丁を振り回す大男に追われて、
必死に逃げ回るマイヨールと稗田のばあさんのお二人でございます
で、まあこういうときに足を引っ張るのはたいていババア…と相場が決まっておりまして、
案の定、
足が回らなくなった稗田のばあさんが、
床のへこみに蹴躓いてスッテンコロりん！
「嗚呼、稗田殿！」「ババア、氏ねやぁぁぁ！」
マイヨールの悲鳴と大男の怒声が交錯する中、
中華包丁が大きく振りかざされ、
哀れ稗田のババアの命もこれまでかと思われたそのとき。

「どりゃああああああああ！！！☆」っと、
…まあ、そんな感じの雄たけびとともに
一本の長槍が大男を背中から刺し貫きました
「へ？」
大男は一瞬きょとんとした顔をいたしましたが、
己の胸から槍の穂先が突き抜けているのを見て、
「あれ？あれれれ？これはいったい。。。なんだべか。。。」
と呟きながら、その場に崩れ落ちるや、
見る見るうちに泥とウン子の原初の姿に戻っていったのでした

稗田の婆の命を間一髪で救い、
崩れ落ちた泥とウン子の塊の中から、
長槍を引き抜いたその人物とは…
「ア、そこが殿」
「ジジイ。。。」
「はぁはぁはぁ。。。この歳で急な山登りは、体に悪いわ」

そうです。
長槍の主は、
馬蹄等一行の中でただひとり、テュービンゲンの空港に居残り、
馬蹄等のプライベートジェット『エアルージュ』の機内で待機していたはずの、
アソコガの爺さんだったのでした

27日分献立
蟹鮨野菜漬物勘八刺身帆立煮物中華春巻鶏肉揚物珈琲紅茶
28控え
蟹鮨野菜漬物鮭缶即席麺弐御新香弐果実菓子弐＋醍醐菓子/kuu0006

【阿蘇古賀のジジイ、かく語りぬ】

かくかくしかじか。
・・というようなわけで、
プロイセン国王フリードリヒ陛下は、
私らをココホーエンツォレルンの城などには招いていなかったのだ
当初の予定通りベルリンの王宮でずっと私らを待っていらしたのじゃよ
このことは私がプロイセンの事務方に緊急電話を入れて直接確認したから、間違いない
つまりココホーエンツォレルンにいるフリードリヒは偽物、っちゅうこっちゃ。
もちろん私はお方様にこのことを知らせるべく、
イヴ黒岩殿の携帯に向けて緊急信号を発信したわな
ところが、どうやってもつながらんのだ
このシュヴァーベンの山全体がなにやら禍々しき妖気に覆われて
エアルージュから発信される電波をさえぎっておったのじゃ
…もうこうなったらしかたない、
私はエアルージュを放棄し、先祖伝来のこの長槍一本を担いで、
電車タクシーを乗り継ぎ、ココシュヴァーベンの山麓までやってきた
そっからは徒歩じゃ
ええかげんにせえよ、ロープウェイぐらいないんかと思ったが、
無いものは仕方ない
老骨に鞭打って必死で山を登り、
いまこうして山頂のホーエンツォレルン城にまでやってきたというしだいです


…ご静聴、アリガトウございました

「そ、それは大変。では私どもも急いで緒万の方様の寝室に戻らねば…」
「いかにも。
　開かずの扉を開いて中に何があるのか、
　覗いてみたい気持ちは重々ありますが、
　お方様の危難とあってはそんなこと言ってはいられません
　取り急ぎ、お方様とイヴ黒岩殿のところに戻りましょう」

爺さんの話を聴いて、
稗田のばあさんとマイヨールが口々に言うのを、
阿蘇古賀の爺さんが制します
「いや。プロイセン事務方の言うところに拠れば、
　ココホーエンツォレルンの城に巣食っているのは、
　数百年にわたってプロイセンの王家に恨みを抱いているおぞましき魔性とのこと。
　並大抵の相手ではない。
　私らがいまからお方様の許に行っても助太刀にならぬどころか、
　足手まといになるだけだ。私たちがすべきことは、他にある」
「『おぞましき魔性』ですと？」
阿蘇古賀の爺さんのその言葉を耳にしたマイヨールは、
思わず傍らの扉に眼をやり、
そこにあるゲルマンルーンの言葉を口にいたしました

「『汝、おぞましき魔性に魅入られしときはこの扉をあけよ』・・・」

()

さてまたまた場面替わって、
ココは緒万の方様の寝室改めワルキューレの空間。
・・というか、この後は、
状況に応じて場面はドンドン入れ替わりますので、もういちいち申し上げません
読者諸賢のほうで適宜判断解釈して読み進めて下さいますよう、お願い致します

「ひょ〜ほほほほほ。どうした人狼。お前の力はその程度か？
　もっと楽しませておくれよ。ひょ〜ほほほほ。ひょほ。ほ」

ワルキューレのゲンドゥルは嘲笑を浴びせつつ、
鋼のような硬い鞭を自由自在に振り回してイヴ黒岩を襲います
対するイヴ黒岩は、やはりワルキューレの異次元空間のせいか、
思ったように体が動かせません
見る見るうちにイヴ黒岩の肌が裂け、鮮血が飛び散ります。

「イヴ…黒岩…」
空間の一隅で二人の戦いを見守る緒万の方様も、
思わず手を強く握り締め、声を漏らされました。危うし、イヴ黒岩・・・

第四帝国に至る病

場面転換。開かずの間。

ガチャガチャがっちゃん。ギィィィィィィ…

「おお。
　さすがはマイヨール殿。見事な錠前破りの腕。
　やはり空巣狙いが本業なだけのことはありますね」
「…違います」
「こら、２人とも。ギャグを飛ばしている場合ではないぞ
　プロイセン事務方の話では、この封じられた室内の中に、
　ワルキューレのゲンドゥルなる魔物の力を弱める何らかの鍵がある、
　ということであったが・・・何も無いぞ。ただの空室ではないか！？」
「本当に。綺麗サッパリ何も無いわ。
　あるのは数百年間堆積した埃だけ…」
「ど、どうしたものか。これではお方様をお救いすることができぬ」
「まさかとは思いますが、
　プロイセン側がその場しのぎに適当にウソをこいた、
　などということは…」

魔物のパワーを弱めるはずの『鍵』が見当たらず
狼狽する阿蘇古賀のジジイと稗田のババアを尻目に、
マイヨールだけが、ただ一人、感に堪えたように深くうなづいていた
「なるほど・・・こういうことだったのか」
「こら、マイヨール殿。一人で納得しないでくれ
　お方様とイヴ黒岩殿の危機じゃ。何かわかったのなら教えてくだされ」
「そうですよ、マイヨール殿」
「阿蘇古賀殿。稗田殿。慌てなさるな
　『鍵』はちゃんとこの室内にございます」
「え？この空っぽの部屋のどこにそんなものが…」
「どこでもない。
　この部屋そのものが魔性を退けるための『鍵』なのです。御覧なさい」

そう言ってマイヨールは手をかざした
その手の先にあるのは、室内の壁しかない
だがその壁面には、
壁いっぱいを遣ってこれでどうだと言わんばかりに、
ゲルマンルーンの呪文が延々と刻み込まれてあった・・・

28日分献立
蟹鮨野菜漬物鮪刺身鶏肉揚物紅茶珈琲醍醐菓子・第四帝國迄
29控え
蟹鮨野菜漬物鮭缶天蕎麦中華麺御新香弐果実菓子弐醍醐菓子

(>>213書き直し)

場面転換。こちらは開かずの間。

ガチャガチャ。がっちゃん。ギィィィィィィ…

「おお。さすがはマイヨール殿。見事な錠前破りの腕。
　やはり空き巣狙いが本業なだけのことはありますね」
「…違います」
「こら、２人とも。
　ギャグを飛ばしている場合ではないぞ
　プロイセン事務方の話では、この封じられた室内の中に、
　ワルキューレのゲンドゥルなる魔物の力を弱める何らかの鍵がある、
　ということであったが・・・何も無い？ここはただの空室ではないか！？」
「本当に。綺麗サッパリ何も無いわ。
　あるのは数百年間堆積した埃だけ…」
「ど、どうしたものか。これではお方様をお救いすることができぬ」
「プロイセン側がその場しのぎに適当にウソをこいた、などということは…」

魔物のパワーを弱めるはずの『鍵』が見当たらず
狼狽する阿蘇古賀のジジイと稗田のババアを尻目に、
マイヨールだけは、ただ一人、感に堪えたように深くうなづきました
「なるほど…こういうことだったのか」

「こら、マイヨール殿。一人で納得しないでくれ
　お方様とイヴ黒岩殿の危機なんじゃ。
　何かわかったのなら教えてくだされ」
「そうですよ、マイヨール殿」
「阿蘇古賀殿。稗田殿。慌てなさるな
　『鍵』はちゃんとこの室内にございます」
「え？この空っぽの部屋のどこにそんなものが…」
「どこでもない。
　この部屋そのものが魔性を退けるための『鍵』なのです
　…御覧なさい」

そう言って、マイヨールは手をかざしました。
そのかざした手の先にあるのは、室内の壁だけ。
しかしその壁面には、
壁いっぱいを遣ってこれでもか言わんばかりに、
ゲルマンルーンの降魔の呪文が延々と刻み込まれてあったのでした・・・

()

SMの女王様のノリで、
哄笑しながら縦横無尽に鞭を振るっていたゲンドゥルの手が、
そのときふと止まりました。小首をかしげ、辺りを窺います
「これは・・・？！」

そう。
自らの魔力で構築したはずの『ワルキューレの空間』が、
いつのまにやら消失しているのです
いまここは、至って普通の空間、
元のとおりの緒万の方様のご寝室に過ぎません

「くそ。誰かが降魔の呪文を唱えてやがるな…」

降魔呪文を唱えられては、
ワルキューレのゲンドゥルの魔力も大きく制限されます
このままでは異次元空間の再構築もままなりません
まず呪文を唱えているやつの口を封じなければ。
そいつはどこだ、どこにいる？
そう思って周囲を見回したゲンドゥルの一瞬の隙を、イヴ黒岩は逃しませんでした
「！」
ゲンドゥルが我に返ったときには時に既に遅し。
獣人に変容しているイヴ黒岩の鉄のように硬い拳が
ゲンドゥルの直ぐ目の前まで来ておりました
到底かわすことなど、できません
十分に腰を入れ全体重を乗せたイヴ黒岩の渾身の右ストレートは
ゲンドゥルの顔を正面からぶち抜き、そのまま背後の壁に達して、
さらにその壁をへこませ亀裂を生じされたところで、
ようやく止まりました
イヴ黒岩が壁から右こぶしを引き抜くと、
顔無し死体と化したゲンドゥルの体が壁の残片と共にその場に力なく崩れ落ちます
そして、壁のへこんだ箇所には
驚愕の表情を浮かべたゲンドゥルの最期の顔が、
ベッタリとへばりついていたのでした・・・

・・・
一方、こちらは開かずの間の三人。
三人ともちょこんと地べたに正座しております
壁に向って朗々と降魔呪文を唱えるマイヨールを真ん中にして、
右に阿蘇古賀、左が稗田。
阿蘇古賀のジジイは木魚をたたき、
稗田のババアは数珠をまさぐっております
木魚と数珠がどっから出てきたんだ？…などという、
野暮なことは訊かないでください
こういうお話でございますから、すべては適当、ご愛嬌でございます

「こんなことで本当にお方様をお助けできるのかしらねえ…？」
「シッ。ババア、うかつに不信心なことを言うな。
　いまの私らにはこれしか手立てが無いのじゃ
　いわしの頭も信心から、という言葉もある
　いまはただひたすらマイヨール殿の言葉を信じて祈るしかあるまい。
　ナンマンダブ、ナンマンダぶ…」

【エピローグ】

・・・
数日後。
緒万の方様とイヴ黒岩は、
ベルリン王宮内の来賓応接の間で紅茶など飲みながら
プロイセン国王フリードリヒフォンホーエンツォレルン３世陛下の来室を、
今や遅しと待ち受けておりました

「イヴ。黒岩。…傷はまだ痛みますか？」

お方様を護る為に
ワルキューレの一人魔性ゲンドゥルと闘い、
満身を鋼の鞭で叩かれて、一時は半死半生に陥った護衛官イヴ黒岩。
その心身の回復の具合を気遣う緒万の方様の優しい言葉に、
イヴ黒岩はうれしそうに答礼します
「いえ…ま、多少まだ痛みはございますが、さしたることはございません。
　適当にバンドエイドなど貼っておけば、早晩回復いたしましょう」
「そう、それは良かった。…それにしても今回は酷い目にあいましたね
　やはりこの婚活の世界では、
　お会いする前に相手さんの写真を確認しておかなくてはいけませんね
　そうしておけば、ホーエンツォレルンの城で一目見た瞬間に
　あのフリードリヒが偽ものだということがわかりましたのに」
「私はてっきりお方様のほうでご存知とばかり思っておりました」
「え〜、だって面倒くさいじゃないですか。
　そもそも私は人妻ですよ、
　表敬訪問先の相手さんが美男子だろうがなんだろうが、
　そんなこと知ったこっちゃありません。どうでもいいことですから」
「・・・お方様って、意外と不精でものぐさだったんですね」

「でもアレですね、イヴ。黒岩。
　偽物のフリードリヒですら、あれだけイケメンだったんだから、
　本物さんはどれほどの美男子かと思うと一寸わくわくしますね♪」
「…お方様、人妻じゃなかったんですか？
　というか、未だに相手さんの顔を確認していらっしゃらないので？」
「え〜、だって面倒くさいじゃないですか」
「・・・・」

　　　　　　　　　　　　 ∧..∧
　　　　　　　　　　　. (´･ω･｀)　　…と、まあここまでネタを振ったら
　　　　　　　　　　 cく_>ｙｃく__）　　大抵の読者は既にオチに気づかれている事と思いますが
　　　　　　　　　　　（___,,_,,___,,_）　 ∬　お話の構成上、一応結末をつけさせて頂きます
　　　　　　　　　　彡※※※※ミ　旦

・・・
「馬蹄等のお二方。長らくお待たせいたしました。
　ただいまよりプロイセンの国王フリードリヒフォンホーエンツォレルン３世陛下のご来室です」
その奏者の声を受けて、お方様とイヴ黒岩も国王を迎えるために起立いたします
そのお二人の耳に、ドア越しに「…この部屋でいいのかな？」という男性の声が。
嗚呼、これぞ麗しきプロイセン国王のお声…今度こそ本物のフリードリヒ陛下が…

　　　　　　　　　　　　 　 　 r　ﾆﾆ==─_- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　 , --ゝ　-=ﾆミ　｀ヽ､
　　　　　　　　　　　　　 　 ／　　 　 l^ 、 　 `ヽ、＼　　　　　　　／￣｀ Y' ￣ ｀ヽ､
　　　　　　　　　　　　　　/　　　　　ハヽ＼ ､　　　　＼　　　　 , （￣｀Ｙ^Y^Y´￣） )
　　　　　　　　　　　　　　V 　 /／__⌒ヾ 、ヽ＼　　　 ､ヽ _　 /　 し-‐ゝ‐ ｲ‐-J　｀ヽ
　　　　　　　　　　　　　　,」 ｌ 〃ｙ'⌒゛　＾＼､⌒ ＼ヽ､＼｀ヽ､{／　　　　　 　 　 ｀、｀ヽ
　 ┏┓　 ┏━━┓ 　 ｛ﾍl/l! `　f:'!　 　 '⌒ヽ_ >､＼-ヾヽ､/　　 　 ,　ｧ／ヽ　　　､ﾍ ｝.　　　　　　┏┓┏┓
┏┛┗┓┃┏┓┃　　　(|'){.　´｀´　,　 f:'!　 ﾀｈ　}｀lヽ､　〃　　 ∠､〃　r＝＼､　V丿.　　　 　 　┃┃┃┃
┗┓┏┛┃┗┛┃┏..彳,　ヽ(⌒ ー‐-､｀ /)|ﾉ’・|ﾉ━━.|l {　／￣_'　 　 __　　l＼ヽ━━━━┓┃┃┃┃
┏┛┗┓┃┏┓., -─┴ ｙ'-く＞----ｲ く｛ ′━ '━━..|ハ｛ ｙ'⌒　 　 '⌒ヽ, ﾚ‐､ヽ) ━━━┛┗┛┗┛
┗┓┏....r‐-＜´_＿_＿__ノ｛ 　 ヽ__｀!　ﾉ)ﾊ }`　　　　　　　　(^ }｀ _{:!　　　{:!_　´_)^ﾉ　ヽ.　　　　 　┏┓┏┓
　 ┗┛_..し'ひ┐ｒﾍ_几ﾉ＾´/ 　 　 ） Y´￣ｿ′　　　　 　_／　 ハ 　 　 '　ｎｎ　ノ^うヽ　 ＼　　　 　┗┛┗┛
　　　＼ヽ　＿＿, -‐く　　 とﾆﾆフ-r'─っ{ ヽ 　 　 ,　 ´　,　'´　r「hn､_rl^|‖ｈ　´＼　＼　｀ヽ､
　　　　 ｝｝´　　　　　 ヽ　∠_　ノ ｰ{ ￣｀Yｰ､|,　 '´　　／　 ハ ﾄ |j | |　｝Y⌒Y　ハヽ＼　＼　　ヽ
　　　- '^′　　　　　　　ｙ'´,　'´￣｀ヽ⌒ﾒ¬_ゝ　　／ 　 ノ/⌒|∧｀X) 「｀ﾌく⊥'⌒ヽ `､ヽ　 ＼　 }
　　　 　 　 　 　 　 Y´　　　 ．　 Ｙへ 　 ＼/　　/　 |　　( w!　 ト┤(_,J |丿　　}　｝ ｀､ 　 )丿

　　　　／￣￣￣￣＼　　　　 いやあ、すっかりお待たせしちゃってスイマセン
　　　（　　人＿＿＿＿）　　　 僕がプロイセンの国王、
　　　 |ミ/　　ー◎-◎-） 　 　 フリードリヒフォンホーエンツォレルン３世です
　　　（６　　　　　(_　_)　）　馬蹄等の奥方。および護衛の方。
　　＿｜　∴　ノ　　３　ﾉ　　　遠路はるばるご苦労様。ベルリンへようこそ。
　（＿_/＼＿＿＿＿_ノ　　　　
　/　（ 　　||　　　　　　||　　 　
[]＿_｜　｜　さくら命　ヽ　　　
｜[]　|＿_|＿＿>>1＿＿_）　　
　＼_（＿_）三三三[□]三）　　
　　／（＿）＼::::::::::::::::::::::::/　　
　｜よどばし｜::::::::/:::::::/　　
　（＿＿＿＿_）:::::/:::::::/　　　
　　　　　（＿＿＿[]＿[]　　　

「・・・・・・・・・・・・」
　　　　　　　　　　　　 　 　 r　ﾆﾆ==─_- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　 , --ゝ　-=ﾆミ　｀ヽ､
　　　　　　　　　　　　　 　 ／　　 　 l^ 、 　 `ヽ、＼　　　　　　　／￣｀ Y' ￣ ｀ヽ､
　　　　　　　　　　　　　　/　　　　　ハヽ＼ ､　　　　＼　　　　 , （￣｀Ｙ^Y^Y´￣） )
　　　　　　　　　　　　　　V 　 /／__⌒ヾ 、ヽ＼　　　 ､ヽ _　 /　 し-‐ゝ‐ ｲ‐-J　｀ヽ
　　　　　　　　　　　　　　,」 ｌ 〃ｙ'⌒゛　＾＼､⌒ ＼ヽ､＼｀ヽ､{／　　　　　 　 　 ｀、｀ヽ
　 　　　　　　　　 　 ｛ﾍl/l! `　f:'!　 　 '⌒ヽ_ >､＼-ヾヽ､/　　 　 ,　ｧ／ヽ　　　､ﾍ ｝.　　　　　　
　　　　　　　　　　　(|'){.　´｀´　,　 f:'!　 ﾀｈ　}｀lヽ､　〃　　 ∠､〃　r＝＼､　V丿.　　　 　
　　　　　　　　　..彳,　ヽ(⌒ ー‐-､｀ /)|ﾉ’・|ﾉ　　.|l {　／￣_'　 　 __　　l＼ヽ
　　　　　　　., -─┴ ｙ'-く＞----ｲ く｛ ′　 '　　..|ハ｛ ｙ'⌒　 　 '⌒ヽ, ﾚ‐､ヽ)
　　　....r‐-＜´_＿_＿__ノ｛ 　 ヽ__｀!　ﾉ)ﾊ }`　　　　　　　　(^ }｀ _{:!　　　{:!_　´_)^ﾉ　ヽ.　　　　 　
　 　　_..し'ひ┐ｒﾍ_几ﾉ＾´/ 　 　 ） Y´￣ｿ′　　　　 　_／　 ハ 　 　 '　ｎｎ　ノ^うヽ　 ＼　　　 　
　　　＼ヽ　＿＿, -‐く　　 とﾆﾆフ-r'─っ{ ヽ 　 　 ,　 ´　,　'´　r「hn､_rl^|‖ｈ　´＼　＼　｀ヽ､
　　　　 ｝｝´　　　　　 ヽ　∠_　ノ ｰ{ ￣｀Yｰ､|,　 '´　　／　 ハ ﾄ |j | |　｝Y⌒Y　ハヽ＼　＼　　ヽ
　　　- '^′　　　　　　　ｙ'´,　'´￣｀ヽ⌒ﾒ¬_ゝ　　／ 　 ノ/⌒|∧｀X) 「｀ﾌく⊥'⌒ヽ `､ヽ　 ＼　 }
　　　 　 　 　 　 　 Y´　　　 ．　 Ｙへ 　 ＼/　　/　 |　　( w!　 ト┤(_,J |丿　　}　｝ ｀､ 　 )丿

「うわあああああああああああああああななななんだこのキモデブオタク
　不細工やろうはこんなやつがプロイセンの穀殴打なんて談じてありえん
　ツウか許されんだろナイナイナイナイありえないこんなんだったら偽門
　のフリードリヒちゃんのほうが百倍マシだっつうのパスパスパスパス…
　宇和。宇和。宇和嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼。宇和ああああああああああああああああ・・・・・・」






…っと。


緒万の方様欧州怪異談
其の第二話「ホーエンツォレルンの怪」　　　おしまい

このお話に登場した主な人々

【緒万戸香】
　馬蹄等の一人。通称、緒万の方様。詳細>>122参照。
【イヴ黒岩】
　馬蹄等の一人。緒万の方様付き専任護衛官。詳細>>140参照。
【稗田のばあさん】
　緒万の方の身の回りの世話役。本来は馬蹄等御館のメイド長。
　メイド一筋三十年。
　冥土に逝ってもメイドをするぞと、心に決めているメイドインメイズ
【アソコガの爺さん】
　馬蹄等保有のプライベートジェット、エアルージュの操縦士。
　緒万の方様欧州歴訪に際しての航路管理者兼運航担当責任者。
　稗田のばあさんとは仲がいいのか悪いのか・・・
【ムスクルス・ツィゴマティクス・マイヨール】
　馬蹄等お抱えの言語学者、多言語同時通訳者。
　現存する欧州諸言語は言うまでもなく、
　既に死語となっているヨーロッパ古語にも強い、いわゆる言語オタク。
【ゲンドゥル】
　ワルキューレの一人。
　遥かなる古のとき、
　ホーエンツォレルンの城に取り憑いていたずらをしていたところを
　ホーエンツォレルン家お抱えの呪術師によって城ごと封じ込められ、
　頭に来た結果、
　ホーエンツォレルンにゆかりがあり、かつ
　事の経緯を知らぬよそ者がのこのこ欧州にやってきたら
　有ること無いこと言ってホーエンツォレルン城にまでおびき寄せ、
　散々からかってからいたぶり殺すという、
　とってもお上品なことをやっている魔物。
【フリードリヒちゃん】
　ゲンドゥルお気に入りのホムンクルス。偽プロイセン国王を演じる
【エースコック】
　・・・チキンラーメン

通読する際のアンカー　>>省略

　　　　　　　　∧∧　　ミ　＿　ドスッ
　　　　　　　 (　 　,,)┌─┴┴─┐
　　　　　　　/　　　つ.当分休養 │
　　　　　〜′　/´　└─┬┬─┘
　　　　　　∪ ∪　　　 　 ││　_ε３　　　宗家式語部
　　　　　　　　　　　　　　 ゛゛'゛'゛

3/1日分献立
蟹鮨野菜漬物烏賊刺鮪煮物鶏揚物*2・紅茶珈琲醍醐菓子果実菓子
控え
蟹鮨野菜漬物鮭缶天蕎麦中華麺御新香醍醐菓子果実菓子二。以上

3/2日分献立
蟹鮨野菜漬物活平目刺身鰹刺身鶏揚物中華春巻紅茶珈琲醍醐菓子。
控え
蟹鮨野菜漬物鮭缶天麩羅蕎麦中華麺御新香醍醐菓子果実菓子二個。以上

kuu0126

新耳袋の４巻？
これ「やまのまきば」って読むのかと思ってた

　　ﾟ　　o　　　.　　。　　　.　　.　　　,　　.　,　ｏ　。ﾟ.　,ﾟ　。　＋　。　。,ﾟ.。
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　。　.　　．　.　　　.　　　．　　。　ﾟ。,　☆　ﾟ.　＋　。　ﾟ　,。　.　。　　,　.。
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　　.　　　。　　ﾟ　ﾟ。　。,　.。o　☆　+　,ﾟ。　*。.　。　。　.　　　　。　　　　.
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ﾟ。ﾟ+ﾟ`,　o。。.ﾟ*。ﾟ　。.ﾟ　。　☆＋。。ﾟ.　°　。　.　　　,　　　　　　ﾟ　　　　ﾟ
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　ﾟ.　ｏ　*　。ﾟ。ﾟ.。ﾟ。+ﾟ　。　。　ﾟ。 ﾟ　。　　ﾟ
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　　　　　　　　　　　　　 〜（::;;;;;;:/.　 　 |:;;;;;;: )
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「すごい…あんな流星群、初めて見たわ」「きっとあれはホニャホニャホニャララだよ」

3/3日分献立半ば
蟹鮨野菜漬物鶏揚物紅茶珈琲醍醐菓子第三帝國到達。
控え
蟹鮨鮭缶天蕎麦中華麺御新香三醍醐菓子果実菓子二。以上

()
・・・
ココは見捨てられた地、栗と栗鼠の里。
その名のとおり栗の木が繁茂し秋になるとそれに実がなり、
その実を求めてリスたちが集まってくる。
そんな鄙の里である
そんな糞田舎の、弩僻地の、誰も絶対に寄り付かないような、
栗とリスの里にも繁栄の時はあった。

ココクリトリスの里がまだ『クリトリス酸市煮』と呼ばれていた時代。
たまたまこの里にやってきた通りすがりの旅人、
馬蹄等の呪術師、歳の左近と
緒万戸村の茶人、緒万戸羊水が
この里に居座ってやりたい放題、さんざん遊びまわったのである
その物凄さは、スレッドのレスが950ぐらいまで進んだところで
「このスレッドは容量オーバーの為、もう書き込みできません」
というメッセージが出たことからも窺い知ることができよう
つまり、誰とは言わないが
誰かさんが長文を書きまくったために
スレッドが千に到達する前にパンクしてしまったのである・・・

そして今にして思えば、
あの時期がココクリトリスの里の唯一無二の繁栄期であったのかもしれない
『クリトリス酸壱酸』になってからは
左近と羊水も去り、誰も来ず、
もはやここにいるのは里の長者である慈円を除けば、
電脳管制官のジャンク太郎ぐらいしかいなくなってしまったのである

こうしてスレが勃ってから
ほぼ無為とも思える二ヶ月の歳月が流れた。
そんな或る日のこと。

・・・
その夜。
里の長者、クリトリスの慈円さんは
深夜であるにもかかわらずサトウキビ畑の見回りに出かけた
最近、野生のタヌキが里のサトウキビを食い荒らし、
被害甚大だったからだ

「…このまんまじゃ、今年の収穫はろくなもんじゃねえづら。
　今夜こそ、里の畑のサトウキビ食いまくっとるタヌキをば
　ひっ捕らえて踏ん縛って、タヌキ汁にして食ってやるずら。
　覚悟せえよ、狸公…」

そんなことを一人呟きながら、
夜道を歩いていた慈円さんは
突如として上空から湧き上がった轟音に吃驚して腰を抜かした
「な、ななななんじゃ、この、いかずちのような音は・・・」

慈円さんが恐る恐る上空を見あげると
そこにはこの世ならざる光景が広がっていた

かすかな星の瞬きしかないはずの夜空の一角が
切り裂かれたようにざっくりと割れ、
そこから眩しいくらいの光があふれ出ているではないか

「泡わわわわ・・・ゴソウ袈裟マゴ宗家様、
　どうぞ私をお守りください・・・」

信心深い慈円さんは
思わず自らが信仰する馬蹄等の宗家、源朝臣鞠子を頭に思い浮かべながら
手を合わせた
その慈円さんの頭上、切り裂かれた天空の一角から、
不意に爆音と共に航空機が一機、その姿を現わした
その航空機こそ、
アソコおまんこの世界のコンカツ時間二月五日未明に、
バミューダの魔のトライアングルで消息を絶ったボーイング七八七型機、
愛称『スカイマンコ』に他ならなかった

・・・
スカイマンコの機内乗務員も混乱していた
ペルーのクスコマンコを目指して洋上を航行していたはずが、
突然、眼下に陸地が広がっているのを確認したからだ
とりあえず乗客が騒ぎ出す前に何らかのアナウンスをしなければ。
機長自らがマイクを手にした。

「世界一周まんこのたびにご搭乗の皆様にお知らせいたします
　当機はペルークスコマンコを目指し大西洋上を航行中のはずでした。
　しかし、既にお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、
　現在眼下には陸地が広がっております
　とりあえずここがどこだかわかりません
　当機は現在、なんだかわけのわからないところを飛行しております
　いったいここは何処なのか、
　確認が取れますまで今しばらくお待ちくださいませ…」

私がここにいる理由、それは…
日常から懸け離れた異質な世界を見てみたい、ということです

常識がぶっ飛んでるようなトンデモの世界。
私から見ればコンカツ世界というのはそんなところです
いわば、お化け屋敷とかジェラシックパークみたいなものですね
だってまずいきなり
「男の年収いくら以下は足きり！」とかやってるわけですよね？
「女は三十から」とか「40になってもまだ生める」とか
「俺は五十才過ぎだけど相手の女は25以下がいい」とか、
互いに訳わからんこと言ってるわけです
しかも本人はそれが許される、というか
むしろ当然だ、とか思っているわけです

・・ま、有り得んですね。普通は。
でも本人にとってはそれが「普通」なんですよね？
その落差が面白いんですよ

(未投稿)

test by1830z

3/4日分献立予定
蟹鮨御新香鶏揚物紅茶珈琲醍醐菓子コールスローサラダ。
控え
蟹鮨鮭缶(即席麺御新香醍醐菓子果実菓子)各二。以上

(>>232-234から)

　 ∩_,,∩
　(　・ x ・) 　　　ほほぅ・・・
　( つ旦と　,.-､ 　 御前様方は旅の途路で道に迷われて当地に来られた、と。
　と＿)＿) (,,■) 　ココはクリトリスの里と申す、鄙の里じゃ。
　　　　　　　　　　せっかく参ったのじゃ、マァのんびりしていきなされ

粗茶粗餐でござるが、まずは一服…
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ζ　　,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_ ノ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （　(　　　(.　）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 . -‐　） ‐- .
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.´,.::::;;:... .　. _ 　`.
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i ヾ<:;_　　　_,.ン |
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l　　　　 ￣...:;:彡|
　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 　 }　　. . ...::::;:;;;;;彡{
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｉ　　　. . ...:::;;;;;彡|
　　　　　　　　　　　,: ' " `丶　 　 　 　 .　　　　} 　 . .....:::;::;:;;;;彡{
　　　　　　　　　 , :´　　.　　 ｀､　　　　　　 　 　!,　　　 . .:.::;:;;;彡j:::::::::::::::.......
.　　　　　　 　 . '　　.　　　　;　.丶　　　　　　　　 ト ,　 . ..,:;:;:=:彳:::::::::::::::::::::::::::..
.　　　　　 　 ,:´　.　　　　'　　　 ' ｀､　　　　　　　 ヽ､..　....::::;;;ジ.::::::::::::::::::::::
　　　　　　 ,' 　 　. 簍�J鶸鑼 　;　`.　　　　　　　　　 ￣￣
　　 ,, -'''" . 　 .　　駲刪櫑躪　　. ' ';゛`'丶.､.......
.　 '´ 　 　 ! 　 　.　膚順棚斷.　'　,　;::::::::::::...`.::::::::....
　i 　 　 　 ヽ､..._,.__魎鬱蹠撫.,,__,.,..ノ.::::::::: 　　!::::::::::::...
.　ヽ､ 　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,: '.:::::::::
　　　 `=ｰ--､....,,,,,_＿＿＿＿_,,,,,... --‐=''´..::::::
　　　　　 ｀`" '' 'ー───‐―‐' ''' "´

道に迷われたときはな、焦らぬことじゃ
へたにジタバタするとさらに訳がわからなくなって、
どんどん見当ハズレの方角に逝ってしまい、
挙句の果ては魑魅魍魎百鬼夜行の世界に引きずり込まれることにもなりかねん
ココはひとつ、茶などのみ、飯を喰らい、
気を落ち着かせてゆっくりとしなさることじゃて。。。

・・・
こうして
ペルーのインカのクスコのマンコを目指していたはずの
私たち世界一周マンコのたびの一行は、
バミューダの魔の三角域上空にあった異次元への入り口を通り、
どこともわからぬ異世界にやってきた
もちろんこんなことは我々の意に反することではあったが、
不幸中の幸いというべきか、
不時着した先の栗とリスの里という土地の長者、
慈円というおかたはなかなかに良きお人であり、
道に迷い途方にくれる私たちを慰め、
握り飯と茶を振舞ってくれたのである

「腹も満ちたかえ？…それはよかった
　さてではこれからのことを話し合うといたそうか
　御前様方いったいこれからどうなさるおつもりか？
　無論、元いた世界に戻りたいのは山々であろうが、
　何かそのための算段でもおありかな？」
「ハテ、まったく当てがありません
　どうすれば私たちが生活をしていた至ってごく普通の世界、
　つまりコン活の世界に戻れるものなのか、
　皆目手立てがつきません…」

そのときふと
私たちマンコたびの一行に声をかけてきたお方がおりました

「失礼ながら。
　もしアテドガ無いといわれるのであれば、
　試みに馬蹄等の里に行かれてみては如何か？
　実はかく言う私もその馬蹄等の里の出身で、ジャンクタローと申すもの。
　馬蹄等の里にまで行けば、あなた方を元の世界に戻すすべを
　心得ているものも或いはおるやも知れません」
「おお、そうであった。タロー殿も馬蹄等のお一人であったわな
　…なるほど。馬蹄等の里にまで行けば、或いは…」
「スイマセン、話が見えないのですが…
　その、馬蹄等の里とやらに行くことと、
　私たちがもといた至って普通の世界であるコン活の世界に戻れることの間に
　どういうつながりがあるのでしょうか？」

【ジャンクタロー、かく語りぬ】

馬蹄等とは、ココハザマ世界の馬蹄等の里にあって
詩歌管弦歌舞音曲学術芸術トウ術馬術弓術呪術魔術幻術などに通暁しているものたちの呼称です
残念ながら私は、
電脳空間管制業務にいそしんでいる一介の馬蹄等で、
呪術魔術幻術などの心得はありません
しかしながら私どもの大本営とも言うべき馬蹄等の里にまで行けば、
その道を修め、極めたものも少なくありません
そのような方たちにお願いすれば、
或いは私たちのいるココハザマ世界と
あなたたちのいたアソココン活の世界をつなぐ回廊が、開かれるやも知れません
回廊さえ開けば、私も管制官のの端くれですから、
あなた方が乗ってきたあの、『スカイマンコ』ですか、
あの航空機を誘導して回廊を突破させることもできるでしょう
しかし回廊を開くこと、それ自体は私にはできません
それはトランスサイエンスの領域、すなわち魔術呪術といった類の力を必要とするからです
そのためには、
その道に長けたものがあまたいる馬蹄等の里に
行ってみるのがいいのではないか？と、かように考えたしだいです

・・ご静聴、アリガトウございました

3/4日分献立確定
蟹鮨御新香鶏揚物天そば紅茶珈琲醍醐菓子コールスローサラダ。
控え
蟹鮨鮭缶狐ウドン醍醐菓子御新香二果実菓子二。以上

なんか没臭い。。。
やっぱこの話はアソコとここをつなぐためだけの
ワンポイント的に遣うべき話だったような希ガス

安佐達三
安佐楢達

(>>241-243辺りから、適当に)

・・・
「魔術とか呪術とか…そんな子供だましの胡散臭い話には騙されんぞ
　そんなものはなぁ、必ずなんかインチキが隠されているもんなんじゃ
　ワシは反対じゃな」

そう言って、
ジャン・クタロウの意見に真っ向反対したのは、
この世界一蹴マンコのたびのツアー客の一人で
壮大名誉教授権物理学者の大槻義彦という方でございました
「クタロウさんとやら。あなた、
　電脳空間管制官という堅気の仕事に就いていらっしゃるにもかかわらず、
　魔術とか呪術とかトランスサイエンスとか、
　そんな児戯にも等しいことを言って恥ずかしくないのか？
　そんなものはすべてまやかしだ。科学で説明できないものは何も無い。
　今回の件だってじっくりと時間をかけて調べれば、
　すべてロジカルに、かつサイエンティフィックに説明できるはずだ
　魔術呪術などというおためごかしなものに頼る必要など、無い」

「そうですか…
　マァ私は、皆さんがこれから先どうしたものか、
　どうやったらもといたコンカツ世界に戻れるのか、
　アテドガ無いと言われてお困りのようだったので、
　こういう案もありますよと、一案をお示ししただけですから。
　不採用なら不採用で一向にかまいませんので、
　どうぞ皆さんで納得できるまで議論なさってください」

大槻教授の刺々しい口調に、
内心いささかむっとしたようなクタロウさんでしたが、
無駄な口論はしないという考えのおかたなのでしょう、
穏やかに大人の対応をして引き下がりました

そのクタロウさんの控えめな態度に好感を抱いた『私』は、
意を決しました

「クタロウさん。
　率直に言って私も大槻教授ほどではないにせよ、
　魔術とか呪術とかいう類のものには懐疑的な考えを持っています
　しかしいま現に私たちは大西洋上空を航行していたにもかかわらず、
　いつの間にやらこの異世界…いや失礼、
　あなたや慈円さんにとっては異世界でもなんでもないですね、
　ココハザマの世界にやってきてしまった
　このことは科学では説明がつかないことです
　またあなたがうそまやかしを言っているとも思えない
　ですから私・・・私は、あなたの提案に乗らせていただこうと思います」

「そうですか。そういうあなた様は何処のどなたで？」
「この世界一蹴マンコのたびのツアーガイドを勤めております、東尾万項と申します」

今後想定される登場人物。適当。
東尾万項
西尾芽子
大槻義彦
ジャン・クタロウ…etc

kuu2342

二潮芽子
3/六日分献立予定
蟹鮨御新香鶏揚物紅茶醍醐菓子。現状第二帝国まで。
控え
蟹鮨鮭缶醍醐菓子御新香二即席麺二果実菓子二。以上

(>>248-249推敲結合)
「そうですか…
　私は、皆さんがこれから先どうしたものか、
　どうやったら元いたコンカツの世界に戻れるのか、
　アテドガ無いと言われてお困りのようだったので、
　こういう案もありますよと、一案をお示ししただけですから。
　不採用なら不採用で一向にかまいませんので、
　どうぞ皆さんで納得できるまで議論なさってください」

大槻教授の刺々しい口調に、
内心いささかむっとしたようなクタロウさんでしたが、
無駄な口論はしないという考えのおかたなのでしょう、
穏やかに大人の対応をして引き下がりました
そのクタロウさんの控えめな態度を見て、私は意を決しました

「クタロウさん。
　…率直に言って私も大槻教授ほどではないにせよ、
　魔術とか呪術とかいう類のものには懐疑的な考えを持っています
　しかしいま現に私たちは大西洋上空を航行していたにもかかわらず、
　いつの間にやらコンカツの世界ではない、
　ココハザマの世界にやってきてしまった
　このことは科学では説明がつかないことです
　またあなたがうそやまやかしを言っているとも思えない
　ですから・・・私は、あなたの提案に乗らせていただこうと思います」
「そうですか。…ところで、そういうあなたは？」
「この世界一蹴マンコのたびのツアーガイドを勤めております、二潮芽子と申します」

・・・
結局馬蹄等の里まで行くことになったのは私とクタロウさん、
そしてもう一人は意外なことに
壮大名誉教授権物理学者の大槻義彦さんでした

もっとも大槻教授は
「クタロウさんの言われる馬蹄等の里とやらにまで出向いて、
　呪術とか魔術とかそういうもののまやかしを見破ってやる」
という、いささか不純な動機から参加したのに過ぎないので、
クタロウさんの提案に乗ったのは事実上私一人だけで、
残りの乗客乗員は全員ココクリトリスの里に残ることとなりました

「ニシオくん。君にはすまないが、
　私も教授ほどではないにせよ、呪術魔術といったものはいささか信じ難い。
　また今回のアクシデントの為に『スカイマンコ』の燃料もかなり消耗してしまい、
　離陸・着陸があと一回できる程度しか残っていないのだ。
　だから馬蹄等の里に行くためにこのスカイマンコを使うわけにはいかない。
　申し訳ないが君とクタロウさん、
　…あとついでに邪魔だろうが大槻教授も一緒に連れて、
　三人だけで行ってくれないか？
　私たちはスカイマンコと共に、
　ココクリトリスの里で待機することにしたい」

「わかりました。
　乗客乗員全員の安全を配慮する機長のお立場としては、
　当然そのような判断をせざるを得ないでしょう
　馬蹄等の里には私とクタロウさん、そして
　たぶんお邪魔虫にしかならないだろうけど大槻教授も引き連れて、
　三人で行くことにします
　駄目でもともと、うまくいったら儲けもの。
　…そのぐらいの気持ちでお待ちになっていてください」
「君にそう言ってもらえると私も少し気が楽になる。
　とりあえず携帯は必携だ、もって行きたまえ。連絡は密に。
　その馬蹄等の里とやらはココクリトリスからはどのぐらいのところにあるのかね？」
「クタロウさんの話では徒歩で二泊三日ということなので、
　いまから出発すれば、あさっての午後アタリには
　馬蹄等の里に到着していることと思います」
「そうか。十分気をつけてな。特に夜は…むにゃむにゃ」
「・・・」

3/六日分献立ほぼ確定
蟹鮨御新香鶏揚物鮭刺身鰤刺身紅茶珈琲醍醐菓子第酸帝國迄。
控え
鮭缶醍醐菓子御新香二即席麺二果実菓子二。以上

・・・
こうして私たち三人は、
慈円さんに見送られつつクリトリスの里をあとにし、
クタロウさんの道案内で彼の故郷馬蹄等の里を目指す旅に出ました

最初の一泊は野宿。
豪華客船の船旅から貧乏BP旅行にいたるまで、
ありとあらゆるレベルのツアー、旅行のガイドをしてきた私にとっては
野宿なんか屁でもありませんでしたが、
大槻教授は「何でこの歳で寝袋なんぞにはいらにゃならんのか…」
と、ぶつぶつ文句を言っております
ヘタに慰めると絡まれますので、軽くしかとしておりました私に
クタロウさんが話しかけてきました

「芽子さん。私自身が提案しておきながら、
　いまさらこんなことを言うのもどうかと思いますが、
　馬蹄等の里に行ったからといって
　確実にあなたがたがもといたコンかつ世界に帰れる、という保障はありません。
　確かに馬蹄等の里にまで行けば、その道に秀でた呪術師は少なくありませんが、
　ココハザマ世界と、こことは異なるもうひとつの世界、
　そのふたつの世界を結ぶための回廊を開くというのは大変な大技で、
　生半な呪術師にはできかねることなんです
　ですから馬蹄等の里に行っても或いはもしかしたら・・・」

「お気になさらないで、クタロウさん。
　どんなことにおいても絶対確実とか安全保証とか、
　そんなものは有り得ないことは私も知っています
　そんな言葉を軽々と口にするのは、
　結婚詐欺師か証券会社の営業マンか新興宗教の勧誘者ぐらいなものですし、
　またそんな言葉をやすやすと信じたり相手に安直に求めたりするのは、
　頭の緩いおっさんか、コンかつ婆ぐらいなものです
　世の中に『絶対』はありません。
　ましてや今回は異常事態中の異常事態ですから、
　確実性なんか無いことは重々承知していますわ」
「アリガトウ。状況を的確に理解されているようで、助かります
　…芽子さん。貴女は聡明な女性ですね」
「あ、いえ、そんな。私はそれほどのものでは・・・(ﾎﾟｯ)」
「芽子さん…」「クタロウさん…」
「おいおい、おふたりさん。
　惚れた脹れたは今回のことが終わってからにしてくれ
　こんな星空の下で青姦なんぞやられたらタマランわな」
「・・・・」

(無限登録婆。素材)　
あづ、あや、あき、はな、まちまち、山田洟子

初めまして！プロフィールをご覧くださりありがとうございます！
かなり出遅れてしまいましたが（笑）真剣に結婚を考えています。
ここで同じ気持ちの人と出会えたら嬉しいです☆
特にこれといった趣味が残念ながらないので
職場と家の往復で一日が終わりがちです。。
休日は友人と美味しいものを食べに行ったり（写真もバッチリ撮影）
カフェでのんびり本を読んだり、ふらっとお買い物をしたりしています。
でもこれからは大好きなパートナーと時間を共有したいですし、
子供が欲しいので家族でわいわいと人生を充実できたらなと思っています！
是非少しでも気になったら声を掛けて頂けると嬉しいです☆
よろしくお願いします！

・・・
旅程二日目。
機長への定時連絡も終え、
さてそろそろ日も暮れる、今日も野宿だ、
また雨露をしのげそうな手頃な岩屋でもないか知らん、と
私たちがきょろきょろしておりますと、
突然大槻教授が歓喜の雄たけびを上げました

「おお！あれを見なさい。あれは灯火であろう。人家じゃ、人家がある。
　今夜もまた狭苦しい寝袋の中で寝なくてはならんのかと思っとったが、
　やれ助かった。今夜はあそこに泊めてもらうことにしよう。
　クタロウさん芽子さん、勿論ご異存はあるまいな？」

「ハテ、おかしいな…
　クリトリスから馬蹄等の里に至るまでは無人の荒野。
　ましてこんなところに人の棲家など、無いはずなのですが…」

とクタロウさんが首をかしげるのも委細かまわず、
大槻教授は
「そりゃ、クタロウさん、あんたの見落としじゃろうて。
　ったく道案内失格じゃな。まあいい。とりあえず今夜は寝袋じゃない、
　暖かい布団の中で手足を伸ばして眠れるのじゃ。ほれ、参るぞ参るぞ」

と私とクタロウさんを引きずらんばかりに
率先その灯火目指して早足に進みますので、
私たち二人も仕方なく教授の後に続きました
・・・
「申し。申し。お頼み申す。
　われら旅のものにて決して怪しいものではございません
　今夜一晩宿をお借りしたく、こうして参ったしだいでございます。
　申し。申し・・・」と大槻教授が案内を請いますと、
「ど〜れ〜」と奥の間から顔に皺の寄った一人の女子が姿を現しました
「ああこれはこの家の女主のお方でござるか。
　今も申しましたとおり、
　われらクリトリスの里から馬蹄等の里を目指して旅をしております
　決して怪しいものではありませんので、
　どうか今宵一晩宿をお借りしたく…」
「ふむふむ、さようでございますか。
　それは難儀なことでありましょう
　こんなあばら家でよろしければどうぞおとまりなさいませ」
と、
その女主は不細工な顔に似合わず、丁寧な応接をいたしましたので
私たちも「でもお邪魔いたします…」と、
上がらせていただくことに致しました

・・・
秋と名乗ったその女主は
「粗餐でございますが」と言いつつ雑炊なども振舞ってくれまして
壮大名誉教授権物理学者の大槻義彦さんはすっかりご機嫌になって、
アレコレと身の上話などしながら雑炊を何杯もお代わりいたします
「ほほぅ…するとあなた方たちは『コンカツ世界』という、
ココとは別の異なる世界からココハザマ世界に迷い込んでこられたと申すのか
ではこちらでは頼りとなる身寄りもなく、さぞや心細いことでありましょう
ささ、遠慮されるな。もっと雑炊を召せ。
こんなものならナンボでもありますからのう…」

そんな感じで何くれとなく談笑した後、その秋という女主は
褥も私たち三人分を用意してくれ、その上で
「私は奥の間で寝ますので…」と申して一人別室に下がっていきました
腹いっぱいになり暖かい布団にもぐりこんだ大槻義彦さんはあっという間に高いびき。
私とクタロウさんも
終始なにやら腑に落ちぬものを感じつつも、
やはり布団の温もりには効し難く、
やがてうつらうつらと眠りに落ちていきました

・・・
刻限は日の出間近の東雲時でありましたでしょうか、
コリコリ…という何やら耳障りな音で私は目を覚ましました
ふと見ると傍らに寝ていたはずの大槻義彦さんがおりません
褥がもぬけの殻になっております

(はておかしいな、あんな爆睡していた大槻さんが
こんな早暁から目覚めることもあるまいに・・・)

と、私が小首をかしげているうちにクタロウさんも目覚めます
話しかけようとした私の唇を軽く押さえ、
クタロウさんはアレを見よと指で指し示しました
見れば奥の間に到るふすまが微かに開いております。
コリコリという耳障りな音はそのふすまの向こう、
秋と名乗った女主が寝ているはずの部屋から漏れ聞こえているのでした

私とクタロウさんは目配せをし、
二人してふすまに近づき、そっと奥の間を覗き込みました

【超高齢出産に関して】

まず当人が本当に欲しいと思っているのか、
それとも建前でそういっているだけなのか、それがわからない
しかしもし本当に欲しいと思っていても、それは
老後が寂しいからペットが欲しいみたいな感覚なんじゃないだろうか
四十までぶらぶらと過ごしてきた女性がその歳で子を産んで
体力気力が衰えていく老齢の時期にきちんと育てられるとは思えない

もちろん何事にも例外はある。
たとえば私の知り合いでも
四十過ぎてから初産で子を産んだという女性は、いる
しかしその女性はジョイさん、小児科医だった
だんなも医者だった。
こちらはその世界ではかなり名の知られた精神科医で、
既にもう結構なお歳だった
そういう医者同士のカップルだから
リスクの高さ、可能性の低さ、すべてを考慮して
それでもあえて超高齢出産という大事業に挑戦してみるという選択をしたわけで、
そういうのとそこらへんの糞ババアを一緒に並べて、
「四十過ぎても女性は生めるんだ」といわれても、
それこそクソミソ一緒、ってやつで、何の説得力も無い

・・・
昨夜、秋と名乗ったこの家の女主が
私たちのほうに背を向けて、何かをいたしております
先ほどから聞こえておりました『コリコリ…』という音は、
その秋というおなごの手元口元の辺りから聞こえております
こちらに背を向けておりますので、その手元口元は定かには見えねども、
しかしその秋の前に横たえられている物、それは・・・
壮大名誉教授権物理学者大槻義彦さんの亡骸でございました!!

亡骸、と申しますのは
大槻義彦さんは瞳孔をカッと見開いて既に事切れており、
そればかりか胸が開かれ肋骨が何本も立ち上がっていて、
さらには畳一面、大槻さんの血が染みて
どす黒く変容していたからでございます
・・・

　　　　　　　ヽ|/
　　　　 ／￣￣￣｀ヽ、
　　　 /　　 　　　　　　ヽ
　　　/　 ＼,, ,,／ 　　　|
　　　|　（●） （●）|||　 |
　　　| 　/￣⌒￣ヽ　U.| 　　 ・・・・・･･･ｺﾞｸﾘ。
　　　|　 | .ｌ~￣~ヽ |　　 |
　　　|U ヽ ￣~￣ ﾉ　　 |
　　　|　　 ￣￣￣　　　 |

と、思わず息を呑んでしまった私とクタロウさん。
その息を呑む微かな音に気づき、
私たちのほうに振り返った秋の口元は
血で真っ赤に染まっておりました。
そして、その手には大槻さんの千切れた脚が。
先ほどから聞こえておりましたコリコリ…という音は、
その秋という女主が大槻さんの遺骸から千切り取った脚の脛を齧っている音だったのございます
これぞまさしく、究極のすねかじり！！
秋はもともと皺の多かったその顔にさらに皺を寄せて、
私たちに向かって呪うように呟くように、言いました

「見〜た〜な〜」

「ひええええええええええええええ」
「ぎゃあああああああああああああ」
私とクタロウさんは取るものもとりあえず、
必死で家の外に逃げ出しました・・・

　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 　 　|
　　　　　　　　　 　　　 　 　 　 　 　 　 　 　|
　　　　　　　{　　　　!　　　 　 _,, -ｪｪｭ､ 　　|
ｨ彡三ﾐヽ　　｀ヽ　　　　　,ｨﾊミﾐミﾐﾐﾐﾐﾐﾐヽ､|
彡'⌒ヾﾐヽ　　　｀ー　　/ililﾊilﾐilミliliミliliﾐliliﾐ|
　　　　　ヾ､　 　 　 　 /iiiｉｲ!ヾヾﾐ､ﾐﾆ=ー-ﾐ|
　　＿　　　　｀ー―'　i!ﾊ:.:.＼＼_::::::::::::::／:.|　
彡三ミﾐヽ　　　　　 　 i! ヽ:.:.:.:冫': : :::／,,∠|
彡'　　　ヾ､ 　　　＿ノ i!:::￣二ー:: : ::::ｿ ・ ,|　　見〜た〜な〜
　　　　　　｀ー '　　　　{ﾍラ' ・_＞ｼ;ﾃﾂ"''''"|
　,ｨ彡三ﾆﾐヽ　　＿_ノ ヽﾍ｀" 彡' 〈　　　　 |　
彡'　　　 　 ｀￣　　 　 　 ｀＼　　 ｰ-=ｪっ　|
　　　　　　＿　　＿＿ ノ　 {ﾐ;ヽ､ 　 ⌒　　 |　
　　　,ｨ彡'　　￣　　　 　 　 ヾミﾐミﾐﾄ-- '　 |
ﾐ三彡'　　　　　　　　／⌒　/￣￣ | : ::::::::::|
　　　　　　 ｨﾆﾆ=- ' 　　 　/　i　　　｀ー-（二つ
　　 　 ,ｨ彡'　　　　　　　　 {　ﾐi　　　　　 （二⊃
　　 //　　　　　　　　／　 l　ﾐii　　　　 　 ト､二)
　彡' 　 　 　 ＿＿,ノ　　　|　ﾐｿ　　　　　:..｀ﾄ-'
　 　 　 　 ／　 　 　 　 　 |　ﾐ{　　　　　:.:.:..:|
　　　　　　　　　　　　ノ　/　ヾ＼i､　　 :.:.:.:.:|
　　　　　　ｨﾆ=-- '"　　/　　ヾヾiiヽ､ :.:.:.:.::::|
　　　　／　　　　　／　 ｀/￣￣7ﾊヾヾ : .:.:.|
　　 ノ　　 　 ＿／　　　/　　　/　 |:. :.:.:.:.:.:.:|

(； ・`д・´)…ｺﾞｸﾘ…(`・д´・ ；)

>>264>>267結合。>>266は没。而してsage

3/8日分献立
蟹鮨御新香鶏揚物鮭刺身秋刀魚焼物紅茶醍醐菓子
控え
蟹鮨鮭缶卵南瓜御新香醍醐菓子果実菓子即席麺等
古名曲選
餡ルイスのブギウギhttp://www.youtube.com/watch?v=g4bxHMJyFvc
南佐織シャンゼリゼhttp://www.youtube.com/watch?v=zlj85govtjY

kuu0015

・・・
ヒィヒィ言いながら屋外に逃れ出た私たち二人の後を
人食い婆は、その老け顔に似合わぬ軽やかな足取りで、
追ってまいりました
「待〜て〜や〜〜〜☆」
「うわぁぁぁぁぁぁ！」
「きたぁぁぁぁぁぁ！」
私たちは慌てて走り出します
こうして夜明け間際のココハザマ世界で、
命を賭けた鬼ごっこが始まりました

最初のうちは
あんな皺の寄った老け顔の人食い婆よりも私たちのほうが足が速いはず、
だから懸命に走ればアッサリ振り払って逃げ切れるはずだと思っていたのですが、
その婆はどこまで逃げ続けても飄々と私たちに追いすがり、
私たちはどうしてもその婆を振り切ることができません

まるで悪夢の一場面のような状況でございます

ついに疲れて足が回らなくなった私は、
道端の小石に毛躓いて横転いたしました「ああっ！」「芽子さん！！」
クタロウさんはスッ転んだ私を見るや、
慌ててきびすを返し私の元に駆け寄り肩を抱きかかえます
しかしそのためにとうとう婆に追いつかれてしまいました

「はぁはぁはぁ。。。手間取らせやがって。
　やはり若い方から先に始末しとくべきだったわ。
　最初は前菜代わりにと思って爺のほうから食べ始めたのは私の間違いじゃった。
　しかしここまでくれば同じこと。覚悟しておとなしゅう食われろや」

クタロウさんは馬蹄等の一人とはいえ、
電脳空間管制官という事務官であり、いわゆる『武官』ではありません
しかし事ここに至ればやむなしと腹を括ったのでございましょう、
腰に差しておりましたお飾りの護身の太刀を抜き放ちました「婆、勝負だ」

太刀を抜き放ったクタロウさんを見て、
婆は血で朱に染まった唇をゆがませ、ニヤリと笑いました
その唇の奥には鋭い牙が！
「潔し、それでこそ馬蹄等のおのこ。いざ勝負じゃ」

・・・
さて、
盛り上がってまいりましたところで申し訳ないのですが、
勝負はアッサリとつきました

牙を剥き出しにしてクタロウさんに飛び掛った人食い婆でしたが、
防御がまったくなっていなかったので、
クタロウさんの基本どおりの袈裟切りが婆の首根っこをモロに直撃、
哀れ婆は左首の根元から右の肋骨・乳房にかけて切り裂かれ、
血飛沫を上げて倒れます

「えっと・・・とりあえず凄いわ、クタロウさん」
「自分でも驚いてるよ、芽子さん。
　最初からこんなに弱いやつだとわかっていれば、
　逃げずにさっさと叩き切っておけばよかったね」
「いえいえそんなことはないわ。
　相手が弱いのではなくてあなたが強いのよ、クタロウさん。
　これなら、武官にだってなれるんじゃないの？」
「とんでもない。これはね、火事場の糞力というやつだよ
　芽子さんを守らなくてはと思って必死になった、それだけのことさ」
「…クタロウさん」
「…芽子さん」
「おいおい、おふたりさん。
　そういうことは私を倒してからにしてくれ
　こんな早朝から青姦なんぞやられたらタマランわな」
「えっ？」

と驚いて私たちが振り返りますと、
たったいまクタロウさんに切り裂かれて
絶命したはずの婆が平然と立っているではありませんか

「おまえ…たった今死んだはずでは…」
「今死んだのは『秋』。私は『町々』。別人だよ」
「別人も何も、その皺の寄った山田花子のような顔、
　どう見ても同一人物であろうが」
「私が別人だといったら別人なんだよ
　さぁ、惚れた脹れたは私を倒してからにしな」

そう言って町々と名乗った人食い婆は、
またしても牙をむいてクタロウさんに襲い掛かります
そこにまたしてもクタロウさんの袈裟切りが炸裂！
ギャッといって町々は血飛沫を上げて倒れます

「何やらデジャヴのような…今度こそ本当に死んだのかな？」
「さあ・・どうでしょう」

と、私たちが恐る恐る見守るまもなく、
あっという間にその人食い婆は復活します
「我が名は綾。イチャイチャするのは私を倒してからに品」

3/9日分献立確定分
蟹鮨御新香天蕎麦珈琲卵サラダ第酸帝國近辺まで
控え
蟹鮨鮭缶南瓜御新香二醍醐菓子二果実菓子豚骨麺

()

人食い婆はクタロウさんがいくら太刀を振るって切り殺しても
「今度は『花』だ〜」
「つぎは『あづ』だ〜」
などと、
異なる名を名乗ってはゾンビのようにひたすら蘇生を繰り返し、
くたばる素振りも見せませんので、
ついにクタロウさんの太刀は金属疲労を起こして
根元からぽっきりと折れてしまいました

「ああっ！！」
「ひょ〜ほほほほ…折れちまったか、そうか。
　さて武器が無いんじゃどうしようもない罠
　覚悟しておとなしく食われろや〜」

人食い婆はそう言うと改めてパックリと口を開きました

「クタロウさん！」「芽子さん！」
万策尽き果てヒシと抱き合った私たち二人に
鋭い牙を剥いてババアが飛び掛らんとしてその刹那。

「ぐえ…」という異様な声とともに、婆の動きが止まりました
見れば婆の胸から一本の太刀の切っ先が突き出しているではありませんか
「これは…この太刀は」

その婆のつぶやきに応じるように背後から
「いかにも。この太刀こそ、そなたのような妖怪を退治するために
　遠祖左近様の御時より脈々と当家で引き継がれておる伝家の宝刀、『オニギリ』よ」
と、野太い声が聞かれました

「鬼切の継承者…するとおまえの名は…」
「歳の青海！」

そう名乗るや、
その御太刀の持ち主は素早く太刀を婆の体から引き抜き、
その反動で婆がくるりと反転し向き直ったところを真向唐竹割りにいたしました
鬼きりの太刀で頭の天辺からマンコまで一直線に切り裂かれた人食い婆は
皮膚が剥がれ眼が落ち歯が抜け骨が溶けてデンデロリンな姿となって、
そのまま雲散霧消して逝ったのでした・・・

・・・
「大事無いか？旅のお方々」
「ああ青海様。助かりましたアリガトウございました」
「ん？…おお、そなたはジャンの御家のクタロウ殿ではないか。
　確かクリトリスの里の痔円殿のところで電脳管制官をしていると聞いていたが…
　このようなところで何をいたしておられる？」
「実はかくかくしかじかというようなしだいで、馬蹄等の里にまで行けば、
　或いは異世界に通じる回廊を開けるほどの呪術者がおられるやもと思い、
　いまこうして里に向かっている途中でございました
　…こちらはその『コンカツ』という異世界から参られた一行のお一人で、
　西尾芽こさんという女性でございます」
「はじめまして。西尾芽子と申します」
「ども、はじめまして。
　馬蹄等の右近衛の大将を勤めております歳の青海と申します」
「ウンコの屁の対象、ですか？」
「…違います。うこんへのたいしょう。
　馬蹄等当主を守る近衛武官のリーダーの一人、というぐらいの意味です」
「それにしてもご都合主義の物語りとはいえ、
　こんな早朝にこんなところで青海様と遭遇できるとは
　夢にも思っておりませんでした。
　いったいなにゆえこのようなところに？」

「なにゆえと申しても
　御当主の御用の向きで急ぎ蝦蛄村の長者と打ち合わせしたきこと出来し、
　そうなれば早朝も深夜も無い。
　供揃え、ウマに乗り、こうして蝦蛄村に向う途次でござる」
「あらまあ。やっぱりエリートって大変なんですねえ…」「・・・」

「それにしても馬蹄等の武官というのは、
　さすがに凄い業モチなのですねぇ・・
　クタロウさんが何度切っても蘇ってきた人食い婆を
　一撃で消去してしまわれたのですから」
「それはまぁ…(笑。
　しかしそれは、私の業のみならず、この太刀『鬼きり』の力でもある
　先ほどの婆は別名を『無制限再登録婆』とも言われている妖怪で、
　そこらへんの野や山に何匹か生息しておる物の怪の一種。
　一説によれば、新規バブル地獄に取り憑かれてしまったものが
　無期限再登録婆になるといわれているが定かなことはわからぬ
　わかっていることは、
　あの物の怪は普通の太刀では決して殺すことはできない、ということ。
　何度切り捨ててもまた別の名前で再登録し復活してくるので、
　永遠に始末することができないのじゃ。
　それゆえ、鬼きり無くば私とてああも簡単に婆を消去することはできなかったであろう
　決してそなたのツマ(註)、クタロウ殿の腕前が悪いせいではないがゆえに、
　気にする舞いぞ責めるまいぞ」
「あ。あ。青海様。私と芽こさんはまだそういう関係では…」
「ん？そうだったのか？…クタロウ殿は奥手であるな。
　私だったら一晩あれば速攻でやってしまうが」
「・・・」

(註) ツマ
古代においては男女とも、
自分の相手・配偶者のことを「ツマ」と言った
その後、時代とともに夫、妻という言い方に分かれていったが、
馬蹄等の里ではまだ古の言い方が残っており、
いまでも配偶者のことを男女問わず「ツマ」という習慣がある

3/10日分献立
蟹鮨鶏揚物御新香豚骨麺紅茶珈琲醍醐菓子確定
蟹鮨鮭缶南瓜御新香醍醐菓子果実菓子二天蕎麦予備

3/11控え
蟹鮨鮭缶南瓜野菜豆御新香醍醐菓子果実菓子二天蕎麦中華春巻き

・・・
人食い婆退治のため…といっても退治したのは歳の青海様でしたが、
時間を食ったにも関わらず、
私とクタロウさんは当初の予定通り、
その日の昼過ぎに馬蹄等の里にたどり着きました

あのあと青海様は
御当主の御用の向きがあるため、そのまま蝦蛄村に向われたのですが、
去り際に控えのウマを二頭、私たちの為に廻してくださったからです

「青海様。有り難いこととは存じますが
　私はウマに乗ったことがありませんので…」
と私が辞退するのも意に介さず、青海様は
「さようか。
　されば、クタロウ殿に手綱を取ってもらえばよろしかろう
　芽子殿。あなたがいらしたコンカツの世界ではいざ知らず、
　ココハザマ世界においてはウマは陸上最速の乗り物。いわば必需品です。
　手綱さばきがままならぬと言われるのなら、
　クタロウ殿に手綱を取ってもらえばよろしかろう
　何事も習うより慣れろ、と申す。覚えておいて損はない」
と、私たちの為にウマを二頭置いていってくださったのです

クタロウさんが左手で自らのウマの手綱を、
右手で私のウマの手綱をそれぞれ握りしめ、
巧みに操作してくれましたので
乗馬の基本も知らぬ私もただウマに乗っているだけで
無事馬蹄等の里にまで到着することが出来たのでした

里に戻ったクタロウさんは私と共に
知り合いと会釈交歓を済ませ、
実家に顔を出してから、
御当主の元に挨拶にまかり出ます

「御当主、お久しぶりでございます」
「おお、これはジャンのクタロウ。
　久方じゃな、元気そうで何より。そちらのおなごはどなたかな？」
「こちらはかくかくしかじかという経緯で、
　アソココンカツの世界からココハザマ世界にやってまいりました、
　西尾芽子さんという方でございます」
「ほほぅ、異世界のお方か、なるほど。
　クタロウも長らくやもめであったが、
　異世界のおひとを嫁を娶ることになるとはな
　これもまた何かの縁であろう、いずれにせよめでたきことよ」
「あ。あ。御当主。私と芽子さんはそういう間柄では…」
「ん？そうだったのか？ふむ・・クタロウは奥手であるな。
　私だったら一晩あれば速攻でやってしまうが」
「・・・」

物語上の人物紹介

【歳の青海】(としのせいかい)

馬蹄等の一人。歳の左近の末裔。
武官。当主近衛。右近衛大将格付。『鬼きり』継承者。
左近衛大将格付けの紀の静蛇(きのせいじゃ)、
先鋒大将格付けの緒万戸草稲(おまんこくさいね)と並び、
「死魔の三本の矢」と称される馬蹄等軍事系リーダーの一人である
p.s.
主伝第六話では紅の護衛官として登場。

3/11献立(確定)
蟹鮨鶏揚物平貝刺身鯖煮物野菜漬物中華春巻
紅茶珈琲醍醐菓子果実菓子
控え
蟹鮨南瓜野菜豆御新香果実菓子鮭缶詰即席麺

・・・
「ふむ、なるほど。さような次第であったか
　さすれば、いまの馬蹄等の里において、
　そのような大業をなしうる呪術者がいるとすれば、
　それはハニュウ・ゼンジをおいて他にはあるまい」

クタロウさんの話をお聞きになって
馬蹄等のご当主、源死魔様は、直ちにそのように即答されました
歳の青海様もその名を仰っておりました、
「ハニュウゼンジの許に行かれるがよかろう」と。
ハニュウゼンジ。
本名羽生善治。禅師という呪術系最高の称号を持っているため、
続けて読むと「はにゅうぜんじぜんじ」となってしまうために、
一般には羽生禅師と呼ばれているお方。
異世界への回廊を開ける呪術者があるとすれば、その者しかいない、と
青海様も御当主も口をそろえて言われたその呪術者の許に、
私とクタロウさんは赴きました。。。

3/11献立(確定補正)
蟹鮨鶏揚物平貝刺身鯖煮物野菜漬物中華春巻珈琲果実菓子
控え
蟹鮨鶏揚物南瓜野菜豆御新香鮭缶即席麺二紅茶果実菓子醍醐菓子二

kuu0000

・・・
「異世界への扉、回廊を開くことは、できる。
　・・しかしそれにはいくつかの制約がある」

私たち二人の話を聞いた後、羽生禅師はそうお答えになりました

「その制約とは、どのようなものでございますか？」

「異世界に至る回廊は私の呪力により開かれ、精神力により維持される
　呪術師と言えど私もクタロウ殿や貴女と同様、一個の人間に過ぎない
　おのずから人の精神力には限界というものがある
　つまり回廊を長時間にわたって開きっぱなしにしておくことはできない、ということだ
　私の精神力が切れたとき、回廊は再び閉ざされる。
　異世界への回廊を開くには大変な精神力を必要とするため、
　回廊が開き、再び閉じるまでの時間はごく短時間しかない」
「その時間は？」
「おそらくは10分程度。持ちこたえてもせいぜい15分程度が限度であろう」
「なるほど。しかし10分あれば、スカイマンコを離陸させ、誘導し、
　回廊に突入させることは可能です。・・・禅師。
　ご足労とは思いますが、これから私たちと共に
　クリトリスの里までご同行願いませんでしょうか？
　あちらで禅師に呪術を施していただき、回廊が開いてところを
　私がスカイマンコを誘導し、回廊を突破させます」
「それはできぬ」
「え？それは何故に？」

「異世界へ通じる回廊を開くほどの大技は、
　特定の呪術仕様の空間の内で施さねば、成し難い
　そして、そのような呪術を施すための特殊空間は、
　ココ馬蹄等の里にならばあるが、アソコクリトリスの里には無い。
　ゆえに回廊開闢の呪術を成功させるためには、
　私はココ馬蹄等から動くことはできないのだ
　…これが第二の制約じゃ」
「うぅぅむ・・では、禅師にはココにお残りいただき、
　私と芽子さんのふたりだけでクリトリスの里に戻り、
　携帯などで連絡を取り合い、時を合わせて
　禅師にココ馬蹄等の里の呪術の間で回廊開闢の術を施して頂くと同時に、
　アソコクリトリスでスカイマンコを離陸させ、
　回廊を突破させるという案はいかがでしょう？
　これなら何とかなると思うのですが」
「それも無理なのじゃ」
「なんでですか？先ほどからあれはできないそれはできない無理無理無理って…」
「芽、芽子さん・・・」
「娘御。そなたのいらだつ気持ちもよくわかる。
　しかし回廊開闢の術は、呪術の中でも大技中の大技
　あれこれと制約があるのもやむなきことと理解せよ
　…さらには第三の制約は、そなた自身の覚悟を必要とするものでもある」
「…覚悟？」

・・・
『第三の制約』を告げる前に、
羽生禅師は私たち二人を呪術の間にいざないました

髑髏やら蝋燭やら注連縄やら魔方陣やらの
なにやら恐ろしげなものがあるかと思いきや、
その呪術空間にはそんなものは何もありません
いたって清楚、というかむしろ閑散といってもいいくらいの空間でございます
ただ少し風変わりな点といえば、
天井がの鏡張りの円形状になっておりますことと、
床の一隅に『呪術』という言葉には不似合いな、
なにやら複雑な装置がドンと据えられてあることでございました

「まず初めにクタロウ殿に聞こう。
　アソコに据えられているあれらの装置類、あれは私があつられたものではない
　御当主のお指図により、物理学者の安佐奈良達がこの空間に設置したものじゃ
　一種の制御盤のようなものである、と聞いているが、
　クタロウ殿ならば、あの装置類を駆使し、そのスカイ万個なる乗り物を
　ココ呪術の間において居ながらにして誘導できるのかどうか。
　マズそれを問いたい」

クタロウさんはその装置類に近づき仔細に点検した後、
羽生禅師のほうを振り返って
「確かにこれは制御盤です。
　私がクリトリスの里に居る間に、
　馬蹄等の里においてもこれほどの制御盤が作られていたのですね…
　これほど見事な装置があれば電脳空間管制も思いのままでしょう
　しかし、ここにいてはスカイマンコと回廊の位置が目視できません
　デジタル化された数値は
　この制御盤上に表示されるものを見ればわかりますが、
　それと同時に、空間に穿たれた異世界に通じる回廊の穴と
　スカイマンコの位置を目視しなければ。
　そうでないと確実な誘導はできません」

3/12献立
蟹鮨鶏揚物烏賊刺身鰯煮物御新香珈琲醍醐菓子第二帝國まで
余り
蟹鮨鮭缶南瓜野菜豆御新香二天蕎麦豚骨麺果実菓子醍醐菓子

()

クタロウさんのその答えを聞きた羽生禅師は、
我が意を得たりとばかり莞爾としてうなづき
「そなたの意見、至極もっとも。さればこそ、
　この呪術空間の天井はこのような造りになっているのじゃ」
と、全面鏡張りの円形状の天井を指し示しました

「それはどういうことでございますか？」
「それを知るためには娘御。まず、そなたの手を私にゆだねよ」
「は？」
「勘違いするな。
　これはそなたの滑々のお肌を撫で撫でしたいとか、そういうセクハラ的な意味ではない。
　異世界との回廊を開くため、またこの天井の造りの意味を知るために必要なことなのだ」
「・・・」
そこまで言われては仕方ありません
私が半ば不承不承手を差し出しますと、
羽生禅師はニヤニヤしながら私の手を握り締めます
「よし。ではまず、
　そなたがココハザマ世界に来た最初の場所、栗とリスの里の光景を思い浮かべてみよ。
　そなたが乗ってきたスカイマンコなる乗り物は、その栗とリスの里のいずこにある？
　それを己が脳裏に思い描いてみるのだ」

その羽生禅師のご指示通りに
私がクリトリスの里にあるスカイマンコのことを思い浮かべてみますと、アラ不思議。
その呪術の間の鏡張りの天井がぼややや〜んとぼやけたかと思うと
次の瞬間あっという間にクリトリスの里に置いてきたボーイング七八七型機、
通称スカイマンコの姿が天井に映し出されました

「おお、これは・・・」
傍らにいたクタロウさんも思わず感嘆の声を上げます
「クタロウ殿。これでどうじゃ？これなら目視による確認もできる。
　このビジョンを見ながらその制御盤を駆使し、スカイマンコヲ確実に誘導できるのではないかな？」
「はい。これならばココ呪術の間にいながらにして、
　確実にスカイマンコヲ回廊に誘導することができます」
「よし。では娘御。つぎにそなたが元いた別の世界、
　すなわちアソコ婚活の世界のことを思い浮かべてみよ。
　そなたはその婚活世界の中のどこに戻りたい？その戻りたき場所の光景を脳裏に思い描いてみよ」

羽生禅師にそう促されて
私がペルーのインカのクスコのマンコのことを思い浮かべますと、マァ不思議。
天井の半分がまたまたぼやややや〜んとぼやけたかと思うと、
次の瞬間ペルーのインカのクスコのマンコの情景が現れ出たではありませんか
こうして今、呪術の間の天井は
半分が栗とリスの里とスカイマンコ、
残り半分がペルーの引火のクスコのマンコ、
この二つの情景により占められました

「この二つの世界を結べばよいのじゃな？」
「…はい」

私がそう答えますと、
羽生禅師はうなづき、そして私の手を離しました。
その瞬間、天井に映し出されていた情景は一瞬で消え去り、
元の鏡張りの状態に戻りました

「…これは？」
「これが『第三の制約』じゃ。
　二つの世界を結ぶためには、その二つの世界の情景を知っているものが
　私とともにこの呪術の間にとどまり、私と接触を維持することで
　その二つの世界の映像を私の脳に送り続けねばならない
　私自身はそなたがいたアソコ婚活の世界のことを知らぬ、
　ゆえにそなたが私と手をつなぎ、
　私にアソコ婚活の世界のイメージを送り続けることで回廊を維持せねばならない
　二つの世界をつなぐ通路はその間だけ、開かれる。
　そなたが私の手を離せばその瞬間に回廊は消える」
「・・・ということは・・・」
「そう。娘御、そのとおりだ。
　このやり方で回廊を開くことはできる。
　しかしそなた自身は、婚活の世界に戻ることはできないのじゃ」

3/13余り
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天蕎麦豚骨麺珈琲果実菓子醍醐菓子

()
・・・
呪術の間を出てから羽生禅師は
「事はそなた自身の今後の行く末にも関わること。急ぐことはない。
　独りで、或いはクタロウ殿と共に、ゆっくり考えてお決めなされ」
と仰って私たちの許から去っていかれました

私たちはいったん館の外に出、
石段のところに腰を下ろしました
少し離れたところでは童たちが無邪気に遊んでいる姿が見えます
さらにその先の地平線のかなたには無心に草を食むウマたちの群れが。
(これが馬蹄等の里…)
ぼんやりとそれらの風景を眺めていた私に
傍らからクタロウさんが遠慮がちに声を掛けました
「…芽子さん。先ほど禅師も言われたように、
　貴女自身の人生だから貴女が決めればよい。
　私も禅師と同様、あなたがもといたコンカツの世界と言うのが
　どういうものかは知らない。でも…ココもそんなに悪くはないですよ」

私は傍らのクタロウさんの顔を見つめました
そのときの私の表情、それは
クタロウが後に述べた言葉に拠れば
「あのときの芽子の顔は嬉しいのか悲しいのか、
　今でもよくわからないよ」
…というような微妙な表情をしていたそうでございます

・・・
私は携帯で機長に連絡を取り、
大槻義彦さんが旅の途中で不慮の事故でお亡くなりになったこと、
もといた婚活の世界に戻るための回廊がじきに開くであろうこと、
ただしその回廊が開いている時間はきわめて短いことなどを告げ、
乗客乗員全員をスカイマンコの機内に乗り込こませ、
離陸体制に入るようにと勧言しました

「了解した。しかし西尾君、君はどうするんだね？
　回廊が開くというなら早くこちらに戻ってきたまえ」
「・・・・」
「…西尾君？」
「…機長。私はそちら栗とリスの里には戻りません
　私のことは気にせず、離陸体制に入ってください」
「西尾君、それはできんよ。
　亡くなられた大槻教授は致し方ないとしても、
　君はまだ無事に生きているじゃないか。
　君が戻ってくるまで離陸することはできん」
「私がココ馬蹄等の里に残らないと、
　婚活の世界に戻るための回廊も開かないのです
　それでは全員が帰れなくなる。
　機長、私に構わずどうか離陸準備に入ってください」
「・・・西尾君」

機長に離陸体制に入るよう進言してから
私とクタロウさんは呪術の間に戻りました
クタロウさんはヘッドセットを装着して制御盤の前に座ります
私も携帯とヘッドセットを接続させてから、
羽生禅師の前に進み出ました
「娘御。…良いのだな？」
「はい」
私はそう言って羽生禅師の前に手を差し出しました
その手をしっかりと握る禅師。
先ほどと同様、呪術の間の天上に
スカイマンコの映像とクスコマンコの風景が瞬時に浮かび上がります
「機長、聴こえますか？こちらはクタロウ。
　これより貴機を誘導いたしますのでこちらの指示に従ってください」
「…クタロウさん。西尾君を戻すことはどうしてもできないのかね？」
「申し訳ありませんが、回廊を開くためには芽子さんの存在が必要なのです
　機長、どうかご心配なく。ココハザマ世界に残っても芽子さんは私が守ります」
「クタロウさん、君らは…もう一発やってしまったのか？」
「あ。あ。機長。私と芽子さんはまだそういう関係には…」
「そうか…クタロウさんは奥手だな。
　私なら一晩あれば、速攻でやってしまうが」
「・・・・」

・・・
手を触れただけで、
私の頭の中にある栗とリスのスカイマンコの映像と
ペルーのインカのクスコのマンコの映像を読み取り、
それを瞬時に呪術の間の天井に映し出す
その業だけでも驚くべき術ですが、しかしそれだけではただの絵に描いた餅。
このふたつの異なる世界のビジョンをつなぐ通路、回廊を開くこと。
そこからが馬蹄等で現在最高の呪術者とまで言われる
羽生善治禅師の腕の見せ所。本気ヂカラでございます

羽生禅師は眉間に皺を寄せ、
暫し沈思黙考しておりましたが、
やがて厳かに呟きました「マズ、八六銀捨て…」

「え？銀から？」
私には何のことやらさっぱりでしたが、
禅師と同じ馬蹄等の一人であるクタロウさんには何かが見えているようです
「続いてＱ六斤合い…」
「あ！そんな手があったか…」
「さらには八六歩ウチ」
「うぅぅぅむ…常識外の一着」
「とどめは…ゴーニー銀！！」
「うぉぉぉおお！やったぁ！」

クタロウさんがそう叫ぶと同時に、
ゴゴゴゴ午後・・・という腹を下したときのような地鳴りの音ともに
クリトリスの里の上空に雷電が迸り、渦巻状の穴がぽっかりと穿たれました
「婚活世界につながる通路・・・回廊が開いた・・・」

「スカイマンコ、離陸せよ」「了解！」
クタロウさんの指示に機長も直ちに応答し、
スカイマンコのメインエンジンが点火します

クタロウさんは制御盤の数値を素早く読み取りつつ、
同時に天井に映し出された回廊の穴を目視しながら、
的確にスカイマンコに指示を出していきます
「スカイマンコ、高度300まで上昇したところで水平飛行に移れ。
　回廊への突入入射角度は15度。
　ただし±1.5度までは許容範囲であるので、
　落ち着いてやれば必ず成功する。
　いったん回廊の脇を通過し、そこから反転せよ」
「了解」

私と羽生禅師が見守る中、
機長とクタロウさんは見事な連携を見せ、
スカイマンコは斜め上方から回廊に向かって突入していきます
「いいぞ、それでいい。
　そのまま突入すればあなたたちは婚活の世界に戻れる」
「了解。…クタロウさん、誘導アリガトウ。
　あなたのおかげで我々は元の世界に戻れる
　それから…西尾君、すまない。そしてアリガトウ…」
「機長。そして世界一蹴マンコのたびの皆さん。
　向うに戻られても、どうぞお元気で…」
「西尾君か？…西尾君、君はスゴイ女性だ。
　君ならココハザマ世界でも十分やっていけるだろう。アリガトウ、そしてサ」ツー・・・・・・・・

通信が途切れた。と同時に、
天井の半面を占めていたペルーのインカのクスコのマンコの情景の中に
スカイマンコがその姿を現した
通信が途絶えたのは、
スカイマンコがココハザマ世界から消えたから。
そして無事にもとの婚活の世界に戻れたから。
・・・

私がほっと安堵のため息を漏らすと、
羽生禅師は静かに私の手を離した
それとともに天井に映し出されていた光景は一瞬で消え去り、
再びもとの鏡張りの状態に戻った

・・・
ことが終わり、
やや放心状態で呪術の間にたたずむ私の処に
制御盤から離れたクタロウさんがやってきました

「芽子さん…改めて馬蹄等の里にようこそ。
　これからはココハザマ世界で一緒に生きていきましょう」
「有難う、クタロウさん。
　でも私、こちらのことは何にもわかりませんの。
　コンカツの世界では豪華客船の船旅から貧乏BP旅行に至るまで、
　ありとあらゆるツアーガイドをしていましたけど、
　ココハザマ世界のことは西も東もわからない…」
「私が何でも教えてあげますよ」
「そうね、有難う。…それじゃまず最初は、
　ウマの上手な乗り方から教えていただこうかしら？
　いつまでも手綱を引っ張ってもらうわけにもいきませんものね」

そう言って私はくすっと笑いました
その私の笑顔を見て、クタロウさんも穏やかに微笑みました

・・・
その夜。
ペルーの農民クスコ＝ぺチャパイハ＝モテンゾさんは
深夜にもかかわらずサトウキビ畑の見回りに出かけた
最近、野生の狸が自分の畑のサトウキビを食い荒らし、
被害甚大だったからだ

「…このまんまじゃ、今年の収穫はろくなもんじゃねえづら。
　今夜こそ、おらの畑のサトウキビ食いまくっとるタヌキをば
　ひっ捕らえて踏ん縛って、タヌキ汁にして食ってやるずら。
　覚悟せえよ、狸公…」

そんなことを一人呟きながら、
夜道を歩いていたクスコ＝ぺチャパイハ＝モテンゾさんは
突如として上空から湧き上がった轟音に吃驚して腰を抜かした
「な、ななななんじゃ、この、いかずちのような音は・・・」

クスコ＝ぺチャパイハ＝モテンゾさんが恐る恐る上空を見あげると
そこにはこの世ならざる光景が広がっていた
かすかな星の瞬きしかないはずの、その夜空の一角が
いま切り裂かれたようにざっくりと割れ、
そこから眩しいくらいの光があふれ出ているではないか

「泡わわわわ・・・マンコ様マンコ様、
　どうぞ私をお守りください・・・」

信心深いペルーの農民クスコ＝ぺチャパイハ＝モテンゾさんは
思わずペルー建国神話の現人神マンコかパックの名を口にしつつ、手を合わせた
そのクスコ＝ぺチャパイハ＝モテンゾさんの頭上、切り裂かれた天空の一角から、
爆音と共に航空機が一機、その姿を見せた
その航空機こそ、去るコンカツ時間の去る二月五日未明、
バミューダの魔の三角域で消息を絶ったあのボーイング787型機、
愛称『スカイマンコ』に他ならなかった …

(コンカツマンコ新聞より)
・・・・
婚活時間の去る2/5未明、
大西洋上空を航行中に消息を絶っていたボーイング787型機、
愛称スカイマンコが、昨日3/13の深夜に
突如としてペルーのインカのクスコマンコ上空にその姿を現し、
管制官の制止を振り切ってマンコかパック空港に強制着陸した。

ペルー当局は関係者に事情聴取を行ったが、
機長をはじめとして乗員乗客全員が
「我々はハザマ世界という異世界にいた」とか
「クリトリスの里の痔円さんはとても親切だった」とか
「握り飯とお茶、大変おいしゅうございました」などと
意味不明な供述をしているために、
今後、全員の精神鑑定をする予定である

なお当機には
「世界一周まんこのたび」というツアーの乗客が乗っていたが、
その乗客の一人で壮大名誉教授権物理学者の大槻義彦さん、
および 当ツアーのガイドである西尾芽子さん、
この両名の消息が依然として不明であるため、
当局は引き続き、適当にそこらへんを捜索していく意向である
・・・・



馬蹄等物語副伝
「電脳管制官の妻になった女性
　ジャン・ニシオ・芽子の物語」(仮題)　　　おしまい

このお話に登場した主な人々

【西尾芽子】
　この物語の語り手である『私』。
　世界一蹴マンコの旅のツアーガイド。
　この物語の後、クタロウと結婚し『ジャン・ニシオ・芽子』と名乗ることとなる
【ジャン・クタロウ】
　馬蹄等の一人。お仕事の正式名は『電脳空間制御管制官』。
　少し長ったらしいので、『電脳管制官』と略すことが多い
　異世界から迷い込んできた世界一蹴マンコ旅の一行とクリトリスの里で遭遇し、
　一行の中の西尾芽子と大槻義彦の二人を馬蹄等の里まで道案内することとなる
【クリトリスの痔円】
　栗とリスの里の長者。
　異世界であるコンカツから迷い込んできたマンコ旅の一行に
　握り飯とお茶を振舞ってあげた、とてもいい人。
【大槻義彦】
　世界一蹴マンコ旅のツアー客の一人。
　壮大名誉教授権物理学者で科学絶対主義の頑固ジジイ。
【山田洟子】
　・・というのも仮の名で、仮名はいくつあるのかわからない。
　別名を『無制限再登録婆』とも言われる妖怪の一属。
【歳の青海】
　馬蹄等の一人。歳の左近の末裔。『鬼きり』継承者。
　旅の途中で妖怪山田洟子に襲われたクタロウと芽子を救う
【源死魔】
　馬蹄等の一人。いわゆる『御当主さま』。
【羽生善治禅師】
　馬蹄等の一人。呪術師。
　異世界に通じる回廊を開くことができる、とってもえらい人。

通読する際のアンカー　>>省略

ヘンデルのオラトリオ「ソロモン」から
シバの女王の入城http://www.youtube.com/watch?v=SRZnxYNGy7c

主よ人の望みの喜びよ
http://www.youtube.com/watch?v=EKZKm7Pvw5E

3/14献立
蟹鮨野菜漬物紅茶醍醐菓子鶏揚物鮪刺身鯖煮物、予定
鮭缶詰野菜豆南瓜御新香二果実菓子二即席麺二、予備

馬蹄等の二つの紋章(笹に示さば・反り菱十字)について

古今東西、
名家名門と言われるほどの家柄の紋章家紋というのは
必ずしもひとつとは限らない。
というか、複数あるのが普通である
たとえば日本最大の名家である天皇家の紋章は何か？
と訊かれれば、ほとんどの人は「それは菊だ」と答えるだろうが、
天皇家の本当の紋章は菊ではない
天皇家の本来の家紋は日月紋と呼ばれているもので、
金の玉と銀の玉を並べた横長の紋章である
金玉が太陽を、銀玉が月をそれぞれ示し、
この二つを玉をワンセットとした「日月紋」という紋章が
天皇家の真紋なのである

・・・
実はこれと同様のことが馬蹄等にも言える
馬蹄等宗家の真紋は古来より「笹に示さば」と決まっている
しかしそれと同時にもう一つ裏家紋とでも呼ぶべものがある
それが「反り微視十字」といわれるもので、
曲線状の菱形の中にクロス、つまり十字が描かれている
至ってシンプルなデザインだがこれと同一の紋章は古今東西にも稀、というか無い
紋様の形が非常に近しいものはいくらでもある。
たとえば有名な武田菱。あれは菱紋様に斜め十字である。
或いは中が空の反り微視。或いは島津の丸に十文字。或いは十津川郷士の菱十字。
…近い紋様はいくらでもあるのだが、
「反り菱の中に十文字」という紋様は馬蹄等にしかないのだ
そしてこの反り菱十字が天皇家の菊の御紋と同じく、
真紋ではないにもかかわらず「馬蹄等といえば反り微視十字」、
といわれるほど著名なものとなっている
特にヨーロッパ・イスラム方面では、
王侯貴族やオカルト識者の間でも「馬蹄等の正式紋章は反り微視十字」
と思っているものが圧倒的多数なのである

欧州イスラム圏におけるこの認識は、
馬蹄等がイスラムの王族ハリーファやヨーロッパの名門ハプスブルクと
姻戚関係を結んで以降、さらに顕著なものになった
ハリーファの家に馬蹄等の名家、草流家の娘が嫁いだときも
源エル沙羅の夫妻がウィーンの宮殿でワルツを踊ったときも
彼らは胸に反り微視十字をつけてその場に臨んだからである

その後、巴里でも、オマーンこ臭い空港でも、
馬蹄等たちは反り微視十字を胸につけ、旗として掲げてきたため、
「馬蹄等の紋章は反り微視十字」というのが、
オリエント・ヨーロッパ地域での常識となっていった
反り微視十字はカービーダイヤモンドクロス(curvy diamond cross)と英訳される
そのカービーダイヤモンドクロスの旗を見ると、
ヨーロッパ・オリエント地域の王族諸侯たちは
「馬蹄等たちが来ているのだな」と認識し、
その紋章に対して相応の敬意といくばくかの畏怖を感じるようになっていたのである・・・

kuu0054

3/15献立
蟹鮨二御新香鮪刺身鯵酢物紅茶醍醐菓子第三帝国迄確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶野菜豆南瓜御新香果実菓子二即席麺二、予備

サンクトペテルブルクとストックホルム、およびその他主要都市の位置関係
http://www.terminalcruise.jp/img/Cruise/382/image_detail.png?491970363
サンクトペテルブルク＝ヘルシンキ＝タリン位置関係
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/i/iwase_akihiko/20101217/20101217224630.jpg
http://www.nettravel-jp.com/tour/summer/image/map_hel_spb.gif

ラスプーチン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3
ニコライ・ニコラヴィっチ・ニコニコドーガ・ロマノフ

緒万の方様欧州怪異談　
其の第三話　　
北の都の妖僧　(冒頭部験し書き)

そのプライベートジェットのコックピット上部には
小旗が掲げられ、折からの風を受けたなびいていた
白地の中央に黒く縁取られた曲線。そして曲線の中には小さな十字の印。

「あれが噂に聞く『カービーダイヤモンドクロスの紋章』というやつか？」
「さようでございます」
「ふむ・・・」

傍らに控えていた侍者の恭しい応答に、軽くうなづくと
その人物は再び窓の向こうに見えるプライベートジェットに目を戻した
愛称をエアルージュというらしいその小型の飛行機には
馬蹄等の当主奥方緒万戸香とその随行者たちが乗っているはず。
その香たち一行を出迎えるために、
その人物は平素住まいとしているペテロパブロフスク要塞を離れ、
ココ、サンクトペテルブルク国際空港にまで足を運んできていた

彼の名はイワン・イワンコッチャナイゼヴィっチ・ロマノフ。
広大なロシアの大地を統治するロマノフ家の現当主である
広大…といえば確かにそのとおりなのだが
ロシアの大地は寒冷な地が多く、
穀物の実りも豊かとは言い難い
また異民族の流入流出も頻繁であり端的に言って難治の土地である
しかしながらロマノフの一族は
そのような実りの薄い、治めるに難しい国土を
長きに渡ってよく取りまとめ、
何とかひとつの国家として維持してきていた


サンクトペテルブルク
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%9A%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF
サンクトペテルブルクとストックホルムおよびその他主要都市の位置関係
http://www.terminalcruise.jp/img/Cruise/382/image_detail.png?491970363

第四帝国に到る病

3/16献立
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物鯵酢烏賊刺し紅茶醍醐菓子、確定
蟹鮨鮭缶野菜豆南瓜御新香二果実菓子二即席麺二、余り

・・・
「馬蹄等だかバッテらだか存じませんが、
そんなユーラシアの東の端っこの小さな島国の、
さらにその中でも糞田舎の弩僻地の、
馬蹄等の里になど棲んでいるものの統領の内儀が着たからといって
大露西亜帝國の皇帝たる貴方がわざわざ空港まで行かれる必要など、
何処にあるというのですか？
先方が貴方にお会いしたいと言うのであれば、
このペトロパブロフスク要塞まで呼びつければよろしゅうございましょうに、
御自ら空港に足をお運びになるなど、皇帝として鼎の軽重が問われましょう」

イワン・イワンコッチャナイゼヴィっチ・ロマノフ
（…長ったらしいので以下イワンと略記する…）が、
サンクトペテルブルク国際空港にまで緒万の方様一行を迎えにいくという話を聞き、
イワンの妻、ナスターシャ・金スキー・アナルコビッチ・ロマノフ
（…これも長ったらしいので以下ナスターシャと略記する…）は、
そう言って、夫の行動に異議を唱えた

「これだから、おなごというものは困る。
我等ロマノフ家、露西亜帝國が置かれている現状をよく鑑みてみよ
こうして今ココフィンランド湾の入り口に都を構えて、
バルト海さらにはその外の北海、大西洋を望む足場を築いたとはいえ、
北のスオミ(フィンランドのこと)も、南の旧ドイツ騎士団領も、
ことごとくスウェーデン帝國の掌中にあり、
我等は艦隊の運行すら思うに任せぬ状況にあるではないか
このような現状をかんがみれば、
スウェーデンバルト帝國と過去の経緯から敵対関係にある馬蹄等と
友好関係を結んでおくことは、ロマノフの家にとってきわめて重要なこと。
馬蹄等はウイーンのハプスブルク家や巴里のブルボンとも姻戚関係にあり、
粗略に扱うことはできぬ
ましてやその当主奥方がわざわざ、
ココサンクトペテルブルクにまで表敬訪問に参られるというのであれば、
空港まで出迎えにいくくらいのことは、やっておいてしかるべきことだ
われらが馬蹄等当主をどのように接遇したかは、
当然スウェーデンバルト帝国のグスタフアドルフの耳にも入る
表敬訪問とはいえ、これは極めて重要な国際戦略の一環なのだ
そなたも皇帝の妻であるというのならば、
このぐらいのことは速やかに理解納得して、
気持ちよく亭主を送り出そうという気になれないものか？」

「貴方は能書きが長すぎます。三行以内に要約してください」

「・・・・」

3/17控え補記
蟹鮨鮭缶野菜豆南瓜御新香二果実菓子二即席麺二缶珈琲２

3/17献立(暫定)
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子、予定
鮭缶野菜豆南瓜御新香二果実菓子二即席麺二珈琲、予備

・・・
国際空港で緒万の方様一行を出迎え、
馬車を並べてサンクトペテルブルク市内に向かう道中
皇帝イワンは緒万の方様と何くれとなく会話を始めた

「ハプスブルク、ブルボンともゆかりある
馬蹄等の当主奥方を我が都にお迎えできるのは光栄の至り。
さりながら当地サンクトペテルブルクは欧州の内とはいえ、
文化的側面においてはいささか後進の都市。
ウイーンや巴里のような円熟の域に達した先進の都市と比して、
何かとご不満なこともあるかもしれませんが、ご容赦のほどを」
「ご謙遜を。貴国と我等の里馬蹄等のある秋津島の国とは、
本朝の漂着民大黒屋光太夫をお救い頂いたことから始まり、
何かとご縁のある間柄。後進などと言うことは決してございません」
「恐縮です。・・さて、とりあえずこの馬車は
平素私が住まいとしているペテロパブロフスク要塞に向かっておりますが、
馬蹄等の当主奥方を要塞の内にてもてなすというのは、あまりに野卑無骨。
いずれエカテリーナ宮殿あたりに歓待の場を移し、宴を催す意向なので、
暫時ご辛抱の程を」

【緒万の方様の長い能書き】

陛下。
さようなお気遣いはどうかご無用に願います
失礼ながら現在ロマノフの御家は、
ココサンクトペテルブルクを都とし、
バルト海への入り口はかろうじて死守しているとは申せ、
南の旧騎士団領も北のスーオーミも、
いずれもスウェーデンバルト帝国のグスタフアドルフに抑えられ、
一時も油断のならぬ状況のはず。
さればこそ陛下も、
平素のお住まいをペテロパブロフスク要塞と定めておられるわけでございましょう？
…そのような折に表敬訪問とはいえ、
お邪魔するだけでもいささか心苦しく思っておりますのに、
故エカテリーナ陛下の名を冠した宮殿での歓迎会など…
そのようなお気遣いはどうかどうか、ご無用に。

私はコンカツ婆とは違います
初面接の場所に拘っていちいち駄目だしするような真似は決していたしません
陛下の平素のお住まいとあれば、
それが要塞の中であろうが、
わらぶき小屋の中であろうが、
橋の下の立ち飲み屋であろうが、一向に構いません
私が陛下とお会いした、という事実。
そしてそのことがグスタフアドルフの耳に達する、ということ。

…このことのみが重要なことでございます
そのために私が当主源死魔の代理として御当地に参っているのございます
ですから、私ごときのためにどうか余計なお気遣いはなさいますよ
奢侈なことは極力抑え、ごく内内の方たちと交歓できますれば、
それだけで十分でございます

test by 753

()

終始笑みを絶やさぬまま語りきった緒万の方様のこの長〜い能書きに対し、
ロシアの皇帝イワンは微笑みつつ謝意をこめて軽く黙礼しただけだったが、
内心では舌を巻いていた

（このおなご、すごいやつだな…
　ロマノフ家が現在おかれている環境、スウェーデンバルト帝国の動向、
　秋津島の馬蹄等の状況、欧州諸家の立ち位置…すべて把握しておるわ
　その上で自らの欧州歴訪の意義を踏まえ、己の役割をこなそうとしている…
　さすがは馬蹄等の当主源死魔が『我が代理』として、
　欧州諸家に派遣してくるだけのことはある
　このおなごの半分、いやせめて三分の一でもよい、
　あいつにも当主の妻としてのそれなりの器量(註)があれば、
　我がロマノフの家もいま少し余裕を持ってスウェーデンバルトと対峙できるものを…）

(註)器量
そもそも器量という言葉は
お顔がきれいとか、黄金比率にかなっているとか、そういうことでない
漢字を見ればわかるとおり「器がでかい」というのが本来の意味である
器がでかい。懐が広い。
こういうことは何も男にだけ求められている訳ではなく
女性に対しても、器量の大きさ、懐の深さ、
というのが求められるものなのである
特に上流階級においてはその傾向が顕著である。

以上のことをごく簡潔に言ってしまえば、
男だろうが女だろうが馬鹿は駄目。…ということなのである

kuu0016

・・・
さて一方こちらは
イワンが心の中で『あいつ』呼ばわりしたイワンの妻、ナスターシャ。
ただいま鏡とにらめっこして顔面塗装工事の真っ最中でございます

「ふむ。こんなもんかな？
　さてと。鏡よ加賀美よ各務さん。世界で一番美しい微魔女は、だ〜れ？」
「…それは、ナスターシャさまでございます」

鏡の代わりに、
ナスターシャの傍らにいた侍女が震え声でそう応じます
・・なぜなら、そう答えないと、ヌッ殺されちゃうから。

「ふむふむ。無論、そうであろう。
　さて、では次は舞踏会用の衣装選びじゃ。
　馬蹄等だかバッテラだか知らんが、
　とりあえずうちの旦那はそこの統領の女房をもてなすために
　エカテリーナ宮殿で歓迎舞踏会をすると申しておったからな
　無粋な兵士どもに囲まれての要塞生活の日々にはうんざりしておるゆえ、
　今夜は久方の憂さ晴らしじゃ。
　ゴッテゴテのキンキラリンの衣装と宝石で身を包んで、
　ユーラシアの東の端ッこの島国の、
　さらにその中でも糞田舎の弩僻地からやってまいった、
　馬蹄等当主の女房の度肝を抜いてやろうぞ
　といっても所詮はもともとがアジアの黄色い猿女だろうから、
　私の美貌に敵うはずもあるまいがな。ひょほ。ひょほ。ひょ〜ほほほほほ。ほ」

「…そうとも限りませんぞ。皇后陛下」

その声で、
『皇后陛下』ことナスターシャの哄笑がとまります
他のものが彼女に対してこんな口のきき方をしたら、
激怒したナスターシャの裏拳や足蹴りが直ちに飛ぶところですが、
その声の主だけは別格。

「・・ヒトニョール・・・」
「噂に聞くところでは秋津島日の本においても、
　歳を経てもなかなか容色衰えぬおなごもおると聞いております
　無論そういうのはあくまで例外でございまして、
　たいていの女子は人三化け七みたいになってしまう訳ですが」
「例外というとたとえばどのようなものたちか？」
「さようですな。私も詳しくは存じませんが、
　森高千里、清水一世、吉永小百合、大竹しのぶ、黒き瞳、などが
　『例外』としてよく上げられるようでございます」
「そのようなもの、あくまで例外であろう？
　馬蹄等統領の妻がその例外の一人であると言うこともあるまい」
「さていかがでございましょうかな」
「何が申したい？」
「いえ。何も。
　ただ、綺麗か不細工か原則の内か例外事項かというのは、
　あくまで人による、と。
　…そう申し上げたかっただけでございます」
「ヒトニョール」
「は」
「そなた、そのギャグを言いたいだけの為にこれだけの行数を使ったのか？」
「ご明察」
「・・・・」

【道草話】

馬蹄等史上、最大規模のの軍事作戦。
そのオペレーションコードネームは『マジック』。
今夕はその概要の一端を…

・・・
スウェーデンバルト帝国の王、グスタフアドルフ。
彼の野望を知った馬蹄等当主源死魔は
馬蹄等の総力を挙げての決戦を決意し、
ハプスブルク、ブルボン、ホーエンツォレルン、
ロマノフ、ハリーファなどの諸王家と軍事協定を結ぶ。
さらにそれらに加えて死魔は、
『死魔の三本の矢』と呼ばれる草稲、青海、静蛇の
軍事系トップ３とはべつに、馬蹄等の里の内に呪術系チームを編成した
その主要メンバーは下記のとおりである

�@安佐楢達(あさ・ならたつ)
　主伝第二話に登場した物理学者安佐達三の子孫。
　今回の軍事オペレーション『マジック』を発動させるための
　基本システムの設計及び開発を担当する。
�A羽生善治禅師(はにゅうぜんじ・ぜんじ)
　現在の馬蹄等における最高の呪術師。
　システムの起動及び維持を担当。
�Bジャン・クタロウ＆芽子夫婦
　夫婦いずれも電脳空間制御管制官という、名コンビ。
　システムの制御及び管理を担当。

この呪術系チームが、馬蹄等の軍事作戦の成否を握る

しかし一方、バルト帝国のグスタフアドルフも
或る人物と恐るべき軍事上の密約を締結していた…

・・・
奢侈なもてなしを受けることを緒万の方様が固辞したために
結局エカテリーナ宮殿での晩餐会兼舞踏会は取りやめとなり、
ロシア皇帝イワンと馬蹄等の当主奥方緒万の方様は、
平素イワンが住まいとしているペテロパブロフスク要塞内にある一室で
それぞれの内内のものたちとともに軽く会食をするだけにした

もちろんごく内内のものたちだけの会食といっても、
それはロシアの帝室ロマノフの家のすることなので、
そこらの一般ロシア人とは食うことが違うわけで、
ふかしたジャガイモにバターを塗ってさあどうぞ・・なんていうレベルの食い物は出てこない
オードブルとしてまずは黒海のキャビアから始まり、
合鴨のソテー、舌平目のムニエル、フォアグラにスライスしたトリュフ添え、
ハテは北京ダックに戻しアワビに野菜の炒め物、上がりはツバメの巣のスープという、
一般人から見れば豪華絢爛、酒池肉林の夕食である

しかしそれでもロシア皇帝イワンの立場から見れば、
「とても安く済んだ」というレベルの歓迎会であった
それはあながちロシア・ロマノフ家が大金持ちだから、ということではない
移し世のロシアとは違い、ココハザマ世界のロシアはビンボー、である
とくにこの時点でのロシア帝国は
欧州最強と目されるスウェーデンバルト帝国と正面から対峙しており、
首都サンクトペテルブルクの防衛のために多くの国家予算を割かねばならない
そのような状況にあったロマノフの当主イワンにとっては、
「奢侈な歓待はできるだけお控えくださいますように」
と言ってくれた緒万の方様の言葉は何よりありがたく、
そして安く済んだにもかかわらず馬蹄等との友好関係を確立できた今夜の会食会は、
イワンにとってロマノフ家にとってまたロシア帝国にとっても、
きわめて有意義なものだったのである

(>>333書き直し)

・・・
奢侈なもてなしを受けることを緒万の方様が固辞したために
結局エカテリーナ宮殿での晩餐会兼舞踏会は取りやめとなり、
ロシア皇帝イワンと馬蹄等の当主奥方緒万の方様は、
平素イワンが住まいとしているペテロパブロフスク要塞内にある一室で
それぞれの内内のものたちとともに軽く会食をするだけにした

もちろんごく内内のものたちだけの会食といっても、
それはロシアの帝室ロマノフの家のすることなので、
そこらの一般ロシア人とは食うものが違う。
ふかしたジャガイモにバターを塗りたくって、さあどうぞ・・なんていう食い物は出てこない
オードブルとしてまずは黒海のキャビアから始まり、
合鴨のソテー、舌平目のムニエル、フォアグラにスライスしたトリュフ添え、
ハテは北京ダックに戻しアワビときて、上がりはツバメの巣のスープという、
一般人から見れば豪華絢爛、酒池肉林の夕食である
しかしそれでもロシア皇帝イワンの立場から見れば、
「とても安く済んだ」というレベルの歓迎会であった

それはあながちロマノフ家が大金持ちなので一般人とは金銭感覚が違う、ということではない
移し世のロシアとは違い、ココハザマ世界のロシアはビンボー、である
とくにこの時点でのロマノフ家、ロシア帝国は
欧州最強と目されるスウェーデンバルト帝国と正面から対峙しており、
首都サンクトペテルブルクの防衛のために多くの軍備費を割かねばならなかった
そのような状況にあったロマノフの当主イワンにとっては、
「奢侈な歓待はできるだけお控えくださいますように」
と言ってくれた緒万の方様の言葉は何よりも有り難く、
そして安く済んだにもかかわらず、
確固とした馬蹄等との友好関係を確立できた今夜の会食会は、
イワンにとってロマノフ家にとってまたロシア帝国にとって、
きわめて有意義なものだったのである

（死魔殿は良きおなごを妻にしたな…）

イワンは心のうちで密かにそうつぶやいていた

3/19献立(暫定)
蟹鮨御新香サーモン刺身鰤煮物紅茶果実菓子醍醐菓子まで、確定
蟹鮨鮭缶詰野菜豆南瓜御新香即席麺二果実菓子二醍醐菓子、予備

イワンは
緒万の方様の心遣いや挙措振る舞いに内心感心することしきりだったが
イワンの妻ナスターシャの思惑はそれとはまったく異なるのものだった
彼女の頭の中には
現在ロマノフが現在置かれている政治上軍事上の危機的状況、
およびそれらに対する危惧懸念などといったものは欠片もなかった
彼女の脳内を占めていた思いは、
今夜のエカテリーナ宮殿での舞踏会が取りやめになったため、
ゴッテゴテのキンキラリンの衣装と宝石を身にまとって
ユーラシアの東の端ッこの島国からのこのこやってきた
馬蹄等の統領の女房とかいうやつの度肝を抜いてやろう、
という思惑がはずされてしまった、ああ悔しい口惜しい。と、
ただそれだけのことだったのである

己の感情を矯めることができない彼女は、
会食中もブスっとした表情のまま、ろくに歓談もせず、
ただひたすら目の前におかれた飯をむさぼり喰らって、
デザートのツバメの巣のスープを飲み終えたところで
「今夜は少々体調が優れませぬのでこれにて失礼」と言って、
お気に入りの祈祷僧ヒトニョール一人を伴って、さっさと退席してしまったのである

「香殿。我妻ナスターシャの無作法をどうかお許し願いたい
　あのものは実家がウクライナの裕福な貴族なものですから、
　なにかと高ピーな態度がオオウございまして…
　今後も失礼な振る舞いもあるやも知れませんが御寛恕のほどを」
「いえいえ。体調が優れぬと仰るのですから、
　中座されるのも仕方ございませんでしょう
　皇后陛下にはくれぐれもご自愛のほどを、とお伝えください」

イワンのとりなしに緒万の方様が如才なく応じたところで、
ロマノフと馬蹄等の初顔合わせ、会食会はお開きとなった

(>>336書き直し)
イワンは
緒万の方様の心遣いや挙措振る舞いに内心感心することしきりだったが
イワンの妻ナスターシャの思惑は、それとはまったく異なるものだった
彼女の頭の中には
ロマノフが現在置かれている政治上軍事上の危機的状況、
およびそれらに対する危惧・懸念などといったものは欠片もなかった
彼女の脳内を占めていた思いは、
今夜のエカテリーナ宮殿での舞踏会が取りやめになったため、
ゴッテゴテのキンキラリンの衣装と宝石を身にまとって
ユーラシアの東の端ッこの島国からのこのこやってきた
馬蹄等の統領の女房とかいうやつの度肝を抜いてやろうと思っていたのに
その思惑がはずされてしまった、ああ悔しい口惜しい、と。
…ただそれだけのことだったのである

さらにくわえて緒万の方様が、
事前に想像していたようなアジアのサル女ではなかったことが、
ナスターシャのの憤懣をさらに募らせた
緒万の方様は、森高千里と清水一世と吉永小百合を足して
３で割ったような容姿の持ち主、つまり『例外事項』だったのである

己の感情を矯めることができないナスターシャは、
会食中もブスっとした表情のままろくに歓談もせずに、
ただひたすら目の前におかれた飯をむさぼり喰らって、
デザートにでてきたツバメの巣のスープを飲み終えたところで
「今夜は少々体調が優れませぬのでこれにて失礼」と言って、
お気に入りの祈祷僧ヒトニョール一人を伴って、
さっさと退席してしまったのである
・・・
「香殿。我が妻ナスターシャの無作法をどうかお許し願いたい
　あの者は実家がウクライナの裕福な貴族の家なものですから、
　なにかと高ピーで手前勝手な態度が多ウございまして…
　今後も失礼な振る舞いもあるやも知れませんが、御寛恕のほどを」
「いえいえ。体調が優れぬと仰るのですから、
　中座されるのも仕方ございませんでしょう
　皇后陛下にはくれぐれもご自愛のほどを、とお伝えください」

イワンのとりなしに緒万の方様が如才なく応じたところで、
ロマノフと馬蹄等の初顔合わせであるその夜の会食会はお開きとなった

3/20呼び補正
蟹鮨鮭缶野菜豆南瓜御新香鶏揚物
点蕎麦中華面果実菓子二醍醐菓子

・・・
「あのナスターシャ皇后陛下という方は…
　本朝で申せば雅子妃殿下みたいな方なんですかね？」

稗田の婆さんのこの言葉に、
イヴ黒岩は思わずプッと吹いてしまったが、
緒万の方様はそんなふたりを穏やかにたしなめられた

「人様の家のことをあれこれと悪く申すものではありません
　ロマノフ家にはロマノフ家で何かと事情があるのでしょう
　それに…あのイワンというお方、
　物腰は柔らかですが、なかなか気骨のあるお方です
　あの方が当主である限りは、ロマノフは頼りになるお家と見ました
　決して軽んじてはなりません」
「と申しますと？」
「考えても御覧なさい。ココサンクトペテルブルクは、
　北のスオミも南の騎士団領もスウェーデンバルトに抑えられて
　いわば最前線と申してもよいところです
　本来であれば内陸部のモスクワあたりに首都を移したい心境のはず。
　しかるにここサンクトペテルブルクに踏みとどまっているのは、
　いま内陸に首都を移せばグスタフアドルフに押され、
　ココサンクトペテルブルクもスウェーデンバルトの手に落ちると判断しているからです
　だから危険を承知でここを首都とし、この地に踏みとどまり、
　要塞を平素の住まいとしてまで、スウェーデンバルトの圧力と対峙しているのです
　…かのお方が当主でいる限り、ロマノフの御家はそうやすやすとは崩れますまい
　軽んじなさるな、というのはそういうことです」

(>>339書き直し)
・・・
会食会がお開きになった後、
緒万の方様たち一行はそれぞれの部屋に引き取られましたが、
ホーエンツォレルン城のときと同様、
暫しの時を経て三々五々、お方様の部屋に集まります
ここからは馬蹄等たちだけの身内の会談でございます

「お方様。あのナスターシャ皇后陛下というお人は…
　本朝で申せば雅子妃殿下みたいな方なんですかね？」

会談が始まるや
開口一番、稗田の婆さんが言ったこの言葉に
イヴ黒岩は思わずプッと吹いてしまいました
が、緒万の方様はそんなふたりを穏やかにたしなめられ、
以下のようなことを仰いました

「人様の家のことをあれこれと悪く申すものではありません
　ロマノフ家にはロマノフ家で何かと事情があるのでしょう
　それに、あのイワンというお方。
　物腰は柔らかですが、なかなか気骨のあるお方です
　あの方が当主である限りは、ロマノフは頼りになるお家と見ました
　決して軽んじてはなりませんよ」

「…と申しますと？」

「考えても御覧なさい。ココサンクトペテルブルクは、
　北のスオミも南の騎士団領もスウェーデンバルトに抑えられて
　いわば最前線と申してもよいところです
　本来であれば内陸部のモスクワあたりに首都を移したい心境のはず。
　しかるにここサンクトペテルブルクに踏みとどまっているのは、
　いま内陸に首都を移せばグスタフアドルフに押され、
　ココサンクトペテルブルクもスウェーデンバルトの手に落ちると判断しているからです
　だから危険を承知でここを首都とし、この地に踏みとどまり、
　要塞を平素の住まいとしてまで、スウェーデンバルトの圧力と対峙しているのです
　…かのお方が当主でいる限り、ロマノフの御家はそうやすやすとは崩れますまい
　軽んじなさるな、というのはそういうことです」

3/20献立(暫定)
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物果実菓子醍醐菓子、予定
鮭缶野菜豆南瓜御新香即席麺二果実菓子、予備

・・・
緒万の方様の鋭い観察眼、状況分析に
皆が感心して暫し沈黙しておりますところに、
「コンコン…」と遠慮がちに扉をノックするものがおりました

「どなた？」
「皇帝陛下の申し付けにより、
　皆様に食後のロシアンティーを持ちするように参りました
　…私、皇后陛下付きの侍女にてソフィアと申します」
と、扉の向こうから声がいたします

イヴ黒岩が扉を開きますと、そこには>>330で
「世界で一番美しい美魔女。それはナスターシャ様でございます」と、
クソババア…いや失礼、
ロシアの皇后陛下に無理やり言わされたあの妙齢の侍女が、
秋葉の冥土越すプレのような格好をして、ロシア紅茶を載せたワゴンととも控えております

「…さようか。ではまあ、お入りください」
「…失礼いたします」

日頃から更年期障害気味のナスターシャに
怒鳴られたり蹴られたりしているのでございましょうか、
その侍女は少しおどおどした様子でワゴンとともに室内に入ってまいります
一同は暫し黙って、その少女といってもよい年頃の侍女が
紅茶の支度をする様を見ておりましたが、そのとき不意に
一行の中の一人、言語学者のマイヨールが声を上げました

「ソフィア？先ほど貴女、自らの名をソフィアと名乗られましたね？
　もしかして貴女は・・・ソフィア・マイヨールでは？」

え？というような表情で
マイヨールを見やったその侍女の瞳が、
見る間に濡れていきます
「…ムスクルス兄ちゃん」
「ソフィア。やはりソフィアか。どうしてこんなところに」
「話せば長いことながら、
　かくかくしかじか…というようなしだいで、
　おとっつぁんが小豆相場に手を出し財産消滅、
　リヨンの豪邸も抵当に押さえられて一家離散、
　私は流れ流れてなんとか親戚の紹介で
　ココサンクトペテルブルクにてロマノフの御家に拾っていただき、
　こうしていまは皇后ナスターシャさま付きの侍女として働いております」
「ううむ、それは哀れな…」

緒万の方様はじめ、随行者一同も
この偶然のめぐり合わせには皆一様に驚きます

「確かマイヨール殿のご実家は、
　南仏はリヨンの貴族であると伺っていましたが
　そうですか…貴女はマイヨール殿のいとこに当たられるお方か」
「奇遇というのはこういうことか。これも何かのご縁でござろう」
「マイヨール殿のお従妹であられるのであれば、給仕も何もない
　皆で車座になってロシアンティーを頂くことにいたしましょう」
などと、口々に申します

「あ、お待ちください。
　皆様にお飲みいただく前に、まず私がお毒見をさせていただきますので」
「毒見？」
「はい。実を申しますと先ほどの会食会で皆様が召し上がった
　黒海のキャビア、合鴨のソテー、舌平目のムニエル、トリュフを添えたフォアグラ、
　北京ダックに戻しアワビの煮込みにツバメの巣のスープ…などといったものも、
　皆様にお出しする前に私が厨房でつまみ食いしておりました
　そして異常が無いことを確認してから、
　皆様の食卓にお出ししていたようなしだいでございまして、
　要するに皆様が召し上がっていたあれらのものは
　実は私が食った後の残り物、ということでございます」
「・・・・」

斯波http://www.youtube.com/watch?v=Q1mhhgi01no
主世http://www.youtube.com/watch?v=zbIzWUgkYao
婚姻http://www.youtube.com/watch?v=7z8Dg5nPKMM

3/21保存
蟹鮨鶏揚物果実菓子二御新香三・鮭缶野菜豆南瓜天即席麺二

kuu0022

()
・・・
「しかしお毒見役とはまた物騒なお役目ですね
　実際に何かそのようなご不幸がご当家では起きているのですか？」

「はい。本来ならばロマノフのお家の恥に関わることでございますから、
　このようなこと外部の方に申し上げるのは差し控えるべきでしょうが、
　ムスクルス兄さんにゆかりある方々であれば、
　申し上げてもかまいませんでしょう
　最近のことですが、優秀な士官の方が二名ほど、
　毒を盛られて殺されるという事件がココペテロパブロフスク要塞内にて
　発生いたしております
　解剖の結果毒殺とは判明したものの、
　毒物が混入された経路は不明で、犯人も特定できませんでした
　殺された二名の士官の方々は、
　いずれも皇帝陛下が頼みとされる方でしたので、
　陛下はこの事態を深く憂慮され、私を公儀御毒見役に指定され、
　重要人物が召し上がる食い物飲み物はすべて事前に私がつまみ食いする、
　ということとなったしだいでございます」

「しかし、それでは…」
従妹ソフィアの話を聞いたマイヨールはやや憤然として、
「もし万一また食い物や飲み物に毒物が混入されるようなことがあれば、
　ソフィア、君が死ぬことになってしまうではないか。
　あのイワンとかいう皇帝、お方様は物腰柔らかと評されたが、
　冷徹な人物ですな。平然と君を毒見役に指定するとは・・・」

「ムスクルス兄さん。
　どうかイワン陛下のことを悪く言わないでください
　これは戦争なのですよ。まだ銃弾が飛び交い、刃が交錯していなくとも、
　これは既に戦争なのです。スウェーデンバルトの王グスタフアドルフは、
　虎視眈々とココサンクトペテルブルクを狙っている…
　そのためには毒殺でも何でもいたすでしょう
　現にイワン陛下は戦わずして優秀な士官を二名失われた。これは大きな戦力ダウンです
　これ以上サンクトペテルブルクの防衛力を落とすわけにはいかない
　そのために私が毒見役選ばれたのです
　…むしろ私はこのイワン陛下のご配慮に感謝しております
　お毒見役になる前は
　私が平素お仕えしていますナスターシャ皇后陛下は
　私にろくに食べ物も与えてくださらなかったために、
　私はガリガリの痩せ型体型でした
　それが御毒見役になってからは食い物はつまみ食いし放題、
　飲み物も飲み放題で、ご覧のとおりの『ぽっちゃり』体型になりました
　これもみな、皇帝イワン陛下のおかげでございます」

「ぽっちゃり体型・・・」

「はい。ぽっちゃりデス」

「・・・」

3/21献立(ほぼ確定)
蟹鮨鶏揚物二烏賊刺鯛刺身御新香紅茶果実菓子第四帝國に至る病
蟹鮨鮭缶野菜豆南瓜御新香御新香天麩羅蕎麦豚骨麺果実菓子余り

・・・
さて一方こちらは皇后陛下ことナスターシャの部屋。
ディナーを一人むさぼり食ってさっさと退席したものの、
いまだにイライラが収まらないナスターシャは
「嗚呼、また怒りの発作が起こりそうじゃ。
　ヒトニョール。またいつものアレをやってくりゃれ」
と、申しました

そもそもそのヒトニョールなる人物は
氏素性もはっきりしたものではなくて
いつかは知らずいつのまにやらココサンクトペテルブルクの町にやってきて
街中にて病気治癒・加持祈祷・水子供養などのまじないを始めましたところ、
これがたいそうな評判になりまして、
その噂を聞きつけたナスターシャが
ペテロパブロフスク要塞に呼びつけて祈祷治癒をやらせてみましたところ、アラ不思議。
日頃からナスターシャを悩ませていた肩こり、腰痛、眼精疲労、生理不順、
焦燥感、怒りの発作といった更年期特有の諸症状がアッサリと快癒いたしましたために、
大いに気にいったナスターシャが夫である皇帝イワンの反対を押し切り、
そのままココペテロパブロフスク要塞に住まわせた、
というのが始まりでございます

以来ヒトニョールはずっとこの要塞内で皇后ナスターシャの傍らに控え、
ナスターシャ専属の祈祷僧として日々加持祈祷をしている…というのが、
ペテロパブロフスク要塞に住むものたちの共通の認識でございました

「はぁ。私はかまいませんが、しかし…
　皇后陛下はアレをいたしますと、必ず大声をお上げになりますので、
　侍女殿に聞こえはせぬかと、私はそれがいつも気になっております」
「ソフィアか。ソフィアには先ほど
　馬蹄等とかいう連中にロシアンティーをもっていかせたゆえ、
　当分戻っては来ぬ。さあヒトニョール。早う、アレを」
「さようでございますか。しからば…」

ヒトニョールがうなづくと、
ナスターシャは待ってましたとばかりうつぶせになります
そのうつ伏せになったナスターシャの背を
最初のうちは軽く指圧から始めるヒトニョールでしたが、
やがてその指先が次第にナスターシャの背中からうなじへ、
さらには脇腹へ、ついにはアソコにまで…
「お。おおおおおお…いいぞ。いい。いい。
　ヒトニョール。もっともっとじゃ…」
「もっと、でございますか？」
「そうじゃ、もっと、じゃ」

そう言って体を反転させて仰向けになったナスターシャは
前をはだけると同時にヒトニョールのアソコをつかみます
「手の指だけではなくこっちの指も使ってたもれ…」

　┌─────────────────┐
　｜　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　　　 　　｜
　｜　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　　　 　　｜
　｜　　　　　　　　　 ∧＿∧　　　　　　　　　　　 |
　｜　　　　　　　　　（　´∀｀）　　　　　　　 　　　 |
　｜　　　　　　　　　（　　　　） 　 　 　 　　　　　　|
　｜　　　　　　　　　｜ ｜　|　　　　　　　　　　　｜
　｜　　　　　　　　　（_＿）＿）.　　　　　　　　　　 |
　｜　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　　　 　　｜
　｜　　　　　愛読者の方には大変申し訳ありませんが
　｜　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　　　 　　｜
　｜　　　これ以上の描写はR18指定となるため、自主規制とさせていただきます
　｜　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　　　 　　｜
　└─────────────────┘

3/22献立候補
蟹鮨鮭缶野菜豆南瓜御新香二即席面二果実菓子珈琲ビーフメンチ

canon (pacellbel) http://www.youtube.com/watch?v=LasPMn8fCFE

()
・・・
場面戻って、ココは再び緒万の方様のお部屋。

「…それにしても今夜の会食会の献立は、
　いささか風変わりでございましたな…
　いや、勿論どれもみな大変美味しゅうございましたが」

と、口を挟みましたのは
馬蹄等のVIP専用機、エアルージュのパイロットを務める
アソコガの爺さんでございます
貴人との会食は肩が凝ると称して、
ホーエンツォレルン城訪問の折にはただ一人、
チュービンゲンの空港で待機しておりましたアソコガの爺さんですが、
今回は
「粥磐殿（←アソコガの爺さんの名）も、
　たまにはよそ様の家との会食会に出てみなされ」
と、緒万の方様に促されて
ココペテロパブロフスク要塞にまでやってきておりました

「おや？日頃マルちゃんのカップめんばかり食っているような爺様に
　あのようなディナーのウマイのマズイのなんてことがわかるのかえ？」
「何をこの糞ババアが」
「まあまあまあまあ…」
早速口喧嘩を始めるアソコガの爺さんとひえだのばあさん。
その間に割って入った緒万の方様が
アソコガの爺さんに話を続けるよう、目顔で促します

【アソコガの爺さんの能書き】　

いや確かに今稗田のくそババアが申したとおり、
私には高級な食い物の良し悪しなどはわかりませんわな
しかしあのメニューは露西亜のご帝室が催される会食会にしては、
ちょっと変わってるな、と思っただけですわい
黒海のキャビア、合鴨のソテー、舌平目のムニエル、トリュフを添えたフォアグラ。
ここまではわかりますわ
でもそのあとにでてきた北京ダックに戻しアワビの煮込みに
デザートのツバメの巣のスープ。これは皆シナ料理ですわな
露西亜とシナはいずれもユーラシア大陸中央部にござる帝國で、
国境線も長くつながっているゆえ、古来より何かと領土に関わる係争も多く、犬猿の間柄のはず。
その露西亜の皇帝が主催される晩餐会のメニューの半分がシナ料理、
というのが、私には少々奇異に感じられたしだいでございますワイ

()
「ああ、そのことでございますか
　それなら理由は簡単でございます
　調理人の中に一人、シナ人がいるのでございますよ」

アソコガの爺さんのこの疑問に答えたのは、
お毒見と称して一人グビグビと露西亜紅茶を飲んでおりましたソフィアでした

「シナ人でなかなか腕の良い料理人が
　ココサンクトペテルブルクにいるということで、
　皇后陛下付きの祈祷僧ヒトニョール様がご推挙されまして。
　実際に採用試験でチャーハンをつくらせてみましたところ、
　マンガの『美味しんぼ』に出てきたように豪快に中華鍋を振るって
　飯にジカに火を通しましたので、
　『このものの調理の腕前なかなか良し』ということになりまして
　ココペテロパブロフスク要塞の厨房に採用されたのでございます」

「ヒトニョールの推薦、ですと？」

それを聞いたイヴ黒岩が一寸眉間にしわを寄せます

「何か気になるのですか？イヴ。黒岩。」
イヴ黒岩のその様を見て、緒万の方様が尋ねます
「過日のホーエンツォレルンのお城のメイドのように、
　あのヒトニョールなる祈祷僧が業モチであるとか？」
「それがよくわからないのでございますよ」
イヴ黒岩はやや小首をかしげてお方様の問いに答えます

「先ほどお方様もおっしゃいましたように、
　ココはロシア帝國ロマノフ家の最前線と申してもよい要塞。
　ですからいわゆる『業モチ』は幾人も見かけました。
　しかし…あの僧侶だけはよくわからないのです」
「よくわからない、とは？」
「つまりですね、業モチなら業モチ。
　或いは武技の心得がないものならそれはそれとして、
　いずれにせよ、相手がどの程度の技量の持ち主かということは、
　闘わずともその者の立ち居振る舞いを見れば私にはわかるのです
　そうでなければお方様の護衛も満足には務まりません
　ですから相手がどんな人物であれ見ればわかるはずなのに、
　あの坊主だけはわからない…
　武技の心得も何も無いただの無防備な糞坊主かと思えば、
　一瞬、底知れぬ奥山の沼の底を垣間のぞき見たときのような
　背筋が凍るような寒気も感じ取れたりもいたします
　とにかくココペテロパブロフスクの要塞内で、
　私が技量の瀬踏みができなかった人物は、
　あの祈祷僧だけでございます」
「・・・」

コメコメ
ガッチャマン☆(1972)http://www.youtube.com/watch?v=uHVqZ4pt3rA
シュールダンス(1987)http://www.youtube.com/watch?v=-2uLGK5nFAw
シェイクヒップ(19??)http://www.youtube.com/watch?v=GKMuhThrejw

()
イヴ黒岩のこの話を聞いて
緒万の方様は改めてソフィアにたずねました

「先ほどソフィア殿が言われたイワン陛下のご士官二名が毒殺された件ですが…
　或いはその時期は、祈祷僧ヒトニョール殿がこの要塞に
　滞在するようになって以降の出来事ではありませんか？」
「はあ、それはまぁ、仰るとおりですが…
　しかしヒトニョーるさまが来られてからすぐに
　あの毒殺事件が起こったわけではありませんよ
　そうですね…しいて言えばあのシナ人の調理人かな？
　士官二名が立て続けに毒殺される事件が起きたのは、
　あの調理人がここペテロパブロフすく要塞の厨房で働き始めた直後のことでございましたね」
「はぁ？」
ソフィアマイヨールの、こののんびりした口調に
稗田の婆さんが些か呆れ顔で突っ込みを入れます
「それでは一番怪しいのは、そのシナ人のコックではありませんか？
　ちゃんとボディチェックなり持ち物検査なりはいたしたのですか？」
「ええ、それはもちろん。
　持ち物は言うに及ばず、そのシナ人の口の中から尻の穴まで、
　尽く調べつくしましたが、毒物らしきものは何も見つかりませんでした
　ついでに申しますと、ヒトニョールサマのほうもイワン陛下のご命令で
　体の隅々まで調べられました。
　ナスターシャ皇后陛下は、このことに酷く憤慨されましたけどね
　噂ではこの一件以後、イワン皇帝陛下とナスターシャ皇后陛下の間は
　ひどく冷えてしまいまして、以後は夜の営みも一切なくなったとか…
　あ。これはつい口が滑ってはしたなきことを申しました。
　どうぞお聞き流しくださいませ」

「それで結局は犯人の特定はおろか、
　毒物の混入経路も確認できず、ということですか…
　というかソフィア殿。
　そんなにぐびぐび露西亜紅茶を飲んでよろしいのですか？
　たかが紅茶と申しても、そんなにぐびぐびと飲まれたら、
　ただでさえ既にデ…いやポッチャリ体系なのに、水膨れになってしまいますぞ」
「どうかお気になさらずに。これもお役目ですから」
「いえそういうことではなく、
　毒見なら一口だけ飲まれればよろしいのではないかと…」
「そういうわけには参りません。実を申すとこの露西亜紅茶も、
　そのくだんのシナの調理人が淹れたものなのでございますよ
　ですからここは私が死ぬほどお毒見をさせていただきまして
　皆さんご納得がいってからお飲み頂いたほうがよろしいかと」
「というか、ソフィア殿が飲みまくったせいで、もうほとんどお紅茶も残ってませんが・・」

緒万の方様がやや呆れた口調でそう仰せられた、そのとき。
それまで豪快に紅茶を飲みまくっていたソフィアの手がふと止まりました
「？ソフィア殿？どうされました？」
と言った、アソコガの爺さんの声も聞こえたかどうか。
ソフィア・マイヨールは硬直したまま暫し佇んでおりましたが、
次の瞬間、口からどっと鮮血を吹き上げたかと思うと、その場に倒れ付します
「まさか！・・・毒入り紅茶？」
「衛生兵！衛生兵おらぬか！！」
うろたえる一同を尻目に、
仕事柄血飛沫には慣れているイヴ・黒岩は
声を張って要塞内の衛生兵を呼ぶとともに、
素早くソフィアの体を仰向けに寝かせるとうなじ枕を敷き、気道を確保いたしました

イヴ黒岩の声を聞きつけ、
衛生兵はもちろんのこと、軍医、士官数名、
さらには皇帝イワン自らもその場に駆けつけます
「何事か」
「毒入り紅茶でござる。…イワン陛下。
　貴殿は親交を深めるためにわざわざ東洋より参った
　我等馬蹄等当主のお方様に一服盛るような真似をされるのか？
　毒殺など、仮にも皇帝といわれるほどの御仁がすることか。見損のうたわ」

()

「無礼な。痩せても枯れても私は露西亜の皇帝、ロマノフ家の当主。
　毒殺などという薄汚い真似をするものか」
「されど・・」「控えよ！アソコガ！」
緒万の方様のやや手荒な叱責に
イワン皇帝に食って掛からんばかりだったアソコガの爺さんも
呼吸を整えつつ、しぶしぶ引き下がります

「・・陛下。
　我が供のものの無礼な言いざま、どうかご寛恕のほどを。
　されど、このものが申すことも一理あるのでございます。
　>>342をご覧ください
　ソフィア殿はまず冒頭で『皇帝陛下の申し付けにより』と申している
　このことはすなわち、
　この紅茶を我等の許に運ぶように指示されたのは陛下ご自身である、
　というにはなりましょう。そしてその紅茶の中に毒物が入っていた
　となれば、我が供のものが激昂するのも致し方なきことと思し召せ
　この儀、如何に思われますのか？」

「？私はソフィアに紅茶を持っていくよう、
　指示などしておりませんよ。香殿。」
「また見苦しい言い逃れを・・」
「ア〜ソ〜コ〜ガ〜」
再び激昂して食って掛かろうとしたアソコガの爺さんの頬を
ギュ〜っとつまんで押し戻しつつ、緒万の方様は
「もし陛下のご指示でないと仰せられるのならば、
　ソフィア殿はいったいどなたの指示で
　我等の許に紅茶を運ばれたと思われますか？」と、お尋ねになります

「？」
「この要塞の内にあって、ソフィア殿に
　『陛下のお指図があったので、馬蹄等のところに紅茶を持っていけ。
　　紅茶は厨房にいるシナ人に淹れさせよ』
　そういう指示が出せる人物はどなたか？
　と、お聞きしているのです」
「それは、我が妻ナ…」
と言い掛けたところで絶句した皇帝イワンに
緒万のお方様は黙ってうなづきを返されます
「しかし…まさか…そんな」
「或いは皇后陛下ご自身は何もご存知ないのかもしれません
　しかし、今回の件で毒物の混入経路はおおむね確定したと見て宜しゅうございましょう
　陛下ご自身すらもご存知なかったとすれば、
　この紅茶が我等馬蹄等の許に運ばれることを知っていたものは
　この要塞内に三人しかおりません」
「・・・」

kuu0005

登場人物整理 (暫定)

【緒万戸香】
　馬蹄等の一人。通称、緒万の方様。詳細>>122参照。
【イヴ黒岩】
　馬蹄等の一人。緒万の方様付き専任護衛官。詳細>>140参照。
【稗田のばあさん】
　緒万の方の身の回りの世話役。本来は馬蹄等御館のメイド長。
　メイド一筋30年。冥土に逝ってもメイドをすると心に決めているメイドインメイズ
【アソコガの爺さん】
　馬蹄等保有のプライベートジェット、エアルージュの操縦士。
　緒万の方様欧州歴訪に際しての航路管理者兼運航担当責任者。
【ムスクルス・ツィゴマティクス・マイヨール】
　馬蹄等お抱えの言語学者、多言語同時通訳者。
　現存する欧州諸言語は言うまでもなく、
　既に死語となっているヨーロッパ古語にも強い、いわゆる言語オタク。
【イワン・イワンコッチャないゼビッチ・ロマノフ】
【ナスターシャ・アナルスキコヴィッチ・ロマノフ】
【ソフィア・マイヨール】
【エメリヤエンコ・ヒトニョール】

()
・・・
加持祈祷治療と称して先ほどから
ナスターシャをアンアン言わせていた精力絶倫のヒトニョールが
不意に腰の動きを止めると、顔を上げ、辺りの気配を窺いました

「ん？どうした？いつものようにもっと
　激しくズボズボと祈祷を続けておくれ」
「…どうやら仕損じたようでございます」
「そんなことはない。
　そなたのアレは、ちゃんと私のジースポットに
　グリグリ的中しておるぞ？」
「服を着なされ、皇后陛下」

ヒトニョールがそう言って
ナスターシャの体から離れ、素早く服を身にまとったところで、
叩きつけるような音と共に扉が開かれ、
兵士たちが雪崩を打って室内に乱入してまいれました
そしてそのあとから皇帝イワン。
さらには緒万の方様たち一行も。

「あ。これは違う。
　これは不義密通などではないぞ
　これは加持祈祷療法のひとつで、
　アロマエステマッサージ祈祷治療というものじゃ
　決してヒトニョールのチ☆コと私のま☆こを擦り合わせしていたわけではない
　勘違いすな」
「…シナ人の身柄は既に拘束した」

滅茶苦茶な言い訳をしているナスターシャには目もくれず、
皇帝イワンの視線は真っ直ぐヒトニョールに向っております

「やはりそなたが毒殺事件の黒幕だったのだな」
「ハテ、何のことでございましょう」
「私が頼みとする士官二名を殺害。
　先ほど公儀お毒見役のソフィアもまた死んだ
　・・エメリヤエンコ・ヒトニョール。
　殺人及び内部撹乱の容疑でそなたを拘束する」

()
ロマノフ家当主にしてロシアの皇帝イワンのこの言葉を聴いても
祈祷僧ヒトニョールはいささかも動ぜず、
「ほぅ…して、私が犯人であるという証拠はいかに？」
と、問いかけます

「とぼけても無駄なこと。
　今夕、馬蹄等の当主奥方、緒万戸香殿の許に
　食後の紅茶が届けられることを知っていたものは、
　ソフィアにその旨を指図した我が妻ナスターシャを除けば、
　シナの調理人とそなたヒトニョール。お前たち二名だけだ
　さらに紅茶に直接毒を入れる機会があったのは、シナの調理人のみ。
　シナノ調理人はそなたの使い魔であろう
　まず我妻ナスターシャに取り入ってこの要塞にもぐりこみ、
　ついで自らの手足となるシナノチョウりにんを厨房に入れ、
　このペテロパブロフスク要塞を内部から崩壊させようと試みた…」
「・・・」
「祈祷僧とはまた見事に偽ったものよ
　されどこの度はいささか逸ったようだな
　そなた、香殿が当地を表敬訪問されることを耳にして、
　馬蹄等の当主細君を毒殺するとともに、
　その罪を私になすりつける絶好の機会と思ったのであろう
　ロマノフと馬蹄等が連携すれば、
　いかに強国スウェーデンバルトといえどもうかつには動けぬ
　そなた、グスタフアドルフの意を受け、
　当地に潜入した間諜であろう。違うか」

「すべて状況証拠、憶測の域を出ませんな
　第一その毒物なるものが何処にあるというのでございます？
　過日、陛下の部下お二人が毒殺された折も、
　私はもシナの調理人も持ち物はおろか口の中から尻の穴まで調べられましたが、
　結局毒のどの字も見つからなかったではございませんか
　今回もまた尻の穴に指を突っ込んでお調べになりますか？
　なんでしたら今回は、
　陛下おん自ら私のアナルに指を入れてご覧になればいかがか？」
「おのれ…皇帝たる余を愚弄いたすか」

ヒトニョールの嘲弄するような口調に
皇帝イワンが歯軋りをした、そのとき。

「畏れながら陛下。
　このものも、またシナのものも、
　身体を検査したとて恐らく何も出ては参りますまい
　毒物は当初より別のところに保管されているのでございます」

その声を聞き
一堂の視線が集まった先におられた御人は、
緒万の方様そのひとでございました。。。

()
集中する一同の視線をものともせず、
緒万の方様は静かに語りだしました

「ただいまイワン皇帝陛下が仰せられましたように
今夕私どもの許に紅茶が運ばれることを知っていたものは
紅茶を運ぶよう指示された皇后陛下ナスターシャ殿と
実際に紅茶をお毒見してなくなられたソフィア殿を除けば、
祈祷僧ヒトニョール殿とその推挙のもとに雇われたシナノチョウりにん。
この二名しかおりません
ヒトニョール殿は『状況証拠と推測のみ』といわれるが、
これは言い換えれば『状況証拠的には完全なクロ』ということ。
つまりあと必要なものは物証のみ、ということになりましょう」

「仮にそうだとして、ではその物証がどこにござる？
私とシナノチョウりにんを疑われるのはご勝手だが、
毒物の現物すらも見つけられぬのに、犯人扱いされるのは迷惑至極」

反論するヒトニョールを一瞥しただけで、
緒万の方様は穏やかに言葉を続けました

「物証は…恐らくココにございます。この部屋の中のどこか。
それも皇后陛下ナスターシャ殿のお持ち物の内に隠されておりましょう」

「なななななななななんという無礼な言い草！
　たかがユーラシアの東の端ッこのちっぽけな島国の、
　さらにその中でも糞田舎の弩僻地からやってまいった、
　馬蹄等とかいう訳のわからぬ連中の当主の女房の分際で、
　大露西亜帝國の皇后にして、ロマノフ毛の当主の妻たる余の持ち物に
　毒物隠匿の疑いの目を向けるとは！
　この、アジアの黄色い猿女が！控えおろう！」

口から泡を吹いて怒りわめくナスターシャを尻目に、
緒万の方様の視線はここにきて初めて、
祈祷僧ヒトニョールに向けられました

・・祈祷僧ヒトニョール。
その表情に狼狽や焦りの色は認められません
しかし先ほどまで見せていた余裕と嘲弄の色が
彼の顔から消え失せていることも明らかでした
その彼ヒトニョールを見つめつつ、
緒万の方様は、さらに言葉を重ねられます

「皇后陛下とヒトニョール殿は
　アロマエステマッサージ祈祷治療と称して
　互いのチ☆コとま☆こを擦り合わせするほどの割り無き仲。
　ゆえにヒトニョール殿は毒物調査があっても決して調べられることがない、
　皇后陛下のお持ち物中に毒物を隠しおくことが可能です
　たとえば、皇后陛下のフレアスカートの縫い目の間。
　あるいは、皇后陛下の体型補正下着の中。
　または偽オッパイブラの裏側。
　そういったところにやばいものを隠匿することができます
　・・イワン陛下。
　畏れながら過日の毒物調査に際して、
　皇后陛下ナスターシャ殿お持ち物はお調べになりましたか？」

「い、いや。そこまではさすがに…」

「では今回はお調べください。
　恐らく毒物はその中に隠されておりましょう」

()

この緒万の方様の言葉には、
その場に居合わせたロシア兵たちも皆固まりました
糞ババアとはいえ、仮にも帝國ロシアの皇后陛下。
その人の持ち物…どころか、
スカートの襞の奥から補正下着の内側、
果ては偽乳ブラの裏まで調べよ、というのですから、
そんなこと一般の兵卒にできることではありません。
そんな命令を下せるものがいるとすれば、この要塞内でもただ一人。
ロマノフ家の当主にして、かつナスターシャの夫でもある、
露西亜帝国皇帝イワンそのひとをおいて他にはおりません。
一同の視線は自ずと緒万の方様から皇帝イワンのほうへと移ります

「…あなた？
　まさかこんな何処のウマの骨だかわからぬ女の世迷言を真に受けて、
　私の身体検査をなさるおつもりではないでしょうね？
　もしそんなことをなさったら
　私の実父の、ウクライナの富豪貴族である
　ボスニア・ヘルツェゴビナ・イリュリアが黙ってはおりませんよ？
　よくよくお覚悟なさいませ」
　

「…兵卒」「は」
「我が妻ナスターシャの持ち物を調べよ。
　この室内のの調度品類は言うに及ばず、
　スカートの襞の奥から補正下着の内側、
　さらには偽乳ブラの裏まで総て調べるのだ」

皇帝イワンがその指示を出した瞬間、
それまでじっとたたずんで事の成り行きを見ておりましたヒトニョールが、
傍らの皇后陛下ナスターシャの髪をぐいとつかんで己の前に引き寄せました
乱暴に髪をつかまれて「ギャッ！」と
ナスターシャが悲鳴を上げるのも意に介さず、
ヒトニョールはそのまま彼女の首根っこに手を掛け、
己の前に立たせて、自らの盾にいたします

「ななななにをするか！ヒトニョール」
「やかましい糞ババア」

抗うナスターシャを『糞ババア』の一言で一喝黙らせてから、
ヒトニョールは改めて緒万の方様のほうに視線を戻しました
「…ふん。さすがは馬蹄等当主の奥方。噂に違わず聡いお方じゃな
　いかにも、毒物はこの糞ババアの補正下着の内側に隠してある罠
　しかし…さて、どうする？露西亜の皇帝陛下殿。
　今そなたの妻ナスターシャは我が腕の中にある。
　私が一寸力を入れればこんな女の首の骨など簡単にへし折ることができよう
　私を拘束したければ、それもよい。
　ただしそれは、
　そなたの妻ナスターシャの命と引き換えだということを、承知せよ」

スウェーデンバルト帝國側主要メンバー一覧
BGM//http://www.youtube.com/watch?v=dHBWGyRwD5w

【コウセイ】
　シナ帝国の影の支配者。主伝第六話登場済み。異名は『紅色女帝』
【洞程君】
　コウセイの参謀。鳥瞰的視野を持つ謀略家であり、
　『世界三分密約』に関しては、シナ帝國代表としてその役割を果たす。
【スルメスメル】
　オスマンコ帝国のスルタン、太守。
　オスマンコ帝國はイスラム圏最大の帝國であり、
　その勢力はアナトリア、バルカンの両半島から
　メソポタミア、フェニキア、ナイル河畔にまで及び、
　トラキア、ボスニア・ヘルツェゴビナの領有権及び
　ハンガリーの王位などを巡ってオーストリア＝ハプスブルク家と、
　また黒海北岸の支配権を巡ってはロシアの皇室であるロマノフと、
　それぞれ相対峙している。
【エメリヤエンコ・ヒトニョール】
　グスタフアドルフのモチ札のひとつ。
　スウェーデンバルトのというより西側世界でも指折りの間諜、殺し屋である
【エーヴァ・ロッタ・ブレムクヴィスト】
　グスタフアドルフの参謀。グスタフアドルフの世界戦略を支える頭脳。
　同時に凄腕の剣士でもある。性別不明。
【グスタフアドルフ】
　スウェーデンバルト帝国君主。異名は『北の獅子王』

まず最初にお断りしておきたいこと、それは
政治や戦争の世界には善も悪もない、ということである
しいて言えば勝ったほうが善に為り、負けたほうが悪に為る
いわゆる「勝てば官軍、負ければ賊軍」というやつである
だから我々が今見ている歴史というのは、
ぶっちゃけ「アメリカ側の歴史」であり、
我々が認識している世界史とは「欧米人から見た世界史」である

政治や戦争に善もアクもない。
と同時に敵も味方もあくまで一時的なものでしかない
昨日の友は今日の敵というのが当たり前のことというのは、
ちょっと歴史を見てみれば日常茶飯事であるということは
読者諸賢も重々知るところであろう
だからゾロアスター教とか水戸黄門とかアニメの世界とは異なり、
現実の政治戦争謀略の世界というものには絶対善も絶対悪もない、
勧善懲悪もへったくれもない世界なのだ、ということを理解しておいて戴きたい

…さて。
これだけ能書きを垂れた上で、
馬蹄等と相対するスウェーデンバルト帝国サイドの主要メンバーを紹介しよう
長々しい上述内容からお分かりいただけると思うが、
彼らが馬蹄等の敵対者であるのはあくまで
「物語の或る時点において」という限定つきである
その時点より過去のこと、或いは未来のことは、誰にもわからないのだ

3/26献立(呼び分)
昆布飯鮭缶野菜豆野菜漬物御新香二即席麺二果実菓子二珈琲メンチカツ

()

馬鹿女とはいえ、妻は妻。
ヒトニょーるのこの恫喝に皇帝イワンが一瞬ひるんだその隙を突き、
ヒトニョールは己の盾にしていた皇后陛下ナスターシャの体を軽々と抱え上げ、
兵士たちの群れに向かって投げ込んで参りました

空中を飛んでこちらに向かってくる糞婆…いや失礼、
皇后陛下ナスターシャの姿に兵士たちが目を奪われ身構えたその瞬間、
ヒトニョールは、そのモッサリした体型からは想像もできないほどの俊敏さで
窓に向かって突進し、窓の木枠をガラスごと叩き割って室外に飛び出しました

ココペテロパブロフスク要塞は、
ロシアバルト艦隊の寄港地、集結地点であるとともに
万一スウェーデンバルト艦隊がサンクトペテルブルクにまで
攻め込んできた場合の最前線の防衛拠点でもあるので、
海に向かって突出した場所に築かれています
それゆえ、窓の外は断崖絶壁。その下は当然海です。

「馬鹿かあいつは。いかに下が海であるとはいえ、
　これほどの高さから飛び降りて無事ですむはずもなかろうに」
「捕縛されて処刑されるよりはマシと思ったのであろう」

兵士たちはヒトニょールが叩き割って飛び出した窓から
身を乗り出して眼下の海を見下ろしつつ口々に叫びます

「直ちにに艦船を手配し、海を捜索せよ！
　周辺の陸にも兵を配し、万一かのものが海から上がってくれば捕縛せよ！
　デッド、オア、アライぶ。かのものの生死は問わぬ
　生きていようが死んでいようが、我が要塞に潜り込み、
　士官二名侍女一名の命を奪い、内部霍乱を図ったグスタフアドルフの間諜、
　ヒトニょーるの身柄を必ずや抑えるのだ！」

皇帝イワンの、怒りのこもったこの指示に従うべく、
ロシア軍兵士たちは脱兎のごとくその場から走り去っていきます
後に残ったものは怒りに体を震わせる皇帝イワンと
うつろな眼差しのまま床に大の字に転がっている皇后ナスターシャ、
そして緒万の方様とそのご一行だけでございます

（ヒトニょール…いかに怪物並の体躯であるとしても
　この高さから飛び降りたとあれば、
　先ほど兵たちが口々に言っていたように、或いは死んでいるやも知れず）

そうお思いになったお方様は傍らのイヴ黒岩に、
無言のまま問いかけるような視線を向けられました
しかしイヴ黒岩は、そのお方様の無言の問いに対し、
黙って横に首を振ったのでした。。。

【エピローグ】

・・・
数日後。
緒万の方様たち一行は、
帰国の途に着くべくサンクトペテルブルク国際空港にいた
一行の傍らには到着の際に出迎えに来たときと同様、
露西亜皇帝イワンが見送りのためにやってきている

…あの後、懸命の捜索にもかかわらず、
ヒトニょールの行方は杳として知れなかった
或いはヒトニょールはあのまま溺死し、
その死体が海流に流されてフィンランド湾の外に流れていったのかもしれない
そういう見方もロシア軍の一部でささやかれていたが、
緒万の方様の護衛官イヴ黒岩は、その見解を否定した
ヒトニょールは生きている。
いつの日か、どういう形でか、それはわからないが、
あのものは必ずや再び我々の前に姿を見せるに違いない
…それがイヴ黒岩の確信であった

、

.
ナスターシャは離縁された
本来であれば不義密通に加えて、
過失とはいえ間諜を要塞内に引き入れたため
内憂外患罪が適用されて死刑が相当なのだが、
さすがに自らの妻を死刑にするというわけにもいかず、
皇帝イワンは、
ナスターシャの実父であるウクライナの富豪貴族ボスニア・ヘルツェゴビナ・イリュリア卿に、
事の次第を説明する使者を送った後、ナスターシャを離縁し、
人数をつけてウクライナの実家に送り返した
・・・

「露西亜のイワンが感謝していたと、
　死魔殿にくれぐれもよろしくお伝えください
　香殿がココペテロパブロフスク要塞に来てくださったおかげで、
　我らは要塞内に巣食っていた獅子身中の虫を駆除することができた
　…ソフィアには気の毒なことをしたが、これも戦争。是非も無き事」
「ソフィア殿は、
　私どもの随行者の一人であるマイヨールの従妹にあたるかたでした
　そうであればこそ彼女も私どもに気兼ねなくいろいろと話をしてくれ、
　その結果、犯人が特定できたのです。ゆえにこれはソフィア殿の手柄。
　私はただほんの少しだけ手をお貸ししただけでございます」

緒万の方様のこの言葉に、イワンは感に堪えたように天を仰いだ
「死魔殿がうらやましい…やはり持つべきものはよき伴侶ですな」
「ほほほ。これはまたお口上手な」

お方様一行が乗り込み、
エントランスドアが閉められると、
馬蹄等のプライベートジェット『エアルージュ』は緩やかに動き出すと、
皇帝イワンは、その機体の尾翼に描かれている紋章に改めて目をやった

（カービーダイヤモンドクロス。馬蹄等の紋章…）

エアルージュは滑走路を滑らかに走り、離陸した。
ロシアの皇帝イワンは、
次第に小さくなっていくその機影を
いつまでも見送っていた・・・



緒万の方様欧州怪異談　その第三話「北の都の妖僧」　おしまい

このお話に登場した主な人々

【緒万戸香】
　馬蹄等の一人。通称、緒万の方様。詳細>>122参照。
【イヴ黒岩】
　馬蹄等の一人。緒万の方様付き専任護衛官。詳細>>140参照。
【稗田のばあさん】
　緒万の方の身の回りの世話役。本来は馬蹄等御館のメイド長。
　メイド一筋30年。冥土に逝ってもメイドをするぞと、
　心に決めているメイドインメイズ
【アソコガの爺さん】
　馬蹄等保有のプライベートジェット、エアルージュの操縦士。
　緒万の方様欧州歴訪に際しての航路管理者兼運航担当責任者。
【ムスクルス・ツィゴマティクス・マイヨール】
　馬蹄等お抱えの言語学者、多言語同時通訳者。
　現存する欧州諸言語は言うまでもなく、
　既に死語となっているヨーロッパ古語にも強い、いわゆる言語オタク。
【イワン・イワンコッチャないゼビッチ・ロマノフ】
　露西亜帝国皇帝。ロマノフ家の当主。
【ナスターシャ・アナルスキコヴィッチ・ロマノフ】
　イワンの妻。いわゆる皇后陛下。
【ソフィア・マイヨール】
　皇后ナスターシャの侍女にして、ペテロパブロフスク要塞の公儀お毒見役。
　緒万の方様の随行者の一人、ムスクルス・ツィゴマティクス・マイヨールの従妹。
【シナノチョウりにん】
　…ワタシ何も悪い事してないアルヨ
【エメリヤエンコ・ヒトニョール】
　スウェーデンバルト帝国君主グスタフアドルフの意を受けて、
　ペテロパブロフスク要塞にもぐりこみ、内部からその崩壊を画策した間諜。
　西の世界では五指に入る殺し屋でもある

kuu2355

3/27献立(暫定)
梅御飯野菜豆御新香鶏肉揚物温紅茶神聖羅馬帝國迄
蟹鮨鮭缶里芋御新香三即席麺二果実菓子二醍醐菓子、予備

馬蹄等物語　
主伝第七話【暗号名はMAGIC(仮題)】　(冒頭部験し書き)

その客間はベランダに面していた
今は黄昏時。
日中はベランダの向こうに広がっていたこの都市の壮麗な眺めも
いまは次第に闇の中にその姿を隠しつつある。そんな宵の入り時。

そのときふと、まるであらかじめ申し合わせていたかのように、
街中のあちこちからいっせいに読経のような声が聞こえてきた
その読経の声音は、聞く人によっては
或いは厳粛に、或いは物悲しく、或いはただ単に退屈に聞こえたかもしれない
この声音。これは正しくは読経ではなく、読誦(どくじゅ)と言う
いま、この都市のあちこちから一斉に聞こえてきたその声は、クルアーんの読誦だ

クルアーん。
一般にはコーランといわれる、このイスラムの聖典の一節を
朝と夕、決まった時刻に唱えるのがムスリムの戒律のひとつ。
このことは一般人であれ、王侯貴族であれ、差別はない
この時刻はすべてのムスリムがクルアーんを唱和し、
神に祈りをささげる時刻なのだ

しかし、いま客間にたたずみ人待ちしている２名の人物は、
手も合わせず、膝も折らず、祈りもささげようとはしなかった
無表情のまま、読誦が終わるのをじっと待っている

馬蹄等物語　
主伝第七話【暗号名はMAGIC(仮題)】　(>>388書き直し文)


・・・
その客間はベランダに面していた
今は黄昏時。
日中はベランダの向こうに広がっていたこの都市の壮麗な眺めも
いまは次第に闇の中にその姿を隠しつつある。そんな宵の入り時。

そのときふと、まるであらかじめ申し合わせていたかのように、
街中のあちこちからいっせいに読経のような声が聞こえてきた
その読経の声音は、聞く人によっては
或いは厳粛に、或いは物悲しく、或いはただ単に退屈に聞こえたかもしれない
この声音。これは正しくは読経ではなく、読誦(どくじゅ)と言う
いま、この都市のあちこちから一斉に聞こえてきたその声は、
クルアーんの読誦だ
クルアーん。 一般にはコーランといわれる。
このイスラムの聖典の一節を朝と夕、決まった時刻に唱えるのがムスリムの戒律のひとつだ
このことは一般人であれ、王侯貴族であれ、差別はない
この時刻はすべてのムスリムがクルアーんを唱和し、
神に祈りをささげる時刻なのだ

しかし、いま客間にたたずみ人待ちしている２名の人物は、
手も合わせず、膝も折らず、祈りもささげようとはしなかった
表情ひとつ変えることもなく、
ムスリムたちの読誦の時間が終わるのを
ただひたすらじっと待っていた・・・

3/27献立(当面確定)
梅飯野菜豆御新香鶏肉揚物珈琲紅茶中華春巻第二帝國迄。
蟹鮨鮭缶里芋南瓜御新香三即席麺二果実菓子二醍醐菓子、余り。以上。

ココはイスタンブール。オスマンコ帝国の都。

かつてはコンスタンティノープルと呼ばれ、
東ローマおよびビザンチン帝国の首都として
遥か古のときより繁栄してきた都市であるが、
アナトリア高原より勃起…いや失礼、勃興したイスラムの一派オスマンコが
当時『欧州最大の要塞都市』とまで謳われたそのコンスタンティノープルを
包囲、猛攻し、ついに陥落させた
その後、オスマンコはこの都市の名をイスタンブールと改め、
己が都として、ココを拠点に四隣に勢力を拡大してきている

・・・
クルアーんの読誦の時間が終わった。
それとともに宵闇が急速にココイスタンブールを覆いはじめ、
件の二人がいる客間もその暗闇の中に埋没しようという頃合になって、
ようやくひとりの案内のものと思しき人物が客間に姿を現した
「お客人。長らくお待たせいたした。
　これより我らが太守、スルタン、スルメスメル猊下の許にご案内いたす
　しかしその前にお腰のものを預からせていただく。
　…いかなる人物であれ、武具を身に着けたままで、
　猊下とお会いすることはできぬ。ご理解頂きたい」

案内のもののその言葉に、
二人の『客人』はおとなしく従った
客人の一人、モンゴロイド顔の人物は
スーツの胸の裏に隠し持っていた短銃を抜き取り案内者に手渡す
もう一人の客人、コーカソイド顔の長身で金髪眉目秀麗な人物は、
腰に下げていたサーベルを外して案内者に渡した。いずれも無言。

「恐縮。…では、こちらへ」
案内者の先導で二人は廊下を進み、
別室の前までいざなわれた。扉が開く。
「…猊下。お客人をお連れ致しました」
「ご苦労。そなたはもう下がってよい」
「は」
案内のものは深々と頭を垂れた後、その場を去っていった

「大変お待たせしたようじゃな、申し訳ない。されど、
　クルアーんの読誦は我らムスリムにとっては必要不可欠な生活の一部。
　異教徒のそなたらには奇異に感じられるかも知れぬが、了解願いたい」
「いえ、決して。
　私も猊下も、そしてまたこちらにおられる程君殿も、
　互いに文化の違いはあれど、それぞれの領域において
　目指しているものは同じでございます。
　…そのことのために、我らここに集まっておりますゆえ」

長身で金髪眉目秀麗なそのコーカソイドの口から出てきた言葉は、
流れるように滑らかなトルコ語であった

3/28献立(ほぼ確定)
蟹鮨鶏肉揚物鮪刺身烏賊刺身御新香紅茶醍醐菓子、予定
蟹鮨鮭缶詰里芋南瓜御新香二即席麺二果実菓子二、予備

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後世『世界三分密約』と称されることとなるこの三人だけの会議。
その列席者は、
一人は言うまでもなくココイスタンブールの主であり
オスマンコ帝国のスルタン、太守であるスルメスメル。
そして『客人』の内、モンゴロイド顔の人物は
北京は紫禁城からやってきた洞程君という名のもの。
そしていまひとり、
ただいま流暢なトルコ語を駆使した金髪碧眼眉目秀麗な人物は、
その名をエーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィストといい、
ストックホルムからココイスタンブールの地にやってきていた
この三者それぞれが
オスマンコ、シナ、スウェーデンバルトという、
自らが属する帝国の国益を代弁する人物である
・・・

「ブレムクヴィスト殿の申すとおり。されば早速協議に入るといたそう
　…さて、事務方の事前調整によれば、
　貴殿の主グスタフアドルフ殿は
　ドナウより南、およびウクライナの南半分は
　我がオスマンコの意に任せると言われた由だが、
　このこと相違ないか？」
「概略相違ございません。しかしドナウより南と申しても、
　それはボスニア・ヘルツェゴビナまでといたし、
　クロアチアはわれらスウェーデンバルトに帰属するもののいたしたく」
「…ふむ。ではクロアチアはグスタフアドルフ殿に譲るとして
　その見返りにトゥラキュアをいただきたい。
　トゥラキュアはドナウの北ではあるが、
　われら長年に渡りたびたび軍を派遣してきた地。
　我がオスマンコに帰属するが妥当と思われるがいかがか？」
「…よろしいでしょう。
　では、トゥラキュアは猊下の御手に、
　クロアチアは我が主グスタフアドルフの掌中に、
　ということで折り合いましょう」

スルメスメルのこの注文に
エーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィストがあっさり首肯したことに、
オスマンコのスルメスメルの方が逆に驚いた

「それでよいのか？
　貴殿の主、グスタフアドルフの意を確認せずとも？」
「かまいません。今回の件に関しましては、
　私はグスタフアドルフより総て一任されております」

（こいつ…さすがはグスタフアドルフの片腕。
　『スウェーデンバルトの頭脳』と言われるだけのことはあるわ）

スルメスメルの念押しに顔色一つ変えず平然と応じる
エーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィストの横顔を眺めつつ、
傍らにいる道程君も、この金髪碧眼眉目秀麗の人物に
ひそやかな脅威を感じとっていた…

3/28献立(確定)
蟹鮨鶏肉揚物鮪刺身烏賊刺身御新香紅茶醍醐菓子、確定
蟹鮨鮭缶詰里芋南瓜即席麺味噌汁御新香二果実菓子二珈琲醍醐菓子、余り

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・・・
スウェーデンバルトとシナの境界は、
ウラルより西がスウェーデンバルトで東がシナ、ということで
事務方の段階で既に話はついていたが、
シナとオスマンコの境目を何処に定めるかという問題では
洞程君とスルメスメルの間でやや話がもつれた

インダス以西はオスマンコ、ガンジス以東はシナ。これは確定している。
問題はインダスとガンジスの間の土地、すなわち印度を
どちらの帰属とするかということにあった
程君が
「古来より唐天竺という言い回しもある。
印度は当然我等シナに帰属すべき土地」と主張したのに対し、
スルメスメルはスルメスメルで
「インダスから始まった印度の文明は、
　古のときよりメソポタミアと深いゆかりあり、
　かの地は当然オリエントを統治する我等オスマンコに帰属すべき地である」
と主張して譲らなかったのである
両者の駆け引きが膠着化したころあいを見計らって
エーヴァ・ロッタが折衷案を提示した
「されば、インダスよりセイロン島にいたる湾岸の地は総てスルメスメル猊下の統べる地とし、
　一方それ以外のヒマラヤからデカンまでの地はシナのコウセイ殿のご差配にされては如何か？
　ただしその代償として、猊下が既に統治されているナイル河畔はもとより、
　アフリカの地は尽くオスマンコ帝国に帰属することとする。
　…これでいかがでござろう？
　これならば、双方ともご損のない取引と思いますが」