漫画キャラバトルロワイアル Part18

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1Classical名無しさん
このスレは漫画キャラバトルロワイアルのスレです。
SSの投下も、ここで行ってください 、支援はばいばい猿があるので多めに

前スレ
漫画キャラバトルロワイアル Part17
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1214915379/
【外部リンク】
漫画キャラバトルロワイアル掲示板(したらば)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/9318/
まとめサイト
ttp://www32.atwiki.jp/comicroyale
漫画キャラバトルロワイアル毒吐き2
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1200415345/l50

1/4 【アカギ】○赤木しげる/●市川/●平山幸雄/●鷲巣巌
1/2 【覚悟のススメ】○葉隠覚悟/●葉隠散
1/3 【仮面ライダーSPIRITS】 ●本郷猛/●三影英介/○村雨良
1/4 【からくりサーカス】●加藤鳴海/○才賀エレオノール(しろがね)/●才賀勝/●白金(フェイスレス指令)
0/4 【銀魂】 ●坂田銀時/●神楽/●桂小太郎/●志村新八
2/4 【グラップラー刃牙】○愚地独歩/●花山薫/●範馬刃牙/●範馬勇次郎
1/4 【ジョジョの奇妙な冒険 】●吉良吉影/●空条承太郎/○ジョセフ・ジョースター/●DIO
0/4 【スクライド】●カズマ/●シェリス・アジャーニ/●マーティン・ジグマール/●劉鳳
0/4 【ゼロの使い魔】●キュルケ(略)/●タバサ/●平賀才人/●ルイズ(略)
1/4 【ハヤテのごとく】●綾崎ハヤテ/○桂ヒナギク/●三千院ナギ/●マリア
0/3 【HELLSING】●アーカード/●アレクサンド・アンデルセン/●セラス・ヴィクトリア
1/4 【北斗の拳】●アミバ/●ケンシロウ/●ジャギ/●ラオウ
1/4 【武装錬金】●防人衛/○蝶野攻爵/●津村斗貴子/●武藤カズキ
1/4 【漫画版バトルロワイアル】●川田章吾/●桐山和雄/●杉村弘樹/●三村信史
1/4 【名探偵コナン】 ●江戸川コナン/●灰原哀/○服部平次/●毛利小五郎
1/4 【らき☆すた】●泉こなた/●高良みゆき/○柊かがみ/●柊つかさ
計 10人 / 60人
2Classical名無しさん:08/10/22 19:36 ID:eQ6927rQ
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
3Classical名無しさん:08/10/22 19:37 ID:eQ6927rQ
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・修正要求ではない批判意見などを元にSSを修正するかどうかは書き手の自由です。
・誤字などは本スレで指摘してかまいませんが、内容議論については「問題議論用スレ」で行いましょう。
・「問題議論用スレ」は毒吐きではありません。議論に際しては、冷静に言葉を選んで客観的な意見を述べましょう。
・内容について本スレで議論する人がいたら、「問題議論用スレ」へ誘導しましょう。
・修正議論自体が行われなかった場合において自主的に修正するかどうかは、書き手の判断に委ねられます。
ただし、このような修正を行う際には問題議論用スレに一報することを強く推奨します

・展開予想、ネガティブな感想、主観的な意見は「毒吐きスレ」でお願いします。毒は溜め込まずに発散しましょう。
・議論スレと正式に分離したことで毒吐きでの感想は過激化している恐れがあります。見る必要性もないので、書き手は見ないことを推奨します。
4Classical名無しさん:08/10/22 19:37 ID:eQ6927rQ
【能力制限】

◆禁止
・アーカードの零号開放
・武藤カズキのヴィクター化
・吉良吉影の“第三の爆弾バイツァ・ダスト”
・ギャランドゥ(ジグマールのアルター)の自立行動(可否は議論中?)

◆威力制限
・ゼロ勢の魔法
・空条承太郎、DIOの時止め
・スクライドキャラのアルター(発動は問題なし、支給品のアルター化はNG)
・アーカードの吸血鬼としての能力
・仮面ライダーの戦闘能力
・シルバースキンの防御力
・北斗神拳の経絡秘孔の効果
・激戦の再生力、再生条件

◆やや制限?
・グラップラー刃牙勢、北斗の拳勢、仮面ライダー勢、覚悟のススメ勢の肉体的戦闘力
・ジョジョのスタンド(攻撃力が減少、一般人でも視認や接触が可能)
・からくりサーカス勢の解体能力

◆恐らく問題なし
・銀魂キャラ、戦闘経験キャラなどの、「一般人よりは強い」レベルのキャラの肉体的戦闘力

【支給品について】
・動物、使い魔、自動人形などの自立行動が可能な支給品は禁止です。(自立行動を行わないならば意思持ちでも可)
・麻薬、惚れ薬、石仮面などの人格を改変するおそれのある支給品や水の精霊の指輪、アヌビス神などの人格乗っ取り支給品は禁止です。
・核金によって発現する武装錬金は、原作の持ち主の武装錬金に固定されています。
5Classical名無しさん:08/10/22 19:37 ID:eQ6927rQ
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
6Classical名無しさん:08/10/22 19:38 ID:eQ6927rQ
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
   その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
7Classical名無しさん:08/10/22 19:38 ID:eQ6927rQ
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
8Classical名無しさん:08/10/22 19:39 ID:eQ6927rQ
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、スレには色々な情報があります。
・『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効
 携帯からPCに変えるだけでも違います
9Classical名無しさん:08/10/22 19:39 ID:eQ6927rQ
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、ドラえもん(クレヨンしんちゃんも可)を見てマターリしてください。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。

【議論の時の心得】
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
10Classical名無しさん:08/10/22 19:40 ID:eQ6927rQ
【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。

【予約に関してのルール】

・したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行います
・初トリップでの予約作品の投下の場合は予約必須(5日)
 ただし、予約せずに投下できなら、別に初トリでもかまわない

・予約時間延長(最大3日)を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
・申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
・修正期間は審議結果の修正要求から最大三日(ただし、議論による反論も可とする)
・予約時にはトリップ必須です。また、トリップは本人確認の唯一の手段となります。トリップが漏れた場合は本人の責任です。
・予約破棄は、必ず予約スレでも行ってください。

【MAP】
http://www5.atpages.jp/~parorowa/manga/index.cgi?page=mapgazou
 バダンに対抗する自分たちの中では、最強のメンバーといっても過言ではないだろう。
 次に、エレオノールと独歩を見る。
 先ほどの三人ほどとまでは言わないが、体力の消耗はそれほどはない。
 自動人形を壊した数も、先ほどの三人と比べて負けてはいなかった。特にエレオノールは、自動人形との戦いになれている様子である。
 戦力としても、先ほどの三人には及ばないとはいえ、充分だ。
 そして、服部とヒナギクはこの戦いにおいて、はっきりと暗雲を示していた。
 しかし、赤木は二人をいくらか評価している。
 服部は場を見極め、必要なら指示を他の面子に伝えていた。
 赤木もいくらか行なおうと考えたが、自分が指揮するより、信頼されているだろう服部のほうが場が混乱せずに済む。
 そう考えて指揮を譲った。
 ヒナギクは他のメンバーのサポートがあったとはいえ、数体自動人形を倒している。
 だが、ヒナギクの能力が問題なのではない。ヒナギクの、覚悟が赤木は気に入った。
 ヒナギクにどんな影響があったのかは知らないが、戦わねば、刺し違えねば、という覚悟が見えているのだ。
 まるで、誰かの隣りを歩みたがっているような。
 おそらく、ヒナギクは長生きはしない。だが、その覚悟は何かこちらに望ましい結果を生むだろう。
 赤木は、捨て札としてヒナギクを使うことを思考した。
 そして、かがみ。
 彼女は己の無力を悔いていた。村雨や覚悟などに気を使ってか、なんでもないように装っているが、バレバレだ。
 何人かはかがみの様子に気づいているだろう。普通なら、かがみはもっとも殺すべき存在だと判断する。
 事実、赤木は……
(死んでもらっては困るな。柊かがみ……)
 と、だけ考えた。理由は、かがみを気遣う男、村雨良。
 確かに村雨良は戦闘力がある男だ。しかし、かがみを喪う事態になればどうなるか、検討もつかない。
 恋……などと甘い感情ではないのだろうが、村雨はかがみを守ろうとしている。
12Classical名無しさん:08/10/22 19:49 ID:tHMWa6N2
 自動人形戦でも、明らかにかがみを守るために動いていた節があった。
 つまり、彼女の死はなるべく避けねばならない。赤木は長々と、肺に煙草の煙を送り込んだ。


「さてと、一仕事も済んだし、どうする?」
 ジョセフが首をポキポキ鳴らしながら、尋ねてくる。その視線を受けた一同は、黙した。
 結論はでている。しかし、先ほどの戦闘で戦いなれないヒナギクやかがみのコンディションを考えると、誰も進言しにくい。
 服部は、ため息を吐いた。こういう役割は自分がすべきだ。
 赤木は煙草を吹かしながら、こちらを見ている。
「……突入や」
 服部の言葉に皆が頷く。できればここで、一息をついて体力の回復を待ちたいが、そうもいかない。
 時間をかければかけるほど、こちらの襲撃への対処される確率が高くなる。
 首輪に関しても、ジョセフや失言や、覚悟たちの大首領との接触でばれているであろう。
 向こうから攻められてしまえば、一貫のお終いだ。
 だからこそ、服部は決意する。ここは突撃するところだと。
「へっ、腕が鳴る……」
 独歩が最初に賛同を示し、指を鳴らす。風を切り裂く拳が宙へと走り、隻眼を雷雲の向こうへと向けていた。
 獰猛な表情が、虎を思い出させていた。
「とうとうバダンと…………」
「村雨さん……」
 村雨が感慨深げに呟いた。落ち着かないのか、拳を握ったり開いたりして、力の具合を確かめている。
 かがみは村雨を心配そうに見ていた。
 村雨は元はバダンに所属していたのだ。思うところがあるのだろうか。
 いや、そうではない。村雨の瞳には熱い炎が宿っている。
 そこに宿るのは姉を殺された復讐ではなく、正義に燃える義憤であった。
14Classical名無しさん:08/10/22 19:50 ID:WMs/EaVw
        
「応!」
『長引けばこちらが不利なるのは明白。今が攻め時だ!』
 零式防衛術を収め、戦術にも長ける覚悟と、数多の英霊を抱え、戦術の何たるかを知る零が同意を示した。
 戦場の機を知ることにおいて、二人ほど特化した者もそう多くはない。
 ヒナギクも無言で頷いた。
 服部は大きく息を吸い、吐き出す。全員を見渡し、戦いに向かうことを告げようとする。
 しかし、喉が渇いてうまく言葉が出ない。
 それもそうだ。服部は今、誰か死ぬかもしれない宣言を告げねばならない。
 みんなに、死んでくれと頼むのも同然なのだ。誰かが告げねばならない。なぜ自分が告げねばならないのか、服部の胃がキリキリする。
 だが、村雨も覚悟もジョセフもエレオノールも独歩も赤木もヒナギクもかがみも命を懸けている。
 自分だけ安全な居場所にいるわけには行かない。服部は震えている拳をぎゅっと握る。
「みんな。聞いてくれへんか」
 服部の頼もしい仲間たちは、自分の決意に答えてくれた。
 今の時期を逃せば、バダンは自分たちが首輪を外していることに気づき、倒す機会を逃がしてしまうかもしれない。
 攻め込むならともかく、守りに入れば人数の少ない自分たちが不利だ。
 死人を減らすなら、特攻するしかない。それでも、死人は出るだろう。
 服部はつばを飲み込み、舌の滑りをよくする。いつの間にか震えは止まっていた。

「おどれらの命、俺に預けてくれ。これから、特攻する!!」

 服部の決意の言葉に、鴇の声が上がる。
 決戦の幕が上がった。


 そして、現在に至る。
 覚悟とZXが共に梅雨払いをしながら、長足クラウン号の進路を確保して進む。
 敵の本拠地に潜入するまでは、二人の戦闘力頼みだ。
 服部は攻撃に揺れるクラウン号の中、唾を飲み込む。服部に煙草の煙がかかった。
 むっとしながら振り向くと、赤木が服部と視線を合わせた。
「よう落ちついとるな」
「……別に珍しいことじゃない」
 含み笑いをする赤木に服部は不思議に思う。これから命を懸けた戦場へと向かわねばならないのだ。
 しかも、一つ判断を誤れば自分の命だけでなく、周りの死を招く。
 そんな状況なのに赤木は顔色一つ変えない。まるで異次元の生物のような印象を抱き、服部は苛立った。
「……怖いのか?」
「当たり前や。自分が死ぬかもしれないのに、平然としている奴が……」
「違うな。お前は……自分の死が怖いんじゃない……」
 赤木の言葉に、服部が目を見開く。服部の心臓がバクバク鳴る。
 他人に聞こえるのではないか、と思うほどに心臓の鼓動が大きい。
「いや、お前だけではない……。ここにいる連中は全員……死線を潜り抜け……死を恐れなくなった。
それどころか、最初から死を覚悟しているものもいる。麻痺しているといっていい…………」
 赤木がどこかで見つけたのか、二つのサイコロを弄んでいる。
 服部の心臓がドクン、と一際大きく跳ね上がった。
「お前が怖いのは……死を恐れない奴らを……一人でも喪うことだ……」
 服部はカッと頭に血が昇り、赤木を睨みつける。
 赤木はの言うことは真実だ。服部は己の死は覚悟した。
 だが、他人の、仲間たちの死は……?
「当たり前やないか! 一人でも失うのを嫌と思うのが、そんなにおかしいんか……」
「そんなものは捨てろ……。でなければ……お前は失う……。本当に失いたくないものをな……」
17Classical名無しさん:08/10/22 19:52 ID:tHMWa6N2
  
18Classical名無しさん:08/10/22 19:52 ID:WMs/EaVw
 
「そないなこと!」
「できなければ……ただ一度、凡人を捨てて異端にならなければ……ここにいる人間は死んでいく……」
 赤木の不吉な予言に、服部が顔を歪めた。
 赤木はそれ以上何も言わない。長足クラウン号の先頭車両で、二人は沈黙の中にいた。


「あいつらなにを話しているかねー……」
「まあ、頭のいい連中は連中で、詰めるものがあるさ」
 リラックスしているように見えても、独歩とジョセフは戦闘態勢を整えていた。
 長足クラウン号は暗雲の中を突き進み、再生怪人たちを跳ね飛ばしていた。
 中には飛びついて侵入する怪人がいるかもしれない。警戒を怠らず、エレオノール、ジョセフ、独歩が迎撃準備をしているのだ。
 とはいえ、今のところ暇であるのだが。
「そういえばかがみさん、腕のほうはどうですか?」
「うん、全然問題ない。凄いね、スタンドって。…………腕だけが飛んでくるなんて光景、怖かったけど」
「へへ……あいつの記憶にこのスタンドを使って、人の怪我を治療している場面があったからな。
もしかしてと思ったら、ビンゴだったぜ」
 ジョセフが背後にクレイジーダイヤモンドを発現させ、得意気に告げる。
 かがみの片腕は、すでにくっついていた。神経まで完全に治癒を終えているらしく、問題なく動かしている。
 その様子にエレオノールは安堵しかけ、かがみの額に手を当てた。
「かがみさん、もしかして辛いのでは……?」
「え……? そんなことは……」
「よく見るとかがみ、顔色が悪い……いつから?」
 ヒナギクの言葉に、かがみは答えを窮する。長らく切断された右腕を放置していたのだ。
 応急処置を済ませたとはいえ、雑菌が入るのは止められなかった。
「うん……ちょっとここに乗り込んで……しばらくしてから……安心したのかな……?
ごめんね、また私足手まといに……」
 ヒナギクがかがみの言葉を否定しようと身体を乗り出した瞬間、エレオノールがあるるかんの聖ジョージの剣で指を傷つけた。
 何をするのか理解ができない彼女たちの前に、エレオノールは血の出ている指をかがみへと差し出す。
「かがみさん、私の指を舐めてもらえますか? しろがねの血を飲めば、病気や怪我に耐性ができます。
大丈夫、しろがねの血からしろがねになるほどの生命の水は得ることができません」
 そういう問題ではないのだが、エレオノールの気遣いを無駄にするのも悪いため、その好意を受けることにした。
 かがみはエレオノールの右手の人差し指を見つめる。白磁のような肌に、赤い筋の傷口から雫が珠を作って留まっている。
 火照った身体のまま、喉が渇いたかがみはエレオノールの白い指に、赤い舌を絡めた。
 生命の水が含まれたエレオノールの血がかがみの身体を駆け巡る。少し、熱が収まった気がした。
「ありがとう、エレオノールさん」
「どういたしまして。ですが、安静にしていてください」
 エレオノールの天使のような笑顔を見て、かがみは座席に背を預けた。



「ギィィィィィィィ!!」
「チィッ!!」
 ZXが列車に張り付いて攻撃を加えていたクワガタ奇械人に近づく。敵の鋸状の両腕の一撃を、身を低くして躱した。
 身体が泳いでいるクワガタ奇械人の懐に、黒い影がもぐりこむ。強化外骨格を纏った覚悟が、右腕の一撃を繰り出す。
「因果!」
 高速で突っ込んできたクワガタ奇械人の身体が覚悟の拳で真っ二つになった。
 爆発を背に、攻撃を受けながらも長足クラウン号が無事な事実にホッとしながら次々と迫り来る奇械人に視線を向ける。
「これ以上、列車には近づけん!!」
「ああ!」
21Classical名無しさん:08/10/22 19:53 ID:nJkANKz.
22Classical名無しさん:08/10/22 19:53 ID:tHMWa6N2
 
23Classical名無しさん:08/10/22 19:53 ID:WMs/EaVw
  
 覚悟の言葉に、ZXが決意を込めて頷く。列車には彼らの仲間がいるのだ。
 指一本触れさせはしない。クルーザーのアクセルを全開にして、ZXはコウモリ奇械人を狙って空を翔る。

「クルーザーアタック!!」

 白い弾丸と化したバイクで、敵を砕いた。そのまま空中でアクセルを捻り、急降下をする。
 群れている奇械人を三匹まとめて吹き飛ばす。暴風となったZXが稲妻を避けて、後輪で奇械人ワニーダの顔を踏み潰した。
『覚悟! 良! 怪人どもが列車に取り付いたぞ!!』
「ちぃっ!」
 群がる再生怪人が列車に到達した時、真っ二つに切り裂かれた。
「あるるかぁぁぁん!!」
 エレオノールが高速で走る列車のうえに跳び乗り、列車に飛びつこうとした怪人を斬り裂いた。
 糸を手繰り寄せて、着地した瞬間、エレオノールの背中に奇械人モーセンゴケが飛び掛ってきた。
「エレオノール!!」
 ZXが反転しようとするが、到底間に合わない。
 歯噛みするZXの視界に、エレオノールと奇械人モーセンゴケの間に割ってはいる影が現れた。
「ドラララ!!」
 ジョセフが奇械人モーセンゴケをクレイジーダイヤモンドで砕き、華麗に着地を……
「とっとと……ってやべっ!」
「ジョセフ!」
 列車からバランスを崩すジョセフを認め、バイクを進ませる。
 エレオノールもジョセフを助けようと、片腕を伸ばした。
「なーんちゃって」
 ZXは列車の壁に立つジョセフを見て目を見開く。くっつく波紋を操作して、足を壁に固定したのだ。
 無事な様子にホッとするが、次第に怒りの感情も浮かんでくる。
 ZXはバイクを反転させ、再生怪人へと走った。



「ちっ……キリがねえな」
 両腕にモータギアを装備した独歩が、踏み込んできたコマンドロイドを砕いてぼやく。
 赤木より首輪のまかれた核鉄を渡され、使っているのだ。
 怪人たちは固く、独歩の鍛え抜かれた拳でも一撃で貫くことは難しい。
 そのことに少々落ち込みながらも、核鉄の力で打撃力を上げて応戦していたのだ。
「まったく、こいつら倒しても倒してもわいてきやがる……」
「文句言わないで……こっち手伝ってよ!!」
「待っていろ!」
 ヒナギクの声に答えながらも、独歩はコマンドロイドの腹にモーターギアを装着した回し蹴りを放つ。
 真っ二つになった敵を窓から放り投げ、独歩は後方を見る。
「このままじゃジリ貧だな……」
「せめて後ろから追いかけてくる奴を何とかできれば……」
 独歩の言葉に、服部が返す。かがみを守るように円陣を組んでいた各々の人物はため息をついた。
 だが、屋根にでているエレオノールとジョセフはこれ以上の敵を相手にしている。
 露払いを買って出たZXと覚悟はさらに桁の違う数の敵を相手にしていたのだ。
 弱音は誰も吐かなかった。
「……前方に魔方陣が見え始めた。稲妻の迎撃装置も……ここでは効力が薄いみたいだな……。
ゴールが見えているが……」
 赤木が報告するが、列車が揺れる。再生怪人たちの攻撃を受けているのだ。
 このままでは魔法陣に飛び込む前に潰されてしまう。不安がよぎる中、赤木は不敵に笑った。
26Classical名無しさん:08/10/22 19:55 ID:WMs/EaVw
   
27Classical名無しさん:08/10/22 19:56 ID:dckPpLnE
 
28Classical名無しさん:08/10/22 19:56 ID:nJkANKz.
29Classical名無しさん:08/10/22 19:56 ID:WMs/EaVw
 
「車両を一つ……切り離すぞ……」
「なるほど……それで再生怪人を巻き込んで先に進むというわけやな」
「けど……それで本当に無事に突入できるの……?」
 ヒナギクの疑いの言葉に、服部は押し黙る。
 たとえ後方車両を切り離して、再生怪人をまとめて振り払ったとしても列車が魔方陣まで持つ確率は低い。
 予想以上に敵の攻撃が激しいのだ。
 地中を行くという機能があることは伊藤博士の手紙でみんなが知っている。
 同時に、手紙には地中を突き進むのは勧められていない。
 理由は、地中を走る怪人が何体も配備されているため、格好の的ということだ。
 ZXや覚悟が護衛をしている地上のほうが、まだ確率はあると判断した結果だった。
「いくぞ……独歩。あんたは俺と来てくれ……」
「おう。お前たちはここで待っていな」
 赤木は独歩を連れて、重苦しい車両を涼しげに進んだ。


「おめえさん……切り離すのは車両だけじゃねえな」
「ほう……」
「切り離すのは後方車両と……あの場にいた、戦闘力があるうちの一人。つまり俺だ」
 赤木がニヤリ、と微笑む。独歩はその表情に己の考えが正しいと知る。
 同時に、その策は独歩も想定していた。このまま列車を進ませるには誰か残り、敵を惹きつけないといけない。
「モーターギアの特性は把握している……。スカイウォーカーモード……これで敵を引っ掻き回し……列車から遠ざける……」
「だから俺を呼んだというわけか」
 独歩の言葉に赤木は返さない。
 独歩は頭髪の生えていない頭部をがしがしと掻き、まあしょうがないか、と呟いた。
 車両の連結部に辿り着いた時、赤木が右手を差し出した。
「……何のつもりだ?」
「核鉄を……渡してもらおう……」
「敵を引っ掻き回すには、必要だとさっきいったばかりじゃねえか」
 不可解な表情で問う独歩に、赤木は変わらぬ不敵な笑顔を向けながら、静かに告げた。
「なにを言ってる……。囮役は……独歩、あんたじゃあない……。
敵を惹きつける手札は……モーターギアを使う役割は……この俺だ……ッ!」
 赤木の意外な提案に、独歩は驚愕した。車両は列車の揺れしか響かない。
「あんたは貴重な戦力……。モーターギア以外にも打撃力を上げる核鉄は……もう一つある……。
あんたとビーキーガリバーなら……充分敵に通用する……。
ヒナギクやかがみ、服部では敵を惹きつけきれない……なら、戦闘力が下の方で……この核鉄を知り尽くしている俺こそが……」
 赤木が一旦言葉を切り、口の端を持ち上げた。目に宿る光に、独歩は勇次郎や刃牙を思い出す。
 そう、世界最強。男なら一度は憧れるそれを、いくつになっても追い求める自分たちとの同類だけが宿す光。
 確かに、赤木の中に確認した。

「俺こそが……もっとも捨て札に……相応しい……!」

 己を捨て札と言い切る男赤木しげる。
 だが、その瞳に己の身を犠牲にする気は少しも持ち合わせていなかった。
 自分ならどんな境地でも、生き残れる。
 ふてぶてしく、傲慢な思想。勇次郎が持ち合わせていた、王者の思考を、赤木もまた持っていた。


「おめえさん、生き残るつもりだろう?」
「当たり前だ……まだ、俺は奴と再会していない……」
「たく、どんな手段で生き残るつもりだよ。雷様もお前を狙うんだぜ?」
32Classical名無しさん:08/10/22 19:56 ID:dckPpLnE
 
33Classical名無しさん:08/10/22 19:56 ID:FSlAV6nQ
34Classical名無しさん:08/10/22 19:57 ID:dckPpLnE
 
35Classical名無しさん:08/10/22 19:57 ID:WMs/EaVw
  
「魔方陣が近いせいか……雷の落ちる頻度も減っていっている……。
真直ぐに移動さえしなければ……スカイウォーカーモードで対応はできる……。
そして……見張りの再生怪人……。いざという時……奴らを戻す手段は必ずある……。
俺はそれを使い……単独で突入する……。だからあんたたちは先に行け……」
「確率は相当低いぜ?」
「ククク……おそらく、成功確率は1%もないだろうな……。
だが、その1%を物にできないのなら……奴に再会する意味などない……」
 できる、と確信しているその瞳には慢心の二文字はない。
 できることをできる、と告げている。本人はおそらく、そのつもりだろう。
(傍から見ればどんなに無茶なこともやり遂げる……勇次郎もそんな奴だったな……)
 だが、赤木は勇次郎ではない。本人も断定するほど、純粋な戦闘力は下の方だ。
 勇次郎のようにはいかないだろう。
「どうした……早く核鉄を……」
 渡せ、と言い切る前に、独歩は赤木の鳩尾を殴る。睨みながら崩れ落ちる赤木をその場に寝かせ、独歩は核鉄を持って連結部へと進む。
 レバーに手をかけて、前方車両にいる仲間たちを思った。
「へっ……らしくないぜ」
 だが、赤木はきっと敵との戦いに必要になる人材だ。なぜかそう信じる気持ちが独歩に湧き上がっている。
 独歩は今まで共に過ごした仲間たちを思い返しながら、彼らが生きて変えれる道を作ってやるのが自分の役目だと確信した。
 思いっきりレバーを倒し、切り離されていく車両を見届けて、己も地面へと降り立つ。
 独歩は迫り来る怪人へと向かって、前羽の構えをとった。


 切り離された車両が多くの敵を巻き込んで遠のいていく。
 たいした機転だと覚悟が感心していると、列車から降り立つ独歩の姿を目撃した。
「独歩殿!!」
「くっ!」
「村雨殿はそのまま列車の護衛を頼む! 独歩殿は私が!」
「頼む!」
 覚悟はバーニアを全開して反転、独歩を迎えに進む。
 左右からコマンドロイドが迫り来る。覚悟は身体を倒し、脇から抉りこむように蹴りを放つ。
「重爆!!」
 丸太を振り回したような衝撃がコマンドロイドを二体まとめて胴から引き裂き、覚悟は勢いを緩めず独歩に向かう。
 右手を差し出し、独歩に届こうとした手は、
「悪いな」
 あっさりと拒否された。覚悟は再度独歩に近づこうとして、独歩の視線に気づいた。
「独歩殿……」
「俺ぃらは、ここで奴らを食い止める。後のことは頼んだぜ……」
『覚悟……!』
 零の言いたいことは理解している。独歩の意を汲んでやれ。
 覚悟とて戦士だ。決死の思いで仲間のために危地に挑む戦士を救出など、侮辱に等しいことは理解している。
 コマンドロイドの右腕を独歩が捌き、モーターギアを拳につけて顔を砕いた。
 片目を器用に上下左右に動かして敵の動きを把握している。
「独歩殿……生還の当ては?」
「あいつらから、突入のための道具を奪えばいいだろう?」
「…………了解した。独歩殿、敵本拠地で会おう!」
「おうよ!!」
 回し蹴りによって真っ二つになった怪人が爆発を起こし、爆炎をまといながら独歩が構えを解かず敵を見据えている。
 覚悟は一度だけ、敬礼をして列車へと向かった。
 拳は強く握り締めたため、血が流れている。
『覚悟……忘れるな! 独歩殿は戦士として、戦ったているのだ! それを無駄にするな!!』
38Classical名無しさん:08/10/22 19:58 ID:dckPpLnE
 
39Classical名無しさん:08/10/22 19:58 ID:WMs/EaVw
    
40Classical名無しさん:08/10/22 19:58 ID:dckPpLnE
 
41Classical名無しさん:08/10/22 19:58 ID:nJkANKz.
「応!!」


 覚悟が列車に並んだとき、ZXは不思議に思った。独歩がいないのである。
「覚悟、独歩は……?」
「……独歩殿は、敵を惹きつけてから突入するということだ」
「なんだと……」
 ZXは信じられないものを見るように、覚悟へと視線を向けた。
 独歩を回収するために、反転しようとするZXへ、零の怒声がかかる。
『よせ! 戦士の矜持を踏み躙る気か!』
「戦士の矜持だと……独歩を見捨てたも同然じゃないか!!」
『良よ……無駄だ。独歩殿は自ら進んで囮を買って出た。その決意は超鋼よりも固い!』
「だからといって……!」
『それに良よ。危険を省みず、戦場へとたった戦士を侮辱する権利など……誰にもない!』
「だからといって……」
「独歩殿は……生き残るつもりだ」
 覚悟が搾り出すようにZXに告げた。覚悟自身も己の言葉を信じていないのだろう。
 身体が震えていた。己への怒りか。
 ZXは黙したまま、引き返すのをやめる。覚悟も、零も耐えているのだ。
 自分だけが子供のように駄々をこねるわけにはいかない。
 悔しさを噛み締める二人の眼前で、魔方陣が展開を始めた。


「いったか」
 独歩は魔法陣に飛び込んでいく長足クラウン号とZXと覚悟を見届けて、追いかけようとするコマンドロイドの首を貫手で貫く。
43Classical名無しさん:08/10/22 19:59 ID:tHMWa6N2
 
44Classical名無しさん:08/10/22 19:59 ID:WMs/EaVw
 
 さらに一つのモーターギアで地面を走り、もう一つのモーターギアを拳につけて、敵を殴り砕いた。
 敵の残骸が身体にかかることも構わず、次の標的へと独歩は突進する。
「キキィー!!」
 コウモリ奇械人が不快な鳴き声と共に空より強襲してくる。
 独歩は冷静に両腕の突きを捌き、喉元に正拳を叩きつけた。
 だが、砕くことは敵わない。なぜなら独歩の拳はモーターギアを装着していないからだ。
「たくっ、自信がなくなっちまうぜ。何十年も繰り返しついた突きなんだがな」
「キキキキキィー」
「笑っているのか? だったら俺からの忠告だ」
 独歩が次の言葉を告げる前に、コウモリ奇械人の頭が宙に舞う。独歩の右腕には空を旋回してきたモーターギアが留まっていた。
「後方不注意……って、遅かったか」
 そのまま拳にモーターギアを装着したまま、幾百もの怪人を前にして空手の構えを取る。
 かつて武神と呼ばれた男は誰一人通す気などないと、無言で示した。
 次の怪人の襲撃を独歩は待ったが、敵は遠巻きにこちらを見るだけだ。
 不審に思っていると、怪人の群れを掻き分ける一人の白い男がいた。
「誰か残ったと聞けば、ただの人間か……」
「ほう、こりゃ驚いた。怪人の連中は全員、ギーだのガーだのしかいえないホラー映画の怪物じみた連中しかいないと思っていたぜ」
「我々デルザー軍団の改造魔人には魂はない。ゆえに、蘇ったとしても記憶や知識を失うことはない。
もっとも……なぜか今回蘇ったのは俺だけだがな……」
「あんまり嬉しそうじゃねえな……」
 独歩の問いにシャドウは答えず、鞘に納まるシャドウ剣の柄に手をかけている。
 その動きに隙がない。不意打ちを仕掛けようかと思ったが、シャドウはそれも想定しているだろう。返り討ちは必須だ。
 大物に出くわしたことに内心冷や汗をかきながらも、独歩は構えを解かない。
 うごめく後方の再生怪人を視界に納めると、独歩は奥歯を噛み締めた。
 とても雑魚を潰しながら相手にできるような敵ではない。すると、シャドウは独歩を向いたまま口を開いた。
46Classical名無しさん:08/10/22 19:59 ID:dckPpLnE
 
47Classical名無しさん:08/10/22 20:00 ID:dckPpLnE
 
48Classical名無しさん:08/10/22 20:00 ID:WMs/EaVw
     
「キサマらは手を出すな。奴は俺が殺す」
 敵の意外な言葉に独歩は目を丸くする。好都合だが、敵が何か考えているのではないか、警戒をする。
 否定の言葉はあっさりとシャドウの口から出た。
「案ずるな。キサマごときに策をとったなど、我が改造魔人の名に傷がつく」
「そうかい」
 舐められたことにむかっ腹を立てながらも、シャドウの隙を独歩は待ち続ける。
 剣を使った武術でも収めているのだろうか。喋っている最中ですら、ピクリとも動かない。
 知能がある分、改造されている身に過信して付け入る隙がないかとも思ったが、そんなに甘くはないようだ。
 止まっているのに、落雷は来ない。目の前の男が止めたのだろうか。
 風が吹いて、コマンドロイドの残骸が転がる。その残骸が再生怪人の一匹に踏み潰された音が響いた。
 瞬間、独歩とシャドウがほぼ同時に地面を蹴る。
 シャドウが剣を逆袈裟に振り上げた。凄まじい速度で、独歩の右目でも追えない。
 ゆえに、剣を握る手を手刀で捌けたのは偶然というしかなかった。
 懐に入った独歩は、五十年以上繰り返した正拳突きの構えを取り、右腕を突き出した。
 幾人も沈めた拳が、改造魔人ジェネラルシャドウへと迫る。
 その拳は、シャドウの身体を、
「トランプフェード」
 貫かず、トランプの束を風圧で吹き飛ばしただけだった。
 すぐに敵を探そうと体勢を整える独歩の腹から、剣が生えていた。
「終わりだ」
 シャドウは独歩と背中合わせに呟いている。
 逆手に構えた剣が独歩の背から腹まで貫いていた。シャドウは剣を引き抜いて、血を振り払う。
 腹に感じる痛みと熱さに耐え切れず、独歩は膝をついた。


(他愛もない……)
 シャドウはどこか虚しい気持ちを抱えながら、崩れ落ちた独歩には視線もくれず進んだ。
 列車にいる仮面ライダーを含む生存者を始末せねばならない。
 それが自分に与えられた仕事だ。本来のシャドウならその仕事をそれほど熱心に遂行しようとは思わなかっただろう。
 誇り高きトランプの魔人は使い走りになることを良しとはしない。
 暗闇にいいように扱われている現状は、本来の彼なら不満を持って当然の出来事なのだ。
 だが、ストロンガーがいないという事実は、シャドウをナーバスにしていた。
「待ちやがれ……」
 聞こえた声に、シャドウは驚く。急所は確実に貫いたはずなのだが。
 首を回して視線だけ向けると、重症の独歩が立ち上がっている。
「ち……今隙ができたのに……不意打ちする元気すらねえ……」
 モーターギアとかいう武器を核鉄に戻し、傷跡に当てている独歩を認めたシャドウは再び構えを取る。
 人間にしてはしぶとい相手だと思いながらも、笑っている独歩に不思議に思う。
「なにがおかしい?」
「ああ……なんでかな。俺は死にかけで、お前さんは万全だが……」
 独歩の両腕が段々と上がる。そのまま核鉄を、独歩は捨てた。
「……どういうつもりだ?」
「へ……あんなものに頼っているから、お前さんに半歩踏み込みが足りなかったぜ。
こっからは……俺が五十年鍛え続けた拳がお前を殺す……」
 シャドウが独歩の殺す、という言葉に反応する。
 独歩の隻眼には諦めという文字は浮かんでいない。
「その拳が、俺に……いや、それどころか改造人間にすら通用すると思っているのか?」
「思っているぜ。人間が幾千年もかけて闘争のために練り上げた技法なんだからよ」
「血反吐を吐き、致命傷を負い、そこまで吼えるか……」
「てめえに一つ教えてやるよ……」
「む?」
 独歩が腰をどっしり構えて、息を整えた。
51Classical名無しさん:08/10/22 20:01 ID:WMs/EaVw
                         
 その構え、重傷人とは思えないほど隙が見当たらない。

「人の瞳が背中についてねぇのはな……後ろを振り返らず、前に進むためだぁ……いくぜぇ」

 シャドウは口角を僅かに上げ、首だけではなく身体を向きなおす。
 剣のかっ先を独歩へと向けて、風に白いマントをはためかせた。
「キサマの名……聞かせてもらおう」
「今更か? まあ、いいがな。愚地独歩……ただの空手家よ」
「愚地独歩……覚えておこう」
 シャドウが呟いたと同時に互いの殺気が膨れ上がる。
 またも隙の探りあい。シャドウは独歩の認識を改めている。
 一度見せた技、トランプフェードがもう一度使える相手だと思ってはいない。
 五枚の巨大トランプとなって囲んだり、シャドウ分身で二つ身となって独歩に迫るの手もある。
 そのどちらも、シャドウは良しとしなかった。久しぶりに宿る胸の何かに従ってただ純粋に剣技をもって葬りたい。
 シャドウにしては珍しい欲求に従い、独歩と対峙する。
 今度は独歩の荒い息遣いが聞こえる。再び風が吹くと同時に、シャドウの身体に覇気が漲る。
 わざわざ、迎撃装置をオフにした甲斐があるものだ。
(ああ。ストロンガー……城茂。キサマは常に、俺にこんな感情を抱かせてくれたな。
キサマは俺に、多くの力を刻んでくれたな。あの時も!)
 かつて、ストロンガーと黄金の剣と赤い悪魔の剣を交えたころの気持ちを思い出し、シャドウが僅かに高揚する。
 久しぶりに心地よくなり、知らずシャドウは笑っていた。

「うりゃアアァァァァッ!!」

 独歩の怒声がシャドウの耳朶を打つ。神速の踏み込みで間合いに入った独歩が拳を振るうと同時に、シャドウも剣を水平に薙ぎ払う。
53Classical名無しさん:08/10/22 20:01 ID:tHMWa6N2
 
54Classical名無しさん:08/10/22 20:01 ID:WMs/EaVw
   
55Classical名無しさん:08/10/22 20:01 ID:dckPpLnE
 
56Classical名無しさん:08/10/22 20:01 ID:WMs/EaVw
      
 互いに身体をすれ違いさせ、剣を、拳を振るいきったままの姿勢で固定した。


 静寂。
 二人の間に風が流れ、音を消す。
 シャドウの口元から、血が一筋つつっ……と流れ落ちた。
「俺が魔人なら、キサマはさしずめ……」
 シャドウが告げると同時に、独歩の身体が崩れ落ちる。左脇腹から心臓までを一気に斬り裂いた。
 生存は不可能だ。
 その代わり、命を懸けて独歩は最後の突きをシャドウの右胸へと叩き込んでいた。
 避けきれず、充分な威力を持ってシャドウへと傷を負わせた。シャドウは自然と、剣を眼前へと掲げ、死体となった独歩に敬意を示す。
「武神といったところか……。感謝する、キサマのおかげで思い出した」
 戦士とは、戦いにおいて死ぬべきだと。
 シャドウの瞳に闘志が戻る。
 かつてストロンガーの命を狙い続けた、雇われ幹部としての闘志が。
 再生怪人の群れが、独歩の死体に殺到しかける。

「触るなッ!!」

 再生怪人の頭部に、トランプが突き刺さって爆発した。
 爆炎が風に散る中、シャドウは悠然と仁王立ちで一群を睨みつける。
「魂を持たぬお前らに誰一人として、この男を触ることは許さん!」
 シャドウはマントをはためかせ、独歩を抱き列車が消えたほうへ視線を向ける。
 再生怪人たちに待機するよう命じ、トランプとなって姿を消した。
 独歩の肉体の確保の命令が届いたのは、その直後だった。


(ああ……俺はここいらで終わりか……)
 薄れいく意識の中、独歩は自分が死に近づく感覚を噛み締めた。
 戦いの中で死ねるのなら、それなりに幸せじゃないか。
 唯一つ、地上最強となれなかったことが心残りだった。
(最後の最後まで……頑張ったな……俺の拳……)
 シャドウの頑強な身体を殴り、砕かれた拳を見つめて独歩は労う。
 五十年、ただ突き、貫き、無茶をし続けた己の半身だ。
 ふと、視界の向こうに手招きする鬼がいたような気がする。
(ああ……たく。そんなにそこは暇なのかよ……。お前が望む最強に近い生物はいるだろう……?)
 ニィッとその男が生前と変わらぬ笑みを浮かべた。
 独歩ははげ頭の後頭部をガシガシ掻き、呆れた表情をする。
 ただ、口は笑みを形作っていた。
(しょうがねえ。俺もやることはやったし、そこで付き合ってやるよ。すぐにトンでもねえ奴が来ることも、教えてやらねばな)
 独歩は光に向かって歩いた。
 そこには、彼の知る鬼が永遠の闘争を持って存在していた。


【愚地独歩@グラップラー刃牙 死亡】
【残り9人】



59Classical名無しさん:08/10/22 20:03 ID:WMs/EaVw
    
「おい! てめえ……どういうことか説明しやがれ!!」
「そうよ……なんで独歩さんが囮になっているのよ!?」
 ヒナギクとジョセフの声で、意識が覚醒した赤木が目を瞬かせる。
 腹に鈍い痛みが残っているが、直前に独歩に気絶されたことを思い出した。
 ジョセフの剣幕を見て、赤木は不機嫌な表情となる。
「やめい……ジョジョ、桂」
「だがよ! 服部!!」
「赤木……囮になるッつーたのは、お前のほうやな」
 服部の確認するような言葉に、赤木は答えない。その態度にヒナギクがさらに怒りを募らせている。
 対してジョセフは、服部に答えを求めるように続きを促していた。
「独歩はんを囮にするつもりなら、ここで赤木が寝とる理由がつかん。独歩はんの性格と現状なら、文句を言わずに向かうやろうからな」
「待てよ! こいつが煽ったってこともあるじゃないか!?」
「無意味やな。煽ったところで独歩はんは都合よく動かせるような人やない。それは短い付き合いやけど、よく分かったはずや」
「でもよ……」
 ジョセフはどこか納得しきれないように呻く。ヒナギクは悔しそうに俯いていた。
 それもそうだろう。仲間が一人死んだのだ。服部の胸も抉れるような痛みが襲う。
「いつ魔方陣を抜けるか分からん。とっとと持ち場に戻るで。突入前の打ち合わせは覚えているやろう?」
「分かったよ。だが、俺は納得はしねえ。いいな、服部」
「ええで」
 そういって先頭車両に戻るヒナギクとジョセフを見送り、服部は赤木に右手を差し出した。
 赤木が掴み、立ち上がったのを確認して服部は問う。
「……実際のところはどうなん?」
「俺がけしかけたかどうか……か?」
「ジョジョや桂にはああいったが……お前さんが独歩はんが自ら囮を買って出るように仕向けたんじゃないか、少し疑うている」
「ククク……はっきり言う」
61Classical名無しさん:08/10/22 20:03 ID:nJkANKz.
62Classical名無しさん:08/10/22 20:04 ID:tHMWa6N2
 
63Classical名無しさん:08/10/22 20:04 ID:WMs/EaVw
  
 服部の表情が僅かに歪む。少なからず、二人を騙したことをすまなく思っているのだ。
 とはいえ、敵本拠地に乗り込むというのに、わだかまりができたままではまずい。
 非情ともいえる判断をとらざるを得なかった。もしかしたら、ジョセフあたりは理解して、あえて乗ってくれたのかもしれない。
「……正直に言えば、独歩が囮になる手は現状……二番目に有効な手だった……」
 歯に衣を着せない言い方に、服部はカチンとくる。
 正直とは違う。隠すことに意味を感じないと言わんばかりの、非人間的な態度だ。
「もっとも……独歩の生還が望めないという点では愚策……。後の戦闘のことを考えると、独歩の喪失は痛い……」
「お前さんが囮になることのほうが、何倍もよかったちゅうわけか」
「……ククク。何より、独歩はお前たちの信頼が厚い……まとめ役としては充分……」
「……だとしたら、お前が独歩はんの代わりにまとめ役をやることや。今回は独歩はんの性格を読みきれなかった、お前のミスやで」
「確かにな…………」
 あっさりと認めた赤木に驚きながらも、服部も先頭車両へと向かう。
「とはいえ……お前が死ぬ必要もなくなったな……」
「……嫌な言い方するな。独歩はんなら、確かに内と外から大首領を倒す計画を知ってる。信頼も厚い……。けどな……くそっ!」
 僅かにホッとしている自分を許せず、服部は己の手の平に拳を打ち込む。それも、落ち着くためだ。
 もうじき、戦場へと突入しなければならない。
 最後の決戦が、今始まる。


『良よ……』
「零……俺は納得はしない。あまりにも理不尽だ……」
「残念ながら、それが戦場というもの。我ら葉隠一族は理不尽に耐えることを良しとしない。
理不尽に勝利することを目指す……村雨殿、我らは今、理不尽を強いる敵へと向かっている」
「ああ……覚悟、零。俺はもう、俺や姉さん……死んでいったみんなのような、悲しい気持ちを抱かせる理不尽はごめんだ……」
『その怒りを、悲しみを決意に変えるのだ! 良よ!』
65Classical名無しさん:08/10/22 20:04 ID:dckPpLnE
( OHO)…
「ああ……俺は……」
 ZXがバイクのアクセルを全開にして異空間を駆け抜ける。
 後ろは振り返らなかった。振り返ることじたい、今は残った独歩への侮辱のように思えたからだ。
 悔しさと無念を抱えながらも、ZXの中に燃える覚悟が生まれる。
 誰も悲しませない。全てを抱えて戦い続ける。
「俺は……仮面ライダーだ!」
 魔方陣を駆け終えて、光がZXの視界に満ちる。
 クルーザーの白い車体が、ZXの思いに応えるかのようにエンジン音を唸らせた。



 黒い巨体を地面に下ろし、全てを飲み込むように不気味に佇む要塞が一つ。
 サザンクロスと呼ばれたバダンの要塞は、目の前に現れた列車の突撃を避けきれず、突入を許してしまう。
「だからドリルは外せといっただろ……なんて誰か言わんかねー」
「アホかい」
 長足クラウン号の先端についているドリルで、サザンクロスの外壁を砕いて突入したのだ。
 服部はこのまま、長足クラウン号を走らせ続ける。
「このまんまぶっちぎるでぇー!!」
 襲い掛かる再生怪人ごと長足クラウン号が突き進み続ける。
 何もかも蹂躙するその歩みを止めるものはいない。
 ―― …………トランプフェード………… ――
 その声が、小さくだが服部に聞こえた。と、同時に長足クラウン号が傾き、地面と車体を削る不快な音が響く。
 必死でブレーキをかけるが、効果が薄い。
「みんな、席に掴まれぇぇぇー!!!」
 服部の声が車内に響く。壁にぶつかって大きく長足クラウン号が揺れ続いた。
67Classical名無しさん:08/10/22 20:05 ID:WMs/EaVw
   
 何が起きたのか、中にいるメンバーには理解ができなかった。


「あれは……ッ!」
『列車の車輪を斬っただと……!?』
 絶技といえる所業に、覚悟と零に戦慄が走った。
 突如現れた、バイクにまたがる白い怪人に驚きを隠せない。
「くっ! 列車に、近づかせるか! マイクロチェーン!!」
 ZXはクルーザーからシャドウへと飛び掛り、右腕から鎖を射出。
 シャドウはZXの姿を認めたとき、僅かに微笑んでチェーンを切り払った。
 そのまま体勢を崩すZXへと迫ろうとした時、横から覚悟が蹴りを捻じ込む。
「重爆ッ!」
「ちッ!」
 シャドウは飛び退き、列車の屋根へと立つ。いつの間にか、エレオノールもあるるかんを構えて屋根へ立っていた。
 ジョセフも、波紋を漲らせてシャドウの右斜め前方で待機している。
「……ここでは邪魔が多いか」
「逃がしはしねえぜ、化け物野郎!」
 ジョセフが拳を叩き込んだとき、トランプの群れが虚しく散る。
 あっけにとられた一同に、隙ができた。突如列車の中から、かがみの悲鳴があがる。
「かがみから手を離しなさいよ!」
 列車から出てきたヒナギクが叫ぶが、周囲にシャドウの姿はない。
「あいつはどこよ! いきなり中に入ってきたと思ったら、かがみ連れて行っちゃうし、トランプしかないし!」
「落ち着け、桂。かがみは……」
「俺ならここだ。仮面ライダー」
 声に振り返ると、星型のヘッドライトをつけたバイクにまたがるシャドウの姿が目に入った。
69Classical名無しさん:08/10/22 20:05 ID:dckPpLnE
 
 警戒心を剥き出しにする彼らを前に、気絶したかがみを脇に抱えたまま、ZXに視線を向けていた。
「かがみを離せ!」
「構わんぞ」
 あっさりと返った声に、一同は戸惑う。
 明らかな罠じゃないか? 猜疑心に苛まれる一同の様子に、シャドウはまったく気にもしなかった。
「ただし……」
 シャドウがカードを投げ、列車の壁に突き刺さる。
 ZXが視線をシャドウに向けたまま引き抜くと、カードに要塞内地図が描かれたいた。
 一室に指定がある。どういうことかと、ZXはシャドウに視線を向けた。
「ここでは邪魔が多いからな。そこに……一人で来い」
「決闘というわけか……?」
「さあな」
 ZXに曖昧な態度を返して、バイクのエンジンを唸らせる。
 シャドウを逃がすかと、ジョセフが走った。
「そういうわけにはいかないだろうがッ! 普……!?」
 しかし、ジョセフは途中で急ブレーキをかけて止まる。
 シャドウとジョセフの間に、十字手裏剣が飛び込んできたのだ。
 コマンドロイドの群れが現れ、ジョセフが舌打ちをする。
「言っただろう。ここは邪魔者が多いとな。……待っているぞ、仮面ライダー。トランプフェード!」
 シャドウが言い切り、トランプが舞い散って姿が消える。
 襲い掛かってきたコマンドロイドと再生怪人と組み合いながら、ZXは必死で手を伸ばすが届かない。

「かがみぃぃぃぃぃ――――!!!」

 残ったのは、無数に散るトランプのカードだけだった。
71Classical名無しさん:08/10/22 20:06 ID:dckPpLnE
 
72Classical名無しさん:08/10/22 20:06 ID:WMs/EaVw
     
73Classical名無しさん:08/10/22 20:06 ID:yDZuTBok
かがみ=桃姫論浮上支援
74Classical名無しさん:08/10/22 20:07 ID:dckPpLnE
( OHO)…


「因果ッ!!」
 シオマネキングを砕き、血に塗れながら覚悟は降り立つ。ZXと背中合わせになり、前方の敵を睨みつけた。
「村雨殿……行くがいい。ここは任せてもらおう」
「覚悟……」
「けどよ、罠って可能性もあるんじゃないか?」
 ジョセフが波紋でコマンドロイドの身体機能へと異常を起こさせてから、疑問を投げかける。
 その疑問ももっともだが、覚悟は静かに首を横に振った。
「あの瞳は一流の武人の魂が宿っていた。技にも曇りがない。おそらく、本気で村雨殿との決闘を望んでいる。
もしも私が決闘を申し込まれたなら、唇に朱をひいて向かわねばならぬほどの武士【もののふ】と見受けた」
「ですが、かがみさんを人質にとるような人なので、油断はできないのでは?」
「そうよ! かがみを連れ去るような奴のところに、一人で行く必要はないわよ! 村雨さん、一緒に行ってかがみを取り返しましょう!」
 エレオノールとヒナギクが反対の意を示しながら、蜂女を八つ裂きにする。
 その意見ももっともだと思う。名前の知らない白装束の怪人の言葉を信用するのは危険が大きかった。
「いや、俺は一人で向かおうと思う。あいつは、俺をZXではなく、仮面ライダーと呼んだ」
 その理由を、どうしても知りたい。だからこそ、罠かもしれないが、ZXは一人で向かう気になった。
 エレオノールは心配そうにこちらを見ている。ヒナギクはムッとした表情で、不機嫌なのが一目瞭然だ。
「行くなら、こっち来る前のいうたこと、覚えているよな?」
「……一旦離散し……再び合流する……」
 ZXは知らないが、服部が作戦前に告げた、仲間の死に覚悟や村雨が影響されないための策である。
 ZXたちには、基地を探索し、幹部を仕留めるためと教えていた。
 とはいえ、突入前の打ち合わせ通りとはいかない。村雨と独歩が欠けてしまった以上、チーム分けは変えざるを得ない。
 新たなチーム分けを発表してから、頷いたZXを確認して、服部が大きく息を吸った。
「じゃあいくでぇ! お前ら!!」
 応!と各々の応える声が響く。
76Classical名無しさん:08/10/22 20:07 ID:WMs/EaVw
   
77Classical名無しさん:08/10/22 20:08 ID:tHMWa6N2
 
 それぞれ、未来のためへと散っていった。



「きゃっ!?」
 かがみは地面に乱暴に降ろされて、目を覚ました。目の前にいるのはここで出会った頼れる仲間じゃない。
 畏怖すべき、異形の怪人だ。かがみは恐怖に錯乱した。以前のかがみなら、だが。
「……き、きっと……村雨さんがあんたを倒しにくるんだから……!」
 恐怖に脅えながらも、かがみはシャドウを睨みつけた。
 そのかがみを認め、シャドウは感心したような眼差しを向ける。
「な……何よ……」
「この俺と一対一でいる割りに、それほど恐れていないのを感心しただけだ」
「恐れて欲しかったの……?」
「いや、どうでもいい」
 シャドウは投げやりに答える。扉が急に開き、コマンドロイドが入ってきた。シャドウは鬱陶し気に見る。
 コマンドロイドは無機質な動きのまま、シャドウへと声をかけてきた。
「ジェネラルシャドウ様……愚地独歩を殺したアナタ様に質問がございます」
「独歩さんが……ッ!」
 かがみの声を無視して、シャドウは顎で続きを促した。
「独歩を優勝者と認め、回収命令が出ています。生死は問わないので、その身の在り処を教えて欲しいと暗闇様からの伝言です」
「フン……」
 シャドウは鼻を鳴らしながら、コマンドロイドに出口を示す。
 戸惑うコマンドロイドに不機嫌なまま会話を続けた。
「あの男は見事な死に様だった。欲しければ俺を倒して無理やり吐かせろ。そう伝えとけ」
「まさか……アナタも反逆をっ……!」
79Classical名無しさん:08/10/22 20:08 ID:dckPpLnE
 
 するつもりか、と続ける前にコマンドロイドの頭が吹飛ぶ。
 その額に、シャドウがトランプを撃ち込んでいたのだ。
 シャドウは死骸には目もくれなかった。


「アナタが……独歩さんを殺したの!?」
「……奴には感謝をしている」
「え……?」
 シャドウの意外な言葉に、かがみは目を見開いた。
 シャドウの眼差しに懐かしむ色が宿る。手前にあるバイクの星型のヘッドライトを撫でた。
「このバイクは我が宿敵、仮面ライダーストロンガーのものだ……」
「仮面ライダー……って村雨さんの……」
「先輩に当たる。奴は強い。俺は奴と戦うことを至上とした。そう、最後のあの決闘……あれは心躍った……」
 饒舌な怪人を前に、かがみは反応に戸惑う。しかし、シャドウの声のトーンが急に下がった。
「だが、死んで大首領の力で蘇ったこの世界には、ストロンガーはいない……。
奴が残したカブトローを乗り回しているが……俺には虚しさが積もるだけだった」
 かがみはここまで人間臭い怪人もいることに不思議に思う。
 だがすぐに、村雨のことを考え、そんな相手もいるだろうと考え直した。
「独歩さんは……」
「キサマらを逃がすために、最後まで戦い続けた。己が負けることなど、微塵も信じずに。
この核鉄とやらを捨てて、自分の鍛えた拳だけでな。奴の形見だ、持っておけ」
 シャドウがそういうと、首輪のまかれた核鉄を投げた。
 かがみは抵抗できる手段を渡したことに驚くが、逆を返せば核鉄程度の力があろうと、シャドウは問題視していない、ということだ。
 そしてその認識が正しいことを知っているため、村雨たちの足を引っ張る形となり、己自身を責める。
「俺はこのまま腐るつもりは、もうない……。ストロンガーがいないというのなら、その後輩と戦う。だが……」
81Classical名無しさん:08/10/22 20:08 ID:WMs/EaVw
 
82Classical名無しさん:08/10/22 20:08 ID:dckPpLnE
 
83Classical名無しさん:08/10/22 20:09 ID:nJkANKz.
 シャドウが急に構えて、独歩の死体の在り処をかがみに耳打ちして離れる。
 独歩の死体の在り処を教えてもらうのはありがたいが、突然のことでかがみは戸惑う。
 シャドウはかがみを無視して、覇気を入り口に向かって放った。

「キサマがストロンガーに誇れる仮面ライダーであるかどうかは、この剣に聞く!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 壁をバイクで破壊し、座席から跳んで入ってきたZXが十字手裏剣を投げつけた。
 シャドウはそれを切り払って、ZXへと踏み込む。
 二人の身体が交差し、互いに距離をとった。

「俺の名はジェネラルシャドウ……行くぞ! 仮面ライダー!!」
「俺は……仮面ライダー! ZX!!」

 仮面ライダーと改造魔人、二人の意地が激突する。

【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】

【ジェネラルシャドウ@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]右胸に打撃痕。疲労(小)。
[装備]シャドウ剣。トランプ内蔵ベルト。
[道具]なし。
[思考]
基本:心残りを解消する。
1:仮面ライダーと決着を着ける。
2:独歩の死体の在り処を、暗闇たちに教えるつもりはない。
[備考]
※暗闇の指令【独歩の死体を使って大首領の復活】を知りません。

86Classical名無しさん:08/10/22 20:09 ID:tHMWa6N2
  
87Classical名無しさん:08/10/22 20:10 ID:WMs/EaVw
   
【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]全身に負傷小。核鉄の治癒力と自己再生にほぼ回復。疲労(小)。首輪が解除されました。ZXに変身中。
[装備]十字手裏剣(2/2)、衝撃集中爆弾 (2/2) 、マイクロチェーン(2/2)、核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金、工具
[道具]地図、時計、コンパス、 女装服
    音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾 支給品一式×3、ジッポーライター、バードコール@BATTLE ROYALE
    文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、
    缶詰やレトルトといった食料品、薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備)
    マイルドセブン(5本消費)、ツールナイフ
[思考]
基本:BADANを潰す!
1:ジェネラルシャドウを倒す。
2:かがみを助ける。
3:ハヤテの遺志を継ぎ、BADANに反抗する参加者を守る。
4:仲間と合流する。
5:穿孔キックを完成させる。
6:パピヨンを止める。
[備考]
※傷は全て現在進行形で再生中です。
※参戦時期は原作4巻からです。
※首輪の構造、そして解除法を得ました。
※穿孔キックを習得しましたが、まだ未完成です。見た目は原作で村雨が放ったものと大体同じものです。
※首輪は解除され、身体能力、再生能力への制限が解けました。また首輪は核鉄(ピーキーガリバー)にパピヨンがやっていたように巻き付けており、使用できます。

89Classical名無しさん:08/10/22 20:10 ID:tHMWa6N2
 
90Classical名無しさん:08/10/22 20:11 ID:WMs/EaVw
 
91Classical名無しさん:08/10/22 20:11 ID:nJkANKz.
92Classical名無しさん:08/10/22 20:11 ID:dckPpLnE
 
 かがみはなぜシャドウが独歩の死体を教えたのか、おぼろげに理解した。
 シャドウはZXとの戦いを、無傷で済むと考えていないのだ。
 むしろ、命を落とす可能性も考えての行為だろう。覚悟も似たようなことを行なうと聞いた。
 そして、彼と話していると独歩に敬意を払っていることに気づいた。
 純粋にZXとの戦いに赴くシャドウに複雑な気持ちを抱えた。
 シャドウは強いのだろう。
 そうでなければ、仮面ライダーに戦いを挑もうと考えはしない。
(私には祈ることしかできない……。でも、村雨さん、お願いだから勝って!)
 かがみは静かに祈る。それだけしかできないから。
 だがそれこそが、戦うものの力となる。


【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】

【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:健康(クレイジーダイヤモンドにより、左腕復活)、首輪が解除されました。
[装備]:巫女服
[道具]:ニードルナイフ@北斗の拳 つかさのリボン。モーターギア(核鉄状態)@武装練金
[思考・状況]
基本:BADANを倒す
1:村雨の勝利を祈る。
2:別れた仲間と合流。
3:独歩の死体に、手を合わせたい。
[備考]
※独歩の死体の在り処を知っています。
94Classical名無しさん:08/10/22 20:11 ID:WMs/EaVw
  




「へっ……侵入者が入ったとさ」
 黒いライダースーツを身に纏う、粗野な男が置くに潜む二人に問う。
 その言葉を受けて、妖艶な印象の美女が研いでいた爪に息を吹きかけて、振り向く。
「聞いているわよ。プログラムに参加の連中が、列車を使って進入したってことでしょ。
それにしてもよかったじゃない」
「へえ……」
 裏切りとも取れる発言を女性はするが、切れ目の宝石の如く輝く瞳には、決して生易しい色を宿していない。
 妖艶な笑みを浮かべる美貌が、雌の蟷螂を思わせるような鋭い視線を向けた。
「これで私たちも退屈しなくて済む……あーっはっはっは!」
「いいねえ……俺たちも楽しもうじゃないか……!」
「………………」
 老人の姿をした男が聞こえないほどの声で『溶かす』と呟いて、暗い廊下へと消える。
「ところで、独歩とか言うオッサンはどうするの?」
「適当に潰していきながら、居場所を吐かせればいいさ……ああ、簡単に吐いてくれちゃ愉しくねえなぁ……」
「ほんっと……性格悪いわねぇ」
「お互い様だろう……?」
 笑い声を男があげて、窓より光が入り三人の影が伸びる。
 黒いライダースーツを纏う男の影は、頭部に二本の角が伸びる異形の怪人の姿をかたどっていた。
 モデルのような妖艶な女性の影は、細身に切れ味の鋭い日本刀を思わせる印象を抱かせる。
 小さな老人の影は、大柄でいて岩を思わせる強固な装甲を纏う、重戦車の威圧感を与えていた。
 三人の本性を現したような影を引き連れ、それぞれ胸に悦びを宿す。
96Classical名無しさん:08/10/22 20:12 ID:WMs/EaVw
     
 それぞれ愉悦を浮かべた表情のまま、ゆっくりと歩いていった。



 神父衣装に身を包んだ、長身の男が息も荒く立っていた。
 周囲は騒がしく、侵入者が現れたことに慌てふためいている。
 エンリコ・プッチは都合がいいと思いながら、フラフラと目的の場所へ向かって歩いた。
 これは神がくれた好機だ。このまま騒ぎに乗じて姿を消す。
 脱出用の通路は目の前だ。地上へと向かうUFOを前にしてプッチは微笑んだ。
 事前に用意したディスクを使って、UFOを運転してもらい二日後の新月へと向かう。
 そのための人材は伊藤博士こそ相応しい。首輪の解除も行なわなければならないのだから。
 格納庫で脱出用のUFOがあるかどうかの確認を済ましたプッチは踵を返す。
 伊藤博士に会わねばならない。
 プッチが歩みを進めると、周囲の機材が浮かび上がった。
(これも……君が私に力を与えた影響か……)
 目を瞑ると、あの時の光景が思い浮かぶ。
 そう、パピヨンを倒したあと、生まれたものを確認した時に、プッチは彼に出会ったのだ。



 トイレのロッカーで寝るそれは、一言で言えば赤ん坊と呼べるものだったのだろう。
 だが、明らかに人の容貌ではなかった。
 緑色の肌にとんがった耳を持つ、異形の赤ん坊。
 それこそ、プッチが求める天国への道しるべだ。
98Classical名無しさん:08/10/22 20:13 ID:dckPpLnE
 
99Classical名無しさん:08/10/22 20:13 ID:WMs/EaVw
   
100Classical名無しさん:08/10/22 20:13 ID:dckPpLnE
 
 プッチはゆっくりと、生まれたものに向かって歩く。
「『らせん階段』……! 『カブト虫』! 『廃墟の町』! 『イチジクのタルト』!」
 傍から見れば病人にも見て取れる、意味不明な単語を並べながらプッチは一歩一歩進めた。
 もはや見てくれなどどうでもいい。プッチは熱のこもった視線を生まれたものに向ける。
「『カブト虫』! ……『ドロローサへの道』! 『カブト虫』!」
 少しずつ、大切なものに近づくようにプッチはその赤ん坊へとにじり寄る。
 単語に赤ん坊に反応する様子はない。
「『特異点』! 『ジョット』! 『天使』! 『紫陽花』! 『カブト虫』! 『特異点』!」
 最後の単語を告げる前なのに、プッチの心境は穏やかだった。
 あれほど望んでいた瞬間だというのに、興奮の色は皆無だった。少なくとも、表面上は。

「『秘密の皇帝』!!」

 プッチは全てを告げ終える。同時に、眠っていた赤ん坊の目が見開いた。
 怪我を負っていた右腕をホワイトスネイクで貫いた。隠していたDIOの骨を取り出す。
 赤ん坊はDIOの骨へと手を伸ばした。
「興味を示してくれたか? 君の方から私の方へ来てくれるのか?」
 心臓の鼓動がドッドッドとうるさく流れる。
 プッチははやる動悸を無視しながらも、もはや興奮を抑えきれない。
「これで全ては幕を開けるのか!?」
 一際想いを込めた言葉を告げた瞬間、赤ん坊が掴んだプッチの腕から肉が削げ落ちる。
 新しく生まれ変わる感覚を持って、プッチは喜びに満ちた。
「これで君の世界へ共に旅立てるぞッ! DIOッ!」
 こうして、プッチは生まれたものと一つになった。
 充実感を胸に、その場を離れたのである。
102Classical名無しさん:08/10/22 20:14 ID:tHMWa6N2
 



(もはや私にここにいる理由はない。早く首輪を解除して、脱出しなければ)
 北緯二十八度二十四分西経八十度三十六分のケープ・カナベラルを目指す。
 天国への扉はもう少しだ。バダンの未知の技術が使われたUFOなら、二日で辿り着くのもわけはない。
 プッチにもう障害はほとんどない。
 輝ける主の祝福はもうすぐだ。ふと、靴紐がほどけていることにプッチは気づく。
 靴紐を直そうとしゃがんだ瞬間、
「オラァッ!」
 プッチの上空を炎が駆けた。すぐに立ち上がり、振り向くとマジシャンズレッドを背後に立たせる、ジョセフと服部がいた。
「ジョジョ! こいつは敵なんか!!」
「ああ、敵だね。手紙にあった、神父姿のスタンド使い……ならこいつはバリバリの敵だッ!」
 プッチは敵意を向けるジョセフへと向き直り、自分の正体がばれたことに驚愕する。
 伊藤博士の仕業だろうか。手紙を送る手段があったとは、と憤りを見せた。
 やはり、ジョースターの血統との因縁は片付けておかねばならないようだ。
「ジョセフ・ジョースター……キサマがここまで生き延びていることこそが……私の誤算であった」
「そうかい。お前さんが厄介なスタンド使いというのは知っているぜ!
だからここは逃がしはしねえ……ジョースターの血統に懸けてな!」
 プッチはジョセフの言葉に沈黙を返す。
 プッチにとって目の前の男は乗り越えなければならない『運命』!
 ジョセフにとっては倒さねばならない『悪』!
 ありえないはずの対決は、それぞれの心臓の鼓動を響かせて幕を開いた。

104Classical名無しさん:08/10/22 20:14 ID:WMs/EaVw
 
【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】

【エンリコ・プッチ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]骨を蘇らせた際に右掌に怪我、微植物化、強い決意、疲労(小)。『生まれたもの』と融合。
[装備]
[道具]死神13のDISC@ジョジョの奇妙な冒険、BADANより支給された携帯電話、リンプ・ビズキットのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本:天国に行く。
1:ジョセフ・ジョースターを含む、障害を全て跳ね除ける。
2:首輪を解除する。
3:伊藤博士を確保して、首輪の解除と脱出。
[備考]
※首輪をつけています。
※空条承太郎の記憶DISCは、既に確認した後です。
※蝶野攻爵の記憶を見ました。


【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左手骨折、全身重度の打撲、精神疲労中、体力消費大、深い悲しみ、脇腹にダメージ大、首輪解除済
[装備]:マジシャンズレッド(魔術師の赤)のDISC@ジョジョの奇妙な冒険 クレイジー・ダイヤモンドのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:七原秋也のギターをばらしたて出来た弦@BATTLE ROYALE、支給品一式×2、空条承太郎の記憶DISC@ジョジョの奇妙な冒険 、
スーパーエイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本:BADANとかいうボケ共を一発ぶん殴る。
1:目の前のプッチを、自分たちの世界の未来のために倒す。
2:別れた仲間と合流。
[備考]
※水を使うことで、波紋探知が可能です。
※承太郎の記憶ディスクの中身を確認しました。
106Classical名無しさん:08/10/22 20:16 ID:WMs/EaVw
     


【服部平次@名探偵コナン】
[状態]:肉体疲労中(ある程度回復)、三村を殺したことから大分立ち直りました。首輪解除済み。
[装備]:スーパー光線銃@スクライド、携帯電話、ソードサムライX(核鉄状態)@武装錬金、二アデスハピネス (核鉄状態)@武装錬金
[道具]:支給品一式×2(食料一食消費)、首輪、「ざわ……ざわ……」とかかれた紙@アカギ(裏面をメモ代わりにしている)、
色々と記入された名簿、ノート数冊、ノートパソコン@BATTLE ROYALE ジャギのショットガン@北斗の拳(弾は装填されていない)、
綾崎ハヤテ御用達ママチャリ@ハヤテのごとく(未開封)、 ギーシュの造花@ゼロの使い魔、キュルケの杖、拡声器、
包帯・消毒薬等の治療薬、点滴用セット(十パック) 病院内ロッカーの鍵(中に千切れた吉良の左手首あり)、
バヨネット×2@HELLSING、 紫外線照射装置@ジョジョの奇妙な冒険(残り使用回数一回)、外れた首輪(服部平次)
[思考・状況]
基本:一撃でいいから大首領をぶん殴る。
1:ジョセフの援護をする。
2:別れた仲間と合流。
3:範馬勇次郎以外の光成の旧知の人物を探り、情報を得たい。
[備考]
※スーパーエイジャが、「光を集めてレーザーとして発射する」 事に気づきました。



「あるるかぁん!!」
 エレオノールの叫びに応えるように、あるるかんが再生怪人を切り裂いた。
 銀糸を繰り出す指が可憐に動き、白き道化が宙へと踊る。
「エレノン! あぶねえ!」
「はい! 御前!」
 御前が危険を告げると同時にエレオノールは跳躍、空振りをしたヤモリジンの身体を、あるるかんが押さえる。
「赤木! ヒナギクさん、今です」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ヒナギクが雄たけびながら、バルキリースカートで横っ飛びに勢いを得て木刀正宗を振るう。
 ヤモリジンは真っ二つに斬られ、頭部に赤木が銃弾を叩き込んだ。
 素早くあるるかんと共にヒナギクは離れ、爆発を見届けてため息をつく。
「……一息つくのはまだ早い……。敵がどれほどいるのか……不明なのだからな……」
「分かっているわよ!」
 ヒナギクが乱暴に赤木に応えて、先を進む。不機嫌な歩みだが、赤木は気にも留めない。
 そこにエレオノールが並ぶ。
「赤木……なぜシルバースキンを使わないのですか?」
「今はまだ機じゃない……それだけだ……」
「とんがった顎で難しい顔しないで素直に使いなよ。アカギン」
 馴れ馴れしい御前だが、赤木は気分を害していない。
 むしろ、珍しい相手に僅かだが、興味を持った。
「御前……失礼ですよ」
「いや、構いはしない……」
「お前見かけによらずいいやつだな!」
109Classical名無しさん:08/10/22 20:17 ID:nJkANKz.
110Classical名無しさん:08/10/22 20:17 ID:dckPpLnE
 
111Classical名無しさん:08/10/22 20:17 ID:yDZuTBok

112Classical名無しさん:08/10/22 20:17 ID:WMs/EaVw
          
 御前がポンポンと赤木の頭を叩き、上機嫌で上空を漂う。
 その様子を振り替えもせず確かめたヒナギクはふと、前方から近づく人影を見つけた。


「アナタは……?」
「んー? あーら、覚悟って奴もZXもいないの……? 外れねえ……。賭けなんてするんじゃなかったわ。別れ道って面倒ね……」
「……! もしかして……」
「敵だろう……どう考えても」
 ヒナギクの疑問に、いつの間にか右隣に並んだ赤木が告げた。
 ヒナギクは木刀正宗を構えて、エレオノールはあるるかんを立たせる。
 モデルのようなスタイルの妖艶な女は妖しげな笑みを返した。
「健気ねぇ……私に勝てる気なのが、あまりにも滑稽で」
「勝てるさ」
 赤木が断言し、女は笑みを崩さず視線を向けた。
 負けず、赤木は不敵な笑みを返す。
「ククク……あんたにツキはない……。醜く朽ちていくだけの化け物が……勝てるはずもないだろう……」
「へえ……」
 赤木の挑発に女は表情を一変させる。
 鬼のような形相にヒナギクとエレオノールは気圧されたが、赤木は微動だにしない。
「あんた程度……俺たちなら勝てる……。運も流れもまだ俺たちのもの……あんたの詰みだ……」
「……あんた……私を舐めたわねッ!」
 女から粒子が上がった。あれは村雨の変身時と同じ反応だと、エレオノールとヒナギクは構える。
 ただ一人、赤木はつまらなさそうに核鉄を持って佇んでいた。
「舐めちゃいないさ。ただ……あんたじゃ無理だ……。俺に死を……死線を与えることはな……」
 赤木の口が狂気に歪む。
114Classical名無しさん:08/10/22 20:17 ID:WMs/EaVw
                                   
115Classical名無しさん:08/10/22 20:17 ID:tHMWa6N2
  
 神に愛された男は、女蟷螂を前に不適に笑う。
 カマキロイドと、神に愛された男と、恋を知る少女たちの戦いが始まった。


【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】

【カマキロイド@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]健康。怪人態に変身中。
[装備]なし。
[道具]なし。
[思考]
基本:大首領の復活。
1:目の前の生意気な男(赤木)を後悔させる。
2:この状況を愉しむ。
3:独歩の死体の在り処を探る。

117Classical名無しさん:08/10/22 20:18 ID:dckPpLnE
 
118Classical名無しさん:08/10/22 20:19 ID:WMs/EaVw
  
【赤木しげる@アカギ】
[状態]:脇腹に裂傷、首輪がありません。
[装備]:基本支給品、ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス(残り8本)、マイルドセブンワン1箱、
    454カスール カスタムオート(6/7)@HELLSING 13mm爆裂鉄鋼弾(20発) 、シルバースキン@武装錬金(首輪を巻いています。核鉄状態)
[道具]:傷薬、包帯、消毒用アルコール(学校の保健室内で手に入れたもの)
    始祖の祈祷書@ゼロの使い魔(水に濡れふやけてます)、水のルビー@ゼロの使い魔
    工具一式、医療具一式、沖田のバズーカ@銀魂(弾切れ)、成仏鉄球@覚悟のススメ 、伊藤博士からの手紙、
    伊藤博士からの手紙(ポケット内)、『注意書きを必読』と書かれたエニグマの紙(ポケット内)
    ジャッカル@HELLSING(残弾数1)、神楽の仕込み傘(強化型)@銀魂
    ベレッタM92(弾丸数0/15)、ハート様気絶用棍棒@北斗の拳、懐中電灯@現地調達、包帯と湿布@現地調達、不明支給品×2
[思考・状況]
基本:対主催・大首領の肉体となる。
1:カマキロイドを倒す。
2:大首領との再会。バトルロワイアルに引きずり込む。
3:覚悟に斗貴子を死に追いやった事を隠し、欺く。
[備考]
※大首領との接触により、大首領とBADANとの間のズレを認識。
※BADANという組織はあまり合理的に動かないと認識。
※首輪は核鉄(シルバースキン)にパピヨンがやっていたように巻き付けており、使用できます。
120Classical名無しさん:08/10/22 20:19 ID:WMs/EaVw
 


【才賀エレオノール@からくりサーカス】
[状態]:疲労小 全身に火傷(ほぼ完治)。首輪が解除されました。
[装備]:エンゼル御前(核鉄状態&首輪@エレオノールが巻かれている)@武装錬金、あるるかん(白金)@からくりサーカス
[道具]:青汁DX@武装錬金、ピエロの衣装@からくりサーカス、支給品一式、生命の水(アクア・ウィタエ) 保健室で手に入れた様々なもの
[思考・状況]
基本:自分を助けてくれた者、信じてくれた者のためになんとしてでも主催者を倒す。
1:カマキロイドを倒す。
2:別れた仲間と合流。
3:夢で見たギイたちの言葉を信じ、魂を閉じ込める器(強化外骨格)を破壊する。
4:ナギの遺志を継いで、殺し合いを潰す。
5:一人でも多く救う。
6:できる事ならパピヨンを助けたい(優先順位は低い)
[備考]
※参戦時期は1巻。才賀勝と出会う前です。
※エンゼル御前は使用者から十メートル以上離れられません。 それ以上離れると核鉄に戻ります。
※解除した首輪は核鉄(エンゼル御前)にパピヨンがやっていたように巻きつけており、使用できます。

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態] 軽傷(核鉄の治癒力により回復中) 首輪が解除されました。
[装備] バルキリースカート(核鉄状態)@武装錬金、木刀正宗@ハヤテのごとく、イングラムM10(9ミリパラベラム弾0/32)、陵桜学園高等部のセーラー服@らき☆すた
[道具]支給品一式、ボウガン@北斗の拳、ボウガンの矢17@北斗の拳
[思考・状況]
基本:BADANを倒す。
1:カマキロイドを倒す。
2:別れた仲間と合流。
3:覚悟を愛さない。
[備考]
※参戦時期はサンデーコミックス9巻の最終話からです。
※服は現地調達したものに着替えました。
※首輪は核鉄(バルキリースカート)にパピヨンがやっていたように巻き付けており、使用できます

123Classical名無しさん:08/10/22 20:19 ID:dckPpLnE
 
124Classical名無しさん:08/10/22 20:20 ID:tHMWa6N2
 
125Classical名無しさん:08/10/22 20:20 ID:WMs/EaVw
        
126Classical名無しさん:08/10/22 20:20 ID:1QVu2YNc
127Classical名無しさん:08/10/22 20:20 ID:nJkANKz.
128Classical名無しさん:08/10/22 20:20 ID:WMs/EaVw
                        
129Classical名無しさん:08/10/22 20:20 ID:dckPpLnE
 


「高速分裂昇華弾!」
 コマンドロイドの群れが、ショットガンのように撃ちだされた昇華弾によって燃え上がる。
 黒焦げとなった死骸をの中から、原始タイガーが牙を向けて襲ってきた。
 頭を噛み砕かんと迫った原始タイガーの顎を掴み、膝蹴りを脇腹に叩き込む。
『覚悟!』
「応ッ! 赤熱化!!」
 真っ赤に燃える身体で原始タイガーを砕く。
 炎を背に通路で次の敵を発見し、迎撃する。
 獣の唸り声が響き、覚悟に迫る。ハサミジャガーの腕の刃を潜り抜け、顎に正拳をたたきつけた。
 血を被る覚悟だが、油断はない。すぐに壁に隠れていたコマンドロイドを探り当て、腹に蹴りを突き刺した。
「ギィ……ゲェ……ッ!」
 覚悟が零式防衛術の構えを取って、周囲を警戒する。
 遠巻きに警戒するしか、コマンドロイドの群れには取る手段がなかった。
「おぃおぃ……情けねぇな」
 男の声が通路に響き、覚悟はいっそう警戒を強める。
 黒いライダースーツに身に纏う男がゆったりと歩いてきた。
 その男は、覚悟を認めるとニヤリ、と嬉しげに笑う。
「ビンゴ……当たりってわけか」
『何奴ッ!』
 零の声に男は満足そうに笑う。村雨が変身する時に上がる粒子が、男からあがった。
「そういきり立つな。ちゃんと教えてやるよ。俺の名は……ジゴクロイド」
 いっそう粒子が上がって男の身を見えなくし、晴れ上がったころには頭に大きな二本の角を持つ怪人が姿を見せた。
 両手のグローブが破れると同時に、垂直の剣のような刃が生まれた。
「正調零式防衛術 葉隠覚悟」
「いちいち義理堅い奴だな! かたっくるしいのは抜きだ! いくぜっ!」
 ジゴクロイドが大振りに刃を振るう。
 壁が削れ、コマンドロイドが数人巻き込まれた。
「己が仲間ごとッ……!」
「仲間だぁ? 虫けらと一緒にしてんじゃねえ!!」
「キサマッ……!」
 ジゴクロイドの冷徹な言葉に覚悟は怒りを示す。
 もっとも、すぐに己が怒りを殺した。
『覚悟ッ! 後ろから攻撃が来る! 避けろ!』
「了解!」
 覚悟がバーニアを全開にして避けた先には、カニの怪人が泡を吐き出していた。
 またも、コマンドロイドごと地面が溶ける。
「おい! カニロイド! てめえ、こっそり後をついてきたな! 邪魔するんじゃねえ!」
「シュシュシュシュ……」
 不気味に笑ったような反応を、カニロイドは返した。
『二対一か……!』
「仔細ない。仲間をゴミのように見捨てる相手、唇に朱をひく価値もない!
悪鬼よ! 俺はキサマらを許しはしない。この拳に懸けてお前らを討つ!」
「ひゃはは! 吼えるじゃねえか!!」
「シュシュシュシュ……」
 強化外骨格『零』のヘルメットのバイザーが下りる。
 ゴーグルが輝き、力が漲った。
「当方に迎撃の用意あり……!」
 稲妻のような覇気が覚悟の周囲に駆け巡る。
132Classical名無しさん:08/10/22 20:21 ID:WMs/EaVw
                               
 見るもの全てを圧倒する気がコマンドロイドの動きを奪った。
 覚悟の正義の怒りが、炎となって吹き荒れる。
 たとえ敵であろうとも、人として扱われる存在には痛みを覚える。
 覚悟は優しく、そして強い男だった。だからこそ、零の痛みを理解できた。
 ゆえに、その瞳に喪っていった仲間が宿る。それこそが、覚悟が戦える理由であり、信念だった。
 だからこそ覚悟は、強敵を二体も前にして、一歩も退かなかった。
 ゆえに宣戦布告の言葉は一つ。

 ―― 覚悟完了



【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】


【ジゴクロイド@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]健康。怪人態に変身中。
[装備]なし。
[道具]なし。
[思考]
基本:大首領の復活。
1:覚悟を嬲る。
2:この状況を愉しむ。
3:独歩の死体の在り処を探る。
134Classical名無しさん:08/10/22 20:21 ID:WMs/EaVw
                       


【カニロイド@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]健康。怪人態に変身中。
[装備]なし。
[道具]なし。
[思考]
基本:大首領の復活。
1:覚悟を嬲る。
2:この状況を愉しむ。
3:独歩の死体の在り処を探る。


【葉隠覚悟@覚悟のススメ】
[状態]:全身にダメージ小。疲労小。首輪が解除されました。
[装備]:強化外骨格『零』@覚悟のススメ
[道具]:大阪名物ハリセンちょっぷ 滝のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS(ヘルメットは破壊、背中部分に亀裂あり)、首輪(覚悟)
[思考]
基本:牙無き人の剣となる。この戦いの首謀者BADANを必ず倒し、大首領を殺す。
1:目の前の怪人二体を倒す。
2:別れた仲間と合流。
3:葉隠四郎を必ず倒す
4:ヒナギクを愛さない
【備考】
※零と一体になる事に迷いはありません


【対主催者グループ共通思考】
『大首領を殺す作戦』
1:大首領を強化外骨格の中に降ろしてから、成仏鉄球で成仏させる。
2:そのためには大首領を弱らせる必要がある。
3:強化外骨格内部の死者ならば、大首領を内側から攻撃できる可能性が高い。
136Classical名無しさん:08/10/22 20:22 ID:tHMWa6N2
 
137Classical名無しさん:08/10/22 20:22 ID:dckPpLnE
 
138Classical名無しさん:08/10/22 20:22 ID:WMs/EaVw
  
139 ◆KaixaRMBIU :08/10/22 20:22 ID:eQ6927rQ
投下終了しました。
多くの支援ありがとうございました。
感想指摘お待ちしております。
140Classical名無しさん:08/10/22 20:23 ID:WMs/EaVw
                         
141Classical名無しさん:08/10/22 20:23 ID:dckPpLnE
 
142Classical名無しさん:08/10/22 20:36 ID:WMs/EaVw
投下GJです!

……お、おもしれええええww
独歩が死ぬのは予想外だったけど、彼は最後まで空手家だったぜ。
戦いの中で、再生ジェネラルシャドウの戦士としての心意気を目覚めさせてしまったかもしれないが……
そのシャドウもかっこいいなあ。かがみんに攻撃をしないあたり、シャドウらしいw
ZX頑張れ、シャドウにストロンガーの後輩の力を見せてやってほしいぜ。
神父も、遂に緑色と融合。ジョセフと服部はどうなるのか……百年の因縁にどうケリがつくか、これも期待!
エレオノール・ヒナギクVSカマキロイド、なんだかんだ暗闇の子は強いけど、何とか頑張ってほしいとこだ……
んでもって、覚悟VSジゴクロイド・カニロイド。一見不利な状況だが、覚悟には零という相棒が。ああ、これまたどうなんだろう!

どのパートも目が離せねええええ! もっかいGJ!
143Classical名無しさん:08/10/22 20:38 ID:tHMWa6N2
本投下乙です!
 
独歩おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
とうとう最終決戦、もうwktkが止まらん。
対主催者グループもシャドウもどいつもかっこよくてGJ!!
144Classical名無しさん:08/10/22 20:44 ID:dckPpLnE
自動人形とバツグンに相性の良い波紋戦士ジョセフ!人形破壊者の本領発揮だしろがね!
狂威の判断力アカギ!仮面ライダーZX!覚悟with零!
そして……武神・独歩ッッッ!!
頑張った。肉体ひとつで頑張ったよ……熱い漢だった。
ただ、相手が……『この』シャドウさんじゃあ……

ジョースターとプッチの因縁ッ!襲い来る暗闇の子らッ!
捕らわれのかがみん!どうなるんだ、アカギ!
2対……『2』の覚悟ッ!

熱かったッッッッ!最高ですッ!
これ以上に言えないくらい超ッッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜GJですッッ!!
145Classical名無しさん:08/10/22 21:23 ID:og3nmsb.
投下乙!!
ついに本拠地突入だ!
独歩という貴重な戦力を失ったのは痛いがその程度で怯む漢達なものか!
自動人形戦といい、雷雲突破戦といい全員で戦っているという感じがすごくよかったです。
各々が敵重大戦力と交戦する中どれほどの漢が生き残るのか……姿見えぬ大首領は…パピヨン達の暗躍は…
次回も期待!
146Classical名無しさん:08/10/22 21:28 ID:WIqpy3Tg
投下乙!
おお!これは盛り上がってきたーーー!!
シャドウ登場と独歩ちゃん死亡には驚かされたけどこれは良い死に様……独歩ちゃんお疲れ様。
やはり入り乱れての乱戦は読んでるとこれからにワクワクしてきた!
計四つのパートに分かれた戦いの行方は……うーん続きが待ち遠しい!w
GJです!!
147Classical名無しさん:08/10/22 21:41 ID:imNSVh.s
投下乙!
貴重な脱ぎキャラが逝ったか…独歩ちゃん乙!
そしてついに本拠地突入、どのパートも熱いな。
特に赤木…死線を与えることが出来ないとか、不敵すぎw
Gjでした!
148Classical名無しさん:08/10/22 22:24 ID:DdB27fGo
戦士に敬礼!!
独歩……、立派な最期だった!!

そしていよいよ最終決戦の幕開けか。
立ち塞がる無数のボス級キャラを退けて、大首領打倒がなるか!?
いや、彼らならやってくれる!
燃えてきた!!
子供時代、特撮を見ていた時の気持ちで、参加者たちと書き手方に心の底から応援を送るぜ!!
GJ!
149Classical名無しさん:08/10/22 22:43 ID:FSlAV6nQ
まずタイトルでやられた。良いタイトルだ……素晴らしいチョイスです

服部の台詞が他にも色々ある中「特攻する」なのが凄い嬉しかった
服部と赤木が作戦の軸に居て、覚悟、村雨、ジョセフ、独歩、ヒナギク、かがみがそれぞれに動いての突入
列車での戦闘の臨場感は本当素晴らしい、あっちもこっちも大変だーってな感じで読んでてハラハラしました
要所要所に散りばめられた各人の得意技とかも読んでて嬉しすぎたです
そしてジェネラルシャドウ……君この期に及んで新たに把握必要なキャラってどうよwwwwwwwww
いやするけどね! かっこいいし! 何よりBADANの組織力、層の厚さを感じられてすげぇー嬉しかったし
これだけの人数が、やはり各人らしく輝いて見えるのが素晴らしかったです
最後のバラし方といい、良く考えて書かれているなーと感じました

そしてグッバイ独歩ちゃん。さんざエロ担当だのなんだの言われてきたが、最後まで貴方は僕等のヒーロースーパー独歩ちゃんだったよ……

PSかがみさんへ:お前ライダー絡みに拉致されすぎだwwwwwwwwwwwwwwww
150Classical名無しさん:08/10/22 22:52 ID:yDZuTBok
投下乙。電車内での熱い戦いはとてもよかった。
そして、敵勢力との全面対決。なんだかやばそうだが結構燃える展開かも知れないなあこれ
独歩ちゃん死亡は痛いな。だが最後まで己を貫く様はかっこよかった
151Classical名無しさん:08/10/24 04:31 ID:PeB4V/wI
投下乙!!!!
実に熱い戦いに久々に目から熱い汗が!
そして予想もしなかったシャドウの登場に驚愕!
しかもこのシャドウってもしかしてあの…いや熱い話に野慕はいいっこ無しだなw
とにかくGJ
152Classical名無しさん:08/10/24 22:22 ID:kd/vHljk
書き手もそうだがおまえらも感想書くのうまくね?
153 ◆1qmjaShGfE :08/10/24 23:11 ID:vc6PSrps
「集結」において矛盾する描写を発見しました
ジョセフが顕現したスタンドを、周囲の人間が見れている(スタンドは首輪の制限が無い場合、スタンド能力を持たぬ者には見えない)事にする描写を加えようと思います。
具体的には大首領の能力によって首輪に付けられた(←以前の文章内にある内容です)スタンド適正付与の効果は、他の首輪の効果とは違い、首輪を外しても、首輪が近くにあれば適正の無い者にもスタンドが見える程度には影響を残している、という形にしようと思ってます
これに関しては、スタンドが見えないとなると、あまりにスタンド能力者が強くなりすぎてしまう為、こういう落ち着け方を考えました
その後に投下された二作品を確認しましたが、スタンドを発動してる描写は無く、修正は「集結」の分のみで済むと思われます
投下前に気付くべきでした、申し訳ありません
154Classical名無しさん:08/10/24 23:17 ID:rLaZmYzE
把握です。
現状ではどの程度首輪から離れれば、効果がなくなるかは不明ということですね?
155Classical名無しさん:08/10/25 00:57 ID:0XdJS5DY
了解です。
修正頑張ってください。
範囲は実際に書く時に臨機応変に決めれば良いかな。
156Classical名無しさん:08/10/25 18:46 ID:GnwmMX8Y
書き手不足
157Classical名無しさん:08/10/25 19:20 ID:.eOAgWWQ
なら増やすために書き手になればいいじゃない
158 ◆1qmjaShGfE :08/10/28 22:45 ID:UXVD3yh2
>>153の修正分一時投下スレに投下しました。少しの修正にこんなにも時間をかけてしまい、申し訳ありませんでした
159 ◆KaixaRMBIU :08/10/30 18:53 ID:7Li5ty3I
パピヨン、アレキサンドリア・パワード、三影英介、ジュクの秀、暗闇大使、大首領、葉隠四郎
投下します。
160虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 18:54 ID:7Li5ty3I

 液体が満ちている光景を三影はまた見ることになった。
 いや、これは『今の三影』が見たことある風景ではない。
 ガモン共和国に向かう三影は、ライダーダブルキックによって再生カプセルに入れられた過去はないはずなのだ。
 なのに……今身体を再生していく三影英介には見覚えのある風景だと、断言ができる。
 それどころか、彼の知らない映像が浮かんでは消えて、浮かんでは消えていった。
 ZXが裏切り、凄まじい憤怒に駆られた光景。
 ZXに向けて砲身を向け、弾を撃ちはなった映像を。
 そして、腰を抜かしていた少年との出会いを。
 白い虎となり、Xライダーを砕いていく姿を。
 アマゾンを追い詰めていく姿を。
 ZXとの決闘、そして次第に死に近づいていく自分。
 十人ライダーに、バダンを守るために立ち向かった矜持。
 そして、最後の光景は赤く光るZXキックだった。



「未来のタイガーロイドの肉体だと?」
『正確に言うと、ちょっと違うけどね。秀君が密かに回収していた『秀君の時間軸のタイガーロイド』の肉体で『プログラムに参加したタイガーロイド』を修復していたのよ。
とにかく時間がなかったから……。だからこそ、ほぼ完成の状態でアナタに見せることができたわ。肉体はね』
「ふん……。俺の使う錬金術の技術なら、六時間もあれば蝶・完璧に仕上がることができる」
「本当かよ!」
 秀が嬉しそうに声をかけてきた。とても先ほどまで、ミートパイの外見に対して吐きそうになっていたとは思えない。
 その間もパピヨンはミートパイを口に放り込みながら、機械の操作を行なっていた。
 もともとアレキサンドリアの部屋には、パピヨンの本領発揮できる錬金術用の機材がある。
 それに、パピヨンはバダンの技術を得るために動いている。
161虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 18:55 ID:7Li5ty3I
 本領の錬金術により再生を加速させつつ、バダンの技術を得ることができる現状は悪くはない。
 むしろ好都合ともいえる。
 部下を得て、バダンの技術を同時に得れるのだから。
 六時間。
 おそらく連中が突入して、バダンと対決して決着がつくころだろう。
 どちらが勝つにせよ、大きく疲弊している時だ。殴りつけるタイミングとしては好都合。
 このまま元の世界に戻り、タイガーロイドと(そのおまけとして)秀を配下にし、全てを支配するのも悪くはない。
 その過程としてどうしても欲しいのは、異世界を移動する技術。
 そして洗脳装置である。
 元の世界には、『パピヨンの時間軸のカズキ』を始めとした、錬金戦団がいるのである。
 その戦闘力に対抗するには質と数、両方そろったものが望ましい。完全にこちらに洗脳する装置であるなら、記憶のすり替えも行なえるのではないか。
 何も相手の記憶全部を塗り替える必要はない。
 人の芯となるものに、自分への忠誠を入れ替えるだけで最高の手駒となれる。
 洗脳技術にもともとそれが可能ならそのままいただく。完全に塗り替えることしかできないとしても、自分が目指す洗脳装置の完成の参考になるだろう。
 パピヨンは左手でキーボードを操作して再生液の割合を変えながら、右手で『ホムンクルス用のミートパイ』を口に放り込んだ。


 それから二時間ほど経ったころだろうか。
 サザンクロスが揺れる。何が起きたのかアレキサンドリアに尋ねると、侵入者が現れたということだ。
 計算どおり。パピヨンは笑顔を浮かべるが即座に、
『悪い顔ね。まるで悪人のようだわ』
「フン! この蝶・素敵なカイザースマイルに文句をつけるとは、センスがないな」
『アナタにセンスを問われるとはね……』
 アレキサンドリアが呆れた声を発して、うとうとしている秀に毛布をかけるようお願いした。
 パピヨンはフンッ、と鼻を鳴らしてぞんざいに毛布を投げ飛ばす。
162虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 18:56 ID:7Li5ty3I
 頭から被ったからだろう。秀はもがいて空気を求めるように顔を出して、大きく呼吸した。
「何しやがんだ!」
「間抜け面をさらして寝るお前が悪い。体力を休めておけといっておいたが、寝ろとまでは言っていないしな。
キサマが仮面ライダーと呼ぶ連中まで来たぞ」
「ついに……」
「準備しておけ。場合によっては、キサマのヘルメスドライブが必要となるのだからな」
 ぶるぶるっと秀が震えているが、恐怖ではない。おそらく武者震いの類だ。
 どうしようもなく無能な秀だが、パピヨンはその心意気は買っている。今更侮りはしない。
「どうした? 震えているぞ。今更怖くなったか」
「う、うるせえ! 武者震いだ!!」
 とはいえ、からかうのは忘れない。これは趣味みたいなものだ。
『どうやら彼ら、分散するみたいね』
「分散? 別れて敵のいる場所を探る……まあ悪くない手だな」
 パピヨンは悔しげに告げた。悪くないどころか、良手である。
 バダンに対しても、パピヨンたちに対しても。
 サザンクロスの内部を知らない彼らに、戦力を分散して探ると言うのは正しい。
 そして、戦闘力はあるが甘い偽善者どもに対して、誰が死んでも精神的負担を減らすことができる。
 さらに、パピヨンは分散した隊のどちらに攻め入ればいいのか、判断ができない。
 どちらのチームに割り込むことで、自分が必要とする技術を得ることができるのか。
 判断材料が少なすぎるのだ。
(俺が一番攻めたいところは……秀から聞いたバダン最高幹部。暗闇大使のところだな。
……技術を総括する場所でなら得られるものも多い)
 もっとも、不安な点もある。単純に戦力が足りない。
 部下もそうだが、パピヨン自身の戦闘力の底上げも目下のところの課題である。
(一番いいのは、黒い核鉄を胸に埋め込むこと……)
163虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 18:58 ID:7Li5ty3I
 制限の解けた今なら、あるいはヴィクター化も可能だろう。
 今までその手をとらなかったことが、己自身にも不思議でしょうがない。
 エネルギードレインは確かに改良の余地があり、不便ではあるがヴィクター化をするべき、追い詰められた場面はあった。
(未練だというのか……? この、カイザーパピヨンが)
 まだ人間への……『蝶野攻爵』という名への未練があるのだろう。
 女々しいとも、愚かともいえる。パピヨン自身、己の執着を疎ましく思った。



 軍服を身につけた男が、足音を鳴らしてサザンクロスの通路を歩く。
 背筋を伸ばし、五十代風のきっちりした軍人の印象だが、齢百十九歳となる。
 独自の技術で肉体の老化を緩めているのだ。彼の後ろに並ぶのは、コマンドロイドと化した瞬殺無音部隊。
 超鋼の鞄を持ちながら、葉隠四郎はただ一度、後ろに担がれている鎧を見つめた。
 プログラムの会場から持ち出した強化外骨格『凄』と核鉄を組み込んだ召還装置。
 爆発装置は解除してある。暗闇が優勝者を迎えて、大首領の降臨を計画しており、その前準備なのである。
 とはいえ、後は核鉄に向かって武装錬金と呟き、巨大なロボをエネルギーへと変換して大首領を強化外骨格『凄』へと降ろす。
 肉体の確保も忘れてはならない。装着するもののない強化外骨格など、ただの頑丈な鞄に過ぎない。
 黒光りする超鋼によりできた鎧は、JUDOのかつての姿を模していた。
 ただし、中身は違う。ZXと強化外骨格の特徴を併せ持つ、最強の鎧だ。
 装着者の意思を乗っ取るのでなければ、葉隠四郎自身が己の鎧としたかった。
 もっとも、あまりにも高度な鎧のため、JUDOほどの格がある存在でなければ宿ることに意味を成さないだろう。
 だが、内部にはロンドンを埋め尽くす死者を内蔵する吸血鬼がいる。
 数と質、両方を持ちえる強化外骨格『凄』に向かう敵はない。
 そして大首領による四郎の世界を得る約束。神国の建国が、四郎を突き動かす。
 辿り着いた一室に強化外骨格を準備させる。葉隠四郎の狂気は止まらない。
164虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 18:58 ID:7Li5ty3I



 パピヨンたちが長足クラウン号の突入を聞いて待機している中、再生カプセルの中に異変が起きる。
 液晶画面に表示される文字列を頭に叩き込みながら、パピヨンは再生カプセルへと視線を向けた。
「こいつ……もう目覚めている……ッ!」
「!? どういうことだよ! パピヨン!!」
 秀が焦った声で告げるが、パピヨンは余裕を崩さなかった。
 その様子に秀は腹を立てるが、アレキサンドリアが宥める。
『落ち着いて。秀君。これは……』
「蝶・成功だ。予想以上に俺の研究は完璧だったようだな」
 どういうことか分からない秀に、パピヨンはため息を吐いた。
 そのまま噛み砕くようにゆっくりと告げる。
「いいか? 魂を持たぬものなら暴れたりはしない。こいつは再生途中で目覚め、カプセル内で動いているんだ」
「ってことはつまり……」
「実験は成功だ。タイガーロイド・三影英介は魂を持ってここに再生を果たした!」
「〜〜〜っ!」
「待て」
 パピヨンの成功宣言と同時に嬉しさのあまり飛び上がり、駆け寄ろうとした秀の足をパピヨンは引っ掛ける。
 秀が非難の視線を送るが、逆にパピヨンが頭の可哀相な子を見る目で秀を見た。
「な、なにがいいたいんだよ!」
「フン。少し考えれば分かるだろう? 奴は状況を飲み込めていない。
下手にはしゃいで余計な混乱を招くな。説明は俺がする」
 ぐっ、と自分を抑えながらパピヨンに場を譲る当たり、まだ自制心は残っていたようだ。
 とはいえ、ぶつぶつ文句は言っているが。
165虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:00 ID:7Li5ty3I
 パピヨンとしては、現状猫の手も借りたい。体力を抑え、奇襲するためには秀は必要な駒だ。
 その駒を三影の混乱によって喪うわけには行かない。
 それに、三影英介はパピヨンの部下として合格。
 彼を丸め込むために、優位な位置は確保したかった。
 パピヨンは再生カプセルへとゆっくりと歩みを進めた。


 突如目の前に広がる液体に、三影は強化ガラスを殴りつける。
 ここがどこだかは知っている。本来の記憶にはない再生用カプセル。
 自分がここに使っていたときの記憶はある。未来の自分の記憶。
 だからこそ、彼は叩く。自分が起きていることに気づけ。
 自分はまだ、戦えるから。
「そう逸るな」
「キサマは……」
 ガラスの向こう側のパピヨンに声をかける。自分の……いや、未来と過去のいずれにも、見覚えのない男だ。
 前分けの黒髪に、パピヨンマスクの男。噛み砕こうと牙を剥き出しにする三影に、パピヨンは恐れず話しかけてきた。
「俺の名は蝶人パピヨン。人型ホムンクルスだ。力を求めて虎となった男・三影英介」
 三影は突然の自己紹介をする男を、今度はもっとじっくりと観察する。
 キサマのことは何でもお見通しだ、と言いたげな視線が癪に障るが、その感情を一旦置く。
「で、そのパピヨンとやらが、俺に何の用だ……?」
「そうだな。キサマはこの殺し合いで死んだ。それを蘇生させたのは、俺だ。
用件を言う。俺の部下になれ。いい目を見せてやる」
 はっきりと要求を告げる男に、反吐が出そうになる。
 三影が忠誠を誓うのはバダンのみ。バダンに己の正義論に相応しい力を見出したのだ。
 それを、ひ弱そうな青年が部下になれといってきた。怒りが三影に駆け巡る。
166虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:01 ID:7Li5ty3I
「ご立腹のようだな。だが……聞け、三影英介」
 パピヨンが強化ガラスに手をつけて、次第に狂気に染まる瞳を近づけてくる。
「お前が理想を見出したバダンに……いや、『現在』のバダンにお前の求める力はない!」
「なんだと……?」
「お前がなぜこのプログラムに参加させられて、そしてバダンがいかに弱体化したかを語ってやる。聞け」
 そしてパピヨンは、三影に次々と真実を打ち明けていった。


 パピヨンから聞いたことはそう多くはない。
 このプログラムが大首領復活のために開催されたこと。
 主催がバダンであること。
 三影が、そのバダンに捨てられたこと。
 秀やパピヨンが、三影を蘇らせたこと。
 何より……
「たかが数人の参加者に首輪を解除され、攻め込まれている。
村雨やキサマを一度倒した葉隠覚悟がいるとはいえ、数人の人間の侵入を許す。
お前が理想を見出していた組織の力がないことは、明白だ」
 沈黙を保つ三影に、パピヨンは容赦なく続ける。傍から見れば三影を追い詰めるように見えた。
 事実、秀が動き出す。
「パピヨンッ! もういいだろう!!」
「……俺に任せろといったはずだが?」
「兄貴を追い詰めて楽しいかよ! 俺はそんなこと頼んじゃいねえ! 大丈夫だ、兄貴。俺がついているから……」
 それでも、三影は沈黙を続けた。次第に秀の表情が不安で覆われる。
「あ、兄貴……俺のこと分からないのかな……? あ、ああ……それでもいいんだ……。
俺、ジュクの秀……いや……」
167虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:02 ID:7Li5ty3I
「小島秀紀……迷惑をかけたな。よくやった、秀」
「あ、兄貴……! 分かるのか……? 俺のことがッ!!?」
 身体を震わせ、涙を浮かべる秀が強化ガラスにかぶりつく。
 三影は再生液の中で、相変わらずの表情だった。
『ッ!? アナタ記憶が……?』
「どういうことだ? のーみそ。三影英介は、こいつと出会う前の時間軸から呼び出された可能性が、高いんじゃなかったのか?」
『ええ……タイガーロイドは改造を何度も重ねているの。プログラムに参加したタイガーロイドは、最初期の……秀君と出会う前のはず』
「……俺にも分からない。だが、俺の知らないバダンの末路が……ZXとの決着が、俺の記憶にあった……」
「ZXと決着……もしかして兄貴、俺に最後に言った言葉を覚えている?」
「……時空破断システムを守るために出撃する俺に……お前は自分も連れて行ってといったな。俺は……」
 秀が感激に満ちたまま、三影の発言とあわせる。
 二人の声が重なり、最後の言葉を告げた。

「「お前もいつか、力をつかめ……」」

 三影はこんな穏やかな記憶に不思議に思いながらも、悪い気分ではなかった。


 未来の三影英介はZXと同じくパーフェクトサイボーグだ。
 詳細名簿の情報によると、同じくパーフェクトサイボーグのZXは記憶をメモリーキューブに宿していたらしい。
 つまり、未来の三影の記憶をパーフェクトサイボーグはメモリとして残していたのだ。
 アレキサンドリアの推測によれば、未来の三影の身体を使ったことにより、二人の三影の記憶が合わさるという奇跡が起きたということだ。
 もっとも、パピヨンには原理が分かれば後は興味ない。
「で、せっかくの再会だが、返事を聞かせてもらおう。もっとも、お前には選択肢は一つしかないがな」
 パピヨンの声が冷酷に響く。もともと、自分の戦力にならなければ殺す、の一択だったのだろうか。
168虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:03 ID:7Li5ty3I
「だが悪い話ではない。俺は力がある。単純な戦闘力だけじゃない。キサマを蘇らせる技術がある。
錬金術を生み出す頭脳がある。世界を牛耳れるプランもある。この俺につけ、三影英介」
「キサマにその力があるというか……」
「そうだ。事実キサマは俺に命を握られている。判断の余地もない。
今の俺はキサマの大首領だ」
「パピヨン! てめえ!!」
「やめろ……秀」
 三影の声色に秀は黙る。この落ち着いた態度。三影は常に堂々と秀の前を走り、その背中を見つめているだけだった。
 その三影の静止だ。悔しくても秀には黙る以外手は残されていない。
「パピヨン……キサマの提案を受けることはできない」
「ほう」

「俺の心はバダンにある。力の理想としてバダンを俺の居場所と、他の誰でもない『俺』が決めた。
世の中には偽善者が多すぎる。力がありながら、その偽善者を守る強い偽善者を……仮面ライダーを打ち砕く力を得た。
俺はバダンの牙として偽善者どもを潰す。そのためなら、この身がどうなろうと構わない!
だが、暗闇をそのままにしておく気はない! バダンを貶めた罪はその身で味わってもらう!」

 三影は言葉をいったん切り、怒りに燃える。
 その大首領を、バダンを歪めたのは、三影を切り捨てたのは、暗闇大使。瞳の炎が一際大きく燃え上がる。

「そして……俺が、いや、俺たちが大首領を復活させる! 俺たちのバダンを取り戻す!!
パピヨン! キサマはバダンの技術を手に入れるのが目的だったな。邪魔はしない。
それどころか手に入りやすくしてやる。だから俺をここから出せ! 俺が……奴らを砕く!!」

 虎が吼える。三影の忠誠はバダンへと向かっていた。
169虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:05 ID:7Li5ty3I
 たとえその力が幻想であっても、間違いであっても、三影英介は信じた。
 バダンの力を。偽善者のいない世界を。


 パピヨンは三影の両の眼を逸らさなかった。三影の忠誠の強さは、パピヨンの計算内だ。
 そして、予想以上の偽善者と暗闇への嫌悪。
 その二つの感情があるだけで収穫だ。
 大首領の身体になると告げたのは意外だった。己の意思を失うことを告げてもその意思を変えない。
(なんともまあ、頑固な奴だ。武藤を悪に偏らせたような奴だな。適当に妥協点を探りたかったが、ここまで意志が固いと……『意思』?)
 パピヨンはふと、強化外骨格とそれに宿す大首領に思考が及ぶ。
 もしもだ、強化外骨格を纏うことになれば、パピヨンが求める肉体強化につながるのではないか?
 とはいえ、意思が乗っ取られることはアレキサンドリアより聞いている。
 だが、もしも鎧を纏っても意思を乗っ取られず、覚悟のように纏うことで力に変えるのなら、好都合ではないか。
(試してみる価値はあるな……)
 あの大首領の力を得られるのなら、平行世界の移動も容易となる。
 また一つ帝王の道へと歩むことになれるのだ。
「……三影英介、キサマに破格の条件を与えてやろう」
「なに企んでいるんだッ!」
「秀、今はキサマと話していない。三影英介と話をしている!」
 パピヨンは切って捨てて、さらに一歩前に出る。狂気が瘴気となってあふれ出た。
「キサマを戦える状態で出してやる。本来ならあと四時間必要だが……二時間、いや一時間に短縮してやる。
ただし、調整前で仕上げる分、戦えるのは、変身できるのは一回のみ! 三影英介、俺には俺の目的がある。
その一回を、俺に利用されるというなら開放してやる!!」
 ど・う・す・る、と唇の形をゆっくり作り、パピヨンは問う。
 三影ほどの男なら、パピヨンは大首領を利用することを考えていると警戒するだろう。
170虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:07 ID:7Li5ty3I
 その上で、話に乗るのならよし。戦う機会を逃す臆病者などに興味はない。完全調整の上で部下になるのが、一番望ましい結末だ。
 パピヨンは静かに三影の返答を待った。


「答えは決まっている。俺を解放しろ」
「兄貴!」
 秀はうろたえ、三影に声をかける。
「兄貴、考え直してくれよ! せっかく、兄貴は万全の状態で復活できるんだぜ!
たかだかあと四時間じゃないか。こ、ここはさ……万全の状態で俺たちのバダンを……」
 秀の語尾がだんだん弱くなる。三影の決意を曲げることは不可能だと知っているからだ。
 三影は秀が自分のことを理解してくれたのを確認して、再度パピヨンに視線を向ける。
「やはり、その選択を選ぶか」
「当然だ。俺はバダンと共にある」
 三影は一回目を瞑り、決意の炎を乗せて開く。
 ただ、ZXと戦うことができないことだけが、心残りだった。
「いいだろう! 蝶・迅速に仕上げてやる。感謝しろ!」
 えらそうに告げるパピヨンに秀が睨みつけるが、三影は静かに感謝の意を示すだけ。
 ただ一度でも戦えるなら、この身はバダンの大首領へと捧げる。
 三影の意思は変わらない。


 その二人の様子を、秀は黙ってみていることしかできなかった。
 そうすることしかできないのだ。秀はあまりにも力がない。
 目の前の三影と約束した、『力』は遠かった。そのことがたまらなく悔しい。
 己が三影についてきたのは、絶対的な力に、揺らがない意思の強さに憧れたのだから。
171虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:08 ID:7Li5ty3I
 今ここで三影が意志を曲げるようなら、それはもう三影ではない。
 彼は己が存在意義に従ってパピヨンに戦える準備を終えるよう、望むのだろう。
 秀にできることは、奇襲のためにヘルメスドライブを使って戦地に送るだけだ。
 またあの日の二の舞だろうか? 秀は三影が死んだ日を思い出す。
 ZXと一対一で決着を着けるといい、ZXキックに敗れた三影の姿。
 秀の脳裏に刻まれているそれを、またも繰り返すのであろうか。
(そんなことはさせねえ……)
 秀はパピヨンに近づき、その頭に向かって鉄パイプを振りかぶる。
 殺しはしない。四時間ほど眠ってもらうだけだ。秀がパピヨンに向かって、内心すまないと呟いた。


「キサマが心配しなくても、わざわざ復活させた男を死なせるような真似はしない」
「…………ッ! おまえ……!」
 秀が不可解な表情を浮かべるが、パピヨンには考えがある。
 変身したところで、機械部分と生体部品の脳に負担がかかり、オーバーヒートを起こす。
 死に至るまでには猶予があるのだから、回収して再度調整をかければいい。
 もっとも、戦闘力は落ちるだろうが。
(しかも三影はJUDOとやらを復活させようと動く。気になるのは、強化外骨格は意思を乗っ取るといってもどの程度かだ?
意思の顕在具合によっては、俺の戦力になるかもしれない。三影英介にはその実験台になってもらおうか)
 まったく意思を塗り替えられるなら、パピヨンには必要のないものと判断できる。
 それに、パピヨンを巻き込み、見下している暗闇らに一泡も二泡も吹かせてやりたい。
(そうだ。奴らに意趣返しをするのは、何も三影たちだけではない。バダンの幹部ども。この俺がキサマらに屈辱を味わわせてくれる)
 ニヤリ、とパピヨンは笑う。やられっぱしは帝王が取るべき道ではない。
 借りは返さねば。最悪の形で。
172虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:09 ID:7Li5ty3I



 時の牢獄。JUDOは己を閉じ込める暗闇の中を上下左右飛ぶ。
 特に理由はない。いつも行なうただの暇つぶしだ。
 暗闇の一角に、映像が浮かぶ。内容はサザンクロスに、赤木たちが乗り込んだもの。
 期待通り……いや、期待以上の彼らの働きに、この度し難い退屈を紛らわせることができるのではないか。
 JUDOの心に漣が起きる。たかだか虫けら【ワーム】と蔑んでいた連中の抵抗にだ。
 ただの虫けらだけじゃない。己を同類と呼んだ赤木がいる。
 なぜか奴だけは、虫けらと呼ぶ気が起きなかった。
「ほう、うぬが我に用があるとは、珍しいな。ツクヨミよ」
『…………JUDO』
 ツクヨミと呼ばれた、JUDOとほぼ同じ姿をした亡霊を前にして笑う。
「ツクヨミ。キサマがいかに手を尽くそうが、無駄だ。我はもうすぐ蘇る。
そして、反逆者……仮面ライダーはZXのみ。我を止めるものはおらぬ」
『だが……お前は止められたがっている。彼と出会ってから』
 ククク……とJUDOはツクヨミに返すだけだった。その様子からは真意をはかることはできない。
 いや、JUDO自身も始めて湧き上がる感情に、自分の本心を完全には理解できていないのかもしれない。
 赤木との再会は、己が肉体と赤木を定めたものなのか、新たな肉体を持って再会したいものなのか、自分でも分からないのだ。
 だが、JUDOは確信している。
 どちらにしろ、赤木を前にすればその答えが自然と見つかると。
「ツクヨミ……うぬの封印も、我が『進化』と共に無意味なものと化してきている。
だが、奴と再会するのにはそれでは間に合わぬ」
『だからこそ、降臨の儀式を急がせたか』
「キサマの思惑は叶わない。我は今度こそ、この退屈から解放をされる……。クククク……」
173虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:09 ID:7Li5ty3I
 JUDOの視線はもうツクヨミには向いていない。
 カマキロイドと対峙する、赤木へと熱を持った眼差しを向けていた。
 復活の日は近い。


【空間の牢獄 二日目 午後】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:空間の牢獄を脱出する。
1:赤木との再会。
2:肉体を得る。そして、赤木のいう「酔い」を味わう。
【備考】
※大首領はあくまで、「肉体を得る」ことを優先しています。
※強弱は拘っていません。また、バトルロワイヤル開催の理由は、ただの戯れ。
※一時的に牢獄を脱出できましたが、持続的ではありません。明確な理由は不明です。



「ほう……短時間でよくも準備が整ったものだ」
「プログラムの終了と聞き、速やかに準備を済ませた。後は大首領を降臨させるのみ!」
 指示を飛ばす四郎の元に、暗闇が靴音を響かせながら近寄ってきた。
 四郎は首輪をはめているとはいえ、暗闇の下につくことを嫌い、大首領の特別な計らいで幹部待遇をもらっている。
 本来、この位置は大首領の親衛隊のジェネラルシャドウがつくはずだったのだが、暗闇の破れた組織への侮蔑のために再生怪人の隊長程度の地位にされたのだ。
 もっとも、四郎はその事実に対して興味を持っていない。
 あくまでも目的は神国再建。鬼畜米英の排除である。
 凄を元に、高性能で生産性に優れた強化外骨格、及び戦術鬼の開発も進んでいる。
 バダンの軍事力と技術力を幾分か提供してくれることも、確約済みだ。
 それに、霞を超える凄の誕生を見届け、世界を牛耳る覇王の姿には確かに興味があった。
 JUDOはまさに神に相応しい力の持ち主である。そういった存在に治められる世界とは、さぞかし居心地がいいのだろう。
 優良人種しか生き残らず、劣等人種や非国民はたちまち排除される。
 頂点に立つ神は老いず、死なず、負けず。
 四郎の顔が悪意に歪む。己を悪と自覚しない、もっとも唾棄すべき悪鬼の顔。
 暗闇とならぶ四郎の悪意は留まるところを知らなかった。


 暗闇は目の前の情景を、待ち望んでいた。
 前の最終決戦では、大首領は降臨したもの、十人ライダーのライダーシンドロームと命によって封印されたのだ。
 今度はそんな間違いは犯さない。仮面ライダーもZX一人。
 サザンクロス内部に乗り込み、なにやら騒がしいがそれも時間の問題だ。
 たかが人間、この暗闇の子らに勝てる道理がない。
 独歩の身体を得て、大首領を迎える準備は整える。
 暗闇はニタァ……と笑い、吉報を待った。
(そういえば、伊藤博士はどこにいる?)
 ZXたちが乗り込んで以来、姿が見なくなっている。とはいえ、彼の出番はまだ遠い。
 彼が必要となるときに呼び出し、最終段階へと入ればいい。独歩の身体もまだなのだから。
 暗闇は用意された、専用のソファに身体を深々と沈め、血のように赤いワインを口元に運ぶ。
 大首領が頂点に立つ世界で、NO.2の座を約束された男・ガモン。
 もうすぐ、待ち望んだ世界をこの手に収めることができる。いや、大首領の力が増した以上、平行世界すらも。
 ダモンに裏切られ、失った命を大首領が拾ってくれた。
 暗闇の命は大首領復活のためにある。己が安寧の支配者となるためにある。
 大首領を通し、愚かな人間どもを蹂躙する。
 それこそが、暗闇の求めるもの。
「ガモン様、準備が整いました」
「うむ。このまま待機だ。後は……優勝者の身体のみ」
 蹂躙されるサザンクロスを尻目に、暗闇は悠然と告げる。
 以前のように、サザンクロスのダメージが自分に伝わることはない。
 新たな身体を得たときに、ある程度切り離せるようにしたのだ。
 前回、十人ライダーが乗り込んだとき、要塞のダメージが暗闇にダイレクトに伝わって大首領を守りに向かうのに間に合わなかった時の教訓である。
 ゆえに、暗闇が死んでも要塞サザンクロスはある程度維持できる。
 ゆったりとしている暗闇の前に、何か黒いものが横切る。
 何か、と暗闇が思ったそれは、ひらひらと舞い降りてきた。
 黒い蝶。
 暗闇がそう認識した時、黒死蝶が爆ぜた。


 もくもくと煙が広がる玉座にて、三影は内心大首領に玉座を汚すことに謝罪をする。
 黒いライダースーツに身を包み、悠然と歩む体躯。
 黒い髪をリーゼントにまとめ、サングラスを光に反射させる虎となる男。
 タイガーロイドこと三影英介が復活を果たしたと共に神が降臨する間を歩いた。
「兄貴……」
「もういいぞ。戻っていろ。後は……俺がやる」
 口に咥えていた煙草を噛み千切り、牙を覗かせる。獣の如く獰猛な表情で、混乱している広間を行く。
 途中、白衣を着た人間がすがり付いてきた。
「た……たすけ……」
 研究員が、幽霊を見るような眼差しを三影に送った。
 そうだろう。三影はプログラム参加者となり、死亡した。
 十人ライダーとの最終決戦で出撃した三影のほうは、とっくの昔に機能停止を確認している。
「み、三影えいす……ッ!」
 三影は腕を振るい、その頭を吹き飛ばした。煙がはれた先には、驚愕の表情のままの暗闇がいる。
 煤で汚れた姿を認め、三影が暗闇と対峙した。
「キサマ……! いつの間に蘇った?」
「お前が汚したバダンを、理想どおりの力に満ちたバダンに戻すため、死んでいられなかっただけだ」
「なに……!?」
「キサマは俺を恐れていた。自分の地位を脅かす、この俺の存在に。俗物が……!
その弱い思考が、バダンの理想を汚す……!」
「吼ざくな。一度敗れた身で、この暗闇に勝てる気とは、失笑。ゆけ、怪人どもよ!」
 暗闇の合図と共にジシャクゲンを始めとした、怪人が襲い掛かってきた。
 三影は鼻を鳴らし、秀に振り向かず告げる。
「秀、例の部屋に戻れ。俺がすべての片をつける」
「い、いやだ! 俺はもう二度と、兄貴から離れねえ!!」
 震えながらも言葉を紡ぐ秀に、三影はそうか、と呟いた。
「お前を守って戦う余裕はないぞ」
「俺を甘く見るなよ、兄貴。俺はとっくに死ぬ覚悟はできている!」
「そうか……」
 三影はざっ、と両腕を交差させた。身体から白い粒子が舞い昇る。
 足元に軽快な音を立てて、サングラスが落ちた。右目はロックオンの赤外線照射装置となっている。
 そう、その姿は最初期のタイガーロイドではない。
 白い霧が晴れ、タイガーロイドはその霧に染め上げられたような白い毛皮を見せた。
 三影の潔癖さを示すようなその姿、白い虎。
 バダンの力を象徴したような虎が、いま目覚めた。


「くっ……爆発とはっ!?」
 四郎は強化外骨格が無傷であることを確認して、ホッとする。
 覚悟たちが突入してきたということだろうか。それにしても早すぎる。
 バダンの怪人たち、特に暗闇の子らの戦闘力は異常だ。そう容易く突破されることはないはずだ。
 つまり、考えられるのは……
「そこっ!」
 四郎は軍刀を一閃させた。機材が刻み込まれた中、飛び退いた人影が姿を見せる。
 その男は知っている。プログラム参加者にして、サザンクロスに一番に乗り込んだ不適な男。
 名前は確か、
「蝶野攻爵……」
「その名で呼ぶな。いまの俺はカイザー・パピヨン♪ もっと敬意をこめて」
 チッチッチ、と指を左右に振り、おどけた様子でパピヨンが挑発する。
 四郎は不快な表情のまま、超鋼のカバンを取り出した。

「瞬着!」

 カバンが開き、外部装甲が四郎の身体にまとわりつく。
 黒光りの強化外骨格『霆』の妖気があふれ出て、パピヨンに迫るが微動だにしない。

 ―― 軍鬼剛臨

「不敬!」
「知るか……」
 桜花の構えを取って、パピヨンと対峙する。
 しょせんは害虫。強化外骨格を持って迎撃するため、四郎が笑った。


 目の前に強化外骨格に包まれた男が現れ、パピヨンは明らかに不機嫌になる。
 葉隠覚悟と同じく、強化外骨格に身を包む男。
 偽善者とは違う。まさしく反吐が出る悪の瞳だ。
 どこか、Dr.バタフライ を髣髴させるような瞳に、苛立つが表には出さない。
 あくまでも帝王は不敵に。その鉄則を守り、ふんぞり返る。
「キサマも技術職のようだな。どうだ? このカイザー・パピヨンの下につくのなら、命だけは助けてやってもいいぞ?」
「ほざけ。若造が! 濃硫酸!!」
 強化外骨格の指先から液体が噴出し、パピヨンは跳んで避ける。
 おそらく、敵はヘルメットの下で笑ってるだろう。なぜなら、
「後ろの奴との連携をするなら、もっと下準備をしっかりするんだな」
「なにっ!」
 パピヨンは後ろから襲ってくるコマンドロイドを、振り向きもせずニアデスハピネスで粉砕する。
 ニヤァ……と笑ってパピヨンは仁王立ちをした。
 一瞬だけ、三影がいる方向に視線を向けて、四郎に対峙しなおす。
(せいぜい強化外骨格とやらを手に入れていろ。お前の結果次第によっては、俺が有効活用してやる)
 パピヨンの狙いは、あくまでも実験だ。
 部下になるのがベストな結果なのだが、三影を物にするには時間が足りない。
 今回得た再生技術は大きい。三影を回収し、その精神の忠誠を自分に向けるようにすればいい。
 それは死体でもいいはずだ。だからこそ、『バダンに忠誠を誓う三影』を実験台として、強化外骨格が使えるものかどうか試す。
 結果がどうであれ、暗闇らの望みどおりの結果を与える気はない。
 状況が悪くなれば、秀のヘルメスドライブを利用して逃げればいいのだ。
 うまくいけば、自分を強化できて、三影という強力な部下を得る。
 一石二鳥の状況をうまく利用する。

(もう……俺は迷いはしない。俺を否定したもの全てを、業火によって焼き払ってやる。
俺が手に入らなかったものを、この手で掴んでやる! キサマらに何一つやりはしない……。
すべて俺のものだ! 俺の……支配すべきものだ!!)

 黒い感情が大きな蛇となって、パピヨンの胸をのたうつ。
 黒い塊は、パピヨンを帝王へと押し上げていった。


【マップ外/サザンクロス内神の間 二日目/午後】

【パピヨン@武装錬金】
[状態]:疲労(小)、ドブ川の濁ったような瞳、帝王への決意、首輪解除済み。
[装備]:ライドル@仮面ライダーSPIRITS、マイクロウージー(9ミリパラベラム弾32/32)、予備マガジン2、
    アラミド繊維内蔵ライター@グラップラー刃牙
    サンライトハート(核鉄状態&首輪巻かれている)@武装錬金
    ニアデスハピネス・アナザータイプ=核鉄(激戦)@武装錬金(ニアデスハピネスとしては消耗中)、
    ヘルダイバー@仮面ライダーSPIRITS、ライダーマンのヘルメット@仮面ライダーSPIRITS
    ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾、残弾1発、劣化ウラン弾、残弾0発)@HELLSING、
[道具]:支給品一式、ターボエンジン付きスケボー@名探偵コナン
    地下鉄管理センターの位置がわかる地図、地下鉄システム仕様書
    ルイズの杖、参加者顔写真&詳細プロフィール付き名簿、首輪探知機@BATTLE ROYALE、
    首輪(鳴海)、解除済みの首輪の残骸×2(赤木、川田)、ツールセット、不明支給品1(未確認)
    アレクサンドリア・パワードのクローン失敗体(人間数人分)
[思考・状況]
基本:BADANを打倒し自らの部下を揃え、蝶華麗なる帝王・カイザーパピヨンとして世界に君臨する。
1:強化外骨格『凄』を自分が使えるかどうか、三影を使って実験する。
2:三影を回収後、洗脳する。
3:BADANを打倒し技術を奪う。
4:ジュクの秀、アレキサンドリア、(回収に成功すれば)タイガーロイド、を帝王の配下に加える。
5:赤木、プッチ、大首領に自分を舐めたことを後悔させる。
6:戦況が悪くなれば、秀とヘルメスドライブを利用して逃げる。
[備考]
※猫草inランドセル@ジョジョの奇妙な冒険、「目に入ったものを全力で破壊する」命令のDISCは、
 パピヨンが逃げる際の囮として置き去りにされ、暗闇大使の手で破壊されました。
181Classical名無しさん:08/10/30 19:16 ID:yQTnt36U



【葉隠四郎@覚悟のススメ】
[状態]:健康
[装備]:強化外骨格『霆』
[道具]:不明
[思考・状況]
基本:『凄』完成、大首領の復活の暁に、自分の世界で神国建国を行う
1:大首領の指示に従う。
2:邪魔者を排除する。
3:覚悟の実力を見定める。
【備考】
※首輪はついていますが能力制限装置はなく、起爆装置のみです。
※血涙島で覚悟と散を待っている時に集められました。




 サイダンプがトラックの如く轟音を上げて突進してきた。白いタイガーロイドは片手で体当たりを受け止める。
 轟音と衝撃により部屋が揺れるが、タイガーロイドは無傷であった。
 だが、サイダンプごと白い糸に絡まれて、身体が縛り上げられる。上空を見ると、スパイダーババンが剣を向けていた。
 サイダンプの拳が脇腹に届く前に、
「ふん」
 拳ごと頭を砕く。だが、それは囮なのだろう。
 スパイダーババンが迷わず剣を振るいながら落ちてくる。スーパー1でも破れなかった糸だ。
 容易く破れるものではない。いや、容易く破れるものではなかった。
 糸を突き破って、スパイダーババンの首が掴まれる。腕からは銃器が生えて、頭を狙っていた。
「この程度の糸で、俺を縛れると思うな……」
 吐き出される銃弾にスパイダーババンの頭が踊る。頭部を失った怪人を捨てて、タイガーロイドはしゃがみこむ。
 ガメレオジンの、カメレオンの舌を模した鞭が通り過ぎた。
 続いて、獣人吸血コウモリの牙がタイガーロイドの肩に食い込んだ。
「兄貴っ!」
 コンバットロイドのスーツを着ながら、銃で敵を牽制する秀が心配そうに声をかけてくる。
 その瞬間、

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 虎が吼えた。


 タイガーロイドの爪が吸血コウモリを三枚におろし、風となってカメレオジンと距離を詰めた。
 苦し紛れにカメレオジンが腕を振り下ろすが、タイガーロイドの牙で噛み落とす。
 手の平からメキメキと音を軋ませて、生まれた砲台を顔に押し付ける。
 火を吐いた手の平の砲が、カメレオジンの顔を吹き飛ばした。
 続けて、身体より四つの機銃が生まれてジシャクゲンを撃った。
 銃弾が磁力によって空中に留まり、届かない。しかし、タイガーロイドの猛進は止まらない。
 後ろに回ったタイガーロイドは反応の遅いジシャクゲンを蹴り砕く。
「ギィッ!」
 その瞬間、どこに隠れていたのかコマンドロイドの大群が四方八方から襲い掛かってきた。
 罠だ。秀がそう告げる前に、タイガーロイドの口角が上がる。ニヤリ、と。
 全身より、レーザー砲の銃口が迫り上がったタイガーロイドは光の線を全身から発した。
 光の放流が神の間を照らす。
 全てを焼き尽くすレーザーがほとばしって、莫大な熱をこもらせた。
 後に生き残っているのは、タイガーロイドと秀、そして暗闇だった。
「ぐぅ……」
「すげえ……兄貴、秒殺だ……」
 秀と暗闇の声を無視して、一歩タイガーロイドは進んだ。
 目的は一つ。大首領の復活。そのために身体を捧げる。そして、理想のバダンの復活。
「覚悟はいいな。暗闇」


「図に乗るな。三影英介」
 バキッ、と教鞭を折り、額に血管を浮かばせて暗闇は怒りを示す。
 すべてはうまくいっていたのだ。『暗闇の望む』バダンの復興への道筋が。
 なのに、ここにきて邪魔が入る。パピヨンを放置していたのは失敗だった。
 まさか、三影英介を復活させるとは。
 そこまで考えて、おかしいことに気づく。三影英介を、パピヨンが突入して復活させるには時間が短すぎる。
 そして、秀だ。彼の顔を覚えていたわけじゃないが、コンバットロイドの強化スーツを纏うのは一人しかいない。
 彼はアレキサンドリアの雑用として貸していたはずだが、ここにいるとなるということは……
(我らバダンを裏切ったというわけか!?)
 と、なると話は早い。対主催者に有利な情報を流していたのは、彼女たちなる。
 パピヨンを潰し、タイガーロイドを潰し、アレキサンドリアを粛清すればすべては終わる。
 大首領の復活の準備を整え、ZXたちを殺す。
 復活の前にZXたちを全員始末するのもいい。
「調子に乗っているのは、どいつだ? 暗闇!」
「ほほう……?」
 タイガーロイドが一瞬にして距離を縮めた。だが、暗闇の想定内。
 繰り出される拳を、暗闇は躱す。
「ぐほっ!」
「鈍いな……暗闇」
 いや、躱したはずだった。タイガーロイドの拳は暗闇にのめりこんでいる。
 そのまま弾丸の如くの拳が次々と暗闇の身体へとつるべ打ちされる。
「グルォォォォォォォォォ!!」
 虎の咆哮が煩わしい。そう考える暗闇の頬に、タイガーロイドの右足がのめりこんで、地面をリバウンドした。
「グフッ……」
 虎の攻撃は止まらない。
 頭を踏みつけようとしたタイガーロイドの足を転がって避けて、電撃鞭を走らせる。
 その一撃はただ空を切った。あっさりと、タイガーロイドに回りこまれて、速さは最終決戦時と遜色ないことを知る。
 咆哮。
 暗闇の鳩尾に拳が突き刺さった。壁にたたきつけられ、息がつまる。
 だが、いつまでもそのままではいられない。念力がタイガーロイドに向かって放たれる。
 その念力は、台座を運んだ機材を押しつぶした。タイガーロイドはすでに逃げている。
 予想通り。
 次の攻撃に暗闇は備えるが、タイガーロイドは遠巻きにこちらを見るだけだ。
 暗闇が疑問を浮かべると、タイガーロイドは静かに告げる。
「脆弱だな。その程度で、バダンの頂点に立つつもりだったのか?」
「クックックック……三影……お前はやはり我が手で殺さねばならぬようだな」
「とっとと姿を現せ。キサマの本来の姿……サザンクロスをな!」
 暗闇がゆったりとタイガーロイドと向き合い、邪悪な笑みを浮かべる。

「後悔するがいい……」

 妖気が神の座に広まった。
 粒子が暗闇の身体から舞い上がり、その姿を変えていく。
 ボコボコと、顔と胴体がドリアンのように殻を量産していく。
 四肢は普段の暗闇と変わらず、鞭を地面に叩きつけた。
「三影……お前も終わりだ」
「終わるのはキサマだ。暗闇」
 サザンクロスの殻から、小型ミサイルがタイガーロイドに迫る。
 機銃によって落とされたミサイルを見届けながら、迫りくる拳を腕を交差して受け止めた。
「ククク……キサマに、神を……バダンを渡さん!」
「そのキサマの脆弱さ……噛み砕く」
 虎が吼えて、暗闇の電磁鞭が閃く。
 互いに、己の理想とするバダンを持って一歩も引かなかった。

【マップ外/サザンクロス内神の間 二日目/午後】

【暗闇大使@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]疲労(小)、全身に打撲。サザンクロスへと変身中
[装備]エニグマのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]不明
[思考・状況]
基本:大首領の命令のままに。
1:『優勝者』愚地独歩の肉体を確保し(できれば生きて、しかし死体でも可)、早急に大首領を降ろす
2:三影とパピヨンをまとめて殺す。
3:他の首輪解除済みの反逆者も、発見しだい殺させる
[備考]
※首輪をつけてます。
※ガモン大佐がつけている首輪には、エネルギー抑制装置、盗聴器、GPSが付けられていません。
※起爆装置は点けられていませんが、付いてはいます。スタンドDISCが使えます。
※プッチに大して少し不信感を抱いていたが、現在はある程度信用しています。
※赤木しげるは、大首領により殺害されたと思い込んでいます。


【三影英介@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康。タイガーロイドへと変身中。変身が解けると戦えない。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]:
基本:大首領を復活させる。己の身体を捧げる。
1:暗闇大使を殺す。
2:ZXと決着を着けたいが、大首領復活が優先。
3:パピヨンの邪魔はしない。
[備考]:
未調整のため、一度しか変身できません。
変身後、再度再生カプセルに入れるまで長時間放置すると、完全に死亡します。




「す、すげえ……兄貴」
 怪人たちを秒殺したのも凄いが、変身を終えたサザンクロスにタイガーロイドは一歩も引かず渡り合っている。
 ごくり、とつばを飲んで、その戦いを瞬きもせず見届けた。
 そこで、秀は一つの事実に気づく。
(暗闇の野郎……首輪がついている?)
 サザンクロスの首には、三影を、パピヨンを、ZXたちを縛り続けた首輪が黒く光っていた。
 そういえば、何らかのスタンドを使うために暗闇が首輪をしていたと聞く。
 秀の腕輪のように、完全に安全な道具にするのはなく、首輪のままで。
 爆薬はどうなっているのだろうか、ふと疑問に思う。
(チャンスかも知れねえ……)
 身体が震える。さっきから怖くてしょうがない。
 だが、ここで男を見せねば、自分は三影についていく資格はない。
 銃を構えて、秀は進む。狙いは……あの首輪だ。

【マップ外/サザンクロス内神の間 二日目/午後】

【ジュクの秀(小島秀紀)@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)。Dr.アレクと三影への信頼。パピヨンへの恐れと信頼。
[装備]:コンバットロイドの強化服、アンダーグラウンド・サーチライト(展開中)@武装錬金、
     闘争心誤読装置・試作型(腕輪型)、コンバットロイド用銃。
     ルリヲヘッド(アレクサンドリアのコントロール下で発現中)@武装錬金
[道具]:核鉄(ヘルメスドライブ)@武装錬金、
[思考・状況]
基本:三影の理想とするBADANつくり。
1:暗闇の首輪を撃つ。
2:三影のサポート。
3:三影を見殺しにしないなら、その後もパピヨンに従って動く。


【マップ外/『アンダーグラウンド・サーチライト』内 二日目/午後】

【アレキサンドリア・パワード@武装錬金】
[状態]:健康。寿命が近い?(正確な残り時間は不明)
[装備]:(ルリヲヘッド@武装錬金)、大量の脳の培養槽
[道具]:研究施設(核鉄関連の設備、再生怪人関連の設備)
[思考・状況]
基本:寿命が来る前に、娘の所に戻って最期の遺言を伝える。そのためにBADANに反逆する。
1:当面はパピヨンに従い協力する。
190 ◆KaixaRMBIU :08/10/30 19:28 ID:7Li5ty3I
投下終了しました。
感想指摘お待ちしております。
191Classical名無しさん:08/10/30 20:01 ID:HZCz4o8E
乙!なんて熱い展開だ。
192Classical名無しさん:08/10/30 23:40 ID:Ko89ILFk
投下乙です!
三影英介復活ッ! 三影英介復活ッッ!! 三影英介復活ッッッ!!!
賛否両論あるかもしれませんが、BADANの戦士アルビノタイガーロイドの復活、自分はありだと思います。
三影の復活により動き始めたカイザー・パピヨンチーム。ヘルメスドライブと秀とアレキサンドリアのお陰で、最初からクライマックス状態!
そして『凄』の利用をも考えるパピヨン……恐るべし、帝王・カイザー!
これでバダン要塞内部は各所で激戦が繰り広げられることになったが……どうなる!?
193Classical名無しさん:08/10/31 00:39 ID:aH9XgfLg
文句なしだぜ、サイコーだ!
ああ、クライマックスだなぁ!
194Classical名無しさん:08/10/31 01:51 ID:dHIr/hkw
投下乙!
まさかBADAN登場後から予想はしていた展開が今ここに!
ヒーローサイドも熱いですがダークサイドも盛り上がって参りました!
果たしてパピヨンはJUDOに成り代わり真のラスボスに成りえるのか!?
三影の忠誠の行方は!? BADANの野望は!?
プッチ神父ではないが世界が加速するゥぅ!
195Classical名無しさん:08/11/01 18:27 ID:3MI4ZkYo
遅くなったけど投下GJ!
後期verのタイガーロイドが来るとは!本当に復活するとは思ってなかったので尚更びっくりw
パピヨンが三影達を己の手駒として利用しようと画策する姿はまさにダークヒーローっぽくてカッコいい!
特にタイガーロイドと暗闇の会話が個人的に好きだなー、確かに暗闇失態が多かったし……w
そして首輪を狙うという作戦に出た秀に何故か期待せずにはいられないw頑張れwww
196 ◆KaixaRMBIU :08/11/05 18:27 ID:2NjrLB6U
村雨良、柊かがみ、ジェネラルシャドウ投下します。
197Classical名無しさん:08/11/05 18:28 ID:7cGkdBfo


 金属と金属がぶつかる甲高い音が、黒い洞窟のような一室に響いた。
 反響する音を無視して、赤い影が地面に軽やかに着地する。
 赤い仮面。緑の複眼。マフラーを風にたなびかせる仮面ライダー。
 正義を掲げ、目の前のトランプの魔人に対峙する。
 一方、全身を白く染め上げるジェネラルシャドウは、ZXへと剣を向けた。
 不気味な顔を透明のフードに身を包み、マントを羽織る強敵。
 ストロンガーの宿敵が、ZXの壁となって立ちふさがる。
「どうした! もう終わりか? 仮面ライダー」
「まだだ! トゥ!!」
 ZXは手刀を剣で受け、金属が擦れあう不快な音が聞こえる。互いに前に押し込み、反動で後方へ跳んで距離をとった。
 ZXは肘から十字手裏剣を取り出して、投げ飛ばす。地面を蹴るために踏み込むが、行為自体を中断する。
 十字手裏剣が、トランプによって迎撃されたのだ。
「くっ!」
「いままではほんの挨拶代わりだ。仮面ライダー、キサマの運命を占ってやる」
 何のことだ? とZXが尋ねる前に、シャドウはトランプをシャッフルし始めた。
 一枚を無造作にとり、ほう、とため息をついて絵柄を示した。スペードの二。その絵柄が意味するものは。
「勝敗でなく、このカード……仲間の死を示すカードだ」
「なに!?」
「この占いを覆したければ、一刻も早く俺を倒すことだ。仮面ライダー!」
 結果は分からずとも、ZXを追い立てる結果に満足してシャドウは剣を振る。
 ZXは上段下段突きと自由自在に軌道を変える剣技を捌きながら、占いの結果を気にしないよう努めた。
 だが、仲間の死がのしかかる。ZXは気ばかり焦りシャドウに攻撃する隙を逃がすばかりであった。


 シャドウは三連続の突きをZXに放ちながらも、不満であった。
 理由は簡単。
(ストロンガーなら、この程度避ける!)
 シャドウがZXとストロンガーを比べながら戦っているからである。
 決戦を乗り越えたZXは確実に戦闘技術を進歩させていた。まだ荒削りだが、シャドウと互角以上に戦えるはずなのだ。
 遅れをとっている理由は一つ。仲間を気に懸けていることと、シャドウの戦い方だ。
 ZXはラオウに勇次郎など、剛を極めた漢たちと戦ってきた。
 そのため、力任せの戦い方をする相手には相性がいい。とはいえ、二人は技術も高みにまで達していたのだが。
 反面、シャドウは変幻自在、いわゆる幻術やかく乱など、相手を翻弄する技が多い。
 ゆえに、ストロンガーと互角に渡り合えたのだが。
 シャドウの逆袈裟に振り上げた剣が、ZXの胸の装甲を削った。血のりが僅かに剣先に付く。
 逃げようとするZXだが、シャドウはあっさりとついていった。
 苦し紛れに十字手裏剣をなげる。だが相手は身を捻って避けた。シャドウは速度を緩めず、そのまま斬りかかってくる。
 視界の端が、光った。
 爆音が、サザンクロスの一室で響く。衝撃集中爆弾を瓦礫に紛れさせ、シャドウを狙ったのだった。


「やったか?」
 うまく集中爆弾を隠し通せたことに、ZXは安堵する。怪人を一撃で粉砕できる威力の爆発なのだ。
 シャドウがいかに強敵でも、無傷ではすまない。そのはずだった。
「その台詞は、キサマには百年早い」
 あっさりと後ろに回りこんだシャドウの声が耳に届き、振り返らずに前方へ跳ぶ。
 背中を僅かに剣が掠め、己の判断が正しいことを確かめながら油断なく振り向いた。
 その間、ただ遊んでいるだけではない。両肩から霧を噴出し、己が像を投影する。
 ZXの分身を見たシャドウが、笑った。ZXはあまりのシャドウの余裕に、対策があることを警戒して一旦様子を見ることにする。
「分身できるのはキサマだけではない。シャドウ分身!!」
 シャドウの言葉と同時に、ZXの虚像一人一人へと、分裂したシャドウがつく。
 驚愕の表情のZXを無視しながら、三体のシャドウがそれぞれバラバラに剣を振るう。
 あるいは上段から振り下ろし、あるいは胴を狙って横凪から、あるいは救い上げるように逆袈裟で斬りかかる。
 上段から振り下ろされた一撃のみ、ZX本体を捉える。ZXが一瞬早く後退して、剣戟を免れるが、虚像はすべてかき消された。
 悔しげに呻くZXに三体のシャドウの攻撃が次々と繰り出される。
 右より弧を描きながら迫る刃は、ZXの右腕の肉を削いで風のように去っていった。
 左より首を狙って突き出された突きは、上半身を後ろに倒したZXを捉えられず通り過ぎる。
 正面から胴を狙った一撃が、ZXの腹を斬り裂いた。
「グハッ!」
 ZXは怪我負いながらも、膝の衝撃集中爆弾を発動させる。
 轟音と共に、衝撃の反動を利用して距離をとって着地する。ガクッ、と膝をついた。


 正面に三体いたシャドウは一人となり、無傷のまま仁王立ちしている。
「その程度で終わっては、決闘の場を設けたかいがない。だが、ストロンガーなら無傷で俺の攻撃を捌いたぞ!」
「……確かに、俺は不甲斐ない。仮面ライダーとしては未熟かもしれない」
 ZXがぽつぽつと告げる。シャドウは、一人その言葉を聞いていた。
 いや、聞いていたのはシャドウ一人ではない。
「そんなことないよ! 村雨さん!!」
「いや、かがみ。俺は散が、ハヤテが、零が、覚悟が、ヒナギクが、君がいなければ、仮面ライダーとなることもなかった。
たとえ記憶を取り戻したとしても、ただ復讐のために戦っただろう」
 ZXの言葉は真実だ。記憶を取り戻した時、真っ先に怒りをもって戦ったのは、姉の死に復讐を決意しかけていたからだ。
 そのZXはラオウに負け、ハヤテに助けられ、彼に主を託された。
 彼の大切な人を救えず、ZXは彼に何もしてやれないことを悔いた。
 壊れかけたヒナギクと共に、己の無力を実感するZXを救ったのは、かがみだった。
 それ以前から、彼女は何度も助けになってくれた。
「シャドウ……俺はこの痛みに、散の気高さを知っている」
 治癒していく腹部に手を当てて、ZXはシャドウの瞳を睨み返す。
 ZXはそのままゆっくりと立ち上がった。
「俺はこの拳に、ハヤテの優しさを知っている。この腹部のベルトに、本郷猛・仮面ライダー1号の正義が宿っている」
 足を肩幅まで広げ、ファイティングポーズをとる。
 力強いポーズは、村雨からZXへの変身過程にとる構えに似ていた。
「そして、多くの仲間の支えが、俺を仮面ライダーに押し上げてくれた!」
 かつて、村雨はコマンダーという改造人間として、仮面ライダーと戦ったことがある。
 その男は、墓の前で男は電気と技を駆使して、かつての悪の村雨を砕いた。
 墓守を続ける仮面ライダーが、一度敗れて再び口笛と共に村雨の前に現れた。
 己と戦った仮面ライダーを重ねる。ああなりたい。ああいう仮面ライダーに、俺はなりたい。
 ZXは胸に巻き起こる熱風に導かれるまま、その仮面ライダーの口上を再現する。

「天が呼ぶ!」

 雷鳴の如く、ZXの声が轟き落ちる。万の決意と共に、喉が破れるほどまでに叫ぶ。

「地が呼ぶ!」

 仲間の想い、死んだ者の想い。ただZXを仮面ライダーへと押し上げたそれは、とても口にできる物ではない。

「人が呼ぶ!」

 誰かが助けを呼ぶ声。導かれる理由としては、充分だ。今なら分かる。今だから理解できる。
202Classical名無しさん:08/11/05 18:31 ID:7cGkdBfo
支援
203Classical名無しさん:08/11/05 18:31 ID:2yLeuIT2


「悪を倒せと、俺を呼ぶ!!」

 正義。仮面ライダーの存在意義。ZXはもはや迷わない。
 いや、迷い続け、負け続け、ZXは正義を揺らがぬ信念として、芯に据える。


「聞け! ジェネラルシャドウ!! 俺は正義の戦士、仮面ライダーZX!!」


 風が巻き起こり、電撃、稲妻、烈風が吹き荒れる。
 仮面ライダーの正義が宿ったZXの瞳に炎が燃え盛った。
 燃え尽きぬ正義を覚悟完了。
 正義の誕生した瞬間であった。


 シャドウはここで、ストロンガーの口上を聞けた事実に僅かに驚愕した。
 ZXはストロンガーに出会ったことがあるのだろう。そして、未熟ながらも仮面ライダーになろうとする姿。
 蜘蛛の糸のように絡む絆によって仮面ライダーとして、決意を重ね続けたZX。
 フッと、シャドウの口角が上がる。未熟ながら足掻くその姿、嫌いではない。
「俺を前にして、よくぞ吼えた! いくぞ、仮面ライダー『ZX』!!」
 シャドウが始めて、ZXの名を呼んだ。決して、彼を認めたからではない。
 それのほどの名を、仮面ライダーを名乗るのなら、力を示せ。
 言外にシャドウは告げる。必要なのは言葉じゃない。ただその魂を見せてくれればいい。
 ZXが全力で応えるという証明に、十字手裏剣を投げ放った。
205Classical名無しさん:08/11/05 18:32 ID:A0TfQGvU
      
206Classical名無しさん:08/11/05 18:32 ID:2yLeuIT2
支援
207Classical名無しさん:08/11/05 18:33 ID:7cGkdBfo
支援するのみ
 あっさりと斬り飛ばしながら、シャドウはたた前へと突っ走る。
(ストロンガーはこんな物ではなかったぞ! ストロンガーとの戦いは、もっと心が躍ったぞ!
ZX!! キサマが仮面ライダーとしてストロンガーを超えるのなら……)
 シャドウの剣が、光を反射して輝く。その輝きは、どこか熱を込めていた。

「この俺を乗り越えて見せろ!!」

 そうであるべきだろう、ストロンガー。シャドウはただ、心の中だけでそう呟いた。


「村雨さん……」
 かがみの見ている前で、堂々と正義を宣言する姿に感極まる。
 初めてあったときの彼は、とても信頼に足る姿とはいえなかった。
 ジョセフに戦いを挑み、かがみ自身をさらって行ったのだ。もっとも、本当の出会いはかがみが絶望している時だったのだが。
 それはともかく、とてもかがみには村雨が正義のために戦う人間とは思えなかった。
 話に聞いたDIOのように、人を殺すことをなんとも思っていない悪党だと信じていた。
 実際はどうだろうか。
 記憶を失っていたときでさえ、村雨はかがみに手出しをしなかった。
 ジョセフと戦うため、ということもあったのだろうが、それでも村雨はかがみを傷つけることを良しとしなかったのは事実だ。
 首輪の秘密を探るのに、村雨は協力してくれた。
 ハヤテという少年との戦いで、あっさりと負けを認めた。
 記憶を取り戻し、ラオウと戦って負けて、ハヤテの死に彼は涙を流した。
 かがみが死にかけた時、必死になって蘇生のために頑張ってくれた。
 勇次郎との戦いで、彼は傷ついた。
 それでも立ち上がり続け、正義を見せてくれた。
209Classical名無しさん:08/11/05 18:34 ID:gySrwwcw
支援
 こうしてかがみが生き残り、彼の無事を祈っているのもすべては彼が仮面ライダーとなったおかげだ。
 かがみは腕を前方で組んで、必死に祈る。
(ハヤテ君……こなた……つかさ……みんな、お願いだから、村雨さんに力を貸して……)
 その祈りが正義の味方に届くには、まだしばらく時間が必要だった。


 かがみを静かに見守る者が、たった一人いた。
 コマンドロイド。大量生産されているバダンの兵である。
 報告に行ったものが万が一始末された場合に備えて、この部屋に来たのである。
 報告に来たコマンドロイドは死んでいる。シャドウによって殺されるのは目撃した。
 一人では勝てない。たとえ、援軍が来たとしても勝てることはないだろう。
 現時点では。
 だが、ZXとシャドウの戦いが終わった後なら話は別だ。
 二人の激闘が終えて、立っているのがどちらにしろ殺せる機会が来る。
 独歩の死体の在り処を知ることができないミスは、侵入者を倒すという功績で贖う。
 コマンドロイドの十字手裏剣が冷たく光る。
 やらねば死ぬのは自分だから。



「ゼクロスパンチッ!!」
「甘い!」
 ZXの拳をシャドウは右に流して、鳩尾に膝を叩き込んだ。
 身体をくの字に曲げるZXのマフラーをつかんで、身体を半回転してから手を離した。
 地面に叩きつけられるZXを見届け、剣の柄に手をかける。シャドウにはZXが立ち上がることを信じていた。
 なぜなら、ストロンガーならこの程度で死ぬことはないからだ。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
 事実、ZXは地面を進み続け、シャドウの足元から現れた。
 予想外の場所からの出現に、一撃もらう。シャドウは防御を諦め、刃を縦に走らせる。
 ZXの右胸から血が吹き出て、シャドウの白装束を赤く染める。
 だが、敵も怯まない。ZXの根性をシャドウは気に入った。
「ま、まだだぁあぁ!!」
「む!」
 ZXの回し蹴りがシャドウの頭部に迫る。あっさりと姿勢を低くして避けて、ZXの足を払う。
 体制を崩すZXだが、マイクロチェーンを右腕から発射して、天井に撃ち付ける。
 ZXの踵が振り下ろされるが、右腕を盾にして防ぎ、逆に顎へと左拳を叩き込んだ。
「くっ!」
「逃がす……なにっ!」
 マイクロチェーンを巻き上げて、距離をとろうとするZXを追おうとするが、その左肩に十字手裏剣が刺さる。
 ZXに体勢を整える暇を与えるのは尺だが、追撃を諦めて肩から十字手裏剣を抜いた。
 十字手裏剣が地面に落ちる音が室内に響く。正面のZXは肩で息をしながら、傷を癒していた。
「少しは……動きについてきているようだな」
「ああ……目も慣れてきた。こちらから行かせてもらうぞ!!」
 シャドウはZXに期待を込めて、匕首を切る。
 カチン、と金属音を鳴らして、ZXへと突進した。


(変幻自在の技が厄介だ……どうにか隙を突かねば!)
 ZXはシャドウの戦闘力の高さをそう分析した。攻めれば退き、退けば攻める。
 攻撃の枕を押さえて無力化して、攻めるときも決して無理はせず、針の穴ほどの隙につけ込む。
212Classical名無しさん:08/11/05 18:35 ID:7cGkdBfo
さて支援するか
 勇次郎やラオウとは、別種の強さを持つ相手だ。ストロンガーの強さをシャドウを通して実感する。
 シャドウの目が言っている。ストロンガーは、こんな物じゃなかったぞ、と。
 ZXの肘から、十字手裏剣を切り離して投げる。あっさりと迎撃されるが、ただの牽制だ。
 こちらの主導権を握る。十字手裏剣を払って、シャドウにできた隙を狙って拳を打ち込む。
 あっさりと捌かれるが、想定内。その捌いた腕を掴み、左腕を剣が掠める。
 そのまま肩をシャドウの身体にぶつけて、力を緩めさせた。勢い、己の身体を捻り上げる。
 風が、巻き上がった。
「!? この技は……!」
「ライダーきりもみシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォッ!!」
 竜巻がサザンクロス内部で発生する。誰も抗えぬ風は、シャドウを巻き込んで吹き荒れ続けた。
 さすがにシャドウでも、仮面ライダー1号の技には抗えず、風に翻弄されるままだ。
 今なら、こちらの拳も届くはず。ZXの踵のバーニアが吹き、空を翔る。右手に精一杯の力を込めて、打ち放つ。
「ゼクロスパンチ!!」


 ZXの拳は、虚しくトランプの束を散らすだけだった。
 これでもまだ、避けられてしまう。戦慄が走るまま、ZXはすぐに立ち直って振り向く。
 迫る刃に、手刀を固めて身体に届くのを阻止した。
「狙いは悪くなかった。ただ、天井に届いたのが運の尽きだったな。天井に剣を刺して、トランプフェードを使う余裕ができたぞ」
「くっ……!」
 シャドウの指摘に、ZXは悔しがる。結局、攻撃の隙を己自身の失態で失ったのだから。
 だが、ZXに悔しがる暇はない。シャドウの連続突きを両腕で捌き、身体を僅かに動かして紙一重で躱す。
 目が慣れてきたのは嘘ではない。僅かな隙を突いて、右拳をシャドウの頬に叩き込んだ。
「ぐっ!」
 シャドウが呻いて、後方に吹飛ぶ。逃がしはしない。始めて入った直撃。
214Classical名無しさん:08/11/05 18:35 ID:A0TfQGvU
    
 左手を地面につけて、回し蹴りがシャドウに向かって迫る。人の肉を蹴る感触が、右足に響く。
 しかし、ZXは左腕一本で身体を跳ね上げた。ZXの蹴りを防いだシャドウが、下段から剣を振り上げたのだ。
 剣先がZXの皮一枚を斬る。その痛みに反逆をしながら、ZXは右腕を向けた。
「マイクロチェーン!!」
 右腕から発射された鎖がシャドウの剣に弾かれて、数メートル先の地面に突き刺さった。
 立ち上がる時間は稼いだ。シャドウの右ストレートを左手の平で受ける。
 拳を掴まえたまま、背中にシャドウを乗せ、壁に向かって投げ飛ばした。
 地面にシャドウがぶつかる瞬間、トランプの束となって消える。同時に、衝撃がZXの腹に轟いた。
 空気をすべて吐き出すが、ZXもただ殴られるだけではない。
「ほう、やるな」
 シャドウの拳は、盾にしたマイクロチェーンに当たっている。
 衝撃を和らげたZXは攻撃後で硬直しているシャドウの胸を右足で強打した。
 離れていくシャドウを、ZXはそのまま見送る。理由は、肩に鋭い痛みを与えるトランプだ。
 シャドウも打たれ放題ではなかったのだ。離れる瞬間、シャドウはトランプショットを放った。
 どうしても先に行かれる。それでも、ZXに焦りはない。シャドウも、どこか楽しそうにニヤリ、と笑った。
「うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」
 どちらが叫んでいるか、二人には識別できなかった。


(このままじゃ……埒が明かない)
 ZXはシャドウとの戦いでそう判断する。小競り合いでシャドウを制するのは無理だ。
 倒すなら、必殺技による決着を狙わねばならない。
 その隙を作ろうと何度も攻め込むのだが、流され、捌かれ、攻撃の隙を潰される。
 とはいえ、このまま降着状態を続けるわけにはいかない。ZXは賭けに出る。
「うおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!」
216Classical名無しさん:08/11/05 18:37 ID:7cGkdBfo
きたきた
 ブゥン……とZXの瞳が光、両肩から霧を噴出する。シャドウがまたか、と呆れた顔をしているが、関係はない。
 無数のZXがシャドウに殺到する。右拳を構えるZXたちを見ても、シャドウは落ち着いていた。
「トランプカッター!」
 襲い掛かるZX一人一人を残像と証明するトランプが、虚像を通り過ぎる。
 シャドウの足元が盛り上がり、ZXが飛び出した。
「その手にかかるか!」
 シャドウが地面より飛び出したZXに剣を振る。そのZXも幻。
「なら、正面か!」
 シャドウの眼前で、ZXキックの構えを取っていたZXが身体を輝かせていた。
 もはや、シャドウのトランプカッターを避けるのは不可能。ZXの胸部に、トランプカッターが刺さった。
「なにっ!?」
 そのトランプカッターは、ZXキックの準備をする幻を通り過ぎた。
 シャドウすらも、騙しとおせた。計算どおり。今彼は、自分がどこにいるのかと激しく自問しているはずだ。
 だからこそ、この絶好の機会に賭ける。
「ゼクロスッ……!!」
 ZXの全身が赤く光る。己がもてる、最強の技の一つ。
 戸惑っているシャドウを、ZXの右足が捉えた。
「キサマ……もしやっ!」
 シャドウは、自分がどうやって騙したのか理解したのだろう。
 ZXは彼の予想通り、地面から接近をしたのだ。ただし、身体の半分上、残像の下半身に己の上半身をを重ねて。
 シャドウが残像を斬った後、そのまま斬られた残像に紛れて上空を制した。
 ご丁寧に、無数の残像に紛れてZXキックを準備する幻まで混ぜて。
 これで、終わりだ。
 
「キィィィィィィィィィック!!」
218Classical名無しさん:08/11/05 18:37 ID:2yLeuIT2
しえん
219Classical名無しさん:08/11/05 18:38 ID:A0TfQGvU
 
「シャドウパワー!!」

 赤い光を引き連れた必殺の蹴りが、全身に力を漲らせるシャドウに向ける。
 烈風が蹴りの衝撃によって巻き起こり、サザンクロスを揺るがせた。
 爆発と共に、ZXの視界が光に満ちる。



「けほっ」
 粉塵が爆発によって巻き起こる中、かがみはどうにか立ち上がって周囲を観察した。
 ZXキックとシャドウのぶつかり合いは凄まじく、見守っていたかがみにまで衝撃が届いたのだ。
 涙で視界が滲むかがみは、ZXを探した。
 彼が死ぬとは考えていない。勇次郎をも倒したZXキックを使ったのだ。
 きっと勝っているに決まっている。
 やがて、粉塵が晴れて立ち上がる影が見えた。かがみはどちらが立ったのか、不安になりながら見守る。
 シャドウは強い。ZXが負けても不思議ではないほどに。
 やがて、かがみの視界に赤い人影が入る。仮面ライダーZX。
 ホッとして駆け寄ろうとするかがみに、
「くるなっ! まだ……決着は……ごほっ!」
 ZXは血反吐を吐き、膝をつきながら静止した。
 かがみが視線を横にスライドさせると、剣を杖代わりに立っている白い影が目に入る。
 背筋にぞっと、悪寒が走った。
「ククク……さすがだ。仮面ライダーZX」
 かがみは再び腕を組む。
(神様。どうか、村雨さんを勝たせてください……)
221Classical名無しさん:08/11/05 18:38 ID:7cGkdBfo
おおう
 敵はどこまでも、強大だった。


「超電ドリルキックにも劣らぬの威力だ……。だが、俺はストロンガーのその技に耐えたことがある。
一発程度、どうということはない」
「なら……何度でも打ち込むまでだ!」
「そう簡単に叶うと思うなよ! キサマのZXキックが来る前に、俺が捻じ伏せてやる!」
 心底楽しそうに、シャドウが告げた。ZXは戦いを続ければ続けるほど、強くなっていっている。
 こちらに来る前に、プログラムに参加させられたことも影響しているだろう。
 強敵と戦い、負ければ負けるほど、立ち上がって強くなる。
 それがシャドウの知る仮面ライダーだ。シャドウの知るストロンガーだ。
 ZXも彼らと変わらず、仮面ライダーである事実にシャドウの心が躍る。
 ストロンガーの後輩が、ストロンガーに実力で追いつこうとしている。
 この戦いのためにこそ、自分が黄泉返ったのだ。
 この瞬間以外に、もはや存在価値などなくてもいい。
(……愚地独歩、キサマがただの空手家として死んだ……いや、生きたように、俺もただ奴らの、仮面ライダーの宿敵として戦う)
 それが、ストロンガーを倒し最強を目指したシャドウの生きがい。シャドウの生きる理由。
 シャドウ剣がトランプと共に踊る。
 ZXの突進を、剣で捌いて脇に抉りこませた。


 ZXキックに耐えられてしまった。その事実がZXを追い詰める。
 それでも、突き出される剣を右に左に流しながら、次の技の機会を狙い続けた。
 一度で駄目なら、二度でも三度でも続ける。ひたすら、勇次郎に殴られながら勝利の機会を得て、逆転した時のように。
 これは己との戦いだ。己に勝ち、そして敵に勝つ。
223Classical名無しさん:08/11/05 18:39 ID:A0TfQGvU
  
224Classical名無しさん:08/11/05 18:40 ID:7cGkdBfo
しえんしえん
 シャドウの胸を、ZXの拳が強打した。やはり、ZXキックは効いている。動きは鈍い。
 僅かな時間を、思考にまわした。その行為が仇となる。シャドウが右足を踏み、掌低をぶち当てた。
 ZXの脳が揺らぐが、敵は容赦はしない。剣の柄が傷口を突き、激痛が走る。
 ZXキックにシャドウが耐えた時に斬り裂いた痕だ。
 だがZXも殴られてばかりではない。踏ん張り、シャドウの側頭部に手刀を繰り出した。
 ZXキックで弱っているシャドウは避けきれず、壁まで吹き飛ばされた。
 もう一度、ZXキックを。
 ZXが跳び、構えを取る。なのに、赤く光りはしなかった。
(ダメージを受けすぎたか……!)
 次のシンクロまで、傷が癒えなければ使えはしない。
 制限が解けて再生力が復活し、核鉄を持つZXならすぐにでもキックを打てるほど回復するだろうが、戦闘中ではそうも言っていられない。
 事実、シャドウはもうZXの眼前まで追いついている。
「隙だらけだ!」
 シャドウは告げると同時に、ZXの胸元を掴んで地面へと叩きつけた。
 全身にバラバラになるほどの衝撃が駆け巡る。
 どうにかせねば。だが、シンクロができるほど体力が回復するまで待つことはできない。
(あの技を使うか……未完成だが)
 ZX穿孔キック。学校でかがみたちと一緒にいたときに開発した絆の証。
 ZXは穿孔キックに賭けた。


「どうした! 仮面ライダーZX!!」
 シャドウが挑発しているが、ZXは冷静に剣の軌道を逸らす。
 待っているだけでは駄目だ。こちらから攻め、穿孔キックを放つ隙を得なければ。
 ZXキックのときと同じでは駄目だ。すでに一度使った戦法ではシャドウから隙を作ることはできない。
226Classical名無しさん:08/11/05 18:41 ID:gySrwwcw

227Classical名無しさん:08/11/05 18:41 ID:A0TfQGvU
    
 ならばどうすれば。
(待てよ……散は俺のZXキックを受けたときは、どうした?)
 始めて散とであって激闘を繰り広げた時、彼はZXキックを受け止めながら螺旋を放った。
 あの時の自分は、直線的な技だったのが災いした。
 シャドウとZXは互いに距離をとって、何度目か分からない睨み合いをする。
 そうだ。自分は待てばいい。次の手を。
「観念したかッ! 仮面ライダーZX!!」
 神速の突きが、ZXに繰り出された。

「村雨さんっっ!!」

 かがみがZXの名前を呼んでいるのが聞こえる。
 応えてやるわけにはいかない。だけど、自分は大丈夫だと教えてやりたい。
 だから、心の中で、
(大丈夫だ、かがみ。俺は……仮面ライダーは負けはしない……絶対に!!)
 そう決意するのが、精一杯だった。


「なんと……」
 シャドウから驚愕の声が聞こえてくる。ZXとて、ここまでうまくいくとは思っていなかった。
 それでも、生まれた絶好の機会。ZXは逃がすわけにはいかない。
 真剣白羽取りしたシャドウの剣を、思いっきり引っ張る。ZXキックのダメージが残るシャドウに抗うことはできなかった。
 ZXは再度、シャドウの胸元を掴んだ。
「掴まえたぞ……!」
「クッ……!」
 再び、風がうねりをあげる。仮面ライダー1号の技。不滅の絶技。
 ライダーきりもみシュートによって、シャドウを真横に投げ飛ばす。
「ぐっ!」
「螺・螺・螺……」
 地面を踏みしめ、右螺旋の構えをとる。全身を脱力させ、右腕を真直ぐ後方に向けた。
 見様見真似の構えのまま、前方に風を巻き起こしながら振り切る。

「螺旋ッ!」

 螺旋を描く風が、シャドウを捉まえた。
 散の記憶が、シャドウを縫い付けている。今こそ、進むとき。
 いっそう強く、地面に踏み込む。
 足をスライドさせ、細かなステップを刻んで突進する。

「ハヤテの如く!!」

 爆発力を持った突進。前進する力のまま、右足を前に向ける。
 記憶に刻まれた、仮面ライダー1号の蹴り。

「ライダーキック!!」

 螺旋に作られた風に乗って、身体を倒す。
 影を絶つ男の、動きを身体に、技に姿勢を安定すべく投影する。

「絶影ッッ!! くらえ! ZX穿孔キィィィィィィッ……」
230Classical名無しさん:08/11/05 18:43 ID:A0TfQGvU
 

 言葉も、絆も、全てを費やした技だった。
 何もかも貫く、一筋の槍だった。その技を、ZXの肩に刺さる剣が遮る。
「惜しかったな……やはり、キサマはストロンガーに及ばん」
 シャドウは、ZXの肩に突き刺さる剣を掴んで振り下ろした。
 ZXの胸部から血が盛大に吹き出す。かがみのZXの名前を呼ぶ声が、二人を貫いた。


「ライダーキックから、回転に移る際……0.7秒の隙があった。
……ストロンガーの超電ドリルキックなら、そんな隙など見せない。やはりキサマは未熟だ」
 ZXに決定的なことを告げるシャドウは、どこか寂しそうに見えた。
 もともと、シャドウは死に場所を求めてZXとの決着を望んだのだ。
 この結果はある種、不本意であった。とはいえ、戦いに手を抜く真似はしない主義。
 ZXが駄目ならば、次の戦場を求めるだけだ。
(ストロンガー……キサマとの決闘に、決着が着くならばどのような結末だったろうな)
 本来なら着いたはずの決着を、シャドウは知らない。
 だからこそ、最後の結末を望んでやまない。最後の仮面ライダーを倒した足で、虚しく去っていった。
「待て……」
 いや、去ろうとしたシャドウを、立ち上がったZXが引き止めた。
 嬉しさに跳ね上がった心臓を宥めて、シャドウは首だけで振り返る。
「ほう……予想以上にタフなようだな」
「俺は……負けない。負けられない……お前を倒す!」
 技を破られたのに、絶望をしない。これこそが、仮面ライダーだ。
 ストロンガーがデルザー軍団の改造魔人に追い詰められた時も、諦めず、成功率の低い再改造を得て、自分たちの前に現れたのだ。
 ZXもまた、シャドウの前に負けても負けても、立ちふさがる。
232Classical名無しさん:08/11/05 18:44 ID:2yLeuIT2

(やはり……仮面ライダーとはこうではなくてはな! キサマの後輩とは言えない!)
 すでにいない、ストロンガーに向けて呟き、シャドウ剣を真横に抜く。
 キィン……と甲高い金属音が鳴り、ZXと対峙する。
 さあ、俺を殺してみろ。シャドウは言葉にせず告げた。


『ストロンガーの超電ドリルキックなら、そんな隙など見せない』
 シャドウの言葉が、ZXの脳裏に響く。超電ドリルキック……コマンダーとして活動してたZXの記憶にある技だ。
 ZXは最初から、改造人間ZXとして存在していたわけではない。
 十三体の改造人間部隊の隊長として選ばれ、バダンの怪人として暗躍していた。
 ZXは一つの指令を受ける。仮面ライダーストロンガーを始末するという、指令を。
 肩幅に足を広げ、シャドウを見据える。いい具合に脱力している。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 シャドウの気合を込めた斬撃を、ゆらりと後ろに数歩移動して躱す。
 速さは今までに劣る物ではない。僅かに胸の装甲が削られたが、それだけだ。
『間合いがぬるい』
 勇次郎と戦いの時に聞いた、散の声を思い出す。
 一歩だけ前に踏み込んで、拳を振り上げた。
「ゼクロスパンチッ!!」
 ZXの会心の一撃がシャドウの右胸に当たる。シャドウが吐血して、動きが鈍った。
 以前に怪我をしていたのだろうか、とZXが疑問に思うが、究明している暇はない。
 ZXが知ることはないが、それは独歩がつけた傷であった。
 シャドウに僅かに隙ができる。胸板に蹴りを叩きつけて、距離をとった。
(散……螺旋に、きりもみシュートを合わせて……!)
 螺旋の力を、仮面ライダー1号の技に重ねて竜巻を起こす。
234Classical名無しさん:08/11/05 18:44 ID:A0TfQGvU
   
(絆……俺の記憶の繋がり! 足りなかった物は……記憶!)
 ZXは一切の迷いもなく、次の動作に入る。
 ハヤテの突進、ライダーキック、絶影の軌道、視界に入るかがみ。記憶の中のストロンガーの言葉が蘇る。

『岬ユリ子はもう……ただの女だ』

 自分を支えてくれたのは、自分の手を姉の代わりに握ってくれたのは、ただの女性の柊かがみ。
 今なら、ストロンガーの気持ちを理解できる。大切な、自分が立てる理由。戦える正義。

『フン……互角ね。なら……俺の勝ちさ』

 自分と同じ性能の改造人間が十三人いる事実に怯むことすらしなかったストロンガー。
 コマンダーである自分に、瀕死の重傷を負わされても戦いをやめなかった彼。
 だからここで倒れるわけにはいかない。身体がたとえ、壊れかけようとも。
 仮面ライダーの名に懸けて。

『チャージアップ!!』

 ZXは仲間との繋がりと、正義を示した男の記憶を合わせる。
 自然とつながったそれは、最初から一緒だったかのように、ZXを滑らかに動かした。


『超電ドリルキィ――ック!!』
「ZX! 穿孔キィ――ック!!」

 記憶の中のストロンガーの軌跡と、ZXの繋がりの集大成の軌跡が重なる。
 この軌道、ZXが今まで出会い、刻み、歩んで来た重みがあった。
 それは本来のZXが歩んで得る、ZX穿孔キックの重みに勝るとも劣らない。
 記憶が、シャドウを穿ち貫いた。


(こ、これは……!?)
 シャドウはZXと戦った中で、一番驚いた。
 彼が放った技は、見た目だけなら先ほどの未完成の回転キックとたいした差はない。
 しかし、明らかな違いがある。それを、シャドウは一目で見抜いた。
 なぜなら、欠けていたピースを埋めたものは、
「超電……ドリルキック……」
 シャドウの宿敵の技。身体に刻んだ、超電子の必殺キック。あれほど戦いを望んだ男の技。
 ライダーキックから回転に移る際の、0.7秒の隙を完全になくしている。それだけではない。
 回転を巻き起こし、ドリルキックまで移る動作にあった隙が、今では完全になくなっていた。
 右胸が痛む。この傷がなければ、いくら完成をしたからとはいえこの技を打たれることはなかっただろう。
 その事実が、悔しくはない。むしろ、傷をつけた独歩に感謝しているくらいだ。
(ストロンガー……俺はお前と……)
 シャドウが身体に、目に、記憶に刻み込んだ超電ドリルキックがシャドウの胴体を通り抜けた。
 ZXと瞳が会う。自分に勝った男だ。文句はない。

「お前の勝ちだ。仮面ライダーZX」

 そういえば、自分の勝ちをシャドウの勝ちだと主張したあいつにも同じことを言ったなと、穏やかな気持ちのままシャドウは告げた。
237Classical名無しさん:08/11/05 18:46 ID:A0TfQGvU
    
 やがてシャドウの身体が、地面へと叩きつけられた。



「村雨さんっ!!」
 かがみが変身を解いて、喘いでいる村雨に飛びついた。
 彼の勝利を喜んでいるのだ。感情が先走って、思いっきり両手に力を込めた。
「すごいっ! 凄いよ!!」
「……君たちのおかげさ」
 かがみが血で汚れないように優しく話して、村雨は笑う。
 村雨が仮面ライダーとして戦えるのも、この技を開発できたのも、すべては彼女らのおかげだ。
 だから、万感の想いを込めて村雨は礼を言う。
「ありがとう、かがみ。俺を仮面ライダーにしてくれて……」
「な! わ、わたしだけじゃ……」
 村雨の言葉に、かがみが赤くなるが、村雨は身体を壁にもたれさせ、傷の治癒を待った。
 力の全てを出し切った。指一本すら動かない。
(ありがとうございます。先輩……仮面ライダーストロンガー)
 今はどこにいるかも知らない、7号ライダーにZXは感謝の意を伝える。
 彼の記憶があったから、自分の穿孔キックは完成したのだ。
 仲間たちの記憶と共に。これで、自分はもう負けはしない。大首領を倒す。
 村雨に迷いはなかった。怪我の手当てをしているかがみにもう一度、感謝の意を伝えようと首を動かした。
 そこで、ZXの強化された瞳が、コマンドロイドの群れを発見しする。
 無音で動く彼らを発見したのは、幸運だった。
(これが……ジェネラルシャドウの占い……仲間の死……させるか!)
 だが、力尽きた村雨に取れる手段は一つしかない。かがみを抱き寄せて、背中を向ける。
「む、村雨さん! い、いきなり……」
 説明している暇もない。無数の十字手裏剣が、村雨の背中に殺到した。


 衝撃がいつまでたっても届かず、村雨が不思議に思う。
 首だけで振り返ると、白いマントが村雨の視界に入った。
 身体には、十字手裏剣が全身に突き刺さっている。舌打ちをするコマンドロイドが、再度攻撃を仕掛けようとするが、巨大なトランプが突如現れた。
「ギィッ!?」
「勝者が歩む道……キサマら程度が、邪魔をするな!」
 そのトランプから、炎が吹き出て四体のコマンドロイドを火達磨にする。
 燃え尽きたそれを見届けた後、シャドウが膝をついた。
「ジェネラルシャドウ!」
「くるな!!」
 駆け寄ろうとした村雨を、シャドウは拒否した。村雨はシャドウに対しては、複雑な感情を抱いている。
 独歩を殺し、かがみをさらったのは許せることではない。
 しかし、ZXと戦うことを望み、一対一の正々堂々とした戦いを挑んだ彼を憎みきることはできなかった。
 どう反応していいか迷う村雨に、かがみがシャドウに近寄る。核鉄を傷口に当てようとしたのだ。
「あの……」
「同情はいらん! 俺はキサマらの仲間、愚地独歩を殺している。勝者なら勝者らしく、さっさと立ち去れ!!」
「な、なにを……」
「行こう、かがみ」
 シャドウに文句を言おうとしたかがみを押し止めて、村雨は倒れているクルーザーを起こす。
 勝者が敗者にかける言葉など、ありはしない。なにより、生死を懸けた戦いこそ、シャドウが望んだものだ。
 この結果は、彼も承認済み。村雨にできることなど、心の中で礼を言うことくらいだ。
「ジェネラルシャドウ。俺は仮面ライダーとして戦い続ける」
240Classical名無しさん:08/11/05 18:49 ID:A0TfQGvU
     
「……ストロンガーはそうした。当然だ」
 どこか、シャドウの声が嬉しそうに聞こえたのは錯覚だっただろうか。
 村雨に確かめるすべはない。とりあえず、休める場所から探そう。
 かがみをクルーザーの後部座席に乗せて、村雨は去る。バダンを倒す。
 その決意は揺らがない。


 去っていく村雨を確認して、シャドウは口が吊り上げるのをやめられなかった。
 ストロンガーの後輩は、ちゃんと彼の技を受け継いでいる。
 予想外の事態だったが、望んでいた宿敵の技で死ねるのなら悪くはない。
 かつて、デルザー軍団の主導権を握るために躍起だったころの自分が見れば、不思議に思うだろう。
 自分は変わったのだろうか?
(いいや、俺は変わりはしない。昔も今も、ストロンガーとの決着を望み続けていた。そうだろう? ストロンガー・城茂)
 自分が認めた男に勝ちたかった。自分が認めた仮面ライダーの正義に勝ち、世界一の男になりたかった。
 ブラックサタンに雇われたのも、デルザー軍団を結成したのも、すべては奴に勝つため。
 今では叶わぬ夢となったが、その後輩に負けたのなら自分はきっと、ストロンガーに勝つことはなかったのだろう。
 だからこそ、
(あの世では負けぬ。冥途で決着を着けるか……ストロンガー……)
 これで、奴の元にいける。魂のないシャドウが辿り着けるかは、本人にも分からない。
 だが、その事実に関係なくジェネラルシャドウの最期は、ひたすらに満足だった。
 カブトローの星型のヘッドライトが一瞬だけ光り、シャドウを照らす。
 まるでストロンガーが、シャドウを肯定しているかのように。

「デルザー軍団! 万歳!!」
242Classical名無しさん:08/11/05 18:50 ID:7cGkdBfo

243Classical名無しさん:08/11/05 18:50 ID:A0TfQGvU
  
244Classical名無しさん:08/11/05 18:50 ID:7cGkdBfo
しえーん
 だからこそシャドウは、バダンの名ではなく、己がストロンガーと戦った組織の名を叫ぶ。
 それこそが、ストロンガーとの繋がりだから。
 爆発が起きて、シャドウの身体を吹き飛ばす。轟音が、天まで届いた。

【ジェネラルシャドウ@仮面ライダーSPIRITS? 死亡】



 轟音が後方で聞こえ、村雨は一旦バイクを止める。
 振動が響いており、おそらくシャドウが死んだのだろうと村雨はあたりをつけた。
 傷が痛む。どうにか、コマンドロイドがいない部屋を見つけた。そこにクルーザーを止めて、身体を壁に預ける。
 二個の核鉄を傷口に当てた。自己治癒は鈍くなっている。核鉄で治癒力を促進して、戦える状態には最短で一時間は必要だ。
「早く……覚悟たちと……痛ッ!」
「駄目よ、村雨さん。しばらくはここで休んで」
「……ああ。動きたくても、今はうまく動けないからな……」
 苦笑しながら、村雨はかがみに従う。本当は、先に進みたくて仕方がないのだが、シャドウが刻んだ傷は深い。
 五体が無事なのは奇跡としか言えなかった。
 粒子を上げて治っていく身体を見つめて、やはり自分は人間でないといっそう自覚する。
「村雨さん。お茶をの飲もう。こんな時に、ちょっとおかしいけど……」
「いや、ありがたいよ。最後の戦いも近いしな……」
「最後の戦い……」
 かがみが黙る。きっと、仲間の心配をしているはずだ。
 彼女はどの面子でチーム分けをしたのかは知らない。とはいえ、今知る必要もないのだが。
(きっと、俺たちは再会をする。それが約束だから……)
 村雨は確信を胸に、お茶を口に運ぶ。
 村雨の荷物から引っ張った物だが、かがみが入れてくれると、味が美味しくなるような気がした。
246Classical名無しさん:08/11/05 18:51 ID:gySrwwcw



(最後の戦い……)
 かがみは、村雨の告げた言葉に思考を向けた。
 そうなのだ。最後の戦いは近い。バダンの幹部を倒して、大首領を倒し、強化外骨格に閉じ込められたみんなを解放する。
 犠牲がでるかもしれない。独歩ですら、命を落としたのだ。
 自分がここまで生きているのも奇跡。確実に足を引っ張っている。
(私にできることは、なんだろう……?)
 誰も答えてはくれない。だが、自分が見つけねば意味がない。
 だからこそ、かがみは絶望をしない。
 それは、死んでいった仲間たちに、今を生きる仲間たちに失礼だから。
(だから、私は生きていいんだよね? つかさ……)
 妹の穏やかな声が、そのかがみの呟きを肯定したような気がした。


 身体を休め、戦いに備える村雨の思考はシャドウに及ぶ。
 彼は信念を持って自分に対峙していた。その姿に、一人の男が重なる。
 もしも三影が生きているのなら、今の自分をどう思ったのだろうか。
 気にはなるが、確かめる術などない。現時点では、村雨はそう思っていた。

 虎の咆哮が聞こえるまでは。

 驚きのまま村雨が、咆哮が聞こえた場所へと顔を向ける。
 そこには、戦いを始めたパピヨンたちがいたのだった。
 運命の再会が訪れるか、訪れないか。結果はすぐに――

【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】

【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]全身に負傷大。核鉄の治癒力と自己再生で再生中。疲労(大)。首輪が解除されました。
[装備]十字手裏剣(2/2)、衝撃集中爆弾 (2/2) 、マイクロチェーン(2/2)、核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金、工具
[道具]地図、時計、コンパス、 女装服
    音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾 支給品一式×3、ジッポーライター、バードコール@BATTLE ROYALE
    文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、
    缶詰やレトルトといった食料品、薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備)
    マイルドセブン(5本消費)、ツールナイフ、モーターギア(核鉄状態)@武装練金
[思考]
基本:BADANを潰す!
1:身体を休める。
2:虎の咆哮に驚き。
3:ハヤテの遺志を継ぎ、BADANに反抗する参加者を守る。
4:仲間と合流する。
5:パピヨンを止める。
[備考]
※傷は全て現在進行形で再生中です。
※参戦時期は原作4巻からです。
※首輪の構造、そして解除法を得ました。
※穿孔キックが完成しました。見た目は原作で村雨が放ったものと大体同じものです。
※首輪は解除され、身体能力、再生能力への制限が解けました。また首輪は核鉄(ピーキーガリバー)にパピヨンがやっていたように巻き付けており、使用できます。


【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:健康(クレイジーダイヤモンドにより、左腕復活)、首輪が解除されました。
[装備]:巫女服
[道具]:ニードルナイフ@北斗の拳 つかさのリボン。
[思考・状況]
基本:BADANを倒す
1:村雨を休ませる。
2:別れた仲間と合流。
3:独歩の死体に、手を合わせたい。
[備考]
※独歩の死体の在り処を知っています。
250Classical名無しさん:08/11/05 18:52 ID:A0TfQGvU
      
251 ◆KaixaRMBIU :08/11/05 18:53 ID:2NjrLB6U
投下終了。
支援感謝します。

指摘、感想お待ちしております。
252Classical名無しさん:08/11/05 18:56 ID:A0TfQGvU
投下乙です!
仮面ライダーへの愛がひしひしと伝わってくる話でした!
ZX、必殺技は完成したが全身ぼろぼろか……
この先どうなるか……
最後に、誇り高く散っていったジェネラルシャドウに敬礼!
253Classical名無しさん:08/11/05 19:08 ID:2yLeuIT2
投下乙!
必殺技の完成と引き換えに重傷の身となったZXはどうなる?
ジェネラルシャドウの出典がぼかされていたのに興味を持ちました。
254Classical名無しさん:08/11/05 20:50 ID:cDvpIlXI
そうだそうだ、ZXになる前に村雨ストロンガーと戦っていたんだった!
茂の前口上を述べるくだりが熱い!!
そして何気にシャドウの戦い方は、数多の機能を持つZXが学にはもってこい!
仮面ライダーの先生なシャドウの最後がかっこいい!!
デルザー軍団万歳は、TV版で少し荒れっと思ったが、今回はよかった!
GJ!!
255Classical名無しさん:08/11/05 21:01 ID:r0ctG/H.
投下GJです!
シャドウとZXのバトル……まさかと思っていたが、ドリルキックが来るとは!
そうだよなぁ、ストロンガー編にコマンドーとして登場してたんだよなぁ。
真の仮面ライダーとなったZX、負傷は大きいが、それでも、それでも、仮面ライダーなら……!
そう思ってしまうぜ! GJ!
256Classical名無しさん:08/11/05 23:09 ID:3QpTah5c
投下乙です!
受け継がれていく、仮面ライダーの魂……! かつてストロンガーと戦い、敗れた2人の怪人。
1人は仮面ライダーの宿敵として、もう1人は新たなる仮面ライダーとして対峙する……!
ストロンガーの口上を述べ、そしてストロンガーの技で穿孔キックを完成させる展開の巧みさに、俺の魂がバーナゥ!
奮えるぞ魂! 燃え尽きるほど灼熱!!
そして戦いが終わったと思ったら、虎の咆哮!?
三影と村雨の再会に、今からワクワクが止まらない!
257 ◆40jGqg6Boc :08/11/06 01:57 ID:2eajFRxg
それでは葉隠覚悟、ジゴクロイド、カニロイドを投下します。
258覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 01:58 ID:2eajFRxg
地に転がるは無数の亡骸。
鋼鉄の身体に改造されし彼らは改造人間と呼ばれた者達。
様々な生物の力を人工的に与えられた彼らの力は強大そのもの。
熟練した軍人が武装しようとも容易に仕留められるとは限らない。
だが、既にざっと見渡すだけで数十体以上の改造人間が哀れな末路を晒け出している。
その中に敢然と立ち尽くし、構えの体勢を取る男が一人。
生身の身体に纏うものは超鋼(はがね)。
只の鎧ではなく、英霊を封じ込めしそれは拭えようのない業から生み出された。
魂を持つ鎧の名は『零』――強化外骨格『零』。
そして零を纏う男こそ人類の希望であり一本の剣。
牙無き人々のためには己が刃で悪鬼共の肉を裂き、赤黒い血を浴びる事も厭わない。
たとえ幾多の屍の山を踏み荒らす事となっても後退する事は許されない。
物心ついた時からその身と心に刻まれし使命。
成し遂げるこそをこの世の花と認識した契り事を成就する……それがたった一つの願い。
弓の家に生まれた彼の名は葉隠覚悟。

――このバトルロワイアルに生き残った参加者の一人なり

◇     ◇     ◇
259Classical名無しさん:08/11/06 01:59 ID:LTenrDbE
260Classical名無しさん:08/11/06 01:59 ID:LTenrDbE
261覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 01:59 ID:2eajFRxg

「ヒャハハハハハハハハハハハ! 精々楽しませてくれよなぁッ!!」

一体の怪人が狂ったように叫ぶ。
声の主はジゴクロイド、蟻地獄を模したBADANの改造人間。
様子から察して上機嫌には間違いない。
事実、彼はすこぶる機嫌が良かった。
参加者の監視などいたずらに欲求を高まらせるしかない仕事には未練はない。
BADANに抵抗し、それでいてある程度の強さを持ち合わせるバカな参加者。
たとえば村雨良こと仮面ライダーZXのような奴と闘いたい……それこそジゴクロイドが沸々と望んだ希望。
自分の渇きを満たしてくれる存在が目の前に居る事でジゴクロイドの心は躍る。
既に目星は付けていた。村雨と同じくらいに自分を楽しませてくれそうな男。
そんな彼に対して、一通の招待状を――血生臭い闘いという誘い――を送るためにジゴクロイドは動く。

「オラァ!」

怒声と共に右腕を突き出す。
蟻地獄の鋏と形容するに相応しい腕を振りかざし、ジゴクロイドは文字通り突進。
BADANでNo2の存在である暗闇大使の一部から生み出されたジゴクロイド。
スペックは通常の怪人の上を行き、ましてや幹部クラスではない再生怪人との差は歴然。
経験こそ浅いものだがその力は大きく、容赦などはない。
唸るようにジゴクロイドの右の刃が空を切りながら、目の前の対象物に肉薄する。
262Classical名無しさん:08/11/06 02:00 ID:B6nONBR6
263Classical名無しさん:08/11/06 02:00 ID:LTenrDbE
264Classical名無しさん:08/11/06 02:00 ID:LTenrDbE
265覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:01 ID:2eajFRxg

「チッ! 簡単にはやらせてくれねぇか!」

しかし、ジゴクロイドには肉を引き裂く心地の良い感触がなかった。
それもその筈、ジゴクロイドの凶刃は獲物を――葉隠覚悟の身体に到達していない。
斜めから袈裟掛けに振り下ろされたジゴクの右鋏を覚悟は右の腕で受け止めている。
改造人間の身体を容易く両断する鋏の刃は並大抵のものではなく、たとえ鋼の鎧で肉体が包まれていようとその衝撃は大きい筈。
だが、覚悟は微動だにしない。
そのまま押し込み、斬りかかろうとするが覚悟の力には及ばず。
バイザーを下げ、深く被った鉄のヘルメットの奥底で覚悟は只、ジゴクロイドを睨む。
鬼すらも逃げかえるような険しい形相を目の当たりにしジゴクロイドは――笑った。
自分の予想以上の力を覚悟は持っている事に悔しさが吹き飛んだとでも言うかのように。
ジゴクロイドは純粋に喜びを見せている様に口元を歪めた。

「余裕だな、おい!」

右腕が止められるものならばどうするか。
取るに足らない自問に答える間もなくジゴクロイドは空いた左腕を振るう。
既に右腕と同じように変化させている左の鋏がしなりながら覚悟の左上半身を狙う。
依然、ジゴクロイドの右腕をしっかりと掴んだ覚悟には動く素振りは見られない。
いや、動かないわけではない。
“未だ”動く必要はなかったのだろう。
肘を立てて、左腕を翳す事によりジゴクロイドの斬撃を受け止める。
零の左腕部装甲とジゴクロイドの左鋏が鬩ぎ合い、軋むような音がまるで悲鳴の如くに響く。
力と力の均衡によりジゴクロイドと覚悟の二人は互いに一歩も動こうとはしない。
しかし、それも所詮僅かな時間での出来事。
数秒にも満たない間隔を経て、ジゴクロイドは右足を振り上げ漆黒の膝で覚悟の腹部へ叩き込む。
まさに我ながら絶妙なタイミング。
両腕を覚悟のそれらと重ねながらジゴクロイドは密かに笑みを零す。
刹那、唐突にジゴクロイドの視界一杯に“何か”が広がった。

266覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:01 ID:2eajFRxg

「ガッ! てめええええええええええ!!」

放った膝蹴りは覚悟の身体には届かず、それどころかジゴクロイドは苦しそうな叫びをあげる。
まるで頭の先から後方へ向かって引っ張られたように、上半身を仰け反ったジゴクロイドの顔には赤い模様が散在している。
それは改造されし身体に流れる人工血液の一片。
一瞬の内に人間でいう口の部分が無残にも潰された事で赤い血液が散らばり、やがてジゴクロイドの足元にも滴り落ちた。
そして頭部を引いた覚悟のヘルメットに映るものもは幾つもの赤い斑点。
ジゴクの打撃よりも速く、零で覆われた強固な頭部で頭突きを繰り出した覚悟には外傷などある筈もない。
再び予想以上の反撃を食らったジゴクロイドは思わず数歩後ずさる。
自然と覚悟の両腕に食い込んでいたジゴクロイドの両の鋏が緩む。
ジゴクロイドが気づいた時には既に遅い。
その隙を見逃す事もなく、覚悟は両の腕でジゴクロイドの拘束を跳ね退け、息をつかせる間もなく跳んだ。
鋼に包まれし両脚をまるでバネのように使い、前方へ踏み飛ぶ。
ジゴクロイドの目の動きよりも一手、二手以上先を行く動きで覚悟の右腕が滑るように叩き込まれる。

「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」

打ち出すのでは手緩い。
まるで“撃ち出す”ように放たれた覚悟の右の拳がジゴクの左頬へ走る。
速さは正に疾風の如く、衝撃は鈍重な鉛の如し。
ジゴクロイドの左顔半分を抉るように覚悟は拳を奮い、周囲に一際大きな鈍い音が鳴る。
幼少の頃から鍛えしその剛なる拳は地に聳える大木すらも打ち倒す。
堪え切れずジゴクロイドの身体は簡単に後方へ吹っ飛んでゆく。
洩らすものは痛みと悔しさに塗れた叫び。
外へ吐き散らすものは鮮血と涎が入り混じった汚らしい液体。
たった一度の拳で醜態を晒す事になったジゴクロイドと、入れ替わりに一つの影が覚悟へ駆け寄る。

267Classical名無しさん:08/11/06 02:02 ID:LTenrDbE
268覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:02 ID:2eajFRxg

「シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!」

ジゴクと覚悟の闘いを見届け、好機を狙っていたのだろう。
面倒な事を嫌い、最終的に自分が手柄を収めればジゴクが別にどうなろうとも問題でない。
ジゴクロイド、そしてカマキロイドと同程度の残虐性を内に秘めし存在が覚悟に挑む。
赤黒い甲殻に覆われたボデイに背中、腹部、両腕と計八本の鋏。
暗闇から生まれしもう一体の怪人、カニロイドが奇声を上げながらジグザグに疾走する。
名前が示すとおり、蟹の特性を受け継ぐ改造人間であるカニロイド。
一直線でなく多角的に、それでいて見かけとは裏腹の高い機動性を持った動き。
幾ら零を纏ったといえども、敵捕捉補助の機能は内蔵していない。
カニを模した頭部についた口の部分から白い泡をぶくぶくと吐き出しながら、覚悟を撹乱する。

「シュ!」

やがて一歩も動かず待ち構える覚悟にカニロイドが顔を向ける。
途端にカニロイドの口元が動き、ノズルのような物体が出現。
現れたと同時にその物体から白色の液体が噴出される。
それこそ特別に精製され、金属やコンクリートすらも溶解する腐食液。
直撃を受ければ、いかに零が展性チタンという特殊金属で出来ていようとも無事であるとは限らず。
狙いの先は勿論、侵入者覚悟のみ。
わざわざ受けてやる義理もない。
更には不意打ちといえども一度両目にしっかりと焼きつけた手段。
覚悟は軽く後方へ跳んで自らに降りかかって来た液体から逃れる。
みるみる内に溶けていく床に少しだけ気を取られるが、覚悟は直ぐに前を向き直す。
その瞬間、覚悟の眼前のカニロイドの身体が跳び込む。
ほんの僅かな時間だけカニロイドから眼を放した覚悟。
まるでそれだけを狙っていたようにカニロイドは長く伸びた両腕の鋏で地を蹴るように弾き、跳躍。
上方から馬乗りの体勢に持ち込むように今度は背中と腹に付いた鋏を突き立てながら、覚悟へ跳んでいた。
しかし、覚悟には動じる様子はない。
只、何も慌てる様子も見せずに軽く両脚を開き――腰の動きと連動する様に右脚を逆袈裟に振り上げた。
269Classical名無しさん:08/11/06 02:03 ID:LTenrDbE
270覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:04 ID:2eajFRxg

「!?」

何が起こったのだろう。
果たしてそう考える時間がカニロイドにあったのかは定かではない。
少なくとも判る事は左脇腹の辺りに強烈な衝撃が走った事。
強固な殻で覆われているにも関わらず、覚悟の上段廻し蹴りはカニロイドに確かな痛みを思い知らせる。
更にカニロイドの身体は先程、内心無様なものだと鼻で笑っていたジゴクロイドと同じように吹き飛ぶ。
意志とは関係なく横殴りに宙を舞う事になったカニロイドは強引に身を捩じり、再び覚悟の方へ向き直った。
蟹の特性を持っている事も要因し外殻の強度には相応の自信はあり、覚悟への闘志は未だ潰れていない。
しかし、振り向いた先に映った影を確認した事で、カニロイドは只驚いたように真っ白な複眼で凝視する。
映った者は勿論、覚悟。
但し、当の覚悟は左手を開き真っ直ぐ此方に向けている。
瞬間、カニロイドは己の危機を悟った。

「シ、シュシュシュシュシュシュ!?」

束の間もなく覚悟は左腕から超高熱弾、“昇華弾”を発射しカニロイドに追撃。
カニロイドは悪鬼の一人であり残虐非道なBADANの一味。
許せぬ感情はあれど、掛ける情けなど考える余地は皆無。
昇華弾の行く末を覚悟はその両眼で見届ける。
一方、カニロイドもそのまま何もしないわけにはいかない。
カニロイドが咄嗟に取った行動は一つ。
見るからに高い温度を持っている事が判る昇華弾に対しカニロイドは背を向けた。
何故ならカニロイドの背中には一際堅牢な甲羅を模した外殻で構成されている。
ショットガンすらも、ヘリコプターの特攻ですらも凌ぐほどの強度を持つ自慢の殻。
これなら心配する事もない。
そう思い込みカニロイドは半ば安堵すらも覚えながら昇華弾の接近を許す。
直撃する昇華弾の感触を確かめ――る間もなくカニロイドの背中に炎が燃え広がり、やがて全身が赤い業炎に焼かれた。
データで確認したよりも更に高い発熱に身を悶え、転がるように床を移動しカニロイドはそのまま覚悟から距離を取る。
一瞬の内にジゴクロイド、カニロイドの両名を撃退した覚悟。
零を全身に纏っているために外からでは判別できないが、彼らとの闘いで感じた疲労の色は見えない。
271覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:05 ID:2eajFRxg

「ケッ! やってくれるじゃねぇかぁ……葉隠覚悟ッ!!」

その事が既に体勢を持ち直したジゴクロイドは気に食わなかっただろうか。
言葉とは裏腹に若干この状況を楽しんでいる様子すらも感じられる。
実際、あっさりと自分をいなした覚悟の事が憎々しもあり、それでいて認めているに違いない。
手合わせをしてから培っていた想いは更に固くなり、ジゴクロイドは覚悟を自分に喜びを与えてくれる存在だと完全に認識する。

「だがなぁ! まだまだこれからってもんよぉ! もっと楽しもうぜぇ……クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

下品染みた、節操もない笑い方。
禍々しい形相を浮かべるジゴクロイドはジリジリと覚悟の方へ再び近寄る。
手痛い反撃を貰ったが未だ足りない。
寧ろ改めて身を持って覚悟の力量を体感した事で欲求は深まった。
底知れぬ欲求を糧にジゴクロイドは自らの戦意を、歩みを止めようとはしない。
燃え盛る炎をようやく消し終え、慎重に事の成り行きを観察するカニロイドにも興味はないようだ。
ジゴクロイドの興味の対象は既に覚悟只一人のみ。
両腕をだらしなく開き、鋏の先端で床を擦りながらジゴクは一歩ずつ進み続ける。

「……おい、どうした? てめぇ、本当にヤル気あんのか……」

しかし、ジゴクの表情は歪み、段々と機嫌が損なわれていく。
元々気性が荒く、感情の浮き沈みが激しいとはいえこれ程までにもはっきりと顔に出るものなのか。
否、ジゴクの感情の推移には確かな理由がある。
事の張本人は今も対峙する覚悟。
それは今まで気にはなっていたが口には出していなかった事。
272Classical名無しさん:08/11/06 02:05 ID:B6nONBR6
273Classical名無しさん:08/11/06 02:06 ID:LTenrDbE
274Classical名無しさん:08/11/06 02:07 ID:LTenrDbE
275覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:07 ID:2eajFRxg

「なんでずっと黙ってやがる! 気に入らねぇ…… ああ!その澄ました態度は気に入らねぇなああああああああああああああああああ!!」

そう。初めの宣言以来覚悟は一言も口を開いていない。
既に眼を通し、実際に監視カメラで見た分では確かに覚悟は無口という部類には入るだろう。
だが、これほどまでに言葉を発しないのには流石に不信感を覚えるのは無理もない。
やがて募った思いは不審すらも超えて、いつしか明確な苛立ちへと姿を変えてゆく。
両腕を打ちつけて、不愉快な音を撒き散らしながらジゴクロイドは狂ったように叫ぶ。
いつ飛び出しても可笑しくはない。
言うなれば拘束の首輪を外された獰猛な獣が野に放された光景。
ジゴクロイドの兄弟とも言えるカニロイドは動かない。
じっと石のように固まり、自分の最善の行動を見定めるように沈黙を貫く。
そしてジゴクロイドの怒声すらも碌な反応を見せなかった覚悟。
そんな彼は漸く強化マスクで隠された口元を動かし始める。

「……一つだけ訊かせてもらいたい」
「あぁん!?」

呟いた覚悟に口汚く言葉を返すジゴクロイドを気にした様子は見られない。
只一つの問いかけに対する答え。
覚悟には既に予想は出来ているかもしれない。
だが、それでも“ある”事を決断するためにも――覚悟はジゴクロイドに再び問う。

「キサマの拳は何のためにある? BADANのためにか? だが、それでは味方を容易く見捨てる理由にはあらず!
たとえキサマは同士と認めていなくとも我らを打ち倒すため、BADANの野望とやらを達成するには一人でも多い方が良いだろう」
「ハァ? 何かと思えばつまらねぇコト訊きやがって……俺は楽しめればそれで良いんだよ。 大体なぁ、俺がてめぇに負けるわけがねぇ!
取るに足らねぇ人間如きが……其処等辺に生えてる雑草の様な奴らがBADANである俺に挑む事自体笑えるぜッ!!」
「ならば――その腐った認識がいかに愚かなコトか思い知らせるのみ!!」

276覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:09 ID:2eajFRxg

相変わらず騒々しさが目立つ叫びよりも更に大きな声を持って覚悟は一喝。
更に両の拳を握りしめ、覚悟は再び雷鳴の如く闘気を周囲へ醸し出す。
先程の闘いで覚悟が無言で闘っていたのは昂った心を静めるための手段に過ぎない。
最終格闘技零式防衛術は己の感情を殺す事で完成と見なす。
仲間の命に対して何も感じる節が見られなかったジゴクロイドへの大きな怒り。
内なる感情の渦を抑え、ジゴクロイドとカニロイドの相手をしていたが覚悟の挙動は確かに変化を見せ始める。
漸く本気になったのだろうか。
ジゴクロイドのお手軽な気性は打って変わって次第に良好なものとなってゆく――わけにはいかなかった。

「おいおい……ヤル気になったんじゃねぇのか、これ以上イラつかせんな。これは最後の警告ってやつだぜ、わかってんのかぁ……!」
「無論、伊達や酔狂でやっているわけではない」
「ッ!だったらよぉ――――」

呆れたように言葉を投げ掛けるジゴクロイドの表情は依然険しいもの。
寧ろ先程よりも険しさが酷くなり、呆れ返った様子に現れ始めた怒りは隠しようがない。
言葉を続ける度にその程度は増し、覚悟のさも平然とした答えが拍車を掛ける。
たった今覚悟が返した言葉がジゴクロイドにとって無性に気に入らない。
良くもそんな事を真顔で言えたものだ。
言葉と共にどす黒い悪意をジゴクロイドは覚悟に容赦なくぶつける。
そう。やっと言葉を発し、本腰を入れて闘う気になったと思った矢先に――


「なんで、てめぇはそんなフザけたもんを持ってやがるッ!?」


覚悟が一本のハリセンを手に取ったのだから。

◇     ◇     ◇
277Classical名無しさん:08/11/06 02:09 ID:B6nONBR6
278Classical名無しさん:08/11/06 02:10 ID:5J7ulFWU
支援
279覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:11 ID:2eajFRxg

『覚悟! 何を考えている!? 我らには無駄にする時間などない!!』

今まで覚悟の闘い振りに感心し、口を出していなかった零が交信を飛ばす。
既に心を繋いだ仲である覚悟と零は一心同体の身。
覚悟の意思が零の意思となり、零の意思が覚悟の意思となる。
しかし、零の口調には慌ただしさがはっきりと感じ取れた。
何故なら零にとっても覚悟の行動は全く持って理解不能であったから。
BADAN壊滅のためには逸早く此処を突破する事は必要不可欠。
零式を持って迅速にこの場の敵を殲滅こそが第一の目的に違いはない。
たとえ自分が居なくとも覚悟なら容易く行えるだろう。
覚悟が繰り出す零式は既に従来の格闘技を軽く超越するものであり、事実彼は即急に決着を付ける筈だと零は思い込んでいた。
そのため、態々時間を掛けるような真似を仕出かす覚悟が零にはどうにもわからない。

「すまん、零。60秒……いや、30秒程で良い。俺に時間をくれ」

零の問いかけに答える覚悟。
その表情、声色が織りなすものは強い意思。
先程、覚悟自身が言ったように、決して伊達や酔狂のような軽い感情から起きたものではない。
覚悟の只ならぬ決意を全身で感じ取り、零も腹を据えた。

『了解! 信じるぞ、覚悟!!』
「応!」

想いは一つ、零は再び覚悟に全てを委ね彼はそれら全てを心身で受け止める。
右腕に強く握りしは真っ白な、何の変哲もないハリセンのみ。
だが、覚悟が放つ闘気はいつにもまして無骨ながら一流が成せる代物。
そう。それで十分なのだろう。
未だ覚悟の真意が判らずとも零が覚悟を信頼しない筈がない。
彼ら二人を結ぶ絆がその程度でどうにかなるものでもないのだから。
燃えるように滾る覚悟の熱い鼓動を直に感じながら、零と覚悟は再び一つの炎となる。
280Classical名無しさん:08/11/06 02:12 ID:LTenrDbE
281Classical名無しさん:08/11/06 02:12 ID:5J7ulFWU
支援ッ
282Classical名無しさん:08/11/06 02:13 ID:LTenrDbE
283覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:13 ID:2eajFRxg

「ふざけんじゃねえぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

そんな時ジゴクロイドが地を蹴り飛ばし、覚悟へ向かう。
この状況であんな玩具のような物を取り出した覚悟。
どう考えても自分を舐め切っているとしか思えない行動。
しかもそれでは飽き足らず今度は此方を無視するかのように鎧と会話をしている。
我慢の限界はとっくの前に過ぎ去っており、そもそもジゴクロイドに引き下がる理由もない。
思い立つ事は覚悟をどんな風に殺してやろうかという事だけ。
一瞬では面白くない。
出来るだけ楽しめるように、覚悟に恐怖を植え付けるように、惨たらしく殺すために。
思わず笑みすらも零れそうな甘美な妄想にふけながら、ジゴクロイドは正面を見据える。
只の望みで終わらせるのではなく、現実のものとする。
覚悟とはまた異なった決意を抱きながら突撃するジゴクロイドはやがて――眼を疑った。
ジゴクロイドが見たものは今までとは違い、自分の方へ疾走した覚悟。
それだけならジゴクロイドは驚く事はなかったかもしれない。
だが、あくまでもそれはジゴクロイドの予想の範疇内での行動を覚悟が行った場合に限る事。

「なっ!?」

そう。只、覚悟が見せた速度があまりにも速かった事にジゴクロイドは純粋に驚いていた。
横殴りに振りかぶった右の刃は呆気なく避けられ、覚悟が一瞬で距離を詰める。
確かに監視カメラによる今までの戦闘記録や事前データで覚悟が相当の実力者である事はわかっていた。
しかし、これはあまりにも予想を超えている――ならどうするか。
どうにか状況を把握し、次の対抗策への決定を僅かな時間で迫られたジゴクロイド。
既に闘う意思は十分な覚悟が悠長に黙っているわけがない。
更に前へ踏み込み、左腕を振り翳そうと動くジゴクロイドへ覚悟の身体が飛び込む。
284Classical名無しさん:08/11/06 02:14 ID:LTenrDbE
285覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:15 ID:2eajFRxg

「遅い」
「ッ! てめぇ、やっぱり俺を舐めてるだけじゃねぇかッ!!」

今や重なるかと思うほど近づいた二つの身体が再び離れる。
ジゴクロイドの横を抜ける間際に覚悟はハリセンを振い、一閃の軌道を描いた。
右腕に握ったハリセンを少し下げ、掬い上げるように一気に振りぬく。
丁度胴に値する部位を弾く様に打ちつけるような一発がジゴクロイドの身体を叩いた。
無論、その打撃に殺傷性などある筈もなくあるのは只、闘いに似つかわしくない軽快な音の響き。
もし覚悟の獲物が一本の真剣であったならば既に致命傷と成り得る一撃。
遊ばれているとジゴクロイドが思うのも無理はないだろう。
碌なダメージは受けていないため、直ぐにジゴクロイドは覚悟へ振り向く。
振り向きざまに覚悟の頭部に狙いを付け、右腕を怒りに任せて振り上げる。

「クソがッ!!」

しかし、覚悟は僅かに身を逸らす事で襲い来る斬撃から逃れた。
焦る様子など微塵も見せない。
何処か別の場所からジゴクロイドの挙動を見通しているかのように、その行動には無駄もない。
それどころか覚悟はカウンターの要領で、ジゴクロイドの右腕を逆にハリセンで弾く。
先程と同じくジゴクロイドの身体に痛みは生じないが、ジゴクロイドの表情は更に歪む。
またも覚悟に良いようにやられた事。
そして相変わらずこんな胸糞の悪い事をやってくれる覚悟の真意の不明瞭さがイラつかせる。
寧ろ不気味さえ思えてきたジゴクロイドはがむしゃらに左腕を、右腕を――両腕を振り廻し覚悟の身体を切り刻みに掛る。
同時に覚悟も依然ハリセンを握りしめ、ジゴクロイドへ駆け寄る。
この闘いで見せた中で一際速い速度を鍛え抜かれた両脚で演出しながら――覚悟は叫ぶ。

286Classical名無しさん:08/11/06 02:15 ID:LTenrDbE
287覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:16 ID:2eajFRxg

「キサマは宣言した、人間など取るに足らぬ存在だと……否! 断じて否! そんな戯言は認めん!
今、この場で敢えて拳を使わない理由は一つ! 俺はキサマが軽んじた人間の力を打ち込んでいる!」

交差するように迫ったジゴクロイドの両腕を掻い潜り、ハリセンを振るう。
同時に声を大にして叫ぶのはジゴクロイドの言動への怒り。
人間を人間と思わないジゴクロイドはまさに真の悪鬼、遠慮はいらない。
猛烈な勢いで打ちつけたのはジゴクロイドの左頬。
只、人間の尊厳のためだけに振るったハリセンだが未だにジゴクロイドに碌な外傷は与えられない。
だが、幾ら打撃性がないと言えど全く意味がないわけでもない。
ジゴクロイドの左頬を抉る様に走ったハリセンによる衝撃。
使い手である覚悟の尋常でない力により繰り出されたその一撃にはハリセンでは到底考えられない程の威力がある。
流石に首が捻じれ切れる程はないまでも、ジゴクロイドの頭部を揺さぶる事には充分。
反吐が出るような覚悟の言葉、思わず視点を揺さぶられた怒りを燃やしながらジゴクロイドは一旦距離を取ろうとする。

「受け切れまい! このハリセンは我が戦友が遺した品、キサマが笑いし人間の力が籠っている!
そうだ、今の俺にとってはたとえ一本の刀よりも心強い! 俺を信じてくれた友の! 俺が信じた友の! 繋いだ絆が俺を熱く滾らせる!!
キサマは人間の力に負けるのだ、悪鬼ッ!!」

だが、覚悟は逃さない。
右に左に、何度もハリセンを振いジゴクロイドはやがて視線を一定に保てなくなる。
覚悟の脳裏に浮かぶ人影はこのバトルロワイアルで戦友と認めた一人の男。
特に秀でた能力はないにも関わらず義の心を――失われた侍の魂というべきものを秘めていた少年。
志村新八から譲り受けたハリセンを存分に振るいながら、覚悟は天を突く勢いで言葉を並び立てた。
さながら疾風怒濤の猛攻で攻め立てる覚悟にジゴクロイドは為す術がない。
自分が信じる人間の尊厳の炎を燃やし、信念の元に闘う覚悟にかかればハリセンですらも見る者に脅威を齎す。
今まで周囲を包囲していたコマンドロイド達もカニロイドも一歩も動けない。
288Classical名無しさん:08/11/06 02:16 ID:5J7ulFWU
なんという零式防衛術ツッコミ
289Classical名無しさん:08/11/06 02:16 ID:B6nONBR6
290Classical名無しさん:08/11/06 02:17 ID:LTenrDbE
291覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:21 ID:2eajFRxg
非殺傷の武器でジコクロイドを此処まで追い詰める覚悟に彼らは思わず戦慄していたためだ。
しかし、依然、猛攻を受け続けているジゴクロイドの表情がやがて嬉しそうに歪む。
そしてなりふり構わず両腕を使って強引に後方へ跳んだジゴクロイドが口を開く。

「ク、クヒヒヒヒヒヒヒ! 記憶にあるぜ! 確かお前にそれをやったのは志村新八というガキ……ケケ、あいつの最期は呆気なかったなぁ!
吉良吉影とやらに騙されて、あいつの能力……スタンドで爆発させられてたぜ!
そうさ、あっさりとマジで何もできずに死にやがった……あの時は腹を抱えて笑わせてもらったもんだ!!」

ジゴクロイドが本当に嘲笑っていたのかは判らない。
参加者の監視といえども、一般人の部類に入る新八を態々気にかけていたかどうかは疑問が残る。
恐らくジゴクロイド自身も記憶が確かではないのかもしれないが、そんなことは最早関係がない。
覚悟が口に出した新八を口汚く罵る事で溜まりにたまった鬱憤を晴らそうと考えたのだろう。
ハリセンの猛打によって、赤く腫れ上がっていたジゴクロイドの表情はみるみる活気を取り戻す。
残虐非道の性格の持ち主であり、矮小な人間が恐怖で慄く様子が好きでたまらないジゴクロイド。
満足げに浮かべるその醜い笑顔には一種の達成感すら見えていた。
そしてジゴクロイドは視線を動かし始める。
自分の言葉を受けて覚悟はどういう反応を示すだろうか。
悲しみに暮れるか、それとも自分自身に対して怒り狂った姿を見せつけるか。
いや、もしかすればショックで馬鹿みたいに呆然と立ち尽くしているかもしれない。
密かに抱いた期待を膨らませながら、ジゴクロイドは覚悟を捜すが――その必要はなくなった。


「ガッ!」
「戦士の最期を侮辱する者――畜生よりも劣るなり!!」

292Classical名無しさん:08/11/06 02:21 ID:LTenrDbE
293覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:22 ID:2eajFRxg

何かが火を噴く音が聞こえていたかと思うと、ジゴクロイドの右頬に鋭い衝撃が走る。
打撃の主は勿論覚悟、使用した獲物は今まで通りのハリセン、ジゴクロイドが聞いた音は零のバーニアの音。
ジゴクロイドが離脱した瞬間、既に追撃のために覚悟は突進を掛けていたためジゴクロイドは予想外の一撃を貰う。
新八の死について吉良がやったという事だけは服部平次から既に聞いていた覚悟。
それでも再び新八の死を、それも詳細を知らされる事は酷な事だろう。
事実、覚悟の動きは若干鈍り、ジコクロイドへの攻撃はほんの少し遅れていた。
だが、覚悟は泣きごとの一つも決して口には出せない。
ジゴクロイドのような下賤な男に言いように言われた新八の尊厳を守るように、宿した感情を力に変えて叩き込むのみ。
あまりの衝撃、覚悟の本気の力が籠ったハリセンは圧倒的な力を生み、ジゴクロイドの身体をきりもみさせ――吹き飛ばした。
まさかハリセン如きでこれまで――。
思わず周囲を取り囲んでいた全員がそう思っていただろう。
そう。それは宙を舞うように浮いていたジゴクロイド自身が一番強く思っているに違いない。


「――ッ! 何してやがる、てめぇらッ! さっさとこいつをブチ殺せええええええええええええええええええッ!!」


最早、手段などどうでも良くなったのだろう。
無理やり身体を捻り、両腕で床を切りつけるように跳ね上がってジゴクロイドは大勢を整えた。
雁首を揃えて事の成り行きを見守るしかなかったコマンドロイド達に、ジゴクロイドは指示を飛ばす。
誰がどう見ても怒り心頭といった様子で両目は赤く血走っている。
暗闇の子とも言える存在であるため、コマンドロイドは命令に逆らうわけにはいかない。
直ぐに各々地を蹴って、覚悟を倒すべくコマンドロイドが殺到する。
そしてハリセンを構えていた覚悟は己の身体を徐にコマンドロイドの集団に向き直す。
何故か再び覚悟はバイザーを下げ、その素顔を周囲へ曝け出し、ハリセンを見つめ続ける。
294覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:23 ID:2eajFRxg

『気が済んだか、覚悟?』
「ああ、すまなかったな零。これで迷いはない」
『ならば良し! きっとお前の友も満足であろう』
「そうであるコトを希望する。では――行くぞ、零!!」
『了解!!』

ハリセンを凝視していた覚悟の視線がやがて離れる。
両目に映る影は自分の方へ群れをなして走ってくるコマンドロイドの大群。
覚悟は必勝の身では非ず、いつかはその命を散らすだろう。
しかし、恐怖などはない。
必ずしも勝てるとは言い切れない闘いに身を投じた時は口に紅を引いて、敗北の瞬間に礼を尽くす。
そう。たったそれだけの事。
負ける事は恥じる事ではない、闘わぬ事が恥なのだ。
故に覚悟はどんな状況でも闘い、そして絶えず己の死を覚悟する身である。
だが、今この闘いでは覚悟は微塵にも恐れは感じていない。
その手に握り締めたハリセンが覚悟に言いようのない力を与えてくれるためだ。
本来の世界で堀江罪子や覇岡大らと結んだ仲間という絆。
この殺し合いで知り合い、別れ、そして歩んできた仲間の一人一人の面影を思い浮かべ覚悟は再び構えを取る。
バイザーを上げ、ハリセンをその場に置き、雷鳴染みた闘気を遠慮なく焚きつける。

――覚悟完了!

再度、零と心を繋ぎ、覚悟はコマンドロイドに真向から突撃する。

◇     ◇     ◇
295Classical名無しさん:08/11/06 02:23 ID:LTenrDbE
296Classical名無しさん:08/11/06 02:24 ID:LTenrDbE
297覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:24 ID:2eajFRxg

「おいおい……なんの冗談だよ、これはよぉ!!」

ジゴクロイドが叫ぶ。
その声には今まで見せなかった恐れすらも見える。
そう。ジゴクロイドは今、目の前で起きている事が信じられない。
未だに覚悟の身体が地に倒れ伏していない事にジゴクロイドはその場に立ち尽くしていた。

「どうした! 俺は未だ健在なり!!」

既に残骸となりしコマンドロイドの数は十よりも多い。
仮面ライダーZXのボディを模して造られたため、そのスペックは一般の戦闘員にしては低くない。
覚悟と零の力量が更にその上を行くだけの話。
その実力は必要以上の感情を消去されたコマンドロイドですらも畏怖する。
だが、命令がある限り彼らは覚悟と闘わなくてはならない。
更にもう一体のコマンドロイドが意を決したように覚悟へ挑む。
覚悟へ拳を叩きこもうと右の拳を振り上げながら走りゆく。

「直突!」

しかし、粉砕されたのはコマンドロイドの方。
コマンドロイドが放った拳は覚悟の左手の掌握により完全に沈黙。
お返しと言わんばかりに打ち放った拳で覚悟はコマンドロイドの頭部を潰す。
相手の攻撃を受け、逆に避ける暇もなく反撃を行う。
言うなれば肉を切らせて骨を断つカウンター技法こそ覚悟の真骨頂。
今まで何度かコマンドロイドの拳を受けたため、左腕には若干のしびれがあるが問題はない。
正拳――直突を放った拳を引き戻し、覚悟は次の攻防に備え始める。
見れば今度は残った五体のコマンドロイドが一斉に覚悟へ向かっている。
今更動じる事もない。
冷静に左腕を構えて、覚悟は咆哮を上げた。
298覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:25 ID:2eajFRxg

「零、昇華弾!」
『任せろ! 昇華弾発射!!』

撃ち出された業火の弾丸が一体のコマンドロイドに直撃。
あまりの威力に周囲のコマンドロイドにも飛び火し、彼らの進行の勢いは衰える。
やがて沈黙を余儀なくされた一体から距離が遠い順に、計三体のコマンドロイドが覚悟を襲う。
先頭のコマンドロイドは簡易型の電磁ナイフを構え、我先にと覚悟の腹部へ突き刺すに繰り出す。
後方の二体は十字手裏剣、そして特別に持たされた衝撃集中爆弾で覚悟の動きを牽制する。
一人一人では相手にはならないため、集団戦を仕掛けた事は評価出来るだろう
だが、その挙動も覚悟には遅いものであった。
幾らスペックが優れていようとも心が――魂がなければ恐るには足らない。

――一体目

十字手裏剣と衝撃集中爆弾を多少その身に受けながらも、掻い潜った覚悟に肉薄。
電磁ナイフを身を横に逸らす事で避けられ、反撃に強烈な肘打ちを胸部に喰らう。
たちまち教部装甲がボロボロと音を立てて崩れさる。
一体目が地に倒れ伏すまでに覚悟は眼もくれず、突進。
続く二体目に向かった。


――二体目


主に十字手裏剣での掃射を担当していたコマンドロイド。
今まで目の前で同類達が何度もやられているのを確認したにも関わらず、覚悟の速度を誤算。
ショートレンジの闘いを余議なくされ、右足による回し蹴りを狙うが時既に遅し。
突進の勢いを利用し、一回転を経て繰り出した覚悟の裏拳を顔面に直撃する。
防ぐ事は叶わず、めでたく残骸の仲間入りを果たす。
そして既に標的は三体目に移り変わる。
299Classical名無しさん:08/11/06 02:26 ID:LTenrDbE
300覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:26 ID:2eajFRxg


――三体目


衝撃集中爆弾を投げていたコマンドロイド。
二体目と同じく距離の近さを確認。
先の一体よりは余裕があったため、右膝に衝撃集中爆弾をセット。
自爆覚悟で右膝蹴りによる着弾を狙う。
渾身の力で振りぬくが、覚悟との距離感が著しく狂った。
瞬時に軽く零のバーニアを噴き、距離を詰めた覚悟が放ったものは正拳。
剛拳により胴を貫かれ、やがてそれっきり動かなくなる。
右腕を振い、三体目のコマンドロイドの残骸を振りほどき、覚悟は更に前方へ跳んだ。


――四体目


先刻、昇華弾の直撃を喰らったコマンドロイドの一番近くに居た一体。
漸く炎の勢いも収まり、体勢を整え直した矢先に覚悟の急速な接近を察知。
直ぐに覚悟の攻撃に備えようと構えるが、ふいに彼のメインカメラが死んだ。
コマンドロイドの顔面に、覚悟の右足が突き刺さり、全てを粉砕している。
己の作戦失敗を悟り、四体目、最後のコマンドロイドの意識は深い闇に沈む。

――そう。此処を持ってこの場に居る全てのコマンドロイドが機能を停止した。
301Classical名無しさん:08/11/06 02:27 ID:LTenrDbE
302覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:27 ID:2eajFRxg
「シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!」


そんな時、今まで様子を窺っていたカニロイドが覚悟へ向かう。
恐らく覚悟の疲労が溜まるのを待っていたのだろう。
コマンドロイドを覚悟の消耗を誘うために敢えて自分は手出しに入らなかったカニロイド。
見てみれば覚悟が纏う零にも所々傷が見え、覚悟の息も荒い。
ジゴクロイドに手柄を、得物を取られる前に自分が覚悟を殺すのには絶好のチャンス。
そう思い立ち、カニロイドは全速で覚悟の元へ走り始めた。


「――赤熱化!!」


一方覚悟も零のバーニアに火を灯し、カニロイドへ突撃。
零によって発された高熱を全身に纏い、真っ赤に発光する覚悟。
蒸気すらも立ち昇り、その温度の高さを物語る。
両腕を握り前方へ突き出し、真紅の弾丸となりてカニロイドへ恐るべき速度で迫る覚悟にカニロイドの両眼が妖しく光った。
再び口元のノズルを動かせ、強力腐食液を噴射するカニロイド。
真っ向から突き進む覚悟に避ける様子は見られず、カニロイドは勝利を確信する。
だが、それが間違いである事をカニロイドが知る事は永久になかった。


「手緩い! 激突!!」


赤熱化により高熱の膜とも言うべきものを纏った覚悟。
そんな覚悟に振りかかろうとした腐食液はあまりの高温で蒸発。
覚悟には一滴も掛かる事はなく、覚悟を遮るものは最早は何もない。
勢いを殺すことなく、覚悟は赤く光った両腕で呆然とするカニロイドの身体を一瞬でぶち貫き――通り抜けた。
303覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:28 ID:2eajFRxg
「――!!!!!?」


赤熱化を解き、軽く膝を地につく覚悟の後ろでは大きな穴が空いたカニロイドの姿。
先程の昇華弾で相当装甲が脆くなっていたのだろう。
背中の殻ごと身体の半身を削り落すように焼失したカニロイドはゆっくりと倒れ、やがて大きな爆発が起きる。
それが暗闇の子の一人、カニロイドの最期だった。


「てめえええええええええええええええええええええええええええええッ!!」


カニロイドが死んだための叫びではない。
ジゴクロイドが抱くのは只、これほどまでにも好き勝手にやってくれる覚悟への怒り。
覚悟に抱いていた恐れを振り払い、ジゴクロイドは両腕を翳しながら両脚を走らせる。
このまま戦況を暗闇大使に報告するわけにはいかない。
自分が必ず覚悟の首を取らなければこの失敗は許してもらえないだろう。
がむしゃらに身体を動かし、覚悟にありったけの恨みや怒りをぶつけるためにジゴクロイドは地を駆ける。
そんな時、ジゴクロイドは見た。
何故か、一段と険しい表情を浮かべた覚悟の姿が異様に大きな存在に錯覚してしまう。
理由は全くわからない……いや、認めたくない。
そう。ジゴクロイドは今も恐怖していた。
覚悟の計り知れない力は到底自分が叶うものではない――その事実を認識することが、只純粋に。
304Classical名無しさん:08/11/06 02:28 ID:LTenrDbE
305覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:29 ID:2eajFRxg
「おらあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

両腕を真上から真下に振り下ろす。
後の事など考えていない、考える余裕もない。
覚悟を殺すだけを考えて放った斬撃――しかし大きな手ごたえを感じない事に思わずジゴクロイドは怒りを通り越し、悲しみすらも覚えた。
そして零の左腕部の辺りに小さな亀裂が入った覚悟が飛び込む。
右腕を振りかぶり、ジゴクロイドの懐へ一瞬で近づき――

「――因果ッ!!」

天に突き上げたかのように撃ち出した必殺の正拳、“因果”がジゴクロイドの腹部に食い込む。
所詮、一発でしかない拳。
だが、その一撃はジゴクロイドに尋常ではない痛みを味あわせ、彼は抵抗の術を失った。
貫かせたまま覚悟は腕を上げた事により、ジゴクロイドの身体が宙へ浮く形となる。
既に勝敗は決した。
だれの目にもジゴクロイドには腕一本動かす力はなく、覚悟が勝負を制したと思える光景。
しかし、ジゴクロイドは勝ち誇った顔で口を開き始める。

「けっ……俺に勝ったからっていい気になるんじゃねぇぞ……。BADANには親父が……暗闇大使が居る……。
津村斗貴子とかいう女が殺し合いに乗ったのも……親父のお陰だ……」
「なんだと! 真か!?」
「当たりめぇだろ……へっ、親父は俺たちより容赦がねえぜ……精々後悔するんだな。
……人間の……分際で親父を、BADANを……敵に回したお前たちの愚かさを……地獄で待ってるぜ、クソ野郎が…………」

苦し紛れに言い放ったジゴクロイドの言葉。
津村斗貴子の一件に暗闇大使という男が関わっていたという事実が強烈に響く。
ルイズを、柊つかさを、川田章吾、そして自分達に襲いかかった悲劇。
許してはおけない。
全ての発端となった悪鬼の存在を認識し、打倒暗闇大使を深く心に刻み込む。
そして覚悟は口を開く。
悪鬼といえども自分に対し最後まで闘ったジゴクロイドに言葉を送るために――
306Classical名無しさん:08/11/06 02:29 ID:LTenrDbE
307覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:30 ID:2eajFRxg
「ならばキサマ達、BADANが何度でも我らに勝利はないと言ったとしてもその都度、俺はこの言葉で答えよう――」


バイザーを下げ、空いた拳を握る。
それは決意の現れ、今後全ての使命を必ずやり遂げる事を示す近い。
既に何も反応を示さなくなったジゴクロイドに、何処かで見ているかもしれないBADAN共に叩きつける。



「人間は――決してBADANには負けない」



牙無き人々のために闘う覚悟は人類を愛し、その力を知っている。
その口調には一片の迷いなどはない。
持ち上げた腕で昇華弾を撃つのと、覚悟が言葉を発したのはほぼ同時。
赤黒く燃え上がるジゴクロイドの残骸を振り落とし、覚悟はやがて背を向けた。


――この殺し合いを一刻も早く終わらせるために。
308覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:31 ID:2eajFRxg
【ジゴクロイド@仮面ライダーSPIRITS:死亡確認】
【カニロイド@仮面ライダーSPIRITS:死亡確認】

【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】

【葉隠覚悟@覚悟のススメ】
[状態]:全身にダメージ中。疲労中。首輪が解除されました。
[装備]:強化外骨格『零』@覚悟のススメ
[道具]:大阪名物ハリセンちょっぷ 滝のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS(ヘルメットは破壊、背中部分に亀裂あり)、首輪(覚悟)
[思考]
基本:牙無き人の剣となる。この戦いの首謀者BADANを必ず倒し、大首領を殺す。
1:別れた仲間と合流。
2:葉隠四郎、暗闇大使を必ず倒す
3:ヒナギクを愛さない
【備考】
※零と一体になる事に迷いはありません


【対主催者グループ共通思考】
『大首領を殺す作戦』
1:大首領を強化外骨格の中に降ろしてから、成仏鉄球で成仏させる。
2:そのためには大首領を弱らせる必要がある。
3:強化外骨格内部の死者ならば、大首領を内側から攻撃できる可能性が高い
309Classical名無しさん:08/11/06 02:31 ID:5J7ulFWU

310Classical名無しさん:08/11/06 02:31 ID:LTenrDbE
311Classical名無しさん:08/11/06 02:33 ID:B6nONBR6
312 ◆40jGqg6Boc :08/11/06 02:33 ID:2eajFRxg
投下終了しました。
深夜であるにも関わらずたくさんの支援ありがとうございます。
途中で投下がもたついてどうもすみません。
それでは感想やご指摘などお待ちしています。
313Classical名無しさん:08/11/06 02:37 ID:5J7ulFWU
投下乙
覚悟が!覚悟が熱い!
まさか俺の出したハリセンがこんな所で活躍するとは思わなかった
覚悟の一方的攻撃だったが、それを感じさせないほどの演出。
とてもよかったです
314Classical名無しさん:08/11/06 02:40 ID:LTenrDbE
投下乙です!
こちらも熱すぎる!
ハリセンでジゴクロイドを圧倒する覚悟の姿凄い!
それにしてもやはり、暗闇の子はかませだなーw
コマンドロイドを圧倒する姿は、やはり覚悟は覚悟だと感じさせました。
GJ!
315Classical名無しさん:08/11/06 20:38 ID:MtHgwwrg
投下おつ〜!!
ううおお、熱い、熱いそ覚悟!!
叫ぶ時は叫ぶが、普段は静かな覚悟がかっこいい!!
ハリセンで「人間」の強さを説くとかもうたまらんよ!
最後のセリフなんかもうね!
GJ!!
316Classical名無しさん:08/11/06 20:42 ID:UmeTg8Ac
投下GJです!
覚悟かっけえええ!
これぞ葉隠覚悟! これぞ強化外骨格『零』! これぞ覚悟のススメ!
という感じの作品でした。
ハリセンがまさかこんな活躍をするとはなあ……
暗闇の子+コマンドロイドなんかでは、かーなーり荷が重かったなw
さーて、何気に三影との因縁もある覚悟が、さらにTQNのことで暗闇とも因縁が出来たが……どうなるんだろうw
317Classical名無しさん:08/11/07 20:46 ID:mcqKe/Fk
ちなみにシャドウは ジェネラルじゃなくてゼネラルね
318Classical名無しさん:08/11/07 20:49 ID:gMfd32o6
>>317
ちゃう。

番組の表記はゼネラルシャドウだが、番組中の呼称、及び各媒体の正式名称がジェネラルシャドウ。
これくらい、少しぐぐれば分かると思うが。
319Classical名無しさん:08/11/07 20:50 ID:mGGLdqZQ
英語のカタカナ読みほど空しいもんはない
320Classical名無しさん:08/11/07 21:43 ID:mcqKe/Fk
ぐぐればとか・・・ 普通のストロンガーファンには譲れない部分なんだけどな

ゼネラルシャドウ に一致する日本語のページ 約 133,000 件中 1 - 10 件目 (0.05 秒)

ジェネラルシャドウ に一致する日本語のページ 約 38,600 件中 1 - 10 件目 (0.03 秒)

なんでも擁護すりゃいいってもんじゃないよ。 当事の空気ってもんがあるんだから
321Classical名無しさん:08/11/07 21:51 ID:NI5wqKd6
とりあえずライスピには『ジェネラルシャドウ』の名で出てる
322Classical名無しさん:08/11/07 21:59 ID:gMfd32o6
>>320
庇護以前に、ストロンガーを見れとしか。
作中ちゃんと、ジェネラルシャドウと呼ばれているし、各媒体ではジェネラルシャドウで通っている。
OPクレジットのみだから、ネタになっている部分なんだが。
323Classical名無しさん:08/11/07 22:11 ID:gMfd32o6
http://cos-memo.net/cos-contents/uploader2/src/up1352.jpg

証拠。
仮面ライダー OFFICIAL DATA FILE より。
324Classical名無しさん:08/11/07 22:21 ID:hHcy/4jY
>>323
申し訳ない。
ライダーをあまり知らない俺は、SSだけを見て凄いイケメンを想定していたんだが、罰ゲームみたいな顔で笑ってしまったw
325Classical名無しさん:08/11/07 23:01 ID:gMfd32o6
>>324
ギャップに燃えるんだw(誤字にあらず)
326Classical名無しさん:08/11/08 15:27 ID:wHTJN2R.
嫌なオタクって自分がその知識を知ってることを自慢するために、知らない人を見下すような言い方するから死ねと思うわ
327Classical名無しさん:08/11/08 15:33 ID:4hK70puU
あおりはスルーで
328Classical名無しさん:08/11/08 15:48 ID:PJgQhlUM
>>326
そんなことを言う、お前が氏ね
329Classical名無しさん:08/11/08 21:13 ID:QnefUO9M
まあID:gMfd32o6がアレなのも確かだがなw
330Classical名無しさん:08/11/08 21:16 ID:4hK70puU
>>329
流れからするに、 ID:mcqKe/Fkのことじゃね?
間違った指摘なんだし。
331Classical名無しさん:08/11/08 21:18 ID:QnefUO9M
>>330
よく読み返してみたら両方とも・・・
332Classical名無しさん:08/11/08 21:26 ID:4hK70puU
>>331
いや、別に。

神父パート埋まったからもう終わりも近いのか。
333Classical名無しさん:08/11/08 21:45 ID:QnefUO9M
>>332
そうか・・・俺には醜い意地の張り合いに見えてしまった・・・
もうこの話は終わりでいいなw
334Classical名無しさん:08/11/09 12:40 ID:8x4oahHU
そういえばもうすぐ終わっちゃうんだよな、漫画ロワ。
335Classical名無しさん:08/11/09 13:53 ID:A3Xj8N5o
もうすぐは現在の価値で換算するとおよそ1年
336Classical名無しさん:08/11/09 15:43 ID:rSUSbtlw
ttp://ranobe.com/up2/updata/up38848.jpg
らきすたハヤテ風味
337Classical名無しさん:08/11/09 23:10 ID:oTdnCKSg
「もうすぐ完結じゃね?」と心の中で思ったならッ!
その時スデに予約は終わっているんだッ!
338 ◆1qmjaShGfE :08/11/10 18:58 ID:jvHzP2Cs
赤木、ヒナギク、エレオノール、カマキロイド投下します
339Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 18:59 ID:jvHzP2Cs
見上げると照明が少ないせいもあり、上が見通せない程高い天井。
通路の幅もその高さに見合った大きさで、人が三人通るには過ぎた広さだ。
余りに大きすぎる空間は、自らがそこに不釣合いなのでは、との疑念を人に抱かせる。
招かれざる客人も落ち着いて周囲を見渡す余裕が持てた時、そんな不安に苛まれるのではないだろうか。
ごつごつとした岩肌、所々整備した後が見られるが、外から見た時確認したあの大きさ全てを整える余裕は無かったようだ。
物資運搬の為であろう、床面だけは綺麗に舗装されている通路に、奇怪な生物が居た。

口の端を醜く歪めたまま女であったモノは、硬質な殻を持つヒトガタへと変わる。
鎧のように外骨格を重ねた上半身、胸部のふくらみがかつて女性であった事を示している。
また右腕の半ばから先は反りのある長い刀のようになっており、頭部の形状と相まってデザインベースが蟷螂であったと教えてくれる。
「ねえ、一つ聞きたい事があるんだけど、貴方達の……」
完全に変態を終えたカマキロイドは、どうやって発声しているのか不思議でならない口からそんな言葉を呟きつつ、そちらは人と同じ形状の左腕を上げる。
同時に赤木が動く。
腰のベルトに挟んであった454カスールを抜き、正確に、しかし素早く両手で構えるとカマキロイド目掛けて引き金を引く。
三発、連続で放った所で赤木は反動による腕の痛みに眉を顰め、銃を降ろす。
銃弾は赤木の狙いから僅かにそれるも、カマキロイドの左腕肘の部分に一発だけ命中する。
カマキロイドの外骨格が大きく砕け、左腕が弾かれるように後ろに引っ張られる。
銃の威力に大きく目を見開くカマキロイドだったが、それでカマキロイドの目論見を止める事は出来なかった。
「息を吸うな!」
赤木の鋭い叱咤は、しかし赤木発砲と同時に踏み込んでいたヒナギク、エレオノールには遅きに逸した。
小さい悲鳴と共に、駆け寄った勢いそのままに大きく転倒する二人。
「嘘、体が……」
「毒!? いつのまに!」
二人共必死に体を動かさんとするも、全身に液状のコンクリートでもぬりたくったかのように体が重く、思うように動けない。

カマキロイド、会話を続けつつ左手五本の指先から放たれる麻痺毒により三人の拘束を狙う。
340Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:00 ID:jvHzP2Cs
赤木、毒の存在は知らないがその挙動がカマキロイドによる策略であると見抜き、その基点と思われる左手を銃にて狙う。
会話を続けるつもりであったヒナギクとエレオノールの二人だが、赤木の発砲を知るなり戦闘開始とみなし突進。
この広い空間では散布が不十分であったが、カマキロイドの周囲にはすぐに麻痺毒が展開され、これによる影響を受け二人は転倒。
以上が戦闘開始から五秒間の出来事だ。

それと予想し、注視していなければ気付けないカマキロイドの左手からの毒の流れを見てとった赤木は、躊躇無く二人を見捨てる逃亡の道を選んだ。
敵に背中を見せ、通路を駆け戻りながら赤木は叫ぶ。
「……左腕だっ!」
ヒナギクにしてもエレオノールにしても、ここでの赤木逃走を責める心積もりは持っていないだろう。
ならばこの行動はマイナスにはならない。
曲がり角を曲がった所で一息入れつつそんな事を考える赤木。
ほんの数秒で周囲に展開される毒、致死毒かどうかの判別はつかないが、即死毒でないのは幸いである。
しかしこの攻撃は対毒装備を持たぬ者にとっては、絶対的な優位を誇るだろう。
現に赤木は範囲外へと逃げる以外の選択を取り得ず、残る二人も通常ならばあそこからの逆転劇は望み薄だ。
ならば残された二人は、もう餌食になった頃であろうか。
否、赤木シゲルはそのようには考えない。
生き残った三人の女性の内、柊かがみを除く二人の女性を、赤木は自衛能力も無い無垢な一般人だなどと思ってはいなかった。
この場でのキーパーソンは桂ヒナギク。
彼女が動けばまだまだ場は荒れる。
それは同時にヒナギクが命を賭ける事にもなるのだが、あの女はそこでは怯まない。
むしろ注意すべきはその蛮勇。冷静に現状を見つめ対処するという鉄火場において最も重要な要素が欠けている点だ。
そこを丁寧に拾ってやれば、桂はまだまだ戦える。
拾いきれれば、だが。
ほんの少し吸っただけであろうに、震えの来ている指先を見ながら、赤木は次なる手を講じ始めた。


341Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:00 ID:jvHzP2Cs
銀髪の男の臆病さは計算外だった。
話をしながら麻痺毒の散布を行い、一番弱い者からいたぶり殺そうと考えていたのだが。
こちらが少し身動きした程度でいきなり発砲してきた。
左手の麻痺毒を知っていた訳でもあるまいに、腰抜けにも程がある。
挙句、仲間が二人倒れると見るや後ろも見ずに逃走とは、先ほどの大言壮語は一体なんだったのか。
余りにアホらしくて相手をする気も失せてしまう。
とか言いながらも生かして帰す気はさらさらないカマキロイド。
後でコマンドロイドにでも命じて生きたまま連れてこさせようと心に決め、まずは目の前に無様に倒れ臥す二人をイビる事にした。
カマキロイドが現れた時の三人の挙動を覚えている。
臨戦態勢に入ったのは三人共だが、女の方の銀髪は、僅かにもう一人の女を庇うようなそぶりを見せたのだ。
それはつまり、庇われた方がより弱いという証。
「なら、まずはピンク髪の可愛らしい子からね」
目尻が上がる。人に在らざる容姿ながらもその感情表現は変わらない様子。カマキロイドは笑っているようだ。
地に臥す二人の女の前には手から零れ落ちた木刀と、精緻な人形が滑稽な様で転がっている。
呆気ないものね、そう呟きながらもこれから始る阿鼻叫喚の時を想像すると、我知らず笑みが零れてしまう。
やはり苦しめるのなら強者か女子供に限る。
まずは顔から入るか、それとも手足か、そんな事を考えながら一歩、一歩と二人に近づく。
「あら? 貴女達他にも武器持って無かった……」
顔を伏せたまま、ヒナギクとエレオノールの二人は同時に叫んだ。

『武装錬金!』



体が動かないと見るや、ヒナギクは核鉄を解除する。
エレオノールが毒と口にしてくれたおかげでその可能性にはすぐに思い至れた。
ならば、核鉄の治癒能力で回復しうる可能性がある。
342Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:01 ID:jvHzP2Cs
隣に倒れるエレオノールも同じ判断を下した模様。ちょっと嬉しかった。
カマキリ女がすぐさま飛び込んできたら、前に転がりながら木刀村正を手にとってその攻撃を受け止めるつもりだった。
体中は痺れているが、そのぐらいは動ける。いや、動いてみせる。
しかしカマキリ女はより毒が効果を発揮するのを待っているのか、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
確かに、体の痺れは時間を増す毎に酷くなってくる。
赤木さんは左腕と叫び、カマキリ女の左腕に銃撃をした。
何故そう思ったのか理由はわからないが、おそらくあそこが毒の基点なのだろう。

ならばまずはあれを叩っ斬る!

カマキリ女が間合いに入ると同時にヒナギクは動く。
バルキリースカートを展開し、動かない体の代わりにバルキリースカートの刃を使って空中高くへと舞い上がる。
脱力した状態でバランスを取るのは困難な作業であったが、気合とか根性とかその辺の物でカバーする。
狙いを定めてバルキリースカートの刃を振りかぶると、エレオノールがエンゼル御前にてカマキリ女の動きを止めてくれているのが見えた。
あの矢が刺さらない外皮には少し驚いたが、矢が当たる度に体が大きく跳ねている。あれならこちらの攻撃をかわすのも難しいはず。
『エレオノールさんエライ! 後は任せて!』
必死に身をよじってかわそうとするカマキリ女、本当は右手の刃でヒナギクを迎撃したいのだろうが、エレオノールの放つ矢がそれを阻害していた。
目線のフェイントは通じてくれたようだ、カマキリ女はこちらの狙いが頭部であると誤解している。
着地後の態勢なんて知らない。とにかくあの毒を何とかするのが最優先。

ヒナギクの四本の刃を一つにまとめた一撃必斬は、カマキロイドの左腕肘の部分を切り裂き、見事左腕切断に成功したのだった。

両手足を地面について、着地をしようと考えたヒナギクだったが、最早体はピクリとも動いてくれなかった。
顔、胸部、足の順に地面に激突するも、全身が麻痺しているせいかあまり痛く感じなかった。
慌ててバルキリースカートを使って立ち上がる。
体を立った状態で固定するぐらいには、まだ力は残っているらしい。
通路に響くカマキリ女の悲鳴。
343Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:01 ID:jvHzP2Cs
改造されてても痛いものは痛いんだ。うん、これなら公平よね。などと愚にも付かない事を考える。
自分は麻痺のおかげで大して痛く無いという事実は知らん振りらしい。
エレオノールは上半身のみを起こした体勢で、ぶるぶると震えている。

ありゃりゃ、やっぱりエレオノールさんも動けないか。でも私と同じ状態のはずなのに、半身を起こしてるのって凄くない?
うわっ、自力で立ち上がり出したし。
でもあの状態じゃとてもじゃないけど接近戦何て無理だろうし、ここは私が何とか……

ヒナギクがエレオノールを庇うべく前に移動しようと考えた時、視界の端に赤木の姿が見えた。
こちらを見ていた赤木は、ヒナギクと視線が合うと一度だけ頷く。
『赤木さん最高っ! 貴方きっと良いお嫁さんになれるわよ!』
ヒナギクはエレオノールの前に立つのを止め、カマキリ女にバルキリースカートにて斬りかかる。
カマキリ女も動揺から立ち直ってこれを受け捌く。
バルキリースカートの可動肢は全部で四本。この内三本を移動と姿勢維持に当てている為、振るえる刃は一本のみである。
真横から薙ぎ払うように振るわれるカマキリ女の剣。
それを前へと踏み込み、剣の根元を押さえて受け止める。
半ばや先端部分を受けるよりずっと少ない力で済むはずのこの受け方でも、ヒナギクを大きく後退させるに充分であった。
三本の可動肢を器用に用いてバランスを取り、再度斬りかかる。
ここで他所に手を出す余裕を与えてはならない。
何故なら、身動きの取れないエレオノールを赤木が抱えて移動している真っ最中なのだから。



大きく息を吸い、赤木は立ち上がろうともがくエレオノールへと走り寄る。
バルキリースカートを持つ桂ヒナギク以外が、今の状態で接近戦を行うのは不可能。
毒散布の元は断ち切ったが、ばら撒かれた毒が拡散しきるにはまだ時間がかかるだろう。
間の悪い事に、エレオノールの両手にはあるるかんへと伸びる糸が括りつけられたままだった。
344Classical名無しさん:08/11/10 19:01 ID:NLZBCPXc
345Classical名無しさん:08/11/10 19:02 ID:NLZBCPXc
346Classical名無しさん:08/11/10 19:03 ID:NLZBCPXc
347Classical名無しさん:08/11/10 19:03 ID:bcTgNIDk
しえん
348Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:03 ID:jvHzP2Cs
これを一々外している暇も無いし、後で必要にもなる。
両脇にそれぞれエレオノールとあるるかんを抱え、通路の奥へと向かう赤木。
糸が絡まるのはもう仕方が無いと割り切る。赤木にも見た目程余裕は無いのだ。
息を止めてはいるが、全身がじわりと痺れ始めている。
呼吸を止めても影響は受けるらしい。強力無比な武器だ、カマキリ女が強気なのも頷ける。
初めに毒の影響範囲に入った時は、皮膚にぴりっと来るような気配があった。
しかし、それも今では感じられない。皮膚感覚が麻痺してきている。
最初に自分が隠れていた場所と同じ距離を取れば、とりあえずは平気だろうと目星をつけて走る赤木。
「アカギ! 毒の効果範囲は抜けました! ヒナギクの援護をしましょう!」
予定していた地点より少し近い距離だったが、エレオノールは毒の範囲を感じ取れるらしい。
あの毒の中で立ち上がった事といい、エレオノールの体力は常人のそれを大きく上回っているようだ。
エレオノールとあるるかんを降ろすと、赤木はエレオノールの手から核鉄エンゼル御前をひったくる。
不意打ちだったせいであっさりとそれを許したエレオノールの手元に、代わりにシルバースキンの核鉄を放る。
「核鉄のまま持っていろ……指示があるまで一歩も動くんじゃないぞ。お前には一刻も早く回復してもらわければならないんだからな……」
そう伝えるとエンゼル御前を呼び出す。
「おーっし出番だなエレノン! ……ってエレノンの鼻高っ! どんだけ派手な嘘ついたんだよ!」
御前のボケをガンスルーで淡々と告げる赤木。
「桂に当てず、可能な限り数を放て。牽制になるのなら当たらなくても構わん」
更なるボケを口にしようとした御前だったが、弓を構える赤木の腕が震えている事に気付いて真顔になる。
「任っせろい! アカギンも踏ん張ってくれよ!」



壁に叩きつけられるのはこれで三回目だ。
全然痛くないので気にもしていないが、時折視界がぼやけるのは恐らくこのせいだと思われる。
このカマキリ女、他の怪人とは格が違う。
バルキリースカート一本では、攻撃を受ける事すら難しい。
349Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:04 ID:jvHzP2Cs
しかし姿勢制御に用いている三本を攻撃防御に回す事も出来ない。
三本による機動だからこそ、カマキリ女のスピードについていけているのだ。
通路には充分な広さがある。最初にやったように上に飛びあがっての斬り降ろしを狙いたい所だが、生憎カマキリ女がそれを許してくれなかった。
発狂でもしたかのように右手の剣を右に左にと振り回す様は、何処にでもいるヒステリー女そのものであったが、そこに怪人のパワーが組み合わさると始末に終えなくなる。
ほんの一瞬でも集中を切ったら終わりだ。
もしかしたら集中を切らなくてもこのままジリ貧なのでは、といった事をヒナギクは一切考えていなかった。
この剣撃をかいくぐり、いかにしてカマキリ女を斬り倒すか。それのみを考えていた。
そして今はともかくこの剣を捌き、凌いでカマキリ女のスピードに慣れようと。

桂ヒナギクは決して愚か者ではない。
毒の影響で体が動かなくなっているのなら、解毒措置を取らなければ、いかに毒の散布を止めたとしても、症状は改善されないであろう事もよくわかっている。
このまま症状が進めば、体を支える事も出来なくなり、戦闘続行不能になるであろう事にも気付いている。
それでも尚、ヒナギクに恐怖は無い。
範馬勇次郎に挑んだ時同様、狙いを定めたならば、それ以外の事は一切気にしないと心に決めているのだ。
思考停止、と言い換える事も出来る。
自身を省みる事、そして敗北の可能性を一切無視するそれはまさしく蛮勇と呼ぶに相応しい。
しかしそれによってヒナギクは命を長らえていた。
桂ヒナギクの人生において、正真正銘の殺意を向けられたのは数える程しかない。
これはそんなヒナギクが、当たれば死ぬ攻撃に恐怖せずに立ち向かう為、自然と身につけた手法なのだ。
恐怖は覚悟や技術や能力を容易く駆逐する。
ならば恐怖を乗り越える事こそ最も重要であると、ヒナギクは理性ではなく感性で悟っていた。
そこに彼女の非凡さが現れている。
平凡な学生の一人でありながら、女性参加者の中では五本の指に入る肉体能力を持つ彼女。
戦乱の最中ではない、穏やかな日常の中でそんな自らを作り上げた彼女の意思の強さは特筆に価するであろう。
350Classical名無しさん:08/11/10 19:04 ID:NLZBCPXc
351Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:04 ID:jvHzP2Cs
そんな彼女だからこそ、たったの一日半で一般人と呼ばれるような環境からの参加ながら、改造人間幹部と不利な状況で渡り合うなどという真似が出来る程に成長しえたのだ。

一本の刃も欠ける事なく、赤木からの援護を受けるまでカマキロイドの攻撃を凌ぎきったヒナギク。
その体がゆっくりと崩折れる。
支えにしていたバルキリースカート三本の刃が少しづつ力を失い、両の膝が地面に付くとそのまま内股座りにぺたんと座り込む。
俯いて荒い息を漏らしている所からまだ意識はあると知れるも、疲労の為かはたまた麻痺のせいか、敵を眼前にしながら戦闘態勢を解いてしまった。
赤木と御前の放つ矢に皮膚の各部を砕かれながらも、ヒナギクの様を見たカマキロイドは従来の余裕を取り戻す。
力尽きたヒナギクを他所にカマキロイドは赤木とエレオノールの方を振り返る。
「ようやく来たわね」
二人の居る場所、更にその奥からコマンドロイドの群れが姿を現していた。
あの二人もまた麻痺の影響を受けている。
随分とてこずらせてくれたが、どうやらこれで決着となりそうであった。



「ヒナギク!」
そんな悲鳴と共にエレオノールが立ち上がる。
「行くな」
すぐに赤木に止められるが、聞く耳持たず、あるるかんを操らんと両手を振り上げる。
「まだ万全には程遠いだろうが、お前の相手はあっちだ」
聞く耳を持っていなさそうなのは赤木も同様であった。
御前にカマキロイドの牽制をさせながら、赤木が顎で指した方向からは複数の足音が聞こえてきていた。
歯軋りをしながらヒナギクと足音の来る方向を交互に見やるエレオノール。
「桂は俺が踏み込めば救う手立てはある。お前はあの足音……おそらく人型の改造人間……を抑えろ。だが核鉄は使うな。お前の回復が俺達の生命線だ……出来るか?」
覚えたての感情であるが故に、制御する術に乏しいエレオノール。
赤木の言葉の正しさは理解出来ても、あんなにも頑張ってくれたヒナギクの援護に行けないというのを自身に納得させられないでいる。
352Classical名無しさん:08/11/10 19:05 ID:NLZBCPXc
353Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:05 ID:jvHzP2Cs
不安におののき肩を怒らすエレオノールに、赤木は底知れぬ深みを持つ目とまるで戦場を感じさせない物静かな笑みを見せる。
「二体までならこっちに流しても構わない。それで何とかしろ」
エレオノールがどんなに焦燥に駆られようと、仲間達がどれほどの危機に陥ろうと、決して揺らぐ事なく次々と正しい対処をしていく赤木。
先の先を見越す先見の明、予期せぬ事態にも迷う素振りすら見せず淡々と決断を下していく冷静さ、そして何よりエレオノールの心を掴んだ事がある。
先ほどはヒナギク、そして今はエレオノール。いずれも覚悟を決めてこの場に来ている二人に、命を賭けよと指示を下してくれる事。
そしてそんな二人を決して見捨てず、何処何処までも冷静に救う手立てを用意している事。
かつての師を思わせる頼もしさに、エレオノールも冷静さを取り戻す。
「……わかりました。ただの一体とてそちらには向かわせません」
更に深く口の端を上げた赤木のそれは、きっと自分がそうさせたのだろうと思うと少し誇らしかった。
痺れる指先に鞭打ってあるるかんを立ち上がらせ、遂に姿を現したコマンドロイドへと向かうエレオノール。
同時に赤木も毒素漂う戦場へと飛び込んで行った。



まっずいわこれ。体だけじゃなくてバルキリースカートも動かせなくなっちゃった。
あ、いや、多分全力出せばもう少しやれると思うわよ。
でもねぇ、流石にそれだけであんのカマキリ女に一撃入れるの無理っぽいわ。
だからこうして身動き取れなくなったフリをして油断を誘ってるんだけど……いや〜、参ったわ。
ヤられたフリしてみたら、本当に脱力しちゃったもんでこの項垂れた首上げるのもちょっと無理っぽい。
足元を見下ろしている視界も、少しずーつ狭くなってきてるみたい。
やっぱり調子に乗ってやられすぎたかしら。あっちに飛ばされこっちに飛ばされ、今自分の体がどうなってるのか想像するのが怖いわね。
別に気を抜いたつもりはないんだけど、矢による援護が来たと思った瞬間、バルキリースカートが言う事きかなくなっちゃって。
油断を誘うなんて事言ってるけど、他にどうしようもなくなって膝、ついちゃった。
良く考えてみれば、この状態でどうやってカマキリ女が踏み込んで来るタイミングを見定めるのよ。
354Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:06 ID:jvHzP2Cs
あー、もう、どうしてくれよう、私のバカバカバカ! ……あ、誰かの足が見える。

「飛べ!」

赤木さん! 貴方は何て頼れる人なの!
さっきのエレオノールさんを連れて行ってくれた事といい、貴方にはもう借りてばっかりで、どうやって返したものか思いつかないぐらいよ!

赤木の合図と共にバルキリースカート四本を使って宙を舞う。
眼下には元々見れたものじゃない奇怪な顔をしたカマキリ女が、更に相貌を歪めてこちらを見上げている。
この体勢ならばバルキリースカート四本同時使用が可能だ。
きっとこれが最後のチャンス。あらん限りの力を込めて、頭と言わず、胴と言わず、腕と言わず、足と言わず、

何処もかしこも微塵斬りにしてあげる!



斬りつけた結果がどうであろうと知った事かとばかりに、とにもかくにも着地の瞬間まで可能な限り何度でも斬りつける。
そんなヒナギクの斬撃回数、二十七回。
絶対に外さないであろう間合いでありながら、刃のコントロールを失敗して外した攻撃が三回。
命中二十四回の内、勢い余って自分にまでかすってしまった斬撃が二回。本当麻痺してて良かった。
中空にて暴れるだけ暴れた後、べしゃっと大地に落ちるヒナギク。
カマキリ女はどうなったのだろうか、倒れた自分の視界からはその姿は見えない。
確認の為首を動かそうにも、もう指一本すら動いてくれそうにない。
全身びりびりに痺れていて色んな感覚も麻痺しているのに、不自由無く目も見えるし耳も聞こえる不思議は結局解決される事は無かった。
そういう毒なのだろうと思っていたのだが、不意にその理由に思い当たる。
きっとカマキリ女は、動けない相手を見ながら下品に笑うのが楽しいのだ。
355Classical名無しさん:08/11/10 19:07 ID:NLZBCPXc
356Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:07 ID:jvHzP2Cs
そして勝ち誇るカマキリ女の姿を、声を、相手に知らしめてやりたくて仕方が無いのだ。
うん、そうだ。そうに違いない。カマキリ女はそんな性格の捻じ曲がった嫌な奴なんだ。
でもなければこれだけ体が動かないのに、口汚く罵るカマキリ女の声だけは聞こえてくるなんて嫌がらせな現状を、納得出来そうもない。
「キサマアアアアァァァァァ!!」
全く、もう少し女らしくしたらどうなの? そんなんじゃモテないわよ?



御前の矢はカマキリ女に命中している。
しかし、外骨格に阻まれて効果的な打撃を与えているとは言いがたい。
二人に駆け寄りながら赤木は次々と御前に指示を出す。
右腿上部、頭頂左目、左脇腹下部、刃の先端部等々。
カマキリ女の行動を阻害する、それのみを目的とした射撃は御前の精密射撃により次々と実行に移される。
もちろん奴も案山子ではない。動き、かわし、矢を跳ね飛ばしてその半分は弾かれる。
それでいい、完全にこちらに注意を向けさせられればそれで充分だ。
奴の立ち位置も調節しなければならない。
桂はそう遠くまで飛ぶ事は出来なくなっているだろう。
そうだ、その位置だ。そこに立ったお前は、物のついでと視界に入った桂にトドメの一撃をくれんと剣を振り上げる。
「飛べ!」
桂はまだ余力を残している。座り込んだ姿勢で倒れずにいる事がその証。
なら何故桂は動かない。決まっている、隙を誘い最後の一撃に全てを賭ける為だ。
俯いた状態でもその位置ならば奴の足が桂の視界に入る。例え声が聞こえずとも動くだろう。
案の定桂は飛びあがって剣をかわし、これが最後とばかりにカマキリ女を滅多斬りにしてみせた。
全身から血を噴出すカマキリ女。
赤木の集中力が最も高まったのはこの瞬間だ。
ここからカマキリ女の眼前にたどり着くまでが、勝負の決め手となるのだから。
「頭部に集中攻撃。殺すつもりで重いのを撃て」
357Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:07 ID:jvHzP2Cs
ヒナギクの連撃により全身から血を噴出すカマキリ女に対し、御前が矢の集中砲火を浴びせかける。
これまで赤木は牽制目的での速射を御前に命じてきた。
それをここに来て倒す目的の攻撃へと切り替える。
赤木の目はヒナギクに削り取られたカマキリ女の外骨格へと注がれている。
見極めるべきは、カマキリ女の急所。
奴は改造人間、人為的に作り上げられた存在。
ならばその体は理詰めで出来上がっているはず。
つまり、その急所は最も厚い装甲に守られている、そんな推理が成立する。
胸部中央正中線、ヒナギクの斬撃でも内部まで斬りつける事が出来ずにいるその部位こそが急所と赤木は読んだ。
ヒナギクがカマキリ女の装甲を深く傷つけるまでの間、自分は毒の影響を極力受けないようにする。
攻撃手段である454カスールがカマキリ女の装甲を砕けるのは確認済み。そしてマガジンも最初に物陰に潜んだ時に入れ替えマックス七発を装填してある。
あると赤木が予測していた増援は、核鉄によって多少の回復を行ったエレオノールが抑えている。
全てはこの時の為、改造され無類のタフネスを誇ると思われるカマキリ女の急所を一撃で貫く、その為の布石。
顔に攻撃を集中したせいで、カマキリ女の攻撃より赤木の銃撃の方が一瞬早い。
初めに語った通りである。
赤木シゲルは、詰め将棋でカタのつく勝負を死線と呼ぶ気は無かった。



一体のコマンドロイドが首を振りながらその身を起こす。
周囲を見渡し、倒すべき敵が消えている事を確認すると、千切れかけた体を引きずりながら来た道を戻る。
与えられた役割を果たす為、その手に持った銃を構えながら。
コマンドロイドとはいわゆる改造人間である。
それ故、人間であった時の経験がその能力に影響を及ぼす場合もある。
彼は銃の扱いに長けていた。
特にライフルを使わせれば、州でも五本の指に入る腕前と自負していた。
見つけた。あれが標的だ。
358Classical名無しさん:08/11/10 19:08 ID:NLZBCPXc
359Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:08 ID:jvHzP2Cs
朦朧とする意識の中、コマンドロイドは銃を構える。
何百回となく繰り返してきた所作、ライフルを構え、狙いを定め、引き金を引く。
倒れている女に銃弾は不要。ターゲットは半身をカマキロイドで隠された位置に居るあの銀髪の男だ。
狙いを外すとは露程も思わぬコマンドロイドは朽ちかけた体を物ともせず狙いを定める。

神ならぬ身に全ての状況を読みうる事など不可能。
状況が卓上、ないし卓周辺に限られる麻雀とは把握しなければならない情報量がケタ違いなのだ。
それら全てをその脳に収める事も不可能であり、そもそも知りうる全てを記憶していたとしても、戦況全てを予測するには圧倒的に情報量が足りていないのだ。
それこそが戦場の不合理であり、神童赤木シゲルとてその範疇で戦う他無い。
奇跡的に体が動く状態のコマンドロイドが居た事も。
そのコマンドロイドが銃の扱いに長けている事も。
激しい戦闘の最中で銃が精密さを失っていない事も。
カマキロイドへの赤木の銃撃直前に間に合う事も。
全ては戦場故、そう納得する他無いのである。



ようやくギャンブルが出来る



銃から手を離し、矢を放つ。
戦闘訓練を受けぬ赤木は、その挙動を一瞬で済ます事など出来ない。
だが、その僅かな間はカマキロイドに行動の余地を与えてしまう。
強靭な足腰はヒナギクの斬撃を受けて尚健在。
ヒナギクがやったように大きく上へと舞い上がるカマキロイド。
カマキロイドは意識していなかったが、その行為は遙か後方で赤木を狙うコマンドロイドの銃撃をより正確にする効果もあった。
360Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:09 ID:jvHzP2Cs
上と正面、双方から狙われた赤木は真後ろに体を倒す。
コマンドロイドの銃撃は、その挙動でかわせた。
しかし真上から振り下ろすカマキロイドの剣は、これで回避の余地すら無くなってしまう。
奇声を発しながら倒れる赤木へと剣を振り下ろすカマキロイド。

「やらせる訳ないでしょうっ!!」

地を這うように駆け寄ったヒナギクが、今度こそと全力で振るった刃の群れは、カマキロイドの首を跳ね、臓腑を抉り、右腕を切り飛ばし、その息の根を止めた。
「……カマキリ女を、盾にしろ」
全身を光で包まれ、隠し切れぬ苦痛の色を見せながら指示をする赤木。
赤木と同じく光に包まれるヒナギクが、指示通りにカマキリ女を盾にすると、更なる銃撃がカマキリ女であった物に当たり跳ねる。
すぐに赤木が落とした銃を拾い、カマキリ女の体で遮蔽を取りながら反撃に出る。
両手でしっかりと保持し、狙いを定めて引き金を引く。
当たらない。当然だ。ヒナギクは射撃の訓練なぞ受けた事など無いのだから。
二発撃った所で、ヒナギクは相手の状態を見て反撃を諦める。
カマキリ女の体を抱えたまま赤木も庇える位置に移動し、ひたすら遮蔽物の陰に隠れてやりすごすと、遂に銃声が聞こえなくなる。
おそるおそる遮蔽から顔を出したヒナギクは、力尽きて倒れるコマンドロイドの姿を確認し、ほっと一息をついた。

核鉄エンゼル御前の特性の一つ。
右手の篭手を使って放った矢は、命中した者の負った怪我を射撃主に移動させる事が出来る。
それによりヒナギクの損傷をその身に移し、後を彼女に託したのだ。
後事を任されたヒナギクが、判断を一つでも誤ったらどちらも死ぬ。
ヒナギクが最早動かぬ体と全てを諦めていたのなら、全く打ち合わせをしていない傷の移動直後にカマキロイドへと攻撃する事は無かっただろう。
又、ただ蛮勇を振るうだけの存在であったのなら、コマンドロイドの再度の銃撃により二人共撃ちぬかれていただろう。
危険極まりない命を賭けたギャンブル。
積み上げた策を全て投げ捨てながら、コマンドロイドが視界に入った僅かな間にこれを判断し実行に移す奇跡の選択。
既に辿り着く事のない未来の赤木シゲルはこう語っている。
361Classical名無しさん:08/11/10 19:09 ID:NLZBCPXc
362Classical名無しさん:08/11/10 19:09 ID:bcTgNIDk
支援
363Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:11 ID:jvHzP2Cs


頭など使っていない、集中さえ切れなければ何をするべきかは機会が教えてくれる
今……この時しかないという「機」に殉ずる――
その気持ちが「機」を呼び育み育てる
結果的に「勝ち」への道を開く


完全に傷が移りきる前にヒナギクは体に刺さった矢を抜こうとしたのだが、赤木によりそれを止められる。
赤木はヒナギクにエレオノールの援護をさせるつもりだった為だ。
5体のコマンドロイドを毒による影響を受けたままで抑えきるのは、さしものエレオノールでも厳しかった。
それでも赤木が手を打ってくれる。そう信じて核鉄を使わず堪えていたエレオノールの元にヒナギクが参戦すると、形勢はあっさりと逆転。
一息ついた所でヒナギク、エレオノールの二人は赤木を抱えて通路を更に奥に行った所で小休止を取る。
核鉄により少しづつ毒の影響は抜けていっているが、ヒナギクがカマキロイドにやられた傷まで負ってしまった赤木は身動きが取れない。
心配そうに赤木を見守るヒナギクとエレオノールに、赤木は額から脂汗を流しながら言った。
「エレオノールは先に行け。俺と桂はここでしばらく待機だ」
既に核鉄としろがねの力により毒素の抜けたエレオノールはほぼ万全の状態。
赤木とヒナギクはまだ毒の影響が残っていた。
それでもヒナギクは動けるだけの余力があったが、かといってエレオノールにしてもヒナギクにしても赤木一人を残して行けるはずもなく。
役割分担としては最良に近い分け方だ。二人はすぐに納得した。
「わかりました。二人もお気をつけ下さい」
再度エンゼル御前とシルバースキンの核鉄を交換し、エレオノールは更に奥へと駆け出して行った。
壁にもたれかかるように座る赤木の前に、警戒しながら立つヒナギクは一つの疑問を口にする。
「何でエレオノールさんだけ先に行かせたの?」
「クククッ……二人じゃ怖いのか?」
「違うわよっ! ただ、また考えあっての事なのかなぁって。赤木さん作戦とか考えたりするの凄そうだし」
ヒナギクは先ほどの赤木の立ち回りの見事さに、彼への見る目を変えていた。
364Classical名無しさん:08/11/10 19:11 ID:NLZBCPXc
365Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:11 ID:jvHzP2Cs
何を考えているのかわからないという所は一緒だが、頼れる頭脳と行動力の持ち主であると認めているのだ。
「……そうだな。理由は色々あるが……強いて言うのなら桂ヒナギク、お前だ」
「私?」
「動けないフリを何故二度もやった? 特に二回目はお前ならば、前へ出る選択肢を選ぶ方が、よりらしい動きだった……」
ヒナギクは迷う事無く即答する。
「動けって念じても、刃が思うように動いてくれなくなってきてたのよ。これは少し間を置かないとマズイなって思って」
赤木は両目を瞑り、そうか、とだけ言って沈黙する。
ヒナギクは次の言葉を待って黙っていたが、赤木はいつまでたっても口を開いてくれない。
「……あの、質問の答え。まだもらってないんだけど……」
半目を開いてちらっとそちらを見る赤木。
「戦闘に関してなら、俺よりお前よりエレオノールは役に立つ」
当然だろうといわんばかりにそう呟き、再度目を閉じる。
有無を言わさぬ口調は、言下に今は無駄口を叩かず体を休める時だ、と言っていた。
ヒナギクは口をへの字にするも、体の動きが鈍いのも確かにその通りなので素直に休む事にした。



   ◇ ◇ ◇



赤木が目を覚まして起き上がると、すぐ隣に居たヒナギクは呆れ顔をしていた。
「良くこの状況で寝れるわね」
「……クククッ、矢でこの怪我を背負う気があったのなら、お前が寝ても良かったんだがな」
肩をすくめながら両手を挙げるヒナギク。
「適材適所よ。怪我は構わないけど、私にはここで寝るだけの度胸は無いわ」
ヒナギクの痺れの有無を確認すると、赤木はヒナギクを伴いエレオノールの後を追う。
366Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:12 ID:jvHzP2Cs
ヒナギクは自然と赤木の前を歩いている。
不意打ちに対応する能力はヒナギクの方がより高いと自負してるからだが、赤木もそれに異存は無かった。
会話も無く歩を進める二人。無口な赤木に無理に話題を振るのも悪いとヒナギクは気を遣ったのだが、その赤木の方から沈黙を破ってきた。
「桂、ここに突入した連中のお前の印象を聞かせろ」
突拍子も無い話題フリに少し面食らう。
「どうしたの急に?」
「何、暇潰しだ。構わないだろ」

通路はある地点から半分程の広さになる。
相変わらず移動するには充分すぎるが、派手に飛びまわるには少し不足している、そんな大きさである。
順番は適当に、思いつくままに各人の印象を述べていくヒナギク。
赤木は時折相槌を打ちながら、気になった事を問い返しながら、話の続きを促す。
不意に通路が大きく開ける。
先ほどの通路より大きな空洞。
立体交差のように幾本もの通路が交差する吹き抜けに出たのだ。
思わず足の止まるヒナギク。彼女は高所恐怖症であった。
「……どうした?」
妙に緊張感のある声で赤木が問うも、ヒナギクは問題無いと答える。
今通っている通路に沿って歩くと、手すりも無い幅3メートルの橋を渡る事になる。
下は五メートルを越える高さ。うまく飛べば何とかなりそうな高さではあるが、恐いものは恐いのだ。
カタカタ震えながらも橋の入り口の所まで歩を進めるヒナギク。
赤木は少し強い口調でそれを制する。
「迂回するぞ桂」
その口調にカチンと来たのか、ヒナギクはムキになって言い返す。
「何でよ! べ、べべべ別にこんなのどうって事ないわよ!」
「ある。いいから戻るぞ」
367Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:13 ID:jvHzP2Cs
理由すら説明せずに戻る事を主張する赤木。
少し冷静さを欠いているヒナギクは気付かない。
普段の赤木ならば、この時ヒナギクの主張なぞ歯牙にもかけず、さっさと自分は元来た道を引き返しているだろうに、今の赤木は何故かヒナギクから目を離していないという事に。
ヒナギクは赤くなってぎゃーぎゃー喚くも、赤木は一切取り合わず、赤木がそれっぽい理由を並べ立てると瞬く間にやりこまれてしまう。
頬を膨らませながらも、渋々元来た道を戻ろうとした時、ヒナギクの視界が暗闇に閉ざされた。

列車突入時の間断ない戦闘。
本拠地突入という極度の緊張を強いられる環境。
自分の能力を超えるカマキロイドとの戦闘。
これら全てがヒナギクに過度の負担を強いていた。
身体的な事ではない、精神的な意味合いでのその負担は、ヒナギク自身にも知りえない形で徐々にヒナギクを蝕んでいた。
口では文句を言いつつも、高い所を通らずに済むという安堵感が良くなかったのだろう。
ヒナギクの意識は突然そこで失われた。

二度目の死んだフリ。
これは彼女本来の流れから逸脱した行為であると赤木は思っていた。
ツキの流れを手放しかねない大きな分水嶺であったと。
生死を賭けたこの場所で幸運の流れを失ったなら、結果はどうなるかわかりきった事だ。
だから赤木は三人での突入を避け、エレオノールにこの影響が及ぼされる事を回避しつつ、赤木が共にある事で更にツキの流れが変わるのを待った。
大事をとって休息を長めに取り、何かがあったとしてもすぐに対応出来るよう常にヒナギクを視界内に収めるよう動き、
ヒナギクの心理的負担を取り除く為に会話を続け、明らかに苦手であると思われた高所での移動を回避する。
今もヒナギクから目を離さずに居たのはその為だ。
ここは一瞬先に何が起こるかわからない戦場。
先のコマンドロイド乱入に対したように、赤木が対応出来るよう備えていたのだ。
ヒナギクの崩れ落ちていく体は、橋げたから外側へ、唯一死を迎える方向へと倒れ込んで行く。
368Classical名無しさん:08/11/10 19:13 ID:NLZBCPXc
369Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:14 ID:jvHzP2Cs
手足のとっかかりとなる場所を床に見つけ、滑り込むように駆け寄る赤木。
その伸ばした手がヒナギクの腕を掴み取る。


しかし、赤木の怪我と疲労に弱った握力で、ヒナギクの汗に滑る腕を固定し、女の子とはいえ人間一人を支える程の力は望めなかった。


耳元を走る風の息吹に目を覚ます。
ひゅーひゅーと騒々しい音の理由に思い至った時、掛け値なしに背筋が凍った。
上を見上げていた体を捻り下を向きながら叫ぶ。
地面との距離を測って、バルキリースカートで落下の衝撃を受け止めるしかない。
「ぶ」
まだ距離はある、どうしよう、壁に剣を突きたてて落下を止めようか。
「そ」
ちょっとスピードつきすぎね。ならそれで速度を落として、着地の衝撃を和らげましょう。
「う」
ちょ、ちょっと待って。これ、もしかして……
「れ」

間に合わない?


衝撃が来た。
体が動かない。
痛い、ただひたすら痛い。
全身が痺れたあの時と違って、痛くて痛くてしょうがない。
どうして、私どうしてこんな事になってるの。
370Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:14 ID:jvHzP2Cs
痛い場所をさすろうとするけど、手が動かない。
私何か失敗した? 私悪い事したの? どうしてこんなに痛いのに誰も来てくれないの?
誰か、誰か居ないの? お姉ちゃん、お姉ちゃんは何処?
痛いよお姉ちゃん。恐いよお姉ちゃん。助けて、早く助けに来て。

……そうだ、お姉ちゃんはここには居ないんだ。

じゃあハヤテ君。助けに来てくれるって言ったじゃない。

……そうだ、ハヤテ君ももう居ないんだ。

私は殺し合いをしろって言われたんだ。みんなそう言われたんだ。
だから私は死んじゃうんだ。ナギやマリアさんみたいに。嫌、そんなの嫌。

小五郎さんは? 死んじゃった。
本郷さんは? 死んじゃった。
つかさは? 死んじゃった。
川田君は? 死んじゃった。
独歩さんは? 死んじゃった。
かがみは? 村雨さんは? エレオノールさんは? 赤木さんは? 服部さんは? ジョセフさんは? みんな来てくれないの?

覚悟君は? 私と一緒に居ないって言った。私の事好きにならないって。

じゃあ私一人ぼっち?
嫌、そんなの嫌。寂しい、誰も側に居てくれないのは寂しいよ。

誰か、一緒に居て……お願い……私死んじゃうのやだ……
371Classical名無しさん:08/11/10 19:16 ID:NLZBCPXc
372Classical名無しさん:08/11/10 19:17 ID:bcTgNIDk

373Classical名無しさん:08/11/10 19:18 ID:NLZBCPXc
374Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:18 ID:jvHzP2Cs



ねえ……最後まで会いに……来て、くれないの?
私……本当に……死んじゃうよ……それでも……来て……くれ……ない……の……


……お父さん、お母さん…………



   ◇ ◇ ◇



バルキリースカートは扱うには訓練が必要だ。
木刀も赤木には不要な武器。ならわざわざ下に降りる必要は無い。
「……桂ヒナギク、お前は良くやった。だからもういい、そこでゆっくり休め」
赤木のような狂人ではない、かといって命のやりとりを常とする世界観に生きた人間でもない。
ごく平凡な生活を送ってきただろう彼女。
にもかかわらず、彼女は勇敢で恐れを知らぬ戦士であった。
無理をして、強がって、それでもと自分の生き方を貫いたのだろう。
敬意に値する。
だからだろうか、自らが巻き込まれる危険を顧みず、桂と共にあろうとしたのは。
今この手から桂を取りこぼした事で、自分の盛運も桂の不運に巻き込まれ、衰退の一途を辿っているだろう。
それでも構わない。そう思えるのは何故だろうか。
性分もあるだろう、より厳しい状況を好む性質は昔からの物だ。
375Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:18 ID:jvHzP2Cs
しかしそれだけでは無い。
ズレた所はあるが、自分の身などおかまいなしで他人を案ずるエレオノールも、
恐れる気もなく死地に飛び込み、そこから必死になって生を拾おうとするヒナギクも、
どちらも赤木は気に入っていたのだ。
二人共、最初に出会った時とは見違える程、輝いて見えた。
同時に赤木は大首領へと想いを馳せる。
奴はヒナギクの生き方にも何ら感慨を抱かぬだろう。
それは生死を超越しているからではなく、ただ単純に「死」を知らないだけだ。


「……だから俺が教えてやる。お前に、死を」



【桂ヒナギク@ハヤテのごとく 死亡】
【残り8人】


376Classical名無しさん:08/11/10 19:19 ID:NLZBCPXc
377Classical名無しさん:08/11/10 19:20 ID:NLZBCPXc
378Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:20 ID:jvHzP2Cs
【サザンクロス内部 二日目 日中】

【赤木しげる@アカギ】
[状態]:脇腹に裂傷、首輪がありません。麻痺毒の影響を僅かに受けています。全身数箇所に打撲
[装備]:基本支給品、ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス(残り8本)、マイルドセブンワン1箱、
    454カスール カスタムオート(5/7)@HELLSING 13mm爆裂鉄鋼弾(13発) 、シルバースキン@武装錬金(首輪を巻いています。核鉄状態)
[道具]:傷薬、包帯、消毒用アルコール(学校の保健室内で手に入れたもの)
    始祖の祈祷書@ゼロの使い魔(水に濡れふやけてます)、水のルビー@ゼロの使い魔
    工具一式、医療具一式、沖田のバズーカ@銀魂(弾切れ)、成仏鉄球@覚悟のススメ 、伊藤博士からの手紙、
    伊藤博士からの手紙(ポケット内)、『注意書きを必読』と書かれたエニグマの紙(ポケット内)
    ジャッカル@HELLSING(残弾数1)、神楽の仕込み傘(強化型)@銀魂
    ベレッタM92(弾丸数0/15)、ハート様気絶用棍棒@北斗の拳、懐中電灯@現地調達、包帯と湿布@現地調達、不明支給品×2
[思考・状況]
基本:対主催・大首領の肉体となる。
1:大首領との再会。バトルロワイアルに引きずり込む。
2:覚悟に斗貴子を死に追いやった事を隠し、欺く。
[備考]
※大首領との接触により、大首領とBADANとの間のズレを認識。
※BADANという組織はあまり合理的に動かないと認識。
※首輪は核鉄(シルバースキン)にパピヨンがやっていたように巻き付けており、使用できます。
379Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:21 ID:jvHzP2Cs
【才賀エレオノール@からくりサーカス】
[状態]:疲労小 全身に火傷(ほぼ完治)。首輪が解除されました。
[装備]:エンゼル御前(核鉄状態&首輪@エレオノールが巻かれている)@武装錬金、あるるかん(白金)@からくりサーカス
[道具]:青汁DX@武装錬金、ピエロの衣装@からくりサーカス、支給品一式、生命の水(アクア・ウィタエ) 保健室で手に入れた様々なもの
[思考・状況]
基本:自分を助けてくれた者、信じてくれた者のためになんとしてでも主催者を倒す。
1:別れた仲間と合流。
2:夢で見たギイたちの言葉を信じ、魂を閉じ込める器(強化外骨格)を破壊する。
3:ナギの遺志を継いで、殺し合いを潰す。
4:一人でも多く救う。
5:できる事ならパピヨンを助けたい(優先順位は低い)
[備考]
※参戦時期は1巻。才賀勝と出会う前です。
※エンゼル御前は使用者から十メートル以上離れられません。 それ以上離れると核鉄に戻ります。
※解除した首輪は核鉄(エンゼル御前)にパピヨンがやっていたように巻きつけており、使用できます。
380Bellis perennis ◆1qmjaShGfE :08/11/10 19:21 ID:jvHzP2Cs
以上です。支援ありがとうございました!
問題点等ありましたら、ご指摘の方よろしくお願いいたします
381Classical名無しさん:08/11/10 19:22 ID:NLZBCPXc
382Classical名無しさん:08/11/10 19:40 ID:NLZBCPXc
投下乙です!
戦略、フラグ拾い、勝利、無情、全てが混ざった話でした。
カマキロイドを翻弄する赤木が素敵なほどに彼らしい。
ヒナギクの最期は切なく、好きな死に方の一つになりました。
ヒナギクと赤木の身体能力を、ちゃんと描写しつつ、勝ちを拾う構成が面白い。
GJ!
383Classical名無しさん:08/11/10 20:28 ID:yH63iixw
投下乙です!
面白くはないけど
GJ!
384Classical名無しさん:08/11/10 20:44 ID:Lc.bTdCo
相も変わらず力押しではない、考えてのバトルが面白かったです。
なるほど、確かに意識さえあれば動かせるバルスカは毒と相性いいなw
ゴゼンの能力、すっかり忘れてたw
そして久々の死神とでも言うべきか。
ヒナギクウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!
高所恐怖だけが原因とは言えないが、こう来るかああ!!
そしてなんだか赤木が無性にかっちょいいんですけどお!?
運低下してやばいはずなのに、なんでだ!?
投下、乙!
385Classical名無しさん:08/11/10 20:49 ID:Z63b7yQ.
投下GJです!
戦闘の展開にワクワクし、よっしゃあ勝ったぜ! と思ったら……
ここで鬱死は予想外だったぜー……。
ヒナギクの最期の心理描写が、なんつーかクルなあ。
いやー、しかしアカギいいなあ。いいよ、アカギ。
386Classical名無しさん:08/11/10 22:27 ID:Mi3dvROs
GJまさかこうくるとは…

アカギかっけッス
387DQNJRiKzKn:08/11/10 22:28 ID:HxUKU3Po
388Classical名無しさん:08/11/10 23:50 ID:lsNLUHzw
>>380
投下乙です……

ああ、何だろうもう……
もう鬱展開なんて無いと思っていたのに……
ヒナギク……お休み……

そして赤木さん、あんたもう死神じゃなくて、
(天)のほうのアカギになってきた……
もうなんか優しい彼も素敵で切ないです。

それと指摘がひとつ
【カマキロイド @仮面ライダーSPIRITS:死亡確認】
の一文を入れておいたほうが良いかと。

とにかくGJです。
389Classical名無しさん:08/11/11 00:03 ID:v4BZ2URg
投下GJ!
言葉もねえ…理詰めの戦闘といい予想外の事故死といい
いま言える言葉は一つ一つだけだ…GJ!
390Classical名無しさん:08/11/11 01:27 ID:u64Ayrf6
投下おつー。そしてヒナギクゥゥゥゥ!
バトルで死亡フラグばらまいて、あー死んだなと思ったら生き残って、んで安心したと思ったら突き落としますとか、まさに外道!
こなたのときもそうですが、普通は引っ張るでしょ落ちる瞬間のアカギとヒナギクのシーン!
そこをバッサリやるから、最初は真面目にありのままなポルナレフになっちゃったよ!
そして最後に「死を教えてやる」と呟くアカギに漢を見た! 渋いぜ!
391Classical名無しさん:08/11/11 13:33 ID:V3MX6lXw
アカギが熱い面々に感化されていく様が楽しくて仕方ないですww
392 ◆hqLsjDR84w :08/11/12 02:48 ID:SJy6v/ao
まだ期限まであるのですが、予約期間の延長をお願いします。
393Classical名無しさん:08/11/12 16:09 ID:WynDwh0w
>>392
了承した……
394Classical名無しさん:08/11/13 19:49 ID:BC40DA.s
>>392
応援した…
395Classical名無しさん:08/11/15 20:10 ID:3rAQLXpw
2008/11/16(日) 02:28:17
が締め切りか…

wktk
396Classical名無しさん:08/11/16 01:51 ID:.9iv8J3w
wktk
397 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 02:24 ID:1IMztO4k
やっとこさ推敲完了……どうにか間に合ったぜ。
投下します。
398Classical名無しさん:08/11/16 02:24 ID:M4DJBpKQ
 
 BADANの拠点であるサザンクロス、その内部にある格納庫。
 窓は一つも取り付けられておらず、外部より光が差し込むことはないが、やたらと高い天井の全域に設置された蛍光灯により十分に明るい。
 そんな格納庫でまず目を引くのは、二台の巨大な楕円形をしたUFOであろう。
 そしてその二台のUFOを挟むように連ねてあるのは、百を優に超える台数の量産型特殊バイク『ヘルダイバー』。
 他にも中身の知れないボックスなんかが、幾つも積まれている。
 その全てが、バトルロワイアルが終了し現世に光臨した大首領の指揮の元に、世界征服を決行する際に使うべきアイテム。
 ――と、これだけ言うと、格納庫はUFOとヘルダイバーにボックスが敷き詰められ、歩くスペースもなさそうに思えるだろう。
 しかし実際には、格納庫自体の広さが、東京ドーム幾つ分だとかの現実離れしたサイズでありまして。
 野球とサッカーが同時に出来そうなほどのスペースが、格納庫の中央部には有り余っている。

 その空いたスペースで、いま三人の男が睨み合っている。

 その『深遠なる目的』のため、ジョセフ・ジョースターをこの場で殺害しようと企む――エンリコ・プッチ。
 未来の孫=空条承太郎の記憶によりプッチを『孫を狙う存在』と知り、この場で倒そうとする――ジョセフ・ジョースター。
 大首領を一発ブン殴るため、BADANに協力しているプッチを退けようと、ジョセフを援護する決意を固める――服部平次。

 状況は、一対二。
 すなわち、プッチが一、ジョセフと服部が二。
 常識で考たなら、人数が多いほうが圧倒的に有利。
 そして有利な状況ならば、それが覆る前に一気に攻め立てるのが定石。
 されど前者後者ともに動かず、互いに攻撃のタイミングを伺っている。


 ――理由は、三人の距離。
400Classical名無しさん:08/11/16 02:25 ID:1CxDRJAM
待ってましたー!支援!
 ジョセフと服部の距離は近いものだが、二人とプッチの間には二十メートル弱の距離が空いている。
 承太郎の記憶と伊藤博士からの手紙により、ジョセフはプッチのスタンド『ホワイトスネイク』についての情報を既に得ている。
 服部も伊藤博士からの手紙は確認しているし、承太郎の記憶もホワイトスネイクに関することはジョセフから聞いている。
 承太郎の記憶によれば、ホワイトスネイクは『承太郎ですら本体が確認できない場所』まで移動可能なスタンド
 何も考えずに不用意に飛び掛ると、拳が届く前にホワイトスネイクに攻撃されていました――なんてことになってしまうだろう。
 ジョセフはDISCによって得たスタンド『マジシャンズ・レッド(魔術師の赤)』を使用でき、服部もスーパー光線銃や核鉄LXIを所持する。
 一見すれば、射程距離の長いホワイトスネイクにも対抗できそうだが……
 ジョセフはマジシャンズ・レッドに炎を吐き出させるのが苦手で、服部は道具の使用経験不足により掠らせることすら出来るか怪しいもの。
 ゆえに、ジョセフと服部はプッチが仕掛けてくるのを待つ。攻撃と同時にカウンターをぶちかますべく。
 ……とは言っても、二人ともプッチが仕掛けるまで何もしないわけではない。
 むしろ『既に』やるべきことを、彼らは完遂している。
 ポケットの中に、ごくごく小さい石の欠片を突っ込んであるのだ。
 承太郎と彼の娘である徐倫が嵌ってしまった、ホワイトスネイクの能力の一つ――幻覚。
 一度は足元を掬われたとはいえ、彼等は幻覚を破る方法を暴いた。
 『幻覚の中で誤りを見つけ』、その上で『外部から刺激を受ける』こと。
 その情報もまた承太郎の記憶よりジョセフへと、ジョセフより服部へと伝わった。
 そして彼等は靴の中に石の破片を突っ込むことで、幻覚に間違いを見つければすぐに幻覚から脱出できるようにしておいたのだ。

 ――勝利というのは、戦う前に全て既に決定されている。

 この言葉は中国の兵法書『孫子』によるものであり、ジョセフの闘いに対する気構えでもあった。


 一方のプッチも、自ら動こうとしない。
 遠距離まで移動できるスタンドを所持しているが、そのスタンドを出してすらいない。
 攻撃しない理由は、ホワイトスネイクの特性にある。
 ホワイトスネイクの射程距離は、ジョセフや服部の知るように約二十メートルと長い。
 しかし、ホワイトスネイクは特殊なスタンド。遠くに行けば行くほどに、パワーやスピードが弱まってしまうのだ。
 つまりプッチの付近にいる時は、『近距離パワー型』スタンドと遜色ない力を発揮できるが、射程ギリギリまで移動させるとではめっぽう弱くなる。
 ジョセフの眼前に発現しているマジシャンズ・レッドの相手など、とても出来ないのだ。
 ならば、幻覚能力を使うか――プッチはその案を数秒で切り捨てた。
 首輪による制限で、幻覚能力の使用により降りかかる疲労は異常なほどに大きい。
 『生まれたもの』との融合により体調の悪い状態では、二人に幻覚を見せることなど不可能。
 かといって、一人だけに幻覚を見せるわけにはいかない。
 ならば、ジョセフだけに幻覚を見せて、その間にホワイトスネイクで横にいる服部を連れ去るか。
 もとよりプッチに服部を殺害する気はない。プッチが殺害するつもりなのは、天国へ行くことを邪魔する相手だけなのである。
 だが、この案もまたプッチは却下する。
 パピヨンとの戦闘で、プッチは幻覚能力に対する制限を見抜いた。
 本来なら、『幻覚の中で誤りを見つけ、その上で外部から刺激を受ける』ことがなければ、幻覚は解除されない。
 それなのに、パピヨンは幻覚に誤りを見つけた『だけ』で幻覚を振り払った。
 プッチの推測だが、もしかしたら『外部から刺激を受ける』だけでも幻覚は解除されてしまうかもしれない。
 それならば、一人だけに幻覚能力を使うのは愚行。残った片方が意識を失った方を揺らしたりすれば、そこで幻覚は解除される。
 ジョセフと服部が離れている場合ならともかくとして、かなり近い現状ではそうなる可能性は高すぎた。
 かといって、二人に幻覚をかける体力は、今のプッチにはない。
 ゆえに、プッチも待つ。
 ホワイトスネイクが最も力を発揮できる距離に、ジョセフが入ってくるのを。
 だが、プッチは自ら接近することはしない。
 先ほどは外れたにしても、ジョセフと服部は飛び道具を持つ。
 ホワイトスネイクに身体を押させることで回避可能だろうが、これ以上近づいてしまえばそれは難しいだろう。少なくとも制限下では。
 ゆえに、プッチもまたひたすらに待ち続ける。
403Classical名無しさん:08/11/16 02:27 ID:M4DJBpKQ
  


  ◇  ◇  ◇


 三者が睨み合ったまま、どれだけが経過しただろう。
 当事者たちには、数時間にも数秒にも感じられた。
 おそらく誰かがアクションを起こせば、それをキッカケに全員が動くことだろう。
 開戦のゴングを鳴らすのは、いったい誰なのか。
 エンリコ・プッチか、ジョセフ・ジョースターか、はたまた服部平次か…………

 ――否、上記の誰でもなかった。

 開戦のゴングを鳴らしたのは――ジョセフと服部を追ってきた何体かのコマンドロイド。
 奇声をあげながらの登場に、睨み合っていた三人も咄嗟にそちらへと首を向ける。

「く……ッ」
「ちィィ!」

 服部よりも数刻速く、コマンドロイドに気付いたプッチとジョセフが眉をひそめる。
 プッチがBADANに協力していることなど気にすることもなく、コマンドロイドは十字手裏剣を投擲。
 数は六つ――全て、ジョセフと服部の方に飛んできている。
 ジョセフの操るマジシャンズ・レッドが、ジョセフと服部を庇うように前に出て両掌を重ねる。
 すると、マジシャンズ・レッドの掌から炎が噴出。十字手裏剣を消し炭にする。
 しかし、消し炭になった十字手裏剣のうちの一つと同じ軌道に投げられた一つだけが、依然燃え散ることなくジョセフ目掛けて空を切る。

「よっと」

 だが、それをジョセフは首を少し傾げるだけで、危なげなく回避する。
 当然である。その十字手裏剣だけを、あえて残したのだから。
 ジョセフを貫くことのなかった十字手裏剣は、そのまままっすぐ突き進む。
 その方向にいるのは、エンリコ・プッチ。ジョセフが、プッチに笑みを見せ付ける。
 だが、やはり十字手裏剣が肉を引き裂くことはなかった。

「――『ホワイトスネイク』」

 プッチが発現させたホワイトスネイクに振り払われ、十字手裏剣は力なく床へと落ちた。
 そしてプッチはその場から離れていく。流れ弾に当たったら困るとでも思ったのであろうか。
 十字手裏剣の行方を眺めていたジョセフは、視線をコマンドロイドが迫りし前方へと戻す。
 浮かべていた笑みは消え、真剣そのものといった表情となっている。
 十字手裏剣でのプッチへの奇襲は、ジョセフにしてみればプッチを倒すことが目的のものではなかった。
 もちろんやられてくれればラッキーだなくらいの気持ちはあったが、怪我するくらいで済むだろうとの思いの方が遥かに強かった。
 ジョセフの真の目的は、ホワイトスネイクが情報以外に何か能力を持っているかを確かめること。

(エンリコ・プッチ……あいつのホワイトスネイクは、『遠隔操作型』か『自動追跡型』だと思ったんだがなァ……
 スピード、パワー、精密動作性の全てが揃ってなきゃ、あんな風に十字手裏剣を弾いたりは出来ねェ。
 遠隔操作型ならスピードとパワーが足らず、自動追跡型なら精密動作性が足らずに、払いのけたりは出来なかった。
 だが、ホワイトスネイクは打ち払って見せた。
 遠隔操作型にしては、パワーのあるタイプ――『ハイエロファント・グリーン(法王の緑)』のような――なのか?
 いや、ハイエロファント・グリーンのようなタイプでも、『エメラルド・スプラッシュ』のような能力を使わずに弾くのは、さすがに不可能だろう。
 『エコーズ』のように、複数のタイプ――遠隔操作型と近距離パワー型だとか――を使い分けているのか?
 いや、承太郎の記憶にあった遠距離まで来ていた時のヴィジョンと、さっきの近距離で出したヴィジョンに違いはなかった。どうなってやがる……?)
406Classical名無しさん:08/11/16 02:28 ID:1CxDRJAM

407Classical名無しさん:08/11/16 02:28 ID:.9iv8J3w
支援

 ホワイトスネイクのタイプを暴くはずが、結果的には混乱することとなってしまったジョセフ。
 『遠距離ではスピードとパワーが弱いが、近距離では強くなる』遠隔操作型スタンドなど、承太郎の記憶にもなかったのである。
 いくら考えても答えが出なそうだと判断したジョセフは、すぐさま考えることを放棄。コマンドロイドの撃退に意識を集中させる。
 ジョセフの瞳が捉えたコマンドロイドの数は五体。全てが拳を振り上げて疾走している。
 発現させたままであったマジシャンズ・レッドが、オレンジ色の炎を吐き出す。
 しかし、ジョセフはマジシャンズ・レッドを扱えるものの、炎を射出させることに関してはドが付くほど苦手。
 放った五つの炎の塊は、二つが見当違いのほうへ飛んでいき、三つはコマンドロイドを掠るだけに終わる。
 だが、それはジョセフも想定していたことだ。
 既にジョセフがマジシャンズ・レッドを操り始めてから、半日以上が経過している。
 自身が炎を吐き出させることが苦手だと認識するのに、ジョセフには十分な時間があった。
 つまりジョセフにとって先ほどの炎は、避けられるのを承知で放ったもの。いわゆる繋ぎ。

「ギィ……ァガ……」

 一体のコマンドロイドが、苦悶の声を上げる。その鳩尾には、ジョセフの拳が深くめり込んでいた。
 ジョセフはマジシャンズ・レッドに炎を吐き出させえると、そのまま駆け出し、炎に紛れて接近していたのである。
 ジョセフの拳から太陽のエネルギー『波紋』が走り、身体機能を狂わされたコマンドロイドは意識を落とす。
 困惑するその他四体のコマンドロイド。その内の二体の足が、地から離れる。
 もがくように足を動かしている二体のコマンドロイド。何者かが頭部を掴んで持ち上げているのだと気付くと同時に、その頭が爆散した。
 煙が晴れた時、そこにいたのはジョセフとマジシャンズ・レッド、そしてコマンドロイドの残骸だけであった。
 暫し呆然としていたものの、現状を打破すべく残った二体のコマンドロイドが、電磁ナイフを取り出す。
 ――が、遅かった。
 構えたのと同時に、片方は顔面にマジシャンズ・レッドの拳を、もう片方は波紋を纏わせたジョセフの蹴りを食らう。
 結果、乱入してきたコマンドロイド五体は、ものの三十秒と経たぬうちに機能を失った。
409Classical名無しさん:08/11/16 02:30 ID:M4DJBpKQ
    
 周囲を見渡してから、先ほどまでプッチのいた方に視線を投げようとするジョセフ。

「まだおるで!」

 服部のその言葉に、驚愕しつつジョセフは振り返る。
 どこにいやがるってんだ――ジョセフの疑問は一瞬で氷解する。
 服部がスーパー光線銃の銃口を向けている先。
 積まれているボックスによりジョセフには死角になっていたが、そこにもう一体だけコマンドロイドが残っていた。
 ジョセフが気付くと同時に、服部が光線銃の引き金を引く。
 しかし、射出された光線は命中せず。原因は二つ。コマンドロイドの俊敏さ、服部の射撃経験の少なさ。
 服部の第二射より早く、コマンドロイドはかかげた右腕よりマイクロチェーンを発射する。標的は服部。
 圧倒的な速度で伸びるマイクロチェーン。食らってしまえば、服部はひとたまりもないだろう。
 服部に、避ける術はない。まさに絶体絶命。
 だが、服部はマイクロチェーンを回避できた。何かが服部を突き飛ばしたのだ。
 空中で服部は首を回し、いったい何が己を突き飛ばしたのかを確認する。
 服部の視線に入ったのは――

「ジョジョォォォオオオオオ!!」

 タックルで服部を移動させ、マイクロチェーンが貫くであろう場所で体勢を崩しているジョセフ。
 発現させたままだったマジシャンズ・レッドもまた、大きく身体を仰け反らせている。
 これから体勢を立て直し、マイクロチェーンを回避する――いくらジョセフでも、どう考えても不可能だった。

 ――ジョセフが、この殺し合いに呼び出された当初のジョセフだったならば。

「『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!!」

 ジョセフの傍らに、筋骨隆々な青年のヴィジョン――スタンド『クレイジー・ダイヤモンド』が発現する。
 クレイジー・ダイヤモンドは両手で手刀を作ると、コマンドロイドのいる方向に両腕を向け……
 そのまま白刃取りの要領で、マイクロチェーンを『受け止めた』!

「ギ……!?」

 クレイジー・ダイヤモンドのあまりの力技に、状況を飲み込めないコマンドロイドは動作を静止。
 僅かに見せたその隙に、クレイジー・ダイヤモンドはマイクロチェーンを思いっきり引っ張る。
 すると、マイクロチェーンごと引き寄せられるコマンドロイド。
 空中で体勢を立て直すことも叶わぬコマンドロイドの脇腹に、マジシャンズ・レッドが右ストレートを叩き込む。
 内部に炎を流し込まれたコマンドロイドは、そのまま物言わぬガラクタと成り果てた。

「さっき名前呼んだかァ、服部ィ〜〜。どうした? まさかこのジョジョが、死ぬかと思ったァ〜〜〜?」

 ひゅうと息を吐いたジョセフが、突き飛ばされた衝撃で尻餅をついていた服部の元に駆け寄る。
 ……ニヤニヤとした笑みを浮かべながら。

「ジョジョ……お前、あんなの前にもやったことあるんか?」
「いーや、ぶっつけ本番だぜ。俺ってかなりスゲェと思わねー?」
「ッ! 何考えてんねん! なんで、そんな危険なことを!」

 あっさりと言い放つジョセフに、服部は非難の声をあげる。
 成功したからいいものの、失敗したらジョセフは致命傷を負っていた。
 本気で怒っている様子の服部に、ジョセフは顔を近づけ、服部の耳元でささやく。

「いや、正確には『アレをやった記憶』は見た。だから、その時の要領で試してみたってワケだ」
「ああ……なるほどな」

412Classical名無しさん:08/11/16 02:31 ID:.9iv8J3w
支援支援

 やたらと積まれた箱に背をもたれかけて、呼気を整える。
 襲撃してきた怪人どもの数は六体。
 おそらくジョセフ・ジョースターは……ジョセフ・ジョースターの『運命』は、怪人どもを退けるであろう。確実に。
 だが、時間が出来た。いまのうちに試してみるとしよう。


  ◇  ◇  ◇


 傍らに発現させたホワイトスネイクに、視覚を移す。
 ゆっくりとホワイトスネイクを操作し、首の周囲を確認する。

 やはり……か。

 蝶野攻爵の記憶から読み取った、首輪のステルス機能を解除する方法。
 それは、神道でいうところの『祓』に限らず、カトリックの『祓い』の方法でも同等の効果が得られるようだ。
 もとより神道の『祓』が罪や穢れを取り除くものであるように、カトリックの『祓い』は悪霊や悪魔を去らせるもの。
 どちらも、清めることに変わりない。
 また伊藤博士からのチャットによれば、首輪は『霊的』に守護されているらしい。
 霊を払うのであれば、それこそカトリックの『祓い』の本分である。
 やはり私があの疑問を抱き、この職業を選んだのは『天国』の『引力』によるものであった。
 あとは出現した継ぎ目に何かを差し込めば、それで首輪の解除完了だ。

 ――だが、いま解除するべきだろうか?
414Classical名無しさん:08/11/16 02:32 ID:M4DJBpKQ
        

 UFOを操縦できる科学者――伊藤博士であれば最上である――を拉致し次第、このサザンクロスからはすぐに脱出するつもりである。
 だが、それにしても、いま首輪を解除するのは正解なのか?
 侵入者により大騒動になってるとはいえ、いま首輪を解除しては私に危険が及びはしないか?
 おそらく確率はかなり低いであろうが、『天国』を前にして賭けに出るというのは少々遠慮しておきたい。
 首輪を解除せずに、ジョセフ・ジョースターを始末できるか。
 それが問題である。
 ホワイトスネイクを立たせて、ジョセフ・ジョースターの戦況を確認する。

「ジョジョォォォオオオオオ!!」

 ジョセフ・ジョースターは服部平次を庇って、怪人の伸ばすチェーンの前へと飛び出した。
 マジシャンズ・レッドともども体勢を崩してしまっていて、とてもチェーンを回避できるとは思えない。
 死を免れたとしても、重傷を負うのは確定だろう。
 自身の口角が吊り上っていくのを感じる。
 服部平次は突き飛ばされたため、ジョセフ・ジョースターとの距離が結構空いてしまっている。
 さらにいまは服部平次は空中にいるが、すぐに尻餅を付いてしまうのは自明である。

 ――いまならば、ジョセフ・ジョースターに幻覚を使ったとしても、すぐに衝撃が与えられることはない。

 ジョセフ・ジョースター、お前の『運命』がチェーンによる攻撃による死を退けたとしても……
 同時に、こちらが幻覚能力を使わせてもらう。
 ジョースター家は血統ゆえに誇りと勇気から力を得、そして『運命』に勝利してきた。
 しかし、弱点もまた血統ゆえ……お前の仲間こそが、お前の弱点であったようだな。

「『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!!」
416Classical名無しさん:08/11/16 02:32 ID:.9iv8J3w
支援
417Classical名無しさん:08/11/16 02:32 ID:1CxDRJAM


 何……ッ!?
 突如出現したスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』が、チェーンを受け止めていた。
 またしてもジョセフ・ジョースターの『運命』は、死という『運命』を退けた。
 いや……ッ、それはいい。それは、もはや別にいいッ。
 気になるのは、別のことだ。
 あのクレイジー・ダイヤモンドの姿勢……記憶にある。
 私の記憶ではないが、私が見た空条承太郎の記憶に確かにある……ッ!
 『偶然』、か? いや、違う。
 ……いや、『偶然』ではあるだろうが、その『偶然』こそがジョセフ・ジョースターの『運命』。
 人と人の間には『引力』がある……
 そう、ジョセフ・ジョースターと空条承太郎の間には『引力』があったッ!
 あの体勢……確実だ。

 ジョセフ・ジョースターは、『空条承太郎の記憶を見ている』ッ!

 ならば、首輪を解除せずに倒せる相手ではない。
 制限が解除されたクレイジー・ダイヤモンドとマジシャンズ・レッドに、制限された状態で対抗するには幻覚を使うしかないが……
 あのジョセフ・ジョースターに限って、幻覚能力の解除方法を知りながら何もしないなど、あるはずがない。

 十字架のアクセサリを取り出し、指で挟んで首まで持っていく。
 首輪を継ぎ目にあてがい、そのままパピヨンがやったように一気に――解除成功。
 人と人との『引力』……
 ジョセフ・ジョースター、お前と空条承太郎の間に『引力』があったように、私とお前の間にも『引力』はあった。
 お前がこの格納庫に来たのも、私がこの格納庫に来たのも、お互いがお互いに『吸い寄せ』られていたのだ。
 『生まれる』ということは、すなわち『選ばれる』ということだ……
 そして『選ばれるもの』は常にそのぶつかり合う競争でさえ、『吸い寄せ』たもの達に守られることで、後方から押し上げられているにすぎない。
 私をこの場に呼び出した――BADAN。
 暗闇大使からの信頼を買うのに役立った――綾崎ハヤテ。
 暗闇大使から平静を奪い、『生まれたもの』を確認する時間をくれた――赤木しげる。
 首輪解除の方法を私にもたらしてくれた――蝶野攻爵。
 いまサザンクロスに混乱をもたらしてくれた――侵入者達。
 侵入者達に情報を与えた――伊藤博士。
 この私に『吸い寄せ』られた者達はッ!
 私を『天国の時』へ押し上げるために存在していたッ!
 ジョセフ・ジョースターがバトルロワイアルの会場から『脱出』し、ここへ向かって来たというのなら……
 お前さえ、その存在にすぎない!



 かがんで、さっき倒したコマンドロイドの腕に手を伸ばす。
 伸びきったチェーンに触れて確認してみたところ、やはり村雨の出すチェーンと同じく波紋を通すようだ。
 クレイジー・ダイヤモンドで引き千切り、十センチほどの短さにして胸ポケットに押し込んでおく。
 スタンドがあるし必要ないと思うが、一応ね、一応。

 さーて……
 すぐ近くにプッチは潜んでいるだろうが、どこにいるか分からない以上は不用意に近づくのは危険。
 プッチに先に仕掛けさせるため、今まで通りの開いた場所でプッチを待つ。

「見つけ次第、声かけろよ。『あー』でも何でもいいから、とにかく声を出せ。俺もそーする」
「了解や」
420Classical名無しさん:08/11/16 02:33 ID:ig8Bc3nI

 数メートル離れた服部に背を向けた状態でそれだけ確認すると、スタンドの視覚と本体の視覚の両方に意識を集中させる。
 エンリコ・プッチはどの辺りに隠れているのか……
 チェーンを受け止めた時にマジシャンズ・レッドとクレイジー・ダイヤモンドを両方出したが、やはり体力の消費が尋常じゃない。
 クレイジー・ダイヤモンドを解除して、マジシャンズ・レッドと俺自身の眼で周囲を確認する。
 見えない場所は服部が担当しているので、ほぼ全方向を見渡せているにもかかわらず見つからない。
 UFOやバイク、箱の裏にでも隠れているのだろうが……
 あまりに量が多すぎて、どこにいるかまで特定できない――とか考えてたのと、どっちが早かったか。

「……ジョジョ」
「ああ」

 ほぼ同時に、服部も気づいたらしい。
 やたらめったら積まれた箱、それに隠れて見えない場所から足音がした。
 音のした方に首を回す。マジシャンズ・レッドも一緒に。
 数秒と待たず、箱の陰からプッチが姿を現した。傍らには、ホワイトスネイクを発現させている。
 今までと決定的に違う点があった。それは……

「さっきまで首輪してたよなァ〜〜?」
「私は、決して私自身の能力を過信しない。
 二種類のスタンドを操る者が相手では、制限されたままでは少々厳しい――そのように判断しただけだ。」

 ホワイトスネイクとともにこっちに向かって走ってくるプッチ。
 マジシャンズ・レッドに炎を吐き出させて牽制してみるが、やっぱこれは難しいぜ。
 回避され続け、プッチとの距離が六メートルほどまで縮まった時に、初めてやっと当たりだす。
 つっても、掠るだけ。プッチは、意に介さずに接近してくる。
 プッチとの距離、三メートル。遂にホワイトスネイクがプッチと離れ、単独で攻撃を仕掛けてくる。
 やはりスピードもパワーもある……『遠隔操作型にしては』なッ!
 DISCを奪うのが目的か――額目掛けて飛んできたホワイトスネイクの左手刀、マジシャンズ・レッドの右前腕を滑り込ませて反らす。
 結果、ホワイトスネイクの胴体ががら空きとなる。同時に、クレイジー・ダイヤモンドを発現。
 ホワイトスネイクが右手で手刀を作っているが、遅えッ!
422Classical名無しさん:08/11/16 02:34 ID:M4DJBpKQ
   
423Classical名無しさん:08/11/16 02:34 ID:.9iv8J3w
支援支援支援

「ドラララララァァーーーッ!!」

 掛け声に意味があるのかは知らねえが、本来の持ち主と同じ掛け声でクレイジー・ダイヤモンドを操作する。
 ひたすらに拳の連打(ラッシュ)。上下左右全ての方向に、パンチを叩き込む。
 一撃ごとに殴る衝撃が拳に伝わって……来てねえ!?
 クレイジー・ダイヤモンドを静止させ、すぐに気付いた。
 プッチは、ホワイトスネイクを一旦解除させたのだろう。
 どこに行った? 考えた矢先に、背後――服部がいる方向――から声。

「ジョジョ! くそったれ!」

 体ごと視線を向ける。
 服部とホワイトスネイクの距離は僅か。
 服部は光線銃を構え、ホワイトスネイクの半歩後ろにいるプッチに銃口を向けているが……
 駄目だ、アレじゃあ間に合わねえ……!
 ホワイトスネイクが手刀を作り、光線銃を掴む服部の右手首に振り下ろそうと――させるかッ。

「波紋ッ!!」

 さっき拾っておいたチェーンに波紋を纏わせて、ホワイトスネイクではなく本体のプッチに投げつける。
 予想外の攻撃だったらしく回避する素振りすらしなかったプッチが、波紋のエネルギーで痺れる。
 その衝撃でホワイトスネイクは消え、服部の前に出る。

「やってくれたな……」

 やっぱアレくらいの波紋じゃあ、すぐに立ち上がっちまうか。
 まあ、服部を助け出せただけでも良しとしよう。
 こちらを睨み付けながら、プッチが服の中に手を突っ込む。
 服部が光線銃をプッチに向けるが、何をしてくるか分かったのでそれを制止する。
 プッチが取り出したのは、蛍光灯の光を反射して煌く――――二枚のDISC。
 記憶DISCにせよ、スタンドDISCにせよ、DISC挿入してしまえば少しの間行動不能になる。
 少しの間でも、あのスタンド相手では隙を見せるわけにはいかない。DISCを抜かれてしまえば、どうなってしまうのか分からない。

「ジョジョ、どうするんや?」

 服部も、あのDISCを突っ込まれればそこで終わりだと気付いたのだろう。
 さすがに策も思いつかないらしく、汗が頬を伝っている。
 やれやれ、本当にやれやれだぜ。『とっておき』を教えてやるとするかね。

「服部、俺たちジョースターの血統には代々伝わる伝統的な発想法があってな。
 一つだけ……本当に一つだけだが、『これをやれば勝てる』っていう必勝の戦法が残ってるぜ」
「何……やて……? そ、それは一体どんな戦術なんや!?」
「ああ、教えてやる。とっておきのヤツだ! この作戦にはなァ、とにかく足を使うんだ」
「……はあ?」
「さァ……息が切れるまでとことんいくぜ? あの積まれた箱の裏まで逃げるんだよォォォオオオオーーーーーーッ!!」
「無駄に引っ張る必要あったんかァァァアアーーーーッ!?」
426Classical名無しさん:08/11/16 02:35 ID:M4DJBpKQ
         
427Classical名無しさん:08/11/16 02:35 ID:.9iv8J3w
支援
428Classical名無しさん:08/11/16 02:35 ID:ig8Bc3nI

 なんやかんや言いながらも一緒に走ってくる辺り、服部はあっちに逃げる理由を分かっているのだろう。
 ああいう場所ではDISCなんか投げても障害物に阻まれ、想定通りの方向へは飛びはしない。
 ホワイトスネイクを送り込むか、プッチもホワイトスネイクとともに来るか。
 そのどちらかしか、攻撃方法はない。
 既に一度やり合って、正面からの殴り合いにおいてはこちらの方が有利だと分かっている。
 DISCを引き抜かれるのに気を付けなければならないが、逆に言えばそれさえ注意しておけばいい。
 狭い場所に隠れれば、ホワイトスネイクが追ってくるルートも限られる。その場所だけを警戒しておけばいい。

 明らかに、俺達が有利な状況。
 俺がプッチならば、深入りはしない。それでも、プッチは俺達を追ってくるだろう。
 絶対に、確実に、それこそ百パーセント、俺達を追ってくる。
 DIOの狂信者、ジョンガリ・Aに承太郎と徐倫を襲わせた黒幕。
 ジョンガリ・AがDIO以外のものに従うとしたら、自分と同じ境遇の者――DIOの信奉者以外にはありえない。
 おそらく、プッチもDIOを敬っていることだろう。
 そして多分だが、プッチはBADANに協力こそしていても、胸中ではDIO以外を信仰していない。
 DIOのカリスマに一度魅せられた者が、他の何かに寝返ってのは考えにくい。
 BADANに尽力するフリをしながら、BADANの技術力でDIOを蘇らせようとでもしているのだろうか。
 ……駄目だ。あんな野郎を崇拝するようなヤツの考えることなんか、分かりゃしねェ。分かりたくもねえがよォー。
 ま、何にせよだ。
 プッチが何を考えているにしろ、DIOを崇拝するプッチのことだ。
 ジョースターの血統である俺を目の敵にしているのは、火を見るのよりも明らかだ。

 さァ…………追って来い、エンリコ・プッチ!
430Classical名無しさん:08/11/16 02:36 ID:M4DJBpKQ
           



 …………状況が理解出来へんかった。

 どこかに隠れたエンリコ・プッチが出てくるまで、俺達は仕掛けない。
 見つけ次第、見つけた方が別方向を警戒している方に、『あー』でも何でもいいから声をかける。
 そうジョジョに告げられ、こちらも了承した。
 それから結構な時間が経ったが、プッチは姿を現さない。
 これは分かっていたことだった。
 暫くが経過し、不意に背中を合わせていたジョジョのいた方で床を叩くような音が聞こえた。
 何を意味するのか分からず、プッチを見つけた合図かと思い振り向いた。

「何や? ジョ……ジョ……?」

 咄嗟に、今までいた場所から飛びのいてしまった。
 俺の視線の先にいるジョジョは倒れていた。
 ジョジョが倒れこんだ床はドロドロと溶け始め、ジョジョの額に埋め込まれた三枚のDISCがほんの少し顔を出してしまっている。

 もう一度言う。
 俺には、状況を理解することが出来へんかった。

「どういう、こと、や……?」

 みっともないと思っとたが、考えていたことをそのまま口に出す自分を止められへんかった。
 これまで様々な死体を見たことがある。
 えげつなさなら、いまのジョジョを上回る惨状の死体はいくつもあった。
 体内を焼かれてのた打ち回るアミバはんの死に様も、かなり悲惨な死体を晒していた工藤の姿も、この目ではっきりと見た。
 それでもついさっきまで喋っていたジョジョのいきなりの気絶に、俺は動揺を隠すことが出来なかった。

 とりあえず、頭を冷やす。
 冷静にならなあかん。
 『周囲の物体ごと人を溶かす』、『DISCを取り出す』。
 どう考えても、ジョジョから伝えられたホワイトスネイクの能力。
 しかし……なんでジョジョだけを狙ったんや?
 どうせならば、二人とも戦闘不能にした方が得なはずなのに……
 理由はあるんか……? 分からへん。
 とりあえずジョジョならば、幻覚の矛盾点を見つけることくらい朝飯前やろう。
 むしろ既に矛盾点を見つけていても、決しておかしくはない。
 となれば、まだ幻覚から開放されないのは、ポケットに入れた石が小さすぎて衝撃が足らんからってことになる。
 ジョジョの方へ行って、揺さぶったるか。

『無駄ダ。空条承太郎ニ幻覚ヲ見セタ時ハ此方ニモ事情ガアリ、アエテ幻覚ニ矛盾ヲ孕マセテイタ。シカシ、今回ハ違ウ……』
「――ッ!?」

 いきなり声をかけられ、心臓が破裂しそうになりながらも振り向き、今度は心臓が止まるような感覚を覚えた。
 瞳に映ったのは、白と黒の肉体を持つ巨体――ジョジョに聞いた情報通りの見た目やった。
 これが、エンリコ・プッチのスタンド『ホワイトスネイク』か。
 まさか喋ることが出来るとは、さすがに予想外やったわ。

『トコロデ、服部平次。人ト動物ノ違イトハ、一体何ダト思ウ?』

 こいつは、いきなり何を言っとるんや……?
 どう答えるのがベストか思案を巡らしている俺に、ホワイトスネイクの後ろから声。
 よく目を凝らして、箱の陰に隠れて顔だけ出しているプッチをやっと視認できた。

「それは『天国へ行きたい』と思うことだ。人はそう思う…………犬やオウムにその概念はない。
 人は『天国』へ行くために、その人生を過ごすべきなのだ。それが人間の素晴らしさだ……分かるかい?」
433Classical名無しさん:08/11/16 02:37 ID:.9iv8J3w
支援支援
434Classical名無しさん:08/11/16 02:37 ID:M4DJBpKQ
          

 聞いてみて分かった。
 こいつはヤバイ。イカレている。サイコと言ってもいい。
 アーカードや勇次郎とはまた違うベクトルに、突き抜けとる。
 はっきり分かった。こいつを相手にするのは無駄だ。何のクスリにもなりはしない。
 俺の理解の範疇を超えとる……
 返答に困っているのに気付いているのかいないのか、プッチは言葉を続けた。

「私は……私とDIOは、全ての人々を『天国』へと導く。それが真の幸福であるからだ。
 人間の幸福において『克服』しなければならないのは『運命』だ……
 強い『運命』……そこに倒れているジョースターの血統のような……!」

 DIO……参加者の一人でもある、ジョジョの知る吸血鬼・DIOのことやろうか?
 ジョジョの情報では、全ての人間への幸福なんてことを願っているとは思えへんけど……
 もはやプッチは質問をする暇すら与えずに、演説でもしてるかのように語っている。

「はっきり言って信じられないことだが……ここに五体ほどの怪人が来ただろう?
 アレは『啓示』だった。『味方』してくれたのだ。
 『運命』はこれから二日後……正確には三十四時間後の新月に『天国へ行け』と、押し上げてくれているのだ……
 じゃあなきゃ、私はジョセフ・ジョースターが空条承太郎の記憶を持つと気付かず、首輪を解除しなかっただろう。そう、敗れていたのだ。
 『引力』を信じるか、服部平次? ジョセフ・ジョースターに白刃取りをさせるために、お前はここにいた……」

 要するに、プッチも空条承太郎の記憶を見ていたんやろう。
 空条承太郎の記憶の中には、『制限を解除せねば、プッチが敗北する』ほどの内容があったらしい。
 承太郎の記憶DISCをジョジョが挿入したのに、プッチが気付いたのは白刃取りの所為ということだ。
 そこまでは分かるが……何て? それが『啓示』? 『押し上げてくれている』?
 んな、アホな。そんなワケあるか。
436Classical名無しさん:08/11/16 02:38 ID:M4DJBpKQ
       
437Classical名無しさん:08/11/16 02:38 ID:ig8Bc3nI
438Classical名無しさん:08/11/16 02:38 ID:1CxDRJAM


「もう誰も私には追いつけない……もう何もせず、ジョセフ・ジョースターを置いてここから出て行くといい。
 あの扉から出れば、暗闇大使の玉座まではまっすぐだ。
 首輪を外したため盗聴など気にせずにはっきり言うが、別に私にとってはBADANなどどうでもいいからな。好きにしろ。
 私もこれからUFOの操縦者を探すが……私を追ってきても無駄だし、戦闘となれば私は勝つ…………
 君等と怪人どもが『啓示』を見せてくれたからだ」

 見逃す? 暗に、俺には相手する価値がないとでも言っているのか……?
 確かに俺は弱い。ジョジョとは違い、プッチの言う『強い運命』を背負ってはいないだろう。
 援護するんならともかく、真正面からサシで戦ってスタンド使いに勝てるとは思えない。
 はっきり言って、逃げた方が頭のいい行動だというのは分かる。
 ここはお言葉に甘えて逃げさせてもらった方が、大首領を一発ブン殴るという目的には近づく。
 変な意地を張らずに尻尾を振って去ったなら、ジョジョだけが被害を受けて終いや。
 それでも……

「…………な」
「どうした?」
「ナメんなぁぁぁあああああ!!」

 一気に光線銃を掲げて、引き金を引く。
 射出された光線はホワイトスネイクをすり抜けるも、顔以外は箱の陰に隠れたプッチには掠りもしなかった。

 たとえアホな考えでも! 俺はプッチを倒して、ジョジョを助け出してみせる!
 お前が人を幸福へと導く? ふざけんなッ!!
 上から目線で『天国』だ『啓示』だ、グダグダグダグダグダグダ。
440Classical名無しさん:08/11/16 02:39 ID:M4DJBpKQ
              
 あーあ、怖いさ。足ガックガクや。だいたい、スタンドって何やねん!
 なーんーで不意打ちの光線が、アッサリ通り抜けてんねん。ジョジョから聞いてはいたが、ワケ分からん!
 でも、俺はその恐怖に『反逆』するで。
 このいけ好かないプッチとかいう神父をぶちのめし、一発鼻をあかしてジョジョを助け出す。
 その上で、大首領を一発ブン殴る。
 俺がこのままジョジョを見捨てた結果、大首領に拳を叩き込めたとしても、そんな拳にアイツ等の思いが篭っているとは思えへん!
 自分の気持ちに嘘を吐かずに生きていたアイツ等の遺志は、『意地』を捨てた俺の拳には宿らん!
 そうや……そうやっ!

「意地があんねん! 気持ちを受け継いだ俺にはッ!」

 もう一回引き金を引くが、またしてもプッチには掠りもしない。
 だいたい離れすぎやろ。当たるか、アホ。

「安っぽい感情の流れに、身を捧げるか。
 まあ、いいだろう。私に……『天国』に行くことを邪魔するというのなら、始末するしかないな」

 今まで止まってたホワイトスネイクが、左手で手刀を作って歩いてくる。
 どうするか……? 右に逃げても、左に逃げても追いつかれるのは明らか。
 裏をかいて真っ直ぐ? いやいやいやいや、何を血迷ってもそれはあかん。

『シャア!』
「うおおっ!」

 あっぶな! 胸に迫ってきた手刀を、しゃがんでギッリギリ避けれたー!
 ……なんや、結構スピード遅いんちゃう?
 つっても攻撃してもすり抜けてまうし、顔だけ出してるプッチに光線が当てれる気がせえへん。
 ニアデスハピネスは思い通りの場所に飛んでいくが、こんなにバイクがあるとこで危のーて使えるかい。
442Classical名無しさん:08/11/16 02:39 ID:ig8Bc3nI
443Classical名無しさん:08/11/16 02:39 ID:.9iv8J3w
支援支援支援

 上を確認――ホワイトスネイクが左手を振りかざしている。
 右、左、前、全ての方向がアウト。ニアデスハピネスで上に飛翔するか……いや、発動させる時間がない。
 なら……後ろに倒れているジョジョに視線を流すと、やっぱりDISCが飛び出している。
 スタンドDISCを使うか? いや、使えへんのは分かって――ッ!!
 おそらくジョジョが目覚めないのは、幻覚の中で矛盾を見つけることが出来ていないから。
 だが、アレを使えば……成功するかは微妙なライン。
 試してみる、か……?



 しゃがんでいた服部、一気に足をバネとして横っ飛び。
 本体から離れた場所に来ていて、パワーと速度が弱まっているホワイトスネイクの拳は空を斬るに終わる。
 その隙に服部は駆け出すが、いくら弱まっていようとホワイトスネイクはスタンド。服部に追いつけないはずがない。
 服部を射程外に行くより先に殺害しようと、プッチはホワイトスネイクを操作させる――が、急にホワイトスネイクを静止させる。
 服部が向かっていたのはホワイトスネイクの射程外ではなく、ジョセフの元であったのだ。
 ジョセフの額より抜けかかった一枚のDISCを取り出し、走りながら額にDISCを押し込む服部。
 まだ服部がホワイトスネイクの射程内にいるが、プッチはホワイトスネイクを解除させる。

 ――プッチは、ジョセフがスタンドを使用していたのを見ていた。

 ジョセフが首輪を解除した状態でスタンドDISCを使えるのに、服部が使えないと断定できる要素はない。
 仮に服部が、マジシャンズ・レッドやクレイジー・ダイヤモンドを使用できたならば。
 たとえ使用者が服部でも、遠くに向かわせた状態のホワイトスネイクで相手をするのは厳しい。
 そのように認識したプッチは、一度解除したホワイトスネイクを眼前に発現。潜んでいたボックスの陰から出てきて、服部の元へと歩みを進める。
 プッチに追われている服部は、少しずつ足の動きがゆっくりになっていく。額を押さえる手の力も同様に弱まる。
 警戒心を露に距離を詰めるプッチの前で、ついに押し込まれていたDISCが服部の額から射出された。
 同時に、DISC挿入による何とも言えぬ不快感から開放された服部は、ふらつきながら倒れこんだ。

「……どういう理屈かは知らんが、ジョセフ・ジョースターには使えるが、お前にはスタンドを使えないようだな」

 肩で息をしながら何とか上半身を持ち上げた服部に、プッチが言葉を投げる。
 既にプッチと服部の間には数メートルほどの距離しかなく、プッチの半歩先にはホワイトスネイクが待機している。

「スタンドが使えない以上、君はその銃を使うしかないわけだが……どうするんだね?
 それをもしも回避されれば、私の背後にいるジョセフ・ジョースターに命中するかもしれないぞ?
 優先するのはどっちだね……? 私の命か? それとも、ジョセフ・ジョースターの……命、か……」

 服部は一瞬考え込み、光線銃を撃つのが遅れる。
 その一瞬が命取りとなり、その隙にホワイトスネイクが服部を貫く。それがプッチの計画。
 が、服部は揺らがなかった。
 思いっきり力を込めて――――投げた、DISCを。
 驚愕するも、ホワイトスネイクの右腕で自分の首を動かすことで、プッチは何とか回避する。

「……ッ」
「DISCに記憶をこびりつかせ、それを私に押し込むことで行動を一瞬停止、その間に私を撃つ気だったか。
 たしかにそれならば、倒れた私にならば、お前でも命中させられただろう……
 私は『引力』を信じる……君には私を殺せない」

 プッチが言い終えると、ゆっくりとホワイトスネイクが服部の元へと近づく。
 服部が立ち上がり、プッチに背を向けて全速力で走り出す。

(まーたグダグダグダグダと。そんな喋ってる間に、核金で走れるくらいは回復したで!)
446Classical名無しさん:08/11/16 02:40 ID:M4DJBpKQ
 

 全速力で走ればホワイトスネイクからでも逃げ切れるだろう。
 服部は、そんな甘い考えを持っていた。

 服部がそんな意識を抱くことになったもともとの原因は、ジョセフより聞いた情報。
 ジョセフは、ホワイトスネイクのスタンドとしてのタイプを、遠隔操作型か自動追跡型だと思い込んでいた。
 遠隔操作型――遠くまで向かうことが出来る代わりに、力は弱くスピードも遅い。精密な動作が可能。
 自動追跡型――遠くまで向かわせることが出来て、かつ力が強くスピードも速い。ただし精密な動作は不可能。
 上記の遠隔操作型スタンドと自動追跡型スタンドの特徴に加え、ホワイトスネイクがそのどちらかであろうともジョセフは仲間に伝えた。

 さらに服部は、少し前のホワイトスネイクとのやり取りで、ホワイトスネイクのパワーが弱くないことを知った。
 まさか本体の近くにいる時は、パワーが強くなるなど欠片も思わず。
 ジョセフからの情報を元に、ホワイトスネイクを遠隔操作型と判断した。
 ゆえに、全力で走って間を取りながらニアデスハピネスを発現させ、飛行すれば追いつけないなどと推量した。
 確かに、服部の導き出した結論はほぼ正解である。結論に至るまでの経緯もまた、ほぼ百点満点。
 そう、ホワイトスネイクが遠隔操作型なのは間違っていないが……

「え……?」

 呆けた声を漏らしながら、急に前に進めなくなったことを服部は疑問に思う。
 どういうことだとの思いを胸に、足元を確認しようと真下に視線を向けた服部の視覚が、彼自身の足を捉えることはなかった。
 服部の左脇腹から飛び出した、赤い液体に塗れた白い腕が視覚に入り込んでいる所為で。
 状況を飲み込めぬ服部を意に介さず、白い腕は肉をブヂブヂと抉りながら無理矢理に服部から抜け出した。

「かは…………ぁ……っ」

 体重を支えるべき足に力は入らず、服部は崩れ落ちる身体を引き止めることが出来なかった。
 偶然にも仰向けに倒れた服部の視界に入ったのは、己を見下ろすホワイトスネイク。
 ここまで来てやっと、服部は自分がホワイトスネイクの腕に貫かれたのだと自覚した。
448Classical名無しさん:08/11/16 02:41 ID:.9iv8J3w
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449Classical名無しさん:08/11/16 02:42 ID:M4DJBpKQ
           

(どういうこっちゃ……遠隔操作型やなかったんかい…………? めっちゃ速いやん……
 せやけど、なんであんなパワーあるんやったら、さっき使、わへんかった、ん、や……)

 明らかに致命傷を受けながら、服部の脳内には死への恐怖ではなく疑問が満ちていた。
 思案できる時間など一分もないだろう。
 分かっていながら、服部はひたすらに脳を回転させる。
 疑問を抱いたまま終わってたまるか、などという意地があったのかもしれない


(さっきは……結構離れてたな……対峙してた時と同じくらい…………
 そういや、あんなにパワーあるんやったら、対峙した時……に攻撃を仕掛けてくればよかったやん……)

 服部の閉じられかかっていた瞼が、一気に見開かれる。
 出血が多く薄れてゆく意識の中、服部は確かに脳内でピースの組み合う感覚を覚えた。

(そういう事か……! さっきも、対峙してた時も、意図して仕掛けへんかったワケやない。仕掛けられへんかったんや……!
 おそらくホワ、イトスネイク、は、本体から離れると離れる、ほど……パワーが弱くなる……そう考えれば、説明がつく…………)

 服部は知らないが……
 ホワイトスネイクが十字手裏剣を薙ぎ払う姿を、仮に服部が見ていたならば、もっと早く服部は気付いたことであろう。
 しかし服部は襲撃してきたコマンドロイドの方に集中していたため、ホワイトスネイクに意識を向けていなかった。
 別にそれは過ちではない。
 ただ、服部がその時にホワイトスネイクの方を見ていなかったのは――『偶然』にすぎないのだから。

(大首領に一発ブチ込んだるつもりが、ここで終わりかい。あー……変な意地張ってしもたー……
 アイツ等の思いを届ける気ィ……やっ、てんけど、な。
 まあ、意地張った結果、やから、しゃあないわ。……後は任せ、た……で…………)
451Classical名無しさん:08/11/16 02:42 ID:.9iv8J3w
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 白濁色に染まっていく意識の中、服部は命を喪う何とも言えぬ感覚に耐えた。
 当然あるべきものが喪われていくと感じる感情――喪失感。
 喪失感に耐える際に、毎度思い浮かぶ女性のヴィジョンが、またしても服部の脳内で再生されていた。

(だか、ら…………何、で……お前、やねん………………)

 その問いに答えが返ってくることはなかった。



 『聖なるものを犬にやるな。彼らはそれを足で踏みつけ、向き直ってあなた方に噛み付いてくるであろう』

 ――マタイによる福音書、第七章第六節より。


 服部平次は『天国』の素晴らしさを理解することはなく、この私に銃を向けてきたか。
 別に構いはしない。
 かつてDIOが目指し、現在私が目指すものは、全ての人々を幸運へと導く『天国』。
 少しばかりの人間が犠牲になったからといって……気にすることではない。

「かは…………ぁ……っ」

 ホワイトスネイクが腕を引き抜くと、服部平次は抵抗することなく倒れこんだ。
 赤黒い血液が飛び散り、私の八百ドルもするズボンに数滴付着した。
 腹に一突き。明らかに命を奪える一撃。適切な処置を施したところで、もはやどうにかなる限界を越えている。
 ひとまずホワイトスネイクを解除する。
 無論、ジョセフ・ジョースターの周辺に溶解能力は行使したままで。
453Classical名無しさん:08/11/16 02:42 ID:.9iv8J3w
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454Classical名無しさん:08/11/16 02:42 ID:M4DJBpKQ
         

「ぐああ……ッ」

 不意に意識が飛びそうになるが、どうにか繋ぎとめる。
 あの時以来、ずっと激しいめまいに襲われ続けていて、呼気を整えることすらままならない。
 自分でもよく分からない、何なのだ? 何か……いったい何なのだ、このひどい体調は……?
 私の体の中で、何かが暴走している…………
 コントロールできない。私の意思を無視している……何かの『力』。

『信頼できる友が発する14の言葉に知性を示して……『友』はわたしを信頼し、わたしは『友』になる』

 フラッシュバックしてくるのは、空条承太郎の記憶のにあった『DIOのメモ』。
 つまり……こういうことなのか、DIO?
 感じ取れる私以外の『力』というのは、つまるところ……そういうことなんだな?
 この『力』に必要なのは、やはり君の記していた『時』と『場所』!
 北緯二十八度二十四分、西経八十度三十六分。
 天国は、やはりその場所にあるのか……!?
 その場所は、『ケープ・カナベラル・ケネディ・宇宙センター』。
 時は『新月』、あと『三十四時間後』ッ!

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 唐突に響く獣の咆哮。これはライオン……いや、虎のものか?
 正確には、BADANに忠義を尽くさんとする虎の怪人であろう。
 かなり離れた場所だというのは分かるが……まあ、もはや私には関係ない。
 虎を模したと思われる怪人の物であろう咆哮が、こんな場所にまで響き渡っている現状。侵入者により秩序が乱されている今こそが好機。
 UFOの操縦方法を知る研究者を連れて来る。
 伊藤博士であるのが最良だが、別に操縦さえ出来れば誰でもかまわない。
 首輪を解除したことが騒動になる前に、このサザンクロスとやらから脱出させてもらうとしよう。
 そして、向かうべきは『ケープ・カナベラル・ケネディ・宇宙センター』。
 BADANの技術力なら、三十四時間あれば十分に間に合うであろう。
456Classical名無しさん:08/11/16 02:43 ID:ig8Bc3nI
457Classical名無しさん:08/11/16 02:43 ID:M4DJBpKQ
        

 ジョセフ・ジョースターは…………
 いまジョセフ・ジョースターに見せている幻覚には、『矛盾』などない。
 仮に私が幻覚を使わずに戦っていた場合の――『if』の幻覚である。
 虚構の映像に踊らされているなどと、気付く要素は存在しない。
 かつて始末したスタンド使いの女囚のように、骨になるまで極力触れないように放置しておけばいい。
 さて、自室にいるはずの伊藤博士の元へ向かうとするか。
 ……む? なんだ、この音は?
 気のせいか――いや、確かに聞こえている。未だ音は継続している。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 侵入者と怪人の戦闘の衝撃によって、響き渡る地鳴り……否。
 侵入者が突入してきた時よりも音は小さいが、この身にヒシヒシと伝わるような感覚。
 まさか地鳴りによりもたらされたとは、思えない。
 この耳をろうするのはいったい……心臓音か?
 右手首を左人差し指で押さえる――どうやらそれもある。
 かなり心拍数が上昇しているが、これは得体の知れぬ音に対する身体の反応だ。
 始まりから響き続けている音とは別。
 方向は……『背後』ッ!


 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


 奇妙な音がより大きくなる――すなわち音源が接近している。
 いや、耳以外からも感じ取れる。低音に身体が揺らぐ感覚とは別物。これは音ではない。
 全身から汗が噴き出すような感覚。そうだ、これは――――『凄み』ッ!
 まさか……その思いを押さえ込みつつ、首を思いっきり背後に回す。
 瞳に映るのは一人の男。既に男は、僅か一メートル程度の距離まで迫っていた。
459Classical名無しさん:08/11/16 02:44 ID:.9iv8J3w
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「ジョセフ・ジョースター……ッ!」

 驚愕から、勝手に口から言葉が漏れた。
 そう、ありえないことに……その男は、幻覚にかけたはずのジョセフ・ジョースターであった。
 どうにか状況を認識しようとしている私の眼前に、スタンド『クレイジー・ダイヤモンド』が出現。
 まずい。クレイジー・ダイヤモンドは、先ほどジョセフ・ジョースターが操っていたスタンド。
 対抗するために、ホワイトスネイクを発現させる――間に合わない。
 後ろに跳躍して距離を取る――跳ぶこと自体は成功した。

「グァぁぁ……」

 しかし、射程外に出るより早く、クレイジー・ダイヤモンドの拳が鳩尾に叩き込まれた。
 咄嗟に距離を取ったことが吉となり、まともに食らうことはなかった。

「――が、がぁぁああぁああああああああああ!!」

 それでも、衝撃は大。
 アッパー気味に放たれたクレイジー・ダイヤモンドの拳は、私を軽々と上空まで投げ出した。
 巨大なUFOを収納するためにかは知らないが、かなり高く設計されている天井に感謝する。
 少しずつ上昇が収まっていき、状況を判断するだけの余裕が出来た。いや、何とかして余裕を作り上げた。
 頭は働くし、四肢は動く、さらに視界もはっきりとしている。
 ただ、胸骨の軋む音が聞こえる。幾らか折れているかもしれない。
 この程度のダメージで済んでいるのは、まともに受けなかったからであり、何も行動せずに殴られていたならば――考えるまでもない。
461Classical名無しさん:08/11/16 02:44 ID:.9iv8J3w
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462Classical名無しさん:08/11/16 02:44 ID:M4DJBpKQ
                            
463Classical名無しさん:08/11/16 02:45 ID:1CxDRJAM


 それにしても、何故ジョセフ・ジョースターが自由に動いているのか。
 幻覚に矛盾があったとは思えないが……
 空中で強引に身体を捻って、ジョセフ・ジョースターの方へと首を動かす。
 幻覚を見破ったため、ドロドロに溶かす能力も解除されたらしく、身体は幻覚を見せる前と変化していない。
 それは別にかまわない。幻覚から抜け出した時点で分かっていたことだ。
 気になるのは、どうやって幻覚から脱出したか。その方法だが………………

 ――なるほど、そういうことか。

 ジョセフ・ジョースターの額からは、埋め込まれたDISCが少し顔を出していた。『三枚』のDISCが。
 少し飛び出している三枚のDISC、そのうち一つは他のものよりも前に出ている。
 ジョセフ・ジョースターは右手で思いっきりDISCを押し込むと、怒りに燃えた瞳で私を見据えた。
 理解したぞ。
 服部平次の狙いは『私にDISCを挿入する』ことではなく、『ジョセフ・ジョースターにDISCを挿入すること』であったのだ。
 私が回避するのを承知で、背後にいたジョセフ・ジョースター目掛けてDISCを投げつけたのだろう。
 ジョセフ・ジョースターに見せていた幻覚には見破られるほどの矛盾はなかったが、唐突にDISCを押し込まれたならば……
 流れ込むのは、服部平次が無理矢理に押し込んだために付着したと思われる記憶。そしてDISCを挿入する際の言葉に出来ないほどの不快感。
 それ等はジョセフ・ジョースターに見せていた幻覚内では本来起こりえないことであり、幻覚から解放されるのに十分な要素となっただろう。
 身体への衝撃など、空条承太郎の記憶を見たジョセフ・ジョースターのことだ。
 戦闘前から用意しておいたのであろう。
 幻覚が解除されたのも頷ける。

 クレイジー・ダイヤモンドの一撃を受けたことによる上昇に、やっと終止符が打たれる。
 身体にかかっていた上方への力がゼロとなり、身体が空中で静止。
 重力が喪失してしまったかのような感覚。
 まるで体重が消え失せたような心地だが、それはあくまで一瞬のこと。
 上昇に伴って得た位置エネルギーが、少しずつ運動エネルギーに転じ――自由落下。
 重力加速度にしたがって、少しずつ加速していく落下速度。
 数刻前までゼロであった身に降りかかるエネルギーが、少しずつ上昇していく。

 本当に少しずつ、皆無であった身に降りかかるエネルギーが少しずつ、体感する『重力』が少しずつ――

 少しずつ増してゆく、『重力』が『ゼロ』から少しずつ、少しずつ増してゆく、『重力』が『ゼロ』から少しずつ――

 少しずつ――、少しずつ――、少しずつ――、少しずつ――、少しずつ――、少しずつ――、少しずつ――、少しずつ――



 クレイジー・ダイヤモンドの拳をプッチに叩き付けたジョセフ、倒れる服部に視線を向けて怪我の度合いを確認する。
 水溜りの如く溢れた服部の血液が、手遅れだということを主張する。
 波紋による修行や、柱の男達との戦闘を繰り広げてきたジョセフには分かる。
 服部の傷は致命傷で、あの出血では既に死んでいると考えるのが妥当。生きているワケがない。

 つまり――――もはやクレイジー・ダイヤモンドの拳を叩きこんでも、身体が治るだけ。死んでしまった精神は戻ってこない。

 ジョセフは、服部が投げたDISCに付着した服部の記憶を閲覧していた。
 ゆえに、ジョセフは現実から逃げることをせず、己の不手際を受け入れる。
 自分がもしも幻覚なんかに嵌っていなければ――そんな思いが、ジョセフの中で増殖していく。

「う……おおおおおおおおおおおおおーーーッ!!」

 喉が引き裂けないかと思うばかりの絶叫。
 一しきり怒鳴り続けたジョセフは、服部の方ではなくプッチが落下するであろう場所に体を向ける。
 悲しむのも、謝るのも、反省するのも、死を悼むのも、後で出来る。
 優先するべきは――孫を狙い、服部を殺したプッチの殺害。
 自らを責めるのを後にして先にプッチを仕留めるために、ジョセフは服部に背を向けた。

 プッチの回避行動によって、クレイジー・ダイヤモンドの拳はやや入りが甘かった。
 あの程度ではプッチは死んでいないと、ジョセフは判断。
 落下したプッチが体勢を立て直すより早く近づき、体内に炎を流し込むべくクレイジー・ダイヤモンドを解除してマジシャンズ・レッドを発現させる。
 一瞬空中で静止した後、ゆっくりと速度を増しながら落下してくるプッチ。
 あのままならば、無造作に積まれたボックスに突っ込むだろう。
 ジョセフが、プッチよりも早く落下点に辿り着こうと駆ける。


 ――その時、奇妙なことが起こった。


 プッチが、空中で移動したのである。
 背中からボックスに叩きつけられるはずが、壁に向かって真横に平行移動したのだ。
 ホワイトスネイクにはそんな能力もあったのか――と、ジョセフは対抗策を考える。
 しかし、すぐにジョセフからはそんな余裕が消失することになる。

「……何?」

 疑問の声は、真横に移動し始めたジョセフのもの。
 プッチの空中移動に驚いていたジョセフの身体は、プッチが飛んでいった方とまったく反対の方向へと勝手に動き出した。
 少しずつ加速していくジョセフの身体。
 いま身に降りかかっているのと告示した状況を、ジョセフは知っていた。

「これは、ンなわけねえと思いてェが……『落ちて』いるッ!? 『下』が『床』じゃあなく、『壁』になっているッ!」

 何を言っているのかは、言葉を漏らしたジョセフにもあまり理解できていない。
 しかし、加速のスピードに、背筋の凍る浮遊感。
 さらには、器具に固定されたUFOを除く周囲の全ての物体が、真横の壁の方へとスライドしている現状。
 それは、まさしくジョセフが知る『落下』のそれと似通っていた。
 ジョセフは混乱する頭を何とか落ち着かせ、マジシャンズ・レッドを解除してクレイジー・ダイヤモンドを発現。
 クレイジー・ダイヤモンドの左手で床に掴まって、身体を固定させる。
 呼気を整えつつ、このSF小説じみた事態をどうにかしようと、ジョセフは脳を回転させる。

「北緯28度24分西経80度36分……すなわち『ケープ・カナベラル・ケネディ・宇宙センター』……」

 ジョセフが状況を理解するより早く、声がかけられた。
 この声にジョセフは聞き覚えがあった――さっき殴り飛ばしたプッチのもの。

「地球の重力が一定でないというのは……空条承太郎の記憶を見たのだから、知っているな?
 よく勘違いされるが、重力と引力は別物だ。引力と地球の自転で生じる遠心力、その二つの合力を重力という。
 また重力の強弱は、緯度や標高によっても変化する。
 ケープ・カナベラルは限りなく赤道に近く、海抜が高い。つまり重力が弱い。新月の時になれば、なおさらだ。
 そんな地上で最も重力が弱い場所――ケープ・カナベラルにて、最も重力が弱くなる時――新月の時を待つ。
 おそらくDIOが望んだのは、『地球上で最も弱い重力』であったのだ。『天国』には、それが必要だったのだッ!」
468Classical名無しさん:08/11/16 02:46 ID:.9iv8J3w
支援
469Classical名無しさん:08/11/16 02:46 ID:M4DJBpKQ
  

 足音を響かせながら、少しずつプッチの声がジョセフに接近してくる。
 この異常な状況下にもかかわらず、何でもないかのようにごく普通に二本の足で歩きながら。
 もしもプッチがこの異常な状況を作り出した本人であるとしたら――この惨状を生み出したスタンド使いであるのならば、あっさりと説明はつく。
 しかし今のジョセフにとっては、そんなことは二の次であった。

「『北緯28度24分西経80度36分』に『新月』……そして『天国』だと………………」

 ジョセフの興味を惹いたのは、プッチから告げられた三つの言葉。

「空条承太郎の記憶を見たお前には分かるだろう。私が求めるものが、私の立場が」
「……納得したぜ。『彼は人の法よりも神の法を尊ぶ』ってのは、そういうことかよ。
 エンリコ・プッチ……俺はテメェをただのDIOの部下かと思ったが、そうじゃあなかった! テメェは…………DIOの友人ッ!」

 かつて、承太郎が封印した天国の行き方に関するDIOのメモ。
 承太郎の記憶を何もかも見たジョセフは、もちろんその記憶も目撃している。
 ゆえに、ジョセフは気付いた。
 プッチがDIOの友人であり、かつてDIOが目指した天国への到達を志しているのだということに。

「いや……しかし、ジョセフ・ジョースター。お前が殴ってくれたからだった。
 お前が殴ったから、私は限りなく『地球上で最も弱い重力』に近い重力を体験出来たのだ……
 私を天国へと押し上げてくれるのは、他でもないお前――ジョースターの血統だった……!」

 ここまでプッチが言い終えた途端、プッチがクレイジー・ダイヤモンドが掴んでいる床へと降り立った。
 プッチが少しずつジョセフへと歩みを進め、ジョセフとの距離が数メートルとなる。
 突如、ジョセフの周囲の引力が通常に戻った。
471Classical名無しさん:08/11/16 02:47 ID:ig8Bc3nI
472Classical名無しさん:08/11/16 02:48 ID:M4DJBpKQ
         
473Classical名無しさん:08/11/16 02:48 ID:.9iv8J3w
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474Classical名無しさん:08/11/16 02:48 ID:1CxDRJAM

475Classical名無しさん:08/11/16 02:49 ID:M4DJBpKQ
                 

(プッチの近くまで来れば、重力が戻んのか!?)

 今こそが好機と判断し、一気に体勢を立て直すジョセフ。
 その視界に入るのは、プッチとホワイトスネイク――ではなかった。
 プッチの傍らに立つのは、明らかにスタンド。
 しかし、どこかホワイトスネイクの面影はあるものの、ホワイトスネイクではなかった。

 体格はホワイトスネイクと変わらない。
 しかし肌の色は白と黒ではなく、水藻のような濃い緑色。
 また、顔面から後頭部、両の肩から背中の半ば、腰の周りを覆う産毛。これまたダークグリーン。
 頭頂部、胸部、そして腰部には、横縞模様が描かれ、さらにACDGの四種のアルファベットが浮かんでいる。
 そして全身に矢印の形をした装飾が施され、とくに両腕からは矢印じみた突起が伸びる。
 その突起は一定の方向でなく、あらゆる方向を指していた。

「『言は初めに神とともに在り、全ての者はこれによってできた』――ヨハネによる福音書、第一章二−三節。
 だから、私も得た力に名を付ける。
 新月――『new moon』、あるいは『crescent moon』。そうだな……『C−MOON』と名付けよう」

 プッチの言葉に呼応するように、緑色のスタンド――C−MOONがジョセフに拳を繰り出す。
 しかし、既に体勢を立て直したジョセフ。
 クレイジー・ダイヤモンドの裏拳でにC−MOONの前腕を叩き、軌道を逸らす。
 その隙に、ジョセフ自身がプッチに飛び掛る。
 頭部目掛けて放たれたジョセフの拳を、しゃがむことで回避するプッチ。
 しかし、空中で体勢を立て直してもう一度攻撃を放つくらいは、ジョセフには朝飯前。
 本体同士のぶつかり合いならば、波紋使いであるジョセフに敗北の要素はない――が。

「何ィィイイイイイーーーーッ!?」
477Classical名無しさん:08/11/16 02:49 ID:.9iv8J3w
支援支援

 飛び掛ったジョセフはプッチの頭上を越え、さらに上まで浮かび上がってしまう。
 当然、ジョセフの二撃目は、見当違いの空気を殴るに終わる。
 本体が離れていくため、射程距離の短いクレイジー・ダイヤモンドも宙に浮かんでジョセフを追う。
 平静を失うジョセフに、プッチは冷静に告げる。

「私の肉体が『基本』だ。重力の向きは、『私から放射状に』変化する。
 私の頭上に行けば重力は上向きとなり、そして私に近づけば近づくほど重力は増す」

 言い終えると同時に、C−MOONが宙に浮かぶジョセフの方へと歩みだす。
 ジョセフ自身は身動きが取れないが、クレイジー・ダイヤモンドは空中でも攻撃可能。
 クレイジー・ダイヤモンドが数度拳を振りぬくが、浮遊している状態では攻撃が出来るのは一方向。
 絶対にクレイジー・ダイヤモンドの腕が届かない方向へと、C−MOONはジョセフへと腕を伸ばす。
 退避のしようもないジョセフに、C−MOONの拳が放たれる。
 かなりの速度で急迫するC−MOONの拳を、ジョセフは咄嗟に左の前腕で受ける。

「う……ああああああああああ、う、腕が! 『裏返る』ッ!!」

 C−MOONと接触するやいなや、ジョセフの左腕がめぎゃりという音を立てて変形する。
 まず皮が裂けて血が噴き出し、次に肉が裂けた皮の上に出現したのである。
 焼けるような痛みが、ジョセフに襲い掛かる。
 継続する痛みにジョセフの表情が崩れ、顔面からはおびただしいほどの脂汗が噴き出す。
 このままでは戦闘不能は必至。
 どうにかしようと考えるジョセフ、しかし考える暇は与えられなかった。
479Classical名無しさん:08/11/16 02:50 ID:.9iv8J3w
支援

『ウシャアアアアアア!』

 奇声を上げながら、C−MOONがジョセフに拳の乱打(ラッシュ)を叩き込む。

「ガあああああああああああああ」

 数秒に渡ってC−MOONの拳を、ひたすら腹部一点に浴び続けたジョセフ。
 苦悶に満ちた悲鳴を吐きながら、全身から血を噴き出して彼方へと吹っ飛んでいく。
 プッチより放たれる重力に抵抗することもなく、格納庫の隅に追いやられたボックスやバイクのまとまりの頂上に辿り着き、そして微動だにしないジョセフ。
 それを確認したプッチは、ジョセフに背を向ける。

「拳が痺れる感覚、これが『波紋』か。……最期の抵抗にしては、実になまっちょろいな」

 ジョセフはC−MOONの攻撃が迫る直前に、波紋のエネルギーを全身に漲らせた。
 それがC−MOONの両拳を介して、プッチへと伝わったのである。
 ……しかしプッチに及んだ波紋は、あまりに微量であった。
 直接波紋を叩き込むなり、数秒間波紋を流し続けるなりすれば、プッチに深刻なダメージを与えたであろうが……
 スタンドからフィードバックした波紋。それもC−MOONはジョセフを何度も殴ったとはいえ、一打につき一瞬しか触れていない。
 その程度の波紋では、少し痺れる感覚をプッチに与えるだけであった。
 身体に異変など生じるわけもなく、プッチは歩みだした。その足取りに波紋の影響は、微塵もない。
481Classical名無しさん:08/11/16 02:51 ID:M4DJBpKQ
   

「あとは能力の完成のときを待つだけだ。こんな微弱な程度の能力ではない……『完成の能力』を」

 プッチは理解していた。
 C−MOONは未完のスタンドに過ぎないと。
 『完成の能力』……全ての人間を『幸福』へと到達させる能力には、『北緯28度24分西経80度36分』にて『新月』の時の『重力』が必要だと。
 クレイジー・ダイヤモンドに殴られた時は、それに酷似した重力下にあったので、C−MOONに覚醒したが……
 真の能力には、やはりDIOの記した地点と時が必要だと。

 だからこそプッチが目指すのは、依然変わることなく『ケープ・カナベラル・ケネディ・宇宙センター』であり、『新月』の時。
 ゆえに、UFOを操縦できる技術者を求めて、プッチは格納庫から出て行った。
 乱暴に閉められた扉の中――格納庫内には、プッチの移動に伴う重力変化に逆らって動くものはもういなかった。
 邪魔者は全て始末した。『天国』への障害など、今となっては存在しない。
 そう思うと、プッチには自身の口角が吊り上っていくのを止めることが出来るはずがなかった。
483Classical名無しさん:08/11/16 02:51 ID:M4DJBpKQ
               
484Classical名無しさん:08/11/16 02:52 ID:.9iv8J3w
支援支援

 …………………………………………

 ……………………

 …………

 ……

 そう、確かにもう格納庫内には動くものはいなかった。
 格納庫からプッチが出て行ったその時には。

 プッチがいなくなってから数十秒後。
 動くものがなかった格納庫にて、重力に反して動くものが現れた。
 その正体とは――

「行ったか…………ああああ、痛ッェェエエエ〜〜〜ッ! しこたま殴りやがって、クソッタレ神父がァァァアアアアーーーーッ!!」

 ――先ほどC−MOONの乱打(ラッシュ)をその身に受けたジョセフ・ジョースター。
 叩き込めば物体を裏返してしまうC−MOONの拳。
 それを幾度となく叩き込まれたはずのジョセフが、むくりと上体を起こす。
 C−MOONにより狂ってしまった重力など意に介さず、足の裏からくっつく波紋を流して床に身体を固定させる。
 プッチが遠目からではなく近づいて確認すれば、気付いたはずだが……
 ジョセフ・ジョースターは死んでおらず、ただ死んだフリをして気を窺っていただけであったのだ。



 格納庫から出て暫くして、さっそく研究員を一人見つけた。
 重力のこともあり、こんなに早く見つかるとは思っていなかったが、やはり私は『天国』に行かねばならないようだ
 必死の形相で柱にしがみついている。
 確実にUFOの操縦について知っていそうな伊藤博士ではないが……
 まあ、UFOの操縦さえ出来れば誰でもかまわない。
486Classical名無しさん:08/11/16 02:52 ID:M4DJBpKQ
                
487Classical名無しさん:08/11/16 02:53 ID:.9iv8J3w
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「尋ねたいことがあるのだが」
「プ……プッチ神父! ど、どうやって何事もないかのように歩いているんです!?
 まさかこの現象に心当たりが――って、どうして首輪をしていないんです?」

 思わず溜息が出そうになるのを堪えて、言葉を遮りながら問いかける。

「何で、君の質問に付き合わなきゃあいけないんだ? 質問をしているのはこちらだろう。
 格納庫にUFOがあったが……君はアレを操縦できるかい?」
「え……あ、それは…………しかしアレは暗闇大使様の許可が………………」

 口篭る研究員。
 BADANに逆らわなければ、殺しはしないとでも言われているのだろうが……
 そんなことで、幸福に過ごしていけるとでも思っているのか?
 真の幸福も知らずして。
 私のスタンドが『ホワイトスネイク』の時であれば、記憶DISCを奪うなり、命令のDISCを挿入するなりで、話は終わるのだが……
 ならばあまり気が進む行為ではないが、心変わりを誘発するとしよう。

『ウシャアアアア!』

 C−MOONの拳を、研究員が掴んでいる柱へと叩き込む。

489Classical名無しさん:08/11/16 02:53 ID:M4DJBpKQ
             

 ふう、一しきり叫び散らしたおかげで頭が落ち着いたぜ。
 あー、ちくしょう。どうすっかなァ〜〜〜〜。
 はァ〜、今の俺を覚悟とか『零』が見たらうるさそうだ。

『やられたと見せかけて生き長らえるなど、恥を知れ! 散っていった仲間達に情けないと思わないのか!
 男として、うんやらかんやら、うんぬんほにゃららの極み! 戦士としてごにゃごにゃ、ぐだぐだぐだぐだ、〜〜なり!』

 ――とか、冗談抜きに言ってきそうだぜ。拳の一発や二発入れてくるのも忘れずに。
 確かに俺は、仲間である服部を殺しやがったプッチ――しかもそいつは、祖父さんから曾孫の代まで続く因縁の相手――の攻撃を受けて、息を潜めて死んだフリをしてひとまずやりすごした。
 だが、まだ俺は戦士の資格を失う気はねェぜ。
 俺が戦士の資格を失うとすれば、俺が闘う意思を捨てた時だけだ。
 このジョセフ・ジョースター、昔から作戦上逃げることは何度もあったさ。それでも、戦闘そのものを途中で放棄したことは一度たりともない。
 そして今回も、例外なんかじゃあ決してない。
 まだまだ………………ガンガン闘うつもりだぜ、俺はな。


 しっかし、さっきはマジに危なかったな。
 コマンドロイドからいただいといたチェーン。アレがなきゃ、間違いなく死んでたぜ。
 ――クレイジー・ダイヤモンドに握らせておいて、腹を『八回』殴られたときにチェーンを治した。
 かがみの腕がかっ飛んで来たときみたく、チェーンが俺ごと部屋の隅に追いやられてるはずのコマンドロイドの所まで飛んで行くかは、正直分からなかった。
 もしかしたら、コマンドロイドの残骸の方が飛んで来てたかもしれなかった。
 だがコマンドロイドの残骸が、どうにもバイクやボックスに埋もれちまってたらしくて、助かったぜ。
 あんなんが圧し掛かってちゃあ、そりゃあ俺が引っ張られるよなァ。
 一回殴られて裏返るんなら、『二の倍数回』殴らせれば戻るんじゃねーか?
 なんていうのも、殴られながら閃いた下らねえ案だったが、成功するんだから本当に分かんねえよなァ〜〜。
 開いちまった傷口は塞がらねーみてえだが、それくらいなら波紋で応急処置は可能だ。

 さーて、プッチが手に入れた新しいスタンド『C−MOON』。
 食らってみて分かった。
 アレはスピードはあるが、パワー自体は大したことがない。
 まあ、一発攻撃食らっちまえば、それだけで裏返っちまうんだから、アイツがヤバいことには変わりはねェ。
 プッチの周りの重力みたく、あの裏返る攻撃にも重力が関係してそうだ。
 殴ったものの重力を狂わせて、変形させてる……とかか?
 一応、さっきみたいに『偶数回』同じ場所を殴らせれば、何とかなるんだろうが……
 うーん、あん時みてえなのはなァ〜〜〜、あと一回ならともかく何回もやるのは無理くせェよなァ〜〜〜〜。
 まずさっき治しきれなかった左腕を殴らせてえが、それやっちまったらバレちまうよなァーー。
 かといって左腕がこのままじゃあ、スタンド同士の殴り合いなんかにゃあ勝ち目ねェしよォーーー。
 ……まあ、左腕は治すにしてもだ。
 あのC−MOONは、かーなーり厄介だからな。プッチが戻ってくる前に、戦闘の用意をしとかねーとな。
 『孫子』によれば、『勝利というのは、戦う前に全て既に決定されている』。
 ンッン〜、こいつは実にいい言葉だぜェェ〜〜。
 重力の方向教えたり、俺がちゃんと死んでるか確認しに来なかったり……
 新しく手に入れたC−MOONの強さに天狗になっているのかしらねェが、どうにもアイツは余裕ブッこいてやがる。
 まあ、確かにC−MOONは強ェ。
 だがな、相手の油断を利用するってのは、このJOJOの十八番なんだぜェェーーーッ。
492Classical名無しさん:08/11/16 02:55 ID:M4DJBpKQ
                   


 ――にしても、あのプッチがDIOの友人だとはな。
 そんでもって、承太郎が封印したかつてDIOが目指した『天国』を、プッチも目指している。
 今のこの狂った重力状態のことが、『天国』とでも言うのかと思ったが……
 どうにも、まだこれは『天国』の前兆にすぎない気配がするぜー……
 プッチ自身もC−MOONを『微弱な程度の能力』とか言ってやがったし、そう感じているんだろう。
 おそらくだが、さらに……これから何かヤバいことになりそうだ。
 クレイジー・ダイヤモンドに殴り飛ばされたプッチの身に降りかかったのは、『地球上で最も弱い重力に近い重力』。
 『地球上で最も弱い重力』と同じ重力も体験していただろうが、それは一瞬だろう。
 もしも、プッチが『新月』の時に『北緯28度24分西経80度36分』に到着してしまえば…………
 おそらく今の状況よりも、ブッ飛んだ事態になりそうだぜ……

 やれやれ、本当にやれやれだぜ。

 俺にしてみれば、ディオなんて五十年前の祖父さんの代の話だしよォ。
 復活したDIOは、五十年後の俺と孫の敵だ。
 んでもって、DIOの友人・プッチなんて、さらに二十年後だぜェーー?
 俺は関係ねえ! 孫か曾孫が相手すべきだろうが、本当なら!
 ……だが、仕方ねえ。
 目の前にいやがる以上は、しようがない。
 ジョナサン・ジョースターも、空条承太郎も、空条徐倫も、ここにはいやしねェしよォー。
 DIOとエンリコ・プッチの野望は――百二十年以上に渡る因縁は、この俺が決着を付けるぜ。

 ――――誇り高きジョースターの血統、そして子孫達の黄金のような未来を取り戻すためにな。
494Classical名無しさん:08/11/16 02:55 ID:ig8Bc3nI
495Classical名無しさん:08/11/16 02:56 ID:.9iv8J3w
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 よし、だったらまあ、準備は早いとこ終わらせなきゃならねえな。
 格納庫に向かってきた時は、勘違いだと思っていた。
 その感覚は承太郎の記憶にはあったが、俺自身は感じたことがなかったから思い違いと判断した。
 しかしプッチがDIOの友人だと分かった現在ならば、あの時感じた――そしていまも感じているこの感覚は、決して心得違いなんかではないと分かる。

『信頼できる友が発する14の言葉に知性を示して……『友』はわたしを信頼し、わたしは『友』になる』

 DIOのメモにあった一文。
 理屈は分からないが、文章をそのままの意味で受け取るのならば、プッチはDIOとなっている。
 どういう意味でなのかは分からないが……
 プッチがDIOとなっているのならば、俺がこの格納庫から『ジョースターの血統がいる感覚』を感じた理由が分かる。
 DIOは祖父さんの肉体を乗っ取った。ジョースターの肉体を。
 そのDIOとなったのならば、おそらく俺が感じた感覚の正体は、プッチのことだったのだろう。
 それは、まだ感じる。
 方向や距離は分からないが、まだ近くにいるのを感じる。

 ――確実にプッチも感じているはずだ。

 C−MOONが殴ってきたのは、心臓や首などでなく腹。
 腹部が裏返り、出血多量で死ぬには少し時間がかかる。
 といっても、死んでない以上、プッチは俺がいる感覚を感じなくなることはない。
 いくらなんでも、こんなに長い間生き長らえてるワケがない。
 そう思ったら、プッチは絶対に戻ってくる。
 アイツのジョースターの血統への異常な執念――必ず戻ってくる。

 さーてと…………ちゃっちゃと準備始めますかね。


  ◇  ◇  ◇
497Classical名無しさん:08/11/16 02:57 ID:M4DJBpKQ
  


 足の裏から波紋を流せば、重力の変化とかも気にせずに動けるらしい。
 ……ずっとおんなじ場所にいると頭に血が溜まるし、ジャンプなんてしようもんならあらぬ方向へと落下しちまうが。
 服部の死体は、埋もれることなく浮かんでいる。
 しかし、どの壁からも離れた場所にいるので届かない。もう血を出し切ってしまったのか、出血は止まっている
 今は手を合わせる時間もないが、プッチを倒し次第すぐに弔う。我慢してくれ。
 服部がいるってことは、渡しといたデイパックも近くにあるはずだが……
 うえー、やっぱデイパックも届きやしないとこに浮かんでやがる。
 まあ、仕方がねえ。代用できる物なら考えてある。
 壁伝いに移動して、アレを探す。
 …………っと、あんなとこにあったのか。

 時間もないが、やるべきことはあと一つ。よし――――



「そうか、ついてきてくれるか」
「は、はははははははいぃぃぃいいいいっ!」

 C−MOONの力を見た研究員は、すぐさま私についてくることを選択した。
 よほど生に対する執着心が強いと見える。
 ……しかしどういうことか、スタンドが見えていないらしい。
 服部平次には見えていたようだが、いったい何故この男には視認出来ないのだ?
 まあ、今となってはそんなことはどうでもいい。
 研究員を連れて格納庫に戻ろうとした瞬間だった。

 ――何故だ。
499Classical名無しさん:08/11/16 02:57 ID:ig8Bc3nI
500Classical名無しさん:08/11/16 02:58 ID:.9iv8J3w
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 何故、まだ格納庫の方向にジョースターいる感覚が!?
 腹部を幾度となく殴りつけたッ、裏返したはずだ!

 心臓や首とは違って致命傷とはならないとはいえ、確実に死に至るはずの攻撃だった。
 偶然急所を外してしまった? いや、ありえない。
 間違いなく腹部に何度も命中したはずだ、裏返ったのだッ。
 C−MOONの拳を柱に叩きつける。

「ひいいいっ」

 研究員が顔を青く染めて、情けない悲鳴を出す。やかましい、黙れ。
 確かに、柱は軽快な音を立てて裏返る。
 だが、まだジョセフ・ジョースターは生存しているッ。
 どういうことだ……いったい何をしたんだ?
 決着をつけなけくてはッ! 『あの血統』は! 克服しなければならないッ!
 まさか……また『空条の血』が…………『ジョースターの血統』が! 私とDIOの目的を妨げるというのかッ!?

「そこで待っていろ!」
「はひいいいいいいいいいい!?」

 研究員を放置して、格納庫まで駆ける。
 出来るだけ早く到着するべく。
 ジョセフ・ジョースターに時間を与えるのは危険だ。
 この世で最も『強い力』は、『計算』なんかでは決してない。
 最も強いのは『偶然』。強い『運命』を持つものに味方する『偶然』。
 しかしあの男は……ジョセフ・ジョースターは、強い『運命』もまた持ち合わせているのだッ。
 なんとしても、ジョセフ・ジョースターとはここで決着をつける。


  ◇  ◇  ◇


 格納庫の扉の前まで到着。
 この扉の向こうに、ジョセフ・ジョースターが生きている。

『一〇〇年前の因縁があるだけに、ジョースターの血統のものだけは手加減せずに一気に殺すと決めていた』

 空条承太郎の記憶の中のDIOの言葉が蘇る。
 手加減をしていたわけではないが、相手はジョースターの一族。
 人間の限界を超越した吸血鬼であり、スタンド『ザ・ワールド(世界)』を持つDIOにして、『厄介なヤツ等』と言わしめた強い『運命』を持つ血統。
 裏返したまま放置するのではなく、きちんとトドメを刺しに行くべきだったのか……? DIO…………
 自信を持て、自信を持つんだ、エンリコ・プッチ。
 幻覚を破り、クレイジー・ダイヤモンドで攻撃を放ってきたときも。
 ジョセフ・ジョースターの妨害は、私を『天国』まで『押し上げる』ための『試練』であった。
 『啓示』も見た………………
 『運命』が『味方』をしてくれているのはジョースターではなく、私なのだ。
 『運命』は『天国』へと、私を『押し上げ』てくれているのだ。
 ジョセフ・ジョースターの生存も、『克服』することで私を『押し上げる』最後の『試練』なのだ……!

 扉に手をかけて、一気に開ける。
 瞳に映ったのは、やはりあの男であった。『克服』すべき――――『因縁』。

「やはり生存していたか、ジョセフ・ジョースター……!!!」

503Classical名無しさん:08/11/16 02:59 ID:.9iv8J3w
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「やはり生存していたか、ジョセフ・ジョースター……!!!」

 プッチが傍らに発現させたC−MOONとともに、格納庫内に入室する。
 強張った表情の向こうには、上半身裸のジョセフ。その半歩先に、クレイジー・ダイヤモンド。

「よう、プッチ。あの世から舞い戻ってきたぜ」

 飄々とした内容の言葉を返すジョセフは、顔面に笑みを浮かべている。
 プッチから水平方向に放たれる重力に、足の裏からくっつく波紋を床――それが本当に床であったのか、それとも壁であったのかはともかくとして――へと流すことで耐えている。
 それは、いくら一ヶ月以上に及ぶ地獄のような特訓を積んだジョセフにとっても、かなりハードな行為。
 しかし、ジョセフは笑みを崩しはしない。
 『兵は詭道』――ジョセフがよく引き合いに出す兵法書『孫子』に記された言葉。
 意味――『戦いとは欺くこと』。
 ジョセフは異常な状態でも笑みを浮かべることで、プッチを怒らせて動揺を誘おうとしているのである。

「ジョセフ・ジョースター、決着を付けるぞ。未来のために、この世の人類を真の幸福へと導くために。
 分かるか? これからお前が死ぬのは、私の最後の試練――そして人類の幸福のための犠牲に過ぎない」
『シャア!』

 プッチをクレイジー・ダイヤモンドの射程外へと置いて、C−MOONが右腕を掲げながらジョセフへと接近。
 対して、クレイジー・ダイヤモンド。
 本体のダメージの所為で裏返った左腕を翳して、振り下ろされたC−MOONの拳を――そのまま受けた。

「何?」
505Classical名無しさん:08/11/16 03:00 ID:.9iv8J3w
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 まさか抵抗することなく殴られるとは思っていなかったプッチが、驚愕を含んだ声を漏らす。
 しかし、すぐにプッチはジョセフの行動の理由を理解する。
 既に裏返っていたマジシャンズ・レッドの左腕が、肉が削がれるような音と出血を伴いながら変形――再び裏返る。
 一度裏返したものを二度裏返したなら、元に戻るのは当然の道理。
 C−MOONの拳によって裏返ったものも、その道理の範疇内。
 治ってゆくクレイジー・ダイヤモンドの左腕――効果は本体へとフィードバックし、ジョセフの左腕も元の形状へと戻ってゆく。
 それを確認したプッチは、完治するより早くジョセフを始末しようとC−MOONを操作する。
 一度右拳を放った直後ゆえ、C−MOONの右腕のさらに右にいるジョセフには、左の拳を撃つのでは遅い。
 C−MOONは体勢を立て直そうとせずに、さらに仰け反って右足で中段蹴りを放つ。
 パワーはなくとも、スピードという観点ではキックボクサーの蹴撃を超越したC−MOONの蹴りは、しかし空を切るだけに終わる。
 蹴りかはともかく、C−MOONの二撃目を予測していたジョセフ。
 C−MOONの初撃を受けた時点で、足の裏から波紋を流すのを止めてプッチから放たれる重力に身を任せていた。
 『落下』することで、ジョセフはC−MOONの攻撃を回避したのである。

「『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!」

 C−MOONからある程度離れた場所で、クレイジー・ダイヤモンドが床を掴んでジョセフは静止する。
 足の裏から波紋を流すのを再開して、床に足をくっつけて立ち上がるジョセフ。
 左腕に視線を向けて、既に完全に治癒が完了していることを確認する。
 してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべたジョセフは、波紋エネルギーを左腕に多く充当。
 漲ってゆく太陽のエネルギーにより、ジョセフの左腕の出血が止まり、少しずつ傷が塞がる。
507Classical名無しさん:08/11/16 03:00 ID:1CxDRJAM
 

「……なるほど。偶数回同じ場所を裏返せば、元に戻ってしまうということか。盲点だったよ。
 しかし裏返ったことによる傷自体は残るし、出血が止まるわけでもない……それを補うのが『波紋』か。
 私が新月を前に得た『強さ』に対抗できる力――波紋を使えるのが、よりにもよってお前とはな…………
 DIOも言っていたが、ジョースターの血統というのは実に強運で厄介な存在だ。
 これもまたDIOの受け売りだが……DIOの『運命』の前に現れた天適、というのが相応しいかもしれない」

 C−MOONだけではなく、プッチも一緒にジョセフへと接近する。
 ジョセフは気付いておらず、プッチも研究者を探している際に気付いたことだが、C−MOONもホワイトスネイクと同じ特性を持つのだ。
 すなわち、本体から離れれば離れるほどにスピードが弱まるという特性を。
 プッチの履く高級そうな靴が床に触れるごとに、カツリという乾いた音が格納庫に響く。
 奏でられる緩慢にして重厚なリズムが、プッチがゆっくりとだが一歩一歩着実に歩みを進めていることを表している。

「『人間は誰でも、不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる』――DIOがよく言っていた言葉だ。
 そう、全ての人間は安心しなければならない。『不安や恐怖』とは、言い換えれば『運命』だ。
 ……理解できないといった表情をしているな?
 元々私がいた世界のDIOは、空条承太郎に敗北する『運命』を背負っていた。
 ここに呼び出されたDIOは、加藤鳴海に敗北する『運命』を背負っていた。
 空条承太郎は範馬刃牙を助けようとして命を落とす『運命』を、そこに浮遊している服部平次は『天国』の崇高さなど理解せずに死に行く『運命』を背負っていた。
 分かっただろう? 『克服』しなければならない『不安や恐怖』とは、その『運命』だということが。
 全ての人は、『運命』を『乗り越え』なくてはならない。
 私が元々いた世界のDIOと私にとって、それは『ジョースターの血統』であったのだ」

 そこまで言って、不意にプッチとC−MOONは足を止める。
 ジョセフとの距離、五メートル。
 動かない相手に対して、ジョセフも動こうとしない。

『シャアアアア!』
509Classical名無しさん:08/11/16 03:01 ID:M4DJBpKQ
   

 叫ぶのとどっちが早かったか、C−MOONが右足を動かして蹴り抜く。
 対象は、プッチの見据える前方にいる――ジョセフ・ジョースターではない。
 真下――床の方向だが床ではなく、僅かながら床の上。
 ただの牽制、はたまたフェイントの意味で何もない場所を殴った?
 否、それまでプッチへの挑発を意図して浮かべていた笑みが、ジョセフから消えて表情に渋味が含まれる。

「いつ、気付いた……?」
「そもそも私がここに来るまで、お前が何もしないとは考えてはいなかった……
 必ずあるものだと思っていれば、見つけられない罠ではない」
「ケッ! 着替えを探してた時に、もっとイケてるデザインの服見つけてたんだぜ?
 だけど何とかっつー虫の繊維ほどじゃないが、波紋を通しやすい素材の服もあったからそっちにしといたってのによ!」

 ジョセフはプッチが来るまでの間に、上半身に纏っていた服をほつれさせて一本の糸とした。
 その糸を、床にくっつくかくっつかないかギリギリの所に張り巡らせる。
 角となる場所はクレイジー・ダイヤモンドで床に空けた穴に糸を突っ込んで、そのまま床を治して固定。
 繊維自体が細いので注意しなければ見つからない、まるで蜘蛛の巣のような物をジョセフは作ってあったのだ。
 実を言えば、跳び上がって重力に身を任せて移動したのには、作り上げたトラップを崩さないためとの意図もあった。
 張り巡らせた一本の糸が形成していた辺の数は、約百二十。
 C−MOONが蹴飛ばしたのは、ジョセフの仕掛けたトラップの一部――辺が十四ほど。
 その全てが裏返り、糸であったが為に裏返る能力は、攻撃を受けなかった箇所まで遡った。
 結果、ジョセフがプッチが戻って来る僅か二秒前まで必死で作っていたトラップは、一蹴にしてその価値をなくしてしまったのである。

「『一度だけ』だ。『二度』ではない。
 『二度目』は別の場所を狙おうと、無理矢理に『一度目』と同じ場所に受けるかもしれない。お前の身体能力ならば、それが可能だ。
 『たった一度』裏返っただけで即死するような部位を殴られて、その『波紋』で『二度目』まで耐えられるのかァーーーッ!」

 声と同時に、プッチがかつてトラップが張り巡らされていた場所に侵入。
 ジョセフとプッチとの距離、クレイジー・ダイヤモンドの射程ギリギリ――三メートル
 C−MOONだけがクレイジー・ダイヤモンドの射程へと入り、ジョセフへと駆ける。
 ジョセフの前へ出たクレイジー・ダイヤモンド。意に介さず、加速を止めぬC−MOON。
 C−MOONが、クレイジー・ダイヤモンド目掛けて左の拳を繰り出す。狙いは顔面、左フック。
 仮に食らってしまえば=裏返ってしまえば、確実に死に至る一撃。
 しかし本体が近距離にいようと、スピードはクレイジー・ダイヤモンドの方が上。
 クレイジー・ダイヤモンドが、C−MOONの左前腕に裏拳を打ち据える。
 フィードバックするダメージにプッチが、苦悶に満ちた吐息を漏らす。
 クレイジー・ダイヤモンドの拳にジョセフが僅かながら波紋を込めていたこともあり、動きが静止するC−MOON。
 とは言っても、攻撃を放ったクレイジー・ダイヤモンドが二打目を放つ時には、動けるようになるだろう。
 それだけ流した波紋は微弱。

 ゆえに――――動いたのは、ジョセフ本人。

 一度地面を蹴っただけで、プッチとの距離を半分まで縮める。それは、言うまでもなく人間を超越した速度。
 プッチの元に戻ろうと、クレイジー・ダイヤモンドに右ストレートを放つC−MOONだが、本体が焦っているがため、C−MOONの動きは荒い。
 クレイジー・ダイヤモンドは、逆海老に身体を反らして軽々とを回避。
 逆に、クレイジー・ダイヤモンドの下段蹴りによって、足元を掬われてしまい尻餅を付いてしまう。
 C−MOONに馬乗りになり、拳の乱打(ラッシュ)を叩き込まんとすクレイジー・ダイヤモンド。
 あわやと言うところでC−MOONが解除され、クレイジー・ダイヤモンドの拳は床を砕くだけに終わった。
 それと同時に、射程外に抜けようとするジョセフにクレイジー・ダイヤモンドが引っ張られる。

「こいつは効くぜェーーーッ! 指先に波紋を集中!!」
512Classical名無しさん:08/11/16 03:02 ID:M4DJBpKQ
        

 波紋による痺れから脱したプッチの視界に入ったのは、既にかなり距離を詰めていたジョセフであった。
 ジョセフは、右手の人差し指と薬指だけを伸ばした状態で振りかざしている。
 波紋は一点に集中させた方が威力が高まる――などと知る由もないプッチだが、何にせよ受けるわけにはいかないとプッチは判断。
 咄嗟に、服の内より『デス・サーティーン(死神13)』のDISCを取り出すと、すぐさまジョセフへと投げつける。

「危ねえッ!」

 DISCが挿入されてしまえば、一瞬とはいえ行動不能に陥る。
 絶対にそれだけは避けねばならないと、ジョセフは判断。
 プッチに突き刺すべき指で、ジョセフは『デス・サーティーン』のDISCを打ち払う。
 弾く波紋を受けた『デス・サーティーン』のDISCはあらぬ方向へと吹き飛ばされ、プッチの重力によって部屋の隅へと追いやられる。

「まだだ!」
「――ッ!? ちィィ!」

 プッチが取り出していたDISCは一枚ではなかった。
 同時に『リンプ・ビズキット』のDISCも取り出していたのである。
 ジョセフが気付くと同時に、プッチは投擲。
 標的は、ジョセフの額。
 スタンドはホワイトスネイクでなくなったとはいえ、これまで幾百ものDISCを取り出し保管してきたプッチ。
 投げ損なうなど、
あり得るはずがない。
 『リンプ・ビズキット』のDISCは、吸い込まれるようにジョセフの額へと飛来する。
 一秒にすら満たない僅かな時間で、ジョセフは決断する。

「おおぉぉおぉおおおおおッ!」
514Classical名無しさん:08/11/16 03:03 ID:.9iv8J3w
支援
515Classical名無しさん:08/11/16 03:03 ID:.9iv8J3w
支援支援

 ジョセフは――軽く両足を曲げた。
 跳躍しようとしているのは明らかであった。
 それこそがプッチの狙いであると気付いていながら、ジョセフにはそうするしかなかった。
 プッチがC−MOONを再発現させる。
 飛び上がってしまえば、波紋によって足場が固定されることはなくプッチの重力に身を任せることとなる。
 落下するとはいえ、初速は大したものではない――C−MOONが余裕を持って追いつき、拳を叩きこめる程度の速度。
 勝利を確信するプッチの脳内では、賛美歌が鳴り響いていた。
 しかし――

『ウシャア!』

 しかし、C−MOONの拳はまたしても空を叩くに終わる。
 ジョセフは確かに跳躍した――両方の足の裏から『弾く波紋』を流しながら、背後へと。
 結果、ジョセフはプッチの予想を遥かに超えた速度で、落下していったのである。
 ジョセフが部屋の隅へと追いやられ、体勢を立て直す直前。
 一瞬生まれるであろう隙を狙おうと、C−MOONを走らせるプッチ。
 極力C−MOONのスピードを衰えさせないために、C−MOONを追おうとしたプッチの元へと何かが飛来してきた。
 それは――糸の破片であった。


  ◇  ◇  ◇


 弾く波紋によって背後へ向かって、『飛び降りた』ジョセフ。
 プッチの重力によって、重力加速度に逆らうえずに壁際へと落下していく。
 落下しながら、ジョセフは射程距離の短さから引っ張られて来ているクレイジー・ダイヤモンドを駆動する。
 クレイジー・ダイヤモンドは空中で拳を動かし、ジョセフが右の足の指に挟んでいる糸の欠片に触れる。
 それはC−MOONに無効化されてしまった、ジョセフが製作したトラップに使われたものであった。
 足の指で挟んで糸を回収なんて器用な真似が出来るのか? と思うかもしれない。
 しかしジョセフは、かつて柱の音が一人・ワムウとの戦闘中に、疾走する馬の上で手綱を足で挟んで動かしたことがある。
 そんなジョセフにいてみれば、走りながら同時に糸を回収するなど成功して当然のことだったのだ。
 クレイジー・ダイヤモンドはその糸に触れ、治す能力を行使した。

 ――治すべきものが散り散りになっていたとしても、クレイジー・ダイヤモンドは問題なく元の形に戻すことが出来る。

 糸の欠片は、ジョセフを追うC−MOONを通り過ぎて、プッチの方まで飛んで行く。
 散らばった糸のくずが最も多い場所――プッチの足元で、ジョセフがしかけたトラップよりもさらに前、服の状態へと『治った』。
 すぐにジョセフを追おうとしていたプッチは、服に足を取られて転びそうになる――それだけではない。
 抜け目のないジョセフは治す前に、糸の欠片に波紋を流しておいた。プッチは暫く全身が痺れ、動くことが出来ない。。
 しかし糸の欠片に流した波紋は、クレイジー・ダイヤモンドからC−MOONni流した波紋よりもさらに微弱。
 身体が軽く痙攣する程度で、スタンドを操作するのには影響がない。
 ゆえに、依然ジョセフを追いつ続けるC−MOON。
 対して落下中のジョセフは、プッチが倒れたのを確認してズボンのポケットへと手を突っ込んだ。

「ただの銃弾ならともかくよォ……これなら裏返せねェよなァアーーーーッ!!」

 取り出したのは、プッチが来る前にジョセフが回収していたスーパー光線銃。
 エイジャの赤石でも構わなかったのだが、赤石が入ったデイパックは届かない場所にあったのでジョセフはこちらを選んでいた。
 C−MOONの視覚より光線銃の存在を知ったプッチが焦るが、焦ったところで波紋の痺れはあと五秒は取れはしない。
 しかし光線銃相手に五秒動けないというのは、ヘヴィすぎるハンデであった。
518Classical名無しさん:08/11/16 03:04 ID:M4DJBpKQ
                
519Classical名無しさん:08/11/16 03:04 ID:8kAd8/z2
チュミーン チュミミーン
520Classical名無しさん:08/11/16 03:05 ID:.9iv8J3w
支援支援支援

 ――〇秒。
 落下していたジョセフが、バイクやボックスの追いやられた場所まで到着。
 ボックスに背を叩きつけそうになるが、クレイジー・ダイヤモンドでボックスを殴り飛ばす。
 次にバイク、コマンドロイドの残骸、再びバイクと身体を打ちそうになるが、ことごとくクレイジー・ダイヤモンドの拳を叩き込む。
 続いて服部の死体が接近。危うく殴りそうになるもののギリギリで気付く。
 未だ、エンリコ・プッチは動けない。

 ――壱秒。
 クレイジー・ダイヤモンドの両手で、服部を他には何も浮かんでいない安全地帯へと放り投げる。
 死体とはいえ、出来るだけ傷を増やしたくはない。そうジョセフが考えたため。
 ジョセフ、壁に到着。すぐさま足の裏からくっつく波紋を流して、壁に飛び降りる。
 同時に、ジョセフにとってその壁は『床』となる。

 ――二秒。
 いまのジョセフにとって『上』にいるプッチを見上げるため、首を上げたジョセフ。
 ボックスやバイクから背を守っていたために気付かなかったが、C−MOONが予想以上の速度で迫っていることに気付く。
 C−MOONは厄介だが、ジョセフはプッチが痺れている間に勝負を決めようと判断。
 未だ、エンリコ・プッチは動けない。

 ――三秒。
 逃げという選択肢を捨て、スーパー光線銃の照準をプッチに合わせ――発砲。
 狙いは、顔面と右太腿。当たれば確実に命を落とす箇所と、喪失すれば移動速度が大幅に減退する部位。
 発砲した直後、C−MOONの拳がジョセフの右手にヒット。光線銃ごとジョセフの右腕が裏返る。
 光線銃の破壊を確認したプッチが、C−MOONを解除。
 二撃目を待つジョセフの前から、C−MOONは姿を消す。
 未だ、エンリコ・プッチは動けない。

 ――四秒。
 プッチから放射状に放たれている重力が、光に影響を及ぼすほどに強力なわけもなく。
 放たれた光線は、プッチ目掛けて直進する。
 今にも光線がプッチを穿たんとした瞬間、プッチがC−MOONを再発現。
 動けないとはいえ、光線が刺し貫こうとしている部位を己の目で把握していたプッチ。
 C−MOONの拳が顔面に、蹴りが右太腿にヒットする。
 同時に、プッチの顔面と右太腿が裏返る――殴られた箇所が、さながらクレーターでも出来たかのようにひしゃげて変形。
 致命傷を与えたであろう光線は、変形したプッチの顔面と右太腿に掠りもせず、プッチの背後の壁に二つの風穴を生み出しただけであった。
 ジョセフ・ジョースターは、驚愕して動けない。

 ――五秒。
 エンリコ・プッチから痺れが消え、身体の自由を取り戻す。
 もう一度C−MOONに殴らせて身体の形を戻しているプッチを見て、ジョセフはやっと現実を受け止めた。


 ジョセフが事前に用意したトラップ。回収しておいた光線銃。右手。事前に考えておいた作戦。
 全てを喪ってしまったのに、倒しきれていない。
 その絶望的な現実を、ジョセフ・ジョースターは受け止めた。
 裏返った右手は、動脈を傷つけてしまっている。
 いくら波紋使いのジョセフでも、早く適切な処置をしなくては死ぬことはなくても、戦闘するだけの体力を保つのは難しい。
523Classical名無しさん:08/11/16 03:06 ID:M4DJBpKQ
     
 プッチもそのことに気付いているらしく、接近してくる素振りを見せない。
 つまり、C−MOONにもう一度殴らせて元通りにするのは無理だろう。
 ジョセフはクレイジー・ダイヤモンドを解除する。

「『マジシャンズ・レッド』ッ!」

 そして発現させたマジシャンズ・レッドに、手刀を作らせ――ジョセフは右手首から先を切り落とした。
 激痛に表情を歪めながら、ジョセフはマジシャンズ・レッドの掌で傷口を押さえる。
 傷口を焼くことで、出血を止めることに成功したジョセフ。
 地面に落ちた裏返っている自分の右手を、マジシャンズ・レッドに拾わせてプッチへと投げつける。

「この俺が大量出血死なんて、かっこ悪ィ死に方を選ぶとでも思ってんのか。このスカタンがッ!
 ジョースターの血統を途切れさせてえなら、頭でも裏返して見やがれッ!!」

 投げられたジョセフの右手は、重力に逆らって速度を落としながらもプッチまで届いた。
 しかし右手はプッチに激突することなく、C−MOONに払いのけられる。
 結果、裏返っていたジョセフの右手は元の形状に戻る。

(いまさら治してんじゃねェェェエエエエエエーーーーーッ!!)

 かなりまずい戦況にもかかわらず、ジョセフはつい胸中でそう怒鳴ってしまっていた。


  ◇  ◇  ◇


 ゆっくりとプッチはジョセフの元へと迫り、あと五メートルといったところで歩みを止める。
 そして腕を曲げて拳を腰の位置へと構えたC−MOONだけが、ジョセフへと接近を続ける。

 プッチには、数刻前のジョセフとの戦闘の際と状況に変化なし。
 対して、ジョセフには二つの変化がある。
 一つは、スタンドがクレイジー・ダイヤモンドからマジシャンズ・レッドへと変わったこと。
 しかし、これは特にジョセフの戦力に影響を及ばすことはない。
 クレイジー・ダイヤモンドにはパワーとスピードが若干劣るとはいえ、マジシャンズ・レッドは近距離パワー型のスタンド。
 さらに炎を操るというマジシャンズ・レッドの特性を考えれば、むしろクレイジー・ダイヤモンドを使った時よりも戦力がアップしているかもしれない。
 しかしそのプラス分を打ち消して、さらに戦力をマイナスするのは――やはり右手の喪失。

『シャア!』

 走りながらのC−MOONの右アッパーを、ジョセフは身体を仰け反ることで回避。
 崩れた体勢のまま放ったマジシャンズ・レッドの左上段蹴りは、軽く首を動かすだけでやすやすとC−MOONに回避されてしまう。
 さらに大きくなったジョセフの隙を逃すまいと、C−MOONは左ストレートを繰り出す。
 狙いは顔面。当たってしまえば、テンカウントを数えるまでもなく試合終了。
 しかし体勢を崩したジョセフとマジシャンズ・レッドに、迎え撃つ術はなし。

「『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!」
526Classical名無しさん:08/11/16 03:07 ID:.9iv8J3w
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 だからこそ、ジョセフは激しい体力の消耗を意識しながらも、二体目のスタンドを発現させる。
 出現したクレイジー・ダイヤモンドは、迫るC−MOONの左拳を見据えながら、左肘目掛けて正確に蹴りを当てる。
 下からの衝撃にC−MOONの拳は軌道を無理矢理に捻じ曲げられ、あらぬ方向を殴ってしまう。
 パワー、スピード、精密動作性の全てにおいて、上級のクレイジー・ダイヤモンドだから出来る芸当。
 やはり体力の消耗が激しいようで、表情をしかめながらジョセフはクレイジー・ダイヤモンドを解除する。
 体勢を立て直したジョセフ――C−MOONも同時。

「うおおおおおッ!!」

 マジシャンズ・レッドがC−MOON目掛けて、あらゆる部位へと拳の乱打(ラッシュ)を繰り出す。
 しかし――左腕だけから放たれる拳では、いくらマジシャンズ・レッドのパワーでも全ての箇所を殴ることは出来ない。
 C−MOONはあたかも暖簾でもくぐるかのように、回避しながらジョセフへと接近。
 歯噛みするジョセフへと膝蹴り。狙いは左胸――心臓。
 ジョセフはしゃがみこんでの回避を企むも、回避しきれず右耳に受けてしまう。
 耳たぶが回転して裏返ってゆき、そのまま捻じ切れる。
 痛みに絶叫しながらも、ジョセフはマジシャンズ・レッドを引き戻してC−MOONの相手をさせようとする。
 瞬間、C−MOONが消えた。
 不覚にも喜びかけてしまうジョセフだが、すぐにただプッチが解除しただけだと気付く。
 不利な状態ゆえに、早いところ戦況をひっくり返したジョセフに対して、プッチはゆっくりでも構わない。
 地道に、ゆっくりと、確実に、じっくり、着実に、焦ることなく、一歩一歩、堅実に……
 有利に立つプッチは、その戦法を選択できるのだ。
 いまは抵抗しているジョセフがその意思を失った時、あるいは抵抗する力を失くした時、その時に確実に死に至る場所を裏返せばよいのだ、
 そのことに気付いていながらも何も出来ない事実に、ジョセフは盛大に舌を打った。
528Classical名無しさん:08/11/16 03:08 ID:M4DJBpKQ
            


  ◇  ◇  ◇


 プッチがC−MOONを再発現する。これで五度目。光線銃を破壊されてからなら、四度目。

(いつか隙が出来るだろーと高をくくってたが、どうやら予想以上にヤバいようだぜ……
 プッチがC−MOONを解除した時を狙って接近しようにも、アイツは俺が動けないときを狙ってきやがる……
 何とかアイツに攻撃を当てて隙を作り接近したいが、吐き出した炎は当たりやしねえ……)

 体勢を立て直しながら、胸中で毒づくジョセフ。
 またしても、体勢を立て直したのとC−MOONが攻撃を放ってくるのは同時。
 C−MOONの右腕に、マジシャンズ・レッドが左裏拳を当てて軌道をずらす。
 炎を流し込もうとするも、C−MOONはそれを想定して背後にとんで距離を取る。
 結果、マジシャンズ・レッドの拳から溢れ出した炎は、空気を焼くだけで終い。
 同時進行的に、マジシャンズ・レッドはプッチ目掛けて炎を吐き出すも、プッチには掠りもしない。
 またかと言葉を漏らすジョセフに異変――左の足の甲に激痛。
 視線を向けて呆然、次第に理解――次に絶叫。

「うぐあおあああああああああ!!」

 倒れこむジョセフ、同じくマジシャンズ・レッド。
 彼等の左の足の甲は、『裏返』っていた。
 おそらくさっき受け流した右ストレートとともに、C−MOONは踏撃を放っていた――ジョセフの推測であり、正解。
 これまで三回も、C−MOONが発現と解除を繰り返したのは、ジョセフに踏撃はないと無意識に思わせるため。
 厳しい修行のかいあって、ジョセフは波紋の呼吸を崩していない。
 しかし傷が傷である。すぐさま出血を止めることなど不可能。動くことなど尚更だ。
 とはいっても、後遺症さえ気にしなければ、動くことが出来るまでにジョセフが必要な時間は十数秒。……いや、無理をすれば十秒で十分。
 しかし、そんな時間をC−MOONが与える道理はない。
 倒れこんだジョセフを見下して、C−MOONはゆくりと接近してくる。
530Classical名無しさん:08/11/16 03:09 ID:8kAd8/z2
 

(何とか、何とかプッチに攻撃して、波紋で出血を止める時間を……)

 すぐ隣に倒れたマジシャンズ・レッドに炎を吐き出させる――やはり掠りもしない。

「来るなーっ! 許してくれー!
 『天国』だか知らねーが、もう邪魔したりはしねえぇぇーーっ! 命だけはーーー!」

 涙を浮かべて、プッチに頼み込むジョセフ。
 あまりにも哀れで情けない姿。本当に戦意を喪失したかのような様。
 しかし、プッチは言い捨てる。

「――ジョセフ・ジョースター。
 そんな命乞いをするフリをして、実は心の中で計算しているのだろう? 時間を稼ぐための策をな」

 青ざめるジョセフに、プッチはやはりかと漏らす。
 同時に、ジョセフの眼前でC−MOONが静止する。

「図星のようだな。断ち切らせてもらうぞッ、『因縁』を! そして『克服』するッ、『運命』をッ!
 たとえジョースターの血統であろうと、誰にも妨害できるはずはなかったのだ!
 ちっぽけな正義など超えた、私とDIOの深遠なる目的は! 『天国』はッ!!」

 C−MOONが右の拳を握り、ジョセフへと振り下ろす。
 やはり、標的は顔面。
 迫る緑色の拳が、ジョセフにはいやにスローに感じられた。
532Classical名無しさん:08/11/16 03:09 ID:.9iv8J3w
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(こんな終わり方すんのかよ……相手は百二十年以上の因縁の相手だってのに、先祖も子孫も仲間も悲しませたってのによォ……
 いや、終わるワケにはいかねえ! 分かってる……! 何とか倒さなきゃならねェ。
 離れたプッチを攻撃できて、動けるようになる時間を作るには……アレしかねえ……)

 絶望的な状況を打破すること方法が、ジョセフの頭の中には既に浮かんでいた。
 それも、ずっと前から。
 その方法は――

(俺の本来のスタンド……『ハーミット・パープル(隠者の紫)』なら、遠距離攻撃が可能だ……
 アレさえ使えれば、この状況を引っくり返せる……! おい! 俺の中に眠る『ハーミット・パープル』!
 テメェ、茨みたいな見た目してやがるが、俺の生命エネルギーが作り出したパワーあるヴィジョンなんだろッ?
 だったら、出てきやがれ! ジジィになるまで目醒めねえ気かよ! ふざけんな! いますぐ起きろッ、寝てんじゃねえ!
 主人様が珍しくやる気になってんだ! 『傍に現れ立つもの』ってんなら、テメェも気合入れやがれッ!)

 C−MOONの拳が僅か数十センチへと迫った瞬間、半ば呆けていたジョセフが目を見開く。
 左腕をプッチの方へと伸ばして、ジョセフは叫ぶ。

「出ろォォーーーーッ!! 『ハーミット・パープル』ッ!!!」
「何だとぉぉーーーッ!?」

 ジョセフが叫んだ名に、プッチは背筋が凍るかのような感覚を覚えた。
 プッチは暗闇大使に命じられ、ハーミット・パープルのDISCを回収した。
 それが支給されたのは明白――ならば、それが巡り巡ってジョセフの元へと渡っていてもおかしくはない。
 ジョセフの『運命』の強さを誰より知るプッチは、すぐにその可能性に気付いた。
 だが、C−MOONを戻す時間はない。一旦C−MOONの操作を中止して、両手でガードを固める。
534Classical名無しさん:08/11/16 03:10 ID:M4DJBpKQ
     
535Classical名無しさん:08/11/16 03:10 ID:.9iv8J3w
支援

 ――しかし、ジョセフの左手からは紫色の茨は出現せず。

 絶望的な表情で、頭を垂らすジョセフ。
 その様子にプッチは気付く。
 ジョセフは、ハーミット・パープルのDISCを所持していない。
 ただ、承太郎の記憶にあったハーミット・パープルに、一抹の希望を託したのだろう……と。

 ――元より、ジョセフがハーミット・パープルを発現させられるワケがなかった。

 ハーミット・パープルは、DIOにザ・ワールドが発現した影響で目覚めたスタンド。
 DIOが乗っ取っていたジョナサン・ジョ−スターの肉体が、ジョースターの血統の眠れる力を呼び覚ましたのだ。
 生まれたものと一つになったプッチは、星の痣を持っていてジョースタ0の血統の居場所を感知できる。
 とはいえ、ジョースターの血統に影響を及ぼすような繋がり――例えるなら見えない糸――は、存在しない。
 ……ジョセフが、自身に眠れるハーミット・パープルを扱えるようになるはずがなかった。

「少々ヒヤッとしたが、終い…………だ……?」

 C−MOONの操作に集中しようとしたジョセフが、何かに気付く。
 妙な様子に、一度敗北を受け入れかけたジョセフもプッチの方を向き――気付いた。

「うぐおあああああああああ」

 絶叫しながら、C−MOONを解除するプッチ。
 プッチの身体には紫色の茨は巻きついていなかった。
 しかし!
 マジシャンズ・レッドの左手から伸びた――赤く燃え盛る炎で出来た綱は、しっかりとプッチを縛り付けていた。
537Classical名無しさん:08/11/16 03:11 ID:M4DJBpKQ
    

 ――スタンドはその本人次第で、成長して新たな力を獲得することがある。

 これまでジョセフは、炎を扱うことに関してはマジシャンズ・レッドの半分の力も出せていなかった。
 しかし! 敗色濃厚な八方ふさがりな状況にもかかわらず、諦めることなく自身い眠る力を信じたジョセフの精神。
 それは、マジシャンズ・レッドを『成長』させた!
 本来の持ち主であるモハメド・アヴドゥルが、『レッドバインド(赤い荒縄)』と呼んだ能力を扱えるほどに。
 そもそも、ロープマジックを得意として、ハーミット・パープルを己の中に眠らせているジョセフのことだ。
 炎を流し込む使い方と同じくらい、レッドバインドは相性がよいのである。
 それを使っていなかったのは、炎が綱となるなどと予想していなかったのと、承太郎の記憶を見てからも『炎を出すのは苦手』と思い込んでいたからなのであった。

(『信念さえあれば、人間に不可能はない。人間は成長する』
 ――どうやらあんたの言ったらしい言葉は本当だったらしいぜ、祖父さん……)

 ジョセフの脳内に蘇るのは、ロバート・E・O・スピードワゴンから伝え聞いた一文。
 かつてジョナサン・ジョースターが、吸血鬼であるディオと対峙した時に臆することなく言い放った言葉!

「裏返、せ……『C−MOON』……ッ!」

 再発現したC−MOONが、プッチを縛り付けるレッドバインドに拳を振りかざそうとしている。
 しかし、ジョセフの方が速い。
 何せ、ジョセフは傍らに倒れたマジシャンズ・レッドに手を伸ばせばよいのだ。
 足が裏返っていても、這いずり回るだけで当然間に合う。

「幽波紋を伝わる! 波紋疾走ッ!!」
539Classical名無しさん:08/11/16 03:12 ID:.9iv8J3w
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 本来、波紋は炎を通ったりはしない。
 しかしマジシャンズ・レッドの吐き出す炎は、ただの炎ではない。
 スタンド使い以外には目視不可能なもの。すなわちスタンドエネルギー!
 そして、スタンドは――――波紋を通すッ!
 マジシャンズ・レッドの左手からレッドバインドへ、レッドバインドからプッチへと波紋が流れていく。
 身体を痙攣させて、プッチとC−MOONが悶える。
 同時進行で、ジョセフは裏返った左足にも波紋を流し――十秒が経過。
 出血は止まったとはいえ重症に変わりない左足をあまり使わず、ジョセフが立ち上がる。
 そして、レッドバインドを解除。波紋の痺れが残るプッチが倒れこみそうになるも、気合で踏ん張る。

 ジョセフがレッドバインドを解除したのには、理由がある。
 レッドバインドは縛り付けることは出来ても、火力自体は生身でも耐えることが出来る程度のもの。
 そして波紋はスタンドを伝わるとはいえ、やはり伝導率はそこまで高くはない。
 つまり、このままでは勝負は決まらない。
 勝負を決めるには、プッチに近づいて正面から炎か波紋を流さねばならないのだ。
 しかし相性がいいとはいえ、まだジョセフはレッドバインドの扱いに慣れていない。
 練習すれば、百パーセント以上の能力を発揮出来るかもしれないが、現状では移動しながらレッドバインドを維持するのも不可能。
 ゆえに、ジョセフはレッドバインドを解除したのだ。正面から決着を付けるために。


  ◇  ◇  ◇


 波紋で痛みを抑えているとはいえ、ジョセフの左足は重症。
 それに加え、足の裏からくっつく波紋を流しているとはいえ、プッチの重力は健在。ゆっくりと歩くことしか出来ない。
 ゆえに、マジシャンズ・レッドの射程にプッチが入ったときには、プッチは波紋の痺れから脱していた。
 しかし、プッチも動かなかった。
 もしジョセフから離れてしまえば、またレッドバインドが飛んでくるのは明らか。
 仮にもう一度レッドバインドと波紋を食らってしまえば、さらに体力を失うこととなる。
 ならば今のうちに、離れたりせずに正面から殴り合い――心臓か顔面を裏返した方が、勝率は高い。

 ジョセフとプッチ、その距離二メートル。
 互いのスタンドが、最良のポテンシャルを生かすことの出来る範囲。

 プッチが右腕を振りかざし、C−MOONもそれに呼応する――その攻撃こそが、最高の速度を出せるため。
 ジョセフとマジシャンズ・レッドが左ストレートの構えを取る――その腕しか残っていないため。

 静けさが、格納庫を支配する。
 実のところ、まだプッチがC−MOONに覚醒して五分も経っていない。
 プッチが研究員を探していた時間を考えれば、ジョセフとの戦闘時間は二百秒にも満たない。
 しかし、あとその四分の一にも満たない時間で決着はつくであろう。
 そう、決着がつく。長い時間、そして多くの物を犠牲にしてきた因縁の決着が……――――

「オラァァッ!!」
「おおおおッ!!」

 奇しくも、動いたのは同時。
 しかし、マジシャンズ・レッドとC−MOON。
 本来同程度の体格であるはずの両スタンドだったが、奇妙なことに――C−MOONの腕の方が、マジシャンズ・レッドの腕よりも長い。
 本当に僅かの差だが、C−MOONの指先が少し奇妙な形に伸びていた。

(十字架を爪の間に刺し込んだッ! 冷や汗を禁じえない戦いだったが、これで決まる!
 C−MOONに影響を及ぼし、僅かだがマジシャンズ・レッドよりも長くなったぞッ! その差が勝負の分かれ目だッ!!)

 プッチは十字架型のアクセサリを、人差し指と爪の間に突っ込んだ。
 その結果、僅かだがC−MOONの腕が伸びたのである。
 マジシャンズ・レッドとC−MOON、互いに当ててしまえば勝負の決まる拳。
 数センチの十字架の差で、後者のほうが標的へと近づいていた。
542Classical名無しさん:08/11/16 03:12 ID:1CxDRJAM
 

「人類の『幸福』のための『犠牲』となれェーーーッ! ジョースタァアーーーーッ!!」

 勝利の雄たけびを上げるプッチの瞳に、奇妙なものが入ってきた。
 赤色をしたマジシャンズ・レッドの拳ではなく、同じくらい無骨な肌色をした拳。
 妙に冷静に、プッチはその正体を分析した。
 この場にいる者で、拳を放てるものなどジョセフしかいない。ならば、そう見るのが最も妥当。

「そんなふざけことが! ありえはし……がああッ」

 プッチの思考は、勝手に言葉となって口からこぼれていた。
 しかし、最後まで言い終えることはなかった。
 それよりも早く、スタンドの腕を越える長さまで腕を『伸ばした』ジョセフの拳を、腹部に思いっきり受けたのだから。
 初めてプッチが体験する、スタンドを介していない直に波紋を流される感覚。
 プッチの全身を電撃のように全身を駆け巡る、熱くもあって冷たくもあるような奇妙な衝撃。
 波紋の影響でC−MOONを勝手に解除してしまい、意識を落としそうになる中で、プッチの聴覚は辛うじてジョセフの声を捉えていた。

「ズームパンチ!!」

 ズームパンチとは、波紋戦士にとって最も基本となる攻撃の一つ。
 間接を外すことで腕を伸ばし、攻撃する。
 間接をはずした状態で物を殴る際の激痛は、波紋で和らげる。
 ジョセフは最初からマジシャンズ・レッドで炎を流し込むことではなく、ズームパンチを狙っていたのだ。
 マジシャンズ・レッドの拳は、間接を外したことで長くなった自らの腕を隠すためのものにすぎなかった。
 ジョセフ・ジョースターは、どちらが勝つか判断つかない勝負に挑む男ではない。
 レッドバインドを解除した時点で、ジョセフはこの作戦を編み出していたのだ。
 何度も言ったが、もう一度言う。
 中国の兵法書『孫子』に書かれた一文、『勝利というのは、戦う前に全て既に決定されている』。
 この言葉こそが、ジョセフの闘いに対する気構えなのである。
544Classical名無しさん:08/11/16 03:13 ID:M4DJBpKQ
   

「ふざけたことだって? はッ! 俺からすりゃあ、テメェの重力と裏返しのが全然イカサマだぜ!」

 満身創痍の肉体でジョセフは、自身が殴った衝撃で吹っ飛ばされているプッチへと視線を向ける。
 その進行方向には、UFOの窓があった。
 ただの人間ならともかく、ジョセフなんかが殴ればすぐに割れてしまいそうな。
 そんな――UFOの窓が、プッチの進行方向には存在していた。

 ジョセフがそのことに気付いたのと同じ時、同じくプッチもこのままではUFOの窓に激突すると気付いた。
 重力は、プッチを中心に放射状に発せられている。
 そしてヴィジョンではなく重力の射程距離は、かなり広い。
 さて、そのプッチが、だ。
 もしも、体積と質量を持った、筒のように周囲を取り囲む物体に……そうだな。
 箱だとか、車だとか……UFOのような物体に入り込んでしまったら、どうなるだろう?

 答え――――『真上』に落下する。

 吹っ飛ばされながら、プッチはその結論に至っていた。

(危うく絶望しかかったが、理解したぞッ! DIO!
 私に必要なのが、『北緯二十八度二十四分、西経八十度三十六分』の『新月』の時の『重力』。
 ならばUFO内に肺って宙に浮きながら、『新月』と同じ『重力』の影響の『位置』をッ! 探せばいいッ!
 『時』も『場所』も操縦者も、もう待たなくていいッ! ジョセフ・ジョースターに殴られて……突っ込まれて、正解だったのだッ!!)

 切れ掛かっていたプッチの意識の糸が、一気に覚醒していく。
 波紋を跳ね除けるほどの感情――それは歓喜。プラス達成感。

「ジョセフ・ジョースター! やはりお前は、『試練』だった!
 C−MOONの時と同じく……C−MOONが完璧になれる『位置』をッ! 手に入れるための!
 最後に私を押し上げてくれたのは……私の味方は、やはりお前達だった! 『ジョースターの血統』だったッ!!」
546Classical名無しさん:08/11/16 03:14 ID:8kAd8/z2
   ‐     〜
Movere crus

 何を言っているのか理解できないという様子のジョセフを確認し、プッチは嘲笑う。
 もうプッチは、ジョセフの方を見ていない。
 視覚的な意味だけではなく、プッチの頭の中もまたこれからUFO内に入って『位置』を探すことで一杯であった。
 生涯で最も激しくなっていると思われる鼓動を落ち着けようと、プッチは素数をカウントする。
 プッチの脳内では、教会のベルと賛美歌が響き渡っていた。
 そんなプッチの耳に、聖堂じみた音色を押しのけてジョセフの声が届く。

「何だか分からねーけど、気絶しなかったんだよなァ〜〜。ンでもって、その様子だと策か何かがあるってことだよなァーーー?
 なら、あんまり気はすすまねけどォ……『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!」

 既に発現していたマジシャンズ・レッドの手刀が、手首から先がないジョセフの右腕をに振り下ろされる。
 結果、ジョセフの前腕が切り落とされて肘から先がなくなる。
 傷口は先ほどと同じく、マジシャンズ・レッドの掌で焼いて出血を止める。
 そして断ち切られた前腕を、発現したクレイジー・ダイヤモンドが握り締め――プッチ目掛けて投擲した。
 落下加速度によって速度を落としながらも、プッチがUFOのガラスに突っ込むより早くプッチの元へと前腕は届く。
 勢いを失ったといっても、当たれば十分プッチの吹っ飛ぶ方向を変えることが出来るだろう。
 しかし、プッチがC−MOONを再発言させる。
 飛来してきた前腕を迎撃しようと、拳を握って構えを取るC−MOON。
 C−MOONを見たジョセフは、両手で顔を抱える
 その姿は、プッチの頬を緩めるのに十分なものであった

「お前の次の言葉は、『この程度で私とDIOの目的を阻止出来るとでも思うか』だ」
「この程度の攻撃で、私とDIOの目的を阻止出来るとで――何っ!」

 プッチが口を開こうとする直前。
 白い歯が見えるくらいの笑みを浮かべながら、ジョセフが口を開いた。
 その内容に呆気に取られるも、プッチはジョセフの発言を心理的な揺さぶりだと判断。
 気にしないことにして、前腕を打ち払おうとC−MOONを操作しようとして――
548Classical名無しさん:08/11/16 03:15 ID:M4DJBpKQ
     
549Classical名無しさん:08/11/16 03:15 ID:.9iv8J3w
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「『相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している』――それが、このJOJOのやり方よ」
「か…………はあッ!?」

 上斜め後ろから迫ってきた拳を背を受け、ジョセフに殴られた衝撃による軌道が変更。
 UFOのガラスではなく金属で出来たボディに身体を叩きつけ、UFOの付近へと落下した。
 背骨への攻撃に意識が朦朧となりながら、意地で目を見開いたプッチ。
 その眼前で、クレイジー・ダイヤモンドが投げたジョセフの右腕が浮かんでいた。
 前腕だけでなく、数分前に切り落とされた拳もくっついた状態で。
 プッチは、ジョセフの行動を理解した。

 クレイジー・ダイヤモンドは、前腕をただ投げつけたのではなかった。
 『治す』能力を使ってから投げつけたのである。

 プッチの重力は全方向に反射的に働く。
 ゆえに、C−MOONに弾き飛ばされたジョセフの右拳は、プッチの背中からの重力によってジョセフとは別方向へと追いやられていた。
 その拳に背を向けていたプッチは、浮かんでいた拳の存在に気付かなかった。しかし、ジョセフからは簡単に発見できた。
 そして三村信史との戦闘中、三村よりジョセフは『体外に出た血液』は、既に自分ではなくなるのでクレイジー・ダイヤモンドで治すことが出来るのを知っていた。
 ならば、切り落とした腕はどうなるか?
 身体にくっついてくれる事はないだろうが、同じく切り落とした腕ならば『体外に出た物』同士。治りはしないか?
 ジョセフの考えに確信はなく、はっきり言って賭けであったが成功――治った。
 拳は前腕にくっつくために重力に逆らった動きで、治るための最短距離を通って前腕の元まで空間を走って来た。
 前腕への最短距離を阻む物体――プッチの肉体ごと通ってきたのである。

「ハァー、ハァー……やっとここまで来た、ぜ……」
「ジョー……スター……!」

 裏返った左足を極力使わずに、くっつく波紋を足の裏に流したジョセフがプッチの元まで辿り着いた。
 クレイジー・ダイヤモンドは解除され、傍らにはマジシャンズ・レッドのみ。
 プッチは、未だ意識を繋ぎ止めていた。決して傷が浅いのではない。
 スタンドを出せないほどのダメージを受けながら、『天国』への執念ゆえに意識をおとさないのだ。
 あまりのしぶとさに、さすがのジョセフもぎょっとする。
 だが、ジョセフはプッチの命を奪うことに関して迷いはない。
 マジシャンズ・レッドだけがジョセフの前に出て、プッチの元へと到着。左の拳を握り締める。

「ジョ……セフ・ジョースター……止め、ろ…………
 人、類……の、『幸……福』のため、だ……『位置』に行か…………ねば、ならな、い。
 死……ぬ……わけ…………には……! いか、な、い、ん……だ…………
 ……人、は……『う……ん命』を……『克服』、しな……く、ては……ならない!
 そ……の為には……! わた……しが、『か……ん成、の……能、りょ、く』に……『到……た、つ』せねば、なら………………」
「……人ってのは、信念がある限り『成長』するもんらしいぜ。俺はさっき実感した。
 『成長』して、立ちふさがる壁を乗り越えていく。『克服』ってのはそういうことだ。お前の言う『克服』は、『克服』とは別物だ。
 お前が完成の能力とかいうヤツに到達しても、それで全人類が『成長』することはない……『克服』じゃあねえ」
「知った……ような、こと、を……!」

 マジシャンズ・レッドの左拳が、プッチの身体に触れる。

「DI……O………………」
「――赤熱の波紋疾走(プロミネンス・オーバードライブ)」
552Classical名無しさん:08/11/16 03:17 ID:.9iv8J3w
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 マジシャンズ・レッドが拳に力を込めると、触れた箇所からプッチの体内に炎の奔流が巻き起こる。
 秒と経たないうちに、プッチの身体は灰となった。

 エンリコ・プッチは――DIOの意思は、ジョセフが鍛錬によって『成長』した能力に『克服』されたのである。

 同時に、重力がそうあるべき状態へと戻る。
 緊張感が切れたことによりくっつく波紋が途切れて、ジョセフが本来床であった場所へと落下する。
 波紋で防御することもなく背を打ち据えながらも、ジョセフはゆっくりと体勢を立て直す。
 まだジョセフには、やらねばならないことが残っている。
 沢山あるやるべきことのなかで、最も優先すべきことをせねばならない。
 たっぷりと時間をかけて立ち上がり、同じく落下してきたプッチの灰を見下ろすジョセフ。
 波紋が途切れたことで遅い来る失った右手と右耳、裏返った左足の激痛に耐えて、まっすぐ前を見据える。
 左手で拳を作り、そのまま天を衝く勢いでまっすぐと左腕を伸ばしきる。
 そして口を開き、腹の底に力を入れて声を張り上げる。

「決着ゥゥゥーーーーーーーーーーーッ!!!」

 それは、一世紀以上にも渡る因縁に終止符を打つ勝鬨の声。
 先祖に、子孫に、宿敵へと、告げるべき勝利宣言。
 スピードワゴンとエリナ・ジョースターより伝えられた過去、承太郎の記憶より知った未来、倒された服部平次。
 いろいろな事象がジョセフの脳裏を駆け巡り――ジョセフの瞳から一筋の雫が毀れ、頬を伝った。
554Classical名無しさん:08/11/16 03:17 ID:.9iv8J3w
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555Classical名無しさん:08/11/16 03:18 ID:.9iv8J3w
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556Classical名無しさん:08/11/16 03:18 ID:M4DJBpKQ
      
557未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:19 ID:1IMztO4k


 ◇ ◇ ◇


「んん………………?」

 やたらと日常じみた声を漏らしながら、服部平次が目を覚ます。
 同時に、自身がもう一度目を覚ましたことを疑問に思う。
 しかしすぐに、ポケットに入った二つの金属片のことが脳裏を過る。

(核鉄の治癒力のおかげ……か?)

 その答えは、半分だけ正解。しかし訂正するものは、この場にいない。
 上体を起こした服部は、自身の回復具合に驚く。
 腹に穴を開けられたのに、今の服部は万全の状態といって変わりない。
 傷口を触れようとするが、傷は既に塞がっていた。
 錬金術の結晶の能力に感心しつつ、塞がった傷口の上――左胸に傷痕を発見する。
 服部には身の覚えのない傷。
 これまた塞がっているが、だからと言って『ならいいや』と済ませるほど、服部は能天気ではない。
 困惑しつつ、服部は腹に向けていた視線を周囲に移す。

「う、うあああああああああああああああああああああああっ!?」
558Classical名無しさん:08/11/16 03:19 ID:8kAd8/z2
    _
TURBo
559未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:19 ID:1IMztO4k

 直後、服部の口から上ずった悲鳴がこぼれる。
 服部の隣には、助けたはずの男が横たわっていた。
 右腕と右耳がなく、左足に奇妙な傷を負い、背中から血を流し、体温を喪った状態で。
 状況を理解できず、ただただ焦る服部の手元に何かが触れる。
 それは一枚のDISC。表面に透けて見える筋骨隆々な男性の姿――クレイジー・ダイヤモンドに、服部は見覚えがあった。
 首輪を嵌めていない服部に、クレイジー・ダイヤモンドの適正が存在するはずがない。服部も知っている。
 だが服部は両手に力を込めて、自らの額より飛び出そうとするDISCを無理矢理に押さえつける。
 その状態を維持しながら、胸中で何度もクレイジー・ダイヤモンドの名を呼んで発現させようとするが、そうそううまい話があるワケもなし。
 スタンドが発現しないという事実に、予想していたとはいえ服部の両の瞳から涙が浮かんでくる。
 瞼に収まりきらないほど溢れ続ける涙は、遂には頬を伝って床を濡らす。
 それでも諦めきれずに、服部はDISCを額に捻じ込もうとする。
 瞬間、服部の脳内に、DISCに付着した記憶が映し出される。
 記憶の高波に襲い掛かられ、服部は抵抗できずに倒れこんだ。
 うつぶせに倒れこんだこともあり、服部の額からDISCが射出されることはなく、付着した記憶は服部の中に流れ込み続ける……――――

560Classical名無しさん:08/11/16 03:19 ID:M4DJBpKQ
   
561未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:20 ID:1IMztO4k

 プッチを殺して重力が元の状態へと戻った所為で、浮かんでいたバイクとボックスが無造作に散らばっている。
 ただのバイクなら、どれかが衝撃で壊れて炎上。
 他のバイクに燃え移って格納庫中が火の海に、なんてことになりそうなもんだが……
 そこは、さすがBADANの技術力ってとこかね?

 服部は途中で俺が安全地帯へと放ったのが幸いし、瓦礫に埋まらずほぼ無傷みてェだ。
 ……プッチにやられたとこ以外は。
 俺の所為で服部は殺され、服部が俺にDISCを突っ込まなきゃ俺は倒れたままだった。
 感謝しても、し足りることはない。
 いまは、一刻も早く仲間達と合流しなきゃならない状況だ。
 しかし何より先に、服部の元へと行って、手を合わせるくらいはしなくちゃあならない。

 あー……クソッタレ。全ッ然、進まねェ。
 さすがのジョセフ・ジョースターにも、この足はつらいぜ。
 大首領とやらをぶちのめす前に、病室かなんか探すべきかもなァ。
 BADANの技術力なら一瞬で治ったりすんだろ、多分。
 そんなことを考えていた時だ。
 扉を開ける音が響く。

「ちィ、こんな時にッ! 『マジシャンズ・レッド』!!」

 マジシャンズ・レッドを発現させて、扉の方へと首を向ける。
 しかし、そこにいたのは怪人の類ではなく……

「ひっぃぃいいいいいい!」

 ……両手を上に上げて縮こまる白衣の男。
 どう見ても、一般人。
 どういうことなんだ? と思ってたら、勝手に相手が全部話してきた。
562未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:20 ID:1IMztO4k

「わっ、私は、プッチ神父に無理矢理UFOを操縦しろと言われただけでっ!
 そ、そんなことしちゃいけないのは分かってたんですが、脅されててっ。逃げたらっ、こ、こ、殺されるかと」

 ふんふん、なるほどな。
 プッチは『北緯28度24分西経80度36分』に行くために、あのUFOを使おうと思ってたのか。
 その為に、アイツを脅したと。
 にしても、この怯えっぷりに発言の内容。
 ……もしかして、俺もBADANの一味だと思われてるのか?
 ケーッ! あんなヤツ等と同類だと思われるなんてなんて、失礼にもほどがあるぜ!
 にしても、この白衣……
 村雨の知り合いっつってた、伊藤博士ってヤツかね?
 そう考えたとほぼ同時に、その案を塵にした。二度と思い返すことはないだろう、絶対。
 こんなびびりまくってるヤツが、情報を漏らしたりするワケがねー。
 そういや、村雨が命を握られて渋々従ってる研究員が多いっつってたな。
 もう一度目の前の男に視線を向ける。
 ……いやー、スッゲェ脅されてそうな気配がするぜー。

「おい、手短に答えろよ。お前は、BADANの研究員なのか?」
「は、はいいいいっ」
「命を握られてしょうがなく従ってんのか?」
「そっ、そんなワケがないじゃ」
「正直に言えよォー。俺は相手が嘘吐いてるかどうなのか、簡単に見破れんだぜェー」

 勿論、根も葉もない嘘。
 ……こんな下らねー罠は、めったに仕掛ける機会がなさそうだぜ。
563Classical名無しさん:08/11/16 03:20 ID:M4DJBpKQ
    
564未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:21 ID:1IMztO4k

「ひっ、ひいいいいいいっ! た、確かに嫌々ですが、逆らう気なんて毛頭あり――」
「オーケー、だったら助けてやるぜ」
「ませんので……へっ?」

 呆けている研究員に、正体を明かしてやる。

「俺の名は、ジョセフ・ジョースター。侵入者が来たのは知ってんだろ? その中の一人だ。ところで――」
「侵入者……ひいいいいいいいいっ! 仲間だと思われたら殺されるううう!」
「おいおい、待てって」

 逃げようとする研究員に、マジシャンズ・レッドの炎を放つ。
 当たり前だが、当てる気はない。
 予想通り、へたり込む研究員に話を続ける。

「いつ気まぐれで死ぬかも分からねーのに、BADANなんかに従ってていいのかァ? それより、こっちについた方が良くなァ〜い?」
「そ、それは……」
「こっちにゃ、大首領様とやらに対抗できるスゲェ仲間がたくさんいるんだぜェー」
「本当、です……か?」
「本当も何も、大マジよ! そもそもBADANの妨害を破って、ここまで侵入出来てるんだぜ?」
「確かに、そう……かもしれません」

 よっしゃあ! 食いついたぜ!
 あと一押しだな。

「それにな……ここだけの話だけど、強化外骨格に大首領を光臨させるんだろ?」
「な、なんでそれをっ!」
「その強化外骨格の天敵とも言えるアイテムを持ってんだよ、俺たちは! 完璧だよォ、この脱出作戦はーーーっ!!」
565Classical名無しさん:08/11/16 03:21 ID:.9iv8J3w
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566Classical名無しさん:08/11/16 03:21 ID:.9iv8J3w
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567未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:21 ID:1IMztO4k
 思いっきり笑顔を見せる。
 そしたら……

「…………分かりました」

 おし! 誘導成功!
 頼みたいことは、それこそいろいろある。
 伊藤博士とやらの居場所を教えてくれとか、薬もってこいとか、暗闇大使とかいうヤツの居場所とか。
 でも、まずは……

「よし。じゃあ、まずは俺に手を貸せ。あそこまで行きてえんだが、足を怪我しちまって困ってたんだ!」

 左足の代わりとなってもらうかね。ヒッヒッ、いい足を手に入れたぜェー。


  ◇  ◇  ◇


 手に入れた足のおかげで、服部の元に着くまですぐだった。
 服部の近くに転がる二つのデイパックを回収。
 デイパックに入っていた水と食料として支給されたフルーツを、供え物として服部の前に置く。
 そして両手を合わせて、謝罪と感謝、両方の意を心の中で伝える。
 この場ではこれくらいしか出来ないが、許してくれ。
 戦いが終わったら、ちゃんと埋葬する。
 そう誓って、しゃがみこんでから服部のポケットに手を入れる。
 すまないとは思うが、今の俺には核鉄が必要なんだ。悪いな。
 ポケットの中は、まだ死んでから大して経っていない服部の体温が残って――――

 いやいや、待て待て待て待て。
 おいおいおいおい。今、胸が上下しなかったか?
 しかしそんな奇跡が起こるわけが……あんな致命傷を……
 服部の口元に手を持っていく。手に感じたのは、風。つーか、どう考えても吐息。
568Classical名無しさん:08/11/16 03:22 ID:M4DJBpKQ
 
569Classical名無しさん:08/11/16 03:22 ID:.9iv8J3w
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570未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:22 ID:1IMztO4k

「生きて、やがる……」

 どうやってあんな致命傷を受けて生きていたのか。
 別に服部が生きてたんだから理由なんかどうでもいいはずだが、どうにも気になる。
 思い当たるのは、核鉄の治癒力。
 しっかし、あんな傷を耐えれんのかァ? だったら、勇次郎と戦った時にもっと早く回復するはずじゃねーか?
 つっても、核鉄以外には思い当たらないが――ッ!
 頭の中で、点と点が繋がる感覚。なるほど……そういうことかい。
 制限が解除されて、『零』は普段通りの策敵能力を取り戻したと言っていた。
 ってことは、支給品にも制限がかかっていたのだろう――核鉄の治癒力にも。
 そう考えれば、勇次郎の時と今の回復スピードの違いが説明できる。

 服部の顔に目を向ける――表情は蒼白。
 服部の手首に指を当てる――脈拍はかなり遅い。
 核鉄二つ分の治癒力は、確かにすばらしい。
 死に至る傷を負った服部を、『生き長らえ』させている。
 そう、服部は生き長らえたにすぎない。
 今では出血が止まっているが、血を流しすぎている。
 仮に、あと核鉄が二つ三つあれば別だが、このままでは――――服部は死ぬ。
 だが……血を戻す方法はある!
 クレイジー・ダイヤモンドで服部を殴れば、飛び散った血液が戻ってくるはずだ。
 なんせ電線に取り込まれたヤツも治したんだからなァ!
 笑みを隠し切れずに、クレイジー・ダイヤモンドを発現させようとした瞬間だった。

「――ごめんなさい」
571Classical名無しさん:08/11/16 03:23 ID:M4DJBpKQ
      
572Classical名無しさん:08/11/16 03:23 ID:.9iv8J3w
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573未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:23 ID:1IMztO4k

 焼けるような感覚が、背中一面を走った。
 赤黒い液体が口から溢れ出し、身体が勝手に倒れこむ。
 体勢を立て直そうとするが、うまく力が入らない。
 どうにか服部に圧し掛かるのだけは阻止して、服部から数メートルはなれた場所の床に勢いよく腹を打った。
 スタンドを出そうとするが、無理だった。
 何とか顔を横に向けた俺の前に、仲間にしたはずの研究員が立っていた。
 さっき拾った時、研究員に一応持っとけと渡しといた、最初に襲い掛かって来たコマンドロイドが使っていた電磁ナイフを右手に握って。
 血を滴らせている電磁ナイフを見て理解する。
 俺は、アイツに背後から斬られた。
 ちくしょう、アイツは自分の意思でBADANに従ってたのかよ……
 そんなことを考えていたら、アイツが口を開いた。

「無理なんですよっ、BADANを倒すなんて!
 かつて十人ライダーも、あなたみたいに私を助けてくれた……
 で、でもっ! 十人ライダーが……いっ命を賭けて倒したはずの大首領は、まだ生きていました……」

 研究員が、悲痛な表情で言葉を続ける。

「平和な生活はたったの三年で崩れ! またBADANに私は拉致されてしまった……
 一瞬、私も夢を見かけましたが……十人ライダーでも出来なかったのに、大首領が倒せるわけがないんですよっ!」

 それだけ言うと、研究員はポケットから銀色の機械を取り出す。
 確か服部も持っていた……携帯電話とか言うヤツだ。
 研究員はそれを開いてから、俺に視線を落とす。
574未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:24 ID:1IMztO4k

「どうせBADANに拉致されたままなら、少しでもBADAN内の地位を向上させたほうがいい。
 侵入者を殺害すれば、私の地位は急激に上昇するはず……そう思ってあなたと同行したんです。
 ハハハ……まさか自分から武器を渡してくれて、背中まで見せてくれるなんて思ってませんでしたよ」

 それだけ言うと、研究員は携帯電話のボタンを押して、それを耳に押し付ける。
 服部によると小型の電話らしいから、上司に成果を報告する気か……?
 だが……動けねーと高をくくって、俺から目を離したのは失敗だぜ……
 ダメージが大きくスタンドは出せなくて、呼吸が整わず波紋も練れねーが……波紋は体内に残っている。
 それなら……バレないように、右足を落としたデイパックに伸ばす。

「あっ、わ、私です、研究員NO.021ですっ!
 暗闇大使様は……あ、出征なさってますか、す、すいませんっ。なら、伝言を……」

 右足にデイパックが引っかかった。
 バレないように足を元の場所へと戻し、音を立てずにデイパックに左手を突っ込む。

「あ、あの侵入者……筋骨隆々な外国人の男なんですが……え? あ、名前は……えーと、ジョセフ・ジョースターって言ってました、すみません。
 その男を殺害しました! い、一緒に同行していた学生風の日本人少年にも、いまトドメを刺します。以上ですっ」

 目当ての物が見つかった。
 ゆっくりと電話を切り、電磁ナイフを携えて服部へと歩く研究員が視界に入る。
 手を動かそうとするが、なかなか動かない。
 やっと左手を研究員の方向へと伸ばせた時、既に服部は電磁ナイフに貫かれていた。
 だが、刃が数センチ入っただけだ。まだ間に合う。
 体内の波紋を左手へと送る。
 左手に集った波紋は、掴んでいるエイジャの赤石――波紋増幅器――内を幾度となく反射。
 反射を繰り返す波紋エネルギーは、その度に強まっていき――火の玉のような形状となって、研究員の方へと射出された。

「自暴……自、棄に……なるのは、テメ、ェの、勝手だが…………
 殺し、に……かかる、ってことは……やり、返さ……れる覚、悟も……あっての、ことな……んだ、ろう、な?」
「……へ?」
575Classical名無しさん:08/11/16 03:24 ID:M4DJBpKQ
     
576Classical名無しさん:08/11/16 03:24 ID:.9iv8J3w
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577未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:25 ID:1IMztO4k

 事態を理解できぬまま、研究員は波紋エネルギーを右肩に受けて左肩から先が焼失。
 腕の付け根であっただろう胸からは、おびただしい量の血を流している。
 後ずさりしながらふらついて、最終的に地に臥す研究員。
 あの様子じゃあ、放っといても立ち上がるのはあろか、生き長らえるのは不可能だろう。
 電磁ナイフを持ってるということは、服部の左胸にナイフが刺されたままではないということだ。
 床を這いずり回って、服部の元へと向かう。
 体内に残った波紋は、ごく僅か。
 右腕の喪失による痛みも、右耳の喪失の痛みも、裏返った左足の痛みも、斬りつけられた背の痛みも、緩和させることは出来ない。
 しかし、それでいい。
 むしろこの痛みを鈍らせてしまえば、俺はそこで気を失ってしまう。
 激しすぎる痛みこそが、俺の意識を繋ぎ止めてくれているのだ。
 ちくしょう。二メートル、三メートル程度の距離だってのに、服部までやたら遠く感じられるぜ……

「あハハ。……どう、せ……アンタも、すぐ死ぬ……よ、その……傷、じゃ。……何で、そ……ん、なに、意地……張っ、て…………っ」

 研究員が、下らねェことを聞いてくる。
 肺まで攻撃は届いていたらしい。
 喋るたびに、胸の傷から溢れる血に気泡が入り混じっている。

「人、間、の……くせに、バケ、モノ……なんかの……下、手、に出るテ……メェ、なんか……にゃ
 喋、った……ところで、理解、出来ねー……よ…………………」

 そうだ。
 俺が死ぬことくらい、俺がイチバン分かっている。
 それでも、やらなきゃならねェことがある。
 波紋で痛みを和らげて静かに死んでくっても、かなり魅力的だが……そういうワケにはいかねえ。
578未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:25 ID:1IMztO4k

 曾祖父さんは、ディオの攻撃から祖父さんを身を挺して守った。
 祖父さんは、エリナお祖母ちゃんとリサリサ先生を脱出させて、沈み行く船の中でディオを深海へと道連れにしていった。
 親父は吸血鬼に対抗する手段を持っていなかったのに、ただ殺されるのではなくバレないように証拠を残した。
 承太郎は危険だと分かっていながら、徐倫を庇ってDISCを抜かれた。
 この殺し合いに参加していた承太郎はどうしたか知らねェが、アイツが何もしないで死んでいったとは思えねェ。
 他にも……
 シーザーはピアスを手に入れ、最後の波紋を俺にピアスを届けるために使った。
 シーザーの祖父さんは、俺の祖父さんに波紋の力を与えて死んでいったという。
 スピードワゴンは、死んでからもずっとジョースター家を支えてくれている。
 シンジは一時期錯乱していたが、最後にクレイジー・ダイヤモンドのDISCを託してくた。
 ハヤテはなよなよとした見た目のくせに、村雨を仮面ライダーにしたという。
 劉鳳のヤローは、あのラオウを倒してやがった。
 復活したDIOを倒すために集った仲間――イギーは、アヴドゥルは、花京院は!

 みんな、最期に誰かに何かを託していったんだ……

 何かを受け継いで、それを未来に残して、そして死んでいったんだッ!

 俺だって、そうさせてもらうぜ。

 俺は誇り高きジョースターの血統だ……何としてもそうする。

 何も残さねェなんてみっともなさすぎて、それこそ落ち着いて死んでもいられねーぜ……

「着いた、ぜ……」
579Classical名無しさん:08/11/16 03:25 ID:M4DJBpKQ
   
580未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:25 ID:1IMztO4k

 やっとのことで服部の元へと辿り着いた。
 赤石を服部の腹の上に置いて固定する。手が震えて時間がかかったが、完了した。
 次に、体内に残った波紋を全て搾り出して左手へ集中させる。
 そしてその左手を赤石へと押し付け、波紋エネルギーを一気に放出する。

「波、紋……疾走……ッ!」

 赤石によって波紋エネルギー=生命エネルギーが、何倍にも増幅する。
 その全てが服部の体内へと流れ込み、みるみる服部の傷が塞がっていく。
 しかしこの程度では、まだまだ波紋の効果は終わらず。
 服部の脈拍が正常に戻ると、続いて青白かった顔色もピンク色へ。

 ――治った。

 そう確信したと同時に、全身が重くなる感覚を覚える。
 目蓋が勝手に塞がってきて、身体に力が入らない。
 視界が白く染まっていき、傷の痛みも感じなくなっている。
 これが『死ぬ』ってことか。
 服部が起きたら自分を責めそうだなァ、アイツ。
 気にすんな、服部。俺が勝手に我意を通しただけのことだ。
 下らねェことに悩む暇があるんなら、大首領とやらを倒すのに集中しろ。
 そう遺言でも書き記してやろうと思ったが、焦点が定まらないし、何より指すらも動かせない。
 全生命エネルギーを外に出しちまったんだから、当たり前か。
 抵抗も出来ずに、床に体を叩きつけてしまう。その痛みすらも僅か。
 衝撃でDISCが抜け落ちる感覚が脳内を駆け巡ったが、それを確認することすら適わない。
 あー……名前まで考えてたんだから一回くらい抱いてやりたかったぜ……ホリィ……
581未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:26 ID:1IMztO4k



 付着した全ての記憶が服部の脳内に流れ込み、記憶の奔流は幕を閉じる。
 現実に帰還した服部は、近くにある二つのデイパックを回収して、スーパーエイジャをポケットへと突っ込む。

 ジョセフが残そうとして諦めた遺言は、確かにジョセフへと伝わった。
 ゆえに、服部はジョセフの方を見ることはしない。
 これまで散っていった仲間の意思に加えて、新たに託されたジョセフの意思も胸に立ち上がる。
 無造作に積まれたバイク――量産型ヘルダイバーの中から、適当に動きそうな一台を選んで跨る。
 服部がアクセルを捻ると、それに堪えるようにエンジン音が響く。
 動くのを確認した服部は、プッチから聞いた暗闇大使の玉座へとヘルダイバーを走らせる。
 最高速度は出せるわけもないが、結構な速度を出しながら、服部は扉をぶち抜いて格納庫を後にする。
 彼が、うしろを振り向くことは決してなかった。
 両目から涙が溢れそうになるのを、服部は必死で堪える。

 仲間達が愚直なまでに貫き通した意思を拳に込めて、大首領へと叩き込むために――――服部平次は、もううしろを振り向きはしない。
582Classical名無しさん:08/11/16 03:26 ID:M4DJBpKQ
      
583Classical名無しさん:08/11/16 03:26 ID:.9iv8J3w
支援
584未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:26 ID:1IMztO4k



【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】
【服部平次@名探偵コナン】
[状態]:三村を殺したことから大分立ち直りました、首輪解除済み、負傷・体力全回復、ヘルダイバーで疾走中
[装備]:携帯電話、ソードサムライX(核鉄状態)@武装錬金、二アデスハピネス (核鉄状態)@武装錬金、
スーパーエイジャ@ジョジョの奇妙な冒険、量産型ヘルダイバー@仮面ライダーSPIRIT
[道具]:支給品一式×2(食料一食消費)、首輪、「ざわ……ざわ……」とかかれた紙@アカギ(裏面をメモ代わりにしている)、
色々と記入された名簿、ノート数冊、ノートパソコン@BATTLE ROYALE ジャギのショットガン@北斗の拳(弾は装填されていない)、
綾崎ハヤテ御用達ママチャリ@ハヤテのごとく(未開封)、 ギーシュの造花@ゼロの使い魔、キュルケの杖、拡声器、
包帯・消毒薬等の治療薬、点滴用セット(十パック) 病院内ロッカーの鍵(中に千切れた吉良の左手首あり)、
バヨネット×2@HELLSING、 紫外線照射装置@ジョジョの奇妙な冒険(残り使用回数一回)、外れた首輪(服部平次)、
七原秋也のギターをばらしたて出来た弦@BATTLE ROYALE、支給品一式×2、
空条承太郎の記憶DISC@ジョジョの奇妙な冒険 、クレイジー・ダイヤモンドのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本:一撃でいいから大首領をぶん殴る。
1:プッチから聞いた暗闇大使の玉座へと向かう。
2:別れた仲間と合流。
3:範馬勇次郎以外の光成の旧知の人物を探り、情報を得たい。
[備考]
※スーパーエイジャが、「光を集めてレーザーとして発射する」 事に気づきました。
※クレイジー・ダイヤモンドのDISCには、死ぬ直前のジョセフの記憶が付着しています。
585未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:27 ID:1IMztO4k




 ジョセフ・ジョースターは最後まで意思を貫き通して、その命を散らしていった。
 もう二度とジョセフが起き上がることはない。
 ジョセフの生命という名の演目は、幕は下りた。再演の予定もないし、ジョセフにもそんな気はさらさらない。
 しかしDISCに付着した記憶を見た服部は、ジョセフの意思を知った。
 そして服部は、ジョセフの意思を大首領に届ける決意を固めた。

 ジョセフの意思は――そして魂は、服部へと受け継がれたのだ。

 皮肉なことにだが、人を止めて不老不死の生命体となったDIOの意思は断たれ、人であり続けたジョセフの意思は継続する。

 確かに、ジョセフの生命は終わった。
 されど彼の意思は、服部の中に残り――そして他の仲間の中にも伝えられるであろう。
 だから、ジョセフ・ジョースターの話は終わりではない。
 ゆえに『完』や『終』などの文字ではなく、この言葉を最後に記す。

  To be continued ......



【エンリコ・プッチ@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】
【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】
【残り参加者 7人】
586Classical名無しさん:08/11/16 03:28 ID:M4DJBpKQ
 
587未来への遺産 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:28 ID:1IMztO4k





※プッチの首輪、リンプ・ビズキットのDISC、死神13のDISCは、格納庫内に転がっています。
※プッチの持っていた携帯電話は、プッチと共に灰になりました。
※マジシャンズ・レッドのDISCは、ジョセフの死に引き摺られました。
※C−MOON覚醒以降は、『この身は我が組織のために』『真・仮面ライダー 〜決着〜』『覚悟のススメ』『Bellis perennis』よりも後の時間の話になります。
※C−MOON覚醒からプッチが死ぬまでの間、プッチの周囲半径三キロメートルは重力が狂いました。
※C−MOON覚醒からプッチが死ぬまで、だいたい五分程度の時間が経過しました。
※BADANの構成員に、研究員から侵入者の『ジョセフ・ジョースターという名の筋骨隆々な外国人の男』と『一緒に同行していた学生風の日本人少年』との連絡が入りました。
588 ◆hqLsjDR84w :08/11/16 03:29 ID:1IMztO4k
投下完了です!
深夜に長期間の支援、感謝です!
誤字、脱字、その他アレ? と思う点ありましたら、指摘してください。
589Classical名無しさん:08/11/16 03:34 ID:M4DJBpKQ
投下乙です!
ジョセフVS神父の激戦、超お疲れ様でした!!
話が濃い! 二転三転するバトルに目が離せませんでした。
頭のいい三人の頭脳合戦、ジョセフの化かし、百年に渡る因縁の決着。
全てが満足いく話でした。
そして人を信じたばかりに裏切られるジョセフ。
しかし、ジョセフの意思が『生きている』とは最後の皮肉な演出がいい!
To be continued ......であえて締める演出もナイス!
とにかく大作お疲れ様でした。

GJ!!
590Classical名無しさん:08/11/16 03:36 ID:.9iv8J3w
投下乙!!

ああ……無念だ……無念……ジョジョが死んでしまうことは無念……
しかし…仕方ないのさ…これも…!無念であることが そのまま「生の証」だ……!
思うようにいかねえことばかりじゃねえか…生きるってことは…!不本意の連続…

そしてその生の証が服部に受け継がれていく姿、
それがまた良いんだな。

同じ一般人のアカギと同タイミングで何かを悟ったことにより
これからの服部の活躍には大いに期待。

そしてとても良いものを見せてくれたありがとう。
GJ!乙!!
591Classical名無しさん:08/11/16 03:46 ID:1CxDRJAM
投下乙!
おおおおおおおおおおおおおお!凄い!まさにジョジョ全開なバトル!!スタンドの活用がいい!!
長い分量ですが読みごたえもあり、全然苦になりませんでした!というか三人だけでここまで話を広げられるとは……!
遂に出てきたC-MOONの凄さも十分、それに対するジョセフの知能を使った応戦……そして服部の死亡とどれをとっても素晴らしい!
神父を倒して、服部も復活と思ったら……ああ、なんたる無常。服部には是非頑張って欲しい。
GJ!!
592Classical名無しさん:08/11/16 03:53 ID:8kAd8/z2
気づいたのが遅くて、あまり支援出来ませんでしたが……GJ!

ジョセフ、痛みに耐えて頑張った! 感動した!
『レッドバインド』、『くっくつ波紋』、そして――――『ズームパンチ』!!! いや、ジョジョ好きにはたまらないッ!!
ジョースターの因縁を回想したのもベネ! 最後のTo be continued ......の〆なんてディモールトベネッ!

「『…天国』」聞こえないよ! 「『天国』」もっと大きな声で!
「『天…国ッ!』」はい! 今、君死んだよ! 『天国』に到達出来ないよ!


指摘は1つだけ
『C‐MOON』の模様の描写がACDGと成ってますが、これはACTGじゃないかと。
593Classical名無しさん:08/11/16 05:41 ID:bOSNbTkg
最高!!
「ズームパンチ」で鳥肌がたった奴は、俺だけじゃないはず
594Classical名無しさん:08/11/16 12:41 ID:mOdhneBs
ジョセフならジョセフならを体現してくれたGJな完成度だったと思います、欲を言うなら
最後は「究極!深仙脈疾走ディーパスオーバー ドライブ!! 」 を望んでしまうのは
我がままなんでしょうねぇ GJ!
595Classical名無しさん:08/11/16 21:09 ID:8R10AsIE
ああジョセフ……お前が死んだらスージーやかがみんが悲しむじゃないかッ……
しかしジョースターとDIOの運命に決着をつけ、輝ける黄金のような意思は服部に引き継がれたぜ……!

あと服部が暗いところを彷徨ってたらバーローと出会って「俺は仲間の所へ帰る」と言ってくれるかと思ってたぜ!
長い時間の執筆と投下の苦しみに耐えてよく頑張った感動した!
596Classical名無しさん:08/11/17 00:45 ID:xn95W78.
あああああああああ! 投下乙!
覚醒したC-MOON+プッチ神父相手に最期の一滴まで振り絞って奮闘したジョセフに敬礼をせずにはいられないッ!!
2つのスタンドと波紋ならでわの対C-MOON用戦法には思わず脱帽。
この戦い、まさしくジョジョッ!! まさしく『運命』!!!
例えこの後強化外骨格の中で待ち受けるものがあろうとも、戦士にひと時の安らぎを………
そして服部…ッ! 例え一撃でも、悲劇の元凶である大首領に人間の生きた証を見せてやってくれ!!
改めて投下、乙ッ!!
597 ◆1qmjaShGfE :08/11/17 18:40 ID:33OCM2ho
みなさんに一つ提案がありまして書き込ませていただきます。遂に漫画ロワも大詰め、最終話も視野に入る段階まで来ました
ここで最終話を書く際の期限延長を提案したいと思います
通常ですと5日、延長を加えても8日となっていますが、これを二週間程度に延長するというのはどうでしょうか

基本二週間で、どうしても手を加えたいという部分が出てしまった場合+3日という形を考えておりますが、いかがなものでしょう
皆さんのご意見をお聞きしたく、よろしくお願いいたします
598 ◆KaixaRMBIU :08/11/17 18:47 ID:5/nXnGmg
>>597
自分はその意見に賛成です。
特に反論はありません。
599Classical名無しさん:08/11/17 22:21 ID:GedqJ6yQ
合作
600Classical名無しさん:08/11/17 22:26 ID:u.YQJCzQ
もちろん同意

でも最終話はよほどの覚悟が無ければ予約なんてする奴がいないだろう
だから俺は、予約期限は08/12/31 までドカッとしてもいい
601 ◆hqLsjDR84w :08/11/17 22:35 ID:feET/WHM
多数の感想、どうもありがとうです。

>>592
あー、ミスですね……wikiに乗り次第修正しますね。
また他にも誤字をいくつか見つけたので、それらも修正しときます。

>>597
賛成です。
602Classical名無しさん:08/11/18 19:07 ID:GxEhxgBA
>>597
読み手だけど賛成
自分としては一か月ぐらいあってもいいと思うけど
603Classical名無しさん:08/11/18 19:52 ID:2dEsrrIs
まさにJOJO!の戦闘で興奮させてもらいました!!ありがとうございますっ!

俺も意見には賛成です!
604Classical名無しさん:08/11/19 13:44 ID:x9kSTuLA
仕事から帰ってきたら最終話と名うって予約されてるゥ!
wktkして待ってるぜ!
605Classical名無しさん:08/11/20 03:02 ID:gBXzL9Y2
いよいよ最終回か
606Classical名無しさん:08/11/20 04:48 ID:5RGakNeQ
遅ればせながら投下乙!
なんて夢の対決!!
なんてジョジョ!
新旧全てのギミックをふんだんに活用した頭脳戦と、衝撃の結末、生き続ける人間の意志。
どれをとっても見事でした!!
そして振り返らない服部に涙。
熱い!!
607Classical名無しさん:08/11/24 00:06 ID:m6lXRhkA
最終回待機中
全裸で
608Classical名無しさん:08/11/24 00:45 ID:QBo9X2HM
今日何?
609Classical名無しさん:08/11/24 02:40 ID:m6lXRhkA
>>608
いや12月になるかもしれない
全裸は身に染みる季節だな
610Classical名無しさん:08/11/27 21:42 ID:tnXymyt2
いつまで全裸でいればいいんだ……
そろそろ風邪ひいちまうよ
611Classical名無しさん:08/11/27 23:49 ID:0cEMz7yo
>>610
そんな寒い格好だと投下までもたないぞw
俺は寒がりだから家の中なのにマフラー着用してるぜw
マフラー以外全裸だけど
612Classical名無しさん:08/11/28 09:45 ID:WjqPlf.c
>>611 お前、紳士だな
613Classical名無しさん:08/11/28 14:56 ID:nOl7/mlE
俺は風邪引いたからマスク着用だよ
マスク以外全裸だけど
614Classical名無しさん:08/11/28 22:05 ID:9q9Okj/k
俺も蝶サイコーなマスク着用だよ
でもコレって、風邪には意味無いような気がしない?
615Classical名無しさん:08/11/28 22:13 ID:vc2IB5O6
いや大いに効用はある
蝶サイコーなマスクがあれば風邪なんか吹っ飛ぶってもんだ
デュワッ!!!
616Classical名無しさん:08/11/28 23:41 ID:/DIeswto
いや、風邪引いて病気のままハンパな不老不死になるのがオチじゃね?w
617Classical名無しさん:08/11/29 00:15 ID:W2NzTWGk
ふっ甘いな!!俺は石でできた仮面だけ被ってるぜ
618Classical名無しさん:08/11/29 01:12 ID:U3CZu4VA
>>617
俺も俺も
チベットに行った時に教えてもらった健康にきくらしい呼吸法と併用してるんだけど効くぜ
目の前が白くなっt
619Classical名無しさん:08/12/01 18:04 ID:WPK7tZSc
ジョジョが死んだって事は、ムラサメのホモヤローフラグは消失か
服部にホモヤロー情報が伝わっていることを期待しよう
620Classical名無しさん:08/12/02 08:27 ID:TfPQ4Odo
さて、今夜で二週間になるが……来るのか、最終回!?
凄い気になるぜ!
621Classical名無しさん:08/12/02 18:23 ID:EOnR.5Mg
今日投下があったら全裸で年を越す
622 ◆1qmjaShGfE :08/12/02 21:30 ID:6cAmqDYc
大変お待たせしております
期待されてる方が多い中でこんな話をするもの心苦しいのですが、
予定より時間がかかってしまい延長三日を使用させていただこうと思っております
残すはバトルシーン一個とちょこちょこなので、一日あれば終わるとも思うのですが、推敲等も充分行いたいと思いますので
こういった形にしようと考えました

投下は12/5の夜になりますので、どうぞよろしくお願いします
623Classical名無しさん:08/12/02 21:34 ID:mAM6fSzI
>>622
了解です。頑張ってください。
624Classical名無しさん:08/12/02 21:46 ID:ay1Fo2Kk
>>622
把握です! その日は早く帰って待機してなきゃ!
625Classical名無しさん:08/12/02 22:25 ID:RmXDRvOM
あーあ、やっちゃったね。
せっかく盛り上がってたスレッドなのに、
あんたのレスで台無しだよ。
なんでここで、そんなレスしかできないわけ?
空気読めないの?
だから君は駄目な奴だって言われてるんだよ。
わかってるの?
それにしても、もったいないなあ、
せっかくここまで育ったスレッドなのに。
ここまででおしまいかよ。
まあ、しかしやっちゃったものをしょうがない。
これからはもうちょっとマシなレスするように心がけろよ。
頼むぜ。
626Classical名無しさん:08/12/03 01:22 ID:SUMdzRU6
>>625 こんな根性の悪そうなウィルス初めて見たwww

12/5、楽しみにしています
627Classical名無しさん:08/12/03 01:25 ID:wjyw0mNc
三日後と分かり本格的にテンションが挙がってきた
この胸の高鳴りを書き手氏たちに伝えられたら、どんなに良いか
とにかく全裸で待ってる
628Classical名無しさん:08/12/03 17:07 ID:2h/OyyKQ
>>622
 私は一向にサムワン!
629Classical名無しさん:08/12/04 19:41 ID:sKm6kmSE
おっと、もう420KBいっていたのか。
最終回を前に新スレ立てといたほうがいいかな?
明日の夜、投下の少し前にでも
630Classical名無しさん:08/12/05 16:12 ID:aYXgx8G6
まだー
631Classical名無しさん:08/12/05 17:53 ID:cWK007Rg
まだかしら
632Classical名無しさん:08/12/05 18:39 ID:kdeFOVsg
ドタバタしても困るしスレは投下始まるまでに立てといたほうがいいぞ、これスパロワでスレまたいで最終回やったから言うけど
633 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 19:05 ID:.7rJ6qsQ
お待たせしております。漫画ロワ最終話は本日22:00投下を予定しておりますので、皆さんご支援の方よろしくお願いいたします
634Classical名無しさん:08/12/05 19:12 ID:HrHxngxU
ついにキタ━(゚∀゚)━!
さぁ皆の衆、服を脱いで待機するんだ
635Classical名無しさん:08/12/05 19:29 ID:hxYhCyGw
把握ですー
あともうちょいかー
636Classical名無しさん:08/12/05 20:26 ID:M7i8hksY
服など既に脱いでいるッ!
この二週間から見れば二時間など余りに刹那ッッ!!
楽しみに待っていますッッッ!!!
637Classical名無しさん:08/12/05 20:31 ID:58Xa.5Hc
待機は二千年前にすでに通過しているッ!!
638Classical名無しさん:08/12/05 20:56 ID:BsWJpcF2
>>632
特に混乱もなくスムーズに立ったはずだが?
639Classical名無しさん:08/12/05 21:19 ID:hJzC1O.w
全裸だとちょっと寒いので股間に花を添えてまってる
うん?花は勿論書き手氏に渡すものだ
640Classical名無しさん:08/12/05 21:27 ID:Z/F4k9Wo
次スレまだ?
641Classical名無しさん:08/12/05 21:43 ID:cWK007Rg
長かった
今…全てが終わる
642Classical名無しさん:08/12/05 21:52 ID:Txjn.UKY
もう直ぐか……期待!
643Classical名無しさん:08/12/05 21:59 ID:cWK007Rg
さあこい!
644Classical名無しさん:08/12/05 21:59 ID:JBunjHAs
一分切った!!
645漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:00 ID:.7rJ6qsQ
みなさん、お待たせしました。これより漫画ロワ最終話投下開始します!

……テキスト換算で200kbを越えてしまいましたので、どうか支援の方よろしくお願いいたします
646Classical名無しさん:08/12/05 22:00 ID:8XKdNB1o
支援一番乗りだ!
647Classical名無しさん:08/12/05 22:00 ID:cWK007Rg
支援!
648Classical名無しさん:08/12/05 22:00 ID:JBunjHAs
覚悟はいいかって?
もちろん出来てる!!
649Classical名無しさん:08/12/05 22:00 ID:JnRt7.pY
支援2番手だぜ!
650Classical名無しさん:08/12/05 22:01 ID:q9ihjX2M
  
651Classical名無しさん:08/12/05 22:01 ID:EghtQrpU
支援のファーストブリット!!!
652Classical名無しさん:08/12/05 22:01 ID:P0vpB80Q
653漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:01 ID:.7rJ6qsQ
暗闇大使対三影英介ことタイガーロイド、この二者の戦いに介入する事はほぼ不可能である。
強化外骨格「霆」を纏った葉隠四郎はその与えられた権限を行使し、コマンドロイド、そして怪人達の指揮権を一時的に暗闇大使より預かりうける。
実際はそんなにややこしい話でもなく、暗闇が指示を出せなくなってしまった為、より低位の指揮権を持つ四郎がそれを行使しているだけなのだが。
パピヨンを自らが押さえつつ、コマンドロイドと怪人により包囲網を形成。
神の間の広さは十二分、戦闘を行う暗闇と三影から距離を取りながらも遠巻きにパピヨンと四郎を取り囲むように配置する。
パピヨンをあしらいながら四郎はほくそ笑む。
パピヨンの継戦能力が低い事は知っている。ならば、コマンドロイドや怪人を使い疲労させてから倒すが上策である。
そんな四郎の考えがわかっているのかいないのか、パピヨンは四郎の攻撃を右に左に大きくステップしながら、かわし続ける。
格闘技術においては四郎が格段に勝っている。
にも関わらずそれのみで決定打となりえないのは、単純にパピヨンが踏み込んで攻撃するような真似をせず、後退し、或いは大きく横に跳んで接近戦を避けているからにすぎない。
十六度目の斬撃をパピヨンが大きく後方に跳んでかわした時、四郎は追撃の手を緩めた。
これで詰みだ、と四郎が確信したその時、包囲網の一角で爆発が起きる。
「悪足掻きを。今更気付いても遅いわ」
爆煙に向かって飛び込むパピヨンと、四郎の指示通り包囲網を狭めながら追いすがり、又その行く手を阻まんと立ちふさがるコマンドロイドと怪人達。
核鉄による爆発規模は四郎も把握している。
これだけでは数体を吹き飛ばすのがせいぜい。ならば包囲を抜けるは不可能なり、と高をくくっていた。

「馬鹿が……武装錬金」
余りに短慮すぎる四郎の思考に、パピヨンは内心げんなりとしていた。
腕っぷしだけの敵など、まともに相手してやる気すら起きない。
ニアデスハピネスを解除すると同時に、サンライトハートを顕現させる。
サンライトハートの突進力を、こんなザコ程度で止められるはずもない。
これを持つパピヨンを包囲するという事自体がナンセンスなのだ。
槍から噴出す炎を身に纏い、一直線に包囲網を突き抜ける。
654Classical名無しさん:08/12/05 22:01 ID:Txjn.UKY
支援開始!!
655Classical名無しさん:08/12/05 22:02 ID:58Xa.5Hc
 
656Classical名無しさん:08/12/05 22:02 ID:.QvmlbAw
し え ん
657Classical名無しさん:08/12/05 22:02 ID:JBunjHAs
倍支援だ……!
658Classical名無しさん:08/12/05 22:02 ID:4Q7pJ2wY
よろしい、ならば支援だ
659Classical名無しさん:08/12/05 22:02 ID:q9ihjX2M
    
660漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:02 ID:.7rJ6qsQ
どうやらこの場に居る怪人やコマンドロイドは優秀な個体を揃えているようだ。
サンライトハート突撃を真正面から受け止める間抜けもおらず、辛うじて数体の一部を引き千切るに留まる。
それでいい、こちらの狙いはそんなものではないのだから。

遠距離の火力に勝るタイガーロイドであったが、暗闇大使の仕掛ける近接戦闘に真っ向から応じていた。
暗闇の外皮に対し細かいレーザーは意味が無い。ある程度火線を集中した攻撃でなくば痛撃を与える事は出来ぬ。
拳による打撃に加え、断続的に太いレーザーを放って外皮の表面を削り取る。
片や暗闇は電磁鞭や硬い外皮に物を言わせた拳撃を用いてタイガーロイドを圧倒せんとする。
暗闇は自らの能力に絶対の自信がある故、ノーガードによる消耗戦を挑んだ。
その選択に誤りは無かった。
BADAN改造人間の中でも有数の強化を、その類稀な意思の力で行い続けてきた三影。
しかしそれは、力を信奉する集団で常にトップの座にあり続け、大首領から二度の復活を許される程の実力を持つ暗闇と比して、より高いものであるかと問われれば難しいであろう。
それでも三影は引かない。
強き信念、絶対的な意思の強さ、強固な目的意識において三影は暗闇のそれを上回る。
皮肉な事だが、三影の決して揺るがぬ決然としたあり方は、彼が最も嫌う仮面ライダーのそれに酷似していた。
戦闘スタイルにも現れる三影のそんな姿勢が、暗闇は心底気に入らなかった。
なればこそ圧倒的な力で蹂躙する。言い訳の余地も与えぬ。絶望の中で失意と共にこの世から消え去るがいい。
「タイガーロイド! 貴様が私に歯向かうなどオオオオオオおおおおううううううおおおおお!!」
侮蔑の言葉と共に近接距離からのミサイルを浴びせてやらんとしていた暗闇の横っ腹に、包囲網を突き抜けた勢いそのままにパピヨンがサンライトハートを突き刺した。
サンライトハートの突撃は留まる所を知らず、暗闇を突き刺したまま尚も飛翔を続け、轟音と共に壁面に叩きつける。
それ程の勢いでありながら、暗闇の外皮を完全に貫通する事も出来ずに居る事に気付いたパピヨンは、即座にサンライトハートを引き抜いて大きく後ろに飛び下がる。
「……こいつは村雨より面倒そうだな」
何をしようと壊れなかったゼクロスを思い出しぼやくパピヨン。
661Classical名無しさん:08/12/05 22:03 ID:JBunjHAs
支援だ
662Classical名無しさん:08/12/05 22:03 ID:GlqyXV/k
支援!
663漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:03 ID:.7rJ6qsQ
タイガーロイドは不愉快そうに顔を歪める。
「キサマ……何の真似だ」
視線だけで射殺されそうなタイガーロイドのそれを無視し、神の間全体を見渡すパピヨン。
思惑が外れて舌打ちをする四郎。
突然の不意打ちに憤怒の表情を見せる暗闇。
四郎の指示に従い、暗闇大使とタイガーロイドの側には近づかず、遠巻きにこちらを包囲しているコマンドロイドと怪人達。
どれもこれも、脳細胞の数がパピヨンの十分の一にも満たないだろう、間抜け顔だ。
「いやな、一つやり忘れた事を思い出しただけだ」
だだっ広い神の間全体に満ち溢れるパピヨンへの殺意にも動じる所は無い。
帝王に相応しいと自らが信じる傲慢不遜な態度で、胸を張り、顎を反らしてタイガーロイドを見下ろす。
「何だと?」
「お前、俺よりも強いと思っているだろう? そんな致命的な勘違いをされたままでは、今後色々と迷惑なのでな」
タイガーロイドに冗談は通じない。これでパピヨンはこの広間に集まった者全てと敵対する事になった。
一際温度の低くなった、いや高くなったタイガーロイド周辺の空気を感じ取っていないのか、パピヨンは軽快にステップを踏む。
「いいぞ俺はいつでも。その代わり一つだけ忠告しておいてやる。やるのなら全力で来い。手を抜いたせいで負けたなどと言い訳されるのも鬱陶しいんでな」
四郎は事の次第が飲み込みきれず、静観の構えを取る。
そして暗闇大使は……
「この私を愚弄するか……ワームごときが……」
壁面に埋め込まれた体を引きずり出すのも忘れ、全身を震わせている。
事の重大さを理解していないかのように気安く、人を食ったような笑みで手招きをするパピヨン。
「どうした三影、やるんならさっさとしろ。まだまだ処理しなければならない事は多いんだ、お前の相手をしてる時間もそんなにはやれんぞ」
三影英介は決して低い知能の持ち主でもないし、力を信奉してはいるがやみくもに武を振り回すような品性に欠ける男でもない。
しかしパピヨンには何か狙いがあると読めても、手加減をしてやる気も、敢えてその読みを外す気にもなれなかった。
「……時間は取らせん。一瞬で消し去ってやる……」
タイガーロイドの毛並みが揺れる。
今度は比喩で無しに、タイガーロイドを覆う大気の温度が跳ね上がる。
664Classical名無しさん:08/12/05 22:04 ID:.MmntAuA


665漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:04 ID:.7rJ6qsQ
両の足を支える床から煙が上がり出したのは、神の間の床が燃え出したせいか。
急激な温度変化により気流が生じ、タイガーロイドから周囲へと吹き付ける。
熱風を正面より浴びながら、パピヨンは尚、笑う。
その笑みに費やされた努力は、余人には理解しえぬだろう。

「俺を蘇らせた礼だ。刹那の時すら感じず死ね」
「撃て秀!」

パピヨンの怒声に重なるように、タイガーロイドがその口を開く。
溢れる光の奔流、迸る咆哮、神の間は輝きに包まれた。



「私も……っ!」
みなまで言わせずかがみの口を手で塞ぐ村雨。
「頼むから大声を出すな。距離があるとはいえ気付かれないとも限らない」
通路の先、50メートル程行った先で開けている広間からは間断ない戦闘音が響いてきている。
かがみがその状態のままでこくこくと頷くのを見て、村雨は手を離す。
すぐに今度は囁くような声で喚き出した。
「だからっ、私も行くわよ」
つられて村雨も小声で囁く。
「今は争っている場合じゃないから正直に言う。あの先の開けている場所から漂う気配は異常だ。少し戻った所に部屋があったから、そこに隠れていてくれ、頼む」
村雨の言わんとする事はかがみにも理解出来ている。
戦闘力に欠くとはいえ、柊かがみもまた激戦の最中を潜り抜けてきたのだ。
ましてや今は敵本拠地の中、緊張を切っていないかがみの危機感知能力は常人を遙かに凌ぐ。
村雨だけではない、かがみも又あの広間から漂う並々ならぬ気配に気付いていたのだ。
666Classical名無しさん:08/12/05 22:04 ID:hxYhCyGw
しえーん
667Classical名無しさん:08/12/05 22:04 ID:JBunjHAs
誰か次スレの準備を支援
668Classical名無しさん:08/12/05 22:04 ID:Txjn.UKY
支援の時間って奴だ!
669漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:04 ID:.7rJ6qsQ
足手まといにはなれない。しかし、ただ守られるだけの存在では同じ事なのではないのか。
せめて弾避けぐらいには、とも思っているのだが、村雨は決してそれをかがみに許さないだろう。
とにかくまずは様子を見てくるという村雨の言葉に、かがみはすぐに頷けない。
最後の決戦ですら足手まといではここに来た意味が無いではないか。
何時に無く頑なになるかがみだったが、村雨も決して譲らず無駄に時間ばかりが浪費されていく。
「……」
「ダメだかがみ」
ぐっと両肩を掴んでかがみを押しとどめる村雨。
「……」
「だから、ダメだと言っている」
俯き、右手で左腕をぎゅっと握り締めるかがみ。
「……」
「頼むから聞き分けてくれ。そんなに押されても俺は折れる気は無いぞ」
不意にすいっと顔を上げる。
「……私、押したりしてないけど」
「何?」
ふと気が付くと、二人の体は密着せんばかりに接近していた。
「きゃっ!」
「え、おっと、す、すまん」
慌てて飛びのくかがみと村雨。
しかし、かがみはその場から動かず、逆に村雨は大きく後ろに飛びすぎたせいで転びそうになる。
「あれ?」
「何だ?」
顔を見合わせる二人の隣を、床に置いていたデイバックが通路の奥へとずりずり滑っていく。
「何……これ?」

ソレは突然襲ってきた。
670Classical名無しさん:08/12/05 22:05 ID:q9ihjX2M
  
671Classical名無しさん:08/12/05 22:05 ID:EghtQrpU
SIENN
672漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:05 ID:.7rJ6qsQ

真横に引きずられる感覚、否、真横に落ちる感覚だ。
そうと認識するのにかがみは数秒の時を要した。
しかし改造人間である村雨の動きは早かった。
二つのバックを片手で拾い、もう片方の手にかがみを抱えると元来た通路、つまり上の方へと駆け上がっていく。
途中通路よりも突起の多い壁面を走った方が良いと気付き、そちらに切り替えてからは早い。
あっと言う間に村雨が先ほど言っていた、少し戻った所にある部屋へと辿り着く。その頃には完全に90度床がズレていた。
扉を力づくでこじ開けて、入り口に立つ二人。
「どうなっている?」
「罠とかかな。ほら侵入者を追い出すーってよくそういうのあるじゃない」
「なるほど、だが一つ解せない点がある」
「ん?」
上の方から悲鳴と共に降ってきた物体が一つ、二つ、三つ。
かがみと村雨の眼前を通り過ぎたそれは、おそらく怪人の類と思われた。
落下に釣られるように目線を落とす二人。
三体は下部の広間まで落ちていきあっと言う間に見えなくなった。
生唾を飲み込むかがみ。
「そうね、味方まで巻き込む罠ってのも変な話よね」
村雨からの返事は無い。
ただひたすらに下を見下ろすその顔は、既に敵と対峙している時と同じ物であった。
現実的な話、この状態ではかがみが向こうに行く手段も無い。
目を瞑り、大きく息を吸い込む。
「村雨さんごめんね、わがまま言っちゃって。私はここで待ってるから」
すぐにも飛び出していきたい、そんな気配が全身に漂っていたのだが、村雨はそれでも一度だけかがみの方を向いた。
「すまん」
そう言い残し、垂直になった通路を駆け下りていった。
その後姿に、かがみは切なげな視線を送る。
673Classical名無しさん:08/12/05 22:05 ID:ONRLKnls
支援する
674Classical名無しさん:08/12/05 22:06 ID:GlqyXV/k
支援
675Classical名無しさん:08/12/05 22:06 ID:P0vpB80Q
676漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:06 ID:.7rJ6qsQ
「……どうか、無事で」



パピヨンの行動は素早く、的確であった。
サンライトハートを地を嘗めるように走らせ、その柄を掴みながら高速でタイガーロイドへと接近。
同時に右腕で盾のような何かを掲げて頭部を斜めに覆う。
タイガーロイドの真正面から放たれた光線は、放射状に数十センチ伸びた後、直径4メートル程の強大な束となりまっすぐに伸びていく。
その進路を妨げる床や壁は、ほんの数秒も保たず溶解し尚もその前に立ちはだかり続ける内壁が、一枚、また一枚と消滅していく。
室内の温度が加速度的に跳ね上がる。
まっすぐ頭から飛び込む形でこれに真っ向からつっこんでしまったパピヨン。
盾をかざしているとはいえ、その大きさで全てをカバーしきる事も当然不可能。
まるで溶鉱炉にでも飛び込んだような灼熱感が全身を襲う。
視界はその全てが輝きに包まれ、まともに目を開けている事も出来ない。
サンライトハートがまっすぐ目指した方向へと向かってくれているのか、それすら確認しようがない。
チャンスはほんの一瞬しかない、それをこんな悪条件下で為し得るのか。
不意に視界が真っ暗に戻る。
ダメだ、これでは位置の特定は不可能。
後は自分の距離感のみが頼りとなる。
闇雲にではない、集中し、研ぎ澄まされた感覚に従って腕を伸ばし、対象に触れる。

良し! 掴んだ!



あらん限りの力を込めて放った光線。
前へと飛び込むパピヨンの動きも把握していたが、構う事はない。
677Classical名無しさん:08/12/05 22:06 ID:hxYhCyGw
 
678漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:06 ID:.7rJ6qsQ
この出力を止めるなぞ、仮面ライダーとて至難であったのだから。
光線が止められている気配は無い。
ならば既に消滅しているはず、そう考えた矢先、足元に槍の穂先が見えた。
全力の光線を放っている真っ最中だ、如何にタイガーロイドとてこれをかわす事など出来るはずがない。
しかし、光線の最中を通ってきたせいか、槍は僅かにタイガーロイドからそれていた。
この勢いならば真後ろに突き抜けて行く。
そう読んだタイガーロイドが振り返ろうと全身にそう指示を下した時、周囲を把握する全ての感覚が狂った。
何が起こったのか理解出来ない。
改造人間たるタイガーロイドが現在位置を見失うなど、万に一つもありえぬ話だ。
しかし現実にタイガーロイドの所有する全ての感覚器が告げていた。
本来ありえない位置に自分が居る、と。
しかしそれによる混乱は無かった。
それならばそれで良い。位置は変わったが、場所は神の間だ、変わっていない。敵はここの何処かに居る。
ならば当たるを幸いなぎ倒すまで。
タイガーロイドは全身に力を込め反動の支えとしつつ、可能な限りの速度で後ろへと振り返る。
全力の光線を放ちながら。



神の間を覆う輝きが全て消えうせ、立ち上る煙と焼け焦げた異臭が室内を漂う。
広大な室内を炭化した煤の帯が一直線に走っている。
幅5メートルの帯はタイガーロイドを囲んでいたコマンドロイド、改造人間達全てを消し飛ばしており、この場に立つ者はタイガーロイドのみとなっていた。
油断無い目で視線を部屋の奥へと移す。
全てが塵となって消えうせた室内に、未だ原型を留めたその二つを確認せんが為。
壁面に叩きつけられ、倒れ臥す鎧姿の男。
壁面にめり込んだまま、全身を煤の帯と同じ色に染め項垂れたままピクリとも動かぬ怪人。
679Classical名無しさん:08/12/05 22:06 ID:4Q7pJ2wY
 
680Classical名無しさん:08/12/05 22:06 ID:q9ihjX2M
 
681Classical名無しさん:08/12/05 22:07 ID:.MmntAuA


682 ◆VACHiMDUA6 :08/12/05 22:07 ID:7n7xCXQY
最終回支援ッ!
683漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:07 ID:.7rJ6qsQ
この一瞬に何があったのか、三影は既に把握していた。
険しい表情のまま、この惨劇のコーディネーターであるもう一つの物体、三影の背後を飛びまわって難を逃れたパピヨンへと振り返る。
小賢しいこの男は、先ほど挑発してきた時と同じ、気色の悪い薄ら笑いを浮かべていた。
「証明完了だ。良かったな、消えた先がすぐ側で」

パピヨンが手に持っていた道具、おそらく核鉄ヘルメスドライブであろう。
その力を用いて三影をテレポートさせる。
パピヨンを見失った三影は、移動先が同室内であると察し、ならばとパピヨンが突き抜けていったであろう先に向けて光線を向ける。
その過程で、ザコ達に加え、鎧男、暗闇大使をその光線の餌食とする。
加えて奴の言う通り、テレポート先を自在に操れるというのなら、三影は先ほどの接触で命を落としていたかもしれない。
「フン、キサマの性能で近接戦闘など愚の骨頂だ。もう少し戦術というものを考えたらどうだ」
三影は嘲笑するパピヨンを無視し、部屋の入り口、そこだけは光線を決して向けなかった場所へと首を向ける。
「秀、その銃に暗闇を足止めする程の力があるのか?」
三影が移動した先、もっと言うと移動した時光線の軸線上に鎧男は居た。それゆえ避け切れなかったのはわかる。
しかし暗闇は壁面から抜け出そうとしていた所だ。
奴ならば光線をかわす事も、その隙に踏み込んで来る事も出来たはず。
それを抑える何かがあるとしたら、パピヨンがあの瞬間叫んでいた秀への呼びかけのみ。
秀は嬉々として自らの戦果を語る。
「お、おおよ! 見てくれたか兄貴! 暗闇の首輪をぶちぬいた俺の腕前! はははっ! あの野朗首輪が爆発して泡食ってやがったぜ!」
良く見てみると倒れる暗闇の首、下顎、両肩の内側は大きく抉り取られており、子供が一押しした程度で簡単にへし折れてしまいそうだ。
秀の言葉に驚いたのはパピヨンである。
「何? 牽制程度という意味だったんだが……アイツの首輪爆弾入りだったのか?」
「そりゃそうだろ。普通首輪には爆弾がついてるって……あ」
そこで秀もようやく気付く。スタンドや核鉄の使用を考えるのなら、爆弾を抜いた首輪を使えばいいだけの話だ。
伊藤博士決死の仕掛けを知らないパピヨンは、万感の想いを込めて呟いた。
「暗闇と言ったな。お前……底抜けのバカだろ」
684Classical名無しさん:08/12/05 22:07 ID:ONRLKnls
支援愛
685Classical名無しさん:08/12/05 22:07 ID:q9ihjX2M
    
686Classical名無しさん:08/12/05 22:08 ID:hxYhCyGw
  
687Classical名無しさん:08/12/05 22:08 ID:JBunjHAs
   
688漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:08 ID:.7rJ6qsQ
パピヨンが次なる行動へと移ろうとした矢先、全身に負荷がかかり、タイガーロイド、パピヨン、秀の三人は大きく吹っ飛ばされた。



葉隠覚悟は自らの役割を正しく理解していた。
単身にて突貫、BADANの戦力を根こそぎ削り取る事だ。
無論その戦力の中には大首領や幹部達も含まれる。
だから覚悟は声を限りに叫び続ける。
「どうしたお前達! もっと強い者は居ないのか! この俺を止められる奴出て来い!」
サザンクロスの中央部と思しき大きく開けた場所にて、声を張り上げながら断続的に襲い来る敵を次から次へと薙ぎ倒す。

司令室は混乱の極みであった。
局地的に通信網が途切れている箇所がある為、直接人員を派遣しつつ状況を確認しているのでどうしてもタイムラグが生じてしまう。
そもそもこの広大なサザンクロス全てをカバーしきれる程の人員も居ないのだ。
更に侵入者達が想像もしなかった速度でBADANの戦力を削り取っていく為、各部署へのフォローが追いつかない。
暗闇よりここの管理を任されているコマンダーは、随分前から落ち着きを失っていた。
「報告します! D-3セクションにてカマキロイド様遺体にて発見!」
「報告します! 叛意アリとの報告があったジェネラルシャドウ様、仮面ライダーゼクロスにより討死!」
「ほほほ、報告しますっすすっ! ジゴクロイド様とカニロイド様本当にやられちゃったみたいですよおおおおお!! どうしましょー!」
最後の報告をしてきたバカに頭突きをくれてやりつつ、余りの状況の悪さに歯噛みする。
「三バカの遺体回収急がせろ! それと暗闇大使様に報告に行った奴はまだ戻らんのか! 指示無しで好きにやっていいとでも言うのか!?」
オペレーター席の人間が悲鳴を上げる。
「暗闇大使様の所には既に五度の報告を行っておりますが、音沙汰ありません!」
実は報告に行った怪人やコマンドロイドは、四郎の指示でその指揮下に収まってしまった為、折り返しの報告が来ていないだけである。
報告ではなく増援とでも勘違いしている模様。
689Classical名無しさん:08/12/05 22:08 ID:paFX1iE6
支援です
690 ◆VACHiMDUA6 :08/12/05 22:08 ID:7n7xCXQY
 
691Classical名無しさん:08/12/05 22:09 ID:hxYhCyGw
      
692Classical名無しさん:08/12/05 22:09 ID:P0vpB80Q
693Classical名無しさん:08/12/05 22:09 ID:q9ihjX2M
 
694漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:10 ID:.7rJ6qsQ
そもそも怪人やコマンドロイドをそれに当てるのが本来のあり方からズレているのだが、所在不明の侵入者が居る以上この処置は譲れない部分だ。
『BADANとはこの程度か! 衆を頼るのみならば犬畜生にも劣るぞ!』
まだ生きているモニターから侵入者葉隠覚悟の挑発が聞こえてくる。
「ええいくそっ! あの馬鹿を黙らせるぞ! 第二から第五ラボに通達! 開発途中のXナンバーがまだ大量に残ってるはずだ! それを出させろ!」
先ほど悲鳴を上げたオペレーターが仰天して止めにかかる。
「ままま待って下さい! そんなマニュアルにも無いような事したら……」
「バカヤロウ! これ以上好きにさせておく方がよっぽど恐いだろうが!」
コマンダーの内心ではこの数百倍の罵声が飛び交っている。
『普段あれだけ偉そうにしておきながら、幹部連中がどいつもこいつも役立たずってなどういう事だ! まともに戦況判断が出来る奴すら居ないじゃないか!』
本来指揮を任される立場の者、三バカは勝手に飛び出して早々に倒され、パピヨン騒ぎの時はあれだけ動いてくれたプッチ神父も行方知れず。
怪人を率い慣れているジェネラルシャドウはサザンクロスに帰還するなり好き勝手な事を始めた挙句、倒されてしまった。
特に冷や飯を食わされていたとはいえ、ジェネラルシャドウの指揮能力はここ一番でアテにしていただけにダメージが大きい。
何時もならこういう騒ぎには率先して動くはずの暗闇大使も神の間から動こうともしない。
こうなってくると、外様でさしてアテにもしていなかった葉隠四郎ですら居て欲しいと思えてくる。
コマンダーに与えられた権限のみでこの事態に対処するのは最早限界である。
「暗闇大使様には後で俺から事情を説明する! いいからさっさと言われた通りにしろ! それと葉隠覚悟の包囲は足止め程度にするよう伝えておけ! ラボからの増援来る前に全滅しましたじゃ話にならんぞ!」
BADANという組織の戦闘力至上主義とも言うべき性格上、上の立場にあるからといって部下や任務への責任感が伴うとは限らない。
しかし、そんな中であっても果たすべき役割に対して責任感を持って事に当たる者も居る。
大抵そういう者が貧乏くじを引くハメになるのは、何処の世界でも一緒であるが。
暗闇大使に目をかけられ、コマンダーの改造を受けた彼も、そんな中の一人である。
695Classical名無しさん:08/12/05 22:10 ID:gdJJCcyc
支援!!!
696Classical名無しさん:08/12/05 22:10 ID:ONRLKnls


697Classical名無しさん:08/12/05 22:10 ID:.QvmlbAw
支援してやんよ
698 ◆L9juq0uMuo :08/12/05 22:10 ID:.MmntAuA


699Classical名無しさん:08/12/05 22:10 ID:7n7xCXQY
さあ唱えよう、『支援ッ』
700Classical名無しさん:08/12/05 22:10 ID:GlqyXV/k
三バカw支援
701Classical名無しさん:08/12/05 22:11 ID:hxYhCyGw
   
702漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:11 ID:.7rJ6qsQ
暗闇大使の秘書のような役目、雑務や管理業務の補佐を引き受けていた彼は、確かに現状のBADANを指揮運営する知識も能力もあったのだろう。
だからこそ何人か居るコマンダー達の中から、自然と彼がここの指揮を引き受ける事になったのだ。
コマンドロイドの上に、より優秀な改造を施されたコマンドロイドのエリートがおり、それを指揮するべく最上位のコマンドロイドがコマンダーと呼ばれる。
である以上、当然コマンダーには集団を束ねる力が求められるが、実際は改造適正の問題が重要視される為、指揮能力に劣る者も多い。
そういうコマンダーは率先して自らが前線に立つ事でその優位性を証明しようとするので、むしろ指揮官としては劣悪な部類に入る。
彼は数少ないというよりほぼ唯一と言っていい「コマンダー」の名に恥じぬ改造人間であった。
今回の侵入者達による混乱に際し、ローテーションで回していた司令室内の人員を、高い判断能力を有しているこの手の作業に長けた者のみとしたのも彼である。
残念な事に、他のコマンダーではそもそも誰がこういった作業に向いているかの判断すら出来ないのだ。
彼は思う、せめて後半年もらえれば、サザンクロス内は完璧に仕上げて見せたのにと。
しかしそれを言っても詮無き事だというのもわかっている。
侵入者達もBADANも限られた条件の中でやりくりしなければならないのは一緒なのだから。

頭を振って思考を戦場へと戻す。
盗聴を行っていた監視員に状況を確認した所、葉隠覚悟、仮面ライダーゼクロス、ジョセフ・ジョースター、才賀エレオノール、服部平次、桂ヒナギク、柊かがみの七人が生存している可能性が高いとの報告を得た。
これにパピヨンを加えた総数八人による襲撃。
数だけ見るならば正気を疑う所だが、資料によると葉隠覚悟、仮面ライダーゼクロス、ジョセフ・ジョースター、才賀エレオノールの四人はこちらの改造人間を軽く凌駕する戦力の持ち主との事。
現に虎の子の暗闇三兄妹はあっさりと倒されてしまっている。
非常に危険な人物の侵入を許してしまっている上、その所在がはっきりしているのは葉隠覚悟のみ。
この男はそもそも隠れるだの逃げるだのする気がまるで無いらしく、こちらから発見しやすい場所を選んで移動しているフシもある。
703Classical名無しさん:08/12/05 22:11 ID:Txjn.UKY
コマンダーカッコいいぜ……!
704漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:12 ID:.7rJ6qsQ
「探索部隊は一刻も早く残った連中を探し出せ! だが、絶対に手出しするんじゃないぞ! こちらからの指示を待つよう厳命しておけ!」
彼等の破壊工作のせいか、通信や監視のシステムは軒並み絶不調。
司令室に居る二十人の内、半数はその復旧にあてなければならない始末。
「連中の立場からすれば、こちらの体制がここまでボロボロだなんて予想すら出来ないはずなんだが……こちらの内情を把握していたとでもいうのか?」
裏切り者になりそうな奴の心当たりは、実はごまんといる。
恐怖によって不満を押さえつけているBADANは、常時この手のリスクに付き纏われなければならないのだ。
一度自身も落ち着きを取り戻す為、司令室の椅子に腰掛ける。
幹部専用の豪奢な椅子は部屋の奥に移動してあり、彼が座っているのは車輪のついた簡便な椅子だ。
深く腰掛けると、その勢いだけでタイヤが回り、椅子は後ろへと流れていく。
子供みたいな真似をしていると気付いて、足を使って椅子を止めるが、何故か椅子の勢いが止まらない。
「ん?」
むしろ、どんどん勢いが増している気がする。
「何だ?」
と思っていたら、一気に来た。
凄まじい勢いで椅子ごと真後ろに引っ張られるコマンダー。
背後の壁との距離を後ろもみずに測りつつ、椅子に座ったまま壁に対して受身を取って、衝撃を緩和する。
「何が起こっ、ぶほっ!!」
顔の上に何か丸くて硬い物が降ってきた。
首の力だけでそれを振りほどいて起き上がると、隣には前の方の席に座っていたはずのオペレーターの女の子の姿があった。
彼女のお尻が顔面に乗っかっていたらしい。
「す、すみません司令代理!」
頬を染めながら、そう言って飛びのいた彼女。
コマンダーは思った。
『……そういう仕草するんならせめて変身前にやってくれ。その格好でやられてもむしろ恐いぞ』
彼女は落下の最中にコマンドロイドへと変身したらしかった。
705Classical名無しさん:08/12/05 22:13 ID:JBunjHAs
支援ッッ!!
706Classical名無しさん:08/12/05 22:12 ID:.QvmlbAw
かっこよすぎる……!
707漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:12 ID:.7rJ6qsQ
見渡すと、ほとんどのオペレーターがコマンダーと同じく壁面に張り付いている。
改造により人を超える精緻な三半規管を持つに至ったコマンダーは、この現象をこう結論づけた。
「うろたえるな! おそらく暗闇大使様がサザンクロスを動かしでもしたのだろう! いいからお前らは任務を続けろ! 司令室の端末はこの程度でどうこうなるほどヤワな作りはしていない!」
オペレーター達は指示に従って自らの担当端末へと飛びあがる。
『資材ケチらず見た目優先、床面接地タイプの端末にしといて良かった……』
司令室改装責任者でもあったコマンダーは、今は床ではなく壁面接地タイプとなった端末に足なり腕なりの力だけで張り付きながら必死の形相で作業を続けるオペレーターを眺めつつ、ほっとため息をついた。



タイガーロイドとパピヨンの二人にそれぞれ腕を掴まれる形で、秀は床と化した壁面へと着地する。
「な、何だこりゃ! 一体全体何が起こって……」
「喚くなやかましい。三影、お前もうエネルギー残量が少ないだろう。こいつを服用しておけ」
パピヨンは錠剤と呼ぶには少し大きすぎる、大人の握り拳程もある得体の知れない塊を三影に渡す。
タイガーロイドの姿から変身を解いていた三影は、何も言わずにそれを受け取る。
「お、おいパピヨン! お前また兄貴に変な事させる気じゃ……」
「だからやかましいと言っている。体に害もあるし、副作用もヒドイが、役には立つ。いいからさっさと飲め」
何かする度に出てくる秀の常識的な言葉が、余程鬱陶しいのか皆まで言わないパピヨン。

三影もパピヨンを信用しているわけではない。
もちろんさっきのあれで自分が敗れたとも思ってはいない。
まるでペテンのような戦闘スタイルは、三影の価値基準からすれば脆弱の証と切って捨てるような代物だ。
だが、それにより三影の全力攻撃を凌ぎつつ、広間に居た連中を壊滅させてみせたのも事実。
役には立つ。
それに三影の体に何かを仕掛けようとしていると考えたとしても、そもそも再生の段階でそのような真似をする機会は幾らでもあったはず。
今更警戒なぞ無意味だ。
708Classical名無しさん:08/12/05 22:13 ID:q9ihjX2M
   
709Classical名無しさん:08/12/05 22:13 ID:Txjn.UKY
支援だ!!
710漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:13 ID:.7rJ6qsQ
奴が何を考えようと、三影は自分のやりたいようにやるだけだ。
即ち、大首領復活。
伝え聞いた限りでは、BADANは厳しい状況に陥るかもしれないと予想出来る。
しかし、そんな不利も大首領さえ蘇れば一撃で覆る。
ならばその為に、残された時間の全てを費やし、最後の最後まで駆け抜けるだけだ。
秀が慌てふためくのを他所に、パピヨンから預かった錠剤を噛み砕く。
全てを嚥下し終えても特に変化があったようには感じられない。
「これは何だ?」
「ママの味スペシャル圧縮Verだ。体積1/100まで圧縮したよーなシロモノを消化出来るのは改造人間ぐらいだろう」
今まで散々嫌味やら文句を言われてきたが、本気で嫌だと思った事はこれが始めてだ。
それが顔に出てしまったらしい。パピヨンは大層満足気であった。
不意にパピヨンと三影が上を向く。
「よりにもよってアイツか。また鬱陶しいのが来るものだ」
「来たか……」
通路であった竪穴から飛び出してきた影。
彼は下で待ち構えていた三人以上に驚いていた。
「パピヨン! ……それに、お前……まさか三影か!?」
秀が恐怖に歪んだ顔で銃を構えた。
「て、てめえはゼクロス! 仮面ライダーゼクロスだと!?」



赤木シゲルはちょうどいい具合に飛び出した壁面の突起に腰をかけている。
手馴れた仕草でタバコを取り出し火をつける。
肺の奥いっぱいにまで吸い込んでから吐き出すと、気のせいだろうと思うが、疲労が僅かばかり軽減された気になる。
真上を見上げると、まるで先の見えない闇が広がっており、次に真下を見下ろすと、やはりそちらも闇に包まれ先が見えない。
この薄暗い照明にはどんな意味があるのだろう。
711 ◆hqLsjDR84w :08/12/05 22:14 ID:hxYhCyGw
よし、自分も鳥つけようかw
712Classical名無しさん:08/12/05 22:14 ID:P0vpB80Q
713漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:14 ID:.7rJ6qsQ
ただただ不安を煽るだけの作りも、改造人間である連中にはさして不便は無いのかもしれない。
最もこうやって暢気に座っている赤木シゲルから、不安に駆られているような様子は露程も見受けられないのだが。
「……サザンクロスが動いたか?」
重力が完全に傾き直角にズレてくれたせいで、通路が長大な竪穴となってしまい、身動き取れなくなってしまった赤木はそう呟く。
近くに隠れられるような部屋も、歩いて移動出来そうな横道も無い場所でこれを喰らった赤木は、こうして出来た時間を素直に休憩に当てる事にした。
本来この時間でまだ赤木が手にしていない情報を入手しなければならないのだが、このようなハメになってしまった。
ツキの流れが変わった。
それを早速実感している赤木であったが、当人は何処噴く風とばかりにタバコをふかす。
サザンクロスに乗り込んだ招かれざる客で、ここまでマイペースなのは後にも先にも赤木シゲルただ一人であろう。



「ゼクロス、お前は何の為にここへ来た?」
感情の波を感じない、抑揚の少ない声でそう訊ねるのは三影だ。
過去にパーフェクトサイボーグと化した三影は、代わりに言葉を失った。
しかし今回はそういった副次作用は無い模様。
村雨が以前に出会った三影は、まだ人間を感じさせる部分があった気がする。
しかし今の色素が失われた三影からは、ヒトであった頃の様々な物が失われている気がする。
「……俺は仮面ライダーだ。人類を守る為、BADANを倒す為、ここに来た」
三影の聞きたかっただろう事、全てに答えるゼクロス。
「そうか……」
村雨は知らないが、三影は過去にも村雨に拒否されている。
その後、仮面ライダーとしての村雨と凌ぎを削りあい、そして破れた。
「なら、またやるかゼクロス」
「俺はお前とは戦いたくない! 頼む三影! 俺と一緒に……」
「それ以上言うな」
714Classical名無しさん:08/12/05 22:14 ID:ONRLKnls
支援しても良いですか?
715漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:14 ID:.7rJ6qsQ
三影の瞳に決して譲りえぬ信念を、村雨は見た。
それは善悪を超越した男の決意だ。
友とさえ思った相手との死闘を一息に飲み込める程、まだ村雨も成熟しきってはいない。
それでも、目を瞑って言葉を堪え、そして再び開いた時には三影のありようを受け入れていた。
「……わかった。なら戦おう三影」
「そうだ、それでいい」
眉一つ動かさない三影が、村雨は何故か笑っているように思えてならなかった。

村雨良という男の性格を、パピヨンは全て把握してはいない。
それは三影に関しても同様だが、そんな二人の、二人のみに通じるはずのやりとりが、パピヨンには理解出来た気がした。
知らずカズキの核鉄を握り締める。
「秀、俺は研究室を探す。お前はこいつらのケリが着くまで避難していろ」
「な、何言ってんだよ! 俺だって兄貴と一緒にたたか……」
「邪魔をするな」
さして強い口調ではない、しかしそう言ったパピヨンの表情が秀からそれ以上の抗弁を奪い去る。
「邪魔だけは……してやるな」
再度呟く言葉に、完全に押し黙る秀。
かつて三影とゼクロスの闘いに乱入した時に聞いた、三影のまるで焦れるような言葉を思い出したのかもしれない。
素直に銃を降ろす秀に、パピヨンは手持ちのバッグから大きめのヘルメットを放り投げる。
「使え。ヘルメスドライブの代わりだ。それでせめても足手まといにならん程度にはなっておけ」
被るだけで人の身でありながら、強靭な肉体を得るライダーマンのヘルメット。
貴重なはずのそれを惜しげも無く秀に渡すと、パピヨンは脇に伸びるこちらは歩いても移動出来る通路へと向かう。
三影はパピヨンの去り際にぽつりと呟く。
「礼は言わんぞ」
「いらん。結果で示せ」
とんっと大きく跳躍し、通路の入り口へと着地する。
そこで一度だけ振り返ると、既に三影も村雨もこちらを見ていない。
716 ◆vPecc.HKxU :08/12/05 22:15 ID:4Q7pJ2wY
支援!
717Classical名無しさん:08/12/05 22:15 ID:hxYhCyGw
    
718漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:15 ID:.7rJ6qsQ
お互いの気が最高潮に振り上がるのを待ち、決着を着けるつもりだろう。
視界の隅にはバイクが二台転がっている。
一台は突然重力がおかしくなった時、通路から降ってきたもの。これはおそらく村雨のものであろう。
もう一台はパピヨンが乗ってきたものだ。
村雨はバイクを用いた戦闘にも長けている。もし村雨がそれを使うのなら、ヘルダイバーを残しておけば三影も同じ条件で戦えるだろう。
「……我ながら大盤振る舞いが過ぎるな」
自嘲気味にそう呟いて道を行こうとしたパピヨンは、突如襲い来た平衡感覚の乱れを察知すると同時に大声を上げる。
「避けろ秀!」



突然の重力変化による隙をつき、覚悟は一気に前線を前へと突き進める。
零の戦況予測によると、最初期と比べ攻勢が落ち着いてきているのは、次なる大攻勢への布石であり、その為の準備を後方にて行っているはずとの事。
後方にあるだろう戦力の一時集結地を体勢が整う前に強襲し、敵の目論見を打破する。
大きく開けた広間を戦場としていた覚悟は、零の指示に従い通路を疾風のごとく駆け抜ける。
零の解説により重力の向きが変わった事にも即座に対応出来た覚悟であったが、どうも怪人達はそうもいかない様子。
覚悟も零もてっきりこれもまた敵の策略とばかり思っていたのだが、何か別の力が働いた、そう怪人達の動きから推察している。
果たして零の予想通り、更に奥に抜けた場所に先の倍はあろうかという大きな吹き抜けの空間を見つける。
広間は多層式になっており、各層を繋ぐ通路が縦横に走るその空間に、続々と敵改造人間が集まり始めていたのだ。
「流石は零よ、見事な判断だ。ではここで大暴れと……」
そこで覚悟は言葉を切る。
大慌てで覚悟への陣形を組んでいる怪人達の後ろに、彼女の姿を見つけたせいだ。
「あれはまさかっ!?」
『待て覚悟!』
走り出そうとする覚悟を零が止める。
「何故止める零! あれは間違いない、ヒナギクさんだぞ!」
『否! 駆けるに及ばず!』
719Classical名無しさん:08/12/05 22:15 ID:P0vpB80Q
720Classical名無しさん:08/12/05 22:16 ID:hxYhCyGw
        
721 ◆VACHiMDUA6 :08/12/05 22:16 ID:7n7xCXQY
支ィィィィィイ援ンンッ
722漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:16 ID:.7rJ6qsQ
「何だと!?」
一瞬の躊躇の後、零は声のトーンを落として、一言一言はっきりとわかるように言った。
『……あれは、ヒナギクの遺体だ。彼女は既に……息絶えている』
頭をハンマーで殴りつけられたような衝撃。いや、例え巨大な鉄槌で覚悟を打とうとも、ここまでの衝撃を彼に与える事は出来ないだろう。
畳み掛けるように叫ぶ零。
『今は集結しつつある敵勢力撃滅が優先する! 気をしっかり持て覚悟!』
既に陣形の整った怪人達は、統制の取れた動きで覚悟に襲い掛かる。
しかし、零の言葉すら届かないのか、覚悟は呆然としたままヒナギクを凝視している。
怪人達も目に入らず、震える手を前にゆっくりと伸ばす。

そんな馬鹿な事があるか。
彼女はかの勇次郎を相手どってすら生きて戻った勇敢な戦士だ。
突入の際も怪人達相手に一歩も引けを取らず戦い抜いたではないか。
その彼女が、もう、動くことは無いと?
あの満開の桜のような笑顔を、二度と見せる事は無いというのか?

俺はまた零してしまったのか

取り返しのつかない大切なものを

何度も何度も零してそれでも飽き足らず

ここでもまた失うというのか


723Classical名無しさん:08/12/05 22:16 ID:Txjn.UKY
おぉ、村雨と三影……!
724Classical名無しさん:08/12/05 22:16 ID:JBunjHAs
覚悟……
あ、アカギにコメントがねえ
支援
725Classical名無しさん:08/12/05 22:16 ID:GlqyXV/k
支援!
726漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:16 ID:.7rJ6qsQ
ヒナギクさんの言葉は、いつでも俺を想っての言葉であった。

穏やかな時間では心安らぐ旋律となり

困難にあっては背筋を支える杖となり

自らの想いすら殺し、唯々俺の為にあらんとしてくれた

そんな健気で心優しい彼女が、このような悪鬼の群に囲み殺されたと?

衆を頼む卑劣漢共に蹂躙され、無念の内に倒れたと?

ルイズさんがそうしてくれたように、彼女もまた……俺の名を呼んでくれていたと?



怪人達の一体がヒナギクの遺体の上に着地し、ソレを蹴飛ばすように大きく飛びあがった時、俺は弾けた。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

絶叫と共に眼前に迫ってきた怪人を殴り千切る。

許さん、断じて許さんぞ貴様等! 肉の一片、骨の一欠けらすら残さぬ!

『よせ覚悟! 憎しみに身を委ねてはならん!』

ヒナギクさんの無念を! こいつら全員に思い知らせてくれる!
727Classical名無しさん:08/12/05 22:17 ID:8XKdNB1o

728漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:17 ID:.7rJ6qsQ

『落ち着け! それでは……』

ヒナギクさんにやった事を! 貴様等全員にやり返してやる! 全員にだ! 俺は貴様等を決して許さぬ! 許してなるものか!



三影も村雨も、お互いの事ばかりに気を取られていた為、反応が僅かに遅れてしまう。
先ほど急に変化した重力場が元へと戻ったのだ。
と、同時に走り寄る影。
鎧を身にまとった男、葉隠四郎であった。
すんでの所で三影の対応が間に合う。
タイガーロイドへと変身し、全身から細い八本のレーザーを放つと、それらは四郎の体に吸い寄せられるように伸びていく。
鎧の強度を信じ、防御姿勢すら取らぬ四郎。
確かにその強度により貫通されるような事は無かったが、強化外骨格の持つ超展性と呼ばれる柔軟さを持ってしても、当然衝撃全てを緩和する事能わず。
突進をそのレーザーにて止められた四郎。
その隙に秀はライダーマンのマスクを被り、四郎から大きく跳んで離れる。
このマスクの能力をまだ完全に把握していない秀は、その状態で怪人と正面からやりあう愚を避けたのだ。
「すげぇ! このマスクすげぇよ兄貴! これなら俺だって!」
改造人間にでもなったかのような足力で駆ける自らに歓喜する秀。
これを見た三影の反応を是非知りたいと思い、振り返った秀の目に映った光景は、あまりに現実味が薄く、すぐにその意味を理解する事が出来なかった。



……ワーム共の分際で……

二人の注意が四郎へと向けられるなり、暗闇大使はその身を起こし、攻撃を開始する。
729 ◆HGBR/JBbpQ :08/12/05 22:18 ID:wvO89bWE
 シエンタ。
730漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:18 ID:.7rJ6qsQ

……この暗闇大使を……

体を覆う殻から無数のミサイルを放ち、同時に念力をゼクロス、タイガーロイドへと放つ。

……良くぞ見くびってくれたわ……

広範囲の念力と、神の間全てを覆い尽くさんばかりのミサイル群をかわしきる事はこの二体とて不可能であった。

……いいだろう。見せてくれよう……

タイガーロイドは念力の範囲から飛びのきつつ全身から放つ無数のレーザーでミサイルを迎撃するも、全てを打ち落とす事適わず。

……暗闇大使、そう呼ばれBADANに君臨し続けた王の力……

ゼクロスはその俊敏さを駆使し、念力に加え、ミサイルの雨すら掻い潜らんと駆け抜けるが、最後の一手、暗闇が振るった鞭に捕捉される。

貴様等下等生物とは違う、圧倒的な力というものを見せつけてくれるわ!

一撃、それさえ入れば充分だ。
何故なら、暗闇大使の殻から放たれるミサイル群に限りはなく、何時までも、永久に、この悪夢の様な弾幕を形成し続けられるのだから。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね腐ったワーム共! BADANを牛耳るこの暗闇大使に貴様等ごときの力が通用するものかっ!!」



力を信奉するものが辿り着く、戦力の極致とは如何なる物であろうか。
731Classical名無しさん:08/12/05 22:18 ID:4VLKs7Po
 
732Classical名無しさん:08/12/05 22:18 ID:Txjn.UKY
覚悟……!
733 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:18 ID:q9ihjX2M
ちっ、しゃあねえな。トリ付け支援してやるぜ!!
734漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:18 ID:.7rJ6qsQ
科学者ならば、保持し得る最大のエネルギーを速度、パワー、防御の三つにバランス良く配分する事を考える。
軍人ならば、そのエネルギーを行使する戦術に特化した形に振り分け、状況に応じて使い分ける事を考える。
政治家ならば、目指す戦略目標のみを確実に、正確に撃破出来る能力こそ必要と考える。
ではそのどれとも違う、改造人間の長であり、個人の有する最大戦力をこそ欲した暗闇大使はどうであろうか。
全ての戦況に対応出来、全ての武器を物ともせず、全ての防御を突破する矛を持つ、そんな矛盾の塊を追及したのではなかろうか。
厚い装甲を維持するには、その重量に負けぬだけの出力が必要となる。
強力無比な武装には、その火力を支える圧倒的な出力が必須である。
永劫とも言える程の継戦能力を支える再生には、莫大な出力が不可欠。
攻撃手段をミサイル、電磁鞭、格闘の三つに絞り、一瞬で消滅せぬ為の防御には殻を当て、どんな状況からでも再生しうると言い切れる程の再生能力を持つ。
生存に必要なエネルギーは全て体内で精製したもので賄い、外部からのそれは最低限のみで済ませる事で身体構造に関わる致命的な生物兵器を無効化する。
余剰エネルギーは全て体内にて蓄積し、攻撃、再生、運動エネルギーのどれにでも変換可能とする。
BADANで常時研究され続けている改造人間のノウハウは、全てがこの不可能な命題に挑む為のもの。
暗闇大使は先の敗北の反省として、常に最先端の状態に自らを置くよう務めた。
最後の最後に頼りになるのは自分のみであると、骨身に染みた結果であった。



ゼクロスとタイガーロイドはミサイルの弾幕に完全に捕まってしまった。
これは最早自力での脱出は不可能だ。
当初三影へと放たれていた程度のミサイルならば、強引にでも抜け出す事も出来よう。
だが、今暗闇から放たれているミサイルは、その速度も破壊力も桁が二つ程違う。
一撃もらっただけで、その部位は動作不良を起こしてもおかしくない。ゼクロスやタイガーロイドの構造強度をもってしても、そう言い切れる。
HNIWが泣きながら土下座するような超がつく高性能爆薬を積んでいるのだろう。体内でそんなものを精製してしまう神経が凄い。
タイガーロイドを再生し、ゼクロスをバラした事もあるパピヨンは、二体の能力をかなりの所まで理解している。
735Classical名無しさん:08/12/05 22:19 ID:8k7WtigQ
 
736 ◆03vL3Sy93w :08/12/05 22:19 ID:Z9ujqmYg
最終話支援!!
737漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:19 ID:.7rJ6qsQ
あれでは二体共数分と持たずバラバラにされ、その後破片すら残らず消滅させられるだろう。
といった事を、冷静なパピヨンならば判断し得たのだろうが、生憎今のパピヨンにそこまでの思考を行う事は出来なかった。
自分がなしえなかった戦いを二人に重ねていたパピヨンは、その戦いに水を差した暗闇大使を、憎しみすら篭った目で睨みつける。
核鉄サンライトハートを作り出し、暗闇大使を刺し貫かんと振りかぶる。
しかし常ならばあるはずの、握った腕に確かに響く力の脈動が無い。
サンライトハートは確かに作り出せた。
だが、三影との戦いの中、ヘルメスドライブを盾にしたとはいえ、三影の最大出力ビームの中を身一つで突き抜けたのだ。
決して防御能力が高いといえないパピヨンにとって、これは大打撃に近い。
そしてシビアなどという言葉ではとても表しきれぬ刹那のタイミングを綱渡りのようにくぐり抜け、成否も定かでない状況で先を見越した手を打ち続けた。
かつて無い程の集中力を必要としていた事もあり、パピヨンの疲労は限界に達していたのだ。
ならばと広間に飛び降り、槍を手にしたまま暗闇へと走り出す。
最速を維持さえしていれば、奴がこちらに攻撃を仕掛け始めるタイミング次第だが、ミサイルをかわしつつ速度の乗った状態で槍を突き刺してやる事が出来るはず。

後三メートル、二メートル、一メートル、良し! ここまで踏み込めれば辿り着ける!

パピヨンの想定していた間合いより2メートル程内側に入った所で、暗闇大使が迎撃のミサイルを飛ばす。
村雨、三影への攻撃を維持しつつなので、あくまで牽制程度の精度である。
これならば回避も充分可能……

不意に右膝が地に落ちる。

自身が考える以上にパピヨンは消耗していたようだ。
それでもパピヨンは諦めない。
後一発、サンライトハートがその本来の威力を発揮してくれれば、迫るミサイルを蹴散らしつつ、暗闇大使を止める事が出来る。
ゼクロスとタイガーロイドの二体ならば、例えボロボロになっていようと意識さえ残っていれば、そこから必ずや反撃の機会を拾い上げる。
「この程度で泣き言を抜かすな武藤!」
738Classical名無しさん:08/12/05 22:19 ID:P0vpB80Q
739 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:20 ID:q9ihjX2M
       
740漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:20 ID:.7rJ6qsQ
叫びながら投げつけたサンライトハートは、パピヨンの闘志を感じ取ったか布の帯をエネルギーに変え、一直線に暗闇大使へと突き進む。
迎撃のミサイルを砕き、弾き飛ばし、まっすぐに。
最後の一発、それさえくぐりぬければ暗闇大使まで遮る物もない最後の関門。
そこで遂にサンライトハートは力を失い、甲高い音と共にミサイルに跳ね飛ばされた。
力を失いくるくると宙を舞うサンライトハートを他所に、まっすぐパピヨンへと伸びるミサイルの軌跡。
パピヨンは動かぬ体でそれを凝視する。
「俺は帝王だ! こんな所で……こんな所で死んでたまるかああああああ!!」



「あるるかあああああああん!!」



純白の影が倒れるパピヨンの頭上を跳び越し、神速と精妙を持ってミサイルの進路を逸らす。
遅れてパピヨンの側へと辿り着いた、影と同じく白い女。
首だけを曲げてそちらを見る。
手足から伸びる銀糸がきらきらときらめき、その先にある精緻な人形を操る、人形遣い。
「……キサマ、確かエレオノール……だったか」
「パピヨンはそこでお休み下さい。ここは私が」
威風堂々とそびえ立つ白く美しき人形は、自らの体当たりによって倒れた醜き殻持つ改造人間を見下ろす。
感情の篭らぬ人形の瞳は、繰り主の心を表してか、強く鋭く輝いてみえた。



既に重力の向きも元に戻った司令室は、一時の混乱を収め、ようやく本来の機能を発揮し始めていた。
741 ◆7K4/mo8hK. :08/12/05 22:20 ID:.MmntAuA
支援支援

742 ◆vPecc.HKxU :08/12/05 22:20 ID:4Q7pJ2wY
 
743Classical名無しさん:08/12/05 22:20 ID:4VLKs7Po
 
744Classical名無しさん:08/12/05 22:21 ID:8k7WtigQ
   
745Classical名無しさん:08/12/05 22:21 ID:.QvmlbAw

746漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:21 ID:.7rJ6qsQ
コマンダーは最前線である対葉隠覚悟戦線における完全な指揮能力を取り戻しており、ようやくまともな迎撃作戦を行う事が出来る体勢が整った。
「集まった改造人間を十隊に分け、波状攻撃を仕掛ける! いいか一隊の交戦時間は一分以下にしろ! 一撃離脱だ! 攻撃し損ねても再攻撃なんて事は考えるなよ!」
コマンダーの指示は澱みなく前線へと送られ、忠実に実行される。
又サザンクロス内部の捜索班も順調に捜索範囲を広げ、その半ばまでは確認が完了していた。
並行して行われている発見後の迎撃用戦力確保も順調に進んでいる。
既に非戦闘員の避難は半ば以上完了している。
尤も避難したブロックにまともな戦力を置く余裕が無い為、シャッターを抜かれたらそれまでという心もとない避難所ではあるが。
非戦闘員の大半を占める科学者達はBADANの屋台骨とも言える大切な財産だ。これを失っては再建も覚束なくなる。
最重要人物である伊藤博士はどうやら戦闘に巻き込まれたようで、避難所で確認する事は出来なかった。
これは明らかに失態である。
しかし事ここに至って、コマンダーは失態だのなんだのは考えない事に決めていた。
良心の呵責などとうの昔に捨てている。
だが、それでも、同じ境遇に居る者達、彼等への仲間意識だけは消えてはいない。
いや、同じ傷を持つ者同士、今の自分を受け入れてくれる者は、共に改造の恐怖を乗り越えたこの仲間達以外にありえない。
数え切れぬ程の人間を見殺しにし、また自らの手にかけた彼等は、それ故、最後の最後まで生存を諦めぬ不屈の者達でもあったのだ。
コマンダーが最後の最後に選んだ頼れる人材は、そういった者達のみで構成されていた。
だからこそ、決して許せぬ事がある。
それは、オペレーターの嫌悪に満ちた声によりもたらされる。
「コマンダー! 第六ハッチ付近よりサザンクロスを離れる機影があります!」
きっとある。そう予想していたからこそコマンダーは冷静で居られた。
沈み往くBADANを見捨て、逃亡の道を選ぶ者も居よう。
それは確かに腹に据えかねるが、こちらにはそんなものにかかずりあっている暇など無い。
「数は!?」
「一体のみですが……あいつらっ……ちくしょう! あいつらバスターバロン持ち出しやがった!」
747 ◆40jGqg6Boc :08/12/05 22:21 ID:Txjn.UKY
ならば自分も!全力支援ーッ!!
748Classical名無しさん:08/12/05 22:21 ID:EghtQrpU
支援!!!
749 ◆VACHiMDUA6 :08/12/05 22:21 ID:7n7xCXQY
我は支援の地上代理人
750Classical名無しさん:08/12/05 22:22 ID:P0vpB80Q
751漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:21 ID:.7rJ6qsQ
だが、それが切り札の一つ、巨大ロボットの核鉄バスターバロンを持ち出したとなれば話は別だ。
コマンダーは即断する。恐らく司令室に居る全ての人間がこの判断を支持してくれるだろう、そう確信していた。
「サザンクロスの主砲を使う! 矛先がこっちを向く前にあいつら一人残らず消し炭に変えてやれ!」
転移装置と同じく、いや、それ以上の重要度を持つ超ド級兵装。
本来サザンクロスの本体である暗闇大使のみしか使用出来ぬ主砲を司令室からも発射可能に改装したそれは、しかし暗闇大使の指示無しでは決して使ってはならない物でもあった。
先ほどコマンダーの顔の上に降ってきたオペレーターが端末を操作しながら応える。
「動力炉接続開始します! 臨界までおよそ三分!」
すぐ隣のオペレーターは気合の声と共に叫ぶ。
「おっしゃ! 接続回路確認! 八割グリーンですから何とかいけます!」
半ばヤケのようになりながら別のオペレーターも応じる。
「ああもう! どうなっても知りませんよ! 主砲周辺施設避難勧告開始します!」
黙々と作業を続けていたオペレーターは報告した。
「照準は考えなくても良いかと。あんなデカイ的、外す方が難しいですね……一応回避運動も計算に入れておきますから、十割当たります」
人の道を外れても、人の体を失っても、それでも人は生きていく。
随分長い事忘れていた、目的を同じくする仲間達との心地よい一体感に身を委ねながら、コマンダーは胸をそびやかす。
「カウントダウンは十秒前からでいい! 一発で叩き落せ! 出力不足だの、かすっただけだの、言い訳を聞く気も余裕も無いからそのつもりでいろよ!」






重力が戻った時、ずり落ちた簡易ベッドに頭をぶつけて大きな瘤を作った柊かがみは、サザンクロス内の一室に身を隠していた。
「……どうしてこう、私ってばみんなみたいにかっこ良く決まらないのよ……」
少し離れた場所にある村雨が飛び込んだ広間からは、断続的に爆発音が聞こえてくる。
752 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:22 ID:q9ihjX2M
       
753 ◆oywuHEBORA :08/12/05 22:22 ID:wvO89bWE
 コマンダー支援!
754漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:22 ID:.7rJ6qsQ
扉を閉めてもこれなのだから、広間はきっと大騒ぎなのだろう。
それがわかっていても、かがみには為す術が無い。
今に始った事ではないが、自分の無力さが歯がゆくて仕方が無い。
思えば自分で戦った事なんて、あの吸血鬼との戦いぐらいだ。
それも、必死に槍を振り回してただけで、今なら吸血鬼はきっと手加減してたんだろうなあ、と理解出来る。
短時間の間に色んな戦闘をその目にしてきた。
その戦闘に自分が参加出来るかといわれれば、もうこれは断言出来る。NOだ。
スタンドディスクとか核鉄とか色んな道具があるが、あんなにぴょんぴょん動かれたらかがみにはどうしようもない。
格闘技の経験があるヒナギクや服部さんでさえ、怪人一人に苦労するのだ。
あの二人だって充分凄いと思う。あんなに忙しなく動きながら、相手の先を読んだり、次の攻撃の準備をしたりときちっと戦えるのだから。
そりゃ離れて見てる分にはある程度、どう動くとか、どうしたらいいか、とかわかる部分も出てくる。
けど、実際眼前に敵を置きながら、離れて見るのとは違う狭い視界、瞬時にどうすればいいか考えなければならない、なんて絶対に出来ない。
妬ましい、とはあまり思わない。
みんなこの場所に来るまでに一生懸命練習して、それであんなに強いのだから。
むしろそういった日々を過ごして来なかった自身を恥じてしまう。

多分、みんな私に生き残って欲しいと思ってる。
それは痛い程伝わってくる。自分の命を賭けても、私を生き残らせようと全力を尽くしてしまうだろう。
正義の味方が守るべき人間、そんな立ち位置が自分の居る場所だと思う。
卑下してるつもりも、みんなの善意の上に胡坐をかくような真似をするつもりもない。
でも、そういう事なんだと思う。
ここへの突入を認めてくれたのも、元の世界に戻る手があるとしたら、ここしか無いからだと思う。
だから、私がみんなに出来る事といったら、迷惑を出来るだけかけずに力を発揮出来るようにする事。
自分のわがままは抑えなくちゃならない。

……相手が村雨さんだと、何でかつい口に出ちゃうけど。
755Classical名無しさん:08/12/05 22:22 ID:ONRLKnls
支援魂
756Classical名無しさん:08/12/05 22:23 ID:GlqyXV/k
支援!!
757 ◆10IWuMmVVw :08/12/05 22:23 ID:hxYhCyGw
しえーん
758漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:23 ID:.7rJ6qsQ

「よっし、落ち込みタイム終了っ! さー何か出来る事探すわよー!」
とりあえず部屋を物色する事にしたかがみ。
壁面一杯に敷き詰められたモニターがまず目を引く。
その前には操作盤らしき物があり、ボタンやらツマミやらが規則正しく並んでいる。
キーボードの様な物もあり、そのランプが光っている事からどうやら電源は入っていると思われるも、正直どう操作したものか見当もつかない。
が、そこで挫けては話は始らない。
家のパソコンを思い出してキーボードをいじり出す。
すぐに大きな難題にぶつかった。
「……マウスが無いわね……」
アルファベットを使う所までは一緒だったが、微妙にアルファベットの配列が違ってたりとか意味不明なボタンが複数あったりで、かなり面食らう。
「そもそもフォルダどーやって開くのよ! ……あー! 変な変換文字出ちゃったー! 私何処押したっけー!」
悪戦苦闘十数分。
ようやくノートパソコンと同じ造りの、キーボードのど真ん中にある、カーソルを移動させる為の突起のようなものを見つける。
更に時間を費やすこと十数分。今開いているアプリケーションが、前面にあるモニターを操作する為のものである事を理解する。
監視カメラのように、さっきまでかがみ達が居たあの忌まわしき街並み数箇所を映し出している。
これは今はもう必要無い。ならば別のアプリケーションをといじりだすと、その数が余りに多すぎて眩暈がしてくる。
山とあるアプリケーションも、アイコンの形でその機能を想像するしか無い現状では、ほとんど手探りと変わらない。
それでも、家族の中では自分が一番パソコン出来るので、事ある毎に色々と面倒な事をやらされていたが、そういった知識や問題解決の為の思考が案外役にたってくれた。
何でもやっておくものだと、一人頷く。
始める前は、異世界のパソコンをいじるなんて大それた事だと思っていたのだが、一生懸命集中してやれば、それなりには理解出来る物であった。
「SFも身近になったもんねぇ」
たまたまかがみの居た世界に近い造りの世界であっただけなのだが、かがみはしみじみそう呟いた。

759漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:23 ID:.7rJ6qsQ



メンバーの変更は役割の変化。
服部は口にこそしなかったが四つのチームにそれぞれ役割を課していた。
覚悟のチームと服部ジョセフのチームは強襲。敵戦力の粉砕を目的とする。
村雨は柊かがみを救出後、同じく強襲。柊かがみを抱えた状態での戦闘は難しいだろうが、村雨ならばと期待している部分だ。
そして赤木、エレオノール、桂ヒナギクの三人のチームには情報収集と撹乱を。
手数があれば、あの赤木ならば何かしら手を打ってくれるだろう、そう期待している。
しかし、服部ジョセフチームは早々にジョセフが倒れる事となり、服部一人で強襲は難しい。
ならば次に服部がやるべき事は赤木達と同じく情報収集と撹乱であろう。
もし首尾よく柊かがみを救出した村雨達と合流出来るのなら、柊かがみは服部が引き受けて村雨単騎での強襲をやらせてもいい。
流石にそこまで都合の良い話は無いとも思うが、ケースバイケースで目的を変更するというのは必要な事だ。
本音を言うのなら、敵さんを見つけるなり一人でも突っ込んでブチのめしてやりたくはある。
しかし、ジョセフを失ったばかりで、とてもじゃないが冷静とは言いがたい自分の感情に従って動くような真似は出来なかった。
どの部屋にもあるだろうと思っていた情報端末。
これを使って、内部の簡易地図を引っ張り出す。
言語の違いもなく、案外とスムーズに入手する事が出来た。
操作自体は服部の知るものとは違っていた為少々時間はかかったが、情報端末のありようは服部の知るそれと同じであった為、コツさえ掴めば普通に使う分には最早問題は無い。
柊かがみがそれを聞いたら、地獄の底にでも落ちたかのようにヘコみそうではあるが。
ただ、こんな真似が出来るのは、おそらく服部と零ぐらいであろうとも考える。
赤木ならば服部と同程度の速さでコツを掴めるのでは、とも思ったが、生憎赤木は情報端末が一般的ではない世界から来ている。
一から全てを理解するのは、やはり時間がかかるだろう。
記憶した地図上で、敵との遭遇を避ける道を選びつつ、服部は改造していない人間が集まるブロックを目指す。
道の先に二体の改造人間の姿が見えた。
760Classical名無しさん:08/12/05 22:24 ID:ONRLKnls
支援し続ける
761 ◆hqLsjDR84w :08/12/05 22:24 ID:hxYhCyGw
まさかここで鳥間違えるとは
762漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:24 ID:.7rJ6qsQ
風防の下に隠れるようにしながらアクセルを捻る。前輪が跳ね上がってひっくり返るような事のないよう全開にはしなかったが、まだ余裕はあるみたいだった。
「ライダーブレイクやあほんだらああああああああ!!」
それでもあっと言う間に時速四百キロを越えてしまう。
その癖、激突の際も考えていたような大きな振動は無く、ぶち当たった改造人間をピンボールみたいに弾き飛ばす。
直後ブレーキをかける。バイクの運転経験が無い奴がコレをやったら、速度を上げるだけでビビってバランスを崩すかもしれない。
ブレーキの加減も難しい。この速度でタイヤがロックしたらひゃくぱーこける。というか死ぬ。
内心びくびくになりながらバイクを止め、後ろを振り返ると、遙か後方で痙攣している怪人の姿が見えた。
Uターンして戻り、バイクを降りて改造人間にトドメを刺しながら服部は、バイクのありえないスペックに恐々とした。
「安定性、旋回性能、加速にブレーキ、どないなっとんねんこのバイク。四輪並の安定性にバイクの能力てイカサマやでコレ」
服部にはわかりえない事だったが、実はこの量産型ヘルダイバー、初心者が乗っても安心出来るよう各種の制限が加えられていた。
どんな状況からアクセルを全開にしようと決して引っくり返る事もなく、今でいうABSの超進化型を積む事でフルブレーキングでもタイヤのロックはありえない。
安定を保てない体勢になる前に、自動姿勢制御が働いて運転者の体重移動に寄らずバイクの平衡を取り戻す等々。
BADANの科学力は伊達ではなかった。
服部は手にしたソードサムライXを肩に乗せ、扉から恐る恐る顔を覗かす人物にそう語る。
「アンタもそう思うやろ?」
「ひっ!?」
即座に扉を閉めて部屋の中に閉じこもる。
問題ない。むしろ好都合。
ニアデスハピネスにより扉を爆破。ゆっくりと、室内に侵入し部屋を見渡す。
十人の人間が部屋の奥に固まって震えていた。
「やっぱり、避難し損ねた奴おったな。聞きたい事あんねんけど、構わんよな」
ドスの効いた声でそう脅すと、彼等は簡単に協力を約束してくれた。

彼等の風貌はいかにも科学者な方々。
まずは十人の立ち位置と挙動を観察した後、一番前に立っている男にBADANの中で重要な科学者を10人挙げ、その専攻を説明するよう命じる。
763 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:25 ID:q9ihjX2M
          
764 ◆vPecc.HKxU :08/12/05 22:25 ID:4Q7pJ2wY
もっと……もっと支援を!
765 ◆oywuHEBORA :08/12/05 22:25 ID:wvO89bWE
 支援願いまーす。
766漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:25 ID:.7rJ6qsQ
彼は順に名前を挙げていく。服部が目を付けたのは三番目に挙がった名前だ。
専攻はこの際関係ない。他の人間達が反応したその名前が重要なのだ。
反応といっても、僅かに目線が泳いだ。その程度であったが、服部には充分であった。
集団の最も後方に居た、初老の男を指差し、服部は命じる。
「その男、そいつを人質として連れて行く。お前等でそいつ拘束せえ」
明らかにうろたえるその男と、周囲の人間達。
そうだろう、その初老の男こそ、この部屋で最も高位にある人間。
それもBADANという集団の中でも明らかに別格扱いを受けている人物。
服部が部屋に入った時、他の者を押しのけるように後方に下がった男。
同格であるのなら、そんな真似をして押しのけられた男が黙っているはずがない。
更に老人であるというのがありがたかった。
年経た人間の顔にはそれまでの生き方が現れるというが、その男の顔に刻まれた皺は、人より優れた存在であり続けた者特有の尊大な表情を刻んでいた。
そして周囲の人間達は、服部の機嫌を伺うようにしながら、常にその男の動向に注意を払っていたのだ。
科学者の名を挙げさせたのは、単なるカマかけであったが見事的中。
これでその男の名と専攻は知れた。専攻に関しては狙っていた部署ではないので、どうでもいい範疇だったが。
さて、残った面々が指示を受けてどう動くか……

初老の男は、眼前の男をこちらに見えないよう蹴飛ばしている。
おそらくお前が代わりになれという意味なのだろう。
ここで服部は、トドメを刺しにかかる。
「心配すな。その男はやる事やらせたら、きっちり殺しとく。証拠は、何一つ残らへん」
蒼白になる初老の男は、怒り顔で周囲を見渡すが、彼に味方は居ないようだ。
一人がその手を掴むと、振り払う暇すらなく、全員がよってたかって老人を拘束する。
「こらこら、自分の足で歩かせるんやから足まで縛るなて」
理不尽な暴力に従い続けたであろう人間達、彼等の心底を読みきっていた服部には、この程度の事赤子の手を捻るようなものであった。
767 ◆hqLsjDR84w :08/12/05 22:26 ID:hxYhCyGw
         
768Classical名無しさん:08/12/05 22:26 ID:GlqyXV/k
支援!
769漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:26 ID:.7rJ6qsQ





赤木シゲルは重力場が元に戻ると人の居ない一室を見つけ、そこでバックを漁り出した。
独歩の所持していた不明支給品二つ。これを確認しようと思ったのだ。
いや、先ほどヒナギクと休憩を取った際、一応見るだけは見てみたのだが、まるで意味がわからなかったのだ。
内の一枚を取り出し、もう一度読んでみる。

『ジャスタウェイ(坂田銀時作成分)』

説明文ももう一度読んでみる。

『ジャスタウェイはジャスタウェイ以外の何者でもない。それ以上でもそれ以下でもない』

やはり意味は不明。なら開いてみるまでだ。


そう、これこそが赤木シゲルの流れを大きく変える一撃であった。


開いた紙の中から大量に何かが転がり出してくる。
その予期せぬ量に、赤木はすぐさま紙をほうり捨てる。
扉を閉めておいたのが功を奏した。ゴロゴロと転がる音もこれならば外に漏れる事もあるまい。
全てが出きった所で、その物体を確認してみる。
長さ20cm弱の円筒に、棒が二本刺してあり、上部には顔を模した半円が乗せられている。
770Classical名無しさん:08/12/05 22:26 ID:8k7WtigQ
 
771 ◆MANGA/k/d. :08/12/05 22:26 ID:wvO89bWE
 葉隠四郎支援。
772Classical名無しさん:08/12/05 22:26 ID:aaAdUx12
 
773 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:26 ID:q9ihjX2M
       
774 ◆hqLsjDR84w :08/12/05 22:26 ID:hxYhCyGw
  
775Classical名無しさん:08/12/05 22:27 ID:P0vpB80Q
776漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:26 ID:.7rJ6qsQ
そんなおもちゃのような物が、五メートル四方の部屋の半分を埋め尽くす勢いで山と積まれている。
引っくり返したり、棒を引っ張ったりして造りを見る赤木。
頭部の半円と二本の棒はあっさりと外せた。
残る本体だが、これはナイフで接続部を削るとこれまたあっさりと開く。
造りが簡単に出来ているからこそ、赤木はこれ自体にはさして危険性は無い、そう読んでいた。
中にはびっしりと黒い粉が詰められている。
他に気になる所といえば、電池が一個と配線がしてある事ぐらい。
赤木は、この黒い粉の独特な臭いに覚えがあった。
「……火薬か?」
同時にこの物体、ジャスタウェイの危険性に気付く。

ああ、赤木がその正体を見破るなり、ソレが起こるのはどのような因果であろう。

お前が妙なの病院に連れてきたせいで死んじまったじゃねーかこの野朗とでも言いたげな製作者の怨念でも篭っているかのように、
ジャスタウェイに対する対応策を取る暇すら与えぬ絶妙のタイミング。
山と積まれたジャスタウェイが、バランスを保つ限界であったのか振動を始めた。
すぐさま扉を開いて外へと飛び出す。
あれが崩れた程度で爆発するかどうかもわからないが、あんな簡単な造り、言い換えれば不用意な造りの爆弾なぞ、欠片も信用出来ない。
一応とばかりに通路を走って避難する赤木の背後から、轟音と爆炎が襲い掛かってきた。やっぱり爆発してくれやがった模様。
間一髪、シルバースキンを纏う。
通路全体を覆うような衝撃にごろごろと転がりつつ起き上がる。シルバースキンの防御能力はこの程度でどうこう出来る代物ではない。
が、本当の危機はその後である。
「おい! 何だ今のは!」
明らかに仲間とは違う何者かの声。同時に複数の足音が聞こえてくる。
時間は無い、ありものでどうにかこれをクリアするしかない。
赤木は支給品を組み合わせ、これらを突破する、いや、チャンスに変える準備を整えた。
777 ◆VACHiMDUA6 :08/12/05 22:27 ID:7n7xCXQY
全力で……支援ッ!
778Classical名無しさん:08/12/05 22:27 ID:ONRLKnls
支援
支援
支援
779 ◆c7qzxSVMQs :08/12/05 22:27 ID:.MmntAuA
鳥変え支援
780 ◆hqLsjDR84w :08/12/05 22:27 ID:hxYhCyGw
   
781漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:27 ID:.7rJ6qsQ


襟の高い真っ白なコートで顔の半ばまでを覆い、それより上部は帽子にて完全にカバーする。
手の平まで覆えてしまいそうな長い袖、足首まで届かんばかりの裾。
デイバックをコートの内側に背負ったせいで背中は盛り上がり、この上に包帯をぐるぐるに巻き、棍棒を片手に持つ様は最早常人の美的感覚を容易く凌駕する、正に怪人と言ってよい。
そんな奇特な格好で、赤木シゲルは先行するコマンドロイドの後を走っていた。
『とりあえずはうまくいったが……さて、何処へ行くつもりか』
敵の罠にかかり、仲間がやられた偵察員。そう偽るとその場に集まったコマンドロイドや怪人達はあっさりと納得してくれた。
ならばそれはいいから、すぐにこちらを手伝えと言われそちらに向かっているのだが、どうも来た方角に逆戻りしている様子。
時期に怪人が大量に集まる場所へと辿り着いた。
先導していたコマンドロイドは、そこの指揮官と思しき同じ姿をした者に話しかけている。
相手もいないのに敬語で何やら話をしていた指揮官は、コマンドロイドが近づくと待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってくる。
赤木は自然とそのすぐ側に居るよう位置した。
「第三ラボの分だな! 良く来た! 待ちかねたぞ! 一応確認しとくが、まともに指示聞いてくれるんだろうなコイツ等」
「研究所の連中は、十回中八回は確実と……」
「そういうのは確実って言わないだろ!」
どやされるコマンドロイドは、大慌てて取り繕う。
「で、ですが、この白い奴は会話も出来ますし判断もしっかりしてます! 多分小隊指揮任せてもいけますよ!」
そう言われた指揮官コマンドロイドは、表情の読めない顔で赤木を見やる。
「本当かよ……」
「そのぐらいなら可能だ。俺はどいつを率いればいい?」
即座に返事をしてきたのに驚く指揮官。
だが、すぐに指揮すべき怪人達を指定する。
「よーし包帯マント。お前は連中を率いて十六番隊だ! そっちのヒトデ野朗の十五番隊と一緒に葉隠覚悟をぶち殺せ! いいか、一撃離脱だ! 一発仕掛けたらすぐに奥に居るコマンドロイドの所まで走り抜けろ!」
指揮官が指差す方向、通路を一本抜けた先は、距離を考えるに、恐らくヒナギクが落下したあの巨大な吹き抜けだろう。
782漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:28 ID:.7rJ6qsQ
それだけ言うと、他の怪人達に指示を下すべく振り返る指揮官。
赤木はその肩を叩く。
「俺の率いる怪人達の特性を教えろ」
やってる事を邪魔されて、あからさまに不機嫌そうになる指揮官だったが、すぐに思い直す。
そこに気を配れる程度には、こいつは頭が回る奴だという事だ。
「ヒトデ野朗も知能は高い! 詳しくは奴に聞け!」
赤木は頷き、怪人達を引き連れて通路へと向かう。
先頭を歩くのは赤木とヒトデ野朗と呼ばれた怪人だ。
なるほどヒトデっぽいが、人型の頭部もあり、これなら会話も出来そうだ。胴中央に鉤十字を描く意味がまるでわからないが。
「話は聞いていたな?」
「ヒットラー!」
「……無駄話はいい。さっさと教えろ」
「ヒットラー!」
「……おい」
「ヒットラー!」
「…………」
「ヒットラー!」
赤木は自らが率いる怪人を効率的に利用する策を早々に諦めた。

すぐに通路は開け、吹き抜けへと辿り着く。
指揮能力はあるようで、ヒトデ野朗が得意の言葉を叫ぶと、怪人達は同時に覚悟へと飛びかかっていった。
『……ヒドイ流れだ』
支給品を開いてからここまで、赤木を持ってしても他の選択肢を選ぶ事が出来なかった。
にしてもBADANを倒すべく動く赤木が、何をどうしたらこんな馬鹿げた格好で覚悟攻撃部隊を率いねばならないのか。
逃げ出す隙も無く、かといってここで覚悟の援護に回った所で赤木に出来る事などたかがしれている。
『隙が無いのなら……作るまでだ』
赤木は自らの配下に攻撃指示を出し、自身は彼等に隠れるように覚悟へと駆け寄る。
783 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:28 ID:q9ihjX2M
      
784Classical名無しさん:08/12/05 22:28 ID:ONRLKnls
ジャスタウェイ支援
785 ◆VACHiMDUA6 :08/12/05 22:28 ID:7n7xCXQY
 
786漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:29 ID:.7rJ6qsQ
覚悟はまるで悪魔のように暴れまわっており、正直近づく事すら躊躇われるが、ここで踏み込んでこそ次への展開が開けるのだ。
紙屑か何かのように容易く引き千切られ、砕かれる怪人達の隙間を縫って覚悟へと棍棒を振り上げる。

何と思う間すら無い。
朦朧とした意識が戻った時には、壁際でへたり込んでいた。
どうやってやられたのかすらわからぬ内に殴り飛ばされ、いや蹴られたのか? どちらでもいい、とにかくこうして吹っ飛ばされたのだ。
シルバースキンがあって尚、鳩尾の上辺りがじくじくと痛む。
あの乱戦の最中にあっても確実に急所を射抜いている。あまりに見事にやられたせいか、腹が立つより感心してしまう。
零には周囲の出来事を感知する能力があると聞いていたが、さしものあの混戦模様と赤木のこの格好では気付いてはもらえなかったらしい。
まあいい、目的は達した。
動ける状態である事を悟られぬようにしつつ横道を見つけ、別チームが一斉攻撃を仕掛けたその瞬間に、横道へと飛び込む。
赤木はまんまとこの場から逃げおおせると、隠し持っていた物を取り出す。
微かに声が漏れ聞こえてくるその小さな物体は、指揮官が持っていたはずの小型通信機であった。
『……悪い流れでも、やりようはあるって事さ』



胴回りに縄を巻き、そこから伸びた縄の一端を手に持って、さながらペットを散歩させるような風情で初老の男を連れまわす服部。
服部の言葉を信じるのなら、初老の男はただ殺される為だけに服部に従っているという事になる。
にも関わらず男が服部に黙々と従っているのは何故だろうか。
答えは簡単。
男を捕らえた科学者達は、自身の身の安寧の為に彼一人を差し出した。
男さえ死ねばその事実を知る者は服部一人のみとなるので、それならば誤魔化せる範疇、そう考えたのだろう。
ならば男を服部に従わせるにはどうすればいいのか。逆の事をしてやればいい。
服部平次は、男と共に部屋を出るなり、室内に黒死の蝶を放った。
787Classical名無しさん:08/12/05 22:29 ID:GlqyXV/k
支援ー!
788 ◆ZAWA2.Ysis :08/12/05 22:29 ID:wvO89bWE
 ざわ…ざわ…
789Classical名無しさん:08/12/05 22:29 ID:8k7WtigQ
790Classical名無しさん:08/12/05 22:29 ID:8k7WtigQ
 
791 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:30 ID:q9ihjX2M
      
792漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:30 ID:.7rJ6qsQ
室内から噴出す爆煙を背負った服部は、無表情で男に釘を刺す。
「俺にとって不利益な存在はいらん。お前は、きっと俺の役に立ってくれる……よな」
脅しが効いたのもあるだろうが、彼が服部に協力しているという事実は、これで服部のみしか知らぬ事となった。
ならば、実際に裏切り行為をしながら、反抗の時を伺う余裕も出来るというものだ。
彼にとってはBADANの情報や戦況の有利不利より、自分の命が優先するのだから。

服部の立ち上げた男との関係は概ね狙い通りの形に収まった。
ニアデスハピネスの爆発に障害物を用いて指向性を持たせる。これにより本来以上の爆発があったと見せかける。それだけの話だ。
彼等を殺害しておいた方が確実ではある。それはよくわかっている。
それでも、多少のリスクでそうせずに済ませられるのなら、やはり服部は殺さずに済む方法を選びたいと思った。
『赤木辺りに見られたら、まーた何か言われそうやけどな』
自分はヘルダイバーに乗りながら、ロープで引っ張られつつ必死に後ろを追ってくる男には一瞥すらくれず、服部は次なる目的地を目指す。

服部が目を付けた一室に入ると、そこにあった端末の前に男を引きずり出す。
彼を連れてきた理由がこれだ。
網膜認証。その為には一定以上の地位を持つ人間が、協力も止む無しと自らが納得出来る環境でそいつを引っ張ってくる必要がある。
案の定、先ほど覗いた時とは最初に開いたページに表示されているメニューの数が違う。
男には画面が見えないよう隅っこに蹴飛ばしておきながら、服部の最も欲する情報、大首領とはいかなる存在なのかを探し始める。
しかし最重要機密と思われるその情報は、すぐには見つかってくれない。
ならばと今度はDr伊藤を探す。
伊藤の苗字を持つ者は結構な数が居たが、その中で地位の高い人物を引っ張り出すと、先ほど10人挙げろと言った内の一人含む二人に絞られる。
「おいおっさん、さっき連中が言うてた十人の中で、BADANの一番の新顔と古株はどいつや?」
男は答える。壊滅前のBADANの頃から居る伊藤というのが飛びぬけて最古参であると。
「何やそいつ腹立つな。どないな奴やねん」
曰く、気に喰わない男だ。生体工学専攻の癖に他分野の研究にもちょこちょこ首を突っ込んでくる。
793sage:08/12/05 22:30 ID:gdJJCcyc
ジャスタウェイww支援wwww
794漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:30 ID:.7rJ6qsQ
あれは研究者とは言わない。技術屋とやってる事は変わらないだろう。
そこそこ成果は挙げているようだが、それも依頼があってそれに応えるといったものばかりで、自ら率先して新たな技術を開発するような事もない。
人の技術を盗み取って自分の成果にしているだけの卑怯者だ、と。
新顔に関しては彼の印象はさして悪くないようだが、服部はその男にはあまり興味を惹かれなかった。
端末を操作しながら、残る八人の印象を聞いてみるも、伊藤博士以上に酷評を受けた者は居なかった。
「大首領復活は、どいつの担当や」
「直接暗闇大使様が指揮を執っておられる。他の担当科学者は……私から見れば半人前ばかりだな。暗闇大使様の知能が高いからそれで充分なんだろうが」

手詰まり。
大首領とはそもそも何なのか、それがはっきりしないままにBADANを壊滅させたとしても、あっさりと復活される可能性もある。
その情報を得られなければ、ここに乗り込んだ意味が無いのだ。
一手のみ、最後のハードルをクリアしうるだろうと思える手があるが、そこに辿り着くにはあまりに条件が困難すぎる。
運頼み、服部の感性ではそう言い切ってしまえる程の、穴だらけの推理。
接触したBADANの人間は、伊藤博士が逮捕された、などという話は聞いていなかった。
仮定。彼が捕えられていない、もしくは死亡していないとした場合、その先どう動くか?
服部達が捕まるような事になれば、伊藤博士は破滅だ。
いや、支給品にあんな物を放り込んだ段階で既に彼は破滅覚悟であったのだろう。でもなければ名前付きであんな事出来るはずがない。
そう、彼がわざわざ名前を書いた理由だ。
『俺に接触して来い』そう言っているように思えてならない。
もし接触した上でこちらに渡したいものが情報や道具であるのなら、今までそうしてきたようにこちらに流す手段はあった。
にも関わらずそうしなかった理由。
『……伊藤博士もまだ持ってへん。そういう事ちゃうか?』
BADAN内でも様々な便宜を図れる立場、それをサザンクロス中が混乱している間に後先考えず使っているのではないだろうか。
それを用いて、この腐った組織の大元に関わる、何かを得ようとしているのではないだろうか。
メイン端末。得ようとするものが情報であるのなら、その場所がベストだ。
795 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:31 ID:q9ihjX2M
   
796漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE :08/12/05 22:31 ID:.7rJ6qsQ
会った事も無い人物。未だに彼の様々な仕掛けが罠である可能性も消しきれていない。
単にBADAN内部での権力争いの可能性もあるのだから。
人格も、人物像すらはっきりしていない。
そんな彼、伊藤博士がこの混乱の中見事に立ち回っていると、死をも厭わぬ覚悟を胸に今もまだ戦っていると、


   信 じ ら れ る の か


この命は既に服部一人の物ではない。
万に一つすら消すつもりで動かなければならないのではないのか。
今もまだ戦っている仲間の為に、情報収集ではなく撹乱に動くべきではないのか。
相変わらずとでも言うべきか。心底嫌過ぎるタイミングであの小憎らしい銀髪のアホの顔が脳裏に浮かぶ。

『……ただ一度、凡人を捨てて異端にならなければ……ここにいる人間は死んでいく……』

いつしか端末を叩く手も止まり、震えながら俯いてしまう。
必要な情報は既に頭の中だ。
迷いながらも、決断が下せた場合自分がどう動くべきかは考えてある。

「アホ顎オバケがあああああああ!! これでミスったらおんどれの鼻掴んで市中引き回した挙句打ち首獄門にしたるどコラアアアアア!!」

人の命を背負って、運任せの決断を行う。
あまりに膨大なストレスから逃れる為そんな雄叫びを上げた服部は、八つ当たり気味に捕まえていた男を殴って気絶させ、メイン端末のある場所へとバイクを走らせた。


797 ◆03vL3Sy93w :08/12/05 22:31 ID:Z9ujqmYg
 
798 ◆KaixaRMBIU :08/12/05 22:31 ID:q9ihjX2M
    
799 ◆40jGqg6Boc :08/12/05 22:31 ID:Txjn.UKY
支援!!
800 ◆VACHiMDUA6 :08/12/05 22:32 ID:7n7xCXQY
 
801漫画ロワ最終話「拳」 ◆1qmjaShGfE
通信機から漏れ聞こえる声達を、頭の中だけで整理し、再構成する赤木。
すぐに、どいつに聞けば目指す目的地がどれなのかがわかる。
怪人のフリをしつつ、一言二言言葉をかわすだけで、目的地のある地域を特定、一直線にそちらに向かう。


こちらはバイクである。順路通りに進むと目立ちすぎるので、幾つか迂回ポイントを設定し、敵との遭遇率を少しでも下げる。
この広さに比して動いている人数が少なすぎる事も手伝って、誰にも見つかる事なくバイクは走る。
予想通りなら、目標地点周辺はより少ない人数であるはず。


赤木は別に方向感覚に自信があるという話ではなく、途中途中で見かけた岐路と、外観を頭に入れていただけだ。
それらを組み合わせ、自分が今居る大まかな位置と、サザンクロスにとって最も重要と思われる施設の場所を推測する。
後は通信から聞こえてくる戦力の移動状況から、戦況の推移から、BADANの置かれている現状を推測する材料を得る。

服部はこれをBADANの怠慢とは思わない。列車での戦闘を考えるに、覚悟と村雨が本気で暴れまわったら、怪人の百や二百では手に負えなくなる。
ならば、そう仕向けられているだろうあの施設周辺に護衛が居なくなっているのは至極当然である。

通信機を聞いた感じ、連中まともな思考能力を持った者は少ない。ならば、この分野においては圧勝出来る。
大まかな位置はこの辺りのはず。おそらく、このやたら長い壁の向こう側がそうなのだろう。



「……服部、お前がこんなにも早く辿り着くとは思わなかった」
「こっちの台詞や。俺はそもそもお前がここ来るなんて想像もしてへんかったわ」
研究成果から戦闘データまでありとあらゆる膨大なデータを収め、これら全てを必要に応じて処理する能力を持つメインコンピューターが置かれた部屋。
その扉の前で合流した赤木と服部は、扉のロック部を爆破して強引に開く。