スクールランブルIF15【脳内補完】

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714ぬくもり:04/10/29 10:52 ID:QwPmIsjA
『待っていたよ、播磨君』
 放課後、天満に呼び出されて播磨は屋上に来ていた。
『お、おう。待たせて悪かったな』
 当の播磨は何故呼び出されたのか分からず頭に疑問符を浮かべながら彼女の次の言葉を待った。
『あのね播磨君……ううん、拳児君』
『な、なんだ、塚本』
 天満のいつもとは違うウットリとした視線に見つめられて、播磨はどもりながら答えた。
『ううん、天満って名前で呼んで』
『え? い、いいのか?』
『うん』
 その言葉に播磨はごくりと喉を鳴らした。
『じゃ、じゃあ……天満ちゃん』
『うん、ありがとね、拳児君』
『お、おう。それでなにか用か?』
 心臓はもうバクバク言っているが、それでも平静を装いながら訊ねた。
『うん……私ね。あなたに、言いたいことがあるの』
『俺に? ああ、なんでも言ってくれ』
『それじゃあ……』
 そう言いながら天満は播磨の手を握った。
『て、天満ちゃん?』
『私ね……いつからか……あなたのことを……』
『ゴクッ……』
 生唾を飲み込みながら播磨は彼女の次の言葉を待った。
『あなたのことを……好きになっちゃったの』
『ほ、本当か? マジでお、俺のことを……』
 播磨は震える指で自分を指差した。
『うん……』
 天満は小さく頷いた。
715ぬくもり:04/10/29 10:52 ID:QwPmIsjA
『お、おお……』
 ずっと、ずっと待ち望んでいた展開。彼は危うく踊りそうになってしまった。
『それでね……拳児君は……私のこと……好き?』
 小首を傾げながら訊ねてくる天満は、凶悪的なまでに可愛かった。
『そ、それはも……』
 『勿論』、そう言い掛けて何故か一瞬播磨は言葉に詰まってしまった。
 何か……いや、誰かの顔が一瞬浮かんだような気がして彼は動けなくなってしまったのだ。
『拳児君?』
 天満の不安げな表情。それを見て播磨は慌てて頭を振った。
 何を考えてるんだ、俺は。俺が好きなのは天満ちゃんただ1人なのに何故躊躇したりするんだ。
『天満ちゃんっ』
 播磨は彼女の両肩に手を置いて彼女を呼んだ。
『拳児……君?』
『俺は……俺は君のことが……好きだっ。大好きなんだっ』
 言った。ついに言えた。
 播磨は心の中でガッツポーズを取っていた。
『嬉しい、私もよ』
 そう答える天満は何故かウェディングドレスを着ていた。
『天満ちゃんっ』
 応じる播磨もいつの間にかタキシードを着用していた。
 バッ
 そして彼はそのまま両手を広げ……優しく彼女を抱きしめた。

716ぬくもり:04/10/29 11:00 ID:ZtrxNvCM
 バッ
 突然播磨が両手を広げたかと思うと。
 ギュッ
 優しく八雲は抱きしめられた。
「え……?」
 彼女は突然のことに思考が停止してしまっていた。
「あ、あの……その……」
 当然だろう。
 八雲はただ寝ている播磨の様子が急におかしくなったのを心配しその顔を覗き込んだら、いきなり抱きしめられたのだ。
 固まらない方がおかしい。
「あ、あぅ……」
 いや、反応はしているようだ。
 八雲の顔は徐々に赤みを帯び始め、目の焦点が合わなくなってきていた。
 ギュゥ
「わ、私……播磨さんに……」
 ――抱きしめられてる。
 その事実を確認した八雲の理性は一瞬で焼き切れそうになったが、なんとか踏み止まることに成功した。
 ……けれど。
「はぅぅ……」
 播磨の力強い腕の感触が、汗の匂いが、少し高い体温が、響き渡る心臓の鼓動が八雲の理性を少しずつ瓦解させていく。
(どうしてこんなことに……でも……何か安らぐ……)
 八雲は播磨にされるがままにされても良いかなぁっと思い始めていた。
 すぅー
 そしてそう思った瞬間、彼女の腕は播磨の身体にへと伸びていた。
(あれ? どうして、私、こんなことを……?)
 自分の行動が理解出来ず、けれど止める事も出来ず、八雲はただ呆然と自分の腕が播磨の身体を抱きしめるのを見ていた。
「あっ……」
 そうすることで更に播磨と密着し、八雲はなんとも言えない幸福感を感じ、そしてそのことに心底驚いていた。
(私……なんでこんな気持ちになっているんだろう……)
 出来ればずっとこうしていたい。
 そんなことは出来るはずもないし、してもいけないと分かっているはずなのに彼女はそう思ってしまった。
717ぬくもり:04/10/29 11:00 ID:ZtrxNvCM
「くっ……」
 けれど残った理性はその誘惑に必死に抵抗しようとし、播磨の身体を引き離そうとした。
 …………でも。
「好き……だ」
「え?」
 播磨のその言葉を聞いた途端、力が抜けてしまった。
「好きだ……」
「あっ……」
 そしてそれは彼女の理性を完全に掻き消すのに十分な威力を秘めた言葉だった。
 ギュッ
 八雲は播磨を抱きしめていた腕に力を込め、その存在を身体全体で感じた。
「播磨、さん」
 その名を呼ぶことが、その身体に触れることが自分にとって至上の幸福だと八雲は思い始めていた。
「はふ……」
 ずっと、ずっとこうしていたい。
 こうやってこの人のぬくもりを感じ続けたい。
 もはや彼女は播磨にその全てを委ねたいとさえ思っていた。
 ……けれど。
「天満ちゃん」
「っ!?」
 その言葉に一瞬で我に返り、八雲は播磨の身体を突き飛ばした。
「はぁー、はぁー、はぁー……」
 荒い息を吐きながら八雲は自分の身体を抱きしめた。
「え? い、いったい何が……」
 突き飛ばされたショックで播磨は完全に目を覚ましていた。
「はぁー、はぁー、はぁー……」
 分かっていたことだった。播磨が天満のことを大切に思っていることくらい。
 なのに播磨が天満の名前を呼んだ事がとてもショックで、そしてショックを受けた事自体が八雲にとってショックだった。
「なん……で、私……」
 続く言葉は「こんな事をしたのだろう?」か。それとも「こんなに悲しいのだろう?」なのだろうか。
 どちらにせよ、八雲は自分の身体を抱きしめる力を弱めることはなかった。
718ぬくもり:04/10/29 11:01 ID:ZtrxNvCM
「俺、今……」
 播磨は呆然としながらも自分の腕に残った微かなぬくもりと、目の前の八雲の行動に様々な想像をめぐらせた。
「俺は……夢の中で……」
 天満ちゃんを抱きしめたはずだ。けれどそれは夢で……なのに何故抱きしめた感触が残っているんだ?
 そしてなんで妹さんはあんなにも自分の体を抱きしめて震えているんだ?
「まさ……か……」
 そうまで考えて、播磨はある想像に思い至った。それは彼にとっては最悪の展開で、けれど可能性が最も高いものだった。
「妹、さん」
「……はい」
「俺、もしかして君のこと……抱きしめたか?」
 恐る恐る播磨は訊ねた。
「あっ……」
 八雲は小さく声を漏らした後。
 コクン
 小さく、けれどしっかりと頷いた。
「っ!? す、すまねぇ!!」
 播磨は床に額を擦り付ける勢いで土下座をした。
「播磨さん?」
「俺、とんでもないことしちまった。寝ぼけてたとはいえそんな真似しちまうなんて……」
「い、いえ、その……」
 気にしないでください。八雲はそう続けようとした。
 けど、播磨の続く言葉が彼女から言葉を奪ってしまった。
「好きでもなんでも無い奴にそんなことされるなんて嫌だったろう。……けど信じてくれ。俺は君に対して
一度も疾しい気持ちなんて抱いたことは無いんだ」
「っ!?」
 ハンマーで殴られたかのような衝撃を八雲は受けた。
 確かにさっき播磨が天満の名を呼んだこともショックだったが、今の彼の発言はその何倍もショックだった。
「本当だぜ。俺、妹さんをそう言う対象でなんか一度も見たことないんだ。…………いや……だからと言って
俺みたいな男に触れられた事実は変わりねぇか」
「……」
「わりぃ、言い訳ばっかして。……本当にすまなかった。謝って許してもらえるとは思えないけど……ごめん」
 播磨は再び頭を下げた。
719ぬくもり:04/10/29 11:01 ID:ZtrxNvCM
「い……いえ。……その、私は……気にしてませんから」
 八雲は搾り出すように言葉を紡いだ。
「え?」
「私……不快だって思ってません。ですから……頭を上げてください」
 困ったように、けれど優しい笑顔を浮かべて八雲はそう告げた。
「妹さん……」
 播磨はその表情の裏に見え隠れする悲しげな表情に気付くことなく感激したように呟いた。
「いい子だな、妹さんは。……いつも世話になっているくせにこんなことをしちまった俺を許してくれるなんて」
「いえ……それは好きでしていることですから」
「……なるほど、な。でもやっぱ妹さんは凄いいい子だよ」
 八雲の言葉は播磨の役に立つことが好きだ、と言う意味だったが彼はそれをただ単に世話好きだと勘違いしていた。
「あ、あの……その……」
 黙っていると涙が零れそうな、そんな錯覚に陥って八雲は話しかけた。
「な、なんだ?」
 話しかけられた播磨はつい先ほどのこともあり、少し狼狽しながら訊ね返した。
「体調は、もう大丈夫ですか?」
 話題を変えるためでもあったが、それ以上に本当に播磨の身体が心配で八雲は訊ねた。
「お、おう。結構回復してると思うぞ」
「そうですか。……では……」
 八雲は頷くと、両手を播磨の方にへと差し出した。
「え? 妹さん……」
 播磨は驚いて身じろぎしようとしたが……。
「動かないでください」
 八雲の静かな、けれどはっきりとした口調に彼は動きを止めてしまった。
 スッっと八雲はまるで播磨の頭を抱くように側頭部に手を添えた。
720ぬくもり:04/10/29 11:01 ID:ZtrxNvCM
「へ? い、妹さ……」
「そのまま、じっと……」
 そう言いながら八雲は顔を彼の顔にへと近づけて行き……。
 コツン
 額を重ね合わせた。……姉の熱を計るときと同じように……。
「え? あ……」
 播磨は目を白黒させながらその光景に見入っていた。
「確かに、大丈夫そうですね……」
 八雲の女の子特有の甘い匂いが、髪から香るシャンプーの香りが、額から伝わる彼女のぬくもりが、
頭に添えられた白魚のような指の感触が、喋るたびに顔に掛かる彼女の吐息が……播磨の理性を駆逐して行った。
「良かった……」
 八雲は小さく微笑むと播磨の身体から手を離した。
「あっ……」
 思わず播磨は声を出してしまった。
「え? どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもねぇ」
 ドギマギしながら播磨は答えた。
「ん? そうですか」
 納得してないと言う顔だったが八雲は頷き立ち上がった。
「妹さん?」
「それでは……私は帰りますね」
「お、おう。気をつけてな」
「はい……」
 八雲は微かに笑顔を見せ頷くと、部屋を出て行こうとした。
「あっ、妹さん」
 その横顔が一瞬儚げに見えて、思わず播磨は呼び止めてしまった。
「はい。なんですか?」
 八雲はいつもと変わらぬ穏やかな声で訊ね返した。
「あー、いや、なんでもねぇ」
「そうですか。……それでは、お大事に」
 ぺこりと頭を下げて八雲は部屋を出て行った。
721ぬくもり:04/10/29 11:02 ID:ZtrxNvCM
「俺の勘違いだったか?」
 播磨はそう呟きながら布団に横になった。
「けど……なに考えてんだ、俺は」
 彼は己を激しく恥じた。
 一瞬ではあるが八雲に惹かれてしまった自分に驚き、後悔していた。
「すまねぇ、天満ちゃん」
 俺は君一筋のはずなのに……。彼は心の中でそう続けた。
「けど……」
 さっき初めて気付いた、彼女の柔らかい感触や白い肌、長いまつげや吸い込まれそうな瞳に形のいい唇、
そして女の子の香り……そう言ったものが思い出されて悩ましい気持ちになってしまった。
「あー、もう、なに考えてんだ。相手は妹さんだぞ」
 激しく脈打つ心臓を落ち着かせようと深呼吸し、播磨は布団の上に落ちてた濡れタオルを拾い上げ、額に載せた。
「はぁー」
 深い溜め息をつき、彼はそのまま目を瞑った。

 ……もっとも、寝れる状態では全く無かったが。

722ぬくもり:04/10/29 11:06 ID:n2MNqqwk
「なんで……私こんなに……」
 心が痛むんだろう。
 八雲は訳が分からず首を捻りながら、壁に背を預けた。
「はぁー」
 彼女は深い溜め息をついて玄関にへと向かった。
「お邪魔、しました」
 聞こえないとは分かっているが八雲は小さな声で呟き、玄関のドアのノブを捻ろうとした。
 ガチャッ
「え?」
 いきなり目の前でドアが開き、八雲は呆然とそれを見た。
「ん? つ、塚本君?」
 ドアを開けた人物、刑部絃子も目の前に予想外の人物がいることに驚き、しばし固まってしまった。
「ご、ゴホンッ。何故君がここに?」
 けれどさすがに絃子はすぐに復活し、八雲に問いかけた。
「え、えっと、その……播磨さんが風邪を引かれたと聞いたので……その、お見舞いに」
「そ、そうか。なるほど……」
 納得したように頷いたが、それでも絃子はまじまじと八雲の顔を見た。
「えっと……なにか?」
「いや、何……彼が風邪だと聞いて飛んで来たのに驚いてね」
「そ、それは、その……」
「そんなに心配だったのかね?」
 絃子の確かめるような口調に八雲は小さく頷いた。
「ふむ、君が拳児君と付き合っているという噂、やはりあながち間違いと言うわけではないのかもな」
 絃子は独り言のように呟いた。
「い、いえ、それは、違っ……」
「ん?」
 絃子の確かめるような視線に八雲は何故か言葉を詰まらせてしまった。
「どうしたのかね?」
「い、いえ……」
「? まぁ、いいが……もう帰るのかね? なんだったらもう少しいてもいいんだよ」
 少しからかいを含めた口調で絃子はそう告げた。
 ……けれど。
723ぬくもり:04/10/29 11:06 ID:n2MNqqwk
「いえ……たぶん、迷惑ですから」
「え?」
 一瞬寂しそうな顔をしてしまった八雲に絃子は驚きの表情を浮かべた。
「なにを言ってるんだね。きっと君がいれば彼は喜ぶよ」
 八雲の事を高評価している播磨の顔を思い出し、絃子はそう告げた。
「そんなこと、ないです。私が側にいても……播磨さんは別にどうとも思いませんし……」
「それはいったい……」
 絃子は訝しげな視線を彼女に向けた。
「いえ、なんでもないです。……では帰りますね、刑部先生」
「あ、ああ」
 有無を言わせぬ、そんな雰囲気を感じ取り絃子は黙って頷いた。
「あっ、お夕飯。播磨さんの分作っておいたんですが、良かったら先生もどうぞ。冷蔵庫の一番上に入れてありますから」
「ああ、分かった。ありがたく頂かせてもらうよ」
「それでは……」
 八雲は深く一礼し、玄関の扉にへと向かった。
「あっ、塚本君」
 その横顔が泣きそうな顔に見えて、慌てて絃子は呼び止めようとしたが。
「お邪魔しました」
 ドアを開け、八雲は玄関から出て行ってしまった。
724ぬくもり:04/10/29 11:07 ID:n2MNqqwk
「……ふむ」
 絃子は頷くと自分の部屋にへと向かった。
 そして。
「よし……」
 自分の部屋の引き出しから愛用の得物を数挺取り出すと、絃子はそのまま播磨の部屋に殴り込みをかけた。
 バンッ
「のわっ、い、絃子? 帰ってたのか?」
 全く寝れなくて布団に転がっていた播磨は、絃子の乱入に慌てて飛び起きた。
「やぁ、拳児君。体調は良さそうだな。……あと「さん」を付けたまえ」
「あ、ああ、少しは回復したぜ。……って言うか、なにノックもせずに入ってきてんだよっ」
 先ほどまでの気持ちを振り払うかのように、播磨は大声で抗議した。
 ジャキッ
「へ?」
 けれど絃子が持っていたエアガンのセーフティーを解除したのを見て、播磨は間抜けな声を出した。
 パシュパシュパシュパシュ
「ぐのぉぉぉおっ」
 問答無用で銃弾をぶっ放され、播磨はその場で悶絶した。
「な、なにしやがる……。お、俺は病人だぞ……」
 息も絶え絶え、播磨は抗議した。
「君にいくつか聞きたい事があるのだが」
 けれど絃子は播磨の抗議を一切無視してそう訊ねた。
「へ? 聞きたい事? なんだよ、そりゃ。それと今銃を撃ったのと何か関係が……」
 カチッ
 ズダダダダダダダダダダッ
「グギャァーッ」
 今度はフルオートのエアガンで撃たれて、播磨は断末魔の叫びを上げた。
「黙っていたまえ。今質問してるのは私であって、君の質問は許可していないよ」
「は、はい、すみません」
 その場で土下座をして、播磨は謝った。
「ふむ、なら早速質問をさせてもらおう。なに、私も鬼じゃないんでね。何の申し開きもさせずに
成敗するのは忍びなかったんだよ」
「は、はぁ……」
725ぬくもり:04/10/29 11:07 ID:n2MNqqwk
「では簡潔に問おう。君は塚本八雲君になにをした?」
 銃を突きつけながら絃子はそう質問した。
「へ? 妹さんに?」
「ああ。看病、してもらったんだろう? その際彼女になにをしたのかね?」
「え? ……あっ……」
 播磨は先ほどの自分の行動を思い出し、青くなった。
「ん? その顔は何か思い当たる節がありそうだね」
「そ、その……妹さん、何か言ってたのか?」
 恐る恐る播磨は訊ねた。
「それを確かめるために聞いているんだよ、拳児君。さて、君が彼女のなにをしたのか、こと細かく喋ってもらうよ」
 ゴリッ
 播磨の眉間の中心にエアガンの銃口を押し付け、彼女は質問した。
「お、おう、実は……」
 播磨は背中にびっしょりと冷や汗を流しながらポツリポツリと自分がなにをしたのか話し始めた。
                            ・
                            ・
                            ・
「ふむ、なるほどね」
 絃子は興味深そうに何度も頷いた。
「ああ。妹さんにはすまないと思ってるさ。気にしてないとか言ってたけど、やっぱ気にしてたんだな」
「ふむふむ……」
「当然だよな。好きでもない奴にそんなことされて気にしないはず無いものな。やっぱしばらくは
妹さんと距離を置いてほとぼりが冷めるのを……」
 ズガガガガガガガガガガッ
「グギョーッ!?」
 いきなり至近距離でエアガンを撃たれ、播磨はその場で転げ回った。
「し、至近距離で撃つんじゃねぇっ!! 死ぬって、マジで」
 播磨は泣きながら抗議した。
「彼女が何に傷つき、悲しんでいたのか大体想像がついたよ」
 けれどまたもや絃子は播磨の言葉を一切無視して納得したように呟いた。
726ぬくもり:04/10/29 11:08 ID:n2MNqqwk
「や、だからそれは……」
 ドゴンッ
「ヒッ!?」
 いきなりの銃声に播磨は身を硬くした。
「い、今のはなんだ?」
 恐る恐る後ろを振り返ると、布団から退かしてあった枕に穴が開いていた。
「はぁ!?」
 播磨はその光景を確認して、矢のような速度で絃子の方に向き直った。
「あ、あの、絃子さん?」
「おや、ちゃんと「さん」付けで呼べるじゃないか。何かね、拳児君」
「その銃はいったい?」
 震える指先で先ほど絃子がトリガーを引いたエアガンを指差した。
「ああ、これかね。趣味で色々と改造してね。速射性や命中率の向上は勿論、威力も段違いに上げているんだ」
 絃子は得意げに解説を始めた。
「あー、威力を上げたってどのくらいだ?」
 顔を引くつかせながら播磨は訊ねた。
「そうだな。当たれば骨くらい折れるかもって程度だな」
 クールにそう告げる絃子の顔を見て、思わず播磨は逃げ出したくなった。
「でだ」
 ゴリッ
 絃子は播磨の眉間を抉るように改造銃の銃口を押し付けた。
「な、何を……」
「今からお勉強を始めようか」
 口元に笑みを浮かべながら絃子はそんな言葉を紡いだ。
「はっ、いきなり何を言って……」
「ふむ。本当は他人の色恋沙汰に口を挟むなど私の主義に反するんだが、これでも私は女でね。
女心を踏みにじるような行為はやはり許せないんだよ」
「あん? どういう意味だ?」
 播磨は訳が分からないと言った表情で絃子の顔を見つめた。
「気にしなくて良い。それよりもお勉強の内容だが、単純なものだ。今から私がするたった一つの質問に答えるだけだよ」
「一つの質問?」
 播磨は訝しげに聞き返した。
727ぬくもり:04/10/29 11:10 ID:FXxohX2A
「ああ。それに正解したらこれ以上もう追及しないし、部屋からも出て行く」
「……間違ったら?」
 顔を青ざめながらも、播磨は聞かずにはいられなかった。
「なに、その時は罰ゲームとしてある実験に付き合ってもらうだけさ」
「実験?」
 播磨がその内容が想像できずに首を捻ると。
「単純なことだよ。……そうだな、この銃弾を何発食らうまで人は生きていられるか。そう言う実験だな」
「ひっ」
 絃子の目はマジだった。
 その目は喧嘩で無敵を誇る播磨を心の底から震えさせるのに十分なものだった。
「では質問だ」
「ちょ、まだ心の準備が……」
 播磨は必死に抗議をしようとしたが、絃子はそれを完全に黙殺してしまった。
「質問。『好意を持っていない男性の部屋にわざわざ出向き、看病をするような女性がいると思うか?』」
「……え?
 播磨は呆然とその言葉を聞いた。
「ついでに『食事などの身の回りの世話までする』というフレーズまで付けようかね」
 絃子はいつも通りの冷静な口調で告げた。
「…………」
「考える時間は10秒。答えられなくても罰ゲームは受けてもらうよ」
 彼女はそう告げてトリガーに指をかけた。
「……8……7……6……」
 絃子はゆっくりと数を数える。
 けれど播磨はその声が全く頭に入っていなかった。
(好意を持っていない男の部屋にわざわざ出向き、料理まで作って看病する女がいるかだって?)
「……4……3……」
(そんな女……そんなことする女なんて……)
 ぐるぐると様々な思いが渦巻き……。
「……1……ゼ……」
「いるわけねぇ」
 彼は答えを述べた。
728ぬくもり:04/10/29 11:10 ID:FXxohX2A
 ピタ
 その答えを聞いて絃子は動きを止めた。
「絃子?」
「その答え、自信を持って言えるかね?」
「お、おう」
 播磨は神妙な顔を付きで頷いた。
「正解だ、拳児君」
 クルッ……ゴンッ
「イッテーッ」
 絃子は銃をくるりと回し、グリップ部分で播磨の額を殴った。
「な、なにを……」
 悶絶しながら播磨は絃子を見上げた。
「今君が自分で言った言葉の意味を何度でも噛み締めたまえ」
 そう言い捨てると絃子は播磨の部屋のドアに手をかけた。
「絃子……」
「「さん」を付けたまえ。……フンッ、君が女を泣かせるプレーボーイ振りを見せるとは思わなかったよ」
 小さく笑い、絃子は部屋を出て行ってしまった。
 後には額に手を当て、虚空を見上げる播磨が残されているだけだった。
「自分が言った言葉の意味……か」
(好意を持っていない男の部屋にわざわざ出向き、料理まで作って看病する女はいない……)
「ならわざわざ男の部屋に出向き、料理まで作って看病してくれた妹さんは……」
 考えるまでも無かった。そこから導き出せる答えなど、救いようの無い馬鹿以外は間違えようがなかった。
 そして播磨は救いようの無い馬鹿ではなかった。
「妹さん……」
 少女の顔を思い出し、播磨はポツリとその名を呼んだ。
「俺は……俺は……」
 結論の出ない自問自答を彼は続けた。

                              〜 Fin 〜
729ぬくもり:04/10/29 11:10 ID:FXxohX2A
と言うことでどうだったでしょうか?
八雲のSSはラブラブで書くのが難しいのでこんなになっちゃいました。
今回は播磨が八雲の気持ちに気付きかける、そう言う内容に留めましたが
……もしかしたら続きを書くかもしれません。
自分でもここで止めるのは消化不良だって思ってるので。

それと今回八雲が作った料理は本当に冷蔵庫の残り物で作れるものです。
その辺はちゃんと調べましたから。

あと今回は八雲のドラマCDとCVの能登麻美子のラジオをBGMに書いてみました。
結構筆が進みましたね。

では感想等、ありましたら是非レスを。
730Classical名無しさん:04/10/29 11:14 ID:mrLB7g8.
ライブで見させてもらいますた。
GJ!
731Classical名無しさん:04/10/29 11:18 ID:dtU6wR4E
リアルタイムキタ────(゚∀゚)────────ッ
いやもうGOOD JOB!!デスヨ。
ぜひ続きをm(_ _)m
732Classical名無しさん:04/10/29 11:57 ID:UaLYW8w6
GJ!
これは是非ともラブラブな続きが読みたいです。
おにぎりはやっぱり最高ですなー。
733Classical名無しさん:04/10/29 12:37 ID:3jBF6JFE
GJ!!




だったんですけど、書いてるサラ×アソ(順番は合ってます)SSと風邪ネタが
カブッタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

どうしよう_| ̄|○
734Classical名無しさん:04/10/29 12:52 ID:rNcis7Ck
オマエら、新スレの季節ですよ。


だんだんペース早くなってきてるな。
735闇夜 ◆PMny/ec3PM :04/10/29 13:12 ID:Sd.ReRXY
GJ!
ちょっと積極的な八雲かわいいよ八雲。

で、この後>>580-582に続く、とw(違
736Classical名無しさん:04/10/29 13:36 ID:gv0rOFFU
>>729
GJ!かなりイイ!
八雲に萌えました。絃子さんもクールですね。

そして次スレ立ててきます。
737736:04/10/29 13:44 ID:gv0rOFFU
弾かれた。。。orz
誰か次スレお願いします。
738Classical名無しさん:04/10/29 14:14 ID:6qps.Rk6
次スレ、立てました。

スクールランブルIF16【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1099026765/
739Classical名無しさん:04/10/29 18:21 ID:l5TvP5Ek
>>733
私は見てみたいっ。ぜひお願いします。
740恒例絃子埋め:04/10/29 21:45 ID:7PNlQFGo
「あの、私が言うのもなんなんですけど」
「うん? にゃんだ、よおこ」
「ほどほどにしておいた方がいいと思いますよ」
「なーにいってるんだ、まだまだいけるさ。ああそうだ、まだまだゃ!」
「思いっきり駄目そうじゃないですか……」

 ――で。

「ぅ……ん……」
「やっぱり……でも珍しいですね、絃子さんがここまで潰れちゃうなんて」
「……」
「えーと、絃子さん? 絃子さーん? ……はぁ、仕方ないですね。でもこの時間にタクシー呼ぶのも――あ。
 こういうときは、と」

 ぴぽぱ。

「もしもし……よかった、まだ起きてたんだ。うん、それでね、ちょっと頼みたいことがあるんだけど――」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……うっす」
「あ、ごめんねこんな時間に。それでなんだけど」
「連れて帰ればいいんだろ。ったく……」
741恒例絃子埋め:04/10/29 21:45 ID:7PNlQFGo
「うん。拳児君に頼むのが一番だと思ってね。いろいろ」
「いろいろ?」
「ん、こっちの話」
「……ま、いいけどよ。んで、イトコのヤツは?」
「あそこ。さっきからぐっすりで全然起きないの」
「だったら泊まってった方がいいんじゃねぇのか?」
「でも着替えとかも考えると、ね。明日が休みだったらよかったんだけど」
「それじゃしゃあねぇか。でもよ、これどうやって連れて帰りゃいいんだ?」
「――おぶってく、とか」
「なっ!? いや無理だろそれどう考えても!」
「あー酷いな拳児君。絃子さんそんなに重くないよ?」
「そういう意味じゃねぇっ! 普通こういう場合タクシーでも呼んでだな」
「でも私が電話したとき言わなかったよね、それ」
「っ……」
「『すぐ行くから待っててくれ』とか」
「ぐ……分かった、分かったよ。でもな、背負うっつーのはちょっと……」
「じゃあお姫様だっこ」
742恒例絃子埋め:04/10/29 21:46 ID:7PNlQFGo
「せっかくだから俺は背負う方を選ぶぜ!? なあ!?」
「……残念」
「あのよ、もしかしてなんだが……酔ってるだろ」
「ううん、全然」
「……」
「さ、そうと決まったら明日もあるんだから、ほらほら」
「なんか納得いかねぇ……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ったく、いつもならどんだけ飲んでもけろっとしてるヤツがよ……」
「ん――?」
「なんだ、起きたのか。……寝てていいぞ」
「けんじ、くん……? っ!?」
「っと、んだよ、んな驚かなくてもいいだろうが」
743恒例絃子埋め。おしまい。:04/10/29 21:47 ID:7PNlQFGo
「そんな、だって私は、葉子の、家、で……」
「だからそこでぶっ倒れてたのを引き取ってきたんだよ。寝ぼけてんじゃねぇぞ?」
「……そうか。だがもう大丈夫だ、自分で歩ける。それにこんな恰好誰かに……」
「だぁっ! 無理すんなって……うおっ!?」
「つ、あ……」
「バカヤロ、だから言っただろうが」
「……すまん」
「――ほら、乗れよ」
「何を……」
「ごちゃごちゃ言うな、俺だって好きでやってんじゃねぇ。でもな、今のイトコじゃ歩いて帰るなんて無理だろ」
「それは……そうだ、タクシーは」
「金がねぇ」
「……分かったよ。まったく、葉子のさしがねか……?」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもない」
「よっ、と。じゃ、無理しないで寝てろ」
「……ああ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……なあ、拳児君」
「寝てろっつっただろ……なんだよ」
「その……」
「だからなんだよ」
「……なんでもない。すまん、忘れてくれ」
「あん? ワケ分かんねぇぞ……まあいいや、行くぞ」
「――――がとう」
「ん?」
「なんでも、ない」
「……」
744Classical名無しさん:04/10/30 01:52 ID:BqsIa9X2
埋め立て絃子さんキテターーーー!

今回は絃子さん幸せそうですね
播磨に強気に出られると素直にありがとうとも言えない絃子さんがかわいい

GJ!
745Classical名無しさん:04/10/30 02:21 ID:Er/exY3U
「それにしても……『絵を教えてくれ』ってどういう風の吹き回しなのかな?」
「い、いや。特に理由はねーんだけどよ、やっぱ基本くらいは学んでおいた
方が有利かなって」
「有利って何が?」
「な、なんでもねぇ!」
「ふふん、でも……万年サボりの播磨くんがやる気を出してくれて、お姉ちゃん
嬉しいかな」
「……」
「あ、そこはダメよ。ちゃんと物を見て、立体的に描かないと」
「お、おう。悪ぃな、葉子おねえ……もとい、笹倉先生」
「……ふふ。昔は葉子お姉ちゃんだったのねぇ……絃子先輩は絃子絃子って
呼び捨てにしてたのに」
「……」
「私たちが高校生の頃だから……えーっと、播磨くんはまだ小学生よね」
「そういう話、勘弁してくれよ……小学生の自分なんて思い出したくもねぇや」
「ふふっ……生意気言うじゃなーい。会った頃は葉子おねーちゃん、葉子
おねーちゃんって懐いてくれたのになー、おねーちゃんさみしーなー」
「だぁぁぁ。もう、絵に集中させてくれよ……」
「でも、あの頃から絃子先輩に対してはイトコイトコって呼び捨てにしてた
わよね?」
「う」
「何で?」
「……ノーコメントっつーことにしておいてくれ……」
「ふふふ……当ててみせようか?」
「!?」
「絃子先輩を絃子おねーちゃんと呼ぶと、何か自分が弟みたいで、彼女の
恋愛対象に入ってないみたいで癪だなー、くやしーなー……図星?」
「ちっ、ちちちちち違わいっ!」
「播磨くん、すーぐ顔に出るんだから」
「くっそ……やっぱ別の教師に頼みゃ良かったか……」
「葉子おねーちゃんには勝てないわよね、ふふ」
746Classical名無しさん:04/10/30 07:32 ID:VntvWSzM
絃子さん(゚∀゚)キター!GJ!
今回は葉子さんも(*´Д`)ハァハァ
747Classical名無しさん:04/10/30 13:11 ID:AhWVJsvQ
>729
 文章に変化が無かったせいで読みにくかった。具体的には語尾が変化していない
ところ。ほとんどが過去形の文章。話が長ければ長いほど、リズムのない文章を
読むのは疲れます。
748Classical名無しさん:04/10/30 19:31 ID:bA8hdEHc
何KBまで書き込めるんでしたっけ?
749Classical名無しさん:04/10/30 20:07 ID:bA8hdEHc
容量限界わかんないので埋めSS投下

ある日の二人。

「いやー今日も漫画の件で付き合わせちまって悪かった。」

「いえ…私も早く完成したの見たいですから。」

「お、妹さん家はこっちだったっけか。俺用事あるから今日は送れないんだ。すまねえ。」

「い、いえそんな、構いませんから。」

「じゃあな妹さん。」

「……」

「?どうしたんだ?急に塞ぎ込んじまったような顔して。」

「そ、その…あ…」

「?」

「あの、播磨さんま…また明日っ。」

「お?おう。じゃあ『また明日』な妹さん。」

「ええ…また明日」
750Classical名無しさん:04/10/30 20:10 ID:bA8hdEHc
終わりです。
流石に会話だけだと楽だけど短くまとめるの難しいやな。
751絃子埋めその2:04/10/30 20:21 ID:8aIymZwk
「別にさ、あがめ奉れ、なんて言ってるんじゃないんだ。でももう少しくらい考えてくれても
 罰は当たらないと思うんだ」
「うーん、そうかもしれませんね」
「家主である私に断わりもせず女の子を連れ込んで、しかも挙句はその私を追い出すんだよ?
 何をしてたか知らないけどさ、まったく」
「はあ、それはまた」
「結局説明なんてしちゃくれないし、そもそも私が家主だという根本的なことを忘れてるよう
 な気まで……」
「ですね。……あれ、どうかしました?」
「さっきから気になってたんだが……葉子、君ちゃんと人の話を聞いてるのか?」
「もちろんちゃんと聞いてますよ」
「にしちゃ返事がずいぶんと適当だと思うんだが」
「それはほら、言わぬが花、っていうこともあるじゃないですか」
「なんだ、言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
「……いいんですか?」
「だからいいと言っているだろう」
「じゃあ訊きますけど――どうしてそんな面倒ごとばかりなのに彼と暮らしてるんですか?」
「なっ……」
「絃子さんの話を聞いてると、全然いいことないみたいに聞こえますけど」
「それは……ほら、いくらそんなやつでも頼みごとを無下にするわけにはいかないだろう?」
「拳児君の場合って、ご両親もいらっしゃるんだし、断っても大丈夫だと思いますけど」
「……いや、その、彼が男の意地がどうこうとかごねるもんだし」
「でもそれって絃子さんには関係ないですよね、全然」
「う……」
「不思議ですね、どうしてなんでしょう? あ、マスター。同じのもう一ついただけます?」
「……葉子、君ってほんとこういうとき……」
「はい?」
「……なんでもない。すまんマスター、何か強いやつを頼む」
「ふふ」
「何がおかしい」
「いーえ、別に」
「……」
752Classical名無しさん:04/10/30 20:23 ID:I8kal/1s
彦 野
立 浪
ゲーリー
落 合
宇 野
仁村徹
川 又
中 村
小 野
753Classical名無しさん:04/10/30 20:25 ID:I8kal/1s
荒 木
井 端
立 浪
福 留
アレックス
谷 繁
井 上
渡 辺
川 上
754Classical名無しさん:04/10/30 20:41 ID:I8kal/1s
佐藤友
赤 田
フェルナンデス
カブレラ
和 田
貝 塚
中 島
細 川
高木浩
755Classical名無しさん:04/10/30 20:43 ID:H0iANJYg
>>751
GJ!
どちらも良いけどどっちか選べと言われたらその2の方が好きだ。
動揺する絃子さん萌え。
毎回楽しみにしています。
756Classical名無しさん:04/10/30 21:04 ID:xk5/NhuU
容量って512じゃなかったっけ?
500超えるてほかっとくと、勝手に落ちる。
757Classical名無しさん:04/10/30 21:23 ID:ccQksWco
鯖ゲ編

「ふっ、追えば追うだけお前が不利になるんだよ」
播磨は15mほど後ろの影の様子を伺いながらつぶやいた。
しかし、その言葉は連射音にかき消され、夜の闇に溶けた。

花井と播磨はいくつもの教室で戦闘を重ねていた。
しかし、戦闘といっても播磨は逃げる一方で勝負をしにこない。
「男なら逃げずに勝負しろ!」
誘い込まれてることは百も承知だったが、さすがに焦らずにはいられなかった。
「このまま、戦闘を続ければ敵陣に直行だ。って、僕がこっちに来るってことは守備が手薄ってことじゃないか!!」
花井はやっとそのことに気づいた。
「くっ、弾ももう少ない。どうする?どうすればいいんだ?」
考えているうちにも、刻一刻と弾は減っていく。
いやな汗が一滴、花井の頬をつたった。

花井の弾は、あと十数秒もすれば切れてしまうであろう数を残すのみとなっていた。
弾切れの焦りに支配される花井の思考。しかし、その焦りの中である案が浮かんだ。
(くそっ、弾がもうない!!)
もう、花井に残された選択肢はひとつしかない。
(かくなるうえは!)

「播磨ぁ!!僕は八雲君が大好きだぁぁぁ!!!」
花井の突然の叫びをきっかけに双方の銃声がピタリと止んだ。
教室につかの間だが静けさが戻った。

「だからなんだ?」
播磨はわけがわからずも、そう答えた。
「僕と八雲君をかけて勝負しろ!」
花井は立ち上がり、銃を捨てた。
(なっ、銃を捨てやがった!撃つか?あ〜、でもここで撃ったら男としてなぁ…。
ってか、何でみんな付き合ってる前提なんだよ…)
758Classical名無しさん:04/10/30 21:24 ID:ccQksWco
播磨は花井の行動に驚きつつも心の中でつぶやいた。
「だから、妹さんとは何の関係もねぇって!」
わかってもらえねぇんだろうなぁ、と思いつつも否定してみる。
「じゃあ、何で八雲君はお前の家に泊まったんだぁ!!?」
「なっ!?」
花井の言葉が播磨の全ての機能を止めた。
(なぜこいつがそんなことを!?どこからそんな情報が!?やべぇ、また問題が大きくなっていってるよ…。
まさか、みんな知ってるのか!?
やべぇ、また妹さんに迷惑かけちまった!!!妹さんゴメン!!!
って、、まずはこいつをなんとかしなくちゃ。
まさか俺がマンガ描いてて、原稿を手伝ってましたなんて言える訳ねぇし…。
どうしよう、何かいい言い訳はないか?)

播磨の思考は突然のことに滅茶苦茶になり、言い訳を必死に模索している。
「べ、勉強教えてもらってたんだよ…」
とっさに思いついた言い訳を言ってみるも、その言葉は陳腐なこと限りなかった。
「何で、上級生のお前が勉強教えてもらってるんだよ!!!?」
「あ、いや…、なんでだろ?」
「そんなこと僕が知るか!!!」
759Classical名無しさん:04/10/30 23:15 ID:VntvWSzM
>>751
GJ!
これは萌える(*´Д`)
760Classical名無しさん:04/10/31 01:15 ID:Z7NEluiY
その日、俺 播磨拳児はどうにかしていたらしい
どことなく感じる違和感
霧がかかったようなモヤモヤでいっぱいになる
ここ2,3日どうも心が晴れない

そう 天満ちゃんと、烏丸へのプレゼントを買ったあの日から
……
で、こっそり美術室に忍び込んで絵なんか描いてるわけだが…
もちろん漫画ではなく、今描いているのはれっきとした自画像だ
…こんなの描いてるトコなんか、ぜってー絃子には見られたくねーんだが
都合のいいことに、今日は午後から出張らしい
よってこっそり絵を描いている姿を見られたうえで散々言われて
こっ恥ずかしい目に会うということはないだろう…
まぁ、笹倉センセーにでも見つかればバレちまうが、直接見られなければ
べつにたいして恥ずかしくもない。あとは他の先公に見つかってもテキトーに
ごまかせるだろーし、別にそんなに悪さしてるわけでもねーし。ま、いいだろ

とりあえず黒板の周りに転がっていた用具を拾って使うことにする
その辺に落ちてたちびた鉛筆と左上の隅に切れ目の入った鏡
そして画用紙をパクれば、とりあえず絵は描ける
画力だけなら、漫画作りのおかげで無い訳じゃねぇ
ならばあとは描くだけ
……
描くだけなんだが、いまいちうまくできない
デフォルメ画じゃなく、鏡に映った自分をみるとどうにも輪郭がハッキリしない
どことなくボヤけて、今どこを描いているのか分からなくなってくる


はぁ
761Classical名無しさん:04/10/31 01:20 ID:Z7NEluiY
そもそも、なんでこんなことをしようと思ったのかもよく分からなねぇ
……。どれくらい居ただろうか、乾きかけの油絵の具やらニスやらの
独特の匂いで溢れたココに…
時計を見ると、もうかなりの時間が経ってやがる…そろそろ飽きてきた

天満ちゃんはもう帰ったんだろうか。聞いた話だと烏丸たちのバンドの
練習につきあってるってクラスの奴らは言ってたが…
”付き合って”という単語が、薔薇の棘のみたくチクチク刺さる
………。泣いてないよな、俺
 俺、そんなに神サマから嫌われてんだろーか?
いや…。そんなこと考えるのはよそう。
なにも考えず、やるって決めたこたぁやり通そう
「…」
…かえって天満ちゃんの姿が頭に浮かんでくるんだが…
今頃烏丸と… 
はぁ 何が悲しくて惚れたオンナの恋を密かに見守ってなきゃいけないんだよ!
ジーザス、俺はどうすりゃいい?
やっぱあのまま邪魔してた方がよかったのか
でもよ、あの目を見てると、なんだか、妨害したくねぇ
どーしても、悲しませたくないって気持ちが先になっちまう
だから、妹さんのことは誤解だっ て言うことも出来ないでいる
まぁ、それが恋ってヤツだが、どうもつらい
しかもよりによって俺は妹さんと付き合ってることになってるし
ちょっと前はお嬢と恋人だとか誤解されていたし…
せめてそんな誤解だけは解かないと…
そんなことを思った時、空気が変わった気がした
誰かいるような錯覚、瞬間、筆を止めて辺りを見回す
「ずいぶんぜいたく願いじゃない? アナタ?」
762Classical名無しさん:04/10/31 01:23 ID:Z7NEluiY
おまけに幻聴まで聞こえる。って幻聴か?
「天満ちゃ …。違う!」
そう 目の前には見たことのない少女が立っていた
少し薄手の洋服を着て、長い髪を揺らしながら、こっちへと歩いてくる
見たことも…ないのだが、どことなく、塚本天満に見えた
「こんにちは 」
唐突に話しかけてきたコイツ。見たところ、この学校の生徒にしては背がちっこい
「あ、あのよ。迷子か?」
とりあえず、テキトーに返事をする。自分すら思ってもいないことを口走る
それを聞いて、なんか不気味に笑っている
どこからか、涼しげな空気を感じる。なんかいやな予感。むしろ殺気だろうか?
「そういわれたのは二回目よ。 あなたも信じないのね…。」
どうも話が通じない、サッパリ何のことだかわからねぇ
「おい、何のコト 」
言おうとした瞬間
ふっと風に揺れるように、少女の髪が広がって見えた
次の瞬間、俺は身動きが取れなくなっていた
あまりに突然そうなったので、何がなんだかわからねぇ
が、更に長く伸びた髪は、手錠のようにガッチリと両手両足を拘束している
「くそっ」
力だけなら、絶対負けるはずねぇ俺だが
どんなに力をかけても、ピクリとも動かない
「無駄よ、それは金縛りみたいなものだから…」
枷をはめられた囚人のように、その場に軟禁される
とりあえず大声出せば、誰か来るかもしらねーが
騒ぎになるのはマズイだろうし、何よりも不良の俺が
ちっちゃな女の子にイジメられてました〜、じゃもう二度と学校に来れねー
ここは一つ、なるべく冷静に…
763Classical名無しさん
「あ、あの…。もしかして、 幽 霊…とか?」
あんまり冷静じゃなかったが、その質問がおかしかったのか、クスクス笑っている
「ビンゴ! そう、私はフツウの人間じゃないの 」
ニンゲンじゃない?だったら何をしに…
「あなたに、聞きたい事があるの」
…。なんだ、そういうこと…か
どーやら天使でも悪魔でもないらしい、が、厄介なのは予感通りだった
「で、何だ?」
「 話が早いのね、あなた、じゃあ聞くわ」

「答えて。あなたは誰が好きなの?」
 そんなことか、考えるまでもない
「あぁ、塚本、天満 って娘だ」
「嘘… だってあなたには付き合っている人がいるじゃない…」
…っ
幽霊にまで誤解されてるってのはどういうことだか知らねーが
まぁ、これも誤解を解く練習だと思えばいいか
「あ、あのよ、何聞いてるか知らねーが、
 俺と妹さんはそんなんじゃなくて… 」
「彼女のことは、好きじゃないの?」
「嫌いってわけじゃねーが、ソーユーのとは違う」
「じゃあ、沢近愛理とは?」
「だからなんでお嬢となんだよ、アイツとはむしろ敵同士だ
 つーかどっからそんな根も葉もないコトを聞いて…

「それでも、周りはどう見てるか分かってるの?」