【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
優勝賞金は10億円。
また、1億円を主催者側に払うことで途中棄権の権利が購入できる。
参加者には食料などの他1000万円分のチップが支給され、
他者からの奪取やギャンブルルームでのやりとりが許されている(後述)。
ちなみに獲得した金はゲーム終了後も参加者本人のものとなる。
【支給品】
数日分の食料と水、1000万円分のチップ、地図、コンパス、筆記用具、時計
以上の物品が全員に均等に振り分けられる他、
ランダムに選ばれた武器や道具が0〜3品支給される。
【ギャンブル関連】
主催者側が管理する「ギャンブルルーム」が島内に点在。
参加者は30分につき1人100万円の利用料を支払わなければならない。
施設内には様々なギャンブルグッズが揃っており、行うギャンブルの選択は自由。
また、賭けるものは、金、武器、命など何でも良い。
ギャンブルルーム内での暴力行為は禁止されており、過程はどうであれ結果には必ず従わなければならない。
禁則事項を破った場合、首輪が爆発する。
【首輪について】
参加者全員に取り付けられた首輪は、以下の条件で爆発する。
・定時放送で指定された禁止エリア内に入ったとき
・首輪を無理矢理取り外そうと負荷を加えたり、外そうとしたことが運営側に知られたとき
・ギャンブルルームに関する禁則行為(暴力、取り決めの不履行等)を犯したとき
なお、主催者側の判断により手動で爆発させることも可能である。
【定時放送】
主催側が0:00、6:00、12:00、18:00と、6時間毎に行う。
内容は、禁止エリア、死亡者、残り人数の発表と連絡事項。
【作中での時間表記】 ※ゲームスタートは12:00
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
真昼:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【主催者】
兵藤和尊(帝愛グループ)@賭博黙示録カイジ
蔵前仁(誠京グループ)@銀と金
在全無量(在全グループ)@賭博覇王伝零
【参加者一覧】
【アカギ 〜闇に降り立った天才〜】6/8
○赤木しげる(19歳)/○南郷/●安岡/○市川/●浦部/○治/○平山幸雄/○鷲巣巌
【賭博黙示録カイジ】5/7
○伊藤開司/○遠藤勇次/●船井譲次/●安藤守/○石田光司/○利根川幸雄/○佐原
【賭博破壊録カイジ】1/4
●大槻/○一条/●坂崎孝太郎/●三好智広
【賭博堕天録カイジ】2/3
●坂崎美心/○村岡隆/○兵藤和也
【銀と金】3/8
○森田鉄雄/○平井銀二/●有賀研二/○田中沙織/●神威秀峰/
●神威勝広(四男)/●吉住邦男(五男)/●川松良平
【天 天和通りの快男児】4/4
○天貴史/○井川ひろゆき/○原田克美/○沢田
【賭博覇王伝零】2/4
○宇海零/○板倉/●末崎/●標
【無頼伝涯】1/3
○工藤涯/●澤井/●石原
【最強伝説黒沢】4/4
○黒沢/○仲根秀平/○しづか/○赤松修平
【残り28/45名】
【予約について】
キャラ被りを防ぐため、任意で自分の書きたいキャラクターを予約することができます。
したらばの「予約スレ」に、トリップ付きで予約するキャラクターを宣言をしてください。
有効期間は予約当日から72時間(3日)。
期限が切れても投下はできますが、混乱を招くため歓迎されません。
間に合いそうにない場合は、【期限が切れる前に】延長を申請するか、予約破棄宣言をお願いします。
延長申請がない場合、予約は解消され、そのキャラクターはフリーになります。
【他、書き手の注意点】
作品投下はトリップ必須(捨てトリ可)。
内容に自信がなかったり、新たな設定を加えたりした場合は
本投下前にしたらばの「一時投下スレ」に投下するとアドバイスをもらえます。
さるさん規制を喰らった場合もそちらにどうぞ。
6 :
1:2009/04/21(火) 22:26:48 ID:???
>>1乙
前スレの1だけど、スレタイ間違ったままコピーしちゃったのね・・・。
次スレの時はよろしくお願いします。すいません。
8 :
1:2009/04/21(火) 22:53:52 ID:???
な ん と …
いや、全く気が付きませんでした
よく見たら前スレでも指摘していただいてましたね
本当にすみません
これは焼き土下座するしかないのか…
>>1乙です!
福本バトルロワイ「ヤ」ルについては、もうこのままでいいんじゃないだろうかw
このスレタイに愛着わいてきたw
wikiにキャラ追跡表の原型ができてましたな
まとめの中の人お疲れ様です
前スレが書き込めなくなったのでこちらに…
前スレの
>>941様
937です。こちらこそ、状態欄に注釈入れるとかしておくべきでした。
ほんと申し訳ないっ…! 失礼しました。
焼き土下座>orz
火
まとめサイトをアップしたものです。
なんとかキャラクター追跡表を完成させました。
始めは漫画ロワのようにと考えておりましたが、
そのキャラクターの足取りを追えるような形が良いだろうと
思い、この形になりました。
もし、間違いなどがございましたら、ご連絡ください。
書き手紹介は別に時間を設けて、作りたいと考えております。
ここでご質問してもよろしいでしょうか。
一部のロワの書き手紹介のように、
皆様から、その書き手さんの紹介文のようなものを
したらばで専用スレをつくって募集してみたら
面白いのではないのかということを考えておりますが、
悪意のある書き込みも出てくるのではないのかという
懸念から、この紹介文を採用するかどうか、
迷っております。
どうか、ご意見をお願いいたします。
>>12 おれは良いかな
したらばならそのスレ見るの避けておけば問題ないし
ご返答ありがとうございます。
今、考えているのは、書き手紹介の形式はジョジョロワ2ndのタイプで、
書き手さんの作品を羅列した後、箇条書きのように紹介文を書いていくという感じです。
紹介文はしたらばに専用スレを設けて、
不適切な文章でなければ、随一、書き手紹介へ張り付けていきます。
今日、体力に余裕があれば、夜11時頃には、書き手紹介の原型をアップすることが出来るかと思います。
ゆっくり待っていただけると有難いです。
すいません。
今、ジョジョロワを確認したところ、
コメントはコメント欄が設けられており、
そこに書き込んでいくことに気づきました。
そのため、したらばに専用スレではなく、
書き手さんのページにコメント欄を設けるという
形をとってよいでしょうか?
書き手紹介完成しました。
各書き手さんへのコメント欄は勝手につけてしまいました。
もし、不必要であれば、すぐに撤去します。
コメント欄よりしたらばの方が書きやすい気はしないでもないかな
両方並行してやるのがいいかも
ご連絡ありがとうございます。
確かにしたらばであれば、どこまでコメントとして許されるのか、判断ができますね。
したらばにも書き手紹介スレを作ってみます。
明日お昼までには完成すると思います。
あと、問題ないコメントは随一、その書き手さんのページに貼っていくというスタンスは継続で問題ないでしょうか?
>問題ないコメントは随一、その書き手さんのページに貼っていくというスタンス
いいと思いますよ〜
なんでもいいっ…!ただ保守したいっ…!
書き手さん
まとめサイト編集者さん
死者スレ書き手さん
みんないつも乙&これからも楽しみに投下・更新待ってます
投下します。
24 :
決意1/8:2009/04/30(木) 23:33:19 ID:???
「薄暗くなってきましたね…」
治は、隣に座っている石田に向かってつぶやいた。
中根に襲われた後、二人はアトラクションゾーンから少し離れた森の中に身を隠していた。
後ろを振り返れば見えるのは海。
だが、ここから海面までは数十メートルもの高い崖になっており、しかもごつごつした岩場。
とてもここから飛び込んで助かりそうな雰囲気ではない。
「ああ、そうだね…。さっきまでいたB-3が禁止エリアになってしまったね…」
薄暗く物が見えにくい視界の中で、地図に目一杯顔を近づけながら石田が言う。
「早くここから離れたほうがいい…。今いる地点はB-2、隣のエリアから誰がこっちに向かってくるかわからない…。
いったん南の方角に移動したほうが…」
「そうでしょうか…。」
「え…?」
治の返答に、石田は怪訝な顔をする。
「危険エリアの周辺から動こうとする人は、島の西側に行くか、下半分を目指して南下すると思うんです。
首輪が爆発するという恐れのため、禁止エリアからできるだけ離れたい…そう考えるからです。
だから、今オレ達がここからB-3を避けて南下すれば、誰かと鉢合わせになる可能性が高い…。
それが、天さんのように良い人だったらいいんですけど、さっきみたいに襲われる可能性もある…。」
「そ、そんな…」
「だから、逆に動くんです」
「逆…?」
治は地図を掲げ、説明する。
25 :
決意2/8:2009/04/30(木) 23:34:21 ID:???
「ここから北のほう、A-2、A-3をアトラクションゾーンの周りを迂回するように進むんです。
それなら、他の参加者の行動時期とずらした時期に、西のほうへ進むことが出来ます。
島の端を通っていくようなことする人は、他にはあまりいないんじゃないでしょうか…?
こんな端っこまで来ても何もないですから。
…もし、いるとしたらオレ達と同じような思考に陥った人…とにかく逃げたいと考える人くらいだと思います。
そういう人なら仲間にできるかもしれません。」
「な、なるほど…。」
石田は頷いた。
「だけど…」
「はい?」
石田が言い淀んだのを見て、治は言葉を促した。
「今はそれでもいいが、ただ逃げてるだけでは、どうにもならない…。
さっきみたいな危険な目には遭いたくないけど、誰かと遭遇しないと物事は前に進まない…。」
「…それはそうですけど…。」
治が言いかける前に、石田は言葉を続けた。
「実は…、オレには、探している人物がいるんだ…。
間違いなくオレ達の仲間になってくれる…!そういう人物…!」
26 :
決意3/8:2009/04/30(木) 23:35:13 ID:???
B-2からA-2、A-3へと周囲を警戒しながら歩を進め、二人は話をした。
「石田さんが探している人って、なんて名前なんですか?」
「ああ…。伊藤開司…。カイジ君って言うんだ。」
「カイジ君か…。…実は僕も探してるんです。赤木しげる…アカギさんって人を」
「…その人は、仲間になってくれそうなんだね…?」
「……いえ、それは状況次第かと…。一人で行動するほうが性に合っている人ですし…。
ただ、オレや石田さんのような人を襲ったり、騙したりはしないと思います」
「…へえ、一本芯の通った男なんだね」
「いやあ…俺達じゃあ勝負の相手にならないからだと思います…」
治は苦笑いした。
「でも、仲間になるつもりがないのなら、何故そのアカギって人を探してるんだい…?」
「……力になりたいんです」
「え…?」
「オレがこの島に来てから、見たこと、聞いたこと…それを伝えたい…。
それがどんなに些細なことでも、情報が何かのきっかけ…突破口になるかもしれない…。
あの人はきっと情報を求めているはずなんです…。このゲームの解れを見つけるために…」
「解れだって…?」
石田は聞き返した。このゲームに解れがあるなんて、全く発想の外。そんな風に考えたこともなかった。
「そうです…。今はまだ雲をつかむような話ですが…。
この殺し合いゲームだって、同じ人間が考えた仕組みなんだ。
何かルールの抜け道があるかも…。いや、あるに違いないんです」
治は自分に言い聞かせるように言った。確証などない。だが、そうとでも考えなければ希望が無い。
27 :
決意4/8:2009/04/30(木) 23:36:30 ID:???
「可能性を信じなければ前に進めない。それに…」
言いかけて、治はひとつ息をついた。
「石田さん…。オレたち、このままじゃ駄目なんです。」
「え…?」
「このゲームには数々の猛者、悪人、裏社会の住人、ヤクザ…。ありとあらゆる人間が参加している。
…なんでオレや石田さんのような一般人までつれて来られているんでしょうか…?」
「な、なんでって……」
「ゲームの主催者が、オレ達に期待していることは何だと思いますか?」
「…………」
石田は俯き、苦い顔をした。
「怯え、逃げ惑い、惨めに死ぬことかな…。」
「……そうでしょうね。オレたちは奴らにナメられてるんです。
主催の奴らの思惑通りになるなんて、まっぴらご免じゃないですか。
だから、まずはオレたち、しぶとく生き残ってやりましょう。
その上で、自分にできる範囲で、このゲームに反抗するんです。」
石田は治の顔をまじまじと見た。第一印象はごく普通の朴訥な若者だったが、
この治という人間にもどこか、カイジのような芯の強さを感じた。
「…君は、強い子だね。オレなんかとは違って…」
「…そんなんじゃないですよ…。オレには憧れている人がいて…。それがアカギさんなんですが…。
同格になんかなれないまでも、少しでもその精神に近づきたいんです。
そう考えることで自分を鼓舞することができるんです」
「……そうか……」
それでも、石田には治が強い人間に思えた。
憧れている対象に自分自身も近づこうと、前向きに考えられることが、その強さの証明であると思った。
28 :
決意5/8:2009/04/30(木) 23:37:16 ID:???
「ところで、石田さんはゲーム開始から今までで、何か気がついたことってありますか?」
「…そうだなあ…。今回は、参加者の支給品に差があって、不公平なところが今までと違うかな…」
「えっ…?『今回』…?」
「……今回のゲームほどあからさまに『殺し合い』ではないけれど…。
参加者同士で死ぬか生きるかを賭けるようなゲームに、以前にも参加させられたことがあるんだ。
このゲームの主催者…帝愛に…」
「ええっ…?そうなんですか!?石田さん…」
「……オレはそこで一度死んだ…」
「……?」
「主催の気まぐれでこうして生かされたんだが…。オレは確かにあのとき一度、死んだんだ…。
74メートルの上空から落ちて…」
石田は、そのときの状況を治にかいつまんで話した。
落ちた直後、前後不覚に陥ったため、どうやって助かったのかは分からない。
また、他の落ちた連中が助かったのかどうかも全く知らない。
ただ、助かったことで分かったことがある。
自分は死ぬ権利さえ剥奪されたのだ。
あのとき、自分は確かに死ぬ覚悟をした。
いや、そんな格好いいものじゃない。死ぬ道しか選べなかったのは自分の弱さの為だ。
足が竦んで動けなくなり、橋を渡りきる道を選べなかったのだ。
しかし。現実は帝愛の都合で生かされ、また死ぬか生きるかのゲームに放り込まれている。
この島に来てから、ただ怯えることしかできなかったが…。
今、思い巡らせて見ると、あまりにも人を馬鹿にした話じゃないか。
船のときも、鉄骨のときも、借金という負い目のため、帝愛に対する底知れぬ恐ろしさのため、見えていなかった。
だが、この殺し合いをしろというゲームには、そんな負い目さえ覆すような理不尽さを感じた。
29 :
決意6/8:2009/04/30(木) 23:43:08 ID:???
船でカイジに救われた後、カイジが会場の中で暴れ、怒鳴り散らしていたのを思い出した。
『悔しくねえかっ…! 悔しくねえのかよっ…!』
悔しい。
そんな感情が湧いたのは久しぶりだった。
あまりに負け続けの人生で、負け癖がついていて、怒りの感情が麻痺していたのだ。
「このままじゃ、奴隷だ…!奴らの玩具だっ…!」
「石田さん…」
じっと話を聞いていた治は、石田の肩に手を置き、言った。
「生き延びましょう…。それで、見せてやるんです。オレたちの矜持を…!」
「ああ……」
返事をしたが…そのとき石田は全く逆のことを考えていた。
自分が土壇場で弱い人間、足が竦む人間だということを、今でははっきりと自覚している。
治のように、自分の憧れている人間の力になるなどと、そんな風には考えられない。
そうだ……オレはカイジ君の足手纏いになってしまうのではないか。
助けてもらおう、カイジ君なら何とかしてくれる、なんて虫のいいことを考えていたけれど。
ぐにゃあ…と、足元の地面が崩れていくような感覚に襲われた。
鉄骨の上で感じた感覚とはまた別の、自分の内側、根幹が揺らいでいくような感覚。
30 :
決意7/8:2009/04/30(木) 23:45:25 ID:???
自分には何も出来ない。何の役にも立たない…。
これなら…どこかで一人野たれ死んだほうがましなんじゃないか…!
激しい無力感…絶望感に、その場に座り込みそうになった。
いや。待てよ。
ふと、先ほど治が襲われ、自分が窮地を凌いだことを思い出した。
そうだっ…! 今のオレにはこれがある…!
市川から奪ったコート、捲ると、内側には夥しい数のダイナマイト。
先ほどのように、自爆覚悟で、爆発させると脅して敵を怯ませ、退けることができる。
そして。
ふと、天が市川に向かって言った言葉を思い出した。
『考えてみろ…!あんたがくくりつけてんのはダイナマイトだろうが……
それだけの量があれば、このふざけたゲームをひっくり返せるんだぞ……!』
そうだ…。このダイナマイトは重要…!
大事な局面で使えば、このゲームを覆すことが出来る代物っ…!
そのためには。
自分に、玉砕する覚悟があればいい。
(手助けはできなくとも…。死ぬ覚悟ならできるっ…!
一度『死んだ』オレだから…だからこそ………!)
治の後を歩きながら、石田は一人、決意を固めた。
それが…精一杯の彼の矜持…目立たない克己…!
【A-3/アトラクションゾーン沿いの森/夜】
【治】
[状態]:後頭部に打撲による軽傷
[道具]:拡声器
[所持金]:0円
[思考]:石田と逃げる アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す ゲームの解れを探す
【石田光司】
[状態]:健康
[道具]:産業用ダイナマイト(多数) コート(ダイナマイトホルダー) ライター
支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:治と逃げる カイジと合流したい カイジのためなら玉砕できる
乙。石田さん頑張れ!
投下乙です
石田さんっ…!
石田さん頑張れっ……!
誤字発見しました
中根じゃなく、仲根ですね
>>33 やってしまったっ…!
「仲根」ですね…失礼しました。
作品投下、ありがとうございます。
治&石田さん、一般人の矜持を見せてください。
乙です!
石田さんと治は福本ロワイアルでも珍しい一般人(笑)
頑張ってほしいです。
ところで、皆さんに一つ聞きたいのですが、
皆さんが考える福本ロワイアルをイメージ指せるような曲ってありますか?
特に意図はなく、何となく知りたいなぁと思いまして…。
>>36 歌…バクホンの「鎮魂歌(レクイエム)」かなぁ…
戦場とか死神とかが歌詞に出てくる。
「華奢なヒーロー 誰だって 守るべきものがある」という歌詞が好きだ
投下します。
夜の闇は全ての参加者の上に等しく訪れる。
眼が見える者にも、眼が見えぬ者にも。
市川は、闇を視覚では感じえなかったが、夜の気配は臭いで嗅ぎ取っていた。
「……暗かろうが明るかろうが、儂にとってはどちらにしても同じじゃが……。」
この闇は眼あきの奴等にしてみれば多少は心細いかもしれんの、と、声には出さずに哂った。
仲根は焦っていた。
『聞けっ……!ここに一千万ある……!!得たくば、奪いに来いっ……!!』
あの声を聞いてから、かなりの時間が経った。
途中、二人連れの男に出遭ったが、彼等は大量のダイナマイトを持っていた。
その量に恐れをなし、逃げるようにその場を去ったのだが。
それ以降いくら歩いても、目標である声の老人に出会うどころか、ますます人の気配から離れていくような感覚がするのは気のせいか。
ついに夕日が落ち、第一回目の放送を聞いた。思ったよりも多くの参加者が死んでいた。黒沢の兄貴の名前はその中には無かったが。
……多くの者が死んでいる、ということは、多くの者が殺されている、ということ。
それだけ多くの殺戮者がこの闇にはまぎれているのだ。
もはや、自分は狩る者であるとは限らない。
「殺さなきゃ……。……殺される前に!!」
このまま無駄に歩き回っても、疲労のみが蓄積されていく。
仲根の心にも、闇は少しづつ浸透していった。
「おおーい!! どこだぁーーーーっ!!」
闇の中から、まだ若い男の叫ぶ声が響く。
市川は見えない眼を声のする方向へ向ける。
「……おやおや、ずいぶんと判りやすいことを……」
思わずつぶやいてしまったが、この相手なら聞こえても問題は無いだろう。
「ここじゃ! ここまで来い!!」
もう拡声器は手元に無かったが出せるだけの大声で、声が聞こえたのとは違う方へ向けて怒鳴った。
その声に驚いた声の主が思わず声をあげたのは、やはり市川が怒鳴った方であった。
「……ひっ……!!」
仲根は度肝を抜かれてしまった。なぜ、自分がいる場所が相手に知れたのか。
最初に出遭った少年には、一時的にとはいえ通用したICレコーダーが、この老人には役に立たない。
敏感な市川の耳は、ICレコーダーの声より早く仲根のたてるわずかな物音をとらえていたのであった。
「……何じゃ、来んのか。
なら、儂から行くぞ」
杖を持たない盲人の市川は、地面に這いつくばりながら確実に仲根との距離を狭めて行った。
眼を使わずに手探りで進むその姿は、明らかに異形の者。
「お前は、先ほどの儂の声を聞いて、たかだか一千万ぽっちの金に興味を持って来たものであろう。
金ならくれてやる。
ほれ、受け取れ」
市川は一千万円分のチップを、たじろぐ仲根に向けて無造作に投げ散らした。
たしかに金は欲しい。黒沢と自分の為に。
しかし、参加者なら誰だって欲しい筈の金に執着しないこの老人は一体何者。
「儂が怖いのか?
安心せい、儂はただのめくらの爺じゃ。
何で儂が、お前に軽々しく一千万もの金をくれてやるか?
……それは、ここにもう一千万持っておるからじゃよ」
そう言って市川は、更に一千万円分のチップを見せびらかした。
仲根は市川を恐れた。
一千万円以上の金を持っている、ということは、殺戮者である可能性が有る!
一瞬、逃げるかそれとも殺してしまおうか! と考える仲根を見透かす様に市川は続ける。
「金を集めておる、ということは、お前さんも踊らされておるようだの。
無駄じゃ。
仮にお前さんが一億円集めたところで、このゲームから降りることはできぬ。
バトルロワイアルの主催者共は、そんなに甘くはないぞ。
こんな金には意味が無い、ということだ」
「うるさい!」
仲根は、辺りに飛び散った金を拾うこともなく、逃げ出した。
「行っちまったか……。人の話を聞かねぇ奴だ……。
杖がわりにこきつかってやろうと思ってたのによ……。
まあいい、こいつは使えるかもしれねぇな」
市川は、仲根が残していったICレコーダーを拾い上げた。
走りながら、仲根は市川が発した言葉の意味を考えていた。
「……金を集めても無駄、だと?」
気配からして、あの老人は只者では無い。
そして、本当に金をぞんざいに扱っていた。扱いがぞんざいなのはその命のほうもだったが。
俺は本当にこのゲームに踊らされて、人殺しをしているのか?
「わかんねぇよ、兄貴……」
黒沢は今、どうしているだろう。
生き延びている、ということは、どこかで戦っているのだろうか。
こんな時こそ、黒沢に全てを打ち明けて相談したかった。
今更ながら、黒沢に出会ったタイミングが悪すぎたことが悔やまれる。
「……このバトルロワイアルって奴は、俺一人の手には余るやっかいな代物だ……」
仲根は立ち止まった。
「そういえば、あの爺さんは眼がが見えないって言ってたよな……」
地面を這いつくばっていた。もし眼が見えていれば、そんな無用心な格好はしないだろう。
「……あの爺さんを脅して、更に情報を聞き出す……もしふざけた事を言うようなら、殺せばいいだけのこと……」
仲根は注意深くナイフを構え、今来た道を戻り始めた。
「戻ってきたか」
仲根が市川に気づくより早く、市川の方から仲根に呼びかける声がした。
仲根は慌てて声のした方へ振り向く、と誰もいない。
「しまった!」
と思った時にはもう遅かった。足を何者かに掴まれて転倒、思わずナイフを取り落としてしまう!
「ICレコーダーとは便利だの。
自分の道具を相手に使われたのが、そんなに意外だったかい?
こんどこそ、ゆっくり儂の話を聞いて見る気になったか?
……まあ、儂の言うとおりにしなければどのみちお前はいづれ死ぬ。
誰かに、殺されての……」
市川は仲根の顔を見上げ、ニタァッと哂った。
仲根は、自分の足にしがみついている市川が心底恐ろしかった。
底が知れない。
思えば、このバトルロワイアルに参加するまで仲根が戦ってきた相手は、肉体的には強い者もあったが精神的にどこかに弱さを持った者がほとんどであった。
真に心の強さをも併せ持った男は、黒沢以外には皆無。
しかし、この老人はどうだろう。
ナイフを持った大柄な体格の仲根に対しても、年老いた細い体で無謀に見えるほど物怖じせずに立ち向かい、余裕の表情すら見せている。
盲目であることは本当らしい。だが、拡声器での発言といい仲根に対する態度といい、この殺人ゲームの真っ只中にいるとは思えないほどのふてぶてしさ。
そして、その真意がわからない。
「……あんたの目的は」
「まあ、そう焦るな。
お前さん、怖いのだろう?
儂の目的は、このふざけたゲームをひっくり返すことじゃ。
儂の目論見どおりに事が進めば、これ以上死者は出ぬ」
仲根は耳を疑った。
「考えてもみるがいい。
こんなゲームを行って、参加者に何の得がある。
儂らは、この小さな島で主催者共の掌の上。
この首輪で繋がれて、常に奴等から監視され。
どれだけあがいても、奴等の気に食わなければ、一瞬であの世行きよ。
要は、死ぬまでにどれだけあがいて殺し合い、主催者を楽しませられるか、それだけが儂らの価値。
一億円払って、棄権だと? 甘い甘い。
それだけの金を集めるまでに、どれだけの犠牲が必要かね?
そして、一億円払ったとして、必ずしもバトルロワイアルから脱出できるという保障はどこにある?
そんなことも考えずに、お前さんは殺し合いに乗っていたのかい?」
言われるとおりであった。
市川の言うことが正しいのかどうかは判らない。
しかし、迂闊にも自分はこのゲームについて今まであまり深く考えず、ただ殺し合い金を集め黒沢を助けることばかり考えていた。
主催者に対する不信感は、平常時の仲根なら真っ先に感づいていたはずである。
だが、状況はあまりにも早く仲根を包み込み、深く考える隙を与えなかったのであった。
「……それでじゃ。
儂は、主催者共を倒そうと思う。
お前さん、協力してくれんか?」
仲根は答えず、考え込む。
主催者を倒し、このゲームが無効になれば、黒沢も自分も、その他の不幸な参加者達も助かるだろう。
確かに、市川は途方も無く頭が切れる。
しかし一参加者、しかも盲目の老人が主催者を倒すなどとは可能であろうか。
そして、自分が協力する意味、とは。
市川はほくそえんだ。
(……考えておる……。フフ、愚かなものよ。
主催者倒しなど、他の手空きの連中にさせておけばよい。
こやつにはせいぜい、ダイナマイトを取り返すくらいの働きをしてもらおうかの……)
「…………無理強いはせんよ。
そうだ、先程の一千万円とこの一千万円、計二千万円でお前を雇うというのはいかがかな?
さっきも言ったとおり、儂は眼が見えんものでな。
少しばかり、この辺りを歩くのを手伝ってくれると助かるのじゃが……」
仲根は顔を上げた。
「……悪い話じゃないな」
市川を信じるかどうかは別にして、とりあえず人を殺さずに金が手に入る。
それに、行動を共にすれば市川の実力や真意も見えてくるだろうし、このバトルロワイアルについて更に情報を得て考える時間もできる。それが現時点では最良の選択。
しかし、理性では確かにそれが正しいと思っているのに、この得体の知れない冷ややかな感覚は何だろう。
あたり一面に広がった闇が、特にこの市川の周囲には濃くまとわり着いていて、それが仲根の皮膚にもからみついてくるようだ。
仲根はあたりに散らばった一千万円分のチップとナイフを拾い、自分を鼓舞するように市川に言った。
「爺さん。残りの金は」
「それは、後払いにさせてくれ。
金だけ奪われて逃げられてはかなわんでな」
夜の闇は、次第に深さを増していく。
【B-2/アトラクションゾーン/夜】
【市川】
[状態]:健康
[道具]:モデルガン 手榴弾 ICレコーダー 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:ダイナマイトを取り返す 仲根を利用する
※有賀がマーダーだと認識
【仲根秀平】
[状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
[道具]:カッターナイフ バタフライナイフ 支給品一式×2
[所持金]:3000万円
[思考]:市川に一時的に協力する 黒沢と自分の棄権費用を稼ぐ 黒沢を生還させる 生還する
乙です。
市川と仲根とは意外な組み合わせ。
仲根はマーダーになっていくのかと考えておりましたが、
これを機に対主催者になっていくかもしれませんね。
仲根は本当はいい子だから・・・!
これで放送後夜は全員出揃いましたね。
そうなると、そろそろ夜中に突入でしょうか?
すいませんでした。
天と社長がまだでした・・・!
不覚・・・天への圧倒的嫌がらせ・・・!
投下乙です。
文章から、不気味さとうすら寒い様子が伝わってくるようでした。演出が上手いなぁ…
市川さん策士…!
仲根がどうなっていくのか楽しみです。
お久しぶりです。
今回は短い内容となりました。
投下します。
トリップつけ忘れていました。
申し訳ございません。
では投下します。
51 :
抜刀出陣1:2009/05/09(土) 00:19:01 ID:???
ひろゆきはギャンブルルームのドアの前で立ち止まると、手に収まっている首輪探知機の電源を入れた。
ひろゆきは先程までカイジとチップ全額を賭けて、麻雀勝負を行い、
結果、カイジの四つ目のカンを利用した、四槓子によって、ひろゆきに軍配が上がった。
しかし、カイジは田中という連れの女に持ち物を全て持ち逃げされたと言い張り、その支払いを反故してしまった。
(大方、どこかで合流しているんだろ・・・)
二人がどこかで落ち合えば、持ち金は再びカイジの手元に戻ってくる。
リスクを最小限に留める為のカイジの戦略。
現実世界では、明らかに詐欺であるが、今いる場所は殺人を容認するゲームの中である。
詐術も許容の範囲であるのは間違いない。
(こんなことが日常茶飯事じゃ、参加者の中には誰も信用できなくなって暴走する者も現れるだろうな・・・)
正直、そんな参加者にギャンブルルームの外で待ち構えられていたのでは堪ったものではない。
ひろゆきがギャンブルルームから出る前に首輪探知機を確認したのも、カイジと沙織の動向を確認すると同時に、
主催者に踊らされている参加者に遭遇しないようにするためでもあった。
52 :
抜刀出陣2:2009/05/09(土) 00:23:14 ID:???
首輪探知機の画面が起動した。
しかし、その画面には光点はまったく映し出されてはいない。
(二人とも、100メートルの範囲から外れたか・・・)
ひろゆきは首輪探知機の範囲設定を1キロメートルへ変更した。
首輪探知機の反応範囲は広くなればなるほど、その表示が大雑把なものになっていく。
そのため、ひろゆきは通常、その範囲を100メートルに設定していたのである。
やがて、画面に光点が浮かび上がった。
この直後、ひろゆきは思わず、失笑を漏らしてしまった。
中心付近に二つの光点が浮かび上がっているが、合流するどころか、
それぞれ北西と南東に別れて移動しているのである。
画面は常に持ち主を中心に映し出されるため、この光点がカイジと沙織のものであるのは間違いない。
(まさか・・・本当に裏切られるとはな・・・)
屁理屈としか言いようがない理由で、賭け金を踏み倒した男である。
連れの女がカイジを信用できなくなってしまっても無理はない。
(まあ・・・自業自得だな・・・)
53 :
抜刀出陣3:2009/05/09(土) 00:24:06 ID:???
その時だった。
画面の左端に南から北へ一直線に移動する一つの光点、そして、それを追いかける二つの光点が目にとまった。
これらの光点は一定の距離を保ちながら移動しているようである。
(何かあったのか・・・)
考えられるとすれば、追いかけている二人は、まさに主催者に踊らされている参加者であり、
その人間から狙われた参加者が命辛々逃げているというシチュエーションである。
このゲームであれば、容易にありうる状況と言える。
また、カイジのように賭け金を踏み倒す、若しくは参加者の重要な持ち物を奪ったなどの理由により怒りを買ってしまい、追いかけられている、そんなシチュエーションも考えられる。
どちらにしろ、この光点の先にある状況に接触すれば、厄介ごとに発展することは火を見るよりも明らかである。
ここを生き残るのであれば、進むべきところと引くべきところを見極めねばならない。
この光点は、当然、引くべきところ、近づくべきではないところである。
(こういう状況を避けるために、これがあるんだよな・・・)
ひろゆきは地図で光点の位置を確認すると、首輪探知機のバッテリーの消耗を避けるため、電源に触れた。
(けど・・・)
ひろゆきは再び、画面に目を向けた。
目の先にあるのは北西へ向かっている光点である。
おそらく、北西へ向かっている光点は、三つの光点の存在を知らないであろう。
あまりにも不自然な三つの光点の移動。
(このまま進めば、いずれこの三つの光点と接触するだろうな・・・
その先に待っているものは揉め事・・・いや、殺し合いの可能性もある・・・
この光点がカイジのものなのか、田中という女のものなのかは分からないが・・・
不利な状況に陥ったとしても、賭け金を踏み倒すようなことをしでかす奴らだ・・・
何とかするばず・・・)
54 :
抜刀出陣4:2009/05/09(土) 00:25:59 ID:???
ふと、カイジと交わした言葉が頭を過ぎった。
『ひろゆきさん、出来ればあんたを仲間にしたかったが・・・残念だ』
「・・・仲間・・・か・・・」
ギャンブルで仲間を作るというのは、信用できない人間でも従わせる強制力に目を付けてのことだろう。
おそらく、カイジの目論見は脱出、もしくは主催者潰し。
助かりたいがために安易に相手を殺そうとする人間が溢れている、このゲームの中で、カイジはそれに逆らうかのように、ギャンブルによって、仲間を集めている。
なぜ、利根川という男がカイジを疎ましく思っているのかは分からない。
しかし、カイジが社会の中でも、その流れに逆らって生きてきたであろうことは、容易に想像がつく。
「流れに逆らうか・・・」
ひろゆきに神域、赤木しげるの後姿が心に蘇る。
「えっ・・・」
ひろゆきは首輪探知機画面の異変に気づいた。
今、三つの光点が北へ向かっているが、それを追うように、更に二つの光点が北へ向かっているのである。
(一体、どういうことだ・・・!)
ここまで光点が増えると、どんな事情が発生しているのか、推理することすらできない。
とにかく、ややこしい状況であることだけは確かである。
再び、ひろゆきは北西へ向かっている光点へ目を向ける。
少しずつだが、確実に北へ向かっている光点へと近づいている。
(五人対一人か・・・分が悪すぎる・・・)
55 :
抜刀出陣5:2009/05/09(土) 00:28:08 ID:???
ひろゆきはギャンブルルーム内にある時計に目をやる。
(21時に平山とアトラクションゾーンの事務所で落ち合う約束をしているが・・・)
ひろゆきの最終目的は、アカギとギャンブルで勝負をする、一億円を集めて、この島から脱出するという2点であり、
個人としては、カイジの生死がどうなろうと構わない。
むしろ、カイジに何かあれば、平山の仕事が減って、楽になれるのではないのかという予感さえある。
しかし、それを平山本人の前で口にすれば、利根川から生かされる理由がなくなると・・・
「・・・泣きつかれるな・・・多分・・・」
神域、赤木しげるが20歳近く若ければ、そういう顔をしていたであろうという容姿を持ちながら、その顔で涙をぼろぼろ流されると思うと、
赤木からでは考えられない滑稽さに、ひろゆきは思わず、噴き出した。
「まだ・・・カイジに死んでもらっては困るな・・・」
北へ向かう光点と北西へ向かう光点はC-3エリア辺りでぶつかるであろう。
平山と落ち合う事務所はC-4エリアにあり、今からであれば、C-3エリアの様子を見に行ってからでも間に合うはずである。
ひろゆきは日本刀を鞘から抜いた。
日本刀は鉄で出来ているにも関わらず、清流のごとき瑞々しい光沢を放っている。
「寄り道の寄り道か・・・それも悪くないかもしれないな・・・」
ひろゆきはそう呟くと、ドアノブに手をかけた。
56 :
抜刀出陣6:2009/05/09(土) 00:29:07 ID:???
【D-3/アトラクションゾーン/夜】
【井川ひろゆき】
[状態]:健康
[道具]:日本刀 首輪探知機 不明支給品0〜2(確認済み)
村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 支給品一式×2
[所持金]:1500万円
[思考]:赤木しげるとギャンブルで闘う
ギャンブルで脱出資金を稼ぐ
極力人は殺さない
自分の進むべき道を見つける
北西へ進む光点を追う
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。
※平山と21時にアトラクションゾーン事務所で落ち合う約束をしました。
※ひろゆきが追う光点はカイジのものなのか、沙織のものなのかは分かりません。
※南から北へ向かっている光点は先頭の一点は涯、その後を追う光点は赤松と石原の首輪、さらに後を追う光点は零と沢田のものです。
これで以上です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
投下乙です!!
首輪探知機の光点…、面白いところに着目しましたね
手軽に使える分、森田のフロッピーより優秀かも…
何かまた大きい波乱がある予感…!
期待!
59 :
マロン名無しさん:2009/05/11(月) 00:03:09 ID:1at20XnG
あげ
先日、「抜刀出陣」を投下したものです。
申し訳ございません。
実は、この話で矛盾点が発見されました。
主に二つ。
・ひろの首輪探知機は左端に涯たちの光点を確認しておりますが、
この時ひろはアトラクションゾーンにおり、
D-3エリアは主に、左側がアトラクションゾーンであるため、
もし、首輪探知機の画面上が北の方角、画面下が南の方角を
刺し占めすのであれば、涯たちの光点は右側に写るべきであること。
・カイジと沙織の光点は北西と南東を移動していると記述がありますが、
沙織は「四槓子」で、すでにアトラクションゾーン沿い林に移動しており、
どちらかといえば、沙織は東、カイジは西に移動しているのが、
自然ではないかということ(C-3へ向かうことが不自然)
このような矛盾が生まれてしまったのは、ひろがいる
ギャンブルルームはD-3エリア左側(アトラクションゾーン)の
どこかにあると解釈すべき点を
D-3の右下(林の中)にあるとなぜか勘違いをしてしまったためです。
あぁ・・・焼き土下座・・・orz
火
そのため、今回の話は一旦、破棄し、
後日、修正版を作成して、アップしたいと思います。
何度もご迷惑をおかけしてしまい、
本当に申し訳ございません。
すいません、「決意」に方位の間違いがあったのでwikiのほうで修正します。
西に向かうのではなく東でした。
>>61様お疲れ様です。
「抜刀出陣」の改訂版ができました。
本当にご迷惑をおかけしてしまい、
申し訳ございませんでした。
では、投下します。
ひろゆきはギャンブルルームのドアの前で立ち止まると、手に収まっている首輪探知機の電源を入れた。
ひろゆきは先程までカイジとチップ全額を賭けて、麻雀勝負を行った。
結果、カイジの四つ目のカンを利用した、四槓子によって、ひろゆきに軍配が上がった。
しかし、カイジは田中という連れの女に持ち物を全て持ち逃げされたと言い張り、その支払いを反故してしまった。
(大方、どこかで合流しているんだろ・・・)
二人がどこかで落ち合えば、持ち金は再びカイジの手元に戻ってくる。
リスクを最小限に留める為のカイジの戦略。
現実世界では、明らかに詐欺であるが、今いる場所は殺人を容認するゲームの中である。
詐術も許容の範囲であるのは間違いない。
(こんなことが日常茶飯事じゃ、参加者の中には誰も信用できなくなって暴走する者も現れるだろうな・・・)
正直、そんな参加者にギャンブルルームの外で待ち構えられていたのでは堪ったものではない。
ひろゆきがギャンブルルームから出る前に首輪探知機を確認したのも、カイジと沙織の動向を確認すると同時に、
主催者に踊らされている参加者に遭遇しないようにするためでもあった。
首輪探知機の画面が起動した。
しかし、その画面には光点はまったく映し出されてはいない。
(二人とも、100メートルの範囲から外れたか・・・)
ひろゆきは首輪探知機の範囲設定を1キロメートルへ変更した。
首輪探知機の反応範囲は広くなればなるほど、その表示が大雑把なものになっていく。
そのため、ひろゆきは通常、その範囲を100メートルに設定していたのである。
画面に光点が浮かび上がった。
この直後、ひろゆきは思わず、失笑を漏らしてしまった。
中心付近に二つの光点が浮かび上がっているが、合流するどころか、
それぞれ西と東に別れて移動しているのである。
画面は常に持ち主を中心に映し出されるため、この光点がカイジと沙織のものであるのは間違いない。
(まさか・・・本当に裏切られるとはな・・・)
屁理屈としか言いようがない理由で、賭け金を踏み倒した男である。
連れの女がカイジを信用できなくなってしまっても無理はない。
(まあ・・・自業自得だな・・・)
その時だった。
画面の右側――ひろゆきを示す中心と東へ移動する光点の間に目にとまる。
南から北へ一直線に移動する一つの光点、そして、それを追いかける二つの光点があった。
(何かあったのか・・・)
考えられるとすれば、追いかけている二人は、まさに主催者に踊らされている参加者であり、
その人間から狙われた参加者が命辛々逃げているというシチュエーションである。
このゲームであれば、容易にありうる状況と言える。
また、カイジのように賭け金を踏み倒す、若しくは参加者の重要な持ち物を奪ったなどの理由により怒りを買ってしまい、追いかけられている、そんなシチュエーションも考えられる。
どちらにしろ、この光点の先にある状況に接触すれば、厄介ごとに発展することは火を見るよりも明らかである。
ここを生き残るのであれば、進むべきところと引くべきところを見極めねばならない。
この光点は、当然、引くべきところ、近づくべきではないところである。
(こういう状況を避けるために、これがあるんだよな・・・)
ひろゆきは首輪探知機のバッテリーの消耗を避けるため、電源に触れようとした。
「えっ・・・」
ひろゆきは再び、画面に目を向けた。
今まで、東へ向かっていた光点がなぜか方向を変え、北へ進路を変更したのである。
(なぜ・・・)
ひろゆきはその場で地図を広げて、理由を知った。
(このまま、東へ行けば、禁止エリアD-4に入ってしまうからか・・・だが・・・)
今、北へ進路を変更した光点は、南から北へ進んでいる三つの光点と並行して進んでいる状態である。
おそらく、北へ向かっている光点は、三つの光点の存在を知らないであろう。
(このまま行けば、三つの光点と接触するのはC-3エリア・・・
C-3エリアは特に障害物もなく、見通しがよい・・・
北へ進路を変更した光点は今、林の中を走っているが、
何も知らずに、林を抜けてしまえば、
その三つの光点の人物に、姿を晒してしまうことになってしまう・・・
その先に待っているものは揉め事・・・いや、殺し合いの可能性もある・・・
まあ、この光点がカイジのものなのか、田中という女のものなのかは分からないが・・・)
ふと、カイジと交わした言葉が頭を過ぎった。
『ひろゆきさん、出来ればあんたを仲間にしたかったが・・・残念だ』
「・・・仲間・・・か・・・」
ギャンブルで仲間を作るというのは、信用できない人間でも従わせる強制力に目を付けてのことだろう。
おそらく、カイジの目論見は脱出、もしくは主催者潰し。
助かりたいがために安易に相手を殺そうとする人間が溢れている、このゲームの中で、カイジはそれに逆らうかのように、ギャンブルによって、仲間を集めている。
なぜ、利根川という男がカイジを疎ましく思っているのかは分からない。
しかし、カイジが社会の中でも、その流れに逆らって生きてきたであろうことは、容易に想像がつく。
「流れに逆らうか・・・」
ひろゆきに神域、赤木しげるの後姿が心に蘇る。
「なっ・・・」
ひろゆきは首輪探知機の異変に気づいた。
今、三つの光点が北へ向かっているが、それを追うように、更に二つの光点が画面に現れたのだ。
(一体、どういうことだ・・・!)
ここまで光点が増えると、どんな事情が発生しているのか、推理することすらできない。
とにかく、ややこしい状況であることだけは確かである。
再び、ひろゆきは北へ進路を変更した光点へ目を向ける。
(五人対一人か・・・分が悪すぎる・・・)
ひろゆきはギャンブルルーム内にある時計に目をやる。
(21時に平山とアトラクションゾーンの事務所で落ち合う約束をしているが・・・)
ひろゆきの最終目的は、アカギとギャンブルで勝負をする、一億円を集めて、この島から脱出するという2点であり、
個人としては、カイジの生死がどうなろうと構わない。
むしろ、カイジに何かあれば、平山の仕事が減って、楽になれるのではないのかという予感さえある。
しかし、それを平山本人の前で口にすれば、利根川から生かされる理由がなくなると・・・
「・・・泣きつかれるな・・・多分・・・」
神域、赤木しげるが20歳近く若ければ、そういう顔をしていたかもしれないと
思わせるような容姿を持ちながら、その顔で涙をぼろぼろ流されると思うと、
赤木からでは考えられない滑稽さに、ひろゆきは思わず、噴き出した。
「まだ・・・カイジに死んでもらっては困るな・・・」
平山と落ち合う事務所はC-4エリアにあり、
光点同士が接触すると思われるC-3エリアの様子を見に行ってからでもまだ、間に合うはずである。
ひろゆきは日本刀を鞘から抜いた。
日本刀は鉄で出来ているにも関わらず、清流のごとき瑞々しい光沢を放っている。
「寄り道の寄り道か・・・それも悪くないかもしれないな・・・」
ひろゆきはそう呟くと、ドアノブに手をかけた。
【D-3/アトラクションゾーン/夜】
【井川ひろゆき】
[状態]:健康
[道具]:日本刀 首輪探知機 不明支給品0〜2(確認済み)
村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 支給品一式×2
[所持金]:1500万円
[思考]:赤木しげるとギャンブルで闘う
ギャンブルで脱出資金を稼ぐ
極力人は殺さない
自分の進むべき道を見つける
北へ進む光点を追う
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。
※平山と21時にアトラクションゾーン事務所で落ち合う約束をしました。
※ 北へ進路を変更した光点は沙織のもの、西方面を走っている光点はカイジのものです。
しかし、ひろゆきはそのことを知りません。
※南から北へ向かっている光点は先頭の一点は涯、その後を追う光点は赤松と石原の首輪、さらに後を追う光点は零と沢田のものです。
これで以上です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
>>68 乙でしたー
天&社長の予約来てるし、徐々に第二回放送が近づいてきてるな・・・!
死んだのは有賀と三好だけだっけ?
とはいえカリスママーダーと人格破綻者の死はロワ的な意味では重要か
いよいよ駆け引きなんかが本格化しそうでここから咲もwktkだ
71 :
70:2009/05/14(木) 17:03:42 ID:???
ここから先も、でした。
はじめまして。投下します!
「矢張り・・・標くんの事が気になるんだ・・・それになんだか嫌な予感がする・・・」
赤松の後姿を、天は引き止められなかった。
言葉を発するや否や、踵を返して駆けていった赤松を捕まえることなど出来ようもなく
そして何より天自身、標という少年を気がかりに思っていたからだ。
盲目の老人と幼い少年を二人残してきたという状況、
手榴弾を持つ老人と拳銃を持つ少年を二人残してきたという状況。
むしろ、赤松を行かせたかったのだろう。
あの標という少年が聡明であることについては理解したつもりだが、
とはいえ危険な状況、心配でないはずがなかった。
「ちょ・・・赤松さん行っちゃったざんすよ!」
「ああ・・・・・」
小さくなる赤松の背中を見送りながら、天は頷く。
村岡は、そんな天の様子に少し驚き、声を上ずらせた。
「お、追いかけなくていいざんすか・・・?」
「・・・・・・」
「だ・・・だったら早く逃げるざんすよ・・・・・!この辺りは危ないざんしょ!」
そう、市川の拡声器に誘われてどんな奴が集まって来ているやも知れない。
村岡は丸腰。
天の武器である鎖鎌も、現状見掛け倒しでしかないのだ。
「標さんと赤松さんは心配ざんす・・・・・!たしかにとても心配・・・・・・!
だからといって今わしたちまで標さんの元へ向かったら、それこそ“振り出しに戻る”ざんす・・・!
赤松さんが行ったんだからあっちは大丈夫ざんすよ!
わしらはここを離れましょう・・・・!
ほとんど真っ直ぐ進んできてるわけだし、後で二人も追いつくざんしょ!」
村岡の発言の真意はもちろん、兎にも角にも危険地帯から離れたいという一点に尽きる。
標と赤松の身を気遣う素振りを見せてはいるが、所詮上辺に過ぎないことなど天には見通せていた。
(とはいえ・・・・・正論・・・!一番最悪なのは四人ともが命を落とすこと・・・!)
天もわかっている。
今赤松を追ったとして、果たして良い結果を生むのだろうか。
ことに、この村岡という男を引き連れて戻ったのでは標の思惑を潰しかねない。
ならば・・・ならば・・・
「・・・・・待とう。二人が追いつくまで、ここで」
「なぁに言ってるざんすか!!
もう別ざんす!別チームとして行動するべきざんすよ!」
武器を持ち、体格もよく、自身に比べて遥かに非力であろう老人子供を手にかけようともしない天。
この天という男と共に逃げるのが最善・・・!
村岡にとって標や赤松など一時的な拠所に過ぎなかった。
今は天を盾に危険地帯から脱する・・・・!保身第一・・・・・!
更に強く、頼りになる人物に出会えばそちらに乗り換えるだけのことだ。
「・・・・・ここが危険なのは承知のうえだっ・・・!だが・・・・・!」
「待ってる間に誰から攻撃を受けるともわからないざんすよ?!
標さんは拳銃を、赤松さんは手榴弾を持ってるざんす・・・!
今危ないのは標さんたちよりもわしたちざんしょ!
こんなところに突っ立ってたら 的になるようなもんざんすよ・・・・!」
身振り手振りに大げさな様子でまくしたてる村岡。
天は手に握った鎖鎌を見つめ、
しばらく考えたのち、静かに頷くのだった。
「・・・・・わかった。移動しよう」
「それが よござんしょ・・・・!」
ほっと胸を撫で下ろしながら、村岡は言葉を続ける。
「ささ、そうと決まったら移動するざんすよ。
もうしばらくもすれば赤松さんも標さんと合流できるはずざんす」
「ひとつ・・・・・いいか?
・・・・アトラクションゾーンを抜けたところで待機したい。
もしかしたら二人が追いついてくるかもしれないだろ」
「なんでもいいざんすよ・・・!とにかく安全なところへ行くざんす」
村岡は先刻までヒステリックに喚いていたのが嘘のように軽い調子で承諾し、
天と共にアトラクションゾーンの外を目指して歩き始めたのだった。
* * *
果たしてこの男・・・共に行動していくべきなのだろうか。
道中、天はそればかりを巡らせて、悩んでいた。
そもそも素性の知れない相手である。
「ん?どうしたざんす・・・・・?」
「いや・・・」
赤松や標から信頼されていなかっただろうことは、
数回のやりとりを見るだけで十分把握できたが・・・。
(俺に敵意を持っているわけでも、寝首掻こうと考えているわけでもないようだ・・・)
敵意。そもそも、村岡は何も持っていない。
武器を、そして支給品さえも。
「おい・・・・・村岡・・・・さんだっけか」
「そういえば紹介が遅れたざんすね。村岡隆ざんす」
「むらおかたかし、か・・・。俺は天貴史」
思わぬ共通点に、天は少し表情を和らげ
しかし鋭い調子で村岡に切り込む。
「どうして何も持っていないんだ・・・・・?ギャンブルの参加者には支給品が渡されるはず・・・
話してくれ・・・・・今に至るまで何があったか・・・!」
「ああ・・・!そんなことならお安い御用ざんす・・・!」
村岡はこのギャンブルの主催者は“帝愛”で間違いないという前置きをして、
自分の身分とこの島に来るまでの境遇を掻い摘みながら説明した。
「――とにかくカイジには酷い目にあわされたざんすよ!」
放っておくといつまでもカイジという男の悪態を吐き続けそうな村岡に、天は話を促す。
「・・・あんたの境遇についてはわかった。で、なぜ今手ブラの丸腰なんだ・・・?」
「おっと、その話だったざんすね。
このゲームの本質はギャンブル・・・・わしもギャンブルに負けたざんすよ。
ギャンブルルームで、
持ち金すべてと支給品一式、そして敗者は勝者に手を出さないという誓約書を賭けて戦ったざんす・・・!
結果・・・負けっ・・・・・わしの負けざんした・・・!それゆえの現状ざんす・・・・・」
「・・・なるほどな」
ギャンブルルームを利用した。しかも賭けたものは金。
どうやら村岡は殺し合いではなく、純粋なギャンブルにより己を守ろうと考えていたようだ。
そこにイカサマの類が存在しようがしまいが、
“自ら人を殺す”という発想がないとわかったのだから十分な収穫だ。
(何を考えているのかはさて置き・・・見境なく人を襲うような危険人物ではないと考えていいだろう・・・)
天は村岡の表情を窺いながらも、聞いた情報を確実に頭に入れていった。
「おわかりいただけたざんすか?」
「あぁ・・・・・ところで、そのギャンブルの相手、どんな男だったんだ」
「背格好がこれくらいの、眼鏡かけた普通の青年ざんすよ・・・・・井川ひろゆきって名前の・・・」
「ひろゆきっ・・・・・?相手は井川ひろゆきだったのか・・・!」
「えぇ・・・そうざんすけど・・・・・?」
天の食いつき具合に面食らいながら、村岡は首肯する。
「知り合いざんすか?」
「どんな・・・・どんな様子だったか教えてくれっ・・・!まさかとは思うが殺し合いに乗っちゃあ・・・・・」
「誓約書を書かせる男ざんすよ?
極力人を殺したくないって言ってたし、ギャンブルでやっていくつもりのようざんした」
「ギャンブルで・・・・・?そうか、ひろの奴・・・」
こんな状況にあってもギャンブルに賭けているひろゆきに対して、
僅かでも羨ましいと感じたことを天は否定できなかった。
人情家であり、バトルロワイアルを止めたいと考えている天、
しかし彼にも博徒の血が流れているのだ。
「それにひろゆきくんの支給武器・・・!日本刀ざんす・・・・・使い方もわからない銃器類より役に立つ。
プラスわしの支給アイテム・・・これが強力・・・!首輪探知機・・・!」
負けたことを根に持っているのだろう、村岡の声色は徐々に荒々しく変化していく。
「負けなければっ・・・今頃わしは・・・!」
井川ひろゆき、伊藤開司。
誓約書が有効な限りひろゆきを殺すことは出来ないが、
何としても生き延び、そして二人に復讐をすること。それが村岡の指針であった。
(わしからすべてを奪った二人、必ず奪い返してやるざんす・・・!この手でっ・・・必ず・・・・・!)
「あんたの話はわかった・・・・・。次は俺の番だな」
天は、市川と出会うまでの経緯と、
このバトルロワイアルに対する自身の考え方を村岡に話す。
「殺し合いに乗る気がない人物を集める・・・・当面はこれが目標と考えていた・・・・。
残念ながら俺は状況を一転させるようなアイデアを持ち合わせちゃいねぇ・・・。
だからこそっ・・・・・志同じくした仲間を作る・・・!
それが・・・・所謂“対主催”への一歩だと思っている・・・・・」
「わ・・・わしも同感ざんす・・・・!」
天の指針、村岡の指針。
実質大きくズレているにも関わらず、村岡は素直に頷いた。
「この馬鹿げたギャンブルに対抗するにはそれが一番ざんすね・・・!」
「・・・・だからこそ・・・・尚更に赤松さんたちが気になる・・・・」
天は表情を翳らせて呟くのだった。
(赤松さん・・・・そして標という少年・・・・追いついてきてくれればこの上ない・・・・。
が・・・・!状況が状況だ・・・。何とあっても生きて再会・・・)
「あっ・・・・!出口ざんすよっ・・・・!」
標と別れた地点から南下し続けたところ、
多少迷いながらも、二人は無事にアトラクションゾーンから脱した。
無論、この島自体がバトルロワイアルの舞台である以上は安全地帯など存在しえないのだが
天と村岡は、まるで長い迷路を抜け出したような達成感を覚える。
「ここまで来れば、ひとまずは安心ざんしょ・・・・!
アトラクションゾーン内に比べて障害物も少ないし、見通しがいいざんす」
出口から一歩踏み出すと、なるほど確かに村岡の言うとおりであった。
アトラクションゾーン方向から誰か来ればすぐにわかる、
なおかつ近くに建物もなく森から離れた平地であるため
警戒を怠らなければ奇襲を受けるということもないだろう。
「背中合わせで待機だ・・・・!
人影が見えたらすぐに知らせあうこと・・・・!」
「了解ざんす・・・・・」
村岡、たしかに信頼できる性質の人物ではない。
しかし、このような相手であっても信用をなしにしてやっていける状況だろうか。
(村岡っ・・・・腹に何を抱えているか知れない男・・・・!
とはいえ仲間同然じゃないか・・・・共に行動しているんだから・・・・!)
天は持ち前の思いやりの影響もあり、村岡を受け入れることと相成ったが
誰にとってしても、初対面から数時間の男に背中を預けるという行為さえ止むを得ない世界だった。
(この男に従っていれば、しばらくは安全そうざんすね・・・・!
武器も金も持たないわしが生き残るには他人の力が必要ざんす・・・・)
もし危険が及んだとして――例えば何者かが襲ってきたとして、天は村岡を守ろうと行動するだろう。
それは足手まといにしか見えなかった市川という老人を見捨てずに連れていた様子から窺い知れることだ。
(天はボディガードとして使ってやればいい・・・・!わしは勝機を待つざんす・・・・!)
村岡が“勝機”の可能性について皮算用している間に、天はある名前について考えていた。
標が別れの間際に赤松に対して伝えた言葉。
確かに標の発した“うかいぜろ”という単語、これが気になっている。
その前後を聞き取ることは出来なかったが おそらく人名。
数時間前、ホテルでギャンブルのルールを聞かされたあと、
一人ずつ名前が読み上げられ、後姿程度なら確認する機会があったのだが・・・。
(あ、い、う・・・・“うかいぜろ”・・・)
天より前に位置するはずのその苗字。
しかし、赤木しげる、井川ひろゆき、という名前に気をとられていたせいか、記憶が覚束ない。
“うかいぜろ”、赤松の助けになるような人物、標が信頼をよせる人物・・・・?
それならば天にとっても会って損はない人間であるといえる。
あの聡明な少年のお墨付きならば、相当に頭の切れる男なのかもしれない。
(あるいは・・・危険人物か・・・・?)
“うかいぜろ”は危ないから気をつけて、という助言だった可能性もある。
こんな狂ったゲーム、常軌を逸した狂人が参加していても不思議ではないのだ。
やり手のギャンブラーとして『危険人物』と扱われているのなら、むしろ対峙したいものだが、
バトルロワイアルという殺し合いの中での『危険人物』ならば。
“うかいぜろ”と出会うこと即ち死に直結するような展開さえあり得る・・・・!
(標という少年・・・そして赤松さん・・・・・彼らとは合流したい・・・・!
治、石田さん・・・この二人の安否も気になる・・・。
市川だってあれで良いとは思わねぇし・・・・・出来ればひろにも会っておきたいが・・・。
そして・・・・・赤木しげる・・・・!)
この状況にあっても、アカギとのギャンブルへの憧れは胸中に残っている。
(加えて・・・・“うかいぜろ”という人物だな・・・・!
どんな人間にだろうと会うことが何かの取っ掛かりになるかもしれねぇ・・・)
* * *
時を置いて第一回目の放送終了後。
日没を迎えようというこの時にも、
天と村岡は依然アトラクションゾーンの出口付近で標たちを待っていた。
現れない待ち人に 村岡は痺れを切らす。
天の「あと30分だけ待とう」という言葉に反論する術を持たずして
二人はここで午後六時の定時放送を迎えることとなったが・・・・。
「標」
確かに黒崎がそう告げたのだ。
バトルロワイアルの敗者として、あの少年の名前を。
天はショックを隠しきれなかった。
「それって・・・死んじまったってことじゃねえかよ・・・!ほんのさっきまで一緒にいた人間がっ・・・・・!」
「・・・そうざんすね」
村岡とて、動揺していないわけではない。
放送前とは“殺し合い”のリアリティがまるで違う・・・!
利発そうな少年、標の死に少なからず驚いていたのだった。
「赤松・・・赤松さんは・・・!そしてあの爺さんも呼ばれなかった・・・」
あの地点で最も可能性が高く思われた市川が標を巻き添えに死ぬという展開。
それは市川の生存によって否定された。
(爺さんだけ運良く生き残っちまったってことも考えられるが・・・)
別の何者か――恐らくは村岡の声に物音を立てて反応してしまった人物。
潜んでいたそいつが、標を殺したのではないか。
現在市川、赤松の身に危険が及んでいるということも十分考えられる。
あるいは既に瀕死の重傷を負っているやも・・・。
支援します!
「ちくしょうっ・・・・!」
自分の身の振り方ひとつ違えば、別の選択をしていれば、少年の命を救えたかもしれない。
あのとき、目的は“市川から離れること”だったはず。
赤松と別れた地点で待機していればよかったのだ。
やはり天自身、心のどこかで“危険な場所から離れたい”という気持ちがあったのだろう。
行動を共にするパートナーが村岡だったことも作用しての結果だが、
まるで標と赤松を置いて逃げてきたような形になったことを、天は深く後悔していた。
今すぐにでも戻って確かめたい。何があったのかを。
せめて、風に晒されているであろう標の亡骸を、葬ってやりたい。
天は支給されたペンを、折らんばかりの強さで握り締めながら、地図を睨み付けた。
「B-3・・・標さんたちの居たところは禁止エリアに指定されたざんすね・・・」
そう、市川と言い争っていたあの地帯『B-3』は先の放送で禁止エリアとして読み上げられたのだ。
進入禁止になるまで30分・・・走ったところで間に合うかどうか・・・。
「ぐっ・・・くそっ・・・!」
(標だけじゃない・・・!6時間で15人も死んでっ・・おかしいだろっ・・・・・・!おかしいだろうよ・・・)
天はこの島で出会った人々を思い返す。
治、石田、赤松、そして標。
殺し合いに乗っていない人間がこれだけいた。
この狂った状況で正気を保った人間がこれだけいた。
規制が入ってしまったら、
したらばへ投下してください。
代理投下します。
市川にしたって、説得の余地がなかったわけじゃあない。
治を襲った二人――末崎、安藤のように人を貶めようと画策する輩もいたが、
彼らとて“殺す”という行為に踏み切れていなかったのは事実。
(だから俺はっ・・・俺は甘く見ていたっ・・・!俺は完全にこのバトルロワイアルって奴を舐めてた・・・・・・・!
なんとか・・・なんとかみんな助けられるんじゃねぇかって・・・・・そんな考えじゃダメっ・・・まるでダメっ・・・
もう死んでほしくねぇっ・・・!誰もっ・・・・・・誰一人・・・・・・!)
涙を滲ませて悔しがる天を、
一方の村岡はどこか冷静な気持ちで見つめている。
(たしかにこんなにポンポンと人が死ぬのは異常ざんす・・・!
まったくの異常事態・・・とはいえ・・・・!泣く・・・?はぁ・・・?おかしいざんしょ・・・・?
身内が死んだわけでも殺しの瞬間を見たわけでもなしに、他人が死んで泣く・・・・・?)
「て、天さん・・・?いつまでもここに居たってはじまらないざんすよ・・・。
この状況・・・・待機する理由はもうないざんしょ・・・標さんだってわしらが死んだら報われないざんす・・・!
B-3が禁止に指定された以上、アトラクションゾーンを出ようと考える輩も出てくるざんすよ・・・・・・!
潜伏していた殺人鬼どもが出口求めて移動してくるかもしれないざんしょ・・・?
D-4も禁止エリア・・・・D-4の隣接エリアであるここは危険・・・・・!」
天の機嫌を損ねないよう、言葉を選びながら村岡は口を開く。
D-4が禁止エリアになったため、隣接エリアに人が流れ込むだろう。尤もな意見だ。
B-3に集まった人間も動いてくる可能性は十分にある。
今すぐにでも、無理やりにでも、移動したい状況・・・・!
しかし村岡にとって、最も重要なのはこの場で天に捨てられるのを避けることである。
「わしだって赤松さんが無事かどうか心配ざんす・・・!
でも何にしたって移動しなきゃ仕方ないざんすっ・・・・・!
ここで待ってたら赤松さんと合流するより先に命を落としかねないざんす・・・・!
さっきまでのような安地じゃなくなってるざんすよ・・・・!」
「あんたの言うとおり・・・・・その通りだがっ・・・・・!」
放送が終わって5分も経っただろうか、天は静かに立ち上がる。
誰もが歩みを止め、地図と睨み合うであろう瞬間を無駄にしてはいけない。
この放送を機に、出方を練り直そうと考える者は多いだろう。
あるいは身内の名前が読み上げられて悲しみに暮れる者もいるはずだ。
しかし、今必要なのは・・・ここ一時の切り替え・・・次への一歩を踏み出す速さ・・・。
「考えていたんだ・・・・どこへ移動するべきか・・・・!」
「そ・・・・そうだったざんすかっ・・・・!」
「あぁ・・・俺は・・・病院を目指そうと思ってる・・・!」
天は南東方向を指差しながら村岡に切り出した。
「人が集まるところ・・・それも助けが必要な人間が集まるところ・・・・・
それって病院だろっ・・・こんな環境・・・もちろん怪我を負う人間も出てくるっ・・・・。
そうしたら考えることは・・・・・・治療・・・休息・・・その発想・・・・!
さらに物資や参加者を求めて人が集まりそうな商店街・・・
商店街を抜けるようなルートで病院方向へ向かえば、まず誰かに会うはずだろっ・・・!
兎にも角にも・・・接触する・・・・・!参加者に・・・・・・!
素性を知らない奴だらけのこの島だ・・・・・!
鬼が出るか蛇が出るか・・・・そういう話になってくるが・・・・」
「それじゃあ・・・・!それじゃあここで突っ立っているのと大して変わらないざんすよ・・・・!
病院っ・・・商店街っ・・・・!たしかに地図を見たとき目に留まる施設ざんすっ・・・!
島の中央部に位置することもあって・・・・確かに人は集まりやすいざんしょ・・・!
が・・・!当然集まるのは善人ばかりじゃないざんす・・・・・!」
天の発言から間を置くことなく村岡は反論する。
「言ってることはわかるざんすっ・・・!病院は弱者が集まりやすいっ・・・・!
しかし同時にそれを狙う奴らも集まりやすいざんすよ・・・・・!危険ざんす・・・・!
天さんは殺し合いに乗るつもりはないってことも・・・・・・仲間を集めたいのもわかるざんす・・・・!
でもっ・・・!同志を探すのと人助けをして回るのは別物ざんすよっ・・・?」
「俺は・・・俺はそうは思わねぇ・・・!
歩き回りゃあ瀕死の重体者に出会うかもしれない・・・・・!
まぁ声をかけた相手が殺人鬼なんてこともありうる・・・・・・・
結局は不信感を抱かずにはいられない島なんだ・・・・・!
生き残ることを考えれば利己主義に走らざるをえない環境だもんな・・・・だけどっ・・・・!
だからこそ助け合うのが当然・・・!必然っ・・・・!
その先にあるのが同志・・・・!志だっ・・・!
利益だとかなんだとか・・・・損得の思考を超えなければ・・・・・俺が俺になれないっ・・・・!
そして運良く・・・赤松さんや・・・・・治たちと無事再会できれば尚良しってところだ・・・・!」
天は所謂正義側――今までの経歴などはさておき、本質として村岡とは反対に位置する男。
それを理解したうえで、村岡は天を利用するつもりでいた。
武器を持たない村岡にとって、恵まれた体躯と人への情け、
そして正気を保った判断力を持つ男は護身具代わりに使える存在である。
自分を見捨てないだろう天と行動していけることは好都合だったのだ。
(なのにっ・・・・!盾になる男と行動を共にしたところで危険地帯に赴くんじゃ意味がないざんすっ・・・!
その上天は足手まといにまで手を差し伸べる男ざんす・・・!道中怪我人に会いでもしたらっ・・・・!
こいつと適当に逃げ回って機会を窺うというわしのプランが台無し・・・・・!)
「そりゃあっ・・・・移動することについては賛成・・・・!もちろん賛成っ・・・!
病院方向に向かうことっ・・・そこまでギリギリで納得・・・!
ただし特定の人物を探すに留まらず
出会った人間 みんなに声をかける・・・これはダメっ・・・反対ざんすっ・・・断固反対・・・!」
広げた支給品をまとめて移動の準備を始めた天に縋りつくようにして
村岡は喚き続ける。
「人を助けたいっ・・・・わしもそう思うざんすよっ・・・・!
でもそのために天さんが死んだらどうする・・・!
自分の命と引き換えに他人を助ける・・・?それは違うざんしょっ・・・・・!」
「村岡・・・あんたの言ってること・・・己の生存第一・・・間違っちゃいないと思う・・・・・!
だがなっ・・・・俺は嫌なんだ・・・・・これ以上不条理なギャンブルで人が死んでいくのは見たくない・・・!
人のためじゃねぇ・・・!俺が許せないんだっ・・・・・!」
「ぐっ・・・・・・」
(せっかくボディガードを見つけたと思ったらっ・・・・・!
とんだハズレ・・・・ウスバカ・・・クズバカっ・・・・!
こいつについて行ったら わしまで手伝わされるっ・・・・何の得にもならない人助けを・・・・!
こんな状況で弱者を救おうなんて 命をかけたゴミ拾いに等しいざんすよっ・・・!)
自身が“弱者”であり、天の力を借りているということは棚に上げ、
村岡は心中暴言を吐き散らした。
「悪いが・・・俺はそう決めたっ・・・・俺は・・・・状況の許す限り俺の意志に沿って行動するっ・・・・!」
「うぐぐっ・・・・!」
(ダメざんすっ・・・・この男はもう捨てるっ・・・・・!
人を助けるだぁ・・・・?仲間を集めるだぁ・・・・?
「はぁ〜?」ざんすよ・・・!そんなの無能がやることざんすっ・・・!
逆・・・!発想がまるで逆ざんすよ・・・!人を貶め利用することが勝利への道っ・・・・!)
支援します!
支援
村岡はどちらが相手を頼りとしていた状況なのかを完全に無視し、
一方的に天の発言を攻め続けた――口には出さずに、だが。
天にとっては標への償い、という気持ちがなかったでもないのだろう。
拳を握り締めながら村岡に意を伝える。
「俺は行く・・・・!例え危険に飛び込むことになったとしても・・・!
“病院に向かう”ってのは・・・・どうってことねぇ・・・・
実際どこだって同じこと・・・・!行く先々で・・・このバトルロワイアルの参加者に会うだろうよっ・・・・!
困ってる奴がいりゃあ力になる・・・・過ちを犯しそうな奴にゃあ出来る限りの説得をするっ・・・!
失敗してあっさり死ぬことにならねぇとは言い切れないし・・・
そうして話が好転するでもねぇ・・・・・!
でもそれでいいんだっ・・・・!それがここでの俺のギャンブルっ・・・・・・!
俺に出来ることでありっ・・・やるべきことでありっ・・・・そしてやりたいことなんだっ・・・・!」
(何ざんすか何ざんすか・・・・!
あの標とか言う小僧の死が 背中を押したってところざんすか・・・・?
何にしても天はゴミっ・・・!もはやゴミざんすよっ・・・!
どうにかして次の拠所になる人物を探さなきゃならなくなったざんす・・・・・・・!)
武器を持つ天に対して 村岡は丸腰。
(わしが何か支給品を持ってさえいれば・・・・!こんなゴミクズは放置してさっさと別行動するのにっ・・・・・・!
ぐっ・・・せめて何かっ・・・・!こいつから搾取してやりたい・・・・・・!がっ・・・ダメっ・・・無理・・・・!
体格が違うっ・・・・!敵うはずがないざんすっ・・・・・!)
二進も三進も行かない村岡。
無意識のうちに表情も強張り、今まで心がけていた演技に綻びが出始める。
相手に出来るだけ警戒心を抱かせないような態度――
そんな生ぬるいことを考えていられない状況になりつつあるのだ。
(どうするっ・・・・?こうなったら・・・適当な嘘で天を騙くらかすかっ・・・!)
しかし村岡の険しい表情は、天が荷物から取り出した“あるもの”を見て一変する。
「あ・・・?何ざんすか・・・・・?」
「あんたの分だ・・・・!」
「わしのっ・・・?」
ぽかんとした顔で説明を求める村岡に、天は“あるもの”を投げやった。
「“500万円”・・・・・!500万円分のチップだ・・・!
俺の武器は鎖鎌しかねぇ・・・・これを渡すことは出来ないが・・・・・
あんただってこの先まったくの丸腰じゃ、命が危ない・・・・!
だから・・・500万円・・・・・!金があればギャンブルが出来るだろっ・・・!
この島じゃ生命線・・・!こんなもんでも武器になりうるっ・・・!」
得体の知れない男にさえ自分の物を分け与える・・・・!
愚かだと考える人もいるだろうその振る舞い・・・しかし天の優しさが成した判断。
当の村岡はといえば、優しさ・思いやりなど微塵も感じようとはしない。
そんなことはどうでもよかったのだ。
天・・・この男が自分を貶めようとするはずがない。
それだけわかっていれば十分・・・!
思わぬ形で500万円のチップが手に入った・・・その結果のみが村岡を捉えて離さなかった。
――生き残りなさい 村岡隆・・・!生きなさい・・・!隆・・・・・・・・・!
(ぐぁっ・・・これは・・・・まさに“天”の恵みっ・・・・!ありがとうっ・・・神様ありがとうございます・・・・・・!)
チップを抱きかかえながら、村岡は何かに対して幾度となく頭を下げる。
村岡にとってその感謝の対象が天貴史でないことは、言うまでもないだろう。
「俺は誰にも死んでほしくねぇ・・・!無論あんたにもだっ・・・!
が・・・・ここからはあんたの自由・・・・!
もし俺についてくるってんなら、有事の際はあんたを守る・・・・・!」
村岡を見据えて力強く告げる天。
しかしその声は届かない。
「ぐふっ・・・ぐふふっ・・・・・・!」
(やった・・・!やったざんすよっ・・・・!500万円・・・!
ちと心許ない金額だがっ・・・・しかしこれでギャンブルルームを使うことが出来るざんすっ・・・!
しょうもない輩にヘコヘコして守ってもらわなくてもっ・・・・!一発逆転・・・・!十分ありえるっ・・・・・!
ギャンブルルームが使えさえすれば・・・この男に縋る必要もないっ・・・!)
「丸腰のあんたを置いていきたくはねぇ・・・
標のことを考えるとなおさらっ・・・仲間を置いていきたかねぇんだ・・・!
だが・・・俺は今後も勝手なことを言い出してあんたを危険に巻き込むかもしれない・・・!
っていうか・・・・この状況下、どの道を選べば生き残れるかなんて博打同然・・・!
あんたにはあんたの考え方がある・・・それに沿うことが一番なんじゃねぇかとも思う・・・!
そういう意味で言えば・・・・・標に関しても俺がどうこう後悔する問題じゃないんだろう・・・
難しいっ・・・だから・・・・!どうするかはあんた次第・・・!あんた次第だっ・・・!」
天は念を押すように繰り返した。
鎖鎌を握りなおし、あたりを見回すと、ここに来たときより随分と薄暗い。
もう半時も待たずして日は落ちるだろう。
周囲が闇に包まれれば視界が悪くなる。
人を襲う側でもない限り、それはデメリットだ。
動き始めなければ――夜の帳が下りる前に・・・!
【D-3/平地/夜】
【天貴史】
[状態]:健康
[道具]:鎖鎌 不明支給品0〜2 通常支給品
[所持金]:500万円
[思考]:助けが必要な者を助ける アカギ・赤松・治・石田(・ひろゆき)に会いたい
“宇海零”という人物が気になる 病院を目指す
【村岡隆】
[状態]:健康 興奮状態
[道具]:なし
[所持金]:500万円
[思考]:ひろゆきとカイジに復讐したい 生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。
こちらで代理投下以上です。
作者さんも代理さんも乙!
天が熱くてかっこいい・・・!
嫁さん二人の天と結婚制度糞くらえの社長は対照的だけど
いわれてみれば「たかし」同士だったなw
読んでくださりありがとうございます。
そして代理投下本当にありがとうございました!
皆様投下お疲れ様です。
社長のことを得体の知れない男だと思いながらも
仲間と同じように気遣う天の懐の深さに感動…
昨日はじめて福本ロワの存在を知り、一気読みし終わった……!
軽い気持ちで読むんじゃなかったなぁと思った。いい意味で。
2ちゃんのパロロワでは珍しく、ファンタジーやSF要素が一切ないロワだから
派手さが足りないだろうと思いきや逆…!
まずルール自体が面白い。ギャンブルルームと「棄権」の存在がwktkを誘う。
実際読んでみて他のロワとは一味違う雰囲気に惚れた。
ほとんどがギャンブル漫画の登場人物だから駆け引きメインになるのは当たり前なんだろうが
それにしたって頭脳戦に次ぐ頭脳戦……終始ドキドキしっぱなし。
森田と遠藤さんの心理戦は面白すぎて駆け巡る俺の脳内物質がやばくなったった。
「冷めた」やり取りが多くなりがちなとこだけど零と涯の青臭い会話なんかも良かった。
一般人代表みたいな治と石田さんが予想以上に良くて応援したくなった。
天はパロロワでもいいとこをひろゆきに持ってかれるのかwと思ってたら原作どおりの優しさでかっこよくて燃えた。
悪人たちは期待通りの悪人ぷりだし
善玉キャラは善玉キャラたちで色々波乱あるし
不謹慎な楽しみ方だが「次は誰が死ぬんだろう」と気になって仕方ない。
大量虐殺しそうなキャラが意外に早期退場してるから更に今後の展開が気になる。
ギャク成分出すのは無理だろうと決め付けてたが
利根川の振り向きざま「fack you」撃ちと黒沢のコナンくんには爆笑した。
あと見せしめに死んだ山口は地下帝国で熱いバトルしてるしwww
標こんなに早く死んじゃうのかよーって正直びっくりしたけど
標の死がいろんなきっかけになってるのを読んで、
標の死は無駄じゃなくてちゃんと「しるべ」になったんだなと感動。
キャラが本当にそのキャラらしい思考・行動をすることが多くて
福本漫画をマジで好きな人たちが書いてるんだろうなと思った。
書き手は少数精鋭ってかんじでどの話も一級品。
もっともっと盛り上がっていいロワだと思う。
という長い感想をしたらばに書きたかったんだがどこに書こうか悩んだからここに。
>>100 熱いっ・・・・・!なんと熱い感想・・・!
同感だなー頷くことばっかりだ。
したらばに感想スレみたいなの立てたら古いSSへの感想とか書きやすいかな?
そして予約がきた・・・!
立て続けに投下があると俺喜び庭かけまわるわっ・・・・!
>>100 情熱的な感想…!
圧倒的感謝…!
したらばに感想スレたてました。
過去の作品の感想を書きたい方は是非。
感想は書き手にとって何物にも変えがたい燃料なんだぜ
天恵読みました。圧倒的乙・・・!
台詞回しがホントに福本っぽくて感激した。
書き手の皆さん、これからも期待してます!
投下します。
平山は焦っていた。
腕時計の針は19時半を少し過ぎたところを差している。
21時にひろゆきとC-4の事務所で待ち合わせをしているのだ。
何とかして切り抜けたい…!この閉塞状態…! 首根っこを2匹の虎に押さえられている、この状況を…!
平山の傍で、原田と銀二はこれからの行動について話し合っていた。
完全に蚊帳の外にされている平山は、さっさとここを抜けてひろゆきとの待ち合わせ場所に向かいたかった。
(いいよな…? 抜けても…。 だって、もうオレが話せる事は全て話してしまった…!
オレを殺す気は無い様だし…今のうちに…!)
平山は、音を立てぬようそっと後ずさり、二人から距離をとった。
「どこへ行くんですか…?」
銀二は平山の様子を見て取り、声をかけた。平山の体が跳ね上がる。
「い…いや…もう…オレがアンタらに話せる事は全て話してしまったし、いいだろう…?
そろそろ開放してくれてもよ…!
それともアンタらまで、利根川のようににオレを脅して言うことを聞かせるつもりなのかっ…!」
平山は半ばヤケになって言った。
「…他にも約束がおありで?」
「ぐっ… い、いや…」
銀二は端的に指摘した。平山の顔が強張る。
「……どなたと?」
「……誰だっていいだろう…!」
平山は頑として突っぱねた。
この二人は…利根川が自分に向ける視線と同じ視線で自分を見ている。三下、格下…手駒…!
こいつらに興味を持たれ、ひろゆきとの待ち合わせ場所までついて来られたら、たまらない。
ひろゆきにまで迷惑はかけられない。
たとえ相手の心象を悪くし、自分の身を危険に晒したとしても、譲れない思いが今の平山にはあった。
「そうですか…。 なら、行っていいですよ。」
銀二はあっさりと平山を解放する。平山は面食らった。
「もうあなたから得られる情報もないことですし…。どうぞご自由に…」
冷めた目で一瞥をくれる。平山は苦虫をかみ潰したような顔をし、数歩後ずさりをしてから背を向け、走り始めた。
「ええんか?」
原田は銀二に声をかける。
「フフ…。 このまま逃がすつもりはありません…。
平山が合流しようとしているのは、先程の庇うそぶりから見て間違いなく『カイジ』或いは『ひろゆき』…。
私は平山を追います…。 原田さんはどうします?」
「そうやな…。 手駒は多いほうがええよな…?」
原田は急に小声になった。一瞬だけ目線を右に走らせ、口の端を吊り上げる。銀二は微笑み、小声で返す。
「そうですね…では、次の定時放送までにバッティングセンター前で如何です」
「それだけの時間があれば十分や…」
「では…」
「ああ」
短く別れを告げ、銀二は平山の向かった方向へと走り去った。
「さて…」
原田は一呼吸置き、手元の拳銃を握りなおし、ふっと息をついてから、右を向いて大声を張り上げた。
「そこの茂みに隠れとる奴…出て来い!!」
「ぐわっ…!」
蛙を踏み潰したような声を上げ、ガサガサっと葉が擦れ合う音が聞こえた。
「い、いやあ、すいません…!こそこそ隠れたりして、怪しく思われても仕方ないざんす…!
でも、見てください…!ワシに敵意はないざんすよ…!これこの通りっ…!」
その男…村岡は、原田に負けず劣らずの大声で、茂みから飛び出し、手を大仰に広げて見せた。
天に500万のチップをもらった後、方針が合わないなどとゴネて、身切りをつけて別れてきたのだった。
(奴と行動してたら、命がいくつあっても足りないざんす。ここは堅実に、ギャンブルで物資調達ざんすよ…!)
「フン…。おどれ、名前は」
「村岡…村岡隆と申しますっ…! ワシはあなた様のことは知っているざんすよ…!
関西最大規模の暴力団組長…原田克美様っ…! ざんしょ…?」
原田は返事を返さず、村岡を睨みつけた。村岡は、一瞬怯んだ様子を見せたものの、満面の笑みでやり過ごす。
「そんなに見つめられると緊張するざんす。やはり組長ともなると、貫禄が違うざんすね…!
この村岡隆、普段は裏カジノのオーナーを勤めておりますが、やってくるのは博徒とは名ばかりの腰抜けばかり…!
そういう腰抜けとギャンブルなぞやることもありますが、物足りなく感じておりましてね…!」
村岡は、原田を立て、遜りつつも決して自信のない様子を見せない。
また、そうした自分を演出することに必死になっていた。
村岡は直感的に察していた。先程から覗いていて、平山という男がいいようにあしらわれているのを見ていた。
舐められたら死ぬのだ。プライドとか、そういうものはどうでもよろしい。犬にでも食わせておけばいい。
強者には従え。だが、けして舐められてはいけない。村岡はそれを身をもって知っていた。
「ギャンブルか…」
原田が話題に食いついて来たのを逃すものかと、村岡、弾丸のように言葉を口から弾き出す。
「ええ…!この島では、死と隣り合わせ…!極限の状態でギャンブルに勤しむことが出来る…!
燃えたいんざんすよ…!強烈に心がギャンブルを欲しているんざんす…!
原田さんは、どうざんすか…?
一見したところ、殺しでこの島を抜け出そうとしているようには見えないざんすが…?」
村岡は原田の顔色を伺った。
ギャンブルで燃えるだの何だのはいつもの口八丁だが、村岡は是が非でも原田をギャンブルに誘いたかったのだ。
ギャンブルルームの中でなら、たとえやくざ相手でも対等に渡り合える…!
今の自分の所持品が500万のチップのみだとしてもっ…!
「なんでわかる…?そないなこと」
「え…?」
「オレが殺しに乗ってないやなんて、どうしてそないなことがわかるんや…?」
原田は獰猛な笑みを浮かべた。拳銃を持つ手は下げたままだが、その手首に力がこもる。村岡の顔が引きつった。
「まあええ…。要はおどれ、オレとギャンブルをしたい…。そういうことなんやろが。
回りくどい言い方すんなや…裏になんかあるんかと却って勘繰ってまう…そう思わへんか…?」
「そ、そ、そうざんすねっ…!いやいや失礼したざんす…!
そう…原田さんの言う通りっ…! ワシは原田さんのようなお人とギャンブルがしたいんざんすっ…!」
調子を合わせてきた村岡に、原田は苦笑した。
(この男…食えん奴やな。隙あらば自分のペースに巻き込もうと画策してきやがる。小物やが…。
いくら脅しをかけても崩れんところは、なかなか…。伊達に“裏”カジノの経営者ではないってことや…。)
原田は村岡の提案に乗った。
南下しながらギャンブルルームを探している間、村岡はこの島に来てから今までの経緯を、(主観たっぷりに)話しまくった。
「…というわけざんす!このひろゆきって奴は見た目は普通の男ざんすが、
その中身は卑怯、卑劣、悪辣、悪鬼…! とんだ食わせ物ざんす…!」
「…ほう、そうかい…ひろゆきって奴がな…」
「そうざんす!原田さんも気をつけたほうがいいざんすよ…!」
「クク…そうやな…気をつけるとするわ…。」
村岡は、参加者の情報と称して、自分が出会った人物をこきおろしていた。
特に「カイジ」と「ひろゆき」には(村岡曰く)さんざんな目に遭わされたらしく、特別恨みがあるらしい。
原田はあえて、ひろゆきと自分が既知の間柄だということを村岡に隠しておいた。
「しかし、そのひろゆきって奴に書かされたっていう誓約書…それはいいアイデアやな…。
村岡、オレとおどれもその誓約書、取り交わしてみるか?」
「ええっ…?」
村岡がポカンとした顔をしているので、原田は続けた。
「ギャンブルルームの中で交わした約束なら、反故にできないんやろう…?
なら、互いに安全を確保できるその『誓約書』、勝負の前に取り交わしとこうやないか。」
「…そうざんすね…!いいアイデアざんす…!」
村岡は返事をしながら、内心喝采をあげていた。
(先に言い出してくれて助かるざんす…!どうやってこっちから切り出したものかと考えていたざんすよっ…!)
「で、今からやるギャンブルざんずが…」
「そうやな、おどれ…麻雀はできるんか?」
「麻雀…ですが、麻雀は3人か4人面子がそろわないとできないざんす。それに時間もかかる。
なら…こういうのはどうざんしょ?麻雀のルールを借りはするが、全く別のゲーム…!
別のゲームですが、麻雀の駆け引きや心理戦のコクもある…!
おまけに一局5分から10分で済むざんす!30分100万のギャンブルルームにはまさにうってつけ…!」
「そりゃ面白い…。何ていうゲームなんや?」
「その名は…地雷ゲーム『十七歩』っ…!」
村岡は原田に十七歩のやり方を説明した。
「ほう……面白そうやな。やってみるか…それ…!」
「おおっ、原田さんさすが話が早いっ…!」
村岡の目がギラリと光る。原田はその様子を見逃さなかった。
よほど、その『十七歩』に自信があるのだろう。
「原田さんは麻雀、お強いんざんすよね…?本当は麻雀そのものの方がよかったざんすか…?」
原田の意見を伺うフリをして、村岡が探りを入れてきた。
「いや…昔はそれで鳴らしたこともあるんやが、今はほとんど打たなくなってもうたしな」
原田はあえて弱気な発言をした。このハッタリが村岡にどこまできくかは謎だが。
「ギャンブルルームで賭ける物なんやが…」
「…わしはこの通り、支給品を全て奪われて素寒貧ざんすよ。チップの500万以外、叩いてもホコリ一つ出んざんす」
「そうやな…ならアンタには、体張ってもらうしかあらへんな」
原田がさらっと恐ろしいことを言い、村岡はまた顔を強張らせた。
「何、命かけろなんて言わへん。誓約書のこともあるしな…。
もしオレが勝ったら、おどれにはオレの下について働いてもらう。但し、上限をつけたる。
満貫なら指令を1つ…跳満なら2つまで…ってな。指令の回数を使い切ったら開放したるわ」
「……それにしても、どんな指令かあらかじめ教えておいて欲しいざんす」
「せやったらゲームの直前に、ギャンブルルームの中で決めようや」
村岡は渋い顔をした。何をお願いされるのかと不安で仕方ないのだろう。
原田は話をそらした。
「おどれが勝ったらオレの支給品をくれたるわ。満貫なら通常支給品、跳満なら手持ちのチップ全額もつける。
倍満なら武器もつける。どうや」
武器。その言葉に村岡は反応する。
「武器…その拳銃をざんすか?」
「そうや」
「い、いいんざんすかっ…?」
「何や不満があるんかい」
「いや、不満などないざんすっ…!全くないざんすっ…!」
E-2の小道沿いにギャンブルルームを見つけ、入り口までたどり着く。
「じゃあ入るざんす。30分でいいざんす」
「ところで、…さっき説明を受けた十七歩なんやが、もう少し面白くなりそうやないか?」
「…と言いますと…・何ざんす?」
「二つルールを追加したいんや。一つは、ドラを増やす可能性を広げるルール。
もう一つは、一局きりで勝負をつけるためのルールや。」
しえん!
原田が提案した二つのルール。
一つ目のルール。通常十七歩には『カン』がないが、今回はカンを認めて欲しいということ。
カンするにあたって、通常の麻雀とは違う制約を設ける。
・一巡目リーチ後、相手の捨牌からカンできる。暗カン(手牌の中の4枚でカンすること)はなし。
つまり、リーチをかけたのにも関わらず明カンができる。
リーチの役はそのままつく。だが、暗刻を晒すので三暗刻などの役はなくなる。
・カンしても待ち牌が変わらないこと。手役が満貫以上を維持できること。
・カンすると、両側の山から新たにドラ表示牌をめくることができる。カン裏あり。
・カンしたあと、山からツモはしない。よってリンシャンカイホーもなし。
二つ目のルール。
・十七巡目の牌が通れば、通常なら流局、仕切り直しになるが、今回は流局にせず、延長扱いにする。
・十七歩で残った捨牌候補の4枚は手元に伏せ、両端の山から順番に好きなところをツモっていく。
・二枚重ねてある上の牌から取っていく。下の牌は、上の牌でツモれるところが全てなくなってから。
・手替わりあり。
「つまりや、十七歩…ステージAで勝負がつかんかった場合、十八歩目、ステージBに移行するんや。
これなら流局でやり直しにならず、30分以内に勝負がつくやろ。
カンのほうは…ドラを増やせる、地雷をちょっと大きい威力にするための味付けみたいなもんや」
「う〜〜〜〜ん……」
村岡は腕を組んで考え込む。急に提案された新ルール…。
しえん
「いいやろう?基本は十七歩と変わらん。カンできればやが…ドラが増えるというスリルもある。
勝負は、より熱くなれるほうがええ…。そうやろ…?」
結局、村岡、この提案を承諾…!
黒服にチップを払い、二人はギャンブルルームの中へ…!
向かい合って座り、ギャンブルで勝った場合の賭ける物について話をする。
村岡が原田に勝ったら、満貫なら通常支給品、跳満ならチップ全額も、倍満なら武器も渡す。
原田が村岡に勝ったら、原田の指令を受けて働く。
満貫なら1つ、跳満なら2つ、倍満なら3つ、三倍満なら4つ。(役満は三倍満と同じ扱い)
「で、指令ってどういった内容ざんす…?ここで聞いておかないと不安で集中できないざんす」
「もしオレがおどれに勝ったら…一つ目の指令は…『人を殺さないこと』やな。
この指令は、オレがおどれに指令を下す回数、猶予が残っているうちは必ず守ってもらうで。
但し、おどれの命に関わることや危険を予測できるような指令は下さへん。
そんな指令下して、指令を達成する前におどれに死なれても敵わんしな。
このギャンブルルームで明言したことは必ず守らねばならんのやから、安心せいや」
「そうざんすか…。 まあ、そういうことなら…」
先ほどのルールをもう一度おさらいし、誓約書も交わした後、自動卓のスイッチを入れる。
サイの出目の大きいほうが先打と決めて互いに振り、初戦の先打は村岡に決まる。
しえん!
支援します。
支援
待っていました!支援します!
村岡が右の山の真ん中当たりから一枚捲った。ドラ表示牌は一萬。ドラは二萬…!
「じゃあ…始めるざんすよ…!」
手元の三分砂時計を返し、いざスタート…!
村岡の手牌:
二萬、二萬、三萬、三萬、四萬、四萬、伍萬、六萬、八萬、八萬、中、中、中
(一-四-七萬 三面待ち)
捨牌:一、三、六、九萬、 1、2、2、4、6、8ピン、 一、三、三、四、七、九索、 南、白、白、白、發
高目は四萬-七萬> 立直、中、混一、一盃口、ドラ2で9飜(倍満)
安目は一萬> 立直、中、混一、ドラ2で7飜(跳満)
(倍満の武器狙いだから、できれば一萬でなく四-七萬で和了りたいざんす。
いや、待てよ…この捨牌候補の一萬…『保険』に使えるざんす…!)
村岡は、原田が手牌に集中しているのを見計らい、そっと自分の両隣の山…、
その一番右端の上ヅモと、自分の捨牌の一萬とをすり替える。
(これで、延長戦…十八歩目に突入した場合、先打のワシが真っ先に和了れるざんす!
メンゼンツモ上がりで一飜増えるから、8飜…!倍満にもなるっ…!)
捨牌候補としては、フリテンになるため、捨てられないお荷物の一萬。それを最高の形で仕込めた。
その上、すり替えで代わりに引いてきたのが4枚目の白…!
国士以外振り込むことのない4枚目の字牌…!
(うひょっ…!うひょっ…!運気はワシのほうに向いてるざんすね…!)
さて、三分の砂時計も砂が全部落ちきり、いよいよ変則麻雀十七歩、開戦である。
原田の手牌:
二萬、二萬、1ピン、1ピン、1ピン、8ピン、8ピン、8ピン、九索、九索、九索、發、發
捨牌:四、伍、伍、七、七萬、 2、3、4、5、6、6、9ピン、 一、二、伍、伍、七、七索、 南、南、北
(二萬-發 シャボ待ち)
二萬で和了>立直、三暗刻、対々、ドラ3で8萬(倍満)
發で和了> 立直、發、三暗刻、対々、ドラ2で8萬(倍満)
(※シャボ待ちでロン和了なので、十七歩目までは四暗刻の目はない。)
一巡目、村岡は白切り立直…!原田は南を出し、立直…!
二巡目から九巡目までの流れ。
村岡、白、白、白、南、2ピン、2ピン、4ピン、6ピン切り。
原田、南、北、9ピン、2ピン、3ピン、4ピン、6ピン、6ピン切り。優位は村岡…!
そして十巡目。村岡、初めて安牌尽きる…!
(今までの打牌を見てると、ピンフはかなり可能性が薄い…!そして、發は切りにくい…!)
村岡、8ピン切り。
ここで原田、動く…!
「その8ピン、カン…!」
晒せば三暗刻の役を失い、手役のおおよそが知られてしまうにも関わらず、原田はカンをした。
まず5ピンを切り、そして新たなドラ表示…。
原田、腰を上げて村岡の近くの山まで手を伸ばす。
「ええ!?な、なんでわざわざこっちまで手を伸ばすざんす!?」
「単なる気まぐれや…。気にすんな…!」
原田がドラ表示牌としてひっくり返したところ…それはあろうことか村岡が山に仕込んだ牌…!
村岡の当たり牌である一萬っ…!
「おお、またドラ表示牌が一萬やな。物騒なドラや…!」
実は二萬は二人とも2枚ずつ持っている…!互いにドラ4…!
だが、村岡は喜べない…!せっかく仕込んでいた牌をドラ表示牌としてめくられてしまったのだ。
(気まぐれ…?ですと…?不自然ざんすよ…。今のめくりは…。
おかしいざんす…。
これはもしかして、封じられたか…?ワシが当たり牌を山に仕込んでいたことに気がついていて…!)
もしそうだとしたら、重大な問題がある。『当たり牌』だと察していたのなら…!
待ちの一つが一萬だと、原田に知られてしまったのだ。
(なんてことっ…!最悪ざんす…!もしそうならこの待ち… 一-四-七萬など、一番警戒されるところ…!
大して、あっちはおそらく対々をやっている…!読みにくいところで待てる単騎待ちかシャボ…!
満貫手と考えると、飜牌やドラ絡みか…?
奴はこっちの仕込みを封じきり、その上、こっちの待ちまで見通しているっ…!
ぐううっ…!しくじったざんす…!こうなったら…仕方ない…十八歩目からは手替わりができる…!
十七歩を走破し、それに賭けるしかないざんすっ…!)
十一巡目、村岡、動揺を必死に押し隠し、1ピンを切ろうとするが…
その刹那、走った嫌な予感…!旋律…! とっさに九萬切りにチェンジ…!
そのチェンジ、目立たないがファインプレー…!
原田の手牌には1ピンの暗刻…!もし切っていれば、再びカンをされていた…!
原田の戦略は、カンをしてできるだけドラを増やすこと…。
この場を、そして村岡をプレッシャーで圧すること…!
支援
支援!
原田、村岡の九萬切りを見ても、マンズを切ろうなどとは考えない。
村岡の察するとおり、原田は、知っていたっ…!村岡の牌のすり替え…山への積み込みを…!
理牌に集中するフリをして、警戒していた…!視界の端で見ていた…!
(もうピンズは捨牌にあらへん。マンズかソーズ、どちらかを切っていかな……!)
待ちが一萬だったことを考えると、チャンタ手もなくはない。
村岡が武器を一番欲しがっていたことを考えると、ドラに、飜牌、混一、一通や一盃口を絡めて
倍満まで狙ってきそうだが…。
原田、長考の末、伍索切り。運良く通る。
十二巡目、村岡、原田のソーズ切りを見て、確証なき三索切り。原田、伍索切り。
十三巡目、村岡、三索切り。原田、二索切り。
十四巡目、村岡、悩む…!原田の待ちが絞りきれない…!
…実際は、發さえ振らなければ、二萬は村岡が二枚手牌に使っているので、シャボの片方の待ちはカラ…!
原田にとっては初めての十七歩で、發とドラで待つという無茶をしてしまっているのだ。
だが、そんなこと村岡には知る由もない。
手牌に二つある三萬…捨牌候補の、三つ目の三萬…これなら通る…!
村岡、三萬切り。原田、一索切り。
十五巡目、村岡、現物に喜んで一索切り。あと3巡…!
原田、七索切り。
十六巡目、村岡、またも大喜びで七索切り。あと2巡…!
原田、七索切り。
しえん
支援します
129 :
マロン名無しさん:2009/05/15(金) 23:21:50 ID:LpQNOazb
支援
支援
十七巡目。とうとう十七歩目まで来た。村岡、悩む。
ここまで来たら万一にも振り込む訳にはいかない。
そして、これ以上相手にカンをされるのも恐ろしい。今回、十七巡目は流局にならないのだ。
相手の戦略…。カンによりドラを増やし、プレッシャーを与える戦略…それが恐ろしい。
(ここは…原田の待ちをシャボと決め付けた場合、まだましなのはワシが手牌でも一枚持っている六萬か…?)
ふと六萬に指をかけた…、そのとき。
村岡にある閃き…!天啓っ…!!!
(原田には、ワシが手持ちのうちの一萬を山に積み込んでいたことを知られていて、それを逆手にとられたざんす…!
ということは、ワシが二三萬を持っていることはすでにバレバレざんす…!
となると、一萬で和了った場合、ワシが四萬も持っていると考えられていたら、
浮いた四萬とくっつくために手牌の中に五萬と六萬は持ってなきゃならんざんす。
奴がワシの和了を一萬単騎で待っているとは考えないだろうから、おそらくそこまでは洞察されてるざんす。
だから…まず一-四-七萬待ちは100%出ない…。 だが、同じマンズでも、伍萬は警戒されにくい…!
なら…切り替えてしまえばいいっ…! 伍萬待ちに…!
この捨牌候補の六萬を使って…!
「ん〜〜〜〜〜…! 来ました…! 今… 天から伝令っ………!」
「は…?」
村岡が突然、電波なことを言い出すので、さすがの原田も呆気にとられるっ……!
「何や…?」
「天下ったっ…! 神が…! 授かった…! ある直感……!!」
「はあ………?」
支援します
支援
しえん!!
「即ち…切るのは…!これか…? これっ…!」
村岡はダミーの捨牌、左手に九索と、右手に六萬を手に取った。
その右手の中には、手牌の端からこっそりゲットしてきた中…!三枚あるうちの一枚の中…!
「どっちざんすかね………?
まあ……こっちは……切れないざんす…!さすがに……!」
村岡、左手と右手を合わせ、包み込むように牌を持ち、ダミーの九索をゆっくりと捨牌候補の中に戻した。
すかさず打牌っ………! 打牌は中…!
自分が三枚持っているので、相手が待つなら単騎待ちにならざるを得ない、比較的安牌と思われる中…!
右手は流れるように手牌に添えられ、入城させる…!六萬をっ…!
これで新テンパイ成立…!
変化した村岡の手牌:
二萬、二萬、三萬、三萬、四萬、四萬、伍萬、六萬、六萬、八萬、八萬、中、中
立直、混一、七対子、ドラ4っ…! 倍満…!! 伍萬待ち…!
これで村岡、十七歩は走破…!
あとは、祈るだけ…!相手の手牌の中に、伍萬があることを…!
そして、持っている…!原田の残り捨牌、四萬、伍萬、伍萬、七萬、七萬…!
一-四-七萬待ちを知る者なら、打ち込まざるを得ない状況っ…!
村岡、嗅ぎ付けてきた…! 伍萬をっ…! その執拗…異様な執念で…!
支援…!!
しえん
支援支援
原田は、しばらく考え、捨牌候補の五枚の中から一枚を選択し、ゆっくりと打牌した。
打牌したのは………………!
四萬……………!
「なっ………!!!」
村岡は大声を上げそうになるのを懸命にこらえた。
「なんや?ロンか…?」
「ぐっ…………」
「はっきり言えっ…! 通ったんか、通ってないんかっ…!」
「ぐぐぐっ……………!」
原田は、村岡のおかしな動きを完全に看破していたわけではなかった。
ただ、「何かされた」ということだけは感づいていた。
(もしここでイカサマをするとしたら、切り返しか…?)
待ち牌を変更したと仮定するならば、確実に言えることが一つある。
元々待ち牌であったものが、待ち牌でなくなったということだ。
つまり、100%が0%に移行した…!一番の危険牌が、一番の安全牌へと変貌っ…!
…ハッタリかも知れない。
待ち牌を変えた“素振り”を見せただけで、こちらの動揺を誘ったのかもしれない。そうも考えた。
支援!
だが、原田は賭けた。己の直感…今までの修羅場…乱戦を潜ってきた己の感性に賭けたっ…!
そして…賭けに勝ったのだ。
「クク……通ったみたいやな」
「ううっ……………!」
「じゃあ、ステージBへ移行や…。村岡、おどれからや」
村岡、山を見渡す。
ここで伍萬をツモって来れたら、勝ちっ…!
村岡、内なる神に祈りながら、ツモ…!
が…駄目っ…! 引いてきたのは…ここで七萬…!よりによって七萬…!
結局、裏目…! 墓穴…! 圧倒的墓穴…!
「くっ…!」
七萬を叩き切りながら、村岡は歯軋りをする。
「クク…。神がどうとか言っとったな…?」
「ううっ…それが何ざんすかっ…!?」
「実はな…、オレにも天下って来たんや、たった今…!」
「は……?」
村岡は驚愕して原田の顔をしばらく見つめた。
原田がニヤニヤと笑っているので、村岡は茶化されていると思い、怒りを隠そうともせず不機嫌な声を出す。
しえん
支援します…
支援
「…神なんて…そんなもんいないざんすっ…!」
「まあ、そう言うなや。信じとったもんは最後まで信じてやらんとな…!」
原田はおもむろに、自分の右側の山、その一番手前に手を伸ばす。
「ほれ…神のご加護やっ…!ツモ…!」
ツモってきたのは發…!手牌を倒すっ…!
「立直、發、対々、ドラ4…! 裏は乗らんが…倍満やっ…!」
呆然としていた村岡………だが、すぐにあることに気がつく。
(あっ…!あああああああっ………!)
同じことをやられていたっ…!
つまり…村岡が右端の山に牌を仕込んでいたのを見抜かれていただけではなく、
原田も仕込んでいたのだ…!山の中に当たり牌をっ…!
そもそも…、サマをすることを念頭に入れて発案した新ルールとか、
武器を渡すことをちらつかせた『倍満縛り』で、こちらの手を特定しやすくしたとか、
考えてみれば、全てが相手の策略…!謀略…! 手の中で踊らされていたのだっ…!
悪党っ…!なんたる悪党………!
支援!
しえん
◆
「…で、まず一つ目の指令やが…」
「ぐううっ…!あががっ…ぎっ…げっ…ごっ…!」
ギャンブルルームを出た後、原田が村岡に話しかけた。
村岡は、よっぽど負けたのが悔しいのだろう、目を白黒させて奇声を放っていた。
「おい、コラ…撃たれとうなかったら話を聞けや…」
原田が拳銃を構えると、村岡がひっと声を上げて後ずさった。
「こ…こ…ころ…殺しはっ…!」
「ああ、誓約書があるから殺すことはできへんなぁ…? だから、撃たれても死なない部位やったらどうや…?
例えば…腕とか…足とかな………!」
「すっ…すいませんっ…!!」
村岡は涙目でその場にひれ伏した。
「わ…ワシは絶対服従であります…!どうか…どうか怒りをお静め下さい…!」
「……フン。じゃあまずは一つ目の指令や。指令を下し終わって、おどれを開放するまでは、人を殺さないことや」
「し、しかし、相手が一方的に襲ってくることもあるざんす…!そんなときは…?」
「正当防衛は許したるわ」
村岡はほっと胸をなでおろす。
「ただ、正当防衛かどうかを見極めるんは、この場合、オレやなくて、主催サイドやろな。
主催が正当防衛と認めなきゃ首輪が爆発するんやろ。せいぜい行動に気をつけることや……」
村岡の顔はみるみる真っ青になった。
支援するっ…!!
しえん
(さて…指令はあと二つ……何を命令すりゃあいいやろな……)
すっかりしょげかえった村岡を連れて歩きながら、原田は考えを巡らせていた。
***
【D-2/発電所付近/夜】
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0〜2、支給品一式
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す 平山を尾行する
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中 やや精神消耗
[道具]:参加者名簿 不明支給品0〜2(確認済み) 通常支給品
[所持金]:1000万円
[思考]: ひろゆきとの待ち合わせ場所に急ぐ
引き続き利根川の命令には従うが、逃れる術も積極的に探る
※ひろゆきと21時にアトラクションゾーン事務所(C-4)で落ち合う約束をしました。
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
【E-2/小道沿いのギャンブルルーム内/夜】
【原田克美】
[状態]:健康
[道具]:拳銃 支給品一式
[所持金]:700万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す ギャンブルで手駒を集める 村岡に指令を出す
※首輪に似た拘束具が以前にも使われていたと考えています。
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※次の定時放送までに銀二とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にて赤木しげるに再会する約束をしました。
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。原田も村岡を殺すことはできません。
※村岡にあと2回まで命令することができます。
ただし、村岡の命に関わることや危険が及ぶような命令はできません。
【村岡隆】
[状態]:健康 意気消沈
[道具]:なし
[所持金]:400万円
[思考]:ひろゆきとカイジと原田に復讐したい 今は原田に服従する 生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。
※村岡の誓約書を持つ原田を殺すことはできません。
※原田の指令を3回まで引き受けるはめになりました。
3回分の命令が終わり、開放されるまで、正当防衛以外の人殺しはできません。
代理投下終了です。
二話連続社長の魅力たっぷりの作品が投下されてうれしい限りですw
ここにまたひとつ重要な関係が出来上がりましたね……!
投下乙
このハラハラ感・・・
途中から普通に原作福本漫画を読んでる気分になったw
社長可愛そうに…全力で慰めてあげたい。
乙です!
社長www
原田に勝負なんて無謀すぎる…!
福本バトロワの勝負の醍醐味を味わいました…。
そして、麻雀戦が書ける書き手さんが羨ましいです!
投下乙です。
なんとも熱い展開……
申し訳無いんですが一つ。
>>120の社長の手役、高めは8ハンではないでしょうか(倍満は変わりませんが)
社長・・・がんばって・・・!
徹夜して読んでしまったorz
みなさま凄すぎる!
まとめサイトをアップしているものです。
「十八歩」までアップしました。
どの話も心理駆け引き戦から人情、混乱の前触れなど・・・
話が加速してきて、まとめるのは大変ですが、
この大変さすら、嬉しいです。
さらに、もう一人投稿が来そうな気配がありますし、
今後の展開も楽しみです。
今回、ご相談があり、こちらに書き込みしました。
主に2点。
一点目は「四槓子」について
こちらの作品は書き手さんが改訂版を出すということなので、
まとめにアップすることを避けておりました。
しかし、その続きがアップされ始め、
また、書き手さんの修正箇所は牌の表現だそうなので、
まとめサイトには、一旦、改定前をアップし、
書き手さんが改訂版を投下した時、そちらに
修正しようと考えておりますが、
それで問題はないかということ。
もう一点はしたらば内にある、専用絵掲示板を、
メニューに加えたいと考えていること。
理由はとても個人的なことですが、
野生の福本先生はもっと評価されるべきかと・・・。
どうか、ご意見をお願いいたします。
>>160 いつも乙です!本当にお世話になってます。
「四槓子」については、話の大筋に変化があるのでなければ
改定前をアップしておくので問題ないと思います。
でも作者さんの希望を聞いたほうがいいのかな?とも思います。
絵掲示板については大賛成です!
あの専用絵掲示板には福本先生が生息なさってるし
同じく、たくさんの人に見てほしい!評価されるべき…!と思っていたところなので。
まとめサイトの中の方お疲れ様です…!
「四カン子」(カンの漢字が変換できな…)に関しては、過去ログが読めなくて困ってましたので、改訂前のが読めると助かります…。
個人的なことですいません
あと、絵板に関して。有り難い提案…!
どうぞよろしくお願いしますっ…!
当方、絵板の管理人ですが、他にも絵をupしてくれる絵師様募集中です。
四槓子を書いたものです。
まとめ人さん、いつも有難うございます。
今、訳あってPCが手元に無いため今すぐに改訂版を書くことが困難な状況です。
そのため、ご迷惑おかけいたしますが四槓子はそのままアップして頂けると助かります。
改訂の際はこのスレで告知した上で、直接wiki編集するようにしますので何卒、宜しくお願いします。
あの、支援MADみたいなものを作りたいなと思ってるんですが
自分の作品をそういうのに使って欲しくないっていう作者さんとかいらっしゃいますでしょうか・・・?
十八歩15/22の『電波なこと』の電波はネットスラングだと思ったので、ちょっと冷めてしまった。
まとめサイトをアップしているものです。
書き込みをしてくださった皆様、そして、書き手様ありがとうございます。
ただいま、仕事中のため、帰宅次第、アップしたいと思います。
疲れて眠ってしまわないように頑張りたいです(笑)
>>164様
大賛成です!
ほかのロワを見るたびに羨ましいなあっと感じていたので、
そのご提案は大変嬉しいです!
楽しみです!
別に電波ってネット発祥じゃないけど?
代理投下してくださった方、感想くださった方ありがとうございました。
>>157様
ご指摘ありがとうございます。wikiのほうで訂正いたしました。
>>164 すごく…楽しみです…。自分は全く問題ないです。
トップページの告知のラジオも、楽しみすぎてうずうずします。
まとめサイトをアップしているものです。
ただ今、「四槓子」と絵掲示板を
アップしました。
支援MADの話題も上り、
最近の勢いが大変嬉しいです。
書き手さんは大変かもしれませんが、
どうかお体に気をつけてください。
十八歩で、原田の手はツモだから三暗刻になると思うのですが。
今回は投下前にお詫びがございます。
前回、「抜刀出陣」を描いた時、
あえてC-3へ向かう光点をカイジか沙織か分からないようにすることで
次の書き手の自由度を広げてみようと
試みたのですが、その前の「四槓子」で
沙織の位置が暗に示され、矛盾がないように修正したところ、
伏線が投げやりのような状態となってしまいました。
そのため、その投げやりな伏線を回収するために、今回の話を書きました。
今回のような安易な投下がこのロワのクオリティを下げてしまうと思うと、
なんと不注意なことだったのかと恥じ入っております。
もし、今後も投下が許されるのでしたら、
以後はこのような失態のありませんよう、
気をつけてまいりたいと思っております。
ご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございませんでした。
では、投下します。
173 :
獣の儀式1:2009/05/17(日) 06:58:05 ID:???
沙織はひたすら林の中――東へ走っていた。
周囲は月明かりを遮るような木々に、足に絡みつくように生い茂る雑草。
昼間であっても、足を踏み入れることを躊躇するような場所である。
それでも沙織は走っていた。
沙織が走る理由――それはこれまで行動を共にしていたカイジを裏切ったからである。
二人とも、最終目的はこのゲームの脱出であるが、沙織は棄権費用を集める方法なのに対して、カイジは仲間を集い、ゲームの転覆を目論んでいた。
現に、平山幸雄、赤木しげるの協力を得る約束を結び、カイジの計画は少しずつだが、軌道に乗り始めていた。
しかし、カイジの計画が進むたびに、沙織の中で、自分の目的がどこか遠ざかっていく歯痒さが蕁麻疹のように広がった。
勿論、カイジとの関係に見切りをつけた方が良いのではという思いが何度も頭をかすめていた。
それでも、カイジから離れなかったのは、夕方、彼らを襲った殺人快楽者――有賀研二のような人物に遭遇する恐怖、そして・・・
『主催者の言っていることは信用するな・・・!棄権の話も嘘かもしれない・・・!』
カイジが何度も口を酸っぱくする位、繰り返してきた言葉である。
これらのことが沙織の判断を先延ばしにしていた。
174 :
獣の儀式2:2009/05/17(日) 06:59:36 ID:???
しかし、事態は大きく急転した。
それをもたらした要因は大きく分けて二つ。
一つ目の要因――有賀を殺したことにより、サブマシンガンウージー、防弾ヘルメット、6800万円を手に入れたこと。
この出来事により、沙織は身を守るための強力な武器、棄権費用に手が届く確信が持てるような大金を手に入れた。
二つ目の要因――ギャンブルルームで確認した黒服の――
『一億円分のチップでまず申請を行う・・・首輪はその後、即座に解除される』
『我々は嘘はつかない』
という言葉。
これで、カイジの警告は杞憂であったことが判明した。
これからゲームで生き延び、脱出するための条件は満たした。
後はどうやってカイジから離れるかであるが、その機会は意外と早く訪れた。
井川ひろゆきとの麻雀勝負を行うことが決まった。
その際、負けた際のリスクを最小限に抑えるための策略
――井川ひろゆきの隙をついて逃げ出し、後で合流する――を立てた。
そして、カイジの荷物――ボウガンと700万円を預けられた瞬間、
彼女の中の何者かが囁いた。
『コレデ・・・逃ゲ出セル・・・!』
カイジの旗色が悪くなった以降の記憶はない。
気づいたら、林の中を走っていた。
175 :
獣の儀式3:2009/05/17(日) 07:00:58 ID:???
なぜ、林の中を選んだのかは、本人自身、明確に理由を把握していないが、
カイジから身を隠せる場所へ移動したかったというのが、根本だろう。
カイジを裏切ったという事実を自分自身から隠したかったという要因もあったかもしれないが・・・。
とにかく今の彼女には冷静さはなく、逃げたい、あとには引けないという単語ばかりが彼女の頭の中を支配していた。
そんな彼女に思考を取り戻させたのは、林にこだました、耳障りな甲高い音だった。
ピーーッ! ピーーッ!
「ひぃ・・・!」
沙織は音の発信源である首輪を思わず押さえた。
首輪は禁止エリアに近づくと、警告音を発する。
これは参加者に危険を知らせるものであるが、
同時にほかの参加者に居場所を知らせることにもつながる。
「と・・・とにかく・・・移動しなくっちゃ・・・!」
一旦、沙織は首輪の警告音がなくなる場所まで引き返した。
176 :
獣の儀式4:2009/05/17(日) 07:02:02 ID:???
「そういえば・・・ここは・・・どこなの?」
沙織はしゃがみ込むと、地面に降ろしたディバックから地図を取り出した。
先程までアトラクションゾーンにいたこと、後ろを振り返ると、ホテルがそびえ立っていることから、
D-3エリア東側の林の中にいることが分かる。
「これから・・・どこへ行こうかしら・・・」
沙織は右――北へ目線を向けた。
地図で確認すると、この先は先程まで沙織がいたアトラクションゾーンである。
夕方、有賀に襲われたことが記憶から蘇る。
飛び散る鮮血、乾いた鉄のような血の匂い。
沙織に警告するかのように、体がぶるっと震える。
「やっぱり・・・南へ・・・」
その時、風が南から北へ吹きぬけた。
湿った草の匂いが鼻腔から体内へ吸い込まれる。
「えっ・・・」
沙織は匂いに違和感を覚えた。
草の匂いもあるが、それに隠れながらも自己主張するかのように、乾いた鉄の匂い
――有賀を殺した時に鼻腔に吸い込んだ血の匂いが含まれていた。
「ま・・・まさか・・・」
177 :
獣の儀式5:2009/05/17(日) 07:03:54 ID:???
沙織は左――南へ顔を向けた。
そこに人影が立っていた。
「だ・・・誰なのよ!」
沙織は立ち上がると、サブマシンガンウージーをその人物へ構えた。
沙織とその人物の距離はだいたい5メートルぐらいである。
沙織は地図を確認するため、林の中でも比較的月明かりが差し込む場所を選んでいる。
そのため、5メートルぐらいであれば、目を凝らせば、人物の顔ぐらいはおぼろげに認識できるはずであった。
しかし、足元がわずかに認識できるくらいで、肝心の顔が分からない――上半身が闇に溶け込んで存在しないのである。
「誰よっ・・・出てきなさいよっ・・・!」
沙織は泣き叫ぶように威嚇する。
「そんな持ち方じゃ・・・人・・・殺せないよ・・・」
足元がわずかに動いた。
一歩、一歩、人物は沙織に近づいていく。
白黒のテレビ画面がカラー画面に変化するかのように、人物の全体像が沙織の前に浮かび上がる。
「あっ・・・」
沙織の思考は閃光が弾けたように白くなった。
なぜという疑問すら沸く余裕がない。
支援
179 :
獣の儀式6:2009/05/17(日) 07:08:53 ID:???
沙織の目の前に立っていた人物、それは沙織がその手で殺害した有賀研二であった。
浮かび上がる有賀の姿は、サブマシンガンウージーを肩に背負い、
防弾ヘルメットをかぶっているという初めて沙織たちの前に現れた姿そのものだが、
唯一違うのは左目が潰れ、そこから涙を流しているかのように、血が滴っていることだ。
「君は人を殺す楽しみを知らない・・・怯えている・・・だから、殺せない・・・」
有賀はククク・・・と、喜劇を見て楽しんでいるような笑いを浮かべながら、更に距離を縮める。
「だから・・・僕が教えてあげる・・・殺し方・・・」
「いやぁ・・・」
事態を飲み込めない沙織にある僅かな思考が首輪の警告音のように、脳内に響き渡る。
――逃げなくちゃっ・・・!
沙織は右足を後ろへ下げる。
その直後、靴底に柔らかい感触を感じた。
「キャッ・・・!」
沙織は体勢を崩し、仰向けに倒れた。
柔らかい感触は沙織が地面に置いたディバックであり、倒れた拍子に沙織の体に押しつぶされ、その中身が周囲に散乱する。
180 :
獣の儀式7:2009/05/17(日) 07:11:17 ID:???
「っ・・・!」
――起きあがらなくちゃっ・・・!
沙織は小さく唸り、体を捩ろうとした。
体に風圧を感じる。
沙織は正面を見た。
有賀の顔が目の前に迫っていた。
「君は殺せない・・・だから、僕が教えてあげる・・・殺し方・・・」
「いやああああぁぁぁぁぁっっっ・・・!」
まるで、これから沙織を辱めるかのように、有賀の体が圧し掛かる。
沙織は激しく足掻いて、抵抗する。
しかし、有賀は動じない。
さらに体を密着させようとする。
「ちぃ・・・近づかないでぇ・・・!」
血の匂いが混じる有賀の生暖かい息が首に吹きかけられる。
舌で舐められているかのようなその感触に、
沙織は“いやぁ・・・”と、絞るような喘ぎを漏らしながら、顔を背ける。
――死にたくない!!
もがく沙織は何かを掴んだ。
沙織はそれを振り上げ、有賀の左目に突き刺した。
「グワッ・・・!!」
有賀は奇声を発する。
有賀から血が飛び散る。
それを浴びながら、沙織は突き刺した勢いのままに、有賀を地面に押し付けた。
――死にたくない!!
181 :
獣の儀式8:2009/05/17(日) 07:12:44 ID:???
ハッ――!
沙織の目の前にあったのは、湿った雑草が生える地面だった。
沙織は周囲を見渡す。
スポットライトのように周囲を照らす月明かりに晒されていたのは、
散乱するディバックと雑草、林の木々に、沙織の姿であった。
有賀どころか、その鮮血すら存在しない。
沙織から力が抜けた。
「悪夢・・・嫌な悪夢・・・」
沙織は手元を見た。
手に握られたボールペンが地面に突き刺さっている。
全ては終わった。
あれは疲れた私が見た悪夢。
全て忘れよう・・・。
早く一億円を集めて・・・。
そう自分に言い聞かせた時、あの有賀の言葉が頭を反芻した。
『君は殺せない・・・だから、僕が教えてあげる・・・殺し方・・・』
沙織に突如、煮えたぎる熱湯のような怒りがこみ上げてきた。
――私が人を殺せないですって・・・!
182 :
獣の儀式9:2009/05/17(日) 07:15:32 ID:???
有賀の短い言葉。
その中に、こんな意味が含まれているような気がしたのだ。
君は何も出来ないか弱い子。
人を殺すことができないから、一億円を集めることもできない。
そのまま、ここで死ぬしかないよね。
死ね。
「ふざけるなぁっ!!」
沙織はボールペンを引き抜くと、それを何度も地面へ突き刺した。
「私は生きるっ!私は生きるっ!」
ざくざくと草がむしられ、地面が削られるような音がこだまする。
次第に、その音と共にプラスチックが砕けていく音も含まれるようになった。
ボールペンが本来の長さの半分になった頃、沙織はその動きをやめた。
「私はアンタとは違う・・・」
ボールペンをその場に投げ捨てると立ち上がり、その場から背を向ける。
「アンタは殺しを目的としているけど、私は手段でしかない・・・」
沙織は散乱する支給品をディバックの中へしまう。
「アンタは目的に興奮するあまり、私達の前に姿を現してしまった・・・
けど、私はそんなヘマはしない・・・ちゃんと、勝算がある・・・」
やがて、支給品がディバックの中に納まった。
「襲う相手は、力の弱い女、子供、もしくは逃げ腰の男・・・」
沙織はディバックを背負い、防弾ヘルメットを被る。
「決して、正面から闘わない・・・味方のフリをして背後からいく騙まし討ち、
逃げたところを襲う逃げ殺し・・・女であることも利用する・・・!」
数歩先にあったサブマシンガンウージーを手の中に収める。
「私は・・・アンタとは違うのよっ!」
沙織はそう吐き捨てると、北へ駆け出した。
沙織にとって、殺人は選択せざるを得ない手段である。
そのため、殺人を快楽とする有賀を否定した。
しかし、その沙織の戦略は、皮肉にも有賀の戦略と酷似していた。
そして、防弾ヘルメットを被り、サブマシンガンウージーを持つその姿は
生前の有賀そのものであった。
【D-3/アトラクションゾーン沿いの林/夜】
【田中沙織】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り十本)
[所持金]:8300万円
[思考]:カイジから逃げる 一億円を集めて脱出を目指す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
こちらで以上です。
最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。
沙織マーダー化きた?
女性マーダーの代表として頑張って生き残ってほしいですね
でももし森田と会ったらどうなるのかなんて考えるとwktk
◆uBMOCQkEHY さん、作品投下、ありがとうございました。
沙織の悪夢の描写が良かったです。
生き残りたいと思ったら、実現が遠い対主催者戦より、
必殺の武器を手にしたのだからあと4人殺したほうが確実
と考えてしまうのは仕方ないなぁと沙織に共感しました。
投下乙です。
胸に差し迫ってくるような恐怖の描写が秀逸です。
紗織がマーダー化して、今後の展開が楽しみ。
>>171さん
指摘ありがとうございます。
wikiで修正してきました。ミスばかりで…失礼しました。
わーラジオの日取りが決まったね!
一ヶ月以上先だけど今から楽しみ!
放送後、全キャラクターのエピソードが出揃いましたね。
もうそろそろ夜中に突入でしょうか?
夜が深まっていくにつれて、最近の作品が不気味な雰囲気になりつつあって良いなぁ…。
ラジオが楽しみすぐる…
ところで、「ラジオ」ってネットラジオですよね?環境によって聴けないとかあるのかな…
ちと不安
192 :
マロン名無しさん:2009/05/19(火) 23:02:18 ID:66wZ81sZ
ラジオの情報kwsk
“画鋲ラジオ”っていうパロロワ全体を支援する企画で、
いろんなパロロワを取り上げてくれるラジオツアーがあるんだ。
ネトラジだからパソコンがないと聞けないけど、
itunesやWindowsMediaPlayer、Winampなどがあれば気軽に聞ける。
大体の場合、録音したものを後日zipであげてくれる。
土日などの休日にだいたい21時〜24時すぎ、25時くらいまで、
その日のお題ロワについて語る内容になっていて、
福本ロワは6/27に決まりました。
スカイプあれば視聴者もラジオに出演可能。
当日はラジオ専用スレでみんなで実況(?)しながら聞く。
次回5/24にジョジョロワ2ndについてのラジオがあるから、
ジョジョロワも読んでるって人は
どんな感じのものなのか聞いてみたらいいかもしれない。
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html に詳しいことが書いてあるよ。
書き手も読み手も福本ロワについて熱く語れるチャンスだ!
>>193 ありがとう…ありがとうっ…!
スカイプは持ってないけど、ラジオ専用スレで実況…すごい楽しそうだ…!
wktkが止まらないっ…!
スカイプは無料でダウンロードできるから、マイクさえあれば参加可能だよ
>>195 サンクス、色々調べてみます。スカイプってけっこう気軽に始められるんだなぁ
ああっ…それにしても保守がしたいっ…!
199 :
マロン名無しさん:2009/05/25(月) 21:45:06 ID:WaSp/gn/
あげ
おはようございます。
本日はお伺いしたいことがあり、書き込みました。
ここ最近の暑さや仕事の疲れ、支援動画への期待感から、
頭が変な方向へふっ飛んでしまい、
ニコ動内にある組曲『ニコニコ動画』の替え歌、
組曲『福本漫画バトルロワイアル』の歌詞を書いてしまいました。
…ブームに乗り遅れどころか、転落状態なのですが…。
もし、差し支えがなければ、ここに投下してよろしいでしょうか?
皆様のご意見をお待ちしております。
>>200 本スレじゃなくてしたらばでやって欲しい。
そうだな、したらばの方が後々素早く見れるし新参が探しやすいべ
今って携帯でもスレ内検索出来るみたいだけどさ
ご意見ありがとうございます。
今日、会社から帰宅次第、したらばの一時投下スレでアップします。
>>203 本編SSじゃないんだから新スレ立てたほうがよくない?
>>204 したらばに新スレたててアップって意味ですな?
それでいいんじゃないかな
206 :
マロン名無しさん:2009/05/27(水) 19:51:44 ID:RtFqtoOL
まだ完結してないのに福本バトロワMADをニコでうpするとかまさに狂気の沙汰だと私は思います。
ニコ厨参入とかで変なこと(いけすかないクズニート野郎の駄文章連発とか)になりそうで怖い
>>206 支援MADはパロロワの華なので俺は賛成
あんたが他の支援MAD見たことない人なのかもしんないけど
現状パロロワMADの視聴層のほとんどは既にそのロワを読んでいる人
あるいは他ロワ読者
あからさまな駄文は通らないだろ
書いてない奴に限って駄文だの却下だのうるさいんだよな
以前も荒れた後に投下されただけで釣りだの荒らすためにわざとだとまで言われてた人いたし、文章力ない奴を全否定する読み手が多すぎ
書き手は駄文が来ても優しくレクチャーして改めて投下させてるしな
>>206 あなたの懸念はわかった。
でもそんな刺々しい書き方では「意見」には見えない。
誹謗中傷にしか見えない。
まあ、なんだ。
和やかにやろうや
かずたかに見えた
ただ今、会社から戻りました。
私の個人的な考えを書き込んだばかりに
スレが荒れる原因を作ってしまい、
申し訳ございません。
あの、もし、的外れな意見でしたら、申し訳ないのですが、
今回の組曲『福本漫画バトルロワイアル』は支援MADではなく、あくまで替え歌です。
組曲という違う形で表現することで、
また、違った面白さが生まれるんじゃないかなと思い、製作してみました。
けれど、私が素材を提供することで、
>>206様が懸念しているような事態も考えられます。
>>206様の意見は福本ロワを思い、
いつか直面する可能性があるからこそ、書き込まれたものだと思います。
ただ、誰しも初めから文章が上手いとは限りません。
なので、もし、その問題に直面した時は、
その都度、皆でどうするのか考えていけたらよいのではないかと、個人的には思っております。
>>206様、その時はどうか、
>>206様の様々な可能性を考慮できる視点から、
その書き手を導いてはいただけないでしょうか?
あと、今回、私が替え歌の歌詞を投下することで、生じる問題が見えてまいりました。
そのため、したらばに投下をするべきか、悩んでおります。
どうかご意見を頂けないでしょうか。
お願い致します。
あくまで替え歌の歌詞であり、動画ではないので、
動画を期待されている方がいらっしゃったのであれば、
別の意味で申し訳ないのです…。
どうせならMAD作れる人に来てほしいよね
組曲替え歌もそれ以外のネタでも
ま、職人は職人で待てばいいさ
新規書き手は俺が導く、心配すんな
>>215 おおっ頼もしい…!
ただ、
>>214は替え歌の歌詞を思い付いただけで、MAD作るのはまた別の話だと思うんだ。
(自分も職人さんが降臨したら、MADで見てみたい派だけどね)
自分もこのスレが大好きだから、どんな苦難があっても頑張れる。
そのために新規書き手さんが増えて欲しいとも思う。
馴れ合いしたいわけではなく、あまり堅苦しくない雰囲気にしたい
今のペースじゃみんな忘れちゃうしね
読み手は良いけど、ペース遅すぎて書き手が状況を思い出せなくなるとやばい
初めてここでSS書いたとき、みんないっぱいレスくれて本当に嬉しかった。
最近、書いてもレスが少ないので、「アレ?俺変なコト書いたかな?」と思って、次を書くのを躊躇してしまう…。
たしかに読み手も盛り上げる手伝いしなきゃだね
積極的に感想書いたりとかするくらいしか出来ないけど・・・
私も、投下から日にちが経つと感想書きにくくて、結局レスつけずに終わったりしてるから
これからはそういう時はしたらばの感想スレにでも書くことにする
220 :
215:2009/05/27(水) 23:24:51 ID:???
自分のレス読み返したらとんでもなく失礼な書き方になってるのに気付いた
どうせならMAD作れる人に来てほしいよね→どうせならMAD作れる人も来てほしいね
だ、気分を害してたら申し訳ない
221 :
206:2009/05/27(水) 23:28:44 ID:???
こちらがクズみたいなこと言った性でスレがこんなことに・・・
本当にごめんんなさい・・・
別にこんなことにって言うような状況でもないような・・・
こうやって読み手書き手の意見交換をするのは大事なことだと思うよ
(本当はしたらばでやるべきなのかもしれないけど)
>>218 読者や反応は多い方が良いよね
誤字の指摘でも読んでくれたと分かるから嬉しい
長文になります。すいません。
>読み手は良いけど、ペース遅すぎて書き手が状況を思い出せなくなるとやばい
その点は大丈夫、まとめ読み直したら書けます。
まとめサイトの中の人が頑張ってくれてるから、最新作までアップされてるし。
>初めてここでSS書いたとき、みんないっぱいレスくれて本当に嬉しかった。
>最近、書いてもレスが少ないので、「アレ?俺変なコト書いたかな?」と思って、次を書くのを躊躇してしまう…。
激しく同意。「面白かった」という意見だとすごく嬉しいし、「面白かった」という意見とは限らなくても、
何かしらの反応があれば次の投下に繋げられるんですよね…
誤字の指摘のレスでも。間違いを指摘してもらえると助かります。
こんな風に意見交換できるのは嬉しいことです。
あと、ここのバトロワは一つ一つ話のクオリティが高いですから、投下ペースがゆっくりなのは仕方ないかと。
返答が遅れてしまい、申し訳ございません。
今回の議論の本人は携帯でスレを追うも、そのまま寝ていました。
あぁ、空が明るい…。
>>215様
圧倒的漢っ…!
福本バトロワは当分の間は安泰かもしれないと改めて思いました。
>>221様
>>221様の意見も福本バトロワに必要な意見の一つだと考えておりますよ。
「ただ…ちょっとのすれ違いがあっただけなんだ…」(by赤松)
>>218様
私もそのように考えてしまうときがあり、
その度に、作品を読み直してみて、自問自答を繰り返してしまいます。
また、それと同時に自分が投下したことで、
読み手さんを減らしてしまったのではないかという罪悪感に駆られるときもあります。
なので、今回の議論は少々不謹慎かもしれませんが、こんなに多くの方が福本バトロワを愛しているんだなと感じ、
荒れること自体も困惑する反面、少し嬉しい感情もあったり…。
今回の議論の一番の収穫は、そのような方々と意見交換ができたことだと思います。
>>224様
確かに福本バトロワは一定のクオリティが求められておりますし、
書き手も昼間、学校や仕事に追われ、書く機会を作ることが難しいのではないかと思います。
私も昼休みを利用していますが、なかなか進まないんですよね…。
それでも福本バトロワの物語を確実に築くことができたらいいなと思っております。
まぁ、本家の福本先生がry)
組曲『福本漫画バトルロワイアル』はしたらばに
地下王国スレとは趣きが異なるネタを投下するネタスレを作って投下するという形でよろしいでしょうか。
特に差し支えがなければ、今日の夕方6時過ぎ頃に投下したいと考えております。
因みに、学生時代、音痴故にあだ名が“編曲家”でしたので、クオリティは期待しないでください。
227 :
◆xuebCgBLzA :2009/05/28(木) 22:13:07 ID:NS3loPss
お久しぶりです。零vs銀二、零vs鷲巣を書いた者です。
色々な事情があり今までスレを読むことすら出来ませんでしたが、
しばらくぶりにまとめサイトを見させていただいたら、書き手さんやまとめサイト更新をなさっている方の活躍に感激し、1週間かけて最初から読み直しました。
とても面白い展開で進んでいるし、自分自身もだいぶ生活にゆとりが出てきたので書き手として復帰してもよろしいでしょうか。
よろしくお願いします。
誰でもウェルカム・・・!
>>227 おおっ…!僥倖…!なんという僥倖…!
零と銀二の話が好きです。読んでて、銀二の戦略にしびれたもんです。
これからの投下楽しみにしています!
>>227様
「賭博覇王」を読んだとき、
こんな話を書ける方がいるのかと、
背筋がゾクッとしたことを覚えております。
特に、最後の沢田さんの台詞がかっこよく、
福本バトロワ屈指のダンデイズムな台詞だと思っております。
作品投下、楽しみにしております。
>>227 おおー!!書き手さんが戻ってきてくれるなんて嬉しすぎる!!!
232 :
◆xuebCgBLzA :2009/05/29(金) 22:04:52 ID:RkR5FNdn
「計略(後編)」を読んでいたら標、板垣、末崎の名前が出ていたんですが
板垣は板倉の間違いでは・・・?
勘違いだったらすみません
昼間に投下する予定だったのに昼寝してたら こんな時間になっちまった・・・。
投下します!
さるったら避難所に投下するのでそのときは代理をお願いします。
荒い呼気を整えながら、佐原は周囲を見回す。
ここはF-7地帯、温泉旅館内。
ショッピングモールから逃げ出し、南下し続けた結果辿り着いた場所である。
部屋数の多くない小ぢんまりとした建物の中を一周、誰もいないことを確認後、
佐原は一番奥の客室に身を潜めていた。
(クソッ・・・!クソッ・・・!どうすりゃいいんだっ・・・・・・・!)
しづかへの誤射。
板倉に対する裏切りという結果。
森田、遠藤との会話を経て、己の弱さを目の当たりにした。
そうして一時錯乱状態にあった佐原の精神も、
今では落ち着きを取り戻しつつある。
ただただ“目先の人物”を恐れ、逃げ惑う状況が続いたが、
改めて考えれば、当て所もなく直走る姿ほど無防備なものもなかっただろう。
逃げ果せているのが奇跡。
ほぼ無傷で生きていられるのは神助。
(これからどうする?オレに何が出来るっていうんだよ・・・)
“死”に直面する状況は今回が初めてではない。
佐原は一度死んでいる。
そう、佐原はスターサイドホテル、入りえぬ部屋、帝愛の罠によって一度“死んだ”。
今でも鮮明に思い出せる。
鉄骨を渡りきった高揚感・・・
それが招いた油断、そして落下。
訳もわからぬまま、あらゆる臓物が体の中で浮く感覚。
恐怖と不安、手足が冷たくなっていった。
走馬灯は見えなかった。
落ちゆく景色も、何も見えはしない。
ただ、確かに落ちていった。
瞬間、痛みを覚えて意識が途絶え、
あのときオレは死んだのだ、と佐原は思った。
しかし。
なぜだろう、今まさに襲いくるのは死に対する恐怖。
それはまぎれもない“生”の肌合いだった。
オレは生きている・・・!
安堵に似た気持ちと、現状に対する憤りを抱えて、佐原は深い溜息を吐く。
(死んでよかった・・・・!こんなことになるのならっ・・・!
あのとき死んでよかったっ・・・・・!死んでいればよかったっ・・・!でもっ・・・)
スターサイドホテルから生還したことを幸運だとは思わない。
こうして恐怖に怯えることになると知っていたならば、
佐原はあの夜、生還を望みはしなかっただろう。
だが、問題なのは『今』なのだ。
主催の非情さに反発こそあれ、生きていることに対する喜びは疑いないもの。
佐原は、生への感謝・・・感動を自覚していた。
こうして長らえた命を二度と捨てるものか、と強く誓う。
237 :
マロン名無しさん:2009/05/31(日) 00:09:28 ID:P0rbehAY
支援
支援
(・・・考えろっ・・・!考えるんだっ・・・出来ることを・・・・!)
生きたい、生き延びたいという気持ちを確かめたところで状況は変わらない。
ゲーム開始から数時間、佐原は敵ばかりを作ってきた。
板倉、森田、遠藤・・・そしてしづか。
佐原は彼らと再度対面したとき、攻撃を受けるのではないかという不安に囚われている。
実質、しづかへの誤射事件も、森田たちへ銃口を向けたことに関しても
佐原本人が思うほど深刻な問題ではない。
いずれの人物とも、修復可能な関係にあるといえる。
しかし、当の佐原はそれに気付けず、故に精神疲労を重ねていた。
(板倉も・・・森田も・・・仲間を集める気でいるらしいし・・・
となりゃあ・・・必然・・・オレの悪評が広がっていくっ・・・・・・!)
打倒主催を目指す板倉、ゲームの綻びを見つけ脱出すると発言した森田。
方向性は異なれども、あいつらなら成し遂げかねない、と佐原は思う。
遠藤も含めた彼らは、世間一般の凡人と“臭い”が違った。
(情報も戦力もある大所帯が有利なのは当然のゲームだ・・・。
グループが出来上がっていけば
逸れ者は仲間として吸収されるか 淘汰されるかの二択・・・!
でもっ・・・!そもそもオレにはその選択肢さえない・・・!)
ライフルを握る手に力が入る。
十畳の和室で、佐原は壁に背を預けながら虚空を睨んだ。
(だってこのゲームに乗ってないやつらからしたら・・・オレは敵・・・!外道者・・・!)
平気で人を裏切る。いざというときに決断できない・・・。
そのうえ人を殺す能力も持たない・・・!
そんな男が歓迎されるはずがないじゃないかっ・・・!
支援!
人を殺したくない。殺されたくない。
主催を倒し、ゲーム自体を覆えしてやりたい願望はある。
生還する抜け道が存在するのならば、脱出の手伝いに参加するのも良い。
しかし佐原のひとり決めがそれらを実行しようとする心を阻んだ。
いずれにしても個人で成せる所業ではない。
それならば誰と?どうやって?
こんな状況で、他人のことまで構えるほどオレは出来た人間じゃない。
そもそもオレなんかと組んでくれる人間はこの島にいない、と。
同志を探そうにも、
もし「ライフルを持った金髪の男が味方を撃った」なんて伝え聞いている人物と会ってしまえば
どうしようもない、そこで終わりだ、と佐原は思った。
結果しか知らない相手にどう弁明する?
周りから見てみれば、佐原はただの危険人物。裏切り者。
(本当は違うっ・・・!悪意はなかった・・・!でもっ・・・言い訳に聞く耳持つ人間なんているはずねぇ・・・・!
こんな状況じゃなおさら・・・結果だけが残るっ・・・!オレが板倉を裏切ったって結果だけが・・・・・・・!)
少なくともゲーム開始当初、佐原は自身が殺傷行為を犯すことについて肯定的だった。
もちろん、無差別に殺戮を企てようという訳ではなく、
ただ、生還の手段として必要と考えていたに過ぎないのだが。
優勝するには少なくとも一人、殺さなければならない。
正当防衛の末、人の命を奪うこともあるだろう。
そんな有事の際に、悪いのは“自分”ではない。
やらざるを得ない“環境”や“ルール”・・・このゲーム自体が悪なのだ。
誤射前までの佐原はそう考えることが出来ていた。
責任転嫁といえばそれまでだが、精神状態を均衡に保つための自衛本能だといえる。
支援
しえん!!
しかし、実際にトリガーを引いたとき。
そして放たれた銃弾が無抵抗の少女へ命中したとき。
佐原の中で何かが負けた。
認めてしまった。
裏切ってしまったことを。悪いのは自分なのだということを。
その後森田たちへ発砲できなかったことまでを通した一連の流れは、
殺人の自信を喪失するに十分過ぎる出来事だった。
(人は殺せない・・・金も足りない・・・仲間もいない・・・!
この先も今までみたいに逃げ回ってれば生きてられるかもしれねぇけど・・・)
結局、ゴールを定めなければ現状から脱却することは難しい。
生き延び続けたところで、この島にいる限り――
このゲームの参加者である限りは死の可能性と付き合い続けなければならないのだ。
日常生活で味わうことのないレベルの危険と・・・否が応でも共存させれられる。
(とにかく“このゲームから抜ける”こと・・・こうなったら一人でも考えてかないと・・・・)
かつては帝愛の仕掛けたトリック・・・気圧差が生む突風によりリタイアさせられた佐原。
今回も主催者が何らかの罠を用意している可能性は想像できた。
正攻法で挑んだところで、生還の確証がないゲームなのだということは端から理解している。
(どうせ・・・優勝しても棄権しても命の保障なんかねぇんだ)
板倉もこのことについては言及していた。
遠藤とのやりとりを通して、もはや板倉の発言は信じるに足らないものとなったが
――しかし優勝や棄権で生還出来るのかについては、
佐原自身も疑わざるを得ないだろうと感じていたことだ。
支援
…支援!!
「自力だ・・・!自力でこの島から逃げ切ってやる・・・!」
最終目標は 島からの生還、ゲームからの離脱。佐原は決意を固めた。
出来るかどうかではなく、出来なければ未来がない事態なのだ。
(でも・・・島から逃げるって・・・どうやってだよ・・・・)
佐原はポケットから支給された地図を取り出し、広げる。
思えば冷静に地図を眺めるのはこれが初めてだった。
ゲーム開始直後に ざっと確認しただけで、それ以降は事件の連続。
とにかく敵から逃げようと、随分長い距離を夢中に走った気もするが、
現在地が何処なのかも把握していない状況なのだ。
「見にくいな・・・」
目は闇に慣れていたが、都会の夜と孤島の夜は暗さが違う。
カーテンの隙間から漏れくる月明かりを頼りにしても、
瞳を凝らさなければ地図は読めない。
地図に神経を集中させすぎると、周囲への注意が散漫になる。
即ち、敵が忍び寄っても気付きにくい状況――それは避けなければ・・・。
(部屋の電灯をつけるわけにもいかねぇ・・・だからといって窓際は危険・・・)
「いや・・・あるか・・・?旅館っていったら普通・・・」
佐原は静かに立ち上がり、部屋の中を調べはじめた。
押入れには・・・布団一式。
いくら疲れているとはいえ布団を敷いて休む、なんてわけにはいかないだろう。
観音開きの収納を覗くと、タオルと浴衣。
役に立つかもしれないと考え、佐原はタオルと浴衣の帯を荷物に加えた。
支援
支援
最後にテレビが置かれた棚を開く。
「あったっ・・・!」
佐原が手にしたのはお目当ての品。
(懐中電灯っ・・・!)
多くの旅館で設置されている緊急時用の懐中電灯。
これがあれば手元を照らすことが出来る。
夜明けまではまだまだ長い。
この先、明かりが必要になる機会も訪れるだろう。
大きな収穫だ。
明かりが光線となって外に漏れないよう、電灯部分をタオルで包んでからスイッチを入れる。
小さな電球が佐原の手元、地図をぼんやりと浮かびあがらせた。
「ついたっ・・・!」
電池の残量がどれだけあるかわからない。
佐原はすぐさま現在地を確認する。
「・・・っと・・・・今いるのがF-7あたりか」
ホテルからショッピングモールへ。
ショッピングモールから温泉旅館へ。
佐原は、自分の移動した軌跡を指で辿り、愕然とした。
(なんだよっ・・・オレがいるこの旅館・・・
まるでホテルとショッピングモールの中継地点じゃねぇか・・・・・・!)
支援
武器、支給品一式を合わせて5kgを超える荷物を背負い走ってきたせいだろう。
佐原の体感に比べ、実際に移動した距離は遥かに短いものだった。
その上、ホテルからもショッピングモールからも逃げ切れたとはいえない位置。
両敵から挟まれているような形だ、と佐原は顔を歪める。
(下手に動いたら鉢合わせる可能性があるじゃねぇか・・・)
気付かぬうちに、自らを追い込む方向へ進路を取っていたのだ。
なんと愚かなことをしたのだろう。
(ホテル方面にも・・・ショッピングモール方面に進めない。
だがっ・・・・ここに長居は出来ない・・・!板倉や遠藤たちが移動してくるかもしれないから・・・・!)
当然、いい思い出のない東地域からは離れ、島の西側へ移動したい。
しかし、その為にはホテル、ショッピングモールの近くを通る必要がある。
(万が一・・・移動中に見つかっちまったら・・・・相手は二人
・・・もしかしたら仲間を増やしてそれ以上になってるかもしれないし・・・)
頭を抱えて溜息を吐く。
身動きが取れない状況・・・
この旅館はいつ誰が来るともわからない。
だからといって他の場所に身を移そうにも ルートがない。
しづかへの誤射と 森田・遠藤との会話。
それらの出来事が切欠となり
佐原は“彼らに命を狙われている”と思い込んでいる。
あまりに悲観的な妄想だった。
挙句にその考えは“ホテル、ショッピングモールに近づくだけで危険だ”というところまで誇大し、
佐原の行動を著しく制限しているのだ。
支援
支援
一にも二にも、温泉旅館に逃げ込んでしまった 己の判断を呪う。
逆方向に進んでいれば、多くの望みが残されていただろう。
言うまでもなく、悔やんでも仕方がないことは理解している。
今は、少しでも安全な場所を探す。
あるいは島から抜け出す手立てを考えることが先決。
佐原は改めて視線を手元にやり、地図と睨み合う。
図の通りの島であるのならば、周りは海に囲まれている。
孤島から脱出するには・・・。
(泳ぐか・・・?そんなの無理だろ・・・!それとも・・・・・船か・・・・・?)
地図によると、ここから西方向に港らしきものが記されている。
G-4付近のエリアだ。
無論、主催側が脱出の手段――船を残しているとは思えない。
(・・・港か・・・。見に行く価値はあるかもしれない・・・。だがホテル付近は・・・!)
港に向かう最短ルートは、やはりホテルの前を通るものだろう。
北西方向に進路をとって大きく回りこむ形でも港へ向かうことは可能だが、
闇夜の中長時間の移動は危険である。
いくら何でも、外で懐中電灯を使うわけにはいかない。
(どの道・・・安全に温泉旅館から出て行くことなんて出来ねぇ・・・)
脱出以前の問題である。
空でも飛べたら・・・地底を突き進めた・・・どんなに楽だろうか。
佐原はそう考えてから自嘲気味に笑った。
もしそんな力があれば、こうして怯えることもなかろう。
一にも二にも、温泉旅館に逃げ込んでしまった 己の判断を呪う。
逆方向に進んでいれば、多くの望みが残されていただろう。
言うまでもなく、悔やんでも仕方がないことは理解している。
今は、少しでも安全な場所を探す。
あるいは島から抜け出す手立てを考えることが先決。
佐原は改めて視線を手元にやり、地図と睨み合う。
図の通りの島であるのならば、周りは海に囲まれている。
孤島から脱出するには・・・。
(泳ぐか・・・?そんなの無理だろ・・・!それとも・・・・・船か・・・・・?)
地図によると、ここから西方向に港らしきものが記されている。
G-4付近のエリアだ。
無論、主催側が脱出の手段――船を残しているとは思えない。
(・・・港か・・・。見に行く価値はあるかもしれない・・・。だがホテル付近は・・・!)
港に向かう最短ルートは、やはりホテルの前を通るものだろう。
北西方向に進路をとって大きく回りこむ形でも港へ向かうことは可能だが、
闇夜の中長時間の移動は危険である。
いくら何でも、外で懐中電灯を使うわけにはいかない。
(どの道・・・安全に温泉旅館から出て行くことなんて出来ねぇ・・・)
脱出以前の問題である。
空でも飛べたら・・・地底を突き進めたら・・・どんなに楽だろうか。
佐原はそう考えてから自嘲気味に笑った。
もしそんな力があれば、こうして怯えることもなかろう。
sienn
支援
(いくらなんでも非現実的すぎるって・・・空を飛ぶとか地面にもぐるとか・・・・)
一種の現実逃避だった。
過度の精神疲労、追い詰められた状況を抱えて、佐原は絶望の淵に居る。
空や地底を移動できれば、という有り得ない発想に走りたくもなるものだ。
(ダメダメっ・・・!真面目に考えねぇと・・・!)
が、佐原閃く・・・・!
その一見ファンタジーな所業が不可能ではないことに・・・気付く・・・!
(地下・・・!そうだ・・・・・・地下・・・下水道・・・・!マンホールの下・・・!)
煮詰まっていた現状を打開する策・・・。
視界がクリアになっていくのがわかった。
佐原の心に希望が流れ込む。
旅館の外を調べて見れば、おそらくはあるだろう。
地上から逃れるための入り口、マンホールが。
(誰も気付かないだろっ・・・!足元で人間が移動してるなんて・・・・・!)
佐原の“地下を使う”というアイデア。
足音が響く下水道ならば、誰かが近づいてきたときすぐにわかり、
奇襲を受けることも少ないだろう。
たしかに、隠れるという点においては非常に優秀である。
地下を通れば、誰にも会わずに動ける。
コンパスと地図を確認しながら進めば、
自分の位置を把握しながら移動するのも不可能ではない。
今まで踏んだり蹴ったり、成すことが裏目ばかりだった佐原に光明が差しこんだ。
支援
支援
支援します!
窮地において逆転の目・・・!
佐原は今にも歓声をあげたい心情で、ひらめきを自賛する。
「我ながらナイスアイデアじゃんっ・・・・!」
そうと決まれば、すぐにでもマンホールを探すべきだろう。
この旅館に長居は無用だ。
高揚した気分で地図を乱暴に折りたたむと、佐原は腰を上げる。
と、その瞬間。ひやりとした感覚が佐原の項に走った。
「わっ・・・!」
頭を上げる動作をした際に、首輪の今まで肌に触れていなかった部分が当たったのだ。
(そうか・・・こんなの付けてるってこと忘れてたぜ・・・)
高ぶっていた心の熱が僅かにひいていくのを感じた。
スターサイドホテルでの出来事が瞼を過ぎる。
(あの時も、ゴールが見えたと思って・・・そのまま突っ走った結果がアレだからな・・・)
例え希望が見えたとしても、無闇に進んではならない。
そのことは身を持って知ったはずだった。
しかし、今の自分はどうだろう。まるであのときのような精神状態じゃないか。
突き進みかねない状況だった。
そしてその先に・・・取り返しのつかない結果が待っていたかもしれない。
“戒め”としてしか見ていなかった首輪に少しの感謝を覚え
佐原は、ふと 考える。
(・・・そもそもこの首輪はどういう構造なんだ?)
支援
支援
支援
数時間前。
ルール説明を受けたホールで、一人の男が死んだ。
忘れようもない、悲惨な場面だった。
説明によれば、それは首輪による機能。
人間の首を飛ばすことなど容易い、それだけの威力がある装置なのだ。
首に爆弾を括り付けられているのと変わりはない。
主催側が自由に起爆できることはわかっている。
禁止エリアに侵入すると、その場合も起爆するらしい。
また、死亡者の名前を放送で読み上げていたことから、
参加者の生死も把握できるシステムであろうことは想像に難くない。
(となりゃあ・・・電波を使ってるのか?
遠隔操作できるんだから何かそういうもん使ってることは確実だが・・・)
首輪に触れる。
冷たい鉄のような感触・・・されども装着していて違和感ないレベルの薄さだ。
(こんな小さい物にそれだけの機能つけられるのかはわかんねぇけど・・・
金が有り余ってる輩が主催者ってんなら考えられなくもないはず・・・・)
優勝者には十億円を贈呈しようなどと のたまう主催陣だ。
実際にその金を差し出すかどうかは別として、
不自由なく事を運べるだけの資産力と技術を持っているだろう。
(もしそうだとして・・・
携帯電話なんかは電波が届かなくなれば圏外になる。
この首輪も同様に“圏外”が存在する可能性はある・・・・)
レミントンを静かに伏せ置き、腕を組む。
冷静になろうと意識して思考を巡らせれば、不思議と頭が冴え渡る気がした。
支援
支援
支援します
佐原は決して知識力があるタイプの人間ではなく、
また、物事の分析に向いた性質でもなかった。
しかし、働き出した思考回路は止まらない。
自然に結びついていく。
佐原の考える“圏外論”と、先刻のアイデア・・・地下へ逃げるという行為が。
(地下が圏外だとしたら・・・・?
おいっ・・・!待て待て待て・・・待てよっ・・・?
そうするとどうなるっ・・・?
携帯が圏外になると、繋がらなくなるだろ?
首輪が圏外になって・・・主催側から繋がらなくなったらどうなるんだ・・・?)
携帯が繋がらないとき
――電話を掛けた側、送信側からは 受信者がどこにいるのかわからない状態になるだろう。
(となりゃあ、地下が圏外なら
主催側から見たとき忽然とオレが消えちまったように見えることも・・・ないとはいえない・・・!)
主催から見て佐原が消えるということ。即ちまさにゲームからの離脱・・・!
願ってもないチャンス。それを糸口にして、本当に島から逃げ出せるかもしれない。
一方で、佐原は危惧するべき点についても気付いていた。
もし「電波が途切れる」ことが起爆条件のひとつだった場合、最悪のケースとなる。
(・・・その場でドカン・・・首輪が爆発するかもしれねぇ・・・)
一時は光明に思えた地下に身を隠すという行為だったが、
首輪が即座に起爆する可能性を考えると、実践を躊躇してしまう。
しえん!!
支援…っ!
(クソっ・・・いいアイデアだと思ったんだが・・・・・)
思えば、まともに“ゲームのシステム”について考えたのは今がはじめてだ。
首輪の性能は全くの未知数。
佐原の知りえる情報は、首輪の爆発条件。それすら詳細にはわからない。
だが、良かった。佐原は思った。
今の発想が正しいかどうかは別として・・・
もしもこういった危険性にまで考え及ばないまま
地下へ移動して命を落とすことになっていたら悔やみきれない。
“死なないこと”
それが命題なのだ。
再び首輪に手をやると、先ほどとは別の冷たさが感じられる気がした。
ゲームからの離脱において、無視することの出来ない存在。
そして・・・
「あぁっ!」
首輪に関連してもう一つ
――佐原は重要なことに気付く。
首輪が爆発する条件は・・・禁止エリアに侵入すること。
では、現在の禁止エリアはどこだ?
佐原は手の加えられていない地図を見下ろして呆然とした。
本来ならこの地図に
第一回の放送時に告げられた禁止エリアをメモしておくべきだったのだ。
数時間前、確かに全島放送で死亡者の名前と禁止エリアが発表された。
そのことについては、佐原も気付いている。
しかし、島に黒崎の声が響き渡ったその時間。
佐原は、板倉たちから逃げていた。
一心不乱に身を隠す場所を探し惑っているときだった。
死亡者と禁止エリアについて述べていたということはわかっても
詳細な内容など、ほとんど耳に入っていない。
(バッカヤロ!なにやってんだよ!オレは・・・・!)
【F-7/温泉旅館・客室/夜中】
【佐原】
[状態]:精神疲労 首に注射針の痕
[道具]:レミントンM24(スコープ付き)、弾薬×29 、懐中電灯、タオル、浴衣の帯、支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:板倉、しづか、森田、遠藤と会いたくない 人を殺したくない 自力で生還する
※第一回定時放送時に錯乱状態だったため、放送の内容をほとんど覚えていません。
支援
以上です。
改行調整したら14レス分の予定が15レス分になってしまいました・・・。
ありがとうございました!
乙です!
佐原…頑張って誰かしらと合流してほしいっ…!
乙!!
佐原の精神状態の描写、目まぐるしく現れるさまざまな考えが緊迫感あって良かったです!
乙・・・!!!
佐原・・・がんばってくれ・・・!
圧倒的乙
自分には下水という発想なんて無かった
乙です
佐原にはなぜか機体してしまう
乙!!
地下を移動するってのに脱帽した
これで佐原に光が見えてきた…と思ったらラスト……
佐原かわいそうです(´;ω;`)ウッ…
投下乙でした。
佐原・・・一人は辛いし災難続きだが頑張ってくれ・・・!!期待してるぞ・・・!
作品投下ありがとうございました。
普通で平凡な若者である佐原が、
海千山千のヤクザやブラック企業の社長と
同じように思考・行動できるようになるのは難しいです。
佐原が必死に考える様子に応援したくなりました。
佐原、生き残れるよう、がんばれッ!!
乙…!圧倒的乙…!
書き手氏が前に投下されていた天と村岡の話といい、今回の佐原といい、登場人物の内面、行動を深く表現されていて素晴らしい。
下水道…!その発想はなかった。新たな場所…ステージが開かれた…!
あと「圏外」についても。佐原は今憶してしまってるけど、今後誰かが下水道に降りて確かめなきゃならんでしょうなあ…!
わくわくが止まらないっ…!
まとめサイトをアップしている者です。
最新作をアップしました。
下水道という発想に驚かされたと同時に、
それに踏み出せない佐原が佐原らしいと感じてしまいました。
板倉に遠藤にと、一筋縄ではいかない者に振り回されて、
神経がすり減っている状態ですが、頑張ってほしいと願っております。
福本ロワのラジオの放送日が27日に変更にありました。
そのため、トップページの告知を変更しました。
先日、28日に変更してくださった方、ありがとうございました。
>>287 お疲れ様です。まとめサイト見せていただいています。
作者別・登場人物別・時系列別など読み返したい作品が
探しやすくまとめてくださってあり、とても感謝しています。
ありがとうございました。
>>287 まとめの中の方いつもお疲れ様です。
ラジオ27日に戻ったんですねぇ
ラジオの日が楽しみです
佐原が誰かと合流したら試しにそいつを地下に潜らせてみるかもしれんね
これは期待だ
というかどの組も次が楽しみな状況ばかりだ
ヒロユキもカイジも面白い所だしな
禁止エリアについても誰かから聞きだしたいし
佐原は一人で行動してくより誰かと合流出来ればいいよね
でも板倉さんと色々あったし 気持ちとしてはあまり人に会いたくないというw
個人的には特に一般人組(?)が楽しみ
佐原もそうだし、治と石田さん、南郷さん
特殊スキルみたいなのが無い分 先が読めないし
だからこそ応援したくなる
>>287 いつも乙です!
ラジオ…楽しみだ…!
>>291 南郷なんてすぐに死ぬだろうと思ってたよ
鷲巣より長生きするとは思わなんだ
喧嘩も弱い上にギャンブルルールがあるからなおさら
カイジ、新シリーズスタートっ・・・!
鷲巣、死んでなくね?
>>291 個人的に、一般人グループに赤松と沙織も入れてほしいと思っていたけど、
あの二人、出張イベント後、
何かがチートになりはじめている…上手く表現できないけど…。
>>294 ああ、なんかわかる・・・。
「出張」っていうイベント事態チート感あって、なんかモヤモヤする。
沙織のイベントがチート…?
チートぐぐってみたけどあのイベントのどこがチートなんだ…?
死んだ人間が再登場すること自体違和感がある。
そうか、なるほど。
自分は、原作で出てきた、佐原が見た太田の幻覚と同じようなものと捉えていた。
あまり幽霊を乱用して欲しくないということですね。
今後の参考にする。
いや、どう考えても幻覚でしょ
幽霊云々は死者スレのネタで……
あれを本気で心霊現象だと思ってる奴がいることが驚きだわ
俺も「極度の緊張状態から出る幻覚」
ぐらいにとってたけど
>>299の言い方は良くないと思う
まとめサイトのマップについて質問なんですが、名前の前の赤点はどういう意味なのでしょうか
>>301 建物を分かりやすく表示するための記号だと思うよ。
ところで、地図を見るたびに思うけど、
主催者はこの島で何をしたくて、こんな建物を建てたんだろう?
旅館や遊園地やショッピングモールまでなら島を貸しきったアミューズメントパークだと思うけど、
なぜ、病院まで…。
>>302 あぁっ…!自分が書きたいことがっ…!
後々その話を書きたいんでくれぐれも深く考えないで頂きたいっ…!
>>304 ごめんなさい!
忘れます!
そして、楽しみです!
応援しております!
民家もあるし総合開発地かと思ってた
>>299 つーか原作でもそういう幻覚あるのに何言ってんだって話だよな
>>303 もう深く考えてしまった…
アミューズメントパーク、ネズミの王国(海+陸)より広いよね
今更ながら福本ロワお絵かき掲示板に投稿された絵、クオリティ高いですねwぜひとも、他の話も見てみたいです
だよなwあの人は野生の福本さんだ
俺は絵が描けないから投稿も出来ないけど
もっといろんな人の絵も見たいっ・・・・・!
絵描いてる者です。ありがとうございます。
リクエストがありましたらどうぞ〜
もし他にも絵を描きたい方がいらっしゃいましたら、是非投稿をお願いします。お待ちしています。
銀さん対零の話か森田&遠藤お願いします><
>>312 野生の福本先生が本スレに降り立った…!
私も
>>313さんに便乗するようで申し訳ないんですけど、
森田と遠藤が衝突した話のイラストが見てみたいです!
完成したのですが、支援できる方いますか?
明日、投下します
おやすみなさいませ
おやすみ
楽しみにしとく
あらら
おやすみなさい
楽しみにしてますおやすみなさい〜
「事故」投下します
支援よろしくお願いします
治と石田が移動を開始してだいぶ時間が経った。
アトラクションゾーンと二人が歩いている草地の間に鉄の柵はあるものの、
向こう側から銃器のようなもので狙われてしまったらアウツ。
なので、治と石田は極力音を立てずに慎重にアトラクションゾーンを時計回りに進んだ。
無論、会話も一切なかった。
どこを目指そう、とか、だれに会えるだろう、とか、そんな些細な会話をも、二人は押し殺していた。
この二人は他の生存者の多くと違い、修羅場を何度もくぐってきた『兵』ではない。
言うなれば凡夫なのである。
この数時間、二人はお互いを励ましあいながら進んできた。
そうしなければ、この猛獣だらけの島の空気に押しつぶされていただろう。
そんな二人がこの殺し合いというステージでコミュニケーションをとらずに移動をしているのは、
本来たたえるべき行為なのである。
(思えば…この島に来てこんなに長い時間黙っているのは初めてだ…。
―――怖い…この静寂が怖い…!)
後ろを震えながら歩く石田は治を見ながら思う。
(でもっ…目の前に…目の前に信頼できる人がいるっ…こんなに心強い事はない…!)
石田は目の前の治を鉄骨渡りで先を行くカイジと重ね合わせた。
(くっ…!俺の前を行く若者はっ…!何でこんなにも頼もしいんだっ…!
それに比べて俺はっ…!俺はぁ〜っ…!)
悲観していると、治が急に立ち止まった。
思わず治の背中にぶつかってしまった。
「石田さんっ…!あれっ…!」
周囲に気を配っていた治は対岸方向を指差しながら小声で言った。
石田も治の指差す方向を見た。
「人…だね…。………あ…あの人…『乗っている』人かな…!?」
不安が石田のボリュームを自然に上げる。
「屈んでいるように見えますけど………。なんだ…?………合掌……?」
治は目を凝らしてできるだけ人影から情報を探った。
海に反射している月明かりがその人影をぼんやりと照らしている。
* * *
黒沢は美心の埋葬を終え、明けまで眠ろう…そう思った。
しかし、意識が覚醒した時、まだあたりは闇に包まれていた…。
「ん…なんだ…。まだ…夜は…明けていないのか……」
いくら黒沢でも、この状況下で安眠することはできなかったのだ。
大きく背伸びをし、辺りを見回すと美心を埋めたところに目がいく。
悪い夢であってほしかった。美心が死んでしまったこと。
このギャンブル自体…。夢であってほしかった。
しかし、殺し合いに参加していることも、自分を愛してくれた美心が死んだことも…。
紛うことなき現実だった…。
寝ぼけている状態から現状を把握するのに数分かかった。
「そうだ…。『カイジ君』……『カイジ君』を探さねば……!美心さんの無念を……晴らす…!」
このギャンブルで初めて明確な目標ができたのを思い出した。
―――と、同時に体から何かがこみ上げてくる感覚…。
尿意っ…!
「ごめんっ…ごめんよ美心さんっ…!これが人間っ…!寝起きの人間は…これが…ごく自然…!
…自然な人間の行動っ…!生理現象っ…!」
黒沢なりの紳士らしさを見せるため、美心の墓からは死角になる崖まで行き、放尿っ…!
数十メートル下の海に自分の一部が同化していく…。
大いなる、母なる海に自分の一部が還っていく…。
開放感…。爽快感…。罪悪感…。色々な感情が交錯している…。
そんな中、人間・黒沢はある思いに行き着いた…。
「もう……帰れねぇのかなぁ……白本屋に……穴平に……
もう………もう…会えねぇのかな……みんなにっ……!」
…
………
尿とは違う体液がこみ上げてくる。
そして、それは目からあふれ出した。
「生きたい…!生まれたからにはっ…!齢男でも構わないっ…!…ただ…ただ生きたいっ…!」
両手は排泄で塞がっているため、その熱い体液は目から溢れ放題だった。
排泄を終え、男泣きに専念しようとした瞬間、またも美心の墓が目に入った。
………
数秒。
固まってしまった。
「そうだよな…俺は…愛する者のために…行動せねばならん……!ごめんよ…美心さん…。
俺…馬鹿だから…自分のことでいっぱいだった…!見失いそうだった…!目的を…!」
袖口で涙を拭い去り、美心の墓に近づく。
そして、美心の墓の前に屈みこみ、
合掌………。
静かで、
長い、合掌。
よし、と決意したように立ち上がる。
そして、歩き出した。南へ…。
愛する者の無念を晴らすため…。
当てもなく……。
* * *
「誰かのために合掌しているのならば……殺し合いに乗っていないのかも…!」
石田がそう言いながら治の顔を覗き込む。
「そうならば…話をしてみたいですね…
…でも…危険が付きまとってきます…あの人が生き残っているという事は…
『あの人が拝んでいる人』を殺した人物を殺しているのかもしれませんよ…」
石田は少し考えた後にハッとして、固まる…。
「人殺しは…怖い……けど…正当防衛ならば別っ…!生きたいと願う人間の行為…
それに……仲間は…多い方がいい……よね…!」
しえん
「それは…もちろんです………しかし…賭けになりますよ……あの人が…復讐のために
このギャンブルに『乗ってしまった』のかも知れませんし……」
二人が悩んでいると、影は動き出した…。
「あぁっ…!治君っ…!行っちゃうよ…あの人…」
治と石田が黒沢を見かけたのは黒沢が美心の墓から去る直前であった。
「石田さんっ…!地図を貸してください…!」
石田は地図を広げる。
アトラクションゾーンからの光を頼りに二人は地図を見る。
「たぶん…ぼくらがいるのがB-6の北東…。…で、あの人はB-7の南西にいた……
B-7から真っ直ぐ南下したとすると、ショッピングモールにぶつかる…!
普通に考えれば彼はショッピングモールを反時計回りに道路に出るだろうから…」
「俺たちも真っ直ぐ南下したら…彼と鉢合わせる…!行ってみようよ…!治君…!
仏様を大事にする人に…悪い人はいない……と、思うよ…!」
語尾が頼りなかったが、石田の力説に治は負けた。
「わかりました……。石田さんの直感を信じます…。我々も南下してみましょう…。
ただし…危険な雰囲気を感じたら…即座に逃げましょう……我が身を第一に考えて……」
治が注意を促すと、石田はあらかじめ着込んだダイナマイト付きコートを広げて見せた。
「これでっ…悪者は追っ払ってしまおう…!」
笑顔で石田は言った。
石田は脅しで少年を撃退した事で味を占めていた。
治はこの過信を少し心配した…がっ…。
「………行きましょうか…!」
男を追うために南下することにした…。
* * *
黒沢は、治と石田の予想通り、真っ直ぐに島を南下していた。
あてもなく『カイジ君』を捜すことは無謀であると黒沢も重々承知していたが、
『カイジ君』を知っている人間か、本人に運良く出会えることを祈り、南下をはじめた…。
しばらく進むと林が開け、建物が見えてきた。
しかし、既に頭上には闇が広がり、明かりも持っていないので、地図を確認する事は出来ない。
しえん
「………こいつに沿って進んでみるか……。確か…俺は島の東側にいたはず…
なら……島の中心に向かうには……左………いやっ…右回りか…?」
一瞬迷ってしまう。
この状況のせいなのだろうか。気が落ち着かない。
壁を右に進む。
角を曲がり、また壁沿いに歩く…。
しばらく行くと、アスファルトの道路が二又に延びていて、その二又の道の反対側には、
ショッピングモールの入り口があった。
黒沢、周囲を見渡す…。
人影無し…。
それを確認すると、アスファルトの交点に立った。
「さて…どちらに行こうか…」
考えを巡らせていると……。
「あのっ……すいません…お話…聞かせてもらえますか…?」
ふいに声をかけられる…。
「うおっ…!」
黒沢、思いがけず、振り向きつつファイティングポーズ…!
そこには、二人の男が両手を挙げて立っていた…。
「こちらに敵意はありません……いくつか質問をしたいだけです……」
そう言うのは、前にいる若い男。
うんうんと頷くのは後ろにいる初老と思しき男。
「オレは治といいます。こちらは石田さん…」
「お…俺は黒沢というものだ………俺に…何か用かい…?…治君…」
黒沢は『不安です』と書いてある顔で聞く。
「黒沢さん……あなた…先ほど、拝んでいましたよね……
親しかった人が…殺されてしまったのですか…?」
治と石田は両手を下ろし、恐る恐る質問をする。
「見ていたのか……」
黒沢は、うつむいてしまう…。
しえん
「あ……す、すいませんっ…!失礼な質問をしてしまって…!不謹慎でし…」
「あの人は……!」
治の謝罪に、黒沢が割って入る。
「あの人とは…美心さんとは………相思相愛っ…!………結ばれた者同士だった…!」
黒沢の顔が朱に染まる。
「恋人同士っ…!美女と野獣っ…!禁断の地での…禁断の恋……!
アダムとイヴが最初ならば……俺たちは最後になるはずだった……!」
治と石田は呆然と立ち尽くす…。
「あのっ…俺っ……本当に失礼な質問をっ…!」
治が改めて謝罪をする…。石田も頭を下げた…。
「いや、いいのだ……!今の俺は……立ち上がったのだ…!
彼女の無念を晴らそうと…立ち上がったのだ…!
彼女と何かしらの縁がある、『カイジ君』を捜すっ…!それが俺の使命っ……!」
治と石田は打ちのめされたっ…!黒沢の熱い思いにっ…!
「不謹慎な言い方だけどっ…!なんて詩的なんだっ…!」
石田は泣きそうになるのを堪える…。
…が…すぐに我に返る。
「…って…え…?『カイジ君』って……伊藤カイジ君のことかい…!?」
「苗字まではわからんが……。石田さん…『カイジ君』を知っているのか…!?」
黒沢が身を乗り出す。
「……えぇ…この島に来る前に…二度ほど大きなギャンブルでお世話になりました…
見かけは普通の青年と変わらないんですけど…正義感にあふれていて……勝負強い…!
人を惹きつける統率力…リーダーシップもあるっ…!彼は…凄い青年だよ…!
あ、ほらっ…説明の時に殺されてしまった子を必死に止めようとした…!」
カイジの魅力を説明する石田は誇らしげであった。
「あ…あの青年が…『カイジ君』……確かに…美心さんと…黒髪つながりっ…!」
「そうだ…!…目的が同じなら…行動を共にしませんか…!?…黒沢さん…!」
治が黒沢に提案する。
しかし、治と石田の最終的な目的である、『ゲームの解れをさがす』ということは伏せた。
余計なことを口にして、この機会を棒に振ることはしたくなかったのだ。
「……よし…!わかった…!
『カイジ君』を捜しだすには…あなた達と共に行動するのが近道だろう…!」
治と石田は顔を見合わせ喜ぶ。
「そうと決まったら…行かねばならない場所がある…!」
黒沢の表情が曇る…。
「治……深くは聞かないが…あんたはバッグがない…そこで…
治の支給品は…美心さんのを渡すとして…俺たち3人分の…身を守る…武器…
それと……俺は…大食だから…食料も……調達する…」
「それは願ってもいない話………ですが…心あたり…あるんですか…?」
黒沢はコクリと頷き、続けた…。
「…美心さんが………殺された場所だ…」
少しの沈黙の後に治が口を開いた…。
「………あの…辛いのなら…無理に行く必要はないかと…」
最愛の人が殺された現場…。
そこに再び訪れる事が、どれだけ辛い事か…。
治と石田は黒沢の精神面を気にかけた。
しかし、黒沢は強い男だった。
「いや…行こう……行き抜くには必須っ……武器も……食料も…!
『腹が減っては軍は出来ぬ』とは…先人はよく言ったものよ…!」
治と黒沢が微笑む…。
しかし、その中でひとり…。
石田の顔は絶望に染まった…。
晴れて仲間となった黒沢に自分の武器を見せようと思った…。
ただそれだけだったのに…。
発見してしまった…。
ダイナマイトのホルダーの一部に不備…。縫いに解れがあった…。
結果…最悪の事態を招いた…。
石田は目にいっぱいの涙を浮かべて、言った…。
しえん
「…治くん………ダイナマイト…5本落としちゃった………!」
【D-6/ショッピングモール入り口付近/夜中】
【黒沢】
[状態]:健康
[道具]:不明支給品0〜4 支給品一式×2 金属のシャベル 小型ラジカセ
[所持金]:2000万円
[思考]:カイジ君を探す 美心のメッセージをカイジ君に伝える 別荘に戻り必要なものを調達する
※メッセージは最初の部分しか聴いていません。
【治】
[状態]:後頭部に打撲による軽傷
[道具]:拡声器
[所持金]:0円
[思考]:石田のトラブルになんらかの解決策を見出す 石田と逃げる アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す ゲームの解れを探す
【石田光司】
[状態]:ダイナマイト紛失により気が動転
[道具]:産業用ダイナマイト(多数)【5本失っていますが、それでも十分な本数があります】 コート(ダイナマイトホルダー) ライター 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:どうしよう 治と逃げる カイジと合流したい カイジのためなら玉砕できる
※石田が落としたダイナマイトはB-6、C-6、D-6のどこかに落ちています。
投下乙です!
石田さん・・・圧倒的ドジっ子・・・!
334 :
◆xuebCgBLzA :2009/06/04(木) 18:49:52 ID:GgrDiap4
支援ありがとうございました
短めに、次の方が進めやすいように、少しの火種をおこす
をコンセプトに書きました
不備がありましたら、ご指摘お願いします
投下乙です。
黒沢さんの暴走が愛しい。
乙でした。
治がしっかりしなきゃならない状況ですねw
うっかりパーティー結成っ・・・!
337 :
マロン名無しさん:2009/06/04(木) 22:14:31 ID:LwqXl1h7
投下乙です。
それぞれが一生懸命でいいですね!
黒沢さんはほんとに和むw
sage
投下乙…!
和んだwww石田さんがなんだか可愛い…
落ちたダイナマイト、誰かが拾っちゃうのかな…?
でも島の端っこで分かりにくい場所に落ちてるから、あまり石田さんが思うほどひどい事態でもないよなぁ…
投下乙です!
なんだろう…これまでの緊張感を感じさせないようなこの空気は…。
状況的に好ましいとは言えないのに…。
何だか、福本ロワトップレベルの癒し系の底力を見たような気がしました。
癒されました…ありがとうございます。
後、予約が二つ入っていましたね…。
こちらも楽しみです。
作者さん的には、
何か後続のネタになれば良いし別に拾われなくても不自然じゃないしって感じだろうね
後の人のやりやすさまで考えるのはすごいなあ
拾っても拾わなくても良い伏線って本当に助かるんだよな
沢田のセリフでも思ったんだけど書き手さん、ハイロウズ好き?
間違ってたらごめん
皆さま、感想ありがとうございました
不備は特にご指摘が無いようですので、確定ということでお願いします
>>342さん
ハイロウズネタがわかる人がいるなんてっ・・・!
圧倒的感激・・・!
ハイロウズいいよねー
いつもハイロウズ聞きながら書いてる
お久しぶりです。
今回は長い話になってしまったため、前編、後編に分けました。
誤字、脱字は確認しましたが、あるかもしれませんので、
そちらの確認も含めて、読んでいただければ、幸いです。
では、投下します。
E-5ギャンブルルーム前。
月下に照らされ、浅く生えた雑草の上に一人の男の死体が横たわっている。
その肉体は上半身しか存在していない。
胴から下は、まるで豚のミンチをぶちまけたかのように、細かな肉片となって散乱している。
この男にとって、自分の死は突然のことであったのだろう。
まるで自分が死んでいることに気づかず、これから何かを語ろうとしているかのように、口が半開きになっていた。
その男を見下ろす老人がいた。
豊かな白髪の老人――鷲巣巌は死体の前にしゃがみ込むと、その首に付いている首輪を掴んで上下に動かす。
しかし、首輪は少し位置を変えただけで、特にこれと言った変化を見せることはない。
鷲巣は思わず、悪態を吐く。
「クッ・・・アカギの奴との勝負に負けたばかりにっ・・・!」
アカギとの契約で、鷲巣はアトラクションゾーン以外の参加者の死体から首輪を集めることを指示されている。
鷲巣にとって、誰かに従うという行為自体が、昭和の怪物として許されざることであるが、
それでもアカギの指示に従っているのは、裏の帝王である自分を愚民どもと同列に扱おうとする主催者への反発の方が大きかった。
しかし、素直にアカギに従うつもりもない。
鷲巣は様々な場所へ移動することなく、まっすぐにアカギとの合流場所――病院があるE-5エリアに向かっていた。
理由はいくつかある。
まず、次の定時放送までにエリアを転々と移動できる体力がなかった。
鷲巣は、欲望は並々ならぬ輝きを放っていたとしても、齢75歳の老人である。
体力は壮年期と比べてかなり落ち込んでいる。
その上、昼間に邦男や有賀の襲撃を受け、打撲や骨のひびが、その体を更に弱らせていた。
何より、一番の理由は、首輪を集めること自体、鷲巣自身には何のメリットもないため、やる気が起きなかったことなのだが・・・。
今、こうして、首輪を取ろうとしているのも、契約上の使命感というより、
歩いていたら見つかったため、一応、その姿勢は見せておこうという義理によるものであった。
勿論、義理でしかないので、取れなければそれで終わりでよい。
それにもかかわらず、鷲巣は首輪をいじる内に、どこか馬鹿にされているような怒りがこみ上げてきた。
「アカギめっ・・・!
そんなに首輪が欲しいなら・・・ワシに刃物のような支給品を手渡さぬかっ!」
アカギが鷲巣に首輪回収の手段となる支給品を渡さなかったのは、アカギ自身、そのような支給品を所持していないためであるが、
鷲巣はそれを自分に期待していない証拠であると解釈しまっていた。
かつて、経営コンサルタントとして、裏の経済に君臨し、様々な財界人や政治家に崇められ、恐れられ、縋られた男が、今、一人の青年に軽くあしらわれる。
それが鷲巣のプライドを逆撫していた。
「アカギっ・・・!首輪を取った後は、次は貴様の首をとってやるわっ!」
鷲巣は狼が月に向かってほえるかの如く、喚き散らす。
鷲巣には感情が一定以上に高ぶってしまうと、形振り構わず喚く悪癖がある。
アカギとのダミーの会話もこれでは台無しである。
そんな鷲巣の喚きを聞いていたのは、首輪の中に仕掛けられている盗聴器のほかにもう一人――
「じいさん、そこで何をしているんだ?」
「あっ?」
鷲巣が振り返ると、一人の青年が立っていた。
青年はチェーンソーを担いでおり、久々に知り合いに会ったかのように、警戒する素振りも見せず、鷲巣に近づいた。
「じいさん、首輪が欲しいのか・・・だったら、オレが首を切断して取ってやるよ・・・」
まるで、手の届かない荷物をとるかのような雰囲気で、常識から逸脱したセリフを口にすると、青年はチェーンソーの電源を入れた。
キュイィィィィンンンン!!!
耳をつんざくようなモーター音がこだまする。
青年は、死体の男の頭を踏みつけると、のこぎりで木材を切る要領で、首にチェーンソーの歯を当てる。
「いくぜっ・・・!」
支援
ブシュッ!
首から血がはじける。
歯は躊躇いもなく、首を貫通していく。
モーター音と共に、骨を砕く音、モーターの摩擦から肉が焼けるような匂いが周囲に広がる。
この青年の行動は明らかに狂人の行動である。
勿論、鷲巣も “正気か、こやつはっ・・・!”という戸惑いを覚えた。
しかし、とりあえず、アカギとの契約を一つ消化することができたという安堵感が、
その戸惑いを考察まで発展させることを阻ませていた。
それが鷲巣を更なる悲劇へ導くことになる。
やがて、頭部が首から切り離される。
青年は血だまりの中に浮かぶ首輪を掴むと、それを鷲巣に差し出す。
「ほら、外れたぜ・・・じいさん・・・」
「おお、助かったわ・・・!くれっ・・・!」
鷲巣は嬉々として、その首輪に手を伸ばす。
鷲巣の視線は全て首輪に注がれていた。
それ故に気づかなかった。
青年の気さくな笑顔から悪意がにじみ出てくる瞬間を・・・。
突然、青年は首輪を自分の頭上に掲げた。
「だが、嫌だと言ったら・・・鷲巣巌・・・!」
「お・・・」
言葉が続かなかった。
腹部に電流で貫かれたような激痛が走る。
「ぐっ・・・!」
鷲巣は苦悶に満ちた表情で、その激痛の要因を見た。
青年の膝が鷲巣の腹部にめり込んでいる。
「かはっ・・・」
鷲巣は二、三歩よろけると、腹部を押さえたまま、その場に倒れ込んだ。
「お前は何者じゃ・・・なぜワシの名を・・・!」
青年は口の端に皮肉めいた笑みを浮かべる。
「裏で暗躍している者の名と顔は覚えておかないと、帝愛グループの次期後継者は務まらないからな・・・」
鷲巣は目を見開き、青年を見上げる。
「帝愛・・・まさか兵藤和尊の息子・・・兵藤和也かっ・・・!」
青年――兵藤和也は、自分の正体があっさり露顕したことに意外そうな表情を見せるも、
すぐに先程の笑みを見せる。
「ご名答っ・・・!やっぱり、オヤジのことを知っているのか・・・
まぁ・・・どうでもいいことだけどな・・・」
和也は再び、チェーンソーに電源を入れた。
「あんたの首輪も・・・これから回収するからさっ・・・!」
和也の心情を表すかのような暴力的なモーター音がこだまする。
――殺されるっ・・・!
鷲巣は痛みがひかない腹を抱え、四つんばいになって逃げる。
膝や腕などにも痛みが走るが、それに構っている暇はない。
立ち止まれば、その先にあるのは死――。
「カカカ・・・まるで赤ん坊だな・・・!」
鷲巣の恐怖心を更に煽るかのように、鷲巣の歩調に合わせながらも、その距離を縮めていく。
――これまで、裏の社会に君臨してきた鷲巣巌が・・・
こんなガキ一人に命を弄ばれるのか・・・!
このワシが・・・神すらひれ伏す剛運を持つ、この鷲巣巌がっ・・・!
何も持たない鷲巣の最後の拠り所は、やはり共に修羅場を潜り抜けてきた自身の剛運であった。
しかし、強力な武器を持ち、迫り来る和也に対して、無防備でかつ満身創痍の鷲巣。
誰が見ても、この結末は陳腐な映画の如く、先が読めてしまう展開となるはずであった。
しかし、ここで運命の歯車にちょっとした異変が起こる。
ガチャッ!
手に何かがぶつかる。
「えっ・・・」
――こ、これは・・・!
鷲巣は足を止めると、その場で身を丸くした。
――どうした・・・一体?
鷲巣の行動に和也は面食らうが、すぐに仕切り直す。
――観念した・・・という所か・・・!
和也は、歩幅一歩のところまで、鷲巣に接近し、チェーンソーを振り上げる。
チェーンソーは歯を回転させながら、死神の鎌のように月夜に浮かび上がる。
「これで終りだ・・・鷲巣・・・」
「終わりなのは貴様の方じゃっ!兵藤和也っ!」
鷲巣は振り向き様、黒い物を和也に突きつけた。
――な、何っ?!
和也は目に飛び込んできたものの正体を知り、硬直する。
「フン・・・形勢逆転じゃっ・・・!」
鷲巣はしてやったりと言わんばかりの子供のような笑みで、ゆっくりと腰を上げる。
鷲巣が和也に向けているもの、それは拳銃であった。
この拳銃は本来、しづかの支給品であった。
しかし、死体の男――神威勝広に奪われ、
その後、地雷の爆発により、その存在はうやむやになってしまっていた。
そして、今、それは鷲巣の手の中へ――。
「チッ・・・!」
和也は舌打ちする。
――やはり、昭和の怪物・・・鷲巣巌っ・・・!
落ちても、その剛運には見離されずかっ・・・!
「撃たれたくなくば、そのチェーンソーを止め、ワシから離れろっ・・・!」
和也は鷲巣の指示に素直に従い、その電源を切り、鷲巣と向かい合ったまま、後ろへ下がる。
――くそっ・・・このままじゃ、殺生与奪を鷲巣に握られることになっちまう・・・!
和也に初めて、苦々しい表情が現れる。
一歩、一歩下がる度に、自分が崖に追いやられているような感覚が現実味を帯びていく。
「さぁ・・・そのチェーンソーをワシによこせっ・・・!そのディバックもだっ・・・!」
鷲巣はここぞとばかりに、和也に新たな要求をする。
――あのジジイ・・・オレを丸腰にする気かっ・・・!
要求を呑めば、次に待っているのは死――。
鷲巣がこの場で拳銃を手に入れたように、
このゲームでは、ちょっとした歯車の異変で、その運命が大きく変わる。
和也はあまりにも自分の運を過信していた。
しづかに狙われるという小さな障害こそは経験していたが、
それ以降は誰かに遭遇することもなく、自分の目的――血生臭くも明るい優勝へのシナリオを順調に進めていた。
しかし、鷲巣の存在によって、それが覆されてしまった。
――こんな老い先短いジジイに殺されちまうのか・・・オレは・・・!
帝愛次期当主のオレがかっ・・・!
立場が逆転した和也の結末は陳腐な映画の如く、先が読めてしまう展開となるはずだった。
しかし、運命というものは面白いものである。
今度は和也に、その歯車の異変が起こる。
ガチャッ!
足に何かがぶつかる。
「えっ・・・」
――こ、これは・・・!
この直後、和也の脳内で、この状況の打開どころか、優勝への新しいシナリオが構築される。
――見つけたぜっ・・・突破口っ・・・!
和也は突然、ディバックを盾のように持つと、その中から手に収まるような円盤状の塊を取り出し、鷲巣に見せ付けた。
「鷲巣巌・・・ここにある死体、何があったと思う?」
「は?」
鷲巣は、顔は和也を睨みつけながらも、目で横たわる死体を追う。
死体は下半身が粉々に吹き飛ばされ、周囲に散乱している。
残った上半身も下の方は、まるでバーナーに焼かれたかのように黒く炭のようになっている。
鷲巣は思わず、首をかしげる。
なぜ、この場においてそのような質問をするのか。
なぜ、ディバックで身を庇うのか。
円盤状の塊を取り出したことと関係があるのか。
その理由を求めて、鷲巣の脳内物質は竜巻のように、その体内を駆け巡る。
「分からないなら・・・教えてやるよ・・・!」
和也は自身の足元にある塊を蹴った。
それはホッケーのボールのように、地面を滑ると、鷲巣の足元にぶつかり動きを止める。
「何だ、これは・・・」
爆発によるものなのか、強い力でこじ開けられたかのような破損と黒い焦げで、元が何だったのかまでは分からない。
しかし、その形状の一部から、手に収まるくらいの円盤状の物体であったことは分かる・・・手に収まるくらいの円盤状の・・・
「まさかっ・・・これはっ・・・!」
バラバラの疑問が一つに繋がった。
鷲巣に、氷が肌に張り付くような緊張が走る。
「そうだ・・・オレの地雷だっ・・・!」
和也は鷲巣にディバックの存在を意識させるように、揺すってみせる。
「オレは後、20個所持している・・・もし、拳銃を撃って、これに当たればどうなるか・・・
修羅場を潜り抜けてきたアンタには分かるだろ・・・?鷲巣巌っ・・・!」
――ガキめ、まだ、そんな奥の手を持っておったかっ・・・!
鷲巣が体の奥の震えを止めるかのように、息を呑む。
拳銃という武器を手に入れ、和也に標準を合わせる鷲巣に対して、
周囲をも巻き込む一撃必殺の地雷を盾にする和也。
どちらかが動きを見せれば、文字通り一触即発の状況。
しばらく両者は膠着状態となった。
風がさらに鋭い冷たさを帯び始めた頃だろう。
――もうそろそろ・・・いいか・・・。
先に動きを見せたのは和也だった。
――オレのシナリオにアンタも組み込ませてもらうぜっ・・・!
「なぁ、鷲巣巌・・・なぜ、アンタは首輪を欲する・・・?」
鷲巣は先程以上に、不快な表情を顕にする。
「そんなこと・・・貴様には関係ないわっ・・・!」
「さっき叫んでいた“アカギ”という奴の指示か・・・?」
「・・・」
鷲巣は答えない。
アカギは自分の思惑を知られたくないが故に、鷲巣にダミーの会話を求めていた。
鷲巣もその点は一応、配慮する。
しかし・・・
「図星だな・・・多分、ギャンブルで負けて、“協力する”という契約を結んだんだろ?」
その態度は、却って、回答となってしまった。
和也はディバックの盾を鷲巣に向け続けながらも、戦闘の構えを解き、語りかける。
「まぁ、いいか・・・オレは首輪も欲しているが、それ以上に“部下”が欲しい・・・
オレの“部下”になれ・・・鷲巣巌っ・・・!」
「何ぃっ?貴様ぁ!突然、寝ぼけたことを言いおってっ・・・!」
小動物が敵を威嚇するかのような甲高い声を上げ、和也の言葉に噛み付く。
和也は“まぁ、落ち着いてくれよ・・・”と諭すように、手を振る。
「いいことを教えてやるよ・・・実はこのゲーム、オレにだけ適用される『特別ルール』が存在する・・・
まぁ、それが適用される条件はかなりハードルの高いものだがな・・・」
「『特別ルール』だと・・・」
鷲巣は和也の言葉の意図を考える。
和也は鷲巣が自分の話に食いついたことを確認すると、更に惹き付けるように落ち着いた口調でその続きを語る。
「オレは、帝愛次期当主の器を試されるために、このゲームへ参加させられた・・・
故に、オレは優勝しなければならない・・・
ここまでは、オレとほかの参加者の条件は一緒だ・・・
だが、最後の段階で、事情が変わってくる・・・」
鷲巣は黙って、和也の話を聞いている。
和也はふっと、あの禍々しい悪意のある笑顔を見せる。
「このゲームではいずれ、いくつかの派閥ができあがり、それぞれ生き残るために、衝突し合う・・・。
その中で、オレを中心とする派閥が残った時・・・
その『特別ルール』が初めて適用される・・・
オレの派閥はオレの権力を以って、全員脱出できるという『特別ルール』がな・・・!」
「ふん・・・」
鷲巣は唾を吐き捨てるかのような表情で、和也を睨みつける。
「そんなことが適用されたら、ゲームのバランスが崩れる・・・
“あの男”がそんなことする筈がないわっ・・・!」
――こいつ、オヤジのこと、知っているんだな・・・ということは・・・。
「確かにアンタの言うとおりだ。オヤジなら、反対するさ。いや、していた。
けど、この『特別ルール』・・・オヤジじゃなくて、あの“二人”が提案した・・・」
鷲巣ははっと目を見開いた。
「まさか・・・財全と蔵前かっ・・・!」
和也はほくそえむ。
――やっぱり、こいつは主催者を熟知していやがる・・・!
なら・・・かえって好都合っ・・・!
「あいつらがオヤジにこう説得したんだよ・・・!
“参加者の中には未来の帝愛の幹部候補もいる・・・
あなたの将来を受け継ぐご子息も含めて、有益な人材を使い捨てにするのは、経営者として好ましい姿勢とは言えない・・・”ってな。
オヤジ、黙っちまったよ。その言葉で・・・。
けど、その後、こう言った。
“やはり、軟弱な者を帝愛に居つかせる訳にはいかない・・・だが、そこまで言うのであれば、万が一の時は・・・その『特別ルール』を認めよう”・・・と。
まぁ、オヤジは、それでもオレに優勝を望んでいるようだがな・・・!」
鷲巣に主催者三人の顔が過ぎる。
「あいつらなら・・・だが、なぜ・・・」
「簡単な話だ・・・これからも帝愛との関係を継続していきたいからさ・・・
オヤジも齢だ・・・いつポックリ逝っちまうか分からねぇ・・・
あいつらにとって、帝愛の寿命を延ばすために、オレの存在が必要不可欠・・・!
『特別ルール』はあいつらの都合によって生まれたもの・・・!」
和也は一呼吸置く。
――重要なことは鷲巣に伝えた・・・最後で鷲巣がどう反応するかだ・・・。
「『特別ルール』が存在しているとは言え、オレの派閥のみが残らなければ、適用されることはない・・・。
故に、オレの基本方針は優勝・・・。
有能なものは“部下”にし、邪魔になる者、使えない者は消す・・・それがオレの考えだ・・・。
初め、オレにとって、アンタは使えない者だった・・・。
だが、アンタがその拳銃を掴んだ時・・・その考えを改めた・・・。
剛運の鷲巣巌と呼ばれただけはある、その運・・・アンタの運が欲しい・・・
もう一度、言う・・・オレの“部下”になれっ・・・!
もし、アンタが望むなら、オレがアカギを・・・」
「馬鹿らしい・・・!」
鷲巣は和也の言葉を切り捨てた。
「ふざけるなよ・・・小僧っ・・・!
今はアカギに利用されておるが、ワシの目的は、このゲームで頂点に君臨すること・・・!
いずれは貴様もアカギも倒して、ワシがこのゲームの王になってやるわいっ!」
鷲巣の啖呵に和也は思わず、聞き返す。
「それは優勝ってことか・・・」
「それは・・・その時次第じゃっ・・・!」
――このジジイ、晩年は狂ってしまったと聞いたことがあったが、これほどまでとはな・・・。
和也は失笑する。
鷲巣の目的とは、壮年のように、誰かから崇められ、恐れられ、すがられることであり、
性質が悪いことに、その手段を全く考えてはいない。
――交渉は決裂か・・・。
和也は呆れたようなため息をついた。
「つれねぇな鷲巣巌・・・だが、それも一つの選択・・・
今回は諦めよう・・・!」
和也はギャンブルルームを顔で指す。
「攻撃し合わないようにするために、このギャンブルルームを利用して別れるというのはどうだ・・・鷲巣巌・・・
お互いに後ろへ下がりながら、ギャンブルルームのそれぞれの端まで移動し、そこで同時に壁に身を隠す・・・
そうすれば、不意に攻撃されることもない・・・」
鷲巣は横目でギャンブルルームとその周囲を確認する。
ギャンブルルームは爆風にも耐えられる造りとなっており、
壁に爆発の後の黒い火薬の後は見えるが、ヒビは見受けられなかった。
また、このギャンブルルームは林の中にポツンと存在しており、周囲は人が隠れることができるくらいの茂みと歩行するのに邪魔にならない程度の雑草が生えている。
鷲巣と和也はギャンブルルームの入り口前にある、勝広の死体を堺にして対峙していた。
――この壁を防壁にすれば、とりあえず攻撃は受けない・・・という訳か。
隠れる場所が茂みのみというのが、いささか不安だが、
相手は飛び道具を持っていない・・・安易に襲ってくることはないはず・・・。
鷲巣は勝者の如き、哄笑を浮かべた。
「貴様の“部下”になる気もないが・・・
ここで発砲して、地雷に穴を開けるような馬鹿なマネをする気もない・・・
それに乗ってやろう・・・!」
鷲巣は拳銃を向け、和也はディバックを盾にし、向かい合ったまま、ギャンブルルームの壁まで移動する。
両者は外壁に身を押し付け、構えを維持しながら、後ろへ下がる。
やがて、共に建物の端にまで到達した。
鷲巣と和也はそれぞれ、相手の死角となる壁側へ足を移す。
「また会えること・・・楽しみにしているぜっ・・・!」
和也はそう言い残すと、ギャンブルルームの壁へ消えていった。
「ふん・・・ガキの分際でよく言うわぃっ・・・!」
本来なら気が済むまで悪態を吐きたい。
しかし、和也が建物を回るように移動して、鷲巣の死角から攻撃してくる可能性もある。
鷲巣は痛みと熱が集中する腹部を押さえながら、この場を後にした。
これで前編は終了です。
まだ、何とか規制がかかっていないようなので、後編投下します。
鷲巣は周囲を警戒しながら移動していた。
動物の声どころか、木々のざわめきすら聞こえない。
起動していないヘッドホンを耳に付けられたような静寂がその場を支配する。
疲れが鷲巣の体から自由を奪い始めている。
――休むか・・・。
辺りを見渡し、和也が追ってきていないことを確認すると、鷲巣は近くの茂みへ身を隠した。
「ふぅ・・・」
鷲巣はすぐ側にある木に寄りかかると、手に収まる拳銃に目を向けた。
「危なかった・・・」
鷲巣が拳銃を見つけた時、
“ワシの剛運、未だ尽きずっ・・・!”
と、驚喜の叫びを心の中であげた。
――あの小僧の脳天に、一発ぶち込んで・・・
しかし、ここで鷲巣の思考は止まり、その驚喜は驚愕の叫びに変わる。
「えっ・・・」
――こ、これは・・・!
拳銃の銃口が曲がっているのだ。
おそらく爆発の際の衝撃で歪んでしまったのだろう。
遠くから見れば分かりにくいが、触れると先端は不自然に上を向いている。
もし、このまま発砲すれば、弾は銃口の手前で止まり・・・
――暴発っ・・・!
死という言葉が、再び、鷲巣に圧し掛かる。
――どうすれば・・・。
鷲巣はうずくまって思考を働かせる。
そうこうしている間に、和也が近づき、チェーンソーを振り上げたため、
どうにでもなれという勢いのままに拳銃を和也へ向けてしまったのである。
支援
「勿論、発砲は不可能であるので、和也を仕留めることはできない。
この戦いの主導権を手に入れた勝者の風格を見せていたが、
内心はどうやって、この場から離れるか、銃口のことは気づいていないのか、そればかりを考えていた。
鷲巣が和也にディバックと武器の受け渡しを要求したのも、その場から離れた時に襲われる可能性を少しでも減らすためである。
その後の和也とのやり取りは、もはやその場の流れと自棄でしかなかった。
和也はそれを“噂通りの狂人”と評価していたが、実際は混乱と焦りの賜物であった。
精神的に落ち着いてきたのか、鷲巣は頭を整理するため、先程の和也の言葉を思い出す。
『オレの派閥はオレの権力を以って、全員脱出できるという『特別ルール』がな・・・!』
アカギも察していたが、鷲巣は今回のゲームの主催者を全員把握している。
主催者は三人。
日本最大規模の金融グループ「帝愛」の総帥、兵藤和尊。
個人資産3兆円以上を所有する「財全」の総統、財全無量。
日本有数の一大コンツェルン「誠京」の会長、蔵前仁。
彼らに共通していることは、人の命を奪うことを厭わないギャンブルを好み、嗜虐的な趣味を持ち合わせているサディストということである。
どいつもこいつも欲望だけで正気を保っているような奴らばかりであるが、その中でも、兵藤和尊は異質な男であった。
全員、かつて常識を逸脱したギャンブルを催した経験がある。
例えば、兵藤は人間の生死を賭けの対象とする人間競馬、
財全は死者が出てもおかしくないギャンブルばかり揃えた代打ち選手権、
蔵前は500億もの金が一瞬にて溶ける変則ルール蔵前麻雀。
その中でも、ギャンブルで苦しみ、転落していく参加者を見て、悦楽を覚える財全、
ギャンブルに敗北した人間を飼うことを娯楽とする蔵前、
彼らはビジネス以上に、ギャンブルによって、対戦相手が絶望に飲み込まれていく過程、精神が壊れていく過程を楽しむことに重きを置いていた。
それに対して、兵藤はその残虐的な行為を観客に楽しんでもらうための演出の一つと捉えていた。
つまり、ギャンブルを目的ではなく、金を得る手段と割り切っているのである。
それ故に、兵藤は莫大な損失がもたらされようとも、決定したルールを曲げることはない。
曲げてしまえば、観客が興ざめしてしまうことを知っているからである。
――兵藤和尊はギャンブルに対しては公平な男・・・
息子に対して例外を許可するわけがない・・・!
だが・・・。
財全と蔵前なら、話は別である。
彼らは自分の立場が不利になると、ギャンブルに独自の変則ルールを作ったり、相手に折り合いを頼むなど、しばしばルールを曲げる。
息子の例外を兵藤和尊が反対したとしても、
財全と蔵前なら、『特別ルール』を勝手に作りかねない。
――そもそも、なぜ、三人で主催を行うことになったのだ?
「帝愛」も「財全」も「誠京」も、日本有数のグループ企業である。
彼らの財力から考えれば、孤島を貸しきったゲームなど、それぞれ個人で催すことぐらい可能である。
協力し合う理由は皆無である。
――息子の例外といい、三者共同のゲーム開催といい、
その目的は・・・
あっ・・・!
鷲巣はここである事実に気づいた。
周囲を警戒するように見渡す。
「そういえば・・・今、ワシはどこにおるんじゃ?」
和也はE-6の林の中を走っていた。
内臓を圧迫させるような闇がその場を支配する。
辺りを見渡し、鷲巣が追ってきていないことを確認すると、和也もまた、鷲巣と同じように茂みへ身を隠した。
「ふぅ・・・」
和也は手に収まる首輪に目を向ける。
「・・・『特別ルール』なんてあるわけないだろ・・・」
和也が言った『特別ルール』は全てその場しのぎのハッタリであった。
鷲巣の予測通り、兵藤和尊はそのような例外を認める男ではなかった。
和也に求められていることは、全員殺してただ一人生き残る――優勝であった。
勿論、ほかの主催者も、そんな『特別ルール』など、考えもしていないはずである。
本来なら、このような偽りを言う必要はなかった。
あの場で、鷲巣がチェーンソーの餌食になれば、済んだ話であったのだ。
しかし、鷲巣が拳銃を手に入れたことから全てが狂い始めた。
殺生与奪の権利を鷲巣に奪われ、
和也は鷲巣の殺害からその場からの逃避へ戦略を切り替えざるを得なくなった。
それ故に、地雷を本来の10倍の個数で伝え、それを盾にすることで、
鷲巣の発砲を思い留まらせようとしたのである。
しかし、鷲巣は理性より感情を優先する狂人である。
このように脅した所で、何らかの勢いで発砲する可能性だってある。
その確率を更に下げるため、口から飛び出したのが、『特別ルール』――和也の派閥は和也の権力を以って、全員脱出できるというハッタリであった。
和也が脱出の鍵を握っている唯一の人間と知れば、
鷲巣も含めて、生に縋る参加者は和也の殺害を躊躇する。
――まぁ、鷲巣にそれを伝えたのは銃弾を避けるためだけじゃないんだがな・・・!
和也の特別ルールのハッタリにはもう一つの目的があった。
その目的、それは・・・
――鷲巣巌・・・オレだけが持つ、この優位性・・・
ほかの参加者にも伝えてくれよ・・・!
鷲巣を情報の発信源、つまり、スピーカーにすることであった。
和也は第一回定時放送を聞く前から勘付いていた。
棄権権利申告地点であるD-4ホテルはすぐに禁止エリアになってしまうことを・・・。
帝愛は常にギャンブルの参加者への特別救済処置を準備する。
しかし、ルールが明確になっていくにつれて、それを泥沼へ変化させる。
これが帝愛のやり方である。
「案の定、第一回放送後、D-4は禁止エリアに指定された。
和也はそんな帝愛の中で揉まれて生きてきたため、こうなるであろうと予測をつけていたが、ほとんどの参加者は、
黒崎のゲームのルール説明時、その場の雰囲気に呑まれ、それに気づくことはなかっただろう。
しかし、そろそろ現れるはずである。
それに気づく者――棄権費用1億円を集めた参加者である。
この参加者はどこで申告すればいいのか、おそらく覚えてはいない。
そのため、近くに点在するギャンブルルームへ赴いて尋ねるはずである。
それに対して、黒服の回答はこうだ。
『棄権申告はD-4エリアのホテルで行ってください』
その言葉で、この参加者は絶望の淵に追いやられる・・・
もう逃げ場は存在しない・・・優勝以外助かる道はない・・・と。
そんな時、鷲巣によってばら撒かれた和也の『特別ルール』を耳にすれば、どうなるか。
和也に縋るため、自ら、和也の元に姿を現すであろう。
そして、和也はその参加者の手を取り、こう言えばよいのだ。
『脱出したければ、オレに忠誠を誓えっ・・・!』
この参加者の選択肢は一つ――和也の忠実な下僕となること。
こうして、和也の目標――『全員殺してただ一人生き残る』を
完遂させるために必要な条件でありながら、目処が立っていなかった、
“子分を増やす”という計画が形となるのである。
この計画を実行するには、鷲巣にこの情報を伝え、別れることができるかどうかが焦点だった。
そのため、和也はあえて鷲巣を“部下”に誘ったのだ。
プライドが高い鷲巣が、自分より若い者の下で働くことに嫌悪を覚え、自らこの誘いを一蹴すると踏んで・・・。
現に鷲巣は、その選択肢を考慮すらしなかった。
和也は確かに“部下”を欲してはいるが、それは自分に忠実な“下僕”であって、鷲巣のように自分本位で動くような人間は必要ない。
むしろ、鷲巣を“部下”に迎えてしまえば、どこかで自分の意に染まない行動を起こす可能性がある。
また、鷲巣は主催者を熟知している。
そんな鷲巣と長時間、行動を共にすれば、和也の言葉の端々から矛盾点を拾い上げ、勘付いてしまう恐れがあった。
矛盾がでない程度の情報を与えて、別れることこそ――今の状況こそが最良と言える。
後は鷲巣が持ち合わせている主催者の知識が、その足りない情報を埋めてくれるはずである。
主催者を知る鷲巣の知識が付け加わった情報――更に筋が通ったものとして生まれ変わった情報は、
アカギを含めた参加者との情報交換という形で広まっていく。
いずれ、それは生還を望む者の元へも――
――とっさの思いつきだが、悪くはない・・・さて、次は・・・。
この計画で最も重要なことは、和也が脱出の鍵を握り続けることである。
そのために行うべきことは次の二点。
一点目は死体から首輪を集め続けること。
万が一、誰かが首輪を入手し、その解除方法を見つけてしまえば、和也の存在意義がなくなるためである。
そして、もう一点・・・
「鷲巣巌に命令していたのは、
アカギ・・・赤木しげるのことか・・・」
和也はチェーンソーを握り締める。
「見つけ次第・・・消えてもらうか・・・」
【E-6/林/夜中】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー 対人用地雷三個(一つ使用済)
クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0〜1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
[所持金]:1000万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする、
子分を見つける
死体から首輪を回収する
鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう
赤木しげるを殺す(首輪回収妨害の恐れがあるため)
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条、遠藤、村岡の4人と合流したいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を持って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※C-3に標の首がぶら下げられています。胴体はB-3地点の道の真ん中に放置されています。
【???/???/夜中】
【鷲巣巌】
[状態]:疲労、膝裏にゴム弾による打撲、右腕にヒビ、肋骨にヒビ、腹部に打撲
[道具]:防弾チョッキ 拳銃(銃口が曲がっている)
[所持金]:0円
[思考]:零、沢田、有賀を殺す
平井銀二に注目
アカギの指示で首輪を集める(やる気なし)
和也とは組みたくない、むしろ、殺したい
※赤木しげるに、回数は有限で協力する。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※赤木しげるに100万分の借り。
※赤木しげると第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※鷲巣は、拳銃を発砲すれば暴発すると考えていますが、その結果は次の書き手さんにお任せします。
※主催者を把握しています。そのため、『特別ルール』を信じてしまっています。
※焦っていたため、今、どこにいるのか、分かっていません。現在位置は次の書き手さんにお任せします。
こちらで以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
乙です
内容が濃いのに長さを全く感じなかった
狂人同士のバトルにはハラハラさせられるなあ
超乙…!!
手に汗握る展開で、長さも気になりませんでした。面白かった…!
和也頭良いな…!『特殊ルール』のハッタリにしびれた…!
鷲巣様がなんとも鷲巣様らしい。
>それに対して、兵藤はその残虐的な行為を観客に楽しんでもらうための演出の一つと捉えていた。
>つまり、ギャンブルを目的ではなく、金を得る手段と割り切っているのである。
>それ故に、兵藤は莫大な損失がもたらされようとも、決定したルールを曲げることはない。
>曲げてしまえば、観客が興ざめしてしまうことを知っているからである。
ここの箇所が面白かった。的確な原作の評価…!
アカギが標的にされたか
マーダー二人がいなくなってしばらく死者は出ないかと思ってたがまた危険な状況になってきたな
ところで死体の首輪の有無ってWikiで見れる?
誰の死体の首輪が残ってるかよくわからん
山口の首輪とかはもう取りに行けないよね
乙!
支援できなくて申し訳ない…!
ハッタリ同士の戦いは、この二人だからメッキが剥がれなかったのですな
終始ざわ・・ざわ・・してる展開が面白かったです!
コテハン記憶してたw
お恥ずかしい…
作品投下、乙であります。
心理の読み合いがすさまじくて、読んでいるこちらも一緒にざわざわしました。
何年も生きてきた鷲巣様が心理戦に長けているのは当然といえるけど、
若い和也がとっさにこれだけの戦略を思いつくなんて…
鷲巣様が和也の思惑とおりに動くのか否か、
凄く面白かったです。
投下乙でした。
和也の動きは今後も楽しみですね。
主催者の息子って立場を最大限に利用して、引っ掻き回してって欲しいです。
投下します!
さるったら避難所に投下するのでそのときは代理をお願いします。
もうどれくらい走っていただろうか。
後方からの物音に、沙織は振り返る。
(っ・・・!誰か来た・・・・・?)
立ち止まると、耐え難い疲労がこみ上げる。
今にも体を支えることを放棄してしまいそうな両脚。
走っていたときは感じなかったその苦痛に沙織は顔を歪めながら、
暗闇の向こうに神経を向けた。
(こっちに来る・・・・・?)
未だ確信に至らないレベルの小さな音。
木々のざわめきを聞き違えたのだろうか、
しかし、沙織には草を踏む足音に思える。
姿は見えずとも、何かの気配が・・・沙織に近づいていた。
(どうしようっ・・・・・!)
人を殺す。その決意はあった。
生きるための手段、生還へのステップ。
仕方の無いことだ。既に一人殺したのだから躊躇う必要はない。
(でも・・・・相手がどんな人物かわかりもしないで手を出したりはしない。
いくら武器があるとはいえ、女の私でも確実に仕留められる相手じゃなきゃ・・・・・・)
そこまで考えてから、沙織は近くの大木の陰に身を隠した。
一刻も早く金が欲しい。そして今、最初のチャンスが訪れようとしている。
だが、返り討ちにあうような真似だけは避けなくてはならない。
(勝ち目のない相手ならここで隠れてやり過ごす・・・
複数人だったら・・・・非力な女であることをアピールして取り入り、油断を衝いて殺す・・・・!)
本来ならば、一度に複数人と接触するのは得策ではないだろう。
しかし、沙織にとって大事なのは「棄権すること」だ。
つまり、1700万円分のチップを手に入れること。
一人に支給されるのは1000万円分のチップであるため、
これから沙織は二人以上の人間から金を集めなければならない。
となれば当然、二人以上をまとめて殺すことが出来る状況は最も好ましい。
あるいは、既に1000万円以上のチップを所持している人物を狙うこと。
それが近道である。
(この銃があれば・・・まず有利だわ・・・。
そして・・・・)
沙織はデイパックの一つから、ボウガンの矢を取り出す。
鋭利な矢先が月の光を鈍く反射した。
至近距離からこれで突けば、致命傷を負わせることくらいは出来るだろう。
指に、脳裏に、苦みが走る。
有賀の眼球にペンを突き立てたあの感触。
医療に携わってきた者として、並みの女に比べればああいった事態に耐性がある。
とはいえ、嫌悪感は拭いきれない。
人を殺したのだから。
沙織は矢を一本 懐に隠し、息を潜めて“物音”の正体が現れるのを待った。
(来るわ・・・!)
沙織の判断は正しかった。
数十秒としないうちに、人影が輪郭を現す。
周囲を警戒した様子で草を踏みしめるのは――学生服の少年。
工藤涯だ。
(中学生くらい・・・かしら)
涯は沙織に気付くことなく歩みを進めている。
支給品の入った荷物を二つ背負い、
そのうち一つのデイパックからは鉄バットが伸びていた。
(デイパックを二つ持っているということは 二人分のチップを持っている可能性もあるわ・・・!)
遠目にでもわかるほど体中に傷をつけて、
とりわけ腹部、裂けたシャツの隙間からは痛々しい痕が見え隠れしている。
時折背後を確認しながら進む姿に、沙織は違和感を覚えた。
(子供・・・・それも手負い相手なら勝てるっ・・・・・!
でも、様子がおかしい・・・敵が追ってくるのを気にしているようにも見えるけれど・・・・・
違う・・・もっと何か・・・・むしろ誰かが来ることを期待しているような・・・・)
仲間と逸れてしまったのだろうか。
それも違う。
彼がとっているのは明らかに「逃げ」であり、合流を目的にした動きには思えない。
ならば、少年のこの表情は何なのだろう。
後悔すら連想させるような悲痛さは――
支援
支援
沙織は頭を左右に振り、己の思考を抑え付けた。
ウージーを握る両手に力がこもる。
(関係ないわっ・・・!どんな事情があっても・・・!!殺せる相手なら仕掛けなきゃっ・・・・!)
背後から撃てば、まず確実に殺せるだろう。
トリガーを一度引くだけでいい。
赤子の手をひねるようなもの。
(出来るでしょっ・・・簡単なことよ・・・!指一本・・・・・その動作だけっ・・・・!)
4kgの重みが、沙織の腕に圧し掛かった。
この銃が、人の命を奪う。
否――人の命を奪うのは、沙織の腕・・・!
彼女の“人間”としての意識が、
非人道的な行為の実行を妨げようと働く。
本当に殺してしまうの?
彼を撃ち殺し、その死体を漁って・・・一銭も手に入らなかったらどうするの?
人を殺したという結果だけしか残らないじゃない。
そうなったとしても本当に後悔しないの?
沙織の目的は、あくまでも棄権の為の資金集めであり、
殺人自体はその手段に過ぎない。
言うなれば、沙織は不本意のマーダー。
人を殺さずに金が手に入るのならそれに越したことはなく、
また、金に結びつかない殺人は彼女にとって無意味なはず。
しかし、現状、天与の機。
沙織自身も死と隣り合わせのこの島で、
これほど有利に事を運べる機会が そう何度も訪れようものか。
無意味かどうかは・・・殺してから考えればよい。
顔に特徴的な痣を持つ、目つきの鋭い少年。
さして小柄、というわけではなかったが、
この島で一人孤独を抱く姿は 小さく、弱弱しい。
腹部の傷、あのままでは化膿してしまうだろう、と沙織は思った。
涯は沙織に気付かず、彼女の隠れる大木の前を通り過ぎていく。
見る限り、彼は遠距離攻撃可能な武器を持っているようでもなく、
素手に比べればリーチを稼ぐことの出来る鉄バットさえ荷物として背負うに留めていた。
(殺し合いに乗る気はないってことかしら・・・)
無論、沙織の推測は間違っている。
沙織と同様、涯は殺しあうことを望んでいるわけではない。
だが、また、沙織と同様に自衛の末 人を殺めるのは仕方のないことだとも感じていた。
相手が“敵”であれば容赦なく討つ。
ただ、涯は他の人間に比べて武器を必要としないだけ。
己の拳のみで、十分に渡り合える実力を持っているのだ。
武器に頼ろうという精神自体が弱み。
オレはオレに依って生きていく。
その考えから、バットはデイパックに納められている。
そうした気構えも、沙織にとっては知る由もないだろう。
彼女からすれば 恰好のターゲットとして現れた少年としか映らない。
(こんなチャンス・・・・もう二度とないかもしれないわ・・・・)
支援します!
あの男――有賀研二と対峙した時とは異なる状況だ。
有賀は沙織の生命を脅かす存在だった。明白だった。
よって、やむを得ない行動だった。殺さなければ殺されていた。
しかし、これからの行為にその文句は通用しない。
無抵抗の相手を、殺す。
明確な“殺意”を掲げて、他人の未来を奪う。
(あの男の子を・・・・・殺す・・・・・)
震えが止まらない。
仕方ないのよ、仕方ないのよ。
あと1700万円、それで絶対の安全を得ることができるのだから。
私は人殺し。
どんな理由があったとしても、既に一人を殺めた。
今更怖がって何になるというの。
私が悔いるとしたら、それはきっとこのチャンスを逃したときよ。
現実を見るのよ、沙織。生き抜く術を知るのよ、沙織。
本当にそれでいいの?、ともう一人の自分が問うてくる。
今なら引き返せる。人間として生きていける。
神威の夜のように、乗り越えることが出来るかもしれないじゃない。
己が為に人の命を奪おうなんて
そんなのアイツと変わらないわ――
(うるさいっ・・・!違う!!・・・・違う!私はアイツとは違うのよっ!!)
沙織の眼から涙が零れ落ちた。
カイジと決別し、単独行動を選んだ今。沙織の判断を咎める者はいない。
そして、同時に、彼女は罪を分け合う相手も手放したことになる。
siennします!
出来る?私に?
俯く沙織の耳元で声が聞こえた。
『君は殺せない』
あのときからずっと、有賀への怒り、憎しみ、嫌悪感と
僅かに残る殺人への躊躇いが葛藤している。
「やる・・・・私は出来るわっ・・・」
沙織は鬼気せまる表情で
音も無く立ち上がり、深呼吸をした。
(アイツなんかとは違う・・・・!私は正常だっ・・・・!アイツは関係ないっ・・・・・・!!)
そして
涯の背に銃口を向け――撃鉄を引く。
* * *
赤松、そして零から逃げながら、工藤涯は考えていた。
これで正しかったのだろうか。
わからない。
この先、わかる時がくることを祈るしかない。
だが、孤立の先に、何かがある。
もう・・・戻れない。戻る必要もない。
理解されたかった。
友情に飢えていた。仲間が欲しかった。
認めざるを得ない本心だ。
そして、それがオレの弱さっ・・・!
人間の弱さは他人にある・・・・・・・!
関わりあおうというその心に・・・弱さは生まれるのだ。
孤立せよっ・・・!
(随分歩いたが・・・)
方向を見失わないように、
常に左側にアトラクションゾーンが見える道を進んできた。
今はどの辺りにいるのだろう。
脳裏にマップを思い浮かべながら、涯は考える。
零は・・・赤松は・・・今頃どうしているのだろうか。
オレがこうして逃げたことに対して・・・何を思っているのだろうか。
(そんなことは・・・もういいんだっ・・・孤立っ・・・!)
涯は、否が応でも考えてしまう 少しの時を共にした人間たちのことを
必死に忘れようと努めた。
ふと、気配を感じて立ち止まる。
今、後方で何かが動いたような気がした。
(敵か・・・?それとも・・・あいつらが追いかけてきたのか・・・?)
続きが気になる!
支援!
確認のため、涯が振り向こうとした そのとき。
乾いた音が林に響き渡った。
本能的に、理解する。
これは、銃声。
刹那、何かが涯の真横、空を切る。
「っ・・・!」
状況を把握できぬまま、涯は草むらに飛び伏せた。
デイパックに穴があく。中身が散乱する。銃弾が当たったのだろう。
その反動で、デイパックは涯の肩を離れ、地面に落ちる。
(襲撃っ・・・?)
敵の姿を確認するべく、僅かに顔を上げる涯。
(どこだっ・・・どこから撃ってきている・・・?)
右手にはアトラクションゾーン。
左手には林。
転がったデイパックを少し見つめてから、涯は林の方角を注視する。
疎らに木々が並ぶその向こう、一際立派な大木の影が、動いていた。
敵は咄嗟に身を伏せた涯を見失ったのだろうか、銃声は止み、再び静かな闇が辺りを包む。
逃げるか?戦うか?
相手が銃器を持っている以上、勝ち目は薄い。
涯の攻撃可能範囲はバットの届く距離まで。
そのバットが入ったデイパックも、先の攻撃を受けた際に、放ってしまった。
手を伸ばしても僅かに届かない場所に、デイパックはある。
今、涯はまさに身一つの状態だ。
動けば また銃撃が再開されるかもしれないと思うと、呼吸さえ慎重になる。
支援!
(こうして距離をあけられていては、攻撃を仕掛けることも出来ないっ・・・・!
だからといって・・・・・自ら近づくなどは持っての外・・・・どうする・・・・)
膠着状態が続く。
狙われている側の涯はともかくとして、何故相手方は動かないのだろう。
何か理由があるのか?
涯は不思議に思いながらも、息を潜めて敵の行動を待った。
おそらくは――あの大木の影から撃ってきた。
しかし、未だ姿さえ確認できていないのだから
逃げるにしても、戦うにしても・・・あるいは交渉を試みるにしても、下手に動くことは危険だと判断したのだ。
数分とも、数時間とも思える静寂の後、
大木に隠れていた敵がついに動きだす。
銃口をこちらへ向けたまま、一歩、また一歩と近づく その姿。
ヘルメットで頭は隠されているが、服装、体格から、おそらくは――
(女かっ・・・・・)
敵――沙織はどうやら涯が被弾したとでも思ったのだろう。
さほど警戒する様子も無く、しかし恐る恐るに距離を縮めてくる。
幸い、涯は肘を擦りむいた以外にダメージはない。
無論、ここに来るまでの戦いで様々な傷を負って来たが、
今、この瞬間はその痛みを感じることさえ無かった。
女相手なら勝てるのではないか、という気持ちと
女相手に戦えるのか、という気持ちが涯に芽生える。
支援!
支援!
* * *
(殺った・・・)
田中沙織は胸を撫で下ろす。
ウージーのトリガーを引いた瞬間、僅かな後悔と同時に押し寄せたのは達成感だった。
ほら、出来る。出来るじゃない、私にだって。
殺せる。私は、弱くなんかないんだ。
荒い呼吸を整えるのに時間を要したが、
沙織が思っていた以上に、行為は簡単に遂げられた。
少年が元居た場所にはデイパックが転がるのみ。
草むらへ倒れるように消えたターゲットは、果たしてまだ生きているのだろうか。
(あれだけ撃ったんだから・・・当たってるわよね・・・?)
涯が倒れこんだ草むらを見つめるが、
ヘルメットを通した視界では、その姿を確認することは出来なかった。
足の長い雑草が、彼の姿を隠している。
生きているのか・・・死んでいるのか。
それを確認して、止めを刺さなければ。
そして、あのデイパックを回収すること。
しばらくの時間を経て 動きがないことを見極めた後、
沙織は直ぐに攻撃に転じることが出来るように引き金に指を掛け、
涯がいるはずの場所へと移動をはじめた。
(大丈夫・・・私は出来るもの・・・・私は生き残れる・・・・)
徐々に、涯の姿が現れる。
草むらの影に、土と血で薄汚れたシャツが垣間見えた。
ぴくりとも動かないそれに、沙織は少しだけ動揺する。
「ほんとに・・・・し・・・死んじゃったの・・・かしら・・・・」
尚も銃口を下げることなく、慎重さを心がけながら、
沙織は距離を詰めていく。
一方の涯は、機を窺っていた。
相手は人間・・・となれば当然、隙が生まれるはずだ。
今更傷を負いたくないなどとは思わない。
ただ・・・生還。大切なのはその一点のみ。
一歩・・・二歩・・・三歩・・・・沙織が近づくたびに涯はカウントを重ねた。
相手の油断を衝いて銃を奪う。数発体に食らっても怯まずに決行。
一か八かの作戦だが、銃の扱いに慣れていないはずの女相手ならば――
そして・・・
(今だっ・・・!)
突如飛び起きた涯に、沙織は驚き、声を上げる。
「ひっ・・・!」
反射的に沙織は指を動かした。
発射装置が作動し、ウージーの吐いた弾丸が、涯を目掛けて飛ぶ・・・はずだった。
かちり、かちり。
引き金の音だけが、周囲に響く。
「なんでっ・・・!なんでよぉっ・・・!!」
弾切れだ。
弾薬の確保などもちろん考えておらず
リロードの方法さえ知らない沙織は、幾度もトリガーを引きながら喚き続ける。
「壊れたのっ・・・?!なんで動かないのよっ・・・・!」
混乱状態の沙織に弾切れという概念はなく、彼女は一時的な混乱状態に陥った。
(銃器が使えないのか・・・?)
何が起きているのか、それは涯にもわからない。
ただ、 沙織は撃つことが出来ない状況なのだ。
攻撃を仕掛けるなら今しかない――
しかし次の瞬間、
“銃器”として使いものにならなくなったウージーは“鈍器”として涯を襲う。
「ぐっ・・・」
予想外に腹部目掛けて飛び込んできたそれを、涯は腕で受け止めた。
衝撃で尻餅をつくが、幸い大したダメージはない。
しかし、ウージーの重量は4kg近いもので、
沙織が次に本気で殴りかかってくれば、打ち身では済まないだろう。
「殺すっ・・・!殺すぅっ!」
一拍と置かずに再び かざされるウージー。
沙織の狂気に満ちた瞳が、涯の頭部を捉える。
支援
「くそっ・・・!」
涯の脳裏に、死がイメージされる。
終わる。終わってしまう。
この一撃が当たれば
例え腕で防いでも・・・腕の骨が折れるはずだ。
涯にとって最大の武器である“拳”が使い物にならなくなれば、
ここを切り抜けたとしても未来は暗いものとなる。
「させるかっ・・・・・・!」
女相手に暴力を振るうことには抵抗があった。
とはいえ、この局面で戸惑っている時間はない。
涯は地面に指を立て砂を手掴み、
沙織に向けて放つ。
「きゃっ」
咄嗟に眼をつぶり、腕で顔を覆う沙織。
その隙に素早く飛び退き、沙織から数歩の距離を置く。
涯は穴だらけのデイパックを拾い上げ、
体制を立て直した沙織に向けて、投げつけた。
どすりと音を立て、デイパックは沙織の肩に衝突。
瞬間、バランスを崩す沙織に 涯は体当たりを食らわし、転ばせる。
「うっ・・・」
沙織の手を離れたウージーを蹴り飛ばし、涯は告げた。
「あんたはこれで負けだ・・・・・・!
オレはっ・・・・あんたを殴り殺すことだって出来る!
嘘やハッタリじゃない・・・・・丸腰のあんたに勝ち目はない・・・・!」
涯は光速の拳を持つ男。
不意打ち、あるいは銃器を持つ者相手ならともかく、
一対一、飛び道具なしの戦いであれば、負けることはない。
「・・・・・」
唇を噛む沙織に対し、涯は拳をつくり、構える。
これで観念し、逃げてくれれば・・・と涯は思う。
仕掛けてきたのは間違いなく沙織からであり、
そこには明確な殺意が存在していた。
しかし、やはり、女相手に拳を振るうのは気が進まない。
今更善人ぶるつもりなどは毛頭無かったが、
涯のプライドが、沙織への攻撃を躊躇させていた。
(なんで止めをささないの・・・?バカじゃないの・・・?)
落ち着きを取り戻した沙織は、内心で毒づく。
身のこなしから、相当に運動神経が優れていることは見て取れる。
だが、どうだ。命を狙ってきた人間が座り込んでるという絶対有利の状況でこの振る舞いは。
脅すだけ脅して、結局は目の前の敵を殺す気概も持ってない。
女だからって甘く見ているのだろう。
沙織は不愉快になりながらも、これを好機と見た。
支援
女であることが有利に働いたのだ。
女だからと狙ってくる輩も もちろんいるだろうが、
こうして「女には手をだせない」という甘い人間も少なからずいる。
(もうあの銃は使い物にならないけど・・・・)
ちらり、とウージーを見やる。
涯に蹴り飛ばされ、数メートル離れた場所に転がっていた。
更に視線を移動し、沙織の横。
穴だらけのデイパック――そして付近に散乱するのは涯のチップ。
(私にはまだ武器がある・・・!)
「おいっ・・・聞いてんのかっ・・・・!
あんたの負けなんだよ・・・!」
涯はその場から動こうとしない沙織に対し、再び通告する。
それを合図にするかのように、沙織は懐からボウガンの矢を取りだし、涯に突きつけた。
「私は負けないっ・・・!」
突然のことに驚き眼を見開く涯。
間髪を置かずに沙織は涯に飛び掛かる。
「死ねっ!」
人の命を奪うのは、容易い。
この島で人を殺めたとて、誰がその行為を責められよう。
ほんの数秒で、命の灯火は消えてしまう。消えうる状況が、蔓延している。
沙織の手でも、か細いその腕にも、人間の命を奪うチャンスがある。
人の命を救うのは、困難だ。
この島で他人を守ろうと考えられる人間が、どれだけいるのだろうか。
絶望的な環境で、希望を創り出そうとする精神は、どんなに尊いものだろう。
そして――沙織の手なら、沙織の知識があれば、消えかけの命を救いだせる。
沙織には出来た。
この島の誰よりも
人の命を守れる立場に
田中沙織は居たはずだった。
看護婦としての経験を。
参加者名簿という強力な情報を。
使えたはずだった。
人間らしさを捨てずに、生きていく術が――
可能性を信じることさえできれば、彼女には残されていたはずだった。
だがそれも、今となっては選ばなかった道の話。
何より沙織が一番知っていることだろう。
この状況を望んだのは彼女自身に他ならない。
支援…!
しえん
「死ねっ!死ねぇっ!!」
沙織の泣き声にも似た叫びが響く。
咄嗟に避けた涯だったが、ボウガンの矢は、左頬の皮膚を数枚掠め取っていった。
「やめろっ・・・!」
「うるさいっ!!私は殺せるっ!!!」
「あんた死にたいのかっ・・・・!」
矢を振り回す沙織に、涯は間合いを取りながら話しかける。
「何故殺すっ・・・・!どうして殺しあうっ・・・・!」
涯は沙織の瞳の狂気・・・更にその奥に“人間”を見た気がした。
彼女の行為は正気の沙汰ではない。生きるためとはいえ、倫理から外れた行為。
しかし、彼女の狂気は――彼女のその振る舞いは偽物だと涯は思った。
沙織は、心の奥に人間らしさを押し殺している。
「黙れっ・・・!殺さなきゃ生き残れないんだっ!」
悲痛な声だった。まるで自分自身に言い聞かせるように、沙織は言う。
「私は生きるんだ!!あんたを殺してっ・・・!私はっ・・・!」
「なんで・・・!人間なのにっ・・・・!!!!オレたちは人間だ、人間なんだっ・・・・・・!」
その時。涯の口から発せられたのは 宇海零が説いた内容そのもの。
支援!
しえn
支援
自然と、涯の眼から涙が溢れる。
そうだ。人間なんだ。だけど、もうオレは・・・・!
「人を殺したという事実はっ・・・それだけで精神を蝕むっ・・・!
心に巣食うっ・・・・逃げることはできないっ・・・・!オレは知っているっ・・・・!
殺しあうなっ・・・・!人間であり続けるためにはっ・・・・だからっ・・・!」
涯の必死の説得。
しかし沙織はその発言を遮った。
「私は人を殺してるっ・・・!すでに一人殺してるのっ・・・・!」
人を殺している。オレと同じように・・・?
涯は言葉を失う。
この女は、オレと同じ、獣の道を歩むもの・・・・。
ならば・・・この人間らしさは・・・・人間を感じる振る舞いは・・・・。
沙織の攻撃は当初の勢いを失い、
今では見切る必要もないほどに緩慢な動作で、
ボウガンの矢は、ただだらだらと虚空を行き来している。
「私はっ・・・生きて・・・・生きたかっただけなのにっ・・・・・」
徐々に腕を振る速度は落ち、もはや危険すら感じない。
「私・・・もう戻れないのよっ・・・・!
いつ死ぬかもしれない状況の中、馴れ合って、恐怖を紛らわせて、
二人なら大丈夫なんて根拠のない気持ちに縋って・・・・
そんなの・・・もう出来ないっ・・・・!我慢できないのっ・・・・・!
人間として真っ当に生きていく道にはっ・・・もう戻れないの・・・・!」
「・・・・・」
沙織と涯は・・・置かれた立場は違えど、似ていた。
同士だとさえ言えた。
この島で殺しあうことは仕方がない。
仕方がないことだとわかっている。
だが、頭で理解しつつも、心では割り切れていなかったのだ。
それ故――涯も、沙織も、人を殺したという事実から眼を逸らせなかった。
人間としての道を、己から捨ててしまった。
あるべき行路を、自分から定めてしまった。
救いの手を自ら跳ね除けてまで、獣として直走る。
この島で上手く生きていくには、二人は強情すぎたのだ。
「生きるために殺すことっ・・・間違ってないわ・・・!私は間違ってないっ・・・!」
しかし、沙織の方が“強かった”。
能力的な問題ではない。
涯は自分の中に生まれた葛藤を解決できず、孤立という道を選んだ。
そして 沙織は人殺しの事実を、己の生還のためのエネルギーにかえようとしている。
沙織の眼が、再び涯を睨む。
「私は生還するっ・・・・なんとしても・・・・死なないっ・・・・・!アイツとは違うっ・・・・!」
“アイツ”が誰を指すのか、涯の知るところではないが、
その言葉を口にした瞬間から、消えかけていた殺意が沙織に吹き返している。
「くっ・・・・!」
本気で殺り合えば、涯が負けることはないだろう。
だが、この期に及んでも涯は、沙織を倒そうと思えない。
負けることがないからこそ・・・か。
境遇も、意見も全く違うだろう相手だが、
沙織の中に、涯は自分自身を見た気がした。
逃げるか・・・?
お互いに怪我をせずやり過すにはそれしかないだろう。
“殺す”意志を再燃させながらボウガンの矢を構える沙織を見つめながら、
涯はタイミングを見て林に逃げ込もうと考える。
全力で数十メートルも走れば、追ってくることはないはずだ。
そして――涯が思い定めたその時、風に乗って、声が運ばれてきた。
「・・・・・・・くん・・・!」
腕を振り上げたまま、沙織はぴたりと動きを止める。
「誰っ・・・?」
沙織の耳にも届いたらしいその声。
涯は聞き覚えのあるそれに対して、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「赤松かっ・・・・・」
「涯くんっ・・・・!」
暗闇の向こうから浮かび上がってきたのは、涯の想像通り、赤松修平の姿だった。
【C-3/アトラクションゾーン沿いの林/夜中】
【田中沙織】
[状態]:精神疲労 肩に軽い打撲、擦り傷
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り十本/一本は装備中)
[所持金]:8300万円
[思考]:一億円を集めて脱出を目指す 森田鉄雄を捜す 一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒 涯を殺す
※ボウガンの矢一本以外の持ち物はC-3地点、工藤涯と争っている場所に放置されている状態です
【工藤涯】
[状態]:右腕と腹部に刺し傷、左頬に掠り傷 両腕に打撲 他擦り傷などの軽傷 手に擦り傷 疲労
[道具]:フォーク 鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:孤立する 沙織から逃げる
※持ち物は全てC-3地点、田中沙織と争っている場所に放置されている状態です
【赤松修平】
[状態]:健康 腕に刺し傷
[道具]:手榴弾×9 石原の首輪 標のメモ帳 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:できる限り多くの人を助ける 宇海零にメモを渡す 工藤涯を零の元へ連れ戻す
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません
※利根川のカイジへの伝言を託りました。
代理投下終了!
作者さん、代理投下の人も乙でした!
心理描写が本当に毎回お上手ですね。
赤松さん登場で事態がどうなるのか期待…!
乙です…!
>>418様、代理投下、途中から引き継いでいただきありがとうございました。
沙織の思い、涯の思いが交錯して熱い…!
赤松さんの登場でこの危機を乗り切れるのか…!
超期待っ…!
書き手様、代理投下の方、乙です。
沙織の心理描写が深い…。
読んでいて、引き込まれました。
零と涯の時もそうでしたが、赤松はタイミングが悪い登場をしますね…。
これが…赤松クオリティなのでしょうか。
赤松が迷える二人をどのような方向へ導いてしまうのか、期待です…。
僥倖っ… 鷲巣VS和也 沙織VS涯 プラス赤松さん
熱い展開っ…まだまだ目が離せないっ 熱い書き手さん達に拍手をっ…ぱちぱちっ…
ひとつ気になったんですが
>>347 >アカギが鷲巣に首輪回収の手段となる支給品を渡さなかったのは、アカギ自身、そのような支給品を所持していないためであるが、
鷲巣はそれを自分に期待していない証拠であると解釈しまっていた。
>解釈しまっていた って誤字脱字?
違和感を覚えたけどゲシュタルトが崩壊してわからなくなってきた
投下乙でした!
赤松さんのタイミングの悪さがw
たしかに涯と初対面のときも、再会した時も、今回もバッドタイミング…
めちゃくちゃいい人なだけに何とももどかしい
鷲巣vs坊ちゃんもとても面白い……!
騙しあいが加速する…!
一日のうちに二つのSSが、しかも両方バトル有りと熱い土曜日でしたな
お疲れ様でした。
面白かったです。
涯と沙織、互いに自分はケモノと意識しあっている同士だったなぁと改めて認識すると同時に自分の話が意外な形で結びつくことに
不思議な感覚を覚えました。
投下ありがとうございます!
>>421様
そちらは誤字で間違いございません。
あぁ…見直ししたのに…。
他にも投下後、見つかった誤字がありましたので、まとめに載った時、修正します。
ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。
ご指摘ありがとうございました。
「帝図」に感想を下さった皆様、
本当にありがとうございました。
皆様のご感想があるからこそ、
投下も仕事も頑張れるのだと
改めて感じました。
次の作品も頑張りたいと思います。
お二方とも投下乙でした
壮絶なバトル2連続は見ごたえありました!
赤松がんばれっ…!
冷静になってみるとやはり黒沢が若干浮いているのが面白いw
自分も書き手をやってますが、
>>423さんと同じく、皆様からいただく感想が直接、創作意欲に結びつきます。
感想ひとつひとつ楽しく読ませていただいていますので、投下の際は感想沢山下さい。
圧倒的乙っ…!
福本ロワの書き手さんは原作をほんとによく読みこんでいらっしゃいますね。
福本キャラの魅力が十二分に発揮されていて頭が下がります。
それにしても、沙織や治たちがここまで膨らむとは…
丁寧な心理描写と先の読めない展開で楽しませてくださる全ての書き手さんに感謝っ…!
代理投下、支援、感想、本当にありがとうございます!
今、庭を駆け回っています。
田中沙織の状態表にミスがあったので以下訂正です
【田中沙織】
[状態]:精神疲労 肩に軽い打撲、擦り傷
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り十本/一本は装備中)
[所持金]:8300万円
[思考]:一億円を集めて脱出を目指す 森田鉄雄を捜す 一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒 涯を殺す
※防弾ヘルメット、ボウガンの矢一本以外の持ち物はC-3地点、工藤涯と争っている場所に放置されている状態です
ジョジョロワさんを参考に現在位置マップを作りました
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0246.jpg 明確に対主催の意を表している者や
脱出のために進んで行動しようと考えている者は青
優勝狙いや、積極的に殺人をしようと考えている者は赤
何よりも己の生存を優先して考えている者や
臨機応変に立ち位置を変えようと考えている中立派、
青にも赤にも当てはまらないような者は水色
位置は85話(最新話)までの状態表と
それまでの各人の動きから予想したものです
死亡者は死んだ場所ではなく、死体がある場所で表示しています
元々はSS執筆の資料として
自分のために作成したものなので見づらいですが、
お役に立てたら幸いです
間違っている部分などありましたら指摘してもらえるとありがたいです
>>427 すごく良いけど、今後は端の方にでも現在時刻が書いてあるとなお嬉しい。
時間があると二時間前にこの位置なら警戒しながらでもここまでは行ける、みたいな到達可能かの確認に使えてとても便利だ。
>>427様
私、まとめサイトをアップしているものです。
先程の現在位置マップ拝見させていただきました。
大変分かりやすかったと同時に、一書き手として話を追うために皆様のご好意に甘えて
勝手にアップさせていただいているとは言え、
このような表を皆様に提供することができなかったことに申し訳なさを覚えております。
もし、
>>427様や皆様がお許しくださるのであれば、
こちらの表もまとめサイトに乗せたいと考えているのですが、どうでしょうか?
>>375様
首輪争奪戦が物語の主軸になるとは思わず、
まったくそのような表などはご用意しておりませんでした。
少し余裕が出てまいりましたら、wikeで編集可能な現在位置表に首輪の有無を表示されると同時に、
首輪の状況がひと目で分かるような表を作成できたらと考えております。
今、あるSSを書き始めているため、書き手としてそちらを投下次第、アップする者として、
表作りに取り掛かりたいと思っております。
少しの間待っていただけると有難いです。
83話〜85話までの話はいつでもアップできる状態ですが、
すでに86話目の予約が入っているため、
そちらの話が投下され次第、まとめサイトに載せたいと考えております。
もう少しお待ちくださいませ。
>>428 了解です!
次回から時間も付け足しておこうと思います
>>429 いつもwiki編集お疲れ様です
まとめさんがいるからこそ、福本ロワが成り立っているんだと思います
読み手としても、書き手としても、
いつも見やすく更新されているまとめwikには本当にお世話になっています
見にくい部分もありますが よろしければ使ってやってください
あと
さっきトリ外してなくてすみません・・・
>>427 乙です。
こうして見ると、例えばアカギとひろゆきと天が近くにいたりっていうのが人目でわかっていいですね。
(もしかしたら天はもうだいぶ移動してしまっているかも知れないですが)
>>428さんに同意で、時間があるといいな。と思いました。
標(体)と(頭)に涙しました…。
>>429 中の人 いつも乙です。見やすくて助かってます。
>>427さんの現在地マップはとても分かりやすくて素敵でしたが
今までのまとめでも十分に使いやすかったし不満もなかったので
まとめの人が申し訳なさを感じることはまったくないと思います…(うまく言えなくてごめんなさい)。
>>427さん
ありがとうございます!乙です
活用させてもらいます
>>429さん
いつも乙です!これからもヨロシクお願いします
433 :
428:2009/06/07(日) 22:26:40 ID:???
>>427 これはすごい…!力作ですね…!
>首輪争奪戦
何というか、話ややこしくしてすいませんホントすいません。
さて…今の投下ラッシュに便乗して…投下いたします。
よしきた支援
「ふう…」
しづかは溜息をついた。
板倉、一条と一緒にホテルの内部に入り、隅々まで探したが、既に佐原の姿は無かった。
そこでようやく安心し、ホテルに腰を落ち着けることになった。
正面玄関入り口が見下ろせる二階の客室。
部屋の照明をつけると外から目立って仕方ないので明かりはつけていないが、
幸い正面玄関の周りには電灯が数本立ち並んでいるため、入り口の様子がよくわかる。
窓には分厚いカーテンが掛かっており、外から見ても不自然でない程度の隙間を開けてある。
しづかは、室内に設置されたベッドに腰かけたまま、その隙間からホテル入り口の見張りをしていた。
一条は着替えをしたいと言い、ロビーで別れた。
その後、板倉と共にこの客室に辿り着き、しづかの様子が落ち着いているのを確認した後、板倉も出て行った。
「次の放送まで見張りを続け、異常がないようならアンタは休んでくれ。
俺は一階のロビーで、一条と交代で入り口を見張ることにする。
もし何か異変があれば大声か大きな音で知らせる。…こんなところだな」
「ああ…わかった」
「よし。…もし何かあったら、アンタ一人でも逃げてくれ」
板倉は部屋を出るとき、しづかにそう言った。
板倉は頼れる人間…。その上頭も切れるし度胸もある。
しづかは板倉をすっかり信用していた。
静寂。こうしていると、ここが戦場であることを忘れてしまいそうだ…。
と、弛緩した気分でいると、今日一日で経験した残酷なシーンが脳裏を過ぎっていく。
(油断しちゃ駄目だっ…!油断しちゃ…!)
そう、頭では分かっているが…。だが…。
この島に着いてからずっと緊張を強いられて来たのだ。しづかは相当疲れていた。
(もう少し…次の放送を聞いたら…休めるっ…!)
◇
板倉はホテル内部、薄暗い一階の中を歩き回っていた。
非常灯の僅かな明かりを頼りに、壁伝いに進む。足音が反響して廊下に響く。
『Staff Only』と書かれた部屋を開け、少し狭い廊下を進むと、奥の部屋のドアから僅かに明かりが漏れているのを見つけた。
ドアをノックしようとして、ふと、シャツの袖内側に仕込んでいる『ある物』を再度確認する。
先ほどしづかに預けてきた物のことについて思いを巡らす。
板倉は、しづかの元を離れるとき、『ある物』をしづかに渡していた。
「こんな物じゃあ、心許無いかもしれないが…。気休めと思って預かっていてくれ」
板倉が差し出したのは、手に収まる大きさの銀のケース。
しえん
「これって…」
しづかがケースを開けると、そこには注射器と小瓶が入っていた。
「そう、ハブの毒入り注射器だ。銃火器を持った相手だと使いにくいんだが…接近戦だと役立つかも知れないんでね…。
俺がここを離れている間、アンタに預けておく」
「…いいのか?」
「なーに、俺は一条から借りたコレがあるんでね…!」
板倉はしづかに微笑みかけ、改造エアガンを取り出して見せた。
(さて…。段取りは整っている。あとは上手くやるだけだ…。)
板倉は一呼吸置くと、ゆっくりとドアをノックした。
◇
コン、コン。
室内にノックの音が響く。
一条は新しいシャツに着替えていた。袖のボタンを留めながらドアまで歩いていき、板倉を中に入れた。
「着替えがあって良かったな、一条さん」
「ええ…。従業員用のシャツが置いてありましてね…。新品ですが、のりが少々ききすぎている」
気さくな態度を装って話しかける板倉に、一条は形だけの笑みで答えた。
中は照明がついていて明るい。外の廊下や室内に窓がないので、明かりが外に漏れる心配がないのだ。
壁に並ぶロッカー、雑然と並んだソファやテーブルを見るに、ここは従業員用控え室らしい。
しえん
「お姫様の様子は?」
「ああ、だいぶ落ち着いている…。今、二階の21号室で休んでいる」
「そうですか…」
少しの沈黙。板倉が口を開いた。
「一条さん…。今後のことについて話をしたいんだが」
「そうですね…。今、私もそれを言おうと思っていたところです」
「なあ…一条さん…。腹を割って話し合わないか?」
一条はシャツの袖についた折れジワを伸ばしていた手を止め、正面から板倉の目を見た。
板倉は笑顔ではなく、真剣な表情で一条に視線を返す。
「アンタは俺を信用できないだろう…俺も、アンタを信用してるわけじゃない。今のところは、な」
「………」
「だが、俺はアンタと協力し合いたい。だから、情報交換がしたい」
「………」
「俺の当面の目的は仲間を集めること。それと、この殺し合いのゲームを主催した者達の『真の意図』を探ることだ」
「意図…?」
「そうだ。何のためにこのゲームが開催されているのか…?」
「………」
「俺は、この島に来る前、『王の選抜』のためだと聞かされていた」
「王…?」
「そうだ…」
板倉は在全の主催していた『ドリームキングダム』、その地で聞かされた、
『優勝者=王は在全の代打ちになる』『優勝賞金は1000億円』
『この島で決勝戦をやると聞かされていた』ことについて、手短に説明した。
しえん・・・!
「それはずいぶん…」
一条は思わずつぶやき、ハッと口を噤んだ。
「…ずいぶん…違う、か?アンタが聞かされていたことと」
「………そうですね」
一条は素直に肯定した。ここで嘘を吐いても仕方ない。後で話の辻褄が合わせられなくなるので無意味だ。
「佐原にも少し話をしたんだが、佐原も『王の選抜』に関して心当たりはないようだった」
「…優勝したら在全の代打ちだと…?そんなバカな…有り得ない」
「どうしてそう思うんだ?」
「今このゲームに関わっているのは、在全グループだけではないでしょう」
「そうだな…最初の説明があった会場での、主催側の関係者の顔ぶれを見るに、
おそらく誠京グループと…帝愛グループも…」
「…………もし『王の選抜』とやらが目的だとしたら、在全グループ以外の人間には何の関係もメリットもありません」
「……他のグループが、このゲームに関わる目的…、アンタは何か心当たりあるか?」
「………」
一条は押し黙った。どこまで話すべきか…。
帝愛グループがこんなゲームを主催する理由なら想像がつく。
このゲーム自体が一つのギャンブル…!帝愛が以前行った『人間競馬』と同じようなもの。つまり参加者は馬…!
帝愛が招いたどこぞの成金達が、誰が優勝するかを賭けているんじゃないか、と。
しかし。
(それを板倉に話せば、俺が帝愛の関係者であることがわかってしまうだろう…)
ざわ・・・
「正直、私には見当もつきません…。私はただ、自分の借金を返すために参加しただけなんです」
「借金?」
「ええ…事業に失敗して、億単位の負債を…。だから、10億と聞いて思わず飛びついてしまった。
過酷なのは覚悟していましたが、まさか、こんな殺し合いのゲームだとは…。」
一条は巧妙に虚実を織り交ぜて話した。嘘を吐く時、完全な嘘では説得力に欠けるものなのだ。
借金を抱えていること…それが億単位であること。その真実を含むことで、説明が現実味を帯びて相手に聞こえる。
「そうか…。そりゃ大変な事情があるんだな」
「役に立てなくて申し訳ありません」
「いや、そうでもない。『王の選抜』以外の…他の可能性が見えてきた。
やはり、他の参加者に話を聞いて回ること、これが必要だ。主催の意図を探るためにな…!
それで、さっきの話に戻るんだが…。俺はこれから、協力者を探そうと思っている。
一条さん、アンタは冷静だし、頭も切れるし、度胸もある。是非協力してくれないか…!」
「………」
一条は考え込んだ。
帝愛のことを伏せてしまっているため、もし自分のことを知る参加者に遭遇し、話をすれば、
今一条がした説明…理由は破綻する…!
しかし…。
「わかりました…。協力しましょう」
「おおっ…!そうか…!さすが話が分かるっ…!」
板倉は破顔した。
しえん
一条はこう考えていた。
(今は協力するフリをする…。もしくはさっさと始末する…。そのどちらか、選択肢は二つだ。
なら、今はまだ協力するフリをしていたほうがいい。そうしておいて、出来る限り利用してやる…!)
板倉は一条を信用しているようである。今のうちに、有用な情報を聞き出せるだけ聞き出す…!
「いやあ、良かった、良かった。アンタが協力者だと心強い…!」
「…というと?」
「アンタが、正当防衛で他の参加者を殺しているからさ」
「何…?」
一条は眉を寄せた。
「つまり、思い切りがいいってこと…!実際、殺す殺さないの状況になると、行動できない腰抜けだっている…!
その点、アンタはすでに証明している。もし殺し合いに乗っている人間が襲ってきても、応戦できるってことを…!」
「……なるほど。」
「だからアンタは敵に回したくないな、もしそんな事態になったらあっさり撃たれちまいそうだ…!」
「は…?」
一条は冷めた目で板倉を一瞥した。板倉は笑みを以って一条に視線を返す。
「いやいや…!つまり、俺がアンタを敵に回したら何のメリットもないって意味さ…!
精神論や、『信じてる』なんて曖昧な言葉より、こういう理屈のほうがよっぽど信頼できるだろう…?」
「……まあ、そうだな。」
板倉は内心ほくそ笑んだ。一条の言葉の変化…!敬語がタメ口に変化…!
つまり…一条は心を開きつつある…。その上で優越感…。
お前はできる人間だ、と言われて溜飲が下がったのだろう。
しえん
支援
「いやあ、本当に良かった…」
つぶやくように言いながら、板倉は着ていた白いジャケットを脱ぎ始める。
「風が入らないからか…この部屋は少し暑いな…」
ジャケットを脱ぎ、左手にかける。
「さて…そろそろここを出るか。我らのお姫様が二階で待ってる、行こう」
「ちょっと…待ってくれないか」
板倉がドアノブに手をかけたとき、一条が板倉を引き止めた。
「ん…?どうした、一条さん…?」
「そのジャケット…、ちょっと羽織らせてもらえないかな?」
板倉の着ていたドーメル・スキャバルのスーツ…。一条はそのブランドに密かに憧れを持っていた。
「ああ、このスーツかい…?そういやあ、さっきホテルに入る前に言ってたな…!着てみるかい…?」
板倉は笑顔でジャケットを広げ、一条に背中を向けるように促す。
一条は背中を向け、板倉が差し出すジャケットの袖に腕を通した。
そのときである。
チクッ……!
「!?」
一条は反射的に板倉の腕を振り払い、飛び退いて距離をとった。
痛みが走った首を押さえ、驚愕して後ろを振り向く。
しえん
しえん
「クックックッ………!」
板倉は笑っていた。右手には注射器が握られている。針から、中の薬液がポタ…ポタ…と滴り落ちている。
「兄さん…。このゲームの参加者にそんな無防備な背中を見せちゃあいけないな…!」
「き、貴様っ…!」
一条は腰のベルトに挿していたトカレフを抜き、板倉に構えた。
「おっと…!いいんですかい?兄さん、俺を撃ち殺しちまったら血清の在処も分からなくなるぜ…!」
板倉は、一条に銃を向けられても不敵に笑う。
「今アンタに打ったのはハブの猛毒っ…!少量でも体内に入れば毒が回って死ぬ…!
血清を注射しなければ、あと30分もしないうちに動けなくなり、数時間後には死亡者の仲間入りだぜ…!」
「なんだとっ…!!」
一条の顔から血の気が引いた。
「時間がないから簡潔に言おう。アンタ、まずその拳銃をこっちに投げてよこしな…!
その上で、いくつか聞きたいことがある…!
アンタ、『誠京』もしくは『帝愛』…どちらかのグループについて、知ってることがあるだろう…!教えろっ…詳しく…!」
「く……!」
一条は急に呼吸が苦しくなるのを実感した。顔中から汗が吹き出る。
胸が苦しい。苦しい…!苦しい…!!
「さっきはうまく誤魔化したつもりかもしれないが、俺が話を振ったとき、アンタ、明らかに何か知ってるって顔をしていた…!
そうそう…あと、伊藤開司って奴の名前にも敏感に反応してたな…!そいつについても話せ…!」
「か…カイジっ…!」
454 :
マロン名無しさん:2009/06/07(日) 23:48:37 ID:1Ln/KF/z
しえん
しえーん
支援
ふ、と胸に沸いてくる憎悪。殺意。
それは、毒が体に及ぼす影響よりももっと強く、どす黒い感情となって一条を支配した。
『這い上がって来いっ…!』
幻聴が聞こえる…。憎いあの男の声。
『這い上がって…倒してみろやっ…!オレを…!』
一条の中で何かが弾けた。
(そうだ…俺は…俺はこんなところで死んでたまるかっ………!
必ず復讐するんだっ…奴を…完膚無きまでに叩き潰してやるっ………!)
茫然自失、思考停止していた脳が、高速で回転を始める。
そう…確かにさっきから感じていたこの違和感……この首筋の違和感……!
「どうしたっ…!?さっさと銃をこっちに投げてよこせ…!
時間が経てば経つほど、お前の症状は悪化するだけだぞ…!」
一条は、ス、と俯いていた顔を上げた。
その顔は……残忍で凶悪な笑みを湛えていた……!
パァンッ……!
甲高い銃声が響き渡る。
しえん
しえん
「なっ…!?」
発砲する直前に感じた殺意に反応し、板倉は反射的に身を捩っていた。
しかし、弾は板倉の左肩に命中…!
「ぐっ…!」
よろけながらも、これ以上被弾せぬよう、近くにあったソファの影に走り込む…!
そして近づかれぬよう、改造エアガンを何発か一条に威嚇射撃…!
通常の何十倍もの威力をもたせている改造エアガン…当たれば骨を砕くくらいはできる代物…!
一条も、数メートル先のソファの影に身を隠したようだった。
(くそっ…!狂ったか、一条っ……!)
板倉にはそうとしか思えなかった。あの形相、笑顔…!
血清を打たなければ死ぬと伝えているのに無視して発砲…!
意味不明…理解不能…!
「………クク、ククク…カカカカッ…!」
ソファの影から、一条の高笑いが聞こえる。
(何で…何で笑っていられる…!?狂人め…!)
計画…策略の歯車が音を立てて狂い始めるのを板倉は感じていた。
しえん
しえん
板倉の思い描いていた計画はこうだった。
まず、しづかに血清の入った小瓶と注射器を持たせる。
先ほど『毒の注射器だ』と言ってしづかに渡したのは、実は血清の注射器だったのだ。
銀のケースには元々、毒用の注射器と、血清用の注射器が2本入っていたのだ。
そして、毒用の注射器は自分のシャツの袖に仕込み、一条に会いに行く。
色々な情報を話し、口八丁で何とか一条から信用を得る。
そして、先程ホテルに入る前に一条が見せた、スーツへの執着を利用…。
板倉のスーツを着てみたいと言い出した一条が、こちらに背中を見せるのを促す…。
そして、背後から一条の首に注射器で毒を注ぎ込む…!
ここまでは予定通り…!獲物はあっさり釣り針に食いついた…!
問題はその後…!
一条はトカレフを手放し、こちらの聞きたい情報を洗いざらい話し、血清をくれと懇願するはずだった。
懇願してきたら、こう言う手筈になっていた。
『血清はしづかが持っている』
かくして、一条はしづかのいる21号室へと走り、自分は後を追いかけ、
しづかの部屋にたどり着いた一条がしづかを襲う直前に、トカレフで一条を撃ち殺す。
しづかの知らないところで殺せば、しづかは板倉に不信感を抱くだろう。
だが、『トチ狂った一条からしづかの命を守る』という名目なら何の不自然もない…!
しえん
板倉は、一条を排除したかったのだ。
一条は不気味…!
そして、確実に自分と同じ思考…『邪魔になったら排除する』という考えを持っていた。
似た物同士…板倉は直感で感じ取っていた。
だから、一条から情報を引き出した後、始末しようと考えた。一条が、板倉を始末しようと思う前に。
仕掛けられる前に仕掛ける…!狩られる前に狩るっ…!
そして作戦を練り、実行に移した。
…だが。
分からない…。一条の発砲…行動の理由がさっぱり…!
(何故だ…!何故…!?)
板倉は大声で一条に問いかけた。
「一条っ…!お前…命が惜しくないのかっ…!?」
「………ひとつ、ためになることを教えてあげましょうか、板倉さん…」
一条が、凍りつくような冷たい声で返してきた。
「私は、『痛めつける』のは趣味なんですが、『痛めつけられる』のは趣味じゃないんでね…」
「はあ…!?何言ってる…!気でも違ったか…!」
「ハブの猛毒は、『出血毒』と言って…噛まれたところから組織を破壊していく毒なんですよ…!」
「…それがどうしたっ…!」
「アホタレっ…!まだわからんのかっ…!貴様のミス…致命的なミスが…!」
「なんだと…?」
「ハブの猛毒は…噛まれたところから内出血を起こして猛烈に腫れてくるんだっ…!
痛みも尋常じゃないっ…少量の毒でだっ…!
簡単なこと…!今の俺にはその症状はない…!つまり…アンタが打った毒はハブの猛毒ではありえない…!
じゃあ、何の毒か…?『ハブの毒』なんて嘘つかなきゃいけないくらいだ、大した毒じゃないっ…!
今の俺の発汗、息苦しさ…。おそらく神経毒の何かだが…」
「……くっ…!」
(くそ…!迂闊だった…!)
板倉の持っていた毒は、オブトサソリの毒…。説明書の注意書きにはこう書かれていた。
『子供なら絶命する可能性もあるが、大人の体型なら死ぬことはない』
大量に注入できれば別だったかもしれないが…。一条の体内に入ったのは少量…!
(それじゃあ脅しにならない…!)
そこで、『ハブ』と偽っていたのだ。毒について詳しくない者でも、聞けば縮み上がるであろうその名前…!
板倉は博識ではあるが、毒は専門外…!ハブの猛毒について確かな知識を持っていなかったのだ。
そして、一条が毒について詳しいことも誤算であった。
「ところで…今、貴様のほうがよっぽどピンチだってこと、認識してるのかな…?」
一条の声に、板倉は思わず眉を寄せた。
「何…?」
「貴様こそ、死ぬことになるっ…!俺の撃った弾丸…その肩の傷が致命傷になってな…!」
「バカなっ…!肩を撃たれたくらいで死ぬかっ…!」
「教えてやろう…!俺も毒を盛っていたんだっ…!
今俺が撃った弾丸にあらかじめ毒を塗っておいた…!ざまあみろっ…!」
「な…」
しえん
しえん
板倉は一条のデイバックの中身を見たのだ。毒薬なんて…それらしいものはなかった…!
「ハッタリだっ…!苦し紛れに嘘を吐くなっ…!」
「クク…わからんのか…!俺の所持していた支給品…その中の『タバコ』が、
実はトリカブトの毒が塗ってあるタバコだった、と…!」
「な…なにいっ…!?」
トリカブト…!
毒の知識に疎い者でも知っている。植物系の毒…微量で死に至る猛毒…!
「古来から、矢尻に塗って狩猟に使われていた毒だ…!
微量でも体内に入れば、神経に作用し、不整脈や昏睡状態から心停止に至るっ…!」
「ぐっ……!」
一条は、先ほど別行動をとって一人になったとき、この部屋で着替える前に、トカレフの中の弾丸に、
タバコの口にくわえる部分をこすりつけ、塗りつけておいたのだった。
トリカブトを精製、抽出した高純度の毒を…!
タバコに付着した毒については、船井を殺して支給品ごと奪ったときに、説明書にも目を通していてよく理解していた。
それがこんなに早く役立つとは…!
実際、そのタバコに軽く口をつけただけで死ぬような猛毒である。
ごく微量だとしても、体内に入ったらただでは済まない。
板倉の体が揺れた。眩暈。目の前が霞む。息苦しい。
(ど…毒が…毒が効いてきたのか…!?)
しえん
「取引だっ…!俺は解毒剤を持っている。アンタの持っている血清と交換っ…!
言えっ…!血清はどこだっ…!」
「…ぐっ…!」
(背に腹は変えられねえっ…!)
意識が朦朧としてきた。悩んでいる暇はない。
「血清は…し…しづかに預けてある…!さあ、解毒剤を渡せっ…!
でないとお前がこの部屋から出る前に撃つっ…!どうせ死ぬなら…お前にも大怪我を負わせてやる…!」
板倉は渾身の力で叫んだ。
「いいだろう…!受け取れ…!」
一条が小さな箱を投げて寄越した。板倉は小さな箱に縋り付き、震える手で箱を開けた。
中にはマッチが入っている。箱をひっくり返して探してみたが、解毒剤らしき薬は見当たらない。
「な…何だこれはっ…!?どこが解毒剤なんだっ…!」
震える声で叫んだとき………部屋のドアが閉まる音が響いた。
「しまっ……………!」
一条は一階の廊下を疾走していた。
激しい動きをすれば毒が回る…しかし、今はそんな事は言ってられない…!
毒が回ったまま放置しておけば、致命的な後遺症が残るやも知れぬ…!一刻も早く血清を打たなければ…!!
先程の発砲音をしづかが聞きつけているかも知れぬ。下手したら逃げられてしまうかも知れぬ。
そうしたらやっかいな事になる…!
焦燥…!混乱…!押しつぶされそうな緊張感…!!
一条は階段を駆け上った。どこだ…21号室はっ………!!
しえん
◇
一条が一階の部屋を飛び出す数分前。
静寂の中、聞こえた僅かな音。
(発砲音…?)
その後、また別の金属音が微かに…数回。
胸騒ぎ。
しづかは窓から目を離した。
(何かが起きている…?)
部屋を出るのは却って危険かも知れない。だが…
(いや…板倉や一条が危険な目に遭ってるかも知れないんだ…!)
しづかは、ゆっくりとドアを開け、廊下の様子を伺った。廊下は薄暗く、ひんやりとしている。
(行こうっ…!様子を見に……!)
その時、板倉が部屋を出る直前に言った言葉を思い出す。
『もし何かあったら、アンタ一人でも逃げてくれ』
(うっ………………!)
今日の出来事。何度も目の当たりにした、『死』という現実。
それが、しづかの心を引き止めた。
(どうする…?行くのか?逃げるのか………?)
◇
(クッ………。しくじっちまった……。)
朦朧とした意識の中、床に蹲ったまま、板倉はぼんやり零のことを考えていた。
あいつなら…きっとこのゲームの中でも……。
板倉は零を買っていた。
運や実力、カリスマ性は、標のほうが勝っているかも知れない。
標は死んでしまったが…。
だが……。
何か…零には特別に熱いものを感じる…。まだ未熟だが…。
強さを…。
魔女の館で見せた…諦めない…しぶとさ…粘り強さを…。
(フフ…。お先に抜けますぜ…。だが、アンタはこっち来ちゃあ駄目ですぜ…!
アンタには勝ってもらわないと……最後まで………)
板倉の意識は、ゆっくりと闇に落ちていった。
支援
しえん
【F-6/ホテル内/夜中】
【一条】
[状態]:焦燥 毒による呼吸の乱れ、発汗
(死に至る毒ではありませんが、血清を打って治療しないと後遺症が残る可能性があります)
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ)、毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト)、スタンガン、包帯
不明支給品0〜1(本人確認済み) 通常支給品×4
[所持金]:4000万円
[思考]:一刻も早く血清を打ちたい しづかのいる部屋へ急ぐ
カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
※しづかは復讐の為に利用できる駒としか見ていません
※デイバッグ、支給品は一時的に一階の従業員用控え室に置いたままになっています。
※トカレフは所持しています。
しえん
【しづか】
[状態]:首元に切り傷(止血済み) 健康
[道具]:不明支給品0〜2(確認済み、武器ではない) 注射器(中にオブトサソリの毒の血清) 通常支給品×2
[所持金]:2000万円
[思考]:階下の様子を見に行くか、逃げるか迷う ゲームの主催者に対して激怒
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています
※板倉と一条を信用していますが、自分がしっかりしなければとも考えています
※和也に対して恐怖心を抱いています
※板倉から預かった注射器に入っているのはハブの毒だと思っています
※板倉の支給品の入ったデイバッグ(通常支給品、1000万円のチップ、不明支給品0〜2)は、二階の21号室に置いたままです。
※改造エアガン、マッチが一階の従業員用控え室に落ちています。
【板倉 死亡】
【残り 27人】
***********
以上です。
支援してくれた方、ありがとうございました!
ラストでさるさんにかかってしまったようなので1レスだけ代理投下でした
作者さん乙です・・・!圧倒的乙・・・!ナイスSS・・・!
板倉VS一条という気になるバトルは一条に軍配があがりましたか・・・
とはいえまだ しづかとの間に何があるかわからない・・・!
板倉の死に際、かっこいいですね・・・。
ここから先はどんどんキャラが死んでいくでしょうから
誰が生き残るか、と同じくらい
「どのように散っていくか」が気になります。
カッコよく死んだキャラって生還キャラより印象に残ったりするから・・・!
そして板倉退場により賭博覇王伝零勢は残るところ主人公の零のみ・・・!
無頼伝涯も生きているのは涯だけ・・・
がんばれ少年誌っ・・・!
投下&代理&支援乙です!
ぼっちゃん、鷲巣戦と同じく、心理戦を交えた戦闘でしたが、ざわざわしながら読ませていただきました!
>>480さんと同じく切れ者の散り際っ…!これが気になる…!
投下乙です!
ここで板倉退場はいがいでした。
今回は一条の執念勝ちですね。
死者スレがますます騒がしくなる…!
投下乙!
ハラハラしながら読みました…板倉の死に際かっこよすぎる…!
まとめサイトをアップしている者です。
福本ロワのラジオ放送が再び、28日に変更となりました。
もしかしたら、27日に戻る可能性もあるため、
その時はすぐにご連絡します。
>>484 まとめサイト管理お疲れ様です。
福本ロワ ラジオ放送の 放送日時の変更 お知らせいただき
ありがとうございます。
バトルロワイヤルらしい「殺害数ランキング」や
名言の多い福本漫画ならではの「最期の言葉」など
例えが変ですが「楽しく」読ませていただいております。
まとめサイトの管理大変だと思います。本当にありがとうございます。
>>485 福本バトロワって、さりげなく名言が多いよな。
もっと話が進んだら、漫画ロワみたいに、好きな話や
好きな名言なんかの人気投票をやってみたい。
好きな話や名言の人気投票…面白そうだ
一日目の昼間から始まったから、24時間くらいは経ってからかな?
第二回放送後、でもいいかも
作中でまだ半日も経っていないんだと思うと面白いよなぁ
現在地マップ見てみると
結構 対主催派主人公陣が固まってるのな
>>487 一年ぐらい先になりそうですね…。
第二回放送が終わってからとか…。
もし、人気投票を行うのであれば、
意外なキャラランキングも見てみたい。
標の早期退場も意外だったし、
各主人公を押さえて沙織と赤松が登場回数トップを争っていたり、
神威家のラジオなんかも…。
まともな男性代表 建設会社勤務の赤松さん、
まともな女性代表 看護士の沙織(神威の件はあったけど)が
裏社会の人間を差し置いて活躍してるのは意外だよね
住人として何人ぐらいいるのかも気になるし…
自分も賛成です
>>486 優しい集計人さん?
また、みんなで盛り上がる楽しい人気投票を企画してください。
まとめサイトをアップしている者です。
もし、差支えがなければでよろしいのですが、
その人気投票の企画、私に集計を行わせていただけませんか。
私自身も機会があれば、そんな企画を立ち上げてみたいと
考えておりましたので。
是非お願いしたいです
よろしくお願いします
ぜひお願いします!
まとめさん、本当にいつもお疲れ様です!
まとめの方いつもお疲れ様です
更新マメにしていただけているおかげで、読み返すのにとても助かっております。
人気投票祭り楽しみですっ…!
お願いがあるのですが、自分が以前書いた作品を修正させてもらえないでしょうか?
もちろん、後の話に支障が出るようにはしませんので・・・
まとめサイトの編集は誰でもできるよ。
上の方にある編集するをクリックすれば、編集画面が出てくるので、
編集した後、パスワードを入力して、保存してください。
内容が変わらないのであれば、修正は問題ないと思います。
ありがとうございます
加筆・修正が完了したら報告します
うおおっ…きたっ…きたっ…
予約…!
「計略」を加筆・修正させていただきました
・修正前は銀二が東を暗カンしたのですが、それではチャンカンで零が上がれてしまうと気付き、北に変更しました
・指摘していただいた、板倉の名前の誤入力を直しました
・最後の零と銀二のそれぞれ一人でいる場面を少し増やしました
・その他にも、表現を修正しました
以上です
すみませんでした
>>502 お疲れ様です。
いま「計略」読んできました。文章が整理されて良くなっていると思います。
やはり面白いです。名勝負…!
すみませんが、誤字を見つけましたのでご報告を。
「計略」(後編)の後半、零が銀二の戦略に気付きイメージする場面で、「北を暗カン」が「西」になっています。
>>503 ご指摘ありがとうございます!
再々修正いたしました・・・ 何度も申し訳ありませんでした
そして、遅くなってしまいましたが、書き手一覧にて紹介文を書いていただきありがとうございました!
とても嬉しかったです これからも頑張ります!
チャンカンって暗カンだとできなくない?
いまwikipediaでチャンカン調べてみた。
国士無双に限り暗カンからでもチャンカンは成立するそうですよ。
初耳でした
調べておられるんですね
お疲れ様でした
調べたというか麻雀やってる人には割と一般的なルールだから書き手氏も知ってたんだと思うよ
まあ実際にはほぼ起きないけどそこそこ知られてるよね
麻雀漫画で役満直撃じゃなきゃ逆転されないって時に、
テンホーチーホー消えた、リューイーソ消えた、って可能性を頭の中で消していって、
そんで白とかカンして「これでスーカンツ、大三元、ツーイーソが消えた……俺の勝ちだ」とか言って余裕ぶっこいてたらカンしたのでロンされたりとかよくあるからな
久しぶりにさいしょから読み直してたら
ちゃんと首輪解除のためのフラグが立てられていってるのに感動した。
しかし、中心になれるカイジかアカギ、利根川の工具、電波遮断の方法(?)を思いついた佐原、
出来れば死体から取った首輪を持っている人物、機械に強そうな人間、
いろいろ集めないとならなそうだ。
解除が成功するかはまったく未知だな……。
>>509 そんな話どっかで読んだな〜…と思ってたら…
前スレでだった!あれは名勝負
>>510 機械に強いキャラクターが思い付かない…
福本先生がパソコンとか苦手らしいからそういうキャラが出ないのかな
零とかが機械強くても違和感ないけど
矢木は電気系強そうだけどここには出てこないしな
自殺防止に発信機とかやっちゃうくらいだから零は機械に強いと思う
あとは赤松さんも得意そうなイメージ
一条は手先が器用そうだけど協力を得るのは難しいなw
矢木さんの電気系に笑ったわww
機械ダメっぽいキャラは結構いるよねw
バトロワの物語の中で言えば…
銀さんが鷲巣に
「首輪の電波妨害すればいい」って話してたから、銀さんは普通にそういうの強そう
盗聴とかしたことありそうだし
電波といえば、標が発電所調べて何か気が付いてたから、赤松さんの持っているメモは重要
機械苦手なのは…森田がフロッピー持ってても、最初パソコンの起動の仕方もわからんかったな
首輪解除の方法考えてると楽しい
まだ全然方法を思い付かないけど
赤松さんはキーマンだよね。
時代のこと考えると、
例えば19歳の赤木は工場勤務経験があるとはいえパソコンは使えないだろうし
作中時間が現在に一番近い賭博覇王伝キャラが一番機械に強そうってことになっちゃうね。
板倉さんは機械強そうだった。南無。
私は最近はキャラの死に際が気になる。
趣味悪いけど……。
首輪解除フラグが立ってるとはいえ
まだ優勝エンドや全滅エンド、首輪解除以外の生還エンドの可能性もあるからなぁ。
いや〜やっぱり沼作った一条がかなり機械系なのでは?
一番機械に強そうなのは
参加してないけど利根雄さんかな・・・
カイジは飴の別名知ってたから頭良いイメージある
あとは良いとこ通ってたヒロユキとかは普通にいけそう
ヒロユキってなんとなく理数系っぽいし、機械についてはかなり詳しい方なんじゃね?
他にはぼっちゃんとか跡取り息子達は親に無茶な勉強させられて良い大学出てそう
四兄弟も勉強の出来で露骨に比較されてる描写あったしな、大学落ちて家出とか
まぁ単純に構造を理解できるかどうかなら何人かいるけど
首輪の解体作業をやるとなると出来そうなのは限られてくるよね
首輪解体可能キャラは黒沢か赤松ぐらいか…。
資格とかから考えると実質は赤松のみなんだろうな…。
首輪打開は分解も無効化もフラグ立ってきてるから首尾よく進む事を願うっ・・・!
もちろん、書き手さん次第でどう転がるか、分かりませんが
投下します!
さるったら避難所に投下するのでそのときは代理をお願いします。
「あれは・・・・カイジっ・・・!」
ひろゆきとの待ち合わせに向かう道中、
平山幸雄は思わぬ再会を果たすこととなった。
よたよたとした足取りで辺りを見回しているあの人物は、
間違いなく伊藤開司だ。
(歩き方がおかしいな・・・・それに・・・・・連れの女はどうした・・・?)
まだ平山に気付かぬ様子で、カイジは歩みを進めている。
ひろゆきとの予定がある平山は、カイジに声を掛けるべきか迷っていた。
(利根川との別れ方があんなだったことは・・・カイジに話しておくべき・・・だよな。
しかし ひろゆきとの待ち合わせには余裕を持って行きたいし・・・・)
時計を確認する。
20時を回ったところだ。
ひろゆきと落ち合う予定の事務所まで、1時間で着くだろうか。
敵に見つかるリスクを回避するためには、
出来るだけ音を立てずに進むのが良い。
無論、そうして進んでいくのは、普通に歩くよりも時間がかかる。
(とはいえ・・・声だけでも掛けて、伝えることは伝えておこう)
平山がカイジへ向き直ったその折、
ちょうどカイジも平山に気付き、声を上げた。
「平山!」
「あれは・・・・カイジっ・・・!」
ひろゆきとの待ち合わせに向かう道中、
平山幸雄は思わぬ再会を果たすこととなった。
よたよたとした足取りで辺りを見回しているあの人物は、
間違いなく伊藤開司だ。
(歩き方がおかしいな・・・・それに・・・・・連れの女はどうした・・・?)
まだ平山に気付かぬ様子で、カイジは歩みを進めている。
ひろゆきとの予定がある平山は、カイジに声を掛けるべきか迷っていた。
(利根川との別れ方があんなだったことは・・・カイジに話しておくべき・・・だよな。
しかし ひろゆきとの待ち合わせには余裕を持って行きたいし・・・・)
時計を確認する。
20時を回ったところだ。
ひろゆきと落ち合う予定の事務所まで、1時間で着くだろうか。
敵に見つかるリスクを回避するためには、
出来るだけ音を立てずに進むのが良い。
無論、そうして進んでいくのは、普通に歩くよりも時間がかかる。
(とはいえ・・・声だけでも掛けて、伝えることは伝えておこう)
平山がカイジへ向き直ったその折、
ちょうどカイジも平山に気付き、声を上げた。
「平山!」
それまで暗かった表情を僅かに綻ばせて、
カイジは左足を引きずりながら、平山の傍へ駆け寄る。
「平山・・・あんた・・・・!生きてたかっ・・・!無事でっ・・・・・!」
カイジが変わらぬ様子で話しかけてきたことに関して、
平山は少なからず嬉しかった。
先刻まで、平井銀二と原田克美から脅迫同然の会話を強いられ、
その後も居心地の悪さを抱えて 過ごしていたのだから
腹を割って話せる相手に出会えたことで得られる解放感は大きい。
「あぁ・・・だが・・・・」
しかし、と平山は思う。
カイジの足の傷は治療を要するレベルのものに見える。
一緒に行動していた田中沙織の姿はなく、
本来背負っているべきデイパックも何も持たない丸腰の状態。
カイジは決して“無事”ではなかったようだ。
「・・・・・・大丈夫なのか」
何から聞くべきか、丁度いい言葉が浮かばず、
平山の口からは曖昧な問いかけが漏れた。
「あぁ・・・・足の怪我なら見た目ほど大したもんじゃない」
「あの女は・・・・・・?」
「田中さんは・・・・生きてるよ」
カイジを見て、最初に平山の脳裏に浮かんだのは
奇襲に遭い怪我を負いながらも逃げ出してきた、というパターン。
しかしカイジの態度を見る限り、そうではないようだ。
となると、一体なにが?
平山が思うよりも先に、カイジから口を開いた。
「今、田中さんを捜しているところなんだ・・・!」
「捜して・・・?はぐれたってことか?」
「まぁ・・・・何ていうか・・・」
カイジは目元を拭いながら口ごもった。
そこで初めて、平山はカイジが泣いていたのではないかということに気付く。
「持ってかれちまったんだよ・・・。
支給品も・・・・持ち金もぜんぶっ・・・・持ってかれた・・・・!」
「え?」
予想外の言葉に、平山は素っ頓狂な声で答えた。
田中沙織という女が、
まさかそのようなことをする人物だったとは思いも寄らなかったのだ。
「裏切られたっ・・・・!オレは・・・・裏切られたんだ・・・・!」
カイジは事の顛末を、平山に話す。
ギャンブルルーム付近で待機する段取りを田中沙織が破ったこと。
彼女が持ち出した物資は、カイジの支給品すべてだということ。
そして、彼女は「棄権狙い」でゲームに乗ってしまう可能性があること。
支援
支援
「じゃあ・・・なぜ・・・?
田中沙織は銃器を持っているんだろう・・・?
もはや敵同然の相手を捜して動くのは危険なんじゃないか?」
平山は素直に疑問を口にした。
沙織が裏切り行為を働いた以上、
もう彼女を信用することは出来ないだろう。
今この瞬間にも彼女は人を殺しているかもしれないのだ。
「奪われた物資を取り戻すためか・・・?
たしかに・・・・武器はともかく、地図や食料まで持っていかれたんじゃ・・・」
「いや・・・それはもう・・・・どうでもいいんだ・・・・!
持ってかれたもんは・・・・・・構わない・・・・・戻ってこなくとも・・・・!」
「どういうことだ・・・?」
「田中さんは・・・オレの命の恩人なんだ・・・・!
彼女に助けられたのは・・・精神的な問題も含めれば一度や二度じゃない・・・・!
その上・・・彼女の背中を押したのはオレっ・・・!
持ち逃げに踏み切らせたのはオレの判断ミスでもある・・・・・・!」
カイジはまるで自分に言い聞かせるかのような様子で語った。
沙織に裏切られたことに対するショックは決して小さいものではない。
だが・・・・沙織を見捨てることは出来なかった。
裏切られたことへの絶望を上回る何かが、カイジを突き動かしている。
「・・・・・つまり・・・・その女の保護が目的なのか・・・・・?」
「あぁ・・・」
しえん
支援
「言っちゃ悪いが・・・理解できないな。
・・・・田中沙織を見つけてどうするんだ?
再会したところで・・・相手が話を聞いてくれるともわからないんだぞ」
「たしかに・・・・もう田中さんが仲間として戻ってくることはないかもしれない・・・。
でもっ・・・会うことが出来れば・・・・・伝えることが出来れば・・・!」
カイジの表情が徐々に変わっていくのを、平山は黙って見つめる。
数秒前までの涙は見る影もなく、
再び口を開くカイジは頼もしさを覚えるほどの眼をしていた。
「オレは・・・彼女を止められる言葉を知っている・・・!
それどころか・・・・この島の殺し合い自体に関わってくるかもしれない・・・・!
そういう発見があったんだ・・・・!」
「発見?」
「あぁ・・・これはあんたにも伝えておきたい・・・・・。
そして・・・・・・出来れば・・・多くの人間に知らせたい事柄・・・!」
突然カイジは、平山の胸ポケットから覗いていたメモとペンを奪い取る。
「あっ・・・!何をする・・・!」
一瞬怯んだ平山だったが、カイジにメモを盗られたと理解すると、
それらを取り返すべく掴みかかった。
「借りるだけだ・・・!ちょっと待ってくれ・・・!」
平山を諌めながら、カイジはペンを走らせる。
待て、といわれたら、待つほかない。平山は憮然とした様子でカイジの腕から手を離した。
支援
支援
「じゃあこれ・・・返すぜ」
平山の元へ戻ってきたメモには、新たな文言が記されている。
何の目的なのだろうか、カイジが書いたものだ。
「何だよ・・・」
仕方なくメモに目を落とす平山。
瞬間、その表情が強張る。
『盗聴の可能性有り 棄権は出来ない D-4が禁止エリアだから』
「・・・!」
当然、平山も理解する。
カイジが筆記という回りくどい方法を取ったのは、
主催側から盗聴されている可能性を危惧してのこと。
そして、“棄権は出来ない”という文字。
これが、主催側に聞かれたくない言葉なのだろう。
どのようなルートでこの情報を得たのかはわからないが、
D-4・・・スタート地点にあたるエリアが禁止区域だという点と
棄権が出来ないという点が結びつくならば、
それは即ち、棄権のためにはD-4エリアへ赴かなければならないことを意味する。
「田中さんは・・・金集めのために、人を殺してしまうかもしれない・・・!
訳あって田中さんの所持金は8000万円以上あるんだ・・・!
あと何人も殺さずに棄権資金の1億円に届いてしまう状況・・・・!
田中さんはあくまでも棄権狙いで動いているはず・・・!」
「なるほどな・・・・」
支援
支援
情報の正確性は定かではないが、
少なくともカイジが嘘を吐いているようすはない。
自分などより遥かに現状に順応しているカイジが仕入れた情報ならば、
信じるに値するかもしれない。
棄権狙いの人間に棄権は不可能なのだと伝えれば
最も大きな殺人の動機が潰えることになる。
つまり、田中沙織に これを伝えさえすれば、
彼女の金集めとそれに伴う殺人、そして禁止エリアへの侵入を止められるだろう。
無論、ゲームに乗る参加者が一人でも減ることは平山にとって好ましい。
納得した様子の平山を見て、カイジは少し口の端をあげた。
「平山・・・・あんた・・・思ってたより察しがいいんだな」
カイジがはじめて平山を見たとき・・・
彼は精神疲労から嘔吐をするという情けない醜態を晒していた。
しかし、今こうして少ない文章から様々なことを考えているだろう様子は
彼から優秀ささえ感じさせられる。
「なぁ平山・・・あんた、出来ればそれを広めてほしい。
あんたの身に危険が及ばない範囲で・・・・!そうすれば・・・・・」
この島は多少なりとも変わるだろう。
平山はメモを胸ポケットにしまうと、顔をあげながら答える。
「・・・わかった」
まずは、ひろゆきに、このことを伝えよう。平山は考える。
ひろゆきの力を借りれば・・・
“棄権は出来ない”という状況を深く掘り下げられるかもしれない。
支援
支援
「オレの話は終わりだが・・・
あんたに聞きたいことがある。
利根川に頼んだ伝言についてだ」
『奴隷の剣はまだ折れていない』
カイジから頼まれた言葉を、
平山は一字一句違うことなく そのまま利根川へ伝えていた。
「あ、ああ・・・おまえが言ったとおりに伝えておいた・・・。
二日後・・・それで了承した様子だったぞ・・・」
「そうか・・・」
「・・・だが・・・・問題が二つある・・・・!
一つは・・・・・おまえが指定した発電所が・・・禁止エリアに指定されてしまったこと・・・!
とはいえ、これは大したことじゃない。
発電所付近で落ち合うことも可能だからな・・・」
平山は、表情を翳らせながら続ける。
これまでと打って変わって、悲壮感漂う様相だ。
「もう一つ・・・・利根川と話してる最中に・・・奇襲を受けたんだ・・・・!
だからオレはいつ殺されてもおかしくない状況・・・!」
平山は、カイジに原田や銀二との出来事を簡単に説明する。
発電所で利根川に伝言を渡した直後に
原田克美という見るからにヤクザな男と、
平井銀二という得体の知れない人間が 銃を持って襲ってきた、と。
私怨
支援
支援
カイジは平井銀二という単語に過剰に反応した。
「平井銀二・・・そいつは・・・・・赤木しげると同レベルの要注意人物じゃねぇか・・・・!」
田中沙織の支給品である参加者名簿に記されたトトカルチョの倍率から
参加者中もっとも危険であろう二人を割り出した際に登場した名前。
赤木しげるとは既に接触済みであり、危険性が低いことはわかっていたし、
何より平山は赤木とは知り合いである。
しかし、平井銀二の危険性については未知数なのだ。
「そ・・・そんな・・・・・・!」
平山は銀二のことを思い出しながら震える。
物腰こそは柔らかかったものの、確かに只ならぬ空気を纏う男だった。
改めて考えるとなんと恐ろしいことか。
ああして利根川と不慮の別れをした以上、
利根川はもう自分に利用価値を見出してはくれないかもしれない。
平山は滲み出る冷や汗を拭うと、カイジに告げた。
「利根川とおまえのパイプ役はもう出来ない・・・!
平井銀二には何もされなかったけど・・・・・オレはいつ殺されるかもわからない・・・・」
「利根川はあんたを殺さない・・・!」
カイジは蒼白な平山の顔を見据えながら断言する。
「え・・・?」
「殺せない、のかもしれないが・・・・。
あんたが今生きていることが何よりの証拠だろ・・・?
利根川に殺す気があったら、あんたは今頃もう死んでる・・・!」
そう。
平井銀二、原田克美から襲撃され、利根川は平山を置いて逃げた。
利根川の狙い――兵藤和也を保護したいということや、
伊藤開司に復讐したいということを知っている平山を、見知らぬ敵の前に置いて逃げたのだ。
となれば、当然、利根川は危惧する。
平山から、利根川の思惑が漏れる可能性を。
その可能性を摘むには、平山を殺すこと。
遠隔操作可能な針具を使い、平山の首輪を爆破させることが最も簡単かつ確実な方法である。
「そうか・・・!利根川に殺す気があるならもっと早く・・・・
原田や平井がいる前で首が吹っ飛んでたはず・・・!」
「そういうことだ。
つまり・・・・利根川はあんたが死んじまったと思ってるか・・・・
あんたに余程の利用価値を見出してるか、その二択・・・・!
どちらにしても・・・・おかしな行動をしなければあんたの首が飛ぶ可能性は低い・・・!
再び利根川に出くわしたときが勝負どころになるが・・・」
もしも、また利根川に会ってしまったら。
死んだと思われていたのならば、利根川との再会は危険すぎる。
平山の生存がわかった瞬間に針具が動き、首輪が起爆してもおかしくないだろう。
利用価値があると見られているのならば、
利根川と再度相会うときの身の振り方次第で生死が決まる。
実際、平山の首輪に装着された針具は“故障”という想定外の事態に陥っているのだが、
カイジも平山も、そこまで思い至ることは出来なかった。
支援
支援
支援
(出来れば平山と共に行動したい・・・!
物資がない状況で単独行動は危険だし・・・・
もし利根川と出会うことがあったとき・・・・・
ベストなのはオレと平山二人が居合わせることだからっ・・・・!
だが・・・・平山は当て所もなくいる様子じゃあない。
こいつはこいつで・・・・何か目的があって動かなきゃならない状況なんだろう・・・・)
しばしの沈黙。
首に手を当てて俯いている平山に、
カイジは意を決して別れを切り出した。
「オレは・・・このまま田中さんを捜すが・・・
あんたはあんたで用事があるんだろ?
なんか目的が・・・あるだろ・・・・?
引き止めて悪かったな・・・」
返答を待たずに足を引きずり歩き出すカイジを
平山は 少し悩んでから声をあげた。
「ちょっと待て・・・!一緒に行動したほうがいいんじゃないか・・・?」
「そりゃあ・・・そうだが・・・・」
「田中沙織が持ち出していったのは、チップや武器だけじゃない。
参加者全員に平等に渡された、食料や飲料水、地図、時計やコンパス・・・・。
それら全部失って・・・・
おまえ・・・足を怪我してる上に・・・一人で何も持たずに歩き回ってちゃ・・・危ないだろう・・・!」
「だが・・・あんたはあんたの目的があるんだろ・・・・?
どこか・・・・向かう場所があるんなら・・・一緒に行動しないほうがいい・・・!」
支援
支援
「うっ・・・その通りだが・・・・・」
カイジの目的は、田中沙織を捜し回ること。
平山の目的は、ひろゆきと待ち合わせた事務所へ向かうこと。
両立させるのは難しい。
「オレは死なない・・・・!どんな逆境にあっても・・・・切り抜けてきたんだっ・・・・!
だから・・・平山、あんたも・・・・あんたのやるべきことをやって・・・・」
「あ・・・そうか!待ってろ!」
平山はカイジの言葉を遮ると、デイパックの中身を探り出した。
不思議そうな顔で居るカイジに、平山は言う。
「待ってろ・・・何か・・・役に立つものがあるかもしれねぇからっ・・・!」
「・・・?」
「オレの使わないもの・・・おまえにやるっ・・・・!」
平山はデイパックの中身をボロボロと草っ原に散乱させながらカイジに告げた。
クソっ、と小さく呟きながら物を拾う平山の姿に、カイジは苦笑いし、
拾うのを手伝うべく しゃがみながら答える。
「あんたの支給品はあんたのものだ・・・。
オレが丸腰なのは自分の所為なんだし あんたから何かを貰うわけには・・・・」
「勘違いするなよ!おまえが死んだらオレも困るんだっ・・・・!」
二人の足元には平山の支給品――水や食料、地図、コンパスといったものの他に
参加者名簿、いくつかの冊子、丸いキーホルダーのようなものが転がっている。
「・・・・・・参加者名簿・・・!
これ・・・あんたの支給品なのか・・・・・?」
「あ・・・?あぁ、そうだが・・・・」
田中沙織の支給品だったトトカルチョの倍率付き名簿と、
厚さや見た目は変わらないそれを、カイジは拾い上げた。
ぱらぱらと中身を見るが、そこの倍率は記されていない。
「・・・・同じものじゃないみたいだな」
「それ・・・・やるよ」
カイジが名簿に興味を持ったらしいと気付き、
平山はカイジ向かって声をかける。
「いやっ・・・いいよ・・・あんたのものを貰うわけには・・・・」
「使わねぇし・・・それ。
もう覚えたから・・・・・・持ってても邪魔なだけだ」
「覚えた・・・・?」
手を止めるカイジに、平山は更にいくつかの冊子を突きつけた。
「これも支給されたもんなんだが・・・
島の施設の案内冊子だ・・・・・!
使えるかはわからないが・・・・・持ってけ」
支援
支援
カイジは数冊のそれらを受け取ると、ざっと目を通す。
島内施設――温泉旅館とショッピングモール、ホテルやバッティングセンターについてのパンフレットのようだ。
フロアガイドなどが写真つきでカラフルに並び、
まるで殺し合いの舞台とは思えない明るい雰囲気の場所ばかりが写っている。
「これも・・・・もらっていいのか?」
「それも覚えたからな・・・・もう使わない」
「さっきから覚えた覚えたって言ってるが・・・
あんた、まさか本当にこれだけの情報量を頭に入れたってのか?」
「まぁ・・・・取り柄だからな」
何故か表情を暗くする平山だったが、
カイジは素直に感心していた。
通常、参加者名簿に複数施設のパンフレット、
全ての内容を胸を張って“覚えた”といえるレベルになるまでに
いったい何日かかるだろうか。
「すげぇ記憶力だな・・・・生まれつき脳の作りが違うっていうか・・・・・」
「・・・この頭を使って食ってたみたいなもんだったからな」
平山はその常人離れした記憶力と計算力を駆使し、
長いスパンでみれば信じられないほどの安定感を誇る雀士だった。
しかし、それももう過ぎた話。
カイジのように素直に褒めてくれる人間は、
浦部との戦い以降平山の周りから消えてしまっていた。
支援
支援
純粋に能力を褒められたのは何時以来だろうか。
平山は複雑な心境で、食料をデイパックに詰め込んだ。
そして平山は地図を拾い上げ、悩む。
島のマップは参加者の生命線だ。
これを持たない状況で人捜しなど、あまりに無謀。
無論、地図の内容もすべて、平山は暗記している。
しかし、これに関しては手放してしまうことに少しの抵抗があった。
平山の思いを知ってか知らずか、カイジは小さく呟く。
「あんたに会えて助かったな・・・」
平山はその発言で随分久しぶりに――自分が認められた気がした。
カイジがどのような意味を込めて漏らした言葉かはわからないが
それでも、人から必要とされた感覚が、確かに湧いたのだ。
(これも・・・・・渡しておくか)
地図を掴む右手を見つめながら、平山は思う。
カイジの言葉で舞い上がったわけではない。
自分の駄目具合は、自分自身で理解していた。
だが、嬉しかった。
この島に来て・・・・否。
ゲームが始まる以前から・・・・・平山を同等と見てくれた人間がどれだけいただろうか。
格下・・・三流・・・・そういった目で見られることに慣れてしまった平山にとって、
カイジの、同じ立場からの言葉が――同じ立場からの言葉だと聞こえたそれが、
無性に嬉しかったのだ。
平山は黙ってカイジの手元に地図を投げやる。
「いや・・・流石に地図は・・・」
目を丸くするカイジに、平山は言い返した。
「いいか?おまえを助けるためじゃない・・・!
オレが生き残るために・・・おまえに死なれちゃ困るから言ってるんだ」
「そりゃ・・・そうだが・・・・・」
「オレは地図の内容も完全に覚えている・・・・!
その上、これから向かうのは既に一度訪れた場所なんだ・・・・!」
アトラクションゾーンの事務所。
最初に会った場所で、ひろゆきと平山は待ち合わせる予定だった。
そこまでのルートは難しいものではなく、
地図を見ずとも辿り着けるだろう。
島内地図を正確に暗記している平山ならば、
尚のこと地図現物に頼ることはない。
「それに・・・・オレには“当て”がある。
地図をもう一枚手に入れることが出来る当てがある・・・!」
そう。平山も彼なりに考えた上で、カイジにこの提案をしている。
ひろゆきは二人分の支給品を持っていた。
つまり、二枚地図を持っているということ。
この先地図が必要になる可能性は否定できないが、
要は、ひろゆきと落ち合った暁に、一枚を譲り受ければいいだけの話なのだ。
「カイジ・・・おまえが死ねば・・・オレの死ぬ確率は跳ね上がる・・・・!
なぜなら・・・・・おまえはオレの命を操作できる人間・・・・・利根川に関係してるから・・・・!」
支援
支援
カイジと平山は、互いに互いが生きながらえていくことを望んでいる。
平山が死ねば、カイジは貴重な“仲間”を一人失うことになる。
誰も死んでほしくないという人情的な部分を差し引いても
これだけ記憶力に優れた部分を見せられたあとでは、
失うに惜しい人材であるといえる。
更に、彼の首輪に装着された針具は、首輪解体の鍵になるかも知れないものだ。
平山もまた、カイジが死んでしまう事態は回避したい。
元より、人命を賭けたギャンブルには否定的な平山。
自身の生死が関わるとなれば尚のことである。
死にたくない。こんなふざけたゲームで命を落とすなどということは・・・。
しかし、まるで首に手をかけられているような現状、
何にしても、利根川との関係を打ち切らなければ埒が明かないのだ。
その利根川と関わりをもつカイジの助けが、今後も必要になる可能性は高い。
カイジが死んでしまえば、平山が頼りに出来る人間はひろゆきだけ。
そもそもカイジ死亡後、利根川は平山の利用を放棄し、首輪を起爆させることさえ考えられる。
カイジは思った。
この平山幸雄という男は、本来このような――人の自分の物資を分け与えるような人間ではない、と。
臆病で、頭でっかちな・・・凡夫と呼ばれてしまうような男なのではないか。
だが・・・・今目の前に居る平山は、
本来の彼がどんな性質であれ・・・カイジの助けとなっている。
「わかった・・・・」
カイジは平山から地図を受け取り、懐にしまいこんだ。
平山はそれを見届けると、大きく深呼吸をしながら、
残りの支給品をデイパックに詰めなおす。
草の上には丸いキーホルダーだけが残る。
支援
支援
カイジと平山は、互いに互いが生きながらえていくことを望んでいる。
平山が死ねば、カイジは貴重な“仲間”を一人失うことになる。
誰も死んでほしくないという人情的な部分を差し引いても
これだけ記憶力に優れた部分を見せられたあとでは、
失うに惜しい人材であるといえる。
更に、彼の首輪に装着された針具は、首輪解体の鍵になるかも知れないものだ。
平山もまた、カイジが死んでしまう事態は回避したい。
元より、人命を賭けたギャンブルには否定的な平山。
自身の生死が関わるとなれば尚のことである。
死にたくない。こんなふざけたゲームで命を落とすなどということは・・・。
しかし、まるで首に手をかけられているような現状、
何にしても、利根川との関係を打ち切らなければ埒が明かないのだ。
その利根川と関わりをもつカイジの助けが、今後も必要になる可能性は高い。
カイジが死んでしまえば、平山が頼りに出来る人間はひろゆきだけ。
そもそもカイジ死亡後、利根川は平山の利用を放棄し、首輪を起爆させることさえ考えられる。
カイジは思った。
この平山幸雄という男は、本来このような――人に自分の物資を分け与えるような人間ではない、と。
臆病で、頭でっかちな・・・凡夫と呼ばれてしまうような男なのではないか。
だが・・・・今目の前に居る平山は、
本来の彼がどんな性質であれ・・・カイジの助けとなっている。
「わかった・・・・」
カイジは平山から地図を受け取り、懐にしまいこんだ。
平山はそれを見届けると、大きく深呼吸をしながら、
残りの支給品をデイパックに詰めなおす。
草の上には丸いキーホルダーだけが残る。
支援
支援
「さっきから気になってたんだが・・・・このキーホルダーはなんだ?」
カイジは青いそれを摘み上げると、平山に聞いた。
「あぁ・・・
使い方がわからないんだ。折角 紙以外の支給品なんだが・・・」
手のひらに収まる大きさ。
頭の部分に金属でホルダーがついており、
下部から白い紐が伸びていた。
「これ・・・防犯ブザーだな・・・・」
しばらく手の中で転がしてから、
カイジは意外そうな声で、平山に告げる。
「は・・・?防犯ブザー?なんだそれ」
平山はその上をいく反応で、カイジに尋ねた。
「あぁ・・・この紐を引っ張ると、大音量で鳴るんだ。
周りの人間に、気付いてもらうためのアイテムだな」
下手に触らずにおいて良かった、と平山は安堵した。
この島で大音量を響かせるなど自殺行為である。
数時間前、拡声器を通した音声が島中に渡ったが、あの声の主も無事ではあるまい。
「じゃあ・・・使い物にならないな・・・・。
そんな、人を呼び寄せるような支給品は・・・・」
平山は少し落胆した様子で、防犯ブザーをデイパックにしまおうとする。
支援
支援
「いや・・・待て・・・・・・。もしかしたら使う機会がくるかもしれない。
すぐに取り出せるところに入れといたほうがいいんじゃないか」
「使う機会?」
「それがどんなときかは・・・・・わからないが・・・・!
・・・・この島じゃ、何が役に立つかなんて決められないだろ・・・?」
カイジの言葉に、平山は大人しく防犯ブザーをポケットにしまう。
誤って鳴らしてしまうことだけは避けなければならないが、
カイジの言うとおり“使う機会”がいつか来るかもしれないのは事実だと思ったからだ。
「これ・・・ありがとう」
名簿とパンフレットを懐に納めながらカイジは言った。
武器にはならないが、何も持たないよりは遥かにマシだ。
腹部に沿ってしまっておけば、カッターの刃くらいならば防ぎうる盾になるだろう。
ここで平山に会い、物を分けてもらったことは本当に幸運だった。
田中沙織とも・・・無事に再会できればいいのだが。
「そろそろ・・・オレは行くが・・・平山・・・生き残れよ・・・。
こんなこと言っちゃなんだけど・・・あんたは・・・“使える人間”だ・・・!
誰から見てもそうだ・・・!それだけの記憶力があれば・・・!
だったら・・・あんた自身が使え・・・!
卑屈になるなっ・・・・!あんたがあんたを使うんだ・・・!
セコい真似してでも・・・生き残れっ・・・・・・」
そう告げて、立ち去ろうとするカイジの背中に、
平山も呼応するように声をあげる。
支援
支援
「カイジっ・・・!おまえも死ぬなよ!
利根川を倒して・・・・オレを救い出してくれよっ・・・!」
「ああ・・・」
カイジは真っ直ぐな目線で、平山に答えた。
「・・・三度目も・・・お互い無事に・・・生きて会うんだ・・・・・!」
カイジは不思議と・・・平山幸雄とはまた会えるような気がした。
実際にこの島で再会をするというのは、難しいことではない。
待ち合わせ場所を定めておけば、
イレギュラーな事態に巻き込まれない限りは、そこで会えるのだ。
とはいえ――そのイレギュラーな事態が氾濫しているからこその狂気の島なのだが。
しかし、平山と待ち合わせをする必要性を、カイジは感じなかった。
平山は彼なりにやるべきことをして、
カイジはカイジの使命を果たし、
そしてまた会えたとき・・・その時は共に行動しよう。
心の中で平山に語りかけながら、カイジは歩き始める。
平山幸雄はカイジの背中が木陰に消えるのを見送ってから・・・
はっと時計を見、その長針の進み具合に焦りつつ、慌てたようすで事務所へと向かった。
* * *
支援
支援
平井銀二は少し離れた草の茂みから、
伊藤開司と平山幸雄が別れる様子を眺めていた。
平山を尾行したのは正解だった。
先刻、あの顔に傷を持つ男との出会い頭に平山が漏らした「カイジ」という単語。
そこから、平山がいくつかの物資を譲った相手は伊藤開司なのだろうとわかる。
僥倖だ。話に聞いたカイジに、こんなにも早く会うことが出来るとは。
平山の話していたことが事実ならば、カイジはそれなりに見所のある人間に思える。
彼らの比較的穏やかな対話具合からして、
平山とカイジは初対面ではなく、また 敵対関係にあるわけでもない。
つまり――彼らは平山の言っていた通りの関係だという可能性が高い。
必然的に、平山の述べたカイジについての話も信憑性が増す。
(強運、度胸、図太さ・・・あるだろうか。カイジという青年には・・・・)
やはり森田・・・森田鉄雄に会えればこの上ない。
しかし、見込みのある人間と接触を計っていくことは
このゲームにおける平井銀二の指針の一つである。
(平山がこれから向かうのはおそらく“ひろゆき”との待ち合わせ場所だろうな)
二人の様子を見た限り、彼らの再会は偶然だろう。
平山の目的は、カイジではなかった。おそらく“ひろゆき”に会うことだ。
ひろゆきについては原田から話を聞いているため、幾らかの興味がある。
(とはいえ・・・カイジ・・・。こちらも興味深い男だ)
一方のカイジも、何か目的があって行動しているらしいことは見て取れる。
(興味の対象が二つあったところで、この身は一つ。さて・・・・どちらを追うか・・・・・)
支援
支援
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所)
[道具]:果物ナイフ 地図 参加者名簿 島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、
旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
[所持金]:なし
[思考]:田中沙織を捜す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※脱出の権利は嘘だと確信しました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中
[道具]:支給品一式 防犯ブザー
[所持金]:1000万円
[思考]: ひろゆきとの待ち合わせ場所に急ぐ 田中沙織を気にかける 利根川から逃れる術を探る
※ひろゆきと21時にアトラクションゾーン事務所(C-4)で落ち合う約束をしました。
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
※脱出の権利は嘘だと知りました。
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0〜2、支給品一式
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す 平山かカイジ、どちらを尾行するか決める
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
投下終わりです。
支援ありがとうございました!
投下中のミスが多くてごめんなさい!
生き残りトト本命の銀さんがここできたか
カイジとヒロユキどっちと組んでも強力だな
そして防犯ブザーも面白い使い方がありそうだ
圧倒的乙…!面白かった。
心理描写、キャラの持ち味、過去のリレーSSの伏線を一つに紡ぎ合わせていくその筆力。
書き手氏のSSを読んでいると、気づかされることが多い。
原作だけでなく、福本バトロワを読みこんでいるのが良く分かる。
>「殺せない、のかもしれないが・・・・。
>あんたが今生きていることが何よりの証拠だろ・・・?
>利根川に殺す気があったら、あんたは今頃もう死んでる・・・!」
読んでいて、平山同様、ハッとさせられた。
カイジが平山の記憶力に感心するのや、平山がカイジのことを頼りにしているのが読んでいて心地良かった。
銀さん、どっちについていくんだろう?楽しみです。
>>583 おお、そうだ。状態表、現在地と時間の記載が抜けてますよ〜。
読み返してたら気がついた。
書き手さんに感謝っ…!すげえっめちゃくちゃ面白かったっ…!
「勘違いするなよ」も聞けたし平山とカイジの意外な関係に
なんかあったかくさせられた そしてシメは銀さん wktkがとまらないっ…
カイジらしい言葉
>「そろそろ・・・オレは行くが・・・平山・・・生き残れよ・・・。
>こんなこと言っちゃなんだけど・・・あんたは・・・“使える人間”だ・・・!
>誰から見てもそうだ・・・!それだけの記憶力があれば・・・!
>だったら・・・あんた自身が使え・・・!
>卑屈になるなっ・・・・!あんたがあんたを使うんだ・・・!
>セコい真似してでも・・・生き残れっ・・・・・・」
熱くなったっ…書き手さんもう一度言う ありがとう
圧倒的乙……!
ニセアカギファンとしては彼の才能と名台詞が見れて嬉しかったw
書き手さんの書くキャラは福本らしい言葉を言ってくれるから本当に胸が熱くなるっ…!
そして銀さんがどちらを追うのかっ……!期待っ…!
【D-3/アトラクションゾーン/夜中】
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所)
[道具]:果物ナイフ 地図 参加者名簿 島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、
旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
[所持金]:なし
[思考]:田中沙織を捜す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※脱出の権利は嘘だと確信しました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中
[道具]:支給品一式 防犯ブザー
[所持金]:1000万円
[思考]: ひろゆきとの待ち合わせ場所に急ぐ 田中沙織を気にかける 利根川から逃れる術を探る
※ひろゆきと21時にアトラクションゾーン事務所(C-4)で落ち合う約束をしました。
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
※脱出の権利は嘘だと知りました。
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0〜2、支給品一式
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す 平山かカイジ、どちらを尾行するか決める
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
↑状態表の訂正です
>>586 重要な部分なのに気付かなかった・・・失礼しました。
指摘ありがとうございました!
それから、みなさん いつも感想ありがとうございます。
嬉しいです!
乙…!圧倒的乙っ…!
カイジと平山の友情があったけぇ…また会えるといいな
防犯ブザーの下り、目からウロコだった
たしかに平山の時代からしたら「何だそれ?」だよな
年代の差、今後も出てくるんだろうか
投下乙です…!
これまた面白い話でした…!そして、次の人も書きやすそう…!
銀さんは何を企んでいるのだろうか…
ここんとこ投下が多くて楽しいな
伏線がうまく繋がっていったり、新しい地平が開けたりとわくわくする展開が多い
そういう空気だといい刺激になって書きたいってなるし
昨日初めてまとめから読み始め・・・眠れない!!
朦朧として読んだので本日読み直したが・・・面白すぎる!!!
もう書き手さん全てが素晴らしく、人物描写も話の展開も素敵すぎて
PCの前で泣きそうになったり、あぁ良かったとかorzとか一喜一憂しっぱなし。
wktkが止まらない!!!止められない!!!
まとめさんありがとう!!書き手さんありがとう!!!
平山の描写とか、本当に泣きそうになってくる。
銀王と原田さんが素敵すぎて惚れ直し、カイジの優しさにほろりと泣く。
アカギと鷲巣様のらしさにニヤリと笑い、涯と零にエールを送り、
各キャラの最期にまた泣く。そして、ギャンブルの展開と話の展開にwktkして釘付け。
皆さん素敵すぎる。
最後にもう一度言わせて。ありがとう!!!
続きをわくわくして待ってます!!
ラジオが7/11に変更されたみたいです
大きくズレましたね
おお…そうですか…
>ラジオ
今週末だ〜とwktkしてたんだが…
お久しぶりです。
一時投下スレで投下した作品がようやく完成したため、
こちらへ投下する決心がつきました。
前回、ご指摘を頂きました矛盾点や問題点は極力修正したつもりでしたが
もし、見つかりましたら、ご連絡をお願い致します。
なお、一時投下スレの作品と大筋は同じですが、
やり取りは大分変わっております。
しえーん
やってしもた・・・
「涯君っ・・・・!」
涯と女性は対峙していた。
矢を握り締めている女性に対して、拳を構える涯。
二人の間に何があったのかは分からない。
しかし、明らかに険悪な状況にあったことを察することができた。
「赤松・・・!」
涯が赤松に気をとられた瞬間だった。
ここぞとばかりに、沙織は自分のディバックに飛びついた。
そこからボウガンの本体を取り出し、矢を装着する。
ボウガンの標準は涯へ向けられる。
「来ないで!これ以上来れば、この子を撃つわよっ!」
「なっ・・・!」
赤松はその場で動きを止めた。
「ちっ・・・!」
涯は舌打ちした。
――逃げるタイミングを失ったっ・・・!
涯は赤松をにらみつけた。
――この疫病神が・・・!
「なぜ、その子を・・・涯君を狙う!君に何をしたというんだ・・・!」
「うるさいっ!黙って!」
赤松の言葉を遮り、沙織は叫ぶ。
その様子から、沙織の精神状態はかなり不安定であることがうかがい知れた。
赤松は沙織の精神を落ち着かせるように、穏やかな声色で語りかける。
「涯君は・・・私にとって、必要な存在なんだ・・・
涯君を解放してほしい・・・
代わりに、私を好きにしていい・・・だから・・・」
しえん
「嫌よっ!」
沙織は悲鳴のような声を上げ、赤松を拒む。
「そう言って、近づいて私を殺すんでしょっ!
この子さえ消えれば・・・あと、1700万貯まれば・・・
私、脱出できるのよっ!」
「・・・ということは・・・8300万も・・・」
――こんな女性が、12時間も経たない内にかき集めるなんて・・・。
そんな方法と言ったら・・・。
「クスっ・・・大金でしょ・・・」
沙織は自嘲的な笑いを浮かべる。
――しまった・・・!
赤松は自分の口をふさいだ。
自分の言葉が、沙織の琴線に触れてしまったことに勘付いた。
しかし、後悔した所で手遅れである。
沙織から憎悪の感情が浮かび上がっていた。
「そうよっ!人を殺したわよっ!
でも、こうしなくっちゃ、私、生きられなかったのよっ!」
涯へ標準を向けていたボウガンを握る手に力が篭る。
沙織は引き金に指を置いた。
「なっ・・・!」
涯に緊張が走る。
沙織と涯の距離はだいたい5メートル程。
避けることが難しい至近距離である。
涯はとっさに顔を守るように腕を構えた。
支援
「やめろっ!」
赤松は感情のままに、沙織の元へ駆け出した。
「嫌っ!」
防衛本能だった。
ボウガンの標準は涯から赤松へ移った。
引き金が動く。
バシュッ!
瞬き程度の時間だった。
赤松の左腕の皮膚と筋肉が弾け、血が噴き出した。
矢が腕を抉ったのだ。
「うぐあぁぁっ!」
赤松の体のバランスが崩れた。
言葉を忘れてしまうほどの激痛が腕に集中する。
赤松は赤く染まる腕を押さえた。
苦痛に耐えることが今の赤松の全てと言ってよい。
しかし、それに逆らうかのように、赤松の意識とは別の声が聞こえてくる。
『もし、十に一つの時は・・・宇海零・・・
彼に、僕と一緒に見たことを話してみて・・・きっと彼なら分かるはず』
『オレが涯をケモノにしてしまったっ・・・!涯から人間を奪ってしまったっ・・・!』
――標君・・・零君・・・。
赤松は呼吸を整えると、背筋を伸ばして沙織を正視する。
「涯君を・・・解放してくれないか・・・」
しえん
606 :
マロン名無しさん:2009/06/24(水) 00:12:02 ID:E9b0Dtmv
支援
「なっ・・・!」
――こんなに早く回復するなんて・・・。
沙織は新しい矢を探すため、周囲を見回した。
その行動はまさに隙であった。
「させない・・・」
囁くような声が耳に飛び込んできた。
沙織は思わず、その方向へ振り返る。
涯が目の前にいた。
涯は沙織の手の中にあったボウガンを蹴り飛ばした。
ガツンという音と共に、ボウガンが宙に舞う。
沙織がそれを確認したのは一瞬でしかなかった。
体に激痛が走る。
次の瞬間、視界に飛び込んできたのは地面だった。
「えっ・・・」
沙織は悟った。
自分が涯によって、地面に叩きつけられ、押さえられていることに・・・。
「離してっ!」
身動きを取りたくとも、涯の重みで暴れることもできない。
赤松が血の流れ続ける腕を押さえながら、近づいてきた。
「嫌ぁ!来ないでっ!」
沙織は顔を背ける。
しかし、赤松はそれでも歩みを止めない。
沙織の顔に赤松の影が被る。
沙織は目をぎゅっと瞑った。
赤松の手が沙織の手に触れる。
――殺されるっ・・・!
支援!
「これ・・・棄権費用の足しにしてください・・・
後の700万円は・・・何とかしますから・・・」
穏やかな声と共に、沙織の手に何かが握られる。
「え・・・」
沙織は目を開け、手の中にある物を見つめた。
それは1000万円分のチップであった。
「なんで・・・」
沙織の問いに、赤松は柔和な笑みで答える。
「人が攻撃するのには何かしらの理由が存在する・・・
今、あなたはそういう状況下にあった・・・それが分かった・・・から・・・」
ここまで言いかけた所で、赤松はうめき声を発しながら、腕を押さえる。
「赤松・・・!」
涯は赤松を支えようとする素振りを見せるも、すぐに動きを止める。
赤松に近づこうとすれば、当然、沙織から離れざるを得ない。
「涯君・・・」
赤松はその涯の気持ちを察したのか、涯に声をかける。
「私を助けてくれて・・・ありがとう・・・嬉しかった・・・」
「それが・・・最善だった・・・」
涯は思わず、赤松から視線を逸らす。
「なぜ・・・オレを庇った・・・」
赤松は涯と同じ視線になるように、身を屈める。
「約束したんだ・・・零君と・・・君と再会させるって・・・
零君は君に謝りたがっていた・・・
彼の心は深く沈んでいて、私の言葉では届かない・・・
君の言葉が・・・いや・・・君が必要だったから・・・」
支援
「零・・・」
涯の脳裏に零との会話が蘇る。
「オレは零には会えない・・・」
「涯君・・・」
赤松は涯を覗き込む。
涯から言葉がいつのまにか溢れていた。
「零は・・・オレに期待していた・・・
主催者に立ち向かう話を聞いた時・・・力になりたいと思った・・・
オレはそれまで、誰かから期待をされることはなかった・・・
それで構わないと思った・・・
だが、零に期待され、それに応えたいと思ったとき・・・
初めて・・・人を殺したことへの罪悪感が生まれた・・・」
涯は自嘲の笑いを浮かべる。
「オレにもこんな感情があったなんてな・・・
人を殺したのは成り行き・・・当然だと自分に言い聞かせた所で・・・
罪悪感が・・・オレに罵声を浴びせる・・・ケモノであると断言する・・・」
ここまで話した所で、涯は悟る。
この男に嫌悪感を覚えていたのは、この男と一緒にいる時、心を晒さらしてしまう状況が多かったからであると・・・。
それまで涯は他人の視線、感情に振り回されないようにする為に、孤立という防壁で自分を守っていた。
しかし、このゲームでは、様々な感情が露出し、傷つけられ、その傷を見せ付けられる。
気づくと、涯の防壁も簡単に崩されてしまっていた。
「多分・・・もう一人の自分が自分の行為を責めている・・・ということだよね・・・」
赤松の言葉に、涯ははっと顔を上げる。
零に全てを知られた時、自分を責めるもう一人の自分の存在を思い出した。
「そういう自分はどんなに説明しても、すぐに反論してくる・・・
しかし、人間はそうやって、善悪のバランスを保つ・・・
それは君が人間である証拠だ・・・君はケモノじゃない・・・」
「ケモノ・・・じゃない・・・」
涯は赤松の言葉を反芻する。
赤松は話を続ける。
「このゲームは殺し合いを求めている・・・
だからこそ、私は最終手段として、人を殺めてしまうという行為を否定はできない・・・
ただ、その声があったから・・・
君がその声に耳を傾けていてくれたから“人間として”どうすればいいのか模索することができた・・・
それはこのゲームにおいて誇れることだ・・・
お願いがあるんだ・・・もう一人の自分に伝えてくれないか・・・
殺人を思いとどまらせてくれて・・・ありがとうって・・・」
「赤松・・・」
赤松達から逃亡する間、心にあったのは、自分はケモノである、もはや人間じゃないと自分自身を否定し続ける言葉であった。
その声を押さえ込もうとすればするほど、それはさらに鋭利なナイフとなって、涯の心を突き刺していた。
憎悪の塊のようなもう一人の声とそれで弱っていく自分。
赤松の言葉は、その両方を肯定するものであった。
初めて、もう一人の自分を受け入れることができたような気がした。
沙織も赤松の言葉を黙って聞いていた。
沙織もまた、誰かを殺さなくては生きていけないという覚悟と人を殺したくないという本音の間で葛藤していた。
赤松の言葉は涯に向けられていたものだが、自分に対しても語りかけられているような気がしてならなかった。
沙織に小さな変化が現れていた。
「ねぇ・・・応急処置させて・・・」
支援
しえん
涯が叫ぶ。
「この女は危険だ・・・!」
今までの沙織の行動を考えれば当然である。
「それは・・・」
赤松は口ごもる。
涯の考えには同意する部分もあった。
このまま、彼女を縛り上げるべきではないかということも考えてはいた。
――だが・・・。
しかし、赤松には、それとは別の感情も存在していた。
赤松は首を横に振った。
「私は・・・彼女の言葉を信じたい・・・」
涯はしばし呆然とするも、“この女が暴れだしたら、アンタ一人で何とかしろ・・・”と悪態を吐き、沙織を解放した。
沙織は起き上がると、赤松の腕の傷を確認する。
「傷が深い・・・まずは止血が優先ね・・・
腕に何重にも巻けるくらいの布・・・包帯とかネクタイとかあるかしら・・・
それと、固い棒のようなもの・・・スパナとか・・・」
「私はそういうものは・・・」
すると、涯は無言で自身の薄手のシャツと支給品であるフォークを差し出した。
沙織はそれを受け取ると、シャツを5cm幅に畳み、腕の傷より上の部分に巻いていく。
今、沙織が行っている応急処置は“止血帯法”と呼ばれるもので、上肢や下肢の傷が大きい時に有効とされている。
赤松は沙織の慣れた手つきを見て察した。
「もしかして・・・医療系に携わっているのか・・・看護師とか・・・」
沙織は苦笑を浮かべる。
「正しく言うと、“携わっていた”・・・というべきかしら・・・」
沙織は少しずつ自分の過去を話し始めた。
沙織は内藤病院に勤めていたが、ある不正を犯し、自主退職という形でクビになった。
職と社会的地位を失い、路頭に迷っていた彼女に救いの手を差し伸べたのが、今回のゲームの誘いである。
支援
「馬鹿みたいでしょ・・・甘い話なんてある訳がないのに・・・信じちゃって・・・」
沙織は赤松の腕に巻いているシャツの端をぎゅっと握る。
その手は心から湧き上がる慟哭を押さえているかのように震えていた。
「田中さん・・・」
赤松はそれを直視することができず、思わず目を逸らしてしまった。
――話の流れを変えなくては・・・。
「あの・・・残りの700万はどうやって集めるかだが・・・
亡くなった方の所持品からとか・・・ギャンブルとか・・・」
殺人という選択だけはしたくない。
赤松が考えを巡らせていたその時だった。
「なぁ、赤松・・・アンタはこれから・・・どうするつもりなんだ?」
赤松は涯の方を振り向く。
涯は研ぎ澄まされた刀剣のような鋭い瞳で赤松を見下ろしていた。
涯の真剣な眼差しに、思わず息を呑む。
「私はこのゲームの穴を見つけ、ゲームそのものを潰したい・・・
標君が向かおうとしていた道を進みたいんだ・・・」
「そうか・・・」
涯はそれだけ呟くと、沙織に1000万円分のチップを差し出した。
「これでアンタの棄権費用は揃った・・・脱出しろ・・・」
沙織は呆然と涯を見つめるも、ハッと我に返り尋ねる。
「待って!1000万も・・・多すぎるわっ!
それにあなたはどうするのっ!」
「確かゲームが終了した時、所持金はそのまま、自分の金となるルールだったはず・・・
その300万を元手に、生活を手に入れろ・・・それに・・・」
涯は立ち上がり、来た道を見つめた。
「オレはこの島でやることを見つけた・・・棄権費用は必要ない・・・」
支援
「涯君・・・まさかっ・・・!」
赤松に新しい光が見えてきたような喜びの震えがこみ上げてきた。
しかし、涯はそれを否定するかのように、そっぽを向く。
「誤解するな・・・アンタのためじゃない・・・
こんな馬鹿なゲームを考えた主催者をぶっ飛ばしたいだけだ・・・
そのために、零やアンタに協力する・・・それだけだ・・・」
赤松はその意外な言葉にあっけに取られるも、苦笑を浮かべてそれに答える。
「構わないよ・・・それで・・・」
「ねえ・・・本当に主催者に立ち向かうの?」
二人は沙織を見つめる。
沙織は2000万円のチップを握り締めながら、塞ぎこんだ表情で呟く。
「こんなゲームを主催できる連中よ・・・!
どうせ、向かっていっても、姿を見ることすらできない・・・!」
金と権力を手に入れた者は、指先一つで弱者を潰してしまう。
沙織はそのことを神威家の一件で理解していた。
多数の死者が発生した惨劇であったというのに、全ての罪を勝広と邦男に押しつけ、事実を闇に葬り去ってしまったのだ。
その主催者を倒そうという行為は、まさに神に刃を向けるに等しい――不可能といって良かった。
赤松の口が開いた。
「このゲームに参加している者は誰しもそう考える・・・
私もそういう考えを持っていた時期があった・・・
けどね、田中さん・・・」
赤松は深呼吸をするかのように顔を上げ、星が広がる夜空を眺める。
「私と共にいた標君という少年は、最後までその主催者と戦おうとしていた・・・
小さな体で、頭を全力で働かせて・・・
そんな小さな子供が戦っていたのに・・・
大人がそれは無理だと否定するのは、まだ、早いんじゃないかな・・・」
しえん
――この人はきっと最後まで生きることができない・・・。
沙織はそんな予感を覚えたが、あえて黙っていた。
「ごめんなさい・・・私はやっぱり主催者に立ち向かえない・・・」
沙織は立ち上がり、自分のディバックとまだ使えそうなボウガンの矢を拾う。
赤松に少しの間、休んでいた方がよいと忠告し、アトラクションゾーンのある方向を見つめた。
その目線の先には木々の間からギャンブルルームの上部が見えていた。
「私・・・ギャンブルルームへ行くわ・・・棄権申請を行うために・・・」
赤松は“少し待っていてください”と呼び止めると、ディバックから手榴弾をひとつ取り出し、沙織に手渡した。
「もしかしたら、誰かが襲ってくる可能性もある・・・
それに、今のあなたなら、正しい使い道をしてくれるはず・・・」
――どこまでも優しいのね・・・。
沙織はそれを握り締め、何かを躊躇っているかのように口を震わす。
「どうかしましたか・・・」
沙織は赤松に背を向けた。
「伊藤カイジ君に会って・・・彼もあなたと同じ考えだから・・・」
「伊藤・・・カイジ・・・」
――村岡と利根川が口にしていた参加者の名前・・・。
「赤松さん・・・ありがとう・・・」
沙織はそれだけを呟くと、アトラクションゾーンへ駆け出した。
赤松と涯はその背中を見つめ続けていた。
――やっと・・・解放される・・・私、自由になる・・・!
沙織は駆けながら、重たい緊張、汚れが体から吹き飛んでいくような感覚を覚えていた。
赤松とカイジの顔が頭によぎる。
――大変かもしれないけど・・・あの意志の強さなら・・・。
ゲームの泥沼に埋まっていた時は、不安から赤松やカイジの計画を否定し続けてきたが、
今は二人の安否を気遣い、その計画の成功を素直に祈っていた。
それほど、今の彼女は本来の優しさを取り戻していた。
沙織の顔から女性らしい笑みがこぼれる。
林を抜け、舗装された広場が目の前に現れた。
沙織は立ち止まると、呼吸を整えた。
「着いた・・・!」
そこにはギャンブルルームが建っていた。
C−3にあるギャンブルルームは赤松達が居た所から走って五分ほどの場所――アトラクションゾーン入り口にある。
沙織は周囲に人がいないことを確認すると、その中へ足を踏み入れた。
ギャンブルルーム内は映画のワンシーンに出てきそうな
高価な調度品が配置された重々しい雰囲気が漂っていた。
沙織の元にさっそく黒服が近づく。
「申請に来たの・・・ゲームからの棄権のための・・・」
「すまないが・・・ここではできない・・・」
「どういうこと・・・?」
沙織は眉をひそめる。
ギャンブルルームは主催者に直結する施設である。
ここで申請すれば必ず脱出できると、沙織は先入観からそう判断していた。
それだけに黒服の言葉は理解できないものがあった。
黒服は手を差し出す。
「くっ・・・」
黒服の要求は分かっている。情報料である。
今後の生活を考えれば、一円も失いたくない所だが、命には代えられない。
沙織は黒服の手にチップを一枚乗せた。
黒服は蔑むような冷笑を浮かべる。
「棄権申告はD−4エリアのホテルで行ってください」
「D−4のホテル・・・」
この直後、沙織の思考がとまる。
体から体温が奪われたかのような震え。
沙織は黒服に掴み掛かる。
「ふざけないでっ!そこって禁止エリアじゃないっ!それって、出られな・・・」
全てを言い終わる前に、黒服の平手が沙織の頬に飛ぶ。
乾いた音と共に、沙織は壁に叩きつけられた。
黒服は沙織が触れた箇所を、さも汚れがついてしまったかのように払う。
「愚か者が・・・貴様は黒崎様の説明を聞いていなかったのか・・・」
沙織は身を縮ませながら、涙を浮かべた。
積みあがっていた希望という柱が絶望という穴の中へ崩れていく。
沙織は黙ってその場を後にした。
外を出ると、夜風が沙織の頬をなでた。
『主催者の言っていることは信用するな・・・!棄権の話も嘘かもしれない・・・!』
――あなたの言った通りだったわね・・・カイジ君・・・。
涙が溢れ、頬をつたって落ちていく。
これからも沙織はゲームに立ち向かわなければならない。
しかも、先ほどの涯との戦いで、サブマシンガンウージーは弾切れ、
ボウガンは放った矢の内、2本は先端が折れており、実質8本である。
今の彼女の身を守る武器は、そのボウガンと赤松から渡された手榴弾のみだった。
――もう逃げ場はない・・・優勝以外助かる道はない・・・。
取り留めのない後悔が沙織の胸に押し寄せてくる。
これからどうしようかと、周囲を見渡したその時だった。
鼻腔に鉄の臭いがすっと入り込んだ。
――まさか・・・死体・・・?
沙織はその臭いと音の方向へ足を進める。
その先にあったのは一本の木であった。
その場からすぐにでも離れたい。
沙織の直感はそう訴えていた。
しかし、同時にある種の考えも抱えていた。
――もしかしたら・・・近くにその参加者の武器が・・・。
沙織は恐る恐るその木に近づいていく。
近づく度に、臭いが沙織の感覚を更に刺激する。
木の幹に触れたその時だった。
滴り落ちる雫が視線に入った。
沙織に冷え冷えとした緊張が走る。
支援
――まさか・・・。
沙織は木を見上げた。
雲がゆっくり移動し、淡い月明かりが広場を照らし出す。
沙織の目に飛び込んできたものは、木に吊り下げられていた少年の首だった。
「いややぁぁ!!!」
沙織はその場で尻餅をつくように後ろへ倒れ、手足をバタつかせ、その場から少しでも距離を置こうと這いずる。
標の死体は、沙織の予想を遥かに上回る凄惨なものであった。
幼い少年の首を平気で切断する者が、この島のどこかにいる。
――殺人鬼に・・・私、殺されちゃう・・・。
沙織の心は幻想の殺人鬼に屈していた。
心臓を潰そうと言わんばかりの早鐘が沙織に警告を呼びかける。
『生キルタメニ武器ヲ・・・』
支援
「いい風だ・・・」
風が赤松と涯の頬を撫でる。
雲に隠れていた月が顔を覗かせ、周囲を再び照らし出していた。
涯も赤松も負傷していた。
ここで長居をするつもりもなかったが、看護師である沙織のアドバイスに従って、腰を降ろし、英気を養っていた。
「涯君・・・さっきは・・・首を絞めてしまって悪かった・・・」
「勘違いなんだろ・・・」
赤松は申し訳なさそうに俯く。
「ああ・・・」
涯はそんな赤松の様子を一瞥することなく、遠くを見つめ続けている。
「状況が状況だ・・・別に恨んではいない・・・
それに今のオレたちは利害が一致している・・・
そんな感情的な問題は関係を無駄にこじらせるだけだ・・・」
「そうか・・・」
無言と木々が擦れ合う音がその場を支配する。
涯は赤松に対して神経を尖らせるような対応を繰り返していた。
しかし、同時に言わなければならない言葉が存在しているのも知っていた。
今、それを言うべきではないのか。
涯は息を押し出した。
「赤松・・・さっきは・・・その・・・」
「あれは・・・」
しかし、赤松の視線は涯ではなく、こちらへ向かってくる人物に向けられていた。
「田中さん・・・」
沙織は気がつくと、赤松たちの元へ戻っていた。
どうやって戻ってきたのかは覚えてはいない。
沙織の瞳はどこを向いているのか分からない虚ろなものであった。
しえん
「どうしたのですか?」
赤松は立ち上がる。
その時、沙織の右手にあるボウガンが動いた。
赤松に言い知れない予感が走る。
「まさか・・・」
ブシュッ!
「うぐぁっ!」
声と音はほぼ同時だった。
腹部に弾けたような衝撃が流れる。
ボウガンの矢が命中したのだ。
赤松はその場に膝をつく。
「赤松っ!」
「動かないでぇ・・・!」
沙織は声をしゃくらせながら新しい矢を準備する。
赤松は沙織を見上げる。
「田中・・・さん・・・どうして・・・」
沙織の腕はがくがくと震え、瞳から涙が止めどなく流れている。
「言われたの・・・ギャンブルルームで・・・
棄権はD-4のホテルで申告しろって・・・
でも、そこは禁止エリア・・・
主催者は・・・優勝以外助ける道を用意していないの・・・
誰かを殺さなくちゃ・・・武器を手に入れなくちゃ・・・」
「希望はあるっ!」
赤松は涯を守るように立ち上がる。
「私は標君から“ゲームの鍵”を託されている・・・」
支援
しえん
申し訳ございません。
さるさんをくらってしまいました。
以後はしたらばの一時投下スレに投下します。
どうか代理投下をお願い致します。
了解です
血溜りの中で横たわる標の記憶が蘇る。
心臓がトクンと脈を打つ。
赤松はその付近に手を触れる。
そこには標のメモ帳が存在していた。
「この島では、何度も希望が失われ、絶望の淵に立たされる・・・
しかし、失われたのは希望ではないっ・・・!
希望に対して抱いていた期待だっ・・・!」
赤松の表情が澄んだものに変わっていく。
「それにね・・・田中さん・・・信じられないかもしれないが・・・
涯君は流星のような拳を持っている・・・
彼の力はこのゲームを覆すことが出来るものかもしれないんだっ・・・!」
「赤松・・・」
涯は痛心という言葉をそのまま表したかのような表情で赤松を見つめる。
――どうしてアンタはオレに可能性を見出そうとする・・・。
「希望なんて・・・ない・・・!」
ボウガンから光が飛んだ。
止める間もなかった。
ビシュッ!という音と宙に舞う血痕が赤松の視界に飛び込む。
血が矢をつたい、地面にポトリ・・・ポトリ・・・と滴り落ちた。
矢の先端は赤松の顔の手前で止まっていた。
――何が起こった・・・!
赤松は、まるで時が止まったかのような感覚に陥る。
しかし、それは間違いであるとすぐに理解する。
赤松の背後から腕が伸び、矢を掴んでいるのだ。
この腕の正体は分かっていた。
「涯君・・・」
「田中沙織・・・優勝以外生きる道はないと・・・誰が決めた・・・」
涯は赤松を守るように一歩前へ出る。
手に握っていた矢を投げ捨てた。
沙織は涯の気迫から逃れるように一歩後ろへ下がる。
下がりながらも、涯を牽制するように新しい矢を装填する。
「それは生かされているだけだ・・・家畜と変わらない・・・」
涯は沙織に向かって拳を構えた。
「“人間として生きる”手段が見えている男がいるんだ・・・
可能性があるなら・・・“希望への標”があるなら・・・
オレもそれを追う・・・人間としてっ・・・!」
「ないものは・・・ないのよっ!」
沙織は再び、ボウガンの引き金を引いた。
カクッ!
矢が放つ音どころか、引き金の乾いた音すら聞こえない。
――どうして・・・!
その時、沙織の意識が一瞬切れた。
コンマ何秒の空白の時。
再び、意識が回復した時、目の前に涯がいた。
涯は沙織が引き金を引くよりも早くボウガンを掴み、矢の発射を防いでいたのである。
「二度と同じ手は通用しないっ!」
涯の拳が沙織の腹部を貫いた。
呼吸が止まるほどの激痛と共に、意識が白くなっていく。
「くっ・・・」
沙織はうめき声をあげ、その場に倒れた。
「涯君・・・怪我は・・・?」
赤松は近くの木に寄りかかりながら、立ち上がる。
涯は自身の右手を見つめる。
「矢を掴んだ時に、擦れて少し血が出た・・・
それより、自分の心配をしてくれ・・・」
赤松は微笑する。
「私は平気だよ・・・」
「だが・・・」
「う・・・」
呻くような声は二人の会話を中断させた。
涯と赤松は声の方へ目をやる。
沙織はうつぶせに倒れていた。
しかし、その手は何かを探すように左右に動いている。
意識が回復しかけているのだ。
――くっ・・・こんな時に・・・!
大の大人であっても、涯の拳を食らえば、たちまち意識など吹っ飛んでしまう。
しかし、今回は利き腕が負傷していたこと、女性へ攻撃することへの戸惑いから、
力が無意識の内に抑えられていた。
何より、沙織の生への執着が、異常に早い回復をもたらしてしまっていた。
――きっと、この女は・・・考え方を改めようとはしない・・・!
涯は沙織のディバックに手を触れる。
――ならば・・・せめて武器を・・・。
「待ってくれっ!」
赤松は腹部を押さえながら涯に近づく。
「涯君・・・ここは逃げよう・・・!」
「赤松・・・」
「これからも彼女はここで戦い続ける・・・
今後も武器が必要となるはず・・・
今、私達ができることは目の前から消えることぐらい・・・それに・・・」
赤松は立ち眩んだ。
「赤松っ!」
涯は赤松の腕を自分の肩に回し、体を支える。
赤松はうわ言のように呟く。
「彼女の心の慟哭を聞いてしまった・・・
彼女に死んで欲しくないと望んでいる・・・自分がいるんだ・・・」
涯は肩に力を込める。
「分かった・・・」
「くふぅ・・・」
沙織は腹部を押さえながら、立ち上がった。
すでに周囲には涯と赤松の姿はなかった。
「逃げた・・・」
使用可能な矢は残り6本。
このボウガンだけで生き延びられるとは到底思えない。
「どうして・・・私ばかり・・・」
こんなことをしたくはないのにと、沙織は顔を手で覆い、己の不幸を嘆く。
その時、道に点々と滴っている血痕を発見した。
それは道に沿って続いている。
――赤松さんの血・・・。
本音を言えば、二人には生きていてもらいたい。
けれど、沙織が島を脱出するには優勝する以外に方法はなかった。
二人とも手負いの状態であり、仕留めるには絶好のチャンスである。
――やりたくない・・・やりたくない・・・けど・・・
沙織は顔を上げた。
「武器を・・・手に入れなくちゃ・・・」
支援
涯は赤松を支えながら、一歩一歩踏みしめるような足取りで前へ進んでいた。
周囲は林から森へと、その風景を変化させていた。
月明かりがますます遮られていく。
わずかに差し込む光と足の感覚が頼りだった。
赤松の腕が少しずつだが、重たくなっていく。
――このままじゃ・・・あの女に追いつかれる・・・!
涯がそう考えたその時だった。
「・・・私を置いて・・・逃げてくれ・・・」
赤松はまるで、涯の気持ちを察したかのように呟く。
涯はわなわなと怒りに唇を振るわせる。
「ふざけるなっ!オレを零の元へ連れて行くんだろっ・・・!」
涯は歯噛みする。
目の前の人間すら救うことができない。
己の無力さが腹立たしかった。
逆境下で活路を見出すには、己の力に頼るほかない。
奇跡に縋るのは、愚か者の考えである。
しかし、それでも涯は祈らずにはいられなかった。
――誰か・・・!赤松を・・・救ってくれっ!
「涯っ!」
聞き覚えのある声に涯はハッと顔を上げる。
薄暗いカーテンを何重にも重ねたような闇の中から二人の人物がこちらへ走ってくる。
涯はその人物を知っていた。
「零っ!」
零は急いで二人の元に駆け寄る。
「どうしたんだ・・・一体!」
「赤松が・・・襲われた・・・」
涯がここまで言いかけた時、零と共に現れた男――沢田の顔が不快そうな歪みを見せる。
「おい・・・まさかアイツにか・・・」
涯は振り返る。
豆粒のように小さい人影が目にとまった。
目を凝らさなくては確認できないが、闇にうっすらと映える白いジャケットは、間違いなく沙織のものであった。
「あいつだ・・・あいつは銃とボウガンを持っている・・・」
零と沢田は青ざめる。
二人とも飛び道具になる武器を所持していない。
長距離から襲われたら防ぐ手立てが存在しないのである。
「ちっ・・・」
沢田は涯の代わりに赤松を担ぐ。
「森の奥へ逃げるぞっ!!」
零と涯は頷くと、沢田の後に続き、脇の獣道のような茂みの中へ入っていった。
月明かりが洩れる森より茂みの闇にまぎれた方が逃げられるかもしれない。
沢田達はそう考えていた。
しかし、無造作に伸びた雑草が行く手を阻むように、沢田達の足に絡んでくる。
瀕死の男を一人抱えて、歩行するにはあまりにも不適格な場所だった。
――この選択は間違っていたか・・・。
沢田の心に焦りが起こり始めたその時だった。
視線の先に開けた空間が見えてきた。
「出口だ・・・!」
零と涯に安堵の表情が浮かぶ。
足に自然と力が入る。
――民家を探し、体勢を立て直そう。
そこまで考えていた。
しかし、希望はいとも簡単に絶望に変わる。
森を抜けた時、四人は足を止めた。
四人の心に“ざわ・・・ざわ・・・”と耳鳴りのような緊張が走る。
「嘘だろ・・・」
そこには先へ進む道が存在していなかった。
目の前にあったもの、それは・・・
「崖か・・・」
10メートルほどの高さの、無骨な岩が露出する急斜面の崖である。
この崖はE-3からD-3にかけて道に沿うように走っており、
零と涯が出会った急斜面も今の地点から続いている場所であった。
四人はその崖の岩肌を見下ろすように立ち尽くしている。
「どうする・・・」
沢田は来た道を振り返る。
同じ道を戻れば、沙織と鉢合わせする可能性が高い。
かと言って、他のルートを探そうと、闇雲に茂みの中を進むこともできない。
零のように足を滑らせるかもしれないからだ。
「助かる方法は・・・あります・・・」
その時、赤松が沢田の肩から離れ、直立した。
「涯君・・・これを預かってくれないか・・・」
赤松はディバックから手榴弾を一つ取り出すと、涯にそのディバックを手渡した。
ディバックを受け取った涯の表情が見る見る青ざめていく。
――まさか・・・。
「皆さん・・・」
赤松はその場にいた全員の顔を見渡した。
その瞳にはかつて涯を追いかけることを決心した時と同じ光が宿っていた。
「この崖の岩を足場にして、ロッククライミングの要領で降りてください・・・
田中さんは・・・私が引き止めます・・・」
「やめろっ!他にも方法があるはずだっ!」
涯は痛みを発するように叫ぶ。
赤松は一笑で応えると、左胸のポケットからメモ帳を取り出し、零に差し出す。
「零君・・・これは標君が今まで見てきたことをまとめたもの・・・
君に持っていて欲しい・・・標君の希望だった君に・・・!」
「赤松さん・・・!」
零は唇をかみ締める。
「まだ・・・受け取れないっ!」
零はその場にしゃがみ込むと、突然草をむしり始めた。
――気が狂ったのか。
その場にいた全員が凍りつく。
「おい・・・何をやって・・・」
零は決意を秘めた瞳を全員に向ける。
「聞いて欲しいんだ・・・!これからの策を・・・!」
零は手短に戦術を話した。
全員がその戦術に絶句する。
初めに反論したのは赤松だった。
「失敗したら、全員死ぬことになる・・・!
私一人がここにいれば、皆、逃げることができるんだっ!」
しかし、零は聞く耳を貸すことなく、草をむしり続けていく。
「零・・・」
涯もその場でしゃがみ込むと、同じように草をむしり始めた。
「赤松・・・」
涯は赤松に背を向けながら、淡々と言葉を紡ぐ。
「これは成功する・・・!歴史が証明しているっ・・・!それに・・・」
涯はふっと口元を上へあげる。
「オレは零を信じたいんだっ・・・」
「涯っ・・・!」
零は動きを止め、涯を見つめる。
その表情は今にも泣き出しそうなものであった。
「しかし・・・涯君・・・」
「がたがた言ってんじゃねえよっ!」
赤松はびくっと声の方を振り返る。
沢田が仁王立ちで睨みつけていた。
沢田は夜叉のような形相で赤松の腕に掴みかかる。
「この二人はお前を守りたいんだよっ!
お前を守らなくちゃ・・・こいつらは前に進めねぇんだよ!」
赤松は沢田の言葉をかみ締めるように目を瞑った。
体から熱い感情がこみ上げてくる。
それは零と涯に応えたいという気持ちだった。
――この感情に従いたい・・・。
「分かりました・・・」
沢田は頷くと、零に自分のディバックを突き出した。
「策にはそれが必要だろ・・・」
零は無言で受け取る。
「おい、お前ら・・・!」
沢田は赤松に肩を貸しながら、歩き出す。
「そのディバック・・・後でオレ達に返せよ・・・!」
沙織は赤松の血痕と掻き分けられた雑草を頼りに、森の中を進んでいた。
遠目で確認したため、どのような人物かは判別できなったが、
赤松と涯は誰かと合流したようである。
茂みが深くなるにつれて、“もう諦めよう”という声が沙織の中で大きく響く。
しかし、同時にある言葉が、その警告を妨げていた。
――武器を持っている可能性があるっ・・・!
リスクが大きいが、チャンスでもある。
ここで武器を得ることができれば、それだけ生き残る可能性が高くなる。
沙織は慎重に周囲を見渡しながら、前へ歩んでいった。
やがて、視線の先に開けた空間が見えてきた。
「出口・・・!」
沙織はボウガンを構えた。
こちらが余裕を見せたところで襲ってくる可能性もある。
沙織は身を屈め、じりじりと前進する。
森の出口へ到着した。
そこで、沢田達と同じように沙織も足を止めた。
勿論、そこから先に道がなかったということもあるが、
一番の理由は、崖の手前にある異様な物が目に入ったからであった。
「何・・・これ・・・」
草が台座のようにこんもりと積まれており、その上に持っていってくれと言わんばかりに、
手榴弾やナイフや警棒が川の字に並んでいる。
これらは沙織からすれば、喉から手が出るほど欲しがっているものである。
しかし・・・
「怪しすぎる・・・」
それが沙織の直感だった。
涯も赤松も沙織が武器を欲しがっていることを知っていた。
しかし、いくら赤松がお人よしだからと言っても、わざわざ置いていくことはない。
それに、雑草の盛り上がり方も異常だった。
武器を置くのに、草を敷き詰める理由は皆無である。
しかも、その草は明らかに故意にむしられている。
ここから導かれる結論は一つである。
「これは・・・罠っ・・・!」
涯と赤松が何者かと合流したビジョンが蘇る。
きっと、この罠はあの二人が仕掛けたものだろう。
――けど・・・これさえあれば・・・私は・・・!
しえん
沙織はその武器に手を伸ばそうとする。
しかし、どうしても次の一歩が踏み出せない。
沙織の心の中では、勇気を持って武器を手に取れと奮起させる言葉と、
危険すぎる橋は渡るなという警告が葛藤していた。
沙織は周囲を見渡す。
木々の擦れ合う音が反響のように耳に飛び込む。
沙織の心に様々な疑念が沸き起こった。
――彼らが私の隙を伺って武器を向けていたら・・・
この武器の下に、トラバサミのような罠があったら・・・
その時、沙織の体と心の熱を奪っていくように、風がすり抜けていく。
沙織は手を引っ込めた。
――今は助かることが先決っ・・・。
沙織は踵を返すと、元来た道へ走っていった。
「おい・・・行ったか・・・」
「行ったようですね・・・」
涯たちは沙織が立ち去るまでの間、出っ張る岩を足場にし、へばりつくように崖の斜面に身を潜めていた。
沙織が立ち去ったことを確認すると、四人は崖をよじ登る。
涯は武器を回収しながら、零に尋ねる。
「零・・・これ・・・“空城の計”だろ・・・」
“空城の計”とは、三国志演義で、蜀の諸葛亮が用いた策である。
野戦で敵国である魏に敗れ、城内に逃げ込んだ際、城門を開け放ち、追ってくる敵軍を待ち伏せた。
結果、敵軍は城内に何か奇策があるのではないかと恐れ、撤退した。
あえて、敵に隙を見せることで、敵の疑心を煽る戦略である。
零は目を輝かせる。
「涯・・・三国志知っているのかっ!」
涯の頬に赤みが浮かぶ。
「オレ・・・好きなんだ・・・」
二人は顔を見合わせると、“クク・・・”と照れたように笑い出した。
そんな二人の様子を赤松は穏やかな眼差しで見つめていた。
「赤松・・・さっきは怒鳴っちまって悪かったな・・・」
「沢田さん・・・」
沢田が赤松の横に座り込む。
赤松と同じように沢田も二人の様子を眺める。
「あれがあの二人の本来の顔なんだろうな・・・」
沢田はそこで言葉を切り、赤松を正視する。
「零から話は聞いたが・・・初めて涯と会った時、
標という少年を殺したと勘違いして首を絞めたそうだな・・・
お前の手から逃れた涯を・・・なぜ、追い続けた・・・?」
赤松は口に手を当てる。
「標君がそれを望んでいたから・・・という所でしょうか・・・」
「望んでいた・・・?」
沢田は首をかしげる。
「だが、死んだ人間が頼みごとをするなんて・・・」
“確かに不可能なんですよ”と、赤松はその事実を否定せず、理由を説明する。
「標君を失った時、私は絶望に苛まれていました・・・
全てを投げ出してしまいと願う程に・・・
そんな私を見るに見かねたんでしょうね・・・」
赤松は恥ずかしそうに苦笑いを見せる。
「標君の声が聞こえたような気がしたんです・・・
“涯君を追いかけてくれ・・・”と・・・」
あの時の標の言葉と温かい指のぬくもりが蘇る。
「私はその声で、自分のやるべきことを見出しました・・・
後は、沢田さんもご存知の通り、涯君を追い、零君と出会った・・・」
赤松は標のメモ帳が入っている胸のポケットに手を当てた。
「私は標君から生前、もし、自分の身に何かあったときは、
零君に自分が見てきたことを伝えてくれと言われていました・・・
もしかしたら、標君は知っていたのかもしれません・・・
涯君が零君と出会うことを・・・」
“・・・と勝手に解釈しているんです・・・” と赤松は照れを隠すように頭をかく。
「“侠”だな・・・」
沢田は含みを持った笑みを浮かべる。
「アンタとは、もっと早くから組みたかったぜ・・・」
赤松もクスッと笑い返す。
「私も・・・ですよ・・・」
その時、沢田はあることに気づいた。
赤松の表情は涼しげなものであるが、その呼吸は異様に不規則なことを・・・。
しかも、更に観察すれば、赤松の顔から油がまじったような汗が流れていることを・・・。
「赤松・・・傷を見せろ・・・」
沢田は赤松の服を捲り上げ、腹部をまじまじと見つめる。
「こいつは・・・」
沢田の表情が曇る。
赤松のわき腹にはボウガンの矢が深々と突き刺さっており、そこから血が大量に流れていた。
しえ
すみませんが、代理でさるったのでどなたか代理投下をお願いします
――まさか・・・今まで気力だけで保っていたというのか・・・。
「沢田さん・・・」
赤松の呼びかけに、沢田は反応する。
「ホテルでゲームの説明を受けた時、こんな予感があったんです・・・
“自分はおそらくここを生きては出られないだろう”と・・・」
「赤松・・・それは・・・」
沢田は心臓を針で突き刺されたような驚きを覚える。
その言葉は、沢田が自分自身に感じていた予感そのものだったからである。
赤松の口から静かに血が漏れ出した。
「涯君と零君を・・・頼みましたよ・・・」
赤松の上体がゆっくりと崩れていく。
沢田は赤松の体を抱きかかえた。
「赤松っ!」
零と涯も赤松の異変に気づき、駆け寄ってくる。
「零君・・・涯君・・・」
赤松は胸のポケットからメモ帳を取り出した。
「これは標君が見てきたことを綴っているメモだ・・・
標君は血溜りの中で横たわっていたが、このメモ帳には染み一つなかった・・・
私はそれに標君の意志を感じてならないんだ・・・」
赤松は濁った咳を発した。
――私に残されている時間はほとんどないな・・・。
赤松は自身の最後を悟った。
――妻よ・・・息子たちよ・・・
社長・・・穴平の皆・・・黒沢さん・・・
そして・・・標君・・・
赤松は零と涯に標のメモ帳を差し出した。
二人は黙ってそれを握る。
――これが私の最後の仕事だ・・・。
「生きてくれ・・・未来を刻むことができない標君の分まで・・・
希望は・・・未来は・・・君たちの手の中にっ・・・!」
赤松の手から力が抜けていく。
「赤松さんっ!」
「赤松っ!」
二人の啼泣が遠くに流されていく。
赤松は静かに目を閉じた。
【D-3/森/夜中】
【工藤涯】
[状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷
[道具]:鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 手榴弾×8 石原の首輪 支給品一式×3
[所持金]:1000万円
[思考]:零と共に対主催として戦う
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません。
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 不明支給品 0〜1 支給品一式
[所持金]:0円
[思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D-1灯台のこと、利根川からカイジへの伝言を託ったことなど、
標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
【沢田】
[状態]:健康
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません
高圧電流機能付き警棒 不明支給品0〜4(確認済み) 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ
【田中沙織】
[状態]:精神疲労 肩に軽い打撲、擦り傷 腹部に打撲
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) サブマシンガンウージー(弾切れ) 防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り6本) 手榴弾×1
[所持金]:1億200万円
[思考]:絶望 武器が欲しい 死にたくない 森田鉄雄を捜す 一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒 カイジから逃れる 涯、赤松、その二人と合流した人物(確認できず)に警戒
※標の首を確認したことから、この島には有賀のような殺人鬼がいると警戒しています。
【赤松修平 死亡】
【残り 26人】
代理投下終了です。
作者さん、代理投下の方、乙です。
ここに来て意外な人物が死んでしまいましたが、
結果としては、零たちにとって大きな意味を持つ出来事となり、経験となり、
先行きを見据えれば決してマイナスなことばかりではない、希望ある死だとさえ思いました。
涯と三国志という結構コアな原作ネタも交えつつの大作、本当に乙でした。
作者さんも代理さんも乙!
凄く読みごたえがある作品でした
沙織改心…と思いきや、やはりバトロワ。何が起こるか分かりませんね
赤松さんよく頑張った…!
以外なマーダー沙織が今後どう動くのか楽しみ
あと個人的に応急処置のシーンがお気に入りだ
三国志ネタにも思わずニヤリとしてしまいました
雑学が挟まれている作品は読んでいて楽しいなぁ
>>655様
>>661様
代理投下ありがとうございました。
プロットが四ページだった時点で、嫌な予感はあったのですが、
やはり長くなってしまいました。
代理様にはご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ないです。
ご感想ありがとうございました。
赤松退場と三国志ネタは自分の手で書きたいと思っていたので、
今回、この目標が同時に達成できて、すっきりしました。
ちなみに私の好きな三国志の武将はメイド服に眼帯で戦う綾波似の(ry
死者スレにおまけの話も投下しました。
もし、よかったら、そちらも見てください。
>>656様でした。
度々申し訳ございません。
焼き土下座してきます。
乙です!
一時投下のときにも読ませていただきましたが、本投下のこちらは文章がすごくすっきりして読みやすくなりました。
お疲れ様でした。
赤松の最期に泣けた。
あったかい人間はあったかく死んでいけるんだ…。
沙織はどうなっていっちゃうんでしょうね。
赤松を殺してしまったことで、罪悪感に苛まれるのか、それとも開き直ってしまうのか…。
一騎当千は単なるエロい漫画かと思いきや意外と内容も面白いんだよな
咲もそうだけど、最近見た目萌え漫画なのに知能戦やったりするの多くて嬉しい
そっからカイジとかも読んでもらえるかもしれないしね
正直カイジのあの鼻は表紙買いされないわ
何故に一騎当千の話題が?
空城の計の元ネタが一騎当千だと思ってるわけではないよな?
誤爆なんじゃない?
◆uBMOCQkEHYさんが
>>663で言われている
>ちなみに私の好きな三国志の武将はメイド服に眼帯で戦う綾波似の(ry
部分が一騎当千のキャラのことを言っているので
それを受けてレスをしているのでは?
なるほど
投下乙です!
初期から読んでいるけど、まさか赤松がここまで熱血キャラになるとは思わなかった…。
今回のタイトルで思ったこと。
「希望への標」は以前の「未来への標」と対になっているようだけど、
赤松に方向性という名の未来を示したのが標ならば、
涯たちに希望を示したのは赤松。
対になっているタイトルは実は標と赤松のことを表していると思うと
感慨深いものを感じた。
したらばのほうで予約ktkr
でも平山とひろゆきの約束はどうなるんだろう?
さくっと冒頭で流す感じなのかな
夜中は8時〜10時の間で、ダメギとヒロの待ち合わせが9時だから、
8時〜9時の間の出来事であれば、問題ないと思います。
そして漫画業界も炎上
ttp://set.bbspink.com/test/read.cgi/erocomic/1244221281/ 519 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2009/06/25(木) 06:36:18 ID:OcWa0jOV
電光石火の勢いでエロ漫画業界への侵攻が始まりました
この調子だと、近い内に二次エロ業界全体に核(法規制)も落ちかねんね
[C1802] 1800さん
業界情報で確定です。
たちばな書店秋葉原店の店長が、わいせつ図画〜で逮捕されたそうです。
ソースはニュース報道がないから提示できません。というか、今日か明日に出てくるんじゃないですか?
26日に行われる、審議に向けた警察からのメッセージでしょう。
現在、疑似ロリ系を出版しているエロ本会社の大半が、よっぴきで対策を立てているはずです。
私も情報収集に時間を割かれていて、非常に不愉快です。
疑似ロリ系の関係者は「まさか、レイプレイの騒動がこっちに飛び火してくるとは思わなかった……」と絶句していますけど、2
6日に審議会が開かれるのが分かっているのに、寝込みを襲われる形でやられたのを見るとねぇ……。
どうして、こうシミュレーション能力がないんだろう? ボク馬鹿だから、理由がよくわかんなーい。
2009-06-25投稿者 : 鳥山仁URL編集
520 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2009/06/25(木) 06:39:51 ID:OcWa0jOV
ちなみに現在、ソースURLを記述すると2chに書き込めないという恐ろしい事態になっているので
鳥山仁で検索してくれ。王様を欲しがったカエルというfc2blogのエントリー241のコメント1802。
当分の間、死者はでないと思っていたのに、
6月に入ってから、対主催が二人も退場するとは思わなかった…。(二人とも程々に高スペック…)
対主催とマーダーの比率を考えると、
対主催の退場が増えそう…。
そして、最近、死者スレラジオの更新がなくて少し寂しい…。
>>677 死者スレ、自分も楽しく読んでいたので寂しい。
フリーダムなとこが面白かったのに、水差されてたからなぁ…。
充電期間かも知れないので、気長に待ちたいと思う。
遅くなりましたが、まとめサイトの四槓子の一部を修正いたしました。
変更点は勝負中のカイジの安牌考察描写の追加と四槓子の可能性の示唆の二点で、後の話への影響は一切ありません。
投下するべき時間(予約から3日)から遅刻して申し訳ありません!
今から投下します!
さるったら避難所に投下するのでそのときは代理をお願いします。
例えば、とひろゆきは思う。
ギャンブルルームの陰で、改めて探知機の画面を見つめた。
ひろゆきが目指す光点――仮にそれがカイジだとしよう。
カイジは今、五つの光点に追われているような形だ。
無論、カイジとそれら五つの光点、
つまり五人の人間とがどのような関係なのかすら
現段階では判断できずにいる。
しかし状況はどうであれ、数十分もかからないうちに
五つのうち先頭の光点はカイジに追いついてしまうだろう。
怪我人のカイジが ゲームに乗っている人間の視界に入ってしまえば
それはこの上ない標的、獲物、狙われるのは明らかである。
では、カイジの安全を確保するためにどうすればよいか。
答えは簡単だ。
カイジの背後に光る五つの点のどれよりも速く、
ひろゆきがカイジの元へ辿りつければ良い。
探知機の画面で見る限り、カイジとひろゆきの距離は遠くない。
数百メートル。走れば間に合うだろう。
間に何の障害もなければ、の話だが。
当然、事態はそうシンプルには収まらない。
実際問題、アトラクションゾーン内にいるひろゆきが
アトラクションゾーンの外を北上するカイジと出会うには
鉄の柵が いささか邪魔であると言えた。
アトラクションゾーンを囲うフェンス。
決して乗り越えられない高さではないが、
その際は武器、支給品を先に向こうへ投げてから
フェンスをよじ登ることになるだろう。
僅かなリスクだとしても、間違いなく危険が伴う行動である。
どこかでリスクを負わなければならないのは承知している。
しかし、どの場面でそれを負うべきなのか、判断を見誤ってはならない。
ひろゆきは探知機の電源を切り、静かに日本刀を握りなおした。
夜の静寂が、寒くもないのに肌を粟立たせる。
兎にも角にも、ここギャンブルルーム前から
フェンスが見える範囲まで進むこと。
フェンス越しだろうと、つまるところ
カイジに身の危険を知らすことが出来れば良いのだから、
探知機で光点を確認しつつ ひろゆきも北上していけば、
運がよければフェンスを越えることなくカイジに言伝られる。
もちろん、その可能性は決して高くない。
カイジがフェンスからある程度距離を置きながら進んでいるケースも考えられる。
それは探知機を100メートルに範囲設定しなければわからないことであり、
何にしても、接近しなければ埒が明かない。
カイジがフェンス沿いに行動していなかった場合は
カイジと思われる光点に十分に近づいたところでフェンスを越えれば良い。
敵――その可能性があると見做した五つの光点と
ひろゆき自身との間にフェンスを隔てたまま進むことが出来るというのは
精神的にも幾分か楽である。
「よし・・・!」
自らを鼓舞するかのように呟くと、
ひろゆきはギャンブルルームから離れ、急ぎ足で歩き始めた。
井川ひろゆきという男は
「思うより先に手が出る」という経験を殆どしてこなかった。
つまりは、行動を起こすよりもまず思案。
元来聡明で思慮深い性質であり、慎重さも相俟って
“子供”という立場を脱した頃から すっかり
どうするべきかということを考えた上で実行するようになっていたのだ。
その人間性が良いことなのか、はたまた悪いことなのかというのは関係なく
それが井川ひろゆきであるという揺るがない事実のみが存在する。
考えなしの体当たりなどはしない。
否、出来ない人間、出来ないと自覚した人間だった。
「そういう性格なんだ」
片付けようとすれば ただそれ一言で済む話。
とはいえ ひろゆきは その性格が招いた自身の生き方、本質について思い悩んだ。
社会人になり、自ら選び取った道で日々を送ることになれば、
多くの人間が考える、特に珍しくもない有り触れた迷いだった。
『もしも、別の生き方を選んでいたら・・・』
あの時、麻雀で生きていく道を捨てたのはひろゆき自身だ。
それで納得していた。納得しようと思っていた。
自分を客観的に見つめた上で、“まとも”であることを選んだ。
待っていたのは空しさを覚えることも茶飯事、そんな燻った毎日。
甘んじて受け入れるしかない。
それが社会なのだから――。
ひろゆきの選択は現代に生きる青年として、決して間違いではないのだろう。
だが、彼自身の心に後悔は深く根差した。
支援…!
天や赤木を尊敬し、彼らに憧憬を抱いても
ひろゆきは、天のようにも赤木のようにも麻雀を打つことが出来ない。
技術如何では解決しようもない、本質的な問題だ。
それは、ギャンブルというステージを離れた日常生活に置いても同じこと。
彼らのように生きることが出来ない。
持って生まれた才覚の違い、越えられぬ壁。
それでも・・・
もっと好きなように生きられたなら。
「こうあるべきだろう」という概念を無視できたなら。
その先にあるのは、質量を持った毎日だっただろう。
空虚ではなく・・・ただ過ぎゆく時間などではなく・・・
“生きている”のだと、感じるはずだ。
己の性格を呪ったこともある。
天が、世間体を気にしているだろうか。
赤木が、自分自身を見限ってしまうことなどあるだろうか。
仕事を終えて一息吐くとき、どうしても考えてしまった。
間違っていたのだろうか、と。
彼らと同じように生きようとしたところで――
無論、劣等感は付きまとうであろう。
悔しくて情けなくて、
それこそ、死んでしまいたくなるような出来事にぶつかったかもしれない。
真っ当な仕事に就き、社会の歯車として働き、
やりがいもなく、気がつけば“もしあの時こうしていたら”ばかりを考え
薄く死んでいくような日々と、
いったいどちらがマシなのだろうか。
天秤にかけたところで、答えなど出はしなかった。
東西戦以降 実に9年もの間、ひろゆきは進めずにいた。
時は経ち、否が応にも老けていく。
それでも、ひろゆきは振り切れなかった。
そして、そんな自分を知りつつも、あえて認めずに過ごし続けていた。
このままぼんやりと死んでいくのだろうか、と情けなくも諦めかけていたのだ。
しかし、ひろゆきの心境はたったの一夜で変化を見せることになる。
そう、赤木しげるの告別式を切欠に。
以降――
相も変わらずひろゆきの麻雀は理詰めであったし、
彼は「思うより先に手が出る」経験を重ねることなく今日まで来ている。
だが・・・ひろゆきは己の生き方に確信を持っていた。
赤木しげるのように生きる。
神域の打ち手になる必要も
潔く死ぬ覚悟をする必要もない。
ただ、己の心に沿って生きること。
バトルロワイアルという社会の中にあっても、ひろゆきはそれを実行してきた。
そのせいだろうか。
理不尽なゲームを目論んだ主催者に対して、
不思議なほどに怒りが湧かない。
元より“赤木しげる”に強く惹かれての参加であり、
ホテルの広間で彼の姿を見止めたときの印象が
怒りや絶望といった類の意識を越えて、ひろゆきの指針を定めさせたのだ。
支援っ
死を望んでいるわけではない。
しかし保身、という感覚が消えるほどに
ギャンブルに対する気概が心を燃やしていた。
実際 死に直面したとき
本来の弱さが顔を覗かせることもあるだろうが
それでも、死ぬのが怖いからという理由で選択肢を減らすつもりはない。
ただ、“死ねない”という思いはあった。
赤木しげると・・・
あの赤木しげると勝負をするまでは・・・死ねはしない。
ギャンブルルームから数分ほどすれば
建物の陰から鉄のフェンスが見えてくる。
街頭と月明かりを反射する様子は
まるで内側から発光しているようで、
ひろゆきは少し目を細めた。
再び探知機を取り出し、電源を入れる。
幸い、光点はまだ交わっていない。
それらは数分前より更に北へ歩いた、あるいは走っただろう事に加え
ひろゆき自身が移動したことにより画面上の表示は変化したが
実際のところ光点同士の位置関係は殆ど変わらず、
先刻 そのままの状態を保っていた。
支援!
(カイジについては・・・まだ何も起きずに済んでいるが・・・)
しかし、
カイジ、そして後続の五つの光点の位置関係に問題はなくとも、
探知機の画面上で、ひろゆきにとって芳しくない変化が表れていた。
彼にとって想定外の動きをしている光点が見受けられたのだ。
(誰かが大きく移動してきたな・・・)
そう、ある光点が、ひろゆきの進路を遮るような形で停止していた。
当然、その正体は カイジや田中沙織と思われる光点などではなく
先ほどまではひろゆきの眼中になかった何者か、である。
ギャンブルルーム内で確認した際に気付いていたことだが、
画面上には ひろゆき自身、カイジ、田中沙織、
そしてアトラクションゾーンの外を北上している五つの光点の他にも
複数の光点が存在している。
これまでのひろゆきは探知を100メートルに設定したまま行動してきたため
カイジと分かれた直後、範囲を1キロメートルに変えたとき
想像以上に付近に光点が密集していることを知り驚いたものだ。
とはいえ、全ての光点に気を使っていては頭がいくらあっても足りない。
そもそも、さほど大きくもない島、それも中心部付近となれば
多数の人間が集まっていても何らおかしいことはない。
そのため、カイジと田中沙織だと思われる光点、及びそれに近付く光点、
そして100メートルに範囲設定した際に表示された、
“ひろゆきにとって注意すべき光点”以外は
当分は関わる必要もないものとして思考の外に置いていた。
(俺がこのままフェンス沿いに直進すれば進路上の光点と搗ち合う可能性は極めて高い・・・)
無論、探知機を持っているひろゆきは
この島に閉じ込められた参加者の中で圧倒的優位な存在だ。
どの光点と接触するか、どの光点から逃げるか、
そういった選択の余地がある人間は限られている。
(とりあえずは・・・フェンスに沿って北上・・・!
その考え自体を変える必要はない・・・・)
目下、カイジに危険を知らせるべく動いている状況だが
他の光点に関しても、多少の興味はある。
それらの中に、手練のギャンブラーや
あるいは――赤木しげるが含まれているかもしれないからだ。
ゆえに、行く手を遮る光点に対してひろゆきが選んだのは
『限界まで接近し、相手を窺ってから如何を決める』という行動。
結局のところ今までとスタンスは変わらない。
ひろゆきは探知機をやや乱暴気味にポケットにしまうと
荷物を背負いなおし、走り出した。
フェンスが続く暗闇の向こう、
そこにいるであろう何者かに僅かに期待を寄せながら。
バトルロワイアルの参加者は、一体どのような目的を持って行動しているのだろうか。
優勝のために人を殺すこと。
殺し合いなど馬鹿げていると、ゲーム自体に反旗を翻すこと。
死に恐れを抱き、生存のために逃げ回ること。
井川ひろゆきの“目的”は他の参加者とは異なる、異質なものだった。
強者とのギャンブル。
資金を貯めての脱出を無視しているわけではないが、
重きをおくべきは脱出ではなくギャンブル。
ギャンブル自体の賭け金に多寡は問わない。
そして赤木しげるとの闘い・・・。
長い間 社会の柵(しがらみ)に囚われていたひろゆきが
バトルロワイアルにおいて
生死の選択を迫られるという異常事態に縛られることなく、
己の思うままに行動していることは、
ひろゆき自身にとってしても不思議であった。
しかし、赤木しげるが関係するとなれば
何故か説明がついてしまいそうなことに気付き、
それ自体にまた、ひろゆきは不思議な気分になるのである。
ともあれ、井川ひろゆきから見て赤木しげるは尊敬に値する人物であり
ひろゆき自身の人生を変えた人物であり、
そして今この瞬間にも影響を受け続けている人物なのだ。
昔に比べて随分体力も落ちたものだと実感しはじめたころ、
ひろゆきは探知機を取り出し、再び画面に目を落とす。
気に留めるべきポイントは3つ。
まず、ひろゆきの進路上の光点は、相も変わらずそこに存在しているということ。
カイジの後続の光点はいずれも変わらず北上を続けていること。
最後に、カイジと思しき光点が動きを止めたこと、だ。
(まずいな・・・怪我が悪化したか、何らかの問題が起きたんだろうが・・・・)
後続の5つの光点のうち、先頭のものがカイジのすぐ傍まで近付いている。
ひろゆきが全力で走ったとしても、
先頭の光点とカイジが接触するまでに間に合うことは出来ないだろう。
(いや・・・案外立ち止まったってのは悪くない・・・
走っている最中は後ろから誰か近付いても気付きにくいだろう、
つまり、立ち止まったことにより 背後からの気配に気付く可能性はある・・・!
その上、何らかのハプニングが起きて移動が困難になったとなれば・・・
まずは身を隠そうと考えるはず・・・)
ひろゆきはフェンスの向こう側、アトラクションゾーンの外を見やる。
(林が続いている・・・これだけ暗ければ隠れてやりすごすことも出来るだろうが・・・
もし足の怪我に何かあった場合、隠れるのも厳しいか・・・・?)
呼吸を整えながら、ひろゆきは探知範囲を100メートルに設定しなおす。
画面上に表示される光点が、大きく減った。
中心に光るのはひろゆきを表す点。
そしてその真北に光るのが、進路を遮る「何者か」である。
(80メートルほど先か・・・建物に隠れて見えないが・・・
こいつに気付かれないように移動するには
少し大きめに迂回しなければならないな・・・・。
ここでフェンスを乗り越えるという手もあるが・・・どうするか)
範囲設定を100メートルにしたことにより、
先ほどまでに比べて画面上で動きを視認しやすくなる、はずだった。
つまり、行く手の先の光点が、どこを目指してどの方向に進んでいるのか、
ひろゆきは それを見極めようと考えたのだ。
しかし、ひろゆきの予想に反して、光点はびくとも動かない。
ただ休んでいるだけかもしれないし、
ひょっとしたら死んでいるのかもしれない。
この探知機が首輪自体に反応するシステムなのだとしたら、
生死の判別まではつかない。
兎にも角にも、ひろゆきからは見えない位置・・・
売店の陰に、光点の正体はいる。
(先刻まで移動していたことを考えると、死んだという可能性は低いが・・・)
カイジの身に迫る危険、
そして80メートル先の光点の正体、
ひろゆきは考える。
どうしたいか、どうするべきだろうか。
一刻を争うような状況にあっても、
やはり自分は考え込んでしまうんだな、と自虐的に笑みを浮かべてから
ひろゆきは移動を始めた。
(行くか・・・!)
日本刀を持ち直し、探知機を確認しつつ、売店へ注意深く進む。
70メートル、60メートル、50メートル。
相手方が動く気配はない。
40メートル、30メートル、20メートル。
ひろゆきの心拍数が上がる。
光点との間を遮るものは売店のみとなり、
いよいよひろゆきの手にも力が入る。
(よし・・・)
ひろゆきが更に一歩踏み出そうとした瞬間。
ぱらららららら、と渇いた音が遠くない場所から響いてきた。
「なっ・・・!なんだ今のっ・・・・!」
思わず声をあげてしまい、はっと口を噤む。
銃声、だろうか。
近かった。方角は、北。
まさか、と心臓が脈打つ。
(カイジかっ・・・!撃たれたのかっ・・・?!)
急いで探知機を1キロメートルに設定しなおすも、
指が震えて上手く動かない。
「クソッ・・・!」
悪態を吐きながら、探知機に浮かび上がる1キロ範囲内の光点を確認する。
カイジと思しき点、そして後続のうち先頭の点が重なって見えた。
(間に合わなかったか・・・!)
今すぐにでもカイジの元へ助けに向かうべきだ。
しかし、相手が銃を持っているとわかった以上、迂闊に近付くことなど出来はしない。
(ぐっ・・・)
探知機の淡い光が、ひろゆきの心を余計に焦らせた。
カイジの光点は動く気配もなく、後続の光点たちも徐々に追いつこうとしている。
「ん・・・?」
(カイジは・・・さっき立ち止まった地点のままだとすると・・・
こっちがカイジ・・・)
ひろゆきは、
ほぼ重なっている二つの点のうち、南に位置する方を指差して確認した。
(となると当然・・・後続の先頭だった点がこっち・・・・?)
まだ耳に残る銃声を振り払うように首を振ると、ひろゆきは考える。
(おかしくないか・・・?
一度カイジの傍を通り過ぎたのに・・・振り返って撃つって形は・・・。
むしろ状況としては・・・カイジが撃ったって方が納得いく位置関係っていうか・・・)
1キロメートルに範囲設定した状態では、
詳細な位置関係まではわからない。
しかし、どちらの光点がより北に位置しているのか、という程度ならば
一目で視認することができる。
(・・・カイジが銃を隠し持っていた可能性・・・・
そもそも・・・田中って女に逃げられたわけではなく・・・・
互いに納得した上での離別・・・単なる別行動・・・・・?)
探知機では生死の確認は出来ない。
そのことを悔しく思いながらも、ひろゆきは冷静さを取り戻していく。
(・・・あとは・・・・・カイジだとしてきた光点が・・・・田中である可能性・・・)
支援!!
不確定な要素が多すぎる。
先頭の光点との接触を阻止できなかった以上、
重なる二つの光点同士で何らかのやり取りがあったのは ほぼ確実だとみる。
尤も、その“先頭の光点”も、他の後続の光点から
追われる側であり、逃げる側だったはずだ。
つまり、より危険なのは 更に続く4つの光点が追いついたそのときだろう。
(どうするか・・・・。
銃を持っているのがカイジか田中であれば良いが・・・
相手方だった場合・・・俺が行ったところで敵うはずがない・・・!
俺自身が危険に晒されるとわかりきっている状況・・・身を投じるべきじゃない・・・。
とはいえ・・・平山のこともあるし・・・
光点がカイジだった場合を考えると・・・見殺しにするのは憚られる・・・・。
せめて当初の予定通り様子を見に行くだけでもしたいところだが・・・・・
先の銃声を聞いてからじゃあそれさえ危険・・・・
・・・・・・・平山には悪いが・・・
フェンス越しにC-3の様子をかるく窺うくらいしか俺には出来ないな・・・)
ひろゆきは重々しく溜息をつくと、銃声の鳴った方向を見つめる。
もしもこの瞬間カイジが殺されようとしているのであったら・・・
抱かなくても良い罪悪感を、抱えていかざるをえなくなるな、とひろゆきは思った。
突然。がしゃん、とフェンスが揺れる。
目を丸くするひろゆきだったが、即座に状況を理解した。
誰かがフェンスを、よじ登っているのだ。
これだけ大きく揺れたのだから、すぐ近くでその行動は為されている。
当然、答えはひとつ。
(“光点”が移動してるんだ・・・!)
ひろゆきは売店を回りこみ、
光点が存在するはずの場所へと駆ける。
「待てっ・・・!」
売店の横には 外灯に照らされてぽつりとベンチが置かれ、
先ほどまで存在していたはずの“光点の正体”はどこにも見当たらない。
ベンチの上で、一枚のメモがひらひらと存在を誇示していた。
(もうフェンスを乗り越えた後っ・・・!)
顔をあげ、目をこらすと、
フェンスの向こう、林の方角に人影が見える。
白髪の男、ひろゆきがこの島で強く邂逅を望んだその姿。
「あ、あかぎっ・・・?」
赤木しげる。
ここに居た光点の正体は、赤木しげるだったのだ。
赤木しげるが生きていたことに対する安堵、
これならば警戒ばかりせず、素直に接触すればよかったという後悔、
間近で見たことにより得られる“赤木しげる”が“赤木しげる”であるという確信。
様々な感覚が ひろゆきの胸中を巡った。
今からひろゆきがフェンスを上り、追いかけて彼を引き止められるか。
走ればあるいは・・・。
支援っ…!
ふと、今は亡き赤木しげるの言葉を思い出す。
「負け」の可能性など考えるな、と。
本当に赤木に会いたいのならば、追いつけないなどと考えず、
すぐさまフェンスを飛び越えるべきなのだろう。
考えることで、己の可能性を狭めてきた。
それを赤木に諭されてからというもの
反省もしたし、自分を変えようともした。
その必要がないことに――
つまり、赤木に近付くために必要なのは己が己で有り続けることだと
本当の意味で気付くことが出来たのはごく最近であったが、
それでも時として、考えすぎるという性格は足を引っ張るのである。
ひろゆきは相変わらずなおらない
己の悪癖ともいえる長考に呆れながら
ベンチに置かれたメモを拾い上げ、目を落とす。
『第二回放送後 病院』
綺麗とも汚いともいえない、ただ乱雑な字だという印象だった。
簡潔な単語が二つ。考えるまでもない。
第二回放送後に病院へ来いという伝言。
何を考えての行動かは知れないが、
ここにいた男――アカギからのメッセージ。
あの男が残した ひろゆきにとっての光・・・。
「赤木さんっ・・・・!」
ひろゆきの声に、アカギは一瞬立ち止まったように見えたが、
振り返ることもなく すたすたと歩き去ってしまった。
(間違いない・・・あれは赤木しげる・・・・!)
ひろゆきは赤木の残したメモを大切そうに折りたたむと、ポケットにしまった。
その際、ベンチ周辺に何かが落ちていることに気がつく。
「パンくず・・・?」
ベンチの周りに散らかっているのは、
そう、正真正銘パンくず。
「ってことは・・・・」
食事。
支給された食料――食パンを夕食としてとっていたのだろう。
殺し合いの最中、ひろゆきも相当にズレた人間だと自負していたが、
赤木しげるという人間はそれ以上である。
ベンチに座って悠々と食事していた様子を思い浮かべると
あまりに滑稽で、ひろゆきは思わず笑ってしまった。
(ますます・・・赤木しげるだな)
そして、ひろゆきは確かに
林の奥へ消えていった赤木しげるに、己の望む道を見た気がしたのだ。
【D-3/アトラクションゾーン/夜中】
【赤木しげる】
[状態]:健康
[道具]:五億円の偽札 不明支給品0〜2(確認済み)支給品一式
[所持金]:600万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す 死体を捜して首輪を調べる 首輪をはずして主催者側に潜り込む
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※五億円の偽札
五億円分の新聞紙の束がジェラルミンケースに詰められています。
一番上は精巧なカラーコピーになっており、手に取らない限り判別は難しいです。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※鷲巣巌に100万分の貸し。
※鷲巣巌と第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、
帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。
接触後、情報を引き出せない様ならば偽札を使用。
それでも駄目ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。
【井川ひろゆき】
[状態]:健康
[道具]:日本刀 首輪探知機 不明支給品0〜2(確認済み)
村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 支給品一式×2
[所持金]:1500万円
[思考]:赤木しげるとギャンブルで闘う ギャンブルで脱出資金を稼ぐ
極力人は殺さない 自分の進むべき道を見つける C-3の様子が気になる
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。
※平山と21時にアトラクションゾーン事務所で落ち合う約束をしました。
※赤木しげるの残したメモを読みました。
- - - - - - - - - - - - - - - - -
投下終了です。
支援ありがとうございました!
したらばで予約について教えてくれた優しいおじさんかおばさんかおにいさんかおねえさんっ・・・
ありがとうっ・・・・!
投下乙…!
アカギの描写が自由奔放さをよく表わしていてツボでした。
フワ…とひろの手をすり抜けてまたどこかに行ってしまった…
その余韻を感じさせる文章が良い。
アカギが残したメモも意味深。
ひろの心理描写も良いです。考えこんで行動の時期を逸するのがひろらしい…。
バトロワの世界の中では、慎重、用心深い性格であるほうが有利だと思う。
しかし、ひろはアカギを意識しすぎるがゆえにそれを悪癖と捉えてしまっているのが面白い。
頑張れひろっ…!
したらばの予約スレでレスつけたの自分です。おせっかい失礼しましたっ…!
乙…!
これまたひろゆきらしい作品
たしかに、ひろゆきは赤木に会って人生変わったからなぁ
影響も大きいやな
読んでる側からしたら、銃声についてもC-3での出来事も全部知ってるから
何も知らないひろゆきが色々考えるとこが面白かった
パン食ってるアカギ想像してわろた
圧倒的自由人……!完璧に「まとも」から放たれた人生……!
投下乙です!
ひろの慎重な性格が見事に表れていて良かったです。
アカギがどんな様子でパンを食べていたかと思うと吹き出しそうになった。
書き手氏乙ですっ…
ひろとアカギの接触をひろ以上に楽しみにしていたので
なんとかフラグが立ってうれしい限りです よかったな…ひろ…
アカギとパンっ…
アカギ「なぁひろ…この世で一番旨いものは何か知ってるか…?」
ひろ「ボクサーは水だと聞いたことありますけど…」
アカギ「誰がボクサーだ、誰が」
ひろ「じゃあ…バトロワ中に食べる食パンですか?」
アカギ「それは人の心………いやパンは単なる腹拵えだ」
ひろ「うっ…!…………そ…そうですか…」
アカギ「………?」
ひろ(真似してみたなんて言えないっ…!)
赤木とひろの接点キターー!
二人しか出てこないのに、双方のキャラクターがよく表されていてひたすら感心っ…!頑張れひろ…!
パン食べる赤木を想像して電車の中で吹いた さすがしげる…
まとめサイトをアップしている者です。
以前、リクエストがありました、首輪リストが完成したため、
もし、差し支えがなければまとめサイトにアップしたいと考えております。
どうかご意見をよろしくお願いいたします。
いつもありがとうございます。
首輪リスト、是非是非お願いします!
>>728様いつもお疲れ様です。
まとめサイトがどんどん充実していきますね。
首輪リストがあると大変ありがたいです。
さて…投下いたします。
731 :
抵抗1/12:2009/07/03(金) 02:53:09 ID:OdHfbIis
ザッ…。ザッ…。
痛む左足を引きずりながら、カイジは懸命に走っていた。
アトラクションゾーンを抜け、E-3の大通りの脇を南下していた。
平山に出会ったおかげで手に入れた地図を見直し、考えを整理することが出来た。
沙織がもし逃げるとしたら、南だ。カイジはそう考えていた。
ひろゆきに出会う前、沙織と話し合って行く先を決めたとき、
沙織はしきりに南へと行くことを提案していたのだ。
北はアトラクションゾーン。有賀を殺した忌まわしい場所。沙織はそこから遠ざかりたがっていた。
ゆえに、北へ行くことはまずありえない。
南へ行ったとすれば、D-4の禁止エリアの行き止まりを迂回するため、
まずは今のカイジのいるE-3を、田中も通ったのではないか、と考えた。
カイジの考えは理にかなっている。
ただ…。カイジは知らなかったのだ。
カイジを裏切った後、沙織がどのような悪夢に出会い、どのような行動を起こし、
どのように絶望をしたかなど…。
合理的に考えたが故に、沙織とは遠ざかりつつある。
その事実に気づくことなど出来るはずも無い。
平山と別れてから、カイジの胸に先程とは別種の焦りが生まれていた。
田中沙織に裏切られ、後を追っていた先程までは、ただ混乱し、
沙織の身を案じ、無我夢中にそこらを彷徨っていた。
……何故裏切るのかと問い質したかったのかもしれない。
沙織に対し怒りの感情が無いと言えば嘘になる。
だが、今は、平山と出会い安堵し、その心の緩みが、むしろカイジの心を苦しめていた。
『田中沙織は銃器を持っているんだろう・・・?
もはや敵同然の相手を捜して動くのは危険なんじゃないか?』
平山の助言。その可能性、まるで考えなかったわけじゃない。
しかし考えたくなくて、平山に指摘されるまでは頭の片隅に追いやり、目を背けていた。
もし沙織が自分に銃を向けたら…?
カイジの足が止まる。そうなっちまったら…オレはっ…。
(…その時は…その時っ…!)
カイジは己の弱気を振り切るように首を振り、再び周囲を警戒しながら走り出そうとした。
ガサッ…。
背後から僅かに葉の擦れあう音が響き、カイジは反射的に振り返った。
「誰だっ…!」
静寂。しかし、確かに人の気配がする。
カイジは音のした辺りを睨みつけた。
もし銃火器を持った相手ならすでに撃たれているか威嚇されている…はず。
「フフ……。」
数秒の間隔を空けて、木々の影の間から平井銀ニが姿を現した。
「あなたは伊藤開司君ですね…。私は…」
「平井銀二っ…!」
「おや…」
銀二の姿を認め、よりいっそう警戒心を強めるカイジに対し、銀二は意外そうな声を上げた。
「私のことをご存知なのですか…?」
「近寄るなっ…!」
銀ニが木陰からカイジに歩み寄ろうとすると、カイジは低い声で唸った。
「何だっ…?オレに何か用かっ…?」
「ええ…用があるんです…。私はあなたを攻撃するつもりはありません…」
銀二は両手を軽く挙げてみせ、武器の類を持っていないことを示す。
「他の参加者からあなたの噂を聞きまして、是非話をしてみたいと思ったのですよ…」
「悪いが、今忙しいんだ。のんびり話をしている時間はねえっ…!」
「そうですか…。誰を探しておられるのですか?」
「……………」
「実は、先程平山とあなたの会話を盗み聞きしていました。
距離があったので、聞き取れたのはほんの一部の会話だけなのですが…。」
「…オレから何を探ろうって言うんだ?“第一級危険人物”さんよ…!」
カイジが挑戦的な目で銀二に問いかけ、銀二は目を細めた。
「危険…?」
「そうだっ…!」
「…なるほど、あなたは『参加者名簿』を持っているのですね。少なくとも…目を通したことがある。」
「! ………。」
「何…。私が『危険』だと目されているのは、人殺しの能力に長けているからではありません…。
いかに生き残るか、その処世術を買われているに過ぎない…」
銀二の言葉に引っかかりを感じ、カイジは思わず問い返した。
「…処世術?」
「そう…。私はこの島に来るまでは、スパイのようなことをやったり、
世間で言う大人物の尻拭いをやったり…。
そんな世界で生きていると、命を狙われることもある」
「……………」
「その中で生き残っていくには、悪運だけでなくちょっとした技術が要る…。」
「……………」
カイジは、黙ったまま銀二をじっと見ていた。
(フフ…警戒は解かない…か。だが、手ごたえはあったな…)
少しずつ言葉尻を変えながら、じわじわと相手との距離を詰めていく。精神的距離を。
興味を持たせられればこっちのもの。すでに奴の意識はオレの手中にある…。
「ところで…その足、怪我をしてるじゃないか」
「えっ…?」
「動かすのに支障はないようだが、化膿すれば大変だ。破傷風になれば命を落とすことだってある。
すぐに手当てが必要だ…」
「………」
銀二は背負っていたデイバックを降ろし、水を取り出した。
「まだ開封していない水がある。これで傷口を洗い流そう…。
ここでは道路から目立って危険…。茂みの奥へ移動しよう」
銀二はカイジに背中を向け、茂みの中へと歩きかけて止まる。
ゆっくりとカイジのほうを振り向いた。
「…どうした?来ないのか…?」
「……………」
「…信用できないか。…お前次第だ」
銀二はそう言うと再び背を向けた。
「くっ……!」
しばらく逡巡していたカイジだが、やがて銀二の後について歩き出した。
銀二は茂みの中に手ごろな倒木を見つけ、それにカイジを座らせた。
ペットボトルの水を惜しげもなく流し、ジーンズの上から傷口を洗う。
左の太ももを二箇所、銃弾を貫通した傷を洗い流し、デイバックからまっさらな白い布を取り出して、
手ごろな太さに裂き、カイジの足に巻きつけた。
「……手際がいいんだな」
「なに…以前にも一度手当てをやったことがあるんでね…。
見た目ほど深刻な怪我ではないようだ…。良かったな。
もし動脈を掠めるような怪我だったら出血で命を落とすことだってある…」
「……………」
「何か言いたそうだな、カイジよ」
「………なんで、ここまでしてくれる…?」
「お前は何故オレについて来たのだ…?」
問いを問いで返す銀二に、カイジは眉をしかめながらぼそりとつぶやいた。
「背中を見せただろう…。いくらオレが丸腰だからと言っても、油断しすぎじゃねえのか?」
「フフ…。相手を見た上での行動だ。油断じゃない」
「信用するに足る何かがあったのか…?」
心から不思議そうに、真っ直ぐにこちらを見てくるカイジに、銀二は既視感を憶えた。
「そうだな…。長年、人間を見てきた経験の積み重ねってやつだ」
「……………」
カイジは両手を上着のポケットに突っ込んだ。
右のポケットには果物ナイフが入っている。ナイフの柄をポケットの中で握る。
丸腰ではないのだ。
だが、今これを、目の前にいる“得体の知れない危険人物”に向ける気にはなれなかった。
「…さあ、これでいいだろう」
すっかり布を巻き終え、地面に片膝をついていた銀ニは立ち上がった。
「ありがとう」
「何…。単なる善意じゃない。下心があるのさ」
「…いいのかよ…?利用しようとしている人間にそんな事言っちゃって…。」
「フフ…。口先で奇麗事を並べ立てるより、そのほうが余程信用できるだろう…?」
半ば呆れ顔で言うカイジに、銀二は口元を緩めた。
「先程の話に戻ろう。お前は誰を探していた…?」
「………。」
「言いたくないのか…?」
「………この島に来てすぐ、ある女性と仲間になった」
カイジは、敢えて名前を伏せて話をした。
これから話す内容により、平井銀ニが田中沙織を『危険人物』だと認識してしまうのを恐れたのだ。
沙織が裏切って逃げた時点で、8300万もの金を持っていたのだ。
あと二人、金を奪うという目的で沙織が殺しに動くことは容易に想像できる。
警戒するなというほうが無理である。
しかし、できるだけ沙織に不利な状況を作りたくなかった。
銀二がどこまで参加者のことを知っているのかはわからない。
しかしそれでも、個人を特定させないことで、沙織が矢面に立たされる可能性を極力避けた。
銀二には興味があるが、まだ信用はできない。
しかし沙織を庇いたいからといって、銀二が沙織に襲われるのは不本意である。
だから、銀二が最低限は警戒できるよう、『女性』と告げたのだった。
□
「……それで、お前はその女を追っているのか」
「ああ…。一刻も早く伝えてやらないと…!」
カイジは銀二に、『ある女性』が裏切った経緯をかいつまんで話した。
『棄権が出来ない』という考察については筆談で伝えた。
「…何故そんなことをする必要が…?」
「え…?」
銀二は、怪訝な顔でカイジに問いかけた。
「お前を裏切った人間に対し、何故お前がそこまでしてやるのだ…?」
「だから、それまでに色々と助けてもらって…」
「武器も奪われたのだろう…。そんな状況で女を見つけてどうする…?殺されに行きたいのか…?」
「…そんな、まだそうなると決まったわけじゃない…」
返答する声が弱々しい。
「いいか…。オレがその『裏切った女』なら、お前の顔を見るなり撃ち殺すだろう」
「……そんな…」
カイジは俯いてしまった。
「お前は、『その女』が人間的な一面もある、悪い人じゃないと庇うが、人間的な一面があればこそだ。
お前に対し罪悪感を感じているなら、お前が追ってきたことを知り、女が考えること…。
それは、『復讐される』『奪ったものを奪い返される』…だ」
「オレがそんな…!」
「まして…自分はかよわい女なのだ。
自分が裏切った男に追いつかれて、話を聞こう、なんて余裕があるわけがない。
お前が今やろうとしていること…。
それは、助けてやろうとしている相手を追い込み、その手をさらに汚させることに他ならない…!」
しえん
銀二はいったん言葉を切った。僅かの間、静寂が訪れる。
さら… さら… と風が葉を揺する音が聞こえる。
茫然自失のカイジに、銀二はなおも言った。
「…それにしても、裏切った相手に対してよくそこまで情けをかけられるもんだ…。
その女は自分の意思で裏切り、行動してるんだ。放っときゃいいじゃねえか…」
「……それはできないっ…」
「…何故だ?」
「アンタは、この殺し合いに乗っているのか…?」
「何……?」
カイジは顔を上げる。鋭い眼光が銀二を捉える。
「オレは…乗りたくない…!
誰かに殺されること…。誰かを殺すこと…。そして、見殺しにすること…。全て御免っ…!
見殺しにするのがわかっていて、それを放っておくことなど、オレにはできないっ…!
人が死ぬのが当然の島にいることで、皆、感覚がおかしくなってるんだ…!
殺されるのが当然…?見殺しにしても仕方ない…?
そんな考えこそ主催者の思うツボ…!腐った主催野郎の思惑通り…!」
カイジは立ち上がり、拳を握り締めた。
「ふざけろっ…!オレは乗らないっ…!絶対思惑通りになんかなってやらないっ…!
オレは抵抗するっ…!断固拒否するっ…!
たとえ、既に手を汚していたからといって、そのまま流されてなんかやらねえっ…!」
「………手を…?」
「そうさ…!」
しえん
銀二が呟いた言葉に、カイジは反応した。
「有賀という男…。この島にぴったりの愉快犯…!
その男は、そのとき既に6800万持っていた…。6人は殺していた計算…!」
「有賀を殺した……?」
「ああ…。そいつに襲われて…足を撃たれたんだっ…。
それで…助かるために…、一緒にいた女性と…………。
正当防衛かも知れないが…。結果的には人殺し…!そのことに変わりは無えっ…!」
「……………」
「怪我の手当てしてもらって助かった…。アンタのことについても興味がある…。
けど…、オレとアンタはこの島のゲームに対するスタンスが違うようだ…。残念だ…。」
カイジはそう言い残して、その場を去ろうとした。
「カイジ…。オレはそうは思わない」
銀二はカイジの背中に言葉をかけた。カイジは立ち止まるが、こちらを向こうとはしない。
「確かに、お互い他人に対しての感じ方は違うようだ…。しかし、それは単に性格や個性の話…。
それだけで協力者になれない、などと考えるのは早計だ…」
「……………」
「『目的』が同じであれば、協力は出来る筈…。
お前が気の済むまで女を捜し、女と和解してみせるか、もしくは諦めがついたら…。
組まないか…?」
「……………」
「『人間』を探していたんだ…。」
「……人間…?」
カイジが振り向くと、銀二は静かに微笑んでいた。
しえん
「そうだ…。こんなイカれたギャンブルの中でも己を保っていられる…。
『まっとうな人間』を…。」
「……………オレが…?」
「お前が言い出したんだぞ…この島にいたらおかしくなる…。だがオレはそうならない、とな…」
「…………アンタはどうなんだ…?」
「フフフ…。オレは…。この島に来る前から、日常的に殺し合いの渦中にいたのだ…。
今更、怖気づくような可愛げは残っちゃいない…」
「そうか…。」
「明日の夕方、オレはE-4の商店街にいる…。それまでゆっくり考えてみることだ…」
「……わかった」
カイジが走り去った後、銀二はゆっくりと茂みから大通りまで戻ってきた。
そして、薄く笑う。
銀二を取り巻く周囲の闇が、僅かに濃く、深くなる。
(奴がもし再び女と遭遇すれば、修羅場は必至だが…。それも試練…。
その程度の修羅場くらい、乗り越えて生き延びるような奴じゃなければ話にならない…。
良い人材だ…。いや…。
良い手駒だ…。グループの中心に据え…傀儡にするにはもってこいの手駒…!
その影で…策を巡らせるオレの隠れ蓑になってもらおう…。
奴には背負ってもらう…。『光』という名の十字架を…!)
しえん
【E-3/大通り/夜中】
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済み)
[道具]:果物ナイフ 地図 参加者名簿 島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、
旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
[所持金]:なし
[思考]:田中沙織を捜す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
平井銀二の仲間になるかどうか考える
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※脱出の権利は嘘だと確信しました。
※明日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0〜1、支給品一式、褌(半分に裂いてカイジの足の手当てに使いました)
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す
カイジの言っていた女に興味を持つ バッティングセンターに向かう
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にいるので、カイジに来るようにと誘いました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
※『申告場所が禁止エリアなので棄権はできない』とカイジが書いたメモを持っています。
*****
以上です。支援ありがとうございました…!
投下です乙・・・!
さすが銀さん!俺たちに出来ない事を平然とやってのける!そこに痺れる!憧れるゥ!
カイジだってただのニートじゃないから 二人の関係がどうなるかはカイジ次第・・・
いや・・・すべてが既に銀さんの計画のうちか・・・?
先が楽しみです。
銀さんとカイジの会話かっこいいなぁ…と思いつつ、どうしても褌で噴いてしまうっ…!
こんなもん支給品にした野郎、誰だっ…!
まとめサイトをアップしている者です。
投下お疲れ様でした。
少しずつ銀さんの目論見が明るみになりつつありますね。
沙織からどんどん遠ざかっていく状況にもどかしさを覚えてしまいました。
今後の展開にも期待です。
まとめサイトに首輪リストをアップしました。
もし、間違いなどがありましたら、ご連絡をお願いいたします。
首輪リストお疲れ様です!
>>728 首輪リスト読ませてもらいました。ありがとうございます。
対主催者の位置に立つ参加者が首輪の攻略を、どうするのか…
2つも持っている人がいる。
状況説明 さくらちゃんのところで不謹慎ですが笑ってしまいました。
安藤さんの状況説明は容赦ない感じですが、美心の状況説明には
なんとなく、葬った黒沢さんへの尊敬?が感じられました。
ラジオ楽しみにしています。
日程は12日で最終決定でしょうか?
>>753 そうですね。
12で最終決定になりそうです。
できれば、スカイプを利用してラジオに参加したいのですが、
確か、スカイプにつなげる時はその相手の名前やメルアドで
相手を検索して繋げるんですよね。
その繋げるためのアドレスは当日貼られるラジオのアドレスで
問題ないのでしょうか?
えーっと。
スカイプ乱入の場合僕のHN(R-0109)で検索していただいて、コンタクトを追加していただければOKです。
当日こちらから発信いたしますので着信いたしましたらラジオを切ってから通話に出てください。
ありがとうございます。
家に戻り次第、コンタクト追加させていただきます。
仕事の関係上、少し遅れての乱入になるとは思いますが、よろしくお願い致します。
明日のラジオ、楽しみすぎて眠れない…。
どうしよう…。
明日、どれだけの方がラジオに参加してくださるのでしょうか?
個人的に書き手さんがラジオに乱入して下さると嬉しいです。
裏話とかあれば、聞いてみたい…。
ラジオ楽しみだ…!自分は乱入予定です。
ラジオが楽しみすぎて投下したいのに書き進まない
>>761の書いてる話wktkして待ってます。
あー早く夜にならんかな
ラジオ今夜か
乱入は出来ないけれど視聴と実況は参加するよー
ラジオを聞くだけならば、winメディアプレーヤーでできるのでしょうか?
ちなみに書き手です。乱入とかできずに申し訳ありません。
>>764 出来ますよー
Windows Media Playerなら、“URLを開く”にラジオアドレスを入力すれば聞けると思う
ほんと楽しみだ
福本ロワについてみんなで盛り上がれるなんて
楽しみすぎる…。
本日、乱入という形で参加します。
興奮しすぎて暴走しないように気をつけたいです。
ちなみに書き手です。
過去ログ読み返してたら、去年の今日はOP投下最終日だった
ラジオは書き手さん多数参加らしくてwktk
スカイプ無理な書き手さんからも色々聞いてみたい話とかあるからな
熱い夜になりそうだ・・・
ちなみに皆さんどんな質問をする予定ですか?
やはり作品の裏話とか、苦労話とかですか?
今後の展開について軽く話し合いなどもできたらいいな
苦労話や裏話は聞いてみたい…。
ただ、今後の展開は読み手さんも聞いているから、
誰々は生き残ってくれるといいねとか、
これどうなっちゃうのかなとか希望的観測ぐらいがいいかも…。
個人的に書き手さんの性別が気になる…。
何人か女性かもしれないって予測している方がいるから…。
展開の話し合いは別日にチャット借りて簡易会議のほうがいいんじゃ?
先の話は一切見たくないって人もいるだろうし。
苦労話とか、自分の書いたもののなかでのお気に入りとか聞きたいなぁ。
あとはどうやって書いてるかとか
本当は一番好きなキャラも聞きたいけどこれ聞いちゃうのはNGかな。
772 :
771:2009/07/12(日) 13:03:23 ID:???
リロってなかったすまん
>別日にチャット借りて簡易会議
ぜひやりたいです
また話し合いしましょう
好きなキャラは別に良いでしょ
まさか「そんなに人気あるなら俺じゃ殺しにくいなあ」なんて書き手はいないだろ
>>774 いや、そうじゃなくて・・・
まぁ答えたくないことはスルーすればいいんだし杞憂かな
書き手だけを対象に好きキャラ質問したら微妙だけど
福本ロワ読んでる人(ラジオスレにいる人)みんなに聞くんだったらいいんじゃね
あーラジオ楽しみ
好きっていうか書いてて楽しいキャラとか難しいキャラは興味ある
あと一時間半でラジオっ…!
楽しみすぎて胸がざわざわする
ラジオ途中までしか聞けなかったorz
もう後から聞くのは不可能?
ラジオお疲れ様でした
いろいろ聞けて楽しかったです
お疲れ様でした!
お疲れ様でした!
お疲れ様でした!
これからもよろしくお願い致します。
実況スレにラジオのまとめ音声が貼られてるんだ…ぞっ…!
坊ちゃんに新設定がw
坊っちゃん、是非、書き手として来てくれないかなぁ…。
実はこのスレの書き手全員ぼっちゃん
それより坊ちゃんの本を冷静に批評できるカイジの下地が気になる
今週のヤンマガを読んで、もし、福本ロワ2ndが行われることになったら、
アリサ、参戦するんじゃないかと、そんな予感を覚えた…。
2ndがあったら辺ちゃんとかも参戦してほしい
あともっと一般人キャラ増やしてほのぼのした空気欲しい
もし、2ndで追加キャラが可能なら、
黒沢からは坂口、浅井、小野。
銀と金からは安田、巽、船田、美緒。
涯からは安部、池田、小川。
零からは小太郎、ユウキ。
天からは赤木、曽我。アカギからは吉岡、鈴木。
カイジからは村上。
…の参戦があると個人的には嬉しい。
辺ちゃんも山崎さんも銀ヤンマの銀さんもいてくれたら嬉しい…。
後、ある意味、必要なのは、古畑、前田、ヒロシ辺り…。
まずは…今のロワを完結させてからの話なのですが…。
銀と金からは川田、画商、梅谷さん、西条、カムイとゆかいな仲間たち全員
あたりもたのむ
零勢とか黒沢勢が増えたらコメディーな話が増えそうだ
銀金勢が増えたら原作ではちょい役でもバトロワでは活躍しそう。
さて…まず1stを進めないとね
そろそろ次の放送タイムだし
2ndは1st参加者ゼロで頼むぞ
無理ゲーすぎるwww
1ndで生き残った人達を
クルマに乗せて、崖からダイブさせて
生き残った人が2nd参加にすればいい。
>>798 生存者零っ…!
作品投下したいけど夏の祭典の締切に追われてる。
大学生も試験あるし忙しい時期だな
最近の投下ラッシュが福本ロワでは珍しい現象だったわけで…。
今は小休憩かも…。
そして、空気を読まずに、
もし、2ndが出るなら、
山口を活躍させてあげたい…。
802 :
マロン名無しさん:2009/07/19(日) 01:13:38 ID:PbeOTy0b
落ちそうなのでage
今日、現在位置の手入れを行いました。
もし、間違っている点などがございましたら、ご連絡をお願い致します。
>>803 乙です〜
けっこう複数のエリアに固まってたりしますねぇ
保守 保守 保守 ときたから
もう保守はない などという考え方はまさに泥沼
嵌まっている…!すでに泥中 首まで…!
奴隷は二度保守っ…!
保守
808 :
マロン名無しさん:2009/07/30(木) 10:55:42 ID:VDWTw4JU
圧倒的保守っ・・・!
809 :
マロン名無しさん:2009/07/30(木) 16:57:31 ID:IXvQsgK4
しゅっ・・・しゅっ・・・!
ふうっ・・・!
昔ここで書いてたなあ、なつい
なんか、「かつては書いてた」人多いよねぇ。
トリップを知りたいです。
たしかこれか
これのどっちか
どっちもヒットしなかったら騙りの戯言と思っておいて
もうずっとロムってすらいなかったけど、結構「かつての書き手」って多いんだ…
まあ、一応言いたい事は作品で表したつもり
したらばの方の破棄スレにだけど
多分上だね
>>813 お久し振りです。
あの没ネタ投下スレの作品を見た時悩んだのが、
その少し前にあった本スレの荒れ具合に対しての抗議なのか
私の投下した話に対しての抗議なのか
分からなかったことです。
後者なら申し訳なかったと思ってる。
前者ではない、とだけ申し上げておきますが、貴方が謝る必要は全くありませんよ
前半を書かれた方か、後半を書かれた方かは解りませんが、そのポジティブな思考は見習いたいです
では
後編の方です。
没ネタスレで投下されてたとき、トリップをつけて投下されていたのを見て、
書き手氏の意見として、あの話を投下されたのだという意思が伝わりました。
ずっと心に引っ掛かっていましたので、直接確かめることができ良かったです。
あなたの作品は言葉に力があって好きだ。
和也の話が特に印象深かったです。
ですから、あれ以降投下がなくなったのがとても残念でした。
話引っ張ってすいません。
長文失礼しました。
今更出てきて昔は書いてただの云々と上から目線で今は興味ないアピール
胸糞悪い文章書いて批判したつもりとかしょうもないことやりやがって
興味ないならわざわざ書き込むなや
何様のつもりだ
820 :
マロン名無しさん:2009/07/31(金) 18:44:52 ID:7oLqO/o1
前、ニコ動の話で本スレが荒れた原因を作ったのは私です本当に申し訳ございませんでした・・・orz
おはようございます。
先日のラジオを聞いてくださった方、感想を下さった方、
ありがとうございました。
本日は作品が完成し、投下の段階に入ったのですが、
アク禁のため、したらばに投下します。
(今、携帯から書き込んでいます)
そのため、大変申し訳ないのですが、代理投下をお願い致します。
ちなみに今回も長いです。
本当に申し訳ございません。
822 :
マロン名無しさん:2009/08/02(日) 16:39:44 ID:EwR1kLwB
作品きたー
楽しみです!
しづかに服を着せてあげたくて即予約したいが、服を着ようと思うまでの心理描写や、服を着ること自体の描写が思いつかないっ……!
一部の書き手のように話の大まかな部分を考えてから書くべきか?
>>823 こっちでの本投下がまだだから焦っちゃ駄目よ
だが気持ちはわかる。
家に帰ったら代理投下させてもらいます
話を書く上での相談でしたら
したらばの会議スレの方に書いてください。及ばずながら、アドバイスもできるかと思います。
一条は革靴独特の甲高い音を響かせながら、ホテルの階段をかけ上がる。
二階へ着くと一条は辺りを見回した。
一条が目指す部屋は21号室。
部屋の番号は、十の位はその階を表し、一の位は各部屋を表す。
部屋は階段を挟んで、左側が下一桁1から5号室、右側は6から9号室である。
非常灯の光を頼りに、一条は左奥にある21号室のドアをはね除けるように開けた。
「しづかっ!」
そこにあるのは僅かに開いた窓と月明かり――しづかの姿はどこにもなかった。
「しづか・・・」
一条はうつむき、肩を震わせる。
その姿は、あたかも体の中から憎しみが獣の姿を借りて破り出てくるようであった。
「しづかぁ・・・」
一条の口から、姿の見えぬ相手を威嚇するかのような呼吸が洩れる。
「しづかぁー!!!!」
一条は手前にあった椅子を蹴っ飛ばした。
それを皮切りに、恐れを知らぬ強盗のように、周囲の家具を手当たり次第に荒らす。
板倉が“ハブの毒”というハッタリを言わせざるを得ない程度の毒であるため、一条が打たれた薬品は直接死に繋がるものではないはずである。
しかし、あくまでも“命は奪わない”という最低限のハードルをクリアしているに過ぎない。
もし、このまま血清が見つからなければ、どのような後遺症が残るのか分からない。
後遺症が残れば、カイジへの復讐を成し遂げることができなくなる。
その焦りが一条に冷静さを失わせ、狂人とも言うべき行動へ走らせていた。
ベッドを力のままにひっくり返し、クローゼットを漁る。
その時だった。
――風・・・。
頬に冷気を感じた一条はふっと顔を上げた。
その先には上等な絹帯のような月光が洩れる窓と、一条を手招きするかのように揺れる分厚いカーテンがあった。
一条は無言でその窓に触れる。
闇を染み込ませたような風が一条の体をすり抜けた。
一条は目を瞑った。
――私としたことが・・・。
風は一条から体温と同時に怒りの業火も体から奪っていた。
一条は小さく呼吸をすると、瞑目した眼をおもむろに開く。
すでに獣の姿は影を潜めていた。
一条は窓の両脇に目をとめる。
そこにはあるべきものがなかった。
――避難はしご・・・。
消防法施行令第25条において、収容人数が30人以上の施設――旅館・ホテル・共同住宅寄宿舎などでは、
その階ごとに定められた避難器具を設置することが規定されている。
滑り棒、避難ロープ、避難用タラップなど、避難器具は多種多様であるが、その一つが避難はしごである。
避難はしごは窓の両脇どちらかに設置される。
しかし、このホテルではそれがまったく存在していなかった。
そのほかにも、このホテルには一条の目から見て不自然な点があった。
このホテルでは、ほかの階へ移動するための手段は中央に存在する階段一ヶ所のみであること。
建築基準法施行令121条では、ある一定以上の広さを持つホテルは避難階に通じる2つ以上の直通階段を設けなければならないと規定されているため、これでは法令違反である。
また、各部屋の窓は拳一つ分程度しか開かない構造であるにもかかわらず、緊急時、窓を全開にする避難装置の取り付けがないこと。
ホテルなどでは縁起が悪いとして避ける部屋番号の下一桁4と9がそのまま使用されていること。
ホテルの客室の鍵が廊下側からしか閉めることができないことなど・・・
つまり、このホテルは欠陥構造なのである。
しかし、欠陥と決め付けるのはまだ早い。
杜撰な建築と思わせておきながら、
各部屋の窓は通常のガラスの3〜5倍の強度をほこる強化ガラスという
用心深いほど頑丈な造りになっているのだ。
――まるで・・・ホテルに見せかけた監獄だな・・・。
一条は鼻で笑う。
その時だった。
キィ・・・。
奥で僅かに木が軋むような音。
「誰だっ!」
その声と同時に、大きな靴音がばたばたと転がるかのように階段を駆け下りる。
「しづかっ!」
一条は板倉のディバックを拾い、足音を追いかける。
一条の口元には不敵な冷笑が浮かんでいた。
少し話は前に戻る。
しづかは発砲音を聞きつけ、廊下へ出た後、3階へ続く階段の踊り場に身を潜めていた。
しづかは先程の発砲音をこのように解釈していた。
――ホテルに侵入した誰かに対して、一条と板倉がそれに応戦したっ・・・!
二人が銃を使用する程の相手である。
このゲームに乗っている人物である可能性が高かった。
そんな相手に対して、自分に何ができるのか。
しづかが所持している武器は板倉から預けられたハブの毒だけである。
それを持って、二人の前に現れた所で、足手まといになることは目に見えている。
かと言って、二人を見捨てて逃げる訳にもいかなかった。
また、このホテルの階段は学校の階段のように螺旋状に組まれており、下から覗けば、上ってくる人物を断片的ながら確認することができる。
それがしづかをホテルへ留まらせ、3階の踊り場で様子を伺うという選択をさせた。
靴音が階段に響き渡る。
――誰か来たっ!
しづかは首だけ伸ばすようにして、階段を上ってくる人物を目で追った。
その人物は片手にトカレフを持つ一条であった。
「一じょ・・・」
しづかは一条を呼び止めようとするも、言葉がのどに詰まって出てこなかった。
一条の表情は顔の皮膚を後ろへ力いっぱい引っ張ったかのように歪み、
状況を把握していないしづかでも異常であると思わせるものであったからだ。
一条は迷うことなく、しづかがそれまでいた部屋――21号室へ向かっていった。
「い・・・一条・・・」
しづかの心の奥で一条への不信が広がっていく。
しかし、しづかは自分に言い聞かせる。
――そうだ・・・一条は・・・私に危険を知らせるために・・・。
一条に自分は無事であることを知らせよう。
しづかはそう決心し、階段を下ろうとした次の瞬間だった。
ざわ…ざわ…
「しづかぁー!!!!」
一条の咆哮と共に、何かがけたたましく音を立てて倒れた。
「ひぃっ・・・」
しづかは再び、その場に立ち尽くす。
今まで、自分のことを“しづかさん”と呼んでいた男の口から発せられた、殺意が込められた呼び捨て。
しづかは悟った。
――一条は・・・私を殺そうとしているっ・・・!
秀峰の首から噴水のように血が噴き出す記憶、勝広の下半身が吹き飛んだ記憶が蘇る。
血が逆流する恐怖がやけどのように痛く肌に張り付いてくる。
しづかは首を横に振った。
――怯えるなっ!逃げるんだっ!
普通、ホテルと言えば、床や階段にはカーペットが敷かれている場合が多いが、このホテルはショッピングセンターや病院で使われているプラスチック系床材が採用されていた。
そのため、歩くとワックスと靴がすれる音がどうしても響いてしまう。
しかし、幸いなことに今、21号室では一条が部屋の中を漁る物音がこだましている。
――この音にまぎれれば・・・。
しづかは階段を一歩一歩下っていく。
2階に到達し、1階へ続く階段を半ば下りた頃だった。
21号室から音がやんだ。
しづかもそれに合わせて動きを止める。
――今まで以上に、慎重に歩けば・・・。
しづかはこれから薄氷の上を歩くかのように、つま先を階段に触れさせると、体の重心を前へ移動させた。
木製の手摺りを掴む手に力が篭った。
キィ・・・。
「えっ!」
しづかは思わず、手摺りから手を離した。
床ばかりに気を取られていたため、手摺りが軋むという可能性を忘れていたのだ。
――まずいっ!
「誰だっ!」
一条が叫ぶ声。
しづかは転がるように階段を駆け下りた。
しづかは一直線に正面出入り口へ駆ける。
――あそこから脱出すれば・・・!
しかし、しづかの考察と足は扉の手前で止まった。
「なんだよ・・・これっ・・・」
扉の取っ手には鉄製のチェーンが巻かれ、ご丁寧にも南京錠がかけられている。
このホテルで出入りができる場所はこの正面出入り口の一ヶ所しかない。
つまり、しづかはこのホテルに閉じ込められている状況なのだ。
「くっ!」
しづかは周囲を見渡した。
正面出入り口の隣にはフロントカウンターがある。
もし、一条がしづかを探すとすれば、逃げ出すと考え、この正面出入り口周辺を念入りに確認するはずである。
フロントカウンターに隠れれば簡単に見つかってしまうだろう。
――じゃあ、どこに隠れれば・・・!
その時、しづかは光が洩れている、廊下の奥の部屋に目をとめた。
――まさか・・・板倉がいるのか・・・?
ざわ…
今のしづかは誰かに縋りたかった。
誰かに守ってもらいたかった。
しづかはその一心で駆け出すと部屋の扉を開けた。
「板く・・・」
開けた際に生じた風で埃が宙を舞う。
その埃と共に、彼女の目の前に現れたのは肩から血を流し、横たわる板倉の遺体だった。
板倉は生気を失った瞳をしづかに向けている。
しづかの体は吹雪が当てられたかのように凍りついた。
「うそ・・・だろ・・・」
今まで一条がいた部屋で、板倉が横たわっている。
決定的であった。
――板倉は一条に殺されたっ・・・!
死への恐怖か、親しき者を失った悲しみか、大粒の涙が止め処なく雨のようにポロポロ落ちる。
地底へ吸い込まれるような絶望感。
「うぐっ・・・うぐっ・・・」
無意識に嗚咽が口から洩れる。
――殺される・・・一条に・・・。
カツッ カツッ カツッ・・・!
「一条っ!」
しづかはその音で顔を上げ、絶望を振り払うように、歯を食いしばる。
――私は・・・死にたくないっ!
「く・・・くそぉ・・・」
しづかは袖で涙を拭うと、部屋を眺めた。
従業員用控え室らしく、左右の壁にはロッカー、その前には安物の3人掛けのソファーがそれぞれ並べられている。
ソファーに挟まれるように中央にはテーブル、部屋の奥には従業員用の洗面台が配置されていた。
板倉の遺体は右側のソファーに隠れるように横たわり、その付近には改造エアガンが置かれていた。
――とにかくどこかに隠れないと・・・!
死を連想させるものから少しでも離れたいという本能だろう。
進路を妨害するソファーを押しのけながら、板倉の遺体とは反対側の一番奥のロッカーを目指す。
ソファーは安物らしく、下にキャスターが付いているかのように、軽い力で移動したため、目的地へは難なく着いた。
――ここに隠れれば・・・!
しづかはロッカーを開け、片足を中へ入る。
ぎぃぃぃ・・・!
薄い鉄がしづかの体重で呻き、音を立て歪む。
「あ・・・」
しづかは足を止め、後ろを振り返った。
その数分後、一条は従業員控え室へ足を踏み入れた。
そこにしづかの姿はない。
一条は周囲を物色する。
そこには板倉の死体、改造エアガン、一条のディバック。そして――
――ソファーの位置がずれているっ・・・!
一条の記憶が正しければ、ソファーは背後のロッカーと並行になるように並んでいたが、今は若干曲がり、ロッカーとのスペースがより広がっていた。
なにより――
――足跡・・・。
従業員控え室の床にはうっすらと埃が溜まっていた。
そのため、新雪を踏み荒らしたかのように、足跡が残ってしまっていた。
勿論、板倉と一条の乱戦によって、無数の足跡が存在しており、どれがしづかのものなのかは特定できない。
しかし、一ヶ所、板倉も一条も足を踏み入れていない場所へ続く足跡があった。
――そこか・・・。
一条は奥のロッカーへ向かっていった。
しづかは隙間から一条を伺っていた。
一条の足が少しずつ近づいてくる。
しづかは手の中に納まる小型のジュラルミンケースを握り締めた。
――来るなっ・・・!来るなっ・・・!
しかし、その願いを踏み潰すように、一条はしづかに接近していく。
一条は一番奥のロッカーに手をかけた。
「そこかっ!しづかぁっ!」
鉄の扉が鈍い音を立てて開く。
「・・・えっ・・・」
そこにあったのは綿ホコリのみ――しづかはいなかった。
支援
841 :
代理:2009/08/02(日) 23:32:56 ID:???
さるくらいました
どなたか代理投下をっ…!
一条は舌打ちをする。
――もっと早くに来ていれば・・・。
一条はしづかの靴音が下へ降りたことから、しづかが1階の正面出入り口から逃げ出そうとしていると判断、その周辺を探していたが、それが時間のロスだった。
念のため、ロッカー全てを開けるが、しづかが見つかることはなかった。
――すでに違う部屋に移動した後なのか・・・。
一条は板倉が自身の体に武器を隠し持っていないかを確認し、ディバック、改造エアガンを回収すると、部屋の扉を開け、外へ出て行った。
革靴の音が小さくなっていく。
――行ったか・・・。
それを合図にするように、ソファーが動いた。
中から出てきたのは、しづかだった。
話はしづかがロッカーに隠れようとした時に戻る。
しづかがロッカーに身を潜めようとした直後、ロッカーは音を立てて軋んだ。
しづかに迷いが生まれた。
――もし、この音で一条に見つかったら・・・。
先程の手摺りの失態が蘇る。
――けど・・・ほかに隠れる場所なんて・・・。
ここまで考えた時、ある違和感を思い出した。
「あ・・・」
しづかは足を止め、後ろを振り返った。
そこにあったのはソファーだった。
ソファーはロッカーと同じくらいの大きさでありながら、
しづかが押しのけたくらいで大きく動いてしまうほど、軽いものであった。
しづかは恐る恐るそれを持ち上げた。
安物だけあって、少女一人の力で簡単に持ち上がる。そして――
――空洞っ・・・!
一条が出入り口周辺を念入りに探していたことも幸いだった。
しづかはその間に、ソファーの空洞部に身を潜めた。
しづかが一条の様子を伺っていたのも、ソファーと床の間の隙間からであった。
これは追い詰められたしづかの苦しまぎれ・・・窮余の策だが、意外にもこれが効を奏した・・・!
一条はこの「隠れ家」に気がつかない・・・!
彼にとって、ソファーはソファーであり・・・そういう道具、家具以外の何ものでもない・・・!
つまり、「大がかりなソファーの内部はどういう構造か・・・?」なんて事は考えもしないのだ・・・!
まさに意識の裏側・・・!
見えているが見えてこないっ・・・!
これだけ大がかりな「隠れ家」が・・・!
閑話休題。
靴音から察して、一条は遠くへ移動したようである。
しかし、安心はできない。
外へ脱出する手段が無いからである。
――なら・・・何かの武器で一条を殺すしかない・・・。
しづかは板倉の遺体の周辺を探った。
しかし、一条がすでに改造エアガンを回収した後であり、しづかの助けになりそうな物は存在していなかった。
しづかは板倉から託された小型ジェラルミンケースを抱きしめる。
その中身はハブの毒――本当はオブトサソリの血清なのだが、どちらにしろ、注射器で銃を持った男を脅すことなど不可能である。
――こんなの・・・武器なんかに・・・。
しづかの瞳から再び、涙が溢れる。
その時、しづかは板倉の手に握られているある物に気づいた。
「何だ・・・」
しづかは板倉の手の中のそれを手にとって見る。
「これは・・・」
鍵だった。
しかし、鍵と言っても、おもちゃを連想されるような簡易的な形状あり、扉や車の鍵としては不適格なものであった。
「こんな鍵が必要な所なんて・・・」
しづかはハッと目を見開く。
ソファーに隠れる、ロッカーを開ける、板倉の遺体を発見する・・・。
ビデオテープの巻き戻しのように、これまでの記憶が蘇っていく。
そして、記憶がたどり着いた先は正面出入り口、ドアの取っ手に巻かれた鎖を繋ぎとめる・・・
「・・・南京錠っ!」
しづかは鍵を思わず抱きしめる。
――板倉は私に希望を残してくれていたっ・・・!
しづかは扉を開け、周囲を確認すると一目散に正面出入り口へ向かった。
その場へ到着すると、鍵を南京錠の鍵穴に差し込み、ゆっくり回す。
しづかは目をぎゅっと瞑り、心の中で願う。
――頼む・・・この鍵であってくれっ・・・!
カチャリッ!
祈りは通じた。
南京錠はその口を開けた。
「や、やった!」
しづかの顔から曇りが消え、光が差し込んだかのような笑みが浮かぶ。
南京錠を床に投げ捨てると、取っ手に巻きつく鎖を外し始める。
――助かるっ・・・!私は助かるんだっ・・・!
「そこまでですっ!」
声と同時に正面出入り口隣のフロントカウンターから黒い影が現れた。
「えっ・・・」
振り返ろうとした直後、黒い影はしづか目掛けて、突き刺すような蹴りを繰り出した。
しづかは壁に叩きつけられた。
「ぐっ!」
しづかのわき腹を刺激する、鞭でも打たれたかのような鋭い痛み。
痛みを認識した時、しづかは腹を抑えて、床に横たわっていた。
黒い影がしづかの視界を覆う。
しづかはその正体を見て、言葉を失った。
「い・・・一条・・・」
一条はトカレフの標準をしづかに合わせ近づくと、小型ジュラルミンケースを拾い、中を開ける。
そこには二つの細長いくぼみがあり、その片方だけに注射器が埋め込まれていた。
一条は確信を持つ。
「これが血清ですね・・・」
「血清・・・?ハブの毒のはずじゃ・・・」
「板倉からそのように聞かされていましたか・・・」
“まぁ、あなたには関係ないことですがね”と言わんばかりに、しづかの戸惑いを鼻で笑い、その注射器を自分の腕に打つ。
「い・・・一条・・・?」
一条の理解できない行動に、体の震えを抑えながら、しづかはその様子を見つめていた。
やがて、一条は血清を打ち終える。
「勝った・・・!オレは板倉に勝った・・・!」
その口元から毒がこもった笑みが浮かぶ。
「これであなたには用がありませんっ・・・!」
一条はジュラルミンケースごと注射器を投げ捨て、再び、トカレフをしづかへ向ける。
「あなたが単純な方でよかった・・・!」
「単純だと・・・!」
明らかに自分を侮蔑する発言。
トカレフで狙われているとは言え、反抗するようにしづかは顔を歪ませる。
一条は背中に隠していた改造エアガンを取り出す。
「なぜ・・・あなたはこれを持っていかなかったのですか・・・?」
「持っていかなかったって・・・」
一条は呆れたようなため息をつく。
「では、もっと分かりやすく言いましょう」
一条はあごで奥の部屋を指し示す。
そこは板倉がいる従業員控え室であった。
「ホコリの足跡から、あなたが、私がたどり着く前に、あの部屋にいたと分かりました・・・
あなたは私から逃げようとしていた・・・
なら、あの部屋へ訪れた時、こんな思考になるのではないでしょうか・・・
“一条に対抗するために、武器をもたなくてはならない”とね・・・
しかし、あなたはそれを持っていかなかった・・・
ここで考えられる状況は2点。
よっぽど慌てていて回収するという考えを失念し、部屋から出て行ってしまったのか・・・
もしくは、実はまだ、あの部屋にいて、回収するより隠れることを優先した・・・のか・・・」
しづかにひんやりとした汗が流れる。
一条の後者の例えはまさにしづかの状況そのものであった。
一条はしづかの行動をきわどい所まで読んでいたのだ。
「結果的に、あなたが見つからなかった・・・
ただ、あなたはこのホテルのどこかにはいる・・・
あなたは板倉の元に必ず戻ってくるはずだ・・・
改造エアガンの存在を思い出して・・・
だから、私は罠を張った・・・板倉の死体に鍵を持たせるという罠をっ・・・!
あなたの行動を、正面出入り口からの脱出一択にさせるためにっ・・・!」
しづかは床に転がる南京錠を見つめた。
――あれが・・・罠だと・・・。
「たとえ、ネズミでも追いつめると思わぬ力を発揮する・・・
そうさせないためには逃げ道を与えること・・・
ネズミは逃げ道がある限り、闘わない・・・
逃げることだけを考える・・・
後は近くで隠れ、あなたを待ち伏せればいい・・・」
支援…!
支援
二人目の代理さんもさるったのかも…?
854 :
代理:2009/08/03(月) 00:01:22 ID:???
さるになりました
855 :
渇望23:2009/08/03(月) 00:04:17 ID:???
「そ・・・そんな・・・」
あの地底へ吸い込まれるような絶望感が、再び、しづかの心を侵食する。
しづかは怒りを込めた瞳で一条を睨みつけた。
「なんで、板倉を殺したんだっ・・・!
あいつと組めば、助かったかもしれないんだっ!」
「助かる・・・?」
一条はしづかを冷ややかな目つきでみる。
「どうやって、助かるのですか・・・?」
「一億円を集めて棄権する方法があるだろっ!それにもしかしたら、違う方法も・・・」
「棄権ですか・・・」
一条はふうと呆れたようなため息をつく。
「では、どこでその棄権の申請を行うつもりですか?」
「それは・・・」
しづかはホテルでの黒崎の説明を思い返えそうとする。
しかし、威圧的な雰囲気、頭がなくなった少年は思い出せても、肝心の部分は霧がかかったかのようにかすみ、思い出すことができない。
しづかは自信なさげに、小声で答える。
「ギャンブル・・・ルームで・・・」
「ギャンブルルームですか・・・」
一条から”ククク・・・キキキ・・・“と狂ったような笑いが漏れ出す。
その声は次第に風船のように膨らんでいく。
一条が顔を上げたその瞬間、笑いが破裂した。
「てめーは黒崎様の説明をろくに聞いていなかったようだなっ!
申請場所はそこじゃねぇんだよっ!アホタレっ!」
今、投下した本人です。
朝はアク禁をくらってしまいましたが
今、奇跡的に通ったので、出来る限り、頑張ります。
857 :
渇望24:2009/08/03(月) 00:08:25 ID:???
「う・・・」
しづかは身を守るように震える体を押さえる。
かつて修羅場を潜ってきたことがあるとは言え、今は無力な少女。
狂人の罵声に、ただ耐えるしかなかった。
「教えてやる・・・」
一条は改造エアガンを背中にしまい、乱れる髪の毛をかきあげる。
「申請場所はD−4のホテル地下・・・」
「D−4は・・・」
しづかはハッと勘付く。
そこは第一回定時放送で、危険エリアに指定された場所だった。
「しかも、あくまで権利の購入であって、脱出できるわけではない・・・
つまり、主催者は参加者全員・・・優勝者以外はここで死ねと言っているんだっ・・・!」
和也もそうだが、一条もまた、帝愛で揉まれてきた人間である。
棄権申請のD-4エリアが危険エリアに指定されるという罠を見抜いていた。
また、仮に棄権申請をしても得られるものは、その権利だけという盲点にも勘付いていた。
板倉も、この点に関しては勘付いていたが、D−4エリアについては気づかなかった。
いくら思考が限りなく近いとは言え、それまで置かれていた環境がその差を生んでいた。
「嫌だ・・・そんなの・・・」
しづかから再び、大粒の涙がこぼれる。
一条はしづかを無視し、話を続ける
858 :
渇望25:2009/08/03(月) 00:10:26 ID:???
「助かることなど不可能・・・
だからこそ、私の未来を潰した男をこの手で殺す・・・
それが私の今の存在意義・・・!
もちろん、その妨害となる者も・・・」
一条は奥の従業員用控え室へ目を向ける。
「板倉・・・あの男は私を骨の髄まで利用しようとした・・・
だからこそ、死んだ・・・死んで当然の男・・・」
「板倉・・・」
板倉が横たわる姿が脳裏に浮かび上がる。
その少し前まで、自分を気遣ってくれた男が、赤の他人の都合で奪われてしまったという現実。
――許せねぇっ・・・!
激憤がしづかの心の芯に燃え盛った。
「もっともらしく言っているが、一時的な不満の穴埋めっ・・・!
そんなことをしたって、てめーの未来とやらはどうせ帰ってこねぇんだろっ!
てめーのくだらない復讐に、他人を巻き揉むんじゃねぇっ!
人として恥ずかしくないのかよっ!人殺しがっ!」
「口を慎めっ!」
一条はトカレフを振り上げ、グリップをしづか目掛けて叩きつけた。
ゴッという鈍い音と同時に、しづかは再び、床に倒れる。
「自分の置かれている状況に気づいていないみたいだな・・・しづか・・・」
一条はしづかの腹を踏み、身動きを封じる。
トカレフの銃口を顔面ぎりぎりまで近づける。
「なぁ・・・助かりたいだろ・・・?」
しづかは青白い顔で首を縦に動かす。
一条の表情が若干、和らぐ。
「分かりました・・・しづか・・・
では、あなたの誠意が見えましたら・・・その命、見逃しましょう・・・」
一条はしづかの腹から足を離し、一歩下がる。
その表情には憎悪と喜悦が混濁した笑みが浮かんでいた。
「謝ってください・・・土下座して、“ごめんなさい”と・・・!」
「な・・・何っ!」
――この男・・・!ふざけた事を・・・!
その謝罪は偶然にも、かつて、しづかが黒沢に対して求めたものであった。
「おや、できないのですか・・・しづか・・・」
一条は銃口をしづかの眉間に押し当てる。
「ぐっ・・・!」
しづかは体を上げると、一条から目をそむけ、吐き捨てるように呟く。
「ごめんなさいっ・・・」
「それで謝ったつもりですか・・・」
一条はしづかの髪を鷲掴みにし、口に銃口をねじ込んだ。
「もう一度、尋ねます・・・それで謝ったつもりですか・・・」
冷たい銃身がしづかの舌を蹂躙する。
しづかは痙攣をしているかのように首を横に振る。
その表情は今にも悲鳴を上げてしまいそうなほどに、恐怖で歪んでいた。
「では、謝ってください・・・」
一条はしづかの口から銃を抜いた。
しづかが一条に謝罪する理由は皆無である。
しづかもそれを自覚しているのだが、一条の底知れぬ邪悪さと生き延びたい一心の方が、自尊心を遥かに上回った。
しづかは膝をつき、両手と額を床に押し当てる。
息を大きく吸い込み、そして――
860 :
渇望28:2009/08/03(月) 00:16:01 ID:???
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!・・・」
何度、謝り続けたことだろう。
恐怖を吐き出すような謝罪は彼女の声が枯れ、咳き込むまで続けられた。
やがて、一条は満足したのか嘲笑する。
「素晴らしい・・・!約束通り、命は見逃して差し上げましょう・・・!」
「ほ・・・本当か・・・」
しづかは身がほぐれるような安堵を浮かべ、顔を上げる。
――助かった・・・。
861 :
渇望29:2009/08/03(月) 00:17:11 ID:???
しかし、それは思い違いだった。
一条はしづかの首根っこを掴み、持ち上げた。
「ただし・・・それだけでは信用はできないっ・・・!」
一条はしづかの後頭部に銃口を押し付け、引きずるように廊下を歩く。
二人は奥の従業員用控え室へ入った。
一条は部屋の奥の洗面台の前まで連れて行くと、しづかの背中を押す。
しづかはその場で倒れこんだ。
一条はしづかと同じ目線になるようにしゃがむと、思いも寄らない言葉を発した。
「服を脱いでください・・・しづか・・・下着、靴も全て・・・」
「そんな・・・」
しづかは唇をわなわなと振るわせる。
男が女を脱がした後の目的は一つである。
――犯されるっ・・・!
「おや・・・あなたは何か勘違いをなさっているようですね・・・」
一条はしづかの心情を汲み取ったのか、否定をするように嘲笑う。
「髪は染めすぎて傷み、歯は黄ばみ、口からはタバコの臭い、・・・
それに見たところ、もはや処女でもない・・・
私がわざわざ手を出すほど、自分に価値があると思っていたのですか?
うぬぼれるなっ!」
862 :
渇望30:2009/08/03(月) 00:19:48 ID:???
一条はトカレフをしづかへ向ける。
「板倉は自身の袖口に毒を隠していた・・・
お前にも同じ事をされては困る・・・
自分でその潔白を証明して見せろっ・・・!」
しづかは拳を握り締めるも、すぐに力を抜いて・・・いや、抜けてしまっていた。
一条との力関係は明白であり、それを理解するまでの過程は彼女の心をずたずたに切り裂くには十分すぎるものだった。
今、しづかの心にあるのは悄然とした諦めであった。
しづかは虚ろな表情で服を脱ぎ始めた。
身に付けていた制服や下着が床へ落ちていく。
やがて、葉を取られた桃のような裸体が現れた。
せめてもの抵抗だろうか。
しづかは自身の陰部を隠すように、身を屈ませる。
一条は黙ってその衣類を拾い上げ、洗面台の中へ入れた。
ディバックからマッチを取り出し、火をつける。
火はちろちろと揺らめく。
「まさか・・・」
しづかは一条の次の行動を理解した。
「やめてくれっ!」
しかし、一条はしづかの抵抗を聞き流し、マッチを洗面台の中へ捨てた。
小さな火が意思でも持ったかのように、大きな炎へ姿を変え、しづかの衣類を飲み込んでいく。
863 :
渇望31:2009/08/03(月) 00:23:37 ID:???
「あ・・・あ・・・」
しづかの口から嗚咽が洩れる。
一条は近くのソファーに腰をかけ、キャンプファイヤーをしているかのようにその炎を眺めていた。
科学的な確証はないが、火の揺らめきは人の心を穏やかにされる効果があると言われている。
その効果なのだろうか。
一条の脳裏に、ゲームに誘われた経緯の記憶が映画のワンシーンのように蘇る。
一条はカイジとの勝負の後、地下王国へ落とされた。
そこでカイジと同様、熱気と騒音、不衛生な環境下で重労働を強いられた。
勿論、そこには『沼』によって、多額の借金を背負ってしまった労働者もおり、一条は彼らから苛めも受けた。
それでも一条が耐えられたのは、損害を返せば、地下から脱出できるかもしれない、再び、帝愛の幹部として生きることができるかもしれないという希望だった。
そんな中、一条の元に、黒崎自ら訪れた。
その黒崎の口から出たのが、バトルロワイアルへの誘いであった。
もし、優勝すれば、10億円を得ることができる。
その優勝賞金を『沼』の損害7億円に充てれば、帝愛への忠誠心が評価され、再び、戻れる可能性が出てくるのだ。
一条は、そのギャンブルを二つ返事で受けた。
864 :
渇望32:2009/08/03(月) 00:25:44 ID:???
黒崎に確認する。
「優勝賞金を損害7億円に充てることは可能でしょうか・・・」
黒崎はそれに対して、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「ああ、君の好きにしていい・・・」
この返答に、一条に違和感を覚えた。
――なぜ、はっきり“イエス”とは言わないのか・・・。
「あの・・・私は帝愛に・・・」
黒崎はその言葉を遮るように立ち上がる。
「頑張りたまえ・・・」
黒崎はその場を後にした。
その後、黒崎と再会したのは、バトルロワイアルの会場、D−4のホテル。
そこで初めてゲームの内容を聞かれた。
初めは何の冗談かと思ったが、一人の少年の見せしめから帝愛が本気であることを理解した。
一条はルールの説明を聞いていくうちに、あることに気づいた。
――確かに、勝者には優勝賞金10億円を贈呈するとは言っているが・・・
ここからの脱出については触れていないっ・・・!
そして、とどめの一言。
『棄権を望まれる方は当ホテル地下で、一億円にて権利をご購入いただけます・・・。』
――権利だと・・・。
一条は絶句した。
一度、このゲームに足を突っ込んだ人間は何があっても逃がさない。
暗にだが、はっきりとその意図を帝愛は示した。
だから、黒崎は戻って来いと言わなかったのだ。
それまでどんな仕打ちにも耐えられたのも、損害を取り戻せば、黒崎の仲介によって、再び、帝愛に戻れるという希望があったからだ。
一条は、その能力を評価され、黒崎から若きエースとして寵愛を受けていた。
一条もそれを理解し、黒崎は自分を必要としてくれている、地下から戻ることができないのは、兵藤がまだ、許していないからだと信じていた。
しかし、地下王国で会った時の黒崎の態度、そして、この場での宣言は、一条の思惑を根底から覆した。
黒崎は不要の人間、もはやゲームの駒としての価値しかないと引導を渡したのだ。
一条が帝愛へ戻る道は完全に断たれた。
一条の中で、自分を支えていた希望が音を立てて倒れていく。
――オレは今まで、帝愛に・・・あなたにどれだけ尽くしてきたと思っているんだっ・・・!
腸が煮えくり返るような憤りが一条の体を駆け巡る。
――今、帝愛がオレに望んでいるのは、このゲームを盛り上げて死ねということか。
この時から、一条のゲームの目的は自分を今の身分に追いやった者への復讐へと変貌していった。
やがて、しづかの衣服は粗方燃え尽き、炎もマッチの火のように、小さくなっていった。
一条は水道の蛇口から水を出す。
火はじゅっと音を発して消え、煙が上がる。
「これはもらっていきますよ・・・」
一条はしづかのディバックを背負い歩き出す。
心身ともにぼろぼろになったしづかはそれに抵抗することなく、部屋の隅で身を屈め、顔を膝に埋めている。
丁度、一条の足が扉の前に差し掛かった時だった。
一条はその歩みを止めた。
「しづか・・・悔しければ、這い上がって来いっ・・・!
這い上がって・・・倒してみろっ・・・!この私を・・・!」
一条はそれだけ言い残すと、扉を閉めた。
さるをくらってしまいました。
誰か代理投下をお願い致します。
「ちくしょう・・・!」
しづかは膝に顔を伏せたまま、肩を震わせ、涙を流す。
和也から逃れていた時から悟ってはいた。
社会から必要とされていない犯罪者の巣窟にでも放り込まれていることを・・・。
そして、自分自身にもその烙印が押されていることを・・・。
存在価値がないという事実はしづかの心を絞め続けていた。
そんな中、板倉と一条に出会った。
彼らはしづかを一人の人間、一人の女性として丁重に扱ってくれた。
ようやく安らげる居場所を見つけたような気がしていた。
しかし、その認識は幻想でしかなかった。
「ここにいる連中は・・・皆・・・屑・・・犯罪者・・・!
誰も信用するものかっ・・・!」
しづかは歯軋りする。
「一条・・・てめぇは絶対殺すっ・・・!
どんな手段を使ってもっ・・・!」
その少女の決意を聞いていたのは、板倉の死体のみであった。
――私らしくなかったな・・・。
一条は歩きながら、ふっと息を漏らす。
一条の心には谷底の風が吹きぬけるような漆黒の穴が開いていた。
この穴は、一言で言うと、“絶望”。
期待や希望――生きるための活力を飲み込んでしまう底なしの穴であり、その穴が何かを吸い、心を抉るように広がるたびに、一条に苦痛をもたらしていた。
この穴はカイジとの『沼』の勝負に負け、地下王国へ落とされた時から生まれていた。
地下王国にいる間は、借金を返済すれば、再び、帝愛に戻ることができる――地の底から“這い上がる”可能性がその穴をなんとか塞いでくれていた。
しかし、ゲームの意図が分かった時、可能性という名のふたは脆くも崩壊し、穴の中へ消えていった。
そして、今の一条は、カイジへ復讐をすれば、その穴の苦痛から開放されるのではないかという予感を糧に生きている。
――オレは這い上がりたいっ・・・!だが・・・その術はすでに・・・。
一条は自嘲を浮かべる。
――やはり・・・カイジを殺すしかない・・・。
一条は正面出入り口前にたどり着いた。
立ち止まり、南京錠を拾う。
鎖こそはフロントカウンター付近で落ちていた現地調達品だが、南京錠は一条の支給品であった。
この南京錠を正面出入り口にかけておこうと提案したのは板倉であった。
板倉は佐原を探している時、しづかに聞かれないように一条に耳打ちしたのだ。
もちろん、南京錠を取り付けること自体は、侵入者対策のためである。
しかし、なぜ、しづかに聞かれないように、話が切り出されたのか。
――しづかが安心して、ホテル内を自由に散策することを避けるため・・・だろうな・・・。
板倉のこれまでの行動から、一条は板倉のシナリオをこのように推理する。
――オレにオブトサソリの毒を打ち、血清の存在を伝え、しづかの元へ向かわせる。
そして、21号室にたどり着いた直後、血清を奪おうとするオレを殺害し、しづかの信用を得る・・・というところか・・・。
この時、しづかが21号室で閉じこもっていなければ、このシナリオは成立しない。
だからこそ、板倉はしづかに南京錠の存在を伝えなかったのだ。
――このタイミングで、殺害計画・・・どこまでも似たような考えを持っている・・・。
一条は南京錠をディバックにしまった。
「さようなら・・・姫、そして、我が思考の双生児よ・・・」
一条はホテルを後にした。
【F-6/ホテル周辺/夜中】
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6 不明支給品0〜4(確認済み、武器ではない)
[所持金]:6000万円
[思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
【F-6/ホテル内/夜中】
【しづか】
[状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 全裸
[道具]:なし
[所持金]:0円
[思考]:ゲームの主催者に対して激怒 誰も信用しない 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています
以上です。
投下乙…!圧倒的どS…!
一条がどんどんヤバくなっていくのが読んでて楽しかったですっ…!
(なんつー感想だ)
しづか…可哀相だが、この事態を乗り越えてたくましく変貌するような気がする。
非常用はしごのないホテル、ロッカー、ソファ、南京錠…。
舞台装置や仕掛けがすごい。
読み進めるたびにハラハラしました。
圧倒的展開…!
一条ドSすぎだろwwww
代理投下をしてくださった方、感想を下さった方、
ありがとうございました。
実は前々からしづかには土下座させたいと思っておりました。
黒沢への大人狩り→下半身羞恥プレイの流れに理不尽さを感じていましたので、
じつかも同じ目に合って、黒沢の苦しみを思い知ればいいかなぁと…。
ちなみに、脱がせたのは、先日のラジオで脱衣拳様から脱がせちゃいなよとアドバイスをいただいたため。
お風呂に入ってという状況ではないですが、こちらの方も達成できて良かったです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
久々の投下キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
やっぱり投下きたら嬉しいな。
作者さんも代理も乙
しづか頑張れ。とりあえず板倉のシャツを着るんだ!
おちんちん、おっきしたお(^ω^)
俺たちが今
保守したり保守されたりしてるのは
実はスレッドじゃねえんだ
プライドなんだよ……
投下します。
支援
三人に見守られながら、赤松は息を引き取った。
「あああっ…!」
零は赤松の死体にしがみつき、泣き崩れた。
涯は拳を握り締めながら、必死に嗚咽をこらえている。
沢田は赤松の上体を支えながら、最期の言葉を反芻していた。
『ホテルでゲームの説明を受けた時、こんな予感があったんです…。
“自分はおそらくここを生きては出られないだろう”と…』
(俺も全く同じことを感じていた…。
そして、どうせならばこのゲームを潰してから死んでやろう、と。)
『涯君と零君を…頼みましたよ…』
赤松は最期にそう告げて逝った。
(――託されちゃあ、簡単に死ぬわけにはいかねえな…。
せめて、ゲームの終盤まで…!
二人の安全が確保されるまでは…なんとしても生き延びなければ…!)
「………落ち着いたか?」
しばらくして沢田は、零と涯に声をかけた。
二人の心情を考えると急かすのも憚られたが、ここでじっとしているのはまずい。
森の出口であること、目の前が崖で行き止まりなのを考えると、
他に誰かがやって来た時、または万が一沙織が再び戻ってきた時、応戦しにくい。
「はい…すいません」
零は涙を拭いながら返事をし、涯は険しい表情のまま小さく頷いた。
「よし…ここから移動するぞ。いいな?」
まだ脱力している二人を立ち上がらせ、沢田は赤松の亡骸を背負った。
自分自身、この赤松という男に『侠』を見、共感しただけに、
心中に空虚が広がっていくのを感じていた。
だが、赤松に二人を託されたという使命感が、今の沢田に力を与えていた。
「赤松さんの体…。弔ってあげたいですね…。」
零がぼそりと言った。
「そうだな…」
ゆっくりと崖沿いに南下しながら、沢田は返事をした。
涯は歩きながら、崖の向こうに見える建物を睨み付けていた。
――それは、この悪夢の始まった場所。D-4禁止エリアのホテル。
ここで棄権申請をしろ、と言ったにも拘らず、禁止エリアにすることであっさりと状況を覆してきた主催者。
(そのために田中沙織は絶望し、赤松を死に追いやった…。
他に方法を模索しようとせず、優勝を狙い、田中を気遣っていた赤松を殺した…!
許すことは出来ないっ…。そして、主催者はもっと許せない…!)
E-3の中央辺りまで来ると道はなだらかになり、坂道も終わりが見えた。
涯は再び背後を振り返った。ホテルは、暗闇の中で光もつけず、薄気味悪く聳え立っていた。
しばらく歩いて行くと、木々の間から大通りが見えた。
ぽつんと小さい木造の民家が姿を現す。
「着いた…。」
沢田が一言漏らすと、零と涯は「?」と疑問符を表情に出して沢田を見る。
「この家は、俺が昼間に見つけて、少しの間居座っていたんだ。
中に入る前に、アンタらに告げておくべきことがある」
沢田は二人の方を振り返り、また口を開いた。
「俺はここで一人殺している…。今もまだ死体が玄関先に転がっているはずだ」
零の顔に驚きの表情はない。第一放送直前、沢田からあらかじめ聞いていたことだからだ。
そして、漠然と歩いていたのではなく、沢田がまっすぐここを目指して歩いていたのだと気がつき、
一人納得して頷いた。
涯を見ると、張り詰めた顔でじっと沢田を見ている。
沢田は怒りとも悲しみともつかないような表情のまま、口の端を持ち上げて笑って見せた。
「…返り討ちにしてやったんだ。毒のついたナイフを持っていたのが幸いだった。
互いに『死』を覚悟しての戦いなら、不意打ちだろうと、武器に頼ろうと、同じ土俵での戦い…。
恨みっこなしさ。そうだろ…?」
普段の沢田なら、こんな言い訳じみたことは言わない。
だが、今は特別な事情があった。どうしても涯に話しておきたかったのだ。
涯はじっと己の右腕を見た。
返り血が乾ききって指や腕にこびりついたままになっている。
人を殺した。
その罪悪感が消えることはない。
だが、ここに同じ痛みを知っている者がいる。その者は、痛みをありのまま受け止めている。
人知れず黙って内に秘めているだけでは、どうにも解れなかった重苦しい黒い塊が、
胸のうちで少しずつ解れていくのを、涯は感じていた。
他人に共感する。
今までは己の『弱さ』だと思い込み、忌み嫌っていた感情。
(だが…そうじゃない…。この暖かさ、強さは…。)
今の涯は、その感情を受け入れることが出来るようになっていた。
「…弔うつもりで戻って来たんですね…?」
零が沢田に聞くと、沢田は曖昧な笑みを浮かべた。
「元々、休む場所を探そうと考えていてここを思い出した、ってのが本音だがな。
手伝ってくれるか…? 零、涯」
二人は頷いた。
民家から大槻の死体を運び出し、家の裏手に三人で穴を掘った。
シャベルになりそうなものは見当たらなかったので、細長い板を見つけてきて掘り返した。
やがて、二人分の穴ができると、それぞれの穴に死体を横たえ、また土をかけた。
「何か墓標になりそうな物はないかな…?」
沢田は周囲を見回した。
「いや…沢田さん、このままのほうがいい…」
零は、額の汗を拭いながら沢田に言った。
「墓だって分からない様にしておいたほうがいい。墓荒らしに荒らされないように…」
「何だって…?」
「死体の首輪を狙って、掘り返す不届き者がいるかもしれない」
沢田は一瞬呆気に取られたが、零の言わんとすることに思いが至り、ああ、と声を漏らした。
首輪なんか狙ってどうするのかと思ったが、死体から首輪を剥ぎ取り、
その首輪で実験しようとする参加者がいてもおかしくはない。
内部構造はどうなっているのか、どのような状態で爆発するようになっているのか…。
しかし、その行為自体は、自身の首輪から逃れるための試行錯誤であり、生き延びるための必要悪である。
「…エゴだと分かっているんです。けど…。ここの墓は荒らされたくない…。」
赤松の死体を埋めた辺りを見つめながら、零は言った。
三人は民家の中に入り、ひっくり返っていたちゃぶ台を元に戻した。
涯は、沢田が探してきたタオルを濡らして顔や腕を拭き、体についた血や泥を落とした。
支給品で簡単に食事をしてから、三人が今持っている支給品の確認に入った。
涯が預かっていた赤松のデイバックを空ける。
中には通常支給品、手榴弾8個、そして、首輪が出てきた。
「これは…。まさか…」
あの赤松が…死体から…? と、疑問に感じた涯だったが、零が否定した。
「いや…。標のメモに記してある。『村岡、死体から首輪、赤松さんに渡す。目的は仲間になること』
この村岡という人間が、標と赤松さんに首輪を渡したらしい」
首輪をよく見ると、死体から無理やり剥ぎ取ったのだろう、ところどころ血が輪の内側に付着している。
繋ぎ目の金具が、石か何かの硬いもので叩き壊されて凹んでいる。よく首輪が爆発しなかったものだ。
首の骨が折れるのを覚悟で、首の後ろ側の金具を叩き壊せば…。
首輪の前部分の装置に大きな衝撃を与えないよう気をつけて、
繋ぎ目の噛み合っている金属がひしゃげる位に金具を叩き潰せば、
力技ではあるが、首輪が外れる、ということだ。
ただし、ひしゃげるのは首輪だけじゃないわけで…。
……生きている人間の首輪には応用できない方法である。
涯は首輪を念入りに調べた。ところどころ螺子の穴らしきものがあるが、螺子は無くなっている。
繋ぎ目の金具を丹念に調べてみたが、特殊かつ複雑な構造で、素人には分析しきれない。
まるで知恵の輪のようだ。
零は先程から熱心に標のメモを読み込んでいる。
このゲームが始まってから標が見たこと、聞いたことが小さな文字でびっしりと書かれているらしい。
涯は首輪に目を戻したが、食事をした後ということもあって急に眠気が襲ってきた。
眠気を振り切るように首を振る。自覚すると急に体が重く感じる。
「二人とも、今日はもう休め。俺が見張りをする」
沢田が涯と零に声をかける。
「でも…」
零が言いかけるのを遮り、沢田は続けた。
「いいか…これからは体力勝負になる。疲労が溜まると緊急時に正常な判断ができなくなることもあるはずだ。
だから今はできるだけ体を休めたほうがいい…。夜の間は俺が見張りをする。
明け方になったら起こすから、交代してくれ。昼まで休息をとらせてもらう。」
零は頷いた。
「それなら…わかりました。では、次の放送がもうすぐなので、それを聞いてからにしましょう。
で、次の6時間後の放送までに起こしてください」
「分かった」
沢田は、再びメモに目を落とした零と、今にもちゃぶ台に突っ伏しそうな涯を交互に見た。
零と涯を必ず守る。赤松に託された二人の『息子』を…。
(息子か…)
実の子供や妻は昔に出て行ったっきり、今どうしているのかも知らない。
(俺は…。罪滅ぼしをしたいのかも知れねえな…。)
沢田はふっと息をついた。ちゃぶ台に乗せた腕の時計をちらりと見る。
(そういえば、もう次の放送か…。)
【E-3/民家/真夜中】
【工藤涯】
[状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷
[道具]:鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 手榴弾×8 石原の首輪 支給品一式×3
[所持金]:1000万円
[思考]:零と共に対主催として戦う 首輪の構造を調べる 休息をとる
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません。
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 不明支給品 0〜1 支給品一式
[所持金]:0円
[思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 標のメモを分析する 休息をとる
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D-1灯台のこと、
利根川からカイジへの伝言を託ったことなど、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
【沢田】
[状態]:健康
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません
高圧電流機能付き警棒 不明支給品0〜4(確認済み) 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ 零と涯を守る
見張りをする
投下乙です。
赤松さんが埋葬されて良かった…。
ついでに大槻も。
赤松さんの意志を継ぐ三人に託された標のメモ帳。
これが今後、どんな働きをするか期待です。
乙でしたー!
891 :
マロン名無しさん:2009/08/09(日) 23:30:58 ID:wMxJPf/z
大槻・・・
乙でした!
このパーティは今のところ一番安定してるんじゃないか?
信頼関係って面でもそうだし、福本主人公きっての頭脳派と肉体派と
そして侠の男沢田。
三人とも福本キャラにしては常識人だしな。
武器が心許ないのは確かけど、期待。
読んでいただき、感想いただきありがとうございました。
そして、大変申しわけないのですが…。
したらばで少々話し合いがありまして、一旦この話を破棄させていただきます。
実は他にも零、涯、沢田の話を考えている方がいらっしゃって、
その方の話を順序を先にして、私の話をその後につなげたほうがいいということになりました。
ですので、一旦私の話は破棄しますが、その方が投下された後に
修正して再び投下させていただくことになると思います。
…ということなのですが…説明が下手で申しわけない。
えーっと、この話の前に1エピソード挟むってことだよね?
>>894 そういうことになります。
そのほうがストーリー的にもっと面白くなると思いますので。
…そろそろ次スレがいりますかね?
前スレが501Kで落ちたのを考えると…。
おはようございます。
本日は本スレで修正したいところが出てきたため、書き込みました。
修正箇所は81話『獣の儀式』。
作中で沙織が首輪の警告音を聞いて、一旦道を戻る描写があるのですが、
そこを削除して、次の場面に繋げたいと考えております。
理由は沙織が崖に到達する前に首輪がなってしまうという
事態が生じているためです。
64話『人間として』で崖から零が落ちかけ、
88話『希望への標』で赤松達がたどり着いた崖はその崖と
繋がっている、その崖はアトラクションゾーンへ続く道と並行に
走っているという設定となっております。
今回、修正が決まった『息子』では零達が崖に沿って
歩いております。
もし、81話『獣の儀式』の設定を採用してしまうと、
88話『希望への標』、『息子』でも
首輪の警告音がならないとつじつまがあわなくなってしまいます。
ちなみに、削除した場合、崖に到達する前に、
沙織がここはどこなのだろうと、疑問に思い立ち止まる
話の流れになるため、話全体に支障は生じません。
修正してよろしいでしょうか?
話に支障がでないなら構わないと思います。
81話『獣の儀式』修正しました。
お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした。
皆様にお伺いしたいことがあります。
予約について。
ただ今、予約の期限は三日間になっております。
これを一週間の期限に変更したいのですが、よろしいでしょうか?
理由としては、福本漫画バトロワはかなりSSのクオリティを求められるため、もう少し余裕を持って推敲できるように。
もちろん、予約して即日投下でも問題ありません。
それとは別にもう一つ。
したらばの一時投下スレに投下するときも、できれば予約をお願いします。
ただ、元々予約は任意でしたので、強制ではありません。
いかがでしょうか?
ご意見をお願いいたします。
>>901 賛成します。
最近、書き手さんたちが、「クオリティの高いSSにしなくては」と意気込みすぎで大変なのでは?
という感じもします。
応援していますが、あまり「ハイクオリティ、ハイクオリティ」と根を詰めすぎないで、もっと気楽にやってもいいのでは?
と思っています。
>>902 ありがとうございます。
私個人で言えば、わりと気楽にやってます。
一方、ハイクオリティーを目指して書かれる方も、楽しんで書かれてると思うんですね。
以前書かれていた方や、新規の方にも参加しやすい雰囲気を、これから模索していきたいですね
今の投下ペースなら一週間でも問題ないでしょ
ハイクオリティを目指すことと楽しんで書くことは決して両立しないものじゃない。
ここの書き手陣も気負っているわけじゃなく、きっと楽しむためにやってるんだよ。
心配無用さ。
予約が2つも
キタ━━(゚∀゚)━━!!!
うおおっ…きたっ…きたっ…!
お久しぶりです。
作品が完成したため、投下します。
909 :
マロン名無しさん:2009/08/20(木) 00:13:19 ID:acchDIDM
支援
ククク…
聞くだけ聞こうではないか…
愚民の嘆きを
E-5ギャンブルルーム前。
月下に照らされ、浅く生えた雑草の上に一人の男の死体が横たわっている。
その肉体は上半身しか存在していない。
胴から下は、まるで豚のミンチをぶちまけたかのように、細かな肉片となって散乱している。
この男にとって、自分の死は突然のことであったのだろう。
まるで自分が死んでいることに気づかず、これから何かを語ろうとしているかのように、口が半開きになっていた。
そして、その頭部は胴体から離れていた。
その男を見下ろす男がいた。
額と手に焼け爛れたやけどの跡が残る男――利根川幸雄は死体の前にしゃがみ込んだ。
利根川は死体の首と胴の切り口をそれぞれ見比べた。
爆発によって吹き飛んだ胴は焼け焦げ、そこから流れる血はすでに乾いていた。
時間がかなり経過しているようである。
その死体のすぐ近くには、強い力でこじ開けられたかのように破損した、手に収まるくらいの円盤状の物体が転がっていた。
――形状からして地雷か・・・それを踏んで胴体が吹き飛んだ・・・しかし・・・
利根川は足元の雑草の中に隠れていたチップを拾い上げた。
――支給品は奪われていない・・・。
ほかの支給品も爆発で遠くへ吹っ飛ばされ、散らばっている。
もし、この男が死んだ時、仕掛けた者が近くにいたのであれば、支給品を拾っていくはずである。
――近くにいられる状態でなかったか、その必要がなかったのか・・・。
どちらにろ、これを仕掛けた者は優勝狙いの輩か・・・。
それ以上に、利根川には気がかりなことがあった。
乾いている胴体に対して、首の断面は水道の蛇口を閉めたばかりのホースのように血が漏れ、首輪が持ち去られているのである。
――胴体と首の犯行にはかなりの時間差が存在している・・・。
同一人物であれば、2度も同じ場所に来ていながら、
支給品を回収せず、首輪のみを持ち去ることは不自然・・・
故に、首切断は地雷を仕掛けた人物とは別人の可能性が高い・・・
そして、その人物が首輪を持ち去った理由はただ一つ・・・
首輪解体かっ・・・!
首輪を持ち去った人物は、おそらく対主催もしくは脱出派のスタンスをとる者だろう。
――今後のために、どんな人物の犯行か知る必要がなるな・・・しかし、今は・・・
利根川は立ち上がると、周囲を物色し始めた。
死体の男――神威勝広の支給品を回収するためである。
探し始めて5分程、チップが13枚、ノミ、スコップ、箕が発見された。
利根川は退屈そうなため息をつく。
――所詮・・・ガラクタかっ・・・
チップとノミはともかく、スコップと箕は爆発の衝撃からか、ひしゃげてしまい、使い物にならない状態となっていた。
仮に傷一つない状態だとしても、嵩張る割に用途が限られた支給品など荷物になるだけである。
――最も使えそうなものはチップか・・・だが、拾ったところで・・・
和也、一条と同じように、利根川もまた、帝愛で揉まれてきた人間である。
棄権申請のD-4エリアが禁止エリアに指定された時、棄権の道が閉ざされたことに勘付いた。
初めこそは、棄権費用の一億円を集めて、和也を脱出させることを考えていたが、
棄権不可、優勝以外助かる道がないと分かった今、和也を助ける理由も存在しなくなった。
利根川の目的は和也を優勝させることより、
カイジをギャンブルで倒し、自身が優勝することに重きを置き始めていた。
――そうだとしても、チップは駆け引きの手段としてまだ有効っ・・・!
ギャンブルルームの利用としても・・・。
利根川はノミとチップをディバックの中にしまうと、死体の前に建っているギャンブルルームの扉を開けた。
さっそく中から一人の黒服が現れる。
「何か用・・・」
黒服は利根川の顔を見るなり、蛇に睨まれた如く表情を青ざめる。
辛うじて動く半開きの口で言葉を漏らす。
「と・・・利・・・根川様っ・・・!」
利根川はその黒服の反応を見るや、眉を吊り上げた。
「仰々しく“様”などつけるなっ・・・!
オレは、今、このゲームでは参加者の一人でしかないのだっ・・・!
黒服ならどんな参加者に対しても公平に扱わぬかっ!」
黒服は“申し訳ございませんっ!利根川様っ!”とひたすら頭を下げる。
利根川は“こいつに何を言っても無駄か・・・”と言わんばかりに呆れたようなため息を漏らした。
とりあえず、この件は置いておくことに決めた。
「もうよい・・・それ以上頭を下げるな・・・・・・村上・・・」
黒服――村上は怯えるように、“はい・・・”と力ない返事をするとサングラスを外し、利根川を上目遣いで見つめた。
村上は帝愛の資金源の一つ“裏カジノ”で、一条の右腕として働いていた男である。
利根川も以前、この裏カジノを利用していた経験があったため、村上の存在を覚えていたのだ。
「・・・裏カジノの時は世話になったな・・・」
「い・・・いえ・・・あれは店長が・・・」
ここまで話した所で、村上は思わず口元を手で押さえ、“一条が・・・”と言い直す。
カイジとの勝負で敗北し、地下王国に落ちた時点で、一条は裏カジノのオーナーではなく、罪人でしかない。
そうとは分かってはいるが、一度、身に染みてしまった畏敬の念をそう簡単に拭い去ることはできない。
村上はそれを改めて悟り、思わず苦笑してしまった。
――話の節目で言葉を遮る奴だっ・・・!
利根川は村上にじれったさを感じた。
しかし、ほしい情報は村上が握っている。
下手に怒鳴りつけて、事を荒立たせるよりは、用だけを済ませて、早々に立ち去った方が建設的である。
利根川は苛立ちの表情を抑え、村上を直視する。
「担当直入に問う・・・表で何があった・・・?」
村上は“あの・・・”と返答の言葉を濁し、しばし逡巡する。
利根川は村上の反応に勘付くものがあったのか、ギャンブルルームの内部を見渡した。
床には赤い絨毯が敷かれ、天井には目を刺激させない柔らかい色合いの照明が照らされている。
壁は白を基調とし、ギャンブルに差しさわりがない程度の絵画が数点展示されている。
簡素ながらも品のある雰囲気を維持するためであろう。
窓は入り口付近にある、開閉式の小さな小窓のみで、その視界は限りなく狭いものであった。
また、防音設計らしく、風で木々が揺れる音――外部の音はまったく入ってこない。
つまり、ギャンブルルームは外部から完全に遮断されるように設計されていた。
参加者に誰が利用しているのか知られないようにするためであろうが、それは同時に黒服への情報の遮断にも繋がっていた。
利根川は村上に尋ねる。
「もしや、ゲームが終了するまでの間、表へ出ることを許されていないのか・・・?」
村上は無言で頷く。
――黒服に対しても、最低限の情報しか与えない・・・
当然と言えば、当然のことか・・・。
利根川は一言、付け足す。
「知りえる情報は限られているようだな・・・お前の分かる範囲で構わぬ・・・」
「実は・・・私の趣味なのですが・・・」
村上は小さなマッチ箱くらいの機械とそれに繋がったイヤホンを差し出した。
「ギャンブルルームの備品の盗聴器です・・・
このマイクを勝手に扉の表側に仕掛けていたんです・・・
なので、外で何があったかは把握しております・・・ただ・・・」
「ただ・・・?」
村上のニュアンスに、利根川は訝しげに目を細める。
村上は気まずそうに俯く。
「黒服は参加者に情報を尋ねられた場合、チップを受け取れば話すことが可能という規定はあるのです。
けれど、これまでここを利用した参加者がどんなギャンブルを行っていたのかなど、
ギャンブルルーム内の情報を他の参加者に話してはいけないということになっております・・・
つまり、お話できるのは、事前に決定しているルールなどに限られるんです・・・」
利根川は“ほう・・・”と呟きながら、口角を吊り上げる。
「村上・・・その黒服の規定の中に
“ギャンブルルームの外で起こった情報を話してはいけない”という事項は
盛り込まれているのか・・・」
村上は弱々しい声で“いいえ・・・”と首を横に振る。
「確かに、違反事項には盛り込まれておりません・・・
しかし、私が勝手に行った行動・・・なので・・・その・・・」
「しかし・・・黒服は“外部”を盗聴してはならないという規定もないのだろう?」
村上の話を全て聞く前に、壁に掲げられている絵画に足を止めると、それを裏返しにした。
「利根川様・・・何を・・・」
村上は言葉を失った。
利根川が持っていたものは、盗聴器のマイクであった。
村上の顔はみるみる蒼白する。
「まさか・・・それは本部が仕掛けていた物・・・」
利根川は室内を一周する。
「ギャンブルの内容を確認したければ、まずはカメラを天井に・・・
参加者の表情が見るために左右の壁にも・・・
それから、マイクがテーブルの下に・・・」
村上が愕然としている間に、利根川は本部が仕掛けた、部屋中の盗聴器と監視カメラを全て見つけ出した。
「つまり・・・お前の行動は筒抜けということだ・・・村上・・・」
利根川は初めに見つけた盗聴器のマイクを村上に手渡す。
「ここまで監視されていながら、主催側からのお咎めはなしっ・・・
つまり、お前の行動は許容範囲ということだっ・・・!」
村上は納得がいかないという表情を浮かべる。
「しかし、それは屁理屈・・・」
「村上・・・」
利根川は近くにあった椅子に座り、テーブルの上で手を組んだ。
その姿は威圧的なその雰囲気は、かつての帝愛ナンバー2の威厳を放っていた。
「確かにルールで禁止されていることを行えば、それは違反・・・
罰せられて当然・・・自業自得だ・・・
しかし、裏返せば、ルールで禁止されていないということは何を行っても可能・・・
今回、“ギャンブルルームの外で起こったことは話してはならない”という規定がなかったのは・・・」
利根川は壁を軽く叩く。
音が反響することなく、壁に吸い込まれていった。
「防音壁に、視野の狭い窓・・・
主催者は外部から完全に隔離された構造によほど自信を持っていたのだろう・・・
その傲慢さが“ギャンブルルームの外で起こったことは話してはならない”という規定の失念、
お前のイレギュラーな行動の黙認へと繋がってしまった・・・
ルールの裏をかくということはそういうことだ・・・
カイジのようにな・・・」
かつて利根川はカイジとのEカード勝負の際、耳を賭けることを条件にゲームを開始。
カイジの耳にはそれを果たすための専用の器具が取り付けられていた。
ルールには器具を取り外してはいけないという条件はなかった。
器具は一度、取り付けると外れなくなるシステムのため、ルールに盛り込む必要がなかったのだ。
しかし、カイジはその裏をかき、耳を切断し、器具を外してしまうという暴挙に出たのだ。
それ以後、ゲームの流れはカイジに傾き、結果、利根川は幹部の地位を剥奪された。
「カイジ・・・」
村上もまた、カイジにゲームの裏をかかれた者の一人である。
カイジが裏カジノの『沼』において、ゲージ棒の細工、ビルを傾けるなどのルールに記載されていない暴挙を行わなければ、
今頃、一条は帝愛の幹部入りを果たしていたはずだった。
村上の心にヘドロにも似た怨嗟が溢れ、それが激流のように体内を駆け巡る。
――カイジ・・・お前さえいなければっ・・・!
村上の心は、主催者から指示を淡々とこなす黒服ではなく、一条の部下へ戻っていた。
村上は、自信に満ちた笑みを浮かべる利根川を見据える。
――利根川様の言う通り、
規定には“ギャンブルルームの外で起こったことを話してはならない”
という事項は存在しない・・・
ならば、オレがするべきことは・・・決まっているっ!
「利根川様・・・表で起こったこと、私の分かる範囲でよろしければ全てお話いたします・・・」
利根川はうねりのような予感を感じた。
――流れがきているっ!
村上は決意に満ちた眼差しを利根川に向けた。
「意外に思われるかもしれませんが・・・あの死体が踏んだ地雷を仕掛けたのも、
その後、首を切断したのも、全て兵藤和也様によるものでございます・・・」
「何っ・・・和也様がっ・・・!」
利根川は腕を組んだまま、目を見開いた。
今まで、地雷と首切断は別の人物による犯行、ましてや、首切断は帝愛に刃向かう者によるものと結論付けていた。
村上は事の経緯を説明し始めた。
ゲームが始まってから1時間が経過した頃、和也がここを訪れ、ギャンブルルーム前に地雷を仕掛け、待ち伏せた。
その後、全身血まみれの男と髪を染めている少女の二人組がこのギャンブルルームを通りかかり、男の方が地雷を踏んでしまった。
少女はそこで逃げるかと思いきや、和也を発見し、襲い掛かった。
窓の視界から外れてしまったため、どのような戦闘があったかまでは分からなかったが、軍配は和也の方に上がったらしく、少女は逃げていった。
和也もここに長居しては危険と感じたらしく、早々に立ち去っていった。