獄中のメリークリスマス

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1名無
朝からケツが痛い。立ったり座ったりするだけでひりひりする。
おそらく昨夜、班長がおれが寝ているすきにヤッたんだろう。
まあ、初めてのことじゃないが、もう慣れた、とまでは言えない。
それでも今日も一日、おとなしくお勤めをおえた。
誰かにいって解決できるわけでもないし、班長に逆らえばますます辛い立場になるだ
けだ。
だけど、これくらいのことなら、来たときから覚悟してた。
短い人生、色んなことがあったほうが楽しいもんだ。

2名無 : 2000/12/24(日) 22:30 ID:/fOkrufg
夕食をとったあとで、TVでも見ようと休憩室にいくと、部屋中妙な飾り付けがほど
こされていた。
小学生が運動会や発表会のとき、部屋を彩るように色紙のロープやらなにやら飾られ
ている。
その理由はすぐにわかった。TVでこんな番組が放映されていたからだ。
「今世紀最後のクリスマス スーパーアーティスト夢の共演」
そうか。今日はクリスマスだったか。
ここにいると、娑婆での行事なんてすっかり忘れてしまう。
俺は、TVから流れる安っぽいクリスマスソングを聞きながら、熱い茶をすすった。

3名無 : 2000/12/24(日) 22:31 ID:/fOkrufg
TVにも飽きて、とっとと寝ようと自分の部屋に行くことにした。
TVに飽きた、というより、むしろ休憩室の連中が、妙に寂しそうな顔をしているの
がたまらなくて居心地が悪かった、という理由のほうが大きい。
普段は口にソースをつけて平気な顔をしている奴でさえ、うらやましそうにTVに映
るクリスマスツリーを眺めていた。早くここから出てあのツリーを見たい、とでもい
いたげに。
バカバカしい。俺たち、外にでたところで居場所なんてないじゃないか。
いっしょにクリスマスを過ごす友も、恋人もいない。むろん、家族だってそうだ。
獄中帰りの人間を誰が家族だなんて思ってくれるというんだ。
俺は頭の中で煮え切らない怒りをたてながら廊下を歩いた。
4なおえ : 2000/12/24(日) 22:31 ID:GoVh2/4Y
面白くなりそう期待age
5名無 : 2000/12/24(日) 22:32 ID:/fOkrufg
そうだ、しょせんここから出たって、俺を迎え入れてくれる人間なんていない。
両親とは10代に家出していらい、一切連絡をとってないし、友と呼べる間柄だった奴らは、あっさりと俺を捨てていった。
恋人、そんなもの幻想だ。単にセックスをしたい者同士がつるんで一緒に手をつないで歩いているだけだ。
きっと今街にいけば、そんなのがごろごろいるだろう。ただ自分が気持ちよくなりたいだけの、自分が人に必要とされているという実感を味わいたいだけの、虚しい奴ら。
ここにくる前は俺にもいたさ。名前なんて忘れた。ほんの数回ヤッただけの仲だ。班長とヤッた回数のほうがずっと多い。正確にいえばヤラれた、だが。
あいつも今ごろ、別の男とよろしくやっているだろう。似合わない派手な服で身を固めて。
6名無 : 2000/12/24(日) 22:33 ID:/fOkrufg
部屋にはいると班長がいた。気味の悪い恰好をしているものだから、思わず背筋に悪寒が走った。
奴は、古そうなズロースをはいて、俺の前で仁王立ちしていた。開口一番、奴は言った。
「おっす。ぼく、サンタズロース」
俺はどう反応していいかわからず、怪訝そうに奴の顔を見た。俺がくすりとも笑わないのを不思議がっているような顔をしていた。
「なんだよ、聞き逃したか?もう1回言ってやる」
俺は手を横に振って断ると、もう寝るから部屋から出ていってほしい、と奴に言った。
「せっかくのクリスマスなのに、もう寝るのかよ。それとも・・・」
「どうも朝から体調悪いんですよ」
皮肉で言ったつもりだが、奴は俺の言葉を聞いて気持ち悪い笑みを浮かべた。
「そうか、そりゃしょうがねえな」
そして班長は部屋から出ていこうとした。ドアを開いてから、奴は振り返った。
「ああ、そうだ。大事な用事を忘れてた」
奴は胸ポケットから1枚の封筒を取り出した。
「手紙あずかってたんだよ、おまえあてに」

7名無 : 2000/12/24(日) 22:34 ID:/fOkrufg
夕子からだった。その名前を見て、ようやく俺はかつて付合っていた女の名を思い出した。
夕子は相変わらず下手な字で、俺の名前を封筒の表に書いていた。
なんなんだよ、と手紙を破り捨てようと思ったが、そのとき、ふと夕子の顔を思い出し、手紙の内容が妙に気になり始めた。色々考えている内に俺は封を開けていた。
意味があるような、ないような、退屈なあいさつから始まり、今の自分の生活のことや、世間で起こった事件のことがだらだらと書き連ねてあった。くだらねえ、と正直思った。
ようするに、自分は娑婆で普通の生活しているから、あんたとは完全に縁を切らせてもらう、っていうことが言いたいんだろう。そんなこと、おまえに言われなくてもわかってるよ。
俺は手紙を読んでいるうちに腹がたってきた。夕子の人を小ばかにした笑顔が頭の中に浮かぶ。
あいつは、俺がバカだったから俺と付合ったんだ。俺といっしょにいることで自分が優越感に浸れるから。そんなこと、付合っているころ薄々気づいていた。
でも、あいつに悪いことをしたな、と今でも思っていることもある。俺がここに入った理由だ。
俺はある日の夜、金持ちそうな恰好をしたはげた親父のバッグをひったくった。単純に、生活に困っていたからだ。そしてあっさりと近くの交番の警察に捕まり、事情聴取のとき俺はこう言った。彼女にプレゼントを買ってあげたいからだ、と。
たんなる思いつきのでまかせなのに、夕子はそれを信じたらしく、捕まったあとも何
度も俺に面会にきた。そんなことしたら、逆に俺のほうがつらくなるってのに。
あのときの悲しそうな顔の夕子を思い浮かべながら、俺は手紙の続きを読んだ。

8赤いお鼻の名無しさん : 2000/12/24(日) 22:34 ID:hoJGRq5I
>>4
コピペ作業に割りこむとは外道なり。
9名無 : 2000/12/24(日) 22:34 ID:/fOkrufg
「いつか、あなたが帰ってくる日を待ってます」
俺は自分の目を疑い、何度もその一文を読み返した。何度読んでも同じだった。
俺は唇をかんで、手紙を破り捨てようとした。だが、手紙は鉄のように固く感じた。
帰ってくる日を待つだってさ。俺があと何年ここにいるのかわかってないんだな、あ
いつは。
俺がここから出るころには、お互い30過ぎるんだぜ。そんなに俺とあっちの相性が
よかったのかよ。まったく、淫乱な女だ。
その後も何か書いてあったが、視界がぼやけて読めなかった。
10赤いお鼻の名無しさん : 2000/12/24(日) 22:35 ID:hoJGRq5I
最後「オマエモナー」とか2ch用語で終わったら1の負け
11名無 : 2000/12/24(日) 22:36 ID:/fOkrufg
『メリークリスマス』
便所の壁に誰かがいたずら書きをしていた。文字の下にはでかい一物が書かれている。
俺は用を足してから、ズボンのポケットにはいっていたペンを取り出し、そこに付け加えた。
『FROM獄中』
書き終えて、自分の書いた文字に自分で笑ってしまった。
ケツを拭いて出したものを流すと、俺は今度こそ寝ようと部屋に向かった。
冷たいベッドの中で、俺と女とどこかのガキの3人で、気味が悪いほどでかいツリーを眺める夢をみた。

END
12なおえ : 2000/12/24(日) 22:37 ID:GoVh2/4Y
>>8 オマエモナーと書き込むべきなのでしょうか?
13赤いお鼻の名無しさん : 2000/12/24(日) 22:38 ID:hoJGRq5I
ああ、俺の負け
14なおえ : 2000/12/24(日) 22:38 ID:GoVh2/4Y
終わりですか、楽しませてもらいました。
15赤いお鼻の名無しさん
読んでないけど、最後の1行だけ読んで悔しかったからもう読まない