(o^v^o) ぱにぽに de 学級崩壊 (*゚∀゚*)6日目
>1乙
一日書き込みがなかったら落ちるんだな…。気をつけよう。
乙です
ビビった。お気に入りのスレだから定期的に構ってあげなきゃいかんかった…
>>1乙
書き込み無しで落ちるのは久しぶりだな。
1日目以来か。
乙。
専ブラでいきなり灰色になってたから驚いたわ・・・
一日カキコしないだけでダメなのですか?
うーん・・・落ちまくってたせいかな・・・たまにageたりしないといけないんじゃないの?しらんけど。
ありゃりゃ、落ちちゃったな
最近この板は
スレが落ちるのがとっても早い。困るよ(´・ω・`)
ドラゴンボール?スレが乱立してるらしいな。マロン。
いつかは落ちるにしろ今度こそ1000まで行って落としたいな。
982→948→871→669→339とどんどん最終レス番が小さくなってる。
>>11 容量オーバーは仕方がないのでは?
もともとテキストを大量に使うスレだし…
5日目はともかくとして、最終レス番が小さくなっているというのはそれだけ作品が充実してきているってことだろうし
「たすけて!!」
荒野に一人のメイドの助けを求める叫びがこだまする。
「んっー!!」 ガチャッツ!!
逃げようにも、彼女は岩場に鎖でつながれて身動きが出来なくなっている。
「たすけて、桃レンジャー!!」
その時、
「わーはははっ!!もっと泣け!!もっと叫べ!!」
メディアが見上げると不気味な髑髏の姿をした怪人が現れる
「お前が泣き叫べば、桃レンジャーが現れる・・・
そして、われらが張り巡らした罠に飛び込む事になるのだ!!」
メディアは気丈にも恐ろしい怪人に反論する
「だめです!!桃レンジャーはあなたの思い通りにはなりませんよ!!」
「そのつもりなら、それも良かろう・・。ただ、少々痛い目にあってもらうことになるが」
怪人は手にした杖を振り上げる、メディア絶体絶命
その時!
「待ちなさい!!」
夕陽をバックに三人組の正義のアイドル、桃レンジャーが現れた。
「あなたの野望もここまでよ、ドクロ仮面!!」
「桃レンジャー、これは罠です。こないで下さい!!」
「ふふふ、、無駄だ!!かかれ!!」
「イーッ!!」
奇声を上げて戦闘員が彼女たちに襲い掛かる
それを難なく桃レンジャーが一掃し、とうとうドクロ仮面との決戦となる
睨み合う桃レンジャーとドクロ仮面、
だが、ドクロ仮面が地面に降り立った瞬間、突然足元で爆発が起こった。
「爆発するなんて脚本にあったっけ!?」
当初、スタッフは目の前で起こった惨劇が信じられないという様子だった
「ないない!!カット!!・・・うわ!!」
「大変だ!!」
「大丈夫か!?」
突然の事態に撮影現場は混乱に包まれた。
「うっ・・・」
爆発に巻き込まれ、煙の中で倒れるドクロ仮面の元に怪しげなお面を付けた人物が現れる
「なにを?」
「ステッキは頂くわ、魔法少女ベホイミ。」
謎の人影がそう言って立ち去った後、撮影スタッフが彼女の救出に駆けつけた
「おい!居たぞ!!」
「大丈夫?怪我はない?ベホイミちゃん!?」
「ベホちゃん!!」
スタッフの呼びかけに意識を取り戻したベホイミは立ち上がろうとするが
すぐに倒れこみ慌ててメディアが抱き抱える
「足をひねったみたいッス、監督さんすまないッス・・・」
「しかたない、君のせいじゃないよ、ドクロ仮面は代役を頼もう。」
「おい・・・これは・・・」
スタッフの一人が呆然と立ち尽くしていた。
慌てて皆がそこに駆け寄ると、そこには爆発で出来た巨大な穴が口を空けていた・・・
「爆発するなんて脚本にあったっけ!?」
↑待て!桃組が出るんなら常に爆発に備えるべきだ
マロン名無しさん :1945/08/06 16:30
【速報】「桃組っ!!」出演番組撮影中に謎の大爆発 (967)
1 名前:太田区民 1945/08/06 8:17 識別:イコエロト
サキホド桃月町ノ方カラ、大音響ガ聞エテ来マスタ。情報キボンヌ
29 名前:七百七拾四連隊@ホシガリマセン 1945/08/06 8:19 識別:???
サキホトカラ゙放送局ノ放送ガ入ラナイ
147 名前:岩國サン 45/08/06 8:47 識別:イコエロト
桃月町上空ニ不可解ナ雲カ立チ上ッテイル模様
150 名前:七百七拾四連隊@ホシガリマセン 45/08/06 8:47 識別:エリツコク
1=147 自作自演ヤメレ(・∀・)!
「ねえ、雅ちゃん、早く見せてよー」
「ちょっと、まってよお」
ここは桃月小学校の昼下がり、教室のすみで生徒たちが騒いでいた
「(´・ω・`) ・・・・・チンパン総督モンキッキ。。。」
「悪役カードだー・・・」
「これで五枚目だ!雅ちゃん、よっぽどモンキッキが好きなんだ?
じゃあこれから雅ちゃんの事を、おサル大臣マッキッキと呼んであげよう!!」
「ダメー!!やめてよ望ちゃん」
「プヒヒヒヒ」
そこへ、鈴原未来が姿を現す
「あの、私のは・・・」
「凄い!!カードフォルダー!?当たったんだ。中を見せて!!」
望が未来から半ば奪い取るようにカードフォルダーを受け取ると、皆で整理された彼女のコレクションに見入っていた
「あーYUNAのカード!!」
「あーだめえ、NO44のYUNAのカードはなかなか出ないんだから!」
望が目ざとく、雅のカードの中からレアカードを見つけ出す
「NO55のTUBASAのカードもなかなかでないんだよね」
「へーどうしてなんだろう?」
そんな話をしている彼女たちの中に一人の男の子が割り込んできた
「ゾロ目のカードはなかなか出ないようになってるんだよ」
「あっ、豊くん!!」
「豊くんも、桃レンジャーのカードを集めているの?」
得意げに割り込んだくせに、彼にとって発言は藪蛇だったようで、
「・・・ばっ、馬鹿だなあ。僕がそんな子供っぽいことする訳ないだろ・・・」
「そうだよね、豊くんがそんな子供っぽい事をするわけないよねえ」
「なーんだ。・・・ところでゾロ目ってなに?ワンピースの新しい敵キャラ?」
豊は上手くごまかしたのつもりなのだが、雅のこの質問が解説好きの彼に墓穴を掘らせることになった
「ゾロ目っていうのはね、11とか22とかのように同じ数字が揃ったことを言うんだ、
ゾロ目のカードは桃組の写真が付いてて、ほんの少ししか作ってないんだよ、
中でも、NO99のカードは殆ど出なくて幻のカードと呼ばれてるんだ・・・あ!!」
「・・・豊くん、集めてないのに詳しいんだね?」
「・・・ごっごめん、僕これから塾があるから・・・」
痛いところを付かれて豊はこの場を逃げようとするが・・・
「まだ、下校の時間じゃないよ」
「・・・」
「本番!!よーい」
スタジオでは桃レンジャーのピンチの場面の撮影が行われていた
「ははは、これまでだな!桃レンジャー!!」
「しっかり!!桃レンジャー」
ドクロ仮面の攻撃によって桃レンジャーは追い詰められていた
「私たちは負けるわけには行かない。
地球の平和を乱す、あなたたちのような悪党には
負けるわけには行かないのよ!!」
そして、撮影現場の隅で、力を振り絞って立ち上がる彼女たちの姿を見守りながら
足に包帯を巻き車椅子に乗ったベホイミも、その台詞を繰り返していた。
「違う・・・いつものドクロ仮面さんじゃない」
一方、鈴原家では未来がブラウン管の向こうで起こった異変に気づき始めていた
「どうしたの?あんた、いつもはドクロ仮面のことをあんなに応援してるのに」
悪人でありながら人情に篤い一面を見せるドクロ仮面はファンもかなり多く、未来もそのうちの一人なのだが、この日だけはドクロ仮面がいつもと違って見えると母親に訴えていた。
「ドクロ仮面に本物も偽者もないでしょ?ほら、テレビ消すわよ!」
母親がテレビのスイッチを消そうとした瞬間、画面に不気味に笑う怪しい影が映りこんだ。
「うわっ!!お母さん、今何か変なのが映ったよ!!」
と未来は訴えるのだが
「自分の顔でしょ?そんなことより早く手を洗いなさい!!」
とまったく相手にされない
その夜、
「本当に変なのが映ったんだよ。
ドクロ仮面だってニセモノだったんだ、サラ君は分かってくれるよね?」
部屋の中で、未来はお気に入りのサラマンダーのぬいぐるみを抱きしめて語りかけるが
もちろん、ぬいぐるみから返事は返って来ない。
>「自分の顔でしょ?そんなことより早く手を洗いなさい!!」
ひでえwww
「疲れたー。思ったほどドクロ仮面の代わりは上手くできなかったなあ」
「すまないッス、芹沢さん・・・」
「いいってことよ!それより足のほうは大丈夫なのか?」
芹沢はベホイミの怪我を気にして声をかける
「それは、もう大丈夫ッス!ほら!!」
「もー、無理しないでください」
スタジオでは、無事撮影を終えたことでホッとした空気が流れていた
「医者が驚いていたッスよ、あまりに回復が早いから」
ベホイミは皆に心配を掛けないように明るく振舞うのだが、
そんなの彼女を見てられないと言うようにメディアが口を挟んだ
「もう、そんな呑気なことを言っている場合じゃありませんよ。
・・・・・・あのステッキを盗まれたということは私たちは。」
「分かってる。早くもう一人の魔法少女を見つけ出さないと・・・・」
はたして、そんな人物が見つかるのかどうか、ベホイミの顔に僅かな不安が表れる
「だいじょうぶです、もうすぐ・・・」
そんな、ベホイミを励ますようにメディアは語りかけた
今日はここまでです
GJGJGJ(* ´Д`)ハァハァ
チンパン総督マッキッキの活躍希望!
もちろん正体は洗脳された雅ちゃん
どう見てもクレヨンしんちゃんです。
どうもありがとうございました。
後のカードゲームの流行を先取りしてたんだなあ・・・
修が何者かによって殺された。
兄を失い、一人悲しみに暮れるくるみに一人の男が声をかける。
その男の名は獅堂開。
玲さえも舌を巻くほどの秀才である彼は実は
異世界から謎を求めてやってきた魔人だった。
修が殺された経緯に謎を感じた開はくるみを探偵に仕立て上げ、
その謎を解いていくのだった……
って言うのを考えたんだけどダメカナ?
獅堂開って誰?
オリキャラ?
>>30 しどうかい・・・へー。
性別不明?
書いてみればいいじゃない!
ドクロ仮面吹いたw GJ
魔人獅堂開面白そう…期待
そーいや獅堂開=ヤンキー説が一時期囁かれていたことがあった罠
古参職人さんも新人職人さんもがんばれー
34 :
マロン名無しさん:2006/10/24(火) 00:04:25 ID:zuIdxUZj
a
(;´Д`)ハァハァ
「ねえ、ねえ豊くん?昨日の桃レンジャーって何かおかしくなかった?」
翌日、ついに秘密を堪えきれなくなった未来は隣の席にすわる少年に質問した
「何のこと?ビデオにはなにもおかしいとこは・・・」
「へーやっぱり豊くんって桃レンジャー見てたんだあ!」
「そっそんなことは・・・」
「あっ!望ちゃん、昨日、番組の後で変なのが映ってたんだよ」
「うーん・・・私は昨日お姉ちゃんと戦国ドキュン見てたから、桃レンジャーは見てないんだ」
「あたしの家はなにもうつってないよ・・・」
「未来ちゃん!望みちゃん!雅ちゃん、それに豊くんも、授業中は静かに・・・」
先生は子供たちをそうやってたしなめようとしたが・・・
「先生!昨日のテレビで変なのが映ったんだよ!!」
「本当に?ねえ、それってどんなのですか??」
しまいには先生も話しに加わる始末で
残った子供たちも
「おい!聞いたか?昨日の桃レンジャーに幽霊が映ったらしいぜ!!」
「まじかよ!!」
まったく授業は成り立たなくなり
このクラスにドスの効いた一声で、騒ぐ子供たちを一気に一糸乱れぬ任侠の世界の住人に出来る組長先生が出現するという奇跡は望むべくもなく、この混乱は麻生先生の減給2ヶ月で幕を閉じました。
「もうっ・・・給料減らされて麻生先生泣いちゃったよ」
「ごめん、でも本当にみんな何も見てないんだあ」
「やっぱり自分の顔だったんじゃないの?」
「そんなあ・・・あっ、あれは何だろう?」
帰り道、通りなれた桃月町の商店街を通っていた未来が、何かに引き込まれるように路地裏へと入っていく
「待ってよ!未来ちゃん・・・何?このお店??」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
路地の向こうで見つけたお店に入った瞬間、彼女はそう迎えられた。
「違うよ・・・おばあちゃん。私たちは始めてこのお店に来たんだよ」
「そうか、すまんのう・・・なんせここのところ、どうにも耳も目もきかなくなっての・・・
てっきり旦那さまのお帰りじゃと思ったんじゃが・・・
お客様の来るのも一月ぶりじゃ。お譲ちゃんたち、何も無いが遊んでってくれや」
彼女たちが迷い込んだのは何やら由緒ありそうな駄菓子屋だった
「へー駄菓子屋なんて今時珍しいねえ。んっトランプ?これなんかお姉ちゃん喜びそう。」
「望ちゃん勝手に空けちゃだめだよ!・・・ここにも桃レンジャーカード置いてあるのね?」
未来はそういうとチョコをひとつつかんでレジにもっていった
「本当に未来ちゃんは桃レンジャー好きだねえ。・・・えっ嘘!?ゴールドでたの??」
未来が封を開けると中から金色に輝くカードが姿を現した
「うわ・・・こりゃ・・・きついね」
「ブラックユーモアって言えばいいのかな?」
カードを見た少女たちの反応は散々だった、なぜならカードには金箔を貼られた頭蓋骨、つまりドクロ仮面がプリントされていたからだ。
しかし、未来だけがそのカードを手に入れたことを喜んでいた
「ドクロ仮面さんだ・・・おばあちゃん!ありがとう!!」
「未来ちゃん・・・そんなカード捨てちゃいなよ!」
「やだよお、宝物にするんだもん」
そういって家に帰っていく子供たちを見送った老婆が店の奥に引き上げると
中から突然、銃口が向けられた。
「バン!」
そういっておもちゃの銃をいたずらっぽく発射した声の主は、老婆を労うように微笑みかけた
「あの子なんですね?」
「ああ」と返事をすると老婆はきぐるみを脱いでその正体を現した
「冗談きついなあメディアは。でもまあこれで第一作戦が終了したわけだな」
「お疲れ様です、パフェの用意が出来てますよベホちゃん。」
夕陽に照らされた店内で二人の少女がパフェをほおばっている
「すぐに第二作戦に移るッスよ」
「はりきってますねえ」
「そりゃそうッスよ!いつまでも落ち込んでちゃ癒しの魔法少女として恥ずかしいスから」
「それでこそ、ベホちゃんですよ!」
「心配かけてすまなかったッス・・・」
ベホイミはひどく赤面した
今日はここまでです
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
起きててよかたーー!!
ハイグレ魔王のつけてた仮面って、シンプルなんだけどかえってそれが怖かった記憶がある
GJ
これ元ネタあるのですか?
時をかける少女
ファンタジー大長編の予感wktk
あげとこうか
念の為な。
玲ちゃんマホ〜
これって、コンピューターウイルスになったメソウサが世界中のコンピュータをハッキングして、しまいにはアメリカ大王を捕まえて核ミサイルまで発射してしまう話になるんだろ?
ある日修が死んだ。交通事故だった。
葬儀も告別式も終わった。
そして、週が明けた桃月学園1年C組教室―
「――31番、桃瀬くるみ」
ベッキーが出席を取る。
「はーい」
くるみが返答する。
「……くるみちゃん、大丈夫なの? しばらく休むかと思ってたよ〜」
姫子が言った。
「……店長にも同じこと言われたよ。しばらく休んでもいいって。
でも、そういうわけにはいかないじゃない?
兄貴も、私が落ち込んでるのを見たら悲しむと思うし」
くるみは言った。そしてふとエトワールへと思いを馳せた。
妙子がいなくなったのだ。
あの日、店に顔を出した妙子は、いつものように、「不幸ですか?」とくるみに声をかけてきた。
その時、くるみは、兄の訃報を電話で聞いて早退しようとしていたため、本当に不幸だったのだ。
くるみが半ば気の動転したまま返答したときの妙子の顔が今でも忘れられない。
妙子は一言「ごめんなさい」と謝ると、そのまま走り去っていった。
魔法少女猫が追って行ったらしく、最後に妙子に会ったのは彼女であり、
くるみが店に復帰したときにもいつも通りいたが、妙子と何を話したかについては語ろうとしない。
「姫子、無神経すぎない?」
HRが終わり、くるみが修の私物を引き取りに教室を離れると、都が言った。
「だってー、くるみちゃんが心配だったんだもん」
「ひとつ確かなことは、私たちがどうしようが死んだ人間は生き返らないってことだ」
「玲!」
都が非難の声を上げる。さすがに姫子も玲に冷たい目線を向ける。
「どうしようが意味がないってことは、何をしたっていいってことだ。泣きたい奴は泣いたらいい。
私は――、いつもの私でいるよ」
あの日、妙子を追って駆け出した魔法少女猫は、しばらく走った後、立ち止まった妙子にこう言われた。
「どうしてついてくるんですか? もうあなた達には用はないのに」
「……えっ!?」
「私、見習いから卒業ですから。疫病神の」
意味がわからない、という顔を魔法少女猫がしていると、妙子は話を続け始めた。
「関わった人間が1人重大に不幸になりました。疫病神として一人前になった証拠です。
もともとあの店に行っていたのは、見習い卒業のためにノルマを稼ぐためでした。
本職の疫病神になれば、ノルマを稼ぐ必要はなくなります。自然と仕事が増えますから。
だから、もうあの店には行かなくてもいいんです。あなたたちともお別れできます」
くるみの兄の修が死んだ。それによって妙子の顔見知りであるくるみは不幸になった。
だから妙子はもう見習いではない。立派に疫病神としてやっていける。もうエトワールに行く必要はない。
妙子がここまで言っても、魔法少女猫はつかみ掛かるどころか、非難の声すら浴びせず、神妙に聞き入っていた。
妙子の顔が、悲しかったから。
面と向かってこんな顔をされては、何を責めることも出来ない。目は口ほどにものを言う。
妙子が、自分の昇進を誰よりも喜んでいないのは目に見えて明らかだった。
自責の念で押しつぶされそうな相手に、どうしてそれ以上責めを負わせられるだろうか。
空には青空が広がっていたが、魔法少女猫は地面を見つめながら、エトワールへと戻った。
あのときの妙子に、何も言うことが出来なかった。それが後悔となって、自然と気が重くなる。
なるほど、確かに妙子は疫病神として一人前になったに違いない。
現に自分はこんなにも不幸になったと自嘲した。
そして、あのとき妙子に何か言えたとして、妙子を少しでも慰められたとして、それが何になるだろうかとも考えた。
ひと時の心の救いも、疫病神の妙子には意味がないだろう。
彼女がエトワールの面々を大切に思っていればいるほど、彼女は会えないのだ。不幸にするわけにはいかないから。
エトワールには少しだけ客が増えた。もう1人バイトを増やしてもいいくらいには増えた。
疫病神がいなくなったからか、店長がくるみに遠慮して店からオタク臭を消したからかは、わからない。
「加害者は大型バイクで横断歩道に突っ込んできた後電信柱に衝突、
救急車で運ばれた後、搬送先の病院で死亡、死因は脳挫傷だそうだ。
くるみさんのお兄さんと同じ死因だ。人はこんなにあっけなく死ぬんだな」
ベホイミは言った。
「……私は彼とはあまり話さなかったけれど、彼を好きな人は学園内にたくさんいました。
今も彼を好きでいる人がいます。その人たちをこれ以上不幸にしてはいけない。そう思います」
メディアが言った。口元からは笑みが消えていた。
「力を貸せ。100%事故だったと、諦めがつくまで調べることにする」
ベホイミはメディアと目を合わせ、真顔で言った。メディアは黙ってうなずく。
「ひとつ確かなことがある。もし事故では無しに、誰かの陰謀で、
くるみさんのお兄さんが殺されたんだとしたら、その誰かは間違いなく地獄へ落としてやるってことだ」
「楽しそうな話してるね〜。なーに? 私にも教えて〜?」
ふと現れた鈴音が声をかけてきた。
「…………」
ベホイミは少し動揺した。人気のない場所を選んでメディアと話をしていたのに見つかるなんて意外だった。
そして、鈴音の顔――、目の下にはクマができ、少しやせ、表情には陰が差し、病的に笑っていた。
「鈴音! 乙女が心配してたわよ!? あんまりフラフラしちゃダメでしょ? ね? つらいのはわかるけど、」
「ふぅ〜ん。ひびきもつらいんだ? 桃瀬くんが死んだの、悲しかった?
あははは、桃瀬くんは幸せものだなぁ……」
響は少し悲しそうな顔をして、無言で鈴音を連れて去った。
鈴音は、修の葬式に出て以来、1日12時間近くとっていた睡眠時間を大幅に減らし、食事もろくにとらずに、
哲学や宗教、生物学など、雑多な本をすさまじいスピードで読破し始めているらしい。
「私たちは、気楽なのかもしれないな……。
心がおかしくなるほど悲しいわけでもないのに、意気だけはあって、報復だのなんだのって……」
(……失ったものの落とし前をつけることくらいしか、私にはできない。
生きている人の悲しみを和らげることも、心を救うことも、できない)
「メディア?」
「……いえ、少し考え事をしていただけです」
そう言ったメディアの目は、少しだけ潤んでいた。
続きは今夜
もし修が事故で死んだら?という設定の話です
とりあえず全員分のリアクションを書こうと思います
「諸君らの愛した桃瀬修は死んだ!なぜだ!!」
GJ
もしもシリーズいいですね。
頑張って
イイヨーイイヨー
都はストイック系の格好よさでいえばぱにぽに中随一だと思いまして。
そんなわけで出来上がりました大長編。
今じゃ忘れ去られつつある都の霊感設定をフルに活用してしまいました。
とにかく分量があるし、内容もアレなんで、興味のある方はどうぞ。
追跡劇型の推理小説として楽しんでいただければと。
一つ、よろしくお願いします。
注意:この作品は3通りの異なる時系列が並行して展開します。
全てを順番に読んでいけば物語の全体像を掴むことが出来ますが、どれか一つ、或いは二つのルートの組み合わせによって断片的に読んでいくことも可能になっています。
読み方は自由、如何にして物語を追跡するのかは読者諸賢それぞれのご判断にお任せします。
<ルートM パート1>
"言うなれば、我々は二度この世に生を受ける。一度目は存在のために、二度目は生きるために。"
――ある一人のフランス人の記す
風光明媚なナポリの港湾は地中海に照りつける太陽の光の乱反射により一層輝いていた。
そこは、空気そのものが仄かな光を発しているようで、からりとした暑さも爽快な汗の中に居心地のよさを感じさせるものだった。
目に見えるもの、肌に感じるもの、全てが美しく、全てが快感であった。
なるほど、ナポリを見ずして死すべからずとは享楽の何たるかを弁えた古人の的を射た格言だわ、と上原都は額の汗を拭いながら思った。
彼女は照り輝く太陽の直視から逃れるように海岸線沿いの市街のオープン・カフェ・テラスに座り、アイス・コーヒーの氷を匙で掻き回していた。
掻き回すたびにカラン、カランと音を立て、崩れていく氷の様子に、彼女は何か運命めいた訓示を得たような気がした。
車道を挟んで彼女が見つめる先には一軒のハーバー・クラブ、「カーザ・シエロ・ブル」があり、優雅な白い顔を水面に浮かべた、たくさんのヨットやクルーザーが地中海の穏やかな波に揺れていた。
白い糸切れのようなカモメが真っ青な空に溺れ、時折ひっくり返る天地の感覚に、都は陶酔にも似た、快と不快の境を綱渡りするような奇妙な感覚に取り付かれていた。
或いは気が動転していたのかもしれない。
しかし彼女の頭はかつてないほど明晰だった。
冷静であったとは言い切れないが、しかしともかく、自分がそこにいることを見失うような、狂的な情熱に踊らされているわけではなかった。
都はコーヒーを少し口に運んだ。
ほろ苦い香りが、のどを通じ、鼻腔を撫でる。
車道を向こうからやってくる一台の車があった。
真っ黒い弾丸のように疾走してくるその車――ソフトトップを全開にしたアウディTTのロードスターは、大きなスリップ音を立てて急カーブし、件のハーバー・クラブの駐車場に乗り入れた。
運転席には白いワイシャツを派手に開襟した、若いイタリア人が一人、乗っていた。
目を覆うオークリー製のサングラスが、真っ黒の車体と同じように、降り注ぐ太陽の光を弾き返していた。
都は赤い縁の眼鏡をつまみ上げ、眼を細めて男の顔を注視したが、確かにそれは目的の男だった。
ブロンドの髪を撫で付け、ラテン系の彫りの深い、なかなかハンサムな男である。
都は胸の鼓動を抑えつつ、男の様子を見守っていた。
男は車から降りると、辺りを見回し、次いで気だるげに太陽を見上げ、何らかの悪態をついたように見えたが、やがて車の鍵をロックし、クラブの建物に向かって歩き始めた。
都はその瞬間を待っていたかのように、足元に置いた鞄の中から、狂おしい銀色に自己主張をするベレッタ96を取り出す。
テーブルの下で弾装を確認し、遊底を引いた。
赤いサインが起き、弾の装填が確認されると、彼女はそれをズボンのベルトに挟み、コート・ジャケットで上から隠した。
よれた赤いユーロ紙幣をテーブルの上に置いて、カフェを出た。
足早に車道を横断し、白いワイシャツの男の背後に歩み寄る。
静かに、忍び寄るように――だが、決してこそこそとはしない。
堂々と、胸を張って。
男は建物の門に手をかける寸前、後ろから追いかけてきた日本人の少女に気付いた。
そして、振り向いてその姿を確かに認める前に――発射された40口径の弾丸が、その頭をサングラスもろとも貫いた――
<ルートR パート1>
私はイタリア・ローマにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ空港行きアリタリア航空7743便の旅客機の中でじっと瞑想していた。
私の隣の席に座っていたメディアが、私が眠ってしまったものだと勘違いしたのか、彼女らしい気遣いを見せて私の身体に毛布を掛けてくれた。
私は自らに課せられた任務の如何に重要で、如何に困難なものであるかを否応なく認識させられていた。
私がこれから果たさねばならぬこと、それを考えるだけで気分は憂鬱になる。
しかし私は真実を知らねばならない。
そして可能ならば・・・・・・私のかつての教え子、上原都を恐ろしい地獄の世界から救い出してやらねばならない。
私は苦々しい思いを噛み締めつつ、あの日のことを回想する――
――その日はいつも通り平穏な一日であった。
いつも通り授業を終え、日が暮れる前に早めに帰宅してしまおうと企んでいた私は、職員室への突然の呼び出しを受けることにより、その願いが果たせないことを知ることになった。
私が職員室に出頭すると、そこで待っていたのは二人の厳しい男たちだった。
一人は背の低い(といっても私よりはずっと高かったが)、堅実そうな日本人で、もう一人はアッシュの頭髪と、それに調和したグレーの瞳を眼窩に埋め込んだ白人の男だった。
彼らは各々異なる手帳を見せて自分たちの身分を明かした。
きらりと光るバッジ、彼らは仕える相手を異とした、同類の官憲公僕であった。
私たちは軽く挨拶すると、応接間で向かい合って着席した。
「レベッカ宮本さん」日本人の刑事が茫然とする私の名前を呼びかけ、突然話し始めた。
「お忙しいところをお手間取らせてしまって申し訳ありません。我々はある重要な事件の捜査に関して、貴女に少々伺いたいことがありまして・・・・・・」
彼は手にしたファイルから一枚の写真を取り出した。
私は差し出された写真を受け取った。「ご存知ですか?」
そこに写っていたのは間違いなくあの上原都だった。
ここ数ヶ月、全く連絡が取れないので心配していたところなのだが・・・・・・私は急に背筋にひんやりと突き刺さるものを覚えたが、努めて冷静を装った。
「知っています。私の教え子です」
「今どこにいるかご存知ですか?」
「国外に・・・・・・どこの国かは知りませんが」
「ここ最近、彼女から連絡を受けましたか?」
ここで私は相手のペースを制した。
「ちょっと待ってください。都は一体どうしたんです?何かあったんですか?」
日本人は隣の白人に目配せした。彼は黙ったまま何も反応しなかった。
「実は・・・・・・」
「何です?」
「彼女は今、複数の事件に関する重要参考人としてイタリア捜査当局によってその行方を追跡されています」
「・・・・・・?何ですって?」私は思わず耳を疑った。
「正確に言うと」日本人は躊躇うことなく続けた。
「イタリア国内及び近隣諸国に於ける五件の大規模な麻薬取引、三件の武器の密輸・密売、二件の故物売買・隠匿に関するものです」
「それは容疑ですか?」私は努めて気を落ち着けながら訊ね返した。
「いえ、まだ参考人聴取の段階です」
「つまり、彼女が国外で違法行為をしたから追跡されている、というわけではないのですね?」
「必ずしもそうではない、ということです。しかし、そうでなくても彼女が何らかの形でそれらの犯罪に巻き込まれた可能性はあります。
もし彼女が犯罪の被害者として事件に関わってしまったのなら、すぐにその居場所を突きとめて保護してやる必要があります」
「彼女の身にそんなにも差し迫った危険が?」
「イタリア国家警察は事態を重く見て彼女の追跡捜査を始めました。今回我々が伺ったのもICPO(国際刑事警察機構)を通じてイタリア当局から彼女の身辺に関する捜査を依頼されたためです」
「解せませんね。私の知り得る限り、彼女がそんな重犯罪と結びつくなんてことはとてもありえませんが」
「いずれにしても懸念されるのは彼女の身柄の安否です。彼女の居場所について何か思い当たることはありませんか?」
「申し訳ありませんが・・・・・・私には何も。イタリアにいるというのも今初めて知ったくらいでして・・・・・・彼女の海外での保護者は教授だし・・・・・・」
私は狼狽しつつ、独り言のように呟いた。
しかし何の気もなしに口から出てきたさり気ない単語が、彼らの興味を強く惹きつけたようだった。
「'教授'ですか・・・・・・ここでもやはり・・・・・・」
日本人は意味深長な面持ちで頷きながら、姿勢を転じてイタリア人の特別捜査官に私の言葉を翻訳して伝えていた。
私は彼がはっきりと'professor'と発音するのを聞いた。
私は不安になって彼らのやり取りを見つめていた。
しばらくして今度はイタリア人の方が身を乗り出してきて、流暢な英語で話し出した。
「・・・・・・ミズ・ミヤモト。その'教授'という男ですが、何者かご存知ですか?」
「MITで教鞭を執っている言語学の・・・・・・」
「MITというのはアメリカのマサチューセッツ工科大学のことですか?」
「ええ。・・・・・・どういう意味です?」
「この写真の男ですか?」
イタリア人捜査官は私の問いを無視するようにして一枚の写真を寄越した。
そこに写っていたのは確かに教授だった。
「・・・・・・はい。彼です。間違いありません」
「そうですか・・・・・・では大変申し上げにくいのですが・・・・・・彼は亡くなりました。既に三ヶ月以上前のことです」
「!?な・・・・・・何を?」私は言葉を失った。頭の中が一気に漂白されたのだ。私の目にも明らかな動揺を前に、彼は続けた。
「殺されたのです。つい先日、彼の白骨化した死体がナポリ湾岸に立地する廃倉庫で発見されました。この写真は現場近くで発見された彼のアメリカ政府発行のパスポートによるものです」
「そ・・・・・・そんな・・・・・・」
「頭蓋と身体に数発の銃弾を受けて――我々は骨の間に挟まったうちニ発を採取することが出来ました」
彼はもう一枚の写真を取り出した。
地中海の青い海原に面した一軒のボート・ハウスの写真。
「これは?」私は震える声で訊ねた。
「同じナポリ市内にあるハーバー・クラブ'カーザ・シエロ・ブル'です。ちょうど彼の死亡推定時期に重なる頃、ここでもある殺人事件が起こりました」
彼はさらに写真を追加した。今度は若いイタリア人男性の顔写真だった。
「被害者はこの男、ジュリオ・カルドといいます。ナポリの繁華街を荒らす柄の悪いチンピラで、殺しの下請けを生業にしているといったきな臭い噂が絶えない奴でした。
この男は白昼の街中で、ボート・ハウスの前で頭を撃ち抜かれて即死しました」
「これが・・・・・・何なのです?」
「当初はチンピラ同士の抗争の末の殺害ということで処理されたのですが、
先日上がってきた'教授'の死体から採取された銃弾の旋条痕を鑑定してみたところ、
二ヶ月前のボート・ハウスの捜査でジュリオ・カルドのアウディのダッシュボードから押収されたスミス&ウェッソンのリボルバーのものと一致、
つまり'教授'はこのカルドの銃によって殺害されたという事実が明らかになったのです」
「・・・・・・どういうことなんですか?」
「詳しいことはまだ捜査中です。ただ、留意すべきはその頃を境に'教授'に同行していた、件のミヤコ・ウエハラという少女の消息がぷっつり途絶えてしまったということです。
そして、現在に至るまで彼女の行方は杳として掴めていないのです・・・・・・これで我々の危惧が如何なるものであるか、ご理解いただけたと思います」
「教授が殺され、都が消えた・・・・・・これは一体・・・・・・?」
「なお不可解なのはその先です。彼のパスポートを調べてみましたが、驚くことにその名前は偽名、その正体がまったく不確かなものであることが判明したのです」
「そんなバカな!」
私は思わず叫んでしまった。
「我々はその謎の人物とアメリカの偽造パスポートの正体を探るためにインターポールを介して米国の司法当局に捜査協力要請の打診をしましたが・・・・・・返事は'ノー'でした。
FBIはこの人物の経歴に関する情報の共有を拒否したのです。
その理由として通達されたのは'国益に関わる機密事項であるため'だそうですが・・・・・・従って我々はこうして地道に捜査を続けねばならないのです。
しかしながら、我々には、正直なところ、事件についてはまだ何も見えてこないのです」――
――私は謎が謎を呼ぶこの事件の真相を明らかにすべく、現地に飛んで調査することにしたのだ。
休職願いを提出し、荷物をまとめた。皆から預ったビデオテープも詰め込んだ。留守中のことは長谷川先生に任せることにした。
私の随行にメディアが名乗りを上げた。
彼女にとっては辛いことであっただろうが、恩師を死に追い遣った者の正体を何としてでも確かめる責務が自分にはあると訴える彼女の申し出を、どうして私に拒むことが出来ようか。
かくして私たちは期待と不安の入り混じった気持ちのまま、飛行機に飛び乗ったのである。
<ルートV パート1>
「都の奴、今頃どこにいるんだろうな?」
初めは玲のそんな一言だった。しばらく連絡の途絶えて都を皆心配していた。
「そうだ、みんなで都ちゃんに手紙を書くってのはどうカナ?」と、姫子。
「手紙か・・・・・・悪くはないな。たまには声聞かせてやらないと、あいつ、私たちのことを忘れているかも知れんしな」
「アハハ、それはいくらなんでもないって」くるみが笑う。
「それでしたら、ビデオレターというのは如何でしょう?」と、提案を投げかけるのは一条さん。
「ビデオレターか・・・・・・うん、それはいいな。手軽だし、皆何かしらのことを言える。都は私たちの姿も見られるしな」玲は乗り気になった。
「そんじゃ、遥かなる異郷の地にいる都ちゃんにビデオレターを送ろう大作戦を開始!なのカナ?」姫子が元気一杯にはしゃぐ。
「でもさ、ビデオはどうするのさ?」くるみが地味な疑問を抱く。
「それなら心配ない。考えがある」玲は笑って、教室から出て行った。
数分後、彼女は諜報部の綿貫響を連れて戻ってきた。彼女の手にはハンディカムが握られていた。
「聞いたわよ。なかなか面白そうなことやるらしいわね。ビデオカメラを貸すかわりに、私も混ぜてよ」綿貫は言った。
「どうせなら」姫子が人差し指を天に向けて差し上げた。「みんなを呼んできちゃおう!みんなで、都ちゃんに向けて応援メッセージを送るんダヨ!うおぉーっ!楽しみカナー!」
こんなわけで、ビデオレター撮影会は始まった。
ちなみに、撮影の手伝いとして映研の篠原先輩が駆り出されたようだ。(お疲れさま!)
パート1はここまで。
どうも失礼しました。
長編期待GJ
スゴク読みやすいし、続きが気になる。
ぱにぽにである必然性は感じないが、面白いねこれ。
今後に期待!
「あの・・・いくらなんでも、このやり方は放送倫理に反するのでは?」
「気にすることは無いわよ宇宙人さん!サブリミナル効果はT○Sも使っていた公に認められている手法よ!!」
日本のはるか上空、地球の周りを回る宇宙船のなかで宇宙人と柏木優麻が激論を繰り広げていた。
「ですが・・・なんか、こういった洗脳まがいの方法は、アンフェアというか・・・」
「それもこれも、地球とベホイミちゃんのためよ!!それに宇宙人に地球の法律は治外法権よ!!
ね?優奈ちゃん?」
「う・・・うん。でも、『相手の行動を気づかれずにコントロールするにはこの方法が一番スよ!』だなんて、いつ思うけどベホイミちゃんって変な知識ばかりあって少し怖いなあ」
こうしてベホイミの素性に一抹の疑念を残しながら作戦は実行された。
その日の夜の鈴原家では
「未来、明日海に行こうか!」
「わーい!!海だ!!お父さんありがと!!」
(この不況で、ついに我が家も・・・)
「いや、なん帰りに電気屋のテレビを見てたら急に海に行きたくなったんだよ」
「(ほっ・・)・いいわねえ、海!ここ暫く海なんて行ってなかったわ!!」
しかし翌日・・・
「あーっ、なんだよ!!この渋滞は、ちっとも動かない!!」
「なにもみんないっせいに海に行くことないのにね・・・・」
「まったく、個性が無いんだよ日本人は・・・」
そのころ宇宙船では・・・
「なんてことだ!!鈴原さん一家だけを現場に連れて行くために、わざわざシーズンはずれの海を選んだのに!!」
そう、今は学芸会も終わった秋の終わり。普通の人間はいまどきわざわざ海に行こうだなんて考えないはずなのだ。
その事実をしって宇宙船は大混乱に陥った。
「それが、館長。実は我々の作戦には重大な欠点が・・・」
「なんだ、言ってみろ!」
「あの映像は電波に乗って全国に放映されて、鈴原さんちだけでなく日本中の視聴者に『海に行こう』のメッセージが刷り込まれてしまったんです。」
その緊急事態は直ちに地上の柏木姉妹にも伝えられた
「えー!!なに?関係ない人も付いてきちゃったの?どうするのよ!この中から鈴原さんを見つけるなんて出来ないわよ!!」
優麻は海岸で待つベホイミに作戦の危機を伝えた。
「もしもし、ベホちゃん・・・ごめんね何か海にいっぱいほかの人が来ちゃって、未来ちゃんの家族を見つけれそうにないの」
だが、電話の向こうのベホイミの声は落ち着いていた
「いえ、良かったすよ、これで成功ッスよ。実は敵に気づかれないであの子をこちらに連れて来るためには、『人を隠すには人の中』のたとえ通りに彼女の動きをカモフラージュする必要があったッス」
「でも、こんだけ沢山の人を向こうに連れて行くわけにも行かないでしょう?」
その頃、車で退屈していた未来の目に一つの看板が目に留まった
「お父さん、あそこで休憩したいよお」
「ん?なになに『桃レンジャーランド』?そうだな、道も込んでるしな折角だから見に行こうか」
もちろんこれだけなら空前の桃レンジャーブームの中、この看板に興味をもつ家族は鈴原家のほかにも何人かいてもおかしくないのだが、未来が他の来場者と大きく違うのは、彼女がどこに行くにも大事そうに持ち歩いている黄金のドクロ仮面カードだった・・・
こちらも今日はここまでです
G
J
で
す
。
GJ!!
エロなし、グロあり、人死にありです。
その1
「ページの都合で衣装部です!」
恥ずかしげな妹の言葉を受けて優麻はダガーを宮田の首にあてがい、頸動脈を切り裂いた。
「宮田さんのメソウサ風ア・ラ・モード!」
喉元から噴き出す血が赤く垂れ下がる。
赤いちゃんちゃんこの怪談で語られるその姿は、メソウサが南条操から送られた赤いマフラーをした姿を思わせた。
その2
「んーウマー!」
シュウマイを口に含み、姫子は幸せそうに叫んだ。カニカマではあるが、らしいカニシュウマイに仕上がっておりたまらない味だ。
「本当、これで300円なんて嘘みたいよねー」
都はホイコーローを箸でつまんで繁々と眺め、五十嵐もセルフサービスの烏龍茶を6号に注がせながら遠い目をする。
「これがビールだったらば言う事無いんだけどねー」
「五十嵐先生……飲酒運転は危険オブジイヤーです」
「てゆーか学校でアルコールはまずいだろ」
やっとの事で春雨のサラダを飲み込んでベッキーが言う。この際アルコールランプの事は無視する。
「それくらいうまいって事でしょー。言葉の綾よ」
「でも本当に美味しいよ玲ちゃん! 玲ちゃん大好き!」
後半の玲ちゃん大好きはさておき、味についての評価は今この1年C組の教室に集まった全員の総意だっただろう。
玲は先週から弁当を作ってくる商売をはじめた。
自分の料理の腕にはそれなりの自信があったし、事実みんなよろこんでくれた。
五十嵐やベッキーも応援してくれて教師の後ろ楯も出来た。
自分の分の弁当を開きながら玲はほくそ笑み、様々な案を思いめぐらせた。
さらに効率を高めて利益を増やそうか、それとも質を上げて顧客の満足度を高めるか。
まずは、今は兄貴の弁当を食べているくるみをこっちに奪おうか。
メガネの奥の瞳がにやにやと笑って輝きをたたえた。
しかし、玲の頭に渦巻いたアイディアはひとつとして実現する事はなかった。
翌日ベッキーは腹痛で学校を休んだ。
その夕方には五十嵐がトイレの個室で血便をたたえた便器に腰掛け吐瀉物にまみれた状態で気絶しているのが発見された。
それを処理したのは桃瀬修であり、彼は薄暗い女子トイレにひとり入って処理しろという要求に対し文句を言いながらも綺麗さっぱり片づけた。
あくる日、登校したのはC組では都とくるみに一条、それに数人だけだった。
他のクラスも含めて、玲の弁当を食べたものが都を除き全員学校を休んだのだ。
その日の夕方にベッキーは死んだ。その便からは未知の病原性桿菌が発見された。
あのとき便器から五十嵐のそれをすくって調べていればと修が後悔した時には、後始末の際感染した彼も発症しており、
自宅で彼と同じトイレを、彼がトイレタイムを有効に使う為に持ち込んだ本を読みながら使ったくるみもすでに感染していた。
調べるうちに利益を追求するあまりの玲の衛生面の杜撰さが明らかになり、玲は入院中から厳しく糾弾され、南条総合病院を賑わわせた。
不摂生な生活をしていた五十嵐は死にこそしなかったものの入院する事になり、酒と煙草は禁止、クルマに乗れないバイクに跨がれない日々は地獄のようであった。
そして唯一発症しなかった都からは大量の該当菌とともに抗体が検出され、健康裏に保菌していた事が明らかになった。
おそらく世界中を飛び回るうちどこかで保菌する事となったのだろう。もしかしたら都の体内で掛け合わされて誕生した新種なのかもしれない。
そのため都も入院させられてなかなかに非人道的な扱いを受ける羽目になった。
しかし感染予防の観点からは納得のいくものだったし、都の犠牲と学校閉鎖のおかげでベッキー以外の死者を出す事はなかったのでよしとした。
それからというもの桃月学園の生徒達は病的なまでに手洗いを励行するようになったが、最近ではまたトイレの後手を洗わない生徒も増えてきて、朝比奈を悩ませている。
その3
空に蝶が見えた。
演劇部のあの問題児、ロボ子の様子が変だったのには気付いていた。
だが私がそれを探ろうとして近付いた次の瞬間、私のからだは宙に浮いていて、校舎が彼方に見えた。
なぜだか自分の今の状況が理解出来た。
ロボ子に投げ飛ばされて、天高く舞い上がり、落ちているところなのだと。
そして目に入ってきたのが、一匹の蝶だった。
その蝶は空の蒼に溶けこんでいたが、まるで空から浮かび上がっているようにはっきりと見えた。
蜘蛛の糸の故事があるけれど、あの蝶に掴まれば空を飛んで助かる事が出来るのだろうか。
手を伸ばそうとしたけれど、私の手は、まるで動かなかった。
溺れるものは藁をも掴むというけれど、私はあんな小さな蝶にまですがろうとしていたのか。
我ながら……無様ね、情けない……
顔が浮かんだ。
アホ毛が揺れる、いつもニヤニヤ笑ってる、ひどい女。
自己紹介で名前を聞いた時に浮かんだ風景、どこまでも果てし無く広がる雪原。
そして雪に顔から飛び込んで顔形をつける遊びをした子供の頃。
今落ちていく先にあるのが雪だったら、やさしくからだを受け止めてくれるのだろうか。
もっとも間違ってもあんたが私を受け止めるなんて事はないんでしょうけどね。
あんたは私の醜態を嘲笑うのがお似合いだわ。
でももうそれもおしまいね。
さよなら。
願わくは、あなたがドMと呼ぶのが私だけであるように。
呼ばれたかったわけでは決してないけれど。
私以外をそう呼ぶ事のないように。
雪絵、
私
鈍い音を立てて地球に激しく寝そべった朝比奈委員長のからだははじけて赤いものを噴き出した。
その赤が残した跡は四方に飛び散って、頭からは複眼様のものが飛び出し、お下げ髪が触角を形作る。
『ちょうちょーちょうちょー』
それはまるで蝶のようだった。
「あ……委員長……朝比奈……」
高瀬は虚ろに呻いた。
女生徒の悲鳴と、若干の間を置いて遠ざかっていく上履きの音が聞こえた。誰かを呼びに行ったのだろう。
『ピコピコ』
朝比奈が多分死んだ。
来栖ロボ子によって。
「金を置いて家に帰れ!」と脅迫めいた言葉でクラスメイトとその連れを募金に応じさせ、
『じゃあ金を置いてってやろう』と百円玉を奉仕活動のご褒美にもらってわーいわーいと無邪気によろこんでいた来栖が。
宮本先生相手に緊張のあまり無言になりものすごい威圧感を放っていた来栖が。
朝比奈を軽々と持ち上げて、天高く放り投げた。
あれよあれよと舞い上がり、朝比奈は地面に落下した。
衝撃で外れ傷ついたメガネが主からかなり離れた場所で寂しげに太陽光を反射している。
「朝比奈……ロボ子……」
呆然とする高瀬の首に、来栖ロボ子のやっとこのような手が触れた。
高瀬に触れるロボ子の鋼のボディは氷のように冷たく、ものすごい力で、まるで抵抗出来ない。
朝比奈を放り投げた事もそうだが、あの細腕からこれ程の力を引き出すとは思い込みの力恐るべしである。
『オマエラヲミナゴロシニスル! オトナシク死ンデ地獄ニオチロ! オトナシク死ンデ地獄ヘオチロ! ピコピコ!』
まるで人間が発しているとは思えない無機質な響きだった。
なぜだろう、こんな時に思い出すのは、朝比奈のおっぱいの事ばかりだ。
2年男子の間で朝比奈の巨乳は大変人気で、朝比奈に対しての性的な妄想を話して盛り上がる事も多々あった。
もっとも、篠原の手前口にするのが憚られたが、高瀬は麻生麻里亜の方が好みだった。しかし朝比奈の胸はけっして嫌いではなかった。
最期の瞬間を見届けながら思い出すのがこんな事で朝比奈に申し訳なく思いながら、高瀬の意識は闇へと溶けていった。
消える刹那。
メカドジラの中身が今はロボ子に入っている。
これもひとつの和合の形かという思いが閃光のように閃いてそして消えた。
以上です。
前回話の切れ目がわかりづらかったのでナンバーを振ってみました。
来月はぱにぽには休載だそうですが、ベホイミも休載で完全休みなのでしょうか。だとしたら少し寂しい……
しかし朝比奈の出番多いですね。瀬奈にも分けてあげて欲しいです。なかなか出ないレアさが良いのかもしれませんが。
――1年A組
「優麻ちゃん?」
「……?」
誰かの声で、優麻はうつろな世界から呼び戻される。
「もう、さっきから話しかけてたのよ?」
優奈だった。
「ご、ごめんなさい。で、何の話?」
「桃瀬くんがいなくなって……みんな、変わったね、って話……。
優麻ちゃんも……、鈴音ちゃんみたいになるんじゃないかって……、私、心配で……」
「私には……、優奈ちゃんがいるんだから……大丈夫よ」
優麻はそう言ったが、鈴音には乙女と響の2人の親友がいたこと、
修とは一度遭難したとき以外に急接近したことはなかったこと、
それにもかかわらず、修の死によって鈴音の心が壊れかかってしまっていることは、わかっていた。
自分には双子の妹の優奈がいる。
しかし、奇しくも修が死ぬ数日前から、優奈の出演しているTV番組が人気を高め、
優奈の今後の躍進が期待されるようになってきた。
優奈はいつまでも自分の近くにいる人間ではない。
そのとき、自分は正常でいられるだろうか?
そして、優奈もまた、自分の内面の変化によって自分がどうにかなってしまう不安を抱えていた。
彼女は、修が死んだのを知ったとき、大した衝撃を受けなかった。
優麻はとっさに悪い冗談だと言ったが、優奈はとくに感慨もなかった。
ヤンキーであるとか伴であるとか、大して親しくもない男子が死んだときに感じるような遠い感情だった。
新曲の歌詞を、TVラジオの共演者の顔、プロフィールを、覚えるのに熱中した。
自分はもう遠い世界の人間になってしまった気がした。
1年A組の柏木優奈であると同時に、アイドルのユナであり、いちいち些事には関わられない。
もしかしたら優麻や父母が死んだとしても、次の日には、いや、特に仔細なく笑顔になれるかもしれない。
アイドルの原義たる偶像さながら、自分はどこかに本物の感情を置いてきてしまったのではないか?
「優麻さんたち〜、今日も着付けをお願いします〜」
ふと、来栖柚子が声をかけてきた。もうそんな時間だった。2人は衣装部へと急ぐ。
柏木姉妹が着付けをしてくれており、自分は手持ち無沙汰な来栖は、ここ数日のことを思い返していた。
修が死んで以来、D組以外はクラス内の雰囲気がかなり変わってしまった。
来栖がD組の内情に疎いというのもあるが、少なくとも、D組の芹沢や南条、宮田晶はそれほど変わったそぶりをみせなかった。
(芹沢さん……)
ふと、来栖はこう思った。もしも芹沢もある日突然死んでしまったら……?
そう思い始めたら来栖はもう止まらない。心は遠く、芹沢死亡世界へと行ってしまった。
「思うんだけど……、柚子ちゃんはどうして怪獣の着ぐるみなんか着させられてるのかしら?」
「うん……。大道具担当の、あの大きい人のほうがむいてる気がするのにね?」
2人はこんな会話をし、来栖に「終わった」と告げた。
「……ひっく、ひっく」
来栖は泣いていた。
「ちょっと!? 柚子ちゃん? 何がどうしたの!?」
優麻は困惑した。着ぐるみ越しでもわかるくらい、来栖は号泣していた。
「……ど、して、どうしてこうなっちゃったんでしょうね……?
ぐす……、普段当たり前のように一緒にいた人がいなくなっちゃうなんて……」
「……!?」
実際に来栖は、芹沢が死んだものとして泣いていたのだが、それを知らない優麻は胸を抉られる思いだった。
自分はこうも純粋に泣くことがあっただろうか? そして優奈を見た。
「……優奈ちゃん?」
優奈は表情一つ変えずに……泣いていた。涙が一筋、こぼれおちそうだった。
(……私まだ……泣けるんだ……。よかった……)
優奈は、自分がいつの間にか別の何かに変わってしまった気がしていたが、
来栖にもらい泣きをすることによって、自分を取り戻した。
続いて、優麻も泣き始めた。衣装部の部室には、三者三様の泣き声が響いた。
「今は……、入らないでおこう」
誰かが衣装部へ入るのをやめた。芹沢だった。
彼女はここ数日で、D組以外の1年の世界が大きく変わってしまったのを感じていた。
正確に言えば、演劇部とD組も若干の影響を受けてはいるのだが、他ほどではなかった。
だから、こういう場に居合わせるのも初めてではなく、慣れた足取りでその場を立ち去った。
「なあ、芹沢……、今、いいか?」
「秋山、か」
思えば、彼はよく出来た人だった。
自分と、今自分を連れて人気のないところへと向かっている秋山乙女――は、
物覚えが早いほうではないし、他の追試組と比べても口が悪く、態度も悪かった。
そんな2人を前にしても、彼は真っ当に勉強を教えてくれた。
決して2人がバカだからとかそんな理由をつけて手を抜くことはしなかった。
「で、何の用だ?」
芹沢は言った。もっとも、ある程度の見当はついていたが。
「…………」
乙女は答えなかった。
(こいつでも、悩むんだな……)
芹沢は少し失礼なことを考えた。
おそらくは、鈴音が変になってしまったことに対する相談なのだろうと思ったが、
これまでの日々を振り返って、秋山乙女が自分に悩みを相談しようとは考えられないことだった。
思えば、藤宮円演劇部部長にしてもそうだった。
修の死以後、少しだけ暴れなくなってしまった。高瀬に対しては、距離を置いているように見えた。
つまり、円は修に対して何らかの感情を持っていたということであり、それくらいは芹沢にもわかった。
修と高瀬とは、優男風の容姿以外、あまり似ているように思えないが、
円部長と自分とでは、係わり合いの度合いが違う。何か知らない部分では通ずるところがあるのかもしれない。
「お前と私は、友達だよな?」
そんなことを考えていると、唐突に乙女がこう切り出してきた。
「あ、ああ、うん、そうじゃない? で、なんで? そんなこと聞くの? かな?」
芹沢はとっさにこう答えた。しどろもどろで、何を言ったのか自分では意識していない。
「わからなくなっちゃったんだよ。確認しなくたって私は、鈴音とは親友なんだって、思ってた。
でも、違った。いつもの鈴音はいなくなっちまった。大して深い関係でもない茶髪が死んだくらいのことで!」
「……おい、それは言いすぎだろうが!」
芹沢はここまで黙って聞いていたが、乙女が修の死を辱めるような事を言ったのには我慢できなかった。
乙女は答えない。眉をつり上げて芹沢を見つめるだけだった。
「何なんだよ!?」
芹沢はついカッとなってしまい、乙女を怒鳴りつけた。
「だって! あんな奴よりも私のほうが鈴音と仲良かったのに!? なんで!?」
乙女は火がついたように興奮して一気にまくし立て始めた。
「何でなの? ここんとこずっと本ばかり読んでて、私にかまってくれないしさ!
桃瀬さんのお兄さんと仲良かったの、そんなに長い期間じゃないのに!」
意外だった。乙女とはそう話さないわけでもないが、ここまで本音をさらけ出されるのは初めてだった。
そういえば、いつだか晶ちゃんから、「乙女さんは実は怖がり」だと聞いたことがある。
中学時代1cmも背が伸びなかったことも……自分も背が低いほうでこそあれ、
少しずつ伸びてきて、毎年の成長を実感できた。
それが乙女にはなかったんだとしたら、確かに虚勢も張りたくなるだろう。
南条と同じく、強がっているだけで、根は弱い子だったのかもしれない。
「お前も……大変だったんだな」
言ってから芹沢は後悔した。まずい。これはいつか南条を泣かせたときと同じパターンだ。
乙女の表情、声質、いずれも一致する。人が泣くときは大体同じ興奮の度合いを示すのだ。
たしかハルカさんが言っていた気がした。だとしたら先手を打たないと。
「……!?」
乙女はわれに返った。
「落ち着いたか?」
「せ、せ、せ、芹沢?」
乙女は、自分が芹沢に抱きしめられていることに気がつき、今度は違う意味で混乱、興奮した。
「茜、でいいよ。 友達だろ? 部活とか、仲いい人はみんなそう呼んでる」
「え、うん……」
「これで私たちは間違いなく友達同士だ。もちろん、鈴音や響、ともな。
お前がそんな弱気なところ、見てらんないから、私がしばらくそばにいて支えになってやるよ。
でも、落ち着いたら桃瀬兄に謝ろうな? 鈴音にも。悪いこと言っちゃったって、今ならわかるだろ?」
乙女は少し考えた。茜は支えになると言ってくれた。正直、今はその言葉さえ怖い。
言葉なんかなくても友達だと思っていた鈴音は変わってしまった。
何を信じていいのかわからない。これで裏切られたら自分はもうどうしていいやらわからない。
乙女は茜の目を見た。そして、自分へ差し伸べられた手を。そして―
「……よろしく、せり……茜」
「よろしく、乙女」
(……人の手が暖かい、って思うの、いつ以来だろう)
そして乙女はまた少しだけ泣いた。ハンカチは茜が貸してくれたのでなんとかなった。
今月のGFさん乙です
乙女は普段強がってて本心は肝試しのときとかっていう設定
茜は操や柚子のこと名前で呼んでないけど気にしない
続きはどばっと書けたり一行も書けなかったりするので不定期で
もしもさんGJ
色々まとめてGJ
このスレは時々一気に伸びるから困るw
皆さん
乙です
wktk
29日18時頃、大田区桃月の桃月学園で、教諭の宮本レベッカさん(11)が頭部を鈍器のようなもので殴られて死亡しているのが補修に訪れた柏木優奈さん(16)によって発見された。
一緒にいた女生徒(15)に事情を聞いたところ殺害を仄めかし、女生徒は柏木さんに頭突きをして逃走、3階の窓から飛び下りて死亡した。
柏木さんは頭部に重傷を負い意識不明の重体。
桃月学園では世界史の授業を行っておらず、卒業に必要な単位が足りなかった問題が発覚したばかり。
女生徒は今月頭に留学先から帰国したが、留学先での学習の一部が単位として認められず、また授業にも付いていけずに悩んでいたという。
ねぎま!?
ねぎまがどうした
保守
97 :
マロン名無しさん:2006/10/31(火) 16:51:32 ID:kILAU0lu
保守あげ
保守
<ルートV パート2>
≪一人目 綿貫響≫
「・・・・・・えぇーっと・・・・・・ちゃんと撮れてる?・・・・・・あっそ。それならいいわ。
上原さん、お久しぶり。綿貫響です。
えーと、何て言えばいいのかな?これ、意外と照れるわね・・・・・・お元気にしていますか?
私は元気です。元気バリバリ、今日も諜報活動に大忙しです。
上原さん、今どこの国にいるんですか?アメリカ?ロシア?中国?いいなぁ、いろんな国に行けて。
私も大人になったら世界を股にかける諜報部員になるわ、なってみせるんだから!
・・・・・・ひょっとしたら、上原さんとはどこかの国でばったり会うかもしれないわね。その時は、よろしくね。
もし近いうちに日本にまた戻ってくるのなら、その時はお土産をよろしくね。
お菓子なんかだと私は嬉しいかなー・・・・・・なんちゃって♪
それじゃ、体調管理にはくれぐれも気をつけて。諜報部、綿貫響でした」
≪二人目 五十嵐美由紀≫
「おお、すごいねぇ・・・・・・もう話していいの?ちゃんときれいに撮ってよ。いい?・・・・・・ヤッホー、上原。元気してる?化学の五十嵐だよ。
あんた、今世界中を回って大冒険しているらしいじゃないの。いいわねぇ、ロマンがあるわ、ロマンが。羨ましいね、若いうちは何でもできる。
尤も、私だって学生時代は色々無茶したんだから・・・・・・あんたも、できるうちにやりたいことをやっておきなさいよ。
一生というのは一度きり、その瞬間瞬間を大事にして、自分の思う通りやりなさい・・・・・・何をやるにしても、絶対に後悔しないように。いいわね?
・・・・・・それと、話は変わるけど、あんた今どこにいるの?どこにいてもいいけど、その国の地酒を一国一本以上、私宛に送ること。
そうしたら、ひょっとしたら留守中の単位に手心を加えてやっても・・・・・・何よ、篠原、その非難の眼差しは?
・・・・・・あ?ううん、こっちの話。というわけだから、上原、あんたもがんばりなさいよ。
色々辛いことはあるかもしれないけど、それはきっと、あんたを成長させる糧になるんだから・・・・・・
あと、金持ちでハンサムな外国人の男性と知り合いになったら私に紹介・・・・・・ちょっと!篠原、何でカメラを止めるのy・・・・・・」
<ルートM パート2>
都が泊まっている民宿ホテルに戻ってきたのは既に日付が変わってからだった。
ここ数日、同じような生活が続いている。疲れきって、もう何も考えたくもないし、何もしたくない。
'仕事'を終えて帰れば、後は寝るばかり。寝ることは楽しみだ。いや、楽しみは寝ることだ。'仕事'はあくまで'仕事'、楽しみでやれるものではない。
無趣味な仕事人、ある意味彼女はあの頃自らが目指した将来像を達成したともいえる。
あの頃。桃月学園で必死に勉強していたあの頃。思い出そうとしても、全てはぼんやりとしていて不鮮明な過去の記憶となってしまった。
都は回想を中止した。回想とは失われた過去の捏造に過ぎない。捏造の情報に意味はない。
都はホテルに入ろうとして、'例の精霊'が彼女の腕を掴むのを再び感じ取った。
彼女の後ろについてまわる精霊は、来るべき未来への警告を発した。だが疲れきった都にとっては、未来とは不確かな観測に他ならず、その価値も実像も、過去と同じほどに無意味なものであった。
過去と云う捏造と未来と云う嘘が、特定の意図を持って迫ってくるとでもいうのだろうか?
「わかったわよ・・・・・・それで、私はどうすればいいの?」都は呟いた。精霊は答えた。都にしかわからない言葉で。
都はしばらく我を失ったように闇の下りた戸外に佇んでいたが、やがて精霊の予言を吟味して、意見をまとめると、胸を張って中に入っていった。
敢えて、何にも気がついていないといったふりをして。
彼女が部屋の中に入ると、思ったとおり暗闇の中から手が伸びて、彼女を羽交い絞めにした。
都は抗うこともせず、成り行きに任せた。そして、突然電気がつくと、部屋の中に見知らぬ三人の男を認めた。
彼女の後ろでその手を拘束していた男が、都が腰元に持っていた銃を取り上げ、その後彼女を突き放した。
首領格の男が前に歩み寄り、彼女に話しかけた。
「カポ・デコ?・・・・・・小娘が、舐めた真似しやがって・・・・・・シエロ・ブルでの殺しを見逃してやるっていうのに、何故まだこの国に残っている?クソッタレが!すぐにシマを明け渡して出ていきな!」
男は早口で捲くし立てた。だが、都は臆することなく牙を剥いた。
「煩いわね・・・…シマはもともとプロフェソーレ(教授)のものよ!あんたらみたいな無能者に安々と渡せるわけないでしょ!」
男は顔を真っ赤にして怒り猛った。
「いいか、ラガッザ・ミヤコ・・・・・・カポ・デコだなんて空かしているがな、テメェは所詮素人だ・・・・・・その上女で、ガキで、ジャップだ!
くだらねぇ見栄なんぞ張ってると、今に'二度死ぬ'ことになるぜ」
「あんたたちだってどうせ新参のボーイズ・ギャングでしょ?一人前のマフィア面してこんな風に出て来たはいいものの、いざヤマに手をかけたらどうしたらいいかわからないで路頭に迷うのは目に見えているわね・・・・・・」
都はニヒリスティックに笑みを浮かべた。相手を最大限に蔑むような顔つきだった。
男は額に血管を浮き上がらせ、憤激した。そして、おぞましい歯軋りをしながら拳を振り上げる。
「クソアマが!温和しくしてりゃあ――」
男は拳を振り被った。しかし、その寸前、都は相手の目をしっかりと見つめ、呟くように言った。
「ピエトロ・ガッベリーニが――」
男はその瞬間、顔色を変えて静止した。振り上げられた拳は宙を掴んだまま、行き着く先を失って震えていた。
男の向ける先の無い怒りが、その瞳に不安の色を塗りたくっていた。
都は不敵な笑みを浮かべて先を続けた。
「――彼が好きな人間というのは、何よりも最大限の利益をもたらす人間だということは、いくらあんたたちみたいなチンピラ風情でも知っているでしょ?
このシマから最大限の利益を生み出せる人間・・・・・・それは他でもない私なのよ・・・・・・それはこれまで証明してきたことだし、これからも証明して見せるわ・・・・・・
だけど無粋な邪魔をして、結果全部を失うことになったら後悔するのはドン・ガッベリーニ本人だということを忘れてはいけないわ・・・・・・
私は彼に多大な利益をもたらす、それなのに私を排除して平気なのかしら?」
「黙れ、小娘が!パガーニのカモッラがよそ者に稼ぎをさせると思っているのか!
・・・・・・警告はしたぞ・・・・・・これが最後だ。
すぐに荷物を畳んで出て行け。さもなければ・・・・・・」
「脅しは結構。あんたたちみたいなのを相手に話すことは何も無いわ。
ビジネスの理念を理解できないようじゃ、パガーニの名門もアフリカの移住者たちに潰されるのがオチよ・・・・・・
もしあんたたちがドン・ガッベリーニの使いだと言うのなら、彼に伝えなさい。
プロフェソーレの遺志を継ぐミヤコがいずれ挨拶に向かうとね・・・・・・」
都は後ろに立ちつくす男の一人から銃を奪い返し、それを腰にしまいながら吐き捨てた。
口役の男は震える拳を背中の後ろで抑えつつ、努めて冷静に言った。
「調子に乗るなよ・・・・・・」
やがて男たちはそれぞれに毒づきながら部屋を出て行った。
都はその後姿を見送り、そうして、その姿が見えなくなると、途端にベッドの上に力なく崩れ落ちた。
そして、そのまま深い眠りへと入っていった。
<ルートR パート2>
私たちはローマを経由し、ナポリに入った。
メディアは進んで荷物持ちを引き受けてくれたが、その様子は否定しようもなくメイドそのものである。
街で私たちとすれ違うイタリア人たちは、私がメイドつきで周遊旅行する金持ちのお嬢様に見えたに違いがなかろう。
なかなかこっ恥ずかしいものがあったが、そこは日本とはお国柄が違うのか、それを極端に好奇な目で見る者はいなかったのが幸いだった。
お世話係の若いメイドが、その実は私の心強いボディガードでもあったなどということは、果たして誰が知り得るものか。
黒服の護衛つきで市内を回るよりは、よほど身軽だったのは言うまでもない。
私は現地特派員として市内に駐在している某日本人新聞記者の手を借りつつ、調査を始めた。
彼が最初に紹介してくれたのは、ナポリ界隈の事情に詳しいとされる情報屋くずれの男だった。
私はカフェテラスで彼と待ち合わせることになったのだが、この男は耳に聞くイタリア人の典型的な形質の持ち主で、案の定約束の時間より三十分以上も遅れて(その上全く悪びれる様子もなく)姿を現した。
私は都の顔写真を彼に見せた。鼻を赤くして上機嫌だった彼は、それを見て驚いたように私の顔を見つめ返した。
「あんたたち、彼女の何なんだい?」
「彼女の友人だ。彼女を知っているのか?」
「ああ、勿論さ。今や彼女はある業界では随一の有名人だ」
「知っていることを教えてくれ、それなりの報酬はする」
「見たところ」男は警戒色を顔に示しながらも、柔和な物当たりで言った。
「あんたらは殺し屋とは思えないし・・・…まぁ、いいだろう。知っていることを話すが、あくまで俺は情報屋だ。
話の真偽を吟味するのは俺の仕事じゃない。それは聞き手のあんたらに任せる・・・・・・そのつもりで聞いてくれ」
「ああ。わかったよ」私は穏やかに答えた。
以下、男の話すところである。括弧内は私の注釈である。
――彼女の名はミヤコ・ウエハラ、'元'日本人だ(裏社会は完全にボーダーレスだ。この世界でアンチ・グローバリズムを唱えても笑い者になるだけだろう)。
こっちの世界じゃ'カポ・デコ'の通り名で通っている・・・・・・意味は「十人の者をまとめる者」の意味を持つイタリア語'カポ・デチーナ'の捩りだ。マフィアの首領もカポと呼ばれている。
'デコ'というのは日本語で「頭」を意味するらしい(うーん・・・・・・ちょっと違う気もするが・・・・・・)。つまり、'カポ・デコ'とは「首領の中の首領」という意味を持っている。
こんな大仰な名前を冠せられるのはコーサ・ノストラ(シチリアのマフィアだ)の大ボスくらいだ。外国人の少女にはいささか厳し過ぎるものがあるとは思うがね・・・・・・尤も、これは俺の考えだが。
しかし、勿論彼女のカリスマ性というのか、人を惹きつける力は本物だとは思うよ(カリスマ性だって!?今そんなことを言ったか?)・・・・・・そうさ、カリスマさ。彼女は不思議な力を持っていて、それが熱心な宗教者の信仰を生んだんだ・・・・・・
その不思議な力ってのはな、これは俺ですらも眉唾くさいと考えるんだが、彼女、普通の人間の目には見えないものというか・・・・・・お化けというか、霊というのか・・・・・・そういうものが見えるらしい。
それで、そいつらに導かれる形で正確な判断を下して人を驚かせるのだとか。
いや、勿論単なるでっち上げさ・・・・・・たぶんな。でも彼女が率いているとされる精鋭の軍隊(何かの隠語か?都は何かの集団と一緒に行動しているのだろうか?)は確かに驚くべき実績を上げていると聞く。
マフィア連中も平伏したって話だ(彼女はやはり犯罪に巻き込まれているのか?)・・・・・・そうだな、カポ・デコは犯罪者というよりは義賊に近いな。それがイタリア人にとっては賞賛の的になり得る要素だ。
だがそれ以上に、義賊よりも聖人に近い。彼女はカソリックではないというが・・・・・・それを言ったらナザレのイエスだってキリスト教徒ではないぜ?そういうわけさ。
カポ・デコの神話はなおも続いている。
若いチンピラの中にはすっかり彼女の偶像的な魅力に心酔してしまって、彼女の永遠の僕であることを公言して憚らない奴もいるという。
ま、有益で不思議な力を持っていて、優秀な部下が揃い、欧州圏全域にたくさんのシンパを持っている・・・・・・それだけでも捜査当局が彼女を捕らえるのは不可能に近いというわけだ。
カポ・デコ・ミヤコはな・・・・・・裏社会の新星なのさ。
誰も彼女の裏をかくことは出来ない。誰も彼女の影響力を無視することは出来ない。
いわば、実力と名声を兼ね備えたアイドルなのさ――
私は彼に頼み込んで、本物の裏社会の人間にコンタクトをとってもらう約束を取り付けた。
彼と別れた後、私はメディアと向き合って考え込んでしまった。
「あいつの言っていたこと・・・・・・理解できたか?」私は項垂れたまま訊ねた。
「曖昧で、それでいてずいぶん突飛な話でしたね・・・・・・」メイドは笑顔を曇らせながら答えた。
「都・・・・・・あいつ、一体どうしちゃったんだろう?何か大変なことに巻き込まれているのは間違いないみたいだな」
「ええ。都さん、無事だといいのですが」
「どう思う?」
「・・・・・・彼の情報もどこまで当てにできるかはわかりませんが、もし仮に、彼の言っていたことが正しいとして、それでマフィア絡みだというのが確かなら、ことは深刻です・・・・・・下手に動くのも考えものですね」
「そうだよな・・・・・・」
それきり、私たちはしばらく沈黙してしまった。
パート2ここまで。
失礼しました。
GJ!デコww
>>106 GJ
話の先が気になってしょうがない。
続きに期待。頑張ってください。
うほっ投下キテル――!!
久し振りにきてみれば・・・職人の皆様乙です。
カポデコキターww
カッコいいよ。
既にぱにぽにじゃないけどw
カポデコwに刺激されて私もネタ投稿してみます。
題して「鬱ぽに・独白シリーズ」ということで。
あなたの知っているぱにぽにキャラは、こんなことを考えているかもしれませんよ?
<上原都の独白>
私、一生懸命やってるのに、何やってもうまくいかないんだ…。
マジメにやろうとしても必ず邪魔入るし、何だかんだ言って結局成績も人並みだし。
身の丈合わない努力していい大学や会社入っても、周りに追いつくのにまた努力。
っていつまで努力してなきゃいけないのよムキー!!
ホントの幸せってなんなんだろうって、最近よく思うんだ。
気楽に生きてる皆がうらやましいよ…。
朝、いつもと違う電車に乗って、どこかへふらっと行きたいなぁ…。
つ、続きないの?
続けようか
鬱ぽに・独白シリーズその2です。
今回は2本立てで。
<秋山乙女の独白>
鈴音、いつか殺す!
最初はあいつなりにフレンドリーなつもりなんだろって
ガマンしてたけど、最近もう許せなくなってきた。
何がゲリツボだよ!
小学生かよ!!
私の言ってること全然聞いてないし、人のことオモチャにしてるだけじゃねーかよ!!
早乙女も何かカン違いしてるし、何で私の周りってヘンなヤツばっかりなんだよ…。
周りはヘンなヤツばっかりだし、何やっても背も伸びないし、料理もうまくならないし、
もう嫌だ!
<白鳥鈴音の独白>
最近、何か乙女に避けられてるような気がするんだ…。
一緒にふざけられる友達だと思ってたのに。
最近の乙女、何か目が笑ってないんだよね。
だから元気出してほしくてちょっかいかけてるんだけど、伝わらないのかなぁ…。
早乙女先生とうまくいってないのかなぁ?
力になってあげたいけど、どうすればいいかわからないよ…。
今夜、眠れるかなぁ…。
>>115 次は誰カナ?
主要キャラは一通り見たいな
お互いの思い違い、勘違いが交錯していって悲劇を生むことを読み手に予測させるというのはモノローグ文体の特長だね。
対立構造で独白を見せていくのはなかなかおもしろいと思う。
鬱ぽに・独白シリーズの人です。
調子に乗って第3弾行きます。
<一条さんの独白>
学級委員の…明日にでも罷免されるかもしれない、一条です。
一条ですか?
一条かもしれません。
皆さん既にお気づきかもしれませんが、皆さんがご存知の私は、実は
本当の私ではありません。
内緒ですよ。
中学までの私は、どちらかといえば望に似た、活発で積極的なタイプでした。
ただ、ちょっと太めではありましたが。
太めなのを気にしていた私は、ある日、クラスメイトが「痩せ薬だ」と言って
くれた錠剤を飲んでしまいました。
それが間違いの始まりだったのです。
確かにあの薬にはダイエット効果がありました。
でも、同時に不思議と色々な感覚が鋭敏になってきたのです。
人に見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたり。
それだけならよかったのですが、次第に私は、あの薬がないとどうしても
不安を覚えるようになっていきました。
最初はタダで薬をくれていたクラスメイトも、次第に私に金銭を要求するように
なっていきました。
そして、体まで…。
119 :
118:2006/11/02(木) 20:14:51 ID:???
そんなある日のことです、あんなに鋭敏だった目が、急に見えなくなってしまいました。
本当に突然でした。
時々、私が焦点の合わない目をしていることに気付かれていましたか?
あれは、実は目が見えていないのです。
もちろん、四六時中目が見えていないわけではないので、日常生活は何とか
なっていますが、このままでは全く見えなくなるのも時間の問題でしょう。
このことを宮本先生に相談すべきか、私は今悩んでいます。
家族も、もちろん友人にもこんなことは言えません。
私は、どうすればいいのでしょうか。
<綿貫響の独白>
諜報部諜報部って言ってるけど、やってることはゴッコ遊びか雑用か…。
オイシイところは玲に取られるし、新入りは使えないし。
おまけにダイエットは失敗するわ、体型隠そうとジャンパースカート履いたら
マタニティ呼ばわりされるわ…。
おかげでアイスをヤケ食いしちゃって、ますます…おっと。
でも、面白い調査対象がいるから頑張っていけるのよね。
C組の学級委員の一条さん。
あそこまで面白そうな獲物、じゃない、調査対象者を見たのは久しぶりだわ。
何でも、中学生の頃は今と全然違うフツーな感じだったらしいじゃない。
おまけに激ヤセしたっていうし。
一條さんの変化の裏には何があったか、これは久々のスクープになりそうだわ。
ふふふっ、腕が鳴るわー!
120 :
118:2006/11/02(木) 20:26:29 ID:???
ごめんなさい、>119の下から2行目、「一条さん」を「一條さん」と書いてしまいました。
一条さんに吊るしてもらってきます。
まとめサイトの中の人は一条さんや南条さんを一條さん南條さんって書いてた希ガス
旧字体が好きなのカナ?
台湾版は『一條同學』に『南條操』だけどな。
一条さんの独白見てたら唐突に思い出したけど、まとめサイトで桃月怪奇譚の二夜以降が掲載されてない…
最近のも更新少ないし管理人さん忙しいのカナ?
エロパロスレに行ったんじゃなかったっけ
ほしゅ
ぱにぽにキャラに腹パンチしたい
>>123 桃月怪奇譚シリーズってとこにまとめて載ってなかったっけ?
「学内アンケート、A組の報告が遅いわね……」
「桃瀬くんがいなくなってしまったもの。しょうがないわ」
委員長委員会室に、朝比奈英理子と瀬奈雪絵がいた。
「ちわー。アンケートどこに置けばいいですか?」
「A組の人? あ、1年A組ってこと」
「はい」
二階堂光だった。
「A組は、彼がいなくなってからどうなってるの? 差し障りなかったら教えてくれない?」
雪絵は、普通の人間なら聞きづらいことをさらりと聞いてのけた。
「今っスかー。そうですねー。活気はなくなったけど、まとまりは出てきたってとこですかね」
「仕切る人がいなくなったのに?」
「ええ、何つうかですね。今まで桃瀬くんがやってくれてた事をみんなで手分けしてやらなきゃいけなくなりましてね。
期限を守ることとか、保守とか管理とかを実際やってみて、自分たちでやってるんだって感触が身についてきてですね。
あー、うまく言えないな。桃瀬くんがいたころとは、ちょっとだけ変わったけど変わってないのかな?
うーん、あ、でも、先生は明らかに変わりましたよ」
「先生」
「6号ちゃん? どうしたの? 何か相談?」
「ええ、でも、宮本先生が、です」
「ふーん、ベキ子ちゃん、悩む年頃になったのかしら?
じゃ、ちょっくらあの子の研究室まで行って来るわ」
1年A組の担任である五十嵐美由紀は、桃瀬修の死亡後、
今まで彼に丸投げしていた学級の雑務を自分でやらなくてはいけなくなった。
だから、朝はいつもより早く来なければならなくなった。
そのせいか、少しだけ素行が良くなり、生徒受けも男子以外にもよくなった。
しかし、本当は違った。時間を作るためというのも一面の真理ではあるが、少しだけ違った。
桃瀬修はバイク事故で死亡した。クラッシュしたその残骸を五十嵐も見ている。
修が死ぬ原因となった乗り物であること、それに乗って登校して来たら、柏木姉妹らはどう思うだろうかと、
そういう気配りが自然と出来るようになっていた。
バイクに乗らないし乗れないから、朝は早く起きなければいけない。
朝早く起きるためには夜更かししたり深酒は厳禁で、体力が落ちるのでタバコもあまり吸えない。
そして少し健康的になった彼女は、いつしか習い性に入り、担任としての風格も出てきた。
「最近、食欲がないんです。あんまりケロリーメイトばかり食べてるとお姉ちゃんにしかられるし、
でも、豆腐とかうどんとか、軽いものでも食べる気になれなくて……。
魚とか肉なんかは、絶対に食べられません」
ベッキーの悩み事は、大体こんな感じだった。
「生理ってわけでもなさそうだし……、初潮はまだよね?」
「は、はい……。10歳ですから。遅いほうかもしれませんし」
「うん、ベキ子ちゃん、10歳にしてもちっちゃいほうだもんねえ」
「五十嵐先生!」
「あっははは、ごめんごめん。年長者の私からのアドバイスとしては、
時間が解決するってくらいかな。役に立てなくてごめんね」
「いえ、お手数を取らせてすみません」
「ふう、何なんだよこの感覚は……。理由もないのに気分が悪いし、食欲もないし、夜も眠れない」
五十嵐の去った後、ベッキーは一人ため息をついていた。
そこへ、ノックの音がした。
「どうぞ」
ベッキーは本当は誰かの相手をしたくはなかったが、なぜか断る気にもなれなかった。
「ちわー、出前でーす」
「まーた芹沢か」
出前箱を持ったキックボクサー風の出で立ちをした少女がそこに立っていた。
「私もいるぞ」
そして、橘玲も姿を現した。
「食べろよ。ニンニクラーメンだ。精がつくぞ」
「やだよ。そんな重いもの、食べる気分じゃないんだ」
「ベッキー、食べなきゃ倒れるぞ? 学食にも行ってないみたいじゃないか」
「食べたくないのに食べるのは、食べ物に失礼だろ」
「じゃあ、私が食べさせてあげちゃう〜」
「消えろ」
姫子が突如姿を現した。
「実は、二人羽織だったんだ」
芹沢が言った。2人とも背の小さい方の女子だったからこそできる業であった。
「お前らがどう言ったって、食欲がないんだから。私は食べないからな」
姫子が言っても玲が勧めても、ベッキーはにべもなかった。
「食うんだ」
それでも玲は詰め寄る。
「やだ!」
「ベッキー!」
玲が声を荒げる。
「怖がらせたって無駄だからな! 私には食欲がないんだ!」
「盛り上がってるとこ悪いけど、ラーメンのびちゃうぞ?」
芹沢が言った。ラーメン自体は急いで持ってきたのだが。
「お前らは先に食え。私はベッキーと一緒に食べるよ」
「ほんじゃ、いただきます」
「何やってるの、茜?」
そこへ乙女がやって来た。
「お前こそ、ベッキーに何か用か?」
「いや、茜がいないから、どこかな〜って思ってさ。すぐに見つかってよかったよ」
「……そ、そうか(こいつ、キャラ変わったな)」
茜は少しだけ引いた。乙女の茜を見る目が潤んでいたからだ。
「で、今は何してんの?」
「ちょっとな。駄々っ子にしつけをしてるんだ」
「人をガキ扱いするな! 誰がしつけてくれと頼んだ!」
「食欲がなくったって、まるっきり食べられないってわけじゃないんだろ?
ベッキーは成長期なんだから、ちゃんと食べてないと体に響くんだぞ?」
「……む〜」
ベッキーは少し考えた。確かに背が伸びないのは困る。
背を伸ばすためなら多少の無理は通したい。そんな年頃だった。
「ちょっと熱さが引いちゃったな……」
「だから早く食べろって言ったのよ」
結局ベッキーは玲のラーメンを食べることにした。
あれだけ意地を張っていた割りに、箸をつけてから食べ終わるまでは早かった。
(芹沢と乙女……何かあったのか?)
ひとつ山場を越えた玲は、次なる不安材料に意識を移していた。
「おいしかったね」
「……ああ」
芹沢は、相槌を打ってはいるものの、少し声のトーンが落ちていた。
それもそのはずで、乙女はこの部屋に来てから、ほとんど間を空けずに芹沢に声をかけており、
その度に芹沢は何らかのコメントを返さねばならず、心の休まる暇がなかった。
話し相手が来栖やハルカならばともかく、乙女とはまだ親しく話した絶対時間が少ないため、
リアクションに困っているのだ。
しかし、乙女は芹沢の困惑とは無関係そうににこにこと笑っていた。
(……これはまるで)
鈴音みたいだな、と玲は思った。空気を読まず自分の感情むき出しで相手に接し、とにかく楽しそうにしている。
今の乙女は在りし日の、修が存命中の鈴音に、似通ったものがあった。
(こいつも、爆弾を抱えているわけか。こいつは鈴音と違ってベッキーとも仲がいいし、
先手を打って、芹沢との関係が壊れないようにしないとな……)
玲は、乙女のためではなく、ベッキーのために策を講じ始めた。
「……晶ちゃん? 何やってるの?」
鈴音が、廊下の真ん中でプリントを拾っている宮田に声をかけた。
「あ、鈴音さん。あのですねー、桃瀬くんがいなくなっちゃって、
仕事があちこちに回ってくるようになったから、私もお手伝いをしてるんですよー。
でも、私はドジが多くて、なかなかうまくいかないんですよ。
早く桃瀬くんがいなくても代わりにみんなで手分けできるようになりたいですねー」
「無理だね」
「えー!?」
宮田は最初、いつものリアクションで涙ぐんだが、鈴音の声が本気なのに気づくと、耳をそばだてて次の言葉を待った。
「誰にも、彼の代わりは出来ない……。たとえ宇宙が何度繰り返したって、もう彼には出会えない。
なぜなら、人間のおかれた状況と決断、選択肢ひとつ違っただけで……」
鈴音は何かつぶやいたまま、ふらついた足取りでその場を立ち去った。
宮田には、後を追う事も声をかけることもできなかった。
「こんにちは」
「……こんにちは」
鈴音に大森みのりが声をかける。ここは図書室だ。
鈴音は誰とも積極的には話さないようになり、暇さえあれば図書室でキロ単位で本を読んでいた。
うあ。乙です・・・すっごい鬱
133 :
豚:2006/11/04(土) 00:56:31 ID:???
もしも氏乙です。
多種多様な人間にじわじわと広がっていく感じが何とも…
個人的には鈴音の動向に注目してます。
こちらはかわって完全に悪趣味物語なのですが、少し被る情景があって冷や冷やしていますw
人死にあり、グロは…ありでしょうか。そんな具合で。
134 :
豚:2006/11/04(土) 00:59:07 ID:???
……殺してしまった。何の意味もない、くだらない勢いで。
ほんの冗談の沙汰に過ぎなかったのに、朝比奈英理子は消えてなくなり、そこには声発せぬ骸しか残らなかった。
力無くうなだれ、どんなにその肩を揺すっても、耳元で呼びかけても何の応えも返さない。
かつて朝比奈だった肉の塊を手に持て余しながら瀬奈雪絵は唖然としていた。
別に彼女が死ななければならぬ理由など無かった。
ただいつもどおりのオフザケで「ドM、ドM」と罵りながら、彼女の首を冗談に絞めていたら、つい熱が入って勢い付いてしまったのか、気がついたら朝比奈は口から泡を出して息絶えていた。
瀬奈は余りにあっけなく人の命の失われる様を、その手で直に感じながら、それでいてまだ夢心地にいるような気分だった。
ただ愕然として、厭味な後味をずっと将来まで引く恍惚感を経て、それでも彼女は正気に戻ると事態の深刻さに戦慄した。
自分が殺したのだという、どう足掻いても反証のしようがない事実を前に、彼女はひたすら自分のすべきことを考え続けた。
このままでは捕縛されるのは目に見えている。
もしこの手に縄を廻されるのをはっきりと自身の目で見ることとなったら、その時こそ自分は罪の意識によって精神を押し潰されてしまうに違いが無い。
何も社会的な制裁を恐れているのではない。
もし捕まったのなら、できることなら極刑でさえも望む。
しかしそれは現行法の手緩さというか、生殺しを愉しむ為の刹那的な恩情のごときものによって叶わないことを彼女は重々承知していたし、
かわりに彼女は罪の意識という如何なる懲役労務よりも人間を苛む拷問に身を預けねばならないことを知っていた。
捕まってはならない。彼女は結論を下した。
捕まって、罪をこの身に被せてはならない。
昔、ある人は、捕まるまでは罪は罪ではないと言った。そして彼女は今、罪の意識に襲われることを免れている。
願わくばこの状況をいつまでも続けていきたい。
この朝比奈の死体が朽ち落ち、地に帰還するまで、罪の意識に陥る自分から逃げ続けなければならない。
そのためには、どうしてもこの殺人の事実を誰の目からも遠ざけなければならない。
135 :
豚:2006/11/04(土) 01:01:28 ID:???
次に瀬奈は具体的な事実について考え始めた。
邪魔なのはこの死体だ。
この死体が存在する限り、自分はいつ足がつくかわからない。
とても危険だ。
これが見つかることになれば、捜査のメスはすぐに事件の闇を切り裂き、彼女の喉元に突きつけられることであろう。
それはいけない。断じてあってはならない。
彼女は、何とかしてこの死体を、誰にも気がつかれずに、早急に処分してしまわねばならないと考えた。
しかし死体を隠すというのは存外に難しい。
この処理の困難さのために完全なる犯罪は不可能であるという公理が生じているくらいだ。
推理小説の中ですらそうだというのに、現実問題としてこの最大の犯跡の如何に隠滅のしにくいものかということは、最早何らかの実行に移す前にして十分思い知らされた。
人一人を「殺す」のはこんなにも簡単なのに、何故それを「消し去る」のがこんなにも厄介なものなのか。
これはつまり人が人を殺して天の裁きのみならず人の手による裁きからも逃れ得ないことを運命付ける決定的な証拠だろう。
或いは何としてでもたくさんの人を罪に陥れ、その救済のなされがたきを種に人を天への信仰へと向けさせようという、天命の功利的な企みによる定めなのではないか。
瀬奈の頭脳は物質の世界を超越し、その肉体は反対に俗物界の究極的な囚われであった。
彼女は敢えて意識を観念的な、形而上の空間に置き去りにし、その認識と思考を逃れがたき麻痺へ向かわしめ、かわりにその肉体の行為、その余りに猟奇的で残忍無比な行動に片輪の倫理と野次馬的な逡巡遅疑の付け入る余地を与えなかった。
彼女はつまり、ある方法――それはとても常人の行い得るものではないが――によってこの忌まわしい朝比奈の死体を始末することを思いついたのであった。
******
大森みのりは家庭科室に座っていた。
昼下がりも夕焼けに色づきだした頃、彼女は腹を空かして、間食を買いに購買に出向きかけたところで瀬奈雪絵と出会い、彼女の言うがままに家庭科室にまで連れられてきたのだった。
彼女の話によると、美味しい料理をご馳走してくれるらしい。
瀬奈が自身で料理を作って振舞ってくれるなどというのは珍しいことだったが、みのりは疑いも躊躇いも無くその好意に甘えることにした。
136 :
豚:2006/11/04(土) 01:03:04 ID:???
「待っていてくださいね、先輩。今、美味しい料理をお出ししますから」と、瀬奈はコンロの火にフライパンを掲げながら言った。
「何を食べさせてもらえるのかしら」と、みのりは眼鏡を拭きながら尋ねた。瀬奈は手を止めることなく――顔色一つ変えることなく答えた。
「そうですね……豚丼……なんていかがですか。先輩、お肉は嫌いじゃないですよね?」
「豚丼?お肉はあまり食べないからわからないわ。でも、ご馳走してくれるというのなら喜んで頂くわ」
「もうじき出来上がりますからね……ほら、いいにおいがしてきたでしょう?これは鹿児島産の高級黒豚なんですよ……湾岸沿いにある南条フーズの直売店にわざわざ赴いて、ブロックごと買ってきちゃいましてね」
「高級……それはスゴいわね。まだ食べたことが無いわ……そうだ、そんなに上等なものなら、朝比奈さんも呼んであげたらどうかしら?仲、いいんでしょう?」
「朝比奈さんは……」と、瀬奈は音を立てて脂を飛ばす肉を盛り付けながら、にこやかに答えた。「お肉が嫌いだそうですよ。自分はあんなにお肉がついているのに」
「そう。勿体無いわね……あら、もう出来上がり?確かに、いいにおいね。早速戴いてもよろしいかしら」
「どうぞ、召し上がれ……あ、先輩、湯気が立っている器を覗き込んだら……アーア、眼鏡が曇ってしまいましたね。食べるときは眼鏡を外した方がいいですよ」
「そうね。ご忠告、もっともだわ……眼鏡を外して……あら、何も見えない」
「手探りで食べるのも素敵じゃないでしょうか」と、瀬奈は笑った。みのりはそれに従い、覚束ない手つきで箸を握り、そうして肉を一口――
「いかがですか?」と、瀬奈はみのりの顔を覗き込む。
「ummmm……あ、おいしい。とってもおいしいわ、瀬奈さん。今までに食べたことがない味よ……鹿児島……侮れないわね」
みのりは嘆息し、夢中で食べた。
丼一杯に盛られた白いご飯と、「豚」肉の味は彼女の心をその虜にするには二口三口とは要らなかった。
彼女は無我夢中でその美味を堪能し、腹いっぱいになったところで、ようやくその箸を置いた。
丼の内側は眩い光を照り返していた。
「ご馳走様。素敵だったわ。さすが、材料が上等だと味も別格ね。気に入ったわ」
「お粗末さまです。何なら、まだ肉はかなり余っていますから――明日もまた……」
137 :
豚:2006/11/04(土) 01:04:38 ID:???
「瀬奈さんがいいというのなら……またお願いしてもいいかしら」
「ええ、喜んで。私、もっともっと料理が得意になりたくて。もし先輩さえ迷惑でなかったら、もっと色んな料理をお出ししたいものです」
「本当に?それは嬉しいわ。ありがとう、瀬奈さん。貴女、立派なお嫁さんになれるわよ」
「そんな、お嫁さんだなんて」
瀬奈はほのかに頬を赤らめた。
「料理の上手な人は家庭的なお嫁さんにゃの」
「……にゃの?」
「ごめんなさい、風邪気味で」
******
みのりは珍しく、たった一人で高級料理店に座っていた。
目当てはこの店で一押しの鹿児島産最高級黒豚を使った贅沢な料理。
瀬奈にご馳走してもらって以来、彼女はどうしてもあの美味しい肉の味が忘れられず、遂に自分でもこうして専門店にまで赴いて食事をすることにしてしまったのだ。
「あれ?先輩?」
聞きなれた声に驚いて振り向くと、そこには1年A組の桃瀬修の姿があった。
「えっと……誰でしたっけ?」
「いやだなぁ、先輩。俺ですよ。桃瀬です。奇遇ですね、こんなところで」
「あぁ、桃瀬さん。いえね、鹿児島は何といっても凄いので」
「……か、鹿児島?えっと……あ、鹿児島産の黒豚ですか。ここの店は結構評判ですからね。俺たちも今日は家族でここに来たんですよ。先輩はお一人で食事ですか?」
「そうにゃの。瀬奈さんがね、おいしい黒豚の焼肉をご馳走してくれて……あの味がなかなか忘れられなくて。ほら、湾岸道路沿いに南条フーズの工場があるでしょ?あそこの直営店で買ってきてくれたのよ」
「南条フーズの直売店?やだなぁ、先輩。何かの冗談ですか?あそこは食肉加工の最終工場だから生肉は売っていませんよ。安いハムとかベーコンの類を大量生産しているんで」
「そんなことないわ。私は確かに……」
「……あ、くるみが呼んでる。すみません、先輩。それじゃ、俺はここで失礼しますね」
138 :
豚:2006/11/04(土) 01:07:39 ID:???
修が立ち去るのと入れ違いに注文していた料理が運ばれてきた。
それは極上の黒豚を豪勢にもすき焼きにしたもので、みのりは上機嫌で料理を覗き込み、気がついたように眼鏡を外すと、その芳ばしい香りに酔い痴れた。
彼女は薄ぼんやりとした視界の中で、湯気を立ち上らせて食欲を誘う肉の甘美な味を想像しつつ、ゆっくりと箸をつけた。
プルプルと震える肉が艶やかで、口の中に運ばれたそれは、蕩けるような舌触りの中で芳醇なエキスを発散させる。
――美味い。美味いのだが……しかし予想していた味とは違う。
みのりは訝しげに咀嚼の口を緩めた。
確かにこの黒豚は美味いのだが、この間瀬奈から食べさせてもらったあの史上の味とは明らかに違う。
彼女はやがて苦々しい顔つきになり、記憶の中のあの美味を思い起こした。
違う。彼女が食べたかったのはこれではない。
どういうことなのだろうか。
料理の腕なら店のプロのほうがよほど上であるはずだし、材料だって大枚はたいた分、それ相応のものを使用しているはずだ。
それなのに、この味のインパクトの違いは一体何なのか。
みのりは頭を抱えて考え始めたが、やがて気分が悪くなって、食事にはほとんど手をつけないまま、店を後にした。
******
桃京新聞一面(11月5日付朝刊)
「――女子高生殺害容疑、同級生の少女を逮捕――
先日、私立桃月学園(大田区桃月2-8-28)の女子生徒朝比奈英理子さん(17)が殺害された事件で、警視庁は4日、同高校に通う女子生徒(17)を殺人及び死体損壊遺棄の容疑で逮捕した。
調べによると、同女子生徒は先月27日午後4時頃、桃月学園敷地内で朝比奈さんの首を絞めて殺害、その後、遺体を隠匿する目的で細かく切断し、遺棄した疑い。
同女子生徒の話によると、切断した朝比奈さんの遺体は犬などに食べさせ、細かい部位は川に投げ捨てたとのこと。
警察が詳しい状況や動機などについて追求している。
朝比奈さんの遺体は桃月学園の家庭科室の冷凍庫から発見されたが、損傷が激しく、既に頭部と右腕の一部しかなかったという、云々――」
******
139 :
豚:2006/11/04(土) 01:09:32 ID:???
朝比奈の死と瀬奈の逮捕が報じられてから一週間が過ぎ、学校の機能は少しずつではあるが復旧してきた。
この残忍猟奇な事件以降、家庭科室へ続く回廊へは警察の手により黄色いテープが張り巡らされ、誰も立ち入ることは出来なかった。
勿論、誰一人立ち入ろうという気色が無かったのもあるが。
連日捜査関係者や報道陣が学園の周りを歩き回り、まったく授業にならなかった。
事件後のショックで、心的外傷を訴える生徒の数も少なくは無かった。
教師や運営は対応に追われ、不安を隠しきれない生徒の保護者ともども大混乱に陥った。
学校長は引責辞任の心積もりも決めているとの噂だ。
みのりは、そんな中で、一人元の生活に戻りつつあった。
彼女は当初こそ委員長委員会の優秀なブレーン二人を失ってしまったことを嘆いていたが、こんな時こそ統率者たる彼女がしっかりせねばならないという気負いもあったためか、すぐに日常の業務に戻った。
周りの連中はいつまでも愚図愚図していたが、彼女の力強い姿を見て励まされた者も少なくない。
桃瀬修なども、真っ先に名乗りを上げて彼女の補佐に戻った。
みのりはそれと同時に、図書委員としての業務も忘れなかった。
停滞してしまったために山積みとなった委員長委員会の業務を片付けながら、図書室で貸し出し業務などを行う当番もちゃんと勤めていた。
そうして今日も、彼女は誰もいない図書室のカウンターの中に腰掛け、その仕事を全うしていた。
「いいですか?」
カウンター越しに声を投げかける少女。
みのりが顔を上げると、そこには見慣れた顔。
既に顔馴染みとなった本の虫、橘玲という一年生の女子生徒だった。
「何かしら?」
140 :
豚:2006/11/04(土) 01:10:24 ID:???
みのりは眼鏡を持ち上げて玲の顔を凝視する。
「料理関係の本はどこですか?」
玲もそれに応えるかのように眼鏡を持ち上げる。
「ああ、それなら、その書棚を真っ直ぐ行って右側ですよ」
「どうもすみません……いつもご苦労様です」
「貴女も本当に熱心ね」
玲は踵を返して書棚に向かって歩き出した。
みのりは彼女の後姿――艶やかな長い黒髪の翻るの華麗な様――を待っていたといわんばかりにじっと見つめ、鞄の中から隠し持っていた出刃包丁を引き抜いた。
きらりと鈍く光る刀身を後ろ手に傾け、音も無くカウンターを飛び出し、玲の後ろから忍び寄る――そう、彼女はついにあの肉の、あの味の正体を知ったのである。
そして、それを再び口にしたいという欲望から後も先も無い凶行に身を託したのである。
玲は料理関係の本を手に取りながら、今夜の食事のことを考えていた。
やがて、黒い影と、水銀色に輝く眼鏡の怪しげな光が、その背後からゆっくりと覆い被さった。
――完――
141 :
豚:2006/11/04(土) 01:13:15 ID:???
チラシの裏的反省のボヤキ。
やっぱりカニバルネタは陳腐になりやすいと痛感。
日本の食人小説は青頭巾の段階で既に極地に達してしまっているんだなぁ…と。
実際、人の肉は余り美味しくないとも聞くけど…
豚氏、乙。
おお、朝比奈・・・(;´д⊂ヽヒックヒック
面白カタ。 GJ!
朝からいいものを読ませてもらいました。乙乙乙。
>豚氏
大変引き込まれる良作でした。
特に瀬名のどこか冷めた判断の部分がすばらしかったです。
私もそんな作品が書ければなぁと思います。
ただ残念なところが二ヶ所。
ひとつは、やはりカニバリズムを題材にした作品としては、
ある程度ではありますが既存作品と被る部分が
できてしまっているということ。
またもうひとつ、肉は早急に血抜きを施し、熟成させて
蛋白質を変性させた方が食味がよくなるのですが、
そうしたプロセスを経ずに思い付きで朝比奈の肉を
食べさせているようにも見えるということ。
あれだけ印象に残る味だという描写があるのですから、
この辺りの考証に基づいた記述があればなおリアリズムを
追求できたかと思います。
勿論、読み手に想像させる部分というのもあるので、絶対必要というわけではありませんが。
ともあれ、お疲れ様でした。
>>『豚』さん
乙です。
私も昔食人ネタを書きましたが最後で逃げてしまったので、最後まで書き切られたその筆力に敬意を。
食人ネタのssは滅多に遭遇しないんで、おもろかった。他作品のスレでもあまりないし。
>>141さん乙です。
良い。凄い、良い。
ごめんなさい、個人的にツボ過ぎて“良い”としか書けません。
_,, --- ...,,,._
, .´ : : _;,-.''´: : : : `.ヽ、
,/: : : :/: : : : :_;,.-─''''ヽ:i:ヽ ウサギ小屋でうずくまって
/:| : : /: /: :,: :/: ,: : ; :l : : : ヾ:l 体育すわりをする
| :|: : :|: / : : |' 、_/_,,,./;;/ : : l: : :ヘ すごい部屋が広く感じる
,l: :|: : :|λ: : :|,i1::{ ,lヾi'./: : ノ : : |: l さみしい
. _ノ l: :| : :|:´:ヾ: |' l、;;./ '-,ri'` : : : l: l 泣きまねの練習をするなんて
ノ: /: : :| : : : |l゙ i゙ッ': ; : // 地味な女の子に
-=ニ_ノ: :_:/ヾ : ト:| , l: :l''´ ´ なるなんて
フ'''´ '' `ヽ:、`._.r‐‐.、 .ノ:; :| 思わなかったなぁ
/ //ヽ''i''´l: : :|ヾ さみしい
/ ././ ,-‐ヾ:_|:ヽ、| 私、なにものでもない
. / l l' / ヽ .|::`゙i 私 どうすればいいんだろう
.l _,,..-' ,l , ヽ .|::::::|ッ、
|.、 _,.-''´,,-‐''´ .,/ .゙ |.--'、,_:ヽ
.|.ヾヽ''´,.-''´ ヽl ヘ l |
|. `´ ヾ、 ゙l |'
|. | .|ヽ | ./
,| | ,.-.| ,l|.ノ:|
| ヽ | 'i: : :| ノ´::::|
. | ヘ| `'''i.ヽ_. ノ1'::::::::|
/ ヽ .|:ヾ;,;,.-' :|:::::::::|
/. ヾ゙ .|:、-':ヽ,ハ::::::::|
l. | |: :\ , i: ヽ:::::|
ト. | . |: : : : ミ -,/:::::|
>>149 学級崩壊スレとしては、是非とも狂乱か自殺かをお勧めします。
人肉食の真似事もいいかもしれません。メソウサ辺りで。
「インプランタ晶」の元ネタってウルトラセブンのメトロン星人なの?
>>151 もし宮田が異星人に改造されて身も心も化け物になって暴れたら?というテーマで
パニックムービー系をイメージして書かれた
今は落ちが思いつかないらしく長期休載中
本人みたいな言い方だな
恐らく本人かと
待ちますよ。
全裸で。
書きたい時に書けばいいと思う。
>>151 安アパートの6畳間で、ちゃぶだいを挟んで対峙する犬神と宇宙人のシーンと
夕陽の中での一瞬の決着がクライマックスであるわけだな
<ルートV パート3>
≪三人目 桃瀬くるみ≫
「ハーイ、都♪くるみだよ。遺跡の調査?だか発掘作業?だか、順調に進んでる?
何でもベッキーの先生の偉い教授に才能を認められたらしいじゃないの。
すごいなぁ・・・・・・中学の頃から都はがんばり屋さんだったからね・・・・・・私、地味だけどそういう都のひたむきなところ、少し尊敬してるんだ。
たとえ誰から何と言われようと、自分の目指す道を一生懸命に進もうとする都、何だかとてもかっこよく見えてたんだよ。
ハハ・・・・・・ちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかな?
でもね、都。あんまり頑張り過ぎてもだめだよ。
都のがんばっている姿を見ていると、かっこいいなって思うのと同じくらい、心配になってくることがあったんだ。
都は夢中になると我を失うから・・・・・・何でもいいけどね、適度に息抜きして、余り根をつめないように。
私はいつでも都の味方だよ・・・・・・ってちょっと兄貴!?」
「おーやってるな・・・・・・これもう撮れているんですか?あ、じゃあ俺も一言いいですか。
・・・・・・やぁ、上原さん。修です。
今海外で考古学の調査をしているんだって?さすがだね。
いつかとんでもないことをやるだろうと思っていたけど、正直とても驚いているよ。
そちらでは元気にやっている?また短気起こして周りに迷惑かけていない?
ニャハハ・・・・・・冗談、冗談。
どこにいても、何をしていても、気楽にいこうぜ。
上原さんは、怒っているときよりも、笑顔の方がずっといいんだから・・・・・・」
「お?兄貴、何よ、その意味深な発言?」
「くるみ?別にいいだろう?特に意味なんてないよ」
「怪しいわね。二人は実はいい仲なんじゃないの・・・・・・?」
「おい、からかうのはよせって。そんなんじゃないって!」
「ヘヘへ・・・・・・ま、都が帰ってきたらじっくりと問い詰めてやりますか。そんなこんなで以上、桃瀬兄妹でした♪」
≪四人目 ベホイミ≫
「うっス。こんにちは、都さん・・・・・・って、何かおかしいですか?
まぁ、いいや。ベホイミです。
都さんには何だかんだで色々とお世話になっています。
自分も留学生なので、海外での心細さというか、望郷の思いとか、そういうのは理解できます。
自分も僅かにそういうものを覚えたことはありますから。
でも、都さんなら、きっとそういったものにめげず、そちらの国でも充実した日々を送っていることだろうと思うっス。
都さんは強い人だから・・・・・・いつぞやの爆弾騒ぎのことを覚えていますか?
今だから言えるけど、あの時は本当に大変でした。
それでも、そんな状況の中で、都さんはとても冷静で、有能で、頼り甲斐がありました。
本当に助かりました。
感謝するのと同時に、都さんのとても肝の据わっていることには驚かされました。
あの時買ってきてもらったヤキソバ、とてもうまかったっス。
今は別の国でがんばっていると聞きましたが、また日本に戻ってきたら、色々とお話を聞かせてください。
それでは、お体に気をつけて・・・・・・友に栄えあることを願って」
カメラが止まった後、ベホイミは辺りを見回しながら言った。
「次はメディアに・・・・・・あれ?あいつ、どこに行ったんスか?」
<ルートM パート3>
ナポリの旧市街の裏路地を、ラビリントスを伝うように進んでいくと、表通りからは隠れた名門レストラン「ぺスカ・ルーナ」の質素な看板を見つけることが出来る。
普段は地元の人間や食通の業界人たちがお忍びでやってくるこの店の今宵の客は特に大物だった。
店の前には黒服に身を包んだ男たちが構えており、店のガラス窓にはブラインドが下され、今宵の貸切の晩餐の様子をうかがい知ることは誰にも出来なかった。
店の裏手には二台の黒いメルセデスが鎮座しており、それだけでもその様相の不穏たることは敢えて説明に及ぶまでもないことが伺えた。
やがて細い路地道の向こうから三人の人影がやってきた。
店の前の男たちはその様子を警戒しながら見つめていた。
果たしてそれは二人の男を左右に従えた一人の日本人少女だった。
「カポ・デコ・・・・・・本当に大丈夫ですか?」男の一人が歩きながら少女に耳打ちする。
「'声'がしないのよ・・・・・・いつもの警告が無いの・・・・・・つまり、これで正しいということよ」少女は前を見据えたまま言った。
やがて彼女らは店の前までやってきて立ち止まった。
黒服の男たちはその様子を見ながら言った。
「今日は貸切だ。悪いが帰ってくれ」
男たちは両手を突き出した。手を挙げた瞬間、ジャケットがはだけ、その脇の下に吊るされた銃の床がちらりと見えた。
「ミヤコが来たと伝えなさい。プロフェソーレのファヴォリート、ミヤコ・ウエハラがドン・ガッベリーニに直談判しに来たとね」
都は毅然とした態度で言った。男たちは表情を曇らせ、二言三言話し合っていたが、やがてそのうちの一人がおもむろに踵を返し、店の中に入って行った。
ここ最近、カポ・デコなる奇妙な通り名で知られるようになったこの少女、上原都は全く動じることも無く返事を待っていた。
その後ろに控える二人の配下は、彼女を奇跡的偉業へと導く'精霊の声'の言葉と沈黙を信じてはいたが、それでも不安は拭いきれなかった。
都は確かに素人だった。
しかし、彼女はこの余りにも超常的な'精霊の声'に従うことで、多くの仕事を成し遂げ、その名を高め、そして同時に危機を回避してきた。
彼女の信奉者や裏社会の神秘主義者たちの間では、この'精霊の声'(この概念の命名は都本人のものであったが)についての話題で持ちきりだった。
ある者はこれを彼女が元来持っていた'犯罪者としての'天才的センスの発露であるといい、ある者はこれを神の加護が異教徒の中の預言者についたものだという。
都自身がこの声について、「目に見えない霊的なものであるが、インスピレーションとは明らかに異なる、外からの訓示」なのであるといった曖昧な物言いをするものだから、
その神秘性はますます高められ、悪魔崇拝的なものに似た、反動的宗教情動に囚われた狂信者が、彼女の影を偶像へと持ち上げ、その存在を不用意にシンボライズしてしまったのである。
その結果、謎の天才的犯罪者にして、神の手によりなるべくしてなる存在を運命付けられた預言者、カポ・デコの都市神話が実しやかに流布されるに至ったのである。
やがて男が店の中から戻ってきて、都を手招いた。二人の配下は店の前で止められた。
「ここで大人しく待ってなさい」都は身体検査を受けながら命じた。男たちは神に魅入られたと彼らが信じる少女の言葉に従うほか無かった。
そうして、都は中に通された。
中には数人の黒服のボディ・ガードが無表情でこの少女の闖入を見つめていた。
奥には一人の老夫がワイン・グラスを片手にしていた。
この男こそ、一時期カンパニア州全域で大権勢を振るったマフィア組織「ヌオーバ・カモッラ・オルガニッザータ」のパガーニ・コムーネに於ける正統分派の巨魁の一人、ドン・ピエトロ・ガッベリーニである。
都は彼の姿をその瞳の中に映すと、護衛たちの手を振り解いて大カポの元に走り寄った。
途端、奥に控えていた親衛隊が一斉に銃を引き抜き、身構えた。
たくさんの赤いレーザー・ポインターの光点が、都の額の上を蠢いた。
「下がれ」
遅れて後ろから彼女の手を掴んだ護衛の一人が彼女の突然の振る舞いを制した。
しかし都は再びそれを振りほどき、大カポを真っ直ぐに睨みつけ、低い、穏やかな声で言った。
「Io posso farlo. Alcuni altri non possono farlo... (私なら出来る。私にしか出来ない)」
大カポは興味深い顔つきで彼女の目を見つめ返した。
この後、二人のカポの間に流れた沈黙こそが、何よりも雄弁な論議の証なのだということが、果たして何者に理解できたであろうか?
<ルートR パート3>
次の日、私たちは言われたとおり、暗黒世界の人間と会うことになった。
メディアは余り気が進まないようだったが、表から姿を消してしまった都の足跡が、裏の情報網に引っかかっているかもしれない。
初めから警察は当てにならないし、こうした草の根を突付くような調査をしなければ、わざわざイタリアにまでやってきた意味はない。
そうでもしなければ都を――その影ではなく、実体を――追跡することなど不可能でもあるだろう。
私は不安そうにしているメディアを元気付け、同時に自分自身の気持ちをも奮い立たせた。
その男はある界隈の不良少年たちをとりまとめる役を持った若衆の一人で、組織に通じるやくざ者だった。
彼は以前、運搬役としてある禁制品の取引に関与したとのことだが、その時初めて、名前でしか聞かなかった謎の天才的犯罪者カポ・デコの姿を生で見たという。
彼は都のことを、確かに「犯罪者」であると断言した。以下は彼の証言である。
――・・・・・・カポ・デコ?ああ、あの日本人の娘か。
彼女は取引現場には滅多に姿を現さないというが、俺がその姿を拝めたのは幸運だったのかな?
それとも影武者か、ひょっとしたら幽霊かもな。
なんせ捜査当局が血眼になって探しても尻尾すらつかませないとんでもない大物だという話だからな。
お嬢ちゃん、奴らについての情報が欲しいのかい?
奴らについては余所者だから話すことが出来るが、上方(おそらくこの男の後ろ盾に当たるマフィア組織のことだろう。
調べてみたところ、この界隈を縄張りにしているのはサレルノのパガーニの出身者たちで構成されるカモッラで、そのトップはピエトロ・ガッベリーニという男だそうだ)との関係やビジネスの内容については俺の口からは言えないからな。
・・・・・・それで、お尋ねの連中だが、こちらではプロフェソーリという呼び名が一般的だ(プロフェソーリとはイタリア語で「教授たち」という意味がある)。
様々な分野のエキスパートが揃い、'ブツ'の調達から、ブローカー、品卸まで何でもこなすプロの精鋭密輸部隊だ。
驚くほど要領のいい連中で、組織の業務の請負すらできるほどの実績と信頼を持っているという。
それでいて捜査当局の手を見事にかわす身軽さも兼ね備えているというから大したものだ。
数ヶ月前まではプロフェソーレ(教授!)と名乗る男が首領だったようだが、ある事情から彼は引退することになって、代わりにその日本人の少女が二代目襲名というわけさ。
そう、そいつがカポ・デコだ。
当初のうちは、事情を知る者たちの間では何故そんなエリート犯罪集団の頭目を小娘が継ぐのかという疑問と不満が巻き起こったわけだが・・・・・・やがて誰もが口を閉ざした。
彼女の才能は本物だった。カポ・デコの力には恐ろしいものがあったんだ。
何が凄いって、その手腕と度胸もさるものながら、彼女が'精霊との対話'を果たすという摩訶不思議な噂だ。
聞くところでは、彼女は目に見えない'精霊'と会話して、自分の危機をあらかじめ予知できる能力があるというもんだ。
まったく、そんな能力なら俺にも欲しいぐらいさ。
嘘みたいな話だろうが、事実彼女は超能力としか思えないような判断力で何度も危機を乗り越えていると聞くし、今もなおその居場所を誰にも掴ませていないのはそのいい証拠だ。
・・・・・・そんな話のせいで、最近はやたらと教会通いするやくざ者が増えたっていう噂だけどな。
・・・・・・え?バカ言え。俺はそんなことはしないさ。
噂を信じる信じないはともかくとして、いくらなんでも、オカルトじみているからな。そういうのは嫌いな性質なんだ――
犯罪者の逃亡を助ける精霊など聞いたことがない。
私は半信半疑であったが、しかし都に関して、そういった噂がある程度の範囲で流布しているのは確かだ。
私たちはその後も斯界の事情に詳しい者に聞き込んでまわったが、彼らは確かに都のことを知っていたし、その誰もが彼女の持つ不思議な力とその神秘性についての話を聞き及んでいたのだった。
ある者は彼女を神の使いであるとまで言い切った!
日本にいた頃の都はどちらかというと地味で、冴えない少女であった。
いつも何かに強迫されているようで、決して優秀な学生だったとは言えなかった。
その彼女が遠く離れたこのイタリアの地で、アイドルと呼ばれ、天才と崇められ、予言者にして預言者である(日本語ではややこしいが、占術的に云うのなら、彼女は神託による予言者であるし、
宗教的神秘主義の見地から云えば、彼女は預言者の一人でもあるのではないか)として畏怖されている。
私には受け入れがたい現実であった。
いくらなんでも、極端すぎる。
そして余りにも現実離れしすぎている。
そのためか、私には自分がこの11年間で見てきた現実の未だ如何に狭いことかを改めて痛感させられることになったのだ。
私とメディアが滞在先のホテルに戻ってきたのはもう日が暮れた後だった。
私たちはへとへとにくたびれて、気の赴くままにベッドの上に横たわった。
そのとき、私の枕元に一通の封筒が置かれていることに気がついた。
私は何の気も無しにそれを開き、中から一枚の手紙を取り出した。
私は簡単な英文で認められたその手紙に、不審の思いを抱きつつも目を通した。
"探偵ごっこはおしまいだ。すぐにナポリから出て行くことをお勧めする。さもなければ災難が訪れることだろう"
手紙の間から一枚の写真が落ちた。
私はそれを拾い上げ、目の前に持ってきた瞬間、その余りの衝撃的な映像に我を忘れて慄き叫んだ。
「うわぁぁぁああああ!」
恐怖に己を失った私の有様を見て、メディアが駆けつけた。
後から聞いたところ、その時の私の顔色は死人のそれだったようである。
無理もない、あんな写真を突然に見せられて、気の動転しない人間などいるものか。
その恐るべき写真は、私たちが追い求めている都の写真だった。
そして、その中の都は、首から下の身体が無かった。
蒼白い肌の、ひと玉の生首が、鮮血に塗れた切断面を下にして、おそらくは地獄のあるだろう方角を空ろに見つめていたのだった。
「み、み、み・・・・・・都が・・・・・・都が・・・・・・!」
私は泣きながらメディアのスカートに縋った。
しかし、彼女はその写真をしばらく見つめ、やがて笑顔を回復して言った。
「心配要りません。これはデジタル処理された合成写真です。なかなか手の込んだつくりになっていますが、ほら、背景と都さんの顔の影のパターンが微妙に異なるでしょう?」
メディアはそう言って恐ろしい写真を見せて寄越した。
私は恐怖を堪えつつ、それを確認して少し安堵した。
「まぁ、この手の脅しが来るのは時間の問題でしたからね・・・・・・」
メディアは手紙と写真を吟味しながら呟くように言った。
私は、その時初めて自分が本当に危険な世界に片足を踏み入れてしまっていたことを実感したのだった。
今日はここまでです。
どうもでした。
いいネいいネ、ますます目が離せなくなってきた!
レストランのシーンとか生首の合成写真のとことか、
背筋寒くなりましたもん。
都が、ベッキーが、メディアがどうなるのか、
早く続きが読みたい!
そのテーマパークは海岸沿いに大小のテントを並べて作られており、まるでサーカスの会場のような雰囲気を漂わせていた。
特撮のテーマパークらしく実際に使われたであろう着ぐるみや名場面の写真などが展示されている通路を「へー」「はー」と物めずらしそうに見渡しながら鈴原一家は歩いていた・・・
「ようこそ、桃レンジャーランドへ!!よく来てくださいましたね。」
このテーマパークの係員なのか、いかにもアニメに出てきそうなコスチュームを着た女性が一家を出迎えた。
(なに・・・あの、お姉さんの格好????)
という疑念が両親の頭に浮かんだが、すぐに、(ここはそういう場所で、この人は仕事であういう格好なんだ・・・)と無理矢理自分を納得させた。
「これ・・・」
一方、まるでそうするのが当たり前というように未来はためらうことなくポケットの宝物を差し出した。
そして未来からNO99のカードを見せられると、こちらにおいでというように未来の前を歩き出した
「なんだよ?未来の持っているあの変なカードは?」
二人の後を追いながら父親が隣を歩く母親に質問した。
「なにって・・・ただのお菓子のおまけでしょ?」
ふーん・・・とつまらなそうに頷きながら通路の終点まで歩いていった父親だったが、そこにあったアトラクションを見ると、
「おお!!結構こってるなあ」
と感嘆の声を上げた。
係員の女の子に案内された先はまさに宇宙船と形容すべき乗り物が鎮座している一室だった。
「ようこそ!!このアトラクションはNo99のカードを当てた方だけに特別に用意された異世界体験マシーンです」
館内にナレーションの声が響く中、一家はそのマシーンに乗り込む。
その中は、昔のSFアニメに出てきそうな宇宙船のような安っぽい内装がされていた。
未来が案内に従ってカードをコクピットにセットするとマシーンは動き出した
いや、本来ならこのような狭い部屋に置かれた宇宙船が本当に動き出すことなどありえないのだが、現実にこの宇宙船はどこかに向かっているかのようだった。
すると、彼らの宇宙船に向かって何かが飛んできた
「あれって・・・・俺たちじゃないか!?」
思わず父親が声を上げると、向こうからやってきた自分の分身もこちらを見て驚き、そして両者はまるで鏡にぶつかるようにすれ違った。
アトラクションが終了した後、未来たち鈴原一家は人の気配が消えた桃レンジャーランドのなかで呆然としていた。
確かに向こうから何かがやって来て衝突したのに自分たちは傷ひとつない。
あのコスプレをしてた係員の女の子もどこかへ姿を消していて中はまるで幽霊屋敷のように静まり返っている。
とてつもない不安感と長い旅をしたあとのような疲労感に襲われて一家は逃げるように建物を後にした。
いつのまにか夕方を通り過ぎて夜になっていたことに驚く力もなく、朝の混雑が嘘のように閑散とした道を通って家路についた。
未来たちは気づかなかったが、その頃、都心の空は放たれた火によって赤く染まっていた
破壊は凄まじいものだった、都心は煙に包まれ、侵略者の放つ光線銃の軌跡だけしか見えなかった。
突然の襲撃に狼狽した市民は、みな降伏のしるしに、身に着けていた思いつく限りの白いものを上に掲げた。
煙のたちこめる島国の首都を侵略者が練り歩いた。西郷隆盛の銅像が、市民を連行していく兵士や、通過する見慣れぬ車両、馬に似た動物に乗ったパトロール隊を片目で睨んでいた、頭の半分が砲撃で吹き飛ばされたのだ。
『なぜ、悪魔がここにいるんだ?だれがゆるしたんだ?』と問いかけているように見えた。
今日はここまでです。
ほしゅ
ってレスしようと思ったらキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
興奮してきました。
ねー、これってクレヨンしんちゃんそのままなんじゃ…
「カードキャプターさくら」が元ネタじゃないの??
鏡+ライダーモノで即座に思いついたのは仮面ライダー龍騎
ちがうだろうけどね
面白ければなんだっていいのさ
>>177がいいこと言った!!
まあいきなりぱにぽにキャラが全く出てこなくなって、
カードキャプターのさくらちゃんが「汝のあるべき姿に戻(ry」とか言い出したら、おいおいって思うけどさ。
179 :
PP×C:2006/11/07(火) 02:17:53 ID:???
「おいおい」ってなりかけの某作品を投下中の者ですが、ふと思いついて別作も。
こっちはまだ書き出しで結末まで達していないので続くかどうかはわかりません。
とりあえず、試しに。というわけで。
ヴィンチェンゾ・ナタリの映画『CUBE』のパロディ?みたいなので。
当然グロ、人死にはありという方向で。
こちらもちょびっとよろしくお願いします。
180 :
PP×C:2006/11/07(火) 02:19:56 ID:???
<プロローグ>
「ちょっと・・・・・・これどうなってるのよ・・・・・・」
五十嵐美由紀は扉を開き、中を覗き込む。
この部屋は大丈夫・・・・・・だろう。
ゆっくりと次の部屋に進み、扉を閉める。
音を立てずに、静かに梯子を下りていく。
何も起こらない。よし、クリア。
彼女は先刻いた部屋と全く同じ造りの立方体の部屋の中央にまで進み、周囲を見回した。
六面の壁は全て同じ形状で、そのどれもの中央には今出てきたような扉が据えつけられている。
一昔前の大金庫のような回転式のハンドルがあり、厚さ十センチもあろうかという堅牢な扉はしっかりと閉ざされている。
ハンドルを廻してシリンダーを上げれば簡単に扉を開けることが出来るが、手を離せば油圧式のオペレーターによって扉は自動的に閉まり、スプリングのテンションが利いてハンドルが元の位置に戻って再びロックされる。
また、扉自体は隣の部屋のものと二重に向かい合っており、部屋間を移動するためにはほんの短いキャットウォークの中を二回の扉の開閉を経て進まねばならない。
五十嵐はジーンズのポケットを探った。手の中に取り出された紙箱からヴァージニア・スリムを一本、口に咥えて引き出し、100円ライターで火を点ける。
大きく息を吸って、煙を吐き出す。紫色の煙が立ち登り、五十嵐は煙草を咥えたまま大きくため息をつく。
次の瞬間、視界が真っ赤に染まった。
部屋の中に何か異変が起きたのか・・・・・・五十嵐が気がついたときには全てが手遅れであった。
彼女の身体は部屋の中に張り巡らされたレーザー・メスによって幾重にも寸断され、細切れとなったその肉は、吹き上がる血飛沫とともにその場に崩れ落ちた。
後に残ったのは、これもバラバラに切り刻まれ、レーザーの熱によって激しく燃焼する煙草の欠片だった・・・・・・
181 :
PP×C:2006/11/07(火) 02:22:17 ID:???
<パート1>
レベッカ宮本はその細い腕で何とかハンドルを廻し、そうして、二つ目の部屋にやってきた。
まだ頭がクラクラする。一体どうしたものなのか?そもそもここはどこなのか?彼女は不安と心細さを胸に梯子を降りる。
そこは真っ赤な部屋で、どうにも落ち着かない。
構造は彼女が目を覚ました最初の部屋と同じだが、先刻の部屋は壁の色が白だった。
センスの悪い前衛芸術家のインスタレーションを思わせるシュールで無機質な室内の様子に、彼女は既に嫌気がさしていた。
とりあえず、この真っ赤は気分が悪い。先刻の扉に戻るか、それとも残り五つの扉――と、いっても天井のハンドルには手が届かないから正確には四つの扉――に進むか・・・・・・いずれにしても早くここから出たかった。
(キリキリキリキリ・・・・・・)
突然、ハンドルを廻す音がした。
レベッカは驚いて振り向くが、それは右手側の扉だった。
彼女は警戒して身構えたが、その途端、背後からも同じ音がした。
びっくりして振り返ると、先刻の扉の正面側の扉のハンドルも不気味に動いている。
レベッカは恐怖の余り立ち竦んでしまい、動くことが出来なかった。
彼女を挟んでお互いに回転するハンドルは次第に加速し、そして、順々に定位置で止まった。
レベッカは不安げにその様子を見ていたが、やがて、どちらともなく扉はゆっくりと開いた。
「おや?」
「あ・・・・・・」
先にハンドルが回り始めた方の扉から一条が顔を出し、部屋の中を覗き込んだ。
彼女と正面から向かい合う形で、次に顔を出したのは秋山乙女だった。
「・・・・・・何だ、お前たちか。脅かすなよ・・・・・・」
レベッカは安堵の声を漏らした。一条はいつも通りの無表情で、乙女はかなり怯えた様子であったが、しかし仲間を見つけることが出来た喜びからか、少し緊張が解けた様子だった。
二人とも制服姿で、一条の方はいつも羽織っている長袖のカーディガンを腰に巻いていた。
三人は部屋の中央に集まり、互いの顔を見合わせた。
182 :
PP×C:2006/11/07(火) 02:23:59 ID:???
「大丈夫だったか、お前たち?」と、レベッカ。
「ええ。先生こそよくご無事で」と、一条。赤に染まる表情のない顔は一瞬ドキッとさせられる。
「なぁ、ここは一体どこなんだ?何故私たちはこんなところに・・・・・・?」と、乙女。小動物のように震えながら。
「私は研究室で仕事を片付けていたら急に眠くなって・・・・・・気がついたらここにいた」
「私は全く覚えていません。確か下校しようとして・・・・・・そしたら眩暈に襲われて・・・・・・」
「私もだよ。鈴音が一緒にいたはずなんだけど・・・・・・あいつ、何処に行ったんだろう?」
三人は思い思いに語り合ったが、結局、この現状について明確に説明しうるほどの情報は何も出てこなかった。
三人とも気がついたらここにいた、ということだけが確かなことであった。
そして、この奇妙な立方体の部屋が隣にも続いているということが全員の見てきた情景だった。
ただ、そのうち、一条だけが躊躇うように情報を追加した。
「お二人はこれが二つ目の部屋だということですよね・・・・・・?」
「そうだ・・・・・・何が言いたい、一条?」
「私はここに来るまでに、他にもいくつか部屋を通過しました。全て同じ構造の部屋です。隣の部屋だけではありません。あの扉を開けば、全て同じ構造の、別の部屋に繋がっています」
「何だって!?それじゃあ、こんな部屋がいくつもいくつもあるってことか!?」と、乙女が苛立たしげに大声を上げた。
「ええ、その通りです。
ですから、ちゃんと来た道を記憶してないと、迷ってしまうという寸法です・・・・・・部屋ごとに内壁の色が違うと思っていたんですが、どうも同じ色の部屋は複数あるようでして・・・・・・試しに通過した部屋の色の並びを考えてみたのですが、特に規則性があるわけでもなさそうです。
ちなみに、私はこれまで白、赤、青、黄色、緑、橙、紫の部屋を確認しました。
それぞれの色がどのように次の部屋の色を決定するのかは、おそらくランダムでしょう・・・・・・尤も、数学素養のある宮本先生なら何らかの規則性を見つけられるかもしれませんが」
183 :
PP×C:2006/11/07(火) 02:25:18 ID:???
「私はまだこの部屋の赤と白しか見ていない。乙女は?」
「私も最初は白い部屋だ」
「と、なると、先生の出てきたそこの扉と乙女さんの出てきた向こうの扉は白い部屋に繋がっているということです。ちなみに、ここの一つ前に私が通過したのは黄色の部屋です」
「うーん・・・・・・情報が少なすぎるな。いくら天才でもまだわからん」
「とりあえず、まだ行ってない部屋に入ってみようぜ。ひょっとしたら外に出られるかもしれないしな」
意見がまとまり、三人は四方の壁のうち、まだ開かれていない残りの一つの扉に歩み寄った。
一番力のありそうな――それは身体の大きさで決まったことだが――一条が梯子を上り、ハンドルに手をかけた。
「あれ?」
一条が首を傾げる。
「どうした、一条?」
「いえ・・・・・・ハンドルが回らないんです・・・・・・どういうことでしょうか?」
「固いのか?」
「ええ。おかしいですね・・・・・・どうもロックされているみたいで・・・・・・あれ?何でしょう?」
一条はハンドルから手を離し、耳を扉にあてがった。その様子を下から怪訝そうに見つめる二人は、一条の不審な行動に少なからず不安を覚えた。
「何だ?何があったんだよ、一条?」
「いえ・・・・・・ちょっとお静かに・・・・・・ほら、音が。音が聞こえるでしょう?何でしょうか、あの音・・・・・・」
二人は言われて耳を澄ましたが、ほとんど何も聞こえなかった。
「何も聞こえないぞ」
「おい、変なこと言うなよ・・・・・・」
「・・・・・・あ、そうですか。いえね、扉の奥から音がするんですよ。列車がレールの上を走るような・・・・・・金属が擦れ合う音というか・・・・・・あ、止まりました」
「私たちには何も聞こえなかったが・・・・・・向こうに何かあるのか?」
「かもしれません。もう一度試してみます」
一条は再びハンドルに手をかけて力を込めた。
すると、ハンドルは思いのほか滑らかに動き、先刻までの不動が嘘のようにクルクルと回転した。
「あ、動きます。開きますよ」と、一条は容易くハンドルを廻しきり、扉を引いた。
後ろの二人は固唾を呑んでその様子を見ていた。
184 :
PP×C:2006/11/07(火) 02:26:29 ID:???
(ギギギギギ・・・・・・)
扉がゆっくりと開かれる・・・・・・そして一条は、次の部屋へと続くキャットウォークの中に、見覚えのある姿を認めた。
「あ、姫子さん?」
「い・・・・・・一条さん!」
互いに驚き合い、ほんの少しだけ身を仰け反らせた。
姫子の背後の扉は閉まりかけていたが、その奥に他にも誰かがいる気配がした。
「ねぇ、みんな!一条さんダヨ!一条さんがいるよ!」
姫子はひっくり返って背後の扉の閉まるのを制止し、向こう側の部屋に向かって叫んだ。
一条の方も首を半回転させ、レベッカと乙女の方に姫子の存在を告げた。
「とりあえず、姫子さん、そちらに移動してもいいですか?」と、一条は振り返って言った。
姫子は軽く頷くと、キャットウォークを腹這いに後ずさりして背後の部屋に戻った。
一条は後ろの二人を手招きして中に入っていった。
そこは白い部屋だった。もちろん、構造は今までいた赤い部屋と同じだった。
一条組三人が中に入ると、扉はゆっくり閉まり、再び密閉された。
185 :
PP×C:2006/11/07(火) 02:27:10 ID:???
とりあえずこんな具合で。
調子がよかったら続けてみます。
|┃三 , -.―――--.、
|┃三 ,イ,,i、リ,,リ,,ノノ,,;;;;;;;;ヽ
|┃ .i;}' "ミ;;;;:}
|┃ |} ,,..、_、 , _,,,..、 |;;;:|
|┃ ≡ |} ,_tュ,〈 ヒ''tュ_ i;;;;|
|┃ | ー' | ` - ト'{
|┃ .「| イ_i _ >、 }〉} _________
|┃三 `{| _;;iill|||;|||llii;;,>、 .!-' /
|┃ | ='" | < 話は全部読ませて貰ったぞ!
|┃ i゙ 、_ ゙,,, ,, ' { \ お前ら全員シベリア送りだ!
|┃ 丿\  ̄ ̄ _,,-"ヽ \
|┃ ≡'"~ヽ \、_;;,..-" _ ,i`ー-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|┃ ヽ、oヽ/ \ /o/ | ガラッ
五十嵐先生が即死してショック
このスレでこんなこと言ったってしょうがないがな
保守
191 :
マロン名無しさん:2006/11/09(木) 23:47:08 ID:B7SsR/qm
保守あげ
192 :
もしも続き:2006/11/10(金) 03:37:09 ID:???
「最近急に毎日来るようになったけれど、何か変わったことでもあったのかしら?」
みのりが鈴音に声をかける。
「どうしてそう思うんですか?」
鈴音は当然の疑問を返す。唐突な質問だったからだ。
「誰も一度も借りていないような難しい哲学の本を借りてるし、
それを一日で返して……、しかもちゃんと読んでいるみたいで……。
どう考えても何か急に駆られているとしか思えないわ」
「別に……ただ、暇を持て余しているだけですよ。
暇だとろくなことを考えないから、起きている間は本を読むようにしたいんです」
「……そうね。本を呼んでいる間は、日々の喧騒から逃れられるものね」
翌週も、また翌週も、鈴音は図書室へ通った。みのりも大体図書室にいた。
「……目、悪くなったりしないの?」
2人は少しだけだが、会うたびに話をするようになっていた。
「ええ、私、食欲もあるし、特に不健康なわけじゃありませんから」
「シオラン、ショーペンハウエル、ニーチェ、か。おぬし、病んどるのう」
「……ありがとうございます」
鈴音はジジイの言葉に眉ひとつ動かさずにそう答えた。
(こいつ、皮肉を返せるようになったのか)
ジジイと一緒に入室してきた玲は、鈴音の変貌に改めて驚いた。
「それにしてもうちの学園、やけに蔵書が充実してますよね?」
「私立の強み、じゃな。もっとも、いくら本があったところで、読む人間がいなければ宝の持ち腐れじゃ」
「……でも、私は好きで読んでるんじゃないし……、ただどうしようもなく暇なだけです」
「元来、哲学も読書も、奴隷制のあったギリシアで、貴族が暇つぶしにやっていたものじゃ。
別に、読書の目的に貴賎なんぞないよ。若い時分は、生きたいように生きるがよい」
「後悔するのが自分じゃないからって、無責任な口ぶりですね。
……もっとも、今は毎日が楽しくありませんから、後悔も何もないんですけどね……。ふっ、笑っちゃいますよね。
ちょっと前までの私は、一体何が楽しくて笑っていたんだろう? ってよく考えるんですよ」
そこまで言うと鈴音は、何がおかしいのかくっくっくと一人で笑い始めた。
(あの目……)
どこかで見たことがある、誰かの目に似ていると、玲は思った。
193 :
もしも続き:2006/11/10(金) 03:38:09 ID:???
「どうしてしまったんでしょうかねえ。白鳥は……。
最近、本当に変わってしまった。秋山とか仲の良かったはずの奴らともつるまなくなったし……」
早乙女がため息をついた。
「しかし白鳥さんは、優秀な成績を修めていますし、余計な口出しは無用では?」
壮年のメガネ教師がフォローを入れた。
修の死後、中間テストがあり、そのテストで鈴音は、一躍1位になった。
人と接する機会を減らし、暇を持て余し始めた鈴音は、読書以外にも予習復習に手を染め始め、
無勉強で16位を取る鈴音のスペックでは、予習復習をまじめにこなせば満点を取ることなど造作もなかった。
鈴音の問題といえば、社交的な性格が内向的なものへと一変し他の生徒との係わり合いが薄くなった以外には、
授業中でも本を読むとか、大学水準の教科書で内職をするとか、
進学校では暗黙の了解になっているようなことでしかなく、一般の教師陣からの異議申し立ては皆無に等しかった。
「ワシも、あの子は放っておいて構わんと思う」
「先生!?」
図書室から戻って来たてのジジイが口を挟んできた。
「教師がわざわざ口を出さんでも、あの子には見守ってくれる友達がちゃんとおるからのぅ」
「……それは私も同感ですが、そううまく行きますかね?」
(……ようやく担任としての自覚が出てきおったか)
五十嵐と同様に、早乙女もまた、変わり始めていた。
修の死、教え子の急激な変貌、B組内の不和……、能天気な体育教師も変わらざるを得なかった。
ふと早乙女は外を見た。ロボ子が2体、暴れまわっていた。
最近、鈴音ではなく芹沢とつるむようになった乙女は、演劇部にかけあってロボ子の2号機を作ってもらい、
自らそれを着用して、芹沢とともにブイブイ言わせるようになっていた。
来栖は、柏木姉妹が特製の衣装を思索中のため、モデルとして行動しており、
ドジラの出現割合は減っていた。そのため、芹沢と乙女は、宿敵抜きでロボ子を続けていた。
(……秋山、お前は間違っている。間違っていないにせよ、お前が本当にやるべき事は……)
早乙女は、柄にもなく苦虫を噛み潰したような顔になっていた。
2体のロボ子は、うっかりズーラを本気にさせてしまい、逆襲を受けていたりした。
194 :
もしも続き:2006/11/10(金) 03:40:01 ID:???
「あ、鈴音……」
「ちびっ子先生?」
玲がラーメンを持ち込んでから2週間、最近は食欲も出てき始めたベッキーは、
休憩がてら研究室から出てきたところだった。
「最近元気がないらしいな、おま、え……!?」
適当に話題を振ったベッキーは、鈴音の顔を覗き込んで絶句した。
「ちょっと、どうしたの?」
鈴音が心配そうにベッキーの顔を覗き込む。
「……あ、あ。さ、触るな!」
ベッキーは鈴音の手を振り払い、そのまま、もと来た道へと走り去ってしまった。
「今ベッキーはいないな……。なら、この辺りにあったアルバムを……」
玲は、気づいたことを確認するために、泥棒まがいのことをして宮本研究室を荒らしていた。
「私が教授からもらった写真だけじゃ足りなかった?」
都が言った。
「む……、それどころじゃないな。ベッキーが戻ってきた。足音でわかる。作業は中断だ」
玲があさった痕跡を消したちょうどよいタイミングでベッキーは戻ってきた。その顔色は――
「ベッキー! 顔が真っ青よ!? 何があったの!?」
「私だ……あれは昔の私だ! 大切な人間が、家族以外にはいない、心を閉ざしていた頃の!」
(……ベッキー)
玲は、下手を打ってしまったと後悔した。もっと早くから動くべきだった。
では、そのもっと早くとはいつのことだろうか? それはいくら考えても答えが出ない。
玲は、迷いを振り払い、先ほど荒らしていた辺りから、アルバムを取り出すと、
布団をかぶって震えているベッキーの元へと向かい、そして、開いた。
そこには、教授と出会う前のベッキーの写真があった。
「昔を思い出して、つらいのか?」
「……そうかもしれない」
「大切な人間を持っていない人間の目だ、といったな。でも、それはちょっと違う。似ているけど違うんだ。
大切な人を初めから持っていないのと、ある日突然失ってしまう、というのでは結構違うもんだ」
「あんた……?」
玲が珍しく見せた弱みに、都は驚いた。
「私の家は貧乏だからな。昔から。小中学校通してな。後は……察してくれ」
玲はそれ以上自分の過去については何も言わず、都もベッキーも追及しなかった。
波紋がどんどん広がっていくな・・・
これはいいね、続き期待
すばらしい作品の後に投下するのは気が引けるのですが、
鬱ぽに独白シリーズ、新作行きたいと思います。
今回は橘玲で。
<橘玲の独白>
みんな私を魔女だの腹黒いだの言ってるけど、私だって好きで
そうしてるわけじゃない。
父親は飲んだくれで仕事はろくにしない、母親はそんな父親をかばって
パートで働きづめ。
おまけに父親は最近私をイヤらしい目で見やがる。
これで人を信じて生きろって方がどうかしてるよ(笑
生きるために、人に言えないバイトもいろいろやってきた。
ああ、もちろん好きでやったわけじゃないよ。
そんな私のすさんだ心を癒してくれたのは、姫子の無邪気な笑顔だった。
でも、私は見ちゃったんだ、あの日。
姫子が、人目を気にしながら精神科から出てくるところを。
最初は見間違いかと思ったさ。
だけど、学校に皆で泊まったとき、姫子がこっそり抗鬱薬らしい
薬を飲んでいるのを見て、疑いが確信に変わったんだ。
姫子も姫子なりに悩みがあるのはわかる。
だが、あいつの明るさが偽りのものだったとは、裏切られた気持ちだよ。
皮肉だよな、人を信じることを忘れていた私が、姫子に裏切られたことが
こんなにショックだなんて…。
地響きがする―――と思って頂きたい
レベッカ宮本(以下ベッキー)と一条望は目の前の光景をまだ現実として認識することができなかった
とはいっても血しぶきとかそういった類のものではない。
むしろ、彼女たちはすんでの危機を救われたのだ。マラソンの途中にクマに遭遇し、危うく殺されるところを正義の味方に救われたのだ。
だから、彼女たちは安堵するなり、とっとと逃げたりするのが普通だった。
しかし、ベッキーは目の前の光景に恐怖し望は興奮していた。
「覇っ!」
正義の味方が見事な張り手でクマを打ち倒す。
「突き落としだ……」
望は光悦とした表情で、そうつぶやく。
「突き落とーしー」
メディアが仰々しく正義の味方に告げる。
「ふぅ……あと3頭っスね」
正義の味方は額の汗をぬぐった。
「宮本先生大丈夫っスか?」
「私は心が大丈夫じゃない!」
ベッキーの目の前には正義の味方―――力士姿のべホイミがいた。
ベッキーは頭の中を一度整理した。
「ええと……望ちゃんたちと一緒に走ってて、その途中にクマに襲われて、殺されそうになったのをべホイミ…だよな?
に救われて、なぜか行司はメディアがやっててクマたちをいろんな技とかを使って倒して、ええとそれから……」
「四十八手……」
「望ちゃん、四十八手って何?」
「相撲の決まり手のこと。今までクマ相手に重複せずに四十四手を使ってる……」
「…なんで、そんなことがわかるの?」
「お姉ちゃんと一緒に大相撲ダイジェストを見てたから。お姉ちゃんは戦国ドキュンと大相撲ダイジェストは欠かさず見てるんだよ。テレ朝の時からね。」
「あいつ……相撲が趣味なんだ……」
「いや、どっちかというと私の趣味」
「えっ!?」
そういう会話をしていたら、彼女はクマを2頭打ち倒した。
これまで46頭のクマを倒していったのに、疲労の色を見せない彼女は何者なのだろう
しかもクマを倒していけばいくほど、彼女が輝いて見えるのは何故だろうか。
「寄り切りぃ〜、寄り切りで辺穂の富士の勝ちぃ〜」
辺穂乃富士というのはべホイミの四股名である。
先ほどはつい、べホイミの名前を口走ってしまったのだが、彼女は「いや、自分は辺穂乃富士っス」で通していた。
望はそれを思いっきり信じていたんだが、四十八手がわかるぐらいなら四股名ぐらいわからないのだろうか?
とは思ったが聞かないでおこう……とベッキーは思った。
そうこうしているうちに残っているクマは1頭のみとなった。
残っている決まり手は「下手投げ」と「頭捻り」
辺穂の富士は塩の代わりに砂をまいた。
最後の取り組みが始まったのだ。クマは震え上がっているように見えた。
ベッキーは少しクマに同情した。
「ここは、頭捻りが来るね……」
「どうして、そう思うんだ?」
「だって下手投げなんて簡単すぎるじゃん」
辺穂の富士の体格からしてクマを投げることは容易ではないはずなのだが、尋常ならない力を見せつけられたのであえてそこは突っ込まない
「はっきょおおい、のこった!」
「のこったのこったのこった! のこったのこっ・・・・・・」
「・・・・・・頭捻りぃ〜」
見事な頭捻りだった。それはもう見事な技だった。
相撲をよく知らないベッキーでさえもこれに感嘆した。
ただ、彼女ーーー辺穂の富士の様子が少しおかしいことには気づかなかった
「う、うーん・・・・・・」
「雅ちゃん!? 気がついた?」
「う、うん・・・・・・」
「よ、よかったぁ・・・・・・」
つい安堵のため息を漏らすベッキー
雅ちゃんこと犬神雅はベッキーや望と一緒に走っていたのだが、クマに殴られて気絶していたのだ。
「立てる?」
「う、うん・・・」
「じゃあ一緒に保健室にいこっか」
雅が望の手を借りて立ち上がったそのときーーー
「どすこい!」
辺穂の富士が望を突き飛ばし、雅をみごとに下手投げした。一瞬の早業だったため、ベッキーは反応することが遅れた
「な、な、な・・・・・・」
「なんてことしてくれたんだおまえはー!!!!!!」
「し、しまった・・・・・重複しちゃった・・・・・・」
その一言でベッキーの怒りは頂点に達し
辺穂の富士ことベホイミと行司のメディアが島大輔の「男の友情」のBGMとともに逃げようとしており、その二人を追いかけていた。
その事件以降、ベッキーは相撲が嫌いになったのだが、雅と望は違ったらしく、よく学校で相撲の技をかけてくるようになった。
「I HETE SUMO!(相撲なんて大嫌いだ!)」
今日もこんなベッキーの叫びが桃月小学校にこだまするのであった
以上です。おかしなものを書いてすみません。
原作では気絶していたのは雅ではなく望なのですが、
「お姉ちゃんは戦国ドキュンと大相撲ダイジェストは欠かさず見てるんだよ」
の台詞のためだけに変更しました。
お目汚し失礼しました。では
京極の「どすこい」パロか。GJ
どすこい自体がパロだけどなw
<ルートV パート4>
≪五人目 鈴木さやか≫
「お久しぶりです、都さん。
言いたいことはいろいろあったのですが、いざカメラが回ると何を言っていいものなのか迷いますね。
都さんは今頃どこで何をしているのでしょうか。
そういうことを、ふと思い浮かべてみると、何だかとっても面白おかしくて、そしてほんのちょっぴり寂しくなる思いがします。
都さんのことだからきっと別の国でも元気でやって居られるのでしょうけど、はやくまたお会いしたいものです。
そのお顔を拝見できる日が待ち遠しいです。
私だけじゃなく、C組の皆さん、学校の皆さんが都さんのお帰りを心待ちにしております。
是非ご無事で、たくさんのことを学んできて、そしてまた学校でお会いしましょう。
6号・・・・・・って都さんは私のことを呼びますよね。というわけで、6号こと鈴木さやかでした」
≪六人目 芹沢茜≫
「よぉよぉ、都。元気にしてるか?芹沢茜だよ。
お前、スゲーなぁ、海外だって?海外デビューを目指す私としては先を越されたって感じだわ・・・・・・ハハハ、嘘だよ。
でも日本語が通じない他所の国で勉強しているなんて、やっぱお前って尊敬できるよ。
ただのガリ勉じゃなかったってことだよな。
連絡が取れなくなったっていうから、皆心配しているんだぞ。もしこのビデオを見ていたら、すぐに電話の一本でも寄越してよ。お前の声を聞きたがっているんだぜ。
今何しているのかも知りたいしな。
そっちじゃ状況はどうなんだ?何か面白いことを見つけたか?
世界は広いからね。ひょっとしたら色々と不思議なものに出会っているかもしれないな。変なもの見つけたら教えてよね。
・・・・・・話は変わるけど、お前もお気に入りだった駅前のケーキ屋、最近また品揃えが充実してきたぞ。
綿貫が教えてくれたんで、この間早速友達と食べに行ってきたよ。なかなかよかったぜ。
そうだ、日本に帰ってきたら、是非一緒に行こうよ。
そういえば都とはまだ外で遊んだことがなかったもんな・・・・・・そんじゃ、体調には気をつけて。
寝る前には歯を磨けよ〜また学校で会おうぜ!」
ビデオを撮り終わり、一旦休憩。傍で控えていた玲と姫子が会話を始める。
「ねぇ、玲ちゃん。ベッキーはどうする?」
「あぁ、そうだな・・・・・・ベッキーには締めをやってもらおうか」
「そうだね。何てったってC組の顔はベッキーだし♪」
「そういえばベッキー、どこ行ったんだ?姿が見えないけど」
「きっと研究室でお昼寝しているんダヨ」
「呆れた教師だなぁ・・・・・・」
「ちびっ子だからねぇ」
<ルートM パート4>
近年跳梁跋扈の兆しを見せ始めた'メディチの対岸'、即ちアフリカ大陸系の無数の微小犯罪グループは、地下を動く物流の有様を一新してしまった。
彼らはこれまでヨーロッパ系の大型犯罪組織が利用してきたバルカンルートとは逆周りの、アフリカ大陸とヨーロッパ大陸を地中海航路で直接に結ぶ新たな、強力なルートを形成した。
'着色料'の少ない、安価で確かな供給路を開拓したのである。
彼らは微小組織ゆえの機動性を十分に活用し、あの監視の目の厳しい地中海の洋上に、見事なまでのシー・トラフィックを敷いてしまったのだ。
この影響を大きく受けたのは古来からの麻薬密輸業者であり、中継ぎ港のあった中東欧の犯罪者やテロ・グループであり、彼らと協定を結んでいた西欧のマフィア組織であり、そして彼ら全体を監視していた捜査当局である。
その影響とはやはり打撃に他ならなかったのは言うまでも無い。
新参の素人の集団に押され、古くからの犯罪組織はかつての勢いを失いつつあった。
ところが、である。そこに一人のメサイアが現れた。
メサイア、ある者はその人物を窮地に陥ったバルカンルートの救世主であるといって歓迎し、またある者は、それは新たな戦いの幕開けを示し、今度こそバルカンルートにとどめを刺すために立ち現れた黙示録の天使の再来であると恐怖した。
慈悲深き神の御業か、或いはカタストロフィの招来か、その名をカポ・デコ、'元'日本人上原都と云った。
彼女は仲間内でしばしばこう言った。
「私にはね、他の人には見えないモノが見えるのよ・・・・・・それで、その見えないモノが私を導いてくれるの」
僅かにでも信仰心を持つ者、神秘的なロマンスを信じる者にとって、彼女の口から現れるその不可思議な言葉によって説明される彼女の目覚しい業績の数々は、彼女を神聖なものとして祀り上げるには十分過ぎるほどの素材であった。
たとえ彼女が生粋の犯罪者であったとしても、彼女が聖人たるに相応しからざる者であるとは認めなかったのだった。
かくしてカポ・デコの信仰は瞬く間に欧州の裏社会に伝播し、その事業を認める者、支援する者、加担する者、彼女に命を捧げると豪語する者までもが現れるようになった。
ここまで来れば一種の新興宗教のようにもなってきたが、彼女は元来からプロフェソーレに仕えてきた――そしてその死後再び都に忠誠を誓い直した十名足らずの仲間以外とは一切の接触を持たず、
また、広がりつつある彼女のカリスマ性についても無関心であった。
そうした排他的で謎に満ちた行動パターンが、より一層カポ・デコの神性を高めたことは言うまでも無い。
彼女はその存在自体が、ひとつのマス・パワーを伴った一大勢力であった。
例によって黒い鏡のようなボディで街灯の明かりを照らし返すダイムラーのハイエンド、マイバッハ・サルーンは静かに闇夜のローマ市内を走っていた。
フロントシートには運転手と護衛、その後ろには案内役の男と件の上原都が静かに座っていた。
その前後を護衛するように同じ色をしたBMWが一定の車間を保ちつつ車列をつくっていた。
都はこういった派手な送迎が気に食わなかった。
彼女自身、さして派手好みでなかったのもあるし、経済的な問題や当局の監視の目のことを考えると、こうしたやけに気取ったスタイルは害があるばかりで何の合理性も持ち合わせないことに気がついていた。
以前、ある旧友が自分の存在が地味であることを嘆いていたが、地味で結構、目立とうとする行為に何の意味もないことがこの世界に身を置いてみてわかった。
本当ならばこんな物々しい連中の迎えなど受けずに、呼ばれた場所まで歩いていくつもりであったくらいだ。
それとも・・・・・・と、都は思った。これは私を見世物にしているのかしら?新参でありながら要領よく立ち回り、バルカンルートの物流の勢いを復旧させた田舎者の少女を、こうしたバカにしたような扱いでもって慰み者にしようとしているのかしら?
いくら力があっても所詮は田舎者で余所者、この世界にお前の居場所は無い、そういうことを暗に仄めかしているのではないだろうか。
しかし――都は口元に笑みを浮かべた。暗闇に浮かび上がるローマ市街のシルエットがドミノ倒しのように、崩れるようにして流れていく――それも結構よ。
私にとって名誉などというものは何の意味も無いものだわ。
たとえどんなに蔑まれ、笑いものになっても、私は私の信じるようにやっていくだけだから・・・・・・都は自分に語りかけるように、同時に彼女に憑いた謎の精霊に宣誓し直すように言葉を思い浮かべた。
着いた先はある石造りの小さなビルだった。
彼女はそこで車から下され、中に入った。
護衛の一人がキーを廻してエレベータの電源を入れ、案内人を含む数人の男たちに囲まれたままそれに乗り込むと、最上階まで特急便は音を立てて動き出した。
エレベータを降りた彼女が通されたのは薄暗い広間だった。まるで会議室のようだった。
そして、闇の中に円卓が設けられ、そこを取り巻くように数人の男たちが、彼女の姿を見つめながら座っているのに気がついた。
まるでそれは審問会のようだった。
円卓の前に立たされた都は被告人で、獣のような目つきで彼女を睨みつける彼らはさしずめ異端審問官である・・・・・・まるで中世ヨーロッパを暗黒の闇に包み込んだ、かの魔女裁判のようだった。
だが、彼女には全てわかっていた。実際には、これは何であるのか、ということを。
挨拶も無く、闇の中の声が尋ねるところから言葉と沈黙の審問は開始された。
「ミヤコ・ウエハラ・・・・・・敢えて本名で呼ばせていただくが・・・・・・まず君の望みを君の口から聞きたい」
「望みは簡単なことです・・・・・・私をプロフェソーレの正統な後継者として認めていただきたい」
「君にそれを全うする力があるのか?」
「これまでの業績が何よりもの証明です。あなた方が望むとおり、南イタリアからアフリカ人の小童たちを追い出してあげたでしょう?」
「なるほど、君の力は確かに恐れ入るものがある・・・・・・仮に我々が彼(教授)に与えてきた許可証を再び君に保証しても、それ自体は必ずしも特権となるわけではないことを理解しているのだろうな?」
「これはビジネスなんですよ・・・・・・私はあなた方の保護無くしてちゃんとやっていける。
ただ、妨害さえしないでいただければ、つまりあなた方のお膝元を商売に使わせていただけるのなら、その対価として私は所定の歩合をあなた方に上納できる・・・・・・
私はパガーニのカモッラの伝統を尊重するし、あなた方シシリーのコーサ・ノストラの考え方も同じく尊重する・・・・・・
しかるに対等なビジネスを目指し、共栄を図っていく上では、あなた方にも私たちの、'プロフェソーリ'のやり方を尊重していただかなければなりません。
パガーニのドン・ガッベリーニはそれを認めることが出来ました。彼はとても賢い。あなた方は如何ですか?」
「ドン・ガッベリーニの推薦状を受けた・・・・・・君とは協定を結ぶのが得策だという・・・・・・我々は、だから君をここに招待した」
男の一人が言い終わると、しばしの沈黙の帳。都も男たちも、ただその相手を見つめるだけだった。やがて、男の一人が結論を言い渡した。
「コミッショーネ(コーサ・ノストラの首領連合の本部会)は君のこれまでの活躍とその確かな姿勢、先代プロフェソーレやカモッラのドン・ガッベリーニのお墨付きを鑑みた結果、
君の今後のイタリア国内とバルカンルートへの介入に関し、我々の下部組織と同じ扱いをすることを決定した・・・・・・その強運が続く限り・・・・・・」
「御意、確かに承りました」都は不適な笑みを浮かべた。正式な商売の許可が下りたのだ。
この瞬間、カポ・デコの存在は裏社会で公式なものとなり、謎のカリスマとマフィア組織との和解と協定は確立された。
上原都は遂に、精鋭犯罪組織'プロフェソーリ(教授連合)'の二代目首領として、堂々と裏街道の真ん中を闊歩することが出来るようになったのである。
<ルートR パート4>
「ハッハッハ、確かに。メディアさんの言うとおりですよ」
フリーランスのジャーナリストにしてノンフィクション・ルポライターであるジョシュ・ハーデンは都の生首が写された写真を引き返しながら笑った。
「これは有名なコラージュ・フォトですよ。私も何度か見たことがあります・・・・・・元になった写真はイタリア国家警察の捜査資料の中にあるという話です。
彼女くらいの大物で、しかも不可解な人物ともなればこの手の写真が作られることは珍しいことではありません。
尤も、これは捜査を撹乱するための偽造写真というよりは、素人の手による悪趣味な悪戯であるといえるでしょう」
ハーデン氏は穏やかな微笑を湛えつつ言った。
「どうしてそんなことが?」
「彼女を崇拝する熱心な信者がいれば、当然それを嫌う背信者がいるというのは宗教システムの原則ですよ。
カポ・デコことミヤコ・ウエハラ女史は犯罪者という枠を超えて神格化されてしまった、哀れな少女なんです」
「ミスター・ハーデン。よろしければプロフェソーリと呼ばれる犯罪集団についてお教え願えませんか?」
「おお、そうでしたね・・・・・・私は長い間この国に於ける大型組織犯罪を追ってきましたが、あそこまで異色のグループはかつて存在したことがありません」
ハーデン氏の語るところによれば、この組織は割りと古くから活動してきた記録があるものの、ここ最近になって、特に新首領がその座についてから一気に活動勢力を拡大したという。
――プロフェソーリ、別名「教授連合」。部隊を構成するエキスパートたちがどれも大学教養を十分に持った高度な頭脳犯であることからその名がつけられています。
そして、およそ三ヶ月前まで実質的にそれを指揮していたのが通称「教授」と呼ばれる謎の男です・・・・・・おや、ご存知なのですか?
彼は大学機関の正教員の肩書きを隠れ蓑に、世界各国の密輸の現場で暗躍していたということです(この言葉を聞いた時の私が受けた衝撃が如何に甚大なものであったかを想像して欲しい)。
この国にはルネサンス期の宗教美術に関する研究調査という名目で入国していた模様です。そして、そのまま何者かに殺害されてしまった・・・・・・
警察はシエロ・ブルの殺しとの関連性を疑っているようですが、捜査は難航していると聞きます・・・・・・
さて、プロフェソーリという密輸団についてですが、元来この組織は主に第三諸国での禁制品取引(ここで私はかつて教授と旅行した国々についてを思い出す。
彼が特に好んだのはエジプトと南米だったのだが・・・・・・それは決してオカルティズムへの興味などではなかったことが、ここへきてやっとわかったのだった。
つまりエジプトは密輸の温床であるアフリカ大陸、阿片の一大産地である西アジアに隣接し、その上欧州とアジアの航路を結ぶスエズ運河を擁する不法取引の要衝だ。
加えて、南米といえば、もはやお定まりとなってしまったコカイン・パラダイスではないか!)に関与していたのですが、ここ近年でヨーロッパ市場にも直接的に参入するようになってきたようです。
主な項目はやはり麻薬と武器の売買にあったようです。
例えば大きなもので言えば、二年前に(まだ私がMITに在籍していた頃だ)発覚した旧コソボ地区への大規模な武器密輸があります。
イタリア憲兵隊がマリーナで発見し押収した出荷待ちの武器類、ドイツ製やベルギー製の高性能自動小銃や携帯型のロケット発射筒、大量の弾薬にプラスチック爆薬・・・・・・
アルバニア系武装組織KLA(コソボ解放軍、現在のコソボ防護隊KPCの前身)の過激な残党テロリスト・グループの関与が疑われた事件です。
この当時からプロフェソーリはアルバニア系の武装組織や地元マフィアとの連携・協定の基礎を固めていた模様です。
それが結局、事業がカポ・デコへ引き継がれた後も滞りなく進むことになった要因の一つでしょう。
実際、カポ・デコが活動期拠点とするナポリのカモッラや、アルバニアとの連絡路の元来の管理者であるコーサ・ノストラ系のマフィアとも既に話がついているようです。
彼らはイタリア国内のみならず、EUの圏内、或いは旧共産圏や小アジアをも行き来して大掛かりなイリーガル・ビジネスに手を染めているという話です――
私たちは彼と別れた後、街のカフェ・レストランに入り、食事をとることにした。
尤も、私はとても食欲など湧かなかった。
自分の恩師である教授が多国籍犯罪集団の長であったこと、自分の教え子がその後を継いだこと・・・・・・そんなとんでもない話を聞かされた後では、全てのことから一切の現実味が失われ、私の世界は完全に色褪せてしまったのだから。
私はその感情をも自分の胸の中から失っていた。
発狂できるものならそうしてしまいたかった。
私の聡明さが、ここまで憎々しいものだとは思いもよらなかった。
その憎しみも、私の心の中ではまた空虚なものだった。
私は主体としての我を奪われ、客体としての世界を見失った。
まさに空ろなる人間だった。
「・・・・・・宮本先生?・・・・・・ご飯食べて元気出しましょう」メディアが遠くの方で言った気がした。
「教授が・・・・・・都が・・・・・・」私の口はそう呟いたらしい。
「・・・・・・辛いのはわかります。私も同じ気持ちなのですから。でも、何としても都さんを見つけ出すんでしょう?ご飯をしっかり食べないと、元気出ませんよ?」
「はうはう・・・・・・」私は泣いていたのだろうか。
「先生・・・・・・しっかりしてくださいよ」
「メディア・・・・・・私、全然気がつかなかった。教授があんなことをしていただなんて」
「私は」メディアは躊躇いがちに言った。「何となくはわかっていたんです・・・・・・でも、敢えて知らないふりをしていたんです・・・・・・バビロンの遺跡で初めて会ったときのことを覚えていますか?」
「ああ。ずっと昔のことのように思える」
「あの時、先生にお話しておくべきでした。教授の不可解な行動の数々・・・・・・気付いていたのに、何も言わなかった・・・・・・全て私の落ち度です。
私があの時、彼を制する行動をとっていれば・・・・・・彼を死なせずに済んだし、都さんを悪の道に貶めることも無かった・・・・・・責められるべきは私です。あの時、あの時私が――」
「メディア・・・・・・もうよせ。お前は悪くない。悪いのは教授と都だ。なされた悪事は彼らの責任だ。彼らには、公正な法によって裁かれる義務がある」
「・・・・・・先生?何を?」
「都を再び日のあたる世界に連れ戻す。それが私たちの使命だ。
彼女はまだ死んじゃいない。あらゆる意味でな・・・・・・そうさ、私たちがあいつを救ってやるんだ。
私たちが――死よりも先に都を捕まえるんだ」
私は自分の言葉によって、再び自分の中身が満ち返っていくのをはっきりと感じた。
私は自らの意志のために、再び生を受けた心地がした。多分そうなのだろう。
私には、追い求める都の姿がおぼろげに見え始めていた。
「その意気ですよ、先生・・・・・・さ、新たなる前進に向けて、これをどうぞ」
メディアはいつの間に注文したのか、大きなチョコレート・サンデーにスプーンを差してこちらに寄越した。
「おい・・・・・・こんなのいつ頼んだんだ?」私は呆れ顔で訊いた。
「さっきです♪」メディアは嬉しそうに答える。
「あのなぁ・・・・・・こんなの食べているから顔が丸くなるんだよ」
私はそう言いながら醜いクリームの塊を突っ返した。
その晩、なぜかメディアは私と一言も口をきかなかった。
ここまで。
話が変な方向に進んでいるのは仕様です。
いいねカポ・デコいいね。
毎回さすがでつ。
次も期待してまつぜ。
やべえこれは面白い
うほっ
興奮してきました。続き続き
そろそろくるみが凍死しそうですね保守
221 :
PP×C:2006/11/13(月) 01:01:09 ID:???
とりあえず展開の目処が立ったので続き投下。
こんなんばっかでスンマセン。
222 :
PP×C:2006/11/13(月) 01:04:12 ID:???
<パート2>
片桐姫子と一緒にいたのは犬神つるぎ、南条操、ベホイミ、神原宙の面々だった。
奇妙な取り合わせではあった。
しかしながらこの状況下ではたとえどんなことが起こってもさほど不思議ではなかった。
新たに合流した五人は白い部屋の中で各々扉を開けては向こう側の様子を探っていた。
そのうちの一つを開けた姫子が運良く一条と出会い頭となったのである。
「あ、先生・・・・・・先生たちも閉じ込められていたんですか?」
犬神が梯子の下に歩み寄り、彼女たちの下りてくるのを補助しながら訊ねた。
「ああ。ここは一体何なんだろう?何故私たちはここに閉じ込められているんだ?」
「私にもわかりません。今、そのことについて話し合ってみたのですが、やはり全員何もわからないままここに連れてこられたようです」
「ベッキー!心細かったよ〜!」
姫子がレベッカに抱きつく。
うるさいとは思っていながらも、彼女の心細さは少し理解できたため、レベッカはさほど抵抗することはしなかった。
「今もね、地震があってとっても恐かったんダヨ」
「地震?」
「そう。グラグラグラグラ・・・・・・って。もう死ぬかと思ったよ」
「そうなのか、犬神?」
「ええ。かなり大きい揺れでしたが・・・・・・先生、気がつかなかったわけはないでしょう?」
レベッカは頭を抱えて考え始めた。一条が背後から歩み寄り、そっと耳打ちする。
「・・・・・・先生、私たちは振動を全く感じませんでしたよね・・・・・・これは一体?」
「・・・・・・ああ。だが彼らは地震にあったと言う・・・・・・もう何が何だか・・・・・・」
「実は、私も先生たちと合流するまでに地震に遭いました。ニ十分ほど前です。
周期的に地震は起こるようですが、彼らの話から推察するに、どうも揺れが伝播しやすい部屋とそうでない部屋が存在するようですね」
「建物の構造上の特性だろうか・・・・・・しかし私は本当に全く揺れを感じなかったぞ」
「あくまで私見ですが」と、一条は他の人間に敢えて聞こえないようにするかのように、静かな声で語った。
「さっき私が扉の奥で聞いた音・・・・・・あれが地震と何か関係あるのではないでしょうか?」
223 :
PP×C:2006/11/13(月) 01:06:25 ID:???
「うーん・・・・・・しかし、その音はお前しか聞いていないからな。私には判断しきれないよ」
「ひょっとしたらこの部屋・・・・・・」
一条が核心に触れるかのように言葉を繋げた瞬間、犬神の後ろで腰を下し、力なく項垂れていた南条が大声で喚いた。
「もう!何なのよ、ここは!外には出れないし、地震は起こるし、それにとっても暑い!犬神君、何とかしてくださらない!?」
「無茶を言うな、南条。置かれている状況は皆一緒なんだ。ここは全員が力をあわせて何とか脱出しないと」
「まったく・・・・・・どうなっているのよ・・・・・・それにしても暑いですわね!イライラしてきますわ」
確かに室内の温度は高かった。
おそらく5〜6メートル四方の立方体状の一部屋に八人の人間が集まり、その上ほとんど密閉に近い空間である。
さすがにこれだけ集まると息苦しくなってくる。
「部屋を支えるフレームの後ろに換気ダクトが存在するようです。空気の入れ替えは壁全体で行っているようですから窒息することはないようです。
しかし、この暑さばかりは何ともならんでしょうね」
犬神は足元のフレームを蹴って示した。
その配列は言うまでもなく壁や天井のそれと同じである。
「その換気ダクトというのは空間になっているんだろう?壁を破壊してそこから外に出られないか?ほら、この壁はプラスチックの板みたいだし、お前の力なら・・・・・・」
「無理ですよ」
それまで黙りきり、神原という余り馴染みのない男子生徒と一緒に壁に寄りかかっていたベホイミが口を挟んだ。
彼女は全員が見つめる中、おもむろにポケットからツールナイフを引き抜いた。
そして、片側の壁に近寄ると、壁に勢いよく刃を突き立てた。
「ガッ」という音がしたが、刃は壁に突き立ったまま、数ミリも入らないところで制止していた。
224 :
PP×C:2006/11/13(月) 01:07:36 ID:???
「この部屋・・・・・・そんなに甘くはありませんよ・・・・・・内壁は電飾を埋め込んだ硬質プラスチック、それを積層カーボンファイバーのフレームがしっかりと保持しているっス。
部屋自体を支えるのは金属製の骨組みですが・・・・・・おそらくチタン合金製で、接合部やボルトポイントはご丁寧に金属を流し込んであるため、全く歯が立ちません。
とても破壊することは出来ないでしょう」
「まるで金庫だな」と、レベッカはため息をつく。
「とても手の込んだ、高価な金庫っスよ」ベホイミはナイフを手際よく仕舞った。
「誰が何の目的でこんなものを・・・・・・そもそも私たちを何故ここに閉じ込めた?」
「おそらく」ベホイミは元の位置に戻り、再び壁に寄りかかった。
「追々わかってくることでしょう・・・・・・外に出ることが出来れば、全ての謎は解けるはずでしょうが」
その時、その場にいた全員の顔が一瞬、凍りついたようになった。
そして、互いにその不審な表情の変化に気がついていたが、誰も何も言わなかった。
まるで、申し合わせたかのように。
「とりあえず、動き出そう。この部屋に閉じ篭っていても埒が明かないだろう?」
「そうだぜ、ベキ子。よし、次はあの扉から出よう!」と、乙女は南条の蹲っている壁の扉に駆け出した。
が、犬神がすばやく身体を動かして彼女の襟を捕まえた。
「ちょ・・・・・・何すんだよ、銀髪!?」
「ひょっとしたら、君たちはまだ知らないのか・・・・・・あれを?」
「あれ?何だよ、それ?」
「罠のことだ」
225 :
PP×C:2006/11/13(月) 01:08:13 ID:???
ここまで。
ゆったりと進んで行きます。
遅れたがGJ
元ネタは途中までしか見てなかったから楽しみだ
227 :
マロン名無しさん:2006/11/14(火) 07:26:46 ID:Lv7vgSWd
GJ そして保守あげ
gj
ageておく
投下、いきまーす。
宮本研究室の大して広くもない室内に、パソコンを弄る音が響く。
スー、カチカチッ、カタカタカタ……
キーボードを打って画面上に次々とアルファベットの文字列を生み出しているのは、
この部屋の主であるちびっこ先生、レベッカ宮本である。
彼女が綴っているのは、位相幾何学に関する新しい論文だ。
高校教師だけではなく数学の研究者という一面も持つ彼女は、時折こうして
論文を書いては学会に発表しているのだった。
「ツーペア!」
「残念、フラッシュ」
この声は、レベッカの教え子である片桐姫子と橘玲のものだ。
二人は彼女の後ろ、部屋の中央にあるテーブルでポーカーをして遊んでいる。
姫子は生まれつきの暇人で、普段は忙しくしている玲も本日はバイトが休み。
彼女たちにとって、放課後にこの部屋でトランプに興じるのは極々自然な流れなのだろう。
もともと生徒は立ち入り禁止にしていたはずなのだが、どうしたものだろうか。
研究室には連日のように生徒が――特にレベッカが担当するC組の連中が押しかけてくる。
初めは抵抗し愚痴をこぼしていたレベッカも、今では何も言わず現状を受け入れてしまっていた。
高校生たちの相手をするのは、彼女にとっても意外だったのだが、決して嫌ではなかった。
鬱陶しいのは確かだが、それを上回る何かをレベッカは感じていた。
教え子を相手にすることで得られる教師としての実感。くだらない雑談による必要性からの解放。
様々な言語化が可能だろうが、一言でいうとそれは「楽しみ」に近いだろう。
数学教師あるいは数学者としての固定された自分から、ひと時でも逃れることが出来る。
そのための新奇な展開を、彼女たちはレベッカにもたらしてくれるのだ。
トランプの大富豪のような小さな遊びから、バスケや野球のような活動的なスポーツ、
さらにはメイド喫茶みたいなディープな空間まで、彼女たちは教えてくれた。
それらは、殻に閉じこもっていたかつての自分が知り得るはずもなかった世界である。
教師という出会いの職業を選んだことは、レベッカにとってこれ以上ない選択だった。
数学を教えたり研究したりする、つまらなくはないが退屈な生活と、偶にその中に混じりこむ
刺激的な出来事とが織り成す、「レベッカ宮本」という絶妙な生き方。
恐らく多くの人が、彼女のようにありたいと願うことだろう。
醜い嫉妬とまでは行かなくとも純粋な羨望に満ちた眼差しを、人々は彼女に投げかけるに違いない。
しかし彼女が彼女の人生を謳歌しているのは、必然の成り行きである。
レベッカは頭が良い。
レベッカは努力するのを厭わない。
レベッカには魅力がある。
人々が彼女の資質をそのように賞賛し羨む、その根拠は彼女の生き方にある。
あんな若さで完璧な素晴らしい生活を送っているだから、彼女にはそれだけの何かがあるのだろう、と。
人間の器について他者が判断するにはその人の行動を見るしか方法がないのだから、当然のことである。
小学生の年齢で教師となった彼女を「天才」と呼ばない法はない。
一方で、「天才だって何もしなきゃただの人間だし、要は何をするか」だというのも正しい命題であろう。
これはレベッカがかつて教え子の一人に語った言葉である。
仮に彼女が普通の小学生としてだらだらと過ごしていたとしよう。
きっと「天才」と呼ばれることはないはずだ。
実際にレベッカが小学校に在学していた時のことを思い出して欲しい。
彼女は諺を使っただけで驚かれるほどのネタキャラになってしまっていたではないか。
そこには「天才」の面影は全く見られない。
それでも彼女は戻ってきた。彼女はそれだけのことをやってのけたのだ。
彼女はこの世に生を受けてから今この瞬間まで、多くのことを自分の手でおこなってきた。
MITでは人一倍の量と質の勉強を重ね、教師になるために頭の固い文科省と激しく闘ってきた。
レベッカは、自ら世界に働きかけ、自ら世界を創り上げてきたのである。
その結果こそが、天才と称される「レベッカ宮本」なのだ。
自分には才能がないと思い込んでいる人に言いたい。
できる、できないは問題ではない――やればいいんだ――自分で道を切り開くんだ。
求めよされば与えられん。
今しもレベッカ宮本は、新しい論文を完成させようとしていた。
この理論が発表されれば、彼女の学界での知名度と地位はさらに高まることだろう。
レベッカは、数字とイメージと英語の文章をコンピューターに入力していく。
ここで彼女は、今まさに書いている部分の論理をより確実にするためには、
最近になって発表されたある学者の論文が役に立つことに気付いた。
参考文献というものは、どんなレポートや論文にも不可欠だ。
その文章が独りよがりに陥っていないことを証明する、極めて重要な補強材になってくれる。
あの論文はどこにあったかな……。
ほんの少しだけ考えた後、彼女はそれを後ろのテーブルの上に置いていたことを思い出した。
「姫子ー、その辺に『P――』って本ない?」
「んー?」
配られた5枚のカードをじっと見つめていた姫子は、顔をあげつつ間延びした声を返した。
姫子はカードを一旦手元に置いて、テーブルの上に雑然と放ってある本の山を探り始めた。
「うーん、ちょっと待って………あった、白っぽいのだよね」
「そー、それ」
レベッカに頼まれた本を見つけた姫子は、それが埋まった本の山から引き抜こうとした。
「ほりゃっ……」
その瞬間。
ドサドサッバタバタ……。
下の方にあった本を取られ均衡を失った本の山は見事に崩れ、テーブルの上から次々と投身していった。
床の上には新しい本の丘が誕生し、空中では舞い上がった埃がきらきらと輝く。
部屋内部のエントロピーは、確実に増大していた。
「……あちゃー」
引き抜いた本を手に持ったまま、目を丸くした姫子は小さく呟いた。
事態を眺めることしか出来なかった3人の間に、気まずい空気が流れる。
レベッカはとりあえず、本を手にしたまま固まった姫子に声を投げかけてみた。
「姫子ー、こうなることは分かるんだから気をつけろよー」
「あ…ごめんよベッキー」
動き出した姫子は片手をあげて謝り、持っていた本をレベッカに手渡した。
そんな二人を見た玲ははぁと溜息をつき、未だに手に持っていたトランプを伏せ置いた。
そして床に落ちた本を拾い上げ始めながら、レベッカに向かって言う。
「というかベッキーも、机の上に本を山積みにするなよ」
「うっ……ちゃんと何がどこにあるか覚えてるし別にいいんだよ」
レベッカはそう答えながら玲のもとへ行き、一緒に本をテーブルの上へと戻すことにした。
それを見た姫子も、慌てて二人を手伝い始めた。
「それにこうやって元に戻せば問題ないし……」
意地になって反論はしてみたものの、玲の言うことが正論であることはレベッカも良く理解していた。
床の上で本がはしたなく開いている。こんなことがあって良いはずがないのだ。
細かい所でぐだぐだになってしまう自分の性格は、レベッカ自身が良く知っている。
それでも玲は、追い打ちを掛けるように追及の対象を広げる。
「本は出しっ放しだし、物は散らかってるし……一度整理したほうが良いんじゃないか?」
「確かにこの状況はちょっとまずいカモ」
「えっそんな汚いか?」
玲だけでなく姫子にも指摘を受け、レベッカは改めて研究室をざっと眺めてみた。
うん、酷い。
あちこちで先ほど崩れたような紙の塔ができているし、スナック菓子の袋がいくつか落ちている。
そもそも掃除をしていないものだから、物置に匹敵するぐらい雰囲気が澱んでいる。
このままでは、着実にこの部屋は人間がいるべきでない場所へと変貌を遂げてしまう。
そろそろきちんとした方が良い頃合なのは、誰の目にも明らかだった。
「でも、面倒だしな……」
「わかるよー私もマンガ雑誌とか捨てられなくなって怒られたりするもん。
これが『片付けられない女たち』ってやつなのカナ」
「そうだなあ」
それはちょっと違うのではないかと思いつつも、レベッカはひとまず姫子に同意しておいた。
いや、強ち間違ってもいないのかもしれないが。
「はいはい、そういうことを言わない」
最後の一冊を閉じてテーブルの上に乗せた玲が、二人の後ろ向きな発言をたしなめる。
割と神経質らしい玲にとって、彼女たちのだらしなさは気に障る所があるのかもしれない。
「しかたない、片付けもしなきゃダメだよな……しんどー」
「大丈夫、頼めばメディアあたりが手伝ってくれるだろうし」
「お前は助けてくれないのかよ」
人を散々煽っておきながら傍観者の立場を崩さない玲に、レベッカは戯れの溜息をついた。
まあ、あの玲が見返りもなしに手伝ってくれるというのは考えにくい。
ここは玲の言うとおり、本職(なのかどうかは謎だが)メイドに頼み込むのが妥当だろう。
「私はベッキーのためなら頑張っちゃうよー」
「すまんが姫子には期待してない」
「ええぇーっ!」
思い立ったが吉日という言葉がある。
部屋の整理整頓を思い立ったレベッカたちは、今できるだけ本の片付けをすることにした。
先ほど決壊を起こした山の他にも、本棚から一旦出したが元に戻さなかった本が沢山あった。
その内容は多岐に渡っており、数学の研究書や参考書もあれば、姫子が持ち込んだ
ライトノベルや漫画も相当数に上っていた。
こうして見ると、レベッカが食わず嫌いをせずに幅広い本を読んでいることがよくわかる。
彼女もやはり10歳のお子さまであり、難しい学問書だけではなく軽い物語も読みたいのだろう。
もっとも、漫画を嗜むのが子供だけでないのは麻生大臣が証明済みである。
難解な物語ばかり読んでいると大衆小説や漫画に対する感受性を失ってしまうことがあるが、
それは極めて悲しむべきことだ。
勉強にしか興味がわかなかったかつてのレベッカも、今では何とも愉快な人間になっている。
人間、楽しめることが多いほうがより幸せだ。
そして人が何かを楽しめるかどうかは、全て本人の心持ちに委ねられている。
レベッカはまず『長七郎江戸日記』を味わうすべを学んだ。
教授と出会い、自分の知らない世界の一端を知った。
MITでのこれらの出来事を皮切りに、彼女は生まれ変わっていった。
人は常に生まれ変わることが出来る。
たとえ連続性を持っていたとしても、一秒前の自分と今の自分は全くの別人だ。
同様に、今の自分と一秒後の自分との間には確実に差異が存在する。
瞬間レベルでもこうなのだ。一年、一ヶ月、いや一日でもいい少しの時間さえあるのなら、
人というものは誰しも劇的に変化する可能性を秘めているのである。
言うまでもなく、レベッカもまたその理の一員だ。
永遠の「今」を生きる特権を与えられた者など、この世に存在しない。
彼女はここから始まる短い期間のうちに、コペルニクス的な転回を遂げる。
その切っ掛けとなる出来事が、まもなく彼女に訪れる。
レベッカは中腰になり本棚をチェックしていた。
科学雑誌、漫画、授業ノート、ミステリー小説……。
脈絡もなく並ぶ紙の群。所々の歯が抜けたような隙間は、どこか他にある本が入れられていた空間だ。
情報のごった煮と化している棚を見て、彼女は整頓の重要性を痛感していた。
おや?
彼女は妙なことに気がついた。
奥行きが、思ったよりも幾分か短い。
本棚を横から見る限りではもうちょっと深くても良いような気がするが……。
まあこんなもんかと心の中で自分を納得させつつ、彼女は本の隙間から手を差し伸べてみた。
手ごたえは、若干だが柔らかかった。
おかしい、木の板はもっと堅いはずだ。でなければ薄い板なのか。
ふとレベッカが本棚の奥を見てみると、そこには針で開けたような小さな穴があった。
心臓はどくどくいっているのに、頭からはさぁーっと血が引いていく。
「ん、どうしたんだ?」
本棚に屈んでごそごそ動いているレベッカに、玲が声をかけた。
「ふっ、んっ……」
レベッカは何やら力を込めた作業に専念しているようで、返事はしなかった。
「何かあったのカナ?」
姫子が近寄ろうとした時、レベッカは本棚から頭と腕を引き出し二人の方へと向き直った。
「おい、これ」
青ざめた顔のレベッカが差し出したのは、小さな小さな無線カメラだった。
本棚の中では斜めになった薄板が、それまでひた隠しにしていた二重壁の黒い空間を僅かに覗かせていた。
「……隠しカメラ?」
レベッカの手の中にある物を見た玲が、それの呼び名を口にする。
本棚の奥に仕掛けられてあったカメラ。
本の上にある空間を通して部屋を写しだし、どこかにその映像を電波で飛ばしていたのであろう。
「……これは、あれか、お前らのイタズラか?」
「ちっ違うよ。私たちがそんなことするわけ無いじゃない。ねえ玲ちゃん」
「ああ……」
レベッカに疑いを掛けられた二人は、狼狽を含んだ声でそれを否定した。
レベッカは少しずつ事態を理解していった。
誰かはわからないがここに隠しカメラを仕掛けた奴がいて、室内の様子を撮影もしくは覗き見ていた。
盗撮。ピーピング。自分の預かり知らぬ所に自分の全てが筒抜けになる。
気持ち悪い。
自分が一人きりで何をしていたか、じっと眺めていた人間がいるというのか。
隠しカメラは一つだけとは限らない。今この瞬間も、どこかにいる誰かがこちらを見ているのか。
……気持ち悪い。
周囲から無数の視線が自分を見つめているような気がする。
レベッカは首から背中にかけて鳥肌がたつのを感じた。
もはや研究室はレベッカのものではない。得体の知れない誰かの支配する場となったのだ。
いてもたってもいられなくなったレベッカは、黙って足早に廊下へと出て行った。
玲と姫子も慌ててその後を追う。
レベッカはドアを出てすぐのところで立ち止まり、その後ろでは最後に出てきた姫子が扉を閉めていた。
ガチャンという音がしたところでレベッカは振り返り、二人に再び尋ねた。
「玲も姫子も、本当に知らないんだな。今なら許してやるぞ」
「だから私じゃないって。むしろ私だったら良かったのに」
「玲は。新聞部は盗撮もお手の物なんじゃないのか」
「いや、私も驚いているんだ……」
「そうか」
玲と姫子の不安げに強張った表情には、やましい所は一切見出せない。
彼女たちが嘘を言っているようには思えなかった。
レベッカは隠しカメラが二人の悪戯ではないことを確信し、そしてそのことに落胆した。
二人にだったら別に盗撮されても良い気がする。いや、良くはない。
それでも謎の人間が自分を隠し撮っているよりは、格段にその方がましだった。
「わかった。お前たちのことは信用する。
……それでだ、これは何なんだ? どうしたらいい?」
レベッカは手に握り締めていた小型カメラを差し出しながら二人に尋ねた。
こうしている間も、この儚い観察者は見ているものをどこかに送信しているのだろう。
どこかで犯人が今まさにモニターを見ているかもしれない。
酷く慌てていることだろうな、とレベッカは心の中で呟いた。
「これってベッキーのストーカーってことだよね。『ずっとあなたを見てますよ…』っていう」
「うわ、引くわ……」
「このままじゃベッキーの身が危険だよ。どうしよう玲ちゃん」
「あー、新聞部に盗聴器とかの探知機があったと思うんだけど、持ってこようか」
「何でそんなものがあるんだ…まあいいけど。じゃあ頼むよ。
私は教員室へ行ってちょっと他の教師に連絡してくる」
「私もついてっていいよねベッキー」
「いや、お前はここに残ってくれないか。誰もいなかったら、犯人が証拠隠滅をしに来るかもしれない」
「え、それって危ないってことじゃないカナ!?」
「まあ大丈夫だろ」
「うぅー」
そんなわけでレベッカは新聞部へ行く玲、部屋の前に残った姫子と別れ、一人で教員室へ向かっていた。
廊下を歩きながら、レベッカは考える。
研究室では別に人に知られて困ることもしてないし、あられもない姿を晒してしまったこともない。
自分の姿を見られるということには、物理的な損害は一切含まれていないのである。
それでもプライバシーを侵害されるのがこの上なく不愉快なのは何故だろう。
カメラに気付くまでは何の心配もせず暢気に過ごしてきたが、今ではもう部屋には戻りたくない。
まさか隠しカメラを一つだけしか仕掛けてなかったなんてことはないだろう。
もう得体の知れない奴に姿を覗かれるのはこりごりだ。
自分の姿を守るのは、自分の責任なのだ。
研究室から教員室まではあまり遠くない。すぐにレベッカは到着した。
がらがらと扉をスライドさせる。
放課後ということもあって、まだ残っている教師はほとんどいなかった。
辛うじて、部活から戻ってきた所であろう早乙女が彼の席に座っていた。
「あれ、どうしたんですか宮本先生。なんだか顔色が悪いですよ」
気遣う早乙女に対し、レベッカは単刀直入に用を述べる。
「私の研究室に、隠しカメラが仕掛けてあった」
「・ ・ ・」
「……」
「…ええっ、本当ですか!?」
「あ、ああ……」
早乙女は少し遅れたタイミングで、大げさにも感じられるほどのリアクションを見せた。
レベッカの言葉を把握するのに時間が掛かったのと、その反動のせいだろう。
普通の生活には登場しない「隠しカメラ」という単語を急に言われても、人は中々受容できないのか。
「隠しカメラ……誰がそんなものを」
「わからない。諜報部かどこかがネタのためにつけたのかもしれないし、
全然関係ないどっかのヤバ目な奴かもしれない」
「カメラはどんなのです?」
「ああ、研究室に残った姫子が持ってる」
「そうですか……。わかりました、とりあえず僕も行って見てみましょう」
それからすぐに、レベッカは早乙女とともに来た道を戻った。
行きとは違ってそれほど不安な雑念も起こってこない。
新しく誰かを巻き込むことで気分的に楽になったのを、レベッカは実感した。
頼りない奴でも、いないよりもいた方がいい。そういうものだ。
研究室前に戻ってみると、二人よりも先に玲が戻ってきていた。
「おかえり、ベッキー。探知機あったよ」
「ほら、これ! 見て見てすごいんだよ、ほら」
姫子は左手に小型カメラを、右手にどうやら探知機を携え、何やら楽しそうにしている。
彼女が右手で機械のスイッチを入れると、探知機から「ぴるぴるぴる――」と音が聞こえてきた。
「近づけると音が大きくなって――」
ぴるぴるぴるぴる!!
「離すと音が小さくなるの!」
ぴるぴるぴる……
「楽しそうだな片桐」
早乙女が悟りきったような口調で言う。
姫子がバカなのはどうしようもないのかな、とレベッカは思う。
それはそれで幸せなのかもしれない。
「はいはい遊んでないで。さっさと調べるぞ」
レベッカは姫子の手から探知機を掴み取り、研究室の中へと乗り込んでいく。
「へー、これで隠し撮りねえ」
早乙女が姫子の持っていたカメラを手にとって感心しているのが聞こえた。
みんな真面目じゃないなあ。
レベッカは少し寂しくなっていた。
「全部で四つ。見落としてはいないよな、たぶん」
「隅々までちゃんと調べましたから、これで全部でしょう」
数十分後、研究室のテーブルの上には四台の小型盗撮機が置かれていた。
一つは最初に見つけたもので、他は探知機によって発見されたものである。
電気スタンドの基部、カーテンレールの中、備え付けの金属棚と壁の間といった、
普通に生活していたら間違いなく気付かないような所にそれらは取り付けられていた。
探知機は機械から出る微弱な電波を感知し、その大まかな在り処を音の大きさによって知らせる。
文明の利器の力を借りて、彼女たちは犯罪機械の存在を炙り出していったのだ。
「宮本先生、警察に届けた方が良いんじゃないですか」
「うーん、あんまり事を荒立てたくはないんだけどなあ」
「そうは言っても、これはどうにかしなきゃいけないでしょう。
学校で保管しても仕方がないし、捨てるわけにもいきませんよ」
「そうだよ、これは立派な犯罪なんだからさ」
早乙女や姫子に諭されたレベッカは逡巡した後、110番することを決めた。
しばらくして、桃月署から二人の警官がやって来た。
彼らはレベッカと早乙女の立会いの元で、発見された四台のカメラを調べ部屋の中を調査した。
やはり他にカメラは設置されていないようだった。
彼らの話によると、受信する機械がどこにあるかを探知するのは不可能であり、
犯人が判明するとしたら送信機の出所がその糸口になるという。
だがこのような機器の売買記録が残っているとも考えにくく、捜査は難しいらしい。
彼らは一通りの事務処理を終えた後、四台の撮影機を携えて署へと帰って行った。
警察の調べや校長への報告など全てが終わった時、下校時間は過去のものとなってしまっていた。
とはいえ事件の当事者であるレベッカたちがその場を去れるわけもなく、全員が学校に残ったままだ。
外の空では、紫が赤への侵食をどんどん進めていた。
「それでは僕はこれで失礼します。また不審なものがあったら知らせてくださいね」
「ああ、付き合ってくれてありがとな」
結局いなくてもあまり変わらなかった早乙女が帰り、研究室にはレベッカ、玲、姫子の三人が残った。
「あーあ、何だか大変だったな」
玲が腕を上に伸ばしながら言った。彼女も公権力の前では緊張していたのかもしれない。
「そう? テレビを見ているみたいで面白かったよ」
「その感覚はおかしいと思うぞ」
カァーカァーと塒に帰るカラスの声が聞こえる。
人気のない校舎の中で、その声は寂しげに反響した。
「なあ、ベッキー」
「ん?」
呆けていたレベッカに、玲が真剣な声をかける。
「ベッキーは、何かに狙われているのか? この前の爆弾といい――」
「それはない。ただの偶然だ」
「それならいいけど……」
レベッカに否定の言葉を言い切られた玲は、それきり黙ってしまった。
何もない沈黙が、三人の間に充満した。
「さて! 私はもう疲れたよ。こんな時間だし帰ろう、玲、姫子」
その沈黙を破るように、レベッカは明るい声で二人に呼びかけた。
いずれにせよ下校するべき時間ではあったし、必要な呼びかけだった。
「マッ! もうこんな時間!? 『ネギま!?』録画予約してたっけなあ!」
「どーでもいいよ」
三人は荷物をまとめ、学校を後にした。
レベッカ宮本は、本日も教師生活を満喫したのだった。
多少のイレギュラーはあったし、それは極めて気分の悪い出来事だったが、
いちいち気にせずやりすごすのが一番だ。
自分を狙うとは上等だ。
だがこっちも甘くはないぞ。この世界を壊させたりなんか絶対にしない。
今の生活は自分の手で勝ち取ったものだ。
文科省やら国会議員やら日影たづやら組織やら、いろんな奴がちょっかいをだしてくる。
だが自分の力でここまで辿り着いたんだ、これからもそれを守ってみせる。
レベッカの決意は、誰にも揺るがせられないほど固かった。
今回は以上です。
まだまだ序盤、これからも続く予定です。
GJ
イイヨイイヨー
>>244 GJ
最近作品多くて楽しいよ。書いてる人々頑張って。
続き気になります
とても激しく
うほっ久し振りにきたらめちゃくちゃ投下されてるし!
乙乙乙。続き期待
249 :
PP×C:2006/11/16(木) 03:16:47 ID:???
<パート3>
「何だ、罠って?」
犬神はため息をついた。南条は首を上げ、気力のない瞳で乙女と犬神の顔を見上げた。
その様子を見ていたレベッカは、彼女の首に廻された姫子の腕が、異常なほどガタガタと震えていることに気がついた。
恐る恐る振り返ると、姫子の顔色は、いつもの生気を失い、蒼褪め、病的な冷たさを帯びていた。
「何があったんだ?」と、レベッカは姫子の冷たい腕を握り返し、静かに訊ねた。
姫子は何も言わなかった。代りに犬神が話を続けた。
「数部屋に一つか、或いはどういった割合かは全くわかりませんが、危険な罠の存在する部屋に出くわしたんです。むやみやたらに進もうとすると、罠に引っかかって酷い目に遭いますよ」
「そんなに危険な罠が・・・・・・?」
「ええ。実は、ここに来るまでの間に一人・・・・・・柏木姉妹の片割れが・・・・・・」
「優麻ちゃんダヨ」と、姫子が力なく言った。
「ああ、その柏木優麻が・・・・・・」
「どうしたんだ?」
「死にました。部屋に入った瞬間、火炎放射を浴びて火だるまに・・・・・・私たちは自分たちが部屋から逃げ出すので精一杯で・・・・・・おそらくは死んだのでしょう。確認しようにも、余りに唐突だったし、それに、危険すぎて後戻りは出来ないし・・・・・・」
「ゆ、優麻が死んだ・・・・・・嘘だろう?クソ!どうなっているんだ!」
レベッカは半狂乱の如く叫び立てた。
乙女は愕然としてその場に崩れ落ち、南条はその様子を目前で見つつ、狂人のように笑っていた。
一条は直立不動のまま虚空を見つめ、何かを考えているようにも見え、或いは茫然自失となっているようにも見えた。
ベホイミと神原は相変わらず壁にもたれかかったまま何も言葉を発さない。
「とにかく、下手に動いても危険だということです。他にも様々な種類の罠を見てきましたが、どれもこれも引っかかったら最後、無事に部屋から出ることは難しいでしょう」
「・・・・・・あうぅ・・・・・・何て、何てことになってしまったんだ!死ぬなんて・・・・・・死ぬなんて、そんな話があっていいものか・・・・・・!」
「しかしそれが実際に起きてしまったことですから・・・・・・私たちも色々と考えて、どうにかここから抜け出せないかと試行しているところでした」
犬神がどうしようもないといった面持ちで部屋の中を見回すと、目の合った南条が勢いよく口角に泡を飛ばした。
250 :
PP×C:2006/11/16(木) 03:18:26 ID:???
「・・・・・・ここで助けを待つのよ・・・・・・それしかないわ、犬神君。だってそうでしょ?他所の部屋には何があるかわかりませんわ!もう、私はあんな恐ろしい思いは厭ですわ・・・・・・助けを待ちましょう、ね、犬神君?」
「助けは来ない・・・・・・こんなところに来るはずがないよ」と、姫子が怯えたように言う。
「そうだな。確かにあてのない助けを待つよりは先に進んで出口を探した方がいい・・・・・・尤も、やはり罠のある部屋に行き着くと厄介なんだが」と、犬神。
「罠か・・・・・・それがネックだな。そういえば、ベホイミ、お前は以前罠がどうとかこうとか言っていなかったか?何かわかることはないか?」と、レベッカはベホイミの方を向く。
ベホイミは視線を一度逸らし、一瞬の躊躇いの後、再び口を開いた。
「これまで見てきた中でもブービートラップの設置されている部屋の配列は不規則で、しかもそのタイプは多種多様であるといえます。優麻さんの時に発動した火炎放射器はほんの一例で、その他にも色々と・・・・・・ただ、それ以外にも一つ気がついたことが」
「何だ?」
「トラップの種類も多様ですが、それを発動するためのセンサーのシステムも多様だということっス。
たとえば優麻さんの時に起動したセンサーについてですが、一人目、二人目は全く反応しませんでした。しかし、三人目の優麻さんが入った瞬間、いきなり罠が発動、おそらくは一定人数を閾値に指定した湿度か温度のセンサーがキーになっていたに違いありません」
「と、いうことは、逆に言えばセンサーの種類さえわかればそれを起動させずに部屋を移動できるということではないのか?」
「理論上は。しかし、センサーの種類なんか外から見てもわかりようがないし、そもそも罠の有無だって、実際に中に入らないことには・・・・・・」
「ベホイミさん」
突然声を上げたのは一条だった。彼女はいつの間にか、つい今し方自分たちが出てきたばかりの壁の扉に上り詰め、先刻と同じようにして扉に耳を貼り付け、その奥の音を聞いていた。
「・・・・・・?どうしたっスか、いちじょ・・・・・・」
「シッ!音が・・・・・・遠ざかっていきます。さっき聞いたのと同じ音が」
「音?」
「もしや・・・・・・」と、一条はハンドルに手をかけた。「やっぱり!」
ハンドルが回らないことを確認した一条は、頭にクエスチョン・マークを乗っけた残りの七人の方に向き直った。
251 :
PP×C:2006/11/16(木) 03:20:55 ID:???
一条が口を開き、自分の考えを述べようとした瞬間、今度は誰の耳にも聞こえるような大きな音が部屋のすぐ傍を通った。
それは確かに“何か”がこの部屋のすぐ傍をかすめたような、唸るような轟音で、これはその場にいた誰もの耳にはっきりと聞こえた。
壁に背を預けていた南条は思わず身を跳ね上がらせたほどだった。
音は長い間続いていたが、やがて止まった。
「今の音は・・・・・・?」と、乙女が泣きそうな顔つきで言う。
「ときどき壁の向こうから金属の擦過音のようなものがするんだ・・・・・・だけど前に聞いたのは部屋の中にいてやっと遠くの方に聞こえるというくらいで・・・・・・あんな大きな音はここに来てから初めてだ」と、犬神は言葉を詰まらせながら言った。
「その規模の音なら私も丁度三十分前に聞きました。きっかり三十分前です。
それとさっきの扉の奥の小さい音と、今起きたばかりの、耳につくような大きな音との三種類があるようですね。すると、つまりは・・・・・・おっと、そろそろ・・・・・・」と、一条は片手に嵌めた腕時計を覗き見ながら無表情に呟く。
「何が・・・・・・」
全員が息を飲んだ――次の瞬間、再び部屋は激しい振動に見舞われた。
「地・震・が・起・こ・り・ま・す」と、激しい横揺れの中、一条は解説の言葉を続けた。
そして全員が舌を噛まないように、最大級の非難の念をこめて答える。
「先に言え!」
揺れが収まり、ようやく部屋の中は落ち着いた。全員、気を静めた後、怪我人のいないことを確認して一条の方を振り向いた。
彼女はハンドルに掴まったまま無表情に部屋の中を睥睨していた。
「さて、私の推理が正しければ」と、一条は再び気を取り直し、全員に向かって語りかけるように言った。
「この扉の向こうはすでに私たちが出てきた部屋ではありません」
「何を言っている、一条?」と、レベッカは眉を顰めた。
「先生、この扉の向こうは何色の部屋でしたか?」
「赤に決まっているだろう?お前だって知っているはずだ」
「では、確かめてみましょう・・・・・・」
そう言うと、一条はハンドルを勢いよく廻し、扉を開けた。
一枚目を開帳し、二枚目を開く。
「あ!」
一条の後に続いて梯子に攀じ登り、その中を覗き込んだレベッカは思わず声を上げた。
「黄色の部屋・・・・・・何故・・・・・・?」
252 :
PP×C:2006/11/16(木) 03:24:02 ID:???
「お?これは・・・・・・」
開いた口が塞がらないレベッカの隣で一条は扉の片隅に何かを発見した。
レベッカは猜疑の眼差しでそれを見つめていた。
「ハハァ・・・・・・これで疑惑は確信に変わりました。先生、この部屋はやはり動いていますよ」
「何?」
レベッカは青い瞳を真ん丸に見開き、一条の指差した扉の隅を見つめた。
そこには、薄い鉛筆書きで「Y3I」と弱々しく書いてあった。
「これは一体・・・・・・?」
レベッカが首を傾げながら一条に問いかける。
彼女はスカートのポケットから一本の鉛筆を取り出して見せた。
「迷わないように、これまで辿った部屋の扉に印をつけてきたんです。入るときと出るときに一回ずつ。これは“Yellow-3-In”、つまり、三番目の黄色の部屋の入り口という意味です・・・・・・
そして、この部屋は――驚かないで聞いてくださいね――私が先生のいた赤い部屋のひとつ前に通過した部屋なんです。
もっといえば、私は先生たちに出会う前に、ここの扉を開けていたということになります」
「ちょっと待て・・・・・・話がつかめない」
「地震なんか起こっちゃいなかったんですよ、ただの一度も。つまりさっきの揺れは部屋が動いた証なんです。皆がいる白い部屋――私は既に“W7I”のサインをしてありますが――が動いたんです。
隣接していた“Y3”と“R8”、つまり先生たちと合流した赤い部屋のすぐ隣をレールのようなものに沿って。
だから、揺れの起こった後は全ての扉が全く違う部屋に接続されることになるんです。現に私はこうして一度入った扉に戻されてきました」
「しかし、もし隣を通ったのだとしたら、赤い部屋にいる間は私も大きな音を聞いたはずだ。
だが、言ったように何も聞こえなかった。さっきの轟音など論外だ。
しかし、お前の説から行くと、その間に犬神たちのいた白い部屋は私たちのすぐ隣を滑走していたことになるんだろう?おかしいじゃないか」
253 :
PP×C:2006/11/16(木) 03:26:31 ID:???
「確かに。しかし、こうは考えられないでしょうか・・・・・・
部屋一つの移動は、たとえそれがすぐ隣で起こったとしても大して音は立てない、と。
私は“R8”でロックされていた扉の向こうで微かに“W7”の動く音を聞きました。あれは一部屋だけが動いたものでしょう。
しかし、さっきの大きな音は、部屋の移動がただ単に近かったために大きな音に聞こえたのではなく、たとえば、複数の部屋が同時に動いたために発生した轟音だったとは考えられないでしょうか?
もっとも、その場合はひと纏まりに隣接した部屋の群集が動いたと考えるべきでしょう。
もし散在する複数の部屋が同時に、各々に移動していたとするのなら、距離の差の問題から音質も音量も異なる音が断続するはずです。
しかし、さっきの大きな音は均一で、かつ連続して発生していました。
これは複数の小さな音の合成により音強が増して聞こえたのではなく、音の発生源そのものの質量規模が大きいものであったと想定できます。
ですから、一群の部屋が、一つの塊に集合したまま一様に移動したものであると考えられるのです」
「そういえば、揺れの最中はほとんど音がしなかったな・・・・・・もしかしたら言う通り、ひとつひとつの部屋の移動にかかる騒音は大したものではないのかもしれない」
「そうでしょう。でなければ一つの部屋がこんなに頻繁に動くのに、耳に届く規模の音の回数が少なすぎるのは不自然でしょう?
私は、さっきの大きな音については、単に隣を部屋が移動しただけでは起こりえない、特別大きな音だったと考えています。
さっきも言いましたが、先生たちに会う前に、私は中規模の音を一回しか聞いていません。
一時間近く歩き回って、何度も部屋の移動の痕跡らしきものを見つけながらも、その起動音と思しきものはたったそれ一回きりです。
そして、やっとさっきの大規模な音と、扉の奥にかすかに聞こえる小規模な移動音らしきものの存在を知ったのです。
この中で、私は最も小さい音が部屋一つの移動する音で――それは気付かない内に頻繁に起こっているものであり、さらに関与する部屋数を増しながらもう二段階の上位の規模の移動パターンが存在すると考えるに至ったわけです。
これが三段階の音と部屋の移動に関する私の見解です。いかがでしょうか?」
254 :
PP×C:2006/11/16(木) 03:27:10 ID:???
「部屋が動くのか・・・・・・
それも一部屋ごとにほとんど音をたてずに動いたり・・・・・・
あるいはたくさんの部屋が一片に大きな音を立てながら・・・・・・
なるほど、何てメンドくさい話なんだ!
おまけに罠もある!これじゃあいよいよ動けないじゃないか!」
「そこで、宮本先生。先生の数学知識をお借りしたいと思っているんです」
「何だ!?私に何が出来るって言うんだ!?」
一条は扉を完全に閉めてその中央を指し示した。
「これ、ずっと気になっていたんです・・・・・・きっと何か意味があると思うのですが・・・・・・」
【BMN】
そこには、黒いペイントで、そう記されていたのだった。
255 :
PP×C:2006/11/16(木) 03:38:04 ID:???
ここまで。
一応追記しておくと、実際には一条さんの推理通りにはならないみたいです。
大規模な建造物では反響やらサウンドブリッジ問題やらがあったり、
コインシデンス効果がうんぬんかんぬんとかで複雑なことになっているみたいなので。
その辺りのことはよくわからないので大目に見てくださると都合がいいです。
以上、言い訳。お目汚し。
gjです
こういうの好き
早朝の桃月学園への通学路を一人とぼとぼと歩く影が一つ、姫子だ。その表情はどこか悲しげで、
見ようによっては無表情に見えないこともない。どちらにしろ、姫子には似つかわしくない表情に違いはなかった。
そんな表情で僅かに俯く彼女の瞳には道路脇の白線が映ってはいるが、どうやらその焦点は何も捉えていない。
汚れの少ないキンと澄んだ空気も、時折空に響く小鳥の囀りも、低い太陽が映し出す自分の影でさえも、
今の姫子にとっては別次元の出来事だ。彼女の瞳が真に映し出しているのはその更に先か、はたまた前か、
いつの日かの記憶の中だった。
『いらない子』
…そんな風に最初に言われたのは、小学校に上がって割とすぐだったと思う。
以前から姫子に対して優しいとは言い難かった母親の、2度目の通信簿をもらった時の言葉だ。
そういえばその頃にはまだ“2期制”なんて言葉は無かったから当然小学校は3期制で、
土曜日は半日授業があったのだった。それを考えると、その“最初”は冬休み初めだという事か。
確かに姫子は優秀ではない、いや、どちらかと言うと出来の悪い方に分類される頭の持ち主であり、
その頃から本人はそれを自覚してはいたが、やはり母親にそんな言葉を投げかけられることが悲しくない訳が無い。
それから事あるごとに母親は『だめな子』『いらない子』と姫子に言うようになる。最初の頃は
それを認めることにより耐えていたものの、やはりその年でそんな事に耐え切れる筈が無く、
気付けばその度に部屋で一人泣いていたのを覚えている。そんな所を母親と比べて随分と
優しかった父親に見つかり、『気分転換に』といつもいつも散歩に連れて行ってもらっていた。
姫子は父親が大好きだった。しかしそうやって姫子が父親を更に好きになる度に、夜な夜な
夫婦喧嘩が起きていたのを姫子が知るのはそれから随分と後の話だ。
日に日に両親の仲は悪くなっていき、姫子が母親と話す事も減っていった。夫婦仲が良くないのは、
母親が家にいることが少なくなればいくら姫子にでも勘付くことくらいは出来る。
偶に口を開いたかと思うと命令か蔑みしか言わない母親の言葉をあまり聴かなくなって、
父親が姫子に何故母親が夕飯を作ってくれないのかと聞かれると困った様に曖昧に笑うようになって、
家にいる時間が暇になってその穴埋めにと漫画を読むようになったのは確かその頃だったと思う。
それから間も無くして遂に、母親は完全に家に帰らなくなる。
それを知ったのは父親がそんな事を少し悲しそうに言っていたからだが、姫子は正直清々していたのだと思う。
もう『いらない子』なんて言葉を吐かれなくなったのだから、当然といえば当然か。ただ、時々しか
顔を見せなかった母親の顔を完全に見なくなるという程度の変化に、大して実感を抱けなかったのも事実ではあったが。
だが母親が居なくなって暫くの間は、全く不満を感じることが無い純粋に楽しい日々を過ごせていたと思う。
勉強は嫌いだが友達と会うことのできる学校は以前から好きだったし、暇な時間は借りた漫画を読んで過ごした。
父親は相変わらず優しかったし、小学校も上級生になると習う調理実習での料理を振舞うと、決して良い腕では
無いにも関わらず姫子に『美味しい』と言ってくれたりもした。
兎に角、他の子と同じように母親など居なくても、十分幸せだと思える日々だったのだ。
しかしそれらはある日突然過去形へと変わることになる。楽し“かった”、幸せ“だった”日々。
そう、父親が家で酒を飲むようになるまでは。
最初は夕飯の時に少し飲む程度だった筈だ。やはり仲が良くなかったとはいえ、妻が家に居ないのは寂しかったのだろうか、
それまで一切酒煙草をやらなかった父親が、である。それにしては珍しいと姫子も始めの頃は思ったりもしたが、
少し父親が陽気になる以外特に変わった事は無かったので、すぐに気にならなくなった。
だがその“少し”が夕飯が終わってからも暫く飲み続けるようになり、夕飯の最中より後に飲むようになり、
やがて姫子の就寝時間を過ぎても卓に座り込んでいることが珍しくなくなる。急激にそこまで飲むようになれば
流石の姫子でも異変に気付いただろうが、不幸な事にそれは老人の身体を蝕む癌細胞のような、とても
ゆっくりとした変化であったので姫子が気づく事は叶わず、さもそれが当然のように、父親は酒を飲み続けた。
そして“それ”が起きたのは、色々な身体の変化に対して姫子が姫子なりに悩み始めた頃だったから、
確か中学生になって少し経った頃だろうか。その日も父親は長い時間飲み続け、晩酌を終了するよりも前に
姫子が床に着いた。そんな、いつの間にか“日常的”になっていた状況の下。
あろうことか、姫子は父親に犯された。
寝ていた姫子は最初、何が起きているか全く解らなかった。暗闇の中の影、眼前の重量、酒の臭い、荒い息、
素肌に触れる他者の体温、直後、激痛。
断片的な記憶の中、あまりの恐怖に声すら上げる事が出来なかった事は覚えている。どうせならこんな記憶ごと
消し飛んでしまえばいいのに、神様は無情にもそんな願いは聞き入れず、また身体に刻まれた一生に一度の傷も
当然ながら塞がる事は無かった。
かつての妻の面影を娘である姫子に重ねたのか、はたまたただ単に溜りに溜った欲求不満が酔った勢いで爆発したのか。
しかし朝姫子が目を覚ました時には、本当にこの人がやったのだろうかと思うほどに弱々しい表情で、ただただ娘に
頭を下げ続ける父親の姿がそこにはあった。
それから暫くの間、父親は酒を断った。だが一度それに依存してしまったものからそう簡単に抜け切れる訳も無く、
少しだけ、少しだけを続けるうちにまたかつてのような酒浸りの夜が続くようになる。
2度目以降は、一気に間隔が短くなった。
酔った勢いで本能が暴走した父親の力はまがりなきにも男性のそれで抵抗が敵うことも無く、娘の身体を貪る
父親の姿を姫子はただ眺め続ける事しか出来ない。そのうち無駄に抗うのも馬鹿らしくなって、抵抗する事自体止めた。
しかし姫子にとって何よりも不幸なのは、酒の抜けた父親はいつものようは、どこまでも優しい父親である事だ。
いっその事酷いだけの父親だったら良かったのに、そんなことをする父親を嫌いになれればよかったのに。
勿論、父親が娘を犯し続けるなどそんなことが起こり続けて言い訳が無い。通常なら危機を感じた娘が
保護施設などに助けを求めるか、父親に理性が残っていれば自ら預けようとする筈である。
だがそうはならなかった。理由は簡単、姫子が拒んだからだ。
第一に、姫子は父親の事を何処までも好きであり、嫌いになりきることが出来なかったからで、
一心に頭を下げ続ける姿や、又はある時のように自ら命を絶とうとする姿を見てしまえば尚更だった。
第二に、やはり今の生活が壊れる事が怖かったのだろう。施設に入れられたりすれば当然学校は
変えなければならなくなるだろうし、そうなると長くて小学生からの付き合いの今の友達とも
別れなくてはならない上に、新たな友達を作ることが出来るかどうか正直とても不安だった。
それに今の生活は、父親の件を除けば全く不自由していないのだ。確かにそれは重大な問題かもしれないが、
他の幸せを犠牲にするほどの大きさがあると、当時の姫子は思えなかった。
いや、それは今でも同じである。未だ月に数度父親に犯され、その度に頭を下げられ、
施設に預ける相談をされ、挙句の果てに自殺を計られてはいるが、その考えを変えるつもりは無かった。
しかし…
今は、今澄んだ空気の中小鳥のさえずりを聞いて己の影を踏み道路脇の白線を見つめながら通学路を歩いている現在はといえば、
かつて大事にし続けた幸せのどれも存在しなかった。
漫画を見れば細切れにされたイジメを思い出し。
家にいれば常に父親に犯されるかもしれないという恐怖を感じ。
つい最近、いや昨日まで唯一の楽しみといえた学校でさえ、他のクラスメイトと顔を合わせる事が酷く怖い。
姫子はかつて無い様な絶望の淵に追い立たされている。正に、生きる意味すら見失うほどに。
彼女のその瞳が真に映し出しているのはその更に先か、はたまた前か―――
片桐姫子の首吊自殺死体が彼女のクラスでもある桃月学園1年C組で発見されたのは、それから間も無くだった。
第一発見者とされるのは橘玲。しかし彼女もかなり早い時間に登校していたにも拘らず、通報されたのが同じクラスの学級委員である
一条さんが登校してから、しかもそれを早番の教師に知らせたのも一条さんであったのは、片桐姫子の友人である橘玲があまりの
ショックに耐え切ることが出来ず、即座に行動に移ることが出来なかった為と考えられている。
片桐姫子は、死んだ。
G・・・・・・・・・・・・・・・・・J!!!!
姫子。・゚・(ノД`)・゚・。
えっと、だらだらと本当に申し訳ないのですが…まだ終わりません。
念のため…
265 :
マロン名無しさん:2006/11/17(金) 23:56:25 ID:lrk3JUfS
gj!!!111!
いじめの犯人はいったい!?
ドンマイ姫子
姫子は可哀想だが、これ、すごくイイ!
姫子の普段の不自然なまでの明るさと時折見せる冷静さの裏には
絶対何かあると思っていたが、こういう事情ってことも充分考えうるわ。
とか言いつつ私も自分の文では、姫子に抗鬱薬飲ませたり
精神科通わせたりしてますがw
「ワシが子供の頃は、たまにその辺に狂犬歩いてたぞ。よだれ垂らして。あ
のよだれに触っただけでも、手に傷なんかがあった場合狂水病になるって先生
なんかに言われてた。それで通報すると、当時は犬殺しのおじさんなんて呼ば
れていたが、たぶん保健所の人だろう、そのおじさんが来て捕まえていった。
どの犬が狂犬が見分けるのは、今言ったように首を低くしてよだれを垂らして
るのが生体としての特徴。それとうーと言ってうなる。人為的特徴としては、
お尻の右側に○に狂の字の焼きごてが押してある。それらが特徴だから、それ
らの特徴を持った犬と出会ったり巡り会ったり邂逅したりしたら気をつけなさ
いと、これは校長先生がじきじきに月曜日の朝礼の時におっしゃっていた。」
芹沢が精神崩壊して来栖と病院入りする話って保管されてない?
<ルートV パート5>
≪七人目 一条さん≫
「毎度どうも、一条です。都さん、ご機嫌麗しいでしょうか?私と以前いただいたチベットの仏像は元気にしています。
とはいっても、都さんの凛々しい眼鏡姿を長い間拝見できずにいるので一抹の寂しさも抱いているところです。
宮本先生に聞くところ、都さんと教授さんが探検するのは埃っぽい土地が多いということなのですが・・・・・・埃っぽいところではどうしても眼鏡が汚れやすくなります。
眼鏡のお手入れは欠かさずに行ってくださいね。
僭越ながら、ビデオと一緒に眼鏡クリーナーを贈ります。ジャパーなネットの通販で購入しました。よろしければお使いください・・・・・・
都さんが今どこにいるのかは知りませんが、たとえどこであっても、住めば都といいます・・・・・・いえ、別に駄洒落のつもりで言ったわけではありませんよ?
ともかく、都さんは状況を楽しむことが出来る才能を持っている人間だと私は思っています。
たとえ海外で苦境に陥っても、楽しみながらそれを乗り越えていってください。
健康には気をつけて。
以上(いじょう)、一条(いちじょう)でした・・・・・・ですから、駄洒落ではありませんからね」
≪八人目 タヌキ≫
「えっと・・・・・・えっと・・・・・・何でオイラがこんなことさせられているんでヤンスか?ほとんど出番ないのに・・・・・・
えっと・・・・・・とりあえず、特技を披露するでヤンス。以前よりも変身の腕が上がったんで是非見てほしいでヤンス・・・・・・
タヌキヌキヌキタヌキヌキ、かわいくてガリ勉でおデコが眩しい女子高生になるでヤンス・・・・・・とぉっ!(どろん)ジャーン、上原都でヤンス・・・・・・
スミマセンでした、マジで。
・・・・・・あ、イヤ!怒らないで!殴らないで!殺すとか言わないで・・・・・・
ホント、ごめんなさいでヤンス。もうしませんから許してください。
それと、もう勘弁してください。カメラ向けられても、これ以上芸は出来ませんから。
えっと・・・・・・タヌキでした。ありがとうございました」
カメラが止まる。その途端、またしても様子を見ていた玲と姫子が暢気に会話を始めた。
「ところでさ、玲ちゃん」
「今度は何だ?」
「出来上がったビデオ(と一条さんの置いていったレンズクリーナー)、どうやって都ちゃんに届けるの?」
「おい、姫子。お前、ひょっとして都の居る所を・・・・・・?」
「え?知らないヨ」
「嘘だろ?知っているものとばかり・・・・・・」
「バカだなぁ、玲ちゃんは。私が知っているわけないじゃない」
「威張るなよ・・・・・・どうするんだ、ビデオを撮っても届けようがなくちゃ意味がないだろ」
「ベッキーに調べてもらえばいいんじゃない?ほら、ベッキーは天才だから、きっと都ちゃんの居所も一発で発見さ!」
「お前は天才というものを何か誤解している節があるな・・・・・・」
玲はため息をつく。姫子は笑いながらビデオ撮影の続きを始めようとしていた。
<ルートM パート5>
プロフェソーリと呼ばれた精鋭密輸団は十名足らずのエキスパート集団によって運営されていた。
彼らはそれだけの労力で以って強大なマフィア組織ですら一目置くほどの実力と影響力を有していた。
彼らの扱うものはありとあらゆるものであり、それは需要と供給のマクロ市場原理に従うものもあれば、有力者からの個別の依頼を受けて――それは採算には見合わずとも、
彼らの信用という恐ろしく有用な保険をその名に負荷するために身を呈して活動することもあった。
そして今、この組織は、新たな首領、絶対的カリスマの指導者、カポ・デコこと上原都の配下となり、その存在はなお確固たるものとなっていた。
イタリアはもとより、多くの国の裏社会でカポ・デコの生ける伝説は波紋を呼び、その名を知らぬ者は無くなった。
これは仕事や協定関係を得るには有利に働くこともあったが、同時に捜査当局の目をひく結果となったのは自然なことである。
新生プロフェソーリの仕事はより緻密さと隠匿性が要求されるようになり、彼らはなおもその動きを柔軟なものにしていくことを強いられた。
しかし、例によってカポ・デコの閃き或いは神託なるものは相変わらず常に明晰で、そのために彼女は当局や敵対グループの手の先を走り続けていた。
手入れの失敗に追跡者たちが眉を顰める度に、カポ・デコ神話は新しいページを追記し続けることになっていた。
今では、彼女と何とか懇意になろうと、腰を低く下げてやってくる連中も少なくない。
彼女についた神の加護に何とか肖ろうとする者、うまく利用して甘い汁を吸おうと接近してくる策略家、彼女の人気に乗っかろうという見栄っ張り、
行き先を失った食み出者、警察のいぬ、熱心な信者、自称彼女の婚約者・・・・・・ありとあらゆる魑魅魍魎の類がカポ・デコの名前に縋るようになっていた。
勿論これを是としない者がいたのも事実である。
プッリャ州タラントの新興組織(この組織は所謂'オンダ・ヌオーバ'で、イタリア半島の裏社会を牛耳るコーサ・ノストラのコミッショーネに阿ることの無い独自の名誉意識を持ったマフィア組織である)の有力幹部、ロベルト・パガーノもその一人であった。
彼は早くからカポ・デコの影響力の危険性を主張し、この余所者勢力を排除することをコーサ・ノストラ側にも持ちかけていたが、先日、ローマのコミッショーネが彼女と通商協定を結んだと聞き及び、烈火のごとく憤慨した。
彼はそれを痴呆老人ばかりの元老院(ローマ・コミッショーネ)の暴挙であると吐き捨て、プッリャで沈黙の掟を守り続けた自分たちへの許されざる反目と裏切りであると公言した。
彼が怒るのも無理は無かった。
プッリャ州はイタリア半島のブーツのかかと部分に存在し、そこは地理的に最も東欧に近く、自然そこはアドリア海を挟んで対岸に存在するコソボ地域との交流の窓口になっていた。
彼らはアルバニア系のマフィア組織や武装勢力と協定関係を結び、アルバニア人の密入国の世話や武器の密輸を手配し、代りにバルカンルートを通じてやってきた麻薬類を彼らから引き受ける役を担っていた。
ところがカポ・デコ率いるプロフェソーリの台頭が全てを変えた。
ここ近年、度重なる捜査当局の摘発作戦により確かに廃れてきてはいたものの、それでもまだ有力な麻薬取引の玄関口であったアルバニア・コネクションを二ヶ月足らずのわずかな期間のうちに一気に手繰り寄せ、
その勢いを急速に回復させ、序でにその利権を全て掻っ攫ってしまった少数精鋭の犯罪グループ、それが連中だった。
当然古くから以前から玄関口の門番を担ってきた彼らのファミリーは、完全にミソッカスを喰らい、面子を潰される結果となった。
しかも、彼らにとって何よりも許し難かったのは、当事者である彼らを挟むことなく、この得体の知れない新参者と、ローマの年寄りたちが密約という形で手を結んだことである。
アルバニア人たちはイタリア人のファミリーの血筋には拘らない。彼らは最も都合のよい業者と手を結ぶ。
そして、彼らは謎の天才的犯罪者を選んだ。結果、彼らのファミリーは見捨てられる形となった。
ロベルト・パガーノは復讐を企んだ。復讐というよりは競合の解決というのが正確な表現である。
というのも、彼とて愚か者ではないのだからコーサ・ノストラに真っ向から立ち向かおうなどというつもりはなかったし、イタリアの中央にも根を持つ強力な組織とは今後とも協定を維持していきたかった。
従って、彼はその間に図々しくも割り込んできた不快な、邪魔な存在である要素を排除することに決めたのだ。
何がプロフェソーリの強みか。
それはひとえにあの謎の少女カポ・デコのカリスマ性である。
ロベルトは有能な統率者であると同時に組織の政治的アイドルである彼女の人気の理由の一つに目をつけた。
彼は早速電話をかけ、二人のトルコ人を自分のオフィスに呼んだ。
彼らは以前ロベルトの組織が密入国を斡旋し、その世話で北イタリアに就職口を見つけることができた不法移民である。
若い男たちで、口数は少ないが、その節の恩義は決して忘れてはいない。
彼らはロベルトの持つ手駒として、いつでも動ける状態にあった。
「おたくらの知っている中で」ロベルトは'ロメオ・Y・ジュリエッタ'のシガレットに火をつけながら言った。
「若いチンピラのトルコ人が数人ほしい・・・・・・バカで構わない。凶暴で、能無しで、しかも節操の無い奴ならなおいい」ロベルトは煙を吐きながら言う。
二人のトルコ人は怪訝な表情をしたが、すぐに口髭を動かして、拙いイタリア語で答えた。
「わかりました、シニョール・パガーノ。コミュニティの中を探ってみます・・・・・・クズみたいな奴なら探せばいくらでも見つかると思いますが・・・・・・そんな連中をどうするつもりですか?」
「今から説明する」ロベルトは翡翠の灰皿に煙草を押し付けて火を消した。
二人のトルコ人はその様子をじっと見つめていた。
やがてイタリア人は、一枚の写真を取り出して彼らに渡した。
「これは・・・・・・?」
そこに写っていたのは上原都だった。
赤い縁の眼鏡をかけた、華奢な日本人少女の顔だった。
「いいか・・・・・・お前たちに指令を出す・・・・・・絶対に成功させろ。指令というのは――」
<ルートR パート5>
聖フューメ・ギャーチョ教会はナポリ市内にある小さな礼拝堂だ。
ここは歴史地区にあるような大仰なゴシック建築の教会とは異なり、慎ましく質素で、観光客向けというよりは、間違いなく地元の信仰深いクリスチャンたちのための祈りの場であった。
私とメディアは厳かな雰囲気の教会の内部へと足を踏み入れていった。
私たちが礼拝堂の奥へ進んで行くと、一人の神父が、祭壇の前で慈悲深き御父への熱心な祈りを捧げていた。
後姿ではあったが、私はそれがまさに目的の人物であることを悟った。
私は彼の祈りが済むのをその後ろでじっと待っていた。
やがて彼は振り返り、慈愛に満ちた笑顔で私たちの姿を認めた。
「お嬢さん、お祈りですか?」彼は言った。
「いいえ。貴方にお話があってここへ参りました」私は答えた。
「赦しを乞いにいらっしゃったのですか?」
「告解に来たのではありません・・・・・・ドン・ソリアーノ神父。神前で申し上げるのは憚られるべきことでしょうが、私は貴方の正体を知っています・・・・・・」
「何のことでしょう?」司祭は僅かにたじろいだ。
「貴方は神に仕える身であると同時に十字架に唾を吐きかける顔も持っている・・・・・・悪魔崇拝の秘密結社‘黒い兎(サタナ・コニーリオ)'のメンバーだ。
貴方がその立場を利用して、黒ミサや呪術などの背信的行為をこの教会内部で行っているという噂を聞きましてね」
私が唱えるように追及すると、男の表情は一変し、その化けの皮が剥がれた。彼の険しい表情は悪魔そのものだった。
「・・・・・・何者だ?何が目的だ?金か?」
「いいえ、強請ではありません」
「ではバチカンの密偵か?私を破門するために調査にきたのか?」
「あいにく教会関係者でもありません。私は、貴方がよく知っている、ある少女について聞きたいのです」
「民間の調査員か」
「そのようにとらえていただければ幸いです・・・・・・お話さえ伺えればそれ以上のご迷惑はおかけしません・・・・・・貴方はカポ・デコことミヤコ・ウエハラという少女を知っていますね?」
「・・・・・・なるほど。彼女についてですか・・・・・・とりあえず、奥へどうぞ」
私たちはこの偽善の神の子、ドン・ソリアーノ神父からカポ・デコという不可解な偶像についての話を聞き出すことが出来た。
巷で聞き集めた情報を考慮した結果、都に宗教的な象徴性が付加されるようになったきっかけは、他でもない、彼が属する涜聖背信者教団‘黒い兎教団’の情報源によるものである側面が強かったということがあるようだった。
彼はしばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開けた。
――如何にも。カポ・デコの信仰を始めたのは‘黒い兎’の一部のメンバーだ。名前は明かせないが、彼らはある有名な犯罪組織に属していた。
ある時、彼らの業界でこの頃急に頭角を示し始めたカポ・デコの名前がその話の間で持ち上がった。
謎の犯罪者というだけでかなりそそられるものはあったが、そのうちの一人が、実際に彼女に会ったことがあると言い出して、そこから急に話は膨らんだ。三ヶ月ほど前のことだ。
そこで出てきた話は彼女を信仰の対象にするには十分だった。
不思議な霊能力の持ち主で、東洋からやってきた謎の美少女。まさにお誂え向きの条件だとは思わないかね?
我々の中で特に重要な論点だったのは、彼女が処女であるかどうかということだ。
聖処女は信仰心を大きく揺さぶる。我々は汚れた娼婦を歓迎するが、それと同時に処女の血を崇拝してもいる・・・・・・もちろん蹂躙すべき対象としてだがね(彼は不気味に笑う。ゾッとする話だ)。
我々は日夜彼女の処女であるか否かを論じ合った。尤も、確かめようにも警察やマフィアでも足取りがつかめない相手だからどうしようもないのだがね。
我々は彼女の不思議な力とその背徳的な振る舞いの数々を崇拝しつつ、彼女の神聖なる処女が大勢の男たちによって凌辱される様を夢想した・・・・・・
肉体的にどうであるかというのは実質的には大した意味を持たない。重要なのは精神的側面だ。少なくとも真っ当なキリスト教徒にとってはな。
だから我々の論じ合ったカポ・デコの処女神話は単なる悪魔崇拝者たちの中に留まらず、広く裏社会に伝播した。
実際、彼女は裏社会の女にありがちなご機嫌取りのために有力者と同衾するなんて真似はしなかった。
また彼女には愛人もいなければ、情夫も無かった。
一説では性的不能か、或いはレズビアンかという話もあったが、とにかくそんなわけだから彼女の処女性に関してはその信仰をより一層煽り立てる要因になっていた。
或る者が彼女を強姦しようとして見るも無惨に殺されたって話をも聞く。
とりあえず、気がついたときには、彼女の偶像はとても強大なものになっていた。
その神性を冒すべからず、とね。
我々は聖書を嫌っているから、その中で指弾される彼女のような存在を面白半分に崇拝するように仕向けた。
後は人伝に勝手に広まっていったのだよ。それがカポ・デコ神話の真相だ。
彼女が実際に超能力者かどうかは、この目にしたことがない以上私には判断がつきかねる――
ドン・ソリアーノ神父は許されざる者である。
私は彼の話の中で何度も彼の口から、到底看過し得ない発言を聞いた。それは一人の少女としての上原都の、人間本来の尊厳を究極的に侮辱するものであった。
とてもそれを私の口から言い直すことなど出来ない。
以上の証言は彼の発した卑猥で、非道で、陰惨な言葉の要約であり、その忌まわしい表現の多くは、直接の聞き手であった私の判断から省略させていただいたことを断っておく。
ただ、どの神を信仰しようと自由だが、私の教え子を辱めるような物言いは決して許さない。
話の途中、私は何度この背信者に殴りかかろうとしたか数え切れない。
メディアが後ろから私を宥め制してくれなかったら、私は感情の赴くままに暴力に訴え、そして彼の反撃によって手酷く傷つけられていたことだろう。
私はメディアに感謝すると同時に、彼女もまた、彼の話を聞きながら下唇を噛み締めて、じっと怒りを堪えていたことを忘れない。
教会を飛び出すように退出した私たちは、急に何かの物寂しさを感じた。
その晩、メディアは国際電話をかけた。日本にいるベホイミと何かを話し合っていたようだった。
普段よりもいくらか様子が違っていたのが印象的だった。何かにうろたえていたようだった。
その後、私もお姉ちゃんに電話をかけた。
ここまでです。
それではどうも。
GJ!メディアとベホイミの会話内容が気になる…
GJJJ
(o^v^o) ぱにぽに de ローマ帝国崩壊 ―サイゴン陥落―(*゚∀゚*)
優奈「私は楽園への最後の扉の鍵。彼は自身こそ鍵だと信じて様々な人を楽園への行進に引き込んでいる。
私は楽園の最後の住人。新しい住人は私が決める権利がある。
私が楽園への扉を開く前に死した時は優麻ちゃんに私の魂が入り、何の問題もない。」
284 :
マロン名無しさん:2006/11/19(日) 23:32:54 ID:KvBnxPS9
保守
285 :
PP×C:2006/11/20(月) 01:56:47 ID:???
<パート4>
「【BMN】?何かの言葉か?」
レベッカは扉を指で擦りながら呟いた。
「わかりません。しかし、どの扉にも三文字のアルファベットがついているんです・・・・・・そして、一つの部屋を取り囲む六つの扉には同じ三文字の配列が・・・・・・」
「!・・・・・・と、いうことは、これは部屋番号か!?」
「おそらく。この三文字で部屋を特定しているのではないかと思われます。ちなみに、そちらの白い部屋、W7は【BVV】に、さっきの赤い部屋R8は【BMW】になっていました・・・・・・いかがです、何かわかりませんか?」
「うーん・・・・・・確かに何か規則性はありそうだが・・・・・・どうだろうな」
レベッカは考え込むようにして顔を伏せ、視線のやり場に困ったように右手の腕時計を覗き込んだ。
一条は彼女の戸惑いを理解しつつも、話を続けた。
「仮にA〜Zまでを三つ、順列を認めたうえで任意に組み合わせるとどうなります?」
「それは26の三乗だから・・・・・・17576だな・・・・・・っておい、もしかして・・・・・・?」
「もしそれぞれの桁の間が独立で、三つのアルファベットが各自でグループを指定する要素になっているとするのなら――このタイプの部屋は最高で17576室存在することになります・・・・・・どうです、気が遠くなる話でしょう?」
「・・・・・・お前、この状況を少し楽しんでいるんじゃないか?」
「口が裂けてもそんなことは言えません」
レベッカは身体を翻して狭い通路を後ろに引き返そうとすると、犬神が梯子を上って中を覗き込んだ。
「やはり先生たちも気がつきましたか」
「ああ。このアルファベットは部屋番号のようだ」と、レベッカは通路の中で一人考え込む一条を顧みて言った。
「実は私も気になっていたんですよ・・・・・・それで、移動するたびに一応このアルファベットを書き出しておいたのですが」と、犬神はポケットの中から小さな手帳を取り出してレベッカに手渡した。
「これまで移動してきた部屋の数は・・・・・・18ですね――案外たくさん移動してきたんだな――アルファベットの隣にチェックマークがついている部屋は罠が発動したところです。
その後ろの括弧は部屋の色――こうして見ると白が多いな――、その後ろは入り口を基点とした時の進んだ方向を示しています」
「この【BKY】についているダブルチェックはどういう意味だ?」
286 :
PP×C:2006/11/20(月) 01:59:54 ID:???
「それは・・・・・・優麻が・・・・・・」
「・・・・・・そうか、わかった。これはひょっとしたら何かの手掛かりになるかもしれない。貸してもらっていいか?」
「ええ。部屋を移動するのだったら、アルファベットのチェックをお願いします」
「心得たよ。おい、一条、出るぞ」
三人は通路を離れ、梯子を下り、部屋の中に戻った。
しかし、それとは入れ違いに、既に一つの部屋の中に留まっていることに対して痺れを切らしていた乙女が梯子を上り始めた。
「おい!何をしているんだ!?」
「こんなところでグズグズしてても仕方ねぇだろ?とりあえず、何とか動いてみようぜ。こっちの部屋は一条が通って大丈夫だったって話だろ?まずはこっちに行く」
「待て、秋山!考えも無しに動くのは・・・・・・」
犬神が彼女を捕らえようと手を伸ばすが、今度はうまくいかなかった。乙女はスルリと犬神の手を交わし、扉の中に転がり込んだ。
「うるせぇよ。うじうじ考えるのはお前らみたいに頭のいい連中にお任せするよ。私は先に進む。罠なんてへっちゃらさ」
乙女はそう言い放つと、【BMN】とペイントされた二枚目の扉のハンドルを開き、中に突入した。
そこはまさしく黄色の部屋で、彼女は一瞬戸惑いを覚えたが、すぐに立ち直って身構えた。
部屋の中には何の反応も無い。
乙女はしばらく様子を窺っていたが、やがて拍子抜けしたように振り向いた。
背後では、扉が閉まるのを手で支えながら不安げに中を覗き込む犬神の姿が見えた。
「ほら、問題ないだろ?犬神は男のくせに度胸がねぇんだな。心配ないって。さ、みんなもこっちに来なよ」
犬神はため息をつきながら、それでもまだ慎重に部屋の中を見渡してから、ゆっくりと黄色い部屋に足を踏み入れた。
続いて、レベッカ、一条も入る。さらに、彼女たちに促されて、全員が動き出した。
まずは姫子がおそるおそる扉をくぐり、次いでベホイミが入ってくる。
白い部屋の中に残っているのは神原と南条だった。
287 :
PP×C:2006/11/20(月) 02:02:08 ID:???
「ちょっと・・・・・・貴方が先に行ってくださいませんこと?」
「僕は皆さんの後からついていくだけですよ・・・・・・ここはレディファーストということで貴女にお譲りします。一応全員の尻を守ることもしなければなりませんし」
「まぁ、尻ですって!何てお下劣な」
「逃げ出すときは前の方がいいでしょう?それとも、南条さんが身を呈して僕たちの背後を守ってくれると仰るのですか?」
「・・・・・・わかりましたわよ。その代わり、後ろから変なことしたら承知しませんわよ・・・・・・私の犬神君が」
「わかりましたって・・・・・・犬神さんは貴女のボディガードか何かなのですか?」
「ボ、ボディガード・・・・・・そ、それは(脳内会議?)」
「南条さん、早く来るっス!」通路から顔を出したベホイミが大声で呼びかけた。
南条は顔を真っ赤にしながら駆け出し、梯子を攀じ登った。
神原はため息をついて、その後からついていった。
黄色い部屋の中ではレベッカが手帳と鉛筆を手にして、早速部屋の配列とアルファベットとの規則性をはじき出すために計算を始めていた。
一条は壁面の扉を開け、先刻行った赤い部屋の中を確かめたり、そのほかの部屋の様子を通路の中から遠目で眺めていたりした。
犬神はやってきたベホイミと今後の方策について話し合っていた。
姫子はレベッカの計算の邪魔にならないように、その傍に震えながら座り込んでいた。
乙女は手持ち無沙汰に部屋の中を行ったり来たりしていた。
南条が扉を開け、小動物のように怯えた様子で黄色い部屋の内部を窺う。
既に先発の六人は思い思いに部屋の中を動き回り、確かに安全な様子ではあった。
後ろから神原が梯子を上ってくる音が聞こえる。
南条は意を決して扉をくぐり、梯子を下る。
徐々に不気味な黄色に輝く床が足下に迫り、彼女は一時的な安堵の念を覚えた。
その瞬間だった。
突然、聞きなれない、不快な金属音が部屋の中に響き渡る。
(キュイィィィィン・・・・・・)
部屋の中にいた全員が顔を見合わせる。
外で別の部屋が動く音などではない。これは、明らかに何かが部屋の中で起ころうとしている音である。
「南条さん、すぐに戻ってください!」
最初に声をあげたのは一条だった。
余りに突然のことでどうしたらいいのかわからずに混乱した南条は、梯子の前で硬直してしまった。
288 :
PP×C:2006/11/20(月) 02:04:08 ID:???
「南条ッ!」
犬神が駆けつけ、全く動けなくなってしまった南条の身体を抱きかかえ、梯子の上に寄せる。
通路の中にいた神原が南条の身体を受け止め、すぐに通路の中に彼女の身体を引き寄せる。
続いて犬神は全員を扉に誘導し、すぐに梯子を上るように促した。
一条はレベッカと姫子をすぐに立ち上がらせ、扉に向かわせる。
二人は脇目も振らず、犬神が手招く扉に駆け寄る。
一条は二人が梯子を上る背後を守りながら、驚くべき光景を目にした。
部屋の構造を支持していたチタン合金のフレームの中央部が開口し、中から何かが迫り出してくる。
部屋中のフレームが一斉に開き、その何かは室内を取り巻くようにして顔を出す。
一条は余りに異様な光景に、我を失って見入ってしまっていた。
「一条!」
犬神が叫んだときにはもう手遅れだった。
フレームの中に収納されていた何かは筒状のバルブで、そこからスプリンクラーのように得体の知れない液体が強烈に噴射される。
犬神は噴霧によって一瞬にして消失してしまった一条の姿を見つけることが出来なかった。
彼は、慌てて梯子を上り、すぐに扉を閉めた。
扉の向こうで、死のシャワーの音がする・・・・・・
「あ・・・・・・」
犬神は自分のズボンの端を見て声を上げた。
右足の布地が膝下までなくなっている。正確に言えば、溶けてしまっている。
次に犬神は肌を突き刺すような痛みに襲われた。
「つっ・・・・・・」
「大丈夫か、犬神!?」
白い部屋に戻ったレベッカが向こうから声を掛ける。
「一条がやられた・・・・・・くっ・・・・・・これは・・・・・・酸のシャワーだ」
ドロドロに溶けた衣服の破片を振り払いながら、焼け爛れた足を必死に拭う犬神。
「嘘・・・・・・だろ・・・・・・一条が・・・・・・」レベッカは焦点を失った目で茫然とする。
「罠があったんだ・・・・・・この部屋にも・・・・・・しかし何故?」
犬神は右足を押さえながら、ようやく通路を這い出した。
289 :
PP×C:2006/11/20(月) 02:04:46 ID:???
今回はここまでです。
GJ!い…一条さーんorz
犬神の足が・・・・
GJGJです。
面白いですこれ。
南条たん・・・
293 :
マロン名無しさん:2006/11/22(水) 00:27:35 ID:PDwmbk38
あげ
294 :
マロン名無しさん:2006/11/22(水) 19:08:16 ID:xAsNohxc
まげ
295 :
マロン名無しさん:2006/11/22(水) 23:54:59 ID:BkWOSswp
らげ
鬱ぽに独白シリーズの人でつ。
今回はちょっとパクり風味でつが、元ネタは多分すぐわかりますよねw
<メディアの独白>
『犬』という言葉を聞くと、昔の私を思い出します。
かつて、『猟犬』と呼ばれていた私を。
あの頃の私は、信じていました。
いつか来る、革命の夜明けを。
信念の下、民衆を苦しめる腐った政治家や反革命思想の豚どもを
何人、この手にかけたかわかりません。
でも私はある時、知ってしまいました。
私は、革命の戦士どころか、マフィアとコカイン市場を守る
只の『番犬』に過ぎなかったのです。
私はずっと知りませんでしたが、私の組織は、民衆の解放を
叫ぶ一方で、秘密裏に麻薬カルテルと手を組んでいたのです。
「無邪気な理想だけでは革命は成しえない」、それが彼らの
言い分でした。
そう言いながら、彼らは魂を売ってしまった、そうとしか
私には思えませんでした。
297 :
296:2006/11/23(木) 01:12:00 ID:???
私の手は、民衆を苦しめる豚どもの血ではなく、守るべき民衆の
血に染まっていたのです。
私がいつも手袋を嵌めているのは、その民衆の血が染み込んだ
醜い両手を、人目に晒したくないからなのですよ。
組織を抜けた私は、国家のみならず、組織にも追われる身と
なりました。
『猟犬』が追われるなんて、冗談にもなりませんね。
そんな私を、教授は使用人として匿ってくださいました。
今の平穏な生活はもちろん、永遠とは思えませんが、
こんな安らかな生活を与えてくれた教授には、感謝しても
しすぎることはありません。
だからこそ、教授が命がけで守ろうとしている宮本先生を
私は守りぬかねばなりません。
『敵』がどこの誰で、何が目的かはわかりませんが、
それだけは確かなことでしょう。
聖者のために施しを、死者のためには花束を。
正義のために剣を持ち、悪漢どもには死の制裁を。
しかして我ら、聖者の列に加わらん。
元ネタわからん
ブラクラだね
戦うメイドが出てくる漫画
話自体は微妙な作品
ああ、今アニメでやってるあれか。
301 :
296:2006/11/23(木) 19:18:54 ID:???
>299
あたり。
なんか似たものを感じたものでw
>>299 額でタバコ吸うコツ、教えてやろうか?
アレが好きなヤシもいるってこと、忘れない方がいいぜ。
303 :
PP×C:2006/11/24(金) 01:25:21 ID:???
<パート5>
犬神の足は皮膚を少し焼いただけで、歩くのには支障が無いくらいの怪我だった。
酸の力が弱かったのと、長ズボンを穿いていたのが幸いした。
しかし酸の噴射を全身から直に受けた一条は・・・・・・?
「一条は・・・・・・本当に死んだのか・・・・・・」
レベッカが肩を震わせて犬神の方を見遣る。
犬神は目を背け、かわりに先刻出てきた扉を見つめながら答えた。
「確かめてみたらどうです?尤も、私にはとてもそんな勇気はありませんが」
「そんな・・・・・・」
レベッカは力なく座り込んだ。他の誰もが沈黙したまま、俯いていた。
「わ、私のせいではありませんわよ!」突然、南条が声を上げた。
「私は一条さんが安全だと言うから入っただけで・・・・・・何も触っていないし、何もしていませんわ」
「しかし」犬神は鋭い眼差しで南条を睨みつける。その瞳の冷たさに、傍で見ていたレベッカは恐怖を覚えた。
「南条が入った瞬間罠が動き出した。優麻の時と同じだ。何人目かが入った瞬間、センサーが起動したんだろう。違うか、ベホイミ?」
「犬神君の言う通りっス・・・・・・きっと、たくさんの人数で入ったからセンサーが動いたんでしょう。一条さんが一人で通ったときには起動しなかったのですから」
「弱ったな・・・・・・センサーが何人を閾値に指定しているかわからないとどうしようもない」
「それなら」と、乙女は言う。
「一人ずつ行くというのは?一人が部屋に入って、扉に到達するまでの間、次の人間は前の扉で待っている・・・・・・これなら罠は動かないんじゃないのか?」
「センサーの種類は多種多様であると言ったでしょう?乙女さんは知らないかもしれませんけどね、これまで私たちが出くわした部屋の中には、一人目が入ろうとした瞬間に罠が動き出したところもあるんですよ。必ずしも人数だけが要因で罠が発動するわけではないんです」
ベホイミは眼鏡をかけ直しながら言う。
ふと横を見ると、レベッカが座り込んでまた手帳を片手に何かを考え込んでいる。そして、姫子がその後ろから手帳を覗き込んでいる。
304 :
PP×C:2006/11/24(金) 01:27:19 ID:???
「きっと何か・・・・・・何か規則性があるはずだ・・・・・・部屋の位置も、罠の仕組みも・・・・・・でなければ納得が出来ない」
レベッカは必死にアルファベットを書き連ね、その値の変化の仕方に特定の数式を適用しようとする作業を続けていた。
そして、考えに詰まる度に腕時計に視線を落とした。これが彼女の気を落ち着ける方法なのだろうか。
「ねぇ、ベッキー」姫子が後ろから、小さな声で話しかける。
「うるさい。今考え事をしているんだ・・・・・・後にしてくれ」
「えっと・・・・・・あの・・・・・・ひょっとしたら私、わかっちゃったカモ」
「ハァ?何が?」
「あのね、その・・・・・・罠のある部屋とそうでない部屋・・・・・・というか、罠が動く条件・・・・・・みたいなのカナ?」
「アホ言え。お前にわかるわけが・・・・・・とりあえず聞かせてみろ」
「罠の動いた部屋のアルファベットは?」
「【BKH】、【BKY】、それに今の【BMN】だ。これがどうした?」
「確か、【BKY】は優麻ちゃんが入った瞬間に罠が発動したんだよね?」
「そう聞いた。そうだったんだろう?」
レベッカは苛々したように答える。そして、神経質に時計を盗み見る。時間の無駄だと言わんばかりに。
「それで、【BMN】は南条さんが入った瞬間に発動・・・・・・何かわからないカナ?」
「あ!まさか・・・・・・」
「そうダヨ。三文字のアルファベットのうち、二文字でイニシャルが含まれる人が発動の条件になるんじゃないカナ?
KとYで柏木優麻、MとNで南条操、KとHで神原宙、それから私・・・・・・つまり、罠はどの部屋にも存在するんだけど、それを起動させるのは表示と同じイニシャルを持った人なんじゃないカナ?」
「しかし、それだと」レベッカは最初の一文字"B"にアンダーラインを引いた。
「ベホイミはどうなる?あいつはイニシャルが一つしかないし、それにこのあたりの部屋は全部Bが含まれている。何故ベホイミで発動しない?」
「それは簡単な話っス」
会話を聞いていたベホイミが二人の元に歩み寄り、眼鏡の奥から見下ろした。
「私の名前・・・・・・ベホイミというのは偽名だからっス」
その時、再び部屋が激しく揺れ、この白い部屋【BVV】は動き出した。
そして、長い長い揺れの後、部屋は再び沈黙した。
あの恐ろしい黄色の部屋、一条の命を奪った【BMN】はもう扉の向こうには無い。
305 :
PP×C:2006/11/24(金) 01:29:16 ID:???
<パート6>
「な・・・・・・偽名だって?何を言っているんだ、お前は?」
揺れが収まり、部屋が固定された後、レベッカは話を続けた。
「・・・・・・ひょっとしたら、ベホイミ、お前、この空間について何か知っているんじゃないか?」
レベッカはベホイミのかつて無い表情を機敏に読み取り、ふとした憶測を口に出してみた。
果たしてそれは当たった。しかし予想もつかない形で。
「私自身は知りません。しかし、ここにいる全員が、何かを知っていることを知っているという話っス」
「どういうことだ?」
レベッカの問いかけに対し、ベホイミは全員を見渡しながら大声で怒鳴りたてた。
「皆、そろそろ本当のことを話すんだ!ここにいる全員が、この空間に閉じ込められたことは偶然ではないはずだ!
もし再び生きてここから出たいというのなら、全員の力をあわせる必要があるだろう!?そのためには、知っていることを話して欲しいっス!」
「だったら」乙女が噛み付く。
「お前から話せよ、ベホイミ。お前は何者なんだ?」
「いいでしょう、お話します・・・・・・私の正体はアメリカの某大手設備企業の外交調査員です。他の企業組織の内部構造やその製品の企業秘密を探り出し、本社に報告する・・・・・・ま、簡単に言ってしまえば産業スパイのようなものっス。
私が日本に来た目的は南条テクノロジー、つまり、南条さんの一族が囲っている設備企業の一つの実態を調べるために潜入したわけっス」
「唐突だな、おい・・・・・・」とレベッカ。
「ここ最近、南条テクノロジーはあらゆる外注文を拒否し、親会社である南条インスツルメントからの依頼しか受け付けていないと聞き、不審に思った私の雇い主が私をここに送り込んだというわけです・・・・・・しかし、まさかこんなものを作っていたとは」
「ちょっと待て!・・・・・・と、いうことはこのわけのわからない部屋は南条の企業が作ったというのか?」
レベッカはベホイミを一瞥し、その後、視線を南条に移した。
南条は項垂れたまま何も言わなかった。ベホイミは続けた。
「私の予想ではそうです・・・・・・尤も、私も調査の最中に眠らされて、気がついたらこの"キューブ"の中にいたので、断定は出来ませんが」
306 :
PP×C:2006/11/24(金) 01:33:34 ID:???
「キューブ?」
「この部屋は両サイドの通路分も含め、一辺が6メートル弱の正六面体です。それがいくつもいくつも積み重なり、時々それが動いて構造を変化させる、奇妙奇天烈な建造物ですよ」
「何だってそんなものを作る必要があったんだ・・・・・・?そもそも、ここはどこだ?」
「これは私の推理なんですが・・・・・・おそらくは地下だと思われます」
「その根拠は?」
「部屋そのものは密閉状態に近いのでかなり蒸し暑いのですが・・・・・・扉を開けてみるっス・・・・・・ほら、部屋同士を接続するキャットウォークの中は涼しいでしょう?
これは外の冷気が接合部の隙間から漏れているためでしょう。部屋の外部気温はかなり低いものかと思われます・・・・・・地下に空洞を作ってそこにこの仕掛けを組み立てたのではないでしょうか?」
言い終わるか否かのうちに、遠くの方で部屋の動く音がした。
一条の説を採り、ひとつひとつの部屋の移動音は聞こえないとすれば、一度に部屋の群集が動く音だったが、だからといって先刻のような「大きな」音には及ばない、中規模の音だった。
「ベホイミちゃんの言うとおりだよ、ベッキー」
音が止み、姫子がレベッカの背後から口を挟んだ。レベッカは不審な顔つきで振り返る。
「ここは地下だと思う・・・・・・いや、地下だよ。それも桃月学園のね」
「何だって!?」
これにはレベッカ以外の人間も驚愕した。しかし、一部例外もいた。
「私ね、実は自分からここに入ったんダヨ・・・・・・学校のウサギ小屋・・・・・・あそこに秘密の階段を見つけたんだ。ほんの偶然、たまたま見つけちゃったんだ。それで、興味本位で地下に下りていったら、エレベーターがあって。
それに乗ってさらに深く深く下っていくと箱型の部屋があって・・・・・・そこに入ったんだ。何が何だかわからなくて、でも面白そうだったから、どんどん先に進んでいって・・・・・・気がついたら戻れなくなっていたの」
「アホめ・・・・・・」レベッカは舌打ちした。姫子は泣きそうな顔つきをする。
307 :
PP×C:2006/11/24(金) 01:35:56 ID:???
「でもね!ちゃんと覚えているよ、私が最初に入った箱型の部屋の番号。"GGG"だった。間違いないよ。何かロボットアニメに出てきそうな文字列だったから印象に残っているんだよ」
レベッカはため息をついた。しかし同時に、彼女は出口の部屋のナンバーを得ることが出来たために大喜びで姫子を褒めてやりたい気持ちにもなった。無論、そんな真似はしないが。
「他の面々はどうなんスか?」と、ベホイミは眼光をとばす。
「わかった。私も言おう」犬神が諦めたように表情を落ち着けて話し始める。
「私は橘玲に唆されたんです。彼女、どうもこの桃月学園の地下に何かがあることを嗅ぎ付けていたようで・・・・・・私はいやだと言ったんですが、彼女がどうしてもと言うから仕方なく地下へ通じる入り口とやらを探すのを手伝ったんです。
・・・・・・結果ですか?見つかりませんでしたよ。まさかウサギ小屋の中に秘密の階段があっただなんて、今聞かされるまで全く想像もしていませんでしたよ。
あの魔女の橘に見つけられなかった入り口を見つけることが出来ただなんて、君の鼻は大したものだよ、片桐。
その後、橘と手分けして探していたんですが中庭の辺りで急に眩暈に襲われて・・・・・・気がついたらここにいたというわけです。
誰がここまで私を運んできたのかはわかりません。しかし、誰かがそれをしたのは確かです・・・・・・私の身に思い当たるのはそこまでです」
「なるほど。わかったっス。次は乙女さん。貴女はどうしてここに?」
「私は・・・・・・その・・・・・・たぶん綿貫のせいだと思う。おそらく玲に唆されたのは犬神だけじゃなく、綿貫もそうだったんだろうと思う。
鈴音と一緒に帰ろうと思っていたら、あいつが、昇降口にやってきて地下神殿がどうとかこうとかいう話をしたんだ。
私も鈴音もいつもの与太話だろうと相手にしなかったんだが、いつにも増して気合を入れて話をするもんだから・・・・・・まさか本当にそんなものがあっただなんて」
「綿貫さんの話した内容・・・・・・覚えていますか?」ベホイミが訊ねる。
「悪いが、さっぱり。興味が無かったんでな。でも、きっとあいつの話した内容の中に何か重要な秘密が入っていたんだと思う。
それを誰かが盗み聞きしていて・・・・・・だから私を・・・・・・ちょっと待てよ。
と、いうことはそれを私に話した綿貫と、その場に居合わせた鈴音も・・・・・・」
308 :
PP×C:2006/11/24(金) 01:39:54 ID:???
「この建物のどこかを彷徨っている可能性は大いにありますね。しかし、残念ながら合流するのは難しいでしょう。私たちがここにこうして一緒にいられることも奇跡に近いと思えますので。
それで・・・・・・南条さんはどうなんスか?何故製作元の企業主のご令嬢がこんな危険な機械の中に放り込まれる羽目になったんスか?」
「それは・・・・・・これはおそらく私のために作られたものだからですわ」
「どれはどういう意味です?」
「今度の誕生日にね――お父さまが約束してくださったのですの――私に動物たちの檻を下さるって。私の飼っている多種多様な動物たちのために、それぞれに専用の檻を。
きっとこれは私のお願いを聞いて作られた、動物の飼育管理システムですわ」
「何てことだ・・・・・・じゃあ、私たちは動物の代わりに道楽の私設動物園の檻に閉じ込められたわけだ。
こいつは傑作っス。ハハハ・・・・・・でもそれなら、何故あんな罠が張り巡らされている?何故私たちを閉じ込める必要があった?何故アンタまで一緒にこの中にいる?」
「わかりません!わかりませんわ!ひょっとしたら何かの手違いかもしれないし・・・・・・それか私の考えが間違っているのかもしれないし」
「人が死んでいるんだぞ!既にわかっているだけでも二人も!手違い?ふざけるな!人を檻に閉じ込めて、生殺しのつもりか!何て連中だ!」
「落ち着け、ベホイミ・・・・・・南条を責めても仕方がないだろう」
レベッカは静かに言った。ベホイミは踏み出した足を戻し、深呼吸して気を落ち着けた。南条はべホイミの気迫に圧倒され、泣き出していた。
「とりあえず、そういった話はここを出てからだ。それまでは各自、ここから脱出することだけを考えろ・・・・・・犬神、すまないが南条を慰めてやってくれ」
「・・・・・・わかりました」
犬神は涙を滴らせ、嗚咽を溢す南条の肩に手をかけた。南条のすすり泣きは一向に収まらなかった。ベホイミは敢えて彼女から目を背けるようにして、最後の人物に視線を移した。
「ラストはアンタっス。神原とか言いましたね?アンタは何か知っていることがあるんスか?」
神原は一度視線を落とし、しばらく考え込んでいたがやがて顔を上げた。
「そうですね・・・・・・敢えて言うなら、僕はベホイミさんと同じ種類の人間だということですよ」
神原はそう言うと、意味ありげに微笑み、鼻の上のサングラスをおもむろに掛け直した。
309 :
PP×C:2006/11/24(金) 01:40:39 ID:???
ここまで。
GJです!!
お も す れ ー
これは続きが気になりますねえ・・・
312 :
もしも続き:2006/11/25(土) 08:02:00 ID:???
桃瀬修死亡事故現場――
「お前さー、死後の世界ってあると思う?」
ベホイミが唐突にこんなことを言った。
「ああ、入射角の計算は大体終わりましたよ」
「人の話を聞け」
話を流して事故現場の調査を続けるメディアにベホイミが言った。
「クリスチャンネームは持ってますけど……信仰心には自信ありませんね」
「死んだ人間の願いは生きている人間の幸福だ、ってよく聞くけど、
確かにあの人、修さんならそう思ってても不思議じゃないけど、そういうもんなのかなーってさ。
修さんがもし、今の私たちを見ていたら、どう思うかなーってさ、気になったんだよ」
ベホイミはメディアの目を見つめて言った。
「いまさらこんなこと言うのはおこがましいというか恥ずかしいというかだけど、
人が死ぬってのは大変なこと、なんだよな。
私は戦場でとはいえ何人も殺したし、私の知らないところで何人か殺されてるかもしれない、私の作った爆弾で」
「……そういうの、考えない方がいいですよ」
メディアが言った。
「わけのわかんないことばっかり言って悪いな」
「いいえ」
「D組は、今頃忙しくしてるんだろうなぁ」
「ええ、桃瀬さんの死後、彼の担当していた仕事が他の部署へと回されましたからね」
――桃月学園1年D組教室
「晶ちゃん、学級日誌いまどこにあるかわかる?」
チカが宮田晶に言う。
「あー、今日は伴くんの番のはずですけど……」
「オッケー! ずいぶん慣れてきたみたいじゃん」
「最近、しっかりしてきたよね〜」
ユカが言う。
「伴、ベホイミちゃんを最近見かけないんだけど、知らないかい?」
「ああ、ベホイミならここんとこメディアさんと連れ立っているな。キャッチボールでもしてるんじゃないか?」
磯部と伴がスチールウールなど清掃用具の補充をしながら話をしていた。
313 :
もしも続き:2006/11/25(土) 08:04:35 ID:???
「私たち、こんな所にいる場合じゃあないんだよなぁ……」
ベホイミは言った。
「ええ、生徒会業務再編で、力仕事や雑務は山ほどありますからね」
いつしか2人は最寄の公園のベンチに腰掛けていた。
「警察の発表では、完全に不幸な事故、だったんだよなぁ……」
「ええ、不審な点も、この件に関しての警察内、桃月区内の不穏な動きも一切ありませんし、
修さんの死が事故であることは間違いないでしょう」
「なんで、私たちは、こんな無駄なことをしているんだろうなぁ……」
2人の間にしばらく沈黙が流れた。そして、メディアが口を開いた。
「私の恩人は、世間ずれしていた私に、笑っていれば友達は出来るよ、と言ってくださいました。
でも、どうやって友達と付き合っていけばよいかは教えてくれませんでした……」
脈絡の無い話だったが、ベホイミはとがめなかった。
「私は、魔法少女になりたかった。困っている人を助けて、心の苦しみを癒して、
達成感を得て、自分自身も救われたかった」
ベホイミも唐突に言った。
「お前と、こんな風に深く突っ込んだ話をするのは初めてだな」
「私は教授以外ではあなたが初めてですけど……ベホイミちゃんは?」
「私は……お前が初めてだよ。私の過去はろくなもんじゃない。
それこそ変身ヒーローでもいないと救われないような修羅の道だ。誰にそんな話が出来る?」
「つまり、他人ということですね? D組の人たちも、その他の人たちも、今までの私も」
「……そうなるよなぁ」
ベホイミは意味もなく立ち上がり、大きく伸びをしてまた座った。
「きっと、いたたまれないんだと思う。
何かしていた方が気が楽なんだけど、あの人たちと一緒に作業をすると、
否が応でも向き合わないといけないから。悲しみと。あの人たちの方が私よりも悲しんでいるわけだし」
「私たちよりもよっぽど桃瀬修さんと関係が深いですからね。特に――犬神さんは」
「ああ」
犬神はその性格上、悲しみを表立って表すような人間ではないが、
幼馴染であり親友でもある修の死を、悲しまないわけではなかった。
戦場という非常の場で、人の呼吸を感じ取って生き延びてきた2人には、つとにそれが感じられ、
D組の教室にいるだけで空気の重さを感じ、引きずられて気が沈むのだった。
314 :
もしも続き:2006/11/25(土) 08:06:06 ID:???
「私さ、日本のアニメで、魔法少女を知ってさ、これは素敵だって、思った。
私も、魔法少女になって世界中の人たちを助けられたらって、思ったんだ。
でもそれは博愛とかじゃなく、同情ですらなく、気楽だからなんだな。
だって、魔法少女は無償で人助けをするだろう? 変な使命感もってさ。
私だって、タダで見知らぬ人間のために働くなんてバカみたいだって、内心では思ってた。
でも、違うんだな。匿名で、見知らぬ人のために働いて、一時だけ歓声を浴びるって、最高にうまいやり方なんだよ。
だってさ、顔を知ってる、親しい人間って、どうしても生活臭とか俗なイメージが沸くし、
いつもいつも感謝とか、いい面ばかり見ていられないし、見てもらえないだろ?
かっこ悪いところも見ちゃうし、見られちゃう。
お互いに嫌なところもいいところもわきまえて付き合わなくちゃいけない。
泣きたい時も怒ってる時も、そういう感情を全部見せてしまう。
それって、いくら時には助けてもらえるとしても、タダ働きなんかよりもよっぽど苦行なんだよな。
私はそれが嫌だったんだ。だから友達はできても友達づきあいは出来ない」
メディアは答えない。が、合わせた視線ははずさない。
「普段から魔法少女の格好をしてたとき、C組の姫子さんに『今どき癒し系で魔法少女はオメガダサい』って言われた。
それが原因で何度かイメチェンして、けっきょく今のこの格好で落ち着いてる。
何でそうしたんだろう? ただダサいって言われただけで、私は何をやってるんだろう?
そう思わなくはなかった。軍隊にいたころはもっとキツい事を何度も言われても平気だったのに」
「自分が冗談を言ってもらえるほど他人から近しい人間だとは信じられなかった」
「そうだ。私はいつも必死だった。友達なら、ふざけたり喧嘩したりする。
姫子さんの言葉が気に入らないなら、素直に怒ればよかったし、
本当に魔法少女やりたいんなら流せばよかったんだ。そんな言葉。
でもダメだった。言葉が全身に突き刺さるような感じで、今でこそ魔法少女の服を着られるけど、
姫子さんにそう言われた当時は、刺すような視線を感じた。完全な思い込みで。
……ウサギ小屋にこもったりなんかもしたっけな……」
ベホイミは一瞬昔を懐かしむような目をしたが、すぐに真剣な目に戻った。
315 :
もしも続き:2006/11/25(土) 08:07:29 ID:???
「私が転入してきたのは、そのころでしたっけ?」
「そうなるな」
「でも、ベホイミちゃんは幸せそうに見えましたよ?」
「みんな、いい人たちだったからな。でも私が私に向けられた好意の、
その半分でもみんなにお返しが出来たか? と聞かれたらイエスとは言えない。
本当に修さんはすごい人だったんだなー、って思うのは、
あの人、面倒見はいいし優しいけど、怒るときは怒ってしかも適切なんだ」
「私たちは少し生きるのが下手、なのかもしれませんね」
「でもそれは言い訳にはなってもまっとうな理由にはならない。甘えてるだけだ」
「甘えるのは、いけませんか?」
「……友達どうしなら、そういうのもアリかもな。でも、私はそういうの、嫌なんだ……」
「癒し系魔法少女を目指していたのに?」
「人に対して私が求めていることと、私が私に求めていることは別だ。
人が私に助けを求めるのはいいけど、私は出来る限り自立した人間でありたい」
「ふふふ、本当にこんな話をするの、初めてですよね。
この街の誰よりも見知った時間は長いはずなのに、お互い」
「……だな。付き合いは長いはずなのに、今まで何をやっていたんだろうな?」
「やっと話し合える対等の立場になれたんだって、素直に喜びましょうよ」
「思えば、何の気兼ねも無く、本気で腹立ちまぎれの言葉をぶつけられるの、お前ぐらいなのにな。
何で今まで気づかなかったんだろう? 私に友達がいるんだとすれば、それはきっとお前のことだったって」
「当たり前のことには人間気づかないものですよ。たとえば空気のありがたみとか」
「……ふっ、悪い、ちょっと待っててくれ」
そう言ってベホイミはどこかへ行ってしまったが、しばらくすると戻ってきた。その手にはアネモネの花があった。
そして2人は再び修の事故現場へ向かった。
「一輪の花でも、一応の手向けにはなるだろう」
「予算もありませんしね」
「言うなよ」
2人は、しばらくその場で黙祷をした。
「では、皆さんのお手伝いをしに行きましょうか?」
「ああ、私はその前にやらなきゃいけない事があるから、お前、先にD組へ行っていてくれ」
そして2人は桃月学園へ戻っていった。
316 :
もしも続き:2006/11/25(土) 08:10:59 ID:???
「いいの? ベホイミちゃん」
「ええ、お願いします」
優麻は、いきなりやって来て魔法少女の服を着たいと言うベホイミに困惑しつつも、
手馴れた手つきで着付けをしてくれた。
「堂々と着て歩くのは、久しぶりかもしれないな」
ベホイミはメイド喫茶での犬神、南条の幸せなひとときを思い出した。
アパートでの一悶着も思い出したが、今の彼女にはそれすらもよい思い出だった。
「似合うわよ、ベホイミちゃん。お世辞じゃなしに。今のあなたなら、立派に魔法少女として通用するかもね」
優麻は晴れやかな顔のベホイミを見て、素直にまぶしいと感じた。
「メディアさん? 最近見なかったけどどうしてたんですか?」
メディアがD組へ戻ると、誰かが声をかけてきた。宮田晶だった。
2人は誰にも言わずに修の死亡事故の現場検証に行っていたので、他の生徒には不在を不思議に思われていた。
「傷心旅行……ですかね?」
「そうなの? さっきはとても嬉しそうに笑っていたのに……」
「嬉しそう?」
「うん」
晶の嘘偽りない言葉―そもそも晶は嘘を言わない―を聞いてメディアは思った。
(……教授、私は今まで、社交辞令としてしか笑うことが出来ませんでしたが、
これからは心から笑うことが出来るようになるかもしれません。
これもあなたに出会って以来の、天のめぐり合わせのおかげです。感謝します)
――C組教室
「姫子さん!」
「ちょ……ベホイミちゃんどうしたの? いきなり叫ぶから6号さんがびっくりしちゃってるよ?」
「いつか、姫子さんは言ったっスよね? 『癒し系で魔法少女なんてオメガダサい』って。
でも私はやっぱり魔法少女が好きで、だから今日から魔法少女として出直すっス!」
「私そんな事言ったっけ? そんなことよりさー、ベホイミちゃんはデスティニーとサモンナイト4どっち買うの?」
「うぼー」
ひとつの区切りをつけられたとはいえ、ベホイミの姫子に対する認識はまだまだ浅かった。
デスティニーってテイルズか。連合vsZAFT2かと思った。
>>317 俺もだwそっちなら買うぞww
と、そんな事は置いておいて…
>>316 乙、GJ。
メディアとベホイミの絡み、良いですね。
<ルートV パート6>
≪九組目 北関東ツッパリ連合≫
「俺たちは北関東ツッパリ連合!日本中の番長を倒して日本最大の連合にするのが夢!夜露死苦!」
「俺は山田太一!桃月学園の最凶のスケ番、上原都のアネキが海外遠征しているって話を聞いたんで、全員で揃ってエールを送りに来たぜ!
たった一人で本場のヤンキーと渡り合うとは、さすがだぜ、都のアネキはよぉ!
俺たちぁ感動して涙がちょちょぎれる思いだぜ!
アネキ、日本に戻ってきたら俺らの連合に入らねぇかい?
桃月学園からは外人先生に次いで二人目だ!大歓迎するぜ!イエーイ」
「おい、太一!高田が何か言いたいことがあるみたいだぜ!」
「おぉ!高田、何だ!?前に出て言ってみろ!」
「オイッス!俺様は・・・・・・いえ、自分は高田というものであります!
桃月学園には二度ほど殴りこみかけた切込み隊長であります!
そして、二度目の侵攻で自分は無残にも都のアネキの飛び蹴りで敗れました!
あんなすげぇキック、生まれて初めて受けました!感動しました!アネキ、あんたは最高だ!
俺はあんたに惚れました!(ヒューヒュー)これが一目惚れって奴ですか!?
自分はアネキの蹴りとガッツにもうメロメロです!
アネキ、海外の不良たちを纏め上げた暁には、また日本に戻ってきてください!
そして、俺と付き合ってください!(よ、いいぞぉー、伊達男ぉーっ!憎いねぇ、このヤロー!)
アネキ、好きです!こんな気持ちは初めてです!畜生、告っちまったぜ!(よくやったぞ!)」
「・・・・・・と、いうわけなんでさぁ。都のアネキ、みんなあんたのお早い帰還を心待ちにしています。
早く戻ってきてくださいよ。そんなわけで、北関東ツッパリ連合と都のアネキに栄光あれ!」
≪十人目 犬神つるぎ≫
「・・・・・・おい、今の連中は何だったんだ?あ?もうカメラは回っているのか?わかった。
あー・・・・・・私だ。犬神だ。上原、順調にやっているか。こっちは順調だ。万事順調、平和そのものだ。
お前が居なくなってもう何ヶ月くらい経つんだ?月日の流れるのがこんなにはやいものだとは思わなかったよ。
私からは特に言うこともない気がするが・・・・・・まぁ、少しお前の存在が懐かしく思えることがないこともない。
いや、別に深い意味はない。ただ、昔からの仲だから少しばかり情があるというのか・・・・・・久しく顔を見ていないままだから感傷的になっているだけかもしれないな。
すまん、何か不快にさせるようなことを言ってしまっているのなら忘れてくれ。
こういうのは慣れていないんだ・・・・・・聞いてくれ。
この地球上のどこか別のところで生きているお前は、確かにここにはいない。
しかし、私たちの中には、常にもう一人のお前が生き続けている。上原都という存在がお前として生きているのと同様に、私たち個々人の中で、上原都はそれぞれ生きている。
生きている上原都は、決して一人ではない。そして、それは人と人の繋がりがあるところ全く逆のことがその数だけ存在する。
わかりづらい説明ですまないが・・・・・・つまり、人間は常に独りではないし、決して独りではいられないものなのだ。
だから、上原、私はお前が近くにいなくても寂しくないし、それはお前の友達皆もそれぞれに気がついている。
お前だってそうだ。上原、こんなことを言うのは私らしくないかもしれないが・・・・・・私たちは常にお前のそばにいる。
だから決して寂しがることなんかはないんだ。
以上だ。くだらないことを言ってしまったかな・・・・・・?」
玲はカメラを止めるように指示した。その直後、部屋の中に綿貫が飛び込んできた。
「ちょっと、玲!宮本先生見つけたわよ!」
「どこで?」
「今ね、職員室で・・・・・・何か刑事さんみたいなのが二人、一緒に話している」
「刑事?」
「うん・・・・・・一人は外人だったよ!何だろうね、あれ」
玲はいつの間にか眠りに陥っていた姫子を揺り起こし、二人で職員室に向かうことにした。
<ルートM パート6>
都はいやな予感に襲われた。それは普段から彼女自身が'精霊の声'であると言ってきた、あの不思議な警告の言葉である。
ここ最近は彼女自身の動きも大きくなり、この声が以前にも増して多くの警告を彼女に与えている。
そして、声に従い身を移したその直後、間一髪のところで彼女に危機を及ぼすような一閃が振るわれるのである。
そうしてたくさんの修羅場を彼女は潜り抜けてきた。
そして今、再びその声が彼女に警告を発する。都は薄暗い部屋の中で、二人の仲間とともに取引を終えたばかりの'ブツ'の検品をしていた。
その時、急に雷に打たれたように背筋を伸ばし、霊との対話を始めたのだった。
別の二人は'例の預言'が再び始まったのだと気がつき、手を止めてその成り行きを見守った。
いつもなら、この後正気に戻った都が的確な判断を下し、その言葉に従って逃げ出したその後ろの方で当局の手入れがあったりする。
しかし、今回は長かった。何か論議しているかのようだった・・・・・・闇の宙を見つめ、常人には見えない精霊と対話するその姿は、当初こそ不気味だったが、その有用性がわかった今、神聖な儀式のようにすら思えてくる。
都が対話を終えて振り返ると、その表情は険しいものだった。
「カポ、'声'は何と・・・・・・?」男の一人が震える声で尋ねる。
「まずいことになったわ・・・・・・厄介なことが起きるみたい・・・・・・だけど、黒幕がわからない・・・・・・そいつの首根っこを捕まえないと色々と面倒になるわね・・・・・・」
「面倒?どうしたらいいんですか?」
「逃げ回るばかりじゃ仕方がないということよ」
「何か考えがおありで?」
「日本にはね、虎穴に入らずんば虎児を得ずって諺があるのよ・・・・・・時には危険を冒さないとダメなこともあるみたいだわ」
「どうなさるおつもりで・・・・・・」
男の問いに対し、都は無言のままだった。しかし、手元に置いていた銀色の拳銃から弾装と弾丸を取り出して、彼に手渡すとそのまま立ち上がった。
「カポ・デコ!まさか・・・・・・」
「チンピラを釣り上げて黒幕を吐かせる・・・・・・あんたたちはいい頃合で介入してね。そんじゃ、よろしく」
都は眼鏡の奥で穏やかな笑みを湛え、外に出て行った。
そして、男たちが窓から見守る中、彼女は往来の果てから疾走してきたメタリックのシボレー・サバーバンに行く手を塞がれ、中から飛び出してきたトルコ人の一団によって車の中に押し込められた。
車はそのまま全速力で発進した。
'精霊の警告'を受けてから、あっという間の出来事だった――
――わざと捕まってみたはいいものの、都にはこれからどうしようかという明確な考えは無かった。
しかし、とりあえず彼らの目的を探り出し、その背後にいる黒幕の正体を明かしてやらねばならない。
'精霊'の警告は、この不逞なトルコ人たちではなく、彼らを操る危険な人物を強く指名していた。
トルコ人たちの人数は五人。前に座っている二人と、彼女を後部座席に押し付けているティーンエージャーの三人とは明らかに種類が違う。
おそらく前の二人が黒幕から指令を受けた実行犯の司令で、息の臭いガキどもは何も知らないゴロツキの兵隊アリだろう・・・・・・都は気付かれないように後ろを確認した。
見覚えのあるフィアットがぴったりとくっついてくる。それが自分の配下であることはすぐにわかったが、トルコ人たちは全く気がついていない様子だった。
このフロントシートの二人にしても、プロではないことがわかった。
やがて車は朽ち果てた工場の敷地に入り、車を下された都は彼らに連行された。
そして、床に力一杯に叩きつけられると、その場に倒れこんだ。
先ほどの三人のガキがもの欲しそうな目つきで、彼女の身体を舐め回すように眺めている。
二人組の一人が何処かに電話を掛けていた。都は様子を窺いながら、口上の演技を始めた。
「何なのよ!あなたたち、私をどうするつもりなの?」
いずれのトルコ人も答えない。
「ねぇ、何でこんなことするの?私が何をしたのよ?」
二人のトルコ人は顔を背けた。三人のガキは下卑た笑みを浮かべながら都を眺め回している。なるほど、こっちの連中はどうやらイタリア語が通じないようだ。
「変なことしたら・・・・・・承知しないわよ・・・・・・」
恐れたふりをする。不安と恐怖に怯えきった顔つき・・・・・・自然にこういう顔つきが出来るようになるにはなかなか鍛錬が必要なものである。
しばらくそういった膠着状態が続き、都は地面に腰を下したまま彼らの顔を見つめていた。が、やがて外の方から車の停まる音がした。
不思議に思ってしばらく見ていたが、案の定、黒いアルマーニ仕立てに身を包んだイタリア人が中に入ってきた。
都は彼に見覚えは無かったが、ようやくからくりの構図は見えてきた。
男はトルコ人たちに何事かを命じると、自分は懐から小さなデジタル・カメラを取り出した。
「あんた・・・・・・何者?」
都は震える声で訊ねた。イタリア人は低い物腰で会釈すると、見下ろすように視線を振り落としながら語り始めた。
「お目にかかれて光栄です・・・・・・まさかこんなに簡単に捕まってくれるとは・・・・・・いくら神童とはいえ、油断はするものじゃないですねぇ、カポ・デコ?」
「カポ・デコ?何の話?あなたは誰?何をするつもり?」
「簡単なことですよ。今から彼らがあなたをレイプします。そして、私はその様子を写真に撮る。
その写真をある人が欲しがっています・・・・・・カポ・デコの信仰は聖処女の信仰でもある・・・・・・そう仰る方がいましてね。
貴女を単に殺して殉教者にするんでは腹の虫が収まらない、カポ・デコこと聖処女ミヤコは実は娼婦だった、そういった真実の側面も一興ではないかというお達しなので。
ま、そんなわけですから、少しの間我慢してくださいね。初めては痛いですが、死ぬようなことはありませんから・・・・・・」
男はいやらしく微笑んだ。
目障りな三人のガキは、肉欲に餓えた目つきで、少女の穢れなき身体を視つめ犯していた。
「ふぅん。あっそ」
都はあっけらかんとした表情で軽く瞬きをした。
次の瞬間、イタリア人の頭が弾け飛び、頭の上の操り糸を失ったその身体は何の抗力もなくその場に倒れた。
次に茫然自失となった五人のトルコ人を襲ったのは弾丸の雨だった。
拉致の後、すぐに仲間を集めてやってきたカポ・デコの忠実なる軍隊が突入してきたのだ!
今にも都を辱めようとしていた三人の子供たちは真っ先に狙われることとなり、無知なる彼らは哀れなる哉、ギャング映画よろしくマシンガン・ダンスを彼女の目の前で踊らされる羽目になった
(後の警察当局の発表で、彼ら三人が身体に受けた弾丸は合計で58発だということだった)。
二人のトルコ人はすぐにその場に組み伏せられ、代りに偉大なるカポは彼らの手を借りて起き上がり、忠実なる配下の一人が差し出した銀色のベレッタを受け取った。
「こいつは・・・・・・」
手にドイツ製のMP7短機関銃を掲げた男が声を上げた。
彼は最初に彼が撃ち殺したアルマーニのイタリア人の亡骸をブーツの先で蹴飛ばしながら言った。
「ニンジン野郎のジョバンニ・レベリだ!タラントのカマ掘り野郎さ!」
都は乱れた髪を整え、ヘアピンを挿し直しながら訊ねた。
「何者?」
男は得意げに鼻を鳴らした。
「へい、こいつはタラントでちんけな商売をやっている犯罪者でさぁ。素人相手の強請りを専門にしているホモ・セクシュアルですぜ・・・・・・あいかわらず気色の悪い野郎だ」
「大ボスは誰かしら?」
「こいつを使う奴となると・・・・・・そうですね、ちょっと前までアルバニア・ゲートのお守りをしていたタラントのファミリーの重役幹部、ロベルト・パガーノあたりでしょう」
その途端、地面に組み伏せられていた二人のトルコ人が僅かに反応した。都はそれを見逃さなかった。
「なるほど・・・・・・どうやらそのセンで間違いないみたいね・・・・・・ロベルト・パガーノ・・・・・・どう始末するべきかしら」
「'タタキ'ですか?」別の男が口を挟んだ。
「どうかしら?・・・・・・ま、じきに挨拶もしなくちゃいけないだろうし、一応準備はしておかないとね」
都はそう言うと手にした拳銃を弄びながら出口の方にふらふらと歩いていった。
「こいつらはどうします?」
男たちの一人が都の背中に向かって問いかけた。
彼は顔を上げては命乞いをしようとするトルコ人たちの頭を、手にしたSPAS15散弾銃の銃身で交互に小突いていた。
都は拳銃を腰に戻すと、振り向くことなく静かに言った。
「好きなようにすればいいじゃない」
そして、生き残った二人のトルコ人の頭は、銃撃で粉々に吹き飛ばされた。
<ルートR パート6>
私はホテルのロビーで電話を掛け終わると、受話器を下して踵を返した。
先刻までカフェテリアにいたメディアの姿が見当たらない。一人きりで部屋に戻ったのだろうか、私はふと時計を見て、自分が思いのほか長電話していたことに気がついた。
私はカフェテリアでミルクコーヒーを飲んで一服し、主人(というわけでもないが)を置いて先に帰ったメイドに舌打ちしながら、やがて自分も立ち上がって部屋に戻ることにした。
鍵を開け、扉に手をかけて私は驚いた。室内は真っ暗だった。
すっかりメディアが中にいるものだと思っていた私は面食らってしまったが、すぐに自らの思い違いに気がつかされることになった。
扉を開けた瞬間、中から見ず知らずの男が私の手をひき、その口をもう片方の手で塞いだのだ!
「静かにしろ」
しばらくして明かりが灯った。私は羽交い絞めにされたまま、中の様子を知ることとなった。
中には他にも数人の男たちが侵入しており、その中で、メディアが後ろ手に縛られて椅子の上に座らされていることに気がついた。
彼女は、頭から血を流していた。
「(メディア!)」
私は無言で叫んだ。メディアは力なく頭を上げ、私を真っ直ぐ見つめた。
「・・・・・・すみません、宮本先生。油断しました・・・・・・彼らが急に――」
「レベッカ宮本さん、こちらへどうぞ」
部屋の奥で男の一人が椅子を差し出した。私はようやく解放され、彼の言葉に従ってそこに腰を下した。
「宮本さん、貴女たちのことは調べさせてもらったよ。カポ・デコこと上原都のことを嗅ぎ回っているそうだね」
男は丁寧な物腰で語る。私は彼が所謂本物のマフィアであることを直感的に悟った。
「私は教師で、彼女は私の教え子だ。だから探している。他に意図するところは無い。当然あんたたちも調べが付いているんだろう?」
「もちろん。だからこうやってお邪魔したわけだ。不本意だが、メディア嬢に手荒な真似をしてしまったことはお詫びする」
「彼女を解放して怪我の手当てをしてやってくれ――メディア、大丈夫だ。彼らは私たちに危害を加えることが目的ではないようだ」
私が言うと、メディアはゆっくり頷いた。
彼女の拘束は解かれた。
「さて」
男は椅子の上で足を組み直し、私の瞳を睨みつけたまま言った。その目はまるで爬虫類のような目だった。
「我々は君が知りたい情報を提供しよう。代りに、それを聞いたらすぐにこの国を出ていただきたい。君たちは別段、大した存在ではないが、それでも縄張りの中を嗅ぎ回られるのは不愉快でね」
「私たちの存在は目障りか・・・・・・何を知っている?」
「君の知りたいこと・・・・・・もちろん、知らない方がいいことまでは教えることは出来ないが」
「いいだろう。話してくれ」
私は下唇に先刻飲んだミルクコーヒーの味を感じた。首領格の男は語りだした。
――まずはハーバー・クラブ「カーザ・シエロ・ブル」での殺人だ。何のことは無い、先代のリーダー格、プロフェソーレ(教授)の殺害はそこで殺されたジュリオ・カルドの仕業に間違いがない。
尤も、彼はまさかあの老人が裏社会の有名な密輸組織のボスだとは露ほどにも知らなかったに違いない。奴は裕福なアメリカ人を営利誘拐しようと企み、部下に命じてさらってこさせた。
が、途中でその老人の正体に気がついたのか、それとも老人の何かが気に食わなかったのか、持っていた銃で奴さんを撃ち殺してしまった。
さて、カルドを殺したのは誰か、ということだが、これも大体予測はついているだろう?そう、上原都、後に伝説のカポ・デコとして密輸団のリーダーに君臨する少女だ。
彼女は教授の形見である40口径の拳銃を片手に、カルドの正体を突き止め、その復讐を果たした。
なるほど、女にしてはなかなか侠気溢れる話だ。日本の「チューシングラ」精神という奴だろう。
教授の死に関する真相はそれが全てだ。
次に、彼女の継承したビジネスについてだが・・・・・・詳しいことは話せない。が、数日前に終結したタラントのファミーリャとの抗争についてなら、君には特別に教えてあげよう。
君の教え子を思うその気持ちに免じて、だ。もちろん、ラッフォルツァメント(捜査当局)や報道陣に口外したら君の命を保証はしないぞ・・・・・・
タラントのファミーリャのうちで有力な男にロベルト・パガーノという奴がいた。彼はある件に関してカポ・デコと利害が対立し、彼女を排除しようと企んだ。
ただ殺すのではない。常に鼻先を行く謎の少女に、最大限の屈辱と羞恥を与えてやりたかった。
そして奴はやり方を誤った。
彼は配下のトルコ人のチンピラを動かして彼女をレイプさせようとしたんだ。
そして見せしめに彼女の肉体を犯すことでその神性を冒し、プロフェソーリの宗教的な結束の基盤を覆そうとした。
もちろんこれは決して誉れ高いやり方とは言えないし、そもそも実行しようにも相手は只者ではない。
案の定トルコ人はへまをしでかし、皆返り討ちに蜂の巣にされた。
そこからパガーノとカポ・デコとの間で抗争が始まった。
カポ・デコは滅多に銃を使わない。
映画や小説のせいで誤解されがちだが、この世界では先に銃を抜いた方が負ける。
その場ではよくても、すぐチャカを振り回すような‘坊や’は信用を失い、結果仕事にあぶれることになる。
生き残ることが出来ないのさ。
カポ・デコはそれをよく心得ていた。だから彼女は、カルドの殺し以降、大概にして銃を使うことはなかった。
だがパガーノがそうした卑劣な罠に自分をはめようとしたことを知り、眠れる獅子は遂に本気になった・・・・・・
彼女は自分のコネクションを通じて、アルバニアの武装組織から暗殺専門の特殊部隊をイタリアに呼び寄せた。
アルバニア人の兵士は凶暴で、狡猾で、とても危険な連中だ。
彼らはカポ・デコの指令を受けてパガーノが手を組んでいたロシア人の密輸チームを襲撃し、皆殺しにした。
彼らの男性器は切り取られ、その口の中に咥えさせられていたという。
これは明らかにレイプ未遂事件に対する報復だった。
パガーノは自分の置かれた状況を理解し、カポ・デコを怒らせることが如何に危険なことであったかを悟り、肝を潰した。
恐れをなした彼はすぐにローマのコーサ・ノストラのコミッショーネに泣きつき、カポ・デコとの休戦を申し入れた。
カポ・デコはコミッショーネの顔を立てるという意味でそれを了承し、ようやく暗殺部隊を本国に戻した。
彼女がコミッショーネの仲裁会議のうちでことを有利に運べた理由は、一連の抗争で、プロフェソーリ側がイタリア人ファミーリャの血を一滴も地面に落とさせなかったためだ。
驚くべきことだ。彼女はそこまで計算していたのだ。まったく、とんでもなく頭の切れる奴だ。
パガーノとの和解以来、プロフェソーリの地位は格段に上がり、今じゃ組織もおいそれと手が出せないほど強大な勢力になった。
そして、そうならしめた張本人であるカポ・デコは、正真正銘、本物のカポとして恐れられるようになり、今なお優雅に逃亡し続けているという。
彼女こそ、生まれついての天才的犯罪者であるといえるだろう――
それから、彼は私たちに一通の連絡先を書いて寄越した。
そして彼らは去った。
その後、私はメディアの頭の傷を診つつ、彼の最後の言葉を反芻していた。
「生まれついての天才的犯罪者」・・・・・・彼女は表社会では月並みで不器用な娘だった・・・・・・だが、だからといって、私は彼女の生きるべき世界が裏社会にあるとは思っていないし、思いたくなかった。
私は、いつの間にか泣いていた。
彼らが恐かったからではない。
都のことを思うと、涙を流すほか、何もすることが出来なかったのだ。
ここまでです。
そろそろクライマックスに入れるカナ?
>>もしも氏
何だかとってもしみじみしました。
二つとも面白いです。
最近このスレ良い作品ばかりです
ツッパリ連合までw
沢山投下されてる。GJ。
下に中学校や高校という言葉がつかない「○○学園」には児童自立支援施設が多い
まさか…
322 NAME:VIP皇帝 MAIL:[sage]DATE:2006/11/26(日) 23:22:51.26 ID:vEdxsVLE0
都
【監禁1日目 あいつら、殺してやる!】
【監禁2日目 痛い、痛い、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、
思い出すだけでもおぞましい、何度も何度も、汚れてしまった。早く終われ!】
【監禁3日目、今日も次々と犯され続けた。もう抵抗する気力もなく
男どもに嬲られた。悔しい。罰が怖いから口に出していえない】
【監禁4っかめ、薬をつかわれた。こんなに気持ちがいいだなんて知らなかった
明日はもっとしてくれるのだろうか】
そして五日目からはノートに記載されることはなくなった。
そして一週間目
部屋の中では
「あはっあはっあはははチンポミルクー」
「もっともちょーらいー」
ひびの入ったザーメン塗れの眼鏡をかけて笑い求める都がビデオに記録されていた。
数週間後、強制捜査がその部屋に入った。
餓死寸前で発見された女子は病院に入院した。
唯一の生存者だった。
精神異常により措置入院として一生入院が決定した。
男たちは被疑者死亡で書類送検された。
死因は性器損傷により出血
随分前にエロパロで投下された奴じゃん。
それがめぐり巡ってここにくるとは興味深いな。
そういえばここの職人さんがエロパロスレで書いてた作品が完結したな。
遊星Xね。
結局ベッキーと南条と玲が無傷だったんだっけ?
というかこのスレにおいても南条の生存率は高いな。
とある話だとメディアを子供扱いしてたし。
まあ財閥の令嬢が護衛もなしに普通に登校してるくらいだから
SPよりも高い戦闘能力を持っててもおかしくはないがな。
安西先生・・・・・・南条たんをボロクソにする話が読みたいです
確かに南条さんの生存率は高いな。ムンラブ殺人事件くらいしか記憶にない。
逆にベッキーとくるみは生存率低い気がする。
ぱ〜にーぽーに〜・・・
くるみより修の方が死亡率高いだろ
常識的に考えて・・・
修は現在大好評死亡中だからなw
流石、ハガレンのマース・ヒューズ的ポジション
ここまでの粗筋。ベッキーの研究室が盗撮されていた。
『彼女と誰かの物語』、投下します。
翌日も学校は通常通りに開校し、通常通りに生徒や教師も登校していた。
ホームルームの時には各クラスで、校内に盗撮機が仕掛けられてあったことが知らされ、
心当たりのある者や不審者を見かけた者はすぐに知らせるようにという伝達があった。
レベッカも他のクラスと同じようにC組で注意を呼びかけた。
つまり、彼女はあたかも自分が当事者ではないようなぞんざいな調子で
昨日の出来事を伝えたということだ。
「えー最後に、昨日宮本研究室で隠しカメラが発見されました。
何か心当たりのある人はすぐに申し出るように。以上でホームルームを終わりとします」
この言葉を締めとして、学級委員の一条による起立・礼の発動により、
この日のホームルームはざわつくクラスを他所に終了した。
ホームルームは終わりになっても、次の授業との間にはしばらく間がある。
こういう時は、レベッカは教員室や研究室には戻らずC組に留まることが多い。
一年C組には彼女を中心とした集団が出来上がっており、この組の最大派閥として幅を利かせている。
教師が特定の生徒たちと仲良くするのは如何なものかという意見もあったが、
十歳というレベッカの年齢やその他もろもろの考慮の上で広く黙認されているようだ。
「ねーベッキー、その覗き魔の犯人ってわかってないの?」
C組の仲良しグループの中では珍しく割とどこでもいそうな女子高生が、レベッカに尋ねた。
彼女の名前は桃瀬くるみ。地味地味と周りからネタにされている人物である。
「あぁ。警察も何だか頼りないし、このままじゃ迷宮入りだろうな」
「ずいぶんさっぱりしてるねー」
「別に実害があるもんでもないし、気にしても滅入るだけだからな。
それより放課後なんだけど部屋の整理を手伝ってくれる奴いないか」
レベッカは六人の親しい生徒たちを見渡してみた。
目を合わせる者、合わせない者、彼女と向き合っている者、ぼうっとしてるっぽい者、色々だった。
自分が話している時に必ずしも全員がこちらに注目していなくてもよい空間は、
教師である彼女にとってはある意味で貴重なものだ。
「仕方ないわね…。あんまり長引かせないでよね」
「ゴメン、私はムリ」
「くるみと同じく」
「はいは〜い私は手伝うよ〜」
「すみません、私もちょっと用事がありまして」
「あの……ごめんなさい」
二勝四敗。まあこんなものだろう。
一気に放課後ですニャ。
結局レベッカの下に集まったのは、最初にこの研究室を開いた時に駆けつけてくれた面々だった。
かっぽう着メガネ、海賊王、メディアの三人だ(肩書きは当時のもの)。
これらにレベッカも含めた三人なら、この狭い部屋には充分だった。
なお海賊王はまめな作業には向いてないので、一人前には数えられていない。
彼女自身は「今回は頼りにして欲しいカナー」とか言っているが、信用してはならない。
なにしろ「僕は海賊にはならないよ」と言っていた奴が「海賊王に、俺はなる」と宣言するご時世だ。
人間、変化は必要とはいえ、それによって予め定まっていたはずのことが覆るというのは遺憾なことだ。
社会を成立させている約束というルールが、大胆に切り崩される。由々しき事態である。
だがレベッカには、それを乗り越えるだけの分別があった。
彼女は、姫子が手助けをしてくれるという未来が変更されることを予想し、既に予定に組み入れていた。
だから姫子がいつのまにか脱落していたとしても、レベッカは決してうろたえない。
「くそー姫子の奴、何が頼りにして欲しいカナーだ。やっぱり消えちゃったじゃないか」
「まーいいじゃない。かえって静かになって集中できるわよ」
予期されていた愚痴をこぼすレベッカに、都がこれまた予期されていた気休めを言う。
都は反故になった紙の束を、リサイクルへ回すゴミ袋の中へと突っ込んでいるところだった。
この紙たちは細かな繊維へと一旦ほぐされ、洗浄されてから、新たなコピー用紙へと輪廻を遂げる。
そしてインクなり黒鉛なりを再び表面にひっつけられ、その後いつかゴミ袋に回帰するのである。
「あーもう。何で紙とか放っとくと、こう溜まっていくんだろ」
「そりゃ放っておくからでしょ」
三人は最初に、机はもちろん床にまでばら撒かれたプリント類を処分することにしていた。
幸い成績表などの極秘データは、流石にちゃんと管理してあった。
そのため散らかっているのはほとんどが重要でない紙であり、それらは一応レベッカが
目を通した後で軒並みゴミ袋へと直行していくのだった。
もちろんまだ必要なプリントも幾らかは混じっている。
捨てない書類はレベッカが責任を持って、ラベルが貼り付けられたファイルの中にしまっていった。
二つめのゴミ袋が半分まで埋まった頃になると、研究室の床はとうとう足の踏み場だらけになった。
これをもって、掃除は第二段へ進められた。
今度はレベッカが読んだまま適当に放置した本を本棚に戻す作業だ。
都はこれを機に本棚ごとに収納する本のジャンルを分けるべきだと主張した。
学問関係の棚、小説の棚、漫画の棚という風に。
しかしレベッカは、彼女の案に賛成しなかった。
本の配置を考えるのは手間がかかるし、どうせその並び順を維持することはできないだろう。
それにどの本がどの棚のどこにあるかは、逐一ちゃんと覚えることが出来る。
レベッカが気をつけるべきなのは、出した本はまた入れるということだけだ。
それなら本の配列に秩序があろうがなかろうが変わらない。
レベッカ宮本は、宮本研究室という世界の神である。
神にとって、秩序とは世界そのものである。
世界が神の手に負える代物である限り、世界は神の掌の中に収まっているものだ。
彼女が研究室内の物の在り処を全て把握しているのは、何も不思議なことではない。
彼女にはそれだけの力があるということだ。
時には物をしまった場所を失念してしまうこともあるだろうが、誤差の範囲内といえる。
三人は本を適当に本棚に差し込んでいった。
そのランダムな偶然が、レベッカからしたら必然なのである。
たとえ逆算的な必然であってもだ。
本を片付け終えた三人は、ハタキや箒、チリトリを手にとった。
おっと、その前に窓を開けなくては。
メディアは内部と外部を隔てていたガラスをスライドさせ、空気の循環を刺激した。
都によってハタキを掛けられ優雅に舞った塵芥が、滑らかに窓の外へと飛んでいく。
大きすぎて重力に捕われたゴミは、レベッカの箒によってチリトリに集められる。
スナック菓子の袋は燃えないゴミの袋へ。紙袋は燃えるゴミの袋へ。
ゴミの性質に従って、しっかり分別しましょう。
終わった。
部屋はキレイになった。
いっそ住みたいぐらいだ。 それはないな。
だがお客さんを通せるぐらいにはキレイになっていた。
願わくば、ずっとこれぐらいスッキリしていて欲しいものだ。
レベッカはいかにもだるそうな様子で椅子に座り、腕と上半身を机の上に乗せていた。
都も軽く放心したようにソファーに腰掛けている。
疲れを見せる二人とは対照的に、メディアは汗一つかかずいつもと同じ笑顔で壁際に立っていた。
本当に体力を消耗していないのか、あるいはそれを隠す技術を会得しているのか。
いずれにせよ、悠然と立ち構えるメディアの強さは羨まれるところ大だろう。
一仕事終えた後の甘い余韻に満たされた室内。
三人の間を、柔らかい空気が包み込む。
それを見計らったかのように、メディアが前日の出来事について話し始めた。
「レベッカさん、昨日は大変だったみたいですね」
「まあな」
左のほっぺたを自分の腕枕に乗せたまま、レベッカは答えた。
都が顔をあげて会話を引き継ぐ。
「そこの本棚で最初に見つけたんだっけ? 何かしらね」
「学校に来ていた警察の方に聞きましたけど、手がかりはないみたいですね」
「まあいいさ。嫌がらせなんてのは相手にしたら負けなんだよ。
それに玲に借りたこれがあれば気をつけることも出来るし」
レベッカは机の上にあった機械を掴みスイッチを入れた。
ぴるぴるぴるという音は鳴らなかった。
「ほらな」
「ですけど、教授も心配してましたよ」
「どうなんだか。いつも変なことばっかりしているくせに」
「何だかんだ言ってベッキーを一人にしておくのが不安なのよ、教授は」
「……」
レベッカは返事をする代わりに、机の上で腕を組みなおしそこにあごを乗せた。
彼女の目の前には、先ほど整頓しなおした教科書が置いてある。
数学1A、数学1B、数学2A、数学2B――。
どれも数学の専門家である彼女にとっては簡単すぎる内容だった。
「……私にだって、自分の生活を守るだけの力はあるし、その覚悟もある。
そうじゃなきゃ今ここに教師としていることもなかった」
レベッカは体を伏せたままの姿勢で言った。
それを聞いた都はにやっとした笑みを浮かべる。
「そうよねー。ベッキーは強い子だもんね」
「バカにしてるだろ……」
レベッカがそう言うと同時に、研究室の扉がバーンと開かれた。
突然の物音に、レベッカも都もメディアも思わずびくっとする。
三人がドアの方を見てみると、そこにいたのは逃げたはずの姫子だった。
「たっだいま〜! おぉっ、オメガキレイになったじゃない!」
「ちょっと…驚かせないでよね」
「お前……今更よく顔を出せるな」
姫子は二人の雑言の中を掻き分けてテーブルへと行き、手に持っていたビニール袋を乗せた。
彼女は右手で袋の中を探りつつ、左手を頭の後ろに置いて大げさに釈明する。
「いや〜皆に差し入れでもと思って買出しに行ってたんだよ。はい、ジュース」
「あ…あぁ、サンキュ」
掃除から脱落してしまったことを咎めようとしていたレベッカだったが、
ちょうど喉が渇いていたこともあって姫子の差し出したオレンジジュースを素直に受け取った。
「と、あと『うまい棒』」
「はァ?」
嬉々としてうまい棒を取り出す姫子に対し、レベッカは何故に?という顔で醒めた視線を投げかけた。
ジュースの蓋を開けかけていた手もつい止まってしまっていた。
姫子はそれには頓着せず、興奮したようにまくし立てる。
「ほら見てよ、カニ味だよカニ味。一本二十円もしたんだから。
もうこれ見つけたときはオメガ驚いてさー。もう買うっきゃないと思って」
「お前、バカだろ」
レベッカが呆れたような目で見ている中、姫子は楽しそうにうまい棒カニ味の袋を開けてかぶりついた。
ベッキーも食べなよと言う姫子に従い、レベッカも駄菓子を恐る恐る口に入れてみる。
二十円分の高級な味がした。
今回はここまでです。本当は週一で投下したいのですが、中々ままならないっすね。
ちなみにうまい棒カニ味が現在売っているというのはフィクションですので、お気をつけ下さい。
353 :
マロン名無しさん:2006/11/27(月) 21:38:36 ID:eN82JnQs
皆さんGJ!あと下がりすぎあげ
鬱ぽに独白シリーズの人でつ。
リアクションが全然なくても、自己満足で投稿しまつw
今回はベホイミ編。
<ベホイミの独白>
ベトナム系アメリカ人・Viet Ho Yim、それがかつての私。
捨てたハズの私。
思い出したくない私。
12の時、酒に酔って私やお袋を殴ってばかりいた親父を撃った。
コネも腕力もないエイジアンのメスガキがニューヨークの
ゴミ溜めで生きていくのに必要なのは、銃と金だけだったんだ。
神なんてものも、白人のポリ公に無実の罪でボコられた夜に、
信じるのをやめた。
そんな私が『魔法少女』になるなんて、ガリラヤの湖上を歩いた
あのペテン野郎だって、思いもよらなかっただろう。
もっとも、ラングレーの連中が少年院にいた13の私に目をつけなかったら、
私の運命はあのユダ公の想定の範囲内に過ぎなかっただろうな。
連中、『敵』の懐に潜り込める汚れ役のガキが必要だったんだそうだ。
とにかく、あのとき、ゴロツキのメスガキ、Viet Ho Yimは死んだんだ。
355 :
354:2006/11/27(月) 22:10:22 ID:???
血の小便が出るような訓練を経てラングレーの掃除屋の一員になった後も、
私にはクソみたいな思い出しかない。
あのロクデナシのジャック・ボウナムの気まぐれで作られた部隊なんて、
元々そんなもんだったのかもしらん。
あの頃の私の気晴らしといえば、明日をも知れない連中で酒を飲んだあと、
赤い目で見る、深夜放送の魔法少女のアニメくらいのものだった。
除隊して日本に来た今の安らかな生活は、何者にも代えがたい。
しかし、例の『オリュンポスの猟犬』―おっと、今は『メディア』だっけ―と、
近いうちにまた一仕事する機会ができそうだ。
奴らの狙いは、ほぼレベッカ宮本だろう。
ああ見えて、将来の『合衆国最高の頭脳』候補の1人だからな。
私らがどこまでやれるかは、正直、わからない。
でも、どうせ一度死んだ命、やれるだけやってやるさ。
356 :
354:2006/11/27(月) 22:11:57 ID:???
以上でつ。
お目汚し失礼しますた。
あと皆さんGJ。
>>352 うまい棒GJ。
>>356 GJですよ。 あれ? 以前レスしたことなかったかなあ、すんません。
「独白シリーズ」好きなんで…続けてほしいっす。
358 :
354:2006/11/27(月) 22:43:40 ID:???
>357
d。
確かに、レスもらったこともあるかも紫蘭。
あ、書き忘れますたが、今回のは日本語吹き替え版(CV:門脇舞w)で
オリジナルの独白は英語という設定でつ。
ベホの口調がやたらガラ悪いのは、その辺によるとお考え下さい。
>>誰か氏
GJです。これからどうなることかドキがムネムネ。
>>独白氏
おk、門脇ヴォイスで脳内変換しました。
これまでの独白は一連の流れが存在しているのかな?
>359
広げた風呂敷が想定通り収束していくのが理想ではありまつが、
正直いまいち自信ナスw
まあ暖かく見守って下さいな。
あ、360の書き込みは漏れ、独白の人でつ。
名前欄入れ忘れたw
362 :
359:2006/11/27(月) 23:35:19 ID:???
>>360 長編作品が多い中で、短くまとまった作品はいいアクセントになっているんで頑張って下さいな
363 :
PP×C:2006/11/28(火) 00:19:34 ID:???
<パート7>
「何だと?それはどういう意味っスか?」ベホイミは敵意剥き出しの厳しい口調で訊ねる。
「言い方を変えましょう、ベホイミさん・・・・・・こういうのは如何です?"この建造物には宇宙犯罪者の関与した痕跡が見られる"というのは?」
神原がそう言った瞬間、ベホイミの表情が凍りついた。
レベッカはその様子を見ながら、神原の発した言葉の意味を考えていた。
もっとも、この段階では理解などは到底及ばない不可解な発言ではあった。
「アンタ・・・・・・何者っスか?」
ベホイミは明らかにうろたえた様子で、しかし口調の堅さは変えずに問い続ける。
「ですから、自分は貴女と同じ種類の人間だということですよ。生物学的に同じ種であるかどうかは差し置いておきますがね。
僕もこの奇妙な建造物を調べるために地上に派遣されてきたんですよ」
「なるほど・・・・・・お前は"奴ら"の仲間だということっスね・・・・・・?いいだろう、話を聞こう」
「この惑星の周回軌道上で調査を続けていた我々の船のセンサーに、件の桃月学園の地下数十メートルのところに異様な物体の存在を示すデータが上がったんです。
奇妙に思ってスキャンしてみたのですが、物体は一辺が約165メートルのほぼ完全に近い立方体で、時折各面の一部が多様な規模で欠けたり凹んだりといった運動を繰り返し、また復元するといった奇妙な動きを見せたのです。
しかしそれ以外は何もわからなくて・・・・・・何でもその物体を覆う金属は我々のセンサーのビームを遮断する特殊な材質で出来ていて、中の様子は全くわからないというものだから、やむなく僕を内部に転送して調査させることになったのです。
ですが、まんまとやられましたよ。
転送に成功した瞬間、特殊なフォース・フィールドが地面の付近に展開されたらしく、以後転送ビームはおろか通信電波も入らなくなったのです。
僕は不用意に中に入っていって、罠に引っかかって戻れなくなったというわけです」
「この建物自体が立方体なのか?」
364 :
PP×C:2006/11/28(火) 00:21:44 ID:???
「ええ。しかし、入るまではまさか全ての部屋が同じように立方体で、その小さな立方体の部屋の集合によって構成されているなんて思いも寄りませんでしたよ。
しかし、今の地球の科学ではこの様な建造物を作ることは出来ないし、そもそもこれの建築材に使われている特殊な材質は地球上に存在しない元素によって組成されているんです。
もし南条テクノロジーとやらがこれを作った張本人だとしても、明らかに異星人の関与はあるということです」
「本当に、宇宙からの招かれざる客は余計なことばかりしてくれて・・・・・・センサーで調べた上では大体どのくらいの部屋数があるかわかりますか?」
ベホイミが神原に訊ねたが、答えは別のところから返ってきた。
「19683室だ」
「宮本先生?」
「19683室だよ。一辺が165メートルで、この部屋一つが約6メートルだと仮定するなら建物自体の一辺には個室の立方体が27個生じることになる。27^3で19683というわけだ」
「何てことだ!二万近い部屋があるだなんて・・・・・・」
「だがちょっと考えてみろ。仮に一辺27室で19683の個室があるとする。しかしそれだと建物の立方体は完全に充密だ。
さっきも言った通りそれぞれの部屋は動いている。
確かお前・・・・・・神原といったか、お前の話では立方体の各面が陥没するんだったよな?
それを信じればスライドパズルのように内部空間の中を部屋は動く。つまりどこかに必ず肉抜き部分があるというわけだ」
「では、実際の部屋数はもっと少ないと?」
「少し前に一条と話し合ってみたんだが・・・・・・私は17576室だと思う。各部屋に割り振られているアルファベット三文字がその部屋を指定するのなら、26^3でかなり近縁な数値が導き出される。
だが困ったことにその差、つまり肉抜きの空間の数は2107、素因数分解をすれば7^2×43と半端な数字になる・・・・・・どういう法則で27^3の立方体内部に空間部を指定しているのかがわからない。
それがわからないから、部屋の動き方もわからない」
「僕たちの観察では」神原はレベッカの説明に頷きつつ答えた。
「立方体は大小さまざまな規模で凹むことこそあれ面を突き出ることはありませんでした。
そしてその凹みは面を伝って移動し、それを何度か反復した後、元通りに修復し、今度は別の場所が同じ要領で凹みます。その繰り返しです」
365 :
PP×C:2006/11/28(火) 00:23:21 ID:???
「面の陥没は大小さまざまだと言ったか?それは一回ずつ連続して起こるのか?それとも一度に、同時多発的に起こるのか?」
「凹みの運動は常時、複数の、あらゆる箇所で発生します。
しかし、ある特定の周期で全ての面が埋まり、完全な立方体が復元されることがあります。
ですから、やはり空間の位置決定と部屋の運動の法則には一定のアルゴリズムが存在すると考えていいでしょう」
「2107個の空間・・・・・・考えろ・・・・・・27個で一辺を形成する大きな立方体・・・・・・何かあるはずだ・・・・・・面の陥没と復元の運動法則・・・・・・私が設計者ならどんな仕組みにする・・・・・・?」
レベッカは頭を抱えて考え始めた。
ふと目の前の腕時計を見る。
彼女は先刻一条が揺れの起こる前に時間を気にしていたことを思い出した。
ひょっとしたら彼女はあの時点で既に部屋が動く周期を時間で割り出していたのではないか?
それならば自分にだって・・・・・・
が、間もなくして――まるでレベッカの思考を読んでいたかのように――再び部屋を激しい揺れが襲った。
再び部屋は動いた。
このままではどこに流されるかわからない。
とりあえず、姫子の言った【GGG】を目指すのが得策だろう。
アルファベットの振り分けの規則もまださっぱりわからないが、姫子のイニシャル説の信憑性が確かめられれば、罠を避けて部屋を進むことは可能になる。
とにかく、移動は自由に出来るにこしたことはない。
レベッカは、考えるのを中断し、壁の一つをじっと見つめていた。
366 :
PP×C:2006/11/28(火) 00:24:51 ID:???
<パート8>
乙女はレベッカとベホイミと神原とが論じ合う様を遠目に眺めながら、不服そうな顔つきで佇んでいた。
話についていけないことから来る疎外感もあったが、それ以上にこの部屋の中にいる誰も彼もが気に入らなかった。
そんな様子を見つけて、犬神が彼女の元に歩み寄る。
「秋山・・・・・・あの男の話をどう思う?」
「神原だろ?同じクラスだけどいまいちよくわからない奴なんだ。何ていうか、同じ世界にいない感じというのか、とにかく普段からちょっと気味が悪くてな」
「そうか・・・・・・なぁ、こういうことは考えられないか――これはゲームなんじゃないかって」
「何を言っているんだよ、お前?」
「これは誰かが巧妙に仕組んだ残虐ゲームだということだ。私たちを南条の檻に閉じ込めて、徐々に死んでいくのを何処かで見て楽しんでいる奴がいるんじゃないか?
私たちを死のゲームの駒にして、この状況を娯楽にしている奴が」
「そんなこと・・・・・・無いとも言えねぇな。罠もおかしなものばかりだし、ベキ子たちは謎解きに夢中だが、そういったなぞなぞを用意しているとしたら、誰かがわざとやっているとしか思えない・・・・・・でも誰が?」
「わからない。南条の会社かもしれないが、その受注者――つまりこの建物を実際に運用しているのは別の機関かもしれない。
片桐の話によればここは桃月学園の地下なのだろう?だったら、学園にも何か関係があるのかもしれない。
第一、学園の教師と生徒ばかりしかいないじゃないか」
「言われてみればそうだな。誰かが私たちをここに閉じ込めて、それで弄んでいる・・・・・・か。クソ!腹が立つ話だぜ」
「もし仮にゲームだとして・・・・・・君が駒ではなくプレイヤーだったとしたら、ということを考えてみろ。ゲームを面白くするためにどういう要素を入れる?」
「それは・・・・・・」
「私ならこうする――この中に、裏切り者の工作員を送り込むんだ」
「何っ!?」
「だってそうだろう?この中に、叛乱分子を一つ入れてみろ。その途端にゲームの難易度は格段に上がるはずだ。
これほどひねくれた建物を作る奴だ、実際にゲームを楽しむならそういう要素を混ぜてもおかしくはあるまい」
367 :
PP×C:2006/11/28(火) 00:26:15 ID:???
「確かに・・・・・・お前、ひょっとしたらこの中にそういう奴がいると思っているのか?」
「ああ。そこであの神原だ。一番怪しいのはあいつだ。証言が的確過ぎるが、代わりに内容の根拠が全くない。
偽の情報を言いふらして推理を妨害するデマゴーグではないかと」
「なるほどな。確かに素性が知れないし、言っていることも腑に落ちない。裏切り者の可能性はあるかもしれない」
「だが、視点をずらして見ると、実はここにいる誰もが怪しいことになる。
ベホイミは以前から謎だらけの奴だったが、企業探偵だったと自白した。
尤も、その自白だって信憑性は疑わしい。
宮本先生は謎を解いているようなふりをしているが、実は私たちを間違った方向に導こうとしているのかもしれない。
さっきから時計ばかりを気にしていて落ち着きがないのも奇妙だ。
片桐は普段は――失礼な言い方だが――君と同じくらい知的作業には向かない奴だ。
それが出口の番号を明確に覚えていたり、真偽はともかくとしても罠のある部屋に関する勘の冴えた推察をするあたり、余りにも出来すぎてはいないだろうか。
南条はこれが自分のために作られたものだと言った。
もしそうなら、実はこの建物の構造を知っていても何ら不思議ではない。
大体、自分の会社が作った檻の中に囚われるオーナーの娘がいるか?
さっきの一条の件だって、ひょっとしたら南条が何らかの形で故意に罠を作動させたのかもしれない」
368 :
PP×C:2006/11/28(火) 00:27:30 ID:???
「・・・・・・そう考えるとこのメンツは怪しい奴らばかりだな。だが、犬神、お前は肝心なことを忘れてやいないか?」
「何だ?」
「私にしてみりゃあ、こうやって言い寄ってくるお前も十分怪しい。お前こそ工作員だと言う可能性もある」
「それを言うなら、君だって人のことは言えまい。
先走ってさっきの部屋に一番に突入したのに、君は一条を身代わりに無傷で生き残っている。
そんな調子で全員を罠に引っ掛けていくつもりなんじゃないのか」
「何だと!?私は・・・・・・」
「この議論はここでやめよう。どちらにしろ決着はつくまい。
それよりも、全ての人間が疑い得る、そのことを胸の内に留めておいたほうがいい――私が言いたかったのはそういうことだ」
「そうだな・・・・・・しかし何故私に?」
「少なくとも、この中では君が一番自然だ。
信用できるかどうかはともかく、いざという時のことを考えて話しておいた。
君自身はどう考えようと勝手だが、私はそのつもりでいる」
犬神はそう言うと、徐に歩み去り、再びふさぎ込んでいる南条の肩に手をかけ、静かに励ましていた。
乙女は煮え切らない表情でそれを見ていた。
その後、部屋の中を見渡して、怪しげな仲間たちの言動を注意深く観察した。
途中、姫子と目が合った。
姫子は、意味があるのかないのか、力なく微笑みかけた。
乙女は彼女を鋭い目つきで睨み返すと、そっぽを向いた。姫子の表情が深く沈んだ。
「――わかった。よし、行くぞ。まずはここからだ」
論議に片をつけたのか、レベッカが呼びかけた。
彼女は自分が先頭になって壁に歩み寄り、梯子を上がり、そうして扉を開いた。
369 :
PP×C:2006/11/28(火) 00:28:33 ID:???
ここまで。
流れがあるうちにどさくさに紛れて。
それでは。
エロありグロなし人死にありで。
流れに乗ります。
「なぁ今の子すげぇ可愛くなかった? 俺あんな子とつきあいてぇ」
すれ違った他校男子の言葉に、姫子は内心で毒づいた。
(なら2万円払えばいいよ。付き合うだけじゃなく、いくとこまでいけるよ)
自分は可愛い女じゃない。きっと彼らの話題は今、一緒に歩いている……
「どうした姫子、そんなに暗い顔して」
玲に向けられているのだろう。
「んー? ねぇねぇ玲ちゃん、東京湾でズワイガニとれないのカナー。タラバガニもいいカモ!」
「捕れないだろ、さすがに」
「そっかー、残念ダナー」
姫子が大げさに残念がって見せると、玲はそれで満足したようでそれ以上の追求はしてこなかった。
玲が売春している事はずっと前から知っていた。
春を売ろうが花を売ろうが、玲は玲で変わらない大切な友達だと思っていた。
だが、玲の客の中に自分の父親がいるのを知って、姫子は大変大きなショックを受けた。
意地悪だが本当は優しい玲と、幼稚園の頃から自分のマンガを褒めてくれた大好きな父親。
響から聞いても、父親のワイシャツから玲の匂いがしても信じられなかったが、
響と一緒にこっそり尾けた玲が父親と待ち合わせ、一緒にラブホテルに入っていくのを見て、姫子はそれが事実だと確信した。
大好きな者同士、知り合う事があれば仲良くして欲しいと思っていた。
しかし、こんな形での結びつきなど考えた事もなかった。
入る前から待ちきれないように、腕を絡めて好色そうに笑っている……
どうやら相当なショックを受けたらしく、自分ではそうは思わなかったのだが、一緒にいた響が相当狼狽え、
おごってくれた夕食の席でも姫子を気づかうような言葉をかけてくれたり、
あまり興味がないだろうマンガやアニメの話を振ったりしてくれたりした事を考えるに、かなり落ち込んだ様子だったのだろう。
翌日もほとんどしゃべらずテンションも低くて6号や都に心配をかけてしまった。
父親は変わらず優しい。玲もいつも通りだ。ただ、姫子が知ってしまっただけなのだ。
あれからというもの、これまでいつも何気なく入り、普段は気に留める事もなかった宮本研究室の入り口に貼られている『お悩み聞きます』の張り紙がやけに目につくようになった。
相談してみようかと思ったが、その度に否定した。
悲しむのは自分だけでいい。
玲は友人の父親だという事を、父親は相手が娘の友人だという事を知らないのだろう。
もし知っているのだったら、姫子は二人を許せない。そんな事はしたくないし考えるのも嫌だ。
どうか気付かないままで早く別れてほしいと思う。玲はバレれば退学だろうし、父親も世間体がある。
証拠品は響と同じように姫子も持っている。しかし責める事はしたくない。傷つけたくはない。
そうなる前に正道に返ってほしい。
そうしないと……
昨日も衝動的に玲を突き落としそうになった。
(みんな死んじゃえばいい)
相談しようかという想いと同じく浮かび上がってきてはすぐに打ち消される想いだが、確かに姫子の胸に根付きはじめている。
「真剣な顔して何考えてるかと思ったら、おまえ本当バカだなー」
姫子の悩みやその原因が自分である事など露知らず、玲はケラケラと笑った。
「ん? 南条とこの水族館にならいるかもなー」
「あっ、そうカモ! でもなー、南条さんはきっと食べさせてくれないヨー」
玲の笑顔があまりにもあっけらかんとしていたものだから胸に何かが込み上げてきて、姫子は無理矢理に笑った。
「今の子、本当可愛かったよな」
「ああ、アホ毛の子だろ? なんか愁いのある顔が可愛かったな」
「たまらんね」
おらすっげぇわくわくしてきたw
GJです!!!続きが気になって眠れない
一話目以上です。
振る事にしたナンバーを忘れてしまいました。
あせるのは悪い癖ですね。
二話目です。
「おお一条。お見舞いに来てくれたのか」
病室の扉を開けて入ってきた一条にレベッカは笑顔で答えた。
「……あ、はい…… 今日は私ひとりではなくて……」
一条に続いてツインテールと長身の銀髪が入ってくる。
「よう6号! あいかわらずツインテールだな」
「ええ……あいかわらずツインテールです」
「犬神、南条はどうした? 雅ちゃんにも優しくしろよ」
「……あまり甘やかすのもよくないと思うので程々に。それから南条がどうかしましたか?」
コートを胸に抱えた犬神は顔を逸らし気味に答える。
「このーツンデレめっ。いやおまえはツンだけだな」
「……放っておいてください」
「はははすまんすまん。みんな元気にしてるか? 都はどうした?」
「都さんは留学中です」
「留学? ああ、教授が連れてったのか。しょうがないなあ教授は……姫子は?」
「姫子さんは……っとD組に行きましたよ。席替えをしたいと騒いでいたので先生がくじ引きでトばされたのではないですか」
「ああ、そうだったな。玲はどうした、玲は」
「玲さんはバイトばかりでお見舞いには」
「しょうがないなぁ。くるみは?」
「……えーとくるみさんは……」
「お、ごめんごめん。あまり地味なんで見えなかったよ。悪かったなくるみ!」
「え、ええ……くるみさんは地味ですね……」
レベッカの見ている方向にあるのは椅子だけだ。戸惑いながら答えた一条に犬神が声をかける。
「一条、6号。先生は意識を取り戻したばかりだ…… そろそろお暇しよう」
「んー? 私は大丈夫だぞ」
「いえ。大事をとっていただかないと……看護婦さんにも注意されているのです。また来ますから」
微笑む一条に、レベッカはにっこり笑って手を振った。
「そうか。きっとだぞ!」
病室を出てからは誰も何もしゃべらなかったが、エレベーターホールまで来たところで、未来が口を開いた。
「……本当なんだね」
望は沈痛な面持ちで答えた。
「うん……私も驚いたよ。いま宮本さんは夢の中にいる……わたしや雅に良く話してくれた…… 彼女が思い描く理想のクラスの世界の中に」
「……ガリ勉だけど勉強が出来ない上原都、マンガ家志望の片桐姫子、万能美人の橘玲、地味な桃瀬くるみ、望ちゃんのお姉さん、そしてパシリの6号さん」
あれからさらに寡黙になった雅が後を受ける。
身長がついに180cmを越えた雅は、某アレに所属していた祖父似の中性的な顔つきもあり美少年にも見える。
今日はパンツルックで化粧もしていないのでなおさらだ。
「私にはお兄ちゃんがいて、南条財閥のお嬢様と好き合ってるんだって…… 素敵な学校だよね……」
雅は瞳を閉じて首を軽く振り、ため息と共に言葉を吐き出す。
「やっぱりあの怪我の影響なのかな?」
五年生の最大の行事といってもいい一泊二日のキャンプ学習。
楽しいはずの校外学習で、まさかの大惨事が起こった。地震による地滑りと土石流がキャンプ場を突如襲ったのだ。
生き埋めになり、最後まで救出されなかったのが宮本レベッカだった。
レベッカは長女が浴槽に落ちて溺死した悲しみがようやく癒えかけたころ宮本家に生まれた。
それだけに両親の可愛がりようといったら無く、救出されるまで両親は食事を摂れなかった。
一緒に生き埋めになった児童が十八人死亡した中、生きて救出されただけでも幸運だっただろう。
しかし両親はそれを手放しでよろこぶ事は出来なかった。
頭部に大怪我を負ったせいでレベッカの意識は戻る気配すら見せなかったし、成長も完全に止まってしまっていた。
ショックで両親は離婚し、父親は自宅ごと自殺した。母親はアメリカに帰国して新しい家庭を築いたという事だ。
そしてレベッカは日本に残され、眠り続けていた。昨日の夕方まで。
エレベーターはやってきたが、降りてきた人間の顔を見た三人はそのまま残る事にした。
当時の担任だった麻生麻里亜は卒業後もずっとレベッカの事を気にかけており、望が電話したら今日は仕事を早く切り上げてやってくると言っていた。
「麻里亜先生、お疲れさまです」
「お疲れさま、一条さん、犬神さん、鈴原さん」
特に望は毎日のようにお見舞いに来ていた。それがあの地震で死んだ斉藤豊との約束なのだという。
本来ならそれは担任の自分の役目だったはずだ。望には本当に感謝している。
「先生もお見舞いですか?」
「ええ……ハルカちゃんから聞いて。彼女は夢の中に居るんですね」
「ええ……」
雅が辛そうに答えると、麻里亜は目を伏せて語り出した。
「私が高校大学と映画を作ってた話はしましたっけ?」
「……されたような、されなかったような」
「私の友達で演劇部の部長をしていた子がいたんですけど……声優の藤宮円って……鈴原さんは知っていると思うけど」
「サラくんの方ですね。いつもお世話になっています」
未来はドクロ仮面にラブレターを出したのが縁で6代目ベホイミ役に抜擢されて毎週土曜朝に超暗黒次元人と戦ったりしている。
「彼女に協力してもらって、ちびっこ天才先生が繰り広げるコメディの映画を撮った事があったんです。宮本さんの夢はその時の映画にそっくりだったわ……」
「そんな事が」
「その時の脚本を書いたのがハルカちゃん……高見沢医師でした。
受け持ちの子に私達の映画にそっくりの子がいるって話したばかりだったのに……次に会った時は病院だったわ……ごめんなさい」
麻里亜は取り出したハンカチに顔を埋めて二分ほど泣いた。
「私はその事もあって、もちろんクラスの全員が夢を叶えられるようにと思っていましたが、宮本さんの夢は特に応援してたんです。
ちびっこ天才先生は無理かもしれないけれど、いつか先生になれますようにって……」
「ねえ先生、雅、鈴原さん……いつかは本当の事を話さなきゃいけないんだよね……?
あれから6年経っていて……宮ちゃんは先生なんかじゃない……って」
「……私には……わからないよ……」
雅が目を伏せて言い、麻里亜も強い瞳で言った。
「……私は……宮本さんに夢を見せ続けてあげたいと思います…… いつかは言わなければならないとは思いますけど、今は……」
あの頃は優柔不断だった麻里亜だが、あの事件以来優しさはそのままに、徐々に決断力もついてきた。
「少なくとも心はハルカちゃんがきっと治してくれるって……宮本さんも現実を受け止める事が出来るようになるって……私は信じてますから……」
「……うん……」
望は涙を拭いながら頷いた。
「たびたび失礼します」
雅と未来は先に下に降り、望は麻里亜と共にレベッカの病室に戻った。
「ん? どうした一条、忘れ物か?」
「宮本先生、麻生先生がお見舞いにきてくださいましたよ」
「あ、麻生先生! お久しぶりです。わざわざすいません」
レベッカはからだを起こし明るい笑顔を麻里亜に向けた。
「いいえ、宮本さんは気にしなくてもいいのよ」
「おいメソウサ、りんごでもむいてさしあげろ……なんだよおまえだめだなー。包丁持てないのかよ。
……あ、おいそんなメソメソすんなよ、麻生先生の前だろー? 泣くなよー」
レベッカは誕生日にみんなでお金を出し合って贈ったうさぎのぬいぐるみを叱りつけた。
満面に浮かんだ人懐っこく可愛らしい笑みは、主に触られる事もなかった為6年を経ても変わっていない。
笑顔のうさぎが流す滂沱の涙は、望にはレベッカの心の涙のように思われるのだった。
以上です。
元ネタはnicoDas.とPandoraHeartsです。きなこかわいいギルかっこいい。
来月の新読者参加企画が楽しみです。果して何がはじまるのやら。
皆さんGJです。私も頑張ろう……
それではおやすみなさい。
>>369 友人を疑う事ほど鬱な展開は無いと思ってます。
続きにwktk。
>>380 乙、GJ。
面白い上にすっごい読みやすいです。
おお、大量投下が来てる…!
書き手の皆さん、GJ!このスレクオリティ高杉
今月は休みだと思ってたw
今月さんGJ。
PP×Cの人、今月の人、どっちもGJ。
今月の人の作品、なかなか読ませまつね。
今後にも期待しまつ。
連載してる方々GJ
今月休載ではないのですか?
買ってないのですが載ってるなら買いに行かないと…
休載しょぼんぬ
へきる休載
どうも、独白の人でつ。
今月休載の分、ちょっと大目に投稿しまつ。
今回は、鬱成分はかなり薄めでつ。
<片桐姫子の独白>
お父さん、また来たよ。
お父さんがいなくなってから、もう2年たったのカナ?
本当に早いよね。
お父さんがいなくなった日から、私の心にはポッカリと
穴が開いた気がずっとしてるんだ。
…病院にはちゃんと通ってるから、心配しないでね。
薬も、ちゃんと飲んでるよ。
最近は、だいぶ落ち着いてきたんだ。
今日は、お父さんに伝えたいことがあるんダヨ。
…私、好きな人ができたんだ。
その人はね、歳は全然違うけど、笑った顔がお父さんと
ホントによく似てるんダヨ。
初めて会ったとき、お父さんが帰ってきたのかと思っちゃった。
390 :
389:2006/11/30(木) 00:11:06 ID:???
その人、社会人で、スーツがよく似合ってて、髭がカッコいいんだ。
それに、優しくてすっごく物知り。
歳はちょっと離れてるけど、いいよね。
私のこと、ホントに大事にしてくれるんダヨ。
…皆には、彼と付き合ってること、ヒミツなんだ。
女子高生と付き合ってるって、職場に知られたらマズイみたいだし。
でも、お父さんにだけは言っちゃうね。
その人は、私の学校の…古典の先生。
実は、今週末もデートなんだ。
エヘヘ。
寒くなってきたから、そろそろ帰るね。
お花は明日の夕方換えてあげるから、もうちょっと我慢してね。
じゃあね、お父さん。
姫子はサモンナイト4とデスティニーどっちを買ったんだろうか。
しかし姫子周辺の関係はただれてるな。
ジジイは現国じゃなかったか
394 :
389:2006/11/30(木) 18:42:08 ID:+Nn/9eZW
そう、おじいちゃん先生w
しまった、古典じゃなくて現国だったw
姫子カワイソス
396 :
首枕:2006/12/01(金) 00:49:18 ID:???
最近良作が多いので一読者として嬉しいです。
今回は幻想系の小品を。ちょいグロありです。
397 :
首枕:2006/12/01(金) 00:51:30 ID:???
上原都。女子高生。何の変哲も無い。そして不幸。とるに足らぬ。
私は失敗した。何を?試験だ。定期考査で見事追試に引っかかった。
教授のせいだ。暢気に海外旅行なんてしているからだ。私はあんなことしていてはいけなかった。
日本に戻ってから遅れを取り戻そうと必死にがんばった。でも、無理だった。
勉強すればするほどに頭の中がもやもやとしてきて何にも身につかなかった。
これまでより一層努力した。だけど、やっぱり敵わなかった。
そして今、私は追試組の中に座っている。
姫子、私はそれでも努力したのよ。それなのに私の隣にはあんたが座っている。私は信じたくない、「実を結ばぬ努力は無意味である」だなんてことは。
秋山さん、私がここにいることがそんなに珍しい?そうやって私を辱めるためだけに私の顔をじっと見つめるのはやめて。私だってここに居たくて居るんじゃない。
優奈さん、だからといって同情的な顔つきをされても困るわ。そんなことされると、私がもっと惨めになるじゃない。別に自分があなたたちより優れているなどとは思ってない。だけど、私にとってはこれは耐えられない屈辱なのよ。
芹沢さん、あんたは気楽でいいわね。あんたは自分の好きなことを好きなようにやって、それでいて生きていけるだけの気力がある。私にはそれが無いのよ。だから勉強するの。私にはそれしかないの。わかってよ。
宮田さん、何でそんな悲しい顔するのよ?私だって悲しいわよ。でもね、現実から目を背けちゃいけない、わかるでしょ?大体、何で私があなたを励ますようなことを言わなくちゃいけないのよ。慰めてもらいたいのはこっちよ。
……あ、ベッキーが入ってきた。ちょっと、何こっち見ているのよ?こっち見んな。
ちょっと……だからその目はやめて。同情するなら単位くれ。
笑いたきゃ笑いなさいよ。私は追試に引っかかったし、ちゃんと言われたとおりに出席している。
それが現実だし、私だってそれを受け入れている。だから早く補習授業を始めて。
いつまでも黙ったままでいないでよ。
ねぇ、何、この空気は?
398 :
首枕:2006/12/01(金) 00:54:44 ID:???
ようやく補習授業が始まった。
なぜか私は追試常連組の五人に取り囲まれている。五人それぞれが机に向かいながら、時々新参者の私の方を盗み見ている。
時にはバカにしたような表情を含みながら。
えぇい、この席配置は明らかに陰謀よ!宇宙軍曹ジャックスの陰ぼ……って、何バカなこと考えているのよ、私は!
どうしたことか、ここ最近の集中力の低下は酷すぎるわ。
ちょ……姫子、今私の顔見て笑ったでしょ?
もうイヤ。席を移りたい……コイツらから離れたい。
ベッキーもベッキーで私の顔を申し訳なさそうに窺いながら授業している。気を使わなくていいからこの空気を何とかして。
恥も外聞も全部捨ててこの補習に参加しているんだから……私の立場も察してよ。
あー!もう!何で玲が廊下からこっち見てるのよ?ニヤニヤすんなっつーの!
部外者は向こう行ってよ……ウワァッ、それはナシでしょ……何で桃瀬君と犬神君まで来ているの?
お願いだからあっち行っててよ。
頭痛くなってきた。勉強にも全然身が入らなくなってきたし、どういうわけか熱っぽい。
頭がどんどんボヤっとしてくるんだけど……え?何、姫子?ちょっと!何で耳掴むのよ……痛い、痛いって。わかったから引っ張らないでって……あーあ、ホラ見なさいよ。ベッキーに怒られたじゃないのよ。
え?私の耳が真っ赤だったって?
うるさい。誰のせいだと思っているのよ。
あんたたち五人!それから外野!頼むからもう私をそんな好奇な目で見ないでよ!
ハァ。私、何しているんだろう。
人より努力して、いい大学に進学して、いい会社に就職して、いいところまで出世して、いい人と結婚して、いい家庭を持って……私の将来設計、間違っていたのかしら。
そうは信じたくない。でも、どこかで歯車が狂ってしまったのは確かなのよね。
私、こういう生き方に向いていなかったのかしら?
そもそも初めから何か間違っていたの?
いいや、そんなことは断じて……うぅっ……何だか眠くなってきた。
頭が痛い。
余計なことばかり考えているから頭の働き方が偏るのよ、集中よ、集中。
ちゃんと勉強に集中しなさい、都。
それからバカレンジャー五人衆。
お前らのことだよ。
399 :
首枕:2006/12/01(金) 00:57:52 ID:???
眠い。疲れているのかしら?
いけない、いくらなんでもここで居眠りとかダメでしょ。姫子だって起きているのに。
あぁ、頭痛が痛い。
ん?頭痛で頭が痛む?……っていい加減、集中しなさい。
いや、でも本当に痛い。クラクラする……眩暈?眠い……あー、はいはい。大丈夫、聞いているよ、ベッキー。
え?その問題の答え?エット……何だっけ?ゴメン、ぼぅっとしてた。わかりません。
あ?姫子、何が可笑しいのよ?
え?私が眠そう?眠くなんかないわよ!ちょっと考え事を……してないし、しちゃダメでしょ、授業中に!
は?何、ベッキー?顔が真っ赤?体調不良かって?
何でもないわよ、早く授業の続きを始めてよ……あれ、どうしたのよ、あんたたち。
私の心配はいいから授業を!
……大声で叫んだら頭の中で響いてる。
何かしら?本当に具合が悪いのかも。
でも補習を受けないなんて絶対に出来ない。そこまで気楽じゃないのよ。
そうよ、ガリ勉の女子高生だってね、気楽な稼業じゃないのよ。
特に私みたいに何の取り柄もないような……いや、違う。取り柄がないだなんて、そんな後ろ向きな考えじゃいけない。
けど、実際私には努力して、勉強で身を立てるほか道はないの。
ベッキーは天才だから分からないかもしれないけどね、天才も凡才も努力する以上はずっと辛いのよ。
へ?諦め?冗談じゃないわ。
私はね、自分の可能性を才能のせいにして萎ませてしまう気なんて毛頭ないんだからね!
あぁ!また頭痛が!
今度は刺すように痛い。この眠気もどこかおかしい。病気なのかしら。
ハハハ……私って、とことん不幸よね。
才能もない、努力も叶わない、その上身体も壊す、皆からはいい笑い者……そして、それを受け流せるだけの心の余裕がない。
最悪よ。
私はキット、母さんの出来損ないよ。鳶の生んだカラスよね。
フン、とことん不幸よ。生まれついたところが間違っていたのよ……何よ、姫子?
え?私が何故泣いているかって?泣いてなんか……あれ?どうして……涙が……止まらない。やめてよ!見ないでよ……自分が惨めで泣いているんじゃないんだから!
400 :
首枕:2006/12/01(金) 01:00:56 ID:???
アハアハハ……可笑しいね、どうしてこんなに泣けてくるんだろう。
私って、本当に不幸。
キット、自分でも気がついていたんだなぁ。
うぅん、ゴメン、姫子。心配は要らないよ。
あんたは幸せそうだね。いいんだよ、それで。
私は不幸だけど、どうしようもない不幸だけど、自分が不幸の星の下にいると知っている分、少しは幸せなのかもしれない。
あ、ごめんなさい、ベッキー。私が泣いていたら授業にならないよね。
うん、わかっている。ちょっとだけ、静かしているから……だから目を瞑って、心を落ち着ける猶予をちょうだい。
気分が晴れたら、キット眠気も吹っ飛んで、授業に集中できるはずだから。
うん、ちょっとダケ、ちょっとダケ……
――――――――
「おい、都。しっかりしろ。大丈夫か?」
オヤ?ここは……?嗚、そうか。一寸疲れて目を閉じたら、ついつい眠り込んでしまったようだ。
どうやら私は夢を見ていたらしい。何処か懐かしいような、それでいて浮ついた――
「痛むか、頭は?」
玲か。すまないねぇ、油断したらすぐこれだ。頭痛はくるが、頭の怪我は心配要らない。怪我は大したことないよ。
「姫子がやられた。町同心の連中、一気に畳み掛けてくる積りのようだ。宮本べきえもんの非道畜生め、手当たり次第に仕着せを重ねて町中のごろつきを岡引きに引き立てやがって、気がついたらやくざ奉行が列なして肩で風切って歩いてるって始末さ。
あのロクデナシどもめ、今夜が機会とばかりに闇討ちかけてきやがって、ご覧の通りの有様さ。ここももう囲まれているぞ」
そうか。そいつぁ弱ったな……他のぱにぽ人仲間はみんなやられちまったようだな。
そこで蹲っているのは……蒼の六号かい。何だ、逃げる際で一文字に斬られて死んじまったんだったな。よくここまで傷を負ったまま走って来られたものだ。
ほうほう、外がどうにも騒がしいのはべきえもんが手を廻したっていうやくざ者か。
障子に堤燈あかりで照らされた影の数を勘定してみると、ざっと二十人ばかりか。
ハハハ……どいつもこいつも背伸びしやぁがって柄にもない得物をブンブンと振り回してやがらぁ。
401 :
首枕:2006/12/01(金) 01:02:33 ID:???
しかし幾分多勢に無勢、火力の玲も肩口に酷く手負いを受けているし、私だってこの頭の怪我じゃ大して太刀受け振る舞いも出来まい。
こりゃあ、いよいよ年貢の納め時といったところか。
「都……もうここいらが限界だろう。どうせ直に奴らが押し入ってくる。この稼業を始めた時点で覚悟はしていたが、しかしあんなクズ共の刀に斬られるってぇのはどうにも気に喰わねぇ。
ここはいっそ覚悟を決めて腹を括ろう。幸い私は利き手が使えるから介妁してやれる。
奴らに、桃月のぱにぽ人の潔い最期を見せつけてやろうじゃないかい」
この期に及ぶものならばそれも致し方あるまい。
この上は自分から腹切ってその心意気を示すこともいいだろう。
外で罵り立てているやくざ者どもは私らの首を持って意気揚々べきえもんに献上するつもりだろうが、たとえそうであっても奴らのその目に、私たちの覚悟生き様というものを、その最期の一太刀で強烈に見せつけてやろう。
これが桃月のぱにぽ人だって証立てをするのさ。
「都、腹を据えろ。私も後から逝く」
玲は脇指を抜いて構える。
三日月のような刀身が闇の虚に煌く。よく切れそうだ。玲の腕なら心配なかろう。
私はその場に難儀して座り直すと、藤巻柄に黒塗りの懐刀を引き抜き、略式的に辞儀をする。
玲はゆっくりと背後に歩み寄る。
彼女の息遣いがじんわりと伝わってくる。
402 :
首枕:2006/12/01(金) 01:04:37 ID:???
「念仏は唱えたか?」
ハン!笑わせやがらぁ。
念仏の都に念仏は要らねぇ。とっととことを済ましちまってくれ。
私は着物を肌蹴り、刀を腹に当てる。
玲が刀を翻す。
私はじっと目を瞑り――渾身の力で腹に短刀を捻じ込んだ。
途端、刀が空を切る轟音と共に振り下ろされ、私の首は皮三寸を残して刎ね飛ばされた。
私はその有様を――自分の首が血と腸の溢れ出す腹の前に投げ出される様子を――遠退いていく意識の中でじっと見つめていた。
私の人生は幸せだったか?
応、勿論だ。
全てが幸福に満ち、こうして死んでいく中でも、充足した気持ちが、私自身の中でその生涯の内のあらゆる事柄を首肯していた。
私は幸せのまま死んだ。
満ち足りた人生だった。
私にはどうにも知りようがないが、しかしもし転がる私の首を最期に目にすることが出来るのならば――その今際の表情は決して苦悶や不安のない、穏やかな笑顔であっただろう。
玲はその顔を見て、彼女もまた心安く死んでいけるに相違ない。
願わくば、あの夢の中の不思議な世界の少女――まるで私にそっくりなあの娘――、彼女もまた、私と同じように幸せのまま生き、そして逝くことができることを……
――完――
>396
乙。
都の焦りの描写と、意外なオチがおもしろかったでつ。
文体の変わり方も自然ですた。
さて、独白の人でつ。
今回も鬱な感じではなくなってしまいますたが、よろしこ。
<五十嵐美由紀の独白>
はぁ、今日も仕事終わったぁ…。
あータバコタバコ…。
ふう、一息ついたわー。
まったく、あのオッサンどもマジでムカつくわ。
あたしだって自分の仕事あるっつーの。
何でお茶汲みとかコピーまでやらなきゃいけないわけ?
あげく、「パソコンわからんから代わりにやってくれ」?
Officeくらい普通使えるだろうっての。
ホント団塊ってダメよね。
人に仕事やらせて、飲む話とかゴルフの話ばっかりじゃないの。
こっちだって、委員会だ進路指導だPTAだ、忙しいのにさ。
担任も持ってないくせに。
業者とか系列校の連中とかと飲む金あるなら、事務員雇えよ。
派遣とかいくらでもいるじゃん。
あんたらの給料5%カットしたら、1人くらいすぐ雇えるだろ。
ホント、こっちはサボってないとやってられないっての。
サボるって言ったら、最近MG調子悪いんだよね。
キャブレター、やっぱストロンバーグじゃなくてソレックスのに
すればよかったかなぁ。
あー、ケチんなきゃよかった。
あ、6号今帰りなんだ。
また乗せてってやろうかな?
でもなー、またレズとか何とかヘンな噂たてられるんだろうなぁ。
ったく、冗談キツいって。
彼氏いないのは、周りにいい男がいないからだっての。
職場に筋肉バカとジジイとオッサンしかいない状態で、どうしろってさ。
あーあ、どこかに出会いの一つも転がってないかねぇ?
何であたし、教員なんかなったんだろう?
確かに私立だから給料は少しはいいけど、他がひどすぎるもんね。
若手ばっかり苦労させられてさ。
OLにでもなればよかったかぁ?
アフター5なんて、こっちはないもんなぁ…。
あ、明日からアバクロのセールだ。
って、エンジンかからないし!
あーあ、やっぱ1回オーバーホールに出さないとダメか?
ダウンかVネック、今季のは欲しいけど、またアバクロで
柏木姉妹と出くわしたりして。
私は生徒と一緒でもいいけど、先生と同じブランド着てるって
あの年頃だと嫌じゃないのかなぁ?
よっしゃ、エンジンかかった!
ってもう!
私って人にそんな気を遣うキャラじゃなかったハズだぞ?
あー、もう考えるの面倒だから、早く帰って酒飲んで寝よ。
はぁ、だっるー。
すげーリアルだ。何かこういう教師、普通にいそう。
ぜってー居るよこういうの
『彼女と誰かの物語』の第三回。行かせていただきます。
その日の夜遅く、レベッカは自宅にある自分の部屋でパソコンに向かっていた。
研究室ではノートパソコンを使い、自室ではデータを移したデスクトップ型パソコンを使う。
どこにいても彼女は自由に作業が出来るのだった。
ただし環境の整っている自室のパソコンでは、どうしてもネットゲームのページをクリックしてしまう。
彼女の目の前にある箱は、硬から軟まであらゆる事象を取り揃えている。
根っからの真面目ちゃんでもない限り、その用途が娯楽に偏ってしまうのは自然なことだ。
今もレベッカは、仕事のことなどそっちのけでネトゲに現を抜かしていた。
遊んでいる時間と睡眠の時間は負の相関関係にある。
身体を休め成長を促す睡眠が、ネトゲに費やされた時計の針によって削られていく。
彼女自身もネットのやり過ぎが体に悪いことは自覚しているはずだ。
わかっちゃいるけどやめられないというのは、典型的なマニア像そのままだった。
静かだ。
レベッカの家には今、他の人間はいない。
両親は海外で働いているためここでは姉と二人暮しをしているのだが、
服飾関係の仕事に就いている姉は生活パターンが不規則なのである。
帰ってくるのが遅いこともあれば、平日が急に休みになることもある(これは滅多にないことだが)。
あるいは何日も彼女の仕事場に泊まりこんでくることもあった。
そのため教師として時間割に沿った人生を送っているレベッカが姉と出会うことは、
この家にいてもそれほど多いことではなかった。
それでもレベッカにとって姉はかけがえのない存在であった。
姉がいなかったら、レベッカはきっと生きていけないに違いない。
ただし精神的な意味ではなく、肉体的な意味でである。
レベッカは料理の能力を全く持ち合わせていない。
野菜を切ったり、ご飯を炊いたりすることすらままならないのだ。
彼女には料理に関する技能もなければ、知識もなかった。
もし彼女が一人暮らしをするということになれば、全ての食事が外食か冷凍食品か
スナック菓子になってしまうだろう。
手間がかからないことを優先事項とするこうした食生活が成長期である彼女の身体に
多大な悪影響を及ぼすというのは、想像に難くない。
このような悪しき堕落からレベッカを救っているのが、彼女の姉なのである。
レベッカとは対照的に、姉は料理に秀でている。
レベッカが家で食べる食事は、ほとんどが姉の作った料理だ。
彼女の姉は家に帰ってくるとまず数回分の食事を作り、それを冷凍したり密閉容器に保存したりする。
そしてレベッカは、何か食べたくなるとそれを冷蔵庫から取り出すという寸法だ。
こうすれば自炊の出来ないレベッカでも、バランスの取れた家庭料理を充分に摂取できるのである。
気恥ずかしくて口には出さないが、レベッカは自分を気に掛けてくれる姉に感謝していた。
たまにブラックジョークとしか言えない料理を作るのは勘弁して欲しいとは思うのだが。
レベッカが姉に依存しているのは食べ物だけではない。
衣食住のほとんどを姉に任せきりにしているといっても過言ではないだろう。
例えば衣。
レベッカは自分で洋服を選んだり買ったりはしない。
彼女が日替わりで着ている服は、全て姉に押し付けられたものである。
服にそれほど興味のないレベッカにとって、姉のチョイスに従うのはある意味で気楽なことだった。
例えば住。
宮本研究室の乱雑さを見れば分かるように、レベッカは物事のメンテナンスが苦手だ。
そんなわけで家の掃除や洗濯といった家事一般も、彼女の姉が一週間に一回ほど纏めて行っている。
レベッカの生活能力は同年代の少女並か、あるいはそれ未満だった。
彼女も自分のふがいなさは自覚している。
時には料理の本を借りて練習してみるし、思い切って掃除機や洗濯機のボタンを押してみることもある。
いつか充分な生活能力を手に入れて真の一人暮らしをする日のことを、彼女は常々夢想していた。
それでも現実として頼れる肉親が近くにいる以上、本気で家事能力の習得に身を入れることはできなかった。
自分で何かやらなくてはという責任感よりも、自分が何もやらなくても姉がやってくれるという
安心感の方が、彼女の中では優勢だった。
あれこれ言ったところで、彼女には面倒なことを率先して行う甲斐性がないのである。
レベッカは年相応に、扶養される立場に甘んじていた。
だが、それこそが彼女は教師として働くことを希望した原因だった。
実際の職場で働けば相応の対価を自分のものにすることが出来る。
家族からの世話を享受するだけではなく、家計への貢献も可能になる。
自分の能力を活かして現金を家族にもたらしたなら、養われることの後ろめたさも軽減されるだろう。
レベッカはそう考えていたのだ。
結論から言うと、レベッカのこの目論みは実現していない。
彼女が働くことによって宮本家にもたらされる金銭の額は、無視できるほど微々たるものである。
現在レベッカは教師として授かった給与のほとんどをNGOや研究機関に寄付してしまっている。
ある種の組織ネットワークでは、彼女は有力な支援者として有名になっていた。
感謝状を贈呈されたことも何度かある。
だが別にレベッカにボランティア精神があるというわけではない。
本音を言ってしまえば、貰った金銭の全てを自分のものにしたかった。
それは現実的に考えて、許されざる我儘だった。
レベッカは自分の銀行口座から相当の金額が供出されるのを
目にする度に、胸の底が否応なしに熱くなるのを感じる。
この偽善的な寄付は、妥協の産物なのである。
レベッカが教師に就任するにあたっての問題の一つが、給料に関するものだった。
桃月学園で教鞭をとる彼女だが、その特殊な事情から給料は公的な補助金から直接支払われる。
そしてどれだけの金銭を支払うかが、議論の対象となったのである。
たとえ僅か十歳だとしてもレベッカは一人前の教師であり、人と同じ給料を貰う権利が彼女にはある。
当然、彼女が学校から受け取る給料は他の教師と比較して妥当な金額でなければならない。
だが、たとえ一人前の教師だとしてもレベッカは僅か十歳である。
責任能力の認められない子供に財産を与えるということに、多くの関係者が不安を抱いた。
官僚や関係者を巻き込んで、親レベッカ派と反レベッカ派の間で喧喧囂囂の議論が交わされた。
「教師である彼女」に充分な給料を与えるのか、「子供である彼女」にそれなりの金額しか渡さないのか。
結局この激しい論争を経た結果、二つの対立する考え方を止揚させた案が採用された。
すなわちそれが、レベッカには普通の教師と同じ給料を与えるが、そのほとんどを外部に
寄付させるという解決策だった。
レベッカ自身はこの論争において、自分には大人の教師と同じだけの給料が与えられるべきであり、
それを自分で自由に管理することができるはずだと主張した。
しかし彼女にはその権利が与えられなかった。
権利というものは社会的・倫理的正当性に基づくものである。
本当に生まれながらにして有している権利なんて、誰も持ち合わせていない。
基本的人権なんて、自然権なんて、単なる虚構に過ぎない。
全ての権利は、幻でしかない。
社会が――周囲の人々が認めることによって、権利は初めて権利足りうるのだ。
そしてレベッカには、社会人としての財産を自由にする権利は認められなかった。
支払われる労働の対価の中でレベッカの手元に残るのは、全体のうちの一、二割に過ぎない。
お偉方が彼女に認めた権利は、たったのそれだけだった。
また彼女が寄付する相手も、役所によって定められていた。
NGOだとか研究所だとかいえば聞こえは良いが、どれもこれも国家と癒着した天下り的な機関だ。
中央省庁OBが理事長を務めていたり、国の出資によって経営されていたりする。
レベッカ本人にはこうした組織に金を提供する気は皆無だったが、従わない選択肢はなかった。
事実上レベッカは、給料を国家に没収されているようなものだった。
レベッカにとって、生きることとは邪魔をされることだ。
この世には思い通りに行かないことが無数に存在する。
彼女が何かしようとすると、必ずそれに逆らうものがいる。
障害物がこちらに敵意を持っている場合もあれば持っていない場合もあるが、
それさえ無ければ幸せなのにと溜息をつくのはいつものことだった。
そう、それさえ無ければ幸せなのに……。
頭の固い官僚さえいなければ、手続きやら制約やらもなくなるのに。
権威にしがみつく文教族がいなくなれば、教師の仕事も清々しくなるだろうに。
どうしてそんなに私のことが憎いんだ?
私が若いからか? ハーフだからか? 天才だからか?
誰も彼もが、私のことを子供だからといって蔑んでくる。
「天才」と呼ばれる私のことを、檻の中のパンダを見るような目で見てくる。
あんな奴ら、いなくなってしまえ。
そうだ、私の仕事を妨げる人間はみんな消えてしまえばいいんだ。
授業を理解してくれないバカな生徒も、先輩だからといって見下してくる他の教師も。
私を不愉快な目にあわせてくれる人間の何と多いことか。
こんな奴らが世界に存在しなければ、私はもっと充実した生活を送れるんだ……。
ブルブルッ。
突然レベッカは全身に寒気を覚えて我に返った。
ネットゲームで遊んでいたはずが、いつのまにかぼうっとしながら
他愛のない思考を弄繰り回してしまっていたようだ。
――何やってるんだろ、私。
レベッカは思わず右手で顔を覆い隠した。
この目の前にある箱は何だ? 何を映し出している?
ネットゲームじゃないか。
これは本当に自分がやりたいことなのか?
ましてや、自分がやらなければならないことか?
世界から無くなればいけないのは、何よりもこの私だ。
怠惰で、享楽的で、お気楽な私。
排除する必要があるのは、私自身の弱い部分だろ。
他人を悪く言うのは簡単だし、心の中でなら幾らでも文句を言って構わない。
けどそんなことより、もっと大事なことがあるだろう!
自分の道は自分で決め、自分で切り開くんじゃなかったのか。
私は、私は……、私は―――
レベッカはパソコンの前の椅子から立ち上がり、窓の側へと歩いた。
レースのカーテンを無造作に脇へと追いやる。
そして彼女は、スライド式の窓を思い切って全開にした。
深夜の冷たい空気が顔にあたる。
スーッと鼻から空気を吸い込んで、口からフーッと息を吐く。
頭の中に篭っていた不快な熱が、暗闇の中に吸い込まれていった。
しばらく胸を上下させて呼吸していると、悪寒が徐々に収まっていくのが感じられる。
彼女はそのまま体を窓から少しだけ乗り出した格好で、外の景色を眺めることにした。
レベッカは、夜の街並みにのめりこんだ。
人通りは全くない。
他の家を見ても明かりは完全に消えている。
彼女の住む住宅地は、街ごと眠りについていた。
数メートルおきに生えている街灯だけが、黒きに侵されることなく自己を保っている。
誰も通ることがない道の上を、寂しく照らしている。
――不憫だな……。
求められていなくても健気に光を放つ街灯を、レベッカはぼんやりと見つめた。
ブルブルッ。
さっきのものとは異なる悪寒が彼女の肉体を走った。
外気に触れた上半身から体がどんどん冷えてくる。流石にこれは体に悪い。
レベッカは窓を閉め、カーテンを閉じた。
部屋の中は今の換気によって、かなり気温が下がってしまっている。寒い。
異常気象なのか通常気象なのかは知らないが、ここ最近はめっきり冷え込んできている。
今日はそれが特に酷いようで、ちょっと厚着をしただけでは心もとなかった。
――暖房つけるか。
レベッカの部屋にはエアコンが設置されている。
暑さにも寒さにも弱い彼女にとって、気温を調節する文明の利器は生命維持装置と呼んでも過言ではない。
クールビズもウォームビズもそっちのけで、彼女はこのエアコンを酷使してきた。
そのせいか最近では何だか機械の調子があまり宜しくないみたいだ。
「どこだよリモコン……」
あちこちをごそごそと探ってみるが、エアコンをつけるリモコンが見つからない。
レベッカの周りでは物がよくなくなる。
今まで使っていたはずのシャーペンや消しゴム、読みかけの本、ティッシュの箱。
沢山のものが、いつのまにかどこかに行ってしまうのである。
いつもいつも膨大な時間が、それらを探すのに費やされるのだ。
「おー、あったあった」
幸いなことに今回はすんなり見つかったようだ。
レベッカはリモコンをエアコンの方に向け、スイッチを押した。
ピッ。
すると。
ガガガガガガガガガガ!!!
「ひぃっ!?」
エアコンが小規模な道路工事のような音を立て始めた。
明らかに不具合が起きている音だ。
本格的にガタが来てしまったのだろうか。
「あー、もう!」
レベッカは近くにあった椅子に乗り、喚きたてるエアコンに近づいた。
バンッバンッ。
調子の悪い機械は叩けば直る。かもしれない。
とりあえず彼女は、巷で言われる修理法に従ってみることにしたのだ。
ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、――
少しは効果があったのか、騒音のレベルは若干低下した。
バンッ! バンッ!
もう二発、強烈なのをお見舞いしてやった。
だが、それがいけなかったようだ。
バキィッ。
「え!?」
嫌な音を立ててエアコンの前部を覆っていたプラスチックの板が外れ、落ちた。
バィィン、バンバンン、と床に落ちた部品が跳ね返る。
「ケフッへホッ……」
機械の中から飛び出してきた埃に、レベッカはむせ返った。
「うー、酷……」
事態が落ち着いてからレベッカはエアコンを再び見上げた。
ぶっ叩いたのが良かったのか、エアコンはもはや異常な音を立ててはいなかった。
だが機械はレベッカの攻撃の前に脆くも破壊されてしまっている。
レベッカはエアコンの壊れ具合を調べてみようと、伸び上がって顔を近づけた。
「さて、どんなもん…か……な……?」
壊れた機械を覗き込むレベッカの目が、大きく見開かれる。
レベッカはエアコンの中に、あってはならない異物があることに気がついた。
彼女は体を強張らせ、それをじっと見つめた。
それは生気のない瞳でレベッカのことを見つめ返していた。
何を考えているのか読み取れない黒く光った眼が、彼女の姿を執拗に捕らえている。
それは、レベッカの生活を侵す、冒涜的な存在。
先日に見つけたものと同じような、小型カメラだった。
今回は以上です。
とりあえず都を呼べ
ぱにぽにキャラの卒業後を考えるだけで鬱だろ
一生中華料理のバイトの玲
一生喫茶エトワールのバイトのくるみ
どうみても就職不可能な姫子や一条さん
「弊社の志望理由をお聞かせ下さい」「えっ…あ、あの、その…」とどもってしまい落とされる6号
6号は悪い男に騙されそう・・・アホだから
都は受験失敗してヒキコモリ・・・アホだから
<ルートM パート7>
上原都は不思議な心地に包まれていた。ここ最近のいざこざはようやく解消に向かい始めてはいたものの、何かいやな気分が、倦怠感のようなものが自分の心を覆っていることに気がついた。
無論この世界から足を洗いたいだとか、そういった現実的な問題ではなく、ただ、心の中に居ついているかつての自分から今の自分の有様を見られている気がして、それがおかしな心地だったのだ。
良心の呵責だとか、悔恨の念だとか、そういったものではない。
ただ気だるい。彼女は久しぶりに、昔、彼女を教えていたやる気のないちびっ子先生のことを思い出した。
自分もあの境地に達したのかしら。都は自嘲気味にそう思うと、悲しげに苦笑いした。‘声’が彼女を慰めるように語りかけた。
都は目の前を走っていく列車を見つめながら、ぼんやりとしていた。
もう間もなくやってくるIC725線に乗って、彼女はこの忌まわしきローマ(ここへ来る少し前に、トレヴィの泉に思い切り石ころを投げ込んでやった)を去り、彼女たちの活動の出発点であるナポリへと帰還する。
もうしばらくはこの街に戻りたくない。彼女は苦々しく俯いていた。
彼女の忠実な僕たちはテルミニ駅のプラットフォームにまで送り出しにやってきたが、乗り込むところまでは都の方で断った。
余り大きな団体で動くのは気が引けたし、今の彼女には、休息としての孤独が必要だった。
彼女には、あのまとわりついてくるような‘精霊の声’ですらも煩く感じられた。
ここに至るまで、多くのことがあった。多くのものを失った。そして多くの悲しみを通過した。
都は――予期していたことだが――それでも大きく傷ついていた。
しばらく稼業は棚上げして、自分の気持ちの整理をつけるべきだと思っていた。
或いはもうそのまま失踪して、消えていなくなってしまうのも悪くはない、そんな気持ちにすらなっていた。
一人の男が走りこんできた。
彼女の右腕であり、優秀な相棒の一人である彼は、駅の待合室で気を空ろに腰掛ける裏世界のカリスマのもとに走り寄った。
カポ・デコは身じろぎもしなかった。
「カポ、申し訳ありません、是非伝えたいことがありまして」
「何よ?」
「実は、貴女に会いたいという者がいまして」
「もうそういうのは面倒だわ・・・・・・適当に追い払っといてよ」
「それが・・・・・・遥々日本から来たというんです。どうしても貴女に会いたいと・・・・・・」
「へぇ・・・・・・何者?名前は何ていうの?」
「それが・・・・・・」
「どうしたのよ?」
「レベッカという少女です・・・・・・先代プロフェソーレの日記にあった娘さんです」
都は顔面を殴られたような衝撃に襲われた。
教授の日記は彼女が彼の正体とこの稼業の実態を知ることになった、いわば入門と指南の書であった。
都は、教授がたくさんの取引を抱えたまま、あの伊達男のゴロツキに殺された後、その日記を発見したのだった。
そこから彼が先導していたプロフェソーリという精鋭密輸組織の存在を知り、都がカポ・デコとして二代目の頭目に就任し、事業を引き継ぐきっかけをつくった。
そして、その日記の中で度々語られていたのが、レベッカ宮本……彼女もよく知っているちびっ子教師、ベッキーだったのだ。
日記の中で、教授の筆はひたすらに昔の教え子であるベッキーのことを気遣っていた。
そのベッキーが、遂に暗黒街に身を落とした自分を発見し、接触してきたのである!
懐かしさと、後ろめたさが一気にこみ上げてきた。
彼女は何も言わずに立ち上がると、手にした乗車券を丸めて握り潰し、急いで歩き出した。
その表情は、嬉しさと躊躇いに満ち満ちた、なんとも名状しがたい笑みを堪え切れなかった。
彼女の顔はほんのりと上気し、ここ最近失われつつあった人間らしさを帯び始めていた。
天才的商人でもなく、犯罪集団のカリスマ的リーダーでもなく、ましてや神の使いなどでもない一人の、天真爛漫な少女の姿がそこにあった。
都は息を弾ませながら、彼女の後ろを追いついてくる男に言った。
「すぐに手筈を整えなさい。ナポリは危険だから・・・・・・このローマで会えるようにして頂戴」
<ルートR パート7>
手渡された紙片に書かれた連絡先が私たちをどこに導こうとするものなのかは全く予想できなかった。
しかし、これを私に寄越したマフィア幹部はあらかじめ「私の知りたいこと」を教えてくれると約束した。
私の知りたいこと?それは決まっている。上原都の居場所だ。
もしこの連絡先が、彼女の居場所を私に教えてくれるのなら・・・・・・私は淡い期待のもと、早速この番号をダイヤルした。
しばらく呼び出し音が続き、やがてそれは繋がった。
接続音は確かに聞こえたが、受話器の向こうからは何も言ってくる気配はない。
埒が明かないので私は試しに呼び出してみた。
「Pronto? (もしもし?)」
しかし相手はうんともすんとも答えない。
しかし電話は繋がったままなので、私は辛抱強く待つしかなかった。
だが、期待は脆くも打ち砕かれ、程なくして電話は切れた。
私は愕然とした。唯一の頼みの綱は文字通り寸断されてしまった。
打ちひしがれた私は後ろで心配そうに眺めていたメディアに向かって首を横に振るしかなかった。
彼女もまた、ひどく失望し、落胆してしまった様子だった。
私たちはやむなく歩き出した。ここまで来てこれでは仕方がないが、私たちはホテルを引き払ってイタリアを出なければならなかった。
約束は約束だ。メディアも彼ら(由緒あるマフィア)と言を違えるのは危険な行為だとして、そうするしかないと言った。
私たちは肩を落とし、この国で最後の食事をとるためにホテルを後にした。
聞き込みをして回るうち、この界隈で一番の味だという呼び声のかかった老舗レストラン「ペスカ・ルーナ」で食べることにした。
私たちはホテルを出た。
しかし、その時一台の車が玄関脇に乗り付け、中から堅気とは思えぬ男が出てきて私たちを中に促した。
「どうぞ」男は見た目に似合わず丁寧に言った。私たちは顔を見合わせたが、決死の思いでそれに乗り込んだ。
車は街を走った。私は不安になって彼に尋ねた。
「貴方は誰です?」
「あの番号にかけたでしょう?だからお迎えに上がったのです」
「どういうことです?」
「あれは私たちの雇い主のコンタクト用回線です。公共の電話は憲兵隊の諜報部や内務系の保安機関が盗聴しているおそれがあるのでコンタクトは我々をクッションさせて行われるシステムになっているのです」
「なぜ私たちの居場所を?」
「昨今は」男はニヤリと笑った。
「逆探知技術は警察だけの専売特許ではないんですよ」
車はある薄暗い一角に入り、私たちは裏寂れたレンガ造りのフラットの一室に通された。
そこで待っていたのは一人の若い青年だった。
その背後には、物々しい自動小銃を手にした二人の護衛が控えていた。
青年は私たちの顔を見るとにこやかに笑った。
「ご用件は?」
横柄ではないが毅然とした青年の態度に、私はその瞬間、全てを悟った。
「貴方・・・・・・ひょっとしたらプロフェソーリのメンバーの一人・・・・・・?」
「如何にも。さすが天才は頭の回転がはやい・・・・・・レベッカ宮本さん。かねがね噂は聞いていましたが、お会いできて光栄です」
「私の正体を知っているのなら・・・・・・私の目的も知っているはずだ」
「我々の頭目に会いたいのでしょう?事情は大体わかっています」
「・・・・・・都はどこにいる?」
「今、予定を調整しているところです。準備が整い次第、貴女たちを彼女のもとに連れて行きましょう」
「どこで会えるんだ?」
「彼女は今、ローマにいます。もう間もなく、彼女と連絡が取れるはずです。しかし、彼女は忙しい身ですので、面会できるにしても時間と条件はかなり制限されることをあらかじめご了承ください」
「・・・・・・わかった」
私は遂に念願を果たすことになった。
とうとう、あの都と会うことが出来る――私の胸の内は期待と不安で一杯だった。
都に会ったら何と言おう?彼女を改悛させることが出来るのか?第一、本当に彼女に会えるのか?
私は一心に彼女との対面の予行演習を頭の中でシミュレートしていた。
私とメディアは結局その部屋で一晩を明かし、その翌朝、ローマに向かう車に乗り込むこととなった。
<ルートV パート7>
≪十一人目 片桐姫子≫
「都ちゃん・・・・・・エヘヘ・・・・・・姫子ダヨ。
あの・・・・・・聞いたよ、今、イタリアにいるんだって?すごいね。
イタリアンハンバーグ食べた?スパゲッティーイタリアンも?カニドリアンも食べたカナー?
・・・・・・あのさ、都ちゃん・・・・・・何か、その・・・・・・ごめん。
どうしてなのか、もう言葉が出てこないや・・・・・・あ、でも!・・・・・・たとえ何があっても、私は都ちゃんを信じてるヨ。
都ちゃん、どうか、どうか無事でいて・・・・・・私、いやダヨ。
都ちゃんがどっか遠くの、手の届かない世界に行っちゃうだなんて・・・・・・う、うぅっ・・・・・・何でだろ、急に涙が出てきたよ・・・・・・バカだね、私。
・・・・・・ごめん、もう無理」
≪十二人目 橘玲≫
「都・・・・・今、ベッキーから事情を聞いた。お前、何かの事件に巻き込まれているって・・・・・・姫子は動揺して隣の部屋で泣いている。
私も泣きたい気持ちだ。
ただ心配なのはお前の無事であるかどうかということだけだ。
どうしたらいいのかわからない・・・・・・いや、私たちの力ではどうしようもないことはわかっている。
私たちには祈るくらいしか他に出来ることはない。
ベッキーとメディアがお前を探しに行くと言っている。
都、もしこのビデオを見たのなら、すぐに無事であることを連絡してくれ。
いや、きっとこれをお前に渡すことができるのはベッキーだから、ベッキーに連れ帰ってもらうようにしてくれ。
お前がどこかで、陽の目も見られないような生活を送っているのではないかと考えると、私は恐ろしくてたまらない。
都、頼む。頼むから無事でいてくれ・・・・・・皆それだけを願っているはずだ・・・・・・ああ!何でこんなことになってしまったんだ!
神様・・・・・・誰か、誰か、都を助けてあげてください・・・・・・!(啜り泣きの声)」
ビデオテープはその後梱包され、レベッカ宮本の荷物の中に仕舞われた。
そうして、再びその封が切られるまで、あらゆる人間の苦渋と悲痛の思いを込めたまま、しかし一言も物を語ることなくイタリアの地に渡ることになった。
<全ての道は都に通ず>
ローマに入ったレベッカたちはそこでもしばらく待ちぼうけを食らわされることになった。
いつになったら都に会える?レベッカの中では焦燥と苛立ちが募り始めていた。
メディアはそんな彼女の姿を戸惑いがちに見ながら、意味のあるような無いような笑顔を湛えていた。
彼女は時々鼻でサッチモ(ルイ・アームストロング)の「What a Wonderful World (この素晴らしき世界)」を唄っていた。
時間は無為に過ぎていった。
ローマに入って二日目の夜、ようやく動きがあった。
レベッカとメディアはお馴染みの黒塗りのサルーンに乗せられると、耳栓と目隠しをされた。
車は発進したが、居場所を覚えられないために遠回りをしているのか、それとも尾行を巻いているのか、何度も角を曲がり、なかなか目的地――つまり都の元には辿り着かせてはくれなかった。
やがて車はあるところで停まり、彼女らは視聴覚を奪われたまま何処かの建物の中に連れて行かれた。
ようやく目隠しがとられると、そこは高級な邸宅のサロンだった。
調度品の瀟洒な様を見ると、そこがかなりの規模の富裕の館であることが伺えた。
勿論、彼女らにとってこの館の主がマフィアのボスだろうと、政治家だろうと、大資本家だろうと、そんなことはどうでもよかった。
ここで待っていれば都が姿を現すのか、それだけが気掛かりなことだった。
館の中を最新式のカービン銃や自動散弾銃で武装した男たちが歩いていた。
プロフェソーリが警備のために雇った傭兵くずれであろう、その立ち振る舞いはやくざ者というよりは兵士のそれに近かった。
メディアはさらに、彼らが退役軍人、それもかなりの手慣れであることを見抜いていた。
いよいよ都の現れる可能性は高まった。
二人は緊張しつつ、期待に胸を昂らせた。
そして、その時はやってきた。
警備兵環視の中、巨大なゴシック式の扉が開け放たれ、二人の近衛を伴った一人の少女が姿を見せた。
かなり髪が伸びていて、頬肉も少しやつれていたようだったが、間違いない、それはまさしく上原都――幻影ではなく、本物であった。
彼女はマニッシュな、しかしなかなかシックな装いだったが、その髪には見覚えのあるヘアピンを挿し、真っ赤なセルロイド風フレームの眼鏡は、レベッカにとってまさしく記憶の中に生き続けた愛すべき教え子上原都であることを示す証に他ならなかった。
彼女は二人の姿を認めると、達観したような、それでいて温かみのある目つきで微笑んだ。
「ベッキー、メディア・・・・・・久しぶり。やっと会えたわね」
都は大きなソファに腰掛けながら語りかけた。
レベッカはほんのひと時、彼女の周りを取り巻く異様に強烈なオーラのようなものに圧倒されて黙ってしまったが、その理性が彼女に使命を思い起こさせ、忘我に耽ることを妨げた。
何も恐れることはない、レベッカ。彼女は教え子の上原都だ。
彼女はまだ自分の生徒なのだから――
「あ・・・・・・ああ、都。なかなか立派になって・・・・・・元気にしていたか?」
「お陰さまで。こっちの食事は舌に合わなくて苦労したけどね」
「ずいぶん痩せたな・・・・・・大丈夫か?」
「えーと・・・・・・これは気苦労のせいよ。ま、大した問題じゃないんだけどね」
しばしの沈黙とそれに曳かれてやってくる心許ない静寂。レベッカが再び口を開いた。
「都。実はお前に話があって来たんだ」
「出席不足のための落第の通知ならいらないわよ」都は力なく笑った。レベッカもつられて苦笑いした。
「そんなんじゃない。お前、わかっていると思うが・・・・・・警察に追われているぞ」
「それだけのことをしてきたんだもの。それは当然ね。私のせいで二人には危険な目に遭わせてしまったみたいでごめんね」
都はメディアの頭の怪我を心配そうに眺めながら言った。
「都・・・・・・あ、そうだ。お前に渡したいものがある」
レベッカは手持ちの鞄を探った。都は眼鏡の奥の穏やかな瞳でそれを眺めていた。
「これはみんながお前にって」
彼女が取り出したのは一本のビデオだった。それと一本の眼鏡クリーナー。
「こっちは一条が。お前の眼鏡を気遣って」
「ナハハ・・・・・・一条さんらしいわね。で、この中身は何?時代劇?」
「よせやい。みんながお前のためにメッセージを撮影したんだ。すぐ見て欲しい」
「わかったわ」
彼女は男たちに命じてAV機器を部屋の中に持ってこさせ、かわりに彼らを一人残らず外に出した。
なぜかメディアも一緒に外に出て行った。
「だって」メディアは微笑みとともに語った。
「それは都さん宛のものだし、それを託されたのは宮本先生ですから・・・・・・私が見る必要はありません」
広い部屋に二人きり残された先生とその教え子はビデオを再生した。
レベッカにとってもこれを見るのは初めてであった。
十二回に切って懐かしい面々が都へのメッセージを送った。
都はそれを熱心に見つめながら、時に笑い、時に真剣な面持ちを見せた。
しかし、一貫して哀しみの色が途絶えることはなかった。
玲の悲痛に満ちたメッセージを最後にビデオは切れた。
二人は黙ったきり何も言わなかった。言えなかった。
これまで写ってきた人たちのことを考えると、心を痛めずにはいられなかった。
ビデオが終わったあとも都は停止のボタンを押すことが出来なかった。
砂嵐とともに、テープは空転していた。
レベッカは空虚な沈黙に耐えられなくなり、それを破ろうと口を開けた――その時。
画面に人影が現れた。
「十三番目の人物」・・・・・・レベッカには見覚えのない女性だったが、しかし都の狼狽する様を見て、それが誰であるかを推するのは困難なことではなかった。
「か・・・・・・母さん・・・・・・どうして・・・・・・」
都の瞳から止め処なく涙が溢れた。
レベッカもまた、愕然としたその表情を硬直させたまま、涙の零れ落ちるのを抑え切れなかった。
玲の奴、まさかこんなとんでもない仕掛けを準備していたとは・・・・・・彼女がいつ都の母親に会ったかは知らない。
だがここに写っている女性は、遠い異国で苦難を味わう最愛の娘と、遂に時間という壁を越えて再会したのである。
「母さん!母さん!ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・!」
都は泣きじゃくった。そして画面に縋りつき、失われし自らの過去の如何に大切でかけがえのないものであったかを再認識した。
レベッカはどうすることもできなかった。
彼女がこんなにも泣き、取り乱すのを見て、彼女は都を連れ戻すことが不可能であることを悟った。
既に分岐点は、その肩の後ろに過ぎ去っていたのだった。
レベッカも泣いた。
己の無力さを呪い、運命の残酷さを恨み。
もう彼女には、都を救う力がないことを悟り。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
わずか数分か、或いは宇宙を終わらせるに足るほどの永い時間か。
気がつくと二人は互いの肌の温もりを感じ合っていた。
都はその顔をレベッカの小さな胸に埋め、レベッカはその頭を優しく撫でていた。
二人の目から零れ落ちる涙は世界を一掃する大雨だった。
決して降り止むことのない、神の怒りだった。
彼女らは自分たちの流した涙の海に溺れ、そしてその胸の内の相手が死んでいく様を、静かに看取るしかなかった。
全ては終わった。
彼女たちは死んだ。
あっという間の会見が終わり、館を後にするレベッカを都が引き止めた。
彼女は自分の髪に留めていた一対のヘアピンを引き抜くと、それをレベッカに手渡した。
レベッカは無表情にそれを受け取った。
これは決して単なるプレゼントではないことを彼女は知っていた。
都もそのつもりだった。
つまり、これは既に死んでしまった上原都の墓標に他ならなかったのだ。
都は、レベッカに、彼女の中の上原都を弔うように頼んだのだ。
レベッカはそれを引き受けた。
車は走り出した。
目隠しをされる前、最後に見た都の姿。
レベッカはその影像を瞼の裏にしっかりと焼き付けると、上原都という少女の思い出を、全て忘却に付したのだった。
――FINE――
最後、駆け足でしたが以上です。
ここまで読んで下さった読者皆さんに感謝。
他の作品の職人さんたちも頑張って下さい。
それでは失礼しました。
>433
GJ!
いい終わり方ですた。
新作も期待してまつぜ。
GJ!!
都・゚・(ノД`)・゚・。
これはすごい。
お見事です。
>>432 GJ、乙。
目尻に汗が溜ってきました。感動です。
独白の人でつ。
今回はくるみと修の連作で。
439 :
438:2006/12/03(日) 19:12:57 ID:???
<桃瀬くるみの独白>
昨日、兄貴とヤっちゃったなんて、今も信じられない。
確かに兄貴は妹の私から見てもカッコいいと思ってたけど、
男として見たことなんか正直なかったのに。
地味地味言われてる私を、兄貴が女の子として見てくれてたなんて、
ホント意外だった。
鼻からタバコの煙吹いてるところも、ゲップとかしてるとこも、
今まで平気で兄貴に見せてた。
そんな私を、兄貴は「可愛い」って言ってくれた。
何だかんだ言って、一番私を見てくれてた。
無性に兄貴と一つになりたくなった。
ちょっと痛かったけど、兄貴とならいい気がした。
バイトだから今朝は先に起きて出たけど、兄貴に何か作ってやっときゃ
よかったかな。
どうせいつもみたいに、昼まで寝てるんだろうし。
さっき店長に、「くるみちゃん、やたら嬉しそうだけど何かあったの?」
って訊かれちゃった。
ヤバ、顔に出てた?
兄貴、大好きだよ。
優麻ちゃんには絶対渡さない。
私の、私だけの兄貴…。
440 :
438:2006/12/03(日) 19:13:44 ID:???
<桃瀬修の独白>
ゆうべ、くるみと一線を越えてしまった。
許してくれ、父さん、母さん。
俺たち、親不孝だな…。
「地味って言われてばっかで、私って魅力ないのかなぁ…」って
訊かれたところまではよく覚えてる。
問題はその後だ。
やっぱ飲みすぎたのかな。
ゆうべは父さんも母さんも出かけてたし、ついハメ外しすぎたのかも
しれない。
くるみの奴、普段はガサツで乱暴だけど、最近ふとした動作が
やたら女の子なんだよな。
昨日は、くるみがやたら可愛く見えたのだけが、印象に残ってる。
不思議だよな、今までずっと一緒に育ってきた兄妹なのに。
気付いたら、くるみを押し倒してた。
くるみの奥へ奥へ、俺が入ろうとしてた。
止まらなかった。
やっちまった、そう思ったときはもう遅かった。
起きたときには、くるみはいなかった。
あいつ、今どんな気持ちなんだろう。
初めてが兄貴とだなんて。
女の子を傷つけるのは、いつも男だな。
くるみにどんな顔で会えばいいんだろう?
ごめんよ、くるみ。
俺、ホントにバカだったよ…最低だ…。
酒だタバコだって君ら幾つなんだw
くるみ、まろまゆではパチンコとかしてるしなぁw
高校生なら酒飲んだりタバコ吸ってるヤシは
少なくないと思うぞ。
相変わらず波の激しいスレだ。
まとめサイト一番下の行がやたら長いんだけど
環境がわるいのかな
何度か行ったり来たりすると直るよ
ほんとだ。
ありがとう。
もしもし。夜分遅くに申し訳ありません。
桃月学園1年D組学級委員の佐藤と申しますが緊急の連絡網です。操さんが御在宅でしたらお電話口までお願いできますでしょうか。
はい。お手数をかけて申し訳ありません。
学級委員の佐藤千夏です。夜分遅くに大変申し訳ありませんが……
あ、ごめんなさい。口調が伝染っちゃった……
うん、えっと……
迷ったんだけど一応……私と北嶋さんの独断なんですけど。
さっきA組の五十嵐先生が……大森駅で電車に撥ねられて……亡くなられたそうです。
どうやら泥酔していて誤って線路に落ちちゃったみたいで……明日全校集会が開かれると思います。
以上です……
え? あ……ううん……私が直接電話するから……
それでは失礼します。はい。おやすみなさい。
姫子が他校に転校した初日
「マホッ!わたし桃月学園から転校してきた片桐姫子だよ♪よろしくね!マホマホ〜」
その自己紹介に教室はざわめいた。
(なにあれ…)
(馬鹿じゃねーの)
(変な人…)
(受けるとでも思ってんのかね)
(うざー)
(くんじゃねーよ)
(うざっ、シネって感じ)
(変な髪型)
(超うぜー…)
450 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:08:19 ID:???
<パート9>
罠は特定の部屋にあるのではない。どの部屋にも存在しているが、特定の要素を感知することによって起動する可変式の仕組みである。
姫子の考え方を信じるのならそうだ。そして、特定の要素とは部屋番号にイニシャルの含まれている人物を示す。
そう考えると移動は一人の方が都合がいいだろうが、果たして一人の力で脱出が出来るだろうか?
もし間違えて罠のある部屋に入ってしまったら誰に助けてもらう?
どうしても上下の扉を使用せねばならない状況に陥ったとき、体力の弱い女子は補助が必要だ。
一人では見落としてしまうような発見もあるかもしれない。
何より、ここからは皆で脱出したい――誰も置いてけぼりにはしたくない。
そして、現在、レベッカとその一行は12室目に到達した。
これまで罠は一回も発動していない。読みは当たった。姫子のイニシャル説は見事に功を奏したのだ。
つまり、RとMの組み合わせ、TとI、MとN、HとK、SとK、OとA、この各二文字の組み合わせを含む部屋を避けて通ればよいのだ。
ベホイミの本名は機械に登録されていないようだ。本人が名前を明かさずに確かめたらしい。
もちろん、闇雲に進んでいたわけではない。
レベッカは移動のたびに手帳にアルファベットを書き連ね、その移動パターンと一緒に規則性を発見するための方程式を組み立てようとしていた。
「あれ?」
姫子がハンドルを廻す手を止めた。
「どうした、姫子?」
「先頭のアルファベットがKになったよ・・・・・・?これまでずっとBだったのに」
「気をつけろ・・・・・・片桐と神原がいる。下の二桁にHが出ていたら罠ありだ」
「じゃあビンゴ・・・・・・【KFH】ダヨ」
「閉めろ。そこからは進めない。別の扉にしよう」
「うん、わかった・・・・・・」
レベッカは先頭の文字が変化したことについて考えてみた。
これまで全ての部屋は"B"から始まっていた。しかし、ここにきて"K"に変化したのは何か意味のあることなのだろうか。
レベッカは再度手帳を開き、文字列の変遷に目を凝らす。
451 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:11:19 ID:???
彼女はすぐにこのアルファベットが何らかの数字の置換であり、この三文字の配列は空間座標を示しているのではないか、ということを思いついていた。
空間上の直交座標は三つの数値が示されれば唯一つの地点を指定することが出来る。
だから、最初の文字をx軸要素、二番目をy軸、三番目をz軸と考えれば、確かにアルファベット三文字で17576通りの座標を表示することが可能である。
しかし、それには問題があった。
まず、原点が指定されなければならない。それを表すものがどこなのか、部屋の中にいる限り皆目見当もつかない。
次に、建造物そのものは一辺が27部屋で構成されるという事実だ。これは明らかに立方体の内部に部屋が移動するための空間が存在することを意味している。
その空間の配置に関する謎を解かなければ、アルファベットの割り振りもわからない。言うまでも無く、アルファベットはAからZへと一方通行に流れる性質を持つ。
従って割り振りにはそれに準じた特定の規則があってしかるべきである。
ここまで考えたところで、レベッカは、それが現実の部屋配置には合致しない法則であるということを理解することになった。
もしアルファベット三文字が空間座標を示すのなら、同じ桁に同じ文字を有する部屋が、隣に二つ以上あるというのはおかしいことになる。
仮に、【BCD】という部屋があったとする場合、その隣に【BDD】や【BCE】が存在すること自体はおかしいことではない。
だが、その二つが同時に【BCD】と隣り合っているということはありえない。
ましてや四方はおろか、六面全部がB:1(一桁目を"B"から始める部屋)と接続されるような状況を実際に目にした以上、この理論は矛盾し、破綻してしまったと言わざるを得ない。
たとえ部屋が動いていると仮定しても、B:1ばかりがいくつもいくつも寄り集まって、一つの塊を作るというのはかなり不自然なことである。
そもそも、それだったら座標の意味が無い。
452 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:12:32 ID:???
レベッカは他の考え方を始めていた。
しかし、やはりアルファベット26文字というのは、一辺27部屋の事実を知った上では大いに気になることだった。
彼女には、これが3軸直交座標を示す代数文字であるという考えが、どうしても捨て切れなかった。
と、言うよりも、これが答えへの鍵であるというある種の確信を持っていた。
「宮本先生、こっちはどうっスか?」
レベッカが姫子を伴って梯子を下り始めると、向かって右手の梯子の上にいたベホイミが開け放たれた扉の中を指し示した。
レベッカはそちらの方へ駆け寄ると、梯子を上り、中を覗き込む。
【BWZ】
ちなみに、今いるこの部屋は【BWY】、左手の部屋は【BWX】、三桁目が見事に連番だ。
ここに配列の謎を解く鍵があるに違いない。
しかし、実際に【BWZ】に移動した後、さらに直進すると、【CUX】と、がらりと配列を変えてしまった。
ちなみに、【BWY】→【BWZ】→【CUX】の部屋の色の変化は青→赤→赤だった。
規則性に関与するかどうか、とりあえず記録はとっておくが、これを考慮することは保留しておく。
まずはアルファベットの変化をじっくり考えてみる必要がある。
453 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:14:17 ID:???
しかし、レベッカは既にあることに気がついていた。
彼女は腕時計を覗き見て、落ち着いたように一息つくと、手帳のあるチェックを一本の線で結んだ。
それは三桁目のアルファベットの変化だった。
彼女は移動を指示する時、できるだけ直進のコースをとらせるようにしていた。
これもまた、アルファベットが空間座標を指定するという考え方に基づくものだった。
これまで直進してきた中で、最も頻繁に変化したのは三桁目の文字である(順に二桁目、一桁目と続く)。
しかしそれは、ある一定の周期――それはX→Y→Zの三回周期だった――を持っていることがわかったのだ。
そして、その周期が満了するごとに、繰り上がって二桁目が変化する・・・・・・そして、これもまた三回周期を持っていそうな様子である。
と、なると、その法則で行けば一桁目も二桁目の三回周期の満了によって変化するのではないか?
彼女はさらに閃き、思わず微笑んだ。
三桁目が三周、その繰上げで二桁目が三周、さらに一桁目が三周するのなら、三桁目、つまり部屋単体の数は3^3で27――もう一度はっきりと言おう――27である。27。どうだろう、見事に建物の一辺にある部屋数と一致したではないか!
これは果たして偶然の一致か?いや、決してそんなはずはない。
この方式なら、わずか3字のアルファベットを用いて、27通りの座標点を規則的に表現することが出来るというわけだ。
「よし、そのまま真っ直ぐ進もう。私の予想では次は【CUY】であるはずだ・・・・・・ベホイミ、開けてくれ」
「はい、わかりました」
扉はゆっくり開かれ、ベホイミとレベッカは緊張した面持ちで中を覗き込む。
【CUY】
予想は当たった!
ついに規則性を発見したのだ。
レベッカはその口元に笑みを溢さずにはいられなかった。
454 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:18:33 ID:???
<パート10>
レベッカの発見した法則というのはこうだ。
ある任意の点を起点とし、そこを(1,1,1)という座標数値にする。
そして、(1,1,1)に仮に【AAA】の代数文字を与えることにする。もちろん(27,27,27)は【ZZZ】になるわけだ。
さて、【AAA】からひと部屋動くごとに三桁目からカウントを始めるとする。
(1,1,1)から(27,27,27)までの動きだからまずは(1,1,1)→(1,1,2)→(1,1,3)という動きが自然だろう。
それぞれにアルファベットを割り振り、【AAA】→【AAB】→【AAC】となるとする。
さて、この後、(1,1,3)→(1,1,4)→(1,1,5)→(1,1,6)となると考えると、三回周期繰り上がりの法則を適用して【AAC】→【ABA】→【ABB】→【ABC】となる。
最下階の一辺の終点は(1,1,27)だが、これは規則上【CCC】で表現され得る。
次は(1,2,1)からだが、この部屋は(1,1,1)つまり【AAA】のすぐ上に存在する(手帳にびっしりと記録された部屋配置を眺めると、アルファベット配列からデコードされた座標数値の二桁目を決定するy軸が垂直方向を指定するための要素であることが読み取れた――
つまり、二桁目の座標数値の変化は上へ向かう変化に反映されるということになる)。
この(1,2,1)を【AAD】とする。その奥を【AAE】、【AAF】とすれば、同じ要領でまた27座標を求められる。
以後、三桁のアルファベットをそれぞれ三つずつ移動させていけば、最上階(27階)は【GGG】→【GGH】→【GGI】→・・・・・・→【IIG】→【IIH】→【III】の規則変化で表現される。
ここまでで27×27の正方面を座標付けしたことになる。
隣の列に移ってもまた同じことを繰り返せばよい。これを27回反復すれば立方体の全部屋を座標付けできるというわけだ。
この考え方で行けば建物自体の立方体の八角を計算で求めることが出来る。
それは、アルファベット順に【AAA】【CCC】【GGG】【III】【RRR】【TTT】【XXX】【ZZZ】となる。
ここで気がつくのは【GGG】である。姫子はここから中に侵入したと言う。出口は立方体の頂点の一つに存在したということだ。勿論、ここ一箇所だけではないかもしれないが、とりあえずここを目指すことにする。
ちなみに、もし理論が正しければ、【GGG】は始点【AAA】の鉛直方向の頂上、つまり27階真上に存在することになる。
455 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:19:52 ID:???
以上のことから考えれば、部屋同士の規則配置を見ることによって番号の流れる向きを判断し、自分たちの存在する位置を把握することが出来る。
さらに目標とすべき出口の番号が【GGG】であることも判明しているのなら、進むべき方向を割り出すのは難しいことではない。
これなら、相対基準としての原点を特に指定する必要がないため、部屋の中に居ながら指針を立てることが出来るというわけだ。
しかし、かねてよりの疑問はまだ保留されたままだ。
それは即ち、建物内の肉抜き空間の座標決定だ。
この方式なら17576通りの座標を出すことが出来るが、一辺27部屋の立方体を前提にしているため、どうしても勘定が合わなくなる。
おそらく肉抜き部分の2107部屋分の空間にはアルファベットの割り当てがないのだろう。
しかし、それならその空間の存在規則を割り出さないと、この理論も完全ではなくなる。
勿論、部屋の動くパターンだって掴めない。
この致命的な欠陥が解消されないままでは結局、何もわかっていないよりはマシという程度の気休めの答えに留まるに過ぎなかった。
レベッカは未だに思考の迷宮からは脱出しきれていなかったのだ。
456 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:20:59 ID:???
レベッカはため息をつき、もはや習慣化したように腕時計を覗きこんだ。
そのとき、後ろから姫子が顔を覗かせる。
いくらか元気のない顔だったが、無理に元気を繕おうとしている顔でもあった。
「あー!ベッキーの腕時計オメガだ!オメガおませさんカモ」
「うるさいなぁ、姫子は。私は物は長持ちすることが一番だと思っているからな、当然時計だって信用のあるものを愛用しているんだよ」
レベッカの腕に小振りのオメガ・コンステレーションが光る。
「どうせお姉ちゃんの趣味なんでしょ?着せ替え人形のベッキー、オメガカワユス〜♪」と、姫子はレベッカの頭を撫でる。
「ギャピー!うるさい!私をオモチャ扱いするな!アホなこと言っているとHKの部屋に放り込むぞ!」
「え・・・・・・あ、ゴメンなさい・・・・・・」
姫子が真剣な面持ちで謝るところを見て、レベッカはしまった、と思った。
冗談でも、時と場合を考えねばならない。
教師として、人間として、配慮を欠いていた。
レベッカは泣き出したくなった。
こんな状況がいつまで続くのだろうか。
しかし進まなければ外の光は見えてこない。
彼女たちには、進むより他道は無かったのだ。
457 :
PP×C:2006/12/06(水) 01:22:08 ID:???
ここまで。
相変わらずおもすれ〜
乙です
459 :
マロン名無しさん:2006/12/06(水) 07:37:59 ID:hxzt7oL0
すげー…難しくなってきたけど面白いですGJ!
あと下がりすぎあげ
『彼女と誰かの物語』の第四回を投下させていただきます。
「マジかよ……」
そう呟いたまま固まっていたレベッカだが、すぐに再起動すると
斜め上に手を伸ばし撮影機械に手を伸ばした。
隠しカメラを思いっきり掴んで引っ張る。
取れなかった。
彼女は構わず力を込め続けた。
ストレスを掛けられ続けたプラスチックは歪み始め、それが遂に臨界点に達すると
断末魔の叫び声を上げて割れた。
「うわぁっ!」
引っ張る方向に対して反発する力を失ったレベッカは、世の理に従い後ろに倒れこんだ。
グガッバン!!
背中をしこたま打ち付けてしまった。
息ができない。思わずおなかに力が入る。痛い。…痛い。
「フーッ、フアーッ」
震える唇をどうにかこじ開けて空気の出し入れを図る。平気、死んではいない。 痛いけど。
目を開けてみると、両手で包んだ映像捕獲機が哀れむような視線をこちらに寄せてきていた。
だが今のレベッカに不毛なにらめっこをする余裕はない。
――クソッ
レベッカは内心で毒づくと、腹筋を使って起き上がろうとした。
「くっ」
うまくいかなかったので光を捕える機械を左手に持ち替え、右手で床を押して上半身を持ち上げた。
今度は大丈夫だった。
膝を曲げて、頭を脚の間にうずめる。
背骨の出っ張っている所が赤く燻っているかのように感じられた。
背中の方に廻った肋骨が、甲高い音をたてる耳障りな金管楽器と化していた。
頭の中では小さな虫の大群が飛び交っているみたいだった。
レベッカはしばらくの間、その場でうずくまっていた。
何分か経つと、肉体の状態もあらかた通常に戻ってきた。
試しに立ち上がってみる。普通にレベッカはすっくと背筋を伸ばすことが出来た。
それを確認すると、彼女はまだ手に持っていた小さな機械をぞんざいに放り投げ、
部屋の隅に置いてあるベッドへと思いっきり走っていった。
勢いのままにベッドの中へもぐりこむ。
レベッカは分厚い布団にくるまり、うつ伏せの姿勢で丸くなった。
彼女の身体はこみ上げる感情に耐えきれず、小刻みに震えていた。
溢れる感情は、彼女の表情を鮮やかな紅色に染め上げていた。
引き寄せた枕に顔を押し付ける。
ひんやりとした枕の感触が、血の色の差した彼女の顔には気持ちよく感じられた。
彼女は何よりもまず、かつてこの部屋に存在していた自分を思い出していた。
できることなら張り倒してしまいたい。
どいつもこいつも、今のレベッカには許しがたい連中だった。
レベッカは頭の中から彼女たちを締め出そうとした。
しかし彼女たちのことを考えずにはいられなかった。
そのことがレベッカの心をいっそう逆立てる。
いつのまにか瞳から苦い涙が流れ出ていることに彼女は気付いた。
顔を更に強く枕にこすりつけた。
掛け布団を握り締める手に力が入る。
レベッカは蛹となっていた。
ずっと布団の中で丸まっているわけにもいかないとレベッカは思った。
動くのは億劫だったが、無為に自分の肉体と精神を浪費するのはよくないことだろう。
長い間、ベッドの上でレベッカはそんなことを延々と考えていた。
ついに、レベッカはよろよろと起き上がった。
頼りない足取りでベッドから下り、随分前に放り投げたまま転がっている精密機械を拾い上げる。
次に自分のバッグのところへ行き、中をごそごそとあさる。
彼女がバッグの中から取り出したのは、玲から借りた探知機だった。
片手で器用にスイッチを入れる。
ぴるぴるぴるという音は鳴らなかった。
「あれ?」
レベッカは怪訝そうに、スイッチを一旦切ってからもう一度入れた。
玲の機械は何の反応も見せなかった。
振っても軽く叩いても電池を交換しても駄目だった。
「この。肝心な時に……」
レベッカはそれぞれの手に持った機械をベッドの上へ放り投げた。
マットレスに当たって跳ね返る音、続いてガシャンとフローリングに激突する音が聞こえた。
レベッカは自力で部屋中を調べた。
プチプチを一つずつ潰していくのと同じぐらい入念に、時間をかけて。
しかし驚いたことに、隅から隅まで見て廻ったのにも拘らず他には不審なものは見つからなかった。
とはいえ、存在しないことを証明するのは存在することを証明することよりも難しい。
発見できなかったからといって、そこに何もないとは限らない。
実際レベッカは、周囲から幾つもの視線が自分を串刺しにしているのを感じていた。
レベッカの体内では、活動電位が嵐のように発生していた。
丑三つ時にありながら、彼女はいつにもまして覚醒している。
レベッカを監視しているのは誰なのだろうか?
研究室はともかく、自宅にまで入ってくるとは……。
ドアに紙切れとかシャーペンの芯とかを仕込んでおくべきだったのだろうか。
昔から自分を狙っている勢力があることは、レベッカも知っていた。
その実態は全く把握していないが、ろくでもないことは間違いないだろう。
だとしたら……?
しかしレベッカの姿を逐一捉えることに何の意味があるのか。
暗殺したいにしろ誘拐したいにしろ、単純に実力行使をすればいいだけの話だ。
もしかしたら自制心の欠けたどこかのロリコンがレベッカをコレクションしたかったのかもしれない。
それにしても、宮本宅に巧みに侵入しカメラを仕掛ける手腕は、只人とは思えない。
そこまでする理由は何なのだろう。
レベッカは恐怖していた。
世界が自分の皮膚を突き抜けて、体の中へ侵入してくるような気がした。
頭から爪先までを循環する血液が、全ての震動を吸収して沸点に達しかけている。
レベッカは再びベッドへと這い寄ると、布団の中へ閉じこもった。
そうすることで、前にもまして興奮は高まってしまった。明らかに逆効果だ。
攻撃は最大の防御なりという逆説的な言葉があるが、逆は必ずしも真ならずということか。
もう身じろぎは出来なかった。現状維持万歳だ。
このままどこかへ行ってしまおうか。
赤と、緑と、青。
目を固くつぶると、目蓋の裏にテレビの砂嵐に似たちらつきが浮かんできた。
無数のちかちかが赤黒い背景の中で、ひしめき合い、蠢いている。
鮮やかにくすんだ分子が、無秩序なブラウン運動を繰り返している。
様々な濃色を持つ点が、人間には認知できないスピードで生成と消滅を繰り返す。
ふと気付くと、レベッカの周囲は全てそのような暗闇の瞬きに満ちていた。
レベッカの部屋も、ベッドも、毛布も、跡形もなく消え去っている。
辺りには、粘度が高くて彩りの乏しい気体が充満していた。
真っ暗とまではいかないが、光度は限りなくゼロに近い。
レベッカは遠くを見渡してみたが、暗黒物質に遮られていて何も見えない。
遥か下方に顔を向けてみると、先ほど目蓋の裏を埋め尽くしていた色の粒達が
今度は液体となって途方もない海原を作り上げているのが、不思議と理解できた。
レベッカの肉体は、少しずつ下へ下へと降りていった。
待ち構えているのは、黒ずんだ万華鏡、うねる色のスープだ。
闇に閉ざされた空間を、彼女は潜っていく。
怖くはなかった。
ついに、レベッカの爪先が水面に触れた。
その瞬間、闇たる混沌はそこを起点として白く凍り始めた。
そのままレベッカは、自分の身体を横たわらせる。
確固とした氷が劇的な勢いで増殖し、大いなる海を覆っていく。
レベッカの肉体を触媒として、色を持つクォークが新しい構造を作っているのだ。
間もないうちに、純白の大地ができあがった。
レベッカは新しく出来上がった広大な陸地に立ち上がった。
滑らかなその表面が、地平線に至るまで際限無く続いている。
温かみのない大気が、彼女の肉体と接触する。
上を見上げると、そこにあるのは灰色の空だった。
レベッカは右手を脳天の先にある空に向かって差し出した。
すると、天頂に青い点が現れ、螺旋状に広がっていった。
数秒後には、空全体を綺麗な青が埋め尽くしていた。
空気は少しずつ体温を取り戻し、ほのかに柔らかい香りが漂うようになった。
しっとりしたケーキと、それにぴったり合う飲み物の香り。
世界は不可逆的な進化を遂げていく。
レベッカの近くの地面から、微かにピンク色をした液体が湧き出していた。
それはじわじわと彼女の足元へと移動し、肉体の表面を這い上がってくる。
見る間にレベッカの身体全体を、ピンク色の液体が包み込んでいった。
琥珀に囚われた昆虫のように、彼女は身じろぎもしない。
だが彼女は閉じ込められたわけではない。
ピンク色の液体は、彼女に絶対的な安心を与えていた。
口から大きな泡をゴボッと吐き出す。呼吸はできる。
体中のあらゆる皮膚、襞、粘膜を通じて、液体はレベッカに快感を送り込む。
レベッカは目を閉じ、世界の触感を味わっていた。
「ねえベッキー、ここにカニはないのカナ?」
「カニはないけど、カニカマならあるぞ」
「ブー、それじゃ満足できないよ」
「ブルジョワですか?」
「カニカマはフランスでもブームになったことがあるって聞いたことがあるな」
「あー、そういえば食べてる人いたかも」
「マジで。ちょっとはずしてない、それって」
「でもカニカマもおいしいですよ。皆さんもいかがですか?」
レベッカの足元から、今度は喜ばしい色の繊維が生えてきた。
繊維はピンク色の液体ごとレベッカの身体に巻きついた。
卵形の繭が出来上がった。
それと同時に、青かった空は電気を消したかのようにふっと暗くなり、白い大地も見えなくなった。
虚空に存在するのは、レベッカの入った繭だけになった。
無に食われることもなく、その繭はレベッカを守り続けた。
繭は、永遠に存在することを止めなかった。
存在しない時間が絶え間無く流れ、レベッカは存在を続けた。
ある時、繭の上の方に亀裂が入った。
中から光が溢れ出し、裂け目をどんどん広げていく。
穴が人の通れる大きさになると、膝を抱えるレベッカの肉体が浮き上がってきた。
頭が繭の中から完全に姿を現した時、レベッカは閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
彼女は、ベッドの上で布団に包まって体育座りをしている自分に気付いた。
カーテンを通して日の光が部屋の中へ侵入してきている。
朝になっていた。
平凡な一日の始まりだった。
……電気、つけっぱなしだったな。
今回は以上でした。
乙乙
後半のファンタジーな感じはいいね
470 :
PP×C:2006/12/08(金) 00:48:05 ID:???
<パート11>
【CUY】に到達した瞬間、再びあの大きな轟音が右手の方向から聞こえてきた。
これまでにも耳で聞こえるくらいの、中規模の音は二回ほど聞こえてきたが(小規模の音は扉に耳を当てないと聞こえない)、これは三段階の音のうち、最も大きいものだった。
そうだ、これはあれだ――犬神たちと初めに出会った部屋で聞いて以来のあの轟音だった。
全員が耳を塞いで音の鳴り止むのを待った。
この耳を劈くような音のしている最中は、ろくに会話も出来ないほどだったのだ。
音が止み、ひと段落をつけると、レベッカはこの辺りで方向を転換することを発議した。
と、いっても、理論を正確に理解できているのはレベッカ一人だったし、他の人間は(一部の不信の種を除き)みな、ナビゲーターをレベッカに一任していたのだから、それに従うまでだった。
彼女は立方体の中核寄りの配列を確かめるために、右折することを提案した。
向かって右手の部屋は、まったく未知数であった。先刻こっちの方に進もうとして、【KFH】という説明の如何ともし難い部屋番号に遭遇し、足止めを受けたばかりだったからだ。
そして、今し方、あの謎の轟音が聞こえたのもこちらの方角だったのだ。
【NDH】
扉を開けて飛び出してきたのはまたしてもレベッカの推理を混乱させるようなアルファベットの配列だった。
彼女の理論に基けば、ここにこんな番号の部屋があるはずがない。おそらく肉抜き空間の飛び番やら部屋そのものの移動やらで生じた誤差の結果だろう。
とりあえず、誰のイニシャルも揃っていないため、罠が発動する心配はないだろう。こちらに進むことにする。
レベッカがまず通路を伝い、移動、次に姫子、犬神、乙女、ベホイミと続く。
またしても前の部屋【CUY】には南条と神原が残った。しかし、今度は言い争うこともなく、南条が先に通路に入った。神原もその後に続く。
南条は扉を抜け、【NDH】に入った。そこは真っ白な電光が目に痛い部屋だった。
白い部屋は比較的多く通過してきたが、赤い部屋のように不安を覚えさせられるようなことはなく、青や紫のように気味が悪いこともなかった。
少なくとも、気持ち的には一番楽な部屋の色であった。
南条はゆっくりと歩いて部屋の中央を横切った――そして、再びそれは起こった。
471 :
PP×C:2006/12/08(金) 00:49:55 ID:???
突然部屋の中央に一筋の光線が延びた。
青白い、不気味なオーロラのような光線だった。
ことが起こった瞬間、全員の中でかつての恐怖が思い起こされた。
すぐに、全員が光を避けるように部屋の端へ走り去る。各々が、最も近い部屋の端に。
「こ、これは・・・・・・!」
最後に扉から顔を出しかけていた神原が叫んだ。
「何なんだ!?」
神原の下の梯子に逃げてきたベホイミが叫ぶ。
「転送ビームです!何かがこの部屋に送り込まれています!」
神原が言い終わるか否かといった刹那、光の筋は白いもやもやとなり、それは一瞬のうちに明確な輪郭線を形成し、光線とともに送り込まれた情報は、質量を持った実体となった。
「おい・・・・・・嘘だろう・・・・・・?」
部屋の真ん中に突如現れたもの――もしそれを環視する誰もの目と記憶とが確かならば、それは恐るべきアフリカのハンター、百獣の王であった。
「ラ、ラ、ラ、ライオンだぁーっ!」
荘厳なたてがみを揺らし、凄まじい唸り声を立てる一匹の獅子は、部屋の中に投げ込まれた複数のエサを見つけ、狂喜しているかのようだった。
全員が急いで最寄の梯子に掴まり、我先に逃げ出さんと慌てふためく。
獅子はじっくりと品定めをしている。
(グルルルル・・・・・・)
「ベ、ベホイミ!何とかしろ!」レベッカが叫ぶ。
「無茶言わないでほしいっス!」ベホイミは神原の顔を出した扉に何とか攀じ登り、半身を突っ込んでいる。
「熊、退治しただろう!?あの要領で何とかしろよ!」
「状況が悪過ぎるっス!メディアもいないし・・・・・・」
「助けてベッキぃ〜・・・・・・!」
「おい、銀髪!どうしたらいいんだよ!」
「私に聞くな!・・・・・・そうだ、南条!お前、動物ならお手の物だろう?何とかしてくれ!」
「出来ませんわ、犬神君!私のペットでない動物は言うことが聞きませんわ!」
「はやく!皆さん、それぞれの通路から逃げるっス!」
全員が自分の掴まっている梯子の上の扉を必死に廻す。獅子は、床の上をぐるぐると周回しながら、ときどき梯子の上に飛びかかろうと身構える。
「開かねぇ!開かねぇよ!ハンドルが廻らない!」
472 :
PP×C:2006/12/08(金) 00:51:28 ID:???
入ってきた扉の真向かいの梯子に上った乙女が必死にハンドルに手をかけるが、廻らない。
またロックされてしまったのか?
乙女は泣きながら扉を叩いた。
「助けて!助けて!助けてよぉ!」
「乙女!」
側面の扉から逃げ出そうとしていたレベッカが叫ぶ。
一緒のところにいた姫子は既に通路の中を伝っていた。
反対側の扉には犬神と南条。
「南条、とりあえず、お前は先に行け!」
「犬神君・・・・・・どうするつもりですの?」
「秋山を助ける。私が囮になってライオンの注意を引き付け、その隙に秋山を宮本先生の方の扉に移動させる」
「そんなこと・・・・・・ダメですわ!犬神君が!」
「他に選択肢はない!わかったらお前は逃げろ、南条!」
南条はしばらく躊躇っていたが、やがて決意したような表情になった――そもそも皆がこのような目に遭っているのは自分のせいではないか。
自分の道楽のはずの動物の檻のせいで人間が死に、今も死に迫っている。
今回の罠も自分が入った瞬間に発動した。
やはりこれも自分のせいだ。自分が悪いんだ、全部、自分が悪いんだ。
ここで逃げたらダメ・・・・・・ここで逃げようとするから、私はダメなのよ。
立ち向かわなきゃ・・・・・・そして、かけがえのない友達を守らなきゃ・・・・・・!
南条はすぐに行動を起こした。今回ばかりは、脳内会議の採決を待っている暇はない。
今回ばかりは、彼女自身の独断意思で全てを決めなければならない――ことは急を要する。
人の命が懸かっているのだから!
「南条!?」
南条は犬神を押し退け、床に降り立った。
着地に失敗して、足を挫いたようだったが、それでも獅子の前に回り込み、相手とも十分張り合えるほどの立派な金色の髪の毛を振り乱しながら、猛獣を威嚇する。
473 :
PP×C:2006/12/08(金) 00:52:31 ID:???
「はやく!秋山さん!扉を移動して!」
「ひえぇぇぇ!」
南条が獅子の注意を引いている後ろを、乙女は無我夢中で走り抜け、ようやくレベッカと姫子のいる扉に辿り着く。
「南条さん!じっとしているっス!今助けに・・・・・・」
ベホイミが飛び降りようと身構えるが、南条は手を差し上げてそれを制した。
「来てはいけませんわ、ベホイミさん!早く!皆さん逃げて・・・・・・」
次の瞬間、遂に獅子が南条に飛びかかる。
圧し掛かられた彼女はあっという間にそこに倒れ込み、思わず顔面を手で覆う。
直後、獅子の鋭い牙が彼女の腕に噛み付き、その顎の力によっていとも容易く食い千切る。
「ぎゃぁぁぁあああ!」
骨の砕ける音と筋肉繊維の引き裂かれる音が部屋に充満した。
余りに凄惨な殺戮の現場にレベッカは目を瞑り、耳を覆った。
吹き出した血が真っ白に輝く床の上に鮮やかな赤い絵の具を滴らせたような彩を広げる。
「南条さん!」
ベホイミは叫ぶ。
「行って!行って!行ってちょうだい!」
それが南条の断末魔の叫びだった。
彼女の腕を引き千切った獅子は、それだけでは勿論満足することなく、とうとう南条の喉笛に牙を立て、彼女の息の根を止めた。
後は、残った肉の塊をひたすら貪っているばかりだった。
474 :
PP×C:2006/12/08(金) 00:54:17 ID:???
<パート12>
這々の体で罠のある部屋を抜け出した六人は、再び【CUY】に集結した。
息を切らせながら神原とベホイミが待つ部屋に、レベッカ、姫子、乙女が側面から入ってきて、その直後に反対側から犬神が、顔色を真っ青にして戻ってきた。
「無事でしたか、先生?」
ベホイミが声を掛ける。
「ああ。こっちは大丈夫だ・・・・・・だけど・・・・・・」
レベッカは肩を震わせる。
「南条を・・・・・・死なせてしまった。私の責任だ・・・・・・」
犬神が苦しそうに呟く。それを聞き、ベホイミとレベッカは顔を伏せた。
「あー!もう!チクショウ!どうなっているんだ!?何がこの部屋は大丈夫、だ!危うく死にかけたぞ!」
乙女が喚きたてる。そうだ、彼女は死にかけた。だが、実際に死んだ人間のことも忘れてはならない。
「こんなバカなはずはない・・・・・・確かにあの部屋のアルファベットは・・・・・・」
慌てたようにレベッカは手帳を開き、震える指でこれまでの辿ってきた道順をなぞった。
何か――何か見落としていたのではないか?
「もうたくさんだ!こんなもの!」
乙女がレベッカの手から手帳を引ったくり、勢い任せに真っ二つに引き千切った。
「ちょ・・・・・・!何をするんだ、乙女!?」
レベッカが責め立てる。
「うるせぇ!ゴタク並べてデタラメばかり吹かしやがって!こんなものはクソの役にも立たねぇよ!」
乙女は狂ったように手帳を引き千切り続け、遥か彼方に放り投げた。
アルファベットを書き連ねた紙片がパラパラと宙に舞った。
「何だと!?どうしてお前にそんなことが言える!?」
レベッカも激しい憎悪の炎を青い瞳に灯しながら、乙女の鼻先に詰め寄る。
乙女は額を突き出して一層レベッカを睨みつける。
「もうわかってんだよ、ベキ子!お前、わざと私たちをあんな危ない部屋に誘導したんだろ!ええ!?違うか?・・・・・・いくらだ?このゲームの主催者からいくらもらって雇われた?」
「何を!何を言ってるんだ、お前は!?」
「これはゲームなんだろう?お前は"奴ら"に雇われて私たちを混乱させる役に回っているんだろ?もうウンザリなんだよ!こんな殺人ゲーム、とてもじゃねぇが、付き合いきれねぇ!」
「ハァ?何を言っているのかさっぱりわからないぞ、とにかく頭を冷やせ、乙女!お前は気が動転しているだけなんだ!」
475 :
PP×C:2006/12/08(金) 00:55:56 ID:???
「冗談じゃねぇや。お前は人殺しの仲間だ・・・・・・そこにいる神原とか言う奴もお前の仲間なんだろう?いや、ベホイミか?あるいは全員"奴ら"側の人間なのかもな!
だがな、私は騙されんぞ!お前たちの言うとおりに進んで、これ以上危険な目に遭うのは真っ平だ!」
「待て、乙女!どうするつもりだ?」
「私は一人で行かせてもらう。もう誰も信用できない。もうこれっきりだ」
「いけない!おい、犬神、何とか引き止めろ!」
レベッカが犬神に視線を移す。しかし、犬神が彼女に助け舟を出すことはなかった。それどころか――
「いや、乙女の言うとおりです。先生、私も貴女の理論とやらはどうも疑わしく思えてきました。あれだけ自信を持って我々を進ませておきながら、南条を死なせてしまった責任をどうやってとるおつもりですか?」
「い、犬神・・・・・・?」
「先生、乙女の言うことは尤もな話ですよ。このゲーム自体が不可解な仕掛けである以上、貴女がこのゲームの主催者からの回し者ではないという根拠は何もない。
それどころか、今の貴女はかなり怪しい。暴力で以って事実を貴女の口から聞きだすことも出来ますが・・・・・・いくら何でもそれはフェアじゃないからやりませんがね。しかし、少なくとも貴女の言う事をこれ以上鵜呑みにして行動することは出来ません」
「犬神!お前・・・・・・本気でそんなことを?」
「もちろんですよ。そこで黙っている君・・・・・・神原といったかな、それも本名かどうかは怪しいものだがね。一条のときも南条の時もしんがりで、罠の発動したときに部屋にいなかったのはどういうわけだ?
大体、君ははじめから少し様子が違ったな。わけのわからないことを言って全員を混乱させたのか、それとも宮本先生とグルになって私たちをハメようとしたのか・・・・・・まぁ、今となってはどうでもいい。
私は君とも、宮本先生ともこれ以上一緒に行動する気は起こらないよ。君たちと一緒に行動していても、ここから生きて抜け出せる可能性が減るだけに思えてきたからね」
「それなら」黙っていたベホイミも声を上げた。
「私もここまでにするとしよう。一人きりの方が生存できる確率が上がるというのは納得できる話っスから。少なくても、罠を起動させるおそれが少なくなりそうならそれに越したことはないっス」
476 :
PP×C:2006/12/08(金) 00:58:10 ID:???
「何だ、ベホイミまで・・・・・・お前ら、どうかしているぞ?冷静になれ!ここは皆で・・・・・・」
不安の色を表情に隠しきれないレベッカが訴える。
しかし三人は既に全員が別々の扉に歩き始めていた。
「だったらベキ子はそこのグラサンボーイと一緒に仲良く進めばいいだろう?私はゴメンだね。お前たちなんかに殺されてたまるものか」乙女は梯子を上り、ハンドルを廻し始める。
「そういうわけです。先生、申し訳ありませんがこれ以上は付き合いきれません。私もここからは一人で行きます。ご健闘をお祈りしていますよ」犬神が別の扉を開けながら言う。
「神原、お前が何かを知っているのはわかったが、その内容が真実であるかはどうしても信じきれない。お前こそが宇宙犯罪者でないとも限らないからな。
先生、もし私が脱出したらすぐにここのことを警察に通報します。もし先生が本当に単なる被害者なら救助も呼びましょう。
しかし、秋山さんや犬神君の言う通り、貴女がこの建物の関係者なら、それなりの制裁は覚悟しておいてください。それでは、達者で」自称探偵のベホイミはそれっきり扉の奥に姿を消した。
三人はそれぞれ、【NDH】以外の三方の扉から出て行った。後に残されたのはレベッカ、神原、姫子だった。
「お前はどうするんだ、神原?」
「僕は先生を信じて最後までついていきますよ。先生が僕を信じてくれるのなら、の話ですが」
「私は」レベッカは乙女の投げ捨てた手帳の破片を拾い集めながら呟くように言った。「お前の話を信じる。南条の時の罠はきっとまだ何か見落としがあったに違いがない。それをもう一度考えてみようと思う――力を貸してくれ」
「ええ。力を合わせてここを脱出しましょう。きっと、できますよ」
「そうだといいな・・・・・・あいつらも無事脱出できるといいが・・・・・・ところで、姫子。お前はどうする?」
「え・・・・・・?私はベッキーについていくよ・・・・・・罠のイニシャル説は私が言ったことだし・・・・・・迂闊に余計なこと言って、わかった気になって・・・・・・それってやっぱり私のせいだと思うから・・・・・・」
「気にするな。私だって気がつかなかったんだ、お前は立派だったよ、姫子。そう悲しい顔をするなって・・・・・・さぁ、もう一度考え直そう」
「ベッキー・・・・・・ごめんね」
「・・・・・・」
三人はもう一度身を寄せ合い、手帳の切れ端を広げながら話し合いを始めた。
477 :
PP×C:2006/12/08(金) 01:01:02 ID:???
ここまで。
>>誰か氏
神経衰弱に陥ったベッキー・・・・゚・(ノД`)・゚・。
南条さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
犬神って乙女の呼ぶときは秋山じゃなかったか?
まああまり気にするな
482 :
特報:2006/12/09(土) 08:27:13 ID:???
メソウサが爆発10秒前・・・
65億人 VS 1人と1匹
地球がふっとぶ大爆発!!
止められるのは、天才レベッカ宮本!
映画ぱにぽに 嵐を呼ぶ! 歌う ぱにぽに爆弾!
独白の人でつ。
皆さんGJ。
面白くよませていただきますた。
今回はレベッカ宮本の独白でつ。
ツッコミよろしこ。
484 :
483:2006/12/09(土) 10:46:19 ID:???
<レベッカ宮本の独白>
あーあ、今日も職場のオッサンたちの相手で飲みだ…。
何であいつらあんなに酒飲みたがるのかなぁ…。
いい加減にしてほしいよ…。
やれ酒注げ、注文取れって、若いってだけでやたらこき使われるしさ。
酒注いだり注文したりする間くらい、中断しても困るような話なんか
全然してないくせに。
普段からコピーだのお茶汲みだのパソコンの入力だのさんざん人に
やらせてるんだから、飲みの注文くらい自分でやれっつの。
一人じゃ何もできないのか、あんたら?
あいつらすぐ人に序列つけたがるのも、何なんだと思うよな。
事あるごとに「生意気なんだよ」「新人の分をわきまえろ」とか
言いやがって。
序列序列って、お前ら犬か?
北朝鮮か?
年上がそんなに偉いのか?
おとなしくしてたら今度は「宮本先生、あんた若さがないよ」とか
言ってきやがるし。
余計なお世話だよムシケラども!
たいした仕事もしてないくせにさ。
頭の固いオッサンども、みんな死ねばいいのに。
あーあ、やっぱ大学に帰ろうかなぁ。
仕事自体は好きだけど、職場の人間関係が嫌すぎる…。
前スレのベホメデ修や現スレの南条みたいにキャラ考察がされたのを理由に
SSの内容が変わってしまった作品ってあるのかな?
>>485のレスをみてふと思った。
ま あ 依 然 と し て 犬 神 は 最 強 だ が な
原作とここでほとんど登場しないしネタにもされない早乙女m9(^Д^)プギャー
べホイミにぼこぼこにされる小悪党犬神m9(^Д^)プギャー
>>487 教師が加害者になるのはごく一部の特例を除いてありえないし
あんまりウィークポイントがないから被害者にもなりにくいな、早乙女は。
犬神もその作品以外はすばらしい活躍ぶりなんだがな。
そんな事言ってると今度は犬神がボコボコにされちまうぞw
独白の人でつが、早乙女ネタ投稿しようか?
エロパロだと乙女やベッキーの相手役でたまに出てくるけど。
独白の人、作品の内容は悪くないと思うんだが、ちょっとあなたの口調が…
「○○でつ」「○○ますた」とかあんまり多用しないほうがいいかと。
考察というか、ちょっとした感想を受けてから某怪奇連作のラストでそれをネタにしたことはあったり。
読者サービス的な意味合いで。
今思うと原作で「おしまい♪」というセリフを放ったのは鈴音じゃなくて姫子だったということに気がついて冷や汗かきましたよ・・・
何で鈴音だったんだろう・・・?
○○でつ
○○ますた
もあんまりきにならないけど…きになるひともいるみたいよ
別にどっちでもよくね?
ここは2chだし、2ch語使っても別にいいんじゃね?
確かにちょっと古いけどな。
独白の人です。
本文でなく投稿者としての文だとわかるように口調を変えていたのですが、
「でつ」「まつ」「ますた」等、気になる人が多ければやめますよ。
もし不愉快な思いをさせていたら、すみませんでした。
497 :
496:2006/12/10(日) 20:07:42 ID:???
あ、投稿をやめるという意味ではありませんので、念のため。
ネタが続く限り書き続けますので、よろしければ読んでやってください。
498 :
マロン名無しさん:2006/12/10(日) 20:21:23 ID:HME+plmY
hosyu
必要以上に気にしないで書きやすい形を掴んでいけばいいと思うよ。
>>491だけど、独白の人あんまり気に病まないでくれ、少し気になった程度で
不愉快とかじゃないんで…作品は大好きだから!
501 :
496:2006/12/10(日) 21:39:40 ID:???
励ましありがとう。
とりあえずまたネタできたらUPします。
とか言ってたらネタできました。
今回は早乙女の独白です。
ちょっと鬱?
503 :
502:2006/12/10(日) 23:42:29 ID:???
<早乙女の独白>
秋山、俺、お前のことが頭から離れないよ…。
いつも俺のこと苗字で呼び捨てて、生意気な奴だと思ってた。
白鳥とケンカなんだかジャレあいなんだかわからない
バカ騒ぎばっかりしてて、うるさい奴だと思ってた。
そう、あの晩までは。
あの晩、白鳥が交通事故にあった日の晩、いつもは人に
弱さを見せないお前が、泣きながら俺のところに来たんだよな。
泣きながら「私のせいで鈴音が…」って、俺に言ったよな。
自分が「お前なんか大嫌いだ」って言ったせいで、白鳥を
自暴自棄にさせてしまったんだと、それで白鳥が道路に
飛び出したんだと、そう言ったんだよな。
504 :
502:2006/12/10(日) 23:44:02 ID:???
お前は、少しずつ俺に話してくれたよな。
普段から白鳥の脳天気な言動にイライラしていたこと。
自分が白鳥にバカにされてるんじゃないか、ってずっと思ってたこと。
昔いじめられてたことを思い出して、段々何もかも嫌な気持ちに
なっていったこと。
思わずお前を抱きしめた俺に、腕の中のお前は泣きながら、
「早乙女…。」って、一言だけ言ったんだよな。
俺、お前をどれくらい抱きしめてたんだろう。
5分だったか、10分だったか、1時間だったかもしれない。
永遠にも近い、そんな気がした。
お前が腫れた目で、赤い顔して俺の部屋を出るときに言った、
「早乙女、ありがとな…」って言葉、今も耳に染み付いてるよ。
次の日のお前は、いつもの乱暴な口調のお前だったよな。
でも俺は知ってるからな、お前の繊細さを。
お前の、ずっと口に出せなかった思いを。
505 :
PP×C:2006/12/11(月) 00:46:30 ID:???
<パート13>
「そうか、わかったぞ」
レベッカは突如顔を上げて叫んだ。一緒にいた神原と姫子は首を傾げた。
「何がわかったの、ベッキー?」
「姫子、やっぱりお前の言うとおりだ。罠は二文字のイニシャルの一致で発動するんだ」
「でもさ、さっきの部屋は【NDH】だったよ?何で南条さんが入った瞬間に罠が動いたんだろう?」
「それは、姫子。お前だったんだよ」
「?ベッキー、よくわからないよ・・・・・・?」
「ひ・め・こ。頭文字はH。そして南条、頭文字はN。どうだ?」
「あ!じゃあ、ひょっとしたら・・・・・・」
「そうだ。そうだったんだよ・・・・・・つまり、三文字のアルファベットに含まれる二文字でイニシャルが表記できる人間が入れば、部屋の罠は発動。
しかし、その他にも、アルファベット二文字に二人のイニシャルのそれぞれ一つでも含まれた場合、二人が部屋に揃った時点で罠が発動するんだ。
だからあの時、既に姫子は部屋の中に居たから"H"条件を満たし、その後南条が入って"N"条件が満たされた。そして、【NDH】の罠センサーが起動した・・・・・・どうだ、これが完全なイニシャル・トラップの仕組みだ」
「でも先生」神原が物言いをかける。
「証拠がありません。実例一つでは、本当にそんな規則が存在するのかを確かめるには不十分です。ひょっとしたら、イニシャルで考えること自体が誤りである可能性があります」
「その通りだ。だが、第一のイニシャル説に従って部屋を移動して、罠は一度も起動しなかった。そして第二のイニシャル説によってさっきの部屋のことも合理的に説明できる・・・・・・証拠はない、確かにその通りだ。
しかし、考え得る範囲では、これが最も理解しやすいし、合理的だ。他にこれといったことも思いつかない限り、これを信じて進むより他、どうしようもない。
たとえどんな理論でも、全ては仮説の域を出ないんだ」
「わかりました・・・・・・僕は先生の考え方を信じています。それに、先生の仰ることも理解しています・・・・・・確かに、その理論を信じて進むしかありませんね」
「もしこの理論が確かなら――三人なら、罠の発動するリスクは格段に下がる。不本意だが、犬神やベホイミの言った通りだ・・・・・・」
「ベッキー・・・・・・」
「宮本先生・・・・・・」
506 :
PP×C:2006/12/11(月) 00:48:27 ID:???
暗い顔をして三人は顔を見つめ合った。
出て行った他の三人は今頃どうしているだろうか。
心配からくる不安はレベッカたちの気持ちを深く沈めていった。
姫子にいたっては、頭頂の跳ねっ毛が、元気なく頭を垂れているのが目にも明らかで、感情の伏した様子がありありと認められた。
レベッカは腕時計を覗き込み、すっと立ち上がると、努めて張り切った声を出した。
「さぁ、考えるのはここまでだ。実際に動き出さなくちゃいけない。この部屋だっていつ動くかわからないんだ。
罠の動く条件はわかったんだ、とにかく、【GGG】のある方角に向かって進み出そう。大丈夫、きっと出られるさ」
レベッカはそう言うと壁の一つの扉に歩み寄り、力一杯にハンドルを廻した。
残りの二人は彼女に励まされたように顔色に勇気を取り戻すと、その背後からついていく。
「あ!」
通路に入り、二枚目の扉を開けようとしたレベッカが声を上げた。
声は狭い通路の中に反響して、やがて部屋の中に拡散した。
「どうしたんです、宮本先生?」
「こ、これは・・・・・・」
「何なの?何があったの、ベッキー?」
レベッカは身を傾け、背後の二人に扉の片隅を指し示した。
そこには、薄い鉛筆書きで"B4O"と書かれていた。
「一条のサインだ・・・・・・一条は、この部屋を抜けていたんだ」
「どういう意味なんです?」
「おそらく"Blue-4-Out"、あいつが通った四番目の青い部屋の出口、ということだが・・・・・・おかしい。今の部屋の入り口にはサインがない。
抱き合わせの扉には"In"があるはずなのに・・・・・・部屋が動いたのだろうか?」
「かもしれませんね。しかし一条さん、こんなところまでも通ってきていたんですか」
神原が感心したように言う。レベッカは振り向いてハンドルを廻した。
「とりあえず、こっちに進もう。【CUP】だ。罠は動かないはずだ」
扉が開かれる。そして、レベッカ以下三人は驚愕の光景に遭遇することとなった。
「そんな・・・・・・そんなバカな!」
その部屋は、一面真っ白の部屋だったのだ。
507 :
PP×C:2006/12/11(月) 00:51:05 ID:???
<パート14>
「頭文字"B"で白を表す語があったか・・・・・・?いや、確か一条は白い部屋を"W"だと言っていた。これは間違いがない。
ならば"B"は青であってしかるべきなのに・・・・・・一体何がどうなっているんだ?」
レベッカは再び考え込んでしまった。
まさか一条が部屋の色を間違えて記すなんてことはないだろうし、しかし"B"といえば"Blue"以外に考えられない。
だが、目の前に広がる空間は、疑いようもなく真っ白である。
壁に埋め込まれた電飾が、レベッカの顔に白く、冷たく照りつける。
「白・・・・・ですよね?僕たちの眼が一緒におかしくなったのでなければ」
神原がサングラスの隙間から部屋の中を覗き込む。
「ベッキー・・・・・・白い!白いよ!」姫子が喚きたてる。
「わかってる!ちょっと考えさせてくれ・・・・・・」
レベッカは部屋の中に入り、その場に座り込んでしまった。
ふと何気なく腕を上げると、いつものように時間を刻む小さな機械。
まるでレベッカを嘲り笑うかのように、細い針がくるくると回っている。
部屋の中の白い光を浴びて、三本の針が、インデックスの棒字マーカーが、ダイアルの上の"Ω"のロゴが、キラキラと光る。
「燃え尽きたぜ・・・・・・真っ白によぉ・・・・・・」
「・・・・・・姫子?」レベッカはハッと気がついて頭を上げる。
「真っ白!真っ白!アハアハアハハ・・・・・・」
姫子は部屋の中をくるくると回りながら頭を振っている。
一瞬のうちにレベッカの中には何か不吉な思いが過ぎった。姫子、まさか――
「姫子!しっかりしろ!おい、神原、姫子を!」レベッカは神原の方を見る。
神原は部屋の中を行ったり来たりする姫子を胸に受け止め、両腕でしっかりと抱きとめた。
姫子は何も言わず、神原の胸の中で、目を廻したかのように頭を振っていた。
「姫子さん・・・・・・大丈夫ですか?・・・・・・落ち着きましたか」
「うぅ・・・・・・あぁ・・・・・・あん?あ、ゴメン・・・・・・もう大丈夫・・・・・・ちょっと、部屋が余りにも白くって・・・・・・頭がぼぅっとしちゃったみたい・・・・・・もう大丈夫。びっくりしちゃったんダヨ、きっと」
神原は姫子の身体をそっと手放した。
姫子は、それ以上何も言わずその場にすとんと腰を下した。
「お腹、空いたなぁ・・・・・・」
508 :
PP×C:2006/12/11(月) 00:53:07 ID:???
ここに来てからどれくらいの時間が過ぎたことだろうか。
姫子だけではない。誰も彼もが肉体的にも、精神的にも限界のところまで来ているのだ。
レベッカだって勿論例外ではないはずだ。
しかし、彼女はそれでも考えるのをやめようとしなかった。
ここにいる人間の命は、自分の頭脳に懸かっているのだと、頭の片隅に少しでも残っている限り、彼女は考え続けた。
その支えを失った瞬間、聡明なる彼女は自分の精神の崩壊することを知っていた。
だから考えた。必死に、現実の障害を打破するため、現実の苦痛から逃れるため――
「白く・・・・・・燃え尽きる?」
突然、レベッカは自分でも思いのよらないことを口走った。
決して意図したわけではない、自然にあらわれた呟きだった。
「先生・・・・・・?大丈夫ですか?」神原が心配そうに尋ねる。
「まさか!」
レベッカは神原の凝視を無視するかのように、手帳の切れ端を必死に覗き込み始めた。
何かを思いついたのか?
「あの・・・・・・先生?」神原の第二声。この直後、レベッカは勢いよく立ち上がった。
「ひょっとしたら・・・・・・この部屋、色が変わったのか?」
「え・・・・・・?どういうことです?」
神原が怪訝な顔つきをしてレベッカを見遣る。
その時、遠くの方で音がする。中規模の音だ。
そして、その音が始まって間もなく、部屋を地揺れが襲った――この部屋も、動いたのだ。
音と移動が終わった後、レベッカは一つの結論に到達した。
揺れの中で、何かが閃いたのだった。
「部屋の色は変わるんだ。きっと、移動にあわせて」
レベッカは茫然とする他の二人を差し置いて、天井以外の五つの扉全てを再度開き、隣の部屋の色を確認した。そして、一言。
「そうだ。色は変わる。重要なのは白い部屋だったんだ」
「白い部屋が?」
神原は相変わらず何もわからずに問うた。
レベッカは答えた。わずかに微笑んだかのような素振りを見せ。
「ああ、白い部屋だ――動くのは白い部屋なんだ・・・・・・いや、白い部屋しか動かないんだ」
509 :
PP×C:2006/12/11(月) 00:53:59 ID:???
ここまで。
>>独白氏
( ´∀`)ノ早乙女乙女
そんな…続きが気になって眠れないなんて……
毎度乙です。
すげー。続きがめっちゃ気になる…
独白さん&PP×CさんGJ
まとめて読んだ。おもすれーです。
『彼女と誰かの物語』、参ります。
> 「頭文字"B"で白を表す語があったか・・・・・・?
"Bianco"
>しかし"B"といえば"Blue"以外に考えられない。
"Black""Brown"
気分は最悪だった。疲れやら何やらが丸々残っている。
んーっと伸びをしてみる。首と背骨を捻じってビキビキと鳴らす。
ぐえ。
捻りすぎてちょっと痛みが走った。
レベッカの気分には関係なく、学校の授業は開かれる。
今日も彼女は元気に登校しなければならなかった。
動くのは嫌だったが、それでも家の中でじっとしているよりはマシだろう。
レベッカは迷わず出勤のための準備を始めた。
まずは洗面所で顔を洗い、髪を梳かし、化粧水を軽く肌になじませる。
棚には姉が買ってきたファンデーションやグロス、香水なども置いてあるのだが、
レベッカが自分からそれらを使うことは決してない。
面倒くさいし、使い方もよくわからないからだ。
だがレベッカぐらいの女の子は、あまり飾り立てないでも美しいものである。
余計な仕掛けを施さずとも、彼女は生来の眩い輝きを放つことができるのだ。
さて、学校へパジャマで行くわけにもいかない。
いつものように、姉がコーディネートした服がクローゼットに掛かっているはずだ。
それはいいのだが、着替えるためにはパジャマを脱ぐ必要がある。
家のどこからか観察されているかも知れない状況で下着姿をさらす度胸は、
流石のレベッカといえどもそこは女の子、あいにく持ち合わせていない。
洋服を手にとって考えた結果、彼女は布団の中で脱ぎ着することにした。
すっぽりと毛布を被り、どこからも見えないように体を動かす。
ベッドの上でもぞもぞと何やらやっているその様は、むしろエロティックな気がしないでもない。
着替えを終わらせたレベッカは、手早く姉の準備した朝食を摂取し、
その他こまごました準備を済ませてから家を後にした。
外に出ると、明るい、開かれた世界が彼女を迎え入れた。ちょっと深呼吸などをしてみる。
湿気の少ない風がレベッカの顔を、首を、腕を、内股を通り抜け、熱を奪っていく。
朝の空気によって濾過された清らかな日光が、彼女の肉体を温める。
対流と放射の背反するそのバランスが気持ちよかった。
今日の天気は予報通り雲のない快晴で、気温はちょっと低め。
日なたは適度に暖かく、日かげは適度に涼しい、そんな快適な日だった。
歩いて数分のバス停へとリズム良く脚を動かし、到着したバスに乗り込んで桃月学園へと向かう。
学校に着いてからは、まず教員室で今日の事務連絡について確認する。
それから朝のホームルームの時間になると、1−Cの教室へと乗り込んでいく。
事務連絡を生徒たちに事務的に連絡し、本日のホームルームは終了。ここからは授業の時間だ。
数学というものは基礎的な学問にあたるため、必然的に授業数も多い。
今日一日の中で空きゴマは一つだけだった。
黒板に腕を届かせるための脚立とともに、教室を行ったり来たり。
授業では、教科書の内容をレベッカ風に翻訳し、機械的に板書して解説する。
昼休みには、教員室でカロリーメイト。
姫子たちからの誘いもあったが、あまりクラスの皆と一緒にいる気にはなれなかった。
全ての授業が終わった後は、レベッカは教員室の自分の席にぼうっとしていた。
教員室の席順は、入り口の方から三年担任、二年担任、一年担任、その他の教師という風になっている。
レベッカの椅子と机は部屋の割と奥、早乙女とジジイ先生の席の間に置かれている。
彼女以外の一年担任の教師は、部活の面倒でも見ているのかそれとも既に帰ったのか、誰もいなかった。
「遅いなー、あいつ……」
レベッカは机に肘をつき手でほっぺたを支えながら、未だ来ぬ待ち人に首を長くしていた。
手持ち無沙汰だったレベッカは、他の教師の席を観察してみることにした。
左の早乙女机を見てみる。いかにも早乙女らしい、面白みのない机だった。
保健体育の教科書や専門書が多少置いてあるだけで、かなりすっきりしている。
まあ体育の授業に必要なものは体育館やグラウンドにしまってあるんだから、当たり前ではある。
おじいちゃん先生はどうだろう、右を見てみる。
やはり国語の教師らしく、国語辞典や漢字字典、古語辞典など分厚い本がどんと並んでいた。
プリント類もバインダーにきちんと収められていて、意外と几帳面なのかもしれない。
五十嵐先生の机に視線を向けてみる。……これは酷い。
あの人の性格から予想される通り、ぐちゃぐちゃごちゃごちゃ惨憺たるありさまだった。
それだけならレベッカが人のことを言えた口じゃないが、飲み干された日本酒のカップがあるのは……。
本人は「迎え酒だからいいのよ」とかいっているものの、よく問題にならないなと思う。
いつか学園から性格矯正を受けさせられるんじゃないかと、余計な心配もしてしまうというものだ。
さて、そういうレベッカの机はというと、ほぼ全ての品を研究室に移してしまったので、
誰も使っていない空席かと見まがうばかりに何もない。
実際、研究室があてがわれてからというものの、教員室に長くいることは滅多になかった。
それでもこうしていると、この先生たちのための部屋も悪くはないように思える。
「あんまり閉じこもりっきりでも良くないかな……」
レベッカは小さく呟いた。
「お待たせ、ベッキー。ちょっと姫子に捕まって遅くなった」
「あー、悪いなわざわざ来てもらって」
レベッカが呼び出したその人、玲がようやくやって来た。
放課後に一人だけで教員室に来るようにと、こっそり頼んでおいたのだ。
「いや、別に。それで、用件は?」
玲は早乙女の椅子を引っ張り出して座りながら、レベッカに尋ねた。
浅く腰掛け背もたれに滑らかに寄りかかる玲に対し、レベッカは若干前屈みになっている。
「あのさ、新聞部に探知機って他にあるか? あったらまた貸して欲しいんだ」
「ん、うちにはあれしかないんだけど……何で? 貸した奴、壊れたの?」
「あ、うん、よくわからないんだが、そうみたい……」
「マジでかっ、あれうちの備品なんだぞ。どんな風に壊れたのさ」
「それが……」
レベッカは自分の鞄の中から、玲に借りた探知機を取り出した。
特にひびが入ったりしている様子もなければ、部品が取れたようにも見えない。
「……外見からじゃ判断できないんだけどさ」
「? 壊れているようには見えないが……。どうしてそう思ったんだ」
「あー、ちょっと落としちゃってさ」
「ふーん?」
本当のことを隠すレベッカに、玲は怪訝そうな眼差しを投げかける。
レベッカは玲の視線に押され、何も喋ることは出来なかった。
「……ベッキー、嘘ついてるだろ」
「なッ!? 私は何も……」
話をでっち上げた所へ直接的な疑念を打ち込まれたレベッカは、思わず取り乱してしまった。
慌てふためくレベッカに、玲はとどめを刺しにかかる。
「なあ、これは私の推測なんだが――だから間違ってたら違うといって欲しい。
昨日、学校が終わった後に何かがあったんじゃないか。
今日のベッキーは何だかおかしいし。いつもよりテキパキしてる。
そこに探知機がどうのと来た。別に壊れてるようには見えないのにそう言いだすってことは、
探知機がうまく機能しなかったことがあるんだろう。
つまり私が想像するに、ベッキーは昨日、新たな隠しカメラを発見したんで探知機を使ってみた。
だけど反応がなかったから壊れたと思った。……違うか?」
一気にまくし立てる玲に、レベッカはぽかーんとするしかなかった。
まさかここまで正確に言い当てられるとは、全く考えてもいなかった。
ジャーナリストとして「魔女」とまで恐れられたその手腕は伊達ではなかったということか。
もはやレベッカが玲の説を否定したとしても、信じてはくれないだろう。
玲の洞察力に感服したレベッカは、あっさりと認めることにした。
「参りました。その通りデス……」
レベッカの自白を引き出した玲は、ふーっと溜息をついてから身を乗り出した。
「どうしてそんな大事なことを黙っていたんだ。というか、警察には相談しなかったのか」
「何だか嫌な予感がするんだ。これは警察が対応できるような問題じゃない。
私が自分で立ち向かわなければいけないんだよ」
「それはベッキーの意地だろ。一人で抱え込んでないで、他人を信用することも必要だろ」
「……私はみんなに心配を掛けたくはないんだ」
永劫の一瞬、レベッカの視線と玲の視線が斬りつけ合う。勝ったのはレベッカだった。
「……そうか。だけどベッキー、危険だぞ」
「わかってる。けど、私はこう見えても色んな目にあってきたんだ。
充分に心得はあるつもりだ。大丈夫、打つ手はある」
「だけど、私にも協力させてくれ。そうだ、新しい探知機をうちの部費で買ってくるよ」
「……悪いな」
「気にするな、私はベッキーの味方だ」
こうしてレベッカは玲に協力を仰ぐこととなった。
クラスの生徒に負担をかけることは心苦しかったが、意地になっても意味はなかったのかもしれない。
玲の情報収集能力は確かなものだし、どのみちクラスの皆に相談するのは避けられなかっただろう。
こうなって良かったのかもしれないと、レベッカは思った。
今日はバイトがない日だという玲とともに、レベッカは学校を出て帰ることにした。
すぐそこまでは一緒だったのだが、玲は探知機を買いに行くと言って別れることになった。
買ってきた奴を携えて、後でベッキーの家に来るのだという。
隠しカメラの探知機なんて、普通の電気屋で売っているんだろうか。
それともやはり怪しげな店に陳列されているものなのか……。
レベッカはあまり詳しくない電気器機業界について、考えを巡らせるのだった。
こうして街中を歩いていると、そのあまりの平和さを改めて認識することが出来る。
比較的栄えている桃月の街は、いつもそれなりに人で溢れかえっている。
これほどまで多くの人がいるのに、全員が凶行に走ることなく正気を保っているのは驚くべきことだ。
誰も彼もが、買い物や冷やかしや時間つぶしをして生活を送っている。
判で押したように、全ての人間が「通行人」の役割を演じている。
ノイズ化した喧騒の中で、アイデンティティを保っているのは自分だけではないかとレベッカは思う。
「あれーベッキー、今帰り?」
レベッカが一人で駅前の繁華街を帰路についていると突然、後ろから話し掛けられた。
振り返ってみると制服の上に薄いコートを着た不審な人物がそこにいた。桃瀬くるみだった。
「ああ、くるみか。ちょっと用があって」
「ふーん…ねえ、今から時間取れる? ちょっと話したいことがあるの」
くるみはコートのポケットに両手を突っ込んだまま、レベッカのことを見下ろしている。
特に断る理由もなかったので、レベッカはくるみに付き合うことにした。
「うん、別にいいけど」
くるみはレベッカを、近くの喫茶店へと引っ張っていった。
チリンチリンと扉の鈴が鳴り、中年男の店主が「いらっしゃいませ」と二人を迎えた。
中途半端な時間のためか他に客は全くおらず、全席が空いている。
くるみは一番奥の席へずんずんと歩いていき、その席の入口側に座った。
レベッカはくるみと向き合う形で、喫茶店の本当に一番奥の椅子に座ることになった。
「ご注文は?」
「私はコーヒー」
「あー、アイスティーで」
注文を済ませ店主が奥へ下がると、くるみは他愛もない世間話を始めた。
ここの様なまともな喫茶店の良い所とか、オタクの嫌な所とか。
それはくるみの本音ではあろうが、今回の本題でないことはレベッカにもわかった。
「こちら、コーヒーとアイスティーになります」
注文した飲み物が届き店主が再び奥へ引き下がると、くるみは一転して真剣な顔になった。
「ねえ、ベッキー。昨日何かあったでしょ」
またかとレベッカは思った。そんなに今日の自分はおかしかったのだろうか。
隠していたつもりでも、心の動揺は滲み出ていたのか。
「いや、別に何も」
それでもレベッカはくるみの言葉を否定した。
玲の時に対応をまずった反省から、今は充分に落ち着いているはずだ。
「嘘。なんか今日のベッキーは私たちと一緒に居たがらなかったでしょ。あからさまに変だったよ」
「そうかな、あ……?」
レベッカは、くるみが喋りながらもコートの内側から小さなカードを取り出しているのに気がついた。
くるみはカードを自分の体に押し当て、表の面をレベッカだけに見えるようにしている。
そこにはこう印刷されてあった。
『何も見ていない振りをして見ていて』
「???」
レベッカは面食らった。くるみは何をしているんだ?
目を丸くしてくるみの顔を見てみるが、彼女は普通の様子で喋り続けていた。
「だって今日のベッキー、動きがぎこちなかったし、顔色悪いし」
口を動かすのと平行して、くるみはコートの中から新しいカードを滑らせた。
今度は何だ?
『何があったかはわかっている。自宅の隠しカメラ。安心して。私はベッキーの味方』
レベッカは驚愕した。玲にしか話していないはずなのに、くるみは昨夜のことを知っている。
どういうことだ。というかカードでこっそり知らせてくる理由は何なのか。
「あ、あぁ……」
レベッカの口から呻き声が漏れ出した。
それには構わず、くるみは表面上の会話を続けた。
「やっぱり盗撮事件で参ってるんじゃないの? 辛いなら私たちにちゃんと言ってよ」
もうくるみの声など耳には入らない。レベッカは彼女の謎の行動について考えていた。
家のカメラを知っているのは、レベッカ自身と、さっき話した玲と、後は……犯人?
もしかしてくるみが犯人なのか? だが「味方」と言ってるし……。
ここはきちんと、くるみに問い詰めてみるべきなのか。
だけど『何も見ていない振りをして見ていて』って言ってるんだから逆らわない方が良いか……。
混乱するレベッカだったが、くるみが次のカードを手に持っているのを見て慌てて目を通した。
『私と私の友人は、ベッキーを狙う犯人を知っており、証拠を掴んでいる』
……何だって?
もう訳がわからなかった。自分の知らない所で、一体何が起こっているというのか。
「うぅん……」
「ね、私たちだってベッキーのことが心配なんだからさ」
会話とは関係のないレベッカの唸りに、くるみは建前的な優しい言葉を返した。
もちろん、それと同時に次のカードを取り出している。
レベッカはその表面に視線を走らせた。
『これが最後。ここを出たら左へ行って、オレンジ色の自転車の所で立ち止まって。
そこに私の友人がいる。大丈夫だから、私を信頼して欲しい』
なるほど。
「……わかった、そうするよ」
「ふふ、ありがとうベッキー」
こうして、レベッカを疲労困憊させた二重会話は終了した。
その後くるみは、単純な世間話を再会させた。
だがレベッカはほとんど上の空であり、くるみが一方的に話すばかりだった。
コーヒーとアイスティーをそれぞれ飲み干して、会計を済ませる。
喫茶店を出ると、「じゃあ、また明日ねー」と言ってくるみは去っていった。
「ふう……さて……」
くるみが陰で言ったことには、レベッカはこれから「くるみの友人」に会わなければいけないらしい。
明らかに怪しかったが、ここまで事情を握られている以上、仕方がないだろう。
くるみ(とその謎の友人)が何者なのかも、レベッカは知りたかった。
左方向へしばらく歩いていくと、ビルとビルの隙間からオレンジ色の自転車が顔を出していた。
どうやらここのようだ。
喫茶店のあった商店街とは異なり、何かの事務所が軒を連ねるうら寂しい地区だった。
人通りもないわけではないが、駅前などに比べると格段に少なかった。
見回してみても、レベッカを待っているような人はいなかった。
とりあえずレベッカは、自転車の前で佇んでいることにした。
レベッカの後ろ、自転車の置いてあるビルとビルの隙間は、人がぎりぎり一人通れるほどの広さだ。
その狭い路地に面するビルの扉が、音もなく開かれた。だがレベッカはそれには気付かない。
扉から出てきた人物は薄汚れた路地をゆっくりと進み、レベッカの所へと近づいていく。
その人物は前後左右にきょろきょろと注意を払いながら、少しずつ前進する。
レベッカはというと、足先で地面をこつこつ叩きながら不満そうに呟いている。
「……誰もいないじゃん」
だが彼女のすぐ後ろには、その人物が既に立っているのだった。
今回は以上です。
527 :
PP×C:2006/12/11(月) 23:36:15 ID:???
>>515の指摘にお答え。
>“Bianco”
一応女子高生の知り得る通用英語の範囲内で、ということで考えました。もっとも、一条さんならいきなりイタリア語を駆使しそうな勢いもありますが。
>“Black”
物理学の理論上では「黒い光」というのは存在しないので、自然と黒い部屋というのは除外しました。
いくらなんでも真っ暗闇の部屋は無いだろうし、あったとしても一条さんは進まないだろう、とベッキーは判断したと解釈していただければ・・・
>“Brown”
これは完全にミスです。作者がポカしました。
始めの方で一条さんに全部の色を回らせたつもりで話を展開してしまいましたが、よく考えてみればそれが全てであるとは限らないわけですし・・・考証ミスです。すみません。
舌足らず、及び凡ミスで混乱を生じさせるような不備を作って申し訳ありませんでした。
他にも何かありそうで恐い・・・
>>誰か氏
GJっス!
こういうミステリー調の雰囲気はとても好きです。
イイねイイね、どの作品も続きが気になるよ!
楽しみに続き待ってます。
…そういやフランス語の"blanc"も白だわな。
カポデコでイタリア語使いまくってたのにBiancoに気づかないのは凡ミスっちゃ凡ミスだわな
>>526 GJ
かなり続きが気になる。
オメガ面白いっス
531 :
マロン名無しさん:2006/12/13(水) 00:32:33 ID:j9qmX8eA
保守
保守
このスレ波ありすぎだ
534 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:21:25 ID:???
それでは波のまにまに一本。
人死にアリで。
535 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:25:14 ID:???
――私も一応は物書きの端くれだから、何が起こったのかをここに書いておくことにする。
この事件はとても凄惨で、とても残酷な……いや、もうそういった勿体ぶった物言いも必要がない気がする。とにかく、ありのままをここに記そうと思う。
あの二人が着ぐるみに身を包んでドンパチやり合うというのはもう一種のお約束であったわけなのだけど、当人たちはどうやらお互いの正体を今ひとつ把握しきれていなかったと思える。
彼女たち、つまり我らが演劇部の芹沢茜と、私のお気に入りの後輩であり、うちの好敵手映画研究部の来栖柚子は互いの着ぐるみの中で、相手をそれと知らずに、その姿を見ればどちらからともなく突進していき、殴り合うというお約束。
ある意味では桃月学園のいち名物として、なかなか知らない人もいないほどの有名なパフォーマンス・ショーになっていたらしい。
二人の対戦は実質的には傍迷惑なものであった以上、部としてはいささか不本意であったが、円(演劇部部長)が言うにはよい宣伝になっていたからそれはそれでよいとのことだった。
あの子の考えていることは今でもよくわからない。
その日もいつもと同じように二人は元気にやりあっていたようだった。
二人の技力はほぼ互角であったがために、平生からその決着がついた例しはない。
いつも相手を着ぐるみの上からポカポカと殴るばかりで、決定打がないものだから決着などつきようはずがない。
結局は、お互いに疲れ果てて手を出せなくなりドローと相成るのがこれもまたお約束の中の一つだった。
本人たちはそれでいいかもしれないが、戦いに熱が入りすぎて一線を越えてしまい、おじいちゃん先生あたりに拘引されたときには、身柄を引き取りに行って頭を下げねばならないのは私なのだからいい迷惑である。
可愛い後輩のためとはいえ、後始末というのはどうにも不愉快なものだ。
話が逸れた。
それで、その日は少し様子が違った。
来栖の演じていた怪獣の跳び蹴りが、どうも芹沢の演じていたロボットの頭に命中した様子である。
怪獣の特徴的な足型にロボ子の面が拉げて、芹沢は打っ飛ばされたみたいだった。
そして、芹沢は後頭部を壁か何かに激突させ、そのまま気を失ったと見える。
536 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:27:57 ID:???
来栖の方は相手が動かなくなったのを見ると、自分の勝利を確信したのか、狂喜小躍りしてそのままどこかへ立ち去ってしまった。
おそらくは映研の部室辺りにでも凱旋したのだろう。
とにかく、その時の彼女には、ロボ子の内部で芹沢の身に何が起こっていたのか、まったく理解していなかったであろうことは想像できる。
来栖が立ち去った後、始めに教室の片隅に横たわるロボ子を発見したのは高瀬であった。
彼はいつも喧しく動き回っている芹沢が、その日に限って全く何の動きも見せないことから、おかしな心地を覚えて声を掛けた。
芹沢は何も応えなかった。
高瀬は、芹沢が運動のし過ぎで参っているのか、それとも衣装のまま眠っているのかと色々考えてみたが、それにしても置物のように全く微動だにしない彼女の様子に少なからぬ不安を覚えた。
彼は訝しげにロボ子を眺めていたが、ハッと気がつくと、すぐにその許に駆け寄って面を外した。
芹沢の顔は蒼白く、口からは大量の鮮血が吹き出していた。
「おい、芹沢!しっかりしろ!大丈夫か!?」
高瀬は慌てて彼女の肩を揺するが、彼女の首は力なく項垂れ、頭が振れる度に白い目を引ん剥いてどこか別次元の空を睨みつけているのである。
次に蒼くなったのは高瀬の方だった。
彼はしきりに芹沢の頬を叩くが、全く反応はない。
これはいよいよ一大事だといって手を持て余しているところを、私が傍を通りかかったのである。
「あ、高瀬と芹ちゃんじゃない。こんなところで二人して何しているのよ?」
「は、ハルカさん……芹沢が……芹沢が……!」
かくして私も顔面から血の気のひいていくのをはっきりと感じた。
口から尋常でない量の血を吐き出し、既に何の反応も失った芹沢茜の顔が私と対峙した。
私は即座に「これはもうだめだ」という直感めいたものを感じたが、それを口にすることなく、慌てて彼女の身体を抱え込むと一目散に医務室に駆け込んだ。
もう無我夢中で、私も必死であったのだが、しかし今思い起こしてみると、芹沢のあの小さく華奢な身体は沈み込むような重さで、私は底なし沼の上を腰まで浸かりながら走るような――そんな気分を覚えていた。
芹沢の身体は、何故か砂袋を持っているような感じだった。
537 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:31:09 ID:???
医務室からすぐに救急車が呼ばれ、私たちは彼女(既に「だったもの」であったことは私には薄々わかっていたが)が病院に搬送されていくのを放心状態で見送った。
しばらくして、私もようやく落ち着くと、高瀬を伴ってその場に腰を下した。
気がつくと、自分の制服の胸元が、芹沢の吐血で真っ赤に染まっているのに気がついた。
私は恐怖と不安に震える手でそれをそっと拭ってみたが、紅い血は糊のようにベタベタと張り付く感じで、既に凝固が始まっていたように思える。
血に匂いはなかった。あったのかも知れないが、その時の涙で麻痺した私の鼻はそれを感じるどころではなかった。
血はどこまでも赤かった。
よく、血は空気に触れると黒染んでくるというが、芹沢の血は赤いままだった。
赤かった。ただひたすらに赤かった。
私は高瀬に一体何があったのかを尋ねてみた。高瀬は首を振るばかりで自分にも何が何やらさっぱりわからないという。
ただ慌てていたのか、その手にはロボ子の面をしっかりと握り締めたままで、私は自分の震える手で、彼の硬く締まった指を一本一本引き剥がしながら、それを手放させることに成功した。
そして、自分の手にそれを移した瞬間、先刻述べた怪獣の足型が面についているのを確認し、何が起こったのかを大体把握したのだった。
「このこと、部長に伝えてきますか……?」
高瀬が唐突に言った。私は少し考えたが、すぐにそれは自分でやるからいいと言って彼を制した。
「円には私から伝えるわ……あの子、こういうのは傷つきやすいから……」
本音を言えば、それは決して円のためではなかった。
むしろ、もう一人の傷つきやすい――それでいて危険な少女の身を案じてのことであった。
私はまだこの件については誰にも漏らしたくなかったし、漏らしてはならないと思っていた。
高瀬には厳重に口止めをしておき、彼から奪い取ったロボ子の面は(これが私を忌まわしい推理に導いた元凶なのであったが)すぐに分解して処分した。
何故そんな真似をしたのか?
私は怖かったのだ。もう一人の危険な少女、来栖柚子を今後如何にして扱うべきかということを考えて……。
538 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:34:13 ID:???
芹沢の死亡の報告を聞いたのは翌日のことだった。
何らかの激しい衝撃を受け、その打ち所が悪く、彼女は儚くも天に召されてしまった。
当然ある程度は予期していたことだから(初めに血を吐く彼女の、あの凄まじい顔を見たらそれは当然のことであるというのは過言でないはずだ)、
昨晩はほとんど一睡もせずにそのことばかりを考えて、実際それを聞いたときは「ああ、やっぱり」という苦し紛れの諦めのため息しか出なかった。
しかし、いつまでも悲しんでばかりいるわけにはいかなかった。
というのも私の頭には昨日も脳裏をかすめた懸案事項が渦を巻きながら鎮座しており、ともすれば恐ろしいほどの険しき表情を見せつつ、私の神経を苛むのであったからだ。
それが、つまりは来栖柚子だった。
私が芹沢の死を伝聞で知り及んだということは、即ち彼女もまたいずれ――遠からぬ将来のうちか、或いはもう既に――この悲報を耳にしていることだろう。
芹沢の死が彼女の耳に到達するのは避けられなかったが、私はその芹沢の死が来栖の手によるものであろうことが、来栖の知ることとなるのを烈しく恐れたのだった。
浅ましいことだが、私は何とかして彼女が真実を知り得ないようにしたかった。
私は早速一年A組に赴き、来栖を捕まえて話を聞いた。それとなく、悟られぬように。
彼女はまだ芹沢の死を知らなかったようだ。
「ねぇ、昨日の放課後は何をしていたの?」
「昨日……ですか?怪獣映画の撮影のリハーサルを……」
「その格好のままどこかに出歩いたりは?」
「ええ。演劇部のロボ子さんに会ったんで、そのままいつもどおり……あ!でも私、勝ちましたよ!やっと勝ちましたよ……あ、そういえばハルカ先輩は演劇部でしたね……すみません」
やはり。これでことは全て飲み込めた。
しかし、問題はこれからどうするべきかということだった。
彼女が芹沢の死を知るのは時間の問題だ。
その時、ロボ子の正体が芹沢で、最後に彼女の生きている姿を見た人間、即ち殺人犯が来栖自身であるということを彼女が知ってしまったら……何か恐ろしい予感がした。
いずれ警察の捜査が入るかもしれないが、来栖に通じる唯一の手掛かりであるあの面はすぐに処分してしまった。
539 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:37:05 ID:???
来栖が黙ってさえいれば……いや、無理だ。
目撃者がいるかもしれない。
そして、警察の追及の手が来栖に伸びていって、彼女は破局的な真実を知らされることになるに違いない。
そしてその末は……。
どうするべきか、と書いたが、実際に私にはそれ以上どうすることも出来なかった。
私に出来たのはせめてもの気休めとして証拠品であるロボ子の面を隠滅したことくらいか。
それにしたって来栖のためというよりも、むしろ自分の為であったと言えないこともない。
あんなに忌まわしく、恐ろしいものを、いつまでも自分の手元に置いておきたくなかったと言うのが本音だ。
私は狼狽した。
灯りを失って、暗闇の路頭に迷う漂泊者の心地であった。
何かせねばきっとおぞましいカタストロフが待ち受けていることであろう。
しかし実際の私にはそれをどうすることもできない。ただ幕の流れるのをひたすら待つしかないというものだった。
私は、厭な演劇を無理矢理見せられているような気持ちであった。
ひたすら終わって欲しいと願いつつ、しかし来るべき悲劇的大団円の凄惨な有様を見るのが怖れながら、拷問器具と化した走馬灯的イメージの流れ行く様をひたすら見守るしかなかった。
何がスクリーン・プレイだ!と、私は自らの無力のふ甲斐なさを呪い罵った。
芝居は筋書き通りに進むのがセオリーだが、現実はそうはいかない。どんなにたくさんの芝居を書き続けてきた私にも、この現実と言う多層的連続的演劇の筋書きを書き換えることはおろか、その筋を拾い上げることも困難だった。
現実世界は演劇とは違う。意思を持ち、秩序を保つ神(デウス)は存在しない。
誰も彼もが役者であり、戯曲家であり、監督であり、そして神であるのだ。
その運命は、本人やその他の誰もが知らずとも、必ず一本の神がかりの操り糸によってしかるべき舞台を廻すことになるのだ。
嗚呼、何という悲劇!しかしそれが悲劇であると、誰に言い切れるものであろうか!
540 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:39:32 ID:???
私は結局無為に時を過ごすより他なかった。
下手に細工をしても、とても警察の目は誤魔化せないだろう。
現実が演劇でないのと同様に、現実はまた推理小説の世界とも違うのだ。
下手なロジックを操って先の見えない舞台を操ろうとしても、その上にはさらに大きな運命の糸があることを人は知らねばならない。
現実とはなるべくしてなる。全てのことを知り得ない人間ごときが、どうして頭で考えたくらいでその糸を断ち切ることが出来ようか!
まして、この舞台を取り巻く糸は、既に私の手に余るほどの複雑さで物語を動かしている。
抗いようのないものなのだ!
そして、ついにトラジディは物語りの拡大をやめ、破局への収斂運動を始めた。
その日の夕刻、私は演劇部の皆を集めてこのことを告げた。
既に円も……いや、部員のほとんど全てはみんな知っていた。だがその理由については、事故であると言うことしか伝わっていなかった。
無理もない。芹沢の死と来栖柚子を繋げることが出来たのは(今のところ)私一人だけだったのだ。
無論、私はこの確信めいた推理をその場で披露することはしなかった。
悲しみに暮れ、中には泣き出す人間もいた。
藤宮円もその一人だった。彼女は大声で泣き喚き、若き演劇部の新星の余りも急すぎる、余りにもあっけない夭折を悼んだ。
芹沢は彼女のお気に入りだった。思えば、芹沢が変な着ぐるみを愛用するようになったのも、全て彼女に仕込まれたからであったのだろう。
彼女にとって、芹沢茜は妹のような大切な存在だったに違いない。
それは、全く等しく私にも言えることだった。
部会を解散してしばらくすると、私の携帯電話に着信がかかった。
見てみると来栖からだった。
私はいよいよ彼女がこのことを知ったと悟り、観念して(というのもいささか変な話だが)電話に出た。
「あの……先輩……私……どうしたらいいのか」
「どうしたの?」
「先輩。聞いてください……こんな話はご迷惑かもしれませんけど、でも、他に相談できて、それで頼りになる人は、先輩しか見当たらなかったんです」
来栖の声は震えていた。たくさんの遅疑逡巡を経た後の、ある意味での境地に達したときに発せられる、怯えているが、しかし芯の強い声だった。
「話してみなさい」
541 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:41:57 ID:???
「はい……私の、大切な友達が……今日……先輩もひょっとしたら知っているかもしれませんが……芹沢茜さんという子が、事故で死んでしまったと聞いて……私、もう何が何だかさっぱりわからなくなって……」
「その話は聞いたわ……お友達だったの……それは気の毒に。私でよかったら、いつでも話し相手になってあげるわ……とにかく、落ち着いて、ねぇ?」
などと口上では穏やかなことを言ってみたが、実際、その時の私の緊張の糸の具合と言えば、今にも引き千切れんばかりに固く張り詰めていたのだった。
私は、ひょっとしたら親友を失った来栖よりもうろたえていたのかもしれない。
しかし、何とかそれを喉の奥に隠し、電話口では努めて冷静を装っていた。
もし私が芹沢を知っていると言い、そこから芹沢が演劇部員であり、ロボ子の正体であるなどという厄介な連想をされたのではたまったものではない。
私はあくまで知らぬ風を装い――しかし心のうちでは大泣きで、来栖や円と抱き合ってその苦しみを分かち合いたいとすら思っていたのだったが――彼女が芹沢を殺めたと言う事実を隠し通した。
それから私はしばしば彼女から電話で連絡を受けることになった。
大抵は衝撃の後の余波として必ず訪れる寂しさと悲しみを紛らわすための、とりとめもないことであったが、私は精一杯それに受け答えして、彼女が真実を悟るのを阻止した。
思えば阻止などではなく、単なる幕引きの先延ばしに過ぎなかったのだが、それでもそんな気休めの姑息な策を講じつつ、私は彼女と長くお喋りを交わすのを日課としていた。
しかし、ある時、彼女は出し抜けにこんなことを言った。
「先輩、聞きましたか?」
「どうしたの?」
電話口から聞こえてくる来栖の声は、混乱こそ無くも妙な不透明さを帯びていた。
「芹沢さん、事故ではなく他殺の可能性が高いと言う捜査結果が出たらしいです」
それは私も聞いていた。いずれ全ては明るみに出るだろうが、唐突に、しかも意図の無い(そして自覚も無い)犯人の口からそのことを聞かされたのではさすがに戸惑った。
私は途端に自分の額に浮かぶ冷や汗を不快に感じ、心安からぬ思いであったが、やはり冷静に、気のない風にして受け答えした。
「そうなの?私はまだそんな話聞いていないけど、確かな話?」
542 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:43:39 ID:???
「ええ。同級生で、新聞部の人なんですけど、とても情報のはやい人がいるんです。で、彼女に聞いたら、どうもそんな風なことが囁かれているらしくて……それに、私も、これが単なる事故のようには思えないんです」
「でも、それだからどうということはないでしょ?そりゃあ、もし他殺なら犯人は早く捕まってほしいものだけど、そういうのは警察に任せておいた方が……」
「いいえ。私、考えたんです。警察よりもはやく犯人を見つけ出して、芹沢さんの仇をとるんだって……」
私は度肝を抜かれたような思いだった。
よりによって、考えうる最悪の展開が筋に組み込まれてしまったようだ。
私は恐ろしさの余りしばらく声も出せなかったが、来栖の方はその仇討ちの告白をして気がよくなったのか、今度は先刻よりもよほど力強く、決意に満ち満ち口調で話を続けるのだった。
「ね、先輩。私はこうしなくちゃいけないんですよ。芹沢さんを殺した憎き犯人を、この手で殺し、彼女の無念の復讐をするんです。そうですよ。復讐するのです。私はこの仇討ちに私の全てを賭す覚悟です。私から芹沢さんを奪った悪魔の命を……」
「馬鹿なことを言うのはおよしなさい!そんな危険なことをして、あなたまで殺されてしまったらどうするのよ!?辛抱していれば必ず真実はわかるのだから、ね、もう少し我慢しなさい」
そう言っていて、馬鹿らしくなってしまった。
もう少しの辛抱だ?何を言っているのだろう、この私は!彼女が辛抱せねばならないのは真実がわかった先のことだと言うのに……それに、私の極度に恐れていたのは、彼女が真実に辛抱がしきれなくなるであろうということであって……。
「ダメですよ、先輩。私はもう決めたんです。必ず犯人を見つけ出して、地獄の苦しみを見せてやりますよ。私にとって、芹沢さんというのがどれほどの大切な存在だったか……その身をもって償わせてやるんです」
彼女は自分の言葉に酔っているようだった。
何と言う女優なのだろうか。もし彼女が芹沢を手にかけた張本人でなければ演劇部に欲しいくらいだ。
しかし残念なことに、この迫真の演技は演技などではなく、本心からの憎悪の言葉なのだから性質が悪い。
それと同時に、私は彼女が真犯人を見出したときのことを考えると、恐ろしくて目の前が真っ暗になる心地だった。
543 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:46:12 ID:???
それから、来栖は学校を休みがちになった。
こちらから電話しても出ないことが多く、時々向こうから電話がかかってくると、その度毎にその声は狂的な、凄まじい色を帯びてくるのであった。
その内容は、果たして事件に関する新発見の報告が主なものであり、そして私の推理が確かならば、彼女の追及の手は確実に真犯人――つまり、彼女自身に伸びていった。
私は何とかやめさせようと声を聞くたびに彼女を戒めるのだったが、既に狂気に取り付かれているのか、或いはひょっとしたら芹沢の怨念の如きものが彼女に憑依しているのか、まったく聞く耳を持とうとしなかった。
彼女の声は、日増しに恐ろしげな様相を強めていった。そう――本物の殺人鬼のように。
そして、遂にその時はやってきた。
芹沢の死から一ヶ月ほどが経過していた頃だったか、他の連中はようやく事件のショックから立ち直りだしていた頃だった。
その日、久しぶりに来栖から電話がかかってきて、私は慌てて受話した。
「どうしたの!?ここ最近全く音沙汰が無いもんだから心配してたのよ」
来栖の声は、前回の狂人の如き金切り声から一転し、非常に低い、しかし地を響くような重い口調であった。
私はとうとうその時がきたな、と覚悟した。
「……先輩。やっと見つけました。犯人を……芹沢さんを殺した犯人を」
私は唇を噛み締めた。背筋がゾッと凍りつくような心地を覚え、電話を持つ手が激しく震えていたのをはっきりと覚えている。
「そ、そうなの……?それで、警察に通報するの?」
来栖はニヤリと笑った。姿は見えず、声にも出なかったが、確かに電話口の向こうで彼女が笑ったように私は思う。
「いいえ。予定通り私が始末をつけます。それで……誠にお手数なのですが、私がそいつを殺した後、ハルカさんの手で警察に通報してください。
ことを終えた後の私にはとても手のつけようがないと思いますから……」
そいつ?そいつとは誰だ!?
私の心臓の鼓動が早くなった。電話を通じて相手に聞こえるかもしれないというほどに。
私はいよいよ怖くなった。
敵討ちが終わったあと、手がつけられない?
それはつまり彼女がもうこの世にはいない、と言う事を暗に示しているのではないか?
もし彼女が本当に正しい犯人に辿り着いたのなら、そういうことになるほか考えようが無い。
544 :
影を追う:2006/12/14(木) 19:48:44 ID:???
「馬鹿!すぐに警察を呼びなさい!それで、知っていることは全部彼らに話すのよ!はやまったことをしてはダメ!今どこにいるの!?すぐに私が行くから待っていなさい、ね、お願いよ……」
しかし来栖はそれを拒んだ。
「ご迷惑をおかけしてしまってすみません……しかし私はどうしても決着をつけなければいけないんです。大切な……芹沢さんの命を奪ったこの憎むべき人間を、この手で殺してしまわねば……」
「ダメ!やめなさい!そんなことをしても何にもならないわ!お願い、考え直して!自殺なんて……」
気がつくと、電話は既に切れていた。どこで切れていたのかはわからない。
私はしばらく茫然と携帯電話を見つめていたが、やがて静かにそれを仕舞った。
――ひょっとしたら彼女は本当に別の真犯人を見つけたのかもしれない。
たとえば、私のこれまでの推理がどこかで間違っていたために、私が気付きもしなかった真犯人。
或いは彼女の方がミスをして、まったく関係の無い人間を犯人に仕立て上げたのかもしれない。
もしそうなら、その人間には悪いが、それはそれでいい結末なのかもしれない。
少なくとも、彼女は自分が芹沢を殺したなどとは露とも思わず、この事件に決着をつけることが出来るからだ。
真実とは得てして残酷だ。
世の中は知らない方がいいことだらけである。
特にこの事件ではそれが全てであろう。
だが、もし、彼女が私の推理と同じ真犯人に辿り着いていたとしたら――それは、つまり彼女にとっても最悪の幕引きであるに違いない。
意図せずに親友を殺し、その為に自らも死ぬと言う……それが純粋な仇討ちの理念によるものか、或いは良心の呵責といった当然訪れるべき責め苦によるものかはわからないが……。
私は、その後、来栖柚子が果たして誰を殺したのかを知っているが、それをここには敢えて書かないことにする。
それは結局のところ、彼女がどういった心持で審判の殺人に臨んだのかを物語るものであるが、私にはそれに関することを、これ以上記す勇気と資格が無いのだ。
この臆病な筆者をどうか許してほしい。
しかし、たとえどんな結末であったにしろ、それは酷く悲しい、後味の悪いものだったには違いないことだけは確かである……。
――完――
ありがとうって言わせてくれ。
来栖すごく好きなんだ!!
イイねイイね。
読んでてハラハラしたよ。
GJ!
独白の人です。
いやー、来栖の様子の変化にドキドキしました。
いい作品をありがとうございました。
さて、素晴らしい作品の後に投稿するのは気が引けるのですが、
今回も一つ読んでやってください。
今回は柏木優麻の独白です。
優奈の方は、皆さん想像されてみてください。
548 :
547:2006/12/15(金) 00:01:33 ID:???
<柏木優麻の独白>
このところ、優奈ちゃんの様子がおかしい。
いつも呆けたような、それか憂いを帯びた顔をして、
私と目を合わそうとしないし、話しかけても生返事ばっかりだ。
授業中も、気持ちがここにないような顔して、ペン回してばっかりだし。
優奈ちゃんがヘンになったのは、先週のあの日からだ。
事務所の人に連れられて、TV局の偉い人との会食に行ったあの日。
私、気付いてたよ。
優奈ちゃんのナロータイの結び目、行きと帰りで変わってたこと。
化粧も少し違ってた。
うちの前で事務所のバンから降りてきた時から、何かおかしいと
直感的にわかったもの。
ああ、これは何かあったな、って。
でも、聞けなかった。
私だって芸能界の噂はいろいろ聞いてるけど、怖くて何も聞けなかった。
優奈ちゃんが自分から言ってくれるまで、聞かないでおこうと思った。
優奈ちゃんを傷つけるのが、怖いから。
でも優奈ちゃん、私には言ってくれていいんだよ。
この世に一人しかいない、双子の片割れなんだから。
一人で抱え込むなんて、らしくないよ。
優奈ちゃんがそんな顔してたら、私まで悲しくなっちゃうよ…。
優奈(´;ω;`)
ちょww
GJ。
柏木姉妹にはエロいイメージがあるな。
遊星でもしっかり寄生されてて産んでみたりエロエロだったし。
あとはくるみか。双子はどっちもエロいな。
>551
おいおい、ここはエロパロスレじゃないおw
双子のエロさには同意だが。
そういえばここでエロネタってどこまでOKなんだろう?
ダークネタとしての一環のエロ描写ならOKか。
はっきりさせとかないとエロパロスレとの棲み分けができなくないか?
各々の判断でいいんじゃね?
あんまり細かく決めると投下しづらい雰囲気になるとオモ
556 :
554:2006/12/16(土) 18:19:14 ID:???
なら、その人の判断にまかせるのがいいのかな?
私もたまにこっちには投稿させてもらってるけど、ちょっと鬱&エロなの
書き始めちゃって、どっちに投稿しようか悩んじゃったのさ。
別に18禁ネタも削除依頼出さなければ無問題だけどな
558 :
554:2006/12/16(土) 18:26:48 ID:???
こっちに馴染みがあるからできればこっちに投稿したいけど、
とりあえず書きあがってから考えることにするよ。
ちなみに南条&犬神ネタです。
570 名前:マロン名無しさん 投稿日:2006/06/21(水) 01:56:45 ID:???
大事なのは何が書きたいのかじゃないかな。
エロが書きたいならエロパロ、ダークさが書きたいならこのスレだと思う。
571 名前:マロン名無しさん 投稿日:2006/06/21(水) 02:01:32 ID:???
>>570 うん。書きたいものを書いてもらって、俺たちは読みたいものを読めばいいと思う。
けど、エロもダークも両方入ってる作品はどうしよっか?
やはり職人に任せるか…。
572 名前:マロン名無しさん 投稿日:2006/06/21(水) 02:09:52 ID:???
まとめサイトが性器描写禁止らしいからな
576 名前:マロン名無しさん 投稿日:2006/06/21(水) 03:55:50 ID:xMPVl9Jm
このスレ、かなり何でもありだよね。
577 名前:マロン名無しさん 投稿日:2006/06/21(水) 04:22:54 ID:???
18禁も続くなら問題かもしれないけど、たまになら大丈夫じゃないのかな
議論中すまんがこのスレ読んだ後リメイクバイオやってたら
バイオ+ぱにぽにのSS書きたくなってきたんだが、けどSSスレに投稿するの初めてなもんで
勝手がわからんのだが投下していいかな?
>>560 何の問題もあろうはずがない。
どんどん投下してくれ。
全くの無問題
男は走っていた。ただ無我夢中で走っていた。決してこの男は小便が近いのでトイレに急いでいる訳ではない
逃げている、男は逃げているのだ。無我夢中で、後ろも何も顧みずにただひたすら走っていた。
いったいどのくらい走ったのだろうか、男は廊下の突き当たりにあった倉庫のドアを開けると、中に転がり込んだ。
ドアの鍵をあわてて閉めると、そのまま床に倒れこんだ。その手にはとうに弾の尽きたベレッタが握られていた。
男は床に倒れたまま震える手で頭を抱え込んだ。なぜこんな事になってしまったのか、なぜもっと早く疑問に
思わなかったのか、なぜ自分がこんな目に遭わなくてはならないのか、そんなことを考えていた。答えなど出るはずが無い、しかし男は考えることをやめなかった
ただしそれは頭を使って事実の解明をするためではなく、ただこの自分が置かれている信じがたい状況からの現実逃避だった。
男は震える手を下げ頭を上げた。その目は・・そう、人間が絶望したときに見せる目、まさにそれそのものだった。
そしてその目は、小さな頼りないランプにかすかに灯った火の光によって生まれた影を捉えた。その影は、人間の等身大程度の大きさだった
その影はゆっくりと、しかし確実に動いていた。そして、その影の主が男の前に姿を現した。それは確かに人の形をしたものだった
しかし、それは「人」と呼べる物ではなかった。そう、正確に言うならば「人だったもの」だ、そして「それ」はゆっくりと男の方向に振り向いた。そして唸り声を上げながら
ゆっくりと男に近づいていった。男を、食べるために
565 :
560:2006/12/16(土) 19:26:17 ID:???
男は立てなかった。それどころか恐怖におののき股まで濡らしていた。
男は絶叫しながら手に持ったベレッタの引き金を何度も引いた。弾が出るはずはなかった。しかし男はそんなことは考えていなかった。ただひたすら人差し指で
引き金を引いた。当然のごとく引き金はカチカチ音を鳴らすだけだった。
そうしているうちに「もの」は男に覆いかぶさった
そして男の首に噛り付くとそのまま肉を引き千切った。噴水のように首から大量の血が噴き出し、壁を真っ赤に染め上げていった
薄れ行く意識の中で男がその目で最後に見たものは、口に真っ赤な血化粧をし魚の様な目をした。「化け物」の姿だった。
とりあえずプロローグ的なものを・・
桃月の人間は次に出します
なんか指摘あったら言ってください
文章の最後に「。」を付けるか付けないかは統一した方がいいと思う。
>>560 桃月学園に化け物が現れるのかな?
それとも桃月学園の生徒がここに行くの?
面白いと思うよ。頑張って。
569 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:09:28 ID:???
<パート15>
神原は問い続けた。
「どういうことなんです?白い部屋しか動かないってのは?」
「いや、正確に言えば、白い部屋しか動かないんじゃない・・・・・・部屋が動くときは部屋が白くなるんだ!」
レベッカは重要なことに気がついた。これまで巡ってきた部屋のうち、彼女の出したアルファベットと部屋配置に関する法則に合致しない番号の部屋は全てが白い部屋であったということだ。
もし法則との不合が部屋そのものの移動によるものだとすれば――おそらくはそうであろうが――動いている部屋は白であると言えないか?
動いている最中の部屋、或いは動いたまま別の座標に留まっている部屋は、その元の色が何色であるとしても、必ず白く塗り替えられる。
実際には、内壁の電飾の点灯色を変えればいいのだから、決して難しいことではない。
さらに、レベッカの観測した結果、興味深い事実が明らかになった。
白い部屋は、最低でも二つの白い部屋と隣り合っているということだった。
彼女の考えでは、白い部屋は移動によって正常位置から逸れた部屋に当たるわけだが、部屋の移動方式がスライド型である以上、一つの部屋を動かすには最低一つの部屋のない空間
(概念としては、部屋一つを動かすための駆動機関の中心となるこの空間を"サイクル"とする。移動の中心核は、部屋そのものではなく何も無い空間なのだということを念頭に置くべきである)
と隣り合っていることが必要だし、サイクルの移動は即ち近隣の部屋の移動をも促すために、白い部屋が連続することは当然のことなのである。
しかし、"最低三連の白い部屋の群"は、サイクルの移動パターンや、部屋そのものの移動システムを解読するためには重要な情報であった。
レベッカは時計を見ながら黙り込んでいた。
それはとても長い時間だった。神原も姫子も何も言わなかった。
ふと、レベッカは顔を上げて目の前の壁を見つめた。
これまではあまりよく観察していなかったが、注意して見るとこの壁もまた曰くありげな構造をしている。
壁は6メートル弱四方で、艶の無いチタン合金製の太い支柱(内部にはどんな殺人マシンが組み込まれているのやら)が正方面の壁の中を縦に二本、横に二本、それぞれが各辺に平行に渡されている。
570 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:11:26 ID:???
壁面は支柱によって九つの区画に分割され、中央部にハンドル式の扉、その上下左右に移動用のパイプ梯子が、扉に向かう形で据えつけられている。
残った四隅の区画は電光で鮮明な色を照らし出す硬質プラスチックの壁板で、クロスした金属製のメインフレームと炭素繊維の補助フレームによって固定されている。
四軸対称の、均整の取れた幾何模様のような壁だった。
「ルービックキューブみたいだね」姫子が言った。
「は?何だって?」レベッカは思考の森から引き戻され、驚いたように答える。
「こんなカラフルなリッポータイはルービックキューブみたいだなって・・・・・・私、あれ一度も解けたことがないんだ」
「お前なぁ、こんな時に・・・・・・」
「一条さんなら・・・・・・一条さんなら解けたかもね、この謎。レバニラ方式・・・・・・だったカナ?」
「LBL方式のことか?あれは慣れと記憶力が必要なんだぞ。尤も、私くらいの天才になれば30秒もいらないけどな」
「へぇ、そうなんだ。ベッキーは天才だからオモチャには興味が無いのかと思ったよ」
「お前は玩具で遊びすぎなんだよ。前も、ほら、積み木を持ち込んで授業中に遊んでただろう?」
「ヘヘへ・・・・・・あれは息抜きダヨ」
「確かに頭の体操にはいいかもな。だが、そういうことは普段からしっかり頭を使っている奴が言うことだぞ」
「え!?何さ、ベッキーは私が何も考えていないとでも?」
「実際そうだろう?」
「うぅ・・・・・・本当だから反論できない。神原君、何とか言ってやってよ!」
「いきなり僕に振らないでくださいよ」
その時、レベッカの中で電撃が走った。
「ルービックキューブ・・・・・・?積み木・・・・・・?」
突如、レベッカの頭の中で、ルービックキューブが積み上げられていくイメージが沸き起こった。
ルービックキューブは一辺を三つのキューブによって構成されている・・・・・・三つ?ならば、それを九つ積み上げれば・・・・・・?
「どうしたんです、宮本先生?また黙っちゃって」
神原の声は既にレベッカの耳には届いていなかった。
レベッカはこれまで遭遇した条件を思い起こし、一つの法則へと纏め上げる作業の真っ只中にいたのだ。
彼女は、演算中のコンピューターよろしくまったく身動き一つしなくなった。
かわりに、その頭の中では、かつて無いほどの劇的な思考の整理が行われていたのであった。
571 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:12:40 ID:???
「おい・・・・・・ひょっとしたらひょっとするかもしれんぞ、これは!」
レベッカが再び意識を取り戻したとき、彼女の口は自然と叫び声を上げていた。
「どうしたのさ、ベッキ・・・・・・」
姫子が首を傾げながらレベッカに向かって言いかけたその時――
「まただ!」神原が大声で叫ぶ。
そう、またしても部屋が動いたのだ。
部屋は揺れ続け、三人を未知の座標点に連れて行く。
神原と姫子は振動する視界の中、地の底、闇の奥に落ちていくような錯覚を覚えた。
ただ一人、レベッカだけは何の不安も恐怖も無い、むしろ笑みさえも浮かべそうな雰囲気の、落ち着いた表情を湛えていた。
揺れが止まり、部屋が固定される。
レベッカは時計を覗き、今度こそ本当に微笑んだ。
「ジャスト十分!やはりそうか!」
レベッカの歓喜に満ち満ちた叫び声、そして――
(カシャン)
部屋の色が一瞬にして変化する。
白かった内壁の照明が入りかわり、一条のメモ通り、青く、不気味に輝き始めた。
部屋の色は完全に変わった。まさにレベッカの言ったとおりのことが起こったのだ。
たじろぐ神原と姫子、笑いを堪えきれないレベッカ。
「なるほど、そういうことだったのか!」
「ベッキー・・・・・・?」
姫子が振り返ってレベッカを見遣る。青い照明に幽霊のように浮かび上がるレベッカの顔の凄まじさに、姫子は戦慄した。
レベッカは、静かに、しかし力強く言い放った。
「謎は解けたぞ」
572 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:14:27 ID:???
<パート16>
レベッカの話によれば、元白の部屋、現青の部屋【CUP】ははじめの座標に戻ったのだという。
彼女は、この部屋はもうしばらくは動かないと言う。そして、彼女は自らの説を確かめるために周りの部屋を探ってくると言い始めた。
「お一人で?そんな、無茶ですよ!」神原がレベッカを制止する。
「お前たちはここで待っていろ。私一人の方が身軽なんだ。姫子、時計は持っているか?」
「うん・・・・・・ベッキー、行っちゃうの?」
「大丈夫、すぐに戻ってくる。三十分、この部屋で待て。それで私が戻らないようなら構わず先に進め・・・・・・だが、私は間違いなく戻ってくるから心配は要らない」
「えぇっ!いやだよ、行かないでよ、ベッキー!」
「三十分だ。三十分だけ一人にさせてくれ。必ず戻ってくるから・・・・・・神原、もしものときは姫子を頼むぞ」
「宮本先生・・・・・・わかりました」
「神原君!?」
「片桐さん、僕たちは先生を信じるべきでしょう。先生が大丈夫だというのなら、きっと大丈夫なんだろうと僕は確信しています。だから、片桐さんも・・・・・・」
「・・・・・・わかったよ。私も、ベッキーを信じる。でも、絶対に絶対、無事に帰ってきてよ。ベッキーが帰ってくるまで、私はここを動かないよ」
「ああ、それじゃあ行ってくるぞ」
レベッカはそう言い残し、扉の奥に消えていった。
後に残された二人は詮方なく扉を閉め、部屋の中央に並んで座った。
青い室内灯の照射を浴びて、二人の顔は冷たく光っていた。
姫子は隣に座る神原の表情を窺おうと、横目で彼の顔を盗み見た。
彼の瞳は丸い、奇妙なサングラスによって隠されておりその表情を覗き知ることは出来なかった。
ただ、その丸いサングラスが、青い光をより深い色に染め直して、時折不気味に煌いていた。
二人の間で気まずい沈黙が流れ、青い光だけが重苦しい空気の中を流れているだけだった。
「あの・・・・・・」姫子は思わず声を掛けた。
「どうしました?」神原は素っ気ない声調子で答える。
「神原君・・・・・・って言ったカナ?今まであんまり話したことがなかったけど・・・・・・」
「ええ。片桐さん。僕は貴女のことをよく知っていますよ、校内でも有名ですからね」
「えっ?本当に?どんな風に聞いているの?」
573 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:16:07 ID:???
「校内一のバk・・・・・・元気な生徒だって。綿貫さんとも仲がいいんですよね?」
「うん、モチロンさ。私は誰とでも仲良くするのがシンジョーなんダヨ。あ、でもベッキーみたいに可愛い子は特に好きカモ!神原君は可愛い子好き?」
「いきなりスゴい質問してきますね・・・・・・僕は、敢えて言うなら色んな人に興味がある、といったところでしょうか。勿論宮本先生にも興味があるし、他の色んな人の色々な事を知りたいし・・・・・・片桐さんのことだって」
「あらやだ、嬉しいこと言ってくれるね、この色男さんはねぇ。でも、私もそれ、何か分かる気がするなぁ。たくさんのことを知りたい、たくさんのものに出会いたいって、そういうの。
宇宙人とかネッシーとか魔法使いとか、探せばきっといると思うしさ」
「宇宙人・・・・・・ですか。ネッシーや魔法使いはどうか知りませんけど、宇宙人はきっといますよ」
「そういえば、神原君はおかしなこと言ってたね。この建物は異星人が作ったとか何とか・・・・・・テンソービームとか、あれ、一体何なの?」
「あ・・・・・・いや、えっと、その・・・・・・SFが好きなんですよ。SF小説とか漫画が。そういうのによく出てきたのに似ているかな・・・・・・て」
「ふうん。私もSF漫画好きだよ。文字が多くて疲れるけどね」
「へぇ、どんなのが好みなんですか?」
「そりゃあ、もちろん魔法少女ベホい・・・・・・」
「あの?何か勘違いしてませんか?」
「え?どのへんが?」
「どのへんって・・・・・・全体的に」
「全体的に?」
「そう、全体的に」
二人はお互いに見詰め合った。しかしやがてどちらともなくクスクスと笑い出し、二人揃って和やかに笑い転げた。
「ハハハ・・・・・・いやぁ、神原君って結構イケるクチなんだねぇ」
「ムフフ・・・・・・どんなクチかはわかりませんが、お褒めに与って光栄です」
「ハハハ・・・・・・予想ガイだったなぁ、神原君はもっとカタブツかと思っていたのに」
「そうですか?」
「うん、ぜんぜん知らない間柄だったけど、どこか変わってて、ちょっと恐くて、何となく藤巻君キャラかと思ったよ」
「藤巻?誰です、それ?」
「あ・・・・・・いや、何でもないよ、こっちの話・・・・・・フフフ」
「片桐さん・・・・・・ようやくいつも通り笑ってくれましたね」
「え?」
574 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:17:07 ID:???
「この中で出会ってから、ずっと元気がなさそうで・・・・・・いつもはうるさいくらいに元気だというのに。でもそうやっていつも通り、元気に笑っていてくれさえすれば、きっと宮本先生も安心しますよ」
「そうかなぁ・・・・・・あ!・・・・・・もしかしたら神原君、私のことを気遣って・・・・・・」
「笑顔で、前向きにがんばりましょうよ。必ず、ここから生きて出るんです。こんなわけのわからない仕掛け、元気に笑い飛ばして打ち負かしちゃいましょうよ、ね?」
「・・・・・・ありがとう。よくわかった。わかったよ。私、がんばる。がんばって、必ずここから生きて抜け出そう。一緒に、笑って」
「よかった・・・・・・そうだ、もっと面白い話があるんですよ、聞きたいですか?」
「うん、聞きたい!聞きたい!話してよ」
二人は完全に打ち解けあい、青い部屋の中での心細さも恐怖も忘れ、談笑した。
二人はお互いに話をし合い、お互いが相手から生きる勇気を受け合った。
そして時はあっという間に過ぎ、姫子が時計を見ることも忘れた頃、壁の一つに取り付けられた扉のハンドルが回り始めた。
「ベッキー!」
「宮本先生!」
二人は立ち上がり、もう一人の仲間の帰還を迎え、再会の喜びを分かち合おうと駆けつけた。
扉から出てきたレベッカは、二人よりも晴れやかな、満面の笑みであった。
「わかったぞ!わかったぞ!全部分かったんだ!」
レベッカは叫ぶようにして二人を手前に呼び寄せた。
「安心しろ、謎は全て解けたんだ!出られるぞ、この迷宮から!」
その時の各人の喜び様の烈しさは並みならぬものであった。
575 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:20:31 ID:???
ここまで。
今年中に終わらせられるかな?
他の職人さんによる新しい物語の胎動も聞こえてきたみたいなので期待しています。
明らかに死亡フラグwktk
577 :
PP×C:2006/12/17(日) 01:31:10 ID:???
>>569 やばい、直したはずなのに直ってなかった・・・
>白い部屋は、最低でも二つの白い部屋と隣り合っているということだった。
は
白い部屋は、最低でも三部屋が隣接して存在する。
の間違い。訂正して読んでください。
藤巻w
579 :
560:2006/12/17(日) 09:04:41 ID:???
次行きます、正直設定とかかなりアレですが見逃してください
夏の太陽がさんさんと照り続ける正午・・
ここ桃月学園では、健全な高校生たちが健全な高校生活を送っていた・・
「あ〜〜〜つ〜〜〜い〜〜〜誰かぁ〜何とかしてくれぇ〜」
暑い、夏には老若男女誰しもが言うであろう言葉、ここ桃月学園1年C組の教室では
その言葉が何回発せられただろうか、教卓に突っ伏してうなだれている1年C組担任
レベッカ・宮本、彼女の後ろの黒板にはでかでかと「自習」の文字が書かれていた。
教室の隅で横たわっている生物がいた。メソウサである、彼はすでに
飼い主であるベッキーに「見てるだけで暑苦しいからどっか行け!!」などと暴言を吐かれ
いつものごとく鬱になっていた。
「マホ〜暑いカモ〜こんなに暑いと水溜りもお湯になっちゃうカモ〜」
1年C組片桐姫子、今日も彼女は高校生とは思えない発言をしていた。
しかしさすがの彼女も暑いのか今日の彼女は余り元気が無かった。
「ブツブツブツブツ・・・ああもう、うるさい!!少し位暑いからってガタガタ言わないでよ!!
だいたい今授業中でしょ!?少しは静かにしてよ!」
上原都は怒っていた。そう、今の教室の騒がしさに、そして教室内の以上な温度に
彼女の額を流れる汗がその彼女の特徴というかシンボルとも言える凸の光の反射を心なしか強めていた。
「しょうがないじゃない、暑いんだからさぁ〜」
580 :
560:2006/12/17(日) 09:05:43 ID:???
「今日の室温は暑いオブジイヤーです・・」
鈴木、もとい6号もこの暑さにうなだれていた。さすがのよい子も我慢の限界がある
「言うな!暑いと思うから暑いんだ!心頭滅却すれば火もまた涼し!皆口に出すんじゃない!
日比努力だ!」
橘玲は口ではこう言っているが自分も暑さに正直参っていた。いっそこのまま水を頭から
被ってしまいたいくらいだ。
「バランスです」
何を言っているのかさっぱりわからないが気にしてはいけない、何しろ一条なのだ。
そんなこんなで桃月学園の正午は過ぎていった。
ネコ神さま「舞台は離れて海ですニャ」
桃月学園から遙か離れた孤島、ロックフォート島、南条グループの傘下にあるこの島は、もともと少数の施設しかなかった島だが
夏休みに向けて大々的な工事が行われ、充分に観光できる島へと変わっていた。そう、夏休みは1年生全員で
この島に遊びに行こうという大規模な計画が立てられていた。まだそれは教師陣にしか伝えらておらず、生徒で
知っているのは南条のみだが南条もそのことについては硬く口を閉ざしていた。
ベッキーはこの話を聞いた時正直微妙な気分になった。
「旅行に行くのはいいんだけどなんで夏休みにアイツらの面倒を見なくちゃいけないんだ・・?」
しかしまあ島そのものに興味はあったし、なんだかんだ言ってC組の面々と旅行に行くのは
悪くかったので、そこは「まあ、たまにはいいだろ」という天才的な考えで旅行に行くことにしたのだった。
夏休みまであと一週間、桃月学園1年生の誰しもが、楽しい夏休みを想像していた。
独白の人です。
今回は珍しく続きモノですが、宜しくお願いします。
南条操と犬神つるぎの独白を交互に何回か続けていきたいと思います。
まず、南条操の独白から。
582 :
581:2006/12/17(日) 12:49:59 ID:???
<南条操の独白:1>
昨日、父が逮捕された。
南条グループ会長として行った、数々の不正行為が発覚したのだ。
突然だった。
功ある者は報われ、罪ある者は罰せられるのが当然の成り行き。
私もそれは、もちろんわかっている。
でも私には、父を責めることはできない。
会社を、家を、母や私たちを、使用人たちを守るためにしたことなのだから。
父の逮捕から一夜明け、母は弁護士の手配に飛び回り、使用人たちも
おろおろするばかり。
私はというと…。
「家を守るため、操には私が話をつけた相手と結婚してもらう。
こんなことで南条グループを潰すわけにはいかないからな。」
私は、父の代理として臨時に南条グループを統括する叔父に呼び出され、
こんなことを言われたのだ。
正直、ショックだった。
これまでの私の人生は、家に殉じるために用意されたものだったのだろうか。
この21世紀に、まだこんな話があるなんて。
583 :
581:2006/12/17(日) 12:50:49 ID:???
私は、少し一人にさせて欲しい、と告げて部屋を出た。
いつしか私は、早歩きから、次第に走り始めていた。
気が付いたら、私はここにいた。
そう、犬神君の家の前に。
この寒いのに上着も着ず、サンダルのままで。
犬神君、私、どうすればいいの?
このまま、叔父に言われるまま、顔も知らない人と結婚するしかないの?
私の叫びは、灯りの点いていない犬神君の家には届かなかった。
ただ、桃月には珍しく、しんしんと雪が降っていた。
584 :
581:2006/12/17(日) 12:53:03 ID:???
今回は以上です。
PP×Cさん、死亡フラグですか?
光が見えてきたような、そうでもないような。
わくわくしますね。
560さん、今後の展開楽しみにしてますよ。
ゾンビモノ大好きなので。
少し目をはなした隙に投下ラッシュが…
ゾンビものの人>バイハ+ぱにぽに楽しみにしてます
PP×Cの人>つかの間の幸せって感じで、なんか切なくなりました…いや脱出出来るのかもしれんが
独白の人>南条さんせつねー…orz
みなさんGJです
エロとグロはあるかどうか微妙、人死にありです。
こっそりと
生徒会諜報部の綿貫響は部活動の一環としてマラソン大会の模様を取材しようとしていた。
愛用のビデオカメラを片手に、自転車に跨がり取材を敢行しようとした、まさにその時。
「お前も走るんだよ」
「キャーッ! チカン! やめて!」
「誤解されるような事言うな!」
「『なんとジャージ姿のあやしい男が綿貫の腕を取り自転車から引き下ろした。それどころか綿貫のジャージを脱がしはじめたではないか!
このまま綿貫は男の毒牙にかかってしまうのか?』」
「変なナレーション入れるな!」
綿貫の抵抗にも関わらず、早乙女は彼女のジャージを綺麗さっぱりと脱がしてしまった。
「『それにしても先生、脱がすのがとてもうまい。教師になる前には色々な職業を体験したという事だが、まさか』」
「いいから走れ」
「こんな寒い中走れっての? 心臓麻痺になったらどうしてくれるんですか」
「お前の健康状態なら問題ないだろ。ちゃんと準備運動するんだぞ」
「はーい」
綿貫が諦めてラジオ体操をはじめたので早乙女は笑顔で頷いた。
「『しかしこうしてみていると変態みたいである』」
「何か言ったか?」
「いえ、なにも」
ラジオ体操第一を終えたところで早乙女先生は綿貫の背中を叩いて送り出した。
「みんな、頑張って走ろう! でも無理するなよ」
「痛っ……心臓震盪を起こしたらどうするんですか……」
「黙って走りなさい」
その頃、開始から全力疾走していた桃瀬くるみの肉体はすでに限界に達していたが、くるみは意志力でもって全力疾走を維持し続けていた。
秋山乙女は走るのが嫌いではない。
中学ではバスケ部の練習の一環として行う事が多かったが、ただ単に走るだけという単純さが乙女の性格には合っていたし、
余計な事やもやもやも汗や風や吐き出した息と一緒に流れていくように思えた。走った後はたいてい気持ちよかった。
(……っと)
地域の協力により自動車の通行や路上駐車は少ないが、皆無というわけにはいかない。
信号が点滅したのを確認して徐々にスピードを緩め、停止した乙女は垂れてきた汗を拭おうと、
息を吐きかけておまじない程度に温めた指を首筋にやって、そこで甲に当たるものがない事を思い出す。
今年の四月に切ってしまったのだ。
あれからしばらく時間が経ち、切った髪にもだいぶ慣れてきたが、この髪型で昔のように寒い中走るのは初めてだ。
だが、髪を切ったお陰で走りやすくなった。バサバサと背中に当たる事もないし、首から上が軽い。
どれくらいの重さだったのかは、切った髪は重さを計る事なく美容院で処理してもらったのでわからないが、
その重さが無くなった分左右を見回すのが楽だ。
見回した先では金髪縦ロールのお嬢様がカッパに追いかけられていた。
「ああもっともっともっと蹴ってください、ハードに! 力強く! えぐり取るように! 僕の女王様!
僕の尻子玉をハイヒールの鋭い踵でスニーカーの柔らかい靴底でスパイクシューズの剣山で蹴りつぶして!」
「はぁはぁ……ちょっと……やめてくださる……? わたくし……そん……いやああああ!」
「捕まえたら僕にひどい事をしてください、約束ですよ!」
カッパの水掻きの付いた手がたなびく金の髪に今にも触れそうだ。
「約束なんてしませんわ……ぁはぁはぁ……触らないで下さるっ!?」
「その蔑む仁美がたまらない! ほら字を間違えたいけないいけてない僕を蹴ってください」
「はぁは……ぁそれは間違ってませんわ合ってますから離れて」
自毛で文金高島田をなどと企んでいたらしい母親には少々悲しまれたが、
やはり髪を切ってよかったと思った乙女は、青になった信号を小走りで渡って再加速した。
その頃くるみは心室細動で心不全を起こし死にはじめていた。
白目を剥き、涎を垂らし、乳房を破り取って爪を心臓に突き立てる勢いで胸を掻きむしる。
消失していく意識の中で、くるみは寒さを感じなくなっていった。
しかし温かくもなかった。
くるみが死んだ原因は準備運動を怠り、無理をした事が大きいといえる。
どちらも早乙女が注意していた事であり、それに反したくるみの死に対して早乙女の責任はほとんどないと言っていいだろう。
レベッカはそう思うのだが、くるみの両親はそうは思っていないようである。
また早乙女も授業の時間を調節してまで受けた救命講習の経験をまるで役に立てられなかった自分の無力を悔やみ、校長に自主謹慎を申し出ていた。
体育教師も大変なんだなと思ったレベッカは、これからはちゃんと早乙女を人間として、敬うべき同僚として五十嵐に準ずる扱をする事にした。
でも早乙女に胸を触られキスされるのはいやなので無理な運動は絶対にしないと誓ったのだった。
以上です。
早乙女先生のお話を書いてみましたがいかがでしょうか。
南条さんと乙女、金髪と黒髪のお嬢様が並んだ姿はさぞや美しかったのだろうと思います。
しかし乙女は長髪時代を懐かしむ事はあっても切った事を悔やんだりはしていないのではないかと。
それでは寒い日が続きますが皆さんご自愛下さい。
くるみの扱いがヒドスww
594 :
560:2006/12/17(日) 17:38:35 ID:???
次行きます
「いきなり一週間後ーーー!!」
大騒ぎ
ロックフォート島行きの飛行機の中の状況を端的に表すとこうなった。
そう、この飛行機は南条グループ傘下の観光島、ロックフォート島に向かっている。
桃月学園の生徒たちは最初にこの話を聞いたときとても喜んだ。夏休みと言うだけでも
テンションが上がるというのにその上新しいリゾートに遊びに行けるというのだ、喜ばないはずが無い。
というわけなので暑い暑いとグチをこぼしていた生徒たちも期待に胸を膨らませていた。
「いや〜まさかこんな事になるなんてな、人生何があるかわかんないな!」
1年A組桃瀬修、彼もこの旅行を楽しみにしていたクチで少しいつもよりテンションが上がっていた。
「ホントよね!くう〜楽しみだわ〜新しい水着も用意したし、着いたら思いっきり泳ぐわよ〜」
「ねえ・・優麻ちゃん・・水着ってもしかしてこのあいだ作ったやつを着るの・・?」
「何言ってんのよ優奈ちゃん!当然じゃない!あんなに頑張って作ったんだから!」
「なんだよ、そんなに変な水着作ったのか?」
「フフフ・・まあ見てのお楽しみね」
「おおお・・すげえな・・飛んでるよ、高っけええ〜」
「え〜乙女は高くなんかないよ〜むしろちっちゃいよね〜」
「私の背の事じゃなくて飛行機の事だよ!!お前バカか?」
「む〜バカって言ったな〜バカって言った人がバカなんだぞ〜そんなこという悪い子にはチョ〜ップ!!」
バキッ!!
「いったぁぁぁ!!」
「もう少しダイエットしておくべきだったかな・・あ〜島じゃ甘いものが沢山あるんだろうな・・」
595 :
560:2006/12/17(日) 17:40:14 ID:???
「五月蝿いのう・・もう少し節度と言う物をわきまえんかい・・」
D組担任のジジイはやかましい機内に対して毒づいていた。
「仕方ないでしょう、夏休みにリゾート地で遊ぶなんて状況なら興奮しても何ら不思議ではありません」
同じくD組の犬神つるぎ、彼はこの機内の中で少数派の冷静に飛行機に乗っている生徒であった。
「少しぐらい騒ぐのは構わないのですけど、やはりこの旅行に行けたというのは南条グループのおかげ、
すなわち私のおかげだということをもう少し自覚してほしいですわね・・」
上に同じくD組の南条操、彼女の父親の好意によって成立したこの旅行、確かに南条のおかげとも言えなくは無い。
「ベホイミちゃん、どうかしました?」
ベホイミの横に座っていたメディアが不思議そうに聞いた。
「いや・・別に何も無い、ただ少しイヤな感じがしただけだ。」
「そうですか・・けど・・ロックフォート島ってどんなところなんでしょうね!」
メディアもこの旅行が嬉しいのか少し興奮気味だ。
「用心しろよ、メディア・・」
ベホイミは小さな声でぼそりとそう言った。
596 :
560:2006/12/17(日) 17:45:48 ID:???
「ねえ!もしかしてアレじゃない!?」
地味、もとい桃瀬くるみが大きな声を上げた。
「うわあ・・すごい・・」
「綺麗オブジイヤーです!!」
「へえ・・いいとこそうじゃないか」
「マホーー!!!すごいねすごいね!!!こんなに海が綺麗で建物もいっぱいあるんならいっそここに住んじゃいたいね!!」
「コラ、お前ら!もうすぐ着陸の準備にかかるから席についてろ!!」
「「「「はーい」」」」
正直ベッキー本人も席を立って島を見たかったのだがそこはいくら自分が子供だとしても先生なのだ。ここは教師のメンツ
にかけてむやみに席を立たずどっしりと構えていた。
こうして桃月学園1年生は晴れてリゾート地ロックフォート島にたどりついた。
そう、自分たちがまさに今、死と恐怖で渦巻く地獄に着いたことなど思うはずも無く。
そろそろ本題に入ろうと思ってます・・
>>586 河童にワロタ
独白の人です。
続きです。
今度は犬神つるぎの独白です。
ギャルゲー風味なのはご愛嬌w
598 :
597:2006/12/17(日) 19:01:57 ID:???
<犬神つるぎの独白:1>
バイトから帰ると、家の前で、南条がうずくまっていた。
肩に積もる雪が、彼女がいつからここにいたかを明らかに示していた。
よく見たら上着も着ていないし、足元もサンダルだ。
もちろん、そんな南条を放っておくことなどできない。
私は彼女を急いで家に上げ、シャワーと着替えを貸してやった。
やっと顔色が戻った南条は何も言わなかったが、私も新聞くらいは読んでいる。
おおかた、父親の逮捕のことで何かあったのだろう。
今日は両親は親戚の家に出かけ、雅は望ちゃんの家に泊まりに行っている。
誰もいない私の家の前で待ち続けた南条は、どれくらい心細かっただろうか。
湯上りの南条からは、甘い香りが漂っていた。
不思議だな、私と同じシャンプーとボディーソープのはずなのに。
これも、お嬢様のオーラの成せる技なのだろうか。
それとも、母親とも雅とも違う、「女の子」が感じさせるものなのだろうか。
見慣れた私の母親のシャツとジーンズも、湯上りの南条が着ていると
何故か違うものに見えた。
「…犬神君。」
しばらく黙ってテレビを見ていた南条が、やっと重い口を開いた。
599 :
597:2006/12/17(日) 19:03:22 ID:???
まだまだ続きますので宜しくお願いします。
>586
くるみカワイソス…
>560
おおおおおもしろそうだ…期待してますよ!
容量が470KBを越えた事ですし
>>600で区切りもいいので次スレを立ててきます。
原作通りくるみゾンビ化wktk
作者の方々GJ
ゾンビ化ってバイオの話?
南条操はここから見える星空が大好きだった。
手すりで支えながらスレンダーなからだを乗り出して、瞬きのシャッターで刻一刻と変わる景色を焼き付ける。
「まるで……夜空の宝石箱のようですわね。Qちゃん」
初めてその形容を使ったのはいつだったか、そもそも自分の中から浮かび上がってきたものなのか、借り物なのかすらももはや明らかでない。
「ネギマ!」
Qちゃんの答えは南条の言葉がわかっているのかいないのかよくわからないものだったが、わかっているという事にする。
「星の光ははるか昔のものなのだそうよ…… 何年も前……私が生まれるずっと前の光らしいわ」
操はいつもの気取った雰囲気を脱ぎ捨てた、どこかはしゃいだような様子でQちゃんに話しかけた。
南条グループの総本山には立派な展望台があるし、山手線の範囲内にはメセナのプラネタリウムもある。
だが、そこに行こうとは思わない。
桃月学園の屋上からの眺めはなかなかよいという噂だ。
しかし、そこに行こうとも思わない。
操が成長するに連れ、昔は遊びに行くと近所の子供にするように接してくれた社員達も、次第に未来の当主に対する接し方になってきた。
学校でもそうだ。南条家の一人娘だというだけで壁を作られている気がする。どこかよそよそしく、気を遣われているのを感じる。
動物達だけが今も昔も変わらずに接してくれる。
群れのリーダーとして忠誠を誓ってくれたり、言う事を聞かなかったり、わがままを言ったり、無視して気ままに振る舞ったり。
それぞれ行動の差こそあるものの、人間のようにおべっかを言ったりうらやんだり逆恨みしたりという事はない。
だから、操は動物が好きなのだ。
そして、この公園も。
この公園は眺めもよく、そして独りになれる。南条操ではなく、ただの操になれる。
「家を捨てる事など出来る訳もない事は、わかっているけれど」
操はQちゃんに語っているのか、それとも独り言なのかぽつりと口を開いた。
「でも……時々重く感じる事もあるものよ」
操は当主の長男の長子として生まれ、そのように育てられた。
南条家の家督は祖父の次は父が継ぎ、そしてその次は操が継ぐ事になる。
仮に配偶者が出来たとしても、あくまでも彼は操の代理として南条家に関わる事しか出来ない。
ずっとそれを当然のように受け止めて生きてきたが、最近はその重さを感じる事も多い。
「押しつぶされそうですわ……」
(そういえば、ブラックホールって重力があり過ぎる星の事だったかしら……?)
生物に関しては並々ならぬ知識を蔵する南条だが、地学分野の知識は化石関係以外平均レベルのものしかない。
(もしかして私と同じで背負うものの重さに耐え兼ねたのかしら?)
「という投稿が」
麻生の言葉の尻尾にうんざりした英理子の冷たい声が被さった。
「……もうそのパターンは飽き飽きです。どうせまた麻生さんの姉の方なんでしょう?」
「え……真里亜っていうのは真尋が化けてる麻里亜っていう事で誤植じゃないんですよ?
ってハルカちゃんが」
図星を突かれた時の表情は本当に妹そっくりだ。
雪絵は一つの可能性に思い当たりうれしくなって思わず言った。
「うちの警備も本当ザルねぇ。きっとそのうち殺人鬼がやってきて朝比奈さんを八つ裂きにするわね。間違いないわ」
「そもそも、わからない事があったら自分でってあんた何言」
しかし英理子の言葉はおでこ委員長の大音声にかき消された。
「『そんくらいぐぐれよ! 貴様の目の前にある箱は何だ!? そして納得しろ! なんでも質問するな!!』」
雪絵に英理子、麻里亜にユカチカと一条。みのり本人をのぞいた全員の視線がみのりに注がれ、みのりが不思議そうに首を傾げる。
「……どうしました?」
「いえ、みのり先輩が声を荒らげるのは初めて見たもので」
メガネの位置を直しながら雪絵が言う。
「……ぽっ」
「口で言わないでください」
恥ずかしそうに照れたみのりに英理子はどう反応してよいかわからずそっけない反応をしてしまい少し後悔した。
「ブラックホールは大質量の恒星の中心核が重力崩壊してシュヴァルツシルト半径より小さくなって出来るものだといわれていますね」
気を取り直して真尋が緩い笑顔で言う。
「超新星のあとに生まれるんだったかしら?」
「いえ、そうとも限らないみたいですよ。スーパーノヴァを起こしても中性子星や白色矮星になる星もありますし。
ハイパーノヴァならほぼ確実にブラックホールになる……と言われていますけど……
あ、ハイパーノヴァというのはスーパーノヴァのすごいもので極超新星と訳されてますね」
「詳しいですね」
「ええ、クラスに星が好きな子がいるので少し詳しくやろうかと思ってテレビを見たんです。でもまだわからない事だらけみたいですよ」
「……宇宙にはまだ神秘が一杯なのね、素敵だわ…… ところで神秘とオカピって」
「似てません」
英理子に一刀両断されてしばらく考え込んで二の矢を放つ。
「……神秘と真皮は」
「同音異義語じゃないですか」
「わがままね」
「……わがままって……」
雪絵がみのりの反応に戸惑い二の句が継げずにいると校内アナウンスの音が全校に響いた。
『桃月第三小学校からお越しの麻生真尋先生、宮本先生が探しています。至急宮本研究室までお越し下さい。桃月……』
「あ、今行きます!」
聞こえるはずもないのに真尋は元気よく返事をした。
「麻生さんと入れ代わって遊びに来たのではなかったのですか……?」
「あ、はい、都教委に提出する書類の関係で小学校での担任の私の記入欄があるとかで……それでは失礼します!」
「ええ、またいつでもどうぞ」
「みのり先輩……」
「まあ、いいんじゃないの?」
みのりがにこりともせずにさらりと言った言葉に英理子がため息をつき、その間に立て直した雪絵がニヤニヤと続けた。
「ふーん。スーパーよりハイパーの方が偉いのかー。
じゃあもしかしたらHTMLもSTMLになってXHTMLはHTMLになってたのカナ?」
一条の議事報告を受けて姫子が独りごちた。
「えいちてぃーえむえる?」
聞き返す玲に、姫子は多分暇なのだろう、説明してやった。
「Hypertext-Markup-Language……
ぐぐって飛んだページからトップに行く時index..htmとかtop.htmlとかつけるじゃない」
「ああ、そうだな」
「エッチなたまたま丸ごとラブだと聞きましたが」
「かくいう私もエディタで書いてるからね。メモ帳で書くのは数えるほどしかないや」
「姫子らしいな。面倒くさがらずに手書きした方がいいぞ」
(手書き? 手打ちって事カナ?)「でも手打ちだとパッと見て色がわかんないじゃない? 000000とかFFFFFFならまだしもさ。てか私CMYK派だからRGBは全然わかんないんだよね。
私バカだから配置もよくわかんないし……
エディタの方がそのへんわかりやすいからさ……って言ってもうちで見るのと学校で見るとだいぶ色が違って見えるんだけどね」
「まあ姫子だからな」
「姫子さんですものね」
「そ。私の夢はマンガ家だしね。HTMLはエディタで充分、その分日記を小まめに書いて絵も上げますよ」
「日記を書いているのか。偉いな。おまえがそんな真面目な事してるとは思わなかったよ」
「アニメやゲームの感想ばかりだけどね」
「はは、そんな事だろうと思ったよ」
「あはは」
姫子は笑いながら携帯電話から日記代わりのブログを更新した。小まめにと言った通り、最近は時間がある時に携帯電話から更新したりしている。
投稿後に何気なく過去の書き込みを確認していたら、都から新しいコメントが付いていた。
知り合いといっていいのか微妙な教授以外知り合いが誰もいない海外での生活の中、
姫子のブログは都をそれなりに支える物になっているようだ。
姫子はかすかに笑って目を閉じて、そのまま携帯電話のインターネット接続を解除した。
「うわー」
「キャッ!」
盛大に転んだ宮田に体当たりされ、南条はコーヒー牛乳のパックを握り潰してしまった。
「はうーいたたたた……あー大変! 南条さんのスカーフに染みが……」
ほとんど空だったものの、わずかに残っていたコーヒー牛乳が噴き出してスカーフに点の染みを残していた。
「ごっ、ごめんなさいぃああぅ……」
「大丈夫よ、気にしないで宮田さん。こんな安……」
テンパった宮田に対し口にした言葉を南条は飲み込んだ。宮田と自分とでは閾値が違い過ぎる。
「同じのをたくさん持っているから……平気よ」
嘘ではない。潔癖症気味の南条は同じスカーフを何枚も持っていて小まめに洗濯しているのだ。
「だから……気になさらないで」
「……でも……」
スカーフを取った制服の胸の部分は何か寂しい。
違和感から宮田があまりジロジロ見たので南条は少し気分を害しはじめた。明らかに宮田の方が胸が大きい。
「……何か?」
「すっすみません……えっと……」
もう少しで南条が機嫌を損ねてしまうところだったが、その前に学級委員長の片割れが助け船を出した。
「南条さん、これよかったら使って」
千夏がロッカーからネクタイを取り出して南条に渡した。
「あ、これ衣装部の新色なんだけど、どれがいいか試してみてって渡されたの。
大丈夫だよ使ってないからきれいだよ」
「……ええ、ありがとう……」
受け取ってしまっていいものか少し戸惑いながら例を言い、巻いて見せると千夏は満足そうに頷いた。
「違いはラインの有無で色自体は私のと同じなんだ。お揃いだね」
「お揃い……? ええ……そうですわね……」
(制服だからお揃いなのは当然だけどね)
由香は思わず言いかけたが、桃月学園の制服はバリエーションが多彩であり、その中でも南条の特別製の制服は色自体が違う事に気付いて考えるにとどめた。
翌日には洗濯は無事終了しスカーフには染み一つ残らなかったが、南条は千夏からもらったネクタイを締めて家を出た。
歩みに合わせて揺れるネクタイを猫じゃらしに対するネコ科動物のように見ながら、少しうきうきしながらバス停へ小走りで向かう。
お揃いと聞くとなんだか親近感が湧いてきて、少し千夏と話がしてみたくなっていた。
紫色のネクタイは、朝と夜の間の空の色のようだった。
以上です。
さらにツンデレお嬢様レベルが上がったアニメの南条さん。
キャンプで彼女と班を組んでいたのは委員長コンビなんですよね。
芹沢にクラスメイトとの関係で悩んでいる心境を吐露して以降
次第に距離が近付いている感がありますが、
それ以前から委員長コンビは南条さんを何かと気にかけていたと思うのです。
委員長としての責任感からか純粋な友情や興味からかはわかりませんが。
>>613 GJです。ええな!これ!!!南条たん・・・(*´Д`)ハァハァ
ナイス南条さん(´∀`)ノ
もしやこれは以前投下されたゲシュタルト崩壊の正当な続編かな?
>重力崩壊さん
どの描写も、本当に素敵です。
私も今、同じ南条さんネタで書いているのですが、レベルの差を
思い切り見せつけていただきました。
もう全然かないません。
正統な続編といいますか、毎回スレ埋め用にいろんなものを崩壊させています。
あまりダークではなくて申し訳ないのですが、普段は殺しまくっているのでスレの最後くらいは平和な崩壊を書きたいな、と。
せっかくだから最後まで使い切ろうぜ
使いきろうか
_
(:::::::::::ヽ、
ヽ:::{⌒ l /
-ゝトー‐- 、 _ ー
/::::::::::::::::::::::::::::: ヾ、 )
〃::::::::::::::::;、::::::::::::::::::::::: Y
/:::::::::::/:::/ \::::ヽ::::::::::::::'
l:::::: /:/_l::レ‐' ヽ、k_j_ヽ:::!:::::::!
l::::::::!ハ.__ ____|::l:::::::l
ヽ:::::|:ヒ!| | | | !::!::::::l
ヽ:|:八ー' ー' j:::l::::/
ヽルッ> r ュ イフシレ'
/ V^V ヽ
. ∧ ∨ ∧
{ヽ\__ ィ<^>、 / ハ
| \ /:::| Y/ │
ハ l |:::::| j/ /
| │ |:::::| | '|
んー投下できる作品があるんだけど残り容量が微妙だな…
何とか有効活用できないものかな
最近の作品ってすごく面白いんだけど、学級崩壊って意味とは違うような気がする。
ファンタジーというかなんていうか、非現実的な感じ?な作品が多い。
初期の流れに近づいて欲しいかも…
姫子をひたすらいじめる感じの奴みたいなの?
>>623 うん。そんな感じかな。
初期のころは、学校で起こりそうな事柄とかを中心とした作品が多かったから
今いる職人さんにそういう作品を書いてもらいたいとか思って。
おk、ちょっと考えてみますわ。
>624
了解、学級崩壊な奴ね。
ちょっと時間くれ。
ところで、恋愛要素はアリ?
姫子が1番いじめられてる感じがする…
逆に考えれば姫子が1番いじめ易いのか……
>627
ファンには悪いが、姫子はいじめられても仕方ないだろ。
俺アニメの姫子初めて見たとき、正直こんなの実際にいたら絶対ウゼーって思ったもん。
>630
アニメの姫子はアレすぎるよなw
少し気の毒な人に見えてしまうw
原作のは俺もけっこう好き。
あえてアホっぽく振る舞ってる感じだし、
ダメさにも親しみがわくんだな。
>632
あの雰囲気の変わり具合だと、職人さんすっかり入れ替わってるんじゃないかな。
あれはあれでダークでよかったが、今は今で面白いから俺は今の状態は好きだよ。
だから今の職人さんたちには、あまり過去の作品を気にしすぎないで、自分のスタイルで
やってもらってほしいと思う。
このスレの職人さんたちは、なんかのびのびと自由に、自分の好きなものを
書いてる感じがしていいと思う。
読んでてすごく、「あーこの人、このキャラ好きなんだなぁ」とか感じるし。
>>631 だよなw
でも原作姫子をいじめるなら玲あたりがかばってもいいんじゃないかって思ってしまうのは俺だけでいい
>>633-634 同意です。
でも(完全スレ違かもしれないが)、救いようが全く見受けられないラストを迎えるダーク話はどうも…
缶蹴り姫子暴走みたいに最後和む展開は結構好きだが
>635
そういう希望を打ち砕くから学級崩壊スレなわけでw
でも俺も原作姫子は幸せになって欲しいカモ。
俺は姫子が弄られてるのがおもしろくて仕方ないよw
好きなキャラがいじめるのといじめられるのどっちが好き?
いじめられる方。
いじめられながらも、そのキャラが健気でかわいくてたまらないよ、みたいな。
640 :
マロン名無しさん :2006/12/23(土) 01:58:06 ID:Pfqk5UF6
┐(´ー`)┌
642 :
マロン名無しさん :2006/12/23(土) 02:15:54 ID:Pfqk5UF6
怒りを露にした姫子 「壊してやる、こんな世界!!」その叫びとともに謎の2人組が現れた
>640
あんたこのスレ向いてないな。
出ていくのはあんたの方じゃないのか?
姫「新世界の神になる!」
やっぱり姫子って
面 白 !
冬厨が出てきたな。
646 :
マロン名無しさん :2006/12/23(土) 10:58:36 ID:Pfqk5UF6
もし、天道総司が桃月学園に潜入捜査をしに来たら?
.
初代スレからちみちみ書かせて貰ってるが…
どうも最近は筆(?)の進みが悪いわorz
来年こそがんばる…つもり
649 :
初投稿:2006/12/23(土) 22:52:01 ID:???
見苦しい点もあるかと思いますが……
―――辺り一面には焼け野原が広がっていた――
ここは大田区大字桃月。いや、『だった』場所と言った方が妥当であろうか…
今では太陽光を遮るモノもなく、ただただ焼け焦げた肉片が転がっているだけの殺風景な場所でしかなくなったのだから………
○月×日、桃月駅付近(桃月商店街近辺であることが判明)で大爆発が起った
爆発規模は半径*km
都心も被害を受けた模様
犯人はM(16歳、学生)と断定
調べによると、Mはこの事件以前から爆発物を所持しており、五回程警察に連行されたことがあったらしい
今回の事件が事故によるものか、自爆テロによるものかは定かではない――
追加報告:
被爆地付近の大田区の住民は全員即死したものと思われたが、生存者が一名(極めて信じ難いが、無傷であった)発見された
しかし、(職員の話によると)病院へ搬送しようとした所、その少女は目の前から一瞬で消えてしまったらしい…
「不幸ですね」と確かに聞いた、と言っているが、その職員が幻覚でも見ていたのか、はたまたそれが真実なのか…
信じるか否かは各個人にお任せする…
Mって誰?
メディア?
ていうか妙子にワロタ。
651 :
649です:2006/12/24(日) 00:27:50 ID:???
6号さんゲット。
6号さんもこのスレでは結構優遇されてる希ガス
初期は、6号がひたすらいじめられてヤケになって、
みんなを殺して自殺、とか普通にあったけどなw
あれは嫌な気持ちになったな…。
でもなぜか読んじゃうんだけどねw
学級崩壊スレで鬱気分になる=作者にとっては最高の……
そういえば死亡回数云々って話あったけど、一番回数少ないって言われてた南条がキューブで一回増えたね
最高の何だ?気になる
>657
お前想像力ないな。
「賛辞」とか「喜び」とか色々あるだろよ。
このスレは読後鬱になる作品だけではないけどな。
つかむしろ、そっちのが読みやすいと思う今日この頃。
…俺、ヌルい?
意見を述べる時はぼかさないではっきり言えって事だろ
どんなに想像しても本人の考えなんて分かる訳ないんだし
>>656の者だす
すまん…俺のボキャブラリーが貧困なせいでこんな形になってしまって…
>>658の方が言ってるような事を言いたかったんだがいい表現が浮かばなかったから業と曇らせたんだ…
俺の独断と偏見だがね…スマソ
過去作品一通り目を通してみたんだけど、確かに初期と今って全然作り手の気質が違うね。
バトロワの前後辺りで雰囲気が一気に変わった気がする。
あの辺で職人さんが大幅に入れ替わったのかな?
職人さんって今何人ぐらいいるんだろう。
体裁とかが特徴的でわかりやすい方もいるけど。
実働3、4人くらいじゃないかな。
文体や言い回しは癖が出るから目が肥えた人なら同作者を見分けられるかもしれないけど。
確かにバトロワの前後でいじめからなんでもありに路線変更した気がする。
バトロワも中断して放置状態だけど、職人さんもういないのかな?
まだいるなら完結させてほしい思うけど。
なんでもありってのがいかにもぱにぽにらしいな。
あと、読んでいて気が付いたけど、時期ごとに流行り廃りのスタイルみたいなものが感じられる。
同時期の作品同士が多かれ少なかれ影響し合っているって考えるとなかなか興味深いものがあるね。
おお。ていうかもうこのスレとっくに落ちて、みんな次スレに行ったのかと思ってたぜ。
次スレ立ってから、結構経ってるよな・・・まだ容量あるんだ・・・
弔いの意を込めて過去作品を振り返る談義などをしておま。のんびりと。
そういえば初代スレが立ったのは去年のこの時期なんだっけ?
早いような昔の事の様な…
現在496kbか
姫子なら…、姫子ならなんとかしてくれる!
姫「ごめん…私に期待しないで…」
玲「いや…ムリするな
ムリしなくていいからな」
>>668 もう一年も経ってるんだ…
俺が来たのはインプランタ終盤近くでラストマホが始まった辺りだったから(当たり前だが)実感無いね…
これが全ての始まりだった
(o^v^o) ぱにぽに de 学級崩壊 (*゚∀゚*)
1 名前:マロン名無しさん :2005/12/31(土) 07:25:10 ID:???
くるみ「最近、姫子の奴ちょっと調子乗りすぎだと思わない?」
玲「確かにな」
6号「糞キャラオブ・ジ・イヤーです」
都「いっぺんハブってみる?」
当時の1としても一年かけて7スレも伸びるとは夢にも思わなかっただろう。
そしてあと少し。往く年来る年、立つスレ落ちるスレ。
今年の終わりと同時にスレが落ちて来年の始まりと同時に次スレが立てば美しかったけど
まあこればかりはしょうがないな
初代スレ自体が大晦日に立てられているからなぁ…
本年中は拙作を御高覧くださり、時には過分なお褒めの言葉も賜りまして誠にありがとうございました。
怠惰で遅筆な私ですが皆様の温かいお言葉に支えられて書き続けることが出来ました。
来年も少しでもよい作品が書けるよう精進するつもりですのでおつきあい頂ければ幸いに存じます。
また作家の皆様にはいつも素晴らしい作品を拝読させて頂き、いち読者として御礼申し上げます。
来年も皆様の作品を楽しみにしております。
それでは皆様どうぞよい新年をお迎え下さい。
>676
おつー。
お互い、来年もがんばりましょう。
がんばりますか?
がんばるかもしれません。
もうお疲れモードだしとっとと埋めちゃった方がいいカナ?
どっちに投下するかで迷ってる人もいるし
とりあえず今はファンタジーなのを書いてるんだが久々に現実的なのものも書いてみようかな
まあ好きなものを書けばいいんじゃないか?
_ _...
,≦,彡-─‐‐- 、
´ _: . : . : . : . : . ヽ、 ..、
; -. ̄`'′: . : . : . : . : .\\
/" : : . : . : . : . : . : . : . : .\ヾ
; ; : . ; . ; . : . ; . : . : .:.:. ., ヽ
i/.:::,/:.;/:.:.:,;.:.l:i、 、 l|i: . : ヽ
".:〃.;i|!:.:.:,ハ :|トi:.: }i i: ..:||ト, : . :i
;.:/i':.リl|!:.:i|' | i||ヽ::.i|;.i;.i.:||;|l : . :|!
i/ |:il| |l:_イ_,.|:i|| 、|_:|!i:|!|:|川 : . |!
li|''|'|i"「;/′川 l; il`i'サリ|!|:.:. i.i
|'--┼|─- -─┼-'i|'リ:.: //
′| |: . : . : . : . : . : | | ∨:. i′
l ''|"" '"!_l _〉!; |
;、 ー' _ _ ,. ‐'`il|!i.| .
ミ\、 ,二_,.. ィi|'___ |ト!l| !
ヾ、`ア" `ヾi´ `ヽ、゙!
\ ひ `ヽ、ざ :`iヽ、
うんこちんこまんこ
そんなとこまでエロパロと関係しなくてもよろしい
マ ,--、 ホ
l/⌒
,' ´  ̄ヽ
l レl/^リ) よい子のみんなは
kリ゚ ヮ゚ノl
m9 V)つ 次スレに移動ダヨ!!
く_lj:ゝ
(_/l_)