こころ と からだ 第三章

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385名無しさん?:2005/07/06(水) 03:02:53 ID:???
よく考えたら私は、心のどこかでこんな風に、友達をやり込めるチャンスを願っていたのかもしれない。どんな分野
でも常に友達の後ろだったのが腹立たしかったのかもしれない。友達が私に相談を持ちかけたとき、私はちょっと
自分でも信じられないくらい意地悪な口調で、そんなんじゃだめでしょう、と言った。
386名無しさん?:2005/07/06(水) 03:15:30 ID:???
友達は顔には出さなかったけど、明らかに少しむっとしたみたいだった。私の予想外の喋り方に戸惑ったのかもし
れない。じゃあどうしたらいいと思う?って友達は聞き返した。そこまではまだ友達も感情を抑えていた。私はさらに
語気を強くして反対理由を伝えた。意外性がない、とか、教訓を含むべきだ、とかいって。
387名無しさん?:2005/07/06(水) 04:27:17 ID:???
 
388名無しさん?:2005/07/07(木) 03:09:07 ID:???
最初から最後までまるで子供の喧嘩みたいだった。でもそれは仕方ないことだったと思う。だって私達は本当に子
供だったから。ただ後になって思うのは、やっぱりこんなつまらないことで無駄にした時間が勿体なかったな、とい
うことだった。私が変に意地を張ったりしなければ、私達はずっといい関係でいられたかもしれないのに。
389名無しさん?:2005/07/07(木) 03:20:38 ID:???
私はそのことをときどき思い出した。私の言った台詞、友達の表情、全部思い出せた。思い出した後は必ず嫌な気
分になった。彼女はまだ私の言ったことで傷付いているかもしれない。あんなことを言った私を嫌っているかもしれ
ない。そんな気持ちが友達と仲直りするために声をかけることを躊躇わせて、そのままずるずると時間が流れてし
まった。
390名無しさん?:2005/07/09(土) 05:19:03 ID:???
同窓会の通知が何回か来たけど、友達と顔を合わせるのが怖くて一度も行けなかった。ちょっと不注意な行動を
取ったために、私は大事な友達とそのまわりの世界までなくしてしまったんだ、よくそんな風に思った。でも、私の
代償も大きかったけど、その友達は私以上にもっと大きなものを失ったのかもしれない。
391名無しさん?:2005/07/09(土) 05:30:21 ID:???
直接の原因を私が作ったこと、それが私を萎縮させた。彼女と別れてから新しい環境に移っても、いつもそれがつ
いて回っているみたいだった。他人とうまく話せなくなり、顔見知り以上に親しくなることも出来なくなった。その度に
私は、まるで呪文みたいに同じ文句を頭の中で繰り返した。友達はもっと傷付き、失ったんだ、と
392名無しさん?:2005/07/09(土) 07:01:41 ID:???
 
393名無しさん?:2005/07/10(日) 05:08:26 ID:???
副担任は小さな声でそこまで話すと、先ほど私がやっていたのと同じように、私の前に置かれたコーヒーカップの
近くの空間を見つめた。彼女が黙った意味が私にはよく理解できた。いよいよその、彼女の話し難い内容が語られ
るのだ。騙し討ちのような方法で連れ出され、果てしなく長い前置きを経て、彼女の話はようやく本題に突入するよ
うだった。
394名無しさん?:2005/07/10(日) 05:25:45 ID:???
今更躊躇っているというわけではなく、彼女はきっともう一度、本題の内容とそれを伝える覚悟を最終確認してい
たのだろうと思う。もしくはこれから喋ることに重みを付与するため、意図的に間を置いたのかもしれない。伝達の
対象である私にも覚悟を固める猶予を与えたつもりだった、とも考えられた。
395名無しさん?:2005/07/12(火) 05:12:03 ID:???
だから、と副担任は言葉を繋ぐ。だから私には、友達を失ったときの気持ちが、特に親しかった間柄の人間を失っ
たときの気持ちが、私にはよく分かる。もちろん、私の場合では友達と死別したわけではないけれど、心に穴が開
いたような喪失感は理解できる……、つもりでいる。
396名無しさん?:2005/07/12(火) 05:30:11 ID:???
私は思わず副担任の顔を正面から凝視した。彼女もまた真っ直ぐに私の目を見つめていたが、私は目を逸らさな
かった。副担任は私の視線を正面から受けながら、少し力んだような口調で喋り続けた。あなたはあなたの友達の
死に、少なからず責任を感じているように見える。そうじゃない?
397名無しさん?:2005/07/13(水) 00:04:49 ID:???
 
398名無しさん?:2005/07/13(水) 05:39:51 ID:???
私と副担任は、しばらく無言のままで見つめ合った。私はただ驚いて目を見開いているだけだったが、彼女の目は
真剣で迷いがなく、そしてその奥には私に同情するような気持ちがこもっているようだった。私の中である感情が渦
巻きはじめ、思考に追い付けないほどまで加速していった。
399名無しさん?:2005/07/13(水) 05:53:00 ID:???
その感情は私達のいる沈黙の中で、私だけをどこかへ押し流していこうとしているようで、そのことに気付いたとき
には、すでに私は今まで延々と辿っていた軌道から遥かに遠ざかってしまっていた。私の流されていく方向には、
いつも夢想していた恐ろしく暗くて果ても見えない暗闇があるだけだった。
400名無しさん?:2005/07/13(水) 12:22:36 ID:EKXzhLp9
>>400
死ね          
401名無しさん?:2005/07/14(木) 05:14:08 ID:???
私の先に広がる暗闇を認識したとき、私は自分の表情が強張っていくのを感じた。私は本当にその中に放り出され
たのだ。今まではイメージとしてしか存在しなかった金属塊。ゆっくりと、だが確実に遠ざかる人工衛星。私はその
中に搭乗しているたった一人の乗組員で、小さな窓からなすすべなく地球を見下ろすしかないのだ。
402名無しさん?:2005/07/14(木) 05:25:22 ID:???
多分副担任にも私の表情が見えただろう。だがそれは、さらに彼女の誤解を促してしまうだけだった。彼女の眼差
しが柔らかくなり、まるで私に向かって慈愛を投げかけているような顔になったとき、彼女は再び喋り始めた。それ
は、決定的なポイントで絶望的な取り違いを起こした彼女が、この私に対して語りかける本当に意味のない言葉だ
った。
403名無しさん?:2005/07/14(木) 23:09:53 ID:???
 
404名無しさん?:2005/07/16(土) 05:08:33 ID:???
私はあなたのように友達と死に別れたわけじゃない。でも、あなたが何かしらの負い目を感じているのも理解できる
し、そんなこと本当は感じる必要なんかないことも知っている。……友達とああいった別れ方をしてから数年経った
ある日、私は偶然その友達と出くわしてしまった。
405名無しさん?:2005/07/16(土) 05:19:24 ID:???
そこは市立図書館で、私は授業に使う資料を探している途中だった。友達は隅の方に並べてある勉強用の机の一
つに向かって何か熱心に書き付けているみたいだった。ちらっと見ただけ、目に入っただけだったけど、彼女だとい
うのはすぐに分かった。最初に気付いたのは私の方で、友達は周囲に目もくれずに集中して自分の作業をしていた。
406名無しさん?:2005/07/17(日) 05:25:25 ID:???
すぐにあの思い出が浮かんできた。何年も前のことなのにはっきりと思い出せた。罪悪感まであのときのままだっ
た。私はすぐに顔を背けて、何事もなかったようにその場を立ち去ろうとした。でも、急いで回れ右をして友達の方
に背中を向けると、私の足はどういうわけか立ち止まってしまった。
407名無しさん?:2005/07/17(日) 05:37:47 ID:???
いろんなことが頭を過ぎった。私のつまらない意地で夢を絶たせてしまったと思っていた彼女が、不意にこんなと
ころに現われて熱心に何かを書き綴っている。諦めていたんじゃなかったんだ、まだ童話を創っているんだ。私は
そのことに感激した。その姿を見て少し自分が救われたような気がした。
408名無しさん?:2005/07/19(火) 04:10:41 ID:???
 
409名無しさん?:2005/07/19(火) 05:11:56 ID:???
だからといって、あたり前だけどわざわざ自分から友達に声をかけようなんて思わなかった。友達は夢を捨てなか
ったけれど、私を許してはいないかもしれないから。私はそのままその場を離れようと思った。友達と顔を合わせて
しまうのは辛かったし、何よりもう彼女の邪魔はしたくなかったから。
410名無しさん?:2005/07/19(火) 05:25:03 ID:???
私の足が歩を踏み出す直前に、私はもう一度友達の方を振り返ってしまった。どうしてそうしたのかは自分でも分
からない。もう二度と目にすることもないだろう友達の一心不乱な姿を記憶に焼き付けたかったのかもしれないし、
心のどこかで彼女と再び通い合えることを期待していたのかもしれない。
411名無しさん?:2005/07/20(水) 05:15:29 ID:???
まあとにかく、私は友達の席の方を振り返った。問題なのは私がどういうつもりで振り返ったのかではなくて、私が
振り向いたのとほとんど同時に、彼女が顔を上げたことだった。背伸びをしようと両腕を挙げかけた友達の姿をは
っきり目に映しながら、私は全身の血が凍るような感覚を覚えた。
412名無しさん?:2005/07/20(水) 05:31:31 ID:???
とっさに目を逸らすとか、そんなことができる時間も余裕もなかった。私と彼女は目が合った。まるでまっすぐ吸い
付けられるように彼女の視線が移動してきて、動かせなかった私の視線とまともにぶつかった。私は酷く動揺して
いたけど、友達は何が起きたのか分かっていないみたいにきょとんとしていた。
413名無しさん?:2005/07/21(木) 02:25:26 ID:???
 
414名無しさん?:2005/07/21(木) 05:35:35 ID:???
私の頭の中で、私達を別つ原因になってしまったあの苦い記憶が、もう一度物凄い速さで繰り返された。私の顔な
んか忘れてくれてたらいいのに、と思った。それが無理でも、いっそのこと何気ないふうを装って無視してくれれば
いいのに。そんなことを考えていた私の前で、友達の表情がゆっくりと柔らかくなっていった。
415名無しさん?:2005/07/21(木) 05:49:33 ID:???
友達は私の名前を呼んだ。以前と全く同じ口調の呼び方だった。事情を知らない周囲の人達には、旧友同士が久
し振りに再会した場面にしか見えなかっただろう。そのおかげで私が密かに考えていた、目が合ってしまったとして
も誰だか分からない振りをしてやり過ごす、という手段が使えなくなってしまった。
416名無しさん?:2005/07/23(土) 05:19:10 ID:???
こうなってしまった以上、私が取れる行動は何とか微笑みを作って友達に向けることだけだった。私の返した微笑
は多分ぎこちないものだったにも関わらず、あの苦々しい思い出を共有しあっているのにも関わらずに、彼女には
友好の印として捉えられたようだった。
417名無しさん?:2005/07/23(土) 05:36:07 ID:???
彼女は以前から何というか、そんな楽観的な部分があったような気がする。友達は私の作った笑顔を見て親しげ
に近付いてきた。彼女が歩を進める度に、逃げ出したくなるようなプレッシャーが私に押しかかってきた。久し振り
ね、と友達が言う。私は必死に何度か頷いて、彼女を変に刺激しないように心がけた。
418名無しさん?:2005/07/24(日) 05:05:54 ID:???
 
419名無しさん?:2005/07/24(日) 18:45:43 ID:???
まだライオンと副担任の話ししてるのか
420名無しさん?:2005/07/25(月) 06:08:43 ID:???
こんなとこで何やってんの?と彼女が聞いた。私は自分の吐き出す言葉がしどろもどろになるのを感じながら答え
る。ちょっと、仕事で使う資料を、探しに、来たの。そうなんだ、と彼女はさっきまで書物をしていた机に戻り、文章の
束を取ってきて、私の前に突き出した。ほら、私もこれやってたの。
421名無しさん?:2005/07/25(月) 06:21:10 ID:???
それは表やグラフがこまごまと並んだ、明らかに童話の原稿とは違う内容の文書だった。明日の会議に使うやつ
らしいんだけど、全然進まないの。だってねえ、数字だけ渡して文章にまとめろ、とか言われても、元々こんなこと
やったことない人間が……。彼女の説明は、最後の部分まで私の耳には届かなかった。
422名無しさん?:2005/07/26(火) 06:15:24 ID:???
何故私は、彼女が書き綴っている文書が童話の原稿だと思い込んでしまったのだろう。きっとそう考えれば、少し
でも私の後味の悪い思い出が浄化される、とでも思ったのかもしれない。決して彼女のことや、彼女の抱いていた
夢なんかを考慮したわけじゃなかった。
423名無しさん?:2005/07/26(火) 06:26:46 ID:???
私の苦い記憶の上に、さらに今日の出来事が書き加えられようとしていた。今回はいいとしても、次からはもう彼女
と向き合うことなどできなくなるだろう。そうなったら私は、彼女に関連する記憶に追い立てられ、彼女の姿にびくび
く怯えながら生きていかなくてはならなくなる。そういうのは、私は嫌だった。
424名無しさん?:2005/07/27(水) 01:20:05 ID:???
 
425名無しさん?:2005/07/27(水) 05:26:51 ID:???
彼女の状況説明がひと段落するのを待ってから、私はおそるおそる聞いてみた。まだ、童話書いてるの? 自然
な会話の流れを考えながら、いかにも何気ないような表情と声色を心掛けたつもりだったけれど、自然な流れから
いえば、次は私が自分から近況を話すか、彼女が私にいろいろと聞いてくるのを待たなければならなかった。
426名無しさん?:2005/07/27(水) 05:37:05 ID:???
それを飛ばしていきなりの不自然な質問。彼女の少し眉をひそめたような顔を見てから、私はそのことに気が付い
た。童話? と彼女は聞き返した。彼女の怪訝な表情の原因は、私の不躾な質問の仕方だけではなく、その内容
にもあったのだと思う。何のことを言っているんだろう? きっと彼女はそう思っていたのだ。
427名無しさん?:2005/07/29(金) 05:19:41 ID:???
けれど、彼女はすぐに私の質問の意味に気が付いた。ああ、童話ね。もうほとんど書いてないな。だっていろいろ
忙しくて。たまの休みも返上で仕事だから。ほら、今日もこれとかね。と言って彼女はさっきの文書を私の目の前
でひらひらさせ、微笑んでみせた。私の意図なんか勘繰りもしていないその無邪気そうな微笑みが、私の胸を苦
しませた。
428名無しさん?:2005/07/29(金) 05:31:52 ID:???
前にね、と私は言った。自分でも驚いた。私はさっきの質問の意図を彼女に説明しようとしている。彼女が書けなく
なった理由を確認して、そして彼女に謝罪しようとしている。そのことに気付いたとき、私は喋るのを中断しようかと
も考えたけれど、結局最後まで話すことの方が正しいんだ、と無理矢理思い込むことにして言葉を続けた。
429名無しさん?:2005/07/29(金) 06:41:12 ID:???
 
430名無しさん?:2005/07/30(土) 05:35:40 ID:???
ずっと前に童話の結末について私に相談したことがあったじゃない? そのとき私の答え方がちょっと酷くて喧嘩
みたいになっちゃって、それでずっと気にしてたの。まだ書いているのかな、って。彼女は真っ直ぐ私を見たまま
私の話を聞いていた。私はさらに続けた。もしかして、私のせいでやめちゃったんじゃないの?
431名無しさん?:2005/07/30(土) 05:49:41 ID:???
私がその台詞を勢い込んで喋り終わると、私達の間を重苦しい空気が包んだことを感じた。判決が下される直前
の被告人の心境って、あんな感じなのかもしれない。彼女はずっと私の目を見詰めたまま私の言葉の意味につい
て考えているようで、その間私は彼女から目を逸らさないようにするのに精一杯だった。
432名無しさん?:2005/07/31(日) 05:27:57 ID:???
彼女の顔には表情という表情がなかった。ただ静かに私を見ているだけだった。その静かさは執拗に私の不安を
煽り立てた。彼女はその感情のない眼差しで私の心の深淵を探ろうとしていたのかもしれない。私に対して今度は
自分が、どんな残酷な言葉を投げかけようかと迷っていたのかもしれない。
433名無しさん?:2005/07/31(日) 05:38:27 ID:???
けれど、もう喋ってしまった以上、私には彼女の返答を待つこと以外どうすることもできなかった。どんな結果にな
ろうと、いつまでも自分一人で抱き続けるよりは正しいんだ、と何度も何度も頭の中でそう繰り返した。彼女がどん
な言葉を吐こうとも、甘んじてそれを受け入れるつもりだっし、またそうしなければいけなかったのだから。
434名無しさん?