もしジョジョキャラがハルヒのSOS団に入ったらpart7
,. -一……ー- 、
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f´ ̄!:::::l:_|_|\::\--/,r=ミ|::::::lヾく:l::', | |
ヒア_|:l::::|::N,≧ミ、トゝ ハ心}!::::::K:ヾニ二ヽ ただの人間には興味ありません。
,r=ヽレ|:|::::l::|{ ト心 `'" !::::::|::!',::|ハ::! ` この中に吸血鬼、究極生命体、帰ってきた吸血鬼
// |:|:::::ハ!、::ヾゝゞ'′ _'_,.ヘ /::::/:::|_!:l リ シリアルキラー、30代V系、神父がいたら
// !ハ//|:|::ヽ::::丶、__丶 _ノ/|:::/イ::ハヘ!ヽ_ あたしのところに来なさい。以上!
L! /ヘ |:|ミニ='⌒ (⌒ヽ´ _ !イノl/ |:! ! !L_
〈_{ ヾ.,!/ , ´ \ ∨,.‐、| l:| |ノ !
__!\ / __ム V⌒! !:! ! ハ
/__レ-〈 / f´ ヽ. '. __! //./-‐ '´ /
ヽ! |r' \l__ V/ /-‐ /
「 ! { `\_f_ノ∠ミヽ! /
/ ヽ`ヽ.二ニァ'V∠二ハ }},!-'
/ ヽ---/´/レ!ト--'/‐'
/ / ̄ヽ二ノ´l:ヽノ_
r‐! / l:/ `ヾ==、ー-- 、
前スレ
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1228699000/ まとめ
http://www12.atwiki.jp/jojost/pages/11.html 過去スレ
1
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1167487472/ 2
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1179760419/ 3
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1189945405/ 4
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1203844253/ 5
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1221017805/
団員規則
,、,、,、
/^Yニニニヾヽ 団員規則です、初めに読んでください。
! { {八{从)} ! ・荒らしはスルーしましょう。
ノ ,イリ ゚ヮ゚ノリ八 ・次スレは490KB頃には立てておきましょう。
( ( ⊂)孚iつ )) ・日本語は正しく使いましょう。
</く_{__}>ヽ> あと、メール欄には基本「sage」でお願いします。
. じフ
_
, ^ `ヽ 投下後何らかのアクションがもらえると
イ fノノリ)ハ 作者たちは嬉しい。
リ(l|゚ -゚ノlリ 新作投下の場合、名乗り出てもらえば誰も邪魔はしない。
/つ{⌒l^0 恐れずに挑戦して欲しい。あなたの投下を待つ人がいる。
ただ、空気は読むこと。
3 :
アフターロック:2009/08/07(金) 18:21:09 ID:???
乙です
九時ごろ来ますん
いちょつ
しかしラスボス限定とかww
5 :
アフターロック:2009/08/07(金) 20:29:19 ID:???
次のこと考えながら投下します
6 :
アフターロック:2009/08/07(金) 20:31:40 ID:???
血なまぐさいサバイバルゲーム大会へと変貌したという、土曜の不思議探索。
その翌日、ハルヒが『振り替え不思議探索』と銘打って街に出た時は、また『スタンド使い』に襲われやしないかと冷や汗ものだったが。
どうやらさすがに連日、という事態には陥らずにすみ、俺としては一安心。だが、まだ油断は出来ない。
何はともあれ。週が明けた月曜日、『フーゴ』が、養護教諭として北高にやってきた。
ハルヒは、『イタリア人』という肩書きに、少し興味を示していた。が、さすがに相手が教師とあって、何か行動を起そうとはしなかった。
ちなみに、この学校には既に一人、養護教諭が居たと思うのだが、彼がどうなったのかは誰にも分からない。
時は六月中旬。『動き』があったのは、『フーゴ』が学校にやってきた翌日。火曜日のことだった。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第5話『ロマンティック・ドラマティック』
「おい、お前」
火曜日の放課後。こまごまとした日直の業務を片付けた俺が、部室棟を目指していると。
突如、背後から、威圧感たっぷりな声を掛けられる。
振り返ると、そこには『会長』が立っていた。
ああ、言わずもがな、『涼宮ハルヒを脅かす輩をスタンドで撃退する団』のメンバーでありながら
一向にそれに協力的な言動が見受けられない『北高生徒会長』のことである。
「ほざいてろ。大体、お前の面倒な『スタンド』に『スタンド能力』なんざを引き出されなきゃ、こんな面倒ごとにゃ巻き込まれてなかったんだよ。
大体ろくに面を会わせたことも無いってのに、なんでったってお前は俺を『スタンド使い』なんかにしてくれたってんだ」
そんな事はわからん。大方、岸辺が言っていた『波長』とやらが合ったんじゃないか?
あんまり俺と共通するところが、この男にあるとも思えないが。
で、何の用だよ。
7 :
アフターロック:2009/08/07(金) 20:35:09 ID:???
「今日、もしも『スタンド使い』が現れても、俺には声掛けるんじゃねえぞ。『やること』があるんでな」
「やること?」
『スタンド使い』の撃退以上に優先するべきことがあるってのか。そりゃ、察するに『機関』がらみの別件か何かか。
わざわざそれを俺に伝えるとは、意外と真面目なところがあるんだな。
「喜緑とちょっとな。分かるだろ、大体」
前言撤回。
「俺はな、家でだらけている時に『森』に呼び出されても、怒りはしない。言われたとおりにはしないだけだ。
だが、『やることをやっている時』に『ソレを邪魔される』のだけは『大嫌い』なんだ。
だから念のためお前に注意しにきた。いいか、これは『会長命令』だ。『今日は俺に声を掛けるな、生徒会室に入ってくるな』」
そう言って立ち去ろうとしたそいつの頭を、『ゴッド・ロック』の右手でつかむ。
「おいテメェ、こんなところで『スタンド』なんか使ってんじゃねえぞ、面白い遊びを覚えたガキじゃあるまいし!」
面白い遊びを覚えたガキはどっちだ。物事の優先順位ってモンが分からんのか、この男は。
「構いやしねえだろ。あの文芸部室には『古泉』も『朝比奈』も居る、ついでに保健室にはあのイタリア人も居るんだろ?」
ああ、確かに、そいつらで束になったら、どんな『スタンド使い』も楽勝かもな。
でもな、動ける人数ってのは限られているんだよ。特に団活中は、ハルヒと長門だけを残して三人が出払うってのも不自然だろうが。
「俺はな。俺の『行動』や『機転』を他人に『期待』されるのも嫌いなんだよ」
ああ、ぶん殴りてェー。
本気で一発、『スタンド』で制裁をくれてやろうか。『スタンド使い』であるこいつなら死にはしないだろ。
などと、考えていた、その時だった。
8 :
アフターロック:2009/08/07(金) 20:37:49 ID:???
……背筋に走る、『感覚』。
「……どうした、クソでも漏れたか」
「なあ、お前は、『やってる途中に邪魔される』のが『嫌い』なんだよな?」
「ああ、そうだ。物覚えがいいじゃないか」
「なら、『やる予定をキャンセルさせられる』のは『オーケー』だな?」
「……あ?」
……いきなり真後ろで『発動』されると、なかなか迫力があるな。
俺の頬を、冷や汗が伝っていく。
「『今、俺の後ろに、誰がいる』?」
そいつが―――『スタンド使い』だ。
「……ちょっと、そこ『どいて』欲しいなァー」
9 :
アフターロック:2009/08/07(金) 20:40:13 ID:???
「……3年A組、『榎本美夕紀』君。どこへ行くつもりかね?」
「えー、『部室棟』ですよぉ。私、『軽音楽部』ですよ? 当たり前じゃないですか、変な会長」
振り返ると。そこには、軽音楽部の『榎本先輩』が立っていた。
あの文化祭での一件以来、ハルヒと親しくなった、『ENOZ』のボーカリスト。
その、榎本先輩が。ショッキングピンクの『エレキギター』を抱えて、俺達の前に立っていた。
「そうか、これから部活動だったかね。ならば早く行くといい。君たちの活動場所は『第二音楽室』だったろう?」
「……ちょっと、練習に参加してもらいたい『人』がいるんですよぉ。その『娘』を連れに行くんです」
……どうやら、決まりだ。
『この人は、ハルヒを狙っている』ッ!!
「それは認められないな。部活動は、部員だけで行いたまえ。『新人勧誘』なら、今は時期が違う。勝手な行動は許されん」
「ちょっと、ぐだぐだ言わないでくれません? 私、今すごくテンション高いんで、『邪魔』されたくないんですよ」
「……『会長』の言うことは聞いといた方がイイですよ、『先輩』」
そう言った『俺』を見て、露骨に顔を歪める『榎本先輩』。
「……何、君と会長って『友達』だったんだぁ? ……男友達同士って、見てて気持ち悪いんだよね……なんか『下劣』でさァ……
どうせ話すこととかだって、『女の子』と『やること』の話とかばっかしてんでしょ?」
そもそも俺とこいつは『友達』じゃあ無いが、こいつに関して言うなら先輩の見解で大体合ってます。
「下らん私情を持ち出すな。話を逸らそうとするのもやめろ。……言うことを聴かないと言うなら、『力づく』しかないな」
「うわ、そういうのも野蛮。やっぱマジ男って『最悪』ッ、―――見るのもイヤだなァ―――」
そういうと、先輩は、両手に持った『ギター』……おそらく、それが『スタンド』だ。それを『爪弾いた』。
「デカイ男が二人がかりで女の子をどうこうしようとか……あたしと『涼宮さん』が逢うのを邪魔しようとか……
『ムカツク』んだよォ―――、そういうのォ―――!!」
最初は、静かにギターを奏でていた。しかし、彼女の『言葉』がヒートアップするにつれて、それは強烈な『音の波』へと変わった。
『アンプ』も無いのに、ギターの音色は歪み、熾烈なメロディを『かき鳴らされる』。
まずい、『スタンド攻撃』が始まっている!
「『ネオ・メロ・ドラマティッ―――ク』!!」
「うおォォ!! お、音がっ……『身体の中に入ってくる』ッ!!?」
何だこりゃぁ。『痛み』じゃない。しかし、『ザ・ブルーハーツ』のような『低血圧』だのとも違う。
しかし、『俺の身体に何かが起きている』ことだけは確かだ!
『ギター』の奏でる『メロディ』が、巨大な坂道を駆け上るように、『高揚』していくッ!!
「うおおおおぉぉぉ!!?」
俺の隣で、『会長』が叫ぶ。その叫び声に……何か、違和感を感じる。
なんだ、これは? 本当に『会長』の声か?
その瞬間。『メロディ』が終わり、あたりを埋め尽くしていた『異様な空気』も収まった。
俺達の目の前では、たった今演奏を終えたばかりの榎本先輩が、なにかをやり遂げたような顔で、一筋の汗を流している。
それはもう、こんな場面で言うのもなんだが、すばらしい『演奏』だった。『心を塗り替える』かのような、『スゴ味』があった。
「……はぁ、これでよし。あたしの嫌いな『男』は『いなくなった』ぁ……」
満足げに閉じられていた目を開き、俺達を見た榎本先輩が、一言。そう呟く。
「何だ、何言って……」
……俺の隣で、聞き覚えの無い声がする。
……見ると。そこに、黒髪のロングヘアーに、かわいらしい楕円の眼鏡を装備した、えらい美人が立っている。
俺の隣。そこには、先ほどまであの不良生徒会長が居たはずなんだが。
どうなってんだ。これ。
「……うわっ!? テメ……なんて格好して……いや、つーか」
その少女がこちらを向き、俺の全身を見て、なにやら驚いている。
この汚らしい口調。うん、覚えがあるぞ。
「もしかしてお前、あの『バ会長』かッ!?」
「そういうテメェは、あの『涼宮の犬』なのかよッ!?」
「あーん、やっぱり『可愛い』ィ〜〜〜ッ!! 男が使ったら『ムカツク』言葉づかいでも、『女の子』ならこんなに『可愛い』ッ!」
俺達のやり取りを見て、榎本先輩は身体を震わせ、なにやら『感銘』している様子。つーか誰がハルヒの犬だ。
「それにやっぱり『制服』ッ! あんなダサイ『ブレザー』なんて、この世にいらないでしょ!?」
そう申されましても。アレが無かったら、何着て学校来いってんですか。
「その『セーラー服』に決まってるでしょ!」
先輩の指差す先。俺の身体。
……見下ろすと、なにやら見慣れたセーラー服を着ている、華奢な女子の肉体のようなものが、そこにあった。
「じゃ、そういうわけで、あたしは涼宮さんに逢いに行くから、君たち、新しい『生活』を楽しんでね〜♪」
そう言って、スキップ混じりに俺達の間を通り抜けようとする『榎本先輩』。
……とりあえず、言いたいことは一つ。
「「……何と言う―――『下らねェ―――能力ッ』!!」」
初めてバ会長と意見が合致したところで。
「『ゴッド・ロック』ッ!!」
悠々と立ち去ろうとする榎本先輩の頭を、『スタンド』でつかむ。あ、デジャヴュ。
そして、そのまま俺達の前に放り出す。
「きゃあッ!?」
「『くだらねー能力』の解除は後でやってもらうとして……先輩、すいませんが、あなたを『ハルヒ』のとこには『絶対行かせね―』んですッ!」
擬音を付けるなら、ドドドドドドドド。ってトコだな。
俺の隣で、眼鏡美少女と化した会長も偉くご立腹の様子で。
「榎本……テメーよくも俺の『命令』を『無視しようと』してくれたなッ! 『会長命令』を『無視』した奴がど――なるか教えてやろうかァ?
……『ブッ飛ばされる』んだよォ―――!!」
甲高い啖呵と共に。会長の身体(なのか? これ)から、白い人間型の『スタンド』が現れた。
「『ジェットコースタ――・ロマンスッ』!!」
現れた『スタンド』が、目の前に尻餅をついた榎本先輩に、拳を振り下ろす――ッ!!
しかし、それを先輩は『受け止めた』。
「……心まで『女の子』になるには、も――ちょっと時間が掛かるからなぁ……しょーがない」
先輩が、『ジェットコースター・ロマンス』の拳を受け止めた『何か』を振り切り、立ち上がる!
……さっきの『ギター』じゃねえか!
「『ネオ・メロ・ドラマティック』! あたしが君たちを、『調教』してやるッ!」
こいつ、Sだ……ッ!
「ほざいてろ、この低脳女がッ! 『ジェットコースター・ロマンス』!」
もはや完全にチンピラと化した口調で、会長の『スタンド』が『榎本先輩』に襲い掛かる。
榎本先輩は、ギターの『ネック』の端から何かを取り出すと、それを『ジェットコースター・ロマンス』に向かって投げつけた。
咄嗟に回避しようと身をよじらせる『ジェットコースター・ロマンス』。しかし、僅かに遅い。
『ジェットコースター・ロマンス』の右腕が裂け、同時に、会長の右腕にも『傷』ができる。
「クソ、何だっ!?」
会長が、一度『スタンド』を引っ込めながら、白い腕に刻まれた切り傷を抑え、呻く。
軽音楽経験が少しだけある俺には分かる。あれは、『ピック』だ。
「『ピック』と『キッス』はね。投げるために有るんだよッ!」
そりゃ、初耳です!
「そらそらそらァ――ッ!」
すばやい動きで、先輩は次々を『ピック』を投げつけてくる。回避しきれる量じゃない。
「『ゴッド・ロック』! 『やれ』、受け止めろ!」
現れた俺のスタンドが、廊下の中心に仁王立ちとなり、俺と会長はできるだけ身を寄せ合って、その背後に身を隠した。
迫り来る『ピック』の山を、『ゴッド・ロック』が『受け止める』。
「『ヤレヤレヤレヤレヤレヤレ』ぇ!!」
百発百中。俺達の身体に届きそうなピックは、あらかた『ゴッド・ロック』によって弾き飛ばされ、霧散する。
……そこで、気づく。
妙だ。『ゴッド・ロック』が、いつもより『すばやい』ような気がする。
「! 『ゴッド・ロック』が―――縮んでるッ!?」
その後姿を目にして、ようやく気づいた。
俺の知る『ゴッド・ロック』は、身長にすれば2mちかくはある、巨人のような体躯をしていたはずだ。
しかし。今俺の前に居る『スタンド』は、身長はせいぜい俺よりも頭一つ分大きい程度。(俺も縮んでいるんだが)
それに、何と言うか、体つきが違う。なんだかこう……
「じょ―――『女性的』になっているゥ――!!」
「あははっ、『効いてきた』ねッ! 『心』が『女の子』になってくれば、『スタンド』も『女性的』になる!
君たちの今の『スタンド』に、あたしを『ぶっ飛ばせる』ようなパワーが、果たしてあるかなっ?」
そう叫びながら、今度は『ギター』そのものを振り回し、先輩が俺達に襲い掛かってくる。
「『ゴッド・ロック』、受け止めろッ!」
腕を縦一文字に構えた『ゴッド・ロック』が、その腕で、横に薙ぎ払われたギターを『ガード』する。
しかし。
「うぐゥッ!?」
『ギター』が腕に触れた瞬間。これまでに感じたことの無いような『衝撃』が、俺の身体を襲った。
身体が浮き、吹き飛ばされる。俺はそのまま、廊下の壁際に置かれていた陶器の置物を巻き込みながら、壁に叩きつけられた。
やばい……先輩の言っていることはマジだ。『力がなくなっている』ッ!
「はぁぁ……いいよねぇ、この感じ……可愛い女の子が、あたしに屈服させられる……」
俺を壁に叩き付けた張本人は、なにやらうっとりとした目つきで、ギターのボディーを撫で回している。
こいつ、やべぇ。
「で? 『会長ちゃん』は掛かってこないのかな? 今ので『諦めた』? あたしには敵わないって分かっちゃったのッ!?」
「『諦めてる』? 違うな、ソレは。『俺のスタンドはとっくの昔に、お前に迫っている』んだよッ!」
会長が叫ぶ。その言葉を聴き、榎本先輩が、しまった。とばかりに周囲の『壁』を見回す。
しかし、そこには何も居ない。
会長が、やけに手馴れた様子で、長い黒髪をばさりと掻き上げる。
次の瞬間。『それ』が現れたのは―――先輩の、『頭の上』。もっと言えば、『天井』だった!
「『ジェットコースタ―――・ロマンス』――ッ!!」
「なっ!?」
『天井』を『すり抜けて』舞い降りた『ジェットコースター・ロマンス』が、素早く『榎本先輩』の手の中の『ギター』に蹴りを入れる。
そして、その足を『捻り』ながら、一息にそれを『蹴り上げた』!
その瞬間。ブツリ。という、なんとなく聞き覚えのある『音』がする。
ああ、そうだ。これは―――ギターの弦が、『切れる』音!!
「きゃああっ!!」
『スタンド』にダメージを受けた『榎本先輩』は、それに連動して、悲鳴を上げる。
『スタンド』の一部が『破壊』されたのだから、かなりのダメージだろう。先輩はあっけなく膝を折り、その場にへたり込んだ。
それと、同時に。『会長』の身体に『変化』が起きる。
まず、みるみるうちに手足が伸びて行き、長く綺麗だった髪の毛が、撒き戻すようにして短くなってゆく。
そして、どういうメカニズムなのかはわからないが、セーラー服が変形し始め、俺にとっても覚えのあるブレザーへと変化してゆく。
最後に、楕円の眼鏡が角ばれば……
―――『北高生徒会長』、復活―――ッッ!! (擬音を入れるなら、バァ―――ンッ だッ!)
「やっぱり『弦』か……それじゃあもう『演奏』できねえなあ、榎本よォ?」
「ひっ……ごっ、ごめんなさ……」
先輩、すっかり意気消沈。そんな先輩の首根っこを、『ジェットコースター・ロマンス』が掴み上げる。
「ごっ、ごめんなさいごめんなさい!! あたし、どうかしてたのォ―――! お願い会長、助けてェ、許してェ!!」
直感的に分かった。おそらく、『矢』の効果が切れたんだろう。
おそらく、彼女はもう、ハルヒに害をなすことはしないはずだ。
しかし―――会長はもう誰に止められそうにない。
擬音を付けるなら、ゴゴゴゴゴゴ。だな。
「榎本。テメェーはよォ、さっき俺の、音楽室へ戻れって『会長命令』を『無視』したよなァー!?
『会長命令』を『無視』した奴は、『どうなる』んだっけなァ?」
「ごめんなさい! もう、もうぜったいしません! 『涼宮さん』を浚って『部室に飾ろう』なんて考えませんからァ――ッ!!」
……『矢』の効き方は、人によってまちまちのようだな。
「榎本。お前、汗かいてるじゃねェーか。汚ぇな。
見ろよ、丁度いいことに、窓の下は『プール』じゃねえか……今日は『水泳部』も使ってねェ――みたいだぜ。
おい、イイ事教えてやるよ。俺の『ジェットコースター・ロマンス』の『能力』はな」
「ひっ……のっ、能力はっ……何なのよォ〜〜〜〜ッ!!」
その絶叫を遮るように。
『ジェットコースター・ロマンス』が、『榎本先輩』を、『窓に向かって放り投げた』。
「『ジェットコースター・ロマンス』が『投げたり殴ったりした物』は……『すり抜ける』んだよ」
……その言葉はおそらく、窓の外へ『すり抜けて』行った先輩の耳には、届いていないだろう。
「『ボラーレ・ヴィーア(ブッ飛びな)』!」
……壁を隔てた向こうで、『プール』に何かが『落ちる』音が聞こえた気がした。
「おい、これで文句ねえだろ。俺は喜緑と遊んでくるぜ」
何事も無かったかのように、俺を振り返り、ニヤリと笑うバ会長。
いいや。まだ終わってないね。遣り残したことがある。
「? ……何だ?」
マジで分かっていない。と言う様子で、会長が頭上にハテナマークを浮かべる。
……見て分かれ、ほれ。
「……悪い、気づかなかった。まあ、自分で治してもらってこいよ。じゃ、またなァ――」
この野郎。テメェだけ『戻り』やがって。
俺はすぐさま『これ』を元に戻してもらうため、うざったいポニーテールを揺らしながら、『プール』へと走った。
――――
・キョン − なんとか榎本先輩に治してもらって一安心。でもホルモンバランス崩れて2、3日イラついてた
・榎本美夕紀 − 『スタンド』は健在なものの、普通の女の子に戻ったみたいです。でもハルヒと女の子はマジで好きみたいです。
・会長 − この後、生徒会室で、喜緑君と仲良く狩りに出かけました。
本体名 − 榎本美夕紀
スタンド名 − ネオ・メロ・ドラマティック (弦が復活したら)再起可能
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ネオ・メロ・ドラマティック」
本体 − 榎本美夕紀(17歳)
破壊力 − B スピード − B 射程距離 − B
持続力 − A 精密動作性 − B 成長性 − C
能力 − テレキャスタータイプのエレキギター型のスタンド。
奏でるフレーズを聴いた人間の性別を、異性へと変える。体つきや服装などは、本体の自由にできる。
ホルモン分泌の関係で、精神的にも変化が発生するため、スタンドのパラメーターにも変化が発生するパターンが多い。
変化させた性別は弦に記憶され、最大六人まで同時に変化させておける。対応した弦が切れると、その人物の性別が戻る。
戦うときはそのまま殴るか、ピック(無限に出てくる)を飛ばして攻撃。割と強い。
弦が切れた場合には、復活するまで数日掛かる。また、本体のギターテクニックを著しく上昇させる付加効果がある。
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ジェットコースター・ロマンス」
本体 − 会長(18歳)
破壊力 − A スピード − A 射程距離 − C
持続力 − D 精密動作性 − C 成長性 − D
能力 − 白い人型のスタンドで、全身にレールが走っている。
スタンドは自由にものをすり抜けることができる。
また、スタンドが投げた・殴った物は、一定の速度で壁やものに触れた場合、それをすり抜ける。
本体をスタンドが掴み上げ、壁に投げることで、壁抜け移動が可能。
―――――――――――――――――――――――――
さあwwwwwwここからはwwwwwwwww無策ですwwwwwwwww
どうとでもwwwwなーれwwwwwwwwwww
読んでくれてる人は非常にありがとうございまず。
あと分かる人にはわかると思いますが、オリジナルスタンドの名前は『邦楽』に絞れるだけ絞ってます。
つーかハルヒの以外は『邦楽』縛り(アーティストかその曲名)です。
ここからはもしかしたら投下頻度落ちるかも。何しろ次のときまでめがっさめがっさゥ。
乙!なんか会長が俗っぽいアバッキオに見えてきたw
あんたの考えるスタンド好きだよ、なんか荒木っぽいわ。
続き期待してます!
乙ですwww
何というとんでもない能力持ってるんだメロ・ドラマティックwww
やばい。
>>14と
>>15の間に一つ抜けてる。
「…………」
痛む身体を無理矢理に起し、『会長』を見る。
会長は、スタンドも出さずに直立したまま、イヤに落ち着いた様子で
「……ふう」
あろうことか、セーラー服のポケットから『煙草』などを取り出しはじめた。
「……な、何、本当に『諦めた』わけ?」
「……せっかく『見知らぬ女子高生』になってんだからよ……丁度いいや、今一服したって、『生徒会長』が見咎められることはねェよなァ―――」
一本を口に咥え、火をつける。すう。と深く煙を吸い込んだ後、それを空中に『吐き出す』……
「榎本よぉ……今、そこの犬ッコロは無様に壁に叩きつけられたよなァ――。
じゃあ、『人間が壁にぶつかって、すり抜ける』確率ってどれぐらいか知ってるか?」
「……な、何ソレ?」
「『地球』が生まれたのと同じぐらいの『確率』らしいぜ。でもよォー、『不可能』じゃねェんだな」
そう呟き。『会長』は、壁に煙草を『押し付ける』。そして―――
火を消したその『煙草』を、壁に『放り投げた』。
「っ……う、ウソッ!? 何、何をしたの、今っ!? ……そ、それが君の『スタンド能力』なのっ!?」
……その光景を目にした、榎本先輩が、『うろたえる』と『色めき立つ』の中間のような反応を見せる。
……俺が見たのは。『煙草の吸殻』が、壁に『吸い込まれていく』光景だった。
会長がブチャラティなみにかっこよくてビビった
続き期待してる
何だか知らんがッ!乙ッ!アメリカさんは2年生編に突入ぅ!
ミヨキチの話ぃ!楽しみぃ!
>>22 何と言う肝心な場面をwwww
乙!なんつーか、五部の空気と、四部の空気が美味く混じってていい感じだよ!
アメリカの人も
>>1もアフターロックの人も乙ッ!!
みんなスゲェー!!キョン子ー!!オレだー!結婚してk(ry
無策?策ではなく勇気だ!!
ギリギリで次が出来たwwwwwwwwwwwwww
投下しまっす! めがっさめがっさゥ!
時は六月中旬の、木曜日。俺と『会長』が、『榎本先輩』の襲撃に合った、その二日後。
日中を何事にも巻き込まれずに過ごし、俺が文芸部室を訪れると。
……何故か『榎本先輩』がいた。
「ああキョン。美夕紀さんは今日から、SOSの準団員になったから! 本人自らの申し出よ!」
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第6話『岸辺露伴は目覚められない@』
笑顔で言い放つハルヒと、その傍らで満足そうににやけている『榎本先輩』を他所に
俺は団員席に腰を下ろしていた『古泉』の首根っこを掴み、そのままたった今入ってきた扉から廊下へと引きずり出した。
「いえ、彼女はもう『矢』の影響を受けてはいませんから。彼女の『スタンド』は十分な戦力になりえるものですし。
ことの経緯をお話して、合意の上で、我々の『仲間』になってもらったわけです」
確かに。『スタンド能力』の概要を知った時点で、ハルヒにまつわる大体の概要を理解してもらうのは、難しいことではないだろう。
「それに、『戦力』は多いに越したことはありませんから。『榎本さん』はもともと、『矢』によって、彼女に対する『敵意』を植えつけられたわけでもありませんし」
……言いたいことは分からんでもない。いや、むしろ非常に納得がいく説明だと思う。
しかし、二日前に、鈍器で殴打された相手と、今日から『仲間』というのも、なんだか複雑な気分だ。
「別の意味で、ハルヒに妙なことしなきゃいいがな」
「ご心配ですか、『王子様』としては?」
いや、先輩のあの『愛情表現』の形を見たことのあるやつなら、誰でも心配がると思う。
……何事もなきゃいいが。本当に。
「ちょっと、みくるちゃん、大丈夫!?」
会話を終え、俺と古泉が部室へ戻ると、なにやらハルヒが、大いにあわてた声を上げていた。
見ると、ハルヒと榎本先輩が窓際にしゃがみこみ……
なんとッ!? その前には、床に横たわる『朝比奈さん』の姿があったァッ!
「どうしたんですか、涼宮さん。朝比奈さん、大丈夫ですかッ!?」
古泉と共に賺さず駆け寄る。
朝比奈さんはなにやら、熱に浮かされたような表情で、額に汗を浮かべながら、荒く息をついている。
ちなみに言い忘れたが、本日の朝比奈さんは『バニーさん』である。
「うぅ〜〜ん……」
「突然倒れちゃったのよ、貧血かしら?」
と、いうか、どちらかというと熱中症じゃないだろうか。
この熱い中、ビニール生地で、体にフィットするバニースーツなど着せられたら、そりゃ皮膚呼吸も出来ねェーに決まってんだろ!
「美夕紀さん、担架持ってきて担架! 古泉君、キョン! 保健室に運ぶわよ、手伝って!」
「いえ、涼宮さん。僕と彼の二人だけで十分ですよ。何、少しばかり暑かったので、夏ばての延長という程度のことでしょう。
フーゴ先生のところで休ませて貰うようお願いしてきます」
「何かあったら心配じゃない、あたしも付いていくわよッ!」
古泉がハルヒに意見する一瞬前、俺をちらりと見た。
ああ、俺も大体、お前と同じことを考えている。すなわち、これが『スタンド攻撃』によるものではないか? と言う事だ。
しかし、今のところ俺の『スタンドセンサー』はピクリとも反応していない。
「まあまあ、ほら、涼宮さん。大丈夫だから、ここは『男ども』に任せよーよ。それより、新曲の『サビ』の続き、聴いてよ」
この榎本先輩の助け舟は、状況を察してのサポートなんだろうか。
はたまた、単に自分がハルヒと二人きり(長門は居るが)になりたいが為の言動なのか。……多分、『後者』だな。
「うゥ〜〜ん……ま、いいわ。じゃ、任せたわよ。あ、キョン」
ハルヒ。貴様は次に『どさくさにまぎれて、みくるちゃんにヘンなことするんじゃないわよッ!!』
と、言う。
「どさくさにまぎれて、みくるちゃんに『ヘンなこと』するんじゃないわよッ!!」
はいはいエピタフエピタフ。
……考えてみれば、バニー姿の朝比奈さんを担架で運ぶというのは、中々に肝っ玉の要る行為であって。
ここまでの道のり、俺と古泉と朝比奈さんは、絶えず奇異の視線で見られっぱなしであった。
何見てんだい? うらやましいのかい? 君たちも運びたいのかい?
……とまあ、なんだかんだで、『フーゴ』の居る保健室へたどり着く。
朝比奈さんは、既に呻くことなく、今は眠っているようだった。こりゃ、マジで熱中症とかかもな。今日、暑いし。
「ん。どうしたんですか? 『撃たれ』ましたか? 『刺され』ましたか?」
そりゃ、イタリアンジョークなのか?
「どうせ『熱中症』でしょう? 多いんですよね、今日は。特に暑いから。まったく、ジャポネの『湿気』は異常ですよ」
ぶつぶつとぼやきながら、俺たちの元へ、フーゴがやってくる。
「ああ、もう見れば分かりますね。軽い『熱中症』です。体を冷やして、しばらく休んでいれば治ります。
用意をするんで、ベッドに寝かせてくれますか?」
フーゴは大して朝比奈さんの様子も見ずに、白衣の裾をひらひらと揺らしながら、備え付けの冷凍ケースへ向かった。
古泉がそれを手伝いに言ったので、俺は朝比奈さんをベッドに移す作業に入る。
……古泉とフーゴがこの場に居なけりゃ、えらいシチュエーションだ。
失礼します、朝比奈さん。なんとなく緊張しつつ、朝比奈さんの体を持ち上げる――――。
……ふと、その感触に、違和感を感じる。
朝比奈さんは、さっきまで荒く息をついていたはずだ。なのに、今は不思議なほどに『静か』だった。
クーラーの効いた保健室に来て、すこし落ちついたのだろうか?
「ああ、念のため『脈』を見ますか。熱失神の時の脈拍は、『ゆっくり』になるんですよ」
非合法養護教諭のわりに、知識は申し分ないらしい。フーゴは、ベッドに横たわる朝比奈さんの元へ近寄り、その手首を取った。
「これ、邪魔ですね」
バニーさん用のリストバンド(なのか? アレ)をずらしながら、浅黒いフーゴの指が、朝比奈さんの白い手首に触れる。
「……?」
「どうしたんですか?」
……一瞬。
フーゴの表情が強張ったのを、俺は見逃さなかった。
「……嘘だろッ!?」
突然、フーゴが大声を上げ、朝比奈さんの体に覆いかぶさる。
おい、ちょっと待て、何をする気だっ!?
「……止まっているッ!」
……何だと?
フーゴが、朝比奈さんの唇の傍に、自分の頬を近づけ、数秒ほど停止した後。
「『呼吸』も『脈拍』も止まっている……ッ!」
「……なんだってエエエエエェェェッ!?」
そう叫んだ。……呼吸と脈拍が『止まっている』?
そりゃ、つまり、どういうことだ?
……嘘だろ?
「『嘘』じゃないッ! 確かめてみろ、『脈』がないんだよ! 『心臓』が『動いていない』んだッ!」
朝比奈さんの左胸に手を当てながら、フーゴが叫ぶ。
……って、オイ! ドサクサにまぎれて『ヘンなこと』してんじゃねェ―――ッ!!
「落ち着いてください! 『それどころ』じゃありません! やはり、『スタンド攻撃』を受けていたのか……ッ!?」
古泉が、いつになく鬼気迫る表情で、表情なく『眠る』朝比奈さんを見つめている。
スタンド攻撃だとしたら……えらく『広範囲』なやつだろう。
このところは大体正常に機能している俺の『スタンド探知能力』では、『敵スタンド』は確認していない。
しかし、それほどの遠距離から、一発で『命を奪う』能力なんて……
……と。その瞬間。
おなじみと為った、あの『感覚』が俺を襲った。
しかも、めちゃめちゃ『近距離』だ。
「ッー! 古泉、フーゴ! 『スタンド』だ、『スタンド』が発動した……『すぐ近く』でッ!!」
「! 何だって……!」
俺の言葉に、二人が周囲を見回す。
いや、違う。そんなところじゃない。これはもっと近く……俺の『すぐ傍』だ!
「……これは、『朝比奈さん』だ!
朝比奈さんから『スタンドの発動』を感じるッ!」
「朝比奈さんからッ……!? しかし、彼女のスタンドの『像』は見当たりませんが……それにッ!」
彼女の心臓は止まっている。そうだ。それは俺も分かっている。
だが、俺は確かに『感じる』んだ。朝比奈さんが『スタンド』を発動させている!
何がなんだかわからんが……岸辺の言っていた、ゴッド・ロックのあの『能力』を、使ってみる!
「『ゴッド・ロック』! 朝比奈さんの『スタンド像』を『引きずり出せ』!」
現れた俺のスタンドが、横たわる朝比奈さんの頭部に手を当て……そこから何かを『引きずり出し』た!
「これは―――ッ!!」
……朝比奈さんの体の上に浮かび上がる、俺のスタンドと比べれば、いくらか小柄な人型の像。
頭部に無数の赤い薔薇の花を咲かせた、白い『女性』のスタンド像。
「古泉、これは!?」
「はい、朝比奈さんの『スタンド』です……」
現れた『スタンド』は、まるで何かを追いかけて走るような『動作』をしている。
しかし、スタンドは朝比奈さんの上から動くことはない。まるで、『映像』を映し出しているようだ。
だが、一つ言える事がある。
『スタンド』が生きていると言うことは―――!
「朝比奈さんは『生きている』ッ! しかし――――『何処』でだッ!?」
「それは――――『本人』に『訊けばいい』」
そう言ったのは、フーゴだ。
「スタンドとスタンドは『会話』をすることが出来る。『キョン』、あなたの『スタンド』で、彼女の『スタンド』と会話が出来るかもしれない!」
スタンド同士の会話。
よく分からんが、言われた事は『やってみる』。最近のごたごたで、俺が『学習』したこの世の真理だ!
「『ゴッド・ロック』! 朝比奈さんの『スタンド』と『会話』をしろ!」
現れたG・ロックが、忙しなく動き回ろうとする朝比奈さんの『スタンド』に近寄る。
それと、同時に。俺の頭の中の『何か』が、G・ロックと『繋がる』のを感じた。
なるほど、こういう事か。百聞は一見に如かず。とはよく言ったものだ。
「朝比奈さん、聞こえますか? 朝比奈さん」
『ゴッド・ロック』の口から、俺の『声』が発せられる。
それは『音』ではなく、何かもっと、別の次元の概念だ。なんとなく分かる。
俺の『声』を聞くと、朝比奈さんの『スタンド』が、動くのをやめた。どうやら、届いたようだ。
「朝比奈さん、俺です。『スタンド』を使って、あなたに話しかけています、応答できませんか?」
「……あ、えっと、キョン君ですかぁ? どうなってるんですか、あたし、『どこ』に来ちゃってるんですかぁ〜〜〜ッ?」
オーケイ、通信―――成功ゥ!!
見ると、古泉とフーゴも、自分の『スタンド』を出している。
つか、古泉のスタンド、怖ぇ。
「朝比奈さん。どうも、古泉です」
「ひぇっ!? あ、は、はい。古泉君ですね。わたし、朝比奈ですゥッ!」
知ってます。
「朝比奈さん、あなたが居るのは、今、『何処』なんですか? 見たまま、そのままで構いませんから、仰ってください」
『セックス・マシンガンズ』とやらの口がぐわばぐわばと激しく開閉し、古泉の落ち着いた声を発している。
……うーん、シュール。
「えーと……ここは、『渡り廊下』です! 学校の……でも、学校に誰もいなくて……
わたし、部室で急にふらっとしたと思ったら、回りに誰も居なくって……
『メリミー』でワープしようとしても、キョン君も、古泉君も、近くに居ないみたいで……」
……誰も居ない『学校』。その言葉が、一瞬、俺にあの灰色の北高を思い出させる。
「……朝比奈さん、落ち着いて聞いてください。俺たちの世界に、あなたはちゃんと『いる』んです。
保健室のベッドに横になっているんです」
「ふぇ?」
「ただし、心臓は止まってるんですけど……」
「ふ、ふええぇぇぇ!? 『止まっている』んですかぁっ!?」
「……状況は分かりませんが、とにかく、機関に連絡をします」
ふいに、古泉が『音』でそう言う。ポケットから、携帯電話を取り出し、耳に当てる……
「………おかしい――――ッ」
ぽつり。と、古泉が漏らす。
「何がだ?」
「……どうして『出ない』んだ……『森さん』――――!?」
――――
「……ん」
……どうやら、原稿を描いているうちに、転寝をしてしまっていたらしい。
『光陽園第一ホテル』は、『杜王グランドホテル』のようなハデさは無い。
湿気たビジネスホテルだが、なんとなく僕はこの場所と『波長』が合うようだ。
ここに来てからと言うもの、『仕事』もまずまず進むし、夜もよく眠れる。
昨晩もよく眠れた。『転寝』をしてしまう理由などないはずなのだが。
時刻は午後四時。なんだか寝ぼけてしまった。眠気覚ましに、『コーヒー』でも飲みに行くか。
あの『涼宮ハルヒ』と顔でもあわせちまったら大事になる。
だが、この時間なら、あいつらは『SOS団』だかで、まだ『北高』に居るはずだ。
僕は適当に、財布と、カメラの入った鞄を抱え、部屋を出た。
廊下は静まり返っている。このホテルの宿泊客は大体、出張中のサラリーマンだとかの、つまらない連中で、昼間は出払っているのだ。
こんなホテルに長期宿泊をする人間なんて、おそらくこの世に僕以外居ないんじゃないだろうか。
……ふと、ロビーを出ようとしたとき、フロントに目が行く。
従業員は出払っているのか、そこには誰の姿もない。
不思議だ。いつもなら、誰かしらが受付として、そこに立っているはずなんだが……
――街に出て、ようやく、僕は自分が異様な状況下に在ることに気づいた。
街には、『誰も居な』かった。この僕を残して、町中の誰もが『消え去って』しまったのだ。
道を歩く人も居なければ、車も走っていない。カラスの一匹もいなければ、ノラネコがふんぞり返っても居ない……
「これは……まさか、『スタンド攻撃』―――!」
しかし、町中から一度に人を消してしまう『スタンド』……そんなものがありえるだろうか。
ありえないとは言い切れない。しかし、この場合、こう考えるほうが妥当だろう。
「『別の世界』に来てしまった……この岸辺露伴がッ!」
……こうなると、参ったものだ。
『人』も『生き物』もいない。僕の『ヘブンズ・ドアー』は、そいつらが居なければ何の役にも立たない。ただの非力な小人だ。
「やれやれ……今度は『傍観者』で居られたらいいと思っていたんだが」
またも僕は、『ハイウェイ・スター』だの『チープ・トリック』だのに面倒をかけられたように……
『矢』を持つものの『敵』として認識されてしまったわけか。
「しかし……奇妙な『能力』だな」
『誰も居ない別世界』に引き込む。いったい何がトリガーとなって、僕がこの『世界』に来てしまったかは分からないが……
普通なら、この世界で僕を『攻撃』するだとか、とにかく何か『続き』があるはずだ。
まさか、このまま永遠にこの『世界』に閉じ込められる。なんて『スタンド』じゃあないだろうな……
……クソ。この『岸辺露伴』が、『ビビらされている』ッ……!
……しかし。『永遠にこの世界で一人きり』という、僕の最悪の予測は、まもなく外れることになった。
宛てもなくふらつく僕の目の前に。横道から、突然飛び出してくる『モノ』があった。
音もなく現れた、一台の『乗用車』。……たとえトヨタの『プリウス』だって、こんな静かに『走行』することは出来ない。
ましてや、タイヤの向きなどお構いなしに、『真横』に走ることなど。
「――――あんたはっ! 『岸辺露伴』ね――ッ!?」
その画期的無音車の『上』に乗っている、一人の人物。
今日は非番だったのか。どうでもいいTシャツに、適当なジーンズを纏い、これまた適当に髪を一つくくりにしただけの女。
その顔には、見覚えがある。そして、この『能力』にも。
「『森園生』だったか、君は」
「……まさか、最初にあんたに遭うとは思わなかったわ」
停止した車の上で、森園生は、心底意表を突かれたと言った表情で、そう言った。
――――
「私、今日は非番だったから。テキトーにお昼ご飯を食べた後、ソファで眠っちゃってたみたいなのよ。
それで、ふと気づいたら、この有様。最初は気がつかなかったけど、『テレビに何も映ってない』のがきっかけで、おかしいことが分かったわ」
『眠り』。なるほど、それがトリガーだと言うなら、僕も納得できる。僕は確かに、原稿を描くのに疲れて、居眠りをした。
「つまり―――『眠ってしまったスタンド使い』を、『別世界へ引き込む』スタンドか」
「そう見るのが一番妥当じゃないかしら。最も、まだ実例は、私とあんただけだから、判断材料としては不十分かもしれないけど……
とりあえず、私以外の人間を見つけるために、そこらをでたらめに走り回ってたら、あんたに会った。ってわけ」
『ヘブンズ・ドライブ』で、僕を乗せた車を動かしながら、彼女がそう言う。
「『北高』には行ったのか?」
僕は即座にそれをたずねた。『北高』。自分にかかわった人間の『スタンド能力』を引き出す力を持つ、『キョン』の居る学校だ。
おそらく、この街で最も『スタンド使い』が集まっている場所といえば、あの学校だろう。
「一時間ぐらい前にね。授業中に『うたた寝』してる、生徒が居ないかと思ってね。
でも、誰も居なかったわ。意外とみんな真面目なのね。『谷口』君なんか、きっと転寝してると思ったんだけど」
僕はその人物を知らない。が、おそらく『キョン』によってスタンドを引き出された、自覚なき『スタンド使い』なんだろう。
「もう一度行ってみたほうがいい」
僕は、ハンドル前に形式的に座った園生に向かって言う。
「おそらく、北高は今、『放課後』だ。『運動部』に属する連中は、どいつも額に汗して動き回ってるだろう。
今日は暑い。暑さで『失神』してる連中が居ても可笑しくない。
僕とお前が考えるとおり、『眠り』がこの世界への入り口だとしたら、北高に誰かがいてもおかしくない」
「言いたいことは分かるけどね。
だけど、『無自覚なスタンド使い』なんかが何人集まったところで、大して意味はないのよ。
私たちが必要としてるのは、『SOS団』を初めとする、『事情を知るスタンド使い』たち。
文芸部室でのらりくらりしてるだけのあいつらが、『熱中症』だのを起している可能性は、低いと思うけどね!」
「馬鹿言え、それでもあいつらがあの『北高』に居る以上、そこで誰かが『眠る』可能性にかけた方がよっぽど合理的だろうが!」
「……そうね。確かに、『文芸部』のやつらは別として、『会長』あたりは、転寝をこきやがる可能性もあるわね。
『眠り』がトリガーだと知らなかった私には盲点だったわ、『露伴』! じゃあ、これから『ヘブンズ・ドライブ』は、『北高』を目指すわよ! いいわね!?」
僕の答えを待たずに、ヘブンズ・ドライブは例によって法則を無視しながら、北高へと続く小さな路地に飛び込んだ。
……『会長』というあの柄の悪いチンピラが、この世界にやってきたところで、何の役に立つかは分からないが。
とにかく、今は『仲間』が現れるのに期待するほかないだろう。H・ドライブ園生と二人きりの世界など、真っ平ごめんと言うものだ。
――――
……何がなんだかわからない。それが、今の『みくる』の精神状態を表すのに、もっとも正しい表現だ。
部室で無理矢理バニー衣装を着せられ、ふと、窓際に立ち、日光を浴びたら、意識が遠のいた。
そして、気がついたら、バニー服のまま、世界から誰もが消え去っていた。
しばらく戸惑いながら走り回っていたところ、『元の世界』とやらから、『キョン君』からの声が響く。
……何がなんだか分からない。自分は、『保健室』に居ると言う。しかし、自分は『保健室』にはいない。
ここは『何処』なのか? 『フーゴ』先生らしき声から、『別世界』である。ということは聞かされた。しかし、その『意味』が分からない。
「わ、私、どうすれば良いんですかぁ〜〜っ!?」
「落ち着いてください、朝比奈さん! 今、あなたの体を連れて、『フーゴ』の車で町へ出ます!
『キョン』君の『感知能力』で、あなたをそこに迷い込ませた『スタンド使い』を探します!」
みくるにそう告げたのは、古泉一樹の声だった。
何がなんだか分からない。何度も言うが、それ以外に言いようがない。なら、『私はどうすればいい』んですか?
……そのとき、私は北高の中庭に居た。宛てもなく校内をさまよった結果だ。
その中庭に飛び込んでくる、一台の『車』。
「『見つけた』ァー!! 『朝比奈みくる』ねッ!?」
……もう一度行ってもいいだろうか。
朝比奈みくるは、『何がなんだか分からない』です。
to be contiuend↓
支援してくれた人wwwwwマジでありがとうwwwww
つかwwwww悩んだ結果wwwwけっこう鍵になりそうなエピソード書けそうでwwwww嬉しいwwwww
そんなわけでwwwww初のナンバリングサブタイのAに続きますwwwwwwwwwwwめがっさめがっさゥwwwwwwwwwww
乙!
みくるの能力に期待。
あと個人的に露伴一人称は嬉しい。
ほ
乙ッ!!!
好奇心がツンツン刺激されるじゃあないか!!
応援いたしますぜッ!!
48 :
マロン名無しさん:2009/08/09(日) 12:47:53 ID:0HcirjAI
糞つまらん!!
どうも古泉です。
例によって投下します
……フーゴの車に乗り込み、俺の『探知能力』を宛てに、闇雲に町内を駆けずり回りだし、十数分が経ったとき。
俺の携帯電話が、けたたましく鳴り響きだした。
ディスプレイに映るのは、『榎本先輩』の四文字。
緊張しつつ、通話ボタンを押す。同時に、車内に響き渡る金切り声……
「ど、どうしよう、『キョン』ちゃん〜〜〜っ!! 涼宮さんが、『死んじゃった』よォ〜〜〜ッ!!」
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第7話『岸辺露伴は目覚められないA』
……ふと気がつくと。
部室に居るのは、あたしただ一人になっていた。
……たしか、私は、美夕紀さんのギターを聴きながら、団長席に座ってて……
なんだかゆったりとしたアルペジオを聴いてたら、なんだか眠くなって……それから、どうしたんだっけ?
眠ってしまったのかな。どうして誰も居ないんだろう。もしかして、団長たるあたしを放置して、みんな帰ってしまったのかしら?
あれ、でも、時計を見ると、それほど時間はたっていない。外も明るいままだ。
……有希と美夕紀さん、どこいっちゃったんだろ。
それに、みくるちゃんを送っていった古泉君とキョンも、そろそろ帰って来てもいいはずだ。
まさか、本当に『ヘンな事』してるんじゃないでしょうね……あの『フーゴ』とかって先生も、なんか『軽そう』な感じがしたし。
……怪しい。様子を見に行ったほうがいいかも……
――――
学校中が、奇妙なほどに静かだった。
誰の声もしなければ、誰の気配もしない。物音の一つも聞こえない。
……ふと。私は、去年の今頃にみた、あの『夢』を思い出す。
私とキョン以外に誰も居ない、あの灰色の学校。
あの時と少し似ている。今度は、真夜中でもなく、空が灰色でもないけれど……
「夢……あたし、夢を見てるのかしら」
そうかもしれない。
きっと私は、美夕紀さんのギターを聴いてるうちに眠ってしまって、今、夢の中に居るのだ。
こんなふうに、眠る一瞬前のことまで、はっきりと覚えている夢なんて、初めてだけど……
「キョン、古泉君……?」
保健室の扉を開く。しかし、やっぱりそこには、誰の姿もない。
……無人。
やっぱり、私は夢を見ているんだ。去年に見た、あの夢と良く似ている、けれどすこし違う夢。
……あの夢と同じなら。
私はこの学校から、一歩も出られないのだろうか?
ふと、そんなことが気になり、私は無人の校内を駆け、昇降口へ向かった。
上靴をローファーに履き替え、正門へと向かう……門は、開いている。
「……あ」
再びあの見えない壁に、行く手を阻まれることを覚悟していた私は、何事もなく門の外に出られたことに、軽い驚きを覚えた。
……『街』へ、出られる。
学校の外も、やはり、『無人』なのだろうか?
――――
『朝比奈みくる』。彼女と合流できたのは、非常に運がいい。
その運が僕のものか、園生のものかは分からないが……。
彼女は『スタンド』を解して、『現実』に居る奴らと連絡を取ることができた。
「『…………』」
後部座席に腰をかけた彼女は、おそらく、スタンドに神経を移して、『キョン』たちと会話をしているのだろう。
どうやら、あちらで何か『動き』があったらしい。
園生は『ヘブンズ・ドライブ』の動きを止め、彼女の『通信』が終わるのを待っている。
できるなら僕もその『通信』に参加し、会話を聞きたかったが、どうやら現実世界においては、僕の『スタンド』は、あくまで眠る僕の元にあるらしい。
「……た、大変ですぅ〜〜ッ!」
『会話』を終えた朝比奈みくるさんが、突如、血相を変えて叫ぶ。
「どうしたの、朝比奈さん?」
「えっと、その……『涼宮さん』が、向こうの世界で、『私と同じ状態』になっちゃったって……」
「何ですってェ!?」
『彼女と同じ状態』。それはつまり、この世界に迷い込んだ僕らの、現実での状態……『心肺停止状態』のことか。
つまり……『涼宮ハルヒ』が、この世界に迷い込んだ―――ッ!
「おい、それはまずいなッ! 彼女が『スタンド』がらみのことを知るのは、かなりまずい事なんだろ?」
「まずいなんてもんじゃないわ、『世界』がどうなるかわからないわよ!」
つまり、僕らと同じ例なら、彼女は今、『この世界の北高』に、たった一人で居るわけだ。
『古泉一樹』が調べたところ、現在、北高内に存在している『スタンド使い』で、睡眠状態(つまり、この世界に来ている)にあるのは、朝比奈さんだけ。
その朝比奈さんは、今、こうして僕らと共に行動をしている。
彼女が誰かと出会い、面倒なことになる心配は、とりあえずは無いか。
「大丈夫だ、園生。『彼女』に遭ってしまったら、僕のこの『ヘブンズ・ドアー』で『眠らせて』やればいい。
そうすれば、『目覚めた』時には、ただの『夢』だった。で済ませられるだろう?」
スタンド像を浮かべながら、僕が言うと、園生は僕をギロリと睨み付け
「ええ、確かに私もそれでいいと思うわよ。だけどね、露伴。私が一番心配しているのは、『目覚め』がこのまま訪れなかった場合のこと、よ」
と、言い放った。
……理解にすこし時間が掛かったが、言いたい事はわかった。
「今はまだ、『スタンド』が生きていて、外と連絡が取れる以上、私たちは『生きている』と言えるわ。
だけど、もしこの世界が私たちごと『消えてしまった』ら……
私たちはこのまま『死んでしまう』のよ。『涼宮さん』も一緒にね!」
『矢』の持ち主の目的は、『涼宮ハルヒ』を殺すこと。
つまり、なんとしても僕らはこの『スタンド攻撃』から抜け出さなくてはならない。
「……あ、あの、露伴先生! 今、またキョン君と『会話』していたんですけどっ
今、『スタンド』を出しましたかっ?」
ふと。後部座席の朝比奈さんが、僕にそう尋ねる。
出しましたか。も何も、今も僕の傍らに、『ヘブンズ・ドアー』の像が浮かんでいるじゃないか。
「………………あ、えっと。今、キョン君たちの前に『救急車』が居たそうなんですが……
その『救急車』から、スタンドの反応を感じたらしいんです。それで、その場所が、『光陽園第一ホテル』の傍らしくて……」
スタンドの反応。……そうか、そういうことか。
「多分、キョンたちの想像通りだ……向こうでの『僕』が、心臓も呼吸も止めて、『居眠り』こいてるのを、誰かが見つけやがったんだッ!
大方、編集部のヤツらが電話をしても出ないから、ホテルのヤツらが、何ごとか起きてんじゃないかと『確認』に来たんだろう。
こいつは面倒な事になったな……『心肺停止』と『死亡確認』の境目は知らないが
もしこの世界から出られたとして、目が覚めたら、霊安室で、鼻と口に綿を『詰められていた』なんてのはごめんだぞッ!?」
たまたま僕を乗せた『救急車』が、キョンの乗った車と接近したとき、たまたま僕がこっちでスタンドを出した。
その反応を、キョンのスタンドが感知した。えらい偶然だな。僕の作品には、非現実的すぎてちょっと登場させられないエピソードだ。
事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。何にせよ。
「おい、『朝比奈』ッ! 今すぐキョンたちに、その『救急車』を追いかけるように言えッ!
とにかく何だっていいから、『僕』の『霊安室行き』だけは阻止させるようになッ!」
「ひぇえッ!? わ、わかりましたァっ!!」
「ちょっと、露伴! 少し落ち着きなさい!」
これが落ち着いていられるか。お前は『機関』とやらの後ろ盾があるから、間違ったってそこらの病院で、死に装束を着せられやあしないだろうが……
「……病院、だと?」
……ふと、その言葉が、僕の頭に引っかかる。
スタンド攻撃と、病院。僕の記憶にある、忌まわしい出来事。
「……園生、僕らもその『病院』を目指すんだ! もしかしたら、其処に『敵スタンド』がいるかもしれない!」
「はぁ? 向かうのは構わないけれど、どうして?」
「前にもあったんでね。町中が射程距離のスタンドの本体が、『病院』に入院していたってパターンが!」
それに……もう一つ、たった今思いついた仮説がある。
『眠ったものが訪れる世界』。そんな世界を作り上げるスタンドが居るならば……その『スタンド使い』も、『眠っている』んじゃあないか?
「『眠っている』スタンド使い……そうか、『そういうこと』ね!」
こんな中途半端な時間に眠っているヤツらが、一番多く集まっている場所。
それは『病院』だ。間違いないとは言えないが、行ってみる価値はあるだろう。
「…………あ、あの、キョン君が! 『救急車』を追ううちに、別の『スタンド』を感じたって言ってます!
どうも、病院に近づくにつれて、その反応が大きくなっているらしくて……」
ああ、前言撤回。どうやら、間違いないと言っても問題なさそうだ。
「その病院が『どの病院』か、今すぐ訊くんだっ!」
「は、はいぃ!」
――――
救急車が、病院の敷地内に飛び込む。それに数秒送れて、フーゴの運転する、俺たちを乗せた車が、同じ門を潜った。
「安心してください、この病院は『機関』と繋がっています。『救急車を止める』には間に合いませんでしたが、露伴先生の処置については問題ありません。
それより―――」
ああ、分かっている。優先すべきは、このビンビンに感じる『スタンド反応』だ。
間違いない、この病院の建物のどこかで、『スタンド』が発動している。
「朝比奈さんは車内に置いていきましょう。さすがに、『この姿』の朝比奈さんを背負って、病院内に乗り込むのはいささか厄介です。
『フーゴ』さん、すみませんが、彼女を見ていて貰えますか? 向こうの彼らも、まもなくこの病院と同じ場所を訪れるはずです。
彼女と『会話』する役を買って欲しいのです。それと、彼女にしばらくスタンドを仕舞わないように言ってください」
フーゴの返事を待たず、俺と古泉は車を降り、病院の入り口へと走った。
C−EEN
「こっちだ」
スタンドが感じるままに、リノリウムの床を駆ける。
「……ちょっと待ってください、そっちは」
「何だよっ!?」
「『入院病棟』ではありません! この方向は……『集中治療病棟』です!」
……何だって?
――――
「入院患者のデータのコピーを持ってきました。
……『観音崎スミレ』、11歳。七年前、父親から刃物による暴行を受け、姉と共に病院に搬送されましたが、姉は傷が深く、既に亡くなっていました。
観音崎スミレは、手術によって一命を取り留めました。しかし、その後意識が戻らず、七年間、眠り続けていました。
それが、今日の正午になって、突然容態が急変し、ICUにて治療を行っています。
しかし、状況はよくなく、明日を迎えられるかどうかは厳しい状態……だ、そうです」
……スタンドの反応を感じたときから、何か違うとは感じていた。
こいつは『スタンド攻撃』をしているんじゃない。なにか、もっと別な『気配』を感じたんだ。
……何てことだ。
「キョン、イツキっ」
ロビーにて、古泉が持ってきた一枚の用紙を眺めていると。
車内に残ってもらったはずのフーゴが、俺たちを見つけ、こちらへかけてきた。
「何をボサボサと休憩してんですかッ! 『敵スタンド使い』は見つけられなかったんですかっ?
ああ、とりあえずそれより。『朝比奈さん』たちが、『敵スタンド』を見つけたんですよ! はやく車に戻ってきてください!」
向こうの世界に、その観音崎という少女のスタンドが居たってのか。
「詳しい話は、『露伴』本人から聞いてください! それと、その露伴が言っていたそうですが……
いちいち朝比奈さんを通すのが面倒だから、『露伴』の『死体』を持って来い、だそうです!」
……もうちょっと言葉を選ぼうな、イタリア人。
ロビー中の人が、どよっとなったぞ。今。
――――
「よし、『聞こえる』な」
「ああ、聞こえてる。お前のスタンドは、しっかりこっちに『見えてる』ぜ」
僕の体が運び込まれた先が、古泉たちの息が掛かっている病院で本当によかった。
意識の無い僕の体を、ガキどもに運ばせるというのも、あまり気分のいいものではないが、この際は仕方ない。
さて、どこから説明したものか。
ここは四階のはずれの病室。僕と園生と朝比奈が立っている。そして……窓際のベッドの上に、巨大な獏のような『スタンド』が横たわっている。
「スタンドは四階の病室に居た。ヘブンズ・ドアーで見たところ、スタンド名は『ラ・ディ・ドゥ・ダ』
こいつの能力は、本体が眠ったときに発動する。『自分の夢』に、『世界』を作る能力。
そして、発動中に周囲の『スタンド使い』が眠ったとき、そのスタンド使いをその世界に引きずり込む。
引きずりこまれたものは、現実世界では心肺停止状態となる。ご覧の通りね。」
ここまではいい。大体、僕が想定していた通りだ。
「それで、解除の方法はわからないんですか?」
古泉が言う。
「簡単だ。本体が目覚めればいい。夢の世界は消滅して、僕らは元の体にもどる。心臓もちゃんとまた動き出す。
えらく『無害』なスタンドだよ。周囲のスタンド使いが、好きに夢を見れなくなるという弊害を除けばね」
「やはり……ですか……」
……分かっている。どうせ、えらく『無害』なスタンドでは済ませられない状況なのだろう。
「こちらも、そのスタンドの『本体』を発見しました。
……ですが、その『本体』は、七年前から眠り続けています。
そして、今日の正午、容態が悪化し……現在治療中ですが、とてもよくない状況にある、そうです」
「……えぇぇぇぇっ!?」
古泉の言葉に、朝比奈が声を上げる。
ああ、僕もできれば、そんな具合に喚きたいところだ。
「……岸辺、『本体が死んだ』ら……『夢の世界』は、どうなるんだ……ッ?」
「……『ヘブンズ・ドアー』で読めるのは、生きた能力だけだ。死んだらどうなるかは書いていない。
だが……『消えちまう』んじゃないか? おそらく」
「そんな……馬鹿な!」
……この『岸辺露伴』が、あろうことか、生きているとも死んでいるともつかないやつに『殺され』されちまうってのか。
「……運が無いな、僕は。もし、僕が『そっち』にいたら、その本体に『目覚めろ』とでも書き込んでやるんだがね」
「……ちょっと待て、岸辺」
ふと、何かに気づいた。とでも言うような、キョンの低い声がする。
「そっちに『スタンド』がいるんだな? なら……『本体』も!
『観音崎スミレ』も、そこに居るんじゃァ無いのかッ!?」
……なんだって?
僕は慌てて、『ラ・ドゥ・ダ・ディ』のページを捲る。
「……『本体』の見る夢で『世界』を作る……そうか……
夢を見ているのは『本体』だッ! ならば、この世界のどこかに、『本体』が居るはずなんだ―――ッ!」
こんな簡単な事に気づかなかった。この岸辺露伴ともあろう者が……
「『探す』んだ、岸辺露伴! 『観音崎スミレ』が死んじまうに!
『観音崎スミレ』を探し出すんだァ―――ッ!!」
――――
……街には、本当に誰もいなかった。駅前にやってきても、人っ子一人居ないんだから、もう確定だ。
自販機にお金を入れれば飲み物も出てくるし、信号機も動いてる。だけど、誰も居ない。
夢だとしたら、本当にリアルな夢だ。ちゃんとサイダーは泡立つし、甘い。
「……あれ?」
誰も居ない、無人の街。その中に―――一瞬、動くものが見えた気がする。
風で、落ち葉か何かが飛んだんだろうか。でも、もっとゆっくりだった気がする。
「……」
気になる。私はすかさず、小走りで、何かが動いた方へと走った。
いつもの喫茶店の前を横切り、ビルとビルの間の、薄暗い路地を覗き込む。
「あっ」
やっぱり、間違いじゃなかった。
無人の街で、私は始めて、『人間』を見つけた。
「……」
それは、年齢にして、8歳くらいの女の子だった。
綺麗な白いワンピースを着ていて、髪の毛を後ろで一つにまとめている。
肌が白くて、どこか人間離れした雰囲気の―――ああ、そう、有希みたいな感じ。
「ね、ねえ、あなた、ここって、夢なの?」
『夢の中の住人』。私はその子をそうだと決め込み、たずねた。
「そう」
多分、答えてもらえ無いだろうと思っていた私にとって、その返答は意外だった。
「そっか。やっぱり、私、夢を見てるのね」
「……お姉ちゃんの夢じゃない」
女の子が、首を横に振る。
死にかけた少女の見る夢に引きずり込まれると書くと
コナミのサイレントヒルというゲームを思い出す支援
「私の夢じゃ、ない……?」
この子は何を言っているんだろう。
すると。少女は何も言わずに、すーっと後ろに後ずさり始めた。
歩いている、っていう感じじゃない。まるですべるみたいに、私に背中を見せずに、後退してゆく。
ま、まあ、なんでもありよね。夢なんだし。
「ちょっと、そっちは壁……あれ?」
……私の記憶だと、この路地は『行き止まり』だったんだけど。
少女は私の知らない『道』を、すいすいと後ずさってゆく。なんか、『ゼルダの伝説』でこういうのあったなぁ。
「ちょっと、待ってよ!」
見逃してなるものかと、私はそれを追いかける。
「……夢を見てるの……ずっと……かわいそう」
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「聞こえるでしょ……怖いよ……って……」
「ちょっと―――」
女の子は、要領を得ない事を呟きながら、すいすいと遠ざかってゆく。私は必死で其れを追いかけた。
そして、ある角を曲がったところで。
「あっ……」
女の子の姿は、そこにはなくて。
変わりに、一軒の、古い平屋の家が建っていた。
支援するッ!!
「……この中に、入ったのかしら」
私は少し考える。ここは『夢』の中なのは間違いない。あの子も言ってたし。
だから、仮にこの家に入り込んでも、まあ問題はないだろう。
でも、私の夢じゃない……って、どういうことかしら?
それに、怖いって……
―――どたん、どたん。
……心臓が飛び出そうになった。
目の前の家の中から、何か物音がする。
……続いて、まるで、小さな子どもの泣き声のような声。
「な、何よ、何が起きてるのっ!?」
分けは分からないけど、とにかく、行ってみるしかない。どうせ、夢なんだから!
私は意を決して、その家の戸を開いた。
外観と同じく古びた内装。踏むとキシキシと鳴る廊下を歩み進める。
「『痛い』よぉぉおおおっ!」
突如、耳に飛び込む叫び声。さっきの子どものものだ。
声がしたのは、居間らしき部屋からだ。私はその戸を開ける。
……其処には。私の想像を絶する光景が広がっていた。
男が、笑っている。30台ぐらいの、痩せた男だ。
そいつの目の前で、女の子が泣き叫んでいる。その首の後ろから……間違いじゃない。血があふれ出している。
そして、男の手には……赤い血に濡れた、包丁が握られている。
「な、何よ、これっ……!? ちょっと、あんた―――!!」
「『すみれ』っ!? ……お父さんッ!! なにしてるのォォォォ!?」
そのとき、私が見たものは。
私の後ろから、『私の体をすり抜けて』部屋に飛び込んでゆく、見覚えのある少女の姿だった。
「へへっ……ふへへ、『美和』かあ」
男が、焦点の会わない目で、私をすり抜けていった少女を見る。
そこで、気づく。ああ、これは『現実』に起きている光景じゃない。ただ、この場所に『映し出されている』だけの光景なんだ、と。
「おねえちゃああああん! 痛いよおっ、いたっ、うっ」
首の後ろに傷を作った少女が、激しくむせ返る。其れを見た『美和』と呼ばれた少女は、一目散に『すみれ』に飛び掛かった。
「『すみれ』、逃げて! 逃げて、助けてって言って!」
『美和』はそう叫びながら、すみれの体を抱き、ちかくの壁にあった窓にしがみついた。そして、それを一目散に開く。
僅かに開いたドアの隙間から、『すみれ』の体が、外へと投げ出される。
「なに……何やってんだ、『美和』あああああ!!!」
なぜか、ぼんやりとした目つきでその光景を見つめていた男が、不意に顔面をこわばらせ、絶叫しながら、『美和』に飛び掛った。
「きゃああああっ!? ぐっ、あぐっ、おどっ、いだああああいぃぃぃ――――ッ!」
……気が遠くなる。気分が悪くなる。目の前がぼんやりする。
男が、美和の背中に、何度も何度も、包丁を叩き付けている。
血があふれ出して、肉がちぎれて、それでも、何度も何度も、『美和』が何も言わなくなってからも……
「『嫌』あああああァァァァ!!!」
……たまらず、そう叫んだ、次の瞬間。
男と美和の姿は、目の前から消え去っていた。
……今のは、何? 何だったの?
「……ひっく……ひっく……」
不意に。さっきまでの物音とは違う、別の『声』が、部屋の奥から聞こえた。
でも、姿は無い、いったい何処に居るんだろう?
「誰か……いるの?」
たずねかけても、答えは無い。ただ、しゃくりあげる声が聞こえるだけだ。
……目に留まったのは、『押入れ』だった。
ゆっくりと、閉じられた押入れに近づく。……開け放った目の前に。うずくまる、『少女』の姿があった。
「ぐす……う゛う゛……ひっく……」
……年齢は、10歳くらいだろうか。
女の子は、歯を食いしばり、目を強く閉じて、耳を両手で思いっきりふさぎ、押入れの中でうずくまっている。
直感的に、分かる。
「あなた……『すみれ』なの?」
……私の声にようやく気づいたのか、少女は耳をふさぐのを止め、ゆっくりと、私を見上げた。
「『すみれ』なのね?」
少女が、わけのわからないものを見るような目で私を見上げながら、一つ、肯くような動作をする。
……よかった。助かったんだ。『美和』のおかげで。
支援だ…
その、瞬間。
どたん。どたん。
聞き覚えのある物音が、私のすぐ傍でした。
「ひっ!」
目の前のすみれが声を上げ、再び耳をふさぐ。
振り返ると……また、さっきと同じ『光景』が繰り広げられている。まるでビデオテープのように。
「『痛い』よぉぉおおおっ!」」
「やめてぇ……やめてぇぇぇ……」
押入れの中の『すみれ』が、体を震わせながら何度もそう呟く。
私の目の前で、小さな『すみれ』が男に刺され、そこに『美和』が現れる……
そこで初めて、私は正面から『美和』の顔を見た。
――――あの女の子だ。
「『すみれ』っ!? ……お父さんッ!! なにしてるのォォォォ!?」
やめてよ。まさか、こんなことを……ずっと繰り返しているの?
さっき、『美和』は私に言った。
――……夢を見てるの……ずっと……かわいそう
……『すみれ』は、ずっとずっと、この『夢』を見ているの?
ここは『すみれ』の夢の中なのね?
「へへっ……ふへへ、『美和』かあ」
「おねえちゃああああん! 痛いよおっ、いたっ、うっ」
やめて。このままじゃ、『美和』が、また。
そっか、だからあの子、ずっと背中を見せずに―――
「やめてええ! 助けて、助けてよぉおおおお!!」
押入れの中の『すみれ』が、そう叫ぶ。
なんて―――なんで、こんなことが。
「……――――『やめなさい』よおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――ッ!!」
私がそう叫んだ瞬間。
目の前の『映像』が、途中で消え去って―――
同時に。私の体から、何かがあふれ出すような感覚があった。
それは、少しだけ暖かくて―――ちょっと、『怖い』。
振り向くと。青白い光の中で、『すみれ』が、私を見上げていた。不思議そうな表情で。
気がつくと、私たちの居た『家』が消えていっているのが分かった。
その向こうにあった『街』も消え、『空』も消えてゆく。
そして、真っ黒になった『空』に、明るい『出口』が見えた。
ああ、よかった。
すみれの『夢』が、終わるんだ―――
――――
「うおおおおおおォッ!!?」
「うわっ、びっくりしたっ!?」
俺の隣でうなだれていた古泉が、突然の絶叫に飛び上がる。
「ちょっと、何ですか!? ここ、病院のロビーですよっ!?」
肩をどつきながら、古泉が俺を諌める。確かに、ロビー中の人々が、俺を奇異の視線で見ている。しかし、それどころじゃないんだ。
何だ、この異常なまでの―――『スタンド反応』は。
正直、失神するかと思った。
「『未だ感じた事の無い、強大なスタンド反応』だ! ……感じられる、ここからでも! これは―――
『北高』だ、古泉! 『北高』で、とんでもない『スタンド』が――――」
……あれ?
「……スタンド反応が、何ですか?」
「いや……とんでもないのを『感じた』んだ。しかし、それがいま―――消えちまった」
「……何かの気のせいじゃないんですか?」
いいや、違う。今のは―――なんだろう。初めて感じたのに、何か懐かしい。
あの『スタンド』は―――
「おい、『キョン』! 『古泉』!」
その瞬間。俺に続いて、病院にふさわしくない大声を上げながら、入り口から入ってくる人物。
―――岸辺露伴に、朝比奈さん!
「あ、露伴先生……露伴先生!? それに、朝比奈さんもっ!?」
「こ、古泉君に、キョンくぅん〜〜〜ッ!! 怖かった、もうだめかと思いましたぁ〜〜〜ッ!!」
「え、何で……それじゃ―――『スタンド』は、解除できたんですかッ!?
『観音崎スミレ』を、見つけられたんですかっ!?」
「いや、分からない。ただ、僕らが街を『走って』いたら、突然世界が『壊れ』出したんだ! ついに『タイムオーバー』かと、『ビビリ』まくったぞ! この岸辺露伴が!」
……しかし、岸辺も朝比奈さんも、無事―――と、言うことは!
「古泉、観音崎は!」
俺の声と同時に、古泉が集中治療病棟に向かって駆け出す。
それに、岸辺も続く。
あ、朝比奈さん。あなたはできれば、フーゴの居る車に戻っておいてくれますか?
いや、その『格好』だと、あらゆる意味で目立ちますし、患者さんの目にね、ほら。毒なんで。
――――
古泉の伝で、『特別』に面会を許可された俺たち三人は、揃って集中治療室に足を踏み入れた。
……部屋の中央に、たった一つあるベッドの上で。
短い髪の毛の、幼い少女が、まるで何も見ていないかのような空ろな瞳で、空中を眺めていた。
「……何が起きたのか分かりません。ですが、まさにさっき、突然に、心拍数も血圧も正常値となり……
七年間眠っていたはずの彼女が、『目覚め』たんです」
目覚めた。
「誰かが……『彼女』に、遭ったんでしょう」
誰か。あの世界を訪れていた、ほかの誰か?
そりゃ、まさか……
「あなたがさっき感じた、『強大なスタンド』。……『繋がる』と思いませんか?」
……あれが、あいつの『スタンド』の発動だった?
ってことは、あいつは―――スタンドの存在に、気づいちまったのか!?
「いえ、おそらく、まだ無意識下のことではあると思います……」
そう言うと、古泉は、『観音崎スミレ』を見た。
「……彼女は、薬物……『麻薬』を乱用していた父親によって、傷を負わされました。
彼女が一命を取り留めることができたのは、彼女の『姉』、『観音崎美和』が、彼女を『窓から逃がした』からです」
「!」
一瞬。その言葉を聞き、岸辺の表情が変わる。
「幼い彼女には、あまりにも強烈な出来事だったのでしょう。
彼女は其れきり、目覚めずに居ました……おそらく、彼女の精神は、その『出来事』に縛られ続けていたんです。
……彼女の『スタンド』は、その束縛から、自分を助けて欲しい……そんな無意識下の欲求が形になって、生まれた」
「……『涼宮ハルヒ』が、それを叶えた。そういうことか」
「はい」
……しかし、そういうことなら。
「『スミレ』は、目覚める事ができた。けれど……その『出来事』を覚えているのに、代わりは無い。
しかも、時間ばっかが、七年も経っちまって……」
と、俺がそう口にしたとき。
俺の真隣で、『スタンド』の発動を感じた。
見ると、岸辺がヘブンズ・ドアーの指先で、『観音崎スミレ』の額に、指を当てている。
「……?」
スタンド使いである『スミレ』には、ヘブンズ・ドアーが見えている。不思議そうな顔で、その指先を見つめるスミレ。
「露伴先生、待ってください。しかし―――」
「そんなモンはなァ――! ……『忘れちまう』べきなんだ。そうでなけりゃ、生きていくことなんか出来ない」
古泉が躊躇するのを構わず、岸辺はスミレの額を『捲り』―――
「『ヘブンズ・ドアー』……
『父親にまつわる全ての事を―――忘れる』ッ!」
―――そう、刻み込んだ。
――――
「……麻薬、ですか」
ハンドルを握りながら、フーゴが僅かに顔をしかめる。
「…………で、その『観音崎スミレ』は、この後どうなるんです?」
「とりあえず、しばらく病院で、体力が回復するのを待ってからは―――
……事情が事情ですから、どうなるかは分かりません。親族の方とは、連絡がつかないそうですし……
どこかの施設へ送られるか―――」
其処まで言い、古泉は言いよどむ。
「……『スミレ』さんは、助かったんでしょうか?」
不意に口を挟むのは、後部座席に座るバニーさんだ。
「あ、いえ、変な意味じゃなくて……なんていうか、そう。彼女が『矢』に刺されたのは―――悪い事、だったんでしょうか?」
「……朝比奈。『いい』か『わるい』か何てことは、相対的であやふやな物だ。固執するべきじゃない」
「は、はあ」
朝比奈さんの疑問に答えるのは、病院を出てから嫌に寡黙な岸辺だ。
「……『スミレ』が悪く長い夢から目覚めたのは悪い事じゃないかもしれない。
しかし、『矢』が使われるのは、誰にとっても、死ぬほど迷惑な事だ……『僕』は、そう思う。それだけだ」
と、言ったきり、岸辺は一度も口を開かなかった。
露伴にとっては他人事じゃないわな
――――
翌日、木曜日。の朝。
「次の『不思議探索』だけど……ちょっと、行きたい場所があるのよね、みんなで」
などと、後ろの席のハルヒが呟いた。
「ほう、そりゃ何処だ」
「昨日、不思議な夢見てねー……その夢に出てきた場所、ほんとに無いかなーって」
…………
それは『やめといた』ほうが良いのではないでしょうか。
「ああ、そうそう。『スミレ』さんですが」
部室へ向かう道すがら、古泉が微笑みながら話しかけてきた。
「『養子』の貰い手がみつかりましたよ。とりあえずは安心です」
もうかよッ!? あんまりにも早いだろ、それ。
いったい何処の誰だよ、『スミレ』を貰ってくれるってのは。
「あなたも良く知っている方ですよ」
……ふむ?
予想が、つくような、つかないような。とりあえず―――俺は、黙っておいた。
――――
・涼宮ハルヒ − なんだか夢うつつな気分。
・岸辺露伴 − なんだか複雑な気分。
・榎本美夕紀 − 彼女が死んじゃった! のにキョンにも古泉にも完全放置されてご立腹
・森園生 − クーラーつけっぱの部屋で死んでたら翌日風邪引きました。
本体名 − 観音崎スミレ
スタンド名 − ラ・ドゥ・ダ・ディ 再起可能
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ラ・ドゥ・ダ・ディ」
本体 − 観音崎スミレ(10歳)
破壊力 − E スピード − E 射程距離 − A(最大)
持続力 − A 精密動作性 − E 成長性 − E
能力 − 本体が眠りにつくと同時に発動。現実世界と酷似した世界を、自分の夢の中に作り上げる。
本体を中心とした半径数十キロほどの範囲に存在するスタンド使いを、その人物が眠った場合に、夢の世界に引きずり込む。
ただし、効果の範囲は最大で、普段の眠りの時は、せいぜい同じ家の中の人間に作用する程度の様子。
夢に引きずり込まれた人物は、現実世界では心肺停止状態となる。
本体が目覚めると同時に、夢の世界は消滅し、夢の中に居た人物も元の世界に戻る。
夢の世界に別の人間を取り込んだ状態で、本体が死亡した場合、夢の世界はその時点での住人ごと『消滅』する。
その際、取り込まれていたものは消滅してしまう。
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ヘブンズ・ドアー」
本体 − 岸辺露伴(24歳)
破壊力 − C スピード − A 射程距離 − B
持続力 − B 精密動作性 − A 成長性 − A
能力 − 本体の作品、『ピンクダークの少年』の姿をしたスタンド。
触れたり、攻撃したりした対象を『本』に換え、内容を読み取る・書き込む・ページを破りとるなどの細工を行う。
最近だんだん自意識を持ってきた気がする。本体の雑用に使わされるのが、たまに不満そうに感じるときがあって微妙な気分。
ちょっと頭身が伸びてきたりして、破壊力も人並みにはなって来たりと、まだまだ進化の余地のあるスタンド。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんなかんじで
次に続きます
投下乙!!そしてGJ!!
まったくこのイタリア人はwwww
ハルヒのスタンドはつまり「アレ」なのか!?
乙
今回のスタンドって本体が自由に制御できたらデスサーティーンみたいになるんじゃ……
そしたら無害なスタンドなんてレベルじゃねーぞ!
いや、マニッシュボーイのあれとは別物だろ
古泉が言ってるように、誰でもいいから助けてくれって精神から生まれたわけだし
キョン 破壊力 − A スピード − B
古泉 破壊力 − B スピード − B
会長 破壊力 − A スピード − A
鶴屋 破壊力 − B スピード − B
先輩 破壊力 − B スピード − B
フーゴ 破壊力 − A スピード − B
わりと凶悪だなSOS団
乙です!
養子にもらったのってもしかして……いや、詮索はやめておこう
『姉』に『窓から逃がされた』ってのに反応する露伴ちゃんに俺が泣いた
なんかスレ乗っ取ってる気分で恐縮やら感想ありがとうございます
今日は休載です
いよいよペースがおちはじめるよー^p^
90 :
ジョニィの人:2009/08/10(月) 22:23:02 ID:???
連日の投下、乙です。この露伴はいいな。
勢いに乗って投下します。
第23話「キリング・ザ・ドラゴン」
真っ暗な路地をぼくは一人で歩いていた。これは……自宅に続く道だ。
既に日付は変わっている。ぼくのような年齢の子供が外にいて良い時間帯ではない。
何でこんな時間に帰路についてるかって?一言で言えば、夜遊びってヤツかな。
楽しくもないパーティーで時間を潰すのが遊びに入るならだけど。
やがて、ぼくは一つの家の前で足を止める。ここケンタッキー州でも有数の歴史を持つ立派な屋敷。門は開かれたままだった。
敷石の上を歩き、簡素ながらも美しい細工がなされた扉の前に立つ。
そっと鍵を差し込み、ゆっくりと回す。まるで泥棒だが、何にしても気付かれるわけにはいかない。
かちゃりと鍵が開く音が響く。大きな音ではないはずだが、今は心臓が飛び出しそうな爆音のようだ。
家に入り、後ろ手に鍵を閉める。そのまま照明を点けずに自分の部屋へと歩きだした。
足取りは太極拳のようにゆっくりと。地雷源を歩くように足音を殺す。
亀のような歩みを続けて数分、ようやく自分の部屋の前に着いた。
……良かった。見つからずにすんだ。ほっとしながらドアノブに手を掛けようとした時だった。
真っ暗な廊下が突如として光に包まれた。ぼくは照明のスイッチには触れていない。
誰が点けたのか?……それはわかりきっていた。こんな深夜には使用人も帰っているはずだ。
会うのを避けるために、眠る時間を待って帰って来たってのに。ぼくは恐る恐る振り向いた。
「……父さん。起こして……いえ、起きてらしたんですか」
多分、待ち構えていたんだろう。父さんがスイッチの前に立っていた。
しかし、怒声や非難はそこに無く。父さんは深夜に帰って来たローティーンの息子を、ただ無表情に眺めていた。
その視線の先はぼくでは無い。ぼくが手に持った物……大きなトロフィー……だった。
普通の人間なら、一生手にする事も無いような豪華なトロフィー。今日の大会で貰った物だ。
「あ……これは……その……」
ぼくは顔を伏せて、やがて絞り出すように言った。
「『二位』でした……きっと、次は勝ってみせます」
父さんから言葉は無い。ぼくは顔を伏したまま続ける。
「……良ければ、次のレースを観に来て下さい……。……勝ちます……!」
返事がない。ぼくは目線だけを上げ、父さんを見た。……何も無かった。父さんは消えていた。
父さんの寝室のドアが閉まる音。それが彼の返事だった。
「…………」
ぼくは自分の肩がわなわなと震えているのを感じた。止め方がぼくにはわからなかったし、止めようとも思わなかった。
震えは指先にまで伝播し、トロフィーを握る手にまで及んだ。緩む手を握りなおし、ぼくはトロフィーを手近な窓に投げつけた。
ガラスを突き破り、トロフィーがバラバラになって夜に飲まれて行く。
バラバラに……。バラバラ……に……。
「……夢か」
自室のベッドでぼくはぼんやりと呟いた。最悪の目覚めだ。
日本に来るよりずっと前の、家を出て一人で暮らすよりも前の大昔の事だ。
何で今更そんな事………。………学校に行こう。
考えてみれば、ここ最近は過去を思い出す事もなかったな……。
あの日、ハルヒと出会ってから、過去を振り返る暇など無かった。元々、思い出したくも無い事だったし。
……過去の事は関係無い。大事なのは今だ。そうして、ぼくは昔を思い起こすのをやめた。
いつもと同じ日常、ハルヒが騒ぎ出した時も普段と変わらないと思っていた。
「みんな、日曜日空いてるわよね?」
みんなが顔を見合わせながら、やれやれといった様子で頷く。用事があると言っても強引に空けさせられるのが落ちだ。
しかし、何をすると言うんだろう。不思議探索ツアーはいつも土曜だし、日曜じゃなきゃダメな用事……。
草野球はもう勘弁だ。そんな事を思いながら満足気に笑うハルヒを見ていた。
「そう。んじゃー良かったわ。今度の日曜日なんだけど」
はいはい。あんまり無茶は言わないでくれよ?暢気な苦笑は、次のハルヒの言葉に吹き飛ばされた。
「宝塚記念に行きましょう!」
……宝塚記念、だって?聞いた事がある。偶然だっていうのか?
……それとも、忘れるなんて許さないっていうのか。過去が追い掛けて来るような、嫌な、嫌な気分がした。
「宝塚ァ?」
キョンの素っ頓狂な声が沈黙を破る。
「お前な、女子高生の趣味にしちゃ渋すぎないか?」
ちっちっち、とハルヒは指を振る。
「違う違う。記念よ。き・ね・ん。いい?宝塚記念っていうのはね」
「G1のレース……だよね?……阪神競馬場の」
思わず口を挟んでいた。言葉を取られたハルヒが呆気に取られた様子で目を丸くしていた。
「そ、そうだけど……アンタ、知ってたの?」
「ふむ。競馬ですか」
事情を知っている古泉が意味ありげにぼくを見る。
「そう言えば、ニュースで見ました。凄く強い馬がいるんですよね?」
気にしていないのか、みくるさんが明るい声で言う。思い出したように古泉がそれに答えた。
「『ホクトブライアン』でしたか。連戦連勝で、もう国内には敵は無いとか」
「そうそう。それを見に行こうってわけよ。流行にはビンカンじゃないとね」
好反応を得たハルヒは喜色満面といった様子だ。その中でただ一人キョンは眉をひそめている。
「あのなあハルヒ。まさか競馬で一攫千金、なんて考えてるんじゃないだろうな」
「えっ!?……な、何よそれ」
明らかに動揺している。大袈裟に溜め息をつくとキョンは子供を諭すように言った。
「20歳未満は馬券買えないぞ。全く、何を言いだすかと思えばギャンブルに手を出そうなんて」
「ちょっと、そういう言い方は止めてくれよ」
思わず口を挟んでいた。
「確かに、競馬は日本ではギャンブルの対象っていうイメージが強い。けど、それ以前に純粋なスポーツなんだ。
君だって、陸上をテレビで見たり、応援だってした事あるだろ?」
「そりゃまあ……あるけどな」
面食らった様子でキョンが肯定した。あらかじめ録音されていたかのようにぼくの舌は滑らかに動いた。
「それと同じだよ。馬……特に走ってる馬は凄く綺麗で、知識が無くてもそれだけで楽しい物なんだ」
言った後でしまったと思った。見ると、ハルヒは見るからに得意気だ。
「ジョニィ、良く言った!キョンは考える事が俗っぽくて困るわ。
あたしも馬の美しさに魅了されて、見に行こうと思ったのよ」
どうにも白々しい。しかし、こう勢い付いてしまったハルヒはもう止められない。
「って事で決まりね!日曜日は駅前に集合!」
あぁ、決まってしまった。
「うわぁ楽しみ!あたし、馬は実際に見た事無いんですよ」
「そうですね。僕も小さい頃にポニーに乗ったくらいです」
気遣ってそうしているのか、自然な態度なのか、二人は肯定的な態度をとった。
そりゃあ、競馬観戦なら前回のようなピンチは無いだろうけど。
「でしょ!絶対面白いわよ。ところでジョニィ、アンタ詳しいのね。アメリカじゃ競馬はメジャーなの?」
ぼくは曖昧に頷いた。ハルヒはふーん、と良くわかっていなさそうな相槌を打つと、当日の予定を話し始めた。
良い反応を得られたのが嬉しかったのか、いつにも増してハイだ。
溜息をつきながらキョンが肩をつつく。
「やれやれ……また休日が潰れたぞ。それはそれとして、だ。
さっき、悪し様に言ったのは悪かったが、だからってあそこまでムキになる事じゃないだろ?」
そうか。キョンは知らないのか。ぼくが騎手だった事や「事故」の事も。
黙ったままのぼくを勘違いしたのか、キョンは苦笑しながら言った。
「……ああ、別に責めてるわけじゃないんだ。ハルヒにしちゃマシな提案だしな」
「……そうだね。長門、当日は制服着て来ないでくれよ?さすがに目立つからね」
笑顔を取り繕い、普段と同じような軽口を飛ばす。しかし、頭の中ではただ一つの事を考えていた。
さっきのキョンの問い。どうしてあんなにムキになったのか………?
「……ぼくにもわからないよ。そんなの」
明るい雰囲気の中にぼくの独り言は溶けていった。誰も聞く者はいなかっただろう。
運命が、加速を始めていた。
To Be Continued……
ジョニィ乙っす
たしかに、ジョニィの職業? は日本じゃそういう認識にならーなー
ジョニィはなんつーか歴代主人公の中でも一番精神的に複雑だよなーと思う。個人的にだけど
そのへんが見事に再現されてるあたりジョニィの方はキャラの捕らえ方うまいなーとおもいます。
現在アフターロックも八話を書いてます。
多分明日には投下できんじゃないかな。多分。
もし待っててくれる人がいたらぜひとも待っててください。スミレ編とは違った、濃厚なバトルを書けるんじゃないかと思います。多分だけど。
97 :
ジョニィの人:2009/08/10(月) 22:51:48 ID:???
というわけで投下終了です。
書くにあたって競馬についてちょっと調べたんですが、
19世紀後半のイギリスに12歳でデビューした天才騎手がいたそうです。
この話ではジョニィが高校生という設定になってるので、必然的に騎手時代の年齢も引き下げられるのですが、
案外それも無茶では無いのかなと思ったり。(極端な例とはいえ)
うちでもキョンたちの年齢引き下げてるし(つか、アニメと小説で差があるけど。ケータイの機能あたりからして)いーんじゃないでしょうか
つーか年代とか気にしてたらなんもできないしね。うん
アフター・ロックは五部の二年後、2003年(丁度憂鬱発売当時)の設定で、時代考証は現代2,009年っぽくやってます。どうでもいいけど。
ジョニィの人、乙ッ!!
この世界でのジョニィの過去が改めて気になってきたぜッ!!!
アフターロックの人!!ここにいる!!ここに待ってる人は「いる」よ!!
ジョニィ乙!
なんつーかジョニィのアナザーって感じで前から気になってます。正式に感想するのははじめてだけど
あなたの作品で、よりSBRが濃いものになってきます。本気で。
アフター・ロックも乙です。
これも正式に5.5部を名乗っていいんじゃないかとすら思う。
色んな意味で四部と五部に色づけがされてく。なんか嬉しい。
今日は投下できるよ!
本日、土曜日。『スタンド』事件が始まってから、二度目の不思議探索である。
もう二週間が経つってのか。早いものだとつくづく思う。
前半を何事も無く終え、後半。俺は古泉と朝比奈さんと共に、駅前のいつもの店とは別の喫茶店にて、適当に時間を潰していた。
ハルヒは現在、長門と美夕紀さんとともに行動中。尾行についている『機関』の人々の情報によれば、現在西宮のデパートにてお洋服選び中だそうだ。
思うに、俺たちもできるだけハルヒたちの近くにいたほうがいいんじゃないのか? と、思うんだが。
「ええ。ですが、少々お話しておきたい事もありましたので」
なにやら改まった様子で、古泉が、手に持ったカップをテーブルの上に置いた。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第8話『スパイダーが来る!』
「これはまだ、仮説の粋でしかありませんが……前回の、『スミレ』さんの一件と、これまでの例から、『犯人像』がすこし固まってきました」
いつものように、手振りを添えながら、古泉が話し始める。
「『犯人』て……えっと、つまり、『矢』を使っている人、ですか?」
「はい。問題は、彼が『矢』を使っている時期です。これまでに『矢』の被害にあった者たちの話から、彼らが『矢』に刺された日にちが分かりました。
最初に現れた、『パニック・ファンシー』の『宮森翔』は、露伴先生と涼宮さんたちを襲った『日曜日』の四日前、『水曜日』。
そして、その『日曜日』に、『キョン』……あなたが『矢』で射られています」
はい、マイネームイズキョン。イエス、アイアム。
「次に、『ザ・ブルーハーツ』の『藤田昌利』さん。彼はその翌週の『火曜日』。
同週の土曜日に現れた『ラッツ&スター』の『久保木みやび』君は、藤田さんが矢を受けた翌日の『水曜日』です。
そして、『ネオ・メロ・ドラマティック』の『榎本美夕紀』さん。彼女は、僕と『ミスタ』が久保木みやびと戦っていた『土曜日』に、『矢』に射られました。
……最後に、『スミレ』さんが刺されたのは、彼女の能力が発動した当日。『榎本さん』が攻撃を仕掛けてきた翌日、『水曜日』です。
お分かりですか。『矢の男』が行動しているのは、『火曜日から水曜日』、もしくは『土曜日から日曜日』に集中しているのです」
……まあ、確かにそうだな。
だが、単純に、日にちを置いて行動を起しているだけじゃないのか?
俺たちだって、何か決まったルーチンを組んで行動したりするだろ。水曜日は本棚の整理とか、木曜日に風呂掃除とか。
「もちろん、それも有り得ます。ですが、そこでもう一つポイントがあります。
『スミレ』さんの能力が発動した水曜日。『矢』の男は、正午前に彼女を矢で『刺して』います。
これは目撃例はありませんが、彼女の容態が悪化しだしたのが正午ごろからだということから推定します。
……ご存知の通り。矢を使っている男は『スタンド使い』です。
つまり、矢の男は『スミレ』さんの能力が発動した場合の標的に成り得る存在でした。
彼女の能力は、現時点で確認できているだけで、少なくともこの市内全体に及ぶものでした」
……つまり、自分が巻き込まれるかもしれなかったのに、何故スミレを刺したのか。って言いたいのか?
しかし、『矢』を刺したからって、そいつにどんな『スタンド』が生まれるかは分からんだろう。
それに、『スミレ』のスタンドは、結果として、午後七時には『解除』されてるんだ。
そんな時間から眠ってるやつも少ないだろ。
「ええ。ですが、『矢』がスミレさんを選んだ時点で、矢の男には想像ができたのではないかと思うのです。
もはや死の直前にいる、目覚めない少女が産み出す『スタンド』が、いったいどういうものか」
「でも……単に、『避難』していただけ、じゃあないんでしょうか?」
朝比奈さんが、おどおどと口を開く。そうだな、俺もそう思う。
『スミレ』のスタンドが、自分にとっても害をなすような能力だった。そう考えた時点で、俺なら、さすがにここまでは届かないだろ。ってところまで逃げるね。
「僕もそう思います。ですが、その部分は、これまでの『例』と照らし合わせて……
つまり、『矢の男』は、『水曜日の午後から金曜日』、『日曜日の午後から火曜日』に欠けて、この街を離れる人物であるのではないか?
それが、僕たちの見解です」
……それは、つまり。
「『矢の男』の『職業』が、多少特定できる。そう言いたいのか」
「ご理解が早くて助かります」
と、古泉は微笑んだ。
「たとえば。職場がこの市内にあるのなら、『オアシス』のスタンドを使い、休憩時間などを使って、矢を『射る』ことは可能だとおもわれます。
ですが、この『矢の男』はそれをしない。つまり、男の『職場』は、この街から遠く離れた場所にあるのではないか?
男は休みのたびに、この街へ帰ってきて、『矢』を使う。そして、休みが終われば、『職場』へ向かい、おそらく、数日は街を離れたまま」
『泊り込み』で、『休みが不定期』な仕事ってことか。
たしかに、その条件に当てはまる『職業』は少なそうだな。
「どんな職業が思い浮かびます?」
古泉に訊ねられ、俺と朝比奈さんは、しばし思考をめぐらせる。
まっさきに浮かんだのは――――」
「業界人」
「はい、まさにそれです」
古泉が指を鳴らす。
「飽くまでも仮説です。今後の『スタンド使い』の話と照らし合わせて、どうなるかは分かりません。
現段階で機関が立てている仮の犯人像は―――
『業界人』、それも、裏方でない。所謂、『芸能人』です。しかし、どのチャンネルにも顔を見せているようなスターではない。
『週に数日仕事をする』程度の『芸能人』。それこそが、『オアシスの男』……『オノ』の正体なのではないか?」
……暴論だが、一応筋は通ってるか。
「えっと、じゃあ、『オノ』から始まる芸能人の人を漁ればいいんでしょうか……?」
「いえ、さすがに、まだ憶測の粋ですから」
朝比奈さんの言葉に、古泉が首を横に振りながら、それを制する。
『芸能人』か。そういや、聞いた話じゃ――
「はい。『パッショーネ』から脱却した日本の麻薬売買組織は、表向きを『芸能プロダクション』としていました。
……その手のコネも、あったと思いますがね」
……『芸能人』の『オノ』か。
まあ、右も左も分からないよりは、真実に近づいた。そう考えて良いいんだろうか?
――――
……土曜日の午後。テストを一ヶ月以内に控えた校内に、生徒の姿は少ない。
『菅原正宗』は、電気のつけられていない廊下を、念のために足音を抑えながら歩いてゆく。
二階へと続く階段を上り、『二年生』の教室が立ち並ぶエリアへと歩いてゆく。
目指すは、『二年五組』だ。
錠が下りているはずの扉を開く『鍵』は、既に手の中にある。『教師』である菅原にとって、其れを手に入れるのは容易いことだった。
もしも誰に目撃されてもおかしくないように、体育用のジャージを身に纏ってもいる。完璧だ。あとは、『攻撃』を仕込む瞬間を見られなければいい。
まもなくして、『菅原』は二年五組へたどり着く。戸を開錠し、静かに開く。其処には当然、誰の姿も無い。
『ヤツら』は今、『市内不思議探索』の真っ最中のはずだ。邪魔が入るはずも無い。
ゆっくりと、『涼宮ハルヒ』と、その相方同然の存在である『キョン』と称される男子生徒の席へと近づく。
まずは、こっちからだ。『キョン』の椅子を『スタンド』で掴み、其処に『仕込む』―――
「おい、何してくれてんだ、『菅原先生』よ?」
……響き渡るその声に、菅原の手が止まる。
……たった今、菅原が錠を外した戸に、誰かがいる。
その低く、澄んだ声には、聞き覚えがある。しかし、その言葉は、菅原の持っている、その人物の印象とは程遠い―――
「マジで『たまたま』だぜ。お前がノッソノッソと、スットロく廊下を歩いてくのをよ。たまたま見かけたんだな、この『俺』が……
『生徒会長』ってのは仕事が多くてよ。休日でも学校に来なきゃなんねェ事情もあるんだなァ―――。運が悪かったな、ああ? 先生よォ。」
菅原は、ゆっくりとその人物を振り返る。
そこには……菅原の想像通りの人物が、彼の記憶とは異なる表情を浮かべて、立っていた。
この北高の、『生徒会長』を務める男子生徒。
そして―――菅原の属する、『機関』とのかかわりを持つ人物。
「『菅原』ァ――――テメェ、さては『矢』に刺されたな?
そうじゃなきゃよォ――!」
ガコン。という音と共に、『菅原のスタンド』の手の中にあったはずの『椅子』が、空中に浮かび上がる。
見ると……『菅原』とそのスタンドの目の前に、白い体に、無数のレールを走らせた……『会長』のスタンドが立っていた。
その手が、さっきまで菅原のスタンドがつかんでいた、『キョン』の椅子を掴み上げている。
「テメェが『こいつ』に何かする理由なんか、ねェもんなァ――――。おい、『菅原』。俺に『ブッ飛ばされ』たくなかったら、吐きな。
お前は『何をしようとした』? その『スタンド』で、涼宮の犬ッコロの『椅子』に、何の細工をしようとしたんだァ―――!?」
「……クックック」
菅原の喉から、自然と笑い声が漏れる。
「何だ、何が面白いんだよ、『菅原先生』?」
生徒会長が言う。菅原には、その『余裕』が、あまりにも可笑しい。
なぜなら。生徒会長は既に―――菅原の『スタンド』の術中に嵌っているのだ。
この『椅子』を、スタンドで『掴んだ』、その時点で―――!!
「クックック……『面白い』のはなぁ、『生徒会長』君、テメェの『言動』の全てだよォ――――!」
菅原が、そう叫ぶ。一瞬、会長は、菅原の『気が狂ったのか』と思う。
しかし、其れは違う。なぜなら。菅原は、『機関』に属する者なのだから。
しまった―――『ジェットコースター・ロマンス』で、この菅原が触れた『椅子』に『触れた』のは、軽率だった。
「お前はもう『嵌っている』んだ! 俺の『スパイダー(さわって・変わって)』の術中になァ―――!!」
そう叫ぶと同時に。
『菅原』は、その傍らにあった―――『キョン』の『机』を掴み上げ、それを『会長』に向かって『投げた』。
……やばい。『会長』は、瞬時にそう考えた、
『会長』の考える菅原のスタンドは、『触れた』物に、何らかの『付加効果』を付ける、と言うものだ、
この教室は、『物』で溢れかえっている。ありとあらゆる生徒の『椅子』や『机』が、そこらじゅうに散らばっている。
「『ジェットコースター・ロマンス』!!』
瞬時に、己の『スタンド』を自らの元へと引き戻し、自分の『体』を掴ませる。
そして、『床』にむけて、投げつけさせる。
同時に、『ジェットコースター・ロマンス』も、床をすり抜け、その足元に広がる世界へと『すり抜けて』ゆく。
「チッ……『逃げた』か。しかし、この学校は既に俺の『スタンド』の支配下にある……貴様はその『毒』に嵌っている!
一人きり、『逃げられる』かな……ええ? 『生徒会長』君よォ――――!」
無人となった教室で、青紫の『スタンド』を発動させたままで……菅原が吼えた。
――――
「……さすがの私だって、『ビビッた』ねぇ。急に天井から『降って』くるんだもん」
何故、お前がここにいるんだ。『会長』は、まず最初に、それを訊ねた。
「私もこれでも『機関』の協力者だからねェ――ッ! 万が一、『学校内』に『敵』が現れた場合の『警備』に付いていたんだなっ。
まあ、本音を言うと、『暇』だったから来たんだけどね? 『書道部』の活動もあるしさッ!
これから『部室』に向かおうと思ってたんだけど―――どうやら、そんな場合じゃなさそうだね?」
その通りだ。
「『菅原』だ。あの体育教師が、『矢』にやられたらしい。
奴は犬ヤローの椅子に『細工』をしやがった。そういう『スタンド』だ。
……おそらく。奴が仕組んだのは、『毒』だ。俺はその『椅子』を掴んじまった。『スタンド』でな」
「へぇ、つまり、君は『毒』に感染しちゃったってことかい?」
『鶴屋』は、現状にはそぐわないあっけらかんとした表情で、そう訊ねる。
「ああ、おそらくな。なんだ、妙に目の前がふらつく。それと、体が痺れている気もする。
あの野郎は、この毒を『キョン』に差し向けようとしていたんだ。
『菅原』は機関に所属する人間だ。俺らの『スタンド』の概要も、大概知っているんだろうよ。
『問題』の中心である『涼宮』、それと、スタンド感知能力を備えた『キョン』。二人を亡き者にしようとするのも納得できる」
なるほど。と行った具合に。
「そっかあ。内側から来るとはねぇッ。直接ハルにゃんを襲ったって、キョン君やいっちゃんたちにボコボコにやり返されるのは目に見えてる。
みんなが不思議探索に集中している隙に、『罠』を仕掛けようとしていたんだ!
うんうん、今回の敵さんは随分『頭がいい』ねェ――! ただしその分、『運』が足りなかったのかな?」
そう笑いながら、鶴屋は机の上に並べた筆記用具を鞄にしまい、それを机に掛け、立ち上がった。
同時に、彼女の『ファンク・ザ・ピーナッツ』が現れる。
「で、会長さんはどうするんだいっ? 『イケる』のかな? それともギブアップかい?」
「冗談じゃねえェ―――! 『やられ』たのに『やり返せ』ねー事は、俺のもっとも嫌いなことの一つだ!
ただしよォ、鶴屋。こりゃぁちっとばかり『面倒』な戦いになるぜ。
何しろこの学校中、どこにあのヤローの『毒』が潜んでるかわからねェーからな!」
――――
……『菅原』は、四階の階段の踊り場に居る。
『キョン』を始末するために、『罠』をしかけようとした、菅原の作戦は失敗した。
しかし、ここで『会長』を始末することができれば。
会長は既に、菅原の『スパイダー(さわって・変わって)』の『毒』の仕込まれた『椅子』に触っている。
毒は徐々に体を蝕んでいるはずだ。あの椅子には、『スパイダー』の毒の『ありったけ』を仕込んであった。
もう三十分もすれば、やつは立っていることもできなくなるだろう。それを待てばいい。
それに、予防策として、今、この学校中の『階段』には毒が『仕込んで』ある。
会長が菅原を探して、校内を駆け回れば駆け回るほど、『毒』はより体の中へと入り込んでゆく。
一度でも、距離を置いた。その時点で、勝機は菅原にある。
しかし、その安心が故に。菅原は、自分に忍び寄るその『スタンド』の姿に、気がつくことができなかった。
「『見ツケマシタ』ワァ……」
不意に、頭上から声が降り注ぎ、菅原はその方角を見上げた。
そこに人の姿はない。そのかわりに、体長50cmほどの、赤い服を着た生き物が浮かんでいた。
其れが『スタンド』だということを認識するのに、そう時間は掛からなかった。
これは『会長』のスタンドか? いや、違う。だとしたら、まさか。
『鶴屋』だ。今日、不思議探索がらみにスケジュールを取られていないのは、『会長』のほかには『鶴屋』しかいない。
鶴屋のスタンド能力は―――『引き寄せる』!
「こいつに触れたらやべぇぞ……ちくしょう、『最悪』だ! 俺はどこまでツイてねェんだァァァ!?」
撒くしかない。そして、どこか別の場所に『隠れる』んだ。
もしも『会長』が追ってきたときのことを考え、毒の込められた『階段』に居たのがまずかった。
菅原はあわてて階段を駆け下り、三階の廊下に出る。どうする、下階には、『会長』や『鶴屋』が居る可能性がある。
鉢合わせたら、なんとか圧し勝てるだろうか? スタンドが強力な『会長』には毒が効いているはずだが、鶴屋が感染したかどうかはわからない。
まして、二人がかりなどということになれば、菅原のスタンドが勝利できる可能性は低い。
三階だ。三階の何処かに隠れろ。あの『スタンド』をなんとかして撒き、毒がより回るのを待つんだ。
階段を降り切り、三階の廊下へと飛び出した瞬間。
――菅原の目の前の床から、二人の人物が『飛び出して』来た。
会長と、鶴屋だ。
「惜しかったねェ―ッ! 『ファン・ピーちゃん』たちは、離れててもお話できるんだなぁッ!
先生がどこに居るのか、見つけてくれただけで十分さっ」
「おいテメェ――。『廊下』は『走るんじゃね』――ってよォ、小学校で習わなかったかよ?」
「『スリヌケル』ノハ 『オー・ケー』ナノデスワ」
二人の人間と、二体のスタンド。そこに、先ほどの小さなスタンドが合流し、菅原の前に立ちはだかる。
「さて、菅原よォ――テメェのこの毒とやらで、俺が動けなくなる前に、お前を『ブッ飛ばさ』なきゃなァ―――!!」
……絶望的だ。会長の毒は、思っていたよりも効いていない。鶴屋のほうは、感染すらしていないようだ。
この二人とまともに戦って勝てるほど、菅原の『スパイダー』は強力ではない。
触れたものに毒を纏わせる以外には、単純に殴ることぐらいしか―――
―――一瞬。菅原の脳天で、小さな爆発があった。
そうだ。『触れたものに毒を仕込む』、それがスパイダーの能力なら―――
「行け、『ジェットコースタ―――・ロマンスゥ』ッ!!」
「畜生ォォォォ! 『スパイダー』!! 『掴め』ェ―――ッ!!」
眼前に迫る白い巨人に向かって、青紫の『スパイダー』の腕が突き出される。
「ッ!?」
『スパイダー』の腕が、『ジェットコースター・ロマンス』の突き出した拳を握り締めた。
其れと同時に、もう一方の手で、浮遊している『ファンク・ザ・ピーナッツ1号』を『捕らえる』。
「あっ!?」
「スパイダー!! こいつらに『毒をぶち込めェ―――』!!!」
「何ぃ―――ッ!?」
菅原が吼えると同時に。『スパイダー』の両腕が、それぞれ掴んだ『スタンド』の中に、直接『毒』を流し込む。
「うおおおおおおっ……馬鹿……ウソ……だろ……」
「くゥゥゥっ―――立ってられないよォ――ッ!!」
……最高だ。
菅原正宗は、『最高にツイていた』!
『毒』を相手に直接『仕込む』。これまで、こんなことを試したことはなかった。しかし、それをたった今、『思いついた』!
目の前に、二人の人物が、力なく倒れこんでいる。
「『最高』だ! 『会長』も『鶴屋』も倒した!
この『毒』は、俺がスタンドを解除しないかぎりこいつらの体に残り続ける!
『死に至る』のも時間の問題だ―――勝った! アフター・ロック初、味方の『敗北』ッ!」
あとは。もう一度キョンの私物に毒を―――
そう考えて、初めて気づく。
「これは―――毒が『尽きている』ッ!?
そうか、こいつらに毒を費やしちまったってのか―――これじゃ、『罠』が仕掛けられねェ!」
まずい。毒の回復には、まだ時間が掛かりそうだ。この週末中に『罠』を仕込むのは難しいか―――
しかし、とにかく、何であろうと菅原は『勝利』した! まさかこの期に及んで敵など―――
prrr prrr prrr
不意に。意識があるのは菅原のみとなった廊下に、電子音が鳴り響く。
音は、倒れる『会長』のポケットの中から聞こえるようだ。
……会長は完全に意識を失っている。それでもできるだけ注意しつつ、会長のポケットから『携帯電話』を取り出した。
モニタに、『古泉一樹』の文字が映し出されている。
「へっ、ヘヘッ、何だ、驚かせやがって―――まァいい、とにかくこいつらは俺が『倒した』!
『最高』の気分だぜェ―――今すぐこの感動を誰かに伝えてェ―――くらいになっ!」
電子音はまもなく、不通状態にあるとわかったのか、鳴り響くのをやめた。
会長の体の上に、その携帯電話を放り投げる―――
……その瞬間。
『会長』の身体の隣に……そいつは、『現れた』。
「……はぇ? 菅原先生……? きゃああっ、『会長』さんっ!?
な、なんですか、これっ!? 何がどうなってるんですかぁ―――ッ!?」
……未来人スタンド使い、朝比奈みくる。
何故―――何故!
「何故『お前』がここに『居る』んだよォ―――――ッ!!?」
菅原は思い出そうとした。『朝比奈みくる』のスタンドは、何だ?
スタンド名『メリミー』。それだけは聞いているが、その『能力』はァ―――!!
「あああああァァァァ!! そうだっ、『ワープ』だ! 『顔を知っている人間』の『左隣』に『ワープ』!!
馬鹿なァァァァ! もう『毒』はねェんだぞォ――――!!?」
「菅原先生、あなたはもしかして、矢に―――!!」
「うおォォ! 畜生、俺は『最高』なんだァァァ!!
女一人ぐらい、『毒』が無かろうとォ―――!!」
「きゃああ―――っ!? 『メリミ――――』!!!」
現れた『スタンド』は、シルクのような衣装を身に纏い、頭部に無数の薔薇の花が咲いている。
体躯も小さく、線も細い。勝てる。『勝てる』ぞ! 菅原のスタンドが、そのスタンドに飛び掛る。
「『スパイダ―――』!! 殴り殺せぇー!!」
剛毅なる肉体を持つ『スパイダー』の、その、突き出された拳を。
『メリミー』の右腕が、受け止めた。
その瞬間、蹴り上げられた『足』が、『スパイダー』の体を薙ぎ払う。
「んぐぁっ……なっ――――何で……なんでテメェが『強い』んだァァァァ!! 『朝比奈みくる』ゥゥゥゥ――――!!」
「め、『メリミ―――』!!」
「MMMMAAAARRRRRRRRYYYYYY!!!!」
すかさず、菅原の体を『メリミー』が掬い上げ、『ラッシュ』が始まる。
二本の細い腕が、菅原の全身を余すところ無く殴りつけ―――
「MEEEEEEEEE!!!」
最後に、『窓ガラス』に向けて、渾身の『蹴り飛ばし』が決まるッ―――ッ!
「俺は『最高』なんだァァァァァァァ―――!!!」
……残されたのは、朝比奈一人だった。
そして、会長と鶴屋の身体。
「ふ、二人とも、大丈夫ですかぁ―――ッ!?」
あわてて駆け寄り、『脈』を見る。よかった、死んでしまっては居ない。見たところ、『外傷』も見当たらない。
朝比奈には知る由も無いが、このとき既に、外界へと放り出された『菅原正宗』の意識はフッ飛んでいた。
スタンドによる『毒』は解除されている。二人は無事だ。
「……びっくりしたぁ」
古泉の仮定の話を、『会長』にも聞かせておくべきだと、開き時間を使って『学校』にやってきただけだと言うのに。
見当たらぬ会長を探すため、『ワープ』をしたら、突然目の前に『敵』と来たものだ。
prrrr
と、不意に、朝比奈の携帯が鳴る。
液晶に表示されているのは、『古泉くん』の文字。
「朝比奈さん? 『会長』は見つかりましたか?」
「あ、はい……えっと、なんていうか……やっつけちゃいました、先生を」
「……はい?」
本体名 − 菅原正宗
スタンド名 − スパイダー(さわって・変わって) 再起不能
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「スパイダー(さわって・変わって)」
本体 − 菅原正宗(26歳)
破壊力 − B スピード − A 射程距離 − E
持続力 − A 精密動作性 − C 成長性 − B
能力 − スタンドが触れたものの全体、もしくは一部に『毒』を仕込む。
毒を仕込まれたものに他人が触れると、感染し、時間と共に毒に侵されて行く。
毒を込める範囲などは本体の自由だが、広範囲に一度に毒を込めようとすれば、それだけ毒の効果は薄くなる。
また、小さな範囲に集中させれば、それだけ強い毒になる。
毒は本体の任意で、いつでも解除・回収が可能。
毒は神経毒に酷似したもので、効果が弱ければ体が痺れる・意識がふらつく程度、重ければ死に至る場合もある。
また、触った相手に直接毒を送り込む事も可能だが、これによって放った毒は回収できない。毒の補充には数日を要する。
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「メリミー」
本体 − 朝比奈みくる(?歳)
破壊力 − A スピード − A 射程距離 − D(能力射程はB)
持続力 − B 精密動作性 − D 成長性 − B
能力 − 自分の周囲(半径200mほど)に存在している、自分が顔を知っている人間の左隣にワープする。
また、ワープ後、相手とのその距離を一定に保ったまま『ついていく』ことができる。
離れた位置に居る味方の傍にワープし『逃げる』、また、逆に、逃げていく敵の傍にワープし『追う』事が可能。
本体と同時に、スタンドの両手が触れた『人物』や『物』をワープさせる事も可能。つまり、本体を含めて、合計3人まで。
戦闘面では一転してパワー型。みくるの危機に反応して勝手に戦う、半自律行動型。っていうか、みくるが制御しきれてない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
おわりです
そろそろちょっとは話を動かさないと……
乙んこ。話は徐々に動けばいいと思うよ。
俺用アフターロックの人の趣味リスト。
・ORANGE RANGE
・kinki kids
・DREAMS COME TRUE
・RAG FAIR
・ラッツ&スター
・ポルノグラフィティ
・スピッツ
あれ、何この俺と友達になれそう感?
乙、乙ゥ!
アフターロックの矢に刺されたやつは、四部みたいに吉良の父親に言い聞かされてるんじゃなくて、洗脳されてるのか?
だとしたら過去最強の矢だな……
朝比奈さんのお手柄で難を逃れた土曜日。その翌日の日曜日の午後、俺がコンビニ帰りの道をふらふらと歩いていると。
「やあ、どうも」
突然、俺の傍に近寄ってきた黒塗りの車の窓から、聞き慣れた声と見慣れた顔が現れた。
「すみませんが、今から少しばかり、付き合ってもらえませんか?
『オノ』に関する新たなデータが、手に入ったかもしれません」
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第9話『西宮市のどこかでハーモニカが奏でられる』
古泉の車が向かった先は、どこにでもある、普通のマンションだった。
そこは古泉曰く、機関の寮であるらしい。ようするに、古泉の自宅という事か。
ドアを開けて招き入れられた先も、特に目立つところのない、普通のマンションだった。
居間と思わしき部屋に、数人の見知った顔が屯している。
森さん、榎本先輩、生徒会長、ミスタ、フーゴ。
「うーん……ほんとに覚えてないんだけどなァ――」
ソファに腰をかけ、難しく顔を歪めているのは、榎本先輩だ。
「大事なことだから、よく思い出してよ」
「うーん、『機関』のほかの人にも、何度も説明したんだけどォ。あの日は『軽音部』の活動が終わってから、家に帰って……
途中で寄り道をしたんです。駅で降りたあと、駅前の本屋に。
それで、帰る途中に突然矢に刺されて……別に、その他には何もなかったんだけどなァ――」
「どうも、遅くなってすみません。持ってきましたよ、その本屋の『防犯カメラ』の映像を」
そう言う古泉の手の中に、もはや珍しいアイテムとなった、VHSテープの姿がある。
再生媒体はあるんだろうか。まあ、あるから持ってきたんだろうな。
なにやら事情はわかったような、わからないような。とにかく、古泉がビデオデッキに向かって格闘すること数分。
これまた今となっては珍しいブラウン管型のテレビ画面に、防犯カメラの映像が映し出された。
場所は俺の見知らぬ本屋らしき店内。
防犯カメラにこんな時代遅れの機材を使っているだけあって、あまり時代の波に乗れている本屋ではない。古びた本屋だ。
「あ、ここですね。これ、榎本さんですよね?」
「うん、間違いない。あたし、たしかスコアを買うためにこの店に来て……普通に帰ったと思うんだけど」
古泉が、遠目の後姿を指差しながら問いかけ、榎本さんがそれに反応する。
彼女の言うとおり、榎本さんは、防犯カメラからは遠い一部のコーナーに向かい、しばらく何やらを考えるように、静止している。
と、もう一人、見知らぬ男が、店内に入ってくる。
「この人です。僕らが『怪しんで』いるのは」
その人物は……カメラの映像は遠すぎて、どんな顔をしているかまでは判別出来ない。
髪の毛を茶に染めた、どこにでもいそうな、20代くらいの男だった。
男はまっすぐに、『榎本さん』の近くのコーナーに向かっていき……
そこで、しばらく本を探すような仕草をした後で、なにやら榎本さんに『話しかけた』。
「うそ……あたし、こんな覚えないのに」
画面を見る榎本さんが、わからないと言った様に困惑の表情を浮かべる。
男は、榎本さんと、しばらくなにやら会話をしたあと、店から出て行った。
終始防犯カメラからは遠いままで、やはり顔は判別できない。
榎本さんは、その男の後姿を追った後、本棚から一冊の薄いファイルのようなものを抜き出し、レジへと向かった。
会計を済ませた榎本さんが、店外へと出てゆく。
「映像はこれで終わりです。確かに、男と榎本さんは『会話』をしているように思えるのですが……
榎本さんは、それを『記憶』していない。そうなんですね?」
「うん、間違いないよ。あの日は間違いなく、スコアを買って、まっすぐ家に帰ったもん。
でも、だったらなんで、あの人と『会話』してる『証拠』が残ってるんだろう……」
「つまりよォ―、榎本。お前、あの男に『記憶』をイジられたって事なんじゃねェかァ―――?」
「ひッ」
けだるそうに床に胡坐をかいていた『会長』がそう言うと、一瞬、榎本さんが身をすくませた。
まあ、四階からプールまで放り投げられれば、トラウマにもなるよな。
「十中八九、この『男』が『矢のオノ』だと考えていいわね。
奴は彼女と『会話』をした後、なんだか口車に乗せて連れ出し、そこで『矢』で刺した。
そして、彼女の『記憶』を操作した―――おそらく、『スタンド』でね」
「たしかに、そう考えるのが妥当でしょうね、今の映像を見る限り。しかし―――」
「そいつの『スタンド』は、『オアシス』のはずなんだよォ―――」
フーゴの言葉を、ミスタが引き継ぐ。
「俺はよォー。あの野郎が『オアシス』のスタンドを使ってやがるのを、確かに見たんだよ。
『オアシス』には、人の記憶をどうこうするような『能力』はなかったはずだぜ。間違いなくなァ」
つまり。
「『矢』を使っているのは、『一人』じゃない、って事か?」
「そう考えたくなります。ですが、機関の考えは、それとは少々異なります」
俺の質問を、古泉が否定する。
「敵が複数いる。その可能性も確かに考えました。
しかし、『敵』からの攻撃が、『矢』によって産み出された『スタンド使い』に限定されていることなどから
『オノ』に味方が居るとは考えにくいんです」
そこで言葉を区切った後、すこし覚悟するように振る舞いを改め、古泉が話し出す。
「まず。榎本さんよりも以前に矢に射られてきた人々……『宮森翔』、『藤田昌利』、『久保木みやび』の三人です。
彼らは『オアシス』と思われる、茶色いスーツの男に『矢』を射られた瞬間を『覚えて』います。
そして、それ以降に矢に刺された人物。『榎本さん』と、『観音崎スミレ』と、『菅原正宗』です。
彼らは『矢』に『刺された』ということ以外、その『矢』を誰から受けたのかなどといった部分を記憶していません。
眠り続けていた『スミレ』さんは別ですが……それと、もう一点。
『オアシス』を目撃していない榎杜さんと菅原先生は、二人とも、『矢』に射られたのでなく、『刺された』と供述しています。
そうですよね、榎本さん?」
「あ、うん。あたしは確か、いきなり肩にブスッと……
「『久保木』と『榎本』を境目に、『手口』が変わっている。そう言いたいんですね?」
長い説明に痺れを切らしたように、フーゴが言う。
「はい、その通りです。確かに、矢を使っている人物が変わったとも考えられます。
ですが、まず。『オノ』が、死んだ『セッコ』のスタンドであるはずの『オアシス』を使っている、その点からして……
『オノ』のスタンド。それは、『過去に存在したスタンド』を『再現する』能力なのではないか?」
「…………何だそりゃァ―――!?」
ご近所迷惑ないこの絶叫は、ミスタのものだ。
「あくまで憶測です。しかし、事実として、死んだはずの『オアシス』が確認されている以上、そう考えるのが妥当ではないかと思うんです」
「じゃァ、何だよォ!? 『ブチャラティ』のスタンドも、『ナランチャ』のスタンドも……
どころか、あの『ディアボロ』のスタンドすら使える奴ってことかよォ―!?」
そいつらが何者か知らんが……敵の能力が古泉の言うとおりなら、そういうことなんだろう。
なるほど。『オノ』は久保木みやびを矢で射た後、『オアシス』を使うことを止めた。
そして、別の……『記憶』に干渉するようなスタンドに『乗り換えた』ー――。
「……とにかく。手がかりは、このテープに残っている、男の姿だけです。
わかることといえば、男性であることと、身長、大まかな体格……ぐらいでしょうか」
巻き戻され、再び同じ場面を再生しているテレビ画面を見ながら、古泉が言う。
「もし、それならよ」
口を開いたのは、不良生徒会長氏だ。
「その『オノ』が『涼宮』を『殺そうと』している事も―――繋がるよなァ」
――――
……喜緑江美里は、目の前に立ち並ぶ、無数の本を見つめていた。
長門有希が酷く気に入っているという、静かな空間。喜緑は今、図書館に居る。
「本は好きかい?」
背後から声をかけられ、振り返ると、そこには、見覚えのない男が立っている。
日曜日の夕方。閉館間近の図書館には、さきほどまで、喜緑以外に、利用者は居ないはずだった。
男は喜緑が気づかないうちに、館内に居て、喜緑の背後にやってきていた。
「はい、本を読むと落ち着きます」
喜緑がそう返答すると、男は造りのよい顔に微笑を浮かべた。
「僕と同じだよ。僕も、本を見ていると『心』が安らぐと思う。
本はいつだって嘘をつかない。本に裏切られることは決してない。
ひどく優しいものだと思う。
ところで、君は嘘をつくかい?」
初対面だというのに、男は奇妙なほどに友好的に、喜緑に話しかけてくる。
喜緑は、すこし記憶を辿った後
「はい、私は嘘をつきます。私は、あるお知り合いに、とても大きな『嘘』をつき続けています」
喜緑の脳裏に浮かぶのは、黄色いカチューシャをつけた、観測対象の姿だ。
「うん、そうだろうね。でも、それを気にすることはないよ。
僕らは『人間』だ。嘘をつかない人間なんて、多分世界のどこにもいない」
人間。喜緑の心に、その言葉が引っかかる。
彼女は、厳密には人間ではない。しかし、人間にとても似せて創られた。感情もあるし、物を思うこともある。
朝倉涼子や長門有希のように、情報操作などの能力を持たない分、喜緑は限りなく、人間と変わらない『生き物』だ。
精神の構造も、おそらく、『人間』とされる人々と、なんら変わらないだろう。
「僕も嘘はつく。かなり多くつくほうだよ。
最近じゃ、一昨日、仕事場で仕事仲間に嘘をついたな。
借りてるDVDのことで、問題なくもうすぐ返せるよ。と言ったんだけど、実は嘘なんだ。
一枚割っちまってね、その分は、こっそり、僕が買って埋め合わせる予定なんだ」
「なんだか、子どもみたいですね」
男は、喜緑の言葉を聴くと、少し面食らったような表情を浮かべ
「あっはっは、言われてみればそうかな。
今の職場が、みんなしてアニメやゲームが好きな連中が集うような職場でね。
今の仕事を始めてから、随分子どもっぽい趣味になったかもしれない」
「あなたは、どんなお仕事をしていらっしゃるんですか?」
喜緑がたずねると、男は少し考えるように空中を見回した。
その後で、少し喜緑のほうへと顔を近づけて……
「内緒だけれどね? 僕は、『声優』をやっているんだ」
「まあ」
喜緑は、素直に驚いた。声優という職業に、特別興味が深いわけではない。
しかし、それが、どちらかといえば『珍しい』職業であることは知っている。
そして、俗称される『有名人』にカテゴライズされる、ということも。
「いや、大して有名なわけじゃないけどね。知り合いの伝で、2、3年前から、チョイ役を貰っているんだ。
それでも、それなりに食べてはいける暮らしは出来てるからありがたいんだけれど。
君、そういう方面は詳しいかい?」
「はい」
これは嘘ではない。喜緑は、大体の文学方面の物事には精通しているといって良いだろう。
目の前に立ち並ぶ本の山も、大体のものには目を通したことがある。
何しろ。喜緑は、日付にして去年の夏。実に、『594年』に相当する『余暇』を経験しているのだから。
その膨大な余暇を過ごす上で、目に付く娯楽には大体手を出してしまった。
度重なるエラーで、『喜緑江美里』の肉体や、精神に支障を来すような『娯楽』に手を出した経験もあるという。
しかし、そういった記憶は、『情報操作』によって取り除かれている。
「お名前は教えていただけませんか?」
「僕の、芸名かい?」
「ええ」
もしかしたら、喜緑も知っている名前かもしれない。
男は少し迷った後……
「うん、いいよ。僕は―――『小野大輔』というんだ。聞いたことあるかな?」
小野大輔。その名前は、喜緑の記憶の限りには、存在しない。
「すみません」
「いや、いいんだよ。知ってるほうが少ないと思うから。
ところで、ちょっと話は変わるけど―――話しかけた張本人の僕がこんなことを言うのも変だけど。
君は、いきなり見知らぬ男に話しかけているのに、随分と僕を受け入れてくれるんだね?
いや、もしかしたら、実はとても警戒しているのかな?」
男の言葉に、喜緑は少し考える。
言われてみれば、突然、図書館で、見知らぬ男性に話しかけられる。という状況は、もう少し警戒するべきかもしれない。
これも594年の弊害だろうか。時々、喜緑は、恋人である『会長』に、『妙に悟っている』などと称されることがある。
594年も生きれば、やはりどこか、生粋の人間たちとは違った何かが身についてしまうのかもしれない。
「……いえ、警戒をしているわけじゃありません」
男の問いかけに、喜緑は弁解をする。
それをしつつ、喜緑は不思議に思う。この『小野』という男は、喜緑にとって、不思議なほど『不快さ』を感じない男だった。
会長とはまったくタイプは違うが、多分、小野が喜緑の『恋人』であっても、喜緑は困らないと思う。
まるで、喜緑の内面を読み取り、それに不快な気持ちを与えないように『あわせて』くれているかのようだった。
喜緑は、それをそのまま小野に伝えた。
「なんというか、あなたは、まるで私のことを、すべて知っているみたいなんです。
私が奇妙に思うことがないように、私にあわせてくれているかのように感じます。
それは、私の思い上がりでしょうか?」
喜緑がそう言うと、男はすこし黙った後で。
「いや、それは勘違いじゃない。
僕はね。実は……『超能力者』なんだ」
と、言った。
超能力者。その言葉を聞いて、喜緑の脳裏に、何度か目にした、あの微笑を絶やさない青年の顔が浮かび上がる。
そういえば。この『小野』は、どこか、あの『古泉』という少年に通じる雰囲気がある。
「超能力、ですか?」
「と、言っても、誰にでも発揮できる能力じゃあないんだ。
僕と『波長』があう人というのが居てね。そういう人たちを見ると、その人がどんな気持ちなのかとかが、なんとなくわかるんだ。
君は、多分、僕と『波長』が合うんだと思う。君を見たとき、思ったんだよ。
『この人は、僕に話しかけられたがっている』んじゃないかな? って。 ……なんて、傲慢な話だけどね」
「いえ、そんなことはないです」
喜緑は、男の言葉を否定する。
男の言うことは、正しいように思えたからだ。
男の言葉があって、喜緑は確信した。喜緑は、この『小野』に話しかけられたことを、とても『喜んで』いるのだ。
不意に。館内に、『ほたるのひかり』が響き渡る。
閉館時間だ。
「おっと、ごめん。本を探させる時間を割かせちゃったかな?」
小野はそう言うが、喜緑は、もはやこの館内に、読んでいない本などは存在しない。
ただ、なんとなく、去年の名残で訪れただけだ。
「いいえ、そんなことはありません。私は、貴方とお話できて、嬉しく思います。
もっとお話をしたいと思うくらいです」
「本当かい? 実はね、僕も、君の事をもっと知りたいと思っていたんだ。
もしよかったら、もう少しだけ、僕と話をしてくれないかい?
この図書館はもう閉まってしまうから、どこか別の場所で」
喜緑は思う。
ああ、このことを『会長』が知ったら、きっと怒るだろうな。
でも―――何故だろう。今は『いい』。
「はい、私も、あなたともっとお話がしたいです」
喜緑はそう言った。
――――
「さっき僕が言ったこと、信じてくれるかな?」
小野と喜緑は、人気のない歩道を歩いている。
不意に、先を歩く小野が喜緑を振り返り、そうたずねた。
「僕が、君が『僕に話しかけられたがっている』ということがわかる、超能力を持っている、って言う話」
「いえ、疑いません。貴方は、本当に私のことを『見抜いて』いるなと、思います」
嘘はつかなかった。喜緑は、本当に、男がそういう『能力』を持っているのだと思っている。
『未来人』や『超能力者』や、ましてや『神』やら、しまいには、自分が其れに属する『宇宙人』などが存在するこの世界だ。
人の気持ちくらいを見抜ける人物が居てもおかしくない。喜緑は、本気でそう思っていた。
「よかった。じゃあ、君の『気持ち』について、少し話してもいいかな?」
小野が言う。
「はい。もしよかったら、お聞かせ願えますか?」
「じゃあ、失礼だけど……君は、何かにとても『飽きて』しまっていないかな?」
小野の言葉を、脳内で何度か繰り返しながら、喜緑は考える。
『飽きている』。その言葉は、まさに、喜緑の精神状態を表している。
あの長い夏休みで、娯楽という娯楽は遊びつくしてしまった。
観測対象には大きな動きはなく、本来の『監視対象』である長門有希も、以前のような『エラー』を見せる気配はない。
ただ、漠然と過ぎてゆく日々。きっと、今年度が終わり、『卒業』をしても、『長門有希の監視』は続くだろう。
「はい、その通りです。私は、とても『飽きて』います」
「よかった、外れていたらどうしようかと思っていたんだ」
小野は笑う。
「もし、僕が君を『救える』と言ったら……君は、信じてくれるかな?」
続いて、男はそう言った。
救う。この、終わりのない『監視』から? 喜緑を『救ってくれる』と、この男は言っているんだろうか?
「信じます」
言葉は、喜緑が意識するよりも早く、口から飛び出した。
「私を、救ってくれるんですか?」
「君がそう願うなら」
小野は、笑った。
「これは、僕からの『プレゼント』なんだ。この『世界』を、『現状』を嫌う君への……
よかったら、『手』を出してくれるかな?」
言われるがままに、喜緑の左手が、小野に差し出される。
小野はその手を右手で取ると、ショルダーバッグの中から、『矢』を取り出した。
「大丈夫。怖がらないで」
小野が言う。喜緑は、其れを信じる。
喜緑はもう、男のことを信じきっている。
「ごめんね、少しだけ痛いけれど」
男の言葉に、喜緑は少しだけ、身構える。
……左手に、僅かな『痛み』を感じる。
「……これでいい。僕のプレゼントは、君に渡ったよ」
小野が、微笑みながら、矢をしまい、ポケットから何かを取り出す。
小さな長方形のもの。喜緑は、それが何だか知っている。
ハーモニカだ。
「君の名前を聞いても良いかな?」
小野が言う。そうだ。喜緑は、男に名前を伝えていない。
「きみどり、えみり」
声が、奇妙なほどに震えていた。
何故だろう。喜緑は、奇妙なほどの『恐れ』を感じている。
小野に対してではない。何だろう。この、体の奥から湧き出してくる『何か』は。
「喜緑さん、聞いてくれるかな?」
小野は、ハーモニカを口に宛がい―――聞き覚えのない『メロディ』を奏でた。
――――『ストレンジ・リレイション――――』
……喜緑は、動かない。もう、『メロディ』に冒されているのだ。
「喜緑さん、聞こえるかな?」
「はい」
空ろな瞳へと変わった、喜緑の目に騙りかける。喜緑は、空中を見つめたまま、返事をする。
「君は、僕に出会ってからのことを、全て忘れてしまう。そうだね?」
「はい、そうです」
「よろしい」
「いいかな? これはね。僕からの、プレゼントなんだ。
本当に、濁りのない……ただの、僕から君への『プレゼント』。
きみは、その『スタンド』で、君が望むように動けばいいんだ。
喜緑さん。僕のいうことが、わかるかい?」
「はい」
小野は、微笑む。笑う。
「おめでとう、喜緑さん。君は『救われた』よ。
さあ、『小野大輔』なんて人間が、君に話しかけたことは、忘れてしまおう。
……君はここから、自分の家に向かって歩き始める。
僕がこの場を去ってから、すこしだけ時間が経ってから。
それでいいね?」
「はい」
小野は、笑う。
「さようなら、喜緑さん。『幸せ』になってくれ」
「はい―――――」
――――
東京へ向かう新幹線の中で。『小野大輔』は、笑っている。
―――あの少女は、『スタンド』を手に入れる権利があった。
―――僕は、その『鍵』を開けただけだ。
小野は、喜緑の幸せを願っていた。
彼女を待ち受ける、『運命』のことなど知らずに。
「さようなら―――『喜緑江美里』さん」
to be contiuend↓
喜緑設定捏造
我如何終焉描写悩惑
頑張
乙です!
一体何者なのか『オノ!』
と思ってたらまさかのwwww
古泉の中の人www
これは間違いなくシャブすた
月曜日。団活が終わり、帰宅した長門は、室内に、何か異質な空気が漂っていることを感じた。
「……」
うまく説明ができない。それは、明確に『何であるか』を認識出来ないような、漠然とした『何か』だった。
瞬時に解析を行う。気温。問題なし。気圧。これも問題はない。異質な空気振動が起きているということもない。
……室内に、長門ではない、有機生命体の反応が、一つだけ確認できた。
『人間』の反応だ。
「お帰りなさい、長門さん」
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第10話『喜緑江美里は幸せになりたい − プラス・ミリオン・バット・マイナス・ラブ』
「『喜緑江美里』。何故、あなたががここに」
ちゃぶ台の横に正座している喜緑に、長門が、フローリングの上に立ったまま、そう訊ねる。
「遊びに来ちゃったんです、とっても退屈だったから」
長門は、喜緑その表情を見て―――去年の、繰り返しのことを思い出す。
喜緑と長門は共に、594年にわたる『夏』を生きた経験を持っている。
喜緑はその年月の間に、幾度となく『エラー』に見舞われていた。
今、長門の目の前にいる喜緑から、どことなく、そんな『エラー』を起した時の彼女に通じるものを感じる。
もしや。また。『エラー』が発生しているのか。喜緑江美里に。
しかし、彼女の精神は、既に、情報統合思念体によって、『制御』されているはずだ。
「……長門さん、一緒に遊びませんか?」
不意に、喜緑が立ち上がる。
長門は、喜緑江美里の解析を行う。
しかし、別段、普段の彼女と異なる要素は確認出来ない。
「喜緑江美里、あなたに何があったのか、説明を求める」
「わかっちゃいますか? 今、私、とっても幸せな気分なんです」
喜緑は微笑み続けている。おかしい。やはり、彼女は長門の知る喜緑江美里ではない。
何かが起きている。長門や、情報統合思念体には感知出来ない何かが、喜緑の中に発生しているのだ。
「長門さん。私は、救ってもらえたんですよ。もう、『自由』なんです」
もう一度。解析を行う。パーソナルネーム喜緑江美里。身体年齢17歳。身体能力、人並み。許可されている情報操作は、思念体との『通信』のみ。
やはり―――『かわらない』。エラーは検出されない。
……違う!
「アクセス―――不可能」
喜緑江美里に、それ以上アクセスが出来ない。情報統合思念体の力を持ってしても。
ああ。これはエラーではない……『ウィルス』だ!
「長門さん」
喜緑が、僅かに首をかしげながら、その名前を呼ぶ。
其れと同時に。長門の体が、空中に浮かび上がった。
「っ……」
何かが、長門の首を締め上げている。しかし、その何かが、長門には『見えない』。
これは―――!
「私の『スタンド』……見えませんよね? 長門さんには」
「スタ…ンド…」
長門には決して発生することのなかった、その異次元の能力。
しかし。長門にはない人間らしさを持ち、かつ、『情報統合思念体』の概念から遠ざけて作られた、彼女なら……
「『スタンド』は、別の『概念』に属する『宇宙』の産物……私は、その『スタンド』に『救われた』。
私を束縛し続ける、終わりのない役目から……『喜緑江美里』を、救ってくれた」
空中に持ち上げられた長門を、喜緑は、微笑を絶やさぬままに見上げ、喋る。
「とっても素敵な『能力』なんですよ。私のスタンドは……長門さん。あなたにも、分けてあげようと思って。
びっくりしないでくださいね? じゃ、行きますよ―――『プラス・ミリオン・バット・マイナス・ラブ』」
喜緑が、その名前を口にすると同時に。
「…………――!」
長門の体中に、何かが迸った。
全身の細胞の一つ一つが研ぎ澄まされてゆくような感覚。視界に入るビジョンの全てに、強烈なシャープネスが掛かる。
ぞわり。と、寒気のような―――しかし、決して不快ではない震えが、体の奥底から湧き出してくる。
「あ……ぁ……これ、は……ッ」
解析を行う。今、長門の身に起きている現象の解析を行う。早く。
解析、完了。一部の神経伝達物質の分泌に異常が発生している。また、その再吸収が阻害されている。
シナプス前終末から、神経伝達物資の異常な分泌を確認……C8H11NO2……これは、快楽物資だ。
「ね? 夢みたいな能力でしょう、長門さん?」
喜緑は、笑っている。
長門は、続けて、情報操作を行う。この、脳の異常を修正するのだ。
「! これ……は……できない……情報操作……不可能」
『スタンド』の力が作用して発生した異常。
スタンドに干渉出来ない情報統合思念体では……その修正が、出来ない!
「無駄なこと、考えないほうがいいですよ?」
どさり。と、音を立てて、長門の体が床に落ちる。喜緑の『スタンド』が、長門を解放したのだ。
「長門さん、気分はどうですか? 肉体的には人間と同じなんですから、ちゃんと気持ちよくなってますよね?
私のスタンド、すごいと思いませんか? 誰にでもこんな素敵なものをプレゼントできるんですよ?
それに、自分自身はちゃんと……好きなときに、好きなように調節できるんです」
長門は床に倒れ、無表情のまま、瞳孔の開いた瞳で虚空を見つめている。
何度も情報操作を試みる。しかし、この『異常』を修正することが出来ない。
「―――あは……あはははははははははははは」
不意に、喜緑が笑い出す。『調節』を行ったのだ。
「長門さん長門さん長門さんッ、私はもう『自由』なんですよッ
あなたの言いように使われるだけの人形じゃないんです―――ッ!!」
喜緑は、荒く息をつきながら、床に倒れた長門の上に馬乗りになる。
「ふーっ、ふーっ、ね、長門さん……長門さんっ! あなたの所為で、私はどれだけ……長門さんっ、聴いてますかァ―――ッ!?」
振り上げられた喜緑の拳が、長門の顔面を殴りつける。
「あなたがっ、悪いんですよねっ、そうですよねっ、長門さんッ!?」
頭の中を駆けずり回っている脳内物資の所為か、殴られる痛みはあまり感じなかった。
喜緑は、十数度ほど長門を殴りつけたあとで、ふと、手を止める。
「はーっ、はーっ、でも、ね、長門さん。許してあげます。私はこれから、自由ですからァ―――。
長門さん、祝ってくれますよね? ね、長門さぁん?」
やはり、これは『スタンド能力』によるものだ。情報操作で解除はできない―――
ならば。『喜緑江美里』の情報連結を―――
「パーソナルネーム……喜緑江美里の……情報連結を……」
小声で呟きながら、喜緑に向かって手を向ける。しかし、その手が突然、何かに『掴まれる』。スタンドだ。
そして、次の瞬間。右腕に、燃えるような痛みを感じる。ゴキン。という音が、研ぎ澄まされた耳に届く。
「あっ――――!!?」
『折られた』のだ。長門には見えない喜緑の『スタンド』が、長門の腕を折ったのだ。
「長門さん……まだ足りませんか? じゃあ、もっと『気持ちよく』なります?」
スタンドで長門を捉えたまま、喜緑が笑う。
まずい。これ以上、快楽物資を分泌させられたら―――
喜緑のスタンドが、能力を発動しようとした、その直前に。
「何……やってんだ、お前ら……?」
突然。二人のものとはちがう、男性の声が、その空間に転がり込んできた。
喜緑が、いつの間にか其処に立っていた、その人物を見上げる。
「……『会長』?」
―――
今、会長の目の前で繰り広げられている、この光景。
会長がその『意味』を理解するまで、少し時間が掛かった。
床に倒れている『長門有希』。この家の主だ。そして、彼女に馬乗りになっている『喜緑江美里』。
『会長』は、何の断りもなく、学校を休んだ『喜緑』の様子を見るために、彼女の自宅であるこのマンションにやってきた。
しかし、部屋を訪ねても反応はない。それで不審に思い、同じマンション内にあるという、長門の部屋を訪れたのだ。
部屋の前まで来ると同時に、室内から不審な物音がする。誰かの叫び声がする。
そして……これだ。
「お前、それ……」
会長の視線の先。喜緑の両の肩の後ろから伸びた、一対の巨大な腕。
真上に振り上げれば、天井など楽に突き抜けてしまいそうなほどに巨大な腕が、長門有希の腕を掴んでいる。会長には、それが『見える』―――!
「会長……会長ォォォ―――ッ! これ、みてください、これ、これ!」
不意に。それまで、ぼんやりと会長を見上げているばかりだった喜緑が、目をいっぱいに見開き、『会長』に飛びついてきた。
同時に、背中の腕が、長門有希の腕を掴むことを止める。解放された長門の腕は、あらぬ方向へと圧し折られている。
「お前……『矢』かッ!? 『矢』にやられちまったのか、お前もっ!?」
「見てください、会長! 私、自由になったんです! 素敵なんです、見てください! 私、私ッ!」
こんな風に、声を張り上げ、まるで子どものような表情で話す喜緑など、初めて見る。
同時に、会長は気づく。喜緑の、焦点の合っていない目に。そして、奇妙なほどにせわしない話し方と、挙動。
「まさか、お前ッ……『キマッちまって』んのかァ――!? 馬鹿野郎、何やって―――!!」
「違うんです、これ、これです、これっ!」
喜緑が指しているのは……背中の腕。おそらく、『スタンド』だ。
「ね、いいですか、会長、これ、触ってもいいですかぁ?」
喜緑が何を言っているのかわからない。その言葉と同時に、背中の『腕』が戦慄く。
「大丈夫ですから、痛くないですからっ」
その腕が、ゆっくりと下りてきて、手のひらで、会長の頭部に触れようとしている。
「―――やめろ!」
咄嗟に、喜緑をその場に残し、背後に飛びのく。
喜緑のスタンドの正体はわからないが、あの『手』は、何かまずい。直感的にそう感じる。
ふと。床に倒れた長門を見る。……長門は、激しく呼吸をしながら、折れた腕を押さえ、血走った瞳で虚空を見つめている。
単純に、痛みに震えているという風とは少し違う。……そう。喜緑と同じ『もの』を感じる。
……まさか、この『手』に触れられると……ああなってしまうというのだろうか?
「会長……違います、私、会長のこと、『攻撃』なんてしないです。
会長に、幸せになってほしくて、だから、お願いします、触らせてください!
『プラス・ミリオン・バット・マイナス・ラブ』!!」
再び、『会長』に向けて、喜緑の『手』が振り下ろされる。
止むを得ない。『恋人』を攻撃することなど、果てしなく気は進まないが……
「『ジェットコースタ――――・ロマンスゥ』!! 走れェ!!」
声と同時に、会長の体から『スタンド』が飛び出し、猛烈なスピードで、喜緑の懐に飛び込んだ。
そして、すばやく、その腕を掴み上げる。
「『ボラーレ・ヴィ――ア(ブッ飛べ)』!!」
そして、華奢な体と、其処から続く背中の巨腕とを、まとめて天井に向けて『投げつけた』!
「きゃあっ!?」
叫び声は、喜緑が『天井』へと吸い込まれると同時に、会長の耳には聞こえなくなった。
喜緑は『屋上』に待たせるとして。あまり時間はない。会長はすぐさま、『長門』のもとへと駆け寄った。
「おい、お前、大丈夫かよッ!?」
間近で長門の顔を見て、確信する。やはり、長門も、喜緑と同じ『状態』に陥っている。
やはり、これがあの『スタンド』の能力なのだ。
「……喜緑江美里は……もう……駄目」
「何だ?」
細い喉を震わせて、長門が言う。
「……屋上に……崩壊因子を……時間を……稼いで……」
そう言うと、長門は目を閉じ、なにやら、聞き取ることの出来ない早口で、呪文のようなものを唱え始めた。
「……『屋上』にあいつを繋ぎとめておけばいいんだなァ……チッ、仕方ねえ、頼まれてやるぜ」
言葉と同時に、J・ロマンスの腕が、会長の襟を掴み上げ、天井に向かって放り投げる。そして、その直後、自分自身も天井に向かって飛び、吸い込まれてゆく。
室内には、傷だらけの長門だけが残った。
「……パーソナルネーム……連結解除……申請…………エラー……当該対象の構成情報に……干渉不可な情報を確認……」
……言葉が途切れ、しばらくの間、長門の荒い呼吸の音だけが、辺りに浮かべられた。
やがて。長門は再び、口を開く。
「……パーソナルネーム……活動……停止……申請…………機能の停止……申請…………」
――――
屋上に出ると、真っ先に、コンクリートの上に仰向けに寝そべった喜緑の姿が目に入った。
あの『腕』も見当たらない。『気絶』しているのだろうか。
一瞬、最悪の状況が会長の脳裏をよぎり、その予感が、会長を喜緑に近づかせてしまった。
「……捕まえた」
喜緑の瞼が、突然、ぱっと開き、同時に、満面の笑みを浮かべる。
「ッ!? うおおおお!?」
次の瞬間。喜緑の脇の『地面』から、『腕』が飛び出し、それが会長の体を『掴んだ』!
そのまま、まるで人形のように持ち上げられる。
まずい。『手』から抜け出さなければ―――
「『ジェットコースター・ロマンス』、走れ!」
声と同時に、体から打ち出されるかのように、『J・ロマンス』が放たれる。
高々と翳された巨腕を『滑り降りる』かのように、白い体が『すり抜けて』ゆく。
その攻撃の矛先が向かう先は、喜緑本体。手荒だろうと、とにかく、一度気絶してもらうしかない。
「『マイナス・ラブ』!」
喜緑が叫ぶと、その右肩から、あの腕が生える。
どうやら、像を肩に発現させるか、そこらに生やすかは、自由に選べるらしい。
兎も角、喜緑の肩に現れた腕が、振り下ろされる『ジェットコースター・ロマンス』の拳を受け止めんと、喜緑を覆うように手のひらを突き出す。
しかし、その手のひらに飛び込んでいくことは出来ない。『ジェットコースター・ロマンス』は、攻撃をやめ、地に下りる。
「会長、わかってくれましたっ……? わたし、会長と傷つけあいたくなんて、無いです」
「……ああ。ひとつ、分かった事があるぜ」
天高くから、会長は、喜緑の頭上へと叫ぶ。
「お前よォ――どうやら、このデカイ腕のほうじゃ、人を『キメ』れねえみてーだなァ―――!」
「……会長、鋭いですね」
喜緑の言葉と同時に。会長を拘束する腕が消え去り、会長の体は、空中に投げ出される。
「『ロマンス』!」
会長の体が、屋上の床に投げ出される直前。『ジェットコースター・ロマンス』が、会長の体を受け止める。
「ねえ、会長……私、本当に、会長にこの幸せを、教えてあげたい、だけなんですよ?」
「……情けねえなァ、喜緑。お前はもっと、骨のある女だと思ってたぜ」
会長は、スタンドの腕の中から降りながら、ため息と共にそう呟いた。
その視線の先。其処には、相変わらず、焦点の合わない目つきのまま、ふらふらと体を揺らしながら、薄ら笑いを浮かべている喜緑の姿がある。
……違う。喜緑江美里は、こんな醜い生き物ではなかったはずだ。
「……一回『ブッ飛ばされ』て……目、覚まさなきゃァ――――わからねー様だな」
言葉と同時に。『ジェトコースター・ロマンス』が駆け出す。
「ジェット! 『めくれ』!!」
「ッ! 『マイナス・ラブ』!!」
一直線に向かってくる『ジェットコースター・ロマンス』に向かって、喜緑は両肩の腕を突き出し、防御の構えを取る。
「ラァァァァァァ!」
『ジェットコースター・ロマンス』は、逃げない。両腕を振りかざし、突き出された腕に向かってまっすぐ突進する。
衝突する。喜緑がそう察知し、その体を『捕らえようと』した瞬間。
『ジェットコースター・ロマンス』が、視界から消え去った。
「!」
どこへ逃げたのか。と、喜緑が探す暇も無く。
『床をすり抜けた』ジェットコースター・ロマンスが、喜緑の『背後』に現れるッ!
「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラァ!!」
「っ!?」
狙うのは、肩から突き出した『腕』の付け根だ。
『ジェットコースター・ロマンス』の両拳が、流星の礫のごとく、その異形の存在の大本を、連続で殴りつける。
「『ボラーレ・ヴィーアァ―――(ブッ飛ばす)』!!」
最後に、両手の拳を一度に叩き込まれ、喜緑の体が、前方に向けて、まっすぐに殴り飛ばされる。
その軌道上には、『会長』の姿がある。その背後は、もう『塀』だ。
喜緑と会長が衝突する―――事は、ない。
「『すり抜ける』……ッ!!」
『喜緑』は、会長の体と、塀とを一度にすり抜け、『外界』へと放り出される―――!!
「――――『プラス・ミリオン・バット・マイナス・ラブ』!!」
会長が振り返ると。其処には――――
マンションの『外壁』から生えた巨大な『右腕』と、その手のひらに受け止められた、『喜緑』の姿があった。
「……やっぱり、『骨』はあるじゃァね――――か」
「会長……ふふ、うふふふふ、わかりました、会長」
巨大な手のひらの上で、喜緑が身を震わせて笑う。
「私、会長のこと、『お仕置き』してあげますね……ね? 会長、ね?」
「面白れェ―じゃね―――か。俺はマゾじゃねェぜ―――!!」
会長の言葉と同時に。目の前から続く右腕の上を、『ジェットコースター・ロマンス』が駆け出す。
『腕』は喜緑を抱えている。ここで『会長』のスタンドを迎え撃つことは出来ないはずだ。
「『マイナス・ラブゥ―――』!!」
手のひらの上で、喜緑が叫ぶ。
同時に。喜緑を受け止めた腕のすぐ横から『左腕』が現れ、『右腕』の中ほどを駆ける『ジェットコースター・ロマンス』に握りこぶしを撃ち放った。
「『すり抜けろ』! ジェットォ――――ッ!!」
拳が差し掛かった瞬間。『ジェットコースター・ロマンス』が、『右腕』をすり抜けて、『左腕』の攻撃を回避する。
『右腕』の下にすり抜けたジェットコースター・ロマンスは、片手を『右腕』の上方に回し、『腕』に留まる。
「会長、浅はかですよォ―――」
手のひらの上で、喜緑が笑う。
その瞬間。『右腕』がひじを折り、手のひらの上の『喜緑』を、屋上に向けて放り投げた。
「うおォ――――ッ!?」
すると、右腕の中ほどにぶら下がっているJ・ロマンスの体は、猛烈な勢いで『引き上げ』られる。
しかし、問題は無い。喜緑同様に、旨く空中へと飛び出せば、『屋上』へ戻ってくることができる。
『ジェットコースター・ロマンス』は、跳び箱を飛ぶような気持ちで、『右腕』にぶら下がる腕を引き寄せ、そのまま一気に空中へと飛び立った。
反動は十分。『ジェットコースター・ロマンス』は放物線を描きながら、『屋上』へと戻ってくる。
しかし。その起動を追って、握りこぶしを作った『右腕』が、『ジェットコースター・ロマンス』に近づいているゥ――――!?
「『すり抜けろォ』――――!!」
体を震わせて叫ぶが、遅い。宙を舞う『ジェットコースター・ロマンス』の体が、巨大な鉄拳に打たれ、屋上の床に『たたきつけられる』!!
「うぐはァ―――ッ!!」
ダメージはそのまま、『会長』の体へと伝わる。
……まずいな、こりゃ。『骨』がいったかもしれない。
「会長……これは、私の『勝ち』ですよね?」
ゆっくりと、喜緑が歩み寄ってくる。
畜生。『腕』にジェットコースター・ロマンスを走らせたのは、間違いだったか。
会長が『諦め』かけた、その時。
「……あれ?」
喜緑が、呟いた。
先ほどまでのような、荒れ果てた口調ではない。どちらかといえば、会長にも聞き覚えのある、ゆったりとした語調で。
「あれ……お、おかしい、です……如何して……」
右肩の腕を動かし、喜緑は、自分自身に、『能力の発動』を試みている。
しかし。さっきまでなら、思い通りにあの『状態』になれたはずだというのに。それが、できない。
「……あなたの心機能を、停止させた」
「!?」
……喜緑が、この方向を振り返ると。
屋上と屋内を繋ぐ扉の前に、長門の姿がある。
「……あなたの能力は、脳が機能していなければ意味を成さない能力。
あなたの情報連結を解除することは、『スタンド』に妨害されて、不可能だった。
しかし、心機能を停止させ、脳を停止させることならば、可能だった」
「……なに、言ってるんですか? それじゃ、私、死んじゃってるじゃないですか
だったら―――……私は、なんで、生きているんですか……?」
「スタンドと一体化した精神が、あなたの魂を肉体に留めている……と、思われる。
一種のエラー。おそらく、長くは続かない」
「……私、『死ぬ』んですか?」
「そう」
長門の、冷たい言葉が、屋上の空間に、ゆったりと染み込んでゆく。
「……『生徒会長』の肉体を再構成」
ぽつりと、長門が呟く。
其れと同時に、会長の体を蝕んでいた痛みが、姿を消す。
「おい、長門ォ――――……何か、無かったのかよ、ほかに……」
「……不可能。彼女の能力は、存在し続けてはいけない能力」
「だからって、こいつが死んでも良いってーのかよ……『スタンド』なんざ、勝手にあの犬ヤローだの矢だのに引っ張り出されちまったもんだろォ!?」
「……会長」
長門に掴みかかる勢いで声を荒げる会長に、喜緑が声をかけた。
つい数分前の様子からは、想像も出来ない、落ち着いた声で。
会長が振り返ると、喜緑は、微笑を浮かべながら、言った。
「いいんです。私は―――やっぱり、『救ってもらう』ことが、できましたから」
「……喜緑? お前、何言って……」
「私はですね、会長」
一呼吸を置き―――
「『人間』じゃ、無かったんです。
でも。あの『スタンド』のおかげで、私は『人間』として死ねるんです。
私は、今……とっても幸せです」
「おい……冗談のつもりか、そりゃァ―――」
喜緑は、首を二度だけ横に振った後で……
「さよなら、会長。大好きでした」
その言葉を言い終えた瞬間。―――まるで、スイッチが切れたかのように、『喜緑』はその場に崩れ落ちた。
ー――――
本体名 − 喜緑江美里
スタンド名 − プラス・ミリオン・バット・マイナス・ラブ 死亡
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「プラス・ミリオン・バット・マイナス・ラブ」
本体 − 喜緑江美里(?歳)
破壊力 − A スピード − B 射程距離 − B
持続力 − A 精密動作性 − C 成長性 − D
能力 − 巨大な腕の形状をしたスタンド。
本体の体から発現させる場合と、地面などから発生させる場合と、二種類の発動のさせかたがある。
本体の体から発現させた場合、スタンドの手のひらが触れた生き物のドーパミンの分泌を促し
再吸収を阻害させることで、相手に多幸感を齎したり、精神的に破壊したりする。スタンド麻薬。
地面から発生させた場合は、体から発生させた場合より、最大十数倍の大きさで発現させることができる。
しかし、この場合、ドーパミンに作用する能力は発動できない。
また、本体の脳内のドーパミン量は、本体の自由に調節することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
153 :
マロン名無しさん:2009/08/13(木) 23:03:56 ID:U3MSOx+n
なん……だと…!?
すみません…ageてしまいました…orz
155 :
マロン名無しさん:2009/08/13(木) 23:11:17 ID:G+ogxcQ5
乙
なんだこれ……
やべえ俺も上げちまった
これはシャブ☆すたの予備知識ないとついていけないんじゃ……
うわあああああえみりいいいいいいいいいいいいいいい
あと一時間後ぐらい? に投下します。
今回完全にハルヒ関係ない上に変なの出てくるけど今回だけなんで許してください
あと関係ないけどシャブすたは面白いからみんな読もうぜ!
四歳半ばまでを過ごした街。とはいえ、ジョルノにとって、この街に、『思い出』ことなどはひとつもなかった。
ジョルノの母は、幼いジョルノをどこかへ遊びに連れ出したりなどは、多分、一度としてしてはくれなかった。
自分の住む『街』が、いったいどんな『街』であるのかさえ。知らないままに、ジョルノはイタリアへと連れて行かれてしまった。
『事務所』の跡地を視察に来た帰りに、何故、この『街』を訪れる気になったのかは、ジョルノにもわからない。
……強いて言うなら。ジョルノは、引き寄せられてしまったのだ。
『本当の故郷』という、薄っぺらな『印象』に。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第11話『汐華初流乃は故郷の街を歩く』
ネアポリスのケーブルカーとは比べ物にならないほど、人口密度の高い、『糖武本線』の車両に揺られ、鷹宮駅で下車する。
ジョルノが育った街に最も近い駅。
母親から貰った、かつて暮らしていた家の『住所』によると、此処がその駅のはずだ。
「北葛飾郡鷹宮町……ぼくの故郷、か」
月曜日の、よく晴れた日だった。駅前に下り、目の前に広がる光景を見回す。
11年前のままの光景が残っているはずはないと思うが、それを差し引いても、やはり見覚えはない。
現地を訪れれば、何か記憶をくすぐられるような物に出あうか。とも思っていたのだが……
汚い町だな。実際のところ、感じるものはそんな事ばかりだった。
あの『東京』に比べればましだが……
「にしても、こうして一人で『街』を歩くというのも、久々だな」
ぼんやりと、目の前に立ち並ぶ建物を眺めながら、誰にともなく呟く。
『ボス』になってからと言うもの、幹部どもがやすやすとジョルノを外に出してくれないのが、ジョルノにとって最も面倒に感じる点だった。
ディアボロが異常なまでの引きこもり野郎だった所為なんだろうか。ヤツらは、ジョルノに異常なまでに『誰も知らない人間』であることを求める。
ヤツらはわかっていない。物事というのは、抑えるところを抑えればいいのだ。
『ジョルノ』が『ボス』だと知らない人間がどれだけジョルノを見かけようと、どこかの一般人だとしか思わない。
それすらをも恐れて、隠れおおせようとするのは、『無駄』なのだ。ジョルノにとって、もっとも我慢ならないものだ。
……その町を訪れて、はじめにジョルノが感じたこと。
「……腹が減ったな。そういえば、もうチエーナの時間じゃないか」
時計を見ると、時刻は正午。日本にしてみれば昼食の時間だが、イタリアならば午後八時。立派に夕食時だ。
駅前をぐるりと見回すと、飲食店らしきものはいくつか見当たるが、ジョルノが求めているような『手軽』な施設は見当たらない。
唯一目を引くのは、ウィンドウ越しに、立ち並ぶパーネの数々が見える、駅に最も近い店舗。
「パネッテリアか……ピッツァが食べたかったけど、ここでいいか」
さすがに、日本でピッツェリアを本気で探そうとすることが、『無駄』な努力であることくらいは想像できる。
片開きのガラス戸を押し開け、店内へと立ち入る。同時に、酵母とバターの焼ける匂いが、ジョルノの鼻をくすぐる。
ふうん、悪くないな。そんなことを考えながら、店内へと歩み入る。
「おっ」
適当に立ち並ぶパネを眺めていると、その中に、チーズとトマトソースを使った、平焼きのパネが目に入る。
なんだ、わかってるじゃないか。日本も未だ捨てたものじゃないな……
そんなことを考えながら、その『ピッツァ』に近いパーネを手に取る。……持ちにくいな。
バジルが入っていないが、この際仕方ないだろう。そのパーネをふた切れ手に取り、レジへ向かう。
「500円になります」
用意しておいた日本の硬貨を支払い、店を出る。
その際に、入り口脇に用意された、プラスティックのトレイと、トングが目に入る。
……先に言えよ。
――――
……日本の故郷で、イタリアの故郷の食べ物に近いものを探している。そんな自分に気づき、すこし自嘲気味に笑う。
結局、要するに、ジョルノの心は、どこまでも『イタリア人』なのだ。
わざわざこの町を訪れるために、業務を割いて時間を作った自分が、果てしなく馬鹿げて思える。
「ピッツァはマズイし」
二切れ目のピッツァ・パーネを食べながら、ぶつくさと不満を漏らす。この国のピッツァの認識は、イタリア人であるジョルノに言わせれば正しくない。
まず、チーズがまずい。トマトソースはいいとして、この生地は何だ? ぶくぶくと膨れていて、食いづらい上に、酵母の味がしない。
ジャポネーゼはこいつを食って、ピザを食った気になっているんだろうか? だとしたら、とんでもないことだ。
ジョルノが焼いたほうが、数倍うまいピッツァが作れる。全く持って気に食わない。
駅前の木に背を預け、そんなどうだっていい思考をめぐらせていると―――
「コロネ――――!!」
「!?」
突如として、ジョルノの足に突進を食らわせてくる、小さな人影があった。
咄嗟の出来事に、ジョルノはバランスを崩し、木の根の上にしりもちをつく。
「な、何だァ―――ッ!?」
まさか、敵スタンド使いが、この街に居るってのか―――?
……そんなわけはない。ただ、血迷った小さな男の子が、ジョルノの足に突進をかましてきただけだ。。
「ご、ごめんなさいっ! もうっ、なにやってるの! いきなり走り出したりしてっ!」
直後に、おそらく、男の子の母親であろう女性が、ジョルノと、突進の勢いでその場に転んだ子どものもとへと駆けてくる。
「ああ、えっと……『いえ、大丈夫です』」
脳内から、なつかしの日本語の素養を引っ張り出し、その母親に向かって放つ。
紫色の髪の毛を、肩ほどまで伸ばした、日本人の女性。年齢は、ジョルノよりも2、3下に見える。
「うー、コロネー」
「コロネ?」
聞き慣れない単語を耳にし、ジョルノが、男の子の言葉に疑問符を返す。
ふと見ると、地面に、袋に包装された、奇妙な形のパーネが転がっている。やたらに長いコルネートを半分に切った様な代物だ。
先ほど、そこのパネッテリアで見たものと同じものだ。まるで巻貝のような……
「コロネがどうしたの……あっ」
「?」
ふと、母親が、男の子の指差す先―――丁度、ジョルノの頭のあたりだ―――を見て、声を上げる。
何だ? 僕に何かおかしいところでもあるんだろうか? ジョルノはそう思い、自分の服装を見る。
日本であまり目立たないよう、シンプルな紺色のシャツと、ストライプのジーンズを纏った姿に、大して問題はないはずだ。
「あ、あの、いえ……違うよ、もう、あれはコロネじゃないでしょ? コロネなら、買ってあげたじゃない」
母親は、僕の頭を見て何かを言いよどんだ後、手早く地面に転がった巻貝パーネをかき集め、男の子の持っていた紙袋にしまった。
「あ、すいません。あの、怪我とか、大丈夫ですか?」
木の根の上に座り込んだままの僕に向かって、母親らしき女性が手を差し伸べる。
「あ、大丈夫です……すみません」
日本語で返答しつつ、厚意として、女性が差し伸べてくれた手を取りつつ、立ち上がる。
「わぁ……おっきいんですね」
ふと、立ち上がった僕を見て、女性が呟く。
「は? ……ああ、ええ、まあ」
ジョルノを見上げるその女性(この身長差だと、少女にすら見えるが)は、おそらく、ジョルノの身長のことを言っているんだろう。
15歳までは175センチほどだったジョルノの身長は、ジョルノが18歳に成長する二年半ほどの間に、15センチほど伸びている。
190センチ。たしかに、日本では珍しい部類の長身になるんだろう。
「コロネー! コロネー!」
足に違和感を感じ、足元を見ると。そこに、さきほどの『子ども』が、僕の脛辺りにしがみついている、なんとも奇妙な光景が広がっていた。
「こ、こらっ! 違うんだってば、コロネは買ってあげたでしょっ? ご、ごめんなさい、この子、ちょっとあの、なんていうか、人懐っこくて……」
「え、ええ、構いませんけど」
「ほら、行くよ? 公園でコロネ食べるんでしょ?」
「コロネー!!」
「だから、このお兄さんは『コロネ』じゃないの!!」
……なにやら、もめている様子だ。母親がいくら急かそうと、男の子は僕の足から離れるつもりはないらしい。
いったい、ジョルノのどこに、この男の子を、これほどまでに引き止める何かがあるというのだろう。……ジャポネはよくわからないな。
「あの、よかったら、『公園』まで付いていきましょうか? ぼくはたいして予定もないんで、この子がそれで満足するなら、構いませんが」
少し考えた後、ジョルノは、目の前で困り果てている母親らしき女性に、そう告げた。
ジョルノは今日一日を、異国での『余暇』として設けているものの、この町にたいした興味も持てず、時間を持て余していたところだった。
「え、えっと……えっ、でも、いいんですか?」
「はい、別に構いません。丁度、暇を持て余していましたから。この子、何故かわかりませんが、ぼくから離れたくないようですし」
そう言ってから、しまったな。と、ジョルノは少し後悔する。
日本は、イタリアのそれと比べて、見知らぬ人付き合いというものが、あまりオープンでないということは、分かっていたというのに。
とくに、日本の女性は、日本の見知らぬ男性が、無駄に親密に接してこようとするのを嫌うという。
下調べをしていたからこそ、電車内でも、変に他人に話しかけずにいたというのに……まあ、実際そういう雰囲気でないのは、車内の空気でわかったが。
「あ、えっと……ねえ、お兄さんが一緒に公園に来てくれたら、ちゃんとさよならできる?」
「うんー!」
……ジョルノの心配を遮るように。目の前の女性と、その子どもは、短いやりとりを経て、ジョルノの提案を『肯定』した。
なんだ。聞いたほどじゃあないじゃないか。ジョルノは少し拍子抜けを食らう。
「すみません、じゃあ、すぐそこの公園なんで」
「いいですよ、行きましょう」
ピッツァのまがい物の空き袋をポケットに押し込むと、ジョルノは足にまとわりつく男の子と、その母親と共に、歩き始めた。
……幼い子どもがジョルノを『コロネ』と読んだ意味をジョルノが知るのは、もう少しだけ後のことである。
――――
「コーロネ―――」
ジョルノと母子が、『公園』のベンチにたどり着くと。男の子はなにやら嬉しそうに、ジョルノの膝の上によじ登り、そこで例の『巻貝パネ』をほおばり始めた。
「ああ、もう……ほんとにすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。子どもは嫌いじゃあありませんから」
眉をハの字にしながら笑顔を浮かべる母親にそう返しながら、膝の上に乗った子どもの頭を撫でる。母親と同じ、コスモス色の頭髪だ。
「ママー、コロネはどっちがあたまー?」
「えっ? ……ふふ、そうだなー、お母さんは、さきっぽの細いほうだとおもうなー」
「あたまあたまー」
ジョルノは、反対側が頭だと思う。なんとなく。だが、特に口は出さずにおいた。
「あの、よかったらお一つどうですか? みっつ買ったので」
と、隣に腰をかけた母親の女性が、微笑みながら、僕に例の巻貝パーネを差し出してくる。
「あ、どうもすみません……じゃあ、お言葉に甘えて」
会釈しながら受け取ったそのパーネは、巻貝の空洞部分に、チョコラーt……こう言うとむかっ腹腹が立つので、チョコクリームと、日本風に呼んでおくか。
とにかく、そいつを詰め込んだ、ようするに、コルネートと大して変わらないものだった。
一口口に含むと、バターの香りとチョコの香りが鼻を抜ける。なかなかうまい。なんだ、ピッツァはまずいが、ほかのパーネは美味かったのか。
「あのお店、とってもおいしくて、評判いいんですよ〜。特にコロネはおいしくて……私のお友達も、昔はよく、通ってたんです」
「確かに、おいしいですね。日本のパー……パンははじめて食べましたけど」
「あ、もしかして、外国のかたですか?」
やっぱり。とでも言いたそうな表情で、母親の女性が言う。
「ああ、えっと……母親が日本人で、子どもの頃、日本に住んでいたんです」
「あ、やっぱり。ちょっと不思議な話し方だなーって思ったから」
女性はふやけたような微笑を浮かべながら、僕を見る。
ジョルノの日本語の話し方は、やはり、生粋の日本人からすれば、おかしな話し方だったのだろうか。
「ううん、ただ、なんだか丁寧だなーと思って。
えっと……じゃあ、この町が、昔住んでた町なんですか?」
「ええ。えっと……じつは、僕、交換留学で東京の学校に来ているんです。
それで、それで、もうすぐ帰国するので、せっかくだから、故郷の町を見てみようと思って……
だけど、あんまり覚えていることもなくて、拍子抜けしていたところです」
「へぇー、そうなんですか〜。……って、あれ? それじゃ、未だ高校生……?」
「はい、三年生です」
「わぁ〜、じゃあまだ18歳なんだぁ。私、絶対年上の人だと思ってたよぉ。
私とふたつしか違わないんだねぇ」
学生。などといったが、すまん、ありゃウソだ。
中卒でギャングのボスやってます。などと言えるわけもないから、まあ仕方がない。
って、それより。……つまり、彼女はまだ20歳ということか?
……ジャポネーゼは若く見えるとは聞いていたが、これは予想外だ。
正直、まだ15だとか、その程度だと思っていた。えらく幼い顔立ちをしている。
まあ、ジョルノが余計に年を食って見える顔をしているのかもしれないが……
考えてみれば、子どもをもつ母親が、15だの14だのなわけがないか。
……20でも、ずいぶん早い子どもだとは思うが。
「コロネ〜〜」
母親と少し似た、ゆったりとした口調で、男の子が膝の上で笑う。
「ぼくはコロネじゃないぞ、ジョルノだ」
「……じおるの〜?」
「うん、ジョルノ・ジョバァーナ……いや、ハルノ。汐華初流乃。そのほうがわかりやすいかな?」
「はるの?」
「そう、ハルノだ」
「初流乃さん……あっ、ごめんね、すっかり忘れてた。わたし、『柊つかさ』です。この子は、『こなた』って言います」
不意に、母親―――つかさと言うらしい。彼女が、姿勢を改め、ジョルノに名前を名乗る。
そういえば、日本では、少なくとも昼食を共にするほどの間柄なら、名前くらいは名乗りあっているのが当然……だったかな?
柊つかさ、柊こなた。
――――なんだろう。何かが、ジョルノの中で引っかかる。
つかさ。こなた。……その名前を、ごく最近目にしたような――――
「ママー、トイレー」
「おおっ、自分で言えたねー、こなちゃん。あ、ごめん、ちょっと待っててくださいね」
「ああ、はい」
『つかさ』は『こなた』を抱き、公衆トイレの方へと走ってゆく。
……まさか、な。そう考えているのに反し、ジョルノの手は、脇に抱えた鞄へと伸びる。
カギ付きのファイルに納められた、数枚の書類。昨日、『事務所』の跡地で手に入れた、『事務所』の行っていた商売のデータをコピーしたものだ。
目に留まったのは、『事務所』の傘下にあった、計三軒の売春施設のデータだ。
三年前に、そのうちの一軒が摘発されてからは、ほかの二軒共々撤退している。
店に勤めていた女性たちは、主に、『事務所』の売った薬の中毒となった、未成年の少女たち。
ジョルノの手元のデータには、その少女たちの『名前』が連ねられている。
本名は書かれていない。皆、下の名前をひらがなで綴ったのみの、所謂源氏名というやつだ。
……三店舗のうちの一つに見つけた、その名前。
『こなた ちゃん』
『つかさ ちゃん』
「……まさかッ―――こんな、出来すぎた話が―――ッ!!?」
データによると、二人の『従業員』は、店舗が摘発される数ヶ月前に、『業務』に出かけた後、そのまま『脱走』したと記されている。
……『麻薬』の中毒となり、売春施設に勤めた後、『脱走』した少女。
そして、それと同名の、若い母親……更に、もう一人の少女と同名の、彼女の子ども。
『こなた』は、せいぜい3歳か4歳と言ったところだろう。
20歳の『つかさ』が『こなた』生んだのは……『つかさ』が今年に21歳になる場合もあるから、おそらく17歳から18歳の頃……
……全てのつじつまが、合う。
「コロネー!!」
不意に、幼い声がして、ジョルノは『ファイル』を鞄に押し込んだ。
見ると、こちらへ駆けて来る『こなた』と、その後ろで苦笑する『つかさ』の姿がある。
「こーら、こなちゃん。お兄さんはコロネじゃないって言ってるでしょ?」
『つかさ』は、長袖のカーデガンを着ている。……その腕の中ほどに、視線が行ってしまう。
今は初夏だ。今日は日差しも強く、暑い。単なる日除けかもしれない。しかし……
「……あの、つかささん。実は―――ぼくは、ある人を探しているんです」
……この少女の過去の『傷』をえぐることになるかもしれない。しかし――――
「探している人? それって、初流乃君の親戚の人とか?」
データにある二人の少女を『獲得した』のが、『事務所』の『誰』であったかは、記されていない。
そのほかの『従業員』たちの名前には、『斡旋者』として、誰かしらの名前が記されているというのに。
そう―――『事務所』のデータには、ところどころに『穴』があった。
まるで意図的に、ある人物のデータだけを削除したかのように―――
「えっと……母親の、知り合いの方らしくて。昔お世話になっていたそうなんですが、見当たらないんです。
ただ、通称しかわからなくて……」
もしかしたら―――
「……『オノ』さん。その名前しか、わからないんですが」
「―――オノ、さん……?」
……ジョルノがその名前を出した瞬間。
まるで瞬時に凍りつかされたかのように、『つかさ』の表情が、固まった。
「お……の…………小野……え、ええっと、ね……それだけじゃ……うんと……よくいる、苗字だし……あっ……」
突然、『つかさ』の口調がおかしくなる。
……うろたえているとか、驚いているとか、そういうのとは違う。まるで、何かの『発作』に陥ったかのような様子だ。
「お、の……い、いや……あ、ああああああああ……!!?」
「つかささんッ!? だ、大丈夫ですか―――ッ!?」
やはり―――この『少女』はッ―――ッ!
「ママッ!!」
「!」
突然。何かにおびえるように、体を震わせ、頭を抱えるつかさの膝の上に、『こなた』が飛び乗った。
こなたは、震えるつかさを宥める様に、彼女の体を撫でる。
子どもの手つきではない―――まるで、母親のような手つきで。
「こ、こなちゃん……こな、ちゃん……」
「ママ……ここだよー、ママ」
その、瞬間。
「ッ……これは―――ッ!?」
『こなた』の背後に浮かび上がる、青い人影。
その手が、つかさの両肘を、包み込むように抱いている。
―――『スタンド』だッ! この男の子……『こなた』が『スタンド使い』!!
「はっ、あ……う……」
それと同時に。苦しんでいたつかさの表情が、ゆっくりと和らいでゆく。
「はあ……ありがとう、こなちゃん。もう大丈夫だよ」
「うん!」
額に浮かんだ汗の粒をぬぐいながら、つかさがこなたに微笑みかけ、その頭を撫でる。
こなたは嬉しそうに、つかさの体に抱きついた。
『スタンド』は、消えている。……この男の子の『スタンド』が、彼女を落ち着かせたのか……?
「……初流乃君。『小野』さんを、探しているんだよね?」
こなたの頭を撫でながら、つかさが言う。
その表情は、先ほどまでとは違う。何かを『決心』したかのような、『気迫』を感じる。
「……『小野』さんを探しに、わたし……『柊つかさ』に会いに来た……そうなんですね?」
「……はい」
本当は、そうではない。
今、ジョルノがこうして、『オノ』の正体を突き止める鍵と為り得る女性と顔をつき合わせている。
これは全て、偶然なのだ。まるで、何かに引き寄せられるかのように、ジョルノはこの場所を訪れた。
かつて、『ポルナレフ』を通じて、会話をした、『承太郎』が口にした言葉が、脳裏をよぎる。
ジョルノは……この『少年』に呼ばれて来たのだ。
あの青く、優しい『スタンド』を持つ、小さな『こなた』に呼ばれて。
「……あなたは、『誰』なんですか?」
つかさが言う。
……答えるしか、ないか。
「ぼくは、汐華初流乃。……イタリアの、ある組織に属するものです。
かつて、その組織から脱却し、日本で麻薬の売買を行っていた、『事務所』を追っています。
『事務所』は既に壊滅しました。ですが……ただ一人。
『事務所』から抜け、身を隠している人物が居ます。
その人物の名前は―――わからない。ただ、『オノ』という短い手がかりしか、見つけられていません。
ぼくらは、その人物を見つけなければ為らない。なんとしても……」
「……『麻薬』……」
つかさが、何かを憂うように、空中を見つめ、目を伏せる。
「……あの人は……私の、とても昔の『友人』です。……私とこなちゃん……わたしの友達の『こなちゃん』に、『薬』を教えてくれた人です。
……『小野大輔』。それが、その人の名前です」
小野、大輔――――――!
……矢の男。『オノ』の正体が……ついに、分かった!
「私たちは、えっと……そういうお店で働かされて……
でも、あるお友達のおかげで、助けてもらえて、こうして、街に戻ってくることができたんです。
だけど……『こなちゃん』は、病気で……
私の所為なんです。私が、こなちゃんを、あの人の店に誘ったから……」
「……この子は」
ジョルノの視線の先には、いつの間にか、母親の体に抱きついたまま、寝息を立てている、『こなた』が居る。
「こなちゃんからの、お願いだったんです。こなちゃんが、私を恨んでなんかいないっていう証に……
私の赤ちゃんに、こなちゃんの名前をつけて欲しいって。
……この子、私が『禁断症状』を起すと、こうやって、私を慰めてくれるんです。
そうすると……まるで魔法みたいに、治まっちゃうの」
目の端に涙を浮かべながら、つかさは、眠るこなたの頭を撫でる。
……つかさには、スタンドが見えてはいないのか。
「ご、ごめんね、なんだか暗い話しちゃって。
……だいちゃん……小野大輔さんについて、私が知ってるのは……
三年前に、あの人と、大宮で会ったとき。あの人が、もう『事務所』を抜けて、『声優』をしていると言っていたことだけです。
それと……あの人には、奥さんと、子どもがいた。……それくらいしか、お話できません」
「……ありがとうございます、つかささん。すみません、悪いことを思い出させてしまって」
「ううん、大丈夫。私は……あのことを背負ったまま、生きるって、決めたから」
そう言って、つかさは目の端の涙を拭う。
「この子となら……きっと、それでも、幸せに生きて行けると思うから。それが、私の夢なの」
……ふと。つかさとこなたの二人の姿に―――幼い頃のジョルノと、母親が被った気がした。
馬鹿な。あの母親は、ジョルノをこんな風に、いとおしそうに撫でてくれたりはしなかったじゃあないか―――
ああ、そうか。
ぼくは、初流乃は―――こんな―――二人を、『羨んで』いるというのだろうか?
……馬鹿な。ありえないことだ。『無駄』な感傷だ。
「……こなちゃん、眠っちゃったし。ごめん、わたし、そろそろ帰らないと。私から話せるのは、本当にこれくらい」
「いえ、ありがとうございます。……とても、大きな情報を頂けました」
立ち上がったつかさが、ふと、表情から笑みを失くす。
「初流乃君。……あの人は、『小野大輔』さんは―――今、どこかで、人に『夢』を見せているんですか?」
……その言葉に、どう答えればよいのか……答えを見つけることはできなかった。
―――
一人となった公園で、初流乃は、食べかけになっていた『コロネ』を齧る。
甘い。
……『夢』を売る。
泡沫の様な、ひと時の夢。
其れがたとえ、その先の全てを壊すものだったとしても―――
……もしも――――この言葉を『彼』が聞いたら―――
一体、何と言うだろうか?
夢。
初流乃には、『夢』があった。
そして、初流乃は、その夢を叶えたのだ。
悪魔の薬を使って、ひと時だけ見る『夢』。
それは――――正しいものではない。
では、初流乃が見た、かなえた『夢』とは――――
――――
・SOS団 − 『小野大輔』の情報を、ジョルノから入手。
本体名 − 柊こなた
スタンド名 − ナーサリィー・ライム
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ナーサリィー・ライム」
本体 − 柊こなた(3歳)
破壊力 − E スピード − E 射程距離 − C
持続力 − D 精密動作性 − E 成長性 − A
能力 − 人の精神を癒す能力を持つ。全身が青く、小柄な姿の人型スタンド。
本体が近くに居るだけで、周囲の人々は、精神の安定効果が得られる。
また、スタンドによって触れられると覿面に作用し、あらゆる精神の乱れを沈静化させる。スタンド精神安定剤。
本体の成長に伴い、この先、能力が変化してゆく余地は無数にある。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
終わりですよ
ところでジョジョ五部だと麻薬麻薬って言ってるけど
注射器跡のある少年を見て麻薬をやっているとか言うくらいだし
ジョジョ的に言う麻薬=シャブも含むって認識でいいよね?
乙
なんつーかなんだ・・・これまでにない、重い話だなこれ。
シャブすたとやらを今から読んできます。
>>177 やめとけ・・・俺はたった今後悔したところなんだ
>>178 その書き込みがもう10分早ければ・・・
乙だけど
アフターロックの人は、シャブすたの人と同一人物なの?
じゃなければ、ある種の盗作に当たる気がするんだけど…その辺はいいのかな?
乙。
>>180はインスパイアとしてでいいんじゃね?
麻薬発言と注射あとの矛盾は俺も思ってた。
多分荒木も混同してんじゃないだろうか
シャブすた……読むんじゃなかった……。sage忘れるのもわかる衝撃の展開だ……。
180については、僕もこれはインスパイアだと思いますね。下敷きにした程度だし。
そういうわけで投下します。
第24話「キリング・ザ・ドラゴンA」
宝塚記念。
JRAの主催により、阪神競馬場(宝塚市)、芝2200で施行されるG1レース。
1960年、春期の関西地区を代表するレースとして創設。その後、上半期の一大レースとしての地位を獲得する。
近年は競馬の国際化という状況を踏まえ、国際レースへの試金石として一流馬が挑むケースが多く見られる。
これに関連し、宝塚記念は海外からの出走を受け入れている。
しかし、国際G1レースとして格付けされた2001年以降、海外からの競争馬の出走は一度もない。(2009年現在)
「ひゃー……人、いっぱいですねえ」
みくるさんが目をぱっちり開けて言った。ハルヒも目を白黒させている。
「……嘘でしょ。まだ12時よ!?何でこんなに混んでるの!?」
宝塚記念の開始時刻は4時近いが、競馬場内は既に人で溢れ返っていた。ぼくにしてみれば当然の事だが。
「人気レースだからね。このクラスになると前日組も出るくらいだから」
「そんなに人気なのか?」
キョンが汗を拭いながら言う。さすがにこの熱気には驚いているようだ。
「そうだよ。確か、宝塚記念はファン投票で出走馬を決めてたはずだ。
オールスター・ゲームって事。人気あるのは当然だろ?」
「へえ、そうなのか」
感心したように頷くキョンの横で、みくるさんがしゃがみ込んだ。
「……何か、人混みで気分悪くなってきちゃいました」
「ええ!?ちょっと待って!今、席探してるから!」
ハルヒが慌ててみくるさんの背を撫でる。この混み様じゃ、席が取れてもゆっくりは出来そうに無いが。
女子トイレとかも混んでるだろうし……ぼくは長門に耳打ちした。
「長門……どうにかならない?情報操作で、鎮静剤作るとか」
「……出来るかもしれない。けど、やった事がないから失敗するかもしれない。……効きすぎたり」
……じゃあ、やっぱりいいや。ちょっとしたパニック状態に包まれる中、視界に見慣れた顔が入った。
古泉だ。人混みをかき分けながら歩いて来るが、その表情は暗い。
「駄目でしたよ。空席は一つもありませんでした」
余りにも人が多いので、古泉だけが代表で席を探しに行ったんだけど、やっぱり駄目だったか。
「えー!じゃあレースまで三時間も立ち見!?」
「……む、無理です……」
みくるさんが弱々しい声を上げる。残念だが、今からではどうしようもない。
暗い雰囲気の中、ハルヒはしばらく俯いていたが、顔を上げると口を尖らせて言った。
「……ジョニィも混むって知ってるんだったら、言ってよね」
ちょっと、八つ当たりをされたら困る。突然矛先が向けられた事に驚き、ぼくは早口に言った。
「ハルヒがもっと調べてると思ったんだよ。時間が遅いのも、何かあるんだって……指定席、取ってるとか」
「指定席?」
苦し紛れに言った言葉を聞いて、ハルヒが一転して明るい明るい声を出す。
ほぼ出任せなのに。行き当たりばったりのハルヒが指定席を取ってるわけ無いし。
「指定席ですって?そんなのがあるの?」
「あるけど……でも、この人だよ?空いてるわけがない」
止めようとしても、もう手遅れだった。ハルヒはみくるさんから手を離すと言い放った。
「わからないわよ。ひょっとしたらキャンセル出てるかも!あたしに任せて!」
まるでラインを潜り抜けるランニングバックだ。すいすいと人混みを駆け抜けていく。
「お、おい。……どうする?」
置いてきぼりになったぼくらを代表し、キョンが言う。ぼくは溜め息と一緒に言葉を吐き出した。
「……任せられるわけ無いだろ。みくるさん、歩けるかい?後を追おう」
ここ以外のどこかに医務室くらいはあるだろう。どっちにしろ、みくるさんをこのまま人混みの中に居させる事は出来ないんだ。
指定席を譲り受けられればベストだが……一番避けたいのはハルヒがトラブルを起こす事だ。
ひとまず、ぼくらは受付に行く事にした。ハルヒの姿はすっかり見失ってしまったが、
指定席の問い合わせなら行き先はここだろう。そう思ったのだが。
「……どこにも居ませんね」
古泉が肩を竦める。まさか、行き違いになったのか?無理も無い。ぼく達の機動性は最悪そのものだ。
車椅子のぼくがいるし、みくるさんだって長門に支えられて歩いてるような物なんだから。
まして、この人混みの中では亀以下。素早いハルヒとすれ違うのは当然だ。
しかし、ぼくは最悪のケースを予測していた。
「……まさか、指定席に直接行ったんじゃ」
だとしたら、危険性は跳ね上がる。受付嬢相手なら、多少無茶を言っても困った客止まりだが、
一般客相手にそれをされたら最悪警察沙汰になりかねない。
全員がすぐにぼくの意図を察し、すぐにエレベーターに乗り込み指定席方面へ向かった……が、思わぬ場所で足が止まる。
「お、おい。あれってハルヒじゃないか?」
キョンが青ざめた顔で指差す。エレベーターを降りた矢先の事だが、その方向は指定席方面じゃない。
見間違いか?思いながら見ると、見慣れたカチューシャ。紛れも無くハルヒだ。
何か、人と言い合ってるようだが……あ、相手は警備員じゃないか!?
しかも、あの馬鹿……!あそこは指定席じゃあない!あそこはVIPルームだ。
一流馬主か、JRAの役員、それくらいしか入れない部屋が並ぶ場所だ。一介の高校生が入れるわけが無い!
詳しく知らないであろう他の皆も、ハルヒが警察を呼ばれかねない事をしている事はわかったらしい。
ぼく達は一目散に駆け付けると、驚くハルヒにかまわず頭を下げた。
「すみませんすみません!コイツにはよく言って聞かせますんで勘弁して下さい!」
まず口火を切ったのはキョンである。見事な謝罪。さすが、謝り慣れている。
しかし、話の腰を折られたハルヒは黙ってはいない。
「ちょっとキョン、今交渉てるんだから邪魔しないでよ!」
「もう喋るな!すみません、ここは許して下さい!」
無視して謝罪を続けるぼく達にハルヒは激怒した。
「何よ、皆して!あんなに部屋があるのよ!?一つくらいいいじゃない!ケチ臭いのよ!」
やってしまった。明らかに警備員が表情を険しくしている。
「君たちねえ……まだ学生だろ?学校どこ?」
まずい。非常にまずい。競馬観戦どころの話ではない。仕方ない。こうなったら長門に鎮静剤を……。
そう思ったその時だった。若々しいが落ち着いた声と共に、手前のドアが開く。
「何だ?騒がしい……。警備員は何をしてる?」
聞き覚えのあるブリティッシュ・イングリッシュ。ドアから出て来たのは……金髪の、乗馬服の男だった。
警備員は英語がわからないようだったが、非難がましい目付きには気付いたらしい。慌てた様子で手を振った。
「も、もういい。さっさと行きなさい」
振り払う態度が気に入らなかったらしく、ハルヒがムッとした表情をする。爆発寸前だ。キョンと古泉が必死になだめる。
その間、あの男は虫を見るような冷たい目付きでぼくらを見ていた。しかし、突然にその目が驚きで見開かれた。
「……おい、ジョニィ?君、ジョニィ・ジョースターだろ!?」
そして、警備員の制止を振り切ってぼくに近づいて来た。
「…………」
「やっぱり、ジョニィじゃないか!怪我したって聞いていたが……フフッ、日本にいたとは!」
皆が、警備員すら事態が理解出来ずに固まっていた。突然に親しげに話し始めた男に面食らっていた。
「レースを見に来たのか?こいつらは友達か?」
なおも質問を浴びせる男に、部屋からやはり落ち着いた声の英語が問い掛ける。
「どうしたんだね、Dio君?戻って来ないが、何かあったのか?」
身なりのいい中年の紳士だ。馬主だろうか。男……Dioはぼくを手で示した。
「ええ、ご覧下さい。ジョニィ・ジョースターですよ。……お忘れですか。数年前にデビューした天才ジョッキーの」
紳士はぼくの姿を認めると目を見張った。
「む……た、確かに。しかし、これがかつての天才ジョッキーの姿とは……あ、いや失礼」
紳士は咳払いするとぼくから視線を外し、既に興味を失ったかのようにDioに言った。
「……そんな事より、もうこんな時間だ。そろそろレースの準備をしなくていいのかね?」
「オーナー、その事なんですがね……」
Dioは言葉を切ると、一瞬嫌らしい笑みを浮かべた後に口を開いた。
「彼らをVIPルームに入れてやってはくれませんか。彼は私の友人です。このレースでの勝利を特等席で見てもらいたい」
「何だと?うむ……しかしな……」
意外な申し出に馬主も驚いている。無理も無い。身元の知れない人間を入れるなんて、常識では考えられない。
しかし、Dioが食い下がった。
「今回もオーナーは前レースからゴール正面の席でご覧になるんでしょう?でしたら、どのみち空く席ではないですか」
馬主はしばらく思案していたが、ジョッキー直々の頼みに渋々といった様子で頷いた。
「……いいだろう。私もそろそろ行く。君も準備したまえ」
Dioは満足そうに笑いながら礼を言うと、その笑みをぼくに向けた。
「フフ、ねじ込めたよ。環境は最高だぜ。のんびりとエアコンの効いた部屋で俺の勝利を見ているといい」
そして、馬主に伴い奥へと歩いて行った。去り際に不敵な笑みを残して。
「……え?何?どういう事?」
Dioや馬主の会話は英語で行われたため、ハルヒ達は何が何だか分かっていない。
ぼくは苦々しい気分で疑問に答えた。
「……あいつはDio……ディエゴ・ブランドー。騎手だ。そこの部屋を使っていいらしい」
「ええっ、嘘っ!」
皆が信じられないという様子で声をあげる。
しかし、髪の長い男……Dioのボディーガードだろうか……に耳打ちされた警備員が道を開けると、
どうやら本当にVIPルームを使っていいのだとわかった。ハルヒが喜んで部屋に入って行く。
「やったー!うわ、涼しい……」
「良い部屋ですね。まるでホテルの一室、といった所でしょうか」
「へえ、飲み物まで備え付けてあるのか。本当にVIP待遇なんだな」
皆が口々に部屋を誉める。確かに環境としては最高だ。人が溢れたスタンドとは比べ物にもならない。
みくるさんも涼しい部屋で座れたせいか落ち着いた様子だし、文句の付けようが無い。喜ぶべきだ。
「ところでジョニィ、さっきのあいつは……ってどこ行くんだよ?」
喜ぶ皆をよそに、ぼくはドアに手を掛けていた。
ぼくは振り返らないまま返事をした。
「……まだレースまで時間がある。飲み物を買ってくるよ」
特に制止の声も無く、ぼくは一人廊下に出た。一般席の喧騒から離れた静かな廊下。
ぼくは当ても無く、奥へ進んで行った。Dio……彼も本場英国では天才の名を独占していた騎手だ。だが、それもぼくがデビューするまでの話。
直接対決では結局勝つ事は無かったが……でも、いつか勝つ。そのはずだった。あの事件のせいでそれも断たれたが……。
静かだ。車椅子のタイヤが鳴らす、ゴムの擦れる音だけが響いていた。
「ジョニィ?……どこ行くのよ」
澄んだ声がそこに混ざる。真っ直ぐな視線がぼくを射抜いていた。
「……ハルヒ……言っただろ。飲み物買ってくるって」
「嘘。キョンが言ってたじゃない。飲み物も備え付けられてるって。見もしないで行く?」
「…………」
ハルヒは本来頭が良い人間だ。しかし、ただの秀才と一線を画すのは行動力が尋常ではないという事。
もう一つ、他人の都合をまるで考えない事。目的地を見据えたなら最短距離を突っ走る。
雪崩のように進路上にある物は全て巻き込んで。強引な奴なんだ。
今回だってそう。鋭い洞察力から、ぼくが嘘をついている事には気付いたらしいが、
何か理由があるんだろうと、そっとしておくなんて考えもしない。
一言で言えば暑苦しくて迷惑。ハルヒはそういう奴だ。
でも、この時はそういう所が嫌いにはなれなかった。
「……さっきのあいつ、どう思った?」
「さっきの?Dio……だったっけ。友達?」
ぼくは吹き出した。
「友達?冗談だろ!?あの笑顔、見たかい?旧友に対して向ける物じゃない。見下してた。
大体、あいつとは話した事すら全然無い。それなのに……」
それなのに、わざわざ誘った。友達の前で席を譲ると言われたら断われるわけが無い。
「俺の勝ちを見ろ」だと?文字通り「失脚」したかつてのライバルに?……最高に良い趣味をしてる。
「そうなの?……確かに、何か嫌な感じしたけど」
ハルヒが怪訝そうに言う。しばらく眉を寄せると、戸惑ったように口を開いた。
「……ねえ。何か変よ?あの人と何かあったの?」
「……彼は信用出来ない。それだけは確かだ。個人的な印象を抜きにしても、競馬界では彼の黒い噂は絶えない。
一見紳士的だけど、それは上辺だけだ。……少なくとも、見返り無しに親切をするタイプの人間じゃあない」
今回は見返りがある。優越感という大きな見返りが。高慢なあいつには堪えられないだろう。
しかし、こんな場所で会うなんて……運命の悪戯か?だとしたら残酷じゃないか!
脚だけ取り上げて、競馬からは離れるなって!?悪趣味すぎる!
「……ねえ、ジョニィ。そろそろ戻らない?」
弱々しい声を聞き、ぼくはハルヒを見る。……初めて見る顔をしていた。こんな顔をするのか、とすら思った。
いつもとは全然違って、そして、その原因は一つしかない。ぼくだ。
「……ごめん。こんな事言って。大した事じゃあないんだ。本当だよ」
ハルヒは少しの間ぼくに視線を送ったが、すぐに普段の不遜な態度に戻った。
「しょうがないわね。大サービスで帰りにジュース一本で許してあげる」
……ふう、良かった。そうじゃないと調子狂うしね。
「……何、ニヤついてんのよ。もう、さっさと行くわよ!」
強い声で言って、小走りで戻り始める。ぼくは慌ててそれについて行った。
「やあ、お二人共。長くかかりましたね。もうしばらくでメインレースのパドックが始まるようですよ」
部屋に戻ると古泉が出迎えた。ずいぶん爽やかな笑顔だ。
「それ、買ったの?」
その事には触れず、ぼくは彼が持つ紙束を指差した。
「はい。せっかくですからね。今も話していた所です」
古泉は競馬新聞を開きながら言った。一面には当然、今日のメインレースの宝塚記念が載っている。
「でも、やっぱり良くわからなくてな。ジョニィ、お前詳しいみたいだが、このレースどう思う?」
キョンが聞いてきたのでぼくは競馬新聞を受け取った。……いた。Dioだ。やはり目に付いてしまう。
騎乗するのはシルバー・バレット。英国馬か。……聞いた事はある。海外馬だけあって実力は折り紙付きだ。
オッズや予想を見ると、今回のレースの本命は話題のホクトブライアンと共に、宝塚記念初の海外馬シルバー・バレット。この二頭に絞られるようだ。
総合するなら、本命は……ホクトブライアン。僅差で対抗がシルバー・バレット。
とはいえ、日本馬であるホクトに多少の贔屓がかかっていると考えれば、力はほぼ同等だろう。
ぼくは二頭の走りは見ていない。だから、データ上での判断しか出来ない。その上で、ぼくは判定した。
「やっぱり、ホクト有利だろうね」
「へえ、何で?」
ハルヒも食い付いて来た。ぼくは一点を指差す。
「ここを見てくれ」
「……?矢印?」
……本当に何も知らないんだな。
「……これは脚質を表してるんだ」
「脚質?」
ハルヒが目をぱちくりさせる。
「馬だって生き物なんだ。それぞれ個性や性格がある。最初から全力で走りたがる馬、どうしてもスタートが苦手な馬ってふうにね。
脚質はその馬が得意とする位置取りやレース展開を言うんだ」
古泉がなるほどと相槌をうつ。しかし、まだキョンはピンと来ないのか険しい顔だ。
「例えば、対抗馬のシルバー・バレットは『先行馬』。
先行馬はトップの後ろにつけて、ラストでそれをかわす。一番スタンダードな脚質だね。
で、本命ホクトは『逃げ馬』。スタートダッシュでトップに立ち、そのままゴールする事を目指す」
「へえ、あたしにぴったりね!」
「お前はペース配分出来ないだけだろ」
胸を張って言うハルヒにキョンが茶々を入れる。また機嫌を損なわれては困るので、ぼくはそのまま続けた。
「これで、脚質はわかってくれたかな?そしたら、もう一度ここを見て」
「……あ、逃げ馬がホクトだけだわ!」
ハルヒは大発見をしたかのように言った。ぼくは頷きながら続けた。
「逃げ馬のメリットとして、ラインや位置取りのための他馬との競り合いが無いぶん、体力の消耗を避けられるって点がある。
それは逃げ馬が他に居ない、スローペースのレースで最も発揮される。しかも、ホクトは内枠引けたしね」
「内枠?」
ハルヒがまた聞き返す。
「ああ、内枠っていうのは一番インコースの事。最短距離を走れるわけだから、逃げ馬には最適なんだ」
キョンが不思議そうに口を挟む。
「じゃあ、先行馬はこのレースじゃ不利なのか?」
ぼくは首を振る。
「いや、先行馬のメリットはどんなレース展開にも対応出来るっていう事なんだ。
でも、逆に言うなら特に得意なレース展開は無いって事になる。悪く言えば器用貧乏とも言える。
とはいえ、最も実力が反映されるっていう事は事実だね。
判断材料はそれだけじゃない。日本の気候やこの競馬場への『慣れ』も考えると、やっぱりホクト有利じゃあないかな?」
ぼくがそう結論付けると、古泉が大袈裟に拍手した。
「素晴らしい。さすがですね」
「くどいようだけど、ぼくは二頭のレースは見てない。データ上の話だよ」
ぼくは肩を竦めながら言った。結局の所、レースが始まらないとわからない。
データだけで勝敗を語る事の馬鹿馬鹿しさをぼくは良く知っている。
今のぼくの御託だって、ホクトがスタートをミスった瞬間に無になる程度の物だ。
「それにしたって凄いわ。あたしたちは良く知らないし」
「そうかな……どうやら、もうすぐパドックが始まるらしいし、見てみよう」
ぼくは相槌を打ちながら、ここまで一言も喋っていない人物に視線を向けた。
……ああ、長門じゃない。いつもろくに喋らないからな。
「みくるさん、元気無いけど……やっぱりまだ調子悪い?」
みくるさんは心配を振り払うかのように、にっこりと笑った。
「ありがとう。でも、大丈夫ですよ。まだ少し変な感じしますけど、むしろ気分は良いんです。
興奮してるっていうか……場所のせいかな?こういう所に来るの、初めてですから」
明るくそう言う姿に安心させられる。だいぶ体調が良くなったようだ。
「そうか。ところで、それ……持って来てたんだね」ぼくは彼女が羽織ったカーディガンを見ながら言った。ぼくが部屋を出た時に身に付けたのだろうか。
「え?……ええ、冷房で寒い時がありますから、夏も持ち歩いてるんです」
確かに、この部屋は一般スタンドと違ってクーラーが効いている。
ぼくは全然気にならないが、体を冷やしやすい女性にとっては寒いくらいかもしれない。
「あ、見て見て!パドック、始まったみたいよ!」
元気なハルヒにはそうじゃないみたいだが。ぼくは早速オペラグラスを手にパドックを見た。
特に入れ込んでいる(興奮して落ち着きが無くしている事)馬はいない。調子を落としている馬も。
これで当日の調子という不確定要素が一つ消える。ぼくの予想通り、順当に行くのか?
そう思った瞬間、ぼくの手からオペラグラスが取り上げられた。
「借りるわよ。ふんふん、なるほど……」
何がなるほど何だか……。ぼくは何度も返してくれと言ったのだが、
「もう少し」
……これだ。結局パドックが終わるまで帰って来なかった。
レースもこの調子じゃ堪らない。返してもらうと、ぼくはハルヒに宣言した。
「ハルヒ、いい加減にしてくれよ。ぼくはもう貸さないからな」
強い口調にたじろいだのか、ハルヒの抗議は控え目な物だった。
「でもー、向こう側のコースに行ったら全然見えなくなっちゃうのよ?」
「だったら買いなよ。多分、売店に売ってるから」
「あ、そうなの。じゃ、キョン。買ってきて」
やっぱりこうなったか。「何で俺が……」と言いかけたキョンの言葉を遮って、ハルヒがまくしたてた。
「キョンもちゃんとレース見たいでしょ?皆の分が必要なの。だから代表してあなたが買いなさい」
一見もっともだが、多分ハルヒ一人に独占されるんだろう。
キョンはぼくを一瞥した後、反論するのも無駄と言わんばかりに早足で部屋を出た。許せ、キョン。
キョンが安っぽい双眼鏡を手に戻ってから程無くして、場内が地鳴りのような歓声に包まれた。
本日のメインレース、宝塚記念の主役であるフルゲートの18頭。
その競争馬達が現れたのだ。続々とゲートに向かう各馬を歓声が送り出す。
レース前の競馬場を包む熱気……久し振りに味わう感触だった。今日はターフの上では無いが、確かに伝わる。
この耳が痛くなるような歓声やも、馬自体が放つ力も、テレビ観戦では到底味わえない。
ハルヒ達も同じように、独特の緊張感を感じているようだった。
もうすぐ始まる。死力を賭けた二分間……!
各馬、滞りなくゲートインが完了。宝塚記念、そのためだけに作られたファンフーレが高々と場内に響く。
ゲート内で今か今かとスタートを待ち構える競争馬達。ぼく達は固唾を飲んで見守った。
そして、ついにゲートが開く。宝塚記念、スタート……!
「うっ……」
スタートを見て、ぼくは思わず呻いた。各馬綺麗なスタートだ。出遅れた馬は無い。しかし……!
「え、何で?逃げ馬はホクトだけなんじゃなかったの?」
逆!何と四頭が前に飛び出している。その中には当然ホクトの姿もある。シルバー・バレットはその後方だ。
「奇策、でしょうか。しかし、こんな場で……」
いや、ある。前述の通り、逃げ馬のメリットとして、他馬との競り合いを避けられるという点がある。
これを最大限に利用……つまり、他馬が後方で牽制し合っている間にスタミナを節約。
漁夫の利を得る形で勝ち目の薄い馬が勝利するという事は過去に何度もある。
見ると、やはりホクト以外は優勝候補には遠い馬ばかり。一か八かには違いないが、有力な戦法なのだ。
「これじゃ、さっきジョニィが言ってた逃げ馬の旨みが無いんじゃないか?」
違う。やはりホクトは積んでるエンジンが違う。飛び出した四頭の内、ホクトだけが堂々と抜け出ていた。
先頭にホクト、その二馬身ほど後方に横一列となって逃げを狙った三頭。その後ろにシルバー・バレット達という展開になっている。
過程はどうあれ結果的に一頭だけが抜け出たなら、ホクトとしては普段と同じ感覚だろう。
むしろ、この突如現れた逃げ馬によって不利になるのはシルバー・バレット……!
三頭はほぼ横一列で走っている。それが問題なのだ。横に一m弱の間隔で走る三頭は完全にシルバー・バレットの進路をふさいでいる。
インコースぎりぎりに寄せたシルバー・バレットは大きく迂回……余分に走らざるを得ない。
やはり、勝負はわからない。本来、ホクトに不利なはずの逃げ馬が彼に味方するとは。
そうこうしている内に、レースも中盤だ。ホクトが第三コーナーに差し掛かろうとしている。
ここまで各馬の位置にはほぼ変わりは無い。……おかしい。なぜ動かない?
動かない、というのはシルバー・バレットの事だ。仕掛け、という話ではない。単純に動いていないのだ。
内側いっぱいのまま、前方との距離を保ち続けている。なぜだ?仕掛けは当然まだだろうが……、
言うなら、その下準備が必要なはずだ。つまり、最終的に外側に向かって前方の三頭を抜かすために、ある程度外に行く必要がある。
なのに、シルバー・バレットは内側いっぱいを走っている。恐らく、三頭を抜かすポイントは第三コーナーから第四コーナーにかけて。
コーナーを曲がる、外に膨らむ勢いを活かして三頭をかわす。これで間違い無いだろう。
しかし、だとすればそろそろ外に開かなければ自然に抜かせなくなってしまう……。
そう考えている内に、ホクトが第三コーナーに踏み込む。残りの馬達も。
……動かない!?Dio……何を考えている。コーナーを曲がるシルバー・バレットは微動だにしない。内側に寄せたままだ。
駄目だ。コーナーを曲がりきってから外に開いて抜かすのでは遅すぎる。それではホクトには届かない。
そろそろ開かなければ……。…………!?動いている……!?
シルバー・バレットじゃない。前三頭の内、一番内側の馬だ。僅かに外側に流れている。
違う、ぶれている!何歩目かに一歩、僅かに外側に体がぶれるんだ!
見ると、コーナーを曲がる動きに相まって、内側に空間が出来始めている。数歩ごとにそれは広がり、そして……!
「抜いた!」
ハルヒの叫び声が聞こえた。コーナーを抜けると同時にシルバー・バレットは三頭を追い抜いた。
後は直線……!ぼく達の正面のゴールに二頭が迫る。前はホクト、追うはシルバー・バレット。
迫る、迫る……!少しずつ馬身が縮んでいく。Dio……差し切るのか……!?
しかし、ここにきてホクトが粘る。後100m、半馬身から懸命にリードを守る。あと50……!30……!20……!10……並んだ!
同時に二頭がゴールを駆け抜ける。どっちが勝ったかはもうわからない。
「写」のランプが点灯する。写真判定だ。ぼくは乗り出した体を車椅子に預け、オペラグラスを置いた。
いつの間にか、呼吸を忘れていたようだ。全力で走った後のように息が切れている。
「ジョニィ。今、どっちが勝った……?」
わからない。でも、かなり際どい。
少なくとも、Dioが外に抜けるレースをしていればシルバー・バレットの勝ちは無かった事は確か……!
「あっ!おい、写真判定出るみたいだぞ!」
ターフビジョンに写真が写される。勝ったのは……シルバー・バレット……!
ハナ差……!Dioが勝った……。
「凄いな、これが競馬か……」
キョンが嘆息しながら呟く。ハルヒも興奮した様子で言う。
「凄かったわね!シルバー・バレットって凄く早いのね!」
違う。今日の仕上がりだけ見れば、ホクトが上だった。、シルバー・バレットが勝ったのは、別の要因……。
「癖」だ。人間同様、馬が持つ癖。前を行く馬の外にブレる癖。それを読み切って内側の経済コースを選択。
後から分析するのは簡単だ。しかし、それをせいぜい一分半程度の短い時間でやるなんて!
そして、それが結果としてはシルバー・バレット、ひいてはDioに勝利をもたらした……。
「あー、楽しかった!来て良かったわね!」
楽しそうに皆が談笑するなか、ぼくは一人黙っていた。
くそっ、悔しいが……Dio、あいつは天才だ。
To Be Continued……
投下終了です。競馬の下りは自分でも「あれ?これってジョジョとハルヒだよね?」と思った。
遅れましたが、アフターロックの人、この前はレスありがとうございました。話で答えようと思ったら、結構遅くなりました。
後、先にネタバラシしておくと……タイトルの「Killing the Dragon」は、アメリカのヘビメタバンド「DIO」の曲です。それではまた次回。
え、このタイミングって投下してもいいのかな?
いつもの半分ぐらいだしいいよね? 投下するよ?
――火曜日。
長門から、『喜緑さん』の末路を聞かされ、愕然としたその翌日の正午過ぎ。
『生徒会室』に、顔の知れた面々が揃っている。
――古泉。鶴屋さん。朝比奈さん。榎本さん。会長。そして、俺。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第12話『スタンド使いたちは集う』
室内には、分厚い沈黙の帳が下りている。
壁を背に、ひどく重たい表情を浮かべ、何も無い床を見つめているのは、威圧感のかけらも発さない生徒会長。
笑顔を浮かべることなく、本棚を背に、天井を見上げている古泉。
居心地が悪そうに肩をすくませ、生徒会員用であろう席についている、朝比奈さん。
そして、その隣では、場違いな檻に放たれてしまった小鹿のように退屈そうにしている榎本さん。
最後に、ドアの前に立つ俺の隣。つい今しがた到着した、鶴屋さんが、アルミ棚に拠りかかり、なにやら顎に指を当て、唸っている。
「……何か、あったんだね?」
しばらく、室内の様子を見たあとで、一言。小声で、俺にそう尋ねる。
たしかに。部屋中のどこをみても、『最近、何かありました』といった雰囲気が見て取れる。
……果たして、俺の口から伝えても良いものだろうか。
「んー……うん、わかったよ。ごめんね」
何も言えずにいると、鶴屋さんは何やらを察してくれたらしく、笑顔を浮かべ、俺の肩を数度叩いた。
……言わずもがな。この部屋に沈黙を齎しているのは、拭いようもなく、俺たちの心にくすぶる『喜緑さん』の死だ。
対有機生命体コンタクト用、ヒューマノイド・インターフェースである喜緑さんが、『死んだ』。
己に発生した『スタンド』の力を制御できず、生命活動を停止された。
……俺たちに、この現状の重さを知らせるには、十分すぎる出来事だ。
……その後、数分して。沈黙を破ったのは、スピーカーから響き渡るチャイムの音だった。
昼休みが終わったのだ。それぞれの教室で、授業が始まる。
「おい、どうなってんだよォ――!! あのイタリア人、人を呼んどいて姿も現さなね――ってのはよォ!
授業始まっちまったじゃねェ――――かよ! 古泉ぃ、お前なんか聞いてねェのかよ!!」
それを合図とするかのように、会長が騒ぎ出す。
「そォ―――だよォ、あたしが卒業できなくなったら、責任とってくれるっての!?」
続いて猛るは、榎本先輩。
二人を前に、古泉が眉をハの字にし、弁明する。
「落ち着いてください、お二人とも。
……フーゴから何の話が有るかは知りませんが、皆さんの午後の授業は、皆、機関と繋がりのある教師が受け持っています。
今朝方、授業の変更があることを知らされませんでしたか?
ですから、このために授業が遅れても、皆さんの成績に影響は出ないように、ちゃんと連絡は取ってあります」
「ちっ……それにしたってよォ、イタリア人ってのは時間にルーズとは聞いたが……
やっぱ職員室まで見に行ってやるか……コーヒーでも飲んでやがったら、廊下に引きずり出して、ブッ飛ばしてやるぜ――――!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ついに待てないといった様子で、唯一の廊下との出入り口に向かって歩き出す会長を、古泉が引き止める。
その、瞬間。俺の背後で、ドアが開かれる音がした。
振り返ると……そこには、見知った三人の姿がある。
「全員、揃っているようですね。さすがジャポネーゼだ。
みんな、僕らの『ボス』なんかより、よっぽどギャングに向いている」
飄々とした顔で軽口を叩く、パンナコッタ・フーゴ。
そして―――岸辺露伴と、森園生だ。どうやって校内に入ったのかは―――知らん。
「お分かりだとは思うんですが、万が一、『敵』にこの会話が聞かれていないかを想定して、授業時間中に君たちを呼びました。
話を始める前に……鶴屋、でしたっけ? あなたは」
「あ、うん。鶴屋さんに何か御用かなっ?」
本来、生徒会長が着くのであろう席に座った『フーゴ』が、鶴屋さんを指差し、言う。
「あなたの『スタンド』の、小さいほうで……周囲に、僕ら以外の人間やスタンドが居ないか、確かめてください」
「うーんと、『FUN・Pちゃん1号』のことかなっ? それなら楽勝っさ、『1号』は耳がいいからねっ。
この階に誰かがいるなら、その呼吸の音だって聞き取れちゃうよっ!」
言うが早いか、鶴屋さんが『スタンド』を出す。
『ファンク・ザ・ピーナッツ1号』。別々に発動することもできるらしく、今回は『2号』の姿は無い。
「……オッケーさ、みんな教室に納まってるよ。『スタンド』については、なんともいえないけど……」
「そこは『キョン』、君に頼みます。この部屋の近辺に潜んでいる『スタンド』が居ないか、あなたの『スタンド』で探知してください」
「あ、ああ……構わんが」
突然のご使命にいささか度肝を抜かれつつも、『ゴッド・ロック』を発動させ、『気配』に全神経を集中させる。
……グラウンドと、校外の一部を含む全域に、スタンド反応なし。ただし、ま隣の鶴屋さんを除く。
「ああ、問題ない。この近辺に、『スタンド』は存在しないぞ。鶴屋さんの『ファン・ピー』は別にして、な。」
「そうですか……でしたら、お話します。
これは、万が一にも『敵』の派閥に含まれる連中には、聞かれてはならない情報です。
――――昨日の夜。『ボス』から僕らに、連絡が入りました。
内容は―――『オノ』と思われる人物を知る人物との接触に成功した――――!!
『オノ』の正体は――――フルネーム、『小野大輔』! 職業は、三年前の時点で、『声優』! さらに、東京近郊に住んでいた!」
「……何だとォ――――!?」
真っ先に叫んだのは、『会長』だ。
「おい、『フーゴ』ォ!! そりゃ、確実な情報なんだろうな!?」
「間違いありません。かつて、『小野大輔』という人物から、『麻薬』を買っていた人物からの情報です。
『事務所』のデータにも、その人物が『事務所』からクスリを買っていたであろう記述が残っています。
そして、『事務所』のデータからすっぽり抜け落ちている、おそらく、ある一名の人物を指すであろう空白……
その『空白』に、その人物は『繋がる』!」
フーゴが一言を放つたびに、部屋に満ちた『緊迫感』が、割り増しになってゆくように思えた。
「『敵』は『小野大輔』! 職業は『声優』! 性別は『男』、年齢はおそらく『30前後』!
その人物こそが、この西宮で『矢』を使っている人物!
そして、『涼宮ハルヒ』の命を狙っている人物―――!!」
「ちょっ! ……ちょっと、ま、待ってね」
不意に、榎本さんが携帯電話を取り出し、その文字盤を弄る。おそらく、検索サイトに、その名前を放り込んでいるのだろう。
「……いないわ、そんな人。一件もひっかからない」
「それはそうよ。まさか、クスリの売人だった時代と同じ名前で、声優なんて目立つ仕事をやるバカは居ないわ」
言ったのは、森さんだ。
「おそらく、そいつは全く別の『名前』で『声優』をしている……
その仕事は、多分今でも続けているんでしょうね。
やつは矢を使う以外の曜日を、仕事に費やしている……でも、多分この町に住民登録はしていないわ。
そんなのは『足』がつくから―――おそらく、住民票は、今も東京にある。あるいは、『どこにも』無い……」
「すみませんが、それと、もう一つ。『小野大輔』には、三年前の時点で『妻子』があります。
独身で行動しているよりは、『細工』などもしやすいと思うのですが―――」
「……そんなのさ。『消しちゃって』るでしょ、当然」
次に口を開いたのは―俺にとっては意外なことに、榎本さんだった。
「『オノ』ってやつはさ。あたしに話しかけて連れ出して置きながら、それを忘れさせるようなスタンドを使っているんでしょ?
そんで、その前には、『オアシス』……地面や物の中を自由に泳ぐスタンドを使っていた。
たとえばだけどね、市役所とかに『オアシス』でもぐりこんで、一番重要な場所に行くでしょ?
そこで『オアシス』から『洗脳スタンド』にチェンジして、自分や、奥さんとか子どもとかが存在した『跡』を洗い流させる」
「『帰り』はどうするんですか」
「何だってあると思うよ。たとえばさ。『洗脳スタンド』が、幾つもあったとしたら? 『オアシス』で乗り込んで、『洗脳スタンド』を使う。
あとは、『脱出』ができるスタンドなら、なんでもいい。みくるちゃんみたいな、ワープができるスタンドとかね。
そして、そいつで脱出した後で、新しい、あたしに矢を使ったときの『スタンド』に乗り換える……」
「あるいは。もしかして、敵はスタンドを『自由』に付け替えられるという可能性もあります。
オアシスを使って、別のスタンドを使い、またオアシスに戻す……などと言ったような」
「いや、僕は、多分……榎本さんだったか。彼女の見解が正しいと思うな。
『矢』を使うなら、『オアシス』を使い続けたほうが、ずっと効率がいい。わざわざ話しかけて、連れ出すよりはね。
だが、『オノ』は今、オアシスではないスタンドを使っている。つまり、一度でも『洗脳するスタンド』に変えなければ為らない事情があったんだ。
職員でなければ難しい、『戸籍』への細工が、その『事情』だと考えるのが、最も筋が通ると思う。
そして、その後も『オアシス』に戻さず、『洗脳スタンド』を使い続けている……つまり、敵は同じ『スタンド』は、一度きりしか使えない」
榎本さんの仮説に対する、古泉の異論を、岸辺が切り捨てる。
……実際に戸籍を調べてみるまでわからないが、いずれにせよ、筋は通っている……か。
「つまり―――。その『敵』は『現在使用者の居ない』スタンド……
『死んだ』スタンドを、一度だけ自由に『再現』できる。
そして、そのスタンドの『概要』を知ることができる―――そうでなきゃ、再現する『スタンド』を選べません。
そういう能力を持った『スタンド』の使い手――――っていう、ことですかぁ……?」
……これまた、意外な人物から発言が飛び出した。
居心地の悪そうにパイプ椅子に座る朝比奈さんが、俺の想定していたのと同じ概要の意見を放った。
「『ディ・モールト』その通り! 僕ら、『パッショーネ』と『SPW財団』が立てた仮説が、それです。
そうでなければ、これまでの『敵』の行動に理由を見出せない―――」
指を鳴らすアクションを踏まえつつ、フーゴが言い放つ。
―――それと、同時に。ドアを開け放つ音が、部屋に転がり込んだ。
「『喜緑江美里』の記憶の解析が、完了した」
……この室内に存在する、全員の肝を冷やしたであろう、乱入を行ったのは、見知った無表情。『長門有希』だった。
「……『長門さん』。できれば、もうすこし穏便にやってきてくれると、僕らの心臓にも優しいんですが」
古泉が、苦笑しつつ、そう言う。
「……彼女の記憶は、情報統合思念体にとって認識不可能な『ウィルス』によって犯されていた。
彼女が私に襲い掛かる以前に、どのようないきさつを経て来たかは、解析できなかった。
しかし、彼女の記憶の中に、唯一―――
ある、彼女のそれまでの経歴に無い『情報』が残されていた。
……おそらく、人名と思われる。『オノダイスケ』という言葉」
「……『長門』。あなたはとても間の良い人だ―――あなたのその言葉で。今、全てが繋がった!」
フーゴが、にやけ混じりに言い放つ。こいつ、なんか古泉と似てるな―――内に秘めてるドス黒さは、比較にならんほどドデカいが。
「あー、しかしな、フーゴ。小野とやらが、戸籍を弄繰り回す能力を持っている以上、敵の『本名』などは、たいした情報にならんのではないか?」
珍しく、俺の言葉を誰かが遮ることなく、語らせてくれる。
「たとえば、『小野』が、この西宮……いや、それ以外かもしれない。とにかくこの近郊に、拠点を構えているとして。
そいつがそんなのを、市役所のデータを探れば分かるような状況に置くと思うか?
俺が思うに、『家族』のデータを消した要領で、『居ない』人間であるかのように細工していると思うんだが……」
「ああ、確かにそうです。でも、此処は『朝比奈』の説を借りて、『敵』はスタンドを『自由に付け替える』能力はないと考えます。
敵は『洗脳スタンド』と『隠密スタンド』をあわせて、初めて『戸籍』をいじくれる。と、考えます。
そして……これはあくまで、『パッショーネ』に属する人々の見解ですが。
『精神』に作用する『スタンド』というのは、とても希少なものなんです。
現在、『パッショーネ』と『SPW財団』が確認している限りで、そういったスタンドで、『生まれつき』の能力として『精神』への干渉を行えるスタンドは……
唯一。『ストレンジ・リレイション』というスタンドが当て嵌まるのみです。その本体の死亡は、SPW財団によって確認されています。
つまり……『敵』が、一度でも、『潜入』→『洗脳』→『脱出』の流れを行っている以上。
ならば、敵が再現することのできる『洗脳』の能力は、たった一つきりで、それ以外は存在しないと言っていい。そう、我々は考えています。
ついでに言いますが、現在、行方が判明して居ない『矢』は、たった一つ。
そいつがおそらく、『小野』の使っている『矢』です。つまり、『矢』によって、我々の知らない『スタンド』が生まれたというのは考えにくい―」
……まるっきり、言い伏せられてしまった。
「まあ、最も。貴方の『矢』に似た『スタンド能力』のように……
『スタンド』を新しく『産み出す』能力を持つ『スタンド』が存在しないとは限りませんが。
とはいえ、貴方のかつて持っていた『スタンド引き出し』の能力はとても希少です。
その類似品が、容易くそこらに転がっているとは思えません」
……勝手に人のスタンドに、希少価値を付けられても、困るんだが。
「いいや、『キョン』。君のスタンドは十分に『希少』だ。その点では誇っても良いよ。
君は……君の『スタンド』は、まるで『矢』のようだ。
人を選び、そいつから『スタンド』を引き出す……
面白い。とても面白いよ、『キョン』君。
僕は君に出会えたことを、神に誇ってもいいね」
その神様とやらは、あの『ハルヒ』のことなんだろうか。
岸辺。てめぇ、一人で楽しんでやがるな?
「兎に角―――以後、我々は『オノダイスケ』という名前をキーワードとして、捜査を行う!
『敵』に、人の心を操る能力は無い―――と、断定して!
ホテル、施設、その他――――あるいは、『浮浪者』として存在している可能性もある!!
僕ら『SOS団』は、その人物を『敵』とみなして活動する―――異論はないですね!?」
「……いいわ。『機関』もおそらく、同じ見解をするでしょうから」
森さんが言う。
「よくわかんないけど――――とりあえず、『ハルちゃん』を守ればい――――んだよねェ?」
榎杜さんが言う。
「早速、西宮市、兵庫県のデータを漁ります。貴方の言うことは、まず間違いは無いと思います。
あとは、ホテル―――県内中のホテルを回り、『オノダイスケ』にまつわる情報をあたります!」
古泉。
「チッ……どこの誰だか何ざ知らねェ――――けどよォ――――
喜緑を……『江美里』を狂わせた野郎には――――報復をくれてやるぜェ――――必ずなァ!!!」
……生徒会長。
……やれやれ。どうやら。
逃げ道は、ないようだ。
「やりゃァ―――ーいいんだろ!? やりゃァ!!」
やけくその己の叫び声が、まるで負け犬の遠吠えのように響く。
ああ―――なんでたって、俺は、こんな場所に居るんだろうな?
――――
……『小野』は、また、新幹線に揺られている。関西へと向かう新幹線の中で。
『西宮市』。再び帰るその場所で、一体何をしようか? そう考えながら――――
「分かってるよ、『スペクタクル』……付け焼刃の『スタンド』じゃ、難しい。それくらいは、ね――――」
『像』のないスタンドであれば、彼の本来の『スタンド像』を発現することも可能らしい。
『ストレンジ・リレイション』を再生して、初めて知った事実だ。……小野は、『ジャスト・ア・スペクタクル』の表紙を撫でながら、呟く。
「求めるものは―――自分で取りに行かなくちゃ、ね。そう言いたいんだろ―――『スペクタクル』。」
そう言って、車内販売から購入した、ビールを一口飲む。
……苦い。
ああ、『彼女』は――――小野は思う。
『彼女』は――――幸せに、なれたんだろうか?
to be contiuend↓
たまに榎本さんを榎杜さんって書いてる俺ガイル
脳内再変換して読んでください
ジョニィ・アフロク両者乙!
やっぱり常識に溢れるジョニィが可愛い。
んでうちに燃える炎とかやっぱジョナサン=ジョースターだなーって感じ。
そしてシャブすた・・・なんとか耐え抜いたぜ・・・
自分もこれはインスパイアの域でいいと思う。ていうか盗作では絶対ないかと。
しばらく見ない間に大量の投下・・・
俺も負けてらんないな!投下ァ!
第88話 「生徒会からの挑戦状 2」
翌日、SOS団の部室に集合させられた俺達は編集長という腕章をしたハルヒの前に集めさせられた。
「それで、結局どんなのを作るのよ?」
「うーん……色々考えたんだけど、ここはやっぱベタに小説にしようと思うのよ!小説ならかなり楽そうじゃない?」
世の小説家が聞いたら怒り狂いそうな台詞だな。
「というわけで……ハイ!くじ」
「は?」
「だから、くじ引きで書くジャンルを決めるのよ」
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て」
「何よ、キョン?」
「適材適所っつう言葉を知らんのか?それぞれが一番書きやすいのにしねーとだな………」
「それじゃつまんないじゃん」
なんと俺のしごくまともな正論はつまんないの一言で一蹴された。
「できるだけミスマッチな組み合わせで突き抜けた物を書かせたいのよ!」
「新しすぎる意見ね……コケて全部さばき切れなくても知らねーぞ」
徐倫が反論する。が、ハルヒはあの100万ワットの笑顔を浮かべて言った。
「何言ってんのよ!あたしがやる限りさばけないわけが無いわ!」
「「やれやれだぜ」」
気を取り直してくじ引きをする。
「ちなみにどんなジャンルがあるんだ?」
「歴史小説、ミステリー、幻想SF、童話、恋愛小説、それとホラーよ」
うーむ……いくつかよく分からんのがあるな……だがまあ、恋愛小説以外ならなんとかなりそうだ。それ以外が来る事を祈ろう。
「はい、アナスイからよ」
「おう………」
アナスイがくじを引き、そこに書いてある文字をマジマジと見る。
「………歴史小説」
「んじゃ、お願いね」
「なあ……涼宮、アメリカを題材にした歴史小説でいいか?」
「駄目に決ってるでしょ?日本の歴史よ。じゃなきゃ歴史小説にならないじゃない」
「………俺、日本の歴史ほとんど知らないんだが」
「頑張って調べなさい」
次の瞬間、アナスイが地面に崩れ落ちる。
「だ、大丈夫ですか?」
「次、みくるよ」
「あッ!はい!……童話ですか?」
キョトンとした顔を浮かべる朝比奈さん。もしかしたら未来には童話が無いのかもしれない。
「みくるちゃんにピッタリねッ!さ、次は有希よ」
さっきミスマッチを狙うとか言ってなかったか?
「……………」
長門はくじを引いたものの、紙を暗号解読か何かのように凝視して、内容を話そうともしない。横からハルヒが覗き込み、読み上げる。
「幻想SFね?有希、よろしく」
長門は小さくうなずき、そのまま再び動かない置物とかしてしまった。
「それじゃあ……次は古泉君」
「はい」
例の爽やかイケメンスマイルを浮かべながらくじを引く古泉。
「おや……これはこれは」
「なんだ?」
「いえいえ、とても書きやすい物が来ましてね」
………ミステリーか。
「その通りですよ」
「……うーん……ま、一つぐらいはまともなのがないとね」
「ハルヒにしてはまともな感覚じゃない?」
「SOS団の存続がかかってるからじゃねえか?」
「なるほどな……いつもこうならいいんだがな………」
全くだ。
「次、キョンよ」
おう……待てよ?そういや残ってる二つは………。
「ホラーと……恋愛小説………」
うわぁ……どっちも当たりたくねえ………よし、徐倫に先に引かせるか。俺くじ運悪いからなあ………。
「徐倫、先に引けよ」
「いいのか?」
「残り物には福があるってな………」
「なるほどな。サンキュー」
おう。……あれ?なんでサンキューなんだ?……まさか!徐倫の顔を見ると邪悪な笑みを浮かべながらくじの箱に手を突っ込んでいる。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉッ!」
が、時既に遅し、徐倫はくじを引き終わってしまった。そして徐倫が持つ紙には、ホラーの3文字が書かれていた。
「あたしが手品得意なの忘れてたのか?2枚の中から狙った方を引くなんて朝飯前だ」
……すっかり忘れていた。
「というわけで〜〜〜……キョンは恋愛小説に決定ね!」
気のせいかハルヒは嬉しそうに、アナスイと徐倫は野次馬根性丸出しの目、古泉も興味深そうだし、長門までこちらをじっと見ている気がする。
「あのな、悪いが俺に恋愛小説なんて書けねーぞ」
「なんで?あんたの体験を元にしたらいいじゃん……あ、この前国木田から聞いたけど、あんた中学の時仲良かった女子がいたんだって?……変な奴らしいけど」
なんであいつの話が出てくるんだ。国木田の野郎。そういや中河も俺があいつと付き合ってたなんて勘違いしてたな。なんで皆そう誤解してるんだ?
「あいつとは何も無い。それと俺は恋愛なんてした事もされた事も無い」
「……………」
「……………」
「……………」
なんだその怪しむような目は。いくら睨んでも無い物は出てこないぞ。
「ま、いいわ……締め切りは1週間後!遅れたら………覚悟する事ね」
「やれやれだ………」
「あ、そうだ!SOS団のメンツだけじゃ何となくさびしいわね……よし!谷口と国木田も呼んで……鶴屋さんもでしょ?後は………」
ハルヒは指を折りながら何かを数えると満足した顔で部室を飛び出して行った。
「さてと……プロット考えるか………」
「そうだな」
恋愛小説……どうしたものか………。
To Be Continued・・・
以上、第88話でした
アフターロックもジョニィの人も乙!
ジョニィの方は競馬知らない俺でも楽しめたし、アフターロックの人は俺では考え付かない能力を次々と………
とにかく乙!
それでは!
ジョニィの人、アフターロックの人、アメリカの人、乙!!
3人ともすごいなァ!!読んでてディ・モールト楽しい!!
3人の作者が全員24時間以内に投下している・・・・・ まるで『引力』が働いているみたいだ・・・
ちょい先走り気味だけど投下します
ジョニィ、アメリカ双方とも呼んではいます。でも、うまい感想が見当たりません。
自分のボキャブラリの無さが痛いです。でも、あらゆる意味でお二人ともに敬意を表してはいます。
そんなんで投下します。
……『オノダイスケ』の正体判明から、三日。祝日の金曜日の空には、雨雲がびっしりと蔓延っていた。
どうせならこのまま、明日の不思議探索もブッ潰れるほどに降りまくってくれればいいんだが。
それで探索が中止になれば、俺たちにとってこんなに心休まることは無い。
……喜緑さんの件までの猛攻がウソのように、ハルヒの命を脅かそうとする輩は、なりを潜めたきりだ。
前回の不思議探索の土曜日に、会長と鶴屋さんが撃退した奴から、もう一週間も、『敵』は現れていない。
……そろそろ、たまりに溜まったものが爆発しそうな中、明日は不思議探索。
無事に終わってくれると良い。昨日の放課後から、俺はそんなことばかりを考えていた。
「……降ってきたか」
ふと。居間の窓から外を見て、外の世界に、音もなく雨が降っていることに気づく。
父親と母親は、市外へ買い物に出かけ、妹は、午前中から、友人たちとプールに遊びに行っている。
いつから降り出したのかは分からんが、この調子だと、今日はプールは営業中止だな。
「……ただいま」
そんなことを考えているうちに。玄関が開く音が聞こえ、小鳥の囀るような、小さな声が聞こえた。
……妹か? にしては、妙に静かだ――――
「……どうしたの」
……どうしたも、こうしたも―――。
廊下と居間とを繋ぐドアを開けて入ってきた、見知らぬ美少女を前に。
俺はおそらく、えらい間抜け面を浮かべていたと思う。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第13話『西宮市はラブホテルのきらめきで彩られる』
「……いや」
……おそらく、雨に降られたのであろう、肩ほどまでの濡れ髪を拭いながら。
目の前に立つその人物は、不思議そうな目で、俺を見ている。
「……え、っと」
誰だっけ、この子?
一瞬、その大人びた容姿と、やかましさの一つも無い落ち着いた様子が、妹の友人であるミヨキチと被って見える。
しかし、ミヨキチではない。何が違うかって、顔が違う。俺の知る彼女は、目の前の少女のような顔つきではなかったはずだ。
「……だから、どうしたの?」
少女は当たり前のように、キッチンに入り、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、それをグラスに注ぐ。
「キョン君も、飲むの?」
……キョン君。
その少女は、俺の目をまっすぐに見ながら―――今、その名前を、確かに呼んだ。
よく見ると、その少女の顔には、どこか見慣れた要素を感じる。
何と言うべきか、それはとても身近な―――俺にとって慣れ親しんだ雰囲気。
……ああ、そうだ。この子は、まるで―――
「……妹、なのか?」
俺の口から、その言葉が転がり落ちて、フローリングを伝う。
少女は―――俺の妹に良く似た、けれど、ずっと大人びた少女は―――怪訝そうに眉を顰めて
「変なキョン君」
と、呟いた。
――――
ちくしょう、古泉のアホんだらは、どうしてこんなときに限って、連絡が付かんのだ。
「ちょっと、キョン君、どうしたの? ……何あわててんの?」
首にかけたタオルで髪の毛を拭いながら、『妹』は、ドタバタと家の中を駆け回る俺を、鬱陶しそうに見た。
これがあわてられずに居られるものか。自室から引っ張り出してきた外出用の服を身に纏うと、自転車の鍵を手に、『妹』の手首を取る。
「ちょ、ちょっと? 何、どうしたの」
「いいから、ちょっと来い!!」
「え? でも、あたし、服濡れたままなんだけど」
「じゃあ、早い所、何でも良いから着替えてきてくれ!」
俺の尋常ならぬ様子を感じ取ったのか、妹は渋々と、自室へと向かって行った。
その間に、俺は下駄箱を漁り、妹の為のレインコートを探す。
それはすぐに見つかったが―――サイズが見るからに合わない。こりゃ、今朝までの『妹』にぴったりのサイズだ。
仕方ない、少々オーバーサイズだが、母親のレインコートを引っ張り出す。
俺は……傘で良い。来月から、自転車に乗りながらの傘は罰金の対象らしいが、今月まではギリギリセーフだろうと、勝手に解釈しておく。
「ねえ、あたし、髪の毛乾かしたいんだけど……」
「それも手早く頼む!」
いかにも納得がいかないといった様子で、『妹』は顔をしかめる。
今のうちに―――そうだ。岸辺に連絡を取っておかなくては。
「……何の用か知らんが、僕より古泉に連絡を取ったほうが良いんじゃないか、『キョン』」
受付の声を挟み、聞こえた第一声がそれだ。
「あいつには連絡が付かん、とにかく、ちょっとした非常事態なんだ!
あんたの『ヘブンズ・ドアー』が是非とも必要なんだ、今から会えるか!?」
「……そっちから出向いてくれるというなら、構わないが。僕はホテルにいる。
しかしな、僕は『何がなんだか分からない』状態で、人の言うとおりに動くのがとても嫌いなんだ。
せめて事情を話す時間ぐらいはないのか?」
「髪、乾いたけど? ねえ、こんな雨なのに、どこ行くの?」
悪い、岸辺。あまり時間がない。今すぐそっちに向かうから、『ロビー』に降りててくれ。
なにやら岸辺の文句が聞こえた気がするが、無視して電話を切る。
「ちょっとな、知り合いのとこだ! 悪い、お前、レインコートでいいか?」
「なんで『今』なの? 雨が上がってからじゃ駄目なの? っていうか、なんであたしが連いて行くの?」
お前が着いてこなくちゃ、意味がないだろうが。
何しろ、非常事態に陥ってるのは、おまえ自身なんだから。
「……一応訊いておくが―――お前、誰かに『矢』で刺されたりしてないよな?」
「『矢』ぁ?」
……どうやら、『オノダイスケ』の毒牙に掛かったわけじゃないらしいな。
なら、あるいは、誰かの『スタンド能力』によって、こうされちまったって事か?
とにかく、全ては『ヘブンズ・ドアー』だ。少しばかり手荒だが、あいつのスタンドで、妹を『読んで』貰うしかない―――!
――――
約十数分後。俺たちは、『光陽園第一ホテル』のロビーにたどり着いた。
念のために、此処までの道のりを、『ゴッド・ロック』のスタンド探知能力をフル稼働させながら来たが
『敵スタンド』らしき気配も、また、背後の妹から『スタンド』の発生を感知することもなかった。
もっとも、敵の『スタンド能力』によって発生している事柄までは探知できないが……
「ねえ、何でこんなとこに用があるの?」
「いいから、ちょっと此処で待っててくれるか?」
俺は、ロビーの椅子に妹を待たせ、『岸辺露伴』を探した。
しかし、狭いロビーに、岸辺の姿は無い。
あの野郎、待ってろって言ったじゃあないか。まさか、俺が途中で通話を切り上げたのに腹を立てて、すっぽかそうってんじゃァないだろうな?
「あの、このホテルに宿泊してる『岸辺露伴』は、外出してますかっ!?」
焦る気を宥めながら、フロントに立つ女性に訊ねる。
「は、はいっ!? い、いえ、多分、お部屋にいらっしゃると思いますが……」
俺の剣幕に気おされながら、女性がそう言った直後。エレベーターの戸が開く。
「……なんだ予定より早いじゃないか」
現れたのは、いつもののらりくらりとした表情を浮かべた、岸辺だ。
バカ野郎、あれだけ慌てていたんだ。ちょっとぐらい早めに出てきやがれ。
「で、僕のスタンドが必要な非常事態ってのは、一体なんだ? 悪いが、つまらないことだったら協力はしないぞ」
つまらないわけが無い。何しろ、俺の妹が、突然見違えるほど大人びた美少女へと変身してしまったというんだ。
そいつに『矢』にやられた記憶は無い。もしかしたら、誰かにスタンドで攻撃されて、そうなったのかもしれない。
しかし、本人はその記憶も、自分がいきなり『成長』しちまっているっていう記憶もないらしい。
「……『成長』させるスタンド。……なるほど、僕にその『妹』を『読んで』くれってわけだ。
しかしな、キョン。本人が『自覚』してないなら、『ヘブンズ・ドアー』には記されないんだ」
「ああ、知ってる。前に聞いた。でもな、あいつは『精神』まで成長しちまってるようなんだよ。
小6にしちゃあやたらと子どもっぽかった俺の妹が、今時の大人びた少女になっちまってんだ。
その精神の変化に、何か鍵があるかもしれない。あんたは『精神』を読めるんだろォ――!?」
「……ふむ」
俺の言葉に、岸辺は何やら考えるようなそぶりを見せ……
「いいだろう。お前の言うことは実に筋が通ってるぞ、キョン。
僕の『ヘブンズ・ドアー』で、お前の妹を『読んで』やるよ。
ただしな、キョン。僕の『ヘブンズ・ドアー』は、本人の秘密にしたいことまで『本』にしちまう。始めてのキスがいつで、どんなものだったか。
他人に体を触られたことがあるかどうか、とかな。
隅から隅まで読んで、お前の妹の『精神』に、おかしな点がないかを調べるとしたら、そんなことも『読んじまう』ことになるが……」
にやり。と、気味の悪い笑みと共に、岸辺が言う。
……どこまで悪趣味なんだ、この男は。間違いなくサディストだな、こいつは。
「悪いがなァ―――、『岸辺露伴』! 俺の妹はまだ小学校6年生だ!
そんな乱れた経歴は持ってねェ――――よ!」
「ははっ、どうだろうな? 今時の小学生は進んでいるんだぞ、キョン?
まあ、そんなことも、僕の『ヘブンズ・ドアー』で『読んで』やれば分かる事だ。
で―――お前の『妹』ってのは、何処にいるんだ? 雨の中、お前の家まで足を運べだとかは、簡便だぞ?」
ああ、その心配は無い。ちゃんと、このロビーに…………
「……いねェ」
「……何だ?」
んな、馬鹿な。たしかに、あいつは――――此処からも見える、ロビーの待合席に、座っていたはずだッ!!
「『妹』がいねェ―――んだ! 『ありえない』!! ちゃんと自転車の後ろに乗せて、連れてきたんだ!!
なのに―――なんで居ないんだよォ―――!!?」
――――
……一体、何だって言うんだろう。
只でさえ、あたしは今日、せっかくの友達とのプールを、雨なんかに邪魔されて、イライラしてたのに……
雨に濡れて返ってきたら、『キョン君』がいきなり、あたしをどこかに連れてくとか言い出して……
もしかして、また『ハルにゃん』がらみかな? と、思って、黙って着いてきたけど。
行き着いた先は、『ホテル』。……こんなところに、何の用があるって言うんだろう。
あたしには果てしなく縁の無い場所じゃない? こんなところ……
ああ、レインコートが濡れててうざったい。
……見ると。キョン君が、エレベーターから降りてきた、私の知らない人と、何かを話している。
何、あの人。わけ分からない服着てて、ヒョロヒョロしてて……もしかして、あれがキョン君の言ってた知り合い?
だとしたら、冗談じゃない。あの人とあたしが、何で関係あるんだろう? つれてこられたからには、あの人とあたしが、何かさせられるのかな……
何かって……何?
……不意に、思い出す。あたしが『忘れたい』と、何より思っていたこと。
この間、友達から言われた……キョン君が、『女の子』と一緒に、自転車に乗っていたって言う話。
……あたしのお兄ちゃんだった、キョン君。そのキョン君が。女の子と仲良くしてる。
それも、あたしや、クラスの子たちとはぜんぜん違う……もっと、大人な『女の人』と。
そして、あたしも気づいてる―――キョン君が、どんどん、お父さんや、町で見かける『男の人』のように……大人になっていること。
「……やだ」
あたしの口から、何か、言葉が零れる。
ふと。あたしの前を、知らない男の人と、女の人が横切る。
……ホテル。そういえば、友達から聞いた。『恋人』は、『ホテル』に行くものだって。
そこで『恋人』は、『セックス』をするらしい。まだ『保健体育』の授業は受けていないから、あたしには、よく分からない。
でも、それは――――それをすることは、『大人』になったしるしらしい。
……キョン君。
キョン君は、自転車に乗せていたっていう人と『恋人』なんだろうか?
キョン君は――――背がうんと伸びて、体が硬くなってきたキョン君は。
その人と、『セックス』するんだろうか――――?
それじゃ、あたしも――――いつか、『大人』、『セックス』できるようになるように、『成長する』―――?
ふと。あたしの目に、ホテルの窓枠が目に入る。
家にあるような、ただの鉄じゃない。まるでカガミみたいに綺麗な窓枠。
そこに―――『大人』の女の人が、映っている。
その人は、かがみごしに、あたしと、バッチリ目が合っている。
あれ、おかしいよね? あたし、『自分』を見てるのに――――
「これ――――あた、し――――?」
……なに、これ。まるで、『大人』みたいじゃない? 背がおっきくて、胸があって――――
そう、まるで、これじゃ、『ミヨキチ』みたい……小学六年生には、とても見えない。
……あれ? あたしって、今、何年生だっけ?
小学六年生……うん、そうだよね。じゃあ……『キョン君』は?
あれ、おかしいな、あたしとキョン君は、ずっと歳が離れてるはずなのに……なんで『キョン君』が、『中学生』なんだろ?
あ、そうだ。キョン君はもう高校生で、ハルにゃんたちと仲良くて……あ、あれ、じゃあ、あたしは?
あたしは――――三年生、じゃなかったっけ?
あ、でも、違うよね。あたしは六年生で――――
あ、れ―――?
――――
「おい、落ち着け『キョン』!! 僕はワケが分からないってのに、ワケが分かってるお前が取り乱してどうするんだよォ――――!!」
……岸辺の叫び声が、俺を『正気』に引き戻す。
――――そうだ。俺は取り乱しちゃいけない。『妹』の異常を知っているのは、俺だけなんだ。
「わ、悪ぃ、岸辺……いや、俺は『妹』を連れて、此処まで来たはずなんだァ――――!! なのにィ―――『妹』が、居ないんだ! このロビーの、何処にもッ!!」
「あ、あの――――」
不意に、耳に入った、女性の声。俺と岸辺が、一度にその方向を向く。
その先に―――フロントに着く、女性の姿がある。
「あの、もしかして、その『妹』さんが、そこの席に座っていらした女の子のことでしたら……
ついさっき、『出て行かれ』ました。耳をふさいで、なんだか、その―――『逃げる』ように」
「何ィ――――!!?」
馬鹿な、ついさっきまでの『妹』は、渋々ながらも、俺の言うとおりにしていてくれたのに――――!!
「―――どうしよう、『岸辺』!! あいつは、やっぱり、『敵スタンド』の攻撃を受けていたのかもしれないっ!!
それで『操られ』て、『さらわれ』ちまったのかも――――」
「だからァ――!! 『落ち着け』って言ってるのがわからないか、『キョン』!!
いいか、もし『敵スタンド』の攻撃で逃げ出したなら、『逃げる』ように出て行ったってのは不自然だ!
お前の妹は、確かに自分の意思で『逃げた』んだ!! ―――ああ、どっちにしろ! まだこの街の何処かに『居る』のは確かだ!!
『妹』が心配なら――――『探せ』よ!! ちくしょう、こうなったら僕もそれに付き合ってやる!
そうでなけりゃ、お前の『スタンド』にボコられそうな勢いだからなァ―――ー!!」
――――
どうして、あたしはこんなところに居るんだろう?
あたしは、『キョン君』に連れられて、ホテルのロビーに居たはずなのに……
ああ、そうだ。あたしは、怖くなって――何に?
そう。『自分』が鏡に映った、その姿が怖くなって―――逃げ出したんだ。
「はぁっ、はぁっ…………」
……此処って、何処なんだろう?
わからない。闇雲に、適当に走ってきたから―――
「―――なあ、姉ちゃん。ちょっと、俺たちと『遊ば』ないィ?」
……見知らぬ男の人の声が、私の背後から降り注ぐ。
振り返ると―――ああ、間違いなく。この人は、『大人』の人だ。
あたしとはちがう――――いや。そうだ、あたしは、さっき見たとき――――『大人』みたいな姿をしてた―――
「お、おい、こいつ、『ガキ』じゃね―――? さすがにこれは、やばくねェ―――か?」
「は? いや、それが良いんじゃん。……なあ、『こんなトコ』にいるんだからさァ――。『分かってる』んだろ? いいだろ?」
……何、これ。怖い。なんだかわからないけど、怖い。
ああ、もしかして、あたし―――『大人』になっちゃったから。この人たちに、『セックス』されるの?
え、どうして? あたしは、『大人』なんかじゃ――――ミヨキチみたいな、大人なんかじゃ、なかったはずだよね?
あれ、でも、さっき見たあたしの『姿』は―――――
「『嫌』ァァァァァ―――――ッ!!」
――――
ちくしょう。何故、僕がこんな目に合っているんだ?
降りしきる雨の中、僕は『キョン』と共に、傘も差さずに歩道を走っている。
ああ、ちくしょう――――結局のところ、僕は。仗助のようなクソ野郎は居なくとも、『スタンド使い』に引きずり回される運命なのか――――
「おい、『キョン』!! お前の―――」
……『お前の妹は、どんな性格になったのか。行きそうな場所は、ないのか?』
そう訊ねようとした、僕の言葉は……隣を走る、キョンに発生した、『非常事態』に掻き消された。
「うぐゥゥゥッ!!?」
突如、走る足を止め、地面にうずくまる『キョン』。
見ると―――腹を押さえる手の間から、紛れの無い『血液』が、滴っている。
「何ィ―――――!!?」
何だ。まさか、キョンが、この場で、腹を切ったって言うのか?
こいつが刃物を持っていた様子はなかったが――――いや、それ以前に。妹を探しているこの状況で、キョンが腹を切る必要が何処にある!?
「ちっ、がうっ、岸辺ぇぇぇえぇっ!! 俺はっ、何ッ、もっ……う……」
うずくまるキョンが、やがて、うめき声を途切れさせ始める。
何だ? もう死んじまったってのか―――そう思った矢先。『キョン』が、体を起した。
「何だ、今のはァ――――!! 体が、腹が『裂けた』と思ったら、急に――――傷が、消えたッ!?」
起き上がったキョンが、自分の血にまみれた両手を見つめながら、言う。
悩む理由は、もはや無い。『突然腹が裂け』、『傷が癒えた』。
そんな芸当をできるのは―――『スタンド』しかありえない!!
「キョン! いいか、お前の『妹』は、やはり『スタンド使い』だったんだ!!
その『スタンド』は―――理由はわからんが、お前を標的としている!!
いいか、正直に話せよォ――――『キョン』!! お前、何か妹に『うらまれる』ようなことはしてないだろうなァ――――!!?」
僕の声に、痛みから解放されたキョンが、熾烈な睨み付けを添えながら、反論する。
「ふざけるんじゃねェ――――!! 俺があいつに恨まれるような要因なんざ、何一つねェ――――はずだァ!!
あいつはな、俺を仇名で呼ぶわ、俺の部屋に無断で入ってくるわ、鬱陶しいぐらいの『親密』な妹だったんだよォ――――!!」
なるほど。『キョン』に言わせれば、そうだったわけだ。
ならば――――残る答えは、一つ。
『キョン』にとっての、『キョン』に対する『妹』の認識と―――
『妹』にとっての、『キョン』に対する『妹』の認識に、差がある――――そういう訳だ!!
「『キョン』、お前の妹は、察するに、間違いなく『スタンド使い』だァ――――!!
問題は―――その『能力』だ!! 『スタンド能力』を創るのは、『本体』の精神――――
どうやら、お前と妹のあいだには、大きな『壁』があるようだな――――――それを、『壊させて』もらうぞ!!」
まったく――――何故。
この、岸辺露伴が、他人を取り持つような役を買って出なければ為らないのか。
こいつらの相手をしている古泉たちは―――さぞかし、大変だろうな。
眼前に立ち並ぶ、夜の街を目に、僕は、そんなことを思っていた―――――――。
本体名 − キョンの妹
スタンド名 − ???
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「???」
本体 − キョンの妹(3歳)
破壊力 − ? スピード − ? 射程距離 − ?
持続力 − ? 精密動作性 − ? 成長性 − ?
能力 − キョンと露伴の目を盗み、ホテルのロビーから逃げ出せるスタンド。
ホテルのフロントからしても、『逃げるように』としか察知出来ない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
終わります。
最近酔っ払輪なきゃ話が書けない自分がにくい
投下乙
トラウマ持ちの少年少女の面倒見るの大変だな露伴先生w
妹は三歳じゃねェ――――よな!!
ちくしょう!! クソ! クソ! 11歳だよ! 畜生!!
何で会長がボラボラ言うん?
237 :
マロン名無しさん:2009/08/19(水) 17:55:58 ID:4EhK/+GU
ノリじゃね?
アレだよ。イタリア語で決め台詞作りたくなっちゃう年頃なんだよ
会長ブチャラティ並に活躍してんな
もうちょいで投下します
……怖い。
私に、一体、何がおきているんだろう?
雨が降っている。空からまっすぐに降りてきた雨の粒が、私の顔に降り注いでいる。
……私は、空を見ている。
背中が冷たくて、気持ち悪い。雨の降っている中、こんな風に仰向けに寝転んだら、濡れてしまうのは当たり前だ。
「ちっ、違うっ、この子がいきなり『飛び出して』来たんだァ―――!」
「おい、やべぇって……逃げよーぜ、早く!」
「バッ、馬鹿! 逃げたら俺たちが警察に追われるかもしれないぜ!?」
……すぐ傍で、いろんな人の声がする。
瞳だけを動かして、声のしたほうを見る―――私の周りを取り囲むようにして、知らない大人の人たちが、すごくあわてた様子で騒いでいる。
その中で、一人、見覚えのある人を見つける。
ああ―――そうだ、私は。この人に、路地裏で突然声をかけられて―――逃げ出して、あとは―――どうしたんだっけ?
私が体を起した途端に、周りの人たちが、まるで、魔法を目の当たりにしたみたいに、どよめき始めた。
……私がいるのは、道路の上。すぐ傍に、大きなバイクが倒れている。
「きっ、君、大丈夫なのか? 今、救急車が―――」
救急車?
男の人が、何を言ってるのかわからない―――その人は、私のお腹を見つめている。
……見ると、白いカットソーの、お腹の部分が……真っ赤に、染まっている。
何、これ? ―――もしかして、血、なの?
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第14話『西宮市はラブホテルのきらめきで彩られるA』
――――
……気がつくと、私は起き上がって、無我夢中で走り出していた。
お腹と背中の両方がびっしょり濡れてて、すごく気持ちが悪い。
知らない人が、私がバイクに轢かれたんだと言っていた。けれど、そんなはずはない。
だって、私は、こんなに早く走れるくらい、元気なのに―――
どうして、こんなに早く走れるのかな?
―――ふと。暗いお店のウィンドウに、私の姿が映ってる。
ああ、そうだ―――私は、何故か、『大人』みたいになってしまっているんだった。
ウィンドウに移る『私』。背が高くて、胸があって、手足が長くて……
その姿が、まるで、『ハルヒ』さんや、『みくる』ちゃんや、『ミヨキチ』と被る。
大人と同じ服を着て、綺麗な大人の女の人のような姿がよく似合う、私の記憶にある人たち。
私とは、ぜんぜん違ったはずの―――
「……違う……こんなの、『私』じゃないよ……!!」
わからない。私には、本当に何も『わからない』。
なんで、私がこんな姿に成っているのだろう……
小学三年生だったはずの私が……あれ?
違うよね? 私は、小学六年生で……
「……おい」
不意に。すぐ傍から声をかけられて、私の心臓が、とても強く動き出す。
ウィンドウに、私のすぐ傍に立っている、知らない男の人がいる。
背が高い―――『お兄ちゃん』や、お父さんよりも、もっと大きい。
ニットの帽子を被った、すごく派手な服を着ている、男の人。
「ジャポネじゃ、傘も差さずに雨の中をほっつき歩くのがはやってるのかよぉ―――?」
男の人は―――なんだか、顔が不思議な感じ。外国の人なのかな? ―――私に向けて、傘を差してくれている。
何でだろう? 私は思う。私は、今まで、こんな大人の人に話しかけられたことなんて、ないのに―――
もしかして。私が、『大人』みたいな姿をしているから―――なの?
じゃあ、この人は―――どうしよう。私は『大人』なんかじゃないのに――――!!
「『嫌』ぁっ!!」
「うおっ!? お、おい―――ちょっと!?」
怖い。大人の人が怖い。男の人が怖い。
私の頭の中で、このあいだ、クラスの友達が言っていたことが、頭をめぐっている。
大人の人たちがする、私には想像もつかないこと―――
「あ―――!!」
その男の人から、できるだけ離れたいと思ったがあまりに。
雨に濡れた歩道に、靴底を滑らせてしまった。
世界が暗転して、顔がすごく、すごく痛い。……転んでしまったのかな?
口の中が痛い。歯が、すごく痛い……
「大丈夫かよ、おいィ!?」
不意に、地面に倒れた私の体を、さっきの『男の人』が抱え上げる。
……大きな手。お兄ちゃんとは違う、すごくごつごつした手。
私の目の前に、その人の顔がある。私のクラスには、いや、学年には決していない―――『大人』な顔。
「! ……お、前……何だ、そりゃァ――――!!?」
不意に! 男の人が、叫ぶ! 私の顔より、ずっと上の、『何か』を見て!!
「嫌ぁぁぁ!!」
怖い。怖い。怖い。怖い。怖いィィィィ―――――――――!!!
私は男の人の腕を振り払うようにして逃げ出し、雨に濡れた歩道を走る。
この人から、遠くへ―――大人の人がいない場所に、行かなくちゃ!!
私の背中で、男の人の声がする――――嫌! 聴きたくない!
ざあざあ。周囲には、雨の音が鳴り響いている。
私は、雨の音以外の何もない場所を探して、真っ暗な街を駆けた。
――――
「……今度はなんだよ、『キョン』」
僕の前を走っていた背中が、突然止まり、僕は、その背中に尋ねかける。
目の前に立ち尽くしているその男は、ついさっき、僕の目の前で、突然腹を『裂かれた』男だ。
鬱陶しく降る雨の中。なんでったって、僕はこいつと二人で、傘もささずに全力で走り回らねばならんのか。
シャツもズボンも、パンツまでもびしょぬれだ。お気に入りのヘアバンドも、洗濯に出さなきゃあならんだろう。
まったく、僕の『ヘブンズ・ドアー』には、『他のスタンド使いに迷惑をかけられる』能力でも付いているんだろうか?
何しろ自分は読めないもので、実際にそんなものがあるかどうかは、永久にわからないわけなんだが。
「……こっちだ、岸辺!」
僕が、しばらく、そいつの背中を眺めていると。
そいつはまるで、たった今目覚めた、捕獲寸前の魚のように、これまでとは逆方向に走り出した。
「おい、待ちやがれキョン! 何が『こっち』なんだよ!? 『スタンド』の気配でも感じたのか!?」
「違う! だけど、わかるんだ……妹は、あっちにいる! 何故かは俺もわからんが、『予感』がするんだッ!!」
何だ、そりゃ? と、言いかけた直後。
二年前、『承太郎』から聴いた、あるフレーズが、僕の脳裏を過ぎる。
『――血縁関係にあるスタンド使いはな。何故だかわからんが、その存在を感じられるんだ。
原理はさっぱりわからんが―――おれも、『ジョセフ』のじじいが、近くにいることを感じ取ったことがある』
……今、探しているのは、目の前にいるこの『キョン』の妹だ。
なるほど。『孫』が『祖父』の居場所を感じ取れるぐらいなら、『兄』が『妹』を感じ取ることができてもおかしくはない。
……数分ほど、目の前の背中を追って、移動した先で。
道路の一角を占拠したパトカーと救急車、そして、なにやら十数人の人が群がっている、ある一角が目に入った。
キョンは、一瞬だけ僕を振り向き、何かを確認するように僕の目を見ると、一目散に、その人の群れに向かって走り出す。
まったく、奴が『チープ・トリック』に憑かれたら、そりゃあもう、秒単位の速度で干からびらされるだろうな。
「……うげっ!!」
目指す人だかりが、もう目の前に差し掛かったとき。突然、キョンが妙なうめき声を上げて、立ち止まった。
「おい、今度は何だ!?」
「かっ……顔が、痛ぇ!」
振り返ったキョンの顔面には……まるで、たった今地面とキスをしてきました。とでも言うかのように、でかい擦り傷が張り付いていた。
序でに、唇を切ったのか、歯が折れたのか、口からは血がどくどくと流れている。
そして―――その傷が、僕の目の前で、『消えて』ゆく!
「ちくしょう、こりゃぁ一体何だ!? 『傷つけて』は、そいつを『治して』く『スタンド』!?
そんなもんが何の役に立つってんだァ―――!!?」
「いいやっ、有り得んな! そんな意味不明なスタンドがあるはずがない!
何か、何かがあるんだ! お前が攻撃される『条件』がッ!!
とにかく、はやく『妹』を見つけるんだよッ!!」
程なくして、僕とキョンは、例の人だかりにたどり着く。
「すみません、此処で何が有ったんですかッ!?」
野次馬であろう、そこらの男を捕まえて、キョンがそう訊ねる。
サラリーマンらしき男は、突然現れた、傘も差さずに雨に打たれてる僕ら二人を見て、少し驚いた様子だったが
「ああ、なんか、女の子がバイクに撥ねられたんだよ。何かに引っかかったのか、腹が『裂け』ちまって、えらいことだったんだが
その女の子が、いきなり起きて、あっちに走って逃げて行っちまったんだよ」
と、言った。
キョンが僕を振り返る。ああ、間違いないだろうな。
「ありがとうございますっ!」
謝辞と同時に、男が指し示した方向へ駆け出そうとした時。
向かいから、まるで僕らのように、雨に打たれながら駆けてくる……見覚えのある、男の姿が見えた。
「おい、キョン! あれは―――『ミスタ』じゃぁないか?」
「何だって?」
『ミスタ』はどんどんこちらに近づいてくる。きょろきょろとあたりを見回しながら、まるで、誰かを『探して』いるかのようだ。
もしかして―――
「! お前ら、『キョン』に『ロハン』だったか?
気をつけろ、近くに『スタンド使い』がいるぜ。
ついさっき出会ったんだが、逃げられちまってよォ――!! そいつ」
「『女の子』なんだな!? 腹に傷のある、血まみれの女の子だったんだな!?」
キョンの言葉に、ミスタの顔色が変わった。
――――
曲がり角に気が付けば曲がり、私はそこらじゅうを駆け回った。
走っていないと、後ろから、さっきの男の人や、キョン君たちが追いかけてくるような気がしたから。
歩道橋も渡って、逃げ続けた。どこか、私が居られる場所は、ないの?
私の怖い物がない場所……そこに行きたいのに―――どこに行っても、『大人の人』が居る。
どれだけ走っても、どれだけ逃げようとしても、私は一人にはなれない――――!?
「きゃっ!?」
「おっとッ!?」
不意に。私は、何かにぶつかってしまう。
人だ。走るうちに、前を歩いていた人にぶつかってしまったんだ。
私は濡れた歩道の上に尻餅をつく。
それと同時に、地面に手を付いたとき。何か、鋭い痛みが、手のひらに走った。
「大丈夫かい? ……君、傘は? それに、その服……」
「ひっ……」
私がぶつかってしまった人が、私に話しかけてくる。
男の人だ。茶髪で、年齢は……いくつぐらいだろう。とにかく、大人だ。
その人は、地べたに座り込んだ私の前にしゃがみ込み、私に手を差し出してくる。
半ば条件反射のように、私はその手に、恐る恐る触れる。
「手のひらを怪我しちゃったのか……ごめん、僕がボーっとしてたからぶつかってしまったんだ」
男の人は、私に話しかけている。だけど、何を言ってるのかは、頭に入ってこない。
「あれ、君は……!」
その言葉とともに。男の人の表情が、変わる。
「……そうか、君は……『あの娘』なのか―――」
何? 何を言ってるの?
この人は、私を知ってるの? 怖い。私は、この人を知らないのに!
「放してェ――!!」
私は思いっきり、男の人の手を振り払って、でたらめに走り出した。
わからない。どうして、私は、こんなことになってるの―――?
もう――――嫌だ。怖い。こんなに怖いことが、いつまで続くの?
ずっと? 私は、大人になってしまったから―――このままずっと、このままなの?
いや、もう――――死んでしまいたい。
――――
「じゃあ、あんた、俺の妹の『スタンド』を見たのかッ!?」
「ああ、多分そうだろうってヤツを見たぜ。なんかこう、でっかいイルカみてーなのが浮かんでたなァ。
ただ、どんなスタンドかは分からないぜ。
……あ、そーだ。確かよぉ、その子は、俺の目の前で『転んだ』んだよ。
んで、歯が折れたのか、口から血が出てたんだけど……それが、『治った』んだよな。俺の前で」
歯が折れて、直った。
そいつはまるで、俺がさっき食らった『攻撃』のようだな。
それに、さっきの交通事故とやらの話。腹が裂けて、治ったってのにも覚えがある。
「キョン。どうやら、お前の妹のスタンドは……『自分と同じダメージを食らわせる』らしいな」
ああ、そのようだ。
しかし―――何でったって、俺が攻撃の対象になっているんだ?
それに、すぐさま治るというのも、なんとも意味がわからない。
「それは僕にも分からん。
とにかくだ。キョン、お前が頼りなんだぜ。『肉親』を感知するパワーと、お前のスタンドのサーチ能力。
そいつでさっさと、お前の妹をとっ捕まえるんだよ!」
さっきっからサーチはしてるがな。俺の『ゴッド・ロック』は、『発動中』のスタンドしか探知できんのだ。
妹が今どこにいるかなんか、パッパとわかるわけないだろ。
妹が『スタンド』を出しっぱなしのまま、駆けずり回ってるのなら話は別だが……
……その時だ。俺の右手のひらに、鋭い痛みが走った。
「ってェ―――! くそ、またかよ!」
……待てよ。
今の痛みと同時に、俺の感覚の端っこが捕らえた―――
「……『見つけた』! 妹の居場所―――しかし、ちっとばっかし『遠い』な―――!」
この『位置』だと、線路を越えた向こうか。
随分足が速くなったな、妹よ。まあ、アレだけ足が伸びれば、当然といえば当然か。
「なあキョン、やっぱ『急ぐ』よなぁ? 急いでる時はよぉ、しょうがないことってあるよな?」
ああん? 何だって?
そう言ったミスタの手には、なにやら『針金』が握られている。
そして、視線の先には……道端に止められた、明らかに違法駐車真っ最中の乗用車。
……ちょっと、俺には判断しかねる問題です。
「で、どこに行きゃー良いんだァ?」
「とりあえず、『駅』だ! 此処からなら、線路越えに一番近いのは、駅の傍の踏み切りだ!」
見知らぬ誰かの車に乗り込んだ俺たち三人は、ミスタの運転で、駅を目指し、道路を駆けた。
濡れた全身がなんとも気持ちが悪い。どうせまた濡れると分かりつつも、車内に転がっていたティッシュペーパーで、髪の毛の水分をぬぐう。
「なあ、ミスタ。俺の妹は―――どんな感じだった? なんつーか……怒ってたとか、そういうので」
「怒ってた、って感じじゃぁねーな。どっちかっつーと、やたらと『怖がって』たぜ。
まあ、俺もこんなナリだしよ。怖がられるのはしょうがねーと思うが……
あんなに思いっきりビビられると、ちょっと悲しくなるぜ――、さすがに」
怖がってた、か。
一体、妹に何があったというんだろう……自分の『スタンド』を見て、驚いたんだろうか?
いや、しかし、それならあのホテルのロビーで、俺が妹の『スタンド』を感知しているはずだ。
「に、してもよ――。お前の妹は、『矢』に射られたわけでもねーんだよな?」
本人はそう言ってたな。しかし、『オノダイスケ』は今、洗脳の能力を持っているんだろ?
だったら、『矢』に射られたことを忘れさせられてる可能性もある。
「いや、それは無いな」
そう言い切るのなら、根拠があるのか、岸辺露伴。
「『榎本』にしろ『菅原』にしろ、『オノダイスケ』が『洗脳スタンド』を使いはじめてからの『スタンド使い』はな
どいつも『矢』のことだけはきっちり覚えているんだ。矢に刺される前後のことは忘れちまってるみたいだがな。
つまり、『矢』という存在だけは、どんな『スタンド』を持ってしても『忘れさせる』ことはできないってことだ」
なるほど。つまり……
「お前の妹は、『キョン』。お前のスタンドがかつて持ってた『能力』によって、『スタンド使い』にさせられていたんだ。
お前がいつから『ゴッド・ロック』を持ってるのかは知らんが、『妹』ともなれば、おそらくえらく前からな。
しかしだ。その割には、『妹』はこれまで、今回みたいなややこしい事態を起さずに居たって事は。
お前の妹のスタンドが『変化』したってことだ。まさに、数週間前のお前みたいに」
変化。
俺が矢に射られて、ゴッド・ロックに像が発生したみたいに、か。
「『スタンド』は、ものにも寄るが、大体の場合『成長』をするんだ。その上で、能力が変化してゆくことはある。
僕の『ヘブンズ・ドアー』だって、最初は作品に宿る能力だったが、今では『像』がある。
その像だって、身長も伸びて、力だってそれなりに強くなったんだ」
……妹のスタンドが『成長』して、妹を『成長』させる能力に目覚めたってのか。
「むしろ、逆だな。今言ったのは、他からの干渉が無い場合だ。
『スタンド』ってのはな。血縁者に、多大な影響を与えるんだよ。
たとえば、ある男が矢によって、『スタンド』を得たとする。
すると、その男の血縁者にも、『スタンド』が『発生』することがあるんだ。
……お前が『矢』によって、スタンドに変化を齎された。その影響で、妹の『スタンド』にも変化が現れた……そういう事じゃないかと思う」
……言っている意味がよく分からん。
つまり、それで『成長』の能力が発生した。ッてことじゃ無いのか?
「お前の妹は、えらく『幼い』やつだったらしいな、キョン?」
「ああ……小3ぐらいのころから、身長もほとんど伸びてねえし……性格も―――」
……待てよ?
「……これは僕の憶測だ。お前の妹が持っていた『スタンド』は―――『成長』を『留める』スタンドだった!」
成長を……『留める』?
「ああ。そして、お前が『矢』にやられた影響で、その能力は『消えちまった』んだ。
すると……『留まって』いた、数年分の成長が、一度に来るだろうな。
だから、お前が成長した妹を見て、『スタンド』の影響だと考えたのは間違いじゃない」
「……にわかには信じられん」
「……まあ、何だっていいことだ。僕はただ、『スタンド増産スタンド』を持ってたお前と一つ屋根の下にいた妹が
今日まで『スタンド使い』にならずに済んでいたってのが、どうも腑に落ちないだけだ。
事実がどうだろうと、とにかく今は、お前の妹を見つけるのが先だ」
そう言ったきり、岸辺は退屈そうに、窓の外に視線を移した。
「頼むから、お前は『妹』が近くにいないかをサーチするのに集中しててくれ」
言われなくてもやっている。……そうこうする内に、ミスタの運転する車は、光陽園駅へと辿り着いた。
「着いたぜェー、キョン。で、駅の向こう側に行っていいのか?
あれから随分時間がたってるし、今、妹が向こう側にいるかどうか、わからねェ―――ぜ?」
ああ。行き違いにでもなったら溜まらんからな。
そう思って、さっきから『ゴッド・ロック』の目を光らせているんだが……
―――! その瞬間、俺の頭に、もはやおなじみとなった、あの感覚が飛び込んできた。
『スタンド』だ――――間違いない。さっき感じたのと同じ―――『妹』の『スタンド』だ!!
それも、かなり近い。
「『ミスタ』! ここらに妹が居る!! ……あっちだ、線路沿いに進んだ先……向こうへ行ってくれ!」
返事の変わりに、エンジンが噴かされ、タイヤが、雨に濡れたアスファルトの上を走り始める。
……間違いない。これは、『妹』だ!
ミスタの運転する車は、俺たちを乗せて、線路沿いの、人の居ない道を走ってゆく……
4・11の前を通り過ぎ、八百屋の店先を駆け抜け、質屋の前を掠めて……
近い。もうすぐそこに、妹がいるはずだ!
「ここだ、降ろしてくれ! このあたりに、居る筈なんだ!」
俺たちは再び、雨の中へと転げ出る。
ちくしょう。近くにいることは分かるってのに……見あたらねえ!!
「……おい、キョンよォ……お前の妹ってのは、もしかして、まさか、『あいつ』じゃねェ―――だろうな?」
ふと。ミスタが、道の先……その少し横の空中を指差しながら、言う。
その軌道の先―――あれは、歩道橋だ。線路の上に架けられた、この街の西と東を繋ぐ橋。
そして、その中ほどに―――手すりをよじ登り、今、まさに、空中へと旅立とうとしている――――腹の部分が赤い服を着た、少女の姿があった。
「何だってェ――――――――――!!?」
ああ、申し合わせたように。歩道橋の向こうから、電車がやってくる。
体が、俺の意思を無視して走り出す。妹が、空中へと投げ出されてゆく……
ゆっくり、ゆっくり。俺にはそう見える。電車が近づいてきて、妹が、その行く手の先へと落ちてゆく……
「ダメだァァァァ!! 間に合わねェ――――――!!!」
ミスタが叫んだ、その直後。
妹が、消えた。
歩道橋から零れ落ちた、木の葉のようなその体が……『消えた』のだ。
電車は、やかましい音を立てながら、光陽園駅へと入ってゆく……
今のは……何だァ―――!?
「ウソだろ、何だ、今のはァ―――!?」
俺と並走するミスタにも、今の異常事態は『見られた』らしい。
確かに、今。俺とミスタの目の前で、『妹』が『消えた』のだ。
一瞬で電車に撥ねられたわけではない。それなら、今頃俺の体もバラバラになっているはずだ。
……そして、歩道橋の傍までたどり着いたとき。俺はようやく、『それ』に気づく。
「……スタンド……スタンドが、『発動』してる……俺たちの、『すぐ傍』でッ……!!!」
……線路をはさんだ、向こう側の道路に。一人の男が立っている。
男は―――顔まではわからないが、茶髪の、穏やかそうな男だ。―――両腕に、力なく体を投げ出した『妹』を抱えている。
そして、その背後―――男の身長よりも頭二つ分ほど大きな、『バットマン』のような人型の像。
「……君は、とても『邪悪』だ―――」
ふと。男の背後の『スタンド』が、そう呟く。
その音は、十数メートル離れた俺たちにも届く―――『スタンド』が、その声を聴いているのだ。
「君は人を『不幸』にする―――この世で最も愚かな『スタンド使い』だ」
男が、呟く。
ああ、分かっちまった。この『男』が、誰なのか―――
何故こいつが、俺の妹を『助けた』のかは知らないが―――!!
「お前が……『オノダイスケ』なんだなァ――――!!?」
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ローテク・ロマンティカ(初期)」
本体 − キョンの妹(11歳)
破壊力 − - スピード − - 射程距離 − -
持続力 − A 精密動作性 − - 成長性 − A
能力 − 本体の肉体、精神の成長を留めるスタンド。像は無い。
本体が成長し、大人になることを拒んだ時に発生した。
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ローテク・ロマンティカ(変化後)」
本体 − キョンの妹(11歳)
破壊力 − B スピード − D 射程距離 − A
持続力 − A 精密動作性 − C 成長性 − C
能力 − 巨大ないるかのような姿をしたスタンド。
本体が決定した、あるいは、本体が最も意識している人物を対象に、自分の身に起きた事柄をそのまま感じさせる。
本体が痛みを感じれば、対象も痛みを感じる。
また、本体及び対象へのダメージを、かなり速いスピードで回復させる能力も持つ。
これは、本体の、自分を助けて欲しい・自分の痛みを知って欲しいという強い願望から生まれたものと思われる。
―――――――――――――――――――――――――
乙
ミスタを怖がるのはスタンド名的に正しいな
……降り頻る雨の中。
その男は、ただ、凍りついたような無表情で―――俺を見つめていた。
両腕で、俺の『妹』を抱え……その背後に、巨大な体躯の『スタンド』を従えて。
この男が―――俺たちの前にいる、この『男』が!
「『小野大輔』ェ――――!!」
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第15話『西宮市はラブホテルのきらめきで彩られるB』
「……知っているのか。君たちは、僕を」
……そいつの言葉には、一切の抑揚というものがなかった。
頭の中に完成している文章を、ただ読み上げているかのような、不気味なまでの無感情さが、その男にはあった。
「小野……マジかよ、こいつが―――俺たちの敵、大ボスだってのかァ―――!?」
まさか――向こうから、俺たちの前にやってくるなんて―――!!
『妹』を……こいつは、俺の『妹』を『助けた』のかっ!?
「……君は、この娘をどう思う?」
沈黙の果てに、男が、俺を見ながら、そう言った。
この娘。ってのは、やつの腕の中の『妹』の事だろう。
「何だ……? どうってのは、どういう意味だ! テメェ――、妹に何かしようとしてみろ! 生きて返さねェ―――ぞッ!」
「『何か』? 何かって、何だい? たとえば、この娘の人生を―――運命を、滅茶苦茶にしてしまうような、何かの事かな?
その言葉とともに、『小野大輔』は、初めて表情に変化を見せた。
まるで、古い友人に話しかけているかのような―――とても柔らかな、微笑みを浮かべたのだ。
「安心してくれ。僕はそんな真似をするつもりはない。―――僕は、君とは違う」
何だと?
「この娘の運命を狂わせたのは、君のほうだ」
ゆっくりと、一言一言を確かめるように。小野は言った。
「未だ精神の幼いこの娘に、君が『スタンド』を与えた……その幼さの表れのような、悲しい『スタンド』をね。
『ローテク・ロマンティカ』。それが、この娘の『スタンド』……自らの精神と肉体の成長を『停留』させる能力」
……同じだ! ついさっき、『岸辺露伴』から聞いたのと、全く同じ―――!
しかし、何故こいつが、そんなことを知っているんだ―――!?
「『ジャスト・ア・スペクタクル』に、記されないものは無いんだよ。
僕の『スペクタクル』には、スタンドと、その使い手の『全て』が記されている。
僕は、この世でたった一人―――その『スペクタクル』を『読む』事ができる。
そして、この世でたった一人。『スタンド』を『蘇生』できる」
いつぞや、古泉から聴かされた推論と、ほとんど同じ話だ。
『ジャスト・ア・スペクタクル』……それが、こいつの『スタンド』か。
今、こいつの背後に現れている、この『スタンド』が、その『ジャスト・ア・スペクタクル』なのだろうか。
それとも、其れによって『蘇生』された、何か別のスタンドなのか―――
「そいつに……俺の『妹』に何をする気だ、てめェ―――!!
いったい何のために……そいつを『助けた』んだァ!?」
「人を助けるのに、理由が要るのかい?」
ふと、小野の顔面から、微笑が消え去った。
また、先ほどと同じ、凍りついたような無表情に変わる。
「僕はこの娘を助けたかった。死なせたくなかった……この、君の『スーパー・ノヴァ』に運命を狂わされた、悲しい少女をね。
だから、『ストレンジ・リレイション』は『破って』しまった。そして、こいつを『蘇生』したんだ。
この娘を助けるために。そして――――」
男は、一呼吸を置き――――
「『ジョン・スミス』。君を『殺す』ために」
そう言った、直後! 男の『スタンド』が、動き出した―――!!
「『ヘブンズ・ドア―――』!!!」
それと同時に、俺の隣に立っていた岸辺が、こちらへと駆けてくるスタンドにめがけて、『攻撃』を放つ!
しかし――――ヘブンズ・ドアーの攻撃があたる直前に、小野大輔のスタンドが、『消えた』!!
「ぐッ!!?」
同時に、岸辺がうめき声を上げる。その方向を見ると――――
何だ、こりゃァ!? たった今、線路を横切ろうとしていたはずの『スタンド』が、俺の隣に立って―――岸辺の首を、締め上げているッ!?
バカな、『瞬間移動』したってのかよ!?
「違うっ、キョン!! こいつは、『時』を……!? まさか、この『スタンド』は―――ッ!!」
小野のスタンドが腕を振るい、岸辺の体を線路の上へと放り出す。
そして―――そいつは、『俺』を振り返った!!
「『ゴッド・ロックゥ』――――!! 『やれ』ェェェ!!」
『敵スタンド』の拳が迫ってくる。それを、俺の『スタンド』で受け止める……しかし!
「うごォォ―――ッ!!?」
防御の上から叩き込まれた一撃が……まるで、全身を一度に打ち付けたかのような衝撃に変わる!
何だ、このスタンドは――――『強すぎる』!!
俺の体は無残にも宙を舞い、岸辺同様、線路の上に投げ出された。
ちくしょう、全身が痛ェ。ギリギリ、何とか、立ち上がれるが……こんな化け物スタンド相手に、どう戦えってんだ!?
「キョン! こいつは―――『ザ・ワールド』だ! 承太郎の『スタープラチナ』に次ぐ、最強の『スタンド』……!
こいつは―――『時』を、『止める』ぞォ―――!!」
岸辺がそう叫ぶ。……なるほど、時を止める。
そして、その中でこいつだけが動けるなら……止められた側からしたら、瞬間移動に見えるわけだ。
「クソ、『ピストルズ』!! 『本体』をやれェ―――!!」
ミスタが叫び、拳銃を構える。おい、それ、携帯してるのかよ。結果的に助かったが、普段やばいだろ、それ。
とはいえ、その判断は正しい。この『スタンド』がどれだけ強かろうと、『小野大輔』本人を倒せればいいわけだ。
しかし、もちろん……『ザ・ワールド』は、それをさせないんだろうが。
「ぐぅっ!!?」
ミスタが拳銃を放とうとした瞬間。その『ミスタ』の口から、うめき声が漏れ、後方へと吹き飛ばされた。
何だ。また『時を止めた』のか?
「ヤロォ―――……そうか、時を止めて、『ピストルズ』を叩きやがったんだなッ……!!」
「『イテェ―――』! イテェヨ、『ミスタ』―――!!」
「俺だってイテェんだよ! くそ、『戻って来い』!」
「『ムリ』ダ……マジデ『イテェ』……」
止まった時の中で、『ザ・ワールド』の攻撃を受けた『セックス・ピストルズ』が、あたりに散らばるように落ちる。
ダメだ……俺はこのザマで、岸辺のスタンドは通用しない。『本』にする前に、時を止められるだけだ。
『小野大輔』は、はじめの位置から一歩も動いてはいない。
ただ、妹を腕に抱えたまま、俺たちの戦いを眺めている。
いや……こりゃ、戦いというより、ただの『なぶり殺し』か……
「クソ……野郎……」
「……クソ野郎か。そいつは、自分のことを言っているのかい?」
『ザ・ワールド』が小野の元へと飛び、小野の背後に下りる。
「てめぇ……ハルヒを殺して、あいつの『スタンド』で、何をするつもりだよ……!」
苦し紛れに、俺が言うと、小野は、なにやら考え込むように、こくりと首を傾げた。
「……誤解があるみたいだね。僕は、彼女の『ザ・ユニバース』の能力を使って、『神』になろうなんて、これっぽっちも思っちゃいないさ」
……何、だと?
「僕はね……彼女を。『涼宮ハルヒ』を、『救ってあげたい』だけだ」
まっすぐに、地面に這い蹲る俺の目を見ながら。
小野大輔は、確固とした口調で、そう言った。
「救う……だと?」
「彼女はいつか、自分の能力に気づくだろう……今は君や、『セックス・マシンガンズ』の古泉、『メリミー』の朝比奈やらのお陰で、そんなことにはなっていない。
しかし、それも時間の問題だ。……この娘が、自分の『スタンド』に狂わされ、『死』さえも望んだように。
だから、僕は……『涼宮ハルヒ』が、そんな悲しい運命を知ってしまう前に。大きな力に飲み込まれてしまう前に。
彼女を『解放』してあげたいんだ」
ハルヒを殺すことが……ハルヒを解放すること、だと?
「そうさ、そして―――古泉や朝比奈たちもまた、彼女を『制御』する役目から解放される……
それは『幸福』というものだ。『幸せ』だ。僕は、一人でも多くの人に、『幸せ』になってほしい。
かつて、多くの人々に、ひと時の『夢』を見せていたのも、その『夢』を見られることこそが『幸せ』だからだ。
スペクタクルに記される人間に、『不幸』になって欲しくは無い。
だから、僕は……あの日。随分ぶりに『イエロー・テンパランス』を『破って』、『スペクタクル』を読んだ時。
君の存在が……『スーパー・ノヴァ』という、どこまでも愚かなスタンドの存在を知ったとき。とても悲しい気持ちになった」
……何、言ってやがんだ、こいつは?
「君の『スーパー・ノヴァ』は、誰のことも幸せに出来ないんだよ、ジョン君。
だから僕は、君を『射た』んだ。その愚かな能力が、消え去るようにと。
もうこれ以上、誰も『不幸』にならないように」
「……そういう、事かい。じゃあ、何だ? 『喜緑さん』は、どうだってんだよ。
テメェの所為で、あの人は……!!」
「……よかった。彼女は、『幸せ』になれたんだね」
……俺の視線の先で、小野は、心の底から―――微笑んでいる。
「彼女は、最後に、とても素敵な夢を見られた。僕は、その夢を、どうしても、彼女に見せてあげたかったんだ。
……よかった。安心したよ。喜緑さんは―――解放されたんだね。終わりの無い、邪悪な運命から」
「…………テメェ―――――!!!」
俺が『命令』するよりも、ずっと早く。『ゴッド・ロック』が、俺の体から飛び出し、小野へと襲い掛かった。
しかし―――振り下ろした拳は、『ザ・ワールド』の右腕によって、押さえ込まれる。
「ぐゥゥゥ!!」
「……君は、僕にとって、この世で最も『在ってはならない』存在なんだ、ジョン君。
『ジャスト・ア・スペクタクル』に目覚めた、この僕にとって……
君の存在は、許されるものじゃない」
「うるせェ―――黙れ」
沈黙。
「……テメーの下らねェ―――話は……これ以上、聴きたくねえんだよォォォォ!!!」
『ゴッド・ロック』が、無数の拳を放つ!
しかし、『ザ・ワールド』は、其れを悉く受け止める!
二体の『スタンド』は、再び線路の上へと移る―――
「たとえ俺が『殺され』ようと! テメェに、『ハルヒ』だけは―――殺させねェェェェェ!!!」
殴れ!
「『ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレ』ェェェェェ!!!」
何度だろうと、『ザ・ワールド』に向けて拳を放て!!
「『ゴッド・ロック』ゥ――――!! やれェェェェェェェェ!!」
「……無駄なんだよ、ジョン・スミス。君のスタンドじゃ、『ザ・ワールド』に、かすり傷さえ与えられないんだ」
煩い。黙れ。喋るんじゃねェ――――!!
「終わりにしよう、ジョン君。大丈夫、君の妹は、僕が……きっと、普通に生きていけるようにしてあげるよ。約束する」
声が聞こえた直後。
『ゴッド・ロック』の眼前から、『ザ・ワールド』が消えた―――
時が止まったんだ、また。『ザ・ワールド』は、何処だ――――ッ!!?
……背後だ! 俺の背後に……『スタンド』が居る!!!
「さようなら、全ての邪悪の根源。地獄でも、お元気で」
ああやられるのか。このまま、背中から腹までをぶち抜かれて、俺は死ぬのか。
ちくしょう。ハルヒ――――こんないかれた、『スタンド』なんてもんがあっても……俺は、お前を守れないのか――――
「クタバレェェェ!!」
「オリャァァァァ!!!」
「ドグサレガァァァァァ!!!」
……その、瞬間。
俺の体に穴が開く、一瞬前に。
どこかで、なにやら甲高い、人間離れした『叫び声』が聞こえた。
それと、同時に。『何か』が、『どこか』から、撃ち放たれるような音が、三つ、あたりに響き渡る。
「う……おおおおォォォォッ!!?」
続けて、うめき声。この声は―――『小野大輔』の声だ!!
「なっ……何だってェェェェェェ!?」
小野が、自分の右肩を抑えながら、叫んでいる。妹は、濡れたアスファルトの上に寝そべっている……
そして、小野の指の間から零れ出る……紛れも無い、血液。
「……『ピストルズ』……お前ら……」
小野とは反対側の道路で、ミスタが呟く。
「……まさかァッ!? 『砂利』……線路の『砂利』を、『撃ったのか』ァ―――!!?
お前らは、弾にしか宿らないはずじゃ……
何だこりゃァ……お前らッ! 『成長』してンのかァ――――!!?」
……地面から放たれた、三つの『弾丸』が。小野の体に、えぐりこんでいる。
右肩、左のわき腹。そして、右手の甲。
「うおおおおおッ……そんな、血がッ……!!?」
小野が大いにうろたえている―――今しかない!!」
「『ゴッドォ――――・ロ―――――――ック』!!! 『やれ』ェェェ―――――――!!!」
「なっ……『ザ・ワールド』ォォォ!!」
……傷を負った『ザ・ワールド』よりも、ほんの一瞬だけ。『ゴッド・ロック』の拳のほうが、早かった!!
『ゴッド・ロック』が、『ザ・ワールド』の体に、打撃を叩き込むッ―――!!
「ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレ
ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレ
ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレェェェ――――――――ッ!!
『やっちまえ』ェェェェェ―――――――!!!」
「がっ……ハァ――――ッ!?」
小野の体が―――歩道に立つ小野の体が、後方へと吹き飛ぶ――――
「今だ―――『ピストルズ』! 撃てェ―――!!!」
ミスタの絶叫と共に、『銃声』が響き渡る―――!!
しかし、その『弾丸』が、小野の体に食い込む直前に!
「『ザ・ワールドォォォ』!! 時よ、止まれェェェェェェ!!」
……その絶叫を最後に。
『歩道』から、『小野大輔』が消え去った―――
そして、同時に。地面に横たわっていた、妹の姿も。
「ちくしょォォォォ――――!! 『小野大輔』ェェェェェ―――!!!」
絶対に―――何があろうと!
「テメェにハルヒは……誰一人も、殺させねえェェェェェェェェ――――!!!」
本体名 − 小野大輔
スタンド名 − ジャスト・ア・スペクタクル(ザ・ワールド) 逃亡
本体名 − キョンの妹
スタンド名 − ローテク・ロマンティカ 不明
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ジャスト・ア・スペクタクル」
本体 − 小野大輔(29歳)
破壊力 − - スピード − - 射程距離 − -
持続力 − A 精密動作性 − - 成長性 − -
能力 − 世界中のスタンド使いとそのスタンドが記された本のスタンド。
記されている全てのスタンドの像を立体化できる。
既に死んだスタンドのページを破りとることで、そのスタンドを『蘇生』し、使役する事が可能。
スタンドをコピーしている間は、スペクタクルを発動出来ない。
取り込んだスタンドを解除するには、スペクタクルから破り取った『ページ』を破り捨てる。
破ったページは元に戻せない。
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「セックス・ピストルズ」
本体 − グイード・ミスタ(20歳)
破壊力 − E スピード − C 射程距離 - C
持続力 − A 精密動作性 − A 成長性 − B
能力 − 銃の弾丸に宿り、その軌道を自由に変化させる。No.1〜3と、No.5〜7の六体で一組の自律行動型スタンド。
ケンカをする・食事を取らなければ働いてくれないなど、各々がそれなりに難しい性格をしている。
また、弾丸以外のものでも、発射・軌道の操作ができるようになった。
―――――――――――――――――――――――――
投下乙です
ピストルズが成長したのはゴッド・ロックの影響ってことでしょうか?
成長させるスタンドって仲間が多いならかなり便利だ
乙。なんつーかなんだ……すげぇなこの話
ヤレヤレラッシュがやっと来た!
つーかキョンここまで働いてないなww
展開が……思いつかないぜ……
素数数え飽きたぜ……
飽きただって?逆から数えればいいんだよ
逆ってどこからだよwww
終着点からなにが必要かを考える
↓
それに付属ストーリーをつける
ってことじゃね?
……あの後。駆けつけた古泉たちに助けられ、いつぞやも訪れた、古泉の自宅へと運ばれ……
俺は―――そうだ。ソファに倒れたきり、眠っちまっていたらしい。
蛍光灯の光が、俺を見下ろしている……その視界に映り込んでいる、銀髪の少女の姿。
「……長門。治して、くれたのか」
「そう」
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第16話『ジャスト・ア・スペクタクル@』
「やあ、お目覚めですか」
俺が体を起した直後。内開きのドアを開けながら、『古泉』が現れた。
俺がいるのは、ベッドの上。多分、こいつの部屋だろう。
「今、何時だ」
「深夜二時です。ご安心ください、あなたも、露伴先生も、ミスタも、無事です。
長門さんの治療で、肉体的なダメージは回復したと思われます。
もっとも、気疲れまでは治して差し上げられませんが……」
ああ、そうだな。できれば、そいつを最優先で治して欲しかったよ
「……事の顛末は、聞いたのか」
「はい。露伴先生からお聴き致しました。」
岸辺か……そういや、あいつは比較的ダメージが少なかったっけな。
「彼から―――『小野大輔』が話したことも、聴きました。
敵のスタンドは、以前、僕が貴方に伝えた、機関の想定と大体同じもの。
かつて、他人の身に宿っていた『スタンド』を、自分のものに取り込む能力。
そして……これは、以前から聴いていましたが。『ザ・ワールド』……貴方たち三人を、ここまで追い詰めた能力の事もね」
古泉の言葉から、徐々に微笑が消えてゆく。
「やはり―――『小野』は、『涼宮さん』の力を感知した、一つの新たな『勢力』だった。
これまでで、最も急進的な方法で、涼宮さんの力に干渉しようとしている……
しかし、『僕ら』としては、なんとしても、涼宮さんを殺させるわけには行きません。
……ですが、現状で。小野のスタンドは、強すぎる―――」
僕ら。ってのは、思念体やら、未来やらの勢力も含めてのことなんだろうな。
……俺の体は、あいつの攻撃を食らったときの感覚を思い出していた。
あの、とても人間とは思えない、異常な破壊力―――まあ、実際人間じゃないんだが。
それに加えて、やつは『時』を自由に止めやがる。
「しかし。『敵』は負傷しています。
たとえば、『傷』を癒す『スタンド』があったなら、小野大輔が、そういったスタンドに心変わりしている可能性もありますが―――
『時を止める』という無敵の能力を、そうやすやすと手放すはずがありません。
少なくとも、僕ならなんとか、傷をスタンド能力以外の方法で癒し、反撃することを考えますよ」
ああ、それは俺も同意見だな。
何しろ、たとえば今、ちかくの小野がいて、時を止めてこの部屋に入ってきたら―――
間違いなく。容易く、あまりにも簡単に。俺は殺されちまうだろう。やつのスタンドとは、そういうスタンドなのだ。
「小野大輔は、傷が癒えるまで、どこかに『身を隠す』はず……我々は、全力でその場所を探します。
敵は『最強のスタンド』を、『使いはじめて』しまった――――その好機を逃すはずがありません。
今後、護衛の数を増やします……もっとも、やはり『スタンド』を見ることができる人員が不足しているのは、事実ですが。
そうして、守るつもりです―――涼宮さんと、『ジョン・スミス』。あなたを」
そのセリフとともに、古泉が、再び微笑を携える。
ああ――――畜生。いつもの癇に障るニヤケ面が、今はとてつもなく心強く思えるぜ。
「……ありがたい話だな。じゃあよ、古泉。一つ、頼んでもいいか」
「はい、何でしょう?」
俺が、起きるまでの間に。うちの両親への『言い訳』を、考えておいてくれ――――
その言葉を最後に、俺は、再び『眠り』の世界へと、旅立っていった――――
――――
……あれから、二時間ほどは経過しただろうか。
『小野大輔』は、光陽園から数キロ離れた場所にある、小さな公園に居る。
腕の中に、意識をなくした少女の体を携えたまま……
雨は止まない。西宮市を水底へと埋め尽くすばかりの勢いで、降り続いている。
少女の体も、小野の体も、まるきりのぬれねずみだ。
加えて、小野は傷を負っている。三箇所に受けた『セックス・ピストルズ』の銃撃と、あの少年……
ジョン・スミスの『スーパー・ノヴァ』……今は、『ゴッド・ロック』だったか。それに食らわされた、乱打による打撲。
肋骨が一本折れているらしい以外に、骨へのダメージはなかったのが幸いだ。足を折られていたなら、逃げることもできなかった。
『小野』は、雨をしのげる遊具の中に逃げ込み、少女の体にジャケットを被せた。
体が冷えてきている。このままでは、少女は肺炎などを起しかねない。
……治療ができる『スタンド』を蘇生するべきか。一瞬そう考えるが、それはできない。まだ、『ザ・ワールド』を『破る』ことは出来ない……
「はっ―――はっ―――」
そう言う小野のダメージも、かなり重い。
どこかで身を隠して、回復するのを待たなければ……
……しばらく、考えた後。小野は、ジャケットを被せたままの少女を抱き上げ、再び、雨の中へと這い出た。
公園の入り口近くに、一件のアパートがある。古く、隣に声が筒抜けになりそうな、ボロではない……比較的新しいし、二階建ての立派なアパートだ。
遠目に、立ち並ぶ部屋の前の様子を見た限り、『家族』が居ると人目でわかるような部屋は無い……そう。こういうところがいいんだ。
……時刻は、十時前。まだ深夜とは呼べない。小野は、少女に雨が当たらないように体を曲げながら、物陰に隠れ、じっと待った。
……コツ。コツ。コツ。
やがて雨の騒音の向こうから、誰かがこちらに歩いてくる音が聞こえる。ゆっくりと、顔を上げ、その人物を盗み見る。
……中年の、腹の出た男だった。こいつは、おそらく妻子持ちだ。
駄目だ。狙うなら、一人暮らしのやつしかありえない。『矢』も反応しない。
できれば、あまり頭の回転がよくは無さそうな、歳の若い人間がいい―――
……男が公園の前を横切ってから、数分後。再び、足音が聞こえる。
パシャ、パシャ、パシャ。
先ほどのような、革靴の音ではない……スニーカーの音だ。
覗き見ると、そいつはやけに背の高い、気の弱そうな、眼鏡の男だった。
矢は反応していない―――……気が弱そうで、いかにも丸め込み易そうだが、男は駄目だ。この少女は、男を恐れる。
彼女が恐れを抱かない……できるだけ見た目が若い、一人暮らしの女性がいい―――
……ぴしゃ……ぴしゃ
……三度、足音。女だ。ニーハイブーツを履いた、華奢な体躯の……髪の毛を二つくくりにした、女。
若い―――まず間違いなく、10代だろう。しかし、あまり若すぎても、親元で暮らしている可能性がある―――
……少女は、先ほど小野が目をつけたアパートの階段を上がってゆく。……『矢』が、その軌道を追うように、少女を示している!
『矢』が反応する……つまり、小野にとって、その少女は『害をなす』人物ではない、ということか?
くそ、どうする……これ以上待っていても、もう、良い人物は現れないかもしれない。
「―――君!」
……僕が、公園の入り口から顔を出しながら、そう叫ぶと。
階段を中ほどまで上った、その『女』が、僕のほうを見た。
「頼む―――お願いだ、助けてくれ―――この娘を!」
「え……な、何ですかっ?」
女は―――僕を見て、あわてて、階段を駆け上ろうとした。
「違う、頼む、聴いてくれ! 君に危害を加えるつもりは無い―――この娘を見てくれ!」
僕は、両腕に抱えた少女―――ジョン・スミスの妹の体が見えるように、女のほうへと掲げながら、言った。
「えっ……な、何ですか? あたし、なにもできません!」
「いいんだ、せめて、雨をしのげるだけで良いんだ! どうか……警察や病院はダメなんだ。とても、複雑な事情がある。
お願いだ、一度で良い。せめて、僕の近くに来て、この子を見てくれないか?」
これで、もし、女が小野を完全に拒めば……殺すしかない。できるだけ自然な方法で……この状態でなら、『ザ・ワールド』を飛ばして、階段から落とせばいいか。
『謎の少女を連れた男』なんて、警察に通報でもされたら、間違いなく、ヤツらは小野にたどり着くだろう。
「……」
少女は、しばらくどうしたものかと立ち尽くした後……恐る恐るといったように、階段を降りてきた。
小野は、こちらへと歩み寄ってくるその少女に向けて、両腕に抱えた少女を差し出した。
「……怪我、しているんですか?」
少女が、言う。その視線は、小野の腕の中の少女でなく……小野の肩に刻まれた、深い穴を指している。
「……ああ。でも、僕はいい。この娘が―――このままじゃあ、風邪を引いてしまう。もっとややこしい病気になってしまうかもしれない。
……お願いだ。決して、僕は君に危害を加えない。どうか、助けてくれないか……この娘だけでいいんだ」
「えっ……と……」
少女は、躊躇っている。……頼む。首を縦に振ってくれ―――
小野は、この少女を殺したくはない。
「……わかりました、あたしの家に……来てください、お薬とかも、ちょっとありますから」
……やはり、『矢』は正しい。小野にとって、波長の合う人物だけを、見事に指してくれる。
「すまない、ありがとう……君の家は? もし遠いなら、僕がこの娘を運んでもいいんだけど……
ここでこの娘を、君に渡したほうがいいかな?」
小野がそういうと、少女は、少し戸惑った後で
「い、いいえっ! あなたも一緒で……あたしのところに、来てください。
だって、その怪我は……すぐ、手当てしないと」
「……すまない。だけど―――一つだけ。本当に、心からのお願いがあるんだ。
僕らのことを、決して他人に話さずにいてくれるかな……説明は出来ないけれど、とてもややこしい事情があるんだ」
「……わかりました」
……危なっかしい少女だ。小野は心中で、そう呟く。
もしも小野が、猟奇殺人犯だったら、この少女は、その毒牙に掛かる一歩手前まで踏み込んできてくれているんだぞ?
或いは……それもこれも、この少女と小野の『波長』が合っているからこそのものなのか。
ありがとう―――君の、名前は?
「えっと……橘です。『橘京子』です」
――――
橘京子の部屋に通されて、ようやく、小野は、降り続く雨から開放された。
彼女の部屋は、アパートにしては部屋数のある、それなりのものだった。
キッチンと居間のほかに、部屋がふたつある。
「ええっと……とりあえず、濡れたお洋服を脱がせないと」
「すまないね、橘さん。お願いするよ」
「あの、小野さんも、濡れたままじゃ病気になっちゃいますし……それに、傷も手当てしますから。
バスルームでこの子を着替えさせてる間に、着替えてくれますか?
えっと……あ、これだ。これ、男の人のサイズでも大丈夫なズボンですから。着替えてください」
「ありがとう……本当に助かるよ」
彼女にとっては随分とオーバーサイズであろうスウェットを受け取りながら、小野は返答する。
……なんだか、まるで。橘は、小野の記憶にある、あの少女を思い出す―――
橘は、あの『柊つかさ』を思わせるような少女だった。小野が最後に夢を売った、二人の少女のうちの一人。
あの、どこまでも無用心で、どこまでも無知で、純粋で。……それ故に、悲しい少女。
やはり。小野と波長が合う人物とは、似たような精神構造をしているものなのだろうか。
「小野さん、着替え終わりました?」
バスルームから声がする。小野は、濡れた衣服を脱ぎ、渡されたスウェットに着替えている。
「ああ、大丈夫だよ」
「はあい」
その声と同時に。ややサイズの小さなシャツとスウェットを身に纏った、少女の体とともに、橘京子が、バスルームの戸を開け、姿を現す。
――――
「はい、これで大丈夫だと思います」
橘が、救急道具のケースを取り出してきてから、十数分。『銃撃』を食らった三箇所は、ガーゼと包帯による、応急処置が成されていた。
さすがに、『砂利』の弾丸は、ホンモノの拳銃よりは威力は落ちる様だ。傷はどれもそう深くはない。
「ありがとう、すまない。……君は、とても慣れているんだね」
「あ、はい。えーっと……趣味でやってるサークルのようなところで、こういうのを習ったんです」
サークル活動。やはり、橘は学生のようだ。
しかし―――不思議だった。何故、この少女は、明らかに銃創とわかる橘の傷を見ても、うろたえなかったのだろうか。
そして、この的確な処置―――
「……君は」
「あの、小野さん……あの娘とは、いったい」
小野が口を開こうとした時。橘が、意を決したように口を開いた。
彼女の言う『あの娘』は、今、橘が敷いた布団の上に横になっている。
「……ちょっとした、事情があってね。彼女は、僕とともに、こうするしかなかったんだ。
でも、大丈夫―――と、言って、信じてくれるかわからないけど。
君が僕らのことを黙っていてくれる限り、君に危害が及ぶようなことは、決して無い。信じて欲しい」
橘は、少し考えるようにうつむいた後……
やがて、口を開いた。
「……その、なんて言ったらいいんでしょうか……
……小野さん。あたし、あの娘のこと、知ってます」
……何だって?
おそらく、小野はその瞬間、とても間抜けな顔を浮かべていただろう。
「あの子の着替えのときに、この『保険証』を見つけちゃって……
あたし、知っているんです。あの子のお兄さんを―――『キョンさん』を。
でも、あたしの覚えてる限りだと……あの娘は。『キョンさん』の妹さんは、あんな大人びた子じゃあなかったんですが……」
……馬鹿な。この女―――『橘京子』は、あの『ジョン・スミス』を知っている―――!!
何故―――何故、矢が、そんな人物を選んだのだ―――!!?
「……率直に、お聴きしますね。小野さん。あなたは―――
あの人を。『涼宮ハルヒ』を――彼女の『能力』知っている人なんですか?」
―――何だって?
―――
……橘が説明した概要を、大まかにまとめると。
彼女はとある『組織』に属しており、それは、あの『古泉一樹』の所属する『機関』と同様に、涼宮ハルヒの持つ『神の能力』……
『ザ・ユニヴァース』の能力を制御・監視することを目的として、存在している。
しかし、彼女たちが『神』と呼ぶのは、涼宮ハルヒではない。
「佐々木さん」
橘は、言った。
「その人が、本来、神の力を持つべきだったと……あたしたちが、そう考えている人です」
佐々木―――しかし。小野は考える。
そんな名前は―――『ジャスト・ア・スペクタクル』には記されていなかったはずだ。
「……訊ねてもいいかい、橘さん?」
「はい」
「何故、その――佐々木という人が、神であるべき人だと。そう思うんだい?」
「それは、分かってしまうんです。
私たちに、『能力』を与えてくれたのは、佐々木さんだって。あたしたちには、それがわかるんです。
……なんだかわからないと思いますけど、そういうものなんです」
……ふむ。佐々木は息をつき、考える。
もしかすると―――この少女は、ただ、頭に花畑を飼っている類の少女なのだろうか?
「でも、実際にお会いできた今なら、ちゃんと証拠もあります。
佐々木さんにも、あの『涼宮ハルヒ』と同じ力の一部が、備わっているんですから」
「! ……それは、何だい?」
「『閉鎖空間』です」
! 閉鎖空間。その言葉には、心当たりがある。
ザ・ユニヴァースの、幾千と有る能力のうちの一つ―――異なる次元に、現実世界と酷似した、無人の世界を創る能力。
「佐々木さんは、涼宮さんのように、不安定に、不規則にではありませんが……佐々木さんも、『閉鎖空間』というものを創ることができます。
あたしたちは、その空間に侵入する能力を持っています。古泉さんたちの『機関』と同様に」
「ちょっと、待ってくれないか」
……おかしい。話が違う。
古泉一樹に、そんな能力があるっていうのか?
しかし―――彼のスタンド、『セックス・マシンガンズ』には、そんな能力は無かったはずだ。
「彼も……古泉一樹も、そんな力を持っているのか?」
「はい……ご存じなかったですか?
私たちは、佐々木さん、涼宮さんのそれぞれによって能力を与えられた、『超能力者』ですから」
……生まれつきのものでは、ない。
そうか―――つまり。古泉一樹や、橘京子の持つ、それらの能力。
それは、『スタンド』によって創られた能力であり、『スタンド』そのものではない。
いわば、それぞれの『神』と呼ぶ人物の、『スタンド能力』の一部……
『ザ・ユニヴァース』。涼宮ハルヒを本体とする、おそらく、世界最強の能力を持つ『スタンド』。
その能力の概要とは―――『ジャスト・ア・スペクタクル』に記されている限りで。
『あらゆる原理を無視し、世界を自由に改変する能力を持つ』
『異次元に、本体の存在する世界と酷似した、異空間を創り出す』
の二行のみ。
『スタンドとは別に、特殊な能力を持つ人間』を産み出すことができてもおかしくはない。
「……君たちの、目的は?」
小野が訊ねると、橘は、きっと、幼い表情に冷たさを携えて……
「涼宮さんの能力を、佐々木さんに、本来持つべきだった人のもとに、『返す』ことです。
涼宮さんよりもずっと、佐々木さんが持つべき能力なんです」
……どういう事だ。この少女の言うことが本当なら―――
『ザ・ユニヴァース』が、二つある!
何故だ。何故、二人の異なる人間が、一つの能力を共有しているんだ―――
『ジャスト・ア・スペクタクル』を確かめられたら。しかし、それは出来ない。
『ザ・ワールド』を失うことは……まだ、出来ない。
あの『ジョン・スミス』を殺すまでは……
「……小野さん。次は、貴方の番です。聞かせていただけますか? あなたが、何ものなのか―――」
「……」
橘の二つの目が、小野の顔面を、きっちりと捕らえている。
『涼宮ハルヒに、能力を失わせる』―――その点では、小野と橘の目的は同じだ。
しかし―――彼女は、『ザ・ユニヴァース』を『死なせる』のでなく、『佐々木』という別の人物に『移し変える』事を求めている。
そんなことが可能なのかは、そもそも知らないが―――きっと、この人物は。小野の目的を知れば、それを拒むだろう。
そして―――『ザ・ユニヴァース』と良く似た能力を持つ、『佐々木』―――スペクタクルには載っていなかった、その人物とは―――?
「僕は……多分。君と協力し合えると思う」
「本当ですかっ!?」
「ああ。だけど……僕は、既に、『ヤツら』――『機関』や、その周辺と、かなり手荒く抗争を繰り広げてしまっている。
一人で行動するのは、これ以上難しい。そう思っていたんだ――丁度、ね」
「その『銃撃』も……『機関』にやられたんですか?」
「……ああ」
小野に残された道は、たった一つだ。
この少女を―――『橘京子』を、利用する。
そして、『佐々木』――その正体も暴かなければ為らない。
「……戦いは、これからだ―――『ジョン・スミス』。
僕は、君と涼宮ハルヒを、必ず『殺す』―――必ず、ね」
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ザ・ユニヴァース」
本体 − 涼宮ハルヒ(16歳)
破壊力 − - スピード − - 射程距離 − 全世界?
持続力 − - 精密動作性 − - 成長性 − -
能力 − あらゆる原理を無視し、世界を自由に改変する能力を持つ。
また、異次元に、本体の存在する世界と酷似した、異空間を創り出す。
―――――――――――――――――――――――――
289 :
マロン名無しさん:2009/08/23(日) 22:14:32 ID:nT1tvEcK
いやほんと乙。
ここまで、ハルヒとジョジョの融合にまっとうから向かってるのも、これまでになかったと思うわ。
だからこそ最後まで書いてくれるのを望んでます。乙。
畜生連投できないのがこんなにもどかしいなんて
いや、がんばって最後まで終わらすつもりです
第89話 「生徒会からの挑戦状 3」
「うーむ………」
さっぱり筆が進まん。恋愛などした事も無い奴に恋愛小説など、魚に歩けというような物だ。無理な物は無理だ。
「なあ……徐倫」
「なんだ?」
「進んでんのか?」
「全然」
「だよなぁ………」
互いに黙り込んでしまう。今部室内ではコンピ研よりぱくったパソコンが一人一台セットされている。
筆が進んでいるのは古泉だけらしく、朝比奈さんはメイド服でうんうんうなっているし、長門もポツポツとキーボードを人差し指で押しているだけだ。アナスイに至っては魂が抜けてしまっている。
「朝比奈さん」
「なんですか?」
「どんなの書いてるんですか?」
他の人のを見れば何か参考になるかもしれん。まあ、ジャンルが全然違うのに参考もくそもない気がするが。ダメもとだ。
「あ……はい」
朝比奈さんは素直に見せてくれた。徐倫も横からのぞきこんでくる。
「……………」
うーむ……白雪姫をベースに書こうとしたみたいだが、ハルヒがあちこち口出しした後が見受けられる。なんていうか、軍記物とハルヒ的ご都合主義に種々の童話をぶち込んだという感じだ。
「あれ?文章は出来上がってるじゃない」
「はい……でも涼宮さんが絵を付けろって………」
………まぁ、頑張って下さい。
続いては長門だ。後ろに回り込もうとする。が、長門がパソコンを傾けてブロックする。
「……………」
長門がこちらに向けてきた目は“見ないで”と言っているようだ。ますます気になる。再び回り込もうとしたが、
「……………」
やはりガードされる。暫く俺は長門の後ろで反復横飛びしたが、長門の反射神経には勝てそうもない。すると、
「オラァッ!」
突如徐倫に殴られた。
「なにすんだよッ!しかも今スタンド使っただろッ!多分」
「うるせぇよ……嫌がってんのに無理矢理見ようとするな」
「………すまん、長門」
頭を下げて謝ると、長門は目線だけで“別にいい”と返してきた。
「だけどなんでそんなに長門の小説が気になってんだ?」
例の長門による世界改変事件の時、眼鏡の長門は何かを書いていたからな。そのせいかもしれん。言わないがな。
「……………」
「まあいいや……ところでよーーホラーって好きか?」
大嫌いだ。
「そうか……ネタが無いんだよなぁー」
それこそ体験を元にしたらどうだ?
「恋愛なんかよりも遥かに体験しにくいだろ」
「スタンドなんて半分ホラーじゃねえか………」
すると徐倫はキョトンとした顔を浮かべた。
「その発想はなかったな………」
無かったのかよ………。
「なら楽だな……スタンドをホラー仕立てにすりゃいいんだからな」
そして徐倫はパソコンに向かい、キーボードを叩き始めた。
「まじでどうするんだよ……俺」
「………ハァ」
暫く俺が筆が進まず、天井を眺めていると、徐倫がまたもやため息をついた。そういやこいつバレンタインの頃からずっと様子がおかしかったからな。ハルヒの方は元に戻ったというのに。
「どうしたんだよ」
「………なあ、キョン」
徐倫が真剣な表情で俺を見る。
「なんだ?」
「もしお前が……とても危険な物を手に入れたとする」
「ああ」
「だが、困った事にそれを処分する事は不可能で、しかも早く別の場所に移さないといけない」
なら早く動かせばいいじゃないか。
「……めんどくさい。もう素直に言うわ」
「なんなんだ?」
「弓と矢が見つかった」
それっていつか教えてくれたスタンド使いを増やす矢か?
「そうだ……だが困った事に今SPW財団が例の組織に見張られてて動けない」
「それじゃあ例の組織は弓と矢が見つかったって知ってるんじゃないか?」
「見当もつかない……とにかく今あたしはあんた達の協力が必要不可欠だ」
「なら協力を頼めばいいじゃないか。皆喜んで引き受けると思うぜ」
「そうできない訳があるから悩んでんだ………」
「なんだよ?その訳って」
「………情報漏洩だ」
SOS団の連中がチクるって訳か?そりゃねーぜ。
「そういう心配はしてない……ただ、あいつら個人が漏らさなくても、組織としてはどうだ?」
「スパイか………」
「弓と矢を安全に運ぶには絶対に機関の協力が必要だ。だがここが一番信頼できない」
「朝比奈さんや長門はどうだ?」
「朝比奈さんは見てのとおり下っ端だ。そんなに助けは得られないだろうし、何より前回の漏洩がある」
例のバレンタインの時か。
「有希は確かに信頼できるし確実だ。だが、有希の親玉は援軍なんてくれるたまじゃないだろ?いくら有希でも多数のスタンド使いを相手にするのは不可能だ」
「八方塞がりだな」
「だから悩んでんだよ………」
なるほどな。だけどらしく無いぜ。徐倫。お前はこういう時真っ先にアイデアを浮かべる奴だろ。こんな風にして
「発想を変えろよ……バレてもいいって思うんだ」
「……バレてもいい?」
「ああ」
正直細かい考えなど無いし、適当言っただけだ。だが、徐倫は俺の言葉を聞くと瞬間、いつもの自信に溢れた表情に戻った。
「ありがとよ……お陰でなんとかなりそうだぜ」
「分かったよ……頑張りな」
「ああ………ところで、執筆はどうなってる?」
「……………」
1週間後、俺達はなんとか無事に機関誌を完成させた。長門はなんだかよく分からない私小説じみた物を、古泉は夏休みの三文ミステリー、朝比奈さんは例の童話で、アナスイは……まああまり言わないでやろう。あれは酷かった。
「谷口に国木田……鶴屋さんにコンピ研にまで書かせたのかよ」
谷口はくそ面白くも無いエッセイ。国木田の教科別ワンポイントレッスンはただのウンチク集。コンピ研のゲームレビューはまあまあ良かった。
漫研の奴等の4コマ漫画もあったな。だが何よりも鶴屋さんの「気の毒!少年Nの悲劇」というコメディーは凄まじい面白さだった。
全員腹を抱えて笑い転げ、無表情で読んでいた長門でさえ全身全霊で笑いを堪えていたようにすら見えた。
「あの人、マジに天才だな」
「下手すりゃハルヒ以上だな……そういやハルヒは何か書いたのか?」
「このよく分からん“世界を大いに盛り上げるためのその一 明日に向かう方程式覚え書き”とかいう論文地味たやつでしょ?」
「……これ……そんな………」
ちょうどハルヒの理解不能な論文を読み終えた朝比奈さんは顔面を真っ青にさせて震え始めた。まるで知ってはいけない事を知ったみたいな感じだ。一体なんですか?
「時間平面理論の基礎中の基礎なんです……発案者が謎だったんですが、涼宮さんだったなんて………」
相変わらずの変な勘のよさだな………。
機関誌は即日配布完了となり、生徒会長は捨て台詞をはいてSOS団の存続を認めた。それが今回の顛末だ。
配布完了した日、ハルヒが生徒会室に行っている時だった。
「皆、来週の土曜日、あたしの家に集まってくれ」
「なんですか?」
「弓と矢の輸送作戦……それを皆に説明する」
そして、徐倫のこの言葉が、この1年で最も激しく厳しい戦いの幕開けとなったのだった………。
To Be Continued・・・
以上、第89話でした
アフターロックの人乙!今後が楽しみです
次回は番外編。徐倫の書いた小説を書く予定
それでは!
亜米利加乙です
やっぱ弓と矢は出すよね。最後の六本目のやつ。うん。
続きのパーツはできてるけどつなげられNEEEEE
いや今がんばってるから
もうちょいがんばるまで待って
299 :
マロン名無しさん:2009/08/30(日) 20:54:05 ID:gHMF3ttj
すごくどうでもいいんだけど
>>168の
>「おおっ、自分で言えたねー
がすごくなんかじわっとした
明日投下します
「はぁ〜〜〜ァ!? キョンがインフルエンザぁ―――!?」
キョン君たちが激戦を繰り広げた夜が開けて、本日、土曜日。
私たちSOS団(-一名)が終結した、いつもの集合場所で。
町中に響き渡らんばかりの声で、涼宮さんは叫びました。
「はい。どうも、今流行しているヤツだそうで。感染の恐れもあるので、しばらく安静に、ということです」
「ハァ―――。あのヌケサクッ! 仮にもSOS団の団員が、ウイルスごときにへばってどうすんのよ!
そんなもん気合で跳ね返しなさいよ! 次の合宿で、とことんシゴいてやるわ」
……私が種明かしをするのも、なんだか申し訳ないんですが。
キョン君の容態は、実はインフルエンザなんかではなく……昨晩の戦いによる気疲れで、今日ばかりは行動不能。ということだそうです。
なんでも、キョン君たちは―――あの、『小野大輔』と、真っ向からぶつかりあってしまったそうで……
外傷こそは、長門さんの力で回復したものの……小野のスタンドと戦い、結果として、惨敗してしまったことと……
それと、妹さんのこと。
小野とともに姿をくらませてしまった、キョン君の大切な妹さん……
私には計り知れません。彼がどれだけ、心に錘を抱えてしまっているのか……
「まあ、いいわ。今日は前みたいに、2:3で分かれましょ。行きたいところもあるしね」
何が何でもお見舞いに行くわよ! なんてことにならなくて、本当によかったと思います。
涼宮さんが常識をわきまえてくれて助かりました。
―――
そして、くじ引きの結果。わたし、朝比奈みくると涼宮さんは、西宮の中央街にあるデパートを訪れています。
「今年の学園祭で、あたしたちがバンドをやるのよ! 美夕紀さんとも話はついてるわ、ENOZとSOS団のコラボレーションよ!」
なんでも、そのために、私の衣装を買うそうで……でも、涼宮さんの訪れるお店が、どれも、パンキッシュな衣装ばかりを扱っているお店なのが気になるんですが……
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第17話『西宮暗黒水族館@』
「あー、もう! アレもいや、コレもいやじゃ話にならないじゃない!」
涼宮さんが、私に怒鳴りつけます。
だって、仕方ないじゃないですか。涼宮さんが私に勧めてくるのは、どれも露出度の高い……なんていうか、とってもセクシャルな衣装ばかりなんですから。
あんな服を着て、文化祭の舞台になんか、とても立てません。
って、去年の映画で、バニーガール姿を公衆の目に晒している私が、どの口で言うかっていう気もしますけど……
リアルタイムでみなさんの前に立つのとは、また、話が別です!
「いいわ、もう。あたしが選んでくるから、みくるちゃんは、そこらをブラついてて!」
そう言い捨てるのを最後に、涼宮さんは、とっても特殊な衣装を専門とするお洋服やさんに、吸血馬のごとく突貫していってしまいました……
数ヵ月後の文化祭、私はどんな辱めを受ける羽目になるんでしょうか。考えるだけで、あたまがゆらゆらします。
「……怖いなあ」
この『怖い』には、ふたつの意味があります。
一つは、さっき言ったとおり。涼宮さんが私に着せるために買ってくる衣装が、どえらいものだったらどうしよう? という恐怖。
それと―――もう一つ。
これは、言わなくてもわかりますよね?
でも、念のため、お話しておきます……もし、今、ここに『スタンド使い』が現れたら? っていう怖さです。
古泉君は、言っていました。小野は今、おそらく、最強の戦闘能力を持つ『スタンド』を再生している。
小野は、ほかのスタンドを再生して、傷を癒すことはできない。キョン君とミスタさんとの戦いで受けた傷を癒すために、しばらくの休養をとるはずだ、と。
でも。わたしの臆病な性格が、どうしても、よくない考えをくすぶらせるんです。
もしも、今。万が一、敵スタンド使いが現れたら。私は、そのスタンド使いを倒せるでしょうか?
とても強くて、頼りになるけど、私には制御できない……『メリミー』で、涼宮さんを守れるでしょうか?
「あの、抹茶とキャラメルを……」
だめですね、ネガティヴな考えばかりで。こういうときは、少し落ち着きましょう。
そう思って、私は、ビルの一階、食品売り場にある、アイスクリーム屋さんを訪れていました。
私の好きな二つのフレーバー。本当は、もうひとつ重ねたいけど、それはちょっと、お金が掛かるし……
そんなことを考えながら、私は、アイスクリーム屋さんのお兄さんに、二段の注文をしました。
その時です。私のすぐ後ろから、男の人の声がしました。
「それに、ストロベリーを重ねてください。あと、僕は、ストロベリーとバニラの二段で」
「……えっ?」
私は、その声に振り返る。そこには、私より頭一つほども身長の高い、男の人が立っていました。
一瞬、私は、その人を、見覚えのない、他人だと思いました。でも、私の記憶の奥底に、その人の顔が存在していることに、すぐに気づきます。
「ふ、フーゴさん?」
「気にしなくていいですよ」
私が、その人物の名前を呼ぶと。その人は、ちらりと私の目を見た後で、まるでなんでもないように、アイスクリーム屋さんの店員さんに視線を移しました。
程なくして、私の手元に、抹茶、キャラメル、ストロベリーの、なんだかミスマッチな三種のアイスを載せたコーンが渡されます。
「向こうで話しませんか?」
私のすぐあとに、ストロベリーとバニラの二段の乗ったコーンを手にした男の人……『パンナコッタ・フーゴ』さんが、備え付けのベンチを指差し、言います。
「は、はい」
流されやすい性格。っていうのは、よく聴く文句ですが、それはつまり、まさに、私みたいな性格のことを表すんでしょうね。
私は、突然現れた知人のいざなうとおりに、彼の背中を眼前に携えながら、プラスティック? 製のベンチへと、足を運びました。
「忘れてたわけじゃあないと思うんですが。彼女、涼宮ハルヒには、いつも監視がついているんですよ」
ベンチに座り、バニラのアイスを食みながら。フーゴさんは、私に眼を向けることなく、言いました。
「当然、彼女と行動をともにしている貴方にも、少なからず監視はついてます。
……きっと、あなたはこう思っていたんでしょう?
『私ひとりで、涼宮ハルヒを守れるかな?』とか」
フーゴさんは、淡々と言葉をつむぎます。……その概要は、なんていうか、あれです。図星です。
「みくるさんでしたっけ。もうちょっと安心してください。リラックスってやつです。僕ら……『機関』は、つねに彼女と、その周囲の人々を見守っています。
まあ、機関の監視ったって、『スタンド』を視認できるヤツは少ないので、頼りなく思っちまうのは仕方ないとおもいますけどね」
その言葉で、やっと、フーゴさんが私に接触してきてくれた理由がわかりました。
涼宮さんとふたりきり、いつスタンド使いが襲ってくるかもわからない現状に、私はとても臆病になっていました。
それを見て、フーゴさんが、私を落ち着かせるために、こうして私のところに来てくれた。
「……ごめんなさい、私、ちょっと神経質になってました」
「いいんですよ。あなたは場数を踏んでいる人じゃない。僕らにだってそれはわかってます。
涼宮ハルヒ同様、あなたも、僕らが守るべき対象なんです」
フーゴさんは決して笑いませんが、私の目を見て、そう言いました。
その言葉に……とっても失礼なことですが、私は少し、不甲斐なさを感じます。
私は、長門さんや、古泉君に助けていただいてばかりでした。本来なら、彼らと同じ、涼宮さんの力を監視するために、この時代にやってきたはずだというのに。
なのに、私は。あらゆる人に、守っていただいてばかりで――――
その、瞬間です。
私の目前。もう、センチメートルという単位は必要ないほどの、目の前に。
私の知らない―――とても、邪悪な顔をした、男の人が現れたんです。
「クヒヒヒヒヒヒヒ」
その人の目は――右目と左目が、それぞれ別の方向を向いていますが――少なくとも、その左目が。私を、見つめ、笑っていました。
「きゃあああああああっ!!?」
「っ――何ィ――――――!!?」
私のすぐ隣で、フーゴさんが声を上げました。
……何ですか、これ? 私、どうなっているんですか? 私の前にいる、この人って―――誰、ですかっ!?
「ウリャァァァァァァ!!!」
立て続けに聞こえたのは、フーゴさんの絶叫。
同時に。私の目の前の、その男の人の顔の前に―――紫色の、歪な手が現れました。
いくら鈍い私でもわかります。フーゴさんの『スタンド』です。
「しゃああぁぁぁぁ!!」
その『手』が、私の前にあらわれた男の人の顔をえぐるように、前方へと振り払われます。
ぐしゃ。きっと、そんな音がすると思いました。
でも、実際に聞こえた音は、フーゴさんのスタンドの手が、空中を引っかく、ブオン。という、野太い音だけでした。
「『見ぃ―――つけた』……オレ好みだぁ、この子は……」
次に、聴き知らぬ声が聞こえたのは―――私たちの頭上。
私とフーゴさんが、同時に、声のした方向を見上げます。
そこには――私の前に現れた、先ほどの男の人が。
天井に、身体の半分を埋め込みながら……半分だけになった顔で、私たちを見下ろしている光景が広がっていました。
……ああ。私の悪い予感は、当たってしまったんです。
「『スタンド使い』――――!!」
私のすぐとなりで、フーゴさんが叫びます。その視線は、当然……天井に『減り込んだ』、その男の人をにらみつけています。
周囲の人たちが、私の悲鳴と、フーゴさんの声を聞きつけ、何事かとどよめきはじめました。
でも、不思議と……私たちよりもよっぽど不思議で、奇妙なはずの、天井の人に視線を向けている人はいません。
―――それもそのはずでした。私が再び、天井を見上げたとき。そこには、さっきまで居たはずの、あの奇妙な男の人は、いなくなっていました。
「ガァァァァ!!!」
私が天井に視線を戻したのと、ほぼ同時に。フーゴさんのすぐ傍に居た、『スタンド』……紫色の体をした、大きな男の人のスタンドです。そのスタンドが、叫びました。
そして、まるで猫が、高い垣根へと飛び乗るかのような軽い動きで、床をけり、先ほどまで男の人が減り込んでいたあたりを、思い切り引っかきました。
壁全体を通じて、店内中に響き渡るような重い音と、蛍光灯が割れる、切り裂くような音とが混じりあい、周囲に響き渡ります。
「きゃあああっ!?」
集まってきた人たちが、突然の騒動に声を上げ、それを皮切りに、店内に、騒ぎが起こり始めます。
「逃げられた―――何処だ、何処に行ったっ!?」
どよめく人々をけん制する様に、フーゴさんが声を上げながら、周囲を見渡します。
私はというと……どうしたらいいんでしょう。私も探さないと。でも、もし私がさっきの人を見つけても……倒せるのかな?
―――なんて、スットロいことを考えてる場合じゃあないことが。今、ようやく分かりました。
「いいなぁ、この『髪』……栗毛色で、銀座のレストランのスパゲッティみてーでよぉ……クヒヒヒ」
耳元で、粘つくような声。そして、私の髪の毛の一部が、ふわりと持ち上げられる感覚―――
「きゃあああっ!?」
振り返ると――そこに。さっきのように、壁に体の半分を減り込ませた、あの男の人がいました。
そして―――私の髪の毛を手にとって、その毛先に頬擦りをしていたんです。
「いやあああっ!! 『メリミィ―――――――ッ』!!!」
絶叫とともに。私の体から飛び出した、白い右腕が。私の髪の毛を弄る男の腕を掴みました。
「MMMMAAAAARRRYYYY!!!」
『メリミー』は、私と良く似た―――だけど、わたしよりもちょっと低い―――声で、猛獣が吼える様な声を上げながら、男の腕を引っ張り、壁から引き摺り出そうとします。
だけど―――
「クヒヒヒヒィ」
男が笑うと同時に、『メリミー』が、強烈な力で、逆に引っ張られてしまいます。
だめです、私じゃ、敵いません! 男はずぶずぶと、体を壁の中に埋めていきます―――これ、どういうスタンドなんですか?
「『パ―――プル・ヘイズゥ―――』!!」
フーゴさんのスタンドが、壁に減り込んだ男に向かって、蹴りを放ちます。
細くとがった爪先が、壁を穿つ―――しかし、またもや。男は壁の中へと、逃げ込んでしまいました。
男につかまれていた私の髪の毛が、ばさりと重力にしたがって流れ、メリミーの右手から、男の腕の感触が消えてしまう……
がしゃん。どかん。電灯の砕ける音と、壁がえぐられる轟音とが、周囲に響き渡ります。
すごい力です。フーゴさんのスタンドは、『メリミー』よりも、更に高い破壊力を持っているみたいです……この人が敵じゃなくてよかったなあ。
「に、逃げられちゃいました、また……どうしましょうっ!? 涼宮さんが危ないんじゃ―――!?」
涼宮さんは今、四階に居るはずです。ここは一階。
あの男がどんな能力で移動しているのかわかりませんが、私たちには予想も出来ないやりかたで移動をするようです。
「みくるッ! あなたはハルヒのところへ行ってください!」
フーゴさんが、私を振り返り、いつもの落ち着いた風とは違う、真に迫った語調で、私に向かって叫びます。
ああ、周りの人がどよめいています……大丈夫なんでしょうか、これ? こんな、公にやらかしちゃって……
「早く行ってください!!」
「ひゃいっ!!?」
フーゴさんの怒声が、私の頭の中から、迷いを吹き飛ばします。
ああ、もう。『敵』が来ちゃった以上、しょうがないじゃないですか! やるしかないんです!
私は、アリのように群がる人々の波の中に、まるで、面白いものを見つけた涼宮さんのごとく、突撃しました。
野次馬の人たちが、私の体を避けるように、道をあけてくれたのが幸いです。
周りから見れば騒ぎの中心の一人になっていた私が、いきなり駆け寄ってきたら、こうなって当然ですね。
「おっと、そうは行かないんだなァ―――」
―――私が、エスカレーターを駆け上がろうと(あ、マナー違反ですね……)した、その瞬間。
私の前に……あの男の人が、だらりと。天井から、『さかさまに垂れ下がって』来たんです。
「いやあああっ!!」
この悲鳴は、私のほか、あたりに居た、何人かの人のものです。
それは驚きますよね。いきなり、なんだか、その……明らかに、気持ちの悪い男の人が、さかさまに垂れ下がってきたら。誰だって驚きます。
「逃がさねーよぉー、お前さんみたいな玉はそうそう居ないからなぁ―――……ン? こっちのお前も悪くねーなァー」
「ヒイイッ!?」
現れたその人は―――私の目を、見たあと。ふと、思い立ったように、私のすぐ傍に立っていた、女性を見て。
さっき、私にしたみたいに、その人の髪の毛―――腰くらいまで有る、ロングヘアーです―――の一束を手に取り、その『におい』を嗅ぎました。
「クンクン……いや、オメーはダメだッ! トリートメントがなってねぇ、しかもストパーかけてやがるなァー!!?
それにっ、テメー、シャンプーのあと、クシつきの『ドライヤー』使ってやがるなッ!? それでも女か、ボゲッ!! ドライヤーは30cm放して乾かしやがれ!」
「な、は、はいっ? ご、ゴメンナサイ……」
……さかさまの男の人は、その女の人に、そう言い放つと。手に取った髪の毛を、捨てるように振り払い……私に向き直りました。
「やっぱオメーだよ……こりゃ10年に一度の逸材だよぉ。いいなぁ……欲しいなぁ、この髪……」
とろん。と、目を細めながら、男の人が、私の髪の毛に手を伸ばします―――!!
「いやあっ、『メリミー』!!」
「RRRYYYYY!!!」
再び、私の体から、『メリミー』の腕が飛び出し、目の前の男の、さかさまの顔面に、こぶしを突き出します。
「おっと」
しかし。男の人は、まるで、釣り糸をリールで巻き戻すように。するすると、天井の方へと巻き戻り、メリミーのパンチをかわしてしまいました。
「クヒヒヒ……やっぱお前に決めたぜェー。『みくる』っつったかーァ? 『みくるちゃァん』。クヒヒ……逃がさないぜェー、み・く・る・ちゃ・ん?」
ぞぞっ。生まれて初めて、その擬音を、頭でなく、心で理解できました。
気持ち悪い! この人、普通じゃない――――私は、この人に、なにかされる!!
「s'KissKissKissKissKissKissKissKissKiiiiiiiiiiiiiiiiiiss!!!」
私の恐怖に反応して、『メリミー』が、天井からぶら下がる男の人に、がむしゃらにこぶしを放ちます。
しかし、男はそのこぶしが、体に叩き込まれる前に、するすると『天井』へと吸い込まれていってしまいました……
いや。何なんですか? もしかして――
「『狙われてる』のって―――わたし、なんですかァ―――!!?」
「『みくるゥ』――、おちつけェ――!!」
これまでに体験したことのない、異様な恐怖。押し寄せる濁流のような不安から、フーゴさんの言葉が、私を引きずり戻しました。
「いいかっ、みくる! 今回狙われてるのはあんただ、それが怖いのは分かる!
だがあんたには『スタンド』がある! あんたは『戦える』んだ! 忘れたわけじゃねェ―――だろうな、みくる! お前は『スタンド使い』なんだぞ!?
SOS団の一員なんだぞ、忘れてんじゃねぇ―――だろうなァ!?」
「わっ、わかってますけどっ!! でも、あの人のスタンドは、何なんですかぁっ!?
だって、わけのわからないところから、いきなり出てくるんですよぉっ!? 戦えるわけ、ないじゃないですかァ――!!!」
「落ち着けつってんだろうがァ―――!! いいから見ろ、天井を!
今あの野郎がぶら下がってきたとこだ! 『蛍光灯』があるだろうがァ―――!!!」
フーゴさんに言われて、初めて気づきました。私の頭上……よりも、少し前方にある……店内を照らす、蛍光灯。
そういえば。さっき、二度、あの男の人が、私の前に現れたときも。
フーゴさんのスタンドが、男の現れたあたりを破壊したときに、確かに聞こえました。
『蛍光灯が割れる音』が。
「『照明』だ!! このデパート中の明りを消せ! 今すぐにだ!!
……そして、テメーら!! 命が惜しかったら、さっさとこのビルから出て行け! 今すぐに、だァ――――ッ!!!」
「ひ、きゃあああっ!」
フーゴさんが、人ごみのほうへ向いて叫びます。其れと同時に、周囲に群がっていた人々が、一様に、出入り口の自動ドアへと駆けていきます。
何しろ、さっき、男の人が天井から現れたのを目の当たりにしたのですから、当然といえば当然ですね。
「いいか、みくる! ヤツは『光源』の中を移動しているんだ! 『光源』さえなければ、ヤツは動けない!
そこを狙うんだよぉ―――――!!」
その、瞬間。私たちの居る空間が、突然、闇に包まれました。
つい今さっきのフーゴさんの指令が、もう遂行されたようです。なんていうか、『機関』ってすごいんですね……
でも、これは……真っ暗です。すぐ傍に居るフーゴさんのことも、よく見えないくらい。
これ……戦えるんでしょうか?
――――
人間の感覚の中で、失われた場合に、もっとも恐怖を覚えるのは、視覚だという。
僕は今、まさに。それを、全身で体験している。
すぐ傍らで、頼りなさげに体を竦ませているみくるの姿さえ、まともに視認することはできない。
ああ、クソ。こんなときに、あの『キョン』とかいう少年が居てくれたなら、敵のスタンドの位置を計ることができるというのに。
それに、もう一つ。光を失ったこの空間では、僕のスタンド能力は、あまりにも危険なものだ。
生物の細胞を壊死させる、『ウイルス』を発生させるスタンド。空中に発散したウイルスは、室内灯の明りに照らされることで、数十秒で死滅する。
しかし、この暗闇の中では……ウィルスは死滅することなく、フロア中に充満してしまうだろう。
そうなれば、本体である僕の命すら、危険に晒されることになる。
そして――僕の傍らの、みくるの命ををも、脅かしかねない!
「みくる! あなたのスタンドで、誰かのもとへワープすることはできますかっ!?」
「ふぇっ!? は、はい……ここから、涼宮さんのいる四階まででしたら、なんとか!」
「では、行ってください! そして、逃げてください! 『敵』は僕が、なんとか、この一階で食い止めます……ヤツに攻撃される前に、早く!」
「わっ、わかりました……『メリミ―――』!!」
僕の言葉のとおり、スタンドを発生させるみくる。白いドレスを纏っているはずのスタンド像は、暗闇と入り混じり、まるで、灰を被ったように見えた。
「すみません、お願いしますっ!!」
その言葉を最後に、僕の目の前から、灰のドレスを纏ったスタンドが消え去る。……これで、この一階に残っているのは、僕一人。
「クッヒヒヒヒヒ……『フーゴ』ぉ! それでオレを、『みくるちゃん』から遠ざけたつもりかよォ?」
其れと、ほぼ同時に。闇の中から、あの粘ついた声が聞こえてくる。
―――居る。僕のすぐ傍に、あの男が――!
「だがよォ、フーゴ……お前はとんでもないミスを犯しているんだぜェ……
オレの『エンドリケリ・エンドリケリ』は……ただ、光の中を移動するだけじゃねェ」
「何だと……ッ!?」
男の言葉が、僕の中の男の『スタンド能力』の概要を覆す。
男のスタンドは―――本体と一体化し、『光源』を繋いで移動することのできる、近距離型のスタンド。
僕の想定していたのは、そういったスタンドだった。しかし、それは『間違っていた』!?
「オレの『エンドリケリ・エンドリケリ』は……『闇』を『泳ぐ』!」
その言葉と同時に。僕の右の二の腕に、何かが噛み付いた!
鋭い無数の牙が、僕の衣服を、皮膚を食い破り、肉へと突き刺さる!
「ぐゥゥ!!?」
なんてこった―――僕の憶測、間違っていた!
このスタンドは―――近距離型のスタンドではない!
おそらく、『自動操縦型』……僕の腕に喰らい付いている、この『スタンド』は――――
「『魚』……ッ!! こいつは――僕の射程外から、喰らい付いてきた!!」
『魚』は、更にそのアゴに力を込めて、僕の二の腕を食いつぶさんばかりに、強く、猛烈に歯を立てる―――!!
「『パープル・ヘイズゥ―――』!! こいつを叩き落せェ――――!!!!」
僕の絶叫とともに。眼前に浮き出た、紫の巨体が、両腕を振るい上げ、僕の二の腕の『魚』に、手刀を叩き込む。
ぐしゃり。生々しい音と共に、僕の腕を蝕む痛みが和らぎ、『魚』が霧散する。
しかし―――こいつが『自動操縦型』なら。本体にダメージは生じない!
「甘いぜ、フーゴォ!! オレの『魚』は、何度でも、何匹でも! オレから『生まれる』んだ!!」
男の言葉と同時に。闇の中から、再び『魚』が、僕に襲い掛かる……
「ギャアァアァ!!」
鳴き声の数で分かる―――今度は、『二体』だ! 二体の『魚』が、僕に襲い掛かっている―――!!
「『パープル・ヘイズ』!!」
「クァァァ!!」
右から迫り来る、一体の魚に向けて。『パープル・ヘイズ』が、こぶしを突き出す。
手ごたえはある。同時に、右の腕の中ほどに、僅かな痛み。『パープル・ヘイズ』のこぶしが、『魚』の口の中に押し込まれたのだ。
「食らわせろォ――――!!!」
『魚』の体内で、『パープル・ヘイズ』の手の甲のカプセルが砕ける。
入った! この『魚』の全身に、ウィルスが染み渡ってゆく……これで、一体は潰せた!あとは、もう一体……僕の左側からせまり来る、風を切る音!
「このドグサレがァ―――!!!」
「GRRRRRRYYYYYY!!!」
ウィルスに犯された、一匹目の魚を、こぶしに喰らいつかせたままの、『パープル・ヘイズ』の鉄拳が、もう一体の『魚』を殴り潰す!
しかし―――同時に。『魚』の体が砕け散る―――まずい! このままじゃ、『ウイルス』が、このフロアに解き放たれてしまう!
『光』だ! 『光』が要る―――僕はポケットを探り、『光』を探す―――指先に触れたのは、古臭いジッポー・ライターのみ。
「燃やせ、『ジッポ―――』!!!」
床に落ちた二体の魚に向けて、僕は、炎を点したジッポー・ライターを放り投げる。
ウィルスに犯され、アンチョビ・ソースへと変わり始めた『魚』が照らし出される……しかし、これっぽっちの光じゃぁ足りない! もっとだ、もっと『光』が要る!
瞬間。僕の目に映ったのは、僅かなライターの光に照らされた……眼前に並べられた、蒸留酒の瓶の山!
「『パープル・ヘイズ』! 叩き割れェ――!!!」
ウィルスの蔓延する空間をつきぬけ、『パープル・ヘイズ』が、並べられたウィスキーの瓶を掴み取り、ジッポー・ライターの炎に向けて投げつける!
同時に、爆音とともに炎が巨大化し、あたりの空間を明るく照らし出す。ウィルスを死滅させるには、十分な量の光だ。
「クヒヒヒ、掛かったな、ダボがァ……なら、こうするまでよォォォ!!!」
男の声とともに―――僕の発生させた炎が、さらに巨大化し、あたりの空間を埋め尽くす。
その原因は、考えるまでも無い。男が、僕と同じ手段で。炎を更に巨大化させたのだ。
周囲は、アルコール飲料の瓶で溢れかえっている。炎が届けば、爆弾が連鎖して発火するかのごとく、炎は巨大化してゆく。
数秒後には。フロアは火の海と化していた。―――同時に。それは、『光の檻』でもあるッ!!
「テメェをなぶり殺した後によォ――ゆっくりと『みくるちゃん』をめでることに決めたぜェ、フーゴォォォォ!!」
その声が聞こえたのは、僕の真後ろ――炎の中からだった。
振り返ったときには、もう遅い。『男』は僕の首根っこを掴み上げ、空中へと浮かび上がらせた。
……ダボはテメェだ。こいつは、オレのスタンド能力を知らないのか!
この至近距離なら、この男の体をミート・ソースにすることなんざ、クソガキの手をひねり上げるぐらいに簡単なことなんだぞ!?
「おっと……『パープル・ヘイズ』とやらで、オレをブチ殺そうなんて考えないほうがいいぜェ?
そんなことをしたら……『みくるちゃん』と『涼宮ハルヒ』が、どうなっちまうか、わからねェぜ?」
「――何、だとォッ!!?」
――しまった、うかつだった。この男は――あの魚の『スタンド』を、無尽蔵に発生させる事ができる!
この暗闇の中なら――僕の目を盗み、上階へと『魚』を向かわせることも、できたのだ―――!!
「フーゴォ! テメーは詰めが甘ぇなぁ……自分の『予測』を過信しすぎてんじゃねェかァ――!!?」
to be contiuend↓
そんなとこで
投下しちゃうかー
「オイ、『フーゴ』君よォ。大方テメーは、俺の『スタンド攻撃』を、ちっぽけな魚を操る程度の能力だと思ってたんだろォ?」
……僕の襟首を掴み上げた、その男は。燃え盛る炎の中から、上半身だけを出し、僕の耳元で、ベタベタと生臭い声を吐き出す。
「しかしなぁ、フーゴ。こいつらはお前が思ってるより、ずっと頭がいいんだぜェ?
俺が操らなくたって、こいつらはちゃーんと、『ターゲット』を追跡して、そいつの喉に喰らいつくんだよ。
今だって、この可愛い『エンドリケリ・エンドリケリ』の小魚たちが、あの『みくるちゃん』を追いかけているんだぜェ―――!!
もしかすると、もうみくるちゃんの喉に噛み付いてるかもなァ? テメーがさっき、アイスにかぶりついていた見てーによぉ。
クヒヒ、『イチゴアイス』が好きなんかい、お前?
……ちっとも可愛くねェ――んだよ、このドグソが!」
「ぐぅっ!?」
男の腕が振るわれると同時に、僕の体は空を切りながら、燃え盛る炎の中へと放り投げられる。
瞬時に、全身にほとばしる熱。コイツは……やばい!
「クソォォ―――!! 『パープル・ヘイズゥ―――』!!」
「おっとォ! おっかねェ―――ぜ!」
僕の声を合図に。炎の淵に浮かぶ、男の体をめがけて、『パープル・ヘイズ』が掴みかかる。
しかし、紫色の両手が、男の体を捕らえるよりも、一瞬早く。男の体は、周囲を満たす炎の海の中へと、吸い込まれていってしまった。
炎の『明かり』中に『潜伏』したのだ。
「畜生が……この『炎の海』は、奴にとっては『光の海』ってことかよォ―――!!」
炎は見る見るうちに、僕の体を包み込む。まずい、この炎の中から、脱出しなくては――――!!
「お前はそこで、じっくりと『焼きプリン』になってろよ、『イチゴアイス君』!
テメーがくたばってる間に、オレはじっくり、『みくるちゃん』と遊んでくるからよォ―――!!
そんでもって、こいつは大サービスだぜェ―――!!!!」
男の声と同時に。僕の頭に、何か硬いものがぶつかり、砕ける。
鈍痛とともに、頭に被さる液体―――これは、『ウィスキー』だァ――っ!!?
「うおおおおおお!!!」
「クヒヤハハハァァァ!!! あばよ、『パンナコッタ・フーゴ』!
テメーの燃えカスは、『エンドリケリ・エンドリケリ』の餌にでもしてやるぜェー!!」
燃える! オレの頭が、体が、服が! 見る見るうちに、炎を吸い込み、焦がされる!
このドグサレが……ヤツの縄張りは『光』! それを潰すために作り出した『闇』! しかし、オレの『ウィルス』は、『光』がなければ制御できない!
何から何までが、『最悪』だ!
「ちくしょォォォォ――――!!! このオレを『燃やす』んじゃねェェェェェッ―――――ッ!!!」
……終わった。オレはこのまま、ウィスキーフレーバーの利いたパンナコッタになるしかねえ。
何で、よりによって、あいつとオレがぶつかっちまったんだ? あんな、オレを殺すためにあるようなスタンドが―――
そう言や、18ってのは前厄だったか? じゃあ、こりゃあその所為か―――ああ、18は女の場合だった。なら、みくるがまさに、前厄かよ。
みくる。奴は今、あの娘のところに向かっているのか―――あの娘は、未だ無事だろうか?
いや、たとえ未だ無事だとしても。あの変態野郎と戦って、勝つことができるだろうか……
どっちにしたって、オレには関係ねえか。火の海の中、オレはたった一人。火達磨になって、動けもしない―――
……走馬灯の如き思考の渦の中。オレは、あることに気づく。
……何故、俺の体が、浮いているんだ?
一瞬、ついに魂ってやつが抜け始めたのかと思った―――でも、違う。
誰かが……丁度、さっき、あのイカレヤローが、オレにしたように。
オレの首根っこを掴み上げて―――どこかへと運んでいる、『誰か』が居る!
ウソだろう? いったい誰が―――まさか、みくるか? いや、考えられない―――こいつは。この、異様に大きな『手』は!?
「ガシャァァァァァ―――!!」
―――どこかで聞いたことのある声がする。とても身近なのに、何故か耳になじまない声。
僕の体を掴み上げた誰か―――暗闇で、よく見えない―――が、僕の体を、何かに向かって叩きつけた。
「うがぼっ!!」
ジュン。そんな音が、耳元で聞こえた気がした。
これは―――何だ? 僕の体を、何かが包み込んでいる―――冷たい。『炎』が、消えてゆく。
――――水だ。僕は、水の中に居る!
「ぶぁっ!!?」
『水』は、とても浅かった。すこしもがけば、水中に顔を出すことができる。
とても浅く、小さな、浴槽のようなものの中に。僕は押し込まれたのだ―――『誰か』の手によって。
生魚の表皮のような青臭さを鼻腔に感じる……『水』の中の手が、何かに触れる。……なんだ、こりゃ? ……『魚』か?
まさか、さっきの『スタンド』が、また……
ぐらり。その瞬間、僕の眼前がゆがみ、脳味噌が揺さぶられるような感覚に襲われる。―――ダメージを食らいすぎたらしい。
それ以上、何かを考えることはできなく、僕はそのまま、浅い『水』の上に、仰向けに倒れこんだ。
その際……背を折り曲げながら、歩き去ってゆく。『誰か』の影が見えたが、それがいったい何者だったかは、僕にはわからなかった。
「『サカナ』……『ミクル』……『マモル』……」
意識が途切れる、その直前に。そんな声が聞こえた気がした。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第18話『西宮暗黒水族館A』
いったい、何がおきているんでしょうか。私には、さっぱりわかりません。
以前にも、こんなことを思ったことがありましたね。ですが、そのときと比べれば。今、この状況は、もう少しわかりやすいものです。
つまり。私はあの男の人の『スタンド攻撃』に追いつかれてしまった。そういうことなのでしょう。
私が『メリミー』で涼宮さんの下へとワープして、即座に、姿を見られないうちに姿をかくして……
彼女と同じフロアに居るのはまずいと、停止したエスカレーターで、三階に下りた、その瞬間でした。
「RRRRYYYY!!!」
突然。『メリミー』が、私の背後で、声を上げたんです。
それはもう、びっくりしました。何しろ、できるだけ音を立てないようにと、気をつけながら歩いていた矢先のことでしたから。
跳ね回る心臓を押さえながら振り返るも、そこには『メリミー』の背中と、暗闇があるだけで、何も見えはしません。
でも……『メリミー』が反応したということは。きっと―――そこに、『敵』が居たんです!
ですが、今の『メリミー』の攻撃が、何かを捕らえた様子はありません……
「か、『かわされた』の? メリミー……」
「RYY……」
しんとした暗闇の中で、メリミーは、ただ一点のみを見つめて、息を潜めています。
まるで、獲物が動く瞬間を待つ、猛獣のように……
……その瞬間。それは、私にも『聞こえ』ました。
私のすぐ後ろに……何かが、空気を切り裂きながら迫ってくる、ヒュン。という、音が聞こえたんです。
「『メリミー』!!!」
「MMMMAAAARRYYY!!」
私の声と、『メリミー』の鳴き声(なんでしょうか?)が、同時に、響き渡ります。
『メリミー』は私を振り返りながら、私の顔面のすぐ右の空間に向けて、白いこぶしを突き出します。
「GYHAAAA!!」
当たりました! 今度こそ、メリミーのこぶしが、『敵』を捕らえました。
ですが、それは、さっきの男の人ではありません。人間じゃない……鳥のような? 小さな生き物だったようです。
……そして、次の瞬間。私は、気づいてしまいました。
私の周囲を埋め尽くす闇の中で、爛々と輝いている……いくつもの、『眼』の存在に。
「こっ……これ、何ですか……なんで、こんなに居るんですかぁ……ッ!!?」
間違いないです。これは、あの男……あの、私の髪を触った、あの男の『スタンド』です!
ええっと……フーゴさんや、露伴先生から聞いた、スタンドの『タイプ』。
たしか、たくさんの数のスタンドを出せて、スタンドを倒しても、『スタンド使い』にはダメージが無い、とか……たしか、そんなのです。
この『スタンド』たちは、私を狙ってる……あの男のように!
「……シャアアアア!!!」
一瞬の呼吸の後に。私の周囲で、『スタンド』たちが啼きます。
其れと同時に、いくつもの『眼』が、私に迫って来る……!!
「『メリミ―――――――――』!!!!」
「メリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリィィィ!!」
迫り来る『スタンド』の群れに向けて、『メリミー』はこぶしを連打する。
手ごたえはあります……ですが、こぶしの雨を抜けて、私に向かってきたスタンドが、数体だけ居ました!
「きゃああああっ!?」
咄嗟に、私はその場にしゃがみこみ、頭を抱えました。
一瞬前まで、私の頭部が存在した空間を、『スタンド』が突き抜けていきます……私の髪の毛を数本奪っていきながら。
「MARRYMEEEEEEE!!!」
ドカン。という音とともに、『メリミー』は、前方のスタンドたちを薙ぎ払い、道を作りました。
どこに『スタンド』が潜んでいるかわかりません。でも、少なくとも……涼宮さんのいる四階に近い、このエスカレーター付近に居るのは、あまりにも危険です!
ぐっと息を呑み、私は、開かれた暗闇の中に駆け込みました。
敵の『スタンド』が狙っているのが、私なら……こうすれば、涼宮さんから、スタンドを遠ざけることができます!
私は、エスカレーターから遠い壁にたどり着き、壁を背に、前方を見据えました。
……今のところ、スタンド』が周囲に潜んでいる様子はありません。
一階では、今でも、フーゴさんが、あの男と戦っているのでしょうか……それとも、彼がやられてしまったから、このスタンドたちは、私の元へ来たのでしょうか?
いえ、違います……あの人は、私を、なんていうか……その、狙っていました。
あの人がフーゴさんをやっつけてしまったなら、あの男は、絶対に、自ら私の元にやってくるはずです。
つまり……男の『スタンド』には、近距離用のスタンド能力と、遠隔操作型のスタンドとの、二つの能力がある……丁度、鶴屋さんの『スタンド』みたいに。
えっと、私の言うこと、間違ってませんよね? 自信は、正直、あんまりないんですけど……
でも……鶴屋さんの『ファンク・ザ・ピーナッツ』にしろ、以前に露伴先生から聞いた……ええっと、ナントカクイーンにしろ。
遠くまで動かせるスタンドは、一体が普通じゃないんですか!? ずるいです、こんなにいっぱい、同時に動かせるなんて……
「シャアアアア……」
私が頭の中で、スタンドの神様に文句を言っているうちに。また、あの鳴き声が近づいてきました。
じっと、闇の中に眼を凝らします……ぎらりと光る眼が、ええっと、十個。つまり、五体来たって言うことでしょうか。
「『メリミー』!」
私は『メリミー』に、構えを取らせます。さっきの戦いで、『メリミー』の力では適わない相手ではないということは、わかっています。
……そのとき。私は、何か。頭の中に引っかかるものを感じました。
今。私は『メリミー』の体を、私の意志で、構えを取らせることができました。
……でも、たとえば。『メリミー』が、一度に五人もいるとしたら。私は、それぞれを自由に動かすことができるでしょうか?
無理、ですよね? 普通に考えたら……特に、自分では見えない場所で動かすことなんて、絶対できません。
……つまり、この『スタンド』たちは、あの男の人の意思によって動いているのでなく。『スタンド』自身が、何かを『目印』に、私を攻撃してきている―――!
「ギャアアアア!!」
「メリメリメリメリィィ!!」
先ほどと良く似た光景。迫り来る気配に向かって、メリミーがこぶしを突き出す。何度も、何度も。
何度やっても、奇妙です。それは、私がそうさせてるような、または、私自身がそうしている様な……はたまた、メリミーが勝手にそうしているような?
数がわかっているだけ、先ほどよりも、確実に攻撃を当てることができます。五体のスタンド全ての体に、メリミーの拳が叩き込まれます!
やった、やりました―――そんなことを考えた、直後です。
―――ぶちん。
右耳のすぐ傍で、そんな音がしました。
すぐ傍、というよりも―――なんでしょう。耳掃除をしているときに、中でする音のような―
べたり。と、私の肩に、何か熱いものが垂れます。
真っ暗でわかりません、私に、何があったんですか? どうして、私、耳が『痛い』んですかッ!?
「きゃああっ!! 耳……耳があ―――っ!!」
右耳に手を伸ばすと、どろりとした液体が、私の手のひらを汚しました。
痛い。頭の中にまで染み渡るような、痛み。
「キシャアアアア」
肩の後ろで、声がする……『スタンド』の鳴き声がッ!!
「RRRYYYY!!」
振り返ったメリミーが、私の肩越しに、私と、背後の壁との間にこぶしを放つ……でも、こぶしは、『スタンド』を討つことなく、壁にたたきつけられました。
私が振り返ると……空中をぐるぐると、渦を巻くように泳ぐ、『魚』の姿がありました。これが、今まで戦ってきた『スタンド』の正体なんでしょうか。
その『スタンド』の口に、何かがくわえられています……長い糸の束と、何か、ちぎれたハート型のようなもの……
ちぎれたハートからは、黒い液体が流れ、それが、一緒くたに咥えられた糸の束を伝って、地面に垂れています……
……自分の右耳を抑えた私の手。そこにあるものが、普段、そうであるはずの無い形をしています。
耳が、無いんです。上半分が、どこかに行ってしまっているんです。
「いっ、いや……痛い、痛いよぉぉぉ!!!」
「URHYAA!!」
だって、耳が食いちぎられてしまったんですよ? 怖いし、痛いし、もう、ワケがわかりません。
この痛みは、メリミーにも伝わっているはずなんですけど……スタンドって、すごいです。痛みにもだえる私を他所に、宙を舞う『スタンド』を殴り潰してしまうんですから。
体をへし折られた『魚』の口から、私の髪と、耳の一部が落ちます……私の耳です。カガミ越しじゃなくて見るのは、初めてですよ?
耳……私の耳。でも、それって……おかしくないですか? どうして、わざわざ、私の『耳』なんですか?
多分で。この『スタンド』は、私たちの前方でなく、横から迫ってきていたんだと思います。
でも、私の真横から、頭をめがけて奇襲するなら……もっと、ダメージの大きい場所を狙うんじゃないでしょうか?
たとえば、腕をかじられたら、私とメリミーの右腕は使えなくなって、攻撃もできなくなってしまいます。どうして、『耳』……
「……もしか、して……!!」
――私が、その答えに思い当たると同時に。クルル。と、獣が喉を鳴らすような音が、エスカレーターがわの暗闇から聞こえました。
振り向くと……います。今度は……九体も。一体、どこからやってきているんでしょう? あの男の人のところから、生まれてくるんでしょうか?
私と、メリミーを取り囲む『魚』たち……きっと、この魚たちは。数秒後に、一度に私に襲い掛かるんでしょう。
いいえ、違います―――あの男が、耳元で囁いた言葉が、私の頭をよぎります―――この魚たちが、狙っているのは!!
「『メリミー』!! 切って!!」
私は、右耳の痛みを堪えながら、叫びます。両手でつかめるだけの髪の毛を、頭の後ろに束ね、掴みながら。
「MARRY―ッ!!」
『メリミー』が、すばやく私の真横に回りこむ。同時に、ばちん。と、重たい音が、私の頭を揺らしました。
そして、そのまま……目の前の『スタンド』たちに向かって! 両手に掴んだ髪の毛の束を、投げつける!
「キシャアアアアアッ!!」
スタンドたちの奇声。『魚』は、まるで、猛獣に群がるピラニアのように――私の『髪』をめがけて、飛び掛っていきました!!
「MMAAARRRYYYYYYMEEEEEE!!!!!」
九体のスタンドが群がった、その一点に向かって! 『メリミー』はラッシュを繰り出す―――!
魚たちは、鋭い牙を携えた口に、私の『髪の毛』を絡ませながら、空中をきりもみになり、暗闇の向こうへと吹き飛ばされてゆく!
鳴き声は―もう、聞こえません。九つの小さなスタンド像は、全て、暗闇の中へと融けて行きました。
やった……今度こそ、倒せました……っ!
でも。もし、次にまた、魚のスタンドが現れたら……敵が一体、何体までいるのかは計り知れません。もしかしたら、それこそ、無尽蔵に出てくるのかも……
これじゃあ、ラチが開きません―――だったら!
「あの男』……倒すしか、ない、ですよね」
もとより。フーゴさんが、私を男から遠ざけてくれたのは、男から私を守ってくれるためです。
でも、男の『スタンド』は、こうして、私を追跡してきてしまいました。
これでは、私とフーゴさんが別々行動している意味なんて無い……むしろ、戦力が散漫してしまいます。また『魚』がこないうちに、一階に―――
「……おい」
たぶん、今、一瞬。私の心臓は、止まっていたんじゃないでしょうか。一秒ぐらいの間。
べた、べた。闇の向こうから……足音が、近づいてきます。
そして、私に投げかけられた声。ついさっき―――ついさっきのことなのに、とても昔のことのように思えます―――私の耳元で聞こえたのと、同じ。
「お前は……何、してんだよ……おい、『みくる』」
まるで、とても親密な人を呼ぶかのように。その人が、私の名前を呼ぶ。禍々しい怒気を孕んだ、地響きのような声で。
うそ……フーゴさんは……フーゴさんは、どうしちゃったんですかっ!? まさか―!!
「何で……なんで『切っちまって』んだよォォ!!! あんなに綺麗だった『髪』をよォォォ―!!!」
……信じられません。この人は―――本気です。本気で怒って、悲しんでる―――自分で私の髪を狙っておきながら、その髪を切った私の事を。
「畜生……チクショウチクショウチクショウォォォォ!! 二年ぶりの、キレーな『髪』に出逢えたってのによォォォオォ!!
あんまりだァァウアァァァア!! オレの『みくるちゃん』を、なんでテメーが『切って』んだよォォォオウオオオゥ!!!」
……狂ってる―――――この人!!
「アァァァウアァアアウアアア……『みくるちゃん』、こんなズタズタんなっちまってェェェ……
せっかく君と逢えたのにイィィアアアアウウウウウ……」
信じられますか?
今、私の目の前で。この人は、地面に散らばった私の髪を拾い上げて……泣いているんですよ?
「みくるちゃん……悪かった、俺が悪かったんだぁ……君を守れなかったんだァァァァ……
あのクソ野郎をブチ殺すのに、時間をかけちまった、がらっ……グゥ
ごめんよ、許してくれ……グッ、オレと、一緒に゛なっ、はぐっ、んぐっ」
どすん。
……胃の中身が、丸ごと逆流しそうになるのを、私は寸でのところで、耐えました。
体中に、虫が這う様な、おぞましい感覚……全身の毛穴から、冷たい汗が滲み出てきました。
……だって、この人。私の髪の毛、地面にちらばった、それを、集めて、たっ……『食べてる』―――
「『メリミーぃぃぃぃぃ』!!!」
……生まれて、初めてです。こんなに、誰かを――――否定したくなったのはッ!!
『メリミー』が右腕を、限界まで振りかぶって―――目の前の男に、振り下ろすッ!!
―――その、右手が、弾かれました。男の体から飛び出した――――巨大な『魚』によって!!
「……『みくるちゃん』をこんなにしちまったのは……テメーだな、クソガキがァァァァァァァァ―――ッ!!」
「ヴォオオオオオオ!!!」
男の声と、現れた『巨魚』……『スタンド』の咆哮とが、重なり合い、空間を揺るがしました。
深海魚のような、忌々しい姿をしたその像が、空中に巨大な弧を描きながら、私に向かって、突撃してくる!
「『受け止め』てェ――――!!!」
人の体ほどの体長を持つ、迫り来る巨体に向けて! メリミーが、腕を突き出し、防御の構えを取る!
「ONNNNNNRRRRRYYYYYYYY!!!!」
びっしりと、細かい牙が敷き詰められた口が、ひし形に大きく開き、『メリミー』の体に襲い掛かる!
『メリミー』の両手が、巨魚の上あごと下あごを押さえ込み、押し合いが始まる―――全身に鉄砲水を浴びているかのような、強烈な圧力が、私と『メリミー』を襲います……!
「KUAHHHHHH!!!」
「『エンドリケリィ―――』!! 『みくるちゃん』の敵を討てェェェ―――」
男が、叫ぶ―――私の『名前』を。ボロクズみたいになった、私の髪を、口の端から垂らしながら―――!!!
「その『名前』をォォォ―――……呼ばないでェェエ――――!!」
「MMMAAAARRRRYYYYYYY!!!」
私――――『メリミー』は、巨魚の下あごに、右足を叩き込み―――開いた手で、眼前の口内でうごめいている、薄い『舌』を掴み、引きずり出す!
そして、もう一方の手と、下あごを踏みつけた足を、離した!
『ホッチキス』が歯を立てて半紙を留める音を、もう数十倍に大仰になったような音を立てながら、巨魚の口が閉じられる―――
自らの牙を、自らの舌に突きたてながら!!
「グエァァアアッ――――ッ!!!?」
口の端に血の泡を立てながら、魚と男が、同時に痛み喘ぐ―――!!
「ごおおおおォ……ノォォォォ……クソアマがァァァァァ!!!」
体を震わせながら、再び、巨魚が口を開け、私に向かって、がむしゃらに体を叩き込んでくる!
その威力は、さっきの非じゃない―――『メリミー』は、防御を行う。
けれど、猛烈な勢いを孕んで叩き込まれた体当たりを前に、私の体は、容易く後方に吹き飛んでしまう。
「あぐっ!!」
私の背中が、硬く冷たい壁にたたきつけられる……
横隔膜がせり上がり、息が詰まる。後頭部に鈍痛が走る……
「『メリミ』……ッ!!」
頭が洗濯機の中に放り込まれてしまったかのように、意識が揺らぐ。
だけど、防御を、攻撃をやめるわけにはいかない。今やめてしまったら――!
「殺してやる……殺してやるぜぇ、クソカスが……オレから『みくるちゃん』を奪った報いだァ……」
私の目の前に―――男が立っている! 巨魚のスタンドの姿はない……その代わりに。
男は、口から血を流しながら……帽子掛けを掴んだ右手を、天高く振り上げている! それが、振り下ろされる―――私の、肩に!!
「あぐぅぁ――――ッ!!」
「死ね! 死ねェ――――ッ!」
もう一度。今度は、左腕に……痛い。帽子掛けの『ひっかかり』の一つ一つが、私の体に深く食い込み、筋肉を押しのけ、骨を打つ!
右耳の痛みと、全身を襲う痛みに気を乱されて、『メリミー』を出せない……もう、私に、打つ手は、ないんでしょうか――――?
「死にやがれッ、その汚ねェ―――アタマから、脳ミソぶちまけてよォ―――――!!!」
最後に、男が両手で帽子掛けを握り、振り上げた―――ああ、きっと。それで、私の頭を殴り潰すつもりなんでしょう。
もう、だめ――絶望とともに、私が眼前の男を見た、その瞬間。……男の背後に。男よりも一回りほど大きな―――誰かが、立っているのが、見えたんです。
「なっ―――テメェはァ―――ッ!?」
その『誰か』の手が、今まさに、私のアタマに振り下ろされようとしていた帽子掛けを掴み、男からひったくる。それは――――『人』じゃ、ありませんでした。
バイザーの向こうで光る、一対の瞳。暗闇に浮かび上がる、紫色の体―――
「クシュルゥゥ……『ミクル』……『マモル』……―――ッ!!」
「ばっ、バカなァ―――テメェは! テメェの本体は―――『パンナコッタ・フーゴ』は、焼け死んだハズゥ――――!!?」
それは―――そう。フーゴさんの、『スタンド』……『パープル・ヘイズ』!
「テメエは……ウソだろォ―――!? テメェは、『フーゴ』のところから、ここまで離れられるスタンドじゃァねぇハズだァ―――!!」
男は既に、私に注意を払う余裕はなく。自分の体に掴みかかる、『パープル・ヘイズ』を前に、有りっ丈の狼狽を晒しています。
『パープル・ヘイズ』は、帽子掛けを床に放り出すと、男の首と、右腕を掴み、今にも殴りかかるような剣幕で、男の顔面をにらみつけています。
ああ、でも―――この距離じゃあ。
「そうだ―――!! テメェの『ウィルス』は、光がなけりゃァ―――どこまでも繁殖し続けるんだぜェ―――!?
このオレだけじゃねェ、このクソカスオンナまで、ドロドロになっちまうってことだァ―――! テメェに、それが出来るのかよォ!? えェ、『パープルなんとか』よォ!!?」
「……ガァァァァァァァァァ――――!!!!」
男の言葉を遮るように、『パープル・ヘイズ』が、声を上げました。 天を仰ぎながら、大きく口を開け―そう。自らの口を荒く縫い付ける『糸』が、引きちぎれるほどに、大きく―――!!
そして、首を振り下ろすと同時に! 男の首筋に―――『噛み付き』ました!!
「グァァァァッ!!? なっ何だとォォォォォ―――!!!?」
……暗闇の中でも、わかります。パープル・ヘイズに噛み付かれた男の首が……見る見るうちに、ボコボコと泡立ち、変形してゆく様が――――
「フッ……フザケるんじゃねェェェ――――!! 聞いてねェぞォォォ、そんな『攻撃』はァァァァ――……ガッ……バァァァァァ!!!」
……それは、先ほど眼にした、男の行為とは、また別の意味合いで。この世のものと思えない、信じたくない……おぞましい光景でした。
男は―――融けた腐肉へと変わりながら。最後まで、その名前を……
私の名前を、呼んでいました。 私の、『髪』の名前を……
数十秒ほどが経って。男は、完全に、『融けて』しまいました。
後に残ったのは、科学室でしか見たことの無いような、骨と、臓物と筋肉とが溶け合った残骸だけ。
「クルルルゥゥ……『ミクル』……」
『パープル・ヘイズ』は、しばらく、男が融けて行く様を見た後で。私の方を向き……先ほども、聞いたように。私の『名前』を呼びました。
「『ナガト』……クル……『フーゴ』……イル……シタニ……」
そう言いながら……『パープル・ヘイズ』は、壁を背に座り込んだ私に、手を差し伸べてきました。
「テノ『ヒラ』……サワレ……キヲツケロ…………『コウ』ハ……」
私が、恐る恐る、その手のひらに触れると。『パープル・ヘイズ』は、意外なほどに優しく。私の体を支え、立たせてくれました。
……フーゴさんのスタンドって、こんな性格でしたっけ? たしか、ミスタさんの話だと、知能は低くて、フーゴさんから離れられないって、聞いたような……
それに、さっきの攻撃。ウィルスのカプセルを使うことなく、『噛み付く』ことでウィルスに感染させる攻撃……
もしかして、それは。私の憶測ですが――――『成長』という、やつなのでしょうか?
――――
私と、『パープル・ヘイズ』が、一階へたどり着くと同時に。店内に、明かりが点りました。闇に慣れた瞳に、室内灯の光が突き刺さる……
一階の状況は、其れはもう、散々たるものでした。既に消火作業は済んでいるものの、店内の一部は酷く焼け焦げ、商品は散らばり……
そして、その空間を、警察の人々が、忙しなく動き回っていました。
一瞬―――もし、さっきまで。三階にある『死体』のそばに、私がいたことが知れたら―――そんな不安が、脳裏をよぎります。ですが、その不安は、すぐに解消されました。
「朝比奈さんですね。ご安心を、『機関』から、話は通っています。外の救急車に、『フーゴ』さんもいらっしゃいます……『長門さん』の治療を受けてください」
私に声をかけてきた、刑事さんらしき姿をした、その人には、見覚えがあります。新川さん。去年の夏の合宿で、私たちを迎えてくれた、機関の人。
「お一人で、歩けますか?」
「あ、大丈夫です……あれ?」
ふと、気がつくと。私の隣にいたはずの、『パープル・ヘイズ』の像が、忽然とどこかへ消えてしまっていました。
多分、フーゴさんの元へと返ったのでしょう……私は、新川さんに連れられ、ビルの外に出て、救急車へと乗り込みました。
車内には、別途に横たわる、ボロボロの衣服を纏ったフーゴさん。それと、長門さんの姿があります。
「治療を行う。ベッドに横になって……しかし、衣服と、頭髪の再構成は難しい」
「はい……構いません、お願いします。ごめんなさい」
いい。長門さんは、そう一言だけ呟くと。私の胸の辺りに手を当てて、あの、早口の呪文を唱え始めました。
体中の痛みが、少しづつ和らいでゆく……私はその、ゆったりとした感覚に包まれながら、眠りの世界へと旅立っていきました……―
本体名 − 鞍馬一
スタンド名 − エンドリケリ・エンドリケリ 死亡
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「エンドリケリ・エンドリケリ」
本体 − 鞍馬一(29歳)
破壊力 − B スピード − C(〜A) 射程距離 − A(親 − E)
持続力 − A 精密動作性 − D 成長性 − E
能力 − 全長150cmの親と、50cmほどの子によって形成される、魚の姿をしたスタンド。
親…近距離型。本体とともに光源(電灯・炎など)へと潜伏し、その中を自由に移動・または、付近の別の光源へと瞬間移動する。
子…遠隔自動操作型。親から生まれ、同時に十体まで発生させることができる。
本体が視認している相手・もしくは、本体が覚えた体毛の匂いを追跡し、攻撃する。
空中を自由に泳ぐことができ、その空間が暗ければ暗いほど、移動速度が上昇する。
本体は、女性の毛髪に性的興奮を覚える猟奇殺人者であり、連続殺人罪で刑務所に収監されていた。
みくるとフーゴを襲う事件を起す前日の深夜、小野、もしくはその仲間によって矢で刺された。
―――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「パープル・ヘイズ」
本体 − パンナコッタ・フーゴ(18歳)
破壊力 − A スピード − B 射程距離 - A
持続力 − A 精密動作性 − C 成長性 − E
能力 − 人型スタンド。全身に、生物の肉体の代謝能力を阻害し、細胞を壊死させ、三十秒ほどで死に至らしめる殺人ウィルスを持っている。
以前も多少の自意識を持っていたが知能は際めて低かった。しかし、成長により、多少の知能を得て、多少の人語を覚え、行動範囲が大幅に上昇した。
手の甲に、殺人ウィルスを内包したカプセルを、片手に三つづつ持っている。
ウィルスは、室内灯程度の明かりで、数十秒で死滅する。
が、その爪・牙などの、体のほかの部分から、直接相手にウィルスを送り込むことも可能となった。
また、危機的状況下にある本体を自律的に救助する・本体が守りたいと強く願った対象を守るなど、本体の思考と意識を共有している面も見られる。
しかしそれらの能力は、本体の意識が消失した状況下での行動であり、本体の制御化で、それらの行動を実行できるかは、未だ不明。
―――――――――――――――――――――――――
マジで何なのこの5レス規制とか。死ねよ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここからシベリアの人に謝罪
以上、ちょっとあまりにもクソ長い上に
配達して欲しい先が4レスまでしか連投出来ないっつークソ板になってしまって
ご迷惑とは思いますがどうかできれば投下していただけたら嬉しいです。
ほんとご迷惑かけてすいません。皆さんを信じます。どうかよろしくお願いします。。
投下乙
……ちょっと待て、移動範囲が伸びて自立行動もできる、おまけに直接ウィルスを送り込めるって
スゲエ強いじゃねーかw
番外編 「文芸部機関誌より抜粋 1」
作品名 ギルティ アズ シン
作者 空条徐倫
ある所に、一人の男がいた。名も居場所も分からない。これはそんなある男の物語だ。
男は平凡ながらも充実した日々を送っていた。そんなある日の事、男は町に出かけた。特に理由も用事も無い。ようは気紛れだった。
男は町の大きな建物や高級な品々、美味しそうな料理を眺めてふとこう呟いた。
「やっぱり俺もこういう物が欲しいなあー……俺の安い給料じゃ無理だろうけど」
「もし……そこのあなた………」
声をかけられた男は振り返った。そこにいたのは奇妙な老人だった。奇妙だったのは、その老人がみすぼらしい格好をしているにも関わらず、顔色が良く、すこぶる健康そうであり、自信に満ち、そして威厳が溢れていたからだった。
「何ですか?」
「そんなにこういった物が欲しいのですか?」
「そりゃあ誰だって良い物は欲しいですよ」
老人は少し考える素振りを見せ、こう言った。
「よろしければ私が差し上げましょうか?」
「ハァ?何言ってんですか?そんなに金があるようには思えませんが」
「何、こう見えて生活には困っていないんですよ。それで、欲しくないんですか?」
「信用できませんね。何か証拠を見せて下さい」
老人は再び考えこんだ。
「ならば……ここで5分程待っていて下さい……そうすれば高級車が手に入ります」
「何訳分かんない事言ってんだ?」
しかし、男は待つ事にした。特に用事も無く、せっかくだからこの老人をせせら笑ってやろうと考えたのだ。
男がどのようにこの老人を馬鹿にしようかと考えているうちに5分が立とうとしていた。
「後30秒だぜ……高級車どころか車一つ来ないじゃあないか」
「いえ、来ますよ」
老人が自信満々でそう言った時だった。一人の少年が横断歩道を渡り始めた。
「ほら、彼を見て下さい」
「なんだ?」
すると次の瞬間、その少年は猛スピードの車に跳ねられた。少年は吹き飛び、地面に叩き付けられピクリとも動かない。
「お、おいッ!どこが高級車だッ!早く助けねーとッ!」
「いえ、違いますよ?ほら、あちらを見て下さい」
反対車線には交通事故に驚いて止まった車が沢山あった。その中に誰も乗っておらず、鍵をかけっ放しの一台の高級車があったのだ。
「……おい、なんで中に誰も乗ってないんだ?」
「簡単ですよ……跳ねられた少年の親の車だからです」
「なッ!」
老人は穏やかな表情を変えずに続ける。
「あれを盗ればあなたは高級車が手に入ります」
男は恐怖と怒りから叫んだ。
「犯罪じゃねーかッ!お前が言ったのはそういう事かッ!それに仮に盗めたとしても俺は犯罪者だぞッ!」
「捕まる心配ですか?ならいりませんよ……盗んでもあなたは捕まりません」
老人の表情はあくまで穏やかだった。だが、男にとってはその穏やかさが、凄まじく不気味で恐ろしい物と感じられた。
「……………」
「もっと言うとあれは新車で、しかも製造台数が少ない希少な物です……売りさばけばより良き物が手に入りますよ」
「お前は……一体………」
すると老人は初めて穏やかな表情を崩し、笑みを浮かべた。
「おや?これはあなたが望んだのでは?確か高級な物が欲しかったのでは?」
「うるせぇッ!俺は頼んでなんかいねーッ!てめえが勝手に言い出したんだろうがッ!」
老人は困ったような、しかしそれでいて面白がるような表情を浮かべた。
「困りましたね……受け取ってもらえないとなると……あなたに代償を支払ってもらえないのですが」
「代償だと?」
男は怒りで目を血走らせながら続けた。
「てめえッ!タダでくれるとかぬかしておいて、後で何か取るつもりだったのかよッ!」
老人は片手を上げて男を静止しながら続けた。
「いえいえ……あの車を手に入れるというだけで代償の支払いは済むのですよ………」
「どういう意味だ?」
「私はお金が欲しいのでは無いのです……生活には困っていないと言いましたよね?」
「じゃあ何が欲しいんだ」
「罪ですよ」
「………ふざけてんのか?」
老人はゆっくりと首を横に振った。
「私は真面目です。あなたが車を盗めばあなたは罪を犯します……私はそれをもらうのです」
男はその言葉を聞いて、車を盗もうかと思い始めた。彼はこの老人が罪をもらうと言っている意味を罪を被ると言っていると解釈したのだ。
「いいんだな?本当にてめえが罪をもらってくれるんだな?」
「もちろんですとも」
老人の言葉を聞いた男は、車のドアを開け、鍵を回した。
「………遂にあなたは車を盗みましたね?」
「……急に何を言ってんだ?てめえ」
老人は男の言葉を聞くと、無表情になって呟いた。
「残念です。あなたは車を盗んでしまいました……それは永遠にあなたの物です」
「どういう意味だ?」
「乗れば分かりますよ」
老人はそう言うと足早に去ってしまった。
「ケッ!意味分かんねー奴だったな……まあ車が手に入ったからそれでいいか……そういや腹が減ったな」
男は車から降りようとした。が、
「ドアが開かない?」
ロックを外そうとしても、どれだけ叩いてもドアは何ともならなかった。
To Be Continued・・・
以上、番外編でした
アフターロックさん乙です!パープルヘイズに知能がついたら確かにシャレにならないwww
番外編なのに前後編になっちゃいました。
それでは!
ヘイズの知性が上がる代わりに本体のフーゴさんが凶暴になると言う危険性があるとかないとか
ロック乙
あれ、このうばしゃぁぁぁ君最強キャラじゃね・・・・・・?
唯一の問題は、相手が必ず死ぬことぐらいか?
何か連投規制変わったの?
アメリカ乙
なんか荒木の短編っぽくていいな! デッドマンズQとかみたいな。
後編期待してます!
後付で語るのもなんかかっこ悪いっつーか無様でいやなんだけど
ヘイズの自律行動はいわば暴走状態と思ってもらえれば
あと本体が意識が無くなるor理性を失うだけスタンド理性が備わる的なね。
うん。まあとにかくもう2、3戦は書きたい。消化できてないスタンド使いが多すぎる。がんばる。
346 :
マロン名無しさん:2009/09/05(土) 09:33:57 ID:1boQ5B0d
最近セッコの人が来なくて心配だ
番外編 「文芸部機関誌より抜粋 2」
「てめえー……どういう事だゴラアッ!」
男は窓を叩いた。が、割れない。
「ちくしょお……やたら頑丈だな……このドア」
その後男はドアを破壊しようと何度も試みた。だが、ドアは固く閉ざされたままだった。
「クソッ!このままじゃあマズい……ん?後部座席に食い物があるぞ?」
後部座席には前の持ち主が食べていたと思われるコンビニ弁当があった。
「なんだ?忘れ物か?まあいいや、食ってやれ」
コンビニ弁当にしてはなかなかの味であり、空腹で疲れていた男はすぐに平らげた。
「なんか眠くなってきたな……寝るか………」
3時間程が立った。男は尿意にかられて起きた。すると何故か車は近くの公園の公衆トイレへと来ていた。
「妙だな………」
だが、迫る尿意には勝てず、男はドアを開け、トイレへと向かった。そして、トイレをすませた男はある事に気がついた。
「今ならこの車を捨てて別の場所に行けるじゃねえか………」
男はトイレから出ると、車とは逆に向かい始めた。が、そこに何故かリードが外れた犬が飛び出してきた。そして男の足にリードが引っ掛かった。
「んだあッ!このクソ犬ッ!」
犬は男の言葉には耳もかさず、車へと向かって行く。
「くそッ!リードが絡まって……しかもこのままじゃああの車に逆戻りじゃねえかッ!」
男は辺りを見るととっさに落ちていた石を掴んだ。
「くらえッ!くそ犬ッ!」
が、投げた石は突如カーブした犬のせいであらぬ方向にそれた。
「や、やべえぞッ!……そうだ!」
男は落ちていた木の棒を拾った。そしてそれを車のドアへと押し当てた。車へと突っ込んでいく犬に引きずられ、棒はドアを閉じた。
「フフフ……やったぜッ!ドアを閉めりゃあ中には絶対入らないッ!さてと……リードを切るとすっか………」
男はリードを切ろうとした。だが、男は気がついていなかった。リードは先ほどの木と車のドアに引っ掛かり、限界まで引っ張られていた事、そしてリードがゴム製だという事に。
「切れたぜェ!」
限界まで引っ張られたゴムが切られ、その張力によって弾き出されたゴムはパチンコのように男に襲いかかった。
「グ…グブエッ!」
男はそのまま吹き飛ばされ、車のガラスを破り、再び中へと戻ってきた。
「な……なんだよこれー……ゲッ、腕が切れてやがる……包帯とかは………」
男が後部座席を見るとそこには包帯と薬があった。
「なんでだ?さっきまでこんな物無かったよな……まさか、この車はッ!」
「俺を閉じ込める為の物かッ!くそッ!ヤバい、ヤバいぞッ!」
男は割れた窓から外に飛び出した。が、次の瞬間、放置してあった自転車につまづいた。
「痛ってえな……だが、出られたな。早いとこ車から離れるか」
「おい、そこのてめえ」
男が振り返るとガラの悪そうな不良が声をかけてきた。
「なに人のもん倒しといて何もなしなんだ?」
「君のだったのか?……すまない」
が、その不良は男に顔を近付け、胸倉を掴んだ。
「謝ってすんだら警察はいらねーんだよッ!にしても随分スカした車じゃねえか?てめえのか?」
「………違う」
「そうかよ……まあいい」
不良はそう言うと男を車へ放り込んだ。
「そこに閉じ込められ時なァ!」
不良はそう叫ぶと去っていった。
「閉じ込められとけ?生憎だがもう既にそうなってるぜ」
男が呟いて外を見ると、そこに一人の男が近付いてきた。男に車を勧めた老人だった。
「て、てめえッ!ここから出しやがれ!」
「それは無理です……これはあなたが望んだからですよ?」
「ふざけんなあッ!」
「罪には罰が存在します……あなたが犯した罪に対する罰がそれですよ?」
「てめえがッ!てめえが騙したんだろうがッ!」
すると老人はそこで今迄しなかった表情、自分の事を悔いるような顔をした。
「私もあなたと同じなのですよ………」
「え?」
「私も昔、あなたと同じように罪を犯してしまったのですよ……それからずっと他人を騙す事しかできません」
老人は自分を嘲るような笑みを浮かべた。
「お陰で生活には困りませんけどね」
「……………」
老人は男から顔を逸した。表情は闇に紛れてよく分からない。
「ここは罪を犯した者達が裁きを受ける場所なのです……何故ここがそうなっているのか、何故存在するのか……それは一切分かりませんが」
老人は男の方へ向き直り、礼をした。
「それでは、私はこれにて」
老人はそう言うと、しっかりした足取りで、闇へと消えていった。
「……俺も出るかな」
老人が去って数十分後、一台の車が闇へと消えていった………。
その後、この男の消息を知る者はいない。そして、何故この話が今も伝わっているか……それも分からない。
完
以上、番外編でした
サブタイの由来はヨルン・ランデの楽曲ギルティ アズ シン から
次回から最終決戦です。
それでは!
投下乙
この短編には荒木っぽさを感じた
いいたいことは
>>352が言ってた
すっげぇー荒木色
いやまじすげえ
起きたら投下しま
起きたからとうかしま
「お〜いっ、こっちこっち〜ッ! おまわりさーん、こっちだよ〜ッ!」
光陽園の南西のはずれ。広大な敷地を有する自然公園沿いの、物静かな遊歩道。
土曜の午後の木漏れ日に模様付けられたアスファルトの上で。
少女は右手を大きく振るいながら、視線の先に現れた人影に向けて、透き通った声を投げつけた。
彼女の視線の先に、小ぶりなスクーターに跨り、コバルトブルーの制服を身に纏った、警察官と思わしき男の姿がある。
少女同様、街路樹の葉から零れた陽光に体を彩られた男性。荻原恵介―――それが、その人物の名だ。
荻原は、一瞬の間。遠くに写る、少女の姿を見て、思考をめぐらせた後に、スクーターのアクセルを踏み、少女の下へとタイヤを進める。
双方の距離が近づくにつれて、荻原の行く手に立つその人物の様相が、明確なものとして、荻原の脳にしみこんで行く。
整った顔立ちに、いささか大げさすぎるロングヘアーを背中に垂らした、少女と女性の中間ほどの年齢の容貌。
彼女の容姿は、荻原の心に、とても大きな安心感をもたらした。
『彼女は、安全だ。自分に厄を齎し得る様な存在ではない』と。
「遅れて申し訳ありません。西宮署から参りました」
「うん、ごめんねえ。忙しいっていうのに、こんな遠くまで呼んじゃってさ」
少女は、快活であることを、光景として描き出したかのような微笑を浮かべ、荻原の顔をちらりと見た後、あごに指を当てた。
「さっそくなんだけどさ、これ、見て欲しいんだよね」
少女が指差すのは、陰と陽によって描かれた斑のアスファルトのはずれ。茂みに近い位置に打ち捨てられた、小さなビニール袋だった。
一見すると、それは、どこかの誰かが、生活ゴミを乱雑に詰め込み、その場に捨て置いただけの、何ということはないゴミ袋に見える。
しかし、よく見ると。そのビニール袋が、なにやらうごめいているのが見て取れた。
同時に。何か、小さな動物が喉を鳴らすような、甲高い声が聞こえる。
「ね? どうもさ、これ。誰かが捨てた、動物の子どもみたいなんだよねぇ。まったく、悪い人もいるもんだよねぇ?」
少女は眉を顰めながら、ビニール袋の傍らにしゃがみこみ、うごめくビニールの口を、ひょいと持ち上げてみせる。
見ると、確かに。袋の中に、数匹の子猫らしき生き物が、小さな体を重ねあいながら、ニイニイと声を上げているのが見えた。
「これは酷いですね……わかりました、しばらく、署のほうで預からせていただきます。
数日ほどは、貰い手を探させていただきますが、その後は、保健所のほうへ委託することになると思いますが……」
「やっぱり、そうなっちゃうかな? あたしの家で飼ってもいいんだけどねえ。
ただ、やっぱり家族と相談したいからさ。数日間預かってもらえれば、それでいいんだけど」
少女の言葉に、荻原は、心の中で、安堵の息をつく。
そして、同時に。少女が、荻原を、ホンモノの、まがいなき警察官であると信じているらしきことに、大きな満足感を覚えた。
「では……そうですね、署のほうに直接ですと、少々面倒ですので、僕の連絡先をお教えします。
そちらで引き取っていただけるお話が成立いたしましたら、僕に連絡をしていただければ、日取りを決めて、引渡しをして差し上げたいと思うのですが」
「うん、それでいいよ! よかったよ、保健所に直接頼んでくれ。なんていわれたら、どうしようかと思ってたんだ」
少女は屈託のない笑顔を浮かべ―――口の端に覗く小さな八重歯が、荻原の心を一瞬だけときめかせる―――荻原の申し出を承った。
「では、ひとまず、この子猫たちは、預からせていただきますね」
「うん。お願いするよ! ありがとうね、わざわざ。忙しいのに」
「いえ、これが仕事ですから」
自らの口から出たその言葉に―――荻原は、心の底から湧き出るような、充足感に見舞われる。
ああ。今、自分はこの少女にとって。間違いのない、『警察官』なのだ。
荻原が、スクーターの前籠を整理し、子猫たちを乗せるスペースを作る――
「あ……れ?」
自らのスクーターのもとへと辿りついた荻原は、その車体に、何か、違和感を感じる。
そこに有るべきものから、何か一つが欠けている―――何だ? エンジンはかけたままだ。車体に損傷もない。
「……ねえ、おまわりさんさぁ。ちょっーっと、聴きたいことがあるんだけどなぁ」
不意に、背後から、少女の声が聞こえる。
振り返ると、そこには――アスファルトの上にしゃがみこみ。長い頭髪を地面近くにたらしながら、なにやら、黒い鞄の中身をあさっている少女の姿があった。
……そこで、ようやく。荻原は、自分のスクーターを前に感じた違和感の気づく。
荻原のスクーターの前籠に納められていたはずの、私物を詰め込んだデイバッグが、消失しているのだ。
そして、そのデイバッグは、今……少女の元にある。
いつの間に。少女はそのバッグを、荻原のスクーターから奪い取ったのだ?
いや、それよりも―――そのバッグの中には!
「あたしさ、さっき110番したんだけどねぇ。なんか、中心街のほうでデパートから小火が出たとか、光陽園の駅のほうで殺人があったとかで
こっちに来るには、三十分ぐらい掛かっちゃうっていわれちゃったんだよねぇ。
それが、ほんの十分前。あれれ、おかしくないかな? おまわりさんは、西宮署から来たんだよねぇ?」
メンソール・タバコをひといきに吸い込んだかのような、冷え切った感覚が、荻原の背筋から、一気に滲み出す。
「ねえ、最近の白バイって、そんなチョイノリみたいな、フランクなモデルなの? あたし、警察の事情には詳しくないけどさぁ。
でも、よくこういうときってさ。まず、警察手帳を見せてくれてさ。名前とか教えてくれるはずだよね……ね、おまわりさん。
あとさ―――このメモ帳。なーんか、面白いこと書いてあるねぇ? ……ねえ、おまわりさん?」
少女の言葉を背に受けながら―――荻原の視線は。
突如、目の前に現れた、赤い体毛に包まれた、小動物のような生き物に釘付けとなっていた。
赤い衣服を纏った、空中を浮遊する、小型の像……『スタンド』!
まさか。たまたま出逢っただけの、この少女が―――あの『男』の言っていた、『スタンド使い』だというのか!?
「『ファンク・ザ・ピーナッツ一号』!!」
しかし。気がついたときには、男は荻原の目の前から消え去っており……『矢』によって貫かれたはずの傷も、跡形も無く消え去っていた。
後に残っていたのは……男に渡された『メモ』。幾人かの人物の情報と――その時点では、荻原には理解できなかった。それらの人物の『スタンド』の情報。
しかし―――夜明け前に、自宅に帰り、愛用の改造エアガンを手に取ったとき。彼は、その『スタンド』という概念を理解した。
『超能力』。荻原は、『スタンド』の概要をそう認識した。もはや、荻原はただの人間ではない。人の持ちざる能力を手に入れた、『超人』なのだと―――
「……『ファンク・ザ・ピーナッツ』の、鶴屋。……フン、そういうことかよ」
粘ついた笑みが、荻原の口からこぼれる。
脳裏によぎるのは―――昨夜。矢を振りかざした『男』が、荻原を貫く寸前に発した、あの言葉。
『君はいずれ、このメモのうちの誰かと出会うだろう。そのとき……君は、その人物を倒さなければ為らない』
「……おまわりさん? いや、『ニセモノさん』って呼んだほうがい―――かなぁ?
答える気が無いなら。鶴屋さんとファン・ピーちゃんが、全力で……
君を『ブチのめし』ちゃうよっ!?』」
背後で聞こえる、覇気を孕んだ『少女』……『鶴屋』の声が。
荻原の中でくすぶっていた欲望を解き放った。
『撃ちたい』
『この能力を、試してみたい』
「やれるもんならァ――――やってみろ、このマヌケがァ!!!」
絶叫と同時に。
荻原は、腰に巻きつけたホルスター――通販で購入したものだ――から、『得物』を抜いた。
リボルバータイプのエア・ガン。
荻原の手によって改造された、本来のエア・ガンの威力を遥かに上回る破壊力を誇る、荻原の自慢の一品だ。
こいつが放つ弾丸なら、コンクリートの壁にだってめり込める。
そして、その銃口を―――荻原は、前方に。
まるで、アメリカン・ムービーで、ポリスマンが眼前のマフィアに向けて銃口を向けるかのように。まっすぐに突き出し―――
その引き金を、引いた。
「『ビッグ・シューター』!! 打ち抜けェ――――!!」
ズキュゥゥゥゥン!!!
銃口から放たれた模擬弾丸が、虚空に向かって放たれる―――
傍から見れば、それはあまりにも無駄で、無意味な射撃であっただろう。
しかし―――この銃には、宿っているのだ。
『荻原恵介』のスタンド――――『ビッグ・シューター』が。
「うぐっぅ!!?」
荻原の背後で、鶴屋という少女が、うめく声がする。
其れと同時に、荻原の首根っこを掴む、スタンドの握力が弱る……その瞬間を逃さず、荻原は体をのたうたせ、拘束から開放された。
振り返った荻原の目に映るのは……左肩を押さえ、痛みに顔をゆがめる、少女の姿。
このアングルからは見えないが……おそらく。いや、間違いなく。彼女の肩の後ろ、肩甲骨のあたりには、荻原の銃弾による銃創が刻み込まれていることだろう。
「惜しかったなァ、『鶴屋』くんよ……俺が君の能力を知っていたように! 君が俺の能力を知っていれば、こんなことにはならなかったろうになァ」
荻原は、叫ぶ。そして―――ちらりと、横目で。先ほど、荻原の放った銃弾が作り上げた、空間の『穴』を見た。
そして、その『穴』から……血を滲ませた鶴屋の肩を視認し、口の端をゆがめた。
荻原恵介の『ビッグ・シューター』。空間を撃ちぬき、別の空間へと弾丸を『ワープ』させるスタンド。
ほんの10時間ほど前に手に入れたその能力を、既に荻原は、完全に使いこなしてた―――!!
「『ファン・ピー二号ぉ―――』!!」
肩甲骨付近から血液を噴出しながら。鶴屋が叫ぶ。同時に、鶴屋の眼前に立っていた。桃色と緋色の混じりあった肉体を持つ『スタンド』が、荻原に殴りかかってくる。
しかし、遅い。その『スタンド』が、荻原にこぶしを浴びせるまでの間の短い期間で。荻原は再び、改造銃を構え、眼前に向けて弾丸を撃つことができる。
「『ビッグ・シューター』!!」
「『ファン・ピーちゃん』、はじくんだよぉー!!」
撃ち放たれた改造弾丸を振り払おうと、鶴屋のスタンドが両手を振るう。しかし、それもまた、遅い!
「亜空間を貫け、『ビッグ・シュータァ――――』!!」
弾丸は、『ファン・ピー』とやらの両手に叩き落される寸前に。空中に『穴』を空け、亜空間へと突き進んでゆく。
そして、その出口は―――『ファン・ピー』の真右。右の二の腕の寸前。その赤い衣服をえぐり、肉をうがつには、あまりにも容易い位置に、弾丸は『ワープ』する!
「うわああっ!?」
『姿』を持つスタンドは、ほぼ例外なく、本体とダメージを共有する。
あの『矢の男』から受け取ったメモに記されていた記述のとおり。
『ファン・ピー』の右の二の腕から、血液が噴出すと同時に。その背後の鶴屋の二の腕からも、血液が噴出す。
「どうだァ。テメェはこの俺にかなわねぇ、そろそろ、それがわかってきた頃じゃねぇかァ!?」
荻原は、心のそこからわきあがるような高揚感を覚えながら、叫んだ。
『ビッグ・シューター』の放つ弾道は、亜空間をつきぬけ、荻原の思うがままの位置へとワープする。
荻原にとって。目の前の少女の体に弾丸を撃ち込むことなど、カルボナーラの卵を割り砕くことほどに容易いことなのだ。
回避などできるわけも無い。弾丸がどの方向から彼女に迫るのかを知る術など、この少女にはないのだから。
たった昨晩までは、ただの警官マニアだった荻原恵介は。今、究極の銃使いなのだ。
たかが十数歳のガキごときに敗北する理由は無い! 例えそのガキが、スタンド使いであろうと、超能力者であろうと!!
「はは……こいつぁ確かにイタイなぁ……あたし、わりと色々な訓練は受けてるけど……
さすがに弾丸を体にぶちこまれるのは、初めてだなァ。これ、痛いもんだねェ……」
……にもかかわらず。女は、軽い口調を崩さず、まるで、この状況を、何かの余興と捉えているかのように、笑みを浮かべながら言い放った。
その態度が、荻原の自尊心にとげを刺す。
この女――――何故俺に屈服しない!?
体中に弾を受けながら、何故――――あたかも、自らが優位に立っているかのごとき態度を取れる!?
「……えらく余裕だな、鶴屋くんよ。もしかして、君は……
この、俺の背後に忍び寄っている! ネズミみてぇなスタンドに、俺が気づいてねぇとでも思っているのか!」
「っ!?」
荻原が『ビッグ・シューター』を得てから、もう一つ。彼の体に備わった、常識を逸脱した能力。
それが『気流』を読む力なのか、あるいは、『気配』。もしくは『存在』そのものを感知する能力なのかは、荻原自身にもわからない。
しかし。たしかに彼は、それを『感じる』ことができていた。
自らの視界外から近寄る『存在』を感知する、その能力によって。
彼の背後に迫り来る、『ファン・ピー一号』なるスタンドの接近を。
バス、バス。
銃口が上空を見上げ、二発、乾いた銃声が響き渡る。
夏の空に向けて放たれた弾丸は、銃口から十数センチメートル離れた『空間』を打ち破り……
ワープ舌先は、荻原の背後……『ファンク・ザ・ピーナッツ一号』の背をめがけ、突き進む!
「クゥァアー!!」
「ぐうっ!」
背後のスタンドが放ったうめき声と、眼前の少女が発した声がユニゾンを奏でる。
少女の背から血が噴出すと同時に、『ファンク・ザ・ピーナッツ一号』が、死に物狂いのカゲロウのごとく、ふらふらと、鶴屋の元へと還ってゆく。
これで、鶴屋と、そのスタンドたちに打ち込んだ弾丸の数は四発。
弾倉に残った弾丸は残り二発……目の前で痛みにあえいでいる、この女になら! この二発を打ち込める!
「ぶち抜けェ――――!!」
背中から流れる血液で髪を汚しながら、体を折る鶴屋に向けて。荻原は、残りの弾丸を放つ。
さて、どこを撃ち抜いてくれようか。確実に仕留めるなら、心臓か、頭部か―――いや、心臓部はまずい。直線では、はじかれる可能性がある。
後頭部だ。弾丸を後頭部へとワープさせ、この女の頭に、弾丸をめり込ませてやる!!
「標準は既に合っているぜ! 『ビッグ・シュータァ―――』!」
銃口を鶴屋に向けて! 荻原は弾丸を放つ――――!
その、瞬間。鶴屋のスタンドの一方、人型の『ファンク・ザ・ピーナッツ二号』が、突如、鶴屋と荻原との間から、垂直に―――自然公園の『柵』に向かって、駆け出した!
「『オジョウサマ』!! Come On!!!」
直後に、『ファンク・ザ・ピーナッツ二号』が叫び、柵を飛び越え、公園内へと進入してゆく。弾丸は今まさに、亜空間をつきぬけ、鶴屋の後頭部寸前に現れた所だ。
しかし、その弾丸は、彼女の頭部を穿つことは無かった。
なぜなら、先の鶴屋の絶叫と同時に。あの子ネズミのような『ファンク・ザ・ピーナッツ一号』が、鶴屋の体を『蹴り付けた』からだ!
ドヒュゥゥゥン。
鶴屋と『一号』が、突風に煽られるかのごとく宙を舞い、『ファンク・ザ・ピーナッツ二号』が駆けていった方向へと吹き飛んでゆく。
標的を失った弾丸が、アスファルトに抉りこむ……
「『ファン・ピー一号』が攻撃したものは、『ファン・ピー二号』の元へと引き寄せられる……
そいつを利用して、逃げようってのかい。しかし……そうは行かねェ」
荻原は、拳銃の弾倉を開放しつつ、鶴屋と、そのスタンドが逃げていった軌道を追う。
鶴屋の逃走速度は、常人が両足によって行う其れと比較すれば、遥かに速い。
しかし、こちらには『銃』がある―――
「弾よ、『戻って来い』!!」
柵を乗り越え、木の根を警戒しつつ、大地を蹴りながら、荻原は叫ぶ。
其れと同時に。周囲の空間に撒き散らされた、荻原の放った弾丸たちが、一瞬、ギラリと光る。
アスファルトにめり込んだ二発。『ファン・ピー一号』の体に打ち込んだ二発。そして、鶴屋と、『ファン・ピー二号』の肩にそれぞれ打ち込んだ一発づつの、計六発。
「うぐっ!」
肩の傷口から何かが飛び出る衝撃に、鶴屋が呻く。一瞬、鶴屋は、再び銃撃を受けたのかと考える。
しかし、違う。その逆だ。鶴屋の体に食い込んでいた弾丸が、男の下へと引き戻されていったのだ。
「装填……『完了』」
弾倉へと舞い戻った六発の弾丸を確認すると、荻原は警帽を目深に被り直し、行く手を舞う鶴屋に向けて、拳銃を向けた。
「『ライフル』ほどじゃねぇが……俺の『ビッグ・シューター』は、こんなことも出来るんだぜ!!」
銃声。撃ち放たれた弾丸が、鶴屋の体へと突き進む。しかし、その距離はあまりにも長く、弾丸は鶴屋の体までは届かない。
しかし―――荻原恵介の『ビッグ・シューター』は!
空間を突き破ることで、その『距離』を大幅にショートカットすることが出来る!!
ドギュゥゥゥゥン!!
「うぐっ!?」
銃口の寸前の空間を突き破った弾丸が、鶴屋の右の太ももに食らいつく。
しかし、鶴屋の逃走は留まらない。今、鶴屋の体を動かしているのは、彼女の意思でなく、スタンド……『ファンク・ザ・ピーナッツ』の能力だ。
鶴屋を止めるには、鶴屋の先を駆けるあの『スタンド』を攻撃しなくてはいけない。
いや、或いは―――スタンド能力を保てなくなるほどに、鶴屋を攻撃する!
荻原は再び、引き金を引く! 三度続けて、亜空間の向こうを舞う鶴屋の体に向けて!
「ブチ貫けェ―――!!!」
「『ファン・ピィ―――――』!!!」
しかし。打ち放たれた三つの弾丸は、再び、鶴屋の体を貫くことなく、虚空を突き進むこととなった。
鶴屋の先を走る『ファンク・ザ・ピーナッツ』が、周囲の樹木を蹴り、進路を変えたのだ。
それに従い、鶴屋が宙を舞う軌道が変わり、荻原の弾道から逸れてゆく。
鶴屋の向かった先は……森林部を抜けた、草原部分だ。いくつかの遊具があり、水道や藤棚やベンチが在る。
幸いなことに、園内に、一般人の姿はまばらだった。丁度、昼食時の時刻であったためだろうか。
森林を抜けた『ファンク・ザ・ピーナッツ』は、砂場を踏み越え、雑草を踏みすりつぶしながら駆けてゆく。
周囲に障害物は無い。そして、軌道の変更によって生じた僅かなタイムロスによって、荻原と鶴屋との距離は狭まっている。
この距離ならば、撃てる!
「『ビッグ・シュータ―――』!!」
放たれた弾丸は、荻原の眼前の空間を突き破り、鶴屋の斜め前へとワープする。
被弾。鎖骨の付近だ。肺にも動脈にも近い。ダメージは、かなり大きいはずだ。
「くあっ!!」
鶴屋のうめき声と同時に……『ファンク・ザ・ピーナッツ』の像が消滅する―――勝った!
「くぁっ、くふっ、うぐっ……」
地に落ちた鶴屋が、全身に走る痛みに顔をゆがめ、荒く息をつく。
大地を這いずり、水飲み場を背に、荻原を振り返る。
カーデガンの胸元が、赤く染まっている……その染みは、今もなお、少しづつ広がっていっているようだ。
「がんばったな、鶴屋君。『ビッグ・シューター』相手に、たかが一介のガキが、ここまで持ちこたえるとはな。
しかし、どうやら、俺の『スタンド』のほうが一枚上手だったようだな」
最後の一弾を内蔵した拳銃を手に、荻原は鶴屋を見下ろす。
鶴屋は、荻原の言葉に言葉を返すことなく、痛みに顔をゆがめつつ、じっとその様子を眺めている。
「もうスタンドも出せねぇか? ……ここで最後の『一発』を、お前に叩き込んじまってもいいが……
そいつは少しばかりつまらねえな。できれば六発立て続けに……お前の体に打ち込んで、なぶり殺してやりてぇ気分だ」
「……ニセモノおまわりさん? なんか、君、すっごく『スゴ味』があるねえ。
もしかして、もう2、3人、やっちゃったことがあったりするのかな?」
鶴屋は、この期に及んで口の端をゆがめながら、荻原に軽口を投げつける。
「……さァな」
結論から言えば。鶴屋の質問に対する答えは、『No』だ。
荻原恵介は、つい先日までは、ただ、警察官にあこがれるあまり、制服や備品を集め、エアガンの違法改造を行う程度の、ちょっとしたマニアでしかなかった。
しかし、今。彼は目の前の少女を殺害しようとしている。何の躊躇いも無く……可能ならば、果てしなく残虐な方法で。
これもまた、『スタンド』を得たが故なのだろうか。
荻原の精神は、これまでの人生で最もと言っていいほどに昂ぶっている。
「この一発は、オードブルだ。せいぜい、痛みに喘げよ、鶴屋ァ!」
絶叫とともに。荻原は、天空に向けて引き金を引く。亜空間を突き抜けた、最後の一発の弾丸は、鶴屋の右肩の上部へと現れ、その筋肉を穿つ!
「ぐぁぅううっ!!」
鶴屋が痛みに声を上げる。顔面を、苦痛の表情にゆがめながら―――
……いや、違う。
「つ……るや、さんがこのまま、蜂の巣になっちゃうって……本気で、思ってるかい?」
鶴屋は、笑っていた。肩口から、血液を噴出させながら……
次の瞬間。鶴屋は、背部に回していた左手を、前方に突き出した!
その手に握られているのは……
「『ホース』、だとっ!?」
「『ファン・ピー』! 最高速でぶっ放しちゃってェ―――!!」
鶴屋の声と同時に、あの人型のスタンドが現れ、蛇口を叩き折る。そして、噴出した水流に、ホースの口の一方を押し付けた!
馬鹿な! 鶴屋は既に、スタンドパワーを保てないほどにダメージを受けていたはずだというのに……!
そこで―――気づく。鶴屋の鎖骨と右肩。それぞれ、荻原が弾丸を撃ち込んだ傷。
本来なら、未だ留まることなく流れているはずの血液が……止まっている!?
「だんだん回復してきたよ。コォォォ……うん、『呼吸』も絶好調さっ!」
その言葉と同時に、鶴屋の手の中のホースから、勢いよく水が流れ出す。
鶴屋がホースの先を向けた先は……先ほど、荻原が、鶴屋の右肩に銃弾を打ち込むために開けた、荻原の頭上へと繋がる空間の『穴』!
「うおおおっ!?」
頭上から降り注ぐ、冷たい液体に、荻原は一瞬狼藉する。
しかし……これが何だというのだ? ただ、荻原の体に水を浴びせる……其れが一体、何になる?
ただの悪あがきか? ……荻原がそう考え浮かべた、その直後。
荻原の体に……電撃のような、『何か』が走った!
「なっ……なんだ、こりゃァ―――!!?」
電撃。もっとも近いのはそれだが、少し違う。
体中に染み渡る、まるで、全身の細胞を蝕むような衝撃。
何だ、この『水』は!? ただの水道水に、なぜこのような力がある!?
『ファンク・ザ・ピーナッツ』の能力なのか……いや、あの『メモ』には、そのような記述は無かった。
「畜生……『ビッグ・シューター』! 弾丸を戻せェ―――!!」
弾倉には、既に弾丸は残されていない。荻原は叫び、あたりに撃ち散らした六発の弾丸を呼び寄せた。
その瞬間―――鶴屋が、はっきりと。口の端をゆがめたのが見えた。
「この瞬間を……待ってたんだなァ―――!!」
鶴屋は、両手につかんだホースを投げ捨て……左手を、右肩にあてがった。
その部分は……荻原が、銃弾を打ち込んだ箇所だ!
「ぐっ―――まさか、テメェ!!」
「さあ―――彼の元に、連れてっておくれっ!!」
弾丸は、強力な力で引き寄せられ、荻原の銃の弾倉へと帰還する。
そして、右肩に撃ち込まれた弾丸は……傷口から飛び出すと同時に、鶴屋の右手に掴まれる!
それでも、弾丸は帰還をやめない。鶴屋の体を伴い、荻原の下へと還ってゆく!!
「うおおおっ!? 近寄るんじゃねェ―――!!」
その絶叫に意味は無い。鶴屋は瞬く間に、荻原の目の前へと到達し……弾丸を握り締めた右手は、確実に、荻原の銃の弾倉へと叩き込まれる!
その、瞬間――――!!
「KOHHHHHH!!」
鶴屋の口から、奇妙な音が漏れた。
それは呼吸音だ。しかし、一般的な其れとは異なる……どこか特徴的で、絶妙な呼吸音。
鶴屋がその呼吸を行うと同時に――!! 荻原の手の中の銃が――『砕け散った』!
「何ィィィィ!!?」
馬鹿な……いくら、弾丸が帰還する際の威力を伴っているとはいえ。
この少女のこぶしが触れた程度で、この頑丈な拳銃が破壊されるわけが―――
いや、それ以前に!
「君の『スタンド』……弾丸をいちいち戻してるところを観ると、『一体化型』だよねェ?
こいつが壊れちゃったら……さて、君はどーしたらいいんだろうね、ニセおまわりさん?」
―――まずい。『ビッグ・シューター』は、媒体となる飛び道具が無ければ、能力を発揮出来ない……
いや、しかし! 荻原の目の前にいるのは、たかが十数歳か、二十歳前後の、華奢な女だ!
そして、この距離なら……荻原の後ろポケットに仕組まれている『ナイフ』を使えば!
この女がスタンドを使う暇も与えずに『仕留める』ことなど、容易い――!!
「この……クソアマがァ―――!!!」
迷う時間などは必要なかった。荻原はポケットから折りたたみナイフを取り出し、手早くその刃をむき出しにした。
「!」
「死ねェ―――!!」
防御のつもりか、鶴屋はナイフを握った荻原の手に向けて、右手を突き出す。
躊躇うことなく、荻原はその右手にナイフを突き立てた―――!!
「……な……に……?」
……荻原は。一体、目の前で、何が起きているのか理解できなかった。
「ニセおまわりさん……どしたの? 刺さないの? あたしの手、ブスってさ。
オサカナさんを捌くみたいに、さくさくやっちゃえば? ……ああ、ごめんごめん。できないよねぇ。『これ』じゃ」
ナイフの切っ先は、確かに、少女の手のひらに接触している。
しかし……切っ先は、決して、その先へと進むことが出来ない。
其れどころか、ナイフを引き戻す事も出来ないのだ。
ナイフの切っ先が――――鶴屋の手のひらに、『くっついている』!! 腕を引こうと、押し込めようと、決して動けない!
「なんだこれはぁっ!!? ……って思ってるでしょ? 鶴屋さんのヒミツの特技。あたしにもよくわかんない力なんだけど……あっあ〜♪ ついに使っちゃったなぁ」
からからと、笑い声混じりの言葉を奏でながら、鶴屋はもう一方の腕を振りかざす。
そのこぶしに……『呼吸』によって作り上げた、鶴屋自身にも正体はわからぬ、『オーラ』を込めながら。
「やっ……やめろォォォォォ!!」
握り締められたこぶしが、荻原の顔面へと迫りくる―――火花のような、あるいは、水面に広がる―――『波紋』の如きオーラを纏いながら!!
「鶴にゃんパワー全開! 流れろっ、 『お仕置きパ―――――ンチ』!!!」
ぐしゃり。自らの鼻が砕け、鼻腔の奥に、つんと刺激が走る。
そして……その、刺激が! 体から、首。胸から両腕、胴体、足へと伝ってゆく! 電流のような、震動のような―――!!
「ダッバァァァァァァ―――――!!」
拳撃を受けた荻原の体が、後方に吹き飛び、草原の上へと放り出される。水面を打つ小石のごとく、バウンドをしながら。
警帽が吹き飛び、捨てられた映画のチケットのごとく、頼りなく、地表へと転がった。
「……ふぅぅーッ。疲れるんだよねぇ、これ」
右肩の傷に手を当てながら、鶴屋は、全身を蝕む痛みに顔をゆがめる。
太ももの傷と、背中の傷は、既に『ヒミツの特技』によって止血済みだが、痛みは十二分に残っている。
「おい、ちょっとそこのアンタよぉ……じゃなくて、えーと、君?」
不意に。鶴屋の背後から、聴きなれない、男性の低い声がかけられた。
振り返ると……そこには、先ほどまでの戦いで、嫌というほどに見慣れた、警察官の制服を纏った、やたらと体つきのたくましい男が立っていた。
身長は180強と言った所か。精悍な顔つきをしており、みるからに、通りすがりの一般人。という様相ではない。
一瞬。この男も、先ほどの男と同様に、『敵』なのかと考える―――しかし、その考えは、すぐに吹き飛んだ。
「あー、なんだ……えーと、仔犬のことで110番したのはあんたッスかね?」
そうだ。先の騒動ですっかり忘れてしまっていたが、鶴屋はもともと、ビニール袋に詰められて捨てられていた子犬を保護してもらうために、110番通報を行ったのだ。
「あ、えっと、うん、そうだよ。えーっと……」
鶴屋は戸惑う。この状況を、どう説明したものか。
草原の上に倒れこんだ、警官姿の男。銃創と血に塗れた自分の体。……どう考えても、まともな状況ではない。
こうなったら……鶴屋さん流、ヒミツの特技そのA。『トンズラ』をこくしかないかな? などと、鶴屋が考え出したとき。
「あの、ちょいと」
血液に塗れた鶴屋の体と、気絶した男を見比べた後。警察官の男は、僅かに眉を潜め……言った。
「もしかすると、スッ頓狂なこと聴いちまうかもしれねーんスけど……
あんた、もしかして……『スタンド』とか、そのへんがらみのことと関係してたりしねーか?」
本体名 − 荻原恵介
スタンド名 − ビッグ・シューター 再起不能
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ビッグ・シューター」
本体 − 荻原恵介(20歳)
破壊力 − B スピード − A 射程距離 − B
持続力 − E 精密動作性 − C 成長性 − B
能力 − 銃器と一体化したスタンド。射出した弾丸に、空間を打ち抜かせ、別の空間へとワープさせる。
ワープ先は、本体から半径100m程度。一度放った弾丸が、空間を打ち抜けるのは一度きり。
このスタンドによって発生した空間の穴は、銃数秒ほどその位置に存在し続ける。
弾丸の破壊力は、媒体となった銃器の破壊力に依存するが、一般的な拳銃の破壊力程度までなら、スタンドの能力で強化することが可能。
このスタンドと一体化した銃器によって放たれた弾丸は、媒体となった銃器が弾切れになった場合
再起可能状態に在るものに限り、本体の元へと帰還させられる。
―――――――――――――――――――――――――
投下乙というかここでサ○エさん髪が登場か!?
374 :
マロン名無しさん:2009/09/09(水) 23:59:31 ID:UaaN1aEJ
警官になったのかアトム……
375 :
マロン名無しさん:2009/09/10(木) 00:00:43 ID:Qixl8YK2
ていうか鶴屋さん波紋使ってるwwwwwwww
あれ?なんか磁力で戦う鋼鉄なお方のサポートメカみたいな名前が…
やばい、
>>358と
>>359の間が一個抜けてる。
少女の声とともに。荻原の額に、目の前の『スタンド』が、攻撃を食らわせる。
そのダメージは、果てしなく低い。額にBB弾のタマを打ち込まれた程度の衝撃を感じたのみだ。
しかし、その攻撃を受けた瞬間。荻原の体は、まるで、透明の人間に、首根っこをつかまれ、引きずられるかのように、後方へと吹き飛ばされた。
この能力を―――荻原は、知っている。
あの男から受け取った『メモ』に記されていた、『敵』たちの持つ『スタンド能力』のうちの一つ―――
「あははっ、逮捕しちゃったァーっ!」
突風に吹き飛ばされるがごとく、空中を舞っていた荻原の体が。ある一点に到達すると同時に停止する。
今度は、揶揄ではなく、実際に、荻原の襟首をつかんでいる『何か』が居る。
「ね、おまわりさん? 正直に答えてくれないと、『ファン・ピーちゃん』たちが、ちょっとばっかり手荒な真似をしちゃうかもしれないよ?
じゃ、質問なんだけど……おまわりさんはさ。『スタンド使い』だよね?」
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第19話『SHOOT YOU ME MIND!』
「この『メモ』さぁ……薄気味悪い気分になるねぇ。あたしたちのことが、こんなに事細かに書いてあるんだからさぁ。
何々……『鶴屋・スタンド名、ファンク・ザ・ピーナッツ。近距離パワー型、行動範囲役5m、自意識を持つ。背部から遠距離自動操作型のスタンドを射出』……
ふうん。『ファン・ピーちゃん一号』って、背中から出てたんだ。あたしも知らなかったよ、こんなの。
……こんなのってさあ。『スタンド』の全てを知ってる人にしか書けないメモだよねぇ?」
荻原の体を、『スタンド』で捕縛しながら。少女……『鶴屋』は、淡々と、『メモ』を読み上げる。
それはほんの昨晩。荻原が、警察官の制服を身に纏いながら夜の町を歩き、悦に入っていた折に、突如、見知らぬ『男』から渡されたメモだ。
今でもはっきりと思い出せる。昨夜、荻原の身に起きた、あの、今でも夢であったかのように思える、異常な出来事。
わけもわからず戸惑う荻原に……その『男』は、突然、鞄から『矢』を取り出し、その刃を、荻原の顔面へと突き立てたのだ。
378 :
マロン名無しさん:2009/09/12(土) 11:19:02 ID:sECYGc4/
同じくセッ子が待ち遠しい今日この頃
あげ
固まってきたよー!
の報告だけ
「美夕紀?」
土曜の正午過ぎ。同行していた二人が、異常事態を察知し、対処に向かったが故に、一人時を持て余していた榎本美夕紀。
光陽園駅前のベンチにて、呆然と虚空を見つめていた彼女に、不意に、背後から声がかけられた。
とても聴きなれた、けれど、どこか懐かしい声。まるで、しばらく逢っていない、友人の声のような―――
「美夕紀だよね?」
再び掛けられた声と同時に、榎本は、声のする方へと振り返った。
肩ほどまでの茶髪と、すこしの驚きの成分を含んだ笑顔。榎本は、その人物に、確かに見覚えがあった。
つい半年ほど前まで、同じ軽音楽部にて、音楽活動に勤しんでいた、最高の友人であり、最高の先輩であった人物。
「貴子?」
かつて、榎本とともに、ENOZのメンバーの一角を担っていた、榎本の一学年上の友人。
エレキギター用のソフトケースと、トートバッグとを、両肩に携えた中西貴子が。榎本美夕紀の背後に立っていた。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第20話『小野大輔は幸せを願う@』
「やっぱり美夕紀だあ! ひっさしぶり、卒業式以来だよねぇ?」
中西は、榎本の顔を真正面から確認すると、糸を解いたように顔を綻ばせ、三度、彼女の名前を呼んだ。
「びっくりした、久しぶりだね、ホントに」
中西との遭遇に、榎本は、心からの驚きを感じた。
彼女は西宮北高校を卒業後、光陽園とは真反対の方角に在る大学へと進学してしまったが為、これまでの数ヶ月ほど、顔をあわせる機会がなかったのだ。
新たな大学生活に追われる中西と、高校三年生という重要な時期を迎えた榎本と、双方に、行楽に励む余裕がなかったこともあるのだが。
「元気にしてた? どうしたの? こっちに来るなんて、珍しいじゃん」
「うん。大学生活は好調ってとこかな。今日は、ちょっと……まあ、自主練にね。やっぱり、新しいとこより、ココのスタジオのほうがなじむっていうか」
左肩に背負ったギターケースを、くいと持ち上げながら、中西は言う。
メールでのやり取りで、彼女が大学でも、軽音楽のサークルに入っていたということは聴いていた。
「美夕紀は? そろそろ学祭の準備とかで、忙しいんじゃないの? うまくいってる?」
「えと……うん、まあ」
一瞬口ごもり、榎本は答える。
実のところ、ここ数週間ほどは、音あわせには参加する程度で、まともに軽音楽部のほうに顔を出していないのだが。
学祭のライブまでに曲が合わせられなくなるほどに怠けているわけではないが、SOS団と軽音部とを天秤にかけると、どうしてもSOS団を優先してしまう。
名目上は、スタンド使いである自分が、ハルヒの傍にできるだけ長くいたほうが、安全だという理由で。
その実は、単純に、愛しのハルヒと遊んでいたい。というのが大部分を占めるのだが……
「……ねえ、美夕紀さ。よかったら、お茶でもしながら話さない? 久しぶりだしさ、みんなのことも聞きたいし」
そう微笑みながら、中西が、ロータリーの一角を指差す。
示す先は、つい数時間前も訪れた、SOS団の本拠地になりつつある、あの喫茶店だ。
榎本は考える。時刻は十二時を回っており、予定ならば、既にSOS団は、あの店に招集をかけられているはずなのだが……
榎本を残して走り去った古泉と長門曰く、なにやら、涼宮ハルヒの周囲で異変が起きているらしい。先ほどから幾度か、二人に連絡を取ろうとしているが、反応はない。
だからこそ、もし誰かが、あの喫茶店に戻ってくることがあれば、すぐにわかるようにと、このベンチに腰をかけていたのだ。
「そうだね。久々に、あそこのケーキたべよっか」
すこし考えた後、榎本は、中西の申し出を受け入れた。
異常事態発生中。とはいえ、榎本は、それに対処することを誰かに命じられたわけではない。
ならば、この貴重な偶然を謳歌することで時間を潰したとして、文句を言われることもないだろう。
もしものことがあらば、誰かが連絡をしてくるはずだ。その時はその時で動けばいい。
冷房の利いた空間に再び舞い戻った榎本は、中西と共に、店の一番奥の、禁煙席に着いた。
休日の昼食時にしては、店内に客は少なく、禁煙席にて雑談しているカップルが二組と、喫煙席で、ぼんやりとコーヒーを啜っている若い男がいる位だった。
「ねえ、学祭でやる曲決まった? こないだ舞とメールしたら、すごい悩んでるって言ってたけど」
席に着き、程なくして運ばれた、アイスティーと、おのおのの好みのケーキをフォークで突きながら、何気のない会話を交わす。
「うん、やっぱりノーズやることにした。去年のままじゃくやしいし、もう一曲は、瑞樹の曲やろっかなって」
「ノーズかあ、いいなあ、私もやりたかった。美夕紀たちが、うちの大学に来てくれたら、大学の学祭で演れるのになあ」
イチゴのタルトのクッキー生地を砕きながら、中西が笑う。
その誘いは、卒業して以来、彼女がたびたび、榎本を主とする、ENOZのメンバーの前で口にしている。
「でもケッコー大変だよぉ、あたしがソロもしなきゃいけないし」
「……美夕紀、すっごくギターうまくなったんだってね。舞から聴いたんだけど」
ふと。ケーキを食べる手を止め、中西が呟く。
それと同時に、榎本が、抹茶シフォンの生地を切り崩す手も止まる。
彼女の言う通り。この数ヶ月で、榎本のギターの腕は、それまでとは比べ物にならないほどに上達している。
それは、単純に鍛錬を積んだが故に、というものではない。ある事象をきっかけに、まるで突然、スイッチが入ったかのように、呼吸をするのと同じように、ギターを操ることができるようになったのだ。
その事象とは、すなわち。榎本自身の記憶にない、『小野』との遭遇……そして、『スタンド』の発生。
「うん……がんばったからさ。今年こそは、絶対、悔いがないように決めなきゃいけないじゃん?」
「舞ったら、びっくりしてたわよ。美夕紀がいきなり、ノーミスでソロ弾いたって」
それはそうだろう。榎本は、矢に刺されてから、初めて音楽室を訪れた日のことを思い出す。
いつもどおりにギターを手に取り、ピックで弦に触れた瞬間。まるで決められた運命を忠実に辿るかのように、榎本の両手は、複雑なメロディを、容易く奏で出したのだ。
「……あのね、美夕紀。本気で、あたしの大学に来ない?」
崩されたタルトを、しばらく見つめた後。中西は意を決したように口を開いた。
そして、立て続けに。
「ねえ、美夕紀……『SOS団』に入ったって、ホントなの?」
中西の言葉と同時に、榎本の左胸が、鐘を打つように大きく鳴った。
「……あのね、美夕紀。涼宮さんには、もちろん感謝してるけど……でも、お願い。
もう、あの人たちにかかわるの、やめてくれない?」
「え……?」
思わぬ言葉を紡いだ中西の顔に、空中に向けられていた榎本の視線が向けられる。
「だって、その……いくらギターが上手になったっていっても、今の時期に遊びすぎてたら、学祭も心配じゃない。
それに……進学のことだって。私、できれば、本当に、美夕紀たちに、うちの学校に来て欲しいの」
「ちょ、ちょっとまってよ貴子、何言ってるの……あたしだって、わかってるよ。ちゃんとシメるところはシメてるし……」
「違うの!」
中西の、これまでより一回りほど大きな声が、榎本の言葉を遮る。
それと同時に―――榎本の背筋に。何か、冷たいものが走ったような気がしたのは、気のせいなのだろうか。
「……お願い、もう、『涼宮さん』とかかわらないで。そうでないと……あなたによくないの、美夕紀。
美夕紀は……幸せになれるはずなの、だから、『そこ』にいたらだめなのよ」
「……貴子?」
気のせいじゃない。榎本は、中西の様子が、明らかに、これまで彼女が接してきた中西の其れとは異なっていることに気づいた。
今、榎本の目の前にいる、中西貴子は……榎本の思うような中西貴子ではない。
彼女はこう言った。『涼宮ハルヒ』にこれ以上かかわるなと。
彼女は……何かを『知っている』。
「……貴子、もしかして……ねえ」
「美夕紀」
再び、中西の声が、榎本の言葉を遮る。
先ほどよりもずっと冷たく、低い声。
「あなたがそこにいたら、あなたは幸せになれないのよ……
せっかく、そんなに素敵な『能力』を手に入れたのに」
能力!
今、中西は、その言葉を口にした―――やはり、彼女は!
「貴子……あんた、やっぱり!」
「動かないで!!」
ハイポジションでのカッティングの如き、中西の張り詰めた声が、店内にこだまする。
まばらな客たちが、何事かとこちらを見る。
彼らの目には、ただ、二人の少女が、机を挟んで向かい合い、にらみ合っているようにしか見えないだろう。
しかし―――そこには。彼らには見えない、異形なる像が存在している。榎本と中西には、お互いの其れが『見えて』いる!!
「……お願い、美夕紀。あなただけは……あなたに、あの人の『敵』でいて欲しくないの」
全身を、白い糸で雁字搦めにされたかのような、上半身のみの『スタンド』を、頭上に浮かべながら。中西は言う。
中西の『スタンド』の腕は、榎本の手の中……ショッキングピンクのギターの姿をしたスタンド、『ネオ・メロ・ドラマティック』のネックを握っている。
忘れ去られたアイスティーのグラスの中で、氷が音を立てる。
「……お願い、聴いて、美夕紀」
『スタンド』の力を緩めないまま。中西は、ゆっくりと、言葉をつむぎはじめる。
「あなたは……あの人に、その『スタンド』を引き出してもらったのよね。
そのスタンドは、貴方を『幸せ』にしたはず……そうでしょ?
ギターの演奏力……それはきっと、この『スタンド』の力で宿ったものなんでしょ?」
中西の言葉が、ゆっくりと、榎本の頭の中へとしみこんでゆく。
その言葉に、間違いはない。榎本が突如として手に入れた、おそらく、他のどんなギタリストにも劣らぬであろう、巧妙なギター・テクニック。
原因として考えられるのは……榎本が『スタンド』を手にした事以外に考えられない。
榎本のスタンドを引き出したのは……明確に、榎本の記憶にはないが。『小野』。ハルヒの命を狙っている、『SOS団』の『敵』だ。
はじめは、榎本も、『SOS団』の敵として、『ネオ・メロ・ドラマティック』を手に、彼らの前に立った。しかし、今は違う。
『矢』の力から逃れた榎本は、今、その身に宿ったスタンドを武器に、『SOS団』の一員として、『小野大輔』と敵対している。
「考えてよ、美夕紀。あの人とあなたが戦う理由なんて、ないのよ。
あなたは、その、夢みたいな『スタンド』を授かった……なのに、どうしてあなたが『あの人』の敵にならなきゃいけないの?」
「そんなの……ハルちゃんを殺すなんて許せないって、それだけで十分だよ!」
「……あの娘が、好きなの? 美夕紀は……
あの娘をあなたが守ろうとしたら、あなたは……殺されちゃうかもしれないのよ?」
ゾクリ。と、榎本の背筋に、冷たいものが走る。
……『小野』は、ハルヒを殺そうとしている。そして、そのためならば、それを憚るもの全てをも抹殺するつもりでいるらしい。
これまで、榎本が、直接小野の刺客と敵対したことはなかった。小野自身と出会ったこともない。しかし、今後もしも、そのような機会があったなら……
「……あの人は、美夕紀のことを、まだ、『敵』だとは思ってないわ。
でも、決して、『仲間』になれとも言わない。私もそういわれてる。私は、ただ、あなたを説得するために、ここに来たのよ」
中西と、その頭上のスタンドの口とが、同時に動き、同時に同じ台詞を発する。とても奇妙な光景。
「……だけどっ……ハルちゃんが殺されるのを、黙ってみてろっていうの……ッ!?」
「そんなもの、見なくていいのよ」
中西と、そのスタンドは、言う。
「美夕紀、もう、やめよう? このまま、もう二度と、『SOS団』なんかとかかわらなければ、それだけでいいのよ……
学祭のために練習して……今の美夕紀なら、絶対失敗なんかしないわよ。
それで、私の学校に来て……舞や、瑞樹と一緒に。それで、またENOZを組もうよ……
お願い……そうじゃなかったら、あなたは……あの人に……」
一言一言をつむぐたびに。中西の声が、震えてゆくのがわかった。
……彼女は、涙を流しているのだ。
そこでようやく、榎本は気づく。中西は、決して、小野に心を染められたわけではない。
中西は―――心の底から。『小野大輔』を恐れているのだ。
そして、その脅威から、榎本を救おうとしている……
「……貴子、だめだよ……そんなの、絶対だめだよ」
凍りついたような喉の奥から、榎本は、声を絞り出す。
「あたしたちが、きっと……『小野』を倒すから! ハルちゃんたちだって無事で、そしたら、あたしたち、貴子の学校に行くから、そしたらまた―――」
「無理よォォォ!!」
榎本の言葉が、中西の声に遮られるのは、これが三度目だ。
中西は、其れまでの口調とは全く異なる……恐怖を吐き出すかのような、低く、ざらついた声を上げた。
「あんな……あんなのに、勝てるわけがない……今でも忘れられない、あんなふうに、人を、ゴミクズみたいに……ッ!!
私も……私は、見ただけ、それでも……私は、『突かれた』……昨日の夜……それで、こんなっ……『スタンド』……
私は、美夕紀を『救える』のは、私だけだって……そう言った……あの人……『小野大輔』はっ……!!」
中西の様子が、それまでとは明らかに異なる、我を失った子羊のような其れへと変わってゆく。
同時に、彼女のスタンドが、榎本のスタンドをつかむ手を開放する。
そして、その直後!
「あなたを、『救えなか』ったら……私は、私はぁ!!!
おねがい、美夕紀、私と一緒に来てェ―――!!」
絶叫! 店内中に響き渡る強声と共に、中西のスタンドが、榎本に向けて、腕を振り下ろす!
かわさなければ―――榎本はそう考える。しかし、シートに腰を預けきった状態では、回避しきることは出来ない!
「『ロビンソン』!!」
中西が叫ぶと同時に。『スタンド』の手……その指先から伸びた『爪』が、榎本の左腕を裂いた!
「うううっ!!」
腕に痛烈な刺激を感じながら、榎本は『ネオ・メロ・ドラマティック』を振り上げ、そのボディを、中西のスタンドに向けてたたきつける!
しかし。中西のスタンドは、もう一方の腕で、その打撃を受け止める!
戦うしかない―――。榎本は、心中でそう呟いた。今の中西を、口頭で治めることは不可能だ。
だが、『ネオ・メロ・ドラマティック』の能力で、榎本の性別を換えようとしたところで、そんな攻撃には何の意味もない。
となれば、なんとかして。物理的に、彼女を再起不能にするしかない。できるならば、可能な限り痛みを伴わせない方法で……
「やああっ!!」
スタンドを逆手に握った左手に力を込めながら、右手でヘッド部分から『ピック』を取り出す。
彼女の言動から察する限り、中西がスタンドを得たのは昨晩のことだ。となれば、スタンドを支配し切れていない可能性は高い。
『ピック』で翻弄し、隙を見て、ドラマティックで殴りつければ、うまく気絶させることくらいならできるだろうか―――
取り出した『ピック』を指の間に挟み、それを眼前の中西に向けて投げつける―――投げつけようとした、直前に。
榎森の右腕の感覚が……突如、何かにつかみ上げられたかのように、ぐらりと揺らいだ。
そして、それと同時に。いましがた受けた右腕の傷に、痛みとは異なる、何か、奇妙な感覚を覚える。
自分の体に、何かが起きている―――これは、一体、何だ? 榎森は、左腕の傷を受けた部分に視線を移し―――絶句した。
傷口が。いや、傷を受けた周囲の腕全体が……『燃えて』いる!!
「何、これっ……『炎』ッ!? だけど―――『熱くない』!?」
榎本は、驚愕した。彼女の傷口を燃やしているのは、紛いなく『炎』……だというのに、熱を感じない。
それに、炎に包まれた腕が、焦がされてゆくこともない……長袖のカーディガンの生地にも、血こそは滲んでいるものの、炎に焦がされている様子はない。
熱ではない。痛みでもない。その『炎』が、榎本の体に齎している、この感覚の正体―――
「『冷たい』っ……!? なに、これ……腕がっ、動かない……『感覚』がないよぉっ―――!!?」
「……お願い……、私の言うことを聞いて……どうしても、あなたがSOS団から手を引いてくれないなら……
私が、美夕紀を、無理やりにでも連れていくしかないわ……そのための力! この、私のスタンド……『ロビンソン』で!!」
中西が叫び、そのスタンド……『ロビンソン』が、感覚を失った榎本の左手から、『ドラマティック』を奪い取る。
まずい。このままドラマティックを破壊されたりしたら……榎本はおそらく、再起不能となるほどのダメージを受けてしまう!
「戻ってきて、『ドラマティック』!」
榎本の声に反応し、桃色ののボディが光り、中西の手の中から解放され、榎本の体の中へと帰ってゆく。
そうする間にも、榎本の左腕からは、どんどん『感覚』がなくなってゆく……それだけではない。『炎』はすこしづつ、榎本の腕を上ってきている。
そして、榎本の体中に広がってゆく、脳を、神経を揺るがされるような感覚……これは、一体何だ? 息苦しくて、意識が遠のく……
「ごめんね、美夕紀……あなたを、救うには、これしか―――」
遠のき始めた榎本の聴覚に、中西の言葉が届く―――その、言葉が。突然、椅子を蹴り飛ばすような音によって阻まれる。
「なっ―――!!?」
中西が声を上げ、直後に、少し離れた場所で、何かがたたきつけられるような音と、テーブルが倒れ、グラスが割れるような、けたたましい音が響き渡る。
店員が悲鳴を上げたのを皮切りに、店内に喧騒が広がり始める―――一体、何が起きたのだろうか。
ふと。榎本は、自らの腕を『燃やして』いた、あの炎が消え去っていることに気づく。
そして、同時に……榎本の意識に突き刺さる、低く、獣が唸るような覇気をはらんだ、男の声。
「『能力射程』は数メートルってとこみてェ――だな」
「ひっ」
その声の持ち主がいったい誰なのか―――思い当たるまでに、時間はかからなかった。
以前、プールにたたき落とされた件もあり、ある種、榎本のトラウマとなっている、人物―――
ぐらつく意識に鞭を打ち、眼前―――先ほどまで、中西が居たはずの場所をみる。
そこに立つ―――派手な半袖のシャツを身にまとい、前髪を下ろした、背の高い男。
先ほどから、喫煙席で、一人、ぼんやりとコーヒーを啜っていた男。そして―――
「会長……!!」
喜緑江美里の一件から、めっきりと顔を合わせる機会が減少した、その人物。
表向きの『SOS団』を蔭から守護する、『スタンド使いの団』の一員であり……榎本の知る限り、その中でも、屈指の戦闘員である。
その男は―――西宮北高校の『生徒会長』である!!
「く……仲間が、張ってたっていうわけ……?」
先ほどの轟音は、おそらく、会長が中西に不意打ちをかけ、遠方へと投げ飛ばし、榎本から遠ざけたのだろう。
反対側の壁際まで飛ばされた中西が、テーブルに打ち付けたらしき顔面を抑えながら、会長と榎本を睨む。
「『張ってた』だァ? うぬぼれてんじゃねぇぞ、タコが。俺はたまたまここにいただけだぜ……
そこにお前らマヌケが、ノコノコとやってきて、おれの眼の前でナメた真似を始めやがった。だから『ブッ飛ばし』た……それだけだぜ」
眉間を寄せながら、そう言い放った会長は、突然の抗争にどよめく周囲の人々を一瞥し……
「何だ? お前らも『ブッ飛び』てーってのか? それとも、『ブッ飛ばし』てーかい?」
と、一際響く低音を、店中に響き渡らせた。
その一言で、まるでスイッチを切られたかのように、人々の声がやむ……
これが俗に言う、『スゴ味』だろうか。榎本は思う。いや、ただ『おっかない』だけか……
「……そうよ……こいつみたいな人がいるから」
暫く押し黙っていた中西が。体を震わせながら、ゆっくりと、呟くように言葉を紡ぎ始める。
体を小刻みに震わせながら……そして、スタンドの両手を、大きく振り上げながら。
「こいつみたいな奴らと一緒にいたら、あなたまで……美夕紀まで、あの人に殺されるッ……!
そんなの、絶対にさせない……許さない!!
美夕紀は……私が『守る』のよ!!」
囁きはやがて、咆哮へと変わり、中西は立ち上がる。
研ぎ澄まされた刃のような視線は、まっすぐに、腕を組んだ体制で立ち尽くす、会長へと向けられている。
「……だ、そうだぜ、『榎本美夕紀』君」
不意に、中西を見下ろしていた会長の視線が、榎本に向けられる。
「……君のセンパイは、相当君が大事らしいな。
で、どうなんだ、榎本。君はあの女の言うとおりにしたいか?」
中西の言うとおりに。榎本は、先ほど中西に告げられた言葉を、再び、頭の中で繰り返す。
ハルヒを守る役目から逃れ、もう一度、ただの女子高生に戻る……『スタンド』によって得た演奏力を活かして、仲間たちとともに、軽音楽に励む……
だけど―――それでは。ハルヒを『守る』ことはできない。
「お前が抜けたって、SOS団は涼宮を『守る』ぜ」
「無理よ、絶対に……あの人には、勝てないわ」
中西が言う。……彼女はいったい、どんな恐ろしい有様を見たのだろうか。
小野大輔……その男は今、最強のスタンド、『ザ・ワールド』を所持しているという。
彼が『ザ・ワールド』の圧倒的な力を行使する姿を、中西は、どこかで見たのだ―――おそらく、昨夜のうちに。
そうでなければ、説明がつかない。小野が『ザ・ワールド』を再生したのは、昨晩の浅い夜、キョンたちと対峙したという際が初めてであるはずだ。
小野と対峙した面々が言うには、小野は今、大きなダメージを受けており、すぐに動くことは出来ない筈だという。
しかし―――彼女は。中西は、小野に出会ったというのだ。昨日の夜に。そして、『矢』でスタンドを得た……
おそらくその際に、小野は中西に、自分の目的と、榎本のことを話したのだろう。そして、榎本を救えるのは、中西しかいないと……そう唆したのだ。
「……違うよ、貴子……私は、救われる立場なんかじゃない」
榎本が、そう口にすると同時に。中西は、顔面を驚愕に染めた。
「あたしは……あたしを一度でも、ハルちゃんを殺すために『利用』した『小野大輔』を許さない!!
そして、今……『小野大輔』は!! 無関係だった、あたしの大切な友だちを……貴子を、再び『利用』した!!
ハルちゃんを殺すなんて、自分の勝手な『目的』のために、小野は何の関係もない人たちを『利用』しつづけてる! そして何より―――」
ふらつく意識を無理やりに抑えつけながら立ち上がり。
自分の周囲のすべてを吹き飛ばさんばかりの勢いで。持ち前の声量をいっぱいに振りかざし、榎本は叫んだ!
「あたしの大切なハルちゃんを殺そうとしてるやつを、黙ってほうってなんておけない!
あたしは『守る』! 小野という『邪悪』から……ハルちゃんも―――貴子のことも!!」
「み……美夕紀いいいいいい!!!」
絶叫とともに、中西が、榎本に向かって駆けてくる。
「だめなのよ……絶対に! 小野には勝てないのよ! 『無駄』なの……私たちは、逃げるしかないの!! 美夕紀、私は―――力づくでも、あなたを『守る』!!」
中西の背後に浮かび上がる『スタンド』。それと戦うために、榎本は再び、『ネオ・メロ・ドラマティック』を発動しようとする……しかし。
スタンド発動が叶わぬうちに、榎本の立つ世界が揺れ、意識が再び、歪んでゆく……
その場に崩れ落ちそうになった榎本の体を、受け止める、太い腕があった。
「よく言ったぜ、榎本……今はお前は休んでろ。
安心しな……お前の代わりに、俺がこいつを『守って』やる」
その言葉が耳に届いたのを最後に。榎本の意識は、深い深い闇の中へと吸い込まれていった。
―――
意味もなく、毎日のように、この喫茶店に通っては、コーヒーを啜る。
そんな堕落の空間に……二人の女がやってきた。
お互いをとても慕い合い……守りたいと願う、二人の女。
そして……同じ『邪悪』に出会ったという共通点を持つ、二人の女。
大切な友人を、邪悪の脅威にさらしたくない。そう願う女と。
大切な友人と、愛する人を、邪悪から守るために、戦いたい。そう願う女。
男は、知っていた。
愛する人が、邪悪に蝕まれてゆく、その耐えがたき憎さと、悲しみを。
「さて、中西センパイ……いや、もうテメーは、北高生じゃなかったな」
白き巨人の像を、自らの体から浮かび上がらせながら。
男は、目の前の女に向けて、言い放った。
「中西貴子……『覚悟』はできてるかよ? 俺はとっくに出来ているぜ。
俺は今から、テメーを『守る』ために、テメーを『ブッ飛ば』す!」
西宮北高校・生徒会長――――完全復活!
本体名 − 中西貴子
スタンド名 − ロビンソン
能力 − ?
to be contiuend↓
393 :
アフターロック:2009/09/14(月) 17:30:56 ID:0FeaP8MV
俺のスタンド『スーパー・サイズ・ユー』の能力で!
マロン板のレスのBytes数は二倍に跳ね上げてやるぜ!!
いやホントちょっと地の文大目にすると投稿できませんで添削作業開始とか勘弁してよマロン板
そんなんで続きます
乙ッ!
生徒会長フッきれた!そこにシビれる!あこがれるゥ!
西表島を思い出してしまうスタンド名だな
会長に惚れそう
と、いうよりアフターロックは容量食いすぎ。
もうちょっと、すっきりした文章にまとめられんのか?
内容は面白いだけに残念なんだが。
第90話 「最終決戦前作戦会議」
土曜日、あたしはSOS団を自分の家に集めた。もちろんハルヒには秘密だ。
「今から皆に弓と矢の輸送作戦を説明する」
「その前にいいか?」
なんだ?キョン。
「弓と矢ってなんだ?」
「言ってなかったっけ?」
「ああ……聞いた事も無い」
「弓と矢ってのはスタンド使いを生み出す道具だ」
「どうやって増やすんですかぁ?」
「矢で人を傷付けるだけだ……上手くいけばスタンド使い……だが失敗すれば………」
「どうなるのでしょうか?」
「死ぬ」
その言葉を聞いて、みくるは縮み上がり、キョンは視線を逸した。古泉は相変わらずで、有希は無反応だが。
「もう一つの矢の特長は……再びスタンド使いを傷付けるとそのスタンドを進化させる事がある」
「って事は失敗もあるって事か?」
「多分ね」
「失敗したらどうなるんでしょうか?」
「さあな……そこまでは知らねぇ」
「あのー……そんなに物騒な物なら、壊しちゃえば………」
「学者の間では高い価値のある研究資料として扱われてる……壊すのはよしてくれだとさ」
馬鹿な話だとは思うがな。あんなもん、あった所でプラスは何一つ無い。
「弓と矢については分かりました……それでは輸送作戦の方は?」
「今、弓と矢はあたしの家で保管してある……それを明日SPW財団へと運ぶ」
「直接SPW財団とやらが取りにくればいいじゃねえか」
「財団は常に監視されている。直接渡そうとすればすぐに奪われるだろう」
そこであたしは地図を広げた。
「待ち合わせ場所はこの港だ……潜水艇を入れてある。これなら奴等の監視網を抜けて港に潜む事ができるしな」
「だけどよ……輸送を尾行されたら一発でバレるぞ」
「……そこでお前らの出番だ。古泉」
「頼まれていた車は全て手配しました。明日には到着します」
「どういう事だ?」
「機関のメンバーには何人か囮になってもらう……ただし弓と矢については秘密だ。単に何かを運んでいるように動けと指示しておく」
「運転手はドライビングテクニックだけでなく、戦闘能力も有する人材を配備しました……スタンド使いには勝てないでしょうが逃げるくらいはできるでしょう」
分かってるじゃねえか。古泉は中間管理職に向いてるな。
「んで、俺達は何をすればいいんだ?」
「チームに分かれて行動する。アナスイとウェザー、みくるは囮に周ってもらう。危険だろうが頼む」
「任せときな」
『ああ』
「が……頑張ります」
「おい、徐倫」
なんだ?キョン。
「朝比奈さんが囮は危なすぎねーか?」
「悪いがこれ以上安全なのがなかったんだ………それにここだけスタンド使いを二人にしてなるべく戦力を高くしてる」
「他はもっとヤバいのかよ………」
「キョンと古泉は親父と一緒に弓と矢の輸送を頼む」
「マジかよ……てかなんで俺らなんだ?」
「まさか足手ま……じゃなかった非戦闘員が多いグループが輸送するとは誰も思わないだろ」
「今足手まといって言いかけただろ」
あたしは無視して話を続ける。
「後は移動手段もある……車を運転できんのは親父とウェザーの二人だからな。分けたら自然とこうなった」
「あれ?こっそり隠れて移動するんじゃないのか?」
そんなもん、囮の意味が無くなるだろ。見つけてくれって言ってるような物だ。
「……なるほど」
「あ……あの、徐倫さんと長門さんは一体何を………」
「あたしは森さんと一緒に敵の捜索と撃破だ……有希は遊撃部隊として独自に行動してもらう」
「……なるほど、逃げるだけではなくこちらからも攻める……ですか、徐倫さんらしいです」
「なあ、徐倫、移動手段はどうすんだ?」
『アナスイ、話を聞いてなかったのか?』
「度忘れだよ………」
「アナスイとキョンのチームは車だ。あたしはバイク、有希は……まあ好きにしなさい。なるべく機動力のある物で頼むわよ」
有希は今日の会議で初めて動きをした。小さくうなずいただけだが。
「作戦は以上!分からない事は?……無いわね。決行は明日の10時ッ!皆覚悟を決めなさいッ!」
「「「「『おうッ!』」」」」
「ボス……奴等に動きがありました。明日何らかの大規模な作戦が行われる模様です」
「……分かった」
「それで、どうなさるのですか?」
「もちろん、総攻撃だ……この機を逃せば弓と矢を手に入れるのは困難になる……何せディアボロが見つけた6本の矢のうち、回収及び破壊されていないのはあれだけだからな」
「分かりました。全員に連絡をかけます」
「そうしてくれ……といっても何人残っているか……だな」
「片手で数えられると思いますが」
「……相変わらずユーモアが無いな……行け」
「はい」
ドアが閉まる音が部屋に響いた。
「涼宮ハルヒ……奴には自らが望む物を無意識に引きつける力がある……スタンド使いを引きつけた時、いずれ弓と矢を引きつけるとは思っていた……まさかこんなにも早いとは思わなかったがな。
………最後の仕上げだ……絶対に失敗は許されない………。敵は恐らく9人……こちらは……私を入れてせいぜい4人か……しかも一人は能力がバレている。
だが、数の有利不利は関係無い……この戦い、何としても勝つ………」
To Be Continued・・・
以上、第90話でした
アフターロックさん乙!容量食うなら改行減らすのはどうですか?どれくらい効果あるかは分からないけど
次回からずっとスタンドバトルが続きます。
それでは!
グッジョブの・・・・・・G!
真面目に感想。
セッコはなんていうかすごく期待。
本来敵のプッチが今後どう動くの?とか、FFを手に入れたキョンが、今後どうバトルに絡むのか、とか。
アメリカは、もしかしてクライマックス?
これはハルヒとジョジョの見事な共存だと思う。あと、徐倫がいきいきとしてて、SO本編での寂しさとかが吹き飛ぶ。
SO読後な自分には、すごくいい。あとアメリカ産承りが可愛くて好きですw。
アフターロックは、アメリカが共存なら、こっちはジョジョとハルヒの見事な融合だなと思う。
原典?らしきしゃぶすたも読んだけど、これはベネ。実にベネ。群像劇的な話の展開もすごくいい。
あと、オリジナルスタンドの発想がいい!これはすごく思う。
みんなすごく楽しみにしてます。がんばってください。
オリスタ褒められると嬉しくなるのは仕方ないことだよなァー?
投下します
なんかノッてきてるよ俺今
つい先ほどまで、榎本が腰をかけていたシートに、榎本の体を横たえると、会長は、中西を振り返った。
中西の記憶にある、『会長』とは、幾分か異なる、軽薄なその様相。
以前に装着していた、厳格さの象徴とも言えた、角ばった眼鏡の姿もない。
しかし。見た目こそは軟派であれど、その身体と、中西を見据える、研ぎ澄まされた瞳からは、かつての会長以上の覇気と、『スゴ味』が放たれている。
……つい、先日までの中西ならば。その威圧感の前に、あっけなく恐れを抱いたことだろう。
しかし。今の中西は違う。なぜなら―――
「あなたは……本気で、『小野』と戦うつもりなの……?
あの人の『スタンド』に……勝てる方法があると、本気で思っているの?」
中西は、思い出していた。昨晩、中西の目の前で繰り広げられた、圧倒的な『殺戮』を。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第21話『小野大輔は幸せを願うA』
自主練が長引きすぎてしまい、いつもよりも遅くなってしまった帰路。週末の深夜という時間帯を、中西は侮っていた。
人気のない路地で、中西は、三人の男と遭遇した。街灯に照らされた男たちのにやけ面からは、どす黒い欲望と邪悪が、中西に向けられてた。
中西は、その男たちとの出会いに。男たちからかけられる声と、男たちが一歩づつ、こちらへ近づいてくるたびに、肌で感じられる邪悪に、恐怖を抱いた。
しかし、中西が本当に恐怖したのは―――次の瞬間。男たちの背後に現れた、もう一人の男。
「なんだ、テメーはァ?」
男たちのうちの一人が、その存在に気づき、背後を振り返ったのと同時に。『それ』は行われた。
『それ』が何であったのか、中西には、今でもわからない。
けれど、中西が瞬きを一度するほどの間に。三人の男たちは、『壊されて』いた。
思い出せる限りで、一人は、胴の中ほどに穴をあけられ、そこから、無理矢理引きちぎられたかのように、半身が引き裂かれていた。
また、もう一人の男からは、頭部と両腕が消失しており、両肩から胸の中ほどにかけてが、掘削機で削り取られたかのように抉られ、上半身が三つに分かれていた。
最後の男の身体は、中西のすぐ脇のビルの壁にあった。頭部がトマトのように破裂しており、コンクリートの壁には、巨大な彼岸花のような文様を描かれていた。
「君を……捜していたんだ」
一秒か、一分か。目の前に、三つの人間『だったもの』がある。その事実を理解するのに、どれほどの時間が掛かったか、中西は覚えていない。
とにかく、目の前に残った、最後の『男』が、中西に声をかけるまで。体中が凍り付いてしまったかのように、中西は、その場から動くことができなかった。
「君は……榎本美夕紀さんを知っているね?」
声を発そうとした。しかし、中西の喉からは、一切の音が発せられなかった。
身体が震えだし、両足が力を失い、その場に座り込んでしまう。
目の前が滲む。全身から、温度のない汗が噴出している。
「ぁ……あ……ッ!」
何が起こったのかはわからない。ただ、一つ、中西に理解できたこと。
目の前の三つの死体を作り出したのは、今、中西に微笑みかけている、この男なのだ。
男は、中西が何も答えずにいると、黙って、脇に抱えた鞄の中から、何かを取り出した―――それは、矢のように見えた。
殺される。自分もまた、男たちと同じように。中西がしりもちをついたコンクリートに、じわりと、生ぬるい温度が広がってゆく。
「怖がらないで。僕は君を殺したりしない―――いいかい? 僕の話を、聞いてくれるかな?」
頷くこともできなかった。はい。と答えることもできなかった。かといって、断ることなどもできるはずもない。
ただ、圧倒的な恐怖に全身を拘束された、中西に向かって、男は―――『小野大輔』は、ゆっくりと、語り出した――
―――
『恐怖』。
今、目の前に立つ男に、中西が、その感情を抱くことはなかった。
中西の心にあるのは、たった一つ。
『小野大輔』の脅威から―――友人を。榎本美夕紀を、『守り』たい。そのために―――なんとしても、目の前の男を、退ける!!
「……『ロビンソン』!」
中西は、その名を―――小野に引き出された、自らの『スタンド』の名を―――叫びながら、『会長』へと襲い掛かる。
一撃でいい。一撃でも、『ロビンソン』の右手の爪で、会長の身体に傷をつけられれば……
中西のスタンド発動とほぼ同時に。『会長』が動く。
「『ジェットコースタァァ―――ッ・ロマンスッ』!!」
会長の身体から、白い巨人の『スタンド』が飛び出し、中西へと迫り来る―――速い!
しかし、迎え撃つ! たとえダメージを受けようとも、相手に一撃でも、『爪』の傷を与えられればいい!
突き出された『J・ロマンス』の腕にぶつけるように、『ロビンソン』の右手を突き出す!
手と手がぶつかり合う衝撃―――しかし! 『爪』が、スタンドの身体を裂いた手ごたえはない!?
両者のスタンドは……あたかも、恋人同士が手を繋ぐかのような形で、互いの指と指の間に指の付け根を押し当て合っていた!
―――しまった。こちらの狙いを読まれている! 先ほど、榎本を『爪』で切り裂いたのを、見られていたのか―――!?
「どうやら、おれとテメーのパワーは互角ってとこかよ……なら、こっちはどうだァ!」
会長が叫ぶと同時に、『J・ロマンス』は、『ロビンソン』と押し合っている手とは異なる方の手で握り拳を作り、中西にむけて突き出した!
「ボラボラボラボラボラァ!!」
「『ロビンソォォォン』!!」
立て続けに放たれる拳を、ロビンソンの左手が受け止める。しかし、左手に『爪』はない―――
左手で拳を受けながら、右手を握り込み、どうにか『爪』の先を、『J・ロマンス』の手の甲に突き刺そうとする。しかし、届かない。
「スピードも互角と来たもんだ、こいつは……チョッピリだが、ショックだな」
会長が呟く。『J・ロマンス』が一時その場から飛びのき、ロビンソンの右手が開放される。
会長は、続けて攻撃をしてくる様子はない。こちらの出方を見ていると言った所か……
「……ボラァ!!」
十秒ほどの沈黙の後。会長が再び動き出した。
振るわれた右の拳を、『ロビンソン』は左手で受け止め、右の手を突き出す!
しかし、『J・ロマンス』が上半身を屈めたが故に、ロビンソンの爪は空中を切る事となる。
身を低くした『J・ロマンス』の左拳が、中西の顎をめがけて、空中を昇ってくる―――『ロビンソン』は、突き出した右腕を引き、その拳に『肘』をぶつける!
「ってぇ!!」
「こォォォ――――のォォォォォ!!!!」
痛みにひるんだ一瞬の隙を突いて、中西は、『J・ロマンス』の右拳を受けた手を、握り込み、思い切り手前に引く。
J・ロマンスと、会長の身体が、中西の懐に引き込まれる―――中西が狙ったのは、その『頭部』!
『ロビンソン』は、眼下にある、会長の後頭部にめがけて、自らの額を、全力で打ち付けた!
「いぎっ!」
命中! ―――しかし、その直後! 会長の身体から伸びた『J・ロマンス』の両腕が、中西の後頭部に回された!
「なっ―――!!?」
「『パチキ』たぁ、ズイブンと気合が入ってるじゃねえか……お釣りだ……ウラァ!!!」
J・ロマンスが、榎本の頭部を引き寄せる! 会長は、上半身を起す!
会長の頭部と、中西の額が、再びぶつかりあう! しかし、力のベクトルは、先ほどと真反対だ!
「―――ッ!」
強烈な衝撃とともに、中西の意識が大きく揺さぶられる。脳が頭の中で揺れている。
この大きすぎる隙を、会長が逃す訳がない――!!
「『ブッ飛ん』で、寝てろォ―――!!」
前方から聞こえる、会長の絶叫。まずい。『何か』が来る!
しかし、それを確実に対処するには、意識が不明瞭すぎる―――中西の取った行動は!!
「この……ヤロォ―――ッ!!!」
がむしゃらに! 闇雲に! 破れかぶれに!
自らの右足を、前方に向けて、振り上げた!!
「ッ――のオオオッ―――――ッ!!?」
『何か』。
中西の必死の一撃が、何かを捕らえた。やわらかいような、硬いような、奇妙な感触の何かを。
しかし、どうやら、その一撃は、会長に大きなダメージを与えたらしい。
徐々に意識が戻ってくる……目の前で、会長が蹲っている! 今だ、今しかない!
「『ロビンソン・クロー』!!」
眼前の会長の、空を泳ぐ左手に向けて――何故か、右手は、下腹部を押さえている――『ロビンソン』の右手の人差し指を!
その『爪』を、突き刺す!!
「!」
刺さった―――!! 会長の左手の甲に、『爪』が!
その刺し傷から、血が滲み出した―――直後。会長の左手が、『炎』に包まれる!
「これはッ……!?」
痛みに呻きながら、会長は、左手に発生した『炎』を見て、声を漏らす。
これでいい―――あとは! 会長の攻撃から逃れ続ければいい!
「……これが、テメェの……能力か……」
ふと。ようやく、痛みから解放されたのか。会長が、折りたたんでいた身体を立ち上げながら、呟く。
いつの間にか、彼のスタンドは姿を消している……先ほどの蹴りが、それほど効いたのだろうか。まだ、いささか顔が青ざめている。
「この『炎』……榎本の腕にあったものと、同じものだよなァ。
榎本の身体……『体温』が下がっていた。顔も青ざめてやがった……ありゃ、『貧血』だ」
「……今のあなたの顔に負けないくらい、ね」
やはり、初めから。会長は、ロビンソンの『能力』を、把握していたということか。
「この『炎』……熱くねえし、焦げもしねえ。むしろ、『冷たい』ぐらいだ。
お前のスタンド能力は……『血を燃やす炎』を『点ける能力』……違うかよ?
大方、その右手の『爪』が発火装置ってとこか?」
「……随分やさぐれたけど、頭はいいままみたいね」
『ロビンソン』の産み出す『炎』。明確に言えば、それは『血を燃やす』炎ではない。
『液体を消滅させる炎』。熱も二酸化炭素も発生させない以上、それは厳密には、『炎』ではないのかもしれない。
『ロビンソン』の右手の爪が触れた液体を『燃料』とし、その燃料が尽きるまで燃え続ける『炎』。それが、『ロビンソン』の能力。
『血液』に限定するわけではない。液体であればなんでもいい。水だろうと、果汁だろうと、唾液だろうと、尿だろうと。
「その『炎』は、最大出力よ。いまに貴方の体中の血液に燃え広がって、燃やし尽くして、あなたは昏倒……す……」
……中西の、目の前で。今、何が起きた?
会長が目の前に立っている。右手で、左手を……左手首を押さえながら。
そして……『左手首の先端』から、とめどなく血液を流しながら―――!!
「『炎』が何だって? ……そういやおれ、たまに思うんだがよ。火事で、飛び火ってあるじゃねえか。風で近隣の家に燃え移るとか、ああいうやつよぉ。
あれが怖いならよ。……いっそ、燃えてる家だけ、どっか別んとこに『ブッ飛ばし』ちまえばいいと思わねえか? ……そんなスタンド、どっかにねえもんかなァ?」
中西の目の前で。会長は、右手だけを器用に使い、ジーンズのベルトを外し……
それを左手首に巻きつけ、右手と口とを使い、縛り上げた。
「あ、なた……正気、なの……?」
中西の全身に、冷たい液体が浮き出す。
あの時と同じ……昨晩感じた『恐怖』が、中西の脳裏をよぎる。
中西と、会長との、間の床に……さっきまで、会長の『身体』だったものが、転がっている……『ロビンソン』の炎につつまれながら。
「おい、何ビビッてんだ、中西? はじめに聴いたよな、『覚悟』は出来てんのかってよ……
そして、『おれは出来てる』とも、言ったよな? ……『覚悟』ってのは、こういうことじゃねえのかよ?」
「ひっ……」
会長が、左手を―――否。左手首を、中西の眼前に突きつける。
止め処なく流れる血液。中西の左胸が、止め処なく、脈動する。どくん、どくんと。
「……怖いか、中西? だがよ、これは『正しい判断』なんだぜ。
テメーの『炎』で全身の血を燃やされるよりは、こっちのほうがよっぽど失血量は少ねぇだろうからな。
おい、聴いてるか、中西? ……どうした、攻撃しねえのかよ。おれの身体はまだまだ残ってるぜ?
そこら中に『炎』を点けたらどうだよ……おい、中西? おれの身体が細切れになるところが見れるかもしれねえぜ?」
「あ……嫌……こ、ないで……」
ゆっくりと、ゆっくりと。会長が、中西に近づいてくる。
それにあわせて、中西は身体を後方へと退ける……しかし、やがて、中西の背は、壁に突き当たってしまう。
「どうした、何か言えよ、中西……テメーはあの『ロビンソン』だかってカタ×みてーな『スタンド』で、榎本を『守る』んじゃなかったのかよ?
おい……なんとか言えよ、『な・か・に・し・た・か・こ』」
会長の左手首が……その、切断面が。中西の顔面に、触れる……滴り続ける血液が、中西の唇を掠める。
口内に広がる、生ぬるい液体―――中西の味覚が、その味を感じるより、一瞬早く。中西の意識は、途切れた。
――――
「クソ……これじゃ、おれのほうが悪役みてェじゃねえか……」
地面に伏した、中西貴子の身体を見下ろしながら、会長は悪態を吐く。
……いつの間にやら、店内に存在した人々は、店員を含めて、皆、店外へと逃げて行ってしまったようだ。
『ジェットコースター・ロマンス』に切り落とさせた左手首が、ジリジリと、まるで炎に焼かれているように痛む。
クソが……デケェ『怪我』をすると、『アドレナリン』だかが出て、痛みが軽くなるってのは、ガセネタだったのか? 十二分に痛ぇじゃねえか。
「どうするか……とりあえず、古泉あたりを呼ぶか……」
右手で左のポケットを探り、携帯電話を取り出し、会長は、しばし悩む。
この状態では、中西と榎本の二人を、店外へ運び出すこともままならない。そもそも、左手がない男が、気を失った女を二人抱えているところを、誰かに見られたら、どんな騒ぎになるか。
「いや、こういうときは、長門か……あいつなら、おれの手もさっさと治してくれる気がするしな……」
などと呟きながら、携帯電話のボタンの上に、指を滑らせていると。
店内への来客を示す、カランカラン。という、鐘の音が、周囲に響き渡った。
何だ、こんなときに客かよ。まあ、いい。この惨状を見れば、一般人なら、さっさと退散するだろう。
会長は、来客を無視し、携帯電話の操作を続けた。……しかし。それは、背後からかけられた声によって、遮られる。
「残念だよ。きっと――彼女は、榎本さんを救ってくれると、思っていたんだけどな」
……世界が、止まった。
会長の背後で、呟いた人物。その、奇妙なほどに優しい、柔らかな声。
手の中の携帯電話を、地面へと放り出し。会長は、ゆっくりと、背後を振り向く。
……黒いカッターシャツに身を包んだ、茶髪の男。顔面に、柔らかな微笑をぶら下げた、その男。
この男が、何者か? 先の発言と、その様相を見れば、容易く予想がつく。
――――――オ・ノ・ダ・イ・ス・ケ―――――
「……痛そうだね、大丈夫かい? いや、その状態で、ケータイをいじる余裕があるなら、立派なものだ」
「……テ、メェ」
会長の脳裏に。ある人物が浮かび上がる。
会長の『恋人』であり……同時に、『宇宙人』であったという―――されど、関係はない。会長にとっての、大切な人物。
喜緑江美里……彼女が、会長の前で見せた、いくつもの表情が、走馬灯のように、会長の脳裏をよぎる。
笑顔。困り顔。悩む顔。考える顔。そして―――あの、狂気に犯された顔。
「小野……大輔……」
「……僕も有名人になったものだね」
炎。会長が、まず感じたのは、それだった。
先ほど、左手にともされた炎などとは違う。確実な熱を持つ、炎。
それが、会長の身体の奥底から、会長の身体を焼いている。
この、男が。
この、小野大輔が。
喜緑を狂わせた、張本人。
「『小野』ォォォォォォォ!!!!」
会長の身体から、『スタンド』……『ジェットコースター・ロマンス』が吹き飛び、眼前の『小野』へと襲い掛かる。
殴る、蹴る、噛む、抉る、何だっていい。この『小野』を、殺すために!!
しかし―――次の瞬間。小野は姿を消していた。『J・ロマンス』は、虚空に突進を放つ羽目になる。
「無理はしないほうがいいと思う。君のその怪我は、かなり重いものだからね」
声は、会長の背後からした。
振り返ると、そこには……右胸に左手を当てた体制で、微笑をぶら下げる、『小野』の姿があった。
「……オノ……ダイスケ……テメェが……テメエが、全ての……元凶かよ……!!!」
会長の言葉を無視し、小野は、足元に倒れ込む少女―――中西の傍にしゃがみこみ、その様子を探る。
「よかった、ただ気絶をしているだけだね。怪我もしてない……君は常識的な人だったんだな、安心したよ」
『小野』が、会長を見上げ、微笑む。全身の血液が、頭部に集中する感覚。
「『小野』ォォォォォォォ!!!!」
『J・ロマンス』が、再び、眼前の小野に向けて、拳を放つ。しかし、またもや―――拳が小野を打つ寸前に、小野の姿が『消える』。
『時』をとめられたのだ―――そう考え至った会長は、背後を振り返る。想像通り、小野はそこに居た。
「彼女はギタリストだ。もし、君が彼女の手を砕くようなことがあったら……それが心配だったよ」
「黙れェェェェェ!!」
会長は、叫ぶ。しかし、小野は決して、微動だにしない。ひるむこともしない。
「……君は、どうしてそれほど僕を恨んでいるんだい? もしかして……ああ。
そうか、君は、彼女……喜緑さんの恋人だった、彼だったっけね。でも、いいじゃないか。彼女は『幸せ』になれたんだよ。君はそれを素直に喜んでやれないのかい?」
この男が、一言一言を口にするたびに―――! 会長の精神に、刃が突き刺さる!
確信した。会長は―――この男。『小野大輔』は――――悪魔だと!
「『ジェットコースタァァァァ――――・ロマンスゥゥゥ―――――』!!」
眼前の小野に向けて、スタンドを『シュート』する。しかし、またも―――眼前で、右胸に手を当てていたはずの小野の姿が、消える。
決まりきった戯曲のように、背後から声。『時』が止められたのだ。
「君はわかってはくれないかい? 彼女の……喜緑さんの正体を知ったのだろう?
彼女は、解放されたんだ、呪縛から。どうして、それがわからないんだ?」
―――声を上げる必要すらない。
全身に、憎しみと、激情を込めて。会長は、『J・ロマンス』を振り返らせ、裏拳を、小野に叩き込む!
しかし―――その、拳は。小野の傍に立つ、黄金色のスタンドによって、遮られる!
『世界』……話には、聞いていた。小野が今、『再生』しているスタンド……! 今、会長の目の前に存在する、それが! 最強のスタンド、『世界』だというのか!?
「……その傷で、そんなに動くと、出血が酷くなるよ、会長君。安静にしていたほうがいい」
「黙りやがれぇぇぇぇぇ!!!」
最強のスタンドであろうが、なんだろうが。今の会長に、それを警戒するだけの精神は備わっていなかった。
目の前の男と、その背後に立つスタンドに向けて、無数の右拳を放つ。
「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラァァァァァァ!!!!」
しかし。左拳を失った『J・ロマンス』のラッシュは、両手を用いての其れと比べれば、遥かに遅い。彼の拳を、『世界』は、全てを受け止める。
「『無駄』だよ、会長君。今の君では……彼の。『ジョン・スミス』のスタンド以上に、僕を傷つけることなど出来ない」
その言葉を放つとともに。小野は、『笑っ』た。
そして、次の瞬間。小野は、再び、左手を右胸に当てて――――
「『世界』―――時よ、止まれ!!」
そう、叫んだ
―――
止まった時の中に。小野大輔は、居る。
目の前に、スタンドの拳を振り上げた『会長』が居る。
小野が時を止められるのは、五秒ほどが限界だろう。その間に―――目の前の、この少年から。命を奪う。
小野にとっては、容易いことだった。
「アリーヴェデルチ(さようなら)」
誰にすら聞こえない程度の音量で、呟きながら。
会長は、目の前の少年に向けて、『世界』の手刀を叩き込む――――
何故だ?
何故、手刀が、空を切った?
止まった時の中で。目の前に居たはずの少年が―――何故、居ない?
「……見つけたぜ、テメーの『弱点』を……まさか、成功するとは思わなかったがな」
次は、小野の番だった。
小野の背後で。低く、うなる獣のような、声がした。
振り返る―――そこに立つ、左手を失った少年。
何故―――何故、止まった時の中に! この男は、居るのだ!?
「お前が『世界』を発動する瞬間、必ず―――『右胸に手を当てていた』……そいつに気づいた。
だから、おれは―――その瞬間を『すり抜けた』……『ジェットコースター・ロマンス』の能力で!」
おいィ?
規制されたなら避難所でもいいんじゃない?
おっと規制されてなかったようですね
「――――馬鹿なッ!?」
……怒りに我を忘れながらも―――この少年は、小野の動作を観察していたのか。
そして、見破った……小野の右胸の『ページ』……『ジャスト・ア・スペクタクル』の弱点に……!!
「……見えたのさ、おれには。『世界』から向かってくる……丁度、電車が『レール』を走ってくるような、その軌道がな……
おれは、その『時のレール』を、『すり抜けた』……」
『会長』は、空ろな口調で呟く。おそらく、左腕からの失血で、意識が不明瞭になっているのだろう。
まさか―――この少年が。『ジェットコースター・ロマンス』が、時の支配をも超える力を持っているはずが、ない!
「……『悪魔』のお前には、わからねぇだろ……人は、『成長』するんだぜ……」
会長が―――笑った。
「『世界』!!」
一瞬だった。『世界』は、握りこぶしを、『会長』の左胸に叩き込む。
拳は、会長の身体をつきぬけ、先の空間へと泳ぎ出て―――
「が……は……」
……『殺した』。
たとえ、この少年が、『時の支配』に歩み入ろうと。『世界』の勝利は、約束されたものだった。 しかし―――!!
何故! 『スペクタクル』に記されていなかった能力が、発生している――!?
「おい、そこのテメェ―――!! 動くんじゃねェ、動いたら『ドン』だぜ『ドン』!!」
……気づかぬうちに、『時』は動き始めていた。小野の耳に飛び込む、鐘の音と、男の声。
見ると。小野の視線の先に、二人の人間が立っていた。
一人は、警察官の制服を身に纏い、拳銃を構えた、ガタイの良い男。……誰かが通報でもしたのか。遠くから、救急車のサイレンが聞こえてくる。
そして、もう一人は……
「『ファンク・ザ・ピーナッツ』……」
「!」
そのスタンド名を口にすると同時に。『もう一人』の人物、少女が、顔をゆがめる。
「『ジョースケ』君! こいつだよ、こいつが、『小野大輔』だよ!!」
……また。僕が『始末』しなければならない相手が、増えたわけか。
小野は内心で苦笑しながら、『会長』の身体から『世界』の腕を引き抜き、二人を向き直った。
……と、同時に。
prrrr prrrr
「!?」
小野に立ちはだかった二人の表情が、変わる。
突如、店内に響き渡った音の発生源は、小野のズボンのポケットの中。
『橘京子』の携帯電話だ。
「……すまない、少し待ってくれ」
小野は、二人にそう告げ、ポケットから携帯電話を取り出し、そのモニタを確認する。
新規メール受信。その文面を、確認する……
『大丈夫? 病気なの? 今から家にいくけど、いいかな?』
……このときを、待っていたのだ。
―――
「すまないけど……『急用』が出来たんだ。僕は、橘さんのところに行かなきゃ為らない。君たちの相手は……また、今度にしよう」
銃口の先の『男』は、のん気に携帯電話を弄った後で。俺たちに向けて、そう次げた。
……何を言ってんだ、こいつは。人のどてっ腹をブチ抜いた直後に、用事が出来たからさようなら、だと?
「おいおいおい、フザけてんじゃねェ―――ッスよォ! 正義の味方の前で、敵キャラが『また今度』はねぇだろうが!
『覚悟』はできてっかよォ? 出来たなら言いな! このおれが、現行犯で……」
……逮捕、する。
そう、『仗助』が、叫ぼうとした瞬間。
男は――――銃口の先から、消え去っていた。
何だこりゃァ? これじゃ、まるで―――あのヒトの、『時止め』みてェ―――じゃねぇか!!
「ちょいと、ジョースケ君! はやく、こっちにきて! 怪我人が居るよ……会長! ジョースケ君、はやく会長を治してあげて! すごい傷だよ、これ!!」
あっけに取られ、その場に立ち尽くしていた俺を尻目に。店内へと駆けていった鶴屋が、俺に、大げさな手招きをする。
会長。それは、もしや、先ほど、あの男のスタンドに、胸を貫かれていた少年のことだろうか?
だとしたら……仗助は思う。あの位置は、完全に心臓を貫いていた。たとえ、仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』を使ったところで……
「早く、急いでよォ、ジョースケ君!!」
「お、おおっ!?」
鶴屋に腕を引かれながら。仗助は、たった今、目の前から消え去った男の行き先を案じていた。
『橘さんのところ』……いったい、この西宮市に。光陽園に、何がおきていると言うのか。
東方仗助は―――悲しいことに。
あまりにも、現状に『無知』であった。
本体名 − 中西貴子
スタンド名 − ロビンソン 再起可能?
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「ロビンソン」
本体 − 中西貴子(19歳)
破壊力 − B スピード − B 射程距離 − E
持続力 − A 精密動作性 − A 成長性 − C
能力 − 全身に白い糸を巻きつけられた女性型のスタンド。
下半身を持たない像は、彼女のスタンドが発現する際、彼女が強い恐怖に怯え、立ち上がることができない状態にあったことに由来する。
右手の指に爪を持ち、爪が触れた液体を燃やす炎を産み出す能力を持つ。
炎自体には熱はなく、燃料の燃焼による気体の発生も伴わないため、厳密には炎とは呼びがたい。
―――――――――――――――――――――――――
続きますよ
終わらすのに近づいてくるんと同時に
続編を書きたくなる悪い意欲がムンムンと
アメリカ読んでるよー
アメリカのスタンドバトルは参考にしたいからすごく期待
今一番俺が悩んでるのはスタンドバトルのあのなんか複雑さが再現できないこと。うん。
じゃあおやすみ
乙雅三ゥ!
今回のバトルはよかったと思うよ。
にしても、この会長ぜったいカタギじゃねえw
両者乙乙
アメリカのキョン覚醒を密かに期待してる……ないんだろうけど
アフロクの会長はなんでこんなにスゴ味があるんだwwww
五部ゲー買ったwwwwwwwおもしれえwwwwww
この戦闘の感じが出したかったけどwwww今更むりwwww
さて、投下の時間だ
「ねえ、ちょっと、あんた! 聴いてるの!?」
「うるっせェ―――な! 聞こえてるに決まってんだろが、んナでけェ声で叫ぶな!」
『厄介で、面倒な女』。
目の前の少女の大体の性質は、以前から、キョンや、その周囲の人物から聴かされていた。
しかし、実際にこうして顔をあわせてみると。その『厄介さ、面倒さ』は、ミスタが想像していたその度合いを遥かに超越するものだった。
『涼宮ハルヒ』。今、ミスタが『守る』べき対象。
「聞こえてるんなら、答えなさいよ! あんた、あたしをこんなとこに閉じ込めてどうしようってのよ!?
それに、さっきのデパートで、いったい何があったのよ!? 今すぐ確かめにいきたいの、だから、さっさとこっから出せぇ!」
ハルヒは、語調を和らげず、ミスタの顔面に、今にも噛り付かんばかりの勢いで顔を近づけ、容赦なくつばを飛ばしながら、喚いた。
現在、ミスタとハルヒが居るのは、SPW財団だか、『機関』だか、どちらだかが用意した、特注のワゴンの内部。
西宮市中央街のデパートにて発生した『異常事態』。
それがひとまず収まった後、デパート内にて一人、不機嫌のきわみへ達していたハルヒを、無理矢理に連行した先。
要するに、『機関』や警察が、デパート内で発生した『スタンドバトル』の後片付けを済ませる間、ハルヒが面倒なことを企てぬよう、現在、絶賛軟禁中。
そして、それを行うにあたり、ハルヒの相手をすべく、ハルヒとともに、このワゴン車内に放り込まれる役割を押し付けられたのが、ミスタ。というわけだ。
「だァ―――から! 殺人だとかがあって、今この町は危険なんだよ!
わかるだろ、『危険』! あぶねぇ―――!! ッてことだよ!
ンナ所にオメェーみてーな一般人を放り出して、何かヤベェ事に巻き込まれたらどうすんだよ!?
だから事態が収まるまでここでおとなしくしてろっつってんだよ!」
「はァ!? そんなの、めったにお目にかかれない不思議じゃないの!
今! あたしが動かなかったら、いつ動けっての!?
アンタ、どこの誰だか知らないけど、あたしの邪魔をしようってんなら、ただじゃおかないわよ!?」
「だから、おれァ『刑事』だっつってんだろ!?
一般人を非常事態から守るのが刑事の役目なんだよ!
大体不思議だかなんだか知らねェーが、いくら不思議だろうと奇天烈だろうとォ!
オメーが死んじまうかもしれない状況になったら意味ねェーだろうが!!
どんだけ言やぁわかるんだよ、おれァ今オメーを『守って』やってんの! おとなしく『守られて』ろっつってんだよ!」
女を『守る』任務には慣れているつもりだった。
しかし、この数十分ほどで、ミスタが抱いていたその自信は、ボロ雑巾のように踏みにじられてしまった。
『守る』女の性格ひとつで、任務のつらさはこれほどまでに左右されるものなのか。
思えば、あの『トリッシュ』は、護衛対象の鑑のように『守り』やすい性格をしていたのだ。
「大きなお世話よ! あたしはそんなヘタ打ったりしないわ!
大体あんた、本当に刑事? てか、何なのよこの車は? ワケわかんないわ、救急車かと思ったら、ホテルの部屋みたいな内装で……
なんだか、怪しい匂いがムンムン沸いて来たわ……あたしをこのままどっかに連れてくつもりじゃないでしょうね!?」
そして。その模範的護衛対象と正反対の性格を持っているのが、この少女だ。
こちらに従順な様子はかけらも見せず、根本的に非協力的。
正直、ミスタの手には余る。フーゴだったら今頃ブチギレているだろう。
本当なら、古泉あたりが、適当に諭しつつ相手をするべきなのだ。しかし、その古泉は今、この女の不機嫌によって発生する異常現象の対処に向かっている最中ときたものだ。
「連れてかねェ―――よ! まあ、ほら、なんだ。ンナ怒ってねェでよ、なんか飲むか?
色々あるぜ、リンゴジュース、オレンジジュース、パイナプルジュース、ミネラルウォーターのガス入り、ガス無し、缶入りのジュース…………」
……おそらく、特注であろうこの車内。ジャポネの言葉で表すなら、『至れり尽くせり』というところか。
その車内の様子は、いつかの亀の内部を思わせる、ソファやテーブルといった家具に彩られた、非常に快適なものとなっている。
冷蔵庫の中身のチョイスにすらデジャヴュを覚えるのは、ミスタが神経質すぎるからなのだろうか。
「……なんかヘンなモノ入ってんじゃないでしょうね。睡眠薬とか」
「ねェ―――よ! なんでったってオメーはそう、人の好意をうらめ、裏目に取んだ!?
何ならこの場でおれが毒見してやろうか? あァ?!」
「……確かに、ノドは乾いたわね。……いいわ、じゃあ、缶のジュースを頂戴。なんでもいいわ」
……漸く、少し落ち着いた様子を見せる護衛対象。
よし、チャンスだ。ミスタはにやりと口の端を歪めながら、冷蔵庫の中から、缶入りのジュースを取り出し……
「……何っじゃこりゃァ――――っ!?」
「きゃっ!? な、何、どうしたのよっ!?」
突如。取り出した缶ジュースのパッケージを見て、ミスタの口から飛び出した絶叫に、ハルヒが驚く。
「『どーした』も『こーした』もねぇっ! 見ろ、このジュース!」
興奮しながら、ミスタはハルヒにむかって、手の中の缶をずいと突きつける。
缶ジュースのラベルに記されている、製造メーカーを示すロゴ。そのロゴには、ハルヒにも見覚えがあるらしい。
「……『4・11』のコンビニのブランドじゃない。これのどこがおかしいのよ?」
「そうだよ、その『4・11』がおかしいんだよ! 『4』は悪いんだ! あの店は悪魔の店なんだよ!
その店の商品を入れとくなんて、『機関』のやつら、何考えてんだ!?」
「……あんた、マジでそんな『ジンクス』信じてるの? 『4』が『死』とか……」
ミスタの魂の叫びを浴びながら。ハルヒは、こいつ、頭大丈夫か? とでも言いたげに眉を顰め、ミスタの顔をにらんでいる。
「っていうか、今、あんた、『機関』って言った? 何よそれ、この車は警察の車じゃないの?」
「エッ? あ、いや〜、何だ? いや、警察のヤツら……じゃなくて、上のヤツら、気が『利かん』ぜ! って言ったんだよ!」
「……馬鹿らしい、付き合いきれないわ。とにかく、これ、もらうわよ」
プシュ。と、音を立てて、ハルヒの手の中で、缶のプルタブが弾かれる。
「あっ、おい! やめとけ、悪いことは言わねー! 『4』に良い事なんてねーぞ!」
「『4・11』の商品でいちいち不幸になってたら、世の中不幸人だらけよ! いいから、あたしはこれを飲むの! ちょっと黙ってろ!」
ミスタの静止を無視し、缶をぐいとあおるハルヒ。あーあ、飲んじまったよ。ミスタは心中でため息をつく。
何か悪いことがおきなけりゃ良いが……などと考えながら、冷蔵庫の中から、もう一つ、ハルヒが飲んだものと同じ缶を取り出し、ふと、気づく。
『この商品は、お酒です。アルコール度、"4"%』。
…………『機関』はマジで何考えてんだ。
キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第22話『小野大輔は幸せを願うB』
「……それでね、うぃっく……あたしたちは、エス、オーエス団として、会誌を作ったわけよ。キョンには恋愛ものを、こいずみ君には、サスペンスでね……」
「ほぉー、そりゃあ『気合』が入ってんなァー。で、オメーは何を書いたんだよ?」
「あたしのは……あんたに説明してもきっとわかんないわよ。それより、あのジュースもうないの?」
ハルヒがミスタ曰くの、『悪魔のドリンク』を飲みだしてから、一時間。すっかりと出来上がってしまったハルヒのご高説に、ミスタが適当に相槌を打つ。
未成年にアルコールを摂取させるという、いささか如何わしげな方法を経たものの、なんとかハルヒをこの場所で、不機嫌でなく収められたのだから由とすべきか。
ミスタは、冷蔵庫の隅にあったペリエを口にしながら、ぼんやりと、ハルヒの語る『SOS団』の活動履歴に耳を傾けていた。
……いやはや、ジャポネは平穏だね。大まかに感想を漏らすなら、そんなところだ。
もしこの少女が、イタリアのネアポリスに生まれていたら。あの町で『不思議探し』なんざをしようものなら、すぐさま面倒ごとに巻き込まれる羽目になるだろう。
「ことしの夏はユーレイを捕まえにいくわよ! 九楽園のほうの墓地に! 去年のキモ試しは、ただの遊びだったから、今年こそホンモノを見つけるの!
いい、あんたらケーサツが邪魔しようったって無駄だからね!」
警察は墓地の警備なんかしねーだろ。などと、ミスタが心中でツッコミを入れた矢先。
ジーンズのポケットが、小刻みに震えた。誰かからの連絡だ……おそらく、古泉だろう。ハルヒの不機嫌が収まり、『閉鎖空間』の始末とやらも済んだのか。
「ちょっと、どこ行くのよ? まだ話は終わってないのよ!」
車外へ出ようとしたミスタを引き止める、顔面を紅潮させた少女。なんと面倒なことか。
……よし、こうなれば。ミスタは妙案を思いつき、車内の一角の、天井近くを指差す。
「あっ、おい『スズミヤ』! ありゃァ―何だ!? まさか、今まさにオメーが言ってた『ユーレイ』じゃねェか?」
「えっ?」
ミスタが指差した先。そして、ハルヒが振り返った先に浮かんでいる、二つの白い影……
「ゲゲッ!? オ、オレタチカヨッ!」
「ば、バァー! 『オバケ』ダゼェー!! ベロベロバァー!!!」
『セックス・ピストルズ』、No.1&2―――!!!
「あああっ! 何これ、ホントにユーレイ!? まさか、そっちから来るなんて!
これは一大事だわ、捕まえて飼育しなくちゃ! ちょっと、刑事! あんた、虫取り網とか持ってないの!?」
「うわァ――、やっべェなァー! いつもは持ってんだけど、今日はちょっとなァー! 家に忘れてきちまったぜ!」
「じゃあ、買ってきなさい、ダッシュで! あたしがこいつらを引き止めておくから、急ぐのよ!」
「おっしゃ、わかったぜ!」
悪い、上手くやってくれ、No.1、No.2。
あれだけ酔いが回った状態でなら、あとで『夢でした』で済ませられるだろう。少々大胆だが、この場を切り抜けるにはこれが一番手っ取り早い。
「やっぱ、イツキか」
車外へ降り、鍵を閉めなおしたミスタは、携帯電話のモニタを見て、声を漏らす。
すぐさま通話ボタンを押し、耳に押し当てる。
「おい、イツキよぉ! おれぁいつまでスズミヤの相手をしてりゃぁいーんだ!? 閉鎖空間とやらは終わったのかよ?」
「『ミスタ』! よかった、そちらはまだ無事ですね!?」
「無事? ああ、こっちじゃあ、スズミヤが暴れてるだけで、何も起きちゃいねェーぜ。車の外も、『ピストルズ』が見張ってたが、何も異常はなかったしな」
電話の向こうの古泉の声は、酷く焦っている様だった。どう考えても、ものごとが上手くいっている状況下の声ではない。
「そうですか……すみませんが、ミスタ。時間がありません、今からそちらに向かいますので、ともに来てください!」
「何だってェ? しかし、スズミヤのやつは放っておいていいのかよ? 今は、おれの『ピストルズ』が相手をしてるが……」
「一刻を争う事態なんです! ……僕らが、あと少しこちらに戻ってきていれば、もっと早く対処できたのですが……!」
「おい、何が起きてるのか説明しろっつってんだよ!」
「それは……『車』の中で話します!」
プツリ。その言葉を最後に、携帯電話の通話が途切れる。
それとほぼ同時に……突如、背後から迫り、ミスタの首根っこを掴み上げる、『何か』があった。
「――――『ヘブンズ・ドライブ』!! 古泉、『ミスタ』は回収したわ!」
「ベネ(良し)! 森さん、そのまま……『病院』を目指してください!」
……世界が暗転したかと思うと、ミスタは、黒塗りの乗用車の運転席の上に投げ出されていた。
横倒しになったミスタの視界に、車に備え付けられた、時計が示す時刻が目に入る。
13時34分――――。
――――
「『ジョースケ』君! はやく、『会長』を治しておくれよォー!! 目を覚まさないよ、会長!」
「わ、わかってるってよォ!! しかし、これだけの重症なんだ、いくら『クレイジー・ダイヤモンド』だって、完治するまでにはもう少し掛かりますって!」
駆けつけた救急車の車内。榎本と中西、そして、会長を乗せた車内に。鶴屋と仗助の声が響き渡る。
『会長』の腹部に開いた巨大な穴を、『クレイジー・D』が癒してゆく。しかし、様子がおかしい……『血液』が足りないのだ。
「妙なんだよ、コイツ……いくら『クレイジー・D』で治しても、血液が戻ってこねえ! 明らかに『足りね』ぇんスよ、『鶴屋』さん!
そっちの『エノモト』って子もそうだ……理由はわからねえが、こいつらは直接『輸血』しなきゃだめだ!
こいつらに足りない『血液』は、もうこの世に『ねぇ』んスよ! 多分『スタンド攻撃』をうけたんだ、そうとしか考えられねえ!」
仗助の言葉を皮切りに、車内の救急隊員たちが、会長と榎本の二人に、輸血を行う準備を始める。
しかし……仗助は、口には出さずに、心中のみで呟く。
『会長』と呼ばれる少年が受けた、あの傷。明らかに心臓を破壊していたあの傷では……おそらく、この少年は、もう――――
prrr! prrr!
「! 『古泉』君だっ!」
突如、鳴り響いたのは、鶴屋のポケットの中の携帯電話だった。
『コイズミ』。先ほど、十数分ほど前に、鶴屋が連絡を試みようとして、失敗した相手の名が、たしかそんな名前だった。
「もしもしっ、古泉君!? 『閉鎖空間』は終わったのかいっ!? あたしのメッセージは、聞いてくれたっ!?」
鳴り響く着信音に応じた鶴屋が、矢継ぎ早に言葉をつむぐ。電話口の向こうに居る人物の声が、仗助の耳にも、かすかに聞こえる。
「……ウソぉ!? 『キョン』君が……そんな! 最悪じゃないかっ!?」
『キョン』。また、新たに、仗助の知らない人物の名前が、鶴屋の口から飛び出す。
ただならぬ様子で通話を続ける鶴屋の言葉を、それとなく耳に流し込みながら、仗助は治療を続けた。
肉体的な外傷はほぼ完治した。あとは問題の血液だけだ。救急隊員たちが、手馴れた様子で、点滴のチューブを持ち出し、『会長』と『榎本』の腕に針を刺す。
「……! 脈拍が……わずかですが、戻りました!」
不意に、一人の救急隊員が、声を上げる……その視線の先には、『会長』の心電図を探知するモニタが在る。
しかし―――。
「『わずか』だって……? おれの『クレイジー・D』で、身体は『治って』るんだぜ!? 『輸血』で血液が足りたなら、完全に『復活』するはず……!!」
「『会長』君! 会長君、目を覚ましておくれよ! 会長君!!」
いつの間にか、『古泉』との通話を終えていたらしい。鶴屋が、ベッドに横たわる会長の身体を揺らす。
しかし……『会長』は、目覚めない――――
「……? 待てっ、『鶴屋』さん!!」
「何だいっ!? 待っておくれよ、ジョースケ君! 今、会長は『目覚める』から! だから……」
違う! 会長の身体にしがみついている、鶴屋には見えていない……
『会長』は―――『目覚め』ている!
「……『左腕』だ! 『会長』の左腕を見ろ、『鶴屋』さん!!」
「えっ……!?」
……点滴の針を刺された、『会長』の左腕。
仗助は見た。その指先が、僅かに―――本当に、ほんの僅かに。『動く』のを―――!!
「『会長』……?」
鶴屋が、会長の身体を離れ、その様子をじっと見詰める。
『会長』の左腕が……僅かに、少しづつ。まるでナメクジが動くかのように、ゆっくりと……『どこか』を目指して、『動いて』いる!!
「おい、『会長』の脈はどうなってんだァ―――!!?」
「かっ、変わっていません! 『わずか』……ごく『わずか』です!」
会長の左腕は……自らの胴体の上を這うようにして、ずりずりと、少しづつ動いてゆく……
そして、その『左手のひら』が、『右胸』に達したところで……
―――『止まった』。
「……『脈』が……再び、とまりました……!!」
救急隊員の声が、ロック・バラードの最後を飾るピアノのように……ゆっくりと、その事実を告げた。
やはり―――仗助は、思った。『会長』の生命は既に、『終わって』居たのだ……彼の魂は、既に―――!
しかし、最後に。彼の魂は、ほんの『わずか』な間だけ、この世へと帰ってきた。
「『鶴屋』さん……『会長』の、最後のメッセージだ……この『ポーズ』は!!
おれにはなんとも見当がつかねぇ! いったい、この『ポーズ』に、何の意味があるのか……
だが! 『会長』は、最期に……おれたちに……、誰かにこの『ポーズ』を伝えるために、一瞬だけ『帰って』きたんだ!!」
鶴屋は、仗助を一瞬振り返った後。意を決したように、手の中の携帯電話に視線を向けた。
そして、その機体を、ベッドの上で『眠る』、会長の姿へと向ける。
ピロリ。と、この場にはとてもではないが、不釣合いな、軽快な電子音が鳴り響く。
「……『ファンク・ザ・ピィィ―――ナッッッツ、一号ォ―――』!!!」
鶴屋の身体から湧き出す、『スタンド』。彼女の長い髪の毛を振り払うようにして、彼女の背中から、小さな『赤いスタンド』が出現する。
「……『オジョウサマ』!! スデニ『ワカッテ』イマス……この『ワタシ』の『役目』ハ!!」
現れた『ファンク・ザ・ピーナッツ一号』は、機械音的な声でそう告げると。鶴屋の手の中から、『携帯電話』を奪い取った。
「『一号』!! その写真を……会長の最期の『メッセージ』を、届けておくれ――――『あの子』に!!」
「『YAEHHHHH』!! ワタシの『鼻』ハ! 『カレ』を『捜索』シ、『追跡』イタシマス!!」
「おい、待ちな、『パンピー』だか、『カンピー』だか!!」
救急車の窓を突き破り、外界へと飛び出そうとした『ファン・ピー一号』を、仗助が呼び止める。
「よく分らねぇよ、正直。この街で、アンタらの周りで、何が起きてるのか……だがよォ―――! アンタが『あの男』の元に向かおうとしているなら! 『コイツ』を持っていきな!!」
仗助は、言葉とともに。その、赤く、小さなスタンドに向けて、自らの胸から引きちぎった、『それ』を投げつける。
従順な猟犬のごとく、『それ』を受け止める『ファン・ピー』。
「……『O・K』デスワ、『ミスター・ジョースケ』! 『オジョウサマ』、イマイチド、確認イタシマス!
ワタシハ―――『カレ』を『引き寄せる』! そして、『カレ』を『守る』! マチガイハ、アリマセンネ!?」
「『O・K』だよ、『ファン・ピー』ちゃん!! あたしは、君に運命を『託す』!!
行くんだよ、! 『彼』の元へ……『奴』の元へェ――――!!」
鶴屋の指令と同時に。『ファン・ピー』は、開かれた僅かなドアーの隙間(咄嗟に、ドアーを開けた救急隊員はエライ!)から、外界へと飛び立っていった。
……一転して、静寂に覆われた車内。仗助は、ベッドの上の『会長』を見る。
『死』してなお。『未来』への『メッセージ』を残した、その少年の『体』を――。
「……『生きている』アンタに会ったことも、まともに喋ったこともねぇ。アンタがいったい、ドコの、何の『会長』なのかすら、知らねェーがよ。
……『会長』さん。アンタは、立派だったぜ……
このおれ、『東方仗助』が……思わず、敬意を表しちまうくらいにな……!」
呟くと同時に、仗助は、警帽を脱ぎ……まるで、『あの人』のように、短く刈られた頭髪の上に、右手を当てがった。
それは、仗助にとっての『敬礼』の姿勢だ……余談ではあるが。これは、彼、仗助自身も知らないことではあるが。
その姿は――数十年前。ある『男』に対して、仗助の父が取った『敬意』の証となる姿と、とてもよく似ていた――――
鶴屋が、言う。
「『一号』ちゃんの声は、『二号』が聴くことができる!
もし、本当に……『彼』が、『奴』と接触することがあるなら!
あたしの『ファン・ピー』ちゃんは、全力で彼を『守る』!!
『ジョースケ』君! もしものときは、お願いして、いいかなっ!?」
そして、仗助が言う―――!
「任せてくだせェ――よ、『鶴屋』さん。
……ったく、遥か『西宮』に『異動』されて、初っ端が『コレ』たぁ、おれも運がねェーぜ……
だがよォ―――。もし、この街に……!
『あの野郎』みてーな『ゲス野郎』が居て、そいつが暴れてるってェ―――なら!
おれはトコトン『ツイてる』とも言えるかもしれませんぜェ―――!」
そして、仗助は、『理解』する。
今。『東方仗助』巡査は。
再び―――いや、『三度』。
『スタンド』をまつわる『戦い』の渦中に立っているのだと――――!
――――
仗助と鶴屋が、『ファン・ピー』が飛び立った後。車内の時計で確認した時刻は、午後1時40分。
それから、時は僅かに前後する。
―――
畜生。俺は、去年から総計して、何度この言葉を吐いただろうか。
心中で呟いた分を含めれば、おそらくその数は、百にいたるかいたらないかになるだろう。
兎にも角にも。聴きなれた携帯電話のコールで、無理矢理に夢から覚まされた俺は。勝手の分らぬ室内を出鱈目に荒らしまわり、外出の準備を行っていた。
「ああっ、畜生!! 『古泉』の野郎、なんでこんな腰の細いジーンズばっか持ってんだよォ、あの野郎ォ――!?」
他人の住まいであり、無人の住まい。その状況下で、俺が平静を保つことなど、とても出来はしなかった。
『佐々木』からの、あまりに遅すぎ、そして、危うすぎるモーニング・コールを受けてから、三分ほどが経過している。
まずい。一刻でも早く、『佐々木』の元に向かわなければ。古泉には連絡がつかない。『現状』で、この『現状』に対応できるのは、つまるところ、俺しか居ないわけだ。
「古泉ぃ! おれは『橘の家』に行く! 『佐々木』から聴いた―――一刻を争う事態なんだ!!」
陳腐な留守録のメッセージに、声を荒げ、短くそうとだけ告げ―――結局、汗と雨水で濡れたジーンズのまま、外界へと飛び出した。
時刻は、一時二十分。ここから、佐々木の居る、『橘の家』まで、どれほどかかるだろうか。
いや、それ以前に。
「『橘の家』は……『何処』だ!? 考えて見れば、おれはあいつの家が何処にあるかなんざ、聴いたこともねぇぞ!?」
うかつだったのは、その場所を聞かなかった俺か!? それとも、伝えなかった『佐々木』か!?
いや、『佐々木』は、『橘』の状態を見て、動揺していた―――まずかったのは、俺だ! 俺がもうすこしだけ、冷静でいたなら―――!!
……佐々木にもう一度連絡をして、『橘の家』が何処にあるかを聴くか?
いや、しかし……あの『佐々木』の動転の具合からして、それを正確に、俺に伝えられるかは難しい。
「ックショォ!! どうすりゃいい!? 『古泉』を呼ぶか―――いや、あいつには繋がらねえ! きっと、『閉鎖空間』に居るんだ!
じゃあ、『フーゴ』か、『ミスタ』か、『鶴屋さん』か!? しかし、あいつらが『橘の家』の場所なんか、知ってるかよ!?」
此処は機関の『寮』だ。適当にそこらの部屋のインターフォンを鳴らせば、運良く、『橘』の住居を知っている誰かに巡り合えるかもしれない。
しかし、そんな場合じゃないんだ。今すぐに。一秒でも、コンマ一秒でも早く、『橘の家』―――『佐々木』の元に向かわなければいけない!!
……感じる。
俺は、突然のモーニング・コールに、慌てすぎていた。その所為で、俺のスタンド……『ゴッド・ロック』の能力の存在すらも、忘れていた。
「……『ゴッド・ロック』……お前、『出てきてくれた』のか……!!」
いつの間にか。背後に立っていた、漆黒の巨体に向け、俺は言葉をかける。
『ゴッド・ロック』は、俺の言葉を肯定したのか、否定したのか……理解しがたい、奇妙な視線を俺に向けると、再び、俺の身体の中へと返っていった。
……感じる!!
「『感じる』ぜ、『ゴッド・ロック』……お前の能力が! 『スタンド』の発動を、感知している!!
此処から、決して遠くない……そこが、『橘の家』なんだな、『ゴッド・ロック』!!?」
俺の問いかけに肯くものは居ない。しかし、その問いが過ちでないことが、俺の体の深遠……『ゴッド・ロック』の在る場所から、告げられる。
俺は一目散に階段を駆け下り、アスファルトの地面へと、足の裏を突き込んだ。
……やはり、『感じる』。この近くだ! とても近くに――佐々木の居る、『橘の家』が在る!!
「『ゴッド・ロックゥ――』!! 決して! その『感知能力』を解除するな!!
おれが何処へ走ればいいのか……それを! このおれに『教えて』くれ!!」
……精神の深遠で。『ゴッド・ロック』が、肯いた。
俺は、その『神』の導きにしたがって……アスファルトの上を、駆け出した。
―――現在。時刻は、午後一時三十分―――
本体名 − 西宮北高校生徒会長
スタンド名 − ジェットコースター・ロマンス ……再起―――不能?
to be contiuend↓
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 − 「クレイジー・ダイヤモンド」
本体 − 東方仗助(19歳)
破壊力 − A スピード − A 射程距離 − D
持続力 − B 精密動作性 − A 成長性 − C
能力 − 手(拳)で触れたもの・生命を治す能力を持つスタンド。
また、そのスタンド自体の破壊力・スピード共に、他のスタンドの追随を許さぬ、圧倒的な戦闘力を持つ。最強レベルのスタンド。
『スタープラチナ』と比較すれば、スタンド自身は自意識を持たず、本体の意思に基づかない防御や、攻撃が行えないことが、唯一の弱点。
いくら治癒の力を持つとも言えど、死によって魂が失われてしまった生命体を蘇生することだけは出来ない。
また、本体の受けた負傷を治癒することも不可能。
―――――――――――――――――――――――――
452 :
マロン名無しさん:2009/09/20(日) 01:09:37 ID:B/nIJHbJ
乙
俺の所為で500KBが近い
次スレたてようか?
埋めついでに
アフターロックのジェットコースターロマンスはかなりありだと思う