国家の安全を守るためには、情報技術の進展に迅速かつ適切に対応することが肝要だ。
2011年版防衛白書の特徴は、政府や自衛隊に対するサイバー攻撃が「国家の安全保障に
重大な影響を及ぼし得る」として、防御体制を強化する重要性を強調した点である。
昨年までの白書は「国際社会の課題」の章で、サイバー攻撃を、大量破壊兵器の拡散、
国際テロに次ぐ課題と位置づけていた。今年は、第一の課題に格上げした。
サイバー攻撃には、コンピューター網への不正アクセスによる情報の改竄(かいざん)、
窃取や大量のデータ送信による機能阻害などがある。米軍では、情報通信網にウイルスが
侵入し、情報が外部に流出しかねない事態が発生している。
米国防総省は先月、サイバー攻撃を「戦争行為」とみなし、軍事報復も辞さない
新戦略を公表した。サイバー攻撃の多くは中国国内が発信元とも指摘している。
日本のサイバー対策は、十分だろうか。政府は昨年5月、セキュリティー戦略をまとめ、
今年3月、初の図上演習を実施した。自衛隊も、ようやくサイバー防護隊の創設に
動き始めた段階である。
民間の専門家を登用し、研究部門を充実させて、最新の対策を導入することが重要だ。
米国など関係国と連携し、防御能力を向上させることも求められる。
白書は、中国の軍事力について「地域・国際社会の懸念事項」と明記した。
「高圧的とも指摘される対応を(周辺諸国に)示すなど、今後の方向性に不安を抱かせる」
と一層の警戒感も示している。
尖閣諸島沖の漁船衝突事件や、相次ぐヘリコプターによる自衛艦への異常接近、
南シナ海におけるベトナムなどとの摩擦を踏まえれば、当然の認識だろう。
海洋での紛争を抑止・解決するには、多国間や2国間による国際ルール作りが欠かせない。
中国との軍事交流・対話を通じて、国際ルールを順守し、軍事の透明性を高めることが
「中国脅威論」を払拭し、中国の国益にもかなうと説得することも必要だ。
北朝鮮について白書は、ウラン濃縮施設の公開や新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」の
開発に言及し、依然、「東アジアの重大な不安定要因」と分析している。
日本は、北朝鮮の軍事動向への警戒・監視活動を怠らず、日米同盟の抑止力を機能させねばならない。
6か国協議の参加国とともに、核・ミサイル問題の解決への外交努力を続けることも大切だ。
(2011年8月3日01時32分 読売新聞)
ソース(YOMIURI ONLINE):
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20110802-OYT1T01132.htm?from=y10