<注意事項>
作品に対して内容にケチをつけたり一方的な批判は荒らしとみなしてスルーしよう。
作者の都合もありますので早くしろなどの催促はできるだけしないように。
次スレは
>>950の人が立てるように。容量オーバーになりそうなときは気づいた人が宣言して立てよう。
基本的にsage進行。
____ ______ _______
|書き込む| 名前: | | E-mail(省略可): |sage |
 ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∩
, ─|l| ,/ノ
! ,'´  ̄ ヾ
! | .||_|_|_|_〉
! トd*゚ -゚|| ここにsageって入力するんだ
ノノ⊂ハハつ 基本的にsage進行…
((, c(ヾyイ なんで私だけバニー…
しソ
過去スレが多くなったせいで容量制限を食らったので
>>2に移動させました。
乙カレー
>>1 スレ立てお疲れ様や♪たまにはゆっくり休んでなぁ〜
すいません、投下が途中になってしまいました
とりあえずまた投下します
wktk
割と寡黙な奴だから興味はあった。
でも、振り向かない。
干渉するのも、されるのも嫌なんだ。
みんなで仲良くの輪に入るのはゴメンだしな。
どうでもいい談笑は続く。
そうじゃねえだろ……、ああ!苛々する。
我慢にも限度があった。
ずかずかとテーブルまで歩いていく。
「つーか、てめえら他に話すことがあるだろ!
あのモンスターのこととかよ!」
盛り上がっていた話の流れを切る。
ああ、どうかしてるぜ……私も。
こんなこと、普段ならしねえのによぉ。
「そういえばそうだったね。亜子に会えた嬉しさのあまり忘れてたよ」
私が来るまで頬杖を付いていた佐々木にも多少は緊張感が戻ったみたいだ。
「ウチもや」
呆れと諦め半々の溜息。
お気楽にもほどがあった。
「どうしてウチ達が狙われたんやろか?」
それについては私の中に仮説が浮かんでいた。
「二つのことが考えられるな。
一つは動物と同じ。ゲームを潤滑に終わらせるために無差別に放った。
もう一つは兵士を殺した処罰、といったところか。
私は後者だと思ってる」
亜子は疑問符を頭上に浮かべている。
「んじゃあ、龍宮さんも?」
「あいつは兵士に自分の名を本部に連絡される前に殺した、と思うから狙われてないんじゃないか?」
「ちょっと、ストップ」
まき絵が自分が喋るために会話を止める。
「やっぱ……、“あれ”は本物なの?」
私は口を渋らせた、代わりに答えたのはデーモンを倒した古だ。
「本物アル、間違いなく」
案の定、三人は硬直している。
そりゃそうだ。「へえ、そうなんだ」で済むようなことじゃない。
かといって、実際自分の目でモンスターを見てるんだ。
今は事実として納得するしかないだろう。
(……)
魔法に関わることは裏の世界を見ること。
それは常に生命の危険を伴う。
私と亜子達三人は不本意ながら裏の一面を垣間見てしまったんだ。
代償としての報いがあってもおかしくねえ。
予感は現実のものになるまでに時間は掛からなかった。
【古 一万円所持】
【アキラ 水鉄砲、車のキー、魔法瓶所持】
【まき絵 手榴弾(×1)所持】
以上です
アクシデントもありましたが多めに見てくれると助かります
打たれ弱いのでorz
乙
序盤に乗る寄りだったのに仲間を想い始めた千雨に死亡フラグ立ちそうだ……
GJ
てかクーの一万円ってなんだw
<迎撃・前>
情報交換兼雑談も一段落した。
そして、私が懸念していた通り、三人は亜子と行動を共にするようだ。
ついにお守りから解放されるわけだ。
「んじゃ、亜子のことは頼んだぞ」
ドラマに出てくるちんけな台詞を口にし、あくまで爽やかに立ち去ろうとする。
世話好きな私よ、さらば!
「!!」
ガシッ、と腕が掴まれた。
掴んだのは勿論亜子で、涙目で私を凝視している(男が見たら悶絶するな、これ)
私もこの顔にはめっぽう弱くなってしまった。
(ちくしょう……どうしろってんだよ……)
結局、私が譲歩する、つーかそれ以外に手がない。
はあ、いつになったら私は自由になれるんだ?
ニヤついた佐々木と古を他所にそんなことを考えていた。
日も傾いてきたわけで一同は夕食作りに入った。
佐々木と亜子が飯担当、他が見張りというわけだ。
私が裏口、古と大河内が正面口を受け持つことになった。
……つってもなあ。
隘路かつ薄暗いので人が通るとは思えない。
モノクロの世界は私をまどろみへいざなう。
疲れが取れねーんだ。眠いもんは眠い、休ませろ。
睡魔との闘いは私の不戦敗でいい。
塀に寄り掛かりながらうとうと……、ビクッ!!
それを断ち切ったのは悲鳴だった。
な、なんだ!?
私を強烈に誘っていた眠気はどこえやら、音の発信地である正面口へと小走りで向かった。
状況は芳しくなかった。
後退する古、その後ろに運動部三人が武器を持ち出している。
向けられている相手は……
「ゆーな……、どうしっちゃったの?」
デカめのナイフを手にした明石裕奈、三人の親友だった。
通常の概念が通用しない島であっても奇異な光景だった。
私だって、こいつらが仲が良いことくらい知っている、喧嘩しているところすら見たことない。
なのに、今は喧嘩以上の殺伐とした空気が渦巻いている。
不穏当な光景からただごとではないと私は受け取った。
「へえ、まだいたんだ」
明石の視線が私を舐めずる。不愉快だ。
「ゆーな、武器を仕舞って!こんなこと、誰も望んでない!」
佐々木の発言に周りも同意する。
「怖かったんだよね?だから、くーふぇのこと襲っちゃったんでしょ?」
希望的観測だろ?それ。
血塗れたナイフ、光沢がない分余計に不気味だ。
全身が血で染まっている明石の姿、自分の血じゃないのは見りゃ分かる。
あいつは狂ってるじゃないか。
それなのに何故、期待するんだ?
「…………」
さっきまでとは打って変わって俯く明石。口が動く。
「信じてくれるの?」
ゾワリ、背中で虫が蠢く、そんな不快感に見舞われた。
佐々木は手に持っていた手榴弾をリュックにしまい、古を制し一歩踏み出す。
やめておけよ、心で肥大化していく一言が口から外へ出ない。
それは私自身も信じたいと思っていた、そういうことなのかもしれない。
カツッ、カツッ……。足音だけしか音が無いこの領域。
すべての目が佐々木と明石に注がれている。
そして、最後の一歩。
進む前に少しだけ……、
明石の手が動いた気がした。
「あ、あれ?」
体内から発せられる違和感。
佐々木が視線を下げる。
密着した佐々木と明石の体の間に光る朱に染まった物体。
音もない、佐々木の腹にナイフが刺さったという事実だけがそこにあった。
液体が地面へポタリ、ポタリと絵を描く。
裕奈の表情に変化はない、だから佐々木は刺されたと思えないのだろう。
脳よりも体は正直だ。
佐々木は力なくその場に倒れた。
「―――――え?」
大河内は佐々木の崩れ行く背中しか見えていないため何も把握できていない。
しゅん、と。
腕が空を滑る音。
放たれた鉄の刃。
腕の振られた方向を見ると立っている人はもういなかった。
そこにいるはずの大河内は大の字で倒れていた。
胸、頭に刺さっていたのは……手裏剣?
表情の無い亜子、完全に一人だけ時間が凍結してしまっている。
そんなこともお構い無しに裕奈の口元が鋭く切れ込んだ。顔に手を当て邪悪丸出しの笑顔と奇声。亜子ですら初めて見るんじゃないか?
勝ち誇った笑いを披露した後、私達に視線を浴びせた。
「ふふふ、あはははは!!私を騙そうなんて百年早いよ!!
だいたい、さ……」
一転して怒号を浴びせる。
「ここにいる誰かが千鶴さんを殺したことくらい分かってるんだから!!」
急にあいつ、何を言ってるんだ?
私は(おそらく、亜子も)那波には会っていない。
自然と向かう先は古だ。
(私、会ってないアルよ……)
自然な口調で古は答えた。
目を瞑り、話を続ける。
「那波さんの死体は焦げて、バラバラだった―――」
見開かれた目は血眼、狂気と憎悪が滲み出ている。
「―――だから、まき絵の持っていた爆弾で殺された。間違いない!マチガイナイ!!
アハハハハハハハハハ!!」
なら、この二人が平然を装い、近づいてきたというのか?
それとも、戯言か?
わからない。んなこと知らない。
今判っているのは、明石が二人では満足していないってことだけだ。
【裕奈 サバイバルナイフ、手裏剣所持 残り??人】
<迎撃・後>
右手のステアーを敵へ向ける。
相手がやる気ならもちろん殺す。
武器を考えれば私達の有利は動かない。
「待って!!」
私を制す声を出したのは亜子だった。
「ウチに任せてほしい」
とはいっても、あいつはまだ手裏剣を左手に持っている。
さっきの動きから考えると銃より少し遅いが、亜子が躊躇ったなら……。
私の手でケリをつけるほうが都合が良い。
「大丈夫や」
古が佐々木と大河内の所へ、そして私と亜子は明石と対峙する。
口火を切ったのは亜子のほうだった。
「島に閉じ込められてからゆーなに何があったはウチは知らない―――」
優しく透き通った声で話し始める。
「―――でも、ウチはゆーなが明石裕奈であることを信じた」
明石は腹を抱えてげらげらと笑い始めた。
「亜子、何言ってんの?意味わかんないよ。
私が明石裕奈じゃないって言うの?亜子こそおかしくなっちゃったんじゃないの?」
「私の知っている明石裕奈は快活で優しくて……決して人を欺いて傷つける人間なんかじゃない!!」
明石は耳に付く笑いを止めた。
「……ふうん、私のことそういう風に思ってくれてたんだ。ありがと……」
優しさから来る一言、一瞬だけ3−Aにいた明石裕奈に戻った気がする。
「でもね、私だって怒ったり、恨んだりするよ。亜子の考えてる私は理想像でしかない。
世の中そんな綺麗事だけでできてない。まき絵達が那波さんを殺したように!!」
感情の起伏が激しい。それだけ明石の精神は不安定ってことだ。
「ゆーなは……まき絵を信じられへんかったんやな」
「あ?」
―――――信頼関係に一方的など存在しない。
いくら亜子が信じていても明石の信用が無ければ成り立たない。
「ほかの誰かが別の種類の爆弾を使った。
まき絵が亡くなった誰かのリュックを拾い、その中に手榴弾が入っていた。
ゆーなは勝手に想像して早合点しすぎとちゃう?」
糾弾の声量はだんだん大きくなっていく。
「ううん。理由なんてどうでも良かった。理由は自分に都合のいい口実を与えてくれるだけ……。
最初から殺すつもりやった、そやろ?」
核心を突く亜子の言葉に、
「そうだよ」
表情はそのままで肯定した。
「知り合いがどんどん死んでいく、そんな状況で誰かを信じる?
馬鹿言わないでよ!自分の命を守るので精一杯なんだから、そんな余裕あるわけない!」
抗弁無く自分を正当化しようとする。棘だらけの反駁は他の追随を許さない。
「そう、おかしいのは亜子のほう。どうせ一人しか生きられないのに誰かと行動する。そんなの無駄じゃない!!
そうすることで現実から目を伏せたいんでしょう?逃避したいんでしょう?
でも、無理だよ。今起こっていることはすべて事実だから!」
それは亜子に対する罵りと言うべきものだった。
「私は現実と向き合ってる。殺してでも生き抜く、私は誓った。だから殺した。なんかおかしいこと言ってる!?
いつ襲ってくるか分からない、相手の顔色を伺いながら戦線を張る。それこそ意味がない。それくらい分かってるんでしょ!
それともクラスメイトを銃で殺して回ってとか!?そのほうが効率いいからね!」
呂律を速くし捲くし立てる裕奈、怒りと憎悪が滲み出ていた。
支離滅裂じゃない分、一層タチが悪い。
「違う!ウチはそんなんで千雨さんと居るわけじゃあらへんねん!」
亜子は涙目になりながら必死で講義する。
その時、私は何も言えなかった。
私には亜子を襲った前科がある。
この島から流れる狂気の奔流に身を任せ、行った殺人未遂。
普通は信用なんてできる筈がない。
明石の言っていることは私には的を射ている。
だが、亜子にはそうもいかなかった。
そんな通常的概念が通用するなら私と一緒に居るなんて考えられない。
「ウチは一人生き残ろうなんて思うてない。
ウチだって死にたくないけど、みんないなくなった世界なんて嫌や!
だから、抜け出す方法を見つけたい!」
「そんな方法無い。あるわけない。
淡い期待なんて捨てたほうがいいよ。
どうせ優しい亜子にはできないだろうから私が責任持って捨てさせてあげる」
平行線を辿った会話も終わりが近づきつつあるようだ。
「どうせ私もここで殺されるんだし、親友のよしみとして亜子くらい私の手で……殺す。
あと、亜子が私を撃てるなんて思っていないから。撃つのはきっと長谷川」
再度、薄笑いを浮かべた。覚悟は決まったようだな。
ttp://www.imgup.org/iup253257.jpg 左手を振り上げる、下ろせば手から手裏剣は離れていくだろう。
これ以上は無理だ。これ以上の損害を被るわけにはいかない。
「じゃあね、またあっちで会おうね」
手は1秒後には振り下ろされる。
「うん、さよなら……」
だから私は、
ドゥン、ドゥンと二回鳴り響く。
音を鳴らしたのは私の銃じゃない。
ファイブセブンの……発砲音。銃口から出る硝煙の臭いは音が事実であることを再度認識させた。
裕奈の体は崩れ落ち、痙攣している。
「かはっ、……あ……こぉ……、ちき……しょう……」
残された命で呪詛を吐く裕奈。
呼ばれた名前の返事というべきか、また銃を裕奈に向ける。
亜子の無慈悲な顔、こんな顔を見ることになるとはな……。
「ゴメン……。辛いときに一緒に居てあげられなくて……」
抑揚なき優しい声は続いたけたたましい音にかき消された。
【明石裕奈 死亡 残り??人】
<感情の終着点>
「アキラはもう死んでいた。まき絵も助かる傷じゃなかった。
私はただ……見届けることしか……できなかったアル……」
最後まで言葉を搾り出してから泣き崩れた。
哀咽を漏らし続ける古の肩を抱き寄せる亜子。
言葉は何もなく、時だけが刻々と過ぎていく。
三人を重葬してやった。
そうすることで罅割れた友情が戻る気がしたのだろう。
墓とも言えない粗末な物、けれども、そこら辺に放置され忘れ去られるより形が残るものとしてここに在るだけ幸せだと思う。
出来立ての墓を前に暫しの黙祷を捧げる。
「…………」
一連の作業の中、亜子の目から涙が流れることはなかった。
冷めてしまった料理。
用意された五人分の食事が悲しみを助長している。
「食べるか……」
私はいち早く席に着く。それに促されるように二人も座った。
「じゃ、頂くか」
無言の晩餐、外から聞こえる微かな風の音すら耳に入ってきた。
古は飲み物しか口にしていない。その横に居る亜子にいたっては席に座ってから何一つアクションが無い状態だ。
正直、ここに居るのが嫌だった。
二人の食はまったく進まず私が食べ終わった時点で夕食は終わった。
食後に亜子に呼び出された。本人曰く「聞いても面白くない話」だそうだ。
話題なんか一つしかない。
二階の洋室で待っていると言われすぐに向かった。
ドアを開け入ると亜子が部屋の奥にちょこんと座っていた。
表情が先程から何一つ変わっていない。とても気がかりだ。
久しぶりに亜子の声を聞く。
「まき絵もアキラも死んじゃって、そして……、ゆーなを殺したんや」
「ああ、そうだな」
私は一番近くでその瞬間を見ていた。
「ウチが殺したんだから悲しむ資格など無い。
だからかな、涙が出えへんのは」
俯いたまま話し続ける亜子。顔から感情を読み取ることはできなかった。
「そや、ゆーなが言ったように……ウチはもう、壊れてるのかもしれんね」
私は無表情の中に悲哀と後悔を確かに見た。
まったくよ、私にすら感情を隠しきれてない。
だから、
「お前は壊れてない」
えっ?とあの時以来初めて表情が崩れた。
「大切な人が死んだんだ。悲しいに決まってんだろ?」
悼む時間もなく逝ってしまった仲間達、亜子にとっては言葉で言い表せないくらい辛いのだろう。
私はそんな親友もいないから、実際良く分かってないが。
「でも、ウチにはそんな資格……」
「自発的な感情に資格なんかねーよ。お前は湧き出てくる感情を必死に抑えようとしてるだけだ」
「そんなこと……」
ない、とまで言い切れないあたりが亜子の裏表のない性格を表している。
ほんと、慣れない事すんなよな。取り繕うたって、すぐボロが出る。
「あとよ……後悔の念もあるかもしれねーけど、撃たなかったら明石を殺した奴がお前から私に代わるだけだぞ。結果は変わらなかった」
「じゃあ、行き場の無いこの気持ちはどうすればいいねん!やりきれない心はどこにぶつければええねん!」
亜子の心理を描写した言葉の回答。そんなのは簡単だ。
茶化すことなく言おう。
「今できることをすればいい―――――」
それは一つしかないと思う。
「―――お前の大切な友達のためにも―――」
そして、おまえ自身が壊れないためにも、
「―――泣いてやれよ」
素直な奴だな、いい意味で言ってるんだぜ。
子供のよう泣きじゃくる亜子に寄り添う。
悲しみを分かち合うこともできない私、こんなことしかしてやれねぇけど。
気が済むまで、嗚咽が止まるまでずっと傍に……。
【佐々木まき絵 死亡】
【大河内アキラ 死亡 残り??人】
以上です
明日から長期間家を開けます
多分投下できると思いますが、もし投下できなかったら……スイマセン
GJ
予想通り運動部は亜子以外おくたばりになったか……orz
GJ!!運動部折角再会したのに残念。くーふぇは生き残ってほしい…。
千雨カッコいいぜ。まぁクーフェイ・・・
ゆーなのマーダー化、初めてだっただけにハラハラしますた。GJ!!
<進むゲーム(第二回定刻放送)>
二人で二階から降りてくると古が神妙な顔で控えていた。
その理由は外から聞こえる放送前の雑音だろう。
言うまでも無い、死亡者の放送だ。
「ヅッ、ガー、ガッ、……あー、あー、聞こえるかな?
では早速、天に召された方々の発表を始めよう。
明石裕奈(出席番号2番)、大河内アキラ(出席番号6番)、春日美空(出席番号9番)、早乙女ハルナ(出席番号14番)、佐々木まき絵(出席番号16番)、鳴滝風香(出席番号22番)、村上夏美(出席番号28番)、雪広あやか(出席番号29番)、以上だ。
ゲームの半ばをを過ぎたってところか?
なお、二名の生徒が兵を襲った。兵を襲うなと説明してはいないが、その二名には相応のペナルティーを負ってもらう。覚悟してくれたまえ」
会った者の名が半数を占めている。
呼ばれた名の者にはもう二度と会えない、やけに現実的な感覚が私を襲った。
ゲーム不参加の二人、前放送の七人、今回……あと13人か。
騒がしかったクラスの半分がこの世から断絶された。信じられねえな。
あと、気になった言葉は"二名の生徒が兵を襲った"。
その後に紡がれた言葉……ペナルティー……か。
悪魔どものことを指しているのだろう。
つまり、私と亜子は特例であいつらに襲われたことになる。
死亡率が他生徒に比べ倍加したと考えられる。
さらに言えば、生き残ったとしても"ルール違反"で帰してもらえない可能性まで出てきた。
ゲーム自体を破綻させることを余儀なくされ、生きる道が狭くなったとも言える。
懸案事項が増え、これ以上悪くなれないくらい私達の置かれている状況は最悪だ。
もはや僥倖頼みか?
古に放送で言っていた二人が私と亜子であることを話し、分かれたほうが安全だと説明した。
古曰く「分かったヨ……じゃあ、一緒に行動するアル」
何一つわかっちゃいなかった。
つーか、どういう風に聴いたらそんな答えが出てくるんだよ。
「……私はまき絵もアキラも守れなかった。
贖罪にもならないけど、二人のことは必ず私が守るアル」
「うん、これからも宜しくなー。くーふぇ」
亜子に承諾を出された以上は食い下がっても無駄だろう。
結局のところ、五分に亘る私の説明はまったくもって無意味となった。
【亜子 手榴弾入手】
【車放置 残り13人】
<逢魔ヶ時>
夕刻の街を歩く。
斜陽に照らされ伸びる影は三本。
見上げた空は赤から黒へのグラデーションがこらされている。
黒い空には星、赤い空には雲が飾り付けられてなんとも美しい。
柄じゃねーな、こういうの。
私なりの現実逃避をしてみたんだが性に合わねぇ。
なぜこんなこと考えてるかって?そりゃあ私達は目的もなく歩いていて、手持ち無沙汰だったからさ。
家でじっとしているが嫌だと最初に言ったのは古だ。いかにもあいつらしい。
私もその意見に同調した。
電気を付けて家に居座っていれば「ここには人が居ます。襲ってもいいですよ」と言っているようなもんだ。
亜子にも異論はなく、私達は当てもなく闇へと身を投げ出し今に至る、ってわけだ。
それにしても暗い。
無機質な灰色のコンクリート地帯は部屋の灯りと喧騒がないだけで死の域へと廃れてしまうのか?
整頓され立ち並ぶグレーの建物は墓標郡を思わせる。
この不気味空間からなら、獣の一匹や殺人鬼ひとり出てきても不思議ではない。
横で歩く古と亜子も浮かない顔をしている、今に始まったことではないが……。
足の動きも鈍く、私が歩調を合わせている。
こいつは判断ミスだ。
せめてこの二人の精神が五割ほど回復するまで行動を控えたほうが良かったよ。
もし不意打ちされたなら、二人は戦力にならない、いや荷物かも……。
日は完全に落ちた。
外を歩くより建物内に居たほうがマシと考え始めた私。
だが、郊外まで来てしまった目ぼしい建物は?と……あった。
闇の先にかまえている校門。学校だな。
「BR高校」と赤い字で書かれた学校名、かなりの大きさを誇っている。
「入るぞ」
主導権を握っていた私を先頭に他校の門をくぐった。
【残り??人】
<暗黒神殿・前>
いつからか輝きだした満月まで後一歩の月、月に感謝するのは初めてだ。
金色の光は校庭を幻想的に照らす。
新月だったら真っ暗だよな……。いや、中途半端に見えてるほうが逆に危ないような気もする。
外に居る分には視覚の問題はない。つまり、中では十分な視界を得るのは難しいっつーことだ。
門の近くにある警備小屋を寄る。
その理由はただ一つ、アレが欲しかったからだ。
わずかな光を頼りに小屋内を探る。
「やっぱ、あったか」
懐中電灯。
電池入りらしく使える状態で放置されていた。
満足する灯りは得られないものの、有ると無いでは大違いだ。
―――ん?
亜子と古の話し声が聞こえる。仕方ないとはいえ、あの葬式気分が続くのは困る。
若干の回復を期待しつつ、さっさと外へ出た。
先ほどより明るくなった視界と雰囲気の中、私達は西口から校舎内へ侵入する。
昇降口から奥へ闇が広がっている。
すべての色を吸収する黒の世界。
こんなん学校じゃない。
大体ここに来たのは気が向いたから、入る必要なんてない。
「私が先行する」
気が向かなくてもやってみる。風向きが変わるかもしれないから。
神任せになるくらい、私達はツイてなく、無力なんだ。
入ってすぐの階段、取り敢えず最上階に行ってみるとしよう。
踊り場で私は足を止めた、止めざるを得なかった。
今更ながら後悔した。
気が向かないことはやらない。それが一番だ。
「……いい加減にしてくれよな」
動物に辟易する光景が見上げた先にあった。
チーター、ドーベルマン、デーモンの次は虎かよ。
さらに今までとは違い、奴はこちらの存在に気付いていて、二階から黄金の瞳でこちらを見据えている。
逃げ場などない、ヤルシカナイ。
「くそっ!」
私が動いた瞬間に、奴がこちらに「跳んで」きた。
0.5階分の落差など類いまれの運動能力を持ってすれば関係なく、逆に重力により加速していく。
故に引き金を引く頃には、私の首に牙が刺さっていると直感した。
でも、動けない。かわすことも許されないから。
これから起こる事実を受け入れるしかない。
「甘いアルよ!!」
獣と同等、いや、それ以上の速さで放たれたパンチは牙が私の首に達する前に直撃した。
空中でバランスを崩し、段差に落下した。
その隙は引き金を引くに十分だ。
バラララララ!!
低く唸る獣を気にすることなく撃ち続けた。
やがて動かなくなる。
階段に染み渡る肉食獣の血の臭み。
バラララッ!!
私はまた銃を撃った。大きな何かが蠢いたように見えたから。
標的になったのは一階に潜んでいた虎だ。
それは多数の鉛玉を受けると眼を開けたまま横に倒れた。
もしかしたら、まだいるかもしれない。
私も今一度気を引き締める。
コツン、……ッン、
軽い足音、私たち以外の足音。人間のものだ。
廊下から聞こえてくる微かな音。
校内に誰かがいる!
(少し見てくる。お前らは待ってろ)
何か言いたそうな顔をしている二人に構わず階段を上がる。
そして、二階に足を踏み入れた。
話の通じる相手ならいいんだけどな……と心に淡い期待を持っていた。
決意した私は壁沿いから顔を出し様子を伺おうとする。
と、単発の破裂音が二回、壁付近を掠めた。
ファーストコンタクトで期待は消えた。
ちぃ、拳銃持ちでこちらに気付いているときたか。
相手が拳銃だけなら、火力はこちらのほうが上。勝機はある。
リュックへ懐中電灯を適当に投げ込む。それは私が戦闘に入る一儀式だ(この銃は片手で扱うには重すぎる)。
「……よし!」。一度深呼吸をしてから仕掛けた。
威嚇射撃を行ってから体を廊下へ投げ出す。
月光が差し込み、意外と明るい。
あいつは、
40mほど先にいたのは制服姿の少女だった。
柿崎か!
柿崎は私の武器を見ると背を向け突き当たりで消えた。
やる気の奴を逃がすほどお人好しじゃない。
自己防衛のために危険因子は排除する、そう脳が決断した。
【単独行動 残り??人】
また数時間後にヒソ−リ投下したいと思います
美砂でないと信じてる。食券10枚かけたから・・・所詮大穴ですね。話逸れたけどGJです。ひっそり投下してくれるまでひっそりROMってますね。
密かに他のチアと組んでて背後から襲われ古が……みたいになるに食券一枚
なんにせよGJでした
美砂かー。
ところで、まとめスレ機能してないね……12部に入ったのに11部途中で止まってるの見ると悲しくなる
<暗黒神殿・後>
4キロ近くある銃を持っていてもこれだけ速く走れるものなのか?自分自身に驚いた。
50mほどある廊下を8秒ほどで駆け抜け、突き当たり付近に着いた。
互いに一撃で絶命する可能性のある武器、慎重に行動せざるを得ない。
待ち伏せか、逃亡か、奇策か?
覚悟を決め一歩踏み込む……いない。
いや、いた。
掃除箱からはみ出ているスカート。
胡散臭い、つーかどう見ても罠。
しかし何故、銃で撃てば関係ない、それぐらい分かるだろ?
トリガーを深く引いた。
けたたましい音が掃除用具入れを蜂の巣にしていく。
これだけ実経験を組めば射撃技術も習熟してくる。
さすがにもう生きてないだろう、右手の人差し指に入っていた力は緩んでいた。
ドアが勝手に開く。
そこから支えを失った人形が冷たい地面へ倒れた。
違う、これは柿崎じゃない。
なんで……。
噛み殺した笑い声が聞こえた。疑う余地もなく声の主がわかる。
突き当たり先の階段から挑発的にこっちを見ていた。
私と視線が合うと、あいつの口はこう動いた。
ヒ・ト・ゴ・ロ・シ
脳がヒートアップする。体は熱くて全身が火傷しそうだ。血が沸騰している、そんな表現が似合う。
自制が効かない。自己欲制する必要が無い。
私も思わず笑ってしまった。
―――――上等だ。狂っている者同士、ヤリあおうぜ!!
なりふり構わず乱射した。その場所には柿崎はもういない。
奴は手摺りを滑るように一階に降りる。
逃がさねえ。
後先のことは考えず、階段を最速で降っていく。
罠があったって正面から打破する、これ最善で最強の手段。信じて疑わない。
ち、どこに行きやがった!?校舎からは出ていない、それは確か。
少し落ち着き辺りを確認すれば相手がどこにいるかすぐに分かった。
廊下側から灯りが漏れている。保健室だな。
危険な匂いがプンプンする。
また、小賢しい何かを仕掛けてんだろう?……乗ってやるよ!
廊下の中央を歩きながら銃をいろんな方向へ向ける。
暗闇に慣れたのか、目は光を重要視しなくなっていた。
何事もなく保健室の手前に来た。本仕掛けはやはりここか。
無闇に開けることもできない、銃を撃つのも二階でのことがフィードバックし良いとも思えない。
武器から不利を判断して逃げ、すでに蛻の殻という可能性だって……。
変に考えるだけ無駄、強行突破してやる!
学校特有の横に引いて入るドア、開けようとするが開かない。
なんかで固定して開かないようにしているんだろう。もう片側はロックされていてビクともしない。
廊下側の他の出入り口は見当たらない。
なら強引に行くしかねーな。
ドアに豪快に蹴りを入れる、一回、二回……三回!!
所詮高等教育の備品。牙城は容易く破壊された。
ドアが倒れた時の風で白い何かが舞い上がる。何だこれ?
「!!」
霧が停滞する教室にいたのはピエロことザジ・レニーデイ。手にはコンセントを握っている。
悪寒が体中を駆け巡る。
―――――アレを電源に入れさせてはいけない。
「動くな!」
警察官の見様見真似で静止を促す。それを聞かないザジ。
「…………ちぃ!」
あいつは行動を成すまで止まらない。そう直感が告げる。
私の体は外へ向いていた、無意識の恐れ?危険の回避?んなことは知らない。脳が部屋から出ろと体に勅令を下し、従ったまでだ。
咄嗟に廊下へ身を投げ出した。その直後だった。
室内が炎無き爆砕に包まれた。
微塵となったカラスが粉と共に舞い上がる。
「……さん!!千雨さん!!!」
心層の深い部分に投げ掛けてくる言葉。
自分がまどろみの中にいたことを知る。
起きねえとな……、瞼をゆっくりと開ける。
眉毛をハの字にしている亜子と危害を加えるものが残っていないか警戒する古がはっきり見えた。
「千雨さん!!」
抱きつかれる。それもかなり強烈に。
恥ずかしい。勘弁してくれ。
脳がやっと働きはじめたようだ。
「だああ!やめろ!平気だから」
強引に亜子を突き放す。
亜子も今更恥ずかしくなったのか顔から火が出ている。
衝動で行動するなよな、後で悔いるくらいだったら……。
ところで何で気を失ったんだっけ?ええと……、!!
「それより、アイツは!!」
「あいつ?」
……アホか、亜子も古もここにいなかったんだ。説明しなきゃ伝わらねーよ。
自身に突っ込みをいれ冷静さを取り戻す。咳払いを一つ入れてから、
「お前らがここに来たときどうなっていたか教えてくれ」
亜子が言うにはこうである。
二階階段付近で待つか追うか悩んでいると一階から大きな爆発音がした。
一階に下りてくると煙が舞っている部屋があった。
現場に駆けつけると白い粉が付着し、倒れている私を見つけた―――そうだ。
つーことは、気絶していたのはほんの少しの時間だな。
スカートに付いた粉を払って立ち上がった。
「本当に……」
「大丈夫だよ、ちょっと頭打っただけだ」
余計な配慮を心がけられる前に元気をアピールしておいた。
私は古に話しかけ、薄白く染まる教室の前まで戻る。
視界が遮られ、教室に霧がかかったみたいだ。
だが、普通に考えれば生存者は否。さらに、ここに舞い戻ってくる奴もいないだろう。
意を決して足を踏み入れた。
割れたガラスと破壊された椅子が散乱し、歩きにくい。
それを避けながら奥に歩いていく。
窓は枠ごと外へ吹き飛んでおり、威力の高さを示している。
その隣に当事者はいた。
体は全身が痛んでおり、目を覆いたくなる。
何故彼女はここまでひどい死を受け入れたのだろうか。私の牽制で留まっておけばこんなことにならなかった。
柿崎を庇う、逃げる時間を作るためか?んな、馬鹿な!
あいつはイカれている、見りゃあわかる。なら、こいつの前では猫被っていた?自ら死を選んだ?
死人に口なし。真相を知るには柿崎本人に会うしかない……か。
深追いは禁物だ。感傷的に動いた代償は大きかった。
【??? 死亡】
【ザジ・レニーデイ 死亡 残り??人】
<夜迷い事>
柿崎に執着するのも良くない、かといって学校にこれ以上いるのは得策ではない。
特に二人に意見もなさそうだし、とりあえずここから去ることを独断で決めた。
「千雨」
私の名を呼んだのは亜子でなく古だ。珍しいな。
真剣な面持ちで亜子と距離を保っている。どうやら聞かれたくない真面目な話ってところか?
「千雨は亜子のことを好きアルね。
私……邪魔アルか?やっぱり二人きりのほうがいいカ?」
「…………」
絶句。いや、なんかの聞き間違えだろ。
もう一度言うように促すと、古は同じことを言った。
……何を言いやがりますか、こいつは?
もしかして強烈な勘違いを起こしていないか?
女子クラス、百合ネタの一つや二つあってもおかしくはないが、まさか自分に降りかかってくるなんて……。
何を血迷ったのか少し想像してみた。
桜舞う校門の前にて、
「……お姉さま」
「亜子、リボンが曲がっているぞ」
そっと位置を直す私。
顔を赤らめる亜子。
吐血。
あ、合わねええええぇぇぇ!!
亜子は関西弁じゃねーし、私なんか「誰だよ」って感じだし。
少し想像してみようと考えてしまった自分に後悔する。
この後、私は全力で無実であること古に理解してもらった。
それにしても、
素っ頓狂な思考回路。
しかも真面目にそう思っている。
恐るべし、馬鹿イエロー!!
そして、過度の心配や抱きついたりした亜子、誤解の責任はお前にあるんだぞ。
【残り??人】
<眠り姫>
真夏のわりに涼しい夜。
島だし人もいない、日本なのかどうか知らんがいつもの夏とは一味違った夏の夜だ。
あのベトベトした空気が嫌いな私でもこれならクーラー無しで平気だ。
ジャアー、と蛇口から音を立てる水道水で顔を洗う。
そう、今いる場所は大きめの公園ということだ。
ここにいる理由など特には無い。
深夜徘徊に疲れていたところで大きめの公園があり寄った、ただそれだけのことである。
げ、重大なことに気付いた。顔を拭くものが無い。
自然乾燥かよ。
「はい」
目の前に出てきたハンカチ。私は手に取った。
「サンキューな、亜子。
でも、これ、どこにあったんだ?」
「救急箱の中」
なるほど、と思いながら水滴を拭き取った。
拳法の型の練習をするとか言って奥に行ってしまった体力馬鹿を余所に私と亜子はベンチに座る。
そこに会話は無い、でも居心地の悪さを感じない。
ゆっくりと着実に時は進んでいく。
「……今日だけでいろいろあった……」
「まあな」
「良い事、悪い事、いっぱいあった」
「悪い事しかなかっただろ?」
「そんなこと無いよ。千雨さんに出会えて、友達になれたから……」
愛想笑いの奥に親友を亡くした深い悲しみが潜んでいた。
「そうか……」
永別の苦しみばかしは時間以外に解決方法がないから。
「……亜子、無理だけはすんなよ……私だって心配なんだ」
会話はそこで切れた。
吹き抜ける風の音、揺れる木の音、この二つだけが不定期に音を作り出す。
静かな夜、朧月はいつもの半分ほどしか光を供給しない。
とは言ってもここには電灯があるから明るいけど。
んっ?
ふと亜子が肩に寄り掛かってくる。
だから、古に誤解されるようなことを……。
「……ん、……むにゃ…………」
スゥスゥと規則正しい寝息を立てている。
精神的にも肉体的にも疲れが溜まっていたんだろうな、無理もない。
……それにしても安心しきった顔してやがる。
殺そうとした相手の前で無防備に寝るか、普通?
今に始まったことではないか。
大体、私と行動するくらいの物好きだしな。
とか考えていると日課を終えた古が帰ってくる。
状況は良くないが動くわけにもいかないので諦めた。
またあらぬことを言われると思ったが、んなことなかった。
「………しばらく休憩アルね」
「そうだな」
この状態では私は休めないけどな。
「嬉しそうアル、千雨さんの顔」
「……勝手に言ってろ」
満更でもねえけど……。
私は子供をあやす親の気分に浸るのだった。
結局、亜子は数時間起きなかった。
亜子が起きた時にサラリーマンのごとく頭を何度も下げ謝られたことを追記しておく。
【残り??人】
本日は終
まさかバトロワスレ見てて糖尿を患う事になろうとは・・・!
超GJ!
ザジが早くも生存率0パーをキープし、桜子にもおくたばりフラグが立ってることにも触れてあげてください
GJですた
<夜明け前・前>
英気を養った二人(私以外)。
ちゃっかり古も隣のベンチで休みやがった。
亜子の謝罪もやっと終わったことだし、また移動するかな。
空に光が戻りつつある中、私達は不思議な場所に着いた。
墓地、である。
なんで墓地なんか作ったんだろうな。リアリティーに懲りすぎだっつーの。
西洋墓地、外れには教会もある。
「二人ともこっち来るアル!!」
古が何かを見つけたようだ。
「こいつは……」
「これって……」
亜子も同じリアクションをしていた。
2−B、クラス32名。
1−7、クラス35名。
つまりこれは……、
「過去のバトルロワイヤルでの死者を追悼するものだろう」
三人以外の声。
この島に来てから聞いた声、忘れるわけもない。
「真名!」
「長谷川と和泉、探したぞ」
ずっとここにいたかのように佇んでいる龍宮、墓地を背景に恐ろしく似合っていた。
「久しいな、古」
「無事だったアルか?」
龍宮は二丁拳銃で武装していた。
「これがあれば獣ごときにやられはしない」
古は笑顔で龍宮の元へ。
その際に龍宮が微笑を浮かべた気がした。
「……不用心に近づくのは感心しないな」
龍宮は高速で腕を振るった。
古からすれば予想外の出来事だっただろう。
グリップエンドで殴られ古の額が割れ、後ろに倒れる。
「短絡的な行動は死を招く」
銃を地面に、起き上がれない古に合わせる。
「お前と戦っていた時、本当に楽しかった。……でもこれも仕事なんでな」
「真名……どうし」
て、まで口に発せられることはなかった。
龍宮がそれを許さずに古へ連発したからだ。
古はグッタリしていて動かない。
「死んだようだな」
わざわざこっちに聞こえるように龍宮は口ずさむ。
「なんで……、どうして!」
亜子には理解できないのだろう。私達を助けた龍宮が古を殺した事実が。
「大事の中の小事だ。生き残るため当然、それじゃ駄目か?」
身に降りかかってくる悪寒に耐えられず、ステアーの口径を上げる。
「ほう、戦うのか?」
余裕綽々な態度、それとも興味が無いだけか?
「仕方ないな。死ぬ前に聞きたいことはあるか?」
ああ、あるぜ、いろいろとな。
「仲間である兵士を襲ったのは?」
「武器が足りなかった」
「なぜ助けた?」
「助ける気など毛頭もなかったよ。あの場にお前達がいただけだ」
ムカつく答えしか返ってこない。
「なら、どうして私等をその場で殺さなかった!」
龍宮に現れた表情の変化。妖しく邪険な笑顔を浮かべた。
「理由は一つ。お前は使える、そう思ったからだよ。
だから私は施しを与え、そしてお前は期待に応えた」
紅く鋭い眼光は私を捉えている。
「お前が、私を利用したってことか?アホらし。どこをどう利用したっつーんだ?」
「ただの駒が囀るか?ならばこちらから問おう」
その一言は……目の前の……龍宮から発せられた。
【古菲死亡 残り??人】
<夜明け前・中>
龍宮の発した言葉は今の私を崩壊させるに十分なものだった。
「お前は何人殺したんだ?」
いつもはクールな面持ちをしている龍宮が視線を投げかける。
その先には……私。
「え?……な、何言ってるん?千雨ちゃんが人殺し?違う!人殺しはウチ……」
「黙っていてくれないか?和泉亜子」
凍える視線に竦んだ亜子。龍宮は再び私に顔を向ける。
「2、3人って所か」と龍宮。
まあ、そんなところだ。
立ち尽くす亜子を余所に尋問は続いた。
「誰を殺したんだ?」
鳴滝(姉)、いいんちょ、宮崎、間接的だがザジの四人だ。
「なぜ、殺した?」
お前と同じように大層な理由などねえよ。まあ、出来心で殺したわけでもねえけどな。
つーか、あったって教えねーよ。
「そうだな。私が理由を知ったところで意味もないだろう。
まあ、おかげで仕事量が減った。感謝しよう」
くっくっく、と嘲てみせる。
別にお前のためにやったわけじゃねーよ。
だが、龍宮に生かされた私達の命。利害関係が一致しただけとはいえ結果的には利用されていた、と言ってもいいわけだ。
「弁解は?」
あると思うか?
「ふ、そうだな」
なら、聞くな。
「そうそう、用をなす前に一つ聞いておきたいことがあったんだ。
長谷川千雨。私の正体に気が付いていたようだが、どうやった?」
くだらねえこと聞くんだな。
「今後の参考に、というわけだ」
余計な事訊くんだな、なら言っとくか。
さした理由はねえが強いて言うならば……、
類は友を呼ぶって言葉あるだろ?あれは本当だ。
駅で一目見たときから怪しいと思ったんだ、確信は無かったけどな。
こういう仕事向いてねぇんじゃねーの?
「ふっ、そうかもな」
龍宮とのやり取りにも終わりが近づいていた。
「いずれにせよ、お前はもう終わりだ。殺人鬼」
―――てめえだろ?人のこと言えないか……。
重厚な作りをした銃、リボルバーが私の心臓をロックオンする。
奴の狙いは精密かつ正確だ。逃げる暇も無いだろう。
逃げる気もないし、戦う気力も出てこなかった。
「言い残すことも無いだろう。安心しろ。後で和泉もそちらに送る」
亜子くらい見逃してやってもいいのにな、言葉にはしなかった。
トリガーが絞られる。
化けの皮が剥がれた私、きっと情けない顔をしているんだろうな。
そして、亜子。最後まで騙しきりゃ軽蔑されることも無かったのにな。
はぁ、私の脳も最後くらい有意義なこと考えろよな。
発砲音はやけに耳に付いた。
【残り??人】
<夜明け前・後>
私は地面に倒れていた。
痛みは無い。死んでるのか?いや、生きてるよな。
私の横には……口から血を流す亜子。
は?どうなっている?
なんでこいつも倒れてるんだよ!
発砲音は一回だった。ということはまさか―――
―――――私を庇った、というのか?
「あはは、ウチじゃ千雨さんみたいにうまくいかんなぁ……」
「どうしてだよ……。なんで、何で助けるんだよ!!殺そうとしただけじゃねえ!お前のこと騙してたんだぞ!分かってんのか!?」
「……うん」
弱々しい声はかき消されることなく私の耳に入ってきた。
「なら!!」
パァン!
再度の銃声が轟き、発せられるべき私の言葉は封殺される。
今度は邪魔者なく私の胸を貫いていた。
体内を通過する弾丸の衝撃によって跳ねた体、私は吹き飛ばされた。
「悪いな。私は無駄話に付き合うほど暇ではないのでな」
うつぶせに倒れた私を見下ろす龍宮の目は愚者を見るように冷たい。
私は愚か者……。ははっ、その通りだ。
我ながら本当に間抜けだ。戦闘中に逃げるわけでもなく敵に背を向ける奴がどこにいるつーんだ……。
「肺あたりか、充分だな」
死刑宣告とも取れる台詞を吐き、また私を一瞥した。
不必要になった私達の武器を回収し視界から消えた。
遠ざかっていく音が聞こえる。
止めを刺さないのか?
必要ないもんな、放置しておけば命は勝手に尽きる。
音は無くなっていた。
気の狂いそうな痛みも忘れるくらい清々しい朝日。
静かで、寂しい墓標郡を赤く、赤く染め上げていく。
そんな中……
私は名を連呼していた。
声を出すと口からの出血が増したが、それでも呼び続けた。
返事は……ない。
肘を動かして傍らまで体を持っていく。
動くたびに血が流れ続けたが、もう関係なかった。
たどり着いた場所は今まで見てきた何より絶望の光景に見えた。
制服は血でぐっしょりと濡れていた。
赤で分からない筈なのに白皙は生気を失い、尚も白くなっている。温度はまったく感じられない。
亜子はすでに…んでいる。明白だった。
「おい。何で何も言わねーんだよ……。答えろよ……」
血と土で汚れた手を亜子の顔に添える。
「また血で気絶しただけなんだろ?なあ、そうだろ?」
苦しいのを我慢して声を上げても、亜子は笑みを保ったまま目を閉じている。
「なんか言えよ……。失礼だろ……」
あれ、目の前がぼやけて良く見えねえや。
ポタッ
一滴の朝露、なんかじゃない。
私の目から流れ出したそれ、私は自分が泣いていることに今気付いた。
そっか、泣いているのか……。悲しくて、辛くて泣いてるのか。
泣き方なんてもう忘れたと思っていたけど、そうでもないな。
ここしばらく泣いていなかったリバウンドか、涙はとめどなく流れ続けた。
【龍宮真名 銃器回収】
【和泉亜子 死亡 残り??人】
<バットエンド>
涙も枯れて、心が綺麗に洗われた。頭も最後の活動になるのを知ってか、痛みも関係なく良く働いている。これが明鏡止水とかいうやつか?
どうせ動けないし、やることもないんだ。短い猶予期間でくだらないことでも考えてみるか。
怪異現象を信じなくクールに生きようと思い始めたのはいつからだっただろうか。
非常識を切願していたわけじゃない。だけれど、起きるといつもと違う世界があってもいいなと思う心を持っていた。
そんな複雑な心とは裏腹に現実はそう甘くなかった。
朝目覚めて夜眠るフツーの世界。平凡な日常。私は飽きていたのだろう。
決して叶わない夢、年を経ることで諦めることを知る。
平穏に思いを馳せる。そうすることで、己が欲望を打ち消していた。
その反動はネットに吐き出された。
気が付くと私は夢を見るのをやめ現実主義に凝り固まっていた。
そんなことも忘れかけていた最近、今頃になって非現実が望んでもいないのに私に微笑みかけてきた。嫌がらせもいいところだ。
怪しい子供先生、ネギ・スプリングフィールドは魔法先生だった!……どこのギャグだよ。
私の意志に関係なく武道大会は惜しみなく魔法を証明していた。
で、大会後に先生に詰め寄ったら、素直に認めやがった。
ここでリアリストである私の価値観は脆くも崩れ去っちまったわけだ。
そりゃそうだろ?魔法だぜ?今まで普通しか見せなかったのに急にこれだ。
昔なら誰かが「魔法が存在する」なんて言ってたら「なんだ?このキ○ガイ」位にしか思わなかっただろう。
んな私も不本意ながら裏世界の一面を知ることになる。
で、早々にこんな殺し合いに巻き込まれ、亜子との長い一日が始まった。
もう自分のことなんかもうどうでも良かったので亜子について考えてみることにすっか。
ゲームが始まって最初に会ったあの時、本当に殺すつもりだった。四足生物が現れなければ亜子は序盤の離脱者になっていた。
亜子を殺めようとした私に協力を持ちかけられた、あっけに取られたわ。
亜子と行動することになった理由は酔狂で、としか言いようが無い。
囮に使う、必要なくなったら消すとも考えていたくらいだ。
それが共にいる内に毒気を抜かれちまって、私はこんな情けない奴に成り下がっちまった。
終始亜子のペースだったのが良くなかったようだ。
一緒にいると嫌でも分かる亜子の純粋さ、私は嫌いだ。
殺し合いの中で苦悩しながらも生きる道を模索し続け、確固たる意思で決して自分を見失わなかった和泉亜子。
私には持ち得ないもの。それを羨み、憧憬しているのも事実だった。
泥を啜り、地を這い摺ってでも生きることを誓ったのに、"どんな嫌われてでも亜子を生き残らせる"に変わっていた。本末転倒もいいところだ。
不肖な行い。亜子が喜ぶわけもないと分かっていた。
でも、悔くたりはしない。
自分で望み、実行したんだからな。
一人のために尽くす殺人鬼とそれを知らない少女。
結末は少女が殺人鬼を庇って死亡。
酷い喜劇。
はははっ、亜子、お前のほうが狂ってるぜ。
こんな環境に置かれてなお、理想を掲げて人の命を優先するイカれた離れ業はお前にしかできねえよ。
本当は二人生き残って格好良く散りたかったんだけどな。
……へっ、私の柄じゃねーか……。
そういえば、お前の傷と血嫌いの秘密、なんだったんだろうな……。
さすがにエネルギー切れか?
脳が回んねえから検討もつかねえや。ねみぃしな。
「……じゃあ、そろそろ私も寝るか……」
眩い光が目を覚ませといわんばかりに照りつけるが私には効果なし。
意識は蒼穹の空へと堕ちていく。
欠伸をする力も私にはない。
もう目を開けているのも辛く、瞼は下へ、下へ。
まあ、亜子の世話という名の肩の荷が下りたんだ。ゆっくり休むとしよう。
誰も……起こすなよ…………。
【長谷川千雨 死亡 残り??人】
【第一章 完】
ええと、前編終わりました
明日から地味に後編の投下をしたいと思ってます
人数隠したりしてたし、千雨と亜子の間に何かしらある(それこそ今日やった洋画みたいな)とは思ってたが……まさか千雨がそんなに殺してたなんて……
正直に言おう。千雨の見てないとこ、話と話の空白の部分で殺戮を行ってたのは亜子だと思い込んでいた
ほんまもんのえぇ子やったんやね……ごめんよ亜子、GJだよ
そして予想通り千雨ルートは死亡EDだったかぁ……orz
千雨はいつの間に四人も?
ってゆーか、いいんちょって熊に
やられたんじゃなかったんだ!
>>65 それは原作バトロワ読んで「いつの間に川田は首輪外したんだ!ていうか秋也は死んだんじゃないんかい!」とツッコミ入れるようなもんだから、素直に読んだ方がいいと思うよ
>>66 あんま煽ってやるなよw
今度は誰の視点で始まるんだろ?続きwktk!
今度は全体視線ジャマイカ?
二部構成との予告と、一人称視点で嫌な予感はしていたが。
いろいろ欠けてるパーツあるし、後半に期待だなぁ
第二章
<brave>
暗い。
目の前に広がる森。
足が竦む。
体が硬化する。
怖い。
ここから動いたら自分が死んでしまう、そんな気さえ起こす。
でもここに居たってきっと死ぬ。
逃げることもできない、逃げるためには自己の理性を壊さなきゃいけない。
……そんなこと自分でできるものじゃない。
なんと不条理な世界。
私の居場所はこんなところじゃないのに。
どうして……。
死にたくない。
非業の死を受けるほど罪を作ってきた覚えはない。
死なないためには……理屈は簡単だ。
生き残るには須く誰かを殺さなければならない。
そんなことが私にできるというのか?
分からない。でも、殺したくはない。
バックには閃光弾と音響弾。
銃や刃物でなくて心底から良かったと思っている。
凶器は所持しているだけで人を狂わせる。
ニュースで聞くでしょ、カッとなって手元にあったナイフで刺したとか。
放たれる攻撃的な魅惑と殺人を許可された世界。
圧倒的で理不尽な暴力が渦巻く世界。
その中で私は……、
覚悟を決めろ。
反骨心を忘れるな。
心の中には悲観的な自分もいる。
前途多難な道、危惧してしまうこともあると思う。
でも、私にやれることだってきっとある。
前を向いて活路を見い出す。
勇気を持って踏み出そう。
大切なものを守るためにも!
芽生えた少しの勇気を胸に柿崎美砂(出席番号7番)はログハウスを出た。
(円、桜子。無事でいて……)
清々しい風を背に受け、美砂は丘を下り森に入っていった。
【美砂 閃光弾(×1)、音響弾(×1) 残り28人】
<intermission 〜聡美〜>
深き森の中で身を潜ませる眼鏡と三つ編みが特徴の少女。
カバンの中身を見て葉加瀬聡美(出席番号24番)は愕然とした。
「こんなもの……なんに使えるっていうの……」
武器がないということは、ゲームに進んで参加する手を消されたことになる。
それ以前に自分を守ることもできない。
よって聡美は限られる手段を頭に列挙していく。
頼みの綱の茶々丸(出席番号10番)は機能停止。なら、
「やっぱり超さんに会わないと……」
彼女に会い話し合えば脱出法、戦闘回避法の一つや二つ思いつくかもしれない。
優れない体調を押して立ち上がる。
保身を最優先にするために人目に付かないよう行動したい。
「……ふふふ、そんなところでこそこそして……どーしたの?ハカセェ〜?」
「えっ!?」
彼女、早乙女ハルナ(出席番号14番)はいつからそこに居たのか?
こんな近距離なのに気配を察せなかった。
そう思うと体から恐怖が噴出してくる。
「どうしたの、浮かない顔してさ?
もしかして死にたくなっちゃったとか?」
笑みを漏らし続けるハルナ、何一つ心が読めない。
聡美は思う。
何でこんなに楽しそうなのか?こんなにハイテンションなのか?
決まっている―――――早乙女ハルナは狂っているんだ。
「だったら吉報!」
ワタシガアナタヲコロシテアゲルヨ!
ハルナの所持武器は殺傷能力はないが相手を無効化できるスタンガン。
手ぶらの聡美では対抗できない。
選択肢なんか最初から一個しかなかった。
逃げるしかない!
背を向けてがむしゃらに駆け出した。
「何で逃げるの?待ってよ!!ふふ、ふふふふ」
追いかけっこは長く続かない。
体力には自信がなかった聡美、それでは生きるために逃げた。
それなのに行き着いたのは、
「もう……逃げられないね」
崖だ。
底無しの黒い世界、落ちたら死は免れない。
聡美はとことんついていない自分の境遇を呪った。
「さて、どうする?抵抗する?
逃げるくらいだから、大した武器も持ってないと思うけどね」
スタンガンの電極が火花を上げる。
観念したのか聡美はバックをハルナの前に置いた。
「……食糧も、支給武器も、持って行って……いいですから」
取引。トカゲの尻尾を切って逃げる気持ちが聡美には良く分かった。
「殊勲な心がけね。
……でもさ、殺せば全部手に入るし、ライバルも減って一石二鳥でしょ?
交渉なんてする意味ない、よね?」
ニコリと笑って見せるハルナ、見逃すつもりなどさらさらかった。
自分のほうが強いんだ。
だから奪うのも当然、生かすも殺すも私の意のままに。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
聡美の顔に血の気はもう残っていない。
「謝られても困るのよね。むしろ、悪いことするのは私なんだから!」
目の前に突き出されたスタンガンに反応する。足を三歩分下げる。
「えっ!」
よけた先には足場などない。
重力から聡美を支える力は無くなった。
「いやああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ」
そこは深遠の淵。聡美の叫号以降は何か聞こえることはなかった。
残されたリュック。
期待などはしていなかったがとりあえず確認する。
小型の爪切り。
「使えないわね……」
ハルナは食糧を自分のリュックに入れると、残ったものを闇で待つ持ち主へ放り投げてやった。
【早乙女ハルナ スタンガン所持 爪切り廃棄】
【葉加瀬聡美 死亡 残り27人】
<unlucky 〜千鶴〜>
(困ったわねぇ)
身の危険があらゆる方向から迫っている目下でも、那波千鶴(出席番号21番)はマイペースだ。
というよりも、企画自体に興味がなかった。
千鶴に興味がなくともゲームは着実に進んでいく。
(夏美もあやかも元気かしら?)
唯一の懸念事項、同部屋の二人の安否だった。
もし二人が殺されるようなことがあったなら……。
やっと千鶴にも行動理由が見つかる。
先程まで重かった腰を上げた。
リュックを持ち上げようと左手で上に引っ張ると意外にも重い。
(そういえばリュック、開けてなかったわね)
何はともあれリュックの中身を見てみる。
「あら?」
一番上に紙切れが一枚。書いてある言葉は、
は・ず・れ
ピカッ!!
四方八方に分散される光の塊。その後を爆轟が追う。
声を出すことさえ許されない。
閃きに次いで逃れられない灼熱が千鶴を包む。
(…………)
リュックの爆破も認識できないまま千鶴は一人散った。
【那波千鶴 死亡 残り26人】
<corpse 〜裕奈〜>
音に引き寄せられ、四葉五月(出席番号30番)は足を動かしていた。
間もなく現場に到着、
……言葉は出なかった。
プスプスと焦げた木々と"それ"が異臭を放つ。
爆音と火傷、爆弾が"それ"の命を奪い去ったことを無言で語っている。
"それ"は相当痛んでいたが、よく見ると誰であるか確認することができた。
……那波千鶴さん。
素行に問題の無かった彼女の壮絶な死は五月を更なる不安の渦に突き落とした。
(誰がこんなことを……あっ!)
ここから離れなきゃ、と五月は思った。
那波さんを殺した人がまだいるかもしれないし、もし私のように音を聞きつけてここに人が来たら私を被疑者だと思うかもしれない。
ガサガサ!!
遅かった。
急いで逃げることはできたけど、それこそ不審だと思われるので留まった。
草木を掻き分けて五月の元に来たのは、クラスのムードメーカーである明石裕奈(出席番号2番)。
「誰かと思えば、……へぇー」
早速、那波さんを殺したと誤解しているのでは?
そう思うとひどい寒気がした。
五月の考えとは裏腹に、裕奈は動揺なく五月に話しかける。
「あちゃー、これはひどいね。四葉さんがやったの?」
裕奈は血相を変えずに優しく問いかける。
混乱している様子も無く話が通じると思った。
「……していません。私が来たときにはもうすでに……」
裕奈は「なるほどね」と声を出した。それから、何か考えているような仕草をとる。
「うん、わかった。信じるよ」
裕奈の一言で五月に安堵の表情が戻る。でもそれも束の間、
「でも、そんなことはあんまり興味ないんだよね。ここに死体があるってことが重要だから」
逃げるタイミングも失っていた。五月にとってまったくの不意打ち。
ドスッ!
「私さ、迷ってたんだ。このくだらないゲームに乗るかどうか。さっきまでは乗る気はなかった。クラスの誰かが誰かを殺すなんてことはないと思ってた。
でもさ、それは私の妄想、綺麗事。
だってそうでしょ?こんな一時間足らずでこんなに無残な殺し方をする人が出ちゃうんだもん。仲間、友情なんて状況次第でちっぽけなものになっちゃうんだよ」
もう一突き。
「だから、今決めた。私は奪って、殺してでも生きるって。甘い考えは持たない」
もう、五月には裕奈の話を聞けるほどの意識はない。
刺す、刺す、刺す、刺す、
刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す……。
躯に変わるまでメッタ刺し。二人の体は五月一人の赤い液体で染められた。
ずぼりと、抜いたナイフが音を立てる。
生の感覚は自分のした出来事をリアルを認識させる。
「私も一線越えちゃったか……」
拙悪な人形が支えなくドサリと倒れる。
裕奈にとってそれはもう路傍の石と同じほどの関係の無いものとなった。
【四葉五月 死亡】
【裕奈 サバイバルナイフ所持 手裏剣入手 残り25人】
今日は終わりです
11日以降は投下不可の環境になるのでそれまでに完結させたいと思います
なるほど、死者メインに展開か……
美砂は第二部のメインキャラかな
期待期待
美砂がメインとは!
<fugitive>
不安が支配する心の中。
その中にはあんな仲の良かったクラスメイトが暴挙に走るなんてあり得ないと思う切実な希望もあった。
見事に玉砕。
だって、私こと柿崎美砂は今――――、
―――――殺人現場を目撃している。
美砂と裕奈の目が合う。
大声を上げることなんてできない、金縛りにあったように五感が麻痺し、その光景から目を離すこともできないのだ。
ナイフを横に振るとまだ生温かい血が周囲に飛び散った。
「見られちゃったか〜、失敗だな〜」
自分の頭をポカリと左手で叩き、ウインクをしてみせる。
「じゃあ口封じしなきゃ!仕方ないよね。
ふふ、目撃者を殺すって、なんかどっかのドラマみたいだよね!」
情報の流布を抑えるための当然の選択、戸惑うことはない。
裕奈は自分の武器をわざわざ露呈し威圧してくる。
含み笑い、ナイフ、血、異常、焦げたモノと赤いモノ。
簡単に発せられた殺すという禁句。
嗚呼、間違いなく彼女は狂っていて、私を殺そうとする。
逃げなければ私もここで死ぬ。
私達は殺し合いをしている。
やっとこの言葉を本当の意味で理解した。
したくもないのに、強制的に理解させられたといったほうが正しい。
死んだら終わり、殺されてはならない。
こんなところで死にたくない、そう強く思うと体の不自由はなくなった。
動いたのは同時、向かう方向も同じ。
違うのは追う者と追われる者という立場。
(やっぱり私より速い!)
相手は運動部、手を打たないと追いつかれること必死だ!
美砂は潜ませておいた閃光弾のピンを抜いた。
攻撃武器ではない。でも、足止めには最適だ。
死んだら終わりの世界において有限の道具を惜しまずに使用することは常套手法と言えよう。
たとえそれがなけなしのものであっても。
捨てるように投げつけ、再び背を向け突っ走る。
光の炸裂。
背後から凄まじい光が突き抜けてくる。
無害だと知っているから気になどしない。
足の運動サイクルを最大まで上げて緑の蔓延る場所を通り過ぎていく。
「う〜、目がチカチカするよぉ」
当然、美砂は目に見える範囲にいない。見失ったわけだ。
殺すべき人を逃がしてしまった。
「でも、いっか」
どうせ最後まで生き残れば誰かが始末してくれるか、また会うことになる。
「気にしない、気にしない……」
言葉とは裏腹に木に刃を突き立てる。何度も、何度も……。
「痛ぁい〜、間違って手も切っちゃった。テヘッ」
滲む血を舌で舐め上げる。
「柿崎ぃ〜、待っててね!私が殺してあげるから!あはっ、アハハハハハハハハハ!!」
【美砂 閃光弾(×1)失う 残り25人】
<fateful encounter>
「……ッハァ、ハァ!」
足を止め振り向く。どうやら撒くことができたらしい。
「ハァ、ハァ……」
心臓への負担は運動によるものより精神面のほうが大きかった。
一緒に生活していた仲間の惨い光景を見せ付けられ堪えないわけがない。
「ハァ、……フゥ……」
立ったまま膝に手を当て、乱れた呼吸を整える。
目線は自然と地面に注がれる。
(完全に振り切ったかどうか分からないし、もう少し離れといたほうが……)
そんなことを考えている矢先、
「……美砂?」
思わぬ自分の名の呼声に悪戯が見つかった子供のようにドキリと心臓が高まった。
恐る恐る顔を上げると瞳に入ってきた人は、
「あっ、やっぱり美砂だ!」
美砂の探し人、椎名桜子(出席番号17番)だった。
桜子自身にはいつもと変わった様子はない。
問題は持っている物だ。
とりあえず美砂は聞いてみることにした。
「ところでさ……」
「なーに?」
視線を少し下げる。
「それ、何?」
桜子は美砂の視線を追った。
「これ?私の支給武器だけど?」
「まあ、そうだろうけど……」
美砂が指したのは身長ほどある大鎌だ。
大きさから見ればシックルと言うよりもサイズだ。グロテスクなフォルムに鈍く輝く銀色の刃、見る者に死を連想させる。
もし死神がいたのなら、こんなものを持っているのだろうか?
ttp://new1314.freespace.jp/log/up/log/1720.jpg 「それさ……重くない?」
「そんなことないんだな〜。思ってる以上に軽いよ」
えへんと胸を張り、さぞかし自慢げに話す。なぜ偉そうなんだ?
「美砂も持ってみる?」
桜子の軽快な歩きは重さをまったく感じさせない。
「ほいっ」
目の前に差し出された大鎌に触れてみる。
氷のような冷たい感触が指から脳へ伝わっていく。
(なっ!!)
ガクンッ!
膝の関節が笑い出し、腕の筋肉がギシギシと音を立てる。
(何これ!?さっきまでは重く感じなかったのに)
「桜子!ちょっとタイム!重い、重い!」
桜子は不思議そうな表情を浮かべながら鎌を受け取って、
「これ、そんなに重い?」
と、尋ねてきた。
「なにこれ!!重すぎ……」
人間が持てる、まして振り回せるものじゃない。
桜子は「そんなことないよ〜」と言わんばかりに片手で持っている。
「これくらい持てないとチアリーダーは務まらないぞ〜」
「チアに力は要りません」
美砂は桜子の冗談(?)を軽く流しながら、
(ラクロスやってるからかな?)
出鱈目な桜子の力の理由をこじつけてみた。
【桜子 デスサイズ(詳細不明)所持 残り25人】
<The verge 〜夏美T〜>
河口に沿った農村地帯。
のどかな風景も誰もいないと物悲しいだけ。
そんな場所に佇む村上夏美(出席番号28番)はただ空を見ていた。
膨張していく絶望と無気力感が彼女の心を支配している。
常に死の瀬戸際に立たされる恐怖は夏美の精神を蝕んでいく。
自殺すらも考えたが、そんな勇気もなかった。
何をするわけでもなく空を見上げている。
夏美なりの現実逃避だった。
そんな時間が続くほどこの島は甘くはない。
オーン
何かの遠吠えが夏美を現実へ帰らせる。
(な、何!?犬、狼?)
人以外の何かが潜んでいる?
新たな不安に煽られ夏美は頻りに周りを気にしだす。
ここは良くも悪くも見通しがいい。
よって夏美は悪い条件を消すため、誰かに見つけられないために農家の倉庫へ直進していった。
(あれ、音がする)
老朽化した木造の倉庫にはいくつかの覗き穴が存在した。
大きめの穴を見つけ中を覗き込んでみる。
ガリッ!ボリッ!
「ひっ!!」
出かかった悲鳴を飲み込んだ。
見えるものは百獣の王、疑いようもなくライオン。
さらに、引き摺られているのは開始前に足を負傷した長瀬楓(出席番号20番)。
だらりと力の欠片すら入っていない身体、抵抗一つない。
首は赤く染まり、何とか身体と繋がっている。
片腕は肘から先が千切れている。
どこかに転がっているのか?はたまた、獣の胃の中か?
それを赤子が玩具を弄るよう、頭を噛み振り回す。
強く噛んでいるのか赤いもの以外の液体まで出ている。
粗雑に扱われれば玩具も壊れる。
遠心力により首から身体が離れていった。
首のない身体はそのまま壁に衝突した。
「!!」
嘔吐、悲鳴、恐怖がこぼれないように必死で口を押さえる。
できることはこれで精一杯だった。
目に入ってくる刺激が強烈すぎて脳が機能せず、判断力を失っている。
故に"逃げるなくてはいけない"と思うこともない。
膨大に入り込む悪意ある情報を処理しきれない。
オーバーワークによる立ちくらみ。
こんなところでは気絶できないので夏美は理性を持って何とか耐える。
視線を下ろして……、
(あっ)
誰かの手が夏美の肩を叩く。
暑くもないのにポトリと汗が滴り落ちた。
怖いけど、後ろにいるのが誰であるか、いや、何なのか確認しなければならない。
夏美は意を決して振り返る。
そこで意識は途絶えた。
【夏美 スペツナズナイフ所持】
【長瀬楓 死亡 残り24人】
<One step 〜史伽〜>
島のシンボルともいえる高層マンション(とはいっても6階建て)へフラフラした足取りで入っていったのは鳴滝史伽(出席番号23番)だ。
彼女の身に何か起こったわけでもないのに、覚束無い足の進み。
厳しい環境下で一人でいられるほど史伽は強くない。
目尻に残る涙の跡が証拠といわんばかりに物語っている。
「ううっ、帰りたいよ……」
姉や楓のような支えてくれる人がいない今、史伽の帰心は募るばかりだ。
深い意味もなく一階の部屋の一室に入ってみる。
玄関の広さからして、このマンションは高級志向だ。
天井の高さも史伽の身長の二倍以上ある。
廊下は無駄に長く、綺麗にフローリングされている。
壁も天井も純白、白すぎて何かが狂っているとしか思えない。
そして、部屋の奥からは何やらガサゴソと音がする……、音?
人がいないところでこんな音はしない。
ということは……。
奥底にある恐怖と期待が込み上げる。
一人でいるのはもう嫌、史伽は孤独が一番怖かった。だから、やることは必然的に一つ。
気が付くとリビングの前まで来ていた。
逸る心を抑えられない。
「誰かいますか?」
左手で木製の扉のノブを回し、押し開ける。
彼女はツイていた。
それはロシアンルーレットで一発目から当たるほどに。
それは新年のおみくじで大凶を引き当てるほどに。
「あっ」
開けた直後に左腕に違和感。
腕に黒い犬が噛み付いている?
悲鳴を上げたかったがそうもいかない。喉にもう一匹が噛み付いているから。
「…………」
呼吸がうまくいかない。喉から空気が漏れてしまう。
痛い、痛くてオカシクナリソウ。だから脳が意識をシャットダウンした。
動かなくなった餌をズルズルと居間へ引き摺っていく。
定位置まで運ぶと、解体作業を始めた。
左腕をもぐ、右足を千切る。
そして、短時間で六骸を分離させた。
【鳴滝史伽 死亡 残り23人】
91 :
sage:2006/09/02(土) 23:18:19 ID:???
____ ________ ________
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(・ω・)丿 たまにageるけど出来るだけsageて行こう よろしく!
●━●ノ/ /
ノ ̄ゝ
<holdings 〜和美T〜>
開始早々から銃を手に入れていた朝倉和美(出席番号3番)。支給武器ではない、強奪したものだ。
和美はこれといって狂気に取り付かれている感もなく、クラスの誰より瀟洒した考え方ができた。故に割り切って島の規律に順応したのである。
開始直後に綾瀬夕映(出席番号4番)が通りかかったから、声を掛けた。
夕映には知り合いに会えた安心感があったんだろう。
背を向けた時に銃をもっている肩をボーガンで撃った。
連射可能であるのを良いことにもう二発撃った。
人間はこれくらいじゃ死ねないので、今度は矢を持って馬乗りになり夕映に直接刺し続けた。
夕映は息絶えるまで声を上げることは無かった。彼女なりの強がりだったのかもしれない。
無傷で夕映を仕留めた和美は重いボーガンを捨て、戦勝品を手にした、というわけである。
「幸先いいね」
和美はいち早くこの島の狂気と共生した。
「こんな非常識な世界に巻き込まれたんだ、なら私の常識を変えよう」と。
異変への順応性と合理的な考え方を持つ和美は迷うことなく自分が示した生存率が一番高い方法を取った。
「で、どうしよっか?」
このゲームの先行きについて考えてみるものの、まったく持って予測不可能。
行動に出る?
進んで殺しに出るのも、龍宮や桜咲といった、どう足掻いても(たとえ魔力が封印されていたとしても)対等に戦えない奴らがいるから良策とは思えない。
それに、できるだけ自分の手を汚したくない。私は好んで殺す殺戮者とは違うから。
よって却下。
仲間を探す?
絶対無い。そんなことするくらいなら夕映を殺したりしない。
まあ、宮崎や明日菜みたいなお人好しなら付け入るスキがあるだろうけど。
これも棄却。
受動的なのは好きじゃないけど、
「人目につかないように様子見……ってところかな」
都合よく岩穴が近くにあるので入ってみることにした。
なんともツイている。
いつか反動が来るんじゃないかと思うくらいに。
「まさかこんなとこに自分達の荷物があるとはね……」
胡乱な洞窟の中に入ってみたら、ビンゴだったわけだ。
まず、自分の携帯を手に取って調べてみる。
「電源は入るけど圏外じゃあ……」
それでも日頃から持っていないと落ち着かないので回収しておくことにした。
携帯や財布のほかに刹那の夕凪、楓のクナイ、木乃香の初心者用杖、まき絵のリボンなどがある。どれも必要ないけど。
留まるのは妥当じゃない。開催者側の見張りが来ないとも言い切れないから。
「これでこれからの選択肢が広がった……かな」
結局、自分の荷物のみ引き取り外に出る……前に一度止まった。
周囲を警戒しながら歩く二人の姿が30mほど先、木に隠れるよう見える。
獲物は……大きな鎌?もう一人は手ぶら、何かを隠している?
撃つか?いや、待て。
相手は私が息を潜め、狙撃機会を伺っていることを知らない。
それでも撃たないまま、二人の姿は小さくなっていく。
私は冷静でいられた。
撃つ以上、二人をこの場で確実に殺害しなければならない。
失敗すれば"朝倉和美は殺人鬼である"という情報が広がっていくおそれがある。
拳銃を扱ったことも勿論ない、発砲もない私がこの遠距離で射撃したところで二人を殺すのは無理。
もしかしたら標的が銃を持っていて反撃してくる、そんな状況もありうる。
安全な橋を渡りたい私は見送ることが最善であると判断した。
「ツキが続くとは思わないほうがいい」
大胆に出るときはきっと今ではない。和美は二人の姿が見えなくなってから洞窟から出ていった。
【和美 ワルサーP99サイレンサー付入手 ボーガン(本体のみ)廃棄】
【綾瀬夕映 死亡 残り22人】
今日は以上です
ではノシ
朝倉乗ってたんかい!!
ハイスピードな展開やなー
しかし「ハズレ」で爆死はひでぇ。あまりにひでぇ。
まあ復讐メインのちょっとマトモでないバトロワらしいから仕方ないのか
朝倉が乗っていたとは
直接戦闘と動物さんのうんこの素と、最終的にどっちの比率が高くなるんだろ。
楓の出番はこれで終わり・・・なのか?
チアのってなさそうか・・・大穴ktkr?
マンションで食われたのアスナじゃなかったのか
そういや双子もオレンジだったけか
<dolls 〜刹那T〜>
「どういうことだ、真名!」
「利口なお前なら見て分かるだろう?」
ここは工場が立ち並ぶ地域で、意味もなければ立ち寄ることもないだろう。
視界もとりにくく隠れ家には最適の場所だ。
桜咲刹那(出席番号15番)は龍宮真名(出席番号18番)に偶然会った。
「お前のお嬢様は保護した」
お嬢様と再会するために真名を後を追った。
連れられて行き着いた場所で確かに刹那はお嬢様に会えた。
捕らわれの身となり鎖で吊るされ気絶している―――――近衛木乃香(出席番号13番)に。
「私はゲームに乗ったわけではない。
これはただの仕事だ。3−Aの龍宮真名としての最後の仕事……」
真名が3−Aの他のクラスメイトとは立場が違うことを表した言葉だった。
「真名、貴様を雇ったのは誰だ。天ヶ崎千草か?」
「答える義理はない……と言いたいとこだが、共闘した親友の好、ヒントをやろう。
依頼人は天ヶ崎千草のような堅物ではない。
天ヶ崎千草は依頼人の駒に過ぎない。監視とゲーム執行人という役割を自主的に受けただけだ。私が開催側の人間であることすら知らないのだからな。
そうそう、ついでに言えば依頼人はお前も知っている人物だ。いや、知らないとも言えるか?」
煙に巻くような会話内容。まったく掴めない。
「何故お嬢様にこんなことを……」
「愚問だな。近衛はお前を釣る餌に過ぎない。
だから、気絶させて誘拐した。
その際に邪魔なのがいたからそいつも連れてきてしまったよ」
真名は黒い袋を指差す。
寝袋大の袋には、人の輪郭を見て取ることができる。
「聞きたいことは多々あるだろうが刹那、お前には早速"初仕事"をしてもらう。
断ることは許されない」
真名はリボルバーマグナムを掌でくるくる回してみせる。
「お前の武器はなんだ?今、手に所持していないということはろくでもないものだろうがとりあえず聞いておこう」
嘘など付いても何にもならないので刹那は正直に答えた。
「スコップだ」
「スコップ……くっくっく、なんとも品のない武器だな」
真名は傍らに置いてあったもの軽く投げた。それを軽くキャッチする刹那。
「愛しのお嬢様が持っていたものを拝借した。
エストックとかいう剣だそうだ。斬るよりも突くことに特化したもの、とか書いてあるぞ」
剣についていた備考欄に目を通しながら剣の説明をする。
「というわけで、本題だ。
手始めにゴミ袋の中に入っている奴を殺してくれ」
さらっと口にされた暴虐な文章。
身動き一つない黒い袋に目を向ける。
この中には間違いなく人が入っている。
―――――できるわけが無い。
人の命を奪うために神鳴流を学んだわけじゃない。
その逆、守るために学んできたのだから。
切っ先は自然と自分に向いていた。
「意味のないことはやめておけ。
刹那、お前が死ぬことは私にとってプラスにならない。
もしお前がそれでも自殺しようとするなら、私はお前に絶望し二人ともヤッてしまうかもしれない。それでは本末転倒だろ?」
真名の新たな脅迫を耳にし、刹那は剣を下ろした。
「迷う必要など無い。自分自身に素直になることだ」
真名の口から出る毒は刹那の脳を溶かしていく。
「守りたい者に会えないまま別れてしまう、死んでしまう奴もいる。
お前の守りたい者を守れるだけ幸運なんだ。
自分の手でお嬢様を守れ!」
甘い言葉での籠絡、分かれ道の無い道筋。
「守る……。私の手で……お譲様を守る」
悪い事をしようとしている、それでも刹那の足は動いていた。
袋の前で足を止める。
刹那に願えることはもう一つしかない。
せめて苦しまないように……、
針に糸を通す表現が相応しい。
エストックは人を死に至らす箇所を貫き、命根を奪い去った。
獲物が離れ、地面に落ち金属音を立てる。
離すつもりも無かったのに手から握力がなくなっていた。
「一撃か……普通じゃ考えられんな」
「……命令には従った。お嬢様を返せ」
「それはできない。
言った筈だろ?"手始めにゴミ袋の中に入っている奴を殺してくれ"と
これからが本仕事だ」
ピキッ、刹那の目の鋭さが増した。
「謀ったわけでもないだろ?そうカリカリするな。
露骨な振る舞いはお嬢様の死を意味する」
唇を強く噛み締めたため、血が流れ出た。
「クラスの生徒を五人殺してくれ。そうすれば近衛とお前の首輪を外してやる。
後は空港に隠しボートがあるからそれで脱出でもしてくれ。
嘘だと思うか?まあ、信じてもらえなくてもいい。
お前は一人殺した時点で選択肢は一つしかないのだから」
いつもより多弁な真名が続ける。
「そうだな、殺したという証拠がほしいな。
首だと持ち運びにくい。うん、殺した奴の右手親指を切ってくれ。
全部で五本だ。簡単なことだろ?」
短刀を床において、刹那のほうに滑らせた。
「…………」
鬼の形相で真名を睨みつける。
「できないこと要求していないつもりだ。お嬢様を守るためには何でもするのだろう?お前も丸くなったものだな。まあ、それが悪いとは言わないが」
格闘大会でエヴァンジェリンが言っていた言葉がフィードバックする。
「その洗練された日本刀のようなお前はどこに言った?神楽坂や近衛と戯れている間に錆びてしまったのか?
なら私が磨き直そう。本当のお前を私が呼び起こそう」
リボルバーマグナムが眠ったままの木乃香に向けられる。
「…………もしお嬢様を少しでも傷つけることがあったら……私は真名、躊躇無くお前の存在を消す」
透き通る殺意を口に出し、刹那は再び鮮血で濡れるエストックを拾った。刹那なりの態度表明といったところだろうか。
それを見て真名は銃を下ろし言った。
「お嬢様を丁重に扱うかどうかはお前次第だ」
刹那は真名の方向を一切見ることなく出て行った。
刹那が従順かどうかは不明だ。正直なところ、疑わしい。
叛意は持っている、どれぐらいの強さかは知らないが。
そうなると保険がほしい。
(さて、もう一人、駒を作るとするか)
【真名 リボルバーマグナム(S&W M500)所持 対人探索レーダー入手】
【刹那 エストック、短刀入手 スコップ廃棄】
【神楽坂明日菜 死亡 残り21人】
<resistance>
「皆さん、まだ生きているかな?……」
聞きたくもない音波は発せられ続けた。
死んだ人は7人。勿論全員知っている名前だ。
悲しい感情は浮かんでこない。
呼ばれた人に二度と会えないなんて実感が湧かなかったから。
「ねえ、美砂」
「ん?」
「呼ばれた人達は……クラスの誰かに殺されちゃった……のかな?」
怪訝な顔で桜子が問いかける。
「そう考えるのが普通だと思う」
裕奈が四葉さんを殺し、襲ってきた時のことを思い出した。
明確な殺意と冗談を許さない雰囲気が裕奈は持っていた。
そんなマーダーへと変異した人が他にもいる。
「私には殺してまで生き残る、っていう考え方が理解できないよ。
だって、生き残っても3−Aのみんなは誰もいないんだよ?
私にはそんなの楽しくない、苦痛でしかない」
桜子らしいな、と思う。
生きることより楽しいことを取れる人は珍しい。
「それでも死にたくないんだよ。
私だって、殺してでも生きたいと思う気持ちは分からなくもない」
桜子が口を挟む前に続けた。
「でも、そんなことは間違ってる。
負の感情を持って行動して手に入るものはきっと負の産物だけだから。
私は抵抗する。本当の敵の思惑通りになんていかない」
美砂から発せられた強い気持ちを桜子は聞き入っている。
と、思いきや桜子は固まっていた。
「私、変なこといったかな?」
桜子が遠い世界から帰ってきた。
「全然そんなことない。
……いや、私さ、なんかビックリしちゃって。何て言えばいいのかな?
こんな熱い美砂を見るのは初めてで、なんかかっこいいなとか思って」
「茶化してる?」
少し顔を赤らめて桜子に問い詰める。
「違うって」
恥ずかしめな"服従拒否宣言"をして、暗くなった気持ちに喝を入れ直した。
「とは言っても、奴らに一泡吹かせる方法一つ見つからないんだよねぇ」
音響弾と得体の知れない鎌だけじゃあどうしようもない。
かといって、銃とか持っていたとしても二人での進行は難しい。
おまけに首輪に仕掛けられた爆破効果。
……手も足も出ないとはこういうことだろう。
「ううん、きっとこれから!顔洗って待ってなさいよ!」
本部に向けて叫ぶ美砂と苦笑いの桜子。
どんなものにでも完璧なんかない。
きっと敵の綻びを見つけられる。
【残り21人】
<bluff 〜アキラT〜>
ずっと歩き回っていたのに誰にも会うことができなかった。
そして、一回目の放送が終わる。
大河内アキラ(出席番号6番)は心の中に焦りを感じていた。
どうして誰にも会えない?
どんなに目を凝らしてもさまざまな樹木しか見ることができない。
クラスメイトがこの島にいること自体が嘘のように思える。
(ううん……そんなことはない)
こうしている間にも探し人に危機が迫っている、なんてこともありえる。
今、アキラの置かれている立場は微妙だ。
殺したくはないけど、勿論死にたくない。
その中で自分のしたいこと、それは大切な人を傍に置いておくことである。
手の届くところにいなければ守ることも、言葉を伝えることもできない。
だから、仲間との合流はアキラには必須だった。
道なき道を進んでいる時にその瞬間は来た。
あっけなくクラスメイトに会う。
茂みが音を立て、出てきたのは早乙女ハルナだ。
「えぇ〜と、大河内さんかな?」
眼鏡の奥の目は爬虫類のものと呼ぶに等しい。
威嚇と調査を踏まえるハルナの視線がアキラの身体全体に向けられる。
「うん、多分……これなら殺せる」
相手の武器が大したものでないと見切りをつけたハルナは即座に臨戦態勢に入る。
今まで人に会わなかったのは運が良かったからと思える。
なぜなら殺意を浴びていると自分も狂ってしまいそうだからである。
バチバチとスタンガンが音を上げる。
アレを食らうと気絶するかどうかは知らない。身をもって体験するのも御免だ。
ならば、こっちからアクションを起こさないと。
反撃に転じる素振りを見せるアキラ、構えたのは水遊び用の水鉄砲だ。
ハルナは嗤った。哀れみと挑発を含む顔で。
「何それ〜、そのかわいらしい武器で私と戦うのかな?」
「……ええ、これは立派な武器だから」
自身ありげに話すアキラの態度が癪に障る。
「そんなもので何ができるって言うの?」
「これはただの水鉄砲、でも中に入ってる物は水じゃない」
アキラが強硬な態度を崩すことはない。
水鉄砲を下に構えたまま試し撃ちをする。
外へ飛び出た液体からは僅かながら地面は白い煙が上がった。
(容器の中に酸か何かが入っている?)
顔色一つ変えなかったハルナに焦りの色が見える。
「さて、どうしますか?」
アキラは自分から攻撃する気はない。ハルナにも仕草から伝わっていた。
(今回は分が悪いか……)
ハルナは自分の不利を認め、足早に立ち去った。
(……なんとか)
正直なところ腰に力が入らない。
腰を下ろさずに木へと寄り掛かった。
(やってみるものだね)
そう思いながら右手の玩具を眺める。
最初から運に見放されていた。
こんなものでは自分の身さえ守れない、かといって無き寝入ることもできない。
アキラは策を練った。
この無用の長物を有効活用する手立てはないのか?と。
そこで思いついたのがハッタリ銃だ。
タンクの中に水以外のものが入っていれば、立派な凶器となりうる。
最初は硫酸やら塩酸やら危険なものを思いついたが、入手がより容易な熱湯が一番良いと結論づけた。
5分ほどで住宅を見つけ、中に入る。
ガスと水道が使えたことはアキラにとって好条件だった。
やかんに水を入れコンロに火をつけ、後は待つ。
沸騰したお湯をタンクに入れれば完成だ。
余ったお湯はこの家で見つけた魔法瓶の中に保存した。
こうして手を加えることでアキラは武器を生成したのである。
ハッタリにもなるし、実際の攻撃手段にもなりえる。
少々心細い武器であるが、ただの水鉄砲に比べたら格段の進歩といえよう。
(先を急ごう)
積極的にゲームに参加する人がいる。
一刻も早くみんなと合流しなければならない。
危機感を募らせながらアキラは市街地へと向かった。
【アキラ 水鉄砲(中身は熱湯)、魔法瓶(お湯入り)所持 残り21人】
<captive 〜円〜>
島の外れ、廃棄物が山となる工場街の一角。釘宮円(出席番号11番)は物漁りをしていた。
島で勝ち残るために渡された一品は真新しい箱―――――これでどうしろというのか?
結論から言うとどうしようもないので、何とか使えるものを探しにこんな人気も無いところまで来たわけだ。
それにしてもいいものが見つからない。
車のドア、青いビニールシート、錆びたボロボロの釘、etc……。
まともなものは今持っているバールくらい。直に触れることなく宝探しができる。
「期待はしてなかったけど……」
置いておいたリュックを拾い上げる。
「やあ、釘宮さん。ここに何かあったのかな?」
ただ話しかけられただけなのに、心拍数が大きく上がる。
誰であるか確認するために振り返る。
ああ、終わったな。円はそんな印象を持った。
銀色に光沢を放つマグナム銃を左手に真名が見据えていた。
「誰かの死体でも埋めていた……とかか?」
人を小馬鹿にする笑い声が冷静さを削ぐ。
「私を馬鹿にしにこんなところまで来たんですか?」
「ふふ……、これは失礼。
ちょっと君に手伝ってもらおうと思ってね。これは自由意志でなく……」
鋭い目と銃口が円を束縛する。
「強制だ」
手に持っているバール、勝ち目一つなく従うしかない。
「下手な抵抗はしないのが利口だ。悪いようにはしない」
悪いようにしない?そんなことを言う奴は悪い奴だけだろう。
「さてと、じゃあ帰るとしよう。私の指示通りに歩いてくれ」
私の5mほど後ろに付く。
強盗犯に捕まった人質これほどの恐怖と絶望感を味わうのだろう。
命を握りつぶされそうなプレッシャーに耐えながら円は目的地へ歩き出した。
「人は簡単に壊れてしまうものだな」
新しく作った人形へ呟く。
反応もせずにどこか遠くを見つめているのは円だ。
真名は魔眼を使って彼女の行動原理を書き換えた。
上書きされた内容は憎悪と破壊。
これだけで円は自律殺戮人形となった。
「できるだけたくさんの人間を消してこい」
鉈を手渡しすると傀儡と化した円はフラフラどこかへ消えていった。
真名は円を見送った後、手元のレーダーを手にする。
「私も少しだけ動くとしよう」
未だに気絶している木乃香を尻目に見てから外に出た。
【円 箱所持 鉈入手 殺人衝動 残り21人】
これからの投下は不定期になってしまうかもしれません
悪しからず御了承ください
GJ
明日菜はこうして死んだのか……
とりあえず絶望的に見えた桜子活躍の兆しが見えてきてうれしい
<shrine>
本部攻略、脱出の準備をしたいのだが、正直何をやればいいのか分からない。
もどかしく感じながら逍遥していた。
やがで、森を抜け緑多い郊外に入る。
木々に囲まれて、どこからともなく視線を感じていた時に比べると楽になった。
(森より人に会うことが多くなりそうだから油断はできないけど)
クラスのムードメーカーを担っている裕奈が襲ってくるくらいだ、誰が牙を剥いてきても変ではないのだ。
今は自分自身だけでなく桜子も守らないといけない。人を守るのに手ぶらというのはあまりに情けない。
こちらからも攻撃できる武器が欲しいところだ。
「こ〜ら〜、聞いてないでしょ!」
桜子に叱られた。
「そんな惚けていられるなんて、余裕ってやつですか?美砂さん?」
その不満で満ちたジト目はやめて欲しい、美砂は思った。
「……行先の話でしょ?聞いてたよ」
「え?……聞いてた?」
「うん。そこに見える神社に……」
桜子は神社に行こうと言っていた。
美砂が見える範囲にある神社は一つ。2桁後半ほどある石段の上から鳥居が二人を見下ろしている。
石造りのそれはやけに急斜角であり、人が上りにくそうな段差となっている。
「はい、もち反対。何も無いだろうし、かったるいから」
隣にいる桜子に言い聞か……。
「って、もはや聞いてないよ……」
美砂はおでこに手をやり、わざとため息一つ。
桜子は軽い足取りで上に進んでいる。
「かったるいとか言ってると、すぐにオバサンだよ!」
「お、オバサン……」
女である限り避けられない結末、これを早く迎えないように私達は努力する。
努力を惜しめば、年増に一歩近づく。
美砂はこの階段を登り切らなければならない気がした。
「ええ、登ってやるわよ!楽勝よ、こんなの!」
桜子を追いかけるよう美砂も登り始めた。
「はあ……、はあ……」
「運動不足なんじゃないの?」
もう言い返す体力が無かった。
最後の一段を登る。
「お、終わった……」
倒れこみたいが、そんな場所は存在しないので気合で我慢した。
「んじゃあ、行ってみよ〜」
疲れ知らずの背中に美砂はついていくのか精一杯だ。
赤い装飾が剥がれ、古ぼけてしまった鳥居の下をくぐる。
待っていたのは何の面白みのない風景だった。
殺風景な境内、古めかしい神明造りの建築様式、神社を包み込む森。
何の感動もなく、疲れだけが増す。
「私、休んでるから」
美砂はスカートが汚れない場所に腰をかけた。
「分かった!」
パタパタと走り、桜子は建物の裏へ消えていった。
「う〜ん……」
目を見張るようなものは見当たらない。
「こ、これは……」
巫女さん必須アイテム、お祓い棒ではないか!
「ふざけてると美砂に怒られちゃう」
報告できることは神社の奥には森に繋がる裏道があること、それくらいである。
「戻ーろ」
森に背を向けたその時である。
森にまぎれて―――――
背後の気配を察知し、鎌を森側に構える。
―――――誰かが私を見ている。
「…………」
喋らずに態度で示した桜子に対し、視察者も同様に対応した。
愚痴をこぼしながらハルナは藪の中から現れた。
「バレちゃったか……。そううまくいかないものだね。
ハロ〜、元気そうで残念」
「パル?」
ハルナが殺す側の人間であると桜子は断定した。
【残り21人】
司書さん寝落ちした?
>>113の後にまもなく
>>116-118が来たのを見てると。
「投下が不定期になるかも」とは、更新が遅れがちになるというだけとは限らず、
出し抜けに早いペースでクルーという事もありえるのかと思ったり。
ところで作者1さんの最終回は……こちらが一段落付くまで控えられてるのかな。
>>120 久しぶりに覗きましたが、その通りで司書氏が落ち着くまでは投下を控えてます。
また他のみなさんの技術の高さに刺激されて3作目を描きそうに(すでに構想は出来上がっている)はなっていますが
このスレの一番の古株が長居をしすぎていることと、潔く去っている作者6氏に比べて図々しく居座っている自分を考えますと
こちらも最終回を最後に去ろうと考えているのです。
もし皆さんが望むのであれば3作目を考えてますがどうでしょうか?
<crush>
動くこともなく視線だけがぶつかり合っている。
声を上げれば美砂が来てくれる。
いや、ダメだ。丸腰の美砂をここに来させるなんて……。
「さっきはしくじったから今度こそは」
スタンガンなんかじゃ、大鎌を持ってる桜子には近づけない。桜子がやる気ならば。
「自分が不利なことくらい分かってるんでしょ、パル。だから私の前から消えて!」
「消える?消えるのはあなた。この世からね。
あと、私が不利って?そんな、震えた手と声で言っても説得力ないんじゃない?」
常人と狂人の違い、それは迷いのない殺意だ。
恫喝とか、そういう生易しいことじゃない!
これが本気で人を殺そうとすることなんだ。
比べて私は……。
人をこの手で傷つけることが怖い。
そんな自分に、他人の命なんて奪えるわけがない。
桜子は気持ちでハルナに負けていた―――――敗北は必死。
持っている鎌などただの飾り物でしかない。
振るうこともできずに持っている、脅威にはならない。
口は薄ら笑い、目を見開いて、ハルナが獲物へと襲いかかる。
じっと見つめているだけの桜子には返り撃つことも逃げることもしない。
スタンガンって受けると本当に気絶するのかな、どうでもいいことしか考えつかなかった。
電極が私に接触した時……、終わる。
終わらない。
桜子の元に電極が辿り着く前に飛んできた何かが手に当たった。
「痛!」
利き腕に持っていたスタンガンが地面に落ちた。
ハルナは咄嗟に拾おうとするが、目掛けて飛んでくる小さな物体が静止を訴える。
(美砂、……のわけないよね)
戦える道具を所有していないし、物体が飛んでくるのは森の茂みからだ。
ハルナが身体を動かすのをやめると、私を救った当人が現れた。
「私の前で見苦しい行為は止めるネ」
「……超りん、てっきりゲームに乗ってる側だと思ってた」
ハルナの矛先はすでに超に変わっている。
「思想の自由は誰にでもあるから私がどう思われようが知ったことはないヨ。
さあ、桜子サンから離れてどっか行くネ」
木の枝で作ったパチンコと小石では致命傷を与えることはできない。
「独り言多いんじゃないの、桜……え、えーと?」
あまりある音と声を聞きつけて美砂もこちらにやってきた。
味方のいないハルナには人が集まることは立場をより窮地にしていく。
超を警戒を解かない目から落ちたスタンガンを拾わせてもくれないと感じ取った。
「ったく、当たり武器だと思ったのに、とんだ勘違い。意外と使えないのね、スタンガンって」
自分の武器に不満を吐きハルナは町の方向に消えていった。
【超 パチンコ(自作)、手ごろな小石、鍵所持 残り21人】
<The end 〜ハルナ〜>
「はぁ、はぁ」
急ぐ必要もないのにハルナは神社からずっと走っていた。
石段を一つ抜かしで駆け下りた後もスピードを緩めなかった。
燃料が尽きて体が自動的に止まった。
塀に寄り掛かって肩で息をする。
「はぁ、はぁ……、クソ!」
何だかんだでスタンガンを失ってしまった。
殺しに徹する以上、武器がないとどうにもならない。
なら、改心して助けを求めるか?
(……冗談)
今更引けない。もう、手遅れ。
島にいるいくらかの人は危険人物と位置づけているわけで……、
今、やることは―――――新しい凶器を探そう。
ハカセの時のよう、首尾よくやればいいんだ。
そうさ、新しい獲物、私よりも弱い獲物を狙えばいい。
脳内から現実に帰ってくる。
太陽は背後にあるのに、私の背に日が当たっていない。
地面には私以外の影がある。
「いつからいた?」
顔も見ずに聞いてみる。
「いいじゃん、そんなこと。知る必要もないことだし!」
ばれないように人に近寄ってくるくらいだ、同じ考え方で生き残ろうとしている奴だとすぐに感づいた。
「他に言い残すことはない?」
「死にたくない」
「あっそ」
ハルナは思った、嗚呼、ほんとツイてないな……と。
ブンッ!!
グシャ……
力任せに下ろされた一撃はハルナを絶命させるに十分の威力があった。
頭が叩き割られ、脳天から赤いものが噴出している。
脈とか確認することもしない、これだけの傷で痛がることもしないから。
脆い。人はこんなにも壊れやすかったのか?
新しい雑学知識が脳に組み込まれた。
「なぁ〜んだ、もう壊れちゃったの?つまらないの。
……次、行ってみよっか」
滴る血を振って払うと塀に血痕が付着した。
円は音も気配もなく彷徨う。
【早乙女ハルナ 死亡 残り20人】
<blood seeker 〜千雨T〜>
商品をリュックに詰め込む。
無作為ではない。かさばらない、日持ちするいろんな種類のものだ。
リュックを膨らせながら奥に進んでいく。
千雨に聞こえてきたガサゴソと物と物が擦れる音。
―――――世の中皆同じ考えを持つ。
食糧が一日分しかも持たされない。
よって補給先を見つけ出すことは生命線の確保と言えよう。
人目も憚らずに小さい体で作業を続けている人物は、鳴滝風香だ。
並んでいる商品を手際良く選別し、大きくもないリュックへ収納している。
人に見られているなんてまったく思っていないことが迷いない機敏な動きから見れる。
(……楽勝だ)
千雨に不埒な考えがちらつく。
(……違う。相手を消すことが許されてるんだ。今消すか、後で消すかの違いだろ?
合理的に考えてみろ。だったら芽を先に摘み取っておいたほうがいいに決まっている)
自己の考えを無理やり正当化し丸め込んだ。
足音を立てないように少しずつ接近していく。
殴打用のフライパンを手に持つ。包丁は返り血を浴びそうなので使わない。
調味料コーナーも棚からまで来た。主道にいる風香まであと一息の位置、奴に変化はない。
距離は詰めた。後は実行するだけ。
千雨は側道から飛び出して直線で背中に向かっていく。
音でバレた風香がこちらに向き直すが、この距離では無意味なこと。
庇う右手より早く千雨は頭を殴りつけた。
「ぅあ……」
軽い脳震盪を起こし風香は前のめりになる。
朦朧としながらも右手で千雨の左腕を掴む。強く、強く。
生きるための必死の抵抗を風香は成していた。
爪で引っかかれ腕から血が飛び出す。
「ち、手を離せ……よ!」
もう一発フライパンで側頭部を殴り飛ばす。
勢い良く転がり、棚にぶつかった。
陳列されていたものが上から落ちてくる。
「菓子コーナーじゃ、落ちてきても心配ねえな」
凹んだフライパンを使用不可とか検討し終えてから、死にかけの風香に狙いを定める。
次の武器は小型の果物ナイフ、見た感じから投擲専用といったところか。
「無用心な自分を恨めよ……」
千雨の手からナイフが離れた。
制服に血は付いていない。怪我は左腕から少し血が出ているくらいか。
亜子に私が成したことを知られることはない……だろう。
乱れた服を正し、フライパンを菓子に埋もれた死体の横に隠した。
「後戻りは……できねぇな」
この手で作り出した死体を見て自己に言い聞かせた。
【鳴滝風香 死亡 残り19人】
<foolish scenario>
「状況をお姉ちゃんに説明してくれる」
悪い雰囲気を超から感じ取ることはなかったので、美砂は心にゆとりを持って桜子に聞くことができた。
「非常に説明しにくいんだけど」
「簡単にでいいから」
桜子は少し悩んでから話し出した。
「パルが襲ってきて超りんが助けた」
「どこが説明しにくいんでしょうか?」
「漫才してるところすまないけど」
美砂は超の真面目な目を見て「してません」と即答できなかった。
「聞きたいことがあるネ」
「答えられることなら……」
美砂が先に対応した。
超がリュックの内ポケットを探る。取り出された物は光沢放つ鉄製の鍵だ。
「私に支給されたものは……見ての通りネ。
二人とも鍵の掛かった物を見なかったカ?」
変哲のない銀色の鍵にしか見えない。
「う〜ん、なんでそんなもの支給したんだろう?」「さあ?」
質問を質問で返される。つまり、それが答えだった。
「持ってないカ……。この鍵がダミーとも考えられなくはない……でも、嗜好を考えれば……」
超はぶつぶつと独り言を話し、「きっとそうネ」一人納得した。
「ちょっと待って」
美砂には納得のいかない点があった。
「パルと対峙してた時にパチンコ構えていたよね?アレはどうしたの」
自ずと超に対して警戒心が生まれる。
―――――奪った物なのでは、と。
「これのことか?自作ね。見せるのが恥ずかしいくらい適当に作ったヨ」
軽く投げられたパチンコ本体をキャッチする。
木の枝とゴムで構成された原始的な作り。枝部分は幹のガサガサ感があり、杜撰な作りは素人でも分かる。
「球はそこらへんから自給、OK?」
「うん、OK……」
美砂は本人に返した。
「私は箱を持っている人を探すヨ」
超の足は境内へ向いている。
「私達と一緒に来てくれないの?」
桜子にとって超は恩人であり、信頼するに十分だ。
「私、きっと戦力にならないヨ。むしろ足手まとい」
「私を助けてくれたよ。だから、そんなことない」
「……あと、一人のほうが何かと身軽。
他にも私的な事情があるから今は、……すまないネ」
強要は良くない。桜子も渋々ながら引く態度を見せる。
それを確認し、超は美砂の隣を抜け、建物の死角に消えていった。
「ここにいるのも何かね……。桜子、私達も行こっか……」
美砂と桜子は超とハルナとは逆の方向、裏道から再び森に入っていった。
「あのさ」
特に話題もなく緑の中を歩いていた二人。美砂から話を振った。
何故こんなことを言うのか、美砂本人も良く分かっていない。
「桜子にも桜子なりの尺度があるんだと思うけどさ、……そんな簡単に信用しちゃだめだよ」
妄誕話にも食いついてしまいそうな桜子を私が守らないといけない、その気持ちは事実であり美砂は強く思っている。
不明瞭な点が多い超を信用する気になれない美砂とは対照的に、
「ううん、きっと超りんはいい人だよ」
何を根拠に言い切れるのか?私は桜子に嫉妬してる?
美砂には桜子が少し羨ましくも思えた。
【超鈴音 スタンガン入手】
【残り19人】
<light 〜アキラU〜>
やっと街に出ることができた。
配置された位置からすると、島の端から端へ移動したことになる。割には足に疲れがなかった。
地図を元の場所に戻し、周囲の確認をする。
静かな世界、音無しの世界。
夏の日差しを浴びているのに寒く感じた。
通り抜けてきた森とは勝手が違う。
広い空間と程よい障害物は人の存在に蓑をかける。
安全の確保を最優先に考えて、
「アキラ!?」
「ほぇっ?」
いきなり不意を付かれるかとになるとは……、でも死んでなんかいないし、傷も受けていない。
もう一度、声を再生してみよう。
数時間前に聞いた声、今はこんなに懐かしく感じる。
「親友との再会に、ほぇ?はないよ〜」
佐々木まき絵、間違いなかった。
まき絵にはアキラが生返事をしたようにしか感じていない。
「無事でよかった」という言葉が胸の中いっぱいになり、何も考えられなくなる。
「んじゃ、遠慮なく」
胸に飛び込んできた泣きそうな顔のまき絵を宥める。
「アキラのこと、心配だったんだぞ……」
「良かった。元気そうで」
「カラ元気だよ」
まき絵の頭を撫でる手も自然と優しくなった。
「アイヤー、熱々ネ」
どこからともなく飛んできた軽口にアキラは思わずまき絵と一定距離を取る。
含み笑いを浮かべながら古菲(出席番号12番)が木の後ろから登場した。
「もうちょっと後に出てきたほうが良かったアルか?」
まき絵は首を振る。
「大丈夫。気使わせちゃってごめんね、くーふぇ」
「いやいや、良いもの見せてもらったアルから」
アキラの顔が茹蛸のよう赤く染まっていく。
「そんなに恥ずかしがらなくていいアルよ」
「くーふぇのせいでしょ!」
まき絵が呆れ顔をするのは珍しい。
「そうそう、くーふぇとは街で会ってから一緒に行動してるの」
一緒に行動しているのは古菲だけということは、他の二人とは会っていないと考えられる。
アキラは確認の為に一応聞いてみる。
「亜子とゆーなには会ってない?」
「うん、二人とも無事だと良いんだけど」
二人が話している間、古の目線がアキラの右手へ注がれていた。
「水鉄砲……アルね。私の一万円と同じハズレ品」
「そうでもないよ。これに救われているから」
この後、お互いの今までの経過を話した。
三人の目に見えないところで、事が起きている。
「平和なのは私達の周りだけなのかな……」
実感のなさは海外で起こっている戦争の報道をテレビで見ているのに似ている。
現地で情報を得ていることは大きな違いだけれど。
「私さ、あのデパートが怪しいと思うんだ」
ここから見えるデパートは一つしかない。
「怪しいって」
「亜子とかが隠れていそう?みたいな感じ」
フィーリングだった。
「なら行ってみるアル。『善は急げ』アル」
「くーふぇ、日本のことわざ知ってるんだ。頭いい!」
アキラは思った、この二人に振り回されるのも悪くないかな……、と。
【残り19人】
とりあえず以上です
>>120 >早いペースでクルー
9月10日までに投下終了しなかった場合最低でも5日間は投下できません
よって急ぎ足になってしまいそうです
>>121 私はいいと思いますよ(あくまで個人的な意見ですが)
作品以外の駄文スマソ
ちゃおりんいい娘…。
白いちゃおりん、珍しいなぁ……。
てかここまでされてなお裏を考えてしまう……w
>>121 3作目、いいんじゃないですか? ネタあって書けるなら書くべき。
作者ごとの事情や考え方ってありますからね。
てか1作目すらヒィヒィ言いながら作ってて先の見えない身としては、よく3作もネタ出るなぁと驚きなわけですがw
呆れるような驚きでなく、尊敬の眼差しが出るような驚きw
ネタだけならたくさん出るけど、それらをうまく繋げるってすごいことだからなぁ
桜子達が今の円に出会ったらどうなるんだろ?続きwktk!
それはそうとまとめサイト全然更新してないなぁ。管理人どうしたんだろ?
<aqua>
折角街に入ったのに森へ逆戻り。
別に悪い事ではないんだけど、自然の中にいるより色褪せた世界にいるほうが落ち着く。
「〜♪」
美砂とは逆に桜子は気分上々だ。
物事を深く考えていないのか、考えないようにしているのか……。
美砂には理解しかねる。
心の中での葛藤、怒りと決意が入り混じる。
桜子の恣意な態度は美砂には無神経にも見えた。
守りたい人が私自身を苛々とさせる。
(私は……、そんなこと)
正直な心に抗おうとする。
私は桜子を守る。
私が桜子を救う。
私が桜子を○○○……
(!!)
一瞬、私は何を考えた?
忘れろ!忘れろ!ワスレロ!
考えすぎて疲れているだけだ!きっとそうだ。
桜子が歩みを止める。
美砂も同じように止まり、顔を上げる。
緑が水色に変わった。広大なスペース、水一面の世界。
「美砂、見て!湖だよ」
「分かってるって」
「こんなところが森の中にあるなんて!」
桜子は湖畔まで走っていく。
「ちょ、桜子!?」
美砂も足早に追いかけることになった。
近くに来てさらに驚いた。
「透明……」
湖の水は澄んでいて底まで見える。
滝があるために澱むことなく絶えず新しい水が供給される。これだけ綺麗ならそのまま飲むことができるかも。
「つか、飲んでる!?」
桜子はすでに野生に帰っていた。
「おいしいよ!この水!」
毒を撒いている、というのは考えすぎのようだ。
殺し合いも主催者にしては娯楽にしか感じていないのだろう。
ならば、自分達の手で終わらせるのは面白みが欠けることになる。
手の器を滝へ差し出すと、器はあっという間に溢れた。
恐る恐る口にする。
「……おいしい」
コンビニで売ってる天然水なんかと比べちゃいけない。
口当たりの良さがまったく違う水だ。
美砂が滝の前で頷いていると、
バシャ!
制服が水に濡れた。
水の飛んできた方向を見ると、
バシャ!
今度は顔が水に濡れた。
「わーい、膨れっ面!」
「さ〜く〜ら〜こぉ〜!」
服にかまわずに畔で水遊びをした。
そうだ、こんな簡単なことじゃないか。
桜子といれば楽しい。だから守りたい。
自然体の桜子でいて欲しい。暗い顔は似合わないから。
頭を支配していた葛藤は消えていった。
スカートを履いたまま絞ると水が滲み出て地面にこぼれた。
代えの制服も勿論ないので近くの枯れ木に二人座って自然乾燥を待つ。
「普通、こんなときに水遊びなんてする?」
「美砂だって最後のほう本気だったじゃん!」
「あれは、桜子が……」
「円もいればもっと楽しいだろう」そんなことが頭に浮かんでは消えていった。
【残り19人】
<unusual>
やっと湿り気が気にならなくなってきた頃である。
美砂は湖を挟んだ前方に人影を見た。
「誰かいる」
靴下と靴を履き、いつでも動ける状態になる。
「逃げる準備だけはしといてね」
「うん」
相手の出方を伺おうにも影は再び森へ消えてしまった。
360湖を囲う森、敵か見方か区別の付かない人の視線がどこからか飛んできている気がする。
(……狙われている?)
美砂と桜子の考えを他所に影の主は近くの森から自らの姿を現した。
二人の最も会いたかった人物との再開だった。
なのに……、
「ま、円!?だよね……」
円だと確信を持っていた。それでもすぐ駆け寄ることができなかった。
明らかに様子がおかしい。
夢遊病者を思わせる足取り。虚ろな顔は白く、目にも光が感じられない。身体は脱力感で満たされ、吊るされた人形に似ていた。
赤く染まった制服。そして、右手をなぜか隠している。
「く〜ぎみん、どうし…た……」
ニタリ
桜子の呼びかけに円は笑顔で応じた。
親友である安堵は消え去り、脳内に警報が鳴り響く。
危険!!
三日月に切れ込んだ口、黒き光を灯った目。
キケン!!
右手には刃先が反っている血濡れの鉈!!
「二人とも親友を前に怯えるってどういうこと?」
前置きもなく襲い掛かる。
「まずは丸腰の美砂から!」
キィン!
金属音が重なり合う。
鉈を止めたのは大きな鎌だ。
「円!どうしちゃったの!?こんなことするなんて……、冗談でしょ?」
桜子の引いた最後の一線、肯定してくれることを願った。
「甘ちゃんの桜子に簡単かつ明快に今の私の気持ちを教えてあげるよ!
私の手で美砂と桜子を殺すことができる……なんて幸せ!」
思いがけない災難に二人は唖然とするしかなかった。
円と相見えることになるとは、予想の斜め上をいっている。
桜子はパニクり、美砂の顔つきからも驚懼は消えない。
「殺すの。しょうがないでしょ?そうゆうゲーム……なんだから!」
乱暴かつ強烈に振るわれる一撃を何とか受ける。
円が何をもって襲ってくるのか窺い知ることはできない。
「刃こぼれには気を付けたほうが……いいんじゃない!」
反撃がないことを知った円は上下左右に鉄の刃を振り回す。
「きゃ!」
鎌に問題がなくても、真正面から受ける桜子には圧力が掛かっていた。それに耐え切れず尻餅をつく。
「赤いのぶちまけてもらうよ」
上部に振り上げられたから腕は、幹竹割りの一撃となる。
円の目には無垢な目でこちらを見る桜子しか入っていない。
「らあっ!」
よって、美砂の飛び蹴りを見事に食らうことになった。
今度尻餅を付いているのは円だ。
「もう、いい加減にしてよ!みんな保身のことばかり!そんなに自分が大切?人を殺してまで生きて面白いの?」
「んなこと、どうでもいいよ……。私が殺すことで生き甲斐を見い出したから」
手元の砂を美砂に投げつける。
目を瞑ることで視界が奪われた美砂に隙が生じた。
「命を奪わないと生きていけないのが生命の定め。奪うためなら手段すら厭わない」
その隙は頭ごと人間を破壊する時間を円に与えた。
「円、ダメエエエェェェー!」
絶対に届かない距離、頭では認識していた。
体は命令に逆らう。
10mほどの間合いは一秒弱で零距離になった。
相手が振り下ろすよりも早く。通常では不可能なことを鎌は可能にした。
美砂の頭に付く前に鎌を払う。
制限解除された一撃は鉈を弾き飛ばすだけで留まらず、円の肩をも裂いた。
「あっ、え?」
何で私はここにいるの?
どうやって美砂を助けたの?
そして……、どうして円に怪我をさせているの?
常識の範疇を超えた行動を勝手に取った身体が自分のものであるとは思えない。
「私、斬られたんだ……だから、肩がこんなにも痛くて。血も出てる」
円に灯った憎悪の瞳。戦慄が二人の体を駆け抜けていった。
付き合いがいくら長くても二人が憎しみを露わにする円を見るのは初めてだ。
「……この痛み、絶対忘れない!」
円は怨念深く睨みを利かすと左肩を抑えて駆け去った。
【残り19人】
<urge to kill 〜千雨U〜>
亜子はバタバタと表通りへと走り去っていった。
なぜ、彼女は諦めないのか?
なぜ、助からないのに足掻こうとするのか?
亜子には潔く切り捨てる勇気を所有していない。
私がどんなに諭したとしても理解はしてくれないだろう。
どうすればいいのか?
―――――簡単じゃないか、こいつが消えればいい。
こいつが絶えれば諦めがつくだろう。
こいつさえいなければ……。
脳髄へ入りこむ毒は媚薬のように理性を溶かしていく。
思えば首筋に手を伸ばしていた。
細い首筋に手を当てて、締め上げる。
あやかの体は発熱していた。
千雨は実感する。生きている者の体はこんなにも熱いのか、と。
死者と命あるものの境目は温もりにある。
酸素の補給を絶たれ、あやかに苦の色が浮かび上がった。
何も映さない瞳がこちらを訴えている。
「……私を……殺すんですか……?」
「ああ……」
千雨は投げやりに答えを伝える。
「……ええ、……私はもう…………」
「助からねえよ」
あやか自身が一番良く知っている。
手足は自分の意思で動かせない。意識も薄く仮想世界にいるよう。
殺されそうになっている今も抵抗一つできない。
「……苦しむくらいだったら、殺してやるよ。そのほうが楽だろう?」
また手に力が籠もる。
「…………そうです……わね」
されるがままに首を絞められる。
「……さよ…う……なら…………」
以降、千雨はあやかの声を出すことは無かった。
「…ちっ」
手に入れていた力を緩和する。
自然と舌打ちしていた。不愉快だからだ。
あやかの顔に苦しみの色はない。それが千雨には信じられない。
(クソ、どいつもこいつも!!)
人を陥れてでも生きたい。死を簡単に受け入れたくない。
なんで3−Aの連中はこう考えないのか?
自分一人が穢れた生物であるみたいじゃねーか。
「……ふん、上等だよ……。死んだら終わりなんだ……私はまだ終わらない」
自分に言い聞かせる。
もし生き残ってもろくな死に方しねえな。
心に浮かんだ恐怖を払拭した。
【雪広あやか 死亡 残り18人】
<squabble>
二人とも暗い面持ちだった。
原因は当然、円の豹変のことだ。
部活に入ってからずっと一緒にいた。
常識人、私達の中では暴走を抑える舵取り役だった。
そんな円はこの島に存在しない。一人で遊離していってしまった。
それだけでなく私達を見て殺すとまで言った。
言葉から良心の呵責など感じられない。
何が円をそこまで狂わせたのだろう?
居心地悪い空気を変えるため、美砂は話しかけることにした。
「ありがと、桜子。あのままだったら私、死んでいたと思う」
美砂は正直な心境を語った。
この言葉は"円が殺意を持って私達を殺そうとした"を肯定するものだ。
「そんな……、きっと何かの間違い。円が本気で殺そうなんて……」
「円は狂った。変えようも無い事実だよ。
桜子だって分かってたから私のこと助けてくれたんでしょ?」
言い返す言葉も出てこなかった。代わりに目から涙が流れた。
涙に意味なんか無い。ただ、悲しかったから流れ出たのだと思う。
「次に会ったときは……私の手で円を殺す。
桜子にさせるわけにはいかないし、放っておくわけにもいかない。また誰かを襲うかもしれないから」
美砂の右手に自然と力が入った。
美砂の一言一語が桜子を心身を不安定にする。
先の見えない不安に嘖まれ、精神の余裕はなくなっていく。
「……円は狂ってしまった。でも、私は最後まで希望を捨てたくない。円を助けたい!」
桜子は詰まった思いを吐露した。
「円は私達を殺そうとした。ろくに話だってできなかった。もう答えは出てる。まどかを助けるのは無理」
「円が生きている限り可能性はあるよ!」
互いの意見に齟齬が生じている。
「危険すぎる!今回は向こうが逃げたから無傷で済んだ。けど、次もそうなるとは思えない!」
「私は傷ついてもいい!親友のためだから!」
二人の間にできた蟠りは広がっていく。
「じゃあ何!桜子は私が円の親友じゃないって言うわけ!!」
「そうは言ってない!!」
普段から食い違いはあり珍しいことではないけれど、"ほんの些細なこと"では済まされない致命的な意見の相違。
「私だって円を助けられればいいと思う。でも、桜子を円が手にかけそうで怖い。そんなところ見たくない」
「大丈夫、さっきだって美砂が助けてくれたでしょ?私が美砂を守って、美砂も私を守る。今度は二人で円を助ける番だと思うの」
美砂は反論をせずに、桜子の話に耳を傾けていた。
「これは私の我侭。厳しいことは承知だけど、同じ親友である美砂にだからこそお願いできるの。
円を助けたい!私の我侭に付き合って欲しい!」
桜子の強い嘆願。美砂は桜子が意外と頑固であることを知っていた。
「……貧乏くじを引くことになるかもしれないよ」
「それでも……諦めたくない」
桜子が食い下がらずに自分の意見を通そうとする。これだけ強い決意を見せるのは島に来てから初めてだ。
そんな桜子を見た美砂には断ることなどできなかった。
「……あーあ、私ってばほんと、桜子に甘いなぁ〜」
誰に言うわけでもなく美砂は呟いた。
「……うん、分かったよ。気は乗らないけど私もできる限りのことはしてみる。
でも、円が桜子を傷つけるようなことがあったら私がケリを着ける。これは譲れない」
二人の間にあった隔たりは消えた。残ったのは親友という名の強い絆だった。
【残り18人】
今日はここまでで
GJ!!でも個人的に桜子が生き残るのは望まない・・・というわけで美砂だけ生き残るに食券5、6枚賭けとこっと
円がチアのどっちかを道連れにしそうだな……GJ
<in estate 〜夏美U〜>
瞼を開くと夏美は布団の上だった。
「ここは?」
私が気絶した場所に人の住める建物は一つしかなかった。きっとそこだろう。
寝ているとき長くて短い夢を見ていた気がする。
「長瀬さんが死んでいてバラバラにされる夢」
…………。
自分には嘘をつけない。
アレはどう考えたって現実。倒れる前に見たことだ。
頭の中にこべりついた画像が引き出され、また気持ち悪くなった。
「……それより」
忘れようとするために無理やり思考を切り替える。
私は倉庫の外で気絶していた。
でも今は布団の上にいる。つまりは誰かに助けられ、運んでもらったことになる。
それは、誰?
すぐに分かった。
コンコンと小気味よいノックの音がする。
「起きてるかな……」
トレーを持ちながらドアをうまく開けて春日美空(出席番号9番)は部屋に入る。
「やっと目、覚ましたみたいね。大丈夫?」
「は、はい」
トレーの上には出来たてのお粥が乗っていた。
白い湯気と若草の香りが食欲をそそる。
「私を運んでくれたのは……」
「そっ、私。放置するわけにはいかないでしょ?これは貧弱な体の持ち主用」
酷い言われ様であるが、実際倒れたので否定もできない。
そして、自分を運んでくれたうえに食事を出してくれる美空に対して悪態をつく気にはならなかった。
「人の顔見るなり気絶しちゃうんだもん。失礼だと思わない?
で、結局原因はなんだったの?」
「多分、貧血のようなものだと」
食べながらふと思った。彼女は長瀬さんを襲った猛獣の存在を知っているのか?
「あの、倒れたとき誰かいませんでしたか?」
「誰もいなかったけど?」
「人じゃなくて……ライオンとか」
「ライオン?何それ?」
夢でも見てたんじゃないのと笑われた。
スプーンの口への進みが止まる。
夏美は眠いと気持ち悪いのが混ざった気分に苛まれた。
おかしい、またフラフラする。目が開けていられない。
夏美の手から器が零れ落ちた。
「春日さん。なんか、私……」
夏美は顔を真っ青にし、苦しそうに美空を見ている。
「……なるほど。即効性なんだ、この薬。効果抜群だよ」
夏美の視点はもう定まっていない。
夏美の瞳に映されるものは例外なく歪曲していた。
「ク……スリ?」
美空は勝ち誇るように笑う。
「そう、毒薬だよ。村上さんのおかげでデータが取れたよ」
「どう……て」
「どうして?だって、毒薬を調べるために救ったんだから当たり前じゃん!
何、もしかして信じてくれてた?それは、ありがとう!あはははははは!!
お礼に那波さん会わせてあげるよ!あっちの世界で……ぷっ、あははははははははは!!!」
浅ましい笑い声と崩れた顔。
朦朧とする中、夏美は人の顔をした鬼を見た。
アセトンシアンヒドリン(特別調合)と書いてあるビン。彼女こと美空が取り出したものだ。
動かなくなった者の手首に手をやる。手は次に胸へ……。
「うん、心臓も止まってる」
こんなにもたやすく事成せるとは美空も思っていなかった。
10分足らずで人を死に追いやる悪魔の薬は自身の立ち振る舞いによっては最強の武器となることが証明された。
とはいっても、先手を取られたら元も子もない。
美空は所有者を失った荷物を調べる。
「ナイフか。ありきたりな……」
よく調べてみるとスイッチのようなものがグリップに付いている。
押したい衝動を抑えて荷物をさらに漁る。やはり説明書があった。
「ロシア製 スペツナズナイフ
ボタンを押すと刃が射出するぞ!範囲は10mほど。奇襲にはもってこいだ!」
美空の顔は歪な笑みでいっぱいだった。
人の信用を破壊する武器二つ。今の自分にはとても使いやすい。
「あは、あはははははは!!」
奇声は人を引き寄せる。
超も通り過ぎるはずだった農家からのを聞きつけて、様子を見に行くことにした。
窓から部屋を覗き、すぐに後悔した。
自ら危険に足を踏み込んだのは助けが必要な人がいるかもしれないから。それも、取り越し苦労に終わり、自身に危険が及ぶことになる。
(察知されないうちに逃げるヨ)
顔を引っ込めて離脱する、つもりだった。
「どこ行くの?」
背後からかけられた声、喉まで出ていた驚きの声を飲み込んだ。
「見たのか……はは、はははははは!!」
振り返らず聞く耳持たず超は走った。
「はぁ、はぁ」
単純な脚力では美空に敵う者はクラスにいない。
だったら、その脚力を利用しにくいところへ逃げるのが賢明な判断だ。
今走っているのは足場の悪い藪の中。
作戦通り追いつかれることも無いが、
「へへ、へへへへ。逃がさない!!ははははははは」
逃げ切ることも無い。
こうなると持久力の勝負、これまた自信が無い。
次なる策を体力の尽きる前に見つけないと命はない。
(どうすればいいネ、どうすれば……)
「切り刻む、切り刻むぅ〜。あはははは!!」
ナイフを手に楽しそうに獲物の背中を追う。
彼女の頭には体のどこから刺そうか、そんなことしかない。
奇声は人を引き寄せる。1%足りとも頭に浮かぶことはない。
「あはははは!!あれ?」
自分では動かしているつもりなのに、腿の動きが止まった。
どうしたのだろうか?美空は目線を下げてみる。
刺さっている。
細い剣が腿に刺さっている。
なんでなんでなんでなんでなんで!?
痛い痛い痛い痛痛痛痛痛!!
「あ、あ、足があアアァァ!!」
叫声が森の中で木霊する。
地面に倒れこみ痛みを紛らわそうとする。
「ああああアアァァッァァ!!」
悲鳴の繰り返しの中、凛とした声が美空には聞こえた。
「…………五月蝿い……」
相手がつまらなそうにしているのが伝わる声だった。
「この声、桜咲!?」
倒れている美空を興味のない顔で見ていた。
「…………」
美空は何も言わない刹那に恐怖していた。感情を殺しきっている刹那と狂うことで恐怖から逃げようとする美空には決定的な違いといえよう。
剣を腿から抜く。
「ギャああああアアアア」
赤く染まった剣と刺さっていた穴から血が滴り落ちた。
「…………」
敵のプレッシャーに後退りをする美空、焦りも狂気もない、恐怖一色だった。
「いやだ、いやだよ……死にたくない……」
態度を一変、切羽詰まった声で懇願し続ける美空。刹那にはそれが目障りにしか感じなかった。
「……すまないがその願いには答えられない」
高速で突きが放たれ、未練がましい美空も沈黙した。
「……」
近くには自分が作った新しい死体。
短刀で親指を切り落とし、ビニールの中に入れる。
近くにあったリュックの中身からナイフだけ取り出し、懐にしまった。
そのすべての作業を淡々と行った刹那が唯一吐いた台詞は、
「……あと4人か」
死体ではなく自分に再確認の言葉を向け、刹那は去っていった。
【刹那 スペツナズナイフ入手】
【村上夏美 死亡】
【春日美空 死亡 残り16人】
<hide-and-seek 〜のどか〜>
開始からその場を離れられない少女が一人、宮崎のどか(出席番号27番)は学校から一歩も外に出られなかった。
彼女の精神状態は未だ落ち着かない。心の糧を失ってしまっているからだ。
初恋の人、ネギ先生。無二の親友、夕映。二人ともどこか遠くに行ってしまった。
いっそ私も……、と考えたときもある。
そんな勇気も彼女は持っていなかった。
カーテンを閉ざし耳を塞いで部屋の端っこで体育座り。
部屋を支配するのは闇と恐怖感だけ。
自分はこれからどうすればいいのか?何をするべきなのか?
答えは見つからない。
3−Aが本当に好きだった。
私の大好きなクラスの中に人殺しなんかいるわけがない。
中庸的な3−Aであってほしい、彼女は世界との境界を断絶し、変化を嫌った。
外との交流を絶ったところで何か変わるわけでもない。
でものどかはそうすることで幸せでいれた。
目を瞑ればネギ先生、夕映、ハルナ……。みんながいる。みんな微笑んでいる。
これは仮想世界。現実じゃない。
それがどうしたというのか?
大切な人を奪う理不尽な暴力。弱者に容赦ない誹謗中傷。時の経過と共に消えていく命。
現実には光一つない。
比べて仮想世界は私を受け入れてくれる。
胸に抱えた"元"担任の先生と同じ名の銃、"スプリングフィールドM14"。
彼女が彼女でいられる心の支えだった。
無機質なものなのに温もりすら感じる。嘘じゃない。
先生を抱え、妄想に耽るのどかは確かに幸せだった。
【残り16人】
<crossroad・前>
円の行き先の手がかりを掴むこともできなかった。
襲ってきた相手を追いかける気なんて桜子と話すまで無かったんだ。仕方ないと言っちゃあ仕方ない。
「桜子はどっちのほうに行ったと思う?」
「勘でいいなら言うけど?」
虱潰しに島を探すわけにもいかない。
無闇に声を出すのは円以外の危険を招くことにもなる。
「こうなったら適当に動くよ!」
「そうだね、ジッとしてられないし」
10分後……。
気合だけが空回りしていた。
「本当にこっちに円がいるの〜?」
「美砂?私にどんな答えを期待してるの?」
美砂は木に寄り掛かった。
「もう疲れたの?だらしないな〜」
「そうじゃなくてさ、考えもしないで歩くのはやっぱ良くないよ、と思って。
動くと体力が徐々に減るけど、考えるのは脳以外あんま疲れないでしょ?
この島は何が起きるかまったく予想できない。不備の事態に備えるためにも無駄に体力を消費するのは良いと言えない。
円のいる位置が分かっているなら別だけどさ」
桜子は目を丸くさせた。
「美砂、いつからそんなに頭回るようになったの?人間追い詰められると未知の力を発揮するとか」
「失礼、って言葉知ってる?」
桜子はあははー、と笑ってから、
「冗談だよ」
軽く流してみせた。続けて、
「私も少し考えてみたんだけどね。
円は独りでにあんななっちゃうとは思えないの。ということは円をはぶらかし、心を侵食した人がいると考えるのが合理的だと思う。憶測だけどね。
私達は信頼できる誰かに会って円の目撃情報を手に入れる、円と一緒にいた人物の情報を得ること。これも重要だと思う」
美砂は難しい顔をしたまま桜子の意見を聞いていた。話が終わると、
「いつからそんなに頭まわ……」
「同じネタはいいから」
互いにもう少し頭を動かしてみることにした。
頭を柔らかくして考えるんだ。
―――――忍び寄る影。
他には何か無いだろうか?
適当にほっつきまわるのは得策じゃない。待っているのも良くない。何処に行ったか検討もつかない。
―――――着実に、一歩ずつ。
「とりあえずさ、二人で相談しながら―――」
―――――木の後ろからかぎ爪鋭い右手を振り上げる!
「―――考えたほうが」「美砂!しゃがんで!!」
桜子の指示に咄嗟に従う。
身を屈めた時、頭上に空気の塊が通った。
「な、何!?」
顔を上げると背もたれに使っていた木はへし折られていた。
折れた木の幹の影に隠れきれない黒い巨体がこっちを見ている。
"この島は何が起きるかまったく予想できない"。まさに言葉通りだ。
まさか熊が出るとは思ってもいない。
出るのは人間くらいだろう、という常識に縮こまった考えしか持っていなかった。
美砂も本当の意味でこの島を理解できていない。
交錯した視線を離すことは自分の立場が下であることを熊に知られることになる。
そうなればすぐにでも襲いかかってくるだろう。
だから目を背けない。怖いのを我慢して絶対に相手から目を離さない。
「グウォォ……」
左肩は黒い毛が色濃い赤に染まっている。
他にも所々負傷していることから、誰かとやりあったと考えるのが妥当だ。
熊と戦えるくらいの武器を持っているなら最後まで責任とってくれと美砂は心底から思った。
手負いの熊が雄叫びを上げる。振り上げた腕はまた右腕だ。
リーチが長くて後ろには避けられないと美砂は瞬時に判断し、四足動物と同じ動きで右に飛ぶ。
普通なら左腕からもう一撃放たれる。だが、それが無い。熊は左が使えない。
体勢を立て直し立ち上がる。
「ちょ、桜子!?」
私を守るよう、私の盾となるように桜子は私の前に立ち鎌を敵に向けていた。
【残り16人】
<crossroad・後>
さて……どうしたものか……。
美砂は逃げることしか考えてなかった。この状況ではもうそれは無理だ。
熊。
人より大きな図体からは考えられないほど機敏に動く。走って逃げるのは不可能。
木に登ればいいなんて言われているが、某テレビ番組で熊は木登りが得意だと紹介していた。
死んだフリ。これもダメと同じ番組で言っていた。
熊と会った時にやってはいけないことばかり放送して肝心な対処法に触れない。
つくづくテレビは使えない。
そして、やっと理解した。
元から戦わずして逃げる方法なんか無かったんだ。
桜子はもう知っていたのだろう。
時間にして数分。二対一の睨み合いが続く。
桜子から仕掛けることはない。成すべき事は守ることだから。
必然的にこの戦いの再開の合図を出すのは熊のほうだ。
その時は来た。
右手からのパンチが桜子を狙う。
キィン!
重い一撃で桜子の体がぶれる。
ある程度、攻撃の予想がついていたのでなんとか受けることができた。
問題なのは熊が連続で攻撃してきたことだ。
満を持して左腕が高速で振るわれる。
「あっ」
桜子の右方向はノーマークだ。
今更避けようとしても直撃は免れない。
それでも避けようと試みてみる。桜子なりの悪足掻きだった。
美砂は桜子より先に左腕の一撃を察知した。
桜子は熊の左半身を見ていない。
危ないと思ったときには駆け出していた。
ただ無闇に熊に向かっていったわけじゃない。
爪の一撃を避けるためには熊にできるだけ近づく必要があった。
とても勇気のいること。美砂は迷わず飛び込んだ。
ダメージを軽減するためにブロック体勢に入る。
焼け石に水。熊の右手は美砂の身体ごと弾き飛ばす威力を秘めていた。
「かはっ……」
結果としてラリアットを食らい強烈に地面に叩きつけられた。
桜子を切り裂く筈だった凶暴な爪。
美砂が懐に飛び込み、腕に先に触れたため若干爪の向かってくるスピードが落ちた。
遅れた判断を補うだけの時間を美砂がくれた。
「グウォォオオ!!」
人の心配をしている場合ではない。
咆哮を上げまたパンチを繰り出す。
こんなところで死にたくない。
死んだら美砂を守れない。
殺さなきゃ。
なんだ、簡単なことじゃないか?
これを殺せばいいだけじゃん!
目の前にいるデカブツが叫ぶ雑音が耳障りだ。
同じタンパク質なのにどうしてこうも違う姿を宿すのか?
……そんなことを考えている暇はない。
上空から左手が私目掛けて直下してくる。
当たったら痛そうなので手首から先を切断した。
勢い余って左足も身体から切り離した。
デカイ図体しているのに情けなく呻いているのが鬱陶しいから咽を切り落とした。
腕の動き通り刃は動いてくれる。
腕を高速で左右に動かすとそれは動物の形ではなくなった。
「うっ……、つ」
ギシギシと骨と骨が不協和音を鳴らしている。
「ケホ!ケホッ……」
何とか骨には異常がなさそうだ。
顔を上げて桜子の安否を確認する。
「……え?」
5mほど先にある赤い別世界。
吹き飛ばした熊はいなかった。正しくはいるのだけど、何十個に解体されていた。
血を十分に吸い込んだ、冥途へ導くサイズ。
返り血一つ浴びていない彼女は本物の桜子なのか?
桜子の手で行われたとはにわかには信じがたい。
(……そんなのどうでもいいじゃない)
重要なのは桜子が無事であるということだ。他に何があるというのか?
「桜子!怪我無い?」
動揺を見せないよう桜子の元へ、
「近寄らないで!」
予想外の桜子の大きな声に美砂はびっくりする。
「こっちに来ちゃ駄目……」
手のひらを美砂に向けて止まれのジェスチャーを送る。
「……どうして?」
桜子の頑なな拒絶の意味が美砂には理解できない。
「……私が、美砂を傷つけてしまうかもしれないから」
「何それ……。桜子は私のこと傷つけたい、殺したい、って思ってるってこと?」
顔を見られないよう桜子は俯く。
暫しの沈黙を経て、桜子が違った方向から語りだした。
「この熊、酷いよね。こんなバラバラにされてさ……。
きっと、私がやったんだよね……。
無意識のうちに切り刻んでた。酷いことしてるって分かってるのに手が止まらなかった。
解体が終わってやっと手は止まってくれたの。
私は口に手を当てた。それで自分が今、どんな表情をしているか分かった。
笑ってた。私はこの光景を作り出して満足して笑ってたんだよ!
美砂のこと傷つけたいなんて、そんなこと絶対思ってない!!
でもまた私が私でなくなって……」
「……桜子は私を殺すことはできないよ」
「えっ?」
こんなにも近くから聞こえる声、美砂はすぐ前に来ていた。
「私のことを大切に思ってくれている桜子が私を殺すなんてありえない。
もしも、桜子に襲われたって正気に戻るまで絶対死なない」
「美砂……」
美砂が涙目の桜子の頭の上に手をやる。
「大丈夫。私だってそんなヤワじゃないんだから。結構頑丈なんだぞ」
頭をクシャクシャしてやると桜子は美砂に泣きついた。
「私は壊れないよ。私は桜子の隣にいる……」
「さあーて、恥ずかしい時間はこれまで。これ以上メソメソしていられないよ。私達は救う側なんだから!」
ここで時間を多く消費するのは良くない。
桜子も落ち着きを取り戻したことだし。
「行こ!円を探しに」
「……うん」
お互いの繋がりの深さを確認した。
【残り16人】
ここまでで
また明日に投下します
桜子が志貴化した
あー、桜子と美砂には生き残ってほしいなー
まとめサイトってどうなったの?
www
二人には生き残ってほしいが、千雨対美砂までに桜子はおくたばりな予感
<silence>
熊の残骸があるところで作戦を練るのは気が引ける。というわけで、少々移動したところで再び考え始めた。
美砂は話し合いを持ちかけてみると、
「ちょっとだけ一人で考えさせて」
まだ尾を引いているのだろう。
美砂はそっとしておくことを選んだ。
静かな森、生命の呼吸音とも言うべき葉の擦れ合う音も聞き取れる。
我関せずな鳥の鳴き声。
そして、不自然なガサガサという音。
誰かが……来る!
「さく……」
桜子は「分かっているよ」と目配せしてきたので言葉を止めた。
突然、森から出てきたのは肩を貸している超と島では始めて会うザジだった。
「二人とも無事だったネ」
「…………」
ザジの腕、足からは鋭利な刃物で貫かれた痕が複数存在する。
服は若干赤くなっていた。
「人じゃなきゃできない傷だな、いったい誰が?」
「それは……」
同じ場所からもう一人出てきた。
剣を持つ姿がこれほど様になる人間はそうそういない。
長き黒髪を束ね凛とした態度で佇む。
……桜咲刹那、である。
「……4人……丁度か」
西洋風の細剣からは血が付着していた。ザジの血である。
美砂は冷ややかな目でこちらを見る少女を敵と認識した。
刹那は状況の確認をしなかった。
絶対的有利、腕に絶対の自信、一刻も早くお嬢様を自由に。
「その命、貰い受ける」
振り翳された剣を手に刹那は地面をつま先で蹴った。
最初の標的は超。
ザジは動けないと見込み、三人のうち一番近くにいて体の自由が聞かない状態だからだ。
「考え方が姑息ネ!」
超は狙われていると知っていても避けられなかった。否、避けようとしなかった。
強烈な踏み込み。突き出された手と剣は……胸を貫いた。
…………ザジの胸を。
「ザジサン!」
まさかザジから突き飛ばされるとは。
標的の超が消えたことで刹那の剣先はザジの胸へ収束していった。
心臓とは逆側の胸。即死には至らないものの、命を蝕む致命傷には十分なりえた。
体からポンプのように上がってきた血を霧状に刹那の顔に吹きかける。
刹那の視界は一時的に奪われた。
「チィ、……貴様!」
倒れこむザジを超と美砂がすかさず回収する。
刹那は袖で血を拭い、視界を戻すと桜子が対峙していた。
桜子は三人に後ろに逃げるように腕を動かす。その指示に従い、距離を刹那から取る。
「椎名さん、私を斬るつもりですか?きっと無駄ですよ。あなたの一撃が私に届くことはない」
「私はみんなを守りたいだけです。人を傷つけたいなんて思ってない」
鎌の先を上げ、戦闘体制に変わる。
「そうですか。私も極力、人に苦しみを与えたくはない」
「……なら、どうしてこんな酷いことを!」
桜子は刹那が眼識のある人だと思っていた。
学校で木乃香と一緒にいる時の笑顔を見て、持っていたイメージが変わった。
なのに今は、体から殺気しか発していない。
いつもの清楚な振る舞いはどこに行ってしまったのか?
「私にもいろいろあるんです。余計な詮索は精神を乱す!」
彼女、刹那が来る!
【残り16人】
<saving hands>
エストックという剣は斬ることでダメージを与えることができない。
刹那にとっては"斬"が使えないのは大きなマイナスとなる。
そうであってもキレた剣技は健在だ。
刹那独特の柔靭された太刀筋。最速で繰り出される突きは常人に反撃を受け付けない。
「何!?」
思わぬ伏兵。
想定外だったのは刹那のほうだ。
金属音の連続。体を捉えているならこんな音はしない。
各所を精密に狙った突きの一撃一撃を鎌の全体を余すことなく使い受ける。
刹那の攻撃は早いが重い攻撃ではない、だからこそ急所を狙う必要がある。さらに、楽に死なせてあげたいという余裕から狙う場所をさらに絞っていた。
とはいえ一般人なら目にも留まらない攻撃を受けられるわけもない。
刹那は後ろに跳び、一旦距離を取った。
「あなたは……一体!?」
一般人ではないのか?
この島では能力が封印されているのに、なんたるポテンシャル。
いや、そうじゃない……。
視点を代えればカラクリが見えてくる。
つまりは災禍をモデルにしたような鎌に秘密があると考えられる。
「そのおぞましい鎌のおかげですか……なら私も本気で相手しましょう……」
殺気と鋭い視線が消えた。あくまで自然体に構える刹那。
「桜咲さん。もう一度聞きます。どうしてこんな酷いことをするんですか?
私には桜咲さんが意味なく非道を行う人には今も見えない」
同じ質問、答えてくれなかった質問を繰り返す。
刹那は一旦剣を下ろし、口を開いた。
「私には命に代えてでも守らなくてはならないものがある」
刹那の守りたい人、容易く想像できた。
「……やっぱり木乃香絡みなんですね」
否定も肯定もしない刹那の態度は桜子にとって肯定に見えた。
「そのためなら、非道でも何でもする!」
強い意志の外に吐き出し、刹那は剣を振るってみせた。
すべては木乃香のため、刹那は修羅になる。
「……それで」
桜子は構えない。構えようとしない。
「手を汚してまでして桜咲さんに守られた木乃香は幸せと思えるんですか?」
心の闇に桜子の手が入り込む。
刹那が触れないように隠していた所を指摘してきた。
「桜咲さんの行いを知ったら木乃香は悲しむ、感謝なんて絶対されない。当然じゃないですか!
木乃香を悲しませることがあなたのやりたいことなんですか!?」
逡巡する刹那。
顔にまで出るくらいだ。相当な動揺があった。
「そうであっても、私は守らなくてはならない!お嬢様に嫌われてでも!!」
「木乃香が幸せになれないと知っているのに事を成す。そんなのただの自己満足です!」
冷たさと余裕を持った刹那の振る舞いが一変、焦りと感情の高ぶりが見られる。
「何を言おうが死んでしまったらすべて終わり。
今、私がお嬢様を救う方法は一つしかない!私はそれを成すまで!」
口ではなんだって言える。それは無力だから。
木乃香の酷い姿が脳裏に浮かぶ。今は時間が惜しい。
刹那は風を纏い疾風の勢いで突っ込む。
再びの金属音。
今度は一度だけ。
刹那の手から剣が飛んだ。
「本当に方法は一つしかなかった……のですか?」
桜子が初めて見せた険しい顔、僅かながら怒りも灯っている。
刹那の強い決意を理解していた。理解していたからこそ許せなかった。
「人を守っていく方法はたくさんある筈です。
木乃香に何があったのか私は知らない。けど、今桜咲さんが取っている方法は絶対に最善なんかじゃない!言い切れる!」
刹那の考えていた桜子のイメージ像は「明るく元気な子。でも、そんなには深く考えていなさそう」というものだった。
今をもって、勝手なイメージは崩れ去った。
こんなにも強い意志、はっきりした考えを持っているなんて。
比べて迷走し続けていた私は……。
「…………」
刹那は何もいうことなく背を向け、地面に突き刺さっていた剣を抜く。
それを構えることなく桜子とは逆の方へ歩き出す。
「……桜咲さん!」
彼女の顔を見ないと安心できない、そんな衝動に駆られ背中に声を掛けた。
刹那は振り返った。
「で、結局どうなったの?」
刹那が消えた後に美砂が駆けつけてくる。
ザジの応急処置をしていたので二人の間に何があったのか知らない。
「桜咲さんならもう大丈夫だよ。私にはそう見えたから」
桜子は清々しい笑顔で言った。夕日に照らされた笑顔、美砂は桜子が大人びて見えた。
笑うこと。
絶望的な状況でも笑顔でいれる強さ。
その笑顔は人に強さと希望を与える。
桜子の笑顔で私が私でいられる。
「ザジさんのところに戻るよ!」
桜子が美砂の手を引っ張る。
繋がれた手。桜子の手がいつも以上に頼りあるものに美砂は感じた。
【超、ザジ合流 残り16人】
<absolute zero 〜和美U〜>
暗くなってきた森の上から刹那と桜子の一部始終を見ていたものがいた。
その人物は朝倉和美、である。
誰もいなくなってから和美は木の上から降りてきた。
(まさか、桜咲も乗っていたとは……こりゃ驚いたわ)
近衛をダシに脅している?
会話からして間違いないだろう。
いったい誰が桜咲を狂わせたんだ?
こんなことができそうな奴は……思い当たらん。
なんにせよ、桜咲が正気を取り戻した。手強く、正面からじゃ勝てなそうだ。
……直接私が潰さなきゃいいことだけどね。
利用しやすい奴を探し、森の中を彷徨していると話し声がだんだん近づいてくる。
近くに上りやすい木があったので様子を見るために上った。
来たのはチアの二人だ。
今度こそ仕留めようと銃を強く握った時に、また二人現れた。
そして、桜咲が登場しザジを刺した。
乗った者を妨害する必要なんか無いし、擁護だってするわけもない。
ただ傍観し、情報を整理していた。
時経ち、桜子と刹那の対決。
刹那と互角に渡り合う大鎌には驚かされた。
気配を遮断しているつもりだが、どうも桜咲にはバレていた感がある。
結局のところ定かではないまま桜咲は去ったので、今となってはどうでも良い。
桜咲が去ってからも私は引き金を引かなかった。
もう少し情勢を見通しておこう、と結論づけたからだ。
リスクのある方法はできるだけ取らない。
結局、一行は消えて今に至った。
もうしばらく……監査していよう。
自分で手を下すよりも高い所から俯瞰しているほうが合っている。
「常に利口に、狡猾に生き残るよう立ち回れ」、自分に言い聞かせる。
和美は影となり移動を始める。自らの存在を隠すように。
【残り13人】
<destination>
布を破いて止血をしたものの、傷が深くここではこれ以上の治療はできない。
一因として、用具が足りない。いや、まったく無い。
よって移動が余儀なくされた。
「私、ここから学校までなら道のり分かるネ」
目当ては当然、保健室となる。
本当は病院に向かいたいが、正確な場所を知っている人がいる分だけ移動距離が少なくて済みそうだ。
また、いくら医療道具が有っても知識が追いつかなくては意味が無い。
まともに処置が施せるのは、運動部に入っている桜子しかいない。
「さあ、急いで行くヨ」
「今度は一緒にいてくれるの?」
「当然。ザジサンのこともあるし、今回はお世話になるネ。暫しよろしく」
超は座り込み背中を差し出す。
「ザジサン、さっさと乗るネ」
「……一人で……歩ける」
「そんなか弱い声で言っても説得力がないヨ。さあ、早く」
半ば強引にザジを背負うと軽い足取りで美砂と桜子を引き連れて夜の街を目指した。
「……以上だ」
郊外に着いた頃、訃報が入った。
前回の放送と同じ無機質な声で死亡者が発表された。
今度は八人もの命が失われたと伝えている。
中には一度襲われた早乙女ハルナの名も呼ばれた。
桜子は足を止めずに心の中で冥福を祈った。
良くも悪くも円の名前は呼ばれてない。再コンタクトするチャンスはある。
そんなことが頭に浮かんでは消えた。
空は瞑色に包まれる。
本格的に島を闇が支配し始める。
学校に着いた時には、もう夜となっていた。
光の無い校舎を見ても恐怖は湧かなかった。
「私、先に保健室に行くね」
桜子は治療を急務とするザジを連れていく。
保健室に向かう前にやることは無いか?
見回り、調査、安全確認、……。
「超?ちょっと、どこ行くのよ?」
「武器の調達」
美砂はとりあえず一緒に行く。
校庭の端には体育倉庫しかないというのに。
超の目的地は正しくそれだった。
鉄製の扉を開くと埃と粉でかなり煙っぽい。
咳き込むとそれらが口から入るので、口を押さえて入っていく。
超が目に留めたものは新しい石灰の紙袋だ。
破くと白い粉末が大量に見えた。
落ちていたスコップでどこからか拾ってきたビニール袋にせっせと詰め込んでいる。
美砂には超が何をしたいのか考える。
校庭の地面に救援の文字でも書く?いや、見えるわけが無いか……。
結果、
「目くらまし?」
美砂が自身なさそうに超に問う。
「それもあるけど、石灰って爆発するネ」
美砂は目を丸くする。こんな粉が爆発する?どうやって?
「石灰から爆弾なんて作れるの?」
「違うヨ。粉だから爆発する。粉塵爆発って知ってる?」
知るわけもないので、超の話に少し耳を傾けた。
簡略化するとこういうことらしい。
粉塵爆発は「酸素」「爆発濃度の粉塵」「エネルギー」の三つが揃うと爆発する。
着火元は襲ってきた敵の銃器にある。つまり、粉が舞っている状態で銃を撃つと爆発する……らしい。
生憎、着火元がないので爆発するかどうかはぶっつけ本番になる。
「ちょっと理科室で材料探してくるヨ。爆発の成功率をあげるものがあるかもしれないからネ」
何事にも下準備には時間がある程度かかるっとことだ。
超は一セットの粉袋を作り終えると埃っぽい倉庫から出た。
「私は見回りしてくるね」
二人は正面玄関から校内に入っていった。
【超 粉塵爆発用粉末入手 残り13人】
今日は終わり
あと三日の投下で完結します
もう少しだけこの駄作にお付き合いを
GJ!
刹那にフラグ立ちまくりな気が・・・
刹那は真名と相撃ちフラグが……
GJです
<darkness・前>
「んー、やっぱ心配ネ」
ザジの容態も気になるところだけれど、武器もなく暗い校舎を回っている美砂が気がかりだ。
超はパチンコを持っているので銃器でなければ対抗できる。
目的を済ませた後、「上から様子見てくる」といっていた美砂の言葉を頼りに1つ上の階、3階に上ることにした。
時間はそんなに経っていない。きっと美砂は三階にいる。
(やっぱり……)
いた。予想通り美砂はまだ三階にいた。
しかし、見回りをすると言っていたのに立ち止まっている。
首一つ動かさずに下を向いている。
足音が響いているのだから、きっと美砂の耳にも入っている。
彼女はこちらを向かない。いや、向けないと考えたほうがいいのではと思えてきた。
美砂の瞳に映る何かが金縛りを起こしている。
超の足は自然と早まっていた。
"現場"に着き、超も言葉を失った。
眼前の惨状が一瞬で目に焼きつき、脳に記憶され消去不能となった。
床は血で満ち溢れていた。
その血はもちろん人間であったものから流れたものである。
血が広がる地帯に群がっていたのは獰猛な爬虫類達。
月光に照らされワニと蛇の噛んでいるものがわかる。
肉だった。
残骸をまだ苛め足りなそうに噛んでいる。
噛むたびに口から出る液体が床をワインレッドに染めていく。
「朝倉……」
ひしゃげた顔を直視しているのも辛い。それほど無残だった。
美砂が慄然としていたのもうなずける。
これは毒だ。人の神経を狂わせる毒。
「これ、落ちてたの。朝倉が使っていたんだよね……。私が預かっておく」
グリップに血の付いた銃は普通のものより禍殃を含んでいるように見える。
何故こんな死に方をしないといけない?
誰かが殺してこんなところに捨てたというのか?
いや、それなら実行犯は100%銃を回収する。事故か?あまりに不可解。
……バララ……
突如響いたマシンガンの音で我に返る、校内であることは確実だ。
私達以外にも人が学校にいる。まさか、朝倉は音の主に……?
「私が見てくるから、超は桜子のところに戻って」
「あまりに、危険……」
「大丈夫、深追いはしない。もしかしたらここで起こったことが分かるかもしれないし」
一人で行かせるのはいささか不安に思う超だったが、武器を持っていない自分が言ったところでできることも高が知れているので美砂の指示にうべなうことにした。
美砂は音の聞こえた方に、超は元来た方に、二人は別れた。
【朝倉和美 死亡 残り12人】
【美砂 ワルサーP99サイレンサー付 入手】
<darkness・後>
階段をスピードに乗り駆け下りていく。
保健室の二人が無事でいるか?敵と鉢合わせになっていないか?
何故敵と決め付ける?決まっている。学校内で銃を撃つなんて人を狙うくらいしか……。
不吉な想像は超の足をさらに急がせた。
早く無事を確認したい。しないといけない。
1階に着くとすぐに保健室の場所が分かった。
夜の明かりに誘われる虫のよう暗闇を進んでいく。
光の漏れている部屋の札には確かに「保健室」と書いてある。
心臓が高鳴る。また、脳に焼き付いて離れない映像が広がっていたら……。
超は首を横に振り、力をこめてドアを開けた。
「そんな強く力入れなくてもドアは開くんですけど……」
勢いよく開いたドアに少々驚くザジと桜子、健在だった。
ザジは体の20%ほどが包帯に包まれ、ベットの上で体を起こしている。
その隣で桜子が医療道具を整理していた。手当ては一通り終わったみたいだ。
「よかった……」
さっきまで抜けなかった肩の力が取れた。
「何かあったの?」
「……マシンガンの音、聞こえなかったカ?」
「……うん」
和美の死んだこと、銃を手に入れた美砂がマシンガンの音を追ったことを伝えた。
「深追いはしない、って言ってたから大丈夫ヨ。私達はできること、もしものための脱出の準備をしとくネ」
一階なので窓を開けると容易に校舎から出ることができる + 外に直接出るガラスのドアもある。
後は、これといってやることは無い。美砂の無事を祈ることくらいだ。
ガラッ!
「……はぁ、はぁ」
息絶え絶えにした美砂が戻ってきた。
走って逃げなきゃならない状況、悪い事しか思い浮かばない。
「みんなに……悪い知らせ。
……私見た。長谷川が本屋を殺すところを……」
いくら四対一でも相手の武器はマシンガンではどうしようもない。
連射の利く銃を擁する千雨と相手をするのは不利だ。
超は長い箒でドアにつっかえるように差し込む。
次に近くにある長いテーブルを組み立て、入口付近に複数配置する。
簡易バリケードの出来上がりだ。
「すぐに学校から出る」
美砂はザジの荷物を代わりに手に持つ。中にはノートパソコンが入っていた。
桜子はザジに肩を貸し、ベットから下りる。
超はというと、
「仕方ない。さっそく使うことになるとはネ」
粉の入ったビニール袋を取り出す。超特製の密室専用兵器だ。
「…………粉塵爆発……」
ザジは桜子と違い、超の行動の意味を理解していた。
「置き土産ネ。銃を撃たなくても目くらましとして時間を稼げる」
冷房を強に設定し、ビニールを上に、
「チャオ」
投げる前に意外な人物から話しかけられた。
「どうしたヨ?」
「これ、コンセントでも爆発する?」
「…………分からないけど、多分ネ。火種となるものなら」
ザジは桜子の肩から手を離した。
覚束ない足取りで超の元まで辿り着く。
「私がやる……」
必要最低限の言葉で相手に意思を伝えた。
"私がやる"その意味は皆知っている。
自らが火種となるんだ。生きてはいられない。
「そんなの任せられない!ザジさんも逃げなきゃ……」
「もう、助からない」
退避を拒否するザジの目には並々ならぬ決意で、妥結を許容しない。
「そんなこと無い!!ザジさんは生きれる!私、ううん、私達が守るから!」
「私……足手纏い……。……きっと追いつかれる。だから残る」
こんなことをしている間にドアがガタガタと鳴り始めた。
バリケードを破られるのも時間の問題だ。
「うん、そうだね。ザジさんに任せて私達は逃げる」
「えっ、……美砂、何て言ったの?ザジさんを置いていく気!!」
「容態は本人が一番分かっている。そう言うのなら私達に止める権利はない」
美砂の態度は妙に淡白に桜子は感じていた。
「そんなのないよ!!私は諦めない!みんなの助かる方法を探す!」
引くことはできない。クラスメイト一人の命がかかっているんだ。
引き摺ってでも連れて行く気持ちで桜子はいた。
なのに、
「……優しい桜子さん、アリガトウ……」
優しさに包まれたザジの目。すべてを語った目。その目は桜子には反則だった。
「……どうして…………」
桜子は力なく床にへたれこんだ。
何も感じないのに無表情の顔から涙がこぼれ出た。
「超、出るよ。ここも長く持たない」
ここにいるのはもう限界だ。
ドア越しの音も止まっている。敵が何かする前触れか?
桜子の襟を持ち、引き摺りながら美砂は窓際のドアから外へ出て行った。
超は出る前にもう一度だけザジの顔を見た。
(早く)
彼女の口はそう動いた。
「…………ごめん」
外に出て、先を行く二人を追った。
校門に着いた時、一つの命が失われる音がした。
【超 ノートパソコン入手 粉末失う】
【桜子 包帯等入手】
【宮崎のどか 死亡】
【ザジ・レニーデイ 死亡 残り10人】
<with 〜真名〜>
止まることなく森を駆け抜けてきた。
そして戻ってきた、お嬢様のいる工場地帯に。
非心に捕らわれていた刹那の姿はもう無い。
(龍宮、どうやらお前を斬ることになりそうだ)
決意新たに刹那は疾走する。
キィイイイー……
錆び付いたドアが重々しい音を響かせる。
「遅かったな。骨の折れる仕事は依頼した覚えは無いが」
「このクラスのみんなは強いよ。お前が思っている以上にな……」
ドアは独りでに閉まった。これで外とは断絶された。
「戻ってきたということは、指が揃った、ということか」
刹那は口を使わずに目で答えた。
「……吹っ切れたようだな」
「お前から見れば悪い方にな」
二人の目にとって僅かに入ってくる月明かりだけで光は十分だった。
元から隠れる気もない二人だ。今の状態なら気配だけで詳細な場所を掴める。
「お前を退けて、お嬢様を返してもらう。それが私の出した答えだ」
鋭い両眼が真名を捉えて離さない。
能力が規制されている今では武器の有用性と火力がものをいう。
真名は拳銃二丁、対する刹那は細剣一本のみ。
勝負など最初からついている、ここにいるのが桜咲刹那でなければ。
真名は刹那が本気で戦っているところを見たことが無い。
彼女はいつもどこかで手を緩めていた。
だからこそ分かる―――――奴は本気だ!
武器のハンデを加味しても五分五分といったところか?
身震いがした。怖いわけではない、傭兵としての血が騒いで仕方がないのだ。
真名は気持ちを必死で押さえ込んだ。
そもそも戦闘をする必要性は刹那にあるだけで、真名には無いのだ。
揺さぶれば刹那の心は折れる。
「まあそう急くな。有意義な話しをしてからでも……」
真名の言葉を遮り答えた。
「私が……アスナさんを殺した。そんな話か?」
真名は少々驚いた顔を浮かべた後、笑った。
「ほう?つまり、知っていて殺した、わけか」
「そうだ」
動揺なく断言した刹那の態度は真名にとって意外だった。
「私は十字架の枷を負った。贖罪もしなければならない。しかし、それは今ではない」
啖呵を切られても心にブレが生じることは無い。揺さぶってくることくらい刹那は承知していた。
もう精神戦は通用しない、いやもうネタが無い。
刹那は相手の口撃を潰したつもりでいた。
真名が真の切り札を持っていることを知らずに……。
「龍宮真名、お嬢様を返してもらうぞ!」
「返す……ねぇ?」
失望の顔を浮かべる真名、でもどこか嬉しそうだ。
「でもな、お嬢様は返せない。くっくっく、何故って―――――」
真名は笑った。……さぞかし嬉しそうに。
何をあいつが言うのか予知できた。
これ以上アイツのコトバをキイテハナラナイ。次の一言をクチニサセテハナラナイ。
「――――それは―――」
やめて欲しい。黙ってくれ。
汗を掻いているのにひどく寒い。
「―――愛しのお嬢様は――――」
黙れ。
気持ちを言葉にできない、だから剣を手に刹那は走った。
「―――――死んでしまったから」
地面を蹴り上げ疾駆した。
放たれた刹那の突きは人間の目では点としか捉えられない。
真名には逆効果だが。
「私のもう一人のペットにおもちゃをあげたんだよ。ミニウージーっていうね―――――」
「―――そしたらな、あろうことかそのペットがついお嬢様を始末してしまったのだよ。こればかりは不手際を認めよう」
ガンナーの視点は線ではない。点だ。
弾が直線に進むので攻撃を線として捉える必要性は無い。
ポイント、ポイントで目を動かす真名にはいくら早くても直線的攻撃では効果は薄い。
ヒラリ、ヒラリと突きをかわす。その動作にはまだまだ余裕が見られる。
「動きが雑だ。精神鍛錬が足りんな」
低い姿勢からのミドルキックは刹那の脇腹を的確に捉えた。
フラフラと腹を抑え、立ち上がろうとした時。
「そんな悔しいのか?」
かかと落としが後頭部に炸裂した。
あまりの衝撃に剣が手から離れる。
"悔しいのか?"
愛重していたお嬢様はもう……いない。
私は守ることができなかった……悔しい。
「過失はお前にあるというのに」
そう、私は最初から逃げていた。
助けを、救いを誰かに求めればよかった。
複数名いればお嬢様を救う方法の一つや二つ思い浮かんだかもしれない。
なのに、私は与えられた選択肢は一つしかないと勝手に思い込んでいた。いや、思い込もうとしていた。
最初から筋を通せなかった自分。哀れな、一人ぼっちな……人間。
「うあああああアアァー!!」
刹那の口から出る音は言葉にならなかった。
悲しさ、未練だけが相手に伝わる音。
「半端者の末路、不憫なものだ」
思い通りに動かない玩具など壊してしまえばいい。
至近距離でリボルバーを這い蹲っている刹那へと向ける。
この距離ではどんな素人でも外さない、真名なら尚更だ。
「お嬢様の死体でも拝むか?ひどい状態だから見ないほうがいいと私は思うが」
刹那は求めなかった。
どの面を下げてお嬢様に会えというのか?
お嬢様と私の行く世界は違う。天国と地獄。私は暗黒へと堕ち続けるだろう。
「なにか言い残すことはあるか?」
「……明日菜さん、……お嬢様、私を許さないでください」
「私では伝えられないな。私の手は穢れている。遅かれ早かれ私も地獄行きは確定だろう」
哀婉なる姿のまま、刹那は胸を撃ち抜かれた。
(楓もエヴァンジェリン達、刹那も消えた。仕事を楽しめる機会はもうなさそうだな)
元戦友への別離の言葉を残すことなく真名は工場から去った。
【真名 リボルバーマグナム(S&W M500)、対人探索レーダー、ベレッタM92G、自発的に行動開始】
【近衛木乃香 死亡】
【桜咲刹那 死亡 残り8人】
<secret profile>
起こっていることは放送されていることと同じ。人が死んだ。
けれど他人の声から聞かされるのと、目の前で命が失われるのでは精神的苦痛が異なる。
それを初めて体験した桜子は気丈に振舞うこともできなかった。
ザジさんを救えなかった。
自分に力が無かった。彼女を連れて逃げ切れるほどの力を持っていなかった。
悔しい。不甲斐ない。
大切な人を守れないくせに、桜咲さんに説教まがいなことをした。
私にはそんな資格もない。この出来事が教えてくれた。
ときどき美砂が「まだ具合悪いの、大丈夫?」などと声を掛けてくる。
正直今は構ってもらってもまったく嬉しくない。
ましてや美砂は最初からザジを切り捨てようとしていた。
許せない!でも私も同類。人を責める立場にはいない。
三人は追っ手がいないのを確認し、住宅地の少し大きめの家へと入った。
安寧を得るため、心身の疲れを取るためと理屈はいろいろあった。
特に家への訪問を望んだのは超だ。
ノートパソコンは充電無しで使える状態ではなかったので、中身を見るためには電気が通っている場所に留まる必要がある、というわけだ。
超は電源が入らなかったノートパソコンの充電を始めた。
起動スイッチを押すと今度はOSの起動画面が現れた。
「さて、何が出てくることやら」
デスクトップに変わった名のファイルが一つ、"3−A"と書いてある。
中のテキストファイルを開くと、クラスメイトの詳細なデータが記載されていた。
"柿崎美砂 一般 戦闘能力小"
"椎名桜子 一般 戦闘能力小"
自分の名前とデータが載っている。
「これは……何?」
美砂が目を引いた情報は、
"ネギ・スプリングフィールド 魔法使い 戦闘能力大"
"エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル 魔法使い+吸血鬼 戦闘能力大(抑制中)"
「魔法使い?」
常識の範疇を超えた3−Aのデータが残されていた。
映画やら本やらで植えつけられたイメージしか浮かばない。
「本当のことだヨ」
「本当って……」
桜子の脳はパンク状態だ。
魔法使いやら、吸血鬼やら、現実から話が飛躍しすぎている。
しかも、急に本当って言われても実感は湧かない。
「表からは見えない世界もあるってことネ」
美砂のほうはいくらか納得する点があるようだ。
「ほら、桜子。そういえば、ネギ君が来てからだよね……。なんか変なことがいろいろ起こったのは」
「……うん、確かに……」
怪異現象は多々見られた、気付いてもおかしくないくらい。
でも原因が"魔法使いがいたから"なんて、一生考えても出てこない答えだ。
注意深く情報を見ていくと、戦闘能力の高い人がいくらか見て取れる。
その中で、
"超鈴音 ??? 戦闘能力中"
このデータには超について詳しく書かれていない。
桜子は直接本人に聞くと、「そこは不可侵域ヨ」、誤魔化された。
【残り7人】
ここまでで
GJ
残り人数が最後の話で7に減ってるのは別の場所で亜子が死んだころだからかな?
桜子……生き残りそうでwktk
生き残る桜子なんて桜子じゃない・・・GJ!!
ザジに感動した…
これでザジの自爆になるわけか……。
先のダメージで嫌な予感はあったが。
予告通りなら、あと2日で終幕? ペース速いなぁ
朝倉が気になる…。どこでヘマしたんだ?
さて、俺はほとんど進行してないわけだが、司書氏のあとに投下できるぜって人はいるのかな
>>204 今、最後の3話分ほどを残すのみとなった。
このペースだと明日明後日くらいで書き終わる。
それから最終校正して、各話のサブタイトル決まってないのを決めて……
一週間以内には投下できる形になるかな。
他に誰も居なければ、司書氏の終了後、作者1氏の最終回の投下を挟んで、やらせてもらうかも。
最終校正直前になってから声上げようと思ってたんだけど。
他にもう最終校正までも済んでる人がいれば、そっちに譲る。
作者6氏現れる前くらいに取り掛かった奴がけっこういたから意外に終わりかけの奴多いかもね
>188〜191
のどかがいきなり殺されでいたが、という経緯で死んだかなぁ?
205です。今日、思った以上に時間が取れ、また筆が進んで、最後まで書き切ることができました。
あとはせいぜい、誤字脱字のチェックくらいのものです。
他に立候補者が居なければ、司書氏の次、第13部を予約させてもらいたいと思います。
「既に誤字脱字のチェックも完璧」という方が居れば、上でも書いた通りそちらに譲ります。
またこれも上で書いた通り、司書氏の作品の投下終了後、作者1氏の最終回を待って、開始するつもりでいます。
司書氏の作品の投下中に申し訳ないですが、よろしくお願いします。
<friend・前>
この島での二日目が始まった。
朝方の光を浴びても疲れと眠気は取れない。
エネルギーが足りないせいか体からダルさが取れない。
お腹を満たすために桜子は洗面所に向かった。
水道からは都会のものより冷たく、透き通った水が流れ出る。
目をしっかりと開けるために、まず顔を洗った。
「……ふう」
体は重くても、頭のほうは覚醒した。
気分も悪くない。
パララララ!!
すぐに気分が悪くなった。
遠くで聞こえたマシンガンの音。その後に、
「あっはっは!!美砂!!桜子!!どこにいるの!!私だけ仲間はずれ!?私も仲間に入れてよ!!ひゃははは!!」
円と再び顔を合わせることになる。桜子は何と無くだったが予期していた。
激突は不可避だろう。
そして今、その機会が訪れた。
「美砂、出るよ!」
居間に戻り桜子は臨戦態勢に入る。
「もしかして長谷川?」
居間の二人は銃声を聞いていないようだ。
「円が来たの」
「へ、本当に……」
「超りんは待ってて、円はマシンガン持ちみたいだから」
円のことについては超も聞いていた。
超は相手が銃器持ちなら桜子も危険じゃないかと思っていたが、口にすることは無い。釘宮円は彼女の親友なのだから。
「生きて帰ってくる。絶対ヨ!」
背中を押してあげること、超に出来ることはこれくらいしかなかった。
塀と塀に挟まれた道路、響くのは車のエンジン音でなく弾の連射音だ。
円は私達を誘っている。円に会えるのならこっちだって乗ってやる。
突き当たりを右に曲がると道のど真ん中に円が仁王立ちしていた。
前と違うのは武器だ。連射の聞きそうな銃器を所有している。
「美砂も桜子も生きてたんだ。嬉しいよ」
円は銃を肩に抱えて嗤う。
「二人には私の手以外で死ぬなんて許されないんだから」
危険人物にカテゴライズされた二人の親友、円。
相も変わらず負の感情を含んだ瞳でこちらを見ている。
「さっきのマシンガンの音。それで誰かを撃っていたの?」
「挑発と扇動だよ。暴れてりゃあ、きっと来てくれる。そう思っていたからね」
少しだけ安心した。
でも二人はあの銃の犠牲者がすでにいることを知らない。
「ねえ円……もうやめようよ。こんなことしても誰も救われない。円自身だって」
「それは無理な話。私にとって殺すことは呼吸をすることと同じ。誰も止めることなんて……できない!!」
こちらに向けての射撃。即座に壁へと隠れた。
「疼くの、美砂に蹴られた傷が……、桜子に切られた肩が……。倍にして返してあげる!!」
今度は狼狽することはない。大方こうなると予期していた。
円は生きていくために殺すことを取ったのか、それとも誰かに誑かされているのか?
どちらにしても私達に明確な殺意を持っている。
円を説得することなんてできるの?
……うん。きっと、できる。
私と美砂ならできる。
【円 IMIミニウージー入手 残り5人】
<friend・後>
一方的に蹂躙された友情。
でも、私達が諦めない限り希望はある。
「蜂の巣にしてやる!!」
掃射を円は止めない。銃を撃っている限りコンタクトを取ることはできない。
円は只撃っているわけじゃない。
銃声が少しずつ大きくなっている。これが何を意味するか?
そう、距離が詰められているのだ。
このまま壁に隠れているわけにはいかない。距離を取らないと。
「美砂!少し距離を……」
目の前で事が起こっているのに桜子は口を開けたまま唖然としていた。
桜子が見た出来事はこうだ。
円のマシンガンも常時撃てば弾が切れる。
そのときに新しいマガジンを装填するのに数秒かかる。
円は相手が飛び道具を持っていない、しかも殺す気もないと思い込んでいた。
「なっ!?」
二回目の補充時に美砂は飛び出した。
不可抗力でも同情でもない。
憐情なんかひとかけらも無いように見えた。
サイレンサー付の銃は音を発生させることは無い。
糸を切られた人形は地面へ突っ伏した。
黒き瞳は何も写さずにただこちらを見ている。
円は……死んでいた。
私達に憎悪の目を向けたまま、死んでいた。
「何で……」
桜子には美砂の気が知れない。
「どうして撃ったりしたの!助けようって約束したでしょ!」
確かに遅疑は自分の命をも危険に晒す、それでも!
「他に方法があったかも知れないのに!」
「へえ……、どんな?」
聞き返す美砂の声は冷たい。
「私だって好きでしたわけじゃない!!こんなことならいっそ私の手で……。そう思ったらもう円は倒れていた。
私は桜子を守りたかった!……分かってくれるよね?」
是非を問わせない言い方に桜子は感じていた。
”嘘だよ”
口を噤んだままで言葉にはしなかった。
美砂にも私と同様に痛切な思いがある―――――本当だろうか?
美砂が円に向けていた目はゴミを見る目と同じだったような気がする。
私を守るために撃った?そんな訳ない!
生き延びたいから撃ったんだ!自分の身に危険を感じたから!!
そうだ、決まっている!
こんな奴友達じゃ…………、
…………
(私は何を……)
自分が訝しげな表情をしていることに気付く。
美砂は美砂なりに悩んだ末に円を撃ったんだ。それを短絡的だと責めている私はどうかしている。
美砂のことを無頓着な人間だと思い込もうとしている。
ザジさんの時からの不満を引き摺ったままでいる、それだけだ。
自身が疲れているため悪いほうに考えてしまっているんだ。
疲れた心のガス抜きをするべきと自分に言い聞かせた。
動かなくなった円の所までゆっくりと歩いていく。
10歩ほどなのにとても遠い場所にいるように感じられた。
やっとたどり着き、顔に手を当てる。
円の瞼を閉ざしてあげることでこの悪夢を終わらせた。
「救えなくてごめんね……円……」
親友にかけた最後の言葉だった。
【釘宮円 死亡 残り4人】
【IMIミニウージー 弾切れ】
【美砂 箱入手】
<sink or swim>
暗澹とした表情を浮かべる桜子と美砂を超が見る。
二人が無事で暗い顔をしている、それだけで大方の予想がついた。
超は桜子の頭を撫ぜてやる。
「辛かったネ」
人に触れられているだけで桜子は不思議と落ち着きを取り戻していった。
「鍵のかかった箱があったよ。円のリュックに入ってた」
美砂は十分待ってから超へと話しかけた。
あまり重くない箱は壊そうとした跡があった。おそらくは円が行ったものだろう。
(頑丈そうには見えないけど……魔力的なもので封じられている?)
早速鍵を箱の錠前に突っ込むと、カチリという音と共に箱の上部が開いた。
「武器、ではないみたいね……」
「sacrifice」と書かれた一枚のCD以外には何も入っていない。
「中身が何か確認するために解析するネ」
都合よくノートパソコンを所有していたので、超はドライブにCDを入れてみた。
前回の日本語の文字ではない。全て半角のアルファベットと数字。
美砂も桜子もパソコンの扱いには慣れていない。よって、この文字が表す意味も知ることはできない。
(悪趣味なプログラム……)
超にはすぐ分かった。このプログラムの効果、使用法、さらには製作者までも……。
見えない敵との超との間に火花が飛び散る。
この敵には絶対に負けられない。なぜなら……。
(……覚悟を決めるネ)
「これは首輪解除のプログラムネ。でもこのままだとリスクが伴う」
二人にプログラムの内容だけ説明した。
「多少改造できるかもしれない」
画面を魅入られていた超がボソリと呟いた。
「時間が掛かりそうだから二人とも休んでいていいヨ」
気を使う言葉を口にした後は一点のみを見て手を高速で動かし始めた。
どうせ桜子も休まずにここにいるだろうと思っていた美砂の予測は外れた。
「お言葉に甘えさせてもらうよ。私、横にならせてもらうね」
曇った顔は晴れることなく、桜子は隣の部屋に消えていった。
頭脳明晰、数年に一人の天才と揶揄される超にとってパソコンはお手の物だ。
突貫してキーボードを打ち続ける。
「寝ないのか、美砂?」
「ええ、お気使いなく」
壁に寄り掛かり、時折超に視線を投げる。
「まだ私のこと警戒しているのか?」
「一応ね……桜子は根がああだからすぐ信じちゃうみたいだけど、私はそうもいかない。まだ超のこと信じてない。
パソコンのデータにだって詳しいことは何も書いてない。十分怪しいじゃない」
「手厳しい……、言うことが直球ネ。隠されるよりよっぽどマシだけどネ」
人と話していても超の作業スピードは落ちない。後ろの美砂を気にしていない。
逆に話し相手がいるほうが気楽に仕事を行うことができた。それが自分に不信感を持つ人であっても。
「自分が不審じゃないと立証することなんてできない」
「そうか?私は概念自体が違うと思うヨ」
ディスプレイに向き合ったまま美砂の意見に異を唱える。
「概念?」
「これは例えば、ifの話しヨ。
美砂は桜子が襲ってくると恐れているカ?」
「いや、全然」
超が手を止めて振り返った。
「そうゆうこと。信頼さえあれば"自分が不審じゃないと立証する"必要が無いと私は思う」
「…………」
超は一つ間を置いてから付言した。
「私も心置きなく信じてもらえるように努力するネ」
「こんな短い期間じゃ無理ね。円に襲われるような島だもの。新たな信頼が芽生えるようなことはきっと無い」
「……もっともの言い分ネ」
再び画面に向き合う超、美砂には打ち込む手のスピードが僅かながら上がったように見えた。
【残り4人】
<freedom>
一時間半ほどにおける超とパソコンとの格闘が終わった。
ふうっ、と働き終えた一息の後、彼女は奇怪なことを頼んだ。
「美砂。熱い紅茶淹れてくれるか?勿論悪くなければ……ネ」
自分で全てのことをやりきる超がどうでもいい頼みごとをするのは稀だ。
美砂も暇を持て余していたので素直に承諾し、リビングへ行った。
「紅茶なんかあるのか?」
台所の天井近くにある戸棚、ここら辺が怪しそうだ。
開いてみると塩、砂糖、胡椒の入れ物の隣に……紅茶のパックがあった。
(無駄なところまで手が込んでる)
やかんに三杯分の水を入れ火にかける。
安そうなティーカップを三つ並べ一つ一つにパックを入れる。
どうせ人のものなんだケチる必要なんか無い。
沸騰したお湯をカップに当分に注ぐ。
透明だった液体は適度な赤茶色へ染まっていく。
砂糖の入れ物と三つのカップをお盆の上に載せてリビングを出た。
「パックの種類はアールグレイしかなかったから。砂糖はご自由に。
つーか、打ち込んでいるときに頼めばいいのに」
「仕事を終えたから少し贅沢に浸りたくなるもの。サラリーマンが帰りにビールを飲むのと同じネ」
紅茶の味が安っぽくなるような分かりやすい表現だった。
「……私、桜子起こしてくる」
美砂はまた、部屋から出て行った。
超はいつもは砂糖を控えるが、今日は多めに入れた。
(……最後の贅沢ネ)
三人でティータイムを楽しんだ後に超は本題に入った。
「これは首輪を外すことができるプログラム。でもそれは一人だけ。
私が行った作業はこれで三人の首輪が外れるように改良した。ここまでOK?」
二人は間髪無く頷く。
「改造したためにこのプログラムからは確実性が消えた。だから二人にはプログラムを使用するかどうか決める権利がある。時間は有るからゆっくり考えてネ……」
「私は乗るよ!」
当たり前だよと言っている桜子の顔、即決だった。
「超が弄ったプログラムだもん。失敗するわけないよ!」
「……これはプレッシャーかかるネ。美砂は?」
美砂は神妙な面持ちで超に尋ねる。
「成功率は大体どれくらい?目安でいいから」
「80%位……かな」
「これは強気だな」
「仕事には抜かりはなかったつもりヨ」
高確率で首輪が外れる。降りるなんて考えられない。
「私もやるよ。こんなチャンスを逃がしたくない!」
「全員実行。私も努力を惜しまないよ」
やることはいたって単純。首輪についている解除スイッチを超が言ったタイミングで押すだけだ。
勇気のいること。でも怖くはない。私達をサポートするのはなんたってあの超鈴音なのだから!
「準備はいい?」
二人は静かに肯定の声を出した。
超の指がキーボード上で慌しく動く。
最後に"enter"ボタンを強く叩いた。
「今ネ!!」
首に装着されていた忌むべき爆弾は床へと落ちた。
「首輪が……取れたよ!!」
桜子は超に喝采を送る。
「ふふ……、何とか成功したみたいだヨ」
「えっ……」
異変は唐突にやってくる。
降り出した雨。それと、
ねえ……、
―――――何で超の首輪は外れていないの?
後―――――何で、……首輪が鳴ってるの?
「それは……仕様ネ」
一人だけ外れなかった首輪。
警告を発する音は不安を煽っていく。
最悪のシナリオが頭に浮かぶ。
杞憂であってほしいと心から思った。
「さっき言ったことはのは嘘。プログラムの名は"sacrifice" 、CDの首輪解除装置は"生贄"あって成り立つもの。どうやっても変更は許されなかった」
「そんな重要なこと……。どうして言ってくれなかったの!」
「魔が差した、それだけネ」
超は笑顔で、
「あと、言わないほうがかっこいいヨ」
的外れたことを言ってみせた。
「馬鹿……超は天才だけど、大馬鹿だよ……」
「ふふ、自分でもそう思うことがあるヨ」
音の刻みは少しずつ速くなっていく。
それが超と居られる時間を表していることは容易に知れた。
「プログラムは大成功。
二人の首輪が外せて本当に満足。心残りは……ない」
超は悲しい顔を一瞬だけ見せた。それは生きれない未練ではない。
「もしか……らこのゲームは私の責………かもしれない」
「えっ?」
俯いた超の小さな声は本人しか聞き取れなかった。
「私はもう行くネ。時間がない」
死ぬところ二人には見せたくはない。
「泣くな……桜子。私のために泣くなんて涙が勿体ない……」
超は頭に手をやり顔を覗き込む。
「桜子、あなたは生きなさい。美砂の為にも、周りの人の為にも。
あなたの笑顔は人を幸せにする力がある。桜子の笑顔があったからザジサンも最後まで笑顔でいられた。私も最後まで幸せでいられた。
美砂、あなたは桜子を守ってやりなさい。
この子は強い面、弱い面、双方を持っている。あなたがカバーしてあげて。美砂がいるから私も安心して逝ける。
…………説教くさくなっちゃったネ…………。
貴方達はまだ道半ば、二人とも……頑張って生きてヨ」
超が見せた、この島に入って初めて見た満面の朗笑。感嘆の声を漏らすほど美しい。
不羈の才を持った超のいつもと違う一面、人間らしさを見た。
超は玄関から勢いよく飛び出す。
「待ってよ!」
追おうとする桜子を美砂が取り押さえる。
「離してよ!美砂!離して!!」
「ダメだよ、追ったら。私達も超も辛くなるから……」
「嫌だよ……、ザジさんも円も死んで、超りんも……ううぅ。こんな仕打ちってないよ……。どうして!?どうして生きているってこんなに……辛いの?」
喉から絞り出した声も、もう嗚咽にしかならなかった。
程無くして雨音に消された爆発音―――――、一つの命が儚く消えていった。
【超鈴音 死亡 残り3人】
うわああああああああああ
超ォォォォォォォォォォォォ
桜子、今度こそ行けるかな・・・?
明日がラストです(二回投下予定)
>>208 ぜひ、頑張ってください
期待しています
超りんが好きになりますた
超……!
てか、そのディスクの名前の時点で展開は予想ついていたが……ついていたが……ッ!
超が死んだってことは二人はマナと対決か
……桜子頑張れ。超頑張れ
真名戦で死者が二人出たら首輪はずした意味なくなるし、真名だけ死ぬかみんな死ぬかだろうなぁ
マイハニー桜子ォォー!
生存おめでとうと先走る俺早漏乙
そろそろラスか……
<lie and truth・前>
本部のターゲットから除外された二人。
それでも他界から隔離されたこの島から逃げることはできない。
折角超が命を賭けて首輪を外してくれたのに、もどかしい気持ちになった。
辿り着いたのは空港だった。
外に出たいという願望がここへと導いたのだろうか?
降り出した暖かい雨は次第に強さを増していく。
濡れることもお構い無しに二人は滑走路を歩いていた。
「どうしよっか……これから……さ」
「なんか分からなくなっちゃったよ。自分が何をしていいのかも……」
雨に打たれるのを不快に思わない理由の一つは汚い自分を洗い流してくれる気がしたからだ。
雨の音が周囲を支配する中、桜子が美砂へと話しかけた。
「首輪もないから、飛行機で脱出するっていうのは?」
「誰が運転するの?」
勿論二人に操縦スキルは無い。
小型の船でもあればいいが、世の中うまくはいかないものだ。
桜子が託した一縷の望み、二人が生存する選択肢はこれくらいしかない。
「私達をハメた連中を無視して私達だけ逃げるの?クラスのみんなを置いていくの?」
「そ、れは…………」
ハッとした表情を見せる桜子。
「逃げたことを知られれば、報復として島に残っている全員の命が消されることだってある。
逃げられない、ううん、逃げちゃ駄目なんだよ。大元を潰さない限り」
叱咤に近い強い声で美砂が言った。
「うん。ごめん……」
「……いや、賢明な判断だと思うぞ」
二人の会話に刺された横槍は龍宮真名の声だった。
「今生きているのは私とお前たちの三人だけだ」
真名の首にも首輪は無かった。
「龍宮真名。元傭兵。戦闘能力大……」
パソコンで手にした情報を美砂は口ずさむ。
「私のことを知っているらしいな……まあ、どうでもいいことだが」
真名はやけに饒舌だった。
「私達が残ったのは必然だ。不必要なもの、不適当なものは除き去られた。
そう、淘汰されたのだよ。
脇役は去った。誰が主演に相応しいか決めるとしよう」
真名の獲物が姿を現す、銀色のマグナムだ。
体を見れば脇腹に拳銃三丁。リュックからはみ出ている銃一丁。二対一であっても火力の差は5倍以上ある
さらには"戦闘能力大"という情報が二人を不安にさせる。
「首輪ももうないんですから、戦う意味なんてありません!!」
「君達になくても私にはあるのさ」
まだ殺し合おうとする真名の気が知れない。
「構えろ。小物を狩るのは嫌いなんだ。せめて生き延びたい気持ちを見せろ」
真名の警告にも応じず、二人はただ真名の目を見ている。
やれやれといった仕草を真名は取ると笑みを含んだ口で再び話し始めた。
「なら、理由を与えよう」
―――――狂った親友と再開できたかい?
意外な言葉が真名から発せられた。これは二人を焚きつける行為。
「な、なんでそれを……」
「…………」
桜子は驚き、美砂は怒りを露わにした。
真名の扇情的な発言は続く。
「会えたのか、それは良かったな。
釘宮を誑かし壊したのは私だ、刹那と違って良い隷属として働いてくれた。
まあ、逝ってしまったのはいささか残念だが……」
残念そうな素振り一つ見せずに二人を挑発する。
円の行動と言動、原因は円と真名に接点があったこと。つまり、円を壊した奴が目の前にいる。
紛れもない仇敵と認識すると桜子の体は震えた。
怖いから、いや違う。憤怒、やりきれなさ、悔い、あらゆる感情が体にリアクションを求めたのだ。
忌むべき相手を間違ってはいけないのに、怒りを灯った目が真名から離れない。
「まあ殺す手間が省けたから良しとしておこう」
笑うではなく嗤う真名。導火線に火は付けられた。
怒りから来る戦慄き、初めての経験だった。
「美砂、ちょっと隠れてて……危ないから」
「ふっ、やる気になってくれたようだな。煽った甲斐があるというものだ」
静穏なる気迫が辺りに広がっていく。
「そうでもしないと殺す気すら起こらないんだよ」
銃対鎌。勝負になんかならない。引き金を引いて終わり。
ドゥン!
桜子は立ったままだ。
胸を捕らえた筈の弾丸がない。いや、あった。
真っ二つになった弾丸が桜子の左右の地面に転がっていた。
馬鹿な!?マグナムだぞ?剣で銃を捉えたのは百歩譲ってよしとしよう。
しかし、まともな刃物では拳銃でも屈指の破壊力を誇る弾を斬るのは不可能だ。
真名のリボルバーが旋律を奏でる。
次弾発射インターバルを極限まで短くし、四発を発射する。
迫る銃丸、桜子はそれを無造作に薙ぎ払うだけで切り落とす。
狙いが精密なだけに容易かった。
「……ふふ、ふはは……」
真名は喜んでいた。
安全策を常に取る方法はやはり自分には合わない。
自分の命を天秤にかけるような死闘こそが私の望むもの。
最後の最後で自分に張り合える敵に会えた。
「一般人をも進化させるアーティファクトか……、おもしろい!」
真名の目が一段と鋭くなった。
【残り3人】
<lie and truth・中>
美砂は固唾を呑んで見守っていた。
桜子と真名が行っている戦闘は常軌を逸している。
そんなところに美砂が入る余地など今は1%たりとも無かった。
技量の違いは明らかだ。
アイテムの質に頼りっぱなしの桜子と対照的に、真名は銃一つでも色々な攻撃手段を持っている。
補正が掛かっていても百戦錬磨の真名相手には無理がある。
卓絶された妙技、真名が手を緩めることはない。
でも不可解なことに翻弄しているように見えない、互角と言ってもいい。
力と武器の質だけ、経験も判断力も真名に劣っている。
スキルも何も無い力任せのゴリ押し。
けれど、これほど怖いものはないのだ。
技術もない、ただ振り回しているだけ。なのに真名の顔には余裕の色はなかった。
躍動的な一撃は重く、斬撃を受けることは不可能。かわす他無い。
一撃必殺同士の火花の散らし合いは些細なミスで均衡が崩れるだろう。
真名は大きく後ろへ跳び、間を作った。
桜子は追いたかったが、本能的な勘が働き深追いをしなかった。
「拳銃は効かないか……。ならこいつを使うとしよう」
左手のファイブセブンを連射の利くステアーに持ち替える。
「さて、どうかな?」
トリガーを引くと同時に無数の弾が等加速し獲物を襲う。
こんな鉛球何てことはない。斬ればいい。
着弾前に鎌を振るう。
球はやはり真っ二つに切れた。………3つの弾丸を残して。
それぞれが肩、太もも、脇腹を掠めていく。
……均衡は脆くも崩れた。
「さすがに間に合わないようだな!!」
攻勢と判断し、突撃銃で人間の弱点を狙う。
(やばっ)
桜子は判断早く左へ飛び、建物の中へと入った。
勢いがなくなるまで転がり続ける。
体の擦り傷の確認もせずに起き上がった。
「…………」
建物は新築なのか綺麗に整理されている。
「ふっ!」
が、連射される弾丸によってあっという間に散らかされた。
桜子は身を屈め、隣の部屋に駆け込む。
清潔感漂う大きなオフィスは障害物が多々ある。
ここならある程度は銃弾をやり過ごせそうだ。
「甘いな」
桜子には散見する余裕など与えられない。
「……まず」
足を撃ち貫かれながらも机の下へと隠れた。
下を潜りながら部屋の隅の方へと移動していく。
(……こいつは……困ったよ)
こう考えている間にも弾が縦横無尽に部屋を飛び回っている。
これでは仕掛ける余地もない。
間隔を詰める前に穴だらけになってしまう。
でもここままだと埒があかないばかりか状況は悪化する。
「……へっ?」
放物線を描いて上から"何か"が降ってくる。
確認する時間もなく鎌を縦にし切り裂いた。
これは……オフィスによくある椅子だ。
相手が投げてきた、言うまでもなく分かる。
「そこか!」
私が動きを見せたことで居場所がバレた。
焦るな!頭の熱を取って、よーく考えるんだ。
弾だって有限なんだ、補充しないと尽きる。なら、その時を狙えば……。
考えてるそばから火を噴く音は停止した。
(今なら)
机の横に出て…………真名の元へ向かうことなく隣の机の背後に隠れた。
直後に別の発砲音が響く。
このまま向かっていたら眉間に穴が開いていただろう。
(くっ!)
両手に銃を装備している真名には銃を撃てない間隔などなかった。
「お前が戦う力を持っていようと、いまいと、本気でかかってくる奴に手加減をする気はない」
距離は20mほど、もう瀬戸際まで追い詰められている。
延々とここで凌げるほど相手は甘くない。こちらからのアクションが無ければ100%チェックメイトだ。
この劣勢を打開するには無茶をするしかない。
でも、正攻法ではきっと駄目だ。
なら、どうする?
……命を賭けて反撃する以外に方法は皆無。
(こう見えても私、勝負事には強いんだから!)
自分自身の言葉に鼓舞され、桜子は博打に出た。
華奢な体にあるだけの力を溜め込む。
酸素をできるだけ多く取り込んでから机の上に上がり、"跳んだ"。
誰もが突飛な行動で命知らずと思うだろう。
だがそれは違う。真名は身を隠し、被弾率を下げながら接近できる下方向に意識を取られていた。
上からは来るまいと思い、故に銃口も下がっていたのだ。
相手が一般人であるためにできた余裕という名の油断が桜子に好機を与えた。
この跳び込みの度合いは身体能力ではない。どれだけ恐怖を払拭することができたかの勇気だけだ。
桜子が怖気づくことはまったくなかった。
賭けたものは今の自分の全て、故に跳び込みは鋭く的確かつ高速、桜子のポテンシャルを最大限引き出すものだった。
高を括っていた真名は知る。
右手のベレッタでしか狙撃は間に合わない。しかし、撃っても大鎌は桜子への被弾を許さないだろう。
私には防御をするという後手のカードしか手に持っていない。
「大した勇気だ……賞賛に値する」
身を削って作った勝機を逃すわけにはいかない。
銃の弱点は近距離、密着すれば……、
「だが、言ってなかったな。私に苦手な距離はない」
真名はカードの一つ、カウンターという最も攻撃的なカードを選択した。
桜子の振り下ろしを右手のベレッタで受ける。
銃身ごと破壊され使い物にならなくなった。
防御のため銃を切り捨て、起死回生の一撃を流す。
もう一振り……。
「……心惜しいが、終わりだ」
至近距離で頭に向けられた左手のステアー。終わった、チェックメイトだ。
桜子もこの島に来てから修羅場を踏んで来た。
しかし、百戦錬磨の真名に1対1で挑むのは無謀すぎた。
そう、1対1では……、
「伏せて!」
入る余地などなかった。真名の意識が1%でも美砂にあるならば!
―――――だから、このタイミングしかない!
万雷の音が轟き渡る。
(スタングレネードだと!?)
鼓膜へ直接作用する音響弾は平衡感覚を奪い、神経伝達を狂わせた。
引き金を絞るだけで終わるのにそれすらもできない。
銃を離さないで地面に這い蹲るのが真名にできる精一杯のことだった。
勝ち急ぐな。
相手だって動けないんだ。
相手だって……。
顔を上げると、そこにはつまらなそうに見つめる一人の人間がいた。
人間?人間ならこの音で立ってはいられない。
なら何だ?目の前にいるものは?
利刃一閃
理解する前に真名の意識は落ちた。
「くっ、う……」
部屋の外にいた美砂でさえ立っていられなかった。
耳の異変を気にせず窓から部屋を覗きこむと誰もいなかった。
「……終わった」
桜子はすでに建物の外に出ていた。
「ということは龍宮……は?」
「うん、殺しちゃったんだ……私……。熊の時とまったく同じだった……」
「そう……なんだ」
残っているのは二人だけ。
「……おかげさまで助かったよ」
「え?」
無音。腹の痛み。
「あれ……?」
桜子は銃を手に持っていない。ならば撃ったのは必然的に、
「美砂…………」
お腹を押さえながら桜子は膝から崩れた。
【龍宮真名 死亡 残り2人】
休憩はさみます
な、なんだってぇぇーッ!!
あーあ
待て待て待てー!!!!!
いやこれ桜子死なないフラグとも詠めるぞ・・・
誰か真名にも触れてやれよww
真名は「どうやって倒すか」しか興味なかったw
<lie and truth・後>
島に立っている3−Aの生徒は一人になった。
生きている者も二人、じきに一人になる。
「一発で絶命させるつもりだったんだけど、可愛い桜子の顔には撃ちにくくてさ……。
大丈夫、すぐ楽にしてあげるから」
このまま撃つつもりだった。桜子が話さなければ……、
「あなたは……誰?」
この言葉に拍子抜けしてしまった。
「…………、あーあ、桜子もおかしくなっちゃったのかな?美砂だよ、柿崎美砂!オーケー?」
桜子は自分の言った言葉を取り消すように首を振った。
「ううん、あなたは美砂じゃない。今なら確信を持って言える……」
ここまで言い切られるとさすがにふざけた態度はとれなかった。
「……見破られていたってわけだ。できれば知らないまま逝ってもらったほうが良かったんだけど」
顎のあたりに手をやる。
ベリッ、バサッ。
「他人に成り済ますことが3−Aでできるのは和美ちん、しかいない」
「御名答」
状況に変わりはない。見下ろしている顔が美砂から和美に変わっただけだ。
「超りんが朝倉の死体を見たって言ってた。あの時に入れ替わった、わけだ」
「そう、柿崎を殺して"朝倉和美"にしたってわけ。
放送も入ったばっかりだったし、入れ替わるのには絶好の機会だった。
朝に定刻が入ると思っていたから、それまでに二人とも仕留めようと思ってたんだけどさ、なんか超に怪しまれている感があったから動かなかった。
まあ、私にはそれが吉と出たみたいだけどね。
知っての通り釘宮を殺したのも私。私がチアの二人を殺した当事者ってことになるね」
桜子の中でやっと辻褄が合った。
ザジを止めようとしなかったのも、円を後込みなく簡単に撃てたのも。
和美には特に関係のないことだったから……。
むしろ二人とも邪魔だったんだ。
「私は柿崎美砂という人物を演じてた。結構うまくやっていたと思うんだけど……どこが駄目だったんだろ?」
「演じる対象が間違えてる。
朝倉は"自分の命を大切にする美砂"を演じていたから。
それと、雰囲気。いつもと違った」
「はは、大根役者じゃ親友を演じきれないってことか……。」
――――ゆらり。
滾る感情は見受けられない。桜子の顔から苦悶が消えた。
どんなことをしたって私が人差し指を動かせばもう終わるんだ。
「……じゃあね、さようなら。桜子」
引き金を強く押す……ビクともしない。
銃が撃てない?何故?
どんなに力を入れてもトリガーは動かない、まるで何か別の力が働いているように。
銃から桜子に目線を変える。
見るべきではなかった。
たとえ銃が撃てたとしても、銃弾が彼女に当たるとは思えなかった。
赤橙の目は和美の視線を釘付けにする。
鎌からは禍々しい気が溢れ出ている。
血が全身から流れ出て、特に和美に撃たれた腹の傷が酷い。それでも立ってこっちを無感情で見ている。
(ありえない!致命傷の筈なのに!)
龍宮でも止められなかった。そんな奴を私が止める?
一撃で殺さなかった私の判断ミスだ。落ち度は自分にある。
何たる失態!この島では失敗は許されないというのに!
失敗を犯したものは例外なく死ぬ。今までうまく立ち振る舞っていたからこそ自分の命があるのだ。
桜子はサイズを右手に抱え、猪突猛進してくる。
命を狩る者、死神と化した桜子を止める術は残されていない。
和美は理不尽な自分の死を覚悟した。
閉じてしまった目を開ける。広がる光景は地獄でも三途の川でもない、空港のままだ。
私の前で佇む彼女は死神ではなく良く知る桜子だった。
「こんなの……良くないよね。やめよ……」
ズドンッ!!!
鎌から手を離し滑走路に寝転がる。
「私の命もこの傷じゃ長くないんだし、朝倉に帰ってもらったほうがいいね」
和美も膝を抱えて隣に座る。
銃はもう持っていなかった。なんとなく手を離してしまった。
上に向けられた桜子の目線。
雨は止み、雲の隙間から日差しが幻想的に差し込む。
和美も空を仰いでいた。
「さっきの桜子なら私を殺すことができた。戦闘を放棄した理由が私には理解できない」
「簡単だよ。……殺すのは良くないから、そう教えられてきたから。
あとさ、もうなんか……帰りたくなくなっちゃったし」
「………………そっか」
黒い雲は消え、夏の太陽が威厳を見せ始める。止まない雨はないのだ。
「ねえ、和美……」
呼び捨てで下の名を呼ばれる。何か桜子が重要なことを言おうとしている、和美は察した。
「クラスメイトを手にかけたこと、後悔してる?」
「それは愚問。後悔するくらいならやらない……いや、後悔を承知で私は立ち回っていたのかもしれない」
私は教室に集められ、女が楽しそうに話し始めた時から物騒なことを考えていたのか?
過去の話だ。よく分からない。
感情にも鮮度というものがある。当時の気持ちはその当時にしか言い表すことはできない。
「罪の意識があるなら、許しを貰いたいと思わないの?」
「これだけのこと仕出かしたんだ。都合良く許してもらえるなんて思ってないよ」
桜子がこちらを向いた。
「皆が和美を許さなくても、私が和美を許します」
「……!」
円と美砂を殺した張本人を許す?口から出任せもいいところだ。
「私は桜子の親友の命を二度も奪った!」
「うん。道徳的に許されることじゃないよね……。
でも、美砂がね、言ったの。”私は敵を間違えたくない”。
きっかけを与えたのは発案者なのだから。
だから私はこの島の犠牲者でもある朝倉和美を許します……」
さっきまで桜子に取り憑いていたのが死神なら、今は女神でも乗り移ったのか?
神々しさをも含む引き締まった声で桜子は言った。
誰かから赦免をもらうことなんてないと思っていた。望んでもいなかった。
なのに、桜子の言葉を受け入れるとこんなにも落ち着く。
心の奥底で許しが欲しいと嘆いていたのだろうか?
自分のことなのに曖昧な答えしか見つからない。
「……一つだけ約束して欲しい」
「……何?無理なことはできないよ……」
規制のない約束は破るためにある、そう考えていた和美は釘を先に刺しておいた。
「無理かどうかは分からないけど……。
この島で起こったことを、自分のしたことを忘れないで欲しい。
それは辛いことだと思う。でも、生き残った人にはその義務があると思うの」
全身にこべりついた血の臭い。瀕死の奴らが私を見る怨恨の目…………忘れるなんてできっこない。
「これも罰……か」
桜子は和美の明言を求めなかった。この一言で求める必要がなくなった。
「暖かいからさ、なんだか眠くなってきたなあ……」
横になっている桜子の近辺は本人の血で赤に染まっている。
彼女に残された時間はほとんどない。
私の存在がバレてからどれくらいの時が経ったのだろう?
失われた時間感覚。
一瞬であり、永遠であるこの時間。もちろんこれは主観に過ぎない。
時はいつでも正確に刻んでいる。
「あ……」
薄く目を開けていることしかできないのか?
目線の先は海と空の境界線だ。
視界いっぱいに広がる海から海へ架ける極彩色の轍、見事な半円を描いている。
「虹…………」
意味を成さない言葉、ただ綺麗と思ったから口に出た。
―――――桜子の発した最後の言葉だった。
【椎名桜子 死亡 残り1人】
<finale>
「いかんいかん、寝過ごしてしまったよ。
というわけで、定刻放送の時間だ。といっても、定刻に放送していないがな。
死んだのは朝倉和美(出席番号3番)、和泉亜子(出席番号5番)、柿崎美砂(出席番号7番)、古菲(出席番号12番)、
近衛木乃香(出席番号13番)、桜咲刹那(出席番号15番)、龍宮真名(出席番号18番)、超鈴音(出席番号19番)、
長谷川千雨(出席番号25番)、宮崎のどか(出席番号27番)、ザジ・レニーデイ(出席番号31番)だ。
全員死んでしまったのか? うむ、首輪の反応がないな。残念だ。
捜索隊は見回りを始めろ」
捜索隊は生き残りを発見したそうだ。
名は出席番号3番の朝倉和美。
発見時には首輪が付いていなかった。
彼女の発見時に起きたエピソードを少しばかり紹介しよう。
「かったりーな」
「職務怠惰は減給モンだぞ」
こんな妙な場所まで来て減給は困る。
だけどなぁ……。
「どうせ誰もいりゃしねーだろ?首輪の反応もないって聞いてるしよぉ」
「上司様の命令なんだ。仕方ねえだろ?」
所詮傭兵くずれ、扱いなんてこんなもんだよな。
まあ、金がぼっかり入ってくるんだ。不満の一つや二つ、我慢できる。
「大体よぉ……、もっと危ない橋渡らされると思ってたぜ?それがこんな楽な仕事なんて拍子抜けもいいところだぜ」
「確かにな。こんだけの金が転がり込んでくるのに楽な仕事だったな。
まあ、情報の守秘義務とかありそうな内容だったが」
悪趣味な殺し合いの閲覧だ。表沙汰にはできないことだろう。
こんだけの金と要人が関わってるんだ。もし、俺が外部に情報を漏らすようなことをしたら……暗殺だろう。ブルル。
(さっさと終わらせて札束手に入れるぞ)
最後の見回り箇所である空港に着いた。
「ここも異常なし……と」
「お前はサボり癖つきすぎだ。カメラだって回ってるんだぞ?」
「はいはい、分かっ……」
隠れもせずにそいつは"いた"。
体育座りで海を眺めている。もちろん、背中を向けていることになる。
取り合えず身を隠した。
「あー、あー、こちら捜索班B2。生存者発見、生存者発見。応答求む」
相棒が小さい声でトランシーバーを操作している間、俺はターゲットの様子を見ていた。
首輪は付けていない。
服従を強要することはできない?抵抗する可能性がある。
武器の確認は不可。
まあ、ここまで生き残ってきた奴だ。恐らく携帯している。
隣には血に染まった地面の上に仰向けに寝ている人、永眠だろう。
「捕獲、生かして同行。だとよ」
「やる気だったら少々手こずるな……」
俺の手には催涙弾。シャカ持ちに対しては少々不甲斐ない武器だ。
「気絶させるのが一番手っ取り早い。仕掛けるぞ」
その前に動いたのは標的だった。急に立ち上がに、独り言を言い始めたのだ。
「二人ともさ、私に物騒なもの向けるのやめてよ。もう、疲れきってるんだから」
俺らに向けての言葉だった。
完璧に気配を消している。これでもプロなんだ。気付かれるなんてありえない。
だが、ありえないことが起こった。しかもこっちを見ることなく人数まで正確に……。
警戒を強めていた。修羅場を潜り抜けてきた生存本能によるものだ。
「だ〜か〜ら〜、やる気もないし今は丸腰。ほらっ」
空に向け手を上げる、戦闘意思がないことを示しているつもりなのだろう。
それでも脳から危険信号が出ていた。
ここに集められた子供達はただの学生と聞いている。
……それが一日でプロ顔負けの戦闘マシンとなるのか?
「本部にお招き、ってところでしょ。……これで帰れなかったら暴れてやる」
彼女は武器を持つ俺らを見向きもせずにズカズカと島の中心へ歩いていった。それを多少の距離を取って追うのだった。
こんなところだ。
結局は生き残ったのは朝倉和美だけ。
魔法を使えない彼女は無事日常へと帰っていったとさ……。
おしまい。
【プログラム終了 勝利者:朝倉和美】
<phantom thief>
厄介事はもうゴメンだと思っていられたのはたった一週間。
私は通常生活の刺激だけでは生きていけない。
生きている、それだけではつまらない。
私は日常というぬるま湯に拒否反応を示す体になっていた。
私は親に何も連絡せずに学校を辞めた。
真帆良にいられる立場じゃなかったし、もういる意味など無かった。
バイトをしながら生計と立て、勉強をした。
勉強は二種類。高校受験の勉強と魔法の勉強。
普通の勉強は大したことは無かった。
所詮、教科書に書いてあることでしかない。面白くも無いが並の知識は簡単に身につく。
比べて後者は素晴らしいものだった。
ネットで魔法のことを書いたHPを作成したら早速獲物が食いついてくる。
私はそいつらとコンタクトをとることで再び魔法との接点を持つことができた。
島に行く前には、魔法習得への欲望など1%たりともなかったのに……。
人は常に変わるものである。
裏世界の片鱗に触れること、表に生きる者には決して味わえない刺激が私を恍惚させた。
尽きること無い闇の世界、勉強を苦に感じることも無い。
見る見るうちに力をつけていった。
表では高校を受験し合格した頃、私は禁忌を犯した。
情報の強奪、すなわち窃盗である。
行動力と魔法の力を駆使してあらゆるものを盗んだ。
それはお宝。
それは情報。
それは新しい魔法、新しい闇。
怪盗行為に飽きることは無い。
新しいモノは新しい刺激をくれた。
盗んだモノのほとんどの相手が悪い噂の絶えない連中のだったのは、私が悪役にも成りきれていない証だ。
魔法世界は当然、私を要注意人物と指定した。拘束目当てから賞金を懸けられるまでになった。
それを喜んでいた。
面白い、面白いよ、それ!
捕まえられるなら、捕まえてみろ!
誰かに狙われている事実は私をより高揚させた。
高校に通い始めてから私は髪を切った。
過去の自分に未練を残さないため、新しい自分へ生まれ変わるための二通りの意味があった。
表で普通に生活する私と、裏で暗躍する私。どちらも私であることに変わりはない。
「**〜、何ボーっとしてるの〜」
****。私が表で使っている名前、もちろん偽名である。
朝倉和美という存在はあの島で死んだ。
新しい私となったんだ。昔の名などもう要らない。
「聞いた〜、また出たんだって?」
「アレでしょ?予告状を送ってから、盗み出す。
まったくさ、警察は何やってんだろうね〜」
「暴力団とか、怪しい宗教団体とかが標的だからやる気が出ないんじゃないかな。俗に言う義賊ってやつ?」
高校での友達は私の話をしていた。
無論、その正体を知るわけもない。
目の前にいる友達、何の不満もないし私も大切な人だと思っている。
でも、もし今のクラスでまたBRに巻き込まれたとしたらどうだろうか?
決まっている。誰であろうと私は撃つ、と思う。
BRは現実世界と非現実世界の混合。
日常と非日常の区別がつかなくなったなら、迷わず非日常を取る。
それが日常に取って代わることになると思う。
今だってそうだ。
もし高校生と裏の顔、どちらかを選ぶ状況になったら**という存在はこの世から消滅するだろう。
私は飽きっぽくなった。
今やっていることに飽きたら私は最高の刺激、BRの全貌について調べたいと思う。
決して仇討ちや復讐で首を突っ込むわけではない。
―――――ただ楽しそうだから。最高の理由である。
「……本当にそうなの?」
脳の中に素の私を見つめ続けながら死んだ懐かしい声が蘇る。
彼女は私に日常に戻ったら善行をするよう諭すことはしなかった。
真意は闇の中だが、大方私が今のような行動を取るだろうと考えていたのだろう。
だから、彼女は一つしか言わなかった。約束しなかった。
「忘れないで下さい」
また声が頭に流れる。
今でも思い出すことがある。
脳に焼き付いているんだ、仕方ない。
血塗れた手でクラスメイトを消し去った瞬間。そんな私を一方的に信用した超の決意ある瞳。私に向けられた桜子の無垢な明眸。
屈託の無い二人の笑顔は忘れられない。
あんな顔、私には向けて欲しくなかった。その前に消すべきだったんだ。
(私は地獄に落ちるのに……人としての倫理観に縛られている……撫様なもんだな)
もう一度問う。またBRに巻き込まれたとしたらどうだろうか?
私は命を奪うことができるのか?
できない……気がする。だって私の悪魔になるための決意を桜子は"盗んで"しまったから。
取り返すこともできない。
何故って、奪ったまま彼女は死んでしまったから。
あのときのように蝉が自己主張を始める季節、
また暑苦しい夏が……始まる。
ttp://www.uploda.org/uporg511209.jpg 〜fin〜
あとがき(駄文)
というわけで12部終了。作り上げるのに時間がかかった作品も投下するとすぐに終わってしまうものですね。
癖のある作品、変化球しか投げられない私ですが今回も新しいことに取り組んで斬新さを前面に出していったつもりです(二部構成がメイン)。
昔のようにスレを活性化させることが今回の目標でした。でも、私の力不足でうまくいきませんでした。うう、お恥ずかしい……。
その中でも、私の作品を読んでくれたお方には感謝しています。見捨てないでくれてありがとー。
私は本業のほうに戻ります。もうNBRを書くことは99%ありません(ネタもないので)。
これから投下される◆K05j0rAv6k氏、作者の皆さん、一読者として期待しています。
ちなみに作品補完を三話投下予定です。早いうちに投下できればいいんですが…………。
司書
GJ!
変化球使えず直球ネタしか執筆中の作品に織り混ぜれてないだけに尊敬します
しかしまさか朝倉が生きるなんて……正体判明した段階で桜子優勝だと思ったんだけどなぁ
お疲れ様でした!
そして古株さんが次々引退してく……orz
GJとしか言い様がない・・・かなり意外でした。面白かったです。
機会があれば違う話など読んでみたい・・・まぁ聞き流して下さい
本当にお疲れ様でした。
司書さんGJです!!
直球勝負だった11部に対してなんとも斬新なスタイルで繰り広げられたネギロワでした!
補完の三話も楽しみにしています!
……それはそうとまとめサイトが更新停止中で過去ログが読めない……orz
GJ!!
二部構成は見ててすごく楽しかった
それだけにまた次も書いて欲しい…なんて思いました
まあ戯言なんで気にしないで下さい
本当にお疲れ様でした
それとどうでもいいことですが
ラストの朝倉がキャッツアイっぽく感じたのは自分だけでしょうかね?
実にGJでした!
てっきり補完ネタでやるんだと思っていた朝倉…。
ま さ か 変 装 とは…!!
美砂に感じたさりげない違和感の解消がお見事でした。
フィニッシュから朝倉の語りの流れも良かったです。
一応補完の投下があるようなのでちょっと足早ですが
この言葉を
「お疲れ様でした!」
司書さん、お疲れ様でした。
そうか、朝倉の変装ネタか……。それは気付かなかった……!
意外な展開が多く、一読者としてとても楽しませてもらいました。
GJ! です。
さて、校正も完了しましたし、司書さんの作品も終わりましたし、他に名乗り出る方もいらっしゃらないようなので。
正式に、「作者13」を名乗らせてもらおうと思います。
……他の名前も考えはしたのですがね。作者ゼロとか(謎)。
でもこのスレでは新参者ですし、「13」という数字もなかなか不吉で良さそうな感じです。
古参の司書氏の後で緊張しますが、よろしくお願いします。
しばらく余韻の時間も必要でしょうし、作者1氏の投下もありますし。統計の人も来るんでしょうか。
実際の開始は、少し後になるかと思います。では。
このスレの趣旨がわからん。
誰か教えてくれ。
ネギまキャラでバトルロワイアルSSスレ。
ただリレーでなく、単独作者による書き切り長編SS形式。
立候補者が多かったために、「全部書ききった者から連載する」形になった。
らしい。
初期の経緯はリアルタイムじゃ知らないけれどね
この辺のことテンプレで簡単に触れた方がいいかもな
バトロワでSSっつったらリレー形式が多いし
ていうかリレーじゃないのはここだけじゃなかったか?
テンプレ追加するのには大賛成
テンプレ案。
↓
このスレは、『魔法先生ネギま!』キャラを用いたバトロワスレです。
<特徴>
他の多くのバトロワスレはリレー小説の形式を取っていますが、このスレでは異なります。
単独の作者による、長編SSスレとなっています。
現在、第12部まで完了。各長編SSはそれぞれ独立したお話となっています。
たまに、既に完結したお話のサイドストーリー、アナザーストーリーなどの短編が書かれることもあります。
<作者志望の方へ>
このスレでは、原則オープニングからエンディングまで全て書き終えた者が連載を開始できます。
見切り発車厳禁。頑張って書き上げましょう。
完成したら宣言の上、皆の了承を得て投下を開始して下さい。
<注意事項>
作品に対して内容にケチをつけたり、一方的な批判をするのはやめましょう。
こういう人が居ても、他の人は荒らしとみなしてスルーしましょう。
作者の都合もありますので、早くしろなどの催促はできるだけしないように。
次スレは原則
>>950を踏んだの人が立てること。
容量オーバーになりそうなときは、気づいた人が宣言して立てましょう。
基本的にsage進行。
テンプレの
>>2以降は現状のままで。
sage進行の意味を示すAA、必要かな? アレ入れると容量的に収まらないんだけど。
アキラのバニーは自分も好きだが
GJ!
いいと思いますよ、心底GJです
sageの説明をするバニーアキラはいい味だしてるし、いっそ
>>3にぶちこんではどうだろうか
んで
>>3はロワスレで必須の2ちゃん常識を書いとくとか……
例えば鳥の付け方説明したりね
お久しぶりです。
第8部短編最終回を今すぐに投下しようと思えば出来るのですが
ちょっとした事情で明日の今頃の投下になります。
そして最後に、司書氏お疲れ様でした。
GJでした!
>>273 wktkして待ってます!
作者1氏は今夜投下予定ですか。
では、私は明日の夜から開始する腹積もりで準備しておきます。
作者1さん、楽しみにしてます。
第8部短編最終回
希望もなければ助かる見込みもない。
生きていながらアキラは死体も同然の状態だ。そばにいる千雨とネギに殺意むき出しだ。
たとえ取り押さえたとしてもアキラは元の姿には戻らない。
永遠に復讐鬼のままで戦い続けることしかないからだ。
「…アキラさん」
ネギの光の矢を食らいながらも突進するアキラ。
全力では撃たない、相手の動きを止める程度に力をセーブしていた。
そうしなければアキラの体を貫いてしまう。この5年間で自分自身を鍛えなおしたネギはそこまで成長していた。
だがその力を今守るべき生徒に向けているのだ、こんな苦しみはないだろう。
「うわあああああああああああああああああっ!」
二人を切り裂くように振り下ろされた夕凪の太刀。千雨とネギは左右に飛んでよける。
ネギはそれでも光の矢を連射しながらアキラを何とか止めようとした。
だがアキラは多少食らいながらも構わず突撃してくる、アキラの一撃でネギの杖の先が少し飛ぶ。
「このぉぉ!!」
ズシッ
後ろから千雨のモップの先がアキラの頭を直撃した。
「これで十分だろ…もういいだろ…」
千雨の声が震えていた、アキラは頭から血を流しながらもこちらを睨む。
「もういいだろ…なぁ…アキラよぉぉぉぉぉ!!」
アキラはもう戻ることはないと思いながらも涙目で訴えた……たとえそれが届かなくとも。
シュン
横になぎ払った太刀は千雨の持っていたモップを真っ二つに切り裂く。
手加減などしない、もう敵としか見ない相手など蹴散らしてくれる。
復讐鬼と化したアキラはもうネギもかつてのクラスメイトも敵としか見えていない。
悲痛な思いでアキラを見つめるネギはやはり、光の矢の力が弱い。構わず突進しネギに蹴りをお見舞いした。
大振りな蹴りだったが体格的にネギの体勢を崩すには丁度良い。
致命傷でなくていい、体勢を崩せばそれがほんの少しでも隙となる。アキラの夕凪がネギに一直線に点かれる。
手負いのネギは体勢を立て直すだけで精一杯だ。避けきれない。
「先生ーーーーーー!!」
千雨の叫びがこだまする。それと同時にネギの体が真横に突き飛ばされる。
次の瞬間、アキラの夕凪の先が恐ろしいほどあっさりと千雨の体に入っていく。
「ぐ!?」
「千雨さん!!」
アキラが夕凪を抜くと、そこからはおびただしい量の血が流れ出る。
「が…はっ……」
そこまで倒れる瞬間があまりにも不自然で、自分の体ではないような感覚。
気づけば草むらに顔が埋まっていた。
「千雨さん!」
ネギの叫びも遠く聞こえる。痛くて苦しくて顔が酷く歪んだ。
邪魔者が一人消えたことによりアキラはネギにターゲットを絞った。
5年前、優しく包み込んでくれた優しいアキラはもういない。
ネギはアキラの攻撃を必死になってかわすがどうしても決定打が見出せない。
いや、見出せないのではなく、ネギ自身が攻撃に踏み込めない。
「ハァ…ハァ…」
腹からの出血と痛みで今にも意識が飛びそうになる。
だがそれは出来ない、アキラの暴走を何としても止めなくてはいけない。
言葉で分からなければ殴ってでも分からせるのが千雨の自論だ。今にも消え入りそうな自分を奮い立たせる。
ポケットから取り出したのはパクティオーカード。
あのバトルロワイアルが起きて以来、一度も使っていない。
これを使ってしまえば、僅かに残っていた自分の望んでいた“普通”の生活が出来なくなる気がして使えなかった。
「げぽっ…!」
口の奥からこみ上げるようにきたものを押さえきれずにその場で吐いた。
「…ぐ……」
手に持っていたカードに描かれていた自分は驚くほど赤に染まった。
頭を数回振るとカードを見る。これを使えば自分の中で“普通”に引き返せなくなる。
だがある程度予想はしていた、もう自分は普通には戻れない。
たとえバトルロワイアルに巻き込まれなかったとしても、自分は魔法や他のことに多く関わりすぎた。
そのせいか自分は5年前から何も変わっていないのだ。
意地を張って“普通”に固執しすぎ何も変わっていない自分に何度も腹を立てた。
だから腹をくくる。もう自分に後悔などしないために…
「……アデアット」
千雨が光に包まれ、現れたのはネットアイドルちうの姿。
「うぉああああああああああああああああああっ!」
手に持っていたステッキがアキラの夕凪とぶつかる。腹の痛みが増し手に力が入らない。
「千雨さん!?」
「先生!撃て!」
その言葉にネギは戸惑う。やはりこうするしかないのか、もうどうしようもないのか…
ネギは最後の最後まで迷いが出てしまう、生徒を殺すのはやはりつらいものだ。
その間もアキラと千雨は必死で戦う。
ちうのコスチュームはアキラの太刀のたびに切り刻まれていき、そのたびに血が飛ぶ。
だが千雨は攻撃を止めない。今の自分に出来るのはネギにアキラを一撃で仕留める時間を稼ぐこと。
決して自分が手を汚さないようにするためではない、自分がやれるのならやっている。
だが今の自分にはアキラを仕留めるだけの力はない、今頼れるのはネギしか居ない。
これまでの出来事に決別をつけるためにも千雨は自分を犠牲にして戦った。
ステッキが弾かれアキラの太刀が千雨の胸を斜めに切り裂く。
「千雨ーーーーーん!」
ネギの絶叫。今がチャンス、今ネギは自分が死角になって見えない。
「撃て先生!」
体が斜めに傾きながら千雨は声が出る限り叫んだ。
その声にネギは杖を構え光が集まった。アキラは千雨を殺す気だ、超みたいに切り刻む気だ!
「撃てぇぇぇぇぇぇ…!」
その叫びと同時に千雨はアキラの視界から消え、それと同時に杖をこちらに向けたネギが写る。
「う…うわああああああああああああああああああっ!!」
杖の先から飛び出す一際大きな光、たった一発のネギ渾身の一撃。
その光を避けるまもなくアキラは正面からそれを食らった。
強い衝撃と共にアキラの体は何度か回転して地面に倒れこむ。
「千雨さん!千雨さん!」
ネギは急いで千雨の元へと駆け寄った。
もうちうの姿ではない、満身創痍の状態の千雨の姿に戻っていた。
「千雨さん!しっかりしてください!」
胸を押さえ止血をしようとするがそれでも溢れ出て止まらない血。
治癒魔法を使いたいのだがネギにはそれをちゃんと止めることが出来ない。
「…先生……」
「千雨さん!」
「…せん…せ………!」
息も絶え絶えな千雨が指差した先、体を血に染めたアキラがゆっくりと立ち上がる。
「…っ」
苦しそうにする千雨を抱きしめるネギ、アキラはもうこちらを睨んでいるだけだ。
アキラの胸からはおびただしい量の血が出ていた、完全に致死量かもしれないはずなのにアキラは歩く。
夕凪を構えて千雨とネギを睨みつける。
「…アキラさん」
「アキラ……」
するとアキラは口を開く。
「…私は…後悔なんかしてません。私の復讐は終わったんですから……」
夕凪を落とすアキラ、もう戦えない、命の灯火が今消される。
「そうだ…超が死んだところを…見てなかった…な……」
その場に倒れ、そして二度と起き上がることはなかった。
「…っく…」
涙目のネギはじっとアキラを見つめる。
自分が殺した、もうどうしようもなかった。これ以外に方法はなかった。
だが自分自身に納得できない。こんなのない、あまりにも悔しくて虚しくて…
「せんせ…泣くな……先…生は…間違ってなんか………」
「!?…千雨さん!」
千雨の顔色が青ざめていく、アキラに続いて千雨まで失うのか!?
そんなの嫌だ!ネギは必死に声を掛けた。
「せん…せ……これ…」
千雨はもう片方のポケットから小さな箱を渡した。
「…千雨さん」
「…もし……朝倉が…生きて…たら…渡してやって…くれ…」
これで心残りはない、やるべきことはやった。千雨の顔は穏やかだった。
「そんな、千雨さん!………千雨さん!!」
ネギの腕に抱かれた千雨は無反応だった。
ネギの後ろから超を病院に送ったハルナと、和美に呼ばれた高畑率いる魔法先生たちがやってきた。
だがそこで見たものは、血に汚れた千雨を抱いて涙を流すネギの姿だった。
後日、行方不明扱いだった大河内アキラは、正式に死亡と発表された。
20分ほど間をあけます。
「…それじゃあ元気でね」
「うん」
あれから数日、ハルナは夏美と会話をしていた。
夏美は今回のことに大きく関与していない、様々なことを体験したみんなにとって彼女だけがほとんど無関係。
だがそれがいいのかもしれない。もう彼女は普通に生きることが幸せなのだ。
これ以上、複雑なことに巻き込みたくない。
「それじゃあ行こうか夏美」
「うん」
小太郎と共に去っていく夏美、これからの答えは二人で一緒に見つける。
二人で笑って幸せに過ごしていくことを願ってハルナは二人を見送った。
「二人はもう帰ったの?」
「うん」
松葉杖をついて和美が姿を現した。
あの時、瀕死の重症だったが辛うじて一命を取り留めた和美。
包帯を巻いた体の和美を見てふと思った。自分は何か役に立つことは出来たのかと…
今回の事件はその人たちにの心に大きな傷跡を残した。
死んだはずの超が生きてることにより魔法先生、生徒側は対応に大忙し。
事実の隠蔽や情報操作は相当な手間であった。
「…着たよ」
「…」
二人の目の前に全身傷だらけで車椅子に押される人物がいた。
「ハルナさん、朝倉さん」
車椅子を押しているのはネギだ。
「よかった…生きてたんだ」
「…でも、超にとってこれってよかったと思う?」
「…」
あの中で超は生きていた。だが今でもほとんど半死半生の状態だった。
彼女の両手足は義手義足、実際のところ右腕と左足は皮一枚残して繋がっていた。
手術次第ではかろうじて繋がっていたかもしれなかった、だがそれをしなかったのは魔法先生側の圧力だった。
麻帆良祭の一件に加えバトルロワイアルに参加した罪のため、二度とこのようなことが出来ないようにするための措置だった。
そうでなくとも超は両目の視力を失い
喉を切られた時に呼吸器官を傷つけられまともに呼吸が出来ない体となったのだ。
死にたくなるような地獄を体験した後でこのような措置、あんまりといえばあんまりである。
ネギはこの真相を高畑から伝えられ必死に講義した。だが今となってももう戻ることはない。
義手義足に至っても普通の物を使っている、麻帆良科学部の技術力なら機械で補助が出来るタイプのものも存在していた。
だが学園側はそれの使用を認めなかった。それでも訴えるネギは次第に魔法先生、生徒側から孤立し始める。
ネギの不満や自分の不甲斐なさから、ついにネギは先生の職を放棄した。サウザンドマスターの夢やそれらすべてを投げ捨てた。
もはやネギは夢を追うよりも、何も出来ない自分から抜け出したいという思いからの決断だった。
そしてアキラを殺してしまった贖罪のためにも…
「…超」
車椅子に乗って連れて行かれる超。義眼の入った顔は痛々しい傷跡だらけとなっていた。
そして鼻に通された管、管を通して呼吸器からの補助がないとまともに呼吸できない。
血の気が消え失せ、死人のような顔となっていた。あの超特有のふてぶてしさはもう影も形もなくなった。
自分からはもう起き上がることも出来なくなった体になり、カシオペアを含め生きる希望も何もかも失った超。
学園長はそんな超のためにネギを彼女の生活介護役に任命した。
教師としての職を自ら捨てたネギのために、学園長は最後のチャンスを与えた。
この後、超がどんな扱いを受けるか知らないがネギが見守っている限りそれほど酷い扱いは受けないだろう。
今の超にとってネギは守り神的な存在なのだ。
「…」
和美とハルナの横を通り過ぎる超、後ろではネギが車椅子を押している。
「それでは…」
軽く声をかけてその場を去ろうとするネギ。不意にハルナが超に声をかける。
「……また、おかゆ作ってあげるから…そん時にはもっと元気になりなさいよ」
その言葉を聞いて超の体は震えだす、必死に歯を食いしばり一滴の涙を必死に堪える。
そして苦しそうに呼吸をしながらこう言った。
「…ありが…とう……早乙女サン」
超とネギは高畑が用意した車に乗せられそのまま消えていった。
車の中で声を殺して涙を流す超の肩をそっと抱くネギ、支えあって生きて償えばまだ救いがある。
ネギは超を助けることは間違いではなかった、そう思った。
「きっとまた会えるよ」
「そうだね」
きっと何とかなる。バトルロワイアルのことを忘れることは出来ないが、まだ超を許せるうちに許そうと思った。
引き返して立ち直るチャンスはまだある。
手遅れになる前にみんなで支えて助け合えばいい、二人はそう決心した。
「じゃあパル元気でね」
「うん、そっちもね」
和美と硬い握手をしてハルナはタクシーに乗り込み病院を後にした。
タクシーが見えなくなるまでじっとその場で見届けると、和美は自分の病室に戻った。
あの日、和美はネギからあるものを渡された。和美の小物入れには一箱の煙草。
千雨がネギに託したものがそれだった。
あの時、アキラの一撃は和美の右の肺を奪ってしまった。残った左の肺を大切にするためにも和美は禁煙を始めた。
一度も手をつけずに捨てようと思っていたが、和美はそっと手を伸ばす。
中身はかなり軽い、ほとんど空に近い。数回振ってみる。
コトン
軽い音と共に落ちてきたのは一本の煙草と、ネギがアキラに倒された日に千雨に渡したライターだった。
千雨が自分の手で返すことの出来なかったライターを久々に握り締める。
「………ふぅ」
まだ痛む体を押して病院の屋上に向かう。
病気を苦にして自殺する人がいるため、手すり付近は自殺防止のネットが張っているが、和美はそれに体を預ける。
意外とここには人が来ない。煙草を吸う人には絶好のポジションだった。
一本だけの煙草を咥えてライターに火を点けた。
「…本当に、これが最後だよ」
手すりに体を預けながら最後の一本を吸う和美。悠久の時に任せて澄んだ空を見つめる和美。
この綺麗な青い空のように自分の心も報われる日が来るだろうかと…
和美は思う、きっとすべてを受け入れる日がくる、その瞬間を信じて今を生きる。
この切実な願いを煙草の煙に乗せて軽く微笑んだ。
そこへやってくる来客、若干不機嫌そうな顔で和美の横に座る。ときどき傷口が傷むためよく患部を押さえる仕草をする。
そんな“彼女”は和美が運ばれた同じ日に入院した、同じく瀕死の重傷から奇跡の生還。
だからこそ和美と心境は同じだ。揃って咥え煙草で青い空を見つめた。
「朝倉、お前煙草止めたんじゃなかったのか?」
「いいじゃん、これが最後なんだからさ……千雨」
完
これで短編はすべて終わりました。
作者13氏、どのようなストーリーか楽しみにしつつ一旦ここを去ります。
3作目完成次第、また現れます。それではまたお会いしましょう。
ア、アキラァァァーッ!
千雨ェェェーッ!
GJでした
千雨生きててうれしいし、感動もした
なのに「千雨ーーーーーん」で不覚にもワロタ俺を許してくれorz
小さな箱で指輪を連想した俺はもうダメかもわからんね
短編お疲れ様でした!
千雨生きてた!GJ!てか三作目って…。あんたスゲーよ…。
駄作乙
もう来なくていいよ
久しぶりににちゃんぽくて少しなごんだ
が、言わせてもらう
荒らしはヌルー汁
作者1さん、お疲れ様でした。
脅威の3作目、期待してます。
9時頃から、前口上も含め投下を開始させて頂きます。
【ネギまバトルロワイヤル 第13部 始まるに当たっての注意】
・このSSは、『ネギま!単行本16巻収録予定分・142時間目』までをベースにしています。
それ以降の漫画本編、また外伝的な存在であるアニメ・ゲーム・CD等とは連動していません。
『142時間目』までの展開の後、『143時間目』の途中から運命が分岐したと考えて下さい。
・『143時間目』以前の過去の事件や発言はそのまま、このSSでも「過去の事実」として存在しています。
ただしその意味・位置付け・重要度、「明かされなかった発言の詳細」などは大きく変わると思われます。
(軽くスルーしてる伏線もありますが、ご容赦を……)
・特に、ある人物の過去・及び目的については、大幅に解釈を変えています。
これは本編ではありえない(少年マンガとして)と思われますが、意図的な変更です。ご了承下さい。
・漫画本編で語りきられていない設定については、私個人の解釈で設定を延長・拡張しています。
当然、これ以外の解釈や考え方もあるかと思いますが、ご理解下さい。
・作中、原作(特に「バトルロワイアル」の方)への批判・文句のように取れる内容が出てくることがあります。
これについては、
「登場キャラクターの言動は、必ずしも作者の思想そのものとは限らない」
という一般論を指摘するに留め、それ以上のコメントを控えます。
・展開の先読みレスは、他の読者の楽しみを妨げてしまう場合があります。
完全禁止、とまでは言いませんが、程々で勘弁して下さいw
・全60話構成の予定です。
では、これにて開幕……。
06 《 BAD END 》
〜 『143時間目 恐怖! 真実のデスメガネ!!』 より一部抜粋 〜
――魔法使い日本支部、地下30階。
ネギ・スプリングフィールド救出のため、突入した明日菜たちは……最悪の相手と対峙していた。
タカミチ・T・高畑。麻帆良に集う『魔法使い』たちの中でも、戦闘力なら学園長に次ぐ実力者。
そして3−Aの生徒たちにとっては、かつての担任。明日菜にとっては、恋破れた想い人。
2匹の魔獣に3手に分けられ、そのタカミチの前に立ったのは、明日菜と夕映、そしてカモ。
明日菜の『無極而太極斬』を片手で止め、なお笑うタカミチに対し、夕映は……。
「失礼ですが高畑先生……私達の勝ちです」
「何?」
「『ほどけよ……偽りの世界』」
明日菜の『ハマノツルギ』に触れ、呪文を唱える夕映。
夕映のアーティファクト『世界図絵』で調べだしたこの発動キー。
これによって『ハマノツルギ』の隠された機能が発揮され、幻覚は全て消えうせる……はずだった。
しかし、何も起こらない。
いくら待っても、何も起こらない。
「……え?」
「ひょっとして、僕やあの魔獣が幻影である可能性に賭けたのかな、綾瀬君」
「…………ッ!?」
「『夕映君』・『ネギ君』、と普段通り呼んでいれば、君たちも早くに諦めていたのかな。
済まないね。僕も人の子だ、君たちを親密に扱っては、拳のキレが鈍ってしまうからね」
タカミチは大きく溜息をつく。夕映の着眼点は悪くなかった。しかし彼女は――『賭け』に負けた。
なおも信じられない夕映は、口から血を垂らしたまま叫ぶ。
「し、しかし、アスナさんのあの技が通用しないなんて……理論的にあり得ないですッ!」
「……僕が過去に、『咸卦法破り』に会ったことがないとでも思っているのかな?
あるいは……僕が、明日菜君の『能力』を知らないとでも?
明日菜君自身よりも明日菜君のことを知っている、この僕が?」
「!!」
タカミチの真価は、実は『咸卦法』にも『居合い拳』にも、類い稀なるタフネスにもない。
それらは確かに尋常ならざるレベルにあったが、「それだけ」では最強とは呼び難い。
呪文詠唱ができず、攻撃をほぼ『居合い拳』のみに頼る彼、その融通の利かない性質を補うもの。
それは「経験」だ。その豊富で多彩な経験値だ。
経験に基づく、的確な判断力だ。経験の中で培ってきた、直感力だ。
『悠久の風』に所属し、数々の戦場に立ち、様々な敵と戦ってきた彼ならば……
知識「しか」持っていない、頭でっかちで経験不足の夕映の作戦など。
「君たちの態度に、嫌な予感を感じ……『咸卦法』を破られるよりも先にね、自分で解除したんだ。
絶妙なバランスで維持されている『咸卦法』、確かに横から破られたら本人への反動も大きい。
なら、自分で解いてしまった方がダメージも少ない。解除そのものには、構えも何も要らない。
流石に、明日菜君の一撃を『純粋な腕力』だけで受け止めるのはラクじゃなかったけれど……。
ここにもう一手、僕が『咸卦法』を解いた隙を突く策が用意してあれば。
あるいは、峰打ちでなく真剣での攻撃だったなら。あるいは、結果は変わっていたかもしれないね」
彼はそして、両手を合わせる。左手に『魔力』、右手に『気』。
再び纏った『咸卦の気』は、先ほどまでの「様子見」とは違い、さらに凄まじい濃度。
「…………!!」
「それで君たちの策が尽きたのなら……君たちの、負けだ。
少し、いや、かなり痛いだろうが、覚悟してくれよ。明日菜君、夕映君……!」
そして彼は、唖然とする彼女たちに拳を振るって――
頼みの綱の明日菜がKOされた時、残された夕映たちには、降伏以外の選択肢は残されていなかった。
B A D E N D
学園祭超鈴音編
バトロワエンドNo.13
その後、3−Aのメンバーは「バトルロワイヤル」に強制参加。
二度と平和な学園生活が戻ることはなかった……
やり直す
終る <
番外編シナリオに進む
攻略のヒント:どこで選択を間違えたのかよく考えてみよう。
魔法先生たちに素直に従って良かったのか?
諦めて抵抗を止めてしまって良かったのか?
そもそも、真正面から魔法使い本部に突入して良かったのか?
やり直す
終る
番外編シナリオに進む < ( ピッ! )
注意!!:この番外編には、暴力的なシーンが含まれています。
流血や痛いシーンが苦手な人は、注意して下さい。
<15歳以上奨励>
「……という、私のマンガのネタだったら良かったんだけどねー」
早乙女ハルナ(出席番号14番)は、溜息をついた。
彼女の手元には、スケッチブック。描かれていたのは、漫画の1ページ。
もっとも文字ばかりで絵らしい絵のないページではあったのだが。
この短時間では、いかな神速のペンでも、複雑な絵を描き上げるのは難しい。
「……はれ? もうあの『簡易ゴーレム』とか言うの、出さないのかなー?」
「んー、時間さえ貰えれば、もうちょっと強いのも描いて出せるんだけどねー。
走り描きじゃ、これが限界。さっき出した子が消えた時点で、私の負け。
……ってか、何なのよその蜘蛛。堅すぎだってぇの。
あーあ、こんなことなら鳥でも描いて、さっさと飛んで逃げとくんだったかなー。しくじった」
椎名桜子(出席番号17番)の問いかけに、ハルナは肩を竦める。その手の中でペンがクルリと回る。
大きな沼のほとり、木々の間を抜ける石畳の古い道の途中。
向き合う2人の間には、バカでかい巨大な蜘蛛が1体。
蜘蛛の脚が1本途中から欠けていたが、それがハルナの簡易ゴーレム『剣の女神』の限界だった。
その『剣の女神』、既にその稼働限界時間を過ぎ、煙となって消えてしまっている。
「じゃ、ギブアップってわけなのかな? かな?」
「ま、そうなるかな。……もう諦めてるけどさ、せめてあんまり痛くしないでね?」
「了解〜。ほいじゃ『ポッキ』ちゃん、ハルナをヤッちゃって〜♪」
スケッチブックを下ろし、力なく微笑むハルナ。喜色満面の桜子。
桜子の命令を受け、巨大な鬼蜘蛛はハルナに突進し……その首に、牙を立てる。
銀色の首輪のはまった、細い首に。
辺りにゴキリ、と鈍い音が響き、ハルナは望み通り、ほとんど苦痛を感じることなく――
【出席番号14番 早乙女ハルナ 鬼蜘蛛の攻撃により 死亡】
【残り 32名】
01 《 目覚めと再会と 》
――そこは、普段と変わらぬ教室に見えた。
普段の3−A、普段のクラスメイト、普段の座席順。普段通りにしか見えない、いつもの教室。
ただ、窓の外に見える景色が違う。
澄んだ水が煌く美しい湖。その湖に浮かぶ、木々の緑も鮮やかな巨大な島。柔らかな光。
そして、遠くに見える……「天井」と「壁」。
それが巨大な地下空洞の一部であることを理解するのに、多くの生徒はかなりの時間を要した。
「……あれ、本屋ちゃん久しぶりやなー」
和泉亜子(出席番号05番)は、右隣の席に座る人物に気付き、思わず声を上げる。
目覚めの一言としてはいささか間抜けな言葉。
ほぼ同時に目覚めた相手はどう応えていいものか迷い、口篭る。
「あ、ひ、久しぶり……ってほどでもないですけどー、あ、そうか、みんなからしたら……」
宮崎のどか(出席番号27番)は、そして周囲を見回す。
いつもの教室にしか見えぬ空間、ただ窓の外の光景だけが異なる。
みんなの服装も、普段通りの制服姿。ただのどかを含む、一部の――いや半分ほどの人間は……
「……たぬき?」
「ふむ。こりゃまた大変なことになったようでござるなぁ」
亜子たちの席から、通路を挟んで窓側。
村上夏美(出席番号28番)は隣に座る長瀬楓(出席番号20番)の姿を確認して、思わず呟いた。
長袖セーラー服に、たぬきの耳とたぬきの尻尾。とぼけた印象をさらに強める格好。
……そういえば、楓たちが「行方不明」になる直前にも、彼女はこんな服装をしていなかったっけ?
楓だけではない、この12日間「行方不明」だった人々は、いずれも制服とは異なる変な格好をしている。
図書館探検部はみな黒のノースリーブだし、古菲(出席番号12番)は「超包子」のロゴ入り拳法着(?)。
まるで……学園祭の時の仮装のような格好だ。
「……なになに、そのチョーカー?! どこで買ったのー?」
「まき絵こそ何だよその首輪ー!」
佐々木まき絵(出席番号16番)と鳴滝風香(出席番号22番)は、顔を見合わせ素っ頓狂な叫び声を上げた。
そして互いの叫び声で初めて、己の首につけられた見慣れぬ代物に気づく。
それは、首輪だった。銀色の光沢を放つ、ぴったりした首輪だった。
指2本分ほどの幅で、首の回りをグルリと一周。肌にぴったり密着しているが、息苦しさなどはない。
繋ぎ目らしきものが2箇所にあるが、鍵穴あるいはそれに相当するようなものは見当たらない。
「なんなんだろ、これー」
「なんなんだろうねー」
2人は不思議そうに互いの首輪を見つめあう。
そんな様子を見ながら、風香の後ろのに座る桜咲刹那(出席番号15番)は小さく舌打ちをした。
「くッ……! やられたッ……!」
「1人足りないわね……あ、そうね、彼女はもう、この学校には……」
混乱し、ザワザワとざわめくクラスの中で、那波千鶴(出席番号21)は静かに呟いた。
その声を敏感に聞きつけた近くの席の人々が、慌てて周囲を確認する。
前列窓際の空席は、相坂さよ(出席番号01番)の席。しかしどうやら彼女は『そこ』に居るようだ。
唯一さよとコミュニケーションが取れる朝倉和美(出席番号03番)が、虚空に話しかけている姿が見える。
千鶴が見ていたのは、しかしそこではなく、クラスの中央付近。
修道女の格好をしている春日美空(出席番号09番)の左隣に、ぽっかりと開けた空間。
そして思い出す。その席を占めていた「彼女」はもう、麻帆良学園には……!
千鶴、及び「行方不明」になっていなかった一般の生徒は、その「表向きの理由」で納得していたが――
「……! まさか、超さん……!?」
千鶴の後ろ、ショートパンツに白衣姿の葉加瀬聡美(出席番号24番)は、思わず蒼ざめる。
その斜め前・千鶴の隣、コック姿の四葉五月(出席番号30番)は聡美の方を振り返ると、小さく頷いた。
超鈴音。かつて出席番号19番の生徒として、この3−Aに在籍していた少女。
彼女1人だけは、「行方不明者」たちが戻ってきたこの教室においてなお、欠けたままであった。
「……どう思うよ、オイ」
「……判断するための材料が足り無いのです」
クラスの座席の、最後尾中央。
長谷川千雨(出席番号25番)は隣の綾瀬夕映(出席番号04番)と並んで座ったまま、呆然と教室を見渡す。
「ちょッ、これッ、どういうことよ?!」
「はれー? ウチら学校に戻されたん〜?」
千雨と夕映の前で小さく叫んだのは、私服姿の神楽坂明日菜(出席番号08番)。
呑気な表情で周囲を見回すのは、近衛木乃香(出席番号13番)。4人は顔を寄せて囁きあう。
「ねえ、何が起きてるの? 私たち、高畑先生に捕まって、牢屋っぽい部屋に入れられて、それから……」
「取り調べもないまま3日ほど過ぎて、昨夜寝て起きたら、この状況だったです」
「みんなのとこに戻されたってことは、もう許してもらった、ってこととちゃうん〜?」
「バカッ、そんなウマイ話があるわけないだろッ! それに、この首輪はどう判断するよ!?」
楽天的な予測を口にした木乃香を、千雨は叱り付ける。
千雨の脳裏に、嫌な予感がよぎる。この状況、このシチュエーション。細部こそ異なるが、これはまるで。
「これって、まさか……? いやそんなハズはねえ、あれはあくまで出来の悪い『小説』で……!」
久しぶりに揃った、3−Aのクラスメイト31名――いや、30名。
窓の外の光景に驚き、「行方不明」だった十数名の突然の出現に驚き。
不自然な眠気に眠り込んで、目が覚めたらこの状況……というシチュエーションの異常さに驚き。
クラスの中のざわめきが最高潮に達しようとした、その時――
唐突に、教室の扉が開いた。
そして入ってきた見慣れぬ男たちの姿に、生徒たちは一気に静まり返る。
いや、彼らを「見慣れて」いた一部の者たちも、かえって彼らを知ってるがゆえに言葉を失う。
白いスーツの、浅黒い肌の男。一歩下がって後ろを固める、黒スーツにサングラスの男が2人。
浅黒い肌の男は教壇に立つと、一度神経質そうに眼鏡を押し上げてから、口を開いた。
「3−Aの諸君――本当に済まないが、君たちにはこれから殺し合いをしてもらうことになる」
【出席番号01番〜31番(19番は欠番)、計30名 『ゲーム』スタート】
【残り 30名】
本日の投下は、以上です。
第6話分が第1話の前に置かれているので、ご注意を。
途中、PCの不調で投下の間が空いてしまいました。申し訳ありません。
とりあえず、これくらいの分量ずつ投下していくつもりです。
様子見て一回投下分を増やす、あるいは、朝夕にそれぞれ投下する、などの手を打つかもしれません。
では。
>第6話分が第1話の前に置かれているので、ご注意を。
…これは演出の一環ですか、それともPCの不調のためですか。
いずれにしましても引き続き楽しみにしてます。
どうコメントしていいのか正直わからない・・・まぁこれからの展開に期待してます。
wktk
ところでまとめサイトの更新はどうなってるんだ?
6話目の人数気になる
>>305 第三のまとめサイト管理人もスレを見捨てたか、事故でもあったか・・・
第四のまとめサイト誰か作る時期か?
しまった。生存率リスト投下する前に始まっちまった。
まぁ、生存者しか変動ないし、2、3部に一度でもいいか。
とにもかくにも、この先の展開にwktkしておきますね。
>>308 あ、統計の方ですか。いつもお疲れ様です。
どうでしょう、個人的には割り込んで貰ってもいい気もしますが。
変則的ながら時間も取れたので、朝投下。
02 《 魔法使い (マギステース) 》
殺し合い――
そのあまりに突飛な言葉に、誰もが言葉を失う。
目の前の男は、完全に真顔。どう見ても冗談を言っている雰囲気ではない。
「……説明の順番を間違えたかな。まずは自己紹介と行こうか。
知っている人もいるかと思うが、私の名前はガンドルフィーニ。
女子中等部ではないが、ここ麻帆良で教壇に立つ者の1人だ。
そして――君たちも承知かもしれないが、最近噂になっているであろう『魔法』というモノ。
何を隠そう、この私も、そしてここに居る2人も、今話題の『魔法使い』だ。
君たちの担任だったネギ・スプリングフィールド君と同様に、ね」
「――!」
ガンドルフィーニのこの告白に、教室の中の何人かは、確実に顔色を変えた。
彼らが『魔法使い』であることに対して、ではない。そのことを「自ら言った」ことに対してだ。
確かにもう『魔法』の存在自体は一般にも知られてしまっている。
麻帆良学園の中では既に自然に受け入れられていて、少しずつ世界に広まりつつもある。
学園内の『魔法使い』が特定されてしまうのも、時間の問題だろう。しかし――それにしても。
「ちなみに、他にも何人もの『魔法使いの先生』、通称『魔法先生』がこのプロジェクトに参加している。
で――唐突ではあるが、我々『魔法先生』の指揮の下、諸君らには『ゲーム』に参加してもらうことになった」
ガンドルフィーニは淡々と語る。その言葉には、有無を言わせぬ迫力があって。
後ろに立つ髭面とスキンヘッド、2人の黒スーツの男たちも、まるで表情を変えない。
「『第1回・麻帆良バトルロワイヤル』――それが諸君にしてもらう、殺し合いのゲームの名だ。
君たちにはこれから、最後の1人になるまで互いに殺し合いをしてもらうことになる。
……望むと望まないとに関わらず、ね」
「ふっ……ふざけないでくださ」
「冗談じゃないわよ!」
ガンドルフィーニの言葉に、何人かが即座に抗議の声を上げる。
雪広あやか(出席番号29番)の声を遮ったのは、釘宮円(出席番号11番)の悲鳴のような叫び声。
「冗談じゃないわよ! なんで私たちがそんなことしなきゃいけないのさ!」
真っ直ぐな怒りを込め、ガンドルフィーニを睨みつける円。
言葉こそ途中で奪われたものの、同意するように先生たちを睨むあやか。
他にも神楽坂明日菜(出席番号08番)や明石裕奈(出席番号02番)などが立ち上がって。
次々に上がる抗議の声に対し、ガンドルフィーニは……。
「……やって下さい、先生」
「了解」
後ろに控える黒服の1人、煙草を咥えた髭面の男に、小さく囁いた。
次の瞬間――パチィン! 教室の喧騒を掻き消すほどの、大きな音が響き渡って。
「な――」
……それが髭の男の指鳴りの音だと気付くのに、誰もが数秒の時間を要した。
人間離れした「フィンガースナップ」の音で、抗議の声を断ち切った――
その態度に、あやかの怒りはさらに高まる。
いくらなんでも、馬鹿にするにも程がある。
「あ……貴方たちは、どれだけわたくしたちを侮辱なされば……!」
だが、そのあやかの怒りの言葉は、最後まで口に出されることはなかった。
髭の男の指鳴らしから数秒置いて、今度は複数の悲鳴があやかの言葉を遮ったからだ。
「く……くぎみーッ!」
「いやぁぁぁぁぁぁッ!」
あやかは振り返る。中央最前列の彼女は、右後方の円の方を振り返り――そして見た。
驚きの表情を浮かべたまま、縦に真っ二つに断ち切られた、円の無惨な最期の姿を。
あやかがポカンと口を開けて見守る中。
綺麗に切り分けられた円の体はズルリと正中線に沿ってズレていき、そしてやがて、ドシャリと崩れ落ちる。
飛び散る血飛沫が、まだ事態を把握しきれていない周囲の生徒たちに、パタタと降りかかる。
隣の席の桜咲刹那(出席番号15番)が、物凄い形相で教師たちを睨みつけるが……
同時に、彼女の額に脂汗が滲む。愛刀も代わりの武器もない今、素手で立ち向かえる相手ではない。
人数の不利もある。流石の刹那といえども、一歩間違えれば円の二の舞だ。
「――我々が本気であることを、分かってくれたかね?」
混乱する生徒たちを見渡して、ガンドルフィーニは静かに語る。
「なお、今回はみんなに理解してもらうために、分かりやすい『攻撃魔法』を使わせてもらったが……
実は、君らを殺すだけなら、我々はこんな技を使う必要すらなかったんだ」
呆然と言葉を失う生徒たち。淡々と解説を始める。
「既に何人かは、自分たちの首に普段ない『あるもの』がつけられていることに気付いているだろう。
嫌な予感がしている者も、居るかもしれない。そしてその予感は正しい。
その気になれば、我々は簡単に君たちの首をすぐにでも吹き飛ばすことができる。
小さな、しかし首と胴体を切り離すには十分な、至近距離からの爆発によってね」
その言葉に、誰もが自らの首元に手を伸ばす。
指先に触れる首輪。「爆発」と言うからには、爆弾でも仕込んであるのだろうか。
確かに指向性爆薬を内側に向けてセットすれば、少量でも十分役割を果たせるだろう。
電波か何かで遠隔操作すれば、スイッチ1つで確実な死をもたらすことができる。
「その首輪は、我々が電子ロックを解除しない限り外れることはない。
壊そうという試みも、あまりお勧めできないね。
万が一、この場の我々3人を倒したとしても、別室に控える我々の仲間が起爆を実行できる。
今後の反逆行為に対しては、警告無しだ。まぁ、無茶なことはやめるんだな」
そしてガンドルフィーニは、説明を重ねる。呆然とする生徒たちに、数々のルールを解説する。
地形のこと。エリア分けのこと。定期放送のこと。時間と共に増える立ち入り禁止区域のこと。
支給品のこと。元の私物から没収した品々のこと。『転送魔法』のこと。
最後まで生き残った優勝者に与えられる予定の、優遇処置の数々のこと――
確かにその賞金の額も条件も、魅力的なものではあったが。
果たしてこのクラスに、友達全員を殺してまでそれを目指す者がいるかどうか。
一部の生徒はその説明をしっかり記憶に刻み込んでいたが、ほとんどの者は頭の回転が追いつかず。
気がつけば、ガンドルフィーニの説明は終わりに差し掛かっていた。
「――そうそう、言い忘れるところだった。
今回、この『バトルロワイヤル』に参加するのは、君たち3−Aの生徒だけではない。
他に4名、他にも追加の参加者がいる。君たちも良く知った顔も居るはずだ」
最後にさらりと告げられた、追加の参加者の存在。
……はて、他に誰がこの理不尽な戦いに参加させられるというのだろう?
これが仲のいい3−Aのクラスメイト同士だけなら、殺し合いになるなど考えにくいが……
ここに「見知らぬ誰か」が加わった時、その均衡は維持できるのだろうか?
「彼らには別室において、それぞれに似たような説明を受けてもらっている。
フィールド内に投下される時の条件は、君たちと同じだ。
まあ、首輪をしている姿を見れば、同じ参加者だとすぐ理解できるだろう。
クラスの友達以外のみんなとも、分け隔てなく仲良く付き合うように――いや、殺しあうようにね」
【出席番号11番 釘宮円 魔法先生の無詠唱切断魔法によって死亡】
【出席番号32番・33番・34番・35番(『ゲーム』の便宜上与えられた番号)、正体不明のまま追加】
【残り 33名】
03 《 状況開始 》
鳴滝史伽(出席番号23番)は、混乱していた。
「次、出席番号31番、ザジ・レイニーデイ。教室を出たところで荷物を受け取って……」
クラスメイトが、どうやらランダムな順番で呼ばれ、1人ずつ教室から出て行く。
およそ2分おきくらいの間隔だろうか。既に1/3ほどの生徒が教室を後にしている。
見渡せば、残された生徒たちには、呆然と魂の抜けたような状態の者あり、不機嫌そうに黙り込む者あり。
ヒソヒソと近くの友達と囁き合う者あり、先生たちへの怒りを隠そうともしない者あり。
そして、哀れに怯えきった様子の者あり。
――史伽は、その最後のパターンの1人だった。
頼りの姉はかなり早い時期に名前を呼ばれ、既に教室には居ない。
「どっ、どどッ、どうすればいいですかー!? わわわ、私は……!」
「……大丈夫、落ち着いて……」
そんな震える史伽の肩に手を置いたのは、隣の席の大河内アキラ(出席番号06番)。
「このクラスのことだから……きっと、殺し合いになんて、ならないよ……」
「で、でででも、クラスの人じゃない人も参加するって言ってるですー。
クラスのみんなも、一歩間違えたら……!」
「そうだね……だから、早めに誰か信頼できる人を見つけて、行動を共にした方がいい」
この極限の状況下で、アキラは冷静だった。少なくとも、必死に冷静であろうとしていた。
静かな闘志をたたえた瞳で、教壇の上の先生たちを真っ直ぐに見つめる。
「あの『魔法使い』たちがやろうとしてる酷いことを、みんなで止めるんだ。
今は、私もどうしたらいいか分からないし、とりあえずは従うしかないと思うけど……
1人じゃ無理なことも、みんなで諦めず力を合わせれば、きっと上手くいく。だから、史伽も」
「アキラ……!」
「――次、出席番号23番、鳴滝史伽。双子の妹の方だな。早くこちらに来なさい」
「さ、呼んでるよ。頑張って。
まずは、生き残るんだ――こんなところで死んだら、それこそ意味がない」
「う、うんッ!」
先生に呼ばれた史伽を、アキラはそっと送り出す。
普段は無口なアキラの、真摯な励まし。いつの間にか、史伽の震えは止まっていた。
怖いのは相変わらずだったけれど、でも、今はわずかな勇気が胸の奥に宿っていた。
教室を一歩出ると、そこは学校とはまるで似ても似つかぬ空間だった。
「ここ……なんなんですかー!? どこなんですか、ここー!?」
「貴女たちの知る必要のあることではありません」
教室の外で待ち構えていたキツい雰囲気の女教師・葛葉刀子は、眼鏡を光らせ史伽を睨む。
そこは、確かに廊下のようではあった。ただしどう見ても学校の廊下とは思えぬ、石造りの重厚な造り。
まるでどこかの遺跡に迷い込んだかのような感覚。
驚く史伽に構わず、刀子は淡々と自分の仕事を進めていく。
「こちらが貴女が持っていた私物です。
中身を一通り確認しましたが、貴女の場合、没収せねばならぬものは一切ありませんでした。
そのまま返します、何かの足しにして下さい」
「あ、どうもです……」
「で、こちらが、貴女の分のデイパックです。
全員に共通に与えられる品々、そしてランダムに選ばれた特別なアイテムが1つ、用意されています。
……あ、貴女の支給品は鞄の中に納まるサイズのようですね。物によっては別に渡したりするのですが。
武器か、魔法の品物か、超科学の産物か。中にはハズレのようなものもありますが。
いずれにせよ説明書も同封してあるので、よく読んでから使うように。いいですね?」
史伽は刀子から2つの鞄――自分の通学鞄と、黒いデイパック――を受け取り、それぞれ両手に提げる。
「では、ついて来て下さい。『転送』の魔方陣に案内します」
刀子の先導で、石造りの廊下を静かに歩く。
やはり目が行くのは、刀子が片手に提げている、飾り気のない鞘に収められたやたらと長い刀。
ここで逃げ出そうとしたらあの刀でスッパリ斬られちゃうんだろなー、などとぼんやりと考える。
円を問答無用で殺した彼らだ、史伽の首を刎ねるのに躊躇などするまい。恐怖が史伽を従順にさせる。
「……ここです」
数十メートルほど廊下を歩いて到着したのは、大きなホールのような空間。
部屋の中央には、六芳星とラテン語の文字を組み合わせた、大きな魔方陣が怪しい光を放っている。
いかにもなファンタジーな光景。ようやく『魔法』っぽくなってきたのを感じる。
「……あれ? 瀬流彦センセイ?」
史伽はふと気がつき、そして驚く。
魔方陣のすぐ傍で何やら大きく手を広げているのは、担任するクラスは違うが同じ女子中等部の教師。
彼の顔を覗きこむ史伽を、刀子が引き止める。
「彼の精神集中を邪魔しないように。
転送先が狂って、岩の中に放り込まれる可能性だってあるのですよ?」
「……え? じゃ、じゃあこれ、瀬流彦センセがやってるんですかー!? センセーも『魔法使い』!?」
「ま、そういうことだね。……悪いけど、さっさと入っちゃってくれないかな?
他の先生のサポートも受けてるんだけどね、コレ維持し続けるのって結構大変なんだ、実際」
史伽の言葉に、瀬流彦はウィンク1つして応える。
刀子への恐怖心も忘れ、しかし瀬流彦への申し訳なさから、史伽は慌てて魔方陣に入る。
次の瞬間、何やら浮遊するような感覚があったかと思うと――!
【残り 33名】
……この時間だと、ヒトが居ないから連投規制にひっかかるんですね。いやはや。
また夜に続きを投下予定です。では。
まさか朝っぱらから来るとは・・・GJです
そして早くもチア全滅フラグが・・・
追加が誰か気になる。GJ!
犬なら駄作決定
どーせネギ、メイ、高音、ナツメグあたりだろうが
>>320 それだと「よく知った顔」が1人になるからやっぱり犬かも
くぎみー…… orz
04 《 ATLAS 》
「……うわ、ホントに……ホントにワープしちゃったんですね……」
恐る恐る目を開けた史伽は、周囲の景色に息を飲んだ。
――光に溢れた、巨大な空間。『天井』は遥か高く、しかも自ら柔かな光を放っている。
遠くの『壁』には、木の幹だか根っこだかが這い回る。
地下空間だということだが、どこまで広いのかまるで見当がつかない。全く全貌が掴めない。
東京ドーム何個分、などという比喩さえもみみっちく感じるほどだ。
遠くには、キラキラと水面が煌いて。呆れたことにこの地下空洞、大きな湖や川まで持っているらしい。
図書館島の最深部、かつてバカレンジャーたちがネギと共に落ちた、幻の地底図書室。
それを数十倍にもスケールアップさせたような、その空間。
高台に立った史伽は、自分たちが強要された状況を忘れ、しばし周囲の光景に見とれてしまう。
「あ、そうだ、地図があったはずです……」
史伽はふと、ガンドルフィーニの説明を思い出す。
与えられたデイパックを漁れば、水2リットルとコッペパン2つ。
支給されたアイテム――史伽の場合は何やら紙の束だ――と、それに添付された説明書。
32番以降に空欄がいくつか連なる生徒名簿に、コンパス1つ。そして地図。
「ふわぁ……こ、こんなに広いんですか!?」
麻帆良の地下に何箇所か散在する、巨大な地底空間。
その忘れらた巨大洞窟の1つが、『バトルロワイヤル』の会場だった。
信じられないことに、地図によればこの空洞そのものは、地上の学園都市をも上回る広さ。
天井の方に至っては、もうこれはどれほど高いのか。飛行船だって飛ばすことができそうだ。
地図を見ると、壁際まで広がった広大な地底湖の中に、これまた大きな島が1つ、ポッカリと浮かんでいる。
この島にしたところで、山あり谷あり森あり砂浜あり、と入り組んでいて。
とてもではないが一度に全貌を見渡すことなどできはしない。
「ん〜っと、正方形のマス目に分割されてるんですね。
で、この1マス単位で立ち入りが禁止されていく、と……」
多少のデコボコはあるが、大雑把に言えば真円に近いこの地底の島。
その島を納めるように地図上に引かれた、碁盤の目のようなグリッド。
史伽は地図とにらめっこしながら考える。
どうもこの島の地形、この碁盤の目で考えるより、全体を3×3の9分割にしてやると把握しやすいようだ。
まず、今史伽が立っているのは、ほぼ島の中央。
このあたりは丘陵地帯……いや、既にもう、ちょっとした山と言っていいような地形だ。
山あり谷あり崖あり斜面ありの、かなり入り組んだデコボコの地形。
上から周囲を見渡す分にはいいが、歩き回るとなるとかなり難儀しそうだ。
地図に入れられた注釈を見ると、どうやら洞窟なども所々にあるらしい。
島の北側には湿地帯が広がっている。大小の沼や池、水溜りが存在し、歩きにくそうだ。
木々も所々に生い茂っている。と言うより、森の中に池や沼が広がる感じと言った方が正確か。
これもまた、視界が悪そうな地形である。
湿地から東、島の北東エリアを見ると、沼地が途切れて草原が広がっている。
こちらは歩きやすい代わりに木々も少なく、かなり見通しが良さそうである。
逆に言えば、この一帯は隠れる場所があまりない。丈の長い草くらいしかない。
東の方は木が生えてるばかりで、地図上で目立つものが無い。この島の基本的地形と言ってもいいだろう。
平坦な土地にちょっとした林が広がっていて、空き地も所々にある。
島の南東側、湖岸が複雑に入り組んでいるあたりは……ちょっとこれは、史伽には意味が分からない。
地図の上では、何か四角い箱、あるいは棚らしきものがいくつも書かれている。一体どういう地形なのか。
史伽が今居る位置からは小さな峰が視界を遮り、そちらの方角はよく見えない。
島の南側、湖に面したあたりは、白砂の浜辺が広がっている。
……いや海でもないのに『浜辺』という表現が正しいかどうか、史伽には分からないが。
ともかくこんな『ゲーム』でもなければ、バカンスに見立てて水遊びをしたくなるような雰囲気である。
のんびり歩けたら気持ち良いだろうが、戦闘になれば隠れる場所もなく、足場も悪そうだ。
島の南西、湖に向けて突き出したあたりには、「遺跡群」と書かれたエリアがある。
史伽の現在地から見える限りでは、電柱や電線、看板類が見えないだけで、「ただの街」といった感じだ。
どこがどう「遺跡」なのか、いまいち実感がない。
西の湖岸は、断崖絶壁になっている。
湖岸から中央の山岳地帯あたりまで、ずっと岩場が広がっている模様。
木はほとんど生えていないが、代わりに巨岩とデコボコした地形が視界と進路を遮る。
島の北西の方は、かなり濃密な森のようだ。
隠れたりするにはいいだろうが、しかしひょっとしたら、野生の獣なども潜んでいるのかもしれない。
なんにせよ、見通しが悪く歩きづらいのは間違いない。
そしてそんな島の中を、何本もの道が走っている。
最も目立つのは、湖畔からかなり離れたところ、ちょうど中央の丘陵地帯を取り囲むように走る環状の道。
その環状の道から放射状に外側に向け、数本の横道が伸びている。
この道を歩けば、かなり歩き易そうではあるが……その分、他の生徒との遭遇率も上がるだろう。
「……広いですー。これじゃ、1日で何とか回りきれるかどうか、って感じですー」
さんぽ部の史伽はその経験から、地図と目の前の光景を照らし合わせ、その広さと複雑さを実感する。
これは歩き回るだけでも大変だ。
砂浜や平原に居れば、地図上の隣のマスまで見渡せそうな感じではあるが、
反面、障害物の多い森や山や遺跡地帯では、同じマスの中に居ても、気付かずすれ違うかもしれない。
この島のあちこちに、あの『転送』の魔方陣を使って、生徒たちがバラまかれている。
ランダムに『転送』されたらしい生徒たち、どこに誰が居るのか、まるで見当もつかない。
「……まずはお姉ちゃんと、楓姉と合流する方法を考えるです。この2人は信じられるです。
それからあと、アキラも……。他のみんなは、ちょっと分からないですねー」
史伽は呟く。普段の彼女なら、クラスの誰だろうとまずは信じてかかるところだろう。
しかし、このシチュエーションの異常さ、場の持つ『魔力』に、微妙に史伽の思考も歪んでいる。
そしてその『歪み』に、彼女自身は気付くことができない。
史伽は時計を確認する。ちょうど朝の8時40分。この調子だと全員『転送』し終わるのが大体9時頃だろうか。
定期放送が『6時・12時・16時・24時』の1日4回ということだから、最初の放送まで3時間。
自分に支給されたアイテムを落ち着いてじっくり調べるためにも、まずは隠れ家探しだ。
「……私はここで待ってるのです。みんなには、今言った3人を探しきて欲しいのです」
数十分後。山の中に洞窟を見つけ腰を据えた史伽は、目の前の小さな影たちに何やら命じていた。
小さな史伽よりさらに小さな影たちが、コクコクと頷く。
下手に動き回ればすれ違う、でも探さなければ見つからない。
ならば、自分は隠れ場所を確保しておいて、誰かに探してきてもらえばいい。
簡単な話である――その「誰か」を「手に入れて」さえいれば。
「――じゃあ、作戦開始です!」
史伽の掛け声にあわせ、小さな影たちは一斉に洞窟を飛び出す。
島の四方八方に向けて散っていく。コソコソと姿を隠しながら、命じられた3人の姿を求めて――
【残り 33名】
【04 補足情報】
とっても分かりやすい 地底湖の島 超簡易版マップ
壁壁壁壁壁壁壁
壁〜〜〜〜〜壁
壁〜森沼草〜壁
壁〜岩山林〜壁
壁〜遺砂棚〜壁
壁〜〜〜〜〜?
壁壁壁壁壁壁壁
生徒に配られた地図はもう少し詳しい、絵地図的なものです。
立ち入り禁止区域を指示するマス目ももっと細かいです。
05 《 代理戦闘 》
「……さて、どうしたもんかねー」
早乙女ハルナ(出席番号14番)は辺りを見回し、頭を掻いた。
東西に走る古い道。年代を感じさせる石畳の隙間から草が伸びている。その中央で、彼女は思案する。
北側には大きな沼が広がり、南の方には木々の生い茂った小山。
島の北側、湖岸からはエリア1マス分ほど離れたあたり。
沼や山を迂回しつつ、島の北側を東西に抜けようとしたら、誰もが自然に通るであろう道である。
「みんな、やる気なのかな……ま、夕映やのどかは大丈夫だと思うんだけど、ね……」
ハルナは教室の雰囲気を思い出す。
冷静さを保っていた人、先生たちへの怒りを見せていた人々は、まだいい。
一番怖いのは、怯えていた人たち、そして混乱していた人たちだ。
一歩間違えば過剰な恐怖から、勝手に焦って攻撃に走る危険性さえある。
そんなクラスメイトに遭遇した時、ハルナは自分の身を守れるのか。
ハルナだけではない、ハルナの大切な人たち、のどかや夕映は、その場を凌ぐことができるのか。
そして身を守るためとはいえ、彼女たちは襲い来るクラスメイトに反撃することができるのだろうか?
――ハルナは、気付かない。
いつのまにか彼女自身、「殺し合いのゲーム」を前提とした思考をしていることを。
みんな基本的には、この『バトルロワイヤル』に参加するものだと思い込んでいることを。
普通に考えれば、あの3−Aの面々が互いに殺し合いするなど考えにくい。
比較的交際の浅い相手だろうと、「あの」クラスの仲間同士が、殺し合いなどするはずが。
しかし、ハルナは……いや、ハルナのみならず、史伽も、他のクラスメイトたちも、いつの間にか……!
そんな自分の思考の異変に気づくことなく、ハルナは戦いを前提とした準備を始める。
「こんな古いピストル渡されてもねぇ……私、弾込めとかできねーっての」
何か使えるモノはないかと探した荷物の中、自らに与えられた支給品を見て、ハルナは苦笑する。
やたらと古臭い、骨董品のような拳銃。弾倉も何もなく、ただ撃鉄と引き金があるだけ。
何か歴史モノのマンガで見た記憶があるが……確かこれ、薬莢が発明される以前の銃ではなかったか?
火縄銃のように先端から弾込めをする、大昔の銃ではなかったか?
何やら説明書もついてはいたが、もはや読む気にもならない。
それより……ハルナは懐から1枚のカードを取り出す。
「コレを取り上げられなかったのは、運が良かったかな? これさえあれば……『アデアット』!」
光るカード。光に包まれるハルナ。
次の瞬間には、彼女の片手にはスケッチブック、片手には羽ペンが出現していた。
エプロンのような前掛けと、羽飾りのついたベレー帽も一緒である。
『落書帝国(インペリウム・グラフィケース)』。
ネギ・スプリングフィールドと仮契約を交わした早乙女ハルナに与えられたアーティファクト。
スケッチブックに描かれたモノを具現化する、絵描きにとっては夢のアイテム。
手に入れてから日は浅いが、得体の知れない銃などよりよほど信頼できる。
早速、ハルナのペンがスケッチブックの上を踊って……
「……でもさ、この『簡易ゴーレム』も、使いどころ難しいんだよなァ」
数分後。
目の前で吼え声を上げる、3つの頭持つ子犬を見ながら、ハルナは溜息をつく。
ついこの間、痛い目に合わされた魔獣に似せて描いたこの魔犬。
多少描線を減らしデフォルメしたために、怖いというより可愛らしい印象のプチ・ケルベロスになっている。
それはともかく、このスケッチブックで作れる『簡易ゴーレム』、実際使いどころが難しい。
必要になってから描き始めたのでは、神速を誇るハルナのペンでもなかなか間に合わない。
かといって、予め出しておくわけにもいかない。ゴーレム自体の持続力は、かなり短いのだ。
ゴーレムを出すのに必要な時間と、ゴーレム自体の持続力。この2つの兼ね合いが悩ましい。
絵を描く時間を稼いでくれる仲間が居なければ、なかなか実戦での使用は厳しい代物なのだ。
「やっぱ、味方を探さなきゃダメよね。まずは夕映とのどかを……」
ハルナが荷物をまとめ、立ち上がろうとした、その時。
そう遠くない所の木々が、ガサガサと揺れた。
ハッと振り向くハルナ。SDケルベロスも、牙を剥いて唸る。そして、藪を抜けて出てきたのは……
「はれ? ハルナ?」
「……桜子……?!」
いつもの底抜けに明るい笑顔のまま、無防備に出てきたのは椎名桜子(出席番号17番)。
普通に散歩してて、ばったりハルナと出くわしました、といった雰囲気。
だがハルナは、その笑顔にこそ底知れぬ恐怖を覚える。
それがついさっき、親友でありチア仲間である円を、目の前で惨殺された人間が浮かべる笑顔だろうか?
「へー、ハルナもモンスター呼べるんだねー! やっぱりアレ? もらったアイテム?」
「いや、これはネギ君との仮契約で……ってか、桜子、あんた……!」
ヤバイ。ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。
桜子はただ無防備に笑っているだけだが、しかしハルナの背にはじっとりと冷たい汗が滲む。
普段はラブ臭にしか反応しないセンサーが、とてつもなく嫌なモノを捕らえ、警告を発する。
「でもねー……ハルナのワンちゃんより、私の『ポッキ』ちゃんの方が強いと思うよー?」
「ポッキ……ちゃん?」
「そ。なんかね、本当は『ゼンキ』とか『ゴキ』とか、なんか嫌な名前らしいんだけど。
でもそれって可愛くないでしょ? だから私が、新しい名前つけてあげたんだ♪」
桜子は、ニッコリ笑う。ニッコリ笑って、『それ』を呼び寄せる。
「おいで――『ポッキ』ちゃん♪」
桜子が取り出した、一枚の札。ポンッ! という軽い音と共に、もうもうと舞い上がる煙。
その煙の中に現れた巨大な影を見上げ、ハルナは明らかに強がりでしかない笑みを浮かべ、呟いた。
「……やっべー。ポ○モンだかデ○モンだか知らないけど、レベルが全然違うっぽいなー。
どーしよー……!」
【残り 33名】
今夜投下分は以上。また明日朝投下予定です。
ここまで露骨に魔法が前面に出たロワは無かったなー。
これからの展開に期待です。
サイト作る技術が無いので人任せになってしまうが、
まじめにまとめサイトを更新して欲しい……
このまま続いていくと見れなくなる作品が多くなりそうだし。
07 《 1st TARGET 》
どこまでも広い、草の原。
腰くらいまでの高さの草が、目の前に延々と広がっている。
遠くを見渡せば、南西の方向には緩やかな丘と、その向こうにそびえる小山。
南の方には、まばらな林。西の方にも、木々が見える。
そして北東の方角には、どこまでも平坦な草原の向こうに、遠く煌く湖面。
島の北東部に広がる、草原地帯と、中央の丘陵地帯との境目付近。
島をグルリと一周、湖畔から離れた所を回っているらしい、環状の古い石畳の道の途中。
こんなことでもなければ、実に素敵な景色の中。1人の少女が、がっくりと肩を落としていた。
「なんで、こんなことになってしもたんやろ……」
和泉亜子(出席番号05番)は、何度目になるかも分からぬ呟きと共に、深い溜息をつく。
頼りになるバンド仲間の釘宮円(出席番号11番)は目の前で殺され、クラスメイトは殺気立っている。
いつ誰が襲ってくるか、分かったものではない。
頼みの綱と思って調べた支給品は、しかしただの扇。
実はこれ、エヴァンジェリンも使っていた立派な武器・鉄扇なのだが、素人の亜子に扱えるモノではない。
極度の不安の中、亜子は、1人の人物を思い浮かべる。
「ナギさん……助けてぇな……」
学園祭が終ってから、まるで連絡の取れない想い人。
おそらくはイギリスに帰ってしまったのだろうが、しかしそうと知っていても助けを求めずにはいられない。
「あの時の夢」のように、このピンチに駆けつけて、助け出して欲しい。
また、自分に「魔法をかけて」、この窮地から救い出して欲しい。
力強いあの腕でもう一度抱き上げて、この場から一足跳びに――
「…………」
夢想に逃げかけていた亜子は、しかし、やがて思い出す。
彼との短い時間の間に、彼が語った数々の言葉を。
あの日、亜子の人生観を一変させた魔法の言葉を。
「んっ、助けを待ってるだけなんて、やっぱアカンよな……。
ウチはウチの人生の、主人公なんやし。頑張らな」
ナギの言葉を、彼女は口に出して確認する。
完全に彼の言葉の受け売りでしかなかったが、それでも亜子の瞳に力が戻る。
頑張ろう。
頑張って、生き延びよう。
これからどうすればいいかはまだ分からない。殺し合いなんて、とてもじゃないけど亜子にはできない。
けれど何とかして生き延びて、そして再び彼と会おう。
この、どう見てもマイナスの状況を乗り切って、主役になろう――
亜子は拳を握り締める。自分自身に言い聞かせるように、力強く頷く。
「ナギさん、待っててな……! ウチ、頑張って、また、ナギさんと……」
ターン……。
ごふっ。
「…………あえ?」
それは、唐突に。
亜子は独り言の途中で、その背を貫く強い衝撃を感じ。
遥か遠くから鳴り響く、発射音。口から溢れる、真っ赤な血。
……自分が撃たれたのだ、と気付くまでのに、亜子は数秒の時間を要した。
「ちょっ……待って、これって、え」
胴体を貫通した小さな穴。背に背負った大きな傷痕、そのちょうど真ん中を貫いた弾丸。
噴き出す血に、ようやく彼女が痛みを覚えた頃。
狙撃弾の第二射が容赦なく放たれて、今度は亜子の頭を撃ち貫いた。
訳も分からぬまま、彼女は脳漿を飛び散らせつつ、その場に崩れ落ち――
「ナギ、さん……!」
二度と会えぬであろう、幻の向こうの想い人の名を呼びながら、亜子の意識は闇に消えた。
「……亜子が悪いんだよ? そんな、いかにも『撃って下さい』って感じで突っ立ってるからさぁ」
遥か遠く、草原の入り口付近で崩れ落ちた和泉亜子の姿に、狙撃手は軽い口調で呟く。
その顔に浮かんでいるのは、普段通りの悪戯っぽい笑み。
亜子の位置から見て南西の丘の上。地図の上のエリア分けでは、斜め隣のマスに相当する位置。
朝倉和美(出席番号03番)は、腹ばいになってライフルを構えていた。
確かにこの位置からは、島の北東に広がる草原の方を自由に狙撃できる。
障害物のない広い空間、ほぼ完全に制することができる。
あと必要なのは狙撃用の武器と、狙撃手の腕と、狙撃手の覚悟だけだ。
「エアガンらしいけどさ、しかし随分な威力だよね〜。どういう仕組みなんだか、コレ……」
違法改造のエアガンと、術が施された弾丸。
術により増幅された威力と弾速は、火薬を使った実銃と比べてもまるで遜色がない。
むしろ弾数は増え反動は減り、かえって扱い易さが増している感すらある。
そして、狙撃手の技術については。
「ターゲットをフレームに捉えて、タイミング計って、シャッターを切る。
ターゲットをスコープに捉えて、タイミング計って、トリガーを引く。
……うん、望遠レンズでの激写と、基本的には一緒だね、こりゃ」
麻帆良パパラッチに異名を取る和美は、彼女独特の感性でライフルの扱いを把握してしまっていた。
細かいことを言えば、カメラの扱いとライフルの扱いは全然違うものではあるはずだが……
あるいは今まで機会が無かっただけで、元々スナイパーとしての適性も持っていたのか。
少なくとも、彼女の性格は狙撃手としてもそれなりの適性があるようだ。
「悪いね、亜子ちん。アンタにはアンタなりの、生きていたい理由とかあったんだろうけどさ。
コッチも、こんなところで死ぬつもりはないんでね♪」
こんな自分に向いた武器を支給され、こんな狙撃に適した地形に『転送』された幸運。
最大限、利用するしかあるまい。
和美は1度だけ大きく伸びをすると、再び身を伏せる。
草と岩が彼女の身を隠し、草原の方からはほとんど見えなくなる。
地形の関係上、少なからぬ生徒が通ることになると思われる、道の途中。
亜子の遺体が倒れ伏す草原の端を見張る形で、和美は再び、長い待ちの姿勢に入った。
【出席番号05番 和泉亜子 ライフルの狙撃により死亡】
【残り 31名】
08 《 悪の華 》
森の中、柿崎美砂(出席番号07番)は開始早々、1人の人物と出くわした。
長瀬楓(出席番号20番)。全く隙のない構えで、細い目の下から美砂を眺めている。
「あ……え……! アンタ……!」
「美砂殿か」
恐らくは楓は早くから美砂の存在に気付いていたのだろう。
そして隠れることも逃げることも、不意を打つことも簡単だったのに、あえて姿を晒した。
美砂の真意を、探るために。
「……妙な考えは起こさぬ方が良いでござるよ。拙者もできれば、美砂殿を傷つけたくは無い」
枯葉の積もる深い森の中だというのに、足音ひとつ、物音ひとつ立てずに近づいてくる楓。
美砂は思い出す。録画画像で見た『まほら武道会』での楓の戦いぶりを。
結局敗れたとはいえ、分身やらトンでもない大ジャンプやらを駆使して戦った、あの超人の姿を。
到底、美砂のかなう相手ではない。
「拙者、なんとかしてこの馬鹿げた『ゲーム』を止めるつもりでござるよ。
まだ良い考えは浮かばぬが、何人か集まって知恵を出し合えば、おそらくは。だから……」
「……私は、お断りよ」
先の見えない反抗計画への誘いを口にする楓を、しかし美砂ははっきりと否定する。
明らかに強がりも混じった笑みを浮かべ、言い切った。
「私は、生き残るの。誰を踏み台にしてでも、生き残ることに決めたの。
そんな風にあの『魔法使い』たちにケンカ売って、円みたいに殺されるのは、真っ平だわ」
「……残念でござるな」
美砂の返答に、楓は溜息をつく。
不幸にも、開始早々に殺されてしまった釘宮円(出席番号11番)。
その親友である美砂ならば、ひょっとしたら楓の提案に乗ってくれるかとも思ったが……
しかし、どうも美砂の精神は悪い方向に大きく振れてしまっていたようで。
楓は、そのまま美砂に背を向ける。
仲間にすることを諦め、彼女が次会う時まで生きていることを祈りつつ、その場を離れようとして……
「――待ちなさいよ」
美砂の低い声に、楓は思わず足を止める。肩越しに、首だけで振り返る。
据わった目をした美砂が、何かを片手に握り締め、楓を睨みつけていた。
「一方的に喋って勝手に『残念でござるな』って、まさかそれでもう終わり?!
アンタの用が終ったから『ハイさようなら』ってェ!? 馬鹿にすんのもいい加減にしなさいよ!」
「い、いや、拙者は……!」
激昂する美砂に、楓は慌てる。
別に美砂を軽んじたわけではない、ただ戦いたくないのだ。
勢い余って美砂を傷つけるような危険を、冒したくないのだ。
相手は完全な素人、手加減するつもりでもどんな間違いが起こるかわかったものではない。だが……
「ソッチが私に用がなくてもね……コッチはアンタに用があんのよッ!」
そして美砂は試験管のようなモノを手に取り、その栓を抜き放つ。途端に噴き出す、白い煙。
……支給されたマジックアイテム!? 魔法の薬!? 攻撃用!? それとも何かの召喚!?
楓は一瞬、判断に迷う。逃げるか叩き落とすか様子を見るか、一瞬迷う。
そしてその一瞬の迷いこそ、美砂にとっては十分な時間だった。
すぐさま美砂は、その毒々しい紫色の液体を、なんと躊躇うことなく一息に飲み干してしまって。
てっきり投げるか中身をブチまけるか、と思っていた楓は虚をつかれる。
「な――飲んだ!? 身体強化? あるいは変化・変身の類?
この拙者と事を構えようというのだから、並大抵のモノではござらぬぞ!?」
楓の頭がフル回転する。「自分で飲むタイプ」の「戦闘用アイテム」を、様々に考える。
西洋魔術については無知な楓だが、しかしこの状況で意味を持つ魔法薬はそう多くはないはず。
そして考えながらも、身構えたまま美砂を睨みつける。
瞬時に対応できる姿勢を保ったまま、一瞬たりとて美砂の様子から視線を外さない。
それは忍びとして・戦士として当然の反応。相手の出方が分からぬ時の、基本的な心構え。
――そしてそれが、この場この相手においては決定的なミスとなった。
……数分後。
森の中にあったのは、艶然と胸を張って微笑む1人の女と、膝をついて見上げる1人の女。
先ほどまでの緊張感など、欠片もない。
いや、先ほどまでとは全く違う意味で緊迫したやり取りが、交わされる。
「……つまり、あなたは私のことが好きなわけね?」
「そう……でござろうな。
拙者、美砂殿の姿を見るだけで、胸が切なくなってくるでござる……!」
「私の言うことなら、何でも聞くの?」
「何でも聞くでござる」
「もし私が『誰かを殴れ』と言ったら、殴る?」
「殴るでござる」
「もし私が『誰かを殺せ』と言ったら、殺す?」
「殺すでござる」
「もし私が『自殺しろ』と言ったら、死ぬ?」
「死ぬでござる」
美砂の足元にすがりつくようにして、美砂の言葉を復唱する長瀬楓。
その表情は今にも蕩けんばかりで、その口調は切羽詰っていて。
つい先ほど「この馬鹿げたゲームを止めるのだ」と凛々しく宣言した人物と同一だとは、到底思えない。
そんな楓を見下ろす美砂の顔に、邪悪な、そして妖艶な笑みが浮かぶ。
柿崎美砂に先生サイドから支給された品、それはなんと『ホレ薬』。
かつてネギが学園にやってきて間もない頃、明日菜のために作った薬と同質のもの。
これを飲んだ者からは一時的にフェロモンのようなオーラが噴き出し、その姿を見た者を虜にする。
標的に飲ませるのではなく自分自身で飲むタイプの、ハーレム形成型のホレ薬。
しかも、素人に近いネギが適当に作ったものと異なり、こちらは錬金術の専門家が作った一級品。
フェロモンが噴出している時間こそ短いが、虜になった者は、半永久的にその魂を縛られる。
あの時の騒ぎのように、しばらくしたら正気に戻るようなこともない。
これはこの状況下、直接戦闘に関するモノしか思いつかなかった楓の失敗。
あるいは、この状況下でなお与えられたアイテムを使いこなした、美砂の勝利。
「私が『ここで裸になれ』と言ったら、裸になる?」
「喜んで脱がせてもらうでござる」
「私が『私の靴を舐めろ』と言ったら、舐める?」
「喜んで舐めさせてもらうでござる」
「なら――私の靴を、舐めなさい。心を込めて、丁寧に」
恋焦がれる相手から言い放たれた、サディスティックな命令。目の前に差し出された、土に汚れた靴。
楓はしかし嫌な顔ひとつせず、美砂の足元にうずくまる。やがて森の中に響く、ぴちゃぴちゃという水音。
美砂は背筋にゾクゾクする快感を覚えつつ、確信した。
コイツは、使える。本当に使える。間違いなく美砂は、この『ゲーム』を勝ち残ることができる、と――!
「私と一緒に居たいのね、楓? なら、私のために――!」
【残り 31名】
朝投下分はここまで。また夜に投下予定です。では。
GJ
ホレ薬といい、大胆なアイテムが多くてwktk
GJ!
ホレ薬がBRに出てくるとは
亜子…… orz
気や魔力の封印、してないんだな。逆に一般人をパワーアップ?
09 《 強制認識魔法 》
「どうなってます、会場の方は?」
ふらりと部屋に入ってきた瀬流彦は声をかける。
水晶球を覗き込んでいる、スキンヘッドの男。彼は片手を水晶球に翳したまま応える。
「……瀬流彦先生か。『転送』の方は終わったようだな」
「いやー疲れましたよー。なんせ33人ですからねー。後から1人、追加で送らなきゃいけませんけど」
軽い調子で言いながら、瀬流彦は彼の肩越しに水晶を覗き込む。
慣れない儀式魔法を33人連続で実行した瀬流彦。準備の時間はあったとはいえ、コレは辛い。
辛いが、しかし本気で辛い時でも表情に表れないのが瀬流彦という男だ。
水晶球を覗き込みながら、彼は軽い口調で呟く。
「ありゃりゃ、もう死人出てるんですかー。早いですねー」
「例の『強制認識魔法』が効果を発揮しているのだろうな。
殺し合いまでは至らずとも、緊張した展開が各地で見られるぞ」
『強制認識魔法』。
参加者全員に向け、開始前、まだ彼女らが眠っている頃から発動させていた精神操作系の魔法。
……実のところ、その効果は大したものではない。ちょっとした催眠術程度のものだ。
「誰かを殺さなきゃ生き残れないかも」「誰かに命を狙われるかも」、そういう考えがふと浮かぶ程度。
その効果には個人差があるし、またこの魔法だけですぐさま殺し合いが始まるわけでもない。
そこまで強烈な効果は、持っていない。人間が持つ殺人への禁忌は、相当に強い。
けれども、潤滑剤にはなる。後押しにはなる。
殺し合いへの心理的ハードルを下げるという程度だったが、この状況ではそれで十分。
その上で、教室で級友の死を見せつけ首輪をつけ、見知らぬ土地に放り込んで緊張を強いれば。
疑心暗鬼になったり攻撃的になったり、あるいは他人を出し抜く方向で考えを進めたり。
その反応は十人十色ながら、普段通りで居られる者などそう多くはない。
その思考や嗜好は普段の彼女たちの延長だが、普段は見せない側面が剥き出しにされる。
「我々が痛い目に遭わされた『強制認識魔法』……まさか、こっちが使う羽目になるとはな。
ましてや、『彼女』から得たような技術を。
大体、『彼女』の言っていることだって、未だに全て真実だとは信じられんのだ」
「う〜ん、でもま、仕方ないんじゃないですか? 僕らには他に方法が無いんですから」
忌々しげに呟くスキンヘッド。飄々と答える瀬流彦。
12日前、学祭最終日。彼ら魔法先生は、1人の生徒(とその協力者たち)に、手痛い敗北を喫した。
完敗だった。どうしようもない負け方だった。
敵の名は、超鈴音。
麻帆良学園女子中等部3−A組出席番号19番。麻帆良の最強頭脳とも謳われた、万能型の天才少女。
彼女の策略の前に、彼らは抵抗力を奪われ、彼女の行動を阻止できず、全てが後手後手に回り。
そして全世界に、『魔法』の存在が公表されてしまった。
世界を多い尽くす規模の『強制認識魔法』。ネット上にバラ撒かれた『魔法』関連の情報。
今はその影響は麻帆良学園に留まっているが、いずれ世界中の人間が『魔法』の実在を知ることだろう。
魔法界の秩序は、根底から揺るがされることだろう。
いや既に魔法界本国はとんでもない騒動で、この短期間の間に大きな政変が立て続けに起こったらしい。
そんな中、彼らは学祭終了後、必死になって火消しと現状把握に走り回っていた。
走り回ってはいたが、しかしその成果は芳しいものではなく。
やがて届いた、魔法界本国からの処分の通知。
最高責任者である学園長・近衛近右衛門に命じられた、即時の魔法界への出頭。
そして、魔法先生たちに課せられることが決定したオコジョの刑。いずれも年単位の厳しい処分。
彼らが絶望と無力感に打ちのめされ、しかし全てを諦め受け入れようとした、まさにそのタイミングで――
――姿を消していた子供先生・ネギと、それに親しい一部の生徒たちが、ひょっこりと姿を現したのだった。
彼らの抵抗に遭い、反撃に遭い、多少のドタバタはあったが、ともかく彼らを拘束した魔法先生たち。
タイムマシンがどうとか、非常識なことを言い立てる彼らを牢に押し込め。
罰が決まっている者は魔法界へ護送、決まってない者には事情徴収……と思っていた矢先。
今度は、ネギたちよりもさらに予想を上回る人物が、魔法先生たちの前に姿を現した。
のうのうと、現した。
いきりたつ魔法先生たちに、しかし『彼女』は不敵な笑みと共に示した。次々に示して見せた。
『聖地』の魔力受けて動く、期間限定ながらも正真正銘のタイムマシンの存在の証拠を。
この一週間、魔法界本国にあった激しい動きを。そしてこの先起こるであろう、魔法界の激動と恐怖を。
さらには『オコジョの刑』『オコジョ収容所』の名の裏に隠された、恐るべき真実を。
先に魔法界に出向いた近右衛門の身に降りかかった、残酷な運命を。
つまりは、魔法先生たちの想像を遥かに上回る、絶望を示して見せたのだ。
ただ、『彼女』が提示したのは絶望だけではない。
絶望と同時に、この事態を打開するための血にまみれた秘策が、用意されていた。
そしてそれは恐らく、今後の人間界を守り抜くための手段ともなる。
……その内容に、魔法先生たちも流石に激しく悩んだ。
だが、答えは最初っから出されているようなものだった。悩み続ける時間も与えられはしなかった。
「魔法関係者なら子供でも知ってる『オコジョの刑』――
けれど、刑期を終え帰ってきた者は1人も居ない。やれやれ、何故言われるまで気付かなかったかな」
「事実ですもんねぇ。きっとアレですよ、僕らにも『強制認識魔法』が掛けられてたんでしょう。
『オコジョの刑』の実在を疑ったりするな、その内容に突っ込んだ疑問を持つな、ってね」
溜息をつくスキンヘッドに、瀬流彦も肩を竦める。
『魔法』がバレたらオコジョにされる、というのは、魔法関係者なら誰もが知っている基本ルール。
そして、人間界で生活をしていく以上、誰もが犯しかねない、最も犯しやすい禁忌でもあるはずだった。
こんな大掛かりな事件が無かったとしても、毎年毎年、このルールに抵触する者は何人も出るはずである。
刑期決定の基準などは明かされてないが、オコジョの刑に刑期があることも良く知られた話。
けれどスキンヘッドも瀬流彦も、「かつてオコジョの刑を受けたことのある魔法使い」と会ったことがない。
「刑期を勤め上げ、晴れて人間の姿に戻れた者」を見たことがない。噂にさえ聞いたことがない。
ただごく自然に、こう思い込んでいた。
「オコジョにされたら魔法界に連れていかれ、戻って来れないのだ」と。
戻って来れないのが、普通なのだと。当たり前なのだと。
魔法先生ではないが、かつてネギの使い魔・カモも、同じような認識に基づく発言をしている。
本国に送還されオコジョにされたネギとは、『下手すると二度と会えねぇかも』と明日菜たちに語っている。
――冷静に考えると、これはおかしな話である。
魔法界と人間界の行き来は、ある一定のルールはあれども普通にできる。
そして刑罰というものの原則として、定められた刑期を勤め上げればもうそれ以上の追及はない。
それ以上の罰や制裁を受けることは、原則としてはありえない。
オコジョの刑を受けた者が、帰って来れない道理がない。二度と会えない道理がない。
魔法先生たちの前に現れた『彼女』は、その矛盾を突いた。
そして、その矛盾の答え、『オコジョの刑』という『隠語』の影にある『真の刑罰』の証拠を示した。
証拠を示して――そして『彼女』は言った。
『で、これでも先生たちは、素直に魔法界の裁きを受けるのかナ?
愛する人や家族を残したまま、『数年間のオコジョとしての生活』では済まぬ、この罰を受けるのかナ?
それとも――!』
……答えは、最初っから出されているようなものだった。
全て『彼女』の掌の上と分かっていても、なおその掌で踊り続けなければならぬ立場であった。
【残り 31名】
10 《 主のない鞄 》
古菲(出席番号12番)は、林の外れに立って1人頭を掻いていた。
ここは島の東北東。島の東側に広がる林と、北東に広がる平原との境目付近。
北に進めば広く障害物のない平原、南に進めば木々生い茂る林、といったところだ。
古菲はどちらに進むべきか、どう行動するべきか、しばし迷う。
古菲は、バカである。良い意味でも悪い意味でもバカである。
良い意味で、というのはつまり、考えても仕方のないことをくよくよ悩まないということだ。
自分の「頭の悪さ」を自覚してるから、最初っから無駄なことには労力を使わない。
代わりに、行動する。身体を動かしていれば自然に事態は好転する。そんな確信を持っている。
悪い意味で、というのは、これはもう文字通り。悩むも何も、考える能力が低いのだ。
多少複雑な事態になってくると、彼女の処理能力は容易にパンクする。答えが出せなくなる。
今の状況において、古菲は多くのことについて悩むのをやめていた。諦めていた。
魔法先生たちの意図だとか、魔法先生たちに抵抗する方法だとか、もうその辺は考えても仕方ない。
考えたところで、古菲に良い考えが出せるはずもない。
古菲が今考えていること、それはどうすれば仲間たちと出会えるか。この1点のみである。
どうすれば、「古菲の代わりに考えてくれる」「頭のいい」仲間たちと巡り会えるのか。
反面、そういう仲間たちには戦闘力がない。古菲は彼女たちを守ってやらねばならない。
守ってやらねばならないのだが――とにもかくにも、会わないことには仕方が無い。
で、出会うためにはどうすれば良いのか。古菲はさっきからこの無限ループをグルグルと回っている。
「……ま、歩きながら考えるアル」
結局古菲は何の答えも得ることなく、北の草原に向かって歩き出した。古菲らしいといえばらしい。
林の中でなく草原の方に踏み出したのにも、あんまり深い意味もない。
強いて言うなら、ちょうどそっちの方から風が吹いてきたから、くらいのものだろうか。
足首を隠すほどの高さの草を踏み分けながら、古菲は歩く。目的も無く先の見通しもなく、ひとまず歩く。
歩きながら、荷物を確認する。
「魔法の杖……。でもコレ貰っても、ワタシ使えないアルよ。
このかあたりに持ってもらえば良いアルね」
古菲のデイパックの中には『初心者用の魔法の杖』が6本ほど。束になって入っていた。
しかし古菲は基本中の基本である『火よ灯れ』さえロクに成功させられなかった人間だ。
これもまた、誰かに渡さねばならない。誰かに会って、委ねねばならない。
……まあ、歩いているうちに、誰かに出会うだろう。きっと。
「……これは、何アルかね?」
歩き出して数分。古菲は草原の真ん中にポツンと取り残された荷物を見つけ、首を傾げた。
見たところ、参加者たち全員に支給された、水と食料、地図類が入ったデイパックのようだ。
だが、肝心の参加者が居ない。隠れるような場所もない。
周囲には草を踏み分けた足跡も、草が倒れたような様子も何もなく。
虚空からポンと、デイパックのみを放り込んだような状況。
「…………?」
おバカな頭ながらも罠の可能性を考えるが、しかし周囲の地形が地形だ。
落とし穴などのトラップを仕掛ける余地はないし、狙撃などができる場所もない。
じりじりと近づいた古菲は、そして何の抵抗もなくデイパックを手に入れる。
「……どういうことアルかな? あの性格悪そうな先生たちからの、追加のプレゼントアルか?」
『もしもーし。えーっと、くーふぇいさん。聞こえますかー?』
首を捻る古菲のすぐ傍で、誰かが必死で声を上げる。けれども彼女の声は古菲には届かない。
目の前で大きく手を振っても肩を叩いてもまるで気付かれず、彼女はがっくりと肩を落とす。
『やっぱり聞こえませんかー。シクシク、私やっぱり、幽霊の才能ない……』
彼女の名は、相坂さよ(出席番号01番)。3−Aの教室に60余年留まり続ける、いわゆる地縛霊である。
地縛霊と言ってもある程度の行動の自由はある。学園内、および学園の近くまでなら、出歩ける。
だからまあ、麻帆良の地下にあるというこの空間も、彼女が訪れることができても不思議ではない。
……訪れるというか、魔法先生に不思議な瓶に吸い込まれ閉じ込められ、強制連行されてきたわけだが。
『これって、私も『参加者』ってことなんでしょうかー。みなさんのような首輪は、ないようですけど……』
さよは自分の首元に手を伸ばす。そこには当然、首輪は触れない。
実体のある首輪など、さよの霊体につけられるハズがない。
首輪はないが――代わりと言ってはなんだが、首をグルリと一周する、紐のような『黒い痣』が1本。
ただこの痣、さよ自身の目には角度的に見えない。古菲には、そもそもさよが見えていない。
つまり、現時点では誰もその痣の存在に、気づいていない。
痣に例えたように、凸凹も一切ないから、さよが自分で自分の霊体に触れてみても、全く分からない。
それはさておき、さよも他の生徒と同じく、教室から呼び出され支給品を受け取り、『転送』されていた。
ただし彼女は幽霊である。物を持つこともできない、幽霊である。
ポルターガイスト現象も、彼女が調子のいい時、フルパワーを出した時に起きる程度。
「支給品を受け取った」と言っても、彼女に持ち歩けるわけがない。
瀬流彦に『転送』される際、刀子が一緒に魔方陣に放り込んだだけのデイパック。
さよはその真上で、途方に暮れていたのだ。
せっかくの荷物を置いて行ってしまうのは気が引ける。さりとてこの荷物を運ぶ方法がない、と。
『せっかくですから、古菲さんに付いて行きましょうかー。私のこと、全く見えてないようですけど』
勝手に荷物を自分のものにしてしまったらしい古菲を頭上から眺めながら、さよは心を固める。
もとより1人きりで不安で仕方なかったのだ。この際、自分の姿が見えずともいい。
道連れを決めたさよは、ふと首を傾げる。
『……あれ? この場合『付いて行く』というより、『憑いて行く』と言った方がいいんでしょうかー?』
「武器は……お、トンカチ。
このかが良くツッコミに使ってたアルな、殺傷力抜群で取り回しに優れた、密かな優良武器……
って、戦いじゃ役に立たないアルよ、ムキーッ!!
……ま、食べ物と水が増えたのはいいけど、いい加減誰かと出会いたいところアルね」
荷物を調べ、1人でボケて1人でツッコんで1人で怒って。
見えざる連れ合いがついてきていることに全く気付かず、古菲は再び歩き出す。
このまま進めば、湖岸まで出られるのだろうか。とりあえず湖岸に出てから考えよう。
古菲は草を掻き分け進む。いつの間にか草原の草の丈は伸び、腰の高さになりやがて背丈ほどにもなり。
そして、草原を抜け、湖に到達した古菲とさよは……
……草原の端。穏やかな湖面広がる湖畔。
ちょっとした土手のような雰囲気のそこに、1人の人物が膝を抱え、穏やかに座っていた。
彼女は古菲に気付くと、何やら長い棒状のものを手にして立ち上がり、ペコリと頭を下げる。
「サツキ……!?」
支給されたハズレ武器・刹那も使っていたデッキブラシを握り締め、静かに佇むコック姿の人物。
古菲にとっては馴染み深い相手、四葉五月(出席番号30番)が、いつも通りの微笑を浮かべてそこにいた。
【残り 31名】
今夜はここまで。
投下ペース、読者的にはどうなんでしょう。
このくらいでいいのか、速過ぎる・量多過ぎるのか、もっと飛ばしてもいいのか。
朝夕投下の是非も含め、ちょっと気になるところです。
GJ!
俺も朝夕投下の予定だから朝夕分離は別にいいと思う
量はもうちょいあってもいいかと思うが
強制認識魔法と来たか。
1日2回投下だと、つくレス半分になる気がス。みんな1日1回チェックするのがせいぜいっしょ。
それでいいなら止めないが
11 《 バトルロワイ《ア》ル 》
「……そんな道の真ん中歩いてると、遠くから『悪い奴』に撃たれたりするぞ?」
「ひゃいッ!?」
急に物陰からかけられた声に、宮崎のどか(出席番号27番)は飛びあがる。
振り返ってみれば、遺跡群の建物の影、隠れるようにして身を縮めた、長谷川千雨(出席番号25番)の姿。
彼女は不機嫌そうな表情を崩さぬまま、のどかを小さく手招きする。
「こっちだ。潜り込める建物を見つけたから、そこでちょっと話をしよう」
学園祭最終日、超一味と決着をつけるのだと意気込んで出てきたネギとその仲間たち。
彼らはしかし、超の策に嵌り、学祭一週間後の世界に飛ばされてしまっていた。
完敗である。戦わずして負けである。どうしようもない負けである。
彼女たちはその後、例のタイムマシンを用いて、再び学祭最終日にまで戻ろうとしたが……
その前に立ち塞がったのが、魔法先生たちだった。
彼らにもまた敗北を喫し、重要参考人として捕らえられた彼女たちは、牢の中で無為に3日ほど過ごして。
そして、目が覚めたらこの状況。
彼女たちには、情報が不足していた。何がどうなっているのか、知る必要があった。
「あの、千雨さん、どこへ……?」
「奥の部屋だ。出入口が2つあって、外からは見つかりにくい。
いざという時には裏口からも逃げ出せる。隠れて立て篭るにはもってこいの部屋さ」
古い石造りの建物の中。不安そうなのどかの言葉に、廊下を歩く千雨はぶっきらぼうに答える。
島の南西、地図の上では『遺跡群』と書かれた建物密集エリア。
『遺跡』と書かれてはいるが、しかし見た目だけではそう古い印象も受けない。
平屋建て、あるいはせいぜい2階建てまでであること以外、地上の学園都市にも似た雰囲気の建物。
それが数十軒集まって、ちょっとした街並みを成している。広場もあれば、大聖堂のような建物もある。
ただ、建物の中の調度品の類は、その多くが壊れたり持ち去られたり、ともかくほとんど残っていない。
千雨がのどかを連れ込んだこの建物も、似たようなものらしかった。廊下を進み、その中の1部屋に入る。
見れば既に、千雨の私物のノートPCやらデイパックやらもあたりに広げられている。
一緒に置いてある、さよの幽霊騒動の時にも使われた除霊銃『封神』は、千雨の支給品だろうか。
幽霊相手にしか効果がない上、背負う部分も含めればやたらと大きくて重い。ま、ハズレの一品である。
そんな荷物には目をくれず、千雨はかろうじて部屋に残されていた大きなソファに、どっかと腰を下ろす。
「私らみたいに戦闘力ないのは、隠れ場所しっかり見つけないとやってられねーからな。
しばらくココを起点に、腰を据えて考えよう。これからどうするべきなのか、これから何をするのかをな」
「う、うん……」
同じネギ一味の一員だったが、あまり突っ込んだ会話をしたことのなかった千雨の意外な強さ。
千雨の行動力とリーダーシップに、ただただ混乱するだけだったのどかは頼もしさを覚える。
戦うことができないのは、のどかも一緒だ。けれど彼女には千雨のような行動はできない。
少し、羨ましくも思う。
そんなのどかの心中を知らず、千雨はペットボトルの水を一口飲むと、大きく息をつく。
大きく溜息をつくと、まだ立ち尽くしているのどかを見上げ、問いかけた。
「ところで……本屋。唐突だが『この状況』、何か見覚えがないか?」
「へ?」
「麻帆良じゃ、何故か評判になってねぇ。外の町じゃベストセラーなのに、何故か麻帆良じゃ売ってねぇ。
でも、『本屋』と呼ばれたお前なら知ってるかもしれない、って思ってな。
なあ本屋――いや、宮崎。お前、『バトルロワイ《ア》ル』って小説、知ってるか?」
――『バトルロワイ《ヤ》ル』ならぬ、『バトルロワイアル』。
日本中に衝撃を与えた、1冊の小説の題名だ。
戦前の日本を思わせる体制の、架空の国家を舞台にしたお話。
国家の手によって誘拐され、殺し合いを強制させられるクラスメイトたち。
あらすじなどあってないようなものだ。支給された武器を手に、延々と級友同士の殺し合いが続く。
元々はとある小説の賞に送られた作品だったそうだが、その内容があまりに残酷とされ、落選。
その落選の事実さえも話題として利用し、別の出版社から出されるや否や、またも賛否両論。
不安の高まる社会情勢も相まって、一時は日本中の話題をさらったものだった――
「えっと、書評はいくつか読みましたけどー、なんか怖そうだったから、本そのものは読んでないですー」
「……ま、それが正解か。実のところ中身は大したことねーんだ。露悪趣味丸出しでな。
私が見る限り、賞を蹴られたのも残酷過ぎたからじゃねぇ。単に中身が無かったからだ。
アレ読んで感動した、涙出たとか言うやつらには、もっとマトモな小説読めと言いたくなるね」
「はあ……」
千雨の批評は厳しい。おそらくここまで辛口な意見はそうそうあるまい。
『あの小説』の熱烈なファンが聞いたら、頭から湯気を立てて怒り出すこと必至の暴言。
けれども千雨は容赦なく斬る。曖昧に相槌を打つのどかに、熱弁を振るい続ける。
「特に、何がバカらしいかって、『殺し合いをさせる理由』が貧弱だってことだ。
賭けが行われている、だとか、国民を骨抜きにとか、もっともらしいことは言ってるんだがよ。
どう見ても設定が手抜きなんだ。そんな理由でそんな無茶が通るかよ、って感じでな。
この辺の管理側の『動機付け』さえしっかりしてりゃ、私ももうちょい高い評価したかもしれない。
なんにせよ、話題づくりの成功で売れはしたが、本来は大した小説でもないはずだ」
「はぁ……」
「で、このやたら売れた3流小説、何故か麻帆良じゃほとんど無視されてるんだが……
実は、嫌なくらいに、今の私らの状況と合致してやがる。嫌なくらいに、状況をなぞってやがる」
千雨の顔が歪む。
『バトルロワイアル』を駄作と言い切る彼女。言ってみればかなり偏狭なアンチ・バトロワの彼女。
しかしネット上で擁護派と激しい論争を繰り広げる中で、その設定についてはしっかりと把握していた。
そして把握していたからこそ、今の状況との相似が分かってしまう。
眠らされて、起きたら教室というオープニング。首につけられた首輪。
唐突に告げられる殺し合いのゲーム。見せしめに殺されるクラスメイト。
逃げ場のない島という舞台。生徒にランダムに支給された、殺し合いに使える武器類――
もちろん、違う点も数多い。
当初の「世界設定」からして違うし、みんな一緒に居る所を攫われたわけでもない。
転送用の魔法陣などというものは無かったし、クラスメイト以外の参加者というのも出てこない。
同じ島と言っても、この地底湖に浮かぶ島はかなり勝手が違う。
そもそも、『バトルロワイアル』の世界には『魔法』などない。
だが、それらの細かい差異を考えてもなお、この状況の一致は、偶然ではない。偶然のハズがない。
「じゃあ、この『ゲーム』、私たちがお話の世界に入っちゃったってことですか……?」
「理由や目的は分からねぇが、誰かがあの小説を参考にして『作っている』のは確かだな。
全く悪趣味な話だとは思うぜ。だが……」
そこで千雨は、ニヤリと笑う。混乱するのどかに自信を滲ませつつ、自分の首輪をコンコンと叩く。
「だがこれが『バトルロワイアル』を模していると言うなら、逆に付け入る隙がある。
こんな私にも、打てる手がきっとある――!」
【残り 31名】
12 《 テレフォンパニック 》
神楽坂明日菜(出席番号08番)は、山の中で苛立っていた。
彼女に割り当てられた品物は、魔法の『触媒薬』が小さなフラスコと試験管に10本ずつ。
それなりに呪文を使える者にとっては、魔力不足を補い呪文詠唱の手間を省ける便利なアイテムだ。
だが、しかし明日菜にとっては何の価値もない。他に使えるモノはないかと、荷物を漁る。
「あ……『仮契約カード』……!」
確かあの教師は、「武器や魔法に関するモノは没収させてもらう」と言っていたはずだが。
この『カード』については、取り上げ忘れたのか見逃してくれたのか。
ともかくコレさえあれば、明日菜のアーティファクト『ハマノツルギ』が呼び出せる。当面の武器になる。
彼女は早速、呼び出そうとして……
「あ、そういえば、ネギってば……」
そういえばネギはどうなったのだろう。自分たちと同じく、魔法先生たちに捕まっていたはずだが。
彼は無事なのだろうか? 魔法の国に護送されてしまっただろうか? もう既にオコジョだろうか?
あるいは自分たちと同様、この馬鹿げた『ゲーム』に放り込まれているのだろうか?
明日菜は仮契約カードのもう1つの機能を思い出し、額に押し当てる。
カードの力を借り、ネギに向けて『念話』を放つ。
『――ねえネギ、聞こえる? もしも〜し? 聞こえてたら返事して?! ねえってば!』
『――ねえネギ、聞こえる? もしも〜し? 聞こえてたら返事して?! ねえってば!』
『なあネギくん、ウチ、これからどないしたらええかわからへん〜』
『ネギ先生、刹那です。返答が可能ならば『念話』を返して下さい。
私たちは今、魔法先生たちに殺し合いの『ゲーム』とやらに参加を強要され……』
『聞こえるですか、ネギ先生? 『念話』、届いているですか? 妨害されてるですか?』
「…………うわぁぁぁッ! みなさん、そんないっぺんに話し掛けないで下さいよぉぉッ!」
頭の中に聞こえてくる、複数の声。重なり合ってロクに聞き取れない言葉。
ネギ・スプリングフィールド(出席番号32番:便宜上与えられた番号)は、思わず悲鳴を上げた。
ネギが居るのは、生徒たちと同じく、地底湖に浮かぶ例の島。島の中央やや東側、林と山の境目あたり。
杖もなく、指輪もなく、ただ小さな身体をスーツで包んだだけの姿で、彼は頭を抱え込む。
ネギの首には、例の首輪。明日菜の想像通り、彼もまた、このゲームの1参加者だった。
生徒たちの側に何故か揃って残されていた、「従者用のコピーカード」。
しかしネギの手元にあるべき「主人用のマスターカード」は、彼の杖や指輪と共に没収されていた。
これでは『念話』は、従者側からネギへの一方通行でしか使えない。
聞こえていても、ネギの側から返事をする方法がない。
こうして従者側からの『念話』が届いている以上、マスターカードも破棄されてはいないハズだが……。
カードさえあれば、杖がなくとも『念話』を返せるのに。
カードさえあれば、彼女たちを『召喚』し、この場に集結させることもできるのに。
……あるいは、だからこそネギの持つカードは奪われてしまったのかもしれなかったが。
「でもみなさん、無事なんですね。とりあえず今のところは、無事なんですね」
ネギからの返事が無いことに諦めたのか、やがて4人からの『念話』は一旦途絶える。
あと2人、仮契約を結び『念話』を送れるはずの生徒たちから連絡が無いことが、少し気になってはいたが。
それでもネギは、強く決意する。
彼女たちを、助けよう。彼女たちを集め知恵を絞り、この理不尽なゲームから脱出しよう。
意気込む彼は、しかし途方に暮れる。
支給されたアイテムは、大量の500円玉。龍宮真名(出席番号18番)でもあるまいし、使いようがない。
「で、どうしよう……。どうすれば、みんなと……」
『ネギ先生、さっき言い忘れたことがあるです。聞こえていればいいのですが』
独り言の途中に、割り込む『念話』。一旦途絶えたと思っていた綾瀬夕映(出席番号04番)からの声。
思考の腰を折られ思わず転びそうになったネギは、しかし次の瞬間、夕映の言葉にはッとする。
『私の手元に、ネギ先生の杖があるです。魔法先生から支給された、魔法の品物として。
おそらく複製とかではないと思うのです。杖がなくて、先生も困っていないでしょうか?
もしや、先生の方の『カード』は杖と一緒に取り上げられて、それで『念話』が返せないのではないですか?
私の勘が正しければ、先生もこの『ゲーム』に参加させられていると思うのです。
私はしばらく動かずに、先生の到着を待つことにします。島の南東の、端のあたりに居るです。
会って、今後のことを相談しましょう――』
「…………ふぅ。私の想像が、当たっていれば良いのですが」
カードを額から外し、綾瀬夕映(出席番号04番)は呟いた。続いてアーティファクト召喚。
短パンと黒のノースリーブの上に、アーティファクトの装束の一部・黒い三角帽子とローブが出現する。
片手に握られているのはしかし箒ではなく、ネギが普段持ち歩いていたナギの形見の杖。
ひとしきり連絡を終えた夕映は、砂に半分埋まった本棚にもたれかかり、大きく溜息をつく。
本棚。そう、島の南東、屋外に剥き出しに秩序も何もなく立ち並んでいたのは、大きな本棚だった。
湖面に突き出したものもある。水に半分浸かっているものもある。斜めに傾いでいるものもある。
湖岸から離れた所では、林の中に、これまたごく自然に本棚が散在している。
そして無造作に本棚に並んでいるのは、いずれも本好きにはたまらない稀少な本ばかり。
まるで図書館島最深部、幻の地底図書室のような異常な光景。しかし夕映にとっては馴染み深い景色。
史伽が地図を見て首を傾げた「箱か棚のような記号」は、まさにこの光景を現したものだった。
「……これはもしかしたら、図書館島の地下とも繋がってるのかもしれませんですね。
首輪を外すことができたら、脱出ルートを検討してみる価値があるです」
そして夕映は、本棚の1つの影に座り込む。
ここでネギを待つことに決めたのだ。じたばたせずに、のんびり構えよう。
下手に動き回っても、きっとロクなことがない。
夕映は本棚の影に隠れるようにして座り込むと、手元の本をめくり始めた。
【残り 31名】
13 《 追加ルール 》
絡繰茶々丸(出席番号10番)は一通り現状の確認を終えると、宙に浮かび上がった。
荷物を肩にかけ、足裏と背中から炎を噴き出し、島の上空に飛びあがる。
彼女のスタート地点、南西の遺跡群がどんどん小さくなり、その街並みが手に取るように分かる。
『転送』される前。
茶々丸のすぐ後ろの席に座るエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出席番号26番)は、小さく囁いた。
「まずは早めに合流するぞ。いいな」
待ち合わせ場所も合流方法も明示しない、なんともいい加減な指令。
けれどもまあ、いつもこんな調子でやってきていたし、今までも茶々丸はそれに応えてきたのだ。
細かい指示が必要なのは馬鹿だけだ。茶々丸は融通の利かない部分はあっても、決して馬鹿ではない。
茶々丸は考える。クラスメイト全員が眠らされ、連れてこられたこの地底空間。
そんな中、唯一目を覚ましたままこの場に連れてこられた自分。眠らされることのなかった自分。
先生たちが監視する教室では十分に語れなかったが、幾つもの重要な事実を掴んでいる。
先生側の事情や状況など、他の生徒が知らない事実を見聞きしている。
あの教室では、ロクに伝えるヒマがなかったが……この情報、誰かに伝えなければならない。
まずは、主人であるエヴァンジェリンに伝えねばならない。
「マスター……今、行きます」
そして茶々丸は空に舞い上がった。
面積の割に地形が入り組み身動きが取りにくい地底湖の島。
だが、空を飛んでしまえば簡単に把握できる。上空から俯瞰すれば、他の生徒の動きも簡単に掴める。
そして当然、島のどこかに居るはずの主人を見つけることも、できるはず……。
高度を上げる。島の全景が段々と見えてくる。
見える限りにおいて、支給された地図が、ほぼ正確であることを茶々丸は確認する。
湖を渡った「向こう岸」にも、「壁」に張り付くように小さな平地があり、遺跡らしきものが建っているようだ。
島の半分ほどを見渡せる高さまで上昇しても、まだ地底空間の「天井」には届かない。
明るく柔かな光を放つ「天井」には、まだまだ距離がある。全くとんでもなく大きな空間だ。
「……さらに高度を上げます。地上を索敵……」
島全体を一度に視界に納めるべく、茶々丸はさらに上昇する。さらに「天井」に近づく。そして……
ボンッ。
ある一定の高さまで来たところで。
何の前触れもなく、茶々丸の首元で爆発が起こった。
「……え」
茶々丸が状況を把握する間もなく、吹き飛ぶ頭。吹き飛ぶ首輪。
クルクルと回転しながら落下する頭部。回転しながら落下する頭のない身体。
茶々丸は、そして最期に理解する。
何が悪かったのか分からぬが、自分は先生サイドから『処分』されたのだと。
何か、公にされていないルールに触れてしまったらしい、と。
これはかなりアンフェアな処分では? と思う間もなく、茶々丸の意識は、ノイズの彼方に消えた。
『あー、テステス。ただいまマイクのテスト中。
定期放送の時間はまだ先だが、1つ追加のお知らせがあって、このような臨時放送となった』
茶々丸の爆死から、数分後。島の中にガンドルフィーニの声が響く。
どこに設置されているのか、複数のスピーカーを通した電子的な声。
『諸君らの中には、空を飛べる者が居るはずだ。
『力』を使うための道具が無いのか、あるいはあえて使わずにいるのか、事情は人それぞれだろうが……
何にせよ、空を飛ぶ際には高度に注意して欲しい。
一定以上の高度を取った場合、フィールド外に出るのと同じ扱いとなる。つまり、爆破処分だ。
目安は、湖面から「天井」までの距離の、およそ半分まで。それ以上の高さになったら、爆破する。
空を飛ぶ際には、くれぐれも用心するように。繰り返す、諸君らの中には……』
ガンドルフィーニは淡々と告げる。
確かに、縦方向の移動も制限が必要ではあったろう。
「天井」まで到達し、天井にいくつか開いた穴から外に出ようとする者が現れないとも限らない。
だからこの追加ルールは確かに必要だ。必要では、あるのだが……。
「……っと、こんなものでいいかな」
マイクのスイッチを切り、ガンドルフィーニは溜息をついた。
巨大な地下空洞の一角にある、『バトルロワイヤル』の運営本部。
会場となっている島と同じ大空洞の中ではあるが、しかし島の中ではない。
島をぐるりと取り巻く巨大な地底湖、その『対岸』に当たる位置。
『天井』と繋がる『壁』に張り付くようにして立つ、小さな遺跡の中の一室であった。
最初に生徒たちに説明をした『教室』も、この遺跡の中に用意されている。
そしてまたこの遺跡までは、麻帆良の魔法使い本部と地下の秘密の通路を通って行き来することができる。
ガンドルフィーニたちも、長年その存在すら知らなかった通路。知らなかった大空洞。
よくもまぁ、こんな短期間で『バトルロワイヤル』を開けるまでに整備したものである。
そしてなにぶん急造で作った『バトルロワイヤル』のルールだけに、あちこちに小さな綻びがある。
そういった穴は、臨機応変に埋めていかねばならない。
今の『臨時放送』のような形で、微修正していかなければならない。
「お疲れ様です、ガンドルフィーニさん。次回からは最初っから高度制限を盛り込みましょう」
「ああ。次回まで我々が生きていられれば、ね」
瀬流彦の言葉に、ガンドルフィーニは浮かない顔で頷く。
色々な条件を考え合わせるに、この『バトルロワイヤル』を最後までやり遂げるのは簡単ではないはずだ。
そしてもし最後までやり遂げたとしても、その後に待っているのは魔法界本国を相手の……。
だが、ガンドルフィーニを悩ませているのは、そういった今後の自分の身の心配だけではないようだった。
「……本当に、こんなことをしていいものなのかな」
「またその話ですか。もう仕方ない、ってことで結論出てたじゃないですか」
「いや、まあそうなんだが……私も1人の親として考えると、ね。
もしも娘がこんな殺し合いの『ゲーム』を強要されたら、と思うと……」
「ガンドルフィーニさん、それは禁句ですよ。だって、我々の中には――」
ヒトとして当然な、ガンドルフィーニの後悔。それをたしなめる瀬流彦の言葉。
2人の脳裏に、揃って1組の父娘の姿が浮かぶ。
「……まあ、今回殺したのが親も子もない機械人形で、良かったじゃないですか。
遺す想いがある子たちには、せめて頑張った上で散って貰わないと」
「それはそれで残酷な気もするがね」
「努力と抵抗の余地がある分、まだマシですよ。それに――」
瀬流彦はそして口にする。この『バトルロワイヤル』、その本当の目的に繋がる一言を。
「それに、怒りや恨み・未練などを抱きながら死んで貰わないと、この『巨大儀式魔法』は完成しませんから」
【出席番号10番 絡繰茶々丸 立ち入り禁止区域への侵入により 爆破処分】
【残り 30名】
朝投下ここまで。試験的に3話投下です。
あの父娘ときては黙っちゃいられねえwwwww
個人的にはこれくらいの量で丁度いいです
>よく考えたらオコジョ刑満了して社会復帰した人を見た事がない
なんですその惑星メーテルのネジ
おおーGJです。
バトロワ、小説あんのかこの世界
殺される人の怨念使った大魔法?
14 《 不正行為 (カンニング) 》
『あー、テステス。ただいまマイクのテスト中。
定期放送の時間はまだ先だが、1つ追加のお知らせがあって……』
地底湖に浮かぶ島の中に、ガンドルフィーニの声が響く。
隠れている者も、歩いている者も、待ち伏せしている者も、話し合いをしている者も。
誰もがひとまず、その声に耳を傾ける。
島の西側。ゴツゴツした巨大な岩が沢山転がる、荒れた地形。
草一本生えてないその中を、雪広あやか(出席番号29番)は苛立ちながら歩いていた。
「……何が『追加のお知らせ』ですかッ! 誰が空なんて飛べるって言うんですかッ!
全く、何から何まで非常識な……! だいたいそもそも、わたくしたちに殺し合いなど……!」
あやかは怒る。そして怒りつつ、己の無力さを実感せずには居られない。
円が殺されたあの時、あやかが狙われなかったのは単なる先生側の気紛れだ。紙一重の差だった。
彼女の代わりに、あやかが死んでいてもおかしくなかったのだ。
そしてあの先生たちの『魔法』とやらに対し、あやかには対処する術がない。
それでも――あやかは考えるのだ。
クラスの中には、非常識な能力を持った者が沢山いる。中学生離れした才能が沢山存在する。
ひょっとしたらその中には、これらの状況に対処できる者も居るのではないか。
今の放送の中でも、あの教師は「空が飛べる者がいる」ことを当たり前のように言っていた。
それはつまり、そういう能力を持つ者が既にクラスに居るということだ。それも、1人ではなく複数。
おそらくは、『魔法使い』。
ネギ先生と同じように、実は『魔法』を使える人物が居たということだ。
それが誰だかは分からぬが、同じ『魔法使い』ならあの教師たちにも対抗できるのではないか。
クラスメイトを集め一致団結すれば、この状況を打破することもできるのではないか――?
「――!?」
考え事をしていたのが、悪かったのかもしれない。
あやかが殺気を感じたその瞬間、何者かの影があやかの頭上をよぎる。
2mほどもある巨大な岩、その上に潜んでいたものが、ナイフを片手に飛び降りてくる。
飛び降りながら、斬り付けてくる。
「……なんの!」
逆手に握られたサバイバルナイフ。振り下ろされる刃。
あやかはしかし、その必殺の一撃に対し、瞬時に対応してみせた。
紙一重で避けると同時に、逆に一歩踏み込む。素人なら腰が引けるところを、敢然と飛び込む。
相手に密着するくらいの位置、ナイフの間合いのさらに内側に入り込んで。
あやかの腕が、相手の身体を薙ぎ払う。
「せいッ!」
そのまま、押し倒すように投げ飛ばす。雪広流合気柔術・『雪中花』。入り身投げの変形。
投げられた側のダメージが比較的少ない技ではあったが、なにせここは硬い岩盤の上。
「ぐぇッ!?」
岩場に叩きつけられて、襲撃者は悲鳴を上げる。
あやかは即座に襲撃者に馬乗りになり、相手の胸に掌を押し付ける。
その手に嵌められていたのは、黒と白の2色に彩られたメカニックな手袋。
雪広あやかへの支給品、超鈴音も使っていた『電磁グローブ』。
高性能スタンガンの機能を持ちながら、手先の動きを全く邪魔しない便利な道具だった。
「抵抗はおやめなさい。でないと、少し痺れてもらうことになりますわよ?
…………って、あら、貴女は?」
「イテテ……。いいんちょ、本当に強いんだなぁ」
なおも抵抗するなら電撃を喰らわせてやろう、と思っていた彼女は、ようやくここで襲撃者の姿を確認する。
確認して、目を丸くする。
ナイフを捨て、降参のポーズを取っていたのは明石裕奈(出席番号02番)。
顔に浮かぶのは、いつもの通りの悪戯っぽい笑顔。
「あー、こっちもいいんちょだとは思わなくてさー。……もうやりあう気ィないから、許してくんない?」
一瞬で決着のついた攻防から、数分後。
2人は並んで岩に腰掛け、これからのことを話し合っていた。
「……というわけで、クラスの皆さんを集めて、今後のことを考えたいのですが」
「うん、いいんじゃないかな。武道会に出てた人とかと、マトモにやりあって勝てるとは思えないしねー」
あやかの言葉に、裕奈は頷く。いつもの通りの、まるで変わらない彼女の様子。あやかは安心する。
先ほどの攻撃、裕奈によれば、相手があやかと気付かず、怖くなって先制攻撃してしまったとのこと。
まあ、そうでもなければ、この裕奈がこんなゲームに乗ることもないだろうが。
……そしてあやかは頭を悩ませる。
裕奈でさえこうなのだ。いつも明るく能天気な裕奈でさえ、こういう反応をしてしまうのだ。
他にも恐怖と猜疑心から『ゲーム』に乗ってしまった者も少なくないはず。
さて、どうやって彼女たちを止め、どうやって彼女たちを味方につけたものだろうか……?
「ま、ここでじっとしてても仕方ないし。動き回りながら考えよ?」
「ちょっ、待って下さい裕奈さん!」
悩むあやかをよそに、裕奈は立ち上がる。あやかにニッコリ笑いかけると、1人で先に歩き出す。
一体どこに向かう気なのか。しっかりした足取りで、口の中でブツブツと、何事かを呟きながら。
あやかは少し困惑しつつも、引きずられるような形で、裕奈の後をついていくしかなく……。
「……大丈夫、いいんちょは『使える』よ」
裕奈は口の中だけで呟く。後ろからついてくるあやかに聞こえぬ声で呟く。
誰に向けた言葉なのか? 誰がどこで聞いているのか?
ともかく彼女は、口の中で呟き続ける。
「うん、そういうことなら今はまだ、その人たちとは出くわしたくないねー。
いいんちょの時みたいには行きそうにないし。ここは逃げの一手だと思う、私も。
あと、できれば銃か何か、使える武器が欲しいんだけど……分かった、まずは森の方だね?」
裕奈の瞳は虚空を見上げ、裕奈の耳は声なき声を捕らえ。
彼女は微妙に虚ろな笑顔を浮かべ、呟いた。
「ありがとね、『お父さん』。愛してるよッ♪」
【残り 30名】
15 《 Masters of Monsters 》
影法師たちを引き連れ、高音・D・グッドマン(出席番号33番・便宜上与えられた番号)は砂浜を歩く。
島の南側に広がる、白砂の浜。湖畔というより、海辺に居るような錯覚を覚えるような景色。
綺麗な湖面を右手に見ながら、黒衣を纏った高音は胸を張って歩き続ける。
「……メイが、必要以上に高く飛んでなければよいのですけれど」
高音は彼女が知る唯一の参加者、佐倉愛衣(出席番号34番・便宜上与えられた番号)のことを案ずる。
先の臨時放送、その中で示された追加ルールに、引っ掛からないことを祈る。
彼女たち2人は、魔法先生たちが進めようとしていた計画を知って驚愕し、反対し、そして――
力及ばず、彼らを止めることができなかった。
そして牢に入れられた彼女たちに下されたのが、この『ゲーム』への強制参加という処分。
「……しかし、私たちの力なら、先生方の愚行を止めることもできるはず。
30人はいるという参加者のみなさんを私たちが教え導けば、愚かな先生方を止めることも――」
高音は、気づかない。
『魔法使い』を一段高い存在とし、「一般人」を見下すその基本的態度。
それこそが、魔法先生たちが今行っているこの『ゲーム』の根底にあるということを。
そしてまた、魔法先生たちがこの『ゲーム』をやらねばならなかった理由にも通じるということを。
高音は遮蔽物のない砂浜を、堂々と歩く。
支給された品が『魔法の発動体となる指輪』だったのは、高音にとって幸いだった。
お陰で、杖無しでもこうして使い魔たちを召喚し、他の参加者の襲撃に備えることができる。
たとえトチ狂った参加者が襲ってきても、この影法師たちが居ればきっと大丈夫。
高音の背後には、大型の使い魔も控えている。彼女の最後の守りだ。
これだけの数の使い魔を行使できるのは、『魔法使い』多しと言えど、この学園でも高音くらいしか……
「な――!?」
高音くらいしかいないはず、と考え、含み笑いをしていた彼女は、そして「その集団」を発見し、絶句した。
同じように、向こうから砂浜を堂々と歩いてくる小柄な人物。女子中等部の制服。
浅黒い肌の上に道化師のような奇怪なメイクを施した、ザジ・レイニーデイ(出席番号31番)。
そして彼女を取り囲むのは、高音の影法師たちとほぼ同数の、大小様々な黒い影――
ローブを纏ったような黒い身体に、その顔だけが仮面のように白い魔物たち。明らかにヒトではない存在。
出くわしてしまった、怪物たちの二大軍団。明るい砂浜には似つかわしくない闇の眷属たち。
ザジは感情のない視線で、しかししっかりと高音を見据え、小さく頷いた。
「……やるよ」
ザジの手元に手品のように何本もの黒いナイフが現れる。
いや、ナイフではない。投げナイフのように指の間に握られていたのは、忍者の投擲武器・クナイ。
先生たちから支給された、ザジにはもってこいの武器。元よりナイフ投げは彼女の持ち芸の1つ。
ザジの手元から放たれた何本ものクナイが、高音に向けてまっすぐ飛んでいって――
影と闇との間の戦争が、始まった。
――十数分にも及ぶ激闘も、終ってしまえばあっけないものである。
白い砂浜の中、2つの影は、ようやく動きを止めていた。
ザジ・レイニーデイが、高音・D・グッドマンを、片手で吊るし上げていた。
鋭い爪が伸びた手が、高音の首をギリギリと締め上げる。
吊るされた高音は口元から泡を吹き、ビクビクとその身体を痙攣させて。
高音の連れていた影たちは、掻き消すように消えていく。彼女の黒い服も、煙を上げて消滅していく。
「…………?」
『こっちはチビが2体潰されたッス』
『思ったより強かったッスね〜』
『タベテイイ? タベチャッテ、イイ?』
ザジの無言の確認に、周囲の魔物たちが返答する。確かにザジを取り巻く魔物たちの数が、減っている。
完全に気絶した高音の身体を、ザジは無造作にほうり捨てる。砂浜に美しい裸体が投げ出される。
そして、ザジは魔物たちに告げる。何の感情も込めず、平坦な声のまま。
「……食べちゃって、いいよ。……あ、持ち物には、手、つけないで……」
高音の敗因を一言で言えば、使い魔単体の戦闘力の差、そして術者本人の戦闘力の差だった。
影法師は追加でいくらでも召喚できるとはいえ、その能力はザジの使い魔たちとは天地の差。
大きな魔物が腕を振るうだけで、影法師がまとめて何体も吹き飛ばされてしまうのだ。勝負にならない。
唯一、高音の背後に控えた操影術最強奥義・『黒衣の夜想曲』は、ザジたちを苦しめたが……
それでも、あまりに双方の頭数に差ができてしまっていた。数の差が、最後は勝負を分けた。
大型の怪物が2体、左右から同時に打撃を加え、マントの動きが止まったところにザジの突進――
静かに素早く伸びた手は、打撃でも斬撃でもなく、がっしと首を掴み、万力のように締め上げて。
そして、あの決着。人間離れした怪力による、ネックハンギング。マントが反応しない種類の攻撃。
『ゴチソウサマ』
「んッ……」
全ての後処理を終え、使い魔が声を上げる。砂浜に座って待っていたザジは、腰を上げる。
彼女は高音のデイバッグを拾うと、その場を後にする。魔物たちを引き連れ、次の獲物を探して立ち去る。
後に残されたのは、綺麗に白骨化した骸骨が1つだけ。それが高音・D・グッドマンの最期だった。
――動くものが居なくなった、砂浜に。
悲鳴を堪え、湧き上がる震えを必死に堪える、見えざる人物が居た。
ザジたちが遠くに去ったのを確認し、ようやく大きく息を吐く。
支給された品物・『対魔法使い用ステルスコート』のスイッチをオフにし、何も無かった砂浜に姿を現す。
彼女は全てを見ていた。
かなりの至近距離から、魔界軍団の激闘から高音の最期まで、全てを見ていた。
恐怖に怯えながら、しかし逃げることもできず、コートの機能だけを頼りに、姿を隠してこの場に伏せて。
フードを脱ぎ、大河内アキラ(出席番号06番)は、未だ蒼ざめたままの顔で呆然と呟く。
「あれが、『魔法使い』……! あれが、『魔法』……!」
現実感覚が根底から揺さぶられるような大戦争を見てしまった彼女。
ここに来て、ようやくアキラは『魔法』の実在を受け入れる。
「そういうもの」として『魔法』を理解する。
そして彼女は、砂浜に落ちていたクナイを拾い上げた。
ザジが投げ、高音の影に弾かれた無数のクナイのうちの1本。小さいが十分な殺傷力のある武器。
クナイを見つめるアキラの瞳に、僅かに不穏な色が混じる。確認するように、小さく呟く。
「あれが、私たちの、『敵』……!」
【出席番号33番 高音・D・グッドマン ザジの使い魔に喰われ 死亡】
【残り 29名】
16 《 Super Battle Skin Panic 》
――白い砂浜とは、島の反対側。
島の北側、木々がまばらに生える湿地帯の、北の湖畔。
湖と沼との境目もよく分からない、足場の悪い地形。マングローブにも似た歪な木々が生い茂っている。
そんな、陰鬱な光景の中で――
桜咲刹那(出席番号15番)は、佐倉愛衣(出席番号34番・便宜上与えられた番号)と出くわしていた。
「あッ……! 貴女は……!」
「……これはまた、都合のいい所に会った」
箒を抱いて驚き慌てる愛衣に対し、刹那はすぐさま殺気を漲らせ。
片手に支給品の木刀、片手に飾り気のない匕首を握り締め、愛衣に厳しく問いかける。
「……答えろ。魔法先生たちは、何を企んでいる?」
「あっ、そっ、その、私は……!」
「貴様も参加者らしいが、それでも何か知っているはずだ! 答えろ、奴らは何を企んでいる!?」
これだけ大掛かりな仕掛けをうち、これだけの手間をかけて開いた『バトルロワイヤル』。
ましてや魔法先生たちはつい3日ほど前まで、『魔法』がバレたことへの対策で大忙しだったはずだ。
オコジョの刑に絶望しつつ、それでも後始末に奔走して大変なことになっていたはずだ。
何故それが、いきなりこんなことになる? 何故、3−Aの面々にこんなことをさせねばならない?
彼らは一体、何を目指している!?
刹那は木刀に『気』を込め、じりじりと愛衣との距離を詰める。
浅い水溜りに足が浸かり、靴下にまで水が染み込んでくるが気にも留めない。
この3、4日の間に起こったらしい魔法先生たちの豹変。急な方針転換。
捕らわれの身だった刹那たちには、まるで訳が分からない。
だが3日前の時点で魔法先生たちの尖兵となっていた愛衣たちなら、知っているはずだ。
全ての事情は把握しておらずとも、刹那たちよりは情報を持っているはずだ。
力づくでも、聞き出さねばならない。多少痛い目に会わせてでも、吐かせねばならない。
――『強制認識魔法』の影響下、刹那の考え方は知らず知らずのうちに、暴力的になっていた。
そして、元々臆病な愛衣の方は。
「わ……私は止めようとしたんですよぉッ!」
泣きつつ叫びつつ、彼女は箒を振るう。こちらもいきなりな、魔法の発動。
瞬時に刹那はそれを察知し、妨害しようと愛衣に飛びかかるが――間に合わない。
佐倉愛衣アーティファクト『オソウジダイスキ』。魔法の発動体にもなる便利な道具。
その大技、『全体・武装解除(アド・スンマム・エクセルマティオー)』。
広い範囲に渡って駆け抜ける魔力もつ疾風に、流石の刹那にも回避のしようがない。
手品のように彼女のセーラー服が脱げ飛び、手荷物が飛び、そして木刀と匕首が吹き飛ぶ。
サラシと下着だけのあられもない姿に剥かれて、武器もないまま無防備に空中で――
「『アデアット』、は・に2刀……!」
――空中で無防備な姿を晒すかと思いきや、すぐさま両手にそれぞれ新たな匕首が出現する。
胸に巻いたサラシ、そのサラシに挟んであった仮契約カード。アーティファクトの限定召喚。
愛衣が『武装解除』の出力をもっと上げていれば、サラシごとカードも吹き飛ばせたのだろうが。
「なッ……!?」
「……無駄な抵抗はやめろ」
驚く間もあればこそ、飛びかかってきた刹那に愛衣は押し倒される。
刹那は愛衣の胸の上に馬乗りになり、その首元に2本の匕首を交差させ突きつける。
これでは愛衣は動けない。両の頚動脈に冷たい刃の感触が触れる。
愛衣はそして、恐怖する。
自分を覗き込む、刹那の凶眼。
白目と黒目が逆転したかのような錯覚を覚える、強い殺気の篭った目。
半裸であることなど差し引いて余りある、とてつもなく恐ろしい敵の姿。
殺される。
殺される。殺される。
殺される。殺される。殺される殺される殺される殺される……!
「知っていることを全て話せばよし、さもなくば――」
「いやぁぁぁぁッ!」
厳しく詰め寄る刹那の迫力に、愛衣はとうとう、パニックに陥った。
激しくイヤイヤと首を振る愛衣の周囲に、ポッポッポッ、と炎の玉が浮かぶ。
匕首を突きつけたこの状況でのこの反応に、流石の刹那も虚を突かれ。
「しまった、無詠唱……!」
「ヒック……お姉さまぁぁぁぁッ!」
絶叫と共に放たれる、無詠唱呪文『魔法の射手・炎の3矢』。
ほぼゼロ距離から放たれた炎の弾丸に、刹那は咄嗟に顔をガードするのが精一杯。
吹き飛ばされ、身体が宙に浮く。激しい熱と炎が半裸の刹那を襲う。
周囲の木々が、一瞬で黒焦げになる。
「くッ……!」
油断だった。
刹那の身体が宙を舞う。浅い池の中に落下する。
水飛沫の中、それでも刹那は受身を取り、愛衣が放つであろう二の矢に備える。
身構えたまま、即座に起き上がる、が……
「……逃げたか」
刹那が立ち上がった時には、もうそこには愛衣の姿はない。気配も残されていなかった。
あの一瞬の隙をついて、あの箒で飛んで逃げたといったところか。
匕首に残された血の量から、愛衣の側のダメージがほとんどないことも分かる。せいぜい皮1枚。
半裸の刹那は、溜息と共に構えを解く。
ガードした両腕が軽い火傷を負っていたが、大したことはない。ほとんど『気』で逸らしてある。
胸に巻いたサラシも一部が焦げて焼き切れて、シュルシュルと解けて大地に落ちる。
サラシから開放されフワリと宙を舞う仮契約カードをはっしと掴まえ、刹那は呟く。
「『私は止めようとした』、と言っていたな……。あれは、どういうことなんだ……?」
取り逃がした愛衣の言い残した言葉。『魔法使い』たちの側の入り組んだ事情が窺える一言。
だが、考えても答えが出るはずもない。
「やはり、誰かと合流せねば……。特に、お嬢様のことが気になる……」
刹那は木乃香のことを思う。こんな危険な『ゲーム』の中、戦闘力のない木乃香はどうしているのだろう。
早く合流し、彼女を守らねば。
ネギ先生の下に集ったあの仲間たちを集めなければ。
その場を移動しようとした刹那は、そして気付く。
パンツ一丁の格好で周囲を見回し、片手で胸を隠しつつ、少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。
頭が戦闘モードに入っていた時には、羞恥心などすっかり忘れていたのだが。
「……しまった。どこまで飛ばされたのかな、私の服は……?」
遥か遠くまで吹き飛んだのか、それとも湖か沼かの濁った水中に沈んでしまったのか。
愛衣の『武装解除』で飛ばされた服と荷物、木刀が、どこをどう見渡しても見つからない。
代わりに見つかったのは、見慣れぬ鞄と、共通支給品のデイパック。
そして、サンタクロースが持ってでもいそうな、巨大な白い袋が1つ。
慌てて逃げた愛衣が残していった、彼女の私物と彼女の支給品……。
【残り 29名】
今夜はここまでです。
ザジ軍団強ぇぇ
てか、脱げば脱ぐほど強くなるのかよ、せっちゃんw
全裸で泡吹く高音におっきした
全裸で眠る高音を貪る魔物達……
フレーズだけでおっきした
ザジ軍団が怖い・・・・
しかし面白い!
あ”−…萌えキャラだろうが美少女だろうが一皮剥けばガイコツなんだよなー…
初の参加でいきなり殺されちゃう高音
服どころか肉も脱ぐ。脱げ女の真髄ここに極めり!
17 《 絡み合う糸 》
島の西側の湖岸。切り立った崖の上、あたりには岩がゴロゴロ転がる荒れた地形。
小さな影が2人、並んで崖に腰掛けて、湖を眺めていた。
「……そっかー、コタロー君もこの『ゲーム』に参加させられてたんだー」
「奴らに手伝え言われて『嫌や』言うたら、無理やりな。
魔法先生たち何人か殴り飛ばしたはずやけど、多勢に無勢で、結局やられてもうた。不覚取ったわ」
佐々木まき絵(出席番号16番)と、犬上小太郎(出席番号35番・便宜上与えられた番号)。
出会った瞬間こそ互いに身構えたものの。
学園祭初日を、ちょっとの間ではあるがネギと共に回った仲だ。すぐに打ち解けてしまった。
2人とも、もし湖岸から離れる方向に進んでいれば、あやかや裕奈とも出会っていたのかもしれない。
しかし間にちょっとした岩山を挟んだ両グループは、互いの存在に気付かない。
小太郎たちにとうとう気付かず、裕奈たちは足早に、ちょっと不自然な急ぎかたで、その場を去る。
……まあこのような動きは、島全体を俯瞰して見ている者にしか分からぬことではあったのだが。
「それでコタロー君は、どうするの? 殺し合い、する?」
「アホ言うなや。あの魔法先生たちをぶっ潰すに決まっとるやろ。
大体俺は、女は殴らんことに決めとるしな。ネギたちのクラスと、本気でケンカできるかいな」
小太郎は吐き捨てる。
まき絵と話してようやく知ったのだが、三十数名居るという参加者のほとんどが3−Aの生徒。
つまり半分以上が戦闘の心得のない女子中学生。千鶴や夏美といった馴染み深い人々もいる。
小太郎の流儀からして、彼女たちと本気で殺し合いなどできるはずもなかった。
この怒り、ぶつけるならば魔法先生たちだ。
「くそッ、『支給品』とやらも、よう知っとるの当たったんはええけど、ケンカには使えへんし。
大体何のつもりや、この首輪! 俺、飼い犬とちゃうで? 誇り高い一匹狼に、こんなもん付けんなや」
「……そっかー、コタロー君、殺し合いする気ないんだー。そーなんだー」
イライラする小太郎に、まき絵は普段の調子で呑気に呟く。
そして、ニッコリと微笑むと。
「じゃ、やる気ないんなら――私のために、死んで♪」
「…………は?」
ひゅんッ。
まき絵の唐突な言葉に、小太郎が聞き返す間もあらばこそ。
何か見えないモノが、宙を舞う音が響く。
まき絵の腕が、大きく振るわれる。それに合わせて空気が切り裂かれ、小太郎の首に何かが掛かる。
咄嗟に小太郎は自らの首に手を伸ばすが、間に合わない。
見えない何かが、小太郎の首元に絡みつく。首のみならず身体全体に巻きつき、ギリギリと締め上げる。
「こ……これはッ!?」
小太郎は知らない。『まほら武道会』でエヴァンジェリンが披露した、不可思議な技。
彼がその場に居合わせていれば、きっとその正体を看破していただろう。
あるいはその場で見てさえいれば、このまき絵の技も避けれたかもしれない。
けれどもその時、小太郎は会場に居なかった。敗戦のショックで席を外していた。
だから、反応が遅れた。捕らえられてから、ようやくその正体に気付く。
「これは……糸!?」
「へっへ〜。驚いた〜? なんかね、荷物に入ってたんだ。
軽くてリボンより難しいけど、便利だねこれ〜」
そう、佐々木まき絵が支給され、この場で小太郎に振るった武器は『人形繰り用の糸』。
目視が困難なほどに細いが、強靭で耐荷重性能も高い。引っ張って千切れるものではない。
元々素人なまき絵の場合、エヴァのように指先だけで操ることはできなかったが……
それでも、普段の常人離れしたリボンテクニックの延長で、彼女は短時間の練習で完全にモノにしていた。
踊るように舞う不可視の糸が、小太郎の身体に絡みつく。手足を縛り、彼の自由を奪う。
あの教室で惨殺された円のすぐ前に座っていたまき絵。彼女に降りかかった血飛沫。
彼女の制服、その背中にべっとりとついた、半ば乾いた血の跡。
あの瞬間、既にまき絵の心は壊れていたのだ。正常な精神を失っていたのだ。
壊れた彼女は、しかしそのままこの異常事態に順応した。殺し合いの世界に、順応してしまっていた。
「じゃ、コタロー君、悪いけどココでさようなら〜。恨まずちゃんと成仏してね♪」
手足を縛られ首を絞められ、立っていることすら困難な状態の小太郎。
まき絵は能天気な笑顔を浮かべたまま、そんな小太郎に蹴りを入れんと飛びかかる。
自由の利かない彼の身体を、崖の下に叩き落そうとする。
断崖絶壁の崖の上。眼下には、水面下に僅かに顔を覗かせるゴツゴツした岩々。
受身も取れない状態でこんな所に落ちたら、流石の小太郎も無事では済まない――!
――だが、まき絵の蹴りが当たる直前に。
「……ッざけるなぁッ!」
とうとう、小太郎はキレる。自由の利かない縛られた身体、その掌に、黒い『気』の塊が生まれる。
流星のように飛び出す『狗神』。それが小太郎自身の身体を舐めるように駆け抜けて。
一瞬で、小太郎を拘束していた『糸』がバラバラに切断される。不自由な身体が、一気に自由になる。
「うっそ、ずるッ……!」
まき絵は驚くが、しかし飛び蹴りのモーションは空中では止められない。
そのまま彼女は、守りを固めた小太郎の胸板にキックを入れてしまい……
ゴキリ、と嫌な音が、まき絵自身の足首から響いた。
……『気』で防御し、万全の姿勢を固めた達人相手に不用意に放った飛び蹴り。
蹴った方の足が、無事で済むハズがない。
右足首を抱え、岩の上で転げまわるまき絵。おかしな方向に曲がってしまった足。
そんな彼女に、小太郎は悲しげな視線と共に言い捨てる。
「俺はもう行くで。まき絵ねーちゃんも、バカなこと考えるのはやめとき」
今の技は素人にしては良かったけどな、と呟き、小太郎は身を翻す。振り返りもせずに立ち去る。
まき絵はダメだ。早く誰か他の、話の分かる奴を探し出さねば――
「――あーあ、逃げられちゃった」
時間が経っても、右足首の痛みは収まらない。これは捻挫か、あるいは骨折まで行っているか。
立ち上がることもできない身体で、まき絵は残念そうに溜息をつく。
「コタロー君って強そうだったから、不意打ちで仕留めたかったのになー」
「……ほう、コタローが参加しているでござるか。これは厄介でござるなぁ」
不意に。独り言を口にしたまき絵の背後から、声がかけられる。
一体、いつの間に近づいていたのか。何故この距離まで気付けなかったのか。
全く気配も感じなかったその相手に、まき絵は笑顔のまま振り向いて。
「あれ? バカブルー、なんでこんな所に……」
ドスッ。
まき絵の言葉は、何か重たい、腹に響く音に遮られた。
目の前にある、巨大な鉄の塊。人間の身長より遥かに大きな、冗談のように巨大な十字手裏剣。
その一端がまるで剣のように突き出され、まき絵の胸板を貫いていた。
「……『ゲーム』に乗った自分を恨むでござるよ、バカピンク」
静かな長瀬楓(出席番号20番)の声。声も出せないまき絵。
ゆっくりと鉄の塊を引き抜かれ、まき絵は呆然とした表情を浮かべたまま、崖下に転落していき――
大きな水音を立て、それっきり見えなくなった。
「……凄いじゃん、それ。先生からの支給品? どっから出したの?」
「これは拙者の私物でござる。
どこにどう隠していたかは、企業秘密。美砂殿にも内緒でござるよ。ニンニン」
遅れてやってきた柿崎美砂(出席番号07番)が、楓の十字手裏剣を見て呆れた声を上げる。
剣にも盾にも飛び道具にもなるこの巨大手裏剣。美砂が言う通り、隠し持つなど無理なサイズ。
だが不可能を可能にするのが『忍びの技』という奴で。
クナイや棒手裏剣などの他の武器類は全て魔法先生たちに奪われていたが、この手裏剣だけは……。
「拙者の支給品は、小さな『ぴすとる』でござった。拙者が持っていても仕方ない。
念のため、美砂殿が持っているべきでござるかな? 万が一の、護身用として」
「くれるというなら貰っておくけど、私が戦わなきゃならない展開は真っ平御免だからね?」
忠実な恋奴隷の言葉に、美砂はあくまで冷たい口調を崩さない。
つれない態度を取りながら、それでもしっかり小口径のリボルバーを受け取っておく。
どうも楓は、こういう対応をしておいた方が操縦しやすいらしい――美砂は早くも楓の性格を見抜いていた。
「で、あのコタローって子、強いの? 録画で見たけどさ、武道会じゃ2回戦でボロボロに負けてたじゃん」
「いや――強い。あの時は相手が悪過ぎたでござるよ。
大会では出せなかった『切り札』も持っているようだし、『何でもあり』ならなかなか強敵でござろう。
刹那・真名・古・ネギ坊主にコタローを加えた5名は、やはり別格でござるな。
拙者とて負けはせずとも、この面々と本気でやりあえば深い手傷を負わされるやもしれぬ。
正面からの戦いは、避けたいところでござるな」
「ふぅん……」
楓の評価に、美砂は曖昧に頷く。そっと懐に手を伸ばし、そこにしまってある品物を確認する。
楓を虜にした『ホレ薬』、美砂に支給されていたのは実に3本。楓に1本使ったから、残りは2本。
この楓さえも苦戦を強いられるという達人5人、さて誰にどのように使っていくべきか……!?
【出席番号16番 佐々木まき絵 巨大手裏剣に胸を貫かれ 死亡】
【残り 28名】
18 《 湖畔にて 》
「……さて、どうしてくれようかな……」
龍宮真名(出席番号18番)は美しく広い湖を眺めながら、しばし思案する。
島の東、少し複雑に入り組んだ湖のほとり。
地図によれば巨大な地底湖に浮かぶ大きな島の一部らしいが……
こうして見る限り、思わず含包関係を逆転して錯覚しそうになる。
まるで気持ちの良い高原の林の中に、大きな湖が広がっているようだ。
さよの幽霊騒動の時と同じ仕事着姿で、真名は周囲を見回す。
実のところ、この真名がいる場所は、ネギや古菲のスタート地点と結構近い位置にあった。
しかし互いに気付かない。林の広さと生い茂る木々が、互いの存在を隠しあっていた。
近くに他の参加者が居ないと判断した真名は、腰を据えて荷物の確認に入る。
「……銃を奪われたのはまあ予想の範疇とはいえ、『羅漢銭』用のコインを奪われたのは辛いな。
やはり武道会でアレを見せてしまったのはマズかったか……」
ご丁寧なことに、真名に限っては財布の中の小銭まで奪われている。
元々あの手の暗器というものは、他人に「武器とは思われない」のが大きな利点の1つ。
逆に言えば、手の内がバレてしまえば対策を取られてしまうわけで。
代わりに彼女が見つけ出したのは、何やら青と赤のビー玉のようなモノが入った、大きめの瓶。
手の中でその球体を弄びながら、彼女は思案する。
「なんとも使えないモノを寄越してくれたものだ。
いや、しかしコレはむしろ、『あのこと』を確認するには丁度いいと考えるべきか?」
真名の片手が、己の首に嵌った首輪に触れる。
押しても引いても緩みもしない首輪、しかし、コレを使えば……!
1分後。
湖畔には長身の仕事人の姿はなく、代わりに1人の幼い少女の姿があった。
高めに見積もったとしても、せいぜい10歳ほど。
浅黒い肌に、長い黒髪。黒っぽいワンピースに、首に嵌った少し大きめの首輪。
可愛らしいというより、凛々しい雰囲気漂う落ち着いた少女。
少女は湖面に己の姿を映すと、小さく笑った。
「……懐かしいな。ちょうど、『彼』と契約を結んだ頃の『私』か」
龍宮真名に支給されたアイテム、それは『赤い飴玉・青い飴玉 年齢詐称薬』。
いったいこんなものを支給してどう使えというのか。まるで意図が読めない。
しかし今湖面を眺めている少女こそ、この『年齢詐称薬』で外見年齢を下げた龍宮真名その人だった。
説明書には、その効用が詳しく書かれている。
青い飴玉を食べれば、外見年齢が下がる。赤い飴玉を食べれば、外見年齢が上昇する。
上下する幅は飴玉1つにつき、およそ3歳から7歳。平均すれば5歳程度。
幻術の一種なので、食べた者が明確なイメージを持っていれば、それに近い年齢・近い外見となる。
逆にイメージが曖昧であれば、かなりランダム性が高まり、振れ幅が大きくなってしまう。
同じく服についても、食べた者のイメージが曖昧であれば、服を残して身体だけが変化してしまう。
明確なイメージがあれば、服ごと変化させることもできる……その後、着替えることも可能だが。
年齢変更の効果時間はおよそ6時間。
ただし周囲に満ちる魔力量やその他の条件により、その持続時間も変化するという。
普通よりも魔力が豊富なこの地底空間では、もう少し長く持つと考えていいだろう。
そして出現したこの姿は、真名にとっても思い出深いもの。古き契約のカードに描かれた、昔の自分。
やはり真名自身、当時の鮮烈なイメージに強く引きずられてしまったようだ。
ご丁寧にも、服まで当時のモノに変化している。これには真名も、思わず苦笑。
真名が『年齢詐称薬』を口にしたのは、しかし決して昔の思い出に浸るためではない。
彼女は改めて己の姿を湖面に映す。首を伸ばしたり捻ったりしながら、自らの鏡像をしっかり観察する。
「……やはり、そうか。まあそんなところだろうと思っていたが……これは、厄介だぞ」
湖面に映る己の姿に、真名は眉を寄せる。彼女が疑い、そして確認したこの事実。
彼女の考えが正しければ、先生サイドへの反抗が1段難しいものとなる。
真名がやろうとしていることが、とても厳しいものになってしまう。
龍宮真名は、こんな馬鹿げた殺し合いに参加する気は毛頭なかった。
彼女は傭兵だ。依頼があれば、金銭を代償に様々な依頼を請ける。汚い仕事も何でも受ける。
だがそれは一方で、真名の側にも『仕事を選ぶ権利』を保障するものでもあった。
もし気に入らない仕事が来たら、受けずとも良い。報酬や条件に文句をつけ、蹴ってしまえばよい。
正式な契約を交わしさえしなければ、彼女はいかなる義務にも縛られない。
この辺り、「組織」に縛られ拒否する余地のない一般の軍人や組織人とは、大きく異なる。
ともあれ、真名はこの『ゲーム』に乗る気は全くない。金にならない殺しなど、やる気はさらさらない。
そして何より、彼女の意志を無視して状況を強要する先生側の態度が許せない。
だから、彼女は……。
だが――本気で反抗するためには、首の仕掛けをまず何とかせねばならない。
先生サイドによる爆破を回避できないことには、具体的な抵抗などできるわけがない。
そして、真名が『年齢詐称薬』を飲み、己の身体を縮めて確認した限りでは――
――これは、一筋縄ではいかないものだと、分かってしまった。見たくもないものが、見えてしまった。
「これは、私には無理だな。ウチのクラスでコレをどうにかできる者と言うと、まず1人しか居ないか。
何とかして合流し、彼女を説得しないことには……」
真名は呟く。小さな少女の姿のまま、腕を組んで考え込む。
……少し彼女は、己の思考に没頭し過ぎていたのかもしれない。
彼女はふと、近くまで迫っていた人の気配を察知して、はッと顔を上げる。
穏やかな、鏡のような水面を見せる湖。高原のリゾートのような林の中。
いつの間にこんなに接近していたのか。
制服姿の那波千鶴(出席番号21番)が、静かにそこに佇んでいた。
そして千鶴の手には、ある意味で『年齢詐称薬』よりも殺し合いに似つかわしくない、異様な物体。
――ネギである。
長ネギである。どこにでもあるようなネギである。掛け値なしに単なる野菜でしかない、あの長ネギである。
張りがあって瑞々しい、新鮮で香り高いネギを片手に握り締め。
千鶴は底の知れない微笑を浮かべたまま、目の前の幼い少女に、ゆっくりと近づいて――!
【残り 28名】
19 《 こどく 》
「ひッ……!」
「あー、逃げないでハカセ。何もしないからさ」
出会うなり、小さな悲鳴を上げた葉加瀬聡美(出席番号24番)。
山の中、斜面を縫うように走る、細い道。
岩の角を曲がったところでばったり遭遇した神楽坂明日菜(出席番号08番)は、思わず苦笑する。
へっぴり腰で、震える手で包丁を構える聡美。たぶん支給された武器だろう。
対する明日菜は、肩に大きなハリセンを担いでいる。彼女のアーティファクト、ハマノツルギだ。
見たところどっちも大した殺傷力のない武器、しかし明日菜の方が圧倒的に運動神経が上だ。
やりあうまでもなく、聡美の側に勝ち目はない。
本気で戦ったりしたら、明日菜が聡美を崖下に張り飛ばして、それで終りだろう。
「でッ、でもッ、怒ってませんかぁ……!?」
「何が?」
「その、ちッ、超さんと、色々やってたことを……」
「ん〜、確かに聞かせて欲しい話は色々あるけど、だからってハカセをどうこうしようとか思わないよ。
何より、ここにこうして首輪して居るってことは、ハカセも私たちと立場一緒ってことでしょ?」
明日菜は怯えきった聡美に対し、苦笑混じりの微笑みを浮かべる。
こういう態度を取られてしまうと、明日菜は怒るに怒れない。生来の優しさが勝ってしまう。
誰もが自分を見失う『強制認識魔法』の下、明日菜は数少ない「自分を保っている」人間だった。
「ほら、そんな危ないもの下げてさ。ちょっと、落ち着こう。ね?」
超は今でも許せないが、でもハカセは善人だ。ちょっと壊れたマッドサイエンティストだが、善人だ。
そう信じる明日菜は、怯える聡美に優しく語りかけた。
「……『第2の策』?」
「ええ……超さんは、そう言ってました」
山の中。遠くに砂浜を望む景色の良い場所。巨岩に2人で腰掛けて、彼女たちは互いの情報を交換する。
10日前、学祭最終日に魔法先生たちに勝利した超一味。戦うこともできなかったネギ一味。
その「勝者の側」だった聡美が、こうして魔法先生たちに捕まり、『ゲーム』への参加を強要されている。
聡美はゆっくりと、こうなるまでの事情を語り始めた。
「……超がそんなコト言ってたアルか」
古菲の言葉に五月は、はい、と答える。
間違って老酒を飲んでしまって、酔っ払った時に、一度だけ。とても辛そうでした。
古菲(出席番号12番)は四葉五月(出席番号30番)と、草原を歩きながら言葉を交わす。
じっとしてても仕方ない、それが古菲の考えだった。話だけなら、歩きながらでもできる。
2人の後ろからふわふわと、幽霊の相坂さよ(出席番号01番)がついてきているが、2人とも気付かない。
さよはとっくの昔に自己アピールを諦め、ただ興味深そうに2人の話に聞き耳を立てる。
それは去年の学園祭で、屋台の仕事をしていた時のこと。
間違えて客に出すはずの飲み物、それも強い酒を一気に飲んでしまい、ベロベロに酔っ払ってしまった超。
仕方なく五月は客が全て帰った屋台で、超の面倒を見続けていた。超の愚痴に付き合った。
超はそしてその時、酔っ払い特有の、回りくどい、何度も同じことを繰り返す喋り方で、五月に語った。
あの超が、誰にも涙を見せたことが無いと思われていた超が、ボロボロ泣きながら、何度も語った。
『私は『4年前』、当時のクラスメイトを皆殺しにしたネ。『バトルロワイヤル』で、みんな殺したネ。
みんな殺して、優勝して……そして私は、『天才』になったネ。何でもできる、完璧超人になったネ。
もう、あんなのは真っ平なのに……もしかしたら、私が、また……』
その時は、意味が分からなかった。五月にも理解できなかった。
理解できなかったが、しかし超が誰にも見せたことのない素顔を曝け出していることは、すぐに分かった。
……翌朝、酔いの冷めた超は、深く謝罪すると共に五月に沈黙を求めた。
五月は明確な回答をせず、代わりに尋ねた。あれは一体、どういうことだったのかと。
超は、短く一言だけ、答えた。
「私は、『こどく』なのヨ」
――普通に考えれば、『私は孤独だ』と答えた超の言葉。
確かに天才は孤独なものだろう。『バトルロワイヤル』の優勝者は、孤独だろう。
しかし五月の耳には、何か別の言葉のように聞こえていた。別の単語のように感じられた。
それが何なのかまでは、五月の知識では分からなかったのだが。
「超さんは――『ある非道』を止めるために、この時代に来たのだと言ってました」
「『ある非道』って何よ、ハカセ?」
「私も、詳しくは知らないんですー。超さんも教えてくれませんでした。
ただ、断片的に聞いたところでは、魔法界が『この先の未来』、とっても攻撃的になるんだとか。
超さんの生きていた『未来』では、もう『魔法』の存在は世界中に知れ渡っていて、一般常識になっていて。
そして、『魔法使い』たちが『ある秘術』を使って、世界を支配していたそうです。
超さんたちは、その『魔法使い』たちに抵抗するレジスタンスで――
追い詰められて、でもギリギリでタイムマシンが完成して、最後の賭けとして、時を越えたそうです」
「あの、超が……!?」
聡美の言葉に、明日菜は小さな驚きを感じる。
そういえばネギも言っていた。「超さんの最終目的が本当に悪いことなのか僕には分かりません」と。
超の側にも、何らかの正義や正当性があるかのようなネギの言葉。
その時には、明日菜は怒鳴り飛ばして一顧だにしなかったのだが。
「あの学園祭の作戦はー、『上手く行けばこれで全て終る』と言ってたんですよー。
魔法界がどう動くか、予想では五分五分だけど、もし上手い方の5割にハマってくれればコレで終ると。
『魔法』が世界にバレる時期を早めるだけで、決着がついてくれるかもしれないんだ、って。
でも、上手く行かなかった場合は……」
「ハカセも中身を聞いてなかった『第2の策』の出番、ってわけか」
「この『第2の策』を実行するにも、やっぱり『魔法』を世界にバラしておく必要があったみたいです。
そして、一旦敵対した魔法先生たちを取り込む必要がある、とも。
できれば使いたくない、できればそうなって欲しくない、と何度も言ってましたねー。
その話を聞いた時は、まさか、こんなことになるとは思わなかったんですけど……」
聡美は俯いて震える。明日菜は完全には分からぬ内容ではあるが、話の重要性だけは直感的に理解する。
誰かに伝えねばならない。この話、誰かに届けなければならない。
――そんな2人の背後に、静かに忍び寄る大きな影。
しかし2人はまだ気付かない。話に夢中になっていて、気付かない――!
「……『壺』の様子は、どうなってるネ?」
「なんだ、超君か。まだ『転送』されてなかったのか?」
――遺跡のような建物の中、『バトルロワイヤル』運営本部。
スキンヘッドの男と交代し、水晶球を眺めていたガンドルフィーニ。
彼は背後からかけられた声に、不機嫌そうに答えた。わざわざ振り返って見るまでもない。
そこに居たのは、強化服を着込み不敵な笑みを浮かべた、超鈴音(出席番号19番)。
「そろそろ行くヨ。ただ、行く前に情報が欲しいのネ。
現時点でのトラブルとか、現時点での『困った参加者』とかネ」
「……今、レポートにまとめている。もう少し待ってくれ」
後からいくらでも無線で聞けるだろうに、などと愚痴りつつ、ガンドルフィーニはペンを走らせる。
水晶球を覗きながら書いていたメモを、乱暴に書き上げて超に突き出す。
「今のところは、こんなものだ。分かったらさっさと行って、さっさと殺されて来い」
「酷い言い方ネ、ガンドルフィーニ先生。私たちは運命共同体なのに」
「誰のせいだ、誰の」
ガンドルフィーニの語調が、少しだけ荒くなる。
彼とて、超に協力などしたくはない。出来ればこの小憎らしい小娘、自分の手で引き裂いてやりたい。
だが――協力せねばならない理由がある。
愛する妻と娘を守るため、心を鬼にして3−Aの面々に殺し合いをさせねばならぬ理由がある。
諸悪の根源・超への深い憎悪は、せいぜい荒々しい言葉遣いに込めてみせるのが精一杯で。
そんな彼の怒りを、超は例の不敵な笑みを浮かべたまま、軽くあしらってしまう。
「後のコトは、ヨロシク頼むヨ。私が居なくても、サボったりミスったりしちゃ駄目ヨ?
――じゃあ、行ってくる。昔懐かしい、狂気と怨念渦巻く『蠱毒(こどく)の壺』の中へ、ネ」
未来人にして火星人。天才にして策士。麻帆良の平穏を崩した張本人。
出席番号19番、超鈴音――ここに出陣。
【出席番号19番 超鈴音 他の参加者より遅れて『バトルロワイヤル』に参加】
【残り 29名】
朝投下ここまで。続きは夜にまた投下の予定です。では。
蠱毒と来たか・・・・!
ロリマナにネギ千鶴・・・・
そしてやはりまき絵は死ぬ運命にあるのか‥!
桜子なんて第一話から死兆星見えてんだぞ
年齢詐称薬にホレ薬に、どこまで無茶するんだ
20 《 反撃の糸口 》
――石造りの建物の中に、カタカタとキーを打つ音が響く。
長谷川千雨(出席番号25番)は、私物のノートPCを「何か」に繋ぎ、プログラムを調整していく。
彼女の目の前に横たわり、コードで繋がれているのは……
首のない女性型マネキンのような、異様な物体。
「……やっぱりダメだな。『アンテナ』部分がないと……」
「み、みつかりました〜! 結構ヒドいことになってますけどー」
千雨がぼやいたその時、荒い息をつきながら部屋に入ってきたのは、宮崎のどか(出席番号27番)。
その手に抱えられていたのは、緑色の毛球のような、スイカくらいのサイズの球体。
千雨はニヤリと笑うと、その球体を受け取る。
「ありがとな。ちゃっちゃ繋げちまおう」
「……直せるんですか?」
「ハカセか超ならできるかもしれねぇが、私にはムリだ。そこまでのスキルは、残念だが持ってねぇ。
だが、『アンテナ』と直結させるくらいなら、きっと何とかなるはず……!」
千雨はのどかから受け取った球体を、首のないマネキンの頭の位置に置く。
――こうしてみれば一目瞭然。
千雨とのどかの目の前に横たわっていたのは、絡繰茶々丸(出席番号10番)のボディと頭。
首元を爆破され、虚ろな目をし、完全に沈黙したガイノイドの残骸――!
あの、茶々丸が爆破されたその時。
話し込んでいた千雨とのどかは、近くに重たいモノが落下する音に、震え上がった。
思わず建物を飛び出した2人。そして彼女たちが見つけたのは、首のない茶々丸の身体。
そして彼女たちは、あの『臨時放送』で状況を把握する。
どうやら高く飛びすぎた茶々丸が、高度制限に引っかかって爆破されてしまったらしい。
そしてたまたま、千雨たちの頭上を飛んでいた彼女が、ここに落ちてきた――
千雨ものどかも、茶々丸の飛行能力については知っていたから、その辺の理解は早い。
「ちゃ、茶々丸さん……!」
「くッ……! どう見ても後付けルールだろ、それッ!」
一応、超一味の1人として敵対関係にあった茶々丸。
しかし千雨ものどかも、悪い感情は抱いてなかった。むしろ、彼女個人には好感さえ抱いていた。
思わぬ「人物」の早すぎる「死」に、2人は衝撃を受ける、が……
「――いや、むしろこれは好都合か。宮崎、コイツの身体、中に運び込むぞ。手ェ貸せ」
「え?」
「それが終わったら、済まねーけどコイツの頭を探してきてくれないか? どっか近くに落ちてるハズだ。
悪いが私は、早速やってみなきゃならないことがある」
――そして、今の状況。
正直のどかには、千雨が何を考えているのかまるで分からない。
どうやら今は、頭の方の首の断面を探って、何かコードを探しているようだ。
身体の側の断面にもある、同色のコードを探って繋ぎ合わそうとしている。
のどかが頭を探している間に、裸に剥かれていた茶々丸の身体。
その胸の整備用ハッチが開けられ、これもまたコードのようなもので千雨のノートPCと繋がっている。
一体、何をしようとしているのか。茶々丸を直すのでなければ、何をしたいのか。
「あ、あの……」
「喋るな。気が散る」
放っておかれることに居たたまれなくなったのどかは、思わず声を上げたが。
真剣な表情の千雨は、乱暴に切って捨てる。
ようやく何本かのコードを繋いだ彼女は、鋭い視線でのどかの方を見上げると。
「……そんなに気になるなら、お前には『方法』があるだろ?」
「方法?」
「勝手に『読め』。止めねーから。ただし、声出すんじゃねーぞ。五月蝿いからな」
千雨の言葉は、あくまでぶっきらぼうだ。
ぶっきらぼうで、乱暴ではあったが……その目は、何かを訴えるように真剣なものだ。
何かに気付け、と言わんばかりのものだ。
そしてのどかは思い当たる。自分に与えられた力。自分が持つ超常の力。
「で、では、失礼して……『来たれ(アデアット)』!」
のどかの手の中のカードが光る。舞い踊る風と共に、一冊の本が出現する。そして……!
『……さっきは済まねーな。『声』に出して言うわけには行かなかったからよ』
黙り込んだまま作業を続ける千雨。黙って絵日記帳を広げるのどか。
アーティファクト『いどのえにっき』のページに、千雨の表層意識が浮かび上がる。
まるで話し掛けるように言葉が浮かぶのは、下段の文章用スペース。
その上側、絵を書き込む枠の中には、のどかにはまるで分からない専門用語や回路図が並ぶ。
どうも目の前の作業とのどかへの説明、2つの思考を並行して進めているらしい。器用なものだ。
『まず、声を出しちゃいけない理由から説明するぜ。
元ネタの小説『バトルロワイアル』ではな――首輪には爆弾だけでなく、盗聴器も仕込んであったんだ』
「と、とうちょ……!」
思わず声に出しかけて、のどかは慌てて自分の口を塞ぐ。作業の手を止め、千雨が睨み付ける。
「ご、ごめんなさい」
『だから喋るな。謝らなくていい』
千雨は再び作業を始める。ノートPCのキーを叩く音だけが、部屋に響く。
『それでな……。爆弾と、盗聴と、生命反応確認と、電波の送受信の機能が備わっていた首輪だが。
主催者側はいつでも電波で爆破することができるし、またいつでも首輪のロックを解除できた。
そして主催者側のホストコンピューターに侵入できれば、主催者以外の者が解除を試みることも』
「!!」
千雨の表情は、真剣だ。茶々丸の身体の調整を続けながら、絵日記の上での説明が続く。
『原作では、このハッキング作戦中に盗聴器から作戦が漏れ、途中で対策取られて失敗した。
だが今の私たちは、同じ轍を踏むことはない。気付かれるよりも先に、首輪を解除できる』
「…………」
のどかはようやく千雨の作戦と沈黙の意図を理解し、軽く頷く。
と同時に、新たなる疑問が湧いてくる。
何故、ここで茶々丸の身体が必要なのか? 今、千雨は何をやっているのか?
のどかの疑問に千雨は気付いたのか、日記帳に新たな文字が浮かび上がる。
『茶々丸が、空から降ってきたのは幸いだったな。できれば『生きている』コイツと会いたかったんだが。
コイツはな、地球上のどこにいてもネットに接続できる、新方式の通信システムを搭載してるんだそうだ。
コイツ自身が、そう教えてくれた。学祭の一週間後に『飛ばされる』直前、教えてくれた』
学祭2日目の夜、小太郎も加えて3人で食べた夕食。その席で聞いた、様々な話の中で。
千雨は、この重要な事実をしっかりと聞き出し、覚えていたのだ。
『この作戦、一番の難関は、ネットに繋ぐ回線を手にいれることだった。
こんな何もない島じゃ、ダイアルアップ接続すらままならねーからな。
私は元々、一段落したら茶々丸を探しに行くつもりだったんだ。
幸か不幸か、こうしてタナボタで茶々丸の身体が手に入ったが……コイツは『死んで』て、調整が必要で。
でもまぁ、私の素人修理でも、とりあえず復旧できたみたいだぜ。
携帯電話も使えないこの地底空間で繋がるかどうか、かなり心配だったが……
今、回線が繋がった。茶々丸自身の機能も一部使えそうだ。あとは微調整だけか。なんとかイケる』
後は麻帆良学園のどこかと繋がっているはずの管理側のコンピューターを探し出し、侵入するだけ。
ここからは一流のハッカーとしての腕の見せ所である。
そんな彼女を見守るのどかは、しかし何もやれることがない自分に居心地の悪さを感じる。
「……私に出来ること、何かありませんかー?」
『無い。はっきり言って、何も無い。
そうだな、私の代わりに周囲を警戒していてくれ。できることと言ったらそれくらいだ。それから……』
そして千雨はキーを叩く手を止め、顔を上げた。
のどかの眼を見据え、千雨は口を開く。こればかりは自らの口で言わねばならない言葉だと思ったのだ。
「お前の命を、私にくれ。死ぬも生きるも、私たちは一緒だ。――いいな?」
首輪の解除。この『ゲーム』のシステムを根底から覆そうという挑戦。
この試みが途中でバレてしまえば、魔法先生たちから爆破処分を受ける危険は十分に考えられる。
あるいは、解除が中途半端に失敗し、そのせいで首輪が暴発する恐れも……。
上手く行くかどうかは、全て千雨の腕と、先生サイドの対応次第。
千雨のこの問いに、のどかは沈黙で答えた。『いどのえにっき』を広げ、千雨に見せることで答えた。
のどかの名前が書かれたページの下、彼女の本心が剥き出しになった文章欄に、ただ1行。
『全て、お任せします。頑張って下さい!』
【残り 29名】
21 《 魔の山 》
――突然、殺気を感じた。
「は、ハカセッ!」
「ふぇッ!?」
神楽坂明日菜(出席番号08番)は隣に座るもう1人の名を叫びながら、その場を飛びのく。
だが葉加瀬聡美(出席番号24番)は彼女の意図に気が付かず。
突然暗くなった頭上を、ぽかんと見上げて――
ぐしゃッ。
山の中、大質量が着地する振動と一緒に、肉が潰れ骨が砕ける、嫌な音が響く。
超についての話を、まだ全て語り終えてなかった聡美。
その意識は、一瞬にしてこの世から消え去った。
「……へっへー。うーん、不意打ちできたと思ったんだけどなー。殺れたのは1人だけか〜」
「あ、あんた、桜子ッ……!?」
そう、唐突に空から降ってきたのは、巨大な鬼蜘蛛とその上に乗った椎名桜子(出席番号17番)。
明日菜と聡美、2人を一気に踏み潰す狙いの、鬼蜘蛛のハイジャンプ。
巨大な割に、相当な瞬発力と身軽さのある式神。支給品の中では、文句なしに最強クラスの一品。
桜子はハルナを片付けた後、眺めの良い場所を求め、島の中央、山の方に登ってきていたのだ。
もちろん、見晴らしのいい景色が見たかったからではなく、他の参加者を見つけて襲うために。
式神の背に乗っていれば良いのだから、キツい山登りも楽なものである。
「ま、いいけどね、この子強いし。じゃ、『ポッキ』ちゃん、明日菜もやっちゃって♪」
桜子は鬼蜘蛛から飛び降りつつ、攻撃命令を出す。
すぐさま突進を開始する鬼蜘蛛。その背中越しに、銃を構える桜子。上手く役割分担された前衛と後衛。
手にしていたのは、殺したハルナから奪った支給品。呪文を唱えることなく魔法の矢を放てる、魔法銃。
元の持ち主が読まずに放って置いた説明書も、しっかり読んできた。
ハルナと違って知識が無かった分、間違った先入観を抱くこともなかったのだ。
明日菜はハリセン1本しか持っていない。これはハズレの武器を掴まされたか、と桜子はほくそえむ。
聡美の死にショックを受け、俯いて震える明日菜に、銃から放たれた光弾と鬼蜘蛛が襲い掛かって――!
「――ふざけるんじゃないわよッ!」
激昂。
明日菜の一喝と共に、彼女に直撃した、と思われた光の弾が、空中で掻き消える。
試射した時には、岩を砕き木々を打ち倒す威力を見せた『魔法の射手・光の3矢』に相当する3連射。
それが全て、掻き消える。明日菜に当たったと思った瞬間に、消滅する。
「はえッ!?」
そして桜子が驚く間もあればこそ。
ほぼ同時に明日菜に噛みつかんとしていた鬼蜘蛛が、ハリセンの一撃で動きを止めて。
そのまま、煙になって消滅する。後には一枚の札が、虚しく宙を舞うばかり。
一瞬でつくはずの決着は、しかし桜子の想像とは逆の形で、一瞬にしてついてしまっていた。
――桜子は、おそらく最悪の相手にケンカを売ってしまったのだ。
明日菜の持つ『マジックキャンセル能力』、そして召喚物を一発で送り返す『ハマノツルギ』。
式神を駆使し、ハルナから奪った魔法銃を手にした彼女には、最悪の相性。
おまけに明日菜の側には、この種の式神と戦った経験も、この手の魔法攻撃を受けた経験もある。
これならまだ、刹那や楓などと遭遇した方がマシだったハズだ。まだ「戦い」の形にはなったハズだ。
絶対に戦ってはいけない相手に攻撃をしかけてしまった桜子、そして彼女は……
「うわ……うわぁぁぁぁぁッ!」
「あッ、ちょッ、待ちなさいよッ!」
後ろに向け魔法銃を乱射しながら、その場を逃げ出した。パニックになって逃げ出した。
――何がなんだか分からない。
散々殴り合った末ならともかく、一撃で消し去られてしまうなんて。
何か防御の構えを取ったならともかく、あの光の矢が全く効かないなんて。
「最強の相棒」、護鬼の鬼蜘蛛「ポッキちゃん」を失った今、どう自分の身を守ればいいというのか。
ひょっとしてこの島には、こんな化け物が他にも居るとでも言うのだろうか――?
ハルナこそ簡単に倒せてしまったが、他の生徒のみんなもこんなに強いのだろうか――?
桜子は逃げる。混乱しつつ逃げる。銃を乱射しながら、山の中を駆ける。
追いかけようとする明日菜も、身体を掠める魔法弾に一瞬怯んでしまう。
いくら魔法無効化能力があっても、完全に無視して突っ込むには度胸が居るものだ。そして……
「あッ……?」
椎名桜子は、足を滑らせた。
山の中を走る細い道、その途中で、大きくバランスを崩した。
宙を舞う魔法銃。宙を舞う桜子の身体。
明日菜が手を伸ばす余裕もなく。
桜子は厳しい傾斜の斜面を転がり落ち、谷底に向かって落下して――
しばらくの間を置いて、聡美の時にも似た、嫌な音が響き渡った。
――後には、ただ沈黙。
「……っていうのよ……」
ハリセンを片手に、山の中たった1人。
明日菜は、呻く。抑えきれない感情に、そして叫ぶ。
「……私に、どうしろって言うのよッ……!!」
背後には、葉加瀬聡美、だったモノ。
目の前の谷の底には、椎名桜子、だったモノ。
明日菜はぶつけるアテのない怒りと悲しみに、打ち震える。
何もかも間違ってる。根本的なところで大きく間違っている。
でも、何をどうすればいいと言うのだろう……? 一体明日菜に、何ができたというのだろう……?
「私は、どうすりゃ良かったって言うのよぉッ!!」
【出席番号24番 葉加瀬聡美 鬼蜘蛛に踏み潰され 死亡】
【出席番号17番 椎名桜子 谷底に転落して 死亡】
【残り 27名】
22 《 定期放送 》
『――では、第1回目の定期放送を始める。
まずは死亡者の発表から。
現時点で7名の死者を確認している。みんな熱心に殺し合いをしてくれているようで、何よりだね。
出席番号05番、和泉亜子。出席番号10番、絡繰茶々丸。 出席番号14番、早乙女ハルナ。
出席番号16番、佐々木まき絵。出席番号17番、椎名桜子。出席番号24番、葉加瀬聡美。
出席番号33番……あ、これは『ゲーム』の便宜上つけた番号だが、ともかく33番、高音・D・グッドマン。
これに、教室での反抗未遂により処分された出席番号11番・釘宮円を加え、合計8人死亡。
残り、27人だ。最後の1人になるまで、頑張ってくれたまえ。
続いて、禁止区域の発表だ。2時間後の14時に、B−8。16時に、H−2。
次の定期放送がある18時に、F−9が、それぞれ立ち入り禁止区域となる。
いずれも湖が半分以上を占めるエリアだな。湖畔を歩く時は注意をするように。
では、諸君の健闘を祈る』
「……何が『健闘を祈る』だ、ふざけおって……」
臨時放送の時のように、島全体に響き渡ったガンドルフィーニの声。
吐き捨てるように呟いたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出席番号29番)。
西の岩場に転がる巨岩の1つの上に立ち、拳を握り締める。
彼女の怒りに応じ、……しかし魔力はほとんど集まらない。
「この状況で茶々丸を失ったのは痛いな。せめて、触媒薬か箒でもあれば……」
エヴァの鋭敏な魔法感覚は、この地底空間に満ちる豊富な魔力を感じ取っていた。
通常よりも濃い魔力が充溢したこの閉鎖空間。言ってみればエヴァの『別荘』と似たようなもの。
この場なら、魔法を使ったり、魔法の道具を使いこなしたりするのは簡単だろう。
『魔法使い』にとっては実に戦いやすい空間。やりやすい場所。
素人だって、僅かな素質さえあれば、ポッと使えるようになるかもしれない。
一方でエヴァには、他の『魔法使い』にない事情がいくつかある。
まず、彼女の膨大な魔力を封じる『登校地獄』の呪いと、『学園結界』。
『サウザンドマスター』にかけられた『登校地獄』は、学業に『魔法』は必要ないとばかりに魔力を奪う。
学園から出ることを禁じる効果もあり、また魔力の封印は学園の中にいる間に限られるが。
どうもこの地底空間も、『学園内』という扱いになっているようだ。
そして電気仕掛けの『学園結果』は、学園内での高位の魔物の力を弱め、封じてしまう。
元々はエヴァのために作られたものではなく、世界樹を邪悪な魔物から守るためのものだったらしい。
吸血鬼であるエヴァもまた、魔に属する身。動けなくなることはないが、しかし大いに魔力を削がれる。
……これらの背景があればこそ、こうしてエヴァが『ゲーム』などに放り込まれているわけだが。
この2つの効果に加え、エヴァ自身の体質の問題も加わるからまたややこしい。
人間の『魔法使い』と異なり、ヒトならざる彼女の魔力は月齢に応じて大きく変動する。
魔力が最大に達するのが満月の時。最も弱まるのが新月の時。
と言っても、魔力を2重に封じられる前は、新月期でさえ常人を遥かに凌駕する魔力を誇ったものだが……
ともかく、今の現状。
『登校地獄』と『学園結界』は、なおもエヴァを縛っている。この地底空間まで届いている。
月こそ直接見えないが、月齢は満月からはかなりはずれた時期。
ただ有利な点として、この空間は通常よりも豊富な魔力に満ちている。
これら全てを合わせれば……
「今の体力は、成人男性並みと言ったところか。
呪文は触媒薬無しでは実戦では使いものにならんな。飛行も、マントか箒無しには難しかろう。
再生も……この調子では、時間がかかって仕方あるまい。致命傷を受けたら、それで終わりか。
人形繰りの糸があれば、達人ども相手にもそれなりに凌げたろうが……まあ、無いものは仕方ない」
支給された品は、戦いにかなり役立つ東洋系のマジックアイテムだったが……
残念ながら、本当にエヴァが欲しい触媒薬や箒、人形繰りの糸は手元にない。全て没収されている。
ただ、牙は伸びている。誰かを捕らえることができれば、生き血を啜ることができる。
生き血を啜って魔力を補い、一時的に少しだけ魔力を底上げすることができる。
あるいは、真祖の下僕にして行使することも……。
「……下らん。何故今さら、あいつらの血を吸わねばならんのだ」
エヴァンジェリンは胸に湧きあがってきた考えを、振り払う。
どうもこの地底空間、嫌な魔力に満ちている。思考を歪める魔力がさり気なく満ちている。
そうと気付かなければ、今のような「好戦的な」考え方に流されてしまうのだろうが。
「例の『強制認識魔法』、か……? 全く、下らんことに魔力を使うものだな」
実はエヴァは魔力こそ封じられているものの、それ以外の魔法使いの能力は全て残されている。
鋭敏な魔法的感覚。魔法に関する深い知識。並外れた技術。
それらを総動員し、彼女はこの島を探っていた。見えない魔力を分析していた。
「……『強制認識魔法』だけではないな、これは。
他にももう1つ、島を覆う感覚がある。とても嫌なモノがある。
首のコレと、何か関係があるのか……?」
エヴァは己の首に手を伸ばす。しっかりと嵌った首輪。その首元からも感じる、嫌な気配。
「西洋魔法でもない、日本の陰陽道でもない。これは……古い中国魔術の術式?
いや違う、やはり西洋魔術のエッセンスもある。最近流行りの、『ハイブリッド魔術』か?
だとしたら、厄介だな」
……情報が足りない。最終的な判断を下すには、何もかも足りない。
エヴァンジェリンは、そして歩き出す。
他の生徒と出会うためではない。今はむしろ、出会いたくはない。
島を歩き回り、この巨大な島全体を使って描かれた、見えざる魔法陣の全容を探らねば――!
「……良かった、せっちゃん、まだ生きとる。
でも、ハルナ……。それに、他のみんなも……!」
森の中、定期放送を聞いて複雑な表情を浮かべたのは、近衛木乃香(出席番号13番)。
その手に抱えられたのは、シンプルな鞘に収められた、長大な野太刀。
桜咲刹那(出席番号15番)の愛刀『夕凪』。木乃香に対する支給品だった。
ザジに与えられた、楓のクナイ。夕映に与えられた、ネギの杖。高音に与えられた、ネギの指輪。
どうも先生たちは没収した品々の一部を、他の生徒に支給しているらしい。
リサイクルのつもりなのか、それとも、何かの巡り合わせで本人の手元に戻ることを期待しているのか。
「ウチの手元にせっちゃんの刀があるってことは、せっちゃん、きっと困っとるえ。
はよ、合流せな……」
でも、どうしたらいいんだろう。何をどうすれば合流できるのだろう。
木乃香の思考は、そこで停止する。良案も浮かばぬまま、彼女はこうして、『夕凪』を抱え歩き回っている。
この島に『転送』されてからずっと、何度か休憩を挟みながらも、歩き続けている。
……木乃香は知らない。
刹那もまた、木乃香を探し、歩き回っていることを。
歩き回る2人、互いにかなり近いところをすれ違ったこともあることを。
森や沼が広がり、歩きにくく視界の効かない島の北部から北西部にかけてのエリア。
そして実は木乃香は、森の中をグルグルと、同じ所を何度も回ってしまっている。
ある人物が森の中央に設置した「結界」のために、無意識に進路を変えてしまっていたのだ。
自分の空回りに気づかぬ木乃香は、なおも森の中を彷徨う。
「待っててぇな、せっちゃん! ウチ、この刀を……!」
【残り 27名】
【22 補足情報】各生徒の持ち物について
・私物
日常の学園生活を送っている最中の、通学時に持っている品物。
ただしネギパーティ他一部の生徒は、学祭最終日の持ち物と服装。
武器、魔法の発動体、魔法のアイテムは、原則没収。ただし「従者側の仮契約カード」だけは残されている。
・共通支給品
共通して支給されるのは、次の通り。
地図、コンパス、名簿(32番以降35番までは番号のみで名前は空欄)、水2リットル、コッペパン2個、デイパック
・ランダム支給品
各人ごとにランダムに、武器・魔法の品物・超科学の産物のいずれか1つ。ハズレあり。
以下、22話までの時点で明らかになった支給品
01さよ:トンカチ (→12古菲に拾われる) 02裕奈:サバイバルナイフ 03和美:ライフル(改造エアガン)
04夕映:ネギの杖 05亜子:鉄扇 06アキラ:対魔法使いステルスマント
07美砂:ホレ薬×3(自分で飲むタイプ) 08明日菜:魔法の触媒薬セット 10茶々丸:??? (→千雨・のどかが獲得?)
12古菲:練習用の魔法の杖×6 13木乃香:『夕凪』 14ハルナ:魔法銃 (→17桜子に奪われる)
15刹那:木刀 16まき絵:人形繰り用の糸 17桜子:式神の札:鬼蜘蛛×1
18真名:年齢詐称薬 20楓:小型リボルバー (→07美砂に譲渡) 21千鶴:長ネギ?(?!)
23史伽:???(小さな影?) 24聡美:包丁 25千雨:除霊銃『封神』
26エヴァ:???(『戦闘に役立つ東洋系マジックアイテム』) 29あやか:電磁ナックル 30五月:デッキブラシ
31ザジ:くない×多数 (→そのうち一部、06アキラが回収) 32ネギ:500円玉×多数 33高音:魔法の指輪
34愛衣:??? (→15刹那が獲得) 35コタロー:???(『良く知っているモノ』)
09美空 19超 22風香 27のどか 28夏美 の5名のアイテムは22話現在未登場。
11円は、アイテム支給前に死亡。
今夜はここまでです。
GJ!
そして言ったそばから桜子・・・
【追悼】あぁ……桜子……【13回忌】
エヴァは26番・・・
設定に力いれすぎて肝心の戦闘描写が薄い感じ
まあそれもありかもしれんが
まぁ、どこに重点を置くかだろうなぁ
苦手な分野を得意な部分でカバーっていう
戦闘苦手じゃないはずだがなー
カバーできてればだが・・・
やはりもう少し戦闘描写を濃くして欲しかったのには同意。
でも設定は斬新で良いと思います。
期待してますので頑張って下さい。
ばっかお前、こんな序盤から全力で戦闘描写する訳ねーだろ
漢は黙って後半に期待
俺は漢だから後半よりも次回作に期待するぜ!
リピーターの参加って初じゃなかったっけか?
>>428 あ、確かにこれはこちらのミスです。
>>421の本文中ですね。単純なタイプミスです。
何度も何度も確認したはずですが、やはり1人でやっているとどうしても残っているものですね。
ご指摘感謝です。
まとめサイトは今機能停止しているようですが、収録する際はお手数ですが修正お願いしたいと思います。
>戦闘
まあ、その辺は最後まで読んでから判断頂けたら有難いな、と……。
確かに序盤はそうかもしれませんね。舞台や状況を理解してもらうための前準備が入ってきますから。
では、朝投下行きます。
23 《 リセット (1) 》
『……を加え、合計8人死亡。残り、27人だ。頑張ってくれたまえ。
続いて、禁止区域の発表だ。2時間後の14時に……』
「……あらあら、本当に死んでいる人がいるのねぇ。困ったわ」
「そういう『ゲーム』らしいからな。しかし予想以上に『乗った』奴が多い。厳しくなるぞ」
「夏美ちゃんやあやかは大丈夫かしら。心配だわ」
「まずは自分の心配をしろ。チヅルに他人を気にする余裕があるのか?」
「あら、それを言うならマナちゃんだって」
「私は戦えるからいいんだよ」
林の中、静かな湖畔。那波千鶴(出席番号21番)と小柄な少女は定期放送の内容を吟味する。
少女は地図を広げ、禁止区域に予告されたマスをチェックしていく。
それを横目に見ながら、千鶴はおそらく参加者たちの中では最も豪勢な昼食の準備を進める。
支給されたコッペパン。支給されたペットボトルの水。ここまでは、他の参加者も同様だが。
火の中から転がし出したのは、真っ黒に焦げた拳ほどの塊。炭化した皮を剥けば、香り高い焼きニンニク。
少女が取ってきた川魚には木の枝が刺され、焚き火の傍でパチパチと音を立てている。
同じように焼かれているキノコがいくつかに、デザートには摘んできた野いちごの一種。
千鶴は湖畔のちょっとした空き地に大きな布を広げ、食卓の用意を進める。
2人の間に、緊張はない。
優しい「お姉さん」とぶっきらぼうな「少女」は、短時間のうちに随分と仲良くなっていた。
『年齢詐称薬』を口にし、子供の頃の姿に戻った龍宮真名(出席番号18番)――
その前に現れた千鶴は、慈愛の篭った、裏のない笑顔で、こう言った。何故かネギを片手に、こう言った。
「あらあら。あなたもこの『ゲーム』に参加させられたの?
ひどいわねぇ、こんな小さな子に……。先生たちは一体何を考えてるのかしら」
「…………」
「私は、那波千鶴。みんなは『ちづる』とか『ちづ姉』とかって呼ぶわね。
あなたは? お名前、何て言うの? お姉さんに、教えて貰えないかしら?」
子供の扱いに長けた、千鶴らしい反応。警戒する少女の心さえも溶かす、柔らかい言葉。
どうも千鶴は、少女を「先生が言っていたクラスメイト以外の参加者」の1人だと思い込んだらしい。
見覚えのない少女、クラスのみんなと同じ首輪。
『年齢を変える魔法の薬』、などという突飛なモノの存在を知らなければ、確かに誤解してもおかしくない。
3−Aの生徒たちには、32番以降の名簿を埋める名前は明かされていない。
「……マナ」
そして千鶴の微笑みに抗しきれず、ぶっきらぼうに、素直に答えてしまった少女ではあったが。
「あら、龍宮さんと同じお名前なのね。私のクラスにも、同じ名前の子がいるわ。
よかったら、フルネームも教えてくれないかしら?」
気付かれるかもな、と覚悟もしていた彼女は、しかしこの無邪気な、全く疑いのない質問を前に。
今さら、正体を明かすことができなくなってしまった。
今さら、「魔法の薬で子供に戻ってます」とは言えない雰囲気になってしまった。
仕方なく、彼女は名乗る。昔々、「龍宮」の姓を得る前に使っていた、古い名前を。
「……アルカナ。『マナ・アルカナ』だ」
そうして行動を共にし始めた2人。しばらく相談した結果、まずは他の生徒を探すことにした2人。
マナとしても、ここで戦闘力のない千鶴を放ってどこかに去ることもできない。
「……いざとなれば、赤い飴玉で元の姿に戻れば、銃無しでも……」
戻った後の千鶴の反応を考えると少し気恥ずかしいが、どうせ一瞬で戻れるのだ。必要ならば、やる。
「まあ、普段の私は雰囲気が厳し過ぎる。恐怖に捕らわれた奴らを、無用に刺激しかねない。
あるいはさっきの調子で、コイツが相手の戦闘意欲を削いでくれるかもしれん。
正体を明かさず、子供の姿で居た方がいいのかもしれないな」
マナは声に出さずに、心の中で呟く。自分を納得させる。
どこか自己欺瞞の匂いを覚えつつ、それでも彼女はこのままでいることを自己正当化する。
「できれば銃が欲しいんだが。銃さえあれば、この体格でも負ける気がしない」
「マナちゃん、あなた一体どういう生活してきたの? ダメよ、他人を傷つけたりしちゃ」
パンを齧りながらのマナの独り言を、千鶴はのんびりした口調でたしなめる。
それがこの『ゲーム』の中で言う言葉だろうか。まるで噛みあわない千鶴との会話。
マナは子供の姿のまま、軽い頭痛を覚える。
「チヅルに支給された品物は何だったんだ? 武器は入ってなかったのか?」
「私の支給品なら、この長ネギよ。さっきのニンニクと一緒に、スーパーの袋に入っていたの。
これって、お料理でもしなさいと言うことだったのかしら? でも、お台所も他の材料もないしねぇ」
「……なるほど、吸血鬼対策のセットというわけか。確かに1匹、生徒の中に混じっているからな」
マナはそして溜息をつく。
確かに、生徒の中でも敵対すれば厄介なエヴァは、吸血鬼だ。彼女はニンニクとネギが苦手ではある。
だがそれは「大嫌い」というだけで、それさえあれば彼女を倒せるような種類の弱点ではない。
せいぜい、こうして焼きニンニクでも食べておけば、彼女は血を吸う気を無くすだろう、くらいのものだ。
2人揃ってハズレアイテムとは、いったいこれでどう殺しあえというのだろう?
これでは自分のたちの身さえも、守れるかどうか怪しいではないか。
と――
マナは、はッと顔を上げる。何かがマナの鋭敏なセンサーに触れる。
殺気が、近づいてくる。
気配を消せていないこと、そして足音から察するに、おそらく素人。しかしその殺気だけは、本物だ。
「……どうしたの、マナちゃん?」
「動くな。誰かが近づいてくる。――完全に『ヤルつもり』らしい」
マナの言葉に、千鶴も顔色を変える。ギュッと長ネギを握り締めて身構えるが、しかし役には立つまい。
マナは『年齢詐称薬』の瓶を手に取る。いざとなれば、コイツを使うしかないか……!?
2人は林の木々の向こうを見つめる。殺気を感じ取るまでもなく、聞こえてきた足音。そして――
鳴滝風香(出席番号22番)が、彼女の手には不釣合いなほど大きな拳銃を手に、姿を現した。
「……あら、風香ちゃん」
「ちづ姉……。それに、そっちは……誰?」
見知った顔の出現に、呑気に呼びかける千鶴。俯き加減で微妙に表情の見えない風香。
2人のやり取りをよそに、マナは素早く風香の武装を観察する。
デザートイーグル。「ハンドキャノン」の異名を取る大口径拳銃。……少なくとも、外見からはそう見える。
しかもよく見れば、手に持っているものだけでなく、ポケットに強引にねじ込んでいる同型の銃がもう1本。
マナは風香の腕の動きやポケットの揺れ方から銃の重さを目測し、確信する。
あれは実物ではあるまい。おそらくマナの愛銃と同様の、エアガンだ。
ひょっとしたら――魔法先生たちに取り上げられた、彼女の愛銃そのものであるかもしれない。
ただしエアガンとはいえ、本体を改造し弾丸に術を施せば、実物にも負けない威力を付加できる。
むしろ弾数が増え軽量化もでき、下手な「本物」よりも扱いやすくなる。
油断は禁物。その脅威は実銃と同等と見ておいた方がいい。
「こっちはマナちゃん。マナ・アルカナ。ちょっと無愛想だけど、素直でいい子よ」
「ふふふ……よかった、3−Aの誰かじゃなくて……」
千鶴の答えに、風香は静かに笑って。
両手で構えた銃を、マナたちに向ける。狂気に染まった笑みを浮かべ、言い放つ。
「いきなりクラスの誰かを殺すのって、ボクもちょっと気が引けてたんだ。
悪いけど――そっちの子から死んでもらうよッ!」
――あの時風香は、教室で惨殺された釘宮円(出席番号11番)の斜め前の席に座っていたのだ。
切断魔法で真っ二つにされた円。無惨極まりないその死に様。
だが、風香にとっては、自分のすぐ目の前を通り抜けた風の刃もまた、衝撃的だった。
目の前を駆け抜けた風。自分の座る硬い机をすっぱりと斬ってしまった『魔法』。本物の殺人の技。
あと3ミリ位置がズレていたら、もろともに斬られていたに違いない風香の手足。
風香は、理解した。
魔法先生たちは本気だ。従わなければ殺される。抵抗の余地なく殺されてしまう――
その恐怖が風香を変えてしまっていた。
彼女を、追い詰められた戦士へと豹変させていた。
マナに銃口を向ける風香。切羽詰った表情とは裏腹に、全く揺れない銃口。
一瞬で、マナは理解する。コイツは本気で撃つ気だ。そしてまた――撃てる奴だ。
映画などの真似して二挺拳銃を気取る素振りもない。確実に1人ずつ倒す気構え。
おそらくこの様子だと、マナたちと出会う前に、1人で射撃の練習をしていたのだろう。
こういう奴が銃を撃てば、素人であっても十分に当たる。当たる可能性がある。
マナは腰を落とし即座に動けるよう、身構える。避けつつ反撃する準備をする。
しかし距離が遠い。1射目を避けられたとしても、飛び道具無しでは勝ち目がない。
あるいは素人の風香のことだ、マナを狙って撃ったつもりでも、その流れ弾が千鶴に当たる危険性も……。
さて、どうする――!? どうしたらいい――!?
「――止めなさい」
凛とした声が、湖畔に響く。
毅然とした態度で、緊張高まる風香とマナの間に割って入ったのは……那波千鶴。
柔かな笑顔から一転、厳しい表情を浮かべ、両手を広げてマナの前に立ちはだかって。
身を張って幼い少女を守りながら、風香をしっかり見つめる。
「な――!?」
「チヅル、何を!?」
「……風香。貴女はちゃんとモノを考えて言っているの?」
【残り 27名】
24 《 リセット (2) 》
今まさに引き金を引かんとしていた、鳴滝風香(出席番号22番)。
『見知らぬ少女』マナ・アルカナ(出席番号なし)を蜂の巣にしようとしていた風香。
いや見知らぬ相手でなかったとしてとも、容赦なく殺す覚悟を決めていたはずの風香。
――それが今、那波千鶴(出席番号21番)の迫力に、圧倒されていた。
悪戯をして怒られた時、千鶴を怖いと感じたことは何度かあったが。今の迫力は、その比ではない。
その視線に射竦められると、冷たい手で心臓を鷲掴みにされるような感触を覚える。
「……風香。私たちのことは、まあいいわ。
けれど貴女は、お姉ちゃんでしょう? 史伽のことはどうするの?
そうやって史伽にも銃を向けるつもり? それとも、血まみれの手で史伽を抱きしめるつもり?」
「ぼッ……ボクはッ……!」
「今すぐそれを捨てなさい、風香」
震える銃口を真っ直ぐ見据えて、千鶴は一歩ずつ、ゆっくり間合いを詰めていく。
千鶴の背後で、浅黒い肌の少女も唖然としているのが見える。
一歩ごとに、千鶴の迫力が増す。一歩ごとに、千鶴の身体が大きくなるような錯覚を覚える。
一歩ごとに、風香の心は大きく乱される。
「こんな小さなマナちゃんでさえ、みんなで帰る方法を考えているのよ?
誰かを蹴倒して生き残ろう、なんて考えちゃダメ。それじゃ、誰も幸せになれないわ」
「う、ううッ……!」
「どうしてもマナちゃんを撃つというのなら……まず、私を撃ちなさい。
撃てるものなら、撃ってみなさい」
「うううううッ……!」
さらに近づく千鶴。彼女を止められない風香とマナ。
風香は脂汗を流しながらパニックに陥る。
ちづ姉は正しい。ちづ姉が言ってるのは正論だ。ちづ姉が行こうとしているのはヒトの道だ。
でもあの先生たちも怖い。逆らったら殺される。魔法で殺される。真っ二つにされて殺される――
「う……うわあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁッ!」
そして風香は、とうとう壊れた。限界を超えたプレッシャーに板挟みにされて、ついに壊れた。
絶叫しながら、銃口を千鶴に向ける。
涙を流し大声を上げながら、銃を構え直して千鶴たちに向ける。
もうマトモな思考などない。今後のことなど考えてない。
ただ、今の状況から脱したい一心で。風香はろくに相手も見ずに、トリガーを引く――
「しまったッ……!」
マナは飛び出す。大地を蹴り一気に飛び出す。
しかし距離が遠い。風香の所まで届かない。風香を押さえ込むにはまるで足りない。
マナは咄嗟に、手の中に握っていた『ソレ』を、指で弾いて――
「しかし、間に合うかッ……!?」
「……え?」
千鶴は目を丸くする。
突然叫びだした風香。自分の方に向けられる銃口。
風香の指が引き金を引くのを、スローモーションのように見守る。
撃たれる危険を認識してなかったわけではない。むしろ撃たれる覚悟は十分にあった。
けれど、ここまで風香が追い詰められていたとは、千鶴も知らなくて。
泣き叫ぶ風香の姿に、彼女は思わず、ぽかんとしてしまった。
咄嗟には、何の反応もできなかった。
全ては一瞬。風香が叫びだしてから、一瞬の出来事。
開かれっぱなしの風香の口。絶叫を上げ続ける風香。
そして、その小さな指が引き金を引いて――
湖畔に、1発の銃声が鳴り響いた。
――銃声の残響が消え去れば、そこは元通りの静かな湖畔。
綺麗な林。鏡のような湖面。まるで高原のリゾートのような光景。
そんな中――3人いた当事者たちのうち、その場に立っていたのは、2人だけ。
「チヅルッ!」
「マナ、ちゃん……? 何が、どうなったの?」
背後から駆け寄ってきた少女に、千鶴はぼんやりした口調で問いかける。
見れば彼女の左肩のあたり、制服が少し裂けて素肌が露出し、僅かに血が滲んでいる。
風香が狙いも定めず放った弾丸が、千鶴の身体を掠めていたのだ。
けれど千鶴のダメージは、ほとんどない。彼女が受けた傷は、ただそれだけ。幸運だった。
だが、それよりも――
「風香ちゃんは……どこに行ったのかしら?」
千鶴は、つい先ほどまで風香が立っていた場所を見やる。
――制服が、麻帆良学園の制服だけが、そこに落ちていた。
その中身だけが掻き消えるように消滅して、持っていた銃や荷物は周囲に落ちて散らばって。
主を失った制服だけが、その場に山を成していた。
「……咄嗟のことだったから、手加減できなくてね。
一撃で決める自信もなかったし、いささか『撃ち過ぎた』かもしれない。だが……」
よく分からないことを言いながら、マナはその制服の山に近づく。
小さな手を伸ばし、モゾモゾ動く布の塊を、めくり上げる。
「……やはり、生きていたか。下手したら胎児にまで戻っているかと心配したんだが。
『この薬』で殺せるハズはないと思ったよ」
マナが覗き込んだ布の下。なにやら蠢く肌色の生き物。
大雑把に見ておよそ1歳、最大限に見積もっても2歳には達していない、裸の女の赤ん坊。
――それが鳴滝風香の、なれの果てだった。
あの一瞬――
マナは咄嗟に手にしていた青い『年齢詐称薬』を何粒も、風香の顔面目掛けて弾いたのだ。
暗器術『羅漢銭』、これは実は、いわゆる『指弾』のバリエーション。
その技術の本質は、「同じサイズ・同じ形状の弾を連続して弾く」というところにある。
重量や形が同じなら、撃ち方を揃えれば一緒のところに命中する。コントロールが容易になる。
コインを用いるのは、武器には見えぬ外見もさることながら、その形状が揃っているという点も大きい。
そしてサイズが揃っているという1点では、この『年齢詐称薬』も条件は同じ。
ただし、所詮はアメ玉。大した硬さも重量もないから、直撃させたところで大したダメージは望めない。
マナが狙ったのは、叫び続ける風香の、口の中だった。
口の中に放り込むように、青いアメ玉を乱射したのだ。
動く目標、小さな標的、扱い慣れないアメ玉という武器に、その多くは外れてしまったが……
見事に口に飛びこんだ2発のアメ玉が、風香の年齢を一気に押し下げた。
風香を一気に十数年分若返らせ、赤ん坊のレベルにまで変えてしまっていた。
……マナは落ちていた2挺の銃を拾い上げる。
こうして間近で見れば間違いない、龍宮真名の愛銃そのものだ。デザートイーグルを模したエアガンだ。
真名から没収した銃を、風香に支給したのだろう。
風香の射撃訓練によるものか、弾は少し減っている。予備の弾倉もないようだ。
マナは手早く撃鉄を引くと、銃口を赤ん坊に向け、無力化に成功した殺人鬼にトドメを刺すべく、
「……マナちゃん。それはダメよ」
撃とうとして……千鶴に止められた。
ようやく今の状況を把握した千鶴は、マナから守るように赤ん坊を抱き上げ、微笑んでみせる。
「この子には、罪はないわ。14歳の風香ちゃんは、色々間違えちゃったようだけど……
この子は、赤ちゃんの風香ちゃんは、これから人生をやり直すのだもの。……ね?」
豊かな胸の中、千鶴に微笑みかけられ、戸惑うような表情から満面の笑顔になる『赤ちゃんの風香ちゃん』。
マナは溜息1つついて、銃を下ろした。下ろすしかなかった。
こんな笑顔を見せられてしまったら、とてもじゃないが撃てるものではなかった。
【残り 27名】
25 《 かくれんぼ 》
「ほ……本当に、死んでる人いるんだ……!」
定期放送の衝撃的な内容に、村上夏美(出席番号28番)は震え上がる。
島の北東部に広がる、深い森の中。そのほぼ中央。
巨大な木のうろの中で、夏美は怯え続ける。
彼女はこのあたりに『転送』されてから、ほぼずっとこのうろに閉じこもっていた。
誰かに出会ってしまうのが怖かった。殺されたくなかった。
クラスの中には、あのまほら武道会で信じられない戦いをしていた超人たちもいる。
どんなに頑張ったって、勝てるはずがない。
「でも、この場所にじっとしていれば……! 最後まで、誰にも会わなければ……!」
夏美はうろから顔を出し、遠くに立つ1本の木を見る。
その木の幹に張られていたのは、1枚のお札。
この場所からはこの1本しか見えないが、夏美が隠れる巨木を囲むように、5枚の札が設置されている。
5枚の札でもって、巨木を中心とした結界が張られている。
夏美に支給されたマジックアイテム、『人払いの札』。
近づく者の感覚を狂わせ、無意識のうちに接近を拒んでしまう『人払いの結界』が作れるお札であった。
何となくではあるが、そっちの方に入ってはいけない、見てはいけない気分にさせてしまう。
実は、近衛木乃香(出席番号13番)が森の中を何周もしてしまったのもこの結界のせいだ。
同じような景色が続く森の中、自分が道を曲がったことに気付かなければ、無限ループに陥ることもある。
他にも何人もの生徒がすぐ近くを通っていたが、いずれも夏美の存在には気付いていない。
結界の存在にすら気付かずに、通り過ぎる。
と――
開始以来何度目かになる足音を聞きつけて、夏美は慌ててうろの中に首を引っ込める。
この『人払いの結界』、説明書によれば、相手の無意識に訴えかけるだけの効果しかない。
表層意識で夏美の姿を認識されてしまえば、途端に効力を失う。夏美を目指して、入り込まれてしまう。
こうして近づかれた時は、静かに隠れ、遠ざかるのを待つしかない。
じっとしていれば、夏美の存在にもお札の存在にも気付かれることなく、やり過ごせるはず――
――やり過ごせるはず、だったのだが。
「……出てくるネ、夏美サン。ちょっとした事情があって、『人払いの結界』は、私には効かないヨ。
あなたみたいに全く動かないヒトが、うっかり間違って『優勝』したりすると困ってしまうのよネ。
一旦、そこから出てきて欲しいネ。
今出てきたら、すぐに殺すのだけは勘弁してあげるヨ?」
はっきりと名指しで呼びかけられる。露骨に殺害を仄めかされる。
夏美はビクンと飛びあがる。
そんなハズはない。分かるハズがない。あの楓さえも気付かず通り過ぎた結界なのだ。
それにこの声は、既に日本に居ないハズの――
「……ふむ、出てこないカ。ま、正直、最初から期待してなかたけどネ。
仕方ない、あまり自然破壊はしたくなかたガ……」
気配が接近する。ちょっとした小部屋ほどの広さもある木のうろ、その入り口から知った顔が覗き込む。
やはり間違いない。
超鈴音(出席番号19番)。故郷に帰るため、麻帆良学園を急に辞めたはずの人間。
「外に出ていれば、逃げることもできたかもしれないのに……恨みっこなしヨ、夏美さんが悪いネ」
そして、少し離れた超は、拳を構えて――次の瞬間、凄まじい衝撃が、大木を揺らす。
強化服で増幅された超の拳のパワー。本物の達人の本物の突き。さらに加えられる強烈な電撃。
思わず身を縮めた夏美の頭上で、ミシミシと巨大な重量が軋む。
「え……!?」
超の拳は、石の柱さえも軽々と砕く。
ならば巨大なウロ、つまり腐食による空洞を内部に抱え、強度的に不安のある大木など、ひとたまりもない。
メキメキと大木は歪んでいく。夏美を守るはずの巨木が、倒れていく。崩れていく。
逃げ場も何もなく、夏美はそして、頭上から迫る巨大な質量に押しつぶされ――!
大地に木が倒れ込み、大きな物音を上げた時。
既に超は、その場を離れていた。夏美の最期を確認することなく、身を翻していた。
「……というわけで、夏美サンは処分したヨ。次は誰をやればいいネ?」
森から離れ、ちょっと中央に近い岩の上。超は耳につけたインカムで誰かと会話を交わしていた。
超の装備は、パッと見ただけでも実に充実している。
手にはあやかもしていた電磁ナックル。身体を包むのは『超包子』のロゴ入りの軍用強化服。
小脇にはアキラが持っていたステルスコートも抱えている。
その上、こうして外部と連絡の取れる通信機つきだ。尋常な優遇のされ方ではない。
他の参加者が装備や情報の不足で苦しんでいる中、彼女が欲しいものはほぼ全て揃っている状態。
けれども、これでいいのだ。
彼女は一般の参加者とは違う。この装備を駆使して真っ直ぐ『優勝』を目指すわけでもない。
むしろ、彼女が「優勝しないこと」、いや「できないこと」は、最初っから決まっているのだから――!
「フム……。それは別に『処分』しなくてもいいと思うネ。その程度はいいヨ。
何でもかんでも、爆発させたり私が刈り取たりしては、良い結果にはならないヨ」
何やら通信相手に文句をつけ、通信を切ってしまう彼女。
そして超は、コートをまとう。光学迷彩が起動する。
途端に消えうせ見えなくなる姿。彼女は透明人間状態のまま、その場を駆け出す。
「……しばらくは傍観者になるかナ。気になる対戦カードも、いくつかあるようだしネ……!」
【出席番号28番 村上夏美 倒れた大木の下敷きになり 死亡】
【残り 26名】
26 《 刻印 (1) 》
「は、ハルナ……!」
「泣くなッ! こっちだっていつ殺されるか分かったもんじゃねぇんだぞッ!」
島の南西、遺跡群の建物の1つの中で。
最初の定期放送を聞きながら、宮崎のどか(出席番号27番)は涙を溜める。
その様子を横目で見ながら、長谷川千雨(出席番号25番)の指は激しくキーボードを叩き続けて。
苛立ちも露わに、吐き捨てる。
これだけの犠牲者が出ているのは、千雨としても計算外だった。もう少し余裕があると思っていた。
一刻も早く、現状を打破せねばならない。
茶々丸が壊れ聡美が死んだ今、3−Aの中でハッキング系のスキルを持つのは千雨1人。
普段は他人のために働くなど真っ平御免な彼女だったが、しかし今はやるしかない。
千雨自身のためにも、やるしかない。
『だが……大丈夫なのか!? 本当にこれでいいのか!?』
声に出せないまま、千雨の焦りは募る。
茶々丸の残骸を介して専用回線に繋ぎ、一般回線に入ってまずは千雨の寮の自室にアクセス。
眠っていた自前のシステムを全て叩き起こし、クラック用のプログラムを起動する。
生前の茶々丸をして「独創的」と言わしめた千雨の技術。それを最大限に駆使する。
『見てろよお前、魔法使いの『電子精霊』とやらに、本当に私が敵わないのかどうかをッ!』
あの時はネットを舞台にした世論・情報操作という、ハッカーとしては微妙に専門外の勝負であった。
けれど今回は。今回のように、外から攻撃し侵入を試みる立場なら。
あの時「あなたに出切ることはありません」と言い切った茶々丸を介して、というのが皮肉ではあったが――
管理側の「居場所」は、すぐに見つかった。
それなりに偽装と隠蔽工作がされてはいたが、それでも繋がっていれば見つけ出し入り込む隙はある。
やはり麻帆良学園のローカルネットワークに繋がっていた、魔法使いたちのコンピューター。
どうやらそこに今回の『ゲーム』の電子的な部分を担うシステムが組まれているようだった。
ここまではかなり順調。想定の範囲内の厳しい抵抗と、予想通りの薄氷の勝利。だが……
『首輪に関するシステムは……電子ロック、だけ!?』
ここまで来て、千雨にも計算外の事態。声に出せぬ呟きが、『いどのえにっき』の上を踊る。
内部に侵入して見れば、そこにあったのは35人分の電子錠を管理するシステム、のみ。
千雨が想像していた首輪爆破や位置確認、盗聴や生命反応確認などのシステムは全く見当たらない。
『これは……どういうことだ!?
この場所はフェイク? それとも各要素ごとに独立管理? だとしたら他のシステムはどこに!?
……ええいッ、時間がないッ! 立ち止まってられねぇッ!』
千雨は焦る。
例えばこれが、生徒の位置管理システムにも侵入できれば、他の生徒の動向も掴むことができる。
生命反応で生存を確認したり、なんとなれば、襲ってきた敵を爆破して倒す最終手段さえも考えていた。
しかし――そういうシステムが、全く、ない。
極めてシンプルに、電子錠のシステムが存在するだけ。
――迷っている時間は、あまりない。
時間が経てば経つほど、侵入がバレやすくなる。反撃も喰らいやすくなる。
千雨は全ての疑問を棚上げし、覚悟を決める。
「……いくぞ、宮崎。せいぜい、祈っててくれ」
「う……うんッ!」
千雨の指が、キーボードの上を踊る。まずは自分たち自身の解放を。
偽りの管理者から出される、首輪の解除命令。対象、25番及び27番。解除実行。
そして――
――ピピッ。カラン。カラン。
「やったッ!」
「これで……自由、なんですか?!」
軽い電子音を立て、千雨とのどかの首から首輪が外れる。解放される首元。床に転がる金属の輪。
思ったよりもあっさりと、いや千雨としては結構大変だったのだが、ともかく取り去ることのできた首輪。
2人は、互いの顔を見合わせる。この調子で、他のみんなの首輪も取ることができれば――!
――だが。
満面の笑顔を浮かべ、思わず抱き付きかけた2人は、気付いてしまう。
笑顔が、途中で強張る。途中で引き攣る。お互い相手を抱こうとしかけたマヌケな格好で、凍りつく。
「――なあ、宮崎。その首にあるのは何だ? 黒い、痣?!」
「え――!? その、千雨さんの首にも、なんか黒いのが巻きついて――」
それぞれの首を、グルリと一周する黒い印。肌の上に直接刻まれたような、禍々しい痣。
首に密着する首輪の下に隠されていた、『もう1つの首輪』。黒い『刻印』。
顔を近づけてよくよく見てみれば、それは決して1本の線ではない。
何やら禍々しい文字がびっしりと連なり、指1本分ほどの太さの帯となって輪をなしている。
「これって――まさか『魔法』なのかッ!? こっちの方が、『本命』ッ!?」
相坂さよ(出席番号01番)の首にもあった、黒い痣。
龍宮真名(出席番号18番)が身を縮め首輪との間に隙間を作って確認した、黒い痣。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出席番号26番)が首元に感じた、嫌な魔力の存在。
そして、最初の教室で行われた、どこか少し不自然な感もあった首輪の解説。
千雨は、理解する。絶望と共に、理解してしまう。
侵入先に爆破や位置確認などのシステムが無かったのも当然だ。守りが甘いのも当然だ。
この金属製の首輪は、『フェイク』でしかない。『真の首輪』を隠すための、カバーでしかない。
本当の首輪の機能は、全て『魔法』の力を用い、この『刻印』が担っていたのだ――
――なにしろこの『ゲーム』を仕切っているのは、『魔法使い』の集団・魔法先生なのだから。
「……済まねぇ、宮崎。小説の設定鵜呑みにした私がバカだった。
私らの、負けだ。完敗だ。最初っから、戦う方法を間違えてたんだ」
「う、ううん、千雨さんは、すごく頑張ったと思う。謝ったりしないで、いいよ……」
激しい敗北感。戦う前に既に負けていたという事実。一気に落ち込む千雨を、のどかは優しく慰める。
……2人は既に、覚悟していた。
自分たちの首が、弾けて飛ぶことを。この『真の首輪』が起動して、爆死することを。
これだけのことをしたのだ。露骨で言い訳のできない反逆行為をしたのだ。
先生サイドにはすぐにバレるだろう。そしてすぐに裁きが下るだろう。
2人は並んでソファに腰掛け、最期の時を待つ。
部屋の中、いつ終りが来るとも知れぬ、静かな時間が流れる。
のどかは千雨の肩に頭を預け、小さく呟く。
「――死ぬ前に、せんせーに会いたかったな……」
「――ああ、そうだな。せめてアイツの顔くらいは、見たかった……」
「千雨さんも、ネギ先生のこと、好きなの……?」
「そう――なのかもな。今まで誤魔化してきたけど、きっとそういうことなんだろうな。
あ、宮崎には……のどかには、悪いとは思うけどよ」
「ううん、いいよ。千雨さんなら、ちさめなら、許せる気がする。許さなきゃ、いけない気がする……」
しばしの沈黙。
死の覚悟が、2人を素直にしていた。運命を共にしたことが、2人の距離を急速に縮めていた。
目の前には、既に爆破処分を喰らった茶々丸の残骸。
間もなく自分たちもこのように首が飛ぶのだろう。爆発の魔法か何かが起動し、殺されてしまうのだろう。
不思議と、恐怖はなかった。ただ諦めと、少しの心残りだけがあった。
やがて――柔かな沈黙に包まれた遺跡の一室で。
ボンボンッ、と、軽い爆発音が連続して響く。
何の前触れもなく、唐突に、しかしそれを待っていた2人の で、響き渡って――
【残り 名】
朝はここまで。4話一挙投下は多すぎでしょうか。
では。
待てええぃぃっ!!
>>453のボカし方はかなりずるいぞコンチクショウ!
GJ
GJ!
残り人数伏せてる時はだいたい生き残ってたりするので期待しとく
>453
伏せている部分が気になる。
超は相変わらず黒いんだな・・・
年齢詐称薬、こう使うかー
27 《 刻印 (2) 》
「――――え?!」
そして2人は、長谷川千雨(出席番号25番)と宮崎のどか(出席番号27番)は、我が目を疑う。
目の前の光景に、穏やかな気持ちも何もかも一気に吹き飛んで、ばッと立ち上がる。
爆音が響いたのは、自分たちの首元ではなく、自分たちの目の前。茶々丸の残骸から。
『アンテナ』である両耳?のパーツが急に弾け飛び、煙を上げている。
続いて、首と胴体を繋いだ急造のコード。胴体とノートPCを繋ぐコード。
少しの間を置き、次々に小さな爆発が連鎖して起こる。順番に煙を上げる。
「な――なんだ!? 何なんだよこれはッ!? 何が起こってやがるッ!?」
てっきり自分たちが即座に爆死するのだ、と思っていた千雨は、大声を上げる。
何をされている? 逆ハッキング? でもそれで、こんな風にハードが物理ダメージを受けるだろうか!?
混乱する千雨の目の前で、開かれっぱなしのノートPC、その画面がいきなり乱れる。
PCのスピーカーから嘲るような笑い声が響き、同時に文字が浮かび上がる――
『 こーゆー悪いことする子には、オシオキだぞ♪ パソコン破壊☆ by 弐集院 』
画面にデフォルメの効いた悪魔風のキャラクターが出現し、小さく指を振る。人をバカにしたような表情。
直後、ノートPCそのものも ポンッ! と小さな爆音を上げて――
――煙を上げながら、永遠に沈黙した。
ノートPCが完全に壊れてしまっているのは、確認するまでもなく、明らかだった。
それっきり、部屋の中には再び沈黙が戻る。
いつまで待っても、千雨とのどかの首元が爆破されることは、ないようだった。
魔法先生たちが詰める、『バトルロワイヤル』運営本部――
魔法先生の1人、弐集院はその太めの身体を揺すりながら、額の汗をぬぐう。
ルールだけでなく、こういう電子的なシステムもまた急造品。それゆえ、一度は侵入を許してしまったが。
「……ふぅ。いやはや、一時はどうなることかと思ったよ」
「油断ですね、弐集院先生。彼女たちを甘く見てはダメですよ」
「いやしかし、そもそも向こうには回線も何も無いと思ってたからねー。
それに私だけを責めるのは酷いよ。これは水晶球監視班が報告しておかなきゃならない仕事だよ。
……とりあえず攻撃型電子精霊を1体、向こうに送っておいた。もう2度とこんなことはできないさ」
電子機器を狂わせるという飛行機乗りたちの伝説・グレムリン。その系列に連なる攻撃型の電子精霊。
遅まきながら侵入に気付いたコンピュータ担当の弐集院は、千雨たちへの反撃としてそれを放っていた。
逆ハックに成功した電子精霊は、茶々丸のアンテナを破壊し、回線を破壊し、ノートPCを破壊し。
千雨は知らないが、千雨の寮の自室にある機材も、今頃同じように煙を上げて壊れているはず。
少なくともこの『ゲーム』の間、「ハッカーとしての」千雨は、もう一切身動きできまい。
「……で、彼女たちの処分はどうするのかな? やっぱり爆破?」
「さっき、超君と無線で相談したんですけどね。この程度なら許してあげた方がいいんじゃないか、って。
超君自身も現場には向かわないとか。水晶球の監視を強化するだけに留め、しばらく様子見です」
「それで本当にいいのかなぁ……」
瀬流彦の言葉に、弐集院は細い目をさらに細める。
これはカンでしかないが、この2人を放っておくのは、危険な気がする。
ハッキングの腕前だけではない。実際に仕事をしていたのは、片方でしかない。
それよりも脅威なのは、僅かな可能性に自分たちの命を賭けられる、彼女たちの勇気。
特に、仲間の能力を全面的に信頼し、全てを委ねることができた「何もしなかった方」の覚悟。
こんな連中が反抗の意思を抱いたまま『ゲーム』に残るのは、極めて危険なのではないか……?
何か、大きな災いに繋がる綻びとなりはしないだろうか……?
「……ま、いいけどね。だとしても、私にできることなんて、もうないわけだし」
「…………」
「…………」
遺跡群の中の一室。
ネギへの想いを語り合った先ほどとは異なり、気まずい沈黙が部屋を覆う。
最初に口を開いたのは、やはり千雨の方だった。
うっすらと煙を上げ続けるノートPCを見つめて、ぼそりと呟く。
「……のどか」
「はい」
「奴らに、思い知らせてやるぞ。
私らをここで殺さなかったことを、アイツらに絶対に後悔させてやる」
「……はい」
はらわたが煮えくり返るような思いだった。
「処分なし」という「処分」。それはつまり、「お前たちなど脅威ではない」という先生サイドからの意思表示。
千雨の自尊心が、大いに刺激される。怒りが、ふつふつと湧き上がる。
見た目こそ大人しいが性根は強いのどかの方も、想いは一緒。
絶対に生き残って、そして目にもの見せてやる。
「なあお前、この首のコレ、どうにかできる奴に心当たりはないか?
『魔法』についちゃ、私よりは詳しいだろ? 『こっちの世界』に首突っ込んだの早いんだからさ」
「えーっと、ゆえのアーティファクトなら、かなり詳しいことが調べられると思う……。
あとはやっぱり、ネギ先生と、ネギ先生の師匠の、エヴァンジェリンさんかな?」
「さらに加えるなら、クラス外の参加者の、佐倉愛衣あたりか。高音ってのはやられちまったしな。
コタローは……どうかな、あのガキはケンカ馬鹿だから、こういうのは苦手と見た方が無難か」
「え、愛衣さんとかコタローさんとかも居るんですか?」
「さっき首輪のリストの中に名前を見つけた。ネギ先生も32番の番号つけて参加してるぜ。
19番には、超の名前もあった……奴も参加者らしい。どこまで本気なのかは分からねぇが。
ともかく、これで、放送で言ってた残り人数の辻褄が合う」
千雨の頭の切り替えは早かった。
さっきのハッキングで得た情報を、早速考えの中に組み込んでいく。
どうにかして、今上げた「魔法に詳しい人々」と接触せねばならない。
どうにかして、首輪がフェイクに過ぎず、本命はこの『刻印』であることを伝えねばならない。
彼らの手に負える代物かどうかは分からぬが、しかし彼らなら次の手くらい思いつくはずだ。
この『真の首輪』、魔法の『刻印』さえ解除できれば、今度こそみんなが自由になれる。解放される。
「仕切りなおしだ。最初っから考え直しだ。もう一度、私らにできることを整理しよう。
さっきネットに繋がった時、ついでにある奴に連絡取ったんだが……」
「ええッ!? い、いつの間にッ!?」
「……まあ、期待はすんな。『アイツ』が今、連絡を受け取れる状況にあるかどうかも分からねぇ。
もし上手く届いても、何か動きがあるまでは相当時間かかるハズだ。
あんま期待せず、コッチはコッチでやれることやっとこう。
――そっちの支給された品物って、そういえば何だったんだ?」
「えーっと、私自身は、使うことできないんですけどー、私たちにとっては大事なもので……」
部屋の中に、2人の荷物が広げられる。
今までロクに確認すらしなかった支給品。のどか・千雨のものに加え、身体ごと拾った茶々丸の荷物も。
3人分の支給品を並べ、私物を並べ、彼女たちに今できることを検討する中で……
「……バカかてめぇッ! 何でそれを最初っから言わねぇんだッ!」
「あ、あうッ! で、でも、せんせーの側からは……」
「できなくていいんだよ! 向こうが動いてくれるかもしれないだろッ!」
千雨はいきなり怒り出す。のどかの控えめな性格が、完全に裏目に出た格好。
勝手に「これはやっても無駄」と思い込んでしまっていたのだ。
前髪の奥でプルプルと泣き出すのどかを見て、千雨はようやく怒りを引っ込めて。
「……泣くんじゃねぇよ、オイ。まあ良かったじゃねぇか、とりあえずできることが見つかって」
「で、でも……!」
「今からでも遅くない。やってくれ。そして――反撃、開始だ」
まだ、千雨は諦めていない。のどかも諦めていない。そして今度は、のどかが動かねばならぬ番だった。
【残り 26名】
28 《 ライフ&デス (1) 》
――佐倉愛衣(出席番号34番)は、その放送を聞いて涙した。
激しい絶望と眩暈に、崩れるように森の中で膝をつく。
「そんな……お姉さまが……!」
高音・D・グッドマン(出席番号33番)。
愛衣と常に行動を共にしていた、魔法生徒としてのパートナー。
真面目だが気が弱く引っ込み思案の愛衣に対し、グイグイ引っ張るリーダー気質の高音。
多数の使い魔を同時に行使できる高い魔力と技術もあり、愛衣は本気で尊敬していたのだ。
彼女を尊敬し、その正義感の強さに憧れていたからこそ、愛衣は「あの時」も一緒に行動したのだ。
魔法先生たちがやろうとした、この暴挙とも言える邪悪な魔法儀式に、一緒になって反対したのだ。
結果として「参加者」として放り込まれてしまったわけだが、あの時の自分たちの判断に、後悔はない。
けれど――その高音が、死んだ。
誰かに、殺された。3−Aの生徒に、殺された。
……誰に? どうやって?
いくら考えても、愛衣には思いつかない。
学園祭からこっち、相性の悪い敵とばかり当たってしまい、不覚を取り続けてきた高音だったが。
本来は、とてつもなく強いのだ。
前衛要らずの操影術。単体では弱いが連携の取れた影法師の群れ。攻防一体の『黒衣の夜想曲』。
あるいは高音1人では攻撃力が不足気味だから、敵を仕留め損ねることはあるかもしれないが……
それでも、高音の方が倒されることは、ないはずなのだ。
相手に『魔法使いの天敵』神楽坂明日菜(出席番号08番)でもいない限り、負ける要素が思いつかない。
そしてその明日菜は、間違っても高音を殺したりするような人物とは思えない。
地下道では共闘したこともある相手だ、短い付き合いながら、そのくらいのことは断言できる。
つまりは――あり得ないことが、起きたということ。
想像もつかないような事態に、遭遇したということ。想像もつかないような相手に、遭遇したということ。
愛衣は、その場に座り込む。
「お姉さま……私、これからどうすれば……!」
愛衣は虚空を見上げて、涙した。
高音亡き今、自分はどう行動すればいいのか。愛衣には、全く分からなくなっていた。
――最初の定期放送が流れて、1時間ほどした頃。
シスター姿をした少女・春日美空(出席番号09番)は、森の中に降りてきていた。
「いやー、しっかし広い島だね、こりゃ。
いや広いっつーより、入り組んでるのかな?」
美空はぼやく。
山の中に『転送』され、ひとまず下の方へと降りてきた彼女。
彼女の持ち味はその「逃げ足」。でこぼこした山の中では、いざという時ちょっと困る。
そう思って降りてきたはずなのだが――しかし出てしまったのは森の中。
これもまた、駆け回るには向かない地形ではある。
「あーもー、しくじったなぁ。ちゃんと地図見ていりゃ良かった。
……あ、いや、今からでも草原とかの方に行けばいいのか」
彼女はボリボリと頭を掻く。
なんとなく真面目に考えるのが面倒くさくて、適当に歩いてきてしまった彼女。
自業自得なわけだが、あまり反省の色もない。
「でもそっち行ったら誰かと会っちゃったりするんだろうなぁ。
どーすっかねぇ。殺し合いするかねぇ、先生殴りに行くかねぇ、それとも逃げだすかねぇ。
あー、こういう時、ココネの奴がいると楽なんだけどなー。代わりに考えて決めてくれっから」
春日美空は、良くも悪くも「いい加減」である。
高音や愛衣のような生真面目さは、カケラほども持ち合わせていない。
理想や理念に殉じるつもりなんて全くない。熱血な正義のヒーローなんてのは、彼女から最も遠いものだ。
かといって、完全に利己主義に走るほどには、乾ききっていない。
それなりに、正義感はある。それなりに、仲間想いでもある。
良く言えば拘りがなく、自由で、柔軟で。何物も彼女の心を繋ぐことなどできはしない。
悪く言えば享楽的で、場当たり的で、刹那的で。彼女が何かを成し遂げることもまた、ありえない。
風のように自由。そして空気のように捉えどころがない。
その良い面が発揮され、彼女はこの状況下でも自我を失うことなく、呑気なままで居られたが。
その悪い面もあって、今後の行動方針も立たず、ブラブラと、判断を保留してしまっていた。
まだ、何も決めていない美空。『ゲーム』に対する態度を固めていない彼女。
彼女が最初に出会う相手こそが、美空の今後を決すると言っていい。
最初に出会った相手の反応こそが、全てを決めることになる。
……それが美空自身も分かっているから、誰かと会いたい気持ち半分、会いたくない気持ち半分。
「……ん? あれは……」
緊張感のないまま歩いていた美空は、ふと森の中に人影を見つける。
箒を抱え、地面にうずくまり、顔を覆って震えている人物。見覚えのある髪型。
美空はすぐに理解する。顔こそ見えないが、同じ魔法生徒仲間の愛衣に間違いあるまい。
「あー、なるほど。愛しの『お姉さま』死んじゃったもんなー。そりゃショックだよなー。
ってか、アイツらもこの『ゲーム』に放り込まれてんのかー。
可哀想に、センセーにケンカでも売ったかね? ……でもま、奴なら安心か」
学園祭で一緒に仕事するまで、ロクに話したこともなかった彼女たちではあったが。
真面目で、おっちょこちょいで、でも愛すべき少女である。殺し合いには最も程遠い性格である。
美空は姿を隠したりせず、大声を上げて愛衣に近づく。
「おーい、あんた佐倉っしょ? そんなとこで何してんのさ?」
相手の警戒を解くべく、あえて堂々と出て行くことを選んだ美空。
ただちゃっかりアーティファクトのスニーカーを装備しているあたり、万が一の時には逃げ出す気満々。
警戒しつつも無防備な姿で、ゆっくり愛衣との距離を詰めていく。
「やー、残念だったね、高音さんやられちゃって。
あの人『いい人』だけど、どっか抜けてっからなー。誰かにハメられたのかもなー。
んー、でも誰だろ、そんなことする奴って。ウチのクラスには居ないとは思うんだけど……」
「…………」
「でさ、良かったら佐倉、私と組まない? 同じ魔法生徒仲間なんだしさー。
正直、私も相棒いなくて不安なんだ。もし戦うことになっても、後衛が居てくれれば安心だしさ」
「…………」
「私の支給品、何だか分かる? リボンだよリボン! 新体操のリボン!
まき絵じゃあるまいし、これで何しろって言うんだか。正直1人じゃ、戦えないッスよ」
「…………」
「………………ねえ、いい加減何か言ってよ、佐倉ってばさぁ。聞こえてるんでしょ?」
一方的にまくし立てながら、近づいていく美空。
至近距離にまで近づいて、しかし流石に美空も不審を抱く。
地べたに座り込んで顔を覆い、何やらブツブツと呟いている愛衣。明らかに、マトモではない。
こりゃ、「お姉さま」死亡のニュースで壊れちまったかな、と美空が呆れかけた、その時――
急に、愛衣は顔を上げた。
何の感情もない、空っぽの顔。殺気も何もないままに突き出された、右の掌。
口の中で呟いていたのは呪文の詠唱。そしてそれは既に完成していて。
「!! しまっ……」
「……『紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)』」
『力ある言葉』と共に、愛衣の手から灼熱の炎が放たれて。
自慢の俊足で逃げる間もなく、真正面から美空を飲み込んだ。
【残り 名】
29 《 ライフ&デス (2) 》
森の中に、爆音が響く。
駆け抜けた炎が木々の葉を焼き枝を焼き、一瞬で炭化させてしまう。
佐倉愛衣(出席番号34番)に声をかけた、春日美空(出席番号09番)。
愛衣は不意打ちのように『紅き焔』を撃ち放ち……美空は、まともに喰らってしまっていた。
美空の身体が、ドサリと倒れる。超高温の炎の直撃により、黒焦げになった上半身。
顔色さえ分からぬ、文字通りの黒焦げだ。シスターの装束も燃えてしまっている。
まだかろうじてヒューヒューと息をしているが、これではもう助かるまい。
火傷は体表のみならず、喉の奥から気管支にまで及んでしまっていて。
じきに火傷した気道が腫れあがり、呼吸することすらままならなくなることだろう。
行動方針を決める、どころの話ではない。春日美空の冒険は、ここでおしまいだった。
そんな彼女を横目に、愛衣はフラリと立ち上がる。
その顔には、何の表情もない。
何もない、空っぽの顔。喜怒哀楽の全てが感じられない。知性の色も感じられない。
心を完全に無くした、魂の抜け殻。
愛衣は『魔法使い』としては、実は努力と才能が噛み合った掛け値なしの秀才である。
アメリカの魔法学校に留学した経験もある。魔力も技術もある。
ただし戦闘においては、性格面に問題があった。メンタル面の欠点が、彼女の能力を邪魔していた。
戦うには優しすぎる彼女の性根。誰かに依存せずには居られない弱々しい性格。
そして、戦いの駆け引きには全く向かない、素直過ぎる思考。
これらが彼女の経験不足と重なって、学園祭からずっと、不覚を取りっぱなしではあったのだが……
けれど、それらの縛りから解放されれば。良くも悪くも、吹っ切れてさえしまえば。
愛衣の呪文には、一発で人間を黒焦げにするだけの威力がある。障壁越しにもそれだけの威力がある。
皮肉にも敬愛する「お姉さま」の死が愛衣をキレさせ、その真の才能を開花させていたのだった。
「……うふふ」
全くの無表情のまま、愛衣は笑う。声だけで笑う。
彼女はフラリと立ち上がると、夢遊病者のような足取りで、どこかへと歩き出す。
おそらく目標などないのだろう。どこに向かうか本人も考えてないのだろう。
ただ、フラフラと歩き出す。
ふわふわと、地に足のついてないような足取りで、次なる犠牲者を求めて彷徨い始める。
仮面のように無表情なまま。ただ口だけで、声だけで笑いながら――
「うふふ。おねえさまのかたき。みんな、もやしちゃえ。うふふ。うふふ。うふふ……」
「――何や知らんけど、さっき大きな音したんは、こっち……?
うわっ!? 木が燃えとる!? それに――く、黒焼き?! 人間の黒焼きやん、これ!」
愛衣が立ち去って、1分ほどして。
森の中を抜けてきた近衛木乃香(出席番号13番)は、驚きの声を上げる。
彼女が聞きつけた、大きな爆発音。遠くからも見えた、一瞬だけ吹き上がる炎。愛衣が放った火炎魔法。
何事かと急いで来た彼女が見つけたのが、黒焦げで横たわる美空の姿だった。
「ま、待っててぇな。今、治してあげるから……『来たれ(アデアット)』!」
木乃香は慌ててアーティファクトを召喚する。
その身を包む白い狩衣。両手に出現する2種類の扇。
彼女は、扇を広げて魔力を解放する。
心地よい風が吹き抜け、重度の火傷に犯された美空の身体を優しく撫でていく……。
「……いやー、助かったわ。マジ死ぬかと思ったよ。いや実際死んだようなモンかな」
「間に合うて良かったわ〜。それにしても、美空ちゃんも災難やったなぁ」
すっかり元の姿に戻り、笑いながら頭を掻く美空。扇を畳んで微笑む木乃香。
シスターの装束は焼け焦げて、あられもなく派手な下着を晒していたが、その肌は綺麗なもの。
3分以内であれば全ての傷や怪我を完全に治す、木乃香のアーティファクトの力によるものだった。
実のところ、非常に際どいところではあった。
もう少し早ければ、木乃香もまた壊れた愛衣と出くわし、一緒に焼き殺されていただろう。
もう少し遅ければ、アーティファクトの時間制限に引っ掛かり、手遅れになっていただろう。
いくつもの幸運が重なったお陰で、美空は一命を取り留めることができたのだ。
「ウチもなー、1人きりで寂しかったんよ。だから美空ちゃんに会えて良かったわぁ」
「あー、美空じゃなくて『謎のシスター』だから……って、こんな格好じゃもう意味ないか。
貰ったリボンも何もかも燃えちゃったよ、まあこのスニーカー残ってりゃそれでいいけどさ〜」
嬉しそうに美空に話しかける木乃香。美空は適当にあしらいつつ、自分の持ち物を確認する。
使いようのない支給品・新体操のリボンは、服と一緒に燃えてしまったらしい。
まあ、膝から下は炎に飲まれなかったお陰で、肝心のアーティファクトは無事。これだけでも十分な幸運だ。
「……ねえ、この刀って、ひょっとして桜咲の?」
「あ、そうそう、そうなんよ。だからコレ、せっちゃんに届けたいんやけど……」
「ちょっと借りていい? マジに日本刀なの? 竹光とかじゃなくて?
……うっは、重てぇ! ってか腰に下げてたら鞘から抜けないじゃん! うっわ綺麗な刀身だなー!」
美空は『夕凪』を引ったくるようにして受け取る。下着姿のまま、手に取ってみる。
『夕凪』を腰に下げてみたり抜いてみたり、子供のようにはしゃぐ美空。
そんな彼女に、木乃香は嬉しそうに微笑む。自分のことのように刹那を自慢する。
「せっちゃんは凄いやろ? ふつーの人には長すぎて使えないんやて、その刀」
「確かにこりゃ、難しそうだねー」
頷きながら素振りの真似事をしてみるものの、刀の重さによろけてしまう。
近くの木に斬り付けてみるが、今度は深く刺さり過ぎて、抜くのに一苦労。
「なるほど〜、小手先の技で防御を掻い潜るんじゃなくて、切れ味と重さで強引にぶった斬るモンなのか。
『カタナ』と思わず、『西洋剣(ソード)』と思った方がいいかもな、こりゃ」
美空は理解する。
超人たちの流派・神鳴流では、この野太刀を普通の刀のように使って数々の技を繰り出すが。
本来野太刀は、その長さと重量を頼りに敵を斬る大型武器。西洋の剣にも近い思想の凶器なのだ。
そうして納得している美空とは対照的に、木乃香の方は気が気でない様子。
振り回したり木に斬り付けたり、このままでは刹那に渡すより先に折れてしまうかもしれない。
トテトテと美空に歩み寄って、両手を伸ばす。
「なあ、もおええ〜? せっちゃんの刀、返してぇな」
「ああ、ゴメンゴメン。でも悪いけど最後に、『試し切り』もさせて?」
「……へ?」
ひゅんッ。
いつも通りの表情のまま、意味不明な言葉を吐く美空。
理解できない木乃香は、そして宙を切る風の音を聞く。
「……あ??」
「いやー、1度『死んで』目ェ覚めたわ。
ダメだよ木乃香〜、私みたいにいい加減な奴に、大事なカタナ渡したりしたら」
飄々とうそぶく美空の前で、木乃香がゴフッと血を吐く。状況を理解できないまま、大きく目を見開く。
『夕凪』が、深々と木乃香の身体に食い込んでいた。
魔力で強化された『魔法使い』美空の腕力で振り下ろされた、長大な野太刀。
その重さもあって、木乃香の肩から臍のあたりまで、袈裟懸けに刃が食い込んでいた。
白い浄衣ごと、すっぱりと斬っていた。
「悪いけど私、この『ゲーム』に乗ることに決めたんだ。不意打ち騙し打ち上等の、この『ゲーム』に。
……ん〜、真っ二つに斬れると思ったんだけどなぁ。使い方、もうちょっと研究が必要かな?」
どさッ。
返す言葉もなく、恩を仇で返された格好の木乃香は、倒れ込む。何をどう見ても、即死である。
半裸の身体にたっぷりと返り血を浴びた壮絶な姿になりながら、美空はいつも通りの笑顔で笑う。
いつも通りの、少しだけ不敵な色の混じった、悪戯っぽい笑み。微かに焦点の合わぬ瞳。
「さーって、ぶっ殺すかー。殺して殺して、優勝しちまうかね〜♪」
【出席番号13番 近衛木乃香 袈裟懸けに斬られ 死亡】
【残り 25名】
30 《 禁じられた果実 》
――小さい影が、島の中を駆ける。
木々の陰からこっそり窺う小さな目。愛衣と美空、美空と木乃香の戦いを、陰から見守る。
小さな影は、驚かない。
こいつらは違う。探さねばならない対象とは違う。必要ない。
小さな影は、そしてその場を走り去る。
――小さい影が、島の中を駆ける。
白い砂浜。見通しの良い景色。砂浜に、舐められたように綺麗な白骨死体が転がっている。
小さな影は、驚かない。
こいつは違う。探さねばならない対象とは違う。必要ない。
小さな影は、そしてその場を走り去る。
……そう遠くない位置に、光学迷彩によって透明になった人物が居たことに、気付きもせずに。
見えなければ、「探さねばならない対象」を見つけることはできない。
入れ違ってしまったことは、果たして良かったのか悪かったのか。
――小さい影が、島の中を駆ける。
静かな林。穏やかな湖畔。奇妙な親子連れのような、3人組がそこに居た。
浅黒い肌の幼い少女。落ち着いた雰囲気の女性。その胸に抱かれた赤ん坊。
何やら赤ん坊に与える食べ物のことで、少女と女性の間で揉めている様子。
小さな影は、驚かない。
こいつらは違う。探さねばならない対象とは違う。必要ない。
小さな影は、そしてその場を走り去る。
……分かるわけがない。『彼ら』に、判断がつくわけがない。
外見が大きく変わったターゲットが、実は3人の中に居たことなど。
――小さい影が、草原を駆けて激闘を目撃する。
――小さい影が、遺跡群にて大混乱の様子を目撃する。
――小さい影が、山の中で墓を掘る少女を目撃する。
何体もの小さい影が、島の中を走り回る。
ほとんどの者は、気付かない。気付いたとしても、注目しない。
殺気もなく敵意もない、この無害な存在に、達人たちも意識を向けない――
――小さい影の1つが、木々生い茂る湿地帯を駆ける。
誰かが歩いているのに気付き、木の陰から、覗き込もうとしたその時、
トスッ。
小さな小猿の胸に、投擲された匕首が突き刺さった。
そのまま背後の木まで吹き飛ばされ、磔のように縫いつけられる。
「……『式神』か」
桜咲刹那(出席番号15番)は匕首を投げた姿勢のまま、その正体を確認する。
同時にポンッ! と煙を上げ、小猿は紙切れに戻ってしまう。刹那は歩み寄って、匕首ごとそれを引き抜く。
「……誰の手によるものかな。札自体は支給されたのだろうが、素人にしては操り方が上手い。
しかしこの『式神』、誰かを探しているような動きだったが……?」
背中の大きく開いた独特の袴姿で、刹那は呟く。
愛衣の荷物と一緒にあった、大量の服。支給品・各種衣装セット。
メイド服にバニースーツ、巫女装束にレオタード、スクール水着にチャイナドレス。果ては着ぐるみまで。
戦いには役に立たないフェティッシュな衣装の数々に混じっていたのが、この烏族の民族的装束だった。
他にも楓の忍び装束や古菲の拳法服もあり、どうやら没収された武器類と同じような位置付けらしい。
何故そこに刹那の正体に関わる服が混じっていたのか、気にはなったが……とりあえずは、あり難い。
余分な荷物を増やしたくない刹那は、この服だけを取って、後はその場に置いてきていた。
「戦闘ではなく、探索のために『式神』を使うか。誰かは分からないが、好感が持てるな。
さっきの魔法生徒と違って、話も通じそうだ。頼めばお嬢様も探してくれるかもしれない。
これの『気』の跡を辿ってみる価値は、ありそうだな――」
刹那は紙に戻った式神を握り締め、小さく頷く。静かに、山の方を見上げる――
――山の中。
鳴滝史伽(出席番号23番)は、洞窟の奥で少々ヒマを持て余していた。
支給されたのは、小猿の『式神』を作れる札が数十枚。そして彼らに命じた人探し。
一度作戦を決めた以上、彼女が動き回るわけには行かない。彼らが帰ってくるまで待つしかない。
しかし、もうかれこれ数時間。私物の鞄に入っていたポテトチップスをポリポリ食べながら、彼女は嘆く。
「なんでこんなに時間かかるんですか、お猿さーん。
人海戦術取ってるんですからー、すぐに見つかるはずですよー」
さっきの放送を聞く限りでは、史伽が会いたいと願う3人は、いずれもまだ生き残っているはず。
己の半身・誰よりも信頼できる姉の鳴滝風香〔出席番号22番)。
教室で勇気と行動方針を与えてくれた、隣の席の大河内アキラ(出席番号06番)。
そして双子にとっての姉貴分、この戦場でも絶対に頼りになるはずの、長瀬楓(出席番号20番)。
1人では不安なのだ。この3人の誰でもいい、早く誰かを、史伽の所まで連れてきて欲しい――!
「キキキッ!」
「あッ!? 戻ってきた!?」
不意に聞こえた、小猿の鳴き声。史伽はパッと顔を上げて外へと向かう。
洞窟の入り口では、「褒めて褒めて!」と言わんばかりに飛び跳ねる1匹の小猿。
そして、その傍に佇んでいるのは……
「かえで姉!」
「なるほど、史伽でござったか。このお猿が裾を引っ張るものだから、何かと思ったでござるよ」
セーラー服にタヌキ耳、という姿で、穏やかに微笑んでいる楓。史伽は迷うことなくその胸に飛び込む。
「かえで姉、怖かったですぅ、寂しかったですぅ!
お猿さんたちもなかなか戻ってこないし、私、私ッ……!」
「もう大丈夫でござるよ、史伽。拙者が来たからには、もう……」
ぐさッ。
「……もう、怖がったり寂しがったりすることは、永遠にできないでござる」
「……え?」
楓の豊かな胸に抱かれたまま、史伽は血を吐く。血を吐きながら、それでも状況が理解できない。
何かが、自分の脇腹に突き立てられている。震える首を回して、確認する。
……楓の手首だった。『気』を込められ強化された手刀が、刃物のように史伽の腹に刺さっていた。
肋骨のすぐ下に叩き込まれ横隔膜を破り、肺を傷つけ心臓にまで届いている。
まごうことなき、致命傷。
「済まないでござるな。拙者、惚れた弱みで、『あの方』の命令には逆らえぬでござるよ」
「かえで、ねぇ……」
「拙者もいずれ後を追うであろう。だから今は先に逝くでござるよ、史伽」
ずぼッ。
優しくも残酷な囁きと共に、史伽の体から拳が引き抜かれて……史伽の意識は、そこで途絶えた。
――山の中。洞窟の入り口。
血まみれの死体の前に膝をつき、身を震わせる楓。その背後に、1人の人影が現れる。
楓を先行させていた人物。楓の主人。彼女は緊張感のない口調で、話しかける。
「もう終った? やっぱ手際いいわねぇ。で、誰だったの、その『式神』とやらを使ってたのって」
「……拙者は……拙者は、なんてことを……!」
質問に応えようとしない下僕の態度に、柿崎美砂(出席番号07番)は少しだけ眉をしかめたが。
楓の前に転がる死体を確認して、納得する。
なるほど、さんぽ部仲間の双子の片割れだったか。これは確かにショックも大きかろう。
このままにしておくのは、ちょっとマズいかもしれない。
いかにホレ薬が強力とはいえ、洗脳が解けてしまうかもしれない。
少しだけ考え込んだ美砂は、楓の傍にまで歩み寄り、その肩に手を乗せる。
「……こちらを向きなさい」
地べたに座り込んだまま、涙と鼻水でグチャグチャになった顔を上げる楓。
さっきまで史伽に見せていた余裕などカケラもない。後悔と自責の念に押しつぶされる寸前の顔。
美砂はそんな彼女の頬に両手を添え、指先で涙を拭うと、少しだけ腰を曲げて。
「これは、ご褒美」
唇を、重ねた。
目を丸くする楓をよそに、そして美砂は楓の唇を貪るように味わい始める。
美砂の舌が別の生き物のように蠢き、楓の唇に割って入る。
楓の口腔を犯し、歯列をなぞり、舌に絡みつく。
最初はされるがままだった楓も、いつしかうっとりと目を閉じ、積極的に舌を絡め返すようになって。
数分にも及ぶ、濃密なキス。プリンよりも甘い禁断の味。
楓の喉がコクリコクリと鳴って、流し込まれる美砂の唾液を夢中になって嚥下する。
互いの口を味わい尽くし、ようやく離された2人の唇の間に つうッ と糸が引く。
「……私のために戦いなさい、楓」
そして美砂は囁く。
壮絶に妖艶な微笑を浮かべ、囁きかける。
「頑張っていっぱい殺したら――次は、もっとスゴイこと、してあげる」
美砂の言葉に、楓は呆けた表情で、コクリと頷いた。蕩けきった表情で、頷いた。
もう、逆らえない。もう、引き返せない。絶望的な歓喜と共に、思い知らされる。
楓の全ては、美砂のモノ。血の一滴・涙の一滴に至るまで、全ては柿崎美砂のモノ――!
【出席番号23番 鳴滝史伽 手刀に貫かれ 死亡】
【残り 24名】
今夜はここまで。
明日の朝、いつもの朝投下する余裕あるかどうか、ちょっと不明です。五分五分といったところ。
朝には投下できないかもしれませんが、明日の夜は確実に投下する予定です。
では。
美砂エロ怖ええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!1111111111
∧_∧
( ;´∀`) 「もっとスゴイこと」って何!?
人 Y / 女同士で何する気なのミサ様!?
( ヽ し
(_)_)
ああ、このか・・・・・
柿崎女王様プレイ慣れすぎだな
やっぱり普段からやってるのか
せっかく美空生きてたのに死亡フラグが…。
ちうの連絡相手はカモと言ってみる。
ミサは疲労のたまった楓の体を
二重の意味で「マッサージ」するんだろう
31 《 銃と拳 (1) 》
――草原の中を抜ける道の真ん中に、その無惨な遺体はあった。
腰ほどの高さの草を掻き分け出てきた四葉五月(出席番号30番)と古菲(出席番号12番)は、息を飲む。
「……和泉さんアルか?!」
そのようですね、と五月も同意。そのデッキブラシを握る手が、微かに震えている。
最期の瞬間の亜子の驚きがそのまま凍りついたような、その表情。あたりに漂う濃密な血の臭い。
胸に1発、額に1発。おそらくこれは銃によるものだろう。どちらも片方だけで十分致命傷である。
「確かに、放送で死んだとか言ってたアルが……」
古菲がそう呟きかけた、その瞬間――
――急に、殺気を感じた。
「五月ッ!」
はい?と五月が間抜けな声を上げるより早く、古菲は彼女を突き飛ばす。
彼女の身体を今出てきた草原の方に突き飛ばすと同時に、自分も別方向の草の中に飛び込む。
それぞれ倒れ込む五月と古菲、とほぼ同時に、風を切る音が何発も草原を駆け抜ける。
やがて草の中に隠れた彼女たちを見失ったのか、銃撃が一旦途絶える。
「五月……大丈夫アルか?」
はい何とか、と五月の返事。ちょっと痛いですけれど。
古菲の位置からは直接五月が見えない。見に行くこともできない。彼女の声から判断するしかない。
ただ一般論として、「痛い」と言えるうちは大した傷ではなかろう。吐血しているような声でもない。
草の中に飛び込んだ時に、擦り傷か打撲かを負った程度。古菲はそう判断する。
古菲はそのまま伏せているように指示すると、草の間から少しだけ顔を出してみて……
「……ッ!」
途端に感じる強烈な殺気。慌ててその場を飛びのくように移動する。再び銃声が草原に響く。
今の一発、当てられなかったのは幸運としか言いようがない――だがこれで敵の位置と武器は把握した。
「丘の上からのライフルの狙撃……厄介アルね」
古菲の額に脂汗が滲む。実に嫌な地形、実に難しい相手。
おそらくあそこに居るのは、亜子を殺した犯人。
既に殺した亜子の死体さえも「餌」として、古菲たちを殺すつもりだった「殺る気マンマンの」犯人……!
「……ちッ。まさかアレを避けるとはねぇ。やっぱ本選に出るような連中は常識通じねーわ」
古菲たちの居る草原を見下ろす丘の上。
朝倉和美(出席番号03番)は小さく舌打ちをする。
何時間も待ってようやく射程に捉えたターゲット、この最初の攻撃で仕留めてしまいたかったのだが。
元々、和美が彼女らしくもない待ち一辺倒の作戦に出たのも、『まほら武道会』の経験があったためだ。
どんな客よりも近い至近距離で目撃してしまった、超人同士の信じられない戦いの数々。
あれを体験してしまえば、連中とマトモに殺し合いをしても勝てるわけがない、と分かってしまう。
勝ち目があるとしたら、彼らにあの超人技の数々を使わせずに終らせること。
使える距離に入られる前に、キメてしまうこと。
すなわち、超ロングレンジからの攻撃だ。
そういう意味でも、この武器が当たったのは和美にとって幸運ではあった。
「ん〜。出てこないなー。向こうとしても、動かなきゃジリ貧のハズなんだけど」
和美は古菲たちの方を窺う。
腰の高さほどの草が密集する深い草原。その中に伏せられたら、この位置からでも狙うことはできない。
古菲がそうしたように、大きく跳べばスコープの狭い視界から飛び出して、狙撃手は一瞬見失ってしまう。
この辺り、素質があるとはいえ素人に過ぎない和美の限界でもある。
だが……匍匐全身の要領で移動しようとしても、揺れる草で居場所は丸分かり。
今のように完全に動きを止めていればともかく、動き出せばすぐさま和美の攻撃は再開される。
五月にはそこまで分からぬだろうが、古菲ならば直感的に理解していることだろう。
「作戦会議でもしてるのかなー。迷ってるのかなー。それとも根比べのつもりなのかなー。
確かに長引くと、コッチも辛いんだよねー」
一向に動こうとしない古菲たちに、和美はぼやく。
全神経を集中し、狙撃体勢のままスコープを覗いているのは、和美にとってもかなりの負担。
あまり長引くと他の誰かがやってくる危険もある。和美は、決断する。
「よし、じゃあちょっとばかし挑発してみっかな、あのバカイエローを……」
「どうする……どうすればいいアルか?!」
古菲は焦る。大いに焦る。
敵は遠くの丘の上。
古菲が本気で駆ければ2分もかからず到達できるだろうが、しかしその途中で撃たれるのは必至。
殺気を頼りに避けるのだって、先ほどは上手く行ったが、何度もできる芸当でもない。
これが刹那あたりなら、刀で銃弾を弾きながら接近して行くこともできるのかもしれないが……。
「『硬気功』を使たとしても、1発耐えられたら御の字アルね……」
草の向こう、すぐ目の前には亜子の無惨な死体。
下手すれば一発だって耐えられずに、同じような屍と化す危険すらある。
古菲は隣を見る。かなり離れた所に、古菲の言いつけに従い、身を伏せたままじっと動かない五月。
この場の古菲の判断には五月の命も掛かっている。古菲1人の問題ではない。
さて、どうする。どうする。どうする――!?
「ああう……! た、大変ですー」
古菲たちの後方。同じように草の中に伏せて震えていたのは、幽霊の相坂さよ(出席番号01番)。
隠れても意味が無いのかもしれないが、彼女自身は気付かない。自分の姿が見えないことに気づかない。
反射的に、古菲たちに従う格好になってしまっていた。彼女自身、本気で銃撃に怯えていた。
彼女は半ばパニックになりながら、今の状況を分析する。
「このままじゃ、くーふぇいさんや四葉さんも撃たれて私のお仲間になっちゃいますー!
っていうか既に和泉さんはお仲間ですし、この調子で死んでいけばもっと幽霊増えて楽しくなるかも、
――って、そうじゃないですッ! 何か私にできることは? 私にも、何かできること……」
そしてふと、さよは気付く。
そういえば、草に隠れている、と言っても、自分の身体はほとんど草と重なっている。
実体のない自分の肉体。何でもすり抜けてしまう霊体。
これならひょっとして、隠れるもののない場所だって、地面に潜るようにすれば抜けられるのでは……!?
――仕掛けたのは、和美の方だった。
動かぬ古菲の目の前で、いきなり何かが弾ける。
「なッ……!?」
道路に横たえたまま、放置するしかなかった亜子の遺体。
それが、ビクンと跳ねる。飛んで来た銃弾に貫かれ、あたりに何やら淀んだ体液が飛び散る。
さらにもう1発。2発。3発。
古菲の目の前で動けぬはずの死人が踊り、無惨な死体がさらに酷い有様になる。
「何をするアルッ!?」
古菲は怒る。抵抗力の無い者を撃つ、どころの話ではない。死人をさらに鞭打つ態度。
武人として正々堂々の戦いを理想とする古菲は、怒りに震える。
そしてその怒りは無意識のうちに拳を握り締めさせ、震えとなり、草を揺らして――
「……しまったッ!」
5発目の銃声は、今度は亜子を狙ったものではない。
鋭い殺気。瞬時に敵の狙いを理解した彼女。
咄嗟の判断で、逆に転がるように草むらを飛び出す古菲。しかし僅かに、遅い。
狙いこそ正確ではなかったが、飛来した銃弾は、古菲の身体を見事に撃ち抜いて――!
「――やったかッ!?」
確かな手ごたえに、和美は小さく歓声を上げる。
別に亜子に恨みがあったわけでもないが、しかし今は本気の殺し合いの真っ最中。
使えるものなら死人だって使う。『ゲーム』に乗ると決めたからには、それが正しいやり方。
古菲は咄嗟に、伏せたまま撃たれるくらいなら立ち上がって回避に賭けた方がマシ、と判断したようだが。
その判断は、裏目に出たようだ。結局、避け切れなかったようだ。
どこに弾が当たったか、道路の上で古菲は倒れていた。どうもすぐには立ち上がれないらしい。
和美は慌てず騒がず、じっくり次の狙いをつける。
ここで頭か胸かに命中させれば、完全に決着がつく。あの中武研部長・古菲を倒すことができる――!
【残り 24名】
32 《 銃と拳 (2) 》
朝倉和美(出席番号03番)は、道路上に転がる古菲(出席番号12番)に狙いをつける。
無防備な姿を晒す彼女に、狙いすました一撃を加えようとして――
「――だ、ダメですッ!」
そのスコープの視界に唐突に飛び出してきた影に、度肝を抜かれる。
突如どアップで迫った見知った顔、それは……
「さ、さよちゃんッ!?」
出席番号01番、相坂さよ。3−Aの教室に憑いている地縛霊。
学祭準備期間のあの騒ぎの後、他の人には見えたり見えなかったりと安定しない彼女であったが。
ただ1人、常時彼女とコンタクトが取れる人物、それが和美だった。
古菲たちに同行していた事に気付かなかったのは、和美の油断か、それともスコープの視野の狭さか。
半透明のさよの身体だ、居るかもしれないと思って見なければ、和美だって見落としてしまう。
ともあれ、草と地面に半分潜るようにしながら、全速力で「飛んで」来たさよ。
荒い息をつきながら(幽霊も走ればこうなるのだろうか?)、さよは和美に訴えかける。
「だめですよッ、人を殺すなんてッ! そんなの、朝倉さんのやることじゃないですッ!」
「……邪魔しないでよ、さよちゃん。私はもう、1人『殺っちゃって』るんだしさ」
あくまで普段のままに見えるさよに対し、和美は冷たく目を細める。
陽気でお祭り好きで正義感の強い和美ではない、もう1つの彼女の人格の側面を露わにする。
目的のためなら手段を選ばぬ、計算高さ。
相手の事情を知った上でなお無視して踏み込んで行く、悪質パパラッチ的な性格。
朝倉和美の、陰の側面。決して善とは言えない手段であることを知りつつも、なお我が道を進んでいく強さ。
「やめろって言うなら、代案を出すんだね。
あの先生たちの『魔法』を掻い潜って生き残る、具体的かつ現実的な方法をさ。
……あ、『みんなで考えれば何か見つかるはず』みたいな空虚な理想論なら、聞かないよ?」
「ううッ……!」
「さもなきゃ、力づくで止めてみな――さよちゃんにできるのなら、だけど」
和美は言い捨てると、狙撃の姿勢に戻ろうとする。古菲へのトドメを実行しようとする。
さっきは突然現れたさよに驚いてしまったが、分かっていればどうということはない。
和美の視界を遮ろうとしても、さよの身体は透けているのだ。妨害などできはしない。
……そう思ったのだが。
「朝倉さん……」
「ん? まだ何か言いたいことあるの?」
「そういうことなら私……本気、出させてもらいます」
ざわッ。
暗く俯いたさよの、静かな宣言と共に。
丘の上、和美の回りに不自然な風が吹き上がる。
同時に周囲の温度が数度下がったような錯覚を覚えて。
和美の身体が、持ち上がる。誰も触れていないのに、持ち上がる。重力を無視して宙に浮く。
「ちょッ、さよッ、あんたッ!?」
「……朝倉さんが、いけないんですよ? 私、こんなことしたくなんてなかったのに……!」
俯いたまま、ブツブツと呟き続けるさよ。その身体は何やらオーラのようなものに包まれていて――!
ポルターガイスト。一部の幽霊が引き起こす、いわゆる念動力現象。
ダメ幽霊・相坂さよが、「とっても調子がいい時」にだけ、まれに起こせる超常現象の1つ。
もっとも発動さえしてしまえば、重たい教卓や机をいくつも浮かべるほどのパワーである。
和美1人を無力化することくらい、容易いものだ。
地底空間に満ちる魔力のためか、それとも『強制認識魔法』によってさよの精神が変容したためか。
ともかく普段は出せないその力が、今、普段以上のパワーでもって、和美の身体を持ち上げていた。
空中に持ち上げ、そして凄まじい力で締め上げ、捻り上げていく。
軋む肋骨。軋む内蔵。思わず悲鳴を上げる和美。
「う……うわあああああッ!?」
「朝倉さんが悪いんですよ? 私、こんなこと、する気なんてな……」
どんッ。
俯いたまま、言い訳を続けるさよの言葉は、しかし唐突に遮られる。
短い、銃声。
「……え?」
信じられない、といった表情で、さよは自分の胸元を見つめる。
見えない腕から解放され、ドサリ、と地面に落ちた和美は、脂汗を浮かべつつも相手を見上げる。
さよに締め付けられていた腹部が痛い。肋骨が痛い。下手すれば骨にヒビくらい入っているか?
けれど和美の顔に浮かぶのは、苦痛よりも強い、勝利の笑み。
「へ、へへ……! さよちゃんが悪いんだよ? 邪魔なんかするから……!」
和美の手の中には、銃口からうっすら煙を上げるライフル。
エアガンながらも、改造と特殊な銃弾の使用により、実銃並みの威力を備えた凶器。
反動は実銃よりも低く、弾数は実銃よりも多い、使い勝手のいい武器。
その銃弾が至近距離から放たれて、誰も捕らえられぬはずの霊体を撃ち貫いていた。
さよの胸に、大きな風穴を開けてしまっていた。
エアガンの中に詰め込まれた、『術を施した銃弾』。
単純に威力を増すだけでなく、魔法使いの障壁を破り魔物にダメージを与えるべく施された、魔法的処理。
学祭前の幽霊騒動の時に真名が乱射したのも、ライフル弾と拳銃弾の違いはあるが、基本的に同じもの。
つまりは、当たりさえすれば、さよ相手にも有効。
実体なき霊であっても、撃ち滅ぼすことができる。
「あ、朝倉、さん……!」
「バイバイ、さよちゃん。アンタと一緒に居れて、楽しかったよ」
掛け値なしの笑顔で、和美はさよを見送る。
それは、和美の嘘偽りない気持ち。できれば討ちたくはなかったのは、和美も一緒。
ただ、自分の命と幽霊との友情を天秤にかけ、前者を選んだだけのことだ。僅かに前者が勝っただけだ。
和美の目の前で、さよの姿が消えていく。
胸の風穴から、何かキラキラ光るものが溢れ、こぼれていく。
幽霊の身体を構成する非物理的媒体を噴き出しながら、姿形が崩れ、消滅していく――
「……ふう。さよちゃんのせいで、思わぬ時間喰っちゃった。さて、さっさと古菲を――」
「――あれは相坂さんだったアルか。妙な気配が付いて来てたのは、感じてたアルけどネ」
「!!」
一息ついた和美はそして、凍りつく。
背後からかけられた言葉。あまりに近すぎる声。絶対に回避したかった事態。
さよと言葉を交わし、矛を交えた短い時間の間に。和美の注意が逸れていた間に。
撃たれて倒れ込んでいたはずの古菲は、一気にこの距離を詰めていた。
スナイパー側の異常を敏感に察知し、傷ついた身体に鞭打って。大地を蹴って斜面を駆け登り。
この圧倒的な距離、和美の持っていた優位性を、一気に詰めていた。
力なく左手をダランと垂らしたまま、それでも強い意志の篭った目で、和美を睨みつけていた。
「くッ……!」
「――遅過ぎるアルよ、朝倉サン」
和美は慌てて振り返り、さよの時と同様、腰溜めの姿勢でライフルを撃とうとしたが……
この距離は既に、古菲のものだった。和美のトリガーより、なお古菲の身体の方が速かった。
飛び込んで来た古菲、その全身の勢いを乗せた右肘が、和美の胸骨と肋骨を打ち砕いて――
――全てが終った、丘の上。古菲は1人、打ちのめされた表情を浮かべ、俯いていた。
「手加減、できなかったアルね。ワタシもまだまだ、未熟アル……」
至近距離で向けられた銃口の恐怖。和美から向けられた純粋な殺意。
そして遠距離から撃ち抜かれ、自由には動かなくなった左肩。
それでも彼我の実力差を考えれば、生きたまま無力化することは可能だったはずなのだ。
なのに、止め切れなかった攻撃。半歩ほど強すぎた踏み込み。
生まれて初めて、人を殺してしまった自分の手。
武道家として、あまりに未熟過ぎる自分。
古菲は泣き出したくなる気持ちを堪えて、和美の死体に背を向ける。
「……下で、五月が待ってるアル。ここで悲しんでる時間は、無いアルね」
「サツキー? もう、出てきても大丈夫アルよー? サツキー?」
登った時の倍以上の時間をかけ、丘を降りてきた古菲は呼びかける。
彼女が伏せているであろうあたりに向かって、遠くから呼びかける。
けれども、何も動くものはない。答えてくれる仲間は、どこにも見当たらない。
ただ草原の草が、微かな風になびくだけ。
「五月……どうしたアル? もう悪い奴はやっつけてきたアルよ? サツキ?!」
四葉五月(出席番号30番)。彼女の耳には、しかし既に古菲の声は聞こえていなかった。
草に埋もれるようにして、ピクリとも動かぬ五月の身体。コックの白衣を真っ赤に染め上げる、膨大な出血。
五月は既に、死んでいた。
和美が放った最初の銃弾。古菲が回避できたと思い込んでいた、最初の連射。
そのうちの1発を腹部に受け、太い動脈が破れ、致命傷を負っていた。
周囲に亜子の血の臭いが満ちてなければ、古菲だってすぐに気付いたに違いないのだが……。
そして五月が意識を失う寸前まで考えていたのは、古菲のこと。
迂闊な言動で古菲に危険が及ばぬよう、必死で悲鳴を噛み殺し、のたうち回りたいのを我慢して――
古菲が戻ってきた時には、既にその身体は、草に埋もれる格好で、冷たくなり始めていた。
親友の呼びかけに、答えられるハズもなかった。
……古菲が草を掻き分け、動かぬ五月の遺体と対面したのは、それから間もなくのことだった。
【出席番号01番 相坂さよ 術を施した弾丸に貫かれ 消滅】
【出席番号03番 朝倉和美 強烈な打撃により心臓破裂を起こし 死亡】
【出席番号30番 四葉五月 銃弾により大動脈破損・大量出血により 死亡】
【残り 21名】
33 《 透明人間 (1) 》
――綾瀬夕映(出席番号04番)は、荒い息をつきながら本棚の立ち並ぶ湖岸を駆けていた。
立ち止まるわけにはいかない。どこから『見えない敵』が襲ってくるか分かったものではない。
首筋からは、一筋の血。頚動脈には辛うじて届かずに済んだ、ギリギリの傷。
彼女はネギの杖を両手に握り締め、黒いローブの裾をはためかせ、大きな本棚の影に隠れる。
「はぁ、はぁ……。ど、どこに行ったんでしょうか、『敵』は」
砂浜に乱立する本棚の森。いつどこから襲ってくるか分からぬ、『見えない敵』の恐怖。
とにかく背後だけは取られまいと、本棚に背を預け、周囲を見回し警戒するが……
どんッ。
「あッ……!?」
突如、背中に感じる強い振動。本棚の向こう側から、蹴り飛ばされるような感覚。
そして彼女の安全をもたらしてくれるはずの背後の棚は、本の雪崩を引き起こして……
「しまったですッ……!」
夕映の小さな身体は、崩れ落ちてきた大量の本に下敷きになる。
いかにも魔女、といった雰囲気のある黒のトンガリ帽子が、ふわりと舞って遠くに落ちる。
重い。背中に積み重なる本が重い。動けない。頭と杖を握った腕だけが、本の山から突き出した状況。
足音が近づく。本棚を迂回し砂を踏みしめ、近づいてくる。
首だけ回してそちらを見るが、相変わらず相手の姿は見えない。
ただ誰も居ない砂の上に、一歩ずつ、着実に、足跡が刻まれる。足跡だけが近づいてくる。
敵。見えない敵。問答無用で夕映に襲い掛かってきた敵。
そして虚空に、黒い刃が出現する。
クナイを逆手に握りしめた手首のみがステルスコートの裾から突き出され、可視化する。
「……『魔法使い』は、倒さなきゃ……化け物出す前に、倒さなきゃ……!」
見えない『敵』は、そして呟く。熱にうなされたような声で呟く。
その声を聞いて、ようやく夕映は相手の正体を知る。知って、驚く。
大河内アキラ(出席番号06番)。寡黙で真面目な水泳部のエース。
何故、彼女が、こんな真似を……!?
ザジと高音の2大軍団の大激突は……要するにアキラにとっては「衝撃的過ぎた」のだ。
麻帆良の誰もが『魔法』の実在を信じ始める中、1人手放しで信じることができなかったアキラ。
そんな彼女だったからこそ、あの光景は大きな意味を持つものとなった。
『魔法使い』は、大量の化け物を呼び出せる。
『魔法使い』は、呼び出した化け物たちにヒトを襲わせる。
『魔法使い』に負けて倒されてしまえば、生きたまま化け物たちに貪り喰われ、後には骨しか残らない――
――誤解である。極論である。
いくらなんでも、全ての『魔法使い』がそんな術を使えるわけではない。
いくらなんでも、全ての『魔法使い』がそこまで残酷なわけでもない。
特に、あのザジを捕まえて「典型的な『魔法使い』」だと考えるのは、明らかに間違った考えだ。
けれど、一般人に過ぎぬアキラに、そんなこと分かるハズもなく。
彼女の精神に、強烈なイメージが刷り込まれてしまう。過剰な防衛意識が芽生えてしまう。
『魔法使い』は『敵』だ。『魔法使い』は危険だ。
『魔法使い』は倒さねばならない。
『魔法使い』が化け物たちを呼びだすより前に、確実に着実に殺しておかねばならない――
アキラはそして、彼女にとっての始まりとなった砂浜から歩き出した。島の縁に沿って歩き出した。
アキラが島の南東、図書館島深部風の本棚地帯に向かったのは、単にザジから逃げようとしただけだ。
ザジとその軍団が南西の遺跡群の方に向かうのを見て、その反対側に歩を進めただけだ。
そして――アキラは、遭遇する。
見るからに『魔法使い』としか思えぬ格好をした、クラスメイトの1人。
黒いローブ。黒いトンガリ帽子。いかにもな形をした木の杖。どこからどう見ても『魔女』でしかない格好。
本棚にもたれて読み耽っているのは、いかにも『魔道書』然した分厚い書物。
ネギの到着を待つ、綾瀬夕映だった。
――そして始まった、この死闘。
ステルスコートの特性を活かし、不意打ちを仕掛けたアキラ。
しかしこの服、裾が長くフード付きなのはいいのだが、実は完全なものではない。
丈が届いていない足元については、力場を広げフォローしてはいるものの……
何かを手に持って身構えると、その武器と手首は光学迷彩の効果範囲外に出てしまう。
またこのステルスで誤魔化せるのは、相手の視覚と魔法的感覚だけ。歩けば足跡は残るし、足音もする。
そんなわけで、砂を踏みしめる足音に顔を上げ、宙に浮かぶクナイの一撃目をなんとかかわした夕映。
しかし夕映の側からは反撃の手段がない。夕映が呼びかけても『見えない敵』からの言葉はない。
逆手に握られたクナイで何度も斬り付けられ、刺され、蹴りつけられ……
黒いローブのために見えにくいが、夕映の身体は細かい傷がいくつもつけられていた。
かろうじて致命傷だけは避けているが、しかし首の傷のようにそれは紙一重でしかない。
いつまでも、避けきれるものではない。
そんな状況の中、夕映が選んだのは逃げの一手。
時間を稼ぐ。本棚を盾に逃げまくる。見えない敵とまともな勝負をすることを、避け続ける。
もう少しすれば、ネギが来てくれるかもしれない。念話で呼んだネギが来てくれるかもしれない。
彼の優れた魔法と戦闘センスで、この状況を打開してくれるかもしれない――
ただその一念で逃げ回っていた夕映は、本棚を背にしたことが裏目に出て。
こうして大好きな本に自由を奪われ、今まさに、アキラにトドメを刺されんとしていた。
「くッ……!」
影も形も見えないけれど、宙に浮かぶクナイと足跡が、一歩ずつ近づいてくる。
アキラのどこか壊れた独り言が、ゆっくり近づいてくる。
本の山に埋もれたまま、夕映は理解する。
アキラは精神の均衡を失ってしまっている。言葉はこの相手には無力。
夕映の一番の武器である『言葉』、それが通じないのでは、どうしようもない。
このまま殺されるしかないのか――?!
「ハルナッ……!」
目の裏に、既に散ったと伝えられた親友の顔が浮かぶ。
自分も彼女の後を追うことになるのだろうか。いや。
「ネギ先生ッ……!」
夕映は長い杖を握り締める。諦めるのは早い。何かまだ出来ることが残っているはず。
……アーティファクト? いや、無理だ。今この状況、『世界図絵』で何を調べればいいと言うのか。
……『魔法』? いや、無駄だ。夕映に使える『魔法』は、現時点では数えるほどしかない。
この状況を一発で打開する『魔法』など……
「……ッ!」
そして彼女は思いつく。しかし時間がない。アキラは、見えない敵はすぐ目の前に迫っている。
見えない腕に握られたクナイが、大きく振り上げられる。
本の山の中、身動き取れない夕映の頭に、そのまま一気に振り下ろ――
「プラクテ・ビギ・ナル……『火よ灯れ(アールデスカット)』!」
着火。
間一髪のタイミングで、ネギ愛用の杖を発動体として、夕映の魔法が効果を現す。
夕映の上に積み重なっていた本が、『魔法の火』によって一気に燃え上がる。
クナイを振り下ろそうとしていたアキラは、目の前に出現した突然の炎に、思わず一歩下がってしまって。
その隙を逃さず、炎の中から転がり出る黒い塊。
本の山が重過ぎて跳ね除けられないなら、燃やして軽くすればいい――まさに命がけの発想。
軽い火傷を負いながらも、夕映は脱出に成功する。
炎に煽られフードが脱げ、空中に浮かぶように現れたアキラの虚ろな顔を、杖を構えて睨みつける。
「……大切な本相手になんてことをやらさせてくれるのですか、貴女は。
許しませんですッ!」
本好きの夕映にとっては自分の火傷以上に、貴重な本に火をつけざるを得なかったことが腹立たしくて。
夕映の闘志にもようやく火がついた。逃げ回ることをやめ、アキラと真正面から対峙する――
【残り 21名】
朝投下無事終了。人が居ないのか連投規制で悩まされました。
ではまた夜に続きを……。
さっちゃあぁぁぁーーーーん!!!
さっちゃんはくーとセットで生き残って欲しかった…
これでチャオ側だった生徒はもう龍宮だけか……
34 《 透明人間 (2) 》
ネギ・スプリングフィールド(出席番号32番・便宜上与えられた番号)は、急いでいた。
夕映に続き、のどかからも伝えられた念話による連絡。それによって、ネギの行動方針は決まっていた。
最初に目指すは島の南東、図書館島風の本棚地帯。
夕映と合流して杖を受け取り、杖に2人で乗ってのどかたちとの合流を目指す。
この順番になったのは、それぞれの現在地の関係によるものだった。
ネギがいた東の林の中からは、本棚エリアの方がまだ近い。
坂も多くクネクネと曲がりくねった道を、ネギは急ぐ……
……と言っても、彼の体力では走り続けることはできないから、どうしても休息を挟みつつ、であったが。
今、ネギがいるあたりは、地図の上では既に本棚地帯の端の方に当たるらしい。
林の中を流れる川を越え橋を渡ってから、木々の中に本棚が点在するようになった。
何の変哲もない林の中に、何の脈絡もなく本棚が建っている。不思議と調和した風景。
中には蔦で覆われて、本を読みたいと思っても取り出せないような本棚もあったりするが。
「あれはッ……!?」
そんな奇怪な周囲の様子に見とれるヒマもなく、ネギは急ぐ。
見れば行く手、木々が途切れて代わりに本棚が立ち並ぶ砂浜の方に、黒い煙が立ち昇っている。
これは夕映の方に、何らかの異常があったということなのか。
もう嫌なのだ。これ以上、誰かが死ぬのは嫌なのだ。
定期放送で親しい人々の名前が呼ばれるのは、嫌なのだ。なんとかして、止めなければ――
「待ってて下さい、夕映さんッ……!」
彼は走り出す。疲れた身体に鞭打って、本棚の森を全速力で駆ける――。
「プラクテ・ビギ・ナル、光の精霊1柱、集い来たり……わぷッ!」
「殺ス……! 『魔法使い』は、倒すッ……!」
本に付いた火が燃え移り、黒煙を上げて燃え始めた本棚の前で。
大河内アキラ(出席番号06番)と綾瀬夕映(出席番号04番)の死闘は続いていた。
恵まれた体格と運動神経、そしてステルスコートの性能を活かし、ヒット&アウェイを繰り返すアキラ。
対する夕映は防戦一方。杖を構え『魔法の射手』を唱えようとするが、最後まで詠唱すらできない。
アキラは咄嗟に近くの本棚から本を抜き取り投げつける。顔面に直撃を受けた夕映は、思わずよろめく。
成功の確率はまだまだ低い呪文だったが……詠唱すら許されないのではどうしようもない。
「ともかく、向こうの姿が見えないことにはッ……!」
足跡で相手の居場所を見破る方法も、踏み荒らされていない砂浜であればこそ有効な方法。
こんな風に双方が大立ち回りを演じた後の地面では、あまり役に立たない。
さっき一瞬見えたアキラの顔も、フードを被り直されてもう見えなくなっていて。
夕映は杖を闇雲に大きく振り回し、見えないアキラを牽制しながら必死で考える。
向こうは魔法か何かで姿を消しているだけで、物理的には『そこ』に存在するはず。であれば……。
「プラクテ・ビギ・ナル……『風よ(ウェンテ)』!」
今度は妨害よりも先に唱えきる。元々短い呪文だ。
夕映の『力ある言葉』に応じ、本棚から立ち昇る黒煙が、不自然な風に煽られ周囲に撒き散らされる。
うっすらと広がった煙の中、透明人間の輪郭が浮かび上がる。
高度な光学欺瞞処理も追いつかず、その位置と身体の動きを、完全に浮かび上がらせる――
「――ッ!!」
と、その、煙の中の透明人間が。輪郭だけの人影が。
明らかに攻撃には遠い間合いで。
腕を素早く振り上げると――投げた。手にしていたモノを、投げつけた。
「ッ!?」
ずっと逆手に握りしめ、ナイフのようにして使ってきたクナイのいきなりの投擲。
見えない相手がようやく見えた、と夕映が一瞬安心してしまった隙を突いた、アキラの攻撃。
夕映は、避け切れなかった。
どすッ、と身体の芯に響くような音を感じて、夕映の小さな身体はよろめき倒れる。
アキラにとっても、実はこの投擲は「最後の手段」。
彼女が砂浜で回収したクナイは、わずかに2本。投げて外しでもしたら、彼女の攻撃手段が失われてしまう。
自分がよほどの危険に陥った時か、相手がよほどの油断をした時にでもないと、投げようとも思わない。
ザジほどのコントロールのない彼女にとって、命中が期待できる距離はかなり短く。
――そして今の一瞬は、まさにそれら全ての条件を満たしていた。
「『魔法使い』は、殺さなきゃ……!」
煙の中、アキラは呟く。倒れた夕映を、静かに見下ろす。
最後の1本のクナイを片手に握り締め、血を吐いて震える夕映のすぐ近くに……
「――待てぇッ!」
本棚の森に、響き渡る凛とした声。
アキラも夕映も、はッとしてそちらを振り向く。振り向かなくとも、その声だけで誰だか分かる。
彼女たちの担任、ネギ・スプリングフィールドが、拳を構えてそこに居た。
荒い息をつきながら、倒れた夕映と煙の中の「透明人間」をしっかと見る。
詳しい経緯は分からぬが、夕映と「誰か」が激しい戦いをしていたことだけは分かる。
「夕映さんッ! それに、あなたは……誰なんですかッ!」
ネギの問いかけに対するアキラの回答は、ある意味実に分かりやすいモノだった。
「『魔法使い』……殺すッ!」
別人のように狂気を滲ませた掠れ声で、アキラは叫ぶ。
血を流す夕映をその場に残し、煙の中から飛び出してネギに襲い掛かる。
夕映の『魔法の風』で吹き広げられた黒煙、しかし今ネギがいるあたりにはほとんどない。
輪郭だけが見えていた「透明人間」が、真に見えなくなる。気配だけが、ネギに迫る。
ネギは焦る。見えない敵と、どう戦う? どう対処する?!
そんなネギに、夕映は叫ぶ。必死に杖を持った手を伸ばす。
「ネギ先生ッ、コレをッ!」
「!! なるほど……『杖よ(メア・ウィルガ)』ッ!」
咄嗟の夕映の叫びに、ネギはその意図を察し、『力ある言葉』を口にする。
呼びかけに応じ、杖が飛ぶ。夕映が投げてネギが『呼び』、真っ直ぐネギの手元目掛けて飛んでいく。
その進路上には――姿こそ見えないものの、ネギに襲い掛からんとしていたアキラの身体。
背後から飛来する杖の強襲を受けたアキラは、その場につんのめる。砂を巻き上げ、顔面から倒れ込む。
彼女が顔を上げた時にはもう、木の杖は再び宙を舞い、ネギの手元に届いていて――
恐怖するアキラの頭上、ネギの手元に光が宿る。
正体不明の『敵』。殺意だけは明らかな『見えない敵』。
それを討つための、確実性を重視した攻撃力の高い魔法。
「ラス・テル マ・スキル マギステル 来たれ虚空の雷 薙ぎ払え……」
「ひ……ひッ!」
「――『雷の斧(ディオス・テュコス)』ッ!」
透明人間が砂を巻き上げたその場所。間違いなく『敵』が倒れている場所めがけ、叩きつけられる雷の刃。
高電圧が、超科学の産物であるコートの機能を破壊する。アキラの姿が滲み出るように現れる。
コートもろとも光輝く雷の刃に叩き切られた、無惨なアキラの姿が、出現する……。
「あ……え? アキラ……さん?!」
なんとか倒した敵。緊張を解いたネギは、そして驚く。
相手が生徒である可能性を、すっかり失念していた彼。見えない敵に闇雲に攻撃を仕掛けてしまった彼。
姿が見えてしまえば、それは大切な自分の生徒の1人――
魔法障壁も『気』の力もない一般人の彼女には、この程度の威力の魔法ですら、十分致命的だった。
斬撃と電撃の相乗効果で、あっけなく、実にあっけなく、死んでいた。
「ぼ……僕は、なんてことを……!」
「……ネギ、せんせ……い……」
自分のやってしまったことに思い至ったネギの耳に、夕映の震える声が聞こえる。
慌ててネギはそちらに駆け寄る。
取り返しのつかないアキラの身体をとりあえずはそこに横たえ、夕映の元へ――
……そして夕映もまた、取り返しのつかないことに、なっていた。
アキラの投げたクナイ。それが深々と突き刺さった、彼女の薄い胸。
これもまた、死に至る傷だった。即死こそしないが、十分に取り返しのつかない傷だった。
「ッ……! す、すぐに『魔法』で……って、僕の呪文じゃ治せないし、
そうだ木乃香さん! 木乃香さんどこですかッ!? 待ってて下さい、今すぐ木乃香さんを……」
「……いいんです、先生」
パニックを起こすネギの服の袖を、夕映は握り締める。
血で満たされた肺。ロクに呼吸もできぬ身で、夕映は力無く微笑みながらネギを見上げる。
「……この『ゲーム』、少し私の『世界図絵』で調べてみましたです……ゴフッ、ゴフッ」
「夕映さん! 無理はダメです、喋らないでッ」
「ゴホッ……調べてて、分かったことがあるです」
血を吐きながら、夕映は苦しい息の下、それでもなお語る。
語っておかねば、ならなかった。自分はここで終わりでも、「先」へと伝えねばならぬ知識があった。
「この、『ゲーム』……様々なことを考え合わせ、大掛かりな『儀式魔法』の疑いが強い、のですが。
『今現在』の魔法界には、影も形も見当たらないのです。『世界図絵』でも情報がヒットしないのです」
綾瀬夕映のアーティファクト、『世界図絵(オルビス・センスアリウム・ピクトゥス)』。
一冊の本の形をしてはいるが、その総情報量は優に図書館1館分を超える『魔法百科事典』。
まほネットに接続し常時情報を自動更新し、常に最新最高の情報を提供してくれる書物。
深度Aの機密情報にもアクセスでき、『魔法』に関することで分からぬことなど何もない――はずだった。
その『世界図絵』が、この『ゲーム』、『バトルロワイヤル』については何も掴むことができない。
何の情報も得ることができない。
これは、不可解な話であった。
この『ゲーム』が、本当に大掛かりな『儀式魔法』なのだとするのなら――
――この『ゲーム』は、『過去』と『現在』の全ての世界において、未だ『存在しない魔法』ということになる。
「強いて言えば、古代中国の『蠱毒』という呪法に近いのですが……ゴホッ、ゲホッ」
「もういいです! もういいですからッ!」
大量の血を吐き、むせ返る夕映。泣きながら彼女を抱きしめるネギ。
夕映は助からない。夕映自身もそれを知っている。そして後を託すべく、全てを語ろうとしている――
それが分かってなお、ネギは彼女を止めようとして。
「ふふふ……。心配しなくても、これで、伝えねばならぬことは、全部です……」
「ううッ……」
「ああ、あと1つ……そうですね、伝えておきたい、ことが……」
そして夕映は、最期の力を振り絞り、ネギの頭に手をかける。
呆然とするネギを、震える手で引き寄せる。
ゆっくりと重ねられる、2人の唇。
血の味に満ちた、最後のキス。
仮契約の時のような周囲の意志によるものではない、夕映自身の意志による口づけ。
「あ……え……? ちょッ、夕映、さん……?!」
「……貴方のことが、好きでした。
のどかのこと、よろしくお願いします、です……」
それっきり、脱力。
目を閉じ、力を失い、ピクリとも動こうとしない夕映の小さな身体に。
ネギは、泣いた。燃え続ける本棚の前で、大声で泣き続けた。
【出席番号06番 大河内アキラ 電撃の魔法で絶ち斬られ、死亡】
【出席番号04番 綾瀬夕映 胸にクナイの直撃を受け 死亡】
【残り 19名】
35 《 Atom Heart Father 》
……森を抜け、沼地の南側を抜ける道の途中で。
出くわしたのは、またしても物言わぬ死体だった。
死後数時間は経過した、早乙女ハルナ(出席番号14番)の無惨な死体。
動物か何かに首のあたりを噛み切られたようだが、いったいどんな獣に噛まれればこんな傷になるのか。
血はすっかり流れきって、乾き始めている。
「ハルナ、さんッ……!」
「まあ放送でも死んだって言ってたしねー。……あ、荷物、手付かずで残ってんじゃん。
何か使えるモン残ってないかねー? 今度こそ武器か何か欲しいんだけど……」
ハルナの死体の様子に、ショックを隠せない雪広あやか(出席番号29番)。
その隣で、早速ハルナの荷を漁り始める明石裕奈(出席番号02番)。
まるで平然とした裕奈の態度に、あやかはキッと睨みつける。
「ちょっと裕奈さん?! 貴女、このハルナさんの姿を見て、なおもそんな……!」
「ちぇ〜っ、説明書だけかー。こりゃ、パルを殺った誰かさんが持ってっちゃったな。残念残念」
「――裕奈さんッ!!」
裕奈の態度に、とうとうあやかはキレる。
大声を上げて、連れ合いの襟首を掴んで引きずり起こす。噛み付かんばかりに吼える。
「さっきから貴女は、どこかおかしいですわよッ!?
みんな死んでるのですよ!? ハルナさんだけでなく、木乃香さんも、夏美さんもッ!
なのに、どうして、貴女はッ……!」
「……手を離してよ、いいんちょ」
あやかの怒りに、しかし裕奈は静かに答えて。
胸元を掴むあやかの手を振り払うと、再びしゃがみ込んで荷物の調査を再開する。
「じゃあ聞くけどさ。ここで私が悲しそうな顔とか態度とか取れば、ハルナたちが生き返るわけ?」
「……ッ!?」
「私たちが生き残るためにも、使えるモノは使わせてもらわないと。違う?」
裕奈の正論に、あやかは反論の言葉もない。
言葉もないが……しかし、得体の知れない違和感が、あやかの胸を締め付ける。
裕奈と出会い、行動を共にし始めて6時間余り。
他の生徒を探して森の中に入って、道に迷って。
時折裕奈が「疲れた」と言うので休憩なども挟みつつ、大きく森の中を一周した。
そして出会ったのは、斬られた木乃香と、爆死した夏美。どちらも既に手遅れの状態。
まだ暖かさを残す死体。そう遠くない場所に居たはずの殺人者は、影も形もない。
果たして殺人者と出会わずに済んだ幸運を喜ぶべきなのか。
それとも、わずかの差で犠牲者たちを助けられなかった不運を嘆くべきなのか。
裕奈はあやかの目の前で、ハルナの荷物を調べている。使えそうな品物を並べていく。
ハルナを殺した者が残していった、魔法銃の説明書。ペットボトルの水と、コッペパン。
森の中で出会った木乃香や夏美の死体からも、裕奈は水と食料を確保している。
その一部はあやかも持たされていて、だから荷物が重くて仕方が無い。
救えなかった命の重みと共に、ずしりと4リットルの水の重量が、あやかの肩にかかる。
確かに、その裕奈の態度は、この『ゲーム』の中においては正しいのだろう。
だが……
……目の前のこの人物は、本当にあの、明石裕奈なのだろうか?
能天気で、お祭り好きで、暴走しがちで、でも、友達想いだったあの『ゆーな』なのだろうか?
いや裕奈であることは間違いないのだが、何と言うべきだろう、先程から彼女らしからぬ行動というか……。
「……うん、分かってるよ、お父さん」
ハルナの遺品を漁り、必要なモノを自分の鞄に詰め替えながら、裕奈は虚空に向かって頷く。
あやかには聞こえない声。裕奈を遠くから見守り、助けてくれる声。
――それこそが、あやかと裕奈の2人が、ここまで生き延びてこられた理由だった。
最初は裕奈自身、自分が正気を失ってしまったのかと疑った。
現実逃避したい一心で、自分の無意識が生み出した幻聴なのかと疑った。
けれど、『父の声』の言った通りに歩けば、あやかと遭遇し、木乃香や夏美の死体と遭遇し。
今や裕奈はしっかりと理解していた。
どこか遠くから、父は実際にこの『ゲーム』を見ていてくれているのだ、と。
何をどうやっているのかまでは分からぬが、こうして『テレパシー』で助言を与えてくれているのだ、と。
『そこから東の草原の方に向かえば、08番の神楽坂と12番の古が居る。この2人は戦意はなさそうだね。
今すぐに合流すべきかどうか、少し悩むところだが……。
南の山の方や、今来た西の森の方には、行かない方がいい。
戦闘力と殺意を併せ持った者が何名か、動き回っている。間違っても遭遇したくはないね』
裕奈の耳元で、父の声が囁く。すぐ傍に実際にいるかのような息遣いまで感じられる。
他の参加者が知りえぬ情報の提供に、裕奈は小さく頷いて感謝の意を示す。
あやかと出会った、西の岩場。通り抜けてきた、北西の森。
すぐ近くにいた「殺し合いをするつもりの連中」に遭遇せずに済んだのは、全てこの『声』の誘導のお陰。
まき絵、楓と美砂、超、愛衣、美空。ニアミスのように近くを通りながら、ついに会わなかった好戦的な人々。
現時点では、裕奈たちに勝ち目は薄い。あやかの合気柔術も、ちょっとばかし決め手に欠ける。
ゆえに、しばらくは敵をかわしつつ、ハイエナのように死者の装備を漁って歩く。
武器と装備の充実を図りながら、達人たちが潰しあい疲れ果て、共倒れになるのを待つ。
それが裕奈の父・明石教授が授けた作戦だった。
……「使える」武器を持った死体が残されていないのは、教授にとっても計算外ではあったが。
『ちなみにその場に留まるのも、お勧めできないな。まだ慌てるほどの距離じゃないけど、西の方から……』
――ザザザッ。
それは、唐突に。
裕奈の耳元に届いていた、声無き声が、急に乱れる。
雑音。何か慌てるような気配。そして――沈黙。
「…………おとう、さん?」
何か、直感するものがあった。何か、嫌な予感があった。
唐突に途切れた『声無き声』に、裕奈は思わず叫ぶ。見えない父に向け、叫ぶ。
「お父さん!? ねえ、ちょっとお父さん、どうしたの!? 返事してよ!」
「ゆ……裕奈さん? 誰に向かって喋ってらっしゃるの? 裕奈さん!?」
裕奈のすぐ傍で、あやかは不可解そうな声を上げる。
急に立ち上がり訳の分からぬことを言い出した裕奈の顔を、心配そうに覗きこむ。
けれど裕奈には、あやかに応える余裕なんてカケラもなくて。
虚空に向けて、叫び続ける。父のことを、呼び続ける。
「お父さん! お父さんってば! ――ねえッ!」
しかし『声』は応えない。いくら待っても、返事をしない。
早乙女ハルナの死体の、すぐそばで。
やがて裕奈は、泣き始めた。状況が理解できずオロオロするあやかをヨソに、大声で泣き始めた。
「――困りますね、教授。こういうことをされると」
「……いやはや、申し開きのしようがないね、コレは」
後頭部に銃を突きつけられ、教授は細い目をさらに細めて苦笑いを浮かべる。額に伝うのは脂汗。
彼の目の前には、遠見の力の水晶球。映っているのは、教授自身の愛娘。
銃を構えたガンドルフィーニをはじめ、周囲を何人もの先生たちに取り囲まれ、教授は両手を上げる。
完全に、彼の『負け』だった。
管理サイドの人間であることを利用し、水晶球で概況を把握、『念話』を用いて娘に助言する――
教授が行っていたのは、単純ながらも実に効果的な反則であった。
志向性の高い『念話』は、魔法使いといえども脇から『盗聴』するのは実に困難。
たとえ『盗聴』に成功しても、物的な証拠が残せないため、現行犯で押さえない限り違反を証明できない。
教授の『ルール破り』は、誰にも見抜けず追求できないはず、だったのだが。
「『上』の方が一段落しテ、手伝いに来てみたラ……変な『念話』を傍受したカラ……」
「……そうか、ココネ君か。君は居ないとばかり思っていたからね。これは僕が迂闊だったなぁ」
修道女シャークティと、その陰に半分隠れ服の裾を掴む幼い魔法生徒。
美空の相棒・ココネ。
『魔法使い』としてはまだまだ未熟だが、しかし『念話』については誰にも負けない才能を誇る。
魔法先生の多くが『ゲーム』に掛かりきりになる間、シャークティと共に学園を守る任についていたはずだが。
考えてみれば、この『ゲーム』には麻帆良学園の命運がかかっている。
彼女たちが気になるのも、当然のことだった。休憩のついでに覗きに来たくもなるだろう。
「申し訳ありませんが、『バトルロワイヤル』終了まで、教授には『牢』の方に移ってもらいます」
「……こうなってしまった以上、仕方ないだろうね」
「シスター・シャークティ、休憩中のところすいませんが、教授の仕事を引き継いでもらえます?
ああ、くれぐれも美空君に『念話』で助言するような真似は、しないように」
「分かっています。ここで倒れたら、あの子もそれまでの存在だったということですから」
両脇を刀子とサングラスの教師に固められ、教授は部屋から連行される。
このまま彼は、地下30階にある『魔法封じの牢屋』に監禁されることになるのだろう。
彼が部屋を出るその時に、ガンドルフィーニが小さく呟く。
「……私も娘の居る身ですから、教授の気持ちも分からなくもないですが――
せめて、娘さんを助けたいなら、方法を考えて頂きたかった。
例えば『仮契約』を結びアーティファクトや魔力を与えただけなら、何の問題もなかったのですよ」
ネギの仲間や美空がそうであるように、従者側の仮契約カードは残す約束になった今回の大会。
ガンドルフィーニの指摘の通り、ルールに反しない支援方法は、あったはずなのだが。
「不幸にも、裕奈と会う時間さえ作れなかったからね。ここのところ忙しくてさ。それに……」
そして、教授は笑った。
いつも穏やかに笑う彼には珍しい、今にも泣き出しそうな笑顔で、ガンドルフィーニに笑いかけた。
「父親が年頃の娘のファーストキスを奪ってしまっては、流石に悪いだろう?
……今思えば、そんな気遣いなどしている場合ではなかったのだけれど……ね」
【教師サイド 明石教授 脱落】
【残り 19名】
36 《 火蜥蜴 (サラマンダー) 》
「――うふふ」
佐倉愛衣(出席番号34番)は、森の中を彷徨う。
表情のまったくない顔。見るものを不安に誘うような、感情のない空虚な顔。
ただ、口だけで笑っている。口だけで笑いながら、フワフワと、雲の上を歩くような足取りで彷徨う。
「うふふ。あはは。ふぁいあー。あははは」
彼女が適当に振り回した箒の先から、炎の弾が飛び出す。
目標も何もない、無詠唱『魔法の射手・炎の1矢』。ヘロヘロと飛び出し、ポトリと落ちる。
チロチロと落ち葉が燃え出し、ゆっくりと燃え広がっていく。
「あはは。みんな燃えちゃえ。あはは」
既にこの調子で、森のあちこちに火を放っていた愛衣。遠くでは本格的な山火事が広がりつつある。
下手すれば彼女自身、煙に巻かれ命を落としかねないのだが、そんなことお構い無しに。
彼女は歩く。目的もなく歩く。無意味に炎を放ち、森を焼きながら歩く。
佐倉愛衣は、完全に壊れていた。
いきなり桜咲刹那(出席番号15番)に襲われ、高音・D・グッドマン(出席番号33番)の死を伝えられ。
シスター・シャークティの配下の『謎のシスター』(そういえば本名は何だっけ?)を焼き殺し。
……いや、『謎のシスター』は実際には一命を取りとめていたわけだが、愛衣にはそれを知る術はなく。
取り返しのつかない状況に、なってしまっていた。
彼女自身、正気を取り戻すわけには行かない状態に追い込まれてしまって……
無意識の欺瞞、無意識の防衛本能が、彼女に「壊れたまま」でいることを選択させていた。
夕映の放った火による、南東本棚地帯の火災。
それに数倍する規模の、愛衣による北西森林地帯の火災。
おそらくどちらの煙も、やがて島のどこからでも見える規模になるだろう。
その煙を見て、近づくか逃げるかは、個人ごとの判断だろうが……。
「――無惨だな」
と、唐突に。
そんな愛衣の背後から、声がかけられる。虚ろな顔のまま、愛衣はゆっくりと振り向く。
――うっすら煙の漂う森の中に、金髪の小柄な少女が、立っていた。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出席番号26番)。
苛立たしさを隠そうともせず、腕を組んだまま、愛衣を睨みつけていた。
「なんだ、そのザマは。貴様も未熟とはいえ、『魔法使い』の端くれだろうに」
「……うふふ?」
「『魔法』とは、『世界の理(ことわり)』に直接関わり、支配する術と技なのだ。貴様は、それを……」
「うふふ。メイプル・ネイプル・アラモード。目覚め現れよ燃え出る火蜥蜴……」
エヴァの苛立たしげな声に何も動じることなく、愛衣は無表情なまま呪文を唱え始める。
対するエヴァは、魔力も何もない状態だというのに、全く動じることなく、歩みを進める。
懐に手を入れつつ、手の内に紫色の炎を宿す愛衣に、無造作に近づいていく。
「貴様はもう『魔法使い』とは呼べん。貴様のようなのを、『魔法』に『使われる』身に堕ちる、と言うんだ。
――なるほど、炎使いなら火蜥蜴(サラマンダー)に魂を喰われるのも分からんではないがな。
大人しい気性がかえって災いし、破壊衝動を制しきれなくなったか」
「火を以ってして敵を覆わん……『紫炎の捕らえ手(カプトゥス・フランメウス)』!」
勝手に納得するエヴァに対し、容赦なく放たれる魔法。かなり強力な捕縛用の魔法。
渦を巻きながら迫る紫色の炎の帯に対し、エヴァはしかし悠々と数枚の札を取り出して……
魔法が、掻き消える。エヴァの手にした『対西洋魔術』『守護』などと書かれた護符が、燃え上がる。
「!?」
「――私の支給品として渡された、東洋の呪符使いの護符だ。
単発使い捨てなのが難点だが、いくつかの系統の魔法に対しては、この上ない防御手段となる。
バカみたいに真正面から撃ってこなければ、あるいは分からなかったが」
堂々と真正面から歩みを進めたエヴァは、いつしか手を伸ばせば触れられる程の距離に近づいていて。
ハッと気付いた愛衣は、すぐさま箒を突き出し次の呪文の準備に入るが――遅い。
無詠唱『魔法の射手』が完成するよりも早く、愛衣の身体が宙を舞う。
いつ触れられたのかすら分からぬほどの、切れ味鋭い合気柔術の投げ技。
無様にバランスを崩して地面を這った愛衣の背に、素早く膝をついたエヴァは一本指を立てて――
――それだけで、愛衣は動けなくなってしまった。
激痛が、愛衣の意識を支配する。呪文のための精神集中も、全くできない。無詠唱呪文さえも放てない。
エヴァンジェリンがその長き生の中で、あえて『合気柔術』という武術を選んで習得したのには、訳がある。
1つには、体格や腕力を重視しないその技術体系。
10歳で不死となったエヴァは、どうしても体格面で不利がある。腕力も、魔力なしでは非常に低い。
しかし数ある格闘技の中でも、合気柔術はさほど体格や腕力を重視していない。
相手の力を利用し、受け流してしまうことを目的として、技術全体が構築されているのだ
そしてもう1つ、決定的な決め手となったのは――『痛み』でもって敵を制する技の数々。
元々合気柔術は、素手でもって刀持つ敵を制するために作られた闘技である。
腕への関節技や、『激痛の走るツボ』へのピンポイント指圧。それらの痛みでもって刀を取り落とさせる。
この『痛み』を与える、というのが、対『魔法使い』格闘術としては実に都合がいい。
呪文詠唱中にデコピン1発当てられただけで精神集中が乱されてしまうのが『魔法使い』。
サムライすら刀を取り落とす痛みの中で、『魔法』など使えるハズがない。
さらには打撃技と違い、関節技やツボの圧迫は魔法障壁では防げない。相手を掴めば、それで終る。
これだけのことを考え、長い時間をかけ技術を磨いてきたエヴァに対し――
やはり、佐倉愛衣は、未熟なのだった。
魔法の技術を磨き、数多くの攻撃魔法を覚えていても、その『使い方』をほとんど考えていない。
修行したのは『魔法』だけで、他に何をどう学べばその『魔法』をより活かせるのか、考えていない。
……まあ、元々戦いには向かぬ性格だった愛衣に、そこまで要求するのは酷なのかもしれないが。
「――立て」
「ぐ……ぎひっ」
愛衣の抵抗力を奪ったエヴァは、痛みに苦しむ愛衣の隙を突いて、制し方を変える。
背中のツボを指圧していた手を離し、すぐさま今度は愛衣の右手中指を捻り上げる。
指1本握っているだけなのに、ちょっと捻っただけで手首から肘、肩までの関節が全て極められて。
激痛の中、愛衣の身体は操り人形のように起き上がらせされる。
完全に、エヴァが愛衣をコントロールしている状態。
「貴様のように私の命を狙ってきた相手なら、遠慮する理由は何もないのでな。殺してやるよ」
かつて、南海の孤島に居を構え、人形たちだけを身近に置いて暮らしていたエヴァンジェリン。
訪れる客と言えば、賞金首の命を、『悪の吸血鬼』の命を狙う者ばかり。
そのことごとくを返り討ちにしてきた彼女は、1つの信念を持っていた。
他人の命を狙う以上、その襲撃者自身も、戦いで命を落とす覚悟を持つ必要がある。
それでこそ、フェアというものだ。そう信じるからこそ、エヴァも遠慮なく敵を殺せる。
もしもそれだけの覚悟無しに他者の命を狙った馬鹿者が居たなら……それはそれで、万死に値する。
この場合でもやはり、エヴァは何も気に病むものはない。何にも恥じるものはない。
「貴様自身には何の興味もないし、我が眷属に加えてやるつもりもさらさらないが……
その、高い魔力を宿した処女の血だけは、この状況下では魅力的だな。
吸い尽くしてやる。死後、我が血族として蘇ることすら出来ぬほどに、徹底的にな」
そしてエヴァはニヤリと邪悪に笑い、その赤い口を大きく開けると。
関節技の痛みに動けずにいる、愛衣の首元に――!
【出席番号34番 佐倉愛衣 エヴァンジェリンに血を吸い尽くされ 死亡】
【残り 18名】
今夜はここまで。
明日の朝も投下できるかどうかちょっと微妙……。投下できるなら、今朝同様、普通に投下できるんですが。
そろそろ次スレが必要でしょうか。容量的に。
ゆえ吉…… orz
サラマンダーワロタw 確かに殺せてねぇw
次スレ立てちゃっていいかな? テンプレは
>>271を使用?
サラマンダー禿ワロタwww
座布団送りつけたいわwww
教授ー!
サラマンダーの笑い所が分からん。誰か解説ヨロ
こっちに書くと中途半端な所で埋まる恐れがあるので、新スレに続きを投下します。
こちらは雑談でもして埋めてもらえると有難いです。
>>519さん、お疲れ様です。
>>521 サラマンダーはロワ用語で【積極的に殺して回ることを選んだのに、何だかんだで誰一人殺せてない可哀想な子】みたいな意味
ラノベロワにいた八戦四敗一分け三逃げられ(戦績うろ覚え)の奴がいい例かな
埋めようぜ………
投下早すぎて言えなかった感想でも。
美砂楓、千鶴真名、と意外な組み合わせ多いな
誰だ戦闘ダメだなんて言ったのは
現時点で戦闘の描写は巧いとは言い難い。
支給品の使い方等は良いと思う・・・
そういう意味でも変化球な書き手だな
描写をアイデアでカバーっつー
作者1のようにいろんなアイディアや大量のストーリー(分岐シナリオ)で描くタイプや
作者6や司書のように文章力で描くタイプ(オリジナルキャラの点を省くと5や10も入るか?)とか考えると
作者13はペアの首輪とか取り入れたことのないことをした作者3タイプに近いかな?
なんせ魔法使い放題だもんなぁ
まあ、定番の気・魔法封印やると、どういう役回りにせよ龍宮の1人勝ちになるからそこはいい。
スレ埋め立てに救世主が!!
⌒●__●⌒
ヽ|・∀・|ノ クーフェイマン!
|__|
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⌒●_●⌒
フ |・∀・|ノ よい
./|__┐
/ 銚子
""""""""""""""
⌒●__●⌒
((ヽ|・∀・|ノ しょっと
|__| ))
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銚子
"""""""""""""""""
封印してもしなくても概ね後半までは超の1人勝ち・・・
もしかして早々に超死亡させるのは萎えなんだろうか……
超展開になるのは間違いない
誰がうまい事言えとw
>>526-528 投下中に作者本人が出てくるべきかどうか、迷いはしたのですが。
ぶっちゃけ、自分、ガンアクションが書けません。
走り回って遮蔽物の陰からガンガン銃撃ち合って弾ばら撒いて、という戦いは書けません。
書けないというより……「分からない」んです。作者としての立場に限らず、読者としても、視聴者としても。
「面白さのツボ」が分からない。魅力が理解できない。
だからハリウッドばりのアクションシーンは、ちょっと自分には書けません。
サブマシンガンの類を支給せずに済ませたのも、その辺が一番の理由です。
ただまぁ、そんな自分でも別の分野で十分に「戦える」、と踏んでのバトロワ執筆です。
戦闘というものはソレだけじゃぁないだろう、と信じての挑戦です。
自分の目指す方向性においても、まだまだ技術的に修行が必要だとの自覚もありますが……
ある意味、小説「バトルロワイアル」好きの人には根本的に合わない(原作では銃撃戦メインですもんねぇ)かもしれません。
いいと思うよ
俺も銃撃戦苦手だからそれまでの流れに重きを置こうかと思ってるし
そして原作ロワの魅力は銃撃戦よりもキャラ萌(ry
まとめサイト死亡中につきとりあえずしばらく保守
原作も戦闘描写は(笑)だからな
ぱららら、のたんびに脱力したもんだ。
戦闘にケチつけてる人は、どんなものを望んでたんだろう。
まあ作者13氏は投げっ放しが多かったが
支給品とかの細かい設定には感心するけどもあまりにも淡白に人が死んでくのがちょっと
攻撃を受けた・・・死亡じゃ味気無い
もう少し細かく戦闘中の&戦闘後の描写を書いて欲しい
それとストーリーに山場がない。
一直線に進んでいってその調子で終わる・・・物足りなく感じてしまうかな・・・
でも意欲作で中々良かったと思います。投下ペースも早くサクサク読める感じがGood!!
物足りないのは投下ペースが速かった点も一つかもね。
でもスーパーすずねとかアイディアはいいし、自分は
淡白さが逆にこの作品の特徴としてみてる。つまりGJ
明らかにアンチ付いてるね。
ああいう叩き方すると他の職人も付かなくなるってのに……
ウザイことは確かだが相手にするな
あのレベルのアンチ、ロワスレには付き物だ
フラグとかそういう観点で読んでる人が想像以上に多くてびっくりした
面白かったよ
斬新でよかった
うめ
うめついでにパルは俺の嫁
んじゃ桜子たんは俺のな
どう足掻こうが美空は俺の嫁
空気嫁w
あと何レスできるん?
容量が500kb突破するまで。
だから「あ」だけでやればあっというまだし、長文やればすぐ終わる。
すまん、逆だ、「あ」だけならまだだいぶ持つ。
558 :
今何k?:2006/09/28(木) 04:41:27 ID:???
test
専ブラなら専ブラによって表示位置が違うが、IEなら書き込みのちょい上、
496 KB [ 2ちゃんねる 3億PV/日をささえる レンタルサーバー \877/2TB/100Mbps]
の最初の496KBの部分
thx
火狐の2ch拡張だと表示されないので
ありがとう
562 :
マロン名無しさん:2006/09/30(土) 17:28:52 ID:64yOdijY
〜刹那〜
刹那はストーカーにあっていた。
「くっ・・・一体誰がこんな事・・・」
そこにはいつの間にか隠し撮りされた写真が並べてあり、中には恥ずかしい写真も交じっている。
その恥ずかしい写真欲しい
〜刹那〜
刹那は犯人を探すことにした
「私に恨みがある人は・・・」
???
「刹那・・・可愛いよ
(;´Д`)ハァハァ」
565 :
マロン名無しさん:2006/10/03(火) 01:07:39 ID:Y+LCDF5x
うめ
過去スレより。これで埋まるはず
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思ったよりこれ容量軽かったorz
意外と1kbってあるのねorz
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