1 :
空振り派 ◆SwiNgZaM :
04/07/02 19:32 ID:gthoWUqs
ネタばれSSも当然不可です。 テンプレはここまでです。
乙 SSも乙だ
乙です。 沢近放浪編・・・・・気になる。 とりあえずSSも乙
誰も来ない・・・orz。 スレ立てミスっていないことを祈りつつ・・・ SS職人の皆様の次回作に期待します。
あw 来てくれて良かった。 新参者ですが、今後ともよろしくお願いします。
トリップつけないほうがいいと思うよ 特に新しい人は叩かれるし
空振りって、誰のカップリングですか?
乙です
別に入れなくていいよ、うっとうしい。
いや入れるにこしたことはないだろ 読んだことない人がいるのはもったいないよ。
>11みたいな感想も書かずにケチだけつける奴が増えるから必要ない。 文章作法の出来、不出来と内容の良し悪しは無関係だから。
文章作法というか文章力は最重要ポイントだと思います。
文章力なければ書いちゃいけないって訳でもあるまい。
……なんだかナナメに盛り上がっているので、流れを無視してみます。 晶をメインに、毎度ながらスクランっぽくねぇと思いつつ。
立ち振る舞いに足の運び、身のこなし。 目を瞑っていても、どこにいたとしても、そのすべてを思い出せる自信はある。 別にそれが嫌いだったわけじゃない――むしろ好きだったと、そう思う。 けれど同時に、それが世界のすべてだとも思えなかった。 だから、家を出た。 『行ってらっしゃい』 すべてを告げたとき、その人はそう言った。もっと世界を見てきなさい、と。 『行ってきます』 だから、そう答えた。 『先生』ではなく、『母』に。 ――そして世界は広かった。 言葉にしてしまえばどうということもなく、けれどそんな現実。生きていく、というのはなかなか大変なことで、 そのために多くの時間を費やして、いくばくかの報酬を得る時間が続いた。 切り捨てたものに失ったもの、それを数え上げれば切りがないはずで、辛くなかったと言えば嘘になるだろう。 それでも楽しかったのは嘘ではないと思う。生活が軌道に乗り、ようやく手にしたささやかな余裕の中で、見えな かったたくさんのことが見えるようになり、何よりもっと大事なものを得た。 何物にも代え難い、それは――
「――ら、晶、聞いてる?」 ふと、遠く聞こえる声に我に返る。 戻ってきた視界には、怪訝そうな様子の愛理、窓際には頬杖をついた刑部先生。そう、部室だ。 「ごめんなさい。少し呆けていたようね」 返事を返しつつ、どうして急にそんなことを思い出したのか、そう考える――と、その答は目の前にあった。 茶碗。 名目上とは言え茶道部は茶道部、茶を点てるための道具は一通り揃っている。たまには、と気紛れにそれを準備して いたところに、こちらも気紛れに、珍しく愛理がここを訪れた、そういうことだったとようやく思い出す。まったく、 我ながら情けないと胸中で反省。 「呆けてたって、珍しいわね……」 それを知ってか知らずか、さらに眉をひそめる愛理に、あなたのそういう顔の方が珍しいのだけれど、と思うけれど、 あえて口にしない。そうこうしているうちにも、何か言葉を探しているようだった彼女が口を開く。 「ほら、何て言ったかしら……」 それが精一杯だったのかどうなのか、次に出てきた言葉は―― 「そう、『鬼の拡散』?」 ――鬼が広がっていくらしい。 「……『鬼の霍乱』、よ」 一瞬の静寂。 「く、くくく……」 やがてそれを打ち破ったのは、堪えきれない、といったように吹き出した刑部先生。あはは、なんて普段見せない ような表情で笑っている。
「ちょ、ちょっと間違えただけじゃないですか! ああもう、晶も何か言ってよ!」 真っ赤な顔をして怒鳴り立てる愛理。 その顔を見て―― 「……晶? なに、ちょっ、や、やめ……」 黙って両手を伸ばし、その頬を引っ張ってみる。 むにー。 そんな擬音がどこからか聞こえた気がする。 「ななな、何するのよっ!」 「――なんとなく」 「は――?」 虚をつかれた、というように、一度は私の手を振り払ったそのガードがゆるむ。 むにー。 もう一度。 「あ、あひらっ!」 部屋に響くのは、そんな怒声と刑部先生の笑い声。
――そんな騒ぎも、愛理が飛び出していって収まって。 「わざとにしろ本気にしろ、なかなか難しいところだったね」 「……どちらでも構いませんよ。私のために言ってくれたみたいですから」 それにしたって、励ますには彼女らしくあまりに不器用すぎたと思うけれど。 「うん、それはそうだな。……いやしかし、ああいうところもあるんだね、彼女。意外に心配性だ」 「ええ、普段は絶対見せませんけど」 ふうん、と言ってにやにやと笑う刑部先生。その笑顔の意味は、即ち。 ――分かっているなら言ってあげればいいのにね。 「駄目ですよ。そういうの好きじゃないですから、彼女」 「だからこそ、だよ」 表情はそのままに、こちらを試すようなその言葉。誘いに乗るのは負けだとしても、乗らなければ終わらない。 つくづく、この人は教師に向いていると思う。生徒と対話する、という点において。 「先生、使いどころをわきまえるからこそ――」 「――切り札、かな」 「そういうことにしておいてください」 小さく肩をすくめてみせると、ふっ、と今度は一転して優しい笑み。
「ま、ともかくだ。そういう『縁』はしっかりと握っていた方がいい。いつかきっと君の……そうだな、宝になる」 「宝……ですか」 「そうさ、何物にも代え難い、ね」 「……それは例えば先生にとって、笹倉先生のことですか? それとも――」 使いどころをわきまえるからこそ、切り札。今がそうかはともかくとして、この程度なら許されるだろう、と彼女 へのそれをちらつかせてみる。そこにあるのは『彼』の名前。 「ストップ、その先は言わなくていいよ。……これで引き分け、かな」 苦笑に対する返事は、さあどうでしょう、の一言。 「それでは、ちょっと失礼します」 そんな化かし合いも一段落、席を立って部屋の出口に向かい、そしてその扉の前で足を止め、後ろを向いたままで。 「――先生、私と愛理の『縁』はそんなに簡単に切れるものじゃありませんよ」 そう、たとえ何があろうと。 「友達、ですから」 ぱちぱち、と背後から聞こえた拍手にも、あえて振り向かずにそのまま廊下に出る。 「……さて、追いつけるかしら」 愛理のことだから、家まで走って帰るような真似は絶対にしない。何でもないような顔をして、いつものように 歩いているはず。 ――なら、大丈夫。 自然洩れる小さな笑み。一つ大きな深呼吸をして、久しぶりに――本当に久しぶりに、私は駆け出した。 伏せたその切り札を開くために。
案の定、学校を出ていくらもしないうちに、ゆっくりと歩くその後ろ姿。 「……何よ」 声をかける前に気づかれた……と言うよりむしろ。 「待たせたかしら?」 「っ、そんなわけないでしょう?」 そっぽを向く顔は、やはり赤い。その分かりやすさだけは昔から変わらないと思う。 でも。 「変わったわね、愛理」 良くも悪くも八方美人のお嬢様――それはもう、どこにもいない。自分の言葉で語り、自分の表情を見せる、 そんな沢近愛理がそこにいる。 「美琴と仲良くなってからかしら」 「……関係ないわよ、別に」 意地っ張りで強がりなところは、等身大にはまだまだ遠いけれど。とはいえ、それを口にするのは藪蛇以外の 何物でもなく、さしあたっては心の中に留めておく。それもまた、私の持ち札。 「そう、ならそういうことにしておくわ」 「……だから何よ、その言い方は」 「別に。それと、こちらが本題なんだけど」 伏せておいたカード。それは何もジョーカーである必要なんてない。使いどころさえ誤らなければ、どんな カードも切り札になる。 そして、今使うべきそれは、ただ一言。 「ありがとう、愛理」 「……」 反射的に何かを言おうとして、言えなくて、結局、ふん、なんて横を向く。うん、やっぱり分かりやすい。
「はあ……どうして私、あなたと付き合ってるのかしらね」 「理由なんて必要かしら?」 諦めたせいなのかどうなのか、不思議と優しく聞こえるその声に、内心苦笑しつつも言葉を返す。 「……それもそうだけど」 「こういうのを『腐れ縁』って言うの」 「『腐れ縁』? 腐ってるとすぐ切れちゃうんじゃないの?」 「語源はそうじゃないの……要は切っても切れない関係、ということよ」 きょとんとした顔の愛理。 「あなたと、私が?」 「そう。あなたと、私が。悪い話じゃないと思うけど」 またしても言葉に詰まる愛理。 けれど。 「変わったわね、晶も」 今度は、小さく微笑みつつ切り返してきた。 「私が?」 「そうよ。だってほら、昔はもっと……」 そこで言葉に詰まる。確かに、愛理と出会ったあの頃の私には、周囲に目を向けるほどの余裕はなかった。 もっとも、今思えばそんな私のそばにいた彼女は、やはり重度のお人好しになるのだろう。 まあ、それはともかくとして。結局の所、優しいから嘘はつけない、つまりは不器用なのだ。本人は絶対に 否定するだろうけれど。
「そうね――」 そんな彼女を見ながら思う。 理由はあるかもしれない、ないかもしれない。 ただ、なんとなく。 そうやって私たちは変わっていく。 変わり続けていく。 ただ、私の場合は一つ確かなことがある。 だから言っておく。 「――愛理のおかげかしら」 たまには、駆け引き抜きで。 「……だから、なんでそうなるのよ」 「さあ、どうしてかしらね」 仏頂面で、でもやっぱり赤面している友人にそう言ってから、それじゃ、と踵を返す。 「あら、まだ帰らないの?」 「一緒に帰りたかった?」 「……晶」 「冗談。部室の片付けがあるの」 そう、と答える顔は心なしか残念そうではあるけれど、それ以上はもう言わない。何事もほどほどに。 「じゃあ、そういうことで」 「ええ、また明日」 そうやって踏み出した、彼女のその足取りが軽いことを確認してから、私も歩き出す。 学校へ、そして今日とは違う明日へ向けて。
晶は斜に構えてるだけじゃない……と思いたいのはやはり願望なのか。 沢近とのコンビはあれで結構仲良くやってると思うんですが、はてさて。
27 :
空振り派 :04/07/02 21:37 ID:gthoWUqs
>>8 そうですね。まだ認知度も無いのでトリップなしでいきます。
>>9 基本的にどのカップリングも好きですが、トホホが好きなのでそう付けました。
播磨萌えw
>>11 初心者でスミマセン・・・orz
参考にさせていただきます。
個人的には小説としてよりも、スクランとして面白ければいいかと思ってるんですが、
面白くないって言われたら・・・退場します。
28 :
空振り派 :04/07/02 21:49 ID:gthoWUqs
間にはさまらなくて良かった・・・。
>>26 晶でSS書けるっていうのはすごいですね。
しかも自然な感じです。
ナイス晶。 本編でももうちっと動くと良いな。
>>26 お疲れさまでした。
女性キャラ同士の一こまという感じですね。
あまりSSにのぼらない晶をネタにした面白いSSだと思いました。
文章自体も安定していたと思います。
個人的には、もう少し一文辺りの長さが、長い方が読みやすいかなと思いましたが……
次回作期待しています
貴重な晶分補給させていただきました。 グッジョブ! >>空振り派さん スクランとして面白ければいいってのは分かるんですが、 文章にする上でのいくつかの約束事を実践したほうが同じネタでも面白さ違いますよ。 ぜひたくさん書いて練習してください
前スレのあれとあれに影響を受けすぎたかもしれません。 《投下》
校舎内でさえ吐く息が白くなるようなとびきり寒い放課後に、鼻歌を歌う女生徒。 犬は喜び庭駆け回り 猫はこたつで丸くなる♪ という歌詞が事実に即しているのなら、 彼女は間違いなくイヌ科に属するタイプの人間なのだろう。 人懐っこく、信義に厚い。ついでに黒のニーソックスがよく似合う。 彼女の名は、サラ・アディエマスという。 「窓ガラスに息を吹きかけて指で落書き――― とか、昔やりませんでした?」 茶道部の部室でまさに“それ”をしながら、サラは部長の晶に訊ねる。 「昔ならともかく、今は人のいる場所でやろうとは絶対に思わないね。羨ましいよ」 「羨ましいなんて言わずに一緒に楽しみましょうよ。窓はまだ沢山ありますし」 晶の発言を額面通りに受け取って無邪気な返答を返すサラ。 だが、ストーブでみかんを熱して遊んでいる晶はもう落書きなどには関心のない様子。 仕方なくサラは自分の作業、すなわち指先で描く刹那の芸術に意識を集中してゆく。 「でーきたっと」 窓ガラス一面に描かれたのは、黒猫を膝に抱く優しげな美女の画。 黒を表現するために塗りつぶした部分から雫が落ちようとしているのが惜しいが、 見る人が見ればそれが彼女の親友・塚本八雲であることはすぐにわかる見事な出来栄えだ。 「へえ、上手いね。あとは八雲がこの絵が奇麗なうちに来てくれれば完璧だね」 「そうですね。でも、八雲には見られたくないなって思う気持ちもありますよ?」 照れたような笑顔を振り撒き、もう一度自分の描いた八雲の絵をしっかりと見つめる。 ―――八雲にはこんなふうに、いつも幸せでいてほしいよね。うん! 気付けば、視界が滲んでいた。驚きながらこっそりとハンカチを取り出したサラ。 「……何が悲しいのか事情は知らないけれど、話なら聞いてあげられると思う」 見られてしまっていたらしい。だとすれば、この茶道部部長に隠し事は通用しない。 逡巡しながらも、サラは晶に甘えてみることにした。
テーブルに向かい合う二人。 「困ったなぁ。私、これでもシスターなんだから悩める人たちを救う立場なのに。 何だか日本に来てから、みんなに助けられてばっかりです。いいんでしょうかね?」 いつもと変わらぬ人懐っこいサラの笑顔。 しかし、晶の視線はその笑みの普段と異なるぎこちなさを見抜いているようで。 溜めていたものを全部吐き出すかのような長い深呼吸をしたのち、サラは言う。 「話すと私はスッキリするかもしれませんけど、きっと部長には重荷になっちゃいます。 だから…… やっぱりやめませんか? 私部長のこと大好きですし」 「はぐらかさないで。そんなこともわからないで聞くほど浮かれてるわけじゃないから」 普段通りのようでありながらも、研ぎ澄まされた刃のように冷たく鋭いその声。 だがサラはその声を怖いとは思わず、むしろ頼もしいと思った。 迷いを振り切って、サラは口を開いた。 「秋になってから、八雲が変わった ……っていうのはわかりますよね?」 「もちろん。その原因はこれでしょ?」 そう言って鞄から取り出した数枚のL判写真を片手で上手に扇状に広げる晶。 写っているのは、常にサングラスを外さない晶のクラスメート、播磨拳児。 教室内から海・キャンプ・体育祭まで、いつ撮ったのかと聞きたくなるような枚数だ。 「そこまでわかって下さっているのなら話は早いです。にしてもよく撮れてますね。 播磨先輩って、八雲のお姉さんの隣りの席だったんだ……。あれ、この写真は?」 屋外で動物たちに囲まれながら手を取り合う播磨と金髪の女生徒の写真。 まるでドラマのワンシーンのようだとサラが感心していると、すぐに晶に抜き取られた。 「これは最終兵器。愛理が遊びに来ても絶対にばらしちゃだめだよ。面白くないから」 言葉の意味はよくわからないが、このまま話を脱線させてしまってはいけない。 サラは本題に戻そうと、晶からさっきから弄んでいるみかんを奪い取ってから続ける。
「八雲は、恋をしています。それもきっと初めての」 「いいんじゃないの? 彼女が彼にどんな感情を持っていても。それとも嫉妬?」 「恋をすることが問題なんじゃありません。相手が播磨先輩なのが問題なんです。 ずっと八雲と一緒に見てきましたけど、播磨先輩は八雲のこと、なんとも思ってません」 誰に対して憤ればいいのかわからなかった問題だからか、晶を前に口調を荒らげるサラ。 「初恋がうまくいく可能性なんて、ものすごく低いってことは知ってるよね?」 「そういうことじゃなくて…… なんて言ったらいいんでしょうね。 今の八雲は自分の感情に戸惑っていて、不器用なまでにいじらしくて。見てられません」 次第に涙声になってきたサラを心配したのか、晶は沈黙を埋めるように語りだす。 「私のクラスにもすごく恋愛に不器用な子がいてね。彼女も必死だよ。 もう振り向いてもらえない事に気付いているのかもしれないけど、常に気丈であり続けて。 たとえそれが悲痛に見えたとしても、彼女は他人の忠告なんて決して受け入れないと思う」 かすかな苦笑で締める。 サラには見当のつかないはずの事として言ったのか、気付く事として言ってみたのか。 晶の意図ははっきりとはしないが、結果としてはサラは該当する人物に思い至らなかった。 話の内容だけを正しく理解し、少し考えたのちに返答する。 「それでも私は、たとえそれがエゴだとしてもこれ以上痛々しい八雲は見たくないから。 結婚式の宣伝という名目で八雲にウェディングドレスを着てもらったのも、 本当は麻生先輩みたいないい人なら八雲ときっと仲良くなれると思ったからなんですよ?」 その一言に、今までほとんど表情の変化のなかった晶がわずかに顔をしかめた。 「麻生君を八雲と? サラ、それは……」 「あはは、気付いちゃってましたか? おかしいなぁ。ばれてないと思ってたんですけど」 屈託なく笑うサラ。 その笑顔は、本当にいつもの笑顔と同じで。 晶は、初めてこのイギリスから来た後輩を、怖いと思った。
サラの手からみかんを取り戻し、テーブル上でぐりぐり回しながら晶は言う。 「間違いなくエゴだよそれは。播磨君が彼女を利用しようとしているわけでもないし。 いつか悲しい思いをするとわかっていても、それでもそれが彼女の選んだ道なんだから」 「……先輩は、大人なんですね」 「貴女よりひとつだけね。まだまだ刑部先生には追いつけないよ」 軽くかわす。 「でも私はそんな答えじゃ納得しません。だって私、交換留学生ですから。 卒業までずっとこの高校にいたいと思ってはいますけど、多分来年度には祖国にいます。 八雲が一番辛いときに、そばにいてあげられないかもしれないだなんて絶対にイヤです」 いつか来る別れをすでに覚悟しているサラの、今まで誰にも言えなかった決意表明。 決して譲ることのできない強い想いが、言葉となって晶を威圧する。 麻生のことといい、どうして彼女はそこまで八雲に心酔しているのか。 友情というには極端すぎるそのサラの態度に不信感を抱きながら、晶は聞いてみる。 「八雲のことがそれほどまでに大切? どうして自分より先に彼女の幸せを願うの? あなたが旧教のシスターな事は理解しているつもりだけど、どうしてもわからない」 するとサラは驚いた様子で、 「そんなこともわからないんですか? 八雲のことが『大好き』だからですよっ♪」 本心から出た言葉なのであろう。そう発言する彼女は、実に幸せそうで。
「……まいったね。確かに貴女の想いは私には重荷になったかもしれない。 八雲は播磨君のものでもなければ、サラのものでもない。常に八雲自身なんだよ? 彼女を信じ、それを支える天満や私たちも信じてくれていると思ってたのに」 晶は悲しげにそう言い放ったあと、まっすぐにサラの真珠色の瞳を見つめた。 見つめられたサラは数秒間何も言えずにいたが、不意に真顔と笑顔をくり返して。 「……ずるいなぁ。部長はともかく、―――その、塚本先輩っていうのは。 八雲が何があろうと大好きだと行動で語ってるお姉さんの名前を引き合いに出されたら、 どうやっても勝ち目がないじゃないですか。八雲の一番になりたいのは私も同じなのに。 ……私の我儘は、忘れちゃって下さい。もちろん八雲にはナイショにしてくれますよね?」 イタズラが見つかった子供のように、ちらっと舌を出しながら媚びを売るサラ。 どうやら、サラの抱えていた悩みは心の中で一応の決着を見い出せたらしい。
サラは立ち上がる。それが終了宣言。 軽く伸びをして肩をほぐし、もう一度窓に向かって歩き出す。 そして窓の前で何かに気付いたように立ち止まり、振り返って告げる。 「うん。なんでこんな話をすることになったのか、なんとなくわかりました。 見てください、窓の外を。かすかにですけど、雪が舞ってます」 言われるがままにテーブルに座った格好のまま外を眺める晶。 白く舞う粉雪。それは地に触れるとそのまま形を失って融けてゆくような、儚い雪。 普段以上にジト目になって外を凝視していた晶の傍へ寄って、サラはこう続ける。 「ほら。冬になると、わけもなく悲しくなったりしません?」 晶を気遣うようなその笑顔。悩みに一応の解決を得たからなのか、前より輝いている。 その眩しさは、晶が昔恨みを込めて否定したはずの神や天使といった存在を彷彿とさせて。 「……そうだね」 意識してのネタだとすればそれに応えてツッコミをいれなければいけないと思ったのに、 何故かそう答えるのが精一杯な程疲れていたらしくて、晶はそのまま顔を伏せた。 積もることなどありえない雪がはらはらと消えていく中、晶は言う。 「八雲は…… まだ屋上かな。雪まで降ってるのによくやるよ。二人とも」 「屋上? こんなに寒いのに、播磨先輩とそんな所にいるんですか?」 携帯メールが届くたびに播磨と密会していることはもうサラも知るところではある。 何をしているのかまでは訊き出せなかったが、播磨の名前を出した時の反応で一発だ。 「播磨君も、一途なのはいいけどなんでああまで鈍感なんだか……」 呆れ果てたような口調でそのまま居眠りをする体勢に入った晶。 だが、何かを思いついたのか急に顔を上げ、サラに提案する。
「私は信徒ではないけれど、一緒に神様にお願いしてみようか」 「珍しいですね。私も後輩としてシスターとして、一緒にお祈りしたいです。 部長は宗教みたいなはっきりしないものは一切信じないタイプだと思ってたんですけど。 で、どんなお願いをしましょうか。やっぱり播磨先輩が心変わりすることですか?」 楽しそうにサラは問う。 「それも面白そうだけど、こっちにも都合があってね。親友は裏切りたくないし。 『悲しみを乗り越えるたびに、彼女がよりいい女になっていきますように』でどう?」 無言の肯定。満足げにサラはその文言を英訳して口ずさむ。 「でもそんな願いが叶ったら大変ですね。今でも八雲はあんなに魅力的なのに」 「確かに、今まで以上に大変な事になる馬鹿がいるね。すでに花井はあんななのに」 「あっ、呼び捨てですかぁ? 積極的ですね」 「……サラ?」 上機嫌のサラと、最後の一言でカチンときた晶。 でもその嬉しそうなサラを見ているうちに、晶も何もかも許せる気持ちに――― ガッ。 「痛ーい。本気でゲンコツする事ないじゃないですかー。ぷんぷん」 なっていなかったらしい。自らの拳に息を吹きかけながら、痛がるサラに晶は尋ねる。 「そうと決まればあれだね。八雲にどんな悲しいことがあっても心が負けたりしないよう、 今からいっぱい楽しい思い出をみんなで作らないと。サラは冬はどこに行きたい?」 「冬休みにも旅行があるんですか? だったら私、日本の凍った湖を見てみたいです。 夏にご一緒できませんでしたから、寒いところで八雲といっぱいいちゃいちゃします」 苦笑する晶。でもまあ、その願いを叶えることくらいはできるだろう。 「よろしい。かわいい後輩のお願い、神に代わって叶えてしんぜよう」 時代がかった物言いをする晶の背後の廊下からは、すでに遠い靴音が聞こえてきていた。 ―――もうすぐ、茶道部にいつもの面々が揃う。 《おわり》
40 :
32 :04/07/03 09:32 ID:16aSrknY
また密度オーバーで一部分割せざるを得ませんでした。学習能力低すぎだぞ私。 八雲が恋をしているらしいので、時間軸は冬になってます。 タイトルは英語で「後光」……というかVガンダム。おかしいですよ黒サラさん!
GJ!
>>40 後光といえば、Haloだな。
Good Job Son!!
GJ! お疲れ様です。
>>26 うわ、晶ネタ先を越された OTL
それはともかく、沢近と晶の昆布が上手く書かれていて楽しめました。GJ!!
>>40 うあーうあーうあー。こういうのがあるからSSを読むのを止められないw
黒サラと白サラの塩梅が絶妙でした。もちろん、話の内容も。
こんな作品を書いてみたいと思わせる一品でした。
サラはニーソックスはいてない・・・・・・
46 :
32 :04/07/03 22:38 ID:cWK007Rg
うわ、ほんとだ…… どのコマでも例外なくストッキングですね。ぎゃふん。 嘘バレなんて作ってずに投下前にちゃんと読み直すべきでした。指摘サンクス。
47 :
クズリ :04/07/04 02:07 ID:nUoXiSLg
こんばんは、クズリです。前スレからの連載、引っ張らせていただきます。が、その前に。
改めて前スレにて御声援下さった皆様、どうもありがとうございます。こちらのスレでも
まだまだ頑張らせていただきますので、どうかよろしくお願いいたします。
拙い作品ですが、皆様に捧げさせていただきます。
私信
>>608 私の他の作品のSSですが……恥ずかしいので秘密じゃだめですかね?クズリ名義では
ないとだけ……
ということで、前スレからの続きですが。
『Without Me』 >>191-
>>197 同改訂版→SS保管庫@分校
『Crossing Border』 >>318-
>>330 同改訂版→SS保管庫@分校
『She wants to mobe』 >>345-
>>355 『Don't go away』 >>391-
>>399 『Where I End and You Begin』 >>498-
>>507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
『Rollin'』 >>539-
>>549 『You Just Don't Know Me At All』 >>589-
>>595 に続いて。
『End of Everything』
部屋の電気をつけることもせず、八雲はのろのろとベッドに向かった。 閉めたカーテンの向こう側で降り続ける雨の音が、とても遠くの世界のものに聞こえた。 School Rumble ♭−θ End of Everything そのままベッドに倒れこんだ八雲の耳に、不意に飛び込んでくる着信メロディ。 動くのが億劫で、しばらくの間、携帯電話を取ることもせず放置する。が、音楽は休むことなく 流れ続けた。 ようやくに鞄に手を伸ばし、取り出して見る。画面に浮かび上がる名前は『サラ』。 少し迷った後、八雲は通話ボタンを押す。 「もしもし……?」 「あ、もしもし、八雲?サラだけど」 親友の声は明るい。後ろに小さくショパンの『雨だれワルツ』が聞こえる。おそらく部屋にいる のだろう。 「サラ……」 「ごめんね。どうなったか気になっちゃって……もしかして、お邪魔だったりする?」 からかう様なサラの口調に、しかし、八雲は何も答えられなかった。ベッドの上に膝を抱えて座 り、顔を埋める。 「……八雲?どうかしたの?」 電話の向こうにいても異変を感じたのだろう。声の居住まいをただしてサラが問いかけてきた。 八雲は答えようとするが、 「…………」 何も言うことが出来なかった。微かに開いた唇からは、言葉にならない小さな呻きがただ漏れる だけ。 八雲は左手でぎゅっとシーツを握り締める。しわ一つなかった白の平面に、歪みが生まれた。強 く握るたびに、歪みは深く大きくなる。 「…………」 サラの小さな吐息が聞こえてきた。音楽が消え、代わりに、おそらく彼女がソファーに身を沈め たのだろう音がする。 そしてサラは、その美しい声で言った。 「ずっとここにいるからね、八雲」
八雲は胎児のように身を縮めて、ただ携帯を握り締め続ける。膝の上に顎を乗せたり、顔を太も もに押し付けたりと、小さく身じろぎはするものの、口を開くことはない。唇はわずかに色を失い、 瞳は薄暗い部屋の宙をぼんやりと見つめていた。 涙はなかった。ただその長い睫毛が微かに揺れるだけで、八雲は泣かなかった。 約束どおり、サラはずっと『そこ』に居続けた。彼女もまた言葉を発するわけではなく、その息 の音も聞こえない。 それでも、気配でわかった。彼女はいる。そして耳を傾けてくれている。 八雲の沈黙の奥にある心を受け止めてくれている。 微かに震える声で、八雲は言った。 「サラ」 「ん?なーに、八雲」 「……ありがとう」 「どういたしまして」 そしてまた八雲は口を閉ざし、サラは耳になる。 だがそれはただの沈黙ではなく、とても雄弁な静寂だった。 時計の長針が半周ほどしただろうか。その間に交わされた会話は、先の一つのみ。 それでも八雲は少しずつ、心の平穏を取り戻していった。離れていても、サラの存在がとても近 くに感じられた。まるで寄り添ってくれているかのように、彼女のぬくもりが、凍えていた八雲の 心をゆっくりと溶かしていく。 それは春の曙光が名残雪を溶かしていく、そんな暖かさだった。 「……サラ」 「何?八雲」 ずっと黙っていたからか、声が少しかすれている。だが唐突に話しかけても、サラはすぐに言葉 を返してきた。 「……ありがとう」 「どういたしまして……落ち着いた?」 言葉は同じ、だが先ほどと違う気配を感じ取ったのだろうか。サラはそう問いかけてくる。 八雲はうん、と小さく声に出し、見えないと知りつつも頷いた。 それでも彼女にはきっと、届くと思ったから。
その日、何があったのかを八雲は、ポツポツと喋り始めた。 いつかのように言葉を選ぶのではなく、ただ思いつくままに八雲は喋り続ける。途切れ途切れ、 かつ出来事の順番も正確ではない。そしていつもの彼女らしく、言葉が足りないこともままあった。 そんな支離滅裂な八雲の話を、しかしサラは辛抱強く聞いた。それはおそらく、彼女が教会で子 供達の相手をしていることと無関係ではないだろう。 動物園での出来事を全て話し終えて、八雲は一息つく。喉が少し渇いてきたのを感じていたが、 しかし部屋の外には出たくなかった。 いや、正確に言うならば、姉と顔を合わせたくなかったのだ。 「……それで?」 少しの沈黙の後、サラが促してくる。 ここまで八雲が話したことは、一見、楽しかった思い出ばかりだ。だがそれを語る八雲は精彩な く淡々と……いや、むしろどこか苦しそうに話していた。 だから、まだ何かがある、とサラは思ったのだろう。促されて、八雲はゆっくりとその後のこと を話し始めた。 動物園を出た後、通りがかった公園で彼が休んでいこうと言ったこと。そして、ベンチに座って いるうちにいつの間にか、眠ってしまったこと。目を覚ました時、彼にもたれかかっていたこと。 起きたのに、もう少しだけ甘えていたくて、寝たふりをしてしまったこと。 そこに姉と沢近の二人が現れて、その場面を見られてしまったこと。 ゆっくりと、そして今度は整然と順序良く語る八雲の声音に表情はなかった。何かが麻痺してし まったかのように、ありのままを描写していく。 サラはそんな友の声を、口を挟むことなく聞き続けている。 ただ一度だけ、八雲がふと、 「……ずるいことをしたから……バチが当たったのかな……」 そんなことを口にした時だけ、強い口調で返してきた。 「神様はそんなことで怒ったりしないわ。八雲は悪くない」 その後すぐに少しおどけて、 「ただ、ちょっと意地悪すぎよね。今度、文句を言っておくから」 最後は冗談めかして言った親友の言葉に、八雲は小さく笑う。その声が届いたのだろうか、そっ とサラも笑った。
そこでふと、八雲は思い出す。 いつかもサラに言われたことがあった。笑えるなら大丈夫、と。 だとすれば今の自分は大丈夫なのだろうか。八雲は自らの心の中を探ってみる。 虚ろはなかった。大きな、そして埋められない喪失感が巣食っていた胸は今、凪いでいる。 「それで?」 再び、サラが促してくる。見られたところまでは話した。だがそれだけではないことを、ちゃん と彼女は見抜いてきていた。 いや、サラはわかっていて聞いてきたのかもしれなかった。沢近と播磨の噂は、彼女とて知って いる。だから、それは確認のようなものだったのかもしれない。二人の関係を見せられてしまった、 というようなことを想像しているのではないか。 八雲はわずかに目を細めた。もしも自分がサラと同じような立場に立っていたら、きっと自分も 同じように考えていただろう。 だが現実は違った。 扉の外の気配をうかがう。どうやら姉はいないようだ。自室に篭っているのだろうか。安堵しな がらも、しかし声を潜めて八雲は言った。 「播磨さん……姉さんのことが……好きなんだって」 「…………!そう……」 息を飲む音、そして短い言葉はわずかに震えていた。サラの動揺が、電話越しにも伝わってきた。 八雲は小さく苦笑する。彼女の反応は、あまりにも想像通りだった。当たり前だろう、と八雲は 思う。そんな展開など考えたこともなかった。 「そう言われたの?播磨さんに」 サラの言葉に、八雲は頭を横に振りながら、 「ううん……でも、わかるの……」 そして説明し始める。 彼がその時、見ていたのは、自分でも沢近でもなく、天満だけだった。彼が叫んだ名前もまた、 姉だけだった。 話しながら八雲は、自分が変になってきている、そう感じていた。つい先ほど、姉と言葉を交わ した時は、あんなに激しく荒れていたのに、今はまるで何も感じない。
支援ノ
思い出すシーン、情景で傷つき胸を痛めていたのが嘘のように、穏やかに記憶と対していられる。 その不思議に、惑う気持ちを八雲は抑える。もうこれ以上、痛みを感じるのは嫌だったから。今 のまま、常のように心の平穏を保っていられるなら、それに越したことはない。 気を取り直し、話を続ける。 隠し事は嫌だったので、八雲は、追いかけようとする彼にしがみついて行かないで欲しいと頼ん だこともちゃんとサラに話した。 ふうん。それが彼女の反応だった。もしも状況が違えば、サラはきっと心いくまで、八雲をから かったことだろう。だが今は他に何を言うでもなく、ただ、 「それで、播磨さんは何て?」 「……何も……」 自然と声は沈む。彼にとっての自分の価値を改めて確認させられたような、そんな気分だった。 「ショック……受けてたみたいだったから」 もしかしたら、抱きつかれていたことにも気付いていなかったかもしれない。そうであってもお かしくないほどに彼は落ち込んでいた。 「それで?どう言ったの?八雲」 秒針一周半分の沈黙のあと、サラが優しく問いかけてくる。 「播磨さんが行っても姉さんは聞かないだろうから……私が誤解を解くって……」 その約束は果たせたように、八雲は思う。だがそのために、己の心の一端を姉にさらけ出してし まった。 振り返ってみれば、他にどうとだって出来たはずだった。例えば、いつものように姉の言葉を素 直に聞き入れるとか。 だが全ては後の祭りだった。彼女は、自分の妹が彼を好きだという事に気付いてしまっただろう。 「そっか……そうなんだ」 姉とのやりとりも包み隠さず話した八雲に、サラはそれだけを言って、口をつぐむ。 「私……馬鹿だね……」 膝を抱えたまま、ベッドに横になる。見慣れたはずの部屋の景色が、今は遠くに見えた。 「そんなことない」 自らを嘲る八雲の言葉を、サラは強く否定する。だがその言葉は、彼女に何の感銘も起こさせな かった。 何と言われようと、自分は……馬鹿だ、と。 「そんなことないよ、八雲」 彼女の心を見抜いたのか、サラは言葉を重ねる。八雲は何も言葉を返さず、沈黙を守り続けた。
「それだけ八雲が、播磨さんのことを好きってことじゃない。だったら、仕方ないよ」 サラの言葉にたくさんの思いやりと優しさが混じっていることに八雲は気付く。それは、嬉しか った。だがその想いに応えることが出来ない……彼女はそう感じていた。 「……好きじゃない」 「……え?」 八雲の言葉に、サラは戸惑いの声を上げた。彼女は繰り返す。 「好きじゃない……好きだった……けどもう、終わり」 「………………」 携帯の向こうでサラが言葉を失っているのを、八雲はどこか他人事のように感じていた。 諦める。 それが八雲の出した結論だった。 恋を知らなかった少女は、それ故に、痛みに耐えることが出来なかった。 想いを永久に凍らせ、心の海へ沈める。そうすればこれ以上、傷つかなくてすむから。そして傷 つけなくてすむから。 「それでいいの?」 重々しく問いかけてくるサラに、八雲は小さく、だがはっきりと答えた。 「いい……これで、いいの……」 「……そう」 一瞬の空白は、サラの逡巡を表していたのだろう。だが何も口にすることなく、彼女は友の選択 を受け入れた。 「わかった。八雲がそう言うなら」 「……ありがとう」 「ん……」 どういたしまして、とサラは言わなかった。短い答えの中に、八雲は彼女の迷いを見る。だがそ れを口にすることはせず、ただ黙って次の言葉を待った。 「ねえ……」 サラはゆっくりと、だがはっきりとした言葉で、再び八雲に問いかけてきた。 「八雲がそれでいいなら、私は何も言わない。でも……本当に、それでいいの?」 「いい……もう、終わったことだから」 含みのある友の言葉に、八雲もはっきりと答えた。胸の内に感じるわずかな痛みを隠しながら。
サラとの電話を終えた八雲は、そのままの姿勢で携帯の受信メールBOXを開ける。そして保存 されていた播磨からのメールを、古い順に読み始めた。 『悪いけど放課後、マンガ見てもらえないか?』 『明後日の土曜日、時間があったら会いたいんだが』 『今日はありがとな。またよろしく頼むぜ』 短い文章でも、それは彼女にとって宝物だった。特に彼への想いに気付いてから今日まで、何度 読み直したことだろう。携帯電話は携帯電話であると同時に、絆を感じさせる宝物入れでもあった。 だが今、それを読む八雲の顔には表情は無い。仮面を被ったかのように眉一つ動かさず、ただ黙々 と読み直す様は、いっそ異様ですらあった。 最後のメール。 『じゃあ明日、十時に駅前でな』 ふと八雲は時計を見る。メールの中の明日は、もう昨日になってしまっていた。その『昨日』が 始まる頃、高鳴っていた胸は今、静寂に凍り付いている。 もう一度彼女は、最初のメールに戻る。 『悪いけど放課後、マンガ見てもらえないか?』 八雲の親指が携帯の上を走った。 最後のボタンに触れる直前、躊躇したかのように止まった指は、しかしすぐに動いて押し込む。 『メッセージを一件消去しました』 画面に浮かび上がる文字が、遠くのものであるかのように八雲は見つめていたが、すぐに、再び 親指は動き始めた。 『メッセージを一件消去しました』 『メッセージを一件消去しました』 『メッセージを一件消去しました』 次々と彼女は、宝物であったはずのメールを消去していく。 真暗な部屋、携帯のわずかな光に浮かび上がる八雲の顔、そこには何の迷いもない。ただ与えら れた作業を繰り返す機械のように冷たい。だが瞳にだけは、微かに感情の光がたゆたっている。 いや。正確には、感情の『闇』か。 そこにあるのはただ、絶望だけだったから。 『じゃあ明日、十時に駅前でな』 八雲はもはや何の躊躇いもなく、ボタンを押す。 『メッセージを一件消去しました』
全ての彼からのメッセージを消してしまった今、携帯電話はもはや、宝物入れではなくなった。 それはただの箱に過ぎなかった。 光が自動的に消えるまでの間、八雲は画面を見続けていた。 そして彼女は、携帯を折り畳んで閉じる。 パチン。 乾いた音が室内に響いた。 八雲には、それが全ての終わりを告げた音のように聞こえたのだった。 そう。 全ては終わったはずだった。 彼女が彼の想いを諦めると決めた、この時に。 だがそれは終わりではなかった。 神様はまだ、終わらせようとしなかった。 八雲の願いとは裏腹に、事態はまた動き出す。 翌日の朝、教室に入った彼女が見たものは。 黒板に大きく書かれた、播磨と八雲の相合傘だった。 ――――幸か、それとも不幸か――――
57 :
クズリ :04/07/04 02:19 ID:nUoXiSLg
支援、どうもですm(_ _)m どんどん八雲が八雲じゃなくなってる気がします……ううん。もはやスクランじゃないような …… あのキャラ達でシリアスって、ある意味、当たり前なんですよね。そこを外してくるから、 仁丹は神様なんだなぁ、とふと思う今日この頃でした。 ま、それは置いておいて。 拙い作品ですが、どうか皆様、よろしくお願いいたします。
GJ! …なんだがきっつぅ…
>>57 クズリさん、いつも乙です。
相合傘ですか、うーん続きが気になるなぁ。
無理はしないで下さいね。
次回、どうなるんだろうな
この野郎… 俺おにぎり派でもないのに、泣きそうになったじゃねーかよ… 天満と沢近がどういうアクションを起こすのか 激しく気になります
切ない…先の展開がが読めない。読める筈が無い。 ただ言いたい……ありがとう
62 :
Classical名無しさん :04/07/04 02:47 ID:19PaYkSs
是非とも、最後は、 播磨&八雲の、ハッピーエンドで お願いします。m(−−)m
そろそろ播磨に想いを伝える展開ですね。
クズリさん相変わらずグッジョブです! スクランって本編がラブコメっていうかラブギャグだからか こういうシリアス系ストーリーは新鮮ですね。 ネタバレ護身中はクズリさんのSSが俺のすべてです。
>>57 あはは、切な過ぎるぜコイツぅ_| ̄|○
泣く。
切なくて部屋で転げました。 GJ!
ぬぅむ・・・毎度のことながらGJですな。 クズリさんのシリーズが終了するまで自分の駄作は投下できん。
クズリさんGJです。相変わらず文句なしです。次も期待してます。
沢近愛理にとって、日本という国は故郷ではあれども、なにか疎外感を覚えずにはいられない場所 だった。 イギリスで過ごした幼少の砌、アングロサクソンともモンゴロイドとも言い切れないその容姿にコ ンプレックスを感じたこともあった。 けれど、物心ついてからの彼女はずっとイギリスで生活してきたし、国籍を分別するような場面に もほとんど出会わなかった(それは多分に家柄が絡んでいたが…)。 ロンドンでの何不自由ない生活が彼女のすべてであり、世界であった。 自分が日本人である証は、勉学として時折使うカタコトの日本語と自らの姓名、そして母親の柔和 な笑顔だけ。 遠くて遠い国。関係のない国。それが彼女の答えだった。 転機が訪れたのは、彼女が15歳になった年の初冬のことだった。 日本への移住、日本の高校への進学。 予想だにしなかった決定が、次々と彼女の頭上をかすめていった。 日本に対する漠然とした不安と、自分の意思とは無関係に進められていた話ということで反対はし たが、 「とにかく一度、日本を見てきなさい」という父親の言に逆らうことができず、数日後、彼女は機上 の人となった。 降り立った地は、決して自分を歓迎してはいない。沢近の感想は概してそういった類のものであっ た。 自分に向けられる無思慮な視線。読めない言語があふれる街中。異端である自分を否応なしに思い 知らされた気分だった。 (自分の生まれた土地に来て、ひとりぼっちになるなんて皮肉なものね) 無論、周囲にはお付きの人員が控えている。それすらも鬱陶しくて、彼女はホテルを後にした。 せめて、知っているところへ行ってみよう、と。
自動ドアが静かに開き、ひとりの少年が姿を現した。背後にはATMが見える。 いいかげんくたびれた黒いジャンパーに、これまた安物の代名詞だと言わんばかりのジーンズ。 貧乏人の看板を掲げて歩く少年・播磨拳児15歳は、それでも幸せなエクボを隠そうとしなかった。 なにせ今、彼の手には大金が握られているのだ。これで地獄の日々から解放される、彼は安堵と期 待に胸を膨らませていた。 見るからに分厚い封筒に頬擦りしていたとしても、誰も文句は言えなかっただろう。 赤の他人にもそう思わせるほど、彼の顔面筋はだらしなく緩んだ表情を作り出していた。 そのふやけた面が、公園の角を曲がった時である。 くしゅん、ひとつ。くしゅん、またひとつ。 舗道に設置されたベンチの上で、大きくはねたツインテールの金髪が揺れていた。 キャミソールにこごえた身体。均整のとれた顔立ちは、その青白さのためか幾分こけてみえた。 (なんだ、外人か?) 思わず見やった視線と視線が交錯する。目が合ってしまうと、嫌でもその困ったような姿に惹き付 けられた。 こうなったら、もう助けないわけにはいかない。播磨拳児とはそういう男だった。 (こういうときはなんて言うんだ? このまえ雑誌で見た……えーっと、えっとぉー、そう!) 「フ、Who Are You?」 「タクシーって、この辺でも捕まる?」 あ、日本語でいいんすか。播磨は頭を切り替えた。 「まあ、待ってりゃそのうち流れて来るだろうけど……」 「ふぅん。京都って何分くらいで着くの?」 へ? 「京都に? タクシーで?」 (どれだけかかると思ってんだよ) 沢近に日本の地理感覚を求めるのは酷であったが、播磨に諸事情を推し量ってやれというのもこれ また酷な話だ。 しかし人間、あざけるような物言いには敏感になる。
すっくと立ち上がった沢近は、播磨を睥睨すると、 「もういいわよ、捕まえてみれば分かるんだから」 勢いで車道に飛び出す、その腕がつかまれた数瞬の間をおいて、猛然としたスピードの乗用車が走 り抜けた。 「ここ見通しワリぃから気ぃつけろバカ。京都に行きたいんなら、新幹線かバスで行け」 これはヤバいのに関わっちまったかなと思ったが、とりあえず腕を引きベンチへ座らせた。 「ってか、んなカッコしてたら風邪引くって」 「盗まれたのよ」 「はぁ?」 「だから盗まれたって言ってるでしょ! コートが! 道には迷うし、あんたみたいなのには出会う し、もう最低だわ」 なんで見ず知らずの男にこんな話してるんだろう。しかもこれでは八つ当たりではないか。という 沢近の後悔は間違いではない。 なぜなら、播磨もそう思っていたから。 (なんなんだよこの金髪女。もう帰るか……)と、きびすを返しかけた矢先であった。 小さなクシャミがまたひとつ増えた。 ったくしゃあねえなと呟く播磨。 と、顔を伏せた沢近の肩に、ふわりと何かが投げ掛けられた。 「やるよ」 見ると、さっきまで播磨が着込んでいた革ジャンである。 見上げる沢近の顔はまだ無表情ではあったが、大きく瞠った目が播磨には印象的に映った。 革ジャンを脱いだ下は、よれたタンクトップ一枚であった。 いくら秋の気配をまだ其処此処に感じる時節とはいえ、その姿を見ているだけで背中に寒風が入り 込みそうな格好ではある。 それでいて震えもせず、何事もないかのように振舞う播磨に、 「まるで猿ね」 表情を変えないまま、沢近は言い放った。 一笑にすら付さないところを見ると、どうやら本気でそう思っているらしい。 「うるせー、文句あるなら着るな」
明らかにムッとした表情に 沢近は苦笑いしながら、 「好意は素直に受け取っておくわ。近日中にお礼とコレ返しにやらせるから、アナタの住所と名前、 渡しておきなさい」 手帳を破いて差し出す。だが播磨は一顧だにしなかった。 「いいよ、やるって。それよりな、もう二度とあんな真似すんな。アブねえからよ」 「そういうわけにはいかないわ。うちの家名にかかわるもの。さあ、早く書きなさいよ!」 「だからいらねー、つってんだろ!」 双方とも、相手の気持ちを忖度する気振りすらみせない。なにげに会話が噛みあってないのもご愛 嬌か。 「アナタね、あたしの名前知ったらそんな口利けなくなるんだから」 「知らねえよ、お前なんか。なに当たり前のコト言わせんだよ」 ハ、と胸を衝かれた気がして、沢近は二の句に詰まった。 つい俯いてしまい、苦し紛れの一言が、 「わかった、貰う、コレ貰うから」 なんて、まるで降参したような言い条だったことに、当の本人が驚きを隠せないでいた。 お嬢様、と呼び止める声がして、二人は同時に振り返った。 いつの間にか、黒のロールスロイスが停まっている。その傍に聳えるカイゼル髭の紳士。どうやら 声の主は彼らしい。 そろそろお時間ですので、との言葉を端緒に、車と同じ色をした制服の強面たちが、沢近の周囲を 取り囲んだ。 「お、おい!?」 咄嗟に沢近を庇おうとする播磨。その手を押し退けて、さも当然のように車中の人となる沢近。 テレビでしか見たことのないような光景に呆然とする播磨をよそに、沢近はリアガラス越しに一瞥 すると、何もなかったかのように車は滑り出し、すぐに見えなくなってしまった。 (結局、京都には行きそびれちゃったな) 広い車内で、沢近はさっきの言葉を反芻した。知らないなんて、当たり前。だって知らないんだもん。 知らない国なら、知ればいいだけのことじゃない。 革ジャンの裾を軽く握った。 (ホントに変なヤツだったけど……) 少し近付いてみよう。窓の景色がほんの少し変わった気がした。そんな沢近愛理だった。
なにかを忘れている。 言いようのない喪失感を抱えて、播磨拳児は一人うろついていた。 先ほどの出来事には驚いたが、それではない。さまよう心と同調するかのごとく足早になっていた。 ふと目をやった先には、ロゴが大々的にマーキングされた某銀行のシャッター。 播磨の身体に、稲妻が落ちた。 「……俺の金!?」 播磨にとって、あの金は文字通りの生命線であった。 振り込まれた生活費・家賃・バイト代・後輩から巻き上げた小遣い、〆て十ウン万円。 と、次々に場面が展開する。金髪女の肩に掛けた、ボロの革ジャン。膨らんだ右ポケット。 失くしちゃいかんと、ポケットの奥底にねじ込んでジッパーまで上げた、その周到さに自分で痺れ た俺。 最後に思い出したのは、ジャンパーを羽織ったまま、高級車に乗って去る金髪女の姿だった。 「あ・い・つ・かぁ!」 播磨は憤怒の形相で駆け出した、はずだった。しかし、その先に姿はない。途端に腰から砕け折れ ていた。 肝心なところに思い至ったのだ。 相手の名前も知らない、顔もはじめて見た、車のナンバーも覚えていない。……もはや取り戻す術 がない。 なにより警察にはお世話になりすぎている。今さら「俺の金を探してください」などと、のこのこ 出て行けるわけがないのだ。 せいぜい取調室に叩き込まれて、あることないこと詮索されるのがオチだろう。 京都がどうたら言っていたから、手がかりがあるとすればその辺だが、播磨少年に打開策は見出せ そうになかった。 だめだ、これ以上考えるのはよそう。背中を流れる汗の冷たさに、播磨の精神はひたすら自己防衛 に走っていた。 播磨はゆっくりと、本当にゆっくりとした動きで立ち上がった。心なしか、髪の毛にも白いものが 混じっている。 この時点で(はなはだ自分勝手な思考ではあるが)彼女の思惑とは裏腹に、播磨の中で金髪という ものに絶望的なマイナスイメージが刻印されたのであった。
深呼吸して心拍を整える。冷静に、そう冷静にだ。自分に言い聞かせながら……彼は燃えていた。 湧き上がった憤りを抑えつける、などという殊勝な心がけなど、この年頃の少年に期待できるわけ もないのか。 なんとかなるという楽観も見え隠れするが、とりあえず八つ当たりできるモノを探して、播磨は再 び街へと繰り出していった。 彼はまだ若かった。 ……その三十分後。彼は高校時代を通じて想い焦がれることになる女性との、運命的な邂逅を果た すのである。 何も知らない、そんな二人の出会いであった。 尚、この忌まわしい記憶は播磨の腹蔵に封じ込まれ、その後三週間にわたる極貧生活の故に、永遠 に世に出る機会を逸したことを付記しておく。 了
>>74 GJ!
沢近のお嬢様さがイイね。
こんな出会い方も良いじゃないですか。
>>74 京都か……遠いな。
でもまあ、こういうのもアリですね。
78 :
空振り派 :04/07/04 14:42 ID:6eTwTZIc
本編の流れを無視して、縦笛投下いきます。 前回の反省を踏まえて文章を見直したので少しはまともになってればいいですが。
「各自、来週までに希望する進路を提出するように」 HRが終わり、放課後になっても美琴はまだ悩んでいた。 机の上に置かれた一枚の紙をじっと見つめる。 第一希望 ○○大学医学部 第二希望 ××看護専門学校 先輩と同じ大学に行く理由も無くなっちまったけどな……。 ふとこの夏のつらい出来事が頭を過ぎった。 「美コちゃんって看護士になりたいの?」 見上げると天満が覗きこんでいた。 「か、勝手に見るんじゃねぇよ」 とっさに紙を隠す。 「なんで〜?」 天満は興味津々の様子。 「身体を動かす仕事のほうが性にあってるからな」 「それに……」
――美琴には忘れられない記憶があった。 あれはそう、小学3年生の頃。 学校の帰り道で一人歩きながら花井の事を考えていた。 アイツは最近変わった。道場や学校にも毎日出てくるようになった。 泣いたり、いじけたりすることもなくなった。 もう私が守ってやらなくても大丈夫。 だけど一緒に帰ることもほとんどなくなり、少し寂しくもあった。 そうこう考えていると目の前の交差点に花井が現れた。 「ハッハッハ! ミコちゃん。僕は生まれ変わったのだ!」 ……は? 包装紙で作られたマントにダンボール製のシルクハット。 まるで場違いな特撮ヒーローのような格好で仁王立ちしている。 言葉遣いまで別人のようだ。 「では、さらばだ!」 あっけに取られる美琴を尻目に手を振って走り去っていく。 ――と、その時! 「あ、危な……」 交差点を飛び出してきた車にぶつかり、ドンという鈍い音がした。 ゆっくりと倒れこむ花井。まるでスローモーションのモノクロ映画のように……。
「花井ーーー!!!」 突然の出来事にどうしていいかわからず、呆然と立ち尽くす。 どれくらい長い時間だったろうか? 救急車のサイレンの音だけが、耳の奥 から離れなかった。 両親につれられてようやく落ち着きを取り戻し、病院へやってきた。 病室から出てきた看護婦さんに思わず駆け寄る。 「花井は? 花井は?」 目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれた。 彼女は私と目線をあわせるようにしゃがみこんでこう言った。 「お友達は大丈夫! 少し身体を打っただけですぐに治るわ」 「そんなに泣いてちゃ、せっかくのかわいい顔が台無しだゾ」 暖かい手が私の頬をそっとぬぐった。 その姿は強く優しく、そしてとても美しく見えた。 ベッドを覗き込むとまるで何事も無かったかのような花井の寝顔があり、 安堵のため息がこぼれた。 そして一人、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。 「私、大きくなったら看護婦さんになる」 「花井がどんなになっても私が必ず治してあげるから!」
――そして、現在 我ながら恥ずかしい話しだよな……。 そう思いかえし、照れながら天満に一言だけ答えた。 「昔、子供のころに約束したんだ……」 だが天満は聞いておらず、通りかかった花井に言葉を投げかけた。 「花井君。美コちゃん、看護士になるんだって〜。似合うよね〜?」 花井は即答した。 「周防が看護士だって? そりゃ、無理だろ。ハッハッハ!」 ミシ……。美琴の正拳突きが花井の顔面にめりこんだ。 「バッキャロー! テメーなんか馬に蹴られて死んじまえ!」 「スマン、周防。何もそこまで怒らんでも……」 花井はゆっくりと崩れ落ちた。
83 :
空振り派 :04/07/04 14:45 ID:6eTwTZIc
以上です。 縦笛といいこの二人にまつわるエピソードは結構多そう。 花井の子供時代と現代の変わりようは、やっぱヒーローものの特撮やアニメを見て 研究したんだろうな(笑) あとこの看護婦さんは例のお姉さんのつもりです。年齢的にはギリギリかも。
84 :
揚げ足 :04/07/04 18:01 ID:8hW3dnLo
チックで申し訳ないですが
>>69 播磨は後輩から小遣い巻き上げたりいないはず。
テスト以上にカツアゲはいらない人ですから
>>79 医学部は医者になる人が行くところで
看護学部の方が良かったです
細かいとこですが 、こういうのでひっかかると
すんなり世界に入っていけないので気をつけませう
85 :
Classical名無しさん :04/07/04 18:26 ID:Sz5R8Z9o
>>85 いや、それならせめて看護学科つけてくれというか。
大学医学部と看護専門学校並べられると違和感あってそこで引っかかったもんで。
カツアゲくらい中学時代はしてたかもしれないね、 そのほうが天満に出会って変わったって感じになるし。
俺は中学時代は喧嘩馬鹿みたいなイメージがあるな
89 :
Classical名無しさん :04/07/04 19:21 ID:dJ7g79gg
>>87 1巻でカツアゲの次に勉強はいらないって言ってるから、カツアゲはしてないのでは?
90 :
空振り派 :04/07/04 19:58 ID:6eTwTZIc
>>84 まさかそこで突っ込まれるとは・・・orz
一応調べてから書いたんですが、確かにまぎらわしくて申し訳ない。
吊ってきます。
限定版でも警察に補導されている時の顔はボコボコなので、喧嘩馬鹿のほうが自然だと思う。
92 :
クズリ :04/07/04 22:38 ID:nUoXiSLg
実は限定版を持っていないクズリです。当日の午後に行ったのにないなんて_| ̄|○
皆様、どうも感想ありがとうございます。このような拙い作品を楽しんでいただき、本当に
力づけられます。あまつさえ、私ごときの体を心配して下さる方までおられて……感激です。
学校、休みなんで大丈夫ですよ〜やらなきゃいけないことはあるんで、睡眠時間は確かに
削ってますが、今のところ大丈夫です。
では投稿させていただきます。
前スレからの続きですが。
『Without Me』 >>191-
>>197 同改訂版→SS保管庫@分校
『Crossing Border』 >>318-
>>330 同改訂版→SS保管庫@分校
『She wants to mobe』 >>345-
>>355 『Don't go away』 >>391-
>>399 『Where I End and You Begin』 >>498-
>>507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
『Rollin'』 >>539-
>>549 『You Just Don't Know Me At All』 >>589-
>>595 『End of Everything』 >>48-
>>56 に続いて。
『On the Edge』
その日、八雲の目覚めは最悪だった。 無理もない、か。そう心の中で呟いて、彼女は身を起こす。時計の針は六時を指している。この 時間に起きて、二人分の弁当と朝食を作るのは、体に刻み込まれた習慣だ。たとえ寝たのが深夜遅 くだとしても、目が覚めてしまう。 まだぼんやりとする頭で、彼女は昨日のことを思い出す。 「そっか……姉さんと……」 他に誰もいない部屋で、八雲は一人呟く。その言葉と共に、頭にかかっていた靄が消えていき、 意識がはっきりとしてくる。 少し迷った後、八雲は体を起こした。このまま寝ていたい、と体が出す悲鳴を無視し、のろのろ と制服に着替えて、彼女は台所に向かった。 そしてエプロンを付けて、下ごしらえを始める。 今日ぐらいは……そう思ったのは事実だった。だが学校には行かなければならない。一方で、姉 と顔を合わせたくはない。 結局、彼女が選んだのは、天満が起きるよりも早く御飯を作って家を出る、という妥協案だった。 トントントン 自らが作り出す包丁の音はいつもと変わらないようで、しかし八雲には、どこか乾いて聞こえた。 そして彼女は一人、行ってきますの一言もなく、家を出た。きれいに晴れた空が彼女を迎える。 台所にはお弁当箱が一つと、一人分の朝食が残されていた。 まだ人気の少ない通学路を、昨日の雨の名残りの水溜りを避けながらゆっくりと八雲は歩く。 うつむいて顔に陰を落としていた彼女は、周囲が向けてくる視線に気付かなかった。自らの内に 目を向けるあまり、少年達の心の声すら感じていなかった。いや、それどころか、ひそひそと彼女 を見ながら噂する声すらも、耳に入らなかった。 もし少しでも聞こえていたなら、視ていたなら、彼女はそこで振り返って来た道を戻ったことだ ろう。だがそうしなかった彼女は、辛い思いを経験せねばならなくなった。 1−Dの教室に入った彼女が見たものは、黒板に大きく書かれた、播磨と八雲の相合傘だった。 呆然とそれを見つめる八雲を、クラスメイト達がどこかよそよそしい目で眺めていた。 School Rumble ♭−ι On The Edge
誰が、何故、どうして、いつ、ここに。疑問符が次々とわいて頭の中を占領する。呆然と辺りを 見回すが、その視線を避けるようにクラスメイト達は顔をそらした。 「おはよ、八雲」 肩をぽん、と叩かれ、思わず八雲は体を強張らせる。おずおずと振り向くと、そこには昨日、遅 くまで話していた友の姿があった。 「何よ、そんなに驚いた顔して。どうかした?」 言って笑うサラの顔は明るい。だがその明るさに少しだけ影があるように見えたのは、きっと昨 晩、彼女と交わした会話のせいだろう。無理をさせてしまっているのだろうか。辛うじてわずかに 残っていた冷静な意識がふと、そんな思いで占められる。 「…………!!」 ちょっとだけぎこちない、だが優しい笑顔はしかし、八雲の肩越しに見えた文字を見た瞬間に硬 いものへと変わる。 つかつかと足音をたてて黒板に近づき、荒々しく相合傘を消したサラは、振り向きざまに教壇を 思い切り叩いた。 ドンッ。 響く強烈な音にさざめきは消え、教室の中の全員の視線が、肩を怒りに震わせた金髪の少女に集 中する。 「誰っ!?こんなこと、書いたのはっ!?」 その小さな細い体躯からは想像できないほどの大声に、誰もが圧倒されている。それは八雲も例 外ではない。 ただ、彼女は既視感を覚えてもいた。それは八雲がサラと初めて出会い、仲良くなるきっかけと なった出来事を思い出させたのだ。あの時、おびえる八雲を守ろうとサラは野犬の前に飛び出し、 その一喝で退散させたのだった。 今の彼女の姿は、それに重なるものがあった。それはつまり、八雲を守ろうとする意識の表れな のかもしれない。 「誰なのよっ!?」 声と共に居並ぶクラスメイトにサラが向けた鋭い視線、そこから逃げるように目をそらした幾人 かの名前を彼女は呼んだ。そして、 「何よっ!?貴方達がこんな最低なことしたの!?」 「ち、違うわよ、サラ」 「俺達が来た時にはもう……なぁ?」 「そうそう。ほんと、俺ら知らないんだって」
口々に言う少年少女の目を見据えていた彼女は、その言葉に嘘がないことを感じ取ったのか、 「ごめんなさい、疑って」 素直に謝罪の言葉を口にする。が、 「あ、ああ、別にいいけどさ……」 「でも、消さなかったんでしょ?知ってて」 責めるのを止めることはしなかった。 普段が穏やかな分、彼らの目にはサラの怒りの形相はすさまじいものに映り、またそれだけに余 計に、見る者に深い罪悪感を覚えさせた。 うつむくクラスメイト達をゆっくりと見回すサラの姿に、登校してきたばかりの生徒達も異変を 感じ取り、教室は重い沈黙に包まれる。 「あ、あのね、サラ」 おずおずと一人の少女が手を挙げた。 「貴方がやったの?」 「ち、違うわよ。けど、多分、これが原因だと思って……」 鋭い視線と問いかけに色を失いつつ、少女は彼女に近づいて携帯の画面を見せた。 それを覗き込んだサラは、すぐに眉を顰め顔色を変えた。雪を欺く白の肌が、怒りに赤に染まる。 「どうしたのよ、これ」 口調は静かだ。だからこそ余計に、そこに含まれた感情の深さが聞く者の耳を打つ。おずおずと 少女は答えた。 「ん……と、昨日、メールで届いたの」 「……誰から?」 「違うクラスの友達……今日来て聞いてみたら、この画像届いたって人、多いんだって……」 険しい顔のサラは、にらむようにその画像を見つめる。 「……どうしたの?」 二人のやり取りを不審に思った八雲が、サラの後ろから覗き込む。はっと息を飲んでサラは、彼 女の目からその画面を隠そうとしたが、時はすでに遅かった。 「……え?」 上がった虚ろな声にサラが、そして携帯を差し出していた少女が固まった。 八雲がそこに見たのは。 『夕焼けの中、播磨の肩に頭を預け、幸せそうに眠っている』自分の姿だった。
「じゃあプリントを後ろに回してくれ」 朝のHR。刑部絃子の声は、しかし八雲の耳に届いていなかった。前に座る少女が後ろ手にプリ ントを渡そうとするが、それにも気付かず、膝の上で組んだ手を見つめ続ける。 彼女の目の前に、あの画面がちらつく。画像のちらつきがひどく、おそらく遠くからカメラ付き 携帯で撮ったものだろう、とはサラの言葉だった。 確かに眠っていた自分はともかく、播磨も何の反応も見せていないことから、気付かれないよう にこっそりと撮られたものだろうということは八雲にもわかった。 すっと机の上に置かれたプリントにはっと顔を上げるが、それと同時に前の少女はさっと顔を元 に戻す。ごめんなさい、そう口にしかけて、しかし果たせず八雲はプリントを後ろに回す。 サラがHRまでに聞いて回ったところ、その画像はかなり多くの生徒が持っているらしかった。 誰が撮ったかはともかく、例え画像が悪くてもそれが播磨と八雲であることは誰の目にも明らか だったため、不思議に思いつつもそのスキャンダラスな画像を友人に回したと告白する者もいた。 「何を考えてるのか、わからない」 怒りに顔を真っ赤に染めながら、サラは言っていた。八雲が男の子と二人でいることが、そんな におかしいことなの、とも。 気まずそうに顔を見合わせるクラスメイトを前に、目の端に涙すら浮かべながら抗議するサラの 剣幕は、八雲が間に入らなければ収まらない程だった。 「サラ、もういい」 「でも!!」 「いいの……」 顔を紙のように真っ白にさせながら、それでも何とかそう言う八雲の姿に、何かを感じたのか、 サラは次の言葉を飲み込んだ。ただ最後に一度、強い眼差しで辺りを見回して、彼女は自らの席に 戻っていった。後に残ったのは気まずい沈黙のみ。 「何だ、今日はやけに静かだな」 HRに来た絃子の言葉に、答える者は誰もいなかった。微かに不審そうな顔をした後、黒板を見 て彼女は動きを止める。 よほど強く力を込めて書かれたのか、サラが消してなお薄く黒板に残っていた相合傘に、彼女は 眉を片方跳ね上げた後、 「また下らないことを」 小さく、だが聞こえよがしに呟いて彼女は、二人の名前と傘が完全に消えるまで、黒板消しを何 度も往復させたのだった。
誰に、とか、どうして、とかはもう、八雲にとってどうでもいいことだった。 ただ情けなく、ただ辛かった。 見られたこと、そして撮られたこともある。だがそれ以上に、周囲の……サラ以外の生徒達が彼 女を見る目が心に突き刺さった。 それはおそらく、好奇の目なのだろう。 不良として有名な播磨拳児、彼が全校生徒のアイドルと目される沢近愛理と良い仲だという噂は 依然として消えていない。 口さがない者は、二人がすでに付き合っていて、学校での二人の態度は照れ隠しに過ぎない、な どと評している。そして話題性だけが一人歩きし、もう一線を越えているはずだの、いやホテルか ら出てきた所を見ただのと言い出す者もいた。 そこに八雲が現れたのだ。 思春期の少年少女にとって、この三人の関係が格好のネタになることは自明の理だった。 何よりも彼女は、愛理に勝るとも劣らぬ美人として男性の注目を集めていた。携帯で撮られたそ の画像がたった一夜でこれだけ広まったのも、彼女に寄せられる関心の大きさを表していると言え るだろう。 加えて、気が向けばデートの誘いも断らない愛理とは異なり、八雲は男性へのガードが固い。そ の彼女が、播磨と二人きり、しかも恋人のように寄り添い眠る姿が、彼らの想像力をかきたてたと 考えるのは難しいことではない。 もちろん、これは八雲が考えたことではなかった。恋を知ったとはいえ、元々が恋愛音痴な彼女 のこと、そこまで深く他人の心の動きを読むことは出来なかった。 だから、本来ならば彼女は、自分に向けられた視線の意味を理解することなどなかっただろうし、 それだけに傷も浅くて済んだのだろう。 だが。 彼女は『力』を持っていた。 自分を好きな男の心が視えるという『力』が。 耳を塞いでもなお聞こえてくるその声に、八雲の心は押しつぶされそうになっていた。
何だよこれ略奪愛ってやつ?塚本も意外とやるんだなぁけどあの播磨ってそんなにいい男かそれ とも不良なとこに惹かれたのかな? 声は止むことなく、八雲に向けられる。 畜生こんなことになるならもっと前に塚本にしっかり声かけとくんだったーけど二人が争ってど ちらかが余るわけだしそしたら俺にもチャンスあるよな 視られることなど考えていない思念、そして思春期の欲望は暴走する。 やっぱあいつともうヤッチャッタのかな塚本も可愛い顔してやるこたやってるんだなくそっ羨ま しいぜ 想いと共に伝わってくるイメージの中には、少女の想像をはるかに越えたものもあった。 三角関係かーこれからドロドロすんのかないや待てよ不良なんだし二股とか?あ、二人同時とか もやってるのかもな 蹂躙される裸の自分を視るのは、決して初めてのことではない。だが今日ほど具体的に視えたこ とはなかった。 そして彼女の相手として描かれるのは、播磨拳児だった。少年達の勝手なイメージに歪められた 彼の姿は、八雲の知るそれとはかけ離れていた。多分に八雲を奪われたという嫉妬が含まれている からか、まるで悪魔か何かのよう。 八雲は心を閉ざしてしまいたかった。何も視たくなどなかった。それでも声は聞こえてくる。視 えてしまう。 少年達は今、真面目な顔で絃子の話を聞いている。しかしその下で、彼らは妄想を働かせている のだ。 健全な思考なのかもしれない。だがそれを感じる八雲にとっては、ただただ不快感を招くもので しかなかった。 頭の中に入り込んでくるイメージの波に、彼女の心は震え、腹の底からは吐き気が沸きあがって くるのだった
「……塚本……塚本?」 はっと顔を上げると、彼女の席の横にいつの間にか、絃子が立っていた。 「いつもみたいに寝てた……というわけじゃないようだな」 そっと手を伸ばしてくる彼女に、八雲は一瞬身を凍らせる。それに構わず、絃子は彼女の前髪を 上げて額に触れた。 「……少し熱があるな。それに顔色が悪い」 いつもと変わらぬ静かな声、しかしそこに確かにいたわりを感じ、八雲は体の力を抜いた。確か に熱っぽい。それは精神的なものばかりとは言えなかった。 「サラ。悪いが八雲を保健室に連れて行ってやってくれ」 「はいっ!!」 勢い良く立ち上がったサラもまた、八雲の変調を案じていたのだろう。八雲に肩を貸して、教室 を出る。 「ありがとう、サラ」 微かに荒い息の下から八雲が礼を言うと、 「ううん、いいのよ」 サラは慈母の笑みを浮かべた。だがそれは次の瞬間、微かに曇る。 「……気にしてるの?」 「……大丈夫」 短い問いに短く答え、八雲はサラの肩に体を半分預けながら歩く。 どうやら本当に体を壊してしまったらしい。自らのおぼつかない足取りに、八雲はそんなことを 考えたのだった。 「また来るから」 席を外しているのか、誰もいない保健室のベッドに八雲を寝かせた後、授業があるサラは最後に そう言い、手を振って帰っていった。 手を小さく振り返し横になった彼女の意識は、あっという間に闇に引きずり込まれていった。 人の気配に目を覚ますと、覗き込んでくる人影に気付く。 「あら、起こしちゃった?ごめんなさいね」 寝起きで呆とする頭を無理やり働かせ、保健室にいることを思い出す。そして今、ベッドの脇に 立ち、自分を見ているのは。 「どう?気分の方は。うなされてたみたいだけど」 新しく保険医になった女性だった。
「うーん、熱がまだちょっとあるわね〜」 八雲が脇から取り出した体温計を見ながら、彼女は言った。 名前が思い出せず考えていた八雲は、ようやく姉ヶ崎という姓を思い出す。 「風邪かしら?とりあえず風邪薬、飲んだら?」 「あ……ありがとうございます」 棚から薬を取り出す姉ヶ崎に、八雲はベッドに体を起こして頭を下げた。にこりと笑う彼女の顔 に、どこか心温まるものを感じつつ、八雲はコップと水を受け取る。 「そういえば……」 椅子に座りながら、ふと姉ヶ崎は問いかけてきた。 「うなされて誰かの名前を呼んでたみたいだけど……好きな人の名前かしら?」 「……!?」 驚いて目を白黒させる八雲は、何とか水を噴出すのをこらえた。大丈夫、と心配そうに彼女は背 中をさすってくる。 夢を見ていた。どんな内容だったかは忘れてしまった。 ただ、自分と播磨が恋人同士だった、ということだけは覚えていた。 もしかして、播磨の名前を寝言で言ってしまったのだろうか。だとしたら……恥ずかしい。硬直 する八雲だったが、しかし、姉ヶ崎はクスクスと口元に手を当てて笑い出す。 「ああ、ごめんなさい。冗談だったんだけど……」 「冗談……?」 からかわれたのだと知り、少し恨めしそうに見てくる八雲に、姉ヶ崎は両手を顔の前で合わせて、 「ほんと、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったのよ?」 照れ笑いを浮かべながら謝る彼女のその仕草が、何だかとても可愛いものに見えて、八雲はつら れたように小さく笑う。 「でも、そんな反応するってことは、図星だったりするのかしら?好きな人の夢を見てたの?」 だがそれもほんの一瞬のことだった。姉ヶ崎の言葉に、八雲は表情を暗くする。 思い出すのは、昨日のこと、そして今日のこと。 あの現実になりえない相合傘が、心の底を突いてきて鈍い痛みを覚える。 ダメ。もう好きじゃないのだから。自らに言い聞かせるが、その痛痒感は消えない。 どこか苦しそうな彼女の顔を、姉ヶ崎がじっと見つめていた。
「……辛い恋でも、してるのかな?」 唐突な姉ヶ崎の言葉に、八雲は両の手を強く握り締める。 「いえ……」 「そう」 八雲の言葉を受け止めて彼女は、口を閉ざす。その沈黙が、次の言葉を催促してるかのように思 えて、彼女は顔を上げた。 「もう……好きじゃないですから」 不思議に思った。どうして自分は、この初めて会う女性に、こんなことを話しているのか、と。 彼女はじっと八雲を見つめてくる。その瞳は暖かく、少女を包み込む優しさに満ち溢れている。 軽く縦巻きにした長い髪、つぶらな目、柔らかそうな唇の姉ヶ崎は、八雲にはとても大人の女性に 見えた。 無理をしていたのは、体だけでなく心もだったのだろう。誰かに胸の内をさらけ出し、聞いても らいたい。そんなふうに思うのは八雲には珍しいことだった。 そしてそう思わせるのは、姉ヶ崎の持つ雰囲気のせいなのかもしれなかった。八雲はふと、彼女 に『姉』を重ねて見ている自分に気付く。実在の姉、天満ではなく、いわば『お姉さん』。 「あら。ふられちゃったの?」 彼女が言うと何故か、その事実すら大したことがないように感じられた。心がわずかに軽くなる。 「……いえ……」 どこから話せばいいか、そして、どこまでを話すべきかを迷いながら、八雲は言葉を探す。 「貴方の好きな人に、好きな人がいる、とか?」 惑う彼女を救うかのように差し出された姉ヶ崎の言葉に、八雲は重く頷く。彼女はというと、あ らまた当たっちゃった、などとおどけて言いながら、椅子に座りなおす。きぃと悲鳴をあげた古い 椅子に、困ったように、 「やだなぁ、太ったかしら?」 そんな何でもない一言一言が、乾いた心に染みこんで潤していくのを感じながら、八雲は彼女の 次の言葉を待った。自分からは、何を言えばいいのかがわからなくなってしまったから。 「それで?告白とかしたのかなぁ?」 膝の上に手を置いて、姉ヶ崎は彼女に問いかけてくる。 ゆっくりと大きく頭を振る八雲に、慈しみを顔に浮かべて姉ヶ崎は言った。 「そっか……辛いね」
「先生は」 しばしの沈黙の後、八雲はふと尋ねる。 「こんな思いをしたこと、あるんですか?」 「そりゃあ、まあ。こんな年だしね」 言って軽やかに笑う彼女の顔に、影はない。だが深い。これが大人の女性の笑い、というものな のか。色々なことを経験してきたからこそ、浮かべることの出来るその笑顔に、八雲は微かな羨望 を覚えた。 「もっとひどい思いだってしてるわよ?」 「……どんな、ですか?」 「好き合ってると思ってた人に、急に捨てられたの」 台詞と裏腹に、彼女は澄んだ、そして満面の笑顔を見せる。言って立ち上がり、彼女はベッド脇 の窓を開けた。雨に濡れた落ち葉の匂いを乗せて、わずかに風が入り込んできた。揺れるカーテン と、栗色の長い髪と白衣の裾。 まだ微かに熱の残る体にその涼しさは心地よく、綺麗な空気が肺を満たしていく。 「つい最近のことよ〜。荒れたな〜、あん時は」 昨夜の雨を忘れたかのように晴れ渡った空に、雲は一つもない。そしてそれを見上げる姉ヶ崎の 顔にも、影はない。 「そうなんですか?」 「この学校に来るちょっと前のこと。今思えば、別れて良かったと思うんだけれどね」 けどそん時はね、やっぱりすごく好きだったしね。言って彼女は肩をすくめる。その仕草に悲壮 感はない。乗り越えたのだろう、痛みを。 「貴方は?本当にもう、その人のこと、好きじゃない?」 「………………」 彼女の言葉に、八雲は顔を背けた。 想いは、ある。 だが口に出して、形にするわけにはいかなかった。己に誓ったから。 「もう秋だね」 姉ヶ崎がふと、窓の外の空を見上げて呟いた。つられる八雲の瞳には、太陽がまぶしかった。 ――――女と少女、その境目に八雲は立つ――――
103 :
クズリ :04/07/04 22:51 ID:nUoXiSLg
お姉さんもサラも別人、か……orz どれだけのことを書くか、よりも、どれだけのことを書かないか、が難しいという言葉を 今、噛み締めています。書き始めた当初、こんなに長くなるとは想像してませんでした。 9本目ですよ、9本目。次は二桁ですよ?すでにギリシャ文字は見たこともないもの ばかりですし。 まあそんなこと言っても、この勢いで最後まで書いてしまいたいと思ってます。途中で 投げ出すことだけはしたくないですし。 そういうことで、皆様、よろしくお願いいたします。
>>103 クズリさんGJ!
やらなきゃいけない事頑張って下さい。
そして、やっぱり続きが気になる終わり方です。
GJ! リアルタイムで拝読させていただきました サラはほんとに八雲にとって無くてはならない存在ですねえ…姉と不仲になっている現状では特に、なんですかね 次回にも期待してます! できることなら八雲が幸せな終わりかたにして欲しいです… じゃないと可哀想すぎる…
ただ一言、 …GJ!
GJです!!それしか言葉が出ません。次も期待してます。体には気を付けてください
クズリさんお疲れさまです。 あなたのおかげで最近は毎日水曜日ですよ。 もう本筋でストーリーは考えてらっしゃるようですので、作品の感想などはまとめて完結してから拙いながら書かせていただきますね。 学生とのことですが両立は大変でしょうが無理しないでがんばって神作品つくってください。
八雲って映像まで視えるのかねえ?
文章が見えるだけでしょ? カレーの交換しに行ったら好きだって文章に流されてたじゃん
111 :
クズリ :04/07/05 01:21 ID:nUoXiSLg
一巻→「心が聞こえる時がある」 二巻→「……また 視えはじめた」 聴覚と視覚、どっちなのかと悩んだのですが、 二巻→文字に流される八雲 だったので基本はもちろん、文章だけだと思っています。 ただ、文字だけがくっきりと視えるっていうのは、何と言うか漫画的表現で、実際は イメージとかそういったものが伝わってくるんじゃないかな〜、と考えて書いてしまい ました。何もない宙に文字だけが浮かんでいるよりは、説得力あるかな、と思って。 設定を変えてしまい、申し訳ありませんでした。
わ。挟んだ。
>>111 気にすることないですよ。面白ければそれで良し。
114 :
クズリ :04/07/05 01:36 ID:nUoXiSLg
>>113 御指摘、どうもありがとうございました。感謝いたします。
115 :
Classical名無しさん :04/07/05 02:05 ID:f9VRrD9o
クズリさん、素晴らしいSSありがとうございます! まとめて全部読みましたがもう切なくて、切なくて・・・次回も楽しみにしております!! SS保管庫にも是非企画側に入れてもらいましょう! 「管理人さーん!観てたらSSの保管お願いしまーす!」
>>100 若い女性が発熱したときに医者として最初に疑うべきは妊娠ですが....。
まぁ保険医だし、スクランだしね。
ごめん。途中送信でした。 そんな訳で、風邪薬を薦める妙さんに、少し違和感を感じたことをお伝えします。
>>116 お医者さんですか?
15歳の子相手でも疑うものなの?
>>118 116ではないが、今の時代なら15才でも疑います。
「女性をみたら妊娠と思え」というのは、医者の格言として有名で、
「病気かな?」と思っていたら実は妊娠だったり……
知り合いから聞いた話では、小学生が妊娠したというちょっと信じられない話が……
完全に否定できないだけに((;゚Д゚)ガクガクブルブル
まぁSSにこんなリアルは話を持ち込んでも仕方ないですけどね( ´ー`)y-~~
怖い世の中だな
>>119 知らなかった。
高校の保険医さんは大変ですね。
122 :
たれはんだ :04/07/05 10:31 ID:35SedIeg
Front Window あーあ、まったくヤんなるわよね。 あれだけしつこく『デートしてくれ』っていうからしてあげようと思ったのに、 結局ドタキャンなんだからほんっっっとに失礼な奴よね。で、これからどうし ようかしら。独りじゃつまんないし、このまま家に・・・って。 (フゥ(溜息)) ホント、どうしよ。って、あら?あれってヒゲじゃない?何してんのかしら? 確かあのカッコ、前に街で見たカッコじゃない?あの時はとんだ災難だったわ。 何で私が美琴から逃げなきゃ、 、じゃなくてっ! あんな服しか持ってないのかしら?これだから・・・って、何考えてんのよ。 今はヒゲはどうでもいいの!これからどうするかなんだから。
123 :
たれはんだ :04/07/05 10:34 ID:35SedIeg
(コソコソ) 本屋?立ち読みしてる。マンガ?あんなの読んでどこが面白いのかしら?そう いえは天満も晶も読んでたけど、天満はまぁ別として、晶も読んでるんだから ・・・まぁ彼女の場合、けっこう分からないところもあるし。結局何読んでる のかしら?ここからじゃ分からないわね。もうちょっと近付いてっと。確かこ れだったかしら?えーっと。何よこれ。別に面白くも・・・へぇ、これは絵が 綺麗ね。女の子向け、じゃないわね。アイツがそんなの読むわけ無いし。ちょ っと何これって、女の子のハダカばっかりじゃないっ!こんなの読んでたなん て、やっぱりっ、あら?次のは面白そう。『School− あっ、ちょっ、ちょっと!忘れてた!追いかけなきゃ! (タタタッ) フゥ。おかげで見失う所だったわよ。今度は画材、店?絵でも書くのかしら? でもヒゲって、美術部じゃなかったわよね。何の用かしら?ここからじゃ分か らないわ。入る?でも気付かれると厄介だし。べ、別にいいわよね。私だって、 使用するぐらい、あるんだからっ、いいじゃないっ、別に・・・ともかく入ろ。 (シャー(自動ドアの音)) 結構いろいろなものがあるのね。絵の具とか用紙だけかと思っちゃったわ。え っと、それでアイツはっと。いたいた。何見てるのかしら?引出しを開け閉め してるけど。何かを探しているのかしら?え?何?トーン?よく聞こえない。 何かブツブツ言っているけど、トーンって何よ? 『沢近、さん?』 『きゃっ!』
124 :
たれはんだ :04/07/05 10:37 ID:35SedIeg
**** ビックリした。まさか、笹倉先生に会うなんて。でも、先生も用事があったみたいだし、見失わ ずにすんだわ。まぁ、確かにあそこで出会ってもおかしくはないわよね。美術の先生だもの。公 園?今度は何かしら。結構人が多いわね。お弁当を食べている人もいる?あら、もう12時なの ね。昼食はどうしようかしら。あいつでも誘って・・・って、なんであいつが出てくるのよっ! あっ、隠れないとっ。 (ゴソゴソ(茂みに隠れる音)) あっ、見えたっ。猫?猫にエサ?聞こえないけど、何か言ってる。へぇ、以外ね。そういえば、 前にたくさんの動物と一緒にいたような、気のせい?思い出せない、け、ど、イヤ、思い出した くないっ!大体っ、あの日からおかしくなったんだからっ、え?サングラスが外れてっ、てっ、 へっ?ヒ、ヒゲよね?確かに、間違いないわっ。一瞬だけだけど、間違いない。あいつの素顔を 見たのは初めて・・・初めて、よね?確か。え、えぇ?!何で赤くなってるのよ!大体、アイツ はハゲなのよっ!それに不良だし、えっと、えっと、ともかく!今度は見失わないようにしなき ゃ。あら、携帯?メールかしら?女?まさか、大体かける相手なんているわけないじゃない。 ようやく移動するみたい。結構この体勢も疲れるんだから、いい加減にしてよね。それで、今度 はどこに行くのかしら。
125 :
たれはんだ :04/07/05 10:38 ID:35SedIeg
(ガヤガヤ(雑踏の音)) ここって、あのときの喫茶店じゃない。何であんな所に行くのよ。もしかして美琴と?まさか。 あのときの話だと誤解だったじゃない。それに、アイツが誰と会ったって別に関係ないわけだし。 そういえば、天満の・・・ 『わぁ!愛理ちゃんだっ!』 『!!!(天満?!)』 **** 結局見失ッちゃったじゃない。誰と会ってたか気になっちゃうし。もう、いい。考えるの止そう。 でも。 やめとこ。やっぱり。 終
とりあえずsageて下さいとしか言いようが無い
128 :
Classical名無しさん :04/07/05 12:26 ID:5CZ1ye0A
>>127 とりあえず死んで下さいとしか言いようが無い
「ふふ、あなたは私の物」 サラは最愛の人に拒絶され絶望に苛まれる播磨を後ろから抱いた。 全て私が仕組んだ事、こうなる様に。 あなたが欲しかったから、愛されたかったから。 例え、神も友達も全てをも裏切ってでも欲しかったから。 「大丈夫ですよ、誤解だって分かってくれます」 絶対にそれはない。 播磨先輩を十字架に張り付けてしまうから。 私と言う名の十字架に。 逃げられない、逃がさない。 私の心はあなたに奪われた。 神や友達よりもあなたが大切になってしまった。 それが私のエゴでもあなたは誰にも渡さない。 「播磨先輩、私じゃ駄目ですか?」 ずるいかも知れない。 けど、もう止まれない。 一度、動き出した時は絶対にね。
初めてSSを書いてみました。 サラと播磨で書いてみようと思ったら、こうなりました。 もう少し長くしようと思ったのですが、難しくて挫折しました。 サラがサラじゃないですね。
黒サラはもはや標準設定ディスカ?
>>122-125 ストーカーな沢近がとてもかわいいです。
一人称のSSはいいですね。
ただ次回からはできたらsageでお願いします。
>>130 サラ黒ッ!
なにをしたんだサラ
133 :
Classical名無しさん :04/07/05 20:23 ID:xhLII6OE
>>116 発熱じゃなくて腹痛です。
発熱で妊娠を最初に疑うのは少しずれています。
(鑑別疾患に入れるのは間違っていませんが・・)
ただ、薬を投与するときに妊娠の有無は確認すると思います。
何でそんなどうでもいい話したがるの? 少しは空気読め
お姉さん「うーん、熱がまだちょっとあるわね〜。妊娠かしら?」 八雲「それは違……」 こんな会話が保健室で日常なんでしょうかね。
お姉さん「熱があるわね〜。妊娠かも。心当たりは?」 沢近「え………………な、ないです!」 二度ネタはつまらないと思われっ。
お姉さん「熱があるわね〜。妊娠かも。心当たりは?」 八雲「え……? あの、その・・・」 お姉さん「……やっぱり」 メインウェポン勘違い発動
141 :
クズリ :04/07/06 07:52 ID:nUoXiSLg
女子高の保険医の方って大変なんですね。
どうも、皆様。クズリでございます。
>>116 >>119 >>133 御指摘どうもありがとうございます。何だか世知辛い世の中になったように感じて
しまう私は、きっと古い人間なのでしょう。
改めて、皆様の御声援に感謝いたします。皆様のお陰で、私はこの連載を続け
られているわけですから。本当に、ありがとうございます。
さて早速ですが、投稿させていただきます。
前スレからの続きですが。
『Without Me』
>>191-197 同改訂版→SS保管庫@分校
『Crossing Border』
>>318-330 同改訂版→SS保管庫@分校
『She wants to move』
>>345-355 『Don't go away』
>>391-399 『Where I End and You Begin』
>>498-507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
『Rollin'』
>>539-549 『You Just Don't Know Me At All』
>>589-595 『End of Everything』
>>48-56 『On the Edge』
>>93-102 に続いて。
『If My Sister's In Trouble』
言葉は形だと、八雲は思っている。 それは彼女が他人の心を視ることが出来ることと、無関係ではないのかもしれない。誰もが胸の 内に、想いを秘めている。だがそれは言葉にしなければ、誰にも知られることなく消えていく。 もちろん世の中には、言葉を必要としないコミュニケーションの方法があることを八雲は知って いる。それを踏まえた上で、八雲はやはり思うのだ。 言葉は形あるもの。そして形あるからこそ、大切に使わなければ壊れてしまう。 また時には、紡がれた言の葉が己を縛る鎖になる、とも。 だから八雲は、その思いを姉ヶ崎の前で言葉にすることを躊躇った。 言ってしまったが最後、自分は想いから逃れられなくなる。忘れられなくなる。 そう思ったから。 School Rumble ♭−κ If My Sister's In Trouble 「秋って好き?」 唐突な姉ヶ崎の言葉に、八雲は思わずきょとんとしてしまう。小首をかしげて見るが、彼女は優 しい笑顔でもう一度、尋ねてきた。 「ねえ、秋って好き?」 「え……あ、はい」 そっか。優しく頷いて彼女は窓を閉める。風は消えても、秋の匂いは部屋の中に溢れていた。 「私、貴方ぐらいの年の頃はね、秋って嫌いだった」 話の繋がりがわからず、八雲はただ黙って話を聞き続ける。 「夏が楽しい分、ああもう終わっちゃったんだな〜、って寂しくなっちゃうの」 窓に背を預け、姉ヶ崎は遠い目をする。 彼女が見ているのは、在りし日の思い出なのだろうか。八雲は彼女の顔から何か読み取れないか と見つめるが、彼女は顔だけでなく心にも化粧をする術を知っているのかもしれない。穏やかな表 情に隠されて、八雲には何もわからなかった。 「ただでさえ、秋って寂しいものよね。別れの季節、なんて呼ばれてるし」 で、本当に別れたこともあったなぁ。一夏の恋ってやつ?笑って彼女は話し続ける。 「春は出会い。夏は情熱。冬は人恋し。考えてみたら、秋だけなのよね。人と寄り添うイメージが ないのって。まあ、私だけかもしれないけれど」 腕を組む彼女の言葉に、八雲は何となく同意の頷きを返した。
「秋は寂寥。誰かのいない寂しさに耐える季節。そんな感じがして嫌いだったの」 言って姉ヶ崎は窓から体を離す。そして再び、ベッド脇に置いた椅子に座った。 「寂しがり屋だったのよ。だから誰かにいつも側にいて欲しかった。別れって言葉が嫌いだったし、 好きな人とはいつも一緒にいたかった。ま、今もなんだけどね」 肩をすくめる姉ヶ崎の気持ちは、八雲にも少しだけわかった。そして姉の気持ちも。 想い人である烏丸大路が、二年生になってすぐに転校すると聞いた時の天満の落ち込みようは、 とても激しくて見ていられなかった。だがその時は、全くと言っていいほど彼女の気持ちがわから なかった。機会さえあればいつでも会えるのに、と醒めていた。 今は何となくではあるが、理解することが出来る。脳裏をよぎるのは、サングラスの奥に優しい 瞳を隠す、たくましい男の面影。 「でもね、いつの間にか嫌いじゃなくなってた。やっぱり寂しい気持ち……あと、メランコリーだ っけ?そんな気分にはなるんだけど」 椅子を半分回して、彼女は窓の外の風景を眺める。次々と黄色の葉が舞い落ちる。ひらひら、ひ らひらと。
「……どうして、嫌いじゃなくなったんですか?」 そのまま物思いにふけり始めたのか、口を閉ざしてしまった姉ヶ崎に、八雲は続きを促す。彼女 がこちらに見せる横顔、そこに見え隠れする強さの理由を知りたかった。 今の自分にはきっと、こんな顔は出来ない。そんな風に感じたから。 「どうしてか、って?」 小さく笑う姉ヶ崎は、軽く目を細めて八雲に対した。 「それはね、きっとたくさん別れを知ったから、麻痺しちゃったの。寂しいことにも、慣れちゃっ たの」 八雲は自然と姉ヶ崎の話と、彼女の見せる包容力のある表情に引き込まれていた。 それに、と一息付いて続ける。 「誰かと別れれば、悲しいし寂しい。だけどそれでもいつかやっぱり、人を好きになっちゃう自分 に気付いちゃったから」 好きって不思議だよね。そう八雲に問いかけておきながら答えを待たず、姉ヶ崎は続ける。 「例えば初めて会った人のことをいきなり好きになることだってある。寂しかったからとか、他に どんな理由があったとしても、一度好きって思っちゃうと、やっぱり好きが続いちゃう」 そう言った彼女の目はとても優しく、そして少し潤んでいて、八雲は彼女が誰かのことを思って 言っているのだろうと考えた。
「それで、貴方のことだけど」 不意に話をふられて、八雲は思わず目を丸くする。今までの話と、自分とが関わっているとは思 いもよらなかったから。 「……え?」 「告白もしてないんでしょ?本当にそれでいいの?それって、いわば秋のままなんだよ?」 右手の人差し指を立てて言ってくる姉ヶ崎に、八雲は一瞬たじたじと身を引いてしまう。彼女の 言葉の意味がわからないのもさることながら、その妙な圧迫感に驚いたのだった。 変わり身が早い、と八雲はこっそりと舌を巻く。先ほどの穏やかな顔とはうって変わって、芯の 強さが前面に押し出ている。そのどちらも、彼女の本当の姿なのだろうが。 「いい?人生ってね、四季と同じなの。出会って、恋をして、別れて。もう誰も好きにならないっ て思っても、人恋しくなって、そしてまた違う誰かと出会うの」 「はぁ……」 「だから貴方が今、好きだと思ってるのに、何も言わないっていうのは、ずっと秋を過ごしてるの と一緒。秋の終わりが来ないから、冬が来ないのよ。次の好きが欲しくならないのよ?」 ずずっと顔を寄せてくる姉ヶ崎の言葉の意味を捉えようと、八雲は必死に考える。 そして導き出された答えは。 「区切りを付ける……そういうことですか?その……自分の想いに」 「自分で勝手に答えを出して、だけど好きって気持ちを捨てられないでいられるなら、その方がい いと私は思うけどな」 今度は真剣な目で見つめてくる彼女の視線が痛くて、八雲は目を伏せる。 「辛いんじゃないの?自分を騙すのって」 その言葉は優しく、そして全てを見抜いてきているようで、八雲は睫毛を震わせた。薄い桃色の 唇が一度、開いて閉じて、また開く。 「……平気です……」 微かに揺れる瞳で八雲は、そう言った。とても胸が痛かったけれど、そう言ったのだった。 「……そっか」 ニコリ。姉ヶ崎は深い笑みを見せる。そして、 「それもありだと思うよ。ごめんなさいね、余計なこと言っちゃって」 「いえ……」 絡み合わない視線、八雲は姉ヶ崎の首筋を見ていた。そして、全身を。 どちらかといえば、ふくよかな方だろう。太っているのではないのは、くびれた腰を見ればわか る。彼女が持つ雰囲気と包容力が、そう見せているのかもしれない。
146 :
Classical名無しさん :04/07/06 07:59 ID:nUoXiSLg
「先生だったら……」 しばらくの沈黙の後、八雲は小さな声で問いかける。 「どうしますか?その……」 好きな人に好きな人がいたら。省いた言葉の後半を正しく読み取り、姉ヶ崎は答えた。 「そうねぇ。好きって言っちゃうかな、ダメ元で……まあ、今の私だったら、だけど」 怪訝そうに見る八雲の目に映ったのは、彼女のやや苦いものを隠した微笑だった。 「貴方ぐらいの年だったら、私も貴方と同じだったと思うな。隠したまま、好きでい続ける」 どこか歌うような口調だった。子供のように彼女は、丸椅子を一回転させる。くるっ。その一周 の間に、過去を覗いていた自分を捨てたのか。 姉ヶ崎はニコリと、大人の笑顔を見せる。深く、穏やかで、優しく、そして……底が見えない。 「次の好きが見つけられるってわかってるから、今の私は。でも、貴方ぐらいの頃はそうじゃなか ったもの」 汚れちゃったな〜。彼女はそう言って声を出して笑った。長い髪がつられて揺れた。
八雲は掛け布団の上に置いた自分の手をじっと見つめる。 私は次の好きが見つけられるだろうか。そう自らに問いかける。感じたのは、心の奥底に隠して いた絶望の黒い穴だけ。慌てて蓋をするが、溢れ出た闇がしこりのように心の底に残る。 その顔が、辛そうに歪んだのを見逃さなかったのだろう。姉ヶ崎は鋭い言葉を投げかけてくる。 「貴方もそうじゃないの?すごく好きで、他の人なんて考えられないんじゃないの?」 追い込まれている、そう八雲は感じた。困惑して見てみても、たおやかな微笑で誤魔化される。 どう答えればいいのか。姉ヶ崎に、そして自分に。八雲は頭を巡らすが、良いアイディアは浮か んでこない。 考え込む彼女を、姉ヶ崎は暖かく見守っている。彼女の目には今の八雲の姿が、自分も通った大 人への階段を上ろうとする少女に見えていた。 「好き、ってね」 迷う八雲に手を貸すように、姉ヶ崎はそっと口を開ける。 「好きってね、とっても気持ちのいいことよ。もちろん、貴方にとっては辛いことなのかもしれな い。けど、それはね」 八雲の目を、彼女の瞳が捉えた。宿る光の柔らかさに、少女は吸い込まれていく。 「すごい力だからなのよ。忘れようとしても、無視しようとしても、心が引き付けられるの。ほん のちょっとのことで、一喜一憂しちゃうの」 彼女の言葉は、八雲の心に素直に染み入ってくる。そう。確かに彼女の言う通りだった。 だからこそ、辛いのだ。彼のことを好きだからこそ。
「ま、どうするかは貴方次第。でもきっと」 姉ヶ崎はその顔に、暖かな優しさに満ち溢れた笑顔を浮かべる。 「素敵な人になれるわよ、貴方」 「……先生みたいに、ですか?」 「私なんかよりずっと、ね」 二人は見詰め合って、笑う。姉ヶ崎はニッコリと、そして少女は微かにだったけれど、それでも 何故か通じ合ったような気がして、八雲は自分の心に晴れ間がさしたような、そんな思いを抱いた のだった。 それからしばらくの間、とりとめのない話をした後、八雲はもう一度、眠りにつく。 結局、昼過ぎまで保健室にいたが、いっそのこと帰ったら、というサラの勧めに応じて帰宅する ことにした。昼休みということで、サラも付いてきてくれるそうだ。 「それじゃ、お大事にね」 「はい……あの……ありがとうございます」 丁寧に頭を下げる彼女に、姉ヶ崎はにっこりと笑う。そして、 「さっきの話だけど……」 と切り出した。八雲の隣に立っていたサラが怪訝そうな顔をしているがとりあわず、 「続き、聞かせてもらえたら嬉しいな」 大人の女性なんだ。八雲はそんな感想を抱く。 きっとわかってしまったのだろう。八雲が自分に誓いながら、心に決めながら、それでも迷いを 抱いていることを。 揺らいでいるのだ。 平気。大丈夫。そんな言葉を言い聞かせても、止められない想いの渦に飲み込まれそうになって いる自分がいる。 だから、八雲は。 「はい……私も……話を聞いてもらえたら嬉しいです」 このまま辛くても、耐えていきたい。だけど、もしも誰かに頼りたくなった時に、ここに来て話 そう。八雲はそう思った。 「八雲、何を話してたの?」 「…………ヒミツ」 部屋を出て早々に尋ねてきたサラに、八雲は小さく笑って答えたのだった。
その少し後の事。 二人がすれ違った一人の少女が、保健室に入っていく。彼女と姉ヶ崎の間で交わされた会話を、 八雲は知る由もなかった。 「あれ、さっきのって、塚本さんですよね?病気なんですか?」 「ちょっと熱があったみたい。お友達なの?」 「いいえ。でも今、すごい噂になってるんですよ。ほら、これ見て下さいよ」 「……これって」 「でしょ?播磨先輩って、沢近先輩と付き合ってると思ってたのに」 「ふーん、そっか。私ってば、ライバルの応援しちゃってたのか……ま、前もそうだったけど」 「え?」 「ううん、何でもない。こっちの話よ」 誰もいない家に帰った八雲は、玄関でサラにお礼を言って別れた。 帰り道の途中で少しだけ、熱がぶり返してきたような感じがしていた。部屋に戻り、制服を脱い で乾いたタオルで汗を拭く。その後、パジャマに着替えて台所で薬を飲み、ベッドに横になる。 扉の向こうで伊織が鳴いている声が聞こえたような気がしたが、それもほんの一瞬のこと、すぐ に八雲は睡魔にとらわれてしまった。 目を覚ますと、すでに辺りは暗くなっていた。微かに聞こえる虫の鳴き声が、柔らかに八雲の耳 を打つ。 どれぐらい寝ていたのか、と時計を見てみればすでに七時半。かれこれ六時間以上も眠っていた らしい。寝汗はひどいが、気だるさは抜けている。薬がきいて復調したと思って間違いないだろう。 枕元に置いてあったタオルで体を拭いていると、廊下に足音が響いた。 その主は、考えるまでもない。この家のもう一人の住人、つまり彼女の姉、天満だ。 扉の前で止まる足音に、八雲は体を無意識に強張らせた。 ゆっくりとノブが回る……が、扉は開かない。 そういえば、と彼女は思い出した。昨日と同じように、理由もなくだが、鍵をかけておいたのだ った。 もう一度、ノブが回ったが、当然に開かない。どうしようかと八雲が惑っているうちに、扉越し に姉の声が聞こえた。 「八雲、起きてる?」
その言葉に八雲は思わず息を潜める。眠っていると思ってくれた方が、楽な気がしたから。だが、 そろそろとベッドに寝そべろうとした瞬間に、シーツが動いて微かな衣擦れの音がした。 気付いただろうか、と扉を凝視する。 起きてるのかなやっぱり嫌われちゃった?そんなのやだよちゃんと謝らなきゃいけない 扉越しに視える彼女の心に、八雲は姉がその場を立ち去っていないことを知る。彼女は横になっ たまま身じろぎ一つせず、じっと待ち続ける。 「ねえ、八雲」 やがて聞こえてくる姉の声に、妹は黙って耳を傾けた。 「ごめんね……八雲の気持ち、考えてないで」 どこか寂しげな、そして悲痛な姉の声を、八雲は初めて聞いたような気がした。何も言うことが 出来ない彼女をよそに、天満は話し続ける。 「私、お姉ちゃん失格だね。八雲のこと考えてるつもりで、全然、八雲のことわかってなかった」 天満の胸から搾り出すような声は、心の声と寸分変わらないものだった。八雲はじっと、扉を見 つめる。そしてその向こうに立つ姉を。 「そうだよね。八雲だって高校生だもんね。男の子と二人で遊びに行くことだって、あるよね。私 だって烏丸君と、別に付き合ってるわけでもないけれど、一緒にプロレス観に行ったし」 沈痛な声だった。空気を震わせる声も、八雲にしか視えない声も、震えている。 悲しみ、寂しさ、辛さ。様々な感情に揺れているのがわかった。 ゆっくりと八雲は起き上がり、足音を忍ばせて部屋を横切る。 扉一枚をへだてて、姉と妹は向き合った。 「播磨君のこと、悪い人だと思ってたわけじゃないの。ただ、ほら、何ていうのかな。あんな場面 に出くわして、すごくびっくりしちゃって。それに八雲、びしょ濡れで帰ってきたから」 ああもう、そういうことが言いたいんじゃなくて、という声と共に頭をかきむしる音がした。 「とにかく……播磨君には何も言わないし、何もしない。だから……その……ごめんね」 そう言い残して、部屋の前を立ち去ろうとする天満の後ろで、扉が開く音がした。 「もういいよ、姉さん」 天満が振り向くと、部屋から顔を覗かせた八雲と目が合う。 「八雲」 「いいの、もう……私、フラレタんだから」
廊下を姉の後について歩いていた時から、漂う匂いに嫌な予感はしていた。いいからいいからと 卓袱台の前に座らされた時に、その予感はピークに達していた。そして今、彼女の前に置かれたも のは。 「姉さん……」 天満お手製のカレーだった。 「へへへ、たまには私も御飯作らないと、って思ったんだけど……私が作れるのってこれしかなく てさ」 舌を出して照れる姉に、八雲は結局、言い出すことが出来なかった。病人にカレーは刺激が強す ぎなんじゃ、とは。少なくとも八雲には考えられない組み合わせだった。 「……いただきます」 まあもう平気みたいだし……と自分を納得させながら、スプーンを口に運ぶ。 「……!!」 「どう?どう?」 「……美味しい」 お世辞でも何でもなく、八雲はそう言った。甘口だったのが良かったのか、胃にも比較的、優し い。急に八雲は空腹を強く感じた。考えてみれば、朝食は早く、昼はほんの少ししか食べなかった のだった。 ゆっくりと、しかし確実に減っていく妹の皿のカレーを見ながら、天満は微笑んでいる。そうし て、自分もスプーンを動かすのだった。 「はい、八雲の分」 「ありがとう……」 手渡されたカップを受け取る。中身はコーヒー。天満を見ると、仲直り出来たのがそんなに嬉し かったのか、満面の笑みを浮かべている。 悪気はないのだろう。そう判断して、ミルクをたっぷり入れたそれで、こっそりと薬を飲む。 「美味しい……」 「へへへ、ありがと、八雲」 向き合って座る姉の喜ぶ顔に、八雲は心が和んでいくのを感じた。昨日のことなどなかったかの ように、普段どおりの二人でいられることが、嬉しかった。 だがしかし、やはり避けられない話題だったのだろう。カップを置いた天満が言った。 「ねえ……播磨君の好きな人って、誰なの?」
胸の奥が、微かに震えた。天満はまっすぐに八雲の瞳を見つめてくる。 八雲は一度、カップをあおいで、彼女の視線から逃れる。それは自分の胸の内に再び燃え上がり そうな炎を抑えるためでもあった。 「ヒミツ……」 コン、軽く音を立ててカップを置いて八雲は結局、それだけを言う。あからさまに不満顔になる 天満を目で制しつつ、 「私が言っていいことじゃないから……でも……姉さんの知ってる人」 胸にわずかに突き刺さる棘、しかし八雲は心の中で呟く。これぐらいは許して欲しい、と。 「ええ〜?じゃあやっぱり美琴ちゃんとか?」 天満の声が聞こえなかったかのように、八雲はもう一度、コーヒーを飲む。微かに漂う香りが心 地よい。 うー美琴ちゃんじゃなきゃ晶ちゃん?それとも他の子?うーんわからないよ〜 頭を抱える姉の心の声を八雲は視た。そして思う。どうして姉さんは自分という選択肢を思いつ かないのだろう、と。 この分なら……ふと胸の内に浮かんだ考えを、八雲はすぐに打ち消す。 決めたのだから。もう諦めると。想いは封印すると。 彼は天満を見つめ続けていて、自分がその心に入る隙間などないのだろうから。 「うー、誰だかわかんないよ〜?」 その声と、すがるような目に、内に向かっていた八雲の意識は現実に浮かび上がる。そして彼女 の目を拒絶して、 「ヒミツ……でも……お願いだから、播磨さんに聞いたりしないでね……」 そう言った自分の気持ちを、八雲自身つかみきれなかった。 一日が経って、少し落ち着いてきた。昨晩の激情はもう遠くなり、今思うのは、諦めようという ことと、出来れば彼の想いがかなうように、ということだけ。 だが一方で、くすぶり続けている炎から目をそらしているだけだということも自覚している。 改めて八雲は、目の前の姉の顔を見つめる。彼がどこに惹かれたのか、それはわからない。だが、 自分よりは魅力的な人だと、八雲は思っていた。 もしも他の人だったら……諦めようとしなかったかもしれない。それぐらいに、自分の中の気持 ちは大きく強い。だが、相手は実の姉なのだ。 だからこそ、耐えようと思う。だからこそ、辛い。
支援パピコ
「わかった……でも……愛理ちゃんとか」 落ち込む姉の言葉から、八雲は察する。おそらく愛理もまた、彼のことを気にしているのだろう。 昨日、自分よりも先に天満の名前が出たことで、彼女も気付いたのではないだろうか。 「播磨君、思わせぶりすぎだよ」 それが体育祭の後のダンスの事を指しているのを、八雲は視てとった。それほど前のことではな いはずなのに、何故かとても昔のことのように思えたのは、この数日が激動の日々だったからか。 思い出すのは、あの時に感じた痛み。恋に気付くきっかけとなったあの出来事は、自分だけでな く、彼女にも変化を与えたのだろうか。八雲はそんな風に思いを馳せた。 「多分……みんな勘違いしてる……姉さんも……」 八雲の口から漏れる言葉に、天満は何も言わずどこか不思議そうな目をしながら妹を見続ける。 「播磨さんって……すごく一途な人……それと、優しい人なだけ……」 そう、優しさなのだ。八雲の視線は、コップの中のコーヒーに映る自分の顔に向けられる。その 鏡像の自分は、微かに睫毛を震わせている。 優しいから、そして義理堅いから、自分を動物園に連れて行ってくれた。 そしておそらく、愛理とのことも、そうなのではないだろうか。根拠などなく、むしろ願望であ ることを知りながら、八雲はそう思い続ける。 「だからきっと、勘違いされやすい……そう思うけど」 それは自分も含めての事だけど。声に出さず八雲は呟く。勘違いしていたのは、自分もそう。 「むー」 頭を抱えて悩む天満を、八雲はじっと視つめる。浮かんでは消える心の声は、姉の混乱を如実に 表していた。 「姉さん……だから、播磨さんのことは……」 「違うよ。八雲」 顔を上げた彼女の瞳に宿る強い光に、八雲は見覚えがあった。 『お姉ちゃんパワー』が発動しかけているのだ。 「姉さん」 「私が心配してるのは、八雲のこと」 止めようとする妹の声を聞かずに、天満はまっすぐに八雲を見つめる。 「八雲、やっぱり播磨君のこと、好きなんでしょ?だって今、播磨君のこと話してた八雲、辛そう だったけど、嬉しそうにも見えたもの」
まじまじと八雲は姉を見返す。胸の内をしめるのは、どうして急にそんなことを言い出すのか、 という思い。 しばらく考えてやっと気付く。天満は彼が自分を好きだということを知らないのだった。だから、 言えるのだろう。 「姉さん……だから私……フラレタって……」 「でもまだ、好きなんでしょう?」 追撃の手を休めない天満に、八雲は目をそらす。頬が熱くなってきているのがわかった。 「わかってる。約束したもんね。播磨君には何も言わない。何もしない。でも……」 ねえ、八雲。優しい声で、天満は言った。 「人を好きになるって、幸せなことじゃない?」 はっと八雲は顔を上げた。笑う天満の視線が、彼女を絡めとる。 「姉さんは……幸せなの?」 烏丸のことを思い出したのだろう。天満は照れたように破顔する。 「うん……烏丸君が私のこと好きじゃなかったとしても、私は幸せだよ」 それは普段の姉の顔ではなかった。恋を知っている女の顔だった。 八雲は、自分が子供だと改めて思う。天満や姉ヶ崎のように、未だ恋のことはわからない。 「ね、だから、八雲……フラレちゃって、辛いかもしれないけれどさ」 諭すような姉の言葉と優しい瞳に、八雲は心を奪われる。 「あなたのおかげで幸せだった。そう言えるように、頑張ろう」 コクン。八雲は頷く。 その瞬間だけ、彼女は忘れることが出来た。そう言った天満こそが自分の失恋の原因だというこ とを。 そろそろ寝た方がいい、そういう姉の言葉に素直に従い、八雲はベッドに潜り込む。 目を閉じた彼女の頭の中に、渦巻くのは姉ヶ崎と天満の言葉だった。 二人は彼女の恋を後押ししようとしてくれている。それは嬉しいと同時に、辛かった。忘れたい、 諦めたいという心が揺らぐから。 不安。恐怖。苛立ち。熱情。喜び。交互に襲ってくる心の高ぶりと落胆は、まるでジェットコー スターのように八雲の心を振り回し、乱れさせる。 わずかに開けてあったドアが微かにきしんで、影が一つ、入り込んできた。 「……伊織」
額に傷を負うその猫は、八雲のベッドの上に飛び乗り、彼女の体に寄りかかるようにして丸くな った。 「心配してくれているの?」 小さく問いかけてみるが、もちろん答えはない。ただ彼は大きな欠伸をしてみせただけ。 「ありがとう」 言って八雲は目を閉じる。彼のぬくもりが、ほんの少しだけ、辛い気持ちを遠くに運んでくれた ような気がした。 そしてもう一度、八雲は胸の内で呟く。 播磨さんにはフラレタ。だから、私の好きはもう、お終い。たとえ姉ヶ崎が、そして天満が何と 言おうと、この気持ちは伝えない、と…… ――――夜は長い、朝を感じられないほどに――――
157 :
クズリ :04/07/06 08:21 ID:nUoXiSLg
支援、どうもありがとうございました〜 何かもう、今回は色々と…… 長いとか、文才の無さに自分に呆れたとか、考えれば考えるほど煮詰まるとか、 やっぱり女の子の気持ちってわかんないとか、あと色々と言いたいことがあったり します。自分にですが。 にしても、ほんと、俺って…… _| ̄|○ もっと文章が上手くなりたいですね。何と言うか、読み返していて、すごく書き直したい んだけれど、どう直せばいいかわからないもどかしさがあります。文章も、ストーリーも。 ただ、いつでも全力投球はしてたいので、今の時点での自分の精一杯を出したと 思います。 とことん未熟さを露呈した作品ですが、どうかよろしくお願いいたします。
GJ!(何故かリアルタイムで(σ・∀・)σゲッツ!
投稿時間がバイツァ・ダスト状態に…_| ̄|○ いい作品ですよ、がんがってください! 強いて言うなら「登場人物の感性が微妙に男っぽい?」ような気も (年頃にしちゃ筋道が立ちすぎてるというか…)
GJでした。 伊織の性別はオスでしたっけ?
161 :
クズリ :04/07/06 08:46 ID:nUoXiSLg
出かける前に覗いてみたので。感想ありがとうございます。
>>159 支援ありがとうございました。本当だ、バイツァ・ダストしてますねぇ。
感性は……ううん、難しいですね。やっぱり私が男だという縛りがありますから……
もっと勉強します。
>>160 明確に書かれてるところってありましたっけ?分校では伊織子ちゃんがデフォの
ようでしたが、♭01で伊織の心を八雲が聞こえたから、男の子なんじゃないかと
考えたのですが。もし私が見落としているようでしたら、申し訳ございませんでした。
>>131 黒サラしか思い浮かばなかったので。
>>132 何をしたかは書けたら書いてみたいです。
>>140 黒いです、でもイイって言ってもらえて嬉しいです。
>>157 クズリさん、GJ。
こちらも本気で見させてもらってます。
八雲幸せになってねっと。
>>157 GJ!
八雲の恋がどうなるのか、期待大です。
続き待ってますよ。
>>157 ああ、クズリ氏のSSは本当にGJですなあ。
クズリさんグッジョブ!! 相変わらずの神SS乙です。 このシリーズは八雲好きのバイブルですよ。
全体的にレベルが神クラスで投下しがたい
>>166 激しく同意。
更にストックSSが旗だけに、本編との絡みもあって投下しズラク・・・
質問なんですが、サラが天満呼ぶ時。 八雲のお姉さんと塚本先輩どっちがいいですかね?
確認してみましたが、伊織の性別は確定してませんでしたね、すみません。 天満以外は、全て異性でしたね。
>166-167 ゴーゴー! 時は有限なり。 投下するタイミングを逃すと後悔するだけだぞ。
八雲が播磨とお姉さんの関係(同棲してた事)を知って、もうひと波乱キボンヌ。
>28-31 >44 内心、晶は需要無いからどうなのか、などと不届き千万なことを考えていたので、反応があったのは嬉しい限り。 扱いにくさは相変わらず鬼門なんですが、どうにかもう少しいいところを見せられないものか、と考えることしきりです。 晶の明日はどっちだ。 さて、七月七日、七夕……ということで久方ぶりに素直に時事ネタ。 時間軸はぐっと戻って、播磨失踪直後辺りと思って下さい。 人間関係がまだまだ大人しかったあの頃、やけに遠い昔のような気もしますが、ともあれ。
――たとえば、願うとはどういうことか。 叶ってほしい、叶えたい。そうやって明確に像を結んだ想いは、本人が意識していなくとも心の片隅に 常に在り続ける。そんな些細な違い、それが時間の中で一挙手一投足に変化を生み、予定調和のレールの 上からその行く先を本人さえ知らぬ間に変えていく。 かくして、ありえなかった可能性は現実として成立する。結局のところ、願掛けとは自己暗示、即ち 願いを叶えるのは他でもない自分自身、ということになる。 だがしかし、である。 成程然り、論理的にはそれが分かりやすい説明であり、それを否定することは出来ない。 けれど、もっと単純で分かりやすい、そんな解釈も存在する。 即ち――
「七夕、ねぇ……」 何を今更、という顔で嘆息混じりの愛理。そしてその目の前で、そうそう、と言いながら、ぐっと拳を 握りしめているのは、例によって例の如く、天満である。 所は教室昼休み、昼食がてら雑談に花を咲かせているのは、愛理に天満、晶に美琴、お馴染みの面々。 普段なら一つの机を四人で囲む、という窮屈な所帯も、隣の席の誰かさんが絶賛失踪中のため、机二つで 面積二倍、とちょっぴり贅沢な仕様。 「そんなに騒ぐようなことじゃないと思うんだけど」 「えー、だって年に一回しかないんだよ?」 「塚本さん、普通はどんな行事も年に一回だよ」 どことなくピントがずれた会話に苦笑しつつ、私のとこはけっこう真面目にやるかな、と美琴。 「ま、道場なんてやってるからね。子供達の息抜きって部分も大きいけどさ」 「でもちゃんとやるんだよね。ほら、やっぱりそういうものなんだって!」 「……今の話をどうするとそうなるのかしら」 ちらりと視線を天満の後ろに向けてから、だいたい、と言葉を続ける愛理。 「そこまでして叶えたいことがあるの? 天満」 「うん! もちろんか……」 らすまくんと、そう言おうとしてふと我に返って動きを止める天満。
「……」 ぎぎぎ、と軋む音が聞こえそうな動きで背後を振り向く。当然と言えば当然ながら、そこにはいつもの ように何を考えているのか分からない表情で窓の外を眺める『烏丸くん』の姿。 「……」 ぎぎぎ、と再び首が回転し、元の位置に戻る。 「……か」 「か?」 「か、かかかか」 壊れたテープレーコーダーか何かのように一音を繰り返して、そして。 「……かれー?」 「なんでよっ!」 「なんでだよっ!」 「……よんじゅってん」 盛大に突っ込む二人と、冷静に採点を下す晶。 「あのね、どうしてそこでそうなるのよ」 先ほどまでの呆れ顔が、輪にかけて三倍増しの愛理に、だって、と天満が言い訳しようとしたとき。 「カレー好きなの? 塚本さん」 「――え?」 不意にかけられた声。今度はついさっきがまるで嘘のように、目にも留まらぬ速さで振り向く。 「か、かかか烏丸くん」 「カレー」 今度は壊れた人形のようにこくこくと頷く。そして、烏丸くんってカレー大好きなんだよね、そう 言いかけたところで、理性がそれにブレーキをかける。つまり、友人を放っておいていいのか、と。 「えっと……」 「……だからね、どうしてそこで遠慮するのよ」 「こっちのことは気にするなって」 「ガッツよ」 申し訳なさそうな天満のその表情に、三者三様の言葉。最後の一つは何かが違うという話もあるけれど。
「ごめんね、ありがとう」 ぺこり、と頭を下げると、ずずず、と椅子を引いて後ろの席に向かう天満。その会話は、端から見ていれば やはりどこか噛み合わないもの。それでも、当の天満は楽しくてしょうがない、という様子。 「まったく、仕方ないわね、あの子も」 一応声はひそめつつ――どのみち、今の天満に周りの声は聞こえない――どこか投げやりに呟く愛理に、 晶が一言。 「作戦通りだね」 「ん? 高野、それどういう意味だ?」 「つまりね、愛理はわざと……」 「そんなわけないでしょ。偶然よ、偶然」 素知らぬ風を装って否定してみせるが、美琴の方は、なるほどね、としたり顔。 「沢近、お前っていいやつだな」 「うるさいわね! 偶然だって言ってるでしょ!」 「愛理は恥ずかしがり屋さんだね」 「あ、晶、あなたね……」 「そうだよ、照れんなって」 ばんばん、とその背中を叩く美琴の手を振り払って立ち上がる愛理。 「ああもうっ!」 笑い声の響く教室。 七月七日、七夕当日。 今日も2-Cは平和である。
そして時間は流れて夜になる。 空には星が瞬きだし、天の川もうっすらとその姿を見せる。 織姫と彦星が見守る、そんな空の下―― ――塚本家。 「……っていうことがあってね」 「だから嬉しそうなんだね、姉さん」 いつにも増して上機嫌のその姿に、つられて微笑む八雲。分かりやすいと言えばこれ以上ないくらいに 分かりやすく、けれどそんな姉のことが、八雲は決して嫌いではない。むしろ、それも魅力の一つだと 思っている。 「何の話をしたの?」 「うんとね、カレー」 「……カレー?」 何かが間違っている、という気がする八雲。恐る恐る尋ねてみる。 「じゃあ、烏丸さんに好きっていうのは……」 「言えるわけないよそんなの! もう、八雲ってば!」 ぼん、と音でも立てるかのように真っ赤になって、さらに動転しているのか、八雲の背をばんばんと叩く。 「なんて言うのかな、上手く説明出来ないけど……あ、そうだ! きっとね、八雲も誰かを好きになれば分かるよ」 近づきたいけど近づけない。 言いたいけど言えない。 恋心はフクザツなんだよ、と拳を握って演説をぶつ天満。 「誰かを、好きになる……」 その言葉に、先日出会った不思議な少女のことを思い出す八雲。
『男の人がキライ? それとも好き?』 深く考えたこともなかったその問いかけに、彼女は自分でも思ってみなかった答を返していた。 『私もきっと誰かを好きになる』 あのときは確かにそう思った。けれど、今『恋』をしている姉を前にして、どうなんだろう、と再び考える。 いつか自分もあんな風に笑い、あんな風に誰かと居たいと思うのだろうか、と。 「……も、八雲ってば」 「え? あ……」 「どうしたの? なんだかぼーっとしてたけど」 「ううん、なんでもない」 「そう? ならいいけど……」 うーん、と小首を傾げていた天満だったが、『お姉ちゃんの勘』で深く追求するまでもない、と判断したのか、 それじゃ先にお風呂入ってくるね、と席を立つ。 「うん、ゆっくり入ってきていいよ」 「ありがと、八雲」 鼻歌交じりにバスルームに向かう天満。残された八雲は、ぽつりと呟く。 「……いつか、私も」 恋をする―― 一人きりの居間に、返事はない。
――道場。 「なー、先生は何書くんだ?」 「んー、そうだな。あらためて願いごとなんて言われても――」 困るんだけど、そう言おうとして。 『――――――――』 脳裏をよぎる光景。 懐かしい、けれど未だ色褪せるのことのない記憶。 何を今更、心の中の誰かが言う。 そう、彼はもうこの街には居らず、この先会えるかどうかさえも定かではない。 一人残された自分に出来ることと言えば―― 「ん? どうした周防」 「……何でもないよ。そうだ、お前は何書いたんだ?」 どこか見透かされた気がして話をそらした美琴に、決まっているだろう、と胸を張る春樹。 「もちろん僕は」 「いやいい、訊いた私がバカだった」 「……どういう意味だ、それは」 むっとした表情のその手には、確認するまでもなくでかでかと『八雲』の二文字。呆れてしまうほどに ストレートな表現。 「なんだかさ、時々羨ましくなるよ、ホント」 「お前、熱でもあるんじゃないのか……?」 言って、額に手を当ててその顔を覗き込む。随分久しぶりに間近で見るその顔に、美琴は思わず――
「んがっ!」 「……あ。悪ぃ」 綺麗に鳩尾に入る肘。 倒れる春樹。 がつん、という嫌な音。 「あー……」 「すげえ、先生が花井押し倒してるぜ!」 「おー!」 「あんたたちね……」 「うわ、逃げるぞおい!」 「わー!」 「こら、待ちなっ!」 こうなるともう、願いごとがどう、という場合ではない。蜘蛛の子を散らしたように逃げていく子供達を 追いかける美琴。後に残されたのは、目を回したまま倒れている春樹、そして。 『あいたい』 片隅に小さく、本当に小さくそう書かれた一枚の短冊。 ばたばたと駆け回る足音が響く道場の中、その短冊だけが静かにそこにある。
――沢近邸。 「お嬢様は七夕の願掛けなどは……」 「……いいわよ、そんなの」 どこか棘のある口調の愛理。それでも、続く『一人でやってもつまらない』という言葉を飲み込んだのは 称賛に値するかもしれない。 「――失礼しました」 一方、言われた中村は気にした風も見せず、一礼をして部屋を出て行く。この程度であたふたしているよう では、職業としてやってはいけず、ましてやここでは務まらない、ということだろう。 「……はあ」 一つ溜息。 そもそも、願いごとらしい願いごとのない彼女である。強いて挙げるなら、恋がしたい、というのがそれに 当たるものの。 「相手がいないじゃないの」 加えて、やはりそれは自分で見つけるもの、という思いがある。 「だいたいウチのクラスなんて……」 呟きながら思い浮かべる顔が、とある一人のところでぴたりと止まる。 「……」 それは先日の出来事。 降り出した雨。 差し出された傘。 『そこまでだったら送ってやるぜ』 何の打算も感じられなかったその行為。 『ほんのそこまでな』 そのとき、果たして自分は何を思ったのか――
「――ハ。冗談」 別にたいしたことないじゃない、と益体もない思考を即座にカット。 「……だいたい、あんなのただの不良じゃない。カレーが好きなだけの」 カレー。 自ら呟いたその言葉に、再び思考が止まる。 作るはずだったその料理。 約束。 感謝の気持ち。 急用。 雨。 涙。 傘。 カレー。 「そりゃちょっとは……」 今まで感じたことのないもやもやとした思いに、どこか落ち着かなくなる。別に彼――播磨拳児がどうこう、 ということではない。ただ何か、叶えたい願いが―― 「……」 そして、ハサミを手に取る愛理。ルーズリーフを小さく切り取り、ペンを片手にわずかに考え込んでから、 さらさらと文字を綴る。 「……うん」 『カレーが上手く作りたい』 天満とは違った意味で、どこかずれている彼女の記した願い。それでも彼女は頷く。その向こう側に何がある のかはともかくとして。 「中村、中村!」 「お呼びですか、お嬢様」 タイミングを計っていたようにすぐさま現れる執事。そしてその手には机の上に丁度飾れるような、小振りの笹。 「……準備がいいわね」 「恐れ入ります」
言葉にした想い、しなかった想い。 そんな風に過ぎていく七夕の夜。 そして、彼女達の願いはやがて叶うこととなる。 ただし、必ずしも望んだものではない形で。 周防美琴――思いがけず訪れる再会のとき。それが離別となることを、彼女はまだ知らない。 沢近愛理――いくつかのすれ違いと思い違い。そして変わりゆく心の行く先を、彼女はまだ知らない。 塚本八雲――特別な人、憧れにも似た想い。ささやかな秘密の共有が招く事態を、彼女はまだ知らない。 もしそれが自身にかけた暗示の結果であると言うならば、あまりに報われない。 ならば、考えられるのはもう一つの解釈。 即ち――『神様』。 ときに慈悲深く、ときに残酷に、それは人の願いを叶えてくれる。 気紛れなその力の向かう先は、人の身にうかがい知れるものではない。 故に。 そんなこととは関係なしに、それぞれがそれぞれの想いを抱いて、少女達は夜空を見上げる。 "Wish Upon A Star"――星に願いを。 ――そして、ゆっくりと物語は動き出す。 その行方は、まだ誰も知らない――
そんなこんなの七夕でした、と。 いまいち綺麗に終わりきれていないわけですが、現状の本編展開を見ていると、美琴はともかく沢近と八雲が…… 最終的には落ち着くべき所に落ち着いてくれる、とは思うのですが。 次は笹倉先生の誕生日かな、と思いつつ。
GJ!! とても綺麗なSS頂きました
GJ! 本当綺麗なSSだ、俺が今書いてる黒サラとは正反対だな。 出来ても投下出来ないかもしれん。
地の文の書き方がとても上手いです。特に185みたいな表現の仕方は個人的に とても好きですね。 ロマサガ2に例えると、水鳥剣のように滑らかなSS有難うございますた。
いまだに表紙になっていない晶はメインキャラでありながら脇役。
191 :
クズリ :04/07/07 11:07 ID:nUoXiSLg
読む前 : さて、今週はどんな展開があるんだろう。前回はあんな終わり方ですごく先が
気になったけれど。まあ今週は心の準備も出来てるし、どんな展開が来ても
驚かないぞ。
読んだ後:_| ̄|○
というわけで、今週の展開にショック受けまくりのクズリです。本当に、自分の想像を
越える展開の連続ですね。本誌の展開から言って、もはやこの連載はある意味、ゴミ箱
行き決定のようですが、それでも書き続けさせていただきます……フゥ。
それにしても仁丹はすごすぎですね。
この連載も嬉しいことに皆様に御好評を頂いており、感謝の言葉もございません。本当に
ありがとうございます。まだまだ未熟の身ですので、どうか色々と御指導のほど、よろしく
お願いいたします。
それでは投稿させていただきます。
前スレからの続きですが。
『Without Me』
>>191-197 同改訂版→SS保管庫@分校
『Crossing Border』
>>318-330 同改訂版→SS保管庫@分校
『She wants to move』
>>345-355 『Don't go away』
>>391-399 『Where I End and You Begin』
>>498-507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
『Rollin'』
>>539-549 『You Just Don't Know Me At All』
>>589-595 『End of Everything』
>>48-56 『On the Edge』
>>93-102 『If My Sister's In Trouble』
>>142-156 に続いて。
『Take A Look Around』
翌日も八雲は学校に出た。姉が無理をしないようにと止めたにも関わらずだ。 さすがに一日で噂が消えるわけがなく、相変わらず八雲には少年達の遠慮の無い心の声が視えた。 いやむしろ、徐々に強まる力に呼応して、ますますはっきりと視えるようになっている。 八雲とて、辛くないわけではなかった。向けられる声の刃は容赦なく乙女の心を嬲り、傷つけて いく。 それでも彼女は、屈することなく授業を受け続ける。漠然と、ここで逃げてはいけない、そう感 じていたから。 School Rumble ♭−λ Take A Look Around 「やあ、八雲君」 「……花井先輩」 放課後。旧校舎に向かう廊下、その角を曲がったすぐ先に彼は立っていた。眼鏡を外した彼は、 どこか遠い目で彼女を見つめてくる。常と違うその雰囲気に、八雲は居心地の悪さを感じて黙って しまう。 そして花井もまた、口を閉ざしたまま。そのまましばし、二人は向かいあう。 「どうしたんですか?先輩」 八雲の隣にいたサラも、彼の異変に気付いたのだろう。思い切って声をかけるが、 「すまない……サラ君……八雲君と二人にさせてもらえないか?」 静かな、しかし強い言葉に気圧されてしまう。 チラリ。向けられた友の視線に、八雲は小さく頷いて見せた。微かに不安げな色を顔に残しては いたが、サラは彼女に頷き返して歩き出す。 「八雲君、悪いな、貴重な時間を割いてもらって」 「いえ……」 その答えを聞いて、微かに目を伏せた後、花井は歩き出す。何も言われはしなかったが、八雲は 彼の後を追った。 旧校舎の裏を抜けて、どんどんと彼は歩く。遠くから運動部の掛け声が微かに聞こえてくるが、 辺りに人はいない。 そして彼が歩みを止めたのは、校庭の隅の花壇の前だった。腰をかがめて膝を地面について、彼 は咲き誇るコスモスの一つに手を添えた。 そのまま愛でるように、花を撫でる彼の背中を、八雲はただ黙って見つめていた。
「いつだったか」 時を置かず、花井は口を開く。風と虫の音に耳を奪われていた八雲だったが、その言葉に彼に目 を向ける。相変わらず彼は背中を見せていて、その表情を隠している。 「君に悪いことを言った。そのことを謝ろうと思って、な」 強い風が吹いた。渦を巻くそれに乗って落ちた葉が舞い上がる。 八雲はたなびく髪を手で抑えながら考える。彼がいったい何を言っているのかと。 花井は確かに、八雲と事あるごとに接触を図ろうとしてきた。そのために費やしてきた言葉は莫 大な量だろう。だがその中に、悪く言われたということはなかった、そう断言できる。 「体育祭の翌日のことだよ。君の前で、播磨を悪く言った」 『奴が色々と、迷惑をかけていたんじゃないかい?』 『まあこれで、播磨が八雲君にちょっかいを出してくることもないだろうし』 『良かったな、八雲君。もう無理にあいつと顔を合わせる必要はないんだ』 「あ……」 忘れかけていた言葉の数々が記憶の海から浮かび上がる。 あれはきっかけだった。彼の言葉に感じた反発、そこから自分の中に眠っていた想いに気付かさ れた。 「本当にすまなかった。君の気持ちも考えないで」 その声には普段の意気が感じられず、丸めた背中はとても小さく見えた。 「……いえ……」 しばし迷った後、八雲はそれだけを口にする。 また一陣の風が吹いた。コスモスの花が揺れて、花びらが一枚、飛んだ。 「あの画像を見たよ」 「…………!!」 しばしの沈黙の後に彼が口にした言葉に、八雲は身を強張らせる。彼はしかし、振り向くことな く続ける。 「僕は、馬鹿だ。八雲君をいつも見ていたのに、君の気持ちに気付けなかった」 花井は顔を上げて、空を見上げる。そして、もう一度。 「僕は、馬鹿だ」 何も言えない八雲がつられて見上げた空には、鰯雲が群れをつくっていた。
「君が奴の……播磨のことを好きだったとはね。正直、予想外だったよ」 立ち上がった彼は膝の土を手で払う。 「いや、予想していたことでもあったか。体育祭が始まる前までは確かに、君が播磨の事を好きだ と思っていたんだからな」 そして花井はまた空を見上げる。鰯達は風に流されて、遠くへと去っていく。 「あ、あの……」 彼の背中に、八雲は声をかけた。言わなければいけないことがある、そう思ったから。 「私は……播磨さんのことを……好きじゃありませんから」 再び沈黙が落ちる。二人の間を満たすのはただ、風の通る音と、微かに鳴く虫の鳴き声だけ。 「……冗談だろう?」 身じろぎ一つしなかった花井が振り向いた時、八雲は思わず、後ずさりをしてしまった。 彼の顔に浮かんでいた表情に、恐怖を感じたから。 それは花井が、八雲の前で初めて見せる怒りだった。いや、もっと正確に言うならば、それは憤 怒だった。 眉を吊り上げ、瞳には鋭い光が爛々と燃え盛り、唇を引き締め……例えるならば、吽の仁王。 「……冗談じゃ……ありません」 か細い声で、しかし八雲は反論する。 認めるわけにはいかなかった。誓ったのだから。この想いは終わったのだと。 「ならば……もしここで僕が君に告白すれば、君は受けてくれるのかね?」 「……!!」 唐突な言葉に、八雲は目を大きく見開いた。 それもいいかもしれない。心のどこかで、そう呟く声がした。 彼もまた一途な人だ。裏表がない、というのは彼のためにある言葉だろう。彼に想われるのは幸 せなことではないのか…… だけど、彼は彼じゃない。 別の声が響いた。心の中に走り来て、走り去る影があった。サングラスをかけ、動物達と言葉を 交わすその人の姿と、目の前の男とを入れ替えることは出来なかった。 出来なかったのだ。
「八雲君」 気が付くと、彼の顔からは鬼気が抜けていた。憑き物が落ちたかのように、花井は穏やかな表情 を八雲に見せる。 「すまない。少し自制出来ていなかったようだ。君が播磨を好きでないのと、僕を好きかどうかと いうのは全く別物なのに、な……忘れてくれ」 言って莞爾と笑う彼は、いつもの花井春樹だった。胸を張り、自信に満ち溢れている。 だが何かが違った。それに思い至る前に、彼が話しかけてくる。 「僕は先に失礼させてもらう。八雲君」 差し出された彼の手を、八雲はきょとんとして見つめた。やがて、握手を求められているのだと 気付いた。 おずおずと差し出した手を、彼は優しく握り締めてきた。 「ありがとう」 ありがとう 声と声が重なった。そして初めて、八雲は気が付いた。今日は、今にいたるまで一度も、彼の心 を視る事が出来なかった。 その意味を理解するよりも前に、花井は手を離す。一瞬、名残惜しそうな顔をしたが、すぐに彼 は笑顔を見せる。その顔はとても輝いていると、八雲は感じた。 「それじゃ……」 言って背を向ける彼の後姿を、彼女はじっと見つめていた。 その視線に気付いたわけではないだろうが、ふと立ち止まって、彼は振り向いて言った。 「八雲君。あの画像の中の君の顔は、とても素敵だったよ」 「…………」 「その想いを大事にしたまえ。これが僕が君に贈る、最後の言葉だ」 ありがとう そして さよなら 彼の心に涙は無かった。 それを最後に、八雲には花井の心が視えなくなった。
花井が立ち去った後の花壇で、八雲は一人たたずむ。 彼が愛でていたコスモスの花に、同じように手を触れてみる。風に吹かれてお辞儀をするかのよ うに揺れる花々を、八雲はじっと見つめる。そして目を閉じて、自分の心の中を覗く。 自分と花井が、同じ立場であったことに気が付く。 花井が自分に向けてくれていた想いを、八雲はやっと理解することが出来た。それは彼女自身が、 播磨を想うようになったからだろう。 想うことを知れば、想われることが少しだけ、わかったような気がしたから。 八雲が播磨を想いながら、播磨に好きな人がいるのを知って諦めようとしたように、花井もまた、 彼女に想い人がいることを知って身を引いた。 違うのは、八雲が未だ惑うのに対し、花井はすでに己の心に決着をつけていたことだろう。 もう一度、彼女は思い出す。 そう、あの時、手を繋ぐその時まで彼の心は見えなかった。それはつまり、彼が激昂し、そして 告白をしようかと言った時には、八雲を想っていなかったこと。 八雲はつい先ほどまで彼が座っていた場所に立って、空を見上げる。 同じ色のはずなのに、何故か今は青よりも蒼だと、八雲は感じた。 しばらくの間、そうしていてから、八雲は立ち上がる。スカートの裾を払い、八雲は来た道を戻 り始める。 その彼女の頭の中をしめていたのは、一つの思いだった。 『その想いを大事にしたまえ』 花井の言葉がぐるぐると頭の中で回り続ける。 誰もが、八雲の想いを認めようとする。間違いじゃないと言ってくる。サラも、姉ヶ崎も、天満 も、そして花井でさえも。 誰よりも忘れたい、そして想いを捨て去りたいと願っているのは自分。なのに、その周りはそれ を押し止めようとする。 その妙な矛盾に、八雲は頭を振る。ではどうして欲しいというのだろう、私は。 そして皆は、私にどうして欲しいと願っているのだろう。 八雲は声に出さずに、宙に問いかける。 もちろん、答えはどこからも帰ってこなかった。
旧校舎の中にある茶道部の部室、その扉の前に立った八雲は、中に二つの気配を感じた。 ゆっくりと扉を開けると、重苦しい空気が溢れ出てくる。そして彼女に向けられる、四つの瞳。 テーブルを挟んで向かい合うのは、二人の金髪の少女。 輝くそれを片方は編みこみ、片方は二つにまとめて左右に垂らしている。 「あ、八雲」 立ち上がって彼女を迎えるのは、先ほど別れたばかりのサラ。そして、もう一人は。 「こんにちは。ちょっとお邪魔してるわよ」 沢近愛理だった。 「座ったら?そんなとこに突っ立ってないで」 茶道部員でもないのに、妙に強気な愛理に促され、八雲は慌てて椅子に座る。ほとんど同時に、 サラが紅茶をカップに注いで、八雲の前に置いた。 漂う香りはダージリンか。口を付ける前に、匂いを楽しもうとするが、 「あの……」 じっとこちらを見つめてくる愛理の視線が気になって、八雲はおずおずと声をかける。が、 「ああ、気にしないで。いつものようにしててよ」 取り合わず愛理は足を組んだまま、見るのを止めようとしない。その顔には笑顔の欠片もない。 綺麗な顔だけに余計に、その迫力はすさまじかった。 仕方なく八雲は言われるがままにするが、サラがせっかく入れてくれたものだというのに、味は ちっともわからなかった。 そして重い沈黙が、肩に落ちてくる。八雲は落ち着かないように視線を彷徨わせ、サラはいつも の笑顔を見せているが、どこかぎこちない。 ただ一人、愛理だけが何も感じないかのように、じっと八雲の顔を見つめていた。 コンコン。ノックと同時に扉が開き、顔を出したのは、 「失礼。高野君はいるかね?」 「先生!!」 茶道部顧問の刑部絃子だった。流れ込む新鮮な空気に、ほっと息を漏らすサラと八雲だったが、 次に愛理と絃子の間で交わされた会話に顔を見合わせる。 「先生、昨日はお邪魔しました」 「ん?沢近君か。いや、こちらこそ。家の馬鹿従兄弟が世話になった」 そう言って絃子は、軽く頭を下げた。
二学期が始まってすぐの、動物達を巻き込んだ騒動の中で、八雲とサラは刑部絃子と播磨拳児が 従兄弟同士であることを知った。そして、二人が同居していることも。 詳しいことは、家庭の事情という言葉で曖昧に誤魔化されてしまったが。 ただその際、誰にも言わないでいてくれ、と厳重に釘を刺された。それがどうしてのなのかも詳 しくは教えてもらえなかったが、二人と、そしてここにはいない高野晶は、しっかりと約束した。 なのに、今、愛理は絃子と播磨が同居していることを知っている。あまつさえ、二人の家に訪れ たかのような口調だ。 不思議そうな顔をしているサラと八雲に気付いたのか、絃子が頭をかきながら説明を始める。 彼女の語るところによると、こういうことだった。 一昨日の夜、大雨の中、傘もささず帰ってきた播磨は、まるで魂が抜けたかのように虚ろになっ ていて、シャワーを浴びもせずただ体だけを拭いて寝てしまった。その結果、風邪をひいてしまっ たのだという。 そして、そのことを知った彼女……愛理が播磨の見舞いに来たのだ。 「にしても、先生が出てきた時はびっくりしました」 「まあ、説明していなければ当然だろうがね」 その夜、どうしても外せない用事が入っていた絃子は結局、訪れた愛理に彼の看病を任せて家を 出た。 「帰るのが遅くなってしまって、すまなかったな」 「いえ、別に。当然のことですから」 先ほどまでの重苦しい顔はどこへやら、笑顔で言う愛理に、絃子はふむ、と頷いて見せる。その 彼女の瞳が一瞬、こちらへ向いた気がして八雲は見返すが、すでに絃子は席を立ち上がっていた。 「いないならしょうがないな。高野君が来たら、私が探していたと伝えてくれ」 「はい。わかりました」 じゃあ頼んだよ。そう言って絃子が部屋を出た瞬間、愛理の笑顔は消える。そしてまたじっと、 八雲の顔を見つめてきた。 「ええと……」 「ちょっと、話があるんだけど……いいかしら?」 あまりのぎこちなさに耐えられなくなった八雲が口を開くのと同時に、愛理もまた口を開いた。 二人を交互に見つめていたサラは、空気が乾いて悲鳴を上げるのが聞こえたような気がした。 ――――そして交錯する、二つの想い――――
199 :
クズリ :04/07/07 11:18 ID:nUoXiSLg
そろそろ、題名のネタが尽きてきました。どうしよう。 というわけで、やっとここまで来ました。十一話もかかるとは予想外でしたが。 逆に言えば、ここまで来ることが出来たのは、皆様からの御声援があったから だと思っています。改めて、感想や御意見を下さった皆様に、お礼申し上げます。 それでは、皆様、相変わらずの拙い作品ですが、どうかよろしくお願いいたします。
乙〜。 いよいよバトルですな。 本編の方も予測できない展開になってますが(w こちらも楽しみに続きを待っております。
クズリさん、GJです。 とうとう物語りも別の意味で動き出したって感じですね。 いや〜続きが楽しみだ。
昼休みに覗いてみたらクズリさん! GJです!続き楽しみにしてます。
クズリさん、GJです! すごいいい所で切れてて、生殺し気分です。 続きが楽しみです。
こっちの沢近は本編と違って引きそうにないな・・・・・ワクワクっす。
205 :
ナナシ :04/07/07 14:39 ID:jfSz8dy6
クズリさんのSS全部みたいんですけど、どこにありますか?
聞く前にググる 常識だぞ
208 :
ナナシ :04/07/07 15:46 ID:jfSz8dy6
SS保管庫では全部見れませんか?
更新されてなきゃ見れないよ。見りゃわかるだろう。 あとsageようね。
おっと、肝心な所忘れた。 グズリさんGJです!! 本編に負けないくらいの神展開ですよ。今回は花井がいい味だしてましたね。次回も期待してます。
さて、いいでしょうか? 投下します。
212 :
パフェ :04/07/07 16:09 ID:6gWpwnUI
「……な方がいいんじゃないでしょうか?」 「おう、そうゆう見方もあるな。 なるほどな」 もう、どれくらいになるだろう。 バイト先で、播磨さんの原稿を見せて貰う。 そして、感想や意見を述べて、播磨さんが手直しする。 最初は、怖かったりもした。 でも、マンガに対して真剣に播磨さんは、意見を求めてきた。 自分の意見を聞いてくれる。 それが、原稿となって、目の前にある。 些細なことかもしれないが、嬉しかった。 少し前から、女の子が加わった。 私が、相談相手が必要なのではと言ったから。 播磨さんは、次の週に見せてくれた時、相談相手を登場させた。 どことなく、自分に似ている気がする。 「あの…この女のコ…」 ああ、そのコなんだけどなと播磨さんは前置して言った。 「妹さんの意見で登場させたから、妹さんに似せてみたんだ。 まずかった…かな?」 播磨さんは、すまねえと頭を下げて聞いてきた。 「い、いえ そんなこと…ないです」 自分がマンガの登場人物のモデルになっている。 なにか、不思議な気分だった。
213 :
パフェ :04/07/07 16:11 ID:6gWpwnUI
「で、このコの名前なんだけどよ」 「あ、はい」 「さすがに八雲ってのは、マズイだろ? 何かねえかな?」 名前まで登場するのは、恥ずかしかった。 播磨さんのそんな気遣いが、嬉しかった。 私は、ふっと思いついた名前を告げた。 「あの…伊織って…だめでしょうか?」 「伊織? ああ、あの猫の! うん、いいんじゃねえかな。 よし、伊織にしよう!」 (ごめんね、伊織…身代わりにしちゃって…) 私は心の中で謝った。
214 :
パフェ :04/07/07 16:12 ID:6gWpwnUI
「よし。 じゃあここら辺で、お開きにするか。 いつも悪いな、妹さん」 「いえ、そんなことないです」 「いつも見て貰ってる礼だ。 なんか奢らせてくれるか?」 「え、そんな…」 「いいって、いいって。 なにがいい?」 「……それじゃ、チョコパフェを…」 「よし。 マスター、チョコパフェ2コな!」 「はいよ、チョコパフェ、ツー」 すっかりマスターとも馴染みになってしまった播磨さん。 最近では、新メニューの試食までしているみたい… もっとも、播磨さんはタダで飲み食いできるからいいって言ってるけど… 「あの、播磨さんも食べるんですか?」 「ん? ああ、疲れた時には甘いモンが食いたくなるんだ。 変かな?」 「い、いえ そんな事ないです…」 そんな会話をしていると、パフェが運ばれてきた。 「はい、チョコパフェお待ちどう。 で、播磨君。 新しいパフェの試食、頼むね」 そう言って、見慣れないパフェを播磨さんに差し出した。 チョコとクリームが、細かい層になっている。 (見た目は綺麗だけど、あれじゃ…) 私がそう思うと、播磨さんが言った。 「これ、綺麗なんだけど、チョコとクリームって交互にやっていくの、大変じゃないんすか?」 そう。 私もそう思った。 マスターが、がっくりした様子で言った。。 「やっぱり、そう思う? 見た目で勝負すると、作るのが大変なんだよね」 なんかいい方法、ないかなあと言うマスターに、播磨さんが言った。 「まてよ? マスター、ちっと材料と道具、貸してもらいます」 カウンターに行き、奥で何やらしているみたい。
215 :
パフェ :04/07/07 16:12 ID:6gWpwnUI
やがて、パフェのグラスを持って、戻ってきた。 それは、チョコとクリームが、螺旋を描くように上昇していく…まるで竜巻のような…そんな模様だった。 「どうよ? チョコとクリームの袋、両手で持って、同時にグルグルってやってみたんだけどよ?」 しげしげと眺めていたマスターが言った。 「うん、いいね。 こっちの方が、手間がかからないんじゃないかな? 播磨君、このアイデア、いただくよ!」 播磨さんは、照れて頭をかいている。 私も、なんだか嬉しくなった。 「じゃ、これの名前を決めようか。 播磨パフェ? 拳児パフェ? うーん…」 悩むマスターに、播磨さんが慌てる。 「いや、俺の名前はいいっすから… 妹さん、なんかねえかな?」 「え?」 播磨さんの慌てる様子が、なんだかカワイイ、そう思っていた所に、いきなり振られて戸惑った。 「そ、そうですね… あの、【ハリケーンパフェ】ってどうでしょうか?」 「うん、いいね。 ハリケーンパフェ! 播磨君、どう?」 「ハリケーンって響きがいいっすね。 これにしましょう、マスター!」 2人とも、気に入ってくれたみたい…よかった… こうして、ハリケーンパフェが誕生した。 その由来は、私達だけのヒミツ… おわり
216 :
パフェ :04/07/07 16:16 ID:6gWpwnUI
今週号を見て、ハリケーンと名が付くからには、こんな事があっただろうとSSしてみました。 パフェの作り方は、知りません。 申し訳ない。 こんな感じじゃないかなと。
ほほう なんか妙に納得できるな
>>クズリ氏 本編とのズレは確かにSS書きの悩みの種ですな 漏れも先週播磨が茶道部から消えたのは花井を捜しに来た美琴に連れて行かれたかなんかで 沢近と八雲のキャットファイトが最高潮に達したところで播磨と美琴が二人連れで戻ってくる、という 更なる泥沼展開のSS書いてたんだけど水曜0時に間に合わなくて結局お蔵入りになっちゃったし
こういう原作補完のやり方大好き。伊織を身代わりにするとはやるな八雲。 パフェも確かにこの方法で作れば荒々しい螺旋になりますね。
>>218 さん そのお蔵入りになったという作品読んでみたいです。
IFスレですしその辺は気にしなくてもいいと思います。まあ、原作
の世界観そのものを破壊するのはいただけないけど・・・
烏丸分は足りてますか? 今書いてます。
最近、綺麗なSS多いなぁ。
>>129 の完全版、いや完成版を書き上げたのだが。
需要がなさそうだからな、黒サラは。
それに黒くなちゃったし_| ̄|○
もし投下してもいいって言ってくれる方がいたら、明日また見直して投下します。
そんな人がいてくれるか、どうか分からないけど。
二次創作SSって、基本的に他人の妄想読んで楽しむもんだから 投下して良い悪いってのにそれほど拘る必要はないよ いろいろ書いてどんどんこのスレに爆撃していこう
ホントにいいんだな? そんなこと言ったら俺も書いちゃうぞ?
>>223 ありがとうです。
>>224 そうですか、どんどん爆撃しちゃいますよ。
今日中には、見直して投下します。
レスくれてありがとうです。
>>225 どんどん書いていいんじゃないかな
人それぞれによって味がでるわけだし。
そりゃ、もちろん多少の上手い下手はあるだろうけど、書いてる内に
上手くなるはずだし。
というわけで気にせず投下投下!
投下するとかしないとかじゃなくて、本誌連載がすごい展開ですからねぇ…… 既に神のようなSS作家さんがいらっしゃるし。 このまま脳内妄想にしておくべきか……とか思ってしまうSS書きが何人もいそうですなぁ 投下してくれる作品は、すごく楽しみなんですが(笑
今から投下します。 全15レス。
某月某日、晴れ。 最近流行りの恋愛映画のチケットを偶然手に入れた。 こいつで我が心の女神、天満ちゃんをデートに誘いたいと思う。 オレは激しくドモりながらもなんとか天満ちゃんにチケットを渡し、 次の日曜日に約束を取りつけた。よくやった、オレ。 天満ちゃんの有難くない心遣いにより、デートの相手はお嬢になった。 お前となんざ観たくねーんだよこのくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」 某月某日、晴れ時々曇り。 今日は話題の新作「冬の其方(そなた)」の公開初日。 天満ちゃんが時代劇ファンとは盲点だったぜ。 これで愛しの天満ちゃんのハートをガッチリキャッチ! あ〜、今から笑いが止まらねえや。 急に都合が悪くなったらしく代役で妹さんが来た。 ワザとやってんのか? 嫌がらせか? 某月某日、曇りのち雨。 特に用事はない。つーかそろそろ無理。 雨降ってるし、傘持って来なかったし。 「カレー王マハラジャ」とかいうワケわからん映画やってるけど 天満ちゃん興味なさそうだし(オレは観たい)。 様々な手段でアピールするも、一向に二人の距離は縮まらない。 灰色の空からは容赦なく大粒の雨が降り注ぎ、オレの心まで冷やしていく。疲れた。 俯いて、アスファルトに出来た水たまりをジッと見つめていると突然雨粒が遮られた。 驚いた顔を上げると、そこには、おとぎ話で見る河童が居た──。
オレ達はソコイチでカレーを食っている。 オレと河童。いや、烏丸だが。 前から妙なヤツだとは思ってたが、このカッコを見るとさすがに閉口する。 つか、ツッコむ気力すら失せる。 横の変人は気にしない事に決め、腹も膨れたところで、オレは次なる天満ちゃん攻略の手を考え始めた。 反論はするな。いつまでも落ち込んでられるかっつーの。 隣でおかわりを注文している元河童を見る。 そういやコイツ、あろう事かオレの(ではありません)天満ちゃんと親しげにしてやがったな。 てことは、あまり想像したくねえがオレの知らない天満ちゃんのアレやコレやソレを知ってる可能性もあるワケだ。 うーむ。敵に聞くのも癪だが、この際背に腹は変えられない。 「テメエに聞きたいことがある。てん……塚本って、カレー好きか?」 こくん。 頷く烏丸。って、そんなこと聞きてえんじゃねえって! 「じゃあ、誕生日は?」 ふるふる。 知らないらしい。 「趣味は?」 「プロレス観戦」 「得意料理は?」 「……カレー」 「……!*@?」 「……♯♭」 中略。
話は進む。 「テメエよお……まさかとは思うが、塚本とつきあったりしてねえだろうな?」 「つきあっては、いない」 内心ドキドキもので、けど凄みを効かせて放った一言はあっさり否定された。 「マジ!?」 こくり。 ひゃっほーっ! なーんだ、心配して損したぜ。 そりゃそうだ、天満ちゃんがこんなモヤシを好きになるハズがねえ。 「いやーそうかそうか。ま、オメエもそのうち良い事あるって。あ、チーズ追加する?」 安心したら急にコイツがいいヤツに見えてきたぜ。うん、きっといいヤツなんだろう。 「……僕は、もうすぐ転校するから」 「ん? あーそんなこと言ってたな。よしっ、ここはオレの奢りにしといてやる。食って元気出せよ。な?」 こくり。 打ち解けてしまえば話題も増えるってもんで。オレが一方的に喋ってるように見えっけど。 「オマエ、あんま口きかねえのな」 それは常々思ってることだった。今までは全然気に留めてなかったんだが。 オレも友達多いとはお世辞にも言えないが、コイツのは輪をかけてヒドい。気がする。 「…………」 だんまりかよ。しゃあねえか。オレだって言われたくはねえもんな。 それから二、三取り留めもない話をして、雨が止んだのを確認して烏丸と別れた。
テレビを観ていた。 やっぱ万石は最高だ。あれこそオトコのカガミってヤツだよ。 『いいのかい? 見送らなくてよ』 『会えば、お互い別れがつらくなるだけさ…いいんだ、あの娘にゃ笑って迎えてくれる家族が居る』 くぅ〜、泣かせるねぇ。娘さんの幸せのため黙って身を引く万石。 「……僕は、もうすぐ転校するから」 突如、そんな言葉が浮かんできた。 なんでもないように、あのとき聞き流した烏丸の。 もしかして、あのヤロウ……
次の日の放課後、オレは烏丸を呼び出していた。 もともと他人に干渉なんざしたくねえし、されたくもない方だが…… 気づいちまったら知らん顔も出来ねえ。 話を長引かせるつもりもなかったので、オレはいきなり切り出した。 「ビビってんのか、テメエ」 「……」 沈黙。 ってなんでケンカ腰なんだよオレは。そうじゃねえだろ。 見た感じ優等生の烏丸を、放課後人気のない場所に呼び出してるオレ(不良)…… 第三者が見たらカンペキ誤解モードだ。 とりあえずギャグはやめとこう。そういう話じゃねえし。 「と、そうじゃなくてな。臆病になってんじゃねえのか、ってよ」 オレが言いたいことはそんなに多くなかった。 烏丸は二年いっぱいで転校する。アメリカへ行くとかなんとか。 ここでどんなに周りとの関係を作っても、そのほとんどはリセットされてしまう。 当たり前だが仲が良ければ良いダチほど、別れるのはつらくなるだろう。 なら、初めから希薄な人間関係でいればいい。そうやって、今まで極力透明人間を装ってきた。 以上、オレの推測。そしてそれは的中していた。 烏丸曰く、本来進級してすぐに留学する予定だったが、急遽今年度いっぱいまでこっちに残ることになって、 何故残ったのかという気持ちと、それでも残りたかったという気持ちの二つがない交ぜになり、 自分でもどうしていいやらわからない、らしい。 「そりゃ、迷ってるからだろ。オメエにとって、この街や学校やダチってのは、 そんなに簡単に切り捨てられちまうもんじゃなかったってことだ」 不器用なヤツだ。なんてことはない、オレと同じなんだ。 ……だから、こういうのも悪くはない。 「なんなら残りンカ月、オレとダチになってみねえか?」 そう言ってそっぽを向いたオレはたぶん、顔が赤かったろう。
「あれ? 烏丸君と播磨君てお友達だったのー?」 ある放課後、天満ちゃんが意外そうに声をかけてきた。 一瞬ドキッとするも、まあな、と軽く流す。 ちなみにこれから二人で何をするかというと、ただカレーを食いに行くだけだったり。 「そうなの? じゃあさ、あの、これから私がつくるから、味見……してくれないかな?」 「(マジですかっ!)オ、オウ、イイゼ」 なんと勢いに乗って天満ちゃん家までごあんなーい。 初めて食べた天満ちゃんのカレーは愛情コミ、200%増(当社比)で文句なしにウマかった。 天満ちゃんはしきりに、今日はハリキッちゃったよーとか、一日置くとおいしくなるから 良かったらまた明日食べてねーとか、すんげぇ可愛い仕草つきで話しかけてくれた。 コラ烏丸、オマエもウマいとか言えよ。せっかく天満ちゃんが気合い入れてこさえたんだぞ。 「てん……塚本はカレー好きか?」 「うん、好きだよ。自分じゃたくさんは食べないんだけどねー、あはは。ほら、私って辛いのニガテだし」 「……それなら、食前にミルクを飲めばいいよ」 ずっと黙ってた烏丸が沈黙を破った。烏丸は尚も続ける。 「ミルクタンパクが舌に付着して、辛みを抑えてくれるんだ。基本的に乳製品ならなんでもいい。 他にはヨーグルトを食べたり、焼いたチーズやココナッツミルクをルゥに混ぜたりするとかね。 あと、途中で水を飲むとタンパク質がはがれる上に舌(味覚)が敏感になるから、 僕個人としてはあんまりオススメ出来ないかな。その状態で辛いものを食べると舌がヒリヒリするよ」 「………………おい」 「烏丸君物知り……」 この、カレー馬鹿。いきなり壊れたラジオみてーに喋りだすな。ま、結果としちゃあ上出来なんだけどよ。 その後もカレー談義に話が弾み、天満ちゃんと親睦を深める事に成功! オマケにまた食べてちょーだい♥ってお誘いまでもらっちゃってよーうひょひょひょひょひょひょ。 こっから先オレの人生バラ色の予感だぜ。
「オレらで?」 二年でいられるのも何カ月とない。残り少ない時間を思い出作りに使うってのは我ながら冴えてると思う。 で、アイディアを募集したワケだが、何故だか自分達でカレーを作る羽目に。 オレはそうなった経緯に首を捻りながらも、カレーが絡むと時折饒舌になる烏丸と、 こんな事でも素直に喜んでる天満ちゃんを見て苦笑しつつも承諾した。 放課後、材料を買いにスーパーへ。今日は妹さんも居て4人。 「なんか、斬新なのが作りたいよねー。今まで誰も味わった事がないようなスゴイの」 「姉さん……それはなに?」 「ほへ?」 天満ちゃんの手にあるのは芋がら、人参、椎茸……キミはおこわでも作る気かい? そんなこんなで買い物を無事(?)済ませ、オレ達はカレー作りに取りかかった。 二班に別れて分担作業。天満ちゃんと烏丸。妹さんとオレ。なんでだよ。 烏丸や妹さんが選んだスパイスを指示通り調合し、その間に別グループが材料を切る。 「その里芋はホントに使うのか?」 「えーっ、使わないの? せっかく買ってきたのに」 「イエ、イインデスヨ、デモ、デキレバヤメテイタダケルトウレ…」 「きっとコクのあるおいしいカレーが出来るよー。楽しみだね♪」←きいちゃいない 大層ぬめりのあるカレーが出来そうだ。 そんなオレの不安はさておき、出来上がったブツ、見た目は案外マトモだった。 塚本家特製和風カレー、仕上げに醤油を少量かけて召し上がれ。箸休めには茄子の浅漬けを。 両手を合わせる。いただきます。お、こりゃイケるんでねーの。意外とあっさりしてて食いやすい。 「ウマいぜ、これ」 「里芋を煮すぎないのがポイント、だと…思います」 「ちょっとだけ不安だったけど美味しく出来て良かったよ〜。……烏丸君は、どう?」 「…出来も、良かった。けど」 一拍置いて。口元には、僅かに笑みを浮かべて。 「みんなで作ったのが、最高のスパイスだと思う」 烏丸の一言に、その場に居た全員の思いが集約されていた。
年が明けて三学期。 思えば去年はいろいろあった。中でも天満ちゃんと仲良くなれたのは最大の収穫だな。 おかげで学校に来るのも苦にならねえ。オレの中じゃ、天満ちゃんとの数々の思い出は現時点の人生でベスト1に輝いてる。 おそらく天満ちゃんもオレの魅力にメロメロだろう。こりゃもう、思いきって告白するしかねえよな! そうと決まれば早速準備にとりかかるぜ。自室に戻り、机の引き出しから漫画道具一式を取り出す。 オレのこの熱く燃え滾る想いで、真っ白な原稿用紙を埋め尽くしてやる。フフ、待ってろよ天満ちゃん、もとい…天満。 題材は、アクション(バトル)+ラブストーリー。完成した作品を何度も読み返す。その度に自信は確信に変わっていく。 こいつは最高傑作だ、と。一生かかったって、これだけの物はもう描けないかも知れねえ。 漫画──ケンカと並ぶ数少ないオレの特技。オレにゃ金も学もねえが、この右腕がある。 天満ちゃんへの告白は、コレでキメる。あとは呼び出すだけ。それで全てが終わる。いや、始まるんだ。 「私、烏丸君が漫画得意だなんて知らなかったよー! どんな漫画なのかな? 楽しみだなあ」 なんで先客が居やがりますかコラァ。オレに怨みでもあんのか二条ォォォォォッッ!! まさか烏丸、オマエも天満ちゃんが好きなのか? オレと同じ方法で告る気なのかっ!? そうはいかねえぞ。一人で抜け駆けさせるかってんだバカヤロウ。 「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁっ!!」 「あ、播磨君だ。おはよーっ」 ヤアオハヨウ塚本今日モイイ天気ダネ、と一応挨拶を済ませて宿敵(からすま、と読む)に向き直る。 「烏丸……オレと漫画で勝負しろ。原稿はここにある。 審査員は塚本、頼む。どっちがより面白いか、ここで白黒つけてやるぜ!」 こくり。
「正直な話、オマエとは良いダチになれると思ってたんだが……どうやら相容れない者同士だったみてえだな」 「………」 「え? え? どうしてそんなハナシになってるの?」 「止めるな。コイツはオレと烏丸の問題だ。オレ達が闘う事は、最初から決まってたんだ。 遅かれ早かれ、ケリを付けなきゃならねえんだよ。だから、今は何も言わねえでくれ……頼む!」 ここだけは例え相手が天満ちゃんでも絶対に譲れない。男の意地なんだ。解ってくれ、とは言えないが。 「うん……よくわかんないけど、漫画を審査すればいいんだよね? わかった。私、やってみるよ。 …そっかー、播磨君も漫画描くんだー。楽しみが倍に増えちゃったよ〜」
賽は振られた。勝利は女神の手中にあり。 先手、オレ。ハードボイルドに迫る男の魅力を存分に味わえる一作だ。 時代劇好きの天満ちゃんの事だ、優しさを内に秘めたシブい男が好みのハズ。 原稿を手に取った天満ちゃん、始めはへぇ〜絵上手なんだね、などとのんびり構えてたが 次第にストーリーに引き込まれ、今ではもう緊張が走る面持ちに変化していた。 天満ちゃんの持つ原稿、紙の束を見る限りはそろそろクライマックスだろう。 無意識にむむむむ〜と唸る天満ちゃん、額にはじっとりと汗が滲んでいる。 …… 読み終えた。感想は如何に? 「スッゴク、ドキドキしたよ。最後の最後まで主人公がどうなるのかわかんなくって、 でも主人公だからきっと助かるんだって思ってるのに、ドキドキが止まらないの」 よっしゃ、好感触だ。先を読ませない展開も狙い通り。アクションに関しては満点を貰ったも同然だな。 あとはラブストーリーで、オトす。完璧だ! 時々、自分の才能が怖くなる。 「でも…このヒロインの気持ちはよくわかんないや。どうしてこの人は主人公を好きになったのかな。 主人公の男の人はヒロインの気持ちを理解してあげてるようにも見えないし」 ──別の意味で、オチた。
後手、烏丸。心情的にはショックで寝込みたいところだが、まだ負けが決まったワケじゃねえ。 オレはナケナシの気力を振り絞りその場に留まった。頑張れオレ。フレーフレーハリマ。 今度は原稿を受け取る前から真剣な表情だった天満ちゃんだが、読み始めてそう経たず、一転して楽しげな顔になる。 一体烏丸はどんな漫画を描いたのか。知りたいのはやまやまだが、烏丸の方も条件は同じだ。 手がかりは、天満ちゃんの表情のみ。……ほわ〜、くすくす、じーっ、うるうる。 うっ、可愛いじゃねえかコンチクショウ。じゃなくて漫画! クソ、余計内容が気になるぜ。 …… ってもう終わりかよ! オレの時より大分早くねえか? 「最初のページからいきなり笑っちゃったよ。まさかこう来るなんて思ってなかった。 あれは完全に不意打ちだったね。こういうの、ズルイよ。あとはもう一気に読んじゃった」 にこやかに微笑む天満ちゃん。いよいよもって敗色濃厚になってきやがった。 「勿体ないって言えば…山場がないんだよね。盛り上がりに欠けてるっていうのかなあ…… 最後の方もなんだか尻すぼみだし……あ、べ、別に嫌いって事じゃないよ!」 後からフォローする天満ちゃんだが、その慌てっぷりを見れば烏丸が致命的なミスを犯したのは明白だ。 ──これなら、勝てる。
「それじゃあ、審査結果を発表しま〜す」 寸評も終わり、いよいよ結果発表。ちょいと予定は狂ったが、勝算は十二分にある。 相対する烏丸は相変わらずのポーカーフェイス。その能面から感情は読み取れない。 天満ちゃんが大きく息を吸い込み、オレも思わず息をのむ。 「勝負は引き分け。おあいこだよ」 「 はい!?」 「だから引き分け。ん〜、播磨君はたぶん女の子の気持ちがわからないんだねー。鈍感さんは嫌われちゃうぞっ。 でも、主人公の男の人はホントはとっても優しい人だと思うよ。私は好きかなー。あ、烏丸君のはね…」 私は好きかなー 好きかなー 好きかなー(エコー) 好き! スキ! SUKI! あああ天満ちゃんに好きって言われくぁwせdrtfgyてんまlp;@:「」 いい。もういい。勝ちとか負けとかもうそんなこたぁ。この笑顔にゃ勝てねえ。だから── また……漫画描こう。 「…なんだから、もうケンカしちゃダメだよ。二人とも仲良くしないと」 首がもげるくらい激しく縦に振る。しません。しませんとも。 「あれ?」 なんか重要な事を忘れてる気がするな。 ま、思い出せないんだ、どうせ大した事じゃねえだろ。 その時、烏丸が握手を求めてきた。 「……ナイスファイト。普段は直接比較される機会がないから、貴重な経験だった」 「おうよ」 男二人、ガッチリ握手を交わす。 って、あぁーーーーーーーーっ! 告白するんじゃなかったのか、オレ! 最近、三人で居るとこんなのが続けばいいとか思ってる自分に気づく。 決してそういうワケじゃねえんだけどな……いや、同じ事か。
「ね、記念写真撮ろうよ」 天満ちゃんから出た、新たな提案。 美コちゃん達とはもう撮ったんだよー私達三人のも撮ろうよー、とせがまれ二つ返事でOKするオレ。 烏丸も、良いカメラを持ってるとか言って結構ノリ気のようだった。 「ほれ、撮るぞ」 「播磨君も入って入ってー!」 「お、おう」 パシャッ。 「塚本さん、急いで」 「チ、チーズ……あうっ!」 こけっ。 パシャッ。 「………見た?」 「見てねえ、見てねえ!(白だった…)」 「……キムチ」 「なにそれー?」 「チーズの韓国版。ポイントは語尾がイ行になるところ。笑顔になりやすいのが、利点なんだよ」 パシャッ。 いつもながらの無駄知識。付き合いが深くなっても、烏丸は変人のままだった。 変わり者で、無口で無表情で影が薄くて、そして妙に凝り性。 今日の為に高級なカメラと三脚を用意したのも、時間と日光の当たり方を考えて撮影場所を選んだのも、全部烏丸。 そんな、良いヤツで……そんなヤツだから、オレはコイツと親友になれたんだ。
どんなに幸せな時でも、必ず終わりはやってくる。 それはオレ達三人にとっても例外なくだ。 終業式が終わる。今まであんなにかったるいと思ってた行事が感慨深いと思えるなんてよ。 オレ……変わったな。 外に出て、見上げれば早咲きの桜が散っていく。ある一人の生徒の、旅立ちを祝福するように。 出立人の名は、烏丸大路。 「ホントに、ここでいいのか?」 烏丸の自宅から、最寄りの駅のホーム。見送りはオレと天満ちゃんの二人だけ。 もっとも、教室でクラスあげての送別会をやったから問題はねーだろ。 言い出しっぺは天満ちゃん……なんだが、準備してる時から花井とかノリノリだったな。 いいクラスだった。結局、いつもの調子で騒いじまって、他のクラスの連中はあんま良い顔しなかったんだよな。 その連中とも、烏丸とも、今日で終わり。 「うん。いつかは、別れなくちゃならなくなるから」 別れは名残惜しいもの。それを知ってるからこそ、烏丸はいつも通り淡々とそう言った。 「向こう行っても、漫画描けよ」 「うん」 「たまにゃ手紙出せよ。あ、英語はカンベンな」 「うん、必ず出すよ」 「ダチ作れよ。そんで紹介しろ」 「キミもね」 言いたい事は山ほどある。けど、時間は有限だ。 話はまたの続きにしよう。これが今生の別れじゃねえんだから。 目と目で伝え合い、オレ達はそれきり無言になる。それに…… 「…塚本」 オレばっか話してるワケにいかねえしな。俯いたままの彼女に声をかけて先を促す。 「……」 一言も無い。微かにだが、身体が震えている。 やがて、ホームに列車が流れ込んできた。
支援?
音楽が流れる。烏丸は行かなければならない。 天満ちゃんは、ずっと黙ったままだった。 「……じゃあ、播磨君。塚本さんも」 「ああ、達者でやれよ」 最後の挨拶は短くて。そして、烏丸は列車に乗り込む。 「烏丸君! 私、わたし……!」 パタン。 顔を上げた天満ちゃんが大事なコトバを伝えきる前に、ドアが音を遮った。 ガラスの向こうで烏丸が天満ちゃんになにか言ってる。聞こえないが、その心遣いにオレは感謝した。 列車は動き出す。オレ達はそれを迷わず走って追った。 烏丸との差はどんどん広がって、いつしかその姿は見えなくなる。 人の居なくなったホームの先端で、オレ達は立ち尽くしていた。 天満ちゃんの後ろ姿が夕陽に映える。それはひどく頼りなく、また儚げに見えた。 けど、オレは決してその小さな身体を抱きしめる事が出来なかった。 いつからか、気づいていたから。天満ちゃんが見てるのは、オレじゃなくて、烏丸だと。 それを知ってて、オレは席を外してやらなかった。結果、オレは世界で一番大切な人を傷つけちまった。 ……大馬鹿野郎だ。そんなオレが、彼女に何をしてやれる? ああ、もう悩むな。 懐からハンカチを取り出し、それを天満ちゃんに手渡す。かけるべき言葉が見当たらず、それだけ手短に済ますとオレは足早に──。 「!?」 天満ちゃんの細い手が、オレの服の袖を握りしめていた。 「待って。一人で、帰らないでよ…」 涙声。泣いてるのは、わかっていた。だからこそ、オレが泣かせたんだと思うからこそ耐えられねえ。 「ワリィ、先に帰らせてくれ。オレ、塚本にあわせる顔がねえ……」 「違う。違うの」 かぶりを振って、天満ちゃんはそうじゃないの、と言い張る。 「ホント言うと、私、怖かったんだ。三人の関係を壊しちゃうのが」
「播磨君、烏丸君とスゴク仲良かったでしょ。私、ヤキモチ妬いちゃったりしてたんだよ?」 ヘンだよね、と言いながら天満ちゃんはクスリと笑った。柔らかい笑顔。 「でもそんな二人を見てるととっても嬉しくて羨ましくて、出来るならずーっとこうしてたいなー、なんて。 そんな風に考えたりして、結局言い出せなかった。バカだよね、告白したって播磨君は怒ったりしないのに。 ごめんね、播磨君。私、播磨君を疑ってた。バチが当たったんだよね。私、欲張りだから。 …だから、播磨君が一人で帰ろうとして、播磨君きっと怒ってるんだって思って、そんなのイヤで、 でも一緒に居てくれて、お礼とか言いたくて、それで、それで…………っ。……ごめん、頭ん中ぐちゃぐちゃでよくわかんない」 オレは黙って、泣きじゃくる天満ちゃんの傍に居続けた。 次の列車が来て、その次の列車が来ても、オレ達はずっとそこに居た。 それが彼女への謝罪になるとは思えないが……。 オレは天満ちゃんに限りなく近く、けれど決して触れない位置に。ずっと、そこに居た。 人生は長い。若いうちの恋は得てして実らないというが──ホントのところどうなんだろう。 オレ達三人は、これから知らない誰かを好きになったりするのだろうか。 天満ちゃんやオレが、まだ見ぬ誰かを好きになる……? それは想像出来ない事だった。 そんな少しばかり未来のオレに、想いを馳せる。 世界で一番好きな人と、ひどく不釣り合いな自分と、最高の親友の未来に。 ──想いを巡らせて、オレは誰にも気づかれないように。 ──少しだけ、ほんの少しだけ泣いた。
烏丸から手紙が来た。月に一度は必ず送ってくる。 確かに送れとは言ったけどよ、マメなヤロウだよホントに。 毎月一日にきっちり届くせいで、その日は烏丸デーになっちまった。 「で、今日がその日なワケだが」 独り言が多いのは年をくった証拠か。…それはいいとして、便箋を開く。 ボンジュール、ムッシュ・播磨。──いや、アメリカだろ。ボンジュールってどこの言葉だっけ? 突然ですが今日は播磨君と友達になる前の事を思い出しました。──いつの話だ? 話の振り方もいきなりだな。もう慣れたけど。 これはその時に僕が言った言葉です。──なんて言ってたんだよ? 「そこまでだったら送ってやるぜ。ほんのそこまでな」──言ってねえ。天地がひっくり返っても言わねえ。つうか、雨の時かよ! まあ、それは置いといて。──意味のねえ前フリすんな、紛らわしい。 ついでですが、播磨君と友達になった時の事も思い出しました。──いやついでじゃねえだろ。そっちが本題じゃねえのかよ! 「僕は、ここに居てもいいのかな?」「こんな、何も思い出のない街なんて早く出たいと思ってる」 「出たいのに、出たくないんだ」「誰かに、引き止められたからかも知れない」「どうしたらいいのかなんて、わからない」 「こんな僕でも、誰かを好きになれる?」「独りは、イヤだ……」「どうせそれっきりだろう?」「でも、僕は残った」 「ありがとう」 「僕の、友達」 ……へっ、まったく芸術家だよオマエは。毎回理解不能な内容だが全部読んじまうのはなんでだろうなあ? 今回のはわかる部分が比較的多かったからいいものの……ま、それも親友ってヤツか。 机上に立ててあるスタンドを見やる。口を目一杯「イ」の形に広げた三人組が写ってる。傍目にはちょっと不気味かも知れん。 そんな写真の中の自分達を見て、オレは思う。これこそが、オレ達の青春だった、と。 ──さて、そろそろ彼女の元にも手紙が届いてるハズだ。と、なると電話がもうじき…… 目を閉じれば思い出すのは。 あの、青春の日々。
思いつくままに書きなぐってしまった感が。 タイトルは「さらば青春の日」です。
神が連続してきてる!
>>248 職人が敬遠する烏丸の内面を見事に表現してる、
まさに神作品ありがとうございます。
オリジナルな設定が見事すぎます。
超グッジョブ!!
ネタバレ禁止って‥どこからがネタバレなんですかね? 単行本になったらオッケーってこと?
スクランSS初挑戦。今週号(#88)の播磨サイド書いてみました。 気の利いたタイトルも付けられず、拙い文で申し訳ありませんが、 投下させていただきます。
陽光が差し込む茶道部部室。 しかし、部屋の中は暗く、重苦しい雰囲気で一杯だった。 「ネ、ネームを――」 八雲が出て行った後、部室に一人残った播磨。彼は身動き一つせず、 時折「漫画……ネーム……」と呟くだけであった。 と、突然部室の扉が開かれた。 ――妹さん? にしちゃあ早いか……。 そこに立っていたのは刑部絃子、茶道部顧問(一応)である。 「……播磨君? そんな状態でここにいられると茶葉まで悪くなりそうだ。 早いとこ帰ってはくれんかね?」 明らかに言い掛かりである。科学的根拠などあるわけがない。 しかし、絃子は播磨の異変を一目で悟り、何時までもここに座り込んでいそうな 彼を、早く帰した方が良いと判断しての言葉であった。 そして、普段なら即座に噛み付いているはずの播磨も、 「――ああ、すまねえ。ボーっとしてた」 それだけ言って立ち上がり、おぼつかない足取りで部室から出て行った。 そして、その時点で彼の頭からは、八雲への頼み事が抜け落ちてしまっていた。 「……まっすぐ帰れよー」 絃子は播磨の背に向けてそれだけ言い、職員室へと足を向けた。 元々茶道部に用があったわけではなく、通り道だから、と顔を出しただけだ。 部室には誰もいないし、戻って問題無しと判断したのである。 ――そして数分後、入れ違いに八雲が戻ってくる。
失意の底に沈み、街をふらつく播磨。気がつくと、喫茶エルカドの扉を開けていた。 「マスター、いつもの」 カウンター席に座り、それだけ告げる。いつもそこそこに客が入っている店内には、 珍しいことに播磨とマスターの二人しか存在しなかった。 飲み慣れたコーヒーの良い香り、味。しかし、今の播磨はそれを楽しめる精神状態ではなかった。 沈黙が、店内を支配する。 その沈黙を破ったのは、扉が開く音だった。 客が来たのだろうと察し、後ろに目をやる播磨。 「なっ、お嬢――!?」 思わず大声を挙げそうになったが、押し留めてすぐ目を背ける。会ったところで、 体育祭のことで文句を言うわけにも行かず、天満との事も、彼女に非がある訳でもなく。 気まずい。非常に気まずい。 探るように目を後ろへやると、彼女は四人掛けの席に一人で座っていた。窓の方を向いている。 外を見ているのか、播磨に気付いた様子は無い。 しかし、出ようとすれば気付かれるだろう。向こうが先に出るのを待つしかない。 仕方なく、播磨はコーヒーのお代わりを頼んだ。 五分も経たぬ内に、また店の扉が開いた。きゃんきゃんと騒がしい声。その声に聞き覚えを感じ、 こりずに播磨はまた目をやる。 ――天満ちゃん!? 塚本天満、周防美琴、高野晶の三人である。 「遅かったじゃない」 沢近の呟きが聞こえた。 ――よりによって待ち合わせてたのかよ……。ツイてねぇ……。
いよいよ席を立てなくなる播磨。彼女達の声は、静かな店内に良く響く。聞こうと思わずとも 聞こえてくるその会話に、つい播磨は耳を傾けてしまう。 「注文お願いしまーーす!!」 ――ああ天満ちゃんはいつも元気だやっぱ変わらないなあチクショウ と、播磨の目の端に、注文を取りに出て行く八雲の姿が入った。 ――来た時にはいなかったな。後から来て裏口から入ったのか……。 そんなとぼけたことを考える。ネームのことは、今のショックですっかり忘れている。 そして唐突に、天満の一際大きい声が店内に響いた。 「そうだ! 愛理ちゃんと播磨君てLOVE×2なんだってね!!」 ――天満ちゃんに罪は無い。天満ちゃんに罪は無いんだ……。 逃げ出したい。やり場のない力のこもったこぶしが震えている。しかし、播磨にはそこから 動くことなど出来なかった。 そして…… 「天満……、それはこのコよ」 ――いや誰だよ!? 思わず突っ込みそうになりつつ後ろを見ると、沢近が八雲の袖を引っ張っていた。 沢近以外の四人が固まっている様子も見える。 『この』。非常に近い位置にあるものへの指示語。そして沢近は八雲を掴んでいる。 直前の天満の台詞と、今沢近が捕まえている『このコ』。 ―――――――――はい?
播磨がやっと状況を理解した時には、既に天満が八雲に詰め寄っていた。 「八雲! お姉ちゃんに正直に答えなさい! 播磨君と会ったりしてるの?」 「え……、えっと……」 ――ちょっと待て。確かに最近漫画の件でよく会うようになったし、 それを見られてたこともあったけどよ…… 「う、うん……」 「そ、そ、そうなの!?いつのまにつきあってたの――!?」 「すげえ――――!!!」 ――俺ら、付き合ってたっけか? 疑問に思う播磨をよそに、女子達の会話は盛り上がっていく。 #89に続く。(了)
えーとですね、上二つはタイトルに#88と書いてしまい トリップ化したという実にシンプルなミスでですね……。 ゴメンナサイ他板では無題で投下してるんです_| ̄|○
257 :
250 :04/07/08 10:28 ID:9efKz7Ds
>>251-256 ああっ。ネタばれしてますね?
スンマセン、漏れも便乗して書かせてもらいます。
需要は少ない播磨と天満です。
予想?と思われるかもしれませんが、全く持って妄想です。天満スキーなので…
天満は一人、とぼとぼと家へ帰っていた。 「播磨くん」 ぽつりとつぶやく。 播磨拳児。同じクラスの隣の席の人。不良といわれているけど、本当はとっても優しい人。 そして 妹、八雲の恋人。 天満はそこで足を止めて天を仰ぐ。 『天満・・・それはこのコよ』 『八雲! お姉ちゃんに正直に答えなさい! 播磨君と会ったりしてるの?』 『え・・・えっと・・・・う、うん・・・』 それはついさっき、喫茶店エルカドでの話。 そしてその事実を知って、天満はなぜだか急用を思い出したと嘘をつき、喫茶エルカドを後にしたのだ。 天満は播磨と沢近がラブラブだと思っていた。だって、体育祭で二人は共にダンスをし、誰の仕業かは知らないけど播磨の机にも 二人の相合い傘が書いてあった。それを見たときの播磨の照れよう。屋上で話したときも否定しなかった。 だからきっと播磨の想い人は「やっぱり」、「私以外の人」、沢近だと思ったのに。 −八雲だったなんて。 「いつの間に付き合ってたの…?」
前からずっと、播磨の好きな人が誰か知りたかった。 どうして知りたいのかなんて考えてもみなかった。 私は烏丸くんが好き。だから。播磨くんに特別な感情なんて持ってるはず、ないのに。 なのにどうして播磨の想い人が誰かこんなにも気になったのか。 そして相手が八雲と知った今、二人がどこまでの関係なのかが気になって仕方がない。 他の人のことは気にならないのに。播磨の事となると、気にならないようで、とても気になる。 Aまで?Bまで?Cまで? 播磨が八雲とそういう関係になる。 胸が、痛む。 烏丸君が好き、という気持ちよりももっと奥深くのところで、尖った槍で突き刺されるかのように、胸が、痛い。 「なんでだろ」 人ごとのように呟いて天満は再び歩き出す。 しかし数歩もいかないうちに、数十メートル先の角に一人の男が立っているのが目に入り天満は再び立ち止まった。 遠くから見ても誰か分かる。 播磨だ。 播磨がゆっくりとこっちに歩いてくる。 サングラス越しでも分かる。しっかりと天満を見据えて歩いてくる
天満の胸の鼓動が早くなる。喉が渇き足が震える。 ――どうして?どうしちゃったの私? 播磨は天満の目の前まで来ると止まり、切り出しにくそうに少し視線を泳がせると「あのな、塚本」と言った。 天満の目頭がかすかに熱くなる。 ――ダメ。何泣こうとしてるの?天満。お姉ちゃんでしょ、あなたは! 天満は気を引き締めて眉と腹に力を入れ、キッ、として播磨の言葉をそれ以上続けさせなかった。 「播磨くん。聞きたいことがあるの。」 ――私はお姉ちゃん、八雲のお姉ちゃん。八雲の為にも播磨君がどれだけ八雲に対して真剣なのか確認しておく必要がある。 だから理由は分からないけどこの胸の震えや痛みが何なのかなんて考えている暇はないよね? 「俺も‥話がある。」 播磨は凛とした天満の態度にひるむことなく何か心に決めたようにはっきりと答えた。 −話?話って何だろ?八雲をお嫁さんにくれとか???もう子供ができちゃったとか?実は赤ちゃん生まれてますとか?そしたら 私は伯母さん?名付け親は誰だろう???? 天満の脳内は混乱を極めていたが、顔には出さず、じゃちょっと人のいない所で話そうか、と言ってすぐ近くの神社へ行った。 境内の裏手にまわり二人は石段に隣同士、腰を下ろす。 天満はちょっと暗くて人気のない所に来すぎてしまったかな…と不安そうに周りを見回す。
「お塩持ってる?」 「へっ?」 天満の(いつもだが)唐突な発言に播磨は面食らう。 「神社ってお塩をどこかに盛ってないのかな?」 「何が?」 「お化け、でないよね。」 少し不安そうに周りを見回す天満を見て播磨はクックッと笑い出す。 「あー。播磨くん笑うなんてひどーい。」 播磨はだんだん笑いが止まらなくなっていく。 「だって一つ目小僧とか口裂け女とか出たら怖いよぉー?」 おいおいそいつら塩怖がったっけ?とつっこみたいのはやまやまだったが、半ば本気に語っている天満にそれを言うような無粋な真似はしない。 「ヘーキさ。」 笑いながら播磨は続ける。 「万が一出たら俺が退治するしてやるからよ。」 でもでも、ろくろっ首だったら播磨くんの体ぐるぐる巻きにされて負けるかもよ、としばらく天満は力説していたが播磨を改めて見て、 「やっぱり播磨くんって優しいんだね。」 とつぶやき、困ったように笑うと前を向きうつむいた。
こうしておとなしくしていると天満は憂いを帯びてとても大人に見える。(播磨アイ) いつものニコニコ天満が無邪気な天使なら、今の天満は儚い妖精といったところか。(播磨アイ) 「ね、播磨くん。正直に答えてくれる?」 天満は播磨の方を向き、しっかりと瞳を見つめた。 ――ホントーに天満ちゃんはまっすぐ、人の目を見るんだよな‥ その澄んだ大きな瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えながら播磨は答えた。 「‥ああ、いいぜ。何でも。その代わり」 「ん?」 「全部答えたら、俺の話も聞いてくれるか?」 「…うん。いいよ。」 天満は答える。 「よしゃ。‥で、何が聞きてーんだ?塚本。」 「八雲とのことなんだけど…」 ――きた。 「妹さんとは‥」 何でもない、と答えようとしたとき、 「ダメ。質問にだけ答えて。」 と天満が言葉を遮った。 「あ、ああ。」
「八雲と二人きりで会ったことある?」 「‥ああ。」 「八雲と目が合ったことある?」 「‥?あ、ああ。」 「八雲から手料理貰ったことある?」 「ああ。」 「八雲、良い子だと思う?」 「ああ。」 「二人がそこまで進んでいたなんて…」 「はえ?」 ――ヤバイ。何かは分からねーけど、天満ちゃんまた明後日の方向で解釈してやがる。絶対。 「ちょ、ちょと待ってくれ、塚本。」 「ううん。いーの。二人がCまでいってるんだもん。ちょっと驚いただけ。」 しぃいぃいい???? 「播磨君、妹のことよろし…」 「ちょっと待ったぁ!」
慌てて播磨が声をあげる。 そうだ。いつも天満ちゃんのスーパー勘違い発言に固まって弁解できないのが進展できない理由なのだ。 今回は腹をくくってきたのだから、そういう訳にはいかない。 「どーしてCなんだよ」 「だって、クッキングのCでしょ?…Cまで行ったら子供ができちゃうんでしょ?だから二人の関係は…」 播磨、がくーーーーーーーーーーーーーーっと、脱力。 「塚本‥おめー、手料理食ったら子供ができるってマジで信じてる?」 「キャベツの手料理食べたらできるんでしょ?」 「いったいいつの時代の誰からの教えだよ‥」 体中の気力がどんどんそげ落とされるのを必死におさえ、播磨は一息つくと続けた。 「あのな、妹さんとは何でもねぇ。ちょっとヤボ用で妹さんの意見を聞きたかったから合っただけだ。 デートとか逢い引きとか甘い関係じゃねーよ。」 「…」 「で、目くらい一度は合ったことあるさ。話してる時とか、そーだろ?塚本。俺とお前さんだって。」 「…うん。」 「手料理はにぎり飯を貰ったっけかな。腹減ってたからうまかった。キャベツじゃねぇ。あと、俺みてーなつまんね不良にも」 「播磨くんはつまんない不良なんかじゃないよ。」 天満が思わず口を挟んだ。 「‥ありがとよ、塚本。おめーさんの妹さんもそんなおめーと同じで優しくて心根のいい娘さんだ。 いい娘さんだと思うぜ。」 「じゃやっぱり…」 「でも」
播磨は続けた。 「好きとかとういう感情はねぇよ。」 それはいままでにない、しっかりとした強い口調だった。 「だって…」 天満が何か言いたそうにしていた。そして数秒後、ようやくその言葉を発した。 「播磨君の好きな人って、誰?」 その問いに、播磨はどこか落ち着いていて、静かに言葉を告げた。 「俺の好きな人は」 天満が頷く。 「いつも明るくて」 「美琴ちゃん?」 播磨は首を横に振る。 「マイペースで。」 「晶ちゃん?」 首を振る。 「思ったことすぐ口に出して」 「愛理ちゃん?」 首を振る。 「いちずで」 「カレリン?」 首を振る 「素直で清らかで」 「サラ?」 首を振る 「髪が長くて」 「保健の先生?」 首を振る 「黒髪で」 「刑部先生?」 首を振る 「で、他に誰を思い浮かべる?」 播磨はちょっと意地悪く尋ねた。
「うーん…私の知らない人?」 「いーや。知ってる。」 「…」 「俺の‥隣にいる人。」 ハッ、と天満が目を見開く。 「播磨君の好きな人って…」 「ああ。」 「狛犬?」 ずどどっ。ごん。 播磨の隣にある狛犬に思い切り播磨は頭をぶつける。 「播磨くんっ!?」 「ええいもうっ!」 播磨は半ばヤケになって天満を右手で引き寄せた。 天満の手が僅かに硬直して、緊張した様子が手にとって分かった。 「いっつも大ボケする、塚本、おめーだ。」 途端に天満の顔がかあっ、と赤くなる。 「え、えと、私…」 「ったくどーして自分じゃねーかって思わねーんだ?」 一度口に出してしまえば案外吹っ切れるもので播磨は言った。 それに反して天満はパニックを起こし、しどろもどろになっている。
「わ、私?播磨くんの好きな人って、私って、塚本天満?」 「‥だ。何で気づかねーかね?」 「だ、だって、わ、私、鈍くて…勘違いばっかりするって自分で分かってるから…」 「おぅ」 「何回か播磨君がもしかしたら私のこと…って思ったこともあるけど…」 「うん?」 「たぶん私は勘違いが得意だからきっと勘違いだろうなって…」 「うん」 「播磨君に何言っても否定しなかったから…ぜったい、私じゃないって…」 「すまん」 「それに烏丸君のこと好きだから…私が播磨君のことを好きなはず無いって…」 「塚本?」 天満の瞳に涙が浮かんでいる。 「あれ?何でだろう?涙が。」 「塚も‥!」 天満をもっと引き寄せようとした播磨だったが、天満がぐっ、と力を入れて拒んだ。 「ダメだよ。だって…愛理ちゃんが…八雲が…きっと播磨君のこと好きなハズだもん…」 「‥塚本?よーっく俺の左頬、見てみ?」 天満がそこを見るとうっすらと赤くなっている。 「お嬢にぶったたかれたよ。−あんたなんかさっさと告白して振られてきなさいよ−だってさ。」 「え?」 「言ったのさ。二人の前で。俺は、天満ちゃんが好きだって。」 ――ウダウダやってんじゃないわよ、あんたがそんなんだからややこしくなるんじゃない、さ、さっさと、行きなさい!− そう言って無理矢理播磨を送り出した沢近。 その後をすぐ追いかけてきて、 ――姉さんを頼みます。…私はブラッディー・マリー、作って、沢近先輩と一緒に播磨さんの悪口言ってます− と、微笑んだ八雲。 もう引けないと思った。 決着をつけるまでは。
播磨は口を開いた。 「天満ちゃん」 「はい。」 「好きだ。」 天満は頷く。 「俺を、フる?」 その問いを発した途端、天満の瞳に涙が溢れ、天満は「ふぇ〜ん」と声をあげて泣き始めた。 「て、天満ちゃん?」 播磨は強く握っていた手を離し、そっと天満の両肩を抱き寄せた。 「ふぇぇ〜〜〜ん」 幼子のように。緊張の解けた子供のように。天満は播磨の胸に顔を埋め泣きじゃくった。 「わ、わたし、私ね。」 しゃくりながら天満が言う。 「は、播磨くん、播磨、くん、が、」 そしてやっと、その言葉が出た。 「すき、です。」 そしてまた泣きじゃくる。 播磨は天満をそっと、でもしっかりと抱きしめ、言った。 「ありがとう。」 ここから、二人は始まった
はじめてのSSだったので、こんなんで良かったのかと悩んで投下しました。 天満が鈍すぎて宇材といわれる最近、天満スキーの漏れとしてはなんとか二人を 結びつけたくこのSSになりました。 天満は天然のフリして実は焼き餅妬いて爆弾ばっかかましてんじゃないかと。 烏丸には恋に恋してるだけじゃないかと、妄想全開(^^; 元は、この後無知な天満を播磨が手取り足取り‥というエロパロ設定だったんですけどね‥ 失礼しました。
270 :
空振り派 :04/07/08 11:53 ID:TX2aCWa.
烏丸、天満と普段書かれにくいSSが連投された今なら出せる! 先に断っておきますが、今回の作品の登場人物は男のみです。 読みたくない方はささっと飛ばしてください。 といっても801ではありません。ギャグのみです。 激しくつまらんかも。では、いきます。
「今日の放課後、特別会議をやるよ」 ――エロソムリエ西本の非常召集。 ただならぬ雰囲気に戸惑い、会議室に集まる2−C男子一同。 「わざわざ会議室でやる程、重要なことなのか?」 「しかも、播磨はともかくとして花井の姿も見えないが」 一同のあせりを抑えるように、西本は口火を切った。 「花井君はターゲットに秘密を漏らす危険があるので、連絡していないんだな」 「議題はこれまでの会議でも最重要課題とされていた――」 『周防美琴はDかEか?』 「――なんだな」 まだ本題に入ってもいないのに俄然盛り上がる一同。
西本はいつものゆっくりとした口調で語り始めた。 「では、早速本題に入るんだな」 「当初の報告では今鳥君の卓越した観察眼により、ターゲットはDとされていた……」 「そうだ今鳥、結局どっちなんだ!」 どこからともなく非難の声があがる。 それを制するように西本がすっと手をあげた。 「今鳥君を責めないでくれろ。もともとDより上の高校生など滅多にいねんだす」 「まずはこれを聞いて欲しいんだな」 西本が目で合図し、今鳥が再現テープのスイッチを押す。 「前回の会議で最有力とされていたターゲットと親しい女生徒Tさんの証言です」 ――キュルルル 「でもやっぱり美コちんが一番だよね! なんたってD!!」 「え? 美コちゃんてたしか……」 「ち、違うって!」 ――カチャ 淡々とした口調で説明を続ける西本。 「本人は否定してるけんども、この証言からターゲットはDではないんだな」 「無論、Cでも無い。だども、この時点ではまだ憶測に過ぎないんだな」 一同うなずく。 「ここから先は冬木君に説明をお願いするんだな」 すっくと立ち上がる冬木。 「最近気付いたことなんだが、長い論争に終止符を打つ一つの事実を発見した」 「我々は胸ばかりに気を取られ、もっと重要な事実を見逃していたんだ!」
「例の写真を――」 冬木がパチンと指を鳴らすと教室の電気が消え、スクリーンに一枚の写真が映し出された。 「皆もいつも持っているターゲットの写真だが、視線を胸から上にあげてほしい」 一同、写真を指でたどる。 「いや、違う。顔じゃない。そう、首の部分――」 スクリーンを別の女生徒と一緒に立っている写真へと切り替える。 「我が校の女生徒制服の特徴の一つであるネクタイ。コレだ!」 バン! と大きくスクリーンをたたいた。 「確かにしてないけど、だからどうなんだ?」 一同から疑問の声が沸きあがる。 皆の反応を確かめ、冬木は得意げな表情に変わっていく。 「では説明しよう」 スクリーンにララの写真が映し出される。いつの間に撮ったのか……。 「同じくDとの報告がある2−Dの女生徒Lさんはネクタイをしている」 次に再度、美琴の写真が映し出された。 「それに対してターゲットはボタンさえしていない」 「普段、胸の話しを嫌がっているにも関わらず、あえて谷間をさらけだすというのは 大きく矛盾するところだ」 冬木が眼鏡に指を押し当て、くいっと正す。一同期待に唾を飲み込んだ――。 「つまり、締めていないのではない! 締 め ら れ な い のだ!!」 『な、なんだってー!?』 驚愕の事実にざわめく一同。 「冬木君、ごくろうさん。では今ここに結論を出すんだな」 「周防美琴はズバリ『E』!!」 西本の眼がカッ! と見開いた。 『わおぉ!』 勝利の雄叫びを上げるもの。発狂したように走り回るもの。感涙にむせび泣くもの。 教室は史上最大の熱気に包まれた――。
興奮冷めやらぬ一同を仏のような表情で見つめていた西本が再び手を上げた。 「一通り盛り上がったところで、もう一つ決定しておきたいことがあるんだな」 まだ何かあるのか? どよめく一同。 「彼女は校内に二人といない逸材なんだな」 「よって周防美琴を矢神高校における人間国宝、もとい人間校宝に決定する!」 満場一致で賛成の声があがった。 「なお、くれぐれも人間校宝を丁重に扱うようにルールを設けるんだな」 冬木から配られた人間校宝に対する三箇条を声を揃えて読み上げる。 『一、あからさまに凝視しないこと!』 『二、Eであることがばれていると気付かせないこと!』 『三、クラス外から接触するものがあれば排除すること!』 「以上で本日の会議を終わるんだな」 「今鳥君は引き続き、ターゲットの監視を怠らないように」 「ブラジャ!」 今鳥はビシッと敬礼した。 「ちなみに……」 「麻生君は体育祭でターゲットと第二級接触をおこなったため、体育倉庫に 禁固の刑を申し渡すんだな」 仏の西本の眼の奥が鋭く光った――。 一人興味なさそうに寝ていた麻生に一同の魔の手が迫る。 「うわ! やめろ。何をする! 俺はバイトが――」 抵抗の声も空しく、麻生は闇へ葬り去られた……。
275 :
空振り派 :04/07/08 11:57 ID:TX2aCWa.
完了です。 ギャグに関してはノーコメントで……。 はっきり言って西本のセリフを考えるのが一番難しかったです。 なまじなまりがある分、下手したら本編の雰囲気を壊しそうだし。 あれは東北のほうのなまりかな?出身が違うので全然わからん。
なんつーか、麻生がここにいるのがおかしいだろ。 たぶんむりやり連れてこられたんだろうが。 とりあえず言わせててくれ。 ワラタ。
どこがネタバレ?
コミックス派からすればネタバレとか…
文体がネタバレ調なんだよな 前から思ってたけど だから曜日が曜日だと思わずスルーしてしまう つーか実際こないだスルーされてたw
昨日、言った通りに。
>>129 の完成版を投下します。
黒いサラですがいいって人だけ見て下さい。
サラは自分の部屋で一人考える。 どうすれば播磨を手に入れられるか。 「……そうだ、播磨先輩が絶望の所を私が慰めてあげればいい」 サラは思いついたのだ、播磨の手に入れ方を。 どうすれば先輩が絶望するのだろう。 やっぱり最愛の人に嫌われる事だ。 先輩の最愛の人は親友の姉。 これをしたら、きっと親友も他の友達も失う事になる。 「それでも構わない」 サラは心に決めた。 この行動が悪でもいい。 欲しい人の為なら、悪人にでもなってやる。 「そろそろ、出ないと」
サラは学校へ向かった。 授業も滞りなく進み、昼休み、午後の授業、そして放課後になった。 「躊躇いはない」 ある人の所へ行く。 ある人とは塚本天満の事だ。 播磨の最愛の人でもあり。親友、塚本八雲のお姉さんでもある。 ふっと、向かう最中、鏡が目に入った。 「ちょっと、怖い顔してるなぁ」 そこには、いつもより強張った、サラの顔が映ってた。 今から、塚本先輩に伝える事を考えたら、これでいい。 けど、他の人の前では笑ってた方がいい、怪しまれないから。 あの人を手に入れるまでは演技をしよう。 演技何て大した事でもない、これから嘘吐きになるんだから、言わば裏切り者。 何に対しての裏切りだろうか、親友に対してなのか、先輩に対してなのか。 好きな人を手に入れたいから、絶望させる。これは裏切りなのかな。 「そんな事、どうだっていいじゃない」 鏡に向かって、独り言を呟く。 そうだ、どうだっていい。愛しい人が手に入る、それだけでいい 下手な考えは自分を陥れるだけだよね。 しばらく校内を歩いていると、塚本先輩を見つけた。
深刻そうな表情をしながらサラは天満に話しかけた。 「あの、塚本先輩ですよね」 「えっ、そうだけど。誰だっけ?」 天満はいきなり現れたサラに、少し戸惑った。 「八雲の友達でサラって言います」 「ほぇえ、八雲のお友達かぁ」 八雲の友達って事を知り、サラをじろじろ見る、天満。 「それで、八雲の事でお話したい事があって」 「何かな?」 二人は人目の付かない所に移動してから、話す事にした。 八雲の事、一体何だろうと頭を抱えながらも、サラが話すのを待った。 「実は……八雲、播磨先輩に遊ばれてるんです」 「えっ、それは本当なの! 遊ばれてるって一体」 サラの突然の言葉に、混乱する天満。 「播磨先輩、沢近先輩もいるのに八雲にも手を出して……」 矛盾してる事に気づいた、播磨先輩が好きなのに悪く言ってる。 「許せないよ、播磨君。ちゃんと言ったのにフタマタは駄目だって」 塚本先輩が怒ってるのが分かった、自分で悪い事をしてると思いつつも、 播磨先輩がもう少しで手に入るんだと思ったら、罪の意識は無くなってた。 「あの……播磨先輩、きっと屋上で八雲と一緒にいると思うんです。塚本先輩から言ってあげてくれませんか?」 八雲が播磨先輩と屋上で、何かを相談事をしてるのは知ってた、それが 今日も屋上であるって事も。 「屋上だね、ありがとう教えてくれて。これからも、八雲を大事にしてあげてね」 「はい」 サラは笑顔で答えた、天満は屋上へ向かった。
「……あは、あはははは」 天満がいなくなった途端、サラは笑う。まるで自嘲してるように。 「大事にしてあげる? 無理なのに、はいって答えてる。もう、友達って関係も終わりなのに」 自分の演技はまるで偽善者みたい、上辺だけで心の底では違う感情で溢れている。 塚本先輩と話してた時、憎しみと言う感情があった。それは 播磨先輩に愛されてるからだ。 沢近先輩の名前も出してしまった、それも播磨先輩と色々あるからって理由だ、きっと。 私はまるで先輩の彼女みたい、先輩に近こうとする女を憎んでいる。 この感情も前は嫌悪してた。けど、先輩が本気で欲しいと願ってからは嫌悪は無くなった。 「このまま、上手くいけばいいな」 そこには正義も悪も関係なく、ただ一緒になりたいと思う、女の姿があった。
その頃 播磨は屋上で八雲と漫画について話し合っていた。 「ここはこうでいいのか?」 「はい、いいと思います」 二人はまだ知らない数十秒後に爆弾が来ることを。 「いつも悪いな、迷惑かもな」 「いえ……迷惑じゃないですよ」 「そうか、そう言ってもらえると助かるぜ」 二人が屋上から出ようとした時、ドアがバタンと音を立て開いた。 そこには必死に走って、息を切らした天満がいた。 「……はぁ、はぁ」 姉さん、塚本、と八雲と播磨が呼ぶ。 「八雲! 播磨君から離れなさい!」 八雲が何も言う暇もなく、天満は腕を引っ張り、播磨から離させる。 「塚本?」 播磨は意味が分からないと言った、表情を浮かべる。 「播磨君、最低だよ! 八雲も愛理ちゃんも弄んで。大切な妹と親友に手を出すなんて!」 「何の事を言ってるんだ?」 播磨はまだ状況が飲み込めない。 「姉さん、それは違……」 「八雲は黙ってなさい」 天満は八雲を黙らせてしまう。 「八雲でも愛理ちゃんでも、一途に思ってくれるなら別に怒らないよ。けど、二人とも何て許せない!」 お姉ちゃんパワーと言うより、大切な人達を傷付けられて怒ってる天満。 「違う、それは誤解だ」 天満が怒ってる事だけは分かり、播磨は必死になって誤解を解こうとするけど天満の怒りは収まらない。 「言い訳? 本当に最低だよ播磨君! もう絶交だよ! 行こう八雲」 八雲を引っ張って、天満は屋上から出て行く。 八雲は引っ張られながらも播磨の悲しそうな顔を見て後悔した、 私がちゃんと反論出来ていればと。 「……一体、何がどうなってるんだ」 サラの思惑通り、絶望に落とされた播磨。
屋上へと繋ぐ階段を逆に降りて行くと、そこにはサラがいた。 「どうでした?」 サラはその様子を見ていたのにあえて聞いた。 「……本当に最低だったよ……播磨君。教えてくれてありがとね」 天満は礼を言う、サラは上手くいったと思い、八雲はおかしいと思った。 「八雲、大丈夫?」 私は演技をする、別に心配するような事は絶対に起きないって、知ってるのに。 「大丈夫だよね、八雲。じゃ、行こう」 もう一度挨拶をすると、塚本先輩は八雲を連れて行ってしまった。 八雲はその瞬間サラが笑ったように見えた。それに教えてくれてと言った部分も気になった もしかしたらという考えを募らせる。 塚本先輩と八雲がいなくなった。 「ふふふ、全て上手くいった。これで播磨先輩は私の物」 サラ自身もここまで上手くいくとは思ってなかったのに、上手くいった。 もう一度確認する、このドアを開けて、播磨先輩を慰めれば私の物に、その代わり 八雲や他の人達も裏切る事になる。 「別に構わない」 もうとっくに決心は決めてるから。 播磨先輩がいる、屋上のドアを開けようとした時、八雲の声が聞こえた。
支援
「サラ!」 「八雲?」 八雲は気になって、天満を誤魔化し戻って来た。 「やっぱり……やっぱり、サラだったの? 姉さんを騙して、播磨さんを傷付けたのは」 「何だ、ばれちゃったの」 私はもう演技する必要もないと思った。 「どうして? どうしてなの? 何で騙したり、傷付ける必要があったの?」 サラの肩に手を掛け、八雲は必死になって問いかける。 「播磨先輩が欲しかったからよ」 「……だったら何故、傷付けたの?」 どうして、どうして、と言う顔だった八雲は。 「だって播磨先輩、塚本先輩の事好きじゃない! きっと割り込む隙がないくらい」 「でも……」 「だから傷付けさせた、最愛の人を使って。そうすれば忘れてくれるんじゃないか、って思ったの」 サラはもう何も隠さない、全てを話す。 「それは、最低な事だよ!」 八雲はいつもとは違って感情的になっている。 「最低? そんなの関係ないよ、播磨先輩が手に入るのなら」 サラは淡々と告げていく。 「こんなの違う……サラじゃないよ、いつものサラじゃ」 涙を浮かべながら、八雲はサラに抱き付いた。 「これが私よ、本当の」 「嘘、嘘、戻って、いつものサラに。そして謝ろうよ。播磨さんや姉さんに」 八雲が泣いてる、けどもう戻れない。
「離して」 サラが八雲を退ける。 「サラ?」 「八雲、私はねあなたにも、憎しみに近い感情を抱いてたのよ」 徹底する、そうしないと潰れてしまいそうだから。 「!?」 驚いている、八雲は。どうしてと言った感じなのかな。 「だって播磨先輩との秘密を持ってるじゃない。羨ましかったのよ」 「どうして……知ってるの」 「どうして? 気づくよ、親友だったから」 だったからと言う言葉に、深く心を抉られた気持ちになる。 「だったから? 今でも親友でしょ」 八雲はうんと答えて欲しかった、例え嘘でも。 「ううん、無理だよ。こんな事しちゃったから、もう元には戻れない」 「そ……んな」 とうとう八雲は耐え切れなくなって、この場から逃げ出してしまう。 親友から告げられた言葉は、八雲の心を容赦なく傷付けた。 そして、告げた者は親友や他の色々な物を失った。 「これでいい、大切な者を得る為には大切な者を」 最初から覚悟していた、だから思っていたよりも大丈夫な自分がいた。 サラは屋上へ繋ぐドアを開ける、失って、得た者を抱きに。
「……播磨先輩」 私が呼びかけるが返事がない。 うなだれていて、生気が感じられない所を見ると よっぽどショックだったのが分かる。 「大丈夫ですよ、誤解だって分かってくれます」 私は後ろから播磨先輩に抱きついた。 分かってくれる事はないだろうな、きっと。 全ては私が仕組んだ罠、こうなる様に。 欲しかったから、愛して欲しかったから。 友達も失った、他の物も、その代わりあなたを得た。 「私が誤解ですって言ってあげますから」 そんな事は言わない、播磨先輩は渡さない。 十字架に張り付けてもしまう。 私と言う名の十字架に。 逃げられないし、逃がさない。 あなたに奪われた、私の心。 誰よりも大切になってしまったから。 だから私は全てを失う覚悟で、あなたを得た。 私のエゴで身勝手だけど、誰にも渡さない。 「そんなに落ち込まないで下さいよ、それに塚本先輩だけじゃないですよ、女の子は。私もいますし」 私もいますじゃない。 もう私しかいない様にする。 誰にも渡せないから。 「播磨先輩、私じゃ駄目ですか?」 ずるいのかも知れない。 けど、もう私にはあなたしかいないから。 「あなたは私の物」 播磨先輩には聞こえてないみたい、だからこう言う事を言うの。 あなたも私しかいないようにしてあげる。 止めらない、動き出してしまったのだから。 「神様でも止められないわ」 サラは壊れた十字架を握り締めながら、そう呟いた。
以上で終わりです。
黒くしちゃいました、サラじゃないなこれ。
次は、明るいお子様ランチを書くと思うので
その時もよろしくお願いします。
>>287 支援、ありがとうです。
黒いな しかもツヤなし
>>クズリさん
連載の途中なので、完結してから感想をつけたいんですが、あまりのできなので
GJ!!の一言だけ送らせてくだちいw
>>291 なるほど、君も俺と同じ黒いサラを胸に宿したものだったか……でも、個人的には信仰を、
罪悪感を背負ってまで播磨を陥れたほうが黒を強調できるかと。
せっかく、題名に罪の象徴である「十字架」使ってるわけだし。
サラには天満や晶みたいに関係ないとrころから引っかき廻してもらいたいかな それでこそ黒サラ
>>249 感想ありがとうございます。
烏丸はどうやっても書きにくいでしょうからね。
変なりにいい人、と特徴づけてみたのですが、気に入ってもらえたなら幸いです。
睡眠時間削って推敲せずにあげてしまったので最後の部分が急ぎ足になってます。
技術のNASAが見え見えだなや。その代わり魂は込めて書いてますんで、次があったらまた宜しくお願いします。
お目汚しとは思いますが、最後の1レスを書き直して2レスに分けましたので投下させて下さい。
Believe in Me
>>230-247 (蛇足・烏丸の次は奈良で行こうかなあ)
烏丸から手紙が来た。月に一度は必ず送ってくる。 確かに送れとは言ったけどよ、マメなヤロウだよホントに。 毎月一日にきっちり届くせいで、その日は烏丸デーになっちまった。 「で、今日がその日なワケだが」 独り言が多いのは年をくった証拠か。…それはいいとして、便箋を開く。 ボンジュール、ムッシュ・播磨。──いや、アメリカだろ。ボンジュールってどこの言葉だっけ? 突然ですが今日は播磨君と友達になる前の事を思い出しました。──いつの話だ? 話の振り方もいきなりだな。もう慣れたけど。 これはその時に僕が言った言葉です。──なんて言ってたんだよ? 「そこまでだったら送ってやるぜ。ほんのそこまでな」──言ってねえ。天地がひっくり返っても言わねえ。つうか、雨の時かよ! まあ、それは置いといて。──意味のねえ前フリすんな、紛らわしい。 ついでですが、播磨君と友達になった時の事も思い出しました。──いやついでじゃねえだろ。そっちが本題じゃねえのかよ! …… …僕は、ここに居てもいいのかな? こんな、何も思い出のない街なんて早く出たいと思ってる 出て行きたいのに、出たくないんだ 誰かに、引き止められたからかも知れない どうしたらいいのかなんて、わからない こんな僕でも、誰かを好きになれる? 独りは、イヤだ…… どうせそれっきりだろう? でも、僕は残った ありがとう 僕の、友達
…理解に苦しむ暗号文に目を通し終わると、机上のスタンドが視界に入った。 口を目いっぱいイ〜ッとやってる怪しげな三人組の写真。それさえも懐かしい。 フォトスタンドの中のオレ達はキラキラ輝いて、なんでも出来てしまいそうな魅力に満ちていた。 思えばあの頃は、全てがそうだった。不可能なんて存在せず、オレ達もまたそれを信じていた。 オレ達の恋は、あの時止まってしまったけれど。 絆は決して消えずに、オレ達を今でも優しく包み込んでいた。 だから、言わずにはいられない。 ありがとう、と。 誰に対する礼なのか、オレにさえ解らなくとも。 ──さて、そろそろ彼女の元にも手紙が届いてるハズだ。 と、なると電話がもうじき…… 目を閉じれば思い出すのは。 あの、青春の日々。
>>292 黒いです、すいません。
>>293 罪悪感を背負うですか、次書く時の参考にさせて頂きます。
今回、十字架は自己犠牲や愛(異常な愛)と言う意味で使いました。
けど、十字架は罪って風に使った方が分かりやすかったですね。
>>294 関係ない所からですか、次の参考にさせてもらいます。
また黒サラを書く事があれば、お二方の意見を参考にしたいと思ってます。
むぅ・・・・エロパロに書かれた黒サラ物の序章って感じだ。
300 :
Classical名無しさん :04/07/09 00:53 ID:oQnwClzc
>>291 こ・・・これは、以前エ○パロ板で読んだ黒サラssとのリンクですか!?
301 :
クズリ :04/07/09 06:47 ID:nUoXiSLg
おはようございます。シャイニング・ウィザードと聞いて、グレートムタよりも先にハリケーンの
名前が浮かぶクズリです。って合ってます?
皆様の作品の巧みさに、私もまだまだ精進しなければいけないな、と思う毎日です。うーん、
もっと上手くなりたいですね、小説を書くのが。
本当に本当に、いつも多くの感想を頂いて、とても嬉しく思います。すでに随分と本編設定
から離れてしまい、キャラも何だか変わってしまっているわけですが、それでも暖かく見守って
いただき、感謝を表す言葉もございません。
何度も同じ言葉の繰り返しになってしまいますが、改めて申し上げます。
皆様、どうもありがとうございます。
それでは、投稿させていただきます。
前スレからの続きです。ん?前スレって流れちゃいました?
『Without Me』
>>191-197 同改訂版→SS保管庫@分校
『Crossing Border』
>>318-330 同改訂版→SS保管庫@分校
『She wants to move』
>>345-355 『Don't go away』
>>391-399 『Where I End and You Begin』
>>498-507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
『Rollin'』
>>539-549 『You Just Don't Know Me At All』
>>589-595 『End of Everything』
>>48-56 『On the Edge』
>>93-102 『If My Sister's In Trouble』
>>142-156 『Take A Look Around』
>>192-198 に続いて。
『You and Me』
「場所を変えましょう」 その一言だけを言って立ち上がる愛理を、八雲は座ったまま呆然と見上げた。 「何やってるの?話があるって言ったでしょう。行くわよ」 「はぁ……」 彼女の言葉の意味を汲み取ることが出来ず、椅子から立ち上がらない八雲を、苛々したように愛 理が睨みつける。 「二人だけで話したいって言ってるのよ」 全くそういうところは天満そっくりなんだから。そう言って愛理は答えを待たずに扉の方へと向 かう。慌てて腰を上げた八雲は、サラに一瞬視線を送った。 間接的に邪魔者扱いされたことが不満なのだろう、頬を小さく膨らましていた彼女だったが、見 つめられていることに気付いて、微笑を浮かべる。 「いいよ。どうせ私は先輩を待ってなきゃいけないんだし。行って、八雲」 「何してるの。早く行くわよ」 強いその声に引っ張られるようにして、扉へと向かう八雲は最後にもう一度、サラに目礼をする。 彼女はいつものように優しく笑っていた。そして声を出さずに唇を動かす。それはメッセージ。 『ガンバレ、ヤクモ』 School Rumble ♭−μ You and Me 中庭に置かれたテーブルを挟んで、向かい合って座った八雲と愛理は、しばしの間、見詰め合う。 風吹きすさぶ秋空の下だというのに、八雲は何故か寒さは感じなかった。むしろ、暑いと感じた程。 どこか睥睨の色の混じる愛理に対し、八雲は眉をハの字に下げて困惑をその顔に表している。呼 び出したのは愛理だったが、ここに来ても彼女は何一つ言葉を口にしようとしない。ただじっと八 雲の顔を見つめるだけ。時折足を組みかえる以外は、身じろぎすらしようとせず。 ふと、八雲は天に意識を向ける。秋の日は落ちるのが早い。眩しく紅い太陽の光が、愛理の金の 髪に絡んで跳ねる。キラキラ、キラキラと星を作り出す。 その紅茶の色に似た瞳にも、星は宿っている。長い睫毛、純白に近い白の肌はハーフだからか。 グロスを塗った唇は今、不機嫌そうに歪んでいる。眉も微かにつりあがっていて、少女の感情を 如実に表していた。 だがそれでも、彼女を八雲は綺麗だと思った。
心乱れていても、どんなに怒っていても、沢近愛理という女性はきっと、綺麗なままでいるのだ ろう。ふと八雲はそんなことを考えた。 その脳裏に浮かび上がる光景。 揺れる炎に照らされて浮かび上がる、繋がった二つの人影。 ぎこちないながらも、踊り続ける影を、八雲は遠くから見ていた。 彼女の顔が赤かったのはきっと、かがり火のせいだけではなかっただろう。 顔をうつむかせて、八雲は唇を軽く噛む。 思い出すつもりのなかった思い出に、小さな棘がチクリと心の奥を刺す。泣きそうになるほどは 強くなく、無視できるほどには弱くない。 「アンタってさ」 ようやくに口を開けた愛理だったが、八雲が目を上げて彼女を見ると、 「……ま、いいわ」 逃げるように目をそらし、言葉を切る。そして彼女は一つ溜息を漏らした。どこかもどかしそう に宙を見つめるその横顔に、八雲はやっとかける言葉を見つける。 「あの……」 「ん?何よ?」 苛立たしげに振り向く愛理に一瞬、八雲は怖気付くが、何とか口をこじ開ける。 「場所……変えませんか……その……」 おい見ろよ二年の沢近と一年の塚本だぜ何か雰囲気悪いしあれかとうとう対決ってわけかよ そんな心の声があちこちから響き渡ってきて、八雲の心を揺さぶってくる。 愛理もまた、自分達に向けられている視線と関心に気付いたのだろう。周囲の人間を睨みつける が、誰も彼もさっと目をそらし、ぎこちなく会話を始め出した。 「ふんっ。何考えてんだか……」 目を細めて、八雲に聞こえるか聞こえないかの小さな声で、愛理は毒づいた。皆の視線は明後日 の方向へ向けられているが、耳は全てこちらを向いている。 それはさながら、八雲と愛理の不気味な沈黙を中心に作られる台風のよう。 「確かにこんなとこじゃ、ろくに話も出来ないわね」 「はぁ……」
おそらくわざと、なのだろう。周りの人間に聞こえるように言って立ち上がった愛理は、鞄の中 から携帯を取り出しどこかに電話をかけながら、さっさと歩き出す。 「ほら、アンタも付いてくる」 まだ繋がっていないのか、耳に携帯をあてながら振り向いた彼女に命令され、八雲は慌てて立ち 上がった。その場にいる者達の視線が、心が、二人の背中を追ってくるのを彼女は感じていた。 それは愛理とて同じはずなのに。 彼女は胸を張り、颯爽と肩で風を切っている。 まるで何者も彼女を止めることなど出来ないかのように、さながら女王のように。 後を付いて歩く自分は、精々小間使いか。 そんな埒もない考えが、見ている八雲の心の片隅に沸いてきてしまうほど、愛理の背中は雄弁に 語っていた。 彼女の主は彼女以外にありえない、ということを。 校門を出たところで八雲は、思わず足を止めてしまった。 そこには黒塗りのリムジンが駐まっていた。鼻の下に髭を蓄えた男が一人、後部座席の扉を開け て待っている。しわ一つないスーツを身に纏った彼を見て、何故か執事という単語を八雲は思い出 した。 「どうぞ、お嬢様」 「ありがとう、ナカムラ」 交わされる会話に目を丸くする八雲を他所に、愛理は当たり前のようにリムジンに乗り込む。ど うしようか、そう躊躇している間にも下校する生徒達の視線が向けられてきて、八雲は頬を染める。 「さ、どうぞ」 結局、彼に促されるままに八雲は車に乗り込んだ。無駄に広い車内の一番奥、窓際に座った愛理 は振り向くことなく、外を眺めている。 迷った挙句、八雲は彼女と反対側の窓際に腰を下ろす。 「何、緊張してるのよ、みっともない」 こうした車に乗った経験など皆無なため、落ち着かずに身を小さくする八雲に、つっけんどんに 愛理が声をかけてくる。 「あ……すいません」 わけもなく責められた八雲は、わけもなく謝ってしまう。愛理はただ、フンと鼻を鳴らしただけ で、また窓の外に目を向けた。 二人の間の微妙な距離は、車が大きな門をくぐり、屋敷に着くまで縮まることはなかった。
玄関とそのホールだけで、八雲の部屋の三倍以上の広さはあるだろうか。きらびやかなシャンデ リアが天井で輝き、骨董物の西洋鎧が壁際に佇んでいる。 「ほら、早く行くわよ」 ぽかんと辺りを見回す八雲を、どこかつっけんどんな声で促して、愛理は二階へと上がる。その 階段も深い絨毯が敷かれ、足音の一つも起きない。 「あの……」 屋敷に入った時から感じる違和感に、八雲は前を行く愛理に声をかけた。 「何よ?」 「靴は何処で脱げばいいんでしょうか?」 どうも家の中で靴を脱がないのが落ち着かないのだった。 「別に、ここで脱ぎたきゃ脱いでもいいけど」 どこか呆れたような声で愛理は答える。そしてまた、そういうところは天満そっくりなんだから、 と繰り返すのだった。 「…………?」 「わかんないならいいわよ。あ、アタシの部屋は土足禁止だからね」 彼女の言葉に、頭にたくさんの疑問符が浮かんでくるが、とりあえずそういうものなのだろうと 八雲は納得した。というより、する他なかった。 通された彼女の部屋もまた広かった。何となく天井を見上げてみると、ここにもきらびやかなシ ャンデリアが飾られている。 ソファに座る愛理のその奥には天蓋付きの広いベッド。 この部屋にいると、自分がまるで巨人のようになってしまったかのように感じてしまいそう。そ れが八雲の感想だった。それほど一つ一つの家具のサイズが、八雲の常識より一回り大きい。 大体にして、今自分が座っているソファすら、もしも自室に置いたらそれだけで部屋がいっぱい になってしまうほどの大きさだ。手で撫でてみるが、なんにせよ高価な物なのだろう、ということ しかわからない。 当然のことながら、愛理は雰囲気に負けることなく溶け込んでいる。いや、むしろ従えていると 言っていいだろう。 部屋は人を表すと言う。ならばこの豪華な、そして広い部屋もまた、彼女の何かを表しているの だろうか。それはわからなかった。 わかったことは、自分とこの部屋が、恐ろしいほど不釣合いだろう、ということだけだった。
「ま、楽にしなさいよ」 そう彼女は言うが、とてもそう出来そうにはなかった。膝の上で手を組んでソファに座った八雲 の目の前には、紅茶が湯気を立てている。運んできたのはメイド……いつか彼女がバイト先でなり きったのとは違う、正真正銘のメイドだった。 勧められるがままに口にする。いい茶葉を使っているのだろうということまではわかったが、普 段飲み慣れたサラの紅茶の方が美味しい、そんな風に感じた。もちろんそれは、多少の贔屓目があ るのだろうけれど。 愛理は自分もティーカップを口元に運びながら、しかし視線を八雲からそらそうとはしない。 見られていると知って八雲は余計に意識してしまい、その動作はぎこちなくなるのだが、彼女は 何も言わずただ見つめ続ける。 それは、二人が紅茶を半分も飲み干した頃だろうか。 ティーカップをソーサーの上に置きながら、愛理は八雲に話しかける。 「ねえ、アンタさ」 カチン。小さく響く音に、八雲は顔を上げた。そして、真っ直ぐに見つめられて、目をそらすこ とが出来なくなる。 「……はい」 囁くような声で答えた少女に、愛理は問いかけた。 「あのハゲの、どこが好きになったわけ?」 「……は?」 予想だにしなかった質問に、八雲は目を何度も瞬かせる。あまりにも怪訝そうだったのか、だか らさ、と愛理は繰り返して尋ねてくる。 「アンタ、播磨君が好きなんでしょ?いったい、どこが気に入ったのかな、って聞いてるわけよ」 そう言った彼女の頬は、少しだけ赤かった。八雲がじっと見つめていると、 「何、見てんのよ」 乱暴に言って、カップを口元に持っていき表情を隠す。その仕草が照れているからだと気付き、 八雲は強張っていた頬が緩むのを感じた。 「で、どうなのよ?答えなさいよ」 だが問いかけには応じず、八雲はカップに残っていた紅茶を飲み干した。
支援
「沢近さんは……」 逆に八雲は問いかける。 「どうして、そんなことを聞くんですか?」 うっ、と言葉に詰まる愛理を、八雲は不思議そうに見つめる。彼女としてはごく当たり前の問い かけをしただけなのだが、相手はそう受け取らなかったらしい。 「ええと、ほら、それは、あれよ」 しどろもどろになる彼女だったが、じっと見つめられていることに気付いたのか、軽くそっぽを 向きながら答える。 「だって、アイツに、男としての魅力なんてなくない?」 それをきっかけに、愛理は火が付いたかのようにまくしたてる。 いわく、学がなさそう。いわく、優しくなさそう。いわく、暑苦しそう…… 彼女が次から次へと漏らす播磨の悪口に、八雲は付いていくのが精一杯だった。よくもそこまで と感じるほど、愛理は留まることなく欠点をあげつらう。 ようやくに口を閉ざした時、愛理の顔は真っ赤に染まっていた。自ら付けた火に焼かれたように。 「だから、さ。アンタはアイツのどこが気に入ったのか、聞いてみたくなったわけよ」 「はぁ……」 それだけなので、自分を家に招き入れたというのだろうか。困惑しながらも八雲は探る視線を向 けてみるが、愛理は眉を吊り上げて、 「はぁ、じゃなくて。ちゃんと答えなさいよ」 身を乗り出してくる彼女に、八雲は気圧されて咄嗟に答えを返す。 「播磨さんは、優しいです」 そう言った瞬間、部屋の温度が一気に下がったような気がした。うつむきがちに見た愛理の顔に は笑顔はなく、眉を顰め、唇を歪めている。 「へぇ。そうなんだ。優しいんだ、アンタには」 愛理は最後の部分を強調する。そしてソファに深く座って腕を組み、右手の人差し指で肘を叩く。 「あ、いえ、その……」 自らの言葉に動揺し、しどろもどろになって何かを言おうとする八雲に、彼女は鋭い視線を向け る。それはまるで、質量を持ったかのように、八雲の頬を叩いた。 「自分は特別、そう言いたいわけね」 「ち、違……」 「ふうん、で、そんな優しい播磨君を貴方は好きになった、と」 絡み付くような愛理の言葉の鎖が、八雲を縛ろうとしていた。
「あ、あの……」 それでも何とか、八雲は自分の中から言葉を搾り出す。 「好きじゃ……ありませんから」 何度目だろう。この言葉を口にするのは。八雲はそう自らに問いかける。 言うたびに胸の奥が痛む。そしてその痛さに、いつまでたっても慣れることが出来ない。 嘘でもそう繰り返していれば本当になる。そう思っていたのは、甘かったのかもしれない、八雲 はそんな風に考えていた。 「ええー?じゃあアンタ、好きでもない男に、あんなに無防備になれるわけ?よっかかって寝ちゃ ったりしてさ」 そんな八雲の物思いなど知らず、愛理はわざとらしい言葉遣いをしてみせる。 「……そういうわけじゃ……」 おろおろと困惑する彼女は、自分が追い詰められてきていることを感じていた。いつの間にか退 路は断たれている。 「じゃあ、どういうわけよ?」 嘘は許さない。愛理の瞳に宿った鋭い光が八雲を射抜く。何とか切り抜けようと頭を回そうとす るが、 「ほら、言いなさいよ」 怒鳴られたりしたわけではない。その口調は静かなものだ。だが何故か逆らうことを許さない強 い力が働いているかのようだった。 そして八雲は、四方を塞がれた彼女は、とうとうその言葉を口にする。 「好き……でした」 それは過去形。姉ヶ崎や天満にも語ったように、もう終わった想いのはずだった。 だが愛理の前で言った瞬間、心の中に再び獣が現れた。 大きな口から溢れる咆哮が、胸を震わせる。 八雲は、内なる獣を飼い慣らそうと必死にもがいていた。手綱を付け、言うことを聞かせようと するが、暴れまわる獣を止めることは出来ない。 そして突き刺さるような痛みに、八雲は顔をしかめ、唇を噛んだ。
彼女の葛藤を知ってか知らずか、愛理はふん、と小さく鼻を鳴らして言った。 「最初から素直に、そう言っておけばいいのよ」 微かに顔を上げた八雲がそこに見たのは、同じように痛みを感じ、そして耐えているかのように 唇をしっかりと結んだ愛理の顔だった。 ――――それはまるで、鏡を見ているかのよう――――
311 :
クズリ :04/07/09 07:19 ID:nUoXiSLg
支援、どうもありがとうございました。 何だか長くなってしまいそうだったので、分割いたしました。うーん。 短く綺麗にまとめたいものですが、なかなか上手くいかないものですね。 ところで、某所でも触れられておられましたが、文中、沢近ではなく愛理と書いて おりますが、違和感などありますでしょうか? いい加減に飽きた、と言われないかと心配しながら、それでも続きます。こんな 私の作品ですが、皆様、よろしくお願いいたします。
312 :
蕗月 :04/07/09 07:21 ID:87uZqOJE
なんと・・・! こんな時間にきてみても無駄だろうなーなんて思ったのに!! リアルタイムでこんなGJモノを読めるとは・・・! ああ。 朝からこんなで俺は一日悶々としながらすごさなくてはならない! 個人的には本編もこっちも もっともっともっともっともーーーーっと、こじれるのをキボン みんな拳児を好きになーれ ・・・ともかく乙
good job!! 本編と違うところがイイところ。 読み手を惹き込む術はお見事です。 今後とも楽しみにしてますのでどんどん投下してください。 で、愛理でも自分は違和感を感じません。 一つ言えるのは首尾一貫して欲しいです。 中途変更は極めて大きな違和感を生むことになると思いますので。
沢近愛理はグロスをつけなくともツヤツヤなのです。 エロい人にはそれが分からんのです。
でかい家具に囲まれたときは、小人になったような感じるんじゃないだろうか……などと思ったり。
318 :
Classical名無しさん :04/07/09 09:53 ID:0CfDDeW.
あーやべ、学校行く前にひょっとしたらと思ってスレ覘いてよかった。 クズリさんテンポの速い執筆乙です。 播磨の話題になったとたん乙女になる沢近が可愛いっす。
ageすまそ あと自分は愛理でもまったく違和感なく読めました。 特に問題ないかと。
クズリ氏、ご苦労様ッス。 明日から水曜日までネタバレ護身でスクラン関係のスレに 近づくのをやめるので、続きが来週にならんと読めないのが 辛いトコロ。
>>311 GJ!
相変わらず文章力が凄いので安心して読めます。
沢近との対決良いですね、細かい描写も本当に素晴らしいです。
続きが実に気になります。
>>299 エロパロの方も見ました、確かにそんな感じがしました。
>>300 いえ、書いてる方は違う方ですね。
リンクしてません。
>>クズリさん
いつもGJです。
それにしても続きが気になる書き方をなさります。
うぉ、気になって仕方ない。
初心者なんでびくびくしながら、投下。
夜はトンネルに似ている。 いつかは朝と言う名の出口が来るとわかっていながら、辺りを包む静寂と暗闇に永久の匂いを感じて人々は怯える。 だから、そこから一刻でも早く逃れるように、人々は眠ることを覚えたのではないだろうか。 ところが、もちろん世の中には眠らずに夜を越える人も居る。 不眠症や夜型の人間というだけでなく、勉強や仕事、ゲームに夢中で徹夜する人もいれば、或いはもっとほかの事に従事する人もいるだろう。 例えば、家出したり喧嘩したり、漫画を描いたり、やることなんて世の中には溢れている。足りないのはむしろ時間の方だ。 夜を寝ずに過ごす人物の代表格、播磨拳児にとって、夜とは過去の象徴であった。 塚本天満に出会う前の、彼女に思慕を抱く前の荒んだ彼自身がそこには潜んでいる。 だから、夜になると拳児は酷く落ち着かない気分になった。 捨て去ったはずの過去が物陰からジッとこちらを見つめるその視線が、彼にはひしひしと感じられた。 それが気になってしまっておちおち眠ることもできず、かと言って他の何かに集中することもできない。 そういうとき、拳児は街に出かけることにしていた。 例え人々が眠り草木が寝静まろうとも、街は決して眠りはしない。 真昼のように明るい街を眺めながら、彼は静かに朝を待つのだ。 しかし残念なことに、本人がどれだけ平穏に夜を過ごすつもりでも、必ずしもそう上手くいかないのが播磨拳児という人物であった。
暗がりの道である。 何処をどう歩いてきたかなんて、こんな夜中にサングラス越しで解るはずもない。ただ適当にいくつもの角を曲がっているうちに、彼はとある狭い路地にたどり着いた。住宅街から一つ抜け出した、ドブ川に沿ってつくられたごく小さな道路だった。 道幅は辛うじて乗用車が一台通れるか否かといった程度。狭さの原因は、川とは反対側にそそり立つ延々と長いコンクリートの壁だろうか。 そういえば、バブル期に住民の反対を押し切って作り始めた何かの工場が、結局作り欠けのまま郊外に野ざらしになっていると言う話を、拳児は昔聞いた記憶があった。 おそらくこの壁の向こうがその工場なのだろう。 そういった場所の常であるように、柄の悪い連中のたまり場になっているのか、灰色の壁はそのあちこちにスプレーで落書きがなされていた。ちかちかと頼りなく点滅を繰り返す街灯がこの辺り唯一の光源で、人の気配など欠片もない。 それにしても、意識もしていないのに自然とこういう、治安の悪そうな場所にたどり着いてしまうのはどういうわけか。やはり、かつて幾つもの夜を拳だけで渡り歩いていた過去がそうさせているのだろうか。 流れる水の音に聞き入りながら、拳児は少しだけ笑った。 「若かったな、あの頃は……」 いろんな意味で似合わない台詞を吐いて、彼はそのまま踵を返す。中学生当時ならばまだしも、そういう生活から足を洗った今となってはこんな所に意味はない。 次はもっと明るい場所を歩くことにしよう。流石に、根性だけでこの真っ暗な視界を歩み続けるのは拳児といえども辛かった。 しかし、
「……、なんだこりゃ?」 道を引き返そうとして何歩も進まないうちに、拳児は足を止めた。 行きに来たときには気づかなかった一台のバイクが、すぐ近くにあった工場内部への入口を封鎖するように停めてあるのに目を留めたのだ。 乗り捨てて放置されたようには見えない。それは明らかに作意を持って入口を封じていた。誰がやったのか、本来の扉である鉄柵の方は鍵を切られて開け放たれたままである。 拳児は近寄ってバイクのタイヤに触れてみた。まだ微かに熱がある。駐車されてか30分と経っていないだろう。 ──いったい、誰がこんなところに? 拳児は首をかしげた。 郊外の、人気など欠片もないような川横の通路。一般人がこんな時間に訪れるとは思えないが、バイクが一台だけと言うのもおかしい気がした。族や不良ならば、拳児自身や一部の例外を除けば、普通は複数人で行動するはずだ。
だとしたらいったい誰のものだろうか。 普段なら見向きもしないくせに、そのときに限って拳児にはそのことが酷く気になった。 無視して道を戻っても良かった。むしろそうするべきだろう、と拳児も思った。わざわざ自分から厄介ごとの種に身を突っ込むのは馬鹿だ。しかし、どうしても気になる。 拳児は空を見上げて、それから手元の時計を見た。月はもう沈みきっていたが、深夜と言うにはまだ少し早い。つまりは朝になるまでまだ時間があると言うことだ。 「気になったことをそのまま放っておくのはやっぱりよくねぇよな……」 聞く人も居ないのに、一応言い訳を呟いておく。或いは自分に向けて言ったのかもしれない。 バイクの作ったバリケードをひょいと身軽に乗り越えて、拳児は工場の内部へと歩いていった。不法侵入とか言う意識はない。どうせ警察もこんなところまで見回りには来ないだろう。 なに、ちょっとこの不審なバイクの持ち主の、その顔を拝みに良くだけだ。 このとき彼がまっすぐにもと来た道を戻っていれば、或いは未来はもっと違った形になっていたかもしれない。
播磨拳児は不良である。 自分もそれを認めているし、友人はおろか彼を一目でも見たことがある者ならば、誰もがそう思って疑うまい。 寝ても覚めてもかけつづけるサングラスと、ヘアバンドでまとめたオールバックの髪型。バイクに乗っては速度制限を知らず、喧嘩にかけては負け知らず。なによりもまず、醸し出す排他的な雰囲気そのものが彼を立派に不良足らしめていた。 どれだけ毎日学校に通っていようが、動物に好かれる性質だろうが、カツアゲが勉強よりも嫌いで、漫画を描いたり塚本天満という極普通の女子高生に恋をしていようが、そんなものは欠片も関係ない。 ただ人より少しだけ世渡り下手な人間は、その性根や性格なんてものではなく、それだけのの理由で社会から爪弾きにされて、一様に不良と呼ばれるのである。 それは彼がまだ中学生の頃だった。クラスのゴミ箱にタバコの吸殻が捨てられていたという事件が起きた。 「お前か、播磨?」 担任は迷うことなく拳児を名指しで追求した。 「んなわけねぇだろ、吸うか。そんなもん」 身に覚えのない拳児は、当然そう答える。 ところが、教師はまったく聞こうとしなかった。 俺は信じている、お前じゃないよな、なんて上滑りな言葉だけを吐いて、拳児がどれだけ違うと言っても信じようとしない。断りもせずに机を探られ、見つからないとなると服を裏返しにされ、鞄の中を漁られた。
もちろん見つかるわけがない。拳児はタバコとカツアゲ、薬には手を染めないことをモットーにしている不良だった。 「隠すと身のためにならないぞ」 「俺じゃねえっていってんだろ」 それでも見つからないとなると、どこに隠したのか、追求する口調は鋭くなりもはやただの詰問と化したので、自分の身の潔白を示すためならばとそれまで我慢していたのをやめて、拳児は彼をぶん殴った。 ガツンと言う音がして、教師は机をなぎ倒しながら五メートルほどふっとんだ。 おかげでやっぱり二週間ほど停学になった。が、その二倍以上の時間を病院に縛り付けられることになった教師を見ておびえた真犯人が名乗り出たので、濡れ衣だけは晴れた。 続きがあって、自分が間違っていることが明らかになっても、一向に謝ろうとせず、彼が暴力を振るったことだけをヒステリックに非難した担任は、入院期間が更に半年に伸びた。 拳児の停学はそれ以上増えることはなかったが、以降彼が学校に行くことは滅多になくなった。
そのとき、彼は気がついてしまったのだ。 大人と言うのは、──人間と言うのは馬鹿ばっかりだ。 不良だと言うだけで、それは悪だと決め付ける。 その人物の中身なんて見ようともせず、 地位や名声にしがみついて、他人の欠点悪癖を指摘するには事欠かないくせに、同じようなことを行っている自分のことになると、こちらも鑑みようとする気なんてさらさらない。 大人だから子どもだから、と立場の違いをことさらに強調する奴ほどそれは顕著だ。年齢や経歴なんてものは所詮、その人の外枠を形作るものでしかないのに。 彼らの、常に見下したような目線が拳児は嫌いだった。そんな目で見られるたびに吐き気がした。根っからの反体制派なのかもしれない。 そういう目をした人間を良しとするならば、自分は決してそんな世界には染まらないで生きていこう、と拳児は思った。不良で結構。真人間なんて冗談じゃない。 拳児が喧嘩に夢中になった一番の理由もそれだった。 殴りかかってくるときの相手の目が、はっきりと自分のことを見ているからだ。不良としての播磨拳児ではなく、今目の前に居る倒さなければいけない相手としてしっかりとこちらを睨み付けてくるから。 彼らは決して拳児を見下したりはしなかった。ただ倒さなければならない強敵として、はっきりと彼を意識していた。 そして、だからこそ、今はもう拳児は自ら進んで喧嘩はしなくなったのだ。 自分のことを不良でもなく、喧嘩の相手でもなく、ただ播磨拳児という存在として見てくれる人に、──人々に出会ったから。
工場の敷地内は、コンクリート張りの床のあちこちから雑草が顔を出していた。建物自体にもツタやその他の、拳児が名前も知らない植物が蔓延っていて、長いこと人の手が入っていないことを証明している。 拳児は迷わず工場の内部へと入っていった。とくに考えての行動ではなかったが、とりあえず高いところに登ろうと思ったのだ。『なんとかと煙は高いところが好き』を地で行く男だったが、まず見晴らしの良い場所に向かうと言うのは人捜しの鉄則でもある。 建物のドアは簡単に開いた。 内部は思っていたほど埃はない。その代わり室内だというのに、こちらもそこここに青草が生えている。 「暗ぇな……」 夜中の廃工場なんだから当たり前なのだが、おまけにサングラスをかけている拳児には、正直暗いどころかもはや何も見えなかった。 (流石にこんなところで天満ちゃんに会うことはねぇだろ) 内心で嘯く。 彼にとって、人生の行動というのは常に塚本天満を基準として行われるべきものなのだ。──空回りしていると自分で思うことも少なくないが。 ともあれ拳児はサングラスを外して、それを胸のポケットに仕舞った。 「よし」 視界がそれまでとは格段に違う。星の光だけでも充分辺りを見渡せた。人間スターライトスコープ。そうして改めて見た工場の中は、得体の知れない機械でその大半が埋まっていた。
──いったい何の工場だったんだ? 考えても詮のないことに思いを馳せながら、拳児は上へ向かう階段を探した。こういうときは、落書きやタバコの吸殻の多い方を進んでいけば自然とたどり着くものだ。高いところが好きなのは、何も彼と煙だけではない。 実際にそうやってすぐに見つけた階段を、彼は迷わず登って行った。 カツーン、カツーンと鉄の階段を上がる自分の足音が周囲の静けさの中でいやに響く。足場だけでできた二階に着くと、そこから外に向かうドアが開けっ放しになっていた。一応、周囲を見回してみる。上へ向かう階段は見当たらない。 どうやら屋上へ向かうには外へ一度出る必要があるらしい。 拳児はそちらに向かって一歩、踏み出した。 「そこから先には行かない方がいいわ」 「──っ!?」 声がしたのは後ろから。慌てて拳児は振り返った。 物陰にでも隠れていたのか、ついさっき見たときには誰もいなかったはずだったのに、そこには小さな人影が一つ、確かにあった。 「生半可な覚悟しかないなら、とくに」
こんっこんっと軽い足音が近づいてくる。 遠くて見えなかった顔が、距離が消えたことで見えてくる。 短くて黒い髪。でも、男ではない。それはさっき声がした時点で気づいていた。 身長差からか、前髪の下から見上げてくるような目もやはり黒だ。何を考えているのかまでは流石にうかがい知れないけれども、そこにははっきりと意志の光がある。 そして、まるで能面でもかぶっているかのようなその表情と、日ごろ見慣れたとある学校の制服。──拳児の通う矢神高校のものだった。 驚いたことに、彼はその少女のことを知っていた。 「た、高野……!?」 「こんばんは、播磨君」 まるでそのまま世間話にでも始められそうなぐらい、普段と変わらない口調で高野晶は言った。
長いんで、とりあえずここまで
とりあえず改行してくれ。 内容は、導入だから何も言えないかな。
>>328-330 とそれ以外のつながりがわかりにくい。これを先に導入部にしたほうが良いのでは?
とはいえ、ハードボイルド播磨がカッコよさそうなので期待してます。
いや、内容はめちゃ面白いし文章自体はすごいうまいよ、 とても初心者には見えません。 あとは読み易く書いてくれるとってだけかな、続きが気になる〜
338 :
空振り派 :04/07/09 19:49 ID:6kaMuI7g
前回の西本ネタで一人でも笑ってくれた人がいて、助かりました。 ありがとうございます。 HDDクラッシュで書き溜めたSSが全部消えてかなり凹んだけど……OTL 本編でついにおにぎり公認されたけど、八雲はまだそこまで意識してないっぽい のでちょっぴり複雑……。 萌えは神に任せて相変わらずのギャグ展開ですが、本編の流れに合わせた期間限定 なので腐らないうちに投下します。
「ピンピロリン♪」 塚本八雲の携帯電話にメールが届いた。 『件名:休刊』 いつもの二人のやりとり。でも、今日はちょっと違う……。 昨日の喫茶店でのこと――。播磨さんは何も言わずに帰ってしまった。 怒ってるかな……。ちょっと怖いけど、ちゃんと話しをしないと……。 足取りも重く、八雲は屋上へ向かった――。 ――播磨拳児、全ての元凶 くそっ。昨日は一睡もできなかったぜ。 まさか、お嬢のことだけじゃなく妹さんのことまで勘違いされちまうとは……。 妹さんに迷惑かけるわけにはいかねぇ。 せっかく漫画のほうもいいところまで行ってたんだが、しばらく会わないよう にしたほうがいいな。 しかし、これからどうやって誤解を解くか……。 ゴロリと横になって、大の字に寝そべる播磨。 あぁ、今日はあったけぇな。やべ。なんか眠くなってきた……。 悩み疲れた播磨を睡魔が襲う――。
――塚本八雲、その気はなし 「播磨さん……」 屋上に着くと播磨は寝転がっていた。返事は無い……。 ……寝てるのかな? 起こすのも悪いし……。今日はバイトが無いから起きるまで待とう……。 それにしてもなんだかひどくうなされてる……。頭……痛いのかな……。 そわそわして落ち着かない八雲。 そうだ――。 播磨の頭をそっと持ち上げ、膝の上に乗せる。 いつも猫の伊織を乗せているように――。 播磨の表情が次第に幸せそうな顔に変わっていく。 ……良かった。 ほっと一安心して、昨日の出来事に想いをめぐらせる。 沢近先輩はなんであんなことを言ったんだろう? 播磨さんが私のことを好き? 心が見えないからわからない。でもお姉さんのことを一生懸命思ってくれてる。 それだけはわかる。播磨さんが好きなのはお姉さん……だと思う。 私は……? 男の人で安心して話せるのは播磨さんだけ……。 たまにすごい迫力で怖いと思うときもあるけど、それはいつも真剣だから……。 何より動物にも好かれるほど優しい人。私のことも大切にしてくれてる。 私は……好き……。でもお姉さんの烏丸さんに対する想いとは違う気がする。 私はこんな頼れる兄が欲しかったのかも知れない――。
――サラ・アディエマス、八雲の友人 八雲がたびたび屋上で播磨先輩と会っているのは知ってた。 余計な詮索はすまいと思ってたけど……。高野先輩からあんな話しを聞いたら……ね。 邪魔しちゃ悪いけど、様子を見にいっちゃえ――。 「八雲ー。部活始まるよー」 しー……。八雲は人差し指を口に押し当てた。膝には幸せそうな播磨先輩の寝顔。 「起こしちゃ……悪いから」 あの男の人が苦手と言ってた八雲が……。 「播磨先輩とつきあってるって本当だったんだ」 「……え、うん。でも……そういうのじゃなくて……」 しどろもどろに説明する八雲。 「そうやってると仲のいい恋人同士にしか見えないよ?」 そう言われて初めて八雲の顔が赤くなった。 「……あ、これは違……」 かわいいな、八雲は。それにちょっと羨ましい……かな。 「それじゃ、またあとでね」 私はそそくさとその場を立ち去った。 あとでじっくり話しを聞かせてもらおっと――。
――花井春樹、八雲バカ一代 まさか八雲君があの播磨とつきあっているなどと……。信じられん! この前、八雲君に聞いたときは否定していたとゆうのに。 こうなったら、力づくでも播磨に問いたださねば! 「播磨。居るか――」 な、ナニィィ!? 花井の眼鏡にピシッと亀裂が入った。 八雲君の膝枕だと? なんてうらやましい……もとい不埒な真似を! 「おい、起きろ。播磨! 八雲君に迷惑だろ……」 しかし、八雲は怯えた表情で首を横に振っている。 「やめてください……。それに迷惑じゃ……」 ぐはぁ! 花井の心は砕け散った――。 播磨なのか!? やっぱり播磨じゃないとダメなのか!? っく。だがここは愛する人の幸せを願うのがせめてものはなむけ――か。 「すまなかった。八雲君。僕は退場するよ」 「どうか末永くお幸せに……」 敗者に語る言葉無し。僕は背中を向けて屋上をあとにした。 明日から何を楽しみに学校に来れば良いというのか……。 ふと見ると階段の踊り場に周防が立っていた。 「どうした。しょぼくれやがって。今日はパーっと飲みに行くか?」 コイツにはいつも妙なところで元気づけられる。 「すまん。周防……。行くか!」 終わった。僕の初恋――。
――沢近愛理、八雲のライバル? よくよく考えると昨日は八雲にひどいことしちゃったかも……。 とにかく、あのヒゲにも確認してみないと始まらないわ! どうせアイツのことだから、屋上にいるわよね。 ガチャ。屋上のドアが軋みを立てて開く。そこで目にした光景は……。 「――っ」 膝枕? まさか、二人の仲がそこまで進んでいたなんて。 勘違いであればいいと思った。 でも私の知らないところで確実に二人は会っていたわけで……。 「何してるのかしら? あなたたち」 「播磨先輩に用事が……。でも来たら寝てて……」 何てしらじらしい――。 「あーら。仲がおよろしいことでっ。そういうことは学校外でやって欲しいわね」 感情が抑えきれない――。私は急いでドアを閉めた。 なんで私、泣いてるんだろ……。二人が仲が良さそうだったから? つまり、私がアイツに振られたってこと? いや、私はあんなヤツ好きじゃない。 ……たぶん。 なんだろう。このもやもやは……嫉妬? あぁ、もうどうでもいいわ! 天満どころか八雲にまで先を越されるとはね……。 なんか私一人振り回されてバカみたい。 それもこれも全てアイツのせいよ――。
――播磨拳児、夢の生活 あれから数年が経った……。 俺は漫画界でプロデビューを果たし、紆余曲折あったが無事塚本天満ちゃんと結婚した。 小さいながらもあたたかな家庭。子供は二人。名前は愛理と八雲。両方とも女の子だ。 二人とも元気すぎて困る。まるで天満ちゃんが三人に増えたみたいだ。 そして、どんなに年をとっても俺と天満ちゃんの愛は変わらねぇ……。 「ねぇ、あなた。耳掻きするからここに横になって……」 「あぁ、頼む」 天満ちゃんの膝に頭を乗せ、顔を横に向ける。 「み、耳がくすぐってぇ」 顔のニヤケがとまらねぇ。 「ふふ……。あんまり動いちゃダメ」 天満ちゃんの極上の笑顔。柔らかい膝枕。 あぁ……。俺は最高に幸せだ! このまま時が止まってしまえ。そう強く願った。 が、その幸せも束の間。 ふいにバタン! と大きくドアが閉じる音が響いた。 場面は急速に暗転していく――。 ……ちっ。何だ夢かよ。もう一度寝るか。 ん? この頭にあたる柔らかい感触……。夢じゃねぇ! 天満ちゃん! と叫ぼうとした瞬間。 見上げるとそこには八雲の顔――。
――播磨拳児、愛と青春の旅立ち ……妹さん? 播磨の目が丸くなる。 これは恋人同士がやる膝枕……だよな。 ということはつまり……。妹さんは『本気(マジ)』だったのか!? 何てこった……。俺の心は天満ちゃん一筋! しかし、恩義のある妹さんを傷つけるわけにはいかねぇ。 こうなったら……。自ら妹さんに嫌われるっきゃねぇ! だがどうする? 考えろ。播磨拳児! そうだ! 天満ちゃんに変態扱いされたアレだ! つまり――。 押 し 倒 す! 「すまねぇ。妹さん」 ぐぃっと八雲の肩をつかみ。素早く、しかし傷つけないように静かに押し倒した。 突然のことに驚きの表情を浮かべる八雲。だが疑いの無い眼差しで播磨を見つめる。 ――何故、抵抗しないんだ!(……心が読めないのでどうして良いかわからない) お嬢のときは必死に抵抗したのに……。 ということは……。つまり妹さんは俺にぞっこんLOVEってわけで……。 播磨の頬を冷ややかな汗がつたう。 くっ。さすがにこれ以上は無理だ。 「妹さん……。君の気持ちはよくわかった」 「だがしばらく考えさせてくれ。俺は旅に出る」 ――播磨拳児、留年決定。
346 :
空振り派 :04/07/09 19:59 ID:6kaMuI7g
完了です。 スクラン登場人物上で最も膝枕が似合いそうな八雲にそれをさせてみたかった だけですが。(シチュとしては既出っぽいが) 「AN OFFICER AND A GENTLEMAN」の邦題は「愛と青春の旅立ち」だそうで。 原題でもOFFICER=八雲(あくまでも義務的)、GENTLEMAN=播磨(意外と紳士?) と考えてくれれば良いかと。 まぁ、あまりタイトルに深い意味は無いのですが。
なるべく連載は止めてほしい。 一気に読まないと興が冷める。
連載良いじゃん。短編ばっかりてのも寒いよ。
>>334 確かに読みにくいのはありますが、内容は好きです。
シリアスで格好良い播磨が好感度大。続きが気になります。
晶(・∀・)クルヨー
『お姉さん』が凄い気になってしまった。 『姉さん』しか使ってた事無いように思うんで。
350 :
空振り派 :04/07/09 20:47 ID:6kaMuI7g
>> 349 そうだった。痛恨のミス!・・・orz
花井の章 花井視点と第三者視点がコロコロ変わっている どっちかに統一しなさい 内容は悪くないと思う
播磨がこんな意味不明な行動するわけない 面白いのにラストでがっくり
連載物が好きなやつもいればきらいなやつもいる。 読みたければ読めばいいし読みたくなけりゃ読まなきゃいい。 俺は連載っつうか同じ人が同じ設定で書き続けるのは好きじゃないから読まない派だが 望んでるひとがいる以上描くのは辞めろじゃなく読むの辞めるにするが正しいと思ってる
「書くのやめろ」じゃなくて 「一気に投下してくださいお願いします」と言いたい。(シリーズものは別だけど)
>>353 同じく俺も自分の好きなキャラの話意外はすっとばすので
連載、書くなとは思わない。
ただ続き書かずに消えるヤシもいるから、そこは腹立つ
>>355 の補足。
俺も一気に投下して下さい派。せめて終わる目処がついてから投下してほしい。
あとさ、間空くと話のつながり忘れてしまうの俺だけ?
クズリさんの連載はヒキが面白いからいい ほかの連載は終わったら一気に読むか結局めんどくて読んでないなぁ
連載だろうが短編だろうがどんとこい
クズリ氏……面白いけど最近冗長だ。 完結してから読もうと思う。
自分としちゃ、あの密度の文を一度に読むほうが辛い。 ほら、連載もので既にかなり続いてるやつって、どんなに有名でも読む気が失せるだろ? 長すぎて。それと一緒だと思う。
>>360 に同意だな。
そもそも「一気に投下して下さい」なんて週刊連載であるスクランすら否定していると思うね。
おまいらグチグチ言い過ぎ。
363 :
クズリ :04/07/10 09:53 ID:nUoXiSLg
暑すぎてとうとうエアコンの電源入れてしまいました。クズリです。
特に皆様から反対の声も聞こえなかったので、沢近愛理の表記は愛理で統一
させていただきます。御意見を書いて下さった皆様、ありがとうございます。
>>315-317 うーん、確かにそうかもしれませんね。ただちょっと、自分の言いたいことが上手く
表現出来ていなかったようです。訂正の機会があれば、直したいと思います。御指摘、
ありがとうございました。
>>359 さん
御指摘、どうもありがとうございました。改めて読み直して、私もそう感じました。
以後、気を付けたいと思います。
上記以外にもたくさんの方に感想を書いていただき、本当に嬉しく思います。もう
何度も言っていることですが、皆様に頂いた感想が、私のモチベーションとなって
おります。本当にどうも、ありがとうございました。そしてこれからも、拙い作品では
ありますが、どうかよろしくお願いいたします。
それでは、投稿させていただきます。
364 :
クズリ :04/07/10 09:52 ID:nUoXiSLg
向かい合う二人の少女の間から、音が消えた。身じろぎもせず、交わされる言葉もなく、視線す ら絡まない。 ただ鬱々と二人は己の内を見つめる。まるで誰の存在も近くにないかのように。 窓から見えていた太陽が、その最後の一欠片を地に隠した後、夜が訪れる。 煌き出したシャンデリアに照らされる二人の顔に、落ちる影は深い。 School Rumble ♭−ν Lose Yourself 「……で?」 ようやく愛理が口を開いたのは、どれほど経ってからのことだろうか。短いその囁きにも似た声 は、辛うじて八雲の耳に届いた。 ふと見ると、愛理はすでに空になったティーカップの中を見つめていた。八雲もまたそれになら う。わずかに底に残った紅茶に映る自分の瞳が、微かに揺れて見えたのは、水鏡が震えたのか、そ れともありのままの己の姿なのか。 「好きだった……ってどういうわけ?」 次の愛理の言葉ははっきりとしていて、だがわずかにかすれていた。相変わらず彼女の視線は、 八雲のそれを絡まない。 わずかにうつむいた愛理の顔には表情の一つもない。八雲に見つめられていると知っているのだ ろうが、凍りついたままだ。 ただそれっきり黙ってしまい、その沈黙に促されているかのように感じて、彼女は口を開いた。 「播磨さん……好きな人が……いますから」 「それって、天満のこと?」 間髪をおかずに愛理は問いかけてくる。 一瞬、体を強張らせた後、八雲は小さく頷いた。 愛理の紅茶色の瞳がほんのわずかに動いて、視線の先が少女の顔を撫でた。もっとも、彼女がそ れに気付いた時にはもう、遠くへ離れていたが。 「……おんなじね」 その呟きは小さすぎて、八雲の耳に届かなかった。訝しげな顔をする彼女に、愛理は繰り返す。 「私とおんなじ考え。そう言ったのよ」 言って天井を見上げる愛理は、先ほどと表情を全く変えていない。だがどこか悲しそうだと、八 雲の目には映ったのだった。
「直接、聞いたの?」 愛理がしばらくしてそう言ったのと同時に、扉がノックされた。どうぞ、という彼女の言葉に扉 が開かれる。そこにはメイドが立っていた。 紅茶のお代わりをつぐ間、八雲は再び、胸の中に目を向ける。獣は今は大人しくなっている。だ がその紅い瞳は爛々と光り、大きく開いた口からはよだれを垂らし、隙を窺っている。 狙っているのだ。再び、愛を叫ぶことを。そして彼女の心を奪ってしまおうとしている。 「直接、聞いたの?」 一礼してメイドが部屋を出るのと同時に、愛理は同じ質問を再び投げかけてきた。 「……いえ……」 首を振る八雲に、愛理は少し複雑な顔をして見せる。安堵のようで、だがやはり悲嘆で。 「……ってことはやっぱり、あの時?」 それがいつを指しているか、八雲にもすぐにわかった。 四人が一つ所に集ったあの時、播磨が名を叫んだのは。 目を伏せて頷く彼女を目の端に捉えながら、愛理は長い髪の先を指でいじる。 「沢近さんも……あの……」 「そうね。私もあの時、そう思ったわ」 八雲の問いかけようとしたことを読んだのか、愛理ははっきりとそう言った。 二人の目の前には、手付かずのままの紅茶が置かれている。湯気を立て、徐々に冷めていくそれ を見ながら、八雲はしかし飲もうとはしなかった。 「何だかね〜。アンタも大変よね」 「そ、そんなことは……」 皮肉とも何ともつかない愛理の言葉に、八雲は消え入りそうな声で答える。どう答えていいのか わからない、ということもあったのだけれど。 「それで、諦めるっての?アイツのこと」 足を組んだ愛理の言葉に、八雲は一瞬の、ほんのわずかな躊躇の後、首を縦に振った。 「ふうん」 そうとだけ言って愛理は、目を細めて八雲を見る。その瞳に宿る光の意味を、八雲は読み取るこ とが出来なかった。 ただ、決して好意的なものではなかった。彼女の漏らした吐息には、確かに安堵の響きがあった ようにも感じられたが、しかしそれだけではなさそうだった。 その全てを推し量ることは出来ず、ただ複雑そうだと八雲は感じたのだった。
「沢近さんは」 八雲は問い返す。 「諦めないんですか?」 シャンデリアの放つ光が彼女の金の髪の上でわずかに跳ねる。瞼を閉じて一瞬、深い色の瞳を隠 した彼女だったが、すぐに、 「勘違いしてるみたいだけど、私、あのヒゲなしのこと、好きじゃないからね」 その言葉が迷いで揺れていなかった、と言えば嘘になるだろう。だがしかし、まるっきりの出鱈 目で口にしたわけでもなさそうだった。 八雲は軽く目を見開いて、愛理を見つめる。彼女が播磨のことを好きだと思っていた八雲として は、信じられない言葉だったから。 そのまま静まり返る室内、二人の少女は互いから目をそらそうとせず、見詰め合う。 「……正直に言うとね、わかんないのよ」 しばしの沈黙の後、愛理はゆっくりと顔を背け、言葉を口にした。八雲はそれに沈黙をもって応 え、続きを促そうとする。 「体育祭のこととかで、私達が付き合ってる、みたいな変な噂がたったりしてさ。別にそれはいい のよ、人の勝手だもの。でもね」 言葉を区切り、彼女は紅茶を一口飲む。 「別に好きだから、一緒に踊ったとかじゃないのよ。後で、失敗したって思ったしさ」 八雲は彼女の言葉、本音に驚きながらも、顔には出さずじっと耳を傾ける。愛理はといえば、一 度言ってしまったら止まらなくなったのだろうか、すぐに続きを話し出す。 「まあ確かにアイツに他の男と違うものを感じたような気がしたのよ。けど、考えてみれば、アイ ツに男としての魅力なんて皆無じゃない」 それはおそらく、先ほど愛理があげつらった播磨の欠点のことをも含めて言っているのだろう。 どうだろうか、と八雲も考えてみる。自分が彼にどんな魅力を感じているか考えてみるが、明確 な答えは出ない。ただわかるのは、愛理の評と自分とでは違う、ということだけ。 「でも、嬉しかったのよ、本当に」 言って愛理は微笑む。何を指して言っているのかわからなかったが、おそらく何かを思い出して いるのだろう、きっと。 無意識に浮かんでくる嫉妬を抑えていた八雲は、ふと気付く。 愛理がつい先ほど、播磨は優しいと言った彼女に怒ったのはきっとこんな風に、自分の知らない 面を八雲が知っていると感じたからなのではないか。
「だから、アンタに聞きたかったの」 何か胸のつかえがとれたのか、晴れ晴れとした顔の愛理はじっと八雲の顔を見つめて言った。 「私に……ですか?」 「アンタも、あのバカのことが好き……だったんでしょ?だから、どこを好きになったのか聞いて みたくてさ」 首をかしげる八雲に、彼女は苦笑を浮かべながら説明する。それはどこか、自分に呆れているか のよう。 「けど、ダメね。アンタの話を聞いても、全然、納得いかなかったわ……優しいってのは、まあ信 じられる気はするんだけど、それだけじゃね」 そしてもう一口、愛理はソーサーを手にとってから、カップを口元に運んだ。そのゆっくりとし た動きが、とても優雅なものに見えて、八雲は軽く息を飲んだ。 先ほどとは違う『綺麗』を、彼女は愛理の中に見出していた。どこか肩肘を張って作り上げられ たものとは違う、自然なままの彼女の美しさが輝いていた。 「結局、私がアイツのどこをいいと思ったのか、わかんないままなのよ。だから、私が本当にアイ ツを好きなのかどうかも、わかんないの」 言ってから愛理は、視線を天井に向けた。困ったように人差し指を顎にあてて、 「んー、何か上手く説明できないわね」 自分の言葉に首を傾げている。そんな彼女に、 「……何となく、わかります」 本当にわかったかどうかは定かではないが、八雲はそう答えた。 もしかしたら彼女は、あの時の自分と同じなのかもしれない。そんな風に八雲は考えた。 あの時。それは彼女が自分の想いに気付かず、ただ何故か播磨のことが気になって仕方なかった 頃のこと。 八雲はサラと語り合う中で、己の心と向き合い、好きという想いを形にすることが出来た。 対して彼女は、自分の中の想いが形になる前に、周囲が動いてしまっていた。播磨と愛理の二人 が付き合っているという噂もその一つなのだろう。 結局、愛理は自分の心の整理を付けきれていなかったのではないだろうか。 「そう……ありがとう」 言って笑う愛理の顔はとても優しくて、八雲は思わず想いを言葉にする。 「でも、好きになるのに、理由なんていりますか?」
「……痛いとこ、突くわね」 顔を顰めて、愛理は立ち上がった。唐突な行動に八雲は体を萎縮させて、 「す、すいません……」 思わず頭を下げてしまう。だがそんな彼女に目もくれず、愛理はゆっくりと窓際に向かった。 開いたままのカーテンを軽くつかんで、外を見つめる。広い庭のあちこちに浮かび上がる灯り、 そして空を彩る月の光。 「あなたの言う通りなんだと思う。多分、ね」 やがて振り返った彼女が口にした言葉がそれだった。 月光を背にした愛理の顔、そして体に、八雲は不思議に惹きつけられる。匂いたつ艶から、目を 離すことが出来ずにじっと、彼女を見つめ続ける。 「けど私は、自分の気持ちもわかってない。あのバカが好きかどうか、よくわからない」 その言葉はまるで、歌のようだった。八雲を前にしながら、愛理の言葉は全て、自らに向けて放 たれたもの。だが彼女がいなければ、その想いは生まれることもなかったのではないだろうか。 八雲の思いをよそに、愛理はゆっくりと顔を外へと向ける。 窓に背を預けながら、その目は遠い月の白へと向けた彼女の横顔が、八雲の心に飛び込んでくる。 輝く金の髪と瞳、そして言の葉を紡ぐ美しい唇。 「だから近づこうって思ったの。この気持ちが本物かどうか、確かめたかったから」 そう言った愛理の全てが、八雲の胸の奥に刻み込まれた。 とても、とても綺麗な情景だと、八雲は感じたのだ。 「……なんてね、変なこと言っちゃったわね」 肩をすくめる愛理に、八雲は首を横に振る。 「そんなこと……ないと思います」 八雲の台詞に、微かに驚いたような顔をして見せた後、愛理は照れ臭そうに頬をかいた。 その仕草に、八雲は思わず微笑を浮かべる。 可愛い、そう思ったから。綺麗なだけでなく、彼女はそんな一面も持ち合わせているのだという ことに、初めて気付かされた。 八雲はふと複雑な感情をかきたてられる。 憧れと羨望、それとは紙一重の違いしかない嫉妬。眠っていた獣があげるうなり声が、聞こえた ような気がした。
車で送らせる。そう言った愛理の言葉を、八雲は丁重に辞した。さほど遠くないこともあったし、 一人で帰りたい気分でもあった。 「今日は悪かったわね。付き合わせちゃって」 ぶっきらぼうな物言いは、照れ隠しなのだろう。八雲は小さく笑って、首を横に振る。 「ま、気をつけて帰んなさいよ」 「はい……それじゃ、お邪魔しました」 頭を下げて沢近邸を辞した後、八雲は家路に付く。 街灯に浮かび上がる幾つもの自分の影を見つめながら、ゆっくりと八雲は歩く。 その後ろを、眩いばかりに輝く月が付いて来ていた。 歩きながら彼女が思い出していたのは、愛理と交わした会話の数々だった。 彼女は自らの想いを口にした後、改めて八雲の心を尋ねてきたのだ。 「で、さ。結局、アンタはどうするつもりなのよ?」 ソファにもう一度腰掛け、向かい合う八雲の目を見つめながら、愛理は問いかけてくる。 「私は……その」 「アイツが天満を好きだから、諦めるってわけ?」 彼女が口にした名前に一瞬、体を硬直させた後、八雲はおずおずと頷いた。 「ふーん、そう」 その響きの中には、明らかに負の感情が混じっていた。 一番多く含まれていたのは、きっと失望。 何故なのかわからずに戸惑い、八雲は胸の痛みを感じながら言葉を返す。 「……おかしいですか?」 「別に」 短く、そして素っ気無く答えた後、愛理は前髪を一筋、手にとって見つめる。何かに悩んでいる かのような顔の彼女は、しばらくの沈黙の後、口を開いた。 「私が昨日、アイツのお見舞いに行ったって話はしたわよね?」 頷く八雲に、愛理は逡巡を顔に浮かばせるが、振り払って続ける。 「アイツ、アンタも風邪ひいたみたいだって伝えたら、『悪いことした』って言ってたわよ。それも 何回も」 ドクン。鼓動が大きく、跳ねた。
「……播磨さんが?」 「そ。心配してたわよ、アンタのこと。見舞いに来た私には、一言のお礼も言わなかった癖に」 思い出して機嫌を損ねたのだろう、苛立ちが交じる愛理の呟きはしかし、八雲の耳に届いていな かった。 心配されていた、という事実。それだけのことに過ぎない。だが何故か胸は高鳴り、頬は熱い。 そしてそれは今、夜道を一人歩く八雲の身にも同じことが起こっていた。 激しく打ち続ける心臓の音が耳元でする。ただ、そう言われたということを思い出しただけなの に、嬉しくてたまらない。 歓喜に震える獣を、しかし八雲は止めようとする。 想いは捨てたはず。彼が自分を好きではないと知った時に、そして彼の想い人が姉だと知った時 に、諦めると誓ったはず。 ダケド、アノヒトハ、アキラメテイナイ 「別にアイツが天満を好きなら、それでいいわよ」 言った愛理の手には、グラスが握られている。その中には並々とつがれた葡萄酒。八雲の前にも グラスが置かれたが、彼女はほんの一口しか口を付けていない。 対して愛理はもう、何杯目だろうか。純白の頬を赤く染めながら、彼女は一人、言葉を口にする。 「もともと価値観が違いすぎるから、つきあえるとも思ってないしさ。けど、ま」 テーブルに突っ伏したまま、愛理は囁くように言った。 「試しに近づいてみるのも、悪くないかなって、そう思ってんのよ、私はさ」 彼女が何を言いたいのか、八雲にはよくわからなかった。きっと、本人にもわかっていないのだ ろう。おそらくそれは、自らの内の衝動を、無理やり言葉にして理由付けしているだけに過ぎない のだから。 ただ八雲は、そんな彼女に、強さを感じたのだった。 アノヒトハ、アキラメテイナイ、ダッタラワタシダッテ 足を止めて月を見上げた彼女の心の中心で、獣が猛っていた。
彼女は揺らいでいた。 己を引き裂かんとする二つの想いの狭間で、揺らいでいた。 消し去ったはずだった。過去のものにしたはずだった。 だが。 彼女を取り巻く人々の言葉に今、八雲はもう一度、自分の心と向き合う。 想いは消えていない。確かにそこ……胸の奥で燃え続けている。 諦めることが正しいと思っていた。想われていないのであれば。まして相手に、強く想う人がい るのであれば、自らが身を引くことが正解だと考えていた。 だが、それは本当に正しいのだろうか? 誰もが彼女の想いを擁護する。彼を想う気持ちは間違っていない、そう口にする。 そしてその言葉は、楔に繋がれた内なる獣を刺激し、解放させようとする。 しかし、その想いのままに動けば、誰かが傷つく。 何よりももし、自らの想いが叶ったとすれば、それはつまり、播磨の想いが叶わなかったという ことになる。 もしも彼と結ばれたら……播磨の想いを知る前は、何度かそんな想像をしたことがある。そして それは、とても楽しい夢だった。 だが今、それを思うと、浮かぶのは彼の悲しい顔ばかり。天満と上手くいかなかった彼はきっと、 深く傷ついてしまっているだろう。一途な人だと知っているから、想像は容易だった。 月の銀を浴びながら、八雲は矛盾に悩む。 自分が一体、どうすればいいか。いや、そもそもどうしたいのか。答えは、出ない。 だから八雲は、愛理を羨ましいと思った。迷いながらも前に進んでいける、その強さを。 そして思う。自分もあのように、強くなれるのだろうか、と。 強くなれれば、迷走することなく、好きでいられるのだろうか、と。 惑い続ける八雲の携帯に、播磨からのメールが届いたのは三日後の金曜日、午後の授業中だった。 『話したいことがあるから、放課後、屋上に来てくれないか?』 ――――また胸が、跳ねた。強く――――
373 :
クズリ :04/07/10 10:05 ID:nUoXiSLg
二つ目の山、でしょうか。 沢近との絡みについては、この話を構想した当初からこのような形にしようと考えていました。 けどその後、本誌の展開が……_| ̄|○ なので、本編と沢近が随分、違う感じになってしまいました。 って言い訳ですね。すいません。 何はともあれ、このような拙い作品ですが、もう少しだけお付き合い頂けると嬉しく思います。 どうか皆様、よろしくお願いいたします。
>>373 GJでした。 八雲のハッピーエンドを希望します。 このままじゃ、かわいそうです。
GJです!次回を楽しみにしてます。
昨晩、急に沢近が書きたくなり執筆。 三人称視点に変更し、描写も細かくなるよう心掛けてみました。 お時間があったら読んでやって下さい。
穏やかな秋の昼下がり。 授業という名の拘束から一時解放された生徒達は昼食を摂り、またある者は気の合う仲間同士集って歓談に興じる。 ここ2年C組に於いてもそれは例外でなく、教室の窓側後方にはいつもの四人が揃いつつあった。 窓際の後ろから二番目、四人組の一人、塚本天満の席を中心として愛理、美琴、晶が周りをぐるりと囲む。 それが予め示し合わせた事項なのか、それともただ単純に窓際で日当たりや風通しが良かったから 自然と皆がそこに集まっただけなのか、それは彼女達にしかわからないが……兎に角、そうして毎度 お馴染みの面々が一か所に集まろうとしていた。 しかし、本来自分の席でない場所に移動しようとすれば当然ながら弊害が出る事もある。 移動先の席の主が自分の椅子を譲ってくれなければ、他の場所を探すしかないのだから。 自分や周囲の椅子を持ってくるという手もあるにはあるが、わざわざそんな面倒な方法を取る者も少ないだろう。 弁当箱を広げた室内で、埃を立てないように……という、彼女達なりの配慮も多分に含まれていたりするが。 何よりとりわけ誇り高い彼女にしてみれば、始めからそんな選択肢は存在しえなかったに違いない。 「ヒゲ、そこをどきなさい」 「ヤダ」 沢近愛理、筋金入りのお嬢様。人に頭を下げるのはあまり得意な方ではない。 殊に眼前の男子生徒に対してはそれが顕著だった。原因や理由については数えきれないほど 色々とあるのだが……今回は敢えて語らない事としよう。 一方、相手の男。 「よく聞こえなかったみたいね。…もう一度言うわよ? そこをどきなさい、ヒゲ」 「ヤダ」 播磨拳児、札付きの不良。女にへこへこと従うなんざ御免、が信条。 こちらも様々な因縁の故か、返す言葉にも何処か刺がある。目の前の金髪女には、何がなんでも負けたくなかった。
加えて拳児には、席を譲りたくない理由がもう一つあった。 拳児は恋をしていた。愛理にではない、にっくきツインテールのすぐ後ろでにこやかに微笑んでいる天満にだ。 天満と拳児、教室内での二人の位置関係は隣同士。それにも関わらず普段からまるで自分の存在を アピール出来ていない事に焦りを感じた拳児、昼休みこそ天満に自分を認識させる最大の好機と息巻いていたのだが。 「大体なんで俺の席なんだよ。そっちに座りゃいいだろうが」 「はぁ? あんた何言ってんの? 烏丸君が座ってるじゃないの」 拳児は面倒臭くなって話題を天満の真後ろに座している烏丸大路に移す。 美琴や晶がそれぞれ天満の前と右斜め前を占拠してもまだ他に移動するのに適した席はある。 少なくとも拳児はそう判断していた。だからこそ、愛理から烏丸に頼んで移動してもらえば何も問題はないと思ったのだ。 しかし、愛理からの返答は拳児の予想に反して酷く理不尽な内容だった。何故烏丸は良くて俺は駄目なのか。 疑念はやがて憤怒へと変貌し、拳児の顔面が見る見る怒りの色に染まっていく。 因みに話題にされていた烏丸本人はというと、今の会話など微塵も聞いていなかったのか、 窓外の遥か遠くをぼ〜っと眺め続けていた。 「舐めんなこの金髪! 毎度毎度下手に出てりゃつけあがりやがって!」 「……勘違いしてるようだから言っておくわ。下手に出てあげてるのは、私の方よ」 拳児がそうであるように、愛理にもまた退けない理由はあった。その理由とはまたしても天満絡み。 そこに至るまでにどういう経緯があったか推し量る事は愛理には不可能だが、天満は烏丸に惚れていた。 多少意地悪で天の邪鬼な一面を持つ愛理ではあったが、流石に友人の想い人を目の前で追い払うような真似は出来ない。 それだけで、愛理にとっては拳児の意見を却下するには十分過ぎた。そう、それだけで十分なのだ。 自分自身の誇りと名誉に賭けても、それ以外に理由など断じてあってはならない。
その時、風が吹いた。 「いい風……」 開いた窓から吹き込む心地よい涼風の感触に気持ち良さそうに目を細め、そしてぽつりと呟く愛理。 「こんな日には、人間が空を飛びそうね」 しかし続いて出てきた台詞は、その至宝の笑顔とは裏腹にあまりにも剣呑なものだった。 愛理の顔面には表面的に笑みが貼り付いてはいるが、唇はぶるぶると小刻みに震え、頬はぴくぴくと引きつって痙攣寸前である。 一見穏やかに微笑んでいるかのような瞳の奥には、強く押し殺した怒りの炎。 その様、正に鬼神の如し。学園近辺にその悪名を轟かせた不良が怯んだところで、誰も彼を責められまい。 「ゴメンナサイサワチカサン、ドウゾオスキナヨウニオツカイクダサイ」 「あら、いいの? これじゃなんだか私が無理矢理退かせたみたいで悪いわね。ふふっ♪」 決・着。 可哀想に、拳児は怯えて土下座までしている。これが嘗て手の付けられない暴れん坊と恐れられた播磨拳児の姿だろうか。 肉食獣に命乞いをする小動物のように震える拳児の様子を見て、愛理は満足し今度こそ心からの笑顔を浮かべた。
「そんなに播磨君の席に座りたかったの?」 「別に。ただ、この席に座れば丁度いい具合に固まれるじゃない。偶々あいつがそこに居ただけ」 「ふぅん……」 「…何よ?」 「うぅん、何も」 播磨拳児亡き後……失礼、立ち去った後の教室。 例によってと言うべきか、高野晶からいつものように追及されるも、知らぬ存ぜぬで通す愛理。 晶もそれ以上問い質したところで無駄なのは解りきっているのか、その後は何も言わなかった。 愛理は一度、拳児が退室していったドアの方角を見た。当たり前の話だが、拳児の姿はそこにはない。 拳児が居ない事を確かめると、愛理はそっと目の前の椅子に腰掛けた。 つい先ほどまで拳児が座っていたそれは、彼の身体の熱のせいでまだ温かかった。 最初は臀部。次いで大腿部、膝の裏。そして腰部から背中全体へと徐々に伝わる幸福な一体感。 背中を通して全身に伝わってくる、拳児の温もり。彼の残滓を掬い取るように、愛理はゆっくりと椅子に肢体を預けていく。 その姿は、恋人にその身の全てを委ねて安心しきった無防備な乙女そのものだった、とは晶の談。 愛理は考えていた。授業が始まるぎりぎり直前まで、ここに居座ってやろう、と。 それはこの幸せを少しでも長く楽しむ為なんかではなく、教室に戻ってきた拳児がどんな顔をするのか、その反応を見たいからだ。 自分を一人で勝手に納得させる愛理だったが、彼女はまだ自分の気持ちに気づいていない。どちらを選んだところで、 拳児を強く意識している事には違いないのだから。そうやって、また一歩泥沼に嵌って行くのだ。 まあ、本人が不幸と感じていないものを嘆いても仕方がない。ここは一つ、是非とも生暖かく見守ってあげよう。 余談だが、昼休み中何故だか非常に機嫌が良かった愛理の背後、拳児の右隣の席では、愛理と彼女が腰掛ける椅子の 二つをかわるがわる複雑な面持ちで見つめる女子の姿があったとか、なかったとか。
えー……それだけの話です。 席をブン取ってニヤニヤしてる沢近っつーのも…イヤやっぱり想像出来ん! 駄文、乱文失礼しました。
>>248 ちょうど見逃していた……けど、発見できてよかった。同じSS作家として見習いたい作品でした。
どうでもいいけど、ID固定の板でトリ付のコテハン名乗る必要はあるのかな? 俺も初めは作品ごとに
NGワードつけてたけど、IDを指定すれば十分だという結論になったんだが……
連載に関しては、あまりに連続して投下されると、文章の推敲はどうなってるんだ?
と少し疑問に思う。や、俺が遅筆なだけですが OTL
さらにどうでもいいのですが、エロパロの黒サラは俺が投下したやつなので、この板の作者さんのとは別物ですよー
>>382 読んで下さってありがとうございます。
あの長さのSSを書くのは初めてだったので試行錯誤しました。
>ID固定の板でトリ付のコテハン名乗る必要はあるのかな?
うぃ、了解。もともと名乗っててそのノリで発言してたもので、失礼しました。
んじゃ、トリップ外しますね。
? 別に作者がコテハン名乗っても構わんと思うんだが。
ちょっとミス。(俺は)結論になった。
>>クズリさん GJ! もう続きが気になって仕方がありません。 とうとう播磨からの呼び出しですねぇ。 >>ゾリンヴァさん 何か本編でもあり得そうな話ですなぁ。 そして乙。
>>クズリ氏 「ダケド、アノヒトハ、アキラメテイナイ」等々のカタカナ表現にひっかかりを感じました。 心の声を表現するのによく使われる表現ではありますが、定番すぎて逆に冷めてしまいました。(自分はですが) 改行とスペースを工夫するだけでもそういう雰囲気は作れると思います。
>>324-333 の続き期待してます。
晶のキャラがキャラのせいか、メインの作品が少なくて飢えていた所です。
あのどことなくミステリアスなところが好きなのに・・・
作品中のハードボイルド気味の播磨とどう絡んでいくのか楽しみです。
389 :
Classical名無しさん :04/07/11 01:18 ID:WgqTzqxw
クズリさんサイコーです!続きめっちゃ気になります。 これからもがんばってください。 でもちょっと言わせてもらえば播磨のセリフ回しが気になります。 だいぶ前ですが例えば前スレ掲載分のSSでは 「〜かい」より「〜か?」、「どうしたんだい?」より「どうした?」、 「あ?何がだよ?」より「ん? 何が?」みたいにしたほうが播磨っぽいかな〜 と思います。あくまで個人的な見解ですが・・・生意気いってすみません。
>>384-385 あまりこだわりすぎても本末転倒ですね。
難しく考えずにおきます。
>>386 もっと沢近を可愛く書きたかったんですけどねぇ……
どうやら萌えには縁がないみたいです。
>>387 オレもそこはひいた
最悪パターンはカナで縦書きだけど…
分校100万HIT記念SSどっかで始まってっかい?
選挙記念SSどっかで始まってるかい?
カタカナは読みにくいからなぁ
>>387 >>391 俺は引かんかったですが(苦笑)。これは用法、というより、感性の問題では?
>>クズリ氏
ほんとに、いい作品です。
「ね、だから、八雲……フラレちゃって、辛いかもしれないけれどさ」
諭すような姉の言葉と優しい瞳に、八雲は心を奪われる。
「あなたのおかげで幸せだった。そう言えるように、頑張ろう」
この部分は、なんかもう、いろんな意味で・・・胸がいっぱいです。
続き、期待しています。頑張ってください。
アドバイスと愚痴は違う
>>395 いちいち他人の感想にケチをつけるほど不毛なことは無い。
誰がどんな感想を持とうがお前には関係ないだろ?
苦笑してる暇があったら、もうちょっと考えてから書き込みしなよ。
カナ書きも別に気にならないという点では同意するが 正直、(苦笑)なんて使う奴の感性がまともだとは思えんw 読点の使い方もメチャクチャだし(木亥火暴)
変な流れですけど、ネタ投下しときますね。 「なんじゃこりゃーっ!」 太陽にほえろ宜しく校舎内に響き渡る、播磨拳児の叫び声。 それもそのはず、面倒な体育祭も終わり、ようやく安息の日々に戻れると思っていた矢先に こんなヘビーな物を見せられるとは播磨も予想だにしなかったからだ。 相合い傘。それが視界に飛び込んできた瞬間、彼は確かに石化していた。 いや、別に相合い傘自体が悪いのではない。机に落書きされた事に目を瞑れば播磨に打撃を 与えるほどの攻撃ではない。肝心要の部分は、これ。傘の下に仲睦まじく並んだ二つの名前。 『沢近』『播磨』 (な・ん・で・だーーっ!) 心からのツッコミ。こんな悪質なイタズラをしたのは誰かと小一時間問い詰めたい。 これが沢近愛理でなく塚本天満の名前だったらどんなに幸せだった事だろう。 (ん? ……そうか! その手があったぜ!) 何事か思いついた様子の播磨、今は一旦教室を離れる事にする。 放課後、教室が無人になったのを見計らって播磨は教室に戻ってきた。 手には汚れ落し用のスプレーと、水の入ったバケツに雑巾、そしてサインペンだ。 彼は道具を使って沢近の名前だけを丁寧に消すと、その上から新たに「塚本」と書き足した。 「これでよし……と。むふふ、天満ちゃんとの相合い傘だぜ」 播磨は満足げに呟くと、暫く傘を眺めてから教室を立ち去った。 ジャージを持ってきた沢近が、塚本・播磨と書かれた相合い傘を目撃するのは数分後。 塚本八雲が名札を縫い直している場面に出くわすのが更に数分後。 自覚ゼロのまま、事態をどんどん悪化させる男、彼の名は播磨拳児。
>399 あれ? そういえば、本編での相合い傘の落書きって、 誰か消したんだろうか? 消してなければ、当然沢近も見たワケで・・・・
ガバホ! ハリケンパワー炸裂っすな 確かにそれは強烈だw
402 :
クズリ :04/07/11 23:10 ID:nUoXiSLg
投票行ってきました。どうも皆様、クズリです。
>>389 御指摘、どうもありがとうございます。うーん、確かに播磨の言い回しはちょっと、違って
いたかもしれませんね。今回、気をつけてみましたが、どうでしょうか。
そしていつもながら、感想を寄せていただき、皆様、本当にどうもありがとうございます。
さて、やや唐突な感もありますが、皆様に読んでいただいていたこの連載も最終回という
ことになります。ということで、普段より若干、長めになっています。
今回、多くの言葉を費やすのは恥ずかしいので、早速投稿させていただきます。
前スレからの続きです。
『Without Me』
>>191-197 同改訂版→SS保管庫@分校
『Crossing Border』
>>318-330 同改訂版→SS保管庫@分校
『She wants to move』
>>345-355 『Don't go away』
>>391-399 『Where I End and You Begin』
>>498-507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
『Rollin'』
>>539-549 『You Just Don't Know Me At All』
>>589-595 『End of Everything』
>>48-56 『On the Edge』
>>93-102 『If My Sister's In Trouble』
>>142-156 『Take A Look Around』
>>192-198 『You and Me』
>>302-310 『Lose Yourself』
>>365-372 に続いて。
『I Just Want To Love You』
夜、一人でベッドに入り目を閉じると、浮かんでくるのは彼の顔。 その度に胸が張り裂けそうになる。そして眠れない。 School Rumble ♭−ξ I Just Want To Love You ここ数日、八雲は午後の授業中に必ず寝入ってしまう。 元々、眠気に弱い体質であるのに、最近は夜になかなか寝付けないため、その時間になるといつ も以上に体が睡眠を欲してくるのだ。 そして今日も、誘われるままにまどろむ彼女がいた。 サラはそんな八雲の姿を目の端に捉えながら、窓の外の風景を眺めていた。舞う木の葉、窓から 入り込む風は冷たく、そして微かに薫る匂いに深まる秋の気配が感じられた。 ♪〜♪〜♪ 突然に響いたメロディに、八雲は目を覚ます。 まだ呆けたままの頭で周囲を見ると、何故かクラス中の視線が彼女に集中していた。授業中の教 師ですら例外ではない。 「塚本」 あきれたような口調で彼は、キョトンとした表情を浮かべたままの八雲に向かって言う。 「寝るのは別に構わん……とは言わんが、せめて携帯はマナーモードにしとけ」 その言葉に、一気に意識が覚醒する。慌てて座ったまま、八雲は頭を下げた。 クスクス。忍び笑いが聞こえる中、彼女は頬を恥ずかしさに染めて、携帯を取り出してマナーモ ードにする。 ふと、友が自分に向けてくる視線に気付き、八雲はサラの方を見た。その顔は微かに固く、声を 出さずにジェスチャーで伝えてくる。 『携帯を見て』 首をかしげる彼女だったが、不意に気付く。 教室中に響いたあのメロディは、サラだけが知っている特別なもの。 彼女の想い人からのメールが届いた、その時にしか鳴らない音だったということを。 はやる気持ちを抑えながらこっそりと、八雲は携帯をもう一度見る。 『話したいことがあるから、放課後、屋上に来てくれないか?』 それはやはり、播磨からのメールだった。
放課後までの数時間は八雲にとって、長くもあったし短くもあった。 彼が昨日まで、風邪で学校を休んでいたということは姉から聞いていた。その彼が、一体、自 分に何の用なのだろう。 考えれば考えるほどに、彼女は惑う。最悪の想像から最高のものまで、その振り幅は広い。だか ら心の中は荒れ狂う。 しかし少女はそれを表には出さなかった。それは元々、彼女が表情に乏しいことと無縁ではなか っただろう。現に八雲が思い悩んでいると気付いた者はいなかった。 ただ一人、親友だけを除いて。 「八雲」 振り向いた彼女を見て、サラはわずかに眉を曇らせた。普段と変わらないようでいて、しかしそ の瞳が、まるで助けを求めるかのように揺れているのに気付いたのだろう。 「大丈夫?」 「うん……」 だが八雲はその胸の内を口にはしなかった。 気丈に振舞おうとしているわけではない。彼女の前でなら、弱さをどれだけ見せても平気なはず だった。二人の間には確かに、信頼という名の絆があるから。 それでも八雲はサラに、笑って見せた。にこやかという言葉からはほど遠く、ぎこちないだけの 笑顔。 だが友は、その中に秘められた彼女の決意に気付いてくれたようだった。応じるように、慈愛に 溢れた笑みを返し、 「そっか。頑張ってね」 「うん……」 いつでも側にいてくれて、優しさを与えてくれる親友に感謝の気持ちを捧げつつ、八雲は小さく 頷いたのだった。 時計の針は、ゆっくりと、しかし確実に回り、その時が来た。 予鈴の後、授業が終わる。喧騒に包まれる教室からそっと抜け出し、八雲は屋上へと向かった。 階段を一段一段、踏みしめるようにして上がる。 歩を進めるごとに、胸の鼓動は激しく、強くなる。 屋上へと繋がる扉の前で、一度、大きく息を吸い込んで、八雲は。 ゆっくりとノブを回した。
澄んだ青い空、そして浮かぶ白い雲。 扉を開けた八雲の前に広がった世界は、とても美しいものだった。 校庭から聞こえる生徒達の声。制服の裾をはためかせる涼風。赤とんぼが一匹、目の前をよぎる。 全ての情景を、何故か彼女は、一生忘れないだろうと思った。 ゆっくりと辺りを見回し彼を探す。 ほどなく、寝そべっている人影が目に入った。ほとんど同時に向こうもこちらに気付いたのだろ う。立ち上がった彼に、八雲はゆっくりと歩いて近づいていく。 「や、ワリィな、わざわざ呼び出しちまって」 「いえ……」 彼の前に立った時、激しく打ち鳴らされる鼓動に、八雲の胸は痛んだ。 耐えるように軽く拳を握った後、彼女は見上げる。 想い人、播磨拳児の顔を。 「お嬢から聞いたぜ。風邪を引いたんだって?悪かったな」 播磨の最初の言葉は、ぶっきらぼうながら、いたわりのこもったものだった。 「……あ……いえ……もう大丈夫ですから」 一拍、間を置いてから八雲は答える。 お嬢、それが沢近のことを指していることに気付いた瞬間、一際強い痛みが八雲の心を握り潰そ うとしてきた。わずかに目を細めてそれに耐えた後、逆に八雲は問いかける。 「あの……播磨さんの方こそ、大丈夫ですか?昨日まで、寝込まれてたと聞きましたけど」 「ん?ああ、俺なら全然、平気だぜ」 言って笑った後、サングラス越しに八雲を見ながら播磨は言った。 「ありがとよ。心配してくれて」 「いえ……」 その言葉はとても嬉しかった。 なのに八雲は満たされない想い、そしてわずかな切なさを感じていた。 もう一度、彼女は播磨を見上げた。 サングラスで隠れた瞳を覗くことは出来ない。 そして彼の心の声もまた、視ることは出来なかった。
「あの……今日は……」 なぜ呼び出されたのか。 その理由を問う八雲に、播磨はああ、と答えて頬を緩めた。 「いや、妹さんに礼を言おうと思ってよ。その、何だ。天……塚本の誤解を解いてくれただろ?」 すぅ、と全身が冷たくなるのを、八雲は感じた。 何だ。 心の中で囁く自分の声が聞こえた。 そんなことだったのか。 あれほど激しくその存在を主張していた心臓が、まるで止まってしまったかのよう。脈打つ音も、 もう聞こえない。 世界は、色を失った。空の青も雲の白も消えた。 半ば凍ってしまった体と心。 八雲は乾いた唇を、微かに歪めて笑みの形にする。それは自らを嘲るものだった。 期待などしていなかったはずなのに。想いが脳裏に重く響き渡る。 播磨が自分を見つめてくれる筈などなかったのに。そんなことはわかっていたことなのに。 どうしてこんなにも苦しいのだろう。 痛みはない。ただ胸の中が空っぽになってしまって、そこを虚無の黒が満たしていく。 血が通わなくなってしまったかのように、自分の四肢が冷たくなっていくのを、八雲はどこか人 事のように感じていたのだった。 「いえ……」 強張って上手く回らない舌を、何とか動かして彼女はそうとだけ言った。 「やっぱりお姉さんはいい娘さんだよな。今日も俺のことを心配してくれてて……」 そんな彼女の心を知らずに話し続ける播磨の声が、少しずつ遠くなっていく。 結局。心の中で八雲は、自らの影と向き合い、そう囁いた。 私の惑いに、意味などなかった。 一途な人だから。姉以外のことなど見えていないのだろう。 私だけでなく、毎日のように見舞いに行ったという沢近さんのことも、きっと何とも思っていな いに違いない。虚ろな言葉を、影が発した。
「妹さんが心配してくれてるってのも、お姉さんから聞いてよ。本当にありがとな」 その播磨の言葉にも、八雲は何の感慨も感じなかった。 ただ乾ききった心に落ちて、跳ねただけ。そして虚ろの穴へ落ちていく。 姉の笑顔が、不意に脳裏に浮かび上がる。 大好きだった。いつも自分を愛してくれた。 おっちょこちょいで、早とちりなところがあって、見ていて危なっかしいと思うこともしばしば。 だがそれでも、八雲にとって天満は、頼りがいのある姉だった。 彼女が八雲を思って動く時、その行動が勘違いから始まったものであることも多かった。 だが、それは天満が一直線に八雲を愛していることの表れだとわかっていたから、素直に嬉しか ったし、幸せだった。 しかし今日に限っては、そんな姉の想いが厭わしかった。 きっと天満は、八雲のことを思うが故に、播磨に彼女のことを伝えたのだろう。もしかしたら今 日、播磨が八雲を呼び出したのも、天満の勧めに従ってなのかもしれない。 おそらく、いいことをしたと思っているのだろう。 胸の虚ろの中から声が響いた。 妹の恋を後押ししたと思っていることだろう。二人っきりで会う機会を作ってあげた、などと気 楽に思っているのだろう。 言葉が鎖に変わって、八雲の心を締め付け始める。やんわりと、しかし徐々に力強く。 姉の存在を疎ましく思い始める自分がいることに、彼女は気付いてしまった。 どんなに綺麗事を並べてみても、諦めると口にし、思い込もうとしても。 熱病は去ることなどなかったのだ。 それでも彼女は耐えようとした。 このまま、例え心が張り裂けたとしても、想いを内に留めておこうと。 一つには恐れたが故に。彼の拒絶に合うことを。 そしてもう一つの恐怖。それは口にした瞬間に、自分がどうなるかわからないということ。 全ての関係がきっと壊れてしまう。 八雲と播磨。八雲と天満。八雲と沢近。 危ういバランスで保たれていたものたちは、崩れ去る。そうなってしまえば、自分はきっとおか しくなる。
二人の間の距離は、ほんの二歩程度。彼が一歩、そして八雲が一歩踏み出せば、落ちいく太陽の 光に長く伸びた影は一つに重なるのに。 ただ、ただ遠く、遠くに感じた。そのわずかな一歩が。 「ああ、それとよ」 一言も喋らない八雲に気付いているのか、そうでないのか、播磨はわずかに口調を変えた。 どこか申し訳なさそうな彼の態度に、八雲はわずかに視線を上げて、播磨の顔を見つめる。 相変わらず、サングラスの向こうの瞳を見せない彼の表情を読むことは出来ない。 だがそれで良かった。八雲はそう思う。見えていたらもっと、傷ついたかもしれないから。 「これは噂に聞いたんだけどよ」 そんな彼女の思いをよそに、播磨は言葉を続けた。 「何か、俺と一緒にいたことで、迷惑かけちまったんだってな。あー、何だ、その……相合傘とか」 八雲の頭の中は、その瞬間、白一色に染まった。 「俺にも経験あるからな、わかるぜ、妹さん。誤解されるのって、辛いよな」 呆然と見上げる彼女を見ながら、播磨は腕を組んで頷いている。 「まあ俺が無茶な頼み事したのが悪かった。いや、すまねえな」 言って頭を下げる彼に、八雲は何も言えない。 今度こそ本当に、縫いとめられたかのように口が動かない。 「だから、ほら、俺が描いてる漫画のことなんだけどな」 言わないで。その先を。 心の叫びはしかし、言葉にならなかった。 「こんな誤解招いちまって、妹さんに迷惑かけちまったしよ。これからは他の誰かに意見を聞くこ とにするぜ」 ま、他の誰かっても、心あたりあるわけじゃないんだけどな。言って苦笑する彼は、そして口に した。八雲が恐れていた言葉を。 「今まで意見聞かせてくれて、ありがとな。何か悪ぃから、もう頼むこともないと思うわ」
目を開いているのに、何も見えなくなった。 耳は音を感じるのに、何も聞こえなくなった。 播磨との距離が、いっぺんに開いたように、八雲は感じた。 いやだ。 獣が暴れ始める。繋がれていた楔から解き放たれ、咆哮する。 狂おしい想いが、大きなうねりとなって、心の中に渦を巻く。 それは胸の中に開いた穴すら飲み込んで、流れ行く。 八雲を巻き込んで、流れ行く。 そして声が聞こえた。
『八雲がそれでいいなら、私は何も言わない。でも……本当に、それでいいの?』 サラの言葉が。 『好きってね、とっても気持ちのいいことよ。もちろん、貴方にとっては辛いことなのかもしれな い。けどそれはね、すごい力だからなのよ』 姉ヶ崎の言葉が。 『人を好きになるって、幸せなことじゃない?』 天満の言葉が。 『八雲君。あの画像の中の君の顔は、とても素敵だったよ……その想いを大事にしたまえ』 花井の言葉が。 『だから近づこうって思ったの。この気持ちが本物かどうか、確かめたかったから』 愛理の言葉が。 次々と浮かんで、消える。奔流に巻かれて、八雲は飲み込まれていく。 そして落ちていく。 心の中心に。 いつか、誓いと共に自ら閉ざした扉を、彼女はまた開いた。 そこはマグマのように煮えたぎっていた。 だが同時に、全てが光り輝いていた。紅く、綺麗に。 他のどんなものも侵すことの出来ない、その聖域にあった想いを、彼女は口にした。 「私……好きです……」
言ってしまった。 とうとう。 熱が去った後に残ったのは、思ったよりも冷静に状況を受け入れている自分だった。 燃え尽きて、灰のようになるかと思っていたのだが、そうはならなかった。 八雲は彼の前で一度、小さく息を吸い込んだ。 もう後戻りは出来ない。 好き。好き。 例え播磨さんが姉さんのことしか見ていなくても、好き。 私も、播磨さんのことしか見えない。 見えなくなってしまった。 小さな後悔が八雲を襲った。 想いを口にしてしまわなければ、彼の側にいることが出来たのに。 だがそんな考えを、彼女は振り払った。 受け入れられなくても、好きで居続けるであろう自分に気付いてしまったから。 例え側にいることが出来なくてもきっと、想い続けることだろう。 八雲は心の中で、小さく微笑んだ。 これは区切り。 しかしそれは、次へのステップではなく、想いを、好きをここで終わらせるためのものでもない。 ただの区切り。 繋がる時間の中で、少しだけ自分が変わったというだけ。 これから先もきっと、私は播磨さんのことが好き。 フラレても、好きは止められない。もしいつか、他の誰かを好きになっても、きっと、播磨さん のことは忘れられないだろう。 そして彼女は待った。 審判の時を。だが。
「嬉しいぜ、そんなこと言ってくれるなんて」 彼のその言葉が、脳裏に響いた。繰り返し、繰り返し。 八雲は耳を疑いながら、目を見開いて声をあげる。 「……え?」 嘘。嘘。 どういうこと? これって。 え? え? 混乱する八雲の耳に、次に届いた彼の言葉は。 「いやー、妹さんがそんなに俺の漫画を好きでいてくれてるなんて、全然知らなかったぜ」 どこかでカタンと物音がした。 八雲の心は、再び真白に染め抜かれた。
パチ、パチ、パチパチ。瞼を何度も開いて閉じて、八雲は播磨の顔を見る。 かわされた、というわけではなさそうだった。 彼は本気で照れている。 肩の力が一気に抜けた。ほんの数瞬の間に考えた沢山のことは、全て無駄になってしまった。 「……?そうじゃねえのか?」 八雲の様子を怪訝に感じたのか、播磨は途端に不安そうな顔になる。 そんな彼の様子が、何だかとてもおかしくて、そして可愛くて。 クスリ。八雲は笑って、言った。 「いいえ……好きです。播磨さんの漫画……」 何故か心が軽くて、なおかつとても晴れ晴れとしていて、八雲は満面の笑みを浮かべた。 それは播磨が一瞬、頬を染めて見とれるほどに、綺麗なものだった。 「続き……読ませてくれないんですか……?」 「いや、けどよ。噂が……」 「私なら……平気です……それに姉さんにもちゃんと言っておきますから……誤解しないで、って ……」 そんな押し問答の末に、八雲は最終的に播磨を押し切って、これからも漫画を見させてもらうこ とになった。 姉さん、という言葉を出したのはずるかっただろうか。八雲はふとそう思ったが、すぐに友の言 葉を思い出して打ち消す。 『神様はそんなことで怒ったりしない』 だったらほんの少しだけ、ずるい私でいるのを、許して下さい。心の中で八雲は懺悔する。 ただもうちょっとだけ、二人だけの特別を持っていたかった。 姉にも愛理にも内緒の、自分と播磨の間だけの秘密を楽しんでいたかったのだ。 だから、ごめんなさい。神様。 ずるい私でいさせて下さい。
「それじゃぁな、妹さん。これからもよろしく頼むわ」 「いえ……こっちこそ、無理を言って……」 言って恥ずかしそうに下を向いた八雲は、ふと気付いた。 二人の距離は変わらない。相変わらず、二歩分の間隙がある。 だがいつの間にか、日は随分と傾いていたらしい。 今、二人の長く伸びた影は、寄り添うように交じり合っていた。 「何だ、妹さんの友達さんじゃねーか。妹さんなら、あっちにいるぜ」 「知ってます。播磨先輩ってホント……いいです。行って下さい」 「ん?何だってんだ?」 「いいから行って下さい」 立ち去った彼と入れ替わりに表れたサラが、すれ違いざまに播磨と言葉を交わしているのを、八 雲は遠い場所の出来事のように感じていた。 普段の温和な雰囲気とは違う彼女の剣幕に、ぶつぶつ言いながらも播磨は階段を下りていく。そ の後姿が見えなくなるまで、八雲はじっと見つめていた。 「八雲」 「サラ」 声をかけられた瞬間、緊張の糸が切れてしまったのだろうか。 八雲はへなへなとその場に腰を下ろす。慌てて駆け寄ってきたサラに、彼女は少しだけ不満げな 顔を見せた。 「……聞いてたの?」 「……うん」 「やっぱり」 何となく、彼女が近くにいるようには感じていた。物音をたてたのは、きっと彼女だろう。 ごめん、と謝りしょげるサラの手を、八雲は優しく取って言った。 「ねえ、サラ……私、言えたよね?好きだって」 「うん……勘違いされたけどね」 頬を膨らませるサラの顔が可愛くて、八雲は声を上げて笑った
「播磨先輩、そそっかしいにもほどがあるよ。せっかく八雲が言ったのに」 「いいの、言えたんだから」 まだ憤り続けるサラに、八雲は穏やかに語りかけた。 「言えたことが大事だから、いいの」 そう。言えたのだから。 確かに勘違いはされたけど、『好き』と言えた事実は変わらない。 ならばいつかまた、『好き』と言うことが出来るはずだ。 「まだチャンスはあると思うから」 八雲の言葉に、サラは少し意外そうな顔をして見せた。 「どうするつもりなの?」 「……わからない。でも……」 八雲は首を振って見せるが、その顔はほころんでいる。 「好きでいる……と思う……辛くても……」 たとえ、届かなかったとしても。かなわなかったとしても。 「この想いを……持ち続けたい……」 強さを見せる彼女に驚いていたサラは、やがてにっこりと笑い、頷いた。 「うん……それがいいと思うよ」 そして八雲は瞼を閉じる。 己の内側に目を向けて、そこに確かに感じるぬくもりを、そっと撫でて言った。 「私……播磨さんのことが……好き」 それはいつかと同じ台詞だった。 結局は、元に戻ってきただけなのかもしれない。 だが。 様々に思い悩み、他人とその想いを交錯させてきたその中で、確かに自分が変わったという確信 めいたものを、八雲は感じていた。 幼かった想いは、いつしか、確かな恋心へと成長していたのだ。
「姉さん。沢近さん」 「おっ、どうしたの、八雲?」 「何か用でも?」 「あの……えっと……負けない、から」 「え?何、何が?」 「…………」 「……それだけ。じゃ……」 「ちょっと、八雲、何だってのよ〜?」 「宣戦布告ってわけ?天満、アンタの妹、なかなかやるじゃない」 少女は想いの名前すら、知らなかった。 やがて彼女は、自らの想いに形を与え、そして名前を付けた。 『好き』と。 「播磨さん……あの……」 「ん?よぅ、妹さん。何だ?」 「……月末、厳しいって言ってましたよね……だから……お弁当……」 「お、俺にか?」 「あの……読ませてもらってる、お礼です……」 「いや、お礼は俺の方がしないといけないんだが……ま、いいや。頂いとくぜ」 『好き』は時に痛くて、辛かった。 何よりも彼に気持ちが届かないと気付いた時に、心は折れそうになった。 だが。 少女は、想いを捨てなかった。 道の先が、例え険しいと知っていても。心が引き裂かれるかもしれないとわかっていても。 それでも彼女は、側に居て、彼を好きでいようと決意したのだ。 振り向かせることが出来るかもしれない。例えその可能性が低くても、一人で諦めたりはしない。 そう決めたのだ。
確かに、結論を出すのを先延ばしにしただけに過ぎないかもしれない。 だが少女は、もう少しだけこうしていたいと、そう願ったのだ。 偶然にも、チャンスを手に入れることが出来たのだから。 まだ彼と一緒にいることが出来る、というチャンスを。 いつかまた、想いを口にする日がくるのだろうか。それは彼女自身にもわからなかった。 問題は山積みのままだ。 一人一人が、それぞれの『好き』を抱えている。 満たされるものもあれば、散るものもあることだろう。 少女の想いもまた、沢山の人の想いの中の一つに過ぎない。 それでもやはり、彼女にとって、その『好き』は特別なものだった。 たとえ届かなくても、特別なものであり続けるだろう。 そして。 例え自分の想いが、どのような結末を迎えることになったとしても、少女は心に決めたことがあ った。 彼に向かって、こう言うのだ。 『あなたのおかげで幸せだった』 と。 それが彼女、塚本八雲の。 新しい誓いだった。 ――――ひとまずの休息は、新たな旅立ちへと続く……――――
418 :
クズリ :04/07/11 23:25 ID:nUoXiSLg
長い間、私の作品にお付き合いいただき、まことにありがとうございます。 これにて、連載をひとまずの終了とさせていただこうと思います。 最初の作品、『Without Me』を投稿したのが6月23日。マガジン本誌では、沢近が『少し近づ いてみよう』と言っておりました。 書き始めた当初は、本誌の連載がしばらくは旗展開が続くと思っており、また、しばらく八雲の 出番はないであろうと考えていました。 そのため、体育祭の夜に八雲は何を思っていたのか、そこに着想を得て書き始めたわけです。 まあ翌週の本誌ではもう、八雲がストーリーに絡んできて、予想は完全に外れてしまったわけで すが…… とはいえ、皆様の暖かい言葉に励まされたおかげで、完全に本誌の展開、そして『スクール・ラ ンブル』という作品自体から外れたこの連載を書き続けることが出来ました。 改めて、感想・批評を書き込んで下さった皆様に、御礼申し上げます。ありがとうございました。 このような形で連載を終了することは、書き始めた当初から考えておりました。 一つには、もしもハッピーエンドにいたるまでを書き続ければ、どれだけの時間がかかるかわか らなかったこと。何よりも連載という形式故、勢いがあるうちは良いですが、途中で力尽きて尻切 れトンボになることだけは避けたかったのです。このペースでずっと、書き続けるわけにもいきま せんし。 もう一つには、私が書きたかったことが、塚本八雲という一人の少女の成長であったということ。 恋愛音痴、と評される少女が恋を知って、どのように変わっていくかを書いてみたい。そういう野 心がありました。もっとも、成功したかどうかは定かではありませんが。 もちろん、今後もスクランのSSは書き続けます。 現在、次の作品について構想中です。連載はもうないと思いますが、何とも言えません。 次回作、それはこの連載の続きの短編かもしれませんし、本誌に沿ったものかもしれません。 何はともあれ。 ここまで私が書き続けることが出来たのは、重ねて申し上げますが、皆様の暖かいお言葉、そし て優しさに励まされてのことです。頂いた感想、そして批評によって、私自身、少しは成長出来た のではないかと考えております。
419 :
クズリ :04/07/11 23:26 ID:nUoXiSLg
やや支離滅裂な内容になってしまいましたが、これにて筆を下ろさせていただきます。 最後にもう一度、私の作品を読んで下さった全ての方々に感謝の言葉を。 ありがとうございました。 そしてまた、近いうちにお目にかかることもあるかと思います。その時もどうか、よろしくお願 いいたします。 それでは、皆様、失礼いたします。 クズリ とはいえ。 私自身、色々な意味で、この終わり方に必ずしも満足しているわけではありません。 ということで、♭−Ω、つまり最終話。 『My Graduation』 これは連載の続きかもしれませんし、本誌のIFの話かもしれません。 全ては、皆様の心の中に。
春の足音が、もうすぐそこまで近づいてきている。 今日、私達は、この通いなれた学校から旅立つ。 School Rumble ♭−Ω My Graduation 「……塚本八雲」 「はい」 はっきりと答えて私は、壇上に上った。校長から卒業証書を受け取り、私は振り向いた。 並ぶ顔、その全てを知っているわけではない。三年間、一度も言葉を交わすことなかった人もい る。ましてや、私は男の人と話すのが苦手だったから。 だけど、確かに三年という、短いようで長い時間を共に過ごした人達なのだ。それを思うと、こ みあげてくるものがある。 ゆっくりと短い階段を下りながら、私の目は自然と保護者席に向かう。 どこにいるか、見つけ出すことは出来なかった。 だけど確かに二人は、来てくれているだろう。 一年前、私は姉さんと、あの人を送り出した。 姉さんは、人目もはばからずに泣いていた。最初は沢近先輩や周防先輩に慰められていたけれど、 その二人もやがて、こらえられなくなったのだろう。三人で肩を抱き合って、思い切り泣き始めた。 一人、高野先輩だけは、涙を見せなかった。 だけど、卒業式の後、茶道部の部室で窓の外を眺めていたその横顔が、とても寂しそうだったの を覚えている。 そして、あの人は…… あれから、一年。何だかとても早かったように思う。 今、私は送り出される側となった。 そして姉さん達に迎えられるのだ。 新しい世界に足を踏み入れる高揚を、今、私は感じている。
卒業式の後は、教室に移って、先生の最後の話を聞いた。縁があったのだろうか、私の担任は三 年間ずっと、刑部先生だった。 思えば先生には、担任だけでなく、茶道部の顧問としてもずっとお世話になった。最後の一年は 私が部長だったから、言葉を交わす機会もたくさんあった。 だから、ぶっきらぼうな別れの言葉が、照れ隠しでしかないことなんてお見通し。 そして、どうされると弱いかも。 先生の言葉が終わった後、隠しておいた花束と、先生への感謝の言葉を全員が綴った色紙、そし てクラス全員で買ったプレゼント……中身は秘密……を手渡した。 「む……」 滅多に見せない驚愕の言葉を見せた後、先生は何かを言おうとして、だけど言えなかった。 天井を見上げた先生の瞳には、確かに光る雫があった。 そして私達は最後に全員で集合写真を撮った。 私とサラは、先生の両隣に並んで座った。 シャッターが下りる直前、先生は私達二人の肩をいきなり抱き寄せた。そして、小さく一言。 「世話になったね。ありがとう」 出来上がった写真の中で、きっと私達は最高の笑顔を見せているだろう。 「とうとう卒業だね」 「うん」 「色々とあったね〜」 「……うん」 サラと言葉を交わしながら、教室を出る。 彼女は高校三年を通じて、一番の親友であり続けてくれた。そしてこれからも。私達は二人とも、 同じ大学の文学部に進むことになっていたから。 「八雲とは、これからもよろしく、だね」 笑って言う彼女に、私もまた笑顔を返す。 「こちらこそ、よろしく……サラ」 そう言った瞬間、 「あ」 声を上げて、サラが指差したその先には。 姉さんとあの人が、二人、並んで笑顔でこちらを見ていた。
二人の間に何があったのか、私は詳しくは知らない。 ただ、姉さんが転校する直前の烏丸さんに想いを告げたことは知っている。そしてその想いが、 報われなかったことも。 『でもね、八雲』 涙で顔をぐしょぐしょにしたまま、それでも姉さんは笑って言った。 『私ね、言えたよ。あなたのおかげで幸せだった、って』 その笑顔は、とっても綺麗なものだったと、私は今でも思っている。 それでもやっぱり落ち込む姉さんを、必死になって支えようとしたのが、あの人だった。 フラレてからしばらくの間、毎晩のように遅くまで電話をしている姉さんの姿を私は見た。 その相手は、周防先輩や沢近先輩、高野先輩であることもあったけれど、ほとんどの場合、あの 人と話しているのだと、私にはわかった。 時には二人で出かけることもあった。 どこに行ったのか、とても気になったけれど、聞くことは出来なかった。姉さんは不器用だから、 秘密事なんて無理なのに、それでも私に隠そうとしていたから。 だから、聞けなかった。 「やーくーも!!おめでと〜」 声と同時に抱きついてくる姉さんの体を、私は受け止める。加減を知らない姉さんの勢いに、ふ らつく私の背を、あの人が支えてくれた。 「おいおい、ちったぁ加減を考えろよ」 「エヘヘ〜、だって嬉しいんだもん」 仲睦まじそうに話す二人を、私は穏やかな気持ちで見つめる。 「八雲もとうとう卒業なんだね〜。うーん、お姉ちゃんは本当に嬉しいぞ」 そういった姉さんは、薄く化粧をしている。着ている服も、大人びたスーツ。正直、すごく似合 っているとは言えなかったけれど、それはただ慣れていないだけだろう。着こなすことが出来るよ うになるのも、多分、遠い日の話ではないと思う。 「ありがとう、姉さん。それに……」 私はあの人に向き直る。 「……播磨さん」 そう呼ぶ私の口調が、少しだけぎこちなくなってしまったのも仕方ない、そう私は思った。
「おう、卒業、本当におめでとうな」 莞爾として笑うあの人に、私は精一杯の笑みを返す。 「先輩、私も卒業したんですよ?」 じっと私達を笑顔で見ていたサラが、少し拗ねたような口調で言ってきた。 「おっとそうだったな、サラちゃん、卒業おめでとう」 「うんうん、おめでと〜」 二人に言われて、サラはあっさりと頬を緩めた。 「ありがとうございます」 言って頭を下げるサラを、姉さんとあの人は、優しい目で見つめていた。 ふと私は思い出す。 あの人がサラのことを、『サラちゃん』と呼び出したのは、確か一年半前ぐらい前のことだった。 だけどあの人は、私のことを『八雲ちゃん』とは呼ばない。 「あーーーっ!!」 姉さんが唐突に上げた声に、私達は一斉に驚いた。 「ど、どうしたの?」 「そういえば、美琴ちゃん達と会う約束してたんだった〜。ごめん、私、もう行くね〜」 言うだけ言って、走り去っていく姉さんに、誰も声をかけることが出来なかった。 呆然としていると、今度はサラが、 「私も両親が来てますから、ここで失礼しますね」 一つお辞儀をして、立ち去る。後に残されたのは、私とあの人の二人だけ。 「まったく、変わらないな、塚本は」 ぼやくように言うあの人に、私は思わず笑ってしまう。 そう、確かに少しずつ変わっているかもしれないけれど、姉さんはやっぱり姉さんなのだ。 「播磨さんは、この後の予定は?」 尋ねると、あの人は、少しだけ嫌そうな顔をした。 「あのな、もう二人っきりなんだから、いつもの呼び方でいいぜ?」 そう言ったあの人が、とても愛おしくて、私はとっておきの笑顔と共に言った。 「はい……拳児さん」
姉さんと拳児さんの間に何があったのか、私は知らない。 知っているのは、拳児さんが話してくれたことだけ。 姉さんをずっと好きだった拳児さん。だけど、姉さんは烏丸さんのことを好きで、とうとう告白 もし、そしてフラレタ。 落ち込む姉さんを、拳児さんはずっと親身になって慰めていた。 下心がなかった、って言ったら嘘になるな。後で拳児さんは笑って言っていた。 そんなある日、告白しようと決意して、姉さんを呼び出したのだと言う。 だがいざ、想いを告げようとしたその瞬間、私の顔が拳児さんの脳裏をよぎったらしい。 そして気付いたのだという。 『いつの間にか、八雲の方が俺の中で大切な存在になってたんだ』 その後しばらく月日が経った後。 想いを告白されて泣き出してしまった私を、胸に抱きしめながら拳児さんはそう言ってくれた。 私達は、そうして恋人同士になった。 『妹さん』ではなく、『八雲』と呼ばれるようになり。 『播磨さん』ではなく、『拳児さん』と呼ぶようになった。 一緒に高校に通えたのはほんの半年だったけれど、それはとても楽しい日々だった。 高校を卒業した拳児さんは今も、この街に残っている。予備校に通いながら、受験勉強に励んで いたのだ。 私と一緒に大学に入りたいからよ、とは拳児さんの弁。 姉さんはといえば、まるで我がことのように、私達二人のことを祝福してくれた。 そしてそれがいい方向に向かったのだろう。今もってまだ、新しい恋を見つけてはいないようだ けれど、心に区切りは付けたようだった。 姉さんなら、いつか、いい人が見つかるだろう。私はそう信じている。 そしてきっと、幸せになるに違いない。 もっとも、拳児さんだけは、渡せないけれど。
「拳児さんの、この後の予定は?」 「いや、何もねぇぜ。そっちこそ、この後、クラスの皆と集まったりするんじゃないのか?」 「ええ……でもまだ時間がありますから……どこかに連れていってくれませんか?」 お弁当も作ってきているんです。言って私は鞄の中を見せた。 それは私と拳児さんが最初に言葉を交わした時に、食べてもらったもの。 「お、握り飯か。八雲の作るのは、上手いからなぁ」 そう、それはおにぎり。 バイク、回してくるわ。言って立ち去った拳児さんを、学校の外の道で私は一人、待っていた。 通り過ぎるたくさんの人。笑っていたり、泣いていたり。それぞれがそれぞれに、想いを抱いて、 この場所を後にするのだ。 『好きを見つけたの……そう……良かったわね』 聞き覚えのある声が聞こえた気がして、私は振り向いた。 視線の先にあったのは、美術室。ふと思い出すのは、あの場所で出会った幼い少女のこと。 『うん……見つけた……』 心の中で、私はそう呟いて。 笑った。 「どうかしたか?八雲」 振り返ると、バイクに乗った拳児さんがいた。不思議そうに見つめてくるところを見ると、変な ところを見せたのかもしれない。 「何でもないです」 笑って首を振って、私は拳児さんからヘルメットを受け取った。 「しっかりつかまれよ」 「はい」 タンデムシートに座って、私は拳児さんの腰に手を回してしがみつく。 その大きな背に体を預け、目を閉じる。暖かいそのぬくもりを、ずっと感じていたくて。 「行くぞ」 声と同時に、鳴り響くエンジン音。走り出すバイク。 そして私達二人は、一緒に風になる。
遠くに小さくなっていく高校を、私はしばらく間、眺めていた。 あの場所で私は、拳児さんに出会い、恋をした。 そしてその場所から今、旅立とうとしている。 拳児さんと、手を携えて。 私はぎゅっと、拳児さんの腰に回した手に力を入れる。 ずっと、ずっと側にいてください。 風の中で呟いた私の声は、きっと拳児さんの耳には届いていない。 だけど、それでも良かった。 大切なのは、私が拳児さんを好きだということ。 愛しているということなのだから。 もう一度、私は視線を後ろに向ける。 そして心の中で、別れを告げる。 今までありがとう。そして、さようなら。 私の高校時代。 楽しかったことも、辛かったことも、全てはいい思い出に変わっていくだろう。 いつか、笑って振り返ることが出来るだろう。 その時に、私の隣にいる人が、拳児さんであるようにと。 私はそっと願ったのだった。 ――――了――――
428 :
クズリ :04/07/11 23:36 ID:nUoXiSLg
というわけで、今度こそ、ひとまずのお別れとなります。 正直、感慨深いものがありますね。わずかな期間とはいえ、これだけ続くとは思って いませんでしたから。 今はただ、皆様にありがとうと言いたいです。 こんな私の作品に、長い間付き合っていただいたこと。感想をたくさん寄せていただいた こと。批評をいただき、参考にさせていただいたこと。 わずか18日間ですが、とても濃密な時間を過ごせたように思います。 本当にどうもありがとうございました。 それでは、このへんで。 皆様と、皆様に引き合わせてくれた『スクール・ランブル』という作品に感謝を捧げつつ。 失礼いたします。 クズリ
429 :
424 :04/07/11 23:37 ID:RWKgMOsM
>>428 フライングすみません・・・。G・Jでした。次の作品、楽しみにしています。
sageてageるEDキターーーーー GJ!!
お疲れ様です・・・そして最高でした
>>428 おつかれさまでした
八雲の心の切なさが良く伝わって中身の濃い連載でしたね
最後、大円団にしたのも個人的に好感が持てます
これからもスクランを見守って
できればまた書いてくださいね
ほんとーにお疲れ様でした
>> 428 本当にお疲れ様でした。 希望どおり、八雲のハッピーエンドで良かったです。 機会があれば、また投下して下さい。
お疲れ様でした。 コレだけ長い連載を完結させるだけでも大変なのに、 綺麗に締めるとは・・・・GJでした。 次作品に期待してます。
お疲れ様です。 これだけのクオリティを保ちつつ毎日投下し続ける その姿勢に頭が下がりました。 あなたの美しい文章は、読んでいても参考になります。 とりあえず今は、ゆっくり休んで下さいな。
>>クズリさん お疲れ様でした。 全部見させて頂きました。 楽しくもあり、悲しい時もあり、とてもいい作品でした。 八雲が笑顔で終われるような最後で良かったです。 また、クズリさんの作品が見れる日があるといいなぁと思ってます。 本当にお疲れ様でした。
>クズリさん …ああ…なんていうか…言葉が出ないや。 よかった。ただただよかったです。いままで本当にありがとうございました。そして、 これからも素晴らしい作品を期待しています。 …原作はどうなるんかな…自分はまだあきらめてはいないんだが…
>>クズリ氏 とうとう完結しましたか・・・ 思えばこの連載が始まった頃本誌の確変が大盛り上がりになっていたことを思い出します 正直自分は連載SSという形があまり好きではなかったのですが氏のSSを読み衝撃を受けました 本誌に負けず劣らずの引きと内容に次の話はまだかまだかと本誌と同様に熱中してしまいました まぁ、長文は自分も疲れるし、あまり書かないので最期に一言 あんたのSSは間違いなく俺の中で最高のおにぎりだったぜ!! 十分」な休養をとり、また素晴らしい作品を執筆されることを期待しています
439 :
Classical名無しさん :04/07/12 00:40 ID:ZVfouXYY
むはー、すっきりした! お疲れ様でした〜♪
クズリさん本当にお疲れさんでした。本当に素晴らしい作品でした。 次回作も期待して待てせて頂きます。 感動をありがとうございました。
441 :
:04/07/12 01:09 ID:c87hpEa.
>>428 お疲れ様でしたー、完結が寂しいと思える位綺麗なSS
天満と沢近が同時に出てきたときには収拾付くのかなと思ったけど余計な心配でした
耐える八雲や泣く八雲が好きだったんですけど、やっぱ笑うのが一番ですね
またここでクズリさんのSSを読めるのを楽しみにしてます
で、やっぱり他の作品のSSは秘密ですか(w
お疲れ様でした。 面白いし毎日投下してくれるしで本当に良かったです。 最後はハッピーエンドでよかった。
>>クズリさん お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
444 :
Classical名無しさん :04/07/12 02:04 ID:tryV0Ocg
ああ、やべえ。
>>クズリさん あなたの作品、とても素晴らしいものでした。 投稿される作品を読むのが日の楽しみの一つになるほどでした。 そんな素敵な作品を作ってくれたあなたに『ありがとう』
クズリさん乙です。
毎日のように俺らを楽しませてくれたことを感謝してます。
八雲の成長の物語、この難しいテーマを見事に消化してて脱帽です。
ただ
>>423 で切っちゃっても面白かったのではないかなと少しだけ思ったり。
しらけさせたならすいません。
クズリさん乙!そしてGJ!! 比喩表現じゃなく、マジで身体が震えました。
クズリさん、お疲れ様です。 最近はこの作品を見て日々のやる気を補っていました。 この素晴らしきSSに出会えたことに感謝を。 本当にありがとう。
449 :
Classical名無しさん :04/07/12 13:28 ID:68xGogSA
クズリさんGJ&乙です 素晴らしいSSをありがとうございました 少し、気になったといえば…八雲は播磨の心を見れるようになったのかなぁ… そのあたりに少し触れてもらいたかったかなと いや、もちろん見れるようになったのでしょうが
My Graduation…良かった 本編でもこんな展開があるといいな カップル投票まだ期日きてないし もうちょい頑張ってこようっと
>>400 きっと周防が消したんです。
「……どうすんだよ、これ」
机に落書きされたままの相合い傘を見て、周防美琴は溜め息をついた。
美琴が教室に来た時、既にそれはあった。先ほどまで播磨拳児が騒いでいた原因。
その仲良く並んだ二つの名前は、未だ誰にも消される事なく、この時間まで好奇の視線を集めていた。
てっきり播磨が消すと思っていたのだが、彼は塚本天満と何処かへ行ってしまった。
そしてもう一人の当事者、沢近愛理も今日は学校を休んでいる。
仮に親友に恋人が出来たと言うのなら、それは素直に嬉しい。
しかし、こういったやり方は美琴の目にはあまり好ましく映らなかった。
仕方ないな、と美琴は独りごちると、一度教室を出た。
数分後、清掃用具を持って戻ってきた美琴は、早速播磨の机を磨き始める。
改めて見た播磨の机は、彼が授業中に居眠りするせいか、涎の跡が残っていた。
他にも播磨の机はところどころ薄汚れていて、普段からずさんに扱っているのが一目瞭然だった。
気になりだすと頭から離れないもので、それを振り払うように、美琴は一心に机を拭き続けた。
およそ三十分後、播磨の机は新品同様の輝きを放っていた。
「ちっとハリキリすぎたかな。ま、いいや。あースッキリした」
そんな達成感を感じて爽やかな顔をする美琴を、扉の陰からジトーッと見つめる金髪ツインテールの姿が。
ところ変わって喫茶店エルカド。
「天満……。それはこのコよ」
「ってなんで私ー!?」
「美琴ちゃん正直に答えて! 播磨君と会ったりしてるの?」
「いや、してねーって!」
鉛筆フラグ発生。
453 :
Classical名無しさん :04/07/12 17:29 ID:Q3aVwzvE
>>クズリさん ついに終わってしまいましたね(;-;) お疲れ様でした☆本当に良かったです。 ある意味本編以上に楽しみに読んでました 残念ですけど、最後の読み終わり…心地良かったです ありがとうございました
クズリさんお疲れ様でした。 俺はあなたの連載のおかげで生きられたって感じです。 連載反対の方もいるみたいですけど またいつか長編連載してください、お願いしますぜひ。 とりあえず神SSグッジョブ!でした。
グズリさん乙です。最高にGJ!!!
さて大作も終焉を迎えてこのスレにはすっかり燃え尽きた感が充満しはじめているわけだが
個人的にちょっと疑問に感じた事なんですが、 目出たく結ばれた後の八雲には播磨の心は視えているのでしょうか。 気になります。
グズリさん、お疲れさまでした。 連載モノをきちんと最後まで完結できたのはとても素晴らしく尊敬ものです。 …王道派の自分としては最後はツマンネーと思ったけど… でもとても綺麗なSS、GJでした。
クズリさんお疲れ様でした。 ところで沢近は播磨に告白したのかな……?
クズリ氏、連載完結お疲れ様でした。 全ての話を読み返した上で、自分はこの言葉を贈ります。 「すごく良かった」 感動を有難う御座いました。
>>452 鉛筆(゚∀゚)キターッ!!
続きは書かれないのですか?
……さてさて、と。 ここのところいつもそうな気がしてきましたが、流れを無視してまったりと。 世は全てこともなし、あまり誕生日と関係ない、そんな誕生日の話。
梅雨の切れ間かそれとも終わりか、ともかく視線を上にずらしたならば、果てなく高い抜けるような青空。 気の早い蝉の鳴き声もどこか遠くから――そんな夏模様の街中を、刑部絃子は笹倉葉子と連れ立って歩いている。 「分かってはいたけど相変わらずだね」 「大丈夫ですよ。ちゃんと計算してますから」 遠回しな皮肉をさらりと笑顔で返す、そんな葉子の手の中には一枚のカード。持ち合わせがなくとも買物が 出来る、さながら現代の錬金術とも言える魔法のカードである。 「……それがどういう計算なのか、一度じっくり聞いてみたいよ」 そんなぼやきは聞こえているのかいないのか、絃子の隣には変わらぬ笑顔。こうなると、彼女ならずとも溜息の 一つくらいはつきたくなる――否、彼女だからこそその程度で済んでいるのかもしれない。 容姿は秀麗、筆を執らせれば幾多の入選作品、まさしく才色兼備を地でいくような、そんな葉子が抱えた唯一と 言ってもいい欠点。それがこの経済観念のなさである。最近でこそ自宅配送が幅を利かせてきたものの、一昔前なら 両手一杯の荷物に埋もれる姿、などという事態も決して少なくなかった。 とは言え、絃子の方も口で言うほど心配しているわけではない。少なくとも長年の付き合いの中、金銭面で誰かに 泣きつく彼女の姿は見たことがない。もちろん、知らないところで何が起きているか、など文字通り知るよしもなく、 褒められた行為でないのは確かなので、事あるごとに口は出している訳なのだが。 「やれやれ。君と付き合う男は苦労しそうだ」 そんな渾身の言葉も―― 「そうですね」 ――あっさりと避けられる。 「……あのな、葉子」 他人事じゃないだろう、と言いかけたところを、今度は逆に返される。 「ところで」 思わせぶりな間を空けてから、葉子は言う。 「刑部さんの方はどうなんですか?」 「……どうもこうもないよ、君も知ってるだろう?」 返事をしつつも、こういう話題のすり替えを素でやっているんだから、と内心苦笑する絃子。相手の反応まで 織り込んだ上で、理詰めでやりこめる彼女からしてみれば、やりにくいことこの上ない相手。もっとも、そんな 関係がどこか心地良いのもまた事実。
「もったいないですよね、それって。刑部さん、こんなにいい人なのに」 「そんな大したものじゃないよ、私は」 初めて会ったときから変わらない、その葉子の評価。学生時代、どこか一匹狼然としていた自分を拾ってくれた その言葉、以来幾度それに助けられたか――そんなことを思いつつも、面と向かって言わない主義の絃子は軽く 肩をすくめて否定してみせる。 「いえ、私が勝手にそう信じてるだけですから」 だから刑部さんにも否定させませんよ、と微笑む葉子。 「まったく……言ってくれるね、君は」 本当に変わらないと、そう思う絃子。肝心なところでピンポイントに的を外さない言葉と目。人徳とはつまり、 そういうもののことを言うのだろう、などと考えてしまう。 「ま、あまり褒めるとさすがの私も調子に乗るからね、ほどほどにしておいてくれ。それに」 立ち止まる絃子。そう、今日の本題は。 「忘れてるかもしれないけどね、今日は君の誕生日なんだよ」 「いくらなんでもそれくらい覚えてますよ」 少し前を歩いていた葉子が振り向いて、もう、と腰に手を当てて怒った振りをしてみせる。 「でも、別に誕生日だからって特別にしなくてもいいと思いますよ。私は刑部さんが付き合ってくれるだけで 十分楽しいですから」 ぴん、と右手の人差し指を立てて言ってから、くるりと身をひるがえし、小走りに駆けていく。
「……葉子」 確かに言われてみれば、何も誕生日だからといって特別な日にしなければならない、という決まりはない。 そして何より。 「――」 視界の中では、一軒の喫茶店の前で立ち止まった葉子が、身振りで早く、とやってから店内に入っていく。ドイツ語 で『遺産』と銘打たれた由緒あるその店は、彼女の行きつけの一つでもある。 「はしゃいでる、と思っていいのかな」 いつからか習慣になっている、月に数回の彼女との外出。今日もまた、お決まりのそれと同じコースを辿っている ものの、絃子からしてみると、やはりその様子は普段とは少し違う。 「――ならまあ、いいか」 口の端に笑みを浮かべながらそんなことを呟いて、店内に消えた友人の背中を追って、絃子も古めかしい雰囲気を 漂わせたその入り口にたって、中へと足を踏み入れる。 引いたドアにつけられた鐘が、遠く聞こえる蝉の声をバックに、からん、と澄んだ音を立てた。
誕生日は全体的に、このまったりしたズレた感じでいこうかと思いつつ。 >456 も然り、と思うわけですが、ロートルとしては百、という分かりやすい目標もあり、 書きたい、ないし書いてないこともあれこれで、ぼちぼちと行きたい所存です。 例によって例の如く萌えませんが、その辺は目を瞑っていただけると……
>>461 一発ネタのつもりで投下してたんですが、続いたらどうなるんでしょうね。
「とにかく播磨と私はなんでもないんだ。大体、どっからそんなハナシが湧いて出たんだよ」
「ふぅ〜〜ん、そう。美琴ってなんでもない男の机をあんなに綺麗になるまで拭いてあげるんだ〜?
机の横、裏面、脚まで丁寧に何十分もかけて拭いてたじゃない?」
「なっ!? お前見てたのか?」
「……!!!(しまった!)」
言い争いになる沢近と美琴をよそに、塚本天満は頭の中で必死に考えをまとめていた。
(愛理ちゃんは播磨君の事が好きで、でも美琴ちゃんも播磨君の事が好きで、
播磨君と美琴ちゃんがつきあってて、美琴ちゃんが播磨君の机を拭いてて、え〜と)
そこまで考えて(事実を捏造して)、天満は今朝の出来事を思い出す。
(そういえば、朝教室に来たら落書きがされてたんだよね。あれ見て、愛理ちゃんと
播磨君がラブラブだと思っちゃったんだっけ。で、それを美琴ちゃんが消してて、
愛理ちゃんはその事を知らない。オマケに愛理ちゃんは美琴ちゃんと播磨君の仲を
知ってて身を引こうとしてる。ここで相合い傘の事愛理ちゃんに教えても、可哀想なだけだよね)
暴走する思考回路。ミニマムクラッシャー塚本天満、勘違いモード発動中。
一方、覗き見してた、されてた事がばれた二人はなんとなく険悪ムード。
しかし美琴の側としては、先にどうしても机の件に関する誤解だけは解いておきたくて口を開く。
「…あのよ、沢近。これだけは言っとくけどさ、私が机を拭いてたのは」
「ダメッ、美琴ちゃん!! それは言っちゃダメだよ!!!」
ああ、やっちゃった。ものすごい剣幕の天満に気圧される美琴。
沢近も深刻そうな天満の表情に、只事ではない何かを感じ取る。
「……だ、そうだけど。どうなの、美琴『ちゃん』?」
「え、いや……」
絶対に言っちゃダメ。無言の圧力。美琴の目を見る天満の顔には今までにないくらいの鬼気迫る迫力があった。
一体、何がマズいと言うのだろう。わからない。でも、これは言っちゃいけない事なんだ。少なくとも天満はそう思ってる。
「…ゴメン、沢近。やっぱり、それは言えない」
「……。 ………………あ、そう……」
泥沼。
>467 沢近は机のラクガキを知らないで、誤解してるのか(w 逆に、ラクガキの内容を知っていたほうが「美琴はラクガキの内容が 気に入らなくて、わざわざ消したのね!?」と誤解が加速しそうだが。 ・・・・・・・・・・・は!? まさか相合い傘のラクガキを書いたのは沢近自身!?
>>468 そういう展開もありますね。
自分の場合、天満を絡ませたくてこうなったんですが。
やっぱり大勢でいるシーンですから、三人以上で話させようと思いました。
万が一沢近本人が傘書いてたら、旗派は嬉しくて転げ回りそうですがw
一応言っておきますと、レスに応じて即興で作っていて
シリーズものじゃないので続き読みたい方には申し訳ないですが、多分書きません。
>>466 お疲れ様です。
ネタを振る側の立場上、感慨に浸ってばかりもいられないので……
場の空気とか考えると難しい部分もありますけれどね。
なんでもないやり取りのお話もいいですが、これから盛り上がっていくのかな、と
思っていただけに続きが気になったというのが素直な感想です。
それにしてもこの二人の過去は謎ですね。いつか明かされるんでしょうか。
今思い出したんですが、限定版で過去話が明かされたんでしたっけ? 持ってないので知りません。
雑談は他でやってくれよ。あと書き込み過ぎ。 ただでさえコテで目立つんだから気を使ってくれ
>>470 >雑談は他でやってくれよ。
すみません、自分でも気づいてませんでした。
>あと書き込み過ぎ。
書き込みはこれでも控えているくらいですが、まだ抑えが足りないようですた。
以後、注意します。
>>472 気にすること無いと思うぞ雑談っつても別に俺は気にならなかったし
まぁなんつーか
>>471 はただの自治厨だろ
ほかでやるほうが明らかに迷惑だろ ここはSSを投下して感想を書くだけのスレだとは思わない
>このスレッドは、そんな“スクランSSを書きたい”と、思っている人のためのスレッドです。 1より抜粋 厳密に言うと読んで感想だけですらスレ違いだが・・・ まぁSS書いたり読んだりのついでの会話は別に変でもないのではないか? スクランから脱線してたらよそへお願いします、はわかるけど
SSと感想だけでいいんじゃないの
なにごとも(´・ω・`)ほどほどに
SSを書くためにネタの整合を確かめるためなら構わないと思うけどな。
あくまでも程々にが前提だけど。
同板に「二次創作支援スレ」があるんだから、そこで聞くのもいいと思うけどね。
>>470 絃子と葉子は過去に先輩後輩の間柄だったらしい。
それがいつの頃なのか、どちらが先輩なのかについてはまだ明らかになってません。
480 :
空振り派 :04/07/13 22:43 ID:6FLLxMN.
“スクランSSを書きたい”と、思っている人のためのスレッドなので、 新参、古参を問わずSS作品、作品に対する感想や感想に対する意見など、 またはSS作者への支援も含むと思います。 コテハンは風当たりも強くなりますが、それだけ他人の意見を受け止める 覚悟も持っていると思うのでめげずに頑張りましょう。 ということでひさびさに投下します。 今回は麻生メインです。
「広義ー」 「母さん。町内の会議があるから、お父さんと二人で店番よろしくねー」 階下から母の声が響き渡る。 「ちっ。せっかくの休日なのに、またかよ……」 うちの家業はラーメン屋。父と母の二人で店を切り盛りしている。 家計はいつも火の車。従業員を雇う余裕も無い。 だから、他所の中華料理屋でバイトなんかしているわけだが……。 自分の遊ぶ金くらい、自分で稼がないとな。 休日はさらに客が少なく、ほとんど日がな一日テレビを見ているだけなのだが、 それでも店を開けないわけにはいかないらしい。 父は椅子に座って競馬新聞を広げている。 「おっ。今日は中央競馬のGIレースじゃねぇか」 「広義。ちょっくら行ってくるから、あとは任せた」 「あ、ちょっと。父さん!」 行ってしまった。いつもこうだ。まったく……。 競馬で金捨てるくらいなら、俺に小遣いくらいくれよな。 一人ふてくされていると店のドアが開いた。今日初めてのお客さんだ。
「いらっしゃい」 「よぅ。アソー」 クラスメイトの菅柳平だ。休日の常連はコイツくらいしかいない。 「いつもの頼むぜ。しっかし、相変わらず不愛想だな」 「ほっとけ。しかし、お前もあきんな」 「ココのラーメンはうまいからな」 そう。うちのラーメンは他の店と比べても遜色ないと思う。 昔から飽きるほど喰わされてきたが、うち以外のラーメンを美味いと思ったことは ほとんどない。それでも繁盛しないのはなぜなのか? テレビの取材でもあれば行列ができるかも知れんが、こんな薄汚い店じゃな……。 「はいよ。みそラーメン一丁」 「おぅ、サンキュ」 コイツもせっかくの休日にうちでラーメンを食べながら、日がな一日漫画を読み ふけっている。他にやることはないんだろうか。 ――ジリリリリン カウンター横の電話がけたたましく鳴り響いた。
「はい、こちら昇竜軒です」 「醤油ラーメン。百人前お願いしまーす」 「……サラだろ」 「さっすが、先輩。ばれちゃいましたか」 顔は見えないが、声で一発でわかる。という前に百人前なんて作れるか! 「冷やかしなら切るぞ」 「あん。待ってください。今日、買物に付き合ってくれるって約束したじゃないですか」 そんな約束したっけ? うーん……。 「もー。そんなことじゃ、女の子に嫌われちゃいますよ」 「すまんが、今日は店番を頼まれてるんでな」 「む。私とラーメン、どっちが大事なんですか?」 「無茶言うなよ。うちも客入りが少なくて大変なんだ」 「もう結構です」 ガチャンと大きな音を立てて電話が切られた。不意打ちに耳がキーンとなる。 ったく、何怒ってんだよ……。 調理場へ戻ろうとすると菅がこっちの方をのぞいていた。 「今の例の1−Dの子だろ?」 「あぁ、なんか約束があったらしい」 「女の子よりラーメンを取るなんて、ひどいヤツだな」 お前に言われたくはない――。 「しかし、暇だな……」 「安心しろって俺がずっと居てやるから」 そう言われてもあまり嬉しくは無いが、まぁ誰もいないよりはマシか。
時計の針が12時を回り昼になった。相変わらず客はコイツしかいない。 「アソー。塩ラーメン頼む」 「朝も食っただろうが。もう呆れてモノも言えんな」 「そう言うなよ。俺は客だぜ?」 コイツの食生活は間違いなく偏ってるな。 ふいに店のドアがガラガラと音を立てた。 「いらっしゃい……って、周防か?」 あまりにも意外な来客に目を疑った。 「よっ。高野が昼はラーメンにしようって言ったからさ」 「それにしてもラーメン屋ってホントだったんだな」 そのあとに続けて塚本、沢近、高野が入ってきた。 高野がなんでうちのこと知ってるんだ? まぁ、何はともあれ団体客はありがたい。 「ご注文は?」 「じゃあ、あたしは豚骨」と周防。 「ねぎ味噌チャーシュー」と塚本。 「醤油」と高野。 「ラーメンって何?」と沢近――。 『食べたこと無いのかよ!』周防とセリフがハモった。 んー。とひとしきり悩んだ挙句、沢近は「海鮮?」と何故か疑問形。 見事に意見が分かれたな。 麺をゆでながら、ラーメンの具を炒める。俄然忙しくなってきた――。 ガラガラガラ、さらに店のドアが開いた。
播磨と烏丸? 何だこの組み合わせは――。 「珍しいな。播磨がうちに来るなんて」 「バイト代が入ったからよ。コイツにカレーをおごってやろうとしたら、てん……」 「塚本達が入っていく姿が見えたからな」 コイツら仲良かったのか? 「それはいいが、うちにはカレーなんて置いてないぞ」 「おっ。あれが良さそうだな。ドラゴンラーメン頼むわ」 「はいよ。烏丸は?」 「カレーラーメン」 「だから、置いてないって――」 と断ろうとしたが、烏丸の視線はじっと店の奥の方を向いている。 「カレーの匂いがする」 視線の先は……。自宅の台所か。 あぁ、そういえば昨日の夕飯の残りがあったな。 「よく気が付いたな。じゃあ、特別に作ってやるよ」 とは言ったものの一人で何種類ものメニューをこなすのは難しい。 なんで皆違うメニューを頼むんだ。作るのが大変なんだよ。嫌がらせか? 調理場に戻ろうとすると店のドアに人影が。 なんなんだ。今日は――。
「学生の身で家の手伝いとは感心、感心」 刑部先生……と笹倉先生だ。 「とりあえず、生ビールを二本頼む」 笹倉先生は周囲を見回している。 「あなたたちは飲んじゃだめよ」 真昼間から……。うちは居酒屋じゃないんだが。 しかし、これじゃあ手が回らんな。 「菅、暇だろう。手伝え」 「ほいきた」 今日ばかりはコイツがいて良かった。おかげでオレは調理のほうに集中できる。 そうこうしているうちに今度は西本、冬木、今鳥がやってきた。 「なんだお前らまで」 「ワシらの情報網をなめてもらっては困るダス」 ビシっとポーズをキメる西本。続いて冬木が眼鏡を光らせた。 「今宵、刑部先生と笹倉先生が酒に酔って頬を染めるという」 「これを見逃さずにいられようか!」 まだ昼だけどな。今鳥は周防を見つけて一目散に駆け寄っていった。 「あ、ミコち〜ん」 「げっ、今鳥」 頼むから飯食ったらとっとと帰ってくれ――。 さらに西本の連絡を聞きつけてやってきたのだろうか。 続々とうちの学校の男子生徒が集まり、すぐに店内は一杯になった。 店の外には行列までできている。 あぁ、もう目が回りそうだ――。
気が付くと時計の針は5時を回り、やっと客も片付いた。 ……ふぅ。おしぼりを額にあててゆっくりと腰を降ろす。 台風のような一日だったな。いつもこれくらい繁盛してれば、うちの親も苦労 しないんだろうけどな。 ふと見るとまたドアに人影が……。 おいおい、もう勘弁してくれ――。 今日はもう店じまいだ。と言おうとしてドアを開けると……。 そこにはサラが立っていた。 「先輩。繁盛しましたか?」 「やっぱり、お前の仕業か……」 「へへへ。こんなにうまく行くとは思わなかったんですけど」 いたずらを見つかった子供のようにぺろりと舌を出す。 「余計なお節介しやがって。死ぬほど大変だったんだぞ」 「それは私の約束を破った罰です」 まるで悪びれる様子も無い。 「すまんすまん。ま、ありがとな」 「じゃあ、来週は絶対ですよ?」 やれやれ、コイツには逆らえないな――。
488 :
空振り派 :04/07/13 22:48 ID:6FLLxMN.
完了です。 麻生はいろいろと苦労してそうですね。 サラはやっぱり、ほのかに黒いのがいいです。
乙。なんかこういうのマガスペのスクランっぽくて好きだ。
まあ正直サラが電話切った時点でオチ読めちまったな でもおもしろかった
「ときに拳児君」 「なんだイトコ」 「私が…結婚すると言ったらどうする?」 「…は?」 「だから私が結婚すると言ったらどうするかと聞いてるのだよ」 「イトコが結婚?…世の中には物好きもいるんだな」 「いや、仮にの話なんだがね」 「なんだアテがあるわけじゃねーのか…そうさなぁ、やっぱこの部屋は出ねぇとダメか」 「……」 「???どうしたイトコ?」 「やっぱりあの約束は覚えてないのか…」 「ん?何か言ったか?」 「まぁ子供の言ったことだしな…何でもない、忘れてくれ」 「…なんだそりゃ」 おしまい。
どーでもいいけど、最近保管庫が更新しないね……。
まあどうでもいいってこたぁねーがな
管理人変わったからかな
BS‐iのリンク貼りたい
>491 ニヤニヤが止まりません。やってくれるぜ絃子先生。
>>498 あんたもIDにCS入ってるし(ry
BSとかCSとか電波系のスレだったら神だよ…
マスター春原氏は、20日まで仕事で北海道へ出張だそうです。 それまでは更新出来ないと仰ってました。
申し遅れましたが、気を遣って下さってありがとうございます。 限定版の情報もわざわざ教えていただいて、多謝です。
「こういう恰好はあまり性に合わないんだけどね……」 姿見の前で一人ぼやくのは、刑部絃子。そこに映っているのは、きっちりとスーツを着込んだ 自分の姿。どちらかと言えばラフな服装が多い彼女にしては、確かに珍しいことである。 「まあ、仕方ない。大事な式典だしね」 それに、ともう一つの理由は口にせず、そのままバッグを片手に玄関へと向かう。そして家を 出る前に居候に一言。 「それじゃ私は先に行くが、まさか今日は遅刻するんじゃないよ?」 「るせぇ。それくらい」 「分かってるならいいさ。何せ今日は君の――」 言いかけた絃子の脳裏を、刹那の瞬間に数多の光景がよぎる。これじゃまるで走馬燈じゃないか、 などと縁起でもないことを考えて苦笑しつつ、続く言葉を告げる。 「――卒業式なんだからね」 HeartBreaker, or CrossRoad
爽、と緩やかな春の風が吹き、絃子の長い黒髪を揺らす。彼女の視線の先、眼下の校庭では生徒達の 喧噪が止むことなく続いている。 証書を持って記念写真を撮る者、後輩からだろうか、抱えきれないほどの花束を受け取っている者、 何が楽しいのか――むしろ特に意味はないのだろうが、歓声とともに校庭を駆け抜ける者。各人各様、 その行為は様々であるものの、その意味するところはただ一つ。 「思い出作り、か」 そんな光景を屋上から一人見下ろしつつ呟く。どんな些細なことさえ、重ねられた時の果てにかけがえ のないものに変わることを知っている者として、その表情は柔らかい。 「いのち短し、だ。恋とは言わず、人生は謳歌するべきだよ」 なあそうは思わないか、と。背を向けたままで階下へと繋がっている扉の向こうに声をかける。 「知るかよ、んなこと。ったく、こんな分かりにくいとこにいやがって……」 ぶつくさとこぼしながらそこから現れたのは、目下の所彼女の居候たる播磨拳児。どうやらずいぶんと 彼女のことを探し回ったらしく、いささかげんなりとした表情。 「いいじゃないか、それくらい」 そこで振り返る絃子。今度は風ではなく、その動きによって長い髪が後を追って回る。 「君はちゃんと私を見つけてくれたんだ、問題ないだろう?」 にやりと笑う。それは、結局一度も打ち負かすことの出来なかった笑み。思えば、いつもそれにやり込め られていた気がする、と振り返る拳児。 そして、そんな彼の心中を見通しているかのように、絃子は淡々と言葉を紡いでいく。 「ようやく君も高校卒業、か。思えばいろいろあったね……ロクでもない思い出ばかりで、おかげで私には 一生忘れられそうにないよ」 うん、まったくだ、と誰にともなく言って肩をすくめる。 「さて、君はどうかな? これからも私のことを忘れずにいてくれるだろうか」 「絃子、お前」 「『さん』をつけろと前から言っているだろう……まあ、今はいいとしようか」 呆れ顔でそう言ってから。
「――出て行くんだろう?」 拳児の目を真っ直ぐに見据える。それはもう、問いかけというよりは確認に近い、そんな一言。 「……知ってたのか」 「……あのね、拳児君。一応一つ屋根の下に住んでいるんだから、知ってるも何もないだろう。そもそも、 君が私に隠し事なんて出来ると思っていたのかな?」 そして、またあの笑み。こうなると、もう拳児としては『はいそうですよ』と答える他ない。 「お前、その性格絶対何とかした方がいいと思うぜ」 「結構、余計なお世話だよ。さてそれで、だ。わざわざ今日、ということは、やはりもう明日すぐに、 ということかな」 「……ああ。だからよ、コレは返しとく」 言葉とともに拳児が放ってきたのは、彼女の家の鍵。片手で受け取ったそれを見て、ふん、と小さく笑って から、今度はそのまま投げ返す。 「おい、どういう」 「私からの餞別だ、受け取っておいてくれ」 「……絃子」 「そうそうひよって戻ってこられても困るけどね。ま、たまには顔くらい見せに来てくれ」 それくらいは別に構わないだろう、と呆然とした風の拳児に笑いかける。それは、今まで彼が見たことの ないような――否、そうではない。 「その程度にはウチは君の帰る場所で、私は君の家族だと、そう思っているんだが――」 ずっとずっと遠い昔、まだ彼が無邪気に彼女の後をついてまわっていた、そんな日々の記憶。 「――それともこれは自惚れかな? 播磨拳児君?」
「……ぇよ」 「ん? 聞こえないな、もう一度言ってくれるとありがたいんだが?」 「……ねぇよ」 「拳児君、君は肝心なところで」 「だからんなことねぇって言ってんだろうが!」 これ以上ないくらいいつも通りに乗せられて、最後は肩で息をするほどの大声を出した拳児。 一方の絃子は。 「そうか、それはよかった」 にやにやと笑う。してやったりの表情だ。 「――こんなところかな。あまりいじめるのも可哀想だしね、それに」 小さく振り返り、フェンス越しに校舎の入り口に佇む一人の少女を見る。 「君の連れも待っているようだしね、早く行ってやるといい」 「っ……わーったよ」 一瞬何かを言い返そうとした拳児だったが、結局諦めてそのまま背を向けて階下への扉を開き――そこで 動きを止める。 「世話になった」 「なに、可愛い君のためだ。迷惑だなんて思ったことはないよ」 そんな軽口にも、今度は乗らずに言葉を返す。 「絶対に、忘れねぇ」 「ああ、期待してるよ」 そんなやりとりを最後、扉は再び閉じ、彼の姿は屋上から消える。
「……約束、か」 その気配が完全に感じ取れなくなってから、絃子はフェンスに背中を預けて言葉を放つ。 「私の知ってる『播磨拳児』という男はね、喧嘩はするわ肝心なところで抜けているところがあるわ、相当に ロクでもないヤツだよ」 本当にそうだ、と思う。 「それでもね、不思議と昔から私とした約束は守ってくれるんだ。だからね」 ――だから。 「『絃子姉ちゃん』としては、それくらい信じてあげるよ」 それくらいはね、と最後にもう一度呟いてから、身体を起こして校庭を見やる。 そこには、ちょうど校舎から出てきて、待っていた少女と連れ立って歩き出す拳児の姿。 その姿が、振り返って校舎の屋上を見上げようとして――結局何もせずにそのまま去っていく。 「それでいい」 それを見て絃子は笑う。 世界に不満など何一つないというように。 「君は君の道を歩いていけばいい」 そう言って絃子は笑う。 世界は幸福で満ちているというように。 「そしていつか」 そして絃子は―― 「その道が私の歩く道ともう一度交差するのを願っているよ」 ―― 一粒だけ涙を流して、笑う。 それでいい、と。 「……さて、それじゃ私も歩き出そうとしようか」 刑部絃子が生きるべき道を、心の中でそう呟く。 「彼が帰ってきたときに笑われないようにしないとな」 それまでさよならだ、そう言い残して屋上を去る。
――無人の屋上。 春風に乗って、ゆらゆらと舞っていた桜の花が、気紛れにそんなところにまで吹き上がり、 やがてゆっくりと舞い落ちる。 季節は春。 別れと、そして新しい出会いの季節。
久々に会話SSSの方がいらっしゃる、とあっさりさっくり感化され、絃子で播磨な卒業式。 出待ちの少女はご想像にお任せします、ということで。
GJ! いつもながらしんみりするSSを書かれますね。 絃子さんの雰囲気が切ないです。姉萌え派の自分としては泣ける展開でした。 だがそれがまた(´∀`)イイネ
なんて言うのかな 読み終えた後、「上手い…」という感想しか思い浮かびませんでした 絃子さんの台詞が凄く自然ですね
511 :
Classical名無しさん :04/07/15 01:21 ID:gSe0CZ4.
なるほど、出て行くとはそういうことだったのデスネ! てっきり天馬にフラれて傷心の旅に出るのかと思ってましたが… 本当「上手い…」です。
>>クズリさん 完結おめでとうございます。 質の高いレベルの文章ながらも、速いペースで更新し続けていたことは本気で脱帽です。 最後も、ありふれていた形を、「王道」といった感じで占めることが出来たのもすごい。 次回作、楽しみにしています。 しかし、やっぱり、ID:qmlfIyEQさんは上手い。 情景描写とちょっとした所作の表現とか、見習いたいところがたくさんある。 GJでした。
514 :
Classical名無しさん :04/07/15 19:13 ID:vXRG4.EA
はじめまして。 SS初挑戦です。
耳を澄ますと、小鳥の囀りが聞こえる。 窓から差し込む柔らかな木漏れ日と、階下から漂ってくる、朝食用のパンが焼ける香ばしい香りが、緩やかに覚醒を促す。 「……朝に、なっちゃったわね」 私はそう呟くと、十分な睡眠が得られずに、不満気な声を上げようとする自らの体に鞭打ち、半身を起こした。 体が重い。 ……使い古された表現ではあるが、恰も自分の……よく馴染んだ沢近愛理の体ではないようだ。 それほどまでに違和感を感じる。 「予想はしていたけれど……やっぱり体は正直ね……ここまで眠れないなんて」 普段は滅多に口にすることの無い独り言を繰り返している自分に気が付き、思わず苦笑する。 ――精神が大分参っているハズなのに笑えるなんて……ホント、人間の体って良く出来ているわ―― 空元気だということは分かっている。 そして、それも長くは続かないであろう事も。 ――私……こんなに弱かったかしら―― 予想通りに押し寄せてきた涙腺への刺激に耐えられず、思わず俯く。 お気に入りの毛布が濡れてしまうのも忘れ、私は静かに嗚咽を漏らした。
きっかけは、クラスメイトであり、親友でもある周防美琴の言葉だった。 「播磨ってさ、塚本に惚れてるんじゃねーか?」 これから始まる気だるい午後の授業に対し、ささやかではあるが鋭気を養おうと、いつものように四人で机を囲んでいた昼休みのことだ。 「ほえ? 何で? どして?」 唐突な振りに、真っ赤になって過剰な反応を見せる、同じく親友の塚本天満。 同様に私は、自分の体もびくっと反応するのが分かった。 「だってさー、そう考えないと、辻褄が合わないんだよなー」 組んだ手を頭の後ろに回し、仰け反った姿勢を取りながら美琴は言う。 「一応あいつは不良だろ? 一般的に考えて、あたしらといる時間が長すぎないかなーってさ。 どこにでも付いて来るし。 ……それに普通不良ってのは、もっとこう、硬派なものなんだろ?」 「あら、別に普通じゃない? 今時の不良は、自分の体裁や格好よりも、連れている女の子がステイタスだって聞いたわよ」 私は美琴の目を見ずに答えた。 「……お前な、暗に自分を褒めるような発言はよしといたほうがいいぞ」 「私だけじゃないわ。あなたも含めて皆よ」 私は自分の容姿に少しばかり自信を持っている。 それは単に生まれながらのものではなく、自分を綺麗に見せようと、精一杯の努力をしているという自負から来るものだ。 美琴はそういう私の性格を理解しているのだろう。 それ以上の言及はしてこなかった。
「……でも、どうして天満なワケよ?」 取るに足らない冗談だと思って流すことも出来た。 しかし、自分自身が一抹の不安を抱えていたからであろう ――私は思わず尋ねた。 「そうだよ美琴ちゃん、急に言われたらびっくりするよ」 横では、天満が少し頬を染めて困ったような顔をしている。 ――何? その反応は! いつも烏丸君の事しか頭に無いくせに―― 無意識に首をもたげようとする私の中の黒い衝動。 自虐的にも残酷な夢想を繰り返し、結果として膨れ上がってしまった、親友に対する汚らわしい嫉妬…… 思わずカチンときてしまう頭を落ち着けようと、冷静に美琴の言葉を待つ。 「いや、何となくだよ。けど、塚本の方を見てることが多いのは、気のせいじゃないな」 「それは……」 反論しようと言いかけた言葉を、私は飲み込んだ。 ――皆、怪訝そうにこっちを見ている……下手に食い下がれば、疑念を持たれるだけだわ――
私は、自分の胸に芽生えた恋心を、未だ誰にも言えないでいた。 別に、初めから隠そうとしていたわけじゃない。 自らが親友と認める相手に、隠す必要も無い。 以前の自分ならば、アイツに惚れたことを自分のプライドが許さず、それ故にひた隠しにしていた可能性はあった。 しかし、そんなの関係ない。 恋心っていうのは、プライドとかそんなものには束縛されないということを、現在進行形で理解している。 ただ、アイツが好きなのは、自分じゃないかもしれないということは考えていた。 好きであって欲しい。 あの時の告白が、何の間違いでも無く、自分に向けられたものであって欲しい。 ただそれだけを願った夜が幾晩あっただろうか。 自分の気持ちが傾いたことを自覚した去年の体育祭以降、何度かそれとなくアプローチを試みたりもしたのだが、まさに暖簾に腕押し状態。 鈍感なのか、分かっててはぐらかしているのか…… アイツが天満のことをよく見ていたのも知っている。 何とも思ってなかった頃は気が付かなかったのに、いざ注目してみると、アイツの目が自分を見ていないことに気付かされる。 それが、堪らなく哀しい…… それでも、天満よりは自分の方が女性として魅力的よねなどと、根拠の無い自信で自らを取り戻そうとしたこともあった。 ……恋に理屈や一般概念は通用しないことを実体験しているはずなのに、楽観主義な希望的観測はしてしまうパラドックス。
「と、とにかく! 美琴も変な話題で気分悪くさせないでよね!」 沈黙に気付き、赤面しているのを悟られまいと、殊更大きい声を張り上げてしまった。 「わ、悪かったよ……」 なんでそんなに怒るんだとごにょごにょ言いながら、美琴が頭を掻く。 ――これで何とか凌げたわね―― 思わず安堵のため息を吐く。 これも、情けないけどちっぽけなプライド。 アイツの想い人かもしれない天満には、まだ聞かせたくない自分の本音――
「……困るよ」 俯いた天満が搾り出した。 「は?」 「……だって、私は烏丸君のことが……」 ――あぁそう。あなたはそれしか言うことがないの―― か細い声を絞り出すようにして訴える天満。 同性の私から見ても、はっとするほど「可愛い」表情。 さっきも感じた、思わず自己嫌悪に陥りそうな醜い嫉妬。 ……視界がさまざまな想いとなって、一瞬のうちに錯綜する。 そして…… 瞬間、自分の中で大切な何かが砕ける音がした。 「いい加減にしなさいよっ!」 両手で机を思い切り叩き付け、立ち上がっていた。 教室中の視線が集まっているのにも気が付かず、天満の胸倉を掴んでいた。 「ええ、あんたは彼のことを考えていればいいでしょうよ。 だけど、あんたのことを好きかも知れない誰かさんは、それを聞いてどう思うのよ。 惚れた相手にその気持ちまで迷惑がられて……答えなさいよっ!」 「お、おい……沢近、落ち着けって」 よほど激昂していたのだろう。 美琴が青くなって掛けたとりなしの言葉も、ただ頭の中を通り抜けていくだけだった。
「可哀想じゃない……気付かないの? 馬鹿なりに一生懸命あんたのコト想って……傷ついて……」 涙が頬を伝うのが分かった。 人前では決して見せまいと思っていたのに…… 「沢近……お前まさか……」 美琴の目が驚愕で見開かれている。 そして…… 「愛理ちゃん……」 全てを理解した顔だった。 そして、天満の目にも涙があった。 私はそれを見て、全身の力が急速に抜けていくのを感じた。 「……馬鹿みたいね。完全に独り相撲だわ」 天満に背を向け、呟いた。 帰ろう. ……少なくとも今日は、このクラスの誰とも顔を合わせたくない。 涙を理由に、哀れみの目で見て欲しくない。 ……例え理由は分からないにしても。
「……早退する」 鞄を掴んで、走った。 文字通りに逃げる自分が許せなかった。 ……でも、逃げるしかなかった。 「愛理!」 教室の出口のところで呼び止められた。思わず立ち止まる。 晶らしくもない……少し切羽詰ったような語気だった。 「私達はあなたの味方だよ。美琴さんも、……塚本さんも」 達観した晶のことだ。全てお見通しなんだろう。 その言葉は嬉しかった。 でも、今の自分には振り返る勇気も、お礼を言う勇気も無かった。 「……そうね」 私は、天満が机に伏して肩を震わせるのを視界の片隅で捕らえながら、教室を後にした。
自然と足は屋上へと向かっていた。 アイツがいつも居る場所。 いつしか、アイツと居られることをとても至福に感じられるようになった場所…… 会って何か話したい内容があるわけではない。 あまつさえ、気持ちを思い切り吐露することなど出来るわけもない…… ただ…… 少しでもいいからアイツの姿を、声を、表情を……脳裏に焼き付けておきたかった。
「……で、結局どうするんだ?」 はたと足を止める。 屋上へと続くかんぬきの扉は開け放たれていて、もう一つ階段を昇れば、容易にそこの情景を捉えることが出来ただろう。 足を止めたのは何故だろう? 聞こえてきた声が、知っているもののような気がしたからであろうか? それとも、本能的にそれから紡ぎ出されるであろう会話を避けたのだろうか? ……今となっては分からない。 「どうするのかと聞いている」 確認するまでもない。 声の主はクラスの大黒柱であり、アイツを少しでも理解している数少ない学友であろう、花井春樹のものであった。 と、いうことは、会話の相手は―― 「……何のことだよ」 ――やっぱり―― 今、最も聞きたい声を聞くことが出来た。 大きな体躯と、不良と呼ばれる外見に似つかわしい、その低く重厚な声を。 「……塚本君のことだ。好きなのだろう?」 落雷が体を抜けたかのような衝撃が走った。 安堵の感情が体を支配し、教室から引きずってきていた緊張感が弛緩したせいかもしれない。 反動は、強烈だった。
「……」 アイツは何も言わない。 否定して欲しい。 いつもの照れ隠しのように、ふざけ半分でもいいから否定して欲しい。 「……余計なお世話かも知れんがな。半年ぐらい前から感じていたことだが……最近のお前は特に辛そうだ。その根源がどこにあるのかは、僕の与り知ることではないが……」 彼は続ける。 「理由が恋煩いにあるのならば、解決策は簡単だ。告白してしまえば良い。……結果はともあれ、な。遥かに楽になる」 「ふ……」 「む……何が可笑しい?」 少し憤慨した花井君を見上げ、寝転んだまま微笑むアイツ。 いつの間にか、私は扉の影に身を隠して、二人の会話を伺っていた。 「塚本のことを言っているのか?」 「当たり前だ。違うのか?」 「……」 沈黙が形成する張り詰めた静寂。 まるで、一度だけ掛けたアイツへの電話のよう。 お互いの共通の話題の少なさ故に、話し始めてすぐに経験してしまった沈黙。 ひたすら沈黙を恐れて、その後は話題を振り続けた。
「……やっぱ、オメーの目から見ても、そう見えるか」 決定打。 堰を切ったように涙が溢れる。 頬の筋肉が緊張していく。 感情とは反比例して、笑顔を造り出そうとしているのだ。 こんなときにすら、感情のままに行動できない、哀しい習性。 「……その想いが、感情があるから。……いや、あったからこそ、ツレーんだよ」 「? 何を言っている?」 「さあ、な……」 ――もうダメだ。何も出来ないうちに終わってしまった。 それも、盗み聞きなんていう、サイテーの状況で―― 踵を返し、今度こそ帰ろうと、階段に向かう。
その時、私の携帯電話が派手に着信音を響かせた。 はっとして振り向く。 二人とも、こちらを見ていた。 アイツのサングラス越しに、目が合った気がした。 「さ、沢近君!」 恐らく涙に仰天したのだろう、花井君は、どう対処していいのか分からないみたいで、おろおろしている。 ――アイツは―― 少し動じた感はあったが、それも花井君ほどではなく、ただ一言、「お嬢……」とだけ漏らした。 私は、笑顔を作った。 涙を流しながら笑う姿は、ひょっとしたら滑稽なものだったかもしれないが。 とにかく、最高の笑顔を見せてやろう――唐突に、そんな気持ちになった。 ――そして―― 「さようなら」 精一杯の感情を込めて、私は言った。
528 :
:04/07/15 19:38 ID:bYdteVg.
支 援
その後、どうやって家に帰ってきたのか、記憶が定かではない。 気が付くと、ベッドに伏して、慟哭していた。 家の者に心配を懸けないよう、ただ静かに……静かに…… 夕刻頃、目を真っ赤にしながら、天満がやってきた。 部屋に招き入れると、いきなり私の胸に顔を埋め、しゃくり上げながらただ、「ごめんね……ごめんね……」と、繰り返した。 元より天満に悪気があったわけじゃない。 感情を押し殺し、ふとしたきっかけで、あの場で暴発してしまった自分が悪いのだ。 私は、あんな形で、親友を傷つけてしまった自分を恥じた。 ――全て自分の責任、あなたは何も悪くないわ―― ――気に病まないで。隠していた私が悪いのよ―― 言いたいこと、言わなければならないことは沢山あった。 けれど、今は何も言えず、天満の直情的な優しさに感謝して、ただ、震える肩を抱きしめることしか出来なかった。 普段の私の考え方からはかけ離れているが、心のどこかに、同情されたいという気持ちがあったのかもしれない。 私が何も言わないでいることが、天満にどういう影響をもたらすか分かっているはずなのに……
小一時間ほどそうしていただろうか。 最後に「ごめんね……」と、もう一言だけ呟くと、天満はドアのノブを回した。 「天満……」 振り向いた。 「……ごめん。余計な心配掛けちゃったわね。 悪いのは全部私。そして……ありがとう」 やっと言えた。 その瞬間、天満の顔に見る見る満面の笑顔が戻る。 やっぱり、この娘には笑顔が一番似合う。 別れ際に交わした言葉。 「私たち、明日からも友達だよね?」 「あら、当然のことを訊くのね?」 それだけで、救われる気がした。
――そして―― 朝、私は感情に整理をつけることが出来ずに、昨日の出来事を引きずり、反芻していた。 「学校……行きたくないな……」 再び仰向けになり、窓から差し込んでくる優しい光すら嫌がるように、両腕で目を覆う。 美琴や天満、晶たちに訊かれれば、答えるつもりで腹は括った。 しかし、アイツに対する想いが、一晩だけで消え去るはずも無い。 ……恐らく、アイツもはっきりと理解してしまっただろう。 もう、今までのように軽口を叩き合ったりすることは出来ない。 どんな顔をしてアイツに会えばいいのか…… どんな表情で、アイツの目を見ればいいのか…… 時間は待ってはくれない。 あと数分もすれば、起き出して、支度を整えなければならない。 少なくとも、制服を着て家を出なければ、家の者に、要らぬ詮索と、余計な心配を懸けてしまう。
「……コン」 躊躇いがちに、ドアをノックする音がした。 「……何?」 思わず身構え、自分におかしいところが無いか確認する。 「お早うございます、お嬢様。 ……大変申し上げにくいのですが、突然先方から依頼が参りまして。 ……宜しければ旦那様の代理として、会食に参加していただきたいのですが……」 執事の中村が、さも自分の責任のように、申し訳なさそうに言う。 「……従いまして、本日の午前中は学校をお休みされなければならなく」 「いいわ」 即答した。 「ありがとうございます。 午後からは出席出来ますので…… では、学校のほうにはそのように連絡を……」 最後に「では……」と残すと、中村は去っていった。 まさに渡りに船だった。 僅かな時間ではあるが、もう少し自分を見つめ直すことが出来る。 少なくとも、初めにアイツに会うまでに、自分のスタンスを決定しておく必要があった。それには、時間が必要―― 予想外のことではあったが、兎にも角にも運命に感謝した。 時間を有効に活用するためにも、私の思考は、フルスピードで回転していった。
時間は、あっという間に過ぎていった。 自分の倍以上は生きている人たちとの、取り留めの無い会話にただ相槌を打ち、時には笑顔を振るまいた。 本来ならば酔いしれる価値があるのだろうが、全く味のしないフルコースを、機械的に口へと運んだ。 一旦家に帰り、着替えて学校に向かうまでの時間は、意識的にゆっくりと歩いているのにも拘らず、 まるで飛行機にでも乗ってきたかのような錯覚を覚えるほど、あっという間だった。
私は、依然として心を決しかねていた。 どういう態度を取ったらいいのだろう。 ……このままでは、顔を見たとたんに爆発してしまいそうだ。 どういう行動を取ってしまうか、自分でも予測が出来ない…… ――私がこんなに悩んでいるのに、アイツは平和な顔をして寝ているんでしょうね―― ふと、自嘲気味に嗤う。 ――考えてみれば、アイツはいつもサングラスをかけているんだし、直接目を見ることは無いわね。 ……気休めだけど、なんとか自分を保つしかない、か―― 「……よし」 思わず呟いた。心を決めて、地を踏みしめる力を強めた。
――瞬間―― 「……おい」 不意に呼び止められた。思わず足が止まる。 ずっと俯きながら歩いてきたから気が付かなかったのだろう。 視線を上げると、既に校門を過ぎていた。 声は、背後から聞こえた。 その声には、聞き覚えがあった。と、いうよりも、ここ半年、意識して胸に留めていたものだった。 ゆっくりと振り向く。 決心したはずなのに、心音は早まり、鼓動は高まっていく。 アイツは校門に凭れて、腕を組んでいた。 そして、私の目をじっと見つめていた。 ……サングラスは、掛けていなかった。
「……何よ」 顔が紅潮していくのが分かる。 それを隠そうとするかのように、思わず喧嘩腰になってしまう。 ……この半年続いていた状況。 素直になれない自分に苦笑しつつも、居心地のいい雰囲気に浸っていたことの繰り返し。 しかし、今は違う。 決定的に違う。 頬を染める要因となっているのは、照れや恥ずかしさなんかじゃない。 哀しみに起因する負の感情を抑制し、ともすれば爆発しかねない自分を押さえ込もうと、脳が必死に稼動している結果だ。 ――決めたじゃない。サングラスをしていないのは予定外だったけど。 ……頑張るのよ――
「……遅かったじゃねぇか」 私は、目を逸らさずにするので精一杯だった。 「……家の用事でね」 「チッ……今日に限ってかよ」 そう言って、アイツは頭を掻く。 「……知ってりゃ他の方法も考えたのに。 ……おかげで変な目で見られっぱなしだぜ」 「は? まさか、朝からそこでそうやっていたの?」 ――私を待って?―― その言葉は発せずに飲み込んだ。 「……ああ」 成程、言いたいことがあるのか。 迷惑? それとも嫌悪? どちらにせよ、昨日の今日なのに……私は覚悟を決めた。 一瞬、昨日天満にぶつけてしまった自分の台詞が脳裏を過ぎった。 ――やっぱり、想いを否定されるのは堪えるわね――
アイツが近づいてくる。 コツコツという革靴の音が近づいてくる。 私は無意識に、俯いていた。 靴音が、私の手前で止まった。視線が、アイツの靴を捉えた。 「これを」 私は視線を戻した。 万全とは言えなかったけど、全てを受け入れる決意で。 アイツは、不器用ながらも綺麗に包装された、バスケットボールくらいの大きさのものを差し出していた。
「……私に?」 どういうつもりだろう。 私は訝しげな表情を隠すことも出来ないまま、渡された包みを開けた。 「これは……」 出てきたものは、小さな鉢植えだった。 そして、丁度良い具合に盛られた土の上、蒲公英のように葉を横に伸ばし、紫色の花が、風に揺られていた。 「……忘れな草じゃない。……でも、どうして?」 忘れな草は本来秋の花だ。 何故、今頃コイツが持っているのだろう。 ……そもそも、私にこれを渡す意図は……? 「……これは、俺の決意だ」 「……どういうこと? プレゼントなら、天満に渡せば良いじゃない」 自虐的な言葉が次々に出てきそうだ。 自分が発しているはずなのに、耳を塞ぎたくなる。 「……やっぱり、メガネとの話を聞いていたんだな」 「……そうよ。悪かったとは思っているわ」 「……」 アイツは、何か言いたそうな顔をしていたが、言葉が出てこないみたい。 必死で言葉を探しているように見えた。
どのくらいそうしていただろうか。 私は理不尽にも、自分からは言葉を発してやるものかと決めていた。 「時々僕は、無理に君を、僕の形にはめてしまいそうになるけれど……」 突然、アイツは節をつけて、少し調子の外れた歌を歌いだした。 「な、何よ。突然……」 何を言われるかと戦々恐々としていた私は、見事に予想を外してくれたアイツの行動を、あっけに取られて見ているしかなかった。 「……昔、誰かが歌っていた歌だ。……これが、俺の気持ちを代弁してくれている」 「……え?」 「……お前、昨日の話を聞いていたんだろう?」 「天満のことを好きな気持ちがあるから、苦しいんだとか何とか……恋煩いなんでしょ?」 何を今更……そう思い、私は噛み付くように返した。 「……やっぱり勘違いしてやがったか。まあ、仕方がねーけどよ」 ――勘違い?何を言っているの?――
「確かに塚……天満ちゃんに惚れていたのは事実だ。……この学校に入ったのも、それが目的だったって言ってもおかしくねーからよ」 アイツは頬を人差し指で掻き、視線をあちこちに彷徨わせながら続ける。 「でも、俺は昨日、その想いを過去形にして言ったはずだ」 ――あ……そういえば―― 恐る恐る、封印した記憶の引き出しを開けてみる。確かにアイツは、「あったからこそ」と言っていた。 「つまりは、そういうこった」 ――え……どういうこと? そんな話を今ここで、私にしているってコトは……それって、つまり―― 「……俺は器用じゃねーし、飾る言葉も知らねぇ。 徹夜でこの花を探してくるぐらいしか思いつかなかったけどよ……」 私の中の時間が止まる。 心を満たしていた靄が霧散し、決して溶けることは無いだろうと思っていた氷塊が、静かに融解していくのを感じる。 「いつからだったかは忘れたし、そんなことはさして重要じゃねぇ」 思わず、組んだ両手を胸の前に持っていく。 ……アイツの言葉を待っている自分が居る。 「……俺はお嬢が……愛理のことが……好きなんだよ」
搾り出すようにして発せられた言葉。 アイツの口から大切に紡ぎだされた、私の名前。 ……待っていたはずなのに、予想をしていたはずなのに、その言葉を理解し、体が歓喜を感じるまでに、時間を要した。 「……天満ちゃんを好きだった気持ちは、軽いもんじゃなかった。 ……だからこそ、今、お前を好きだという気持ちが本物なのか、テメーがそう簡単に心変わりするような軽いヤローなのか、悩んでたんだよ」 アイツが心の中に溜め込み、蓄積された想い。 それをゆっくりと溶かしながら吐き出していくのを、私は黙って聞いていた。 「……けど、やっと吹っ切れた。きっかけは……お前の涙だけどな」 何て馬鹿な早とちり。 一人で突っ走って、暴走して。 ――何のことは無い、答えは勇気を出して踏み込めば届くほど、近くにあったというのに……
「……一つだけ教えて」 カラカラに乾いた喉の奥から、掠れてしまって殆ど聞こえないぐらいの声で、私は訊いた。 「……どうして忘れな草?」 「ん? あぁ、さっきの歌だ」 「え?」 「……俺はこんなんだからよ。 たまに独りよがりになって、お前の色を……お前らしさを消していることがあるだろうと思ってだな……」 すっかり、心の中の闇は消失していた。 「……さっきの歌詞そのままだろ? んで、この歌の題名は「Forget-me-not」、つまりはこの花のことだな。……だからだ」 「……馬鹿ね。似合わないコトしちゃって」 もう耐えられない。我慢できない。 「……んなこたぁ分かってんだよ。……で、どうなんだよ、返事は」 真っ赤になって照れるアイツ。 アイツの視線が私を捉え、その表情がびっくりしたものに変化するのを、駆け出した私の視界が微かに捉えた。 ――決まってるじゃない―― 私の呟きが、聞こえたかどうかは定かではない。 私は、アイツの厚い胸板に顔を埋め、背中に腕を回していた。 「……大好き」 その言葉に呼応するように、アイツの腕が肩越しに、躊躇いがちに私の背中に回された。
背後でわっと歓声が上がった。 昼休みを暇で持て余していた面々が、こちらを注目していたのだろう。 しかし、何故か不思議と、恥ずかしさは感じられなかった。 顔を後ろに向けると、大勢の興味と好奇の視線の中、大切な人たちの、それぞれの慈愛に満ちた表情が伺えた。 美琴の、少し照れくさそうな、それでいて全てを優しく包容してくれるかのような表情が。 晶の、いつも通りに泰然としながら、全てを理解してくれるかのような表情が。 天満の、純粋で、ただ一直線に祝福してくれているであろう、その表情が。 全てに感謝しながら、私は再びアイツの胸に顔を埋め、ただ、至福の感動を味わった。
最後に 私にとって、最も辛く、苦しく……嬉しかった二日。 アイツからの初めてのプレゼント。……ずっと大切にしよう。 ――二人が育む愛の名前は、街に埋もれそうな小さな忘れな草―― アイツが歌っていた歌…… 歌のように、この忘れな草が、私たちの象徴になればいい。 アイツは知っているだろうか? この花の花言葉を。 「私を忘れないで」 私は忘れない。 差し出してくれた傘を。掛けてくれたジャージを。 不器用で、決して真直ぐではない、アイツの優しさの全てを…… ……願わくば いつまでも、この想いが通じていますように―― 五月十三日、十四日 生涯で最も波乱に満ちて、そして、幸せを感じることが出来た日を記して 沢近 愛理
最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました。 このSSに参加するのも初めてならば、パソコン自体の扱いも初心者ということで、見苦しい点が多々見受けられると思います。 気付いた点がありましたら、今後の参考にさせていただきますので、是非、仰って下さい。 さて、SSですが、沢近嬢の一人称というか、日記の形態を取らせていただきました。 書いているうちに、それが一番自然なような気がしたもので…… ただ、国語の苦手な沢近嬢の日記にしては、少々難解な表現が多いかもしれません。 そこは、ご愛嬌というコトで…… 涙を流すシーンが多いですが、普段気丈な女の子は、得てして脆いものだという自己の経験から勝手に想像しました。 文章力自体は、数をこなさないと上達しないので、最初の作品ぐらいは、好きなキャラクターに対する愛をぶつけてみようという考えです。 愛すべき沢近嬢は、果たして本誌での「らしさ」を失わず、躍動できていたでしょうか? 作品自体に関する批評、どんなに遅いレスでも構いませんので、よろしくお願いします。 場違いなようでしたら、おとなしく退散しますので。 では。
547 :
Classical名無しさん :04/07/15 20:18 ID:nLbTtTtE
沢近めっちゃかわえー!GJです!
読むのに集中し過ぎて、煙草が燃え尽きましたよw 沢近可愛いし、播磨の青臭い台詞がまたイイッ! 要するに、GJ!
>>546 GJ!
初めてとは思えない上手さですね。末恐ろしいですよ、マジで。
沢近の一人称も沢近の想いが伝わってきて良かったと思います。
萌えましたよ。これからもガンガン投下して下さいね。
ヽ(´ー`)ノイイヨイイヨー
物書きじゃないから細かい事は指摘できないのでシンプルに言おう。 いい旗SSでした。GJ!!
GJです。初めてにしては上手ですよ。 これからもどんどん投下して腕をみがいて下さい。
552 :
:04/07/15 21:24 ID:bYdteVg.
播磨カコエエ、面白かったですよー 気づいた点・・・あえて難癖つけるなら、スクランは学年が変わるといろいろと状況が変わると思うので、 5月じゃなくてもいいかなーとオモタ、忘れな草も今は一年中咲いてるしね
とろけそうなほど甘い
554 :
Classical名無しさん :04/07/15 23:27 ID:9u9mt3js
>>546 d(・∀・)bグッジョブ!
凄く丁寧に書かれてるのが伝わってきて好感が持てました。
一発目から力作ですね。
ただ、あえて言うとすれば播磨の花井の話を立ち聞きして
はじめて決定的に気付いたとすると(勘違いだけど)その前の
>「可哀想じゃない……気付かないの?〜
のところとのつながりがおかしいかな、と感じました。
重箱の隅をつつくようですみません。
沢近の心理描写とか凄く上手いと思いました。ラスト甘いのも゚+.(・∀・)゚+.゚イイ!!
次回作がとても楽しみです。
ageてしまった… すみません_| ̄|○
GJです
ラストシーンが特に良いね。初心者とは思えない
>>546 氏のキャラへの愛がなせる業なのか。
躍動してますよ、十分。
それは賞賛してるのか貶してるのかどっちなんだ?
>>546 これが初めて!?
ウソダドンドコドーン
>>546 神が最近多すぎるぅ
もうすばらしい作品をグッジョブです!!
なんか少女漫画風でこしょばいけど
それがスクランによくマッチしてました。
>>560 それはスマン
ただ、「神!」と思ったのなら感想は書くべきじゃないのか
と思ったもんで
563 :
Classical名無しさん :04/07/16 17:27 ID:d8LmGgBc
えー、2ちゃんねる初書き込み、初ss、初投稿なんで 先に謝っときます。お目汚しすいません。
test
心に暗い影が差す。 暗い、暗い、影が。 何故? 私は幸せなはずだ。 私には好きな人がいて、 その人も私を好いていてくれている。 でも時折、私の心は歪んでしまう。 そう例えばこんな時―。
「拳児さん」 「おう、八雲。」 昼休みの屋上、私はいつものように拳児さんに呼び出されていた。 「ちょっと今日は野暮用があってな。今のうちに意見聞かせてほしいんだが。」 (相変わらず綺麗だぜ、八雲は) 「…あ、えと、はい…、わかりました。」 彼のそばにいると、私はいつも心が浮き立つ。 嬉しいのだ、彼の心の声が。そして何より、彼の心が視えるという事実が。 「で問題はここなんだけどよ」 私と彼の距離がいっきに狭まる。彼の顔が、彼の目が、彼の身体が、触れられる距離にある。 彼はつらつらと漫画について話しているが、私は彼の精悍な顔つきに囚われてしまっていて ほとんど耳に入っていなかった。 「…ん?おい八雲、聞いてるか?」 「あ、いえ、はい、その…、すいません…。」 「まったく、しっかりしてくれよ。」 (相変わらず、ぼーっとしてんだからなあ) 彼のその親しみのこもった心の声に、私は赤面してしまった。
「ま、こんなとこか。ほんとにありがとな、いつも」 「いえ、私も、その、呼んでもらえて嬉しいですし、逆にお礼を言われると…。」 「…そうだな、悪い、ってこれもだめか。うーん、ええっと、そうだな、また週末にでもどっかいこうぜ。」 照れながら彼が言うのを見て、かわいいなと思ってしまう。 「はい!」 (…ほんとにいい娘だよな、八雲は) 私はまた嬉しくなって。 でも。 「ああー、しっかしたりいなー、午後ふけちまおっかなー」 彼が何気なく中庭を見下ろしたとき 「!!」 途端に違和感が走った。 中庭では昼休みはいつも、たくさんのカップルが幸せそうに食事をしている。 そのなかに、あの二人がいた。 姉さんと、烏丸さん。 それを見る彼の表情は、苦しそうで、悲しげだった。
568 :
Classical名無しさん :04/07/16 17:32 ID:J5kCPKTg
858 名前:荒らしが学校から 投稿日:04/07/16 16:02 ID:PRA8SnVu
書き込みしたのが、最悪の形でばれますた!アク禁祭りの予感!!!!
運営系板を荒らす人を報告2
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/sec2chd/1089826931/ 40 名前: [―{}@{}@{}-] ns.bach-kaffee.co.jp 投稿日:04/07/16 10:44 ID:g4EAX7LL
>>38 从‘ 。‘)ノ<言うだけじゃなく早く報告してよ〜。
41 名前:初心者の質問です 投稿日:04/07/16 12:14 ID:2CWCTJu6
>>40 のレスを見たら [―{}@{}@{}-] ns.bach-kaffee.co.jp の後ろに
<ilc2.doshisha.ac.jp>っていうのがくっついてるんだけど、何で?これは何?
[―{}@{}@{}-] ns.bach-kaffee.co.jp<ilc2.doshisha.ac.jp> って感じにさ・・・
同 志 社 大 学 危 機 一 髪 !!!!!!!11 今すぐ記念カキコ汁!
そう、それは、数ヶ月前のこと。 烏丸さんの転校が差し迫っていた時期。 姉さんは決死の覚悟で告白し、成功した。 以来姉さんは、家でも、クラスのなかでも、烏丸さんの話ばかりで。 それはとても幸せそうで、親友たちも苦笑いしながら、祝福していた。 だが、その一方で、砕けてしまった恋もあった。 姉さんが告白した現場に、私も、そして彼も、居合わせていた。 私は、不安がる姉さんの付き添いとして。 なら彼は?彼はその場に居合わせて当然だった。 告白を渋る姉さんを必死に説得したのは彼だったから。 姉さんを烏丸さんが出立する駅まで連れて行ったのは、彼だったから。 姉さんが幸せになることを望んだのは、誰よりも、彼だったのだから。 想いが成った後、姉さんは烏丸さんと連れ立って、彼へ感謝の気持ちを残して、どこかへ行ってしまった。 彼は軽く頷いた後、その場にずっと、立ち尽くしていた。 ずっと。
570 :
Classical名無しさん :04/07/16 17:32 ID:m.jpTm1Q
しえん
どれだけ時間がたったのかはわからない。 彼はサングラスをはずし、投げ捨てた。 彼は泣いた。その場に崩れ落ちて。 そのときはじめて私は、彼が姉さんに恋をしていたことを確信し、 私が彼に恋していることを、自覚した。 その後の彼は、見ていて痛々しいほどだった。 まるで生気を失った彼は、それでも学校に来ていた。 きっと想いは伝わらなくても、そばにいることを望んだのだろう。 そんな彼を、私は懸命に支えようとした。 私にできる限り。想いの限り。 最初は無反応だった彼も、次第に心を許してくれるようになった。 私を頼ってくれることも多くなった。
時間がたつにつれ、名前で呼びあうようになったし 休日は時々、一緒に過ごすようにもなったし 今はもう放課後は、ほとんどの時間をともに過ごす。 彼の声がはじめて聞こえたときは、嬉しさがあふれてしまって 泣き出した私を、彼は困りながら懸命になだめてくれた。 そんな数ヶ月を経て、私たちはこの場所に立っていた。 私たちは恋人と呼び合える関係になった。 私は幸せになった。 なったはずだった。 でも 時折 私の中には 暗い、暗い、影が差す。 そう例えば、こんな時。 もう耐えられなかった。
私は問いかけた。 「拳児さん、今何を考えているんですか?」 違和感。 彼の温かい心の波動は、今は届かない。 「…え?いや、その、な。」 「姉さんのことを、考えているんですか?」 「…」 「姉さんのことを、想っているんですか?」 「…八雲」 「姉さんのことが、忘れられないんですか?」 「八雲」 「姉さんのことが、まだ好きなんですか?」 「八雲!」 私は彼の胸に飛び込んだ。 そして泣いた。 「拳児さん、私のことがすきですか?」 答えて。私にあなたの心をみせて。お願いだから。 「八雲…」 声を上げて泣きじゃくる私を、彼は悲しげに見る。 「八雲、すまねえな。」 私は顔を上げ、彼の目を見て、彼の言葉に耳を澄ます。 「確かに俺はまだ塚本…、天満ちゃんに未練がある。」 心は止まる。私はもう自分の正体もわからなくなった。 「でも」 「これだけは覚えていてくれ。」 「俺が一番好きなのは、八雲、おまえだからな。」 (俺が一番好きなのは、八雲、おまえだからな。)
泣いた。 大きな声で。 彼の温かな声は、私の暗闇を払い、私の想いを、照らしてくれた。 彼は困惑しながら、悲しげな顔をしながら、私に謝り続けていた。 もういいです。私は大丈夫です。 また暗闇に囚われることがあっても、あなたの優しい声が聞こえれば、私は大丈夫です。 今ならきっと言える。 何があっても、あなたがそばにいれば 私は幸せです、と。 「大丈夫か?」 「…はい。」 「…すまねえな、マジで。」 「大丈夫です。私は拳児さんがいれば、幸せですから。」 彼は顔を真っ赤にして 「そ、そっか。まあ、それじゃあ、色々と至らねえ点があるかも知れねえが、今後ともよろしく。」 「はい!」 これからのことはわからないけど、きっと未来は明るい。 だって、今、私は、幸せだから。
まず最初ageちゃってすいません。 構想はエロパロ版からいただきました。 なんつーか、鳥肌立つなあ、無駄に甘くて。 色々いいたいことはあるかと思いますが できるだけ穏便にお願いします。では。
576 :
546 :04/07/16 19:22 ID:v0mKWsE.
>>575 面白かったですよ〜
レスくれた皆さん、ありがとうございます。
何か好意的な評価の多さに、驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。
かなり練りこんだ作品だったので、感慨もひとしおです。
八雲にしても沢近にしても、播磨の気持ちの変化をもっていくのが難題ですので、その点は非常に苦労しました。
ただ今回は、初めに故尾崎豊氏の曲のイメージが先行していたので、勢いで書き上げました。
それが良い事か悪い事かはおいといて……ですが。
このスレには職人さんたちが多数おられますので、色々な作品を参考に、これからも邁進していきたいと思います。
>>575 初投稿でこれなら神には届かないけどかなりのレベルじゃないかと思います。
546氏に続きハイレベルな新人さんが来て読み手としてもうれしい限りです。
これからもガンガン投稿してください!! GJ!!
初投稿でこれだけレベルの高い作品が続いた後で恐縮ですが、 初めて書いたSSを投下させてもらいます。マガスペの7月号掲載の ある作品を読み返して思いついたネタです。ベタなネタなんでもしか したら既出かもしれませんが、その辺は寛容なご判断を・・・ なにぶん、初めてなもので文章におかしな点が多数あると思いますが、 そうした点はご指摘、及びご教授のほどよろしくお願いします。 タイトルは『嘘つきは○○の始まり?』です。 鉛筆モノで脇役としてオリキャラが存在するため、設定をいじってます。 なので、完全なIFモノとしてお読みください。それが嫌な方はスルーして ください。
澄みきった空に、強過ぎない日差し。気温も、暑くも寒くもないまさにデート日和 というにふさわしい休日。実際周りには待ち合わせと思しき男女が何人もいる。 そんな中で、 「ハァ〜…、なんて言うか、落ち着かねぇなぁ…」 俺―播磨拳児―は、もう何度目かも解らないため息をついた。 服装はいつものシャツにジーンズといったシンプルなものではなく、レザーのパンツに、 アイロンがかけられノリの効いたYシャツにジャケットといった、自分なりに気を使った 服装をしている。しかし着慣れていないため、なんとなく窮屈に感じてしまう。 なにより、既に俺のトレードマークとも言うべきサングラスもいつもと違っている。 あれではチンピラみたいで悪印象を与える、ということで、色が薄めで、レンズ部分の小さめの サングラスをしている。おかげで、いつもより眩しくて仕方がない。 「チッ、いくらサングラス替えたって、元がこんな顔じゃあより悪化しただけだろうが。絃子は怪訝そうに していたし、周りからもいつも以上に視線を感じるし…。恐いもの見たさってヤツか…」 そう呟きながら、何で俺がこんな目に、と頭を抱えていると、 「よ、早いな播磨、もう来てたのか?」 「周防…」 その原因が悪びれることなくやって来た。そんな周防に片手を挙げて返事をしながら、こうなった 経緯を思い返していた。
事の起こりは三日前、なんとなく早く学校に来てしまったため、どうやって天満ちゃんとの仲を 進展させるか考えている時だった。周防が陰鬱そうなため息をつきながら教室に入ってきた。いつもなら クラスメイトに元気よく挨拶しているのに、今日に限っては上の空で返事を返していた。 (なんかあったのか? ま、俺には関係ねぇけど…、っ!!) そこまで考えたところで、唐突に頭の中で閃いた。 (まてよ、あいつは天満ちゃんの親友の一人だ。そんなやつが元気のないときに、俺がうまく元気付けて やれば、優しく、頼もしい播磨君として天満ちゃんに好印象間違いないっ!) そう思い至り、ニヤつこうとする顔を引き締めながら周防の席に近づき声をかけた。 「よぉ、なんか元気ねぇみてぇだけどどうかしたのか?」 「ん、なんだ播磨か。何でもねーよ、お前に言ったところでどうにもならねーし」 いきなり役立たずの烙印を押されてしまい、それにムカッときた俺は、 「あーそうか、なら勝手にしろ! ったく、心配なんかするんじゃなかったぜ…」 そういって席に戻ろうとすると急に腕を掴まれた。怪訝に思って振り向くと、周防がまじまじと俺の 顔を見つめていた。 「な、なんだ」 見つめられている所為か、気恥ずかしく感じながら問うと、 「あ、あぁ、悪かったな…心配してくれたのに適当にあしらっちまって。それで…その…お前に頼みがあるんだが 聞いてもらえねーか?」 と、らしくもなく神妙な態度で言ってくるので、とっさに、 「お、おう、別にいいぜ。俺で役に立てるならだが」 と答えた。 「そうかっ! じゃあ昼休みに屋上に来てくれないか? その時詳しく説明するから」 「わかった。じゃあ昼休みに」 そう答え、自分の席に戻りながら、当初の目的を何とか達成できそうだと、軽く考え安堵していた。
そして昼休み――屋上に寝転がりながら周防を待ってると、幾分遅れてやってきた。 「悪いな、呼び出しておいて遅れちまって。沢近達との昼食の誘いを断るのに手間取って」 「いいさそれくれぇ。時間もねーことだし、早速で悪いが頼みってのはなんだ?」 「ん、あー…えーとだな…そのー…」 いつもの切符の良さが信じられないくらい、視線をあちこちにさ迷わせ言いにくそうにしている。 言う決心がつくまで待つか、と思い体の力を抜こうとした時、決心がついたのか、まっすぐに俺を見て、 「……あたしの彼氏になって欲しいんだ」 と、言い放った。 ・ ・ ・ ――――……………ハッ 全く予想もしてなかった言葉に固まってしまった。硬直が解けると熱くなっていく顔を自覚しながら、 動揺を表に出さないように努め、自分に言い聞かせた。 (俺には、天満ちゃんという心に決めた女性がいるだろうっ! こんなことで揺らいでどうするっ、しっかりしろっ!!) そんな俺を周防は怪訝そうに見ていたが、何かに思い至ったのか顔を赤く染めて、 「あっ、勘違いすんなよ!? 言葉が足りなかったな。実は……」 と、弁解し始めたので、心を落ち着けて聞くことにした。つまりこういう事らしい―――別の町に引っ越した 道場の同門だった友人と電話で話していると、友人の男の話になり『彼氏はできたか』という質問にとっさに、 『できた』と答えてしまったらしい。そうしたら、日曜に遊びに行くから紹介して欲しいと言われ、後に引けな くなって了解してしまい悩んでいた所、俺に声をかけられ、ちょうどいいから彼氏役を演じて欲しい――― との事だった。
「ちょっと待て、何で俺がそんな事しなくちゃなんねーんだよ!? そんなことなら花井か今鳥のやつにでも頼めば いいだろ? 花井はともかく、今鳥なら喜んで引き受けてくれるぞ、きっと」 「あいつらじゃ駄目なんだよ。その友人はあたしと花井がただの幼馴染だって知ってるし、彼氏は強い男だって嘘を 言っちまったから今鳥じゃ駄目なんだ。……あいつはどう見ても強そうに見えない、肉体的にも精神的にもな……。 なぁ頼むよ播磨、条件を満たしていて頼れそうな奴はお前ぐらいしかいないんだ」 そう、切羽詰ったように真剣な瞳で見つめながら言ってきた。こんな顔をされて断ったら男が廃るというのは 解っているが、芝居とはいえ周防とデートした事が天満ちゃんにバレたらマズイ、と頭を抱えていた。 「やっぱり迷惑だよな、あたしなんかにそんなこと言われても…。ゴメン、この事は忘れてくれ」 そんな俺を見て、あきらめたという風に寂しげに作り笑いを浮かべて言った。 「…解った、引き受けよう」 「ホントか!?」 「ああ、俺で役に立つならって朝言っちまったしな。男に二言はねぇ」 「サンキュ、助かるよ。この礼はいつかするから。それじゃ、詳しい段取りは後で説明するから連絡先を教えてくれ」 携帯の番号とアドレスを交換し終わると、周防はもう一度礼を言い、先に教室に戻って行った。 (ったく、あんな顔されて断れるかってんだ。大丈夫、もし天満ちゃんにバレてもきちんと説明すれば解ってくれる …はず、……きっと、………多分) 空は雲一つなく晴れ渡っていた。
そして今に至るわけだが、なんか、周防の奴までジロジロと俺を見てやがる。 「なに見てんだよ。そんなに俺の格好がおかしいか?」 「いや、そうじゃないけど、ちゃんとサングラス替えてきたんだな。そのほうが似合ってるぞ」 「お世辞はいい。俺は見せ物じゃねぇってんだ。恐いもの見たさならホラー映画でも見てろってんだ」 「…本気で言ってんのか?」 「違うってのか?」 そう問い返すと、あきれたようにため息なんてしやがった。…なんかムカつく。 「まぁいいや、そのほうが播磨らしいし。―そうだ、今日はお前の事その、け、『拳児』って呼ぶから、 お前もあたしの事『美琴』って呼んでくれ。そのほうが付き合ってるっぽいし」 その言葉に頬を人差し指で掻きながら、周防から目をそらして言った。 「…そうだな。それじゃ、えーと…み、美琴」 「な、照れてんじゃねーよ。こっちまで恥ずかしくなるだろうが」 なんとなくお互いに気恥ずかしくなって目をそらしていると、周防を呼ぶ声が聞こえた。どうやら待ち合わせの 相手が来たらしい。 「久しぶり〜、美琴。元気だった?」 「ああ、杏子は相変わらずみたいだね。ところでそっちの子は?」 「初めまして、杏子の向こうでの友人の皆川裕美といいます。よろしくお願いします」 「ご丁寧にどうも。あたしは周防美琴、こっちこそよろしく。大変だろ? 皆川さん、杏子の相手は」 「ふふ、けど一緒にいて退屈しませんよ。それと裕美でいいですよ、周防さん」 「確かに退屈"だけ"はしねーけどな。あたしの事は周防でも美琴でも好きに呼んでくれよ、裕美さん」 「じゃあ、美琴さんと呼ばせてもらいます」 「ム〜、二人共もしかして酷い事言ってる?」 「「そんな事ねーよ(ないですよ)」」 ……なんつーか、楽しそうだな。
「と・こ・ろ・で、そろそろ後ろの彼、紹介して欲しいなあ〜」 杏子と呼ばれていた女がそう言って面白がるようにこっちを見ると、三人の視線が俺に集まった。 「えーと、電話でも言ってたあたしとつ、付き合ってる…け、拳児だ」 顔を赤くして目をそらしながら言うもんだから二人は獲物を見つけた猫のように目を細めた。 ……ここは男の俺がしっかりしないとな。 「初めまして、美琴と付き合ってる播磨拳児だ。ヨロシク」 さっき一度練習しているため、突っ掛からず名前を言うことができた。 「葉山杏子です、ヨロシク」 「皆川裕美です」 そういうと二人は周防を連れてコソコソと話し始めた。 (―――「なかなか男前じゃない。奥手の美琴にしてはやるね」 「本当に、頼りになりそうな人ですね」 「な、そんな、言うほどの奴じゃないって」 「そんなに照れなくてもいいのに」 「だからっ…」 ―――) なんかよく聞こえないが、チラチラこっちを見ながら話されると落ち着かねぇなと思っていると、 三人が戻ってきた。――周防のヤツが真っ赤になってるのが気になる、何言われたんだ? 「それじゃここに居るのもなんだし、そろそろ行きましょうか播磨さん」 「ああ、そうだな。とは言っても今日の俺は付き添いだから、どこに行くかはあんたたちが決めていいよ」 「そう? じゃあ久しぶりに行きたい所があったからそこに行こう」 葉山のその言葉に移動し始める。今日という日が何事も無く終わる事を願い空を見上げたが、ちょうど 日差しが一つの雲に隠れた所で、願いが届く事は無いだろうなとなんとなく悟ってしまった。
…………それからが地獄だった。腕を組んで歩かされるし、映画館ではベタベタな内容の恋愛映画を 隣り合って座って見せられるし、喫茶店ではカップル用のパフェ(ドリンクじゃなくて助かった)を食べ させられるし、ゲーセンではカップル用の縦長のフレームにくっついて写らされるし散々だった。 今は洋服店やアクセサリー店を見てはしゃいでいる。よくあのテンションを維持できるな、と考えていると 苦笑いを浮かべながら周防が近づいて来て、缶コーヒーを投げてよこした。 「なんかお疲れみたいだな」 「ああ、よく絃子に付き合わされて女の買い物には慣れてるが、これほどテンション高くないからな」 「へぇー、親戚が近くに住んでるのか?」 「え、なんでだ?」 「今お前従姉妹の買い物に付き合ってるって言ったじゃねーか」 「っ!! あ、ああそうだったな。ちょっと疲れて自分が何を言ったか忘れちまってた」 アブねー、アブねー。絃子との事がばれちまうとこだったぜ。 周防はそう言った俺に申し訳なさそうに声をかけてきた。 「大丈夫か? 辛かったら言ってくれよ、巻き込んじまったのはあたしなんだし」 「別にお前が責任感じる必要はねーよ。自分の事ぐらい自分でできる」 余計な心配をかけさせまいとそう言うと、それを見透かしたのか優しげな眼差しで俺を見つめ、 「ありがとう…播磨」 と頭を下げてから他の二人の所へ歩いて行った。鼓動が高鳴り、顔が熱くなってきたのが自分でもわかった。 ……くそっ、何柄にも無くドキドキしてんだ俺は…静まれってーの。……あんな瞳で俺を見てくれたのは お袋や昔の絃子ぐらいだからな。なんか落ち着かねーけど…悪くはねーよな。 そう思いながら周防達の方を見ると、頭の軽そうな連中に囲まれているのが見えた。へらへら笑いながら 周防の肩に手を掛けては振り払われている。 ……やれやれ、ま、一応今日は彼氏役だしな。こういう時は助けに行かねーと。それ以外に理由は無い。 苛ついてるのはああいう連中が気に入らないだけだ………きっと。
「女の子だけじゃ危険だろ? 俺らがガードしてやるって言ってんじゃん」 「必要ないって言ってるだろ?」 「まあまあそう言わずに一緒にいこーぜ。おもしれー店知っ「おい」る、んだ、テメーは?」 声をかけると表情を一変させ睨み付けてきやがった。他の連中も俺を囲むように移動しだした。それを 横目で確認し、目の前の男を睨み返しながら、周防の肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。 「悪いが、こいつは俺の連れなんだ。テメー等はお呼びじゃねーんだ。とっとと失せな」 そう言ってやると、さらに剣呑な目で睨んできやがった。―いいねぇ、いろいろ有ってストレス溜まって たんだ。ちょっと憂さ晴らしさせてもらうぜ。 気分を高ぶらせていると、「播磨さん!」と呼ぶ声が聞こえたのでそちらを横目で見ると二人が心配そうに こっちを見ていた。無事を確認した俺は軽く笑いかけてやると連中の方へ向き直った。 ……なんだこいつ等? 揃いも揃って呆気に取られたような面しやがって。こっちから仕掛けてやろうか? そう考えて一歩踏み出すと、それが合図になったかのように騒ぎ出した。 「…はりまって、播磨拳児のことか!?」 「…いつもと違うグラサンだけど…間違いねぇ! 冗談じゃねぇ、とっととズラかるぞ!!」 そう口々に叫んであっという間に見えなくなっていった。 ……えーと、この高揚した気分はいったいどこにぶつければいいんだ? 肩透かしを喰らって呆然としていると、胸元で周防がもぞもぞと動き出した。下を見ると真っ赤に染まり、 恥かしげに目を潤ませて見上げる周防の顔があった。 「あー、ありがとな播磨。もう大丈夫みたいだから腕を緩めてくれるとうれしいんだが……」 その言葉に改めて状況を把握すると、周防をしっかりと腕の中に抱きしめたままである事に気づいた。 「わ、わりぃ!」 そう言って慌てて腕を解いた。恥ずかしさをごまかすためギャラリーを睨み付けようとした時、満面の 笑みを浮かべた二匹の悪魔が目に入った。それに乾いた笑いを返し、観念して空を見上げた。 ――さっきまであった雲が無くなり、能天気なまでに晴れた空が無性に憎らしかった――
「「ハァ〜………」」 夕暮れの駅前で同時にため息をつくと、お互い顔を見合わせ苦笑いを交し合った。――結局、二人が帰る この時間まで散々にからかわれた為、精神的に疲労困憊だ。早く帰って休みてぇ。 「……なあ」 そう声をかけられ周防のほ方を向いたが、逆光のせいで影になっていて表情がわからない。 「今日は本当にありがとな。なんかお互いいろいろと大変だったけど…その…楽しかった。お前にとっては 迷惑なだけだっただろうけど……。今日あった事は気にせずさっさと忘れてくれ……じゃあな……」 一方的にそう言って帰ろうとする背中が寂しそうに見えて、思わず声をかけていた。 「俺も楽しかったよ、大変だったけど……」 周防はしばし背を向けたまま立ち止まると、 「……この礼はちゃんとするから!」 そう言って走って行ってしまった。 ――その姿が見えなくなるまで見送ってから反対へと向き直り、脳裏に浮かぶ天満ちゃんの笑顔に嬉しさと 同時に少しの罪悪感を感じながら、刻一刻と暗くなっていく家路へと歩き出した…………
………浴槽につかりながら今日一日の事を思い返していると、自然と笑みが浮かんできた。杏子の奴は変わり ないし、新しい友人もできた。そして……今まで気にしてなかった播磨のいろんな表情を知ることもできた。 顔を赤くして照れる顔…眉をしかめすねるような顔…疲れ切ってダルそうな顔…そして…… そこまで考えて自分の肩に手を伸ばす――痣が出来ているわけでもないのに、今も熱を持っているかのように 熱く感じる。思い浮かぶのは、抱き寄せられたときに感じた力強さと鍛えられた厚い胸板……そしていつもと 違うサングラス越しに見た凛々しい眼差し………… 部屋に向かいながら、どんな御礼をすればいいか頭をひねらせる。考えてみたら、あたしはあいつの事を ほとんど知らないのだ。どんな物をやれば……どんな事をすれば喜んでもらえるかなんて、さっぱり分からない。 ――そうだな…知らなければ知ればいいんだ。それからお礼をしたって遅くねーさ。 そう結論を下し携帯をチェックすると、杏子と高野からメールが来ていた。開いてみるとそこには……… 「なっ……なんだこりゃーーーーーーーーーーーー!?」 別のアングルで撮られたとあるひとつの光景が映し出されていた…………… ―――― 了 ――――
以上です。投下してみてなんですが、よくこんな恥ずかしい話が 自分に書けたなと思い、悶え狂いそうです。 それでは、感想・批判などお待ちしています。
オリキャラ嫌いな俺だが、何故か気にすることなく読めました。 脇だしね。違和感は薄かったような気がします。 それに本線の鉛筆も非常に萌えたし文章も上手かったと思いました。 美琴は可愛いし播磨は格好良いし、GJでした! オリキャラ嫌いな人もスルーせずに是非読んでみては?と言いたくなる作品でした。 マジおすすめ
>>589 GJ!
初投稿でこんなに上手い人が三連発とは
このスレの未来も明るいな、とか思ったりするわけですが。
鉛筆はやはり(・∀・)イイ!! 美琴の反応が特に萌えでした。
表現力もやはり初めてとは思えないレベルですね。
話の流れもツボを抑えてて面白かったです。
オリキャラに関しては自分もこの程度なら全然OKでした。
この話を作るにはどうしてもオリキャラは必要ですしね。
これくらいの絡みならオリキャラでても許容範囲内かな 美琴のお礼の続編を激しくキボン
>美琴のお礼の続編 同意。激しくキボンだ
やべえ…ニヤニヤしながら読んじまった俺はお子様なのに… これが全てだGJ!!
595 :
(゜Д。)y―~ :04/07/17 05:11 ID:MGF3nJ6k
初投稿突発短編、眠たいけどがんがる 穏やかな日差しの春の日に目を覚ませばそこは見慣れた部屋の天井 三面鏡の前に座って黒い髪を整え、階段を駆け下りれば妹がいる 言葉すくなに妹の挨拶が唇から漏れた 天満はそれに元気な返事をおくり、満面の笑顔で笑いかける 心なしか八雲の唇もほころんで、あの平生から見せていた堅い張り付いた表情とは別の女の子らしい表情をうかがわせる 相変わらず上膳据え膳ではあるが、朝の食事に感謝して元気に食べるのはいかにも塚本天満だった 天満は朝食を口に運ぶたびに時計を気にしてそのたびに顔を赤らめる 今思えば、この日がはじめての二人の登校日 冬の風のまだ冷たい日にお互いの気持ちが通じ合った 色々とすれ違って、それが重荷になって、忘れてしまった事もあって、いっそのことなくなってしまえと思ったこともあったけど やっと理解できた それで満足だった ただ時間が待ち遠しい みんなに見せびらかしてやる、そんな気持ちがあった みんなに祝福してもらいたい、そんな気持ちがあった 身支度を整えれば、後は玄関から春の日差しの下 広がる雲海に、桜色の花びらが彩を投げればそれは四月の花日和 天満の光の中で少し息を切らし笑っている人 満面の笑みで少女、この人と一緒でよかった 二人はお互いの目を支えあった 「「おはよう」」 まだ、はじまったばかり
596 :
(゜Д。)y―~ :04/07/17 05:15 ID:MGF3nJ6k
以上 ご指導ご鞭撻のほど心して待ちます
597 :
クズリ :04/07/17 08:10 ID:nUoXiSLg
どうも、皆様。覚えていただいていれば幸いです。クズリです。 連載を終えて何となく呆けてました。色々と思うところはあったんですが、結局 また戻ってきてしまいました。いや、書くの止めようとかそういうことではないんで すが。 上手い人が連続して来てる中、お目汚しにならないことを願いつつ、投稿して みます。
その朝、塚本八雲は悩んでいた。 彼女の目の前にあるのは、三つの空の弁当箱。 どうしようかと思いあぐね、淡い桜色の唇から自然とこぼれる溜息もまた、艶やかに色づいてい た。 Spicy Love 交わしたのは、他愛もない約束。 月末になるといつも水を昼飯代わりにしているという播磨を見かねて、八雲がお弁当を差し入れ すると言ったのだ。 彼はしばらく悩んでいたが、背に腹は代えられなかったのだろう、最後にはすまなそうにしなが らも、彼女の申し出を受け入れた。 それが昨日のこと。帰りに寄った田中商店での買い物中、彼女はいつもより心が弾んでいるのを 感じた。明日は何を作ろうか。そんな楽しみを感じるのは、久しぶりのことだった。 ところが。 いざ作る段になって、はたとあることに気付いてしまったのだ。 播磨はおそらく、八雲の作ったお弁当が食べたいわけではない。 彼女の姉、塚本天満と同じ物を食べたいのだろう。 それはいい。彼が姉を想い続けている、その後押しを積極的にするつもりはないが、無理にこち らを向いてもらおうとも思わない。今はただ、側にいれるだけで良かったから。 逆にそうでなければきっと、彼女が作ったお弁当を食べるなどと彼は言わなかった筈。だからお 互い様ということに、八雲の中では落ち着いている。 ただ。 それはそれでいいと理性では割り切れるのだけれど、面白くない、そう感じている部分もあった。 天満とではなく、自分と同じであって欲しかったのだ。例え彼が知らなかったとしても。 我ながらこんな些細なことで、と呆れる自分がいることに八雲は気付いていた。 小さく苦笑しつつ、それでも彼女は悩むのを止められなかった。 どうすれば播磨が、実際は違うのに、天満とお揃いだと思ってくれるか、ということに。
結局、彼女は誘惑に負けて、カレー粉の缶に手を伸ばした。 「おう、妹さん。弁当、美味しかったぜ」 放課後、空になった弁当箱を播磨から受け取った八雲は、その軽さに安堵する。どうやら全部食 べてくれたようだ。 「カレーコロッケが一番、上手かったぜ。ピリッと辛くてな」 褒められて八雲は、頬を真っ赤に染めてうつむくことしか出来なかった。 嬉しくて胸が張り裂けそうになっていた。 その夜。天満も今日のお弁当には満足していたようだった。 「何か、いつもより豪勢だったね?」 食器を洗いながら言う天満に、八雲は微かに笑うだけ。 「カレーコロッケも美味しかったよ〜いつもどおり甘口で」 「そう……良かった」 それはほんの些細な違い。 天満のコロッケには入れなくて、播磨のコロッケには入れたもの。 カレー粉を少々。 だから。 天満のコロッケは甘く、播磨のコロッケは辛い。 そして八雲のコロッケも辛い。 他は全部一緒。味付けも見た目も、何もかも。 だけどちょっとだけ違う。 甘いコロッケと、辛いコロッケ。 それが八雲のほんの少しのわがまま。 姉さんと一緒ではなく、私と一緒。 だけど、本当は。一番違うのは。カレー粉の有無なんかじゃない。 そのスパイスの名前は。 愛情。
600 :
クズリ :04/07/17 08:14 ID:nUoXiSLg
萌えられますか? 色々とどうでもいいことで悩んでいたんですが、やっぱり基本は好きな時に好きな ものを書くことだろう、と。 そういうわけでまた、色々とお世話になることもあると思いますが、これからもどうか よろしくお願いいたします。 それにしても、本当、上手な方々がたくさんおられますね……精進しなきゃ…… 新人の方の、初めて書く、という作品を読ませていただいていて、自分とのあまりの 差にクラクラします。 皆さん、本当にうまいんだもの。
クズリさん乙です。早めの復活うれしい限りです。 これからもどんどん投下お願いします。 今回の話は短いながらも楽しく読ませたいただきました。 八雲がかわいらしいですね。
>>589 鉛筆キタ━━━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━━━━!!!!
あんた最高だよ
603 :
クズリ :04/07/17 10:37 ID:nUoXiSLg
>>600 GJ!
やはり上手いですねー。安心して読めますよ( ´ー`)y-~~
これからも一層の御活躍を期待しています。
605 :
589 :04/07/17 11:19 ID:UTMGhxww
朝起きて見たら、感想がきていてうれしく思ってます。しかも好評のようですし…
おおよそ丸一日近くかけて書いたかいがありました。勢いで書き綴っただけとも
言いますが……
>>590-592 このくらいのオリキャラは大丈夫ですか。以前オリキャラについて議論されていたのが
記憶の片隅に有ったので心配していたのですが、杞憂に終わって良かったです。
>>592-593 くっ…お礼編ですか・・・・・・本編の沢近のように近づこうとする心境の変化を
表現するために書いただけで、あまり深く考えずに使ってしまいました。
挑戦してみようとは思いますが、もしできなくても怒らないでくださいね?
>>594 大丈夫!自分もお子様大好きです。ただ、こういう設定上とっさに嘘を言ってしまうのは
恋愛に慣れていなくて、慌てふためいてつい言ってしまう美琴か、プライドの高さが故、
意地を張る沢近だと思ったからです。沢近だと友人は外人さんになりそうだし…
>>591 >>602 自分は美琴は好きなんですが、花井はどうしても八雲に対する態度が印象に残っている
所為か、あまり好きになれず、縦笛よりも鉛筆派なんで同士が居てくれて嬉しいです。
みなさん、感想ありがとうございました。機会がありましたら、そのときもよろしくお願いします。
606 :
575 :04/07/17 12:31 ID:d8LmGgBc
>>576 >>577 レスありがとうございます。まさか肯定的なレスが返ってくるとは
思ってなかったので、少々驚いてますが。
にしても他の方々の上手い作品に隠れて、まるで存在感がない…。
しかしやはりクズリさんの文章は違いますね、特に印象に残ったのは頭の文章。
淡い桜色の唇から自然とこぼれる溜息もまた、艶やかに色づいていた。
の部分です。なんというか表現が秀逸。情景がはっきりと浮かんでくるようで。
今回の拙作ssは短時間で勢いだけで書き上げたもので、今見ると寒々しいですし
手直ししなくてもいいところがないくらいのものです。今度また気が向いたら
もう少し落ち着いたものを投稿させていただきたいと思います。そのときは
またお付き合いください。では。
「あーあ、居残りなんてホント冴えないわね」 まだほとんど白紙のままの画用紙を眺めて、沢近愛理は溜め息を漏らした。 「文句言ってるヒマがあったら手ぇ動かせって。つーか沢近、アンタが一番進んでないだろ」 それに対し、周防美琴が突っ込みを入れる。不満げな表情で鉛筆を取ると、沢近は少しだけ 自らの画用紙に線を加え、また動きを止めた。 「まったく、何が悲しくて女三人で居残りしなきゃならないんだか」 「仕方ねーだろ、課題なんだから」 「……ねえ美琴さん、この人って誰だっけ?」 「ちったぁ真面目にやれ!」 放課後の美術室を、賑やかな空気が包み込む。美術の自由課題を仕上げるため、沢近と美琴、 そして高野晶は美術室を訪れていた。鉛筆を弄びながら、沢近が再び愚痴をこぼす。 「まったく、勘弁して欲しいわ。何で居残ってまで絵なんか描かなきゃいけないのよ」 「はいはい、そーですね」 「ねえ美琴さん、この人って……」 「知るか!」 晶の描いた謎の人物画を破り捨てると、美琴は古びた椅子に身体を投げ出した。自由課題提出の期限は 本日であり、終わるまで帰宅することは許されない。この後少林寺拳法の練習を控えている 美琴にとっては、頭の痛い問題である。
「ったく、こんなんじゃいつ帰れるかわかりゃしねーよ」 「ホント、やってらんないわ。それじゃね」 「おい、どこ行くんだよ」 「トイレよ」 「……それなら、私も」 沢近と晶は、そのまま連れ立って美術室を出ていってしまった。騒がしかった美術室に、 一時の静寂が訪れる。吹奏楽部のものらしき軽快な旋律が、微かに美琴の耳へと届いた。 「こりゃ今日の練習はサボリかな。花井にどやされちまうよ」 生真面目な幼馴染みの顔が、美琴の脳裏へと浮かぶ。日が傾きつつある空を見つめ、美琴は 大きく溜め息をついた。その時、 「!?」 突然、美琴は何者かの気配を感じた。それも、沢近や晶とは全く違う「圧迫感」を持ったものである。 美琴はとっさに構えを取ると、誰もいない空間に向かって叫んだ。 「誰だ! 出てきやがれ!」 美琴の額を、一筋の汗が伝う。閉め切られた美術室の中に、美琴以外の人間の姿はない。本能的に、 美琴は自分の置かれた状況を察知した。 「……やべぇな、こりゃ」 今まで感じたことのない、異質な恐怖が美琴を包み込む。辺りに漂う空気は、十月の初頭とは 思えないほどに重く冷たい。実態のない悪意が、美琴の精神を苛んでゆく。 「ミコト」 「―――!?」 「さよなら」 「!!」 瞬間、美琴の視界が暗転した。
「さて、そろそろ真面目にやらないとね。がんばりましょ」 「……うん」 気楽な声を廊下に響かせながら、沢近たちが美術室の前へと戻ってきた。古ぼけた美術室のドアが、 耳障りな音と共に開かれる。 「……あら?」 美術室に入ると、沢近は少しだけ首を傾げた。室内のどこを探しても、美琴の姿が見あたらなかった からである。不可思議な事態に、二人はどちらともなく顔を見合わせた。 「変ねぇ、どこ行っちゃったのかしら?」 「……さあ」 二人の声に呼応するかのように、ひらひらとカーテンが揺らめく。西日の差し込む美術室には、 ただ絵の具の香りのみが漂っていた。
「ハナイ、またなー!」 「ああ、気をつけて帰るんだぞ」 少年の部の練習が終了し、道場の玄関は喧噪に包まれていた。まだあどけなさの残る少年たちが、 小走りで外へと出て行く。その姿を見送ると、花井春樹は大仰に肩をすくめた。 「まったく、元気なものだな。練習の直後だというのに」 呆れと感心の入り交じった感情が、花井の心へと広がる。少年の部の指導は精神的にも肉体的にも 大変なものだが、その分楽しみも大きい。子供たちが成長していく姿を見ることは、花井にとって 何物にも代え難い喜びだった。 「彼らに負けないよう、僕も頑張らねばならんな。それにしても―――」 言いかけて、花井が険しい表情になる。本来、今日は花井と美琴の二人が少年の部の指導を行う 予定だった。それにも関わらず、美琴は未だ道場に姿を見せていない。指導をする立場の人間が 練習を休めば、子供たちの士気にも影響が出る。生真面目な花井にとって、美琴の欠席は 到底納得のいくものではなかった。 「しょうがない奴だ。明日会ったら説教をしてやらねば」 腹ただしげな口調で、花井が呟く。その時、 「……ん?」 道場の中から、花井は何者かの気配を感じ取った。子供たちはすべて家路についており、 今この道場に残っているのは花井だけのはずである。野良猫が忍び込んだくらいのことであれば 問題はないのだが、もしも空き巣の類であったならば、当然見逃すことはできない。両の手に 力を込めると、花井は一気に道場の中へと駆け込んだ。
「何奴! この道場に忍び込んで、ただで帰れると思う―――な?」 花井の肩から、急激に力が抜ける。肩に届くほどの髪に、見慣れた制服。道場の中にいたのは、 まさしく彼の幼馴染み―――美琴であった。 「何だ周防、お前か。まったく、遅刻にも程があるぞ。お前がそんなことでは、子供たちに 示しが―――」 「花井」 美琴の瞳が、神秘的な光を帯びる。微かに笑みを浮かべると、そのまま美琴は花井に抱きついた。 瞬く間に、花井の顔が真っ赤になる。 「ど、どうした周防!? 熱でもあるのか!?」 「私、気づいたんだ。私が本当に好きなのは、お前だったってことに」 「す、周防……」 戸惑う花井をよそに、美琴は彼の首へと腕を回した。二人の唇が、ゆっくりと近づく。 「好き―――」
「―――誰だ」 「!!」 花井の言葉に、美琴はぴたりと動きを止めた。美琴の表情が、当惑のそれに変わる。 「な、何言ってるんだよ? あたしの顔も覚えてないのか?」 「とぼけるな。そんな猿芝居に騙されるほど、僕と周防の付き合いは短いものじゃない。 どういうつもりかは知らんが、相応の報いは受けてもらうぞ」 美琴を射抜く花井の眼光は、静かな怒りに満ちていた。二人の間に、凍り付くような空気が流れる。 花井の首から手を離すと、美琴は数歩だけ後ろに下がった。 「さすがね。こんなに早くバレるとは思ってなかったわ」 美琴の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。その瞬間、美琴の瞳から光が消えた。 「周防!」 叫ぶやいなや、花井が美琴の元に駆け寄る。バランスを失った美琴の身体は、すんでのところで 花井に抱き留められた。
「周防! しっかりしろ、周防!」 花井の両腕が、美琴の身体を揺り動かす。美琴は完全に意識を失っているらしく、花井の呼びかけにも 応えることはなかった。花井の表情に、焦りの色が漂い始める。その時、 「大丈夫よ。ちょっと身体を借りただけだから、少しすれば目を覚ますわ」 「!」 道場の中に、何者かの声が響いた。花井の顔が、声の発せられた方向―――道場の入り口へと向く。 「……君がやったのか?」 「ええ、そうよ」 そこに立っていたのは、思いの外幼い少女だった。長い黒髪に、すべてを見透かすかのような瞳。 年齢的には、ほとんど花井の教え子たちと変わらないくらいだろう。花井は少々たじろいだ様子を見せたが、 すぐに気を取り直すと、厳しい口調で少女に尋ねた。 「……なぜこんなことをした? 子供のイタズラにしては、少々度が過ぎているぞ」 「……だいぶ、怒ってるみたいね」 「君が子供でなければ、拳の一つもくれてやっているところだ。さあ、理由を話してもらおう」 少女を見つめる花井の目に、再び怒りの炎が宿る。しかし、 「……あなたの好きな人は、誰?」
「……何だと?」 少女の口から発せられたのは、思いも寄らぬ問いかけだった。花井の顔に、困惑の色が浮かぶ。 「聞いてるの、答えて」 淡々とした口調で、少女は再び答えを求めた。その表情に、子供らしい感情の揺らぎはまったく 感じられない。美琴を床に寝かせると、花井はその場に立ち上がり、胸を張って答えを返した。 「……ならば答えよう。僕の愛する人は1−Dの塚本八雲君だ。あれほど美しく、心優しい女性は 他にいない。彼女こそ僕の理想の女性、いや、女神だ!」 無闇に力強い声が、道場の中へと響き渡る。それを聞くと、少女は静かに口を開いた。 「……本当に、そうかしら?」 「……どういうことだ? 僕の言葉に偽りはないぞ」 その言葉に、花井が不服そうな表情を見せる。無表情のまま、少女は言葉を続けた。 「……あなたはヤクモのことが好きだと言ったわ。でも、あなたが一番気にかけているのは ヤクモじゃない、ミコトよ」 「……何が言いたい?」 「あなたが本当に好きなのはミコトなんでしょ? あなたの心の中にいるのは、いつだって ミコトだけ。さっきのでよくわかったわ」 「……」 「あなたはミコトが好きだった。でも、ミコトにとってあなたは『トモダチ』でしかなかった。 自分の気持ちを伝えれば、きっとミコトは悩み苦しむ。あなたはそれがイヤだった」 黙り込んだまま、花井は何も答えようとしない。感情のない瞳が、真っ直ぐに花井を捉える。 「……だから、あなたはその気持ちを心の奥に封じ込めることにした。そして、ミコトとは正反対の 性格の女の子ばかりを追いかけることで、ミコトへの気持ちを断ち切ろうとした。バカみたいに ヤクモへの気持ちを口にするのも、ミコトへの叶わない想いを紛らわせるため―――違うかしら?」
その時、 「はっはっはっはっは!」 突然、花井は割れんばかりの大声で笑い出した。それを見て、少女が微かに顔をしかめる。 「……何がおかしいの?」 「あ、いや、すまない。残念だが、君の考えは間違っているよ。僕が好きなのは八雲君ただ一人だ」 「……じゃあ、あなたにとってミコトは何なの?」 「……幼い頃から共に腕を磨いてきた、僕にとってかけがえのない存在だよ。向こうはどうだか わからないが、少なくとも僕の方はそう考えている。周防がいなかったら、きっと今の僕は ないだろうな。周防のためなら、僕は喜んでこの身を差し出そう」 「……」 不満げな顔つきの少女に対し、優しい口調で花井は答えた。その表情に、先程までの怒りは 残っていない。二人の間の空気が、穏やかなものへと変わっていった。 「……そう、わかったわ」 「うむ。ならば、今度はこっちの番だな」 「……え?」 「さっき僕は『相応の報いは受けてもらう』と言ったはずだ。さあ、頭を出すがいい」 指の関節を鳴らしながら、花井が少女に歩み寄る。少女の表情が、俄にこわばった。 「え、あ、ちょ―――」
「……?」 怪訝そうな表情で、少女が花井を見つめる。花井の手は、少女の頭にそっと置かれただけだった。 「……どういうつもり?」 「今、君は自分のやったことを後悔し、悔いたはずだ。それで充分だよ」 「……」 「だが、よく聞いて欲しい。人の心を弄ぶというのは、この世で最もやってはいけないことの一つだ。 子供とは言え、今回のことは決して許されることじゃあない。どうやったのかは知らないが、 もう二度とこんなことはするんじゃないぞ」 「あの、私……こう見えても、ずっとあなたより年上なんだけど……」 「何を言う、どう見ても子供じゃあないか」 大真面目な顔で、花井が言い切る。少女は何か言いたげな素振りを見せたが、結局そのまま 黙り込んでしまった。二人の間に、何とも言えない空気が漂う。 「……もう一度聞こう。二度とこんなことをしないと約束できるかい?」 「……うん」 「よし、いい子だ」 満足そうに微笑むと、花井は優しく少女の頭を撫でた。恥ずかしげな表情で、少女がうつむく。 「……ハルキ」 「何だい?」 「……また、会いに来ても……いい?」 「ん? ああ、大歓迎だ。この道場はいつでも門下生募集中だからな。君のような子が来れば、 きっと周防も喜ぶだろう」 「……バカ」 「ん?」 「……何でもないわ。それより、ミコトが目を覚ましたみたいだけど」
「何!」 それを聞いて、再び花井が美琴の元へと駆け寄る。頭痛をこらえるかのように、美琴は自らの 額へと手を当てていた。 「周防、大丈夫か!」 「……ん、花井……」 「無理に動かなくていい。ああ、君、ちょっと台所から水を―――」 花井の視線が、再び少女の方へと戻る。しかし、 「……ん?」 いつの間にか、少女の姿はそこから消え失せていた。風が出てきたらしく、道場の窓が軋んだ音を立てる。 一通り道場の中を見渡すと、花井は不思議そうに首を捻った。 「……ふむ。最近の子供は、意外と足が速いんだな……」
幾分冷たくなった秋の風が、微かに美琴の髪を揺らした。古ぼけた道端の電灯が、チカチカと点滅する。 夕日は完全に地平線の下へと姿を消し、辺りは夜の闇に包まれ始めていた。 「……なぁ、花井」 「何だ?」 「いい加減降ろせって。自分で歩けるからさぁ」 「だめだ」 「だぁ! もう! こっちゃ恥ずかしーんだよ!」 顔を真っ赤にして、美琴が叫ぶ。少女が姿を消した後、花井は美琴を背負って道場を後にした。 いくら幼馴染みと言えども、美琴にしてみれば恥ずかしいことこの上ない状況である。 「……いきなり練習中に倒れたんだからな。帰り道にまた倒れられでもしたら、お前の両親に 会わせる顔がない」 「……」 花井の言葉を聞くと、そのまま美琴は口ごもってしまった。無言のまま、花井は美琴の家に向かって 歩みを進める。 聞き取れないほどに小さな呟きが、美琴の口から漏れた。 「バカヤロウ、ヘタな嘘なんかつきやがって……」
朦朧とした意識の中で、美琴は確かに少女と花井の会話を聞いた。記憶に残る言葉の断片が、 美琴の胸を仄かに熱くさせる。かつてどこかで聞いたフレーズが、不意に美琴の頭をよぎった。 あなたを大切に想う人は、いつも傍にいる――― 花井の首へと回した腕に、美琴は少しだけ力を込めた。美琴の体温が、花井の身体へと伝わる。 「……どうした?」 「……何でもない、何でもないから……」 二人だけの世界を、静かに時が流れてゆく。夜空に瞬く星々だけが、二人の姿を見つめていた。
というわけで、変則気味の縦笛を一つ。
とりあえず、ネタ出しをして下さった3スレ目の
>>335 さんありがとうございました。
そして、すみませんでしたorz
ずっと書こう書こうと思ってはいたんですが、どうしてもプロットがまとまらず、
他の話を書いたりしているうちにえらく完成が遅れてしまいました。
申し訳ないです。
それにしても、幽霊の女の子の再登場はいつになるんでしょうか……。
個人的には、幽霊の女の子が花井のことを好きになり、八雲にヤキモチ焼いて
嫌がらせをする展開をキボンしておきます。
GJ♪ 最近神が増えていて実にいい感じだ。
最後の帰り道の、しんみりした静かな感じが素敵です。 GJ!
GJ!
GJ!
626 :
クズリ :04/07/18 01:21 ID:nUoXiSLg
笹倉先生、誕生日おめでとうございます。ということで、とっても短い記念SSを投下。
己の進むべき道ははっきりと見えずとも、ただこうして生きていき、描き続けることを決意した 大学生の頃。 そして。 未だ迷いつつも、教え導く側に立ち、徐々に確かな何かが絵の中に浮かび始めた最近。 年を重ねることを、葉子は厭わない。 誕生日ごとに描く自画像、それをまとめたアルバムをめくるたびに、彼女は思うのだ。 一年という時間の積み重ねが、確かに自分の中にあって、それが成長だと感じられるから。 だから、誕生日は楽しい。去年の自分と違う自分に出会えるから。 そして、もう一つ。 「ああ、笹倉先生。やっぱりここにいたんですか」 「刑部先生」 「相変わらずお上手ですね」 「褒めても何も出ませんよ?」 「出すのはこちらですよ。お誕生日、おめでとう」 親友と呼べる女性が手渡してくるのは、小さな箱に入った何か。それが何かを知るのは、家に帰 った後。それまでのドキドキも、彼女からのプレゼントの一部なのだから。 こんな誕生日を毎年迎えられる自分は、とても幸せ者だと、葉子は思った。
鏡に映る自分の顔を見つめながら、鉛筆を取る。 心の中を空っぽにして、そっとキャンパスの上に描き始めるのは、自画像。 それが彼女、笹倉葉子の毎年の習慣だった。 最初にこうして描き始めたのは、まだ彼女が幼く絵筆を持ち始めた頃のこと。児童美術教室の先生に言われたからだった。 今日、家を出る前に改めて、初めて書いたものからこれまでのものを全部見直してみた。その年その年によって、絵に込められた意味が変わってきているのがわかる。 ただ絵を描くことが楽しく、思うがままに鉛筆と筆を走らせていた幼少の頃。 真剣に絵に取り組み始め、お気に入りの画家の真似を始めた中学生の頃。 自らの将来について思い悩み、その表情もまた落ち着かない高校生の頃。 己の進むべき道ははっきりと見えずとも、ただこうして生きていき、描き続けることを決意した 大学生の頃。 そして。 未だ迷いつつも、教え導く側に立ち、徐々に確かな何かが絵の中に浮かび始めた最近。 年を重ねることを、葉子は厭わない。 誕生日ごとに描く自画像、それをまとめたアルバムをめくるたびに、彼女は思うのだ。 一年という時間の積み重ねが、確かに自分の中にあって、それが成長だと感じられるから。 だから、誕生日は楽しい。去年の自分と違う自分に出会えるから。 そして、もう一つ。 「ああ、笹倉先生。やっぱりここにいたんですか」 「刑部先生」 「相変わらずお上手ですね」 「褒めても何も出ませんよ?」 「出すのはこちらですよ。お誕生日、おめでとう」 親友と呼べる女性が手渡してくるのは、小さな箱に入った何か。それが何かを知るのは、家に帰 った後。それまでのドキドキも、彼女からのプレゼントの一部なのだから。 こんな誕生日を毎年迎えられる自分は、とても幸せ者だと、葉子は思った。
629 :
クズリ :04/07/18 01:26 ID:nUoXiSLg
>>627 は投下ミスです。何やってんだ俺……_| ̄|○
クズリさん深夜に乙です
このSSは
>>628 単体の作品ってことですか?
631 :
クズリ :04/07/18 04:26 ID:nUoXiSLg
>>630 はい、そうです。32行(どうやらこれが私のブラウザから書き込める最大改行回数らしい
のです)の中で、誕生日を迎えた彼らのほんの一シーンを切り取って書いてみようかな、と。
次はだから美琴ですね。
感想の山越えハンマー。誰も触れないなら私が書くしか。 >596 短編というより散文詩寄りだよね。夏場は読解力落ちるから辛いわ。 「八雲の高校デビューの話」で合ってる? 正直それすら自信ない。 何がどうなって誰のどういう感情なのかすごくわからにくかったから。 初投稿なのに文章技法で冒険しすぎな印象を受けたのでもっと素直に書いた方がいいかも。
播×沢エンドでも播×八エンドでも全然許容できるのですが、そのための前提条件として、播磨が天満にきちんとした形で振られて、
そこから沢近なり八雲なりに惹かれていくその時間の過程を、その過程における播磨と沢近/八雲の心理状態の変化を丁寧に追って
いってほしいと切に望む次第です。たまに播磨が天満を好き、という設定そのものが黙殺されている類のものがあって、まあ本スレ
とかのお子様系妄想レベルでなら別に構わないけれど、二次創作である以上基本設定を無視されたくはないと思うのです。
なので
>>575 さんの作品は凄く良いと感じました。 …単に自分が天満至上主義者だからこんなことを思うだけかもしれませんので
気に入らなかったら流してください(天満スキーだけどカップリングに執着はありません)。
一読者の分際で偉そうなことを言ってしまって申し訳ありません。
>>633 たしかに恋愛に発展する様子はない(過去そうだったことも無い)という
基本設定を無視した縦笛SSはお子様系妄想レベルだな
花井→美琴なり美琴→花井に至る過程をちゃんと書いてるの読んだ事ないし
>>634 ?八雲に面と向かって振られ、その後美琴と恋愛に発展するのはダメなのか?
>>633 単なる一読者なのに妄想レベルだとか設定を無視するなだとか随分凄いですね。
多くのSSは播磨にとって天満以外の存在が大きくなっていく過程をしっかり描けていると思います。
そもそも天満に振られるのが前提だというのもあなたの勝手な思いこみなんですが。
いつのまにか天満への恋心が消えていたということも十分あり得るわけですし。
あなたの発言はただ単に天満の扱いが悪いのが気に入らないという主張にしか聞こえませんが。
もう少し考えてから書き込んで下さいね。
>>633 あなたはSSというものを勘違いしていると思う。
あなたの定義でSSを書くと、判で押したような画一的なSSしかできあがらない。
大体にして、「お子様系妄想レベル」とやらと、「二次創作」に分ける考え方が気に入らない。
境界線はどこに引くの?天満至上主義者に配慮しているかどうかなのか?
気にくわなきゃ読まなきゃいい。 文をかかない外野なんて文句を言える立場じゃないよ。 ↓以下何事もなかったようにスルー
>>631 GJ!
雰囲気でてて良い感じですね。
ただもうちょっと長い方が嬉しいかも。美琴編期待してます。
,. ─- 、,,.___
,イ〃 `ヽ,__ みんなも知っての通り
. N. {' \ 長文レスの60%はノイズだ
. N. { ヽ
. N.ヽ` 〉
>>633 を解読にはまず
N.ヽ` ,.ィイ从 / 1行目の立読み
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく 「播きそ理いもとななだ気一」
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i ! ノイズを抜きつつアナグラムを解く
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ 播理気は不自然だからノイズだ
!  ̄ ii{_,.  ̄ /r'´ きそななだも文脈から考え削除する
,ゝ、 iー-ー、 , ' |\ そして残ったものを繋ぐ……
-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー- 、 ↓
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :| いもと一
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ | ↓
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :| いもーと
T´ ヽ\l.0| V / / / \ | ↓
八雲たん(*´д`*)ハァハァだったんだよ!
641 :
640 :04/07/18 15:14 ID:DXI0n.GI
全画面で読むと前提から変わってくるが 気にしちゃいけないんだよ!
>>637 勇気がでる一言ありがとうございます。非常にすっきりしました。
633の意見も少しわかるなぁ。 AはBが好き、っていうのが原作であった上での A×CのSSなんかで、AがBの存在を忘れてるかのように Bに対する心理描写がなかったりすると変な感じがする。 振られるなり、自ら諦めをつけるなり、 あるいは気がついたら他の人の事ばかり考えている自分に戸惑うなり その辺の描写はきちんとあってしかるべきだと思う。
然るべき?( ´_ゝ`)ハイハイ 蒸し返すな
うーん、誰を主として据えるかによるとおもうが 特定の人物の主観視点で話をすすめた場合に 他キャラの心象を深く描写すると説明しすぎになると思う 例えば播磨の心変わりを納得行く方向で書こうとすると それだけでかなりの分量を割かねばならず、メインがぼやけてしまうのではないか?
それ俺らが話し合うことじゃないじゃん。 SS作家さんが決めることだからね。 ↓何もなかったように再開
647 :
Classical名無しさん :04/07/18 18:22 ID:pUI7VGPI
633の言いたいこともわからなくもない。 播磨が天満を好きというのは、人格や性格にかかわる重要な問題だ。 いわば意地っ張りではない沢近とか、おっとりやおどおどしてない八雲とか言えばわかるだろうか。 別人のように移ってしまい、その結果萌えられないんだな。 だけど、ゲームのように複数のシナリオが用意されているわけではない漫画で、 最初から徐々に引かれて行くように演出するのは骨だ。 無茶苦茶長文になってしまう。そこまで要求するのは酷だろう。
あげちゃいましたすみませそ。
633の意見は
「もっとキャラの性格を原作に似せてSSを描いてほしい」
ってことでいいのかな
確かにそういうSSがあって欲しいという気持ちは分かる
でもその過程を全て書き、なおかつスポットライトを浴びてないキャラに対する気持ちの描写なんかしてたら
長編になってしまう
連載を嫌う読み手もいるんだからその要望を取り入れると書き手がいなくなってしまうよ
SSっていうのは大体ワードで10ページ位でまとめられてるものが多いんだから
>>634 ここぞとばかりに縦笛をたたくのはやめような
ここはIFスレだ、萌えスレじゃないぞ
いい加減アホは放置しる
「あー、えっと…ただいま」 「……」 「…イトコいないのか?」 「……」 「なんだいるんじゃねーか…返事ぐらいしてくれよ」 「……」 「…怒ってるのか?」 「……」 「あー、その…心配かけてすまねぇ」 「…ふん、誰が心配など…」 「……」 「何かあるとすぐ私に何も言わずに出ていってしまう奴なぞ、同居人とも家族とも思ってないよ私は」 「……」 「……」 「…すまねぇ」 「全くキミという奴は…」 「……」 「あんまり、心配ばかり、かけるな…」 「!!!イ、イトコ、お前泣いt」 「…気のせいだ」
「そ、そうか…」 「そうだ」 「……」 「……」 「…すまねぇ」 「いや、顔を見て安心したら気が抜けてしまってな…」 「……」 「……」 「本当にすまねぇ…」 「もういい。ただしこの借りはきっちり返して貰うぞ拳児君」 「お、おう」 「…疲れたろう。風呂でも浴びてこい」 「あぁ」 おしまい。
>>653 そして播磨が風呂を浴びてる最中に絃子が入ってきて借りを返させるのですね。
とか言って見る。
そういや拳児×絃子派って何派なんだ?特になければ「胡椒派」と提案してみる。
拳児×絃子スキー。 すなわち超姉派。
超姉最高ですね。
超姉派で少年期に従兄弟のお姉ちゃんと結婚の約束をしていたよ派。
超姉貴?
同居姉派。
↓隣子SSが…
花井スキーの方々はスルーして下さい。この注意を守らず
気分を害されても当方は一切責任を負いません
ちなみに…隣子SSではありません。
>>660 さん申し訳ありません
ねえ 君が僕の想いに答えようとしてくれなかったのは 恋に臆病なだけだと 信じて疑いもしなかったんだよ 君を変えてやろうなんて はずかしく思い上がり まるで天国かどこかに 導くように話しかけていた 顔を見るたび あせっていらいら 見当違いの使命感を抱いて いったい僕はナニサマだったんだ ああほんとに馬鹿みたい せっせと空回りしていた 僕を哀れんでいただろう? 思い出すたび 不思議な気がして 幸せがなんだかわかんなくなって 信じてたものが意味を亡くした 何か言おうとしてたの? うらがえしの世界を見れなかった 勇気がなくて しがみつくのも 手を離すのも 決められなかった うらがえしの世界を見れなかった 勇気がなくて 影は光に 醜さは美しさに パッと変わるなんて認められなかった 捨てられて ガラクタのようになったアイツを磨いて ぴかぴかになったそいつを抱いて 君はただ笑ってる フツーに笑ってる
スミマセン……鉛筆SSの続きを書いてたはずが突発的にこんなもの書いて しまいました…… 元ネタは稲葉浩志の新曲『Wonderland』です。 歌詞を独自の展開を加えて何箇所か変えてあります。 しかし、ほとんどそのままの箇所が多いので著作権に引っかからないか心配です…… 歌詞の解釈が間違っているかもしれませんが歌と無関係にお読み下さい。 天満にふられた播磨が八雲と付き合うようになって、それを見ている花井の心境という設定で書きました。 この歌を聴いてると、花井のことを歌ってるんじゃないかと思ってしまいます。 普段はそうでなくても、八雲に対する時だけ迷惑を顧みず(部活騒動みたいに)自分の思い込みだけで、 行動する花井そのものです。……自分の偏見による所が多いと思いますが…… 播磨も思い込みは激しいけど自分の価値観を天満に押し付けようとしたり、迷惑をかけようと したことは無かったと思います。 ………花井好きの方々に散々に叩かれる事になりそうで怖いです……… 歌詞の解釈が間違っているかもしれませんが歌と無関係にお読み下さい。
>>652 会話文だけですすむSSもいいですね。
… の間に、二人の心境が見て取れますし。
>>663 662はスルーさせていただきました。【花井が好きなので】
ただ、あとがきは見させていただきました。
>播磨も思い込みは激しいけど自分の価値観を天満に押し付けようとしたり、迷惑をかけようと
したことは無かったと思います。
・・・単に播磨が臆病なだけのへタレだったからだろ。
自分で勝手に天満が自分のことを好きだと勘違いして行動したり、
漫画で自分の妄想の世界に浸ったり。。。
あと、あなたは、播磨が迷惑をかけようとしたことは無かったと言っているが、
教会で撮影の邪魔をしたことはどう説明するんだろうね。
だいたい、迷惑をかけようとしたことは無かったというなら、
花井は迷惑をかけようとしたってことか?
迷惑をかけようと自ら行動する描写なんかなかったよな。
自分が言いたいことは、 人は行動する際、何かしらの迷惑をかけているということです。 別に、播磨が嫌いとかそういうことではありません。 ただ、花井だけに、焦点が当てられるのがいやなんです。 播磨と花井の行動のうち、ギャグの部分と通常の部分を一緒くたに考えないでください。
今鳥=ふざけキャラ
花井=うざキャラ
播磨=不幸キャラ
ってのは仁丹が前面に出してることだと思うけど
>>653 超姉最高だが
本編じゃまた「誰だっけ」で終わりそうな罠
667 :
663 :04/07/19 11:11 ID:rQS10s8U
責任は負わないと言っておきながら返答させてもらいます。
>>664-665 申し訳ありません!確かに播磨は教会で撮影の邪魔をしたりしてますね……
ただ、それぞれが想う相手に迷惑だと思われたであろう行為をしたかどうかにだけ
考えていて、他の人間に迷惑をかけたかどうかを考慮するのを忘れていました。
それと、確かに自分の文章では花井については結果だけを、播磨については動機
だけを問題にしていて立場を対等に考えていませんでした……
自分は想い人に結果として迷惑をかけてしまったという花井の行為を偏見を持って
考え過ぎていたようです。
そんな自分の思慮不足のせいで不快感を与えてしまうものを書いてしまい本当に
申し訳ありませんでした!!
これから、余計な思い込みや、偏見を捨ててもう一度最初から読み直して、登場人物
一人一人の立場をきちんと把握したいと思います。
一時期完全に消滅しても殆ど見向きもされなかった 超姉萌え派がここまで大きくなるとは驚きだ
>>667 気にすることないよ
花井に関してはあなたと同じ意見のやつが多いと思うし。
それにここはそんな議論をする場でもない。
>>664-665 は過剰反応しすぎ。
>>665 花井をウザいと思おうがどうだろうが人それぞれだろ?
自分以外の奴も全員花井の事を好きじゃないと気が済まないのか?押しつけんな。
ただ
>>663 のような花井を批判するような後書きをわざわざ書く必要も全くないので
もう少し気を使って欲しかったです。
だからもういいって花井論争は -------------------猫線--------------------
皆、まず633のレスを読むんだ そして縦笛が本編でやる可能性があるならば 花井振られる→当然落ち込む→美琴が慰める→縦笛フラグ という過程になるだろう その上で改めて663のSSを読んでみるんだ そう、もう分かっただろう! つまり…
. ,イ/ l/  ̄ ̄`ヽ!__ ト/ |' { `ヽ. ,ヘ N│ ヽ. ` ヽ /ヽ / ∨ N.ヽ.ヽ、 , } l\/ `′ . ヽヽ.\ ,.ィイハ | _| ヾニー __ _ -=_彡ソノ u_\ヽ、 | \ 663の書いた作品は .  ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ > . l  ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./ ∠__ 実は縦笛SS ゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ トr‐' / l `___,.、 u ./│ /_ なんだよ!! . ヽ. }z‐r--| / ト, | ,、 >、`ー-- ' ./ / |ヽ l/ ヽ ,ヘ _,./| ヽ`ー--‐ _´.. ‐''´ ./ \、 \/ ヽ/ -‐ '''"  ̄ / :| ,ゝ=< / | `'''‐- 、.._ / !./l;';';';';';';\ ./ │ _ _,> '´|l. ミ:ゝ、;';';_/,´\ ./|._ , --、 | i´!⌒!l r:,=i . | |:.l. /';';';';';|= ヽ/:.| .|l⌒l lニ._ | ゙ー=':| |. L._」 )) l. |:.:.l./';';';';';';'! /:.:.| i´|.ー‐' | / | |. ! l . l. |:.:.:.!';';';';';';';'| /:.:.:.:!.|"'|. l' │-==:|. ! ==l ,. -‐; l |:.:.:.:l;';';';';';';';| /:.:.:.:.:| i=!ー=;: l | l. | | / // l |:.:.:.:.:l;';';';';';';'|/:.:.:.:.:.:.!│ l l、 :| | } _|,.{:: 7 )) l |:.:.:.:.:.:l;';';';';'/:.:.:.:.:.:.:.:| |__,.ヽ、__,. ヽ._」 ー=:::レ' ::::::|; 7 . l |:.:.:.:.:.:.l;';';'/:.:.:.:.:.:.:.:.:.|. \:::::\::::: ヽ ::::::!′ :::| .:/ . l |:.:.:.:.:.:.:∨:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.! /ヽ::: `::: :::: ...
な、なん(ry
縦笛厨はなんでこんなにうざいの?
676 :
Classical名無しさん :04/07/19 15:01 ID:eWUpeswc
それはそうとお前等もう463KBですよ。 そろそろ次スレか?
678 :
673 :04/07/19 16:39 ID:gFdEljq2
>>675 キバヤシAAの時点でネタと気付いて欲しいんだがw
不快な気分にさせて悪かったね
スマソ
681 :
575 :04/07/19 18:30 ID:d8LmGgBc
投稿させていただきたいんですが 次スレにしたほうがいいですかね。 一応メモ帳のデータは14KBなんですが。
>681 大丈夫でない?
683 :
575 :04/07/19 19:14 ID:d8LmGgBc
んじゃ投稿します。えー実は構想は前回と一緒だったりします。 まあ本文は一部を除いて全く違うものですし、ストーリーも 決定的に違う部分があるので、違うものとして読んでいただける と思います。前回のものと別バージョンと考えていただければ。 それでは。
以前、私は月が好きだった。特に月夜の晩が。 柔らかい月の光を浴びながら猫と戯れる時間は 私の心を豊かにしてくれた。 だけど今は違う。私は月が嫌いだ。いや、憎んですらいる。 何故なら、今やあの月の光は、私の心の闇を浮かび上がらせるから。
今日は日曜日。空に朧に見える月は満月。 こんな日は家のなかで過ごすのが一番なのだけど 夕食の材料が切れていたので、仕方なく街に出た。 昼下がりの街は人が多くて、私の気持ちを鈍らせる。 目的地を目指して歩いていたら、不意に声をかけられた。 「お、八雲、こんなとこでなにしてんだ?今日はサラちゃんと でかけるっつってなかったっけ」 「拳児さん…」 そこには、彼がいた。 「あ、いえ、あの…、サラのほうの都合が悪くなって…」 私は咄嗟に嘘を吐いた。純粋な彼はきっと疑いもしないだろう。 「そっか。ならちょっと付き合ってくんねーか?また例のことで 意見聞かしてもらいて―んだ」 「あ、えと、…はい、わかりました…」 「あんがとな。じゃ、いつもんとこにいくか」 「…はい」 私は彼と連れ立って喫茶店へ行くことにした。やっぱり、私は馬鹿だ。 これじゃ何のためにこの数日間彼を避け続けていたのかわからない。
カランコローン 私たちは喫茶店に入り、席に座った。 休日にしてはお客さんの入りは少ないようだった。 「で、早速でわりーんだけどよ」 といって彼は原稿を取り出す。私はいつものように原稿を受け取り 幾つか感想を述べた。彼はしきりに頷いて感心していた、いつものように。 「ま、こんなとこか。毎度毎度わりいな」 「いえ…」 彼の律儀な感謝の言葉に、少し距離を感じてしまう。 ああ、だめだ。やっぱり神経質になってる。 「ん?大丈夫か?八雲。なんか顔色わりーぞ」 「あ、えと…、大丈夫です、ちょっと…」 あなたのことを考えていただけですから。 「…そっか。なら…、いいんだけどよ。そうだ、最近お互いバイトやなんかで忙しくて、 こうやってゆっくり話す暇なかったよな。だから、まあ、なんだ、 これからちょっとでかけねえか?ようするに…、デートなんだけどよ」 照れながら彼が言うその言葉に、私は笑みを返した。 ぎこちなくなってはいなかっただろうか。
そう私と彼は今、恋人と呼び合える関係にある。 それは数ヶ月前のあの出来事がきっかけだった。 烏丸さんの転校が差し迫っていた時期。 姉さんは決死の覚悟で告白し、成功した。 以来姉さんは、家でも、クラスのなかでも、烏丸さんの話ばかりで。 それはとても幸せそうで、親友たちも苦笑いしながら、祝福していた。 だが、その一方で、砕けてしまった恋もあった。 姉さんが告白した現場に、私も、そして彼も、居合わせていた。 私は、不安がる姉さんの付き添いとして。 なら彼は?彼はその場に居合わせて当然だった。 告白を渋る姉さんを必死に説得したのは彼だったから。 姉さんを烏丸さんが出立する駅まで連れて行ったのは、彼だったから。 姉さんが幸せになることを望んだのは、誰よりも、彼だったのだから。 想いが成った後、姉さんは烏丸さんと連れ立って、 彼へ感謝の気持ちを残して、どこかへ行ってしまった。 彼は軽く頷いた後、その場にずっと、立ち尽くしていた。 ずっと。
どれだけ時間がたったのかはわからない。 私が彼の肩に手を掛け、何か言おうとしたそのとき。 彼はゆっくりと振り向いた。 彼は泣いていた。必死に声を押し殺しても、頬を伝う涙を 止めることはできなかったのだろう。そして不意に、彼は。 私を、抱き締めた。強く、強く。 何かにすがるように。自分の存在を確認するように。 強く。 そのときはじめて私は、彼が姉さんに恋をしていたことを確信し、 私が彼に恋していることを、自覚した。 その後の彼は、見ていて痛々しいほどだった。 まるで生気を失った彼は、それでも学校に来ていた。
そんな彼を、私は懸命に支えようとした。 私にできる限り。想いの限り。 最初は無反応だった彼も、次第に心を許してくれるようになった。 私を頼ってくれることも多くなった。 時間がたつにつれ、名前で呼びあうようになったし 休日は時々、一緒に過ごすようにもなったし 今はもう放課後は、かなりの時間をともに過ごす。 彼の声がはじめて聞こえたときは、嬉しさがあふれてしまって 泣き出した私を、彼は困りながら懸命になだめてくれた。 そうあの時は、本当に嬉しかった。嬉しかったのだ。 そんな数ヶ月を経て、私たちはこの場所に立っていた。
行儀よく並んだ木立のなかを、私たちは歩く。 「んでよ、あの花井のバカヤローがよ」 そこは街外れの公園だった。 私は彼の他愛もない話を、聞くともなしに聞いて 時々相槌を打ちながら、公園で子供たちが遊ぶのを見ていた。 「しっかしガキどもは元気だよなー。さすがに今はああやって 走り回る気はしねえぜ」 「そうですね…」 また適当に相槌を打ち、気づかれないようにそっとため息を吐く。 私は今大丈夫だろうか。うまく取り繕えているだろうか。さっきは 少し気づかれてしまったけど、彼を嫌な気分にさせるのは嫌だった。 私は意図せず、自分の意識を徐々に内へ向けていっていた。 しかし次の瞬間不意に見た光景は、私の意識を覚醒させた。 そこでは、数人の子供たちが遊んでいて 彼らは、子猫をキャッチボールして遊んでいた。 「おいオメエラ!!なにやってんだ!!」 気がつくと拳児さんは、子供たちのほうへと駆け出していた。
「お前ら、自分たちがなにやってたかわかってんのか?!」 彼は子猫を奪い取り、一喝した。 強面の大人が急に立ち入ってきて、彼らは怯んでいたけど その目には反抗的な光があった。ひとりが言った。 「お、お前には関係ないだろ!余計な口出しすんな!」 「ほう、オメー、度胸あるじゃねえか。じゃお前もこの子猫と おんなじようにぶん投げてやろうか?」 子供たちは、その脅し文句に明らかに怯えていた。拳児さんは不意に 文句を言った子供に近づくと、その頬を打った。その子は泣き出してしまった。 「痛いか?」 彼はその子に問うた。 「うぐっ、ひっく、ぐす、うん、いたい、うう、ぐす」 「そうか、痛いか。そりゃそうだよな、引っ叩かれりゃ誰だって痛い。 なら、わかるな。こいつだっていてーんだ。自分が何をやってたか、もうわかるな」 「ひっく、うん、ぐす、ごめ、うう、ごめんなさい」 彼は優しげにその子の頭を撫でた。 「おい、お前らもこっちこい。ひとりづつ引っ叩いてやる」
泣き声が木霊す中、彼はその子供たちを諭す。 「いいかオメーラ、自分がやられて嫌なことは絶対に人にやるな。 そういうのはいつか自分に返ってくるもんだ。こんなことばっかしてたら 俺みたいなやつになっちまうぞ?わかったな、おい、返事は?」 「うん」「はい」… 「よし、んじゃちょっくら遊ぶか。お前ら、なにがしたい?」 彼は子猫に異常がないか確かめてから放すと、そう言った。 子供たちは戸惑いながらも意見を言うと、拳児さんは頷き 子供たちの輪のなかに入っていった。 「わりいな八雲」 「いえ…、そんなことないです。…私はここにいるので」 「そっか。ありがとな」 戸惑いが笑顔に変わるまでには、そう時間はかからなかった。
「ふいー、やっぱガキの相手は疲れるわ」 脇にあったベンチに腰掛けて彼は言った。 「…そうですか?拳児さん…、楽しそうでした」 「ばれちまったか?」 嬉しそうに云う彼をみて、私は少し胸のしこりが取れたような気がした。 やはり拳児さんは拳児さんだ。そんな当たり前のことを思いながら私は 自分が彼を好きなことに誇りを感じた。 うん、私は大丈夫だ。彼の温かな波動は私を満たしてくれる。 そう、信じた。 矢先。 途切れる波動。 彼の表情が驚きから苦しみへと変わる。 視線の先には。 姉さんと烏丸さん。 ああ、そういえば昨日嬉しそうに、明日烏丸君とデートなんだ、っていってたっけ。
ああ、拳児さん、あなたの心が視えません。 ああ、拳児さん、あなたの声が聞こえません。 何故ですか。 何故ですか? 二人は挨拶を交わして、何か話をしている。 その話し声も、遠くなって。 現実感すら希薄で。 そう、拳児さんは、いまだ、姉さんを。 思えば最初から気づいていたのかもしれない。 でも決定的だったのは、声が聞こえてから、最初の満月の日。 私は思い知った。拳児さんの心のなかにいまだ姉さんの影があることを。 心の奥底で、姉さんが息づいていることを。
でもそのときは、時間もさほどたっていなかったし。 拳児さんの中で日増しに大きくなっていく自分の存在を 感じることができたので、素直に、受け入れることができた。 できた、はずだった。 だけど、今はもう。私は苦しい。とても、苦しい。 確かに私の存在は着実に大きくなっている。 でも、そのたびに、心の奥に根付く姉さんとの差を突きつけられる。 どんなにがんばっても届かない。どんなに近づいても、距離は縮まない。 それはさながら星と星との距離のようで。無限にも感じる距離では その一歩の意味は限りなくゼロに近い。
それは確かな理由があることだ。姉さんと出会ってからの彼は 言葉の綾ではなく、その全てを姉さんに捧げてきた。 たとえそれがひとりよがりでも。勘違いであっても。 積み重ねてきた時間と、想い。それに比べれば、私の想いは足りないのかもしれない。 でも例えそうであっても、いやだからこそ私は、私の心は耐えられず。 徐々に闇に侵食されていった。闇の名は、嫉妬。燃え盛るような、嫉妬。 それを感じるたびに私は叫びだしたいほどの衝動に襲われる。でも。 そうだといって、どうして彼を責めることができよう。私には彼の心が視える。 視えるからこそわかる。彼もまた苦悩している。そして私の想いを、闇も含めて 気づいているのだ。
だから、私にできることは、必死で耐えることだけ。 耐えられなければ、目をそらし避けることだけ。 現にこの数日間はそうしてきた。そして今日も。 今日一日私は必死に目をそらし続けてきた。 できるだけ彼を意識せず、周囲に気を配ったり 内面世界に逃げたりしながら。必死に。 しかし先ほどの出来事で私の心は緩んでしまった。 そして今、かつてないほどの力で、闇が蠢動している。 唯一の救いとなるはずの彼の心の中の私は、今は届かない。 皮肉にも、届かないからこそ、彼が今何を考えているのかがわかる。 誰のことを考えているのか。 ゆえにもう耐えられるはずもなく。 私は最大の禁忌を犯そうとしていた。
時に私は、人の心をとても深いところまで視ることができる。 だから私は知っていた。二人の出会いの物語を。 拳児さんがサングラスを掛けるわけを。 拳児さんが決して話してくれなかったそのわけを。 「姉さん…、拳児さんがなんでサングラスを掛けているか知ってる?」 急に話し出した私を、二人は訝しげな目で見つめる。 「姉さん、…中学生のとき、路地裏で暴漢に襲われて助けてくれた人に 寝込みを襲われたって話してくれたときがあったよね?」 拳児さんの表情が変わる。だけど彼は何も言わない。 私はもう止まることはできなかった。
想いが 「その人はね、そのときから姉さんに目をつけて 闇が 同じ高校に入学までしたの。しかも同じクラスに入って 溢れて そしてまた姉さんのことを傷つけようとしてるの」 止まらなかった。 姉さんは急に、わけのわからないことを 言い出した私を驚いた表情で見ている。 そして最後の言葉。 「…その人はね、拳児さん、なの」
私はそういって、彼のサングラスをはずした。でも姉さんは 彼の顔を見ない。様子のおかしい私を気にしているようだった。 「ほら、よく見て、姉さん。見覚えあるでしょ」 私は姉さんを促した。姉さんは戸惑いながらも彼の顔を見て 「…うん、確かに、あのときのひとだね」 私は喜んだ。暗い喜びだった。 「…ね?拳児さんはそういう人なの。姉さん覚えてるよね、そのときのこと。 幻滅したよね?拳児さんのこと嫌いになったよね?ね?だから…、だから… お願い、これ以上拳児さんを惑わさないで…、拳児さんを奪らないで…」 そして。 その場に崩れて泣いた。 手にしたサングラスは地に落ちた。 もう何もかもおしまいだと思った。 「…八雲」 不意に拳児さんの影が動いた。 私に触れようと。 「!やめて、やめてください!」 拒絶された彼の顔は、愕然としていて。 その場から私は、逃げ出した。
「…八雲…」 背を向けて走り出す彼女の姿を見て 俺は不覚にもその場にへたり込んでしまった。 「…くそっ」 やりきれなさに地面に八つ当たりする。 原因の全てが自分にあることはわかっていた。 「播磨君」 彼女が手を差し出す。 「わりいな、…塚本。」 手をとって、とりあえずその場に立つ。 今から自分が何をすべきなのかはわかっている。 しかしそれは許されることなのだろうか。 「で、播磨君、なにやってるのかな?」 不意に塚本が切り出した。 「早く八雲を追っかけてあげてよ」 確かに。でもそれは―。 「俺は追っかけてっていいのか?」
その言葉に塚本は怒った顔で 「何いってるの播磨君!播磨君が追っかけないでどうするの!」 「でも俺には資格が」 塚本は呆れ顔で 「っもう、資格なんてどうだっていいの!八雲は播磨君のことが 好きなんだよ?それで十分だよ!」 そうか 「そうだな」 「うん!」 「わかった。じゃ、いってくるわ」 「うん。…播磨君、八雲のこと、よろしくね?」 そのときの塚本の笑顔はとても綺麗で、俺はきっと一生忘れないだろう。 「…ああ、わかった」 落ちていたサングラスを手に取り 俺は、駆け出した。
ここは馴染みの場所。 まだ彼のことを播磨さんと呼んでいた頃の。 今私は虚ろだった。 夕焼けが、血のようだ。 何もない。誰もいない。 拳児さんも、姉さんも、きっと私に 愛想を尽かしてしまっただろう。 もう、息をするのもおっくうだった。 このまま消えてしまおうか。と考えたとき。 温かな感覚が、私の心によぎった。 そんな、まさか、そんな。 彼は今、校門をくぐってここに向かっている。 今日は特に力が強まっているようだ。 ここにいても、彼の心が手に取るようにわかる。 彼は息を切らせながら、さまざまなことに思い巡らせ たくさんの想いを胸に、ここへ向かってきている。 しかしやはり彼の心には姉さんがいる。 なら何故ここに向かってきているのだろうか。 彼は今、ひとつの決意を胸に。 そのドアを、開け放った。
「…八雲!」 「拳児さん…」 学校の中で空に一番近い場所。 屋上で二人は出会った。 「八雲、俺は―」 「何をしにきたんですか?拳児さん」 私は彼の声を遮り、言った。 「…姉さんは、ここにはいません」 拳児さんは諦めずに繰り返す。 「八雲、頼むから俺の話を―」 「…私には、わかるんです。拳児さんが、…姉さんを忘れていないことが。 私には…、わかるんです。何故ここにいるんですか?拳児さん」 私は畳み掛ける。―そう、彼を試すために。本当に私は嫌な女だ。 「…そんなに好きなら、忘れられないなら、奪えばいいじゃないですか。 …拳児さんの、意気地なし」
彼は、本当に苦しそうな表情で。私はそれを見て 涙が。 「あの時抱き締めたのは、私だからですか? それとも誰だってよかったんですか?」 そのとき。 彼の唇が動いた。 「…めろ」 「あの時抱き締めたのは、私だったんですか? それともただの藁にすぎなかったんですか?」 「やめろ!!」 彼の叫びは、私を―。 「確かに俺は、…塚本のことを忘れたわけじゃねえ。 でも!おれは!お前が、八雲のことが好きなんだ! …虫がいいのはわかってる。でも、絶対この気持ちには けりをつける!だから、もういちどだけ―」 私は、彼に最後まで言わせずに、彼の胸に飛び込んだ。
「拳児さんは、ひどい人です」 「…すまねえな、ほんとに」 彼が強く抱き締めてくれることに、私は満たされて。 「…でも、まだ、納得できません…。言葉だけじゃ…」 「…そうだな」 そういうと彼は、掛けていたサングラスをはずし 屋上の外へ、投げ捨てた。 「もう、必要ねえだろ?」 そう、いいながら。 はじめてみた拳児さんの素顔。 精悍な顔つきと、子供のような邪気のない瞳。 「…もうひとつだけ、わがまま…、いいですか?」 「ああ、なんだ?」 彼が言い終わるのと同時くらいに 私は 彼と キスをした。 そして。
私は拳児さんの心を視た。 彼の心の中には、 たくさんの表情の私がいて ただひとつ、自分自身見たこともない 綺麗な笑顔をした私がいた。 だから私は、そっと離れると その真似をした。 うまく、いっただろうか? それからまた、時がたって 今私は拳児さんと歩いている。 「ああー、今日はこれくらいでお開きだな」 「…はい。…でも、もっと一緒にいたいです」 拳児さんもそう思ってる。 「あ、ああ、そうだな、でも、まあ、もうおせーし ほら月ももう隠れそうだ」 「…そうですね。…綺麗な満月」 「…そうだな。じゃ、また明日」 「…はい。また明日」 私は今、月が大好きだ。 特に満月が。 満月の日は、 拳児さんが 私を愛してくれていることを 一番実感できる日なのだから。
余談― 「ん?そういや八雲なんであのこと知ってたんだ? ほら、…出会いの話」 「………ヒミツです」
さて。ぶっちゃけた話クズリ氏の焼き増しっぽいですが。 他にも突っ込みどころがあるので、先に潰しときます。 まず昼間に見える月。季節の関係でもしかしたら見えない 時があるかもしれません。まあそのときは見えた、ということで。 後休日に学校あいてんのか?とかいうのも、まあ開いてた、 もしくは、妖精が開けてくれた、ということでひとつ。 八雲はこんなに黒くない、とか播磨はこんなへたれじゃないとか 思われると思います。そう思われた方はどうぞ記憶から消し去ってください。 妄想馬鹿の戯言ということで。 まあ、いまさら八雲の需要あるんかなと思いながら投稿させていただいた んですが、せっかくかいたんで出しとこうと。 批評は穏便にお願いします。では。 あ、烏丸は意図的に無視してます。だって書けねえよ、あんなやつ。
>>709 読んでてなにかしらエロい雰囲気がたまりませんでした。グッジョブ
>>709 GJ!
ただ、八雲はこ・・・記憶から消し去りました。
↓次スレよろ。
>>709 とりあえずGJです
八雲の需要はあなたが思っているよりありますよ
Kフェスに行った俺が言うんだから間違いない
次スレ立て、挑戦してみます。
結果は…?
716 :
709 :04/07/20 00:34 ID:d8LmGgBc
>>710 …エロ?わからん。うーん、全体的に暗いからかなあ。
>>711 平にご容赦を。いや、すんません。
>>712 いやクズリ氏ssで満腹になってるかなと。だからこそ場違いな
気がしたわけですが。
レスありがとうございます。書き直しに近いものに肯定的な
レスをしていただいて恐縮です。今回は時間をかけて、じっくり
書いたので、手直しするところはないはずです。…多分。
次も気が向いたら書かせていただきます。自分に構想を練る力が
ないので、もしかしたらまたどこかからいただくかもしれませんが。
では、そのときに。
717 :
埋め :04/07/20 20:15 ID:RPI.vuQE
>18 無敵キャラ同士の小競り合いなら両者ともに弱みをちらっとでも見せて欲しかった気が。 おちゃめな晶が見れて嬉しかったのであとは彼女の弱点……なんてものはなかったか。 >33 黒サラにとっての麻生の位置付けがなんとも独特でちょっとびっくりさせられました。 本編でも冬の頃には八雲が恋をしているといいですね。しかし晶のその設定は一体。 >47 八雲なら奪う愛なんて考えもしないだろうから必然なんだろうけど、辛いなぁ……。 受信メールを逐一削除していくさまに悶えました。ただやはり引っ張りすぎの感。 >69 邂逅はそのときに。沢近と播磨を無理なく中学生時に逢わせる構成が見事です。 ちゃんと播磨にとっては取り返しのつかないオチがついているのがいかにもスクラン。 >79 交通事故は命すら落とすものだからラブコメの題材には向いてないと思っているものの。 美琴の決心には微妙にツッコミたくなったけど花井のいかにもな反応は実にナイス。 >93 タイトルが全てを表してますね。何も事情を知らない他人に囃されてしまう針の莚。 そんな状況だからこそ信念に基いて決して恥じる事の無いよう行動する白サラ最高ー! >122 沢近らしい空回りっぷりにGJ。女の子のハダカばかりの漫画ってどっちのことさ(w たくさんの動物と一緒にいた光景を思い出したがらないその気位の高さに萌えました。 >129 >281 いい黒さだからこそ、修道女にとっての信仰の重みをきっちりと書いて欲しかった。 自分の手を決して汚さない策略家かと思いきや愛の為に全てを捨てる殉教者気質だとは。 >142 無敵保険医・姉ヶ崎先生の独壇場ですね。心因性だとわかるのはいいけど核心突きすぎー! 八雲を焚き付けているように見えて実際の所追いつめて苦しめているその残酷さに萌え。 >174 播磨放浪中のヒロイン三様、堪能させていただきました。知ってると美琴は憐れすぎる。 運命論はよくわかりませんが、たまには星空に畏敬の念を払うのもいいものですね。
718 :
埋め :04/07/20 20:15 ID:RPI.vuQE
>192 ものわかりの良すぎる花井はかっこいいけどキャラ違いの感。青春っていいなー。 絃子先生を参戦させていたらもっと延びたでしょうからこの扱いがやはり最善ですか。 >212 着眼点の良さが光ってます。きっと甘すぎるであろうそのハリケーンパフェ食いてぇ。 八雲のはにかむような笑みが目に浮かびました。ナイス変化球。 >230 達観してしまっている烏丸にお節介を焼く播磨。烏丸の性格付けが上手いなぁ……。 プロの漫画家が天満に読んでもらおうとすることで実は両想いだとわからせるその技素敵。 >252 文章は上手いけれど、播磨主観にしても別段大きな違いはなかったりする週なんですよね。 絃子に茶道部から追い出されたというだけでは薄いので播磨の心境でもう一工夫あれば。 >258 くはあ! 天満のそういうところに激萌えなのですよ。GJ! 烏丸に対する感情に決着を付けておいたほうが良かったかもしれませんがこれはこれで。 >271 それが最重要課題なのか西本軍団。どす黒いかと思いきや意外とかわいい奴等だ(w 最初に誰がいて誰がいないのかはっきり書いておかないとオチに違和感があったかも。 >302 自らのテリトリーに誘い込んでから問い詰め開始ですか。さすが魔王沢近。 過去形で語る八雲が悲しすぎてお子様ランチ妄想どころじゃないです。ヤクモンー!! >324 導入なので何とも言えませんが、長編小説並みにしっかり書いてると疲れませんか? 「掲示板に書くSS」に慣れるまでは必須の描写を中心にして他は少し削ることをお勧め。 >339 コメディ路線の書き手が少ない中でこういう作品が読めて嬉しく思います。オチ以外GJ。 沢近といい花井といい、重要な局面なのにそこまで簡潔に流しちゃうかと笑いました。 >365 沢近の心情をそう解釈して沢近自身も成長させてしまうその技量にはもはや感嘆するのみ。 長かった修羅場も一番剣呑な人が終わったからもう胃を痛くせずに読めそうです。
719 :
埋め :04/07/20 20:15 ID:RPI.vuQE
>377 本編では昼食時は美琴の前の席にいたりする沢近。でもやっぱり定位置はこっちですよね。 播磨や烏丸は給料日前以外でも校庭で水飲んでたりしてそうですが隣子の態度に萌え。 >399 >452 >467 あまりに勿体ない。肉料理かと思って食べようとしたら調理前の肉塊だった気分。 SSスレなのだから単発ネタとか言って思い付きを垂れ流したりせずに作品にしようよ。 >403 伝わりはしなくても、そう言えたことにはきっと意味がある。これでこそ成長物語。 相手が播磨だけに相当な試練が待ち構えていそうですが、八雲なら大丈夫と信じています。 >420 蛇足覚悟でハッピーエンドを強引に突っ込むその敢闘精神にGJ! でもって完結おめ! 不安と期待を同時に持たせながら読ませる技法が秀逸。サラの両親が妙に気になりました。 >463 体力ないのにやけにはしゃいで動き回る笹倉先生かわええ。何を買ったんでしょう。 先輩後輩の間柄をどう解釈してきたかと注意して読んだものの、書いてナイヨー! >481 サラよりも一日に二食も麻生のラーメンを食べようとする菅のべったり具合に萌え。 ラーメン屋に主要人物を総出演させて奇麗にまとめられるその上手さに感服です。 >491 過去に何があったかより、それを絃子さんだけが覚えているというシチュが素敵すぎる。 とてつもなく鈍感なのに取るべき態度だけは立派な播磨をかわいいと思ってみたり。 >502 既視感の原因は設定が焼き直しだから? でもすぐさま鍵を投げ返す絃子さんカコイイ! 毎年見送る側の彼女にとってもその年度は特別の卒業式だったんでしょうね。 >515 作中の時期を決定付ける「去年の体育祭」という単語はもう少し早めに欲しかった。 突っ込み所もありますが、こんなに熱いラブコメの前でそんなもの気になるものですか! >565 回想を後にするなら導入でもう少し現状が把握できるような描写があっても良かったかな? 普段なら戸惑うだけで滅多に見れなさそうな八雲の激情を書いてくれてありがとデス。
720 :
埋め :04/07/20 20:16 ID:RPI.vuQE
>579 なんで初投稿でここまで上手いかなぁ……。実はこういうのが読みたかったんです。 お互い照れまくりの状況にもう読んでいてニヤニヤしっ放しですよ。激しくGJ! >595 眠たいときは先に寝ましょう。クラウンは全板規制がかかろうと書けるので心配無用です。 姉への精神的依存が相当高い八雲に過去どんなすれ違いがあったのかが気になりました。 >598 そこまで現状把握ができていても退こうとはしない珍しくちょっと強気なヤクモンですね。 誰も気が付くはずのない程度の差異を作って満足しちゃっている女の子はかわいいなぁ。 >608 すぐさま異変を見抜いた花井の啖呵に激燃えですよ。美琴があくまで最高の友な事に好感。 幽子が誤まった推測をしたり花井が霊的存在を認めていなかったりするギャップも素敵。 >628 キャンバスには変化があっても実際の外見は何年たっても変わりそうにない笹倉先生萌え。 彼女にとっての絵筆を取る意味をこれだけ短い行数で表現できる技術に感嘆です。 >652 絃子さんのいつになく素直な感情表現に戸惑うことしかできない播磨がいい感じ。 借りを返させるって一体何をやらせるつもりなんでしょうね。ワクワクします。 >662 花井なら何があっても八雲を好きでいた事自体は後悔したりしないでしょうね。 「播磨が天満に振られて八雲と(ry」と曲に設定を詰め込みすぎているのではという感。 >683 播磨にとっては永遠の憧れだった人が義姉になるかもしれないわけで問題は根深いですね。 八雲の女心が生々しく描かれていて切なかったです。愛のためなら黒くもなるのが女。 今回までで絨毯爆撃はおしまい。今まで(・∀・)を詮索せずにいてくれて恩に着ます。 こんなトコまで読んでる人と感想を書きたくさせてくれた全てのSS職人の皆様に感謝。
えー、これからもやって欲しいな これ見て、読みたくなったSSもあるんだし
これで終わりですか・・・ 毎度スレの終焉を飾るものだっただけに残念です
一つ励みにもなり、また楽しみでもありました、絨毯爆撃。 シンプルな評は、それでいて痛いところを突いてきて、毎度埋め立てでは自作に触れてもらえるか戦々恐々だったとか。 是非は当然ありますし、自分からは惜しいなあ、というその一言を。
書く側としては惜しい。ホンマに。
読む側としてもけっこう楽しみにしてたんだがな まぁ、おつかれさん(´・ω・`)ノシ その気になったらまた書いてくれよ
個人的には毎回楽しみにしてました。 「建設的な埋め」でもありますし、これで最後というのは 非常に惜しいです。 今後もし復活して下さるのであれば、その時はよろしくお願いします。
ま、絨毯爆撃にする意味が無いし
728 :
:04/07/21 05:42 ID:Qs9InnRk
絨毯爆撃してくれると目次代わりにもなったんだよね(´・ω・`)ショボーン
え、絨毯爆撃終わり?(´・ω・`) まあ、そちらさんにも都合があるから仕方ないんでしょうけど。 風物詩みたいなものだと思ってたんだがなあ……。
>>728 確かに目次は欲しいよね。
じゃあこのスレで500KB取った人を目次作成係に勝手に任命しよっか。
スレを読み直すときにアンカーレスがあると便利なのは間違いないし。
もしくは誰かが絨毯爆撃二代目襲名。ぶっちゃけありえない。
埋まる気配が見えないので適当に。 ――所は場末の小さなバー。 「久しぶりですね、絃子さんの方から誘ってくれるなんて」 「そういう日もあるさ、たまには」 「ふうん……」 「何かな、その反応は」 「いえ、別に。……それで」 「うん?」 「今日はどうしたんですか?」 「……」 「すぐ分かりますよ。昔からそういうところ、変わらないですよね」 「……フン」 「それに、連絡もらったときって大体そうですし」 「そんなことは……」 「あーあ、たまには私もそういうのなしにして、純粋に絃子さんと飲みたいです」 「……分かったよ。その代わり」 「その代わり?」 「朝まで付き合ってもらうからな」 「それはそれは、望むところです」 触れ合う二つのグラス、乾杯、と重なる二つの声。
――小一時間後。 「それで、今日の相談はなんです?」 「さっきもういいと言ったじゃないか」 「でも頼りにされてるの嬉しいですから。……してくれてるんですよね?」 「……まあ、ね」 「ふふ、ありがとうございます。それじゃ……」 「いや、やっぱりやめておくよ」 「あ、今私に話すと面倒だなって思い直しましたね」 「……あのね、何をどうするとそう」 「こういうとき、付き合いが長いと便利ですよね?」 「葉子……」 「一度は相談しようと思ったけれど、やっぱりまずいと思って考え直すこと――」 「私は別に」 「―― 一途ですね」 「っ! 今何か、もの凄い飛躍があった気がしたんだが」 「そうですか? でも絃子さんの悩みごとっていつも……」 「それじゃまるで、私がいつも拳児君のことを考えてるみたいじゃないか」 「はあ……今回は重症みたいですね」 「え?」 「だって、私一言も播磨君のことだなんて口にしてませんよ」 「あ……」 「あ、じゃないですよ……あの、大丈夫ですか?」 「……」 「そんな、これくらいで泣かないで下さいよ。えっと、ほら、今夜は私が奢りますから、ね」 更けていく夜は、まだまだ長い――
(・∀・)ハケーン 何でこんな萌えるものをこっそり投下するんですか。もったいない 絃子さん(*´Д`)ハァハァ
非常にGJです! 絃子さんと播磨に何があったのか気になる… 可愛いな絃子さんは
いや何と言うか、単なる埋めネタ以外の何物でもないのですが。 そこはかとなくうけたので微妙に続きっぽく埋め。 「ん――」 「よう、やっとお目覚めか」 「……拳児君? ここは……」 「……あのな、てめぇの家くらいしっかり覚えとけってんだよ」 「なるほど、ね。帰ってきたのか……」 「ったく、日も出ねぇうちから叩き起こされたと思ったら、ぐでんぐでんの誰かさんだしよ。 後でちゃんと葉子姉ちゃんに礼言っとけよ」 「そうか、彼女が連れてきてくれたのか。それは……ん?」 「なんだよ」 「――なあ、拳児君」 「だからなんだよ、んな真剣な顔しやがって」 「君、今なんて言った?」 「あん? もっかい言って欲しいのか? 俺はな、朝っぱらから酔っぱらいの面倒なんて……」 「違う、その後だ」 「後? ああ、だからちゃんとよう……っ!?」 「そう、そこだ」 「……あー、いやだからな、そのササクラさんにだな」 「『葉子姉ちゃん』」 「……」 「へえ、君がまだその呼び方をしているというのは知らなかったな」
「くっ、分かったよ悪かったよ! ちっと昔のクセが出ちまっただけじゃねえか!」 「私は呼び捨てなのに彼女は『姉ちゃん』か、それはそれは」 「だから謝ってるじゃねぇか、っつーかお前話聞いてんのか?」 「あーあー、昔は私の言うことも聞いてくれる可愛い子だったのに、今じゃこれだ。悲しいよ、私は」 「…………」 「ん? どうしたのかな?」 「……姉ちゃん」 「何をぼそぼそ言ってるんだ。聞こえないよ」 「……ゴメンナサイ絃子姉ちゃん」 「おや! おやおやおやおや。今のは私の空耳かな。ずいぶんと久しぶりに聞く響きだった気がするが」 「テメェ……」 「ほら、もう一回」 「聞こえてんじゃねぇか!」 「……フン。まあいいさ、これくらいで許してあげよう」 「うるせぇ! さっさともう一回寝ちまえ!」 「そうだな、そうさせてもらうとしようか。今なら良い夢が見られそうだ」 「けっ、言ってろ」 「――お姉ちゃんは嬉しいよ。ありがとう、拳児君」 「なっ……」 「――――」 「……寝やがった。なんなんだよ、ったく……」 ――そして今日も、播磨拳児の受難は続く。
いいねぇ、じわじわと萌える話は。
最初は、「播磨は葉子姉ちゃんとかいわないだろ・・・」とか思って読んでたんですが、 伏線だったんですね。 いいSSありがとう。
絃子可愛いよ絃子 名前の呼び方はあるよな…幼馴染は苗字で呼ぶ様になったのに、たまにしか会わない姉の方は名前で呼んでたり
>>736 ネ申
萌えました。絃子さんやはり最高です。
とにかくGJ!ヽ(`Д´)ノウォー
「あっ、播磨」 「ん?…なんだ周防か」 「悪ぃこないだのハンカチ今持ってねぇんだ、また今度で良いか?」 「???」 「いや神社でシャーペンくくりつけたあれ」 「あーあれか、別に急がねぇからいつでも構わn…ってだからあれは俺じゃなくて」 「…いつまでシラを切る気なんだ、神サマ?(w」 「ちっ…」 「お陰でちゃんと最後まで試験受けられたよ…ありがとよ、神サマ」 「なーにいいってことよ、お互い様だしな」 「お互い様?」 「学校来なよって言ってくれたじゃねーか…俺がいなくなったことなんか 誰も気にしてねぇと思ってたから正直あー言ってくれたのは有難かったぜ」 「…そーいうもんか?」 「そーいうもんなんだよ…荷物重そうだな、持ってやるよ」 「いやいいよ別にコレぐらい」 「まぁそう言うなって…それに俺のハンカチ家に置いてあるんだろ?返してもらいに行くついでだよついで」 「お前今さっき急がないって自分で言ったばっかじゃねーかよ…」 「気にすんな気にすんな…えーっと、どっちに曲がれば良いんだ?」 「おいちょっと待てよ播磨…左だ左」
「それにしても大荷物だな」 「あー…誕生会の準備とかだからな」 「…誰の誕生日なんだ?」 「いや、あたしのなんだけどね…」 「お前誕生日なのか。じゃあ何かやんねぇとな」 「いいって播磨、そこまでしてくれなくても」 「…そっか、そうだな。邪魔しちゃいけねぇや」 「ん?」 「好きな人も呼ぶんだろ当然?」 「!!!お前どうしてそれを…ってそっか、お前神サマだったから全部聞いてるのか…」 「…安心しろ、誰にも喋らねぇよ」 「ありがとよ…でも先輩は東京の大学行っててまだこっちに帰ってきてねぇから」 「そうか…まぁ頑張れよ」 「あぁ」 「…オレも好きな娘のためにこの高校入ったんだよ実は」 「へー、そうだったのか」 「二年になってやっと同じクラスになれて、いろいろ必死に アプローチとかもしてるんだけどなかなかうまくいかねぇんだよなこれが…」 「そうなのか?結構いい感じに見えたけど」 「え…そ、そうか?いい感じか?」 「あぁ、だから播磨も頑張れよ…そうだ、お前も誕生会出るか?」 「へ?」 「いや、あいつも呼んであるからさ」 「あ、そ、そーいうことか…そうだよな、お前らいつも仲良し四人ぐm…!?」(←脳裏に鬼の形相の沢近) 「…ん?どうした播磨?」 「わ、わりぃ、急用を思い出したんでオレ帰るわ。ハンカチやっぱ今度でいいし。じゃあな!」 「お、おい播磨…ったく何なんだよ」 Fin。