v――.、
/ ! \
/ ,イ ヽ
/ _,,,ノ !)ノリハ i
i jr三ミ__r;三ミ_ ヽ
l ,iヾ二ノ ヽ二 ハ ノ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ、.l ,.r、_,っ、 !_, <
>>1 糞スレ立てんな、蛆虫、氏ね。
! rrrrrrrァi! L. \______________
ゝ、^'ー=~''"' ;,∧入
,r‐‐'"/ >、__,r‐ツ./ ヽ_
/ / i" i, ..: / / ヽ-、
./ ヽ> l / i \
新スレ移行一発目の投下と相成りました。
出席番号についてはマジで全力をとして修正に当たります。
今後の投下では恐らくなくすことが出来ると思われます。
それではどうぞ。
32.見えざる敵
4人はまだ森の中にいた。
先頭に桜咲刹那(番号15番)が立ち、後ろを龍宮真名(番号18番)が見張る。
その間に近衛木乃香(番号13番)と宮崎のどか(番号27番)がいる。
刹那は左手に日本刀を持ち、いつでも右手で抜けるようにしていた。
後衛の龍宮も、その手に銃をにぎり、あたりに気を配る。
視界の自由に利かない森の中では不意の遭遇もありうる。
そういうときにとっさに対応できるように、二人はいつでも戦える準備がしてあった。
「せっちゃん、大丈夫?」
木乃香が、前でずっと気を張りっぱなしの刹那に心配そうにたずねた。
刹那が振り向き、笑顔をおくる。
「大丈夫ですよ、お嬢様。」
「でも、さっきからずっと緊張しっぱなしやし……」
「森を抜けたら休憩しましょう。それまでは大丈夫です。」
それだけ言うと、刹那は再び前を見た。
そんな二人のやり取りを見て、のどかが後ろを振り向いた。
「あの……龍宮さんも、大丈夫ですか?」
「お心遣い感謝する。」
刹那のついでという感じで心配された龍宮は、後ろを警戒したまま、短く言った。
それからしばらく歩いたころ。
刹那が立ち止まり、手を出して後ろの三人も止めた。
「せっちゃん?」
「刹那?」
刹那のすぐ後ろにいた木乃香と、異変を感じた龍宮がいった。
しかし刹那はそれには答えず、じっと前を見ていた。
(気のせいか……?)
そう思った瞬間、刹那は目を見開いた。
と同時に刀に手をかけ、勢い良く引き抜いた。
刹那がそのまま刀を振り上げると、その刀身が何かをとらえた。
刃先からすさまじい衝撃が伝わるとともに、刀から火花が散り、甲高い金属音が響く。
「きゃっ!」
「何!?」
龍宮が慌てて前を見た。他の二人はその場にしゃがみこんだ。
刹那は刀を構えなおす。
「フッ!」
再び刹那が刀を振った。
同時に再び刀から火花が散る。
刹那だけじゃなく、他の誰もがその時理解した。
自分たちは銃撃を受けている。
「お嬢様たちを!」
刹那が龍宮に叫ぶように言った。
龍宮はその場にしゃがみこんでいる二人を立ち上がらせると、近くの大き目の木の影へ追いやる。
龍宮もそこに隠れた。
刹那はもう一発放たれた弾丸を何とかはじくと、反対側にある木に隠れた。
「せっちゃん!」
「大丈夫です、お嬢様!」
刹那が木乃香へ返事を返すとともに、銃弾が刹那の隠れている木を掠めた。
とっさに刹那は身を隠す。
「くそっ、どこからだ!?」
龍宮は木から少しだけ身を出すと、自分たちの前方に向けておよそで銃を撃った。
しかしどれも当たった様子はなく、弾丸は容赦なく襲い掛かってくる。
「くっ!」
龍宮が木の影に隠れる。
「おそらくスナイパーライフルだ!肉眼じゃ確認できない位置にいる!」
対面にいる刹那に言った。
刹那は自分の隠れている木を見る。
先ほど銃弾が掠めて木肌に傷がついている。
斜めに一本の線が彫られていた。
「傷の形からして、相手は前方上部から撃ち下ろしている……か。」
「どうする刹那?このままじゃジリ貧だぞ。」
ここは一旦逃げるか?という龍宮に向けて、刹那が聞いた。
「龍宮、相手の狙撃場所、およそでも良い、位置はわかるか?」
「お前の木についた傷と、地形を考えると……おそらくは前方の山の中腹あたりか。絶好の撃ち下ろしポジションだ。」
龍宮が歯噛みしながらそう言うのを聞き、刹那は一度木から顔を出して前を確認する。
自分たちからそう遠くない距離に、目指していたふもとの村があり、その更に奥に、そう大きくない山がそびえ立っていた。
刹那は少しの間何かを考えるように黙り込んだ。そして顔を上げ、龍宮を見る。
「龍宮、お前が山に登って敵を見つけてきてくれ。お前ならスナイパーが隠れてそうな場所もわかるだろう?」
「な、お前はどうする!?」
「私が囮になって引き付ける。」
「正気か!?」
「それしか方法がない。頼む!」
「……」
刹那が言ったあと、少しの間両者声を出さなかった。
黙ってお互いの目を見ていた。
そして龍宮のため息。
「わかった。できるだけ早く戻ってくる。」
そう言って龍宮は森の奥へと歩いていく。
敵に見つからないように身をかがめて、草木を揺らさないように進んでいった。
「お嬢様たちも行ってください。」
次に刹那は、木乃香とのどかを見て言った。
木乃香が驚いた表情を見せる。
「ここは私一人で大丈夫です。」
「で、でも!」
「龍宮と一緒に行って、待っていてください。すぐに私も行きます。」
有無を言わさぬ刹那の言葉に、木乃香は黙り込んでしまう。
「このかさん……」
のどかが木乃香の肩に手を置く。
木乃香が振り向き、のどかを見た。
そして、何も言わずに立ち上がると、二人で龍宮を追った。
「よし……」
三人が無事に離れたことを確認すると、刹那は刀を自分の目の前に持ってきた。
今でも銃撃は続いている。弾丸が木の皮を抉り取ってきていた。
「3……2……1っ!」
刹那はそう言うと突然飛び出し、おそらくはそこにいるであろうスナイパーに身をさらした。
そしてすぐに刀を振って、飛んでくる弾丸をはじき落とした。
「頼むぞ、龍宮!」
刹那が言ってすぐ、再び弾丸が刹那を襲った。
33.想定外
龍宮たち三人は森を抜け、山のふもとにある小さな村に着いた。
小さな家と、畑以外は特に何もない寂れた村だった。
三人は狙撃手に気づかれないよう、すぐさま近くの民家の陰に隠れた。
龍宮が少しだけ顔を出して山の方を見る。
向こうからの攻撃はない。どうやら気づかれてはいないようだった。
龍宮は小さく安堵のため息を吐くと、横にいる二人へ向き直る。
「お前たちはここにいろ、ここから先は私独りで行く。」
そう龍宮が言うと、のどかはうなずいた。木乃香は黙ってうつむいたままだった。
刹那のことが気がかりなのだろう。龍宮には声をかけることもできなかった。
その時、遠くから銃声が聞こえる。
三人は同時に音のした方を向いた。
音は、山の中腹辺りから聞こえてきたように見えた。
さすがにこれぐらい近くにまで来れば、銃声も聞こえるようになっている。
やはりあの山の中で間違いはないらしい。
そして銃声は散発的にいくつも響いていた。
おそらくは刹那が時間稼ぎをしてくれているんだろう。
銃声が聞こえる間は、変な話だが刹那は無事ということだ。
ただいつまでも無事であるわけではない。できるだけ早急に敵を見つけ出さなければならない。
龍宮は森の先にある山への入り口を見た。
「のどか……龍宮さん……」
不意に木乃香が口を開いた。二人が木乃香の方を向く。
「ウチ……やっぱりせっちゃんが心配や……」
「何?おい、近衛――」
龍宮が続けようとするより早く、木乃香は走り出した。
今さっき自分たちがやってきた方へと引き返していく。
「待て!」
龍宮が止めても木乃香は聞かず、森の中へと戻っていった。
木々の間を走りぬけ、すぐに見えなくなった。
龍宮はもはや誰も居ないところを見て舌打ちをする。
その後ろで、のどかも驚いた様子でそちらを見ていた。
「このかさん……」
森の奥へと消えていった木乃香をじっと見つめていた。
その後、のどかは何かを考えるかのようにうつむき、
何かを決意したかのようにうなずいた。
龍宮の後ろで、のどかが立ち上がった。
「宮崎!」
「私が……連れ戻してきます!」
そしてのどかもが、森の中へ走っていった。
「待て宮崎!お前だけでもここに残れ!!行ったところで無駄だ!!」
のどかには龍宮の制止が聞こえていたが、聞こえないフリをして走り出した。
その姿も、木乃香と同様にすぐに見えなくなった。
「……っくそ!」
龍宮は悪態を一度ついて、木乃香たちは追わず、山へと走り出した。
34.狙撃手vs剣士・ガンマン
「はぁ!」
刀が風を切り、その過程で銃弾を両断する。
刹那は全神経を目の前に集中させる。
「フッ!」
再び刹那が刀を振った。
金属音とともに、手にすさまじい衝撃。刀には火花。
刹那は身を翻して走り出すと、すぐ近くの木の陰に隠れた。
それでも銃弾は休まずに飛んできて、隠れている木の枝を弾き飛ばした。
思わず身をすくめ、弾丸から身を守る。
もう結構な時間、こうして見えない敵相手に時間稼ぎをしていた。
不規則なリズムで飛んでくるライフルの弾丸。
それを研ぎ澄ました感覚とわずかな音のみを頼りによけ、弾き、時間を稼ぐというのは容易なことではない。
このまま長引けば、間違いなくいつかは防ぎきれなくなる時が来る。
「龍宮……急いでくれないとあまり持たないぞ……」
自分の命を預けた相手へ、刹那は呟いた。
この島ではそう高い方ではない山の中腹。
舗装された道から少しはなれたところに、そこはある。
木々がうっそうと茂る空間から、細長い木の筒が飛び出ていた。
筒の先はその目下に広がる森へと向けられている。
そして反対側は茂みへと伸びていき、その先にしゃがむ一人の人間がそれを握っていた。
筒の下に取り付けられたトリガーに指をかけ、上に取り付けられたスコープをじっと見つめている。
「ふふふ……いいぞ、いい気味だ……」
スコープからみえる景色には、刹那が映っていた。
丸い視界の中心にある十字を、逃げ惑う刹那にあわせる。
引き金を、迷わず引いた。
甲高い発砲音とともに、刹那が刀を振った。
刹那の目の前が一瞬はじけて消える。
彼女にはケガ一つない。それこそ元気良く走り出して、近くの木に身を隠した。
「なかなかしぶといじゃないか……」
右手をグリップから離し、ボルトを引きながら瀬留彦が言った。
空薬莢が銃身から弾き出され、次弾が装てんされる。
再び瀬留彦がスコープを覗き込む。
「しかしいつまで持つかな?」
下卑た笑みを浮かべながら、瀬留彦は言った。
刹那はもう何発目になるかわからない銃弾を弾き、
再度近くの物陰に滑り込んだ。
「刀が……」
目の前に、唯一の武器である刀を持ってくる。
刀身の一部一部が刃こぼれをおこしている。
折れず、曲がらずと言われている日本刀だが、ライフルの弾丸を何発も切り続ければこうなるのは当然。
いよいよ時間がなくなってきた。
「くそっ……」
それでも刹那は逃げるわけには行かない。
龍宮が狙撃手を見つけるまで時間稼ぎをしなければならないのだ。
こうして自分が身をさらし、銃弾を受け続ければ龍宮は必ず見つけてくれる。
そう信じていた。
刹那は一度目をつぶり、精神を集中させる。
すぐ近くをライフル弾が通過するのを確認した後、物陰から飛び出した。
と同時に、銃声がやんだ。
「……?」
かすかに聞こえていた銃声が、今では完全に聞こえなくなった。
銃弾も飛んでこない。
突然、森に静寂が訪れた。
刹那は刀を構えたまま、注意は前に向けたまま、ゆっくりと前進しだした。
気を張り詰めたまま、一歩一歩、前進していく。
銃声は聞こえない。龍宮がしとめてくれたのか?
だがまだ油断はできなかった。
気を張り詰め、その足を一歩、前に踏み出したとき。
まるで狙ったかのように、再び銃声が響いた。
「!?っ」
とっさに刹那は身構えるが、銃弾は彼女のところへ飛んではこなかった。
銃弾は刹那のはるか横、一見何もない茂みへと飛んでいく。
刹那が怪訝そうな表情でそこを見たと同時に、
「きゃっ!」
聞き覚えのある、ありすぎる声が聞こえた。
刹那の表情が変わった。
まさか、という考えが頭に浮かぶ。
「お嬢――」
叫び、走り出そうとしたら、突然足から力が抜け、その場に倒れた。
驚いて自分の足を見ると、左足の膝あたりを銃弾が掠めていた。
少し遅れて、足に激痛が走る。
「しまったっ……」
その瞬間、再び銃声が聞こえる。
「くそっ!!」
刹那は体勢の優れない状態のまま、刀を振った。
刀は銃弾を捉えたが、“切る”というより“当てる”に近いぶつかり方に、
刹那の手にはさっきまでとは比べ物にならない衝撃が襲い掛かった。
刀は刹那の意に反して、彼女の手から離れていった。
空中で何回か回転し、刀は刹那の遥か後方の地面に突き刺さった。
「ははははは!やったぞ!」
スコープ越しに丸腰になった刹那を見て、瀬留彦は勝利を確信した。
最後の止めを刺すため、ボルトを引いて標準をあわせる。
「さようなら。桜咲刹那くん」
瀬留彦は笑みを浮かべたまま、引き金を絞る指に力を込めた。
「そこまでだ。」
チャキ、という小気味よい音とともに、後頭部に冷たい感触。
瀬留彦の動きが止まった。
身体は動かさず、首だけを後ろに回す。
自分のすぐ後ろで、龍宮がこちらに銃を向けていた。
「君……か……。」
「それはこっちの台詞ですよ、瀬留彦先生?」
皮肉のつもりか、丁寧な口調で言ってのけた。
対する瀬留彦の表情は変わらない。
自分を見下ろす龍宮を、ただ黙って見上げていた。
「どんな気分ですか?麻帆良を裏切り、その相手にも裏切られた気分は?」
「……弁明をするつもりはないよ。」
「聞くつもりもありません。」
そう言うと龍宮はハンマーを起こした。
龍宮の目に、同情や憐れみといった感情はない。
そこに、自分の助かる余地はないことを瀬留彦は悟った。
そしてだからこそ、瀬留彦は最後まで冷静でいることができた。
(結局はこうなったか……)
先ほどの高ぶった感情はすでに消え去っていた。
しかしそれでも内に秘めた残虐な心はいまだ瀬留彦を動かす。
「ただ死ぬというのなら、僕も最後の仕上げだけはしておこう。」
最後に瀬留彦がそう言うと同時に、龍宮は引き金を引いた。
銃声が一度だけ響き、
瀬留彦は眉間に穴を開けて倒れた。
そしてもう、動き出すことはなかった。
「馬鹿なことを……」
龍宮は自分の足元で倒れる瀬留彦の死体を見て言った。
それは龍宮から瀬留彦への、素直な感想だった。
目の前で倒れている、哀れな男への最初で最後の手向けだった。
もうここには用はない。
龍宮は瀬留彦に背を向けると、そのまま来た道を歩き出す。
出そうとした。
龍宮の足は、動かずその場で止まっていた。
「最後の仕上げ……?」
眉をひそめながら、龍宮はさきほど瀬留彦が最後に行った言葉を繰り返した。
後ろを振り向く。瀬留彦の死体と、ライフル、デイパックしかそこにはない。
龍宮は早足で戻っていくと、倒れている瀬留彦を見た。
正確には、その右手の延びる先。そこを凝視する。
瀬留彦の人差し指はトリガーにかかっていて、それが完全に引ききっていた。
「まさか……」
嫌な予感がする。
龍宮は瀬留彦から無理やりライフルを奪い取ると、スコープを覗き込んで刹那を探した。
しばらく森を見渡し、ある一点で止める。
その体勢でじっと何かを見ていた龍宮は、突然ライフルをほうり捨てると、
いきなり駆け出してもと来た道を戻った。
35.無力
「……」
信じられない光景だった。
信じたくない光景だった。
何が起こったのか、よくわからない。
わかりたくもなかった。
いや、違う。
わかっている。全てわかっていた。
何が起こって、目の前の状況がどういうことか、全てわかっている。
「嘘や……」
ただ、さっきも言ったように信じたくないから、必死に頭が否定していた。
こんなこと、あるはずがないと。
しかし右足から走る激痛が、これが現実であることを如実に語っている。
だから、立ち尽くすわけにも行かず。
「お嬢様あぁぁぁ!!」
刹那は目の前で倒れている木乃香を抱き起こした。
「お嬢様、お嬢様!」
祈るように、狂ったように名前を呼び続ける。
「……あ、せっちゃん…」
薄目を開けた木乃香が返事を返した。
うつろな瞳が、目の前にいる刹那を映す。
「しっかりしてください!……お嬢様!!」
それはとっさの出来事だった。
足を撃たれ、刀も弾かれた刹那は身を守る術が何一つなかった。
なんとか立ち上がることはできても、それだけで精一杯で動くことなんてできない。
前方遠くから聞こえた銃声に、刹那は死を覚悟していた。
(ここまでか……)
ゆっくりと目を閉じて、そして。
突然、突き飛ばされるような感覚があった。
その後、体がバランスを崩して。
背中が地面に叩きつけられるような感触があり、刹那は再び目を開けた。
すると、目の前に木乃香が倒れていた。
刹那が木乃香の体を見る。
ちょうど胸の中心あたりに、大きな穴が一つ。
そこから赤い血が流れ出てきていた。
木乃香の口からも血があふれだし、口元から滴り落ちていた。
「せっちゃん……無事やった?」
木乃香が言う。
刹那は声を出すことができず、それでもなんとか縦に首を振って答えた。
「よかった……ウチでも、せっちゃんの役に立てた……」
「お嬢様…」
そう言ってすぐ、木乃香が咳き込む。
吐く息に混じって赤い霧が飛んだ。
刹那の服にそれがつくが、刹那は全く気にしない。
そんな余裕はどこにもない。
「お嬢様!!」
「ハハ……もう、あかんかも……何も見えへん……」
「そんな……しっかりしてください!お願いだからっ!」
木乃香の手が、中空を泳ぐ。
それを刹那はしっかりと握り締めた。
「せっちゃんの手ぇ……暖かいなぁ……」
「お嬢様……」
木乃香は笑っていた。
「お嬢様?」
ずっと笑っていた。
「…………」
いつまでも、ずっと。
木乃香の時は、そこで止まった。
「返事を……して下さい……」
刹那の体が震えた。
雫が、木乃香の頬に落ちる。
「ああああああああああああ!!!!!」
のどかは、その様子を遠巻きからじっと見ていた。
見ていることしかできなかった。
刹那を助けるために飛び出す木乃香。
体が弾け、その場に倒れた。
刹那が抱き起こし、必死に名前を呼んで。
それでも、その悲痛な願いは叶うことはなかった。
彼女は今、眠っている。
大好きな親友の腕の中で、とても気持ちよさそうに眠っている。
もう、おきることもない。
なぜだろう。涙が出てこない。
初めての状況で、感覚が麻痺してしまったのだろうか。
悲しいはずなのに、つらいはずなのに。
確かに今、胸は苦しい。なのに……。
ふと、足音が後ろから聞こえる。
振り向くと、龍宮がそこにいた。
自分と同じように、立ち尽くしてその様子を見ていた。
ただ、彼女はただずっとそのままでいはしなかった。
「くっ……」
うなるような声を出して、龍宮は刹那のもとへと歩み寄った。
「立て、刹那。」
開口一番、そう言った。
刹那は動かない。
「スナイパーは、瀬留彦は倒した。私が殺した。もうここに用はない。移動するぞ!」
「……」
「ここにいても最早何もない!仲間を集めるために、生き残るために立て!」
「……」
何を呟いても一切反応しない、魂の抜け殻のような刹那。
そこに、今までの彼女の面影はどこにもなかった。
それでも龍宮は無理やりその腕を引っ張り、立ち上がらせようとする。
「こんなところで立ち止まっても近衛は帰ってこない!そんなことはあいつも望んじゃいないぞ!!」
「……っ。」
刹那の口が、少しだけ動いた。
龍宮が刹那の顔を覗き込む。
「……てる…。」
「?」
龍宮がいぶかしんで、
「ああああああああああああああああああ!!!」
突然、刹那が立ち上がった。
龍宮の襟元を乱暴につかむと、近くの木へ押し付けた。
涙があふれる目で、龍宮をにらみつけた。
「わかってるっ!!」
「……」
「全部、わかってる!こんなことをしていても何もならないこと!
そんなことお嬢様も誰も望んじゃいないこと!全部わかってる!!……でもっ……だけどっ!どうしようもないんだ!
いくら前をみようとしても、たって歩こうとしてもっ!!」
襟をつかむ手に、一層力がこもった。
「涙が止まってくれないんだよぉ!!!」
その叫びの後、森に風が吹いた。
風は優しく4人の間を通り、命を失った少女を弔うように吹き抜けた。
刹那の腕から力が抜ける。
龍宮をつかんでいた両手をだらりと下げると、膝を突いてその場に座り込んだ。
低い声で泣きじゃくる。
「うっ……く……このちゃん……エグッ……」
龍宮が顔をしかめる。
刹那の中で、木乃香がどれだけ大きな部分を占めていたか、それを実感した。
そしてそれを守れなかったとなれば、その悲しみは一体どれほどのものか。
わかるはずもなかった。それは、誰よりも木乃香を想い、彼女を守ることに全てを捧げてきた刹那にしかわからない。
その刹那に、今龍宮がかけてやる言葉なんて本当はあるはずがないのだ。
しかし、それでも言うしかない。
生き残らなければならない。そのためには、こんなところで立ち止まるわけには行かない。
「刹――」
「龍宮さん!」
不意に、刹那ではない人物の声が聞こえる。
振り向くと、のどかがこちらを見ていた。
龍宮と目があうと、のどかは黙って首を横に振った。
「……」
すこし考えて、龍宮が刹那の方を向く。
「……この先の村で待ってる。」
それだけ言って、龍宮は歩き出した。
のどかも、黙ってそれに続いた。
刹那は、その間ただじっとうつむいたままだった。
二人は森を抜け、再度村を訪れる。
やはりそこには何もない。役に立つものも、食料も。
そして他の生徒も居ない。これは今の二人にとっては好都合だった。
二人は民家に入ることはなく、外で刹那を待つことにした。
近くの家の壁に寄りかかって座る。
「無力だな……私は。」
龍宮が言った。隣に座っていたのどかが振り向く。
「あんな刹那を、私は今まで見たことがない。単純な付き合いの時間だけなら一番だと思ってたんだがな。
そしてその戦友が大切なものを失ったときに、結局何もしてやることができない……」
「……」
自嘲の笑みを浮かべながら、空を見上げる龍宮を、のどかは黙ってみていた。
「そもそも私があの時無理やりにでも近衛を止めていれば、近衛だって死なずにすんだ……
瀬留彦を見つけたときに殺しておけば、あんなことにはならなかったんだ。まったく、何をやっているんだろうな……」
龍宮らしからぬ、かなり弱気な台詞だった。
木乃香が死んで、刹那が悲しみにくれて。
何もできない自分自身の無力さに、失望に近い感情を抱いているようだった。
そのとき、今までずっと黙っていたのどかの口が動いた。
「……龍宮さんは……」
「ん?」
龍宮の目が、のどかへ向いた。
「龍宮さんは、殺されそうになった私を助けてくれました。
せつなさんが無事だったのも、龍宮さんのおかげだと思います。」
「……」
「だから、龍宮さんは強いと思います……。自分自身で思っているよりずっとずっと。
だから……無力だなんて思わないでください。強く、あってください。」
龍宮は、最初驚いたようにのどかを見ていたが、すぐに視線を空に戻した。
「そうかな……。」
そう呟いて、それ以上は何も言わなかった。
のどかも、もう何も言わずただ前を向いて黙っていた。
近衛木乃香 死亡。 残り 20人
今日の分の投下は以上です。それでは。
GJ!!!
あんたのこのせつ読むと涙が止まらねぇよ
このちゃーん!!
そして俺はたつのどに酔いしれているぜ・・・!GJ!!
瀬留彦→×
瀬流彦→○
もう展開読めてたのにやっぱり泣けたよ畜生
>>26 わーお致命的誤植だぁー……orz
これは完全な勘違いでした……申し訳ない。
今回の分投下です。
36.探し人を求めて。
「本当に、殺しあってるんだ……」
早乙女ハルナ(番号14番)は目の前で倒れている朝倉和美(番号3番)を見下ろしていった。
高く伸びた木々はその枝をハルナの頭上まで伸ばし、そこから茂る枝葉は空からの陽射しを遮断している。
そのため太陽が大分あがった今になっても、この場所は他と比べて幾分涼しく、暗い。
葉の間から差し込んでくるわずかな日差しが、地面を照らし、周りを映していた。
そんな道の真ん中で、朝倉はうつぶせに倒れていた。
定時放送で名前を呼ばれていることもあったが、その姿からも朝倉がすでに死んでいることは容易に見て取れた。
朝倉の後頭部には、大きな穴が開いていた。
人の拳が一つ入るくらいの大きさの穴。すさまじい衝撃で頭蓋骨が破壊されたようになっている。
そしてその穴の中に朝倉の赤い髪がたれ落ちていた。その先は血でさらに赤黒くなっている。
うつぶせのためその表情はわからないが、どうしても確かめる気にはなれなかった。
ハルナは朝倉の死体をあまり見ないようにして脇を通り過ぎ、そこを後にした。
朝倉の死は実際辛い出来事である。ただ人から聞かされるのと、死体を目の前にするのとではその悲しみの度合いは大きく異なる。
ただ、ハルナの中にはそれ以外に、そしてそれ以上に強い一つの想いも生まれていた。
(絶対に死なない。死ねない。少なくともあの子達にあうまでは!)
森を抜け、だんだんと人の手が入れられた道に入っていくと、そこに一つのアーケードを見つけた。
「商店街……?」
アーチ状の看板を見上げて、ハルナが呟いた。
綺麗に敷き詰められたタイルの上を、ハルナが歩いていく。
革靴の靴音だけが商店街に響いた。
その中でまるで迷子にでもなったかのように首を忙しなく動かすハルナ。
もちろん、これは探している二人がここにいないかどうかを確かめるためであり、実際にハルナが迷子になっているわけではない。
商店街に立ち並ぶ店は、どれも外から見たところ人の姿は全くなかった。
店の中は明かりこそ点いているが、動くものは何もない。
落胆したハルナは肩を落として商店街を後にしようと歩く。
もはやここには何の用もなくなっていた。
その時、突然前にある店の扉が開いた。
両開きドアの片方を押しながら、誰かが店から出てきた。
ハルナはとっさに腰に挿してある銃を抜いて、やってくる人影に向けて銃を構えた。
標準を人影の頭に合わせることはできたが、その後が続かない。
警告の一つでも言えば良かったのだが、突然のことだったためそこまで頭が回らなかった。
そうこうしてるうちに人影もハルナの存在に気づく。顔がこちらに向いて、その人物が誰かがわかった。
釘宮円(番号11番)はこちらに銃を向けているハルナを見て、自分も腰から銃を抜いて構えた。
(あ、やば……)
この時点で、先手を取った優位が完全に無くなった。
お互い、銃口を相手に向けたまま硬直する。
「円!?」
不意に釘宮の出てきた店からもう一つ、声が聞こえた。
ハルナが一度だけそちらに視線を送る。
「桜子、下がってて!」
扉から出ようとしていた椎名桜子(番号17番)が釘宮に言われてそこで立ち止まった。
そして両者、再びにらみ合いが始まった。
しばらく両者まったく動かない時間が続いた。
ずっとお互いにらみ合ったまま、銃を向けたまま。
だがこの状況に痺れを切らした一人が、慎重に口を開いた。
「ねぇ。」
「何よ?」
ハルナの声に、釘宮が反応する。
「釘宮はゲームに乗ってるわけ?」
思い切ってハルナは聞いた。
釘宮からの返事はすぐ返ってきた。
「できれば殺したくない。でもあんたがやる気だってんなら私だって容赦しないわよ。」
その返事を聞いて、ハルナの体から緊張が抜ける。
肩の力が抜けて、表情にも幾分余裕ができる。
そして右手に持っていた銃を下ろした。
ハルナの行動に、釘宮が怪訝そうな表情をした。
「ハルナ?」
「安心したわ。あんたもやる気にはなってないみたいだしね。」
ハルナが完全に警戒を解いた後も、釘宮は銃を下ろさない。
「あんたもやる気になってないってこと?」
「じゃないとこんな状況で銃下ろしたりしないわよ。」
「……信用していいのね?」
「もちろん。」
そして数秒の間があって。
釘宮は銃を下ろした。
ハルナから安堵のため息が漏れた。
「円?」
店の扉から少し顔をのぞかせて、桜子が心配そうに見てきた。
釘宮は手振りで桜子に出てくるように言う。
恐る恐る、桜子が店から出てきた。
「そっち行っても?」
ハルナが言うと、釘宮がうなずいた。
37.商店街にて。
「なるほどね……」
商店街に、三人分の人影。
釘宮、ハルナ、桜子の三人である。
道の片隅で、三人で輪になるように立って話をしていた。
「んじゃ、あんたたちも柿崎探してここらを探してたわけね。」
「そういうことね。見てない?」
「悪いね。」
そう言ってハルナは手を振った。見てない、という意思表示。
その返答に、桜子が落胆の様子を見せる。悲しそうにうつむき加減になる。
「ほら、桜子。」
「あ、ゴメン……ハハ」
釘宮に言われて、桜子は慌てて顔を上げた。無理に笑顔を作って笑ってみせる。
その、何か桜子らしくない様子に、ハルナが怪訝そうな顔を見せる。
「桜子、どうかした?」
「え?いや、なんでもないよ!本当に!」
そう言って笑い続けるが、ハルナの怪訝な表情が消えることはなかった。
ハルナは、柿崎美砂(番号7番)が今、どういう状況かをしらない。
というのも、釘宮たちが意図的にその話を伏せているからなのだが。
ハルナにはただ柿崎を探しているとだけしか言っておらず、桜子の様子が暗い原因である、柿崎のプログラム参加については何一つ教えていなかった。
伝えておいた方がいいとは思うが、どうしても渋ってしまい、結局伝えずじまいに終わってしまったのだ。
三人は並んで歩き、商店街の出口までやってきた。
アーケードを抜けて陽射しが容赦なく照り付けてくると、三人はそろってその光に目を細めた。
「結局ここにもいなかったか……」
ハルナが残念そうに呟く。他の二人も同じ気持ちだった。
今までずっと頑張って探しているのに、こうも見つからないものなのか。
さすがに疲れが表れ始めていた。しかし止めるわけにもいかない。どうしても、彼女たちに会いたい。
それも、三人は同じ気持ちだった。
滅入る気持ちを奮い立たせ、これからのことを、三人がそれぞれ頭の中で考えていた。
「それにしても暑いわねぇ……」
照り付けてくる太陽を恨めしそうに睨みながら、釘宮が言う。
デイパックからペットボトルを取り出し、水を一口飲んだ。
「それにぬるいし。」
再び釘宮が愚痴る。
そんな時、桜子が道路脇に何かを見つけた。
「あそこに自販機あるよ。」
桜子が指差した先には、確かに自販機があった。隣にベンチも用意されている。
少しだけ表情が浮いた釘宮は、すぐにあることに気づいて再び沈む。
「桜子、あんたお金持ってんの?」
「持ってるよ。」
桜子がポケットから小さな財布を取り出した。
軽く振ってみせる。小銭同士がぶつかる軽い音が聞こえた。
釘宮は唖然とした表情でそれを見ていた。
そして、
「桜子……」
「ん?」
ゆっくりと視線を自販機に向ける。
「でかしたわ。」
三人は自販機へと向かった。
「ん?」
自販機についてすぐ、ハルナが口を開いた。
二人が怪訝そうにハルナを見る。
「ハルナ?」
釘宮の呼びかけにハルナは答えず、ただ一点を凝視していた。
そして右手をそこへ、ベンチの上へと伸ばしていき、そこにあったものをとった。
ストローの刺さった紙パック。重さからしてもう中身は入っていない。
それをハルナはまじまじと、かなり真剣な目で見ていた。
「ハルナ?」
再度、釘宮がハルナを呼んだ。
「夕映……?」
「え?」
不意にハルナの口から出た言葉。それは彼女の親友の名前だった。
ハルナはすぐに後ろを振り向き、まっすぐ歩き出した。
道路の真ん中まで来て立ち止まると、あたりを見渡し始める。
不思議に思った二人がハルナのもとまで歩み寄ると、ハルナが再びある場所を凝視していた。
二人もそちらへと目を向ける。
何か大きな建物だった。
他の建物と比べて頭一つほど飛びぬけていて、その先に時計がつけてある。
針がゆっくりと動き、時間を刻んでいた。
腕時計と見比べても、その時刻は正確のようだ。
「ねぇ、あの建物何?」
ハルナが、視線はそこに向けたまま、聞いた。
その声に反応した桜子がデイパックから地図を取り出し、照らしあわせて確認していく。
「……わかんない。地図には何も書いてないみたい。」
「何かあるの?」
今度は釘宮がハルナに質問する。
ハルナは少しうつむいて、数秒間をおいてから答えた。
「……何か、あそこに夕映がいるような気がする…。」
二人が、もう何度目かになる怪訝な視線を再びハルナに送った。
ハルナはそんなことは気にせず、突然走り出そうとする。
「ちょ、ちょっと待って!ハルナ!」
慌てて釘宮がハルナの手をとってそれを止めた。
「何?」
「何、って、こっちの台詞よ、突然どうしちゃったの!?」
釘宮はわけがわからない、というような表情だった。
「言ったでしょ?あそこに夕映がいる!そんな気がするの!」
「だから理由を教えて!何であそこに夕映が居るってわかるの!?」
「それは……」
ハルナはとたんに言いよどんでしまう。走り出そうとはせず、その場に居直った。
釘宮も手を離す。
「わかんない。本当にそんな気がするってだけ。だけど、勘ともちょっと違う……強いて言うなら予感みたいな、そんな感じ。」
どうにも雲をつかむような話である。
ハルナもそれを承知で話していた。釘宮も、桜子も黙ってそれを聞いていた。
「だから、とにかく行ってみたいの、行って、確かめてきたいの!」
「……」
ハルナはそこで黙り、二人からの返事を待った。少しの間、沈黙が訪れた。
そして、次の瞬間、二人の間を銃声が駆け抜けた。
「っ!?」
「きゃぁ!」
「桜子!」
三者三様の反応で、後ろに飛びのく。
ハルナと釘宮の間で、土煙が勢い良く舞った。
ハルナは腰から拳銃を抜くと、銃弾が飛んできたと思われる方向、商店街の出口付近に向けた。
確かにそこには人影が立っている。ハルナは迷わず引き金を引いた。
乾いた銃声がいくつか聞こえ、人影の近くにあった看板が音を立ててへこむ。
人影は慌てて物陰に隠れた。
ハルナはそのまま倒れそうになる身体を支え、大きな建物のある方、下り階段の影に隠れた。
釘宮は桜子の背中を押してさっきの自販機のあるところまで走り、そこの店の中へと隠れた。
ハルナと釘宮がお互いを見やる。
両方ともうなずき、互いの無事を確認した。
そして釘宮が、相手を確認しようと店の影から顔を出す。しかし相手は物陰に隠れたままなので確認ができない。
と、突然物陰から腕だけが伸びてきた。その手には銃が握られ、銃口は釘宮を向いていた。
「くっ!」
釘宮が店の中へ顔を引っ込めると、連続した銃声が響いた。
銃弾が容赦なく店の外壁へとぶつかっていき、釘宮の隠れている入り口付近の扉を吹き飛ばした。
ハルナが援護するように再び商店街のほうへ銃を撃つと、人影が再び物陰へ隠れる。そこでハルナの銃は弾切れを起こした。
急いで身を隠し、ハルナは銃に弾丸を込めていく。
六発の弾丸を入れ終わると、手首のスナップでシリンダーを銃へはめた。
(実は一度やってみたかったんだよね。)
そんなことを思って、すぐにそんな状況じゃないと考えた。
「もう、こんなときに!」
先ほどの自分の考えを振り払う意味も込めて、ハルナは毒づいた。
ハルナのすぐ左には、下に下りる階段があり、その先にあの大きな建物へ続く道がある。
先ほどハルナが感じた予感は今も感じている。
理由はないが、夕映がその建物にいる。
だから早くあそこへと行きたいのだが、そんな矢先に突然の襲撃。
今下手に走り出したら撃たれかねない。
それに、反対側に居る釘宮たちのことも気がかりだった。彼女たちをほうっていくわけにも行かない。
そう思った矢先、
「ハルナ!!」
ちょうどその反対側にいる釘宮から声が聞こえた。
ハルナがそちらを向く。
「あんた、先に行きな!!」
「な!?」
ハルナが驚きの声を上げた。と同時にまた連続した銃声がなって、二人が顔を引っ込める。
銃弾は再び釘宮の隠れている店を襲っていた。
銃声がやんだころ、再び釘宮が声を上げる。
「ここは私たちが何とかするから、あんたは先に行って!!」
「そんな!!」
「いいから早く!」
そう言って釘宮が店から半身を出して商店街に向けて銃を撃った。
「あそこに夕映がいるんでしょ!?」
「……」
「ハルナ、行って!!」
最後の、桜子の呼びかけを聞いて。
ハルナはしっかりと、二人に向けてうなずいて見せた。
「ゴメン!……頼んだわよ!」
それだけ言うと、ハルナは二人から背を向けて走り出した。
物陰に隠れていた人陰が、頭を出したハルナに向けて銃を構えたが、すぐに来た銃撃に阻止される。
「あんたの相手はこっち!」
釘宮たちだった。
人影は物陰から再度ハルナの方を見るが、もうハルナの姿は見えなくなっていた。
「やれやれ、まぁ一度に三人相手をするのはワタシも骨が折れるしネ。」
遮蔽物に隠れ、人影は一人呟いた。
38.混戦
「……」
釘宮円(番号11番)と椎名桜子(番号17番)は店の中に隠れながら、そこから見える道をじっと見つめていた。
先ほど、早乙女ハルナ(番号14番)が走っていった道だ。
もうハルナの姿は見えない。無事に逃がすことには成功した。
釘宮は次に自分に降りかかってる問題に取り掛かることにする。
店の中から顔を半分だけ出して、商店街の方を覗き見た。
そしてすぐその顔を引っ込める。
直後、単発の銃声とともに壁に火花が散った。
いまだに影になっていて誰かはわからないが、今彼女たちは誰かに狙われていた。
相手は商店街の物陰から自分たちを狙ってきている。
銃声からして、相手はマシンガンと拳銃の二種類の銃を持っていると思われた。
そんな相手と、ハルナを先に逃がしたために自分たちのみで戦う羽目になった。
(まったく、ハルナには後できっちり借りを返してもらわなくちゃ。)
心の中で愚痴を言って苦笑すると、再び釘宮の耳にあの連続した轟音が聞こえた。
釘宮は隣にいた桜子の背中を押して店の奥へと逃げる。
二人はレジのカウンターに身を隠した。
桜子には頭を低くした体勢でいさせて、釘宮だけカウンターから顔をのぞかせる。
出入り口は大量の銃弾を浴びて散々な様子になっている。
ドアは完全にとり外れていて、そこらにガラス片やらが飛び散っていた。
その光景が今の状況では他人事でもないような気がして、背筋に薄ら寒いものが走る。
真剣に打開策を考える必要があった。
(正面から撃ち合っても勝てる見込みなんてないし……)
相手と比べて武装の面で勝っているとは思っていない。
それでも戦えないことはないが、危険なことも事実だ。
さらに言うと、身を守るためとはいえやはり人を殺すことだけは、釘宮はしたくなかった。
となれば、おのずと答えは一つ。
何とかして、この場から逃げる。
しかしそれすらも今は難しい。
釘宮は店内を見回した。
出入り口は釘宮たちの入ってきたあの扉だけ。窓も、当然ではあるが道路に面した部分にしかない。
つまりここから逃げ出そうとすれば必ずあの道路へ出なくてはならなくなる。無論そんな馬鹿な真似はできない。
裏口も存在しないらしい。
つまるところ、二人は袋のねずみ状態だった。
「ごめんね、桜子……下手したら柿崎には会えそうにないわ……」
思わずそんなことを口にしてしまう。
そんな中で、桜子がある場所をずっと見ていた。
そして何か思いついたように一人うなずくと、釘宮の手をとって走り出す。
「え?」
「こっち!」
突然の桜子の行動に動揺するが、釘宮は立ち上がって桜子に続いた。
桜子が向かったのは店内の左奥。
そこに、店の二階へ上がるための階段があった。
桜子が階段を駆け上がっていく。釘宮も続いた。
二階へ出る。窓からの光で照らされた店内は、基本的には一階と同じレイアウトだった。
周りを見ても脱出できそうなところはない。
桜子がここへきた目的がわからない。
隣にいる桜子へ目をやると、桜子はそこをくまなく見渡していた。
隅々までじっくりと見ていき、それを見つけた。
「やっぱりあった。」
小さく呟いて桜子がそちらへと走り出す。
慌てて釘宮も続いた。
そこにはもう一つ階段があった。
二階から、さらに上へと上る階段。
「え、でもこの建物って二階建てじゃ……」
釘宮はそこまで言って、この階段がどこへ続いているのかがわかった。
そして桜子の意図も同時に理解した。
二人は並んで階段を駆け上る。
駆け上った先には扉が一つ。それを勢い良く開けた。
開けた瞬間、扉の向こう側から風が吹き込んでくる。
思わず目を細めた後、二人は建物の屋上へ出た。
何もない、がらんとした空間。
端に事故防止用の手すりがついているだけだった。
二人はその場所の真ん中あたりまで歩くと、周り、左右を見渡した。
ちょうどこの店の隣に隣接する建物の屋上がある。二人はそちらへと走り出した。
この道に建て並んでいる店は、ほぼ同じ造りをしていて、高さも等しい。
さらに隣同士の距離はそれほど距離もないので、屋上伝いに隣の店へ渡ることも容易ではないにしろ可能だった。
二人が手すりの前までくると、先に桜子がそこをまたぎ始める。
手すりの向こう側に立つと、向かいの店の屋上の手すりへと飛び移った。
いとも簡単に桜子の手は向かい側の手すりをつかみ、そのまま飛び越えて隣の屋上へ降り立つ。
問題なくわたり終えた。
次は釘宮の番。同じようにして手すりを越えて隣へ手を伸ばす。
不意に下の道路に目が行った。ここからだと商店街も含めて一望できる。
そこに、釘宮は一人のクラスメイトを確認することができた。
商店街から出てきたところを見ても、彼女が自分たちを襲った人間だと見て間違いなかった。
右手に銃を握っているその生徒は、学園で普段見せているあの余裕のある笑みを浮かべていた。
「超……」
そのクラスメイト、超鈴音(番号19番)が、不意に顔を上げた。
手すりにつかまっている釘宮と目が合う。
「やばっ」
釘宮は慌てて乗り移ると、すぐさま手すりを飛び越える。
それとほぼ同時に、超の銃が火を噴いた。
自分たちのすぐ近くを銃弾が通り抜け、二人は慌てて身をかがめた。
「円!」
「走るよ!急いで!」
釘宮が桜子を押しながら、二人はもう一つ向こうの店へ乗り移るために走り出した。
そして今度は釘宮が先に手すりに手をかける。
その瞬間、再び銃声がなり、目の前の手すりが軽くへこんだ。
思わず釘宮は手を引っ込める。
銃弾の飛んできた方を見ると、超がこちらに向けて銃を構えていた。
先回りされている。乗り移ろうとしているところを狙っていたのだ。
釘宮は慌てて身を引くと、さらに立て続けに銃撃が起こる。
銃弾はことごとく手すりに命中し、そのたびに金属特有の悲鳴が上がった。
二人は身をかがめて銃撃がやむまでやり過ごそうとする。
程なくして、銃声はやんだ。
追撃の様子もない。完璧に静かになった。
桜子が、恐る恐る道路の方へ歩み寄っていく。
ゆっくりと屋上から顔を出し、下を確認した。
「……いない?」
怪訝な表情を浮かべて、桜子が言った。
先ほどまで確かにそこにいたはずの超が、いなくなっている。
周りを見てもどこにも居ない。一体どこへ行ったのか。
(まさか……)
桜子はさらに身を乗り出して、すぐ真下を見下ろした。
自分たちのいる店の扉が、今さっき動かされたように風に吹かれてゆれていた。
「円!急いで!超があがってくる!」
桜子がそう釘宮に言うと、釘宮が屋上の扉を一度見て、そしてすぐさま隣の屋上へと向かう。
そして釘宮は手すりを飛び越える。
瞬間、何か鈍い音が聞こえて、釘宮の体が前へと落ちていった。
「円!!」
遠くに聞こえる桜子の声を聞きながら、釘宮はいま自分が手をかけているものを見た。
随分と錆付いていたそれは、根元の部分から完全に折れていた。
そしてそのまま釘宮の身体は店の間の細い路地へと落ちていく。
「くっ!」
と、釘宮はとっさに手すりから手を離し、店の壁へ手を伸ばした。
釘宮の手は何とか建物の外壁に張られていたパイプを握る。
勢いで体が壁にたたきつけられたが、それでも離れないようにしがみつく。とりあえずは助かった。
「円!」
桜子が釘宮の名前を呼び、屋上から顔を出した。パイプを握って見上げている釘宮と目が合う。
「つかまって!」
そう言って桜子が釘宮に手を伸ばした。釘宮が必死に手を伸ばし、その手をつかんだ。
瞬間、
――パァン!
もう何度も聞いたあの銃声が聞こえ、桜子の体が大きく跳ねた。
桜子の手から伝わってきていた力が抜け、そのまま釘宮に引きずり込まれる形で落ちてきた。
たまらず釘宮は桜子の身体を受け止めて、それに耐えられずパイプから手が離れて落ちていった。
――ドサァ……
最後にその音だけが響いた。
店の屋上では、超が銃を構えて立ち尽くしていた。
事故防止用に張られた手すりはずっとつながっていて、超が銃口を向けている部分だけなくなっていた。
「さて、と。」
超は手すりのなくなったところへと歩いていく。
建物間にある隙間から、下をのぞいた。
釘宮が仰向けに倒れており、少しはなれたところで桜子も倒れている。
「ふん……死んでるみたいね。」
超は満足そうに呟くと、嬉々としながら建物を降り、すぐにその場を去った。
39.約束
何がおきたのかわからなかった。
体の浮くような感覚。伸ばされた親友の手。
乾いた音。遠くなる空。気づけば自分は、薄暗い路地の中にいた。
釘宮はゆっくりと上半身を起こした。
「痛っ……」
こめかみに鋭い痛みを覚え、軽く手で触れた。指先にぬらりとした感触がする。
手のひらを目の前まで持ってくると、指先に少しだけ赤い血がついていた。
それを見て顔をしかめながら、釘宮は自分が落ちてきたところを見る。
見ると、いくつかのゴミ袋が積み上げられていて、その上に自分は乗っかっていた。
結構な高さから落ちたが、これがクッションになってくれたおかげで助かったようだった。
こめかみからの出血もそこまでひどいものではない。とりあえず無事と見ていいだろう。
「……桜子!」
釘宮は慌てて周りを見渡した。
自分のほかに、ここにいるべき人物の姿を見つけるために。
狭い路地を見渡すと、すぐに見つけることができた。
目の前で、桜子が力なく倒れていた。
「桜子!!」
すぐに釘宮はゴミ袋の山から下りると、桜子へと駆け寄った。
上半身を抱き起こし、桜子の顔を見る。
桜子のうつろな目が釘宮を捉えた。
「あ……円……」
「桜子!よかった、無事みたい……」
そこまで言いかけて、釘宮の表情が変わる。
釘宮は一度、桜子の身体を再び横たわらせて、桜子の身体を抱き起こしていた自分の手を見た。
真っ赤だった。
自分のこめかみを触れたときのような、指先に少しなんてものじゃない。
手のひら一面に、真っ赤な血がこびりついていた。
釘宮が震えながら、桜子のほうを見る。
横たわってこちらを見ている桜子の顔は、血の気が失せていて若干青白い。
呼吸も不規則で荒く、目の焦点も合っていない。
それでも、口元だけは笑っていた。
「桜子!桜子!!」
「へへ……円……無事みたい……だね……よかった…。」
震える口を懸命に動かし、一つ一つ言葉をつむいでいく。
そして最後に咳き込むとともに血を吐いた。
「桜子ぉ!」
「円……一つ、お願いしていい?」
「え?」
桜子が釘宮の方を向いて言った。血色のいい唇が、血によってさらに紅くなる。
「柿崎に……伝言。『こんなこと、もうやめよう?また、昔みたいに……みんなで仲良くしようよ…』……げほっ」
「……何言ってんのよ。」
首を横に振りながら、釘宮は言った。その目には涙が浮かんでいる。
「あんたも柿崎に会うの!あんたが会いたいって言ったんでしょ!」
「あはは……そういや、そうだったね……。ゴメン……。」
そう言って桜子は笑って見せるが、顔からはほとんど血の気が失せてしまっている。
なのに出血は止まることを知らない。もう、どうしようもない状況だった。
「でも……約束してくれると……うれしい……」
「約束する!約束するから!だからしっかりして、お願い!!」
「はは……ありがと……」
桜子が笑顔で目を瞑った。
「それと……ごめんね……。」
そう呟いた後、桜子は一言もしゃべらなくなった。
「何謝ってんのよ……。」
桜子の死体の傍らで、座り込んで釘宮が言う。
「謝んないでよ……目、開けてよ……」
桜子の体を何度もゆすって、何度もその名前を呼んだ。
返事は、もちろん返ってこなかった。
「桜子ぉぉぉぉ!!!」
釘宮は泣いた。
声が枯れるまで泣き叫んだ。
己の無力さを、痛感していた。
それからしばらく釘宮は放心状態だった。
へたりこんだまま、目の前で眠るように横たわる桜子をじっと眺めていた。
もう泣いてはいなかったが、その目は涙で真っ赤に晴れ上がり、頬には涙の流れた後がくっきりと見える。
「桜子……」
もう一度だけ、親友の名を呼んだ。やっぱり、返事は返ってこなかった。
本当に、桜子は死んだのだ。
自分を助けるために、その手を伸ばして。
桜子は死ぬ最期まで笑顔だった。泣きじゃくる自分に、笑いかけてくれた。
最期に、自分と約束を交わして……
「……約束…。」
釘宮が呟く。そして、ゆっくりと立ち上がった。
「約束……そうだ、約束……」
それは、桜子と自分との、最期の約束。死ぬ間際に、桜子が望んだこと。
叶えなければいけない。
果たさなければいけない。
そしてそれができるのは、自分しかいない。
「見ててね、桜子……絶対に伝えるから。あんたの言葉、絶対に伝えるから!」
釘宮は路地を抜け、道路へと姿を現す。
そこには誰もいなかった。超の姿も、もうどこにもない。
釘宮は周りを見渡し、自分たちがもと来た道を確認すると、その反対方向を見た。
その後、もう一度だけ路地の方を向く。眠っている桜子の姿が見えた。
それ以上視線を送ることはせず、すぐに歩き出した。
路地はずっと後ろにいってしまった。もう後戻りはしない。
釘宮は約束のために歩き出したのだ。
椎名桜子 死亡。 残り19人
超ハイクオリティ!!
>>1の注意書き読みましたが
このスレめっちゃ良いのでageちゃだめですか?
言い忘れてましたが今日の投下は以上です。
48 :
マロン名無しさん:2006/07/03(月) 22:06:33 ID:kKQxWS+b
>>46 良スレだからこそsage進行だろ…ageると厨房が入り込んで来たりコピペで埋め尽くされたりでロクな事が無い。
策士ちゃおりん様が止めを刺さないand死の確認をしないなんて有り得ないよう
でも後々にまたくぎみんと美砂で1波乱起こしたいんだろうから生かすためにやむなし
仕方ないよねGJ
>>50 ばかやろう!桜子の強運が最後に発動したから円も助かり、超も退散したんじゃないか!!
と熱血レス
52 :
:2006/07/04(火) 01:23:00 ID:???
毎回GJです。
龍宮隊長が一番好きなので、隊長が善人バージョンなのが嬉しい。
桜子はまたも生存出来ませんでしたか、肝心なところで強運が発揮されないなw
ちゃおりんはどの大会でも悪だなァ
では今回の分投下しようと思います。
41.哲学者と修道士
パタン……。
「はぁ……。」
それまで静かだった図書館に、溜め息が聞こえた。
施設の片隅にある長机に座っていた綾瀬夕映(番号4番)はその手に百科辞典ほどの厚さがある本を持っている。
本を閉じ、表紙に手を添えた状態で固まっていた。
うつむいたまま何かを考えているその表情は浮かない。
「はぁ……。」
再び溜め息。
その度に夕映の表情はさらに暗くなっていく。
夕映はうつむいていた顔を外に向ける。
ガラス張りから見える外の景色にはのどかな町並みがあって、山がたち、海が見えて鳥が飛んでいる。
その景色はとてもキレイで、とても静かだった。
この場所で自分達が殺し合いをしていると言うことを忘れてしまいそうなほどに。
「のどか…ハルナ…。」
この島のどこかにいる親友の名を呟いた。
もちろん、それを聞く者は誰もいない。
今、自分達はいつ死んでもおかしくない状況にある。
クラスメイトで殺し合うと言う馬鹿げた出来ごとが今現実として自分達に突き付けられている。
そして今も確実に誰かが誰かを殺し、そして誰かが誰かに殺されているのだ。
こんなことは許されるはずも無い。
しかしながら、夕映にはこのプログラムを止めるすべが何一つない。
というよりこの事態は、もはや自分一人に何とかなる状況ではなくなっている。
自分にこれを止める力はない。だからこそ夕映は、せめて親友の二人だけにでも会って、そして守りたかった。
特に、宮崎のどか(番号27番)のことが夕映は気がかりだった。
気が弱くお人よしなのどかは、この状況にはあまりに似つかわしくない。今も無事でいるのか、心配でならなかった。
夕映は手に持った本を元の場所へ返しに席を立った。
隙間なく並べられている本の中で、一冊分あいた空白にその本を滑り込ませる。
それにより本棚は完璧に本が敷き詰められた形になった。
「……」
本棚に触れていた手が、ゆっくりと下に滑り落ちる。
それが本棚から離れ、力なく垂れ下がったとき、夕映の顔が外へ向いた。
先ほど向いた方向とは逆の、図書館の出入り口のある方向。
「銃声?」
確かに聞こえたその音に、夕映は表情をこわばらせた。
最初は気のせいかと思ったが、その後も立て続けに何発も聞こえてくる。
あまり遠くはない。むしろかなり近い場所から聞こえている気がする。
「まさか……」
夕映の頭の中に、嫌な予感がよぎった。
すぐさま走り出し、図書館の出入り口へ向かったとき。
「見〜つけた。」
緊張感のない声が、図書館にこだました。
夕映は走る足を止め、声のした方、自分の背後を見た。
案の定、そこに一人のクラスメイトが立っていた。
デイパックを肩にかけて、その手に銃を持つ。
その目は一直線に夕映を見ていた。
女の子にしては短く切られた髪がとても印象的だった。
「……美空さん?」
夕映の向く先に立っている春日美空(番号9番)が満足そうにうなずいた。
夕映は身体を回してきちんと美空と向き合った。
美空は依然自分をまじまじと見ている。
その背後では、先ほどまで開けられていなかった窓が全開になっていて、入り込んでくる風でカーテンが揺れていた。
おそらくそこから進入したのだろう。
「何か、用ですか?」
夕映が切り出した。
美空はその質問には答えず、
「やー、参ったわホント、クラスメイト探して歩き回っても全然出くわさなくてさー。
でも、まさか休憩しようと立ち寄った図書館で、夕映と出くわすなんてねぇー。」
「……」
学園にいるときと同じ調子で美空はしゃべり続ける。
それが夕映にはとても苛立たしいものに聞こえた。
「ならば特別私に用はないんですね?では私は失礼するです。」
そう言って夕映が背を向けると、
「やー、でも本当に見つかってよかったよ。」
やや声のトーンを落として、美空が言った。
夕映の足が再び止まる。
「せっかくゲームに乗るって決めたんだから。あとちょっとで決意が鈍るところだった。」
美空のその声を聞いて、夕映はゆっくりと、もう一度美空の方へ向き直った。
美空は、こちらに向けて銃を構えていた。
「……」
「悪く思わないでね。って、別に悪いことしてるわけじゃないか。」
ルールだしね、と美空は言った。
夕映は黙って美空を睨む。
美空はそんな夕映を見て軽く肩を落とした。
「やっぱり許してくれるわけないか。」
「一つ、聞いていいですか?」
夕映が美空を睨みつけながら言った。
美空は銃を構えたままどうぞ、と発言を促した。
「銃を下ろして、今からでも考えを改めるつもりはないですか?
こんなことをしなくても、助かる方法はあると思いますが。」
「……」
それだけ言って、夕映はじっと美空の返事を待った。
「……」
しばらく誰もしゃべらない時間が続いて、
「私ね……」
じきに美空が口を開いた。
「これでもすっごい悩んだんだ、ゲームに乗るかどうか。たっぷり数時間くらい迷った。」
「……」
ふざけているのか真剣なのか、もし真剣だったとしても人を殺すという決意をするのにそれが妥当な時間なのか夕映にはわかりかねたが、
いや、明らかに言いたいことがあったが、それでも黙って美空の話を聞いていた。
「だからね、これって結構私にとっても一大決心なわけよ、わかる?」
「……それで?」
「だからね……」
美空は同じ始め方で次の台詞を口にしていく。その間に、持っていた銃のハンマーを起こした。
「そう簡単にコロコロ意見変えてらんないのよ。」
それが美空の返答だった。
銃口の向こう側にある美空の顔は、表情こそいつもどおりだったが、その目には確かな狂気が見えていた。
「そうですか……」
夕映は一度うつむいてそう呟いた後、目をつむった。
次に、そのまま顔を天井に向けた後、目をあけた。
「わかりました。」
そう言って夕映は美空の方を向く。
「ならばあなたは私にとって敵です。どんな理由があろうと、人殺しをしようとしている人を黙ってみているわけにはいきません。」
強い意志を秘めた眼差しは、まっすぐに美空を見据えていた。
そして夕映と美空がにらみ合っているころ。
二人のいる図書館の前に、早乙女ハルナ(番号14番)がたっていた。
41.面倒事
「ふぅん……」
美空はその顔に笑みを浮かべながら、大げさな動作でうなずいてみせる。
対面にいる夕映に向けて、質問した。
「それで、どうするわけ?」
夕映も変わらず美空を睨みつけたまま、
「あなたを止めます。殺してでも、あなたを止めます。」
自分に言い聞かせるように言った。
「……そ。」
あなたを殺す、とまで言われても、美空は余裕だった。冷や汗一つかきはしない。
それもこれも、今のこの、美空の圧倒的優位な状況が起因している。
美空と夕映との距離は、遠すぎず近すぎずといったところ。
美空は銃をすでに夕映に向けていて、あとは軽く引き金を引くだけで目の前の人間の命を奪うことができる。
いくら夕映が強力な武器を持っていても、それを取り出す前に自分は引き金を引くことができる。
つまりは、美空には現時点で負ける要素がなかった。それが美空の余裕の根拠だった。
しかしそんな美空に、予想外の事態が起こった。
「夕映!」
不意にそんな声が聞こえ、夕映と美空は声のした方を向いた。
そしてほぼ同時に、それぞれが別々の意味で驚愕した。
図書館の出入り口のところに、ハルナが立っていた。
ハルナは最初に夕映の方をむき、その後美空を見た。
美空の手に銃が握られていて、それが夕映に向けられているのを見て、すかさず自分の銃に手をかける。
その瞬間、美空は夕映に向けていた銃口をハルナに向けた。銃を取り出したハルナに向けて、迷わず引き金を引く。
乾いた発砲音が続けて三発、図書館に響いた。
ハルナがとっさに身をかがめると、背後の扉に三つ穴が開く。ハルナは身をかがめた体勢のまま美空に向けて銃を構え、こちらも迷わず撃った。
美空は身を翻して近くの本棚へ隠れてそれをやり過ごした。
そしてハルナはその場に立ち尽くしていた夕映のもとへ駆け寄った。
「夕映!大丈夫!?」
「ハルナ……。」
夕映が、目の前まで来たハルナを見る。そしてハルナもその夕映の顔に笑い返した。
その瞬間、夕映の表情が再び険しくなる。
そして突然ハルナの手をとって走り出した。
「こっちです!」
そう言って走り出した瞬間、ハルナの背後から銃声が鳴った。
二人はそのまま美空と同じように近くにあった本棚に隠れた。
夕映が本棚から少しだけ顔を出して向こう側を覗き見ると、その先で美空が本棚から顔と銃を持つ手だけを出してこちらを向いていた。
思わず顔を引くと、さらに乾いた音が鳴って木でできた本棚の角が削られる。
「まったく、再会を喜んでる暇もないのね。」
本棚越しから美空を睨みながら、ハルナは言った。そして夕映に向き直る。
「ほら、逃げるよ、夕映!」
「あ……」
力強く言うハルナに、夕映の表情が少し曇った。
そして、申し訳なさそうに言った。
「ハルナ、私はまだ行けません。」
夕映の予想外の返事に、ハルナがすかさず聞き返した。
「な、何を――」
「美空さんを止めないといけません。」
ハルナの声をさえぎって夕映が言う。
「……」
「あのまま美空さんを放っておけば、恐らく美空さんはクラスメイトを殺しに行きます。
だから、どうしても今ここで止めないといけません。だからまだ逃げるわけには行かないです!」
そう言って夕映がハルナを見た。ハルナも夕映のほうを見る。
クラスメイトを殺させない、ひいてはのどかの安全のためにも。
夕映には、ここにいる殺人鬼となった美空を、わが身可愛さで野放しにするわけにはいかないという気持ちがあった。
だから戦わないといけない。美空を止めなくてはいけない。
ほどなくして、ハルナが視線をはずした。
「ったく……」
呟いて、銃を構える。
「とっとと終わらせて、のどか探しに行くよ?」
「もちろんです!」
夕映の言葉を合図に、ハルナが引き金を引いた。
銃撃戦が始まった。
美空とハルナの銃がそれぞれ火を噴き、棚に傷が走り、本が爆ぜて散った。
美空は本棚の間を縫うように走り、ハルナの銃撃をかわしていく。
対してハルナは逆に不用意に動かず、物陰に身を隠して美空を狙う。
夕映はそんな二人を少しはなれたところから見て、ナイフを握って一瞬の隙を待つ。
隠れている本棚の本があらかた飛び散ると、ハルナと夕映は新しい物陰として受付のカウンターに身を隠した。
パン!
ハルナが銃を撃つ。しかし、弾は本棚にさえぎられて美空には届かなかった。
本の隙間から美空の笑みを浮かべた顔が見えた。すぐに身をカウンターに引っ込める。
数発分の銃声がして、弾丸がカウンターにめり込んだ。
「ったくもぉ!ちょこまかとうっとうしいわね!」
カウンターに身を隠したまま、ハルナが言った。そこに夕映が現れる。
「夕映!このままじゃ埒があかないわよ!武器奪うどころか近づくこともできない!」
「とりあえず、今は待つしかありません。殺さずに捕らえるためには、これしかないんです。」
「はぁ……。面倒なことになったわ。」
ハルナがカウンターから顔を出して周りを伺う。美空が本棚から飛び出し、銃をこちらに向けた。
慌てて顔を引っ込める。再び銃弾がカウンターを襲った。
「本当、面倒なことになったわ……」
再び、ハルナが呟いた。その時、銃声に混じって、聞き覚えのある音が響いた。
どうやら図書館のスピーカーから流れているらしい。音がやんだあと、今度は男の声が聞こえた。
「昼の定時放送をはじめる。死亡した生徒を挙げていくぞ!――」
銃声で、何を言っているのかいまいち聞き取れないが、そもそも今の状況で聞いている余裕はない。
「空気読んで放送しなさいよ!」
ハルナがスピーカーに向けて無理な注文をつけてるとき、夕映の耳に男の言葉が飛び込んでくる。
「次に禁止エリアだ!今から30分後にC-3、A-6、B-1!一時間後にC-2、D-4、E-8だ!」
「C-3……?」
その言葉に夕映は聞き覚えがあるような気がした。必死に頭の中をかき回し、その単語を思い出そうとする。
しばらく頭を悩ませた後、夕映は突然デイパックをあさりだした。
「夕映?」
横にいるハルナが怪訝そうな表情で夕映を見る。かまわず夕映はデイパックをあさり、その中から目当てのものを取り出した。
すぐさま地図を広げる。そう、聞き覚えがあるような気がした、というのは、正確に言えば見覚えがあったの間違いだった。
「やっぱり……」
夕映の表情がすぐに青ざめた。悪い事態を再確認するように。
そして青い顔のまま、夕映はハルナに向き直った。
「ハルナ……あと30分でここは、禁止エリアになるです……」
「えっ……?」
ハルナは言った後、夕映の言ったことを理解するまで少し時間がかかった。
じきに、カウンターに頭を軽くぶつけて、
「本っ当、面倒なことになったわ……」
またしても呟いた。
42.絆
この場所が禁止エリアになるまで、残り30分をきった。
唐突に突きつけられた思わぬ時間制限に、事態はどんどん悪い方向へと向かう。
「本っ当、面倒なことになったわ……」
ハルナが、後頭部をカウンターに軽く打ちつけながら言った。
隣の夕映も深刻な顔をして俯いている。
美空は、自分たちが今どんな状況に陥っているのか分かっていないのか、いまだハルナと夕映を殺そうとこちらに銃を向けている。
ハルナは遅い繰る銃撃をカウンターに身を潜めてやり過ごしながら、夕映を見た。
「もう美空を止めるとか言ってられないよ!早く逃げないと本当に――」
「えぇ、そうですね。私も考えていたところです。」
ハルナの言いたいことを先回りして夕映は言う。
そしてうつむいていた顔を上げた。
「じゃあ、」
逃げよう!と、ハルナが言おうとして。
「ハルナ、あなたは先に逃げてください。」
先に夕映が言った。
「……え?」
ハルナは怪訝そうな顔をしながら、夕映に聞き返す。
「夕映、今なんて……」
「私がここに残って美空さんを引き付けます。だからハルナは逃げてください。」
ハルナの表情が怪訝から驚愕にかわった。
夕映の方を向いて、声を荒げる。
「あんた、何言ってんの!?そんなことできるわけないじゃない!」
「お願いです、ハルナ!このままでは本当に、私たち二人とも……」
「だから!一緒に逃げようって言ってるの!美空なんてもういいじゃない!」
言い合いになり、お互い一歩も譲らない。
埒が明かないと悟った夕映は、突然ハルナの方へと腕を伸ばした。
その狙いは、ハルナの握っている銃。
完全に油断し、不意をつかれたためハルナはいとも簡単に夕映に銃を取られる。
「夕映!?」
「これでハルナは丸腰です。ここにいても危険なだけです。はっきり言って邪魔です!だからもう行ってください!!」
「ふざけないでよ、それ返しなさい!」
そう言って夕映に手を伸ばすが、夕映は頑として受け入れない。
業を煮やしたハルナがつかみかかってでも取り返そうとして、
「お願いですハルナ!行ってください!お願いです!」
「あんた……」
夕映の懇願するような言葉に、ハルナは言葉を失った。
これでも中学に入ってからは宮崎のどか(番号27番)と一緒に夕映の一番身近な親友をやってきただけに、夕映の頑固さはよく分かっていた。
時に生真面目すぎるその性格ゆえ、トラブルを起こすこともある。それが微笑ましくもあった。
そんな思い出が頭をよぎって、ハルナの心が揺れる。
親友の言葉を聞いて、見捨てるべきなのか。
親友の意に反して共に最期まで戦うべきなのか。
どちらも、ハルナにとっては辛い選択だった。その二つしか選択肢がないことに腹が立つ。
そしてハルナは立ち上がった。
「……」
本棚から美空が顔をだし、銃を向けた瞬間、ハルナはカウンターを飛び越え、図書館の出口へと走った。
美空は少しそれを目で追ったが、自分に襲い掛かってくる様子がないので、再び視線をカウンターに向ける。
すると、そこで夕映が身を乗り出して銃を美空に向けていた。乾いた音が響いた。
すぐに美空が本棚に身を隠すと、夕映もカウンターを乗り越え、美空のすぐ近くまで走りよった。
本棚の連立する中を、二人が走り回りながら銃を撃つ。どちらも一歩間違えれば、そこにあるのは死である。
夕映が本棚にもたれかかり、弾の切れた銃に弾丸を入れる。
その時、視界の端に映った図書館の出入り口を見た。
もはや人影も何もない。ハルナは無事に逃げ切ったようだ。
夕映は無人の扉に向けて、すこし悲しい顔で、微笑んだ。すぐにその笑顔は消える。
近くで銃声が聞こえ、視線を鋭いものにして身を縮めた。
すぐにその場を移動すると、本棚へと逃げ込んだ。
再び銃声。すぐに移動。
美空の姿が確認できなくなり、夕映の表情に焦りが生まれる。
銃声も、聞こえなくなった。
どこにいる?不意の遭遇に備えて、あいている左手にナイフを握った。
ゆっくりと動きながら、美空の姿を探す。どこにも居ない。
その瞬間、夕映の背後でかなり大きな音が聞こえた。
慌てて振り向き、銃を構える。夕映は目を見開いた。
巨大な本棚が、夕映めがけて倒れてくる。
「しまっ……」
とっさに夕映は引き金を引いたが、もちろんそんなことでどうにかなるものではなかった。
本棚は大きな音を立てて倒れ、夕映の足が下敷きになった。倒れた弾みで、ナイフは夕映の手から離れ、右手は本棚の下へ。
「あははははははは!!」
痛みに顔をしかめる夕映の耳に、美空の高笑いが聞こえる。
見ると、自分の上にのしかかっている本棚の上に、美空が立っていた。
「残念だったね夕映〜?」
そう言うと、美空は足に力を入れていく。
本棚本来の重さに、美空の体重が加わる。夕映の細い足で受け止められる重量ではなかった。
徐々に、徐々に重さが加わっていき、ついに足が限界に来た。
ボクッ、という鈍い音とともに、夕映の足が折れ曲がった。
「あああああああああああああああああああ!!!!!」
「あははははははははは!!!」
夕映の悲鳴と美空の笑い声が同時に響く。完全に美空は狂気に支配されていた。
ひとしきり笑ったあと、美空は夕映に銃を向ける。
銃を持つ手が下敷きになって使えない夕映は、銃口を睨むことしかできない。
「ハルナにも見捨てられちゃってさ、可哀想にねぇ〜?」
美空はそう言ってハンマーを起こす。
「それじゃ、ばいばい」
「だーれが夕映を見捨てたって!?」
引き金に指をかけようとして、背中に衝撃が走った。
体勢を崩し、美空は本棚から転落する。落ちたとき、銃が美空の手から離れて遠くへ滑っていった。
「何を……」
身体を起こして自分の背後を見る。そこには、自分と同じように倒れている一人の女子生徒。
丸腰のまま、自分にぶつかってきた人物。
ハルナが、そこにいた。
「ハルナ……」
驚いて声を上げたのは夕映だった。ハルナは一度だけ夕映の方を向いて軽くウィンクすると、再び美空のほうを向く。
「ちぃ!」
憎悪丸出しで舌打ちする美空の向こう側に、ハルナは黒光りする銃を見つけた。先ほど美空が落とした銃だ。
ハルナはすぐに立ち上がると、銃を拾うために走り出した。少し遅れて美空が続く。
スタートはハルナが早かったが、実際の足の速さは美空が上だった。銃まであと少しというところで、美空がハルナに体当たりをする。
二人は再びその場に倒れた。
「もうっ!」
ハルナが仰向けになって美空の方を向くと、美空はすぐ自分の目の前まで来ていた。
膝を突いて上体を起こして、右手を高く振り上げていた。その手には一本のナイフが握られている。
あとは振り下ろせばナイフはハルナの身体に深く突き刺さるだろう。そして美空はそれを迷わず実行した。
「死ねぇぇ!!」
ナイフはハルナを捕らえ、柄の部分まで深く突き刺さった。美空の表情に、驚愕の色が浮かんだ。
美空のナイフは、ハルナがとっさに振り上げた右足の膝に、深々と突き刺さっていた。
ハルナは激痛に悲鳴を上げ、額に脂汗を浮かべてた。
それでもハルナは歯を食いしばり、銃へと手を伸ばす。ハルナの手が、銃を握った。
そのまま銃口は美空へと向く。美空の顔のすぐ目の前に、銃口があった。
「これだけ近いと外しようがないわよっ!」
それだけ言って、ハルナは引き金を引いた。
カチン、という小気味よい音が聞こえた。
今度はハルナの表情が驚愕に染まる。逆に美空の顔は再びあの笑みに戻る。
美空はナイフをハルナの足から荒々しく引き抜く。血が噴出し、ハルナが再び悲鳴を上げた。
もう一度その手を高々と振り上げると、もはや万策尽きたハルナに向けて、再度振り下ろした。
右足は使い物にならないし、左足を使おうにも遠すぎる。もはや、どうしようもできなかった。
(終わった……)
ハルナはそう思った。
ドン!
直後に響いたその音は、銃声。
ハルナの身体に、激痛は走らなかった。
美空のナイフが、上から糸でも張られているかのように途中で止まっている。
見開かれた目は、焦点が合っていない。
そしてさらに二回、銃声が響く。
それにあわせて美空の体がはねた。はねた後、力なくハルナに向けて美空が倒れてきた。
「え?」
わけが分からず倒れてくる美空を抱きとめ、そこでハルナは見た。
美空の肩越しに向こう側を見て、そこに夕映がいることを確認する。
夕映の右手がこちらに向いていて、その手には銃が握られている。銃口からは、薄く白い煙が昇っていた。
続いて視線を下に戻すと、美空の背中に三つ、赤い穴が開いている。
見てすぐ、美空がもう死んでいることが分かる。
クラスメイトを殺すと決めたクラスメイトは、結局誰一人手にかけることなく死んでいった。
ハルナは美空の死体を横にどけると、はいずりながら夕映の下へと寄っていく。
動かないため引きずっている右足からの血が床に赤い線を作った。
すぐに夕映の下へとたどり着く。倒れている夕映の、ちょうど頭の上あたりに自分の頭が来るように、ハルナは寝ころがった。
「よぉ、ゆえ吉、生きてる?」
顔を夕映に向けて、話しかける。返事が返ってこないが、胸は上下してるので生きていることはわかる。
「もしかして……怒ってる?」
質問を変えた。少し遅れて、返事が返ってくる。
「なんで……戻ってきたんですか?」
予想通りの返事だった。ハルナは笑みを浮かべて答える。
「もしあんたが私の立場だったら、私やのどか見捨てて逃げることなんて出来る?」
「……」
「でしょ?」
「なら……今からでも…逃げてください……早く…」
こんなときでもそんなことを言う夕映に、ハルナは苦笑しながら答えた。
「それもちょっと厳しいんだよねぇ、残念だけど……」
ハルナは自分の右足に目をやった。今でも右足からは血がにじみ出てきている。
動かすこともできないし、少し衝撃を与えただけで激痛が走る。
これでは歩くことはおろか、立つこともできない。もはや、逃げることなんて出来はしない。
夕映は首を動かしてハルナの足を見た。目を細めて、視線を天井に向けて、言った。
「すいません……です。」
「ばか。謝るとこじゃないよ、私が勝手にやったことなんだから。」
夕映からの返事はなかった。
ハルナは顔を夕映の方へ向けた。倒れたままなため夕映の頭しか見えなかったが、夕映が泣いているであろうコトは、なんとなく分かった。
この場所が禁止エリアになるまで、10分をきった。
お互い、何もしゃべらない時間が過ぎていった。
奇妙なくらい穏やかな時間。二人はただ高い天井を眺めている。
そして残り5分をきった。
4分。
3分。
2分。
1分。
――ピッ、ピッ、ピッ……
首輪が赤く点滅し、電子音が聞こえた。とうとう、その時がやってきたのだ。
だんだんと音のペースが速くなっていく。危険を知らせるように鳴り響く音を前に、二人は両手両足投げ出して何もしない。
何も出来ない。
「……最後に……」
夕映が、口を開いた。
ハルナが夕映の方を向く。相変わらず頭しか見えない。
「どうしたのかな、夕映?哲学者らしく、最後に何か含蓄のある言葉でも言ってくれる?」
そう茶化すように言うと、夕映が言った。
「……のどかに会いたかったです。」
「……」
ハルナには夕映の頭しか見えないわけだが、その時夕映が笑っているであろうコトは、なんとなく分かった。
「そうだね……」
ハルナも視線を天井に向けて、笑って言った。
電子音はさらにけたたましく鳴り響き、大きな破裂音を最後に、全く聞こえなくなった。
そしてその場所は、静かになった。
綾瀬夕映、早乙女ハルナ、春日美空、 死亡。 残り16人
今日はここまでです。それではまた明日。
GJ!!パルとゆえが好きになりました!
二人の友情に感動しつつもちょっぴり悲しいです。
人数も残り半分。今後の展開にwktk
誰か逃げ遅れるだろうと思ったが……全員かよ!?
そんな冷酷な決断を下せる作者様が大好きです。
>>「死ねぇぇ!!」
ワロタ
ごめん泣いた
どうもこんにちは。今日の分投下です。
43.変わってしまったもの
「楓さん……ですか?」
「?」
名前を呼ばれて、長瀬楓(番号20番)は振り向いた。
何もない空間を眺めて、一瞬怪訝な表情をした後、何かに気がついたように視線を下に落とした。
そこにいた人物を見て、少々驚いた様子を見せる。
「ネギ坊主……」
「楓さん……」
楓の視線の先には、自分たちの担任教師である、ネギ・スプリングフィールドが居た。
ネギは目に涙を浮かべて、楓を見上げていた。
「よかった、やっと見つけた……」
浮かべた涙が、雫となって頬を伝った。
よく見ると、ネギの姿はぼろぼろだった。
いつも綺麗にしていたスーツは薄汚れていて、袖はところどころほつれている。
顔にも土がついていて、髪も乱れていた。
たとえ頭がよく身体能力も高いとはいえ、魔法が使えなければネギは10歳の少年なのだ。
その少年が、こんな何もないような島に一人で放り出されれば、こうなるのは仕方ない。
ここまでどれだけ辛い思いをしたか、それは察して余りあるものであろう。
楓はネギの頬に手を伸ばすと、そっと指で涙をぬぐってやった。ネギの表情が、明るくなる。
そしてすぐにネギに背を向けると、そそくさと歩き出した。まるで、何かを恐れるように。
「楓さん!!」
ネギからしてみれば意外な楓の様子に、慌てて呼び止めた。
楓が足を止めた。ネギには背を向けているため見えないが、楓は非常にバツの悪そうな顔をしていた。
「どうしたんですか、楓さん!せっかく会えたのに!」
「すまんでござるな、ネギ坊主。」
楓は振り返らずに話す。
「拙者はもう行くでござるよ。お主には悪いが、もう少し、一人で頑張ってくれると助かるでござる。」
「そんな、楓さん!」
ネギは楓に一歩詰め寄った。
「僕、このプログラムをとめようと思っています!みんなで集まって、何とかこの島から出る方法を考えようと思ってるんです!
だから楓さんも、一緒に来てください!」
このままでは楓に逃げられると思ったネギは、少々唐突だが本題に入ることにした。
楓はその話を聞いて、いっそう顔をしかめた。もちろんネギにその表情は見ることは出来ない。
歯を食いしばって、搾り出すように言う。
「すまんでござるな、ネギ坊主……」
「そんな!」
ネギがそう言うと、楓の目が、自分たちのちょうど真横へ向いた。そこにある木々のうちの一本をちらりと見て、すぐにそれは元に戻る。
楓は身体をネギの方へ向けて、きちんと正面から向き合った。
「そういうわけでござるから、ネギ坊主はもう行くでござるよ。他の仲間を探してほしいでござる。」
出来るだけ普段どおりに接したつもりだが、ネギの表情は浮かない。
「わかりません……なんでですか?理由を教えてください!」
「理由……」
本当のことを話すべきか迷い、楓が黙り込む。
ネギがもう一歩、踏み込んでくる。
「すまぬが、それは言うことが出来ないでござる。」
楓が言った。ネギの目に、再び涙が浮かぶ。
泣きそうになるのをこらえ、楓を見た。
「さぁ、早く行くでござるよ、ネギ坊主。」
「楓さん……」
楓の意志は固かった。しばらく二人は睨み合うようにお互いを見ていた。
そして最初に動いたのはネギ。
「うぅっ……」
泣きそうな顔を伏せて、ネギは楓に背を向けて走り出した。
楓はただ黙って、少年の小さな背中がさらに小さくなっていくのを見送った。
悲しいような、苦しいような表情で、見えなくなるまで見送った。
「すまんでござるな、ネギ坊主。」
小さく呟く。
(クラスメイトを殺そうとしている人間が、救おうとしている人間と一緒にいるわけには行かないでござるよ……)
「さて……」
楓は視線を、再び自分の横の密林に向けた。
最初、一度だけ目を向けた一本の木を、今度はしっかりと凝視する。
「出て来い。そこにいるのは誰でござるか?」
楓がそう言うと、木の陰から、人影が姿を現した。
その人物は楓もよく知っている人間である。とはいえ、この島にはクラスメイトしかいないのだから当然なのだが。
彼女はゆっくりと、しかしまっすぐに楓のもとへと歩み寄ってくる。
藪を出て道に立つと、楓の正面に立った。
楓はじっと、目の前にたったクラスメイトを睨みつけていた。自分と似たような殺気を放つ、その人物を。
「楓さん……」
那波千鶴(番号21番)は、いつもどおりのおっとりとした口調で、楓に言った。
「夏美を殺したのは、あなた?」
44.悲しみに暮れて
定時放送が鳴った。
それは、この島につれてこられて二日目。暑い日差しを地上に向ける太陽が、ちょうど一番てっぺんまで昇ったときのことだった。
しばらくは死んだ生徒の発表がなかったが、その時、久しぶりに生徒の名が呼ばれた。
前の放送のときもそうだったが、クラスメイトの名前が読み上げられるたび、胸が締め付けられるような気持ちになる。
その生徒たちがもうこの世にいないことを告げられるのだから、当然ではあるのだが。
このときも大切だったクラスメイトの名前が読み上げられ、その生徒たちが死んでしまったことを知る。
同じように胸が締め付けられ、同じように悲しみに暮れた。それで終わりだと思ってた。
だが今回だけは、違った。
「28番、村上夏美さん……」
「夏美……?」
千鶴は我が耳を疑った。
そんな馬鹿なはずは無いと首を振って見せた。
しかし、今確かに呼ばれた。
大事な友達の名前が、確かに呼ばれた。
「夏美……」
呟きながら、千鶴は顔を地面に向ける。
「嘘でしょ……?」
その地面に、雫が落ちた。
それからの千鶴は、抜け殻のようだった。その場にへたり込み、ただじっと空を見上げているだけ。
他には何もしない。ピクリとも、動かない。
そんな中、遠くから銃声だけはいやおうなく耳に入ってくる。
(……許せない)
千鶴の頭に、言葉が響いた。
(絶対に、許さない……)
それまでピクリとも動かなかった指が、地面の砂をつかんだ。
(夏美を殺した人間を、私は許さない……)
千鶴は、ゆっくりと立ち上がった。そして、服についた泥を払うこともなく、歩き出した。
その目にはまだ光は宿っていない。まるで誰かに操られるかのように、足を動かし歩を進めていく。
復讐してやる。夏美を殺した人間に、そして誰かを殺そうとしている人間に。
「夏美を殺したのは、あなた?」
いつもの穏やかな声で、千鶴が目の前の楓に言った。
楓は質問にはひとまず答えず、千鶴をまじまじと見渡す。
それは千鶴だった。
何一つ変わらない。学園にいたときと何ら変わらない那波千鶴がそこにいる。はずである。
だがその外見とは裏腹に、楓は目の前のクラスメイトから殺気を感じていた。
自分と似たような、そんな殺気。
「なるほど……」
楓は納得し、呟く。千鶴が眉をひそめて楓を見た。
「拙者は夏美殿を殺してはおらぬ。というより、誰も殺してはおらんよ。」
いまのところは、と楓は心の中で付け足した。
「そう……」
千鶴はそれだけ言うと、デイパックに手を入れて、そこから銀色に光る銃を取り出した。
その銃口を、楓に向ける。
楓が眉をひそめて千鶴を見る。
「ごめんなさいね、楓さん……でも、これはしょうがないことなの。」
「しょうがないこと?」
千鶴は、いぶかしんで聞き返す楓に、微笑みながら言った。
「私、許せないわ。夏美を殺した人間も、そして誰かを殺そうとする人間も。誰一人として、許すことは出来ない。」
「……」
「だから、そんな人間しか居ないなら、こんなクラスはなくなってしまえばいいって思ってる。きっと夏美もそう思っているわ。」
中空を眺めながら千鶴が言った。楓は一言もしゃべらない。
「だから、ね?これはしょうがないことなの。」
「そうでござるか……」
楓は納得したのかそうでないのか、千鶴の言葉にそう返した。
そして続ける。
「だが拙者はここで死ぬわけにはいかんでござるよ。まだやるべきことが残ってる。」
「そう……わかったわ。」
そう言うと、千鶴は銃の引き金を引いた。
甲高い発砲音が聞こえたと思うと、すぐ目の前に楓がいた。
千鶴が驚く顔を見せたときには、すでに楓は千鶴の後ろにいた。
千鶴は銃を構えたその状態のまま固まっていて、楓はその手にスローイングナイフを一本、握っていた。刃の部分に、わずかに血がついていた。
次の瞬間、千鶴の首から鮮血が吹いた。
その勢いは噴水のようで、道の横にあった木々を赤く染め上げる。
しばらくは立ち尽くしていた千鶴も、首から吹き出る血の勢いが衰えるにつれ、体がふらついていき、やがてその場に崩れ落ちた。
ドサ、と地面に倒れる音を聞いて、楓が振り返った。
そこにはいまだ首から血を流している千鶴が倒れている。もう生きていないことははっきりと分かる。
「すまんでござるな、千鶴殿。」
倒れている千鶴に向けて、楓は言った。
千鶴からの返事はない。楓は、その死体から目を離すと、すぐにその場を後にした。
那波千鶴 死亡。 残り15人。
45.再び遭遇
太陽は頂点を過ぎ、あとは下るのみとなった。
だがそれでもまだ日は高い位置にある。
空から、地面を照らし続けている。
「もう、行かな。」
森の中で、一人の少女が言った。
目の前には、木にもたれかかって眠っている少女がいる。
長い黒髪が風に揺れて、胸に手を当てて、安らかな顔で眠っている。
それをみる少女の顔も、とても安らかだった。
「みんなが、待ってるから……」
そう言うと、少女は立ち上がった。黒髪の少女を見つめて、笑って言った。
「さよなら、このちゃん……」
「……もう、いいのか?」
龍宮真名(番号18番)が、森を抜けてやってきた桜咲刹那(番号15番)に聞いた。
「ああ、もう大丈夫だ。心配かけたな。」
「そうか……」
龍宮はそれだけ言うと、自分がもたれかかっていた家の扉をたたいた。
やや間があって、扉が開く。
中から宮崎のどか(番号27番)が出てきた。眠そうに目をこすっている。
「休憩は終わりだ。移動するぞ。」
「え?あ、せつなさん……」
そこにいた刹那を見て、のどかが言った。
刹那はのどかに向けて、微笑んでみせる。それを見てのどかも安心したように笑みを返した。
一人人数の減った一行はその後、森の反対側に出るルートを取った。
山に登る選択肢もあったが、先に上っていた龍宮によると向かい側へと行くには随分と時間がかかるらしい。
それに山の向こう側にあるのは海沿いの小さな港町のみ。誰かがいる確率はあまり高くない。
森の反対側は住宅街だし、もしそこに誰もいなくてもそこからいくらでも捜査の手は広げられる。
そちらの方が色々と都合がいいと踏んだのだ。
そして三人は森の中、道なき道を突き進んだ。
「刹那……」
龍宮が言うと、背後にいる刹那が無言でうなずいた。
二人とも、険しい表情をしている。
最後尾にいたのどかが、心配そうに二人を見た。
二人はどちらも同じ方向を凝視していた。自分たちの右斜め前方。
一目には何もないようにしか見えない木々の密集した場所だった。
のどかには全く分からないが、二人の表情から大体想像はつく。
そこに誰かがいるのだろう。
二人はすぐに戦闘体勢に入った。
刹那は刀の唾に指をかけて、刀身を覗かせる。
龍宮は手に握る銃のセイフティをはずした。
ほどなくして、その隙一つ見せない二人の前に、その人物は現れた。
その瞬間龍宮が銃を構え、刹那が一気に間合いを詰める。
そして、全く持って警戒心の一つもないままとぼとぼと歩いてきたその人物めがけて刀を振り上げ、
そこで動きは止まった。
「え……?」
その人物、というか少年は、そこでやっと目の前まで迫ってきている刹那の存在に気づいた。
刹那はいまだ振り上げた刀をどうすればいいかわからず、そのまま固まっていた。
「刹那、さん?」
赤い目をこすりながら、ネギ・スプリングフィールドが言った。
46.それぞれの目的
思わぬ再会を果たした刹那たち三人とネギは、一度腰を落ち着かせて話し合うことを決めた。
互いの無事を喜び合う時間が、少しの間続く。
「ほ、本当に、無事でよかったです……」
「はい、心配かけてすみません、のどかさん。」
特に喜んでいるのはのどかだった。ネギの手をとって目に涙をためて、よかったよかったと呟いている。
対するネギは少し気恥ずかしそうだが、それでもやはりうれしそうだ。
刹那と龍宮がその様子をやや遠巻きから笑顔で見守っている。
和やかな空気が、四人の気分を少しだけほぐしてくれた。
「そうですか、瀬流彦先生が……。」
「はい。」
四人は今度は互いの情報交換を始めた。具体的にはネギと他の三人、それぞれが合流するまでに何をしてきたかということだ。
その過程で、ネギは瀬流彦が死亡したことを告げられた。
自分たちをこの島へと連れてきた張本人だったが、それでも同じ教師として学園ではともに頑張った仲なだけに、ネギの表情は複雑だった。
ネギは、この島に連れてこられたときのこと、学園での瀬流彦との会話、そして今に至るまでを話し始める。
「それで……えっと…」
途中、ネギは言葉を詰まらせる。それはちょうど、話が順を追っていき、先ほど長瀬楓(番号20番)と出会ったところに差し掛かってからだった。
このことを三人に話そうかどうか、ネギは少しばかり悩んだ。
楓の様子が変だったことは、やはり伝えるべきなのかもしれない。でもそれを話して、前にいる三人は一体どんな反応を示すか。
今度楓と出会ったとき、それが原因でいらぬいざこざが増えるのだけは避けたかった。
今でもネギは楓が変わってしまったとは思っていないし、思いたくない。ならば、この話はしなくてもいいと思っていた。
「先生?」
刹那が怪訝そうな顔でネギを見る。ネギは慌ててかぶりを振った。
「あ、いえ、それでここを歩いてて、刹那さんたちに会ったわけで……」
そう言って笑ってみせる。刹那は怪訝そうな顔をしながらも、深くは追求しようとはしなかった。
しかし、
「隠し事はやめてほしいんですがね、先生?」
龍宮だけは違った。明らかにネギに疑念の視線を浴びせている。
ネギは龍宮の目を見て、とたんに気おされる。
「あ、あの……」
「今自分たちは命がけの状況にいるんです。知ってることは全て話してください。」
「……はい。わかりました、すみません。」
有無を言わせぬ迫力を見せた龍宮に、ネギがついに折れた。
そして先ほど森であった楓のことを話した。
「楓が?」
「……」
刹那は驚いたような様子でネギに聞き返し、龍宮はその横で一言も発さず、ただ眉根を寄せた。
「はい……。楓さん、何か様子が変でした。上手くいえないんですけど、学園にいたときとは明らかに違ってて……」
ネギはそこで黙ってしまう。
二人も、ネギの話だけではなんとも言えないため、それ以上の追求は出来なかった。
ただ、仲間にしたいと、そして出来ると思っていた楓の変化という事実は、少なからず一行の空気を重くさせた。
しばらくの沈黙の後、口を開いたのは龍宮だった。
「……わかりました。楓のことは今はとりあえず保留ということにしておきましょう。」
その言葉で、みなの視線が一斉に龍宮に向く。
「とりあえず今は、これからの行動のことを考えましょう。」
龍宮がそう言うと、ネギが身を乗り出した。
「あ、あの!そのことなんですけど……」
ネギは勢いよく声を出して、その後少し言いよどんでから、再び口を開いた。
「僕、皆さんとは別れて行動したいと思ってます。」
「そんな!」
そう言ったのはのどかだった。先ほどまでずっとしゃべらずに三人の会話を聞いていたのどかだったが、さすがにこれには口を挟まずにはいられなかった。
ネギが、申し訳なさそうにのどかの方を向いた。
「すみません、のどかさん。でも、一刻も早く皆さんを探し出さないといけないんです。固まって探すより、別れて探した方が効率はいいと思うんです。」
すまなそうにではあるが、それでもはっきりとネギは言った。のどかは反論する言葉を見つけることが出来ず、黙りこんでしまう。
そこに刹那が助け舟を渡すように割り込んできた。
「でも、いまの魔法も気も使えない状況では、一人で行動するのは危険です!やはり私たちと……」
「わかってます。危険なのも承知のうえです。でも、皆を救うには、こうするのが一番なんです。」
刹那の言にも、ネギは意思を変えなかった。力強く言ってみせる。
「ネギ先生……」
返事からその意志の固さを見て取れる。刹那も言葉を失ってしまった。
遠巻きでしばらくは黙ってみていた龍宮が、一度ため息をつくと三人のもとへと歩み寄った。
刹那を追い越し、ネギの前に立って言う。
「そこまで私たちから離れて行動したいんですか?」
見下ろされ、多少気おされたが、それでもネギは力強く答えた。
「はい。」
龍宮はそのネギの表情を見て、もう一度、軽くため息をつく。
「わかりました。」
いとも簡単にネギに同意する龍宮。それを見て、刹那は、やはりネギをこのまま行かせないといけないのかという複雑な思いに駆られた。
「ただし……」
そんな考えを持って沈んでいたため、刹那は龍宮が自分のもとへと歩み寄っていることに気づくのが少し遅れた。
龍宮が刹那の背後へ回り込み、その背中を押した。
唐突だったのでなすがままそれを受けた刹那はよろけて転びそうになるが、何とか踏みとどまった。目の前にネギがいる。
「龍宮?」
「刹那、お前がついていってやれ。」
「何?」
「どの道二手に分かれるならこれが一番いい。お前なら先生を守ってやることも出来るだろ。」
「確かにそうだが……」
「確かにそうなら文句は言うな。」
龍宮が畳み掛けるように言って、刹那に二の句を告がせない。
刹那も少々戸惑いながらも、その提案にうなずいた。確かにこれが一番いい形ではあるだろう。
よく考えたら反対する理由はどこにも無かった。
先ほども言ったように、ネギは今の状況では普通の人間と大差ない。身体能力が優れてはいるが、それでもこの島で生き抜くには少々力不足だ。
ならば刹那か龍宮、どちらかが一緒に行動すればいい。いざとなればネギを守ることも出来る。
「というわけで、すまないな、宮崎。」
「へ?」
突然名前を呼ばれて、のどかは間の抜けた返事を返した。
「やはりネギ先生とは一旦お別れということになる。」
「そう……ですか。」
残念そうではあったが、のどかもしぶしぶ納得してくれた。
かくして、刹那とネギ、龍宮とのどかという二つのペアが出来上がった。
「ネギ先生はお前が守れ。……今度は失うなよ。」
「……わかってる。」
刹那と龍宮が言葉を交わし、
「ネギ先生……」
「すいません、のどかさん。でも、必ずまた会えますから。」
「……」
ネギとのどかが約束を交わす。
「集合場所を決めます。明日の正午、ちょうど定時放送が鳴るころに一度集まりましょう。他にも何かがあればそこで待機するように。」
「どこにするんだ?」
刹那が聞いて、龍宮が地図に指を這わした。そしてある地点でとまる。
「ここがいいかな。恐らくは大きな建物だろうからすぐ見つかるだろう。」
「わかった。」
龍宮が指差したそこは、地図の上では建物ということ以外はよく分からない。
地図にわざわざ記載されている以上、それなりに重要な施設だということだけはわかるが。とりあえず目立つ建物だとは思った。
だから四人はここを集合場所に決めた。
そして四人は立ち上がった。
「それじゃあ。」
「お互い、無事を祈ってるよ。」
そう言うと、四人は二組に分かれて歩き出す。
それぞれの目的のために。
ここらへんはかなり難産だった箇所ですね、というか上手く産めたか自身ありません。
ともかく、今日の分は以上です。
龍宮のセリフに多少違和感。
すこし丁寧すぎる感じかな。
今後の話の展開が楽しみです。GJ
やはり夏美に先立たれるとちづ姉はたいていコワレるんだなあ、
惜しむらくはその狂気と殺意に身体能力がついていけないところか、
まあ今回のように相手が悪すぎるって事もあるけど。
>>91 復讐を誓ったあとのちづ姉って下手したら今んとこ全敗じゃない?
復讐心ならトップクラスになれるのになぁ
ちょっと勝手な意見なんですが「怪訝」って言葉が多くてしつこい気がします。
でも非常に面白いです。今日の投下楽しみです。
個人的な意見。
確かに千鶴は夏美と相部屋して妹みたいに思ってるかもしれないけどだからといって特別視してるわけじゃない。
仲はクラス中でも1・2番にいい、でもほかのクラスメイトも大切な存在で、それに優先順位などない。
だから誰かが死んだ時の悲しみも平等。夏美の時だけ豹変するのはおかしい。
千鶴の人格だとこうじゃないかな
>>90 確かに少し丁寧すぎますね、言われて読み返すと違和感バリバリです…
>>93 使いやすい言葉ってつい使いすぎてしまいますね、自粛します。
それでは今日の分、どうぞ。
47.親友という存在
「このか……このか……」
森の中に、泣きじゃくる声が聞こえる。
親友の名を何度も呼びながら、泣きじゃくっている。
神楽坂明日菜(番号8番)は、その後も何度も親友の名を呼び続けた。
まさかの出来事、だった。
会えると思っていた。
そう信じて歩き続けた。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて、彼女たちを探していた。
そして、その願望に近い無根拠な確信は、今このときをもって無残にも裏切られることになる。
今、確かに聞こえた。昼の定時放送、忌々しい死亡生徒の報告で。
近衛木乃香(番号13番)の名前が確かに呼ばれた。
明日菜は、泣きながら歩き続けた。
しばらく歩いたころだろうか。声が聞こえた。
「うぅ……ぐっ……ひっく……」
自分の鳴き声にまぎれて最初気づかなかったが、声は明日菜の進む先から聞こえてくる。
明日菜は涙の流れる目をぬぐい、ポケットから銃を抜くとしっかりと握った。
足音を忍ばせながら、声のするもとへと歩いていく。
「う……うぅ……」
近づくにつれて、声が鮮明に聞こえてくる。
それが誰の声か分かってきたころ、その人物が視界に映った。
「うぅ…そんな……千鶴さん……」
そこには、倒れている那波千鶴(番号21番)を抱きかかえて泣きじゃくる、雪広あやか(番号29番)がいた。
「いいんちょ……」
思わず声が漏れる。あやかが驚いて顔をこちらに向けた。明日菜と目が合う。
「アスナさん……」
「……」
明日菜が返事を返せずにいると、あやかは突然険しい表情をして明日菜をにらみつけた。
倒れている千鶴の手から銃をとると、立ち上がって明日菜に向ける。
「ちょっと、いいんちょ?」
「アスナさんも、このゲームに乗った人なんですの?」
「え?」
明日菜が思わず聞き返すと、あやかはさらに語調を強くして言った。
「あなたもクラスメイト同士で殺しあおうとしているんですの!?」
「ちょ、ちょっと待って!私はそんな――」
「嘘!」
弁明しようとする明日菜の言葉をさえぎるように、あやかが声を荒げた。
「ならばその手にある銃はなんですの?それでクラスメイトを殺してきたんでしょう?」
「な、違う、これは!」
「許さない……皆さんを殺して、自分だけ生き残ろうとするなんて、絶対に許さない!」
「話聞きなさいよ!私は殺し合いなんてするつもりない!」
「そんなの、どうやって信じろって言うんですの!?」
銃を握った相手を信用しろという方が無理なのか。
あやかは完全に明日菜を敵視していた。学園では争いあったりもしたが、小学校来の親友のはずなのに。
このプログラムという状況は、ここまで人の心を豹変させてしまうのか。
ずっと一緒だった友達も、あれだけ笑いあった友人も、だれも信用されなくなるのか。
そして最期には皆、こうやって離れていくのか。この狂った状況に飲まれて、離れ離れになるのか。
そして二度と会えないというのか。
(そんなの……)
「この……」
明日菜の手に力が入った。――そんなの、絶対嫌!
「このばかいいんちょ!!親友の言葉も信用できないって言うの!?」
明日菜は叫ぶと同時に、手に持った銃を地面にたたきつけた。
その行動にあやかが目に見えて動揺する。
「あんたそうやって誰も信用できなくなって、結局殺し合いに参加するつもり!?
友達が死んで、ただ泣き喚くだけで何もしないつもり!?ふざけないでよ!!」
「あ……」
「みんな戦ってるのよ?この状況をどうにかしようって、皆必死に戦ってるんだから!
クラス委員長のあんたがそんなでどうすんの!?ま!あんたにはそれが限度なのかもしれないけどね!」
「な、何を……」
あやかが明日菜の挑発に乗って、同じように銃をほうり捨てて明日菜に詰め寄った。
「あなたはいちいち一言多いんですのよ!大切な友人が死んでしまって悲しんでるというのに!デリカシーってものはないんですか!」
「うじうじ悩んでたってしょうがないでしょ!そんなことしてる暇あったら皆を集めるだとか、何とかしなさいよ!」
そう言うと明日菜は右拳を振り上げ、軽くあやかの胸に押し当てる。ちょっと強めに当てたために、ドン、という音がなった。
「私たちに出来るのは、それくらいしかないんだから。」
「……」
死んだ人が生き残っている人に望むことは、人によってそれぞれだと思う。
それでも、明日菜は疑いも持たず、そう思っていた。
皆を助け出し、この島から脱出する。また、皆でもとの生活へと戻る。死んでいった人たちも、きっとそれを望んでいる。
そういうクラスなのだ、3−Aというクラスは。
あやかは一度深くため息を吐くと、明日菜に向き直る。
「本当、あなたって人は……。」
そういったあやかの表情は、いつものあやかだった。
それを見て明日菜が笑った。つられてあやかも相手の顔を見て笑う。
「……あら?」
そこで、あやかは明日菜の目が赤いことに気づいた。
「明日菜さん、その目……」
「あ、……何よ、いいんちょだって赤いじゃないのよ。」
「うるさいですわね。」
明日菜はばつが悪そうに目線をあやかからそらし、そっけなく言う。
「……あんたと言い争ってたら、泣いてた理由忘れちゃったわ。」
「……そうですか。」
あやかはそれ以上は何も聞かなかった。
黙って、明日菜の足元に落ちている銃を拾った。
「はい。」
「あ……」
差し出された銃を、とりあえず明日菜は受け取る。
「こういう状況じゃ、望む望まざるにかかわらず、武器は必要ですわね。」
そう言って、自分がほうり捨てた銃、もとは千鶴の所持品だったそれを拾い上げた。
そして再び明日菜のもとへと歩み寄る。
「あなたに諭されたというのが少々気に障りますが、しょうがありません。行きますわよ、明日菜さん。この狂ったゲームを止めるんですわ!」
意気込むあやかに、明日菜は笑って言った。
「何よ、あんただって一言多いじゃない。」
それからもしばらく二人は言い合いをしながら、皆に会うために歩き出した。
そしてそのころ。
島の海岸に、一台のモーターボートに乗って、一人の男が上陸した。
48.侵入者
島に一つだけある入り江に、一台のボートが浮いている。
波に揺られて上下するそのボートに、一人の男性が乗っていた。
「ふぅ……」
白のスーツを着た男が、目の前に広がる孤島の様子を眺めてため息をつく。
その視線を、ゆっくりと背後へと持ってきた。
「悪いね。」
そう言って自分の背後、海の沖合いを見る。
そこにも一台のボートがあった。男の乗ってきたボートよりもサイズは大きい。
そのボートが、煙を上げて海の中へ消えようとしていた。もう半分ほど沈んでしまっている。
時間がたてば、ボートは完全に海に飲み込まれるだろう。
さらに言うと、島の影に隠れて見えないところで、さらに二台ほど同じボートが同じ事態に陥っている。
それらは全て、政府の監視船だった。船には銃で武装した男たちが乗っていた。
プログラムを放棄して逃げようとする生徒を監視するための、そして外部からの侵入者を防ぐための措置だろう。
とはいえ、監視員は随分とお粗末な連中ではあったが。
男は出来るだけ入り江に近づき、ボートを止めた。
そこから浅瀬を歩いていき、島に上陸する。ズボンのすそが少々濡れたが仕方ない。
孤島に降り立ち、再び周りを見回す。周りに人の気配はなかった。
男、高畑・T・タカミチは島へと乗り込んでいった。
瀬流彦が3−Aを拉致した後、麻帆良学園は大騒ぎだった。
いや、表向きには穏やかを装っていた。他のクラスは、瀬流彦が流したらしい偽の情報を鵜呑みにしていた。
ほとんどの教師もそのことについて何一つ疑問を抱いてはいなかった。
しかしそんな中で、学園にわずかながら存在する、魔法先生と呼ばれる人たち。
彼等だけは、突然3−Aが消えたときから、その行き先を調べ続けた。それと同時に姿を消した瀬流彦についても。
そしてつい数時間前、やっとのことで行き先を突き止めることが出来た。
日本の領海ギリギリにある孤島。数日前、ここに住んでいた住人が突然、全員列島へ移住してきた。
今までこんなことはありえなかった。つまり、今までになかった何かがあるということだ。
そしてタカミチが単身乗り込み目撃した、島の外周を囲うように浮かぶ政府の監視船。
推測は確信に変わった。ここにみんながいる。
入り江を出てすぐにあった道に従って、海岸沿いを歩く。すぐに近くの民家へとたどり着いた。
他に民家は数えるほどあるだけの寂れた場所である。
「とりあえず身を隠すか………」
自分は今侵入者だ。下手に目に付く場所をうろうろするわけには行かない。
どこに政府の目が走っているか分からないし、今クラスメイトは言ってしまえば政府側の手にあるのだ。
下手な気は起こせない。とにかく今は民家に身を隠し、これからの行動を考えることにする。
タカミチは一番近くにあった民家へと足を運んだ。
それなりに広い家だった。二階建ての古い木造建築。
「エヴァなんかが好きそうだな。」
タカミチが民家を見て言った。
玄関を開けると、正面に階段。脇を廊下が抜けていて、扉が一つとふすまが一つ。
一階から探索する。まずは扉を開けた。
大きなテーブル。それをかこむように五つの椅子。そして近くにキッチンがある。
「五人家族だったんだな……」
生活の様子を見れば分かる。恐らく急な移住だったため、生活用品も全てここにおいていかざるを得なかったんだろう。
棚に飾られている写真立てもそのままだった。やはり仲むつまじく写っている五人家族がそこにいた。
それからタカミチは廊下に出ると、ふすまの方の扉を開けた。そこで固まる。
「……え?」
思わず、間抜けな声を上げてしまった。無用心極まりないが、それもこれも、今この目の前の状況が原因だ。
ふすまを開けた先は和室だった。
畳の敷き詰められた、なかなか広い空間だった。
縁側があり、つるされた風鈴が潮風を受けて涼やかな音を奏でる。
その和室のちょうど真ん中あたり。そこに、一人の少女がいた。
「エヴァ?」
タカミチはその少女の名を呼んだ。それこそが歴戦の魔法使いにして不死の吸血鬼。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(番号26番)だった。……のだが。
「……」
エヴァは畳に両手両足を投げ出して、大の字に寝ていた。
布団も敷かず、とはいえ昼間から布団を敷いて寝られても困るが、だらしなく口を開けていびきをかいていた。
へそ出しで眠るその姿は、それこそ遊びつかれた子供のようだ。少なくとも多くの人の命を殺めてきた吸血鬼とは思えない。
寝返りを打って、ムニャムニャと何か寝言を言っている。
その時、縁側からひときわ強い風が吹いて、風鈴が少々やかましく鳴った。エヴァの髪が、風に乗ってゆれる。
それがエヴァの顔にかかった。
「ん……」
金色の髪がエヴァの鼻をくすぐる。
最初こそこらえていたが、じきに我慢できなくなって、
「はっくしょん!」
そしてエヴァはゆっくりと目をあけた。
上半身だけ起こして、和室を見渡す。一角に立ち尽くすタカミチを見つけた。
まだ開ききっていない目でタカミチをにらみつける。
「やぁ。」
とりあえず声をかける。エヴァは返事をしない。
しばらくその時間が続いた。
「あー、つまり私たちが拉致されたことを知らされて、ここに救助に来た、ということだな?」
ばつが悪そうにエヴァが言った。きちんと座布団に座っていて、眠気は完全に吹き飛んでいるらしい。
その傍らには先ほど見回りから戻ってきた絡繰茶々丸(番号10番)がいる。
エヴァの問いに、対面に座るタカミチが答える。
「まぁ、おおむねその通り。どこに連れて行かれたか突き止めるのに手間取って、ここに来るまで随分時間がかかった。」
「ふん……」
申し訳なさそうに言うタカミチ。しかしエヴァからしてみれば最早どうでもいい。
「とにかく今は情報が少なすぎる。知ってるだけでいいから、この島の状況を教えてくれ、エヴァ!」
半ば懇願するようにエヴァに詰め寄る。エヴァは茶々丸に目配せをした。
それを見た茶々丸が小さくうなずき、タカミチの方を向いた。
「マスターに代わりまして、私がご説明いたします。」
「……」
「以上で、説明は終わりです。何か質問は?」
タカミチは何も言わない。黙ってその場に座っていた。
茶々丸からプログラムについての色々な情報を聞いた。詳細なルール、首輪の存在、地図、禁止エリア。
そして、死亡した生徒たち。
「もう……10人以上死んでいる……」
タカミチの悲痛な声に、エヴァが容赦のない言葉をかけてくる。
「クラスメイト同士が殺しあうはずなんて無いとタカをくくっていたか?残念だったな。
いつの時代でもそうだ、人間というのはいつだって自分が一番可愛いのさ、そのためならいくらでも残虐になれる。」
まるで責めるような口調だった。何も知らずに今更のこのこと現れ、生徒を助けるといきまいている姿はさぞ滑稽だったことだろう。
殺しあう人間なんていないと初めから思ってかかっていたのも事実。
タカミチは反論することも忘れ、その場にうつむいてしまった。
「ならば……」
そのタカミチから、声が聞こえた。
「ならば生き残っている人たちだけでも、そう、君たちだけでも助ける。そうすることにするよ。」
「……ふん。」
「そのために僕は来たんだ。」
悲しみは消えていないが、強い意志のある声でタカミチは言った。
49.工場地帯
この島には色々な施設がある。
小、中学校はもちろん、商店街や島役所、果ては教会なんてものもあるらしい。
しかしそんな中でも、今明石裕奈(番号2番)等がいる工場地は格別の大きさを持っていた。
建物の大きさもそうだが、むしろ驚くべきはその敷地の広さ。
一つの場所に工場施設や従業員の宿泊施設なんかも一緒くたにして置いてあるのだからおのずと広くなるのも頷ける。
これだけの土地を使って作られている場所であることから、ここはこの島の住人たちの経済の中心だったに違いない。
今では全く使われていない煙突からでさえ、往年の栄華を思い伺うことが出来る。
いまや飽食の時代となってしまった現代、
食料を外国からの輸入に頼っている日本が世界に誇れるものがあるとすれば、それこそこの飛びぬけた工業技術以外にはありえない。
つまり、この施設はその工業技術の一端を担う、つまりは日本の経済の一端を担っているわけで、
目前に広がる重大な施設の数々はまさに国にとって最重要施設だったに違いないのだ!
それならばこのでたらめな敷地の広さにも納得がいこうというもの。
そこをこうやって自由に歩けることの、何と素晴らしいことか。
「……なーんて、んなわけないか。」
裕奈が気の抜けた声を発した。隣にいる和泉亜子(番号5番)が何事かと裕奈の方を見た。
「どうかしたん?」
「あ、いや別に……」
裕奈は亜子の方を見ようとはせず、適当な返事を返した。
今考えていたことをそのまま亜子に言うのはちと恥ずかしい。
言わなくてもいいことだし、言って呆れられるのも嫌だ。
釈然としない表情のままこちらを見る亜子に、裕奈は話題を変える作戦に出た。
「長谷川、いないね。」
変えるというよりは戻す、というほうが正しいか。亜子がその言葉に同意して、視線を裕奈から周りの施設に向ける。
二人は先ほどからずっと長谷川千雨(番号25番)を探していた。待ち合わせ場所にしていた山の中のレストランが何らかの理由で全焼してしまっていたので、そこから一番近く似合った工場地帯へと足を運んだのだ。
そして、先ほど言ったようにその広大な敷地のせいで、裕奈たち二人による千雨一人の探索は難航していた。
ここについてから随分と時間がたつというのに、いまだに全体を探索し切れていないのはどういうことか。もう太陽も大分傾き、早くしないと山の裏へと消えていこうとしている。
それほど探してもいつまでも見つからないため、“もしかしたらここにはいないのではないか?”という考えも浮かび、士気も下がっていた。
「長谷川〜、いるなら早く出てきなさいよぉ」
疲れきったように千雨を呼ぶが、当然のごとく返事は返ってこない。仕方なく、二人は再び歩き出すことにした。
重い横開きドアを二人がかりで何とか開けると、暗かった倉庫の中に外の光が差し込んだ。二人はそこから中へと入っていく。
最初は真っ暗で何も見えなかったが、時期に目が慣れてくると中の様子もはっきり見えるようになる。
倉庫の広さはバスケットコート二つ分ほどの大きさで、上の方に小さい窓が並んでいる。もちろん全てカーテンが閉められていた。
片端には階段があり、その先にはアルミの扉。恐らくはこの倉庫の管理室だろう。
そして奥にはダンボールの山が置いてあった。他には何もない。
「さーて、長谷川はここかな?」
倉庫のちょうど真ん中あたりまで歩いてきた裕奈が、腰に手を当てて周りを見ながら言った。
とはいえ、首を回せば全体を見渡すことが出来るこの倉庫に、人が一人隠れられるようなスペースはどこにもない。
そんな倉庫の中で、目に入るところに人がいないということは、つまり誰もいないということに他ならなかった。
「やっぱいないのかな……」
とうとう弱音すらも吐いてしまう裕奈のもとに、遅れて入ってきた亜子が、たどり着いた。
「やっぱり、おらんの?」
「うん。見たまんま。」
うなだれたまま亜子に返事を返した。そして顔を上げる。
「あとは向こうの管理人室くらいかな……あれ?」
顔を上げた裕奈が、声を上げると共に目の前を凝視した。
ちょうど話に出ていた管理人室の扉が、今まさに開いたのだ。錆付いた蝶つがいの鈍い音が、倉庫の壁を反響して裕奈たちの耳にも届く。
そこで亜子もそちらの方を向いた。二人でそこにいる人物を見る。
目が慣れているとはいえ暗闇には違いないその場所で、屋内とはいえ遠く離れた場所にいる人影が誰かを確認するのは容易ではなかった。
人影はすぐ自分の目の前にある階段を一段ずつゆっくりと下りていく。裕奈たちのいる一階のフロアに通じるための。
そして階段の中腹あたりにまで差し掛かったとき、その足が止まった。
「え……?」
一瞬の出来事だった。動きを止めた人影が、突然身を翻したと思ったら、強烈な光と共に耳がおかしくなるような爆音が鳴り響く。
それにより床に薄く張っていた埃が宙を舞った。
裕奈はそれに反応することが出来ず、ただその場に立ち尽くしていた。何が起こったのか、すぐには理解できなかった。
やっと頭で身の危険を理解することが出来た時には、人影はすでに銃をこちらに向けて構えていた。
「亜子!」
名前だけ叫んで、亜子の身を抱くとそのまま横へ飛ぶ。自分たちが元いた場所に、再び砂埃が舞った。
二人は受身も取らずそのまま地面に激突する。かなり痛いが我慢して身体を起こした。
不意に、裕奈の身体に思わぬ荷重が伝わる。立ち上がろうとしていた裕奈が体勢を崩す。
それでもなんとか踏みとどまると、自分が抱きかかえている亜子の方を見た。亜子はぐったりとしていて、足にも力が入っていないように見えた。
「亜子?」
裕奈が亜子の名前を呼ぶ。亜子からの返事はなかった。その時、亜子の身体に回していた左手に、妙な感触を覚えた。
亜子を支える手を右手にかえて、その左手を見る。暗闇でよく見えない手を凝視した。
ためしに人差し指と親指をこすり合わせて見る。ぬめりとした感触があった。さらに鼻を突く鉄の臭いもする。
「うそ……」
それが何なのか、さすがに裕奈も理解した。
「嘘でしょ、亜子!亜子!!」
大声で叫び、身体をゆすっても亜子は起きなかった。
「嘘でしょ……」
呟いたとき、すぐ近くに足音がした。震える腕はそのまま、顔だけそちらへ向ける。
「ザジ……さん?」
目の前にいるザジ・レイニーデイ(番号31番)は、裕奈にその手に持つマシンガンの銃口を向けていた。
暗闇にわずかに見えるその目に、特別な感情などは感じ取れない。
好意も、敵意さえもそこには存在しなかった。今から自分がしようとしていることなど、取るに足らない作業の一つとでも思っているのかも知れない。
それだけに、彼女には何の迷いも生じないであろうことは分かった。今すぐにでも彼女は引き金を引く、そのために近くに来たのだ。それは分かる。
裕奈は無感動に自分たちを見るザジに向けて、短くこう言い放った。
「……助けて…。」
「……」
かすれるような、小さな声だった。
「亜子が……怪我してる……このままじゃ死んじゃう……」
裕奈が、必死になってザジに懇願する。その目は、ある意味ではザジと似ていた。
好意や敵意なんて関係ない、ただ無心で亜子を助けようとする気持ちだけがあった。
しかしそんな純粋な想いも、目の前の殺人鬼には通用しなかった。
スライドを引く音が、無慈悲に裕奈の耳に届いた。そして、単発の乾いた音が、いくつか鳴り響いた。
「へ……?」
その気の抜けた声をあげたのもまた、裕奈だった。
いつの間にか、目の前にまで迫っていたザジがどこかへと消え、再びそこは亜子と二人だけになった。
「こっちだ!こい!」
わけが分からず呆けている裕奈に、誰かが声をかける。裕奈はそちらの方を向いた。
自分たちが開けた倉庫の扉の前に、誰かが立っている。
外からの逆光で誰か分からない。さっきからこんなのばかりだ。
とにかく裕奈は亜子を肩に抱くと、そちらへと歩き出した。
「何してんだ、早くしろ!」
「そんなこと言ったって亜子が!」
「チッ!」
人影は一度舌打ちした後、構えていた銃を撃った。銃弾が鉄骨に弾け、火花が散り、それにザジが照らされる。
ザジはさらに奥へと避難した。
「お前はそこでじっとしてろ!」
人影はザジに向けて吼えた。その時、やっと裕奈が出口までたどり着いた。
「こっちだ、早く!」
そう言って人影は銃を持つ手で裕奈たちの背中を押した。
真っ暗な倉庫から再び屋外へと出た裕奈は、突然の光に目を細める。
そして後ろを振り向き、そこでやっと人影が誰か認識した。
「……長谷川!」
裕奈が驚いて声を上げるが、長谷川千雨(番号25番)はそれを無視した。
「いいから早くこれ手伝え!」
千雨はそう言って自分が片手で必死に引いている扉をあごでさす。
裕奈が一度亜子を下ろし、両手で千雨を手伝う。ゆっくりと、しかし確実に扉は閉まっていった。
扉が完全に閉まりきるのと同時に、倉庫の中からマシンガンの轟音が響いた。思わず二人は扉から離れる。
「これなら大丈夫だろ。今のうちに逃げるぞ!」
「長谷川、やっぱりここにいたんだ!」
「話は後だ!急ぐぞ!」
千雨がそう言うと裕奈はすぐさま亜子に肩を貸して立ちがる。いまだ目を覚ましてはいないが、呼吸はきちんとしていた。
「そいつが、お前の言う“信頼できる仲間”か?」
問いかける千雨に、裕奈はさっきとは打って変わって活気のある声で答える。
「そうよ!」
「……予想通りっつうか……まぁいい、早いとこ離れよう。」
そうして三人は工場地を後にし、村の方へと消えていった。
太陽は、再び山の中へ消えようとしている。
50.二日目の夜
龍宮真名(番号18番)と宮崎のどか(番号27番)の二人が、真っ暗な森の中で、向かい合って座っていた。
周りは恐ろしいくらいに静まり返っており、時折ふくろうが鳴く声が、やけに大きく聞こえる。
そんな中で、龍宮の手元だけは、随分と明るかった。焚き火だのというような光とは違う。もっと人工的な明かり。
その場に座り込んでいる龍宮の目の前に、支給されていた懐中電灯が浮いていた。
よく見ると、それは浮いているのではなく、糸によってつるされていることが分かった。
龍宮の傍らにある、他と比べると大分小さな木から伸びている枝。そこに糸はつながっている。簡単な照明が出来上がっていた。
それは木にもたれて座っている龍宮の、ちょうど正面を照らしていた。
そこには大きめのハンカチが敷かれていて、その上に沢山の金属類が並んでいた。銀色に光る筒だの、細かいネジだの、手で握るためのグリップだの。
それらはまさに龍宮の持っていた銃の部品だった。龍宮はそれらを全て細かくチェックしていく。そして時には油を差し、布で拭いていく。
対して、その正面にいるのどかは、膝を抱えて座りこみ、そこに顔をうずめていた。そしてピクリとも動かない。
「もう、寝たらどうだ?」
不意に、龍宮が言った。のどかがゆっくりと顔を上げて、龍宮を見る。
のどかの目は、赤く腫れ上がっていた。その上でいまだにその瞳は涙をためていて、両頬にはくっきりと涙の跡が残っていた。
龍宮はのどかの方は向いておらず、せっせと部品を磨いていた。
のどかはその様子をしばらく眺めたあと、聞こえるか聞こえないかというぐらいの小さな声でそうですね、と呟き、制服の上着を掛け布団代わりに、草むらの上に身をゆだねた。
そこで初めて、龍宮が顔を上げて、のどかの方を見た。
のどかはこちらに背を向けるようにして横になっている。それを見たあと、龍宮は再び手元の部品に視線を落とす。
――夕方ごろ。
二人は今いる森の中をずっと歩いていたが、日が沈んできたためそこで野宿することに決めた。
ちょうど太陽が完全に姿を消そうとしていて、空がその茜色すら失いかけていた時だった。
龍宮が辺りを見回して、
「ここにするか。」
隣にいるのどかに言った。のどかがみると、そこは比較的木々の少ないところで、それでいて綺麗な芝生が出来上がっている。
座って休むには格好の場所だし、寝ることもまあ出来なくはなさそうだ。
「寮のベッドとは比べるべくも無いが……ま、我慢してくれ。」
龍宮がそう言うと、のどかは全然気にしないという風に首を振った。それを見て龍宮が笑みを浮かべる。
実際のどかは初日、岩の洞窟の中で夜を明かしたのだ。それに比べれば随分とましな寝床である。
贅沢を言えば屋根のある場所がよかったが、それでも上等である、とのどかは思っている。
それに、今の状況では現状で用意されたものに満足するしかない。文字通り贅沢は言えないのだ。
龍宮はそこに自分の荷物を置いた。そしてすぐ横に腰を下ろす。
のどかにもそこに置くように目で示す。のどかもそれにしたがって荷物を降ろし、その場に座った。
次に龍宮はデイパックから地図を広げると、これからの行動についてのどかに話しておく。
「できれば今日中に森を抜けたかったが、どうやら無理だ。だから今日はここで野宿して、明日は朝の六時、ちょうど定時放送が鳴るころに行動を開始することにする。いいな?」
「はい。」
基本的にのどかは反対はしない。自分の意見をはっきりさせないのは問題あると思うが、今の状況だと考えがぶつからないのはありがたい。
手短な会議を済ませた後、龍宮は周りを見渡した。気配を配れる範囲には、誰も居ないことがわかる。
とりあえずこの場では安心してもかまわないことを知り、軽く息を吐いた。
キーンコーンカーンコーン
「!?」
「きゃっ!」
突然鳴り響いた大音量のチャイムに、龍宮は身構え、のどかは悲鳴を上げた。すぐにそれが夕方の定時放送だと知って、二人は緊張を解いた。
「定時放送を始めよう。地図と生徒名簿とペンを用意しろ。それでは言っていくぞ。」
男の声がそう告げると、のどかは慌ててデイパックから地図と名簿、そしてペンを取り出した。
決まって最初は死亡した生徒の名前を読み上げることから始まる。すでに数回の放送で勝手を覚えたのどかは、苦い顔をしながらもう結構な数斜線の入れられた生徒名簿を眺めた。
「まず死亡生徒の発表からだ。いくぞ、……」
上から確認するようになぞっていき、
「出席番号4番、綾瀬夕映……」
「え?」
その動きが止まった。
「9番、春日美空。14番、早乙女ハルナ、……」
「うそ……」
述べられていく名前が信じられなくて、のどかは固まってしまった。
同じように定時放送を聴いていた龍宮も驚きに目を見開き、今はのどかを見て渋い表情を作っていた。
死亡生徒の発表が終わり、次に禁止エリアの発表が始まる。しかしもはやのどかにはそんなことを聞いている余裕はなかった。
「うそ……うそだぁ……」
のどかが視線を生徒名簿からはずし、口を震わせながら、怯えているように周りを見渡す。
誰でもいい、嘘だと言ってほしかった。
「嘘ですよね?龍宮さん……」
すぐにその視線が龍宮をとらえ、そして聞く。
龍宮は、ただ黙って首を横に振った。
「嘘ですよね……だって、二日前まで一緒にいたんですよ?」
「……」
「二人とも、元気だったんですよ?」
「……」
「ハルナは、怖がる私の頭、なでてくれて……夕映だって、大丈夫です、って言ってくれてたんですよ?」
「宮崎……」
「死ぬはず、無いじゃないですか……まだ会ってもいないのに……まだ……話もして無いのに……」
だんだんと言葉がつまり始める。龍宮の見る前で、のどかは目から涙を流し始めた。
「これからもずっと……一緒に居られると思ってたのに……」
「……」
「こんなのって……」
そこから先は言葉にならず、のどかの叫びにも似た泣き声が響き渡った。
龍宮はその場にうずくまって泣きじゃくるのどかには何も言わず、その場を離れる。
この泣き声を聞いて誰かが来ないかを念のため見回ることにした。
龍宮は知っている。あぁなってしまった人に、自分はかける声を持ち合わせていない。何も、言ってやることが出来ない。
――夜
「龍宮さん……」
今度は龍宮が突然声をかけられた。寝ていたものとばかり思っていたため、かなり意表を突かれた。
「何だ、起きてたのか……」
「はい。……龍宮さん、一つ、聞いてもいいでしょうか?」
「……なんだ?」
龍宮は作業を再開させながら返事を返した。銃のバレルに小さな布を押し込み、さらに小さな枝きれでそれを押し込んでいく。
反対側からそれを取り出すと、布は真っ黒になっていた。龍宮がバレルの中を覗く。
のどかは一呼吸置いてから、口を開く。
「私は……これからどうすればいいんでしょう?」
「……」
龍宮は自分が覗き込んでいたバレルをもと置いていた場所に戻す。
そうだな、と一言前置きして、
「まぁ、お前に何が出来るか知らないが……ただ一つ、確実にいえることは……」
「はい。」
「……お前は生きるべきだ。綾瀬と、早乙女の分まで。何をして良いのか分からないなら、まずはそれだけ考えろ。」
生きていさえいれば、何だって出来る。逆に、死んでしまえばそこで終わりだ。
「……そう、ですね。わかりました。」
のどかはそう言うと、龍宮が、
「今度こそ本当に寝ろよ。明日も朝早くから移動するからな。」
「はい……龍宮さんも。」
「わかってる。」
その返事を聞いて、のどかは上着をかけなおした。
程なくして、規則正しい寝息が聞こえてくる。どうやら本当に眠ったらしい。
龍宮はのどかが寝るのを確認した後、手元においてあったバラバラの銃の部品を、一つ一つ手にとってあわせていった。
全く迷うことなく、スイスイと部品がかみ合い、一つの形を作っていく。
まるで作り慣れているパズルでも組み立てているかのように、あっという間に一丁の銃が出来上がった。ただ、マガジンは入っていない。
銃をまわして全体を一通り眺めたあと、部品が残っていないか確認した。
そして軽く銃の各部分を動かしていく。ハンマーを起こし、トリガーを引く。カチン、と小気味よい金属の音がする。
サイトを見る。ドットの凹凸は綺麗に前後とも合致した。
最後に龍宮がスライドを引くと、スライドは引ききったところで止まった。
スライドストップがきちんとかかることを確認し、龍宮はハンカチに最後まで残っていたマガジンを拾い上げる。弾丸は一杯にまで詰まっている。
それをグリップ底から押し上げて銃に叩き込むと、銃を持ち上げ、狙いをつけるような構えを取りながら、親指でスライドストップを下げる。
スライドはすぐに元の位置に戻った。マガジンの中から弾丸が一発、薬室へと移動する。
起こしたハンマーを親指で押さえながら引き金を引く。慎重に、ゆっくりとハンマーを寝かせた。
銃の整備を終えた龍宮は、目の前にぶら下がっている懐中電灯のスイッチを切った。
光を失った森はどこまでも暗く、もはや何も見えない。
龍宮は銃を手に持ち、気にもたれかかって座ったまま、ゆっくりと目を閉じた。
森の中は、完全な静寂となった。
今日の投下は以上です。
>>94 二次創作のキャラの性格の解釈は、大まかな共通点はあってもそれ以外は書き手ごとにかなり変わりますね。
自分としては、やっぱり同じ部屋で寝食共にしてればさすがに情は他の友人と比べても格別になると思ってます。
今日の投下分でもあやかの言動とかそんなかんじにしてますし。
でもそう言われてみればそうかも……とも思いますね。
GJ!タカミチ登場!アスナいいんちょ合流!亜子は無事なのか!?
作者6さん銃に詳しすぎ!
やっぱザジ怖ぇぇ
みなさん今日は、作者6です。
>>115 色々と展開同時進行だとどう進めようか迷ったもんです。
楽しんでいただければこれ幸い。
>>117 こ、これは……w
それでは今日の分ドウゾ。
50.悲哀
「なーにやってんだろうな……私…」
前にもこんなことを呟いたことがある気がする。それもつい最近。
いつだったか。少し頭をひねって思い出してみる。そうだ、今朝のことじゃないか。
荷物を持って、扉を開けて、道を決めて……
「うっ……」
柿崎美砂(番号7番)はそこで考えるのをやめた。
そして柿崎は今ここにいる。
森の中にひっそりと建っていた、木造建築の小学校。
さすがに古い校舎らしく、歩くと床はゆがみ、ギシギシと頼りない音を立てる。
初めて歩く場所のはずなのに、そのどこか懐かしい雰囲気が柿崎を安心させた。
子供のころだったら絶対にたっていることも出来ないだろう、真っ暗な夜の校舎を、柿崎は懐中電灯一つを手にスタスタと奥へと歩いていった。
一階はあらかた回り、二階へとあがったときだった。廊下を歩いていた柿崎は、教室の扉の上にある札を眺めていた。そして、あるものを見つけて立ち止まる。
「………」
懐中電灯で照らされた札は随分と痛んでいたが、大きく書かれた文字はかろうじて読むことが出来る。
そこには「3ねんAくみ」と書かれていた。柿崎が目を細める。
特に関係ないことは分かっているが、それでも素通りは出来なかった。
柿崎は教室の扉に手をかけると、横に引いて開けた。
小さな小学校の教室らしく、机も椅子も麻帆良に比べると随分と少ない。全部で20人弱といったところか。
机は規則正しく四列、等間隔に並んでいた。
柿崎は教室の中に足を踏み入れると、麻帆良で自分が普段座っている位置と、大体近い位置にある机を一つ見繕い、そこに座った。
どれも小学生サイズなため、椅子に座ると机に足が入らなかった。それが妙におかしくて、思わず笑みがこぼれる。
机の中を見ると、ノートやプリントが入っている。この机の本来の主のものだろう。柿崎はその中からノートを一冊手に取った。
中身は見ない。見てもしょうがないと思っている。ただそのノートを無造作に机の上において、前に置かれている黒板と、教卓をじっと見つめた。
そして呟く。
「3−Aに帰ってきましたよ……」
そして笑った。
下らないことをしていると、笑った。
少しだけ、涙もこぼれた。
もう戻れないんだと思って、涙がこぼれた。
柿崎は椅子からゆっくりと立ち上がると、教室を出て廊下へと戻った。
「柿崎サン……」
教室を出た瞬間、突然声をかけられる。驚いた柿崎が目を見開いてそちらを向く。
銃も構えようとしたが、とっさに体が動かなかった。苦い顔をしたまま、銃は手に握っただけで、その人物を睨む。
「誰?」
厳しい表情をしたまま人影に呼びかける。廊下の闇にほとんど解けてしまってシルエットもよく分からない。
正体不明の相手を前に、柿崎は額に冷たい汗をかいていた。
対して人影は動ずる様子もなく、至極落ち着いた様子で返事を返してくる。
「こんなところで奇遇ネ、柿崎サン。3−Aの教室で何をしていたのカナ?」
「その声は超?」
柿崎が質問すると、人影は少しだけ動いた。そして次の瞬間、ライトの明かりがその人物を照らした。
予想通り、そこには超鈴音(番号19番)の顔があった。その顔は微笑を浮かべている。
「私に何か用?」
柿崎が続けて聞いた。超が答える。
「別に。さっきも言ったとおり偶然ネ。いやはや本当に奇遇奇遇。」
おどけて言う超を睨みながら、柿崎は右手に持つ銃を超の見えないところへと移す。
ばれないように、慎重にハンマーを起こした。
「それはそうと柿崎サン」
突然名前を呼ばれて、柿崎の体が震える。
「何よ!」
落ち着いて返すつもりが、随分と声が上ずってしまった。超がそれを見て笑う。
「その制服……」
言いながら超は、手に持ったライトを柿崎の左肩あたりに持ってきた。光はその部分を集中的に照らす。
柿崎の着ている赤紫のブレザーは、全体的に綺麗にまとまっていたが、超が照らした右肩の部分だけ、特にそれが濃い部分があった。
そこはまるで何か液体がかかったように滲んでいて、放っておけばシミになる。
柿崎の顔色が変わった。
「そこについてるのは、血で間違いないネ?見たところ柿崎サンはケガをしてる様には見えないケド……」
口は半開きになり、震えるあごが奥歯をカチカチと鳴らす。それを静めるために柿崎は思い切り奥歯をかんだ。
恨めしそうに超を睨むが、超は涼しい表情を崩さない。
「一体誰を殺したネ?」
「違う!あれは!!」
思わず叫んでしまった。叫んだ瞬間、しまったと思った。
案の定、超は核心の笑みを浮かべながら柿崎を見ている。完全に超の話術にはまってしまった。
柿崎は苦虫を噛み潰したような顔をし、超から視線をはずした。
「別に柿崎サンを責めるつもりは無いヨ」
「てことはつまり……」
柿崎が言うと、超が静かにうなずいた。
「そう……」
柿崎は左手に持っている懐中電灯の感触を確かめるように、一度握りなおす。
手首の返しだけで角度を変えていき、ちょうどライトの部分が超の顔にかかるように調節していく。
超は柿崎の顔を見ていてそれに気づいていないようだ。柿崎はスイッチを入れようと、親指に力を入れていき……
その時不意に、超が右手を上げた。柿崎がとっさに身をひねった。
一つの長い銃声が聞こえ、目の前をオレンジの直線が流れていった。柿崎はそのまま後ろへと飛びのき、教室の中へと飛び込んだ。
逃げ遅れた懐中電灯が銃撃をもろに受けて破散する。
「くっ……」
無茶な体勢でよけたため、背中から床に倒れた。勢いがついてしまい、後頭部をしたたかに打つが、気にしていられない。
追撃がこないか警戒し、目の前の開いた扉に銃を向けるが、超はこない。
身体を起こして慎重に外へと足を運んでいく。顔をのぞかせて廊下を見ると、そこに超の姿はどこにもなかった。
(逃げた?)
そう思ったとき、遠くから足音が聞こえる。足音は高いところへと登っていき、じきに聞こえなくなる。
階段を使って上へ行ったらしい。柿崎はすぐに後を追おうと教室を出て走り出す。
「柿崎!」
再び自分の名前を呼ぶ、超ではない誰か別の声。しかも柿崎はこの声に聞き覚えがあった。
恐る恐る、声のした自分の背後を見る。肩越しに覗き込んだそこに、釘宮円(番号11番)が立っていた。
51.いろんな思い
暗闇の中の廊下で、二人は互いに向き合った。
ライトのスイッチは入っていない。明かりといえば窓から差し込む月明かりだけだ。
なので、先ほど超と対面したように相手の顔なんて見ることは出来ない。
それでも、柿崎にはその人物が誰なのかすぐに分かった。
根拠なんて何一つ無い、それでも顔だとか体つきだとか、そんなものよりずっと確かなもの。それを柿崎は目の前の人物から感じ取った。
「円……」
柿崎が、目の前にいる釘宮の名前を呼ぶ。釘宮は答えない。ただじっと柿崎を見つめていた。
柿崎は思わず、釘宮に向けて一歩、その足を踏み出した。
踏み出した後、すぐに立ち止まる。顔をうつむけて、眉をひそめて、何かを押し殺すように両手に力がこもった。
再び顔を前に向ける。闇に目が慣れてきたので、周りの様子ももうはっきりと見ることが出来た。
当然、釘宮の顔も確認できる。じっとこちらを見る釘宮の顔は、対する柿崎がしり込みするほど真剣な顔だった。
たった一日会って無いだけなのに、その顔を随分と懐かしく感じる。
決意が鈍りそうになった。
(ダメ……ダメ……)
柿崎は自分に言い聞かせる。釘宮の元へと行ってはいけない。もう、自分は戻れないのだから。
自分から捨てたのだ。今更取り戻すことなんて出来ない。もはや、自分には道は一つしか残っては居ない。
もう取り戻せない、全ての思いを断ち切るために、柿崎は釘宮に銃を向けた。
「……」
思ったより、釘宮の動揺は少なかった。ほとんど無いといってもいいくらいに。
釘宮は銃口が自分に向いたとき、少しだけ驚いたように目を見開いたあと、悲しそうな顔で柿崎を見た。
柿崎は釘宮の反応に違和感を覚え、眉をひそめた。いくら親友相手とはいえ、銃口を向けられたにしては反応が薄すぎる。
怪訝な表情で見る柿崎に、釘宮は言った。
「本当に、こんなことやってるんだ……」
再会した親友からの第一声だった。久しぶりに聞いた感すらあるその一言で、柿崎は納得した。
「桜子に、会ったのね?」
釘宮は何も答えなかったが、桜子の名前が出たときに少しだけ表情に変化が生まれた。
それだけで柿崎としては十分だった。そこで、新たな疑問が生まれたので続けて質問をする。
「桜子はどうしたの?」
「知らなかったの?……死んだ。」
釘宮は即答した。少しだけ、柿崎を睨んでいた。
それからすぐに表情を戻して、
「桜子から伝言。」
普段の調子で言った。柿崎は黙って釘宮に発言を促す。
「“もう、こんなことはやめよう。”」
「……」
「“本当は殺し合いなんてしたくないはずだから”、そうも言ってたわね。」
実際はそんなこと桜子は言ってない。でも嘘ではない。
桜子は絶対に、そう思っていた。だからこそ柿崎を止めたいと言ったはずだから。
そこまで言って釘宮は黙った。柿崎の返事を、じっとまつ。
数秒の沈黙の後、柿崎が言葉を発した。
「私は……」
「私は殺し合いに乗ったの。だから今すぐ消えて。あんたを私の手で殺したくは無い。」
桜子のときにもしたような警告を、釘宮にも告げた。それが、柿崎の返事だった。
釘宮は、やはりあいも変わらず変化の無い表情で柿崎を見ている。
その真剣な眼差しは逸れることなく、ずっと柿崎に向けられている。
「お願いだから、消えて。そして、もう私の前に姿を現さないで。でないと本当に撃つよ」
半分は願うような口調だった。それでも銃口は依然釘宮を向いていて、降りることは無い。
お互いに一歩も譲らない。
しばらくして、釘宮が言った。
「……手、震えてるわよ。」
柿崎が明らかに動揺した。自分の手に目をやる。
すぐに分かるくらい、手が震えていた。今まで気づかなかったのが不思議なくらい、大きく揺れている。
その時、柿崎の意識が完全に釘宮から逸れた瞬間、釘宮も右手を上げた。
その手に持つ銃が、柿崎を捕らえる。
柿崎も慌てて釘宮を狙いなおす。
お互いがお互いに銃を向ける形になった。
「そんなになってまで、まだ続ける気!?」
ここで会ってから、初めて釘宮が感情的な声を上げた。
こんなになってまで、誰かを殺す道を歩もうとしている柿崎へ、釘宮が叫んだ。
対照的に、今度は柿崎の顔から覇気が消えていく。
「仕方ない……は違うよね。」
力なく、呟く。こんなのは違う。言い訳だ。
「やっぱり、戻れないってのが理由かな。」
柿崎は、そう言って笑った。そういえば笑ったのも随分久しぶりかもしれない。
「一回でも望んじゃったから。こうすることを、望んじゃったから。」
柿崎は銃を下ろした。釘宮から背を向ける。大丈夫、覚悟は決まった。
そして柿崎は歩き出した。
「美砂!!」
釘宮が慌てて柿崎を止める。柿崎が立ち止まり、首だけ後ろに向けた。
「それ以上行けば、撃つわよっ!」
そう言って自分を睨みつけてくる、止めようとしてくれている親友を見て、柿崎は言った。
「手、震えてるわよ。」
「っ!」
釘宮が自分の手を見る。先ほどの柿崎と同じか、それよりも大きく揺れていた。
再び顔を上げたとき、柿崎はすでに走り出していた。
慌てて銃を向けるが、当然柿崎がとまることは無い。
引き金に指をかけても、当然撃てるはずも無い。
「……くっ!」
釘宮は右手を振り下ろして歯噛みする。柿崎はすでに奥の階段を駆け上っていった。
「何でこんなことになんのよ……」
はき捨てるように呟くと、すぐに柿崎の後を追った。
柿崎の上っていった階段の手すりに手をかけた瞬間、三階から銃声が聞こえた。
釘宮はゆっくりと階段を上る。踊り場を通り抜け、三階へと出た。
基本的な構造は一、二階と同じ。階段が終わると、左右に廊下が伸びていた。
左を見る。誰も居ない。首を回し、右を見る。近くの教室の扉脇に、誰かが座っていた。
壁にもたれかかるようにして、両足を投げ出して座っている。釘宮が、それに近づいていった。
なんとなく想像したとおり、それは柿崎だった。座り込んでいる柿崎は、釘宮のいるほうとは逆の方向を睨んでいるようだった。
さらに近づいていくと、足音に気づいて柿崎が振り向いた。釘宮と目が合う。
「円……」
そう呟いた柿崎の声は、随分と小さかった。ついさっきまでと明らかに違った。
月明かりは窓から差込み、そこにいる柿崎を照らす。その柿崎の姿を見て、釘宮は絶句した。
柿崎の服には、さっきまでは確かになかった赤い斑点が出来ていた。
胸からお腹にかけて、まるで水玉模様のように不規則に並ぶ。それが何なのか、わざわざ確かめなくても分かる。
呼吸は荒くなっていて、柿崎が息を吸うたびに胸が上下する。
その表情が青白いのも、決して月明かりのせいだけでは無いだろう。
釘宮はそれ以上歩み寄ることが出来ず、そこから見ていることしか出来なかった。
「……超を……目の前にしといてさ……結局、引き金……引けなかった……。」
柿崎がそう言って、虚ろな目を細め、笑った。
「ハハ……桜子の……言うとおり、だね……私には、むいて無いわ……。」
「……」
「円……私のこと、恨んでる?……憎いでしょ?」
円は答えない。
それを見て、柿崎がもう一度、声を出して笑った。そうだよね、と呟いた後、視線を円からはずした。
「本当、何やってんだろ……私……」
「……」
柿崎は、動かなくなった。荒い呼吸も収まり、指先一つ動かない。
そして、そこには釘宮だけが残された。
「……恨んでるわけじゃない……憎んでもいない……」
釘宮は一歩踏み出し、柿崎に近づいた。さらに一歩、そしてもう一歩。
「ただ……悲しかった……。」
目の前にある、柿崎死体を眺めた。釘宮の目からは、再び涙があふれていた。
「何でこんなことになるのよ……こんなの……あんまりじゃない!!」
叫んだあと、釘宮はその場にしゃがみこんだ。右手から銃が落ちた。
その両手を力なくあげて、柿崎の身体へと伸ばす。それは柿崎の顔の横を通り過ぎ、後ろへと回った。
そして柿崎の体を抱き寄せた。しっかりと、両手で抱きしめる。
「うっ……うぅっ、ぐっ……」
柿崎の身体は、まだ温かかった。人の温もりがあった。それが徐々に消えていくのが、釘宮には何よりも辛かった。
釘宮の手に力がこもった。消えようとしている、その残りわずかな温もりをかみ締めるように柿崎を抱きしめた。
しばらく泣き叫んだ後、残っていたわずかな温もりすら消えうせた、そのときだった。
冷たい、金属の感触が、釘宮の後頭部に突きつけられた。
すぐに分かった。それが一体何なのか。
「超……」
うめくような釘宮の呟きに、あの独特のしゃべり方が返ってくる。
「悪いネ、釘宮サン。あまりにも無防備だったもんで、ついネ。」
何がつい、なんだか。
意味の分からない、恐らくは意味も無いだろう超の謝罪を聞いた後、釘宮は柿崎から身体を離した。柿崎をそこに横たわらせ、そして口を開いた。
「……なんでこんなことするの?」
かなり落ち着いた口調だった。
「?」
「なんでこんなことが出来るわけ?ずっと今まで友達だったじゃない?それを、何でこんな簡単に殺せるの?」
その問いに、超はうーん、とわざとらしく悩んでみせた後、
「生き延びるため、仕方の無いことだと思てるネ。何かが生き延びるということは、犠牲の上に成り立つものヨ。」
「その犠牲ってのがこれ?」
「釘宮サンの言いたいことは分かるヨ。そしてそれは恐らく間違っては居ないネ。でも、時と場合によっては不正解すら正解になる。逆もまた、ネ。」
諭すように超が言う。釘宮は、もう何も言わなかった。
「楽しい話が出来たネ。釘宮サンにお礼をしなくちゃいけないヨ。最後に、何か言い残すことは?」
釘宮は首だけを回して自分の背後を見た。
すぐ目の前に、ぽっかりと開いた銃口があった。そしてその向こう側に、超の笑顔がある。
釘宮は、涙で赤く腫らした目で超を睨みつけて、言った。
「くたばれ、悪魔。」
「考えておくヨ。」
パン!―――
夜はさらに更けていき、月明かりがより一層際立ち始める。
窓から差し込む青白い光は、廊下に横たわる二人の少女を照らし続けた。
柿崎美砂 釘宮円 死亡。 残り13人
53.一時の休息
誰も居ない家のロビーで、長谷川千雨(番号25番)はソファーに座ったまま、特に何をするでもなくじっとしていた。
上着は脱いでいて、制服のシャツ姿になっている。左腕は骨折の応急処置として添え木をした状態で包帯が巻かれていた。
千雨の目はまるで何かをにらめつけるように鋭く、目の前にある机に向けられていた。無論机を睨んでいるわけではない。
むしろ、何か考え事をしているようだった。
その時、ロビーのドアの一つが開いた。蝶つがいがきしむ音が聞こえて、千雨はそちらへ目線だけを移動させた。
ちょうど扉を開けた明石裕奈(番号2番)と目が合った。裕奈の後ろ、開いた扉からはその部屋の様子がわずかに見える。
部屋の奥にあるベッドに、一人の人間が横になっていた。
「和泉の様子は?」
千雨が、裕奈に聞いた。裕奈は後ろ手で扉を閉めながら返事を返す。
「うん……よく分からないけど、多分大丈夫だと思う。今は眠ってる。」
「そうか……」
千雨はそれ以上何も聞かず、今度は顔を窓の外へ持っていく。外は完全な暗闇になっていた。
「あの、ありがとうね。」
不意に、裕奈が言った。何事かと千雨が裕奈を見る。
「何が?」
「えっと、その、昼のこと……」
「あぁ……」
納得したように呟いた千雨が、視線を天井へと持っていった。
昼間、工場地でザジ・レイニーデイ(番号31番)の追跡を辛くも逃れた三人は、しかしそこから動くことは出来ず、結局は近くにあった工場従業員の社宅に向かうしかなかった。
幾つか並んだ社宅から一つを適当に決めると、長谷川千雨(番号25番)が先陣をきって中を調べる。
誰も居ないことを確認し、裕奈と、裕奈に抱かれている和泉亜子(番号5番)を招き入れた。
扉を開けていき、どこか亜子を休ませれるところが無いか探し、ベッドの置いてある部屋を見つけた。勉強机が置いてあり、タンスには服が沢山残っている。
どれも自分たちでも着れるだろうサイズ。恐らくここにも自分たちと同じくらいの中学生が住んでいたのだろう。ともかく、亜子はこの部屋で休ませることにした。
ベッドに亜子を横に寝かすと、二人は改めて亜子の身体を見た。そして二人して顔をしかめる。
傷自体は一箇所だけ、ちょうど右のわき腹あたりが赤く滲んでいる。恐らくはそこが負傷した箇所だろう。
たったそれだけではあるが、それでも亜子は呼吸を荒くし、顔色も悪くしている。早急に治療をしてやる必要があった。
「どうしよう、長谷川!このままじゃ亜子が!」
「うるせぇ黙ってろ!気が散る!」
二人も大分あせっていた。けが人の治療自体ほとんどしたことなんて無いし、ましてや銃創の手当てとなれば尚更である。
正確な治療法なんて知る由も無いし、下手な治療は命取りになる。だからといって何もしなくても、亜子は苦しみ続けるだろう。
亜子が突然咳き込んだ。血を吐くことはなかったにしろ、表情が苦痛にゆがんでいる。
千雨はとりあえず一度深呼吸して落ち着いて、そして再度亜子の身体を見やる。傷口は先ほど確認したとおり、わき腹の銃創一つ。
自分たちの知る範囲で、確かめるべきことを確認していく。千雨はゆっくりと亜子の身体に手を回すと、少しだけ身体を傾けさせた。
そして首を伸ばして亜子の背中を見る。シャツのすそをたくし上げると、亜子の背中があらわになる。銃創は腹部を貫いて背中にも続いていた。
それを見て一度は顔をしかめるも、千雨はほっと胸をなでおろした。どうやら銃弾は体内には残っていないらしい。とはいえ、残っていたらどうとかそんなことは知らないが。
とにかく残っているのはいけないということだけ知っている。
千雨は裕奈に救急箱を持ってくるように告げる。これぐらい大きな家で、タンスにも服が残っているなら救急箱もあるはずである。
裕奈が部屋を飛び出して少し経ってから帰ってきた。赤い十字の書かれた小さな箱を持っている。
「私は左腕が使えない、それにこういうのはお前の方が向いてるだろ。」
「で、でも……うん、わかった。」
裕奈はふたを開けるとそこからガーゼを取り出し、亜子の傷口に当てる。背中にも同じように当てたあと、その上から包帯を巻いた。
これが適切な処置なのかはわからない。ただ自分たちに出来る応急処置はそれぐらいでしかなかった。それでも大分楽になったのか亜子の呼吸が落ち着いてきた。
それを見て二人、特に裕奈が、ほっと胸をなでおろした。
そして、現在に至る。
「手当て自体はお前がしたんだ、私は大したことはして無いよ。それに……」
「それに?」
「……せっかく見つけた仲間に、死なれるわけにもいかねぇからな…。」
そっけなく視線をそらしながら言った。だが裕奈はそんなことより、もっと別のことに気がいっていた。
「長谷川……今なんて?」
「あん?」
裕奈に聞き返され、千雨が思わず変な返事を返した。
「さっき言ったこと!もう一度いって!」
「何を……」
「いいから!」
「……せっかく見つけた仲間に、死なれ――」
「それ!!」
大声と共に裕奈に指を指されて、千雨は思わず閉口した。
そんなことは全く気にしないという風に裕奈が続ける。
「仲間って言ったよね!仲間って!それじゃ、亜子を仲間って認めてくれるのね!?協力してくれるのね!?」
そこまで聞いて、やっと裕奈が何を言いたかったのか気づいた。
初めてレストランで会ったときの話を、いまだに覚えていたらしい。千雨は照れ隠しか手を振って、
「今更文句つける気もねぇよ。分かった分かった、協力してやる。」
一度言葉に出してしまった手前、撤回するわけにも行かない。それに、もともとそのつもりだったのだから。
裕奈は千雨からのその言葉を聞いて両手を上げてはしゃぎ出した。“賭けに勝った!”だのとのたまいながら、部屋の中央でガッツポーズを取る。
一方で、賭けに負けた千雨は根が負けず嫌いなせいか、らしくない台詞をはいた恥ずかしさからか、顔を赤くして裕奈を睨む。
「協力してやるからもう今日は休むぞ、騒ぐな!見張りは最初は私がやってやる。三時間ごとに交代だ、わかったな!」
「分かってるよ、長谷川!これからよろしくね!」
「っだー!やめろ気色悪い!……もういい!お前はとりあえず寝てろ!きっちり三時間後にたたき起こしにいくからな!寝てねえっつっても見張りに立たせるぞ!」
裕奈は喜びながら千雨のわめき声を聞き、ロビーから出て行った。向かった先は、亜子のいる部屋だった。
「まったく……」
裕奈が入っていった扉を少しの間見て、そして視線を窓の外へと向ける。暗闇の森はほとんど何も見えず、音も聞こえなかった。
裕奈は部屋に入ると扉をゆっくりと閉める。部屋の奥へと歩いていき、亜子が寝ているベッドを見た。
少し前までと全く同じ状態で何も変わっていないようだったが、ベッドの上で横になっている亜子の目が開いていた。
亜子はずっと天井を眺めている。
「亜子、起きたの!?」
驚いた裕奈が亜子に駆け寄る。
「ゆーな?」
「よかったぁ。亜子、気分はどう?」
「……うん、大丈夫。」
そう言うと亜子は裕奈に向けて笑って見せた。裕奈も完全に安心できて、その場に座り込んだ。
ベッドの空いているところに顔をうずめて、そこから亜子の顔を見る。
「本当に、よかった……」
もう、誰にも死んでほしくない。誰かが死ぬのを見るのは、たくさんだった。だから、亜子が生きていると知って本当に安心した。
「ゆーな……」
「何?」
辺りを見回しながら、亜子が口を開いた。
「ここ、どこ?」
裕奈は身体を起こして答える。
「私たちが居たところからすぐ近くにあった家。長谷川も居るよ」
「長谷川さん……」
呟きながら、亜子が天井を見た。
「そっか……会えたんやな……よかった」
「それより亜子が無事でよかったよ、本当」
「……うん」
終始静かな口調でぽつぽつと呟く亜子。裕奈は再び身体をベッドに沈めた。
「明日は長谷川と一緒に皆を探すことにしてるから。亜子も休んだ方がいいよ。見張りは私と長谷川に任せてさ」
「うん……ゆーな?」
「何?」
再び亜子が裕奈の名を呼ぶ。
「あのな……ウチ、夢を見たんや……さっきまで。」
「夢?」
「うん、夢。」
亜子が少し笑って続けた。
「暗い、とても暗い部屋の中にウチがたった一人でおって。怖くて、寂しくて、その部屋の中走り回った。ずーっと。
そしたらな、目の前に、アキラとまき絵が現れてん。」
「へぇ……」
裕奈は素直に亜子の夢の話に聞き入った。
「最初ごっつう嬉しくて、思わず抱きついたろ思って。そのときや、後ろからまた声がした。何やろと思って振り向いたらな、ゆーながおってん。」
「私?」
「そう。ゆーながな、ウチの名前を必死に呼んで、手ぇ出してきて。反対側にはアキラとまき絵がおって、ちょうど間にウチがおった。
ウチごっつ悩んだんよ、どっちに行こうか。皆大好きやったし、一緒に居たいと思っとったし。でも、ウチはゆーなの手をとったんよ。」
亜子がそう言って裕奈の方を向いた。裕奈は少し照れくさそうに笑い、
「アキラやまき絵には悪いけど、嬉しいかな。やっぱり。」
言った。それを聞いて亜子が続ける。
「そんでな、ウチがゆーなの方に歩いていって、ふとアキラたちの方に振り向いたんよ。そしたらな……アキラたち、笑っとった。
嬉しそうに、ウチらのこと笑って見てくれとったんよ。」
「そう……」
「ウチ、思うんやけどな。死んだ人たちが望むことって、そういうことやと思う。自分たちの死を悲しまないで、ちゃんと生きていてほしいって、
そう思うんとちゃうかなって、その時思ったんよ。少なくとも、アキラやまき絵はそう思ってくれてる。」
裕奈は何も言わず、ただうなずいた。それを見て、亜子が笑う。
「じゃあ、もう寝よう?そうしたら、また二人に会えるかもしれない。今度は私も会えたらいいな……」
裕奈がそう言って、亜子はうなずいた後、ゆっくりと目をつぶった。それを見て裕奈もゆっくりと目を瞑る。
すぐに二人は眠りについた。
それから三時間後。
「くそったれが……」
見張りを交代させようと部屋の扉を開けた千雨が、仲良く眠る二人を見て呟いた。
二人とも、千雨を差し置いて随分とまぁ幸せそうな顔をして眠っている。
千雨はため息一つついて部屋を出ると、ゆっくりと扉を閉めた。
「あと三時間だけ待ってやる……そしたら見張り交代だぞ、絶対に!」
誰に言っているのかわからないが、千雨はそう言って再び窓へと足を運ぶ。
この日、結局千雨は日が昇るまで一人で見張りを続けた。
今日の分は以上です。それでは。
チア全滅…。目から洗浄液が出てきた。そして千雨ツンデレGJ!
悪になりきれないちうがイイなぁ
GJです。千雨かっこいいなぁ
これまでも疑問に思ってたけど、今日で確信した。
3組以上のグループがほぼ同時に遭遇しすぎ。
孤島のクセにでかい工場とかでかい図書館とかあるわけだから相当でかい島だと見たが、
確率的に無理がありすぎると思う。
たとえフィクションでもこの都合のよさは気になる。
多彩なストーリーが作りやすくなるだろうけど欲張らないで絞ってほしかった。
チア全滅か・・・。くぎみーにはもう少し粘ってほしかった
だが千雨には惚れ直した!GJ!
>>139 いや、俺は作者6氏には王道を貫いてほしい
奇をてらうのではなく、ネギまの既存のグループで料理するのが6氏には合ってると思うんだ
お約束的なご都合主義は熱血展開の味付けだからね
>既存のグループで料理
作風それぞれあるかもしれないけど
俺はネギロワは原作では考えにくい組み合わせが絆を深め生き残っていくのが好きだけど。
逆におなじみの組み合わせは仲間割れさせ崩壊していくのが好き。
前回は千雨と真名の二人が既存のグループを潰し回るシンプルな内容をうまくやってたけど、今回のようにちと違う者同士の組み合わせもイイ!
大六部でも思ったけど、裕奈と千雨の組み合わせは予想以上にいい
こんにちは、作者6です。
>>139 まぁ孤島の広さを考えればそうですが、やはり人が出会わないことには話も進みませんし……。
ただ苦しいながら理由をつけると、とりあえず禁止エリアが次々と設けられているので島の広さに対して移動できる範囲は狭かったりするんです。
それでもやっぱりちと欲張りすぎましたね。
11部の構想練ってるときに色々案が浮かびすぎて、全部使おうと躍起になってましたんで……申し訳ない。
>>140 奇をてらわない、というより、奇をてらうことが出来ないんです……
他の作者さんみたいに伏線をはったりするのも苦手だし、そもそも他に無いストーリーというのが思い浮かばなくて……
だから、それが合ってると言ってくれるとうれしいですね。ありがとうございます。
>>141 ごめんなさい、それは他の作者さんにお任せします。自分には無理です。
それでは今日の分、どうぞ。
54.タカミチの覚悟
人工の明かりが他と比べて少ないこの島は夜になると随分と暗い。
しかしその中にありながら、まるでその闇を拒むかのように激しい光を放っている施設があった。
以前は3−Aと同じように中学生たちが通っていたであろう中学校。
そして今は、その中学生たちを殺し合わせている大人たちの居城。ある意味では皮肉だ。
その、別名“プログラム運営本部”を遠くから眺めている三つの人影がある。
絡繰茶々丸(番号10番)、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(番号26番)、高畑・T・タカミチの三人だった。
「で、どうするつもりだ?」
三人の真ん中に構えるエヴァが、隣に居るタカミチに向けて言った。
タカミチは中学校を睨みつけたまま、
「まず僕が一人で突入する。といっても、君たちは行きたくても行けないけどね。」
「当たり前だ。」
エヴァたちの首には、銀色に光った首輪がつけられている。これがある以上、施設には侵入するどころか近づくことも出来ない。
「私が聞きたいのは、それを承知で私たちをここに連れてきた理由だ。見届けろなんて言うのなら私は帰るぞ?」
「もちろんそんなつもりはないよ、ちゃんとエヴァにも働いてもらう。」
「ふん……」
人に使われるのが癪なエヴァだが、今は黙ってタカミチの話を聞いた。
「僕が侵入してやることは、君たちの首輪の解除だ。さすがに僕一人であの城を占拠できるとも思えないんでね。」
「そんなことが出来るのですか?」
今度は茶々丸がタカミチに聞いた。タカミチは軽く笑って見せて、
「そのために僕は来たんだよ。」
言った。そして中学校に向けて歩き出した。
「首輪が解除できたら合図をする。そうしたら君たちの出番だ。それまではどこかに身を隠しておいてくれ。」
エヴァと茶々丸はゆっくりと小さくなっていくタカミチの背中を、ただ黙って見送った。
中学校のグラウンドには、見張りの兵士が二人、あたりを巡回していた。
その誰もがライフルを手に持ち、
「ふわぁ〜ぁ。」
誰もが退屈そうだった。兵士の一人が呟く。
「今回の任務で、巡回ほど暇な作業は無いな。」
「そうかもな。」
隣に居た兵士がその呟きに反応した。
「大体、生徒たちは首輪のおかげでここには近寄れないはずだろ?俺たちが周りを見張る理由あるか?」
「万が一に備えて、ってことだろ。サボってると後でどやされるぞ。」
「……万が一、ねぇ?」
世間話がそこで中断すると、二人の兵士がそれぞれ巡回場所に散った。
「ん?」
そのうちの一人が、視線を校庭に向けて立ち止まった。校舎の中はどこも明かりがついていて明るいが、それでも校庭には光はあまり届いていないため視界は悪い。
気のせいかとも思ったが、それでも兵士は根気強く目線の先の闇を凝視する。そして、少しはなれたところに人影があるのを確認すると、
パン。
手を打ち鳴らしたかのような音が聞こえたと同時に、その兵士の視界は暗転した。
「……?おい、どうした?」
再びその場に戻ってきた別の兵士が、そこで倒れている兵士に向けて問いかける。兵士は答えない。
怪しんで近づいていき、その様子がよく分かるところまで近づいて、ようやく気づいた。
その兵士は、首の骨が折られていた。
「なんてこった……!!」
それを見た兵士がライフルを片手で構えながら、腰についていた無線機を取り出す。連絡を取ろうとスイッチを入れようとして、無線機が弾けとんだ。
「っ!!」
手から離れ、放物線を描く無線機を眺めている背後で、仲間のものではない男の声が聞こえた。
「万が一が起こったぞ、さぁどうする?」
兵士は短い悲鳴をあげた。それがその男の最後の言葉になった。タカミチの魔力を込めた右ストレートを顔面に食らい、脇に倒れている兵士と同じように首をあらぬ方向に曲げて吹き飛んだ。
「悪く思わないでくれ。これも生徒たちのためなんだ。」
すでに物言わない死体に向けて、タカミチが無表情で呟いた。
「ん?」
天ヶ崎千草は眠っていた目をあけ、身体を起こした。すぐにあたりを見渡す。
「今のは……」
呪術師である千草は、わずかながら近くに発生した“魔力”を見逃すことはなかった。
瀬流彦ではない。首輪がある限り瀬流彦はここへと近づくことなんて出来ない。それ以前に首輪のせいで魔力は極限まで抑えられている。
同じ理由で3−Aの人間でもない。
ならば他に誰が居る?先ほど感じた魔力は本物だった。確実に近くに誰か居る。自分以外に、魔力を従えたものが。
千草はベッドから起き上がり、近くにおいてあった上着を羽織ると校長室から出て運営本部へ向かった。
本部は、わずかながらどよめいていた。無線席にいる兵士が、少し怪訝な表情をしたまま無線に話しかけている。
「どないしたんや?」
「あ、いえ……校庭の警備をしていた兵士たちから連絡が無いのです。」
「何やて……?」
千草はあからさまに眉をひそめた。さきほど感じた魔力、そして今警備兵から連絡が途絶えたという事実。
(まさか……)
千草はすぐに扉近くに立っていた兵士たちを向いた。
「校庭を調べてくるんや!何かあったらすぐに連絡!分かったら早よ行き!」
突然指定された兵士たちが、一瞬驚きながら、それでもきっちり返事を返して教室を出た。
「どうかしたんですか?」
無線兵が、危機感もなしに聞き返してくる。千草はそれを一度睨みつけて黙らせた。
瞬間。
その教室の窓の一つが、窓枠と一緒に吹き飛んだ。ガラスが室内に飛び散り、窓枠が壁にぶつかって派手な音を立てる。
それに一瞬送れるようにして、一人の男が降り立った。全員の視線が、その男に集中する。
「誰だきさまぁ!」
いち早く状況に反応できた兵士が男に向けて叫んだ。
次の瞬間、兵士は首を百八十度曲げてその場に倒れた。同じようにして周りに居た兵士たちも次々と倒れていく。
千草は隣に居た兵士の頭がはじけて椅子から落ちるのと同時に横へ飛んだ。
すぐに受身を取って体勢を立て直し、走る。
正体は分からないが、あの男が何かをやっていることだけは確かだ。食らえば自分もそこらに倒れている兵士と同じ末路をたどる。
しかしとうとう千草もその攻撃を受けることになった。足に衝撃が走り、その場に崩れ落ちた。
(気弾?……いや、違う。全く反応できんかった……)
技の原理が全く分からない。舌打ちをしながら千草が身体を起こすと、正面に男の姿があった。
そこで初めて男の顔をきちんと眺め、
「高畑・T・タカミチ……か。」
男、タカミチが千草を見下ろしている。
「まさかあなたが首謀者だとは思ってませんでしたよ。呪術協会から謹慎を受けているのでは?」
「ふん、犬っコロの小僧が麻帆良に出歩いとるのに、ウチだけ謹慎やなんて不公平やろ。」
慎重にタカミチを睨みながら、千草が立ち上がる。二人が対峙した。
「まぁいいでしょう。このくだらないゲームもここで終わりです。ついて来てもらいましょうか、天ヶ崎千草さん。」
「……」
千草はタカミチを睨みつけていたが、やがてその表情が崩れた。真一文字だった口元がつりあがる。
「詰めが甘いですな、タカミチさん。」
千草がそう言った瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。
タカミチがそちらに目をやると、二人の兵士が教室へと入ってくる。そこで、完全に千草から注意がそれた。
案の定向き直ると、千草がこちらに向けて突進してきている。慌てて構えるが、居合い拳を放つには近すぎる距離まで千草は迫っていた。
タカミチが迎え撃とうとポケットから手を出した瞬間、千草はそのタカミチの腕へと自分の手を伸ばし、つかんだ。
カチン、という何かがかみ合う音がすると同時に、千草は後ろへと飛びのいた。
タカミチの身体には傷一つついていない。しかし千草はタカミチに向けて勝ち誇った笑みを浮かべている。
そしてタカミチは、
「……っ!」
自分の体の異変に気づいた。
タカミチは眉をひそめ、自分の身体を見る。何も異変は無いはずだ。しかし、明らかにおかしい。
体から、力が抜けていく。
まるで穴の開いた風船のように、タカミチの体から魔力が抜け落ちていく。
いくら精神を集中させてもそれはとまらない。タカミチは再度自分の身体を見渡す。
視線が体中をめぐり、自分の右腕へと向けられたとき、それを見つけた。
銀色に光る、リングのようなもの。さっきまでは確かになかった。今はある。
タカミチは一度怪訝そうにそれを見て、すぐに頭の中についさっきの光景が浮かんだ。
エヴァと茶々丸と話していたとき。二人の首に、同じものが光っていた。あれのせいで、エヴァたちは殺し合いを強要されている。
同じものだとしたら……
「誰だ貴様!」
二人の兵士がライフルをこちらに向ける。タカミチがとっさにそちらへ身構え、
「やめや!」
千草が止めた。二人の兵士は撃とうとしていたのを中断し、それでも引き金に指はかけたまま、千草のもとへとゆっくりと歩み寄った。
「それ、もとは生徒たちの首につけられた首輪なんやけどな。結構使い道があるもんですなぁ。」
タカミチは自分の右手につけられたそれに手をかける。
「下手なマネはせんほうが無難です。無理やり引きちぎろうとしたら爆発しますえ?」
「……」
「たしか瀬流彦の報告によればタカミチさんはもと3−Aの担任教師だったと聞きます。
捕らえでもしとけば後々役に立つかもしれん。」
千草が、左手を首輪にかけたままのタカミチを見ながら笑った。もはや魔力を使うことが出来ないタカミチならば、千草でも捕らえることは出来ると思っている。
その様子を見て、なぜかタカミチもその顔に笑みを作った。
「捕らえる……ね。」
その呟きに、千草が笑みを一転させて眉をひそめた。
「何がおかしいんです?」
「いや、ちょっとね。……詰めが甘いのはお互い様のようだ。」
「何を……」
千草が言い終わる前に、タカミチは首輪にかけている左手に力を込めた。
短い破裂音と共に、小さな爆発。そこに煙が立つ。
煙から、赤い鮮血が噴水のように飛んだ。千草の両隣に居た兵士が思わず顔を背ける中、千草一人だけ、その顔に血がかかろうとも瞬き一つせずタカミチをにらみつけた。
煙が晴れたタカミチの姿は壮絶だった。
右腕は手首から下がなくなっていた。そこから血がとめどなく流れる。
左手も被害は甚大で、手のひらにあった五本の指のうち、親指を除く四本は第一関節から上で吹き飛んでいる。
親指も皮一枚でつながっているようなもので、その一つ一つからやはり大量の血があふれ出ていた。
「あんた……」
「覚悟はここに来る前からできている」
静かに言い放ったタカミチの身体に、再び魔力、「咸卦の力」がやどる。
「何しとるんや、早くあいつを撃ち!!」
千草がそう言い放ち、脇で目をそむけていた兵士がようやくタカミチに向き直り、銃を構えた。
タカミチはそれに目もくれず、居合い拳の構えを取る。
兵士が引き金を引くと同時に、特大の居合い拳が炸裂した。それはまっすぐに、その部屋にあった巨大なコンピューターへと飛んでいき、直撃する。
ライフルから無数の弾丸が吐き出され、それらが容赦なくタカミチの体に食い込んでいった。
そしてタカミチはその場に崩れ落ちた。
「これでいい……これで……」
床に血だまりを作りながら、タカミチの目が光を失っていった。
(エヴァ……)
「……ふん、“合図”か……」
「マスター……」
「行くぞ。」
地面に、外れた首輪が二つ、落ちた。
「やってくれるやないかタカミチさん……」
その場に倒れているタカミチを見下ろし、千草が言った。その声は震えている。
すぐにその視線を破壊されたコンピューターに向ける。今回のプログラム運営に際してもっとも重要だった、首輪の制御をつかさどるマザーコンピューターである。
「被害状況は!?」
「信じられない、何をやったんだあの男!!」
端末を操作していた兵士が、そのコンピューターの破壊されように驚愕する。まるで大砲の直撃を受けたかのように、コンピューターはほとんど全壊だった。
「ほとんどのモニターが破壊されました!首輪統制プログラムも損傷!こちらからの信号を発信できません!」
「なに!?」
それはつまり、事実上の首輪の機能停止を意味している。千草の表情が凍りついた。
そんなとき、別のモニターを眺めていた兵士が眉をひそめる。
「ん?」
「どないしたんや?」
「いえ、先ほどまで学校近くに居た二つの信号が突然消えて――」
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
兵士の言葉をさえぎり、そこに悲鳴が響いた。千草を含む三人が、すぐに声のした方を見る。遠くから聞こえた。あの方向には、玄関がある。
「まさか……」
玄関には、複数の兵士が居た。そしてその全員が、表情を恐怖で引きつらせている。
一人の兵士が、玄関前にいた。両膝を突いて、両手をだらりと下げている。
その肩を抱くようにして、一人の少女が男に顔を近づけていた。そしてその首筋に、少女の二本の牙がつきたてられている。
そこから、血を吸い取るなんともいえない音が響く。
程なくして少女が手を離すと、兵士はその場に力なく崩れ落ちた。兵士の身体に隠れていた少女の全体がそこに現れる。
それと同時に、夜が明けて太陽が昇った。逆光に照らされた少女と、その脇に従者のように立ち尽くす女性。二人はまっすぐに兵士たちをにらみつけた。
「タカミチの仇だなどという俗な感情に興味は無いが……」
少女が口を開いた。それだけで兵士たちは萎縮し、それぞれが一歩、後ろへと下がる。
「この私をここまでコケにしてくれた貴様等にはそれなりの礼をしなければならんな……」
その様子を見て少女が口元をゆがませ、獰猛な笑みを浮かべた。
「地獄を見せてやろう。覚悟しろ……!」
二つの影が、一斉に兵士たちへ襲い掛かった。
55.学び舎の殺陣
「こちら玄関前廊下!目標は依然として進行中!ダメです、食い止められません!」
「無線なんかしてねぇでテメェも撃て!来るぞ!」
「くたばれぇ!!」
銃弾が休みなく飛び交い、銃声と怒号以外何も聞こえない。
プログラム運営本部であった中学校は、そんな阿鼻叫喚の巷と化していた。
兵士たちは手に持つライフルの引き金を引き絞り、マガジンから弾丸が無くなるまで撃ちつづける。
その全員が、焦りに、あるいは恐怖に顔を引きつらせていた。
そしてそんな状況を作り上げた張本人たちであるたった二人の少女が、今兵士たちが待ち構える廊下へ悠然と歩いてきた。
「カウント3だ!3,2,1、撃て!!」
その声と同時に、三つの銃口が一斉に火を噴いた。無数の弾丸が、二人の下へと一直線に飛んでいく。
一人の少女は腕で顔面だけをガードし、決して歩みを止めない。弾丸は容赦なく命中するが、火花を散らせてあさっての方向へと飛んでいく。
もう一人も、歩みを止めないのは同じだったが、全くの無防備だった。それこそ普段と何も変わらない様子で歩いている。
弾丸は同じように少女を襲い、体を貫いていった。しかしその笑みが消えることはなく、歩みがとまることも無い。
兵士たちの銃が弾切れを起こし、一度銃撃がやんだ。
「ば、化け物……」
そのうちの誰かが呟く。目の前で無数の弾丸を浴びた少女は、その身に無数の穴を穿たれても涼しい顔で立ち尽くす。
そして次の瞬間には、その風穴が明らかに小さくなっていくのがわかった。じきにそれは完全にふさがれ、もとの白い肌へと立ち戻る。
「これでも結構痛いんだがなぁ、再生は体力も消耗する。」
「ヒ……」
「さぁ、次はこちらの番といこうか。」
少女、エヴァが言うと共に、隣に居た茶々丸が未を低く構え、駆け出した。
一瞬で間合いを完璧に詰めた茶々丸は、まず一番近くに居た兵士の顔面に右ストレートを叩き込む。
その後ろにいた兵士が慌てて銃を構えるが、それを茶々丸は右足で蹴り上げた。
手持ちの武器が宙を舞ってしまった兵士が慌ててナイフで応戦しようとするが、そんなものでどうにかなるはずもなく、吹き抜けていった右足が再び振り下ろされて側頭部を打ち抜かれ、頭蓋骨を砕かれた。
残った一人が何とか銃を構えて引き金を引くが、茶々丸は別段焦ることもなくそれを片手で防ぐと、悠々と歩いてその距離をつめ、兵士の首をつかむ。
女性のものとは思えない握力で、その兵士の首をへし折った。感情の無い瞳が、死に絶えた兵士の顔を映した。
その瞬間、廊下の奥からさらに多くの足音が聞こえ、それはだんだんと大きくなっていく。
茶々丸が再び臨戦態勢をとる。駆け出そうとして、
「下がれ茶々丸!」
エヴァの声で止まった。忠実に、茶々丸は身を引くとエヴァの隣にまで下がる。
同じタイミングで曲がり角から多数の兵士が現れ銃を構えるが、その目に映るは身体に魔力を有したエヴァ。すでに呪文の詠唱は終わっていた。
「“闇の吹雪”!!」
エヴァのかざした手に青い光が絡み、やがてそれらが螺旋を描きながら肥大化する。それは嵐となって吹き荒れた。
台風を凝縮したような衝撃が廊下を通り抜け、その通過点に居た多数の兵士を巻き込み突き抜けていった。
その一撃だけで、応援にやってきた兵士の半分以上が吹き飛ぶ。廊下の荒れようはとてつもなかった。
「くそ、これでも食らえ!」
かろうじて助かった兵士の一人が、腰に刺していた緑色の球体を手に取る。横に小さく突き出たわっかに指をかけると、一気に引き抜いた。と同時にそれをエヴァに向けて投げる。
放物線を描いた緑色の球体は、数回バウンドしてエヴァの足元に落ちた。エヴァと、そして茶々丸がそれを見る。
「ん?」
「マスター、伏せて下さい!」
茶々丸が叫ぶと同時に、エヴァが笑った。そして爆音があたりに響く。
すさまじい衝撃と煙を巻き上げ、それは爆発した。廊下の影に一旦身を隠した兵士が、再び廊下を覗き込む。
まだ煙は晴れていないが、直撃だったはずだ。これなら生きては居ない。兵士がにやりと笑う。
煙がだんだんと空気中に拡散していき、そこの景色があらわになると、再びその表情を凍りつかせた。
そこには茶々丸はもちろん、最も近くで爆撃を受けたエヴァさえも平然とたっていた。身体には傷一つ無い。
よく見ると、エヴァの体の周りには、まるでそれを包むかのような薄い光の球が出来上がっていた。
「なんだよありゃあ……」
兵士が唖然として言うと、その光が消えた。
「悪いな、さすがにバラバラになっても再生が利くかは分からないんでね。」
エヴァはそう言うと、自分の足元に転がっている兵士の死体へと目をやる。爆風を浴びてバラバラになったそれはもはや人の形を成しては居ないが、ベルトがあるので胴体部分であることはわかる。
エヴァはそれに向かってしゃがみ、ベルトにつながれている二つの緑色の球体……先ほどエヴァに投げられたものと同一である……を拾い上げる。それらをまじまじと見つめ、
「人間の近代兵器か……なかなかの威力だったじゃないか……。」
言いながら、兵士と同じように安全ピンに指をかけ、一気に引き抜く。それを曲がり角めがけて投げた。
壁にぶつかって跳ね返った手榴弾が、そこに隠れていた兵士たちの下へと転がっていく。兵士たちの顔が真っ青になってすぐ、爆発した。
「はははははははは!!なかなか面白いじゃないか!」
煙の上がる曲がり角へと歩み寄りながら、エヴァが高笑いをあげた。ひとしきり笑った後、
「だがこんなものは私の流儀では無いな。」
残った一つを自分の懐にしまうと、曲がり角を曲がった。
バラバラになった兵士たちの手足などが散乱し、そこら辺に血が飛び散っている。その様子をエヴァはいつもの笑みを浮かべて眺めている。
「う、うわ……わ……」
奥で、一人の兵士がその場にしりもちをついていた。エヴァが歩み寄っていく。
「く、来るな……来るなぁ!!」
完全に戦意を失っている兵士は、銃をほうり捨てるとエヴァたちから背を向けて走り出した。
「情け無い……」
エヴァははき捨てると、右手を持ち上げる。そこに、どこから来たのか氷の塊が浮かび、それが少しずつ大きく、形を成していく。
それが先の尖った鋭利なヤリへと変貌すると、エヴァは右手を振り下ろした。
それに対応するように、氷の矢はすごいスピードで逃げる兵士へと飛んで行き、その足へと突き刺さった。
「ぎゃあああああ!!」
足に走った激痛に、思わず兵士はその場に倒れ、足を押さえた。涙と鼻水をたらして泣き叫ぶ兵士の顔に、影がかかる。
「貴様も兵士なのだろう?ならば戦って死ね。」
「ひぃ!」
エヴァの右手が、人間のそれとは思えないほど変貌し、それが容赦なく兵士の下へ振り下ろされ、そして視界は暗転した。
無線機からは相変わらず悲鳴と銃声しか聞こえない。それも止む気配が無いところを見ると、やはり表の兵士たちではエヴァの進行をとめることは出来ないらしい。
千草はマイクを手に、怒りで顔をゆがませていた。
「ここにきて計画に支障か……」
自分の背後に倒れているタカミチを睨みつけた。
元をたどれば全てはこの男の侵入を許したところから始まっている。今では物言わぬ骸と化したタカミチの行ったことの大きさを知った。
「こうなったら奥の手や……」
千草は無線機のマイクを荒々しく机に置くと、背後に居た二人の兵士へ向き直る。
「お前たちも侵入者の排除に行き!何としてもここに来る前に仕留めるんや!」
二人は驚いたように千草を見る。
「し、しかし、ここを留守にしてしまうのは……」
「もうここはほとんど機能してへん!かまわんから早く行き!」
千草に怒鳴られ、兵士たちが慌てて教室から出て行く。千草も送れて教室を出た。
「まぁ、あいつ等に仕留めることなんて無理やろうけど……」
駆け出していく二人の若い兵士を、半ば哀れみの目で見つめた。
今のエヴァはまさに百戦錬磨の最強の吸血鬼だ。もともと実戦経験もあまり無い自衛隊の人間に太刀打ちできる相手ではない。
だが今、エヴァは本部を潰すことより奴らへの殺戮に気をとられている。
ならばエサを与え続けていれば奥に進入させることだけは止められる。つまりは時間稼ぎだ。
千草は長い廊下を早歩きで突き進むと、自分が先ほどまで居た校長室に戻った。
部屋の奥にある机に座ると、目の前の長い引き出しを開ける。そこに銀色に光る四角い板が置いてあった。
それを慎重に取り出し、机の上におく。見ると板にはコードがつながっていて、それがずっと下まで伸びている。
さらに千草はその端をつかむと、ゆっくりと持ち上げた。板は二つにわれ、それぞれがモニターとキーボードへと変貌する。
ノートパソコンを起動させた千草は、次に脇の小さな引き出しから、一枚のディスクを取り出した。
「まさかこいつを使うことになるとは……備えはしておくもんやな。」
ケースから取り出したディスクをまじまじと見つめ、それをノートパソコン脇のスロットルから入れた。
しばらくしたあと、モニターに映っていた画面が切り替わる。
真っ黒な画面に、沢山の数字や記号が羅列している。それらが次々と下から表れ、上へと消えていった。千草は慣れた手つきでキーボードを打ち、パソコンに入力していく。
「乱痴気騒ぎは終わりや、ここまで荒らした責任は取ってもらうで、吸血鬼!」
そう言うと、千草はエンターキーを叩いた。
56.形勢逆転
廊下には無数の死体が転がっていた。
あるものは四肢を断ち切られ、あるものは首をあらぬ方向に曲げ、あるものは原形すらとどめていない。
そこは血と硝煙の臭いが立ち込めており、普通の人が見たらすぐにでも昏倒するに違いない光景だった。
銃声もまばらになりつつある廊下を、エヴァは悠然と歩く。目の前でしりもちをついたまま、エヴァからあとずさる兵士をせせら笑いながら追い詰めていた。
「さぁ、どうする?」
余裕に満ちたエヴァが、右腕を構えながら兵士を見下ろした。
兵士は傍らに倒れていた同僚の腰から銃を抜くと、それをエヴァに向ける。エヴァが今までライフル弾をその身に受けてきたのを見てきているが、その男に出来ることなどそれくらいしかなかった。
もちろんエヴァは取り乱したりせず、撃つなら撃てと言わんばかりにさらに歩を進めた。
乾いた音が響き、エヴァのわき腹に赤い点ができた。
「ふん、余興ももう終わりにしよう。くたば……」
言いながら右腕を持ち上げた瞬間、エヴァの足から力が抜けた。その場に膝をついてしまう。茶々丸が、慌ててエヴァの下へ駆け寄った。
「マスター!」
「バカな……これは……」
エヴァのわき腹に激痛が走る。恐る恐る、自分のわき腹に手を這わせた。そしてその手のひらを目の前に持ってくる。
血がべっとりとついていた。エヴァの小さな手は、ほとんど真っ赤になっていた。
そして今も傷口からは血がとめどなく流れている。
(再生が……利かない!?)
次にエヴァは精神を集中させる。魔力を右手に集中させた。
右手はわずかに魔力を帯びて青白く光るが、それ以上は何も起きず、いくら頑張っても低級魔法一つ練りだせない。
一体何が起こったというのか。これではまるで首輪をつけているときと変わらない。
(というよりもこれは……)
エヴァはそれより以前から、この感覚を味わっていた。忘れかけていたが、ここに来る以前はずっとそれに苦しめられてきた。
(学園結界!?)
頭に浮かび、すぐに否定する。ここは麻帆良ではない。どことも分からない絶海の孤島に、全く同じシステムが存在するとは思えない。
ならばなぜ?
分からないまま混乱するエヴァを、目の前にいた兵士が怪訝な表情で見ていた。
「くそっ、茶々丸!」
エヴァがいい、茶々丸が目の前の兵士に回し蹴りを見舞う。兵士はもんどりうって倒れた。
しかしそれだけでは終わらず、すぐに通路の奥から複数の足音が鳴り響く。
先ほどまではなんとも思いはしなかったが、今の状況でそれに鉢合えばろくな抵抗もできない。
エヴァが通路の奥を、表情を憎悪に固めて睨みつけていた。
「マスター、逃げてください!」
茶々丸が、言いながらエヴァの前に立つ。エヴァが驚いて茶々丸を見上げた。
「ここは私が食い止めます。マスターは一度身を引いてください。」
「茶々丸……」
エヴァはゆっくりと立ち上がると、茶々丸に背を向ける。お互いが、背中合わせにそこに立った。
「すまない……ここは、任せたぞ……」
「了解しました。」
いつもどおりの、事務的な茶々丸の返事が返ってくる。それを聞いた後、エヴァは走り出した。茶々丸をそこに残し、廊下を走り抜けて行った。
エヴァが通路の奥に消えたと同時に、大勢の兵士たちが茶々丸の前に現れた。
兵士たちは全員が茶々丸を睨みつけ、銃口を向ける。
「くたばれ化け物ぉ!!」
誰かが叫んだその声を合図に、茶々丸が駆け出す。無数の弾丸が打ち出されるなかを、茶々丸は走った。
兵士たちのすぐ目の前まで行くと身をかがめて、次の瞬間茶々丸が飛んだ。
兵士たちの頭上、天井すれすれを茶々丸の体が通り抜け、兵士たちのすぐ後ろに降り立つ。
振り向きざまの回し蹴りで、そこに居た兵士の一人が吹き飛んだ。残りが慌ててそちらを向けて銃を撃つ。
茶々丸はそれを右手で顔面をガードしながら防ぐ。茶々丸の外装が、少しずつだが凹んでいく。
さすがにいつまでもライフル弾を防ぎきれるわけではなかった。
茶々丸は兵士たちの中へと飛び込む。四方八方に男たちがいる中心に茶々丸は居た。茶々丸はすぐに構えを取る。
背後に居た男を肘鉄で吹き飛ばし、そのまま回転して目の前に居た男に後ろ回し蹴りを見舞う。
男がナイフを振るってくると身をそらしてかわし、その手を握って投げ飛ばす。
相手が近すぎて銃を撃つことが出来ないでいる兵士たちを、茶々丸は容赦なく次々となぎ倒していった。
銃撃から接近戦へと切り替え、一対多数でも茶々丸は優勢に立とうとしていた。このまま行けば、とりあえずここにいる連中だけは片付くかもしれない。
先に逃げたエヴァと合流すれば、まだ助かる見込みはある。希望を捕らえた茶々丸の右ストレートが兵士の顔面を射抜く。
その時、残っていた兵士たちがとっさに身を引いた。それも散り散りになったのではなくて、皆が同じ方向へと離れていく。
不可思議な行動に一度茶々丸は動きを止め、辺りを見回した。すると、兵士たちが引いたことでそこに一本の道が出来ていた。
それはそのまま廊下の直線につながり、そしてその先に巨大な銃口がこちらを向いているのが分かった。
「体勢不利……回避行動……」
茶々丸の頭の中のAIが演算処理を済ませ、そこに「回避不能」の文字が浮かぶ。
「マスター……すみません……」
次の瞬間、閃光と共に轟音が鳴り響き、茶々丸の体が吹き飛ぶ。
体が地面に叩きつけられる衝撃を覚えたところで、茶々丸の視界が暗転した。
57.事態収拾
(体たらくだ、なんという体たらくだ!)
甘かった。考えが浅はか過ぎた。
ここは敵の根城なのだ。何があってもおかしくないし、それを当然と考えるべきだった。
(なんという……)
優勢に立っているうちにケリをつけるべきだったのだ。出来たはずだった。
なのに自分は、いつまで続くかも分からないような余裕を振りまいて、結局先手を打たれてしまい……
「なんという、体たらくだ!!」
最後には声にだして叫んだ。
「居たぞ、こっちだ!!」
「逃がすなぁ!」
後ろから兵士たちの声がする。エヴァは振り向くことはせず、すぐに次の曲がり角を曲がった。一瞬遅れて銃声が響く。
出口に向かいたいところだが、肝心の玄関にはすでに残った兵士が張っている。今の自分がそんなところに突っ込んでも蜂の巣にされるのがオチだ。
そしてなすすべなく今自分は校舎の中を逃げ惑っている。自分を追いかけてくる兵士たちの足音が徐々に多くなってきていることに気づきながら、エヴァは舌打ちした。
エヴァはもう何度目かも分からない曲がり角を曲がり、そしてすぐ近くにあった教室に逃げ込んだ。
身をかがめ、外に影が映らないようにする。じきに沢山の足音が近くを通った。
「どこにいった!?」
「探せぇ!絶対に逃がすな!」
男たちが叫び声をあげながら、再び歩き出す。時期にその空間は静かになった。
「はぁ……はぁ……」
エヴァは血の滴るわき腹を押さえながら、荒い呼吸を整えていた。手のひらを見ると、さっきほど血は出ていないらしい。
少しずつ気分が落ち着いてきて、エヴァにも教室を見渡せるだけの余裕が生まれた。見渡して、そして眉をひそめた。
「……ここは?」
エヴァは廊下でこの教室を見たとき、確かに扉の上にあった札には「1−A」と書かれていた。
だが今自分がいるこの空間は、少なくとも教室と呼べるようなものではなかった。
まず第一に、机が一つとして無い。机どころか、教卓も何も無い。完全にとりさらわれていた。
代わりに、その教室の奥には、何か巨大な機械が置かれていた。エヴァがわき腹を押さえながら立ち上がり、その機械をよく見ようと近づく。
「これは?」
それはエヴァが見上げるほど大きな機械。教室の上下をいっぱいまで使って置かれていた。
形は正方形に近い長方形。少し横幅がある。何か怪しげな作動音と、小さく光る液晶部分が、それが起動していることを告げている。
そしてエヴァは、その四角い物体に、わずかながら魔法の気配を感じた。
「まさか……これが……」
「そうや、うち等が独自に開発した結界。そうやなぁ、“魔力抑制装置”とでも名づけましょうか?」
突然の背後からの声。エヴァは身を翻して構えた。同時にわき腹から激痛が走り、顔をしかめる。
「そう無理しなさんな、今のあんたは歴戦の吸血鬼でも最強の魔法使いでもあらへん、ただの十歳のお子ちゃまなんやから。」
「貴様は……」
エヴァはその女に見覚えがあった。たしか以前修学旅行でスクナを復活させた、関西呪術協会の女呪術師。
千草は教室のドアにもたれかかり、エヴァを見据えていた。
「数日前に麻帆良の内通者……とはいえ瀬流彦やが、そいつに手引きしてもらって手に入れた学園の設計図。
そこに書かれとった学園結界の情報を独自に解析し、うち等で作り上げたもう一つの結界装置、それがこれや。
……もっとも、なにせ短期間で作り上げた急ごしらえだけに、作動が完璧に行くかどうかの保障はあらへんかったんやけどな。
あんたのその様子を見るようやと、どうやら上手く働いとる見たいやな、安心しましたわ。」
エヴァの背後の機械を眺めながら、千草が饒舌に語る。そして言いたいことを言い終えた千草は扉に預けていた身体をゆっくりと起こし、エヴァと対面する。
ゆっくりと歩を進め、その距離を縮め始めた。
「さて、瀬留彦がみんなの前で説明したらしいから、わかっとりますな?ゲームを円滑に進めるためなら、多少参加者を始末してもやむを得ないこととして処理できるんや。
覚悟してもらいますえ?」
「貴様が私を殺すというのか?」
エヴァが身をかがめた。その足に、力を込める。
「なめるなぁ!!」
咆哮と共に、エヴァが駆け出した。
「魔法が使えなかろうと貴様ごときの魔力でやられる私ではない!」
エヴァと千草の間がどんどん詰まっていく。揺れる視界の中、エヴァは千草が右腕を上げるのを見た。
パンッ!
「……がっ」
再び腹部に激痛を覚えたエヴァが、バランスを崩してその場に倒れた。
上手く力が入らない身体は言うことをきかない。立ち上がることもできなかった。
時期に千草がすぐ近くまでやってくる。倒れているエヴァを見下ろし、
「ゴフッ!」
エヴァの腹を蹴り上げた。エヴァの小さな体が浮き、吹き飛ぶ。地面に叩きつけられ、仰向けに倒れた。
再び千草がそこに歩み寄る。エヴァの目が、千草を見た。
「確かにその通りかも知れませんな。魔力ではかなわんかったかも知れん。でも人間様はな、今ではこーんなええもんを作りなさったんや。
時代錯誤の吸血鬼にはわからんかな?」
そう言うと、千草は笑って自分の手にある銃をエヴァに見せつけ、ひらひらと振って見せた。
エヴァは、ほとんど生気のない瞳でそれを黙って見つめている。
千草は手を振るのをやめ、銃を握りなおし、エヴァへと向ける。
続けて三回、引き金を引いた。
乾いた音とともにエヴァの身体に穴が開き、それにつられてエヴァの体がはねる。そしてすぐに、エヴァは動かなくなった。
千草は銃を懐にしまうと、
「相手が悪ぅございましたなぁ、吸血鬼。」
そう言って部屋を後にした。扉を開けて廊下に出てすぐに、
「大損害や、まったく……」
一転、厳しい表情を作って呟いた。
次に千草は廊下を突き進み、茶々丸が大立ち回りを演じていた場所まで歩いた。
そこにはエヴァと茶々丸に襲われた兵士たちが累々と転がっている。
千草はそんな兵士たちには目もくれず、その先に出来上がっていた人ごみへと向かった。
兵士の一人が千草に気づき、続いてそこに居る全員にいきわたると、千草のために道をあけた。
その間を千草は進み、その先にあるものを目にする。
長い髪を廊下に乱れさせて、茶々丸が倒れていた。その目には光は宿っていない。
身体は無数の弾丸を浴びてぼろぼろで、ところどころへ込んでいた。だがそれよりも被害が甚大なのは腹部。
茶々丸のお腹には、ソフトボールくらいの大穴が開いていた。それはトンネルのように茶々丸の身体を貫通している。
「エヴァンジェリンについとったカラクリ人形やな。」
千草が言った。隣に居た兵士が答える。
「ハイ。ついさっき鎮圧したばかりです。とんでもないロボットですね。」
兵士は自分たちから少しはなれたところにいる男を見る。兵士たちに囲まれながら、巨大なライフルを掲げた男が“すげぇ銃だ!”と騒いでいた。
千草がその男を随分と冷めた目で見ていたが、男は気づくそぶりもなくしばらくわめき散らした。
兵士が気を取り直して千草に聞く。
「このロボット、どうしますか?」
「そうやなぁ……」
千草はしばらくそこに倒れている茶々丸を眺め、そしてその口元に笑みを作って言った。
「こいつにも、ゲームを円滑に進めるために働いてもらいます。」
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル 死亡。 残り12人
以上で今日はおしまいです。また明日。
なにこの超展開!!うわ、マジでwktkが止まんないです!!!
GJ!!!
エヴァがこう散るか〜!
首輪は取れたが魔法とかは別方法で相変わらず封印なわけだな。
こんにちは、作者6です。
今日の分投下します。
58.朝、そして……
「ん……」
明石裕奈(番号2番)は、部屋の窓から入ってくる朝日で目を覚ました。
薄く目をあけると、しばらくその状態でじっとし、
「……っ!、見張り!」
慌てて飛び起きた。と、同時にベッドで寝ている和泉亜子(番号5番)に目を向ける。
亜子はいまだ目をつぶって横になったままだ。裕奈は音を立てないように、慎重に、しかし急ぎ足で部屋を出た。
「長谷川!……」
部屋を出てすぐ、裕奈が長谷川千雨(番号25番)の名前を呼ぶと、窓際に居た千雨が振り向いた。
これ以上ないというほど仏頂面で、裕奈を睨んでくる。
目の下にクマが出来ているので、やたらにその顔が恐ろしい。
「起きたのか……」
「えっと、そのぉ……」
しばらく裕奈はその場で思案し、
「おはよう、長谷川。」
言った。千雨はやはり仏頂面で、
「……おはよう。」
言った。
気を取り直して二人はソファーに座って向き合う。間に挟んだ机に生徒名簿を広げた。
「さてと、晴れてメンバーが三人になったのはいいが、結局私たちにゃプログラムを脱出する手段なんて無いし思いつきもしない。だから……」
「残った皆ぜーんぶかき集めて、考えるんでしょ!楽勝楽勝!」
「……もうちょっと真剣に考えろ。」
楽観的にもほどがある裕奈の言を呆れ顔で制す。すぐに裕奈も表情に真剣みを帯びた。
「わかってるよ、でも二年も一緒だったクラスメイトを危険だなんて思いたくないし……」
「それでもザジみたいなやつだって出てきてる。確実にやる気になってるやつだっていんだよ、優先順位くらいつけたっていいだろ。」
千雨が言って、裕奈がしぶしぶ生徒名簿を眺める。もう大分斜線が入ってしまったそれを眺めながら、
「……アスナと、いいんちょは大丈夫だと思う。二人は信用できるよ。」
「神楽坂といいんちょね。あとは?」
「本屋は当然オッケーだね。喧嘩してるところも想像できないもん。殺し合いなんて出来る子じゃないよ。あとは桜咲さんとか、かな?」
「宮崎はたしかにそうだが、桜咲?」
「うん。最近アスナとかと一緒にいること多いし。」
「……根拠はそれだけか?」
「うん。」
千雨は肩を落としてため息をついた。
その後もしばらく話し合い、これからの行動についても、ある程度予定は固まった。
当面の目標は神楽坂明日菜(番号8番)たちとの合流。千雨たちの予想では明日菜も恐らくは他の誰かと一緒にいるだろうと思っている。
無論、その道中で他のクラスメイトと鉢合えば、出来るなら仲間にするのも忘れない。
「となると問題は和泉だな……」
千雨が言った。裕奈の表情が曇る。
はっきり言って亜子の傷は重傷だった。あんな状態の亜子を連れて、ただでさえ山道の多いこの島を歩き回るのはかなり無理がある。
だからといって置いていくわけにも行かないのだから、これは由々しき問題である。
しばらく千雨がその場で悩んでいると、裕奈がソファから立ち上がった。
「亜子の様子、見てくる。」
「ん?あぁ。」
千雨が返事を返し、裕奈は部屋へと戻っていった。
扉を開けて部屋の奥へと入ると、いまだに亜子は眠っているらしかった。
近くにあった椅子をベッドの横まで持ってきて、裕奈がそこに座った。横になっている亜子をじっと見つめる。
「亜子……」
小さく、名前を呼んだ。そこで、裕奈の表情が変わる。
「亜子?」
裕奈はもう一度名前を呼んだ。少し大きめの声で。
返事というか、反応がない亜子の頬に、裕奈はそっと手をやって、
「っ!」
すぐにその手を引っ込めた。
「うそっ……」
ちょうどその時、千雨が扉を開けて部屋に入ってきた。奥に居る二人の下へ歩み寄り、
「亜子!ねぇ、起きてよ、亜子!!」
そこで、ベッドに寝ている亜子を揺する裕奈を見た。
「おい明石、お前何やってんだ!」
慌てて千雨が止めようとするが、裕奈は止まる様子なくずっと亜子を揺すっていた。
裕奈の様子がさっきと一変していることに戸惑いを隠せない千雨が、ベッドで横になっている亜子の、その少し青みがかかった顔を見た。
「まさか……」
千雨が亜子の首に手を回す。脈を見るつもりで触れてみたが、その体が恐ろしいほどに冷たいのを感じて、すぐに手を引っ込めた。
「嘘だろ……」
少し前の裕奈と同じ台詞をはいて、その場に立ち尽くす。依然裕奈は亜子の身体を揺すっていた。
「亜子!ねぇ起きてよ、お願いだからぁ!!」
いくら揺すろうと、亜子は返事を返さない。昨日の夜見た、安らかな寝顔でずっと眠っている。
じきに、裕奈が揺すりつかれたのか、手を止めてその場にうなだれてしまった。
「何でよ……昨日あれだけ元気だったのに……何で!!」
しまいに亜子の眠る布団を握り締めて、裕奈は泣き出した。すぐにシーツが涙で濡れた。
千雨はその横で壁にもたれかかって、その様子をただ黙って見守っていた。親友の死を悲しんで泣きじゃくる少女を、じっと見ていた。
先ほど自分が言った、“晴れてメンバーが三人”の言葉は、このときに撤回させられることとなった。
亜子の容態は自分たちが思っているよりもずっと重傷だったらしい。こういったことに全く知識が無い二人に、それに気づけというのは酷だろう。
首をもたげて、窓から外を見る。空は晴れ渡り、太陽が木々を照らしていた。
(運命の神様だとか、そんなもん信じる気にもなれねぇが、もし本当に居るとしたら……)
その景色を、千雨はまるで憎いものでも見るかのように睨みつけた。
(こいつはちょっと残酷すぎるんじゃねぇか……っ?)
その部屋には、しばらく裕奈の鳴き声だけが響き渡った。
涙を流しながら、裕奈は思った。昨日の亜子の言葉を思い出しながら。
『ウチ、思うんやけどな。死んだ人たちが望むことって、そういうことやと思う。自分たちの死を悲しまないで、ちゃんと生きていてほしいって、
そう思うんとちゃうかなって』
あれは、紛れもない亜子から裕奈へ向けての、遺言だったのだ。
亜子は分かっていたに違いない。自分がもう長くはないこと。目をつぶれば、もう二度とあけることは出来ないだろうこと。
全部、分かっていたに違いない。だから、あの時も最後の力を振り絞って、自分の思いを、裕奈に伝えたんだと思う。
それに、裕奈は今の今まで気づくことが出来なかった。
泣き叫ぶ声はじきに嗚咽へと変わり、少しだけ部屋が静かになった。
「……行くぞ、明石。」
千雨が、うなだれる裕奈の肩に手を置いて言った。
「仲間を探すんだよ、この腐ったゲームから逃げ出すんだ、そうだろ?」
「……うん。」
裕奈が、ゆっくりと立ち上がった。目じりに浮かぶ涙を、乱暴にぬぐった。
千雨はそれを見て先に部屋を出る。ロビーで、二人分の荷物をまとめに行った。
再び二人となったその部屋で、裕奈が亜子を見た。
「できればこんなこと言いたくなかったけど……」
ベッドに背を向けると、背中越しに言う。
「バイバイ、亜子。」
言ったとたん、再び目から涙が零れ落ちる。
そして裕奈は歩き出し、部屋を出て行った。
ロビーで二つのデイパックに食料や水を分けていた千雨が、出てきた裕奈を見る。
裕奈の様子をひとしきり眺めて、再び視線をデイパックに戻す。
残っていた水のペットボトルをデイパックに詰め込み、一つだけ持ち上げると裕奈に差し出す。
裕奈も黙ってそれを受け取った。
「行くぞ。」
それだけ言う。裕奈がうん、と短く返事を返す。
「もう、ここには戻ってこないぞ。」
建物を出てすぐ、千雨が言った。
裕奈は少し間を開けて、一度その建物を眺めた後、再び千雨を向いた。
そして、うん、短く返事を返した。
和泉亜子 死亡。 残り11人
59.託された思い
話は再び夜中の出来事に戻る。
ネギ・スプリングフィールドと桜咲刹那(番号15番)は住宅街の一軒家を寝床としていた。
こちらも収穫は何もなく、誰とも会うことなくその日を終えていた。
そして夜は更けていく。
何度目かの見張り交代を経て、今はネギが窓際から外を見張っていた。
もともとは刹那が寝ずの番をするつもりだったのだが、ネギが無理を言って交代制にしてもらったのだ。
今刹那は別の部屋で休息を取っている。
ネギは何をするでもなく、ただ窓から見える外の様子をじっと眺めていた。
何事もなく時間は過ぎていく。
すでに日付が変わって数時間が経過している。月の光る空が白み始め、夜が終わろうとしていた。
ネギは腕につけている時計を見た。もうそろそろ最後の見張り交代の時間だった。
部屋の扉を見る。刹那が出てくる気配はない。
ネギは再び視線を窓へ。不思議と眠くはない。刹那が自分で起きてくるまでは、見張りを続けようと思った。
相変わらず何も起きない、何も見えない住宅街を眺める。
(……ギくん……)
「え?」
ネギは部屋を見渡した。近くには誰も居ない。刹那も、まだ部屋から出てこない。気のせいか?
(……ネギくん…)
「……っ!」
いや、違う。気のせいにしては声が鮮明だ。
それに、この声にはネギは聞き覚えがあった。
「タカミチ!?」
見張りを交代しようと部屋に入ろうとした刹那がネギの大声に驚く。
「ネギ先生!?」
慌てて扉を開けてネギの名を呼ぶが、ネギはそんな刹那の声にも気にしない様子で、誰も居ないところに話しかけていた。
「タカミチ!一体どこに?」
(ネギくん、今僕は念話で君と話している。魔力を抑えられている君からは僕に言葉を送れない。
質問は沢山あるだろうが、時間がない、僕の話を聞いてくれ。)
「う、うん……」
思わず返事を返し、そして黙る。刹那も、傍らで黙ってそれを見ていることにした。
(まず君に頼みたいことは他でもない。島の南にある入り江に、僕が乗ってきた船がある。
生き残っている生徒たちを集めて、それでこの島を脱出してほしい。)
「で、でも……」
ネギが届かない反論を言う。島を脱出したいのは山々だが、自分たちには首輪がされている。
これがある限り自分たちはこの島を出ることも出来ない。もしそうでなくても、島の周りには巡視船がいくつも配置されている。
普段ならともかく、魔力のないネギたちがこれをかいくぐることが出来るとは思えなかった。
そんな時、まるでネギの疑問が全て分かっているかのようにタカミチの声が言った。
(首輪をはずせば魔力は戻る。それがあれば兵士たちを振り切ることも出来るはずだ。君たちがしている首輪の制御装置は僕がたった今破壊した。)
「え!?」
思わずネギが大声を出す。念話が聞こえていない刹那は少し驚いた。
(詳しいことはこの際省く。最低限の説明をすると僕はプログラムの運営本部のある中学校に侵入してコンピューターを破壊した。以上だ。
とにかくそういうわけだからその首輪はもう何の意味も果たしていない。皆を集めて、そして脱出してほしい。)
「タカミチは?タカミチはどうするの?」
ネギは再び相手には聞こえない質問をする。自分たちはそれでよくとも、それだとタカミチ本人が脱出することが出来なくなる。
(ネギくん……君は立派な教師になって、お父さんと同じマギステル・マギになるんだ。そのために、こんなところで死んではいけない。
クラスの皆も、こんなところでこれ以上死なせるわけにはいかないんだ。だから頼む、ネギ君。)
「タカミチ?」
(僕が伝えるべきことはこれが全てだ。後は君の働きに期待する。最後に君の声が聞きたかったが、仕方がないことだと諦めることにするよ)
「最後?最後って何!?」
(この島を出た後は、僕のことは忘れてくれ。覚えていても辛い思い出になるだけだ……)
「タカミチ!!」
(さようならだ、ネギくん)
「タカミチ……」
呟いたまま、もう何もしゃべらなくなったネギに、刹那はかけてやる言葉が見つからずただじっと見ていた。
しかし、突然ネギが自分の首に手を回し、そこにある首輪を握り締めたのを見て、慌てて止めに入る。
「先生!?」
しかし構うことなくネギはかけた手に力をこめていく。
刹那がネギのすぐ近くまで迫ったとき、カチッ、という音と共に、ネギの首から首輪が取れた。
「……え?」
刹那の動きが止まる。ネギは、さっきまで自分の首についていたその首輪を眺めていた。
そして呟く。
「……おかしい。」
信じられないものを見て固まっている刹那は、ネギのその言葉の意味が分からず、ますます混乱する。
「一体、どうなってるんですか?」
そう聞くこと以外、出来なかった。
ネギから事情説明を聞いた刹那は、それでも半ば信じられないという様子ではあったが、とりあえずネギの首輪が外れた理由は理解できた。
「それで、先ほどのおかしいというのは?」
「はい、それなんですが……」
そう言ってネギは自分の手のひらを眺めながら続ける。
「タカミチは、首輪さえはずせば魔力が戻るって言ってました。そして僕は首輪をはずして見せたんですけど……」
ネギは手のひらに魔力を込める。しかしやはり上手くいかない。確かに首輪をつけていたときのように「全く使えない」わけではなかったが、
どちらにせよ魔法の矢一つ放つことが出来ない微弱な魔力しか戻ってはこなかった。
「タカミチが嘘をついたとは思わないです。現に首輪は取り外すことが出来ました。でもこれじゃあ、脱出なんてとても……」
「高畑先生は今どこに?」
刹那の何となくな質問に、ネギの顔が曇る。
「タカミチは……多分……」
そこから言いよどむネギを見て、刹那はなんとなく全て分かったような気がした。
わかったからもういいです、とネギの肩に手を置いて言うと、ネギが礼を言った。
「それじゃあ、どうしますか?先生。」
話題を変えるように、刹那が聞いた。
ネギは一度力強くうなずくと、
「龍宮さんたちと待ち合わせてる建物に行きましょう。二人と合流して、このことを伝えます。」
「分かりました。」
刹那は特に文句は言わずネギの言うことに従う。
「行動するのは日が昇ってからにしましょう。ネギ先生は休んでください。今は私が見張りをする時間です。」
「そうですね。……ありがとうございます。」
ネギはそう言って部屋から出て行く。扉を閉めて、隣の部屋へと入っていった。
そして、
「う……うっ……ぐっ…」
刹那に聞こえないように、小さな、小さな声で泣いた。
60.守りたいもの
日の光が差し込み、この島にきて二度目の朝を二人は迎えた。
宮崎のどか(番号27番)が荷物の準備をし、その間は龍宮真名(番号18番)はあたりを警戒する。
二人分の荷物を整理し終えたのどかが、デイパックのジッパーを閉める音が聞こえると、龍宮が視線をそちらへ向けた。
のどかもそれに気づいて顔を上げ、龍宮と目があうと小さくうなずいた。それを見て龍宮も首を縦に振る。
二人はそれぞれのデイパックを抱えて歩き出した。
「目的地は島にあるこの建物。刹那たちと待ち合わせする場所だ」
歩きながら、先頭を歩く龍宮が言った。歩調は後ろを歩くのどかにあわせてある。
それでものどかは若干早足気味についていく。その上で龍宮の言葉にはしっかりと相槌を打った。
「今から行けば、約束の正午よりも大分早く着くと思うが、そのときはその場所で休めばいい。見たところ結構大きな建物らしいしな」
地図を見ながら龍宮が言う。二人は森の中にある大きな建物を目指した。
もう、二人には動き続ける理由がない。のどかの探し人だった二人は、もうこの世から居なくなってしまった。
他の生徒を探す目的もなくはないが、そのためにのどかを危険にさらすのも忍びなかった。
一度刹那たちと合流し、のどかを安全な場所に移してからにしようと考えた。少し自分勝手なのは、この際勘弁してもらいたいと思った。
そして二人は、建物を目指して歩く。
「……」
「……」
そしてすぐに、その道は阻まれた。
文字通り、道がなくなったのだ。二人の足元はそこから90度直角の崖になっている。見下ろせばずっと下にかなり細い道が一本。
岩などが乱立している荒れ道が伸びている。
向かい側との距離は10メートルほど。飛び越えれる距離ではない。
「こんなもの地図にはなかったぞ……」
怒っているというよりむしろ呆れた様子で地図を眺めながら龍宮は言うと、崖にギリギリまで寄って、すこし身を乗り出す。
そこから左右を見渡した。そして、
「近くに橋はない、か。……ん?」
右側を見たとき、龍宮の視線が落ち、そこで眉をひそめる。
隣で龍宮のまねをして身を乗り出そうとしたのどかを片手で制し、そのまま後ろへ下がらせる。
「あまり崖近くによるな。」
そう言って自分も後ろへ下がった。理由を知りたそうにしているのどかに、龍宮があごでそこをさした。
崖のギリギリのところに木が生えている。そしてその木の根が、崖の側面から一本、飛び出していた。
不自然な生え方をしているそれを不思議そうに眺めているのどかに、
「地面が思ったよりもろいみたいだ。あまり近くに居ると崩れて崖から落ちるぞ。」
龍宮がいい、のどかが顔を青くして必要以上に後ろへ下がった。
その様子を見て少し苦笑する。
「まぁ、近づき過ぎないようにして崖際をたどっていこう。どこかで向こう側に渡れるはずだ。」
「は、はい……」
その返事を聞いて龍宮が歩き出した。それにのどかも続き、すぐに立ち止まった龍宮に追突した。
「あ、すみませ――」
「そこに居るのは誰だ?」
のどかが謝ろうとして、龍宮の言葉と重なった。龍宮はのどかがぶつかったことなど気づいても居ないようなそぶりで、前を向いて銃を構えていた。
のどかも龍宮の背中越しにそちらを見る。
沢山ある木々の中、比較的太い一本の木の陰から人が姿を現した。
「茶々丸……?」
目の前から歩いてきた絡繰茶々丸(番号11番)を見て、龍宮が言った。
よく見知った相手だっただけに、少し緊張がほぐれたが、すぐに龍宮の顔に緊張が戻る。
眉間に眉を寄せて、茶々丸の全身を見渡した。
「一体何があった?」
思わずそう聞かずには居られない。茶々丸の身体は、それほどまでにボロボロだった。
着ている制服はところどころ千切れていて、そこから見える手はいたるところが煤けてへこんでいる。
目にはまるで光がなく、その焦点は合っていない。
そして何より目を引くのが、茶々丸の腹部。綺麗に円形の形に服が破け、さらに茶々丸の腹に大きな穴を開けていた。そこから向こう側の景色が見える。
しかし茶々丸は足取りはしっかりとして、自分を怪訝な表情で見る二人のもとへと歩み寄っていく。
龍宮は、茶々丸の様子が普通ではないことに気づき、厳しい表情で茶々丸をにらみつけた。そして言う。
「とまれ。」
茶々丸は歩みを止めない。
「止まらなければ撃つぞ」
すべて無視し、近づいてくる。
「茶々丸!!」
そこで、動きが止まった。
突然素直になった茶々丸に、龍宮があからさまに眉をひそめる。
「3−A出席番号18番、龍宮真名……」
「ん?」
茶々丸が突然小さな声で何かを呟き始めた。
「戦闘能力大、要注意人物に該当……排除します」
何かを言い終え、突然茶々丸が身をかがめると、右手を腰の後ろに回した。
そしてそれは、次の瞬間には何かをつかんで戻ってきた。
「なっ……」
龍宮はとっさに、茶々丸の頭に向けていた銃口を少しずらし、引き金を引いた。
乾いた銃声と共に空薬きょうが宙を舞い、はじき出された弾丸は茶々丸の右手に命中した。
カンッ、という硬い音と共に、茶々丸の右手が衝撃を受けて後ろへ下がる。
それを確認する前に茶々丸から踵を返して、後ろに居たのどかを無理やり振り向かせて走らせ、茶々丸から離れる。
「こっちだ!」
叫ぶと、近くにあった木の陰にのどかを放り込む。そしてすぐに自分も続いた。
その瞬間、自分たちのすぐ後ろを爆音と共に無数の弾丸が振りそそいだ。砂埃が巻き上がり、少し二人にかかる。
龍宮は木の陰から半分ほど顔をだして茶々丸のほうを見た。茶々丸はさっきと全く同じところに居る。
その手には銃が握られていた。小さな銃だが、グリップの前に湾曲したマガジンが取り付けられている。間違いなくサブマシンガンだった。
茶々丸は龍宮たちを撃ったときの体勢のまま固まっている。二人が木の影から出てくるのを待っているらしかった。
龍宮は木の陰に顔を引っ込めると、銃を構えて小さく舌打ちした。
そのあと、隣で震えているのどかを見て言った。
「お前はここでじっとしていろ。私が戻ってくるまで出てくるなよ。顔も出すな。」
「龍宮さんは?」
心配そうに龍宮を見るのどかに、龍宮は笑って答える。
「あいつとは一度やってみたかったんだ。」
冗談なのか本気なのか分からず、のどかの心配そうな視線が消えることはなかったが、もう龍宮にはゆっくりしている時間はなかった。
自分たちが隠れている木の向こう側から、こちらに向けて足音が聞こえてくる。茶々丸が動いた。
「とにかく絶対に出てくるな。何があってもだ。……大丈夫、すぐ終わる。」
最初こそ厳しい口調で言い放ったが、最後に笑みと共に優しく付け加えた。
龍宮はその後再び木の陰から顔を出し、こちらに歩み寄る人影を睨み付ける。かなり近くまで来ていた茶々丸に向けて、銃を向け、すぐさま撃った。
発砲音は三発。どれも茶々丸には命中しなかった。それでも茶々丸は突然の銃撃に、案の定銃を構えて木に狙いをつけた。
次の瞬間、龍宮は木の反対側から飛び出す。茶々丸がとっさに銃口をそちらに向け、引き金を引いた。
マシンガンの銃声とともに銃弾が吐き出される。龍宮はそれをめいいっぱい走ってかわしていた。
龍宮は近くの木に狙いを定め、そこに飛び込んだ。身を転がして受身を取りながら、木の陰に再びかくれ、そこで再び銃を構えた。
厳しい目線に笑みを含ませて言った。
「さぁ、戦ろうじゃないか。」
61.崖際の闘い
「あいつとは一度やってみたかった……か。」
龍宮は木に隠れて茶々丸を睨みながら、先ほど自分が言った言葉をもう一度呟いた。
「確かにそう思ってはいたが……」
まさかこんな形でそれが迎えられようとは思っていなかった。
皮肉がかった自分の境遇を考え、嘲笑の笑みを浮かべる。それがすぐに轟音によってかき消された。
すぐに龍宮は身をすくめて弾丸をやり過ごすと、半身を出して銃を茶々丸に向ける。
引き金を三回、連続して引いた。
茶々丸が顔をかばうように龍宮に背を向け、その身で銃弾を受け止めた。その影で、弾切れのマシンガンにマガジンを叩き込む。
龍宮は木から飛び出し、さらに銃弾を叩き込む。それでも茶々丸は動じることなく、弾丸の装填されたマシンガンを自分に向けて撃ち返してくる。
銃弾をよけながら走りぬけ、進行方向にあった木に再び身を隠すと、自分の持つ銃からまだ弾の残るマガジンを引き抜き、新しいのを装填する。
「今ので18発……ならば」
呟いた後、龍宮はすぐに木から飛び出し、茶々丸と対峙する。
茶々丸はすぐにでも銃を構え、引き金を引いた。それを龍宮は横っ飛びで回避すると、かるく転がった後に膝をついた状態で制止する。
そのまま茶々丸に向けて銃を構えた。茶々丸も龍宮にマシンガンを向けるが、引き金は引かなかった。
「弾切れだよ。」
龍宮の言うとおり、茶々丸の持つ銃はすでにボルトが後ろに引ききっていて、そこから見える内部には弾丸は一発も入っていない。
対して龍宮は先ほどマグチェンジを済ませたばかりなので弾はたっぷりと残っている。
きっちりかみ合ったサイトをすばやく移動させ、狙うは茶々丸の持つマシンガン。両手できっちりとホールドし、サイトにそれを重ねた瞬間、引き金を絞る。
銃声と共にスライドがすばやく前後し、それにあわせて龍宮の手が上に跳ね上がる。
強力なガスで撃ち出された弾丸はまっすぐに飛んでいき、正確に茶々丸のマシンガンに命中。
マシンガンは茶々丸の手から離れて宙を舞い、後方の草むらに消えた。
茶々丸が一度草むらに目をやり、そして龍宮に戻す。龍宮は薄く口元に笑みを浮かべていた。
丸腰になった茶々丸を前に、龍宮は銃を構えたまま立ち上がる。サイトにはきっちりと茶々丸の頭を捉えている。
「さて……」
龍宮が何かを言おうとしたとき、突然サイトに捉えていた茶々丸が消えた。龍宮が驚いて目を見開く。
すぐさまに視線をサイトから離す。顔を銃に近づけていたから見えなかった自分のすぐ下を見る。
茶々丸はそこに居た。遠くはなかったが、近いわけでもなかった距離を茶々丸は一足飛びでつめて、龍宮の懐にもぐりこんでいた。
龍宮はとっさに後ろへ引こうとしたが、それよりも早く茶々丸の右足が上がった。
振り上げられた右足は龍宮の胴体のすぐ前を吹き抜け、逃げ遅れた右手へと襲い掛かかる。そして正確に、銃を持っていた腕に蹴りが命中した。
その激痛は凄まじいもので、先ほどの茶々丸のマシンガンと同じように銃が空を飛んではるか後方へと姿を消す。
茶々丸はとまらない。龍宮の銃を吹き飛ばした回し蹴りが決まり、右足が地面についた瞬間、今度はそちらの足を軸に左足を持ち上げる。
体の回転力をそのまま左足に乗せ、後ろ回し蹴りを龍宮のみぞおちに見舞った。
龍宮はその茶々丸の追撃をモロに受けてしまう。
「ごほっ!」
龍宮は派手に吹き飛ぶと、地面を数回転がった。そしてそれから起き上がってこなかった。
茶々丸は龍宮からきびすを返すと、自分の背後の草むらへと歩み寄る。
光のない目が忙しなく動き、すぐにそこから自分のマシンガンを見つけ出し、拾い上げた。
すぐに銃の様子を見る。少しばかり傷が入っていたが、使える。
茶々丸は空のマガジンを落とすと、すぐに新しいマガジンを装填し、ボルトを引いた。
そして、ゆっくりと視線を横に向ける。
「ひっ……」
そこにいた、のどかと目が合った。すぐに茶々丸はのどかと向き合う。
「3−A出席番号27番、宮崎のどか。戦闘能力微小、非武装。排除します」
そう言うと、弾を装填したばかりのマシンガンを持ち上げた。銃口がのどかを向く。
とっさにのどかはデイパックをそこにおいて走り出した。
一瞬遅れて銃声が響く。自分がもと居た場所を銃弾が襲い、取り残されたデイパックがぼろぼろに吹き飛んだ。
それでも茶々丸は動じることなく、のどかが走っていった方向を見る。すぐそこにのどかはいた。
のどかの体勢が崩れる。
「あうっ!」
恐怖のせいか足が上手く動かず、少し走ったところでつんのめって倒れてしまった。すぐ後ろに茶々丸が迫ってきた。
倒れたまま茶々丸と向き合い、そして後ずさる。茶々丸は構わず歩を進めてくる。
十分に近づいたところで、再び茶々丸が銃を構えた。
「そんな……茶々丸さん……」
茶々丸は無反応だった。のどかの声が聞こえていないかのように。
今の茶々丸は、もはや完全な機械だった。感情なんてどこにもない、正真正銘のロボットに成り果てている。
なにも映していないかのような瞳に、のどかはちょうど一日前に遭遇したザジ・レイニーデイ(番号31番)を思い出した。
あの時もこんな状況で、もうだめだと思った。でもそのときは龍宮が助けてくれたから、いま自分はこうして生きている。
でも、今回はそれも期待できない。今、龍宮は……
「おい……」
その時、茶々丸の背後から声がする。茶々丸の動きが止まり、次の瞬間、振り向くよりもまず左腕を自分の背後に向けて振った。
渾身のバックブローを見舞い、そしてそれが空を切る。
少し遅れて振り向いた茶々丸の目には、美しいまでに漆黒の長い髪が中空に映えているのが見えた。
しかし見とれるというものが存在しない今の茶々丸は、すぐにその下へと視線を向ける。
「接近戦は出来ないとでも思ったか?」
そこで、自分を見上げて不敵に笑う龍宮を見た。
次に茶々丸が行動を起こすより早く、龍宮が先手をとって動いた。
龍宮は先ほど茶々丸が伸ばしてきた左腕を両手でつかむと、そのままそれを自分の肩にかけ、体重を前にかける。
綺麗な背負い投げが決まり、茶々丸の体が宙に浮いて弧を描く。
一秒ばかりの空中浮遊の後、体は地面に仰向けの状態でたたきつけられた。
さらに龍宮は間髪居れずに、茶々丸の銃を握る右手を思い切り蹴り上げた。
衝撃の上に衝撃が加わった銃はいとも簡単に右手から離れ、真上へと飛び上がる。
それを龍宮が右手で掴み取る。手の中で回転させ、グリップを握り、引き金に指をかけた。
その銃口が、倒れている茶々丸の顔に向けられた。
「あいにくだったな。……私に苦手な距離はない。」
形勢を逆転させた龍宮が、茶々丸に向けて言い放った。
キリのいいところで終わらせようとしたらちょっと投下量が多くなりすぎてしまったので、
今回だけ二回に分けようと思います。
なので今日は夜中にもあと二話ほど投下しようと思いますのでよろしく。それではまた。
タカミチ……!
亜子…
亜子逝ったのか……。さすがにこれは油断してたよ……
それでは残りの二話投下です。
62.あなたのおかげで
「龍宮さん……」
のどかが、思わず声に出す。
もうダメかと思った。今度こそ本当に死んだと思った。
だが今も自分はこうして生きていて、目の前ではあの時と同じように、自分を助けてくれる龍宮の姿があった。
龍宮はあの時のように、のどかに一度目を配った。
「大丈夫だな?」
「あ、はい。」
そう言ってのどかが立ち上がった。
それを見た龍宮は、次に視線を自分の足元に向けた。
そこには仰向けでこちらを見つめる茶々丸の顔があった。そして自分は、その顔に銃を向けている。
茶々丸はそんな状況になっても無表情のままだった。
それを見た龍宮が、さきほどから茶々丸に対して薄々感じている疑問を口にすることにした。
「お前は、誰だ?」
「……」
龍宮は顔色一つ変えず、茶々丸を睨みつけていった。茶々丸もそれでも表情を変えず、返事も返さない。
遠巻きに見ていたのどかだけが、怪訝そうな表情を見せた。
「先ほどからずっと疑問だったが……お前があの茶々丸だとは思えん」
光のなくなった瞳も、何の警告もなしに撃ってきたことも、どれも普段の茶々丸からは考えられない。
さらに言えば茶々丸の動きも疑問があった。龍宮の知る茶々丸であるなら、いくら何でも接近戦であそこまで不覚とをとるとは思えなかった。
そして茶々丸はそれについて何も返事を返してこない。龍宮の疑問が、確信に変わった。
「こいつは私たちの知っている茶々丸じゃない。恐らく茶々丸は……」
言い聞かせるように呟き、そしてその表情がゆがむ。同時に、目の前の、姿だけは茶々丸である、だが中身がまったく別になってしまったそれに憎悪の感情が芽生えた。
こいつも、言ってしまえば政府の……
自然と、引き金に力がこもる。
その時、不意に茶々丸の目に光が宿り、口が動いた。
「……龍宮さん…」
「っ!」
龍宮が明らかに狼狽した。引き金にかけた指が離れ、動きが止まる。
とたんに茶々丸の目から光が消える。
「状況不利を確認。一時離脱を提案」
「……しまっ――」
今度後手に回ったのは龍宮だった。茶々丸の両手が地面につき、勢いをつけて跳ね起きるのを防ぐことが出来なかった。
立ち上がった茶々丸が背後の龍宮に向けて、再び後ろ蹴りを見舞う。今度は龍宮も反応が間に合い、それを右手のマシンガンを盾にして防いだ。
それでも衝撃はすさまじく、龍宮の体が宙に浮き、後ろへととんだ。すぐ背後にはのどかが、そして崖が待ち構えている。
「くそっ!」
龍宮は何とか両足で地面をかむと、崖近くギリギリで立ち止まった。
すぐさまマシンガンを茶々丸に向けるが、もはやそこに茶々丸は居なかった。
行き場をなくした右手が、力なく下に下ろされる。
のどかが龍宮のもとへと歩み寄った。龍宮が無事を伝えるために笑ってみせる。力のない笑みではあったが。
(名前を呼ばれただだけで動揺するとはな……)
不思議なものを見たような気分だった。自分の意外な甘さを突きつけられて、驚いていた。
思えば戦場で幾度となく銃をむけることはあったが、それはどれも見ず知らずの相手であった。
だから良いと言うつもりもないが、それでも親しい人物を撃つのとは大分違うのは確かだ。
憎いわけでもない友人に、ただ自分の身を守るというためだけのために銃を向けるということ。それがどういうことか、漠然としか解っていなかったのだ。
意外なもろさを、龍宮はこのとき初めて自覚した。
(まぁいい。守ることは出来たんだ、上出来だろう……)
龍宮は隣にいるのどかに目をやる。その視界が、突然横に倒れる。それと同時に、宙に浮くような感覚。
足元を見る。自分たちが立っていた足場が、崩れ落ちていた。無論、隣ののどかごと。
とっさに龍宮がのどかの名を呼び、手を伸ばす。のどかもそれに気づいて手を出した。
崖下に、マシンガンが落ちていった。
龍宮はマシンガンを手放して空いた手で、のどかの手をつかんだ。
さらにもう片方の手が、ちょうど崖の側面に生えていた木の枝をつかんでいた。
「くそっ……」
龍宮の顔が苦悶の表情にゆがむ。それを紛らわすように、声を荒げて言った。
「宮崎!私の手に両手でしがみつけ!すぐ引き上げてやる!」
言った後、のどかをつかんでいる右腕に激痛が走った。
龍宮の右腕は、先ほど茶々丸の蹴りを受けたダメージがまだ残っていた。
骨まではいってないが、のどかの体重を支えて悲鳴を上げている。
(握力が……力が入らないっ……!)
額に汗を浮かべながら、必死にのどかの手をにぎっていた。
時間がたつにつれて腕の力は確実に抜けていく。握っているので精一杯で、引き上げることなんて出来そうにない。
このままでは二人そろって崖に落ちておしまいである。打開策を、必死になって考えた。
「……」
龍宮に両手でつかめと言われて、のどかは開いている片手を持ち上げ、顔を上げた。そこで、自分をつかんでいる龍宮の苦悶の表情と、その向こう側で二人分の体重を抱えて亀裂の走る木の枝を見た。
のどかは一度持ち上げた手を下ろし、そして一度崖底に視線を落とす。
下は荒れ果てた大地。海でもなければ川でもない。途中、衝撃を吸収してくれるようなものも存在しない。
落ちれば命はないだろう。さらに自分たちを支えている木の枝も、そして自分をつかんでいる龍宮の腕も、もはや限界に来ている。
この状況を打開する方法を、のどかは一つだけ思いついていた。
(これしか……方法、ないよね。)
それは、のどかにとっても、そして恐らく龍宮にとっても、辛い選択だった。
「宮崎?」
龍宮が名前を呼ぶ。のどかはゆっくりと顔を上げ、そして笑った。
「龍宮さん……これから私がすることは、私が勝手にやることであって……龍宮さんは何も悪くないんです……」
「何?」
「この島に来てから今まで、守ってくれて本当にありがとうございました……」
「おい、宮崎……お前…」
のどかは笑顔を絶やさず、こう言った。
「手、離してください……」
「ふざけるな!」
思わず叫んだ。声を荒げて、のどかをにらみつけた。
「綾瀬と早乙女の分まで生きろと、昨日言っただろう!!」
「……それは、龍宮さんに任せようと、思います。夕映と、ハルナと、私の分まで……生きてください。」
「違う!!お前が生きるんだ!これからもずっと!」
「龍宮さん……」
のどかのその言葉と共に、龍宮の右手が空を握った。
直後、のどかの身体は深い崖を落ちて行き、
「宮崎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
やがて見えなくなった。
63.守る存在、守られる存在
周りの景色はめまぐるしく変わり、身体はその自由を奪われている。空はどんどん小さくなっていく。
勢いは増すことはあれ減ることはない。
のどかは、両手両足を投げ出したまま、わずかに見える空を眺めていた。
(このかさんみたいには行かなかったけど……精一杯、頑張ったよね…)
その時のどかは、昨日死んだ友人である近衛木乃香(番号13番)のことを思い出していた。
この島で、自分と木乃香は少なからず似た存在だった。
魔力も何も通用しないこの島では、自分たちは無力な存在である。
そして木乃香には桜咲刹那(番号15番)が、自分には龍宮がいた。自分たちを、必死になって守ってくれた。
でも自分たちは、それに対して何も返してあげることが出来なかった。
それが、とても辛かった。役に立ちたかった。助けになりたかった。
昨日の昼ごろ。刹那のために身を投げた木乃香を見て、正直のどかはその姿に奇妙な憧れを感じていた。
親友のためにその身をささげ、そして紛れもなく木乃香は刹那を助けたのだ。その代償が自分の命であっても、木乃香はきっと後悔なんてしなかっただろう。
でものどかにはそんな力すらなかった。結局最後まで、自分は守られる存在でしかなく、役に立つことも、助けになることも出来なかった。
親友を探したいというわがままで、龍宮を振り回したりもした。そのせいで、自分だけじゃなく龍宮の身さえも危険にさらして。
(本当にすいませんでした……龍宮さん。そして、ありがとうございます…)
辛くなかったといえば嘘になるが、だからといって後悔はしていない。
木乃香のように行かなくても、自分は自分なりに生き抜いたといえるから。
向こうで待っている親友三人に、胸を張って言えるから。
「夕映……ハルナ……このかさん……私、精一杯、頑張れたと思います……」
後は残った人たちに任せよう。やり残したことは、きっと彼女たちがなし得てくれる。
そう信じることが出来たから。のどかは最後まで笑顔だった。
体の浮いたような感覚は、やがて身を砕くような衝撃に変わり、のどかの意識はそこで途切れた。
「……」
崖の上では、龍宮がそこにいた。
崖の近くに生えている木にもたれかかって座っている。
両足を投げ出し、顔はうつむいていた。
やがてその口が開かれる。
「……誰が誰を守るんだ?」
蚊の鳴くような、弱弱しい声だった。
「誰が誰を守ったって言うんだ?」
今度ははっきりと聞こえた。
うつむき顔からわずかに見える口元で、龍宮は奥歯をこれでもかというほど強く噛み締めていた。
そこから血が滴り落ちる。
「私がっ!!一体、誰をっ!!」
作った握り拳が地面を強く叩き、その後は何も聞こえなかった。
宮崎のどか 死亡。 残り10人。
以上でした。それではまた明日。
GJです!
素で泣きそうになってしまった…。
のどか…
198 :
T.N:2006/07/09(日) 23:57:48 ID:???
のどか・・・・(泣)
のどか・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
たつみー切なすぎ
……崖という地形設定の時点で、どっちか落ちると分かってたのに……。
分かってたのに……!
ある程度予測できることがまるでマイナスにならんのが凄いよホント。
こんな状況での最期の瞬間までも、自分の事(例えばネギへの想い)を考えず
他者への気遣いだけを念じながら死んでゆくとは、のどかのストイシズムというか
無私の心はいったいなんというッッッ……!!
くぅぅ・・・
今から出かけんのに涙拭かなきゃなんね〜(泣)
今までになく感動した〜
作者6ですこんにちは。
終盤に差し掛かってきたネギロワ11部。今日の分投下しようと思います。
64.再遭遇
島にある山には、人の手が随分加えられたものもあるが、中にはそういったものが全くなく、完全に自然のまま残されている山も存在する。
明石裕奈(番号2番)と長谷川千雨(番号25番)が通っている道は、まさにそんな感じのある場所だった。
足元を見れば草木が生い茂り、道らしい道を見つけるだけでも一苦労だった。
工場地帯を出た二人は、その近くにあった小屋で和泉亜子(番号5番)と別れを告げたあと、他の生き残りたちと合流するために行動を開始した。
闇雲に歩くのでは時間がかかりすぎるため、ある程度予定は決めてある。山を越えた後、皆が集まりそうな大きな施設を回る予定である。
「……」
千雨は、後ろを歩く裕奈に目を向ける。
きっちりついて来てはいるが、顔はうつむき加減で、その表情もさえない。
「まだ和泉のこと、引きずってんのか?」
「え……?」
突然話し掛けられて、裕奈が驚いて顔を上げる。千雨は顔を前に向け、歩き続けながら話す。
「あれはお前のせいじゃない。」
「……そう、かな。」
「……」
「私がもっとしっかりしてたら、亜子、死ななかったんじゃないかな……」
千雨の思ったとおり、裕奈は亜子の死を引きずっている。それもかなり重度に。
思うに、亜子の死について裕奈の落ち度はほとんど無い。先ほどの千雨の言葉も、本心によるところだ。
それでも、裕奈は自分が許せないみたいだった。千雨は一度ため息をついて、
「たとえそうであったとしても、今は気にするな。……生き残ることだけ考えろ。」
「……そうだね。」
「そうだ。」
こういうことは他人の言葉一つでどうにかなるものじゃない。いくら誰かが声高にお前は悪くないと言っても、本人が自分を許せなければ意味がない。
だから、千雨は必要以上の弁護はしなかった。そんなものは生き残った後に好きなだけすればいい。時間はいくらでもある。
今はとにかく、前を向いて歩かないといけない時だ。生き残るために。死んでいった人たちの、意志を継ぐために。
山の道は相変わらず険しく、二人の体力を容赦なく奪っていく。
ちょうど、裕奈の息が荒くなり始めたころ、前を行く千雨の顔に明らかに疲れが見え始めたころ。
道の脇をなんとなく眺めた千雨が、その目を見開いた。
そこは山道の上側に位置しており、上りの斜面になっている。自分たちが歩いている場所と同じく、ろくに道と呼べる道はない。
草木が生い茂るそこは見通しも悪い。だがその隙間に、今確かに千雨は人影を確認した。それが誰であるかも、よくわかった。
「明石!走れ!!」
とっさに千雨が裕奈の手を引いて走り出す。裕奈は前に倒れそうになるのをなんとかこらえ、慌てて千雨についていった。
次の瞬間、山の斜面から銃声が鳴り響く。弾丸が木々を削り、草木を弾き飛ばして二人の背後の土を巻き上げた。
「ちょ、何、何が起こったの!?」
体勢を立て直して千雨から手を離し、一人で横を走る裕奈が、後ろを見ながらわめく。
千雨は返事を返さず、自分たちの横の登り斜面を睨んだ。
案の定、そこには自分たちを追いかけて走る人影が一つ。
「あんのピエロが……」
真っ白な髪をなびかせて、自分たちと同じスピードで後ろから追いかけるザジ・レイニーデイ(番号31番)がいた。
「へ?何、ピエロ?」
「ザジのやつが後ろから追ってきてる!とにかく走るぞ!」
それから二人は必死に走ってザジを振り切ろうとするが、どうしてもその距離は離れることがない。
むしろ縮まっているような気さえした。原因ははっきりしている。
「はぁ……はぁ…」
先ほどまで先頭を走っていた千雨が、今は裕奈より少し後ろで荒い呼吸をしていた。
普段ろくに運動していない千雨の体力はすでに限界だった。足は鉛のように重くなり、思うように動かない。
裕奈はまだ体力に余裕はある。千雨を置いていかないよう、むしろ今はスピードを若干落としてさえいる。
(くそ……情けない…っ!結局私が足引っ張ってんじゃねぇか……)
裕奈が自分に合わせて足を落としていることは千雨も十分わかっていた。
このままではザジを振り切ることなんて出来るわけがない。追いつかれて、二人ともども蜂の巣にされるのがオチだ。
(そうなるぐらいだったら……)
千雨が前を走る裕奈を見た。
「明石!お前先に――」
「長谷川!ちょっと痛いと思うけど我慢してね!」
お前先に行け、が言えなかった千雨の手をとると、裕奈はザジのいる方向の逆、山の下り斜面に身を投げた。
一瞬二人の体が宙を舞う。そのときに、裕奈が千雨をしっかり抱きかかえた。
すぐに二人の体は地面にぶつかり、そのまま斜面を転がり落ちていく。それはスピードだけ見れば先ほどとは比べ物にならない速さだった。
しばらく二人は転がり落ちて、じきにそれは止まった。千雨は転がってる最中に左腕を襲った激痛に少しの間悶絶していたが、歯を食いしばって立ち上がる。
それを見て安心した裕奈が続いて立ち上がり、すぐにまた膝を突いた。
「明石!?」
「痛っ……」
裕奈が右足を押さえる。そこから血が流れでていた。千雨が無理やり裕奈の手をとりさらうと、真一文字に傷が出来ていた。
斜面を転がり落ちたとき、恐らく木の枝かなにかで切ったらしい。
「もうっ!これで逃げ切れると思ったのに……」
自分の運の悪さを呪いながら、裕奈が上のほうを見る。千雨も続いた。
大分離れたところではあるが、ザジがこちらに向けて斜面を滑り降りてきていた。自分たちの姿も確認されているに違いない。
「とりあえず移動する!無理やりでも立たせるからな!」
「もちろん!」
裕奈は右足の痛みに耐えながら、必死にその場を離れる。
「あうっ!」
ものの数十メートルで裕奈が力尽きた。さすがに足の傷は軽いものではなく、これ以上走って移動は無理に近かった。
後ろからはザジが依然追ってきているはずなので、ここで倒れてるのはまずい。
千雨は半ば引きずるように裕奈を近くの木の影においやった。
「くそ、逃避行もここまでか……」
千雨が露骨に悪態をついた。
「長谷川……私のことはいいから先に行って……」
「同じこと言おうとした私を引きずり落としたのは一体誰だよ?……いいから黙ってろ」
そう言うと千雨は片手だけでデイパックの口をあけると、中に手を突っ込む。軽く探ってから、目当てのものを取り出した。
ガーゼと、包帯である。それを裕奈に手渡した。
「こいつでとりあえず応急処置だ。早くしろよ」
裕奈はそれを受け取ると、返事も返さずせっせと足に包帯を巻きつけていく。少しきつめに縛り、応急処置が完了した。
「できたか?」
「うん、これでもう少しなら走れるよ。」
「バカ、そんなことしてもすぐにまた走れなくなるだけだろ」
千雨は、再び逃げるつもりだった裕奈を一蹴する。
「でも、それじゃどうするの?」
「どうするもこうするも……やるしかねぇだろ。」
千雨の言葉に、裕奈の表情がこわばる。千雨も怖いくらい真剣な顔だった。その手にはいつの間にか銃が握られている。
裕奈も自分のデイパックから拳銃を取り出した。
二人が自分たちの歩いてきた道を振り返ると、そこにザジの姿があった。右手にマシンガンを握ったまま、悠々とこちらに歩いてきている。
「落ち着け……落ち着けよ……」
千雨は自分に言い聞かせるように呟いた後、裕奈の方に顔を向ける。
「私が今からザジを引き付ける。できるだけあいつに隙を作るようにするから、そしたらお前、ここから撃て。」
「え!?な、何を……」
「それしか方法がない。」
にべもなく言い放つ。無理やりにでも説き伏せようとする。しかし裕奈も引き下がらない。
「それだったら私が囮になるよ!」
「さっきも言ったように、今のお前の足じゃすぐ走れなくなる。囮なんてつとまらない。」
「大丈夫よこれくらい!それに長谷川だって疲れてて、ろくに早く走れないじゃない!」
「片手しか使えないんだぞ、私は。万が一はずしたらそれまでだ。」
「私なんて銃撃ったことすらないよ!」
「……」
「……」
とうとう二人は黙ってしまい、にらみ合いになった。
しばらくがお互いの目を見詰め合う。
奇しくも二日前のレストランの時と同じだった。お互いの意見がぶつかり、そしてどちらも譲らない。
結末も、そのときと同じになった。
「……チッ、どこまでも頑固なやつだな…」
露骨な舌打ちと共に、千雨が先に視線をそらす。
「わかったよ、お前に任せる。」
その言葉に、裕奈が強くうなずいた。千雨が身をかがめて立ち上がる。
「お前はここにいろ。私はもう少しザジの見える位置に移動する。私が合図したら飛び出せ。あとはなるようになる。」
「オッケー。」
「……頼んだぞ?」
いつもの調子で返事を返した裕奈に、千雨が苦笑した。
「……初めて見たかも。」
「あん?」
不意に裕奈が言う。
「長谷川が笑ったところ。」
「……うるせぇ。」
そっけなく返して歩き出した千雨を、裕奈が笑顔で見送った。
そしてすぐにその表情を真剣なものに変えると、ザジの姿を確認する。
ザジの姿はさらに大きく確認できるまでに接近していた。裕奈は早くなる動悸を必死に抑えながら、千雨からの合図をじっと待った。
そして、その時がやってきた。
65.決着の代償
そのときが近づくにつれ、動悸が激しくなっていく。
心臓の鼓動が聞こえてくるくらいだ。
ザジの姿はもうすぐそこ。後は千雨の準備ができ次第である。
手を強く握り、そこにある銃の感触を確かめる。さらにザジが近づいてきて、ついにそのときが来た。
――パン!パン!
二発の銃声が聞こえた。
(え……?)
裕奈は手元の銃を見る。自分は引き金を引いていない。
ザジの方を見ると、ザジは裕奈のいる木とは別の方向を睨み、銃を構えていた。
(まさか……)
裕奈がその考えに行き着くと同時に、そちらの方向から千雨が走り出てきた。
千雨はザジの背後を走りぬけ、銃を撃つ。ザジもそれにあわせて銃口ごと身体を千雨に向ける。
ちょうど、裕奈に背を向ける形となった。そこに絶好の隙が生まれる。
(まさか、最初からそのつもりで……)
千雨の周りには遮蔽物が何一つなかった。さらに、片手で銃を乱射しても、ザジには当たらない。
ザジが至極落ち着いた動作でマシンガンを構え、千雨に向ける。
とっさに裕奈が木陰から飛び出した。
「長谷――!!」
その言葉は、ザジのマシンガンの掃射でかき消される。
ザジ越しに見える千雨の体が、崩れ落ちて消えた。
『頼んだぞ?』
ついさっき千雨に言われた言葉が、頭をよぎった。
「あああああああああああああああ!!!!」
銃声がやんだころ、叫び声がこだまする。
ザジが驚いて振り向くと、そこには自分に向けて銃を構えている裕奈がいた。
ザジが銃を構えるより早く、裕奈が引き金を引く。
銃声と共にはじき出された銃弾は、まっすぐに飛んで行き、ザジの右肩の付け根に当たった。ザジの体がそちらにはねる。
それでもザジは裕奈に向けて銃を構える。
裕奈が、さらに引き金を引いた。何発もの銃弾が撃ちだされ、次々とザジの身体へとめり込んでいく。
じきに、裕奈の銃のスライドが後退したまま止まる。弾切れだ。
目の前のザジは、体中を赤く染めて立ち尽くす。膝が落ち、次にその場に崩れ落ちた。
ザジ・レイニーデイの最期だった。
「長谷川ぁぁぁぁ!!!」
裕奈は銃をほうり捨て、ザジの向こう側にいる千雨のもとへと駆け出した。近づいていくと、千雨は草むらにあお向けで倒れていた。
銃創が体の至るところにあり、それぞれから血が流れ出ている。口からも血が滴り落ちていた。
「長谷川、長谷川!!」
「……は、ハハ…」
名前を呼ばれた千雨は、力なく声を出して笑った。
「ほーら……うまく、行っただろ?」
「な……なんで…」
「囮役には…私が向いてた。ザジの顔の傷をつけたのは、私だったからな……思ったとおり殺意むき出しでこっち向いて……ざまぁみろ。」
そう言って再び笑う。次の瞬間には咳き込み、赤い血が再び飛んだが。
「なんで……どうして!?長谷川言ってたよね!?誰だって最期には自分の命が惜しいって!誰とも居たくないって、なのになんで!?」
「……死なせるわけには行かねぇだろ。」
「え?」
「大河内と……約束、したんだろ?皆で、一緒に帰る……」
それは、ゲーム開始時に大河内アキラ(番号6番)が最後に残した言葉。そして、裕奈がレストランで千雨に言った言葉だった。
裕奈が千雨の言葉を覚えていたように、千雨もその言葉を、今もきっちりと覚えていたのだ。
「今の今になって……やっと自分の気持ちがわかったんだ……誰とも関わりたくないなんて、そんなの嘘だ……カッコつけてただけだったんだ……
ただ勇気が無かっただけだ…お前みたいに、誰かを助けようとする勇気がなかった……怯えてただけさ…和泉が死んだのだって、言っちまえば私のせい……」
「……そんなの……」
「ハハ……そんな顔すんなよ……これでも私は今、結構いい気分なんだ。……最期に……誰かの役に……ちゃんと……たて……た…」
「長谷川……」
返事は返ってこない。千雨は笑顔のまま目を瞑り、そのまま永い眠りに着いた。もう、目覚めることはない。
「最期なんて言わないでよ……」
それでも、それを認めることが出来ない人間がいる。もう、誰にも死んで欲しくないと願う人がいる。
大粒の涙を頬に伝わせて、空を見上げて裕奈が吼えた。
「誰か!!誰かっ……長谷川を助けて!!」
その言葉は森の木々に反響し、中空へと解けていく。返事は、どこからも返ってこない。
それでも裕奈はやめない。ずっと叫び続ける。声が枯れるまで。
地面に着いた手が砂ごと強く握り締められる。
「誰かいませんか!!助けて、私たちを助けて!!」
森の中を悲痛な叫びがこだまする。必死の願いが響き渡る。
しかしそれは無情にも深い木々の奥へと吸い込まれて消えるだけだった。
「このままじゃ……長谷川……死んじゃうよぉ……」
裕奈は千雨の死体の手をとると、自分の肩にかけ、立ち上がる。千雨の体が冷たいことも解らなかった。
そのまま連れて行こうと歩き出し、そしてすぐに崩れ落ちた。
「誰か……助…け……て」
地面に頬をつけたまま、裕奈は呟き、そして気を失った。
しばらくの静寂の時間。二人はまるで寄り添って寝ているようだった。
それは、一人の人物がその場に現れることで破られた。
長谷川千雨、ザジ・レイニーデイ 死亡 残り8人
66.現実
「朝の定時放送を始める。死亡した生徒を上げていくぞ、――」
その時もマイクからは無感動にクラスメイトの名前を読み上げる誰ともわからない男の声が響いていた。
どこまでも事務的な口調の報告に、肩を震わせて手に力を込める一人の少女がいた。
神楽坂明日菜(番号8番)である。
明日菜は今、森の中で地面に座り込んで放送を聴いていた。
目の前には生徒名簿。手にはペン。しかし、ペンを持つ手が動くことはない。
「これ……みんな、死んでるのよね…」
名簿を眺めながら、呟いた。生徒全員の顔写真がプリントされているその名簿は、
ほとんどの生徒の写真に赤い斜線が入れられて真っ赤だった。
無事な生徒の数を数えた方が早いぐらいに。
「何やってんのよ……みんな……」
帰ってこない友人達に向けて、明日菜は言う。もちろん、返事も返ってきはしない。
ずっと同じ部屋だった親友も、再会を約束した友人も、もはやこの世にはいない。
叩きつけられた残酷過ぎる現実に、明日菜はただただ打ちのめされる。
背後で、草木が揺れる音が聞こえた。
その音がなって少し遅れて、雪広あやか(番号29番)が現れる。
生徒名簿を前に肩を震わせている明日菜の背中を見て、その表情を曇らせた。
明日菜がこちらに振り向く。その目に涙はなかったが、それでも今にも泣き出しそうな表情ではあった。
あやかはそんな明日菜に向けて、あえてつっけんどんな態度をとる。
「なんて顔してるんですの、アスナさん?そんなところに座ってないで、早く荷物を整理したらどうですの?
日が昇ったら移動すると言ったのはあなたですわよ?」
「……」
「放送は聴いたんですの?禁止エリアを書き忘れたなんて言わないでしょうね?」
「……」
あやかの言葉に、明日菜は全く返事を返さない。
全く覇気のない明日菜に、あやかは小さくため息をついた。
そして黙って明日菜の隣にまで歩いていき、
「少なくとも、私はまだ生きています。そして、生き残って必死に戦ってる人も、確かにいます。そんな人たちを集めて、一人でも多くと一緒にこの島から出るんです。」
驚いた様子でこちらを見上げる明日菜を、あやかは笑って見下ろす。
「私たちにできるのは、それくらいしかないでしょう?」
いつか明日菜に言われた言葉を、そっくりそのまま返した。
明日菜は一度下を向いて何事か考えた後、
「うん……そうだよね。」
小さく呟いて、勢いよく立ち上がった。
「まっさかあんたに励まされるとは思ってなかったわ。一生の不覚。」
「あなたって人は……ありがとうの一言も言えませんの?」
「ほらほら、そんなことより荷物持って。日が昇ったら移動するって言ったでしょ?」
そう言うと明日菜は自分のデイパックを手にとってそそくさと歩き出す。
あやかが不満そうに明日菜の名を呼んでも、本人は無視してすたすたと歩いていく。
そんな後姿を見て、あやかは再びため息一つ、そして軽く目を細めて笑った後、それに続いた。
「……」
「……」
二人の目の前には巨大な建物がそびえ建っている。
今まで見た中でも恐らく最も大きい建物であると思われる。
しかもそれは、よくある公共の施設とは違う、個人の邸宅らしかった。
「どう思う?」
「大きな建物ですわね。」
なんてこともなく、あやかが答えた。
「恐らくは別荘といったところでしょう。都内に本宅を構えている財閥の人間が辺境の地に別荘を築くことはよくあることですわ。」
「ふーん……金持ちは金持ちを知る、か。」
明日菜が感心して声を上げた。
「とりあえず中に入ってみないことにはどうしようもありませんわ。」
あやかがそう言って建物の少し大きめな扉に手をかけた。すこしずつ力をかけていくと、扉はいとも簡単に、大きな音と共に奥へと開かれた。
「こんなところに誰かがいるとは思えないけど……」
ぼやきながら、明日菜も続いた。
扉を開ければそこはロビー。
大きな外見にふさわしく、かなり広い空間だった。
ただ中身自体は意外と閑散としており、部屋の奥に中くらいのプラスチックの机と、それをはさむように一対のソファーが置いてあるだけである。
二階部分はほとんど吹きぬけになっており、壁に沿ってコの字型に通路が張ってあり、そこにいくつか扉がある。ロビーに階段がないところを見ると、
脇の扉のどれかが二階への階段につながっているのだろう。
明日菜たちはまず二階をひとしきり眺めた後、ゆっくり視線を落として一階を眺める。
そして、そこにいた人物と目が合った。
部屋の奥から歩いてきたその人物は、感情のこもらない目で対面に立つ二人を見つめる。
「茶々丸さん……?」
思わず明日菜が声を出した。目の前にたつ、絡繰茶々丸(番号10番)は返事を返さず、じっと二人を眺めている。
その口は小さくだがせわしく動いていた。何を言っているのかは聞き取れない。
しかし明日菜は全くそんなことを気にする様子なく、笑顔で茶々丸に歩み寄っていく。
やっと会えた、しかも明日菜にとっては信頼できるクラスメイトだったのだ。そうなるのも当然だった。
だが歩き出したその手を、あやかがつかんで止める。
思わず明日菜があやかを見ると、あやかは眉根を寄せて茶々丸を見ていた。
「様子がおかしいですわ……」
茶々丸を睨んだまま、あやかが呟く。明日菜が再び茶々丸へと視線を向けた。
次の瞬間、茶々丸が手に持っていた銃を二人に向けた。
(え……)
とっさに反応したのはあやかだった。あやかは明日菜の手を握り、半ば引きずるようにして横に走る。
そこにあったドアを乱暴に開けて、中に逃げ込んだ。
一瞬遅れて、甲高い銃声が辺りにこだまする。
「な、何が……」
「茶々丸さんですわ!私たちは撃たれてます!」
「え……?」
開けたドアを盾に茶々丸を睨んでいるあやかを、明日菜が信じられないという様子で見ていた。
「そんな……茶々丸さんだよ?あんた知らないと思うけど、すごくいい人なんだから!殺し合いなんてするわけないじゃない……」
「今事実として撃たれていますわ!…キャッ!」
あやかがとっさに身を縮める。銃声が聞こえ、木製のドアは簡単に穴を開けた。
蝶つがいにも銃弾は命中し、金具がはまっていた所が吹き飛んだ。支えを失ったドアはそのまま壁からはずれ、床に倒れる。
あやかがすぐに奥へと逃げた。
「そんな……」
「アスナさん、よく聞いて下さい!」
呆然としている明日菜に、あやかが口調を強めて言った。
「この別荘は二階建てです。あなたは今から二階に上がって、そこからロビーに出てください。うまく行けば茶々丸さんの背後につくことが出来ます。
私はここで茶々丸さんを引き付けますから。」
「茶々丸さんと戦うの?……殺すの?」
「戦いはしますわ。でもできれば殺したくありません。足を撃つなりして、動きを止めるのです。」
あやかが言い切った。いいですね?と確認を取ってくる。
明日菜は一度言いよどんだ後、しっかりとうなずいた。そして廊下の奥へと走って行った。
突き当たりの曲がり角を曲がれば、もうその姿は見えなくなる。
「頼みましたわよ、アスナさん……」
一度だけそう呟くと、あやかは廊下から少しだけ顔を出し、ロビーを、そこにいる茶々丸を、にらみつけた。
67.逆襲
廊下の突き当りを右に曲がると、少し奥に階段があった。
その先に扉が一つ。恐らく二階からロビーに出れる扉のはず。
明日菜は急いで階段を駆け上る。こうしている間も、ロビーからは銃声が響き渡っている。
時間はあまり残されていない。
階段を上りきると、一度呼吸を整え、慎重に扉を開いた。ここで茶々丸に気づかれたら不意打ちは失敗になる。
扉を少し開けただけで、遠くに聞こえていた銃声がとたんに大きくなった。耳をつんざくような轟音が襲い掛かってくる。
明日菜は銃声にまぎれてロビーへと姿を現す。一階のフロアでは部屋の中央で茶々丸が立ち尽くしており、その右手に握られた銃はドアの開いた部屋へと向けられている。
そこからわずかに覗くはブロンドの髪。あやかはまだ無事だった。少しだけほっとして、小さくため息をついた。
明日菜は音を立てないように、しかし迅速に廊下を渡っていき、とうとう茶々丸の背後についた。生唾を飲み込み、右手の銃を構える。
狙いの定め方は知っている。銃のサイトが、ゆっくりと茶々丸に狙いをつける。
あやかは、手足を撃って動きを止めるといった。殺すつもりはない、と。
明日菜ももちろんその意見には同感だった。クラスメイトを殺すことなんて出来はしない。
だが、だからといって手足を撃って止められるかと言われると、その自信もなかった。
何と言っても相手はあの茶々丸である。あやかは知らないだろうが茶々丸はロボットなのだ。およそ我々生身の人間と比べるべくもない存在。
仮にこの銃で手足を撃ったところで、それがどれほどのダメージになるかと思うと、正直無意味に終わる可能性のほうが高い気がした。
だからといって殺すことも出来ないのだ。他に茶々丸を止める術があるだろうか?何一つ、思いつきはしない。
結局はやってみなければわからないのだ。
明日菜は銃口をゆっくりと下に向け、茶々丸の右手を狙った。銃を握っている右手だ。そしてゆっくりと引き金を絞っていき、それが途中で止まった。
「……」
明日菜の手は震えていた。
(どうしよう……撃たなきゃ…でも……)
理屈以前の問題だった。
そしてわかりきってもいた。
だからこそ、撃つ手前にもなってごちゃごちゃとわかり切ってることを考え続けていた。撃たない理由を、撃てない理由を作ろうとしていたのだ。
ハナから、明日菜にクラスメイトを撃つことなんて出来はしないのだ。
一階で物陰から茶々丸の気を引き付けているあやかにも、二階にいる明日菜の姿は見えていた。
銃を構えて茶々丸を狙ってはいても、その手は震えており、一向に撃つ気配がない。
(何をやっているんですの、アスナさん!?)
頭の中で毒づきながら、明日菜を見ていた。すぐに銃撃が襲ってきて顔を引っ込め、続けて反撃する。
その間にも、明日菜が引き金を引くことはなかった。
(まさか……)
嫌な予感が頭をよぎる。遠めに見える明日菜の顔は、悲しみに歪んでいる。
考えてみれば当然のことだった気がする。なぜ気づかなかったのか。
出来るだけ安全な役割を明日菜に与えたつもりだったが、それは同時にもっとも辛い仕事を押し付ける形になってしまった。
できるはずがない。クラスメイトを手にかけることなんて、出来るはずがない。
申し訳なさの残る目で、明日菜を見る。明日菜もこちらを向いた。お互いの視線が交差したところで、
「……」
茶々丸が、あやかの視線から背後に誰かがいることに気づいた。
すぐさま体をあやかから後ろの明日菜へと向けられた。
「しまっ……」
あやかの言葉と同時に、茶々丸は自分の背後の二階で銃を構えている明日菜と目があった。
茶々丸の銃が、明日菜へと向けられる。
「待ちなさい!!」
あやかが物陰から飛び出し、茶々丸に銃を向けた。すぐに引き金に力が込められる。
次の瞬間、茶々丸は狙っていたかのように再びあやかに向き直り、すぐさま引き金を引いた。
パン!
銃声と共に、あやかの引き金にかけられていた指が離れた。そしてその銃は、あやかの手から力なく滑り落ちる。
あやか本人も、ゆっくりと後ろに倒れた。ドサっ、という音が、ロビーにやけに大きく響いた。
「え……」
明日菜は茶々丸に銃を構えた体勢で、その向こう側に倒れるあやかを呆然と見つめていた。
あやかは全く動かず、その左胸に赤い点のようなものが見えた。それがどういうことかを理解するのに、数秒かかった。
「いいんちょ!……キャッ!!」
瞬間、明日菜の目の前にあった木製の手すりが、銃声と共にはじける。おもわず明日菜は後ろへとのけぞり、その場に倒れこんだ。
茶々丸は至極落ち着いた動作でロビーを歩いていき、明日菜のいる二階の廊下のちょうど下につくと、助走もなしに真上にとんだ。
さらにそこから手を伸ばすと、茶々丸の手は手すりに届く。しっかりとつかみ、一度ぶら下がる体勢になった後、勢いをつけて再び飛び上がる。
すぐに、二階にいた明日菜の目の前に降り立った。一旦腰に収めていた銃を抜き取ると、再び明日菜へと向ける。
明日菜は倒れたまま茶々丸を見上げる。
「嘘……だよね?茶々丸さん……」
茶々丸は答えない。銃のハンマーを起こし、引き金に指をかけた。
「こんなのって……ないよ…」
そう吐き捨てた後、銃声が響いた。
と同時に、茶々丸の頭が弾けた。まるで横から思いっきり殴られたかのように、茶々丸の頭がブレる。
茶々丸にとっても予想外のコトらしく、その場でたたらをふんだ。倒れないようにその場にきっちりと足を着かせ、なんとかこらえる。
銃声は茶々丸のほぼ真横から聞こえてきた。
茶々丸と明日菜、二人がほぼ同時にそちらを向く。
玄関が開いていた。両開きドアは全開になっており、そこから日の光が差し込んでくる。
そこに立つ人物を、二人は逆光で影のみしか確認できなかった。やがて、その人物はきちんと中へと足を踏み入れてくる。
照らされる光の量が減ったところで、その人物が誰かわかった。長い黒髪と、褐色の肌を持つ。右手に携えた銃からは、今先ほど撃ったときの白煙がいまだ細く漂っていた。
「龍宮さん……?」
驚いてそちらを見る明日菜の横で、茶々丸はこめかみに傷を作った顔でなにやらぶつぶつ呟いていた。
「頭部に損傷……一部システムに異常……」
次の瞬間、茶々丸は明日菜を放って一階へと飛び降りる。ちょうど目の前にいる龍宮真名(番号18番)と対峙した。
腰を落として戦闘体制に入る茶々丸とは対照的に、龍宮は両手をだらんと下ろしたまま、無造作に構えていた。ただ、その目は恐ろしいくらいに殺気ごもっている。
茶々丸が銃を構え、引き金を引く。三発分の銃声が聞こえた。
龍宮は身体をひねって一発をかわし、しゃがんで二発目もやり過ごす。そのまま横に飛んで三発目をよけた。
受身をとって地面を回転し、体勢を立て直すと、その場に片膝をついた状態で銃を構える。すぐさま狙いをつけると、一発だけ撃った。
弾丸は正確に茶々丸の銃へと飛んでいき、その銃口に綺麗に吸い込まれていった。
バギン、という破裂音と共に、銃が暴発する。茶々丸は吹き飛ばされて後ろへと倒れた。
すぐさま身体を起こそうとするが、弾丸が容赦なく撃ち込まれて上手く立てない。そうこうしているうちに龍宮が目の前まで来た。銃口を茶々丸の額に向ける。
「終わりだ。」
短くそれだけ言うと、龍宮は引き金を引く。茶々丸の頭が地面にたたきつけられ、小さく跳ねる。そして動かなくなった。
その建物からすべての音が消え、静寂が訪れた。
絡繰茶々丸、雪広あやか 死亡。 残り6人
すいません、投下中に気づいたので訂正お願いします。
64話のタイトル、「再遭遇」となっていますが、以前に類似したタイトルがあることに気づきました。
なので、タイトルは「再戦」でお願いします。
それでは今日の投下は以上です。
ちう…ちうがーーーーー!
千雨、自分の気持ちに気付いてデレになると必ず死ぬね……
まぁ、孤独な少女が愛を知るのは定番の死亡フラグだから仕方ないけどさ
GJでした
223 :
マロン名無しさん:2006/07/11(火) 00:26:38 ID:zBR1zHa2
俺のIDバトル・ロワイアル
224 :
マロン名無しさん:2006/07/11(火) 00:53:18 ID:zBR1zHa2
千雨と裕奈のエンディングが見たかった・・・。やはり死亡フラグ強すぎたか・・・
GJ!マジで泣き入っちゃったよ
残っている人
裕奈
明日菜
真名
刹那
超(殺)
楓(?)
とネギでおk?
こんにちは、作者6です。
今日の分、投下します。
68.生き残る
「何でこうなっちゃうのかな……」
ロビーで膝を突いて座りこんで、明日菜が呟いた。
目の前には、あやかが横たわっている。自分を助けるために飛び出し、そして撃たれた、あやかの死体が横たわっている。
心臓についた一つの小さな穴。そこから大量の血が流れ出た跡がある。今はそれもおさまっているが。
「皆で帰りたいって思ってたのに……必死になって……頑張ってきたのに……」
膝においていた握り拳が、小さく震えだす。
「悔しいなぁ……悔しいよ……」
結局、自分は誰も救えなかった。島で最初に出会った早乙女ハルナ(番号14番)も、出会うことも無かった近衛木乃香(番号13番)も、親友だったあやかも。
そして仲のよかったクラスメイトたちも、そのほとんどがもう死に絶えている。
生き残っている人間は、もはやわずかしかいない。
龍宮は、座り込んで震えている明日菜の背中を、ただ黙って見つめていた。
少し前の自分と重なる、明日菜のその姿に、声をかけることだけはしなかった。できない、してはいけないと思った。
代わりに、傍らに倒れている茶々丸の死体を見る。額に穴の開いた顔面が空を眺めている。その瞳が何かを訴えているようで、胸を締め付けられる気分に陥る。
(本当にこれでよかったのか……?)
あの時は一時の感情に任せて引き金を引いたが、よく考えてみれば他にもっとやりようはあったのではないか?
今になって、後悔と罪悪感が心を染めていくのが解った。
「龍宮さん……」
不意に明日菜が龍宮を呼んだ。龍宮の意識が己の内面から外側の明日菜に向けられる。
「何が悪かったのかな……私たち、何か間違ってたのかな?」
「……」
震える背中が問いかけてくる。やや間を空けて、龍宮が口を開く。
「……何も。何も悪くないはずだ。」
「…じゃあ――」
明日菜がゆっくりと振り返った。その目からは涙が流れ落ちている。
「何でみんな死んじゃったの?」
「……」
龍宮はその問いに答えることができなかった。自分たちは何も悪くない。何も。
それでも大切な人たちは死んでいった。もうこの世にはいない。もう、帰ってはこない。
答えなんて……
その時、再び建物の扉が開いた。
二人が玄関へと目を向ける。そこから、小さな影と、それに比べれば少し大きな影が入り込んでくる。
明日菜の目が見開かれた。
「ネギ……?」
「アスナさん?」
入ってきた人物、その小さな影の方、ネギ・スプリングフィールドを見て、明日菜は思わず声を出して名前を呼んだ。
ネギも遅れて聞き返してくる。間違いなく、本人だった。
続けて入ってきた桜咲刹那(番号15番)も、そこに座り込む明日菜を発見した。続けて、その傍らで壁にもたれかかっている龍宮も見つける。
龍宮は、刹那と目が合いそうになったところでとっさに視線をそらした。それに対して刹那が怪訝そうな表情を作る。
それも、明日菜に向けて走り出したネギの後を追うため、深く考えはしなかった。
「アスナさん!?」
明日菜の様子を見て、ネギは慌てて明日菜のもとへと駆け寄った。
「大丈夫ですか、明日菜さん!どこかケガでも?」
「……ネギ…」
駆け寄ってきたネギに、明日菜が視線を向ける。ネギは、明日菜がどこか怪我でもしたんじゃないかと思っていたが、涙の理由はそうじゃないことを、近くに駆け寄ったとき初めて知った。
明日菜の顔の向こう側、肩越しに見えるその先に、一人の女子生徒が横たわっている。
「いいんちょさん……」
ネギは目を見開き、ただそれだけを呟いた。それ以上は、何も言えなかった。
心臓に穴の開いたあやかの姿は、事情を何も知らないネギからしても死んでいることが一目でわかる。そして、明日菜にとってそれが一体どういうことかも、よくわかってるつもりだ。
それが、明日菜の涙の理由だと気づくのに、そう苦労はいらなかった。
「私が……死なせた……。私がもっとしっかりしてれば……」
明日菜が独白を始める。それは懺悔に近かった。
ネギはそんな明日菜に声をかけることが出来ず、視線をはずしてロビーを見渡した。
自分たちから少し離れたところに、もう一人、誰かが横たわっている。ネギはゆっくりとそれに近づいて行った。
「茶々丸さん……」
ネギが横たわっている人物の名前を呼んだ。返事は返ってこなかった。
茶々丸の顔には眉間に穴が一つ開いていて、目は見開かれて中空を眺めている。これも、生きてはいないことはすぐにわかった。
「私がやった。」
茶々丸の死体を前に何も言えないでいるネギに、龍宮が後ろから声をかけた。ネギが振り向く。
「私が、やった。」
もう一度、まるで自分に言い聞かせるように、ネギに向けていった。
ネギが複雑な表情で龍宮を見つめ、そしてあることに気づいた。はっとした顔を龍宮に見せると、龍宮はばつが悪そうに眉をひそめた。
「のどかさん……のどかさんは!?」
すぐさま龍宮に詰め寄り、その顔を覗き込む。よく考えてみれば、龍宮がここにいるということは、一緒に行動していた宮崎のどか(番号27番)も一緒にいて当然だ。
むしろいないほうがおかしい。
「龍宮さん、のどかさんは一体どこに!?」
「宮崎は……」
ネギと、そして明日菜と刹那の視線も浴びながら、龍宮はためらいつつも口を開いた。
すると突然、どこからか大音量で男の声が響いた。
「昼の定時放送を始める。まずは死亡した生徒を上げていくぞ!出席番号10番、絡繰茶々丸……」
「……龍宮さん?」
定時放送が鳴り出して、とたんに口をつぐんだ龍宮に、ネギは怪訝な目線を送り、そしてその表情が一変する。
「まさか……嘘ですよね?」
信じられない出来事を想像したネギが、龍宮に問い詰める。龍宮は答えない。
そして、とうとうその名前を呼ばれた。
「27番、宮崎のどか……」
「嘘だ!!」
ネギが叫んだ。龍宮の服をつかむ腕にさらに力がこもる。
「嘘ですよね龍宮さん!こんなの嘘ですよね?何とかいってくださいよ!!」
「……」
「龍宮さん言ったじゃないですか!のどかさんは守るって!なのに、何で!!」
「ネギ先生……」
見ていられなくなった刹那がネギを制止する。肩に手を当てて、ネギを落ち着かせた。
そして次に龍宮の方を向く。龍宮は何も言わず、ただ虚ろな表情をしていた。
こんな龍宮の顔を見たのは初めてだった。それを見れば、のどかを死なせてしまったことをどれだけ後悔しているかはわかる。
そうでなくても、同じ経験をした刹那には龍宮の気持ちがよく解る気がした。
「もう、いいでしょう?」
刹那が、ネギに諭すように言った。ネギは少しの沈黙の後、龍宮から手を離す。
「すいません……でした。」
涙をこらえた声で呟く。
「いいさ、死なせてしまったことに変わりは無い。」
龍宮は龍宮で覇気の無い返事を返す。そこでお互いに言葉を失った。
刹那も、何を言って良いのかわからず、そこには沈黙が流れた。
罪の意識に包まれたその空間に、扉の開く音が聞こえたのはそれから少したったあと。
そこにいた四人が慌てて振り向いた。
玄関の扉が開いていて、そこに長瀬楓(番号20番)が立っていた。
69.集結
四人の視線が、一人の人物に向けられる。
玄関先に立っていたのは、刹那や龍宮にはなじみのある相手であった。
その人物はそこにいる四人を見て少しだけ表情を歪ませたが、すぐに元に戻して建物の中へと入っていく。
ほとんど解っていたが、逆光に照らされていた人物がはっきりとその姿を見せた。楓は、ひとしきり四人を見渡す。
見ると、楓はその手に誰かを抱いていた。手や足が力なく垂れ下がっている。
「ゆーな!?」
それにいち早く気づいた明日菜が、思わず楓のもとへ駆け寄った。正確には、楓の手に抱かれている明石裕奈(番号2番)へ。
「死んではおらんでござる。手当てを。」
楓はそれだけ言うと、目の前にきた明日菜に裕奈の身体を預ける。明日菜がぎこちなくそれを受け取ると、遅れて駆けつけていた刹那が心配そうに眺めていた。
「楓……」
刹那が楓の名を呼ぶが、楓は答えなかった。ネギから聞いたとおり、楓の様子は学園のときのそれと随分と違う。
「どこか横になれる場所探してくる!」
明日菜がそういうので、刹那が慌てて自分もついていくと言った。そして二人はロビーを出て落ち着ける部屋を探しに行く。
ロビーにはネギ、龍宮、そして楓。
やはり誰も声を発することが出来ず、そこは沈黙だった。
「楓さん……」
ネギが、意を決したように、それでも恐る恐る楓を呼んだ。それでも楓は答えず、きびすを返して歩き出そうとする。
「楓さん!待ってください!」
声を荒げてそう言うと、楓の足が止まった。振り向きはしないが。
それでもとっかかりをつかんだネギは言葉をつないでいく。
「実は、皆さんに話したいことがあるんです、それだけでも聞いてくれませんか?」
「……」
楓は少し考えるように間をあけた後、
「すまんでござるな、ネギ坊主。」
いつかネギに返した返事と、全く同じ返事を返した。そして再び歩き出そうとする。
「そんな、楓さん!!」
「楓!!」
呼び止めようとするネギの声より、さらに大きな声で、龍宮が楓を呼んだ。
「せめてそこまで急ぐ理由を教えたらどうだ?お前らしくも無い。」
「……」
楓が再び沈黙する。いえるわけも無かった。今ここにいる、まっすぐな視線を向けてくる少年に話すには、とても汚い理由に他ならなかったから。
「それすら話せないのか?」
「楓さん……」
龍宮の追及する声と、ネギの心配そうな呟きを同時に聞いて、楓は誰にもわからないほど小さくため息をつく。
再びきびすを返してネギたちの下へと振り返った。
「……拙者も少しだけ、休ませてもらうでござる。」
楓の言葉を聞いて、ネギの表情がとたんに明るくなった。歩み寄ってくる楓に、ネギも駆け寄る。
その後ろで、龍宮だけは楓に厳しい視線を投げかけていた。
70.脱出のために
楓を含めた五人が、一つの部屋に集まっている。
そこは客室のようで、部屋にはベッドと机が一つずつあるのみだった。
それなりの広さはあったが、それでも五人が集まるとそれなりににぎやかになる。
だが、今はそんな状況ではないため、全員が全員厳しい表情をしている。にぎやかとは程遠い空気だった。
「ゆーなは隣の部屋にいる。命に別状は無いみたいだから。今も寝てると思う。」
最初に口を開いたのは明日菜。楓が抱きかかえてきた裕奈の様子を皆に報告した。
それを聞いて他の一同が少しだけ安堵の表情を作る。楓も心なしか安心したように見えた。
ネギはよし、と口の中だけで呟くと、意を決して口を開いた。
「皆さんに伝えないといけないことがあります。このプログラムから脱出するための、重要な話です。」
「脱出?」
明日菜がその言葉に反応する。ネギは明日菜に向かって自信たっぷりにうなずいて見せた。
「本当は、超さんもここにいてくれたら嬉しかったんですが……」
前置きにそうネギが呟く。楓の表情が、一瞬だけ変わった。しかし、それもすぐに元に戻る。
その様子を横目で覗いていた龍宮が、ネギに向き直りあることに気づく。
「ネギ先生、首輪は……?」
龍宮の言うとおり、ネギの首には、以前までは確かにあった首輪が綺麗さっぱり取り去られていた。
「実は、皆さんの首輪は、ある人の手によって完全に無効にされているんです。だから僕のももちろんのこと、皆さんの首輪も取り外すことが出来ます。」
刹那を除く三人が、多かれ少なかれ驚愕の表情を浮かべてネギを見た。
首輪という最大の問題点が解消されたという報告に皆が多少なりとも浮き立つ。
「ただ……」
その雰囲気に対して申し訳なさそうに、ネギが再び口を開く。視線が再びネギに集まる。
ネギは怪訝そうに見る明日菜を見て、次に小さくうなずく刹那の顔を見た。隠すことなく話しましょう、くらいの意味。
それに対して小さくうなずくと、全員のほうに向き直る。
「実は首輪をはずしても、魔力自体はもとには戻らないんです。多分、魔力に関してはもう一つ別の装置があるみたいです。」
「なるほどね……だとすればそれがあるのは本部である中学校。」
「おそらくは。」
龍宮がネギの言葉に付け加えるように言い、ネギが同意する。
二人の会話から、周りにいた人物も今の状況をよく理解することが出来た。
つまり自分たちは最早首輪で動きを強制させられることは無い。だがどの道魔力は元には戻っていない。
「僕たちに残っている選択肢は二つです。一つは、タカミチの残した船を使って、何とか政府の人たちの目を盗んで脱出すること。
もう一つは、首輪をはずした後、政府のいる中学校に侵入して、プログラムを終わらせること。」
どちらも、魔力の使えない身ではリスクの高い勝負だった。島の周りにも政府の巡視船が何隻も構えているだろうし、
中学校に乗り込むのは言わずもがなである。だがその二つ以外、自分たちが殺し合いをせずにすむ方法は無い。
少しの沈黙の後、再び口を開いたのは龍宮。
「先生は、どうしたいんですか?」
「え……?」
突然指名され、驚いて聞き返す。龍宮は表情一つ変えずにもう一度言う。
「先生は、どうしたいんですか?プログラムを終了させるのか、このまま逃げるのか。」
龍宮はネギの意見が聞きたかった。ネギがこのまま逃げるというのなら逃げるし、戦うというのならそれにもまた従う。
ほかの人間も異存なくネギの様子を伺う。多分みんなの気持ちは一緒だった。なぜなら、このクラスの担任はネギ先生なのだ。
生徒は先生の言うことを聞くものなのだ。
「みなさん……」
周りの様子に、ネギもようやく気づいた。こうなってしまった今でも、皆は自分を慕ってくれている。教師として信頼してくれている。
どちらがいいかなんてネギの中では決まっていた。そしてそれを口に出すかどうかの迷いは、今皆が消し去ってくれた。
ネギは力強くうなずくと、それでも願うように皆に言う。
「僕は……プログラムを止めたいです。このまま逃げたくはありません。」
その言葉に、刹那、明日菜、そして龍宮も、笑みを浮かべて力強くうなずいた。反対意見は一つもない。
「そうと決まれば準備が必要ですね。みなさん疲れてもいるでしょうし、一度休憩しておきましょう。」
刹那はそう言ってまず席を立つ。続いて明日菜も立ち上がった。
「裕奈に会ってくる。このことも伝えたいし。」
「あ、僕も着いていきます!」
ネギが明日菜に続く。そして全員がその部屋から出て行った。
それぞれが各々の目的のために動く中、楓だけが一人、部屋に残っていた。
ちょっと少なめですが、今日の投下は以上です。
239 :
マロン名無しさん:2006/07/11(火) 18:26:56 ID:sXsjDuWr
楓の動向にwktk
ごめん、間違ってageてしまった…
都合よく集まりすぎ
都合よく集まらず、全然キャラが遭遇しないロワがお望みならどうぞ過疎気味のロワへ移動なさってください
まったく遭遇する気配がなかったりしますから
まとめてやろうか
風香と史伽に古が遭遇して直ぐ殺されるのをまき絵が偶然見ていた
風香がまき絵に遭遇、追ってきた楓に助けられると同時に超が偶然遭遇
のどかがザジと遭遇、同時同地に偶然真奈が現れる
美砂が明日菜とハルナを見かけて間もなくその近くで夏美が聡美に襲われ始めた現場に遭遇
桜子と円がハルナと遭遇した後、超に襲われハルナ離脱
→近辺にある図書館に入ると夕映に遭遇、直前に夕映は偶然美空とも遭遇していた
裕奈と亜子がザジと遭遇、ほぼ同時に千雨が現れる
学校の2階廊下で美砂が超と遭遇、襲われて何秒も立たないうちに円も現れてた
刹那達と真奈の集合場所に明日菜とあやかが訪れ、偶然居合わせた茶々丸に襲われる
→丁度真奈が来て茶々丸を壊す、その後刹那とネギも合流、直後裕奈と楓も偶然現れる
前も言ったが3グループ以上が同時に一箇所に集まりすぎってコト
そんなの一回あるだけでも珍しいのにこう何回もやられたらそりゃ都合よすぎってなるだろ
確かに登場キャラ増やせばストーリー作りも楽だけどさ
話ごとに分けて短編で見れば楽しめるよ
でも一本の長編としてまとめて見るとなんか各キャラが故意に集められてる感がしてならない
そういう事
244 :
:2006/07/12(水) 03:52:22 ID:???
文句があるなら読まなきゃいいでしょ、その権利はあなたにあるんだから。
本人登場?
246 :
マロン名無しさん:2006/07/12(水) 09:30:32 ID:sOeMg8kS
ごめん、間違ってageてしまった…
本人じゃねぇと思うぞw 一般論だろうさ。
書き手としても悩ましいよなその辺のバランス。こっちも別のを書いてる最中だが、匙加減マジ難しい。
まあ、人が集まる地形は自然と限られるし(この作品でもランドマークになる大きな建物で遭遇多いよね)、
キラー役も救済役も特に他の人を探して歩いているわけだし。
戦闘始まれば派手な音とかするから、ある程度は普通に集まるもんじゃないかな。
243のツッコミの一部は、偶然と呼ぶのはおかしなもの。ある程度必然。
プラス、本当に偶然もなければ、お話作りができない。
正直、作者6さんの今作がダメなら、今書いてるコレもダメだろうな。
ヒント:名前欄
だからって本人とは限んないけど
ワンパターンすぎなんだよ
作者6さん
うるさい外野は気にせず頑張って下さい。
続き楽しみにしてます
こういうパターンを正当化、というかなんというかするなら
ある程度遭遇しやすくなる魔法がかけられているとか。
首輪探知機を全員に配布するとか。
そういう手段があるな。
というか、俺が書いてる作品で後者を使ってるんだが
今度は逆に設定のわりに遭遇しなさすぎな感じがしてしまい辛い・・・
自分じゃ何一つしようとしない(つうかできもしない)輩ほど
難癖に血道をあげて批評家を気取りたがるもんだ。
ま、ゴキブリの妬みだね。
俺は別に作品に不満を持っていないからどうでもいいが
書いてない奴等はどうこう言うなっていう態度と理念は好まんな
職人はスルーして投下し続ければ良い
書けない奴の妬みとか嫌な言い方だな
そういう考えは好きじゃないね
256 :
マロン名無しさん:2006/07/12(水) 18:13:54 ID:GmHA0Ui4
まあ、読みたくない奴は読まない。読みたい奴は読む。ってことだよね。
まあ、あきらかに後者の方が多いと思うけどね。特に作者6氏の場合は。
257 :
マロン名無しさん:2006/07/12(水) 18:15:36 ID:GmHA0Ui4
まあ、読みたくない奴は読まない。読みたい奴は読む。ってことだよね。
まあ、あきらかに後者の方が多いと思うけどね。特に作者6氏の場合は。
…ごめん。またageてしまった。
あー、なかなか賛否両論巻き起こっておりますね……
ちなみに
>>244は私じゃありませんよ、念のため。
>>241>>243 無理があったことは認めます。
こちらも以前言ったようにこれについてはちと欲張りすぎたと思います。
自分の力量では生徒を遭遇させないと話を進めることが出来なかったんです。
>>248 どこまでがリアリティを保てて、どこまでで破綻するかは本当に微妙。
ただ今回私はもう多少不自然に見えてもクラスメイト間のやり取りを優先させました。
そういう作品が書きたかったし。
作品はそれぞれで全く別物だと思うので、私のがダメでも248氏が書かれている作品までダメとは限りませんよ。
>>252 あぁ、そういう方法もありですね。本当こういうの思いつかないなぁ自分……
というわけで、とりあえず今日の分投下です。
71.孤独な別離
つい数時間前まではそれなりににぎやかだったこの部屋も、今ではたった一人が座っているだけ、しかもその人物もただ黙っているので奇妙なほど静かだった。
楓はただじっとその部屋に居座り、何か考え事をしているみたく顔を伏せていた。傍らには自分のデイパックが置いてある。
「……行かねばならんでござるよな…」
他の誰でもない、自分自身に確認する。そしてゆっくりと立ち上がると、デイパックをつかんだ。
そこで動きが一瞬とまる。手に握ったデイパックを、危うく離しそうになる。
(やはり黙って行くべきだったな……)
この建物に来た当初を思い返し、少しだけ表情が渋くなる。
崖下で双子と別れてから、楓の目的は決まっていた。その日の夜、三つの墓石の前で誓ったこと。
それは傍から見ればくだらない目的。きっとネギたちもそれを知ったら必死に自分を止めにかかるだろうコトは容易に想像できる。
しかしたとえそうなったとしても、それを撤回するつもりも無かった。もう決めたことなのだから。
そうだ、もう決めたことだ。覚悟もしている。ならばここにいる理由は無い。
もう一度、しっかりとデイパックをつかむと、ゆっくりと部屋の扉を開ける。
静かに部屋を出ると、周りを見渡す。二階からでも十分見渡せる一階のロビーには誰もいない。
どうやら全員どこかの部屋で休んでいるようだ。楓にとっては好都合である。
静かに階段を下り、一階から玄関の両開き扉に手をかける。少し音が鳴ったが、それぐらいで誰かが反応することは無く、楓が通り抜けれるだけの隙間が出来上がったところで、
そこから外へと通り抜けた。
日が少し傾いて、楓の正面を照らしつけている。降り注ぐ日の光を、目の上に手を添えて一度さえぎる。目がなれてくるとそれをはずし、そして歩き出す。
「どこへ行くんだ?」
突然の、背後から自分を呼ぶ声。楓は一歩踏み出した足を止めた。
少しだけばつの悪い顔をして、振り向く。
建物の、楓が出て行った扉の隣の壁にもたれかかって龍宮がいた。
その目はじっと楓を睨んでいて、どうにもやすやすと行かせてくれるようには見えなかった。
「何でここに?」
「見張りだよ。何が起こるかわからないからな。」
龍宮は何てことない風に言って見せたが、嘘だろうと楓は思った。
生き残った生徒はそのほとんどがこの建物に集まっている。今更外部に警戒するものなんて無いだろう。
まあそんなことはどうでもいい。ただ自分は自分の目的を果たすだけだ。
「どこへ行くんだと聞いている。」
もう一度同じ台詞を、さらに強い口調で繰り返して、歩き出そうとした楓を引きとめた。
ごまかしてこの場を去ろうという手は通用しないらしい。
「黙って行かせてはくれんでござるか?」
「そうはいかないな。貴重な戦力をこんなところで失うわけには行かない。」
龍宮はあえて建て前だけを言った。
「どうしても行きたいなら理由だけでも教えたらどうだ?」
「教えたら行かせるでござるか?」
「ものによるな。」
そこで会話は止まり、二人は睨み合うように対峙していた。しばらくした後、龍宮が視線をはずしてため息をつく。
「……超、鈴音。」
「…っ」
ぼそっと呟いたその人物の名前に、楓の雰囲気が明らかに変わる。龍宮は再び楓に向き直るった。
「やっぱりか……」
「解ってたでござるか?」
「少し前からな。ネギ先生が超の名前を出したとき、随分と動揺したように見えた。お前らしくも無い……。」
ため息をついて何も言い返せない楓に、さらに核心をつく追い討ちをかけた。
「復讐、か?」
「……」
全く持ってその通り。どこまでも鋭い洞察眼に、感心を通り越してあきれてしまう。
楓は、今度は龍宮にもわかるくらい大きくため息をつく。
「本当にくだらない理由でござるよ。それは拙者自身よくわかってる。」
「やはりそうなんだな?」
龍宮が確認するように聞いてくる。楓は振り向くと、観念してうなずいた。
「解ってるならやめろ。そんなことをしたところで意味なんか無い。」
「すべて承知の上でござる。それでも、止めることなどできぬでござるよ。」
「楓。」
「ネギ坊主たちにはお主からよろしく言っておいて欲しいでござる。どう話すかはおぬしに任せる。」
やはり何と言われようと意見を変える気にはなれなかった。もとよりもう引き返せる領域ではない。
楓は前を向き、そして歩き出す。後ろで、金属音が響いた。
「それ以上行けば撃つぞ!」
珍しく取り乱したようにも聞こえる龍宮の声。楓は振り返らずに、空を仰いで言った。
「龍宮、人の心とは厄介でござるな……頭で理解していることすら満足にこなすことも出来ない……
そしてそれは誰かにどうこうしてもらったところで同じ。頑固で、融通が利かない。」
「そんな言葉が聞きたいわけじゃない。」
「拙者は止まらんよ。撃つなら撃て。ただ、出来れば心臓を狙って一撃でしとめて欲しいでござる。……お主なら造作も無いか。」
「く……」
言葉どおり、楓は止まらなかった。ゆっくりとだが確実に歩を進めていき、そしてその姿が森の中に消えた。
龍宮が撃てないこともすべて承知の上だっただろう。もとより、止めることなど出来はしなかったのだ。
龍宮は口の先まで出かかっていた悪態をかみ殺すと、ゆっくりと銃をおろし、建物の中に戻っていった。
72.決戦開始
真っ暗だった。どこを見渡そうとも暗闇。
私、どうなったんだっけ?もしかして死んじゃった?
体が温かいものに包まれているような感覚が妙に心地いい。目をあけたらもしかしたら花畑が見えるかも。
近くには川が流れていて、その向こう側では、死んじゃった人たちが手を振ってて、きっと、みんなもそっちにいて……
そうなってたら、どうしよう?嬉しいのかな、それとも悲しいのかな?
ちょっと怖いけど、確かめてみようか。まぶたに力を込めて、ゆっくりと持ち上げた。
「……」
最初に目に入ったのは、木目の入った茶色の壁。視界の端には窓があり、そこから光が差し込んでくる。
首を回して周りを見る。そこで、自分がベッドに横になっていたこと、そして、先ほどみた壁と思っていたものが実は天井であることを理解した。
まだ上手く力が入らない腕を使って、何とか上半身を起こした。身体にかかっていた掛け布団がずり落ちる。
そして、改めて部屋を見渡した。
「ここ……どこ?」
全く見覚えの無い場所に、明石裕奈(番号2番)は思わず呟いた。
部屋は大して広いわけではなく、自分が横になっていたベッド意外には、中央に小さなテーブルが一つと、隅に机が一つあるだけだった。
そして部屋を出入りするための扉が一つ。そう思いながら扉に目をやると、それと同時に扉が開いた。
突然のことでびっくりする裕奈が見たのは、お盆を手に抱えて部屋に入ってくる神楽坂明日菜(番号8番)だった。
お盆には洗面器が乗せられている。裕奈と明日菜が、互いに目を合わせた。
先に動いたのは明日菜だった。
「ゆーな、目が覚めたの!?よかった!」
明日菜はお盆をその場に置くと、裕奈のもとへと駆け寄った。
「どこか具合が悪いところとかない?ケガはそんなに酷くないみたいだけど……」
「うん、大丈夫、大丈夫……」
まったく状況が理解できない裕奈は、とりあえず明日菜の言葉に返事だけは返す。ただ、頭の中で聞きたいことは山ほどあったので、とりあえずそれを口に出すことにした。
よかったー、とため息混じりに呟いて、明日菜はそのまま傍らにおいてあった椅子に座り込んだのを見て、口を開いた。
「ねぇアスナ、ここ、どこ?何でアスナがここに?」
「私だけじゃなくて、皆もいるよ。ここは……まぁ、島の中にある大きな建物。ここは大丈夫だから、安心して。
そう言って笑ってくれた。なんとなく、言われたとおりに安心してくる。
「びっくりしたよ、楓ちゃんが突然ゆーなを抱えてやってきたときは、本当どうなるかと思った……」
「え……私を?」
裕奈はそこで、自分に何が起こったのかを思い出した。完全に忘れていたことも、すべて思い出した。
「そうだ……長谷川、長谷川は!?」
思わず明日菜に向き直り、問い詰める。何で忘れていたんだろう、さっきまでずっと一緒だったのに。
自分がここにいるのなら、長谷川もきっとここにいるはず。そう思っていた。
「……」
対する明日菜の表情はどこまでも暗かった。必死の思いで問い詰めてくる裕奈を見ながら、言うか言うまいか迷っていた。
でも、結局は言うことにする。どの道いつかは解ることだ。
「ゆーな、落ち着いて聞いてね?」
そう前置きした後、明日菜は裕奈にすべてを伝える。
千雨の名前が、正午の定時放送で呼ばれたことを告げた。
「……」
「ゆーな?」
「……そっか」
取り乱されることを覚悟していた明日菜は、裕奈のその力ない反応に逆に不安になった。
力なくうなだれた先にある手が、掛け布団を握り締める。
「やっぱり……長谷川、死んじゃったんだ……」
「ゆーな……」
「何でだろうなぁ……もう誰にも死んで欲しくなかったのに……皆、いっぱい傷ついたのに……」
泣いているかと思ったが、涙は出ていない。
「結局……無理なのかな…皆で一緒に帰るなんて…」
自嘲の笑みを浮かべて、裕奈が顔を上げて明日菜を見た。
「頑張ったんだけどなー……これでも。でも、それもやっぱり無駄に――」
「そんなことない。」
話に割り込んで、明日菜が言った。
「皆が、それこそ死んでいった皆が、生きるために頑張った、それが無駄なことだなんて、絶対にない。」
静かではあるが、力強い口調で言った。そしてすぐに笑顔を作って、続ける。
「それにさ、まだ諦めるのは早いよ。まだ私たちは生きてる。皆って言うにはちょっと少ないと思うけど、せめてここにいる全員とだけでも、一緒に帰ろう?」
「え?」
「そのために、皆準備してる。」
それだけ言って、明日菜は立ち上がった。もう時間だ、と呟いた。
「私ももう行かなくちゃ。ゆーなはここで休んでて。帰ってきたら、皆で一緒に帰ろう」
「アスナ?」
不安そうに裕奈が名前を呼ぶ。どうやらこれから明日菜がどこへ行こうとしているのか、なんとなく解っているらしい。
「大丈夫だって。……必ず、戻ってくるから。」
明日菜はそう言うと、部屋から出て行く。
裕奈は、これから戦場に赴くのであろう友人の背中を黙って見届けた。見えなくなってからも、ずっとそこを見続けた。
明日菜は部屋を出ると、一階を見下ろした。ロビーのちょうど真ん中あたりに、ネギ・スプリングフィールドと桜咲刹那(番号15番)が立っていた。
すぐに階段を駆け下りると、自分もそこに加わる。もう皆集まっていると思ったが、結局はその二人だけだった。
残る二人を待つ。
程なくして、玄関から龍宮が入ってきた。ロビーにいた三人をすぐに見つけ、歩み寄ってくる。
その表情は浮かない。
「龍宮、楓は一緒じゃないのか?」
目の前まで来た龍宮に、刹那が聞いた。龍宮は表情一つ変えず、
「あいつは来ない。超を探しに言った。」
「何?」
思わず刹那が聞き返す。
「なぜだ?なぜ今になって?」
「さあな。」
「止めなかったのか?」
「止めたさ。でも聞かなかったんだ。」
刹那が納得いかないという表情で質問を続けるが、龍宮は淡白な返答を返すだけだった。
とにかく、楓が一人どこかへ行ってしまったのは事実らしい。
ここにきて思わぬ出来事だった。刹那は一度ネギに目を向ける。
ネギとしても予想外だったらしく、どうすればいいのか考えていた。明日菜も言葉を失っている。
そんな中口を開いたのは、龍宮だった。
「まぁ、楓のことは心配ない。用が済んだらすぐに応援に来てくれるだろ。私たちは、当初の予定通り中学校に向かえばいい。」
龍宮のその言葉に、ネギが少し考えた後、小さくうなずいた。
「そう……ですね。わかりました。」
明日菜と刹那が一度ネギを見て、そしてそのままお互いをみやる。二人も、そこでうなずいた。
四人は扉をあけて、外に出る。
「それじゃあ、行きましょう。」
ネギが先頭に立って言った。その表情は険しく、額にはすでに冷や汗が流れていた。
その肩に、手が乗せられた。それだけでネギは体を大きく振るわせる。
「あんた……そんな調子で大丈夫なの?」
その手の主は明日菜だった。ネギが力なく笑ってみせる。
「怖いのは解るけどね、もうちょっと私たちを信用しなさいよ。それと、自分をね。」
「アスナさん……」
そこで、乗せていた手から震えが消えた。明日菜はそれを見て、笑ってみせる。
「もう、大丈夫です。本当に。……今度こそ、行きましょう。」
その言葉を合図に、ネギを除く三人が首輪に手をかけた。
一斉に力をこめ、それを引きちぎる。適当にそこらに放り投げた後、四人は歩き出した。
73.絶たれた退路
「出席番号8番、15番、18番の首輪の反応が消えました!」
中学校で、半壊しているコンピューターの、わずかに生き残っているモニターを見ていた兵士が叫んだ。
「やはりか……」
背後にいた千草が呟く。部屋の中は散々な光景だ。タカミチの侵入、そしてエヴァの襲撃。
その被害も完全には復旧していない教室で、眉を寄せていた。
嫌な予感はしていた。タカミチが侵入し、コンピューターを破壊したときに、残った装置で今まで以上に生徒たちの行動をモニターしていた。
一見したら誰も中学の被害状況を知らないようにも見えたが、そんな中で千草の頭に引っかかっていたことがあった。
エヴァの襲撃がちょうど鎮圧されたころ、住宅街で刹那と一緒にいたネギの首輪からいきなり反応が消えた。
兵士たちの間では刹那がネギを殺したのだろうという意見が出たが、千草はどうにもそれが気になってしょうがなかった。
だが今、立て続けに三つの反応が消えたことで、千草の頭にある考えが浮かぶ。そしてそれは正解だろうという確信もあった。
(あいつらは首輪が解除されていることを知っとったんや……だとすれば……)
千草は兵士たちには何も言わず、部屋を後にした。
自分にあてがわれた校長室へ早足で歩き、扉を開けると机の上にある電話に手をかけた。
自分たちを外国へと亡命させてくれる相手へ直通でつながる電話である。受話器を荒々しく取り上げると、内線のボタンを押した。
受話器から電子音が何回か響いたあと、声が聞こえてきた。
「何だ?そちらからの連絡は万一の時以外は許されていないはずだが?」
「その万一が起こったんや。」
すぐさま千草が返答した。
「……なんだと?」
「単刀直入に言うで、プログラムは失敗。参加者の中学生が反乱を起こして、首輪を外してこっちに向かってきとる。」
「それぐらいなら大丈夫だろう。一体どれだけの自衛隊員を君に与えたと思っているんだ、速やかに迎撃、鎮圧し……」
「それが出来たらわざわざ連絡するかいな!!」
千草が声を荒げ、電話の向こう側の声が狼狽した。
「あんた達には詳しく話さんかったけどな、プログラムの被験クラスには常人の域を超えた人間が何人もおったんや。
さらに外部からの干渉もあって、兵士たちの半分以上がそいつ等にやられたんや、今ここにある戦力はほんのわずかでしかない!」
「……そうか、なるほど。本当に任務は失敗したらしいな。」
「さっきから言うとるやろ!そやから早く援軍か、うち等を回収するヘリでもよこして……」
「いや、その必要は無い。君たちの仕事は終わった。ご苦労だったな、千草くん。」
「……なんやて?」
先ほどとは一転し、受話器からの声は至極落ち着いていた。
「私と君たちとの間で交わされた約束は、プログラムが始まって三日後、ヘリをよこして君たちを外国へ亡命させるというものだ。
まだプログラムが始まって二日と8時間ほどしかたっていない。ヘリをよこすわけには行かない。」
「ちょい待ちぃや、ふざけとる場合や――」
「私は大真面目だよ。そもそも今回のプログラム、公にすることはもちろんだが、それ以上に我々がかかわっていることを知られるわけには行かないんだよ。
今ならまだ私たちと君たちをつなげる物的証拠は何一つ無い。しかしここでヘリの一つでもよこそうものなら、たちまち背後にいた私たちの存在まで明るみになってしまう。
君たち一介の実行部隊ごときのために、そんなリスクを犯すわけには行かないんだよ。」
やけに饒舌になって、得意げに説明してのける。じっと説明を聞いていた千草の手が震えた。
「初めから、使い捨てるつもりやったんか……」
「いいや?君が滞りなくプログラムを終わらせれば約束は果たすつもりだったよ。ただ君の方でトラブルがあっただけだ。」
こともなげに言ってのける。千草は受話器を本体にたたきつけると、荒々しい足取りで校長室を出て行った。
教室にもどった千草は、そこにいる兵士全員の視線を受けることになる。
それも気にすることなく千草は部屋をつかつかと歩いていき、無線兵の下へと歩み寄る。
「島の外を巡回している兵士たちをここに集めるんや。今からならちょうどいい。」
「え?……しかし、それでは見張りがいなくなります……」
「構わん。それよりここを死守するんが先や。今から呼び寄せればちょうどあいつ等と鉢合う。挟み撃ちにするんや。」
「あいつら、とは?」
いまだ状況を解っていない兵士が聞き返すと、千草は部屋にいた全員に向けていった。
「緊急事態や!今から中学生連中がここにやってくる!もちろん武器を持って、うち等を殺しにや!のこっとる兵士は全員武装してこれを迎撃、排除!わかったら早く行きや!」
できるだけ手短に済ませた千草の言葉に、兵士たちはそれでも何か聞きたそうだったが、とりあえずうなずいて部屋を出て行く。他の兵士たちにも緊急事態を伝えに行った。
部屋に残ったのは無線兵と千草のみ。
「ここに残っている兵士の数はごくわずかですよ?」
兵士が千草に言った。
「ほんなんわかっとる。」
「援軍はこないんですか?」
「来るわけあらへんやろ。」
当然のように言って、兵士へと振り向く。
「所詮ウチらは使い捨てでしかないんや。」
「……」
兵士は千草の顔をしばらく眺めた後、何も言わずに無線を手に取った。外を巡回している兵士たちに向けて、ここに終結するように命令を送る。
それが終わったあと、無線兵も立ち上がった。
「私も戦線に立ちます。」
「そうか、ほんなら行きや。止めやせんで。」
「はい。」
それだけ言って、兵士は部屋を出て行った。それを千草は見送った後、
「こうなったら最期に派手に暴れたる。貴様等だけは道連れや。」
これからやってくるだろう人物に向けて、力強く言い放った。
今日の分の投下は以上です。
いよいよ本部突入!誰が生き残るのか!?非常にwktkです!
こっからだな。今回は整理整頓次回の準備、って感じだっただけに次に期待。
正直、ここから先はクライマックスなんで批判レスは自重してほしい
もう修正出来ないんだし、終わってからにしてくれ
楽しみにしてる読者の事も配慮してくれ……
こんにちは、作者6です。今回の分投下いたします。
74.激突
森の中を四つの人影が、かなりのスピードで走りぬけていく。
その目的地は決まっていた。四人は今から、戦いに行くのだ。
みんなの仇をとるため、そして皆で元の生活に戻るために。その足は強い意志に支えられていた。
そして、じきにその足が止まる。
「さぁて……」
立ち尽くす四人のうちの一人、龍宮が呟く。
「今更なことだが、覚悟はできてるな?」
残りの三人に目を配りながら言った。三人は答えず、ただ深くうなずいてみせる。
それを見た龍宮が顔に笑みを浮かべて、そして目の前を見る。
少し離れたところ、森の木々の間から見える大きな施設。これから自分たちが攻め入ろうとしている中学校が、そこにそびえ立っていた。
視線はそのままに、手に握る銃の感触を確かめた。確かに銃はそこにあって、これから行われる銃撃戦に備えて、休憩していた建物で念入りに手入れしてある。
自分も覚悟は出来ている。その上で他の連中も聞くまでも無く、ここまで来るだけの気持ちは持ち合わせていることが分かった。
ならばもう何も言うことはない。ただ、全力を尽くすのみ。
四人は再び走り出した。見る間に遠くに見えていた中学校が大きくなって行き、森が途切れると同時にそこに校庭が現れた。
あまり広くない校庭には装甲車が三台ほど駐車されている意外は何もない。見張りの兵士も、誰もいなかった。
「好都合だな、このまま施設内へ進入しましょう!」
刹那が叫び、全員が速度を上げる。装甲車の横を通り過ぎ、玄関に向けての短い階段を駆け上がったころ、龍宮が立ち止まった。
龍宮は自分より少し上の位置にいる三人に背を向けると、校庭の先を睨みつけた。
自分たちがやってきた森の方をじっと睨みつけ、呟く。
「10人……いや、それ以上か……」
「龍宮?」
「気づかないか?森の方から誰か来る。」
その言葉に、明日菜とネギが驚き、刹那が腰に持っていた刀に手をかける。
意識をそちらに集中させると、確かに複数人の気配が感じ取れた。いや、複数人なんてものじゃない、かなりの大人数だ。
龍宮は誰か、と言ったが、誰なのかは考えるまでも無くわかっている。
「くそ、こんなところで……」
刹那が毒づいた。こちらはただでさえ少人数。中学校を制圧するのなら、迅速な行動が必要だった。
よって、こんなところでいつまでも足止めを食らうわけには行かない。こんな大人数を相手に戦う時間的余裕は、四人にはなかった。
そんなとき、龍宮が校庭に向けて一歩、その足を踏み出した。その様子に目を見開いた刹那に向けて、背を向けたまま振り返りもせずに言う。
「ここは私に任せろ。お前たちは校内を頼む。」
「龍宮さん!?」
「無茶だ!」
思わず刹那が声を荒げて止めようとするが、龍宮が止まることは無い。
「こんなところで時間を食うわけにもいかないだろう。お前たちは早く中に入って、首謀者どもを捕らえて来い。」
「し、しかし……!」
「うるさい黙れ、任せろ。」
相変わらず龍宮は相手に選択の余地を与えない。何も言い返せず、黙り込んでしまう。
「刹那さん……」
隣で明日菜が不安そうな顔を向けてくる。どうやらこの場の判断は自分に託されているらしい。
龍宮は自分が残るといっている。その言い分も正しい。時間が無いのは事実なのだ。
それでもしばらく思い悩んだ後、刹那は明日菜の方を向く。
「明日菜さん、銃を!」
突然そう呼ばれて戸惑うが、すぐになんとなく刹那の意を汲み取った。デイパックから銃を取り出し、それを差し出す。
刹那はそれを受け取ると、
「龍宮!」
校庭にいる龍宮に向けて放り投げた。銃は綺麗に放物線を描いて龍宮のもとに飛んで行く。
それを彼女は振り向きもせず、空いている左手で掴み取る。手の中で数回、回転させ、綺麗に銃を握った。人差し指は引き金にかかっている。
「死んだら許さん!」
「善処する。」
それだけ会話を交わすと、刹那は校舎内へと侵入していった。
少し遅れて、ネギと明日菜もそれに続く。一度だけ背後を振り向き、龍宮を見たが、そこには女性にしては少し大きい背中が立ち尽くしているだけだった。
声をかけることも出来ず、二人もすぐに校舎内へと消えた。
「さぁて。」
背中から伝わる気配で三人が中学校へと入っていったのを確認したあと、龍宮が呟いた。
同時に両手の銃を前に持って行き、数発、前方の茂みに打ち込んだ。
少し遅れて、藪の中から兵士が力なく崩れ落ちていく。木々の間から、人影が散り散りになるのが見えた。
「ここから先に進みたかったら私を殺してから行くんだな!」
自己の存在をアピールするように、龍宮が叫んだ。
75.校舎内
来るときは四人だった一行も、今は三人。校舎の中の廊下を、周りに気を配りながら走り続けていた。
表からは銃声がとめどなく流れてきている。三人は後ろ髪を引かれる思いを断ち切るように猛スピードで駆け抜けた。
進行方向から複数の足音。そこは曲がり角になっていて、その奥から音は聞こえてくる。
いち早く反応したのは刹那だった。足に力を込めてより一層にスピードを上げると、音も無くすぐさま曲がり角までたどり着く。
足を一旦止めてタイミングを計るように刀を構えると、先手を取って曲がり角から飛び出す。
一番前にいた兵士は反応させられる前にみね打ちを食らいその場に倒れる。後ろに構えていた兵士は四人。
間に合うかどうかは微妙なところだったが、なぜか迷うことは無かった。すぐさま突進していき、一人の兵士の足を切りつける。
体勢を崩して膝を突いたそいつのこめかみを刀の柄で思いっきり殴りつけ、そのまま前方にいた兵士の肩口に刀を突き刺す。たまらず兵士が銃を落とした。
それを引き抜くと同時に横に振る。さらに奥にいた兵士がこちらに構えていた銃が弾かれてとんだ。
さらにそのまま袈裟懸けに刀を振り下ろし、兵士の両足に斜めに切り傷を入れる。
最後の一人が銃の引き金を引いたが、それで放たれた弾丸はしっかりと目に見えていた。刀を振り上げ、弾丸を切り裂く。
一足飛びで目の前まで距離をつめ、さらにそのまま脇を通り過ぎる。
すれ違いざまに銃を持っていた手に刀で切り傷を入れる。男の短い悲鳴。
振り返りざまの回し蹴りが顔面に命中し、廊下の壁に頭をぶつけて失神した。
ちょうどそのころ、来た道を振り返ると曲がり角から二人がやってきたところだった。
廊下には四人の兵士が倒れている。
失神している兵士が三人、それぞれ肩と足から血を流してその場に倒れている兵士が二人。
これらすべてをあの短時間で目の前の少女が一人でやったというのだ。
学園にいたときから強い強いとはやし立ててはいたが、改めてその実践での強さを見せ付けられると、確固たる根拠を持って思わせられる。
明日菜とネギが、少し離れたところにいる刹那を呆然と眺めていると、
「とりあえず戦闘不能にはしておきました。命には別状は無いと思いますので心配しないでください。」
こともなげに言いながら戻ってくる。その途中で、壁にもたれかかって肩を押さえていた兵士をにらみつけた。
「お前たちにはしゃべってもらうことがある。このプログラムの首謀者はどこだ?」
「……くそったれが…」
兵士は目の前で自分を見下ろしている少女を睨みつけながら吐き捨てる。そして何もしゃべらなかった。
「刹那さん、もういいよ。」
明日菜が横に歩み寄り、刹那の肩に手を置いていった。ネギもそれに続く。
「とにかく先に急ぎましょう。龍宮さんが心配です。」
「……」
刹那は少し考えた後小さくうなずき、再び先陣をきって歩き出した。
「命に別状は無いはずです。無理をしないで、ここでじっとしていてください。」
脇に倒れている二人の兵士に、ネギは最後にそう言ってから、前を行く二人に続いた。
三人は二階へと上る階段を見つけ、それを駆け上がった。
今度は三人同時に廊下へと飛び出した。左右を見まわす。今度も最初に反応したのは刹那だった。その目が見開かれ、即座に刀を抜く。
鉛を切り落とす、独特の金属音が響いた。
「キャッ!」
「刹那さん!?」
「あっちです!」
ネギが刹那の指した方向へと向く。少し遅れて明日菜もそこを見た。そこにはある人物が立っていた。
「あれは……」
三人は立ち尽くし、少し離れたそこにいる人物と対峙した。その人物は拳銃を構えたまま、切れ長の目でこちらを見据える。
余裕なのか、その口元には笑みを浮かべていた。
「裏切り者の神鳴流に、式払いの小娘、そしてサウザンドマスターの息子……か。」
天ヶ崎千草はそこにいた三人を眺め、呟く。
「天ヶ崎千草!!」
刹那が叫ぶ。今にも襲い掛かってこんばかりの勢いだった。
「お久しぶりですなぁ御三方、京都では随分と世話になりましたわ。」
「お前が今回のプログラムの首謀者か!!」
「だったらどないしますの?」
挑発的な千草の問いに、刹那は刀を構えることで答える。それを見た千草は一層その表情に笑みをたたえ、身を翻して走り出す。
奥にあった階段から、三階へと駆け上がっていった。
「待て!!」
「いたぞ、こっちだ!!」
刹那の叫びと、反対側からやってきていた兵士たちの声が重なる。
三人はとっさに廊下の壁の両脇、突き出た柱の影にかくれた。
一方に刹那が、そしてその反対側にネギと明日菜という形。
三人が身を隠すとほぼ同時に、凄まじい量の銃弾が廊下を駆け抜けていった。柱から少し顔を出すと、すぐにそこに銃弾が打ち込まれていく。それを受けて柱が削られる。
「クソ!」
刹那が悪態をつきながら柱越しに兵士たちを睨み、そしてその視線を先ほどまで千草がいた場所へと向ける。
当たり前だがそこに千草の姿は無い。すでに逃げた後だ。一刻も早く追わなければ。
あいつが首謀者だったのだ。瀬流彦をだまし、自分たちを殺し合わせ、そして大切な親友を死なせた……
自分だけじゃない、そこにいるネギも明日菜も、このゲームで苦しみ傷ついた。大切なものを、沢山失ったんだ。
そのすべての元凶が、あの階段の先にいる。絶対に、ここで逃がすわけにはいかない。
「ネギ先生、明日菜さん!」
意を決して声を出す。二人が振り向いた。
「ここは私で食い止めます。お二人は千草を追ってください!」
「何を……!」
明日菜が身を乗り出して言いかけて、銃撃でそれは中断される。
「ここで三人が立ち往生してても仕方ありません!追ってください、お願いします!!」
「刹那さん……」
これしか方法は無かった。あれだけの人数を食い止めることが出来る可能性があるのは、ここにいる三人では自分のみ。
それでも危険なことに変わりは無いが、他に方法も思いつかない。
銃声のせいで声はあまりよく通らない。刹那は笑って二人を見る。安心しろ、という意思表示。
先に動き出したのはネギ。銃声がやんだ時を狙って、一気に走り出す。度重なる銃声が再び響くころには、ネギは階段を駆け上がっていた。
残ったのは明日菜一人。うつむいたまま固まっている。
「さ、明日菜さんも行ってください。」
「……」
「ネギ先生を、頼みます。」
ずっとそらしていた視線を持ち上げ、刹那と明日菜がお互いを見やる。共に力強い眼差しを持っていた。
「絶対に、死んだら許さない!」
「はい。」
明日菜は勢いよく立ち上がると、ネギが走っていったのと同じように階段へと向かい、そして駆け上がっていった。
廊下にいるのは柱に隠れている刹那と、それを狙う十数人の武装した兵士たち。傍から見れば勝ち目なんて無いに等しい。
(龍宮だって表で戦ってる……こんな程度で弱音をはくな、刹那!)
己に渇をいれ、そして刀を構える。大丈夫だ、勝てる!
「はああああああああああああ!!!」
雄たけびと共に刹那が柱から飛び出し、銃を構える集団へと突撃していった。
階下に鳴り響く銃声とは真逆に、三階は奇妙なまでに静まり返っていた。人一人いない廊下を眺め、もちろんネギも千草もそこにいないのを知った明日菜は、さらに上に続く階段を探す。
「あいつら、一体どこ行ったのよ!?」
廊下をとにかく走り、恐らくは屋上に続く階段を見つけようと周りを見渡す。
そんな時、目の前の教室の扉が一つ、突然開いた。とっさに立ち止まり、身構える。
デイパックからすばやく銃を取り出すと、そちらに構えた。
出てきた人物は、ある意味予想通りないでたちをしていた。下で見たのと同じような緑の迷彩柄をした服を着込み、軍靴を履いている。
ただ先ほどから見てきた兵士たちと明らかに違うのは、その手に持った銃。
下にいる連中の持つものとは明らかに違うそれは、明日菜にはむしろ“銃らしきもの”ぐらいの印象を持つものだった。
全長はそれこそ男の身長を超えていて、銃身の上からなだらかに湾曲した箱が突き出ている。
ただ、男の右手がグリップを握り、トリガーに指をかけていて、さらにその先には巨大な筒がこちらを向いているのを見ると、それが銃であるのは明白だった。
その男のものに比べると随分と小さく見える拳銃を構える手が、わずかに震えだす。
「今日はいい日だよなぁ……」
不意に男がしゃべった。明日菜の体が震える。
「一日に二度もこいつを使えるなんて思っても見なかった……しかも相手は自衛隊員と対等に渡り合う女子中学生……世界中どこ探したってこんな戦場ありゃしねぇ」
口調は穏やかだったが、内容と、そしてしゃべっている間に巨大な銃口越しに見える表情から、なんとなくこの男が正気を失っているらしいことが読み取れた。
それが今はとても恐ろしい。
男はその巨大なライフルを構えると、備え付けのスコープに片目をつける。丸くなった視界の先に、明日菜が捕らえられている。
「さぁ逃げ惑え、退屈させてくれるなよ?」
男が呟くと同時に、明日菜はきびすを返して走り出した。
76.思いの衝突
「はぁ……はぁ……」
ネギは階段を駆け上る。沢山の人の思いを背負って、その先に待ち構えている人物に会うために、止めるために、階段を駆け上る。
大して長くないはずの階段がやけに長く感じ、扉の前に着いたときには息も絶え絶えだった。
軽く深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。扉に備え付けられた窓からは、赤い陽射しが差し込んでくる。
そのノブをしっかりと握り、回した。
扉を開けると同時に、強い風がネギの顔に吹き付けられる。それでもネギは瞬き一つせず、屋上へと降り立った。
何もないだだっ広い空間は、沈みかけた太陽の陽射しで赤く染まっている。
ゆっくりと歩を進めていき、前へと踏み出す。そこに、彼女はいた。
「よう来はりましたな、ネギ・スプリングフィールド…」
ネギの真正面に立ち尽くす千草は、眼鏡越しに対面にいるネギをじっと見つめていた。
屋上で、二人が対峙する。赤い光に照らされて、二人の影が長く伸びた。
「まったく……つくづくこのクラスはウチの邪魔をしてくれはるらしいですな……
エヴァンジェリンのカラクリ人形を当て馬にけしかけても結局大した成果もあげれへんし……挙句には本部に押し入られてこの始末や。」
「……どうしてですか?」
千草の言葉には反応せず、ネギは呟いた。
「……」
「どうしてこんなことするんですか?みんな……誰も悪いことなんてしてないじゃないですか!!」
「“すべての西洋魔術師に復讐を”……聞いとるんやろ?協会の長さんか誰かから、ウチがなぜ西洋魔術師を憎むのか……」
「そんなことで、関係ない人まで巻き込んだって言うんですか!?」
3−Aには普通の生徒もいっぱいいた。魔法なんて知りもしない、ただ毎日を平和に生きていた人も沢山いた。
そんな人たちさえも、この女性は己の憎しみのために巻き込んで、死なせたというのか。
「許さない……絶対に!!」
ネギが声を荒げ、すごんでみせる。それを見た千草が、なぜかその表情に笑みを浮かべた。
目を細めてこちらを眺める姿は、余裕だとかそういうのとは違う気がする。程なくして千草が口を開いた。
「あんた、ええ顔するようになったなぁ……ホンマによう似とる。」
「え?」
一度千草は言葉を区切ると、何かを思い出すように視線をそらし、再び戻す。そして言った。
「西洋魔術師に復讐を誓った頃のうちに、そっくり……」
「……!」
明らかにネギが狼狽した。思わず、一歩後ずさる。
反論しようと口を開くが、結局何も言葉はでず口をつぐんだ。
「それでもまだウチが悪やと?」
千草が聞いてきて、何も言い返せずにいた。
薄々感じていた。自分の中に生まれていく、とても醜い感情。クラスの人たちが死んでいくにつれて、それが大きくなるのがわかった。
それが何なのかもすでによくわかっていた。必死に目をそらし続けていたが、それを今の千草の一言で、真正面から見詰める形になった。
結局は、自分も千草と同じ……
――パァン!
銃声が聞こえた。どこから聞こえたのか、正確な位置はわからない。
さらに続いて、今度は連続した銃声が響く。
音はネギの周り、いたるところから聞こえる。場所はなんとなくわかった。中学校の中だ。さらには校庭からも、銃撃戦の音は聞こえてくる。
「みなさん……」
ネギが呟く。今、この場所の周りで、龍宮や、刹那や、そして明日菜が戦っている。何のため?決まっている。
(そうだ……そうなんだ…)
思い出した。自分が戦う理由。
復讐心。それもあるかもしれない。でも、それだけじゃない。
そんな下らない感情のみで戦っているわけじゃない。それよりもっと大きな、そして大切な理由。
「みんなで……帰るんだ…」
ネギは顔を上げた。まっすぐに千草を見据える。その目には、もう負の感情はどこにも無い。
「千草さん……決着を、つけましょう。」
「ふん……」
千草が護符を構え、それを目の前に投げた。
護符は空中で回転し、文字の書かれた部分がネギの方にむいて静止する。その真下の地面から、突然光の柱が生まれた。
かなりの大きさの光の柱の中から、何かがせりあがってくる。そしてそれは、ほどなくして全身を現した。
体長は二メートルを越す巨漢。全身を厚い筋肉に覆われているが、奇妙な凹凸が肩や膝に見える。明らかに人間のものではない。
その表情はおぞましく、真っ黒な目の奥に赤い瞳を従えていた。口の端からは獣を思わせる牙が覗いている。額にも、牙と見まごうばかりの角がある。
巨漢の鬼は耳まで裂けた口を限界まで開け、上空に向けて咆哮する。それだけでそこら一体の空気が震えた。
「今手元にある護符はこの一枚のみ。それでも今のあんたには脅威やろ。果たして倒せることが出来るか?」
「く……」
「あんたの意志の強さ……そいつを倒して、証明してみぃ!!」
千草が叫ぶと同時に、大鬼は小さなネギに向けて走り出した。
77.待ち人来たり
中学校からの銃声から少し離れた場所を歩く影。
長瀬楓(番号20番)は森の中を歩いていた。時折、銃声のなる方へ顔を向けることはあっても、引き返すということはなく、ただひたすらに前を向いて歩いていた。
奇妙なほど、しっかりとした足取りだった。
ろくな目印も無く、慣れた人間が地図を持っていたとしても、こまめに方向確認をしなければ迷ってしまうだろうような深い森の中を、
楓は地図どころか方角も確認しないままに歩く。まるで何かに引き寄せられるように、その足取りはさらにスピードを上げてさえいる。
息一つ切らすことなく深い木々の間を縫うように歩いていく。不意に、森が途切れた。
そこには背の高い木も、それどころか生い茂る草も存在しない、空けた大地があった。上を見上げれば日の傾いてきた空が見える。
周りを見渡すと、離れたところにまだ森が見える。どうやらここはまだ森の中ではあるらしい。ただ何らかの理由で草木が生えず、空き地となっているのだろう。
大きさや形を推測すると、半径三十メートルくらいの綺麗な円形のように見える。
上空からみれば緑色の絨毯の中に丸いほころびが見えることだろう。そしてその円の中心に、その人物はいた。
楓が探していたその人物は、こちらに背を向けるようにして立っている。
「超……」
名前を呼ぶと、超鈴音(番号19番)はゆっくりと振り向く。そこにいる楓を見て、
「あぁ、楓サン……」
別段驚いた様子も無く、言った。
楓はまっすぐに歩いていき、円の中に入った。さらにそのまま超のいる円の中心まで行こうとして、拳銃を向けられて立ち止まった。
「無用心にも程があるヨ、死にたいのかネ?」
「別に。」
即答すると、超が笑った。
「そうだろうネ。私もアナタも、まだ何も成しえていない。このまま死ぬわけには行かないヨ」
まるで全て分かっているかのような物言いだ。いや、もしかしたらすべて分かっているのかも知れない。
「お主の成しえねばならぬこととはなんでござる?」
「……」
楓のその問いに超は答えず、視線をはずして遠くを見た。
ここにも、あの銃声は聞こえてくる。
「先ほどから随分とにぎやかになったヨ、確かあそこは中学校のはずだが……楓さん、何が起こってるか知ってるかネ?」
「……。さぁな」
少し考え、答えた。
「その返事からするとやっぱり何か知ってるらしいネ。悲しいヨ、私だけ仲間はずれなんて。」
「心配しなくてもお主には関係の無いことでござる。……いや、お主と、拙者にとっては……な。」
「だろうネ。」
超はうなずく。なんとも奇妙な時間である。
銃を突きつける側と突きつけられている側が、なんでもないように会話を繰り広げている。少なくとも楓の心中はそれどころではないはずだが。
「まったく参ったヨ、このゲームにつれてこられて、皆を殺して生き残る決意をしたというのに、全部無駄にしてくれるようなことが起こっている……」
超のその言葉に、楓が少しだけ反応を起こした。
「……やはり分かっていたでござるか。」
「この状況を見れば一目瞭然ヨ。」
「そうでござるか……」
楓がため息をついた。超も気づいていたらしい。今何が起こっているか。
皆が脱出のために戦っていることを。
つまり、自分たちはもう殺しあう必要なんか無いということ。
「で……それでもやめるつもりはない……ト。」
超が確認するように聞いてきて、楓は顔を伏せた。
しばし考えるようにそのまま静止しておいて、そして再び顔を上げる。
「先ほど言った通りでござるよ。……この騒ぎは、拙者たちには関係ない。あちらで何が起ころうと、こちらで何をしようと、何も。」
「それでいいヨ……もとより私も、このままノコノコと帰るつもりは無かったヨ。」
「それを聞いて安心したでござる。……さぁ超殿、終わらせようではないか……クラスメイト同士の醜い殺し合い……これを最後に、終わりにしよう。」
大きく両手を広げ、楓が言い終わると同時に、超は銃の引き金を引いた。
今日の投下分は以上です。それではまた明日。
ついに超と楓対決!楓はネギ達と合流するのか!?超と差し違えるのか!?
真名は!?刹那は!?アスナは!?ネギ達の運命や如何に!?次回にwktk!
やばい……、物凄く鬱な展開を想像しちまった俺ガイル
今回ばかりは予想の斜め上をいって欲すい……
こんにちは、作者6です。今日の分投下しようと思います。
78.復讐の果てに
銃を構えた状態で超があたりを警戒する。
依然自分は円の中心にいて、近づくものがいればすぐにでも分かることが出来る。
視界の端で、一本の木の枝が揺れた。
とっさに超はそちらに銃を向けて引き金を引く。銃声と共に枝が弾け、地面へと落ちる。
その一瞬前に、そこから人影が飛び出し、さらに隣の枝へと飛び移る。
「また外したカ……さすがね、楓サン……」
冷静な声で超が呟く。そうしている間にも楓は次々と周りの木々を回っている。
そしてその中で、何かが光った。
「っ!」
それに気づいた超が上半身を無理やりひねった。自分の顔のすぐわきを、凄まじいスピードで何かが通り抜けていった。
背後を見ると、地面に深々とナイフが突き刺さっている。それを確認した後、頬が真一文字に切れ、そこから血が滴り落ちた。
超は視線を動かし、別の地面に突き刺さっているもう一本のナイフを見る。
どうやら楓の武器はあのナイフのみのようだ。少なくとも銃器類は持ってないと思っていい。
身体能力では到底及ばないだけに、武器で優勢に立てたのはありがたいものだった。
超はすぐに銃を構え、引き金を引いた。
それも楓はかわして見せた。弾丸は誰もいない空間を通過していく。
再び超のもとへとナイフが飛んでくる。横へとび、それをかわす。
これぐらいのナイフなら難なくよけられる。それぐらいは超でもできる。
「さぁ、どうするネ楓サン?」
乾いた唇を舌でぬらしながら、超が呟いた。
生い茂る木の枝の隙間から、周りをすき無く警戒している超が見える。
身を低く構えていた楓が立ち上がると、すぐさまこちらに向いた。
すぐに木から飛ぶ。一瞬遅れてやってきた銃弾の雨が、先ほどまで楓が立っていた足場をバラバラにした。
楓は懐に手を入れると、そこからナイフを取り出す。
手の平に二本のスローイングナイフ。これが今の楓の全戦力だった。
これで仕留められなければ武器は無い。
それを確認するようにナイフを眺めた後、すぐに懐にしまいなおす。
視線を横に向ければ、広場がそこにある。超はいまだにそこにいた。どうやら逃げるつもりは毛頭無いらしい。考えたものである。
(こうなればもう方法は一つか……)
楓は木から勢いよく飛び出した。
「来たネ……!」
木々の上から人影が飛び出し、空中で回転して地面に降り立つ。再び姿を現した楓は、その手にナイフを握っていた。
楓の最終手段。真正面から超の銃撃を受けてたち、弾切れを起こした瞬間に距離を詰めてケリをつける。
超自身も、最終的にはこうなると踏んでいただけに、慌てた様子はどこにも無い。
「さて、そろそろ本当に終わりネ!」
銃の脇についたつまみを親指で押し上げ、「オート」にする。
引き金を引くと、無数の弾丸がほぼ一斉に楓に襲い掛かった。
楓は横に走ってそれをよけて行く。それにあわせて超も銃口を移動させていった。
さすがにマシンピストルのフルオートをいつまでも走ってよけ続けれるわけが無く、やがて銃弾は楓の身体を掠めていく。
足やわき腹を銃弾が掠め、腕にも命中した。それでも楓は歯を食いしばってよけ続け、勝機を待つ。
そしてそのときは来た。
やかましいまでに鳴り響いていた銃声がとたんに止み、襲い掛かってきていた無数の弾丸も無くなった。
超の手に握られた銃は、スライドが後退しきったままとまっている。
(今だっ!)
それまで円周上を走っていた楓が方向を変え、中心にいる超へとむけて全速力で走る。
足に激痛が走るが気にしない。その距離を見る間につめていった。
銃が弾切れを起こした超は、その表情を驚愕に染めた。
そしてすぐにその顔がもとの余裕を取り戻す。
弾切れを起こした銃を、こちらへと向かってくる楓に向けて投げつけた。
楓はそれを難なく横に飛んでよける。ただ、そのために体勢を崩し、一度その場に立ち止まった。
そして次に超を見たとき、超はその手に新しい銃を握っていた。
パン!
引きがねを引くと、乾いた銃声と共に楓の体に穴が開いた。そこから血が流れ落ちる。
不意打ちは成功した。自分の武器がたった一つしかないと勝手に想像してくれたのがありがたかった。
超は腹部から血を流す楓を眺めながら、勝利の笑みを浮かべる。
「……」
楓は腹部に一度手をやり、傷の状況を確認する。手の平には血がべっとりと着いている。内臓を傷つけたかもしれない。
一刻も早く手当てが必要な傷である。
(いや……まだだっ!)
頭の中で強く否定すると、次の瞬間には再び走り出していた。
「おおおおおお!!!」
激痛を雄たけびで紛らわせながら走る。その姿は鬼気迫るものがあった。
そんなものを正面に構えながらも、超は落ち着いていた。冷静に、致命傷になる部分に銃口を向け、引き金を引く。
放たれた弾丸は、楓の心臓部分に見事命中した。今度こそ即死だ。
「……何?」
しかしその予想は外れる。楓は即死どころか、いまだこちらに向けて突進してきている。その勢いは衰えない。
「くっ!」
こうなったらと続けて引き金を引き続ける。弾丸はすべて楓の体に穴を穿つが、それでも楓は止まらない。
そして楓はその手を思い切り伸ばし、超の肩を持つと思いっきり自分に引き寄せた。
「しまっ……」
「これでいい……何とか間に合った……」
それまでの鬼気迫る迫力からは想像もつかないほど穏やかな口調で、楓が呟いた。その時懐からナイフが落ちる。
残ったナイフのうちの一本。弾丸がめり込み、ヒビが入っていた。これによって弾丸を防いでいたのだ。
それにしたって銃弾をよけずに受け止めるのは無茶に違いない。急所にさえ当たらなければいいと最初から思っていたのだ。楓の身体はぼろぼろである。
「楓サン、ハナからそのつもりで!……」
ストン……
超が何かを言い切る前に、楓は右手に持っていたナイフを、超の後頭部に突き刺した。
軽い音が響くと共に、ナイフは深々と超の頭に刺さる。楓が身体を離すと、超はその場に力なく倒れた。
「そうでござるよ……拙者はもとより、生き残るつもりなんて無かった……」
あっけなく死んだ超を見下ろしながら楓は呟き、ふらふらとよろめいた後、自分もその場に倒れた。
「終わっ……た……」
大の字になって空を見上げる。視界はぼやけ、ただ赤い色だけが認識できる。
「すまんでござるな……龍宮……」
小さな声で呟いた。
「拙者は……生き残るには汚れすぎたでござるよ……もう、みなの前に戻ることも出来ないくらいに……」
クラスメイトを殺したという事実は、楓の中で大きな罪悪感だった。
鳴滝風香(番号22番)を守るため、佐々木まき絵(番号16番)を殺した。
超への復讐を果たすために、那波千鶴(番号21番)を殺した。
そして復讐という下らない感情のために、超を今この手で殺した。
こんな自分が、生き残っていいはずが無いのだ。……そうに違いないのだ。
「もし拙者に何かを望むことが許されるなら……お前たちには生き残って欲しいでござる……何の罪も無いクラスメイトの命をほふった殺人鬼の……最後の……願い…」
視界は暗転し、もう何も見えなくなった。
本人も、そして周りも下らないと言った、楓の無益な復讐劇が、今このときを持って幕を閉じた。
楓が言った通り、もう誰もクラスメイトを殺すことは無い。
超鈴音、長瀬楓、死亡。 残り4人
79.強く
銃声は絶え間なく、かつ何重にも聞こえてくる。
龍宮真名(番号18番)はそれを装甲車の裏に隠れてやり過ごす。
その中で一瞬のタイミングを計り、身体を出して銃を撃つ。
兵士たちに比べればわずかな銃撃だが、命中率は段違いだ。どこにも隠れず校庭から撃ってきていた兵士が身をよじって倒れた。
すぐさま隠れる。再び銃撃は厚みを増した。
「中学生一人にご大層なものだ」
今更ながら兵士たちに皮肉の一つも突きつけてやる。もちろん銃声にかき消されて向こうには聞こえてやしないだろうが。
そんな時、龍宮は首をひねって横を見る。自分のいるところのちょうど真横にある藪の中から、銃口がのぞいていた。
とっさに銃をそちらに向け、引き金を引く。互いの銃口が、ほぼ同時に火を噴いた。
藪の中から眉間に穴を開けた兵士が倒れてき、それを頬から血を流す龍宮が見る。不意打ちは失敗に終わった。
その時、銃声にまぎれて何か声が聞こえた。声は兵士たちの方から聞こえてくる。
再び装甲車から顔を出して様子を見る。相変わらず銃撃を加えてきている兵士にまぎれて、一人が何かの準備をしていた。
巨大な筒を藪の中から持ち上げると、それを肩に担ぐ。もう一人の兵士が、その先に円錐形の筒を取り付けた。
それはまっすぐに龍宮のいる装甲車に向けられている。
「グレネードか!!」
思った瞬間には走り出していた。とほぼ同時に、兵士がその引き金を引く。
ドシュ、という音が遠くから聞こえ、円錐が射出される。推進剤が火を噴いて一直線にこちらへ飛んでくる。
それは先ほどまで龍宮が隠れていた装甲車に命中し、爆音を響かせた。
近くにいた龍宮は直撃は受けなかったものの爆風にあおられて宙を舞う。地面を数回転がって止まった。
「くそっ……」
急いで立ち上がる。ここには何も遮蔽物がない。兵士からも丸見えだった。案の定、銃弾が容赦なく飛んでくる。
近くにあるもう一台の装甲車に隠れようとして、銃弾が肩を貫いた。短い悲鳴を、必死にかみ殺す。なんとか物陰に隠れることが出来た。
ふと目の前にある中学校の校舎を見上げる。
自分が今いる校庭の銃声に巻き込まれて判別は聞かないが、窓からのぞく廊下の景色に火薬の閃光が見え隠れしている。
恐らくは中に入っていった三人が戦っているのだろう。銃声がやまないところを見ると三人はまだ生きている。
「死ぬなよ、絶対に……」
呟いた瞬間、肩に激痛が走る。もしかしたら思ったより深いのかもしれない。だが、そんなことを構っていられる状況ではない。
今は戦うときだ。生き残るために、戦うときなのだ。
『何でみんな死んじゃったの……』
不意に、その言葉が頭をよぎった。神楽坂明日菜(番号8番)が自分に問いかけた言葉。
龍宮は返事を返せなかった。
返せなかった?嘘だ、返さなかったんだ。
わかっていたはずだ。答えはわかっていた。わかりきっていた。
弱いからだ。自分が弱かったから、皆死んでいった。
誰一人として悪い人間なんていやしなかった。何も悪くなかった、救えたはずだった。
自分がもっと強ければ、誰も死ななくてすんだはずだ。みんなで、帰るコトだって出来た!
「宮崎だって死なずにすんだ!!」
龍宮はとっさに左手を持ち上げ、銃口を中学校の入り口に向け、数回、引き金を引く。
放たれた弾丸が、中学校内へと進入しようとしていた数人の兵士を打ち抜き、倒す。
遅れてそちらを睨みつけ、吼える。
「私を殺してから行けといっただろう!!」
その時、自分のすぐ後ろに人の気配。
龍宮は銃を向けるより早く、振り向きざまの後ろ回し蹴りを見舞った。
ケリは見事後ろにいた兵士の即頭部に命中し、吹き飛んだ先の装甲車にぶつかる。
鈍い音を立てて兵士が崩れ落ちると、その先に銃を構えた別の兵士の姿。
龍宮はとっさに身をひねり、左手から銃を離すとその手を伸ばし、その銃のバレルを握った。
兵士が思わず引き金を引き、銃口から火花が飛ぶが龍宮が無理やり銃口を移動させたため銃弾はあらぬ方向へ飛んでいく。
一度引き金から指を離すのを確認すると、左手に力を入れてこちらに引っ張る。突然のことで兵士が体勢を崩すと、
すかさず横に回る。無防備な後頭部に向けて、右手に握られた銃のグリップを振り下ろした。
兵士は短い悲鳴を上げてその場に倒れる。龍宮が銃を拾い上げ、再び装甲車の陰から飛び出し、銃を撃つ。
再び隠れる。様子を見る。兵士が走ってくる。すかさず撃つ。撃ち返される。隠れる。
もう一度見る。グレネード。走る。爆発する。吹き飛ぶ。痛い。歯を食いしばる。急いで立ち上がる。また走る。
相手が撃つ。撃ち返す。また撃ち返される。撃つ。撃つ。撃つ。
銃声意外何も聞こえない。兵士の姿意外何も見えない。もっと集中しろ、もっと。
そして―――
80.夕焼けの死闘
空気が震えるのがわかる。
咆哮がやんでも、しばらく震えは収まらなかった。
それは容赦なくこちらへと駆け出してくる。その形相と体躯に体が震えるが、無理やり手足を動かし、何とか横にとんだ。
つい一瞬前まで自分がいた場所に、巨大な衝撃が振り下ろされる。
攻撃自体はかわしたがその拳圧に押されて予想以上に吹き飛んだネギ・スプリングフィールドが、体勢を立て直して相手を睨む。
巨躯の大鬼はコンクリートにめり込んだ自分の拳を勢いよく引き抜くと、ネギと対峙する。
黒目の奥に光る紅い瞳が、小さな少年を捉えた。
ネギは一度小さく深呼吸、そして両手を持ち上げる。
いつもしていたように、その構えを取って大鬼を迎える。
「妙な構えをしてますな……古流武術か?」
少しはなれたところでそれを眺めている千草が呟く。それは誰にも聞こえない。
大鬼が、再び走り出した。
ネギは今度もギリギリまでよけないでいた。だが先ほどのように体が震えて避けれないのとはわけが違う。
(カウンターこそ中国拳法の得意中の得意アルよ!)
今は無き己が師匠の言葉を頭の中で反芻する。大鬼が目前に迫ってきても、ネギの心は落ち着いていた。
そして大きく振り上げられた丸太のような右腕が、ネギに再び振り下ろされる。
ネギは至極落ち着いた動作で身をひねり、最低限の動きでそれをかわす。ギリギリもギリギリ、拳が頬をかすった。
何とかそれを受け流すと、そのままの動作で大鬼の懐にもぐりこむ。相手の向かってくる力と、自分の迎え撃つ力を上手く重ね合わせ、交鎖法の一撃を放った。
ズン、という鈍い音と共に、ネギの肘鉄が綺麗に、人間で言えば鳩尾の部分に打ち込まれる。頭の上からこの世のものとは思えないうめき声が聞こえた。
普通ならこれ一発でたいていの人間は昏倒して終わりなのだが、相手は普通でもなければ、そもそも人間ですらない存在である。
大鬼の左腕が拳を作り、それが懐にいるネギへと向けれられる。真横から風圧と共に拳が襲い掛かってきた。
とっさに後ろに飛びのこうとするが、背後にはついさっき振り下ろされている大鬼の右腕がある。飛びのくことは出来なかった。
次の動作を決定する前に、拳が襲いかかってくる。仕方なくネギは両手で身体をガードした。わずかながら使える魔力も、すべてそちらに集中させる。
衝撃にあわせて後ろにとび、威力を半減させたがそれでも尋常じゃない破壊力だった。
軽いネギの身体は悠々とび上がり、十メートル以上吹き飛んで地面についた。すぐ後ろにあるフェンスに背中をぶつける。
両腕に激痛が走る。手の平を握って軽く力を込める。痛むには痛むがきちんと動いた。どうやら骨まではいってないらしい。
顔を上げると十メートル以上先に大鬼が立っている。興奮がやんだのか、悠々とこちらへと歩いてきていた。
あの様子だとこちらへ来るまでわずかながら余裕がある。ネギは頭の中で対抗策を練る。
あの筋肉の鎧には自分の攻撃はほとんど無効だろう。先ほどの攻撃でも膝を突くことすらなかったのだ。おそらくはどんな攻撃もしのがれてしまう。
急所というものが存在するのかも怪しい大鬼の身体を観察しながら、どうにか勝機を見つけ出そうと模索する。
だが、よく考えてみれば向こうは式紙である。もとは実体の無い存在なだけに、肉弾攻撃でどうにかなる気がしなかった。
(こんなときに明日菜さんがいてくれれば……)
ネギの頭の中に、鈴をつけた一人の少女の姿が思い描かれる。
今からでも颯爽と現れて、きっと今の情けない自分の姿に呆れながら、簡単に目の前の鬼を札に帰してしまうのだろうとか考え、
すぐにそんなことはありえないとかぶりを振った。下からは依然銃声が聞こえてきている。
明日菜たちも戦っているのだ、ここで援軍がくることは考えられない。結局は自分で何とかするしかないのだ。
(……まてよ、札?)
その時、ネギの頭の中にある考えが浮かぶ。すぐに、それをもとに戦略を立てていった。
(危険だぞ、できるか?)
頭の中で自分に確認する。正直、この作戦は危険度も高かった。心の中で、迷いが生じる。
そうこうしている間に、大鬼は目前まで迫っていた。獲物を捕らえる目がこちらを向いている。再び、あの咆哮が響いた。
(迷ってる暇なんか無い!)
ネギは身を低く構えて咆哮をやり過ごす。全神経を、次の大鬼の一撃に向ける。
大鬼は相変わらずの大きな動作で拳を振り上げていく。ネギのこめかみに冷や汗がたれた。
(集中しろ……失敗は許されないぞ……)
よければ勝てる。避けれなければ死ぬ。ネギの目の前にあるのは、二つの道。どちらをつかむかは、本人しだい。
大鬼の拳が、まっすぐに突き出された。
(ここだ!)
それまで身をかがめて蓄えていた力を一気に解放する。ネギは高く飛び上がった。
間一髪で鬼の拳はネギの足の下数ミリを通り抜けていく。成功だった。
そのまま足を伸ばし、大鬼の腕の上に立つ。再び身をかがめると、目の前には鬼の顔。
目をそらしたくなるようなおぞましい形相を正面から見据え、
「やあああ!!」
そこに拳を放った。
ネギの右ストレートは綺麗に顔面に命中し、鬼が体勢を崩す。それでもネギはなんとかバランスをとって、右手に魔力を込めた。
あとは治療回復の要領で、拳から鬼の体内に魔力を送り込んだ。もちろん、治癒をしてやるつもりは無い。
次第に鬼の様子が変わってくる。体から薄い光が漏れてきて、どこからか煙も立ち上ってきた。
(あと少し、あと少しだ!!)
わずかしかない魔力をすべて右手にこめる。鬼が、とうとうその場に崩れ落ちた。
煙と光に包まれたその巨体が、空気中に霧散する。
後に残ったのは、ネギの魔力を受けて火花を散らす札が一枚だけだった。
「やった……」
鬼の体から離れて地面にたったネギが、そこにある札を見て呟く。
魔力を持って精製された式紙に、異物である全く別の魔力を送り込んだのだ。わずかでも直接送りこまれた魔力は相反し、そして相殺したのだ。
札はそのまま吹き抜けた風によって空中へ飛び立っていった。
「アホな……」
そこで見ていた千草が、目を見開いてネギを見ていた。
一枚だけとはいえそれなりの力を持った護鬼だった。それが魔力もろくに無い子供に負けたのだ。
そしてその鬼を負かした少年は、まっすぐにこちらを見据えている。
「くそっ!」
千草がとっさに身構えると、ネギが駆け出す。一気に二人の距離はつめられ、千草の目の前までたどり着く。
「くっ!!」
とっさに千草が掌底突きを見舞うが、ネギはそれを簡単に受け流し、先ほど大鬼にしたのと同じカウンターを入れる。
千草の体が後ろへと飛び、先ほどのネギと同じようにフェンスにぶつかった。
「がはっ……」
鳩尾を突かれた上にぶつかったときに肺を強く打ちつけ、呼吸が上手く出来ず身体に力が入らない。
意識が飛ぶのだけは何とかこらえたが、そのまま上半身だけもたれかかった形で力なく崩れ落ちた。
こちらに近づいてくる足音に気づき、千草が顔を上げる。
そこには、自分よりはるかに年下の少年が、自分を見下ろしていた。
「千草さん……もうこれで終わりです……」
「そう……か……」
千草は苦しそうに呟くと、軽くむせた。何度かせきをした後再びネギに向き直り、
「ウチを……殺すか?」
そう聞いた。ネギはすぐには返事を返せずにいたが、それでもそれほど考えもせず、
「いいえ。」
はっきりと答えた。
「あなたはまた本国に戻って、正当な裁きを受けてもらいます。もう……誰にも死んで欲しくないですから。」
千草が一瞬驚き、すぐにその顔を伏せる。一瞬、中学校に進入してきたタカミチのことを思い出す。
「何で……西洋魔術師はどいつもこいつも……」
肩を震わせ、小さく呟く。ネギが右手を差し出した。
千草も右手を持ち上げる。その手には銃が握られていた。
「こんなにも甘いんやろうなぁ。」
パン!
そんな音が響いた。千草の顔は、笑みで歪んでいた。
「……えっ?」
ネギが短く呟き、一歩、後ろへ下がる。腹部に激痛が走った。
ゆっくりと、右手を痛みのするほうへ当てる。暖かい水がついたような感触。
掌を返すと、そこは血で真っ赤だった。
「どこまでも詰めが甘いんですなぁ、あんたも、タカミチさんも。」
銃を構えたまま、千草が立ち上がった。勝利の確信をたたえた笑みをネギにむける。
「戦場ではとにかく生き残ったほうが勝者や。そのためには非情にならなあかんで、少年。」
「……」
千草が得意げに話すが、ネギには何も聞こえていなかった。
あるのは腹部に感じる焼けるように熱い感覚。視界が少しばかり歪む。意識が飛びそうになる。吐き気もした。
それでもネギはしっかりとその場に両足で立っている。その足が、一歩前に進んだ。
千草は得意になっていてそれに気づかない。
「さて、惜しかったな、サウザンドマスターの息子。」
親指で銃のハンマーを起こす。
「ウチの逆転勝利や。」
そう言い放った瞬間、ネギの腕が伸びる。その手が銃をつかんだ。
「!」
慌てて千草が引き金を引く。銃口の先にはネギの顔があったので、銃弾が放たれれば頭を打ち抜き即死させることが出来る。
だがそうはならなかった。引き金を引いたのに、銃声も何も聞こえない。
見ると、ネギの指がハンマーと雷管の間に挟まっていた。それで銃弾は放たれなかったのだ。
銃口越しに見るネギの視線が、千草と重なった。
「ひっ……」
思わず情けない悲鳴を上げる。ネギはそれでも構わず、銃をつかんでいないほうの手に魔力を込める。その凄まじい気迫に、千草は負けた。
手に握っていた銃を離し、すぐにその場を離れたのだ。
難を逃れた千草がネギから距離をとって対峙する。顔は真っ青で、肩で息をしていた。
(何やあの小僧……今の気迫……)
目の前にいる少年に脅威を覚えながら、千草が睨み付ける。
その先でネギは手に握った銃を思いっきり振りかぶって投げ捨てた。
銃はフェンスを越えて校舎の外へと飛び出し、そのまま落下していって消えた。
「これで……お互いにもう……何もない。」
ネギが呟いた。千草の背中を、そして額を、冷たい汗がたどる。
「千草さん……これで本当に決着です……終わりにしましょう……何もかも。」
内に秘める力が相当なものであることを匂わせながら、穏やかな口調で呟いた。
81.永き生に終止符を
(ここは……?)
目をあけてすぐは周りが真っ暗だったため、何も見えなかった。
頭の中で自分がどこにいたのか思い出そうとしたが、脳もあまり上手く作動していないらしくフィルターがかかったようで上手く思い出せない。
身体を起こそうとすると激痛が走り、すぐにその場に再び倒れた。
そうこうしている内に、目が暗闇に慣れ始める。
何とか動かすことができる首を回し、あたりを見渡した。
それなりに広い、何もない空間。カーテンが閉まっているのか窓からの光は全く無い。おかげで目が慣れるまで時間がかかって一苦労だった。
そして、すべてを思い出す。
(そうだ……私はここに、プログラムを止めるために進入したんだ……)
タカミチに頼まれ、合図(と言えるほどのものじゃない。ただドデカイ音が校舎から響いてきただけだ)とともに首輪を外し、そして絡繰茶々丸(番号10番)と共に校舎に侵入した。
そして、多くの兵士たちをその手で叩き潰し、プログラムを止めるために奥へと進んで行ったのだ。
(完全に余裕でいた私は、そのままやつらに術中に落ちて……)
忌々しいことを思い出して歯を食いしばるが、すぐに腹部に走った激痛に眉をひそめる羽目になる。
その傷を作った主のことも、完璧に思い出していた。それと同時に、ある疑問が浮かぶ。
(ならばなぜ、私はまだ生きている……?)
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(番号26番)が腹部の傷を見ながら呟く。
そこにはかなりの数の穴が開いていて、そこのすべてから血が流れた後がある。今はもう乾いてどす黒くなっているだけだが。
と、左わき腹に目をやった。そこも他と同じように制服に穴が開けられている。恐らく銃撃を受けたのだろう。
だが、他の傷と決定的に違うのは、穴が開いているだけで、そこから覗く自分の体には傷が無いということ。
傷を受けなかったわけじゃないだろう。というか受けたときのことをなんとなく覚えている。確かあそこの傷が治らなくて、体から魔力が逃げていき……
(……そういうこと、か?)
少し疑問が残るが、それでもそれ以外は考えられなかった。魔力は抑えられてはいたが、無くなってはいなかった。
恐らくはわずかに残った魔力が、エヴァの意識が途絶えた後も働き続け、少しずつ体の傷を修復していったのだろう。
そして生きるために必要最低限の器官の再生がなされ、こうやって目を覚ました、というところか。
実際に、一度は生命活動を停止した体が再び息を吹き返すことはあるらしいことをどこかで聞いたことがあった。
自分は特に人間ではないだけ、助かる確率が高かったということか。どちらにせよ、動き回ることが出来ないのは変わらないが。
そんな時、ふと周りから聞こえる銃声に気づいた。さらにその中に感じる、微弱な魔力。
(だれかが戦っている……?)
外の様子を見ることは出来ないため、かすかに感じる魔力を頼りに想像するしかないが、確かに誰かが戦っている。
どこかで感じた覚えのある魔力だ。
(これは……刹那、か?)
記憶の中から一致するものを引っ張り出してくる。さらに神経を集中させ、魔力を感知する範囲を広げようとする。
傷が痛むが少々は我慢だった。今までこれ以上にひどい傷だって負ったことはある。
そうしていると、もう一つ、別の魔力を感じる。刹那と同じくかなり微弱で、さらにその近くにはそれなりに大きな魔力もある。
大きいほうはすぐにわかった。忌々しい、自分を撃ち殺した(とはいえ自分はまだ生きているが)天ヶ崎千草だろう。
(この小さいほうは……まさか、坊やか?)
半分驚きながら、しかしこの魔力は確かに覚えがあった。何しろ自分が鍛えていたのだ、間違えるわけが無い。
そして、それがだんだんとさらに小さくなっていくのもよく解った。
普段ならまだしも、今はエヴァと同様に魔力を極限まで弱められている。このままでは千草の優勢は変わらない。
何とかしなければ、まず間違いなくネギは負ける。それが何を意味しているかは、エヴァにも十分わかっていた。
エヴァは首をもたげ、自分の頭の上の位置にある巨大な機械を恨めしそうに睨む。
緑色のランプが鈍く光り、ゴゥンゴゥンと怪しい作動音を響かせている。
こいつが結界の発生源なのはわかっている。千草本人が言っていた。こいつを破壊することさえ出来れば……
改めて自分の上手く動かない身体を恨めしく思う。エヴァが再び自分の身体を睨み、
「……」
そこで固まった。エヴァの視線は一見、腹部にある複数の傷口に向けられているようだったが、実際にはそのもう少し手前、胸の辺りを凝視していた。
その位置にある妙なふくらみを睨みながら、何かを考えていた。
エヴァは確認するように右手に力を入れてみた。まずは指先だけ。細い指は一つ一つ綺麗に折りたたまれ、握り拳を作る。再び開いた。
次にひじを曲げてみる。脳からの命令を素直に受け入れ、ひじが綺麗に曲がり、掌が持ち上がる。そのままエヴァは肩を動かし、右腕を自分の懐に滑り込ませた。
次にそれが引き抜かれたとき、右腕はあるものを握っていた。エヴァがそれを見る。
ちょうど掌に握れるほどの大きさをした、緑色の球体。レバーと、それを押さえるためのピンが刺さっている。
(そうか……こいつがあったか…)
今度は見ただけで思い出した。ここの兵士たちがそれぞれ持っていた兵器。エヴァも好奇心で一度だけ使った。
なかなかの破壊力だった。廊下にいた兵士たちがこれによって粉々になった光景が頭に浮かぶ。エヴァは再び機械に目をやった。
これだけ大掛かりな機械だ、ちょっとした衝撃でも恐らくは致命傷になるだろう。こいつなら威力は申し分なかった。
エヴァはゆっくりと、左腕を動かす。右腕に握られた手榴弾の安全ピンに、左手の人差し指がかけられる。後はピンを抜いて、上に転がせば終わりである。
爆発は凄まじいものだろう。このクラスくらいは飲み込むかもしれない。ならばその中にいて、なおかつ逃げることなんて出来る身体じゃないエヴァはどうなる?
頭の中にその光景が浮かぶ。魔力がろくに無く、再生も上手く働かない状態でこんなものを近くで食らえば、どうなるかは目に見えている。
おそらくエヴァは……
(それも悪くない……)
エヴァはピンを引き抜いた。あとは右手で握っているレバーを離せば、五秒後には大爆発だ。
エヴァの表情に迷いは無い。むしろ清清しい笑顔だった。
そうだ、それも悪くない。もともと、望んで手に入れた不死ではなかった。そんなものに何の未練も愛着もありはしない。
誰かのために命を捨てるという行動に、それなりにプライドが邪魔をしたが、それも些細なことだ。
「数百年無益に生きながらえたこの命、お前たちにくれてやる!さぁ、坊や!貴様の意地を見せてみろ!!」
エヴァは持てる力をすべて使って手榴弾を投げた。低い放物線を描いて飛ぶ。その間に、レバーが弾けとんだ。
一メートルも飛ばないうちに地面に落ち、ちょうど機械のすぐ下に転がっていき、一度ぶつかって止まる。
あと四秒ほど。そんなときに、エヴァの清々しい笑みをつくった顔の、その頬に雫がたれた。
(何……)
あと三秒。エヴァの表情が驚きに変わる。
(もしかして……)
あと二秒。
(これが、未練……か?)
あと一秒。
エヴァの顔が歪む。ギリギリまでこらえていた涙が、一度に溢れ出した。
(坊や……)
思ったときには、視界は閃光で真っ白になった。
屋上では、千草とネギの戦闘が続いていた。
ネギは必死に拳を繰り出し、千草を追い詰めていく。千草の動き自体は武術とはかけ離れたものだったが、魔力の補助をもらって何とか対抗していた。
(何なんやこの小僧!腹に風穴あいとんやで!?一体どこにそんな力が……)
力強い拳を放ってくる少年に、何とか対処はしているが明らかな狼狽を見せていた。
早く決着をつけたほうが言いと考えた矢先、中学校の校舎から、突然爆音が響いた。足場がわずかに揺れる。
本来なら立ち止まってこらえられる程度のゆれだったが、今のネギには随分と辛く、その場で足踏みする羽目になった。
上手い具合にすきだらけになったネギに千草は容赦なく拳をぶつけ、吹き飛ばした。短い悲鳴と共に、ネギがその場に倒れた。
揺れはすぐに収まった。
「何事や!」
千草が慌てて校舎の方を見る。三階、二階と大した変化はここからは見えない。
そしてさらに視線を下にすると、一階の窓から黒煙が上がっていた。煙の中に、わずかながら電気が走るのが見える。
あそこは……
頭に入れておいた中学校の地図を自分の居場所を換算に入れて思い出す。すぐにそこがどこかわかり、驚愕の表情を見せる。
あそこは確かに、学園結界装置を保管していた教室。普段目立たない教室なのに、なぜそこから煙が上がる?
しかもあそこはちょうど機械のある場所のはずだ。
と、そこで、今朝あの部屋に足を踏み入れた自分以外の人間がいたことに気づく。千草はすべて理解した。憎悪の目を見開いた。
「あの吸血鬼……!!」
己の無用心さと、エヴァのしぶとさの両方に怒りを覚え、吐き捨てる。あの女、どこまで……!
「……っ!!」
とっさに、首を回して踵を返す。急激に膨れ上がる魔力を感じ、そちらを向いた。
自分から少しはなれたところで、小さな少年がゆっくりと立ち上がっていた。
ふらふらとした足取りで、しかしきちんと両の足で立ち上がる。その体からは、目に見えるほど強力な魔力があふれ出ていた。
「あんた……」
「これで最後です……千草さん。」
呟きと共に、ネギが伏せていた顔を上げた。千草を見据える。
決着のときは、すぐそこまで来ていた。
今日は以上です。
GJ!!エヴァの最期はなんだか切なくなった…。
さあみんなの魔力が復活!本当の反撃開始!ネギは助かるのか!?次回にwktk!
そろそろ本気で終わりか……。
このスレも楽しかったな
すいません。ちょっと事情があって今日は投下は延期させてもらいます。
今日の夜中、2時ごろに一挙投下ということでよろしくお願いします。
それでは。
お待たせしました。それではラスト7話、一挙投下いたします。
82.戦乙女(ヴァルキリー)
銃声が校舎内をこだましていく。その中を、刀一本手に持った桜咲刹那(番号15番)が走り抜けていた。
息を切らせながら走り続け、時折後ろを向いて刀を振る。例外なく刀は火花を散らせ、銃弾を両断していた。
近くにあった柱の影に身を隠すと、そこから背後に迫る兵士の集まりを睨んだ。
狭い屋内が舞台とはいえ、やはり銃を持った相手複数を相手に刀一本で戦うのは無謀と言っていい。
地形を利用して何度か奇襲をかけるが、それでも一行に人数が減る様子は無かった。
さらに言うと、最後の頼りであるその刀も、最早限界に近い。
刀身はほとんどが刃こぼれしていて、白刃が綺麗なまま無事な場所はもうどこにも無い。
いつへし折れてもおかしくなかった。
兵士は相変わらずこちらへと歩を進めてくる。人海戦術で攻めてくる相手に、体力的にも精神的にも限界は近かった。
刹那は柱に後頭部を押し付け、中空を眺めるようにして呟いた。
「お嬢様……」
今はいない、最愛の親友の名前を呟く。その後に続いたのは、短い謝罪の言葉。
「すみません……私も、そちらへ赴くことになるかもしれません……」
生き残ると、そう決めたのに。そのためにここまで戦ってきたのに。
もうあまり体が言うことを聞かない。生身のままで戦い続けるのも潮時だった。
ゆっくりと目を閉じた刹那は、最後に一人でも多くの人間と刺し違えようと覚悟を決めていた。
そんなときだった。
身体に、懐かしい感覚が戻ったのは。唐突に、力がわいてきた瞬間だった。
「……何?」
思わず目をあけた刹那が、自分の掌を見る。久しくやっていなかったような気さえする、両手に気をためる。
刹那の手には、研ぎ澄まされた力が、確かに宿った。魔を討つため、親友を守るため、必死になって習得した力だった。
それが今、再び自分のもとへと戻ってきた。
「何で……」
(せっちゃん……)
耳元でささやく声。思わず刹那は背後を見る。やはりそこにあったのは、石で出来た柱があるのみ。
だが、確かに耳元に聞こえてくる、懐かしい親友の声。幻聴なんかじゃない、暖かい声が聞こえる。
(大丈夫……まだいける。頑張って……)
どこまでも優しくて、どこまでも綺麗な声。
自然と、目には涙がたまった。床に置かれていた刀に、手をかける。すぐさまその刀身が気で覆われる。
先ほどまでの自分の考えを思い起こし、軽く苦笑。――危うく、お嬢様に軽蔑されるところだ。
刹那は立ち上がると、ゆっくりと、柱から廊下へと歩き出した。
突然柱から姿を現した刹那に、兵士たちは銃を向ける。今彼女との間を隔てる遮蔽物はどこにも無い。
引き金を引けば、すぐにでも目の前の少女をミンチに変えるコトだって出来る。
それなのに、誰も引き金を引かなかった。異常なまでに、廊下は静まり返り、少女の廊下を歩く靴音が、やけに大きく響く。
やがてそれもやんだ。少女はちょうど自分たちの真正面に立つと、体ごとこちらに向ける。
何が起こったのかはわからないが、少女の様子は、つい先ほどまでとは明らかに違っていた。何が違うのかは解らないが、あえて言うならばその周りを取り囲む空気というか、雰囲気のようなものが。
誰もが額に冷たい汗を感じ始めた中、刹那が突然両手を広げた。そして目を瞑る。
その状態で固まったかと思うと、次の瞬間、兵士たちの表情が一変した。
両手を広げた刹那の背中から、純白に輝く翼が、その両手と同じように左右に大きく広がる。何枚かの羽が、周りを舞った。
その顔は空へ向けられていた(本来ここでは天井というべきなのかもしれないが、どうしてもその言葉はふさわしくないと思った)。
対峙する兵士たちは、しばし驚くことも忘れ、その姿に見とれた。
その姿は異様ではあるが、確かな神々しさをかもし出している。陳腐な表現をすれば、天使だとか、神だとか、そういうものを連想する光景。
刹那の目が開かれ、目の前に並ぶ兵士たちへと向けられる。
力強く輝く瞳で兵士たちを見つめ、刀を構えた。
「我は京都に古くより伝わる神鳴流をその手に駆る者。我が主君にして無二の友であった近衛木乃香嬢の命を、願いを、この剣に懸ける。」
目を瞑って小さく呟いた。
「死ぬためにじゃない、生きるために。未来のために、私は剣を振るう。」
兵士たちはその刹那の様子にしり込みしていたが、やがてその中の一人が痺れを切らして引き金を引いた。
甲高い銃声と共に、刹那が目を開け、その銃弾を弾いた。
「見ていてください、お嬢様。」
それを開戦の合図に、再び怒号と銃声が響く。刹那が、駆け出した。
83.意志は力となる
マシンガンほどの連続した音ではないが、その代わり音はかなり大きく、そして重い。
一発撃つごとに空気がビリビリと音を立てるようだった。
廊下の曲がり角を神楽坂明日菜(番号8番)が駆け抜けてくる。しきりに後ろを気にしながら直線を走っていた。
少し遅れて、一人の兵士が明日菜を追いかけて姿を現す。その手にはあまりにも巨大なライフルが握られていた。
肩口にストックを当て、銃身につけられたスコープを覗く。ある程度照準をつけると、迷うことなく引き金を引いた。
轟音が鳴り響くと同時に、銃口から凄まじい量の火花とガスが噴出し、それに乗って大きな鉛球が撃ち出される。
ほぼ同時に、明日菜は横に飛んでいた。弾丸は誰もいない空間を通り抜けていき、はるか廊下の先で壁を貫いた。
その様子にぞっとしながら、何とか上体を起こすと、少し遠くでボルトを引き戻す音が聞こえた。
音のした方に、ゆっくりと目を向ける。男は巨大なライフルを、すでにこちらに向け終えていた。
男はそのままの状態で明日菜に歩み寄ってくる。
「どうした?もう終わりか?残念だなぁもう少し粘ってくれると持ってたんだが所詮は中学生か?ならばもう貴様に用はないなぁ!」
好き勝手わめく男。さきほどまでかろうじて匂わせていた理性は完全に消え去り、狂気の部分がやけに強調されたように見える。
明日菜はなんとか身体を起こして逃げることは出来ないかと思案したが、どうやっても自分は後手に回ってしまう。
いくら急いでも男がいち早く引き金を引くだろう。
絶対絶命であった。
男の狂気じみた目が明日菜を捉えている。どこまでも嬉しそうに、引き金を絞っていく。
そんな時、くぐもった爆発音が響き、同時に校舎内が揺れた。
「うお!」
油断していた男が体勢を崩し、数歩後ろへ下がる。
重いライフルが男の体勢をさらに降り回す。絶好の隙が出来た。
明日菜は急いで立ち上がると、一旦距離をとろうと走り出す。揺れはすでにやんでいた。
「貴様ぁ!」
男が慌ててライフルを構えなおすが、それと同時に明日菜は振り返って拳銃を乱射した。
手足くらいには当たってくれたほうが嬉しかったが、とりあえずは牽制である。
思惑通りに男が身を縮めて顔を背け動きを止めた。その隙に一番はなれたところにある教室に駆け込んだ。
入ってすぐに壁に寄りかかり、その場に座り込む。荒い息を無理やり整えて、息を潜めた。
手元にある銃を見る。先ほど乱射したときに弾が切れてスライドが後退しきっている。
明日菜は服のあちこちを探って代えのマガジンを探すが、どこにも何も無かった。
「もうっ!」
悪態をつくと共に、何の役にも立たなくなった鉄の塊を教室に向けて投げる。遠くで鈍い音がして地面に落ちた。
教室の窓から見える廊下の様子を眺めると、ライフルを構えた男がどんどん近づいてくる。
すぐにでもこちらまでやってきそうだった。
急いで武器になりそうなものを探すが、どこにもそんなものありはしなかった。ライフルに対抗できる武器なんてこんなところにあるほうがおかしい。
男はすぐそこまで来ていて、足音も聞こえてくるほど近くなっていた。明日菜は慌てて息を潜めていく。こうなったらやり過ごすしかない。
足音はどんどんと大きくなっていき、壁一枚隔てた自分のすぐ横まで来ていた。限界まで身を縮めて、通り過ぎるのを待つ。
心臓の音がやけにはっきり聞こえる。こめかみに冷たいものが滴るのを感じる。体が震えていることがよくわかる。
自分の身体を抱えながら、下唇をかんでうずくまる。
(怖いよ……)
先ほどまでは必死になっていたため気がまぎれていたが、今になって死の恐怖が明日菜を襲っていた。
見つかれば死ぬ。誰だって死ぬのは怖い。戦うという決意も、ただの女子中学生である明日菜には荷が重過ぎるものだったのかもしれない。
恐怖と、悔しさの板ばさみに後悔の念が混じり、目に涙をためて抱えた膝に顔をうずめた。もう、多分何も出来そうにない。
(刹那さん……龍宮さん……ネギ……本当に、ごめん…)
真っ暗な視界のすぐ端で、何かが光ったような気がした。
うずめていた顔を上げる。明るくなった視界でも、その光はよく見えた。
明日菜は光の輝いている元、自分の制服の内ポケットに手をやった。中に入っていたそれを取り出す。
「パクティオーカード……」
手の中で、それは不思議な輝きを放っていた。
かなり強い光のはずなのに、なぜかちっともまぶしくない。柔らかくて、暖かい光りだった。
「なんで……」
その光は、明日菜に何かを問いかけているように見える。明日菜も、それを少なからず感じ取っていた。
――本当にいいの?
声ではない。何かもっと、根本的なもの。意思というか、自分の持ちえる言語では言い表せない何かで、明日菜に問いかけてきた。
――本当に、このままでいいの?
「……」
明日菜の心が揺れた。先ほどまでずっと抑えていた気持ちが、どんどんあふれてくる。もう恐怖心なんかでは押さえていられないほど。
自分に問いかけてくるその光は、同時に自分に勇気も与えてくれているような気がした。
「……嫌。」
明日菜が小さく呟く。
「このまま終わるのだけは……絶対に嫌!」
それが明日菜の本心だった。死ぬのは嫌だったし、絶対に生き残るという気持ちがあった。確かにあったのだ。
そのため、生き残ることを第一に考えすぎ、死の恐怖に怯えてここでうずくまっていた。
だが、頭の中に残る数々の光景が、明日菜にそれを許さなかった。大好きな友達。自分を守って死んでいった親友。
そんな時、すぐ傍らにいた明日菜はいつも無力だった。何も出来ないまま、ただ友が死んでいくのを黙ってみていることしか出来なかった。
もし、今ここで戦いを放棄したら。本当に、自分は何も出来ないままで終わってしまう。
――そんなのは、絶対に嫌!!
明日菜は立ち上がると、廊下へと続く扉に手をかける。手には光り輝く魔法のカード。そこには勇気の文字と、鈴をつけた傷付いた戦士が描かれている。
ガララッ!
廊下を銃を構えた状態で慎重に進んでいたとき、突然後ろから物音が聞こえる。
慌てて振り返り、そちらに銃を向ける。スコープ越しにその場所を睨み付ける。
教室の扉が横に開いており、そこから少し遅れて少女が歩いて出てくる。
「そこにいたのかい?探したぜぇ……」
乾いた唇を舌なめずりで濡らし、しっかりとスコープに少女を捕らえる。そんなことは意に介していないかのように、随分としっかりした足取りで廊下の中央へと立つ。
その様子がどうもついさっき見た少女と全くかぶらないことに男は眉をひそめるが、そこにいるのは明らかに先ほどまで自分が追い立てていた少女そのものだ。
もう逃げる様子も無く、まっすぐに自分を見据えている。
「鬼ごっこはおしまいかな?かくれんぼかな?」
軽口まじりにしゃべりかけてみるが、相手は全く返事を返さない。じっとこちらを睨みつけている。
「なんだよ、今度は早撃ちでもやろうってのか?」
男がそう呟くと同時に、明日菜はゆっくりと両手を持ち上げた。右手の中にはカード。
その右手をちょうど頭の上辺り、そして左手はそれより少し前方下につけ、その手は軽くグーの形で開かれている。
剣道でいう大上段の構えである。もちろん明日菜の手にはカード以外何も握られていない。
男の表情は怪訝を極めた。
「おいおい、どうしたんだ?まさか恐怖に当てられて狂っちまったんじゃねぇだろうな?」
男は冗談交じりだったが、対する明日菜の表情が怖いほど真剣だったので口をつぐんでしまう。どうやら冗談でもなんでもないらしい。
だが男には他の可能性が考えられなかったため、結局は明日菜は気が狂ってしまったんだと頭の中で納得する。
だとしたらもう用は無い。狂ってしまった人間相手にいつまでも遊んでいられるほど自分も酔狂じゃない。
今に頭のおかしい行動でもされて鼻水涙だらだら垂らされた日にはそれこそ殺す気も失せてしまう。
男は慎重にスコープを移動させ、少女の頭に狙いをつけた。
「あばよ、お嬢ちゃん……」
引き金が絞られ、内蔵されたハンマーが下り、雷管をたたいた。
轟音とほぼ同時に、明日菜が手を振り下ろしながら叫ぶ。
「アデアット!!」
カードの光がさらに肥大化し、明日菜の手に収まりきらないほどにまで成長する。
それらは粒子となって明日菜の手の周りに収束する。
それまでカードを持っていた右手が剣の柄を握り、何もなかった空間に巨大な刀身が現れる。
まっすぐに明日菜の頭に飛んできていた弾丸は、その刀身に真っ二つにされると、ちょうど顔の真横を通り抜けて後ろへと飛び去っていく。
男は、驚愕の表情のまま固まっていた。
「何だよ……」
何が起こったのか全くわからなかった。確かに自分は、丸腰の少女に向けて銃を構え、引き金を引いた。この距離で狙いをはずすわけも無く、
弾丸は確実に少女の頭を打ち抜き、粉々にする算段だったのだ。
それがどうだ?目の前では少女は今もピンピンして立っている。顔は吹き飛ぶどころか傷一つない。
さらに、その手には先ほどまでは確かに無かった大刀を握り締めていた。
「何なんだよ……」
再び呟く。自分でも声が震えているのがわかった。
少女は何も答えず、刀身越しに見えるその目には先ほどまでとは明らかに違う、かなりの力のこもった眼差しがこちらに向けられていた。
「何なんだよお前はよぉー!!」
男はたまらずライフルのボルトを握り、前後させて弾丸を薬室に送り込む。再び照準を合わせ、引き金を引いた。
弾丸が撃ち出される頃には、明日菜はすでにそこにいなかった。弾丸は何もないところを飛んで行き、男はそれを唖然として見送る。
その視線をすぐ横に向けると、そこに明日菜はいた。
自分のすぐ真横で、その巨大な剣をこちらに向けて高々と振り上げていた。だめだ、避けきれない。
(死ん……)
死んだ、と頭の中で思うよりもさらに早く、その大刀が振り下ろされた。
明日菜の腕の力とそれそのものの重さが加わった大刀はまっすぐに振り下ろされ、男の持つ巨大なライフルを両断した。
男がそれまで両手で握っていたライフルは、両手それぞれが一つずつ握るスクラップに変わる。
殺されたと頭の中で思っていた兵士はいまだに何が起こったのかわからないといった様子で立ち尽くす。
「アベアット」
そのすぐ横で明日菜が呟き、それと同時に大刀が再び光に包まれ、そして消えた。
右手にはまたカードを握りしめ、男の正面に立つ。一度大きく息を吸って、
「あんたはこっち!!」
呆けている男の股間を、思いっきり蹴り上げた。
「だほぉっ!」
思いもよらない激痛が突然自分の股間に襲い、男が考える間もなく脳が意識をシャットダウンする。
目がぐるんと後ろに周り、白目をむいてその場に崩れ落ちる。
股間を押さえて泡を吹きながら、腰を浮かせて倒れているなんとも情けない姿の兵士を見下ろし、明日菜は肩で息をしながら呟く。
「本当なら、これぐらいじゃ済まないんだからね!!」
吐き捨てると、それでもどこか満足そうな、吹っ切れた顔になり、明日菜はきびすを返して走り出した。
84.すべての悲劇に決着を
目の前に巨大な力。それを駆るは満身創痍の少年。
対するはそれに比べれば小さな力。駆るは式紙の女性。
太陽はさらに沈んで行き、半分ほど地平線の中へと消えている。もう少し経てば完全に沈み、あたりを夜の闇が包むことになる。
赤い光に照らされた屋上で、二人は対峙していた。
決着のときは、もうすぐそこだった。
「くそっ……」
千草は目の前の少年を睨みつけている。その額には冷や汗が流れていて、その原因は目の前の少年であった。
ネギ・スプリングフィールドは、その足取りこそおぼつかないが、その周りを取り囲む空気が明らかに違う。
とてつもない力がネギの周りに集まっており、その余波だけで風が巻き起こる。修学旅行で見たときより、さらに大きな力。明らかに自分をしのいでいた。
「これで……最後…」
「くそっ……」
千草はさっきと同じ悪態を呟くと、ネギに向かって突撃した。ありったけの力を右手に込めて、地面を蹴って走り出す。
ネギが、その千草の動きにくらべればかなり緩慢な動作で、それでもしっかりと構えを取った。
右半身を後ろへもって行き、左腕を軽く前へ伸ばす。右手はしっかりと握られていた。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……」
目をつぶり、小さな声で呟く。ネギの周りの魔力が、収束していくのがわかる。
そんな時、ネギの顔のすぐとなりに、光輝く球体が一つ、出現する。それは何をするでもなくその位置で浮いていた。
さらに見ると、反対側にも同じような光りの球が。さらにその下にもう一つ生まれ、また対面にもう一つ。
千草が迫ってくる前で、ネギの周りに光球が次々と生まれていった。その数は数十を数えるほどになる。
それらすべてがネギの周りを取り囲み、さん然と光り輝いていた。
「ああああああああああああ!!!」
もはや千草は止まるつもりは無い。あれがどれだけ危険なものかも十分承知済みだったが、それでももう止まることは出来なかった。
目の前までせまり、右腕をネギめがけて突き出そうとしたとき、
光り輝く少年の目が見開いた。
同時に、周りに浮いていた光球が、すべて右腕へと集まっていく。一つずつ、次々と右腕の中へと吸収されていった。
そのたびに右腕は輝きを増し、そこに力強い魔力を従える。すべての光が右腕に集まった瞬間、
「やあああああああああああ!!!」
ネギは渾身の右拳を千草に放った。
なんとなく、ネギは思った。……今この場所に、正義も悪もどこにも無いってコト……一方的な被害者も加害者もここにはいなくて、皆同じくらい苦しんで、まわりを傷つけてる……。
だからこそ、こんな下らない争いはここで終わりにするべきなんだ……僕たちが最後にならなくちゃいけないんだって、そう思った……
千草の右拳はネギの頬を軽くかすっただけだった。これは完全に運がよかったとしか言いようが無い。
恐らくは最後の最後でネギの気迫に巻け、千草が自分からはずしたのだろうと思われる。今では最早どうでもいいが。
ネギの右拳は、そのすべての魔力を内包したかのような渾身の右ストレートは、千草の腹部に完璧に入った。
その威力は、魔力で障壁を作った程度では到底防ぎきれるものではなかった。千草の身体は吹き飛び、地面と平行に飛んでいく。
その先に在った貯水タンクに千草は激突し、落下してその場に倒れた。
ネギはしばらく拳を伸ばした形で固まっていたが、こちらも少し時間を置いた後、その場に静かに倒れた。
85.終幕
「銃声が止んだな……」
龍宮真名(番号18番)が校舎を眺めて言った。
その言葉どおり、中学校からは銃声が聞こえなくなり、静寂に包まれることになった。
それがいいことなのか悪いことなのかはわからないが。
「勝ったのだろうな……おそらく。」
それでも龍宮は三人が勝ったと信じていた。無根拠ではあるが、自信はある。
「まぁ、どちらにせよ私に手を貸せることはもう何もない……」
すべて終わったのなら戻ってくるだろう。万一そうじゃないとしても、残念ながら今の自分に出来ることはもう何もない。
龍宮は手に持っていた、すでに弾の切れた銃を力なくその手から離す。
「私は……先に戻っている…」
息切れ気味に呟くと、中学校から背を向け、肩を押さえながらふらふらの足取りで校庭を歩く。
撃ち殺された兵士たちの死体が累々と横たわり、血と火薬の臭いでむせ返りそうな場所を歩き、じきに森に消えた。
「静かになったわね……」
校舎内の廊下で神楽坂明日菜(番号8番)が周りを見渡して言った。
少し離れた場所では、未だに兵士が股間を押さえたままうずくまって気絶している。
あたりから銃声が徐々に消えていき、ついさっき完全に消えた。
自分はまだ生きている。だが他の皆がどうなったのかがわからない。明日菜はとにかくみんなの安否を確かめるために走り出した。
と、階段を駆け上がってくる足音が聞こえ、一度足を止めた。
ちょうど目の前にある曲がり角の先から足音は聞こえ、それがだんだんと近くなっていく。
明日菜は自然と手に持っているカードを握り締めていた。じっと睨む曲がり角から、その人物が飛び出してくる。
「刹那さん!」
「明日菜さん!?」
飛び出してきた桜咲刹那(番号15番)が驚いたように明日菜を呼んだ。
明日菜がそのそばへと駆け寄っていく。
「無事だったのね!」
「はい、大丈夫です。」
見たところ、細かな擦り傷などはあるが、どれも軽症だった。言葉どおり、刹那は大丈夫そうだ。
下の階では、刹那と戦っていた兵士たちがそろってその場に倒れていた。ある人物は峰打ちで気絶し、ある人物は足を軽く切られて行動不能になっている。
「それよりネギ先生のところへ!」
刹那に促され、明日菜がうなずく。二人は屋上に続く階段へ向かった。
ただ一つだけの、上にのぼる階段を見つける。二人はすぐにでもそれを駆け上がる。
質素なアルミの扉を開ければ、そこには赤い光に彩られたアスファルトが見えた。
横から照りつける日の光に少し目を細めながら、二人は屋上を見渡す。
遮蔽物が何もないため隅から隅まで見渡すのも容易だった。すぐに凹んだ貯水タンクと、その脇に倒れる女性、そして離れたところで同じように倒れる少年を見つけた。
「ネギ!!」
明日菜が叫び、倒れているネギのもとへ駆け寄る。
身体を抱き起こし、必死に名前を呼んだ。
「ネギ、ネギ!!しっかりしなさいよ、目ぇ開けなさいよ!!」
「……あ……明日菜さん……」
その目が、薄く開かれる。
「ネギ!?大丈夫!?しっかりして!」
明日菜がネギの身体を揺すりながらしゃべりかける。少し顔に青みがかったネギの顔が、少しだけ和らぐ感じがした。
刹那はそんな二人を見ていた視線をゆっくりと移動させていく。つぶれた貯水タンクの傍らに倒れている、千草に目をやった。
倒れているが、その旨は上下しているし、何より切れ長の目がこちらを睨みつけている。刹那がその視線を睨み返しながら、ゆっくりと歩み寄る。
「貴様……」
すぐ足元に千草が見えるぐらいに近づく。千草は特に抵抗するでもなく、刹那を見上げていた。
その顔に、自嘲の笑みを浮かべている。
「アバラが折れとる……体が言うこと聞かん……殺すなら今やで……。」
「……そうだな。」
刹那は腰に挿していた刀に手をかけた。ゆっくりとそれを引き抜いていく。刀身自体はボロボロだったが、神鳴流の剣士が気を通せばそれは鋭利な刃物となる。
その刃先を一度千草に向け、そして大きく真上に振り上げる。覚悟を決めたように目を閉じた。
振り上げられた刀身は沈みかけた太陽に照らされて鈍く光る。それをただ黙って見る千草。
刀身は、まっすぐに振り下ろされる。
「待ってください……」
わずかに耳に届いた小さな声。刹那が刀を止めた。千草の首筋数ミリ手前で止まる。
刹那はもちろん、千草も驚いたように目を開いていた。
背後を振り向いてみると、明日菜が抱き起こしていたネギが、こちらを向いている。
「刹那さん……ダメです……止めてください…」
「ネギ先生……」
「もう、こんなことする必要ないんです……誰も、苦しむ必要なんて無いんです……」
「でも!!」
思わず刹那が声を荒げて反論した。
「この女は、自分の復讐のために、何の罪も無いクラスメイトたちを殺し合わせたんです!」
「……もう、千草さんは十分苦しみました。もちろん僕たちも苦しみました。……だから、こんなことはもうここで終わりにしないと……」
「え?」
刹那が聞き返す。ネギは笑って答えた。
「恨みだとか憎しみだとかは、自分だけじゃなく誰かを巻き込んで、際限なく人を苦しめる。だから、もうここで終わりに……僕で終わりに……」
そこでネギは喀血。明日菜が思わず顔をしかめた。
「ネギ!」
「明日菜さん……刹那さん……お願いがあります……」
「え?」
ネギは顔を上げると、自分を心配そうに眺める明日菜と刹那を同時に眺め、笑った。
「もう、誰も恨まないで……そして、生きてください……僕のことも、忘れてくれて結構ですから……」
「何……言ってんのよ…」
言っていることが、最初分からなかった。ネギの口から滴る血と、そしてその笑顔を見て、なんとなく分かったときには、目から涙がこぼれていた。
「僕……明日菜さんに会えて……刹那さんに会えて……龍宮さんや、のどかさん、このかさんや……3−Aの皆さんに会えてよかった……
本当に嬉しかった……幸せでした。……ありがとう……ござい……ます。」
そう言って、ネギは目を閉じた。
明日菜はもはや身体を揺する気にもならず、ただそこに死体を横たわせることしかできなかった。
「ふざけないでよ……」
それでも納得はできない。悪態をついてやる。どうした、返事を返せ。いつもみたいに、困った様子で笑いなさいよ……
「明日菜さん……」
「フフフ……ハハハハハハ!!」
その笑い声は刹那の背後から聞こえた。振り向くと、仰向けになった千草が声を上げて笑っていた。
「どこまでも……甘い連中ばっかりで……おめでたいのぉ…」
「貴様ぁぁぁ!!!」
思わず刀を握る手に力がこもる。ネギの願いを反故にするところだった。
すんでのところで止まった切っ先。刹那が、やりきれない思いで千草を睨み付ける。千草もそんな刹那を睨み返し、右手を懐に入れてあるものを取り出す。
直径五センチほどの四角形のプレートのようだった。真ん中に一つだけボタンがついている。千草が迷わずそれを押した。
少し遅れて、地面が揺れだす。いや、揺れているのは中学校だった。
「何をした!」
「最終手段……や。すべてを巻き込んで、何もかもを破壊する。お前等も道連れにしてやるんや……」
刹那は一度千草を睨み、何事か呟いたが、すぐに踵を返して明日菜のもとへと走る。
座り込んでいる明日菜の手を引くと、屋上の端まで走り出した。
千草は黙ってそれを見送った。
視線を動かせば、目の前では倒れている少年の死体。なぜかその顔は満足げだった。
「憎しみは……自分で終わりに……か。」
小さく呟く。生意気なガキが、分かったような台詞をはいてくれる。それが出来れば苦労はしなかった。
両親を失ったとき、少しでもそういう気持ちがあったなら……もし、あったなら……
「うちもそういう風に思うことが出来たら……ちょっとは違う道、歩んどったんやろか……」
過ぎたことだと分かっていても思ってしまう。
もっと長生きできたよ。もっと楽に生きれたよ。
きっと、もっと幸せになれたよ。
思った頃、屋上が瓦解し、千草は瓦礫の中に埋もれていった。
「う……うぅ……」
暗くなり始めた、それでもまだ赤い空の上を、羽を生やした少女が飛び続ける。
その手に明日菜が抱かれていて、泣きじゃくっていた。涙をいくらぬぐってもそのそばから流れ出てくる。止めようが無かった。
「何よ……また一人で突っ走って……勝手に死んで……」
明日菜の渾身の叫び声は、そのどこまでも広い空に解けて消えた。
「このバカネギー!!!」
ゲーム終了
生存者
番号2番 明石裕奈 8番 神楽坂明日菜
15番 桜咲刹那 18番 龍宮真名
担任、ネギ・スプリングフィールド………死亡。
ここからはエピローグです。
もうしばし、お付き合いください。
86.すべて終わって
龍宮は森の中を歩いていた。
まっすぐに明石裕奈(番号2番)のいる建物に戻ってもよかったが、それ以外にも龍宮には気になることがあった。
それを探し出すために、森の中を歩き回る。
見つかるまで探す覚悟だったが、それは意外にも早く見つかった。
森の中の、不思議と木々が生えていない空けた空間。
そこに、探し物があった。
「こんなところで何をしている?」
龍宮が言う。
「もうすべて終わった……終わったんだ。」
誰かに問いかけているようだった。
「なのにお前はこんなところで何をしている!?」
拳を震わせて、半ば叫ぶように問いかける。こらえられなくなって、その人物をつかみ挙げる。
「答えろ!楓ぇ!!!!」
長瀬楓(番号20番)が、龍宮の問いに答えることは無かった。
その後、生き残った四人は南の入り江にあるタカミチが残してくれた船の元へと向かった。
そこには救難信号を発信する装置があり、それを使って助けを呼んだ。
すぐに迎えは来た。麻帆良から送られてきた船だった。
四人を保護した船はすぐに島を離れ、列島へと戻っていく。悪夢はそこですべて終わった。
――そして数日がたった。
麻帆良学園の広い廊下を一人の女子生徒が歩いている。
長い黒髪をなびかせながら、褐色の女子生徒は手に封筒を持って廊下を歩く。じきに目的の場所に着いたのか、その足を止めた。
他の扉と比べても幾分大きな、両開きの扉。脇にあるプレートには「学園長室」と書いてある。
右手の甲で数回扉をノックする。年老いた老人の声が聞こえ、その生徒は扉を開けた。
広い空間がそこにはあって、対面するその一番奥にある机に、一人の老人が座っている。
「よく来たのぉ、龍宮くん。」
老人が、女子生徒、龍宮に声をかけた。龍宮はどうも、と短く挨拶をして、老人、この学園の学園長である、近衛近衛門の元へと歩み寄った。
世間話も何もなく、学園長用の仰々しい机の上に、手に持った封筒を黙って差し出す。早速本題に入るつもりだった。
近衛門はその封筒を黙って見つめている。
机に表にされている部分には筆ペンで綺麗に「退学届」と書いてある。
近衛門は別段驚く様子は見せず、ただ少し悲しそうな顔をして龍宮に顔を向けた。
「本当にいいのかね?」
「構いません。」
龍宮は即答だった。迷い一つなく、はっきりと言ってのけた。
近衛門はため息一つついて間をおいて、再び口を開く。
「また戦場に身を戻す……か。もう戦わずともいいというのに……」
「覚悟は出来ていますよ。」
またしても龍宮は即答だった。
龍宮が退学届けを出した理由。それは、学園を止め、再びNGO団体「四音階の組み鈴」に戻るためだった。
それはある意味では龍宮らしい選択ではあったのかもしれない。それでも、近衛門としてはそれを手放しで喜ぶことはできなかった。
だからこそ食い下がるように最後に確認してみたのだが、やはり本人の意思は固く、自分ではどうしようもないことがよく分かった。
「それならば、せめて皆に一度会ってからでも……」
「会ったところでどうにかなるものではないし……あいつらはあいつらでまだ色々と忙しいみたいですからね。
申し訳ありませんが学園長からよろしく伝えて置いてください。」
「それはまぁかまわんが……」
「ありがとうございます。」
龍宮はそれだけ言うと踵を返して歩き出す。これ以上話を続ける気はないようだ。
閉めた扉にもう一度手をかけ、
「そうだ……」
思いたったように、足を止めた。振り返らず、学園長に呼びかける。
「今回の事件で政府側の協力者……もはや首謀者といって差し支えないでしょうが……何か手がかりは?」
「ん?……フム。それもなかなか難しい。あの島にももう証拠らしい証拠も見つかりはしなかったからのぉ……これはなかなか骨が折れそうじゃわい。」
「そうですか……」
龍宮が呟く。
四人が島から脱出した後、彼女等の証言によってバトルロワイアルプロジェクトという存在が明るみになり、それを提唱していたグループを見つけ出す運動が開始された。
警察機関にも協力してもらい、全力をもって捜査に当たっているが、なかなか持って尻尾を見せないのが現状だった。
「まぁ心配はいらんよ。少しずつだが確実に事態は好転していっている。彼奴らが捕まるのも時間の問題じゃて。」
「そうですか……」
もう一度、同じ返事を龍宮は返す。その後、
「もう一つ。」
「ん?」
「これはまぁ、個人的な意見なんですが……」
迷うように前置きをした後、口を開いた。
「学園長としての使命に燃えるのは結構ですが……もう少し個人的になってもいいと思いますよ。
今回の事件、そうじゃなくても思うところが沢山あるでしょうから。……もっと自分に正直になってもいいと思います。」
そこまで一気に言う。少し生意気な物言いだったかなと柄にも無いことを考えた後、視線だけ後ろに向けて近衛門の様子を伺う。
最初きょとんとしていたような顔は、思っていたほど悲しい顔もせず、やはり穏やかに笑い出した。
「フォっフォっフォ……まさかそんなことを言われるとはのぉ……少々意外じゃったわ。」
「……すみません。」
「いや、構わんよ。そうじゃな、確かにその通りかも知れんな。……じゃが、まだ全てが終わったわけではないのでな。君たちが苦しんでいる間、何も出来なかった分、
今はわし等は頑張らねばならんのじゃよ。自分のことを考えるのは、その後と決めておる。」
「……なるほど。」
龍宮はそれ以上何も言わず、こんどこそ失礼しますといって部屋を出て行く。廊下から乾いた足音が聞こえ、次第に小さくなって消えた。
それが分かった後、近衛門は他に回りに誰もいないことを確認した後、頬から一粒の涙を流した。
「木乃香……」
震える声でただ最愛の孫娘の名を呟いた後、その場に俯いたまましばらく動かなかった。
学生寮に戻ってきた龍宮は、まっすぐに自分の部屋へと歩を進める。鍵はかけていなかったのでノブを回すとすぐに扉は開いた。
昼間だがカーテンを閉め切っている部屋は薄暗い。その中心に、一つだけのボストンバック。出発の旅支度だった。
基本的に向こうでもある程度のものはそろえられるので、荷物も必要最低限ですんだ。荷物に入っているのは、向こうに着くまでの旅の着替えと、そして麻帆良学園でのちょっとした思い出と言ったところ。
カバンの紐に手をかけ、ゆっくりと持ち上げようとして、
『夕映とハルナと……私の分まで、生きてください』
その手が止まった。不意に頭に浮かんだ言葉によって。
つかんだ紐につながっている荷物を眺めながら、あのときの光景を思い出した。
思わず手を離してしまった自分、小さくなっていく宮崎のどか。いくら叫んでも手は届かない。結局、守れなかった。
そのときののどかの言葉と、今の自分とを対比して、薄く笑みを作った。自嘲とも取れるが、ちょっと違う気がした。
龍宮は呟く。
「悪いな……“ただ生きる”のは私の性に合わないんだ。」
もう遠い場所に行ってしまったのどかに向けて、呟く。
「弱いままでいるつもりも、さらさらない。」
助かった命を、また自ら戦いの場に持ち出そうとしている自分を許してもらいたい。そんな気持ちがこもっていた。
きっと生きてみせる。太く、長く。それこそ三人分でも何十人でも背負って、それでも余りある一生を送ってやる。
そのために、龍宮は扉に手をかけ、ノブを回す。
龍宮は龍宮なりに、精一杯生き続けるために歩き出した。
87.その手に残るもの
龍宮が麻帆良を発ったという話を明日菜が聞いたのは、それから三日後のことだった。
その時一緒に刹那もいたが、やはり何も知らなかったらしく唖然とした表情でしばらく立ち尽くしていた。
なんとなく、置いてけぼりを食らったみたいだった。
思えば自分はどれもこれもについて遅れて真実を知らされる節がある。
楓が超と刺し違えて死んでしまっていたことも、島から出る直前になって龍宮に問い詰めて(何も知らせずに迎えに来たヘリに乗ろうとしていたのを捕まえたら渋々教えてくれた)、
高畑先生が自分たちを救うためにこれまた命を失っていたのを知ったのも島から帰ってきた次の日だった。(これは刹那さんは知っていたらしい。教えてくれてもよかったのに)
どうにもこういう手合いはこういったことに関しては気が回らないことがおおい。
辛いことは知らない方がいいとでも思っているのだろうか。どうせ後になれば全て分かってしまうのに。
むしろそのときに知らされていなかっただけショックは大きい。
今回の龍宮にしても、本人はきっと取り残された人間のことなんて全く考えていないに違いない。
後に残る人たちがどんな気持ちになるかを本人の前で小一時間説教してやりたい衝動に駆られるが、すぐに詮無いことだと思って気を静める。
今更そんなことを思ったところで本人はもうずっと遠くに行ってしまったのだから、意味なんてない。
それに、不器用ながらそれが彼女なりの優しさだということに、明日菜も十分気づいている。
だからこそ、龍宮の行動にも呆れはあっても怒りはわいてこない。そういう人なんだと、そう思っている。
「さて、と。」
腕時計を眺めながら、一人呟く。時計の針は、短い針がちょうど数字の3に指しかかろうというところ。長い針は数字の10を指している。
それを確認した後、明日菜はそれまで座っていた学生寮から外へ出た。陽射しは結構強かったが、不快ではない。
湿気もあまりなく、風も穏やかだが吹いているためむしろ比較的過ごしやすい。
そんな中、それなりににぎわう学園都市の大通りを私服で駆け抜ける。
今日はこれから予定があった。
しばらく走るとさすがに体が熱を持ち、額からは汗が玉となって滴り落ちる。そろそろそれが不快にも感じれるようになった頃、目的の建物が見えてきた。
今は開かれている門の脇に、なにやら難しい漢字の羅列の後に「総合病院」と書かれている。(明日菜にはそこしか読めない)。
ほぼ真っ白といっても差し支えない大き目の施設。コの字型の外見は一見すると学校に見えなくもなかったりする。
そのせいか、他にも都市内にはいろんな施設があるのだが、ここだけは「学園病院」と、なぜか“学園”が枕詞に使われる。
とにかく、そんな学園病院に明日菜は足を踏み入れた。
自動ドアを一歩くぐれば、とたんにひんやりとした空気が明日菜の体を撫で回す。すこし汗ばんだ肌にはかなり心地いい。
受付は平日の昼間らしくなかなか閑散としていて、お年寄りや家族の人たちの姿が目立った。
明日菜は迷うことなく受付へと歩み寄ると、面会であることを伝え、その人物の病室を聞いた。実はここに来るのは今日がはじめてだったりする。
受付の看護婦に案内された病室は、病院の3階の、コの字型のちょうど真ん中ほどにある病室だった。
すぐにそれと分かる部屋を見つけ出す。他と同じような質素な扉があって、その脇には中にいる人物を示すネームプレート。
相部屋なら数人分のネームプレートが貼ってあるのだが、ここは一人部屋らしく一枚だけしか貼っていない。
そしてそこに書かれている名前は、「明石裕奈」。
明日菜は扉のノブに手をかけた。
プラスチックの扉は思ったよりも軽く、簡単に開いた。扉を開ければ、部屋の中の様子が目に飛び込んでくる。
相部屋にするには狭すぎるが、一人部屋だと幾分広いその空間には、テレビが一つと、面会者用の椅子が隅にいくつかつまれている。
そして傍らに点滴台が置かれた真っ白なベッド。そこに、裕奈がいた。
裕奈はベッドから身体を起こして、窓から外を眺めているようだった。
明日菜がもう一歩部屋の中へと進入し、後ろ手にドアを閉めたところで、その音に反応してこちらを向く。すぐに明日菜の姿を確認した。
「アスナ……」
「や。」
とりあえず、それだけ返す。そしてベッドの脇へと歩み寄った。
近くに一つだけあった椅子を寄せてそこに腰をかけると、それまで手に持っていたバスケットを持ち上げて裕奈に見せる。
ここに来る途中で買った、果物の詰め合わせ。お見舞いとしてはかなりベタな品物だ。
「今日は用事があって来れなかったけど、刹那さんの分も入ってるんだ。また食べて。」
そう言って、枕元にある小さな引き出しつきの棚の上にバスケットを置いた。両手が自由になった明日菜は、だからといって何をするでもなく膝に置き、
裕奈に向き合う。
「さっき担当の先生に聞いたんだけどね、裕奈の傷はもうほとんどふさがってきてるから、もうすぐ退院できるんだって!」
「そっか……」
裕奈は至極静かに返事を返していた。
その後も明日菜は、龍宮が一身上の都合で麻帆良を発ったことなど、病院の外の出来事を次々に伝えていった。
そのたびに裕奈が、静かにだがしっかりと返事を返す。ただその表情は終始浮かなかったが。
「……ゆーな、大丈夫?」
会話の最後に、明日菜が裕奈の顔を覗き込んで言った。裕奈が少し考えた後、
「大丈夫じゃ……ないかな。」
正直に話す。
「正直……生き残るってコトがこんなに辛いことだと思ってなかった。……あれだけ帰りたいって思ったのにね。やっぱり、皆がいないと……」
ここで裕奈が言う皆というのは、言うまでもなく和泉亜子や大河内アキラや佐々木まき絵のことだろう。
誰もを守ろうと心に決めて、その誰もを守ることが出来なかった。そのくせ、自分だけはおめおめと生き残ってしまった。
裕奈としては、これほど辛いこともないだろうと思った。
「でもね……だからっていつまでも泣いてるわけにもいかないじゃん?だから、出来るだけ笑っていようと思ってるんだけど……」
そう言うと、裕奈は明日菜へと顔を向けて、笑顔を作る。
口元は引きつっているようにも見えるし、目を細めてはいるが眉は潜んでいて、どうにも楽しそうな笑顔ではない。
ひとしきり笑顔で明日菜を見つめた後、目を少しあけた。
「ね、変でしょ?」
「うん……」
明日菜は正直な感想を漏らした。そして、でも、と付け加えた。
「それでいいと思うよ。」
「……」
「今はとにかくさ、無理やりでも、嘘でもいいから笑ってればいい。そうしてれば、そのうちきっと心のそこから笑えるようになるよ。」
明日菜は席を立ち、さらに高い位置から裕奈を見下ろす形になる。
「もうそろそろ、行くね。」
「……うん。」
「また、会いに来るから。」
「うん。」
裕奈がうなずいた。
「そのときまでには、もうちょっとちゃんと笑えるようになっておくね。」
「オッケー。約束。」
病院を出た明日菜は、再び太陽の光に身をさらした。
ただ、来たときよりは太陽は低い位置にあるため、若干ではあるが陽射しは弱くなっている。
明日菜は腕時計を見る。寮を出てからちょうど一時間といったところか。
さてこれからどうしよう。今日の予定はこれで終わりだ。何もすることがない。
寮に戻ったところで暇だろう。どうせ、もうあの部屋には自分以外誰もいない。
刹那のところへ行こうとも思ったが、彼女は彼女で忙しいので出来るだけ邪魔はしたくない。
(……ま、いいか。適当にそこらブラブラしてよ。)
適当に店に入って、適当に何か買って帰れば、時間もつぶれるだろう。明日菜は足を前に投げて歩き出した。
ふと、その足が止まる。明日菜の視線が、横へと移動した。
ある意味では都市内でももっとも見慣れた場所かもしれない。低い階段の先に在る、広い昇降口。麻帆良学園女子中等部の校舎だった。
「……」
特に理由があったわけじゃないが、気づけば明日菜はそちらに向けて歩を進めていた。階段を上り、昇降口をくぐる。
上履きがなかったため来客用のスリッパを拝借し、廊下を歩いた。
平日ではあるが校舎内は閑散としていて、自分以外の歩く音も聞こえはしない。
適当にぶらつこうとも思っていたが、気づけば足はそこへ向かっていた。
教室の横開きのドア。その上につるされた札には「3−A」と書いてある。明日菜は扉の取っ手に手をかけた。
一瞬の躊躇の後、扉を開けた。
そこは廊下と同じく閑散としており、予想通り誰もいなかった。そして、ここに明日菜が思い描くようなにぎやかな光景が戻ることは、もうない。
明日菜は教室の扉をくぐった。まるで過ぎ去ったものを惜しむように、教室を見て回る。自分の席、木乃香の席、みんなの席。
そうやって視線を這わせていき、それがある一転で止まる。教室の窓際、一番前の席。
少し前まではそこは座らずの席とまで言われていた場所だった。少し前に騒動があって、そこの主がいることを知った。
ただ明日菜本人はそれを見たことはなかった。だが、それが今明日菜の目の前にいる。多少ぼやけているが、それでもはっきりと、長い真っ白な髪を従えた少女が見えた。
少女がこちらへと振り向き、不意に視線が交鎖する。
「あ……」
少女の声が、はっきりと聞こえた。そしてそれ以上は何もしゃべらない。重苦しい沈黙が、二人を包んだ。
何をしゃべっていいのか分からず、とりあえず何か取っ掛かりだけでもと明日菜は口から思いつくままに言葉を吐いた。
「確か……さよちゃん、だよね?」
「……はい。」
最初驚いたしぐさを見せた後、少女、相坂さよは返事を返した。
とりあえずきっかけが出来た明日菜は、このチャンスを無駄にしないためにもすかさず言葉をつないでいく。
「こうやってお互いに話するのは、初めてだよね。」
「そうですね……」
そこで会話が途切れた。結局話すことが思いつかない。再び沈黙。
明日菜が次の話題を頭の中で探っていると、今度はさよからはなしかけてきた。
「あの、明日菜さん……」
「ん?」
何気なく返事を返した明日菜に、さよは少し迷った後、こう切り出す。
「3−Aの皆さん……いなくなってしまったんですよね?」
「え……」
明日菜は一度固まった。
「何で……」
驚きのあまり、上手く言葉が出てこない。さよは少し悲しそうに苦笑して、
「私、幽霊なんですよ。」
最初は意味が分からなかったが、あぁそうか、幽霊だからか。多分学園内ならどこでも行き来できるんじゃなかろうか。だとしたら気づかれずに情報を聞き出すくらい簡単かもしれない。
妙に納得した様子の明日菜は、すぐにさよに質問の返事を返す。
「うん、そうなんだよね。」
「やっぱり、そうですか……」
学園では、3−Aの皆は課外授業の事故で死んだことになっている。バトル・ロワイアルのことは一般の生徒は誰一人として知ることはないだろう。自分たちも、決して口外しないように大人から口止めされた。
そのせいで今日学校は臨時休業。だから明日菜がここにいる。
近いうちにクラスが編成しなおされるらしい。この3−Aもまた新しい人たちでにぎわうことだろう。だが、それが前の3−Aたりえることはない。
もう、あの3−Aはどこにも無くなってしまったから。
「ごめんね……」
不意にそんな言葉が口から漏れてしまう。さよがこちらを向いて、首を横に振った。精一杯慰めてくれているような気がして、少し嬉しかった。
「私、もう行くね……」
そう言うと明日菜はきびすを返し、開いていた扉をくぐろうとする。
「あ、あの、それと!!」
突然後ろから呼び止める声。振り返ってみると、さよが自分の席から身を乗り出して立ち上がっていた。とはいえ足はないのだが。
「どうかした?」
「あの……えっと……」
勢い込んだはいいが、どうやらしゃべることに事欠いて困っているらしかった。それでもなんとか言葉を搾り出していく。
「死んだ人たちは……あの、生きてる人を、うらやましいとか、そう思うことはありますけど……決してうらんだりとか、憎んだりとかはしなくて……
とはいっても、自分以外は私も知らないんですけど……多分、皆もそうだと思うから……」
しどろもどろに言葉をつないでいくさよを、最初は明日菜も怪訝な表情で眺めていたが、すぐに彼女が何を言いたいのかわかった。
分かったとたんに、苦笑がこみ上げてくる。こらえきれず少し笑って、
「もしかして、さよちゃん、私がみんなの後を追って自殺するとか、そう思ってる?」
「あ………あの……」
返事に言いよどむあたり、どうやらあたりだったらしい。この子はどうにも考えが行動に出すぎる。それがさらにおかしくて、再び吹きだした。
すぐにそれを押さえ、
「大丈夫だよ、そんなことしないから安心して。」
「あ……はい、すみません…」
そこでさよが縮こまる。失礼なこと聞いたとでも思ったか。
「というか、まだ死ぬことは出来ないよ。」
「え?」
さよが、すくめていた肩を下ろしてきょとんとした表情にして明日菜に向ける。明日菜は続けた。
「あの島で、確かに沢山のものを失ったわ。それこそ、必死に守ろうとしたのに、どうしても手から滑り落ちていった……
でもね、そんな中でも、ちゃんと手に残ったものだってあるんだから。」
守ろうとし、そして守れなかった沢山のものの中で、その手に残ったものもある。ほんのわずかではあるけど、失ったものと同じくらい大切なもの。
もし、自分にそれを守ることができるなら。それを置いて、みんなの下へと行くわけにはいかない。
「確かに辛いけど……これだけは、もう絶対に手放すわけには行かないの。」
力強く呟く明日菜を、どこか悲しそうな目で見つめるさよ。
「強いんですね……明日菜さんは。」
「……ううん。強くなんかないよ。」
遠慮がちに、でもすばやく返事を返す。自分は、そんな強い人間なんかじゃない。皆がいたから、ここまで歩いてこれたんだと、本当に思う。
「それじゃ、本当に行くね。」
そう言うと明日菜は今度こそ、扉に手をかけてそこをくぐろうとする。
「あ、そうだ。」
思い出したように明日菜が立ち止まり、顔だけ教室に戻した。そこに座っているさよにむけて、
「また、ここに来てもいい?」
さよはその顔をすぐに笑顔に変えて、返事を返す。
「はい!もちろん!!」
それを見て、明日菜は笑って見せた。そして、視線を前に戻すと、廊下へと出て行った。
昇降口から外に出ると、もう太陽は大分沈んでいた。
思ったよりも時間は経っていたらしい。時計はもう5時を回っている。
「……帰ろっかな。」
明日菜は軽く伸びをすると、時計を見て呟いた。自分を待ってくれる人ももういない寮に向けて、歩を進めていく。
Final.旅立ち
「やっぱり刹那さんも行っちゃうんだね……」
「はい。すみません……」
早朝の駅にたたずむ二人分の影。
明日菜は、目の前で顔を伏せる刹那を、しばらくじっと眺めていた。
刹那はこれから早朝にくる電車に乗って、古巣の京都に戻るらしい。京都には、近衛木乃香の墓がある。
そこに戻って、木乃香の墓を守りながら、再び道場で剣の腕を磨くらしい。
それとなく、明日菜は覚悟していた。島から戻ってきてから、龍宮はもちろんだったが、刹那の様子も心持おかしかったような気はしていた。
だから、そんなこともあるんじゃないかと覚悟もしていた。杞憂に終わって欲しいという気持ちのほうが、強かったといえば強かったが。
「もともと、麻帆良に来たのもお嬢様の護衛が目的でしたから……」
憂いを帯びた顔で、刹那が呟く。明日菜は何も言わず、そっか、とだけ返した。
「向こうに着いて、落ち着いたら手紙頂戴。いつでもいいから。」
「……はい、必ず。」
力強く返す。それ以上言葉が続かない。電車が、ホームに入ってきた。
人の少ないホームで、ベンチに座っていたわずかな数の人たちがゆっくりと腰を上げ、その京都行きの電車へと乗り込んでいく。
早朝の空気が一陣、二人の間を駆け抜け、その後に警笛が鳴り響く。
「時間……だね。」
小さく、明日菜が呟いた。刹那にも聞こえたらしく、はい、とこれまた小さく呟く。
悲しさを紛らわすように、刹那が顔を上げると、無理やり作った笑みを浮かべて言う。
「それじゃ、明日菜さん、さよう――」
「ストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーップ!!」
最後の挨拶は、明日菜のその言葉にさえぎられる。
さらに明日菜は右手の人差し指を真上に突き出し、それを刹那の口に当てた。
思わず刹那が口をつむぐ。
「言うと思ったわ……」
大げさな動作で、右腕は突き出されたまま、下を向いた状態で静止した明日菜が苦笑しながらいった。
その後刹那の口から人差し指をどける。
「いい?刹那さん!こういうときに言うことは、そっちじゃないの!」
「……?」
意味が分からないという様子の刹那に、明日菜は体勢を整え、きちんと向き合った。
両手を後ろで組んで、しっかりと相手の目を見据えて、いった。
「また会おうね!刹那さん!」
「あ……」
満面の笑みだった。明日菜は満面の笑みで、刹那に向けてそういった。
「はいっ!」
刹那も笑った。先ほどのような無理やりな笑みではなく、心のそこからの満面の笑み。
弾みで、目の端からこらえていた涙が一粒、頬を伝った。
電車の警笛がなり終わり、扉が閉まる。ゆっくりと、電車は走り出した。
すぐにそのスピードは横に並ぶものがなくなり、レールの上を走り抜けていく。
明日菜はしばらくそれを眺め、見えなくなった後もその場に立ち尽くしていた。
同じように見送りに着ていた人たちが帰って行った後も、しばらくはそこに居た。
「ネギ……」
そこで、明日菜は呟いた。死んでいった自分の担任の名前。
「あんたさ……自分のことは忘れて、生きてくださいとか言ってたけどね……」
視線は遠くに投げたまま、言葉を続ける。
「残念だけど、あんたの言うことなんて聞いてやんないから。」
明日菜は忘れるつもりなんてハナからなかった。恨むつもりもないが、だからって忘れることなんて出来はしない。
どれもこれも、確かに辛い出来事だったけど、大切な思い出だと思うから。
死んだ人の残したものは、それがどんな悲しいことでも、背負っていこうと決めていた。
「ざまーみろ、バカネギ。」
楽しそうに呟き、満足したように一度うなずくと、明日菜は駅を後にした。
「さって、これからどうしようかな!」
人もまばらな駅前に立って、伸びをしながら周りをはばからず声を張り上げた。
そうだ、これから何をしよう。ちょっと真剣に考えてみようか。
旅行に出てみるのはどうだろう?ちょうどこれからもうしばらくは休みだろうし、ちょっと遠くに出かけてみるのも悪くない気がする。
ちょっとだけ待って、ケガの直った裕奈を連れて行ってもいい。いや、そうした方が絶対にいい。
これからの季節だと、やっぱり北の方がいいかな?涼しくなって過ごしやすい。さすがにスキーは出来ないか。
京都にも足を運ぼう。木乃香のお墓を参って、刹那さんにまた剣を教えてもらって、多分全然相手にはならないだろうけど、きっと喜んでくれる。
やりたいことは沢山ある。やれない理由はどこにも無い。
ならば答えは一つだろう。
「よーし、これから忙しくなるぞ!」
言いながら、心の中で訂正。忙しくなるんじゃない、忙しくするんだ。
なんだってやってやる。沢山やってやる。いつか年をとって、皆に会いに行ったとき、沢山話が出来るように。
明日菜は階段をおりきったところで止まる。ちょうど、色の変わったブロックが横一直線に並んでいる。
ここがスタートライン。明日菜は足をそろえてそこに立つ。
「よーい……どん!」
掛け声と共に、明日菜は走り出す。その姿は見る見る小さくなり、やがて見えなくなった。
麻帆良から離れていく電車の車内の一室で、刹那が窓から外を眺める。奥に見える山脈は大してその位置を変えはせず、手前に並ぶ建物がめまぐるしく端から端へと移動していく。
隣の開いた座席に荷物と、夕凪を置いている。車内に人影はまばらだ。
そんな中で、列車が来た方の道を眺めると、その遠くに学園がまだ見える位置にあった。
沢山の思い出が詰まった学園。大好きだったお嬢様と、短かったけど最高の時間を過ごした場所だった。
『また会おうね!刹那さん!』
刹那は窓の両端を持つと、そのまま持ち上げる。風が車内に入り込み、車輪の音がとたんに大きく聞こえる。
そこから身体を出すと、改めてきちんと学園を見る。
巨大な施設である学園も、そろそろ地平線に消えようとしている。刹那はそこに向けて手を伸ばし、そして拳を握った。
そうだ、これは別れじゃなく旅立ち。そんな時に、さようならは違う。
きっとまた出会える。いつかは分からないが、いつか必ず。絶対に。
だからこそ、私も言葉を返したのだ。約束だとか、それよりもっと高い位置にある、誓い。
刹那がその言葉を呟いてすぐ、とうとう麻帆良学園が地面の下へと消えていった。
――また、会いましょう。
end of The 11th NEGIMA BATTLE ROYAL and go to next story……
終わった……足掛け4ヶ月かかった作品、そして投下にかかった日数は約20日。
ついに私が書きたい作品を、この板に投下することが出来ました。
これまでお付き合いしてくださった皆さん、本当にありがとうございます。
楽しんでいただけたらこれ幸い。本当に。
で、ここで一つ宣言ですが、今回のこの書き込みを最後に、作者6はこの板から消えます。
理由としては、まず自分にはもうネギロワ書けません。
前回の6部と今回の11部で、実際私がネギロワで書きたいことは全部書いちゃったんです。
作品書かないくせに作者なんて名乗っててもしょうがないと思うので、この際すっぱりと終わりにしようと思うのです。
それでもこのスレはずっと眺め続けようと思います。それは確実です。
なんたってここは神スレですし。
次の作者さん、頑張ってよりよい作品を投下してください。
最後にもう一度、今までありがとうございました。
長文スマソ。 作者6
お疲れ様でした。ホントすごく面白かったです。また機会があれば書いて下さい。
俺が言いたいのはただ一言。…GJ!!
作者6氏本当にお疲れ様でした
展開に期待しながらずっとロムってました
これぞ正統派NBR!を感じさせる、素晴らしい作品だったと思います
気が向いたら短編でもサイドエピソードでも何でもいいので書いてくれることを一読者として願っています
私事ですが、作品は75%ほどの完成です
もう2桁に入ったNBRですが、何とか斬新さを提供できるよう尽力してます
八月までにをメドに完成させたいと思うこの頃
長文スマソ
乙かれさま〜
作者6さんお疲れさまです。あなたの文章力に尊敬します。
いつか皆さんのように素晴らしい作品が書けるように自分も頑張ります!
さて、次の作者が来るまでのつなぎとして短篇でも書こうかな。
作者6氏、心底お疲れ様……
やべぇ………涙がとまらねぇ。
なんて事してくれんだよコンチクショー。
GJでした!!思わず脳内で勝手にエンディング作っちゃう程でした。
お疲れ様でした。丁寧な仕事で、実にスムーズに読むことができました。
これで終わりということですが、充電を終え、いずれまた何らかの形で挑戦して貰えたら、と思います。
いやホントに。今は全て出し切っちゃったところで、そんな気にもならないかもしれませんが。
とにかく、お疲れさまです。今はただお休みなさい……
>>353 75%! それは凄い
作者6様お疲れさまでした。やはり貴方の作品には素晴らしい余韻が残ります
気が向きましたら短篇でも引っ提げて顔を出して戴ければ幸いです
感動をありがとうございました。思わず追加エピソードに思いを馳せてしまいました。大変GJ!でした!!!
さて、次の話は何ヵ月後かな
8月中の完成を目指して書いてる Ф(`・ω・´;)
こっちも。順調に行けば8月中に。
てことはまだ投下は出来ないわけか。
短編カモン
今度はここで活躍しようと思うのでよろしくお願いします。
>>365 ごめん、吹いちゃった
ちなみにリレーじゃないんでそこんとこよろしく
作者希望者集めてバトロワさせて、生き残った1人が作品うp
集計の人まだー?
1部〜11部生存率ランキング 矢印の横の数字は前スレ178-179での順位。
※数字は終了したエンドのみで計算した生存率。 順位は未完のルートも含めた順位
※1部は1ルートにつき4分の1で計算 3部・8部は1ルートにつき2分の1で計算。 8部Exは独立した部として計算。
※8部亜子の超、8部Exの朝倉、超、千雨は生存判定、10部の千雨は死亡判定で計算しています。作者から何かあれば修正させていただきます。
1位 1→桜咲刹那 52.1% 刹那 2BAD 3改訂 4アキラ 7 9 11
2位 4↑龍宮真名 45.8% 2BAD 3改訂 5 亜子Ex 11
3位 5↑明石裕奈 39.6% 1 古菲刹那 2BAD 3 7 亜子
4位 3↓近衛木乃香 35.4% 刹那 2BAD 3改訂 5 6
3↓長谷川千雨 35.4% 千雨 2BAD 5 8亜子Ex
6位 7↑神楽坂明日菜 33.3% 2BAD 3改訂 9 11
7位 6↓朝倉和美 29.2% 2 3改訂 8 Ex
8位 7↓早乙女ハルナ 25.0% 3 4アキラ 8 Ex
7↓鳴滝史伽 25.0% 4アキラ 5 10 11
10位 10→大河内アキラ .22.9% 刹那 2BAD アキラ 8 Ex
11位 11→釘宮円 20.8% 3 7 9
12位 12→和泉亜子 20.8% 2BAD 亜子Ex
13位 13→那波千鶴 20.8% 2BAD 3 4アキラ
14位 14→長瀬楓 18.8% 古菲 2BAD 3改訂
15位 15→超鈴音 16.7% 3 亜子Ex
16位 16→綾瀬夕映 16.7% 2BAD 10
17位 17→古菲 16.7% 1 古菲 3 4
18位 18→宮崎のどか 14.6% 1 2BAD 3 アキラ
19位 19→雪広あやか 14.6% 刹那 7 亜子
20位 20→村上夏美 12.5% 8 Ex
21位 21→エヴァ 10.4% 刹那 BAD 3改訂
22位 22→春日美空 *8.3% 3改訂 アキラ
23位 23→葉加瀬聡美 *8.3% Ex
24位 24→佐々木まき絵 *8.3% 4アキラ
24→四葉五月 *8.3% 4アキラ
26位 26→絡繰茶々丸 *4.2% BAD 3
27位 27→柿崎美砂 *2.1% 1
28位 28→鳴滝風香 *0.0%
28→椎名桜子 *0.0%
28→ザジ *0.0%
−位 相坂さよ --.-%
下位の順位変動は完全になし。生存率0%トリオもいまだ変わらず。
木乃香の順位がだんだんと落ちてきてます。裕奈とハルナあたりの順位がちょっと不思議。
乙!
地味〜に変動あるなぁ
しばらく見てない間に終わっていた!?
作者6氏見ごたえある作品乙でございます。
あのまま途中で止まっていた短編をまた書こうと思います。
また希望作者が投下するまでの繋ぎ程度ですがどうでしょうか?
是非ともお願いします。
続きが気になってたので、是非お願いします。
377 :
370:2006/07/21(金) 08:59:04 ID:???
沈黙に耐え切れずに言った。まさか次レスで来てくれるとは思わなかった。
今は反省どころが自分GJと叫びたい最低人間。
ともあれ集計の人乙! 毎度ご苦労さまです。
それでは投下します。
ギリギリギリ
「ぐ…ぅ……」
超の口からうめき声が聞こえる。
当然だ、今自分はその超の首を絞めているのだから。
全身を負傷して、両腕が使い物にならない状態の超。無論抵抗など出来ない。
悔しかった、今更なぜそんなことを言うのか。
のどかを夕映を木乃香の命を奪っておきながらどうしてこんなやつが生きているのか。
助けなければよかった。そんな思いが交錯する。
「……ぅ…!」
超は口から泡を吹き痙攣しだす。
もはや酸欠状態になって意識が朦朧としているのだろう。
「―!」
ハルナはとどめとばかりにさらに力を込めた。
顔半分しか見えない超の顔が青ざめていく。
あと少し、あと少し力を込めれば殺せる。殺されたみんなの仇を取ることが出来る。
なのになぜだろう。目の前が潤む。多分メガネが汚れているのだろう。
だったらどうしてメガネが汚れているのか、その答えは自身の涙だった。
「…っ…くぅ…」
殺せない。
どんなに超を憎んでも、殺そうとすればするほど死んだクラスメイトの顔が浮かぶ。
みんな止めろと訴えているような目で。
「そこまでだ!」
「!?」
突如後ろから聞こえた声に驚いて絞め上げていた手を離す。
「ゲホッ!…ゴホッ……ハー…ハー………」
超が咳き込む、一気に全身が酸素を求めて弱弱しくも必死に呼吸をする。
「死にかけてる奴の首を絞めるなんて、随分と酷い対応だな」
「悪いね。裏路地付近で超の要旨に良く似た人物をあんたが運んでたって情報を聞いてね」
声の主は和美だった。よく見れば後ろには千雨の姿もある。
「…」
ハルナはその場に力なくへたり込んだ。
そのハルナを見つつ、お目当ての人物の所へ二人は歩く。
「まさか…な」
「本当に生きてたんだ。超」
超の変わり果てた姿を見てそれ以上言葉が続かなかった。
「…じゃあ、自分でもどうしてここにいるのか分からないの」
「…」
和美の問いかけに首を縦に振って応える超。
一方千雨はタバコを吹かしてハルナのそばに座っていた。
「何で助けたんだ」
「…」
「殺すつもりなら、助ける意味はないんじゃないのか」
千雨の指摘を受けて俯きぐっと歯を食いしばって言いたいことを飲み込むハルナ。
「…パル、言いたくないならいいけどこれは先生に報告することになるよ」
当然の措置かもしれない。5年前のバトルロワイアルの首謀者である超、その人物が生きていたのだ。
今更隠してもいずれはばれる時がくるだろう。
「もういいヨ」
奥から超の声が聞こえた。
「とどめを指したいなら…早くしてほしいヨ。…これ以上苦しいのはもう嫌ネ」
超の口から諦めにも似た発言が飛び出す。
全身傷つき、見るに耐えない姿になってしまった超の言葉には説得力がある。
「あぁ、そっちのほうが気が楽になる」
千雨は超を睨みながら言い返す。
「朝倉、早くしてよ…こんな奴の顔なんか…もう見たくない」
そう告げて部屋から飛び出していくハルナを二人はただ見ているだけでしかなかった。
「おいおい、こいつの介護誰がするんだ?」
「千雨、悪いけど超になにか食べさせるものとかないの?」
「…けっ」
だるそうに立ち上がる千雨は仕方なく台所に向かった。そこには暖めておいてあったおかゆの残りが置いてあるのを発見する。
どうやら超のリクエストに応えようと味を変えていた途中だったのだろう。
「ほら、口開けろ」
千雨が持ってきたおかゆを目の前に差し出す。別の部屋では和美がどこかに連絡をしていた、おそらく先生だろう。
素直に口を開ける超。口の中は歯が何本か折れ、血の臭いがしていた。
「どんな目に遭えばこんなになるんだ」
「…」
千雨の発言を無視し口に放り込んだおかゆを食べる。
「おまたせしました」
とあるファーストフード店で一人の女性の注文を受けて一人のアルバイト店員が品物を渡しに向かっていた。
夜も更けた店内はほとんど人も居ない。だが女性は広い店内では待たずに外で待っていた。
「どうぞ」
男が品物を渡すと同時にいくつかのファイルも渡す。
「これが写真だ、ここからは俺も追跡しきれなかった」
「いやいい。大体の見当はつくから」
それは客と店員の会話には程遠い異質な会話、特に女側のアキラは。
黒い服に店内でもサングラス、表向きはよく分からないが内側は物々しい武装で身を固めている。
アキラはすべての資料をまとめると男性に一つの封筒を渡す。
その中身は普通のアルバイト店員では稼げそうもない程の額だった。
「これって!?」
「もうここもマークされてる、私について聞かれても何も知らないと言うんだ、いいね。でないと君を殺すことになる」
「…分かった」
アキラはそのまま去っていく。
「…超は生きてたんだ…」
食事に買っておいたハンバーガーを頬張りながらある場所に向かって進む。
裕奈や亜子、まき絵たちとよくファーストフード店で食事に行ったことを思い出す、あの頃はとても楽しい日々だった。
部活の話、恋愛の話、ネギについての話。どれをとっても普通の中学生の話だ。
なのに今はもう普通ではなくなってしまった。
食べ終わった紙袋を丸めると怒りをぶつけるようにゴミ箱に投げ捨てる。
「…」
夕凪と銃の手入れはもう出来ている。いつでも撃てる体勢だ。
もらった写真にはハルナが超を連れ出そうとしている所が写っていた。ならば潜伏するなら自分の部屋か。
そうでないならハルナの行きそうな所を虱潰しに探すまでだ。
もし邪魔をするならたとえハルナでも…斬る!
そして生きていた超は今度こそ殺す、今度は二度と動かないように八つ裂きにする。
人として生きる道もすべてを投げ捨てて復讐鬼として生きる道を選んだアキラに、一片の迷いは見られなかった。
以上となります。
続きはまた後日。
GJです!!
保田さんと
守屋さんは
定年退職した後
期間限定のデザートを食べ、気分は
上々。しかし会計の時に値段を聞いて
げんなりした様子で帰っていった。
387 :
マロン名無しさん:2006/07/24(月) 19:40:31 ID:sHHph9ps
hoshu
まとめスレ、更新してない?
保守
今書いてる人何人いる? 点呼
短編でよければ1
書いてはいるが、なかなか進まない。一応長編。
(`・ω・´)ノ 長編だよ〜
書いてまーす。順調に進んでますが、長いねこりゃ。
書いてるけど一名ほど存在を忘れてたので軌道修正にいっぱいいっぱい
〇〇「なめんな」
>>397 出張乙
アンタは逆に忘れられないから安心汁w
399 :
保守:2006/07/29(土) 21:54:45 ID:???
龍宮「わかってるのか?このゲームは最後の一人しか生き残れないんだぞ?」
アスナ「こんなのおかしいよ!なんで戦わなきゃいけないのよ!?」
刹那「お嬢様!ここは私に任せてお逃げください!」
このか「そんな…。せっちゃん嫌や!ウチも残る!」
ちう(たかがスマブラで熱くなりすぎだろ…。)
不覚にも爆笑
スマブラ懐かしいなwwww
最初はクスッとした程度だったが、スマブラに真剣になる龍宮を想像して爆笑した
千雨いるってことは教室か公共の場だろ
あんたはいったい何やってんだとw
ネギまのキャラでスマブラ、略してネギブラとかうわなにをするやめr(ry
>>399 4人がどのキャラを使っているのかが気になる
龍宮→サムス
アスナ→ドンキー
刹那→リンク
このか→プリン
我慢できなくなった千雨がこのかからコントローラーを奪い、ねむるを決めまくりw
一瞬刹那がリンクならこのかはゼルダだと思った。64の話か。
短編を何回かに分けて投下するのはアリですか?
ありだろ。どうせ暇だし
いいと思うよ。12部投下はまだまだ見たいだし
411 :
408:2006/08/01(火) 00:46:36 ID:???
ありがとうございます。それでは暇ができ次第、投下します
えーい、お盆前に長編完成させて上げてしまおうと思っていたが、急に忙しくなったぞい。
少し遅れるかもしれん
超にとってこれからどう生きるのか。
別世界から来たイレギュラー、そしてそれに巻き込まれた事。
すべては自分が引き起こしたことに過ぎない。自業自得と言ってしまえばそれで済むだろうが…
傷ついた体はほんの少しながら回復の兆しを見せていた。
両腕は使えないものの肘を使って辛そうに体を起こす。
「だめだよ、まだ寝てなきゃ!」
和美は超の体を押さえる。
「私は…ここに居ちゃいけな…」
「今は居ていいの」
和美は超の血の滲んだ包帯を解きだす。
「こんなに汚れてたらいけないって。新しいのに変えてあげる」
顔の半分以上を覆っていた包帯を外す。和美はその醜く焼け爛れた顔の右半分を見て絶句した。
普通の火傷とは程遠い跡、あるはずの右目はない。思い出すのも苦痛なことだった。
「あまり見ないでほしいヨ」
超は顔を背けた。和美はその傷ついた顔に消毒薬を塗って新しい包帯とガーゼを巻く。
汚れ乱れた髪を綺麗して整え、いつものお団子頭にする。
体の傷も何とか見れる程度に回復し包帯から傷を抑えるガーゼに取り替えた。
それでも痣だらけの体はどれだけ酷いことをされてきたかをリアルに表現していた。
「これでよし」
包帯だらけでミイラ状態の体からようやく超らしらが出るようになっていた。
「…」
押し黙る超は俯いたままだ。
「ん?どうしたの超?」
今まで上の立場で見続けた超が始めて味わった屈辱。そして自分の目的のために組織に売ったクラスメイトを生き残りに助けられたこと。
これまでの自分がまるで愚かに見えた。
「……ありがとネ」
「…先生、その体じゃ無理だって」
病院で意識を取り戻したネギは見舞いに来た千雨の制止を振り切って立ち上がろうとする。
「だめ…です。アキラさんは…僕の生徒…ですから……なんとしても…連れ戻さないと」
しかしそれを他の先生方は許さずにネギは別の部屋に隔離されることにされた。
「…」
病院を後にする千雨。
つまらなそうな顔で道を歩いていると公園でブランコに座るハルナを見つけた。
「…そんなところで何してんだ」
「…」
声をかけてもハルナは無反応、暗い顔で俯いたままだ。
千雨はその横に座った。
「…あいつを助けたことを後悔してんのか?」
「…」
「それとも、あのまま見殺した方がよかったとでも思ってるのか?」
「…がう」
「?」
「違う……超を助けたことを後悔はしてない…でも…」
5年前のバトルロワイアルを仕組んだ張本人、自分の身近な人間を次々とさらに間接的に殺していった。
もしかしたらのどかや夕映は助かるはずだった、そして木乃香は…
そんな思いがぐるぐると回り思考が働かない。
これから超は和美が先生に連絡し引き渡すことが決まった。
これで復讐鬼になったアキラからの身の安全は保障される。これから罪を償わないといけない。
「…普通に考えてさ、こんなのってアリと思う?」
ハルナはもう魔法や超のことに深く関わってきたが、これほど悩ませることはない。
死んだはずの超が別世界からやってきた、そしてアキラは復讐のためなら自分たちも平気で殺しに来る。
もう何を信じて何をすればいいのか分からなくなってきた。
夕映を助けようとして傷と火傷のあとが痛々しく残った両腕を見る。
「…普通か」
千雨が呟いた。正直なところ一番普通の生活を望んでいるのは千雨だ。
しかし次の言葉は千雨が望んでいることを真っ向から否定する言葉だ。
「…正直、普通ってよ。誰が考えたんだ」
「…千雨?」
「あーだこーだとか言ってるけどよ、私ら魔法やタイムマシンとか体験しておいて…そいつらにとってこれが普通なら
私らの普通の基準が何なのか分からなくなってきてな…」
実際のところ千雨もハルナも魔法の存在を偶然知ったに過ぎない。
それから自分の世界観は大きく変わってしまった。そのまま魔法を覚えて超と戦ったこともあった。
その超が今度はバトルロワイアルを仕組み、殺し合いを強要されてそして生き残った。
魔法、時間移動、殺し合い、そして同じ生存者の復讐。
すべてが普通を超えて理解の許容を超えてしまっている。
流石のハルナも頭を抱えてしまう。
「あんたが…そんなこと言うなんてね」
「うるせー。あと超があと1時間くらいで連れて行かれるそうだ、最後くらい見送ってやれよ」
「…」
千雨はその場にいるハルナを置いて和美のいる寮へと戻ろうとする。
「あ、そうだ」
少し進んで千雨は歩みを止めた。
「超が別れる前に言いたいことがあるってよ。…『おかゆ旨かった』ってな」
「…!」
そのまま千雨は去っていった。
「…」
無言でハルナは自分の手を見た。
夕映を助けるために傷が入った両手、そして超を絞め殺そうとした手。
やるせない思いを巡らせながらもハルナは立ち上がる。
まだ答えは出ていない。しかしこのまま一人で考えても何も出ないだろう。
ならばせめて超を見送るくらいはしてあげよう。そんな思いを胸に行ったのだが…
「おい、返事しろ!朝倉!朝倉ぁぁぁ!!」
ふと千雨が携帯電話で叫んでいるのが分かった。
「どうしたの!?」
「朝倉!朝倉ああああああ!!!!」
必死な顔をする千雨、電話口から聞こえる何かを壊す音、それが何を物語っているのかすぐに分かった。
奴が来た、すべてに復讐することを誓ったアキラが場所を探し出し現れたのだ。
「超は!?」
ハルナの問いかけにも千雨は気にする余裕がない。ここから必死に走っても5分以上、もしかしたら…
そんな最悪の予感を思い浮かべる。
走りながらも千雨は電話を切ることをしない、必死に和美を呼びかける。
「朝倉!!返事をしろよ!!朝倉ぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、和美の返答はなかった。
電話口の向こう側、血溜まりの中に横たわる和美のすぐそばには夕凪を構えたアキラ。
ギラついた殺気、その目に人としての感情は皆無。まだ満足に動けない超は必死に逃げようとする。
その体にはいくつもの切り傷がつけられている。
和美の血で汚れた携帯からは千雨とハルナの悲痛な声だけが響いていた。
つづく
以上です。
あと2回で終わり予定です。短編なのに長々と書いて申し訳ない。
朝倉死んじゃいやー!!
朝倉ァァァァッ!
この先どうなるかまったく読めない訳だが
まとめスレ3、機能停止してる? 11部の途中で更新が止まってるが
423 :
408:2006/08/03(木) 23:21:46 ID:???
お待たせしました。実は結末をどうするか迷ってたんで分けて投下しようと思ったんですが決まったんで一括します。「じらしといて結局こんなんかよ」とかは承知の上なんであしからず。それでは
リアル遭遇ktkr?
来ない…(T_T)
426 :
マロン名無しさん:2006/08/04(金) 00:56:47 ID:qQmaudlB
揚げ
427 :
408:2006/08/04(金) 02:08:22 ID:???
すいません、急な仕事が入りまして様子見てたんですけど無理っぽいです…本当にすみません……近日中に必ず投下しますので
「あれ…ここは?」
アスナは小さな部屋の中で目を覚ました。
自分はバトルロワイヤルに参加させられ命を落としてしまったはず。
それが何で生きている?
―――まさか夢?
いや、そんなはずは無い。
確かにあの時、自分は死んだのだ。
あの痛みも覚えている。
彼女は深呼吸をした後に、周りを見渡した。
そこには同じく、あのプログラムで命を落としたクラスメートがいるではないか。
クラスメートの他に目についたもの。
それは部屋の中央に置かれている黒い球体。
その時、後ろから彼女に声をかけてきた者がいた。
「アスナも来てもうたんか…」
「亜子!ここ何処なの!?バトルロワイヤルは?」
亜子は俯いたまま何も言わない。
やはり夢ではなかったのか。
だが自分は生きている。
ここが天国という訳でも無さそうだ。
その時。
黒い球体から音楽が鳴り始めた。
あーたーらしい あーさがきたー
ー続かないー
ガンツはバトロワ以上に内容ねーからなw
バトロワには心理戦とかあるけどGANTZはなぁーw
いや好きだったけどさGANTZw
あすにゃ対ねぎ星人での葛藤
てかガンツネタ既に短篇で出てなかったか?
出てたよおもいっきり
保守
保守
436 :
408:2006/08/08(火) 11:29:13 ID:???
本当に…本当に今度こそ投下します!
437 :
408:2006/08/08(火) 11:45:53 ID:???
小屋の中ではかなり異常な光景が繰り広げられていた
机を挟んで、3人の女子中学生がお互いに銃を向け合っていた
さらに言うと、その傍らには和泉亜子が死んでいた
なぜこうなったかと言うとそれは簡単で、4人で食事をしていたら突然和泉が苦しみ出して
「ぶぇっ」
という言葉と一緒に大量の血を文字通り吐き出して激しく痙攣し、突然動かなくなった
そして残った3人が机の上に置いてあった――シアン化カリウムというラベルの瓶は無視して――3つの銃を手に取った
その際、全員がそれぞれ右側の1人に銃を向け、結果三つ巴になってしまっていた
今度こそリアル遭遇ktkr
………て、終わり?
439 :
408:2006/08/08(火) 12:28:31 ID:???
それから数十分間、このままだった
その間に定時放送があり、残り人数が3人なのと、今いる小屋が禁止エリアになる事がわかった
たかが女子中学生の体力である
物を持ち上げ続ける体力にも限度がある
それでも3人は精神力だけで銃を持ち上げていた
「………このままこうしているつもり?」
「…そんな事を言って、アンタが和泉を殺したんじゃないの!?」
「違う!私じゃない!」
「じゃあ誰が!!」
何度めかの会話を繰り返し、そしてまた沈黙
440 :
408:2006/08/08(火) 12:34:07 ID:???
いったんここで区切ります
レスついてない……頑張れ。
と言っても、もう少し出てこないと正直レスしづらい……。亜子以外のメンツもまるで分からんし
定期age
お久しぶりです。
408氏が一旦区切っていますけどこちらの投下は大丈夫でしょうか?
多分問題ないと思います。
昔も本編の分岐などは別の本編の合間に投下されていましたし
分かりました。
ですが最近忙しいので盆明けに投下したいと思っています。
446 :
マロン名無しさん:2006/08/12(土) 03:07:21 ID:n6nUi/nT
医者「あー旦那さんに問題があるみたいですねー。精子一匹もおりませんわ。36歳で絞り尽くしてしもたんと違いますか?ぶぁはははは!」
たまし「……」
貴女「じゃあ、私が亀梨くんの精子で子供を産むわ。たましさん、子供欲しがってたもんね。頑張るわ。たましさんも、「貴女」の子なんだから、受け入れてくれるわよね…?」
たまし「亀梨は整形だ!君は見る目が無い!貴女じゃなかった!!」
医者「あー旦那さんに問題があるみたいですねー。精子一匹もおりませんわ。36歳で絞り尽くしてしもたんと違いますか?ぶぁはははは!」
たまし「……」
貴女「じゃあ、私が亀梨くんの精子で子供を産むわ。たましさん、子供欲しがってたもんね。頑張るわ。たましさんも、「貴女」の子なんだから、受け入れてくれるわよね…?」
たまし「亀梨は整形だ!君は見る目が無い!貴女じゃなかった!!」
医者「あー旦那さんに問題があるみたいですねー。精子一匹もおりませんわ。36歳で絞り尽くしてしもたんと違いますか?ぶぁはははは!」
たまし「……」
貴女「じゃあ、私が亀梨くんの精子で子供を産むわ。たましさん、子供欲しがってたもんね。頑張るわ。たましさんも、「貴女」の子なんだから、受け入れてくれるわよね…?」
447 :
マロン名無しさん:2006/08/12(土) 03:08:05 ID:n6nUi/nT
医者「あー旦那さんに問題があるみたいですねー。精子一匹もおりませんわ。36歳で絞り尽くしてしもたんと違いますか?ぶぁはははは!」
たまし「……」
貴女「じゃあ、私が亀梨くんの精子で子供を産むわ。たましさん、子供欲しがってたもんね。頑張るわ。たましさんも、「貴女」の子なんだから、受け入れてくれるわよね…?」
たまし「亀梨は整形だ!君は見る目が無い!貴女じゃなかった!!」
医者「あー旦那さんに問題があるみたいですねー。精子一匹もおりませんわ。36歳で絞り尽くしてしもたんと違いますか?ぶぁはははは!」
たまし「……」
貴女「じゃあ、私が亀梨くんの精子で子供を産むわ。たましさん、子供欲しがってたもんね。頑張るわ。たましさんも、「貴女」の子なんだから、受け入れてくれるわよね…?」
たまし「亀梨は整形だ!君は見る目が無い!貴女じゃなかった!!」
医者「あー旦那さんに問題があるみたいですねー。精子一匹もおりませんわ。36歳で絞り尽くしてしもたんと違いますか?ぶぁはははは!」
たまし「……」
貴女「じゃあ、私が亀梨くんの精子で子供を産むわ。たましさん、子供欲しがってたもんね。頑張るわ。たまし
保守
久々にこのスレ見た。今どーなってんの?方向性とか。
前俺も書いてたけどあまりにもカオスだったから筆を折ったw
でも15巻読んだらなーんか書きたくなった。ファイル残ってたし。
歴史改変の理由とか勝手に妄想しておk?
あとトンデモ重火器登場もおk?
改変の理由の妄想おk。前例あるし。ただどの段階から話が分岐したかは必要かも。
dデモ重火器は言わんとすることが分からんがw 別にいいかと思ふ
読者にイメージ伝われば
あんまり現実離れした重火器もどうかと思うぞ。後はバッグに入るくらいの大きさとか。
452 :
449:2006/08/14(月) 16:28:36 ID:???
>>450 もうBRの枠外れて戦争になってるがww
拳銃とか刀剣じゃなくRPGとか果てはハープーンにトマホーク…
RPGまではなんとか分かるが後はどう使うんだオイw
……まあ料理次第だな。素材だけじゃ判断できない、正直言って。
そのピンポイントで全否定されることはないと思うが。
454 :
449:2006/08/14(月) 17:49:46 ID:???
>>453 生徒同士が大型ミサイルで…ってことはないからご安心をw
ちょっとBR崩して戦線拡大って感じで進めてるw
無限ロケットランチャーとか
あー……ある程度書いてから地図作成したら、なんかおかしなことになってる……
位置的に遭遇しそうなのにスルーしたりとか防ごうと思うとなかなか大変だね
騒いだら気付かれそうな距離とかよくわからないからなぁ
深夜の懐中電灯の光とか、どの程度届くものなんだろう
俺なんかなぜかバイオハザードに…orz
458 :
449:2006/08/16(水) 16:35:47 ID:???
>>455 ねーよww兵器ヲタですのでww
>>456 シュアファイヤ(強力フラッシュライト)系なら100mは余裕。
>>457 ゾンビでるんかいww
おまえらちゃんと書けよ〜。ここで設定小出しにして満足しちゃうなよ〜w
書いてんだけど、終われるのか不安だw
無駄に長くなっちまってるしなぁ……想像以上にむずいね
確かに執筆中の孤独が職人には辛いスレだ
こんな時絵師がいたら…
保守
満足に動けない超の肩を貸して和美は高畑先生ら魔法先生に彼女を引き渡さなければならなかった。
5年前の麻帆良祭での出来事に加えてバトルロワイアルへの加入。
重罪人であることは間違いないが、これだけ傷ついた彼女を冷たい牢屋に送るのは何かやるせない思いだった。
超は何の抵抗も示さずにそのまま立ち上がり、そのまま引き渡されるはずだったのだが。
ふといやな気配を感じて窓の外を覗く、誰かがベランダに立っている。
圧倒的な威圧感とカーテン越しに見えるその姿、それは…
「朝倉ぁぁぁぁぁ!」
携帯からは部屋が荒らされる音、そして誰かの悲鳴。
その部屋には和美と超しかいない。そして和美の反応がないのを考えるとその悲鳴は超しかない。
千雨は携帯をしまうと一目散に走り出す、それに続いてハルナも。
事態は一刻を争う。最悪の展開だけは避けたい、和美の状態は分からないが間違いなく危険な状態。最悪死亡。
そして超は体が傷つきまともに動くことが出来ない、たとえ動けたとしても復讐鬼と化したアキラの攻撃をかわせるだけの力はない。
「畜生!」
千雨は叫びながら必死に走った。なぜあの二人を置いていったのか、せめて高畑先生らが来てからネギの所に向かってもいいはずなのに。
もう躊躇してられない。もしアキラと戦うことになった場合、確実に一撃でアキラを殺さなければこちらが殺される。
誰も助けてなどくれない。甘い考えは全て捨てて挑まなければいけない。
大河内アキラは元クラスメイトでなければ人間でもない。復讐のためなら身内も手にかける悪魔だ。
それはネギが病院送りにされたことで証明される。
だからもう迷ってられない。アキラがこちらに牙を向けた場合は……やられる前に殺る。
ハルナの部屋の近くに行くとすぐに武器になりそうなものを探す。消火器、モップ、テニスラケット、丸腰では死にいくようなものだ。
二人は持てるだけ持つと部屋の前に立つ。
「…いいか、覚悟決めろよ」
「…」
千雨の問いにハルナは頷く。一呼吸置いて千雨はドアを蹴破る。
一瞬の緊張感。
部屋に乗り込みすぐに武器を振り下ろせる体勢になる。
だが、そこには人の気配がない。むしろ血の匂いだけが部屋を覆っている状態だ。
「…」
息を殺して超と和美のいる部屋に向かう。
「!!朝倉ぁ!しっかりしろ!!」
その途中で和美は胸から血を流して倒れていた。
胸から背中にかけて縦に細い傷、それが刀のような鋭利な刃物であることは容易に想像できた。
「…ぁ……千…雨……」
和美が目を覚まし、二本しかない右腕で千雨の腕を掴む。
「超が……アキ…ラに………」
「分かった、だから喋るな!」
そばに居たハルナは急いで救急車を呼びだす。だがそこに肝心の超はいない。
その場から少し離れた丘の上。
アキラに襲われた超は必死に逃げていた。
アキラに襲われた瞬間、身を挺して庇ってくれた和美は超を突き飛ばし安全な所に逃げるように言った。
超は一瞬躊躇したものの傷つく体に鞭打って立ち上がり走り去る。
だがアキラも運動能力が高い超とはいえ手負いの超をそう簡単に逃すこともない。
二人は丘の上で(アキラにとっては)二度目の戦いとなった。
夕凪の太刀や銃弾が飛び交う絶体絶命の中、超はそれでも必死になって戦った。
生きる希望やカシオペア、すべてを失った超はただ助けてくれた和美やハルナのために全力をつくした。
両腕はまともに使えず、接近して足技で何とかするしかない。
幸い足は多少の痛みはあるが無事なため一気に近づいて急所を狙う手段はとれた。
「アキラサン……行くネ!」
アキラの銃の弾が切れたのを見計らい、全力で走る。
弾込めを諦めたアキラは夕凪を構え超に照準を向け一気に振り下ろす。
まさに一瞬の出来事、顔役3センチの差で夕凪が顔を掠めた。一瞬ぞっとするが超はアキラを捕まえる。
「うわああああああああああああああああ!!」
ズシッ
超の渾身の蹴りがアキラの顔面を捉えた。
傷ついた体とはいえ超の蹴りは並大抵のものではない、確実に気絶させるほどのインパクトがアキラの顔にかかったはずだった。
衝撃で体が傾くがアキラは全くひるまない。ギョロっと目だけが動き超の目を睨みつけた。
「ひっ…」
あの超が恐れた、それほどにそのギラついた目が恐ろしかった。
無防備になった右足を掴むと夕凪を一気に上に向けて振り上げる。
ブシュッ
一瞬の太刀が超の右足の膝から下を奪い去る。
中に舞う自分の足、まるでこの瞬間だけ自分の体が自分のではないような感覚。
それを理解した途端、右足から来る激痛。
「うぁ…あああああああああああああああああああああああ!!!」
その場に転げ周り激痛に身を捩じらせる。
アキラの目には痛みでもがき苦しむ超の顔がしっかりと捉えられていた。
アキラもまた超によって大事な仲間や親友を失い、それによって心は崩壊し復讐鬼と化した。
その相手がいとも簡単に倒れこむ姿を見ていた。
―この女がすべてを狂わせた。この女がすべての元凶。私からすべてを奪い、そしてゆーなやまき絵に亜子まで…
許せない、この5年間どんな思いで生きてきたか、そのためにどれほど自分を犠牲にしてきたか…
そして死んでいったクラスメイトがどんな思いで死んでいったのか…………
こいつに地獄を見せて、絶望の底まで叩き落してから殺してやる!
ブシュッ
「ああああああああああああああああああ!!!!!」
超の叫び声と共に今度は左腕が宙を舞った。
そこで起きたことはもはや目を覆うような惨劇。アキラが描いていた地獄を超に味合わせる。
腕や足が宙を舞い、痛みに声を上げた超の顔や体を何度も斬りつけた。
肉が裂け、血が飛び散り、これでもないくらい傷跡をつけた。
顔を斬った際、刃先が無事だった左目を斬った。これで超は両目の視界を奪われる。
「…か…ぁ…ぉ…ぁぁ……」
潰れた声で呻き声を上げる超は喉までも斬られ呼吸がまともに出来ない状態となっていた。
半開きの口からは言葉に混じりヒュゥヒュゥと必死に息をしようとする音が聞こえる。
「…痛い?みんなが受けた痛みはこんなものじゃないんだよ」
夕凪を逆に持ち一気に超の胸に下ろそうとした瞬間、
ドンドンドン
光の矢がアキラの体に何発も落ちてきた。
強い衝撃と痛みと共にアキラはその場にひれ伏した。
「アキラさん。本当にもう止めて下さい…でなければ…僕は」
高畑や病院の監視を抜け出したネギは必死の思いでアキラを探し、そして杖を向けた。
遅れること数秒、ハルナと千雨も音と超の悲鳴を聞きつけその場に到着。
「超!」
ハルナが傷ついた超の元へと向かう。
体を斬り刻まれ見るも無残な姿に変わり果てた超の体をそっと抱きしめた。
「超!しっかりして今すぐ助けてあげるから!」
『助けるんじゃなかった…』その言葉とは矛盾した発言。
結局ハルナは自分のせいでまた誰かを傷つけてしまった、あまりにも残酷な形で。
泣きながらハルナはアキラに訴えた。
「もうやめて、こんなの酷いよぉ!」
虫の息の超を抱きしめ、自身を超の血で汚れながらも立ち上がる。
安全な場所へ、超の命を助けられる所へ。
「後は任せろ」
千雨はハルナを行かせるとモップを持ってアキラに構えた。
「これで…終わりにしよう、なぁ先生」
ネギも頷く。迷いが誰かを傷つけるのならその迷いを断つ、アキラと戦う。
「どいて…私は超を殺していない。どかないなら君たちを殺す」
手負いながらもアキラは夕凪を構えてこちらを睨んでくる。
だがネギは決意を固めたはずなのにいざ戦おうとすると体が動かない。
まだ自分の中に迷いが出ているのだ。
「アキラさん…」
「先生、あいつはもう大河内じゃない。どす黒い殺意を持った復讐鬼だ、もう大河内は死んだんだ!」
その言葉にアキラは動きを止める。
「…ネギ先生」
一瞬、アキラの目が5年前のあの目になった。
そして、誰も頼んでいないのに5年前のバトルロワイアルのことを話し出す。
「アキラさん!?」
「私はきっとなんとかなると思っていました。残った人たちでならあのゲームを終わらせられると…でも現実はもっと酷いものだった
クラスメイトが主犯、私たちはその相手にずっと踊らされていたんですよね…だから…」
夕凪がそっとこちらを向く。
「私の邪魔をしないで…超を殺せば、私の復讐は終わる!」
また後悔した、これだけ邪魔が入るならさっさと殺すべきだったなぁ…と
アキラの目がまた死んだ目となり、二人に襲い掛かった。
―復讐を果たした所でまともな道にはもう戻れない、戻ろうとも思わない。
一生血塗れた道を歩み続ける。今の自分はそれが合っている。
昔の私なら『そんなの無理だ』って考えただろうけど…それは無理。
大河内アキラは5年前の亜子を助けられなかったあの時に、死んだんだから…
つづく
以上です。次回が最終回となります。
GJ!!とうとう最終回か…。
GJ
千雨おっとこまえだよ千雨
保守
あー今書いてるところ、我ながらおもしれー
でも完成遠いー
支給武器にTーウイルスを入れたのがそもそもの間違いだとやっと気付きました
もう俺の脳内妄想に留めておきます
T-ウィルス…
まぁ、さすがにそこまで入れちゃうのは問題だな。 それはそれで見てみたかったが
やばい。このキラー役強すぎ。誰がどうやって倒すんだこんなの。
思いっきり中断していて完成未定の作品の1話だけ投下してみていいか?
書くのを再開する時、多分修正する部分が多くなると思うから、その時の参考にしたいんだが
是非!投下してください
では、お言葉に甘えて投下させてもらいます。
昼でもあまり光の入らない、暗い小部屋。
唯一の明かりの元である窓には鉄格子がかかり、ドアも鋼鉄製で頑丈なカギがかかっている。
家具は眠りやすそうとはあまり言えないベットが一つだけ。
一番目を引くのは壁だ。一面ギッシリと文字が書かれている。
しかし、よく見ればその文字は部屋のドアにも、鉄格子の1本1本にまでも細かく書き込まれていた。
その厳重に閉じられた部屋は見た人がそろって、「牢獄」とでも言いそうな部屋―――
―――いや、実際にここは牢獄なのだが。
関西呪術協会本部の近くにある魔法使いの作った牢獄である。
さらに、この部屋はその牢獄の中でも特に罪の重い者のために作られた部屋。
壁に書かれた文字は部屋の中にいる者の力を奪い、さらに壁自体も頑丈にするものだ。
つい最近まではこの部屋に入るような犯罪者もいなかったため、長い間誰もいなかったこの部屋だが数日前に1名の女が入れられた。
天ヶ崎千草
とある学園の修学旅行を襲撃し、関西呪術協会の長の娘近衛木乃香を誘拐。
その力を利用し封印されていた大鬼『リョウメンスクナノカミ』の封印の解除。
さらにこれらの力を使い、関東魔法協会に攻め入ろうとした。
計画は未遂に終わったのだが、その主犯として牢獄に入れられたのがこの天ヶ崎千草である。
牢獄での生活はたった数日だけでも気の滅入るものであった。
狭い部屋の中で1日中一人。テレビも本もない。時計もないから時間もわからない。
初日や二日目は取り調べのために外に出れたからよかったものの、ここ数日はそれもない。
会話する相手もいない。扉の前にいる看守がもっと友好的ならよかったのだが、事務的な会話以外は一切話さない。
その事務的な会話でさえ日に数回出される食事の時と、あとはトイレに行く許可を取る時の会話ぐらいだろうか。
面会する人もいない。両親は大戦で他界している。それに、この現状ではたとえ生きていたとしても面会も許可されないだろう。
やることが何もなかった。寝るにしても捕まる前、最後に見たあの人形が必ず夢に出てしまい、眠れない。
かといって起きていても何もやることはない。壁にもたれかかり、じっとしておく。
寝ないにしても限界が来る。そして、眠る。そしてすぐに、最悪の気分で目が覚める。
西洋魔術師が憎い。
両親が死んだ原因になった、西洋魔術師が憎い。
計画を阻止した西洋魔術師が憎い。
あの吸血鬼が憎い。夢に出てくる人形が憎い。
私を投獄した関西呪術協会が憎い。
天ヶ崎千草の精神状態は極限に達していた。しかし、完全には狂わない。
理性を辛うじて維持できていたのは、皮肉にも西洋魔術師への恨みからであった。
恨みで理性を失い、恨みで理性を失わない。
その矛盾した状態のまま、恨みだけがどんどん膨れ上がっていった。
狂いかけた天ヶ崎千草は時には独り言をいい、時には叫び声を上げ、時には死んだように動かなくなる。
この部屋はこの状態が繰り返されたまま数日のときが過ぎた。
この牢屋に人が入るのが突然ならば、いなくなるのも突然だった。
外から大きな物音と悲鳴。近づいてくる足音。
そして、開くドアの音。
最初の頃の数回の取調べ以来一度も開いたことのないドアが何の前触れもなく開かれたのである。
天ヶ崎千草は扉を開けた者を看守かと思い、襲いかかろうとした。
しかし、数歩踏み出したところでドアを開いたのが誰かを見るとその動きは止まった。
今までに何度か見た看守の服装とは大きくかけ離れていた。
さらに、一番目につくのが「血」だ。服にべったりとついている。
この数日間、何も変化がなかった。そんなところに急に訪れた変化。天ヶ崎千草は完全に混乱していた。
こいつは誰か、看守なのか、その血はなんなのか、私に何の用があるのか。
千草が混乱する様子をその何者かは少しの間だけ見ていたが、やがて口を開く。
「天ヶ崎千草だね? 君に協力してもらいたいことがある。」
大体こんな感じで書いてます。
文章のバランスや表現などで気になるところが多々あると思うので、どんどん指摘してください。お願いします。
一応全話書き終え投下可能になりました
しかしアクセス規制中です
夏ですから最近多くて…
解除次第、第12話として投下できたらいいなと思います
>>485 今までの中で司書さんのバトロワが一番好きなのでかなり楽しみです。応援してます!!
司書さん完成ですかオメデトー。
……この時期にはこっちも完成してる予定だったんだけどなァ。
司書さんの規制解除の方が早いだろうしなァ……。
カキコできるかな?
できるなら投下に踏み切ってもいいでしょうか?
待ってました!!
俺は投下してほしい
今書いてるんだけど、やっぱ他作者様の作品が投下されてると製作意欲湧いてくるし
投下して下さい。是非ッ!
他の作者氏がいないようなのでヒソーリ投下開始
※注意
・この作品はネギま本ストーリー14巻まてが作品に反映されています。
・ネギまキャラのイメージが崩れる可能性があります。ネギまの世界観を大切にしたい方、前作が気に入らなかった方は華麗にスルーしてください。
・この作品は二章構成です。
・先読みができてしまっても公表しないでくれると助かります。
・アクセス規制、作者の都合等で投下できない日があるかもしれません。
・それではお楽しみください。
第一章
〜長谷川視点編〜
<プロローグ 〜朝焼けの地から〜>
ほんっと、人間っていうのは愚かな生物だよな。
何の根拠もないのに人のことを信頼して、やっぱり裏切られて傷付く。
傷付くくらいなら最初から信用しなきゃいいのにさ、それでも過ちを繰り返す。
まったくアホすぎてコメントのしようもねえな。
まあさ、私もそのちっぽけなことに期待しちまったアホの一人なんだけどな
人の性には逆らえねえってことだ。
そんなくだらないことを考えながら、私は隣にある寝顔を見た。
<開催の地>
ぐっ、体が痛てえ……。
寝違えた時と似た痛みに加えて、誰かが肩を叩いている。
仕方がないから目を覚ますことにした。
「……う、…あ……」
長く眠っていたのか視点が定まらない。視界に靄が掛かっている。
顔を洗いたいのも山々だがここは家ではないようなので目を擦ってみる。
擦る。おかしい?何で目が擦れるんだ?
眼鏡は?
どうやら脳に酸素が行き着いていないらしいな。
軽く周囲を探すと眼鏡は直に見つかった。
床に放置されていた伊達眼鏡を装着する。
靄は消えていった代わりに見えてきたのは見慣れない場所と戸惑う3−Aの奴ら。
ここどこだよ?
つーか、まだ夢を見ているのか?んなわけねーよな。
「千雨さん、起きてくれましたか?」
隣にいたのはこの状況に顔色一つ変えないロボ、もとい茶々丸さんだ。
「どうしてこんなとこにいるんだ?」
つい返事もせずに不躾な質問をしてしまった。
今日の一限は数学だったよな……。んで、一限の予鈴が鳴って席に着いた。それから……。
―――――ぐっ!!
脳に走る稲光。神経が焼ける、そんな痛み。
糞!どうしてこの先が出てこないんだ!!
もう一度記憶を辿ろう……としたら止められた。
「記憶に負荷が掛けられています」
「負荷?」
抑制ってことか?
「何者かが一部の記憶をDeleteしたと思われます。在りもしないデータを取り出そうとするのは負担を掛けるだけです」
復元しようと脳内を検索するが何も引っかからない。
頭痛が激しくなり諦めた頃、教室に誰かが入ってきた。
学校では見たことのない女で私も知らない。
神楽坂、桜咲らが声を上げている。顔見知りのようだ。
あいつらの知り合いってことはまたとんでも能力者か?
あいつらの事情は知らんが一般人を巻き込むのはまったくもって迷惑だ。
詰め寄られるのは誰にとっても嫌なことであって、
「うるさいわっ、ほんまに。静かにおし!」
ドウンッ!!
「……あ?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。
隣にいた軍人まがいが持ってるのは……拳銃?
ははは……、マジかよ……。
天井に開いた風穴、本物だろうな……。
いつも騒がしいクラスだが今回ばかりは沈黙を保っている。
「よろしい」
女は満足そうな顔をして話を始めた。
「おはつに、ウチの名は天ヶ崎千草。覚えんでもええんよ、短い付き合いやから」
丸い眼鏡に左手を添える。
次に奴が口にする言葉を誰ガ予想デキタカ?
「なんせ、あんたらにはこれから殺し合いをしてもらう」
悪女の笑いを堪えながら発された残酷な言葉。
あいつ、“何”って言った。
冷徹な言葉の介入で脳が混濁しているようだ。
しっかり意識を持ち言葉を反芻した。
”コロシアイ”
誰もが視点を壇上の女に向けている。いや、向けたまま硬直している。
右手の銃が言葉のリアリティーを助長している。
奴の言葉は虚構ではない。
「冗談じゃない!!」
桜咲が殺気立った形相で女を睨みつけている。対するは小馬鹿にするような余裕の表情だ。
「生意気なガキはいわすえ」
桜咲と女の距離は縮まらない。
あいつのなら一般人くらい簡単に無力化できる……筈だ。
それができない?
ならば、あの女も魔法使い……そう考えるのが妥当だろう。
「アハハハハ!ここでは能力は使用できへんえ。人並みのあんたではどないしてもうちにはかなわへん。それに……」
銃口を逸らす。先には近衛がいる。
やり口が外道だ。
「……座りなはれ、桜咲刹那はん……。ホーホホホ!!」
うざったい高笑いが響き、聞いているだけで吐き気がする。
「……くっ」
桜咲は俯きながらその場に座った。
「待たせてすまへん。ほな、短い説明を始めますえ」
知りたくもない殺し合いの概要の説明に入った。楽しそう、いや楽しんでいる態度が癪に障った。
「あんたらは無人島にいる。この島はあんたらのために用意した特別な無人島や。思う存分暴れてええけど、脱出しようなんて考えたらあきまへんで。首輪ついとるやろ?」
確かに首に違和感を感じていたが、これは首輪のせいか。
「その首輪、手動で爆破させることができるんよ。
試しにそこの子の、爆破してみーか?」
視線の先には村上、
「い、いやぁー……やめてぇー!!」
「…………ふふ、冗談や。泣かんといてえな」
遊んでやがる。
3−Aの殺し合いは奴にとっては娯楽に過ぎないようだ。
「つい脱線してしもうた。堪忍な」
「言いたいことは、ここから逃げるのは無理ってこと」
実験室のモルモットより逃げ出しにくいときたか。
「殺し合いといってもただ殴りあうのでは華がないさかいに、ウチからのプレゼントや」
千草がパチンと指を鳴らすと突如ドアが開き、武装した連中がリュックを運んできた。
「こん中には地図の他に武器や道具が入っとるえ。教室から出るとき一人ずつ渡すんで有効活用しいや。食糧は一食分、あとは自分で探しい」
武器、銃器や刃物の類が入ってるんだろう。
「いまんところ、制限時間は設けまへん。
おたくらには時間がたんとありますえ。よく考えて行動しぃや。
せやけど、人がまったく死なんようやった設けざるを得へんな」
いきなり前言撤回かよ。
「死んでもうた人の連絡は島内放送を流すさかいに心配ないどすえ」
【残り30人】
<異端排除>
「あの……」
いつもより覇気のないいいんちょが挙手する。
「しゃーない子やな。どないしたん?」
「……ね、ネギ先生は!?」
さっきから教室に広がっていた違和感はこれだった。魔法お子様先生がこの場にはいない。
……だとしたら?
「ああ、坊やね。ちょっと反発されたんで眼鏡の教師と共に始末させてもらったわ」
「……し、始末……?」
そう、つまりネギ先生は、
「わかりやすく言えば、先に逝ってしもうたなぁ〜」
殺されたってわけだ。
朝、あんな元気に壇上に立っていた奴が今ではもう会えないってわけだ。
事実を知っても私は何も感じなかった。
だってそうだろ?この状況で他人の命など構っていられるか。
しかしながらこのクラスはそうもいかないらしい。
茫然自失状態の奴はいるし、泣いてる奴もいる。
「始めましょか……あかんな、つい忘れとうた」
取り出されたのはリボルバーのハンドガン。
標的にされたのは中学生らしからぬ(つーか、絶対中学生じゃねーだろ)金髪エヴァンジェリンだった。
「先日世話になったさかいに、特別にサービスあげましょ」
話しが始まった時から我関せずな態度を取り続けていたエヴァンジェリンだったが、今はくっくっくと下を向きながら笑っていた。
「……そうか、お前は京都にいた奴だったな。長く生きすぎたためかいちいち小物を覚えていられなくてな」
パァン パァン
足と腕を撃ち抜かれてもエヴァンジェリンは口を閉じない。
「復讐の手段にこんなくだらない児戯しか思いつかんとはな、まったく飽きれる人間だ。
自分の欲望・理想のために命も賭ける覚悟もない。
ヘタれた方法でしか挑めないお前は小悪党、いや、ただの腰抜けだよ」
堪忍袋の緒が切れたのかエヴァンジェリンの額に銃口を向ける。
「冴えない最後の言葉やったな……ほな、さいなら!」
パァン!!
同じ無機質な音がエヴァンジェリンを黙らせた。
動けなかった。
……一人を除いて、
「茶々丸さん!!」
柄にない声を出してしまった。それくらい突拍子のない行動だったんだ。
反射的に動いた体は女へと向かっていく。
その足はけたたましい音と共に止まった。
「うっ!」
付き添いの男達が打った弾丸は例外なく茶々丸さんを捉えた。
足が縺れバランスを崩した。
「誰も動かんでな」
聞いていないのか、聞く気がないのか長瀬が茶々丸さんに歩み寄ろうとする。
「動くなと言うとるやろ!」
あの超人格闘大会に出ていた長瀬でもあるが、先ほど女が言っていたように能力が抑制されているのか避けられずに銃弾が足にめりこんだ。
「あきまへんなー、無駄な抵抗して。せわしない子には」
地面に這いつくばりながらも睨む長瀬。足からの出血が激しい。
視線を気にせずに騒ぎの元凶薄ら笑いで見下ろす。
女の隣へ男が歩いてくる。
「おしおきや。よーく見とき!」
あっ!!
警護兵のライフルが音を上げる。
体が跳ねた。
重力に逆らえず崩れ落ちる茶々丸さん。
そのまま動かなくなり、機能は停止した。
悲鳴が上がった。誰の声なのかは分からなかった。
それくらい私も冷静でいられなかったってことだ。
「アハハハハ。おまっとーさん、さあ始めましょか」
教室にさらに数人の男達が入ってくる。
今ここに3−Aを完膚なく破壊すべくデスゲームが始まった。
【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル 死亡】
【絡繰茶々丸 死亡 残り28人】
以上です
しばしの間、私の拙い文にお付き合いを……
乙です。早々に大物消えて大物傷つきましたな
ところで何話構成(何日で投下予定)なんでしょう?
いきなりエヴァと茶々丸が死んだ!?これは新しいですね。GJ!!
>>502 多分76話です
投下期間はwordで160pageほどなので20日くらいかと
うまくいけばですが
定期age
なるほど〜、
茶々丸とエヴァがね・・・
一度は考えたことがある展開
このあとどうなるか期待
この2人は「強すぎる」からねw しかし思いきったなー
早々に大物退場か……
しかし千雨は主人公ポジションか中ボスポジションにつくことが多いねぇ
今回は主役よりっぽいし、期待期待
<優越>
薄暗く朝靄のかかる中、所定位置に運ばれた。
唯一渡されたもの、リュックの中を確認することから始めた。
入っていたのは地図、乾パン、缶詰、そして迷彩服だった。
(ちっ、はずれかよ)
攻撃力も防御力も期待できないゴミアイテムだ。
「ん?」
畳んであった服の上に紙切れが一枚置いてあった。
紙には「これで君もサバゲー気分!!」とか書いてある。
今やっているのは本当のサバイバルゲームでありBB弾のような生ぬるいものではない。
要約すれば弱いものは死ぬ。
この紙の作成者はそんなことはお構いなしだろう。
純粋に殴りてぇ。
行き場のない怒りはバラバラになった紙と共に空へ舞い上がっていった。
迷彩服を観察しながら着るかどうか迷ってみる。
着替えたら他人に見つかり難くなるが、どっかの巡回兵に間違えられるかもしれない(んなもんいるのか知らんが)。
そんなんで襲われたり殺されたなんてことになったら救われねえ。
結局後者の要因のほうが大きいとみた私は服をリュックにしまうことにした。
(手ぶら、だな)
流石に何か身を守れるようなものを持っていないと落ち着かない。
森ではまったくといっていいほど武器が手に入らないから地図を参考に……。
いや、その必要はなさそうだ。
簡単に手に入りそうな「武器」がこっちにやってきた。
茂みに身を隠しこちらに来るのを待つ。
眼鏡は相手の認知を遅らせるために外した。
拳銃を持つ手をガクガクさせながらやってきたのは和泉だ。
警戒心が強いのか目線があちらこちらに行っている。その割には何も見えていない、といった様子だ。
あんな状態で引き金が引けるわけがない。
やれる、武器がなくてもアイツナラ“ヤレル”。
和泉がテリトリー内に入ってくる。
思うよりも先に体が動いていた。
標的まであと三歩!!
【迷彩服所持 残り??人】
<急襲>
「えっ!」
気付かれたようだがもう遅い。
私は手を伸ばせば届く所まで距離を詰めている。
はっ、甘めーな!!
拳銃を右手で薙ぎ払うとそれは力なく弾き飛んだ。
元から手が震えていたんだから、叩き落とすのくらい楽勝だ。
「きゃ!」
そのまま圧し掛かると私有利な体勢、俗に言うマウントポジションだ。
後は体重をかけて首を絞めるだけ。ほんと、簡単な作業だ。
「悪りぃな!!」
前屈みになり、和泉の首に手を当て締め上げる。
別に激しい運動もしていないのに体は熱くなり、大量の汗をかいていた。
冷静に対処する筈だったが息遣いも荒くなり鼓動も耳に付く。
全身の感覚が麻痺し、和泉の首に当たる指先だけに集中する。
「………さい…」
和泉が苦しそうな表情で何かを呟いている。
「逃げて……下さい」
は、何言ってるんだ?逃げろって?誰から?
ここには私とお前しかいない。くだらねえハッタリだろ?
つい首を絞める腕の力を緩めてしまう。にもかかわらず和泉は抵抗することなく道の先を見ていた。
私も一応確認してみる。
「―――――」
遭遇ktkr
何を言っていいか分からない、私は絶句していた。
確かに居たんだ、“人”ではないものが。
鋭い黄金の瞳で私達を見るそれ。ジャガーかチーターかよくはわからないが、それが肉食獣であり、私達を餌の対象として見ていることだけは理解できた。
和泉の抹殺はもう頓挫されていた。
「はは、こいつは……最悪だ」
あんなもんが何でここにいるのかは重要でない。実際居るんだから認めるしかない。
とにかく何とかしないと二人とも胃袋の中だ。
奴は咆哮を上げ、目にも留まらぬスピードでこちらに駆け出す。
やることは一つしかない。
自分で弾き飛ばした銃を拾い上げる。
獣は牙を剥き亜子に迫る。
汗ばむ手で銃把を強く握る。
身体を跳ね上げ仕留めにかかる。
狙うは急所、頭のみ。
鋭く尖った爪を振り上げた。
眼前の光景に声も出ない亜子。
実にあっけないものだった。
奴の爪は和泉の首筋で止まったまま、力なく体ごと地面に叩きつけられた。
弾痕が一発、側頭を貫いていた。
目を見開いたまま停止した獣、自分が殺されたことも解らなかったのだろう。
「……っ、はぁ!!はぁ!!」
しばらく呼吸をしていなかったみたいに、体が空気を欲しがった。
何の感情も浮かんでこない。脳が機能を一時停止している、そんな表現がふさわしい。
「はぁっ!!はぁ、っはぁ!」
私は尻餅をついたまま、しばらく立てなかった。
【亜子 FNファイブセブン所持 残り??人】
<困惑のち晴れ>
呼吸を整えた私は銃を持ったまま和泉の所へ行った。
「大丈夫か?」
奇跡的に和泉は無傷だった。制服に付いた血は和泉のものではない。
「は、はい……」
和泉はゆっくりと立ち上がる。
自分で言うのも何だが私は律儀にも銃を返して言った。
「お前は私を助けて、私もお前を助けた。だから、貸し借りなしでチャラだ。
で、これはお前のだから返しておく。
次に会ったときは敵同士だ。じゃあな」
言いたいことを言ったから行くか、と思ったらがっしり止められた。
そして、私にこう言ったんだ。
「私もついていっていいですか?」と。
……はあ、呆れるくらいの馬鹿だな。
さっきまで殺そうとしてたんだぞ?
それでも「お願いします!」と食い下がる。
「普通ならあの時に私が襲われていても逃げると思います。
でも、長谷川さんは助けてくれました。だから、大丈夫です。長谷川さんはいい人です」
こいつは貧乏な形振りをしてお金をせがんだらきっと渡す。それくらい騙されやすい奴だ。間違いない。
だいたい、助ける気などなかった。自分に降りかかってきた火の粉を除けたついでのようなもんだ。
「お願いします!」
あまりの熱烈さ(しつこさ)につい「ああ、もう、わーったよ」と了承を出してしまった。
一生の不覚!
その時、和泉は目を輝かせて喜んでいた。
こんな奴を殺そうとした自分が馬鹿らしくなる。私がやらなくても他の奴に殺されていたな、これじゃあ。
というわけで和泉と行動することになってしまった。
不遇な運命。はあ、なんでこんなことになっちまったんだ……。
この時にこいつが長き伴侶になることは知る由もない。
ttp://www.imgup.org/iup251235.jpg だからわたしは「和泉はともかく拳銃が付いてくるのは心強い。良しとしよう」などと考えていた。
「……制服、台無しだな」
和泉が私の視線を追う、そこにはべっとりと付着した血。
「あ、血……血、…………あかん……」
ドサッ
「お、おい?どうした!?」
やっぱ、どっかやられていたのか?
「ったくよー。血を見て貧血かよ。お前、真っ先に死ぬタイプだぞ」
これからも血を見る機会はあるだろう。その都度倒れられては面倒診てらんねーよ。
「ごめんなさい。急だったから……」
道から少し外れた草陰まで取り敢えず運んどいた。
「血には慣れろ」
「善処してみます」
和泉の自信なさげな顔を見て大方諦めた。
「ところでよ。あの獣の存在によく気付いたな」
首絞められている時に場の変化を読み取るなんてことは通常的にはできないと思う。
「そのことなんですが……ちょっと前にも、あの子に会っていたんです」
和泉が言うには、道を歩いていた時にその外れで寝ていたらしい。そして、さらに私を驚かせたのは、和泉は引き返すことなく静かに横を通過して来たというのだ。
「何で戻らなかったんだ?」
そう聞くと和泉は何か思いついたような表情になり。
「!!……そうですね……無理に通らなくてもよかったんですよね」
あははー、と笑ってみせる。
今更気付いたのかよ。度胸があるんだか、どこか抜けているんだか。……うん、抜けてるんだな。
「でも、こうして長谷川さんと会えたわけですし」
「そのせいでこっちは死にかけたんだよな」
和泉が壮大にヘコんだので、話を戻すことにした。
「まったく、はた迷惑なもん撒いてくれるよな」
あんなもんが島内に犇いているとは……ん?
和泉は?マークを浮かべたまま固まっていたので、話を続けた。
「獣だよ!あのチーターみたいな奴とか、おそらく複数いるんだろうな」
「え!?あれって、野生じゃないんですか?」
大げさに肩を竦ませて言った。
「んなわけねーだろ!どっかのサファリパークじゃねーんだ!
いいか?よく考えてみろ。ここは無人島だ。ああいう獣は普通こんな動物の少なそうな島なんかじゃ餌がなくて生きていけねぇだろ?
大体、人工物があるところに野生の肉食動物がいるワケねえっつーの」
また壮大にヘコみ、小声で「ごめんなさい」とか言ってるし。
あーホント、慣れないことはすべきじゃねーよな。
「あの獣はゲームをスムーズに進ませるためにこの島に解放したんだろう。つまり、戦う意思がなく武器もない不運な奴は獣に殺されてジ・エンドってわけだ」
いい武器も持たずにあの動物に対抗できるのはあの人間離れ格闘大会に出てた奴くらいか。
あの主催者の女は能力が抑制とかなんとか言っていたな、ならそいつらであっても互角には戦えないんじゃないか?
「さて」
ずっとここに居るわけにも行かないので立ち上がる。
「これから住宅地に向かうぞ、パソコンでもあればいいんだけどな」
大して期待はしていないがな。
しかし、隣にいた和泉は立たないで縋るような目でこちらを見ている。
「なんだよ。置いて行こうとなんて考えてないぞ?」
「……もう、誰かを殺そうなんて考えていませんよね?」
聞きにくいことを直球で聞いてくるこいつはある意味すごいな。虚を突かれて空振りするくらいの真っ直ぐだ。
「その問いには今のところYESだな。今んところ、お前のせいで無駄な殺しをする気もなくなったしな。
だが、私は命を狙われているのに抵抗しないお前のようなお人好しじゃない。相手が乗り気なら殺す。それだけだ」
それを聞いて和泉は一つ「ほっ」と息をついて立ち上がった。
思えば私はこの時に最初の嘘をついていたのかもしれない。
【亜子と合流 残り??人】
以上です
長谷川視点ということで死んだ人がタイムリーに分からないのは仕様です
おぉ、GJ!
なかなか斬新な進め方かと
そして読み終わってからようやく「そういや亜子って関西弁じゃなかったか?」と思った
亜子信者に土下座してくる
亜子が亜子じゃないな。
あまり面識のない千雨だから敬語なんジャマイカ?と勝手に脳内補完。
と言う訳でGJ!!!
そこでもし亜子が普段からこういう言葉遣いでも萌えられる俺がいることに気付く
むしろ関西弁だった事実に驚いた俺ガイル
なんかおどおど引っ込みじあんお人好しキャラって敬語なイメージがあるんだよなぁ……それだとのどかと丸被りだけどさ
実はこの亜子は式神でした、という壮大なトラップに期待
素で関西弁を忘れてたなら、今から直すの大変だろうなあ……
所々関西弁使ってたから
>>521が正しいんじゃあないか?
ヒント:ナギとの会話
つっこみ厳しいなぁみんなw
個人的には猛獣放ってることの方に驚いたw 全員殺す気か。
てか……殺し合いすることにメリットないよな、この状況。
とりあえず保存してなかったイラストがすでに404なことにへこんどく
実は猛獣が亜子の支給武器で、すでに一人ヌッ殺した(銃は殺した相手から奪った)ステルスマーダーとか考えた大馬鹿野郎は俺一人でいい
実は猛獣はクラスの誰かが魔法で変身したorさせられたものだと真面目に考えた俺
しかも、亜子を襲おうとしたのではなく亜子にじゃれつこうor助けを求めようとしたという真相
でも死んだ獣、いつまで待っても元に戻らないからなァ。
亜子と千雨が心通じかけた所で元の人間の姿(側頭部に銃弾の痕のある死体)に戻ると、なかなか邪悪に面白い展開に……
<マンション訪問>
住宅地に入って最初に訪れたのは島では一際大きなマンションだった。
市街地全体に電力が供給されているようで、エレベーターも動いている。
というわけで、私たちは最上階(6階)から調べ始めた。
本当は別れたいところだが、どこから「どんな」敵が現れるか分からないため、効率より安全を取ることにした。
「亜子ー、なんかあったか?」
「目ぼしい物は見つからんよ」
私が和泉を亜子と呼ぶようになったのは少し前まで時を遡ることになる。
森の中にて、
「なあ、その“長谷川さん”っつーのやめてくれねえか?なんとなくだけど」
「え?……なら、何と呼べばいいですか?」
「千雨でいいよ、千雨で」
「わかりました。千雨さんですね。じゃあ、ウチも亜子でいいです」
もう一つ、言っておかねーとな。
「あとさ、その敬語やめろよ。対等な立場なんだ、いつも通りに喋ってくれ。普段は関西弁で喋ってるんだろ?いちいち変えられるほうがしっくり来ない」
恭しい態度を取られるのは好きじゃないんだ。
亜子はイタズラっぽく笑って見せた。
「なんだよ…」
「そやな、余計に気を使いすぎていたみたいや。これからはあんま気にせえへんことにする」
亜子と口ずさんでみる。以外と悪くない気分だった。
部屋の巡回中も終始、亜子は話し続けていた。
「んでな……」
学校のこと、部活のこと、友達のこと、好きな人ができたこと(お前以上に詳しく知っているよ)。
ネタがなくなっても話しかけてくる。
「なあ、少しは静かにできないのか」
「やっぱ、迷惑やった?」
別に亜子の話に耳を傾けていて悪い気分になったわけじゃない。
「声を出せば場所が特定される確率が上がる。それくらい」
「不安なんや……」
見事に人の話をぶった切ってきた。
「喋ってないと心配で、なんかウチがウチでいられなくなるようで……」
亜子は地面に話すように小さな声で言った。
「でもな、ウチには千雨さんがいる。誰かに話を聞いてもらっているだけで安心できるんや。ほんまに千雨さんに会えて」
「たのむ……、解ったからやめてくれ」
聞いているほうが恥ずかしい。
「喋るのはいいが、これからはできるだけ声を抑えてくれ」
私の妥協案は亜子の「了解」という小声により、受理された。
結局、手に入れたものは小型の包丁だけで成果は上がらなかった。
【包丁入手 残り??人】
<招かれざる■・前>
さて、残ったのは一階だけだ。
今までの経過から、パソコンが使える(手に入る)確率は限りなく低いだろう。
藁をも掴む思いで探すしかない。
だいたい、パソコンが使えたからって現状を打破できるわけもない、かといって他にできることが見当たらない。
ゲームを降りた人間にとっては退屈なゲームと言えるだろう。
退屈とは少し違うか。ただ、すべきことがわからない、すべき道を閉ざされただけか。
……くだらないことを考えているな。
これなら亜子の話を聞いているほうがより効率的だ。
なぜなら、下手にボーっと考えていると、
「具合悪いんか?千雨さん」
ほら、無駄に心配かけるだろ?
世話を焼くのも、焼かれるのも私は好きじゃない。
だから、暫し思考を停止しよう。
「別に何でもねえよ……」
投げやりに答えておく。
ったく、亜子の体中から心配だよオーラが出ている。頼むから気にしないで欲しい。
と意味のないやり取りをしてる間に、一つ目の部屋を調べ終えた。
隣の部屋にノックもせずに入る。また、同じ形をした部屋。
建築士の奴には遊び心というものがないのか?
ここまで変化がないとさすがに嫌気がさしてくる。
「あれ?」
そんな中、亜子が違いを見つけた。
「なんかゴミが落ちてるんよ」
巡ってきた部屋にすべて整頓されていて、生活観はなかった。なのにこの部屋はゴミがある。
「いや、こいつは……?」
よく見るとオレンジ色の髪の毛だった。
なぜこんなに髪の毛が、
ピチャッ、ピチャッ
水の垂れる音(本当に水なのか?)が聞こえる。
何度も開いた木のドアの先から聞こえる音(開けるなよ)。
私は確かめるために(開けるな!)
ドアを開けた(開けるなって言ってるだろ!!)。
ピチャッ、ポタリ、ピチャッ、ポタリ
……の垂れる音。
「何だよ、これ……」
戻す物が胃に無くてよかった。
リビング一面に広がる血と肉、肉、肉………。
それを啄み、貪る……犬、いやその筋肉質な体と人間大の大きさからすれば猟犬、狼に近い。
そいつの近くには被害者の物と思われるバックと制服が散乱している。
腕、足のない体の持ち主は顔が認識できないほど赤に染まっている。
部屋の壁、カーぺット、ソファーには赤い斑点、赤い飛沫が散っている。
こんな死に方、常軌を逸している。
やばい
まずいとわかっていても体が動かない。
圧倒的な死の恐怖の前に私は無力だった。
片腕を咥えた犬がこちらを向く。
「千雨さん、どないしたん?」
距離を置いた所にいた亜子の呼びかけにより酸素が脳に行き渡る。
返事を返すよりも先にドアを閉めたその直後、
ズドン!!
重い衝撃が木のドアから伝わった。
「ひゃあっ!ち、千雨さん?」
「そこにある重そうな段ボール箱こっちに寄こせ!」
一時しのぎにしかならないが無いよりはマシだろう。
ゴリゴリと木を爪で引っかく音が私を焦らせる。
ドアに引っかかるように段ボールを固定した。
この部屋から出る、それこそが生存の最優先事項。
…………そうもいかないらしい。
「なんや、あれ?」
促されるままに出口方向に体を向ける。
唯一の逃げ道には口からだらしなく涎を垂らし私達を見る奴の同胞がいた。
【???死亡 残り??人】
<招かれざる■・後>
退路には獲物を待ち構える黒きハンター。
「ちぃ!!」
亜子を突き飛ばし、自分も左に跳ぶ。
受身を取ることなく体勢を立て直す。
ドゴッ!
嘘だろ?
犬は僅か二秒で遠距離を近距離にした。
なんっつー身体能力しているんだ!こいつ!
「亜子!銃貸せ!」
おどおどしている亜子から銃を奪い取る。
そう、最初から私が銃を持っていればよかったんだ。
そうすれば間に合っていた。
銃を貰ったときには犬は駆け出していた。
「!!」
激しい衝撃により吹っ飛ばされる。
「げふっ!!」
息ができず代わりに口から血が出てきた。
廊下から和室まで約5mといったところか、それくらい吹っ飛べば血の一滴ぐらい吐き出すだろう。
「千雨さ……あ、あ……」
なんともせっかちな奴だ。
最初の獲物を仕留めずに、ターゲットを近くにいる亜子に変えたようだ。
それはおそらく凶と出るだろう。
何故かって?私はそれでも右手の命綱を離さなかったから!
亜子と会った時の動画が脳でリプレイされる。あんときと同じ、よく狙って。
口の牙を見せ、亜子に襲い掛かる。
「いやあぁぁー!!」
頭を打ち抜くのみ。
「……死ねよ」
なんとも頼りになる武器だ、銃器って物は。
単にこの銃の威力が高いだけか?
眉間近くを撃ち抜いたとはいえ、見ている限り即死だった。
「グウウウウゥゥゥー!!」
もう一体お出ましか、さっきのリビングにいた奴だな。
この犬も同じ、最短距離でこっちに向かってくるだけ。速いが動きが愚直で凡庸だ。
作戦も何もありゃあしねぇ。
落ち着いてさえいれば、きっちり考えて行動してくる人間のほうがよっぽど厄介だ。
先ほど感じていた恐怖が嘘のようにまったくなく、激しい動悸も鎮まっている。
だいたい獣に襲われるのはこれで二回目だしな。
ドゥン ドゥン ドゥン!!
念入りに三発ほど頭に撃ち込んでやると、犬は断末魔を上げ力尽きた。
「びっくりしすぎて腰が抜けたわー」
死にそうになった割には動揺が見られない亜子。
本人曰く「さっきも同じ体験してるし、きっと千雨さんが助けてくれると思った」。
足手まといになるなら切り捨てる、って言っておいたほうがいいかもしれないな……。
「じゃあ、早速調べよっか」
…………。
ポカッ!
亜子の頭に私の拳骨がヒットした。
「ちゃんと考えて発言してるのか?」
まだ「はてな?」な顔をしている亜子に誰にでもわかるように簡略に説明する。
「このマンションをどっかに残党が潜んでいる可能性がある。だから、さっさと脱出だ」
首の根っ子を掴みズルズルと引き摺りながら出口へ。
「ぱ、パソコンはどうするん?」
「命あってのパソコンだ。以上」
外に出ると、太陽は南東に位置していた。
リビングにあった死体の件は隠しておこう。
それが私にとっても、亜子にとっても良いと思うから。
【軽傷 行動に支障無し 残り??人】
以上です
>>531(亜子の関西弁)は昨日投下しておくべきと思いました
すんません
おおおおおおー!
最初の犠牲者は誰だ!誰なんだ?
気になる!
GJ!!オレンジの髪って桜子か?放送が楽しみだ!
GJ!
オレンジ……ま、まさかメインヒロイン食われたのかしら……ガクガクブルブル
ジュラシックパークみたいだ
>>541 何と無く俺もそんな気がしてへこんだ
なんかもう桜子が活躍してなおかつ生き残る展開浮かばないぜ畜生
>>544 ついでに千雨の髪はみど(ry
桜子であって欲しくないんだけど〜死亡フラグだよな・・・?グレてやるorz
まさかアスナじゃないよね・・・
∩___∩
♪ | ノ ⌒ ⌒ヽハッ __ _,, -ー ,,
/ (●) (●) ハッ (/ "つ`..,:
| ( _●_) ミ :/ :::::i:.
___ 彡 |∪| ミ :i ─::!,,
ヽ___ ヽノ、`\ ヽ.....::::::::: ::::ij(_::●
/ /ヽ < r " .r ミノ~.
/ /  ̄ :|::|アキラ厨| :::i ゚。
/ / ♪ :|::| ::::| :::|:
(_ ⌒丶... :` | ::::| :::|_:
| /ヽ }. :.,' ::( :::}
し )). ::i `.-‐"
ソ トントン
<相違点(第一回定刻放送)>
危機を脱してからすぐにデパートの呼び出しの音と共に「放送」が始まった。
「皆さん、まだ生きているかな?では、定刻放送を始めよう。
綾瀬夕映(出席番号4番)、神楽坂明日菜(出席番号8番)、長瀬楓(出席番号20番)、那波千鶴(出席番号21番)、鳴滝史伽(出席番号23番)、葉加瀬聡美(出席番号24番)、四葉五月(出席番号30番)が亡くなった。
時間はたっぷりある。よく考えて行動してくれ。以上だ」
七人か……、ハイピッチで進んでいるな。
時計を持っていないから分からないが、4時間くらいしか経っていないんじゃないか?
だいたい、私は亜子にしか会ってない。
ということは、出会ってすぐ殺した奴が多数いるんじゃないか?
「千雨さん!!」
耳元で大きい声を出されて少しフラッとした。
「んな大きな声出さなくても聞こえる」
「聞こえてなかったやん」
何度か話しかけたけど難しい顔で考えていたらしい。
「ああ、悪かった。こっちに非があるな。
んで、なんだ?」
ただでさえ小さい身体を縮こませながら、
「この放送、嘘って事はあらへんか?」
「常識だろ、それくらい。んなことしても奴らにとって利益がない」
亜子は「そうやな」と同意すると、また下を向いた。
「クラスを守れなかった、とか思ってるのか?」
真面目すぎるこいつならそんなこと考えていてもおかしくはない。
「違うんや!!違う……」
自身を戒める、そんな悲痛な声。
「ウチは心の中で安心してる。7人のクラスメイトが死んだのにまき絵やゆーな、アキラが生きていることに安心してるんや。
なんて……醜い……」
ふうっ、一息ついた。
「何を言い出すかといったら、そんなことかよ」
自分の力が足りなかったとか言い出すんじゃないかと心配したぞ。
「人を贔屓にする。それくらい普通に生活すればザラにあるだろ?深く考えるな」
「で、でも!!」
「人間なんだから汚い感情くらい持つ。持たない奴はきっと聖人か廃人のどちらかだ」
もう一つ言っておくか……。
「私らは神様でもスーパーマンでもない。窮地に立っても自分の能力に見合った事しかできないんだ。世の中は漫画みたいに全てがうまくいくわけない。
だから自分のできることをするんだ。救えないものを救おうとすれば……二兎を追うもの一兎も得ず、って奴だ」
亜子が顔を上げる。自嘲的な笑顔だった。
「千雨さんは強いんやな、ウチよりもずっと。ウチはそんな割り切れへん……」
合理的に考えられるのも、クラスメイトの死に驚かないのも、
「このクラスに私が守るべきものがない。それだけだ」
私は生きるために抗う、自分自身のために…………。
この時は確かにそう考えていた。確かに……。
【残り21人】
<食糧補給>
こんな時でも人間の摂理は働いている。
つまり一言で言いと「お腹が減った」。
リュックの中の物を食べる方法もあるけれど、町の中心地が近いと地図に書いてあるんだ。どうせなら行ってみるか、ということで亜子の反対も当然なく私達は次なる目的地に向かった。
閑静な(この島ではどこもだろうけど)市街地に着く。
シャッターが閉まっている店はないのに賑わってもいない。
自ずとクラスメイト以外の敵の存在を意識してしまう。
(いないだろう。多分な……)
不思議な島だ。
線路も無いのに駅がある。
車も無いのに立体駐車場がある。
需要がないのにスーパーがある……これは違うか、私達は消費者だ。金は払わんがな。
ということで歩道沿いの大型スーパーに着いた。
中に入るか、
「千雨さん、あのな」
亜子の呼びかけの意味はいつもの雑談ではなかった。
「ウチ、隣の薬局を見たいんやけど」
某チェーン店、誰でも知ってる店が隣にあった。
しかしなぁ、一人にしておくのは気が進まない。
窓から中を覗く。見る限り何もいない。
短時間だ、大丈夫だろう。亜子は銃も持ってるしな(撃てなくだろうけど持っているだけで相手には十分脅威になる)。
「わかった。私はスーパー、お前は薬局な。用が済んだら私から合流する」
そう言い残し、私は自動ドアの前に立った。
普通のスーパーとは流石に違っていた。
その一、
入った直後にあるべき野菜コーナーに生野菜がない。代わりに置いてあるのはビンに入った乾野菜だ。
これってハムスターとかが食ってるやつだよな。水で戻すのか?
その二、
当然ながら精肉や海鮮類も生はない。日が持つ加工品(ハム、ミックスシーフード等)ばかりだ。
これなら普段から食べている物ばかりだから問題ないな。
リュックの空きスペースに詰めれるだけ詰めた。
その三、
日持ちするもの、つまりお菓子やインスタント食品の種類が充実している。
この店だけで大体は一ヶ月ほどの食糧が備蓄されている。
これで食の心配はなくなったと言える。
その四、
これはただのおまけだ。
レジには「すべてタダです」という張り紙がしてあった。
笑えなかった。
……………………、
「おい、帰ったぞ。大漁だ」
「遅かったな〜」
狭い店内に入ると、真剣な眼差しでサプリメントを眺めていた。
「亜子。サプリメントなんか見てどうするんだ?」
亜子はきょとんとした目でこちらを見る。それから胸を張り言った。
「リュックの食事じゃあビタミンと鉄分が取れへん。だからサプリで補給するんや」
何度目のため息だろうか。本当に解っちゃいない。
「明日、明後日まで生きていられるかも分からないこの状況で栄養価なんて言ってるのはお前だけだ」
どうしてこうもネジが抜けているんだ?
私が疲れるからできれば締め直したいぞ。
「ううぅ〜」
あ、拗ねた。
ふてくされた亜子の最後の抵抗。私の手に差し出したものは……、
カルシウムだった。
何故か無性にイライラした。
さあて、これからどうするかな?
薬局から次なる方針を考えているとき亜子にストップをかけられた。
「どうしたの!その傷」
亜子が見ないように見ている、つーか血が嫌いなら見るなよ!
私の左腕から血が滲んでいた。引っかき傷。
「別に大したことねえよ」
今まで気が付かなかったくらいだしな。
「アカン!ばい菌入ったら傷が膿んじゃうんやから」
口を尖らせてまで言う亜子の目はいつになく真剣だ。
手馴れた手つきで救急箱を広げる、マネージャー&保健委員の面目躍如だな。
「腕、見せて!」
ほんとに大した傷ではないが、この先騒がれると迷惑なので従っておく。
消毒液を綿にかけ傷口の血をふき取る、って血は大丈夫なのか?
なんとか大丈夫と言ってるし、顔色も悪くないから平気なんだろう。
頭の中に浮かんだ素朴な疑問、何となく口にした。
「亜子。サッカー部のマネージャーも保健委員もお前の血嫌いからすると適任じゃないだろ?なのに何でこんなことするんだ?」
暫しの沈黙。もしかしたら私は亜子の禁忌の門を叩いてしまったのか?
「…………人を助けたいと思うから。今はこれで堪忍して」
普通のものより大きめのバンソーコーを張る。
話題はここで打ち切りとなった。
【食糧入手 亜子救急箱、サプリメント入手 残り??人】
<思索交差>
駄菓子屋に入った。
そこで今、第一回作戦会議を行っている。
参加者は当然、私と亜子の二人だ。
机の上には店頭でせしめた駄菓子多数。準備は怠らない。
議題は「今後についての方針」。
まず、亜子が口にしたことは早く明石、大河内、佐々木と合流することだ。
実のところ反対だった。口にはしなかったが。
できるだけ少人数(一番良いのは一人)で行動したい。
馴れ合いなんて以ての外、体に合わない。
そうなった時は亜子を押し付けて私はグループから離脱することにでもしよう。
次に挙がったのはパソコンの件。
マンションの一室はディテールに至るまで精巧に作られた建築物だった。
その中で無かった物、パソコンと電話、いわゆる通信手段だ。
当たり前と言っちゃあ、当たり前のこと。敵に塩を遣るようなことはしない。
敵は綿密な計画を練って、実行しているんだ。わずかな綻びすら期待できない。
ゆえに普通に探索を続けたところで見つかることはほぼ無いだろう。
となると、必然と敵の支配区域にしか存在しない。そう考えられる。
どんな形でも、本気でパソコンを手に入れようとするならば多大なリスクが伴う。
パソコン入手の奇策もなく、保留となった。
最後に「早急にすべきこと」って言っても、ぶっちゃけ「ない」。
人が来るまで待つのも策だが、まだまだ外は明るい。
今のうちに地理の確認をしておいたほうがいいかもな。
思い立ったが吉日、30円の冷えてない炭酸抜きコーラを飲み干し会議を打ち切った。
腰を上げ再び外に出る。
あ、暑いな……。
熱と湿気からボイラーの中を想像させる。
太陽が嫌というくらい輝き、陽を燦燦とコンクリートに降り注いでいる。
不快指数は午後になって尚も上がっている(気がする)。
やる気が著しく下がったがダラけていてもしょうがない。
「駅のあるほうに行くぞ」
期待、関心があったわけじゃない。建物が目に入っただけ。
無人島に似合わない鉄筋ビルと駅。その不思議な地へと私達は足を進める。
【水分補給完了 残り??人】
<食む者・前>
昼間から不気味な雰囲気を醸し出す中心地。
日が出ているから余計に伝わる。
夜だったら人が居ないのも解るが、こんな明るい時間帯で誰も居ない街。
当たり前のことだがこんな光景初めて見る。
生命の息吹一つ感じない。人が居ない都市は死の臭いで充満している。
このまま外にいるとどうにかなってしまいそうだったので、亜子を連れてビルの中に入った。
たまたま入ったのは銀行だった(使えるものなさそーだな)。
人工的に冷やされた空気がロビーを包んでいる。
スーパーも冷房完備だったし、私達が話し合っていた駄菓子屋の住まいのクーラーも使えた。
電気の垂れ流しなんだろう、環境に良くないな。
どうでもいいことはそれぐらいにして、状況を打破すべく電気を有効活用できないだろうか?
う〜ん…………挫折。
パソコン以外思いつかん。
銀行のくせして、パソコンひとつ置いてない。
「亜子、ちょっといいか?」
「へっ?」
話しかけて脱力した。
適当に放置されていた100万の束、それで扇を作っていた。
一度はやってみたいが、今は断じてそんな気分にはならない。
聞くだけ無駄と99%結論付ける、残りの1%に賭けて、
「ここ、クーラー付いてるだろ?都心部にいる限り、電気は使い放題なんだと推測される。
そこでだ、この電気を活用する方法は無いか?」
扇を手にペチンペチンさせながら考えている。そして、
「わからへん」
お約束だった。
三つのビルを巡った。
成果はてんでなし。ハナから期待はしてないが、疲労だけ溜まっていくのは不快だ。
ん?目に見えない成果はあったか。
反撃の狼煙になりうるもの(パソコンなど)は島から排除したこと。
パソコン探しは断念したほうが良さそうだ。
もう一つは人工的に作られた無人島であること。
後者は予想から確信に変わった。
根拠
・ 発展地域と未発展地域の格差が激しい
せめて島一周の道路くらい作っておくだろう。なのにそれが無い。
・ 無駄な施設
交通もろくにされていない島に大手会社が進出している。
この島が私達の来る前から機能していたなら利益が見込めない、赤字経営確実なことをどこぞの有名会社が揃ってやっていることになる。
不可解すぎる。
・ 隣接する島も無いのに役場なし。
女は海のど真ん中にある島だとぬかしていた。そうなると、公の施設一つくらいあっていいはずだ。それがないということは……。
この島が殺し合い用に作られた特別仕様の島、完全な治外法権。
何が起こっても疑えない世界に迷い込んだ。
そういえば茶々丸さんが言っていたな。
「魔法の世界に関れば幾分、裏の世界に触れることになりますから」
クラスに魔法使いがいたから、私や亜子のような関係ない人間まで命のやり取りに巻き込まれたのか?
今の段階ではまだわからない……。
大雑把な探査を締めくくる場所は奇怪な駅だ。
何のために作られたのか?意味なんて無いのだろう。
あったほうが都心らしくなる、そんなものか?
亜子の銃を手に入口の階段を無音で上っていく。
中身は期待を裏切らず駅だ。
改札口、切符売り場、キオ○ク、完璧な造りをしていた。
「どうせだ、下も見ていくぞ」
改札を飛び越え……、異変を察知した。
(亜子、隠れろ!!)
かつん、かつん、コンクリートに硬い何かがあたる音が複数。
「…………」
トイレへ駆け込み無言で見守る中、現れたのは学校で見た服装の兵士が3人、そこにいた。
ヘラヘラ喋りながら足を進ませている。
仕掛けるか?いや、やめたほうがいい。
一人がマシンガン(のようなもの)を所持している。あとの二人は拳銃だけのようだ。腕が無ければ武器の質の勝負、分が悪い。
何かの会話の後に私達から30度くらいずれた場所、なんかのポスターが張ってある場所に銃を構える。そして、
バララララララ!!
耳に響く音を巻き散らしながら、弾の無駄遣いが始まった。
見る見るうちにポスターは屑へと変わっていく。
はた迷惑な奴らだ、そんなに銃を撃つのが楽し、
「ひぁああ!!」
素っ頓狂な声を上げる亜子。
ば、馬鹿!音だけパニクるな!!
男達からだらしない顔が消えた。
場所は特定されるのは時間の問題、ならば戦力を減らすのが最良だろう!!
咄嗟の判断で即座に戦闘体勢に入る。
パァン!パァン!
壁から顔と腕を出して放った二発は一人の左腕と、もう一人の胸に当たった。
「やば!」
引っ込めた直後にコンクリート片が粉となり舞い上がる。
マシンガンの雨が止まない。
【兵士一人死亡、一人軽傷 残り??人】
以上です
髪の色は書かないほうが良かったかもです
理由はアニメと原作で色が違う人がいるから、千雨しかり
アニメのオリジナル設定はサッパリなので
GJ
これ、千雨編終わったら全体の話が来るのかな?
GJです。
死んだのはアスナだったかー。
楓は死亡フラグたってたけどどういう死に方だったんだろう?続きwktk!
まだ生き延びた桜子・・・本当にGJ。
やはりオレンジの髪は
アスナだったか・・・・
今回のは何か怖いね。いい意味で。
猛獣が敵だなんて怖!
あと20KB
バイオハザード4みたいだぜ
<食む者・後>
雨が小康状態になったので顔を出し敵を伺う。
無傷の奴がマガジンの入れ替え、腕をやった奴は無線で連絡を取っている。
相手は本部と考えるのが妥当だ。
「脱出口はあるか!」
トイレの奥にいる亜子に呼びかける。
「無理だよ!窓はあるけど、高すぎる」
上ってきた階段を考えると、窓からの飛び降りは無茶だろう。
出口は私のいるトイレの入口のみか……。
運良く敵は爆弾類を持っていないようだ。でも、予断は許されない。
時間が経てば援軍が爆弾を持ってくるかも……。
くそっ、考えろ長谷川千雨!
窮地を脱する方法を!
囮作戦すらできない苦しい立場。
あらゆる計算をして弾き出された方法は。
正面突破、敵が二人なら何とかなる、それしかない……か?
無理は承知、このまま状況を悪くし死ぬくらいなら、刺し違えたほうが悔いが残らない。
乱射音が響く中、再び亜子に一声かける。
「表に出て仕掛ける。隙があったら逃げろ」
ズドン!!
決意に待ったをかける異変。
乱射音とは別の音が三回鳴った。
水を指された気分だ。いや、そんなことより状況を……。
「――――」
目が合ってしまった。
「ふっ、思わず撃ってしまいそうだったぞ」
「お前は、龍宮か?」
制服から褐色の肌を覗かせるその人は出席番号18番、龍宮真名だった。
右手の銃を下ろし、足を早める。
「…………」
惨劇の場と化した駅の片隅。
さっきまで襲っていた男達は二人とも頭を貫かれて目を開けたまま息途絶えていた。
「……うっ、っぷっ」
亜子は一人、トイレに逆戻り。
耐性のない奴にはちとキツイよな……。
私はもっと悲惨な骸を見ているたから平気だ。
マンションのアレより悲惨なものは考えられない。
「さっさと用を済ませるか……」
人目を気にすることなく龍宮は物色を始めていた。
「まあ、上出来だな」
私が確認していたマシンガンと拳銃二丁しか見つからなかったようだ。
ふと屈んだまま私にグリップを突きつけてくる。
「これはお前にやろう」
とりあえず手に取ってみた。
「シグザウアーP239、そんな名前の銃だ」
名を聞いたところで私には何も解らない。
「この二つは私が」
普通なら三つとも龍宮のもんだが、厚意でくれるらしい。
貰って損が無いものは貰っておく。私はファイブセブンを左手に持ち替えた。
「ご、ごめんなさい〜」
(多分)嘔吐を終えた亜子が戻ってくる。
龍宮に会釈をし、一言。
「本当に助かりました……」
死体に目を向けないように一心に龍宮の目を見ている。
龍宮はそうか、と他人事ととれる一言を残し踵を返した。
「おい―――」
離れ行く龍宮の背に話しかける。
「―――なんで、助けたんだ?」
自分自身でもよくわからないことを言っていると解っている。
なのに、こんな言葉をを口にしてしまった。
振り返った龍宮の顔は飄々としたいつもの顔、何の代わり映えもしない。
「唯の気まぐれ、そう思ってくれ」
灼眼からは何も読み取ることができなかった。
左手の銃を強く握っていたことに気付いた。
【真名 ベレッタM92G、IMIミニウージー入手】
【シグザウアーP239入手 残り??人】
<情報通>
恩人の背中を見送ってから、駅を出た。
日はまだ真上、さらに熱くなると思うと……考えないでおこう。
「―――なんで、助けたんだ?」
龍宮と別れる時に口にした言葉が脳内で蘇る。
失言、だったと思う。
どうして言ったのだろう?自分のしたことすら理解できてない。
熱くて脳がやられてしまっただけ、そんなのだったら笑える。
でもそれはない。
奴を見て何かを感じたのは事実だから。
龍宮についての私が知りうる情報。
高校生離れした体型、人間離れした能力を持つことも武道会で確認済み。
そして、冷ややかな赤い目は他人を遠ざける気質がある。
自発的に人と関わりを持とうとしない私とは違っている。
「龍宮さんに何のお礼をすれば……」
だがそれも亜子には関係なかった。
来た道を戻る途中でまた人に会う。
「やあ!」
警戒心無く手をヒラヒラさせてこちらに来るのは朝倉だ。
「止まれよ」
すぐさま私は拳銃で制止を促した。
ポケットに入っていた左手が怪しかったからだ。
「え、何?疑ってるの?
まあ、仕方ないか……。ほら」
ゆっくりと手を取り出す。
開かれた手には何も無かった。
「私、そんな信用ない?」
両手でヒラヒラやれば物騒なことはしなかった。
「けどそれ、かっこ悪くない?」
想像してみる…………。うっ、なんか馬鹿みたいに見える。
でも、保身のためなら……な?
話をシリアスな方向に戻す。
「でもよ、普通銃持ってる奴に無防備で近づいてくるか?
乗ってる人間だったら即、射殺だぞ」
「その点は抜かりないね。なんせ一緒にいるのが和泉なんだから。それにしても珍しい組み合わせだねぇ」
笑いを堪えた目でこちらを見てくる。こいつ、撃っていいか。
「まあ、和泉と一緒に行動してる経緯も踏まえて情報交換ヨロシク〜」
こういった流れで、私は路肩で必要な情報、具体的に猛獣、島について、巡回兵、龍宮について伝えた。
私と亜子の出会いについては亜子に目配せし誤魔化しておいた。
「ほほう、私と違って色々あったんだね……」
お前が感慨に耽ることはないだろ……。
「私はあんたらに見合う情報は持ってないから。
あと、和泉……深く考えすぎないようにね……」
いつも軽妙に話す朝倉の歯切れ悪い言葉、亜子に釘を刺したってことは運動部の奴関連か?
「私が知っているのは柿崎と桜子がおかしくなっちまったこと」
柿崎美砂と椎名桜子が綾瀬夕映を襲い殺した。情けないけど私は逃げてきた。
私には手持ちの情報が増えたとしか思わない。
和泉は予想通りそうもいかない。
「そんな、何かの見間違いじゃ……」
「顔馴染みの奴を見間違うことはないよ」
「で、でも!」
歯止めが効かなそうだな。
「やめとけよ」
朝倉に食って掛かる亜子の肩を掴む。
「桜子も柿崎もそんなこと……」
「朝倉に否定を求めても仕方ねえだろ?」
それきり亜子は黙ってしまった。
「んで、どうするんだ?ついてくるのか?」
「それは遠慮させてもらうよ。
やりたいこともあるし、それに……ね」
私もこんな気まずい状態が続くのはゴメンだ。
「気を付けろよ」
私達とすれ違い、駅のほうへ。
姿が消えた後、亜子は顔を曇らせて私のほうを縋る目で見た。
ほんとに手間がかかる……。
「ったく、一回しか言わないからよく聞けよ。
朝倉が見たって言っただけで、それが事実かどうかは自分の目で見るまで分からない、だからな、ガセを吹聴してる可能性だってある。
朝倉が勝手に他者に殺人鬼のレッテルを貼っただけかもしんねーし。
つまりこうだ。情報の受け取り方なんか、人それぞれ」
一呼吸入れる。
「お前は柿崎と椎名を信じてやれ」
しばらくあっけにとられた顔で固まっていたが、
「……千雨さん、ありがとう」
いつもの顔へ戻っていた。
情報の受け取り方なんか、人それぞれだ。
だから私は亜子の代わりにすべてを疑う。
それが私の役目。
【残り??人】
<傷負い人>
ファイブセブンを亜子に返した。
新しい銃が手に入ったしな。
いつの間にか足は駄菓子屋へ向かっていた。
動物はいつでも帰巣本能に駆られる。
自然に帰れば私達も所詮、動物の一種に過ぎないんだ。
見慣れた場所、旧市街地まで戻ってくる。
安堵感は束の間、吹き飛んだ。
私達が通ってきた時と違い、そこには見慣れないもの。
不吉な跡、不吉な赤があった。
血だ。
道に血痕が多数残っている。
人間どのくらい血を流せば死ぬかは知らんが、これはどう見ても失血死に至るだろう。
卒倒しそうになる亜子を支えて、道標を追った。
血痕は少しずつ液体となり、乾き具合が悪くなっていく。
近いな……。
そして、曲がり角を曲がったところが終着点だった。
路上に倒れるクラスメイト、本来金髪の髪が血に濡れて艶かしくうねっている。
見て直ぐにこれが誰だかわかる。
「いいんちょ!!」
亜子が名を呼び、苦手な血もお構い無しに足元まで駆け寄る。
どうやら生きているようだ。
「あら……和泉さん……、あと……」
「……長谷川だ」
こっちを見ているのに私の名が出てこない。
眼鏡をかけていないからか、それとも“見えていない”のか?
「そうですわね……眼鏡をかけている方はクラスには…千雨さんだけですもの」
後者で確定か……。
驚きを浮かべていた亜子も流石に悟ったみたいだ。
正面には目立った傷はない。ということは……。
亜子がうつ伏せにするように優しく動かす。
「ぅわっ……」
私は声を漏らした。
こんな傷を見れば、声の一つや二つはこぼしてしもう。
目を覆う赤、血紅色の背中。
よく見ると背中が裂け、肉が削がれている。
骨まで見えてもおかしくない深い傷をいいんちょは負っていた。
失明の原因もコレなのか?
私は医学知識などまっさらないからわからない。
知識が無くてもわかること。これは人間が付けられる傷ではない。
凶器:鋭く太い爪を想像できる。
問いかけるとらしからぬか弱い声で、
「熊……ですわ……」
答えてくれた。
肉食獣の揃い踏みか、あとは百獣の王くらいか?
んで、いいんちょはいかにして、その熊から生き延びたのか?
そこらへんを見渡すと立派な銃が放置してあった。
いいんちょの支給品だろう。
「なあ、亜子……。どこかに移動したほうがいいんじゃないか?」
「ダメや!出血が酷いから動かしちゃアカン!」
焦りの表情で手当てを続ける。
―――――言うべきだろうか……。
ありのままの“現実”を
「これも……、ええと、あれも足りない!」
慌しく救急箱を探っている。
「足りない……。ウチ、もう一回薬局行ってくるわ!」
話しきる前に飛び出ていった。
普通の危険度に加え、前科がある私達は兵士にも狙われる確率がある。
解っていながら亜子を止めなかったさ、無駄なことはしない主義なんだ。
あっという間に華奢な体は見えなくなった。
【あやか ステアーAUG所持 残り??人】
投下終了
人がさっきまでいたために遅れました
チア二人が乗ったか…。GJ!後気になる事なんだがパルもハカセも眼鏡では?
580 :
マロン名無しさん:2006/08/27(日) 10:10:19 ID:zRxlOcpk
もうその二人の死をいいんちょが知ってるってことじゃね?
ハカセ死んだな
チア二人が・・・大穴でのってない方に食券10枚とにかくGJ
じゃあ俺はチア3人とものったに50ルピー
<斜日の灯火>
アップテンポの足音がだんだん大きくなってくる。
警戒することはない。誰かなど見なくたって分かる。
両手が塞がった状態で亜子が角から姿を現した。
「いいんちょは!?」
息を整えながら私に答えを強要する。
だから、伝えてやった。ありのままにな……。
「ああ、死んだ」
ガラン!
綿や包帯が床に落ちた。
「……嘘…」
この状況で嘘をつくような奴はそうそういないだろう。
それなりの節度くらい持ってる。
「亡骸を放置するわけにはいかないから、お前はここで待ってろ」
「嘘や……、嘘や!」
いいんちょを担ぐ。
死体は重いと聞いていたがそれほどでもないな。血はもう出切ってしまったためか?
で、そのまま亜子の隣を通過する。
「……おまえだって分かってたんだろ?“助からない”って。
あれ見て助かると思う奴はさすがにいねーよ」
それでも納得がいかないらしい。
「お前は医者か?」
当然首を振る。
「たとえ医者であっても手の施しようがなかった、仕方ねえ。
もう一度言う。雪広あやかは死んだ。それだけだ……」
亜子が納得いかなくても事実は変わらない。
私は近くの住宅兼用の店に入り、ベットに死体を寝かせた。
その上に毛布をかけてやる。
ぶっちゃけ、埋めるのは面倒だったからこれで勘弁してくれ。
…………亜子はついて来なかった。
戻ると亜子は血痕のない路上で体育座りをしていた。塞ぎ込んでいる……みたいだな。
この調子では今後にも引き摺るだろう……。
そう思っていた矢先、
「ごめんな、一緒に行かなくて。
もう少ししたら復活するから……グズグズしていることをいいんちょも望んでないと思う。
でも、まだ整理つかんから……」
そうか、思いのほか強いんだな(こんなこと本人には言えないが)。
柔な精神の奴じゃ、この環境下では狂うか自殺するかすぐ殺されるかだ。
自分を保っていられる亜子、精神力の強さは当然とも言える。
このまま暇を持て余していても仕方がないので、私は傍らにある大きな銃を手に取ってみた。
いいんちょの忘れ形見は使わせてもらおう。見た目からして強力な武器だからな。
私が自分のリュックに予備弾を移し終えると同時に亜子は立ち上がった。
「憂鬱タイムはおしまい……元気出さへんと!」
完全には吹っ切れてない。まあ、気が滅入ってしばらく行動不能になるよりよっぽどマシだな。
私が死んだら悲しんでくれる……そんな人はいるのだろうか?
【雪広あやか 死亡】
<黒翼・前>
気を取り直していつの間にか本拠地となった駄菓子屋へ向かう。
もう旧市街地にまで戻ってきているからすぐ着く。
さすがに疲れたから、私も色々と頭の整理をしたい。
つーか、横になりてえよ……。
ドクンッ!!
突然のことだ。
強く心臓が跳ね上がった。
な、なんだよっ!今のは?
私は足を止めていた。
「どうしたん?」
前を行く亜子が振り向いて尋ねてくる、そんなシチュエーションが想像できるがそうではなかった。
亜子も体を震わせて足を止めていたのだ。
私と同じように違和感を感じ取った、おそらく……な。
なんたって凡人の私も感じ取れたんだから亜子もそうであってもおかしくはない。
お互いに顔を合わせる。言葉は無くても何をすべきかは分かっていた。
素早く交差点を曲がり、ビルの横からチョコンと顔を出す。
暑さで歪んだ空気。蜃気楼で視界がぼやける。
こちらに近づいてくるごとに複数の輪郭がくっきり見えてくる。
正体はあまりにけったいで畏怖すべきものだった。
さすがに驚いた。
悪魔と鬼
そのままの意味で受け取って結構。
西洋のモンスター、デーモンとか言う奴と和的な悪魔?それが数体ほど。
霊符が額に取り付けられている。
ということは、誰か魔法使いが使役している?
詳しくは知らない。だが、私たちにとってあれが最悪の部類に入るのは確かだ。
獣達と違い通常の攻撃の類が効かないかもしれない。
どれくらいの運動能力を持っているかもわからない。
知らないモノは常に恐怖を相手に与える。嫌であるほど実感した。
「あれ、生物なん……?」
魔法関連に足を踏み入れていない亜子には生きている、動いていること自体が信じられない。
「知るかよ……」
近くでも聞き取りにくい小さな声でやり取りしていた。
それでも、奴らは私達を察知していた。
爬虫類系の目がこちらを捕らえる。
まったくもって運がない、いや、クラスメイト同士の戦闘に巻き込まれていないだけマシなのか。
「逃げるぞ……嫌な予感がする」
「うん」
話は打ち切りその場から離れる。
悪魔どもがそのまま素通りしてくれることを願ったが、そうも行かない。
交差点で方向転換し、追跡してくる。
つーか、一部の奴は飛んでやがる。
「あれ、なんでうちらを追ってくるん!」
「知るか!私に聞くな!」
標的にされる理由よりも標的にされた事実のほうが今は重要だ。
戦闘を避けるべく私達は逃亡を続ける。
【残り??人】
<黒翼・後>
どんなに足を早めても、所詮、空中と地上。
機動力が違いすぎる。
翼の付いている連中(3体)に先回りされていた。
後ろからは飛べない連中(4体)が詰めている。
足を止める他なかった。
挟み撃ちでチェックメイトか?
……私は諦めが悪いんだ。
「退きやがれ!」
前方に銃を乱射し、道を作り出せば……。
しかし、強靭な肉体に鉛球は無意味なのか、デーモンどもは被弾しているのにビクともしない。
「……なら!」
目標を変える。
顔に取り付けられている符、コレを撃ち抜けば……。
バララララ!!
軽快に銃口から飛び出していく弾は二枚の紙切れを屑にした。
“ヴォオオオオ”
この世の生物にない叫びを残し、二体が灰へと消えていく。
攻撃が効かないわけじゃない、撃退でき―――
「!!?」
丸太に等しい腕が私の背後から襲った。
後ろにも敵がいたんだ、つい忘れていたよ。
避ける?まったく無警戒だったのに何故そんなことができると言うのか?
超越した腕力は爪で肩を引き裂くだけでなく、私を地面から乖離させた。
肩を心配することもできない。
ボロ雑巾のように軽く中に舞った体はニュートンの法則によりコンクリートに叩きつけられる。
ミシミシッ
骨が軋む音を聞いた。
息もできず、痛覚も麻痺してしまっている、体が動かない。
「……さん……!」
亜子が私の名前を呼ぶ声が耳に入る。
意識を保って状況を把握する。
デカい銃は右手にない。10mほど先に落ちている。
それでも、
負け犬よろしく地面に這い蹲りながら、
シグザウアーを取り出した。
ブロロロロロ!!
懐かしいような、聞きなれていたような、そんな音。
だんだん大きくなっていく。
私はなんとか頭を上げた。
こっちに来るのは……軽トラ!?
しかも運転してるのがうちの生徒だと!
つーか、めちゃ乱暴な運転だな。
邪魔者を轢き倒し、亜子の元まで辿り着く。
キキィッ、とブレーキ音を立てながら暴走車は止まった。
「お待たせ、アル」
期待もしなかった援軍が現れた。
後部座席から現れたのは武道大会に参加していた古菲だ。
古は亜子に二言ほど声を掛けると敵に向き直った。
あいつ、囲まれているのに余裕すら窺える。
「相手してあげるヨ!」
あっという間だった。
古の動きを見ていると、デーモンどもはあまりに緩慢だ。
一体、もう一体と札を取られ消えていく。
“ギィアアア”
怯えとも取れる泣き声を上げ、残った一人が襲い掛かる。
古は難なく流して、
「頂肘!!」
カウンター。
動かなくなったデーモンの霊符を取ると、存在しなかった者のよう粒子へと変わり消え去った。
一人の少女がモンスターを殲滅。どこのアニメだよ。
私は動かなくなった体に鞭を入れ、よろよろと立ち上がる。
これまた奇跡的に無傷だった亜子が「ダメ、安静にしてて」と泣きそうな目でこちらに寄り添って来た。
恥ずかしいからこっち来ないでくれ。
言っているそばから古がニヤニヤしている。
「亜子!無事?千雨さんも」
助手席から出てきたのは佐々木。
そして運転席から出てきたのは大河内だった。
(故意かどうか知らんが)あんな危険な運転してたのが大河内……ねえ。
まあ、その、人は見かけによらないってことか。
私の目は自然と久しぶりに嬉しそうな顔をしている亜子の背中に向けられていた。
【古、アキラ、まき絵合流 残り??人】
<他愛ないこと>
三人は結局合流することになった。
私は反対の二文字を、表に出すことなく心に留めた。
(亜子が元気でいられるなら……)
ちっ、私は何考えてるんだ!
覆水盆に返らず、って言葉があるだろ?
どうせ最後には殺し合うんだ。
死んだ奴もいる、”大団円”なんかもうない。
クラス全員が顔を揃えることもない、少なくとも“この世”ではな。
一方通行の道しか示されてないんだ。
(……私は……何考えてるんだか……)
行き着く結果は変わらないのに、今の和やかな雰囲気に身を置いてもいいと思う私がいた。
団体さんとなった私達は駄菓子屋に戻る。
歩くごとに体中がミシミシと音を立てる状態だったので、近くで本当に良かった。
着くと私はだらしなく和室で横になった。体が痛い&しんどい。
「千雨さ〜ん、起きとる?」
なんだよ、人がまったりしてるのによぉ。
「傷、これから手当するから」
外傷は大したことないんだ、別にいいだろ?
―――――て、痛てててて!!
「何すんだよ!!」
左足の痛みで飛び起きる。
「ウチはただ左足を触っただけや」
勝ち誇った顔をする亜子。
…………言い訳もできないくらい不利だ。
「手当て、するから」
二度目の言葉に私は同意した。
「多分、軽い打撲やな。安静にしとけば直ると思う」
グルグルと手際よく包帯を巻いていく亜子。
「やっぱ、大したこと無かったじゃねーか」
「見るまでそんなんわからへん。だから、具合を見ることは大事なんよ」
痴話みたいだ。
三人もこっちを見て笑っている。
持て囃されるのは嫌いだが、これもこれでイラっとくる。
「治療はもう終わったんだろ?横になるからあっち行け」
シッシ、と仕草をすると亜子は残念そうに戻っていった。
テーブルで雑談する四人と背を向けて横になっている私。
やることも無いので、自ずと会話が耳へ入ってくる。
(…………)
「アキラの運転。なかなかのものだったアルよ」
どこがだよ!!
間髪無く突っ込みたかったが、心の中だけで我慢しておく。
「それにしても、どこで車見つけたん?」
「大きな立体駐車場に一台だけあったアルよ」
「そうそう、出るのが大変だったよね!
アキラさ、何回も壁にゴリゴリ擦ってさ!」
「ちょ、まき絵!?」
大河内の焦る声が聞こえる。