もしジョジョキャラがハルヒのSOS団に入ったらpart8
1 :
マロン名無しさん:
,. -一……ー- 、
/::::{:/::::‐-:、:::丶:\
/:::::/´ ̄ ̄__\、::::l,. -―、
/::::// /:: ̄、:\::::ヽヽ≦、ス=、、
/::::/::|,.イ:l::丶::::::::\:X:::',:::ヽ、 ヽハ ',ヽ
f´ ̄!:::::l:_|_|\::\--/,r=ミ|::::::lヾく:l::', | |
ヒア_|:l::::|::N,≧ミ、トゝ ハ心}!::::::K:ヾニ二ヽ ただの人間には興味ありません。
,r=ヽレ|:|::::l::|{ ト心 `'" !::::::|::!',::|ハ::! ` この中に薔薇好き、髭無し師範代、ヴ男
// |:|:::::ハ!、::ヾゝゞ'′ _'_,.ヘ /::::/:::|_!:l リ トゲトゲ頭のピザ厨房、露出狂イチゴ男、キャッチボール好き、ヴ男二代目がいたら
// !ハ//|:|::ヽ::::丶、__丶 _ノ/|:::/イ::ハヘ!ヽ_ あたしのところに来なさい。以上!
L! /ヘ |:|ミニ='⌒ (⌒ヽ´ _ !イノl/ |:! ! !L_
〈_{ ヾ.,!/ , ´ \ ∨,.‐、| l:| |ノ !
__!\ / __ム V⌒! !:! ! ハ
/__レ-〈 / f´ ヽ. '. __! //./-‐ '´ /
ヽ! |r' \l__ V/ /-‐ /
「 ! { `\_f_ノ∠ミヽ! /
/ ヽ`ヽ.二ニァ'V∠二ハ }},!-'
/ ヽ---/´/レ!ト--'/‐'
前スレ
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1228699000/ まとめ
http://www12.atwiki.jp/jojost/pages/11.html 過去スレ
1
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1167487472/ 2
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1179760419/ 3
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1189945405/ 4
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1203844253/ 5
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1221017805/ 6
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1228699000/ 7
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1249634940/
3 :
マロン名無しさん:2009/09/21(月) 00:55:15 ID:XcNDh/uO
団員規則
,、,、,、
/^Yニニニヾヽ 団員規則です、初めに読んでください。
! { {八{从)} ! ・荒らしは吹き飛ばしましょう。
ノ ,イリ ゚ヮ゚ノリ八 ・次スレは490KB頃には間に合うようにブローチを使って作っておきましょう。
( ( ⊂)孚iつ )) ・日本語は正しく使いましょう。疑問文に疑問文で答えろと学校で教えているんですか?
</く_{__}>ヽ> あと、メール欄には基本「sage」でお願いします。
. じフ
_
, ^ `ヽ 投下後何らかのアクションがもらえると
イ fノノリ)ハ 作者たちは最高にハイってやつになる。
リ(l|゚ -゚ノlリ 新作投下の場合、公平に名乗り出てもらえば誰も邪魔はしない。男の世界。
/つ{⌒l^0 恐れずに挑戦して欲しい。あなたの投下を待つ人がいる。明日投下しよう? 明日とは、今。
ただ、空気は読むこと。
乙雅三!
ラスボスのつぎは噛ませ犬のオンパレードか
6 :
アフターロック:2009/09/21(月) 01:04:10 ID:???
7 :
マロン名無しさん:2009/09/21(月) 22:28:33 ID:XcNDh/uO
おっつーおっつー
8 :
アフターロック:2009/09/22(火) 12:49:41 ID:???
すごい勢いで書けたんで前編投下します
9 :
アフターロック:2009/09/22(火) 12:51:23 ID:???
真夏だというのに、いやに空気の冷たい日だった。
『スタンド』の気配を感じる方向へと、なじみのない街を駆け……やがて、俺は『そこ』にたどり着いた。
比較的作りの新しい、二階建てのアパート。……『ゴッド・ロック』の意識が感知した『スタンド』の気配は、この建物から発せられている。
二階。ゆっくりと、一歩づつ、確認するかのように、階段を上る……一歩ごとに、『気配』は強くなっている。
いったい、どうなっているんだ。何故、そこに『スタンド』の気配があるというんだ……?
まさか、佐々木か橘かのどちらかが、『スタンド』を……?
「……ここだ」
階段を上った、目の前の部屋。表札には、何の名前もない……しかし、確かに、この部屋の中から感じる。
ゆっくりと、ドアノブを掴む……
「ひっ」
同時に。扉の向こうから、声がした。
ドアの隙間から室内を覗き込むと……玄関の目の前に座り込み、自らの体を抱いている、俺の見知った少女の姿があった。
「キョン……怖い、怖いよ……橘さんが……橘さんが……」
それは、つい十数分ほど前、俺を眠りから覚ました人物。
……『佐々木』だ。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第23話『西宮市のどこかで鎮魂曲が奏でられる@』
「佐々木……大丈夫か? 俺が来るまでに、誰も来なかったか?」
震える声帯を押さえながら、俺がたずねると。佐々木は、泣きはらした顔面で俺を見上げ、二度、肯いた。
よかった……間に合ったのか。だが、まだ問題がある。
俺は意を決すると、半開きにしてあった戸を閉め、念のために施錠をし、『橘の部屋』に足を踏み入れた。
……女子高生の部屋にしては、いやに落ち着いているな。それが、俺の第一印象だった。
そう部屋は多くない。キッチンと合体したフローリングのダイニングの奥に、小さな和室と、カーペットの敷かれた居間があるのみだ。
その、居間に置かれた、ベッドの上。力なく四肢を放り出し、空ろな瞳で空中を見つめる少女の姿が、俺にも見て取れた。
橘だ。橘京子が、ベッドの上に横たわっている。
「橘!」
声を荒げながら、俺は、その元へと駆け寄る。
……様態は、佐々木に聞いたとおり。青白い顔で、空中を見つめている。
「……キョン、さん……」
空ろな瞳が、ふと、俺の目と合い、橘は、ぽつりと言葉を零す。どうやら、意識はあるようだ。しかし……
橘の衣服と、ベッドと掛け布団を染める、真紅の液体。これは……おそらく、橘の血液なのだろう。
その出所は……俺は、躊躇せずに、橘の上半身を覆うカットソーを、『ゴッド・ロック』の力で引きちぎる。
まともに脱がせるよりは、こちらのほうが、傷に影響をもたらさずにすむだろう。
スポーツ・ブラジャーのみを身に付けた橘の上半身。白い肌。その透き通った肌色を汚す、いくつかの傷。
これは……銃創だ。右肩と、左わき腹。見ると、右手の甲にも、同様の傷跡が或る。
それらの傷からあふれ出した血液が彼女の体と、その周囲を、真紅に染めたのだろう。
そして、最後の。四つ目の傷跡……橘の『喉』に刻まれた、切り傷。
半分近く閉じ掛かっているものの、いまだ血液を滲ませることをやめていない傷。
「なんだ、こりゃ……橘に、何があったって言うんだよ!?」
……ふと。気づく。
首の傷は別として、橘の体を汚している、三つの銃創。
その、位置。
「これは……!!」
そうだ、この位置には、見覚えがある……
これは! 昨夜、ミスタの『セックス・ピストルズ』が、『小野大輔』に撃ち込んだのと、同じ『傷』だ!!
「佐々木……お前が来たときには、もう?」
玄関にうずくまる佐々木を振り返り、訊ねる。
佐々木は、声は出さずに、頭を抱えた体制で、三度ほど肯き、俺の問いかけに答えた。
……何故。『小野』が負っているはずの傷を、橘が負っているというのか。
ひとつの可能性として、俺が、ある仮説を組み立てるのに、そう時間は掛からなかった。
「これは、もしかして……『スタンド』なのか……?」
……妙だとは思っていた。
俺が佐々木からの電話で告げられたのは、『何故かわからないが、橘が傷を負っている』ということだけだ。
そして、俺は『スタンド』の気配を察知し、この場所までやってきた。
つまり……この部屋にいる誰かが。『スタンド能力』を発動しているのだ。
「『ゴッド・ロック』!!」
漆黒の像を発動すると同時に、佐々木の顔を見てから、すっかりと失念していた、『スタンド感知能力』を発動する。
そして、その全神経を、目の前の少女……橘京子に集中させる。
……やはり、だ。
「『わずか』だ……とても『わずか』だが、『スタンド』を感じる……橘から!」
……橘の空ろな瞳が、俺の背後……そこに立つ、黒い『像』を見ている。
橘には、『ゴッド・ロック』が見えているのだ。……間違いない。『橘京子』は、『スタンド使い』だ!
しかし、依然疑問は残る。何故、橘が、『小野大輔』の体に或るはずの傷を負っているのか?
そして、この首の傷は……
「とにかく、手当てを―――」
……俺が開きかけた口を、無理矢理に遮ったのは。
その瞬間、強烈に感じた、『スタンド』の気配と……俺の背後から放たれた、『声』だった。
「WRYYYYYYYYYYY!!!」
……いったい、その声は、『誰』が発したものだったのか。
どこか聞き覚えがあり、それでいて、奇妙に聞き慣れない声。
「きゃあっ!!?」
次に聞こえたのは、佐々木の声だ。普段の声色と比べて、随分と甲高いが、俺には、それが佐々木の声だということが分かる。
長年の付き合いを甘く見るなよ。
「『佐々木』っ!?」
……玄関口を振り返った、俺の目に映ったもの。
それは―――瞬間的には、理解しがたいものだった。
「……『0.5秒』……予定より早く、『時』が『動き出し』てしまったか」
……つい、先ほどまでは。その場にいなかったもの。
佐々木の目の前に立ち……背後に、黄金色の『像』を携えた、男。
その黄金色の『像』は、右手のこぶしを、佐々木に向けて突き降ろそうとしており……
そのこぶしを、俺の『スタンド』……『ゴッド・ロック』の掌が、受け止めていた。
「……『小野ぉぉぉぉぉ』!!」
つい昨晩出会ったばかりの、その男の顔が。まるで、長年の付き合いを経てきたもののように、俺の脳へと染み渡ってゆく。
『小野大輔』。
目を見開き、怯える佐々木の前に……その男が、立っていた。
「ひっ……キョン、なに、これ……わからない、わからないよ……この『人』は、何なの……っ!?」
佐々木が、全身を小刻みに震わせながら、喉を奮わせる。
俺は、橘のいるベッドを離れ、突如として現れた、『小野』を向き直る。
「何故……どうして、お前が『ここ』にいるんだ、小野ォ!」
「……それは、こちらの台詞だ、『ジョン・スミス』。
……いいや、予想はしていたけれどね。まさか、僕よりも早く『ここ』にたどり着いているとは……
君の邪悪な運勢の賜物なのかな、これも。
……いいや。あるいは、『僕』と『君』は、引き寄せあう運命にあるのかもしれない」
小野が言葉をつむぐ間にも、『世界』は、『ゴッド・ロック』の掌によって阻まれたこぶしを突き進めようと、力を込め続ける。
俺は―――俺のスタンド、『ゴッド・ロック』は。それをさせまいと、必死に『世界』のこぶしを握り締める。
こいつは……何をしようとしている?
見れば分かるその疑問を、空中にぶつける……答えは、単純明快だ。
『世界』のこぶしの矛先は……『佐々木』。俺の中学時代の親友である、その少女に向けられている。
「テメーの『目的』は……おれとハルヒじゃあなかったのか!?
何故、『佐々木』を……お前が狙ってんだよ!? 答えろ、『小野大輔』!!」
俺の怒号を浴びた小野は、やれやれ。とでも言いたげに、頭を振るうと……
「わからないのか、ジョン。その『スタンド感知能力』をもってしても……彼女の、『正体』が」
「何、だって……『佐々木』の、正体?」
……その言葉を聴き、不意に気づく。
この世のものではないものを見るような瞳で、『そいつら』を見比べる、佐々木の視線。
その視線が、明らかに―――『ゴッド・ロック』と、『世界』に向けられていることを。
「……『佐々木』、お前は、まさか……ッ!?」
……即座に、『ゴッド・ロック』の『スタンド感知能力』の標的を広げる。
今まで、『橘』に集中していたそれが、部屋全体に広がり……
そして―――俺は『理解』する。
「……『佐々木』から! 『スタンド』を感じる……それも、特別『グレート』なやつを……!!
なんだ、これは……こんな、『スタンド反応』は、初めてだ……!!」
脳漿が焼きつき、神経が千切れそうに為るほどの、強烈な『反応』。
……以前にも、一度だけ覚えがある。あれは―――そう。『観音崎スミレ』の事件の時。
『岸辺』たちが目を覚ます寸前に、俺が『北高』の位置から感じたもの。
「……ようやく、ぼくにも分かったよ、ジョン。この少女……『佐々木』の正体が」
小野が、『世界』の手を休めずに、呟く。
「……彼女は。『宇宙(ザ・ユニヴァース)』の能力と、とても似た『能力』を持つという、この少女は。
……『スタンド』だった―――。『宇宙』の持ち主である、『涼宮ハルヒ』の『スタンド能力』の化身……
この少女は。おそらく、君が『涼宮ハルヒ』から、『宇宙』を引き出したと同時に発現した……『スタンド』なんだ」
「……何、だって?」
ギリギリギリギリ。と、言葉を交わす間にも、『世界』と『ゴッド・ロック』の腕力の拮抗は留まらない。
漆黒の肉体と、黄金色の肉体が、力を圧し合う……『佐々木』の左胸の寸前で。
「わかるだろう、ジョン。『この少女』の存在が、どんなものなのか。
君の能力なら……把握できるはずだ。
彼女は、そう。涼宮ハルヒのスタンド、『宇宙(ザ・ユニヴァース)』の『像』の一部なんだ。
おそらく、君たちの言う……『閉鎖空間』を作り出す『能力』を操作する個体」
……不思議なほどに。小野の言葉は、俺の脳裏に、容易くしみこんで言った。
『佐々木』は、ハルヒの『一部』……ああ、なるほど。そう肯きたくなるくらいだ。
「……だが。彼女は、同時に『人』でもある…………
自意識を持つ『スタンド』ではない。一人の『人間』としての意識を……持っている。
……僕が、それが。その『事実』が、あまりにも『悲しい』……!!」
……言葉とともに。小野の『左手』が、右胸にあてがわれた。
その、瞬間!
「あ……」
……その瞬間を、『観る』ことはできなかった。
俺の視覚に、次の光景が飛び込んできた時には……
『佐々木』の胸を。『世界』のこぶしが、貫いていたのだ。
「これで……いい。『苦しみ』は一瞬だ。
……そして、『涼宮ハルヒ』も……自らのスタンドの『像』を破壊されれば―――」
小野が、なにやらを呟いている。が、俺の耳には届かない。
俺が『理解』できたのは、ただ一つ―――『世界』が、『佐々木』を、『殺した』ということだけ――――
「……『小野』ォォォォォォォォッ!!!」
……俺の怒声とともに、出現したのは。
『世界』の時止めでも、『ゴッド・ロック』のこぶしでもなかった。
窓ガラスを突き破り、室内へと舞い降りてくる、『赤い』影。
「―――――『ミツケマシタ』ワァ!!」
……それは。鶴屋さんの―――『ファンク・ザ・ピーナッツ一号』だ!
「何ッ……!?」
「なっ……どうして、お前が『ここ』にッ!?」
……驚愕に心を染めたのは、俺だけではなかったようだ。
『小野』……やつの表情も、また。目の前の光景を信じられないという、『驚愕』に染まっていた。
「『セツメイ』は、後デモ『出来ル』!! 『今』スルベキコトは――――『ミスター・キョン』!! アナタヲ『オ連レ』スルコト! デスワァ!」
言葉が早いか、行動が早いか。
『ファン・ピー一号』は、その小さな体躯からは想像もつかない威力の『蹴り』を……俺の脳天に、叩き込んだ!!
「ってぇ!!」
痛みに叫ぶと同時に。俺の体が、物理法則を無視した、不条理な力で、空中へと吹き飛ばされる。
焦る脳裏に、うっすらと浮かぶ……以前、鶴屋さんから聴いた、『ファン・ピー』の能力。
小柄な『一号』が攻撃した対象を、『二号』の元へと引き寄せる能力!!
「ソシテ……『テメー』モダ!! 『小野』ォォォォ!!」
破られた窓ガラスを突き破りながら、空中へと放り出された俺の耳に、その声が届く……何、だって?
次の瞬間。俺の目に飛び込んできたのは……たった今、俺が突き破ったガラス戸の穴を突き抜けながら、空中へ踊りだす、『小野』の姿だった。
「うおおっ!!」
『小野』が猛る声が、俺の耳にも届く。
……察するに。俺の登場はお前の想定内だったとしても、『ファン・ピー』の登場までは、予測していなかったってところか。
「『ミスター・キョン』!! モウシワケアリマセン、独断デ、『ヤツ』もお連れシマシタ!!」
不意に。空中を突き進む俺の耳元で、声がする。『ファン・ピー』の声だ。
「今、オジョウサマは『病院』にイラッシャイマス! ソシテ、『SOS団』のメンバーが『集マリ』ツツアル―――
ワタクシの『引き寄せ』力は、『確実』デス! ヤツハ決して! 逃レラレナイ!!
タトエ『ワタクシガキエヨウ』トモ! アナタタチハ、必ズ『病院』へ『引き寄せ』ラレルノデスワ!」
鶴屋さんとよく似た声で、『ファン・ピー』は言う。『病院』……そこまでたどり着ければ、古泉や鶴屋さん……それに、会長やミスタたちとも合流できる。
ここからあの『病院』まで、どれくらいだ? 『引き寄せ』スピードは……遅くはないが、そう早くはない。自転車程度だ。
直線で向かっても、十数分は掛かる……その間! 俺は小野と『戦わ』なければいけない!!
「ジョン……『ファンク・ザ・ピーナッツ』! 君たちは、僕をそこで『倒そう』というわけだな……っ!
だが、無駄だ! その『病院』へとたどり着くのは、僕一人―――ジョン! 君はこのまま誰とも会えないまま、死んでもらう!」
『引き寄せ』られる力の先に背を向け、俺は背後を振り返る。
右胸に手を当てた体勢で、俺を睨み付ける小野と、その『スタンド』……俺たちの間合いは、10メートルほど。
お互い、同じスピードで『引き寄せ』られているため、その距離は、縮まりも広がりもしない。
俺の『ロック』は、この距離で、『世界』と戦えるか……!?
「『ミスター・キョン』! オシャベリガ長くなって申し訳アリマセン! モウヒトツ……
アナタニ、コレヲ!」
言葉と同時に、俺の手の中に飛び込んでくる、二つの物体。携帯電話と――――『拳銃』!?
「何だ、こりゃあっ!? 『ミスタ』のか!?」
「『セツメイ』をスルベキ時は、いまではゴザイマセン! アナタハ『戦う』ノデス!」
……確かに。眼前に『世界』が迫ってきているこの状況で、のんびりおしゃべりはしていられないな。
「『ゴッド・ロック』!! 『やれ』ぇ!!」
俺の体から噴出す黒い人影が、迫り来る『世界』に向けて、こぶしを繰り出す。
こぶしは『世界』の両腕に着弾する。どうせこの程度ではダメージはないのだろう。
俺が可能な『攻撃』といえば……如何にかして、『世界』に隙を作る! そして、その隙に……この『銃』で、『本体』を『撃つ』しかない!!
「『世界(ザ・ワールド)』……! 『思い知れ』!!」
「ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレェ!!」
兎に角、『世界』の攻撃を食らったらお仕舞だ! こいつの破壊力は、いわれなくったって、もういやというほど思い知らされている。
『ゴッド・ロック』にできるのは、せめて、攻撃の隙を作らせないために、『殴り』続けること!
「『やれ』ェ――!!!」
ガン。一際大振りに放った一撃が、一瞬、『世界』の体を揺らす。そして―――その『像』が、消えたっ!
『今』かっ―――! 俺は、右手の中で、あらかじめ準備しておいた『銃』を、『小野』に向ける……頼む。当たってくれ!
しかし―――『引き金』を引こうとした瞬間。
小野は―――『俺の前』から、『消えて』いたっ!?
「ぐっ……」
同時に、腹部に感じる鈍痛。内臓がかき混ぜられるような、重たい感覚。
……馬鹿か、俺は。こいつの……『世界』の、『これ』を、忘れてたなんて……
「『時止め』ッ……!!」
「……ふうん。確かに、『ファンク・ザ・ピーナッツ』のこの『能力』は、『確実』なようだね。
何しろ……『時』を『止めた』というのに、僕が『引き寄せ』られる力だけは『止まら』なかった。
そして、僕と衝突し、『止まった時』の中を『動かさ』れたと同時に、君の『引き寄せ』も再発動した……たいした『スタンド能力』だ」
……こいつは! 『止まった』時の中で、自分が『引き寄せ』られる事を利用して、俺に『突進』してきたのかっ!
まずい……小野と俺の距離は、『ゼロ』!
「……『ジョン』。安心しろ、このまま、君を『世界』で、一思いに殺したりはしない……
『病院』までは……君の『寿命』までは、まだ少しだけれど時間がある……その間、僕は君に『罰』を下し続ける。
君には自らの『罪』の重さを『思い知ら』せてやる。……この僕の『世界』がッ!」
同時に、小野の体から湧き出す、黄金色の『像』―――!!
「ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレェ―ッ!!」
「知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れ知れェ―――!!」
密着した俺と小野の頭上で、『ゴッド・ロック』と『世界』が、こぶしの雨を降らせあう!!
……なんてパワーだッ! 一撃一撃が、それこそ、まるで『弾丸』のように熱い……
「思い……知れェッ!!!」
一呼吸の後の咆哮とともに、『世界』が、一際大きく腕を振るう。向かってくるこぶしを、『ゴッド・ロック』が、左拳で殴り返す……!
――――衝突!
「ぐ……うおおおおッ―――!!?」
バキリ。……あまり聞きたくない、鋭い音が頭上から降り注いだ直後。
俺の左手が―――『割れ』た!!
「……今のは、彼女。『橘』さんの分……ってとこかな」
俺の手から噴出した血液で、背中を汚しながら。小野が呟く。
「『橘』だとッ……!?」
「彼女もまた……君に『スタンド』を引き出され、邪悪な運命を身に纏ってしまった人だった。
もっとも……彼女は未だ、昨夜の時点では、『覚醒前』だったけれどね。
君の『妹』の『スタンド攻撃』を目の当たりにして、覚醒してしまったんだろう」
! ……何だと?
今、なんて言った……俺の『妹』!?
「てめぇ、小野……妹を! あいつをどうしたんだ!?」
「どうにもしていないさ。今でも、あの部屋で眠っている……
彼女は今、とても不安定だ。だから、すこし強い『薬』で眠らせてあげているんだよ。
……あの子は、すぐに精神科に診せてやったほうがいい。……全てが終わって、彼女が少し落ち着いたら、僕が連れて行ってやる。だから、安心していい。
昔のコネで、身元のはっきりしない人間を診てくれる宛てはあるからね」
『引き寄せ』によって、俺の胴体に密着した顔面を、ナメクジのように上に向け、俺の顔を見つめながら。小野は言った。
「これも『罰』の一つだ。君に『幸せ』を奪われた人々が、どれほど悲しい運命の下にいるか……教えてやるよ、ジョン。そして、己の罪を『知れ』……
……きっと、まだ混乱していたんだろうね。彼女……君の『妹』は、橘さんの部屋で目覚めて……僕を見た瞬間。『鋏』で、自分の喉を『切った』んだ」
「なっ……!?」
……不意に。昨夜のあいつの姿が。華奢な肉体が、歩道橋から落ちてゆく、その光景が、俺の脳裏を掠める。
「『時』を止める暇も無かった……そして、彼女の『スタンド』は、『僕』を標的と認識した。……喉を切られるってのは、いいもんじゃないと、勉強になったよ。
……君に『負けた』と思ったよ。あの時は……君の生んだ『不幸』の渦を消そうとして、僕は、逆にそれに飲み込まれてしまうのかと……」
小野は、彫刻のような無表情で、俺を見上げながら、淡々と言葉をつむぐ。
そして、俺たちの頭上では……僅かな間合いを取りながら、臨戦態勢の『スタンド』同士が、睨み合い続けている。
「だが。……僕は、助かった。『橘』さんの『スタンド』が、覚醒したんだ。僕の意識がフッ飛ぶ直前に……
……彼女のスタンドも……『悲しみ』しかもたらさないスタンドだ。決して『幸せ』には繋がらない……
そんな『スタンド』のおかげで、僕はこうして、君を『処罰』できているという事実が、とても悲しいよ」
……そこで、気づく。
『小野』の体に……あの、昨夜の『傷』が無いことに!
そして、『橘』の身体に在った、あの『傷』……つまり、橘のスタンドは!
「他人の『傷』を、『自分』に移すッ! ……それが、『橘』のスタンドかッ!?」
「Exactly(そのとおりだよ、ジョン)」
……小野の声が、わずかに低くなった。
「橘さんは、君の妹の『ローテク・ロマンティカ』が『治し』かけていた、僕の首の傷を、自分に『移した』んだ……きっと、無意識のうちに、だろう。
そして、君たちから貰った傷も、すべて。僕の身体から奪い取った」
まっすぐに俺を見上げる小野の眼の端から、ぽつりと。一滴の涙が零れ、頬を伝って、俺のシャツの生地に染み込んでいく。
「ジョン。これは『手向け』だ……君に引き出された『スタンド』によって、死んでいく彼女への……
君に運命を狂わされた、全ての人への『鎮魂曲(レクイエム)』だ。
僕が……君を『裁く』。それが、たった一つの……
全てを『知る』ことのできる、僕。『ジャスト・ア・スペクタクル』を授かった僕の、使命なんだ……ッ!」
ドン。頭上で鳴り響く、鈍い音……『世界』の放ったこぶしを、『ゴッド・ロック』が、右腕で防御した。
その反動で、俺と小野との距離が、僅かに開いた。
すぐさま体勢を立て直し、『ゴッド・ロック』を眼前に立たせる……『ロック』の『左手』は、もう使い物にならないだろう。
同様に、『世界』を自らの傍へと引き寄せた小野が、明らかな敵意を孕んだ瞳で俺を睨み付けながら、左手を右胸に当てる……
「きっと。僕がこれだけ話をしてやっても……自分には何の罪もないと思っているんだろ。
自分を『悪』だと思っていない『悪』。この僕が、最もおぞましいと思うものの一つだ」
「……その言葉を、そのまんまテメーに返してやるぜ」
……正直なところ。頭が上手く働かない。全てを『理解』しようとしても、しきれない。
『妹』が……あの、うっとうしいくらいに眩しかった、『妹』が。『死』を望むようなことになっちまった。
そうさせてしまったのは、俺……それが事実なら。俺は、あいつの運命を狂わせちまったことになる。
知らずにとはいえ、『罪』に他ならない……妹に、どんな償いをすればいいのかもわからない。――だが!
「……テメーは、おれを『裁く』だとかって目的のために、何人もの人を『利用』した!」
小野は、空中を『引き寄せ』られながら、微動だにせず、俺を睨み続ける。敵意に満ちた目で。
俺の『スタンド』は、やつには敵わないが……ヤツに負けない、とびっきりの『ガン』を飛ばすぐらいなら、俺にだってできる。
「『スミレ』や、『榎本』先輩や、一番初めの、あの『チンピラ』やら、その他にも、無関係なヤツらにおれたちを攻撃させた!
あいつらを巻き込んだのはテメーだ! テメーの都合で、『矢』に『スタンド』を引き出されて、『利用』された!
『幸せ』がどうだと聖人ぶりながら、テメーは無関係の奴らを、非日常に引きずり込んだ!」
血まみれの人差し指を突き出し、叫ぶ。
「それに……テメーは、橘に『手当て』をしてやることもしなかった!
あいつの傷は、何の処置もされていなかった……お前は、動けないようなけが人になっちまったあいつを、丸一日も放置しやがった!
正義感ぶるわけじゃねー……だが、テメーのその行動! おれは『悪』だと認識するぜ!」
頭の中で、ことの顛末が、種明かしのように嵌ってゆく。
先刻、こいつが口にした、佐々木の『正体』。……こいつは、怪我をした橘を『利用』して、佐々木をおびき寄せた。
佐々木がハルヒと似た存在だということを、橘から聞いたのだろう。
そして、佐々木を『殺す』ことが、ハルヒの『死』に繋がる可能性に思い当たった!
そして―――橘の目の前で!
こいつは……『佐々木』を。俺の『親友』を……『殺し』たんだ!!
「テメーは……『悪』だ」
―――忘れちまっていたわけじゃない。
ただ、あまりに事が唐突過ぎて―――未だ、信じられずにいたのかもしれない。
俺は、確かに見た……『世界』に、胸を貫かれた、『佐々木』の姿を……
頭の奥から、炎が湧き上がってくるような感覚。
熱が全身に染み渡っていくのが、わかるかのように思えた。
「橘を『見殺し』にして……佐々木を『殺し』た……」
「彼女たちは、『幸せ』になったじゃあないか」
……小野が、呟く。
「君のいう『スミレ』さんという子や、『榎本』さんたちも、そうだ。
スミレは終わりのない夢から解放され、『榎本』さんはすばらしい『能力』を手に入れた。
……橘さんには、申し訳ないことをしたと思う。
けれど……僕は彼女の目の前で、佐々木さんを殺したくは無かった」
……呟く。
「佐々木さんの死を前にすれば、彼女はとても『不幸』になる……
そして、おそらくその後で、僕は彼女のことも『殺さ』なくてはならなかっただろう。
……彼女は、何も知らないまま。これ以上『不幸』にならないままに。
あのまま『眠っ』てもらおうと、思った。……それだけだよ。
何も『知ら』ずに済むというのは、とても『幸せ』なことだと、思わないかい?」
……ひび割れた左手を、握り締める。……痛みが、一瞬、快感に変わった気がした。
『アドレナリン』ってやつだろうか。ありゃ、確か、『怒る』と出る脳内麻薬だったよな?
多分、正解だろう。
何しろ、俺は……多分、これまでの人生で一番。『プッツン』しているのだから。
「佐々木さんについては……言うまでも無いだろう?
彼女は君の『スタンド』が生み出してしまったものなんだ……
……すべてのことは。ジョン。
『君さえいなければ』起きなかった『不幸』なんだッ!」
「『やれェェェェェェェェェ』ッ!!」
今の俺には、やつが何を言ってるかなんざ、もはや分からない。ただ、湧き出す怒りに任せて。
俺は――『ゴッド・ロック』は、目の前の男を『攻撃』した!
本体名 − 橘京子
スタンド名 − テイタム・オニール 再起不能?
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「テイタム・オニール」
本体 − 橘京子(17歳)
破壊力 − - スピード − - 射程距離 − 視認できる範囲
持続力 − 本体の生命力の限り 精密動作性 − - 成長性 − B
能力 − 本体と一体化しており、像はない。
他人の物理的外傷を自分の身体へと移し、相手の肉体を健康状態に戻す。
ただし、これらの能力は、発現したばかりの時点でのものであり、時が経てば、変化していった可能性もある。
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「スーパー・ノヴァ」
本体 − キョン(発現当時13〜12歳?)
破壊力 − - スピード − - 射程距離 - ?
持続力 − - 精密動作性 − - 成長性 − C
能力 − 本体が13歳の頃に発現したと思われるスタンド。
本体と一体化しており、本体と『かかわり』をもった人間から『スタンド能力』を引き出す能力を持つ。
能力の発動に要される条件は非常に曖昧で、約一時間ほど行動を共にしたのみで発現したパターンもあれば
本体と知り合ってから、ほぼ毎日顔を合わせていても、半年ほど発現に時間が掛かったパターンもある。
本体が16歳の時、矢に射られたことによって、『ゴッド・ロック』へと変化し、この能力は消滅した。
―――――――――――――――――――――――――
26 :
マロン名無しさん:2009/09/22(火) 18:57:42 ID:ttfQtmd9
乙乙!
キョンがなんかもう熱血すぎてwwww
27 :
小高良光:2009/09/22(火) 19:16:09 ID:???
くっそつまんねーよ粕
チラシの裏にでも書いてろゴミ
小野Dめ…俺の佐々木になんてことを…
touka sitemo ii de syou ka
あともう数話でおわりますん
待ってたぞ!
……考えるよりも何秒も早く、身体が、『ゴッド・ロック』が動く。初めての感覚だ。
俺は、『世界』……『小野』の手のひらによって止められた右拳を横に振りきり、胴体に、右足を叩き込むッ!!
しかし、その攻撃もまた、小野の左腕によって止められる―――いいや、違う!
『攻撃』は終わっていない!
「『やれ』ェェェ!!」
「WRYYYYYY!!」
俺が、『ゴッド・ロック』が、吼える。
小野の左腕に遮られた右足に、更に力を込めながら、身体を左側に、90度傾け―――
その憎き左腕に向けて、右肘と、右膝を『叩き込ん』だ!!
「ぐッ!」
小野の口から。『世界』の口から、小さく呻き声が漏れる。
渾身のエルボーと、膝蹴りの挟み撃ちともなれば、多少はダメージがあるだろう?
「『世界』!!」
小野が右拳を振りかざす、横倒れになった俺の『胴体』に、そいつを叩き込むつもりか。
「やれぇ!」
『命令』をしながら、自分で、『ゴッド・ロック』の身体を動かしている。この状況は実に妙なものだ。
小野の左腕に食い込んでいる右足を―――膝蹴りのために折りたたんでいた足を、全力で『開く』!
俺の爪先は、半回転分の遠心力を孕んで、小野の『首』に食い込んだ!
「うぐゥッ!?」
『スタンド』とはいえ、やはり急所に当たる箇所はあるらしい。
先の挟み打ちよりは破壊力の低い攻撃だったはずだが―――しかし! 確実に、小野は怯んだ!
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第24話『西宮市のどこかで鎮魂曲が奏でられるA』
「……昨晩の君と、同じ人間と戦っているとは思えないよ」
右手で、首の左側を押さえながら、小野が言う。
ああ。俺も丁度、今の俺が、昨晩までの俺じゃねーような気がしてた所さ。
「……もう、これ以上。君を生かしておくことは、難しいかもしれないな」
「!」
「『罰』は、最終楽章に入る……これから……『ジョン』。君を……『裁く』」
―――『時止め』が、来る!
俺の直感が、そう騒いでいる。……いくら『世界』と戦り合えたって、『あれ』をやられたら……一発だ。俺の腹に、デカイ穴が開く。それで、お仕舞だ。
「……もっと早くに、こうするべきだった……少し後悔をしているよ。
君はどこまでも愚かだ……それ故に、僕がいくら君の『罪』を話そうと、君にそれを『思い知ら』せることなんか、できやしなかった。
……君に下すべき罰は、圧倒的な『力』しかなかったんだ……」
……全身が燃えるように熱いってのに、冷たい汗が滲み出てくる。
『時』が『止まった』ら……その瞬間。俺は、やられる!
いつ、『止まる』!? 次の瞬間には、『それ』は行われるかもしれない……どうやってそれに立ち向かえばいい!?
「せいぜい恐れてくれ、ジョン。おっと……『攻撃』してくるなら、当然、僕はそいつを食らう前に、『止める』よ。
だが、決してその『止め』の間に、君を『裁き』はしない。……君を『裁く』のは、あくまで、君を『裁く』ために『止め』た『時』の中で、だ」
……左胸が、早鐘を打つ。ちくしょう……『引き寄せ』られている俺には、『逃亡』の道はない。……今の俺は、こいつに心臓を握られているようなもんだ。
「『ミスター・キョン』……!!」
……まだいたのか、『ファン・ピー』。
「スミマセン……ワタクシが。アナタと『ヤツ』ヲ、一緒ニ『引き寄せた』セイデ……!!」
赤い身体を震わせる『ファン・ピー』。
……気にするなよ。お前の所為じゃないさ。俺が……あまりに力不足だったんだ。
「……顔色が、変わったね。『知っ』たかな? 自分がもうすぐ『死』ぬという事を」
「………………ゲス野郎……ッ!」
俺が『死ん』だ後……どうなっちまうんだろうか。
『ファン・ピー』の『引き寄せ』は、俺が死んだとしても、俺の身体を病院まで……正確には、鶴屋さんの『二号』のところまで『引き寄せる』だろう。
鶴屋さんのもとに、誰がいるのかは知らないが……きっとそこで、鶴屋さんたちは、こいつを倒そうとするだろう。
しかし、『無理』だ……! ……こいつは。『世界』は……『無敵』だ!
「……君に、少しでも多くの『絶望』を味わってもらうために。ひとつ、面白いことを……言ってやろうか。
僕は……この後、君の『仲間』たちも皆、『裁く』ことにするよ」
「!」
小野は……笑っても、怒ってもいない。悲しんでもいない……無表情で、俺の目を見る。
おそらく……今の言葉を聴くと同時に、無様に、『絶望』の色に染まったのであろう、俺の目を。
「『セックス・マシンガンズ』の古泉、そこの『ファンク・ザ・ピーナッツ』の鶴屋に、『メリミー』の朝比奈……
あとは誰がいたかな? 最後に『スペクタクル』を『読んだ』のが大分前だから、忘れ気味になってるな……
……ああ、そうだ。『ヘブンズ・ドライブ』の森と……それに、『ヘブンズ・ドアー』の岸辺露伴……
僕は『ピンクダークの少年』のファンだから、少し残念だけど、仕方ない。あと……あのニット帽は、『セックス・ピストルズ』を使っていたから……
……誰だっけな、『ピストルズ』の本体の名前は。……まあ、いいか。そいつも。他には、誰かいるかい? 君の『仲間』は」
……ウソ、だよな?
小野……お前が『裁き』たいのは、『俺』なんだろう? 『ジョン・スミス』なんだろう?
「そうさ。今、現在進行形で、君を『裁い』てるじゃないか。
あと……君たちの回復の早さを考えると、『回復スタンド』使いがいるはずなんだがな……
……まさか、『汐華初流乃』あたりもいるのか? それとも……『クレイジー・ダイヤモンド』のやつかな?
あれの本体はなんて名前だったかな……でも、どっちかだよな。多分。回復ができるスタンドは珍しいんだし……
まあ、それらしいのを見つけたら、そいつも『裁く』よ」
……こいつは、『長門』を『知らない』のか。
あいつは『スタンド使い』じゃないから、こいつの……『スペクタクル』だとかいうやつに、情報が無かったのか。
「あ、それと……ああ、忘れてた。『ジェットコースター・ロマンス』のやつは、もう『やっ』たじゃないか」
……何だって?
「お前……今なんて、言った?」
『ジェットコースター・ロマンス』。……あの、不良会長のスタンドが、何だって?
『やっ』た?
「あれ、聞いていないのかい。彼は……強敵だったよ。『かなり』のね。まともに戦ったら、もしかしたら……『負け』ていたかもしれない。
だけれど……君と同じ、『愚か』だった。それが彼の敗因だ」
「! 『ミスター・キョン』! ソウデスワ……アノ『携帯電話』ハッ!?」
「えっ……」
不意に。俺の耳元で、『ファン・ピー』が叫ぶ。
そうだ。さっき、こいつから渡された携帯電話……今まで忘れてたが、こいつは一体何なんだ?
『小野』は、まだ時を止めない……遊んでやがるのか? それとも、『病院』につくまで待って、鶴屋さんたちの前で俺を『裁く』というのだろうか。
ポケットに突っ込んだきりだった、携帯電話を取り出す……桃色の携帯電話。こりゃ、誰んだ?
「……! これは……っ!?」
……携帯電話を開くと。画面は、写真撮影モードになっており……そこに、『会長』の姿が映っていた。
白いベッドの上で、左手を右胸に当てた体勢で、仰向けに寝転がっている……
……何だよ、これ。こいつ……
『会長』は、なんで『寝て』んだよ……?
「『ソレ』ハ……『会長』サマが、最期ニ残シタ『メッセージ』デス!!
ワタクシハ、『ソレ』ヲ! 『アナタ』にツタエルタ――――」
……不意に。『声』が、止まった。
……何だ? 『ファン・ピー』は……どうして、いないんだ?
たった今、俺の顔の横で、叫んでいた『ファン・ピー』が……なんで、消えちまってんだ!?
それに続いて、気づく……一瞬前まで、俺の手の中にあったはずの、『携帯電話』が……『会長からのメッセージ』とやらが、無い。
それも、『消え』ちまっている!
「……『ミスター……キョ……』」
声は、俺の前方……『小野』の居る方向から聞こえた。
……その傍らに立つ、『世界』の『手』の中に……赤い、潰れた『トマト』のようなものが、有る。
「『ファン・ピィィィ―――』!!!」
―――今、『止ま』ったんだ! 『時』が!
今が『裁き』の時だったのか? いや、違う……俺は、生きている。
小野が『時』を『止めて』攻撃したのは……俺でなく、『ファン・ピー』だ!
「……」
……小野は、先ほどと変わらない表情で、俺をじっと見ている……
その、冷たい目の端を……一滴の、汗が落ちてゆく。
「何を……しやがった……ッ!?」
「…………」
無言。
さっきまで、俺を絶望に追い込む言の葉を、ぺらぺらと吐き出していた口が、黙り込みを決め込んでいる。
……瞼の裏に焼きついている、あの『画像』。
そして、それを俺に伝えようとした、『ファン・ピー』を、無き者にするためだけに、こいつは『時』を止めたのか?
その理由は……一体、何だ?
「『メッセージ』……!」
答えは―――一つしかない!
あの画像―――『会長』が、最期に残したという『メッセージ』!
そこに……『無敵』の『世界』に立ち向かう為の『鍵』があった!
だから、小野は『焦っ』た。咄嗟に、『時』を『止め』て、俺がその『鍵』を見つけ出す前に、『携帯電話』と、その旨を伝えようとした『ファン・ピー』を葬った……
「……最後まで、気分が悪い……まだ、君を十分に『絶望』させていないというのに……
さっさと『裁か』なければならないようだ……」
間違いない!
こいつは、俺が、一瞬だけ目にした『画像』から、その『鍵』に辿り着くことを恐れている!
考えろ! 『時』が『止め』られる前に……俺が『裁か』れる前に!
あの画像……仰向けにベッドに横たわる、『会長』! あの中に『鍵』がある―――其れを、『理解』しろ!!
「…………」
小野が―――動いた。
小野の『左腕』が……どこかを目指して、動いてゆく。
……『左手』を、『右胸』に当てようとしている! あの『画像』の中の、『会長』のように―――!!
「うおおおおお!!!」
……そうだ、思えば。こいつはさっきから、幾度も、癖のように、『左手』を『右胸』に当てていた―――
それが―――『時止め』を発動させる条件なんだ!
しかし、それが分かったところで……俺は『どうすれば』いい!?
『小野』は既に、『時止め』の準備体勢に入ろうとしている! いや、左手を右胸に当てるのなんざ、一瞬だ。
そして、その瞬間―――間違いなく! 小野は俺を『裁く』!!
「やめろ……『止める』んじゃねェェェェ――――!!」
「『世界(ザ・ワールド)』!!! 時よ―――『止まれ』!!」
……その、瞬間だった。
俺の背に……何かが『ぶつかった』。
ああ、こりゃあもしかして……『世界』の腕か。
じゃあ、俺はもう、背後から腹をぶち抜かれ済み……そういう事か?
いや、違う……『世界』は、小野は、まだ俺の目の前に居る。
何でだ? 『時』は『止まっ』ちまったんじゃないのか……何で、俺はまだ『生きている』んだ?
「バカな……お前は、もう―――『死んだ』はずだ!?」
小野が、叫ぶ。俺に向かって―――?
違う。
その叫び声は……『こいつ』に向けられたものだった。
背後から、俺の身体を『すり抜け』て現れた―――その、白い巨人のような『スタンド』に!
「……『ジェットコースター・ロマンス』が―――何故、『生きて』いるんだッ!?」
会長ぅーーーーーッ!
何故。ここに、あの『会長』のスタンドが現れたのか。
何故。小野は『時』を『止め』ないのか。
何故。『死んだ』という『会長』のスタンドが、ここに『居る』のか―――
「『世界(ザ・ワールド)』ォォォ!!」
小野が叫ぶと同時に、『世界』が動く。俺と小野との間に現れた、『J・ロマンス』に向かって、攻撃を放つ。
同時に、『J・ロマンス』のこぶしが動き、『世界』のこぶしと衝突する!
「うおおおお!!!」
続けて―――ラッシュ! 白い腕と黄金色の腕とが、周囲のものを吹き飛ばさんばかりの勢いで、撃ち合う!
退けは―――取っていない! 『互角』だ!
そうだ……思い出す。先ほど、小野は。『会長』を、『かなりの強敵』だったと言った……
『時』を支配する『世界』が、『負け』ていたかもしれない『スタンド』――――それは!
"『世界(ザ・ワールド)』で―――『止まらない』もの"!!!
そういう、ことかよ―――!!
小野が時を止めなかったんじゃない……俺は―――今!
"『止まっ』た『時』の、『中』にいる"!!
おそらく―――どうやってかは、知らんが。この『ジェットコースター・ロマンス』が、俺をそこに『導いた』んだ!
「『ゴッド・ロック』ゥゥゥゥ!!」
『世界』は『ジェットコースター・ロマンス』が引き付けている―――今、俺にできる事は!
―――"『小野大輔』への、『攻撃』"!!
「WRYYYYYYYY!!」
ある程度頑丈で、『ゴッド・ロック』の射程距離内で、『ひっかけられ』るものなら、何でもよかった。
選ばれたのは、『電柱』。『ゴッド・ロック』の手を、一本の電柱に『ひっかけ』る!
俺を後方に『引き寄せる』力に、ほんの少し耐えられればいい―――俺は、『小野』に近づくことが出来る!
「ぐううう!!」
……『ファン・ピー』の『引き寄せ』は、思ったよりも強力なパワーを持っていた。
コンクリートの柱にしがみ付く、『ゴッド・ロック』の腕に、俺が想像していた以上の圧力が押し寄せる!
「振り絞れぇぇぇぇ!! 『ゴッド・ロック』!!」
全身の筋肉(『ロック』に筋肉があるのかは、知らんが)を震わせて! 『引き寄せる』力に『逆らう!』
一秒。二秒。あと少し―――三秒。四秒……そいや、『時』はまだ『止まっ』ているんだろうか?―――五秒!
俺の身体を掠めて、後方に吹き飛んでゆく、『世界』と『J・ロマンス』!
そして―――開けた視界の先に! 『小野』の姿が、見えた!
小野は―――『時止めの姿勢』を取っているッ!!
「小野ォォォォォォ!!!」
「なっ!?」
どうやら、『J・ロマンス』に集中していて、俺の接近に気づいていなかったらしい。
空中に『しがみついて』いる俺を見て、小野の顔面は、わかりやすいほどの『驚愕』に染まった。
俺は、その『部分』―――奴の左手と、右胸が重なり合った、その部分にめがけて……『撃った』!!
「時よ、止ま―――ぐぅッ!?」
いいや、『止ま』らせねぇ。……『弾丸』は、見事に。奴の左手の甲に、着弾した―――!
銃撃に怯んだ小野が、『引き寄せられて』くる……それに合わせて、電柱にしがみ付き、俺をこの場に留めている『ゴッド・ロック』を呼び戻す!
「ジョン・スミスゥゥゥ!!!」
再び『引き寄せ』られ出した俺の目の前に―――『小野』が居る! 距離は、大体2メートル……十分に『ロック』の射程内だ!!
時間が無い。『世界』が、こいつのところに戻ってくる前に! 俺は、『世界』の……いや。『ジャスト・ア・スペクタクル』の『弱点』を、見つけ出す!
可能性は―――一つ! 『会長』が残した、最後のメッセージ……『右胸』!
「『近づく』な……! 『お前』が『僕』に、『近づく』なァァァァ!!」
後退しようったって、無駄だぜ。俺たちは……『引き寄せ』られてるんだからな。
「『やれェェ』!!」
『ゴッド・ロック』の右手が、『小野大輔』の両腕を振り払い―――ジャケットの『右胸』に、掴みかかる!
高そうなジャケットが、毛羽立った音を立てて、『千切れ』る!
「うおおおおお!!!」
……どうやら。『アタリ』を引いたようだ。
こいつがたびたび口にしていた、『スペクタクル』という『スタンド』にまつわる言葉。
『読む』だの、『記される』だの……それらの言葉から連想される、『ジャスト・ア・スペクタクル』の像。
『本』だ。
そして、昨夜、こいつは言った。『ストレンジ・リレイション』だとかいうスタンドを『破った』。そして、新たに『世界』を『蘇生』したと。
ついでに、先ほど。こいつは『スペクタクル』を最後に『読んだ』のは『大分前』とも言っていた。
つまり、『スタンド』を『再生』している間は、『スペクタクル』は『読めない』……『本』の『像』は出せないと言うことだ。
「これが…………『スペクタクル』の―――『世界』の、『正体』かよ……!」
……引き千切ったジャケットの生地の中から覗く、一枚の紙。
それは―――『世界』についての情報が記された―――『ページ』!!
まさに死闘
「やめろォォォォ!!」
―――背後に、『世界』の気配を感じる! 向かってくる……ドデカい殺気を撒き散らしながら。
「小野……この、おれの後ろの『世界』で、おれの背中にこぶしをぶち込むまでに、何秒掛かる?
二秒か? 五秒か? ……待ってやるよ。おれと『運比べ』だ。
この『ページ』に『触れて』いないと、お前は『時』を『止め』られない……つまり、ズルはなしだぜ」
万が一にも、小野にページを奪われぬよう、ゴッド・ロックは、ページを持つ、血まみれの左手を、天高く翳す。
……気づけば、俺たちの高度は、随分と低い位置までやってきていた。
病院までは、あと一分もかからない。……ここまで、どれくらい時間が掛かったんだろうか。気分的には、二時間ぐらいはかかった気がするぜ。
「『世界』が、最もおれに近づいたとき―――『ゴッド・ロック』は、この『ページ』を、『破り捨てる』!!」
……気配が、迫ってくる。猛スピードで……強烈なヤツが。
「『世界(ザ・ワールド)ぉぉぉぉ』!!! こいつを……『裁け』ェェェェ!!」
「『ゴッド・ロック』!!」
――――――俺の腹から。黄金色の『腕』が、生えている。
なんとも奇妙な光景だ。
どうした、小野。まるで、手品でも見てるような顔してるぜ。
「……『やっちまえ』」
……おいおい、まさか、本気で運比べをしようとしてた。なんて思ってんじゃあ、無いだろうな?
俺にはちゃんとわかってたんだぜ……背後に迫る、スタンドの気配が……『二つ』、あるってことが、な。
『世界』と―――その更に背後の、『ジェットコースター・ロマンス』。
その能力は―――『殴ったものを、すり抜けさせる』。そいつが『世界』の『腕』を、『殴った』。……な、簡単な種だろ?
「…………うわああああああ!!!」
『ゴッド・ロック』の手の中で―――『世界』の『ページ』が、引き千切られる。
それはただの紙くずへとなり、『ゴッド・ロック』の血で汚され、消滅する……
同時に。俺の腹から生えた――黄金色の腕が、消滅した。
―――最強のスタンド、『世界』は……今。"完全に『消滅』した"―――!!
だが、まだ安心は出来ない―――ちと、物騒だが。俺は、例の『拳銃』を、小野に向ける。
「ぐ……!」
「おとなしくしてろ。撃たねェ―よ。ただし……テメーが『ジャスト・ア・スペクタクル』を出して
また別の『スタンド』を『再生』しようとしたら……おれは迷わず、引き金を引く」
……無言、か。
このまま病院に着けば―――誰が居るのかは、いまいちわからんが、少なくとも鶴屋さんは居るはずだ。
SPW財団か、機関の人間も、誰かしらは居るだろう。とにかく、こいつの身柄を、徹底的に拘束して……それで。
この『事件』は……『解決』、か。……いやにあっけなく感じる。
「おーうい、キョン君っ!」
……不意に、俺の背後……つまり、俺の『進行方向』から、聴き慣れた声がする。
鶴屋さんだ。
どうやら、無事に……と、言っていいのかどうかはわからんが。……『到着』したようだな。
「すいません、鶴屋さん。ちょっと、今、こいつから目が話せないんで……このまま、うしろ向きで失礼します!」
「オッケーだよぉ! いやあ、キョン君! 心配したけど……やってくれたみたいだねっ!」
数秒後。俺の背中に、軽く触れる、小さな手。おそらく、『二号』か。
しばらくぶりに、大地を踏む俺。……体が重い。地球の重力が、1.5倍ほど強まっているような気がした。
――――
時刻は、午後二時を回り始めていた。……さっきまでの戦いが、たったの十五分かそこらの出来事だったとは思えない。
案の定。病院前では、『SPW財団』が待機してくれていた。
俺の変わりに、小野の身柄を拘束する……小野は、終始無言、無抵抗。
「うっそ、ほんとにキョン君一人でやっつけちゃったんだぁ!? すごいね、大手柄だよ!」
「いや、おれだけじゃどうにも……あいつの。『会長』の、おかげですよ」
「え…………」
ふ。と、鶴屋さんの表情が変わる。
……途中から、なんとなく。あの『ジェットコースター・ロマンス』が、一体『何』なのか、分かっていた。
あれは、会長の『魂』とか、『執念』とか、そんなものが重なり合って……チョッピリだけ起きた、『奇跡』だったんだろう。
やつはいつの間にか、俺たちの周囲から姿を消していた、……多分、行くべきところへ行ったんだろう。
「……そ、っか。会長君は、まったく、頑張りやだなあ」
くるり。と、俺に背を向けながら、空を見上げ、鶴屋さんは、呟く。
……『傷痕』は、一つじゃない。……俺は、ポケットから自分の携帯電話を取り出し……『録音』された、その音声を聴く。
それは、『佐々木』からの電話だった。……そのメッセージは、恐怖やらなにやらに犯されており、概要を理解するのに、少し時間が掛かったが。
要約すると。……気を失っていた自分が、目を覚ますと。自分の傍で、橘が……息絶えていた。
あいつの胸には、えぐられたような、新しい傷があり……心臓が、見事に破壊されていたという。
……佐々木は、死ななかった。
橘の『スタンド』が……佐々木を、生かしたのだ。
橘自らの、のこりわずかだったであろう命と引き換えに……。
背後で手を縛られ、車に乗せられようとしている『小野』を見る。……あれほど、はらわたが煮えくり返っていたというのに。何故か、怒りはわいてこなかった。
……あまりにも、全てが、突然過ぎて。頭が、着いていけていないのかもしれん。
「……よし、キョン君。会長に、お礼を言いに行こうよっ!」
しばらく、黙って空を見上げていた鶴屋さんが。振り返り、笑顔を浮かべながら、言う。
……『会長』。倒れても、なお……俺に、最後の希望をつかませてくれた男。
まさか……最後の戦いを共にするのが、あいつになるなんて思わなかった。
「古泉君たちも行ってると思うからさ……勝利報告。してあげにいこ?」
少しだけ赤い目をした鶴屋さんが、笑う。
そうだ。あいつが居なければ……俺は小野に、無様に『裁か』れていたんだ。
礼の一つぐらいしなくちゃな。……初めてのありがとうが、死に顔に向けてってのは、すこし……残念に思う。
「……そうですね。じゃあ、行きま―――――」
……鶴屋さん?
何ですか、その……お腹から生えてる、黒いものは。
「え…………な…………に…………?」
鶴屋さんが、自分の身体を見下ろし……
まるで、不意に、下品な手品でも見せられたかのように、顔を凍りつかせる。
頭の中で、サイレンが鳴っている。
耳鳴りがする……目の前が、一瞬、真っ暗になる。
……なんだ、これ?
「……ようやく、『分かった』……『知る』ことができた。君の『スタンド』の、『正体』……」
……誰だよ、この声。……ごく最近聞いたぞ。いや、それどころか。ついさっきまで、飽きるほど聞かされていた声だ。
「キョン……ぐ……」
俺の名前を呼ぶ鶴屋さんの口の端から……ごぽり。と、音を立てて。赤い液体が、溢れ出す。
ちょっと待てよ。待てって。待て。
何だよ、これ…………?
「……運命は、やはり。君が『裁かれ』ることを、望んでいるようだ」
ずるり。と、音を立てて、鶴屋さんの身体から、漆黒の……『腕』が、抜ける。
発生した空洞から、滝のように溢れ出す、鶴屋さんの血液。
どさり。鶴屋さんの身体が、支えをなくしたぬいぐるみのように、膝をつき、倒れる。
……鶴屋さんの背後に立つ、漆黒の人影。……それが何者なのか、俺には簡単に理解できる。
しかし、理解できない。いいや、理解はしたんだ。けれど、理解出来ない。
どうして。
「どうして……『ゴッド・ロック』が、鶴屋さんを……攻撃してんだよォォ――――!!?」
……『ゴッド・ロック』の、傍らで。そいつが―――笑っていた。
―――『小野大輔』が。
本体名 − 橘京子
スタンド名 − テイタム・オニール 死亡
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「世界(ジャスト・ア・スペクタクル)」
本体 − 小野大輔(29歳)
破壊力 − A スピード − A 射程距離 − C
持続力 − B 精密動作性 − A 成長性 − E
能力 − ジャスト・ア・スペクタクルによって蘇生された、世界(ザ・ワールド)。
超人的な破壊力・スピードと、きわめて高い精密動作性は、ほぼオリジナル同様のレベル。成長性のみは大きく落ちる。
時間を数秒間止める能力も発動可能。しかし、本体が手で、スペクタクルから切り取った世界のページに触れて居なければ発動できない。
時止めの持続時間は2秒〜5秒。
―――――――――――――――――――――――――
――――
――――
――――
――――
…………コーヒーを飲んでいる。
いつもの喫茶店の窓際の席。窓から射す日の光が、やたらとまぶしい。
……煙草。煙草を吸おう。
「……あ?」
……テーブルに置いた煙草の箱に手を伸ばす……その箱が、妙にデカイ。
……なんだこりゃ。俺が煙草を置いていた筈の場所に、ポッキーの箱が置いてある。
「ねえ、それ一本くれない?」
不意に。見知らぬ声がする。女の声だ。
……俺の席の向かいに。カチューシャで前髪を上げた、ワンピース姿の女が座っている。
「……なんだ、お前」
逆ナンか? 馬鹿くせえ。今は、誰かと会話なんかしたい気分じゃねえ。
「ポッキー、ちょうだい」
……失せろ。と、言いたかったはずなのだが。
何故だか俺は、女の言うとおり。ポッキーの箱を開け、そのうちから、一本を取り出し、女に差し出していた。
「ありがと。あなた、優しいのね」
女がポッキーを咥え、笑う。
……歳は俺と同じぐらいか、少し若いぐらいか。
「元々おれのじゃねえよ」
「あら、そーなの? じゃ、もう一本」
女は、おれの手の中の箱からポッキーを一本取り出し、俺に差し出した。
「そっちがわ持って」
……よくわからん女だ。
言われるがままに、チョコレートのついた側の端をつまむ。
ぽきり。軽快な音を立て、ポッキーが折れる。女がポッキーを持つ手に力を込めたのだ。
「……何やってんだ、あんた?」
「知らないの? ポッキー占い。 あっあ〜♪ あなた、女の子のことで悩んでるでしょ?」
……女の子の事、か。
「……うるせー、おれは一人になりたいんだ」
「図星なんだ?」
……本来なら、ぶん殴りたくなるところなんだが。
何故か、この女は。俺の心に染み込んでくるような、妙なところがある。
「……おれは、そうだな。恋人がいたんだ」
「ふられちゃったのかしら?」
「いいや……そうじゃねえ。が、離れ離れになっちまった。
おれはそいつのことを、何一つわかってやれてなかったんだ」
なんだこりゃ。俺が、こいつに、こんなことを話す義理はねえだろうに……
「そして、おれは……そいつを『守って』やることもできなかった。
……クズだったんだ、おれは。そいつのことを何も知れずに……」
「占いなら、わたしにも一つ占わせてもらえないかな」
……更にもう一つ。聞き覚えのない声が、俺の耳に転がり込んできた。
……女の隣。俺のはす向かいに、知らぬ間に―――なにやら仰々しい服装の、無駄にガタイの良い、浅黒い肌の男が座っていた。
何だってんだ、今日は?
「何なんだ、あんたらは……宗教の勧誘かなんかなら、他をあたれよ」
「いや、ただ、わたしは君を占いたいだけさ。少なくとも、彼女の適当な占いよりは、よっぽど正確に占って見せるよ」
「あ、ポッキー占いを馬鹿にしたわね。よくあたるのよ? 実際、いまだってあたってたじゃない」
男は、ポケットからタロットカードを取り出し、俺の前に並べる。
十字型に、五枚。俺から見て、右側のカードを、男の太い指がめくる。
「エンペラー。『皇帝』の逆位置……示すのは、『傲慢』」
……よくわからんが、まったく良い結果じゃあねえのは確かってところか。
「傲慢、だったかもな。おれは。あいつのことを、わかった気でいた」
「そう自虐的になるな。これはまだ一枚目のカードだ。あと二枚、めくるべきカードは残っている」
次に、男は左側をめくる。……これは俺にもわかる。『悪魔』。『デビル』のカード。
こいつはまた、立て続けにろくでもないカードが出たもんだ。
「待ちたまえ。この『悪魔』もまた逆位置……悪魔の逆位置が示すのは、『目覚め』。」
目覚め。
……ちょっと待ってくれ。
「……待て、おれは……」
そうだ。俺はなんで、こんなところに居るんだ?
俺は、たしか……この場所で。
「……最後のカードだ」
男が、中央のカードをめくる。
「……『力』の正位置。
『勇気』と『戦い』……それが、このカードの象徴。
……確かに君は、その人のことを知らなかったかもしれない。
だが……君は立派に戦ったんじゃあないか。その人のために、最後の最後まで。
君は決してクズなんかじゃあない。……わたしはそう思うよ」
目の前の男と女が、笑う。
『戦っ』た……そうだ。俺は、あの男と……
「コーヒーのおかわりはいかがですか?」
……三つ目の、声。
俺の後ろから―――水のように澄んでいて。
太陽のように暖かい、俺のよく知った、あの声が聞こえた。
そいつは―――ただ、声も出せずに、その姿を見ることしか出来ない俺を尻目に、手際よく、空のカップにコーヒーを注ぐ。
俺と目が合うと―――そいつは、笑った。
「……ごめんなさい。
生徒会の規則、やぶっちゃいましたね。許して……くれますか?」
「……おまえ―――」
「それと、色々騙してて、ごめんなさい……でも、また会えて、嬉しいです。
……お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。
ね―――『会長』」
『もしも天国があるなら。それは、いつもみたいな日々のことかもしれないね』
本体名 − 西宮北高校生徒会長
スタンド名 − ジェットコースター・ロマンス 永眠
owari masun
次はラストまで書き終わったら投下しにきまう
アヴドゥルぅううううううううう――――――ッ!
遅くなったが乙。会長は最期まで漢だった。
鈴美さんもヴ男も喜緑さんも安らかにな…
touka simasu
nottori no youna joutai de gomen na sai
……現在。時刻は、午後一時五十五分。
霊安室の中央のベッドに、『会長』の身体が横たわっており……その周囲を囲むように、古泉たちが、立っている。
「……わかりました。僕らも、今からそちらへ向かいます」
その言葉を最後に、電話を切り……古泉は、『ミスタ』と『森』に目を向ける。
そして、すこし緊張をほぐすように、息をついた後……
「―――『小野大輔』の身柄を確保したそうです」
「! 『イツキ』、そりゃぁマジかよっ……!?」
彫りの深い顔面に、驚きとも、喜びともつかない表情を浮かべ、ミスタが言う。
「はい……たった今、『彼』と、『小野』が、この病院に到着しました。……正直、信じられませんが。
小野は拘束され、完全に『無力』……少なくとも、小野の『世界(ザ・ワールド)』は……『彼』が、『消滅』させたと」
「……」
……何故。こんなにも、奇妙な気分なのだろう。古泉は、思った。
ミスタと森は……見るからに、喜びよりも驚愕の色の強い表情を浮かべ、呆気にとられたかのように、硬直している。
「……つまりよォ……おれたちは……『勝った』のかよ?」
ミスタが、誰に尋ねるというわけでもなく、呟く。
小野大輔は。最強の『スタンド』を失い、これから財団によって拘束される。
『涼宮ハルヒ』と『キョン』の命を狙っていた、『悪魔』は……完全に、封殺された―――!
「おーい、もしもーし。失礼するぜ」
不意に。ドアを開ける音とともに、警帽を被った男―――鶴屋が連れてきた、『スタンド使い』。『東方仗助』と……
彼に連れられて、『榎本』が、霊安室内に歩み入ってきた。
「榎本さん……身体は大丈夫なんですか?」
古泉が訊ねると、榎本は、すこし困ったような、悲しがるかのような表情で、一つだけ、首を縦に動かした。
……彼女が、この部屋を訪れた。と、言うことは……
「いや、なんつーか……目ぇ覚ましたら、すぐ、『あの』後、どうなったのかを教えてくれって言われちまったもんで……」
彼女たちを乗せた救急車が病院に到着してから、榎本の傍についていた『仗助』が、すこし伐の悪そうな表情で、頬を掻く。
「……聴いたんですね……榎本さん」
「……そこに……『会長』が、いるの?」
榎本の角度からは、古泉の身体が丁度陰になり、ベッドの上に横たわる『会長』の顔が見えない。
少しだけ、躊躇った後で。古泉は、身体を横にずらした。
……数歩。榎本は、冷たいベッドの脇へと歩み寄り、会長の……凍りついたように白い頬に、触れた。
「……あたしの所為で……会長くん……ごめん……」
「……だ、だけどよ、えーと、『ミユキ』だっけ?
その……いいニュースもあるんだぜ。な、『イツキ』?」
「……ええ」
ミスタと古泉の言葉に、ふと、榎本が顔を上げる。
「小野大輔は、『倒し』ました」
「! ……うそ、誰がっ!?」
榎本の表情が、はじめに、ほんの少しだけ驚いた後、僅かに穏やかさを取り戻したように見えた。
「『キョン』だよ。あいつが、やりやがったんだ。あの最強の『世界』を、アイツ、ブッ倒しちまったんだ!」
「うそ……キョンちゃんが、一人で?」
「……それだけじゃねーッスよ、えーと、榎本さん」
口を開いたのは、仗助。
「いや……なんか、ポッと出のおれが色々言うのもなんなんスけど……
会長は、『世界』にやられちまった……でも、こいつは最後まで、あんたたち『仲間』に、メッセージを残した。
おれぁ、この目で。『それ』をちゃんと見たんだ。
その、『小野』ってのをやっつけたのは……こいつの……『精神』のおかげでも、ある……と、思うんス」
……榎本は、仗助を聴き、何を思ったのだろう。その、複雑な表情から、彼女の心中を読み取ることは、古泉には出来なかった。
「……と、とにかくよォ。外に出て、キョンとツルヤのとこへ行こうぜ!
フーゴたちも、こっちに向かってるそうだし、キョンも怪我してるかもしんねーしよ。
そのあとで、皆で……また、コイツに会いにくればいいだろ?」
言うが早いか。ミスタは、大股歩きで、ドアへと向かってゆく。
古泉は、一瞬、森の顔を見た後……森が歩き始めるのを待ち、ミスタの後を追う。
「行きましょう、榎本さん」
「……うん、ごめんね」
まだ、僅かに肩を落としている榎本の手を引く、仗助が、二人よりも少し早くドアをくぐり、最後に、古泉と榎本が霊安室を出た。
その、瞬間。
病院全体を震わせる『轟音』が―――彼らの頭上から、圧し掛かってきた。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第25話『鎮魂曲は終わらない@』
「なっ――――んだァッ!?」
古泉たちよりも、先に廊下に出ていた、仲間たちが。一様に、音の発せられた方角……天井を見上げる。
今の音は、何だ……事故で、院内に、車でも突っ込んだのだろうか?
いいや……違う! 古泉は、いつの間にか、冷たい汗に塗れていた両手を握りしめる。
違和感。
『小野大輔』を『倒し』た―――どうしても、すっきりと受け入れることが出来なかった、その事実。
古泉は……そして、恐らく、ミスタや、森も。同じ『予感』を感じていた……
"このまま終わってしまうはずがない"―――と!!
「『古泉』! 急ぐわよ……急ぎなさい!!」
森が、一瞬だけ古泉を振り返った後。廊下の突き当たりにある、地上への『階段』を目指し、駆け出した!
古泉は、駆け出そうとして――――今。自分の右手の先にある、その少女を―――連れて行くべきかどうか、迷う。
そもそも―――榎本を、『SOS団』に迎え入れたこと自体。間違っていたのかもしれない。
ただ、こちらに敵意を持っておらず、ハルヒと親しい『スタンド使い』であるという理由だけで、古泉たちは、彼女を『SOS団』に迎え入れた。
彼女は……彼女の精神は、どこにだって居る、普通の『少女』だったというのに。
「……榎本さん、あなたは―――」
ここで待っていてください。……と、言葉を紡ごうとした、その瞬間。
古泉の右手が、思い切り『引っ張ら』れた! ……榎本が走り出したのだ!
「えっ、のもと……さ……?」
引っ張られるままに、床を蹴りながら。
古泉は、榎本の右手に……彼女の『スタンド』が握られていることに気づく。
「いっちゃん、何ぐだぐだしてんの、走ってよ! ちゃんと―――まっすぐ! 『前を見』て!!」
こちらに顔を向けず、榎本が叫ぶ。
つい先刻、みずからのために命を失った仲間を前に、身体を震わせていた―――あの少女が、今。
古泉の『先』に居る……!
「……はい!!」
古泉は、彼女を侮っていた―――。
彼女の心を満たしていたのは、悲しみでも、怯えでもなかった。
そこに有ったのは……自らの力のなさへの、『悔やみ』。
そして、今! 彼女は―――それを『乗り越え』ようとしている!
自らの手で……自分のために逝ってしまった『仲間』の仇を討つことで!
「……『セックス・マシンガンズ』!!」
榎本の右手を握り締め、階段を駆け上がりながら。古泉は、左手の中に、自らの『スタンド』を発動させる。
「……『後悔』は『後ろ』にある……そうだな、『マシンガンズ』!!
僕は……『前』を『向く』!!」
「ギャッハアアアアアア!!! イミワカンネーェ!!!」
階段を駆け上がり……一階に、たどり着く!
いつ、どこから、何がやってくる―――!? 『マシンガンズ』の引き金に指を掛けながら。古泉は、ロビーに転がり込んだ――――その、瞬間。
「―――!!」
前を向いた古泉の視界に。『それ』は、いつの間にか……踊り込んできた。
――――
「……やっぱり、いたのか。君たちも……」
……つい数十秒前まで、清潔そのものであったロビーは、今。遠い昔に朽ち果ててしまった建造物のごとく、『破壊』され尽くしている。
荒れ果てたロビーの中央で……その男は、立っていた。
……今―――何が起きた? 気づいたら、『古泉』が―――
「……古泉ィっ!?」
「どっ、退きな! すぐに『治す』!」
森は、今しがた、自分が駆け上がってきた階段を振り返り……
その、階段脇の用具居れを背に。地面に両足を投げ出し、気を失っている部下の姿を見て、声を上げた。
すかさず。出会ってから、まだいくらも時間の経っていないその警官……『治す』力を持つという『仗助』が、負傷した古泉の身体に飛び掛る。
「『クレイジー・ダイヤモンド』―――心配ねえ、すぐに『治す』ぜ!!」
仗助の身体と重なるようにして現れた、水晶色のスタンドが……ほんの一瞬前までは、全くの健康体であったはずの、古泉の傷を癒してゆく。
「……『クレイジー・ダイヤモンド』?」
その言葉を聴いて……ふと。何かに気づいたように、『男』が、一歩。五人の方向へと歩みを進める。
しかし。その一歩を踏んだ瞬間、残る二人……ミスタと榎本が、背後の三人を守るかのように、『スタンド』を従え、立ち塞がった。
「……テメーのそのクソッツラ……遠目にだから、いまいち覚えてねーがよォ……
昨日も会ったよなあ……『小野大輔』!」
……『男』―――『小野』は。まるで戦意を感じさせない、寝ぼけたような目で、自分を睨みつける、二人の『スタンド使い』を見た。
「『ミスタ』……そいつに……近づくな……逃げ……」
不意に。ロビーの隅から、声がする……
古泉と似たような体制で、壁を背に、傷だらけの身体を戦慄かせている少年の姿。
「『キョン』……!」
キョンは。ところどころが赤く染まったシャツの上から、胸を抑えながら、ミスタたちに向かって叫ぶ。
「そいつは……『時』……『時止め』なんだ……そいつの、『スタンド』は!」
「なっ……何ィ!?」
銃口と視線は、男に向けたままで。ミスタが叫ぶ。
「テメー、キョン! 『世界』は消滅させたんじゃねェ―のかよ!?
テメー、仕留めそこなったってのか!?」
「違う……『世界』じゃあないんだ! 『世界』は、確かに『倒した』……!
何がどうなってんのか、おれにもわからねえ……!」
「……少し黙ってくれ、『ジョン』」
冷たく、機械的な声で。小野が、キョンの言葉を遮る。
小野は……しばらく、何かを考えるように、顎に手を当てた後。
「あ……そうだ。……『クレイジー・ダイヤモンド』……たしか、『東方仗助』ってやつだ。今思い出したよ。
なるほど、やっぱり『治療役』が居たのか……」
ぽん。手と手を打ち合わせ。ミスタには理解不能な……
しかし。明らかに、現状と不釣合いな、暢気な台詞を吐く。
「おい、テメェー! 意味わかんねェ―――事をブツクサとタレてんじゃねェ!
分かってるのかよ……テメェは今、おれたちに囲まれてんだぞ!?」
「ああ、そうかも……しれないな。確かに。でも……特に問題はないかな。
……僕は、多分。まだよく分からないけど、多分、『無敵』だから」
唇の端を上げ、あたかも罪のなさそうな微笑を浮かべながら。小野が、ミスタに向けて、言う。
「君は、知らないか? えーっと、『ミスター・グイード』だっけ?
……『無敵』ってのが、どういうものかを、さ」
「『無敵』だあァ――――!? くだらねぇ事をタレんじゃねーと…………」
……ふと。ミスタの脳裏に……ある『記憶』が。『光景』が、フラッシュバックする。
……たとえ、何人に囲まれようと。決して、負けることはない、『無敵』の『スタンド』。
それは……そう。あらゆる生命の『魂』までもを操る―――
いや、まさか―――いや、有り得ないわけじゃない。この男は、『矢』を持っている……
小野が、『矢』の『秘密』を知っていたら。……ミスタの全身から、冷や汗が滲み出る……。
「……『彼』が、つまるところどういう存在なのか。ようやく、分かったよ」
『彼』の部分で、男は、壁際に座り込んだキョンを指差す。
まずい。ミスタが見る限り、キョンは、足の骨を折られている……出血量も馬鹿にならない。『治療』が必要だ。
「おい、『ジョースケ』! 『イツキ』はまだ、治らねェのか!?」
「ご心配なく……問題なく、『治り』ました。」
……ミスタの問いかけに、言葉を返したのは。
呼ばれて飛び出て、とばかりに。ミスタと榎本の間に、『マシンガンズ』を片手に割り込んできた、古泉だった。
「……『マシンガンズ』の古泉君、か……君と会うのは、初めてだね」
「ええ。お会いできて光栄ですよ……過激な挨拶を、どうもありがとうございます」
……微笑を浮かべた小野と、反対に、一切の緩みの無い、冷血な表情を浮べた古泉とが、言葉を交し合う。
「……ひとつ、質問をさせて頂きたいのですが。答えていただけますか?
あなたは、先ほど、財団の方から入った連絡によれば……財団に『拘束』された……そう聞いたのですが。
決して、『ジャスト・ア・スペクタクル』の発動を許さぬよう、監視もついていた……」
「ああ、そうだね。もう少しで、何か薬でも打たれるところだったんじゃあないかな……。
だけどさ。そこの『彼』が、僕を『助け』てくれたんだよ。ギリギリのところで、ね」
『彼』―――その言葉とともに、小野が指差したのは……『キョン』!!
「彼がね。僕を……『成長』させてくれたんだよ。
いや……『進化』。そう言ってもいいかもしれない」
そこで、小野は一呼吸を置き……
「正確には、彼じゃなくて……彼の『スタンド』が、だけどね。
……スタンド使いが、再び『矢』に射抜かれたとき。『スタンド』は『変化』する。
『成長』だったり、別の能力への『変異』だったり……君たちも、それは知っているだろう?
それと、同じだよ……分からないか? 僕の言っていることが」
「……彼が……『それ』だと、言いたいのですか?」
呟いたのは―――古泉。
小野は、古泉の冷たい視線を一瞥した後……語り始める。
「……ジョン・スミスの『ゴッド・ロック』……『スーパー・ノヴァ』
それは―――"『矢と同じ能力を持つスタンド』"だった―――」
小野の口から飛び出した言葉に、ミスタは息を詰める。
そう……古泉たちは、言っていた。自分たちは、『キョン』の『能力』によって、『スタンド』を引き出されたと。
『スタンド使い』を生み出す能力……それは、まさしく、『矢』と同じ!
そうだとすれば……キョンの『スタンド』が、『矢』と『同じ』能力なら―――
「……説明がつくんだ、それなら。彼の周囲の『スタンド使い』たちの能力が、次々と『変化』や『成長』を起している理由……
彼の妹……彼女の『スタンド』が、前ぶれなく『変化』した理由。
『ピストルズ』が砂利を『弾丸』にできた理由。
『ロマンス』が、『時』を『すり抜け』た理由……本体の死後、『一人歩き』のスタンドに『変化』した理由。
そして……『ゴッド・ロック』の『血まみれの手』に『破壊』された……その『血』を取り込んだ、この僕の『スタンド』が、『進化』した理由―――!」
言葉と同時に―――小野の手の中に、『本』が現れる! 『ジャスト・ア・スペクタクル』かっ!?
「待て! 妙なマネをするんじゃねェ……『本』を捨てろ!」
小野は、ミスタの言葉など、耳には入らないと言うかのように、無言で……その『本』をめくり、こちらへ『見せた』。
……ただ、血のように赤いページのみが、延々と続いている……
「ほら……見てごらん。これじゃあ、もう『読めない』ね。
僕の『スペクタクル』は、『読む』ものだった……生けるものたちの魂の在り方を『読む』スタンドだった。
しかし、今……僕のスタンドは、『進化』した。全ての『スタンド使い』の『魂』を―――『支配』するものへと!」
その言葉と、同時に――――。『小野』が、『本』を頭上へと放り投げる―――!!
やはり―――小野は、『矢』の『秘密』を知らない! 小野の『スタンド』は、ただ『変化』したわけじゃあない……
奴のスタンドが、『矢』と『同じ』能力を持つ『スタンド』……『ゴッド・ロック』の『血』を『取り込んだ』―――それが、事実なら!
『小野』が遂げようとしている『進化』は!!
―――"『鎮魂歌』への『進化』"!!
「待て……そいつを! その『スタンド』を、『発動』するんじゃねェェェ!!」
ミスタが駆け出すと、同時に!
小野の頭上の『本』が……強烈な『光』を放ち始めた!
「うっ……おい、オメーラぁ! 目を閉じろ! 『失明』しちまうぞ!!」
仗助の声が、ロビーに響き渡る! 光は、未だ止まない……!
光に満ちた視界の中を、ミスタは進む!
「ミスタ、待ってください! 何がおきるかわかりません! 止まってください!!」
「『だめ』だ……コイツを『先』に行かせたら、『だめ』なんだよォォォォォ!!」
古泉の制止の声―――しかし、足を止めるわけにはいかない!
まだ『完成』していないなら―――もし、まだ、『レクイエム』が『完成』していない今なら、まだ!
「『ピストルズゥゥゥ』!!」
光の中に、『ピストルズ』を放つ……涼宮のもとに残してきた、NO.1と、NO.2を除く―――
……除く……『何体』だ!!?
「ちくしょォォォォ!!! 何で……『4体』なんだ、『ピストルズゥ』―――!!」
何故! 気づかなかった―――6から2を引いたら、『4』になるに決まってるじゃねぇか!!
そんな計算、どこのド低能にだってできたじゃねぇか―――!!
―――乗り越えろ!! 一刻も早く、『4』から『3』を引くんだ!!
「『NO.3・5・6』ゥゥゥゥ!!!」
光の中を突き進みながら―――『ピストルズ』を託した、一発の弾丸を。ミスタは、前方に向けて放った。
――――
それは―――唐突に。いつの間にか、収まっていた。
「……う……」
「え…………?」
「!…………」
……ロビーを埋め尽くしていた光は消え去り―――
まるで、一瞬前までの光景が嘘であったかのように、先刻までの荒廃した空間に、戻っている。
目が、光にやられた様子もない……仲間たちも、無事だ―――古泉に、森。榎本に―――?
「ぐ……あ…………」
―――不意に。誰かの呻き声が聞こえる。
そして、その直後。
「……ああ……『良い』……」
寒気を催すほどに生ぬるい声。
……それらは。ロビーの中央から、聞こえてくる……
……『キョン』は。視線を、ゆっくりと……声の聞こえた方向へと、向けた。
ゆっくり、ゆっくり……そこに、何が存在するのか……『恐れ』が、キョンの行動の『全て』を、ゆっくりにしている。
……十秒ほども時間を掛けて、『前』を見た、キョンの視線の先に……『それ』は、立っていた。
―――――
「……不思議だ……初めての『感覚』だ……
これが、全てを『支配』するっていう事なのか」
……小野の声。姿。……ロビーの中央に……『小野』が居た。
そして、その背後に……『赤い』ものが『立って』いる。
人だ。人の姿をしている……足があり、腕があり、胴体があり、首が伸び、頭部がある。
……『美しい』。何の冗談でもなく、キョンは、その姿を見て……素直に、そう感じてしまった。
肩の装甲や、頭部の作りは、『世界』に、すこしだけ似ている。
そして、手の甲に……見覚えのある輪郭が、シンボルマークのように、張り付いていた。
この形は、なんだっけ? ……ああ、そうだ。
それは、キョンの『スタンド』……『ゴッド・ロック』の頭部の輪郭に似ているのだ。
「『行かれ』ちまった……『矢』の『先』、に……!」
……その、美しい『像』は。左手を、天井高くへと差し伸ばしている。
その、手の中に。『ミスタ』が居る。首を掴まれ、締め上げられているのだ。
ミスタの体に、先ほどまでは無かったはずの傷が在る……わき腹に刻まれた、『銃創』。
―――見惚れている場合じゃない。キョンは、そこで初めて、我に返る!!
「『セックス・マシンガンズ』ゥゥゥゥ!!」
キョンよりも、一瞬だけ速く。我に帰ったのは、『古泉』だったようだ。
左手に構えた『マシンガンズ』……その、おぞましく開閉する口の中に、あたりに転がっていた、植木鉢の破片を叩き込む。
「『ンンンンンンンマァ―――――イイイ』ィ!!」
マシンガンズの嬌声と同時に。『弾』が放たれ『ない』――――
「え……う…………」
……古泉の『マシンガンズ』―――つい今まで、『小野』に向けられていた、その凶悪な『スタンド』が。
何故…………古泉の『腹』に、食い付いているのだろうか?
「……うわああああああ!!!!」
「古泉ぃぃぃぃ!!」
咄嗟に。古泉の傍に立っていた森が、古泉の、マシンガンズを持つ腕を、無理矢理に胴体から引き剥がす。
同時に、『マシンガンズ』の『像』が消える。……後に残ったのは。古泉の脇腹に発生した、半月型の凹み―――
「何だ、今のは……何やってんだよ、『古泉』ぃぃぃ!!?」
「あ……ぐ……」
キョンの声を聞いた古泉が、こちらを向き、口を動かす……しかし、声は出ない。
その代わりに……整った形の唇を、押し破るようにして。赤い液体が漏れ出して来た。
「『クレイジー・ダイヤモンド』ォォォ!!」
その様を見て……キョンは、その人物が誰なのか知らない。姿からして、警察官のようだが……
とにかく、その人物が、『スタンド』らしき、水晶色の巨人の像を発動させながら、古泉の下へと走り出し『ていない』――――
「えっ……?」
……警官は、古泉の元を通り過ぎ―――その、後方。先ほど、古泉が背を預けた『用具入れ』の前に居る。
ひしゃげていた用具入れが、見る見るうちに、本来あるべきだった姿へと戻ってゆく……
「……なにやってんの、刑事さあああああん!?
『いっちゃん』だよ、『いっちゃん』を『治して』よおおおお!!」
「お……なじ、だ……『チャリオッツ』や……『ゴールド・E』の時と……
それも……『両方』……『両方』と『似てる』……」
……小野の背後の『赤いもの』によって、天井高くに締め上げられたまま。ミスタが、呟く。
その直後、赤い『スタンド』が、左腕を振るい―――ミスタを地面に、放り捨てた!
「ぐっ……お、オメーラ……『スタンド』を……出す、な……! ……おれたちは!
もう、奴に『支配』されちまってんだ……!!」
「『支配』……だァ!?」
階段脇の壁に衝突し、その場に倒れこんだミスタは。腹部の銃創を抑えながら、途切れ途切れに話す。
「そうだ……やつは……おれたちの『スタンド』を、操ってやがる……おれたちが奴に攻撃しようとすれば、逆に、おれたちは、自分のスタンドに『攻撃』される!
でも、それだけじゃあねえ……おかし。あいつは、『おれたちの知らないうち』に、それを『やって』やがる……
『それ』はいつの間にか、『終わって』……やが……る……」
その言葉で―――キョンは、気づく。さっきの古泉や、警官の動作……まるで、瞬間移動したかのように、一瞬で変わる人の配置……!
―――見覚えがある。感じた覚えがある―――これは!
「……『時』だ……やっぱり! あいつは『時』を止めてる……
―――『奪っている』んだ!! 止まった『時』の中で―――おれたちを『奪って』いるんだっ!!」
そう叫んだキョンに、小野が、道に落ちている紙くずを見るような目を向ける―――
「……『経験(エクスペリエンス)』というのは、偉大だね。よくもまあ……たったあれだけで、そこまで頭が回るものだ。
でも、それは同時に悲しいことでもある……相手が『無敵』である事を知ってしまえば……その先には、『恐怖』しか存在しない」
……『無敵』。
ああ……キョンは、思う。
俺は。つい、さっき。その『無敵』を乗り越えたはずだったってのに―――
――――
――――名前が、必要だな。
進化した『スペクタクル』にふさわしい……新しい『名前』が。
小野は、全身を包む、生ぬるい多幸感に浸りながら……
赤い『像』を見上げ、『名づけ』る。
「『ジャスト・ア・スペクタクル』は、『進化』した……『支配者』へと―――
……『ヴードゥー・キングダム』ッ!! うん……実に……『いい』」
――――さて。何処からはじめようか。
ロビーのあちらこちらに散らばった、『スタンド使い』たちを見回し……小野は、考える。
……『彼』を『裁く』のは最後だ―――では、まず、手始めに。
残しておくと面倒そうな、『クレイジー・ダイヤモンド』……あれから、『裁く』とするか。
さて……受刑者は決まったけど。
……執行人は―――誰にするかな?
鎮魂曲は、まだ終わらない。
本体名 − 小野大輔
スタンド名 − ジャスト・ア・スペクタクル → ヴードゥー・キングダム
to be contiuend↓
多分あと二話ぐらいです
おやすみなさい
75 :
アメリカの人:2009/09/25(金) 11:18:00 ID:???
第91話 「最終決戦〜幕開け〜」
午前10時ちょうど、天気は快晴、気温は程よい暑さ、作戦決行にはちょうどいいが、喧嘩をしたくなるような天気では無い。
『キョン、うだうだ何考えてんだ?覚悟を決めろ』
電話の向こうから小言が聞こえてきた。言われなくても分かってるぜ。ただ、少し愚痴りたくなっただけだ。こんな素敵な休日に物騒な事はしたくない。
『ハルヒには感づかれてないな?』
「多分な」
『ならいい……囮が動き始めたッ!行くぞッ!』
「承太郎先生、車出して下さい」
「少し荒っぽい運転になるかもしれないが……シートベルトはするな……弓と矢はあるな?」
後部座席に座った俺は、横のニヤけ面が銀色のアタッシュケースを掲げたのを見た。
「中にあるかどうか確認しておけ……相手がスタンド使いである以上、用心は必要だ」
アタッシュケースを開けて中を俺と古泉が覗きこむ。
「へえ……これが弓と矢か」
中には古ぼけた石でできた矢が入っていた。パッと見では以前聞いたような危険な代物とは思えない。
「だが、危険なのは確かだ……絶対に直接触れるな」
「分かっていますよ」
それに触ったら死ぬかもしれねーんだろ?そんなもん触りたがるのはハルヒくらいだ。
「……信号が青になった。出発だ」
「やれやれだぜ」
76 :
アメリカの人:2009/09/25(金) 11:21:11 ID:???
side of アナスイ
「ウェザー……尾行はされてねーよな?」
『今の所はな』
「はふう……囮も大変ですね」
俺達は町中を割と自然な感じで走っていた。
『尾行されるようにするというのは意外と難しい……見つけて下さいと言っているような行動は怪しまれるし、コソコソし過ぎて見つからないのも困り物だ』
「尾行するのが簡単すぎるのも駄目だしな」
朝比奈難しそうな顔をして銀色のアタッシュケースを抱え込んだ。
「うー……なんだか凄く緊張してきました………」
「おい、ウェザー……いたぞ……車がついてきてる………」
『計画通りだな……よし、このまま尾行されるぞ』
「ああ………」
ついてきている車は青いワンボックスカー。最近流行のエコカーなのは、安いからなのか、それともエコロジストなのか……どっちにしろ例の組織はそれほど裕福では無いようだ。
「……あれ?あの車……段々近付いてきてるような………」
「は?……確かにそうだな………」
見るとさっきは20m程離れていた車が今は10m近くにまで近付いている。
『何故だ?尾行するならさっきの距離でいいはず………まさかッ!』
「ウェザー……そのまさかだ……野郎ッ!スタンドを出した!こっちを攻撃する気だッ!」
『クソッ!囮を攻撃して本物をあぶりだす気かッ!振り切るぞッ!』
77 :
アメリカの人:2009/09/25(金) 11:23:25 ID:???
side of 徐倫
「森さーん……敵を見つける当てがあるって本当?さっきから適当に走っているようにしか見えねーんだけど」
「うるさいですねえ……音を探しているんですから静かにして下さい」
あたし達はバイクで敵を探していた。森さんは鉄球を手で回転させながら片手で運転するという曲芸じみた動きをしている。
「バイクなら運転出来るわよ?変わる?」
「無免許運転は許しませんよ……ところでなんで出来るんですか?」
「若気の至りだ」
取り付けられたサイドカーにあたしは座り、森さんのサポートをしている。といっても、地図を開きながら今迄周った場所にマークしているだけだが。
「この辺りも反応は無しか?」
「ありませんね………」
森さんは鉄球で様々な音を拾い、敵を探している。
「だけど音だけでどうやって敵を見つけるんだ?」
「様々な足音や、話し声……つまりは総合的な情報でです」
「そんなに音を拾えるのか?それ」
「普通の鉄球は地面に付けないと音を拾うのも無理ですね……ですが私のザ・ミュージックは音に特化した鉄球です。空気中の音波を拾って区別できるくらい感度が良いんですよ」
「ふーん………」
「……!見つけましたよ………」
78 :
アメリカの人:2009/09/25(金) 11:25:56 ID:???
森さんがバイクを止めたのは、ガソリンスタンドの前だった。
「こんな所に?」
「さっきからこちらを向いている人物がいます」
なんで分かったんだ?
「簡単ですよ……首を動かす時の風切り音です」
「……そんな小さな音でよく分かるな………」
「鍛えてますから!……後、やたらと視線を感じた事ですね、そっちの方が大きいです……気付きませんでした?」
「気付いてたよ。ていうかあれは殺気だな」
ガソリンスタンドの中には帽子を深く被ったやたらと目付きが鋭い女店員がこちらを睨んでいた。……あれ?あいつどっかで見たような………。
「どうします?攻撃しますか?」
「ああ……間違ってたら謝ればいいしな」
森さんが鉄球を構えて投げようとした瞬間、凄まじい爆発がガソリンスタンドで起こった。
「んなッ!?ガソリンに引火したのかッ!?」
「ハァッ!」
森さんが鉄球をあたしと自分に当て、体を硬質化させてガードしてくれる。爆風が飛んできたが、怪我は特に無い。
「クソッ!先手をうたれたッ!奴はどこだ!」
「空条……徐倫……この日を待っていたわッ!」
いつの間にかさっきの帽子の女が後ろに周っていた。
「てめえッ!あの商店街での放火魔のスタンド使いッ!」
「日吉静佳……それがあたしの名前よ……あの時ヒドい目に合わせてくれたじゃない……あんたにあの深い絶望を刻み付けてやるッ!」
「とんだ逆恨みですね………」
「来な……何回やっても結果は変わらないがな」
To Be Continued・・・
79 :
アメリカの人:2009/09/25(金) 11:29:42 ID:???
以上、第91話でした
アフターロックさん乙!熱いぜ…そしてあと2話だと!?
ちょっと遅れました。次はガンバル
それでは!
80 :
マロン名無しさん:2009/09/25(金) 18:42:55 ID:XgKU8jeB
アフターロックさん乙!
ジョジョの歌をスタンド名に使ってくるとはさすが!
アメリカの人乙!
やっぱり徐倫かわいいよ徐倫!
最後まで書けたので
終わりまで適当に分けながら、随時投下しますん
あとエピローグも入れたらあと3話でした。ド低能が
「止まりなよ、『東方仗助』」
……『小野』の声が。破壊の限りに満たされた、ロビー内に、しみこんで行く。
名を呼ばれた『仗助』は……壁に背を預けながら、ゆっくり、ゆっくりと。廊下の奥を目指していた足を、ピタリと止める。
「まさか、『逃げられる』なんて思ってるんじゃないだろうな?
いいかい、まだわかっていないのなら、もう一度言ってやる」
ロビーの壁沿いに張り付くように並ぶ、忌まわしき『スタンド使い』たちに向けて。小野は、語る。
「『ヴードゥー・キングダム』は……今、この瞬間にだって。時を『止め』て、君たちの『スタンド』を『支配』することができる。
いいか、君たちは今、僕の『箱庭』の中にいるんだ……わからないかな?」
……答えるものは、いない。
まあ、いい。どちらにしろ……小野は。段取りのとおりに、淡々と、『裁き』を下して行くだけだ。
その第一の標的は……『クレイジー・ダイヤモンド』。それはもう、『決まった』ことなのだ。
……鎮魂曲は、続く。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第26話『鎮魂曲は終わらないA』
「――――ドラァッ!!」
仗助が、動いた。やられるまでじっとしていることは無いだろうとは思っていた―――が。
『クレイジー・ダイヤモンド』が、後ろに飛びのく……その速度は、小野が予測していた以上のスピードだった。
そして、スタンドに伴い、仗助自身の体も、廊下の奥へと進んでゆく。……少し、急ぐ必要があるな。
……ロビーに残っている『受刑者』たちの位置からして……今回の『執行者』は、彼だ。
『セックス・マシンガンズ』、古泉一樹。
――――
……小野が意識した瞬間。『それ』は発動する。
時が止まると同時に、小野大輔の感覚の全ては、一時的に、『ヴードゥー・キングダム』に移る。
そして、『ヴードゥー・キングダム』は……時が止まると同時に、小野の決めた対象の『精神』を。
その『スタンド』を『支配』する。
『小野』は。『ヴードゥー・キングダム』は。
『セックス・マシンガンズ』と、その媒体の『古泉一樹』となり、止まった『時』のなかに舞い降りる。
『古泉』の肉体の痛みは感じない。『V・キングダム』は、彼の『魂』の中に居る。
一秒。
『古泉』は、『セックス・マシンガンズ』を手に、仗助の消えた廊下に駆け込む……彼の姿は、廊下の中ほどよりも、いくらか奥にある。
二秒。
『セックス・マシンガンズ』の銃口が、空中に静止した仗助に向けられ、引き金が引かれる。
放たれた弾丸は、空中にて『固定』される……
三秒。
先ほどマシンガンズに食わせた、『古泉の肉』が、いくらか残っている。
残弾を心配する必要ないだろう……が。どうせなら、一度に済ませてしまおう。
四秒。
『古泉』は、『マシンガンズ』の引き金を引きながら……
空中を咀嚼する『マシンガンズ』の口の中に、『右手』を突き入れた。
五秒。
バリバリと音を立てて、古泉の手首ほどまでが、一瞬で、マシンガンズの口内に消えてゆく。
六秒。
そろそろ時間だ――――
『V・キングダム』は『古泉』から離れ、『小野』の元へと帰ってゆく。
七秒。
時が―――動き出す。
「うぐ……うわあァァッ!!?」
まず、最初に響き渡ったのは、古泉の絶叫。
そして、僅かに遅れて、廊下の奥から、『仗助』の声がする。
はじめは、『マシンガンズ』の口で、仗助の頭を食い潰してやるつもりだったが……仗助のスピードが想像以上だった。
あれでは致命傷にはならないだろう……まあ、いい。とりあえず、一人再起不能にはしてやれた。
廊下にうつ伏せに倒れ付す『古泉』。そのまましばらく放っておけば、失血死するだろう。
「……古泉ぃぃぃぃ!!!」
「う、うわああぁぁ、いっちゃ―――ん!?」
瞬時に―――腕と腹から、血液を振りまきながら、倒れ付せる古泉を見て。
『ヘブンズ・ドライブ』の森と、『ネオ・メロ・ドラマティック』の榎本が、古泉の下へ駆け寄ろうとする。
仗助が、ロビーへと引き返してくる様子は、ない。
何か―――妙だ。逃走に『迷い』がない……
……まあ、いい。今は、『こちら』だ。
……再び。時は止まった。
静止した時の中で―――『榎本』が、動く。
一秒。
自分の僅か前方を駆ける、スーツ姿の女の前に回りこみつつ……手の中の『像』を構える。
二秒。
まず、胴体に一撃。ボディを食い込ませる。……この『森』は、実につまらない『スタンド』の持ち主だ。
生かしておいたところで、何の脅威になるとも思えないが―――『ジョンの仲間』である。ただそれだけで、『裁く』理由としては十分だ。
三秒。
膝の関節が逆に曲がるように、思い切り『ドラマティック』を叩き付ける。
……四秒。
最後に、頭でも殴っておくか……適当に意識が残る程度に。『榎本』は、『武器』を振り上げる。
五秒。
ゴン。頭蓋が割れたほどの手ごたえはない……これくらいが丁度いい。と、『榎本』は笑う。
六秒。
さて、時間だ。
時が動き始めたときに、『自分』が何をしたか、よく見えるように―――一歩、後退してやろう。
七秒。
「あぐぅぅゥゥッ……ッ」
醜いうめき声だ。と、小野は思う。
「え……な、森さ…………」
錐揉みになりながら、その場に、ボロ雑巾のように崩れ落ちる森。
その姿を見下ろし……榎本は、何が有ったのかわからないという表情を浮かべている。
そして、その表情が、『徐々に』青ざめてゆく……
「いやああああァ――――ッ!!?」
「……『小野』ぉぉぉ!」
小野に向けて、キョンが、喉の奥底からの声を発する。
そして、小野に向けて飛び掛ろうと、体をうごめかせる……だが。彼の両足はへし折れているのだ。既に、『戦闘不能』。
彼に残された道は。一人づつ、仲間が『裁か』れてゆくのを、見せ付けられる道のみ……
残りは……三人か。一人は『逃亡』中。やつのことは……後で良い。『治療』の力も、このロビーに立ち入ることが出来ない状態では、恐れるに足らない。
やつに出来るのは、小野に位置を特定されぬよう、ひたすら逃げ回ることくらいだろう―――
……そう。小野は―――仗助と共に去っていった、『彼』に―――気づいていない。
―――音を立てるな。自分の存在を、下階の、『ヤツ』に悟られるな。
『仗助』は、その一点に全神経を集中させながら……『二階』の廊下を進む。
『マシンガンズ』の弾丸に穿たれた全身が、燃えるように痛む……しかし、決して。未だ、『再起不能』ではない。
……『こいつ』の言っていることが、本当なら。
あの男の『スタンド』に立ち向かう、ただ一つの道は……仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』に掛かっている。
「……アアアッ!」
不意に。仗助の警帽のなかの『それ』が、声を上げる。
「マタダ……ドンドン『ヤラレ』チマッテルウウ!! 『コイズミ』モ……『モリ』モヤラレチマッタト、イッテイル!!」
畜生。廊下を、壁伝いに、ふらふらと進みながら、仗助は心中で歯を食いしばる。
一体、下の階では、どんな惨劇が繰り広げられているのか。
こうしている間に。彼らが手遅れになってしまうかもしれない……
しかし! 何と言うことだ……今!
『仗助』は、彼らが……ロビーに残してきた彼らが、『全滅』するのを『待たなければ』いけない!
「オ、オイ、ジョースケ!! ハヤク……『アレ』ヲオレニワタシテクレ! 『アレ』ガナキャ、『ダメ』ダッテイウンダヨ! 『No.2』ガ!!」
「ああ……そうだったな」
仗助は、人気のない廊下に、腰を下ろすと……『ポケット』から、『警察手帳』を取り出す。
「ヨ、ヨシ……『コレ』ヲトドケレバ…イイ、ンダヨナ!? ホントウニ……『アイツ』ニ、カテンダヨナァ――!!?」
警帽の中から這い出した、白い『像』は、仗助の手の中から『手帳』を奪い取ると。壁をすり抜けて、一目散へ、外界へと飛び出していった。
……頼むぜ、『No.5』。
仗助は……次の瞬間を待ち続ける。意識を失うことの無いように……『クレイジー・ダイヤモンド』を、研ぎ澄ましながら。
――――
「―――榎本さん」
「ひ……あああっ!! やめて……あたし、あたしじゃない!!!」
小野が、声をかけると。少女は……目の前で。自分の『スタンド』によって、全身を砕かれた女を前にした、少女は。我を忘れたように、取り乱し、首を横に振るう。
……小野は、想う。今からでも、決して遅くはない。……この『榎本』には。まだ、幸福になる権利があるはずなのだ―――。
「……榎本さん、僕はね。何度も言うが……君を『敵』にしたくないと、今でも思っているよ。
君は、その『ドラマティック』で、すばらしい能力を手にした……とてもラッキーな一般人。それでいいじゃないか。
……君は、僕が裁くべき相手じゃない。……ねえ? 今からだって遅くない……僕の『敵』になるのを、やめてくれないかい?」
……榎本の、絶望に染まった表情が……僅かに、揺れる。
「あ、たし……あたしは……」
「……後始末は、今日のうちに、ここで全て済ませるつもりだ。
君はなにもしてない。君が、そこの人を……なんてことを、知ってる人は、誰も居なくなる。
僕と君だけの『秘密』になるんだ。それは……素敵じゃあないかな?」
「あ……う…………」
「榎本センパイ……だめです、聴いちゃ……」
頭を抱え、蹲る榎本に、キョンが呟きかける。しかし、もはや。榎本に、そんな声は届いていない。
……もう、一押し。小野は囁きかける。
「そうだ、榎本さん。君の能力……あれを使って、彼を……『ジョン』の性別を変えてやってみてくれないかい?
『魔女』を裁く、なんてのも面白そうじゃないか……協力しておくれよ。
もちろん、僕は、君が協力してくれたことを、誰にも話さない……約束だ、僕らは、心の底から信頼しあえる『友人』になれる……ねえ、『榎本』さん?」
「あ……『能力』…………」
……『ドラマティック』の、、ネックの部分を握り締めていた両手が。
まるで、小野に誘われるように……演奏の体制に、変わってゆく。
堕ちた――――。小野は、心の中で、安堵する。
本当ならば。『処刑』などを目の当たりにしてしまう前に、『幸せ』を選んで欲しかったのだが……
「さ、聴かせてやりなよ、榎本さん」
「あ…………ああ、あ……」
……一歩、一歩。『キョン』へと近づきながら……榎本は、ギターを握り締める。
顔面全体に汗を滲ませ、荒く呼吸を吐きながら……
「恐れることは無い。君は彼を『傷つけ』なくていい。ただ……『性別』を変えてやるだけだ。
何の罪にもならない……裁くのは、僕だ。
簡単だろう? 大丈夫……君の今後は。全て、僕が責任を持つ」
「…………!!」
……更に。榎本が、一歩、一歩。ふらふらと、覚束ない足取りで、ロビーを歩み進めてゆく……
『小野』と『キョン』との、丁度間に位置する点にて、立ち止まると……『榎本』は、『ドラマティック』から、『ピック』を取り出した。
……小野は。演奏が始まるのを、待って、目を閉じた。
最後に。この『榎本』を、邪悪から引きずり出すことが、出来たのだ。
さあ、奏でてくれ。それは、『プレリュード』だ……君は、この『レクイエム』から開放されて。
『幸せ』の『前奏曲』へと、進むのだ――――
しかし。
『プレリュード』は、奏でられなかった。
その代わりに鳴り響いたのは……鈍く、とても近しい、『打撃音』。
……小野は、一瞬。何が起きたか、理解出来ない―――無様なことに。
「あああああ!!! 『ミスタ』ぁぁぁ!!! 撃って! 撃ってよおお!!!」
……目の前が、ゆがんで見える。視界の下半分が、桃色の何かに遮られて、よく見えない……
鼻の奥が熱く、歯茎が、釘を刺されたかのように痛む……
…………馬鹿な。
「うおおおおお!!!」
背後で、銃声が鳴り響く……馬鹿な! 『榎本』は……『堕ち』ていなかった―――!?
『馬鹿』なのか!? ……たとえ、不意打ちの一撃程度を食らわせられたところで!
今、この状況で! 小野に楯突くことの意味が―――わかっていないのか!?
激情の中で、時は止まる。
『榎本』は―――『ドラマティック』の『ヘッド』部分を、小野の顔面に叩き付けていた。
……致命傷に為り得る筈もない、無謀な攻撃。
一秒。
この女は―――その一撃で。状況が覆せるとでも、思っていたのか?
二秒。
『ドラマティック』を、見慣れない……自分の顔面というものから引き剥がし、どさくさにまぎれて、小野の後頭部に迫っていた、五発の弾丸を叩き落す。
三秒。
『ミスタ』。こいつには、恨みがある。……昨日の銃撃の痛みを思い出し、小野は一層猛る。
四秒。
時間があまりない。『ドラマティック』のボディを、『ミスタ』の腹に、力いっぱいにたたきつけながら。『ピック』を取り出す。
五秒。
この女には。もはや、何も期待しない……幸せになる権利があると感じた、小野のほうが間違っていたのだ。
六秒。
『榎本』は、両手に二枚づつ、『ピック』を持ち。自らの両目に突き刺す……深く。
小野の『救い』手を振り払った、この女には。もう、二度と―――『光』が、射さぬように。
七秒――――
「――――うわああああ!!!? 痛い、暗い、痛い、あああああっ!!?」
……耳に障る喚き声が、ロビーにこだまする。
小野は……榎本美夕紀を買いかぶりすぎていたようだ。
「センパイいいいい!!!」
……最後に残った。全ての元凶が、無様に叫ぶ。
しかし―――もう、そいつには、何の力も残っていない。
彼の『役目』は―――『ジャスト・ア・スペクタクル』を、『ヴードゥー・キングダム』へと、進化させた。
その時点で―――終わっているのだから。
「……さようなら。榎本さん。君は―――どこまでも。僕を『裏切っ』てくれた」
「―――あああアアアっ!!!」
『闇』と、『痛み』に、のた打ち回る榎本美夕紀。
そうだ。その姿を、『キョン』の前で、曝け出せ。見せ付けてやれ。
『邪悪』が生み出した、『不幸』な『運命』の有様を……
やがて。小野を『裏切っ』た、その女は。地面に倒れこみ、何も言葉を発さなくなった。
彼女の傷は、『致命傷』ではない……『恐怖』に、考えることを止めたのか。
……『ピストルズ』のミスタは、先の『榎本』の一撃で、既に、意識の闇の中へと旅立って行ったようだ。
……ロビーに残っているのは。二人。『裁くもの』と、『裁かれるもの』だけ……
呆気ない。と、小野は思う―――。
「……とうとう、君一人になったね、ジョン。……さて、どうしようか。
どんなことがされたい? 何か希望があったら言ってごらんよ」
……キョンは、ただ。憎悪に満ちた目付きで、小野を睨み上げるのみ。
ふん。小野は、心中で息をつく。『つまらない』。こいつは果たして、本当に『絶望』しているのだろうか?
目の前で、次々と仲間を再起不能にされて……こいつは、それについて、すこしでも、心にダメージを負っているんだろうか?
まさかこいつは、そういった、人間の基本的な感情が欠落しているんじゃないだろうな?」
……まあ、いい。ようやく―――この男を、『裁け』る。
「……君の裁き方は、実はもう、決めてあるんだ」
言いながら、小野は、古泉の倒れる場所へと歩み進める。
力なく倒れた古泉は……どうやら、まだ死んではいないらしい。
小野は、古泉のシャツのポケットから、『携帯電話』を取り出すと……まさに、その時。『着信音』が鳴り響いた。
表示された発信元を確認し……小野は、ほくそえむ。
「―――もしもし……こちら、『古泉』です」
「『イツキ』ですね? そちらは状態はどうですか? 僕らは、まもなく到着しますが……『小野』はどうなっていますか?」
……基本言語が違う点もあってだろうか。あるいは、小野の声真似が完璧である。の、一言に尽きるのか。
電話の向こうの男……『パープル・ヘイズ』の『フーゴ』は、電話の相手が古泉であると信じきっている。
「今、小野を追い詰めています。到着し次第、正門から突入してください、詳しくは、またその後で……」
「わかりました……もう一分足らずで、到着します」
……通話、終了。
あとは。フーゴが現れたと同時に、時を『止め』……『パープル・ヘイズ』を、『キョン』に食らわせる。
そのまま至近距離で、時が動き出すのを待てば、フーゴもろとも……『処刑』は、完了する―――。
――――
「……え……い、いま、何て……?」
……運転席に座った『フーゴ』の言葉を聞いて。『朝比奈みくる』は、フーゴの予想していた通りの反応を帰してきた。
……落ち着け。フーゴは、自分にそう、強く言い聞かせながら。もう一度。『勝利』のために必要な、『みくる』の役割を話す。
「あ、え……で、でも、そんな、痛そうなこと……わたし、無理です、できなっ……」
―――不思議だ。フーゴは、思う。
この女の……『みくる』の、どこまでも臆病で、煮え切らない性格を前にすれば。
すこし以前までのフーゴなら……今頃、我を忘れて、怒号を巻き散らかして居ただろう。
なのに。何故か―――不思議なほどに。今、フーゴは、冷静だった。
「……いいですか、みくる。それは『絶対に必要なこと』なんです……
僕自身のの『パープル・ヘイズ』には出来ない……
今、この場に居る、あなたにしか出来ない」
「…………」
みくるは、ただ、黙りこくる。
……この期に及んで、躊躇っているのか? いや、違う。
『みくる』は、今……『覚悟』を『築き上げ』ているのだ。
「……わかり、ました」
数秒の間を置いて―――みくるが、意を決したように、口を開いた。
「そして、その後……この、『写真』の人のところに行く……そう、ですね?」
「ああ、そうだ! ……時間がない、もう着きます! いいか……よく聴け! こちらからの『合図』が!
そして、君の『メリミー』が、一瞬でもタイミングを外せば……『終わり』だ!
やれますね……『みくる』!」
「―――はい!!」
答えたみくるの目に―――『迷い』は、無い!
車は、開け放たれたままの門をくぐり、病院の敷地内へと滑り込む!
周囲に『破壊』された『SPW財団』のワゴンが、二台と、救急車が一台、止まっている……ワゴンの乗員たちは、おそらく、やられてしまったのか。
そして……正面玄関。ガラス製の両開きのドアは、無残に破壊されている―――その、向こうに―――『いる』!
フーゴは、その場でブレーキを踏み……
「みくる! さあ、僕を『やれ』! そして、『行く』んだっ!!」
「『メリミィィ――――ッ』!!」
みくるは―――初めて。自らの意思で、『メリミー』を操る―――
そこに、『躊躇』は――――無い。
「っうぐ……!! よし……行けぇ!!」
「はいっ!!」
みくるを振り返ることなく。車外へと飛び出し、フーゴは、走った。
『鎮魂曲』の鳴り響く、その場所へ向かって。
"―――チ・ヴェディアーモ(また会おう)。"
――――
――――
「ジョン、聞こえるかい。……君の『裁き』の時がやってくる音が」
小野は―――古泉の携帯電話をもてあそびながら、言う。
『音』。それは、キョンの耳にも聞こえている……そう遠くない場所から、こちらへと向かってくる、エンジンの音。
フーゴと、みくる……あの二人が。この地獄へやってくるのだ。
「……長かったよ、ジョン。そして、僕にとって、あまりにも過酷だった。
君という『悪』の存在は……。僕は、君を裁くために『スペクタクル』を、失ってしまった……
きっと。僕の、運命を『読む』ものとしての使命は。君を裁くことで、終わりを迎えるんだ。
そう思うと……すこし、さびしい。これから僕は、どうやって、人を幸せにしてやればいいのだろうかと、ね……」
まもなくして。急ブレーキをかける音が、破られた入り口の向こうから、キョンの鼓膜に飛び込んでくる。
『来た』―――運命の瞬間が。もうすぐ、やってくる。
「……安心しろよ」
「……何だ?」
キョンの呟きに―――外の様子を伺っていた小野が、こちらを見る。
その、内側に邪悪の詰め込まれた、聖人ヅラに向け……キョンは、言う。
「『安心しろ』と言ったんだ……お前の『スペクタクル』は……もうすぐ、還って来るぜ」
その言葉と同時に―――小野の表情が、変わる。
「『パープル・ヘイズゥゥゥ』!!」
小野が何かを言おうとした、その瞬間。その『声』が、ロビーに響き渡った。
――――
今。こいつは―――何と言った?
『スペクタクル』は、『還って来る』……小野の聴力に問題が無ければ、そう聞こえた―――
ただのハッタリか、気でも違ったのか―――
「『パープル・ヘイズゥゥゥ』!!」
! ―――入り口を目掛けて駆けてくる、『フーゴ』が叫ぶ―――
……何も問題はない。このまま、フーゴが入り口近くまでやってきたと同時に、『ヴードゥー・キングダム』を発動させる。
何人たりとも、それを阻むことは―――出来ない!!
ジャリ。
こちらへ駆けてくるフーゴが、ガラスの破片を踏む音がした―――距離は、十分だ!
「『ヴゥゥゥードゥゥゥゥ――――ッ・キングダム』ッ!!」
「『ゴッド・ロォォォォ――――ック』ッ!!」
時は、止まる―――あまりにも、容易く。
そして、『裁き』の七秒間が、今、始まる。
小野……『フーゴ』は。止まった時の中で、漆黒の『ゴッド・ロック』を背に座り込む、その男を見る―――
鎮魂曲は―――間も無く、終わる。
to be contiuend↓
なんとなくさっさとキリ付けちゃったほうがよさそうなんで
続き+エピローグまで投下しちゃいます
―――不思議だ。
『小野』……『フーゴ』にとって。その『止まっ』た時は、あまりにも長く感じられた。
一秒。
『フーゴ』は、『パープル・ヘイズ』と共に。粉砕されたガラス戸をくぐり、院内へと侵入する。
二秒。
『裁き』の対象は……すぐそこに『居る』。
漆黒の『スタンド』と共に、壁に背を預けた少年。
全ては、この瞬間のために―――小野は、戦って来たのだ。
三秒。
『パープル・ヘイズ』のこぶしが。『ウィルス』が、この男に触れた瞬間。
小野は。小野大輔は、『勝者』となる。
ああ―――忘れてはいけない。もう一人―――『救わ』なければならないものが居た。
四秒。
『パープル・ヘイズ』は、『ジョン・スミス』の傍らに立ち、こぶしを振り上げる―――
……『涼宮ハルヒ』。
『スーパー・ノヴァ』によって生まれた、最大の『不幸』を。
彼女が『知る』前に。彼女を、救ってやらなければならない。
それが、小野の最後の使命だ。
五秒。
こぶしを、振り下ろす。
さようなら、『ジョン・スミス』―――
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第27話『鎮魂曲は終わらないB』
何だ、これは?
『パープル・ヘイズ』のこぶしは、確かに。ジョンの体を殴ったはずだ。
しかし……何故。『何も起きない』―――?
六秒。
何故だ。何故、何も起きないのだ―――『パープル・ヘイズ』のウィルスは。確かに、両手の甲に――――
「……何ィィ――――ィィッ!!?」
そこには―――ウィルスのカプセルなど、有りはしない。
それどころか。『こぶし』が……『手』が、無い!
『フーゴ』の手も、そうだ―――手首から先が、『切り落とされて』いる!!
何故―――これでは、まるで。
始めから、小野が。フーゴを支配し、ジョンを裁こうとしていたことが、分かっていたかのようではないか―――!?
時が―――動き出す!
その、瞬間!
「『イマ』ダァァァァァ!! 『No.2』、『No.5』ゥゥゥ!! 『ミクル』ニ伝エロォォォォォ!!」
―――この、声は―――小野は、ガラス戸の向こうを振り返る。
そこに、浮かんでいる―――白い亡霊の如き、小さな『像』―――!!
それは……『セックス・ピストルズ』―――!!?
「ディ・モールト・ベネ……『No.1』!」
『フーゴ』が呟く―――それと、同時に。
小野の目の前―――『ジョン』の傍らに! 一瞬の内に―――その『二人』が現れた。
『メリミー』……瞬間移動のスタンドを操る、『朝比奈みくる』―――そして、『東方仗助』!!
何が……起きているのだ?
小野は―――狼狽している。無様にも。
落ち着け―――『何』が起きていようと! 『ヴードゥー・キングダム』の前には、何ものも―――
時を、止めれば―――誰かを! この場に居る誰かを、支配すれば!
「時が―――『止まらない』……、だとっ!?」
「読みどおりだぜ……『時止め』ならよォ。『ブランク』があるよなァ……」
そう言ったのは―――『仗助』!
そして、その背後に……『クレイジー・ダイヤモンド』が、立っている―――そして、その、拳を!
『ジョン』に―――『ゴッド・ロック』に向けて、振りかぶっている!
「たとえ、それが数秒だろうと……『クレイジー・ダイヤモンド』が、『治す』のには―――十分すぎる時間だぜ!!!」
止まれ! 早く―――まだなのか!? ブランクは、どれだけあるんだ……
『時』が動き始めてから、何秒経った!? もう十秒は経った―――いや、まだ二秒も経っていないのか!?
「―――『ドラ』ァーッ!!」
小野の、目の前で。
『クレイジー・ダイヤモンド』の拳が―――『ゴッド・ロック』に触れる。
その―――数十分前。『世界』によって破壊された、血まみれの『左手』に!!
「……テメーの『レクイエム』は、『未完成』だと……気づいたのはよ……
テメーが、おれの『ピストルズ』が散開していることに、まったく気付いていねーらしい事というに、気付いたときだ」
「!」
不意に。背後から聞こえた声に、小野は振り返る―――
……『ミスタ』だ。気を失っていたはずのミスタが、体を起し……こちらを、見ている。
時よ……何故、止まらない? もう、十分に時間は経ったはずなのに―――!!
「そして……『オノ』。テメーは、やはり気付いていなかったようだな……『矢』に隠された『力』……『レクイエム』には」
「なっ……何だ、と……?」
腹部を押さえながら……ミスタが、ゆっくりと立ち上がる。……その体の周囲を浮遊する、一体の『ピストルズ』……『No.7』。
時は―――止まらない! 何故……何故!? 『ヴードゥー・キングダム』! 何故……発動しない!?
「『レクイエム』……『矢』と『スタンド』が『同化』したとき、そいつは『発生』する。
……まだ、おれにもいまいち、詳しいことは理解できてねーが……
『レクイエム』となった『スタンド』は、全ての『魂』を支配する『力』を持つ、『先』へと到達した存在になる。
だが……テメーの『ヴードゥー・キングダム』は、『其処』に到達してはいなかった。それが、テメー所為なのか……
それとも、キョンの『矢スタンド』の所為かしらねーが。テメーの『レクイエム』には、『自意識』がねえ……
テメーに『レクイエム』を完成させることはできなかったようだな……おれの『ピストルズ』がふらついているのにも、気付かないくらいだしよ」
「な……何だ、それは……何を、言って……『ヴードゥー・キングダム』!! 時を……時を『止め』ろォォォォ!!」
「そいつはもう、『無理』ってもんだぜ……何故ならよぉ。
こいつの『左手』は……おれの『クレイジー・ダイヤモンド』の能力で、もう『治り』はじめちまったからな」
次に口を開いたのは、『仗助』……『こいつ』と指差す先には、『ゴッド・ロック』の姿……
『ゴッド・ロック』の左手が、『治る』……それが、何と関係しているというのだ――ー
「『レクイエム』は『進化』じゃあねえ。そいつは、必ず『解除』される……
取り込んだ『矢』と、分離した時に……だったっけか? なぁ……『ピストルズ』よ?」
そう言った仗助の傍らに……浮遊する、白い影―――!
「『セックス・ピストルズ―――No.5』!!
感謝するぜ……オメーがNo.7を通じて、おれにミスタの『作戦』を教えてくれなけりゃ。
おれはとても、この瞬間まで『プッツン』せずにはいられなかっただろうからよ……」
―――そして、もう一体―――『ピストルズ』が『ジョン』の肩口からも、顔を出す!
まさか―――! 小野は、『理解』する―――『セックス・ピストルズ』を介して!
こいつらは―――小野が、『裁き』を進めている間に、『計画』を練っていたのだ!
『ヴードゥー・キングダム』を―――『解除』する『計画』を!!
「……取り込んだ、『矢』―――まさか……!! その『矢』とは――――っ!!」
その、瞬間―――全身が、吸い寄せられるような感覚が、小野を……『ヴードゥー・キングダム』を、襲う。
『キングダム』が……吸い寄せられてゆく!! ―――"『ゴッド・ロック』の『左手』"に!!
「『クレイジー・ダイヤモンド』は、こいつの『左手』を、『治す』!! 『ツルツル』で『ピカピカ』の状態までな……
そして、欠けちまったパーツは『引き寄せ』る……『流れ出した血液』も、その例外じゃあねえぜ!」
そんな――――馬鹿な!!
「う……うああああああっ!!! ……『ヴードゥー・キングダム』が……っ!!
『力』が……『吸い取られ』てゆく――――ッ!!!」
見る見るうちに。『キングダム』の、赤い肉体が、綻び、『ゴッド・ロック』へと吸い寄せられ、失われてゆく。
『キングダム』。―――いや、違う!
"『スペクタクル・レクイエム』だったもの"が―――『消滅』してゆくッ!
「この為に……貴様らは、この為に―――!!
『クレイジー・ダイヤモンド』で、『ヴードゥー・キングダム』の『ブランク』を突くために―――!!
『フーゴ』と『朝比奈』の到着を、待っていたというのかあああああっ!!」
「『Appunto(そのとおりだぜ)』……はじめは、マジでだめだと思ったぜ……
うっかりとはいえ、『スズミヤ』の元に『ピストルズ』を『2人』置いてきちまったことに気づいたとき……
だが……『それ』が良かった! あいつらをフーゴたちの近くに残してきたおかげで、おれはフーゴたちに『作戦』を伝えることができた……
この『作戦』は……頭の悪ィ――おれが考え出した『作戦』は。
『ジョースケ』の『治す』力! 『ミクル』の『ワープ』の力!
テメーにキョンへの『とどめ』を空振らせ、『隙』を作るための『フーゴ』がいてくれなければ!
そして、そいつらにおれが―――『ピストルズ』たちで『作戦』を伝えられなければ、出来なかった!
『4人』の力がなければ、決して出来なかった―――おれはどうやら、『4』の不運を乗り越えたようだぜ―――!!」
――――――小野は! 『踊らされ』ていたというのか―――こいつらの『シナリオ』の上で!!
"―――オ前ハ―――『先』ヘユク『器』デハナカッタ―――"
「っ――――!!?」
不意に。小野の頭の中に伝わってくる―――声。
この声は―――『誰』の声だ!?
"―――オ前ハ、真ノ『支配』ヘトハ、辿リツケナカッタ―――『矢』ノ『意思』ハ。二度ト、オ前を『支配』ノ道ヘト導ク事ハナイ―――"
これは―――小野の『魂』へと語りかけてくる、この声は―――!!
「う……うわぁああああああっ!!!!」
――――
「『吸い取ら』れるなんて、人聞きの悪いことを言ってんじゃねえ……
おれは、テメーに間違って『貸し』ちまったものを、『返して』もらっただけだ……」
……床に膝を着いた小野に。左手の『治療』を終えたキョンが、言葉を投げかける。
小野の『キングダム』は―――『支配』の力は。
完全に。―――"消滅"した。
「……もう、終わりですよ。観念してください……これ以上は、『無駄』です。無駄なものは嫌いなんですよ……」
追い討ちをかけるように。手首を失ったフーゴが、苦痛に顔面を歪めながら、小野に語りかける……
「……『何故』だ……全ての『魂』の、『読み手』であった、僕が……
『何故』……『魂』の『支配』へと、辿り付けなかったんだ……!」
『レクイエム』……『魂』の『支配』。
小野は、猛る。
何故……『スペクタクル』には、『レクイエム』の存在などは、記されていなかった―――
『スペクタクル』は―――『全て』を『読む』事は、出来なかったというのか―――
―――『スペクタクル』―――。
「――――『スペクタクル』……!!」
そうだ―――『キングダム』は、『スペクタクル』が『進化』したスタンドでは、無かった!
――――『レクイエム』が、解除された―――ならば!! 『スペクタクル』は―――小野の元へ、『還って来る』――!!
どさり。
「なっ……!?」
まさに。小野が、『それ』に……最後の『希望』の可能性にたどり着いた、瞬間だった。
『スペクタクル』は……『ヴードゥー・キングダム』の立っていた、その場所に。
『小野の背後』に―――『還って来た』!!
「―――うおおおおっ!!!」
『それ』に気付き、声を上げる『キョン』……しかし。キョンの体は、まだ『治り』きったわけではない。
小野は、背後を振り返る―――手を伸ばせば、届く場所に! 『スペクタクル』は、在る!!
「そいつに、『それ』を拾わせるなあぁぁぁぁっ!!」
「何ィぃッ!?」
『仗助』だ。仗助が、キョンの声に反応し、小野の行動に気付いた!
しかし、いくら『クレイジー・ダイヤモンド』のスピードが速いとしても! 小野が、目の前の『本』を拾い、『ページ』を破りとるだけの時間は―――ある!
そして、新たな『スタンド』を、『蘇らせ』る―――まだ! 小野に『希望』は残っている―――!!
『運命』は!! まだ、小野を『見捨て』ては、いない!!
「テメェェェェ!! 何してやがんだァァァ―――!!」
背後から襲い掛かる、仗助の声! 小野の心臓が、跳ね上がる!
手を伸ばし、『スペクタクル』―――その『本』の表紙に、小野の手が―――『触れた』――――!!
――――
――――
……『本』は……どこだ?
「…………ここは……ッ?」
――――小野は。周囲を見回し、呟く。
……病院のロビー。小野は……そう。この場所で……『スペクタクル』を拾おうと……
……そう。表紙に触れたのだ!! 小野は……『スペクタクル』に、たどり着いた!
しかし……何故。『本』が無い……『スペクタクル』は、どこに行った!?
「……ちょっと、待て……なんだ、此処は?」
四つんばいになった体制から、体を起し。初めて、小野はその事実に気付く。
小野の居る空間……先ほどまで、『ジョン』たちと戦っていたロビー。
しかし―――そう。今、小野の居るロビーには。何の『破壊』の痕跡も無いのだ。
『ヴードゥー・キングダム』を慣らした際に、薙ぎ払った待合椅子や、観葉植物……粉砕された玄関のガラス戸までもが。
それらの全てが、まったくの元通りに『治って』いるのだ。
「……何だ、これは……『クレイジー・ダイヤモンド』が治したのか?
! ……そうだ、ヤツらは……何処だ……?」
……ロビーには。小野以外に、人影は見当たらない。
……おかしい。少しづつ。小野は、自分が置かれている状況が、『ありえない』状況であることに気付き始める。
「……な、何があったんだ……僕は、本に届いて……そうだ! 『本』、『本』は何処に行った……」
―――その、『声』は。小野の背後から、静かに……空間にしみこむように、聞こえてきた。
「本、本、五月蝿い奴だな……少しは落ち着けよ、見っとも無い」
「っ!?」
無人と思われた、その空間に、その男は、居た。
男は……待合席の隅に腰をかけている。……この位置からでは、陰になっていて、顔を見ることが出来ない。
「だ、誰だ……いつから其処に?」
「三十分ぐらい前から、ずっといたよ。……病室に居たら、いきなり『下』が五月蝿くなったもんでね。
こりゃ、もしかしたら、お前が最期に、『ここ』に来るんじゃないかと思って、待ってたんだよ……僕の予想どおりだったな」
こちらを振り返りながら……男は言う。
……その声に。小野は、聞き覚えがある―――そうだ。こいつは……!
「お前は……『岸辺露伴』ッ……!?」
……『露伴』は。動揺する小野を、つまらなそうに一瞥し……ため息をついた。
「何故、お前が……いや……待て。『ここ』は……何処だ!?
僕のいた『ロビー』じゃない……! 」
「……『夢』の中だよ。自分で作らせておいて、忘れちまうとは、随分無責任だな」
「夢……?」
夢の中―――その、短いフレーズが。小野の記憶から、『それ』を引き起こした。
……小野が『矢』で刺した……『七年間目覚めずにいる少女』の存在を―――!
すいませんがづがあまりに眠いのでまた後日続き投下します
言葉がおかしくなってるぞw
というか第四部のクライマックスシーンを思い出す
黄金の意思で逆転、いつの間にやら異空間、そして裁く者…
「『ラ・ドゥ・ダ・ディ』……まさか、ここは! あの少女の『夢』の中……!?
馬鹿な! どうして……僕が夢の中なんかに居るんだ!?
僕は……そうだ、『本』だ! 『本』に手が届いて……それで、何故、いきなり……『夢の中』に居るっていうんだ!?」
「……イカレた奴ってのは、どいつもこいつも、『死に際』を都合よく忘れちまうもんなのか?
似たような『最期のシーン』を、二度……なんて、とても僕のネタにはできないな」
不意に。露伴が口を開く。……小野は、その言葉の意味を、理解することが出来ない。
「何だって? ……死に際と、今……言ったか? ……い、いや、それより……『本』は……」
「ちっ……さっきから、本、本と五月蝿い奴だな!
さっきから後生、大事そうに握り締めてる、その右手のものは何だ!?」
「え……」
……その言葉で。小野は、初めて気付く。
自分の右手の中に、握り締められている……折りたたまれた、『紙』の存在に。
これは―――!
「ぺ……『ページ』だと……っ!?
『スペクタクル』の『ページ』……僕は……もう、『本』を『拾い終わって』いる……ッ!?」
そうだ。小野の記憶に―――閉ざされていた、その『先』が、思い起こされてゆく……!!
「僕は……『運命』は、もう一度僕に『本』……を掴ませてくれた!!
しかし、時間が無かった……選んでいる時間はなかった……『仗助』が、来ていた!」
「ハァ? 仗助? なんであのクソッタレの名前が出てくるんだ?」
そう。小野は―――『賭け』たのだ。『運命』に任せて……最初に掴んだ『ページ』を、破りとった―――そして、どうなったんだ!?
「……『そいつ』を見てみれば、分かるんじゃないか? 『運命』とやらが……お前を、どう導いたのかが」
露伴が指で示しているのは……小野の右手の中の、『ページ』……
「『運命』が……僕に、つかませたのは……何……だ……った……!?」
……手が。震えている。全身から、脂汗が染み出す……
右手の中で、握りつぶされた『ページ』を。ゆっくりと……開く。
……目の前が滲んで、よく見えない……汗が、目に入っているのか!?
「あ……ぐ…………見えな……」
ページに顔を近づける……何故! どうして『読めない』!?
何故……『目の前』に、『何もない』んだ―――!?
「――――……う……ああああああああっ―――――!!!
……『思い出した』!! これは……『運命』が、僕につかませた『スタンド』はあああァァ!!」
破れ! 今すぐ―――この『スタンド』は!! すぐに『破り捨て』なければ―――!!
しかし―――何故! 『破れない』……『手』の中に、『ページ』が無い!!
ちがう――――『手』が、無いイィィィ!!?
「これはァァァッ!! 『パンナコッタ・フーゴ』の手……『右腕』はっ!? ……あああああっ!!
『食われている』……!! 『脇腹』もだッ!! これは、『古泉』の傷……!!」
熱い液体が、体から流れ出しているのが、感覚のみでわかる。
何故、前が見えない……『立てない』!! いつのまにか、小野は『倒れて』いる―――!!
「ぐああああっ!! これは、目……『榎本』だ! 榎本の目が……傷が……ぼ…くに……『移って』いる……!!
立てない……足……は……『森』の足……がっ…………『腹』……なん、だ……この、はらにっ……『穴』…………だとっ!?
あぐ……が……これ……は……『橘』の……『スタンド』…………!!?」
「……ひっでぇな、こりゃあ。せっかくの機会だから、最期に、お前を『取材』させてもらおうと思って待っていたが……
さすがに、こんな状態の人間を『読む』気にはならないな……まったく、とんだ無駄骨だ」
―――露伴は、数多の傷を、その身体に『移し』―――轢殺死体の如き姿となった『小野』を見下ろし、ため息をつく。
「『本』が……何故、僕に……このような、運……命を……!?
何故……僕……は……『本』はっ……」
「チッ…………『本、本』と、うるさいと言ってんだろォーが!!
そんなに『本』が好きなら―――お前が『本』になれ!!」
露伴の言葉と共に―――その体から、白い『像』が浮かび上がる。
もっとも、その姿は。もはや、『小野』には見えないのだろうが―――
"「『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』!!」"
『像』が、小野の体に触れる―――その瞬間から。
『小野』は、『本』となる。人の姿を失った肉体から――−血の流れない、情報と、意識だけの存在へと。
「……僕は…………僕が……『悪』……だったの……か……?」
……『本』となった小野の口が。―――少しづつ、『透明』へと変わりつつある、その男が―――最期に、呟く。
「そんなもん、僕は知らないな。…………お前が『どっち』に行くかで分かるんじゃないか?」
露伴は、小野を見ない。消えてゆく……『現実』でなくなってゆくものに、露伴は、興味を抱かない。
「お前の末路なんかに、興味はない―――勝手に『逝く』んだな……『小野大輔』」
露伴は、再び、待合席の隅に腰をかけ―――目を閉じる。
そして、いずれ訪れるであろう、『目覚め』の時を。一人、待つことにした。
――――
「ん……」
……長い。長い、夢を見ていた気がする。
目を開けたハルヒの視界に入ってきたのは―――天井。
……何故、自分は――いつから、何処で眠っていたのだろうか。
「ここは……?」
「私の部屋」
……誰にとも無く呟いた、ハルヒの声に。反応を返す、冷たく、仄かな声が在る。
身体を横たえたまま、ハルヒは、首だけを動かし、その声の聞こえた方向を見る……
「……有希? あれ―――なんで、あたし……たしか、『不思議探索』をしてたはずなのに……」
ハルヒの傍らに―――長門有希が居た。
……そうだ、たしか、ハルヒは―――『不思議探索』で、みくると共に、西宮のデパートに出向き……
…………その先が。どうしても、思い出せない……たった一つだけ、覚えているのは。
洋服を見ていたハルヒの視界が、突然、暗闇に包まれたことだけ……
それが、何故。いつの間に―――どういったいきさつで、長門の部屋に居るのだろうか―――妙に頭が痛む。この不思議な意識の揺らぎは、何だろう?
「……明日は、日曜日」
長門が、呟く。ハルヒは、何かを口走ろうとする……しかし。重たい瞼に邪魔をされ……それを口にすることが出来ない。
「今日の分は……明日、もう一度。不思議探索をすれば良い……だから、今日は、眠るべき」
そう言った、長門の表情が―――
……少しだけ。微笑を浮かべているように見えたのは、ハルヒの気のせいだろうか。
「そうね……あした……いつもの場所に、だからね……遅れちゃだめよ……有希、みんなも……
そうだ……キョンのやつ、明日こそは……ちゃんと、来るかな……ねえ、有希?」
「来る」
長門は、そう呟くと同時に。視線を、ハルヒから、カーテンの無いベランダの方へと向けた。
ハルヒもそれにつられ、眠たい瞳を動かし、窓の向こうを見る。
夕暮れだ。今は―――何時ごろなのだろうか?
「私たちは、あなたの傍にいる。これからも、ずっと」
「そう……よね……」
窓の外に広がる、茜色に染まる、光陽園の空を見つめながら。
やがて、ハルヒの意識は―――再び、暖かい眠りの渦の中へと、溶け込んでいった。
本体名 − 小野大輔
スタンド名 − ジャスト・ア・スペクタクル(ヴードゥー・キングダム) 死亡
to be......
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ヴードゥー・キングダム(スペクタクル・レクイエム)」
本体 − 小野大輔(29歳)
破壊力 − C スピード − A 射程距離 − C
持続力 − C 精密動作性 − D 成長性 − -
能力 − ジャスト・ア・スペクタクルが、ゴッド・ロックの血液を取り込んだ事で変化したスタンド。
他者のスタンドを支配する能力を持ち、未完成ではあるものの、レクイエムに分類される。
発生初期は、真紅に染まったスペクタクルの姿をしていたが
発生から数分で、世界(ザ・ワールド)とゴッド・ロックを掛け合わせたような像を得た。
世界(ザ・ワールド)同様に、時を止める能力。
また、止まった時の中で、本体の至近距離に在るスタンドと、その媒体となる人間を支配し、自由に操る。
止めた時の中では、本体とそのスタンド自身が行動することは出来ず、必ず、他のスタンド使いの精神に乗り移らなければいけない。
他のレクイエムと異なる点として、このスタンド自身に自意識は無く
あくまで本体の意思の元でなければ、他者のスタンドを支配することはできない。
時止めの持続時間は、人型の像を得た時点で、6秒〜7秒。このスタンド自体の自体の身体能力は決して高くない。
―――――――――――――――――――――――――
これまでの人生で、最も『奇妙』だった六月が終わり……西宮市に、七月が、やってきていた。
あれからのことを。少しだけ―――話そうと思う。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第28話『エピローグ − やがて着替えた季節が、僕たちを包んだら』
この街を―――俺たちを襲った、長かったようで、短かった戦いは、『小野大輔』の死―――自滅によって、終止符を打たれた。
小野の正体は……結局、最後まで、判明することは無かった。
『事務所』にて麻薬を売っていた、その男が。どのような経歴を経て、その道へとたどり着いたのか。
奴のスタンド―――『ジャスト・ア・スペクタクル』が、一体、どのようにして、いつ『発現』したのか。
日本中のあらゆる記録の上に、『小野大輔』は存在しなかった―――まるで。本当に、始めから、『小野大輔』などは存在していなかったかのように。
「『ヘブンズ・ドアー』は、『死人』を読むことは出来ない……そいつはもう、『抜け殻』なんだからな」
俺たちの元に残されたのは、『記憶』だけ。
ただ、『小野大輔』がかつて『存在』したという、俺たちの『記憶』だけ―――
そして、もう一つ―――奴が残したのは、『傷』。
小野の死後、警察の捜査によって、橘の変死体が発見された。
体の数箇所に、銃創と似た傷。首には、鈍い刃物で切られたような傷。
そして、肋骨の上から、胸部を貫通する、『奇妙』な傷を負っていたという。
凶器は『不明』。事件は、謎の怪事件として、一時世間を賑わせたが……それから今日に至るまで、解決の報はない。
おそらく、それは今後も、永久に―――『奇妙』な事件のまま、迷宮入りとなることだろう。
もう一つ。先の事件で、橘の家が捜査された際、寝室から、一人の少女が発見された。
それが、行方不明中の『妹』であると判明するのに、時間はかからなかった。
数日後、両親に連れられて、俺の前に帰ってきた妹は。
あの、『成長』した姿でなく……俺のよく知っている。うっとうしいぐらいに眩しい『妹』だった。
「妹さんの『スタンド』は、一時的な『暴走』状態にあった……と、考えるのが妥当と思われます」
古泉は、言った。
「『成長』や『変化』を阻止する『スタンド』に、『変化』が起きてしまった……
その矛盾によって、能力を制御することが出来なくなったのでしょう。
彼女の『成長』を操作する能力は、決して失われたわけではなかった」
じゃあ、何か。今後も妹は、『スタンド』で、自らの『成長』を拒み続けるってのか。
「それは……どうでしょうね? ただ、一つだけ言える事は。
『成長しない』スタンドが、『成長』を経験した……それは、とても大きなことです。
『スタンド』とは、『精神』そのもの……彼女の精神は、あの日、拒み続けていた『成長』に、たとえほんの一日の間だけでも『触れた』のです。
種は撒かれたのです。少しづつかもしれませんが、彼女の精神の中で、それは芽吹いてゆくでしょう。
少しづつ、少しづつ。彼女は『成長』というものを知り……いつかは。『成長』を受け入れられるようになるのではないでしょうか」
……聊か、発想がポジティヴ過ぎる気もするが。
「『成長』しない人間なんて、この世に存在しません。……『生きる』ことは、『知っ』てゆくことです。
『知っ』て、『変わっ』てゆく……それが『人』です。
彼女の時は、確かに『動き』出した……あなたは。それを、見守っていてあげてください。
形はどうあれ、彼女が『止まっ』た時から解放されたのは、あなたのおかげなのですから」
『解放』、か。
―――そう思っておく事にする。
だって、そうでなきゃ―――…… 俺は、なあ?
――――
次に―――『矢』。
かつて、何らかの形で『事務所』が手に入れ―――『小野』の手に渡った、あの『矢』は。
結局、発見されることは無かった。最後の目撃証言は、あの、小野と俺たちが初めて遭遇した、金曜日の深夜。
小野が『矢』を使い、『中西』さんを初めとする、三人の人物から『スタンド』を引き出した。
それを最後に、行方不明。翌日に倒された小野の体からは発見されず、橘の部屋からも発見されず……
『ミスタ』達の任務であったという、『矢』の回収は、成就されぬまま。
「ま、短い間だったけどよ。わりと、なんだ……悪くなかったぜ、この三週間。
結局、矢は見つからなかったが……まあ、『事務所』を潰すって任務は完了したんだしな」
えらく高そうな大吟醸の瓶を、数本詰め込んだ、アタッシュケースを担いで。二人の『スタンド使い』は、イタリアへと帰って行った。
問題の、『矢』については、今後、SPW財団が捜索を続けてゆくという。
『矢』は、それがこの世に存在し続ける限り。
かならず、どこかで。『スタンド使い』を生み出し続ける。
そして、『スタンド使い』は、必ず『惹かれ』合い……どこかで、『奇妙』な事件を巻き起こす。
……ああ、『矢』様。できれば、もう、俺の近くに来ないで貰いたい。
『奇妙』な事件なんざ、俺たちには、十分すぎるくらい間に合ってるのだから。
しかし、まあ。
その原因が、他ならぬ俺なのだという事を知ってしまった今……
何と言うか。一言では表せない、複雑な気分だ。
とりあえず―――一番近いのは、そうだな。
『憂鬱』とでも、表現しておこう。
――――
ああ、それと。あの仏頂面の人気漫画家は。
「面白いモンに出会えた! ……と、思ったんだがな。最初は。
結局、僕のネタになりそうなもんとは出会えなかったよ、この街じゃあ。
ただ、わけがわからん、なにやら厄介な気分にさせられただけだったぜ」
事件が解決してまもなく。一応の戦友であった俺たちの見送りに、不機嫌そうに振舞いながら。『岸辺露伴』は、西宮市を去って行った。
「まあ……何も得られないよりは、マシだったさ。
悔しいが、僕はこの街を―――お前らのことを、一生忘れられそうに無いな」
最後の言葉は、奴なりの愛想だったのだろうか?
そして、もう一人。
共に戦った時間こそ最も少ないものの、この人の助けが無ければ、今の俺は無い。
「しかしまあ、飛ばされた先で、こうも都合よく『スタンド使い』と会うっつーのは、やっぱ運命ってヤツなんだろーな」
警察官、東方仗助。
四年前。ある町で発生した、『奇妙』な事件を、解決へと導いたという、その人だ。
「ま、でもよ。安心したぜ……この町に、お前らみてーなヤツがいてくれてよ。
しばらくこの町でお巡りさんやってるからよ。困ったことがあったら、この仗助サンに言ってくださいッス」
そう語る表情。その目を見ていると―――なんとなく。この人は、タダモノではないという事が、俺にもわかる気がした。
――――
兎にも角にも―――数々の闖入者に見舞われた、この街は。
少しの失われたものを含みながらも―――やがて。
いつもどおりの、見た目だけは平穏な田舎町の姿を、取り戻していった。
そして―――七月。
迫り来るテストへの恐怖に、校内中がざわめく頃。
一人―――その『先』に心を躍らせているヤツがいた。
「島、雪山と、去年はハデにやったじゃない?
今年のSOS団の合宿は、なんかこう……もっと、何気ないところから、とんでもないものを見つけるようなヤツにしましょう」
爛々と輝く瞳。
我らSOS団が、死力を尽くして守りきったものが、俺の目の前にある。
「もう少し具体的に言ってくれ、つまるところ、何処に行こうというんだ、お前は?」
「そうねえ。なんか、こう……平凡だけど、イイ感じのところ。
あからさまな観光地やリゾートじゃなくって、なんかこう……生きてる場所よ!
人が生きてるーっ! っていう、場所! それでいて、何かこう、『奇妙』! そんな『町』ね」
いい加減、この町に不思議を見出そうとすることに飽きたのだろうか。
そう豪語するハルヒの手に、なにやらパンフレットが握られている。
「なんかこう、穴場! ってところが無いか、団長自ら調べてきたのよ。
そしたらね、なんか、ビビッと来る町があったのよ!
なんていうのかしら……そう、オーラを感じるの! この町には、何かある! みたいなやつが!
ちょっと遠いけど、新幹線でも使えば問題ないわ。そう言うわけで、今年の夏はガンガン行くわよ!」
オーラねえ。一時期流行った怪しげな文句の如き台詞を吐きながら、ハルヒはぐいと背伸びをする。
「遅いわねえ、みんな。みくるちゃんも、古泉くんも、美夕紀さんも。
今日は合宿先を発表するから、絶対集合って言ってあったのに。
あ、そうそう。今回もとーぜん、鶴屋さんも一緒だからね!」
去年の雪山に引き続き、か。となると、やっぱり、うちの妹の同伴も規定事項か。
……ふと。窓際の椅子に座る長門が、普段とは異なる、うすっぺらい冊子に目を通している事に気づく。
「ああ、有希には先に渡しといたの。あんたも、目を通しといて。
今年の合宿先は、ここ。ま、あんたには、この町並みや風景から感じる、このオーラは理解出来ないでしょうけどね」
お前のブッ飛んだ感受性を基準に物を言うな。
そのうち、霊視に目覚めたとか言い出すんじゃないかと、懸念しつつ。
俺は、手渡されたパンフレットに目を落とす。
上空から撮影された、港町の写真。
その上に、でかでかと。町の名前が印刷されている。
……もし、ハルヒさん。
「何よ?」
ここは、何だ。やめにしないか?
なんか、こう。なんとなくなんだが、な?
「はぁ? ワケわかんないわ、意見があるなら、ちゃんと理由を言いなさいよ。
まあ、どっちにしろ、その申し出は『許可』されないけどね」
……理由。ハルヒには、口が裂けても言えんが。
要するに―――俺も、感じたからである。この町から、何かある! ……という、オーラを。
と、言うか―――この『町』は!
「……なあ、夏の港町は暑いぞ? やめにしないか、マジで」
「夏が暑くなくてどーするってのよ? なんか、ここの名所って、どれもアヤシーのよね。
この岬とか! あとほら、この変な岩! この岩から何か感じるわ……なんか、エネルギーみたいなものを!」
……聞く耳持たず。
こうなったこいつに、俺の意見など通りはしない……しかし。
このまま、俺たちがこの『町』へ向かうことになってしまったら。
絶対に。200%。必ず。……『何』かが、起きる気がする……
「やっほーっ、遅れてごめんよっ……あれ、まだ三人だけかい?」
ハルヒほどではないものの、警戒にドアをかっ開きながら登場なさったのは、我らが名誉顧問・鶴屋さんだ。
鶴屋さん。あなたもこいつに何か言ってやってください。
「うん、次の合宿先? ……なんだか地味だねぇー……
でもっ! 何か感じるなあっ、これ! 何か……この町は、タダモノじゃない! って気がするよっ!」
「ほら、見なさい! 鶴屋さんにはわかるのよ、このカンジが!」
……お手上げです。
おそらく、古泉は例によってイエスマン。榎本さんはハルヒにゾッコン。朝比奈さんにハルヒを抑制するパワーがあるはずも無く……
「ふふふふふーんふふーふふふふふふーん……♪」
イヤホンを片耳に宛がいながら、ご機嫌そうにパンフレットを眺める鶴屋さん。
「キョン君も聴くかい?」
ふと、もう一方のイヤホンが、俺へと差し出される。
断る理由も特に思い当たらず、受け取り、片耳に当てると。聞き覚えのある、古い洋楽が、俺の耳へと流れ込んでくる。
……もう一方の耳が聞きつける、足音。どうやら、残りのメンバーも、まもなく到着するようで………
「やあ、遅れてすみません」
「やっほー、ハルちゃーん」
「こんにちはぁ、キョン君」
……『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』、全員集合。
「みんな、集まったわね! これ、今年の合宿先に決めたから!」
振り分けられるパンフレット。
「ふむ……?」
「ほぇー……あっ」
「ふーん」
……三者三様。心中に、どんな思いを浮かべたのやら。
「去年は後半、焦ってマキが入っちゃったからね。今年は最初から、フルパワーで行くわよ!
スットロいヤツは置いてっちゃうからね! ちゃんと着いて来るのよ、特に、キョン!」
……絶好調の極みにいらっしゃる、我が団長のご尊顔を眺めながら。
俺は、この、始まったばかりの夏が。
どうか、できるだけ。平穏な思い出となりますようにと―――窓の外に広がる青い空へと、柄にも無く、願ってみた。
――――いろんな事があったけど―――みんな、元に戻ってゆく。
"Go home..."
"Get back, get back..."
"Back to where you once belonged..."
『ジョジョの奇妙な冒険』外伝
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック- 完
終わります
比較的短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました
127 :
セッ子:2009/09/27(日) 03:23:27 ID:???
支援が間に合わなかったか……
しかし俺のスタンドはすでに貴様の『次回作』に『期待』しているッ!!
ちょっと都合が合わなかったので今から全作読ませていただきます
それはそうと乙ゥ乙ゥーーー!!
これからの活動にも期待してますよ!!期待してますよ!!
そうそう、勝手に『tobecontinued↓』から次の作品へのリンクにしてるけど問題ないですよね?
投下しなきゃなぁ……
>>127 手間かけさしてすんません
あのリンクはいい感じです。どうもすいません
次回作もあるいはぐらいには
とりあえずもしかしたら番外編みたいの書くかもしれません
何はともあれ嵐のようにスレ占有してどうもすいませんした
引き続き皆様の続編を待つ作業にもどりますん
乙ゥゥゥ!!
最終決戦まではジョジョ全開で、エピローグはハルヒ的で・・・
実に楽しめた。これまでにないスケールの大きな話をよくまとめてくれた!
そして同じくラストが近そうなアメリカも乙&続きを楽しみにしてます。
セッ子も待ってます!
こんな深夜に最高にハイって奴だァァァァ
外伝で杜王町編があるんですね、わかります
あれ、いまいちわかんないんだけど。
みくるがフーゴの手首を切り落としたってこと?
乙!面白かった!
しゃぶすた知ってた上で読んでたから小野Dの悪役っぷりが嵌まり役すぎて最高だったw
例のSSでもそうだったけど小野Dが純粋悪すぎて逆に清々しいんだよね
なんかラスボス的なカリスマ性を感じる
この話しの中じゃ小野D氏んだんだな、まぁ当然かw
ラストバトルも迫力あって楽しかったぜ!また書いてくれ!
読了しました乙!
ミスタがかっこいい……だと?
フーゴもパンナコッてなくて安心した。
いいトコ持ってく露伴先生と、キャラに愛を感じたよ。
しかし小野じゃないが、キョンのスタンドって割りとほっとくとやばい気がするww
>>131 俺はそう解釈した。
>>134 これはいいオリスタ絵。胸元の飾りがカッコいいな
是非他のスタンドも描いてくれ
136 :
マロン名無しさん:2009/09/29(火) 11:01:00 ID:vwqPBsJG
>>134 小野のスペクタクルと会長のJロマンスも頼む
できれば本体込みで
すまんageてもた…
死んでくる
>>138 サンクス
なんかセンスを感じるな、こういうデザイン好きだ
ブードゥ・キングダムデザイン考えてなかったのか、残念
ゴッドロックかっけえwwwwww
Jロマがどこかムーディーっぽいのはやっぱり会長がアバッキオっぽいからなのか
キングダムどこかザワールドっぽくていいな
第92話 「ファイアーハウス アゲイン 1」
「なるほど……物体を自然発火させる能力ですか」
「以前戦った時に炎の中に叩き込んで再起不能にしたはずなんだがな………」
日吉はなるほど、顔の半分に包帯を巻き、腕にも所々火傷の跡が見える。
「あの後組織に助けられたのか?」
「いいえ……自力で脱出したわ……組織はあたしを死んだと思ってるんじゃない?」
「なるほどな……知りたい事は全部分かった。オラァッ!」
一気に間合いを詰め、右のフックを繰り出す。日吉もそれに応じてスタンドでガードした。腕を掴もうとしてきたスタンドをかわし、間合いを取る。
「どうした?怪我のせいで動きが鈍ったんじゃないのか?」
「フン………」
すると日吉はスタンドでは無く、本体で突っ込んできた。左足でハイキックを放ってくる。スタンドで受け止めて、カウンターを叩き込もうと身構えたその時だった。
「足から火がッ!?」
日吉の左足が突如炎をまとった。自分をスタンド能力で燃やしたのかと考えたが、それならば全身に火がすぐにまわる。何故だ………。
「だが、今はそれ以上に……こいつの攻撃を交わさないとな」
ガードしたらあの火で火傷するだろう。致命的では無いが、それでも余計なダメージは増やしたくない。
防御の体勢を解き、後ろに飛んでかわす。が、
「そうすると思ったわよッ!行けっ!ファイアーハウスッ!」
敵のスタンドが飛び掛かってきた。ヤバい、かわせそうにない………。
「ハァッ!」
次の瞬間、鉄球が日吉を吹き飛ばした。つられて敵スタンドも一緒に吹き飛ぶ。
「森さん………」
「一人では危なかったですね……それより見て下さい、奴の左足です」
「……義足?」
日吉の左足はなんと金属製の義足だった。普通の義足とは違い、何故か溝が掘られており、油で汚れている。
「潤滑油か何かか?」
「違うと思いますよ……ほら」
次の瞬間、日吉の左足が火を放ち始めた。
「なるほど……あの油をスタンド能力で燃やしてたのか」
「鉄の足なら本体にも燃え移りませんしね」
「その通りよ……あんたに左足を焼かれたお陰でね?感謝の意でも表しとく?」
「いらねーよ……オラァッ!」
右ストレートで殴りかかる。もちろん考え無しではない。
「はッ!さっきと同じ失敗するつもり?ファイアーハウスッ!」
「ハァッ!」
日吉が殴りかかると同時に森さんが鉄球を投げる。
「ちいッ!」
日吉は突進を止め、後ろに飛んだ。
「今だッ!森さんッ!」
「ハァッ!」
森さんが2投目を放つ。すると1投目が日吉を追いかけるように直角におれ曲がった。
「何ィ!」
「ザ・ミュージック……鉄球の音波で軌道を曲げました………」
が、日吉は一瞬焦った直後、落ち着きを取り戻した。
「音波?……なるほど、良い事聞いたわ……ファイアーハウスッ!」
次の瞬間、街路樹やアスファルトの間からはえる草、さらにはガソリンスタンドの車からも火が出始めた。
「こうすればいいのよ………」
「しまったッ!」
森さんが慌てると同時に鉄球が大きく逸れた。
「なんだ?何が起こった?」
「音波ってのは熱によって揺らぐんだ……空気の揺らぎにつられてな?音で鉄球を操ってるんなら、音が揺らげば軌道が揺らぐとふんだだけよ」
「図星です……まさかこんなに早く見抜かれるとは思っていませんでしたが………」
「にしても野郎……ますます周りを火事にしやがって………」
正直かなり熱くなってきた。煙もかなり増えてきている。
「ヤバいな。このままだと煙にまかれるぞ………」
火事において一番怖いのは火よりも煙で息が出来なくなる事だ。
屋外ではそうそうないが、ガソリンスタンドが燃やされてる今、ゆっくりしていたらマジで煙にやられかねない。
「ハァッ!」
森さんが鉄球を投げると回転によってまき起こる気流によって、煙の中に道が出来る。
「こちらから逃げましょう!」
森さんの後に続き、脱出しようとする。
「させないわよッ!」
日吉が左足で蹴りを繰り出してくる。煙のせいで姿はろくに見えないが、足に着いた火のせいで蹴りの軌道は丸見えだ。余裕でかわしたと思った時だった。
「かかったわねッ!ファイアーハウスッ!」
煙でスタンドを隠していたらしく、背後から風切り音が聞こえてきた。
「徐倫さんッ!」
「マズいわね……だけど対処しきれない訳じゃあ無い」
ストーンフリーの糸を全身に巻き付かせる。それと同時に敵スタンドの右ストレートを食らった。
「グウッ………」
勢いよく吹き飛ばされるが、糸がクッションになりダメージはかなり少なくてすんだ。
「……なるほどね、吹き飛ばされて煙からも逃れられるか。だけど私のスタンド能力を忘れたの?ファイアーハウスッ!」
それと同時に糸が燃え上がる。が、
「もちろん忘れてないわよ……この糸、よく見た?」
糸は日吉の左足に巻き付けられていた。義足の為か燃えはしない。
「あらかじめ切ってさっきの蹴りの時に巻き付けておいた……右足に巻き付けられ無かったのが残念だがな」
「なんか前もされたわね、こんな事………」
日吉は余裕で糸を切り、体勢を立て直した。
「……なかなかやるじゃない………」
「………フン」
To Be Continued・・・
以上、第92話でした
アフターロックさん絵上手い!俺にもこれぐらい絵心があればなぁ
それでは!
151 :
マロン名無しさん:2009/10/07(水) 06:12:44 ID:Vwksllol
おちるぞ
許可しないいいいいいい!
落ちる事は許可しないいいいいいいい!
『保守』
アフロクが台風過ぎたな
番外編地味に待ってる
アメリカも終わっちゃいそうで楽しみだけど不安でもある・・・・・・複雑だぜェー!
スミマセェ〜ン、ジョニィのまとめで「恋のミクル伝説」がないですよ?
2からはあって、その前がないです。
ここだけ「時間をぶっ飛ばす!」をやられると大変気になりますので、修復をお願いします。
問題なく『直す』!!
第93話 「ファイアーハウス アゲイン 2」
日吉とのにらみ合いは続いていた。あたりは大火事だが野次馬はいない。
「火がかなり周っていますね……早く決着をつけないと巻き込まれますよ?」
「そうだな……森さん、鉄球で煙を飛ばしてくれ。あたしが近付いて奴を叩く」
「はい……ハァッ!」
森さんが投げた鉄球は気流を作り煙を吹き飛ばしていく。と、日吉の姿が見えた。
「オラァッ!」
右のフック、ガードされるが続け様に左で小さくアッパー、ガードしようとした所をいきなり軌道を変えてボディに鋭い一撃を叩き込む。
「フグッ………」
日吉は少し足が止まるが、持ち直すと追撃の右ストレートをかわした。
「これでもくらいなあッ!」
日吉が左足で炎の蹴りを繰り出す。後ろに飛び退いたと同時に、
「ハァッ!」
森さんの鉄球が間を縫って飛んで来た。
「チイッ!」
日吉が蹴って叩き落とした隙を見逃さず、詰め寄りラッシュを仕掛ける。
「オラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「ぬぐっ………」
ラッシュは少し遅れたらしく、ガードされてしまった。
「しぶといわね……でも2対1よ……このままじゃ勝てないわよ」
「そんな事ぐらいはなから分かってるわ……わたしが何もせずにここに来たとでも?」
日吉はそう言うとポケットから携帯を取り出した。
「わたしはある所に電話をかけといた……何処だと思う?」
「………どういう事だ?」
「ほら、音が聞こえてきたわよ」
すると日吉の言葉通り聞き慣れたサイレンの音が聞こえてきた。そう、火事現場には必ず現われるあの車の音だ。
「消防車かッ!」
「徐倫さん、マズいですッ!あの人たち今から消火を始めるようです!」
何がマズいんだ?森さん。どうせ水だ。水圧が高くても死にはしない………。
「違うのよねえ……消防車は水じゃなくて、消火剤をまくのよ?」
「………消火剤?」
「火を消す粒子状の薬です、消火器に入ってるあれですよ……まいった事に人体には有害ですッ!」
「何ッ!?」
「さあーどうするのかしらあ?」
「森さんッ!鉄球で何とかならないのかッ!」
が、森さんは焦った顔でこちらを見た。
「体を硬質化させて呼吸を止めれば切り抜けられるでしょう……ですが今手元に鉄球が一つしか無いんですッ!」
もう一つはどうしたんだ?
「分かりません……徐倫さんッ!」
「間に合わないッ!早くガードしろッ!」
次の瞬間、あたりを白い煙が覆った。
「………さーて、奴等は死んだ……かな?」
「誰が死んだだ」
「空条徐倫ッ!?何故……鉄球はわたしが拾って一つしかなかったはず………」
「ああ、鉄球が無かったのはそういう事ですか」
森さんが体の硬質化を解除して立ち上がる。
「返してもらえますか?」
「徐倫は……一体………」
「ここよ」
「……い、糸ッ!」
あたしは口と肺を糸にして空気が絶対に入らないようにして消火剤を防いでいた。
「さて、頼みの綱も無くなったわね……おとなしくしなさい………」
糸を元に戻して話しかける。が、日吉は驚いた顔を消すと再び大胆不敵な表情を浮かべた。
「残念ね……まだあるわよ………」
「何がだ」
「切り札よ……高音で熱せられた物が急激に冷えるとどうなるか知ってる?」
「……割れる」
「その通りッ!そしてここは地面の下に何が通ってるか知ってる?」
知るか……ん?なんか変な匂いがするな……これは………。
「ガスですね……まさかッ!」
「その通りよッ!ここにはガス管があった!今の放水でアスファルトにはひびが入っている……わたしのスタンドがガス管を破壊してガスを漏れさせたッ!」
「てめえまさか………」
「くたばりなさいッ!ファイアーハウスッ!」
ヤバい、野郎ガス爆発を起こす気だッ!
「森さんッ!」
その時森さんが鉄球を投げた。
「フフ……安心して下さい。もう大丈夫ですよ?」
鉄球は日吉には当たらず、横を通りすぎていった。
「ノーコンじゃない……それじゃあねッ!」
日吉がスタンドを出すとガス管に向けて振り降ろす。と、その瞬間、日吉とスタンドの動きが止まった。
「あれ?……なんで体が動かないんだ?」
「徐倫さん、今のうちです。奴から離れて安全な場所まで行きましょう」
「……奴が拾った鉄球はまだ回転してたのか………」
「はい。ですからさっき投げた鉄球で回転を変えました。彼女の動きを止める回転にね」
「……それじゃあな」
「ま、待ちなさいよッ!」
その瞬間、日吉のスタンドがいきなり動き、ガスに火を付け、爆発が起こった。
「ゲブウッ」
「前は炎に包まれて……今度はガス爆発か……ろくなやられ方しないな、あいつ」
「……徐倫さん」
森さんがうつむいて困ったような表情を浮かべた。
「今ので鉄球が一つ無くなりました……それとバイクも爆発に巻き込まれたようです」
まいったな……こんなド派手にやったら敵に居場所を教えてるようなものだ。ここにすぐにも敵が集まってくるかもしれないのに移動手段まで無いとはな………。
「やべえな」
「そうだな。お前の考えた通りだ」
後ろから男の声が聞こえる。振り返るとそこにはフード付きパーカーを着た男がいた。
「敵か………」
「その通りだとも」
To Be Continued・・・
以上、第93話でした
>>153確かにアフロクはあっというまに凄い勢いで面白い物語を提供してくれたからなぁ
ちなみにクライマックスには入っていますが完結にはまだまだかかりそうです。
ほら、あれだ、7部みたいな感じだ。自分でもいつ最終地点に到達できるか見えてないwww
それでは!
GJ!
アメリカの人&クレイジーダイアモンド!
続きもまとめもナマズのようにジッと待つぜ〜!
ここで投下しちゃうっ! 今じかに書いちゃったやつぅ!
はい
えーと台風でごめん
とりあえずちょっと荒削りっつか書きたかっただけ感満々ですけど外伝投下しまうま
2003年6月。兵庫県西宮市にて、ある、『スタンド』に纏わる『事件』が発生した。
事件の中心人物は、『矢』を所持する一人の『スタンド使い』。名を、小野大輔と言った。
小野大輔の『矢』によって、西宮市内では、三週間のうちに十数名の『スタンド使い』が産みだされ
彼らは、小野大輔が『標的』とする『スタンド使い』の軍団。通称、『SOS団』への刺客として送り出された。
事件は、6月下旬。SOS団との戦闘の末に、小野大輔の敗北という形で幕を閉じた。
そして―――SOS団と小野大輔の刺客との戦いが繰り広げられていた、その裏で。
人知れず、彼は動いていた。
彼が望むものは、ひとつ。自らの好奇心を満たす事。
彼の名は、岸辺露伴。職業は―――漫画家。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
外伝 『岸辺露伴の憂鬱』
「おい」
それは、『事件』の最中。岸辺露伴と、森園生、朝比奈みくるの三名が、『夢の世界』から生還した二日後にあたる、金曜日の午後。
岸辺露伴は、『病院』の四階、入院病棟の廊下にて。不意に、視界の端に留まった、見覚えのある後姿に声をかけた。
それと同時に、水面を伝うように、均一に、機械的に行われていた、その人物の歩行が止まる。
薄い上半身が露伴を振り返る。短めに切りそろえられた、細く透き通った色の前髪の下で。ガラス玉のような瞳の中に、露伴の顔が映った。
「……君は、たしか『長門有希』だったな」
「そう」
長門の精神に、露伴に声をかけられたことで、果たしてどのような移ろいが発生したのか。
まるで、道端の街路樹を前にしたような普遍的な表情で、長門は、露伴の言葉に、短い返答を寄越した。
「何?」
続けて、先の二文字と、なんら変わりのないイントネーションで、彼女の喉が鳴る。
その表情や語調から、彼女が、露伴をうっとうしがっている様子は感じられない。しかし、好意的なわけでもない。
それこそ、ただそこに在るだけの街路樹のような雰囲気を漂わせた、その少女を、露伴が呼び止めた理由とは。
「いや、何。前から、君と話がしてみたいと思っていてな。思わぬところで見かけたもんでね、つい声をかけちまったよ」
露伴が、目の前の少女について知る情報。
古泉や森、キョンら、『SOS団』の面々から聞かされた、その『正体』。
露伴の興味は、ただ一点。
『長門有希』が『宇宙人』である。その情報に向けられていた。
「あなたが、平日の放課後の時間帯に外出することは、推奨出来ないことであると伝わっているはず」
あまりに無機質につむがれる長門の言葉から、その意味を理解するのには、常人との会話においてのそれよりも、いくらか余分に時間が掛かる。
数秒後。露伴は、つまり。長門は、こう言いたい訳だ。
『おい、どうしてこんなところでテメーに会うんだ。テメーと涼宮ハルヒが顔をあわせるとまずいから、好き勝手に外をウロつくんじゃねーと言っただろうが』
……と。
ふん。馬鹿馬鹿しい。岸辺は、己に課せられた理不尽で過剰な行動制限と
それを馬鹿正直に厳守することを求めている、目の前の少女に向けて、沸き立ったイラつきを隠さずに吐き出す。
「あのなァー。この、お前らの学校から三キロちかくも離れた救急病院に、涼宮ハルヒがやってくるわけが無いだろうが!
大体、この時間、お前らは『団活』とやらの最中のはずじゃあないのか? ぼくのほうが聞きたいぜ、お前がどうしてこんなところにいるんだ?」
時刻は四時へ差し掛かる頃合いだ。彼らの学校が、どのような時間割のもとに回っているか知らないが
普通の高校なら、授業が終わった直後というところだろう。
涼宮ハルヒと行動を共にしているはずの長門有希が、何故、この『機関』の『病院』に居るのか。
長門は、露伴の言葉を聴いた後、数秒ほど。思案をめぐらせる様な沈黙をはさんだ後に、口を開く。
「涼宮ハルヒには、私は急用のため、団活を休むと、古泉一樹から伝わっているはず」
「急用? 御神体みたいに涼宮のことを優先するお前らが、SOS団以上に優先する急用なんてもんがあるのか?」
「ある。なければ、私は今、ここを訪れてはいない」
長門の言葉に、感情は込められていない。
しかし、そのがらんどうで、押し我意の無い無機質さに、露伴は、まるで自分が馬鹿にされているかのような錯覚を抱いた。
「ほう、そりゃあいったい何だ? 実に興味があるな、ぜひとも教えてもらいたい。
この『病院』に、それがあるってのかい? この先には入院患者の病室しかないぜ。
まさか、『宇宙人』の君が、両親や兄弟姉妹のお見舞いに来たってわけじゃあないんだろ?」
「……あなたがこの『異常』に関わるのは、あまり喜ばしくないこと」
再び、数秒の沈黙の後で。長門は言った。
「『異常』だって?」
「……先日から、この病院内で、これまで観測されていなかった次元の『歪み』が発生している。
その歪みを初めて観測した時刻は、あなたが『夢の世界』から帰還した時刻と一致する」
「『歪み』? ……言っていることがよくわからんな。
そりゃあつまり、あの『夢の世界』の『スタンド』の影響なのか?」
「……その原因が『スタンド』である可能性はゼロではない。しかし、『歪み』自体と『スタンド』は無関係。
『スタンド』によって発生したものであれば、情報統合思念体の持つ概念では観測できない」
「『概念』……やっぱりよくわからんな。適当にそれらしい言葉を並べて、ぼくを追い払おうとしているんじゃあないだろうな?」
元々は、『長門有希』そのものに向けられていたはずの岸辺露伴の興味の矛先は、いつの間にか、彼女がこの場所に居る理由へと向け代えられていた。
「あなたが関与することは推奨出来ないと言ったはず。あなたは、自分の目的を遂行し、速やかにホテルへ帰るべき」
やはり、長門の表情は変わらない。しかし、その口走る言の葉は、明らかに、露伴を追い払おうという意志を孕んだものに変わっている。
しかし。岸辺露伴という人間は。自分の好奇心、興味の前に立ち塞がるものには、決して従いはしない。
「ぼくの用事なんかどうだっていい! お前が推奨するかしないか、そんなことも知らん!
お前らと僕は無関係じゃあない。仮にあの『夢』の『スタンド』が原因で、その『歪み』とやらが生まれたなら。
あのスタンドに巻き込まれた張本人であるぼくにだって、その正体を知る権利があるんじゃあないか?
ぼくはな、よくわからんことをよくわからんままにしておくのが嫌いなんだ。『概念』だの『異常』だの、お前がブチ撒いた言葉の意味を知らんと気がすまないんだよ」
「……言語では説明できない」
「だ・か・ら! ぼくはお前に『ついていく』と言っているんだよ、長門有希!
お前の行く先には、たったの四部屋病室があるだけだ。この何の変哲も無い廊下の先に、お前は歩いていこうとしていたよな?
この先に『歪み』とやらがあるっていうのか? なんでもいい。
ぼくはこう言っているんだ。長門有希、ぼくにそれを『経験』させろ、とな!」
「…………」
細い肩に掴みかかりながら声を張り上げる露伴を、まるで気にも留めずに。長門は、あの均一で、機械的な歩行を再開する。
接着剤で固定された風見鶏のようなその態度に、再び、露伴は苛立つ。
「おい、ぼくを無視しようってのか? だがな、ぼくはお前についていくぞ、長門。
何なら、ぼくの『スタンド』で、お前に命令をすることだって出来るんだ。ぼくを『つれていけ』ってな!」
「それは推奨出来ない」
……推奨。幾たび目かの、その単語が、長門の口から飛び出した。
「情報統合思念体は、『スタンド』の属する概念による事象を、観測、干渉することが出来ない。
もし、私が『スタンド』の影響を受ければ、私自身が、情報統合思念体の『概念』から切り離されてしまう可能性が懸念される」
露伴を見ずに、ただ、ゆっくりと前方に歩みを進めながら。長門は言う。
つまり。長門は露伴の要求を『受け入れた』と言うことだ。
長門の言う『異常』、『歪み』の正体の解明。その旅路に、露伴は、同行することを許されたのだ。
「……だがな、長門。ぼくの見た限りで、この先に何も『歪み』なんてもんは見当たらないぞ?
401号室、402号室はもう通り過ぎてきた。今、ぼくらの真横にあるこの部屋が403号室だろ?
この先にあるのは、404号室。例の『スミレ』のいる病室だけだ。まさか、『歪み』はその部屋にあるとでもいうのか?」
「……黙ってて」
「何だと?」
不意に。長門の口から発せられた、やや強く、露伴を制する言葉に対し。露伴は、納まりかけた怒りに再び炎をともす。
「おい、待て! お前なァー! 宇宙人だかなんだか知らんが、人を馬鹿にするのも大概に……」
露伴の怒りをまったくに気に留めず、長門は歩みを進めてゆく。そのスピードがやや速まっている。
これまでの三部屋同様に、長門は、404号室の前を、通り過ぎ、更にその先へと歩いてゆく。
露伴は、それを早足で追いかける……
「おい、聞いてるのか…………!」
……露伴は、ふと。長門がまっすぐに見据える先……目の前に広がる光景に、違和感を覚える。
これまでに。長門と露伴は、この廊下に在る、四つの病室の扉の前を通り過ぎてきた。
スミレの入院している404号室を通り越した先には、壁がある。廊下はそこで終わっているはずなのだ。
しかし。露伴の目の前には……
「……何だ? こりゃ……なんで、404号室の先にも『廊下』が続いているんだッ!?」
露伴は、背後を振り返り、確認する。……入り口は、確かに四つ。既に通り過ぎてきた廊下の壁に張り付いている。
この廊下には、間違いなく、病室は四部屋しかなかったはずだ。数日前、露伴は、その突き当りの『404号室』で、『スミレ』のスタンドを見つけたのだから。
まさか。これが、長門の言う『歪み』だというのか。
「い、いつの間に……こんな『先』が現れたんだッ!? これが、『歪み』なのか……?」
「『404号室』の病室前に該当する空間に『次元断層』を観測した。『歪み』の正体は、それ」
「『次元断層』? なんだ、そいつは? どうもお前の言うことは、いちいち小難しいんだよ。
さっきからしち面倒くさい言葉ばっかりをわざと選んで、ぼくをからかっているんじゃあないだろうなぁー?」
「……この空間に、通常空間とは位相の異なる空間が存在している。本来は、我々には観測、干渉が不可能なもの。
しかし、局地的に、二空間の位相が同期している空間が発生していた。その地点が、この場所。」
……長門なりに、言葉を噛み砕いたつもりなのだろうか。
露伴は考える。そして、彼なりに、長門の言葉から、大まかなことの概要を読み取り、組み立てる。
「つまり……あの『夢の世界』のような別世界があり、お前の言う『歪み』……
『次元断層』があったという、あの病室の前が。その入り口だったということか?」
「少し違う。完全に異なる次元上に存在しているわけでなく、この空間は、もともと、通常空間と重複していたと思われる。
この位相に近い波長を持っている人間にならば、視認でき、行き来が可能だった。
それは……『スタンド』と『スタンド使い』の概念に近い」
「何だって?」
「『スタンド』は、常人が視認、干渉することはできない。
本来、人間が持ち得る波長では同調し得ない位相上に存在するから。
しかし、存在する次元が異なっているわけでなく。通常空間と重複して存在している。
『スタンド使い』とは、スタンドの存在する位相と同調し得る波長を持っている。おそらく、その波長を齎すのが『矢』。
そして、スタンドとスタンド使いの間では、お互いの存在する位相の同期が発生している。
その同期を通じて、『スタンド』は通常空間への干渉を行う事ができる」
成る程。露伴の頭の中で、ようやく『ピン』と来た。
相変わらず言葉は難解ではあるが、身近なものに例えて考えれば、それだけ理解も早い。
「つまりだ。この、これまでは無かったはずの『先』が『スタンド』で。
その『次元断層』だとかいうものは、人間が『矢』に刺されて、『スタンド』と同期とやらをするように。
スタンドにおける『矢』にあてはまるような、なんらかの理由で生まれた『繋がり』だってわけか」
「そう。しかし、この空間と通常空間との位相のズレは、スタンドのそれほど大きくはない。
おそらく、常人でも、この空間を認識し、干渉を行える個体は存在すると思われる。
先ほど、この空間へのアクセスコードを解析し、私とあなたの座標をこの空間に移行させた」
……露伴は、眼前に広がる『異なる空間』を前に。胸の奥から湧き上がってくる、炎のような高揚感を覚える。
そうだ。露伴がこの『長門有希』に期待していたものとは、まさしく『これ』なのだ。
露伴一人では決して巡り合えない、しかし『存在』するものとの遭遇!
―――『面白い』!
露伴は、この新境地で、これからいったいどのような体験ができるのか。
それを考えるだけで、全身に武者震いが走った。
「おい、長門! それで……『これ』はいったい何なんだ?
お前は、この『先』が、もともと存在してたものだと言ったな?
そして、こいつが見える人間もいる、と言ったな? しかし、ぼくにはいまいちピンとこないぞ。
この『異なる空間』は、『夢の世界』でも『スタンド』でもないんだったな?」
「……有機生命体の認識上で最も近い表現は……『幽霊』」
「! ……幽霊だって? ……どういう事だ? 幽霊ってのは、生き物がなるものじゃあないのか?
この『廊下』が幽霊だっていうのか?」
「そう。……正確には、意識を持つ『幽霊』を中心に構築された、擬似的空間」
……幽霊が構築した、空間だって? その言葉に、露伴は眉を顰める。
『幽霊』。露伴にとって、その概念の存在は、決して驚きを覚えるものではない。
露伴は、既に『幽霊』と対面した経験がある。
しかし、その幽霊……彼女には、何かを構築するような力はなかった。
「ン……お、おい、長門?」
露伴が思案を巡らせる中。長門が、眼前に続く、『幽霊の廊下』を歩み進め始める。
「この空間を構築している中心を探す。ここはおそらく、自我を持つ思念体が構築したもの。
その思念体が、通常空間に存在する生命体に害をなす存在であった場合、殲滅する必要がある」
言いながらも、長門はすっくすっくと、早足で、幽霊の廊下の奥へと進んでゆく。
その行く手には、二股に分岐する突き当りが見える。窓や部屋は見当たらない。証明の類は見当たらないが、不思議と、暗闇に包まれてはいなかった。
殲滅だって? 冗談じゃない。露伴は、心中で呟く。
『建物の幽霊』を作り出す、病院に憑いた『幽霊』。これほど興味を引くものが、この世に存在するだろうか?
ぜひとも『取材』がしたい。しかし、露伴の能力では、幽霊の『死後』の記憶を読むことが出来ないことは、既に実証されている。
直接会話がしたい……だが、長門の言うように、その『幽霊』が、露伴たちに対して攻撃的であれば、それは難しい……
「……おい、待て長門。殲滅するというが、そいつは可能なのか? ぼくのスタンドは攻撃向きではないぞ?
お前は確か、『スタンド使い』でないんだったよな?」
「問題ない。この位相上であれば、情報統合思念体による干渉が可能。
対象が我々に害意を持っていれば、情報連結の解除を行う」
「情報連結解除? 何だい、そりゃあ?」
「名称通り。当該対象を構築する情報を解析し……端的に表現すれば、消滅させる」
「『消滅』ッ!? おい待て、冗談でなく言っているのか、それは!? そんなことが可能なのか、その『統合思念体』とやらは!」
「情報の解析が可能な位相上の存在であれば可能。生命体の肉体を再構成するのとメカニズムは同じ」
肉体の再構成。それは露伴も経験したことがある。
この西宮市で、初めて『スタンド使い』に遭遇し、『森園生』と共に戦ったあの日。
突如現れた長門が、露伴の体の傷に手をかざした途端に。見る見るうちに、傷が治っていった、あの不思議な現象のことだろう。
『治す』だけでなく、問答無用で『壊す』こともできるというのか、『統合思念体』とやらは。
なんという万能な能力だろうか。露伴は思う。まるで弱点がないじゃないか。露伴の作品には、とてもではないが登場させられない。
……しかし、それならば。
「なら何故、お前はその『解除』とやらで、スタンド使いたちと戦わないんだ?」
「その理由はさっきも話した。私が『スタンド』による影響を受けることは非常に危険。
『スタンド』という『概念』は、情報統合思念体には解析不可能な次元に存在する」
「……何だと?」
そこで、初めて。長門が、幽霊の廊下を突き進む足を止め、背後の露伴を振り返る。
再び、あの水晶の瞳が、露伴を写す。
「……この世界は、数多の『概念』が重なり合って構築されている。
あなた達が標準とする『概念』や、『思念』のみによって構築される『幽霊』の概念。
その他に無数の『概念』が、同一の次元上に存在しながら、異なる位相、波長の上に存在し、共存している。
『情報統合思念体』もまた、それら概念の一つに属する。そして、情報統合思念体は、多くの他の概念への観測、解析を行うことが可能。
しかし、『スタンド』は。決して『情報統合思念体』に観測できない位相に存在する。恐らく、この世界で最も高位の『概念』に属する」
「なッ……!?」
……露伴は、古泉やキョンから、長門という存在が、いかに強大なスケールの元に在る人物であるのかを、少なからず聞かされている。
まさに、あらゆる『概念』への干渉が可能な、全能と呼ぶべき力。
しかし、その長門にさえも、決して干渉出来ない『概念』。
まさか。―――露伴の持つ。そして、その他にも、無数の人間に備わっている、『スタンド』という能力が。
その『先』に在る存在だというのか?
「……情報操作を持ってしても、決して。私に『スタンド』への干渉を行う力を付加することは不可能。
もし、情報統合思念体という概念によって産み出された私という個体に、『スタンド』の概念が介入した場合……
私という個体が、思念体の『概念』から切り離されてしまう事態も懸念される。
それが、『スタンド』。……我々が観測対象としている、『涼宮ハルヒ』の持つ世界改変の能力も、その概念に分類される」
あっあっあっあ〜〜〜♪
『支援』だけだ
作者以外の奴は『支援』としか言っちゃいけねぇ!
……『動揺』。そして、『驚愕』。
岸辺露伴の精神を、その二つの感情が埋め尽くす。
露伴の興味を惹いた、長門有希の、全能たる能力。
しかし。露伴自身の持つ、『スタンド能力』は―――それすらをも超えた位置に存在する能力だというのか!?
「……こっち」
いつの間にか、立ち止まっていた露伴を振り返り。長門は、たどり着いた突き当りの丁字路の、右方向を指差し、呟いた。
「……気をつけて。この先に、無数の『思念』……『幽霊』が停留している」
「! 何だと? おい、待て。この『幽霊の廊下』は、一人の『幽霊』が創ったものだと言ったじゃあないか。
何故、『幽霊』が無数に居るんだ?」
「わからない。しかし、この先に居る『幽霊』は、この空間を構築している思念とは別のもの。
……あなたは『スタンド使い』。しかし、精神はあくまで常人のもの。
『思念』……『幽霊』の持つ『怨念』は、時として、常人の精神に影響を及ぼし得る」
「……ハンッ、ぼくを甘く見てんじゃァーないぞ? 死んだ人間の念なんてなァ、生きてるぼくにはまったく関係ないねッ!
どうして、とっくに終わっちまった連中に、まだ先のあるぼくが気を乱されなきゃいけないってんだ?」
「……そう」
長門は、それだけの会話を済ませると。露伴から視線を逸らし、自らが指差した方向へと歩き始める。
露伴は、ほんの僅かな躊躇いのあとで。たった今、自分が口にした台詞を、頭の中で反芻しながら、大またで長門のあとを追う。
……くそ。いつの間にか、完全に、長門のペースに飲み込まれている。
どうしてこの岸辺露伴が、宇宙人だかなんだか知らんが、他人の。しかも、少なくとも見た目においては、とうに年下の女に、主導権を握られなければいけないのだ。
「……おい、長門。ぼくの『スタンド』はな、例え幽霊にだろうと能力を発揮できるスタンドなんだ。
ぼくが先に行く。どうせ道は一本道だろう、お前はぼくの後ろにいろ」
早足で長門を追い越しながら、たった今まで、自分の先を歩いていた、華奢な肉体に向けて言い放つ。
「……あなたが先をゆく必要性は感じられない。あなたは、その『スタンド』で、自分の身を守ることを優先するべき」
背後から、長門が言う。
露伴は思う。お前のその態度に、ぼくはイラついているんだよ。
情報統合思念体だかなんだか知らんが、何者であろうと、この岸辺露伴の先を行くものなど居ては為らないのだ。
第一。今さっき、お前は。ぼくの『スタンド』の方が、自分の能力よりも上であると言ったばかりじゃあないか。
「うるせェーな! お前は黙って、ぼくの後ろにいりゃァいいんだよ!」
「……そう」
そう呟いたきり、長門は何も話さなかった。
いまいち煮え切らない。露伴は苛立ちを晴らしきれぬまま、『幽霊の廊下』を歩み進んだ。
しかし、行く手には、ただ、代わり映えのしない、窓も扉もない廊下が続いて行くのみ。長門の言ったような『幽霊』たちの姿は、一向に現れない。
「……おい、長門。お前の言う『無数の思念』とやらは、一体どこに居るってんだ?」
「……気づいていない?」
「何?」
……痺れを切らした露伴が、長門を振り返り、訊ねた……その、瞬間だった。
露伴の視界に映ったのは……長門有希の、小柄な肉体。そして――――
「なッ……これはッ……なんだァ――――!!?」
……長門の体に、今にも掴みかからんという勢いで、無数に伸びる『腕』。
それらは、よく見ると、左右の壁から伸びている―――いや。壁ではない!
露伴は、前方へと向き直る――――そして、初めて、気づく!
行く手の、左右の壁に―――『鉄格子』が、際限なく続いている事に!!
「ばッ……なんだ、こりゃァ―――!!? さっきまで、こんなもんは無かったぞォ―――ッ!?」
鉄格子だけではない。その向こうには、さながら牢獄の如き空間が広がっており……
そして、そこに幽閉された囚人の如き、無数の人々が。鉄格子に噛り付き、その隙間から! 露伴たちに向けて、手を伸ばしているのだ!!
「……あなたの無神経さが、これまで、彼らの怨念に気づかせなかった。……そのまま進むべきだった」
「なッ……!!」
……行く手は、いまだに闇に包まれている。そして、この永久と思えるほどに長い廊下が続く限り。『鉄格子』は続いている。
これが……長門の言っていた、無数の『思念』だというのかッ!?
「お、おい……こりゃ、何だッ!? こいつらの一人一人が、『幽霊』だってェ―――のかッ!?」
「そう。……この思念体たちは、この病院内、もしくはそれに近い場所で、生命活動を停止した有機生命体の思念。
……恐らく。この空間を構成するものによって、強制的に、『幽霊』として、この空間に留められている」
迫り来る、磯巾着の触手の如き、痩せ細った腕の群れを見つめながら。長門は、言う。
「何だって……この世に未練があるわけでもない連中が、無理やり『幽霊』にされてるってのかッ!?」
「おそらく。……あなたがこの存在に気づかなければ、このまま進むつもりだった。
しかし、気づいてしまった今、あなたの精神が保つかどうか分からない。このエリアを突破する」
「なッ……!?」
再び、露伴が長門を振り返った時。長門の口から、何やら、人語を極端に高速再生したかのような、奇妙な機械的音声が放たれた。
それと、同時に―――!!
露伴の身体が! 進行方向に向けて吹き飛ばされ、一瞬、周囲一帯が暗闇に包まれた、宇宙のような空間に投げ出される!
「うおおおおッ!? なっ、何をしたんだッ、長門有希イ――――ッ!!?」
『吹き飛ばされる』力は止まらない! 露伴は、暗黒に包まれた空間の中を、後方へと吹き飛ばされ続ける!!
「……落ち着いて。この『思念体』たちの居る空間から、あなたを切り離した」
体が空間を切り裂く、ビュウビュウという音にまぎれて。露伴の耳に、どこかから、長門の声が届く。
「目を閉じて。元の次元に戻す際に、閃光が生じる」
「なッ……ふざけるなァ―――、余計な事をしやがってッ!!」
「目を閉じて」
……二度繰り返された、その言葉に。露伴の意思とは無関係に、瞼が落ちてくる!
これも『情報操作』とやらか!? いや、違う!
露伴は、精神の根底で! 理解している―――この長門有希は、自分よりも高い場所に居る存在なのだと!!
「ううッ!!」
露伴の瞼が降り、視界が暗闇に包まれた瞬間。瞼の上から、白とも黄金ともつかない、強烈な閃光が降り注ぐ。
それはほんの一瞬だった。一秒にも満たないほどの僅かな期間だ。
「……無事?」
露伴が瞼を開くと。そこには、これまでと変わらぬ表情で、露伴を見下ろす、長門の姿が有った。
……助けられたと言うのか。この少女に。あの、無数の悔念が渦巻く回廊から、この岸辺露伴が。
「ここは、どこだッ?」
露伴は、体を起こし、周囲を見回す。……これまでと変わらない、『幽霊の廊下』。
しかし、あの『鉄格子』のエリアではない。露伴は念を入れて、背後と正面に続く道を、幾度も見比べて見る。しかし、『鉄格子』は現れない。
「『思念体』が停留している空間からは脱出した。おそらく、この先に、この空間を構築している『本体』がいる」
「『本体』……そいつが、あの大量の幽霊たちを、あの鉄格子の中に閉じ込めてるっていうのか?」
「おそらく。この空間は、危険。有機生命体の睡眠時の波長は、この位相……『幽霊』の概念と同調しやすい。
あの『幽霊』の存在は、院内の入院患者に悪影響を及ぼす可能性が高い」
……要するに、あの病院は、完全に『憑かれて』いるというわけだ。
しかし、露伴が恐ろしく感じるのは、それ以上に。
あの幽霊たちが、『無理矢理幽霊にさせられた』存在であるということだ。
一体、いつからだったというのだろうか。あの無数の手の数だけ、その犠牲者はいるのだろうか……
「……岸辺露伴」
「!」
不意に。そして、おそらく、初めて。長門に名前を呼ばれ、露伴は僅かに驚く。
「……あなたの背後。私の視界内に、当該対象を視認した」
何だって?
その瞬間。露伴の背筋に、冷たい痺れのようなものが走る。
……覚えのある感覚。これは、そう。
あの、『振り返ってはいけない道』で、背後に感じたような……
「……人間の姿をしている。視覚上、問題はない。しかし、恐ろしければ振り返らないでいい」
「……長門有希……どこまでもぼくを甘く見やがって」
恐ろしい、だって?
確かに。露伴は今、恐怖を感じている。先ほど目の当たりにした、あの『幽霊』たちが発していた怨念に。
そして、この邪悪な『幽霊』が。人知れず、いつかから、この病院に取り憑いていたという事実に。
しかし―――彼にとって。
「この岸辺露伴にとって……『恐怖』など、『興味』の対象でしかない!」
背後に確かに感じる、その『存在』。
一息だけ、深く息をついた後……露伴は。眼前の長門が視線を注いでいる、自分の背後の空間を―――振り返った!!
「……解析が完了した。間違いなく、この『思念体』が、この空間を構築している根源」
……露伴が、はじめに憶えたのは。『意外と、普通だな』という、なんともあっけのない印象だった。
『男』だった。年齢は、今ひとつ分からない。顔つきからして、日本人ではないようだ。
緑色の……しかし、済んだ緑ではない。水底の苔を薄めたような色の長髪を、後頭部で一纏めにしている。
袖が長く、たけの短いカットソーと、ローライズのパンタロンを身に纏った、色白の男。
そして……それは、死者であるが故なのか。それとも、生前からのものなのかはわからないが。
どこかへと注がれていながら、何も見つめていないかのような、淀んだ瞳が、露伴と長門を、無感情に見つめている。
この男が……この、『幽霊の廊下』の、主である―――『幽霊』だというのか。
「……『お前たちは』」
「!」
不意に。『幽霊』は、表情を変えないまま、声を発した。
『日本語』ではない……しかし。聞き知らぬ言語でありながら、露伴には、『幽霊』の言葉から、その念を読み取ることができる。奇妙な感覚だ。
「『生きている』のか? ……何故、生きているものが、オレの前にやってこれたんだ……?」
幽霊の男は、言葉を連ねる。やはり、日本語ではない……しかし、男の思考は確かに、露伴の頭の中に入ってくる。
「……解析、完了」
男の言葉など、耳には入っていないかというように。長門は、一歩、男に歩み寄り、呟いた。
「パーソナルネームの解析が不可能……しかし、情報連結解除に支障はない」
「ちょっと、待て、長門有希! ……こいつをすぐに倒すつもりかッ!? 冗談じゃない、何のためにぼくがここに来たと思っている!」
「……早急に処理するべき。この思念体と意思の疎通を行う必要性はない」
「ぼくにはあるんだよ! 邪魔をするなら、『スタンド』をくらわせるぞッ!?」
「……」
長門が、眼前に差し出そうとした手を止める。
よし。長門は『スタンド』に弱い。これは、露伴にとって好都合だ。
なんとしても、露伴は。目の前のこの『幽霊』を取材したい……
「おまえたちは、何を言っている……? いや、きさま……そっちの男は別だが、女……『人間』じゃあないな?
わたしには分かる……『感情』がない。意思、オレへの敵意はあるようだが、感情がない……
『感情』があるものならば、それは必ずオレに届くはずなんだ……
めずらしいぞ……こんな『もの』は初めてだ。興味がある……」
幽霊の男は、露伴と長門を見比べながら、白い指先を顎にあて、ぶつぶつと言葉を発する。
「……そっちのきさまからは、逆に、おれへの『興味』を感じるな……
オレが『幽霊』だからか? それとも、この『病院』についてか?」
「! な、何だ……まさか、この『幽霊』!」
露伴の脳裏に、一瞬。あの『吉良の父親』がよぎる……
目の前の男は、まるで、露伴の心を読んだかのように、露伴の『感情』を言い当てた。
まさか、こいつは……露伴と似たようなタイプの『スタンド』を持っている幽霊なのかッ!?
「わたしは、お前たちと、すこし話がしたい……どういうわけか、オレがどうやっても抜け出せないこの『病院』に。
死人でない、生きた人間が入ってくるなんてのは初めてだ……
それに、そこのお前……感情がない『もの』が何者かも、興味があるしな……」
「……何だって? 抜け出せない?」
「ああ……いつからかはよく分からん、しかしわたしはこの『病院』から抜け出せんのだ。
どこにも出口がないからな……しかし、どこからか、ここには死んだ人間が入ってくる。
次から次へとやってきては、そいつらはここに留まり続けるんだ……合わなかったか? あの幽霊どもに。
一体、この『病院』が何なのか、何故わたしはここにいるのか。まったく『知らない』んだ」
……こいつは。あの『幽霊』たちを、故意に集めているわけではない、というのか。
「お前は……自分が何者なのかも、分かっていないというのか?」
「……そうだな。おれはどうやら幽霊らしいということは分かっている。
しかし、いつ死んだのか、どのように死んだのかは覚えていない……そもそも、自分が何者だったかもほとんど覚えていない。
ただ、オレは他人の『感情』に、奇妙なほど敏感でな。表情を見れば、そいつがどんな気分でいるのかが大体分かるんだ……
もっとも、そいつはあの『幽霊』どもにしか試したことがなかったが……生きているらしいお前にも通用した。
どうも、こいつはオレが生きている頃から持っていたもののようだな……」
馬鹿な。『記憶』がないというのならば、露伴の『スタンド』は通用しないじゃあないか……
「この空間を構築しているのは、あなた自身」
「……何?」
不意に。露伴と幽霊の男の会話に、鈴の音のような声が転がり込む。
長門だ。
「この『病院』は、オレが作っているものだと……そう言いたいのか?」
「そう。作っているという表現は異なる……
この『病院』は、本来、あなたと同一の存在。あなたの精神から分離した、『記憶』の『怨念』が構築したもの」
長門の言葉に。幽霊の男の表情が、一瞬。僅かな驚きの色を帯びる。
「長門、それはつまり……この『病院』は、この男の『記憶』の『幽霊』だと言うのか……?」
「そう。そして、その『記憶』の怨念が、機関の病院に取り憑き、死者の思念を集め、幽閉している」
本来の『精神』とは分離していながら、『死者を幽霊にし、留まらせる』などという、邪悪であり、強力な存在を創り上げるほどの『怨念』。
一体、それは、どれほどまがまがしいものなのか……露伴には、想像もつかない。
「……『おれ』はそんなことをしていたのか……
なるほど……それで、お前たちは、おれを……おれと、この『病院』を『成仏』させに来たというんだな」
「『精神』はあなたにある。あなたが消滅すれば、『病院』を構築している『怨念』も消滅する。抵抗は、無意味」
「……べつに構わないな。おれの記憶が、何がしたかったのかは知らんが……
今のおれは……お前の言う、『精神』としてのおれは、この『病院』の中で幽霊でいることに、未練なんか一つもありは―――」
……幽霊の男がそう言った、瞬間だった。
露伴たちの眼前に、無数の光り輝くものが降り注いだのは―――!!
ぶぁあああかめええええええ!!!!
読者の保守力は世界一ィ―――――!!
「なッ――――何ィィ――――ッ!!?」
……それが、何なのか! 露伴には、瞬間的には理解できなかった。
ただ、それは。露伴たちの前方の『天井』から、突然現れ。露伴と長門の体にめがけて、降り注いできたのだ。
これは……『刃物』だ! 露伴は、自分の体が切り裂かれた感覚で、それを理解する!
「何だ……ッ!? オレは、何もしていないぞッ!? どうしてこんなところに『メス』が降ってくるんだッ!!?」
叫んだのは、幽霊の男だ。……演技をしている様子はない。男は、突如、露伴たちを襲った『攻撃』に対して、純粋にうろたえている。
『メス』! そう―――それは、無数のメスだった。体を見下ろして確認できるだけでも、十本近くのメスが、露伴の体に突き刺さっている!
「ぐおおおッ!?」
「これは……」
露伴の背後で、長門が呟く。振り返ると……彼女の体にも。露伴と同じように、無数の細い金属が突き刺さっている。
―――まさか!
「ぐッ……『病院』が……! この『病院の幽霊』のほうが、ぼくらを攻撃しているのか……ッ!?」
『精神』とは別離していながら、『病院』に取り憑き、『死者』を集め続ける『幽霊』となるほどの、『怨念』!
その『怨念』が……自らの『消滅』を、拒んでいる―――そして、露伴たちを『攻撃』している!
「―――情報連結を、解―――ッ!」
長門の言葉を遮ったのは。彼女の真横の壁から飛び出した、無数の『注射器』!
細く、鋭い金属の針が、長門の体に突き刺さる……宇宙人とはいえ、肉体があるならば、『痛み』はあるはずだ。そして、その先には『死』がある!
「長門おおッ―――!!」
たまらず、露伴は、体中に金属の雨を浴びた長門に向かって、手を伸ばす―――しかし、露伴に何ができる!?
「待て! ……動くな、動かなければ、攻撃はないんだ!」
不意に。幽霊の男が叫ぶ。
「何……ッ!?」
「……おれが。オレの『怨念』が、お前たちを攻撃しているんだ……
だが、お前たちがオレを『成仏』させようとしなければ、攻撃はしないはずだ!
……分かるんだ、感じるんだ。この『病院』……オレの『怨念』の『感情』が、伝わってくるんだ……
それに……これは、まさか……少しづつだが……『記憶』が、オレに戻ってきている……ッ!?」
別離した『記憶』が、『精神』である、男へと戻りつつある……
それは、つまり! 『意思』と『怨念』が! 別離していたそれらが、再び一つになりつつあるということ――!!
「う……た、頼むッ!! 逃げてくれ……おれの、記憶が!! 『病院』が、オレの意思を使って、攻撃をしようとしているんだ……!!
お前たちを殺すために……だが、何だ!? この恐怖は……お前たちを殺してしまうこと以上に!!
おれにこれ以上記憶が戻ったら……うぐうううッ!! どッ、どうなってしまうんだッ……!!」
露伴は、目の前で。『記憶』が蘇ってゆくことに恐れわななく、幽霊の男の姿を見て―――
そして。頭の中で、全てが『重なり合う』音を聞いた。
「……そういう、事か……!」
……『邪悪な精神』を持つ人間が、『怨念』と『意思』に分かれた『幽霊』となった、その理由。
『記憶』と『精神』を分離させなければいけなかった、その『理由』―――!!
「……人間は、恐怖のあまり……特定の記憶を忘れてしまうことがあるらしいな……」
誰にともなく。露伴は、呟く。
「そうしなければ……『精神』を『保てない』場合にッ!! 人は、『記憶』を『切り離す』―――!!」
体に突き刺さったメスを引き抜き―――露伴は、立ち上がる!
その、瞬間! 露伴の『敵意』を感じ取ったのだろう―――露伴の眼前の床から。金属づくりの『ストレッチャー』が、飛び出してくる!!
岸辺露伴は、それを回避しない―――その代わりに! 自らの―――自らから湧き出した、その『腕』を、ストレッチャーにめがけて振り下ろす!
「"『天国への扉(ヘブンズ・ドア――――)』ッ!!"」
『ヘブンズ・ドアー』――――岸辺露伴の、『スタンド』は!
『精神を持つもの』を『本』へと変える、そのスタンドは―――!!
"『病院の幽霊』の『一部』である、その『ストレッチャー』を、『本』へと変える"!!
「……悪いが、すべて『元通り』にさせてもらうぞ……バラバラになったお前の『精神』も……『お前の行くべき道』も!」
『ヘブンズ・ドアー』の腕は。迫り来るストレッチャーを、『紙』の束へと変えながら―――『幽霊の廊下』の床までを、『殴り抜く』!!
その瞬間、リノリウムの床に良く似た『幽霊の床』に、僅かな亀裂が生じ――――
無数の『切れ目』となり、床を伝い、壁を伝い、周囲の空間へと広がってゆく!
「うおおおおおおおッ―――!? これはっ……これがっ、おれの『記憶』ッ―――!!?」
『本』となった廊下の上で、幽霊の男は呻く。
「ああ、そうだ……すべて書いてあるぜ。お前が何者なのか。
お前が死ぬまでに、何を経験してきたのか―――お前が死に際に、何を味わったのか。
ぼくの能力……『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』によって。心の扉は、開かれる。
お前の心は再び――――『ひとつ』となる!」
『紙』の迷宮となった『幽霊の廊下』が!
その無数の『ページ』が、幽霊の男の体へと引き寄せられてゆく!
「ぐ……ぎゃあああああああっ!! おっ、思い出したァァァァアアア!!! オレはっ! オレが、死んだのは……
オレを『殺した』のはァァァアアアアア――――ッ!!!」
幽霊の男が発する、絶叫を聴きながら。露伴は、『ページ』となった廊下の上に倒れ伏す、長門有希の体を抱き上げる。
『注射器』と『メス』は、既に無い。幽霊の一部であったそれらは、『ページ』となり、幽霊の男へと還っていくのだ。
「やめろおおおおおォォォ!!! オレを殴る……『ゆっくり』と『殴った』アアアア!!
この、記憶はァァアアアア!!! オレに帰ってくるなアアアァアァァアア!!!!」
果てしなく広がっていた『幽霊の廊下』の全てが、『ページ』となり。
幽霊の男の体へと引き寄せられ……やがて。『それ』は、『消滅』してゆく。
「――――言い忘れていたが……ぼくは。この世の『未練』とか何とか言ってないで……
さっさとあの世に行くってのが、正しい『幽霊』のあり方だという意見の持ち主でな―――」
―――
……全てが『消滅』した後。露伴は、『スミレ』のいる、404号室の前に立っていた。
そして……腕の中には、長門有希の体がある。
「……いつの間に、お前が治したのか? ぼくの傷も、お前の傷も」
「そう」
金属の雨の名残りとして、制服のいたるところに、小さな血痕を纏った、華奢な肉体。
露伴が、僅かに体をかがめると。長門はするりと、露伴の腕の中をすり抜け、リノリウムの床の上に降り立った。
「……感謝する」
幽霊などではない、正真正銘の『病院の廊下』で。長門は、露伴を振り返り、呟いた。
「あなたに助けられなければ、私の負傷は、より深刻なものになっていた」
「……例を言っているとは思えない、相変わらずの無表情だな。
ぼくは自分の身を守ろうとしただけだぜ。お前のためなんかじゃあないね」
「そう」
やはり、変わらぬ表情で。長門は、再び露伴に背を向ける。
露伴は、短いため息をついた後、腕時計を見る……面会時間は、とうの昔に過ぎている。
「また、今度」
「ん?」
ふと。長門の呟きが聞こえ、露伴が、視線を腕時計から戻すと。いつの間にか。長門有希の姿は、跡形も無く消え去っていた。
……宇宙人は、瞬間移動もできるというのか。
そう考えた直後。露伴は、自分が当初、『宇宙人』である長門について『取材』がしたかったのだということを、思い出す。
「ちっ……何も収穫なし、タダ働きじゃないか……まったく、この街じゃあろくなことが無いな……」
誰にとも無く、ひとり愚痴た後。露伴は、自らの拠点であるホテルの部屋を目指し、ひとり、歩き出した。
岸辺露伴――
取材終了↓
はい
これで多分台風は完全に通り過ぎます。
何がしたかったって結局露伴書きたかっただけだと思います。
以後続きを待つ作業にもどります。支援どうもあんがとございました。
GJ!GゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥJォォォブッッ!
長門と露伴!ありそうでなかった組み合わせで起こった、衝撃的化学反応!
しっかりと見させていただきましたァァァァァんッ!
最初は「振り返ってはいけない小道」の一種かと思ったら、
予想を二転三転する奇想天外な空間!
職人さん、すげえもの書きましたねー。
いやはや、ハルヒ組のキャラも展開によっては、問答無用に殺っちまうだけの事はあります。
ジョジョはある意味、メインでも(時には主役ですら!)死ぬ時は死ぬような危険な世界ですからね。
こういう世界と融合するという事は、かかわる世界の住人にも危険が迫るという事。
あるものは『覚悟』によって、あるものは『力不足』によって。
そして、あるものは『運命』によって…。
散ってしまった命の物語がありました。
誰かが死ぬからすばらしいという訳じゃありませんが、
死生観がそれこそ『スタンド』のごとく側にいる事を常々感じられる物語が素晴らしいといいたい。
今回の幽霊もそうですけど、死とは人生の幕引きです。
アフターロック内で死亡したハルヒキャラの悲しくとも、意味ある死が良い死に方だとしたら、
死んでも成仏できずに足掻いてるところが、他者に迷惑掛けてる死に様がなんと醜悪な事か。
『普通、そこまで考えて見てる奴はいねーよ』と思ってそうですが、そんな奴がここにいますw
素晴らしい台風を有難う。ジョジョという世界の空気を体現してくれて感謝です。
何かまた、ハルヒとジョジョの世界を構築したいと思ったら、またお願いします。
二度とごめんだと思うなら、共に他の職人さんを待ちましょう。
良き世界をありがとう!GJです!
GJ
まさかのゲsだと……?
誰もいないなー
いますよ。
アナタの背中に
『作品』書いて!
ネッ!ネッ!
……。
ジョジョSSなら書けるが、ハルヒSSは資料不足だ。
俺は一通り「憂鬱」から「分裂」まで読んだに過ぎない。
購入までしてないにわかなんだ。
こんな状態で書けば……「ハルヒ関連」でミスるでしょうね。
このままでは「満足が行く作品」は無理でしょう。
大人しく職人を待ちます。
>>196さん、無敵の想像力で書いてくださいよ〜ッ!
だが断る。
スミマセン。マジで忙しいです。
お前、十分間耐久オラオラ決定な
あと前歯二本抜きの刑な
203 :
afrk:2009/10/14(水) 14:57:13 ID:???
http://imepita.jp/20091014/522760 なんか前にリク貰った気がしたんで台風過ぎし後もしゃしゃってみた
荒木の絵を真似ようとか無茶だと知った
あとケータイのカメラの限界が浅すぎることも知った
役職 − 西宮北高校生徒会 第×代会長
氏名 − 不明
スタンド名 − 『ジェットコースター・ロマンス』
出身地 − 兵庫県西宮市光陽園南2-×−××
好きなもの − チュロス、シナモンティー、黒ビール、テレビゲーム、得をすること
嫌いなもの − 納豆、酒粕、誰かにしろといわれたことをすること、(見返り以上の)苦労をすること
好きな人間のタイプ − 交渉が成立するヤツ
嫌いな人間のタイプ − 交渉が成立しないヤツ、意味もなく誰かに使われているヤツ
好きなスタンド − 『エアロスミス』 … 本体が無駄に走り回らなくていいってところがいい(本人談)
『クヌム神』 … 戦うような人生を送らなけりゃ、最強に便利だ(同上)
嫌いなスタンド − 『キング・クリムゾン』 … 能力はともかく、見た目が我慢できねえ(同上)
『ゴッド・ロック』 … 迷惑、大して強くねえ、本体がうぜえ(同上)
>>191 ありがとうなんか元気でた
二度とごめんどころか、もう2、3個外伝書きたいくらいだぜ
あんまり一本を引っ張るのもアレだと思って迷ってるんだけどどうなんだろう
>>203 GJ。
少なくとも、無理に本編の続編にする訳ではないので、外伝なら2、3本『やっちまえ!』って感じです。
それはそうと『ヤレヤレ』から『やっちまえ』に繋がる掛け声がキョンとマッチして好きです。
他で見た『ダリィィィィ』より好きだ。
>>203 KAKKEEEEEEE!! GJ
そして嫌いなスタンド・ゴッドロックに吹いた。
俺も番外編くらいならいいと思う。スレに活気が出るってやつだ!
第94話 「ジェット 1」
side of アナスイ
「野郎ッ!スタンドを出しやがった!」
車のドライバーは二本の足が四角い箱の側面からのび、箱から巨大な大砲がついたスタンドを繰り出してきた。スターウォーズとかに出てきそうだなあれ。
『そんな呑気な感想を言ってる場合か……それにスターウォーズならあれは………』
「飛び道具主体……だろうなあ」
俺が呟くと同時に敵スタンドの大砲が火を吹いた。
「やっぱりかよッ!ウェザーかわせッ!」
ウェザーが前輪をロックしドリフトをかけて飛んできたエネルギー砲を回避する。なんとかかわした直後、さっきまでいた場所が爆風に包まれた。
「ひええ……地面に穴がいきなり開いちゃいました………」
「あんなもん食らったらひとたまりもねーぞ………」
『真正面から相手をするのは難しそうだな……ここは徐倫達に連絡して挟み撃ちにでもしよう。今は逃げるぞ』
ウェザーの言葉を聞いて電話をかける。が、
「繋がらねーな」
『向こうも敵と戦っているのか?……とにかく俺達で相手するしかなさそうだな』
「ひええぇぇぇぇ………」
「ウェザーッ!奴の車にかましてやれよッ!」
『勿論だ……ウェザーリポートッ!』
ウェザーがスタンドを発動すると、敵の車がスコールのような大雨に見舞われた。
「ふああ……雨で車って動きが止まるんですねえ………」
朝比奈の言葉通り敵のワンボックスカーは道路の真ん中で立ち止まっていた。
『周りのドライバー達には悪いが、トドメといこう……ウェザーリポートッ!』
すると凄まじい突風が街路樹を襲い、耐えきれなくなった木々が抜け始め、車を襲い始めた。
「あわわ……車が串刺しです………」
「ありゃ死んだな……助かっても重傷か………」
が、次の瞬間だった。敵のスタンドが再び現われた。
「んだとぉ!?」
『あれを食らって生きているのか?』
敵スタンドは大砲をこちらに向けると何発か何かを発射した。
「今度はミサイルだッ!かわせッ!」
ウェザーがハンドルを切り、車をほぼ180度回転させてミサイルの軌道をそらす。
『行くぞ、このまま奴の車に突っ込む……多少のダメージは与えられるだろう』
「待てウェザーッ!ミサイルがこっちに戻ってきてるぞッ!」
『何だと!?』
ミサイルをよく見ると何かセンサーのような物がついている。
「追尾式って訳だな……ウェザー、叩き落とせないか?」
『勿論そのつもりだ……ウェザーリポートッ!』
すると雷が後ろのミサイルに落ち、ミサイルが爆発する。凄まじい爆風にあおられ車はスピンして電柱に激突して止まった。
「おい、もうちょいなんとかならなかったのか?」
『黒焦げになるのとどっちがいいんだ?』
「うぅ………」
朝比奈が顔をうつむけて真っ青になっている。どうした?
「………酔いました」
「ここにいろ。どっちみち車の中じゃ不利だ。出て戦う……行くぞ、ウェザー」
『ああ………』
車に朝比奈を残し、道路の真ん中で止まったワンボックスカーに近付く。敵のスタンドは見当たらない。
「ウェザー……近くに動いている奴は?」
『いないな』
「こっちからも……見えません……ウプッ………」
朝比奈も起き上がって車の中から敵を探しているようだ。まあ、程々にな……女の子が吐くのを見るのは相当キツいぞ。
『となると……まだ車の中に隠れているのか?』
「そうかもしれねえ……俺がダイバーダウンで車を攻撃する。援護頼むぜ」
『気をつけろよ』
車に用心深く忍び足で近付き、ドライバー席の扉の側に立つ。
「いるとしたらここだな……ダイバーダウンッ!」
車に潜行させ、中にいるはずの敵を思いっきり殴ろうとした………が、
「いないだとッ!?」
『アナスイッ!後ろだッ!敵スタンドがいるぞ!』
「何ィ!」
振り返るとそこにはさっきの大砲スタンドが俺に照準を向けていた。
「ダイバーダウンッ!」
敵スタンドの巨大な二つの足にパンチを叩き込む。が、少しぐらついただけで大砲の発射を止められそうには無い。
『ウェザーリポートッ!』
ウェザーが竜巻を起こして近くの電柱を倒し、敵スタンドにぶつけた。さすがに効いたらしく、動きが鈍くなった隙に後ろに飛び退く。その瞬間、さっきのレーザー砲が発射され、串刺しにしたワンボックスカーの前半分が消し飛んだ。
「なんつう威力だ……それ以上に奴の防御力もかなりのもんだが」
『あれだけの攻撃を食らっても変わらず動いている……本体へのヒィードバックが小さいのか?』
「ア、アナスイ君……ウェザーさん………」
朝比奈が弱々しい声で話しかけてくる。
「おい、無理すんな………」
「わたし、見ました……トランクです……ウプッ……敵は多分トランクの中に……ウッ……オェッ………」
そう言うと朝比奈は再び車の中に戻っていった。ワンボックスカーを見るとなるほど、後部座席に巨大な穴が空いている。
「あそこからトランクの中に逃げ込んだのか………」
「ばれたのなら仕方がありません」
トランクの中から高めの女の声が聞こえ、トランクの扉が吹っ飛んだ。
「私の名前は八嶋優理香……組織の幹部です」
眼鏡をかけた黒い長髪のパンツスーツを着た女がトランクの中から出てきた。
「自分から出てくるとは良い度胸だな……覚悟はいいか?」
「それは私のセリフですよ………」
To Be Continued・・・
以上、第94話でした
アフターロックさんGJ!俺もこんな話を書きたいです…
外伝投下?かまわん、やれ
それでは!
GJ!
相変わらず、ウェザーリポートは反則的な破壊力だなww
212 :
あふろ:2009/10/16(金) 20:18:28 ID:???
みっくるんがえずくシーンが妙に興奮したのはおれだk
たのしみにしてまう
外伝は多分調子乗って書いちゃいます
アメリカ乙です。
あっちこっちで同時に戦いが起きてる、こういう感じ大好きでわくわく。
つーかアフターロック、普通に絵うまいじゃねえかよおぉぉ!
美術の教師かおめえはよおぉぉ、うお、おう・・・
この際だから小野も見てみたry
乙
215 :
マロン名無しさん:2009/10/20(火) 20:53:51 ID:ZRXZfKkf
ほあげ
アメリカ乙!!
面白いぜ
あとアフターロックの描く絵好きだ
俺もラスボスの小野の絵がみたいぜ
最近見始めたんだが、どうしてウィキのアフターロックのページ、16話で止まってんだよォォォォォッ!!
頼むッ……誰かマジで編集してくれよゥ……! 続きが気になってしょうがねぇorz 勝手だって事は自分でもよ〜くわかっているが誰か頼む……
おかしい。なにかがおかしい。目を覚ました俺を襲ったのは既視感。デジャヴ。
なんか覚えがある、俺はこうやってテレビで甲子園の中継を見てて。
備え付きのビデオタイマーが10時18分に変わる。そう、確かこの瞬間に3番バッターがホームランを打つんだ。
テレビ越しに歓声が上がる。ボールは高く高く上がってゆき、バックスタンドに叩き込まれた。
打者は、三番。……なんだこりゃ、予知能力でもついたか、俺?
次に起こるのは……
自然と携帯に手が伸びる。そうだ、電話がかかってくるんだ、ハルヒ……いや、古泉からか。
狙いすまされたように携帯のコール音が鳴る。
オイオイ、マジで未来予知でも出来るようになったか。じゃあ、電話の主は……
{もしもし、今、大丈夫ですか?}
なんと古泉。本格的に奇妙だな。新手のスタンド攻撃かもしれない。
携帯を耳につけたままセッコの方を見てみるが、セッコはテレビに夢中だ。
アイツが警戒してないって事はその線は薄いか。じゃあなんだこの言いようのない奇妙な感じは。
{少し話があるんですが。いつもの喫茶店まで出て来てもらっても……}
ああ、構わない。このやり取りにも覚えがある。しかも最近だ。どうなってるんだ一体。
「なぁ、キョン。こいつらこの前も戦ってなかったか?」
携帯を閉じて外出準備をしていた俺の袖を引き、セッコがテレビを指しつつそういう。
そんなわけはないだろう。だって甲子園だぞ。シード枠はあっても敗者復活は無い。
「でもよぉ、このピッチャーの投げ方見おぼえがあるし……この後の展開も大体想像がつくんだよォ〜」
知るか馬鹿、そんな事より喫茶店に行くぞ。
「うおぅ?オレ甘いモン食いてェー!!パヘ食おうぜパヘ!!」
いいから黙ってついてこい。
オレの日記抜粋
●月△日
チョコレートパヘうめぇ、マジうめぇ。今度もう一回食べに行きたい。
チョコレート、チョコラート、チョコラータ
チョコラータは元気にやってんのかなァー
今週は忙しかった。全体的に糖分が足りない。
つーか八月が終わらないとかオレ死ぬとかどういう事よ?
いや、八月は終わるよ。時間がループするってこの前の映画じゃねーんだからよ。
タイムウェイトフォーノーワンってやつだ。あの女優可愛かったなァ……
あと、オレが死ぬわけねーだろ。殴るぞナガモンこのやろー!
死ぬのは俺に対峙した奴らだ、これはイタリアでもこっちでも変わるこたぁねぇ。
それにプッチやらキョンやらがいんのにそうそう簡単に死ぬかよ。
あのふわふわヤローはボコボコにしておいた、俺を馬鹿にした当然の報いって奴だ!
まさかハトや犬に命を救われるなんて思っても見なかった
角砂糖はやれねぇけど今度豆やるよ、豆。
あとあれだ。チョコラータが実験に使おうとしたら三回だけ守ってやる。
act16-終わらない夏休みの終わらせ方
「すみません、こんな時間に呼び出してしまって」
喫茶店に着くとそこにはハルヒを除いたSOS団メンバーがそろっていた。
ハルヒが居ない、と言う事はやはりアイツの事なんだろうなぁと想像がつく辺り、人間の慣れの偉大さを感じる。
「しかし私まで呼び出すとは……ただ事じゃないって事か」
「オレなァ……オレなァ……コレ!!この『チョコレートパヘ』って奴食いてェ!!」
嬉々としてメニューを見つめるオアシスを脱いだ素の状態のセッコの隣で、ブラックコーヒーを飲みながら神父が呟く。
確かに、神父まで呼び出すって言う事はこれまでにない事態だ。
今まではハルヒが勝手に呼んでいただけで、SOS団の意思は全く働いていなかった。
しかし、今回呼ばれたという事は……
『神父が何者か分かった』上で、『神父の力を欲している』という事だろうか。
でも神父は立派に能力を隠しきっている。気付かれるはずは無いはずだが……
「その事については、長門さんから聞いて下さい」
場の主導権は長門に移り、しばらくパフェを待つセッコの声だけが俺達の空間に響く。
そして、チョコレートパフェが届き、セッコが静かになると同時に長門は重い口を開いた。
「これから話す事は事実。本来は私が話すべきことではないが『前回の世界』に置いてイレギュラーが発生したため独自の判断に基づいて観察状態から対象の護衛へと移行し、ここで彼女に変わり協力を要請する」
……あー、言いたい事がさっぱり分からんのだが。
「信じて」
信じても何もいきなり呼びだされて前の世界がどうとか護衛がどうとか言われてもどう反応すればいいか分からないだろ。
『前回の世界』って言うのはあれか、新しいスタンド能力かなにかか?
それとも平行世界を作り出したハルヒが俺達の記憶を消してそっくりそのまま昔の通りにこっちに持ってきたとか?
「護衛というのはつまりハルヒ君を守ればいい、と言う事でいいのかな?
……しかし、一介の神父である私程度に出来ることなどたかが知れているんじゃあないかな」
神父はあえてその正体を隠して探りを入れている。どうも俺と同じ事を考えていたらしい。
どこで知られたのか、場合によっては他の人にも見られているかもしれない、と。
「…………」
長門は黙り込み、神父、俺、セッコの順に視線を動かし、衝撃的な事実を口にした。
「このままでは、貴方達三人は…………『死ぬ』」
……今、なんて?
「エンリコ・プッチ。スタンド名『ホワイトスネイク』。相手の特殊能力と記憶を奪う事が出来る」
長門は答えない。
「セッコ。スタンド名『オアシス』。物質を泥に変える能力を持つ」
「そして貴方の能力は『フー・ファイターズ』。水中に微生物を作り出し、それを操る」
神父の目とセッコの目が嫌な色に煌めいている。
この眼はこいつらの本性だ。最近は色々あって押さえつけられていたが、腹の下まで変わるわけじゃない。
「ドコまで……知ってンだァ……?エェ、ナガモンよォ〜〜〜?」
なんだそのデジタルなモンスターみたいな名前は。長門だ。そこは間違えてやるな。
「誰から聞いたかは知らないが、知っているわけだな。私たちの事を」
神父の顔からは微笑みが消え、威圧のためかどうかは分からないがホワイトスネイクを出していた。
俺も出来る事ならF・Fを出してホワイトスネイクを牽制しておきたかったが、あいにく俺のF・Fは微生物なので実体を持っている。
ここで怪物騒ぎを起こすわけにもいかないので、烏龍茶に口を付けるふりをして『F・F』を数体作って潜ませておく。
こうしておけば万が一の場合に対処は出来る。烏龍茶は冷たくて増殖させやすい上に色が濃いのでちょっとやそっとでは見抜けまい。
「私には何のことかは分からない。ただ、『前回の世界』で死ぬ前に貴方達が話してくれた。
『スタンド』と呼ばれる能力について。セッコやエンリコ・プッチの素性につ」
そこで長門の言葉は途切れた。いや途切れざるを得なかった。
まさに一瞬の出来事。
神父の後ろに立っていたはずのホワイトスネイクが長門の後ろに現れ、両の手で長門を挟んで座っていた古泉と朝比奈さんに当て身をかまし。返す左手で長門の頭からディスクを抜きとったのだ。
すかさず俺は神父の襟首目掛けて飲みかけの烏龍茶をぶちまける。
すぐに潜ませておいたF・Fを急増殖させ、人間のような腕を作り、神父の首に手を掛けさせる。この速さと正確さも神父たちとの練習のたまものだろう。
何を考えているのかは知らんが、いったん落ち着いて長門から抜き取ったものを返してもらおうか。
いくら経験の差があるとはいえ、この状態なら首骨バキ折れは免れないと思うし。俺はできればアンタに手を上げたくない。
「『落ち着いてくれ』?……私はいたって冷静だよ。ああ、素数を数える必要もないほどにね。
落ち着くのは私ではなくキョウ君の方だろう?そして……」
俺が首にかけている手に力を入れるよりも早く、ホワイトスネイクが机の上にあった飲みかけのホットコーヒーを神父の首元に向けて打ち上げた。
微生物って奴は難儀なもんで、熱菌消毒って言うのがあるように、特定の温度以上では生きていく事が出来ない。
それは俺のフー・ファイターズだってご多聞に漏れない。
ホットコーヒー程度では死滅しはしないだろうが、それでもへばりついていた手を傷つけ緩めるには十分だ。
そう言った緩みを神父は見逃さない。すぐにF・Fは首からはぎ取られ、手刀で叩き潰されてしまった。
「『二手』遅れたな。長門君を心配し、私を殺す事を戸惑った。だから……」
返す刀で俺の首筋にホワイトスネイクの手が触れる。
「死ぬ事になる」
そのまま、ホワイトスネイクの手は縦一線を描き俺の頭からスタンドディスクを……
「と、言いたいところだが、喫茶店で一悶着起こす気は無いんでね……少しだけ静かにしていてもらうよ」
抜くようなことは無く、首に手を突き付けたまま、長門のディスクをいじり始めた。
「もともと長門君に危害を加えるつもりはない。何処で『スタンド』の知識を手に入れたか、ちょっと調べさせてもらうだけだ」
……ああ、成程。つまり神父は長門から聞くよりも長門の体験したことを『見』た方が早いと思って、記憶を抜いたのか。
つまり、俺の早とちりだったって事か、なんだか恥ずかしいな。
しかし古泉や朝比奈さんを気絶させる必要があったのか?
「いくら君の仲間だからと言って、スタンド能力について知っている人間は少ないに越したことは無い。私のような能力なら尚更だ」
神父はそう言うと、頭に一気にディスクを突きさした。
こればっかりは何度見ても慣れるもんじゃないな。異物が頭に突き刺さってるわけだし。
「で、プッチ。何が見えんだァ〜?」
テーブルに備え付けの角砂糖をつまみながらセッコがつまらなそうにつぶやく。
こいつにとってはあまり関心を引かれるものではないらしい。
「…………なんだ、これは」
ボソリ、と小さな声。いつもの神父らしからぬ、焦りが含まれている。
「そんな馬鹿な事が……23……何が起こってるんだ……29,31,37……」
「オイオイ、何が見えるんだって聞いてんだよォーーー!!」
次の瞬間、神父の口から飛び出した言葉は、俺達の『どこかでバレた』という想像をはるかに超えた者だった。
「長門君には……『これから起こる未来の記憶』がある……いや、それじゃ正確じゃあない……
彼女は……信じられないが、『今日から二週間』を少なくとも此処一か月繰り返しているッ!!」
to be continued……
224 :
セッ子:2009/10/21(水) 12:47:52 ID:???
やあ、きょうもいじょうなほどげんきなせっこだよ
ちょっとごたごたしてて投下が遅れて申し訳ない
ようやく折り返しなのに……失速とか……
さて今年もそろそろ投下祭り(大晦日、正月)の季節です
参加者募集中!
投下したいけど恥ずかしいって人や、昔投下してたけど最近投下してなくて復帰のタイミングを見計らってるって人
外伝書きたいってあふろの人や新作書きたいってあふろの人
自薦他薦は問いません、奮ってご参加ください
業務連絡
wiki編集は少々お待ちを……
新wikiとかどっすか?
それでは、拙い文章ですが何かあれば
セッ子キター(゚∀゚)ー!!
乙乙乙
投下乙
キョンもだんだん荒事に慣れてきてるな
これならその内、イタリアのギャングに入団できるぞwww
227 :
あふろ:2009/10/21(水) 20:29:10 ID:???
セッ子きたあああああああ乙です
セッコ好きだからなんかしたかったんだけど思いつかんかった俺にはセッ子は神です><
フーファイをFF以外が使ってるってなんかすごく新鮮でwktkしてます。
長門がエラらないエンドレスエイトクルー?
それにしてもセッコとプッチが同時に味方サイドって改めて考えてみるとケイオスwwwww
そんなカオスを構築させてるセッ子はやっぱ凄いです。
あと関係ないけど嵐のように投下してWIKI編集手間取らせてすいません。ちょいちょいづつで構わないので……ご容赦ください。
あと続きまとめ待っててくれてる人すいません。でも前スレのログ拾えば、このスレとあわせて今まとめに上がってるのから先見れると思うんで許して
あと外伝1の幽霊がゲスラータなのに気づいてくれた人居てくれて安心しました
んで大変申し訳ないんですが今日か明日にまた外伝投下します。
前後編とかなにてめぇって感じですけどとりあえず前編を。いやほんとさすがに今回でアフターロック関係は最後だと思うんで許してください。
228 :
あふろ:2009/10/21(水) 20:31:21 ID:???
229 :
あふろ:2009/10/21(水) 21:00:13 ID:???
そして宣言どおり外伝U、前編投下させていただきます。
例によって長いんですいませんがお邪魔します!
兵庫県・西宮市・光陽園。
俺が生まれ育った地であり、ご存知、涼宮ハルヒの生まれ育った地でもある、この街に。
今年の初夏、まるで冗長すぎる台風の如く、終わってみれば短く、激動たる『事件』起きていたことを知っている人間が、はたしてどれほど存在するだろうか。
大通りでの突然の銃撃事件や、中央街のデパートの謎の停電。犯人不明の怪殺人事件など、その片鱗をまばらに見知っているものは多くいるだろう。
しかし、それらが全て、ある大きな事件から派生して発生したものである。という事を知っているのは、おそらく、数えるほどしかいない。
そして、俺もまた。その、数えるほどしかいない、あの事件の全容を知っているものの一人……というか、その事件の中心人物である。
で。おそらく、今、この俺の独白を眼にしている方々は。その『事件』の概要を把握しているだろうと思う。
そして、それはつまり、その人々は、『涼宮ハルヒ』がどういう存在であるかもわかっている。それを前提として、あなた方に一つ、話したいことがある。
涼宮ハルヒが、やつの知らぬ間に起き、去っていった、あの事件の期間中。
『おとなしく』していたと、あなたは思うだろうか?
自分で質問しておきながら、答えをさっさとばらさせてもらう。
イコール、『NO』である。
やつは。あの怒涛の『スタンド事件』の傍らで。
ちゃーんと、俺たちを困らせるという責務をこなしていたのだ。
今だから、他愛のない回想で済ませられる、そのいざこざを、これから、語りたいと思う。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
外伝 『キャット・ア・スペクタクル@』
時に。あなた方は、『スパイダー』の『菅原正宗』を覚えているだろうか。
小野によって矢の洗礼を受けた、『毒』を操る『スタンド使い』。
やつはおれたちの不思議探索の隙を狙い、学校に現れ、たまたまその場に居合わせた鶴屋さんと会長を退けた。
しかし、最終的には、なんやかやで、偶然遭遇した朝比奈さんのスタンドによってフルボッコにされた、北高の体育教師である。
奴が現れた週。俺たちは、その他に、二人の『スタンド使い』の攻撃を受けていた。
一人目は、火曜日の放課後。俺と会長の前に、『矢』の力に支配された『榎本美夕紀』さんが立ちはだかった。
二人目は、その翌日。『観音崎スミレ』のスタンドにより、俺たちの仲間が数人、『夢の世界』へ引きずり込まれる事態となった。
そして、これから語る物語は、その、二日後。金曜日の放課後。
今思えば、その日の昼休みの時点から、『事件』は首をもたげはじめていたのだ。
――――
「ねえ、あんたんとこにさ、『シャミセン』預けてあったわよね。今でもちゃんといる?」
弁当箱を鞄から取り出し、席を立とうとした俺の背に。不意に、ハルヒの言葉が飛び掛ってきた。
「急に何だ? そりゃいるさ、病気もせん、元気だぜ。相変わらず、触らんと枕と間違えそうなほど寝てばっかだがな」
「学校につれてくるのは難しいわよね」
藪から棒に突拍子もないことを言い出すのは、こいつの得意技だ。驚くほどのことじゃあない。
しかし、今日に限っては、ハルヒのその発言に、俺は完全に意表を突かれた。
何故なら、ハルヒは。昨日、木曜日の朝から、日ごろ惜しみなく振り撒いている覇気は成りを潜め
なにやら夢うつつに虚空を見つめたり、憂い気にため息などを漏らしてみたりと、本調子でない様子を見せ続けていたからだ。
本来なら、いったい、ハルヒに何が有ったのかと、奇妙がるべき事態である。しかし、何を隠そう、俺はハルヒがセーフモードとなった、その原因が何であるかを知っているのだ。
それは、一昨日……つまり、水曜日の放課後。ハルヒの中では『夢』として処理された、『別世界での冒険』の記憶に起因すると考えて、まず間違いない。
七年前、狂った父から受けた暴行により、姉を失い、自らもまた、幼い精神と肉体に、根深い傷を負った少女、『観音崎スミレ』。
その少女が『矢』を受けた事によって、発現したスタンド、『ラ・ドゥ・ダ・ディ』。
スミレの夢へと、周囲の『スタンド使い』を引き込むスタンド……だったか。
そして、夢の世界に巻き込まれたものは、本体であるスミレが目覚めるまで、決して現実世界で目覚めることはできない。
一昨日。ハルヒはその世界へと迷い込んでしまった。そして、どのような手段でかはわからないが、夢の中のスミレと出会い、彼女を七年間の眠りから目覚めさせたのだ。
「別に部室にこっそりつれてくるくらいなら、無理ってほどでも無い気もするが……ありゃあ暴れまわるようなタイプじゃねーしな。
しかしいきなりどうしたってんだ? ネコが恋しくでもなったのか?」
「フゥー……んー、昨日、なーんか気分がパッとしなくて、寝る前にネット見てたらねぇ。ネコがすごいいっぱいいる動画? みたいのみっけてね……」
低血圧の成人女性のような口調で、くたくたと言葉をつむぐハルヒ。
「なんかさー、いいなーと思ったのよ……ネコいっぱいに囲まれるのとか」
「うっとうしいぞ、んなの。テンションについていけんだろ」
「うん。そうなのよね……ノラとかって、結構気ままだし。
なんていうか、人になれてるネコ。あたしに慣れてるネコね。そういうのと、だらーっとしたいなーとか思って」
物憂い気な仮面の下で、んなどうでもいいことを考えていたのか、こいつは。
いや、それより。だらーっと、ぐだぐだ……なんてのは、普段のハルヒが最も鼻をつまみたがる類の物事ではないか。
「有希のマンションとこのノラの溜まり場って、今でもあるのかしら……行ってみよっかなあ」
「……ま、シャミセンに触りたけりゃ、いつでも触らせてやるよ」
「ん」
自分に慣れてるネコと、だらーっとすごしたい。
……いったい、あの夢の世界で何があったのかは知らんが。やはり、あの日以降、ハルヒは……そう。言ってみれば、かなり参っているようだ。
何、大げさすぎるって? しかしよ。あの『涼宮ハルヒ』が。あろうことか、ありきたりな『癒し』なんてのを求めているんだぜ?
涼宮ハルヒの生態について、他人よりも数ページ分ほど詳しい者であると自負する俺に言わせるなら、それは十分過ぎるほどに異常なことである。
自らの机から動かず、ぼんやりと窓の外を見つめるハルヒを残し。俺は、昼食を共にする予定であった友人二人に断りをいれて、ある場所へ向かった。
それが『どこ』であるかの説明は、必要ないだろう?
当然、『部室』だ。元文芸部室、現在、SOS団の本拠地である、その部屋へ。何のためか? 当然、この異常を、古泉や長門の耳に入れておくためだ。
――――
「あれ」
数分後。俺が部室のドアを開いた時、室内には誰の姿も存在しなかった。
妙だ。昼食時の休み時間には、大体の場合、長門か古泉あたりが、この部室に居るはずなのだ。
特に、この『スタンド事件』が勃発してからというもの、俺たち『スタンド使いの団』が、校内に居る間の『基地』になりつつある。
もしも『敵スタンド使い』なんかが現れた時、対応できる面子が、一箇所に集っているのは、色々と都合がいい。
そんなわけで、近頃は朝比奈さんも、更には鶴屋さんまでもが、特別大事な用でもない限りは、この時間をここで過ごしてくれているのだ。
携帯電話を取り出し、時間を見る。既に、午前の授業が終わってから十分ほどが経過している。来るのが早すぎた、というわけでもないだろう。
まさか、古泉や長門に、何かがあった……とでもいうのだろうか。
「……電話してみるか。まあ、ハルヒが妙だ。ぐらいの短い話、電話でだってできるだろうしな」
俺は、時刻確認のために取り出した携帯電話の文字盤を弄くり、古泉の連絡先へ電波を繋ぎながら、何とはなしに、いつもの自分の席に座ろうとした。
その、瞬間だった。
「ミャァオウ!」
「うおっ!?」
……一瞬。何がおきたのか分からなかった。
席に着き、電話を耳に押し当てようとした、俺の右腕に。白い何かが、飛び掛ってきたのだ。
同時に聞こえた鳴き声―――俺の常識観念に基づいて判断するなら。
それは―――『ネコ』の鳴き声だった!
「なんだっ、『ネコ』ぉッ!?」
下ろしかけた腰を上げながら、俺は周囲を見回す―――すると。長門の蔵書が所狭しと押し込まれた、本棚の足元に。
一匹の、灰色と白と黒をまだらに塗りたくったかのような、細身の『ネコ』が立っていた。
体はそれなりにでかいが、筋肉質で、うちのシャミセンとは正反対の体付きをした、黒目のネコだ。
「な、何で部室にネコがいるんだッ? まさか、ハルヒのやつがどっかから捕まえてきたんじゃぁねーだろうな……」
「ニヤァオウ」
ネコは、どうやら、俺の向かいの席から飛び出して、俺の腕を掠めていったらしい。
上半身をこちらに向け、俺をまっすぐに見つめるそのネコは。何かを『咥えている』―――!
「! てめえ、おれの携帯をいつの間に……こら、返せ!」
「ニギャア!」
俺がそのネコに向かって、手を伸ばそうとした瞬間―――ふと。俺の視界に、異変が現れた。
『視点』が落ちていくのだ。一瞬、俺は、ネコに飛びかかろうとしてバランスを崩し、転んでしまったのかと思う。
しかし、違う。足が地面から離れた漢字はしない―――ただ、目の前がどんどん『低く』なってゆく!
「な、何だ!? まさか、『スタンド攻撃』―――」
「落ち着いてください!」
みるみる内に低くなってゆく視界に、奇妙さを憶え、俺がそう呟いた瞬間。
俺の目の前で、よく聴きなれた男の声がした。
これは……『古泉』の声だ。なぜ古泉の声がするんだ? 俺は、声が聞こえた方向へ眼を逸らす……
しかし、そこにあるのは。先ほどの『ネコ』の姿だけだった。
ネコの顔が、俺の視点と同じ高さに在る―――
妙だ。なぜ、地面から数センチの位置にあるこいつの顔が、俺の『目の前』にあるんだ?
俺は転んでいない。ちゃんと、四足で地面に立って……
「……よかった、間に合いました。しかし、やはりあなたも『なって』しまいましたか……」
! ―――ネコの口が開閉すると同時に、先ほどと同じ、『古泉の声』が発せられる。
なぜ、ネコが古泉の声で、しかも『人間の言葉』を話している? ―――まさか!
「お前……お前が『古泉』なのか!? 今、俺の眼に前にいる、お前が! この、『ネコ』がッ!?」
「……分かっていただけましたか。ええ、その通りです。ぼくが『古泉』なんです」
ネコが言う。間違いない……その口ぶりも、声も。間違いなく、古泉のものだ。
なぜ、古泉がネコになっているんだ? まさか、こいつも『スタンド攻撃』か?
と、言うことは―――
「げっ……なんっだこりゃぁ――ッ!? おれが、『四足』で立ってる! 毛むくじゃらの手足で!
まさか、おれも『ネコ』になっちまったのかッ!?」
「そのようですね。おそらく、この部室に入ったものがこう『なって』しまうのでしょう。
十中八九、『スタンド攻撃』だと思います。貴方がここに来たことで、その予測に裏付けもできた。
『スタンド』を感知したんでしょう?」
……なんだって?
ちょっと待て。俺は『スタンド』を感知なんかしていない。
念のためにと、ここまで来る道中で、『ゴッド・ロック』を出して調べたが、そんなものは一つも感じなかったのだ。
「まさか、そんなはずがない! 敵はおそらく、この部室に『罠』を仕掛けたんだと思っています。
『侵入したものをネコにする罠』です。そうでもなければ、この状況に説明がつきません!」
「いや、間違いないんだ! おれは『渡り廊下』の時点で、周りに『スタンド』の気配がないか、確かに調べたんだ!
この部屋に『スタンド』の罠があったとしたら、間違いなく気づいてるはずだ、だがそんなのは感じなかったぜ。
この部屋だけじゃない、学校中のどこにも『スタンド』の気配なんざ、これっぽっちも感じなかった!
ほんの一分かそこら前の話だ、そのときにはもう、お前はここで、今の姿になってたんだろ?
それに、今だって、この部室から『スタンド』の気配なんて感じやしないぜ……」
と、言った後で。俺は一つ、よくない『もしや』を思いつく。
「まさか、『ネコ』になっちまった今のおれたちは、『スタンド』が使えないなんてことはないだろうな」
俺の質問に対して返ってきたのは、『言葉』ではなかった。
古泉ネコが、僅かに眼を細めると同時に。俺の背筋に、『スタンド』の反応が走る。
そして、直後。
「ギャッハァー!」
「……この通りです。自分が『ネコ』になったと気づくよりは前ですが、体が小さくなってしまったと気づいたとき、最初に試しましたが、問題なく『出せ』ます。
ただ、今のぼくには、こいつを『持つ』ことは難しいのですが」
古泉ネコの背から飛び出した『セックス・マシンガンズ』。それがいつもよりも遥かに巨大に見えるのは、俺が小さくなってしまっているからだろう。
空中に飛び出した銃器型のスタンドが、ゴトリ。と、重い音を立てながら、部室の床の上に落ちる。
「アギャ! イッテェーナ!! 『ネコ』がナオッテネエナラヨブンジャネェーヨ、コイズミ!」
「こいつの反応は、問題なく感じられますか? あなたの『スタンド能力』で」
「あ、ああ。感じたぜ、おれが意識する前に、お前が『マシンガンズ』を出そうとした瞬間から、問題なく感知できた。
しかしよ、やっぱりこの『部室』からは何も感じないぜ……その『マシンガンズ』の反応以外にはよ」
「そうですか……しかし、『スタンド攻撃』でないのなら、いったい、この状況は……」
……それについては。この異常事態の原因が『誰』であるか、俺は今の時点で、なんとなく想像はついている。
近頃ご無沙汰だったもんで、すっかり忘れていたし、其れは古泉も同じのようだが……
いるじゃあねえか。俺たちの傍には、『スタンド』以前の問題で、とんでもない『異常事態』を量産する、核兵器級の問題児が。
――――
「涼宮さんが、そんなことを……なるほど、それなら話のつじつまは合うかもしれません。
つまり。彼女に対して従順な『ネコ』を、涼宮さんが望んだことで。『彼女に従順である』という条件を満たすぼくたちが、『ネコ』になってしまった」
床に腹を預け、足を折りたたんだ体制で、古泉ネコは言う。
「いえ、もう少し言えば。彼女が求める、理想的な『自分に慣れた存在』というのが、ぼくらが彼女に接するあり方に直結したのでしょう。
ただ従順なネコを求めただけならば、そこらのノラネコが、彼女への好意をぶら下げて、彼女の元に集うだけでいい。
しかし、今、彼女が求めている『ネコ』というのは、外見のみの感覚なんでしょうね。いくら人間に慣れたって、所詮ネコはネコだ。
ネコは彼女の都合に合わせてくれやしません。どれだけ人に『慣れて』いようと、彼らは自分にとって居心地がいい人間に『慣れて』いるだけです。
彼女が求めているのはそれではない。『ネコの姿の、自分を理解し、心地よい距離に居てくれる存在』なんでしょう」
なるほど。その結果、あいつの事を『理解している』と、あいつが思っている対象が……
「このように、人の心を持ったまま、ネコになってしまったということでしょうね」
「……この部室に入った途端に、そいつが発動したのは、どういうことなんだ?」
「彼女は、『ここ』で、そういった『ネコ』らと戯れることを望んでいるのでしょう。
彼女にとって、もっともリラックスできるスポットといえば、この『部室』なのではないでしょうか」
……色々と言いたい事はあるが、とりあえず、もう一つ。
「あいつの能力は、『スタンド』のはずじゃなかったのかよ。それなら、おれが感知出来ないはずがない」
「ふむ……たとえば。ぼくは彼女のスタンドによって、能力を授かりました。しかし、それはスタンドではない。
この事態も、彼女のスタンドそのものによるものでなく、そこから派生した、別の概念の元に発生しているのではないかと。
この『学校』自体が。彼女の願望に反応し、この事態を引き起こした」
「すまん、何だって?」
「ぼくが彼女のスタンドによって、スタンドとは別の能力を身に着けたように。
この北高そのものが、彼女の願望に反応し、それを実現させる、『スタンドではない力』を持った、パワースポットとなっているんです」
「……あいつには『しもべ』が多いんだな」
「そのようですね。……しかし、これは少し困りましたね。『敵スタンド』が現れたわけでないのは安心しましたが、状況は依然、変わる事無く、非常事態であることはたしかです」
ふと、時計を見上げる。……昼休みは、あと十分で終わっちまう。しかし、この姿のまま授業になど出られるはずもない。
「どうすりゃあ元に戻るんだ。あいつの望み通り、放課後、あいつを囲ってやりゃいいのか」
「それが手っ取り早いのでしょうが、さすがに彼女も奇妙に思うでしょう。午後の授業にあなたが出ていない事にも気づくはずです。
そのうえ、ぼくと長門さんまで団活に現れず、代わりに僕たち……『ネコ』が居るという状況は」
そりゃ、奇妙どころの騒ぎじゃないな、確かに。
って、ちょっと待った。
「長門がどうしたって?」
「ああ、そうだ……長門さんは、別件で用事があるそうで、今日は欠席しているんです。
どうも、先日の涼宮さんの『スタンド発動』以来、この街に奇妙なゆがみが発生しているとか、そのように聴いています」
長門がいない。……こいつは、かなり痛いんじゃあないか?
これまで。『スタンド』がらみではない、ハルヒによるごたごたを治めるのに、最も活躍してくれたのは長門の能力だ。
原因を『スタンド』でブチのめせばいいという問題でないこの状況を、長門落ちの俺たちで、解決することができるだろうか?
「……で、まずどうするべきか、予定はあるのかよ」
「……『正午以降、ぼくらに、偶然別々の急用ができてしまい、今日は涼宮さん以外、全員欠席』。
少々強引ですが、とりあえず、涼宮さんと接触することは避けるべきです。
しかし、全員、無断で、突然欠席。というのはまずい。人づてでもいいから、断りを入れておきたい」
「しかし、今のおれたちには、書置きだってまともに残せそうにないぜ……
『ゴッド・ロック』なら、書置きの一枚くらい、なんとか書けるかもしれんが」
「ええ、ですが、やはり人づてのほうがいい。ですから、ぼくは誰かに連絡をしようと思ったんです。
ですが……ぼくの『携帯電話』は、ネコになる際に、手元から消えてしまって、その連絡が出来なかったんです。だから、仕方なく、誰かが来るのを待っていました」
電話が消えた、だって?
「……なるほどな、そういや、おれたちがネコになっちまっても、『服』が残ったりしてないな」
「身に着けているものごと、ネコの姿に変えられてしまったようですからね。だから、あなたが『ネコ』になる前に、携帯を奪ったのです。
そして、なんとか、携帯を確保できました。これがあれば、外の人に連絡ができます。
しかし、まずい、休みが終わってしまう……早く連絡しなければ」
「おい、ちょっと待て。おれたちの声は、ネコでない奴には、ただの鳴き声にしか聴こえないんだと思うぜ。
さっき、ネコになっちまう前、お前が何か言ってたけどよ。おれにはネコが鳴いているようにしか聴こえなかったんだ」
「ええ。ですから、『スタンド』で会話します。連絡する相手は……スタンド使い、それも、ぼくの『マシンガンズ』の声を知っている相手だ。
こいつは大概頭はいかれていますが、『スタンドで、電話の向こうのスタンドの声を聴け』と、電話で喋らせるくらいは出来るでしょう」
「オイ、ンナコターイイカラヨ! サッサトオレヲモドセヨ、コイズミ! ユカノウエニコロガシテンジャネーヨ!」
……出来るか? こいつには、少しばかり長すぎる気がするが。
「涼宮さんにぼくらの伝言を伝えてもらい、同時に、朝比奈さんに、部室へ来ないように伝えられる相手。
それなら、『鶴屋さん』がいい。彼女なら、どちらも自然ですからね……くそ、ネコの足じゃあ、うまく携帯を操作出来ない!
あなたの『スタンド』で、携帯を操作できませんか?」
「あれの指も大概太いが……『ゴッド・ロック』!」
現れた『ゴッド・ロック』を見上げる……当然、その体躯は、いつもにも増して巨大に見える。……俺は今、体長何cmなんだ?
まあいい、とにかくだ。
「よし、おれの携帯を操作して、鶴屋さんに電話してくれ! ……ちなみに、やり方はわかるよな?」
あ、うなずいた。ネコと化した俺をちらりと見下ろした後、『G・ロック』は、床に落ちた携帯電話を拾い上げる。
どうやら、問題はなさそうだ。鶴屋さんに通じたら、『マシンガンズ』の口の前に携帯を近づけて、その声を聴かせればいい。
―――しかし。俺たちの傍にしゃがみこんだ『G・ロック』が、携帯電話のモニタを見ながら、指を動かし始めた、その瞬間―――!
「―――! 古泉、まずい、『スタンド』だ!」
「え……なんですってっ?」
俺が叫ぶのと同時に。『ゴッド・ロック』が立ち上がり、両こぶしを握り締め、周囲を見回す。
……『スタンド』だ。目の前で転がっている『セックス・マシンガンズ』のものじゃあない。
この部室の近く、校舎内のどこかで、『スタンド』が発動した!
「『敵スタンド』かもしれねえッ! あまり覚えがない『スタンド』の気配だ!」
「なっ……こんな時にッ!?」
古泉が体を起こし、体毛を逆立てながら、周囲を見回す―――!
……そして、次の瞬間。
「えっ……? あ、あれ……?」
……古泉のすぐ左隣に。その人が、現れた。
背後に、白く、細い体躯の……『スタンド』を携えて。
「―――朝比奈さんんんッ!? な、何であなたが、此処にいるんですかッ!?」
「え、ね、ネコ……? あ、あれ、どうなって……あたし、古泉くんのところに『ワープ』したはずなのに……」
『ワープ』ッ!? そう言えば――俺の脳裏に! 実際には見たことがないが、話にだけ聞いた―――『朝比奈さん』の『スタンド』の能力が過ぎった!
―――"『顔を知っている人間』の、『左隣』に『ワープ』する能力"!!
今感じた『スタンド』の反応は、朝比奈さんのスタンドだったのかッ―――!? くそ、この反応は、水曜日に既に感じてあったはずなのに……いや、それよりもッ!
「今! この『部室』に『ワープ』してきちまったら、あなたまで―――!!」
「へ、はれ? ……あ、あれ、どうなって……な、何ですか、これ!? あたし、縮んでるッ―――!?」
……時、既に遅し。
その光景は、あの『ネオ・メロ・ドラマティック』によって、『少女』の姿にされた『会長』が、男性の姿へと戻ってゆく様と似ていた。
彼女の体が、身に纏っている洋服ごと、デジタル映像のように変化して行き―――やがて。俺たちと同じほどの大きさの、上品な『白ネコ』の姿となった。
「……え、な、どうして……ど、どうなっちゃったんですか、あたしっ……えええっ!?」
「―――だ、大丈夫です! 朝比奈さんが『ネコ』になってしまっても、とりあえずは問題はありません! 早く、鶴屋さんに連絡を―――!」
「えっ、え、その声、あれ、ネコが喋って……え、ええええ!?」
―――そうだ! 状況は変わってない! 『敵スタンド』は居なかった! 今するべきなのは―――鶴屋さんに連絡をして、ハルヒに、俺たちの欠席を伝えること!
そのために、『ゴッド・ロック』は携帯電話を―――!?
「――――うがああああァァァ―――ッ!!? ごっ……『ゴッド・ロックゥ―――』ッ!!
お前……おれの『携帯』を……『手に持っていたおれの携帯をどこにやった』んだよォォォォ!!?」
「…………」
……ガシャン。
『ゴッド・ロック』が、握り締めていたこぶしを開くと……その中から、いびつに折れ曲がり、へし折れた、機械のようなものが落ちた。
ああ―――見覚えの在るストラップ。こいつは間違いなく―――『俺の携帯』だァッ!!
「なっ……何やってんですか、あなたはァァ―――ッ!? ぼくらがこの姿で学校内をうろつくのはまずいんですよッ!?
唯一の外への連絡手段をッ! なんで『ブッ潰し』てしまってんですかッ!?」
「仕方ねーじゃねェーか!! いきなり覚えの無い『スタンド』を感じたら、誰だって警戒するだろうがァ―――ッ!!
朝比奈さんの『スタンド』の気配は、まだ覚えるほど感じたことが無かったんだよ、悪いか畜生がァァァー!!」
「……な、ど、どうなってるんですかッ!? なんでネコがキョン君と古泉くんなんですかァ―――ッ!?」
――――
……さて。時は既に、五時限目に突入し、校内が静まり返った頃。
我々『ネコ』三人は、部室の床の上で、顔を突き合わせている。
「……授業時間なら、ぼくらが校内をうろついても大丈夫でしょう……多分、ですが。
誰にも見つからないよう、鶴屋さんの教室まで向かい、彼女にしかわからないような合図を送ります。
『スタンド』を使えば難しいことではないでしょう。三年には、スタンド使いは、鶴屋さんと朝比奈さん、それに榎本さんと会長の四人しかいません。
廊下でマシンガンズを喚かせれば、彼女は異常を察知し、様子を見に来てくれるでしょう」
どうにか、朝比奈さんに現状を把握してもらった俺たちの次の作戦は、以上だそうだ。
確かに、ハルヒに言伝をするのみなら、それで問題はないだろう。しかし。
「しかし、その後のことはどうするってんだ? おれたちが校内にいるのはまずい、それはわかったがよ、だったら何処に行けばいいんだ」
「そこは、『フーゴ』に頼みましょう。彼から機関に連絡をしてもらいます。ぼくらの居場所は、機関に確保してもらいましょう。
この姿がいつ元に戻るかは、正直、見当はつきませんが……明日は不思議探索の日です。今日、ぼくらが欠席することに、涼宮さんが不満を憶えたなら。
彼女はおそらく、明日、ぼくらが問題なく終結することを望むのではないかと思うんです」
確かに、あいつの能力は、常にあいつの都合のいいように働く。
今回のように、結果的にあいつが不満がるようなケースはあれど。
基本、あいつの能力によって、ハルヒにとって不満な事態を引き起こすことはない。
あいつが明日、不思議探索に全員が集うことを望めば、俺たちは、それが不可能な状態からは解消されるだろう。
不条理まみれのあいつの能力にも、一応法則というものがあるのだ。
「お二人が来てくれたので、ドアを開けて外へ出られないという状況からは脱せました。
ぼく一人では、マシンガンズにドアを食い破らせでもしなければ、外に出られませんでしたから」
そりゃ大問題だ。その覚悟に踏み切ることなく、俺たちを待ってきてくれたお前の理性に感謝する。
「注意するべきのは、体育の授業をしている生徒たちくらいです。保健室までの道のりで出くわす可能性があります」
「あたしたちの教室までは、一階へ行かなくても向かえますから……
あ、じゃあ、鶴屋さんに、フーゴ先生への伝言も頼んでしまえばいいのかな?」
かくして。俺たち、『SOS団(スタンドを頼りにお姉さんの教室を目指す三匹のネコの団)』は、部室を後にした。
……見知った校内を歩くだけだってのに、大冒険への旅立ちみたいな気分だ。
――――
――――
結論から言って、校内を移動するのは、俺たちが想像していたほど骨の折れる道のりではなかった。
「おねがい、『メリミー』」
「おい、間違っても今度は握りつぶすんじゃァ――ねーぞ!? 『ゴッド・ロック』!!」
こうして、朝比奈さんの『メリミー』と、俺の『ゴッド・ロック』が、俺たちの体を抱えて、移動すればいいのだ。
さすがに長時間スタンドを出しているのはきついものがあるが、部室から、鶴屋さんの教室までくらいの道のりならば、交代しながら問題なく進める。
しかし、もし、一般の生徒や教師に、移動中の姿を目撃されると、少しばかり面倒になる。
ただのネコなら追い出されるだけだが、『空飛ぶネコ』が校内で発見されるのは、どう考えてもまずいだろう。
もっとも、そんなネコがいるわけがない。と、見間違いで済まされるかもしれんがな。
「……着きました、ここが鶴屋さんの教室です」
古泉が、極めて小声で、俺たちに告げる。忘れてはいけないのが、今の俺たちの話し声は、まっとうな人間には『鳴き声』に聴こえちまうって点だ。
幸いというべきか、教室の後部の戸が、ほんの少しだけ開けられている。その隙間から、『ゴッド・ロック』が、室内を覗き見る。その視界が、俺の視界と重なる。
……居た。鶴屋さんだ。教室の真ん中あたりの席に座っている……俺のスタンドで肩でも突付ければ楽だったんだが、あの距離では少し難しい。
「……古泉、やっぱ『マシンガンズ』だ。あいつの声は、スタンド使いじゃねえやつには聴こえないんだったよな? あいつに呼ばせるしかないぜ、事を荒立てないためにはよ。
おれか朝比奈さんが、『スタンド』と一緒に教室に入っていってもいいが、あの教師は機関の関係者じゃあないんだろ?」
「ええ、彼は一般の教員です。捕まるのはまずいですね……
仕方ない……気は進みませんが、『マシンガンズ』を使いましょう。
こいつが地面に落ちる音は、周りにも聞こえてしまいます。ぼくがマシンガンズを出したら、お二人のスタンドで受け止めてもらえますか?」
「わ、わかりました」
「では……出します。……くれぐれも、お願いしますよ? ……
よし……――― "『セックス・マシンガンズ』"!!」
古泉が叫ぶと同時に。グレーの背から、鋼鉄のスタンドが飛び出す。
すかさず、その像を、朝比奈さんのメリミーが受け止める!
よし、問題ない! あとは、マシンガンズが鶴屋さんを呼んでくれれば――――
「―――オォッ!? ンダヨ、ネコ、ナオッタノカヨ、コイズミィ!?
ッテ、チゲェナ! オレヲモッテルノハコイズミジャネーナ! ネコハナオッテネーノカヨォ!
デモヨォー! スゲェ『ビジン』ジャネーカヨアンタヨォー、ナンテンダヨ、ナマエハヨォ!!」
……もし、こいつの声が、誰にでも聞こえる代物であったなら、おそらく、廊下中に響き渡っていたであろう、大音量で。
メリミーの腕の中で、『マシンガンズ』が、それは楽しそうに―――騒いだ。
「―――マッ、『マシンガンズゥー』!! 言っただろうが、鶴屋さんを呼べとォォォ!」
「アァー!? ウルセーナ、コイズミカ? テメー! ンナモンワスレチマッタゼェェ!! ……ナンテイウンダッケ?」
「『鶴屋さん、廊下に来てください』だよッ!! 『古泉です』も『非常事態です』も覚えられねえってェーから、省いてやったんだろうがッ!!!
いやっ、ぼくは『鶴屋さん』と呼びまくるだけでもいいとまで言ったんだッ!!
このバケモノが、たった五文字も覚えられねェ―のかッ!? この粗大ゴミがッ、ガラクタがァーッ!」
「ウルセェンダヨ!! メシモクワセネェークセニ、エラソウニオレニ『サシズ』テンジャネェーヨッドボゲガッ!! 『ノウ』ニ『エイヨウ』ガイカネェーンダヨ!!」
「こっの……何を食わせようと一瞬で『弾丸』にしちまう癖にほざいてんじゃねェーぞ、この妖怪がァッ!!!
大体が、おまえに『脳』なんて大層なモンが付いてるのか!? バラバラに分解して確かめさせて貰いたいもんだ!」
……えーと、俺の目の前で。体毛を逆立てながら、とんでもなく口汚く叫んでいる、このネコ。
本当に『古泉一樹』なのか? ……誰かが化けてるとかじゃあ、ないよな?
「こっ、古泉くんッ、落ち着いてください、あんまり鳴いたら、先生たちに気づかれちゃいますっ!」
「朝比奈さん! あなたのスタンドで、そのクズ鉄が、二度とふざけたクチを利けないように、『ブッ壊し』てください!!」
それ、本体のお前もブッ壊れないか。
「ギャッハァー!! ソイツァイーゼェ、コンナ『ビジン』ニブッコワサレテヨォ、オマケニテメェーミテーナクソ『ホンタイ』トモオサラバデキンダ、ネガッテモネェーゼ!!
アー、デモヨォ、サイゴニ、『アレ』クイテェーナァー!! エート、ナンダッケ、アレ? オマエ、シッテル? アノ『フワフワ』ダヨ、フワフワ!」
……俺に聞くな、知るわけないだろうが。
「ぐっ……テメェー、この間『覚えた』んじゃなかったのか、『カステラ』はッ!! 『カステラ』も覚えられねェーゴミクズがっ、贅沢をほざくなァ――ッ!!」
「アァー! ソレダヨ、『カステラ』ダ『カステラ』! アレヨォ、アレノカオリガシテヨォ! ンダッケ、『ハツミツ』ダッケ? トニカクヨォー、アレクッテカラブッコワサレテェーナーァ!!」
……あの、これ、いつ終わるんですか?
などと、意識が遠のきかけた直後。俺たちの頭上から、『救いの声』が降り注いできた。
「あー、はいはい! 『いっちゃん』も『マシンガンくん』も、そこまで! また今度! ね!」
「あっ――――鶴屋さんっ!!」
俺が、声のした頭上を見上げるよりも早く。朝比奈さんが、その名前を呼んだ。
―――『鶴屋さん』! どうやら、この大ゲンカの声を聞きつけて、出てきてくれたらしい!
「んー、見たところ、コッチの白ちゃんが『みくる』で、黒くんは『キョン君』なのかなっ?
ま、とりあえずね? ここだとちょーっと、喋りにくいから、とりあえず『階段』までいこうねっ?」
……女神だ。微笑むそのお姿が、今の俺には、女神にしか見えない……
神様仏様スタンド様。この方を、俺たちの仲間にしてくれて、本当にありがとうございます。
―――
「なるほどねぇー、いやはや、久々だね、ハルにゃんじきじきの不思議事件も!
っていうか、あたしがまともに見るのは、初めてじゃないかい、もしかして? 貴重な体験だなぁー、それじゃあ!
みくるが、部室に新しいお茶を置いてくるって言ったきり、戻ってこないからさあ。なんかあったのかなー? とかは、思ってたんだけどねえ?
まさか、こんなカワイイ異常事態が起きてるなんてねえ。ハルにゃんも可愛いところあるんだねえーっ」
踊り場。俺たちを隅に隠すように移動させた鶴屋さんは。スタンドを解しての会話の後、そう言って笑った。
「でもさぁ、みくる、いくら授業に間に合わないかもしんないからって、ワープしてまでお茶を置きにいくことないじゃん」
「ご、ごめんなさい、少し日に干してからのほうが美味しいって聴いて……」
「うん、そっかそっか。ま、とにかくわかったよ。ハルにゃんに、みんなオヤスミだよーって伝えればいいんだね?
それと、フーゴ先生に……えーっと、なんだったっけ?」
「ぼくらは正門近くで身を隠していますから、正門まで誰か迎えを送るように、機関に連絡してもらえるように伝えて欲しいんです。
出来れば、森さんが望ましい……それと、可能なら、一連の事情を伝えてもらえれば」
「うん、わかった。いきさつを説明するのは、あたしがしたほうがいいね?
あと、美夕紀ちゃんにも伝えておいたほうがいいかな?」
俺の記憶が確かなら、榎本先輩は、今日は軽音部のほうで大事な音あわせがあるらしく、SOS団には参加しないと聞いている。
しかし、念のため、事情を伝えておいたほうがいいだろう。
「じゃ、メールしとこっかな。たしかA組だったよね? 会長くんと同じ。じゃ、今は体育かな?
あ、そだ、あたしね、先生には、ちょっと保健室にって言ってあるからさ。このまま、ほんとにフーゴ先生んとこいって、に伝えてくるよ。
迎えは、正門だったよね? じゃ、それらしい車とかが来たら、出て行けるような場所に、隠れててくれるかな?」
「お願いします。……どうもすみません、お見苦しいところをお見せしてしまって」
「あっはっは、いーっていーって。いっちゃんとマシンガンくんが喧嘩友達なのは知ってたしねぇー。
でも、いっちゃんがあんな怒ってるの、初めて見たよっ、貴重なところ見ちゃったなぁ」
それについては。全面的に同意します。……まさに己自身である、自分のスタンド相手だからこそ出せる、素なのだろうか。アレは。
「まっ、まあ、とにかく。あとは、鶴屋さんにお任せして、ぼくたちは正門へ向かいましょう……まだ授業中です、正門にでしたら、誰もいないでしょう」
俺と一瞬眼が合うと、古泉は、僅かにうろたえるような様子を見せ、早口にそう言い切り、黒目の矛先を逸らした。
「ついでだし、連れて行ってあげるよ。万が一、誰かに見かけられたら厄介なことになるでしょ?
大丈夫大丈夫、校内に『ネコ』が迷い込んでたから、出口までつれていってあげてるんだって言えば、誰も文句言わないよっ」
お心遣い、非常にありがたいです。やはり、鶴屋さんに助けを求めた、古泉の提案は正解だった。
これがあの『バ会長』あたりだったら、助けてくれるどころか、ここぞとばかりに俺たちを弄繰り回し、遊ばれていたところだろう。
鶴屋さんが俺たちの前にしゃがみ込んでくれて、その両肩に、俺と古泉が、爪を立てないよう注意しながら、前足をかける。
さすがに、彼女の両腕の中に、俺たちのどちらかが収まるわけにはいかない。非常に残念だが、その特等席には、朝比奈さんについて貰う。
「あっはっは、三人ともでこれかあ。いやあ、ホントにネコちゃんなんだねえ、みんな。なんか笑えるなぁーっ」
彼女の肩に密着している俺の胴体に、彼女が喋るたび、振動が伝わってくるのが、なんとなくこそばゆい。
「んん? ……あっはっは、キョンくんったら、そこまでネコちゃんじゃなくてもいいのに」
「……はい?」
「気づいてないの? あ、みくるもだ。二人ともさ、『ゴロゴロ』言ってるよ、『ゴロゴロ』!」
――――
かくして。鶴屋さんの助力のもと、俺たちは無事、何事もなく、昇降口から、初夏の空の下へと抜け出すことができた。
名残惜しい鶴屋さんの体温に別れを告げ、アスファルトの地面の上に着地する。
「じゃ、あたし、フーゴ先生のところに行ってくるから、どっか隠れててくれるかな?
放課後になると面倒だし、できるだけ早くお迎えが来るように言っておくね! あと、ハルにゃんのことは、任せてくれていーからね」
「すみません、鶴屋さん」
「? お礼を言ってくれてるのかな? 気にしない気にしないっ、困ったときはお互い様だよっ。じゃ、ご武運をねっ」
……校舎へ飲み込まれてゆく、鶴屋さんの背中を見送った後。
残された俺たち三人の、俺たちにしか聞こえない作戦会議が始まる。
「よかったぁ、なんとかなりそうですね……」
「ええ。後は、時が解決してくれることに期待する他ないですね。
万が一、明日になってもぼくらが元に戻らなかったりする可能性を考えると、まだまだ問題は残っていますが」
それは、今考えても仕方ない、か。
「です。……とにかく、迎えを待つのに、この人目につく場所はまずいですし、どこかに隠れましょう」
と、そうだった。さすがに校舎内よりは目立たんだろうが、昇降口の前で、三匹のネコが顔をつき合わせているというのは、あまり自然な光景じゃあない。
二人が、周囲をくるくると見回す。それに倣って、俺も視線を周囲に散らばせる……
早々人が注目するような場所ではなく、また、正門から入ってくる迎えにすぐに気づける場所。そんな場所を見つけるのに、そう時間は掛からなかった。
「あそこがいいでしょう。少し砂埃がうっとうしいかも知れませんが」
古泉がアゴで示したのは、非常階段の脇の、名も知らない低木によって構築された、茂みの影だった。
なるほど、あの場所ならば、体をかがめていれば、覗き込まれでもしない限り、周りには見つからない。少し首を伸ばせば、正門の様子も伺えるな。
「行きましょう」
言うが早いか、古泉が駆け出す。それを追いかけて、俺と朝比奈さんも、アスファルトを蹴った。
……そこに近づいてはじめて気づいたが。その茂みは、アスファルトよりも高い位置にある。
人間の姿の俺たちにとっては、せいぜい階段三段分程度の高さだが、今の俺たちにとっては、その段差は、かなり高いものだ。
今の俺の視点を、普段の俺の視点……身長174cmほどの人間に換算すると。その高さは、マンションの2階分ほどは十分にある。
『スタンド』に持ち上げてもらう必要があるか? ……などと、俺が考え出した、瞬間。
俺の背後から、頭上を経て、目指す茂みのある高さへと、何事もないかのように飛び映ったのは……朝比奈さんだった。
……『スタンド』の力を借りたんだろうか? しかし、今は何も『反応』は感じなかったぞ?
「はれ? どうしたんですか、おふたりとも? はやく、飛び乗らないとっ」
くるりと上半身をこちらに向け、俺たちを見下ろしながら、朝比奈さんは、そう言った。
……そうか。今、俺たちが『ネコ』であるとするなら。
『ネコ』の跳躍力を持ってすればは、このくらいの高さになら容易く届くのか。
「ほっ」
短い掛け声とともに、アスファルトを蹴ってみる。すると、俺の体は、まるで風船でも背負っているかのように、ふわりと、容易く。目指す高さまで浮き上がった。
……ネコってのは、随分便利な身体能力を持っているんだな。
「どうやら、『ネコ化』して時間が経つにつれて、ぼくらはこの身体に『慣れて』きているようですね」
俺より一瞬遅れて、段上に飛び乗ってきた古泉が、言う。
「無意識に、ネコとしての『走り方』や、『跳び方』が身についてきているようだ。
始めのうちは、四足で立っているのも違和感がありましたが、今では四足で走ることも、当然のようにこなしている」
「……人間に戻ったときに、二足歩行のしかたを忘れちまてなけりゃーいいがな」
「はは、それは怖いですね。まあ、問題ないでしょう、おそらく。精神はあくまで人間のままでいられているんですからね」
何はともあれ、俺たちは、予定通り。目指した『隠れ場所』へとたどり着くことができた。
古泉の言うとおり、少しばかり埃っぽい気もするが、この際そこには目をつぶるとしよう。
……何しろ、時刻を確認する手段を軒並み失ってしまったので、放課後まで、どれほど時間が残っているのかわからない。
できれば、授業時間中に、この学校から脱出したいのだが……などと焦れ出した頃。待ち望んでいた、『迎え』がやってきた。
「! おい、古泉、正門から車が入ってきたぜ……教師の車じゃなさそうだ、仰々しい黒塗りの車だ」
「ええ、ぼくも、先ほどから音で気づいていました。あれは『機関』の車です……やれやれ、どうにか間に合ったようです」
しきりに正門を気にしていた俺の傍らで、古泉と朝比奈さんは、あまり清潔とはいえない土の上に体を丸め、身を隠すことに専念していた。
……と、いうか。朝比奈さんに至っては、なにやら目を細め、気だるげな表情をしている。
どうやら、夢うつつの様子だ。……確かに、ネコはよく寝る生き物だ。しかし、何もそこまでネコにならなくてもいいだろうに。
「誰か降りてきました……あれは、森さんだ。よかった、彼女となら意思の疎通もできます。
よし、急いで出て行きましょう。……? 朝比奈さん?」
「……ふえ?」
どうやら、本気で眠りかけていたらしい。まあ、無理もないか。スタンドバトルよりはいくらかマシだが、気疲れするには十分すぎる状況だ。
「迎えが来ました、朝比奈さん。どうやら、まだ授業も終わっていないようです。今のうちに、学校を出ましょう」
「あ、はい……すいません、なんだか、眠くなっちゃって……わかりました、行きましょう」
そう言うと、朝比奈さんは、四足ですくっと立ち上がり、寝覚めにしてはやけに軽い足取りで、先ほど上ってきた段差の淵から、軽やかに飛び降りた。
追いかけるように、俺は古泉と顔を見合わせ、人間換算すると二階ほどの高さから、目下のアスファルトへ飛び降りる。
問題なく、着地成功。……しかし、やはり、飛び降りる瞬間には、一瞬の躊躇いを感じる―――
……ふと、思う。
何故、朝比奈さんは。あれほどこの状況に順応しているんだろうか?
彼女は、先ほど、この段差へと飛び乗る際にも。まるで当たり前のようにネコとしての跳躍をやってのけた。
それはまだわかる。しかし、飛び降りる事に関しては。少なくとも精神が人間である俺たちにとって、目下十数メートルに相当する高さから飛び降りるというのは、どう考えても普通のことじゃあない。
おそらく、臆病さにランクをつけるとしたら、かなり高い順位にランキングされるであろう朝比奈さんが。
俺より、古泉よりも早く、この段差から、何事もなく飛び降りた。見た限りは、一瞬の躊躇いもなくだ。
「ん! どうやら、問題なく保護できそうね」
アスファルトの上を駆け寄る俺たちに気づいた森さんが、腰に手を当てながら、しゃがみ込む。
「どうも、すみません。事情は聞いていますね?」
「ん? ごめん、何言ってるかは分からないけど……なんとなくわかるわね、えーっと、あんたが古泉? そっちがキョン君ね? すると、この白ネコさんが、朝比奈みくる?」
おっと、ただ喋りかけるだけじゃあ通用しないんだったな。森さんの確認に、俺たちは、なんとなく肯くような動作で答える。
「……んー、万が一間違えてると困るわね。間違いないようにテストしましょう。古泉、ちょっとこの場で三回回って、ワンって言ってみて?」
「なっ……」
「古泉、仕方ないだろ」
「…………ワン」
不服そうに目を細めながらも、古泉は、森さんの言うとおり、円を描くように三度周囲を歩き回った後、吐き捨てるように呟いた。
「ぷっ…………くっくっく、おかしーわね、『ニャン』にしか聞こえなかったけど?
ま、あんまりいじめると悪いわ、間違いないだし、早いところ乗っちゃって」
……いつもの姿でなくてよかったな、古泉。
「ネコになんかなってなければ、こんな目に会ってすらいません」
それもそうだ。
ともあれ、森さんが開けてくれた後部座席の扉から、俺たちは車内に飛び乗る。
座席に土足(?)で上がるのは些か躊躇われたが、ありがたいことに、なにやら専用のシートのようなものが敷いてあった。
ほどなくして、車体が動き出す。……エンジンの音は聞こえるし、スタンドではなく、普通に運転しているようだ。
「さて、事情は大体聞いています。涼宮ハルヒについては、チンピラ会長と、パンナコッタ・フーゴのほうで、警戒しておいて貰えるよう、言っておきました。
あいつらがどこまで頼れるか分からないけど……パンナコッタ・フーゴのスタンドについては、詳しい情報は聞いていませんし。
とりあえず、貴方たちは、機関の寮で、ことが動くのを待ってもらいます。それでいいですね?」
運転席に座った森さんが、バックミラー越しに俺たちを見つつ、僅かに義務的な口調で、淡々と告げる。
特に断る理由もないので、再び、ネコ的肯定の動作を行う。首ごと肩をすくめているようで、なんとなく奇妙な気分だ。
……と、いうか、それよりも。『スタンド』で会話をすりゃあいいんじゃないか? こんなまどろっこしいことをせんでも。
「……ふう、一時はどうなることかと思いましたが。とりあえず、難は逃れた、というところですかね」
不意に、古泉が言う。シートの上に、のっぺりと腹を預けるその姿は、まるでうちのシャミセンのようだ。
それどころか、前足の肉球を舐めだしやがる。……おい、ちょっと待たんか。
「はい?」
「いやな、お前も随分と『ネコ』が身に染み付いてるみたいだがよ。さっきまで、茂みの土だの、アスファルトだのを踏んづけてた手なんか、よく舐められるな」
「! ……そういえば……いや、確かに。ぼくは何て不潔な真似を……」
は。と、気づいたように、古泉が、シートの上で、立ち上がる。
寝そべる体制については、確かに、この体では、人間のように胡坐をかくのもままならん。よって、仕方なく、俺もそのポーズを取ってるが……
「! ……あの、あなた、それは……いえ、別に、これは言葉を返すわけではないのですが……」
「何だよ?」
古泉が、ふと。俺を見て、なにやら訝しげに目を見開いている。
……俺が何か妙な真似をしてるか? 今の俺は……ただ、耳が痒いような気がして、ほじくっているだけなんだが。
「いや、それが『おかしい』んです! あなただって、ぼくと同じように、さっきまで土足で、四足で立っていたじゃあないですか!
だったら、その『行為』だって、十分『不潔』じゃあないですか!?」
「なっ……!?」
……古泉に指摘されて、初めて気づく。俺は……今、何をしてる? 耳が痒いな……そう思った時! 『自然』に俺が取っていた行動は!?
「な――――何だ、こりゃァッ!? 今、おれは何をしているんだ!? 自分の体だから、見えねえが……この『体制』は!
おれは……『後ろ足』を、『耳』ん中に『突っ込んで』るのかよォッ!?
ただ、小指を耳の穴に突っ込むくらいの、軽い気持ちで……おれはこんな行動をしたのかッ!?」
これじゃ、まるで! 『精神』まで『ネコ』になっちまっているようじゃねえか!
んな、馬鹿な! 俺はさっき、2階レベルの段差を飛び降りるとき、ちゃんと『躊躇』してた……人間として当然の躊躇を感じてたじゃねえか!?
「何よ、さっきっからニャーニャーうるさいわね、雑談なら、もうちょっと静かにやってくれない?」
森さんが、バックミラー越しに俺たちを見ながら、面倒くさそうに言う。
まずいぞ―――ついさっきまで、事はひとまず落ち着いたと、楽観していたが!
この状況は! 俺たちが思っていたよりも、ずっと『深刻』な状況だったかもしれないッ!
「森さん、スタンドを! 『スタンド』を出してください、話があるんだ!」
「……ちょっと、何よ? 腹でも空いた?」
違う! 駄目だ、今のままじゃ、俺たちがいくら必死で訴えても、深刻さは伝わらない! 当然だ、ネコは表情の変化がわかりにくいからなッ!
「『ゴッド・ロック』を出してください! スタンドを見せれば、森さんも、ただ事ではないと気づくはずです!」
古泉が言う。よし、それだ!
万が一話が通じなくたって、人型の『ゴッド・ロック』なら、何かに文字を書いて、『スタンドを出して会話してくれ』くらいのメッセージは伝えられる!
「森さん、こいつを『見て』ください!!!」
『スタンド』を体から浮き上がらせながら、叫ぶ……もとい、鳴く。
よし、どうだ―――これなら、さすがに気づくだろッ!?
「! ちょ、っと……何よ、『そいつ』はっ!?」
森さんが、反応した! ……しかし、何かおかしい。俺が望んでいた反応と、違う……?
「まさか―――『敵スタンド』ッ!? あんたたち、『古泉』たちじゃあないのッ!?」
……何だって? ちょっと待て、森さんは、俺の『ゴッド・ロック』を知っているはずだッ!
だってのに、どうして! この『ゴッド・ロック』を見て、『敵スタンド』なんて言葉が出てくるってんだッ!?
―――まさか! 数日前! あの『ネオ・メロ・ドラマティック』で女性化した際に、『ゴッド・ロック』の見た目が変わっていたように―――!!
「ちょ、ちょっと待て……『それ』は、一体どういう事ですか―――まさか、『それ』が―――あなたの、『ゴッド・ロック』なんですかッ!?」
―――俺の体から飛び出した、俺の『スタンド』! 漆黒の巨人、『ゴッド・ロック』は、今!!
―――車体の天井近くに浮かび上がっている―――そいつは、今ッ―――!?
―――"黒い『ヒョウ』の如き姿をしている"――――ッ!!?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キョン(♂)
体長/体重:174cm/62kg → 32cm/3.2kg
品種:カラスネコ(日本猫・黒ネコ)
毛色:ブラック
目の色:赤みがかったゴールド
スタンド:『ゴッド・ロック』 変化:人型・体長2m→猛獣型・体長1.5m
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
古泉一樹(♂)
体長/体重:179cm/67kg → 35cm/3.6kg
品種:ロシアンブルー
毛色:グレー
眼の色:エメラルドグリーン
スタンド:『セックス・マシンガンズ』 変化:未確認
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝比奈みくる(♀)
体長/体重:152cm/?kg → 30cm/2.8kg
品種:日本猫・アルビノ種
毛色:ホワイト
目の色:右目…ヘーゼル 左目…ブルー
スタンド:『メリミー』 変化:未確認
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
to be contiuend↓
乙でした!なんか この前の銀魂の話を思い出したよ
263 :
あふろ:2009/10/21(水) 23:19:39 ID:???
どういうことか続いちゃったよ! 外伝なのに!
あと小野コールに答えちゃったよ! すいませんほんとうにすいませんあと後編だけ投下したら自重します
小野はらき☆すたの小野だいすけで脳内再生してたから描いてみたらなんかもうわけわかんなくなりました。ヴードゥーはデザイン微妙だしwith世界で。
http://imepita.jp/20091021/823830 氏名 − 小野大輔
スタンド名 − 『ジャスト・ア・スペクタクル』
出身地 − 高知県
好きなもの − 他人の幸福な表情、サッカー、自作のカレー、ピンクダークの少年(著・岸辺露伴)、ビール
嫌いなもの − 宗教全般、発泡酒・及びビールのまがい物全般
好きな人間のタイプ − 刹那的な幸福の価値が理解できるもの
嫌いな人間のタイプ − 刹那的な幸福の価値が理解出来ないもの、ジョン・スミス
好きなスタンド − 『ジャスト・ア・スペクタクル』 … 神からさずかった唯一無二のスタンド(本人談)
『世界』 … あらゆる状況において、最強のスタンド(同上)
『黄の節制』 … 事務所所属時代から、脱却後まで、とてもお世話になった(同上)
嫌いなスタンド − 『スーパー・ノヴァ』、及び、その能力によって発現させられたスタンド … 悪。(同上)
264 :
マロン名無しさん:2009/10/21(水) 23:35:33 ID:cB9JtHxG
GJ!
前後編とは俺にとってはサプライズなんでOK!
気にしないで良いよーん!
しかしあれだ。俺もキョンが猫になった時点で銀さん猫をイメージしかけたわw
日本で一番いるタイプは色が混ざりに混ざった雑種か黒猫ですからね。
雑種だとハーフなイメージなんで黒猫を選んだのは正解です。
縁起のせいでいらぬ苦労が多いのもキョンっぽい。
小泉が筋肉質なカッコいい猫。
みくるが白猫っていうのがミソ。
ちなみに白猫は色素が少なく自然界ならあまり長生きしない猫なのでいかにもみくるらしいですw
外来種系はたくましく、面が良いのも小泉らしいw
第95話 「ジェット 2」
八嶋と名乗った女はスタンドを出すと自分から仕掛けてこようとはしなかった。
「そちらからどうぞ………」
「なめられたもんだな……ダイバーダウンッ!」
スタンドでの右ストレート、が、八嶋のスタンドが足でパンチを受け止め、そしてそのまま蹴りを繰り出す。
「ウグッ!」
蹴りをもろに食らった俺は凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
『凄まじいパワーだな……ならばこれでどうだッ!』
ウェザーが竜巻を巻き起こして本体とスタンドを吹き飛ばそうとする。が、なんとスタンドは吹き飛ばず、本体もスタンドに掴まり無事だった。
『パワーだけじゃなく重いのか………』
「強すぎだろ………」
「それでおしまい?ならこちらからいかせてもらうわ……ジェットッ!」
すると敵スタンドが大砲をこちらに向けて、機銃掃射をしてくる。
「マシンガンまであんのかよ!」
『かわせッ!』
とっさに飛んでかわす。が、
「まだ終わらないわよ?ジェットッ!」
続け様にレーザーが飛んでくる。少し狙いがずれたらしく、紙一重でかわしたが。
「クソッ!ウェザー!これじゃいつか当たっちまうぞ!」
『分かっている!任せろ……ウェザーリポートッ!』
するとその瞬間、辺りに濃い霧が立ち始めた。
『これである程度は撹乱できる……今のうちに近付くぞ』
「俺が左側から回り込む……ウェザーは逆から頼むぜ」
『分かった』
が、その瞬間女の声が霧の中から響いてきた。
「こっそり近付いて挟み撃ちのつもりですか?甘いですね………ジェットッ!」
すると姿は見えないが何かが発射される音がした。
「さっきの追尾式のミサイルか?」
『いや、姿が見えもしないのに追尾出来るはずが………』
暫く動けずに周囲を警戒して立ち止まる。その時だった。
「アナスイ君ッ!後ろです!」
朝比奈の言葉を受けて振り返る。なんとそこには八嶋自身がいた。
「んなッ!」
「さっきのは空砲よ……いくらスタンドが強くても不意打ちにはどうかしら?」
八嶋が突き出してきたナイフを後ろに飛んでかわす。が、飛んだ瞬間、背中を何かに打ち付けた。
「さっきのスタンドかッ!」
「踏みつぶせッ!ジェットッ!」
ヤバい、かわせそうにない。終わったか………?
『ウェザーリポートッ!』
その瞬間、ウェザーが凄まじい突風を起こして霧を吹き飛ばすと一緒に俺を吹き飛ばした。
「なかなか良い判断です」
「ウェザー……助かったぞ………」
『アナスイッ!朝比奈みくるが危ないぞッ!』
「え?」
起き上がって八嶋を探すと、彼女は俺達を無視して車へと向かっていた。
「先に弓と矢を探す気か………」
車を調べられるのはマズい。朝比奈自身の安全もあるが、囮作戦の事がバレるのも避けたい。
「朝比奈ッ!そこから逃げろッ!」
車に向けて走りながら叫ぶ。
「ふ、ふえッ!?はい!」
朝比奈は車から飛び降りて逃げ出した……のは良かったのだが、なんと弓と矢を車の中に置き忘れている。
「………マズいぞ」
必死で走り、八嶋が開けるより前に回収しようとする。が、間に合わない。
「これが弓と矢ね?もらったわ………」
「そう来ると思ってましたッ!」
八嶋がアタッシュケースに手をかけた瞬間、車の影に隠れていた朝比奈が八嶋に飛び掛かった。
「しまったッ!くっ………」
運動能力では八嶋の方が上のようだが、不意をつかれて朝比奈に押さえ付けられてしまった。……ただまぁ、朝比奈もそう長くは押さえられなさそうだ。
「ダイバーダウンッ!」
スタンドで攻撃を仕掛けた瞬間、朝比奈を突き飛ばした八嶋はなんとか攻撃をかわした。
「くっ……油断したわ」
「観念しなッ!ダイバーダウンッ!」
朝比奈を突き飛ばして体勢が崩れている隙に攻勢に出る。スタンドで猛ラッシュを仕掛ける。
「グッ………」
八嶋はなかなかの身体能力の持ち主で、スタンドのラッシュを生身でさばいていく。が、流石にさばくのにも限界がある。段々と動きが悪くなっていく。
「フンッ!」
崩れかけてきたガードにチョップを叩き込むと、遂に崩れてしまった。
「トドメだッ!ダイバーダウンッ!」
「そうはいかないわ……ジェット!」
するとさっきまで沈黙していた大砲スタンドがこちらを向いた。が、弾を撃ってこない。
「何をするつもりだ?」
すると八嶋は何も言わずこちらを押さえ付けてきた。暫く取っ組み合って時間がたつと、大砲がミサイルを発射してきた。さっきの誘導ミサイルだ。
「しゃらくせえ……ウェザーッ!打ち落とせッ!」
「それは止めておきなさい……今度のミサイルは発射に時間がかかる代わりに威力が上がってるわ……爆発させたらあなた達もタダじゃすまないわ」
「……朝比奈、アタッシュケースを貸せ」
「ふぇ?は、はい」
俺は朝比奈からアタッシュケースを受け取るとそれを頭の上に掲げる。
「じゃあ……これがどうなってもいいんだな?」
「なッ!あなた一体何を………」
「フンッ!」
八嶋の静止を聞かず、俺はアタッシュケースをミサイルに投げ付けた。
「ほらほらどうする?ミサイルの追尾を解除しねーと弓と矢が吹き飛ぶぜ?」
「くっ……ジェットッ!解除しろッ!」
そう言った瞬間、ミサイルの動きが止まる。
「今だッ!ウェザーッ!」
『ウェザーリポートッ!』
ウェザーが突風を起こし、ミサイルを八嶋に向けて叩き付ける。
「しまっ……クソッ!」
敵は慌ててスタンドそのものを解除してしまった。
「そう来るだろうと思ったぜ」
スタンドを解除すると読んでいた俺は八嶋の懐へと突っ込んでいた。
「あばよッ!トドメだッ!ダイバーダウンッ!」
スタンドで防御する間も無く、八嶋はボディに強烈な一撃を食らって吹き飛び、のびてしまった。
「……てこずらせやがって……車は無事か?ウェザー」
『大丈夫だ……壊れてはいない』
「そうか……朝比奈、弓と矢を拾え」
「あ、はい」
が、その時だった。
「そうはいかないわッ!」
なんとのびていたように見えていた八嶋の野郎は朝比奈が拾う前にアタッシュケースを奪っていた。
「あの野郎……てめえッ!分かってんのかッ!さっきの攻撃であばらが折れてんだぞッ!動いたら重傷になるぞ!」
「そんな事知らないわ……私はボスにこれを届ける……選ばれし者達の世界を作り上げる為にッ!」
「ウェザーさんッ!」
『ウェザーリポー………』
「ジェットッ!」
ウェザーが攻撃するより早く、八嶋はスタンドから催涙弾を放った。白い煙が立ち込め、八嶋の姿が見えなくなる。
『………仕方が無い、奴等に囮作戦がバレた……アレをやるぞッ!』
「ウェザー……?まさかッ!アレをかッ!おい、止めろッ!朝比奈ッ!早くウェザーを止めろ!」
「ふ、ふぇ?」
が、既に遅かった。それは発動された。そう、ウェザーリポートの最も恐ろしく、最も強力な能力………
『ヘビーウェザーッ!』
「……その通りだな……まさにヘビーな状況だ………」
To Be Continued・・・
見ても見なくてもいい履歴書
名前 八嶋優理香
24歳 B型 4月23日生まれ
性格 組織の幹部の一人。神原への忠誠心は厚く、最も信頼されている。無表情で冷静な氷の女。
好きな料理 アイスクリーム、シャーベット
嫌いな料理 クレープ
趣味 ウインドウショッピング(かなり冷やかす)
ジェット
パワー A スピード C 持続力 B
射程距離C精密動作性 B 成長性 C
能力 様々な弾丸を発射する能力。種類はかなり多い。能力では無いが、防御力も高く、並の攻撃では本体にフィードバックされない。
以上、第95話でした
セッコの人ひさびさですね。そしてあいかわらず乙!
アフロクは確かに銀魂だwww
スタンド名はオーストラリアのロックバンド、ジェットから
それでは!
いきなり加速しててわろたwwwプッチ仕事しすぎwwww
>セッ子
ついに長門が介入か・・・・・
折り返しってことはこっからの展開楽しみにさせてもらってもいいですかね!?
>アフロ外伝2
アフロの設定引き継いだ定番のハルヒSSって感じ?でいい!
チョコ先生には気づかなかった・・・・でも言われて、なるほどチョコ先生ならこれくらいするわって納得したwww
それと絵うめえwww小野若いwww世界がスマートな本体に絡んでるのも絵になるなー。
>アメリカ
ヘビーきたwwwww
ジェットかなり強くね?うばしゃあ的なアレとかもイケたら・・・・・・ないか。
全部続き楽しみにしてる!
275 :
あふろ:2009/10/22(木) 20:57:40 ID:???
アメリカ乙です。
アメリカの影響で捨てキャラスタンド使いのプロフィール作ろうかと思ったこともあったけど
あんまりにも二番煎じでアレなんでやめておいたぜ!
ヘビー・ウェザーは色々な場面で見てみたい能力だしとっても期待します
さすがアメリカはトンデモスタンドも平気でやってのける! そこにry
>>265 銀魂のほうは知らなかったす
とりあえず基本スタンドの色的なカンジかなーと思ったけど
白猫はひ弱なのは何となく知ってたからそこはまあ。うん。
古泉はペルシャかロシアンかアメショか迷ったよ! 外来種にするのは決めてたけどwww
ちょっと無関係ですが
かってにwikiのアフロのページいじってるのはぶっちゃけ俺ですけど
更新の際には、特に気にせず今までどおりでやってくれて結構ですので、お気になさらずお願いします。
スタンドパラメータのあたりとかが改行だらけになって見苦しかったんで直してみた程度ですんで。はい。勝手やってすみません。
保守
277 :
マロン名無しさん:2009/10/27(火) 18:05:46 ID:cfd0+ZgT
>>263 亀だけど自分もあの白タキ小野で再生してたわ。
あと人物紹介いなあww
278 :
あふろ:2009/10/28(水) 19:29:42 ID:???
伸ばしに伸ばしてジョリーンヘアついに成功
この勢いとボールペンビールで外伝かくよー
それは再現しなくてもいいですwwwwwwwwwwwwww
なんて頭してんだアフロォォォ!ワケはともかく理由を言えええええ!!
281 :
セッ子:2009/10/28(水) 20:35:45 ID:???
かくいう私もアヴドゥルヘアーでね
ところで質問なんだけどジョジョ→ハルヒ世界じゃなくてハルヒ→ジョジョ世界っていうのはこのスレ的にあり?
アリアリアリアリアリアリ・・・・・・
アリーヴェデルチ(大有りだ)
ってかそれってシオバナハルノの憂鬱じゃね?
個人的にアフターロックもそのセンだと思う。
アメリカの人の作品、何話か抜けてるね
第96話 「サイレントフォース 1」
時間は少し前後する………
side of 徐倫
「敵か」
「その通りだとも」
日吉を倒して一息つけると思ったあたし達の前に現われたのはフード付きのパーカーにジーパンをはき、黒い髪を後ろで首あたりから一つに細く包帯で巻いた男だった。
「……森さん、逃げてくれ」
「……しかし………」
「鉄球が1個でスタンド使いを相手するのは難しい……あたしなら大丈夫だ」
「………分かりました。弓と矢の方へ向かっておきます。気をつけて下さいね」
そう言うと森さんは火事で置かれっ放しになった給油中の車に乗り込んで、去っていった。
「泥棒だろ……まあいいか、非常事態だ」
だが、それ以上に分からないのが………。
「なんで森さんを止めようとしなかったんだ?てめえ」
敵だというこの男はあたしに襲いかかろうともせず突っ立ったままだ。
「何か問題があるのか?」
「……いや、あたし達としちゃ有り難いんだがな」
「………お前はスタンドの事をどう思っている?」
いきなり何を言い出すんだ?こいつは。
「答えろ」
「別に?自分の才能だろ?」
「そう、その通りだ……スタンドは自らの無意識の才能だ………」
すると男は近くの標識を指差した。
「お前のスタンドはあれを曲げられるか?」
「できるわよ……なめないでくれる?」
「だろうな……だが出来ないスタンドもいる………」
そりゃそうだろう。スタンドは一つとして同じ物は存在しない。親父とDIOのように似るパターンもあるが、あくまで似ているだけだ。
「………ちなみに俺も標識なら曲げられる……フン!」
男が気合を入れると標識が曲がった。……が、それは普通とは異なるかなり奇妙な光景だった。
「スタンドの姿が見えないのに折れただと?」
こいつの能力か?透明なスタンドだとか、そういう可能性はあるが、全くスタンドを使った事を悟らせずに標識を折るなんて出来るのか?
「何を驚いている?……スタンド使いじゃない奴等は常にこれと同じ風景を見ているのだぞ?」
「……………」
男はあたしに話しかけるというより自分に語りかけるように話し出した。
「私はいつも考えている……なぜ私のスタンド能力がこのような物なのか……そして私は知りたい、選ばれし者達の世界になれば私がどう思われるのか………」
なんだこいつ……まさか正真正銘のイカれ野郎じゃないだろうな?
「選ばれし者達の世界っつーのはなんなんだ」
「……お前や私のような人間達の世界という事だ……少しお喋りが過ぎた……いくぞ」
男は一気に間合いを詰め、接近戦に持ち込んでくる。右のフックからジャブ、かわしたところを左のストレート、スタンドでさばくと男は右足でハイキックを繰り出してきた。
たまらず後ろに飛び退く。
「やるじゃない……スタンド無しでそれだけのスピード」
「ならばさらに速くなったらどうする?」
男が地面を一蹴りする。するとなんと数mもの距離をたった一歩で詰められた。
「なッ!?」
「フンッ!」
度肝をぬかれながらも、男の右アッパーをガードする。が、ガードごと数mも上空に吹き飛ばされる。
「馬鹿なッ!?」
「まだ終わりだと思うなッ!」
次の瞬間、下にいた男がいなくなった。
「んなッ!?」
「こっちだ」
声はなんと上から聞こえる。見上げるとそこには男がいた。んな馬鹿な。生身の人間が一瞬で数mも跳躍したとでもいうのか?
「フンッ!」
男が上空で足を思いきり伸ばし、蹴りを繰り出してくる。もちろん身動きが取れない空中だ。蹴りをもろにもらってしまい、そのまま地面に叩き付けられる。
「グウッ………」
スタンドで地面にぶつかった時の衝撃は緩めたが、それでもダメージはかなりでかい。
「なんつう身体能力だ……お前ほんとに人間か?吸血鬼じゃないだろうな?」
「人間だ……大体吸血鬼などが昼間から外にいると思うのか?というかお前は本気で吸血鬼がいるとでも信じているのか?」
いや、実際にいたんだがな。まあ、言ったら長くなるし言わないが。
「……まあいい、だがお前も同じ事が出来るはずだ」
「何?」
「スタンドだ。スタンドを使えばあのレベルの跳躍力やスピードは得られるだろう」
「……………」
確かに男の言う通りだ。少し驚いたがなるほど冷静に考えればそうだ。だが………
「それは無理だな……いくら速く動けたり高く跳べてもそれはスタンドの力だ。あたし達の体がついてこれないんだよ」
「不便な能力だな………」
能力?今奴はそう言った。するとあの凄まじい身体能力もスタンド能力が理由か?
「ゆくぞッ!」
男の姿が消える。恐らくさっきのような超スピードだろう。どっちだ?後ろか?いや、横か?………違うな……こいつは!
「上だろッ!」
上を見上げて迎え撃とうとする。
「いないッ!?」
「残念だったな……前だ」
気がつくと男が真正面にいた。クソッ!さっき消えたのはフェイントか……マズい、蹴りをかわせそうにない………。
「終わりた……グブッ!」
蹴りをガードしようとした瞬間、男があたしの目の前で横に吹き飛んだ。
「間に合った」
聞き慣れた声が聞こえる。顔を上げると、
「………有希ッ!?」
そこには有希がいつもの無表情で立っていた。
「……助けに来た」
「助かったぜ……さあ、反撃開始だな」
「こしゃくな………」
To Be Continued・・・
以上、第96話でした
ハルヒ→ジョジョ世界がありかという質問だが……答えはYES!
SSを書く権利はスレによって保証されているし、書き方を制限することは我々にはできない
個人の権利で可能な範囲で書いてもらうッ!
要するにおkです。セッコさん
ところで皆さん凄い髪型ですねwww
俺?俺はミスタだ
それでは!
291 :
あふろfromシベリア:2009/10/31(土) 19:25:52 ID:ag5zdqdI
ワリー事書いたから規制ってのはスッゲーよくわかるぜ……
ワリー事はしちゃいけねえんだから罰が必要だよなぁ……それが世の中ってモンだ、よーっく分かる
だが巻き添え規制ってのはどういうことだァ〜〜〜ッ!!?
ワリィ――事をしてねえ人間がどうして処罰されなきゃならねえんだよォォ!!
それって納得いくかぁ〜? オレは全ッ然納得いかねェー!!
どういうことだクソッ! バカにしやがって! イラつくぜ! クソがッ!!
そんなわけで二週間後ぐらいまでおやすみします
292 :
マロン名無しさん:2009/11/03(火) 14:02:39 ID:o+AE4P6K
規制ひでえorz
だがしかぁぁぁぁぁし待つ!!
GJ!上手い!
そして、早く規制から解除されたいorz
第97話 「サイレントフォース 2」
有希とあたしは男と睨み合っていた。
「……来ないのか?ならこっちから行くぜ」
「フン」
まずはあたしが男に向けて突進する。が、男は先程からの超スピードで回避をした。
「狙い通りだ………」
「どういう……何ッ!?」
男があたしの後ろに回り込むと、そこには有希が待ち構えていた。
「あたしじゃお前には追いつけない……だが有希なら追いつくのは可能だ……これで2対1、お前の方が不利だ」
男は有希の猛スピードのラッシュをこれまた人間離れした動きでさばいている。まるで格闘漫画を見てるみたいだな。ただまぁ、あたしは悠長に眺めているほど優しい人間じゃない。
「オラァッ!」
男の横に回り込み、蹴りを繰り出す。男はバク転で後ろにかわした。
「……回避行動に隙が生じた」
有希がバク転の隙に突っ込み、右の掌底を叩き込む。
「ぬぐう………」
男はそのまま反対側の車線にまで吹き飛ばされた。
「諦めな……今なら再起不能で済ませてやるわ」
「諦める?生憎だが物分かりが悪くてな」
「そうかい、ストーンフリーッ!」
近くに落ちていた焼けた木の枝を槍のように男に投げ付ける。と、同時に有希が猛スピードで男に突っ込んでいく。
「かわしたら有希にやられる、かわさなくても槍で御陀仏……さあどうする?」
「フン」
男は起き上がって手のひらを前方に突き出した。スタンドで受け止める気か?
「ハァッ!」
男は気合を入れて腕を前方に突き出した。すると途端に木が空中で停止し、浮かんだ。
「何ッ!?」
スタンドで掴んだのかと思ったが、動きが何となく違う。
「有希、危ないぞッ!」
「………!」
あたしが叫ぶと木は突進している有希の顔面を殴ろうと回転した。とっさに有希はガードし、ダメージを抑える。
「大丈夫か!?……しかしなんつう動きだ………」
「無事」
有希は大丈夫そうだ。だが、今の木の枝の動き……有り得ないぞ?
「恐らくスタンド能力」
「何かは分かるか?」
「まだ分析中、未知の概念が含まれている為時間がかかる」
今迄に無いスタンド能力って事か。注意してかからないとな。
「のんびりお喋りか?ピクニック気分だな………」
気がつくと男はあたし達の背後にいた。鋭い右フックが襲いかかってくる。
「クソッ!」
とっさの事で、かわせそうにない。マズいな、直撃したらダメージでかそうだ。
「………フッ」
が、パンチが当たると思った瞬間、有希があたしを掴んで投げ飛ばした。
「有希ッ!」
有希の機転であたしは攻撃をかわせたが、有希はかわせない。パンチを食らった有希は吹き飛び、電柱に鈍い音を立てて頭をぶつけた。
「有希、大丈夫かッ!」
有希に駆け寄る。が、倒れた有希はピクリとも動かない。しかも頭を打った際に怪我をしたらしく、おびただしい血が流れている。
「運の悪い奴だ……打ち所が悪かったか?」
「ゆ、有希?冗談よね……こんなあっけなくやられるなんて……有希、返事しなさいよ……有希?有希ィ!」
「………諦めろ」
「う、嘘だ……嘘だろ?いつもみたいに何にも無かったみてーに………」
が、やはり有希は全く動かない。手は固く握り締められ、体温も下がってきている。即死では無かったようだが、意識が完全に無いようだ。
「マズい……このままじゃあ間違いなく………」
「安心しろ。お前もすぐにそうなる」
気がつくと男がかかと落としを繰り出そうとしていた。とっさに横に飛んでかわす。
「……有希はもしかしたら助かるかもしれない」
「なるほど。確かにそうかもな……そいつはそのままにしておいたら間違いなく死ぬ……だがすぐに手当てすれば……後5分以内といった所だな」
なら、5分以内にお前を倒せばいいわけだ。話が早い。
「スタンド能力を見破れてもいないのにか?」
「……………」
確かにそうだ。1対1で勝ち目が無いのは明白だ。こいつの能力の糸口は………。
その時だった、後ろで瀕死の有希から何かの物音が聞こえた。
「気のせいか?」
有希は意識が無くて動けないはずだ。やはり聞き間違いだな。
「よそ見をするな」
気がつくと男が蹴りを繰り出していた。スタンドでガードしようとする。
「無駄な事を」
「それはどうかな」
男の蹴りがガードに当たる。前は吹き飛ばされた。が、今回は一つ違う点がある。
「何ッ!?足に糸がッ!」
「さっきガードした時に結び付けた……いくら速く動けよーが捕まえちまえば関係無い……いくぜェッ!」
片足を固定されて男は思うように動きがとれない。
「クソッ!放せッ!」
「誰が放すか……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「ゴプクウッ!」
男は派手に吹き飛び、近くに止まっていた車に扉を破って突っ込んだ。
「有希ッ!今手当てしてやるぞ……残り3分か……結構マズかったな」
「……いいや、まだ3分付き合ってもらうぞ!」
男の声が後ろから響いた。驚いて振り返ると、男が満身創痍で立っていた。
「馬鹿な……効いていないはずが………」
「いや、かなり効いたぞ……立っているのがやっとだ……だが、それで十分だッ!」
男が手のひらをこちらにかざす。すると、周りに止まっていた空車が次々と浮かび、こちらに飛んできた。
「んだとおッ!?」
どうやら奴のスタンド能力のようだ。やはり能力の正体を見破らない限り勝ちは無さそうだ。
「だが……一体何の能力だ?」
「お前には永遠に分かるまい………」
To Be Continued・・・
以上、第97話でした
アフロさん既成でしたか………大変でしたね
得ニナ氏
それでは!
アメリカの人、GJ。
最近、規制に巻き込まれてこれ一つ書くのに苦労してます……。
アフロの人もまた巻き込まれてないか心配ですわ。
301 :
アフロ:2009/11/09(月) 18:35:37 ID:???
規制は抜けたけどいつ再規制されるやら
俺の周りではピリピリとした貧民街のような空気が漂っているぜ……
それよりキャットアスペクタクルの後編が破綻して構成しなおしWRYYYYYYYYYYYYYY
あ、今日はミラションヘアーでした
303 :
セッ子:2009/11/10(火) 03:11:06 ID:???
載せた!wiki編集完!!
全米が待ち続けたと噂のアフターロック全編+アメリカの人の作品保管完了しました
トップページが色々と迷走してますが気にしないで下さい
あふろさんへ
『外伝 岸辺露伴の憂鬱』ですが容量が大きすぎて一ページに収まり切りません
前後編にする場合は区切る位置を教えてください
もしどこかを削るよ!って事なら避難所に投下するか自身での編集の方お願いします
という事で現在はマイク・Oの髪形な世界のセッ子でした
投下は後日
> 「……長門有希……どこまでもぼくを甘く見やがって」
> 恐ろしい、だって?
> 確かに。露伴は今、恐怖を感じている。先ほど目の当たりにした、あの『幽霊』たちが発していた怨念に。
> そして、この邪悪な『幽霊』が。人知れず、いつかから、この病院に取り憑いていたという事実に。
> しかし―――彼にとって。
> 「この岸辺露伴にとって……『恐怖』など、『興味』の対象でしかない!」
> 背後に確かに感じる、その『存在』。
> 一息だけ、深く息をついた後……露伴は。眼前の長門が視線を注いでいる、自分の背後の空間を―――振り返った!!
長いもん投下しちゃってすんません。できれば>>179のここで区切ってもらえると嬉しいです
しまったつまりこの時点でキャットア〜も前編載らない……だと?
あとまとめ乙です!
っていうかセッ子さんがまとめ人だったのか……知らなかった。なんという功労者。そこに痺れて憧れた。俺たちにはやって出来ないぜ……
っていうかトップページが恥ずかピィィ〜〜!! 嬉しいけど!
セッ子さんGJ!アフロさんも対応乙です!
にしても……アメリカの人さんの作品で未だに埋まってない空白の回がありますよね。
これはまだ出来てないのか、それとも過去ログがないのか、それとも、『三つ』しか覚えられないスタンド攻撃を食らったが為に更新しそこねたのか……。
まあ、どれにしても池の鯉のように口をパクパクして待つしかない一ROM住人は、根気よく待たせて頂きますね。
消失が銀幕に現れる頃にはきっと……。
セッコさんwiki更新乙!アフロさんの絵もあいかわらず荒木先生っぽい!
あと、第83話から86話まで補完しますた。
誤字脱字などは修正しきれていないかもしれませんのであしからず
ウェザーヘアーのアメリカでした
それでは!
補完GJ!
クマが冬眠する前に見れて良かったよ〜!
第98話 「サイレントフォース 3」
あたしは怪我をした有希を守りながら男と戦っていた。今現在、あたしに向かってたくさんの車が飛んできている。
「やべえな……この状況ッ!」
有希を背中に乗せ、飛んでくる車をなんとかかわしていく。
「いつまでもつかな?」
「ちいッ!」
男の言う通りだ。飛んできている車は20台以上。しかも車の大きさで死角が必ず生まれてしまう。10台程かわしたが、正直な話ここまでかわせたのは奇跡だ。
「……そうかな?私がわざとギリギリかわせるようにしていたとは考えなかったのか?」
「……まさかッ!」
「サイレントフォースッ!」
気がつくとあたしは周りを飛んでくる車に囲まれていた。
「お前は今迄組織のスタンド使いを多数倒してきた……百戦錬磨なのはもちろんだがそれ以上に運もいい……ならば100%仕留められるようにするッ!」
ヤバい……車の輪に隙間は無い……このままじゃあ間違いなく潰されるッ!
「どうすれば……ん?この匂い………なるほど、仕方ない。やるしかないなッ!」
あたしは糸を輪の外に向けて放つ。勘が確かならすぐ近くにあれがあったはずだ。
「死ねいッ!空条徐倫ッ!」
「あったッ!危なかったぜ……ギリギリだが間に合ったッ!」
次の瞬間、激しい爆発が起こった。
「……なんだ?今の爆発は………」
「あたしが起こしたんだよ」
先程の爆発で迫っていた車を吹き飛ばす事に成功し、あたし達は無事だった。
「随分と大胆な賭けだな……さっきから少しガス臭いな。糸に火を点けて引火したという事か」
日吉が壊したガス管から漏れてるやつだな。まさか奴に感謝しなきゃいけないとはな。
「その通りだ……生き残れるかは博打だったが……0%よりはましだったな」
「その運だ……それこそお前達の最も厄介な点だ……まあいい、お前が追い詰められている点に変わりはない……後2分だぞ?」
男の言う通りだ。背中に背負った有希の体温がさらに下がってきている。
「行くぞッ!サイレントフォースッ!」
男が再び手を突き出す。今度は爆発に巻き込まれてバラバラになった車の部品が飛んできた。
「この程度なら問題無いな……オラァッ!」
飛んできた部品をストーンフリーで叩き落としていく。男の体力が落ちてきているせいか、飛んでくる部品にパワーはあまり無い。余裕でたたき落とせる。……が、
「きりがないぞ………」
部品の数が凄まじく、いくら叩き落としても男との距離が縮まらない。
「あたしを倒すのは諦めて有希と相討ちになる気かッ!」
「その通りだ……ボスが作り出した新しい世界を見る事は叶わなさそうだが……新しい世界を作り出す助けとなるなら犠牲になるのもいいだろう」
クソッ!早くこいつの能力を見破らねえと有希が……ん?有希の手から血が垂れている?有希の怪我は頭のはずだ。……まさかッ!
「ちいッ!」
飛んでくる部品をさけてガソリンスタンドの塀の影に隠れる。
「どうしたッ!怖じ気付いたか?」
「違うぜ……お前を倒す為だ……まあこの距離なら聞こえちゃいないな」
有希がしっかりと握り締めている手を開く。するとそこには、
「血文字………」
意識を失う前に必死で書いたのだろう。奴の能力を見破っていたとは、有希はやはり頼りになる。
「どれどれ?」
………なるほどな。そういう能力か。確かにこれなら説明はつく。奴の能力は見破った。
「フンッ!」
男が放った車の部品が壁を迂回して襲いかかってくる。
「オラァッ!」
スタンドで弾き返すと壁から飛び出し、男に向けて全速力で走り出す。
「背中に仲間を背負っているのにその速さで間に合うとでも思ったのか?」
「ああ……間に合うぜ………オラァッ!」
ストーンフリーで落ちていた車の部品を蹴り、男に向けてシュートを放つ。
「フンッ!」
が、男が手を突き出すとそれはやはり空中で止まってしまった。……予想通りだがな。
「無意味な事を……サイレントフォースッ!」
「オラァッ!」
男がスタンド能力を使った瞬間、再び足元の部品を蹴る。
「サイレントフォースッ!」
男は手を突き出す。が、間に合わない。あたしが蹴った部品と空中に停止していた部品がぶつかり、互いに弾き飛ばされた。そしてその隙にあたしは男から数mの場所に近付いた。
「お前の能力は……PSI……超能力だ」
「……………」
「分かるわけ無いよな。こんな能力……スタンドも一種の超能力だ。能力が被ってるなんて誰も考えやしない」
「自分のスタンド能力を知った時は自分を呪ったよ……ただ単にサイコキネシスやテレキネシス、自分の反射や運動能力を上げるだけとはな」
「……十分強いじゃねえか」
「一般人相手ならな……スタンド使いが相手ではお互い同じ事が出来る上に相手の能力がある……バレた以上私に勝ち目は無いな……」
「あんたの能力を使う瞬間には隙が出来る……次に動いたらスタンドを叩き込む。安心しろ、殺しはしない」
男は既に苦しそうだ。さっきの怪我のせいか?
「私は……ボスが……神原が作り上げた世界ならば私は救われると思った……普通の人間でもなく、スタンド使いと呼ぶにはあまりに中途半端すぎる私にとっては………」
「さっきから気になってたんだが……その新しい世界ってのは何なんだ?ハルヒの能力でも使うつもりか?」
男はそこで笑みを浮かべた。だが、妙な笑みだな……あれは、そうだ。死を覚悟した奴の顔だ。
「おいてめえッ!何を………」
「ボスは涼宮ハルヒなどという不確かな物を使うつもりは無い……涼宮ハルヒは手段に過ぎない……ボスが弓と矢を手に入れる為の………」
そう言うと男は近くのポリタンクを掴み、頭からガソリンを被った。……野郎ッ!間違いない。あたしは全速力で男に突っ込む。
「自殺する気かッ!」
「ボスはお前達などには負けない……さらばだッ!空条徐倫ッ!黄金の血統よッ!」
男は近くのバッテリーを掴み、それをショートさせた。途端飛び散った火花に引火し、男は炎に包まれ、焼けていった。助かりそうにもない。
「………残り1分だったか……有希、今応急処置するぞ」
有希が乗ってきたと思われるバイクを動かし、病院を目指す。処置したとはいえ応急だ。やはりきちんとした設備で診た方が良い。急いでいるとあたし達の横に並ぶ車が現われた。
「なんだ?」
運転席の扉が開くと、そこには見知った顔がいた。
「私です。徐倫さん」
「新川さん………」
「だいたい事情は分かります……長門さんは私が連れて行きましょう。機関の息がかかった病院です」
「ありがとう」
有希を丁寧に車に移し終え、車が去るとあたしは再びバイクのエンジンをかけた。すると、
「……虹?」
地面スレスレに幾つもの虹が出来ている。……待てよ?これはまさかッ!
「ウェザーッ!?」
次の瞬間、無数のカタツムリが空から降ってきた。
「ヤバいッ!ヤバすぎるぞッ!何があったんだッ!ウェザーッ!」
仁科健 サイレントフォース 再起不能
長門有希 負傷により一時離脱
To Be Continued・・・
見ても見なくてもいい履歴書
名前 仁科健
24歳 B型 6月4日生まれ
性格 哲学的な性格。自らの存在理由や在り様を常に考えている。組織に加入したのも自らのスタンド能力に関する苦悩に答えを見つける為
趣味 座禅、瞑想
好きな食べ物 精進料理
嫌いな食べ物 がんもどき(なんだか自分を騙してるようで嫌らしい)
サイレントフォース
パワー 無し スピード 無し 射程距離 C
精密動作性 C 持続力 A 成長性 C
能力 PSI、いわゆる超能力を操れるようになる能力。ただしサイコキネシスやテレキネシスや身体能力の強化など、見掛けだけならスタンド使いであれば誰でも可能な物しかできない。
本人はこれに悩んでいたが、実際は応用の効くかなり強い能力
以上、第89話でした
スタンド名の由来はドイツのヘヴィメタバンド「サイレントフォース」から
次回は少し遅れるかな。
それでは!
GJ!
まさかのかぶり能力だとは意外でしたw
超能力の力を像にしたのが『スタンド』ですが、
像にならないけど、パワーがあるとは恐れ入りました。
形がないだけに通常のパワー型よりかえって『自由』なのが強みだけに『理解』されると終わる。
ただ、半端であっても本体が『受け入れて』いたら……。
スタンド戦の中にも人生を感じますね。
317 :
マロン名無しさん:2009/11/19(木) 00:54:11 ID:DmQmQ/nG
保守ageしますけどかまいませんね!
第99話 「トイドールズ 1」
side of アナスイ
俺達は逃げた八嶋をゆっくりと慎重に車で追っていた。急がなきゃならないのは重々承知だが、今の俺達にはそうできない訳があった。
「ひ、ひええ……カタツムリがいっぱいです………」
ヘビーウェザーにより発動したカタツムリに朝比奈が怯えている。
「さっきも言ったが触らない方がいいぞ」
「触ったら……どうなるんですか?」
「ああなる」
俺が指を差した先には谷口がいた。……ん?谷口?
「ひええぇぇ……谷口君が、カタツムリに………」
今の谷口は背中から殻が生え、腰から下がカタツムリの体になっている。しかし前の空き缶の時といいあいつ運が悪いな………。
「谷口君に触っても………」
「カタツムリになる。気をつけとけ……ウェザー、まだか?」
さすがに車の中にまでカタツムリは入ってこないが、光の屈折によって作り出されているサブリミナル映像である為、下手に外で反射した光が車に入らないように注意していた。進むスピードが遅いのはこのせいだ。
「ん〜〜〜?朝比奈〜〜〜せ〜ん〜ぱ〜い〜〜〜?こんな所で〜〜〜どうしたんですか〜〜〜〜〜〜?」
谷口だ。いつの間にやら車の窓に腹をくっつかせてカタツムリのように昇ってきている。そこらのB級ホラー映画なんかより何倍も怖い。
「喋り方がゆっくりですね………」
「カタツムリだからじゃねえか?……徐倫やキョン、承太郎さんは無事なのか………?」
side of キョン
時はほんの少しさかのぼる………
「……そうですか、はい、分かりました」
車で移動すること約時間。俺の横でニヤけ面が電話に出ていた。
「森さんから報告がありました……敵を一人撃破、ですが森さん自身は鉄球を一つ失ったそうです。その後もう一人敵が現われて現在徐倫さんが交戦中との事」
「……そうか」
しかし心配だな。いくらあの徐倫でも2連戦はキツくないか?
「そこであなたの出番ですよ」
「何だ?」
「長門さんがただ今バイクで待機中です……分かりますよね?」
お前が自分で連絡しろよ。
「長門さんの番号を知らないもので」
白々しいな……だがまあ俺も徐倫の事は心配だ。電話を取り出し無口な万能宇宙人に電話をする。
「………何」
しかしよくバイクに乗りながら喋れるな。舌噛まないのか?
「徐倫が敵と戦ってる。ピンチかもしれないから向かってくれ……場所は分かるか?」
「分かる……状況認識……極めて悪い。全速力で向かう」
気のせいだろうか。長門は少し焦りと……怒りかな?そんな物が入り交じった声を出した。徐倫が心配みてーだな。
「分かった。急いでくれ」
「……苦しい戦いになりそうだ」
「その通りですね」
長門へと連絡してから7分程してからだろうか。俺達は異様な光景を見ることとなった。窓を叩くような音がして外を向く。
「………虹?」
車の外を見ると地面スレスレにたくさんの虹が出来ている。
「……マズいッ!」
その虹を見た承太郎さんが信じられないという顔をした。あの承太郎さんがここまで慌てるなんて……一体ありゃ何だ?
「もう少し周りを見れば分りますよ」
古泉も普段のニヤけ面が消え、驚きを隠しきれていないという表情になっている。
「どういう事……なるほどな……随分おぞましい光景だな」
なんと外ではカタツムリに触れたと思われる人々がカタツムリとなっている。窓に木の枝が引っ掛かって少々見えにくいが。
「敵の攻撃か?」
「いや……これはウェザーの能力だ」
「スタンド能力ですか?しかしウェザーさんの能力は天気を操作するというものだけのはずです」
古泉の言う通りだ。能力が二つあるスタンドなんて存在しないんだろ?
「これはいわば能力の応用だ。詳しい原理は分からないが、ウェザーは天候を操り日光にいわゆるサブリミナル映像を混ぜる……それによって私達は自分がカタツムリになっていくと思いこまされているだけだ」
「意味がよく分からん……ようは催眠術みたいなものか?」
「まあそういう認識で構わないだろう」
承太郎さんは忠告を続ける。
「カタツムリには絶対に触れるな、後光を反射するものにも気をつけろ……カタツムリの映像がそこから現われるかもしれない」
「承太郎さん、もうすぐ輸送ポイントです……どうします?このまま車ですか?それとも歩きますか?」
「そうだな………」
しかし暇だな……こういう作戦会議は苦手だ。誰かが窓を叩いたような音でふと、外でも見るかと考える……が、外を見た所で気分がグロッキーになるだけだった。
「あの引っ掛かってる木の枝の方がマシだな………」
………待てよ?木の枝?なんでそんな物があるんだ?おかしいだろ。
「誰かいるのか?」
慌てて窓から外を見る……が、さっきの木の枝のような物すらない。すると上から何か音が聞こえる。
「音………?」
そういやさっきからしきりに窓を叩く音が聞こえていた。古泉が車の中でつついているのかと思って気にもしなかったが……もし、外から何かが叩いていたとしたら?
「古泉ッ!承太郎さんッ!敵が外にいるぞッ!」
「何だと?私には何も見えないが………」
「さっき外から何かが窓を叩いていたッ!この車にくっついてるんだッ!」
俺は窓から必死で敵を探す。すると古泉が肩をつついてきた。
「……前を見て下さい、答えがありますよ」
古泉の言葉通りに前を見る。するとそこには、木人形がガラスの向こうから逆さまに頭を見せていた。
「こいつが敵かッ!」
「どうやらそのようだな」
To Be Continued・・・
以上、第99話でした
次回で100話!特に何もないけど
それでは!
GJ!アメリカの人さん!!
それはそうと、木の枝→木人形で枯れ枝で構成された魔族を思い出したw
某有名娯楽ファンタジーでライトノベルの開拓した魔道士が主役のあれです。
まあ、二部に出てたマイナー魔族なので知ってる人は通ですが。
第100話 「トイドールズ 2」
俺達は車の中からスタンドと思われる木人形を眺めていた。大きさは10歳くらいの子供くらい、目はキラキラと光るビーズで、鼻はピノキオのようにとんがっている。口は木彫りのようで、布でできた緑の服と帽子を被っている。
「んだこいつ……スタンドか?」
どうやらスタンド使いじゃない俺達に見えている所を見ると、本物の人形にとりついているようだ。
「承太郎さんッ!」
「スタープラチナッ!」
次の瞬間、人形が何かに殴られバラバラになって飛んでいった。
「あっけないですね」
「ソンナ訳ネーダロッ!バーカ!」
「後ろだッ!」
後ろを見るとなんと首だけになった人形がトランクの上で跳ねている。
「……予想はしていたが自動操縦型か………」
「ソノ通リィィィィィィィィィーーーーーッ!」
うるさい上に下品な叫びを上げて人形の顔が跳ね回っている。
「トッコロデェ!僕ノ体ヤ腕ハ何処二イッタデショウ!」
「車のスピードだ……吹き飛ばされたんじゃねえのか?」
「オッオハッズレーーーーーーーーーーーッ!」
すると人形の甲高い声を合図にしたのか、車の窓にさっき承太郎さんがバラバラにした腕や足が現れ、張り付いた。
「マズいですッ!」
「すぐに車を出ろッ!弓と矢を忘れるなッ!」
「イィィィィィィィハァァァァァァァッッッッッ!」
承太郎さんに言われて慌ててケースを手に取りドアを開く。が、その瞬間細い何かが目の前から飛んできた。
「マリオネットですッ!」
俺より一足先に外に出て攻撃をかわしていた古泉が叫ぶ。……有り難いが分かった所で避けれなきゃ意味ねえんだよ。
「スタープラチナッ!」
マリオネットに体を切り刻まれると思った瞬間、俺はいつの間にか外にいて、ドアがバラバラになった車を眺めていた。
「え……えと………」
「承太郎先生でしょう。時を止めたのだと思います」
「ありがとうございます………」
腰が抜けて上手く立てない為、地面に膝をつけながらお礼を言う。
「別に構わない……だが早く立った方が良い、カタツムリに触れてしまうぞ」
そういやそうだった。急いで立ち上がるとさっきの人形が目に入った。
「……腕や足からマリオネットが………」
「イヒヒッ!切レ味バツギュウンノまりおねっとダゼッ!」
「どうやっているのかは分からんがスタンド自身があのマリオネットを操っているようだ」
「オイラノ名前ハトイドールズサッ!ソコントコ宜シクッ!」
「スタープラチナッ!」
承太郎さんが叫ぶと同時に今迄うるさく喋っていた木人形がバラバラになる。恐らくスタープラチナで殴ったんだろう。
「ヒデージャネェカヨォ!」
「………バラバラでも喋ってるぞこいつ」
さらには首だけがあたりをピョンピョンと跳ね回っている。気持ち悪いったらありゃしねえ。
「イイッハァァァァァァァァァァァ!無駄無駄無駄ァ!バラバラにナッタトコロデ問題ナッシングゥ!」
「やはり自動操縦型か………」
「イエッス!イエッス!イエ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
うるさい……あれ?待てよ、さっきまで奴の周りに散らばっていた腕や足が無い。承太郎さんもそれに気付いたらしく、
「気をつけろッ!何か企んでいるぞッ!」
「ヒャ!ヤッパ気付クノ速ーナ!」
「古泉、後ろだッ!」
古泉の後ろからスタンドの腕が襲いかかっていた。速さはあまり無い為、気がついた古泉は飛んでかわす。
「いや違うッ!今のは囮だ!」
「何ですッ!?」
古泉が腕をかわすと物陰に潜んでいたらしい腕が古泉に再び襲いかかる。しかも、
「カタツムリを持っていやがるッ!」
「しまったッ!」
古泉は先程の腕に気を取られていたせいでかわせそうにもない。すると再び、
「スタープラチナッ!」
承太郎さんが叫ぶと同時に、古泉がいつの間にか俺の隣に現われた。
「……やっぱ強いな、承太郎さん」
「時間を止めるという能力自体反則ものですし、何より頭が良いですから」
「……妙だな」
承太郎さんは木人形のパーツが集まり元に戻っていくのを見ながら呟いた。
「何がですか?」
「自動操縦型というのは……普通精密な動きは不可能だ」
言われてみればその通りだ。奴の動きはとても細かい。一定のパターンで行動する物が多い自動操縦型としては破格の自由度だ。
「どういう事何でしょうか?」
「だいたい見当はついているが………」
ついてるんですか。
「面白イ事言ウジャナイ!ドウイウ考エカ言ッテミナ!」
「本体の意思を無視して行動するという事だろう」
「オンヤマア!当タリィ!」
「………どういう事ですか?」
「以前ある自動操縦型の報告例に、自分で考えて成長する自動操縦型というのが存在した……だから似たような物だと思ってな」
なるほど。……だがそれだとこいつ、目茶苦茶強いスタンドじゃないか?
「だろうな。……本体を倒しに行きたいが………」
カタツムリのせいで移動はままならないだろう。だいたい向こうの本体がカタツムリになっていて、見分けがつかなくなっているかもしれん。
「ムフフ……ソンナ君達二良イニュース!実ハ僕ニハマダ幾ツカ能力ガ残ッテイルノダ!」
「………じゃあまだ何か弱点があると言う事ですね」
「ソノトーリィィィィィィィィィィ!」
「やれやれだぜ」
To Be Continued・・・
以上、記念すべき第100話でした
特に普段と変わりないけどね!
>>323 無学な俺にはなんのことかさっぱりです………
それでは!
GJ!
今回のスタンドはどちらかといえば『ピノ●オ』っぽい人形使いなんですねw
ちなみに前回頭によぎった魔族が出る作品は『スレイヤーズ』です。
ちなみに本編の第二部はアニメ化してないので、
知ってる方は通な方なのでわからなくてもいいんですよ〜。
100話突破おめめたー
そして次にアメリカは続きを書きながら「タンピングめんどくせぇナ……」と思う……
セッピスやベイビィ・フェイス、ファン・ピーなんかのセリフを打った後のしばらくはタイピングが面倒ニナル。ノデスワ
関係ないけど外伝ほったらかし
展開建て直し中なんでもうちょい待ってください
そしてどうでもいいけど年末投下祭りって何……だと……?
だれか億泰の憂鬱ってしってる?
情報あったらプリーズ
億泰の憂鬱は確か外部の個人サイトにあるのでは……?記憶が曖昧ですが。補強レスお待ちしてます。
さて、アフロク台風にあやかりたかったんですが……結局こんなに間が。投下します。
第二十六話「キリング・ザ・ドラゴンB」
勝負は決した。Dioの勝利で。レースの興奮冷めやらぬ中、ぼくは言った。
「……これで全レースが終わった。もう帰ろう」
勝者インタビューなんて聞く気にはなれない。一刻も早く離れたかった。しかし、古泉が驚いた様子で言う。
「何を言ってるんですか。わざわざ譲ってくれたというのに、お礼も無しに帰るなんて。いくらご友人でも、礼儀がありますよ」
全くの正論だ。ぐうの音も出ない。ぼくは特に反論する気にもなれず、車椅子に体を預けた。
……嫌な気分だ。単なる嫉妬だろうか。あるいは、奴への嫌悪感か。どちらとも言えなかった。
ここの所の騒がしい日々では感じる事の無かった思い。単純な気持ちではない。
光に影が射すような……。この前の夢といい、この頃の出来事は一体何なのだろう?
手足を縛られ、取り囲まれていくような……嫌な気分だ。
そんな事を考えていると、ふいにドアが音をたてる。ノック……にしては乱暴すぎる。体ごと体当たりしているような、鈍い音だ。
様子がおかしい。そう思ったが、些細な違和感はドアを開けようとするキョンを止めるには十分ではなかった。
それは模型のようにじっと立っていた。しかし、驚くべき事にそいつは生きている。
考えられない事だ。しかし、鱗の光沢といい、鋭い牙といい、作り物ではない。
本物だ。本物を見た事があるはずもないのに、そう確信させるだけのリアリティを放っていた。
恐竜。馬鹿馬鹿しいとしか言いようが無いが、それが目の前にいるのだ。
本物の恐竜が目の前にいる。余りの現実感の無さに、咄嗟に動く事が出来なかった。
「マッガーレ!」
静寂を古泉が破った。赤の光弾が恐竜を襲う。しかし、レーザーが焼いたのは後方の壁だった。
忽然と恐竜の姿が消えていたのだ。呆然としていると、空気を切り裂く音が耳を突く。
見ると、恐竜が天井近くまで飛び上がっていた。予備動作は無かった。その状態からあそこまで飛んだっていうのか!?
この近距離で「マッガーレ」を見切った事といい、地球上の生物を遥かに超えている!
驚いているうちに、恐竜が落下を始める。その落下地点は……!間に合わない!
呻き声を上げながら古泉が倒れる。恐竜が飛び掛かったのだ。地上最強の生物が生み出す衝撃に耐えられるはずも無い。
くそっ、早すぎる!助ける暇も無い!後ろ足で体を抑えつけられた古泉に、大型のサバイバルナイフのような爪が迫る。
「あの距離で余裕でかわすとは、恐ろしい『動体視力』……僕の『マッガーレ』のスピードはトップクラスだと思っていたんですがね……自信無くしますよ。
ですが、僕の能力は体を『光弾』に変える能力でしてね……」
恐竜の動きが止まり、やがて蛮声を上げながら大きくのけぞった。
見ると、ちょうど恐竜が抑えていた部分がまるまる光弾に変わっていた。体を離した恐竜に、すかさず長門が蹴りを見舞う。
サッカーボールのように蹴り上げられた恐竜は、壁に叩きつけられると動かなくなった。
「ゼロ距離なら、避けるも何も無いという事です。長門さんナイスアシストでした」
「これは一体?」
長門は気を失ったらしい恐竜を見ながら言った。古泉も合点がいかない様子で首を捻る。
「恐竜が現代に復活したというニュースは聞いていませんね」
「じゃあ『スタンド』だって言うのか?だが、これは俺にも見えてるぞ」
キョンにも?とすれば、少なくともこれはスタンドの像ではない。
スタンド使いではないキョンにはスタンドの像は見えないのだ。はっと気が付き、ぼくは長門に言った。
「長門、君にも見えたようだし、触っていたよな?」
そうだ。長門も正確にはスタンド使いではない。情報操作の能力だ。
しかし、この前の億泰の「ザ・ハンド」の時、彼女はあたかもスタンドが見えたかのように行動していた。
「……私にもスタンドは見えない。でも、エネルギーの変化は読み取れる。それにより、疑似的にスタンドを見る事は出来る。
でも、触る事だけは出来ないはず。だからこれはスタンドじゃない」
驚きの長台詞だ。出来れば別の時に聞きたかったが。長門は恐竜にほんの少しの間触れると、驚いた様子も無く言った。
「骨や内臓など、各種機関の存在を確認。これは本物」
荒唐無稽だが、長門にそう言われては信じるしかない。と、ここで不意に疑問が沸く。
なぜ誰も来ない?ここはVIPルームだ。警備員が詰めているし、他の部屋にも要人のボディーガードがいるはずだ。
その中で恐竜の耳を突んざく咆哮と、格闘による騒音が鳴り響いたのだ。誰も様子を見に来ないなんて考えられない。
いや、それ以前に……静かすぎる。レースが終わって間も無いはずだ。それなのに、窓の向こうからは以前のような熱気が無い。
何が起こっている?窓の外を見て頭が凍り付く。ぼくは震える指で外を指差した。
「皆、見ろ……!」
そこはまるで出来の悪い合成映画だった。最新鋭のオーロラビジョン、電光掲示板、手入れの行き届いた芝生……。
そこを恐竜が闊歩している。それも、無数の。さっき目撃したばかりの圧倒的な強さを持つ生物が。
それらを認めた古泉が苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「……奴ら、本気のようですね。これまでは涼宮さんへの悪影響を懸念してか、襲撃の対象は僕達だけでした。
こんな攻撃をするという事は、相手も手段を選べなくなってきたという事でしょうか」
ここで言葉を切り、思い出したように言う。
「そう言えば、涼宮さんですが」
視線の先にはこんな状況にも関わらず、ぐっすりと眠る少女。長門がそれに答える。
「少し眠ってもらう。心配は無い……多分」
多分か。かなり不安だが、古泉はぼくをよそに素晴らしいと言って微笑んだ。キョンが焦れたように言う。
「これもスタンドだとして、一体どんな能力なんだ?」
古泉は小孝した後に重苦しく口を開いた。
「材料が少ない今、断定は危険です。『少なくとも恐竜を出現させられるスタンド』程度に考えておきましょう」
断定は危険。その通りだ。「黄の節制」、「運命の輪」、「チューブラー・ベルズ」。
これまで戦ってきたスタンドの中には、一つの能力で多くの事をする物があった。
目の前の恐竜だけで襲撃者のスタンド能力を考えては、木を見て森を見ずという事になりかねない。
確かな事は少ない。しかし、ぼく達がすべき事は一つしかない。
「あの数じゃあ、いくら何でも勝ち目が無い。本体の位置もわからないんだ。ここは逃げるしかない」
三十六計逃げるに如かずってね。悪いけど一般市民の保護なんて到底無理だし、現状では最も優れた作戦だ。
古泉も同意見のようで、ニヤリと笑う。
「話が早くて助かります。そうと決まれば行きましょう。朝比奈さん、涼宮さんを運んで下さい。
あなたの『マドンナ』なら楽に−−−どうしました?」
返事が無いみくるさんに古泉が訝し気な視線を送る。みくるさんは聞いていたのかどうか、良くわからない返事をした。
「……すみません、何だか寒くて」
言いながら、七分ほどまで捲ったカーディガンを手首まで戻す。
落ち着いて振る舞ってはいるが、やはり本調子ではないのだろう。キョンはみくるさんを心配そうに見ながらおずおずと言った。
「朝比奈さんには悪いが、早く行こう。恐竜なんてスクリーンの中だけでたくさんだ」
「ちょっと待ってくれ」
止めたのはぼくだ。キョンがムッとした視線を向ける。
「ぐずぐずしてる暇は無いぜ。一匹来た以上ここもヤバい。早く行かないと」
「大事な事なんだ。奴ら……恐竜の事なんだよ」
ぼくは考えながら口を開いた。
「恐竜が出た時の事を思い出してくれ。一番近くにいたのはドアを開けたキョンだった。
でも、実際に襲い掛かったのは恐竜から遠い古泉。……なぜだ?」
ぼくにはその理由がわからなかった。怪物の思考を考えるなど馬鹿げているかもしれないが……。
もしかすると、この小さな疑問が突破口になるかもしれない。考えもしていなかったのか、キョンが眉を寄せながら言う。
「……さあ。古泉が攻撃したからか?」
その可能性はぼくも考えた。しかし。
「じゃあ、攻撃されるまでつっ立ってたのは?隙だらけの姿を晒した理由は?」
そうだ。あの時恐竜は凍り付いたぼく達に先手を取る事をしなかった。古泉の攻撃を受けて初めて反撃したのだ。
再び考え込むキョン。長門が独り言のように言う。
「……恐竜は動かない物を認識しない?」
微かに上げられた語尾は疑問形である事を示していたが、ぼく達を驚かせるには十分だった。
あの時、ぼく達の殆どは余りの出来事に動けなかった。例外は古泉だけ。状況はぴたりと当てはまる。
「そんな馬鹿な。あの動体視力ですよ。長門さん、あなたも見たでしょう?」
「あり得ない事ではない。ある種の生物は動く物しか認識出来ない。恐竜も生物なら、そのような習性を持つ事はあり得る」
「しかし……いや、失礼。さっき断定は危険と言ったのは僕でしたね。確かにそう考えれば納得出来ます。可能性としては高い」
落ち着いた声で言う古泉とは対照的に、キョンの口振りは明るい。
「おいおい、ジョニィ。本当なら、この発見は値千金だぞ」
断定は出来ない。試してみる必要があるが、その価値はある。
「次に会ったら確かめよう。……時間を取らせた、出発しよう。歩けるか?みくるさん」
とは言ったものの、どうやって逃げる?確か、ここは六階だったっけ。
エレベーターと階段。どっちを使っても恐竜と鉢合わせする可能性はあり、その狭い空間内で出くわしたら危険は数倍にも膨れ上がる。
悩むぼく達に長門が思い立ったように言った。
「逃走経路なら、考えがある」
「本当か?それはどういう……」
キョンの質問を待たずに長門は窓に歩み寄り、拳を一閃。騒々しい音と共に分厚いガラスが割れる。
「き、君ッ!何をしてるんだッ!?」
長門はぼくを無視して窓の端にあった布を広げ、階下に落とした。
あれにはぼくも見覚えがある。この手の施設には付き物の防災器具の一つだ。防災スライダーって言うんだっけ。
飛行機によく取り付けられている物で、地上に向けて広がった布が滑り台状になり、滑り降りる事が出来るという装置だ。
通常なら細かい調整が必要なのだろうが、情報操作のお陰か綺麗に広がった。なるほど、つまりこれで降りようと?
第三のルートって所だが、はっきり言って正気の沙汰ではない。ターフには恐竜が腐るほどいるのだ。
そこに飛び込むなんて自殺行為以外の何物でもない。ぼくは声を荒げて長門に抗議した。
「長門、君の狙いはわかった。でも、見てわからないのか!?あそこは危険すぎる!」
「心配無い」
長門は短く言うと、設置されていたテレビモニターをスライダーに置いた。手が離れたそれはころころと傾斜を転がっていく。
転がり落ちたそれに恐竜が集まる。わざわざ誘き寄せて、どういうつもりだ。
「長門、君は何を?」
「…………今」
長門が呟いた瞬間、場内に激しい爆発音が轟いた。スライダーの先に黒煙を上げる金属片と、
無惨にも倒れた恐竜達の姿があった。
「情報操作でモニターの回路を組み換えて爆弾にした。時間が無い。早く滑って」
「……貴方、案外派手好きなんですね」
全部わかればいい策だけどさ……先に説明してくれよ。首を捻りながらもぼく達は滑り降りた。
降りてみると、辺りの恐竜はすっかり気絶していた。生きてはいるようだが、この惨状からすると爆弾の威力は相当な物だったらしい。
「……少し、火力を強くしすぎたかも」
「爆弾とか、お前はセガールか」
キョンのぼやきを金属音のような鳴き声が遮る。これは……しまった!ぼく達は致命的なミスを犯したのかもしれない。
「みんな、このままだとまずい!恐竜が爆発を聞き付けたんだ!急いで逃げよう!」
「いえ、その必要はありません。なるほど、長門さんの策がわかってきましたよ」
古泉がのんびりとした口調で言う。この危機的状況で何を言っているんだ。
「……全員、そこで止まって」
長門がみんなを見据えながら言う。自己主張が少ない長門にしては強い口調だ。
「でも……」
食い下がるぼくを古泉が宥めた。
「まあまあ。長門さんを信用して下さいよ。第一、これはあなたの発見に基づいての物なんですから」
ぼくの発見?あの「恐竜は動かない物は見れない」って奴か。
「でも、あれはまだ確実な事じゃないだろ?」
「ですから、そこは長門さんを信じましょう。純粋な観察力なら長門さんがこの中で一番上です。彼女なりの勝算があるんでしょう」
それにしても説明をちゃんとしてほしい。抗議しようとする声をキョンが遮る。
「ヤバい、来るぞ!」
騒々しい足音と共に恐竜がなだれ込んで来た。くそ、これで動くわけにいかなくなった。
恐竜が群れをなしてこちらへとやって来る。あの数!気付かれたら勝ち目は無いぞ!
見えていないなら、助かるが……。そう思った矢先、恐竜たちが歩調を緩める。
(おい、動きが止まりそうだぞ!バレたんじゃないか!)
(落ち着いて下さい!爆弾の残骸を見付けて用心深くなってるだけです!)
慌てそうになるキョンを古泉が宥める。ぼくはというと、それに加わる余裕すら無かった。
ゆっくりと歩く恐竜が、ついにぼく達の横に差し掛かる。キョロキョロ辺りを見回しながら。
その視線が合う。まさか、気付いたのか?背中を冷や汗が走る。
リアルタイムで遭遇したど!
支援するど!
ぼくは動いていないはずだ。それこそ瞬きさえ。来るな……!
願いが通じたのか、恐竜が脇をすり抜けて行く。そのまま爆心地へと。キョンが安堵の息をつく。もちろん小声で。
(行った……)
(でも、危機が去ったわけじゃないぞ。まだ奴らはあそこにいるんだから)
釘を刺すぼくをよそに、長門が指先だけを軽く曲げて爆心地を指す。
恐竜の群れの隙間に何か黒い物が見える。爆弾の残骸か?不思議に思っていると、長門が呟く。
「…………今」
爆発音。……もう一個仕掛けてたのか。動けなくなった恐竜を片目に古泉が言った。
「よし、行きましょう。……これで『恐竜は動かない物は見えない』という事が確信できました。
シートンではありませんが習性を知っただけ、優位に立てましたよ」
それにしたって、あんな「だるまさんが転んだ」はもう勘弁だ。一刻も早くここから離れたい。
ぼくは長門が直した車椅子に乗り込むと、連れ立って出口へと向かった。
まず目指す先は恐竜が出てきた場所。さっき奴らが出てきたぶん、手薄になっているだろうからだ。
改めて見ると、どうやら馬の入場口らしい。足を止めないまま、キョンが話し掛けてきた。
「なあ、ジョニィ。俺達ってまだ一人も人間と会ってないよな?死体も含めて」
「……食べられたのか?」
あまり想像したくはない。脳裏をよぎった陰惨な光景に顔を歪めながらぼくは言った。キョンが首を振る。
「骨の一本も残さずに?……人間はどこに行っちまったんだ?」
「…………」
ぼくが答えを見付けられずにいると、先頭を行く長門が足を止めた。
「待って。中に何かいる」
そして、警戒しながら足を踏み入れる。ぼくらは様子を見ていろという事だろうか。
それに応えて後方から内部の様子を窺う。すると、部屋の隅で影が揺らめいた!
「長門、柱の陰だ!そこにいるぞッ!」
長門がそこに注意を向ける。それと同時に、影がゆっくりと姿を現した。
「まだ人がいたのか……ジョニィ。しかも君か」
Dio……!生きていたのか!?
ぼくの姿を認めると、Dioは笑顔を浮かべながら歩いて来た。古泉が安堵の息をつく。
「良かった、生存者がいましたか……」
そう言って、歩み寄ろうとする古泉の腕を掴んだ。
「待て、古泉。……君、まさか保護するつもりじゃあないだろうな?」
驚きの声をあげたのはキョンだった。
「おいおいっ!放置しとくって!?」
「……あなた、本気ですか」
古泉が非難と軽蔑の入り混じった視線を浴びせる。だが、怯んではいられない。
「彼は信用出来る人間じゃあない。……生まれで差別するわけじゃないけど、彼は貧民の出だ。そんな彼が競馬で成功したんだ。
とりわけ金がかかる乗馬ってスポーツで!しかも未だに身分制の残り香が根強い英国でだ!
才能や努力だけではこの歳でこんな成功は出来ない。……彼が何をしたかぐらいわかるだろ?
彼は『餓え』てる。それを癒すためなら何でもする。まして、この状況だ。そんな人間は信用出来ない」
「……なぁジョニィ、聞こえてるぞ」
ぼくの熱弁は唐突に遮られた。その「日本語」の声に全員の視線が引き付けられた。
「Dio、日本語が話せるのか?」
Dioはフンと鼻を鳴らしながら返事をした。
「あぁ、まあな。それより酷いんじゃあないか?下らないゴシップを信じるなんて。
俺の成功は幸運に恵まれただけだ。それを妬む連中の言葉なんて、でたらめもいい所さ」
子供のワガママを諫めるような口調。そして、白々しい笑顔を周りに向ける。
「恥知らずが!何と言おうと君を連れてく気は無い!通報ぐらいはしてやるから、このまま……」
「ジョニィ君、止めて下さい。……少し、失望しました。あなたが彼と過去に何があったか知りませんが、
この期に及んでそんな事を言っている場合ではないでしょう」
冷えきった古泉の視線にぼくは敗北を確信した。古泉はDioに向き直り、丁寧に言った。
「失礼しました。ここは危険です。僕達なら多少は保護が出来る。ついてきて下さい」
「保護?武器でも持ってるのか?」
「……ええ、そんな所です」
目の前でDioの同行が決定されていく。考えてみれば、受け入れられるはずが無い説得だった。
正義の味方になるつもりは無いが、助けられる人がいるなら助けたい。ぼくに限らず、みんなそう思ってるだろう。
見捨てるという行動がプラスに受け取られるわけが無い。感情的な口調で主張されたらなおさらだろう。
さっきから古泉は目を合わせようともしない。彼の目には嫉妬として映ったのか?影さえ踏めない場所に行ってしまったライバルへの。
奴が言う通り、黒い噂なんて事実無根なのかもしれない。……そうだとしても譲れない。
ぼくはDioに聞こえないように、小声で古泉に言った。
「……同行は認める。でも、今さら言うまでも無い事だが、スタンドやハルヒの力は絶対にバレたくない。
君が何と言おうとDioはそういう力には目が無い奴だ。絶対に欲しがる」
古泉の態度は素っ気ない物だった。
「当然です。一般人には教えません。……無駄話をしている暇は無い。行きましょう」
……嫌われたもんだ。今となっては遅いが、部屋を譲られた時の不遜な態度もまずかったのかもしれない。
古泉ほど露骨ではないものの、キョンやみくるさんもどこかよそよそしい態度をとっている。
気まずい思いを抱えながら古泉についていっていると、長門がぼくに歩調を合わせている事に気付いた。
「……長門、君は反対しないのか?」
何とはなしに言ったぼくに、いつも通りの抑揚の無い声が答えた。
「彼を信用する材料は無いし、助ける義務も私達には無い。でも、ここで一番避けるべきは私達の分裂」
確かに、これ以上強硬に主張しては仲違いを起こしかねない。腹が立つが我慢するしかないようだ。
Dioの動向には目を光らせておかなくてはいけないが……幸い、出口は近い。
少しの間、見張っていればいい……ぼくは自分にそう言い聞かせ、ともすれば爆発しそうになる感情を抑えた。
ぼく達は警戒しながら出口へと続く廊下を進んでいった。が、その道のりは拍子抜けするような物だった。
なんせ、恐竜と一度も出くわさなかったのだから。全ての恐竜がターフ内に集まっていたのか?……そんなはずは無いな。
とてもそんな安易な考え方は出来ない。じゃあ、なぜだ?
考えているうちにかなりの距離を歩いていた。曲がり角に差し掛かったところで、Dioが興奮したように言う。
「……よし、ここまで来ればほぼ安全だ。この角を曲がればロビーだからな」
「静かに。気付かれます」
厳しい口調で古泉が注意する。Dioはそれを無視して角を曲がろうとする。古泉はその肩を引っ掴んで引き寄せた。
「何をする!?」
抗議するDioを無視して、古泉は注意深く角の先を覗き込んだ。その顔がみるみる曇っていく。
「やはり……。出口を固めていましたか」
苦々しく呟く。廊下に恐竜がいないわけだ。古泉はぼく達に目を向けた。
「駄目です。敵が多すぎる。長門さん、もう一度爆弾を作れますか?」
長門は首を振る。
「何も無い状態から作るのは負担が多すぎる。媒体となる物が要る。大規模なら尚更」
さっきのモニターのような物か。しかし、探している時間があるのか?
ターフにいた恐竜もずっと寝てはいない。それでも見つかればいいが、もし見つからなかったら目も当てられない。沈黙を破ったのはキョンだった。
「別の出口を探したほうがいいんじゃないか?」
「そうですね。あの包囲網を突破するのは無理でしょう。他の出口があるはずです」
「……そうは思わない。敵の量にもよるが、これ以上歩き回るのはリスクがある。ここを突破するのがベスト」
ここに来て意見が割れた。しかし、長門と古泉のどちらの言い分が正しいとは言いきれない。
極力隠してはいるが、ぼく達の疲労はピークに達している。
みくるさんに至ってはかなり前から一言も言葉を発していないし、顔色も優れない。
体力的にも時間は無いのだ。早く脱出しなければならない。しかし、一歩間違えばこの強硬突破は蛮勇だ。よく考えなければならない。
長門と古泉は互いに意見を譲らない。当然だ。生死がかかっているのだから。
ぼくは議論を続ける二人を尻目に歩を進めた。出口を固めているという恐竜を確認するためだ。
見たからどうなる事ではないかもしれない。しかし、小さな発見が突破口になる可能性もある。
とにかく今は情報を集める事だ。ぼくは車椅子を壁際に止めると、上半身を傾けて覗き込んだ。
……多い。十匹以上いる。ぼくはVIPルームで見た恐竜の身体能力を思い出した。
古泉の光弾ですら軽々とかわしたのだ。そんなやつらが十匹以上と考えるとぞっとする。とても勝負にならない。
まともに戦うのは無理。しかし、長引かせるのも危険か……。確かにここを突破できればベストなんだけど。
どうすれば……?脱出の間だけでも奴らの気をそらせないだろうか?そう思った瞬間だった。
目の前の景色が急に動き出していた。……違う。ぼくが動いているんだ。
顔だけを出していたはずなのに、今ではほぼ全身が角の先に出てしまっている。
つまり、恐竜に姿を晒しているのだ。恐竜の鈍く光る目がぼくを睨む。なぜだ?なぜ姿を晒している?
勝手に車椅子が動いた?あり得ない。床は傾いていないし、車椅子は固定していた。
……まさか。気付いた時にはもう遅かった。
「……グッバイ、ジョニィ」
耳に嫌らしい声がまとわりつく。その次の瞬間、車椅子が猛烈なスピードで前に走りだした。
そうか。「気をそらすもの」。あいつの……Dioの考えそうな事だ。
恐竜が集団で飛び込んで来る。ぼくにはもう後悔する時間すら無いようだった。
−−−−−−−−−−−−−−−
古泉と長門の議論は平行線だった。俺はそれには加わらず、横で見ていた。
もちろん、俺なりに考えはある。一刻も早くここから逃げるべきだ。
俺達は疲れている。肉体的にも精神的にも。前々から調子が悪かった朝比奈さんはもちろん、古泉もだ。
さっきのジョニィとの口論。……ま、俺もジョニィがあんな事を言ったのはショックだったが、普段なら古泉はあんな言い方はしないだろう。
その後の刺々しい態度もアイツらしくはない。ジョニィも冷静さを欠いている。このまま極限状態に晒され続けるのはヤバい。
しかし……それは本当に正しいんだろうか?ただ単に俺はビビってるだけなんじゃないか?
すぐに逃げ出したいって気持ちをそれらしい理屈で誤魔化してるんじゃないか……。
そんな考えから俺は口を出せなかった。結局、俺は一般人だ。こういう決断は修羅場慣れしてる二人に任せたほうがいい。
そう思ったのだが、結論はなかなか出ない。これには少し不安になってきた。
……そうだ、ジョニィはどうした?ジョニィも議論には加わっていない。
見ると、壁際に車椅子を止めて出口を覗き込んでいた。その後ろに……ええと、Dioだったか、がいる。
車椅子を押さえているのか。最初はそう思った。しかし、俺はすぐに異変に気付いた。
ジョニィの体が壁の陰から完全に外れている。あれじゃあ恐竜からは丸見えなんじゃないか?
注意しようとしたその時、それは起こった。ジョニィが乗った車椅子が走りだしたのだ。
悲鳴一つ無くジョニィの姿が消え、恐竜の鳴き声がそれに続いた。
「……あ……あ……」
自分の口から言葉にならない声が漏れ出ていた。通り過ぎる影。長門だ。助けに行ったのか。
数秒の間、恐竜の悲鳴が辺りに響いたが、それもすぐに無くなった。
「……何て事だ……。あれでは生きてはいない」
沈痛な表情でDioが言う。だが。だが、俺は見ていた。
ショートした思考回路が修復されるにしたがって、起こった事が頭にしみ込んでいく。
こんな状況だというのに、俺は声をあげずにはいられなかった。
「Dio!お前……!」
恐竜の事など頭から消えていた。頭に血が昇り、舌がうまく回らない。
気が付けば俺はDioに掴みかかっていた。落ち着いた表情を崩さずにDioが言う。
「おい、静かにするんだ。ショックなのはわかるが、彼らの犠牲を無駄にするなど」
「ふざけるなッ!……見たぞ……俺は……!」
「見た」という俺の言葉を聞いた瞬間に、Dioの表情から急速に温かみが失われた。
Dioはフンと鼻を鳴らすと吐き捨てるように言った。
「……何だ、そうか。だが、それが何だっていうんだ?あんな歩けもしない奴、足手纏いになる。
それなら、最期に役立ってもらったほうが」
言い終わるのを待たず、俺はDioに殴りかかった。しかし、その先にDioの姿は無く、代わりに綺麗なストレートが俺を迎えた。
頬に食らい、膝をつく俺をDioが怒鳴りつける。
「馬鹿が!俺は一流のアスリートだぞ!ただのガキが、不意を突いたからといって殴れるとでも思ったか?」
「……どういう、事ですか」
豹変したDio。呆然とした表情で古泉が言う。俺は呻きながらも懸命に訴えた。
「こいつが……ジョニィの車椅子を押した。こいつなんだ!ジョニィを殺したのは!」
口の上手そうなこいつなら誤魔化す事も出来ただろうが、俺にとっては幸いな事にDioは完全に開き直っていた。
「フン!君ならわかるだろ?脱出する時に歩けないジョニィは邪魔になる。処理しておこうってわけさ」
こいつ……!最初の紳士ぶった態度は仮面だ。今のこの姿が醜悪な素顔。
平和な人生を歩んできた俺でもわかる。これが悪ってヤツなんだ。俺は立ち上がりながら叫んだ。
「人の命を何だと思ってやがる!……長門も死んだ。お前は、お前の事だけは絶対に許せねえ!」
俺はDioに掴みかかろうと飛び掛かろうとした。が、その前に羽交い締めにされていた。
「こらえて下さい。ここで冷静さを失えば恐竜に気付かれてしまう。全員が死ぬわけにはいかないんです」
古泉が真剣な口調で訴えた。Dioが嘲笑の笑みを浮かべる。
「そうだ。静かにしていろ。俺は必ず社会の頂点に立つ。そのためなら他人の命など、取るに足らん」
俺は歯軋りしながら、羽交い締めにする古泉を振り払った。
朝比奈さんやハルヒもいるんだ、恐竜に気付かれるわけにはいかない。だが……睨む俺にDioは得意顔で言った。
「フフ、理解できたか。良かったな?お利口な友達を持って」
歯噛みする俺を制止しながら古泉が言う。
「言っておきますが、無事に出られると思わないで下さい。許しを乞う資格など、僕にはありませんが……。
この状況なら、人一人が消えても誰も気にかけないという事をお忘れなく」
口調は丁寧だが、目には激しい怒りが宿っている。そうだ、古泉だって腹が立たないはずが無い。
しかし、そんな古泉にもDioは高飛車な態度を崩さない。
「フン、この俺を?お前らごときが出来ると?いいか……ウザい態度はもうやめとけ。
本来ならお前らなど、俺の影も踏めない存在だ。さあ、行くぞ。恐竜が早めのディナーをすませる前にな」
言い放つと、Dioは歩き出そうとする。しかし、それを止める人間がいた。
「……?何だ、君も不満があるっていうのか?日本女性は男を立てるんじゃあないのか?」
俺ではない。朝比奈さんだ。Dioの腕を掴んでいる。Dioは振り払おうとするが、見た目よりずっと力が強いようだ。
衰弱しきっていると思っていたが……。始めは余裕を見せていたDioも、離そうとしない朝比奈さんについに業を煮やした。
罵倒の言葉と共に拳を振り上げたのだ。これ以上の乱暴は許せない。俺は声をあげた。
「おい、待て!」
が、止めるまでもなかった。次の瞬間、地面に伏していたのはDioだったのだ。
Dioの拳が到達するよりも、ずっと早く朝比奈さんの手がDioの首を捉え、そして力任せに床に叩きつけていた。
「な……!?こ、こいつ……!?」
Dioの呻き声ももはや頭に入らなかった。そうか。競馬場に人がいなかった理由。人は、「消えた」んじゃなかった。「変えられた」んだ。
愛らしい目は鋭さを帯び、白い肌には鱗が走り……朝比奈さんは、恐竜になっていた。
「こ、こいつ、恐竜になっているだとッ!」
俺にも敵のスタンドが少しずつわかりかけてきた。「人を恐竜に変える」。だから人と出会わなかったんだ。
「古泉ッ!ヤバいぞッ!俺達も恐竜に変えられちまう!」
叫びながら見る。青ざめた表情。
「……いえ。どうやら、『既に』なっているようです……!」
弱々しい声を出しながら腕を押さえている。その手の隙間からヒビのようなものが覗いていた。
あそこは……!確か、最初の恐竜に組み敷かれた時に傷がついた場所だ!
全容は、わかってきた。だが。だが、もう!
「……む、無念だ……」
古泉が崩れ落ちる。遅すぎた。もう、何もかも。ここには俺しかハルヒを守れる人間はいない。
でも、俺に何が出来る?ただの人間にすぎない俺に、何が。
「おいッ!何をしてる!恐竜が迫っているぞッ!助けろ!」
地面に押さえつけられたままのDioが叫ぶ。見ると、恐竜達は完全に俺達に気付いたらしい。とっくに包囲されていた。
「う、うう……」
口から情けない声が出た。どうすれば……!どうすればいい!?
俺がパニックに陥りかけたその時だった。
「……騒がしいな。今日は記念すべき日だ。飛び入りのゲストは歓迎出来ない。粗暴なら尚更だ」
落ち着き払った声が聞こえた。見ると、上等な服を着た男が恐竜の群れに囲まれて立っていた。
生存者……!?いや、そんなわけはないか。男は俺達が見えていないかのように歩を進め、朝比奈さんだった恐竜に話し掛けた。
「さて、朝比奈みくる君。良くやってくれた。やはり君を恐竜化させたのは正解だった」
そして、朝比奈さんが引き付けたままのハルヒに視線を向ける。
「この少女が……。今、目の前の少女がそうだとは。信じ難いが、同時に直感でわかる。ついに私達の悲願が果たされるのか」
こいつ、やはり「機関」が敵対してる奴らの人間か!?本体が現れたってのはチャンスかもしれない。
しかし、逆に考えれば絶対的な自信があるからこそ姿を現したとも考えられる。
そして、その自信の根拠も俺にはわかっている。この恐竜達だ。俺を八つ裂きにする事など容易いのだろう。
「……お前が本体なのか……!?皆をよくも……!」
もう大勢は決した。俺が言った言葉は恨み言にすぎない。しかし、意外にも男は反応した。
「君は……そう、『キョン』。そう呼ばれている少年だな?鍵の少年か」
俺をじっと見る。少し思案してから男は口を開いた。
「こんな状況とはいえ、私の方から礼節を欠くのもなんだな……。
自己紹介をさせて頂こう。私の名は『フェルディナンド』。地質学・古代生物学者だ。『フェルディナンド博士』と呼べ」
異様な態度だ。こんな事をしておいて……。
「三年前、我がスタンド、『スケアリー・モンスターズ』を身に付けた。
まず群集に紛れて朝比奈みくるを恐竜化。そして、虫なども利用しながら徐々に感染させたんだ」
「黙れ!そんな話、聞きたくねぇ!何人も殺しておいて……!」
我慢出来ずに叫んだ俺に、フェルディナンドがピクリと眉を上げた。
「殺す……?ああ、勘違いしているのか。安心しろ、誰も死んではいない。
恐竜化しているだけだ。解除すれば元に戻る。もっとも、君の仲間の解除はしばらく出来ないが」
何だと?じゃあ二人も生きているのか?そう思った時、恐竜の群れの中から呻き声が聞こえた。
ジョニィ!生きてたのか!?しかも、人間の姿のままで。フェルディナンドが感慨深そうに言った。
「君らの中でも二人は特別だ。鍵だからな。涼宮ハルヒの精神状態に少しでも悪影響を与えないため、
目的を遂げるまで生きていてもらう必要がある」
目的だと?それがすんだ後は?疑問を代わりにジョニィが言った。
「……ハルヒを使って何をする気だ。ハルヒがお前らの野望を叶えてくれるとでも思うのか?」
フェルディナンドが顔をしかめる。しかし、それも一瞬。すぐに不思議そうな顔になった。
353 :
マロン名無しさん:2009/11/30(月) 00:53:40 ID:bxHFRGlf
「野望、か。古泉から教えられていないのか?……いや、古泉も知らないのか。
お前が涼宮ハルヒに近付いた理由は何だ?その脚か?私達のはそんなちっぽけな理由なんかじゃあないぞ……。
『理想の世界』だ!彼女の能力は!いいか、彼女の能力は正しく、崇高な目的に使われるべきなんだ!」
興奮しながら言うフェルディナンド。しかし、対するジョニィの態度は冷ややかだった。
「正しいだと……?イカれてる。お前らがやっているのはテロじゃあないか。それで正義を謳うなんて、テロそのものだ」
吐き捨てるジョニィに、フェルディナンドはみるみるうちに顔を赤くした。
「意気がるなよ、ジョースター……!お前が地上最強の生物に囲まれている事を忘れるな。鍵は一人でもいいんだ」
そうだ。もう勝負は決まった。残念だが、俺達二人ではどうしようもない……しかし、それがわかってない奴がいた。
「お、おい!待て!お前達、何を言っている!?『スタンド』……?それに、その女が何だっていうんだ!?
いや、それよりだ。フェルディナンド、俺を助けろ!俺は政財界にも繋がりがある。
俺ならお前らの望みを叶えてやれる!助けるんだ!」高飛車な態度を崩さないまま命乞いをするDio。深い溜め息をつくフェルディナンド。
長い長い溜め息が終わると、汚物を見るような視線をDioに送った。
「……ふう。私は先程『殺さない』と言ったが、それには君は含まれていないんだよ。
つい、興奮してしまって話しすぎてしまったのでね。それに、君のようなゲス者にはヘドが出る」
そして、Dioに近付くと押さえつけたままの恐竜朝比奈さんに一声かけた。
「やれ」とでも言ったのだろうか。Dioの顔がみるみる紅潮していく。
「こ……こんな……!やめろ、俺に近寄るな……!この、このDioがこんな所で……!」
恐竜の朝比奈さんが手……今は前足か……をDioの首にかける。
「この光り輝く道への船出を汚さないでもらおう。さよならだ、ディエゴ・ブランドー」
地に這うDioを見下ろしながらフェルディナンドが言う。顔が紅潮しているのは息苦しさからだけではない。
僅かに残る息を使い、Dioが叫ぶ。
「俺が……!このDioが……!嫌だ……!勝つのは俺のはずなんだッ!
WRYYYYYYYYYYY!!『世界』を掴むのは俺のはずなんだッ!」
辺りに絶叫が轟く。それが気分を害したのだろうか。フェルディナンドが軽く上げた手を下げた。
同時に恐竜の朝比奈さんが空いた手を頭に振り下ろす。う……!広がるであろう凄惨な光景に俺は目をそらす。静寂。
やがて、俺は視線を戻す。……!?何が起こった!?目の前に広がっているのは予想通りの凄惨な光景だ。
しかし、倒れているのはフェルディナンドだった。腹に刳り貫かれたように大きな穴が空いている。
目は虚ろで、もう残された時間は少ないという事は俺にも見て取れた。うわごとのようにフェルディナンドが言う。
「きょ、恐竜が……!ディエゴ・ブランドー、貴様……貴様まで……!」
恐竜?俺は立ち上がったDioの足元の人影に目を向けた。朝比奈さん!恐竜化が解けている!
朝比奈さんだけじゃない、周りの恐竜も人間に戻っている!フェルディナンドが死にかけてるからか?
Dioが薄ら笑いを浮かべたままフェルディナンドを見る。……もう動かなくなった。
「Dioッ!き、君……。何をしたんだ!?まさか……今のはッ!?」
ジョニィが叫ぶ。……この顔……!?怯えている……!?
フェルディナンドにも強気の態度でいたジョニィが!?対照的にDioは余裕たっぷりに言い放った。
「フフ……すまないが、今日はこれで失礼するよ。予定が詰まってるんでね。
特に、これからは忙しくなりそうだ。……何、すぐに会えるさ。また会おう、ジョニィ」
悠々と出口へ歩き出していく。俺は慌ててジョニィに言った。
「お、おいっ!行かせていいのか!?」
ジョニィは黙ったままだった。Dioの姿が見えなくなった時、ようやくジョニィは口を開いた。
「……止めるべきだったと思う。ただ、出来なかった。……手を出せなかった」
ジョニィはそれ以上何も言わなかった。すぐに呼ばれた救助が進んでからもずっと。
問いただす古泉にも曖昧な返事を返すだけだった。そして、俺も同じくロクな返事を返せなかった。
Dio……。あいつは何者なんだ?ジョニィが前に言ってたような奴なのか?
ただ一つ……ヤバい事になったって事は違いないだろう。
スタンド名「スケアリー・モンスターズ」
本体名「フェルディナンド」……死亡
To Be Continued……
というわけで、終了しました。……明日早いからといって投下を焦りすぎるのは良くない。
「投下祭り」ですが、参加したいけどこのペースではかなり厳しい。出来そうだったら書き込みます。
GJ!
と、言いたいが引っかかってる事が一つ。
長門はどーなった?
おそらく次回……いやこれからの複線でしょうが、すごく気になります……。
ええ、名人芸の無表情な美少女の貫禄を身に纏って次回も出てくれるとは思ってますが。
対スタンド戦とはいえ、何も出来ずに長門が恐竜化はないでしょうしね。
いろいろ期待しておきます。
まさか『世界』に目覚めたのか?
しかしこの話って人間関係がギスギスしてるなぁ
(古泉や長門が重要な事を話してないっぽいのもあるけど)
あと、億泰の新たな出番に期待
『保守』は完了した……
第101話 「トイドールズ 3」
俺達はカタツムリで身動きが取れない中、スタンド木人形と向かい合っていた。
「能力がまだある……か」
「しかしどんな能力なんだ?」
「分からない……だが見破れたら間違いなく突破口になる」
「ヒャッハァァァァァァァァァァァ!」
人形が叫ぶと、再びマリオネットが俺達を切り刻もうとしてくる。
「かわせッ!」
承太郎さんの声を合図に、3人とも別々の方向へ回避する。
「お前のマリオネットはなかなか強力だ……だが本数に限界がある以上、多人数を相手にするのはあまり向いていないようだな」
「ヒャ!誰ガ武器ハマリオネットダケダッツッタ?」
すると人形は腕を前方に突き出した。
「痛テーカラヨー……アンマ使イタク無インダガナ!」
そう言うと人形の指の先から何かが発射された。
「違うッ!指そのものだッ!」
承太郎さんの叫んだ通り、よく見ると先が鋭く尖った人形らしい指だった。とっさに横に飛ぶと後ろの電柱に指が刺さる。
「……まともに食らったら体に穴が空くじゃねえか………」
「バラバラに分解されても復元可能な事を生かした武器だな」
「次はロケットパンチでもしてくるんじゃないでしょうか?」
「ソーユーノガゴ所望?ヒャ!マア出来無イケドナ!」
「うるさい野郎だ………」
トイドールズと名乗った人形は指が元に戻ったのを見て再び構える。
「ケケケ……行クゼェ!」
再びマリオネットが何本も襲いかかってくる。が、承太郎さんの推測通り、3方向に散らばっている俺達を捕らえきるのは難しそうだ。
「どんなに強い攻撃も当たらなければ意味は無いですからね」
「ンナ事気付イテン二決ッテンダロウガヨォォォォォォォォォ!」
人形は回収したマリオネットを再び放ってきた。よく見ると今度はマリオネットに何かがついている。
「……カタツムリだッ!」
「ソレヨッ!」
マリオネットが波打ち、辺りにカタツムリが撒き散らされる。
「やべえ……避けきれないッ!」
四方八方にカタツムリが散らばった為、回避が困難だ。いくら承太郎さんでもこれだけの数をかわして俺達を救うのは無理だろう。………万事休すかな………。
「スタープラチナッ!」
その瞬間、承太郎さんが車のフロントガラスをスタンドで引きちぎった……ようだ。車のフロントガラスが壊れたので分かったが。
「ナンノツモリダ?」
「……………」
承太郎さんは無言で鏡を構える。すると、あれほどたくさん迫っていたカタツムリが突如として消えてしまった。
「ンナッ!?ドーイウ事ダヨッ!」
「簡単な話だ……このカタツムリ達は全て光の屈折によって作り出されたいわば幻だ……ならばその光を反射すればあたかも消えたかのように出来る」
……なるほどな。理屈ではそうかもしれんが、あの一瞬でよくどういう風に反射させりゃいいか良く分かったもんだ。流石は承太郎さん。
「そして、反射した光は全てある一点に集まる………」
「何処ダヨ?」
「………お前の真後ろだ」
次の瞬間、人形の後ろから無数のカタツムリが現れ、人形がそれに埋もれて見えなくなる。
「……やったか?」
「まさか」
木人形は承太郎さんが返事をするとすぐにカタツムリの中から飛び上がった。
「効カネーンダヨォォォォォォォヴァァァァァァァカ!」
「だろうな……やれやれだ、いくら攻撃しても本体に影響しない上にバラバラにしてもすぐに復活する……なかなか厄介なスタンドだ」
「どうするつもりですか?承太郎さん………」
すると承太郎さんはいつもの不敵でクールな表情をうかべた。
「心配はいらない……既に奴の1手上を行っている」
「ケケッ!ドウイウ意味ダヨ!」
「これはなんだ?」
そう言って承太郎さんは白く輝く長い何かを摘んだ。
「……マリオネット?」
「!!ヤベェ!マサカッ!」
「その慌て様……どうやら当たりのようだな」
一体なんだ?あのスタンドの慌て様……まるで首元に刀をいきなり突き付けられたみてえに………。
「テメエエェェェェェェェェ!気付キヤガッタノカアァァァァァ!」
「スタープラチナッ!」
木人形の猛烈な静止をまるで聞かずに承太郎さんはマリオネットを全て一気に切断した。
「チクシ………」
マリオネットを切られた瞬間、人形がそれこそ糸を切られたように突然動かなくなった。
「……どうなってんだ?」
「最初に妙だと思ったのがマリオネットだ……こういう木人形はマリオネットよりもむしろ糸と操作棒で操る……そこが不自然だった」
なるほど。俺としてはなんで承太郎さんがそんな事知ってるのかが疑問なんですが。
「さらにマリオネットの動きだ……あまりにも自由に動いている、まるで意思があるかのようにな。さらにカタツムリをマリオネットが波打って弾き飛ばした所で確信した」
「……何をだ?」
「奴は人形自体に取り憑いたのでは無い……マリオネットを通じて人形を操っていたんだ」
「………何だって?」
なるほど、だからいくら人形を攻撃しても復活されたわけだ。元を断たないと意味が無かったって訳だな。
「待て、古泉はどうした?」
あれ?本当だ。あのニヤけ面がいないぞ。
「こっちだぜェ!イーーーーーーーーハーーーーーーーッ!」
「古泉ッ!?」
なんと古泉が弓と矢を入れたアタッシュケースを手に脱兎のごとく逃げ出していた。
「てめぇが言ったんだろうがッ!マリオネットで操ってるってなぁ!」
古泉が普段からは想像もつかない汚い言葉を吐きながら距離を開いていく。
「人間にも取り憑けるのかッ!」
マズい、このままだと弓と矢を持ち逃げされる。
「心配はいらない……既に対策はうってある」
そう言って承太郎さんは落ち着いてフロントガラスを構えた。
「何を……アッ!」
鏡によって光が反射され、そこから沸いて出てきたカタツムリに古泉が触れてしまう。
「しまっ……たああああぁぁぁぁ……………」
「カタツムリになっていく………」
「さっきは人形だから効かなかったが、人間ならば効果はある……さて、私は今から古泉のマリオネットを切断してくる。手を出してくれ」
「え?あ、はい」
承太郎さんに言われるがままに、何かを抱え込むような姿勢を取る。と、そこに何も無い所からトランクが落ちてきた。突然二の腕に予期せぬ荷重がかかった事により、バランスを崩しかけるがなんとか持ち直す。
「何するんですか承太郎さんッ!」
「今からお前が弓と矢を目標ポイントまで運ぶんだ……いいな?」
「………は?」
承太郎さんが俺を指差しながら、衝撃の言葉を告げた。
「いやいやいや……俺じゃなくて承太郎さんが運べば………」
「今から私は古泉のマリオネットを外さなければならない。その際に彼の体に触れてしまってカタツムリ化する可能性が高い。
また、お前が古泉のマリオネットを外すのは危険が伴う。外した瞬間そのマリオネットに操られないとも限らない。
その点私のスタープラチナならそれは無い。両方がカタツムリ化してしまう可能性より確実に片方が無事でいられる選択肢は今のところこれしかない……
目標ポイントまでは走って3分程だろう。敵やカタツムリに注意しながら歩いても10分以内にはたどり着けるから十分間に合う。分かったか?」
と、承太郎さんはこちらに反論の隙を1ミリも与えない完璧な説明と状況判断を示してきた。この判断力といい、推理力、そして冷静さ、もしかしたら長門よりも頭良いんじゃないかこの人?
「分かりました………」
「そうか、なら良い……急げ、敵が後どれくらいいるか分からない」
「了解しました」
アタッシュケースをしっかりと抱えると承太郎さんに背を向けて俺は慎重に、しかし早足で歩き出した。
「もうそろそろクライマックスだな………」
ゴールは近い。後はゴールテープを切るだけだ。
トイドールズ 羽賀恭司 カタツムリ化により本体再起不能 スタンドは空条承太郎により捕縛、再起不能
To Be Continued・・・
見ても見なくてもいい履歴書
羽賀恭司
19歳 B型 7月18日生まれ
性格 表面上はおどけた性格だが、内心は相手を馬鹿にしている性格。自らを道化に見せたがる。
好きな料理 ポップコーン
嫌いな料理 ピロシキ
趣味 漫才(ボケ)、一発ギャグ
トイドールズ
パワー B スピード A 精密動作性 A
持続力 A 射程距離 A 成長性 C
能力 自動操縦型で、マリオネットを介して取り憑いた物を操る。生物でも非生物でもどちらでも良いが、人型が最も適している。本体の意思でコントロール出来ないが、スタンドの人格自体は本体の心の内面がそのまま出ている。
以上、第101話でした
スタンド名はイギリスのロックバンド「トイドールズ」から
少し遅れました……スイマァセェン。そのかわり少し長めです
ジョニィの人乙!世界か?世界なのか!?
それでは!
GJっす!
承太郎の判断力の高さは今までの経験値もあるから、
長門より高いってとこですか。
まあ、長門は同調による未来の出来事の記録から判断してたから的確率が高い一面がありますからね。
消失以降は同調能力の削除をしたので、そこから先は素の判断力ですが。
GJGJGJGJGJGJGJGJGJG、GJGJGJ!
ハルヒにおける長門のアドバンテージの広さを
うまいことジョジョと共存させられてる話を書ける人には頭が上がりません。
370 :
アフロ名無しさん:2009/12/12(土) 15:05:20 ID:udrcMuqY
おもしろい!GJ
第102話 「フラッシュポイント 3」
side of 徐倫
あたしは有希と別れた後、カタツムリを迂回しながら目標ポイントへとバイクで向かっていた。幸いカタツムリが少ないルートを発見できた為、時間のロスは余り無い。
「潮の匂いがしてきた……そろそろポイントか」
目標ポイント周辺には道路が無く、徒歩でしか到達できない。あたしはバイクを止めると防波堤へと走り出した。
「誰も来てないな………」
辺りにはカタツムリがうごめいているだけで、人の姿すらない。あまり賑わう場所では無いが、いくらなんでも寂しすぎる。
「………まあ良いか、敵が来たら迎え撃てばいいんだ」
「ほう……なるほどな」
あたしが海の方を見ながら呟いていると、聞いた覚えのある声がした。
「まさかッ!てめえはッ!」
「久し振りだな……雪山以来か?空条徐倫」
「神原ッ!」
白く長い髪に赤と黒のオッドアイ、相変わらずの高級そうな白いコート。忘れるはずの無い姿の神原が数m離れた所にいた。だが、今回は決定的に異常な点がある。
「なんでてめえの周りだけカタツムリがいないんだ………」
単純にいない場所を通っているなどというものではない。神原を中心として、ポッカリと穴が空いたようにカタツムリのいない空間ができている。
「……これは誰の能力だ?」
「質問を質問で返してんじゃねーぞ………」
「答えてくれないと解説出来ないんだが」
「………ウェザーだ」
「なるほどな……大方天気を操って光をコントロールして作り出した映像ということだろう」
神原がこちらに一歩踏み出した。すると神原の周りのカタツムリがいない空間も奴の動きに合わせて動く。
「………まさかッ!」
「私の能力は覚えているな?光を操る事だ……これは光によって作り出された映像だ。ならば私が光を操作すれば………」
「光を操ってサブリミナル映像を打ち消した………」
「その通りだ……私にこのカタツムリは通用しない」
なるほど、良く分かった。ただまあ、だからと言って向こうが有利になったわけではない。
「お前の周りならあたしもカタツムリの影響を受けなくて済むって事だよなぁ!」
一気に距離を詰め、接近戦に持ち込む。
「オラァッ!」
神原もスタンドを繰り出す。雪山の時はよく見ていなかったので、しっかり見るのはこれが初めてだ。人型で、肘や膝に鏡のようなものがつき、仮面を付けたスマートなスタンドだ。
右のフック、ガードされる。が、気にせず次々とパンチを打つ。右のジャブ、左のフックから左のジャブ、左の手刀、右のフックから、右のジャブ、左のフェイントから、右の裏拳。だがやはり全てさばききられてしまう。
「相変わらず速いな………」
「なるほど、俺に近付けば確かにこのカタツムリの影響は受けない……考えたな」
「どうする?このままにしてたら接近戦では互角のままだぜ」
「分かっている……だが貴様こそ私のスタンド能力を忘れたのか?」
光を操る能力か……だがこんな近くでどう使うんだ?お前も巻き込まれるぞ。
「このカタツムリの幻覚は私に良いヒントを与えてくれたよ……フラッシュポイントッ!」
眩い光が辺りに満ち、一瞬目がくらむ。だが野郎もそれにかわりは無いはずだ。そして目が慣れるとすぐに目を開いた。
「神原がいないだと………!?」
どこかに隠れたのかと思ったが、ここらは港で開けている。隠れる場所は少ない。と、突如脇に衝撃がはしり、吹き飛ばされる。
「ウグッ………」
なんだ?今何もないところで殴られたぞ……待てよ?まさか………。
「光を操って自分の姿を消しているのかッ!」
ウェザーの光の屈折により映像を作り出すといった原理を応用して自分を見えなくしているのだろう。
「ここじゃあマズいッ!」
とっさに逃げ出す。開けた場所では不利だ。が、相手の姿が見えていないのに逃げるなど無理な話で、
「ゴフッ」
あたしは再び強烈な一撃をもらう。
「位置を悟られない為にスタンドを使っていないのがまだマシな点かな………」
だがこのままじゃあ移動もままならない。
「ならこうだ……ストーンフリーッ!」
糸の結界を周囲に張り巡らせる。
「こいつで動きを見極めてやる………」
周囲に糸を張り巡らせる。幸い港なので引っ掛けるポールや錨が多く、外にも関わらずかなり多面的に糸が張れた。
「くるなら来やがれ………」
が、いくら待っても全く攻撃が来ない。
「………まさか野郎、あたしを無視して弓と矢を探しに向かったのかッ!?」
マズい。姿を消すという術を身に付けた今の神原なら容易に弓と矢を奪えるだろう。
「クソッ!悩んでいる暇は無いッ!」
糸の結界を解除し、神原を探しに走りだそうとする。
「辛抱しきれなかったな……お前の敗北だ」
糸の結界を解除した瞬間、背後から神原の声がした。どうやら動かず隠れていたようだ。それと同時にスタンドで凄まじく重い一撃を背中にくらって吹き飛ばされ、近くのコンテナに体を叩き付けられる。
「グウウ………」
「数分は動けまい……トドメといこうか………」
神原がゆっくりとした足取りでこちらに近付いてきた。……やれやれ、これならなんとかなりそうね。
「一つ忠告しといてあげる……トドメはさっさとさすんだな」
「何?」
「ストーンフリーッ!」
次の瞬間、近くのコンテナ用のクレーンが神原に向かって振り下ろされた。
「何だとッ!?」
「さっきの糸の結界はそのクレーンのレバーにも結んであった……それだけ切らずに置いといて、今切ったのよ」
「フラッシュポイントッ!」
神原は直撃する寸前でスタンドを出し、クレーンを殴って死ぬほどの衝撃を和らげた。が、さすがに止める事は出来ず、鉄球に吹き飛ばされてそのまま海へと落ちた。幸い泳げたらしく、白いコートを脱ぎ捨て浮かび上がってくる。
「上がってきな……まだ決着はついてねえぞ」
「こしゃくな………」
To Be Continued・・・
以上、第102話でした
ひさびさ登場、ラスボス神原。皆さん覚えていましたか?
これで最後の闘い………ではありません。終わりが近付いてるのは確かですけど
それでは!
第103話 「フラッシュポイント 4」
海から上がってきた神原はずぶ濡れの体をスタンド能力で乾かし始めた。
「意外と几帳面なのね」
「……服が水を吸って重いからだ。別にファッションを気にしているわけではない」
「そうかい」
なら服が乾くまで待つ義理も無い。とっとと勝負を決めようとあたしは神原に突進した。
「あさはかだな……その程度予想済みだ」
すると神原の周囲に煙が立ち込めた。
「水蒸気かッ!赤外線で熱したのか」
「ただの水蒸気ではない……海水から作り出したものだ……塩が大量に含まれている」
塩……まさかッ!
「神原てめえッ!」
神原は後ろへ飛び退き、距離を取る。あたしも同時に地面の塩から離れる。神原が離れた途端、カタツムリが塩の上に現れ、みるみる縮んでいく。
「あそこにいたらカタツムリに触っていたな………」
あんなに小さくなった、カタツムリには気付きにくいだろう。しかもカタツムリになった瞬間、塩で御陀仏だ。
「やはり勘がいいな……ならばこれでどうだッ!フラッシュポイントッ!」
光を使って攻撃してくるか……だがこっちだって何も対策していないわけじゃない。
「甘いわね」
あたしは有希のバイクから(勝手に)拝借してきたサイドミラーをかざす。
「何ッ!?」
すると神原の左腕が火傷をした。とっさに能力を解除したらしく、それほどダメージは大きく無さそうだ。
「赤外線って言ってもしょせんは光だ……お前の能力は反射、つまり鏡には通用しない」
「……なるほどな。だがそんな分かりやすい弱点に気付いていないとでも思っているのか?」
「……………」
「フラッシュポイントッ!」
鏡を構えて身構える。が、何も起こらない。
「……何をした」
「さて、何をしたんだろうな?」
何か良く分からないが、このままにしておくのはヤバそうだ。とっとと勝負を付けにいこう。そして神原に向けて突進しようとする。が、
「体が動かない………?」
何故か体が何かにものすごい力で引っ張られているようだ。
「何をしやがった!」
「簡単な話だ……あそこのコンテナを磁石にした」
「磁石?」
「一部の光には磁気を伴う事は知っているな?磁化だ。強力な磁力を浴びたものは少しの間だが磁石になる」
「あたしは鉄じゃねーぞ……なんで磁石に引っ張られてる?」
「簡単な話だ……さっきのラッシュの際、こっそり磁石をお前の服に付けさせてもらった」
「てめえ………」
全力を出せば動けない事は無い。が、それこそカタツムリのような速さだ。
「……カタツムリ?」
そういえば、あたしは奴の結界の外に今はいる。と言う事は………。
「ふむ、私がお前に直接トドメを刺さなければならないと思っていたが……その必要も無くなったようだな。カタツムリがお前にトドメを刺してくれるようだ」
神原の言う通り、カタツムリが少しずつあたしに迫ってきている。このままじゃあカタツムリ化して終わりだ。
「ストーンフリーッ!」
体は一歩も動かないが、糸ならば動く。あたしは近くの錨に糸を巻き付けた。
「糸で引っ張られて私に近付く気か?無駄な事を……だがこのままにしているのは危険だな、切らせてもらおう」
神原が糸に近付き、スタンドの手を振り上げる。
「これで終わりだ、空条徐倫」
「……ああ、そう来ると思ってたッ!」
「………何を言っている?」
「ストーンフリーッ!」
するとその瞬間、あたしの体が宙に浮かんだ。
「ば、馬鹿なッ!」
「オラァッ!」
そのまま落ちていく勢いで神原に鋭い右かかと落としをおみまいする。不意をつかれた神原はもろに食らってしまう。
「簡単だ……錨に糸を巻き付けたのは移動の為だけじゃあない……錨を起点にしてさっきのクレーンとの間にピッタリとマストを張るためだ。あたしはギリギリまで張り詰められたその糸で浮いただけよ」
「さっきのクレーンの糸はまだ切っていなかったのか………」
神原が頭から血を流しながら立ち上がる。が、さっきのかかと落としのダメージが大きかったらしく、フラフラとして今にも倒れそうだ。
「諦めたらどうだ?その状態で勝ち目があると思う?」
「グッ………」
神原はとうとう両足で立っている事もままならなくなって来たらしく、片膝を地面についてしまった。
「終わりだ……ストーン………」
「徐倫ッ!無事かッ!」
神原にトドメを刺そうとした瞬間、聞き慣れた声がした。
「キョン?なんでお前が?」
「弓と矢の輸送の為だよ……そっちは……もう終わりかけか」
「そうだよ……さっさと行け、それを届けたらあたし達の勝ちだ」
キョンはアタッシュケースを手に既に来ているはずの潜水艦へと向かう。が、その瞬間だった。
「ジェェェェェェェェット!」
「キョンッ!危ないッ!」
「なんだッ!?」
キョンがアタッシュケースを掲げて頭を守る。が、それがマズかった。アタッシュケースが弾丸によって吹き飛ばされる。
「徐倫ッ!その女を捕まえろッ!」
「アナスイッ!?」
アナスイにウェザー、みくるが港へと走ってくる。見ると、傷だらけの長髪の女がアタッシュケースをキャッチしていた。
「八嶋………」
「ボス!受け取って下さいッ!」
『させてたまるかッ!』
ウェザーが突風を起こしアタッシュケースを吹き飛ばす。すると鍵が壊れたらしく、中の矢が外に飛び出た。
「奴に拾わせるな!徐倫ッ!」
「それは私のものだァ!」
To Be Continued・・・
以上、第103話でした
新wiki乙!気長に待ってるよ。あと、紫外線照射装置という発想は無かったwww
それでは!
ようやくPCからGJと書き込みだい!
しかし、ヘビーが妙に効いてるな。
敵味方なくけん制してしまうって言う点がきつい。
しかも、カタツムリになったら天敵が食いにくるし…。
まとめの人、がんばってクダサイ。そしてアメリカ乙です。
ラスボスの登場ってワクワクするよね。
んでふと思ったのが、四部ってラスボスの登場っていうより、ラスボス視点での物語りに主人公が登場してクライマックス! だったなー。
あれって、なんかすごいよね。わくわくするっていうか、そんなのアリ? みたいな。
今だからこそだけど、当時ってそういうのをリアルタイムで目撃したら、すごいwktkしたと思う。
四部と五部の魅力に惹かれてじょじょ☆はるに踏み込んだってのに、なんで今までそのワクワクさに気づけずにいたのか
話が感想と関係なくなってる。とにかく、アメリカにwktkしてます。
あ、外伝? なんとか話は立ち直せたんで今がんばってます。
ちょっと失礼しますね。
あんまり長いとWIKIに申し訳ないんで、短めできりながらやっていきたいと。流れとしては
>>261の続きになります。
それに伴い、
>>261と、前の外伝までのナンバリングは取り下げ、改めてナンバリングでやらせてもらいます。
投下完了後、WIKIのほうはこちらで編集しておきます。
先に述べておきますが、なんか外伝・番外編の枠を出て、フツーの本編に入れろよみたいなカンジになってしまいました。なんかすいません。
では、投下します。
「何だ、こりゃァ―――ッ!? "おれの『スタンド』が『変化』している"ッ―――!!?」
一体、どういうことだ、これは。
「古泉ィッ!! この、おれたちの『ネコ化』は! 『精神にまでは影響しない』はずじゃあなかったのかッ!?
だが、スタンドが変化してるって事は! おれたちは、『精神までネコになりつつある』って事じゃあねーかッ――!?」
「バカなッ! そんなはずはない、涼宮さんが『ぼくらが心までネコになる』なんて事を求めるわけがないっ!
いや…しかし! さっきから、ぼくらの行動はおかしい! 泥のついた足を、平気で舐めたり、耳に突っ込んだりしているッ! 無意識にだッ!」
「ちょっとッ! 静かにしろ! この『スタンド』は、黒ネコが出しているのッ!?」
耳障りな音を立てて、車体が揺れる。どうやら、森さんが、どこかに車を停めたようだ!
エンジンは切らないまま、運転席から腰を上げ、俺たちの居る後席を振り返る!
まずい、このままじゃ、俺たちは、『敵』だと認識されてしまう!
「『ゴッド・ロック』――! 一度戻れッ!!
森さん――! おれたちは、ちゃんと『おれたち』なんだ! 今の『スタンド』は、『攻撃』しようとしたわけじゃあないっ!」
「ニャアニャアうるさいッ! さっき、あんたたちは、あたしの言葉を理解してたわね!?
知能の高いネコの刺客、ありえない話じゃないわ! もっと警戒するべきだった……!」
そう言いつつ、森さんが何かを取り出す……『銃』だァ―ッ!?
まずい! 森さんが『スタンド』を出せば、こちらからスタンドで話しかける事も出来る! しかし、森さんのスタンドは戦闘向きでない!
「全員『スタンド使い』と見てよさそうね……しかし、『鶴屋さん』は確かに、ネコになった三人を見ているし、スタンドで確認もしている!
三人が隠れている間に、あんた達が入れ替わったってことかしら?
『スタンド』は出すんじゃないわよ! 出した瞬間、『撃つ』! いい、私の問いに、さっきのように『行動』で答えなさい!」
完全に眼がマジだ。チクショウ、ありえねえだろう、そんな展開!
ハルヒの力で、俺たちがネコになってしまいました! そんな時に都合よく、ネコの『敵スタンド使い』なんぞが現れるかよォ―ッ!?
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
外伝 『キャット・ア・スペクタクルA』
「ダメです、いくら突拍子のない話でも! 事実として、姿の変わってしまった『ゴッド・ロック』を、彼女は見てしまった!
彼女がぼくらを、『見知らぬスタンド使い』だと認識してしまった以上、警戒を解くはずはない……!」
全身の毛を逆立てながら、古泉が、小声で言う。
チクショウ、確かに! 普段のロックと今のロックとの共通点なんか、全身が黒いって事くらいだ。
更に、ロックには、そいつを見せればロックだと分かるような『能力』もない。……或いは、朝比奈さんや古泉のスタンドなら?
俺は、朝比奈さんをちらりと見る。……なんてこった、ぼんやりと寝そべってやがる!? この状況が分かってないんですか、あなたは!?
「……鶴屋さんの言っていることは確かだったわ。つまり、あの三人が『ネコ』になってしまっているのは間違いない!
なら、何故、この車に、あの子達が乗っていない? ……あんたたちが『摩り替わっ』た、それしかありえない!
あの三人をどうしたってのよ、あんたたちは! まさか……『殺した』わけじゃっ、ないでしょうねッ!?」
「ちが」
「肯定なら、尻尾を三回! 否定なら、二回振りなさい!」
……ダメだ、言葉は通じないってのは、なんて不便なんだ、畜生!
せめて、『マシンガンズ』を! あの強烈個性爆発スタンドを、一瞬でも森さんに見せることが出来れば!
憶測でしかないが、人型でないマシンガンズなら。変化があったとしても、どこか面影が残っているはず……
しかし、今。俺たちには、『銃口』が向けられている。スタンドを出した瞬間に、頭をブチ抜かれちまうかもしれない……
「うう……うーん……」
不意に車内に響いたのは……朝比奈さんのうめき声だった。
目を覚ましたんだろうか? いや、しかし……何か妙だ。さっきから感じていたが、今の朝比奈さんは……ただ、眠たいだとか、そういうのとは違う。
何か……何か、妙なんだ! よくわからんが、俺の直感が、何か妙だと騒いでいる……
「……早く、答えなさい!! あんたたち……あの三人を! キョン君と、古泉と、朝比奈みくるを、どうしたのよ!」
「あ……私……」
! また、朝比奈さんが、何かを呟いた……
さっきまで、シートにうつ伏せになっていた朝比奈さんが、なにやらおぼつかない足取りで立ち上がる……!
「あっ、朝比奈さん! 動かないでください、今はまずいんだ!」
「古泉くん、な、なんか、あたし、さっきから変なんですよう……」
な……何だ、この人は……この状況が、まったく眼に入ってないのか?
ゆったりとした動きで、朝比奈さんは、古泉に近寄る、そして―――なにやら、古泉の胴体に、顔面をこすり付け出したッ!?
「ちょっと、待てッ! 動くなって言ってるのが分からないのッ!?」
「うーん……はあ……」
森さんが怒声を発するのにも構わず、朝比奈さんは、その、謎の行為を続ける……
「動くなって―――」
! 森さんが、銃口を朝比奈さんに向けた!
古泉と朝比奈さんは、シートの中央! 俺は左側のドア寄りに居る―――こうなれば、一か八かしかない!
「『やれ』ぇ―――ッ!!」
「ッ!?」
俺の体から、森さんの、銃を持つ手に向かって! まっすぐに、獣の姿の『ゴッド・ロック』をシュートする―――
その『手』に、喰らい付く!!
「なっ!」
バス。……車内に響き渡る銃声! しかし、その一瞬前に! 『ゴッド・ロック』の突進によって、森さんの手、その銃口の矛先は!
朝比奈さんと古泉から逸れて、後部座席の右側のシートに向けられている!
弾丸がブチ抜いたのは、無人のシートだ! そして、『二発目』は『撃たせない』!
「『セックス・マシンガンズ』ゥゥゥ―――!!」
古泉が吠える! しかし―――古泉の体からは、何も『飛び出さない』!!
やはり、『マシンガンズ』も! 変化していた―――!
「―――フニ゛ャァアッァァァオウ!!!」
……その声は、古泉の体から発せられた声だ。
気のふれたネコのような、ケバついた声。それを発したのは―――"古泉の体に現れた『セックス・マシンガンズ』"!!
古泉の肩の上に、小型の『発射台』が現れ、小型の『ガトリングガン』の砲身が、前方に向かって伸びている。
そして、その砲身の真下、古泉の頭の真上に! まるで、帽子の鍔のように突き出した、あの『口』が付いている!
「『クイモノ』だ、『マシンガンズ』――ッ!!」
「アギャァァァァオ!!」
『マシンガンズ』を構えた。いや、『装着』した古泉が、森さんの手に飛び掛かる!!
「くぅッ!?」
そして、『口』が、喰らい付く――その『拳銃』を、食ったァ―――ッ!!
いや、しかし! このままじゃあ、ただ、俺たちが森さんを『攻撃』したようにしか見えない―――『マシンガンズ』は、おそらく、人語を話せなくなってやがる!
だったら―――後は! 『森さんにスタンドを出させる』しかない!
「『ゴッド・ロック』!! ―――『ブッ壊せ』ェー!!」
俺の声と同時に、『ゴッド・ロック』は、座席を駆け登り、運転席へと襲い掛かる!
「くッ、何をッ―――!?」
「『やれ』ェ―ッ!」
銃を失った以上、ロックが森さんの攻撃を受ける心配はない。
ロックは、運転席に上半身を突っ込むと―――前足を振り上げ、まず、『ハンドル』を殴り付けた!
今のロックに、どれほどの『パワー』があるかは分からなかった。しかし、どうにか、それを『破壊する』だけのパワーはあったようだ。ハンドルは、根元からへし折れた!
俺の視界と、『ゴッド・ロック』の視界が交差する―――次は、座席の下! 『アクセル』だ!
「―――げぇっ!? こ、古泉! どれが……『どれ』が『アクセル』だッ、このペダルはァ―――ッ!?」
「えっ……い、一番右ですッ!! ……ちょ、ちょっと待った、まさかッ!?」
危険は承知だ、チクショウ! しかし、これしかないんだよ!
見ろ、この状況。俺の目の前に、森さんが迫ってるんだぜ? 両手で俺に掴みかかろうとしてるらしい。
このままじゃ―――『絞め殺される』んだよォ―――――ッ!!
「踏めええええ!!」
『ゴッド・ロック』の前足が、三つあるペダルの内、もっとも右のペダルを、目一杯に踏み込む!
当然、俺たちの乗っている、この車は―――動き出す!! ただ、前方へと、我武者羅に!!
「何ぃ―――ッ!!?」
間一髪、俺の脆弱な体に、森さんの両手がたどり着く、寸前に! 森さんが、フロントガラスを振り返った!
ハンドルは無い、アクセルはひたすら踏み続けられる―――この状況で、森さんが取る行動は、一つしかない―――
「くッ―――『明日への箱船(ヘブンズ・ドライブ)』ゥゥ―――ッ!!」
―――その言葉が、聴きたかったんだぁ―――ッ!!
ぐおん。……ハンドルを失ったはずの車体が、方向を変え、車内の俺たちの体は大きく揺らぐ。
背筋に感じる、覚えのあるスタンド反応。間違いない――像は無いが! 森さんのスタンドは、発動している!
「森さん――! 聴いてください、おれなんです! ここに居るのは、間違いなく、おれと、古泉と、朝比奈さんなんだァ――!」
俺が発した声は、『ゴッド・ロック』の口から、音ではない声として放たれる。
その瞬間。フロントへ視線を向けていた森さんが、こちらを振り返る―――『届いた』!
「な……何ですって? 今の声は……」
「森さん、聞こえているんですね? ぼくだ、古泉です! お願いだ、事情を話させてくれ!
ヘブンズ・ドライブを解除しないでください! どこかへ停めて、ぼくらの話を聞いてくれ!」
続けて古泉が、小型化されたマシンガンズを介して叫ぶ。
スタンドを介した声は、俺たちの本来の声色で発せられる。これなら……きっと!
「本当に『古泉』……ッ!? ちょっと待て、このスタンドはどう説明するの!? あんたのスタンドは、やかましい『マシンガンズ』……
まさか、それ……その頭に乗っけてるのが、マシンガンズだっての?
鶴屋さんは、あんたたちのスタンドは、いつも通りだと言った!
そのS・ウォーズからちょろまかしてきたようなのの、どこがマシンガンズなのよッ!?
なら、このF・ファンタジーかぶれみたいなスタンドが、『ゴッド・ロック』だとでも言うわけッ!?」
その説明をさせてくれと言っているんじゃねえかァ――ッ!
とにかく経緯だけでも、手早く――伝えようとした、俺よりも一瞬早く。古泉が、叫んだ。
「森園生! ぼくの上司、29歳! 独身、みずがめ座! 三つ下、二股中の弟がいるっ!!! 実家は『和菓子"もり家"』ッ!」
「なッ―!?」
「好きな歌手は『鈴木雅之』! 好きな物は『酒盗』と『豆腐よう』、毎晩欠かさない『酒全般』! ただしジンだけは飲めないッ!
週刊ヤングジャンプを、毎週森田まさのりの『べしゃり暮らし』を読むために購読している! あれ、早く捨ててください、居間がヤンジャンだらけで邪魔ですッ!!
初恋は小四の時、二年上の『ノリアキ君』! 初キスは高一! 相手は部活の先輩で、そのとき舌を――」
……突如として語られ始めた、その奇妙に偏ったプロフィールは、始まりと同じく、『突如』に終わった。
車内を揺さぶる衝撃と、それに伴って響き渡った轟音によって、無理に掻き消されたのだ。
「……もうっ、わかったわ! 理解したわよ、あんたは間違いなく『古泉』よッ!!
だから、それ以上喋るなァ――ッ!」
少々時間を要したものの、俺はどうにか、その状況を理解することが出来た。
古泉の言葉に気をやっていたために、気づかなかったが。いつの間にか、車は先ほど停止した位置から移動していた。
スタンドの目で、車の後部を振り返る。……縮れてしまったラザニアのようにひしゃげたボンネットと、灰色のビルの壁が、視界に映った。
「……わかっていただけて、光栄です」
間一髪、バックガラスが砕け散るほどの勢いで無かったために難を逃れた。もしガラスが割れていたなら、今頃俺たちは、ガラスのシャワーを浴びていたところだ。
荒く息をつき、顔を真っ赤にした森さんが、古泉に掴みかかる。そのまま絞め殺さんかのような勢いだ。
「だけどっ、どういうことかはさっぱりわからないわよッ! アンタたちのスタンドに変化はないって聞いてたぞ、アタシは!
古泉、あんたが『その心配はない』と言ったと、アタシは鶴屋さんから聴いてるのよッ! どういうことか説明しろっ!!」
「落ち着いてください森さんッ!! それがぼくに説明できるなら、この世にぼくらは必要ないッ!」
自らの存在をえらく軽視した古泉の発言。しかし、それは正しい。
俺たちのスタンドに変化が現れた。それはつまり、精神にまで、ハルヒの力による『ネコ化』が及んでいるという事だ。
そして。そのネコ化は、まだ留まっていない!
「ハルヒは、今どうしてるんだ?」
「そ、それだ! 森さん、連絡を……涼宮さんはどうしてますかッ!? まだ、学校にいるんですかッ!?」
古泉の言葉が終わるよりも早く。森さんは、古泉の体を掴み上げた両手を放し、携帯を取り出し、耳に当てた。
……しばしの沈黙。数十秒ほどだったろうか? その短い時の間に、森さんの眉間に皺が寄せられていく。
「……なんで出ないのよッ!? 涼宮ハルヒの状況よ? 監視室にかけてるのよ!? 間違いなく、校内を監視してる奴がいるはずでしょ!?」
校内を監視。機関が、日ごろから……特に、この『スタンド』事件が勃発して以来、より強固に、ハルヒの動向を逐一監視していることは聞き知っていた。
が、久しく還れていない常識に基づいて考えて見れば、そいつはどうにも奇妙で、ある意味恐ろしいものでもある。
校内を監視しているのなら、当然、俺たちや、ハルヒとはほぼ無関係な連中の行動までもを、常に見ているものがいるわけだ。
しかし。俺の背筋に、嫌な予感が奔る。
『それは、今、この瞬間も、問題なく行われているだろうか?』
「ッ! やっと出た……おいッ、何やってんだ監視ぃッ!! 『絶対に監視室を空けない』のが、アンタたちの仕事じゃ……」
……次の瞬間。森さんの携帯電話から毀れ出た、電話口から発せられた、その『声』を。
俺と。そして、おそらく、古泉の耳とが。はっきりと捉えた。
『……ウギャーォ……』
「なッ……何ィィ―――――――ッ!?」
車中に、俺たち三人(厳密には、二匹と一人……ああ、もうどうでもいい。三人だ)の声が、折り重なって響き渡る。
「おいっ、監視、ふざけてんのかッ!? アタシは今テメーらの冗談に付き合ってるほど……」
『フギャーッ!!』
……今日、何度目だろうか。変わり果てた姿となった古泉と、目が合う。
「んな……ウソでしょォオオッ!? なんで……『監視』が、『ネコ化』してるってのッ!?
説明しろ、古泉ィ――――ッ!!」
「おっ、落ち着いてください、森さっ……」
携帯電話をシートに叩きつけながら、森さんが再び叫ぶ―――そして、次の瞬間だ。
どうやら、俺は古泉よりも一歩遅れて。その『異変』に気づいたらしい。
「これが落ち着けるかッ! どうして監視が『ネコ化』してるのよッ!! アンタの推論は、どこから間違ってたってーのよッ!?」
……目の前で、見る見る姿を変えてゆく森さんを見つめながら。俺はため息を付き、とりあえず―――『ゴッド・ロック』を解除した。
これで、『ネコ』と『人間』との間の、言葉の隔たりなどに悩む必要もなくなったわけなのだから。
「……な、何よ、アンタたち……ッ! ちょっと待て……何か、何かおかしいわよッ!?
何が? これは……どうなってッ、まさか―――――――ッ!?」
「森さん、学校に……すぐに『ヘブンズ・ドライブ』で、ぼくらを学校に連れ戻してくださいッ!!
わからない、何がおきているのか、さっぱりわからないが……もしかしたら、これはやはり『スタンド攻撃』なのかもしれないッ!
そうでなくても―――ぼくらが学校を離れるのは、何か『まずい』! はやく―――フロントの上に『飛び乗って』ください!!
でなけりゃ、その姿じゃ『前が見えない』だろうッ!?」
……意外なことに、かわいらしい小柄なアメリカン・カールへと姿を変えてしまった『森さん』に、古泉が、体毛を逆立てながら叫ぶ。
やがて、状況を理解したらしい。森さんは、まだこなれていない足つきで、助手席、フロントへと飛び移り
立派な事故車と化した車体を動かし始めた。
……俺はというと。先の古泉の言葉にあった、『スタンド攻撃』の単語を、脳内で転がしていた。
『ゴッド・ロック』の像は引っ込めたが、『探知能力』は問題なく機能している。
森さんがスタンドを発動させる瞬間も、確かに感じることができた。
そして、やはり。あの時、俺たちが『ネコ化』した時、校内に『スタンド攻撃』などは存在しなかったはずだ。
なら、この状況は一体どういうことか。
……それが分かったなら、世界に古泉も長門も朝比奈さんも、岸辺露伴も、スタンド使いのイタリア人も、必要ないだろう。
「ああっ、クソッ! 『スタンド』だけで手一杯だってのにッ! ハルヒは一体何がしたいってーんだッ!」
「あなたも、落ち着いてください! とにかく、原因が『学校』にあるのは間違いないんです!
学校を監視していた監視室の人間が『ネコ化』したのも説明が付く……
これは、『ウィルス』だ!
『人をネコへと変えるウィルス』!!
何故、学校にそんなものが発生したのかわからない、けれど、そうとしか考えられない!」
俺の口から零れ落ちた愚痴を拾い上げた古泉が
知らぬ間へグリーンへと変わって行ったエメラルドの色の瞳を俺に突きつけながら言う。
「『ウィルス』だって? ちょっと待て、学校にそんなものが発生してるってのか?
それも、学校を監視しているやつらまでもに感染するような『ネコ化ウィルス』だってのか?」
いや、それどころか。もし、古泉の新たな『仮説』が真実であれば。
『ネコ化ウィルス』に感染した人間と、電話越しに会話した森さんまでもが、そのウィルスに感染してしまった。
それほどに強力な『ウィルス』。だとしたら――――
"『今、北高はどうなってしまっている』というんだ?"
「――っ、森さん、急いでくれ!」
フロントに向かって叫ぶ古泉。その視線の先で、四足で立ち、フロントガラスを見据えるアメリカン・カールが、こちらを見ないままに声を返す。
「言われなくても、急いでいるわ……古泉。あんたの『仮説』は、今度こそ正しいかもしれないわ……
でも、同時に『間違って』もいる……今、この状況は、あんたが思っているよりもずっと『酷い』かもしれない」
先ほどの激昂を忘れてしまったかのように、落ち着き払った、森さんの声。
そこには落ち着きと同時に、聴くものの背筋に伝達するかのような、冷たく重い『緊張』が有った、
「不思議なのよ……一昨日を思い出すわ。アタシは『急げている』……
どんどん中心街の方へと向かっているっていうのに、『信号待ち』をくらったりも、スットロい前車にイライラさせられたりもせずに!
その代わりに……道のそこらじゅうに、不自然に『停まっている車』や!
異様にそこらをうろついている『ネコども』を避ける羽目を食らっているけどな……!」
「何だってッ……?」
……ネコという生き物は、足の裏からしか汗をかけないという。
しかし、俺は、森さんの言葉を聴いた瞬間。自分の額から、汗の粒が流れ落ちてゆくような錯覚を感じた。
背中の皮が縮み上がるかのような、ジリジリとした感覚。
「『ネコ化』は既に! 北高以外にも及んでしまっているのかッ!?」
森さんの言葉を疑う余地もない。助手席の背もたれの上へと飛び乗り、車窓の向こう側を覗くと……そこには、つい一瞬前、俺が脳裏に浮かべたような光景が、現実に存在していた。
人気のひとつもない街並み。そしてその代わりに、あちらこちらで、うろたえるように周囲を見回している『ネコ』たちの姿……
しかし、その光景よりも―――俺の左胸の鼓動を速めているのは、その光景とは別の事象だ。
森さんの声を聴いた時、感じた『緊張』……しかし、それはただの緊張ではない。
今もなお、俺の背筋を蝕み続けている、この感覚……森さんが『ヘブンズ・ドライブ』を進め、俺たちが北高へと近づくにつれて、徐々に強まってゆくこの『感覚』は!!
「『スタンド』だ……北高に、『スタンド』がいるッ!!
『スタンドの気配』が、北高から伝わってくるんだ、古泉、森さんッ!!」
「―――何だってッ!?」
その声は、二人分のものだ。まったく同じ言葉が、古泉と森さんから、俺に向けて投げつけられる。
「これは『スタンド』だ! おれの『ゴッド・ロック』が、北高からスタンドの気配を感じ取っている!!
さっきまでは……おれたちが学校を離れるときまでは、感じられなかったものだッ!
だが、今、はっきりとわかった! やはり、この『ネコ化』は『スタンド能力』なんだ!」
「ちょっと待ってください……話が矛盾している! あなたはあれほど、ぼくらの『ネコ化』はスタンドではないと……
学校内に『スタンド能力』はないと、繰り返していたじゃあないですかッ!
……まさか、この騒ぎだってのに、それとは無関係に『敵スタンド』がやってきたとでも言うのですかッ!?」
「違う! このスタンドは間違いなく『ネコ化』なんだ!
何故さっきまでは感じられなかったかわからない……しかし、今なら感じ取れる!
『ネコ化』したお前たちや、そこらの通行人たちからも感じる……北高から感じるスタンドにやられた『気配』を!」
頭に浮かぶ物事を、そのまま口から垂れ流す。頭の中で整理をしている余裕など、今の俺にはない。
背筋に、全身に、神経に、『ゴッド・ロック』に伝わってくる、確かな気配。
それは、紛いなき『スタンドの気配』。しかし、その気配は―――
「こいつは、おれの知らない『スタンド』じゃない……いや、違う! このスタンドは、おれのよく知っているスタンドと、とても『似てる』……
おれは、この『スタンド』を知っている! この『スタンド』が、いったい誰の……いや」
全身から湧き上がるかのように。俺の頭の中で、いくつものピースが嵌ってゆく。
パチリ、パチリと、その一つ一つが、音を立てるかのように、はっきりと!!
「これは―――『学校のスタンド』だッ!!
古泉……お前は、言ったよな!? "北高は、ハルヒの力によって、『自意識』を持ったパワースポットになっている"と!
こいつはその『自意識』だ……ハルヒの能力によって生まれた『自意識』が! 『スタンド能力に目覚めた』んだッ!!」
俺の言葉と同時に。こちらを見据える二対の瞳に、はっきりとした驚愕の色が浮かび上がった――――。
本体名 − 西宮北高等学校?
スタンド名 − 不明 … 能力:人間を『ネコ化』させるウィルスを発生させる?(仮説)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キョン(♂)
体長/体重:174cm/62kg → 32cm/3.2kg
品種:カラスネコ(日本猫・黒ネコ)
毛色:ブラック 眼の色:赤みがかったゴールド
スタンド:『ゴッド・ロック』 変化:人型・体長2m→猛獣型・体長1.5m
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
古泉一樹(♂)
体長/体重:179cm/67kg → 35cm/3.6kg
品種:ロシアンブルー
毛色:グレー 眼の色:エメラルドグリーン
スタンド:『セックス・マシンガンズ』 変化:銃器型・全長0.84cm→装着型
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝比奈みくる(♀)
体長/体重:152cm/?kg → 30cm/2.8kg
品種:日本猫・アルビノ種
毛色:ホワイト 眼の色:右目…ヘーゼル 左目…ブルー
スタンド:『メリミー』 変化:未確認※現在、原因不明の意識不明瞭状態であり、スタンド発動は不可能?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
森園生(♀)
体長/体重:163cm/53kg→30cm/2.5kg
品種:アメリカンカール
毛色:セーブルティックドタビー 眼の色:カッパー
スタンド:『ヘブンズ・ドライブ』 変化:特になし
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
to be contiuend↓
あ、投下完了です。
今、新WIKIじゃないほうの、今までのWIKIのほうに、改めながら外伝ページを作ってから、寝ます。
一応題目として
外伝@『岸辺露伴の憂鬱』 前編
外伝@『岸辺露伴の憂鬱』 後編
外伝A『キャット・ア・スペクタクル』 その1〜
というように追加する予定です。
なんか、いつまでアフロ引きずるねん。みたいなかんじですが、すいません。
でも、新作の構想も、アフロを引きずってたり、なんか煮え切らない自分が飛びたいカンジです。
ここんとこはシュガー・マウンテンが茶髪になったような髪形のアフロですが、もうちょいお付き合いください。では、皆さんの新作を待つ作業と
外伝を書き進める作業に戻ります。
http://imepita.jp/20091225/092150 よいクリスマスを。アリーヴェデルチ。
wikiに問題なく編集しておいたぜ……
では、おやすみなさい
400
こんな時期にルーターブッ壊れるってどーいうこったよクソックソッ!!
セッ子年越し投下断念します……
アフロ外伝投下GJ!
なんつーか、段々とややこしくなってるのがいいですなw
さすがハルヒ、必要以上にかき回すパワーは半端じゃねえwww
しかし、学校までスタンドを使い始めるとは…これからどうなる事やら。
セェェェェェッコォォォオオオ!
>>402 最近、非常に痛感してるのが
「何で自分はジョジョが好きでハルヒが好きでジョジョハルに入門したのに
ジョジョの「ややこしさ」をぜんぜん出せてないんだ?」 っていうところでして。
ややこしくみえてもらえたら、嬉しいです。
ちなみに、wikiのほうに上げた外伝のほうは、ちょいちょい修正したりして
『岸辺露伴の憂鬱』のとこも、ちょっと気まぐれみたいに追加せりふがあったりなかったり
もし読み返したいと思った時がありましたら、wikiのほうで読み返してやってくださると、ちょっとそのほうが面白いかも?
しゃべりすぎですね。
おとなしくなります。
第104話 「弓と矢を追って 1」
アタッシュケースから弾き出された矢は桟橋を転がっていく。
「みくるッ!お前が一番近い!拾えッ!」
「ふ、ふぇ?」
矢へと一直線に走る神原にあたしはタックルをする。先程のダメージで避けれなかったらしく、そのまま地面に組み伏せる。
「クッ……八嶋ァ!」
「ジェットッ!矢を弾け!」
すると二足歩行の砲台のようなスタンドが現れ、マシンガンを放つ。
「キャッ!」
みくるが怯えてその場にへたりこむのと同時に、矢が弾丸の衝撃で弾き飛ばされる。
「アナスイッ!お前が一番近い!」
アナスイが矢が飛んだ方向に走り出す。すると、
「フラッシュポイントッ!」
神原がスタンドを使ってあたしの腕を火傷させようとする。
「チイッ!」
神原を突き飛ばすと攻撃に備える。が、奴はあたしを無視して矢を追い始めた。
「徐倫!矢が船に飛び込んだぞ!」
キョンだ。
「どの船だ?」
「あの豪華客船だ」
この町は日本でも有数の港町だ。時々豪華客船なども停泊する。
「乗れそうか?」
『確か今日は何処かの金持ちが船上パーティーを開くはずだ。入ろうと思えば入れるだろう』
「よし、アナスイは船首から壁を昇れ、キョンとみくるはあたしと来い。ウェザーは別の場所から入れ」
「徐倫ッ!神原と八嶋が乗り込んだぞ!」
「急ぐぞッ!」
「つ〜〜ま〜〜ん〜〜な〜〜い〜〜〜〜〜〜」
「不機嫌だねいッ!ハルニャン!」
「そりゃそうよ、あたしがSOS団を鶴屋家主宰の船上パーティーに一年ご苦労様の労いとして招待しようとしたのに………」
「したのに?」
「誰一人家にいないってどういう事だーーーーーーッ!クソッ!クソッ!むかつくぜえェェェェェェェ!」
「まあまあ、パーティーは夜からだから皆間に合うって」
「だったらいいけど……何?警報?」
「お嬢様、何者かが多数この船に侵入したようです、危険ですのでここから動かないよう」
「そかッ!行っていいよ、中島」
「ハッ」
「………行ったわね……んじゃ、行くわよ!」
「どこにだいッ?」
「決ってるでしょ!その侵入者を見に行くのよ!」
あたしとキョン、みくるは警備員を殴り倒し、船の中へと潜入した。
「なあ徐倫、あんまりこの船にはカタツムリがいないな」
「さっきまで港を遊覧してたみたいだからな、カタツムリの光の圏内に入っていなかったんだろ」
「あ……カタツムリが甲板に………」
みくるが指差す方向を見ると、なるほど、船首からカタツムリがウネウネと昇ってきている。
「桟橋からも入ってきている……急いだ方が良さそうだ」
あたし達は矢が飛んで言ったであろう甲板へと走っていた。
「神原もどうやら甲板に向かってるみたいだな」
血の跡が地面に点々と続いている。まだ乾いていないから神原の物と見て間違いないだろう。
「甲板だ!」
開けた場所に出ると矢を探す。が、無い。カタツムリがウヨウヨとしているだけだ。
「クソッ!こっちに来たはずなんだ!」
「徐倫ッ!」
船の船首からダイバーダウンで昇っていたアナスイが声をかける。
「なんだ?」
「さっき一瞬誰かが拾うのを見た!中に入っていったぞ!」
見るとあるドアが微妙に閉まり切っておらず、薄く開いている。
「この中に行ったのか」
「徐倫さん、血の跡が………」
神原もどうやら中に入ったようだ。急いだ方が良さそうだな。
「アナスイ、誰が拾ったのか見たか?」
「いや……そこまでは見えなかった」
「そうか……行くぞッ!」
あたし達はアナスイに背を向け、船の扉を開けて中に入っていく。
「あ、あれ?徐倫……?俺を待ってくれないの?」
「……道が三つに分かれているな」
船は意外と入り組んでおり、右と左と前方に廊下が分かれている。
「血の跡は左だな」
神原はそっちか………。
「よし、あたしは左に向かう……キョンとみくるは……右だな。前方は後から来るアナスイに任せる」
と、あたしが説明をしていると前方のドアが開く。
スタンドを出して、キョンとみくるを後ろに下げて身構える。
『落ち着け、俺だ』
扉から現われたのはウェザーだった。
『こっちには誰もいなかった……右に俺が向かおう』
「分かった。予定変更だ……キョン、あたしと一緒に来い。みくるはここに残ってアナスイと一緒に来てくれ」
「分かりました」
「行くぞッ!」
右の扉は厨房やスタッフルーム等の裏方へと通じていた。追ってくる警備をかわしながら、血の跡を追う。
「神原の奴……何処に向かってんだ?」
「船の船尾……客室やホールのある方みたいだな」
殴りかかってきた警備員にカウンターを叩き込む。
「しっかし次から次へときりが無いな」
「これでもマシだと思うぞ?ヘビーウェザーでの混乱が無ければもっと多いはずだ」
「やれやれだな………」
キョンが呟いたと同時に廊下にかかった鏡に差し掛かる。
「……神原?」
何故か鏡に神原が写っている。が、近くにいる様子が無い。
「キョンッ!鏡から離れろッ!」
「え?」
あたしが忠告すると同時に鏡からカタツムリが飛び出した。キョンはギリギリでかわす。
「なるほど……カタツムリの周りが速かったのは、奴がスタンド能力で撒き散らしているからか」
「厄介な能力だな………」
「ああ……だが奴はこの近くにいる。間違いない………」
To Be Continued・・・
以上、第104話でした
アフロさん乙!今後が楽しみ。
差舞台はてけとーです
投下祭りはちと無理そうです。これでガマンしてください!
それでは!よいお年を!
___
,. ´ ` 、
/ \
/ . -――‐- . /∧
/ ,. ≠ァ⌒v―‐ァ⌒ ヽ\\/∧
{ / / .Vム`ヽ マ ヽヽ/ }
∨ , ' / / / ハィハ | ヽ ',ヽ \ l
/ / / / / /~~ ~| | | l , V 1
/ / / イ L.L l j | |∧ }、ハ
/ イl l ィ|´ |! | | / /`イ | |ィNリ\
| /イハ | :!lィテミ、 j,/ィテミ、j ./リ|イノ}:::::|
レ´::~:|ヽ!イ'弋zソ 弋zソ レ/ーヘ!/::::: !
/::::::/ト-ハ wwx , xww/ /ヽへ:j 今頃あの世でティッツアーノさん、スクアーロさんと仲良くやってると思われる
 ̄l/〃 :|}ヽ r――‐┐ /{ , \ ギアッチョのおっさんもご一緒に!!
// / ∧ヽ> ヽ _ .ノイ/ / .| ヽ アウグーリオ・ボナーノ♥
/ / // .〉 ◎. − ◎ { .| / ',
l .〃 / / _ _ V ∨ }
l/.イr 、_ / ((⌒)) ((⌒)) ヽ. \ ,'
/イ |r.Yヽく  ̄ (_,、_) ̄ ゝfくイ)ヽ l
/ /l l! ゝ 二二)// ////ー‐ < \.|
/ /ム/ ――く r 、 , ┐ノ―― :V 1
,. // / ――く _}:::::\=./::::: / >―― }ヽ
第105話「弓と矢を追って 2」
「神原が近くにいる……?」
「間違いない。奴はあたし達がここに来たのを見てカタツムリを出したんだ」
「……何処にいるかは分かるのか?」
「分からない」
だが、これはチャンスでもある。奴はまだダメージが回復しきってはいないだろうし、何よりまだ弓と矢を手に入れていないようだ。
「ここで奴を叩ければ………」
「徐倫ッ!鏡に写ったぞッ!」
とっさに鏡から離れて柱に隠れる。すると鏡から再びカタツムリが飛び出した。奴は何処にいるんだ?
「……そういや、今気がついたけど……扉が開いてるぞ」
数m向こうの右手に見える外へと通じる扉が開け放たれていた。そのままデッキへの屋外廊下に繋がっている。
「……あそこの向こうじゃないか?」
「……その可能性は高い。だが………」
「罠か」
こちらから扉の向こうの様子は見えない。扉の影に隠れられていたら出ていった瞬間にやられるのは目に見えている。
「どうする?」
「行くしかないな」
このままここでじっとしていたらジワジワと追い詰められていくのは目に見えている。死中に活ありだ。
「ストーンフリーッ!」
扉の向こうに糸を出し、廊下の手摺を掴み、壁を蹴って勢いで飛び出す。
「オラァッ!」
廊下に飛び出てそこにいるはずの神原を殴ろうとした拳は空を切った。とっさに防御の体勢を取りながら周囲をうかがう。
「誰もいないだと……?」
神原があたし達にみつからず、鏡に攻撃を仕掛けれるポイントはここしかない。だがいないとなると………。
「まさかッ!さっきの姿消しか!?」
そうなると今度は中に残してきたキョンが危険だ。いや、もしかしたら既に弓と矢を拾った人物を探して何処かに行ったのかもしれない。
「マズい、完璧に見失った………」
「お、おい徐倫ッ!こっちに来いッ!」
キョンがドアから顔をのぞかせて手招きしている。
「どうした?」
「いいから早く!」
キョンの元へと用心深く駆け寄る。このキョンがスタンド攻撃の布石かもしれないしな。
「向こうの窓、吹き抜けのホールの2階に通じてたんだ」
罠では無いようだ。んで、ホールがどうした?
「来たら分かる」
「あ、おい、待てよ!」
が、キョンはこちらの静止も聞かずに走り出した。かなり焦っているようだ。
「……やれやれだわ……急いだ方が良いわね」
「あれだよ!あれ」
「嘘でしょ……なんであいつがここにいるのよ!」
「それだけじゃない……弓と矢を拾ったのはあいつだったんだ」
あたしは携帯を取り出すとアナスイの番号を押した。
side of アナスイ
俺と朝比奈が向かった先は、寝室が並ぶ寝台車とでも呼ぶべき場所だった。
「隠れる場所が山程ある嫌な場所だな」
「寝室の中に隠れられたらどうしましょう………」
まあ、ダイバーダウンを使えば扉を開けずに中を攻撃できるんだがな。すると俺の携帯が鳴った。
「徐倫か?」
『今すぐフロントホールに向かうんだッ!』
「フロントホール?」
『この階層より一個下……1階にある!そっちからなら階段を下りて真正面のはずだッ!』
「向かうのはいいんだが……なんでだ?」
『行けば分かるッ!急げッ!』
言うだけいうと、徐倫は自分から電話を切ってしまった。
「何なんでしょう?」
「さあな………」
「聞いたわよ………」
前方からの声に振り向く。するといつの間にか八嶋が立っていた。
「フロントホールね?……ジェットッ!」
「クソッ!」
敵スタンドがマシンガンを乱射してきた。とっさに朝比奈を抱えて曲がり角に身を潜める。
「制圧射撃か……この隙にフロントホールに行くつもりだな」
「………どうするんですか?」
「心配いらねえよ……下が駄目なら……上だ」
「ふぇ?」
side of 徐倫
階段を5段飛ばしで一気に駆け降りる。先程のアナスイからのメールでは、八嶋がフロントホールに向かってるらしい。
「急げ……急ぐんだ」
全速力の結果、2分程でフロントホールに飛び込む事に成功する。
「ハルヒィ!」
「キョン?何してんの?」
「それはこっちのセリフだッ!なんでお前がその矢を持ってる?」
「なんでって……拾ったにきま………」
その瞬間、ホールの壁が轟音と共に吹き飛んだ。
「キャッ!何なのよ!」
「八嶋かッ!」
「その通りよ……さあ、涼宮ハルヒと弓と矢を渡してもらいましょうか」
「誰が渡すかよ」
だが、この状況は不利だ。ここには沢山の人がいる上、こちらには八嶋のスタンドに明確なダメージを与える術がほとんど無い。
「せめてアナスイかウェザーがくれば………」
「ダイバーダァァァァァウゥゥゥゥゥゥゥンッ!」
なんとアナスイが天井のダクト、いわゆる通風孔から飛び降りてきた。
「船のダクトは全部繋がってるってほんとだったんですねえ」
みくるがアナスイが飛び降りた後に顔をのぞかせた。ロープで降りるつもりのようだ。助けはいらないな。
「グブッ………」
アナスイの落下による速度を加えた右キックはさすがに通じたらしく、八嶋が崩れ落ちる。
「こいつでトドメだッ!」
アナスイがトドメを刺そうとした瞬間、
「フラッシュポイントッ!」
別の扉から現われた神原がカタツムリで妨害してきた。避けられないとアナスイが覚悟した瞬間、ジェットが開けた穴から現われたウェザーによって吹き飛ばされ、助かった。
「役者はそろったようだな」
「行くぞ、皆」
To Be Continued・・・
以上、第105話でした
とくニナイデス
それでは!
GJ!そして、投下祭しようと思ったら規制中だったジョニィの人です。
やっと解除された……投下します。
第二十七話「エンター・ザ・ドラゴン」
あの宝塚記念から、拍子抜けするほど呆気なく時は過ぎていった。
スタンドの事はあっさり隠蔽された。幾つかのタブロイド紙がすっぱ抜いたらしいが……信じる人はいないだろう。
「なあ、ジョニィ。テレビ見たか?あのフェルディナンドって奴、その分野では結構有名だったらしいぜ。
ニュースになってた。変死体で見付かったのもあるだろうけどな」
ぼんやりとしているとキョンがそう言った。ぼくはそれに気の無い返事を返す。
あれから何日も経っていないが、もう頭の中の印象はすっかり薄れていた。
自分の目で「スタンド」を見れるぼくですら。ぼくの気持ちを知ってか、キョンが訝し気な表情で言う。
「……アレ、本当にあったんだよな?いや、悪い。だが、こうも綺麗にスルーされるとよ……」
「報道の事?気持ちはわかるよ。でも、あんな馬鹿げた風景はエイプリルフールでも使えないし、多分だけど……
古泉の『機関』が手を回してるんだろう」
機関か、とキョンが呟く。少し中空を見上げた後、眉をひそめた。
「あいつ、気になる事を言ってたよな。『理想の世界』とか。奴ら、何をする気なんだ?」
ぼくは黙って首を振る事しか出来なかった。古泉なら何か知っているかもしれないが、可能性は低い。
ぼくには古泉が重要な事を知らされているとは思えなかった。直感だけど。
沈黙を保っていると、キョンがおずおずと口を開いた。
「……なあ、それとなんだけどな。あの時、フェルディナンドが死んだ時だよ。
……お前、何か見えたか?お前なら『スタンド』が見えるんだろ?」
……あの時。気が付けばフェルディナンドは倒れていた。何か、異変があったとすれば……。
「ちょっと、さっきから何を話してるの?男のないしょ話なんて、感じ悪いわよ」
不機嫌そうな声で思考は中断された。事実、声の主のハルヒは機嫌が悪かった。隣ではみくるさんがオロオロしている。
この二人は恐竜騒ぎの顛末は知らない。ハルヒはもちろん、みくるさんもだ。
自分が操られていて、そのせいで全滅しかけたなんて、言えるわけがない。
適当に誤魔化しておいたが、みくるさんは不思議がっていたし、ハルヒもすっきりしていないようだ。あれからずっと不機嫌だもの。
「ああ、何でもないんだ。それより、今日は古泉と長門が遅いな」
慌ててキョンが言う。上手いぞ、話題をそらしたな。そう思ったが、ハルヒの不機嫌顔は変わらない。
「二人とも休みだって。用事があるとか。二人そろって休むなんてたるんでるわ」
言うと、息を漏らしながら大きく伸びをした。
「なーんか、やる気出ないわ。みくるちゃん、何か面白い話でもしてよ」
「ええっ、あたしですかぁ!?……えーっと、この前鶴屋さんがフグはまとめて食べると案外美味しくないって話を……」
「オチ言ってるじゃない」
二人のやり取りを横目に、ぼくはここにいない二人を思った。遅いとは思っていたが、欠席だったのか。
……偶然なんだろうか。ぼくは首をぶんぶん振った。黙っていると下らない事を考えてしまう。
ぼくはチェス盤(ぼくがSOS団に入った時から既にあった)を取り出すと、キョンの前に置いた。
「一戦、やろうよ。わかるんだろ?」
キョンはニッと笑うと、ああと頷いて古泉には連戦連勝だと言った。
頭を働かせているうちは無駄な事は考えずにすむ。ぼくは久しぶりのチェスに集中した。
一方その頃、古泉は走っていた。目指すのは北高裏門。あまり使われていない門だった。
小走りに走り続け、裏門が見えてくると古泉は足を緩めた。目的の人物を認めたからだ。
余裕のある表情を作りながら、古泉はゆっくりとその人物に歩み寄った。
「いやあ、急の呼び出し、驚きましたよ。女性からで、そんな経験も無いもので。
しかも相手があなたですからね……長門さん」
声をかけられた女は大した感慨も無く背を向け、緩慢とした動作で歩き始めた。
「歩きながら話をしたい」
挨拶も無く、それだけ。肩を竦めると古泉は長門の隣に並んだ。
「暑くなってきましたねえ」
間延びした口調で古泉が言う。普段より余裕を五割増し。長門は何も言わず、ただ前方を見つめていた。
「ついこの間まで、夏服では肌寒かったのに。本当、あっという間ですね」
「…………」
沈黙。黙ってただ歩く時が続く。古泉がふっと真剣な顔になった。
「……止めましょうか。根比べではあなたに勝てませんね。ご用件は何でしょうか、長門さん。
ただ一緒に帰りたいわけでは無いでしょう?それならそれで嬉しいですが」
冗談のように付け加えた一言とは裏腹に、古泉の目は全く笑っていなかった。
長門もまるで気圧された様子は無い。両者のペースはまるで変わっていなかった。
「……スタンドの事。それが知りたい」
古泉は意外だという風に目を見開いた。事実、意外だった。
古泉はもっと重大な事だと。最悪、宇宙人陣営からの宣戦布告すらあり得るとすら思っていた。
しかし、その驚きを見せたのも一瞬の事。古泉はすぐにその表情に笑みを貼りつけた。
「おやおや……隠していたつもりは全くありませんでしたが。こんなに大袈裟な聞き方をする事ですか?」
前半は半分嘘だ。古泉には隠す気は無かった。長門の実力ならスタンドの解析は容易いと思っていた。
だから隠す意味は薄いとは考えていたが、だからといってスタンド使いの、つまり機関の生命線を自分から喋る馬鹿ではない。
とはいえ、隠す意味が無いと思うのも事実。この質問は長門の解析の裏を取るためだけかもしれないのだ。
しかし、それでも古泉は別の可能性を考えた。
「……それとも、わざわざ聞くだけの理由がある。という事でしょうか?」
長門が足を止める。古泉は迅速に反応したが、それでも一歩前に出てしまう。
突然の停止は長門が初めて見せた動揺、およそ狼狽といっていいものだった。
真剣な表情の古泉に長門も射抜くような視線を向ける。こんな強い眼光だったか、と古泉は思った。
睨み合っても埒があかない。耐えかねて古泉が口を開いた時、長門が言った。
「以前、野球をした時に私が言った事を覚えているか聞きたい」
「……さて、何の事でしょうか」
予測はついた。が、古泉はあえて白を切った。長門がいつにも増して重い口を開く。
「あの時、私の力が制限を受けていると言ったが……それが思っていたよりも大きい」
「恐竜の件ですか」
古泉の脳裏にあの時の長門の姿が浮かんだ。恐竜の群れに飛び込んでいった姿が。
恐竜化した古泉はその後を見たわけではない。しかし、発見された遺体……フェルディナンドの胴体には大きな穴が空いていた。
窓のようにぽっかりと。細腕の長門には作れそうにもない。その事から、古泉は長門も自分と同じ末路を辿ったのだろうと考えていた。
長門が押し黙る。普段の無口とは意味合いが違う。静かな肯定だった。代わりに古泉が言葉を繋ぐ。
「どうしてでしょうね。前に言った原因だけでは、説明がつかないように見受けられますが」
他のインターフェースの暴走。それだけでスタンド使いに遅れを取るほどの制限を?解せない話だ。
一旦言葉を切った古泉が、鋭い口調で話を続ける。
「……それとも、また『他』がいるとか?あなたの代わりが更に」
「理由に関しては私にもわからない。憶測を言う必要も無い」
長門が即座に返す。動揺は無い。毅然とした態度を崩さなかった。
「それに、理由は関係無い。重要なのは現に制限されているという事」
古泉が肩を竦める。余計な事を話さないのは長門も同じだ。長門が重々しく言った。
「本題に入りたい。スタンドについて話すかどうか」
「……あなたの組織の指示ですか」
「質問に質問で答えるのはこれで最後にして欲しい」
長門が珍しく刺のある言葉使いをする。両者はそのまましばらく睨み合っていたが、やがて古泉が破顔した。
「参りましたね。最初に言った通り、僕に隠すつもりはありませんよ」
ですが、と古泉は付け加える。
「僕が本当の事を言う保証はありませんよ。機関が口止めしているかもしれない。違いますかね?」
「それは無い」
意地悪をいったつもりだったが、長門は即座に否定した。これには古泉も眉を上げる。
「……あなた達も状況は厳しい。私を利用したいはず」
図星だった。短い言葉だが、全くその通り。思わず古泉は苦笑した。
経験が浅く、強いスタンドを持つわけでもない自分が涼宮ハルヒの護衛を続けている時点で機関の窮状は知れる。
駒不足は明らかではないか……実際、機関はスタンド能力に関して口止めをしていない。つまりは、そういう事だ。
「わかりました。ちょうどいい機会ですし、スタンドの法則を教えましょう」
とはいえ、どこから話したものか。古泉は迷った。長門はどこまでわかっているのか?それを知らないからだ。
悩んだ末、古泉は一から教える事にした。「スタンドは一人一能力」、「様々な像を持つ」、
「スタンド使いのみが見える」、「スタンドに触れるのはスタンドのみ」。ここまで話すと古泉は一呼吸置いた。
「……つまり、長門さんは本体を攻撃するしかないようですね。
スタンドのエネルギーを感知する事で擬似的に見る事は出来るようですが、触る事は出来ない」
長門が小さく頷き、続きを促した。ここからが重要だ。古泉は整理しながら話し始めた。
「大きく分けて、スタンドは三種類。まず近距離型。多くは格闘能力が高く、殴る事で能力が発現します。虹村君がこれですね。
次に、中距離型。付かず離れずの距離を保ち攻撃します。僕はここですね。
最後に、遠距離型。射程が長い代わりに大雑把にしかコントロール出来なかったり、パワーが弱かったりします。
フェルディナンドがそうです。多くの場合、射程距離とパワーや精密動作性は反比例の関係にあります」
長い話だった。長門は表情一つ変えないが、普通ならショックな話だ。圧倒的な不利を被るのだから。
まず、触れない。これが大きい。スタンドに対して、長門は一般人も同然だ。本体を見つけられなければあっさりと詰みに陥る。
しかし、古泉は慰めようとは思わなかった。戦う以外に選択肢はないのだから。気休めを言っている暇は無い。
古泉は事務的な口調で言った。
「……さて、基本は終わりです。例外は一旦置いて、次は長門さんが話してもらえませんか」
「……制限がどの程度か?」
話が早いと古泉が満足気に頷いた。喜んで続きを促したが、長門は口を閉ざしていた。
元来の無口からではない。長門もやはり、どう説明するのか迷っているのだ。
「具体的に説明するのは難しい。口で説明しても、齟齬が生じるかもしれない」「……なら、手伝ってやろうか?」
突然口を挟んだ声に、古泉は振り向いた。枯れ木のような老人がそこに立っている
「……何ですか、あなたは」
やや不快感の混ざった声を向ける。かなりの高齢だ。
八十は近いだろうに、酔っ払っているのか、あるいはぼけているのだろうか。老人はヒヒッと笑った。
「わしを知らんか。わしは『ケンゾー』。教祖をしておった。数十年前までだがな」
「……そうですか。お孫さんにでも教えてあげればいかがですか。長門さん、行きましょう」
古泉は冷ややかに言った。普段ならともかく、こんな時に乱入者は歓迎出来ない。
歩き出そうとした袖を、長門が引っ張った。黙って目線でケンゾーを指す。何かをブツブツと言っているのだ。
「……どいつもこいつも、馬鹿にしおって……。こんなクソガキにすら。数十年前、わしは……わしは……」
プライドを傷つけたらしい。罪悪感が古泉の胸を刺したが、相手は危ないボケ老人だ。
謝ろうというよりは立ち去りたい。気まずさはあったが、無視して行こうとした瞬間。
「わしは輝いておったんじゃああああああ!!」
ケンゾーが跳躍していた。重力を感じさせない高さ。老人の動きではない!古泉に考えている暇は無かった。
「マッガーレ!」
光弾を放ってから、しまったと思う。狂人相手とはいえ、一般人との揉め事でスタンドを使うなんて。
死にはしないだろうが、はずみって事もある。軽症ですめばいいが。そんな事を心配したが、それは全くの杞憂だった。
無数の光弾は、一つもケンゾーに当たらなかったのだから。
(外した!?)
古泉に衝撃が走る。避けられたのではない。外したのだ。古泉にとっては信じられない事だった。
古泉の「マッガーレ」は一撃の威力に劣る代わりに、スピードと高い連射性がある。
仕留めるという事はともかく、弾をばらまいて当てるという点には古泉は自信を持っていた。
今回もその特性に則り、ちょっとした弾幕を作っていた。その上で光弾はケンゾーをすり抜けていったのだ。
それも、ケンゾーはかわす動きをしていない。一直線に飛び蹴りを放つ、的のような状態だ。
−−−ツイてない。内心で毒づいたが、不運を呪う暇は無い。
既にケンゾーは古泉の頭上に到達し、高く振り上げた足を振り下ろそうとしていた。
老人離れした鋭さ。運動神経は高いほうである古泉ですら避けきれない。そして、斧のように踵が振り下ろされた。
踵が一閃した後、古泉の右腕は消えていた。肩から先が消え去っていたのだ。ケンゾーがニヤリと笑う。
「一瞬早く光弾に変えたか……」
腕の代わりに漂うのは光。古泉はそのままそれを放った。
「ハァッ!」
気合いの声と共に光弾がケンゾーを襲う。しかし。
「……な!またッ!?」
光弾はかすりもしなかった。呆然とする古泉の代わりに長門が前に出た。
「新手のスタンド使い……。下がってて。格闘戦は私のほうが得意。援護してほしい」
古泉が息を飲む。まともに戦う長門を古泉は見た事が無い。ついにその力が明らかになるのだ。
構えを作り、じりじりと長門が距離をつめる。長門がケンゾーから目を切らないまま言う。
「一つ聞きたい。『ケンゾー』のスタンドは見える?」
「……いえ……」
古泉はかぶりを振った。例えば虹村億泰の「ザ・ハンド」のように、一撃が致命傷となるスタンドは多い。
警戒するのは当然だ。しかし、光弾を撃った時から今まで、スタンドの姿は影も形も無かった。
「わかった……」
言うが早いか、長門は猛然と殴りかかった。
(早い!)
古泉の第一印象はそれだった。腰を入れていない、スピードだけの牽制のジャブ。それを加味しても、余りある早さだった。
ジャブの連打からストレート。澱みの無いコンビネーション・ブロー。
ボクシングのチャンピオンに匹敵……いや、それを超えているとすら古泉は思った。これが長門の格闘。
しかし、ケンゾーは一撃も食らわない。防戦一方ではあるが、全てのパンチを捌ききっている。
腕を振り回すようにしてのさばき。中国拳法……太極拳に近い動きだった。それも、達人級の。
それでも長門は連打の手を止めない。一分ほどラッシュを続けたところだろうか、遂に長門が仕掛ける。
左ジャブを打つと同時、僅かに長門の膝が浮く。
(上手い、ローだッ!)
直線的に襲い掛かるジャブやストレートに目を慣れさせたところで、横になぎ払うローキック。
これは見切れない。そう思う古泉だったが、敵もやはり達人。
瞬時にケンゾーは反応し、足を上げ防御の形を作る。ふくらはぎで受け、ダメージを最小限に抑えるためだ。
しかし、予想に反して長門の蹴りは空を切る。外したわけではない。
長門はローキックを本来よりも数段小回りにし、ケンゾーの目の前に接地。そのままそれを軸足にして回転した。
(ローもフェイント!?)
そう、長門の狙いはこれだった。本命はローで釣り上げてのバックキック。
バックキックは本来は後ろにいる敵をまっすぐに足裏や踵で蹴る技だ。
しかし、今の長門がやったように自分の体を回転させて前方の敵に背を向け、それから蹴りを放つやり方もある。
一度背を向けるために隙は大きいが、全身の捻りを使った蹴りは強力無比。まともに食らえば、軽々と骨は粉砕する。
ケンゾーは既に下段を防御する構えをとっている!回避は不可能!決まった、と古泉は思った。
しかし、長門は思いもよらない動きをした。
蹴り足を上げ、今放とうというその時、長門は軸足一本で思いきりバックジャンプしたのである。大きく両者の距離が開く。
「な……!?長門さん、何やってるんですか!千載一遇のチャンスをッ!」
長門は答えずに、ちらりと前に軸足があったところを見た。
(……石……)
そこにはアスファルトには似つかわしくない大きな石があった。踏みつければバランスを崩す程度の大きさの石が。
格闘の際、知らず知らずのうちに移動していたらしい。長門は全く石の存在に気付いていなかった。
あのまま蹴っていたなら、転倒は免れなかっただろう。
(格闘に集中していた。石に気付かなかった事は不運と受けとめる他は無い。しかし……痛い)
痛すぎる偶然だった。古泉の言う通り、二度と訪れないような好機だったのだから。心の中で一人ごちる長門。
一方、事情を知らない古泉は歯噛みした。一体何をやっているんだ、これなら自分がやったほうが。そう思った時。
「偶然ジャナイゼェ。じじいハ『絶対安全』だからナ」
耳元で素っ頓狂な声を聞いたのである。
「マッガーレ!」
振り返りながら声の元に光弾を撃つ。そして、古泉が見たものは宙に浮かぶ東洋的な龍と、それをすり抜けていく光弾の姿だった。
当たらないだと!?驚愕と同時に戦慄が古泉を襲う。この龍がスタンドという事は間違い無い。
しかし、スタンドに攻撃が通用しないなんて。慌てて古泉は身構えた。
来るであろうスタンドからの反撃に備えるためだ。しかし、龍の反応は意外だった。
「兄チャンヨォー、ソンナビビンなくてもイイダロォー?オレハ中立ダカラナ。
ソレニ、今ノ対象ハアンタジャネェー。嬢チャンのほうサ。
ラッキーカラーハ黄色デ、ラッキーグッズハ金魚……アレバダケド」
「はいやっ!」
一方的に話す龍に返事が出来ずにいると、ケンゾーが奇声をあげた。
「余計な事を言うな、『龍の夢(ドラゴンズ・ドリーム)』!それよりこっちに来い!そろそろじゃろッ!」
「ナンダヨォー、ケチケチスンナヨナァー」
龍はぶつぶつと文句を言いながら、ふわふわとした軌道でケンゾーへと向っていく。
「……な、何かわかりませんが、そいつを近付けてはまずい!長門さん、追撃を!」
しかし、長門は距離を置いたまま微動だにしない。焦れた古泉は一人光弾を撃つ。が、やはりかすりもしない。
「見えてないんですか!?長門さん、やはりあなたの力がいる!協力して下さい!」
「……くく。坊主、若いのう。身近な人間の事が見えんとは」
呟きながらケンゾーは手元に「輪」を発現させた。古泉が睨み付けながら言い返す。
「何だと?」
「戦ってみてわかったわい。そこのお嬢さんの能力、一言で言えば『可変』じゃな」
ここに女性は一人しかいない。長門を指している事は明らかだ。「輪」の中に龍が収まる
「可変……?」
「持つエネルギーの範囲でそれを運用する。
つまり、スタンドで言えば『近距離パワー型』にも『遠隔操作型』にもなれるというわけじゃ。違うかの?お嬢さん」
長門は、首を振らない。長門にとっては肯定を意味していた。
古泉は愕然とした。確かに、これまで長門は全力疾走のようにラッシュを続けていたが、
これほどまでに持てるエネルギーが少なくなっているとは。
見ると、微かに長門の息が切れている。いつもの鉄面皮が疲労を隠せていない。
「な、長門さん……」
「心配しなくていい。攻め込まない理由はエネルギーの回復だけではない」
たじろぐ古泉に長門は冷静に返した。じゃあ何が、そう聞く前に答えが返ってきた。
「今、私はほぼ全てのエネルギーを肉体強化に注いでいた。並みの近距離パワー型相手なら打ち勝てるほどまでに。
それなのに、一撃も当たらないというのはおかしい。原因を見極めたい」
「で、ですが……」
古泉は口ごもる。長門の言う事には一理ある。だが、みすみす相手に能力を発動させて好転する事があり得るのか?
可能性は低い。逆に言えば、そんな低い可能性に賭けざるを得ないほど消耗しているという事ではないのか?そう思ったからだ。
焦る古泉をよそに、ケンゾーは悠々と呟く。
「……巽の方角……225度0分……」
そして、中国拳法でいうところの「千鳥」に近い足さばきで移動し始めた。唐突に長門が言う。
「一つ聞きたい。さっきあなたはスタンドと話していたけど、何て言ってた?」
古泉はきょとんとした。聞いていたはずではないのか。
「……。私は精神エネルギーを可視化する事で擬似的にスタンドを見ているが、
それは不鮮明で詳細はわからない。当然、スタンドが発する声も聞こえない」
「あ、はい……。しかし、要領を得ない話ですよ。スタンドは中立だとか、ラッキーカラーは黄色とか……」
長門は少孝した後に再び口を開いた。
「やはり……。あの口振りや足さばき。このスタンドの正体、恐らく『風水』」
「風水?風水ってあの占いのですか!?」
古泉は目を見開いた。長門はケンゾーから目を離さないまま言う。
「占いではない。古代中国では『吉』の方角があると信じられてきた。
それに基づいて、戦時に攻め込む場所や防御する場所を決めたと言われている」
古泉は息を飲んだ。否定したい反面、聞いた事があるのだ。
一つの事を極めた達人……料理人や刀工にスタンドが宿る事があると。この場合はそれが風水だというのか。
「そして、ケンゾーが奴の吉の方角がわかるとすれば……」
「はいやっ!」
ケンゾーの奇声によって長門の説明は中断された。手元の龍に向けて怒鳴っている。
「ほれ見ろ、お前が余計な事を言ったせいでわしの『暗殺風水』がバレちまったぞ!」
「風水はミンナノモンダロォー!自分バッカズルいネェー!」
反論する龍に呆れた顔を見せながらも、ケンゾーはニヤリと笑って長門を見た。
「ま、いいじゃろ。お嬢さん、この世で最も強い力は何かわかるかの?」
「…………」
答えない長門。無視してケンゾーは話を続ける。
「全てを粉砕するパワーか?触れる事すら出来ないスピードか?……違うな。
この世で最も強い力とは!すなわち『運』じゃ!『運命』と言い換えてもいい!
これからワシは『安全な運命』を選び続ける!お前の攻撃が命中する事は無いッ!」
古泉は戦慄した。「運」が最強と一言で言うと馬鹿馬鹿しい響きだが、
「運」とはあらゆる力が介在出来ない絶対的な力だ。それを支配出来るとしたなら、最強と言ってもいい。
龍がケンゾーの手元から離れふわふわと浮かぶ。同時にケンゾーが飛び掛かった。
「行くぞッ!長門ッ!」
一旦切ります。明日の午後8時ごろ続き投下する。
>>357 仕様です。
俺もやっと規制解除
お二方とも乙ゥ
原作キャラを使った話が書いてみたい気になって来た……気になるだけで内容は思いつかんがねッ!
きになるだけならパイナップルだってできるんだぜッ!
さて、一時間ずれたが始めましょうか。
書き忘れましたがWikiに載せるときは前後半の扱いにします。
第二十八話「エンター・ザ・ドラゴン 後編」
再び激しい格闘戦が始まる。今回はケンゾーも黙ってはいない。
防御一辺倒ではなく応戦してくる。古泉は黙ってそれを見守るがやはり決定打は無い。
(落ち着かなければ……長門さんなら格闘は互角に持ち込める。機を待つしかない)
そう考えて見の姿勢を崩さなかったが、その認識はすぐに崩される事になる。
(……まさか……!いや、押されている……!?)
元々、長門はこの戦いを短期決戦で乗り切るつもりだった。
相手はスタンドを身に纏っている様子は無い。その上でわざわざ近付いて来たという事は、スタンドは支援型。
それならスタンドに何かされる前に生身の本体を叩く方が賢明。そう考えたためだ。
特に何も仕掛けを打たずに肉体のみを強化したのもそのためである。
長門のこの策、間違っているわけではない。むしろ、スタンドを使われる前に本体を仕留めるという策は、
大半のスタンド使いには有効だろう。ただ、今回は相手が悪すぎた。
ケンゾーの「絶対安全の方角」により、長門はエネルギーの多大な空費を強いられた。
今、長門の格闘能力は人間並にまで落ち込んでいる。当然、人間の限界近い水準ではあるが。
ただ……「人間の限界に迫る」という点では、拳法の達人であるケンゾーもまた同様なのである。
「……っ!」
長門の呼吸が一際乱れる。遂に足に蹴りが直撃したのだ。
古泉は舌打ちすると援護のために光弾を撃つ。が、やはり駄目。ケンゾーはかわす素振りすら見せない。
「まず一撃、じゃな。大分動きが鈍くなっとるの。もうガス欠寸前ではないのか?」
「………」
長門は答えない。確かにエネルギーの消耗は激しく、十分も保たないだろう。
そして、ケンゾーもそれを承知の上で決して深追いはしない。「絶対安全の方角」から離れないためもあるが。
(……どうする……!?このままでは押し切られる!)
必死に考える古泉だが、名案は浮かばない。そこに軽妙な声が語り掛ける。
「ナァ、兄チャン。難シー事ヲ考エテルミテーだけど……、『絶対安全の方角』ハ破レネーッテ。
ソレヨリサァ、『モウ一ツ』を気ヲ付けたホーがイイゼ」
古泉が声の主を探すと、いつの間にか長門のすぐ近くに龍がいた。矢印が付いた尻尾で長門の腹を指している。
「ココダ……。『右脇腹』。ココハ凶ダゼ。注意シロッテ教エテやんナヨ」
「おい、いい加減にしろ!敵にいくつヒントを与えれば気が済む!」
ケンゾーが強引に話を中断させると、再び突きを放った。冷静に長門がそれを弾く。しかし、その先には。
「いけない!」
古泉は反射的に叫んだ。本能的にと言っても言い。ケンゾーの腕が龍の元へ伸びていく。
「何……!?これは!」
触れた、と古泉が思った瞬間。ケンゾーの腕が消失していた。それと同時にケンゾーが飛び退く。
消えた腕に驚く間もなく、何もない空間からケンゾーの腕が現れ、長門の脇腹めがけて殴りかかった。
肉体強化のおかげか、長門は咄嗟に腕を下げてガード。辛うじてかわした。
「……不意打ちのつもり?通用はしない」
長門には珍しい、挑発的な口調。もちろん、単なる挑発に終始するものではない。
ケンゾーの逆上を誘うためだ。そういう、らしくない手段を使うほどピンチとも言えるが。
しかし、苦肉の策をとった長門を待っていたのは不敵な笑みだった。
「不意打ち……?しとらんぞ。……まだ……」
ケンゾーはニタリと嫌らしく笑った。その時、長門の足元にぽとりと何かが落ちた。
湿り気を帯びた着地音。敵のすぐ前の長門は一瞥も与えないが、古泉はそれを見た。
焼け焦げた跡がある鳥の死体。古泉はそれが何を意味するかはわからなかったが、何の気なしにその上を見た。
「長門さん、危ない!」
唐突に叫んだ古泉だったが、長門にはそれに応える余裕は無かった。
無視して距離をとろうかと思案した瞬間、長門は耳元で何かが爆ぜる音を聞いた。
不信を感じながらも飛びのこうとした瞬間、視界の端を何かがかすめた。
それが切れた電線だと気付いた時、電流は既に長門の全身を貫いていた。
「長門さんッ!」
辺りに古泉の絶叫が響く。同時に電流がスパークする音。
電線が突如として切れ、それが偶然にも下にいた長門に当たるなど誰が考えるだろうか?
「コレガ凶……。じじいノ吉ノ方角を見ルヨーニ、嬢チャンノ凶ノ方角モ見レル。……デモ、モー遅イカモナ」
龍がのんびりと呟く。それも古泉の耳にはろくに入ってはいない。
古泉の注意はただ一点、全身から煙を吹き出しながら地に倒れている長門の姿に注がれていた。
「長門はこれで始末した……次はお前じゃ、古泉」
ケンゾーの言葉で古泉は我に帰った。意識せず口から呻き声が漏れた。
ケンゾーが「絶対安全の方角」にいるかぎり、自分の攻撃は絶対に当たらない。
自分は勝てない。古泉が思ったその時、微かな物音がした。
「…………」
長門が立ち上がっていた。消耗していた状況で電流を食らっては、長門ですらひとたまりも無い。
長門が致命傷を負わずにすんだのは、飛来した電線にすぐ気付けた幸運と、咄嗟に制服を絶縁体に変えた機転のためである。
しかし、それでも完全に電流を止める事は出来なかった。
制服は所々焼け焦げ、足取りも危うい。瀕死という事は明らかだった。
「長門さん……!やる気なんですか……!」
呆然とする古泉。ケンゾーが吐き捨てるように言う。
「死に損ないが!……だが、同じ事じゃ。わしは極めた!
絶対なる『攻撃の方角』と完璧なる『守りの方角』!
教祖復活じゃああああ!貴様にとどめを刺してからなあーッ!」
ケンゾーが猛然と踊りかかる。既に龍の配置は終わっていた。
龍が再び話しかける。
「イイカ?次は『背中』。ココハヤバイゼ。ラッキーカラーは赤。気をつけろよ」
その言葉を聞いて古泉が慌てて口を開く。
「長門さんッ!あなたの背後に龍がいる!スタンドは見えるんですよね!?ケンゾーにそれを触らせては絶対にいけないッ!
それがトリガーになっている!あなたの『凶の運命』が確定し、攻撃が決定されてしまう!」
長門がケンゾーに向き直る。古泉の言葉は聞こえたが、突破を防ぐ体力も長門には無い。
「防御する体力も無いか。『ドラゴンズドリーム』に触れるまでもないかもしれんが……万全を期す!」
言うと、ケンゾーは前蹴りを見舞った。かろうじてガードが間に合うも、後方に押し込まれる長門。
その腕が龍に触れた。すると、ケンゾーと同じように腕が消滅していく!
「触れたのはお前の腕だ。じゃが、それはわしが触れさせた事。つまりわしの攻撃も同然!」
そして、虚空に長門の腕が現れると電柱を殴った。古泉が絶叫する。
「攻撃が決定されてしまった!長門さん、その電柱の近くは危ない!離れるんですッ!」
古泉に言われるまでもなく、長門は電柱から離れていた。
「電柱ジャネーゼ。切レタ電線ガ熱を持ッテル」
電線の熱と、先から飛び出た火花。それが殴った衝撃で剥がれた電柱の貼り紙に引火していた。
そして、火がついたまま貼り紙は宙を舞い……ゴミ集積場に到達した。電柱から離れた長門の背後にあるゴミ集積場に。
そのゴミの中には多量のスプレー缶……中身のガスを満載したものが含まれていた。
辺りに轟音が響く。ガス爆発。防御の余裕も無く、長門は紙のように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「決まった!攻撃は決定されたッ!そしてこれがとどめじゃ、くたばれ長門ォーッ!」
ケンゾーは高く飛び上がる大きく足を振り上げた。完全なとどめを刺すために。
咆哮が轟いた。古泉が必死の形相で光弾を撃つ。
「うおおおおおお!」
しかし、当たる事は無い。ケンゾーの高く上げた踵。ギロチンのようにそれが迫る。
「絶対に命中はしねえッ!『絶対安全の方角』にいる限りな!そしてッ!終わりだ長門ォォォォ!」
鈍い音。その中にあばら骨が折れる小気味よい音が混じる。
ギロチンが長門の胴体に振り下ろされたのだ。古泉は呆然と立ち尽くした。
「そんな……長門さんがやられるなんて……」
地面に倒れる長門を踏み付けたまま、ケンゾーが高笑いをする。
「やった!やったぞ!『暗殺風水』、極めるのに40年かかった!
これでわしは釈迦と並ぶ聖人として歴史に残るぞォォォォ!」
「……ナァ、じじい。喜んでる所悪いンダケドサァ」
龍が口を挟む。ケンゾーは不愉快そうに怒鳴りつけた。
「何じゃ、やかましいぞ!古泉の事か?お前も『暗殺風水』の前では古泉は雑魚という事くらいわかるじゃろ?」
「……オレハ中立ダカラ、本来言ワネーンダケド……嬢チャンの事……終ワッテネーミテーダゼ」
息がある。辛うじて。本当に辛うじてだが、長門はまだ生きていた。
肉体強化の名残のためか、耐久力が上がっていたのが幸いしていた。
とはいえ、もう完全にエネルギー切れ。肉体の再生はもはや不可能だった。
「それがどうした?大したしぶとさじゃが、改めて始末するだけじゃ。黙ってろ」
「イヤ、ダカラ違ウ。嬢チャン……触れてるぜ」
龍の言葉にケンゾーが眉を上げる。同じ事に気付いた古泉が息を飲んだ。
「な……!何て事を……!」
長門の伸ばした手が消えていた。そして、長門の真上にあった標識を殴る。
丸い標識板がグラついた。今にも外れそうだ。鋭利な側面がギラギラと光っている。
「なぜッ!?なぜこんな事を!これで攻撃は決定されてしまった!その状態では、今度こそ命は無いッ!」
叫ぶ古泉と対照的に、ケンゾーはケタケタと笑った。
「こりゃあいい。何か企んどったらしいが、うっかり触れたというわけか。
これで手を下すまでも無くなったな。どれ、安全な方角を示せ。離れるぞ」
「寅の方角……行ケルンナラナ……」
意味深な発言に顔をしかめながらも、ケンゾーは寅の方角に行こうとした。そして、愕然とした。
足が動かないのだ。長門を踏み付けた足が少しも。脂汗がケンゾーの全身をつたう。
「な……!?何が起きた!?なぜ動けん!このままでは……!」
「……気づいた?」
長門が呟く。弱々しい、蚊の鳴くような声。
「制服の素材を変えた……。『粘着する』素材。あなたが、高笑いしてる間に……」
くっついていた。長門を踏み付けた靴が、完全に。ケンゾーは慌てて靴を脱ごうとしたが、靴自体も足に接着されていた。
標識板を支える金具が一つ外れる。残りは一つだけ。それもすぐに外れそうだ。
凶の時は近い。ケンゾーが狂ったような叫び声をあげた。長門が途切れ途切れに呟く。
「……これで……『凶』を分けてやれる……。どう……?幸運から……断頭台に立たされた気分は……」
長門への攻撃は決定された。そして、それは間違い無く致命的な一撃となる。長門にはもう防御する体力も無いのだから。
その上で長門は自分の取った最期の選択に対して満足感を感じていた。
(……いい。これでいい……。私が消滅しても他の個体が調査を続ける。心残りは無い)
標識板を支える最後の金具が遂に外れる。風雨に削られて、側面が刃物のようになった標識板が一際大きく揺れた。
そして、落下。肉が切り落とされる音が辺りに響いた。
突如として、ケンゾーは自分が見知った道路に立っている事に気付いた。
呆然としながらも自分の体を確認する。傷一つ無い。無事である事は確からしい。
「……勝った……!」
自然と言葉が口をついて出た。全く覚えていないが、夢中で切り抜けたのだろう。
勝った事がわかると、ケンゾーの頭の中を勝利への興奮が埋め尽くした。
「やはり、やはり『暗殺風水』は最強じゃ!油断から危うく死にかけたが、反省を活かせばわしに敵は無いッ!」
「……なあ、じじい。アンタハオレが言う事ヲ聞いてタケド、ソレダケダッタナ」
また現れた、とケンゾーは思った。ケンゾーは『暗殺風水』は非常に高く評価していたが、
同じだけの評価がこのお喋りな龍に与えられる事は無かった。
むしろ、邪魔に思っていたと言ってもいい。能力のヒントを喋るのはもちろん、こんな口出しにも内心うんざりしていた。
とりわけ、この時は龍の感傷的な口振りが堪に触った。
「黙れ!水を刺しおって。少しは黙ってられんのか!?」
「……ソレダヨ。結局ノ所、アンタニハ尊敬ガネエ。敵ニモ、味方ニモナ。コウイウ結果モ当然カモナ」
ケンゾーが鼻で笑う。
「結果?わしが勝ったという結果か?当然だというのはわかるがな」
そう言ったケンゾーを、龍がじっと見つめる。
「……覚エテネーノカ?……じじい、あそこにいるぜ。見テミロ」
ただの妄言。その程度にしかケンゾーは感じなかったが、気にもなったので龍が指した方向を見た。
そして、愕然とする。そこにいたのは自分だった。ケンゾーの姿だったのだ。
がくがくと震える足を、ケンゾーはもはや止める事は出来なかった。
「あ、あれは……わし……!しかし、しかしあれには……!」
最後に長門を踏み付けた体勢のまま、ケンゾーは堂々と立っていた。しかし。あるべき物がそこには無かった。
「……首……!首が無い……!」
そのケンゾーには首が無かった。震えていると、血塗られた標識板の横に転がっている物があった。
ケンゾーの首だった。自分自身と目が合ったケンゾーの中で何かが弾ける。思い出したのだ。自分の最期を。
あの時、標識板が落ちる前、長門は標識板がケンゾーごと自分を貫く事を覚悟していた。
そして、来るべき死のために目を閉じかけた時。顔に生温い液体がかかった。
と、同時に標識板が落下しケンゾーの首を刎ねた。そしてそのまま長門へと落下する。
強い痛みが首筋に置いた腕を襲う。が、それだけだった。重い標識板は長門の腕をえぐっただけで終わった。
―――――――――
幸運を喜ぶ前に、長門は困惑した。攻撃は決定されたはずだ。確かに腕は傷ついたが、これだけではすまないはずだというのに。
「『ラッキーカラーは赤』……。藁にもすがる気持ちでしたが、当たった……!」
長門は血に濡れている。しかしそれはケンゾーの物だけではない。
古泉の左手首が地面に転がっていた。光弾で自ら切断したのだ。血が吹き出し、長門の制服を真っ赤に染めていた。
―――――――――
立ち上がろうとする長門を見ながら、ケンゾーはわなわなと震えた。
「わしの……わしの『暗殺風水』を使って……!……はっ!か、体が!?」
体が、実体を失いつつあった。自分が消えていく。わめき散らすケンゾーと対照的に、龍が落ち着いた口調で言う。
「お迎えか……。マァでもイインジャアねーのか?アノ世で本物の神様二ナレルかもシレネーゼ」
「ふざけるなッ!わし……は……」
言い終わらないうちに、ケンゾーの意識は消滅した。
「なぜあんな事を?」
少しだけ回復したエネルギーで古泉の手首をくっつけると、長門は言った。
「保証は無かった。私が死んでいたら止血すら出来ずにあなたも失血死していた」
古泉は血の気が薄い、青白い顔で弱々しく笑った。
「そうですね。賭けでしたよ。ですが、あなたが死ぬと僕らも困りますから」
「……『機関』が?それともSOS団?」
聞き返した長門に古泉は目を見開いた。
「はい?」
「……いや、いい……」
長門が首を振る。ぽかんとした様子で長門を見る古泉。沈黙を破ったのは長門だった。
「……私の代わりならいる。他のインターフェースが。ただ、私のような情報操作能力は与えられていない」
「…………」
古泉は目を見開いたまま絶句した。呆然としたまま、ようやく口を開く。
「……それは、味方として認めたという事でよろしいのですか?」
「……好きに解釈して構わない」
そう言うと、長門は踵を返して歩き始めた。
「手首はつけた。輸血は自分でなんとかしてほしい。……体力を使いすぎた」
ふらふらとした足取りで歩いて行く。ぼろぼろの制服で弱音も吐かない。
やはり、食えない人だ。そう古泉は思った。
スタンド名「ドラゴンズ・ドリーム」
本体名「ケンゾー」……死亡
To Be Continued……
というわけで投下終了です。
主人公が出ない回があってもいい。wiki掲載は翌日やる予定。
GJ!
第106話 「弓と矢を追って 3」
「ハルヒッ!逃げろッ!」
「え?え?え???」
流石のハルヒも目の前でいきなり始まった非日時にどう対応していいのか判断出来ていない。
「ジェットッ!」
八嶋がスタンドから何発ものミサイルを放ってくる。が、先程からのダメージのせいか、狙いが定まらずに目茶苦茶な場所に飛んでいった。
「徐倫ッ!あいつらへばってきてるぞ!これなら楽勝だなァ!」
……アナスイ、それは甘い観測だ。
「な、何よこれ………」
「ヒィィィィィィ………」
「神よ……お助けを………」
「マンマァァァァァァァァ」
「腰痛が治ったァァァァァァァ」
「何が起こっているんだアーーーーーーーーーッ!」
「に、逃げろッ!ここから離れるんだ!でないと死ぬぞぉ!」
スタンドが見えておらず、状況が全く把握出来ていない一般乗客が、遂にパニックを起こし始めた。
「グブッ……お、おい徐倫!これ何とかしろ!」
「あたしに掴まっとけキョン!」
人の波に押し潰される前に、シャンデリアに糸を絡ませて上空に逃げる。
「まいったな……どうする?」
「キョン、のんびり喋ってる暇は無いぞ」
「え?……神原と八嶋が宙に浮いてる!?」
「いや違う。八嶋のスタンドに乗っている」
「……でも確か、奴のスタンドって………」
「ジェットッ!」
八嶋のスタンドから誘導ミサイルが放たれる。
「あいつら周りの一般人はおかまいなしかッ!」
しかしこれはマズい。かわすにしても空中では身動きはとり辛いし、下に降りても身動きがとれないどころか無関係の人が巻き込まれてしまう。
「どうすんだ徐倫ッ!」
「ストーンフリーッ!」
糸を伸ばすともう一つ向こうのシャンデリアに跳び移る。
「逃げても無駄よ!それは誘導弾!当たるまであんたを追い続けるわ」
「誰が逃げるって言った?オラァッ!」
近くの窓ガラスを叩き割る。するとそこからカタツムリが大量に降り注いできた。
「んなッ!?キャアッ!」
八嶋の真上の窓ガラスを割った為、八嶋がカタツムリを全身に浴びてしまう。神原は巻き込まれていない。逃げたのだろうか。
「はあー……シャンデリアを変えたのはこの為か」
「あのミサイルがスタンド能力なら、これで速度を落とせる……暫くは大丈夫だろ」
床に降りると八嶋にトドメを刺すべくカタツムリに注意しつつ向かう。すると、
「徐倫、これはどういう事か説明しなさい」
ハルヒだ。あたしの右の二の腕をガッチリ掴んでいる。
「何の事だ?」
とぼけてみるが、誤魔化せそうに無い。
「あたしがこういうのを待ち望んでたのは知ってるでしょ?」
まあ、知らない訳が無い。確かSOS団の理念でもあったはずだし。
「まさかあたしに今迄ずっと隠してたなんて言わないわよね?」
変な所で勘が良い。つーか前から気付いてたんじゃあないの?
「ハルヒ、それよりその矢だ」
キョンが横から口を挟んでくる。確かにこの矢を受け取っておかないとマズい。
「拾ったのよ」
「そいつは徐倫の物なんだ。返してやってくれ」
「やだ」
「………ハァ?」
まあ、予想通りの答えでもあるのだが。
「これはあたしが拾ったのよ。それに徐倫はうちの団員よ!団員の物はあたしの物なの!」
無茶苦茶にも程がある。仕方ない、気乗りはしないが気絶でもさせて………。その時、ペシッという乾いた音が響いた。
「馬鹿言うな。人の物は拾ったら返せ、泥棒だぞ」
キョンだ。なんと平手でハルヒの頬をはたいたのだ。
「分かったら徐倫に謝れ」
ハルヒははたかれた頬をおさえたまま、顔をあげない。
「おい、どうした?」
「キョンの馬鹿ァ!」
ハルヒはそんな叫び声を上げるとキョンに渾身の右ストレートを叩き込んだ。
「おい、何して………」
んのよ!と言おうとして言葉につまる。何故なら、
「ハルヒ……あんた泣いて………」
「うるさいッ!」
ハルヒはこちらに背を向けると開け放たれた扉の一つから出て行った。
「キョン、追うぞ!アナスイ!奴等を頼む!」
「おう、ダイバーダウンッ!」
「ぶべら!」
八嶋の断末魔を聞きながら、あたし達はホールを飛び出した。
「ハルヒッ!何処だ!」
ホールを飛び出したハルヒを探して船の中を走り回る。だが、逃げ惑う乗客のせいで思うように動けない。
「ハルヒの野郎……こんな状況だってのに何考えてんだ?最近ましになってきたと思ってたんだがな」
キョンが横で愚痴っている。ハルヒのあのわがままについてだろう。
「多分、違うと思う」
「ハ?」
「キョン、あんたが考えているような事じゃあない……ハルヒは多分悲しかった……いや、寂しかったんだ」
「ハァ?」
「あたし達がハルヒの望むような不思議現象を体験していた事に拗ねたんじゃあない……あたし達がハルヒに隠し事をしていた事がショックだったんだ」
「それがなんだ」
「まだ分からないのか?あいつは不思議現象が大切なんじゃない……いやまあ待ち望んでいるだろうけど……それ以上に友達に隠し事をされていた事がショックだったんだ」
「……………」
「いたぞ、ハルヒだ」
ハルヒは甲板で手摺から海を眺めている。
「キョン、あんたが行って来い」
「………分かったよ」
キョンは何かを決意した表情でハルヒへと歩いていった。その時だった、
「フラッシュポイントッ!」
ハルヒの側に神原が現れ、ハルヒの弓と矢を持った左腕を、スタンドで切りとばした。
「え……あ……キョン……助……け………」
「ハルヒィィィィィィィィィィィィィィィ!」
「弓と矢は手に入れた………」
八嶋優理香 ジェット 再起不能
To Be Continued・・・
以上、106話でした
ジョニィの人GJ!まさかの長門と古泉、意外な組合せにケンゾーとは。
長門の能力の解釈もいいですね
それでは!
GJ!
いよいよ、ハルヒもスタンド関連の揉め事に関わり始めたか…。
…変に関わるとそれだけで世界存亡の危機が迫る訳だが、
正直、ヘビーウェザーより迷惑度が高いよね…。
いや、神父以上かもしれん。
>>450なんだ(笑)このキョンは 眉毛が凛々しい
第107話 「弓と矢を追って 4」
「ハ、ハルヒ?ハルヒ?だ、大丈夫だよな!なあ!大丈夫だよなァ!」
腕を切られてその場に崩れ落ちたハルヒに向かってキョンが駆け寄ろうとする。そのキョンの腕をスタンドで掴んで止める。
「馬鹿ッ!近付くんじゃあない!」
「けど、ハルヒが……ハルヒが………」
キョンは顔面を真っ青にし、目も虚ろに宙を泳いでいる。明らかにパニックだ。スタンドに全力で掴まれているにも関わらず、痛がらないどころかこっちを振りほどきかねない。
「携帯貸りるぞ……どうせ言っても聞こえないだろうしな」
正直言うとあたしもかなり混乱している。ただまあ、キョンがパニックになったお陰でわりと冷静に事を見れた。今のハルヒを救うには何人かの協力が不可欠だ。携帯に電話をかけた相手が出る。
「有希か」
「そう」
「今どこだ?」
「病院。安静が必要と言われた」
「分かった。今からあたしの言う通りにしろ。事情は後で説明する」
「了解」
「病院を抜け出して全速力で港の豪華客船まで来い。なんならワープしても物理法則を変えても構わないわ。全速力よ」
「分かった」
「あ、それとそこに新川さんは?」
「いる」
「新川さんに連絡してもらって森さんを今さっき言った場所と同じ所に連れてこい」
「了解した」
その短くも頼れる返事と共に電話は切れた。
「キョン、今有希を呼んだ。あいつならなんとかしてくれる、だから下がってくれ」
有希の名前が出たせいか、キョンに少しだけ落ち着きが戻ってきた。
「……分かった」
「神原、ハルヒを放せ」
「言われずともそうするさ」
神原は投げるようにハルヒをよこしてきた。抱き留めるとキョンにたくす。
「分かってるのかてめえ?ハルヒが死にでもしたら何が起こるか分からないんだぞ?大体腕を切断する必要は無かっただろ」
「……涼宮ハルヒには少し個人的な恨みもあってな」
……まあ恨みの一つや二つ、間違いなく買っている奴なのは分かっていたが。
「涼宮ハルヒが3年前に起こした事は知っているか?」
「3年前?」
「徐倫には言ってなかったな。こいつ、3年前に何かとんでもない事をして、その結果宇宙人と未来人がやってきて、超能力者と機関が生まれたんだとさ」
「そうだ。それともう一つ、空条徐倫。お前達スタンド使いの世界と私達がいた元々の世界を一つにしてしまった」
そっちは例の長門の事件の時に聞いたな。だがなんでその事をこいつが知ってんだ?
「その際にやってきたスタンド使いだけでなく、新たにスタンドの才能があった者がスタンドに目覚めた……我が組織はそう言った人々を集めたのだ」
「なるほどな……だけどそれじゃ感謝しても、恨むなんてのはお門違いだろ?」
「人の話は最後まで聞け……お前は何故今迄自分達の行動がまるで先読みされているかのように敵が現われる事を疑問に思わなかったか?」
「そりゃあスパイじゃないの?機関あたりにでも潜ませて」
「……中河という男を覚えているか?」
あのアメフトの時に有希に告白紛いの事をしてきた奴か。
「彼は3年前に涼宮ハルヒによって情報統合思念体に直接アクセスする能力を得た。お前達の仲間、古泉一樹とかいう奴もそうだ」
「………まさか」
「今お前が考えた通りだよ」
「……だから誰も知らなかった世界の統合を知ってたのか」
「そうだ」
「あたし達の……いや、ハルヒの思い付く事を知っていた」
話が見えていないキョンが口を挟んでくる。
「一体どういう事だ?」
「こいつはハルヒの思考……いや、少し違うな。ハルヒの世界の改変を知る事が出来るんだッ!」
「……よく意味が分からん」
「簡単な話だ。ハルヒが起こした異変、桜を秋に咲かせたり、よく分からん異空間を作ったり、超能力者を生み出したり引き寄せたり……とにかくハルヒの事はなんでも感知出来るんだろう。
言わば世界を上から見てる……神様が作る世界のジオラマを横から眺めているだけみたいな物だ」
「なるほどな……だけどそれじゃ感謝しても、恨むなんてのはお門違いだろ?」
「人の話は最後まで聞け……お前は何故今迄自分達の行動がまるで先読みされているかのように敵が現われる事を疑問に思わなかったか?」
「そりゃあスパイじゃないの?機関あたりにでも潜ませて」
「……中河という男を覚えているか?」
あのアメフトの時に有希に告白紛いの事をしてきた奴か。
「彼は3年前に涼宮ハルヒによって情報統合思念体に直接アクセスする能力を得た。お前達の仲間、古泉一樹とかいう奴もそうだ」
「………まさか」
「今お前が考えた通りだよ」
「……だから誰も知らなかった世界の統合を知ってたのか」
「そうだ」
「あたし達の……いや、ハルヒの思い付く事を知っていた」
話が見えていないキョンが口を挟んでくる。
「一体どういう事だ?」
「こいつはハルヒの思考……いや、少し違うな。ハルヒの世界の改変を知る事が出来るんだッ!」
「……よく意味が分からん」
「簡単な話だ。ハルヒが起こした異変、桜を秋に咲かせたり、よく分からん異空間を作ったり、超能力者を生み出したり引き寄せたり……とにかくハルヒの事はなんでも感知出来るんだろう。
言わば世界を上から見てる……神様が作る世界のジオラマを横から眺めているだけみたいな物だ」
「ご名答……私は便宜上“観測者”とこの能力を呼ばせてもらっている」
キョンが神原の言葉にピンときたらしく、こっちに分かったぞという表情をしてきた。
「えーと……要するにあいつはハルヒ専門のサイコメトラーって事か?」
「今さらかよ……そうだがな」
「精神感応者か……まあその認識でいいだろう」
「で?それがなんでハルヒを恨む事に繋がる」
「考えてもみろ……私は涼宮ハルヒの起こす事態を観測こそ出来るが、それに介入する事は出来ない……それが歯痒かった………」
「……………」
「世界が好き勝手にいじくり回される……それが理想に燃えた使命感からなら偽善でも間違っていてもいいだろう……思慮に満ちていて、自らの素晴らしき世界と思想を独善的に押し付けるのもいいだろう……
結果がどうであれ、そこには確固たる意思が、信念がある」
神原の独白は段々と熱を帯びてきた。
「だが、涼宮ハルヒはどうだッ!自覚が無いとはいえ稚拙だッ!まるで自分の手に入らない物に駄々をこねる幼児だッ!」
神原は普段のクールな態度を捨て去り、両手を広げて怒りをブチまけている。
「奴の行動には信念も意思も無いッ!ただ己の稚拙で矮小な思いを満たしているだけだッ!
だから私は決めたのだ!私のもう一つの才能、スタンドを使う事をッ!」
「だから弓と矢を……そしてその先を目指したのか」
「そうだ。観測者としての能力のお陰で近い将来涼宮ハルヒが弓と矢を引き寄せるのは予想できた」
「あたし達を襲ったのは?」
「邪魔だからに決っている……私はレクイエムを手に入れて涼宮ハルヒの力に挑む……世界を小娘の手から取り戻して神のいない人の手による世界に戻す為だッ!私の正義は誰にも邪魔はさせないッ!」
えらく壮大な演説だ……だが、分からないでも無い。この男はきっと世界がいじくられるのを近くで見過ぎてしまったのだ。そして、狂ってしまったのだろう。
ハルヒに与えられてしまったトンデモパワーには、被害者がいても加害者は誰もいないという事すら忘れてしまう程に。
「だが、理解できるのと許すのは別だ」
「徐倫、お前の言う通りだ」
「……キョン?」
さっきまで黙って話を聞いていたキョンが、目に怒りと闘争心を宿らせていた。
「黙って聞いてればてめえはハルヒばっか責めやがる……そりゃこいつに迷惑してるのは認める……だがなぁ!こいつだって望んでこんな力手に入れたわけじゃねえよ!
それにこいつが稚拙で幼稚な奴だと?違うな!ハルヒは他人の痛みも気持ちも感じれる立派な奴だよッ!」
「だがそいつが気紛れに世界をいじくっているのは事実だッ!」
「そうじゃねえ!ハルヒは気紛れに世界をいじくってるんじゃないッ!俺達と楽しむ為だよッ!」
「……楽しむ?」
「そうだよッ!こいつは世界を無秩序にしようとしてるんじゃないッ!ただ仲間が欲しいだけなんだよッ!でも馬鹿で不器用だから、どうやったらいいか分かっていないんだッ!
てめえが思ってるような事なんかハルヒは最初から考えてねえよッ!」
「ふざけるなッ!そんな事の為に世界を変えられてたまるかッ!」
「ふざけてるのはあんたの方でしょ?」
「空条徐倫……どういう事だ」
「正義の反対は何だと思う?」
「悪に決っている」
「不正解よ……答えは別の正義」
「何が言いたい」
「あんたが悪だって事よ」
「私に正義が無いとでも言う気かッ!」
「とんでもないわ、むしろあなたは凄まじいまでに正義よ、正しいわ……けれど正義と悪は対義語じゃない、正義と悪は両立出来るのよ」
「……………」
「てめえは自分の正義しか見ていないッ!他人の正義を、ハルヒの正義を、はなから見ようともしないッ!“最悪”の正義だッ!」
神原は怒りで顔を真っ赤にさせると弓と矢を持つ手を空にかざした。
「いいだろう……ならば私とお前達の正義……どちらが上か決着をつけるぞッ!」
そう言うと神原は自分のスタンドに矢を突き立てた。
「来るぞキョンッ!」
「……なんでもきやがれ……ハルヒ、お前は俺が必ず救ってやる………」
次の瞬間、辺りは光に包まれた。
To Be Continued・・・
投下乙
しかし自分だったら神原側に同意しちゃいそうだw
というか正義云々じゃなくてハルヒにたいしての好意があるないで立ち居地が決まっちゃうような
以上、ちょっと長めの107話でした
アフロさんGJ!次回の構想が出来ましたか。楽しみです
相変わらず絵も上手い
伏線を一気に解き放つって楽しいですね。回収し忘れてるのがあったらスミマァセェン
大人は嘘をつくのでは無いのです……間違いを犯すだけなのです……
それでは!
アメリカの人乙
「正義と悪は対義語じゃない」「正義と悪は両立出来る」
ンッン〜 名言だな これは
乙乙乙ゥ!
アメリカさんの話でのハルヒの能力の位相(アフロさんの言葉をお借りして)がどのあたりなのか、やっとわかってきた。
確かに神原の行動はある種正しくもあるな。というか、誰かが止めなけりゃえらいことになる。
果たしてどんなレクイエムが登場するやら……
アフロさんも乙!
このスレで絵師は貴重だから、地味に毎回楽しみにしてるぜ!
構想が固まってきたっていうのはキャット・ア〜の続編か?
それとも新作・・・?
台風対策は整えておくので、いつでも上陸してください。
463 :
マロン名無しさん:2010/01/28(木) 10:20:12 ID:AUVFavkr
あげ
第108話 「タイム・アンド・ア・ワード 1」
眩い光が止むと、ようやく辺りが見えるようになった。が、周囲の状況は一変していた。
「カタツムリがいない?」
あれほどたくさんうごめいていたカタツムリが一つ残らず消えていた。
「ウェザーさんがやられたのか?」
「……いや、多分違う。レクイエムは精神を操る……他のスタンドにも何らかの作用をもたらすんだろう」
だが、これが奴の新しい能力という訳では無いだろう。まだ何かあるはずだ。
「なあ……さっきから気になってたんだが、レクイエムってなんだ?」
「弓と矢がスタンドを目覚めさせる物だと言う事は話したな?」
「ああ」
「ところが、スタンド使いが再び弓と矢で射抜かれるとスタンドが進化して新たな能力に目覚める事がある。これがレクイエムだ」
「へえ………」
「レクイエムは物にもよるが、総じて強力な物が多い……今の神原はさっきとは別次元の強さだろう」
「……大口叩いたはいいんだが……勝てるかな?」
「……さぁな……ただ、奴もまだ能力を完全に把握しているかどうかは分からない。そこが隙かもしれない」
するとあたしの携帯が鳴った。
「もしも………」
「徐があた!いヘんリくた!」
「アナスイ?何言ってんだ?早口過ぎて所々しか聞き取れないぞ?」
「そそた?ゆすていがね!」
どうやら向こうも形は違えど似たような状況のようだ。
異常な早口で喋るアナスイとの会話を諦め、あたしは携帯を切った。
「……どうした?」
「何かがおかしい………」
すると一陣の風があたしの横を通り過ぎていった。
「なんだ?今何が通った?」
「へ?」
人……のように見えた。が、あまりにも速い。
「なんだ今の………」
「あ〜〜〜〜〜〜〜の〜〜〜〜〜〜〜も〜〜〜〜〜〜」
速すぎる人のような物にあっけに取られていると、今度は異常にゆっくり喋る人に話しかけられた。別にボケてる訳でも無さそうな若い男性だ。
「すみません……もう少しゆっくり喋ってくれません?」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜し〜〜〜〜〜〜〜〜わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
会話がそもそも噛み合っていない。なんだこれは?奴のスタンド能力なのは間違いない。だが、一体これは何の能力なんだ………。
「キョン、ここにいても時間の無駄だ……神原を探すぞ」
「ああ」
「だが……神原が何処に行ったのかも分からないなんてな………」
「徐倫ッ!神原だッ!2階にいるぞッ!」
「え?」
後ろを振り返り、デッキから見えるもう一つ上のテラスを見上げる。
「……誰もいないぞ?」
「は?んな訳ねえだろ……あれ?アナスイも来たぞ」
「キョン……あんた一体何を見てるの?」
side of アナスイ
俺は八嶋を倒してから、ウェザーと朝比奈を連れて徐倫と神原、そして涼宮を探していた。
「あいつら何処行きやがった?」
「さあ……分かりません」
「ウェザー、空気の流れとかで何か分からないか?」
『いや……何も……!?』
ウェザーの表情が信じられないという驚愕に満ちた物になる。
「どうした?」
『ヘビーウェザーが……解除された?』
「ふぇ?解除したんじゃなくてされたんですか?」
「どういう事だ?」
『分からな………』
ウェザーが何かを言いかけた瞬間、俺達を凄まじい光が包んだ。
「……クソッ……ようやく目が慣れた……ウェザー、朝比奈、無事………」
後ろを振り返ると二人がいない。どういう事だ?それに外のカタツムリが消え去っている。ウェザーの言う通り、ヘビーウェザーは解除されてしまったようだ。……だが何故だ。仕方が無い、携帯を取り出し徐倫にかける。
「徐倫ッ!一体何があったんだ!いきなりヘビーウェザーが解除された!」
「ア〜〜〜〜〜〜ナ〜〜〜〜ス〜〜〜〜〜」
なんか向こうも変だぞ?ふざけてる……訳は無いよな?
「そっちこそどうした?ゆっくり過ぎて聞き取れないぞ」
と喋った瞬間、徐倫の方から携帯が切られた。
「一体なんだっていうんだ………」
だが、何かがおかしいのだけは確かだ。まるで夕立のように突然何かが変わっている。
「どうなってる………!」
何かが動く気配を感じると、外を見る。そこには真っ白い長い髪と白いロングコートの後ろ姿があった。
「神原かッ!」
だが奴は徐倫が追っていたはずだ。となると……逃げられたか。
「待ちやがれッ!」
神原が出ていった扉を開け、デッキへと出る。
「誰もいない……?」
この2階のデッキへの出入り口は一つだけだ。隠れられるような場所も無い。
「下に飛び下りたか?」
デッキから下を見ようと身を乗り出した瞬間、
「ゴブッ………」
腹を何かに貫かれた。……スタンドの腕だ。
「神原……何故だ………」
「お前達には決して分からないだろう……私のレクイエムの能力はな」
デッキの下には誰もいない。助けは来そうにも無い。
「ちく……しょう………」
そして俺の意識はプツリと途絶えた。
side of 徐倫
「徐倫ッ!ヤバいぞッ!アナスイがやられたッ!」
「は?アナスイなんて何処にいるんだ?」
「あのデッキの上だよッ!見えてないのか?」
「……キョン、ハルヒがやられてパニックなのは分かるが、落ち着け」
「俺は冷静だッ!」
確かにそうだ。嘘や冗談でもないようだ。だが、何故話が食い違う?
「キョン、あんたが見た物を教えてくれない?」
「……分かった」
To Be Continued・・・
以上、第108話でした
いよいよラストバトルです。いつもより少し長くなりそう
それでは!
おつ!
この分からない加減がまさにジョジョのラスボス戦って感じだww
乙乙ゥ
どれだけ自分がジョジョの魅力を再現できなく分かってなかったか痛感する
>>470 やっとPCプロバイダの規制が解除されましたので書き込みますが、
アフロさんはアフロさんの味がありますし、あの勢いで書ける人はあなたしかいません。
この手のSSは、再現も重要ですけどジョジョという作品をどう捕らえて、
ハルヒという作品をどうクロスさせて、どう表現するかが味噌ですが、
それこそスタンドのように書く人それぞれに個性があるのです。
すべては相対…見る人それぞれにジョジョの魅力という真実があり、
それを表現すらも人の個性があるのです。
俺はあなたの個性で書いたジョジョとハルヒのクロスSSを支持します。
それだけです。
アメリカの人の個性で書いたジョジョとハルヒのクロスSSも支持しますが、
優劣などありません。
ですが、さらなるレベルアップを目指すというのも良い事だと私は思います。
とりあえず、ぬこキョン達の続きまだー(チンチンで閉めさせて頂きます。待ってるよー。
空条徐倫の憂鬱は、ジョジョの漫画をそのまま文章にしたような感じがするな。
若干スカスカした文章に思えるが
ジョジョを読み込んでる読み手からすると、文章から漫画の誌面が浮かんでくる。
セッコやジョニィは、そのへんがもうちょっとライト気味で、文章として読むジョジョハルヒって感じ。
アフロは限りなくハルヒ原作に近い感覚で読むジョジョって感じだったな。
キョンの一人称が多いからってのもあるんだろうが。
結論から言うと、結局優劣なんて無いよって
>>471が言ったとおりなんですがね。
そして、俺もネコキョンマダーチンチン。
>>471 何というスゴ味…これは間違いなくスタンド使い
第109話 「タイム・アンド・ア・ワード 1」
side of キョン
時は少しさかのぼる………
眩い光が止むと、神原はそこにはいなかった。
「カタツムリがいない……?」
徐倫の言う通りだ。あれほどたくさんいたカタツムリが一匹残らず消えている。まさか………
「ウェザーさんがやられたのか?」
「……いや、多分違う。レクイエムは精神を操る……他のスタンドにも何らかの作用をもたらすんだろう」
ふーん、だが、少し気になる事がある。
「なあ……さっきから気になってたんだが、レクイエムってなんだ?」
「弓と矢がスタンドを目覚めさせる物だと言う事は話したな?」
「ああ」
「ところが、スタンド使いが再び弓と矢で射抜かれるとスタンドが進化して新たな能力に目覚める事がある。これがレクイエムだ」
「へえ………」
「レクイエムは物にもよるが、総じて強力な物が多い……今の神原はさっきとは別次元の強さだろう」
「……大口叩いたはいいんだが……勝てるかな?」
「……さぁな……ただ、奴もまだ能力を完全に把握しているかどうかは分からない。そこが隙かもしれない」
すると、徐倫の携帯が鳴った。
「もしもし?」
電話に出ると徐倫はすぐにしかめっ面をした。
「アナスイ?何言ってんだ?早口過ぎて所々しか聞き取れないぞ?」
アナスイが相手のようだ。徐倫は少しの間、相手の話を聞いていたが、すぐに自分から切ってしまった。
「……どうした?」
「何かがおかしい………」
……何かがおかしい、か……確かに俺も違和感を感じている。なんだか俺だけこの場に適応できていないみたいな………。その時、逃げ惑う乗客の一人が俺達の横を走っていった。
「なんだ?今何が通った?」
「へ?」
ただの乗客を見て徐倫が驚いている。まるで乗客だという事が分かっていないようだ。
「あの、申し訳ありません!」
今度は若い男が話しかけてきた。受け答えしようとすると、
「すみません……もう少しゆっくり喋ってくれません?」
と、徐倫がおかしな事を言い出した。ちゃんと喋ってる相手に何言ってんだ?が、男は男で、
「クソッ!あんたもかよッ!誰か俺と話が通じる奴はいねえのかッ!」
と叫ぶと何処かに走って行ってしまった。
「キョン、ここにいても時間の無駄だ……神原を探すぞ」
「ああ」
「だが……神原が何処に行ったのかも分からないなんてな………」
何の気無しに上を見上げる。すると、
「徐倫ッ!神原だッ!2階にいるぞッ!」
「え?」
白いロングコートに白くてウザいロン毛。あんな特徴的な姿、見間違えるはずが無い。さっきまでの怪我はきれいさっぱり無くなっている。すると徐倫は俺が指差した方向を見て、衝撃の一言を吐いた。
「……誰もいないぞ?」
「は?んな訳ねえだろ……あれ?アナスイも来たぞ」
「キョン……あんた一体何を見てるの?」
上を見ていると、さらに奇妙な事が起こった。アナスイは目の前の神原に全く気付かず、辺りを探し回っている。このままじゃあ……と思った直後、
「徐倫ッ!ヤバいぞッ!アナスイがやられたッ!」
「は?アナスイなんて何処にいるんだ?」
「あのデッキの上だよッ!見えてないのか?」
「……キョン、ハルヒがやられてパニックなのは分かるが、落ち着け」
「俺は冷静だッ!」
おかしい。徐倫はこんな状況で嘘や冗談を言うようなタイプでは無い。何故話が食い違う?
「キョン、あんたが見た物を教えてくれない?」
「……分かった」
side of 徐倫
「……なるほどな」
キョンが自分の見た物をそのまま語る。あたしと食い違う点が多々あるが、一つはっきりした点がある。
「お前は特に異変らしい異変に遭遇してない訳だ」
「……どうやらそうみてーだな」
キョンはあたしが体験したゆっくりとした喋りも高速で動く人間も見ていないようだ。それどころか本人の認識自体は普段と全く変わっていない。
「何がどうなってやがる………」
すると携帯が再び鳴った。親父からだ。
「もしもし?」
「……………」
「どうしたの?返事くらいしろ」
「どうした徐倫、返事をしてくれ」
「何を言ってんのよ?返事しただろ」
「……なんで今さらもしもしなんだ?」
「………さっき言ったのを今さら言うな」
「返事くらいしろ?さっきからしているぞ」
駄目だ。親父とも話が全く噛み合わない。
「意味が分からない………」
待てよ?さっきの話だと、キョンは誰とも齟齬が生じていなかった……ならば、
「キョンと電話を変わるぞ」
side of キョン
「キョンと電話を変わるぞ」
携帯を手に取ると四苦八苦していた徐倫は、唐突に俺に携帯を突き出した。
「なんで俺が出るんだよ」
「いいから変われ」
徐倫から携帯を受け取り電話に出る。
「もしもーし?」
「キョンと電話を変わる?何を……随分出るのが早いな」
「今変わったとこですよ……何の用ですか?」
「何故お前なんだ……まぁいい、まずは古泉とはぐれた、そして現在私は船にたどり着いた。古泉は後から来るだろう。現在の状況を説明してくれ」
俺は神原がレクイエムを手に入れ、アナスイがやられた事と、皆の間に発生している齟齬をかいつまんで説明した。
「なるほどな……ならば一緒に行動しようとしても難しいだろう。別行動で神原を探そう」
「分かりました」
そう返事をすると承太郎さんは電話を切った。
「……ここが正念場だな」
「あぁ」
To Be Continued・・・
以上、第109話でした
>>472さん「若干スカスカした文章に思える」
↑俺が普段から気にしていることを……自分の力不足が原因なんでごもっともなんですけどね
もっと文章力をつけたいなぁ
それでは!
必ずしも練られた文章がいいわけでなく
結果としてジョジョハルヒになってればいい。
たとえばこのスレのSSを漫画にしたら、アメリカの作品が一番すんなりしっくり来ると思う
第110話 「タイム・アンド・ア・ワード 2」
親父からの連絡を受けると、あたし達は気を失ったハルヒを背負って船内へと入った。
「神原は……いないみたいだな」
船内は神原どころか、先程からのパニックのせいで誰一人見当たらず、ガランとしている。
「神原は何処なんだ?」
「キョン、お前が奴を見つけなきゃならないんだ……先に行ってくれ」
「俺が?」
「理由は分からないけど、あんたしか今の状況を正しく見れる人間がいないのよ」
「よく分かんない話だよなぁ」
するとその時、奥からのっそりと歩いてくる人影が見えた。
「誰だッ!?」
スタンドを出して身構える。
「ウェザーさんだ」
キョンに言われると確かにそうだ。だがなんで牛歩なんだ?今は急ぐべき時だろう。それとも、
「レクイエムの影響か………」
どうやらこのレクイエムは船一つくらいは余裕で射程距離らしい。
「おい、キョン」
後ろにいるキョンを見ると、何も無い空間に向かって話しかけていた。しかも独り言というわけでも無く、誰かと会話をしているように見える。
「やっぱりキョンにだけは影響無しか」
訳が分からん。暫く見えない透明人間と話し続けたキョンは、こちらに向き直る。
「ウェザーさんも俺しか見えてないみたいだ」
「そうか」
まあ予想通りだ。さして驚く事でもない。
「で、ウェザーさんも単独行動の方が効率が良いって思ってるってさ」
「あたしも賛成だ……って伝えといてくれ」
「通訳って相当めんどくさい仕事なんだな……俺絶対に進路から外しとこう………」
他愛の無い事を愚痴りながらキョンが通訳をする。その後、キョンは二言三言相槌をうつと、こちらに向き直った。
「ウェザーさんは行ったよ」
「ウェザーがどこら辺を見てきたかは聞いたか?」
あまり意味は無い気がするが、一応確認しておく。
「フロントホールと厨房は見てきたらしい」
「誰かに会ったとかは?」
「そういや長門を少し見掛けたって言ってたな」
それは有り難い。何処だ?
「後部デッキ辺りで港に向かって法定速度を無視してバイクを駆っているのを見たらしい」
「そこに向かうぞ。有希と合流すれば少しは何かが分かるだろう」
後部デッキに向かうと、すぐに何かのエンジン音が響いてきた。
「なんだ?なんか上からするが………」
「バイクのエンジン音………」
音のする方を二人で見上げる。すると、空には黒い二つのタイヤがついた乗り物が飛んでいた。
「……って、こっちに来るぞッ!」
「かわせッ!キョン!」
二人で後ろに同時に飛び退くと、さっきまで立っていた場所にハーレーダビッドソンが着地した。
「有希、全速力で来いとは言ったけど……派手すぎよ」
「ていうかそのバイクどうしたんだ」
「……………もらった」
と、有希はいつも以上に間を開けて、しかもほんの少し、注意していないとあたしでも見逃しそうなぐらい目を逸した。どうやら盗んだらしく、少々後ろめたさを感じているようだ。
「まあいいや……有希、現在の状況は把握できる?」
「それは……」
有希が口を開きかけた瞬間、
「朝比奈さん?」
キョンが誰もいない後ろに向かって呟く。まあ多分そこに朝比奈がいるんだろう。
「みくるがどうした?」
side of キョン
「朝比奈さん?」
パタパタとこちらに走って来るような足音に振り返ると、そこには愛らしい先輩が急いでこちらに走って来ている姿が見えた。
「みくるがどうした?」
「徐倫、見えてんのか?」
「いいや、見えてない」
どうやら朝比奈さんもレクイエムの影響は受けているようだ。
「朝比奈さん、どうしました?」
駆け寄ってきた朝比奈さんに声をかける。
「キ、キョン君ッ!たたた……大変ですッ!」
「いや、そりゃあ大変な状況ですよ?」
「違います!もっと大変なんです!」
「もっと大変ですか?」
「はい!時空が……その、物凄く大変な感じで……って涼宮さん!?大怪我してるじゃないですか!?」
かなり焦った様子で慌ただしくまくし立てていた為か、ハルヒの怪我に今迄気付いていなかったようだ。
「あわわわ……早く治さないと……長門さんは!?あ、港に来ましたよ!」
「そうだ、有希……早く治療しろ」
「了解した」
徐倫の指示を受けて、長門がハルヒを俺から抱き抱えて受け取る。すると、
「長門さん!?あれ?でも今港をバイクで………」
長門がハルヒに触れた瞬間、朝比奈さんに長門が正しく見え出したようだ。
「……少し見えてきたな、神原のレクイエムが」
「どういう意味だ?徐倫」
「後でな。それよりみくるに何が異常なのか聞いてくれ」
「朝比奈さん、何がそんなに異常なんですか?」
「あ、はい……この船のあちこちで……いえ、この船全体で時空が歪んでいます」
「ハ?」
「禁則事項に引っ掛かるので詳しくは言えませんけど、さっき大きな時空震が起こって、それによって時空が歪んで幾つもの時空が混在した状態になっているんです」
「……………」
何がなんだか分からないが、聞いた事を一言一句徐倫に伝える。
「………有希」
「何?」
徐倫は俺の話を聞くと、今度は長門に近付いて耳打ちした。そして、長門がゆっくりうなずいたのを見るとこちらに向き直る。
「奴のレクイエムの正体が分かった」
To Be Continued・・・
以上、第110話でした
少し遅れました。もうしわけありまぁせぇん
>>479 そうですか。御意見ありがとうございます。よーし!今の調子で完結まで頑張るぞ!
それでは!
485 :
アフロ名無しさん:2010/02/24(水) 02:38:09 ID:I8ZdhHNR
初めてP2ってのを遣っちまったが……意外とたいしたことないんだなァ〜
アメリカ乙です。
レクイエムの正体って言葉は何か心を揺さぶるアレがあるよね
レクイエムへの招待ってか。喧しいわ。
期限は365日っ! 今日から一年間
その期間中に俺は番外編を書き上げなければ……
過疎過疎してる中、あげてみる
おっと、ここに職人二人登場〜。
皆さん、ひたすら一日一日確実に一歩でも前進ですよ〜。
頂上よりも足元の確実に踏み出す一歩…。
これを怠ると小さな石で意思が砕ける…なんて事もある。
けどさぁ…一歩確実に踏むって確実で堅実な目標だとさ…。
一歩に失敗しても、その失敗が足元に。もしくは自身の身体のどこかにある訳で…。
失敗に気づけば、次の一歩は踏み出せる…。
最近、私自身何か書いてる訳じゃないんですが、
人生をちょっと思うとこんな事を思い浮かべました。
今日の一歩で明日、投稿されてる日に近づき、
投稿された日が今として一歩踏んでいる日だと確信しつつ、今日の一歩を踏むぜ〜。
みんな、一歩先で待ってるぜー。
前から何度と無く思っていることがある。
このスレの職人になりたい。
しかし、それができない。なぜなら、何も浮かばないからだ。
だというのに、セッコは、俺には考え至らない、ハルヒのストーリーへの、プッチとセッコという異色のコンビの投入を実現させ
アメリカは、まるでジョジョの紙面を読んでいるような、ある種の『逆リアリティ』を感じる、エネルギッシュな文章を投下してくれる
そして、ジョニィは挑戦的とも呼んでいい角度から『ハルヒジョジョ』を描き
アフロは信じられないスピードと完成度で、『ジョジョハルヒ』を完成させていってしまった。
何故彼らは俺にできないことを平然とやってのけるのかッ
俺に言える言葉は一つしかない
「乙!」
今……『出来るわけがない』って言ったか?
489 :
マロン名無しさん:2010/02/27(土) 14:53:42 ID:60sJncL3
あと3回だけ「できない」…と言っていいぜ
ほ
まったりと短く投下させてもらうぜ
「―――おれたちの『北高』は、『自意識』を! 『精神』を持っている!
その『精神』から『スタンド』が発現したんだ! そのスタンドが、この状況を……
『ネコ化』の現象を起こしているッ! おれの『ゴッド・ロック』には、それがわかるんだッ!」
もし。古泉の言うとおり、おれのスタンドが、つい数週間前まで、『スタンド能力者を生み出すスタンド』であったなら!
そして、あの学校が、古泉や長門たちのように、ハルヒのスタンドによって生み出された、スタンドではない能力を持った存在であったなら!
「『ゴッド・ロック』は、既に! あの学校を『スタンド使いの学校』にしていた……
その能力が、今……涼宮さんの力が不安定になっている今、『暴走』している……!」
遠くに感じる気配が、徐々に近づいてくる……森さんの『ヘブンズ・ドライブ』によって、俺たちは、その『学校』へたどり着こうとしている―――
そこに、いったい何が待ち構えているのか。何の見当もつかないまま――!!
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
外伝A 『キャット・ア・スペクタクル その4』
―――時は、ほんの僅か、前後する。
涼宮ハルヒ、16歳。
彼女は、『自覚を持たないスタンド能力者』である。
涼宮のスタンド名は、『宇宙(ザ・ユニバース)』。
その名をはじめに意識したのは、いったい誰であっただろうか。
それは、あるいは、涼宮自身かもしれない。
あるいは、涼宮を取り囲う『眷属』たちの誰かかもしれない。
『宇宙』。その名は、タロットカードの概念における、21番目のアルカナに由来する。
そして、それは。かつてこの世に存在した、とある人物(?)の持つスタンド……
『世界(ザ・ワールド)』と同じアルカナを意味する名称であった。
しかし。涼宮は……そんなことは、露とも知れず。自らのスタンドの存在にさえ気づかぬまま、若い日々を生きている。
涼宮は、今。彼女がじきじきに代表を務める、『SOS団』の部室に居た。
「……何、これ、すごく『えげつない』わ……
『交尾』のところなんて、アップロードして、何が楽しいのかしら?」
涼宮の視線の先には、団長席上に堂々と設置された、デスクトップ型のモニタが浮かんでいる。
そこに映し出されているのは、彼女が検索し、探し出した『ネコの動画』だ。
二匹のネコ……アルビノであると思われる白ネコと、ロシアンブルーの黒ネコが、体を重ね合わせている映像。
当然、涼宮は、こんなものが見たくて、パソコンを弄っていたわけではない。
ただ、たまたま。ネコの動画を追ううちに、その動画に出会ってしまったのだ。
涼宮の目は、その映像の猥雑さにあきれ返りながらも。一抹の好奇心を帯びて、モニターに注ぎこまれる。
「……ネコの『交尾』って、こうするのね……なんだか、普通って感じ。
でも、こんなのを撮ってどうするってーのかしら? まさか、こんなの誰も『使わない』わよね」
涼宮は、考える。目の前のモニタに映し出されている、野性的な行為を見つめながら。
その光景が、果たして、涼宮たち人間にとって、どれほどの価値があるものなのかを。
そして、『その姿を見つめるもの』がいる。
団長席に着いた涼宮の背中を見つめながら。
モニタを覗き込む涼宮の瞳を覗き込みながら。
再生される映像の意味を考える、涼宮の考えを眺めながら、彼は考える。
涼宮が求めるものが何であるかを、彼は考え続ける。
時は放課後。
涼宮ハルヒは、気づかない。
これから、彼女のすぐ傍で起きる奇妙な出来事に
彼女が気づく事は、決してない。
――――
「涼宮ハルヒは、まだ校内にいるみたいね……『下駄箱』に『クツ』が放り込まれてるわ」
「……それでは、まさか涼宮さんも……」
古泉の言いよどんだ先の言葉は、容易に想像できる。
『まさか、ハルヒも"ネコ化"してしまっているのだろうか?』
今、この校内……少なくとも、下駄箱から一階の廊下に渡ってを見渡す限り、そこには人間の姿を保っているものの姿は存在しない。
校内に居る全ての人間が、街じゅうの人々……そして、今、この瞬間の俺たちのように『ネコ化』しているというなら。其れは当然、ハルヒにも適応されるはずだ。
「だとしてもな、古泉。自分も、周りの人間も、『ネコ化』しちまった。なんて状況、あとでどうとでもごまかせるだろうぜ。
『ネコの動画』を見たせいで、そんな夢でも見たんだろう、だとかな。実際、状況は似たようなもんだ」
「それが本当に『ユメ』であってくれたら、どれほどか楽なんだけどね」
柔らかい体毛を、屋内の照明に反射させながら、森さんがぼやく。
残念ながら、夢では片付け切れない案件へと膨張してしまったハルヒの夢の中に、俺たちは立っている。
俺の『ゴッド・ロック』の背に、古泉と、森さんと、朝比奈さんを乗せた形で。
「……『キョン君』」
不意に、聞きなれた声が、聞きなれた単語を紡ぐ。
俺の名を呼んだのは、古泉だ。
「『スタンド』はどこに……この『ネコ化』を起こしているスタンドは、どこにいるか……『ゴッド・ロック』でわかりませんか?」
古泉に言われるまでもなく。
『ゴッド・ロック』は、先ほどから休みなく、周辺に存在するスタンドを探し続けている。
しかし―――どう表すべきだろうか。今、ゴッド・ロックの探知能力が捉えている、この奇妙な感覚を。
「……『どこにいるか』じゃあない……古泉、さっき言ったとおりだ
おれたちはもう、『ネコ化スタンド』のもとにたどり着いているぜ……この学校全体が、『ネコ化スタンド』の本体なんだ―――」
……言葉は、果たして、最後まで古泉に伝わっただろうか?
まるで、俺の口にした説明を、肯定するかのように。
俺たちを含んだ周囲の空間に、重たい金属同士をぶつけ合わせたような、轟音が響き渡った。
「何だァっ―――!?」
「『ドア』が閉まったわ!」
ゴッド・ロックの背から飛び降りながら、森さんが叫ぶ。
肉眼と、スタンドの目とで、周囲を見回す……昇降口から、正門へと続くガラス戸と、グラウンドへのガラス戸とが閉ざされている。
グラウンドの戸が開いていたかどうかは定かではない。しかし、正門への扉は、たった今、俺たちが校内へ入り込むために使った経路だ。
もとから開け放たれてあったそのドアには、何者も触れていない……俺も、古泉も、朝比奈さんも、森さんも。そして、俺たちのスタンドも。
「キョンッ―――!! 誰かがドアを閉めたッ! 近くに『敵』がいるのッ!?」
森さんの問いかけへの答えは―――既に、俺は何度も口にしている!
重機が大木を引き抜くような、重々しい音とともに―――『下駄箱』が、空中に跳ね上がった。
そして―――俺たちに向かって、迫ってくる!!
「『敵』は『此処』だッ!! 『学校』が、おれたちに襲い掛かってくるッ!!」
この昇降口は―――『捕獲機』だった!
ネコが足を踏み入れた途端に、格子が下りてくる『捕獲機』のように……この『学校』は、俺たちを待っていた!!
「『ゴッド・ロックゥゥゥ―――』!!」
宙を舞う下駄箱は、全部で四棟―――その内の三つが、俺と、古泉と、朝比奈さんに向けて、砲弾のように迫っている!
背に乗せた朝比奈さんと古泉の身体を振り払いながら、俺はロックを下駄箱に向けて放つ!
「GRYYYYYYYYYY!!」
前足が、その内の一つを砕く―――下駄箱は砕け、細かい木屑が空中に振り撒かれる。
「『マシンガンズゥゥ』ッ!!」
空中で身体を捩らせながら、古泉は、残った二棟のうち、一棟に向けて、いつの間にか補充していたらしい弾丸を放つ。
下駄箱に無数の銃弾がめり込む……威力不足にも思えたが、銃撃は、砲弾となった下駄箱を、がらくたへと変える程度の威力は持っていたようだ。
勢いを失った下駄箱が、地面に落ち、砕ける。
しかし、後のふたつは―――森さんと、朝比奈さんに向かって降り注いでいる!
二人には、それを回避する手段がない!
「『ロォ―――ック』……ッ!?」
床に下りたゴッド・ロックを、すぐさま引き寄せ、もう一つの下駄箱に向けてシュートする……
いや―――するはずだった!
「なっ……これはッ!」
古泉が声を上げる……おそらく、俺と同じ『それ』に気づいたのだろう。
俺のスタンドシュートを阻んだのは……『床』!
「『床』が……足に『貼りついている』ッ! トリモチみてーに……この『床』も、『敵』だァ―――ッ!!」
下駄箱は残っている―――まだ、二つ!
「古泉ィィィ!! 下駄箱を撃てええ―――ッ!!」
俺の声と重なるように、マシンガンズが唸る。
古泉が撃ったのは……朝比奈さんに襲いかかろうとしていた下駄箱だ!
未だ、意識を中空に浮かべている朝比奈さんの目前で、下駄箱は粗大ゴミへと姿を変えるッ!
「森さんッ!」
トリモチの床の上に横たわった朝比奈さん……この状況もまずいが、それ以上に! 最後の下駄箱には、古泉のマシンガンズも間に合わないッ!
森さんは、ドアが閉まった時点でゴッド・ロックの背から降りている。
トリモチの床の上では、あの下駄箱をかわすことはできない!
既に最後の下駄箱は、森さんを『捕らえ』ようとしている!
木造の下駄箱が、納められたクツを周囲にばら撒きながら、まるでロボット・アニメの兵器のように、形を変える……
"『下駄箱』は、森さんを捕らえる『木の檻』に変わっていた"ッ!
そして、轟音を立てながら―――木の檻が、森さんの居た床の上に落ちたッ―――!
「『ゴッド・ロックゥゥ』!!」
ロックの尻尾を、俺自身の身体に向けて振るう―――俺の身体が、森さんの方向へと弾き飛ばされるように!
全身に衝撃が走る……直後に、身体がトリモチの床から離れたッ!!
「檻を叩き壊せ―……うぐッ!?」
空中から、森さんを捕らえた檻に向けて、スタンドを放とうとした、その瞬間。
俺の身体に向かって、逆に何かが『突っ込んで』来る。
『学校の攻撃』か―――!? 俺の鳩尾をえぐるようにやってきた、『それ』は!
「……『下駄箱』は『敵』だった……だけど、この『クツ』は違った……『クツ』はただの『乗り物』よ」
柔らかい体毛の感触が、俺の胴体を撫でる……
空中の俺に向かって突っ込んできたのは―――『森さん』だった!
前足を、下駄箱から零れ落ちた『クツ』に突っ込んだ、『森園生』が、俺の身体を掻っ攫った!
「『乗り物』なら、あたしの『ヘブンズ・ドライブ』で操れる! この『軽さ』なら……空中に『浮かべる』こともできる!
―――キョン、『檻』を壊しなさいッ!」
「『やれぇぇぇ』ッ!!」
木の檻が、再び空中に浮かび上がろうとしている―――その歪な牢獄を、ロックの前足が粉砕する!
「古泉、来れるかッ!?」
「はいッ!」
森さんは、一瞬、古泉と視線を合わせると、『ヘブンズ・ドライブ』で、俺と森さんの身体を乗せた『クツ』を、古泉に向かって急降下させる。
瞬時、トリモチの床に四足で立つ古泉の胴体に、クツのつま先が滑り込み、その筋肉質な身体を空中へと引っ張りあげる。
「ちっ……『二人』は、少し重いわね……」
残るは、朝比奈さん……しかし彼女は、トリモチの床の上に横たわっている。
「キョン、朝比奈のスタンドは『近距離型』! 本体とともに行動するタイプよ!」
「えっ……?」
「あんたのスタンドで、スタンドごと引っ張り上げなさい!」
「あっ……」
森さんの言葉で、俺は、記憶の端に飛びかけていた、自分のスタンド能力を思い出す。
俺の『ゴッド・ロック』は、『像』のあるスタンドを、本体から引きずり出す事ができる!
「朝比奈は、あたしや、あんたたちと違って、まだスタンドパワーが弱いのよ! だから、あたしたちよりも『ネコ化』が進んでいるんだわ!
スタンドを出させれば、意識も戻るはず……少なくとも、今よりは正気に近づくはずよ!」
森さんの身体の上で、体制を立て直して、『ゴッド・ロック』を朝比奈さんに向けて放つ!
ロックの前足が、朝比奈さんの身体に触れる……そして、『像』を引きずり出す!
「GRYYYYYYYY!!」
『スタンド反応』とともに、朝比奈さんの身体から、『スタンド』が現れる―――その姿は、やはり、俺と古泉と同様に、変化していた!
「えっ……あれ、わたし……」
スタンド像とともに、トリモチの床から引き上げられた朝比奈さんの目に、僅かに光が戻る。
「―――願ってもない『変化』だわ……朝比奈、スタンドを動かしなさいッ!
『二人』は重いから、『一人』づつよ! 『床』に着かないように、そのまま『浮かんで』!」
「えっ、は、え、ひゃいッ!?」
ただでさえ、状況把握能力に乏しい朝比奈さんが、咄嗟に、森さんの指示通りに、スタンドを操ったのは、まさに本能というべきか。
俺の身体は『ヘブンズ・ドライブ』から離れ―――朝比奈さんの『メリミー』の背へと引き寄せられた。
その、小柄な"天馬"のような像の背へと―――!
そして、俺は気づく。ゴッド・ロックが捕捉している『学校のスタンド』の、そのパワーが、先刻よりも強くなっていることに。
「『学校』は……『学校のスタンド』は、ぼくたちを狙っている……
トリモチの床も、下駄箱の檻も……閉じたドアは、ぼく達を外へ逃がさないためだ……!」
「ああ、理由は分からないが……こいつは、おれ達を捕らえようとしている!
おれ達が戻ったから、こいつは『外への攻撃』をやめたんだ……町中を『ネコ化』させて、おれ達を探していたんだ!
どこから、どんな攻撃がくるか分からないぜ……おれ達の居るこの場所の全てが―――『敵』だッ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝比奈みくる(♀)
体長/体重:152cm/?kg → 30cm/2.8kg
品種:日本猫・アルビノ種
毛色:ホワイト
目の色:右目…ヘーゼル 左目…ブルー
スタンド:『メリミー』 変化:人型・体長2m→有翼獣型・体長1.0m
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
to be contiuend↓
何キョン? 話がまとまらなくて進められないだって?
それは無理に進めようとするからだよ
逆に考えるんだ。進んでなくてもいいやと考えるんだ。
では、また、続きを待つ作業と、コンビニ版ジョジョと角川文庫を読み比べる作業に戻ります。
アフターロックはクールに去るぜ
投下乙ー
学校全体がスタンドとかかなり凶悪だな…
さてどうやって攻略するのか
第111話 「タイム・アンド・ア・ワード 3」
「奴のレクイエムの正体が分かった?」
徐倫が船の手摺にもたれかかり、話を続けようとした、その時だった。上から足音が聞こえた。
「なんだ?」
気になって上を見上げてみる。と、そこには
「神原だッ!」
「……いない……んじゃなくて見えてないんだろーな……有希ッ!みくるとハルヒを連れて逃げろッ!」
長門はハルヒを抱き抱えると、凄まじい速さでかけて行く。
「有希!余裕が出来たらアナスイも負傷したらしいから探して治してくれッ!」
徐倫の叫びに、長門はほんの少し首を回して、こちらに横顔を見せてきた。OKのサインのようだ。
「ふぇ?あの白い髪の人なんて何処にも………」
「いいから逃げろッ!後、親父やウェザーを見つけたらここに来るように伝えてくれ」
しかしそれでも混乱して目を白黒させている朝比奈さんを、徐倫は半ば突き飛ばすように背中を押した。
「あ、は、はいッ!」
徐倫に押された勢いで、半ばバランスを崩しつつ朝比奈さんが駆け出していく。
「……どうなっている?私の姿はお前達には見えないはずだ」
どうやら向こうにとっても俺が全て見えているのは予想外なようだ。
「奴に悟られないようにしとけ」
「言われなくても分かってるぜ」
神原が2階のデッキから甲板へと飛び降りてくる。
「……私が見えているな?どっちだ?」
徐倫が見えていないフリをしろと目で伝えてくる。
「……やはりそう簡単には引っ掛からないか」
神原は俺達の数m先で立ち止まるとそこから動かなくなった。……なんでだ?
「あたし達のどっちが見えているのか分からないからよ
「なるほどな」
神原が自分が見えていない方に攻撃を仕掛けた場合、見えている方がその危険を知らせてカウンターを叩き込まれるかもしれない。また、見えている方にしかけようとしても、その事で見えていない方に自分の位置を教えてしまい、そこを狙われる可能性もある。
「まあ、こっちからも仕掛けられないか………」
徐倫が神原の姿を捉えているなら、相手が様子見をしている隙にこちらから突っ込んで勝負を仕掛けていっても問題無いだろう。だが、スタンドの無い俺には荷が重い仕事だ。
「……………」
「……………」
「……………」
互いにただ睨み合うだけの時間が過ぎていく。
「妙だな」
何がだ?
「神原だ。膠着状態を避けたいのはあたし達より向こうの方だ」
言われてみればそうだ。こちらは睨み合いでも特に問題は無い。じきに長門がハルヒやアナスイを治すだろうし、ウェザーさんや承太郎さんが来れば、こちらが圧倒的に有利になる。
「奴もこの膠着状態を続けたいのか?」
「だけど徐倫……一体なんでだ?」
徐倫は神原に悟られていないかどうかを伺いながらこちらに小声で呟いてくる。
「分からない……考えられるのは何かを待っているとかだが………」
待つ……か。そういやお前、神原のレクイエムの正体が分かったって言ったよな?
「ああ」
「それから分からないのか?」
すると徐倫の表情が少し曇った。
「……実はここにきて少々その考えが揺らいできてる」
「どういう事だ?」
「レクイエムの正体を見破ったとは言ったが……実は少し分かっていなかった点があった……いや、絶対に分からない点があったと言うべきだな」
「……なんだ?」
「お前が見ているのが全て正しい光景だというのは分かった……そしてそこからあたし達が見ている光景が何なのかも分かった……だが、あたし達が神原をどういう風に見れるのかが分かっていない」
「どういう意味だ?」
「スタンドというのは往々にして本体に関しては能力の効果が違ったり効かない場合が多い」
「確かにそうだな」
「神原にもそれが適応されてる可能性がある」
「なるほどな」
チラリと神原をうかがう。するとこちらを怪しむような表情を浮かべている。
「……長話し過ぎたかもな」
「怪しまれたか?徐倫」
「多分な」
こうなると向こうは博打覚悟で攻めてくるかもしれない。……となると、
「行くしかないわね」
「……だけど徐倫には神原が見えて無いんだろ?」
「なあに……対応策はいくらでもある……奴は何処だ?」
「右前方8mって所か?」
「ありがとよ」
いつもの不敵な笑みを浮かべると、徐倫は俺が指示した通りに突進した。
「オラァッ!」
すると徐倫が直接殴りかかった瞬間、神原がその腕を受け止めた。まあ予想通りの展開だが、すると徐倫の表情が一瞬よく分からない物になった……のは気のせいか?
「どうしたんだ?」
side of 徐倫
「オラァッ!」
あたしが何もない空間に殴りかかった瞬間、突如として神原が現われた。
「私が見えていないのに攻撃してくるとはいい度胸だな」
「褒めてくれてありがとよ」
だが、奴はなんでいきなり姿を見せた?いや、神原はあたしが見えていると判断していなかった。つまり、神原自身は姿を見せる気は無かったという事だ。となると………
「なるほど、攻撃するさいには姿を見せないと駄目なわけだ」
キョンの話では、アナスイは自分が神原に攻撃された事を理解しているようだ。だが、攻撃される前は気付いていなかった………。
「だが、その程度が分かった所でどうなる?」
「生憎だが……今のでお前の能力は全て見破ったわ」
To Be Continued・・・
以上、第111話でした
アフロさん乙!意外な敵の正体でした。
諸事情により投下遅れぎみです。次も遅れそう。それでは!
両者とも乙!
アフターロックのジョジョアビリティが上がっている気がする
そしてアメリカのラスボス感
本家SBRも終わりそうで、毎日が最高にハイって奴だ!
508 :
マロン名無しさん:
神原にしろ小野にしろ、悪ではないんだよな。
先日vipでジョジョスレが立ってて、そこで語られてたんだが
DIOやプッチのしようとしたことも、人間でなく生物の選択と考えたら正義なのかもしれない(吉良はともかく)
ンーン実に人間賛歌ってやつだ。