げんしけんSSスレ6

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1マロン名無しさん

げんしけんSSスレ第6弾。
前スレが容量オーバーしたのであわてて立てます。
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。名前欄にキャラ(カプ)記載を忘れずに。

☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評連載中。
☆単行本第1〜7巻好評発売中。
☆作中作「くじびきアンバランス」ライトノベルも現在3巻まで絶賛発売中。

【注意】
ネタばれ含んだSSは公式発売日正午12:00以降。 公式発売日正午以前の最新話の話題は↓へ
げんしけん ネタバレスレ8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1140782112/
前スレ
げんしけんSSスレ5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1141591410/
2マロン名無しさん:2006/03/24(金) 20:48:49 ID:???
げんしけん(現代視覚文化研究会)まとめサイト(過去ログや人物紹介はこちらへ)
http://www.zawax.info/~comic/
げんしけんSSスレまとめサイト(このスレのまとめはこちら)
ttp://www7.atwiki.jp/genshikenss/

エロ話801話などはこちらで
【椎応大】げんしけん@エロパロ板 その2【くじあん】 (21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1122566287/
げんしけん@801板 その4 (21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/801/1127539512/

前スレ
げんしけんSSスレ5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1141591410/
げんしけんSSスレ4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1139939998/
げんしけんSSスレその3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1136864438/
げんしけんSSスレその2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1133609152/
げんしけんSSスレ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1128831969/

げんしけん本スレ
「げんしけん」 木尾士目 その125
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/comic/1141525563/
3 ◆suTtoKok.. :2006/03/24(金) 20:49:33 ID:???
スレ立てついでに

前スレ>>455(恵子のお話)

ども、原案者です、リスペクトどうもありがとうございます。
個人的には恵子に痛い男女関係まで背負わせるのはちょっと酷かなーと思いますが、
恵子にも何らかのきっかけはあった筈なので、それの補完を考える点では
とても参考になりました。ぜひまたこの方面の考察を深めていただければ幸いです
4マロン名無しさん:2006/03/24(金) 21:10:09 ID:???
えーと、前スレの「サマー・タイム-2-」は今回はあれで終りかな?
なんかあっという間の500K越えだったな。
では感想を…
青春ですねえ…思い込みとすれ違い…思わず遠い目をしてしまうね、おいらみたいな親父は。
これからどうなるのか期待してます。
5マロン名無しさん :2006/03/24(金) 21:19:31 ID:???
サマー・エンド-2-
見てたら泣けてきた…GJです
6マロン名無しさん:2006/03/24(金) 21:37:02 ID:???
>>1さん乙。
もうそんな時期かいな、早いね。
74:2006/03/24(金) 21:53:52 ID:???
ぎゃあ、タイトルを間違えてる(泣
サマー・エンドでした。深く反省し、謝罪します。
スマンカッタ orz
8マロン名無しさん:2006/03/24(金) 22:02:16 ID:???
>サマーエンド2
絶望した!再度の鬱展開に絶望した!
続き次第では練炭とエンヤのCDを買わねばならん…

9マロン名無しさん:2006/03/24(金) 22:27:44 ID:???
>サマーエンド2
あえて苦言を…鬱展開はいいんだけど、キャラが「らしくない」所があるような気が。
たとえば咲は親が金持ちだから、借金でキャバクラ…というのはないと思われ。
借金の肩代わりでお見合い強制、とかいう感じになるんじゃないかと。
そして笹原は気軽に「キャバクラに勤めたら行くよ」なんていえないんじゃないかな。
いくら一般人っぽくってもオタクだし。

そして何より、こっちのスレで終了宣言か続行の挨拶かしてくれ。
10サマー・エンド-2-〜なかがき:2006/03/24(金) 23:16:13 ID:???
すいません。いきなり500kオーバーでびっくりしてしまいました。
新スレを勝手に立てるわけにもいかず、オタオタしました。
すいません。

まだ続きます。一応頭から再投下させて頂きたく思います。

23:20から投下させていただきます。
11サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:20:49 ID:???
激しい風が緩やかな坂をかけ上がっていって、中学生やそこらの仲良しグループがきゃああとはしゃぐ。
バサバサになった髪を顔を見合わせて笑うと、お人形さんの髪を梳かすように相手の頭を治してあげる。
ジト目で咲がじっと見ていた。
(きゃわいいのう…。けっ!)
店内に人はない…。スローな女性ボーカルの洋楽が流れる店内。
風のぶおうぶおうと音が時たまそれをかき消した。
煌々と照る照明。咲は電気代が勿体無いので消そうかとすら思った。
(くそう! せっかくの日曜になんで暴風が吹き荒れるんじゃい!!)
言わずもがな、土日祝日は書き入れ時であるわけで、特に赤字削減を命題に励む咲にとっては真剣勝負の大事な一日である。
それなのに強風…。ドア開けるのもしんどい…。しかも夜から雨の予報も出ているとか。
「ふふぁあああ〜〜〜…。」
大げさなため息で笑い飛ばそうとしたが、余計に虚しくなった。
(誰かこのお店に来て上げて下さい…。頼むよ…。

…………。

……………。

……………………………。

くそ〜っ!!、流行ってるショップ全部潰れろっ!!)
思わずそんな非人道的な考えがよぎる日曜の昼下がりであった。

12サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:21:31 ID:???
ふと見るとガラスの向こうに苦笑いの笹原が立っていた。
「はは…、春日部さん…いま人殺しみたいな顔してたよ………。」
「マジで?!」
鏡の前に直行して表情をチェックする。確かに疲れ気味で目に隈が出ている。
涼感の照明も顔色をより青白くみせていた。
「あ〜、こりゃひでー。」
「疲れてんね…。大丈夫?」
「そっちこそスーツ着て。今日も仕事なの?」
笹原はいつものスーツと革靴。ジャケットのボタンは全部外して、手ぶらという格好だった。
頭は風に煽られて分け目がメチャクチャになっている。笹原の目にも隈があった。
「まあねぇ…。今日は先生の取材のお供…。」
両手をポケットに突っ込んで重そうな足取りで歩く笹原。
「その先生は?」
「いまエステ&マッサージ中…。」
皮肉げに笑う笹原に、咲も同情の笑顔を向けた。
「まったく、マッサージ受けたいのはこっちだっつーのに…。」
「ホントだよなあ。私もエステ行きてー…。」
咲はマグカップにコーヒーを注ぐと笹原に差し出した。笹原は椅子に腰掛けてカップを手に取る。
そしてコーヒーを飲みつつ店内を見回す。
「客いないねぇ…。」
「そうなんだよね…。」
咲はずっぷりとカウンターに突っ伏した。笹原の視線を背中に感じつつ、暫く突っ伏している。すると、
もう何だかヘンなスイッチが入ってしまって、口から笑いが漏れ出してきた。
「ふふ…、うふふふふ…………。」
「春日部さん?」
笑いに震え始めた咲の背中を笹原はおののきながら見守る。
「ふふふ………、うふふふ……、ふあ、ふはははは………。うへへへほほほ………。」
「だ、大丈夫デスカ…?」
13サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:22:07 ID:???
「くへへへ……。ふふほっほほほ……、くわはは、ふあははは…、あはははははははははあーーー!!」
テンションがMAXに達した咲は、くるっと顔を笹原に向けた。
「もーダメだ〜〜〜〜〜。もーお終いだあああ〜〜〜。」
咲は涙目で絶叫した。
「私はもうダメなんだあああああ〜〜〜〜〜!!!!」
「まあまあ。こんな日もあるって…。」
「い〜〜や。も〜〜限界だ〜〜〜。このまま閉店する運命なんだよ〜〜〜。そんで借金地獄だあ〜〜〜。」
「大丈夫だって。これから流行るよ絶対。」
「うっせー! オタクにファッションの何がわかるっつーんだよお!! も〜絶望だあ〜〜。キャバクラで働いて借金返すのが私の運命なんだ〜〜〜。」
「あ〜………、でもそうなったらちょっと行きたいかも?」
「くうう〜、他人事だと思いやがって! 私の絶望の深さがササヤンに分かるかああ〜!!」
「そう言われると『分からん]としか言えないよねぇ…。」
「ちくしょ〜〜! 敵だあ! 世の中ぜんぶ敵だああ!」
「まあまあ、愚痴ぐらいなら聞きますから…。元気出して。ほら。てんちょーお願いします!」
「完全にバカにしてるだろ?」
などと言いつつ、咲の顔にはちょっぴり生気が戻っていた。疲れも吹っ飛ぶとはいかないものの、空元気くらいは出た。
心の中も近頃では珍しくスッキリとしていた。立場上、愚痴をこぼせる相手もいない。
ただ聞いてもらってからかわれたたけだが、少しだけ気持ちが軽くなっている。
咲はぐーんと伸びをする。
「ふぁああ〜〜〜あ。愚痴ったところで、頑張りますかね。」
大げさなため息。聞いてくれている人がいるおかげで、今度は虚しくない。
笹原が嬉しそうな顔で言う。
「ちょっとは元気でた?」
「ちょ〜〜〜〜〜〜とはね。あははは。」
(そのちょっとが大事なんだけどな。)
咲は胸の中でそう呟いて、無言の感謝も付け足した。
咲は自分のマグカップにもコーヒーを注ぐ。黒く濁った濃厚なコーヒーから香ばしい芳香が揺らめいて、
それを一口、口にすればふっと表情が和らいだ。
そしてもう少し暖かい灯りするものいいかもしれないと思った。
14サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:22:45 ID:???
「あ〜、んじゃ今度は俺の話を聞いてもらっていい?」
「なんだよ唐突だな…。」
咲は緩んでいた眼を見開いて笹原を見る。笹原は照れ臭そうで、首を重々しげに捻っていた。
深く吸い込んだ息をふーっと吐いて、体を小さく丸めている。
咲は体を笹原へ向けた。
「で、どうしたの?」
「いや………、ちょっと………、ケンカをしまして………。」
咲は呆れ顔で笹原を見た。相談のフリをしたノロケかいと警戒したのだ。
しかし、笹原の様子はそんな雰囲気ではない。顎が胸にくっつくくらいに首を折って、うな垂れている。
体が心持ち小さくなった気さえした。
咲は反省して表情を整えた。
「で、原因はなんなのよ。」
う〜んと唸る笹原。首を捻るばかりでなかなか答えが返ってこない。
咲はコーヒーのフレーバーを堪能しながら笹原の準備が整うのを待った。
暫くして、漸く途切れ途切れの言葉を笹原は返した。
「原因………、っていうか……、それはまあ、………タイミング的なもんで、……アレなんだけど。」
「うんうん。」
う〜〜〜〜んとまた唸る。咲はコーヒーをゆっくりと口に含んだ。
「あれかな? やっぱり彼氏って頼もしいほうがいいのかな? ………優しいのはダメかな?」
「いや、それだけ言われても何とも言えないけど…。」
咲は助け舟を出した。
「どんな感じでケンカになったのよ?」
「あ、あ〜…。まあ、それは俺が悪いんだけど…。荻上さんが描いたマンガを読んでたのね。」
「やおい?」
咲はニヤけて言ったが、
「ちがう。普通のマンガ。」
笹原の返答は真面目である。咲は(ヤベ、外した)と思った。
15サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:23:22 ID:???
「そんで…?」
「まあ、読んで感想聞かせて欲しいってことだったんだけど。………ぶっちゃけてあんまり面白くなかったんだよ…。
展開が唐突だったりとか、セリフがちょっとカッコつけ過ぎてクサかったり。ラストもありがちなオチだったし…。」
「あー、それそのまま言って怒らせたの?」
「言えないよそんな…。」
笹原は情けない困り笑顔を見せた。そしてまたうな垂れる。
「俺はできるだけ良い所を褒めるようにしたんだけど…、何か逆に頭に来たみたいで…。そんでケンカにね………。」
咲は軽くため息をついた。それはきっとコーヒーの匂いがしたことだろう。
「まあね…。無理くり褒められてもねぇ…。ちゃんと言った方がオギーためでもあるし。」
そう言ったとき、俯いていた笹原が急に上体を振り上げた。
「ていうかそーゆーことじゃないんだよね。」
「は?」
咲は素っ頓狂な声を出してしまったが笹原はいたって真剣である。
「何ていうか、最近こう…、あれ…、何ていうか……、こう、うまくいってないんだよね…。
何か、俺が優しくしても不機嫌になることが多いし…。そんで頑張ろうとするんだけど、さらに空回るし。
やっぱり優しいのってダメなのかな? 女の子としてはつまんないの、そういう男って?
もっと強引にグイグイ引っ張るほうのがいいのかな? 荻上さんも強気攻めが好きみたいだし…。
俺もそういうのに応えたいんだけど、もともとヘタレっていうか、待ち体質で上手くできないし。
なんつーか、強引に『こうしろ!』みたいの苦手なんだよね…。でも荻上さんがそういうのが好きなら
俺もそうなりたいと思うし…。やっぱり俺が強気攻めになった方がいいのかな? どう思う?」
「………………。」
咲の頬を汗が流れた。
「いや、分かんない…。強気攻めって言われてもさ…。」
はあ〜と再びうな垂れる笹原。
咲はコーヒーを飲んで気を落ち着かせた。
16サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:23:55 ID:???
「要はすれ違ってるわけね…。」
「まあ、そうかな…。というかも〜、情けないよ俺。ケンカしてすごい傷つけるようなこと口走っちゃったし…。最低なんだよ…。」
搾り出すような笹原の声に、咲も真剣な顔つきになった。
笹原はがっくりと肩を落としてうな垂れている。濃いグレーのスーツのせいもあって、それは巨大ダンゴムシのようだ。
(ここは私が何とか力にならないとね…。)
笹原の説明は要領を得ないながらもそれなりに雰囲気はわかった(と思う)。愚痴を聞いてもらったお礼にこっちとしても
何とかしてやりたかった。
「ササヤン頑張り過ぎてんだよ、たぶん…。」
「………そうかな? むしろ頑張りが足りないと思うんだけど。」
「もっと普通にすればいいんだって。普段のササヤンでいいの。」
笹原は納得がいかないとばかりに首を捻っている。咲はさらに熱の篭った声で続けた。
「例えば、恵子でも斑目でもいいけど、何かササヤンに評価を求めたとすんじゃん? そんときはハッキリ意見言うでしょ?」
「まあ…、それはね…。」
「それでいいのよ。素でいいの。」
「ええーー!! でも恵子とかと荻上さんとは全然違うし! 大事にしたいんだよ!」
(わかんねぇー野郎だなーー!!)
咲は瞬間的にキレそうになったがそこはグッと堪えた。
「いいからそうしてみって。あとそーだな、早めにちゃんと謝ることだね。」
「それはしようと思ってるけど…。」
「荻上はササヤンが嫌いになったわけじゃないんだから。ただ上手く伝えられないから不機嫌に見えてるんだと思うよ。」
「…………、そうですか…。」
返事はしたものの、やはりどうにも納得がいってないような笹原である。腕組みをして首をあっちへ捻ったり、こっちに捻ったり。
17サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:24:31 ID:???
咲はいよいよ痺れを切らして更なる熱弁を振るわんと立ち上がった。
「いいかあササヤン! お前の気持ちもわけるけどな、大事なのは二人が…。」
のだが、急に満面の笑顔を作って入り口に向けた。
「いらっしゃいませ〜。」
せっかくの熱弁は間の悪い待望の来客によって引っ込めざるを得なかった。
笹原は買ったばかりの腕時計に目をやってから背筋をしゃんと伸ばして席を立った。
「それじゃ俺も戻るよ。」
「うん。わりぃね…。」
笹原は来たときと同じように重そうな足取りでガラス戸を潜って行く。
咲の胸に不安な思いが残った。しっかりと言うべきことを伝え切れなかった気持ち悪さが、それに拍車をかける。
大丈夫だとは思う。笹原と荻上はどう見てもお似合いだし、ピッタリの二人だ。お互いに相手をちゃんと好きでいる。
オタク同士で趣味も話も合う。私と高坂とは違う。
一時すれ違って、ケンカをすることだってあるだろうが、大した問題じゃない。どの恋人同士にもあることなんだから。
あの二人なら当たり前に乗り越えていくのだろう、と咲は思った。
いま大事なのは、目の前の客を確実にものすることだな…。
18サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:25:14 ID:???
無意識に腕時計の跡を摩りながら、笹原はネクタイを解く。
使い慣れた座椅子に腰を下ろして、上着の内ポケットから携帯を取り出した。
リダイアル履歴に並ぶ『荻上さん』を文字を眺めながら、しばし瞑目する。
(まずは、ちゃんと謝る…。そんで………。)
頭の中で予行演習を繰り返すと、うりゃ、と気合を入れた。

とぅるるるるーー  とぅるるるるーー

コール音が返る度に、もぞもぞと体をくねらす。まるでトイレを我慢しているような仕草だ。
祈るような気持ちで、息を凝らしてその瞬間を待つ。
「はい…。」
でた。
「あ………、こんばんわ…。」
「……こんばんわ………。」
小さい荻上の声。笹原は耳を携帯に擦り付ける。
「いま話して平気…?」
「ダイジョブです…。家ですから…。」
「俺も家…、いま帰ったとこ…。」
「お疲れ様です…。」
「うん………。」
「………。」
「………。」
沈黙が流れる。
笹原は慌ててそれを埋めようとする。
「あの………、ごめん。こないだのこと………。本当にごめん………。」
「いいんです。私も悪かったし……。すいませんでした…。」
荻上の声は暗く沈んでいる。笹原は言葉を重ねる。
19サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:26:35 ID:???
「違うよ…。悪いのは俺だよ…。荻上さんの気持ちも考えないで…、いい加減な感想言って…。
そんで勝手に怒って…、酷いこと言って………。」
「……………、はい…。」
「ごめん…。」
「………。」
「ごめんね…。もう絶対に荻上さんのこと、傷つけないから…。もっとちゃんと…、荻上さんのこと考えるから………。」
「………。」


「………。」
「俺、もっと頑張るから。荻上さんが俺を好きでいてくれるように、頑張るから…。」
荻上の声は聞こえない。
「ヘタレだし、今の俺には優しくすることしかできないけど、もっと頼ってもらえるようになりたいって思ってる。
漫画のことでも、もっとちゃんとしたアドバイスができるようになりたいし。荻上さんの助けになりたい。
荻上さんが強気な俺が好きなら。そうなれるように努力するから。だから………、その…。………ごめん。」
少しの沈黙。
永い永い沈黙の後、荻上の声が聞こえた。。
「………笹原さんの気持ち、分かりました。」
「………。」
「笹原さん…。」
「なに…?」
荻上の声はさらに小さく、そして震えていた。
「笹原さん言いましたよね…。私が好きなのは笹原さんなのか…、私の頭の中の笹原さんなのか、って…。」
「うん………、ごめん…。」

笹原は謝ることしかできなかった。
20サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:27:09 ID:???
荻上は黙っていた。笹原の言葉を噛み締めるように。
そして、呟く。
「私…、分かりません…。」
「え…。」
「私が好きなのが、本当の笹原さんなのか…、私が勝手に想像してる笹原さんなのか…。」
「………。」
電話の向こうからは、すすり泣くような声だけが聞こえて…。
笹原は声が出なかった。
「本当の笹原さんて、どんな人なんですか………?」
涙交じりの荻上の声が、耳を打った。
笹原はだらしなく口を開けて、テーブルの上をただ見ていた。
電話は冷徹に荻上の泣き声を笹原に伝え続ける。小さく、押し殺したような呻き。すすり上げる息遣い。
堪え切れずに溢れる子供のような声が、笹原を打ちのめした。
「ごめんなさい…。おがしなごと言っでぇ…、わだし…、困らせるごとばかりでぇ…。」
涙声の合間の搾り出すような言葉に、笹原の口はわなわなと震えるだけ。
言葉を発することができなかった。
「もう…、きり……ますね……。
「………………。」
「………ごめんなさい。」
小さい弾けるような音がして、電話は切れた。
笹原は電話を下ろせなかった。
ぼやけた音だけが鳴るその向こうに、泣いている荻上がいて、泣かせた自分がいた。
なんでそうなってしまったのか、何も分からない自分がいた。
21サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:27:50 ID:???
「ただいま〜。」
返事はない。部屋は暗い。ディスプレイモニタのオレンジの灯りと、デッキの時刻表示が浮かんでる。
引っ越して、二人で借りた部屋。
いま部屋にいるのは咲だけだ。コーサカは今日も帰っていない。
浮かんだ時刻表示は23:29。もうすぐ明日になる。
今日もコーサカに会えそうもない。
灯りをつけて、習慣としているうがいと手洗い。郵便物をチェックして、チラシをゴミ箱に突っ込む。
明日にならないうちに洗濯機を回す。部屋干しの洗濯物を畳む。にわか雨が降ったから、外に干さなくて正解だった。
テレビは禄なのがやってないが、つけている。
音がないのは、寂しい。
音楽はショップで聞き飽きていた。
バスタブを磨いてから、お風呂に湯を溜める。ユニットバスは嫌いで、一人暮らしの時からそれは部屋探しの条件だった。
温めのお湯にアロマを垂らして、じっくりとつかる。至福のとき。
でもそれはほんの僅かで、すぐに仕事や…、コーサカのことが脳裏をよぎった。
何かをはっきりと考えるわけじゃない。ただ頭の中に浮かんでは消えていくだけ。
お湯に緩んだ心に、いくつもの感情が波のように寄せて返す。
22サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:28:24 ID:???
「今日も、会えないかあ…。」
バスルームにその声はこだまする。
最近の記憶の中のコーサカは、疲れて寝ている姿、駅までの短い道を歩く姿。あとは電話の声と、メールの中にしかいない。
涙が頬を伝って湯船に落ちる。咲は静かに目を閉じて、流れ落ちる涙に身を任せた。
不安が心を覆って、また別の不安がそれを塗り潰すだけ。
入浴を終えて、体を拭き、髪を乾かす。
洗い終わった洗濯物をハンガーとピンチに止める。
ベッドを置いた部屋の灯りをつける。
二つ並んだベッド。
引っ越すとき、ダブルベッドを買おうかと笑い合ったのを思い出して、自嘲が漏れた。
携帯をクレードルに嵌めようとして、着信に気付いた。
笹原から、昼間の相談の礼。今度ちゃんと話すということが書いてあった。
咲はふと、笑顔を覗かせていた。
ベッドの上に寝転がって、メールの履歴を見る。
コーサカからのメール。今日も帰れない。遅くなる。ごめん。その繰り返し。
こんな気持ちになるために、二人で暮らし始めたはずじゃなかったのに。
もう数時間後にはもう朝が来てしまう。
咲は携帯を置いて、灯りを消した。
23サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:29:07 ID:???
疾うに閉まったはずの咲のショップ。
しかし、膝の高さまで下ろしたシャッターの隙間からは変わらぬ光が漏れていた。
手書きの見取り図を片手に、ジーンズ姿の咲がいた。
ラフな格好で、頭にはハチマキがわりにバンダナを巻いている。目の前には、いびつに配置された商品台があった。
それほど広くない店内で、大きな台を移動させるには綿密なプランとそれなりの力が必要だ。
咲は一人だった。
今日は恵子もいないし。多忙を極める高坂が来れるはずもない。頼める人もいない。
第一ここは自分も店で、自分が全部背負わなくちゃいけない場所だと思った。高坂には頼めない。
高坂は自分のやりたいことを頑張っている。
(エロゲー作りだけどさ。はは…)
自分も、やりたいことをやっているんだから。高坂に甘えるわけにはいかなかった。
(これをこっちにやって…。そうすりゃ、こっちのを向こうに持ってけるか…。)
紙切れをカウンターに置いて、重そうな台に向かい合う。
咲はしゃがみ込んで、床を傷つけないように台の下に布を噛ませようとする。
だが、重い。
片手で持ち上げようしても、十分に隙間ができない。両手で持ち上げて、足で押し込もうとしても上手く入ってくれない。
「クソッ…。」
もう一度しゃがんで何とか隙間に布を押しやる。そのとき、台を持ち上げていた咲の手が滑った。
「痛っ!」
24サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:29:44 ID:???
慌てて手を引いて指を押さえる。鈍痛がゆっくりと指から伝わって、咲は顔を歪めた。
痛みが治まるまで、体を強張らせてじっと床に座り込む。
それから、指を押さえていた手を少しずつ解いた。
爪が割れて、血が滲んでいた。
(大したことないよ………。)
咲は立ち上がって指を口に含む。苦い、マニキュアの味がする。
店内に目をやる。
中途半端に動かしたディスプレイ。片付けてしまった商品。このまま朝を迎えてしまったら、店は開けられない。
このままやりきるか、元に戻すかしないと、どうにもならない。
口の中に、マニキュアの苦味が広がる。血のザラザラとした感触と一緒に。
咲は泣いてしまいそうだった。
もう疲れて、どうにもできなく、座り込んで、泣いてしまうのを必死で我慢した。
折角、自分の店を持って、夢を叶えて、やりたいことをやっているはずなのに、上手くいかない。
何でこんな惨めな思いをして座ってるんだろう。こんなことがしたかったのかな。
そんな思いが、針のように咲の胸を突き刺していた。
25サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:30:44 ID:???
ガシャンガシャンとシャッターが咲を呼んだ。
顔を上げずにいる咲。
またシャッターが、ガシャンガシャンと咲を呼んだ。
咲は台の隙間から顔を覗かせる。
シャッターの下から、見慣れた革靴が覗いていた。
「あれ? 春日部さんいるー?」
覗き込んだ笹原と目が合った。
「あ。ごめん、忙しかった?」
咲は慌てて立ち上がった。笹原に顔を見られないように。
「ああ大丈夫。いま開けるよ!」
鏡を顔を近づける。もしかしたら、本当に泣いてしまっていたんじゃないかと不安だった。そして、目に一杯に溜まった雫を拭った。
「どうぞー!」
半分ぐらいまで上げたシャッターを笹原が中腰になって潜った。
咲は奥に引っ込んでバッグのあったはずの絆創膏を探している。
笹原は店内を見渡して言った。。
「模様替えしてたの?」
「そー!」
笹原に聞こえるように大声を張り上げる。でも本当は、さっきまでの弱いな自分を隠したかったのかもしれない。
「ちょっとねー! 急に思いついてさ!」
「へぇ〜。」
笹原はカバンをカウンターにおいてに奥の咲を覗いた。
「でも大変じゃない? 一人でやってるの?」
笹原の言葉に、胸に痛みが走った。また大声を張り上げる。
「まーねー! でも急だったからさー!」
「恵子は? 今日は休み?」
「そー!」
「高坂君は? 頼めなかったの?」
絆創膏を巻く手が、一瞬止まった。薄暗がりの店の奥で、コンクリートの壁が咲を囲んでいる。
26サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:31:30 ID:???
後ろから注ぐ灯りは咲の背中だけを照らして、彼女の顔は見えなかったが、笹原はその背中を見つめるのは後ろめたいような気がして、
視線を店内に戻した。
「別に声かけてくれれば、俺も手伝ったのに〜。」
「ありがとー! でも疲れてんのに力仕事させちゃわりーじゃん?!」
咲は笑いながら出てきた。顔は貼り付けたような笑顔だった。満面の、あるはずのないない元気一杯の笑顔を浮かべていた。
笹原は自然と上着を脱いでYシャツの袖を捲くっていた。。
「どれ動かすの?」
「え……、いいの…? もう夜遅いじゃん。疲れてんでしょ…?」
笹原を見る咲の目に、隠したはずの弱さが揺らいでいた。
「いや、これほっといて帰れないって。春日部さん怪我してるし。」
そう言って笹原は笑った。いつもの困ったような笑顔。
咲の心にふと温かいものがこみ上げてくる。もう暫く感じていなかった気持ち。
高坂のたまに見せる優しさに感じていた安らぎ、喜びに似ている気がした。

また涙が零れそうになって、咲は大袈裟に笑い飛ばした。
「あははは、そりゃ悪かったねー! 今日来たのが運の尽きだよ!」
「ま〜ね〜、じゃあどうしますか、店長。」
「んじゃ、この台の下に布挟んで。床が傷つかないように。」
「りょーかい。」
笹原がしゃがむと、咲もしゃがんだ。反対側の笹原か見えない場所に。
そこで咲は、また瞳を拭った。
27サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:32:05 ID:???
壁のドライフラワーが外されて、その位置に目の覚めるようなグリーンの数字が並んだ時計が掛けられた。
他にも小さい雑貨が場所を変えた台や棚の上に置かれ、フックに掛けられた帽子が壁を彩った。
以前の近寄りがたい高級感は薄れて、
「何かポップな感じですね店長。」
とは笹原の感想。
「まあ、ちょっと気取り過ぎてたからね。ちょっとはカワイクしないと。」
「なるほどね…、で、もう午前4時なんですけど店長…。」
笹原はさすがに疲れ果てて床に座り込んでいた。口からは後悔の苦笑いが漏れている。
「いやあ…。感謝の言葉もないよササヤン。」
咲は申し訳なさそうに頭をかいた。同時に言い尽くせないほど感謝もしていた。
自分のワガママに最後まで付き合ってくれたのだから。
「まったく、春日部さん一人じゃ絶ぇ〜〜〜対っ終わってなかったよ!」
「あはは…、返す言葉も無いよ…。」
咲もペタリと床にへたり込んだ。カフェインのせいで冴えた目は、充血してピリピリと痛い。
台の移動からディスプレイのし直しまで酷使した足腰は痺れるように疲労してる。
少し汗ばんだ顔の化粧が気持ち悪い。手は少し赤くなって、まだ重みの感覚が残っていた。
「俺が来なかったらどうするつもりだったの?」
笹原の問いかけに、思わず咲は自嘲を漏らした。
(そうだな…、どうにもならなかったんだろうなあ…。)
自分の的外れな意地と頑張りに、笑ってしまっていた。
「ササヤンのこと言えないよね、これじゃ。」
「え、何が?」
「ほら、昨日頑張り過ぎるなって言ったじゃん? 普通にしてろって。お前の方だろって話だよな。あはは…。」
疲れた笑い声を上げる咲。笹原に目をやる。
笹原は少し悲しそうな顔で曖昧に笑っていた。それは体の疲れとか、寝不足よりも暗く笹原を覆っていた。
「どした………?」
28サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:32:52 ID:???
「ああ………、まあ………。」
「なによ………?」
笹原は一瞬口元を歪ませて、そして情けなく笑った。
「またやっちゃよ…。春日部さんに頑張るなって言われてたのに………。まーた空回っちゃった…。」
「そうか…。」
咲はそう言って、笹原から視線を逸らした。とても見ていられなかった。悲しそうで、寂しそうで、苦しんでいた。
自分と同じようだった。
「わりぃね…。せっかくアドバイスしてもらっといて。この体たらくで…。」
「そー言うなって…。」
二人は黙って座っていた。まだ朝にはほんの少し遠い夜の終わり。街は静かで、外からは何も聞こえない。
剥き出しの業務用エアコンの穏やかな排気音が、店内に降り注いでいた。
あまりに静かで、咲も笹原も、このまま時が止まってしまうような気がした。

不意にけたたましいカブのエンジン音が走り去る。
まだ開けない夜の街を、新聞を満載したカブがけたたましく疾走していく。
笹原はゆらゆらと立ち上がって、大きく体を伸ばした。
「それじゃ帰ろうか。」
「そうだね…。」
咲も立ち上げって体を伸ばした。見違えた店内に少しだけ顔を綻ばせていた。
咲が言った。
「タクシー呼ぶ?」
「そうしよっか…。割り勘なら大したことないしね…。」
わざとらしくふらつきながらながら咲は店の奥に行って、バッグの中から携帯を取り出した。
ひとつ息を吐いて戻ろうとしたとき、バッグの横の紙袋に気が付いた。
「あああーーーーー!!!」
29サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:33:25 ID:???
絶叫する咲。
「わっ! なにどうしたっ!!」
笹原は驚いて店の奥を覗いた。
すると、さっきよりも更に疲れた顔と、疲れた足取りの咲がふらふらと出てきた。手に少し大きめの紙袋と懐中電灯を持って。
「ごめんササヤン。これ忘れてた。」
「なに…それ…?」
恐る恐る笹原が尋ねる。
「電球…。灯りも変えようと思ってたの忘れてた………。悪いけど、もうちょい付き合って………。」
「ははは…。そんなことか…。ちゃっちゃとやっちゃいましょ。」
言葉とは裏腹に、いや、ある意味言葉通りに、椅子を電灯の下に持っていく笹原の手に力は乏しい。
二人とも苦笑を浮かべて、最後の仕事に取り掛かった。
「私が登るから、ササヤンちゃんと押さえてね…。」
「りょーかい…。電気のスイッチどこ?」
咲が手に持った新品の蛍光灯でカウンターの横の差した。付いているスイッチはひとつ。
パチンと押すと、店内は真っ暗に変わった。
笹原が懐中電灯で咲の足元を照らす。脚が高くて座る部分の小さい椅子の上に、咲が恐る恐る登る。
「ちゃんと押さえててよ! これフリじゃないからね!」
「そんなダチョウ倶楽部みたいなことしないって…。」
膝をぶるぶる震わせながら立ち上がると、笹原は光を咲の手元に向ける。椅子を押さえながらだと、けっこう難しい。
咲はまず今まで使っていた蛍光灯を外して笹原に渡す。
椅子の上からでも背筋を伸ばさないと電灯まで届かない。狭い椅子の上でそうするのはかなり怖かった。
蛍光灯を外すのにも以外に力が要って、危うくバランスを崩しそうになってしまった。
30サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:34:14 ID:???
「ダイジョブ?」
「ちょいビビッた…。新しいのちょーだい。」
新しい蛍光灯を受け取ると、今度は少し慎重に力を加減して電灯にセットする。
グチンという心地よい手応えが咲の手に伝わった。咲は安堵のため息を漏らす。
「オッケー。ついたー。」
一旦、椅子から降りる。
そのとき、笹原の手が差し出されていた。
懐中電灯はあさっての方に向けられていた。
真っ暗な店内に慣れない咲の瞳に、それはぼんやりと映っていた。
「ありがと…。」
咲は小さく呟いて笹原の手に触れた。
温かく、少し固い掌の感触。笹原の掌の感触…。

咲の囁くような声を聞いたとき、笹原の頭に灼けるような痺れが走った。
体が強張って、熱くなっているの分かった。
何気なく差し出した手に感じた、体温。柔らかいさ。汗。
いつの間にか、笹原はゆっくりと咲の手を握り返していた。
31サマー・エンド-2-:2006/03/24(金) 23:34:55 ID:???
笹原の瞳に咲の顔が映る。暗闇に霞んでいた顔が、少しずつ、鮮明に…。
自分の目を見つめる咲の顔が、少しずつ、少しずつ、鮮明になって…。戸惑うような彼女の目が、自分を見つめている。

(何してんだ私…、ササヤンの手を握って…、ササヤンもびっくりしてんじゃん…。早く…離さなきゃ…。)
咲は自分の顔がみるみる熱を帯びていくの感じた。
自分の指を優しく握る甘い感触。硬直していたはず手の力は気が付けば失われて、笹原の手に身を委ねている。
咲はその事実に戸惑っていた。そして胸の奥にこみ上げる幸福感に、弱弱しく抗っていた。
(うわ、うわ…。春日部さんこっち見てる…。なに手ぇ握ってんだ俺…。おかしいって…。)
笹原も同じだった。
力の抜けて身を任せる咲の手が、笹原の思考をかき乱した。少しずつ、でも確かにその手を握り返す力を強める自分の手。
触れ合った肌と肌の間が、火に触れているように熱く、氷に触れているように冷たく、心地良いことにうろたえた。
体から意識が抜けていく気がして、それを必死になってつなぎ止めようとするが、
咲の発する甘い匂いに、徐々にそれも覚束なくなっていった。

二人とも目を逸らそうとした。
でも、咲の瞳は真っ直ぐに自分の目を射抜いて、吸い込まれそうに目を逸らすことができない。
咲もまた、暗闇に光る笹原の瞳を見つめることしかできないでいた。
懐中電灯が、二人の足元を照らす。
二人の脚は、倒れ込もうとするように傾きかけていた。
(まずいよ…。俺には荻上さんがいるのに…。こんな…。)
(ぁ………、コーサカ…。ごめん…。)
そのまま、二人は唇を重ねた。
真っ暗な、夜明け前の部屋の中で。


つづく
32サマー・エンド-2-〜あとがき:2006/03/24(金) 23:44:00 ID:???
重ね重ねグダグダな投稿になってしまってすいませんでした。

>>4
いきなり500kオーバーって言われてしまって。
一応、笹咲という予定だったのでこんな感じになりました。
名前なんて飾りです・・・ とうわけでお気になさらずに。

>>5
どうもありがとうございます。次も頑張ります。

>>8
ああ・・・、すいません。
なんかそう言われると、次が書きにくいです・・・

>>9
春日部さんちって金持ちだったんですか・・・
素で知りませんでした・・・orz
でも、自分で作った借金は自分で返す主義ということで、どうかひとつ・・・。
笹原は、愚痴と分かりつつ深刻にならないように、彼なりの気遣いということで、どうかひとつ・・・。


どうもすいませんでした。
33マロン名無しさん:2006/03/25(土) 00:26:22 ID:???
サマーエンドって・・・「終わり」ニュアンスですか^^;
妙にリアルで・・・
マジ 続きヨロ。
34マロン名無しさん:2006/03/25(土) 03:07:59 ID:???
笹咲って何か言いにくいな。
35恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:44:18 ID:???
だれもいない…投下するなら今のうち…

というわけで、恵子と斑目のお話です。一部に『下品』な描写があります。
嫌いな人はスルーしてください。
なんか書いてるうちに井原裕士の”ドールマスター”に似た話があったことを思い出し、
自分の引出しの少なさに愕然としてたりして…
36恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:45:44 ID:???
会社の飲み会を終えて、斑目は自宅へ向かっていた。
酔った体に冷たい空気が心地よい。
年の瀬を控えて、町も慌しさを加えている。
そんな中、飲み屋街の一角にあるコンビニの駐車場に、見知った顔を見つけた。
彼女は駐車場の車止めに座って、缶ビールを飲んでいる。
「恵子くん?」
斑目の声に、恵子はちらりと視線を向けるが、すぐに視線を外して新たな缶ビールに手をかける。
周りを見渡すと、あちこちにビールの空き缶が転がっている。
「えーと、何をしてるのかな?」
「見りゃわかるだろ」
間抜けな質問に、ぶっきらぼうに返す。
「あ、あー、もしかしてデートの待ち合わせ、とか…?」
「逆だバカ。置いてかれたんだよ」
恵子の声に怒りと苛立ちが混じる。
37恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:47:13 ID:???
(しまった、地雷踏んだ。ここは何とか回避しなくては!)
アルコールの染みた脳みそをフル回転させる。
「あー、訳とか聞いてもいいかな?」
「ハァ?アンタ人の色恋に口を出す気?サイテーだな」
恵子は斑目を睨みつける。
(間違えたー!フォローしないと!)
脳みそは熱暴走一歩手前。
「なんなら送ってやるけど…」
「うるさいな!アンタにゃ関係ないだろ!!」
斑目に怒鳴りつけると、恵子は勢い良く立ち上がる。
酔いと立ちくらみが恵子の足元をふらつかせ、バランスを崩した体はある方向へ倒れこみ、その先には偶然斑目が居た。
恵子は斑目に抱きかかえられる形になった。
「お、おい。大丈夫か?」
38恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:48:01 ID:???
斑目の脳内は沸騰している。恵子の体からは酒と香水と、女の匂いがして。
恵子は斑目の安物のスーツにしがみつく。
そして。
「うぷ」
「?」
「げろげろげろげろ…」

〜〜少々お待ちください〜〜

(…人間は想定を大きく外れる出来事に出会うと、かえって冷静になるもんだな)
斑目は現状を酷く冷静に、あるいは他人事のように分析していた。
生暖かいスーツの汚れを無視して、恵子の背中をさすってやる。
「…気持ち悪い…」
「ずいぶんと飲んでたみたいだからな」
39恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:48:50 ID:???
「…水…」
「ちょっと待ってろ」
傍の自動販売機から、ミネラルウオーター買って渡す。
恵子は口をゆすいだ後、二口ほど飲むと、今まで閉じていた目を開ける。

目の前には腹から腿にかけて、べったりとくっついた、ソレが。
恵子にも現状がわかってきた。
「ああ!ごめん!!えっと、どうしよー!?えーと、えーと…」
青くなってパニックを起こす。あたふたと周りを見渡す。もちろん手を貸すような酔狂な人間などいない。
(昔の大野さんを見ているみたいだな…)
どこまでも他人事な斑目。
恵子はふと何かを見つけたように固まる。斑目がその視線を追うと、そこにはいわゆる『ラブホテル』が。
40恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:52:44 ID:???
恵子は斑目の腕を抱き、強引に歩き出す。行き先はもちろん『ラブホテル』だ。
「ちょっと、一体何…?」
斑目の質問に答えることなく、駆け込む。
手際よく受付を済ませ、目的の部屋の前まで移動し、ドアを開け、部屋に入る。
(いったいワタシはナニをしているのでショウ?)
恵子に引きずりまわされながら、斑目はのんきな事を考えていた。

「脱いで」
部屋に入るやいなや、恵子は斑目に告げる。
現状を理解できていない斑目がぼんやり立っていると、苛立たしげに歩み寄り、服を脱がせ始める。
「ちょっ、ちょっと待って?一体何がなんだかさっぱり分からないのデスガ?」
斑目の質問を無視して、黙々と脱がせていく。
気が付けば上半身はシャツ一枚。
恵子はベルトを引き抜くとズボンの前を開ける。
41恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:54:39 ID:???
「わーっ!!待った!タイム!そこはダメ!」
叫びながら斑目はあとずさる。そこにはベッドがあって、足を引っ掛けた斑目は後ろへ倒れこむ。
両足が地面から離れる。瞬間、恵子は靴を脱がせ、斑目が体を起こすより早くズボンを引き抜いた。
斑目がずり下がったトランクスを引き上げながら起き上がる。
恵子は脱がせた服をハンガーにかけると、バスルームに入り、湯の入った洗面器とタオルその他を持って出てくる。
やはりぼんやりとそれを眺めていた斑目にタオルとバスローブが手渡される。
「風呂、入ってきな。脱いだ奴は籠に入れとけよ」
「いや、あの、ワタシ状況が全くわからないのデスガ?」
「…脱がすよ?」
「ワカリマシタ」
とりあえず言われるままに風呂に入る。
(…一体ワタシはココでナニをしているのでショウ?ええと、もしかしてフラグが立ったとかいう奴デスカ?いやでも彼女は後輩の妹であって自分には想う相手がいてでも彼女は好きな人がいてこっちの気持ちには全然気付いてなくてだから清く正しく美しい交際を…)
のぼせたのか、だんだん訳のわからない考えになってくる。
「とりあえず、あがるか…」
42恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:56:11 ID:???
風呂から上がり、さっきまで着ていた下着を探す。見当たらない。仕方無しにバスローブを羽織ると、妙に丈が短い。裾を引っ張りながら前かがみに歩く。
部屋では恵子がハンガーにさっきまで斑目の着ていた下着を乾している。
「あの〜、上がりましたが…」
「あ、そう?こっちも一段落ついたし、アタシも入らせてもらうかな」
そう言うとまっすぐにバスルームへ向かう。
斑目はハンガーにかかったスーツに近寄る。
きれいに、とはいかないが、目立たない程度にはなっている。
(へー、たいしたもんだ。しかし下着を洗われたのは困ったな…乾くまで帰れんじゃないか)
そんな事を思いながら、とりあえずベッドに横になる。ぼんやりと天井を見つめる。
ふと自分の格好に気付く。このままで居ると、バスルームから出てきた恵子に自分の”その”部分が見えて…
斑目は大慌てでシーツにもぐりこむ。
43恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:57:33 ID:???
「何やってんの、アンタ?」
ちょうどよく恵子がバスルームから出てくる。そのままベッドの反対側に腰を下ろす。
「あー、恵子クン?ちょっと説明してくれるとありがたいのだが…」
シーツから頭だけ出して、斑目が尋ねる。
「何を?」
恵子はベッドの上で体の向きを変える。化粧を落とした所為か、妙に幼く見える。しかしバスローブ一枚羽織っただけの体は、十分に成熟していて。
斑目の位置からは胸の谷間や、神秘の場所が見えそうで、思わず顔を真っ赤にして背を向ける。
「いや!今の状況を!ですが!」
恥ずかしさと後ろめたさを隠すため、声を荒げる。
恵子はクスクスと笑ったあと、斑目に這い寄り、耳元に囁く。
「ス・ケ・ベ♪」
「どうか説明してください。おねがいします…」
斑目の声は半泣きだった。
44恵子と斑目:2006/03/25(土) 08:58:51 ID:???
「別にそんな深い理由があるわけじゃないよ。あのままじゃタクシーも使えないだろうし、歩かせる訳にもいかないと思っただけ」
「…」
斑目はすねている。
「ああ、一応朝まで部屋を取ってるから、泊まっていってもいいよ」
「…」
まだすねている。
「あ〜…なんかアタシも帰るの面倒になってきたな…うん。アタシも泊まるから。よろしく」
恵子はそう宣言すると、斑目の隣に潜り込む。
「〜〜〜!!」
斑目は無言で悲鳴をあげると、ベッドから転げ落ちる。
「あのね!恵子クン!年頃の無関係な男女が一つのベッドで眠るなんて、そんなはしたない事は…!」
「…何言ってんの?」
「だから!俺が襲い掛かったりしたら!困るでしょ!」
「別にいいよ?」
思いもかけない答えに斑目が凍る。再起動。
「…ハイ?」
「だから別にいいってば。今回はこっちが悪いんだし、一回くらいならいいよ?」
斑目はぽかんと口を開けている。なぜか怒りが込み上げる。
「…ふざけんな」
45恵子と斑目:2006/03/25(土) 09:00:18 ID:???
「え?」
「ふざけんなよ!そんな簡単にするだの何だの言うんじゃねーよ!」
「…もしかして、童貞?それとも心に決めた人でも居るとか?」
「!」
図星を指されて沈黙する。
「あ、そう…そういう考えなのか…ごめん、からかい過ぎた。そういうのもありだよね…」
恵子の声に影が差す。
「じゃあ、お互いに手はださない、と言う約束で…一緒に寝よ?」
「帰る」
「今から家に帰って、明日間に合うの?…それにそのスーツ一張羅でしょ?」
「ぐ…」
「あきらめてアタシと一緒に寝なさい」
斑目は大きなため息をつく。
「…なんで俺なんかと一緒に寝たいんだ?」
「…誰でもいいの。一人になりたくないだけ」
そう言うと恵子は顔を背けた。
その様子に斑目は不安を感じ、時計を見て明日の仕事を思い、仕事と一連の騒動の疲れを感じ…受け入れた。
46恵子と斑目:2006/03/25(土) 09:01:46 ID:???
「わかった。一緒に寝る。…ただし、エッチは無しだ!」
「エッチって…」
恵子は笑いをかみ殺そうとして、耐え切れずに笑い出す。だんだん声が大きくなり、最後には叫ぶように笑う。頬を涙が流れる。
「ハァ…おやすみ」
最後にそう言って黙り込んだ。
部屋の明かりが消える。
斑目も急に眠気が押し寄せる。
眠りに落ちる寸前、「ありがと」と聞こえたような気がした。

翌朝、斑目が自分の腕枕で寝ている恵子に大慌てしたり、うっかり着替えを覗いてしまって怒られたり、ホテルを出る際、自分の手を引いて歩く斑目に、恵子がちょっと感動したりしたのは、また、別の機会に。
47恵子と斑目:2006/03/25(土) 09:03:03 ID:???
以上です。途中で連投規制に引っかかってあせった…。
48マロン名無しさん:2006/03/25(土) 09:45:27 ID:???
エッチはなしw
49マロン名無しさん:2006/03/25(土) 14:08:24 ID:???
>サマーエンド2
なっ、何だこの展開は?
どう反応したらいいものやら…
練炭買ってきたけど、最後まで読んだら反応に困って練炭叩き割っちゃいました。
つづき…どうなんでしょう…

>恵子と斑目
ありそうw
特にさせたげると言われて怒る斑目とか…

50マロン名無しさん:2006/03/25(土) 17:01:38 ID:???
>サマー・エンド-2-
ああ、始まってしまいましたね傷の嘗め合い。
ころがり落ちるような悲劇にならなければ良いが……。
ともかくも、笹への気持ちが自然と傾いて行く咲のアパートの場面と、2人の見つめ合いの場面は好みでした。
続きを期待してます。

>恵子と斑目
斑目の狼狽とプライドが滑稽でGoodでした。
最後にふれた[別の機会]の部分がとても微笑ましいw

なんか知らんうちに容量オーバーしてたんですね。SSスレはげんしけんしか見たことないから分からないけど、どこもそんなもんですかね?

これから一本投下しようと思ってたけど、どんどんやっちゃうとマズイかな。なんかタイミングをはかれないw


51妄想少年マダラメF91(0/7):2006/03/25(土) 18:15:18 ID:???
……平成3年……
……斑目晴信、10歳の晩夏……

「妄想少年マダラメF91」


///////////////////////////////////////////

ということで、すみませんまたもスレ汚しにきました。
1つSSを投下いさせていただきます。

「ZZ」飛び越えて、「F91」です。
タイムスリップ要素はないですが、「時間」が絡みます。

みなさんいろんな曲をモチーフにされてるようなので、私も1つ2つ音楽を聴きながら書いてました。

「Deja-vu (in Paris)」布袋寅泰(インストゥルメンタル)
「History Repeating」Propellerheads&Shirley Bassey

マニアックですみません。

またも第一部ということになりますです。ごめんなさい。
しばらくしたら7スレ投下予定です。
52妄想少年マダラメF91(1/7):2006/03/25(土) 18:19:34 ID:???
……And I've seen it before
  And I'll see it again
  Yes I've seen it before
  Just little bits of history repeating……


【2005年9月24日13:15/秋葉原駅前】
秋葉原駅。電気街口から次々と、リュックを背負った暑苦しい男達の群れが吐き出されては、ラジオ会館や大通りの方へと消えて行く。
この日彼等は、有名エロゲメーカーの新作発売を目指して来ていた。発売日が急きょ数日伸び、異例の土曜日午後の発売となったのだ。
雑踏の中、何十人かは、そわそわといそいそと、同じ方向へ歩みを進めて行く。今にも駆け出しそうだ。
「慌てないでくださいねー。余裕は十分ありますからね!」
大通りに面した歩道に看板を持った男が叫んでいるが、誰も聞いちゃいない。

小走りのオタクが、「何で10時の開店時に売らないのかなァ?」とブツブツ独り言をいっている。
その横で、背を丸めながらボチボチ歩いていた男は、聞こえないほどの小声で、「間に合わなかったからじゃねーの……あんなに根詰めていたのに大変だな高坂も」と呟いた。
その男は、髪を雑に分けている。頬が少しこけた輪郭に、少し大きめの丸メガネ。ひょろりとした長身に、白いワイシャツと、よれたサマースーツを羽織り、磨いていない安物のローファーを履いている。
どこにでもいる疲れたサラリーマン。
彼の名は斑目晴信。この時、就職初年度。今日は午後から代休を取った。

斑目も昔なら、競うように駆け出して、必死に小売店の列にならんでいたであろう。
しかし、就職してからはスタミナと瞬発力を仕事に奪い取られていた。
(プシュケの新作、高坂に頼めば良かったかな? でも春日部さんにスゲー嫌がられそう……)
そんなことを考えながら、とぼとぼと歩を進める。
歩道の脇にできた人だかりを避ける。おおかたメイド喫茶のフリフリメイドが立っているんだろう。
「マニアックが大手を振って表を歩くようになっちまったなぁ。昔みたいにアングラな方が燃えるのに」と一人でブツブツ言っている。
「昔か……アキバに初めて来たのは何時だっけ?」
「この道」が長いだけに、さすがに思い出せなかった。
53妄想少年マダラメF91(2/7):2006/03/25(土) 18:22:13 ID:???
【1991年9月21日13:15/秋葉原駅前】
秋葉原駅。電気街口から次々と、リュックを背負った私服の小学生の群れ3、40人がワラワラ出て来てラジオ会館の手前に並ぶ。
この日彼等は、社会科見学旅行の一環として、この街にやってきた。周りの雑音をかき消すほどに、皆落ち着きがなく、今にも駆け出しそうだ。
「班行動を乱すなよー。3時には集合だからな!」
ジャージ姿でファイルを手にした担任の先生が叫んでいるが、誰も聞いちゃいない。

男子生徒の一人が、「何でここに来たのかな?」と、傍らの生徒に尋ねた。
尋ねられた男の子は、けだるげに、「先生がウォークマンでも買いたいからじゃねーの?」と答えながら、手元のメガネを拭いてかけ直した。
メガネの男の子は、髪はちょっと長髪、えりあしを少し伸ばしている。輪郭に比べて大きめの丸メガネをかけている。
ひょろりとした長身に、長袖と半袖のTシャツを重ね着し、ジーパンと、有名メーカーによく似たパチモンバッシュを履いている。
どこにでもいる男の子。
彼の名は斑目晴信。この時、小学3年生。今日は一部自由行動だ。

大通りに出た班目は、「じゃ、またここで待ち合わせな!」と、班を組んだクラスメートと別れた。
(班行動なんてやってられないよなー)
そんなことを考えながら、うきうきと歩を進める。
大通りの賑やかな店舗の数々に目を移す。ファミコン人気やスーパーファミコンの登場、パソコンの普及によって、秋葉原にもゲームソフトを扱う電気店や、ゲーム専門店が続々と現れていた。
「ドラゴンクエーサーW?「中古で売ってないかなあ!」
54妄想少年マダラメF91(3/7):2006/03/25(土) 18:26:55 ID:???
【2005年9月24日13:20/大通り】
斑目は大通りをプラプラと歩く。大手レコード店が近づき、目当てのゲーム店が視線の先に見えてきた。
しかし、前方の横断歩道を歩いて渡っている女性の姿が目に入ってきた瞬間、彼は我が目を疑った。
(嘘だー!なんでこんな所に春日部さんがいるよ? 幻でも見てるのか)幻ではない。春日部咲がいかにもつまらなそうに、秋葉原の街を1人で歩いているのだ。

咲は重い足取りで横断歩道を渡りきり、トボトボと末広町方面へと歩いていく。5、6メートル離れたところに立っている班目には全く気付かない。彼はアキバ男たちの間に、ものの見事に馴染んでいるからだ。
(コーサカが来てるのか? でも何か変だぞ)
思わず4、5メートル後ろを歩く班目。付かず離れず。
前を歩く咲がふと立ち止まり、量販店の店先で山の様に飾られた携帯電話に目を向けた。
瞬間、班目も思わず立ち止まり、反射的にゲームセンターの柱に身を隠す。(何やってんだ俺、まるで尾行じゃないか)身を隠しながら自己嫌悪に陥る。
脳内のスクリーンには、恋愛ゲームのイベントシーンのように、萌え絵に変換された咲を追いかける自分を思い描いている。
(あーもぅー! 相手は知り合いだぞ! とにかく声を掛けてみよう。何かトラブルかも知れん)
そう思って意を決したとき、脳内スクリーンにお馴染みの恋愛シミュレーションの会話シーンが映し出され、コマンド画面が現れた……。
(よし!)咲の背後から肩を叩いた。

「あの、かすかb……」

その瞬間、斑目は目の前が真っ暗になった。大きな衝撃と激痛が腹を貫いた。咲が振り返り様、反射的にボディに拳をブチ込んでいたのだ。

「もしかして…オラオラですかあぁ……!」
斑目は古いネタを叫びながら、ドッギャァァァンッ!と仰向けに倒れた。
「痴話喧嘩か?」「何やってんだ?」周りの歩行者が少し足を止めて2人を見ては、また動き出す。

咲は思わず殴ってしまった相手の顔を見て驚いた。
「あれ? あぁッ斑目!? ゴメン! 変な人がつけて来てると思ってつい……! どうしてこんな所に……」
薄れていく意識の中で斑目は、上から自分を覗き込んでいる咲の心配そうな表情と、薄手のシャツから覗いた豊かな胸元に、ちょっと幸せな気分を味わった。
55妄想少年マダラメF91(4/7):2006/03/25(土) 18:29:24 ID:???
【1991年9月21日13:20/大通り】
ドラゴンクエーサーを売っている店を探す斑目少年は、大型電気店の前で、明るい栗色の髪の女の子を見かけた。
赤いランドセルを背負い、ひまわりの柄をしたワンピースを着ている。瞳が大きくて美人で、斑目は思わず見とれてしまった。
リコーダーを手に、不安げに周りをキョロキョロ見回している。自分より下級生みたいだ。フラフラと行くあてがなさそうで、誰かを探しているようにも見える。
(迷子かな?)思わず4、5メートル後ろを歩く班目。付かず離れず。
後をつけるだけでなかなか声を掛けられない。女の子がふと立ち止まり、電気屋の店先を覗き込んだ。
瞬間、斑目も思わず立ち止まり、反射的に別の電気店の柱に身を隠していた。(何やってんだ俺、これじゃ尾行じゃないか)身を隠しながら自己嫌悪に陥る。
脳内のスクリーンでは、ドラクエ(ドラゴンクエーサー)の町中のシーンのように、平面ドット絵の秋葉原の街で、ドット絵の女の子にピッタリくっついて歩く自分の姿を思い描いている。
(あーもぅー! 女子は苦手だよ! とにかく声を掛けてみよう。本当に迷子かも知れない)
そう思って意を決すると、脳内スクリーンがピロロロロロ!と変わって、ドラクエのお馴染みの戦闘BGMと、コマンド画面が表れた……。
(よし!)女の子の背後から肩を叩いた。

「あの、ちょっときm……」

途端、斑目は目の前が真っ暗になった。大きな衝撃と激痛が腹を貫いた。少女が振り返り様、反射的にボディにリコーダーの先端をブチ込んでいたのだ。

「ア……アテナぁ〜!」
斑目は古いネタを叫びながら、ズシャアァァァッ!と頭から倒れた。
「イジメか?」「病んでるのね最近の小学生は 」周りの歩行者が少し足を止めて2人を見ては、また動き出す。

女の子は、思わず人を攻撃してしまったことに驚いた。
「あれ? あぁッゴメンナサイ! 変な人がついてくると思ったから……」
薄れていく意識の中で斑目少年は、自分の側にしゃがみ込み、潤んだ瞳で心配そうに覗き込んでいる女の子の表情と、スカートの奥に覗いたぱん○に、ちょっと幸せな気分を味わった。
56妄想少年マダラメF91(5/7):2006/03/25(土) 18:32:02 ID:???
【2005年9月24日13:35/大通り】
ようやく痛みが治まってきた。
斑目は歩道脇のガードに腰を下ろして休んでいる。咲が隣に寄り添い、「ほんとに悪いね!」と、片手を上げてゴメンのポーズ。もうこれで3度目だ。
咲は、自販機でジュースを買って来てくれていた。2人とも同じ銘柄の紅茶。フタまで空けてくれた咲の気遣いに、斑目は(ケガの功名か……なんかこういうのも悪くないな)と、思わず顔がほころぶ。

「でも何で春日部さんがアキバにいるんだよ?」腹をさすりながら斑目が問う。
彼女が言うには、斑目も会ったことのある昔の女友達が、話題のドラマ「電波男」に感化され、アキバに行きたいと話を持ち掛けたらしい。
「あぁー、新宿に居た人ね」
斑目は相づちを打ったが、あの夜のことを思うと、ほんの少し胸がチクチクする。憂い顔を悟られぬよう、すぐに、「最近多いからねー、勘違いした人」と愛想良く話を合わせた。
「でしょー、あんたらの実態も知らないニワカが多いのよ」
「さすがオタに詳しい春日部さん」
咲はその台詞に反応、「それよ! 友達も“彼氏オタクデショ、詳しいデショ”ってね。それでも店の準備で忙しい中、1日空けてあげたのよ」と呆れ顔。
もう斑目を置いてけぼりで話を進める。
「そしたらどうなったと思う? 駅で待ち合わせしてたら、“彼氏に呼ばれた。また今度ね”ってメールが来やがって! 腹立たしい!」
言い終わるやいなや、咲は凶暴な顔つきで手にしていた紅茶の空カンを地面に叩き付けた。目の前の歩道をいそいそと歩いていたオタクどもが一瞬足を止める。

「高田馬場におばあちゃん家あるんだけど、このまま行くのもシャクだし……」
歩き去っていくギャラリーの視線を無視しながら、咲は空きカンを拾い上げる。腰を下ろしながら髪をフワッとかきあげる所作の美しさに、斑目は見とれていた。
(周りから見たら、俺たちどんな関係に見えるのかな……つり合わないかな?)

(あ……何か昔、こんなことがあったような……)

「…………を買って帰ろうと思ったけどオタクばかりで、息を止めて歩くのが精いっぱい……って、ねえ斑目聞いてる?」
57妄想少年マダラメF91(6/7):2006/03/25(土) 18:37:24 ID:???
【1991年9月21日13:35/大通り】
ようやく痛みが治まってきた。
斑目少年は歩道の脇に腰を下ろしている。女の子が隣にチョコンと座って寄り添い、「本当にゴメンなさい〜」と、両手を合わせた。もうこれで3度目だ。
斑目は、「ダイジョーブ、ダイジョーブ!」と引きつった笑顔を見せる。
シャンプーの香りが漂ってくる。斑目は顔がボーッと火照ってくるのを感じ、(カワイイなあ、うちのガッコこんな子いないよ……)と、思わず顔がほころぶ。

「でも何で1人で歩いてたの? 迷子?」腹をさすりながら斑目が問う。
彼女が言うには、友達が本を買いたいと言うので、学校帰りについてきたという。古本だから普通の本屋にはないそうで、電車を乗り継いで近くの駅まで来たのだ。
どうやら本を買った後、歩いているうちにはぐれたらしい。
「近くに古い電車の博物館もあるからって、ドンドン先に行っちゃうんだもん」
このあたりの地理に疎い斑目は、「ここら辺の街は、中古のモノを売ってる店が多いんだね」と答える。自分もゲームの中古ソフトを探しにきていただけに、変な納得の仕方をした。
斑目は、話に出てきた「一緒だった友達」が男の子だと知って、ほんの少し胸がチクチクした。
だがすぐに、「大丈夫か? 一緒に友達を探してあげようか?」と話掛けた。

「んにゃ! いらない!」と、女の子はきっぱりと断り、「アイツも私も、駅が分かればちゃんと帰れるもん」と、すくっと立ち上がった。
斑目を倒した後で背中のランドセルに刺しておいたリコーダーをむんずと掴み、ズバッと引き抜いた。
(おぉっ! Tガンガルのビームサーベル!!)思わず激しく反応する斑目。気付くと女の子は険しい目つきになっていた。
ポンポンと、リコーダーを警棒のように手の上で踊らせながら、「勝手に歩き回りやがって、アイツ絶対シメてやるもん!」と幼い声でドギツイ一言を吐き捨てた。

(あ、あれ? ドユコト?)嫌な予感がよぎる斑目。女の子が斑目を見下ろして言う。
「ねーねー、ちょっと」
「ハイ?」
「ツマンないからどっか遊びに連れてってよぉ」
「さっきまでの弱々しいキミハイズコ?」
「あれはゴメンナサイをしてたからぁ。上級生なんでしょ、どっか連れてってー“オニイチャン”!」
ささやかな幸せの直後に、危機感を感じる斑目少年であった。
58妄想少年マダラメF91(7/7):2006/03/25(土) 18:39:47 ID:???
【2005年9月24日13:40/大通り】
「……ちょっと、斑目、聞いてるの!?」
咲の声にハッと我に返った斑目は、「あー、聞いてるよー」と慌てて返事をした。
遠い記憶は思い出されないままにかき消された。

咲の話を聞いていなかった斑目は、上手くごまかそうとして、「高坂の会社のゲーム、今日出るんだけど、知ってた?」と尋ねた。
「え、ホント!スゴイネ…!」咲は何も知らなかったらしい。
パッと明るい笑顔を見せたが、すぐにジト目で斑目をにらみ、「……って、何でアタシがエロゲーの発売を喜ばにゃいかんのよ!」と毒づいた。

さらに咲は汗をかきつつ、「……まさかここら辺歩いてるオタどもはエロゲーを買いに……」と、歩道を行き来する男達に視線を移す。
「……斑目も?」と尋ね、一歩二歩と後ずさって距離を置く。「え、俺、俺はエーと……」すぐに赤くなる顔はごまかしがきかない。
「悲惨だわー、こんなオタどもの性欲のためにコーサカが命削って働いているなんて!」
さすがの斑目も、「ヒドイ言いぐさだー」と苦笑いするしかなかった。
もう咲はヤケになってきた。周りに聞こえるように大声で、「ホントにこいつら、アニメ絵にしか発情しないのかねー」と一言。オタクどもの足が再び、一瞬止まったように感じられた。

嫌な予感がよぎる斑目。咲はガードレールに腰掛けている斑目を見下ろして言う。
「斑目、ツマンネーからどっか食べに連れてってよ。ここら辺においしい店ねーの?」
「うわー、なんか春日部さん1年生のころのテンションに戻ってね?」
ささやかな幸せの直後、危機感を感じる斑目であった。

(あれ?……やっぱり昔、こんなことがあったような……)


……それは昔見たことを
  再び見ているだけ
  そう、昔見たこと
  ただ、ちょっとした歴史の繰り返し……

(つづく)
59妄想少年マダラメF91(あとがき):2006/03/25(土) 18:44:41 ID:???
えーと、分かり辛い話でどうもスミマセン。

斑目の少年時代のボーイミーツガールを、現代の咲に絡めてやっちまいました。

「F91」の「F」は「フラグ」、「91」は「1991年」を意味しています。

失礼しました。
60マロン名無しさん:2006/03/25(土) 18:55:57 ID:???
>妄想少年マダラメF91
リアルタイム乙!
こういうシンクロというかデジャブ的な話は大好きです。続きに期待してます。

あと非常に個人的な感想かつ蛇足ですが…(できれば読み飛ばしてください)
咲さんはあまり人に(特によく知らない人には)ねだったり、頼ったりするタイプには思えんのですよ。
だからこそ「いい女」である、というか…それは幼少期からの”素質”だと思うのです。
ついでに、「オラオラ」より、「まっくのうち、まっくのうち」(アニメ版)だったら個人的には大爆笑。
61F91(移動中):2006/03/25(土) 19:17:55 ID:???
さっそくのレスありがとうごさいます。

>いい女
あー、定義に納得。たしかに“話を転がす”ために咲の最後の横暴を作り出していたんで反省。
勉強になります。ご指摘ありがとうごさいました。
62マロン名無しさん:2006/03/25(土) 19:56:05 ID:???
感想ありがとうございます。

>>33
まあ・・・あれですね・・・。
単純にハッピーエンドにはできないですよね・・・。
笹ヤンにはもう少し苦しんでもらうかな。

>>46
ふう。とりあえず人ひとり救うことはできたようですね・・・。
ちょっと無理ありましたかね・・・?
できるだけ納得できるように頑張ったんですが・・・。力が及びませんでした・・・。
これも修行・・・。

>>50
やはり原作での鉄板ぶりからすると・・・、
二人がくっつくとしたらこういうのしかないかな、と。
見つめ合う場面は書いてて不安だったので、そう言っていただけるとありがたいです。


構想ではあと2話で終了予定ですが、もしかしたら3話になってしまうかも・・・。
どうすべ・・・。
63マロン名無しさん:2006/03/25(土) 19:57:50 ID:???
すいません間違えました。

>>46じゃなくて>>49でした。

すいません。
64マロン名無しさん:2006/03/25(土) 21:34:35 ID:SD9CLvuw
SSスレ6、もうたってたんだ…(泣)やっとたどり着いたヨ…
さて、一気に読んだので、とにかく感想を。

>サマーエンド2
笹咲かあ…お互いに疲れてるからって、この展開は…。
うーむ…でも、意外性が面白い。SSならでは。とにかく続き、期待してます。

>恵子と斑目
良かった!!GJ!
斑目が恵子に、「Hはなしだからな!」と言えたことに、敬礼。
漢を見ました。

>F91
小学生斑目&春日部さんにぐっとキターーーーー!!
いつもいつも発想の奇抜さに感心いたします。

ああ、もう、小学生のかわいい斑目が、かわいい春日部さんをつれて…
もう脳裏にはっきりと思い浮かびますヨ…!!

65マロン名無しさん:2006/03/25(土) 22:23:02 ID:SD9CLvuw
さっきまで、SSスレ5で迷子になってました。orz
さて、遅くなりましたが、MとSの距離の感想、ありがとうです。
>>534
根性というか、気力だけで書きました。眠い目こすりながら…。
キャラへの愛が溢れてる、と言っていただき感激です。
また少し間を置いたらSS書きます。まだまだ書きたいもの、たくさんあります。
>>535
愛はもう、これでもか!と注ぎました。特に斑目には…
>>536
激励感謝します。
自分の書いたSSを一度冷静に見つめなおし、また再び歩き出す所存でアリマス!
>>538
538で書いていただいたこと、全てワタクシがSSでいいたかったことです。
あと相性の話も。ガンダム占いでジオングとエルメスがベストカップル、という根拠がなければ、今回の話書けませんでした。
>>537
星の声では説明しきれなかったこと、全部説明できていたらいいのですが…。
あと、高坂には、天才ゆえの苦悩があるのではと思い、書きました。
周りからは理解されない、高坂の内面があるような気がして。
>「スペックが恋愛の全てじゃない」って結論、綺麗事の絵空事かもしれないが信じたいものです。
私は信じてます。高嶺の花と付き合うのに、自分が高嶺の花と同等である必要はないと思います。
必要なのはどれだけ好きでいられるか、そのために努力しつづけられるか、だと思う。
結構、リアルでもこういうこと、あるとおもうのですが…。どうでしょう。

読んでいただいた方、本当にありがとうございました。
66マロン名無しさん:2006/03/25(土) 22:57:11 ID:???
感想どうも!

>>64
>笹咲かあ…お互いに疲れてるからって、この展開は…。
嗚呼・・・、重ね重ね力不足です。
次回でちゃんと筋が通るように頑張ってみます。

次は斑目さん出したいけど、どうしよう・・・。
怖いな・・・。
67マロン名無しさん:2006/03/25(土) 23:08:32 ID:???
>>瞳の奥の景色
「有り得ない鉄板カップル崩し」をした上でのカップリング。
しかし長編で丹念に書かれた事によって、それが「有り得る事」として読めました。
高坂の落ち着きどころも、なるほど…と、納得しました。
高坂の心の開くタイミングが遅かった、ってのは有り得ますねぇ。
笑顔でシャットアウトしてますから。

>>サマー・エンド2
笹荻のすれ違いがっ!!うーん、解決策が見えるだけに、この掛け違いはもどかしいですね。
しかし現実には、そう易々と解決できない事の方が多いのも事実。
続き物は途中での評価が難しいですね。とにかく続編頑張ってください。

>>恵子と斑目
出てくるところを誰かに目撃されるというベタなオチじゃなくて良かったです。
何もしなかった展開もGJ!!

>>妄想少年マダラメF91
鏡写しの展開が面白いですね。過去の接点があったなんて。。。
まさに外伝!!
このままでも綺麗にまとまってるのに続くとは、楽しみです。
68マロン名無しさん:2006/03/25(土) 23:33:09 ID:???
>>妄想少年マダラメF91
作者さんはせんこくげんしけんの方ですよね?
いやー、今回も切り口が面白い!!
毎回、趣向を変えて楽しませてくれますね〜。
引き出しの多さに脱帽。
69F91感謝:2006/03/26(日) 00:46:08 ID:???
駄文を読んでいただいた方々に心から感謝です。

>>60(あらためて)
>咲さんはあまり人に(特によく知らない人には)ねだったり、頼ったりするタイプには思えんのですよ。
確かに、そういう性質は幼少期にしっかりと育まれているはずですよね。春日部家は食育もしっかりやっていそうだし。
このご指摘は痛恨でしたー。進行重視でキャラを殺したというか…。まあ次でフォローしながら頑張ります。

>>64
>小学生斑目&春日部さんにぐっとキターーーーー!!
今回は導入なんで、次回いかにカワユク描けるか……自信無いですけど期待しないで待っててください。子ども版班目の容姿は、服を買いに行く話でちょびっと回想に出てくる中学生班目(後ろ姿)などから妄想しました。

>>67
>まさに外伝!!
今回の7レス分で終わらせることも可能だったんですが、「せんこく」みたいに原作へのリンクを張ったり、小学生時代の可愛らしさをもっとだしてあげたいと妄想が膨らんできたので…蛇足にならんよう頑張ります。

>>68
>毎回、趣向を変えて楽しませてくれますね〜。
そう評価していただけると嬉しいです。ただ逆に、真っ当な話や普通の恋愛が書けないんで、変化球ばっかりやってます。

ここでちょっとだけネタばらしを…。
○ローファー=語源は「怠け者」だそうで、ものぐさ男に合うシンプル靴。班目にも合うことでしょう。
○ドラゴンクエーサー=笹原は好きなゲームに同タイトルの「3」を選んでいます。
○ドッギャァァァンッ!(2005)、ズシャアァァァッ!(1991)=有名擬音を使いたかったので、車田対荒木となりました。
○「電波男」=テキトーです。この時期、フジで「電車男」やってたはず。
○Tガンガル=班目はこの頃から信者だったということでw
○物語の最初の英文と、最後の訳は、「History Repeating」という曲から。歌うのは007の「ゴ〜ルドッフィンガ〜」で有名なシャーリーバッシー。実にシヴィ曲です。

この話、またまた続き物でご迷惑かけますが、どうかご容赦&おつきあいください。
70マロン名無しさん:2006/03/26(日) 07:55:03 ID:???
>>F91
ああこれは、ちょっと待って下さい。

ミスターすき間産業の人、これはまた何と言うか、えらい意欲作を。
次回楽しみ。

あと「電波男」という本は実在するから、「電車マン」とかにすればよかったかも…
71マロン名無しさん:2006/03/26(日) 23:49:05 ID:???
よし、日曜の夜は人もいないしチャンス!
げんしけんが終わるだの終わらないだのって色々なスレでいわれてるのに
こんなお馬鹿なSS書いててイインデショウカ・・・。

10レスで投下します。
72ラジヲのお時間(1/10):2006/03/26(日) 23:49:42 ID:???
〜BGM・『神無月曜湖のげんしけんラジヲ!』テーマソング〜

〜FO〜

「どうも〜、いつ誰が聞いてるか分からないげんしけんのネットラジオをお聞きの方、
 こんばんは〜、こんにちは〜、おはようございます〜。
 今日も私、神無月曜湖が皆様に楽しい時間をお届けいたします!」

〜BGM・完全にFO〜

「しとしとじめじめして嫌な日が続きますが、皆さんはいかがお過ごしですか?
 私なんかはコスプレの衣装がかびたりしないか心配で、
 梟さん所に乾燥剤置いてきちゃいまいした。なんといっても、湿気が一番の大敵ですしね!
 お百姓さんたちは雨がないと困るから、あまり天気が悪いとか言ってはいけないようですけど、
 私としてはやっぱり晴れの方がいいと思うんですよ〜。
 コミフェスも晴れじゃないと大変ですし!
 日本に帰ってきて一年目の冬コミ三日目、雨になっちゃって大変でした〜。
 荷物も多かったですし、色々と・・・ねえ?
 サークルの先輩も、滑って転んで骨折しましたし。
 ・・・まあ、ちょっとそれは雨のせいだけとも言い切れませんけど・・・。
 運悪すぎ?みたいな。」

〜笑い声が響く 小さく『うるせ〜』という声〜

「そうそう、コミフェス、といえば、今年の夏コミ、衣装決めました!
 特に気合入ってるのは、三日目にやる最近再び注目されたあれですよ!あれ!
 分からない人も、分かった人も、コミフェスでお会いしましょう!
 やっぱりコミフェスのような大きな場所は、色々な人と交流できて楽しいです!
 コスプレする人もしない人も、一緒に楽しくお話できたらな〜、と思います。
 この三年ばかりでお友達もとても増えましたし。」
73ラジヲのお時間(2/10):2006/03/26(日) 23:50:24 ID:???
〜何かを探す音〜

「さてさて、お便りの紹介です!
 えーと、RN「ういろー」さんからのお手紙です。いつもありがとうございます〜。
 あ、初めての方に一応説明を。
 お手紙、といってもメールです。元々それでしか応募してません。
 『いつも楽しく聞かせていただいております。曜湖さん。
  前回の放送時に言われていた『サークルの新入会0』の事ですが、
  非常に可愛そうでなりません。事故があったとはいえ、悔しい思いをしてるでしょう。
  しかし、今後入部希望などもいる事と思います。
  実際私がサークルの会長をしている時はそういうこともままありました。
  なので、今後に期待していただくといいかと思います。
  元気のない曜湖さんだと、とても聞いていられないので・・・。
  それでは、次回も楽しみにしています。ういろーでした。』
 ういろーさん、ありがとうございます!
 ういろーさんは最初の放送から聞いていただいているリスナーなのですが、
 いつも言葉が優しくて私、とても癒されています。
 そうですか〜、途中入部ですか〜。
 私も九月からだった事を忘れていました。そういう人が、今後来ないとは限りませんものね。
 よし、少しやる気出てきたぞ〜、頑張ります!
 ういろーさん、またお手紙待ってますね!

〜『くじびきアンバランス』・CI〜

「さて、ここで音楽です。ちょっと懐かしい感じで、行こうかなあ、と。
 くじびきアンバランスの主題歌で、『くじびきアンバランス』」

〜『くじびきアンバランス』〜
74ラジヲのお時間(3/10):2006/03/26(日) 23:51:28 ID:???
〜『くじびきアンバランス』間奏・FO〜

「今日、なんでこれをかけたかといいますと、ちょっと理由があるんですねえ〜。」

〜ガタガタいう音・言い争う声が聞こえる〜

「あ、ミキサーの田中さん、無理っぽいですか?え?
 プロデューサーのベンジャミンさんが?あ、そうなんですか。
 あ、入ってきた。」

〜ドタドタいう足音 椅子にドスンと座る音〜

「今日は、我がサークルの作家さん、於木野鳴雪さんに来て頂きました〜。」

〜拍手の音〜

「あのですね、於木野さんは夏コミで本を出すそうで、今日はその辺りのお話でも、と。
 そのジャンルがくじアンだったもので、今日はくじアンの音楽を流してみました〜。
 於木野さん、一言お願いします〜。」

〜キュキュキュ とマジックで書く音〜

「え、出るとはいったが話すとは言ってない?
 ・・・あらぁ〜、そういう態度に出るんですねぇ〜。そうですか、そうですか。
 あら、笑みなんて浮かべて・・・。それで勝ったとお思いですか?
 フフフ・・・。あることない事いっちゃてもイインデスヨ?」
75ラジヲのお時間(4/10):2006/03/26(日) 23:52:16 ID:???
〜ガタッ と椅子から立ち上がる音〜

「なら自分の言葉でお話くださいね〜。」
「ひ、卑怯ですよ!」
「どっちが卑怯だか・・・。」
「う・・・。こ、こんにちは於木野鳴雪です、は、始めまして・・・。」
「そう、それでいいんですよ!全く世話かかせて・・・。ねえ、笹原さん。
 あら、プロデューサー何書いて・・・、あはははは!」
「え・・・、『於木野さん、よく出来ました。花丸。』・・・。馬鹿にしてるんですかー!」

〜ヒィ〜 ヒィ〜 と引き笑いの音 ガラスを叩く音〜

「はあ、はあ。ま、まあ、それはともかく。於木野さんの話はCMの後で。お楽しみに!」

〜ジングル・『神無月曜湖のげんしけんラジヲ!』〜

〜CM〜
「生き残る事は出来るか?」
「宇宙世紀の戦場を行きぬく一つの部隊」
「壊される世界、生まれる思い」
「引き裂かれた二人に未来はあるのか?」
「機動戦士ガンガル第801小隊」
「OVA第7巻、7月1日発売!」

〜ジングル・『神無月曜湖のげんしけんラジヲ!』〜
76ラジヲのお時間(5/10):2006/03/26(日) 23:58:38 ID:???
「・・・やー、CMの、観ました?」
「まあ、一応・・・。」
「今後の展開が気になるところですねー。」
「・・・ですね、特に引き裂かれた二人がどうなるのか、
 ちゃんと収拾をつける気があるのか、監督にちゃんと聞いてみたいところです。」
「あー、そういえばインタビューで「まかせとけ〜」って泥酔状態で答えてたそうですけど。」
「・・・心配極まり無いですね。」
「まー、期待しないで待ってますかー。で、ですね。」
「・・・えーと・・・。」
「まあ、くじアンのお話でもしながら今回の本について。」
「一応、女性向けの麦×千尋本です。」
「くじアンには思い入れでも?前はハレガンで出すって言ってたじゃないですか。」
「・・・最初げんしけんで作った本がくじアンだったじゃないですか。
 あの時に書いた事と、原作が結構気に入ってた事もありました。
 あと、縁起かつぎも・・・、あるかもしれません。」
「なるほど。げんしけんとくじアンは切っても切れない関係ですからねえ。」
「そういうもんなんですか?」
「三年前は人気が最盛期でしたし、一昨年にはコスプレ大会で優勝したのも会長のでしたし。」
「ああ、かすか・・・」
77ラジヲのお時間(6/10):2006/03/26(日) 23:59:19 ID:???
〜ドン という大きなガラスを叩く音〜

「・・・その話題には触れない方がいいみたいデスヨ?」
「・・・そうですねえ。そして去年には先ほど出たくじアンの会長本発行でしたね。
 とにかくとても関係が深いですよぉ〜。」
「多分、そんな雰囲気を少し感じてたかもしれません。」
「原稿の方は?」
「えっと、いままだネームの状態です。」
「ははあ。これから色々と妄想をこねていくんですね・・・。」
「なんかその言い方嫌です!」
「あらあら、だってその通りでしょう?」
「う・・・まあ・・・。」
「では、このラジオをお聞きの方に何か?」
「・・・いや、別に・・・。」
「それじゃ駄目でしょう!全く・・・。ん?
 笹原さん、またなんですか?あらあ、これは困りましたねえ。」
「え?・・・『於木野さん、もう少し頑張りましょう。三角。』もうやめてください!」
「ほらほら、プロデューサーがそういってるわけだから。」
「うう・・・。このラジオをお聞きの方で、もし興味を持たれて、かつコミフェスに来られる方。
 サークル『雪見庵』によければお越しください・・・。」
「ほら、できるじゃないですか!お、またプロデューサー・・・。」
「だから、やめてくださいって!」
78ラジヲのお時間(7/10):2006/03/27(月) 00:00:19 ID:???
〜ガラスを叩く音。ちょっとした喧騒〜

「ぷぷぷ・・・。今度は『於木野さん、完璧。四重丸。』・・・。おちょくってるとしか思えませんねえ。
 なんかプロデューサー、これやってる時だけ人格違うなあ・・・。
 さてさて、では再び音楽。同じくくじびきアンバランスから。
 EDテーマ、『かがやきサイリューム』」

〜かがやきサイリューム・CI〜

〜かがやきサイリューム間奏・FO〜

「くじアン、アニメ見られてました?」
「ええ、まあ一応。でも、あの監督凄かったですね。
 なんかサイケというか、妙な路線というか・・・。」
「なんか感性が元々のくじアンとは違かった感じはしましたね。
 そのおかげで途中降板ですから。ある意味伝説に残るアニメかもしれませんねえ。」
「ああ、そうかもですね。
 ・・・その辺りはプロデューサーやディレクターさんたちの方が盛り上がりそうですね。」
「昔は毎日のように語りまくってましたからねえ。」
「はあ。」
「さてさて、ではこの辺でいったんCMです。」

〜ジングル・『神無月耀湖のげんしけんラジヲ!』〜
79ラジヲのお時間(8/10):2006/03/27(月) 00:01:34 ID:???
〜CM〜
〜寅さんのテーマ〜
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ」
「姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」
「ある時は太平洋の潜水艦」
「またあるときは不可思議ワールド」
「マムシの旅はどこまでも続く。」
「時には命を危険にさらし」
「またあるときははかなく恋に破れる」
「今度はどこへ、いくのか、マムシ72歳」
「オタクはつらいよ・DVDBOXディスク15枚組み」
「好評発売中!」

〜ジングル・『神無月曜湖のげんしけんラジヲ!』〜

「CM聞いて思い出しましたが、オタクはつらいよ、
 10万ぐらいするらしいですねー、BOX。」
「うわ〜・・・。でもマムシ好きなら買いそうですよねえ・・・。」
「そりゃ、買う人がいなければ発売されないでしょうからねえ。」
「単品もあるらしいですね。」
「ですね〜。・・・さて、この辺でコーナーです!」
「ああ、あの・・・。」
「今日は於木野さんにもやってもらいますから!」
「ちょ、ちょっと待ってください!も、もう出ます!」

〜椅子から立ち上がる音 歩く音 扉のノブの音〜
〜遠くで、『あ、開かない!』の声〜
80ラジヲのお時間(9/10):2006/03/27(月) 00:02:15 ID:???
「いや〜、この機会を逃す我々ではありませんよ〜。
 さあ、観念してお座りなさいな。」
「だってコーナーって・・・。」
「フフフ・・・。『漫画・恥ずかしい台詞を大声で言ってみよう』!!」
「いや〜〜〜〜〜!!」
「観念しなさい、助けは来ないですよ・・・。」
「笹原さ〜ん・・・。」
「無駄無駄、すでに彼は私の手の内ですよ。」

〜小さく聞こえる笑い声〜

「うう・・・。」
「さて、初代パーソナリティ、マムシさんが始めた『ガンガルのセリフを大声で言ってみよう』
 から始まってずいぶん経つこのコーナー。前回は「魔方陣くるくる」でしたが・・・。」
「あれ、聞きましたけど、聞いてるほうがはずかしいですよ・・・。」
「今回は、やっぱりくじアンですよ〜。」
「って、マジっすか・・・。」
「於木野さんに、ぜひとも!」
「・・・ど、どれですか・・・。」
「会長の、『行かないで!千尋ちゃん!』で!」
「そ、そんな恥ずかしい台詞でも無いじゃないですか・・・。」
「じゃあ、思いっきりシャウトしてください!」
「いや、ちょ、待ってくださいよ!」
「感情こめていうと結構恥ずかしいですよ〜、この台詞。」
「うう・・・。」
「さあ、さあ!時間が終わっちゃいますよ〜。」
「・・・い、『行かないで・・・。千尋ちゃん・・・。』」
「ちょっと待ってくださいよ〜。それじゃぜんぜん感情こもってませんから〜。
 それじゃさしもの千尋ちゃんも行っちゃいますって。
 実際原作じゃ行っちゃいますけどね〜。
 まあ、別のでもいいんですよ〜。他にもネタはたくさんありますから〜。」
「い、いや、うう〜・・・。『いかないで!千尋ちゃん!』」
81ラジヲのお時間(10/10):2006/03/27(月) 00:08:33 ID:???
〜むは〜 という息を吐く音〜

「いいですね〜!私の声じゃちょっと違うかなって思ってたんですよ〜!」
「こ、これで満足ですか!」
「はい〜、あ、プロデューサー?・・・あら〜。」
「え?・・・『正直、萌えた。』・・・本当ですか?」
「あらあら、顔赤くしちゃって。確かに、良かったですね!
 さて、げんしけんラジヲでは恥ずかしい台詞を大募集中です!
 新しい古いは関係なし!恥ずかしい台詞をどんどん送ってくださいね!
 メールは、『ゲンシケンアットマークラジヲドットシーオードットジェイピー』まで!
 ここで音楽。於木野さんの大好物・ハレガン主題歌集より。『リライト』」

〜リライト・CI〜

〜リライト・FO〜

「ハレガン、やっぱりまだまだいけますか?」
「・・・そうですね。話も大分佳境に入ってきたとは思うんですけど。
 まだまだ楽しめます。」
「やっぱり大佐のグループは魅力的ですし、主人公の兄弟もいいですよね〜。」
「ええ。それと異国の王子様とその家臣とか、キャラ、いいですよね。」
「そうですね〜・・・。え?はいはい、『あの忍者は荻野さんに似てると思うんだけどどうか?』」
「はい?そ、そうですか?」
「ああ〜、そういわれればって感じですね〜。」
「はあ。」
「ハッ!なるほど、今度そのコスプレをってことで・・・。」
「なんでそうなるんですか!」
「フフフフ・・・。」
82ラジヲのお時間(11/10):2006/03/27(月) 00:09:11 ID:???
〜ガラスを叩く音〜

「ハッ!軽くワープしてましたね〜、すいません〜。
 あ、そろそろお時間ですね。長い間お聞きいただきありがとうございました。
 今日のゲストは、於木野鳴雪さん。於木野さん、次回もよろしくお願いしますね〜。」
「はい・・・は?じ、次回?」
「あ、聞いてませんでした?次回から『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』に変わるんですよ〜!」
「聞いてないですよ!!今回だけっていうから出たのに!」
「ああ〜、それはゲストとしては、ってことだと。」
「は、嵌められた!!」
「じゃあ、こうしましょうか〜、メールで『於木野鳴雪再登場キボン』が10通以上来たら、出るっていうのは?」
「それって少なくないですか!!?」
「そんなことないですよ〜、普段メールなんて一回やって10通来たら多い方なんですから〜。」
 なんですか、それともそんなに自分に出て欲しい人が多いとでもお思いですか?」
「う・・・じゃあ、それでいいですよ!」
「安心してください、もちろん、偽装工作なんてしませんから。」
「し、しまった・・・。また挑発に乗って・・・。」
「皆さん、メール本気でお待ちしてます。ではでは!
 また次回の放送でお会いしましょう!パーソナリティは神無月曜湖と」
「え、あ、於木野鳴雪・・・ってまだパーソナリティじゃないですよ!!」

〜喧騒と共にBGM・CI 喧騒がだんだんとFO〜

〜BGM・CO〜
83ラジヲのお時間(オマケ):2006/03/27(月) 00:10:45 ID:???
「いやー、今回の放送、今までとは違ってたね〜。」
「お、ヤナ聞いてくれてんの?あれ。」
「まあね、ヘビーリスナーだと思うよ〜。」
「お、おい・・・。もしかしてあのメール・・・。」
「な、何の事かな〜?」
「あ、怪しい・・・。」
「ま、まあ、それはともかくさ。あの荻上さんが良くあそこまではっちゃけたね〜。」
「いやー、笹原の奴がかなりやる事を進めてねー。」
「そうか〜、よかったよかった。次回の放送楽しみだな〜。」
「そういやお前今何やってんの?」
「ああ、印刷所で事務。」
「印刷所って・・・。」
「同人もやってる、ね。」
「フーン・・・。」
「たまに個人で同人誌出すにはいい環境だよ。」
「お前も楽しそうにやってるんだねぇ・・・。」
「お前は?」
「・・・キカナイデ・・・。」
8471:2006/03/27(月) 00:13:11 ID:???
レス数まちがえましたな。
ラジオネタは前誰かがやられてた気がするのですが、
それはともかくとしてラジオ聞いてたら書きたくなりました。
いいたい事は特に無く。
以上!
85マロン名無しさん:2006/03/27(月) 00:18:55 ID:???
>ラジオのお時間
GJwwwwwww
プロデューサー笹やんGJwwwwwwwww

次回「曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!」 期待してますwwwwwww
86マロン名無しさん:2006/03/27(月) 00:21:48 ID:DMAgWsrr
>ラジヲのお時間
リアルタイム乙!
今月の展開でちょっと、かなり、凹んでたので、こういう楽しい話はむしろGJ!!
神無月曜湖さんの喋りがとにかく楽しい。あと流され受けな於木野鳴雪がww

CMが!!めちゃ豪華でした!!もう何度も噴き出しましたwww
87マロン名無しさん:2006/03/27(月) 00:22:45 ID:???
つっづっきっ!
つっづっきっ!

ヤナがここで出てくるとわ…!
88マロン名無しさん:2006/03/27(月) 01:52:52 ID:???
>>ラジオのお時間
おもしろーーー!!これ、是非次回もっ
えーと
「於木野鳴雪再登場キボン」こうですか!?
89マロン名無しさん:2006/03/27(月) 02:16:32 ID:???
>ラジヲのお時間
ワハハハハハ〜!!!
こんな時期だからこそ、こんなお馬鹿なSSがいい!!
90マロン名無しさん:2006/03/27(月) 03:50:31 ID:???
>ラジヲの時間
わははは!面白い〜。なんかもうSSじゃなく本物のラジオ番組として聞いてたよw(脳内声優でw)
こういうネタってストーリーSSとはまた違う難しさがあると思うんですけどねぇ…俺には書けねぇ。
みんな、荻上をどんな声で想像したんだろうか。

元会長なヘビーリスナーってひょっとして…?と思ってたらおまけでご本人登場で乙!(印刷屋か…)
一部、ベンジャミンを本名で呼んじゃってるのはあれはわざとですか?
おいおい、いいのか??と思って聞いてたけどw
途中の「荻野さん」はただの誤字だよな、と思うんですが。(読みは問題ないし)
91マロン名無しさん:2006/03/27(月) 03:51:15 ID:???
おっと忘れるとこだった。
『於木野鳴雪再登場キボン』
こうですね!?
92マロン名無しさん:2006/03/27(月) 05:26:08 ID:DMAgWsrr
では私も。
『於木野鳴雪再登場キボン』
ついでにマムシさんもうちょこっと出して下さいw
93マロン名無しさん:2006/03/27(月) 07:51:19 ID:???
>ラジオのお時間
「於木野鳴雪再登場キボン」!!
と叫んだところで感想を。

すごいですねー。一見ただのネタにしか見えないのに、ものすごく完成度が高い!
台詞だけなのに、キャラの表情まで見えてきそう。
雰囲気もいかにもラジオしていて、いい!
ぜひ続けて下さい。あと、録音したマムシDJのがあれば、それもぜひw
94マロン名無しさん:2006/03/27(月) 08:57:06 ID:???
>>ラジオのお時間
面白かったです。そして私も
『於木野鳴雪再登場キボン』でw

ああ、それから『漫画・恥ずかしい台詞を大声で言ってみよう』のコーナーにも。
ちょうど手元にあったので、漫画『黄金色のカッシュ」1巻第一話の
カッシュの台詞を鳴雪さんに…(知らなかったらごめんなさい)

「これ以上私の友達を侮辱してみろ!!!
お前のその口、切りさいてくれるぞ!!!」

恥ずかしいですね。鳴雪さんに『友達』って言葉、ぜひ言って欲しいです。
95マロン名無しさん:2006/03/27(月) 12:53:19 ID:???
>>ラジオのお時間
なんていうか、SSスレへの愛に満ちてるね
いやマジでGJです。技巧的にも、純粋な面白さも。

あと「於木野鳴雪再登場キボンヌ」
うわ10通に足りない?www
96マロン名無しさん:2006/03/27(月) 12:57:19 ID:???
あ、オレ書いてねーや。

「於木野鳴雪再登場キボンヌ!」

こうですか!?
97マロン名無しさん:2006/03/27(月) 14:11:19 ID:???
「於木野鳴雪再登場キボンヌ!」

こうですか!?
わかりません><
98マロン名無しさん:2006/03/27(月) 17:33:54 ID:???
於木野鳴雪再登場キボン!

これで9人目?
いじられる於木野サンがアワレでタノシイ!
ぜひ再登場願う!
99 ◆suTtoKok.. :2006/03/27(月) 20:17:28 ID:???
実は俺も昔に

「え――――第一回――――
 ワタクシ春日部咲がげんしけんメンバーにお話をお聞きする新コーナー
 『咲が聞く!』をお送りします。記念すべき第一回のゲストは大野です、ホレ」
「えーとえーと、こんばんはっ……」
「その口調も既に懐かしいねェ…、どーよ田中とは?」
「ええ……もう……中距離恋愛になって半年経ちますが、毎日会えてた頃と違って、
 週一回、2日しか会えないんですけど、それがまたメリハリが付いていいんです!」
「へーえ、そーゆーのもアリなのかぁ…… ところで付き合い始めの頃はなかなか手を
 出さなかった田中だけど、作中でも一切語られてないけどどーなの?」
「いやまぁ……さすがに今は会うたび……って何を言わせるんですか!」
「自分から言ってんじゃーん。いいから全部言っちゃいなよ」
「ええ……咲さんのアドバイスに従って……コスプレでも……
 田中さん、コスプレプレイ専用の衣装とかも張り切って作っちゃって……」
「ほーほーほー! んで大野オススメの田中のチャームポイントは?」
「毛ですね!」
「は?」
「いや、田中さん、毛深いじゃないですか。腕とか胸とか……すりすりすると
 すっごい気持ちいいんです!」
(……聞くんじゃなかった……)「ま、まーオヤジ趣味の大野にはバッチリだねー、
 昔からあんな感じだったのかな?」
「そーですね、やっぱり

とここまで書いて後を思いつかずにお蔵入りにした話があるので、
ラジヲ現視研は非常に楽しんだ。笹最高。
というわけで「於木野鳴雪再登場キボンヌ!」
100マロン名無しさん:2006/03/27(月) 20:23:44 ID:???
10人だー!
さあオギノさん次も(ry
101マロン名無しさん:2006/03/27(月) 21:05:39 ID:???
>ラジオのお時間
面白いw 於木野鳴雪再登場キボンヌ 
はづかしいセリフ!はづかしいセリフ!
102マロン名無しさん:2006/03/27(月) 22:56:11 ID:VjCbRd4F
お祭り騒ぎですな。まさにGJ!!
於木野鳴雪再登場キボ…二回目言うのはアリですか!?

ハズかしい台詞リク。
「ん」で。
10384:2006/03/28(火) 00:05:11 ID:???
よ、読んでくれてありがとうございます・・・。

(((((((((゜Д゜;))))))))ガクガクブルブル

びっくりするくらいの反応にかなりビビッてるんですが^^;
予想外じゃ〜〜〜!!
反応悪くても次回も放映しようと思ってたので次回もお楽しみに!
まとめてレスを!
>プロデューサー
彼らはこのラジオ放映中は会誌の中状態になってます。荻上だけ素です。
>CM
非常に手前味噌で、801小隊も現在鋭意作成中です。監督の言葉とその感想は私の本音です。
>ヤナ
神無月曜湖の〜でいくと決めた時から絶対に出したかったのです。彼は絶対聞くかと。
>本名
彼らは本名を隠してやってるわけじゃなく、キャラ作りの一環でPNで呼び合ってるということで。
なのでたまに本名が出る事もあるという設定で。荻野は完全にミスです^^;
>マムシ
マムシ、色々と考えて見ます。
>恥ずかしい台詞
何かあれば書いてくださると嬉しいです。どれが採用されるか・・・本当のラジオのようにw

ではまた、次回の放送もお楽しみに!
10484:2006/03/28(火) 00:05:55 ID:???
放映って何だ・・・放送だろ・・・
105マロン名無しさん:2006/03/28(火) 00:38:44 ID:???
>びっくりするくらいの反応にかなりビビッてるんですが^^;

いや、あんなエサを撒いておいて喰いつかないと思う方がオカシイ(W=於木野鳴雪再登場キボン

インタラクティブつうか双方向というか、SSのキャラと読み手との幸福な時間を演出するという意味で楽しいフリだと思います。
次も期待しています!
106マロン名無しさん:2006/03/28(火) 01:36:32 ID:???
楽しい話を作るはずが、欝描写の多いものになりました(汗)。なんででしょう。。。
では、6レスで投稿します。
107お家へかえろう(1/6):2006/03/28(火) 01:37:39 ID:???
時は2006年の冬。陽も傾き赤く色付く頃。
げんしけんの部室では、1年生らしき細身の男子会員と
金髪長髪の少女が言い争っていた。
そう、留学してきたスザンナ・ホプキンスだ。
その表情からは、いまいち感情がつかめない。
言い争うというよりは、男子会員はスーが何か言うたびに
一方的にダメージを負いよろめき青ざめるリアクション。
スーはといえば、きょとんとした様子で、別に怒っている
というわけではなさそうだ。
部室には他に、雑誌を読みふけるポーズで固まっている朽木。
そしてもう、一人、筆頭の下に苦笑いを貼り付けて、二人の間に
手刀で割ってはいる荻上さんの姿が有った。
荻上はスーの無邪気なネタ振りを止めようと話しかけるが、今度は
スーの方がシュンとうなだれてしまった。
うつむきながら、上目遣いで荻上を見つめるスー。
それを見て荻上は天を仰いで、右手で顔を覆った。
朽木はその頃、男子会員に話しかけ、一人で笑っている。
しかしちょっと苦しい表情だ。
彼なりに、場を和ませようと努力をしているのだろうが…。

108お家へかえろう(2/6):2006/03/28(火) 01:38:15 ID:???
遠き山に陽は落ちて、山の端から扇のように赤い色が見える。
そんな頃、荻上は独りでとぼとぼと住宅街への帰路をり歩いていた。
もともと猫背だが、今日はさらに背中が丸いような気がする。
足どりも重く、溜息をつき、うらぶれた中年サラリーマンも斯くや
といった疲労が浮かんでいる。
まだ比較的早い時間かもしれないが、4人組の若いサラリーマンが
前方から楽しそうに歩いてくる。全員20代だろうか。
横手にあった赤提灯の暖簾をくぐって扉を開けると、店内の喧騒が漏れる。
今日は金曜日だろうか。店内の客の入りは多い。
荻上はそれらに目を遣ることも無く、歩き続ける。
と、ピタリと足を止めるとズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
送信履歴だろうか、方向キーを押すと、その表示をじっと見つめる…。
しばらくそうしていただろうか、左右に首を振ると、ぱたっと
電話を閉じ、またトボトボと歩き出すのだった。
暗い道を歩くと、前方に道が明るく照らされた所がある。
やがてスーパーマーケットの前に差し掛かる。
荻上の疲れた顔が、店の明かりに照らされ、その口元から吐く息が
うっすらと白くなり始めて冷え込んできたのがわかる。
顔を上げることも無く、自動ドアをくぐりスーパーの店内へと
足を進める荻上。
カゴを左手に持つと、惣菜コーナーへ。
つまらなさそうに惣菜を眺め、2回ぐらい往復すると、
結局何も買わずに、人の流れとは逆流しながら店内を
ぐるりと歩き出した。
109お家へかえろう(3/6):2006/03/28(火) 01:38:48 ID:???
そして通路沿いのワゴンセールの、特価の値札に目を留める。
各メーカーのカレールーとシチューの元が安売りをしているようだ。
カレー粉を手に取ったり、ビーフシチューやハヤシライス、
クリームシチューの粉を手にとって見比べている荻上。
その眉間は寄り、まだ難しい顔になっている。眉間のシワが張り付いて
しまわなければ良いが…。
やがてクリームシチューの元をカゴに一つ入れると、野菜コーナーへ。
ジャガイモ、ニンジン、ブロッコリーにシメジ。何を買うか
迷ったようで、カボチャやサツマイモも、一旦はカゴに入ったが
戻されたりした。そして玉ねぎをカゴに入れると野菜は揃ったようだ。
そして肉コーナーへ。豚肉や牛肉はスルーして、荻上が足を止めたのは
鶏肉売り場だった。カゴを横に置くと、ささ身や手羽を眺め、やがて
胸肉ブロックとモモ肉ブロックを両手に持って見比べる。
しかし、それをどちらも棚に戻すと、結局カゴに入れたのは
骨付きモモ肉だった。


部屋に戻ってきた荻上は、暗い部屋に明かりを灯した。
買い物袋を台所に置くと、手を洗って着替えてくる。
台所に戻ってくると、携帯電話を開き、しばらくメールを打ち
送信し終わるとポケットに戻し、エプロンを掛けると
料理に取り掛かる荻上だった。
まずは大なべをコンロに乗せると、もう一つ片手鍋に水を張り
スイッチを押すと強火に掛けた。
110お家へかえろう(4/6):2006/03/28(火) 01:39:20 ID:???
真剣な目をして包丁を手にすると、まな板を置く。そして
手際よく、慣れた手つきで玉ねぎ、ジャガイモ、ブロッコリーを
次々と大きめに切り分け、お湯が沸いたのを見ると
ブロッコリーを下茹でにした。
それを菜箸でボウルにとると、次に骨付き鶏モモ肉を
湯通しにして、皿を取ってきて横に置いた。
その間に他の野菜を大鍋にかけ、コンロの火をつける。
ブイヨンを一欠け入れるとふたをして、しばし待つ荻上。
今は無表情なようだ。部室を出てからさっきまで顔に
浮かんでいた疲れは抜けてきたようだ。
元々、こんな時まで笑顔でいるほど明るいわけではない。
やがて大鍋の蓋の蒸気穴から湯気が立ち上り、荻上は鍋掴みを
左手にはめるとふたを開けた。台所に大きな湯気が広がる。
目を細めて鶏肉を入れ、今度は少し待っただけで火を止めると
シチューの粉をサラサラと振り入れ、お玉で熱心に溶かし混ぜる。
荻上の無表情だった目じりが少し下がり、口元が緩む。
徐々に楽しくなってきたようだ。
冷蔵庫から牛乳を取り出すと少し入れ、ひと混ぜして弱火にする。
部屋にクリームシチューの甘い香りが広がり、香りを吸い込むと
荻上は目を閉じ、柔らかな笑顔を取り戻した。
そのとき、携帯電話が鳴ったようだ。
パチリと目を開けると、急いで開き、しばらく画面を見る。
メールを読み終わった荻上はニヘラ、という感じににやけた。
しかし炊飯器に目をやり、ハッとすると蓋を開け覗き込む。
中は空っぽだった。。。
黒目がちな目を見開き、ガーンとオーバーリアクションに驚くと、
大急ぎで頭の筆を揺らしながら米を研ぎ、炊飯器をセットすのだった。

111お家へかえろう(5/6):2006/03/28(火) 01:39:56 ID:???
週末の仕事を終えた笹原は、週末の夜から椎応大方面にやってきた。
いや、帰ってきた、といった方が適切だろうか。
真っ暗な道を厳しい顔で急ぎ足で歩きながら、携帯電話を取り出すと
その画面が光り、顔を寄せメールを確認する。
バックライトに照らされた笹原の口元が少し微笑む。
しかし目元も眉も、固まったままだ。寒さのせいだろうか?
携帯をポケットに戻すと、歩きながらこめかみをグリグリと
両手の指先で押し回す。さらに右手で額の肉をマッサージしている。
溜息をつくが、どうやら仕事の緊張が抜けないようで、その顔は
浮かないようで、とても彼女の元へ向かう男とは見えない。
今日は、仕事と日常の、気持ちの切り替えがうまくいかないようだ。
その自覚があるようで、足取りが重くなる。
笹原はしばらく歩き、ふと道沿いの閉店した商店のガラスに映る
自分の顔が目に留まった。
ガラスに映る顔は険しく、足を止めると笑顔を作ろうとしてみた。
営業スマイルはすぐに出る。しかしこれでは、昔からの笹原を
知る者には笑っていると思われないだろう。
笹原自身も、別の笑顔を作ろうとガラスを覗き込む。
しかしどうも、目元がおかしい。口の端だけで笑う…。
しばらくそうしていたが、やがて手のひらで両の頬を叩くと
怒っているかのように、ズカズカとした足取りで荻上宅へ向かい始めた。
その目は少し潤んでいる。なんと、泣きそうになっているようだ…。
重い足を引きずり、荻上の部屋の前まで来ると足を止め、
気合を入れると笑顔を作った。
笑顔を作る………そう、作り笑顔だ。
112お家へかえろう(6/6):2006/03/28(火) 01:40:29 ID:???
そのとき、何かに気づいた様子で辺りを見回す。
寒い冬の空気に漂ってくる、温かくやや甘い香り。
隣の部屋の電気は消えている。荻上の部屋からの香りと気づくと
息を吸い込み、大きく息を吐く。
さっきまでいかり肩だった笹原のシルエットは、肩が落ち
少し丸くなる。
笹原は呼び鈴を押すと、部屋の中から聞こえる足音に合わせ
少し姿勢を正すとドアが開くのを待った。
やがて扉が開き、部屋の中から光が漏れ、それより明るい荻上の顔が現れる。
玄関の黄色みを帯びた温かい明かりを受け、笹原の柔らかな目元が照らされる。


よく冷えた夜空に、硬い星の光がきらめいているが、屋根の下の荻上の部屋では、
食卓には熱い湯気を立てるシチューが皿に盛られ、荻上と笹原は冬の寒さも忘れ、
暖かなひとときを過ごすのだった。
113マロン名無しさん:2006/03/28(火) 01:42:14 ID:???
曲を元に…山崎まさよし氏の「お家へかえろう」を元に、来年の笹荻を妄想しました.…。
114マロン名無しさん:2006/03/28(火) 01:44:55 ID:???
ニヤニヤ(゜∀゜)顔がにやっけっぱなし。

仕事との切り替えがうまくいかない笹原が良かったです。
きっと笹原にとっても荻上さんは大切な存在になっていくんだろうなあ。
・・・やはりげんしけんは続くべきだ!
こんなシーンが見られないなんて人類の損害ですよ!(いいすぎ
115マロン名無しさん:2006/03/28(火) 04:05:13 ID:???
>>114
言い過ぎじゃない!
宇宙レベルの損害です!
116マロン名無しさん:2006/03/28(火) 04:27:25 ID:n8Ag99Xd
>>115
宇宙全ての生命が一つになり、「損害です」と言っている!!
(イメージ:元気玉)

まーあれです。今年の9月になったら「げんしけん2」、荻上とスーの二人が主役で始まりますから。
はっきり言い切ります。言葉は発すると言霊が宿りますから!

>お家へかえろう
書いていただきありがとうございました〜!何気ない描写GJ!
欝描写と言われてますが、だからこそ最後の三行の文に、ぐっときます。
冷たい心と体が一気に温まるのを感じます。
それにしてもこの荻上さん、料理上手そうですね。
この笹原、まだ仕事でうまくいってないのかな。すごく感情移入できる…。
117マロン名無しさん:2006/03/28(火) 04:51:57 ID:???
>>116
>この笹原、まだ仕事でうまくいってないのかな。
変な漫画家の担当になって、心身ともに疲れているのでは想像してみる。
普段から着物着てて、凄く小心で神経質で、太宰信者で、〆切が近付くと自殺騒ぎ、笹原が必死で止めると「死んだらどうする!」…
まあこんな調子ではないかと。
118マロン名無しさん:2006/03/28(火) 08:08:31 ID:???
>>117
絶望した!そんな笹原の仕事振りに絶望した!
119マロン名無しさん:2006/03/28(火) 09:26:53 ID:???
>お家にかえろう
気持ちの温かくなるSSでした。わしも仕事で命削っているので荻上のシチュー食べたい!
手作りの食事は、作る人の手間を思うと割り増しでおいしくなるし、真心を感じて心も温まります。一緒に食べればなおさらです。
手作りの食事、家族との共食が減って来ていることと、青少年犯罪が多いことにも因果関係があるかも。
それを思うと、荻上の手作りで気持ちをリセットできる笹原は幸せだと思う(いや犯罪犯すわけじゃないけど)。

それに比べて斑目の食生活がスゲー心配なんですが……。これをネタに書くか……。
120マロン名無しさん:2006/03/28(火) 10:50:20 ID:???
>>94
間違えた…
斑…もといマムシさんが5巻のレビューで「金色のソレ」って言ってる…
と言うわけですいませんが『黄金色』改め『金色のカッシュ』でお願いします。

Gガンガル?私は好きですが何か?

>>お家に帰ろう
荻上さんのシチュー旨そうだなぁ…うらやましいぞ笹やん!
121マロン名無しさん:2006/03/28(火) 13:21:00 ID:???
>>お家へかえろう
笹やん、漫画家と「甘やかして欲しいんですか」「そうじゃ!」って会話してたり
「笹原さんが面白い言うの載せてワシが失職するんだから、笹原さんも会社辞めて下さい」
言われたりしたんだろうか?
それはともかく、同じく荻上さんシチュー食べたい!!

…ふと気づいたら台詞や内心語りが無いね。
最近SSの形も凝ったのが色々出てきたなあ
122 ◆suTtoKok.. :2006/03/28(火) 23:00:51 ID:???
毎度、新作です
例の件用に書きました
笹荻のバレンタイン話です
タイトルは例によってありません
では行きます
123マロン名無しさん:2006/03/28(火) 23:01:18 ID:???

部室の棚の時計はお昼
笹、スーツ姿、手帳を見てニヤけている
今日は2月12日、2月14日に印が付いている
オギー例によってノック無しで入室、ちょいビックリ+笑顔「こんに……あっ、笹原さん」
笹、手帳を閉じて「あっ、荻上さん、こんにちは」

荻「今日はもう終わったんですか?」
笹「いや」「今日はこれからでね」「もうぼちぼち出かけるとこ」
無言で見つめ合う二人、微笑み会う、オギーちょっと赤面
荻「あの」「笹原さん」
笹「ん?」
荻「前から聞こうと思ってたんですけど…」
笹「なに?」
3扉
荻「私のどこを好きになってくれたんですか?」
笹超ギックリ、顔のっぺら、汗だく

笹うつむく、オギー微笑んで笹の横顔を見てる「…………?」
笹人差し指ふりふり「えーと」「その」「つまり…」
バタン、扉開く
大野「こんにち……あれ? お邪魔でした」
荻「いえ、そんなこと……チッ」余裕のニヤケ顔で
大野「うわー舌打ち」「ムカツキますねー」大野さんスイカ口で対抗
笹は助かったーって顔
124マロン名無しさん:2006/03/28(火) 23:01:38 ID:???

笹「じ、じゃ荻上さん」「またね」
荻「あ はい」「いってらっしゃい」
バタン 見送るオギーと大野
大野「……で」「何の話してたんですか?」
荻赤面「え−と」「……」「大野先輩は」
大野「はい?」
荻笑顔「田中先輩のどこが好きなんですか?」
大野「え?」

二人とも赤面
大野「どこって」「そりゃ……」「……もう全部ですよ」
荻「あー……」「そうですか……」
大野「……」「……え」「なんですか?」「そんな話を笹原さんと?」
荻「あ いえ」「私がじゃなくて」「笹原先輩が、私のどこを好きになったのかなって……」
大野「あー」「でも確かに」「昔の荻上さんだと」「ちょっとそれは気になりますね」
荻「……ですよね」

大野「ツンデレな所とか」
荻「……デレは無かったと思います」
大野「じゃあツンダメですか?」
荻「何ですかそれ;」
大野「んー」
大野「あ! あれですよ!」 荻「え?」
大野「ほら! 部室でベアトリーチェのコスプレをした時!」「あれがかわいかったからですよ!」
荻「……またコスプレですか?」
125マロン名無しさん:2006/03/28(火) 23:01:58 ID:???

荻「んー」「いや それはないですよー」
大野「そんな事ないですって!」「本当にかわいかったじゃないですか!」
荻「そんな事言ってまたやらせようとしても無駄ですよ!」
大野「本当なのにー」「笹原さんもかわいいって言ってたじゃないですかー」
荻「はいはいわかりましたよ」
大野「……ところで」「荻上さんは笹原さんにチョコとかもう用意してるんですか?」
荻「え?」

荻「いや」「もちろん差し上げるつもりですけど」「なんか慣れてなくて買いそびれて……まだ」
大野「手づくりはしないんですか?」
荻「まぁ作れなくはないと思いますけど」「……やっぱり作った方がいいですかね」
大野「んー」「初めてのバレンタインなら」「そーゆーのもアリなんじゃないですか?」
荻「そうですか……」
大野「そこでコスプレでお出迎え!」「プレゼント!」「これですよ!」ビシッ
荻「またそーゆう……」
大野(えーだって効果絶大は実証済みですよ?)
荻(マジっすか!!)
10
荻赤面鉛筆ふりふり「……」「んー」「いや、今回は」「チョコだけにしておきますよ」
大野さんちょっと不満そう、(!)、何か思いつく
大野「あ」「じゃあこれなんかどうですか?」
部室を漁る大野さん
荻「?」
部室外観
「コレですよ」「!」「かわいいですよ? きっと笹原さんも大喜びですよ?」「……」
11
ページ上は5巻105ページみたいな感じで
コスプレ衣装を合わせる大野田中
仕事中笹原小野寺(顔密着)
台所に立つ荻上(チョコ湯せん中)
2月14日――――
126マロン名無しさん:2006/03/28(火) 23:02:18 ID:???
12
笹原、原稿とセリフ写植を目の前にして腕を組んで悩んでいる
小野寺「コラ」(バシ)本の背表紙で叩く
笹「つ」
笹「あ、す、すいません」
小野寺「何やってんの」「笹原くんの希望でのマガヅン編集部研修だろー」
13
小野寺「研修もそろそろ終盤だし」「学生気分が抜けないようじゃ困るぞ」
笹「はっはい」「すいません」作業を再開する笹
椎応大学
部室に入る恵子「こーんにーちはー」
14
中にいるのは大野さんとクッチー、二人とも自然な感じ
大野「あら、恵子さん」
クッチー(こんにちはですにょー)
恵子「ねーコーサカさんはぁー!」
一コマの間
大野、クッチーを向いて「……朽木さん最近見かけました?」
クッチー「……見てないです」
15
恵子「えー」「じゃーねーさんは?」
大野「…………」
クッチー「…………」
(はぁっ)恵子ため息
大野「……バレンタインデー……ですか?」
クッチーちょっと反応、恵子、大野さんを見る
ちらっとクッチーも見る
127マロン名無しさん:2006/03/28(火) 23:02:46 ID:???
16
恵子「いえ、いいです」「お邪魔しました」
バタン、大野クッチーを残して帰る恵子
困った顔で見つめ合う大野クッチー
大野「じゃ」「ま」「朽木さんにも」
大野さんクッチーにチロルチョコを1個渡す
クッチー明らかに落ち込んでいる、大野さんあくびなんかしたり
17
つまんない顔して帰る恵子
何か気づく、向こうから斑目がやってくる
すれ違いざまに押しつけるように「あんたにやるよ」って押しつける、高そうなチョコ
背中で去る恵子、斑目超困惑
18
笹、腕組みしながら超困った顔してオギー邸に向かって歩いている。
(どこを好きになったって……)(「過激なコスプレを見たからです」……って)
(絶対に言えない)(でも本当の事だし……)
悩んでいるうちにオギーハウス前に着いてしまう
19
笹、扉の前で迷う
ためいきを1つついて
ドアホンを押す「ピンポーン」
うつむく笹
カチカチ「あ、あの、笹原さん、どうぞ」
ガシャ「……荻上さん、こんにち……」
20(縦2コマ)
「さ、笹原さん、いらっしゃい……にゃ」(←「にゃ」だけ小文字)
3巻25ページのネコミミメイドカチューシャ装着オギーがチョコを差し出している
笹原のっぺら顔、汗だく
128マロン名無しさん:2006/03/28(火) 23:03:12 ID:???
21
固まるオギー、徐々に後ろに倒れる笹原
ゴン、笹の背中が扉に当たる、笹顔伏せている
「あの……ちょっと……笹原さん?」恐る恐る笹に近づくオギー
笹の顔を覗き込もうとするオギー
近づいたところで笹の両手がオギーを抱きしめる
「ひゃっ……さ、笹原さん?」
22
「かっ、かわいいよ荻上さん……」
笹笑顔だけどちょっと涙目でオギーを抱きしめる
「えええ〜〜」赤面して動揺するオギー
「荻上さん、そこだよ」
「え?」
「荻上さんの、そんな可愛い所が大好きだよ……」
23
「…………」オギー輪郭の外まで真っ赤
そっと笹原に抱きつき返す、自分の持っているチョコをそっと見る
二人を上空からカメラ目線
24
ページの上2コマを、荻上巻田の神社での笑顔シーンありますね。
あれを笹荻でやって(構図を同じにする)、3コマ目、
2人がオギールームで仲むつまじく会話しているシーンで締める。
視線の高さは7巻80ページと同じで、場所はソファーのある例の部屋がいいですね
テーブルの上には食べかけのチョコ。もちろん食べかけは2つですよ?

おわり
129マロン名無しさん:2006/03/28(火) 23:04:54 ID:???
>ラジオのお時間
単純におもろかった!
何だか気分が乗らなくてSS書きが止まってたんですが
やる気がでてきました!
遅ればせながら、於木野鳴雪再登場キボンヌ 

>お家へかえろう
セリフがないのが印象的ですね。
面白かったです。
これは書くの大変だったんじゃないでしょうか?
力作乙です!!
130マロン名無しさん:2006/03/29(水) 01:16:22 ID:g6JhhMD7
>笹荻のバレンタイン話
笹原、いい目みてますね。
「にゃ」といってくれる荻上さんがかわいい。
131まえがき:2006/03/29(水) 01:26:20 ID:g6JhhMD7
さて。せっかく楽しいSSが投下されている流れ、ぶったぎるようですが、
ちょっと欝な内容のSSを書いてしまいました。
こんな風にはならないように、と祈るつもりで。
欝な展開が苦手な人はスルーして下さい。

この話は、絵板の笹視2さんの絵からインスピレーションを受けて書きました。
ありがとうございました!!

「壁」

(斑目のSS。
時期は春日部さんが卒業した後の話。6月ごろ。)
132壁1:2006/03/29(水) 01:27:03 ID:g6JhhMD7
 今日も雨だ。
鬱陶しいくらい降り続けている。

斑目は会社で弁当を広げた。
最近もう部室には行ってない。だから、もう「部室が近いから」という理由でこの会社にいる理由もないのだが、他にあてもないのでまだここにいる。
単調な仕事。会社と家を往復する毎日。
その繰り返しの中で、いつしか笑うことを忘れていった。

パソコンの画面に向かいながら、頭の中で、モノクロの砂嵐が吹き続けている。
何も考えたくない。何も見たくない。
自分の弱さなんか直視していたくない。
指は勝手にキーボードを叩き続ける。単調な音が、がらんとした会社の中に響きわたる。



定時にタイムカードを押す。機械に自分のカードを入れると、がしゃんと音がする。
今日も家に帰って寝るだけだ。他にしたいこともない。

いつのまにこんなになっていたのか。もう自分でもわからない。
ただ流れ続ける日々に、抵抗することも忘れて立ち尽くしているだけだ。
133壁2:2006/03/29(水) 01:27:32 ID:g6JhhMD7
(本当に、俺らしいな)
何もできないから何もしない。
ささやかな「安心」を諦め、受け入れる準備だけしていても、予想より「波」が大きかっただけの話だ。
自嘲の笑みがこぼれる。
(バカだろ…後悔するの分かってて、やっぱり後悔してる、予定通り。本当にバカだ)
自分を嘲笑する言葉ばかりが頭を巡る。

誰のせいでもない。自分が悪いのだ。

会社を出ると、もう雨は止んでいた。
大学の前を通りかかる。大学のほうを見ずに、早足で通り抜ける。
そのときだけ、閉ざして鈍くなった心が少し、ちくりとする。
もっと硬くしないといけない。もっと深く閉ざさないといけない。


そのとき、急に後ろから肩を叩かれた。
「!?」
驚いて振り向く。

春日部さんがいた。
(…何で、こんなところに………?)
言葉が出ない。
134壁3:2006/03/29(水) 01:28:10 ID:g6JhhMD7
咲「よう!さっきから何度も呼びかけてんのに、全然気づかないんだもん。失礼じゃない?」
斑「………………春日部さん、何でここに………」
咲「久しぶりに、ちょっと顔出しに来てたんだよ。荻上達どうしてるかと思ってさ」
斑「…店は?」
咲「今日は休みだよ。ショップは土日休めないからね」
斑「…ふうん」
咲「………どうしたの、疲れてる?」
斑「え、あ、いや大丈夫」
咲「そうだ、あんたも会っていきなよ。荻上たちに聞いたけど、最近全然顔見せないんだって?
仕事忙しいの?」
斑「…まあ、そんなとこ」
咲「元気だしな!みんなの顔見たら元気出るって!」
春日部さんは斑目の腕を引っ張り、連れて行く。
斑目はされるがままになっていた。

本当は皆と会いたくなかった。会ってもうまく笑える自信がない。
でも、腕を振り解く気力もなかった。

部室の前まで来る。懐かしいと同時に、古傷が痛み出す。
自分の厭なところばかり思い出す。

春日部さんは、コンコンとドアをノックした。
135壁4:2006/03/29(水) 01:30:22 ID:g6JhhMD7
しんとしている。
咲「あれ、もうみんな帰っちゃったかな?そうかー。
私、部室でてからキャンパスの中歩き回ったりしてたからなー」
斑「………」
咲「ん、鍵かかってる。どうしよ、私鍵返しちゃったしなあ。斑目持ってない?」
斑「ああ、持ってる。…ちょっと待って」
斑目はごそごそとポケットを探り、鍵を取り出した。
もう使わないつもりだった。返すのを忘れていただけだ。

部室に入る。春日部さんは奥の席に座った。
咲「…どうしたの?座らないの?」
斑「あ、ああ…うん」
斑目は近くにあった椅子を引き寄せた。
咲「で?」
斑「え?」
咲「何があったの?」
斑「……別に何も」
咲「嘘付け!さっきからアンタ、態度おかしいじゃん。どうしたの?仕事のこと?」
斑「いや、仕事は普通」
咲「…じゃあ何なの?」
春日部さんは本気で心配している。
136壁5:2006/03/29(水) 01:30:54 ID:g6JhhMD7
…不意に、気持ちが溢れそうになった。
必死に食い止める。心に何十もの壁を作る。
表情を崩さないよう、気をつけながら言った。
斑「そんな心配するようなことじゃないから、気にすんな。すぐ解決するようなことだから」
嘘で気持ちを塗り固める。…言ったところで、すぐに解決できないから。
咲「…そんなに信用できない?」
斑「………………」
咲「私には、そんなに言いたくない?」
斑「ああ、言いたくない」
咲「何で…」
斑「春日部さんには関係ないだろ」

春日部さんは驚いた顔をする。
しまったと思ったが、それとは別に、追求の手を緩めない春日部さんに、イライラしていた。
咲「…ああ、そう。いいけどさ、関係ないんなら!」
春日部さんは眉間にしわを寄せた。
また後悔。こんな顔させたくないのに。また自己嫌悪。
斑「…言い過ぎた、スマン」
咲「いいけど!」
春日部さんは横を向く。傷つけてしまい、苦しい反面、傷ついてくれるのがありがたい、と思ってしまった。
斑「…今日は、ちょっと自分がコントロールできんから、心ないこと言ってしまうから、………それ以上聞かないでくれるかな?」
咲「………別に、荒れてて八つ当たりされんのはいいよ。でも言ってくれないのがショックだよ。」
斑「………………」
137壁6:2006/03/29(水) 01:31:56 ID:g6JhhMD7
春日部さんは涙ぐんでいる。
どうしたらいいのか。もう自分でも分からない。
でも、いつもなら頭が真っ白になるようなこの状況だったが、鈍化した心のせいで妙に冷静だ。
…いや、冷静というより、冷めているのか。
斑「ごめんな」
咲「…あんた、変わったね」
春日部さんの声が少し震えている。
斑「………………」
鈍くなっているはずの心が疼き始める。
斑「…そうかも。だから、こんな状態で、誰かに会いたくなかった。こんなとこ見られたくなかった」
咲「………それは、私も?」
斑「うん」

自分の発する言葉がどれほど春日部さんを傷つけるか、分かっているはずなのに。それでも言ってしまう。
今日の自分は特に変だ。こんなに攻撃的になるなんて。
咲「………あ、そう。じゃあもう会わないよ。じゃあね!」
春日部さんが立ち上がる。
ここで引き止めなければ、もう一生顔をあわせられないだろう。

投げやりになった心の声が囁く。
(会えないほうがいいだろ、忘れるって決めたんだから………)

「!!」
その直後、斑目は立ち上がり、部室を出て行こうとする春日部さんの腕をつかんでいた。
138壁7:2006/03/29(水) 01:32:32 ID:g6JhhMD7
(…駄目だ。春日部さんを傷つけたままじゃ、駄目だ!そんなこと望んでない!!)
斑「………………………」
春日部さんは斑目を睨みつけた。
咲「…何?顔が見たくないんなら、さっさと出て行くけど?」
斑「…違う」
咲「私のこと嫌いなら、引き止めんなよ!」
斑「違う………、逆だ」
咲「逆って何が!」
斑「顔が見たかった。でも、だからこそ、会いたくなかった。」

咲「は!?何それ。どういう意味よ?」
斑「言いたくない。でも、嫌いだからじゃないってことだけは…」
咲「意味わかんないよ。帰る!」
斑「嫌いなんかじゃねーんだ。逆なんだ」

春日部さんは、驚いて目を見開いた。
ずっと思い続けていたことが、言いたくなかったことが、伝わってしまったのだ。

春日部さんの腕をつかんだまま、うなだれる。
顔を上げられない。体が強張って、震えてくる。
何のために今日まで、言わない覚悟をしてきたのか。心に壁を作り続けてきたのか。
全てムダになってしまった。
139壁8:2006/03/29(水) 01:33:41 ID:g6JhhMD7
咲「…いつから?」
斑「………………………」
答えずにいると、春日部さんは急に斑目の襟首をつかんだ。
咲「いつからそんなもの抱え込んでた!」
春日部さんは泣いていた。直視できなかった。
咲「バカじゃない!?そんなになるまで我慢してさ!大バカ!」
返事ができない。
咲「もっと早く言ってくれてもよかったのに!」
斑「こんなこと言ったら、春日部さんに迷惑………」
咲「そうだね!でも、迷惑かけてくれないほうが悲しいよ!」
斑「………ってくれんの?」
咲「え?」
斑「言ったら付き合ってくれんの?できないでしょ?なら、哀れみなんかいらな…」

バシッ、と頬を張られた。
一瞬、頭が真っ白になる。

「目が覚めた」ように、モノクロだった世界に色が戻った。
春日部さんは、涙をいっぱいに溜めたまま、こっちの目を見つめた。
その強い意思のこもった瞳が、とても綺麗だ、と思った。
140壁9:2006/03/29(水) 01:34:20 ID:g6JhhMD7
「自分」を思い出した。
(俺は何やってたんだろう?)
春日部さんを泣かせて、傷つけて、自分さえ我慢すればすむと思って、自分を傷つけた。
(何してんだ?…そんなんが俺だったか?)

改めて春日部さんを見る。
春日部さんは、こっちを睨みつけていたが、不意に下を向いた。
斑「………ごめん」
春日部さんは下を向いて震えている。
斑「………ごめん、ていうか本当にごめん!悪かった!
そ、そんな風に、『迷惑かけてくれないほうが悲しい』なんて、言ってくれると思ってなかったから!
なんか自分のことだけになっててさ!本当にごめん!」
咲「…ううん」
斑「なんか、いつの間にか、すごい気持ちが大きくなってさ、その……。
自分でもよくわからんうちに、悪い方向に気持ちがいっちゃっててさ………。」
咲「…もっと早く言ってくれれば、さ…話聞くぐらいのことはできたのに………。」
斑「…ごめん。言っちゃった後のことが、想像できなかったんだ」

もし、もっと早く言っていれば、どうなっていたんだろう。
もしも、という仮定ばかり考えて、何も実行してこなかった。そして、後悔ばかりが積もっていった。抱えきれないほどの。
(俺はバカだ…)
また思ってしまう。でも、さっきまでの気持ちとは全く違う。
141壁10:2006/03/29(水) 01:35:00 ID:g6JhhMD7
咲「気づかなくてごめんね」
斑「………いや、悪いのは俺だから!俺が何もしなかったから………。頼むから謝るなって………」
オロオロする。どうしようかと慌てふためき、冷や汗が出る。
…でも、それが「俺」だった。
ようやく思い出した。

咲「ああ、やっとあんたらしくなった」
春日部さんは、少し笑顔になる。
咲「さっきまで、変にかっこつけてさ。どうしたのかと思った」
斑「え、そう?あ、あは、はは………」
斑目は力なく笑った。…久しぶりに笑った気がした。


斑「…ごめん」
咲「いいって。『迷惑かけてくれないほうが悲しい』からね」
斑「………ありがとう」
咲「いいって」

春日部さんは安心した、というように笑った。
142壁11:2006/03/29(水) 01:35:41 ID:g6JhhMD7
………………………


 さっき家に帰ってきた。
雨はまた降り始めた。
サアアアア…と雨の音が部屋の中にも響く。

さっきまでのことを思い出した。
春日部さんにひどいことを言ってしまった。
それなのに許してくれた。

不意に、涙が出てきた。
外の雨のように、あとからあとから流れて止まらなくなる。
喜びとか、悲しみとか、痛みとか、色々な感情が溢れてきた。
しばらく忘れていたものだった。


今はまだ、感情に流されることしかできない。
でも、この感情が落ち着いたら、あらかた流れてしまったら、きっと歩き始めることができると思った。
自分らしくいられると思った。


雨は一晩中、降り続けていた。

                       END
143あとがき:2006/03/29(水) 01:36:24 ID:g6JhhMD7

もう一つ、斑目のSSを書いています。
そっちはもう少し明るい話にしようと思っています。
144マロン名無しさん:2006/03/29(水) 01:42:53 ID:???
>>壁
SSに感想書くの初めてだ。乙。漏れはこういう感じ好きだ。
145マロン名無しさん:2006/03/29(水) 02:15:18 ID:???
>>壁
乙です。絵版見てから楽しみにしてました。
斑目さんは・・・こうなっちゃうのかな。
悲しいけど・・・。でも・・・うん。

大丈夫さ!
146マロン名無しさん:2006/03/29(水) 03:56:03 ID:???
>壁
歳のせいか最近涙もろくなって…こういう話ダメ、ギブ!
147マロン名無しさん:2006/03/29(水) 22:52:11 ID:???
ほんと毎日作品が投下されてすごいです。
ちょっと遅レスですが、感想いただきましてありがとうです!

>>114
夜遅くにリアルタイムで(汗)。しかしほんと、こんなシーンを本編で、梶神の絵で見れたら……
人類の損害を防げるのはこの世にただ一人!

>>116
めちゃ感情移入しながら書きました。お互いお仕事お疲れ様ですね(汗)。

>>119
またしても仕事の辛い方が…。SS書いたり読んだりでリセットを図ってる僕ですが、荻上さん居るほうが絶対良いですよ!

>>120
うらやましいというのは、書き上げた者自身も第一の感想です。

>>121
それなんてカラスヤサトシとT田?
っていうか笹やんの仕事振りがT田さんみたいだったら…!?

>>129
確かに苦労しました(汗)。毎回これってわけにはいかないですね…。
でも色んな形にもトライしてみたいです。


>>バレンタイン話
なるほど、、、しかし誰もバレンタイン話書いてなかったような。おつかれさまです。

>>壁
絵板で見てから楽しみにしてました。吹っ切ろうとして欝な日々……うわーよくわかる。。。
再び歩き出す斑目は、きっとすごくかっこいいですね。
例の台詞、すごくはまっててGJでした!
148笹原視点2号:2006/03/30(木) 01:08:24 ID:???
「壁」拝見しました。
こんな素晴らしいSSが生まれるお役に立てるとは。
しんみりと少し前向きなエピローグに感動です。
一押しフレーズ↓
>その強い意思のこもった瞳が、とても綺麗だ、と思った。
149マロン名無しさん:2006/03/30(木) 03:39:50 ID:1hibWyaD
「壁」の感想書いていただき、アリガトウゴザイマス!
悲しい話ですいませんでした(汗)
>>144
5月号読んでから、「投げやりになった斑目」という妄想が止まらなくなり…。
好きでいればいるほど、反動は大きいだろう、と思ったのです。4年越しの恋…
この話好きと言っていただき嬉しいです。
>>145
もしこんな風になってしまったら、悲しいですが、きっと乗り越えてくれるだろうと。
後悔から成長に結び付けてくれると祈るのみ。
>>146
すいません本当にすいま(ry
い、いちおうこの話の後は、斑目が立ち直ってくれる、と妄想しています。
>>147
おしごと、本当にお疲れさまですw
>再び歩き出す斑目は、きっとすごくかっこいいですね。 例の台詞、すごくはまっててGJでした!
そう言っていただけると、本当に嬉しいです。きっと斑目、かっこいくなってくれると思いますw
>>148 
>笹原視点2号さん
お世話になりました!咲ちゃんが怒ってくれる、というシチュの絵が衝撃的だったんです。
咲ちゃんのただならぬ情を感じて。あと、どうしても最後は前向きにしたかったんです。悲しいままの話は苦手なので。
一押しフレーズ、押していただき感謝です。モノクロだった景色に、色が戻った瞬間というつもりで入れました。
SS投下、許可していただきありがとうございました!

150マロン名無しさん:2006/03/31(金) 08:38:44 ID:???
やはり斑目は斑目
151マロン名無しさん:2006/03/31(金) 19:58:28 ID:???
斑目な奴は何をやっても斑目
152マロン名無しさん:2006/03/31(金) 20:21:28 ID:???
斑目は斑目だからこそいとおしい
153マロン名無しさん:2006/03/32(土) 00:42:31 ID:/zzLUdez
だからこそ斑目は斑目のままでいい!
154マロン名無しさん:2006/03/32(土) 19:40:03 ID:bakboexV
あれですよね、3月32日っていう日付は今日があの日だからですよね。
155マロン名無しさん:2006/04/02(日) 00:18:55 ID:???
絶望した!今頃それに気付いた自分に絶望した!
156サマー・エンド-3-〜まえがき:2006/04/02(日) 00:30:10 ID:???
どうも、第三話ができましたので
投下させていただきたいと思います。

アフタ読んだあとは精神の平衡が崩れるので、
書くのに時間がかかってしまいました。

それでなくても第三話は難しいのに・・・。
一応、第三話と最終話で終了の予定ですので、
もう暫く駄文を投下することをお許し願いたい次第です。

それでは、5分後ぐらいからいきます。
よろしくお願いします。
157サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:35:12 ID:???
あの日から一ヵ月後。
また夏が来る。
7月はもう来週に迫っていた。
不思議なもので、あのカレンダーが一枚めくれただけで緑が一層鮮やかに輝き出すような気がする。
空も、自然も輝き出す、そんな気がする。
しかし、今はまだ梅雨の残りが街を濡らしている。
雨戸の向こうでは、きっとまだ雨が降っているはずだ。
笹原はふと思った。七夕の日には雨が降るって言うけど、今年もそうなのだろうか?
笹原は握った手に力を込めた。
「サキ………、起きてる?」
彼女は狭いベッドの上で笹原の腕を抱いている。
「うん…、起きてるよ…。」
彼女は小さく応えた。締め切った部屋に、電灯のオレンジで小さい灯りだけが点っていた。
「なに……。」
彼女は笹原の腕に頬を寄せて言った。こそばゆくて、笹原は少し身を捩った。
「うん…、あんね…。」
笹原は小さな光を見つめていた。瞬きをしても、その光が瞼に残る。
オレンジの光は、緑色に明滅して、瞼の裏を揺らめく。
笹原は迷っていた。自分の心の中に勇気を探していた。きっかけを探していた。
瞼の裏の、あの電球の残像が消えたら、言ってしまおう。
そう思っていた。
「どうしたの…。」
笹原は黙って目を閉じていた。
咲が自分の指を軽く握ったのが分かった。
笹原は目を開けた。
「あのさ…、大事な話があるんだけど…。」
158サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:35:50 ID:???
咲は自身の唇に触れていた。
絆創膏を巻いた指先で、口の端から、緩やかな坂を越えて、その向こう側へ。
ひとつだけ暖かい光を放つ電灯を見つめながら。何度も、何度もそうしていた。
今日の朝に起こったことを思い出していた。
「ちわ!」
「わっ!!!!」
恵子に呼びかけられて、咲は叫び声を上げてしまった。店内のお客の視線は一斉に咲にへと注がれる。
「どしたの、ねーさん?」
むしろこっちがビックリした、と言いたげな顔で恵子が見ている。
「悪り…。ぼーっとしてたわ…。」
咲は苦笑を恵子に返した。背中に蒸せるような熱を感じる。
「へー! 模様替えしたんだねー! ナカナカいいんじゃーん! 昨日したの?」
「あぁ…、そうだよ…。」
他愛もない会話でわけもなく汗が出る。いや、わけはある…。
「大変だったんじゃないの、これー?! ねーさん一人でやったの?」
「そう!! 一人だよ!!」
咲は即答した。声が上擦っているような気がした。幸い恵子は感心したように店内を見回している。
「エライな〜! やっぱねーさんスゲー!!!」
そう言って目を輝かせると、恵子は軽く咲に抱きついた。
咲は咄嗟に恵子を振りほどく。
シャワーを浴びていたけれど、体に笹原の匂いが残っているような気がしたから。
159サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:36:28 ID:???
一瞬恵子が見せた驚いた顔に、咲は慌てて言葉を発する。
「い、いいから! 早く仕事しろ!」
「うぃーす。」
恵子は何事も無かった様子で、スタスタと店の奥に入っていく。
咲は小さくため息をついた。
「あれ? アニキ昨日来てたの?」
咲はまた叫びそうになって何とかそれを飲み込んだ。
「来てないよっ!」
咲の声には飲み込んだ叫びの余韻があった。
「そ〜お? これアニキの時計じゃないの?」
咲は目を剥いた。奥から出てきた恵子の手には笹原の銀色の時計が引っかかっている。
慌てて取り繕う咲。
「それ忘れ物だよ。お客さんの…。」
「あ〜、そっか…。アニキもこれと似たヤツしてんだよね〜。」
恵子がそれをカウンターに置くと、咲はすかさず引っ手繰って、隠すようにカウンターの下の棚に置いた。
咲の目の下の隈が、より一層その濃さを増していた。
「ごめん…、ちょっと休憩してくるわ…。」
「うーす。いってらっしゃい。」
咲が店を出て行くと、恵子は棚から時計を取り出して、舐めるように見つめた。
(客の忘れ物って、これ男モンじゃん。………ぜってーアニキんだよ、これ…。)
恵子は時計を見たときの咲の表情を思い出していた。ひどく驚いていて、赤みの差した顔を。
160サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:37:05 ID:???
「どうした笹原? 嫌いか、ネギラーメン?」
ズルズルとラーメンをすする小野寺の横で、笹原の箸は止まっていた。
「いいえ…。ちょっと寝不足で…。ははは…。」
苦笑いを浮かべると、笹原は止まっていた箸を口に運ぶ。
「うまいっすよ…。」
「その顔で言われても嬉しくないな。」
小野寺は冷たく言い放ってもくもくとラーメンを食べている。
笹原は再び苦笑いを浮かべた。
「仕事は慣れたか?」
「いえ…、まだまだです…。」
「まあな。そう簡単に慣れられても困るがな。今のうちにセイゼイ苦しめ。」
冗談だか本気だか分からない小野寺にも、笹原はまだ慣れていない。
だがこうしてたまに食事に誘ってくれるところから見ると、意外に面倒見はいい人なのだと思う。
小野寺はもうほとんど食べ終わっている。笹原も追いつこうするが、もう食べ切るのさえ無理そうだ。
(食えないって…。食欲ないよ…。)
笹原の頭は今朝のことで一杯だった。
不意にしてしまったキス。暗闇に浮かんだ咲の体、声、表情。罪悪感と、温もり…。
夜が明けて、何も言わずに別れたこと。始発に揺られながら何を考えていたのか、思い出せない。
家に帰って、シャワーを浴びて、仕事に行った。
まだ実感がなかった。夢の中の出来事だったような気がしていた。
自分がしたことが信じられないのかもしれないと笹原は思った。
(でも、現実なんだよな………。俺…、春日部さんとしちゃったんだよな………。)
どうしようという思いが駆け巡るばかりで、荻上の気持ちまで想像力が働いてくれない。
(逃げてんのかな…俺。………最低だな。最低のクズだな………。)
「疲れてるな笹原。」
小野寺の声に笹原はまた箸が止まっていることに気づいた。
「すいません…。」
「疲れをちゃんと取るのも仕事だぞ。疲れてると、とんでもないミスを仕出かすからな。」
161サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:38:02 ID:???
嘘臭い笑顔の外人が、奇妙なカーワックスを勧めてくる。
チャンネルを換える。今度は簡単にみじん切りが出来る電動カッター。おばちゃんたちの感嘆のため息が癪に障る。
チャンネルを換える。韓国ドラマ。興味ない。
チャンネルを換える。ドキュメンタリの再放送。堅苦しい。
チャンネルを換える。美少女アニメ。
思わず手が止まった。
咲はカーペットに寝そべっていた。真夜中の部屋は取り残されたようにそこだけ灯りが点っている。
テーブルの上に開きっ放しの携帯が、同じように寝そべっていた。
薄暗い液晶の向こうには、『ごめん。今日も帰れないよ。』と映っていた。
咲はテレビ画面を見つめる。
大きな瞳の、赤い髪の美少女が元気一杯に笑っている。くるくると表情を変えて、怒ったり、泣いたり、拗ねたり。
咲は今にも眠ってしまいそうな顔で、それを見ていた。
HDDレコーダーの鈍い駆動音。高坂が録画予約をしたのだろう。
咲はそのアニメの向こうに、高坂を探していた。
「コーサカ………、帰ってきてよ………。」
咲は呟く。
「はやく……、今すぐ………、帰ってきて私を掴まえててよ……。」
涙が、カーペットを濡らしていた。
自分の呟いた言葉を聴く度、咲の心は揺らいで、零れた感情が涙に変わってしまう。
(ダメだ…。もう言うな…。)
そう思っても、心に落ちた言葉が作った波紋は大きな波となって咲を襲った。
もう自分でもどうしようもなかった。
「私………、私さ………。」
咲はぎゅっと瞼を閉じた。
「もう…、疲れちゃたよ………。」
162サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:38:36 ID:???
「おらああ!! 呑め呑めーーー!! 呑んで全部はきだしちゃってくださーーいい!!」
泥酔した大野が缶ビールを掲げる。釣れて荻上も。
「呑みますよおお! 今日は呑みますっ!! いいですよね!大野先輩っ!!」
そう言ってチューハイをグビグビと煽った。
田中はツマミを置くと、またそそくさと台所に非難する。
「のんでくらいはいっ!! 呑むべきなんですっ!! ぜーんぶ笹原さんが悪いんですからね!」
大野も負けじと缶ビールをぷはーと空ける。
「だいたい優しくすればいいってのが間違いなんですよっ! そうでしょ荻上さんっ!!」
「そーですっ!!」
荻上の目は完全に据わっている。
「優しくされた方の気持ちも考えてほしいですよっ! なんですか? 優しくされなきゃ嫌いになるとでも思ってんですかっ!」
「まったくそーですよねー! 聞いてますかっ! 田中さん!」
田中は震えた。
「うん…、聞いてます…。」
荻上は、二度と酒なんて飲むもんか、と誓ったのが嘘のような呑みっぷりである。
「私だって笹原さんに優しくしたいんです! もっとワガママ言って欲しいし、甘えて欲しいんですよ! 
そーゆーのが恋人同士ってんじゃないんですか? 愛し合う二人じゃないんですかっ? 私はそー思ってんのに、笹原さんは!!」
「だめだーー、笹原さんはあ。あれは優しさだけで人生渡ってきた男ですよお〜〜〜。」
「私のために頑張って、無理して疲れてる笹原さん見て…、私がどう思うかなんて考えてないんですよっ!!」
「そーです!! 私も、イベントに間に合わせるために徹夜してる姿にどれほど心を痛めてることか…。わかってんですかっ!!」
田中は怯えた。
「うん…。ごめんなさい…。」
「ごめいなさいぃぃい?」
荻上の目がギロリと光る。筆が槍のように尖る。ひいぃと田中が啼いた。
「それ! すぐ謝る! いけ好かねぇってんですよ! こっちが無理言って困らせてるみたいじゃねーすかっ!!」
「わかる! なんかこっちが子供で悪者にされちゃうんですよね!」
「ほんとですよ。優しさの押し付けですよ。」
「ほんとですよねぇ。」
田中はもう、考えるのをやめた。
荻上の携帯が、カバンの中で震えていた。
163サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:39:16 ID:???
笹原は携帯を耳に押し当て、灯りの無い窓を見上げる。
コール音がもう何十回も響いていた。留守電に切り替わっても、何度もかけ直した。
(まだ寝てない時間のはずなのに………。)
電話から荻上の声は聞こえない。
「クソ…。どこ行ってるんだよ…。」
イラついている自分に、また罪悪感を覚えた。

会いたい。
荻上に会いたい。
笹原は何度も思った。
(会いたいよ…。会ってちゃんと確かめたいんだよ…。)
笹原はポケットの中の合鍵を指でなぞる。二人の絆を、指で確かめる。
でも、胸の中の焦燥感は治まってくれない。
車や人が、笹原の横を通り過ぎて行く度に、焦りは一層強くなっていった。
携帯は何もしてくれない。
(俺は荻上さんが好きだって…、ちゃんと確かめたいんだよ…。)
笹原は、携帯を耳の押し当て続けていた。
短い空白。淡い期待を冷たく響くコール音が裏切る。何度も、何度も…。
笹原に罰を与えているかのように。
「最低だよな…、こんなの…。」
守りたかったのに。もう絶対に傷つけないはずだったのに。そう言ったのに。
辛くて、寂しくて、逃げてしまった。

(最低だ…。)

もう、自嘲も漏れてくれなかった。
笹原は携帯を切った。
ポケットの中で、合鍵をきつく握りしめていた。
164サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:39:58 ID:???
「ねぇ…。斑目さん…。」
気だるそうな恵子の声が騒がしい店内の雑音の合間を縫って、斑目の耳に響く。
「あ、なに?」
夜中のラーメン屋。湯気で真っ白になったメガネの斑目が振り返った。
「ちょっと真面目な話なんだけどさ。」
「あによ。」
斑目は口をもぐもぐさせている。恵子は『なんだかな〜』とでも言いたげな顔をした。
「今でもさあ…、ねーさんのことって好き?」
「ブバッ!!」
斑目はゲホゲホとむせると、お冷を飲んで喉を鎮める。
恵子はまた『なんだかな〜』という顔をした。
「何でまたそんなネタをフリますかネ…。」
顔を赤らめつつ斑目が尋ねる。恵子は誤魔化すようにニヘヘと笑った。
「いいからいいから。応えて下さいよ。」
斑目は納得がいかず、恵子をジト目で睨む。恵子はニヘヘと笑ったままはぐらかした。
斑目は漸くスッキリした喉から小さく息を吐いた。
「ま〜…、そりゃーねぇ…。好きっすけど。…別に嫌いになることはないでしょ?」
恵子は憂いを含んだ表情を覗かせた。
「ああ〜、そうですか…。未練タラタラすか…。」
ラーメンに戻りかけた手を止めて、斑目は何か喋ろうと考えを巡らせた。
165サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:41:00 ID:???
「ま〜、そんなにアレではないないけどねぇ…。」
「そんなにアレって…? ナニナニ、もう春日部ねーさんではヌイてませんてか?」
「ホント…、笹原の妹じゃなかったら殴ってるよね…。」
「いやいや、妹関係ナシに女の子を殴っちゃダメですよ。」
恵子にまたパッと笑顔が戻った。斑目はほっとして、ドンブリに突っ込んでていた箸を握る。
「恵子ちゃんさ〜、『ほしのこえ』ってアニメ、知らないよね…。」
「知らねー。」
バクバクとラーメンを食べ始めた恵子に、斑目は柔らかな笑顔を返す。
「だろうねぇ…。ま、内容はSFもんのラブストーリーで、8光年先の宇宙に行っちゃった女の子を、
地球に残った男の子がずっと思ってるって話なんだけどさ。」
「ふーん。」
「あーいうの、けっこう難しいよな、実際…。」
「………。」
曇ったレンズの向こうの斑目の瞳を見るように、恵子は見つめた。
「今の仕事つまんねぇんだけど、それなりにいろいろ起きるしさ。覚えなきゃなんないこととかあるし。会社で仲良い先輩とかもできるし。
俺もいつもいつも春日部さんのことばっか考えられるわけじゃねーしさ。なんつーか…、自然と忘れていくんだよなあ…。」
「………うん。」
「まあ、たまに思い出してヘコんだりもすんだけど…。人の心って、そうそう一箇所に止まっててくんないっていうか…。
そっちのが心の健康にはいいんだろうけど、寂しいような、健全なような、そんな感じ…。」
斑目は小さく笑った。
「あはは、やっぱり、会わないとそういう風になるもんなのかなって、ちょっと発見デシタヨ!」
恵子の瞳にまた憂いの表情が宿っていた。
「そうかもしんないね…。」
166サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:41:41 ID:???
「いらっしゃい。」
「…こんばんわ。」
咲は忙しなく動かしていたモップを一旦止めて笹原に微笑む。
時刻は11時を回っていた。
「掃除してたんだ…。」
「ま〜ね〜。」
本当ならもう帰っているはずなのに、理由をつけて店に残っていた。
「ひさびさだね〜。何日ぶり?」
「………五日かな?」
知っていた。あの日から、毎日遅くまで店に居た。
何でもいいから、理由をつけて。
「模様替え好評だよ〜。お客さん増えたし、もち売り上げもアップした!」
咲はそう言って微笑む。いつもと変わらない笑顔を笹原に向ける。
そうしようと決めていたから。
笹原の顔は強張っていて、視線は店の中を漂っていた。
「あのさ…、春日部さん…。」
「ん〜、なに〜?」
「こないだの…、その…。」
「あー、それなんだけどさー。」
咲は掃除をする手を動かし続ける。
「もー忘れよー。無かったことにしようよ。」
ピカピカに磨いた床を舐めていた笹原の目が、咲に向いた。
口元は驚きに歪んでいる。
咲は続けた。
「ほら。あれは何てゆーか、事故だろ? 朝方のヘンなテンションが起こした事故! そういうことでしょ?」
咲は屈託なく笑っている。そういう顔をしている。
「お互い、ちゃんとした相手がいるんだし。バカ正直にゴタゴタする必要ないし。もう忘れるのが一番。」
167サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:42:23 ID:???
「や、でもさ…。」
笹原の声を、咲の声がかき消す。
「ササヤンもオタクだもんね〜。やり逃げになるとか思って、自分からは言い出し難かったでしょ?」
咲はモップの先だけを見ていた。笹原の顔は、さすがに見れなかった。
それでも笹原がどんな顔をしているか、何となく分かる。
(ササヤン真面目そうだもんな………。)
咲は自分の意思とは関係なく、口元が緩むのを感じた。
「まー実際、私も男から無かったことにしてくれとか言われたら、ちょっと引いたかもね〜。」
「………だから自分から言ったの?」
笹原は呟くようにそう言った。なのにそれははっきりと耳に届いて、針のように突き刺さる。
咲の手は止まっていた。
不意に、鏡に映った自分の姿に気づいた。鏡の中の自分は、泣きそうな顔でこっちを見ている。
泣きそう自分を、驚いた顔で見つめていた。
「あ〜、そうそう。ササヤン時計忘れてったでしょう?」
咲はモップを立てかけて、カウンターの下の時計を取りに行った。
時計を取るために体を屈めたとき、笹原に見えないように目を拭いた。
「ハイこれ。」
咲は時計を笹原に差し出す。また微笑を浮かべて。
「もー忘れてかないでよー。これ見たときマジで焦ったん…。」
でも、受け取ろうとする笹原の手を見たとき、笑顔が消えてしまった。
笹原が咲の手を取った。
「ちょ…やめてよ!」
咄嗟に腕を引いても、手は離れなかった。笹原は手が、痛いくらい咲の手を掴んでいた。
二人の掌の間から時計は滑り落ちていった。
「離してってば!」
咲は顔を上げて笹原を見る。笹原は眉間にシワを寄せて、避けるように視線を外していた。
「ごめん…、ちゃんと…確かめさせてよ…。」
168サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:42:57 ID:???
笹原は呟く。
「本当は…、もっと早く春日部さんに会わなくちゃいけないの…分かってたんだけど…。今日まで怖くて…、来れなかった…。」
「いいよ…、別に…。」
咲も視線を壁に向けていた。
「荻上さんにも会おうとしたけど…、やっぱり怖くて、会えなかった…。とても…、酷いことしたから…。」
「だからもういいって! 私らが黙ってれば済む話でしょ!!」
咲は涙交じりの声で悲鳴を上げるように叫んでいた。
笹原は顔を歪ませる。
「ただしちゃっただけじゃなくて………、なんか…、ほっとしたっていうか…、癒されたっていうか…、安心したような…。
そういう…、幸福な気持ちを感じたっていうのが…、すごい…、後ろめたかった…。」
笹原の声が震えていた。手が震えているのが、咲の手にも伝わる。
「荻上さんが好きなのに…、そういう…、荻上さんといるときに感じてなかった気持ちになったのが…。」
「いいから………、もう離してよ………。」
咲の瞳から涙が零れ落ちて、落ちた雫が咲の腕を濡らして通り過ぎる。
笹原の目からも涙が流れていた。
「ごめん……。こんなの…。困るって…分かってるんだけど………。ここまま…、荻上さんに会うの……できないって思って………。」
涙を押し止めようとして、笹原は深く俯く。でも涙は、瞼の隙間から次々に零れていった。
咲は嗚咽が漏れそうになる口に手を当てていた。

同じだった。笹原と。
同じように感じていた。あのとき、自分を抱きしめる笹原の温もりに、力に、暖かなものを感じて、笹原に甘えた。
高坂のことを忘れて、押し寄せる幸福感に身を委ねていた。
怖かった。笹原に会うのが。
でも会いたかった。
だから心に蓋をして、嘘をついた。
本当は会って確かめたかったのに。あのときに感じた気持ちを、ちゃんと。
二人の泣き声だけが店内に、静かに、暗く響いていた。
169サマー・エンド-3-:2006/04/02(日) 00:43:33 ID:???
あの日から一ヵ月後。
笹原は黙って目を閉じていた。
咲が自分の指を軽く握ったのが分かった。
「あのさ…、大事な話があるんだけど…。」
「うん…。」
笹原は目を開ける。
オレンジ色の電球だけが、柔らかく、二人を照らしていた。
他は全て真っ暗な部屋の中で。
「俺…、サキとのこと…ちゃんとしたい…。」
「………。」
「荻上さんに、全部話すよ…。」
咲は笹原の腕を抱きながら、笹原の顔を見上げる。その眼差しは、少し寂しげに潤んでいた。
「いい……? それで………。」
「…………うん。」
咲は頷いた。
咲の頬に不安が影を落としていた。
そして咲は、笹原の腕を強く抱きしめた。


最終話へつづく
170マロン名無しさん:2006/04/02(日) 01:15:31 ID:???
>サマーエンド
絶望した!(褒め言葉)
原作ではまずアリエネー!カプ、笹咲が自然に成立してるw
でも笹原にはサキさんて言ってほしかったかなあ
次回、期待してます。
特にコーサカがどうでるのか。
あと、荻と大野さんが仲良しなとこカワエエ
171マロン名無しさん:2006/04/02(日) 08:38:23 ID:???
絶望した!>>170に先を越されたことに絶望した!

まあそれはともかく、えらいことになってるなサマーエンド。
次回は修羅場確定か…
絶望した!五年生みたいな鬱展開に絶望…
まだ早いね。
次回を待ってます。
172あなたに会いたくて:2006/04/02(日) 12:39:01 ID:???
日曜日の昼間から、暗い作品を投下。
一応笹荻です。

最初は、荻の普通な一日を書こうとしたのに、なぜか鬱展開。
173あなたに会いたくて:2006/04/02(日) 12:39:50 ID:???
「…ただいま」
言いながら玄関の扉に鍵を掛け、部屋の明かりをつける
バッグとコンビニの袋をテーブルの上に置く
自分以外誰も居ない、静まり返った部屋
今までは平気だった
むしろ好きだった
喧騒が嫌いで、他人が嫌いで、自分が嫌いで、
そんな自分を見られたくなくて

でも今はこんなに寂しい

テレビをつける
溢れ出す人の声
笑い声が虚ろに響く

コンビニの袋に手を伸ばす
中に入った弁当を見つめる
そのまま冷蔵庫にしまう
今は何も食べる気になれない
一人での食事の味気なさに気付いてしまったから
174あなたに会いたくて:2006/04/02(日) 12:40:42 ID:???
さみしいです、笹原さん
会いたいです、笹原さん
声が聞きたいです、笹原さん
想いを声にする
声が想いに木霊する
響き合った想いが涙に変わり溢れ出す

不意に携帯にメールの着信音

飛びつくように確認する
『まだ仕事中です。会いたいです。でも今日は、おやすみ』
短い、飾り気のないメール

それでも自分の想いが届いたような気がして、
少し微笑んだ

翌日

部室でノートに向かう
ノートの中で、
攻めの男性は受けの男性に愛を囁き、
受けの男性は攻めの男性に応える
愛し合う二人
いつも
どこでも
いつまでも
一緒に
175あなたに会いたくて:2006/04/02(日) 12:41:36 ID:???
自嘲する
視界が滲む

部室の扉が開く
そこには待ち望んでいた人の姿があって、
駆け寄って抱きついた
彼が抱きしめ返す

その匂いに
そのぬくもりに
心が癒されて
私は
久しぶりの安らかな
眠りを得た
176あなたに会いたくて:2006/04/02(日) 12:42:27 ID:???
以上です。
177マロン名無しさん:2006/04/02(日) 15:54:04 ID:???
>あなたに会いたくて
絶望した!雨の日曜日に鬱展開なSS読んじゃって絶望した!

まあそれはともかく、原作で笹荻の日常が思いっきり端折られたせいか、最近また増えたね笹荻SS。
今回のは何と言うか、SSというよりポエムっぽくてなかなか興味深い。
SSスレの中身に幅を作ったという点にGJ!
178マロン名無しさん:2006/04/02(日) 16:59:30 ID:???
最近多いなあ糸色望先生……。
179マロン名無しさん:2006/04/02(日) 17:24:58 ID:???
3巻出たせい?
180マロン名無しさん:2006/04/02(日) 18:10:49 ID:???
>>サマーエンド
なんか…荻上さんのほう見ると修復可能っぽいんですが、駄目なんですね(涙)。
でもまぁ、こんなアリエナイ展開読めるのも、SSスレの醍醐味!
最終話ガンガッテください。

>>あなたにあいたくて
欝っていってもハッピーエンドですし、いいですね!
しかも、詩ですよね〜これ。…心情を伝えるのにいいですね、この形。
181マロン名無しさん:2006/04/02(日) 19:18:03 ID:BBWHGhMq
>>サマーエンド
ああああ…荻上さんとは、もうやり直せないんですかね…
「笹原が浮気したら」という仮定のもとで話書くと、確かにこういう風になるかな、と思った。
笹原は隠し事できないし素直だし…ああでも…荻上さん…
いや、最初はどうかな〜?と思ってましたが、今はもう、感情移入しまくりですよ。最終話期待してます!!
 >「恵子ちゃんさ〜、『ほしのこえ』ってアニメ、知らないよね…。」
 斑目の述懐が、切なくなりました。もうある程度吹っ切れてるんですね。
 少し安心する反面、寂しくもあります。しかも、春日部さんは笹原と…
 ああああ…斑目ぇ…涙が…

>>あなたにあいたくて
聖子ォ〜!…いや、すいません(汗)

>さみしいです、笹原さん
会いたいです、笹原さん
声が聞きたいです、笹原さん

荻上さんの寂しさが伝わってくる話です。恋って楽しいだけじゃないよなー…
短文に思いが凝縮されている。GJ!!
182サマー・エンド-3-〜あとがき:2006/04/02(日) 20:50:26 ID:???
どうも、感想ありがとうございます!
読んでいただいて感謝です。

>170
ああ、また絶望させてしまった・・・。
か・い・か・ん!!
>原作ではまずアリエネー!カプ、笹咲が自然に成立してるw
ありがとうございます。できるだけ自然にもっていけるように
微力を尽くしたので嬉しいです。
コーサカはですねぇ〜。…どうしよう。

>171
あれ? いつもの絶望先生はこっちの方ですか?
まあ、次は修羅場です・・・。
死傷者、逮捕者がでないようにがんばるゾ!!

>180
はあ〜・・・。
実は書いていて何度も勝手に修復しそうになるんですよね・・・。
その度に「そうじゃないだろ!」と引き離すのつらくてつらくて・・・。
笹荻の絆は、書き手の意図をも揺るがすパワーがあるのだと感じました・・・。

>181
『ほしのこえ』は最近やっと観たのですが、
何となく笹咲の関係を解説するのにいいかなあ、と。ちょっとプラネテスも含む。
まあ、時は流れ、人の心は移ろう。それは悪い意味だけではないと思うのですが。
ただ、笹ヤンと春日部さんの関係を知った斑目さんがどうなるか・・・。
死傷者、逮捕者がでないようにがんばるゾ!!

いや、マジで出ませんから。ほんとに。
183マロン名無しさん:2006/04/03(月) 01:50:16 ID:???
えーっと、今更っぽいかもですが、4月号と5月号の間の、4月号直後の話を。
184ミカンズのテーマ(1/3):2006/04/03(月) 01:51:48 ID:???
荻上さんから笹原との事を聞いて、翌週の9月末のこと。
斑目は今日も昼休みの部室にやってきた。
中には笹原が一人、座っているだけだった。
「うぃっす。笹原、研修終わったか」
「あ、ちわー。お久しぶりです」
笹原は読んでいた雑誌を置く。
斑目も、適当に腰掛けて弁当をガサガサと取り出した。
「そうだなぁ。先週、荻上さんに会ったけどな」
「ああ、そうらしいですね……っと、そうそう、
 上手くいったのお伝えしてなくてスミマセン(苦笑)」
「やー、まぁ、いいって(むぐ)」
弁当を食べ始める斑目を見て、笹原も雑誌を読み始めた。
笹原は一通り読み終わったのを、気になる作品を何度か読み返してるようだ。
それを横目で眺めながら、斑目は無言で弁当を食べ続ける。
「それ、月刊午後の11月号?俺も買って読んだけど」
斑目は弁当ガラをビニール袋に入れながら話し掛けた。
「ん、そーっすね。いやー色々と…斑目さんは最近どれ押しですか?」
「俺は多いなぁ。今月急に<会戦のロヲレラヰ>のパウラ萌えになっちゃったよ」
「斑目さん分かりやすいですよね(苦笑)過去のシーンの入院服ですか?
 じゃあ、<つばめのかぞく>の多恵子ちゃんとか」
「たえぽんは前から良いと言っておるだろうが!今月は神レベルの萌えシーンだよな?」
「最近、なんか萌え方向に強化されてきてませんか?午後って硬派なイメージが…」
「もともとゴッタ煮じゃねーの?俺は歓迎だね。指が黒くなるのは変わらんし」
185ミカンズのテーマ(2/3):2006/04/03(月) 01:52:21 ID:???
ぱらぱらと午後の11月号をめくる笹原。
「ほんと、両手の親指が…(苦笑)」
そう言いながら、パタンと閉じると、笹原は斑目に午後11月号を手渡す。
受け取った斑目は11月号を開いて、目を落としたまま笹原に話し続ける。
「笹原ラブコメ好きだろ?<現聴研>の最近の展開は、俺は前のが良かったけど…」
「何言ってんですか斑目さん!萩下さん萌えですよ、萌え!」
「急にスイッチ入りやがって(苦笑)。まあこれ、お前ちょっと状況似てたしな」
「うっ(グサリ)」
ちょっとダメージ食らいリアクションをして机に伏せる笹原。
「あー…あと、今月始まった<宇宙のマニ車>どうよ?」
「学園ドタバタラブコメですか〜。チベット仏教研究会が舞台とはマニアック過ぎません?
 1話目だけでは保留っすね。<ラブ浪漫>と入れ替わりっすかね…」
「あー、お前、好きだったもんな、<ラブ浪漫>……来月終わりかぁ」
「なんか急なような、潮時のような…。ちょっと唐突かなぁ。難しいですね、終わるタイミングって」
「まあ〔みかん〕という素晴らしい隠語を創り出してくれた功績は消えないさ」
「ちょっと!しんみりしてるのに、その話題ですか(苦笑)」
「いや、まあコレ、今回で〔みかん〕しちゃったし!」
「……そうっすね」
「まさかこの絵柄で、ここまで描ききるとはなぁ。ある意味、勇気だぜ?」
「やー………意外でしたね……」
「ギャグ漫画だったのにマジだったなぁ…『痛いつってんだろ!』で
 ゴスっと殴るのは、らしい感じで良かったけどな」
「…………そうっすね」
どうも〔みかん〕の話になったとたんに、笹原の顔は赤くなり、
返事がほとんど無くなる。さっきまで饒舌だったのに……。
「……ん?」
斑目も笹原の異変に気づいた。
186ミカンズのテーマ(3/3):2006/04/03(月) 01:52:54 ID:???
「おいおい、笹原、そんなにラブ浪漫の展開がショックだったんか?」
そう思って苦笑して話し掛ける斑目だったが、
「いえ、そんなんじゃ無いっすよ(苦笑)」
斑目の目に映った笹原の顔は、落ち込んでいるものでなく、
照れた、ちょっとニヤケたものだった。
その瞬間、斑目はハッと気づいてしまった。
『こ、こいつまさか、もう……??』
「…………そっか、まあ、いいや(苦笑)」
パニックに弱い斑目は、咄嗟にそう言うのが精一杯だった。
そして昼休みの終わりが迫っていた。
立ち上がりながらわざとらしく腕時計を確認すると、
斑目は扉に向かう。
「じゃーまたな。俺は仕事に行くわ」
動揺を隠すようにハイテンションで部室を飛び出すのだった。
「あ、どうも、じゃーまた」
笹原の声を背中に受けて仕事に向かうが、たぶん斑目は、
すぐには仕事にならないのではないだろうか。。。
『くっ、笹原のヤロウ…めでたいんだけど………
 早い、早すぎるよカンジさん!』
その背中は哀愁を帯びて、男の魅力を無駄に増すのだった。
187マロン名無しさん:2006/04/03(月) 01:53:28 ID:???
すんません、以上になります。
188マロン名無しさん:2006/04/03(月) 04:39:21 ID:???
>ミカンズのテーマ
ありそう〜w!
斑目カワイソス…

その哀愁を帯びた背中の男の魅力に気付く女性が、いつか現れることを祈りたい。
189マロン名無しさん:2006/04/03(月) 04:48:31 ID:xHKVMb6z
>ミカンズのテーマ
斑目!斑目!!
月間午後ネタ、いいですね。特に「現聴研」がwww

>早い、早すぎるよカンジさん!
4月号を読んだ誰もが思ったことですね。
くぅ〜、斑目が哀れ!!
190妄想少年マダラメF91(2-0/6) :2006/04/03(月) 23:50:03 ID:???
いつもいつもスミマセン。長いばかりの駄文を投下させていただきます。

>>52-58[妄想少年マダラメF91]の続きです。

タイトルが「マダラメ」のくせに、第2部は咲の方が軸になってます。しかも今回では終わりません。ごめんなさい。構成上の都合で、3部で終わります。
やはりアフタヌーン5月号を読んだ影響か、斑目にいい思いをさせたくて、咲と普通に秋葉原デートをさせてしまいました。何のヒネリもございません(汗

しばらくしたら6レス投下しますので、ご容赦ください。
191妄想少年マダラメF91(2-1/6) :2006/04/03(月) 23:56:18 ID:???
……Why do I live my life alone with nothing at all.
  But when I dream, I dream of you,
  Maybe someday you will come true.……
  

【2005年9月24日13:50/大通り】
咲は、慣れない秋葉原での不安といら立ちからとはいえ斑目をKOし、あまつさえわがままをこねて困らせていた。
悪気があるわけではない。
「えー、俺がおごるの?」と渋る斑目に、「そんなんじゃないよ。私も出すし。ここが良く分かんないだけ」とぶっきらぼうに答える。
しかしその内心は、(せっかく知り合いに会ったんだから、一緒に行動したい……)と思っていた。
起業の準備に明け暮れていた日々に思わぬ時間の空きが出来て、心にポッカリと穴が開いたような気持ちになっていたのだ。
こういう時、一緒にいて心を満たしてくれるはずの高坂は、軽井沢の旅行以来再び忙しく働いており、会う機会がない。今まで忙しいからこそ、ここまでの寂しさも感じなかったのではないだろうか。

そんな思いを知ってか知らずか、「場違いな場所にきちゃったのがそもそも間違いじゃねーの。俺も忙しいの!」と言い放つ斑目。咲もついつい、「忙しいってぇ? どうせエロ本やエロゲー買いにきたんでしょ!」と毒づいてしまう。

「……」「……」にらみ合って沈黙する2人だが、斑目が矛を収めた。

「……しょ、しょーがねーな。俺も小腹が空いていたから、い、一緒に食う?」
落ち着きのない口調で咲に語り掛けた。小腹が空いているというのは嘘である。昼食を食べていなかった彼は、駅に着くなり駅構内のソバ屋でキツネソバを食べていた。
咲は、(気を使ってくれている)と気付き、「うん。ありがとう」と素直に答えることにした。

「……でも、私と一緒にいる間はエロ本購入なし!」

ガックリ肩を落とす斑目は、「俺のイメージはそれしかないのか?」と突っ込む。咲は腕組みをして、「私に買いに行かせたことだってあるじゃない。ここでは真っ当なところに案内してネ」とニカッと笑った。
192妄想少年マダラメF91(2-2/6) :2006/04/04(火) 00:01:35 ID:???
【1991年9月21日13:50/中央通り】
少女は、初めて出会った斑目少年を、不安と勢いからとはいえKOし、あまつさえわがままをこねて困らせていた。
悪気があるわけではない。
「俺もこの街初めてなんだけど……。まあ、歩いているうちに友達も見つかるかもしれねーしな」と受け入れてくれる(実際は断りきれない)、人の良い斑目に甘えたくなっていた。
しかし、「ま、俺のバイオコンピュータで探せば、バーニヤ1つでも大丈夫」と、アゴに手を当て意味不明な自信を覗かせる少年を見て、(う……この人大丈夫かな?)と、やや不安になった。

「で……名前なんだけど……な、なんて言うの?」
斑目がちょっと緊張ぎみに尋ねてきた。女の子には慣れていない。胸についた名札に目をやった。「春日部」と書かれている。春日部咲はこの時、小学2年生だった。

だが斑目少年は名札の字を、見たまんま、「……ハルヒブ?」と読み上げた。
カチンときた咲は、相手の鼻先でリコーダーを振り回し、「ひどーい!……私の名前はネ……」と本名を言いかけたが、すぐに、「……そうだ。名前の字の一つをあだ名にしようよ!」と提案した。
彼女のクラスの女子の間では、「春」や「日」などの1字を可愛く呼び合うのが流行っていたのだ。
「えー、じゃあ……はる?」
斑目は単純に、名字の頭に付いた「春」の一字を取って、咲のことを「ハル」と呼んだ。
ハルも、「じゃあ、キミの名前もね」と、少年の胸に付いた名札をじいっと凝視する。斑目は思わず猫背の背を伸ばし、胸を張った。少し頬が赤くなっている。
名前を読み取ろうとした咲だが、小学2年生には、「斑」「目」「晴」「信」を組み合わせてどう読むのか分からない。
それどころか、(「斑」ってどう読むの? 「晴」って何だったっけ……)としばらくの間、やぶにらみで名札を見つめた後、顔を上げて口を開いた。

「……め……?」

ガックリ肩を落とす斑目は、「それしか読めんのか?」と突っ込む。ハルは、「しょうがないでしょ。分かんない字使ってるんだもん。メーくんで決まりね」とニパッと笑った。
193妄想少年マダラメF91(2-3/6) :2006/04/04(火) 00:06:10 ID:???
【1991年9月21日14:00/外神田】
「ハル」は「メー」と一緒に、初めて訪れた町を散策することにした。中央通りから小道へと入ってみる。
通りは雑然としていた。ジャンク品やラジオの部品などを売る露店や、買い求める人たちのにぎわい。先に見える高架線を電車が通過する。小さな2人には空を埋め尽くされているように思えて、圧倒された。
「スゴイネ!」
目を輝かせるハル。メーも無言でうなずいた。
美少女と、ちょっとやぼったい男の子。不釣り合いな2人が並んで歩いている。

「どこか面白そうなところないかな……あそこに入ってみようよ!」
「え?」
ハルはニヤリと笑うと、アニメ絵の看板がかかっている雑居ビルへと入り、階段を駆け上がる。メーが慌てて追いかけた。
上りきったところには、ガレージキットやアニメグッズを売るショップがあった。2人はおそるおそる入って行く。
「うおーすごーい!」
店内のガラスケースには、精巧な造形のアニメキャラや特撮キャラの塗装済みガレージキットが並んでいた。
精巧なガンガルの塗装済みキットを見て、メーが、「これ俺も持ってるよ」と語った。
ハルに、「メーくんもこんなの作れるの?」と聞かれた斑目は、「ハハハ、まあねー」と頭をかく。実は、小遣いをはたいて通信販売で取り寄せたものの、作れずに涙を飲んでいる。そんな裏事情はハルには分からない。
ハルは別の一角に視線を移して、「これ知ってる!」と駆け寄った。マネキンに黒いワンピースの衣装と、赤い大きなリボンがつけられていた。数年前に公開された映画「魔女の○急便」のコスプレ衣装だ。

しかし、はしゃぎ回る2人は店員ににらまれ、ハルはそそくさと退散した。狭い階段を急いで降りて外へ出るなり、ハルは、「あはははっ」と笑った。
ところがメーがなかなか降りてこない。「怒られてるのかな」と心配してビルの階段を覗き込むと、ようやく遅れて降りて来た。ハルは、「おそいよー」と声を掛けた。

メーは、先ほどの赤いリボンが処分価格になっていたのを見て、一念発起して買ってきたのだ。
「ええー、いいよぉ」と遠慮するハル。メーはドキドキしながら髪に触れ、ワンタッチ式のリボンをつけてあげた。
照れくさそうに笑うハル。赤い大きなリボンは、弾むような歩みに合わせてゆらゆらと揺れた。
194妄想少年マダラメF91(2-4/6) :2006/04/04(火) 00:16:20 ID:???
【2005年9月24日14:00/外神田】
咲は斑目と一緒に秋葉原を散策することにした。「大通りしか歩いたことがない」という咲に、斑目は中央通りから小道へと案内した。
通りは雑然としていた。パソコン部品やジャンク品などを売る露店や、買い求める人たちのにぎわい。変なチラシを配る人。先に見える高架線を電車が通過する。
咲は「ん?」と上を見上げたまま立ち止まる。

視線に気付いて、「あ、何でも無い。……これが斑目の生息域かぁ」と見渡す。
「なんだか人聞き悪いな」
「でも面白そうだよね。ヌルい活気というか……」
「ヌルい活気って、意味わかんねー」
斑目はブツブツ文句を言いながらも笑顔になる。こぎれいな女性と疲れたリーマン。不釣り合いな2人が並んで歩いている。
咲は、そばに誰かがいて、屈託なく笑えるのが楽しかった。最近の忙しさ、寂しさを忘れさせてくれる。
「ねえ斑目。食べる前に、ココの雰囲気を味わってみたいな」
「え?」
咲はニヤリと笑うと、すぐ側にある、無難そうに見える雑居ビルへと入り、階段を駆け上がる。斑目が慌てて追いかけた。
「うわ何だこりゃ」
階段の壁にはパウチされた極彩色の広告が所狭しと貼られている。機種表示の英数字や値段表示に、咲はカルチャーショックを感じた。
店はパソコン周辺の小物を扱っていて、倉庫のように商品がひしめいている。かわいいマスコットのグッズも売られていた。アスキーアートと言われてもピンとこないが、マスコットを手にして、「高坂、こういうのも好きかなあ」とこぼした。
気を取り直し、「ここまで雑然としてても成り立つんだー」と唸る。店の雰囲気は興味深かった。
「春日部さんの思う店とは違うからね。俺はこっちの方が落ち着くよ」
「キモオタ向きの空間だ!」

声が大きかった。店員ににらまれ、咲はそそくさと退散した。狭い階段を急いで降りて外へ出るなり、咲は、「あはははっ」と笑った。
ところが斑目がなかなか降りてこない。心配してビルの階段を覗き込むと、ようやく遅れて降りて来た。咲は、「おそいよー、どうしたの?」と声を掛けた。

「ゴメン何でもない……何笑ってるの?」と斑目。咲は、「お店を冷やかして逃げるなんて、子どもみたいだよねー」と笑顔を見せた。
笑いながら咲は、(……昔、こんなことがあったような……)と思った。
195妄想少年マダラメF91(2-5/6) :2006/04/04(火) 00:20:07 ID:???
【1991年9月21日14:20/電気店】
様々な電気製品が並ぶ大きな店に入ったハルとメー。品物を選ぶわけではないけれど、店内を歩き回るだけでもとても楽しかった。
時折、メーがハルに手招きをして、2人でショーケースのかげに隠れた。棚の間から覗くと、メーと同じ名札を付けた子どもの姿が見えた。メーはハルのことを友達に見せたくないらしい。
ハルはワクワクしながら周りを見回し、(かくれんぼみたいだ!)と喜んだ。

店内で、ふとハルが立ち止まる。視線の先に、黒髪を束ねた女の子が「あ〜う〜」と、一生懸命に電子辞書をいじっては首をかしげていた。
ハルは駆け寄って、「どうしたの?」と尋ねる。すぐにメーの方に振り返って、「ねえメーくん! 凄いよこの子、私と同い年なのに、もう英語の勉強するって!」と大きな声で叫んだ。
傍らで黒髪の子が、「メー?」と首をかしげる。
「一緒にいいのを探してあげるよ!」と目を輝かせるハルに、黒髪の子は、「そんな大げさなことじゃないよぉ」と、翻弄されて慌てた。

ハルが、「よくここに来るの?」と尋ねると、黒髪の子は首を横に振った。
「お引っ越しの準備でお買い物。私来年から……」
その時、レジの方から、「カナちゃん、変圧器買ったから次に行くわよー。いらっしゃい」と呼ぶ大人の声がした。
「あ、ごめん。行くね……どうもありがと。お兄さんもありがとう……」
黒髪の子は、手を振って駆け出して行く。その先には荷物を抱えた親らしき人の姿が見られた。
ハルは手を振りながら、(お兄さんかー、そう見えるよね)と、自分よりちょっと背の高いメーを見上げた。

親切なお兄さんに甘え、楽しいひとときを満喫してはいるが、ふと、(コーサカ、何やってるんだろ……)と思った。
196妄想少年マダラメF91(2-6/6) :2006/04/04(火) 00:24:26 ID:???
【2005年9月24日14:20/中古ソフト店】
様々な中古DVDやCDが並ぶ店に入った咲と斑目。咲はCDを買い求めたが、斑目は店内を歩き回っては、時折、咲の物色する品にコメントする。
「あー、その歌手、去年アニメの主題歌を歌ってたよ」
「ゲゲッ、そうなの?」
「ソ○ーとか、アニメ主題歌で歌手を売り出すからな。アニソンにはアニソンの良さがあるのに、面白くもない歌が増えて許せんのよまったく!」
熱く語る斑目。いつもの咲なら無視して終わるところだが、今日のところは話に合わせて軽くうなずいていた。
こんな姿は一般人の友達には見せたくない。咲は周囲が気になって周りを見回し、(ちょっと隠れたいかな)と思った。

「あれー、咲さん?」
自分を呼ぶ声にビクッと反応する咲。キョロキョロと声の出所を探す。視線の先には大野が立っていた。店内に入りつつ手を振っている。
黒髪が揺れる。その後ろから、荷物を両手に抱え、汗をかきつつ田中がついてきた。
コスプレ用の素材の買い出しを兼ねたデートらしい。意外な場所で出会ったことを喜ぶ大野の脇で、斑目と田中は、「よう……」「田中、大変だな……」とあいさつを交わす。

咲が、「生地もアキバで買うの?」と尋ねると、田中が首を横に振り、「いや、特殊なものだけ。生地は西日暮里で買うさ」と答えた。
大野は、「珍しい所に珍しい組み合わせですね」と笑う。
ため息を一つついた咲は、「話すと長くなるけど、一言で言い表すと、地獄に仏というべき状況かな」と返し、「それよか一緒に何か食べていかない?」と誘ったが、コスプレカップルはこれから西日暮里だという。
大野はあっけらかんとしていて、咲と斑目の仲を疑う様子は全くなかった。咲は大野たちとの別れて際、ふと(私ら、ほかの客からは、どんな関係に見えるのかね……)と考え、自分より頭一つ背の高い斑目の横顔を見上げた。

斑目を従え、楽しいひとときを満喫してはいるが、ふと、高坂の顔が浮かんだ。斑目と高坂を比べてしまっている自分に驚き、(コーサカ……いまどこにいるのよ〜)と心の中で叫びつつ、ブルブルッとがぶりを振った。


……なぜ私は孤独で何も無い人生をおくっているのでしょうか。
  だけど、夢を見れば、あなたの夢を見れば、
  いつの日か本当にあなたに会える……

(つづく)
197マダラメF91:2006/04/04(火) 00:25:29 ID:???
以上です。お粗末さまでした。
198マロン名無しさん:2006/04/04(火) 00:40:43 ID:???
ミカンズのテーマ、感想ありがとうございます。

>>188
春日部さんはホント有り得ないので、恵子かスーかアンか…
斑目が幸せにならずば、げんしけん終わるまじ!ですよね!

>>189
現聴研は、深いファンしか聴かないようなマイナー邦楽や声優曲オタクの為のサークルで
聴くだけだったぬるいサークルに、耳コピーして弾き語れる萩下さんが入部してきたり
新しく会長になった佐々原がコピーバンドでライブに出ようとしたりする話です。
ホントはげんしけん音楽版でSS書こうと思ったけど、本編に近い設定でパロSSにするのが
無意味なのでお蔵入りだったのを、ここで使用しました(苦笑)。
199マロン名無しさん:2006/04/04(火) 00:41:28 ID:VLQim0u3
>妄想少年マダラメF91

リアルタイイム!続編乙!!
斑目!斑目!!
なんか現代のほう、春日部さんといい感じな様子。
ああ、SSスレではこういうのが読める幸せ。

「ハル」と「メー」。このネーミングセンスに激萌えですよ!!!!!
かわええ…!!

>メーはドキドキしながら髪に触れ、ワンタッチ式のリボンをつけてあげた。
照れくさそうに笑うハル。赤い大きなリボンは、弾むような歩みに合わせてゆらゆらと揺れた。

えーと。このシーン、大好きです。また絵描かせてもらいます。きっと描いてしまうに違いない。
最終話読んでから…

ところで、最近体調崩されてたみたいですが、熱下がったんですね。良かったです。
200マロン名無しさん:2006/04/04(火) 00:42:54 ID:???
>>妄想少年マダラメF91(2)
なんか、斑目と春日部さんが幸せそうで癒されます。
過去編のあだ名で呼び合うのなんて、なんかツボに来てノスタルジックが炸裂ですよ!
最終回も楽しみにしてます。
201マロン名無しさん:2006/04/04(火) 01:03:59 ID:???
>妄想少年マダラメ
復帰第一作乙です!
な〜んかほのぼのしちゃいますね〜、ちくしょう!!
かわいい斑咲だな〜。どちくしょう!!
以上全て褒め言葉です。

最近、新作の投下が減ったかなと思ったら、せんこくさんが療養中だったのですね。
連載終了を見越して撤収が始まってるのかと思った。
また、活気を取り戻してほしいな〜。
202F91感謝:2006/04/04(火) 01:15:22 ID:???
やっぱりいらっしゃったリアルタイムの皆様。本当にありがとうございます。


その前に、>>70さん前回のご指摘ありがとうございました。遅ればせながら感謝です。
「電波男」ってホントにあるとは知りませんでした。今後は「現聴研」くらいの絶妙なヒネリを加えないといけませんね(w


>>199
お見舞いのお言葉ありがとうございます。おかげで今年は花見ナシでした。

>きっと描いてしまうに違いない。
そういっていただけると嬉しいです。
本人ロリの気はないのですが、最近スゲー可愛い少女に立て続けに会いまして……、あの雰囲気が出せたらいいなと思っていました。


>>200
>あだ名で呼び合うのなんて、なんかツボに来てノスタルジックが炸裂
小学生編で「斑目」「春日部」という難しい名字を使うのもイメージが湧かないので、「あだ名」にしてみました。
いい具合に刺激になれば幸いです(w


>>201
>連載終了を見越して撤収が始まってるのかと思った。
いえいえ、隙間産業にとっては、いくらでもネタは掘り起こせます。ネタを活かす筆力はないですが(涙

しかし、ここではやはりアレを言わなければならないでしょう。
「まだだ、まだ終わらんよ!」


それではお休みなさい〜。
203マロン名無しさん:2006/04/04(火) 01:23:59 ID:???
最近、シリーズ物が多いので、まとめ読みしています。秀作乙です。
>サマーエンドシリーズ
びっくり。笹荻派なので成立に満足しきって、SS書く手もおろそかの
このごろ、異色中の異色作に感嘆の声!斑咲派もビックリかな? 予想外の
展開に引き込まれたよ。派は異なるけど、優れた内容です。結末が気になる。

他のシリーズも少しずつ読み進めてます。期待しとります。
204マロン名無しさん:2006/04/04(火) 05:12:11 ID:VLQim0u3
さて、5月号読んだ日から暖めていたSSが、ようやく書きあがったので投下いたします。

>連載終了を見越して撤収が
ありえん!ありえんよ!まだ書かれてないネタ、いっぱいあります。
話の合間を埋めたり、夏から冬コミまでの合間を埋めたり、裏話考えたり、過去話考えたり。
違う世界に飛び込ませたり、タイムトラベルしたり、他作品のパロしたり。性転換ネタしてみたり。
まだ妄想の余地、いっぱいあります。「立てよ、SSスレ住民!」
合言葉は「まだまだ!」…えーと、「おぎおぎ」も!

…さて、このくらいにして、SS投下いたします。

205さくら1:2006/04/04(火) 05:15:39 ID:VLQim0u3
「さくら」

(笹原たちが卒業する日。斑目の話。)



 夢を見ていた。
一面真っ白な世界で、俺は座り込んでいた。
何もできず、何も考えられない。ただじっと座り込んでいた。

ふと顔を上げると、『春日部さん』が正面に立っていた。
あの日、告白できる最後のチャンスを逃した日の格好で、そこに立っていた。

「あの日、何て言いたかったの?」
春日部さんは、穏やかな表情で俺の顔を覗き込む。
「………」
黙りこんでいると、『春日部さん』はさらに問いかける。
「言いたいこと言えば良かったのに」
「………」
「私にどうして欲しかった?」

苦笑しながら言った。
「春日部さんはそんなこと言わない」
「どんなのが私?」
「高坂と自分のことに一生懸命で、仲間同士の不和に敏感で、すぐからかうくせに意外と気を遣う人」
「他には?」
「他に…他に余計なこと考える余裕、なかったんじゃないか?それで手一杯でさ」
206さくら2:2006/04/04(火) 05:17:00 ID:VLQim0u3
『春日部さん』は曖昧な顔で笑っている。本物の春日部さんはこんな顔しない。

「それで?」
「………俺の入る余地なんて、なかったよ。いや、初めから分かってたけどさ。
自分の卒業から一年粘って、分かったことはそんくらい」
「一年、何も変わらなかったの?」
「…いいや、変わった」
「何が変わった?」
「いつの間にか、春日部さん性格が丸くなったよな。荻上さんが入ってきたあたりからかな?
それまでの挑むよーな目つきが、だんだん柔らかくなった。それに、俺の気持ちが………………」
「気持ちが…?」
「なんか、知らん間に………いつの間にこんな大きくなってたんだ?
少しずつ諦める方に向かってたはずがさ……言うことなんて考えもしなかったのに………」

『春日部さん』は、黙っていた。言葉を促すかのように。
「いや、言いたかったんだな。本当はずっと言いたかった。
でも、身近すぎて言えなかった。同じサークルとかじゃなくてさ、ただ同じ講義取ってたとか、そんな関係だったら………。
…いや、それじゃあ好きになってなかったな。少なくとも、こんなに気持ちが大きくはならんかっただろうな。」

溜め息をついた。
「自分が好きってだけで良かったのに。それ以上、求めてなかったのに。求めたって手に入らないのに。…何を悩んでんだ?俺は」
「言いたいこと言ってないからじゃない?」
「だから言えないんだって」
「何で?」
「好きだなんて言ったら春日部さんが困るだろ」
207さくら3:2006/04/04(火) 05:17:36 ID:VLQim0u3
だんだん、問いかけ続ける『春日部さん』に、いらいらしてきた。
「せっかく、こんな仲良くなれたのにさ。春日部さんに、四年間ありがとうって言ってもらえたのにさ。
あの笑顔を壊せるか?自分の都合で」
「でも、あんたはどうするの?」
「自分のことは自分で何とかするよ」
「それでいいの?」
「しつこいな!いいも何も、それしかねーんだよ!もう結論出てるんだって!
これ以上何を悩む必要がある!」

『春日部さん』は、少し悲しそうに笑った。…本物はこんな顔しない。
「…言えばいいのに」
「だから、好きなんて言えな……!!」
「告白せずに、言いたいこと言えばいいのに。」
「は?」

『春日部さん』の表情が、少し本物らしくなった。目に力がこもる。
「あんたならできるよ」
「何言って………………」

『春日部さん』はにっこり笑って、消えた。

そこで目が覚めた。
208さくら4:2006/04/04(火) 05:18:10 ID:VLQim0u3
 目覚ましを見ると、6時過ぎだった。今日は大学に11時集合だ。早すぎる。
卒業式が終わったころに校門の前に集合の予定だ。
もう一度目をつぶる。でも、なんだかそわそわして眠れない。
しばらくして諦め、ベッドから出た。
カーテンを開ける。もう外はだいぶ明るくなっていた。

できるだけのろのろと支度した。まだだいぶ早いが、何だか落ち着けなくて家を出た。
家からの道をゆっくりと歩いた。
空はどこまでも青く、やけに透きとおっている。

大学までの道に、桜の木が一本ある。
七分咲きだった。もうだいぶ暖かいのだが、ここは少し日陰になっているので遅いのだろう。
薄いピンクの花びらが、開きかかっていた。

できる限りゆっくり歩いてきたのだが、もう大学に着いてしまった。まだ卒業式も始まっていない。
校門を通る学生もほとんどいない。確か卒業式は9時からだった。今はまだ7時半だ。
(どうするかな………)
特にすることもない。仕方ないので、部室に行って漫画でも読むか、と思った。

サークル棟の階段を上る。見慣れたポスター、壁の汚れ。薄暗い廊下。
部室の前まで来た。ひとつ深呼吸をする。
209さくら5:2006/04/04(火) 05:29:34 ID:VLQim0u3
唐突に思った。
(そうか…、俺ももう、ここには来ないんだな…)
部室の古びた扉を眺める。
急に、このボロい扉が特別のもののように思えてくる。
(5年間………楽しかったな………色々あったけど、それがまた………)

「斑目?」

急に名前を呼ばれた。驚いて声のしたほうを振り向く。
春日部さんがいた。

斑「あ……え?」
(何でこんな時間に春日部さんが………)
咲「何でこんな時間にあんたがいるの?」
春日部さんの方から聞いてきた。
斑「か、春日部さんこそ」
咲「私は朝着付けに行ったんだけど、すごく早く準備できちゃったからさ。
このまま歩きまわるのもしんどいから、部室で座ってようと思って」
斑「あーー、そうなんだ………」

春日部さんは袴姿だった。ほとんど白に近い、ごくうすいピンクの着物に、桜の花びらが細かく書き込まれている。
袴はすこし濃い桃色だった。髪をアップにして、名前は知らないが白色の生の花を髪飾りにしている。


花のように綺麗だった。
210さくら6:2006/04/04(火) 05:32:09 ID:VLQim0u3
咲「斑目?どしたの?」
思わず見とれていたら、春日部さんが声をかける。
斑「え、いや、今日は着物なんだね」
咲「ま、せっかくだからね。でもこれ、けっこう苦しくてさー」
斑「そーなん?」
咲「堅苦しいしさー。今日朝5時起きで着付け行って、6時半にはこの格好だよ?もう疲れたよ」
斑「ふーん、大変なんだな、着物ってのも…」
咲「で?斑目、あんたはこんなとこで何してたの?」
斑「へ?あーいや、何つーか…部室を見に来たくなって」
咲「へえ…?」
斑「色んなこと思い出してた」


二人並んで部室の扉を見つめた。
ここから全てが始まり、全てが終わるのだ。


(…ラッキー、なのか?この日に、春日部さんと二人になれるなんて………
神が与えてくれた最後のチャンスなのか?)

咲「はぁ…改めて見ると、感慨深いねぇ………」
春日部さんは部室の扉を眺めて、言う。

(…そうだ。これが本当の本当に、最後のチャンスなんだ)
211さくら7:2006/04/04(火) 05:33:08 ID:VLQim0u3
斑「………あのさ」
咲「ん?」
斑「俺、春日部さんと出会えて良かったわ」
咲「はい?」
春日部さんは少し怪訝な顔をしてこっちを見る。
斑目は、今思っていた言葉が、あまりにも素直に出たことに自分で驚く。

斑「いや、ね!この前にも言ったけどさ!春日部さん、四年もここにいたわけでしょ?このオタクサークルに!
そんで、例えば『会議』の時に、一般人代表として貴重な意見を出してくれたというか!」
咲「言いたい放題言ってただけだよ?」
斑「いや、正直な感想のほうが参考になったからさ!」
咲「何の参考よ?」
斑「外の世界の。」

春日部さんは、不思議そうな顔で斑目を見た。
斑「そう、異文化交流。グローバルコミュニケーション!なんか新鮮だったのだよ。春日部さんの存在が!!」
咲「んな大げさな…」
斑「いや、けっこうインパクトあったよ。いきなり殴られたりとかな」
咲「それ褒めてないよね?」
斑「面白かったよ。だからさ、…会えて良かった」
咲「………………それ言うなら、私もかな」
斑「ん?」
咲「あんたらに会えて、楽しかったよ。」
212さくら8:2006/04/04(火) 05:34:21 ID:VLQim0u3
春日部さんはこっちを見て、花のように笑った。
いつもと違う服装のせいだろうか。この前の笑顔を越えるほどの笑顔で笑ったように思った。

(会えて楽しかった、か………そっか………!)
嬉しさがじわじわとこみ上げてくる。
胸が痛くなるくらい、喜びがあふれてくる。



(…あんた ”ら” だけどな………………)

斑「春日部さん…」
咲「ん?」
斑「えーと………いや、その」

今言った言葉だけじゃ、言い足りない。
もっと何かないか。今、自分が一番言いたいことは何だ?

(春日部さんが好………………!
いや、だから!!それは言えねーんだって!!言わない、って誓っただろ!?
何かないのか!?押し付けにならんような言葉を………………)
213さくら9:2006/04/04(火) 05:35:50 ID:VLQim0u3
斑「あ、あのさ…」
咲「何よ?」

斑「………その………幸せになってくれな」

咲「はい!?」
春日部さんは驚いた顔をする。当然だ。
自分でも意味がわからんことを言ってしまい、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。
顔から火を噴きそうだ。
(なんだそりゃ!?他に何かなかったのか!?
なんでそんな唐突に………………)

(いや。俺が今言えることなんて、これくらいしかないんじゃないか………?)

斑「えーとその、とにかく、春日部さんには幸せになって欲しいんだよ!
せっかく会えたからさ!こんなに仲良くなれたからさ!なんかそう思ったんだよ、なんとなく!!」

咲「斑目………?」
怪訝な顔をして、春日部さんがこっちを見る。
(うわ、やばい………!!)
214さくら10:2006/04/04(火) 05:40:39 ID:VLQim0u3
斑「あっ、そうだ!俺さっき、今日仕事出てくれって、電話が来たんだ、急に!
だから先に部室だけ寄って、それから行こうと思ってたんだ。もう会社行かないといけねーから!
悪いけど、あとでみんなにそう伝えといてくれないかな?」
かなり無理があるが、押し通す。

先「…え?あ、そうなの?」
春日部さんが混乱している間に、行動を起こす。
斑「………じゃ、もう言いたいことは言ったから。じゃーな!」
春日部さんに背を向けて走り出そうとする。

咲「斑目!」
春日部さんに呼び止められて、足が止まる。
咲「あんたさ………………」
斑「ん?…何?」
斑目は振り向いた。笑顔で。
咲「………………」
春日部さんは、言葉が出てこないようで、こっちをみながら口を開け、また閉じる。
斑「何?俺、本当に急いでんだけど」
笑顔を崩さずに、そう言った。
215さくら11:2006/04/04(火) 05:42:00 ID:VLQim0u3
咲「…あ、ああそう。そんじゃ…」
斑「………さよなら。」
斑目は再び春日部さんに背を向け、歩き出そうとした。
少しでも早くここから遠ざかりたかった。

咲「っ…ちょっと!!」
春日部さんは再び呼び止めた。
斑「………………」
斑目は足を止めた。後ろを振り返らずに。
咲「…あんたもね」
斑「………………………」
咲「あんたも幸せになりなよ!」

斑「………………………………」
返事ができなかった。

そのまま、ようやく小さく頷くと、早足で歩き去った。
春日部さんに頷いたのが見えたかどうか、わからない。


サークル棟の階段を駆け下りる。大学の門をくぐる。
歩きなれた道を、何も考えないようにしながら、ただひたすら進んでいく。
216さくら12:2006/04/04(火) 05:42:37 ID:VLQim0u3
大学からの道をひたすら歩き続けた。
空はどこまでも青く、やけに透きとおっている。

家にまっすぐ帰る気になれず、会社の近くの公園まで歩いてきた。
今日仕事に出ないといけない、なんて嘘だ。
あの場所から逃げ出したかった。
あのままあの場所にいたら、思わず何を言ってしまいそうになるか分からなかった。

公園の中に入ると、そこは満開の桜でいっぱいだった。
ちょうど一番綺麗な時期だった。日あたりがいいので開花が早かったのだろう。
薄いピンクの花びらが、春の風に揺れている。
あがった息が落ち着くのを待ちながら、その見事な桜並木に目を奪われ、しばらくの間見とれていた。

ゆっくりとベンチまで歩いていく。一番大きな桜の木の下に、そのベンチはあった。
腰掛け、しばらくじっと桜の花が風に揺れるのを見ていた。
時折、はらはらと花びらが落ちていく。何度も視界の中を横切っていく。

さっき見た春日部さんの袴姿を思い出した。
まるで桜の花のようだと思ったのだ。
217さくら13:2006/04/04(火) 05:47:03 ID:VLQim0u3
風を受けてゆっくりと舞う桜の花びらを見ていた。
あの声が、耳の奥でかすかに響いているような気がした。
これまでの記憶が、表情の一つ一つが入り混じり、何度も視界を通り過ぎる。繰り返す。

風が少し強く吹き、視界を埋め尽くすように花びらが舞い散る。
地面に落ちて、またくるくると竜巻を起こす。
あらゆるものが、手のひらからすり抜けていくのを感じた。
こうやって大切なものを取りこぼしてゆくのだ。

(失う覚悟をしていても…失ってみないと分からないモンだな………)
心に穴が開いたみたいだ。

そのとき、声が聞こえた。
『あんたも幸せになりなよ。』


(春日部さん)



(春日部さん………………。)
218さくら14:2006/04/04(火) 05:47:54 ID:VLQim0u3
もう手遅れなのだ。
もう、あの日々には戻れないのだ。

そのとき不意に目の前が滲んだ。
狂ったように視界を通り過ぎる花びらのせいだろうか。

(幸せになんかなれるのか)
(何もしなかった俺に幸せになる資格があるのか)

(いや、そんなことはいい、あの人が幸せであればそれで十分だ…それだけで)

(たぶん、それだけで幸せなんだ)



一番大きな桜の木は、暖かい日の光を浴び、春の風を一身に受けていた。
そして優しく枝を揺らしながら、そのベンチを包み込むように花びらを散らしていた。

                                END
219あとがき:2006/04/04(火) 06:05:48 ID:VLQim0u3

幸せになって欲しい、という思いを込めて。
BGMはケツメイシの「さくら」です。
220マロン名無しさん:2006/04/04(火) 12:42:07 ID:???
「弾はまだ残っとるがの」
という思いからか、最近またにぎやかになってきましたな、SSスレ。
感想が追っつかん!
最近絶望ばっかりしてたけど、前向きに感想行ってみよう。

>F91
隙間産業の人、相変わらずノスタルジックないい仕事してますなあ。
オタク版「三丁目の夕陽」って感じ。
91年当時の描写が妙に細かくてリアルっぽいけど、その頃からアキバを庭にしてた人なのかしら?
続き期待。

>さくら
何かこれ、原作もこんな感じで終わりそう。
桜の下に来た斑目が首吊ったりしないかと、一瞬焦ってしまった。
いかん、まだ絶望病の後遺症が…

俺も言ってやりたくなった。
「あんたも幸せになりなよ!」って。

>連載終了を見越して撤収が始まってるのかと思った。
この季節、進学やら就職やら何やらで、みんな忙しいのでしょう。
私も最近、長編を書きかけのまま放置してます。
まあ来月号までには何とかしたいと思います。
ちょっとだけ予告すると、笹荻成就から10年後の話。
でも主人公はクッチーです。
221F91:2006/04/04(火) 19:50:28 ID:???
>さくら
舞い散る桜と斑目の心情がシンクロして美しいですね。
脳内ビジョンの映像では、斑目の周りをチャンイーモウの映画なみに美しく激しい花吹雪が舞っていました。

>花のように綺麗だった。
ここ、ここ! クーッ!

斑目の恋の終焉だけでも色んな話が読めるSSスレ。
やっぱりネタはつきないですよ〜。


>>220さん、「F91」の感想ありがとうございます。

>その頃からアキバを庭にしてた人なのかしら?
とんでもねえ。その頃は遥か彼方の地方にいました。
当時のことは多少調べましたが、次回でさらに現在と91年の違いが出せたらいいなぁとは思っています。

>笹荻成就から10年後の話。 でも主人公はクッチーです。
過去とのしがらみばかり書いてる身として、未来の彼等に興味津々です。クッチーメインとは、まるでジャンプの「次号新展開」のようだ!
期待しています。
222F91おまけ:2006/04/04(火) 19:53:10 ID:???
今回も、求められてもいないのにネタ元を羅列します。長文、誠に申し訳ないです。


○冒頭の英語……洋楽「When I dream」より。映画「シュリ」のエンディング曲と言った方が通りが良いです。この詩の場合、咲が高坂を求めているようで斑目カワイソス。

○俺のバイオコンピュータで探せば、バーニヤ1つでも大丈夫……タイトルの元ネタである「ガンダムF91」より、「バーニヤ1つじゃ無理よぉ」。

○小遣いをはたいて通信販売で取り寄せたガレキ……リアルで経験あります。私はガキの頃、洋画キャラ(ジョーカーとかエイリアンとか)で途方にくれました。

○アスキーアートのマスコット……ギコとかモナーとか。彼等は「あきばおー○号店」にでも行ったのでしょう。

○黒髪を束ねた女の子……大野さん(小2)です。彼女は、この翌年、小学校3年生の時に渡米しています。親は、一部の日本の電家具が使えるように「変圧器」を買い求めたということで…。

○「アニメ主題歌で歌手を売り出すからな(略)」……許せません。唾棄に値する第2期ケ●ロ主題歌。ケ●ッとマーチを返せ!馬鹿ソ●ー!
223マロン名無しさん:2006/04/04(火) 21:45:41 ID:???
>さくら
良作乙です!
ああ〜〜、せつね〜〜〜・・・。
斑目さんが俺を泣かせる・・・。いっちょ呑みいこうや、斑目さん・・・。
もうそんな気分っす。
作者さんの斑目さんと春日部さんに対する愛の深さに敬服です。

>連載終了を見越して撤収が始まってるのかと思った。
すいません。
なんかちょろっと書いた一言が意外に反響あってビックリです。
そうかあ〜、まだまだSS書きの情熱の炎は消えてないのですね!!
おいらもつべこべ言わずにSS書こう!
224マロン名無しさん:2006/04/04(火) 21:47:45 ID:mYru21+0
>>205-218
「さくら」
思わず一年前の「卒業症候群」と重ねてしまいました。
もちろん、あちらは原作、こちらはSS.ですが、
何と言うか・・・こう、読んで胸がいっぱいになっていく感覚が、
とてもしみじみと心に沁みていく感覚が、
雑誌掲載時に、コミックス刊行時に読み返した第36話と
重なって・・・


もう原作上では決着の着いたエピソードなのかもしれませんが、
斑目と咲の二人については、ついいつまでも立ち止まり、振り返りしたくなる。
そんな想いをカタチにしてくれるこのSSスレッドが大好きですわ。
225マロン名無しさん:2006/04/04(火) 23:36:41 ID:???
>>さくら
いっ、良い話…自然に涙が滲んできました。。。
斑目……まだらめぇーーーーーっ!!
ああもう連れ回して朝まで呑みたいですよ!

>>201
撤収どころかますます回路全開の勢いです。
時間と体力の許す限り…サイコガンなら弾切れしません。
226マロン名無しさん:2006/04/04(火) 23:54:06 ID:???
なんでもないSSが出来たので投下します。

レス数は11です。
227アルバムを覗けば(1/10):2006/04/04(火) 23:54:52 ID:???
「あ、これアルバム・・・。」
荻上は笹原の家に遊びに来ていた。そこで、たまたまアルバムを発見した。
「み、見てもいいですか・・・。」
「え、あ〜、見ても面白くないよ〜。」
笹原は苦笑いしながらお茶を運んできた。
「あ、いや、その・・・。」
荻上は少し恥ずかしそうに顔を伏せると、声を出した。
「昔の笹原さん、見てみたいっていうか・・・。」
その言葉に思わず赤面の笹原。
「え、あ、まあ、いいよ。面白くないと思うけど・・・。」
「そうですか!」
ぱぁっ、と顔が明るくなる荻上。
その喜びように苦笑いすると笹原は荻上の横に座る。
「じゃあ、一応解説でも・・・。」
「は、はい!」
近づく笹原の顔に、少しどぎまぎしながら荻上はアルバムを開く。
しかし、もうする事までしたっていうのになんとまあ初々しい。
「あ、赤ちゃんですね。」
まず出てきたのは赤ちゃん。生まれたところから順に張ってある。
ペラペラめくっていく。この辺は記憶もないのか特にいう事もないらしい。
228アルバムを覗けば(2/10):2006/04/04(火) 23:55:46 ID:???
「あ、ファミコンしてる。」
その写真にはファミコンをしてる笹原に、恵子がくっついているものだった。
「DQ3ですか?」
「そう。懐かしいな〜。あのころ5歳とか?そんなもん。」
懐かしむように写真を見る笹原。
「まだよくわからなくてね〜。何度も何度も死んでた。
 よく恵子が邪魔してね。電源切るとかリセット押すとかしてたね。
 あいつも二歳とかなのに理不尽にも怒ったりしてね〜。
 今思うとすげー悪いことしたなって思う。」
苦笑いする笹原。
「でも、覚えてないんじゃ・・・。」
「いや〜、でもさ〜今の状況考えるとね〜。」
「あ、もしかしたら構って欲しかったんじゃないですか、その時。」
「それはあるかもね。でも、もう昔の事だし。」
「今もそうなのかも・・・。」
「ええ〜?それはないでしょう〜。」
そういう笹原に対して、荻上は少し考え込む。
(もしかして、恵子さんブラコン?だって、嫌っているなら会いにはこないだろうし。
 まさか、本気で禁断の愛とか・・・?高坂さんとか全部ブラフで・・・。ええ・・・?)
「荻上さん?」
その声にはっとすると、自分がどこかいっていた事がわかる。
「あ、すいません・・・。」
「はは。まあ、そんな感じ。ゲームが今のようになった切欠かなー。」
「あー、そうなんですか。」
「うん。DQは4以降もやったし、FFにも手を出したしねー。」
そういって笹原は笑う。
229アルバムを覗けば(3/10):2006/04/04(火) 23:56:35 ID:???
「漫画もありますね・・・。」
「そうだねー。昔から人よりは読んでたかも。」
少し大きくなった笹原が読んでいたのはセイヤだった。
「なつかしいねえ。当時はDBかセイヤって時代でさ。
 ほとんどの奴らがDB派でね。
 なんかセイヤのクロス着てるのが弱く感じられたみたい。」
俺はセイヤの方が好きだったけどね、と付け加える。
「もちろん、DBも好きだったなあ。アニメも見てた。
 気円斬のポーズは皆一度はやってるよね。」
「私も・・・セイヤは読んだことあります・・・。」
「あ、そう!?誰が好き?
 俺はシリュウが特に好きだったんだけど・・・。」
「私的には・・・カミュ×ヒョウガ・・・。」
そういいかけて、荻上は顔を赤くする。
「い、いや、問題ないんじゃない、そういう楽しみ方もさ。」
苦笑いをする笹原に、荻上は冷や汗をたらす。
「確かに多かったらしいからねえ、そういう創作。
 今の二日目飛翔系の走りといってもいいんじゃないかな。」
そういうと、笹原は自分からページをめくった。
230アルバムを覗けば(4/10):2006/04/04(火) 23:57:22 ID:???
「あ、次はSFCだ。スト2ですか?」
今度の画面には小学校高学年くらいになった笹原がいた。
「そうそう。これにははまったなあ。
 凄く人気だったしね。面白かった。
 今の格ゲーの基礎っていうか、そういうの築いたよね。」
「へ〜、使用キャラは・・・。」
「最初はさー、波動拳コマンドとか昇竜拳コマンドとか出来なくて
 溜めキャラ使ってたんだ。チュンリンとかー・・・。」
その言葉に少し荻上が反応する。
「やっぱり、そういうキャラがいいんですよね。」
「え、まあ、なんていうかさ、一人しかいないし。
 女性キャラはさ。溜めだしね、そう、そういうこと。」
言い訳がましく言葉をつむぐ笹原。荻上は次の写真に眼を移す。
「・・・でも、こっちじゃ衛・・・。」
そこには、飢えた狼2の画面が移っていた。
「いや、そっちも女性キャラ一人だったし、そ、そういうこと。」
「でも、溜めコマンドじゃない・・・ですよね?」
「あ・・・はい。」
「なんで、男性キャラを使わなかったんですか・・・?」
「いや、使ってたよ?使ってたって。本当。
 たまたま画面のがそうなってるだけで・・・。」
「・・・モウイイデス。」
拗ねた様な表情になって視線をアルバムに戻す荻上。
「お、荻上さ〜ん・・・。」
笹原は情けない顔で苦笑いするしかなかった。
231アルバムを覗けば(5/10):2006/04/05(水) 00:05:57 ID:???
「あ、剣道。」
「そう、俺中高と剣道部だったんだよね〜。」
「へえ・・・。」
意外、という顔をする荻上。
「まあ、特に高校からだけど、こういう趣味してるって隠してたから、
 運動部入ってないとね、変に思われるからさ。」
「段とか持ってるんですか?」
「一応ね〜。今はぜんぜんやってないけど。
 入った動機も動機だし。」
「へ?」
「るろ剣、流行ってたでしょ〜?」
そういって苦笑いする笹原。
「ああ。」
「そういうこと。よく中学の武道場でこっそり真似してた事あったなあ。」
「他にも同じ動機で入った人がいたりして・・・。」
「ええ〜?それはない・・・ちょっと待てよ・・・。」
笹原はそういうと一人考える表情を見せる。
その顔に、荻上は戸惑いながら、言葉を待つ。
「・・・もしかしたらあいつもそうだったのかなあ・・・。」
「あいつ?」
「中学の頃、俺が武道場入ったときに牙突っぽいポーズきめてた奴がいて・・・。
 その時は、そう思ったけど突っ込めなくてね・・・。
 なんか今思うとそういう雰囲気の奴だった気もする・・・。」
「あはは。もしかしたらいい友達になれたかもしれませんね。」
「そうだねえ。まあ、今も同窓会とかで会うから、それとなく聞いてみようかなあ・・・。」
232アルバムを覗けば(6/10):2006/04/05(水) 00:06:44 ID:???
「あ、女の人と二人・・・。」
その声に少しあせった表情を見せる笹原。
「あ、ああ、その子ね、高校のときのマネージャーなんだよ。」
「・・・ソウデスカ。」
その声色に思わず冷や汗をたらす笹原。
「う、うん。優しい子でねえ、後輩なんだけど。」
「・・・二人で映ってるの多くないですか?」
「え、そう?皆その位撮ってたと思うんだけど・・・。」
「・・・・・・怪しいです。」
「いやいや、高校の頃だよ?それにそういう関係じゃなかったし・・・。」
「そういう関係ってどういう関係ですか?」
「いやいや、荻上さん?」
「・・・すいません。ちょっと言い過ぎました。」
笹原が少し困った顔をしたのを見て、荻上は少ししょんぼりした。
「あー・・・。まあ、その当時好きじゃなかったといったら嘘になるかなあ・・・。」
「・・・ソウデスカ。」
「まあ、告白なんて当時考えも付かなかったし、
 逆に言えばそこまで好きじゃなかったのかもね。」
その言葉に、告白された自分の事はそこまで好きなんだ、と意味を受け取った荻上は、
顔が上気し、赤くなるのを感じた。
233アルバムを覗けば(7/10):2006/04/05(水) 00:07:27 ID:???
「この頃って何にはまってたんですか?」
「ああー、そうだねえ、隠れながらっていうか、
 家でひっそりとゲームと漫画、アニメはチェックしてたかなあ。
 中学はゲームはさくら対戦とか、アニメはエビャとか、やっぱ見てたよね。」
「やっぱその頃のアニメって凄いの揃ってますよね。」
「うーん、今のが悪いって訳じゃないんだけどね。
 たしかに、切れ味の鋭いアニメは多かったと思うよ。ウタナとかね。」
「・・・その頃私はまだ中学になるかならないかって感じです。」
「でも見てたんでしょ?」
「・・・ええ、まあ。」
三つ子の魂百までということか。
「高校に入ると部活が忙しかったけど・・・見れるものは見てたかなあ。
 漫画も1ピースとか、アイひなとか、いろいろ流行ってたけど、
 一番好きだったのは、マンキンだったかなあ。」
「マンキン・・・!!」
少し顔が強張る荻上。
「ど、どうかした?」
「い、いえ!」
(私が一人きりで高校生活過ごしてたとき、はまってたのもマンキン・・・。
 時期はずれてんだろうけど、これって・・・運命?)
しかし、その楽しみ方はぜんぜん別物だったであろう事に気付いていない。
「そう?でも、あの終わり方はなかったよねえ〜。」
「ラストのコマの下に”蜜柑”ですか?」
「うん。思わず笑っちゃったよ。”未完”とかけてるんだろうけどさあ。」
234アルバムを覗けば(8/10):2006/04/05(水) 00:08:11 ID:???
「あ、現視研だ。」
「この辺からもう大学だね。懐かしいなあ。」
「サークルは初めからこういう関係のを?」
「まあ、そうだね〜。そういう仲間欲しくてしょうがなかったし。」
そう言った後、少し懐かしそうに視線を上に向ける。
「何でまた大学からそうしようって思ったんですか?」
「んー・・・。一番はやっぱりくじアンについて一緒に話せる人が欲しかった、かなあ。」
「くじアン、ですか。」
「うん。あれには本当やられたからなあ。
 なんか、一人で悶々してるのが耐えられなくってね。」
「・・・。」
「せっかく環境も変わるわけだし、って一念発起。
 でも、すぐに変われるわけじゃないしねえ。あのドッキリなかったらどうなってた事やら。」
「それは・・・。私も思うかも・・・。」
「そうだねえ、俺達意外と似たもの同士?あはは・・・。」
そうお互い笑うと、荻上は少し思ってた事を口にした。
「会った頃からそう思ってませんでしたか?」
「え、ああ。そうかもね。性格は違うかもしれないけど、境遇は似てるかもなあ、と。」
「だから、ですか?」
「え?」
「私に優しくしてくれたのは。」
「いやー、まあ、それだけじゃないんだけど・・・。」
そう苦笑いすると、真剣な表情の荻上に視線を移す。
「シタゴコロ?っていうのかな、そういうのは少なからずあったかもね。」
「え・・・。」
「女の子には優しくしとけ、っていうか。そういう感じの。」
「・・・正直ですね。」
「嘘ついてもしょうがないから。」
その言葉が出て、少しの間の後また二人で笑った。
235アルバムを覗けば(9/10):2006/04/05(水) 00:08:55 ID:???
「でまあ、そんな私の半生だったわけですが・・・。」
まるで斑目が言うような妙なしゃべり方をする笹原。
「どうでした?とかいっても感想なんてないよねえ、あはは・・・。」
「・・・嬉しかったです。」
「へ?」
思っても見なかった感想が飛び出て、笹原は少し驚いた。
「昔の笹原さんって、どんな人だったかとか・・・、想像はしてたけど・・・。
 話が聞けて嬉しかったです。そういうの・・・知りたかったんです。」
「え・・・。」
「・・・。」
顔を赤らめて二人の時間は少し沈黙に包まれる。
「・・・った?」
「え?」
笹原が搾り出すように声を出したのを、聞き取れなくて聞き返す荻上。
「・・・想像してたのと、どうだった?同じ?違う?」
「え・・・。まあ、その。大体合ってました。」
「大体、かあ。」
「格ゲーで女性キャラばっかりとか、マネージャーさんと仲良しとかを除けば。」
「お、荻上さ〜ん。」
「・・・冗談ですよ。」
情けない声を出す笹原に、荻上は片方の口の端を上げて意地悪な笑みを浮かべた。
その荻上に少しばかりムッした表情をした笹原は、すぐに表情を変える。
ニヤリと口の端が歪む。
「・・・・・・お仕置きだね。」
「ええ〜、そうなるんですか〜?」
そういって、おびえる表情を作る荻上。しかし顔は笑っている。
「そうなるんです。では。」

「ん。」

ヤル事は一つなので、以上!
236アルバムを覗けば(10/10):2006/04/05(水) 00:14:19 ID:???
と思ったのですが、ぎりぎりまで観てみましょう。
そう、まさに限界まで。限界に挑戦です。
おお、どうも場所を変えるようですよ?
布団を・・・。変えてますね。
元々あったのは恵子さんのなのでしょうか?
で、そのまま二人横になって・・・。
最初は前戯でしょうか?
キス、長いですね〜。
ああ、触りだした、ちくしょう、笹原のヤロウ・・・。
ああああああ。うらやましい・・・。
なんか目がトロンとなってますよ、荻上さん?
あ、やばい、脱ぎだした!
みなさん、どうもすいません!ここまでのようです!すいません!
さようなら、さようなら〜!!
237アルバムを覗けば(オマケ):2006/04/05(水) 00:15:06 ID:???
「で、兄貴の家に入りびたり?」
「・・・問題ありますか?私の家のときもありますし。」
「いや〜・・・。私の布団の上で色々やられてると思うとねえ・・・。」
「(貴方の布団では)してません!」
「ふーん。・・・まあ、いいんだけどさ。別にさ・・・。兄貴が何してようと・・・。」
「・・・ヤキモチですか?」
「はぁ?だれが、だれに?」
「恵子さんが、私に。」
「な、なんでよ!」
「いや、そういうのなのかなあ、って。」
「そ、そんなわけねーじゃん!!」
(・・・この慌て様・・・。あやしい・・・。)
「笹原さんの事、どう思ってます?」
「え、サル。」
「それ以外は?」
「えーと、まあ、頼りになる兄貴・・・うそ?褒め言葉しか浮かばねえ・・・。」
「・・・駄目ですよ?」
「な、なにが?」
「近親相姦は世界のタブーですから。」
「わ、わかってるよ!そんなことするわけねーじゃん!!」
238後書き兼まとめ中の人:2006/04/05(水) 00:20:51 ID:???
最近新作多くて楽しい限りですw

で、ですね。このたび、私このような企画立てたのです。
興味のない方はスルーでお願いします。

げんしけんSSでアンソロ本を作ろう!

詳しくは下のホームページに来ていただけるとありがたいです。
ttp://saaaaaaax.web.fc2.com/gssansoro/top.htm

新作を募って同人オフセ本をつくろうってものです。
前々からそういうのを作ってみたかったのです。
よろしければ、参加をお願いしたいと思いました。
それでは、スレ汚し失礼しました。
239マロン名無しさん:2006/04/05(水) 00:41:05 ID:???
>>アルバムを覗けば
アルバム見てるときの微妙な感じ……やられました!!GJです。
あとオチのラストで二転三転するところで、ほのぼの系から
げんしけんらしい感じになりましたねr〜。
240マロン名無しさん:2006/04/05(水) 10:27:32 ID:ODuwBIxZ
>アルバムをのぞけば
嫉妬オギーが…かわいいのう!!笹原も嫉妬されて内心嬉しいに違いないよ!

>やることは1つなので、以上!


…と思ったのですが、ぎりぎりまで

このあたりハラハラしましたよwww健全スレ!健全スレ!!w
限界ボーダーライン、ちゃんと踏みとどまっておられて安心w面白かった〜w
241マロン名無しさん:2006/04/05(水) 10:39:41 ID:???
>アルバムを覗けば
こ〜〜〜〜ゆ〜のを原作で読みたいんだよね、木尾先生!
頼んますよ、1発!

と、思わず叫びたくなる出来でした。
ただ剣道部か…うーん…俺は無理に笹が運動部入るなら、卓球か陸上ってイメージだったんだが、オタ趣味絡みということで可とします。
グッジョブ!
242マロン名無しさん:2006/04/05(水) 11:00:05 ID:ODuwBIxZ
>げんしけんSSでアンソロ本を作ろう!
推薦いたします。ワシも参加させていただきます。ああ、楽しみだ!!

「さくら」感想いただきアリガトウゴザイマス。
前書いたSSはかなり欝だったので、今回はできるだけ明るく、それでも切なくを目標にしたつもりです。
>>220
絶望した!そんなイメージを浮かばせるSS書いちまったったことに絶望した!w
…なんて。「絶望先生」ワシも好きです。最初の登場シーンが首吊りって、かなり衝撃的でしたな。それでギャグ漫画だし。
>俺も言ってやりたくなった。 「あんたも幸せになりなよ!」って。
そう言ってもらえるとこのSSの斑目も救われます。
クッチー話楽しみにしてますー。
>>221
「桜」自体に特別な思い入れがあります。だから是非書きたかったんです。
あと、春日部さんを「桜の精」みたいな感じにしたかったのです。ちょっとクサいかなとは思ったんですがw
ネタ元面白いです。良ければブログなどにまとめてみてくださいなw
>>223
>いっちょ呑みいこうや、斑目さん・・・。
くぅ〜、実在していたらワシも飲みに連れまわしたいです。w
あとアレですね、確かに斑目と春日部さんにはものすごい愛着あります。「げんしけん」自体にも。
>>224
>思わず一年前の「卒業症候群」と重ねてしまいました。
あの話、ワシも特別な思い入れあります。特に最後のページ…あのせつない感じ…
>もう原作上では決着の着いたエピソードなのかもしれませんが
どうなんでしょう?まだ何かあるような気がするのはワシだけですかね。
来月は春日部さんのコス話のようだし。そしたら斑目もちらっと出てきそうな…。
>>225
ここにも「連れ回して朝まで呑みたい」方がw 斑目ぇ〜。
>撤収どころかますます回路全開の勢いです。
「撤収」話がでたことで、むしろみなさんの意気込みレスがたくさん読めて良かったですのう。
243マロン名無しさん:2006/04/05(水) 23:54:33 ID:???
>>アルバムを覗けば
大好物の笹荻もの。
くはー、こっちの書く気を刺激されますた。
それにしても笹原が剣道部。なんか、似合ってる気がスルー。
おまけはもちろん布石ですね?

あと、アンソロ。頑張ってください。
まぁ、まだ細かいことも決まってないと思いますが、応援してます。
244マロン名無しさん:2006/04/06(木) 13:39:22 ID:???
>アルバムを覗けば
笹原の過去話が、いかにもオタな奥深さがあって楽しめました。
また荻上との会話も、いかにもオタで……、こういうカップルは現実にはイタいかもしれないが、とても微笑ましいです。
「るろ剣」で剣道部って筋金入りだなあ(w


あと、古い話題かもしれませんが、>>198さんの「現聴研」がジワジワ効いてきました(w

>聴くだけだったぬるいサークルに、耳コピーして弾き語れる萩下さんが入部
荻下さんが無愛想フェイスのまま、イングウェイとか橘高文彦ばりの激しいギタープレイをしたりして……と妄想が膨らみまくり。

最近、80〜90年代バンド&ポップスがマイブームなので、斑目ボーカル(ありえねー)でボウイの「B・BLUE」なんか歌って、

♪今度こそは幸せになること祈ってる♪

なんて歌われた時には、渋谷公会堂最前列で「お前こそ幸せになれよー!」と叫んで失神っすよ(w
245マロン名無しさん:2006/04/06(木) 22:36:17 ID:???
ミカンズのテーマ書いた>>198です。

あー80〜90年代のバンドですか〜。
僕が聴いてたのはPSY・Sだったりしましたが、そんな感じで、僕が書くと「現聴研」も
だいたい古いほうから…大貫妙子、谷山浩子、EPO、Qujila、ハイポジ、カラク、
ZABADAK、遊佐未森、鈴木祥子、新居昭乃、さねよしいさこ、村上ユカ…なんて辺りを
扱ってしまって、元ネタ知ってるの書き手だけ!って寒い状況になるので書けません。

「現聴研」書ける方、ご自由にどうぞ!!
246マロン名無しさん:2006/04/06(木) 23:08:23 ID:Wak8qMZj
>>244
>斑目ボーカル(ありえねー)でボウイの「B・BLUE」なんか歌って、♪今度こそは幸せになること祈ってる♪
なんて歌われた時には、渋谷公会堂最前列で「お前こそ幸せになれよー!」と叫んで失神っすよ(w

斑目!斑目!!

…すいません是非SSで見てみたいです。
見てみたいです!…まあ、できればでいいんでw

「現聴研」でギターのうまい荻上さんも読んでみたい。

247244:2006/04/06(木) 23:26:38 ID:???
>僕が聴いてたのはPSY・Sだったりしましたが
うわー! 今日帰宅時に「北緯35°のヒロイズム」聞きながら電車に揺られてましたよwww

荻上ボーカルで「♪退屈〜過ぎる日々があ〜いを複雑〜にする〜(35°ッ)♪」と歌われたら失禁だな(w

オタクはつらいよ並の短いやつでよければ、ちょっと書いてみたいかも「現聴研」……。
248マロン名無しさん:2006/04/07(金) 00:03:50 ID:???
>>245です。

>>247
おおっ!?短編長編問わずのリレーなら、曲のジャンルも多様化する気がしてきました。
ちょっと導入部分書いてみましょうか
249マロン名無しさん:2006/04/07(金) 01:17:46 ID:G8tQM7YY
>>248
wktkしながら舞ってますw
250マロン名無しさん:2006/04/07(金) 02:19:19 ID:???
即興で書くと、まとまりが無さ杉ですが(大汗)
なんでも弾けそう、ってことだけは道筋つけれたんじゃないかと…。
では3レスで。
251現聴研第1話「荻上、始動」(1/3):2006/04/07(金) 02:20:52 ID:???
ここは現代聴覚文化研究会の部室。
新会長の笹原がノートPCを部室のコンポのスピーカーに繋いで
音楽を聴いていると、新入会員の荻上さんが入ってきた。
部室にはPSY・Zの「二心」というベストアルバムだ。
「ども……」
「ちわー…あ!ギプス取れたんだね。おめでとう」
「いえ、どうも…ありがとうゴザイマス」
そして椅子に座ると、右手に提げていたアコギのハードケースを
横に立てかける。
笹原はそれを横目で気にしながらも、PCで作業を続けている。
荻上はというと、ノートを取り出してペラペラと捲っている。
会話の無い二人。
部室には音楽だけが流れている。
「これ、PSY・Zの二心ですね」
しばらく聴いていた荻上が口を開いた。
「え?知ってるの?古いのに…」
「まぁ、色々と自力で」
「俺はここに入会してから、色々と古いの洗脳されたんだけどねぇ(苦笑)」
そう言っている間に、荻上はハードケースからギターを取り出している。
「荻上さん、ギター弾けるんだ……!」
「ええ、アコギ2本とクラッシックとエレキとセミアコと、6本ほど持ってます…」
そう答えながら、音叉を取り出し叩くと、ボディーに当てる。
ポーンと気持ちのいいA音が響く。
「あ、音楽邪魔?止めようか?」
「いえ、もうちょっと時間掛かりますから」
言いながら、ハーモニクスで調音を続ける。
さらに、弦のウネリを合わせる方法でも確認してる念の入りようだ。
252現聴研第1話「荻上、始動」(2/3):2006/04/07(金) 02:21:26 ID:???
ストラップを肩に掛け、右足を組むとギターを抱える。
それを見て笹原は音楽を止めた。
「ん、ん…」
咳払いをすると荻上さんは、何やら小さな瓶からクリームを少しだけ
右手の指に馴染ませると、ピックをつまみ、1回強くストロークし、
すぐに右手で弦を止めてミュートした。
「何を弾くの?」
と、笹原が問いかけるが、荻上は答えずに、ジャカジャカと
アコギを掻き鳴らし始める。
笹原は何の曲が始まるのかさっぱり解らなくて、頭に「?」が浮かぶ。
と、ギターを弾くのを止めた、荻上が一言、
「今のは、怪我して久しぶりだったから慣らしです」
と、小声で告げた。ズッコケリアクションの笹原だったが
その姿勢が直る前に、荻上は曲を弾き始めた。
左手はネックの根元辺りで動く。イントロのメロディーですぐわかる。
「♪駆けてゆく〜子供たち…」
まず荻上の歌声が始まり、追いかけるように軽いタッチでギターのストローク。
『あ、PSY・Zの、水の辺境か…このアルバムの最後の曲だ』
笹原はすぐに気づいた。
荻上はといえば、机の上の手書きのノートに眼を遣りながら歌い続ける。
PSY・Zの中でも哀愁を帯びたメロディー。荻上の表情にも憂いが浮かぶ。
2番のBメロに合わせて、笹原も口の中でコーラスを呟く。
「♪なーがーい髪ーを解いて〜」
サビの高音も綺麗に声が伸びている荻上の歌声。
盛り上がりに合わせて、荻上のギターにも力がこもる。
253現聴研第1話「荻上、始動」(3/3):2006/04/07(金) 02:22:53 ID:???
笹原は背中がゾクリとして身震いした。
やがて歌い終わり、荻上は目を閉じると
「ふう…」
と、溜息をつく。笹原のほうは恥ずかしくて向けずに、うつむく。
「上手い、上手いよ荻上さん!ギター1本だと元の曲と雰囲気変わるねぇ。
 それに自力で耳コピしたの?そのノート?」
「ええ、良い曲だったので……イメージ違うっていうなら、こっちの方が」
言うなり激しい16ビートのストローク。
和音でなく、オクターブ奏法を使って並んだ2本の弦だけ同じ音で鳴らし、
メロディーを奏でる。本来はヴァイオリンの音色であった独特のイントロ
メロディーがギターで響くが、すぐに解る。
「ああ、天使の夜だ」
笹原のその声は、荻上のギターの音にかき消される。
「♪イルミネーション、真下に見下ろし…」
アニメ「都市狩人」のOPで有名な曲だが、アコギで歌うなんて笹原には
想いも寄らなかった。確かに一番有名な曲かもしれない。
そして歌の音域も高いが、普段の喋り声と違って荻上の歌声は楽に響く。
『すご…荻上さん、声、高ーーーっ…』
サビのところでは原曲ではベース音とドラムのハイハットだけだが
荻上さんもギターでベース音だけを鳴らして再現につとめる。
気持ちよさそうに歌う荻上さんの顔につられて、笹原の顔も笑顔になる。
その日、荻上は2時間、喋ることなく連続で歌い続けたのだった。
254マロン名無しさん:2006/04/07(金) 02:25:08 ID:???
以上です。
あれ、なんか笹荻風味が強いというか、ギター表現とか読み手置いてけぼりというか…orz
ともかく、もうなんでも弾かせちゃってください。
セッションでも路上でもライブハウスでも、学祭でもドンと来いでご自由に続けてください〜。

と言いながら、一人でセルフリレーしたりして…
255マロン名無しさん:2006/04/07(金) 04:26:51 ID:???
リアルの高音が超うまい高校時代の部活の先輩(男)を思い出したなぁ・・・。
個人的には荻ちんは低音いけるイメージだけどw
256マロン名無しさん:2006/04/07(金) 07:56:49 ID:???
>現聴研
新たな試み乙です!
二人が部室で歌う、いい感じの情景が浮かんできますよ。
わしもさっそく参戦準備させていただきます。
しかしこの場合、コスプレカップルの嗜好は何になるんだろうか。やっぱコスプレ系かな?
257マロン名無しさん:2006/04/07(金) 10:54:31 ID:???
>コスプレ系
Kissとかデーモン小暮とかジェームズ小野田(米米)とかXとか、見栄えとエンターテイメントを求める部類か?


……やっぱ小林幸子?
258マロン名無しさん:2006/04/07(金) 11:09:26 ID:???
コスカップルはUNDER17とか声優系も有りかも
てか、オギーのギター以外のパートは先に書いた者勝ち?
259マロン名無しさん:2006/04/07(金) 11:12:48 ID:???
それが“世界”を形成していくのでしょう>早いもの勝ち

でもキャラの性格(好みのスタイル)に破たん起きそうだね。パラレルということで気楽にいくのもいいかも?

あと、むしろ美味しいのは荻上以前と見た!
260マロン名無しさん:2006/04/07(金) 12:08:25 ID:???
リレーというより、お題に対する多層なパラレルが良いかもね。
ドリフの「もしも…」シリーズみたいに。
261マロン名無しさん:2006/04/07(金) 12:32:45 ID:???
上司の目を欺きながらソッコーで書き上げたので投下いたします。書いたもん勝ちというか、負けている気さえしますが、勘弁してやってください。

2レスです。
262げんちょうけん第2話(1):2006/04/07(金) 12:35:37 ID:???
いつものように部室では、笹原がギター専門誌をパラパラと眺めている。
別に買いたいわけではない。彼は演奏ができない。
興味がないわけではない。はじめてこの部室に来た時には、退室したフリをした斑目たちにドッキリを仕掛けられ、誰も居ない部室で「エアギター」を弾いているところを目撃されている……。

傍らで自分のギターをいじっていた荻上は笹原に、「現聴研にはほかにも楽器のできる人はいないんですか?」と尋ねた。

「ああ、いるよ。久我山さんと高坂くんができるでしょ……」
「高坂さんは何でもできそうですものね」
「うーん、でも彼はね……天然だから」
「はあ……」
   ※    ※

荻上が入部するずっと前の2002年。現聴研部室に、斑目、田中、久我山、笹原がいつものようにタムロしていた。
斑目は部室のコンポで、10年以上昔の打ち込み系テクノバンド「ソフトバレー」のファーストアルバム「アース・バーン」を流して聞き入っている。
傍らでは久我山が自分のギターを持ち込んで何度もコードを練習している。しかし、彼が実際に一曲弾いたところはまだ誰も見たことがない。

田中は笹原に、LPレコードのジャケットを手にもって、ウンチクを垂れていた。海外の有名バンド「女王」の代表作「世界に告げる」だ。
「どうだ笹原、このSF小説のような世界観を感じさせる絵柄! ピングーフロイドの“原始心母”のように、不可解なジャケットから物語を感じないか?」
「でも女王はメジャーでしょう。うちはマイナーな音楽が専門じゃないんですか?」
「一般人が存在を知っていても、その奥深いところにも目を向けるのが俺らみたいな人種だよ」
「でも田中さんCDも持ってましたよね?」
「LPジャケットは一幅の絵なんだよね〜、質感が違うんだよ。……見比べてみる?」
カタンとデスクの上に同じ絵柄のCDが置かれた。
263げんちょうけん第2話(2):2006/04/07(金) 12:39:42 ID:???
斑目は音楽を止めて、「え〜第245回、ソフトバレー復活ライブ見に行きたいな会議〜」とおもむろに会議を招集した。
笹「この夏に復活したばかりなのに、そんなに回数重ねてるんですか?」
田「そこは流せ」
斑「いやまあ、あの3人が再結成するとは夢にも思わなかったけどなあ」
久「あ、ひょっとしてモダンチェキチェキズと共演したりして。夫婦つながりで……」
田「ありえねえ!方向性違い過ぎ」

そんな中、ガチャリと部室のドアが開き、春日部さんがやってきた。「うお」「何だ?」春日部さんは驚く彼らを一瞥した後、笹原を手招きした。
「ササヤンちょっと相談あるんだけど」
「え、俺っすか?」
「うん、あんたが一番まともそうだから……ってなんで敬語なのよ。タメでいいよ」と語り、聞き耳を立てる他3人をにらみ付けてから、本題に入った。

「高坂の部屋で、“椎菜へきる”って奴のCDが散乱してるのに気付いたんだよ……」

   ※    ※
荻「椎菜……へきる……ですか……」
笹原の話を聞いて、さすがに荻上も微妙な顔をした。
   ※    ※

舞台は再び2002年。
笹「あー、椎菜へきる。声優ね」
春「いやデパートは関係ないよ」
(それは西友だろ)と心の中で突っ込む斑目。春日部さんは、周りの4人の反応が鈍いのを見て憤る。
「何?あんたらの世界ではフツーなのそれ? エムネミとかザザンとか平井拳を聞かないの?」
田「俺らも一応ヒットチャートは押さえるよ」
久「は 始ちとせは、いいと思うな……」

しかし斑目は、「俺聞いたことねーよ。ここ数年の巷のヒット曲なんて」と、ボリボリとケツをかきながら呟いた。思わず固まる周囲。

   ※    ※
荻上は、「なんか、高坂さんがどうとかって話じゃないですね、もう……」と汗を拭う。笹原も、はははと情けなく笑うしかなかった。
(この現聴研部室に集う人間は、みな一癖も二癖もあるのだ)荻上は、この世界はまだまだ奥が深そうだと感じた。
264マロン名無しさん:2006/04/07(金) 12:40:39 ID:???
以上です。コミックが手元にないから、原典とかなりズレがあると思いますがご容赦ください。
265マロン名無しさん:2006/04/07(金) 12:42:05 ID:???
すみません、タイトルひらがなにしてました。
正しくは現聴研で。
266マロン名無しさん:2006/04/07(金) 15:03:56 ID:???
またまた新しい趣向ですなあ。

>現聴研
だいぶ前の本スレで、荻上さんは歌が上手いか下手かという話題が出て、両極端に分かれたのを思い出した。
(上手い派 物凄く上手くド演歌を歌いこなす荻上さん、下手派 ひとたび歌えばジャイアンリサイタル状態の荻上さん)
今回は上手い派のヴァージョンアップ版ということのようだな。
「今のは慣らしです」にワロタ。
>コスプレカップル
ちと古いがスペクトラムなんかどうでしょう?
衣装も音楽も派手だし。
>げんちょうけん
リアル斑目キター!
多分斑目も、水道屋の事務作業の合間にこんなことやってそう。
仕事しろよ!
(褒め言葉の積もり)

余談だが、現聴研ってひらがなにすると備長炭みたいだな…
267マロン名無しさん:2006/04/08(土) 11:46:52 ID:???
現聴研第1話書いた者です。

>>255
荻上さんは高音も伸びるけど、低音も少しザラツキがある良い味わいの声が出るんじゃ
ないかと妄想しました。
下半身がしっかりしてるから、腹筋や横隔膜も大丈夫で声量もあるんじゃないでしょうか。

>>256
ありがとうございます。しかし1話目が笹荻の情景になってしまいましたね。
音楽オタの会話とか世間とのずれ、キャラの当てはめがこのネタの肝なのに(汗)。
ともかく参戦楽しみです!wktk

>>262-263
エアギターとかエアドラム有り得ますねwww
そしてこの会話!こういうのが読みたかったです。しかしへきるがッ!
ファン曰く「声優じゃなくてアーティスt(ry

>>266
本スレ読んでないのに企画が被ったんでしょうか。
ともかくオギー、ギターも歌も神レベルに書いてしまってる気がします。
268痛い話:2006/04/08(土) 19:18:30 ID:???
本編での斑目の態度にいいかげんじれてきたので、
ネタバレスレにあった高咲の結婚式を利用して、
”こっぴどく振られる話”を書いてみた。

本当に痛いです。
269痛い話:2006/04/08(土) 19:19:35 ID:???
「斑目…」
彼女の言葉が甘く耳をくすぐる。
口付けを交わす。熱い吐息。抱きしめる。柔らかな体。
彼女を全身で感じながら、自身の刻印を刻もうとして…

目が覚める。鳴り響く騒音。
とりあえず騒音の元である目覚ましを止めた。
周りを見渡すと、見慣れた自分の部屋。もちろん一人きり。
「ハァ…」
深くため息をつく。
(彼女と会わなくなって、一体何年経ったと思ってるんだよ…それに今日は、あの二人の…結婚式の日だろうが…何考えてるんだよ、俺…)
うなだれて、自嘲する。
斑目と咲が疎遠になって久しい。もともと直接連絡を取るような関係でもなく、咲の卒業以来部室にめったに顔を出さなくなった今では、噂すら聞こえてこない。
そんな斑目に届いた唯一の情報は、高坂と咲の結婚式の招待状だった。

招待状が来た事はうれしかった。自分がまだ忘れられていない証拠だから。
しかし同時に、それは斑目にとって決断の時でもあった。
もうおぼろげにしか思い出せない顔、声、姿。
このまま会わなければ、やがて忘れてしまえるだろう。
姿も、想いも。
そう思っていた。
でも会いたかった。一目でも見たかった。今の彼女を知りたかった。
今更ながら斑目は思い知った。自分が彼女を忘れてなどいなかったと。
今でも自分が彼女を好きなことを。
270痛い話:2006/04/08(土) 19:20:22 ID:???
早々に出席の返事を出し、その日を待った。
待って、待って、待ち望んだ。
斑目には待つことしかできなかった。あの時も、今も。
…そして、待ち望んだ日が来る。

その日斑目はひたすらに咲を見つめていた。
周りの声も、姿も、おぼろげにしかわからない。
ただその笑顔に、こぼす涙に、凛とした姿に見とれ、彼女がこちらを向いて、笑いながら小さく手を振る姿に心臓を飛び上がらせ、高坂と口付けを交わす姿に心を凍らせた。
そして溢れそうになる想いを飲み込む度に、ひたすら酒を飲み…潰れた。

数日後、斑目は『高坂 咲』の自宅に呼ばれた。
居間のソファに向かい合い、他愛のない世間話をする。
不意に咲が席を立ち、斑目の隣に座り直す。
慌てる斑目に、咲は硬い声で尋ねた。
「ねえ、斑目。私に何か言う事はない?」
「…何もないよ」
ぎこちない笑顔と共に返す。
咲はそんな斑目の顔を両手で掴み、真正面から見つめた。
「本当に?」
斑目の目の前に咲の顔がある。真剣に、まっすぐに、自分を見つめている。
彼女の瞳に自分が写る。今にも泣き出しそうな自分が。
無理にでも笑おうとする。
そんな斑目に咲は告げた。
「言って」
271痛い話:2006/04/08(土) 19:21:59 ID:???
「…きです」
「聞こえない」
「好きです」
「もっとはっきり」
「好きです!!!」
叫ぶ。言葉と想いと涙が溢れる。
ぼやけた視界の向こうで、咲が優しく笑っていた。
彼女に抱きつく。彼女も優しく抱きしめる。
「ずっと好きだったんだ。ずっと前から、ずっと…好きで、好きで、好きで、どうしようもなくて…」
吐き出すように斑目は想いを告げた。泣きながら。
そんな斑目の頭を、咲は優しく撫で続けていた。
やがて斑目は咲から離れると、彼女を正面から見つめ、言った。
「愛しています」

「ごめんね…無理に言わせるような事して…」
咲は優しく微笑みながら謝る。そして真剣な表情に変わる。
「気持ちはうれしいけど…私はそれに応えられない。私にはすでに愛する人がいて…私は貴方を愛せない」
それが彼女の答え。
「どうして!?」
斑目が叫ぶ。
咲は悲しそうな顔をして、斑目に告げた。
「それは貴方自身がわかってるでしょ?」
そのまま立ち上がり、背を向ける。
「帰って…もう二度と、会わない」
呆然とする斑目を残し、咲は居間を出て行った。
272痛い話:2006/04/08(土) 19:22:45 ID:???
「これでよかったの?」
とぼとぼと帰路につく斑目を遠くに見つめながら、咲が高坂に問いかける。
「ごめん…嫌なことをさせて…でも、これ以上あんな斑目先輩を見てられなかったんだ…」
高坂の声も暗い。
「これしかなかったの?」
咲の声が震えている。
「…ごめん」「謝らないで!」
涙を流しながら、咲は高坂を睨みつけた。
「…そうだね。もう謝らない」
そう言って高坂は咲を抱きしめた。そのまま彼女に語りかける。
「僕は貴方を愛します。世界中の誰よりも。永遠に、貴方だけを…」
彼女の返事はない。ただ、咲は高坂をきつく、きつく抱きしめた。

斑目は自宅で一人、ぼんやりとしていた。
涙がこぼれる。慌てて手でぬぐう。
でも、涙は次から次へと溢れ出す。
「あは…」
不意に笑いがこみ上げる。
「あは、あはは!あははははははは!!はーはははは!!!…」
泣きながら大声で笑い続ける。そのまま机から封筒を取り出す。
中にはあの時の、彼女がコスプレした時の写真。
震える手で切り裂く。何度も、何度も。
そして泣き続け、笑い続けた。いつしか眠りに落ちるまで。
273痛い話:2006/04/08(土) 19:23:30 ID:???
翌朝、目が覚めると斑目は自分が酷い状態だと思った。
目と喉が痛い。全身の筋肉が硬直している。熱っぽく、吐き気がする。
昨日を思い出す。心が痛む。自分が完全に振られたことに。
それなのになぜか心が軽くなった気がした。
(そうか。簡単な事だったんだ)
何がなのかは斑目にもわからない。ただ、そう思った。

ある日、高坂夫婦のもとに一通の手紙が届いた。送り主の住所が書かれていない手紙には、「ありがとう」とだけ記されていた。
その後の斑目を二人は知らない。
274痛い話:2006/04/08(土) 19:24:52 ID:???
以上です。失礼しました。

余談ですが、その後の斑目は幸せになったと信じています。
275マロン名無しさん:2006/04/08(土) 22:07:02 ID:NTRKDWjs
>痛い話
うう〜…本当に痛い…心が…(涙)
この斑目は、忘れることができずに何年も思い続けてしまい、「風邪をこじらせた」状態になってしまったんですねぇ…
自分も斑目のSSとか描いてますが、「こうならないで欲しい」という思いを込めて、あえて痛々しい話かいたりしてしまいます。
深刻になる前に、なんとか吹っ切ってもらいたいモンです。そして幸せになって欲しい。
乙でした。
276マロン名無しさん:2006/04/08(土) 22:19:33 ID:???
絶望した!「痛い話」に絶望した!

待ってろよ、斑目。
俺が今書いてる10年後の話で、お前さんを幸せにしてやるからな。
277マロン名無しさん:2006/04/08(土) 22:29:29 ID:NTRKDWjs
>>276
うわうわ!!めちゃめちゃ楽しみなんですが!!
幸せ展開、wktkしながら舞ってますw
278マロン名無しさん:2006/04/08(土) 23:02:38 ID:???
>痛い話
ようやく斑目が階段を一段上った、そういう話だな。うん。ええわ。これ
279マロン名無しさん:2006/04/09(日) 02:06:47 ID:???
>>痛い話
ええーーーーーーっ!?うわあ……
い、いたい…遺体、いや痛ーーーーい
しかし、これはこれでアリ…ですゲフっ


さて、現聴研第3話書きました。
これってアレですね。マニアック過ぎて、僕が書きたいように書くと
書いた人しかわからないですね、音楽ネタが。開き直って全開でいきました。
すみませんorz
280現聴研第3話(1/3):2006/04/09(日) 02:07:37 ID:???
「ラブソングが嫌いな荻上です」
「どーしてそんなに盛ってるんですか」
入会の際に荻上さんが発した第一声はこれだった。
春日部さんがフォローに入る。
「おいおい、それだとマイナーかメジャーに関わらず邦楽聴けんでしょ。
 キミも聴くんでしょ?」
「私は硬派ですから、人生や友情や他にもテーマあるじゃないですか」
笹原は半笑いで場を取り繕うとする。
「まあ、そんなスタイルもありじゃないの(苦笑)」
しかし大野は勢いよく立ち上がり
「ラブソングが嫌いな女子なんて居ません!」
と叫ぶのだった。
そんなことが有って、笹やんの前でのギター披露があった次の週。
281現聴研第3話(2/3):2006/04/09(日) 02:08:35 ID:???
一人で部室で、荻上はギターを抱えていた。
今日はワインレッドのセミアコースティックギターの弦の張替え中だ。
外した弦は、飲み終わった紅茶の缶にぐいぐい入れる。
そして弦の巻き器をペグにつけ、右手で弦を引っ張りながら
左手でぐるぐるペグを回す。糸巻きに綺麗に弦が巻きついて
その様子に荻上自身が納得したようで、満足げだった。
「♪フンフ〜ン」
チューナのマイククリップをギターのヘッドにつけて調音をしながら
軽く鼻歌がもれる。
3回調音を繰り返すと、音程を確かめるようにゆっくりと演奏を始めた。
「♪明日の、シャツに迷ってるだけで、もう〜」
宇佐実森、中期の名曲「日記」だが、これは会えない日々を綴った
切ない、ラブソングの部類に入る曲で。。。
しかし部室で一人、悦に入って荻上は熱唱している。
続いて荻上は、銀色の筒を左手薬指にはめ込んだ。いわゆるボトルネックだ。
カントリーやハワイアンなんかで使用される、あれである。
特徴あるミューンという音を響かせ演奏が始まる。
セミアコースティックなので、アンプに繋がなくてもそれなりに
音は響いている。まあ近々、アンプやエフェクターも持ち込みそうだ。
「♪恋でしょうか〜 街がにじんできた〜」
どうやらこれも宇佐実森の同じアルバムに収録されている、
ベタなラブソング「恋カシラね?」だ。
「♪頷いてしまったら〜 今度からどんな顔を見たら良いのよ〜」
歌い終えて一息ついて満足げに、ギターを机に横たえたその時。
ガチャリ。
282現聴研第3話(3/3):2006/04/09(日) 02:09:13 ID:???
「ちーす」
春日部さんが入ってきた。
焦って直立不動になる、挙動不審な荻上。
「さっき何か歌ってなかった?私は知らない曲だったけど」
「…はあ、いえ、その」
赤面しつつ、しどろもどろで返す荻上。
そこへ大野がやって来る。
「こんにちは―」
憮然とした気持ちを顔に出さないように努めている。
もっと興が乗って絶唱してるところへ静かに扉を開けて微笑む…
そんな計画を立てていたところへ、春日部が入ってしまったので
今日の計画は中止になったのだ。

「こにゃにゃちわ〜〜〜」
空気を読まない良い勢いで、そこへ朽木が登場した。
「あ!荻チンにょー。ちょーどよかった!」
嬉しげにmp3プレイヤーを取り出す朽木。
「こないだ夜、秋葉の路上で弾き語りしてたよね〜心打たれたよー」
「ひへっ!?」
再生を始めたそこには、雑音交じりでは有るが確かに荻上の歌声。
どうやらアコギ1本で弾き語りしているようだ。
(♪恋は激しく、やさしい 海みたい〜 切ないね…)
「もー、荻ちん、宇佐なんてマニアックだったのに、お客さん多かったね〜(笑)
 でもほら、カカオは名曲だし〜」
そして携帯を取り出すと
「ほら、動画もあるよ」
追い打ちをかける。
283現聴研第3話(4/3):2006/04/09(日) 02:10:05 ID:???
(♪切ないよ〜夢だけが〜 ほろ苦く〜 終わったの〜)
荻上はいたたまれなくて身をよじる。
ニヤニヤする大野。
春日部さんは
「ま、まあ待て、これそんな恥ずかしくないだろ?」
「あ、あの、その…弟が……弟に、彼女が出来てお祝いに…」
かなり苦しい言い訳をするが、大野が横で新たに
朽木のレコーダから曲を流し始める。
(♪あなたの声が 聞えるように〜 いつも窓を 開けています〜)
これまた宇佐の中期名曲「露草」だ。切ない慕情曲で、恥ずかしがるようなものではない。
しかし、何やらトラウマがあるようで、春先のフォーク研究会での
飛び降り事件のように突発的に窓へ奪取する荻上。
「ここは3階だ!!」
必死で止める春日部さん。
「えーと、何が起こってるのかな?」
斑目や笹原もやってきたが、部室は阿鼻叫喚の様相を呈した。
284マロン名無しさん:2006/04/09(日) 02:11:06 ID:???
数え間違えました。
ユサミモリファンじゃないとわからないネタばっかりですゴメンナサイ。
出だしの言葉思いついただけで、勢いでやっちゃいました。
285マロン名無しさん:2006/04/09(日) 02:43:44 ID:???
>痛い話
斑目はよかった。うん、がんばったよね、斑目。
でも、高坂くんが……。
自分にできないことを咲にやらせるようなひとなのかなあ、という疑問が。
286マロン名無しさん:2006/04/09(日) 12:26:50 ID:???
>現聴研第3話
うーん歌のネタはよく分からんが、大したハマリようだ。
287マロン名無しさん:2006/04/09(日) 12:55:19 ID:/Hi/9trq
>現聴研第3話
曲とか歌手とかはわかりませんが、荻上さんが路上ライブしに行ってる…その情景を思い描いて、聞いてみたくてたまらまくなったですよ。
面白い試みなので、どんどん続編いっちゃってください。

ビートルズとかはアリですかね?あくまで邦楽ですか?
288マロン名無しさん:2006/04/09(日) 13:14:57 ID:???
現聴研3話書いた者です。

>>286>>287
こんな作品に感想いただきありがとうございますorz
メジャー曲も混ざるのは有りで!洋楽も有りで!禁止事項は無いです!
289マロン名無しさん:2006/04/09(日) 17:44:37 ID:???
アルヒハ○ノヒっすかww
遊佐さんの曲の傾向が少女趣味のものからガラっと変わってきた時期の作品ですね〜
初期のアルバムはみんな持ってるんですがこの辺からまばらだったり…
(アルヒ○レノヒ以降はSmall is b○autifu、ブーゲ○ビリアlと、数年置きに思い出したように^^;)
いずれ全部揃えるつもりですが、お勧めアルバムとかありましたら是非w

遊佐さんだと初期の曲(地○をくださいとか)はあまりラブソングって感じは強くなかったので、
荻上がいったいどういう流れでこの人にハマったのかで色々解釈の変わりそうな話ですね〜
290マロン名無しさん:2006/04/09(日) 18:57:08 ID:???
>>痛い話
キツい幕引きの仕方ですが、荒治療でもしなければ吹っ切れないのではないかという点は同感でした。
でも、「ありがとう」の手紙をだしちゃう斑目。お前優しすぎるよ、泣ける。


>>現聴研第3話
>「ラブソングが嫌いな荻上です」「どーしてそんなに盛ってるんですか」
>「ラブソングが嫌いな女子なんて居ません!」

凄いなー、はまってるなぁ!
かたくなにツンなくせに自分は路上で弾き語りですか荻上サン!
作者の人は通なんですねー。弦の張り替えから演奏までの描写凄い。
専門用語がバンバン出てくるけど、それがまた、音楽オタクSSにハマっていてイイです。


しかしまたにわかに活気づきましたね!
「撤収が始まってるのかと思った」と書かれていた>>201の人、火付けGJ!
291マロン名無しさん:2006/04/09(日) 22:01:37 ID:???
>>289
うわあ、まさか話題についてこられる方が存在するとは(汗)!?
アルヒハレ○ヒは、確かにファンの離脱が起こった分岐点ですね…。
お勧めアルバムですか?「全部!!」と言いたい所ですが、無難なところでは
ベストアルバムの「mimo memo」とか「T/R/A/V/E/R/O/G/U/E」とかどうでしょう。
あえて選ぶとすると>>289さんが買われてない中で個人的な思い入れの強いアルバムで、
「r/o/k/a」「E/C/H/O」あたりに、僕の心にヘビーヒットな曲があったりします。

>>290
通というか「元」素人独学ギター弾きだっただけで(汗)。
今後も良いネタあったら書こうと思います。ありがとうございます。
292サマー・エンド-4-〜まえがき:2006/04/09(日) 22:32:02 ID:???
え〜とですねぇ・・・。
前回、最後に次は最終話って言ったんですけど・・・。
すいません。最終話にできませんでした・・・orz。

もう、ペンが進まない、進まない・・・。
スランプです・・・。

とりあえず切りのいいとこまで書けたんで、出します。
でも13レス分あるんですけどね・・・。

どうしてもラストが長くなってしまうな・・・。

35分から行きますね。

それでは、宜しくお願いいたします。
293サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:36:13 ID:???
中ジョッキが全員に行き渡たったのを確認すると、大野は荻上の肩をポンと叩いた。
「ささ、会長お願いします。」
荻上はやや顔を赤らめて立ち上がると、ジョッキを重そうに両手で掲げた。
「え〜〜〜と…………………………、乾杯!」
ちょっとの沈黙の後でどっと笑いが起きた。
「ちょっと荻上さん、もっと何か喋って下さいよ!」
「いやぁ…、ムリっす…。こんなん慣れてなくて…。」
もう!と大野は呆れてビールに口をつけた。荻上も恥ずかしさを誤魔化すようにジョッキからビールを少しだけすする

金曜の夜、居酒屋の座敷の一室に現視研OBが集まっていた。
斑目、久我山、田中に、笹原、高坂、咲。現役の大野、朽木、恵子と、新会長に就任した荻上。
漸く全員の予定が整ってのOB会である。
「しかっし、もう7月かあ〜。月イチでやろうとか言ってたのに。」
「そうですね〜。いざ仕事始めるとなかなか集まれないもんですね。」
「まあ、お前とか高坂は忙しそうだもんな。」
「斑目さんは暇そうですよね。まだ部室行ってるんですか?」
「行ってねぇよ! …たまにしか。」
「行ってんじゃねーすか!」
お通しを摘みつつ、久闊を叙す斑目と笹原。注文した料理が運ばれてくると、一同の呑みのペースも上がってくる。
「そ、そういえば田中、引っ越すとか言ってたけど。も、もう決まった?」
大根サラダをシャキシャキと頬張って久我山が尋ねる。田中は照れ笑いを浮かべた。
「や〜〜…、まあ…、なかなかねぇ…。」
ボソリと零した田中の応えに、ビールから日本酒に移行していた大野の目が光る。
「もう! 早く決めましょうよ! ちゃんと一緒に住もうって言ったじゃないですかっ!!」
「そうだね…。決めないとだよね…。」
294サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:36:54 ID:???
向こうではクッチーが一人寂しげに飲んでいる。
「ほら、朽木くん。こっち来ていっしょに呑もうよ。」
「うう〜…、笹原さんの優しさ。不肖クッチー、一生涯忘れませ〜ん…。」
隣の斑目は苦笑いで少し横にずれて席を開けた。
「朽木くんは新会員が入っても相変わらずなのネ…。」
「どうやら、新会員に早くも何かしちゃったらしいですよ…。」
「いやぁ…、ワタクシはフレンドリィに接しつつ先輩の威厳をばですねぇ…。」
「朽木くん…。何しちゃったの…?」
斑目の問いに荻上はブスっと口を尖らせた。
「言いたくありません!! おかけで一人逃げられたんですから!!」
「うううううう………。」
「まーまーまー。ただでさえ年上なのに会長になれない憂き目を味わっている朽木くんなんだから…。」
「ううう…。斑目先輩の優しさもワタクシ一生忘れません。このご恩はいつか必ず…。」
「いや、いいよ…。むしろ忘れて…。」
295サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:37:26 ID:???
そんなこんなで宴は踊る。酒も進む。
と、荻上はすくっと立ち上がった。話していた笹原と斑目は二人して荻上の顔を見上げる。
目はとろーんとして、なかなかイイ感じに酔いが回ってる。
「ちょっとすいません。OBの方々にお酌してきます。」
「え。いいんじゃない別に。」
「いえいえ…、私は会長ですから…。ちゃんとご挨拶しなければ…。」
「いーっていーって。俺も笹原もそんなことしたことねーもんな。つーか、OBって初代とハラグーロしかいなかったんだけど。」
「いえいえ、私は皆さんを持て成す役目がありますからね…。」
そう言うとフラフラしながら大野の田中の間に割って入ってペタンと座った。
「さー田中さん…。楽しんでいただけてマスカ…。今日は大野さんへの日頃の不満を忘れてパーっとやって下さい…。」
田中の背中がビクッと硬直する。
「いや…、俺は不満なんてないよ…。」
「あれ…? こないだ言ってたじゃねーですか…。最近太ってきたとか、当初と性格が変わりすぎでついてけないとか…。」
「あはははっーーー!! 何言ってんだろねー荻上さん!」
田中はぽけーっとした顔の荻上の向こうの大野に視線を移す。
大野がかつて無い表情で田中を睨んでいた。
「荻上さん…、今の話、kwsk…。」
田中は死を覚悟した。

笹原と斑目はそれを苦笑いで眺めた。
「や〜、頑張っておるね、荻上さん…。」
「はは…、そうすねぇ…。」
笹原は気まずそうにジョッキを口に運ぶ。斑目も釣られるようにビールを一口呑んだ。
「…………。」
「………。」
沈黙が二人の間に流れる。
296サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:37:59 ID:???
斑目が言った。
「どうですか? 社会人になってもラブラブですか?」
「いや…、まあ…。」
はにかむ笹原。面白がって斑目は畳み掛ける。
「楽しいですか? 使えるお金も増えていろんなことしちゃってマスカ? 薔薇色の日々なんですか、笹原クン?」
「ははは…、そうっすね…。」
ニヤケ顔の斑目が嘗め回すように笹原を見る。笹原は顔を背けつつ、視界の隅に咲の姿を見ていた。
咲は高坂の隣に座って、楽しそうに話している。現視研での4年間、ずっとそうしてきたように。
眩しいくらいの笑顔を覗かせて、高坂と一緒にいる。
久しぶりに会った高坂は、やはり疲れているようだったが、今はそんなことを少しも感じさせない笑顔を、咲に向けていた。
何も無かったような、どう見てもお似合いの二人に、笹原にも見えていた。
「えーこのー! ラブラブなんだろー! 羨ましーなーコノヤロウ!!」
「ははは…、止めてくださいよぉ…。」
笹原はわざとらしいくらいに照れてみせた。
そんな自分に吐き気がした。
「そうでもないみたいよ。」
そう言ったのは恵子だった。いつの間にか、荻上の居た席に座っている。
ワインのグラスを片手に、荻上の取り皿に残った焼きソバをパクついている。
恵子の顔はアルコールに上気していたが、目ははっきりと冴えていた。
「ねー、アニキ。」
笹原はその問いかけに生唾を飲み込んだ。
自分を見る恵子の目は、真っ直ぐに伸びた人差し指のように鋭い。
「ねー。この前までケンカしてたんだもんねー。」
恵子はいつものようにニパっと笑った。笹原は無意識に視線を外し、ビールを喉に注いだ。
恵子が知っているはずはないと思ったが、あの目と向かい合うのは嫌だった。
297サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:38:32 ID:???
「あれ? そうなの?」
「そーそー。でも〜、もー仲直りしてぇ〜、今は前以上にラブラブエロエロですってよ斑目さん。」
「そうなんですかっ、笹原クンッ!」
「ははは…、まあ…、ちゃんと仲直りしましたんで…。」
笹原は斑目に視線を向けて、愛想笑いを浮かべる。
「だよなー。そーじゃなくちゃヤキモキして君たちを見守った我々の立つ瀬が無いよぉ〜。」
楽しそうな斑目の顔を見ると心が痛んだ。
また嘘をついた。また同じ嘘だ、と笹原は思った。
今日だけじゃなくて、何度も何度も嘘をついてきた。あの日から毎日、今の関係を壊したくなくて嘘をつき続けた。
斑目も、大野も、そして荻上も、いま自分たちがしていることは何も知らない。
自分がしている、ひどい裏切り。ただの浮気以上の、自分たちの仲間の一人であるサキとの関係。
それを知ったら、どう思うだろう。

(決まってる。軽蔑だよ…。)

笹原はまたビールを呑む。
ちっとも酔えやしない。笑い合う仲間の声も、表情も、どこか遠く感じて、他人のような気がした。
笹原は咲に目をやる。嘘をつかずに向き合えるのは、もうサキしかいなかったから。

「あ〜…、高坂さん…、お忙しいところわざわざお越し下さいまして…。」
すっかり酔いが回った荻上は、高坂と咲の前に座り込むと大仰にお辞儀をした。
まるでカラクリ人形みたいに、しっかりと手をついて、ぺったりと頭を下げる。
高坂はいつもの笑顔で応えた。
「こちらこそ都合がつかなくて悪かったね。」
「すいません…。今日は大丈夫だったんですか…。」
「うん。漸く一区切りついたからね。久しぶりに皆の顔が見れて嬉しかったよ。ありがとう。」
ありがとう、という言葉に荻上は満面の笑みを浮かべた。
298サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:39:07 ID:???
咲は思った。
(こういうことサラっと言えるのが、コーサカなんだよなあ…)
そして、荻上の笑顔から目を逸らす。
荻上がああいう顔をするようになったのは、笹原と付き合い始めたからだ。
それが分かっていた。
前の荻上なら、照れ隠しにムスっとした顔をしていただろう。それが自然にあんないい表情をするようになった。
笹原がいたからだ。笹原が好きだから、そんなふうに変われた。
全部分かっている。
「どうしました春日部先輩…。」
いつの間にか沈んでいたのだろう咲の顔を、荻上が覗き込む。その無垢な表情が咲の胸をさらに締め付けた。
「どうしたの咲ちゃん。ちょっとペース速かったかな?」
高坂の手が咲の肩に触れる。それは手の温もりは、もう安らぎではなく苦痛を与えていた。
咲はそれとなく体を捩って高坂の手を振り解いた。
「あー、ちょっと速かったかな…。もうそろそろウーロン茶にしとくわ。私は明日も仕事だからね…。」
咲は斜向かいに座る笹原を見た。
笹原も咲を見ていた。いや、たぶん私と荻上を見ていたのだろう。
(私と荻上が話すの見て、何て思うんだろう…。)
できるだけ普通にしようと思っていた。高坂にも、荻上にも、笹原にも、他の皆にも。
でもやっぱり、こうしていると胸が痛くて仕方なかった。
皆を騙していることが、自分が笹原を好きでいることが、苦しくて堪らない。
それでも、笹原の瞳の中に自分と同じ苦痛を見つけて、安心してしまう自分がいた。

299サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:39:40 ID:???
笹原は咲の瞳の中に自分と同じ苦しみがあったことに、不思議と嬉しさを感じていた。
それが今、二人を繋ぐ絆だと思った。
咲がこんなどうしようもない状況でも、自分を好きでいることの証に思えた。
「へへ〜、なにオギーを見つめてんだよ!」
恵子が笹原の頭を叩く。思わず口に含みかけていたビールを吹いた。
「汚ね〜な〜、サル。」
「お前がやったんだろ…。」
笹原はどさくさ紛れに恵子の顔を見た。もう目に鋭さはなく、優しい目をしていた。
視線の先には荻上がいた。
「ほんとさぁ〜…、大事にしなきゃダメだよ〜。」
恵子は小さくため息をつく。胸の底から、吐き出すように。
「アニキのこと好きになるヤツなんて、そうそう居ないんだかんな…。」
笹原は。
「うん…。」
頷いた。はっきりと、恵子が納得できるように…。
恵子はまたニパっと笑った。
「よーし、それじゃあーーー乾杯しよーー!!!」
唐突に恵子が立ち上がる。
「アニキとオギーの仲直りと、ラブラブな日々に乾杯だよぉーーー!!!」
恵子は目一杯の笑顔と声でワイングラスを高々と掲げていた。
あまりの勢いに、一瞬、場に奇妙な空気が流れる。
苦笑いしつつ、斑目もジョッキを掲げた。
「まあー、いんじゃね? おもしれーし。」
大野の追及に汲々としていた田中も乗っかった。
「そーカンパイ! ほらっ、大野さんも!」
「まーいーですけどねー。仲直りはメデタイですからね…。」
「カンパイするにょ〜〜〜!」
300サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:40:32 ID:???
高坂もグラスを上げる。
「あれ? 笹原君たちってケンカでもしてたの?」
荻上は目をパッチリと開いて赤面していた。
「ま……、ちょっと……、でもアレから笹原さんと更に恋人っぱくなれたかなぁ…ってナニ言っでんだが…。」
「なんですか! 私に泣きついてたくせに、そっちだけ良い雰囲気になって!」
「あははは…、いや恥ずかしいっす。」
荻上はふくれっ面の大野に遠慮がちに小さくグラスを上げた。
笹原と咲は黙ってグラスを上げていた。
精一杯の作り笑いが顔にあった。
「それでは現視研イチの二人を祝しまして、カンパ〜〜〜イ!!」
「「「「「「「カンパ〜〜〜イ!!」」」」」」」

まったく、なんつー、ひどい嘘だよ。


ランチタイムを終えた喫茶店は閑散としている。
お客は歳を取った小汚い男性が一人、奥の席に陣取っていた。
笹原と咲は並んで座っている。目の前には汗をかいたアイスコーヒーとアイスティーがあった。
古い冷房器具が店の奥で唸っていた。空気を吐き出し口にはビニールの帯がなびいている。
有線からジャズが流れていた。
窓から注ぐ光が強すぎて、店内は木陰のように暗く穏やかに時が流れている。
窓側の強い日差しを避けた席に、二人はいた。
二人はいつもと変わらない顔をしようとしていたが、ストローは袋からまだ出されてもいなかった。
笹原は時計を見る。もうそろそろだった。
「…来なくてよかったのに。」
咲が前を見たまま言った。笹原は咲に目をやる。
両手はテーブルの下に隠されていて、顔を見ないで気持ちを知ることはできなかった。
「そういうわけには行かないよ…。」
笹原は言った。
301サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:41:05 ID:???
「俺たちの問題なんだから…。」
咲は笹原の手を見た。テーブルの上で所在無げに組まれた両手は、何度もその形を変えている。
不安です、と書いてあった。
笹原にとっては初めての別れ話だろうに、それでもついて来てくれたのは、正直嬉しかった。
「うん…。」
咲はそう言って、忙しなく動く笹原の手に自分の手を重ねる。
笹原の手は一瞬驚いたように止まって、そしてゆっくりと咲の手を握り返した。
手が少し冷たかったのは、冷房のせいじゃないんだ。

からんころん、と古臭い音がした。二人は慌てて手を離して、一斉に振り向いた。
もう高坂は二人を見つけていた。
「あ。笹原君も一緒?」
高坂は涼しげな笑顔で二人を見ていた。でも、やはり驚いていたのか、いやにゆっくりと席に着く。
店員が高坂にお冷を運んでいく間、二人は黙って俯いていた。
「ごめん、ちょっと遅れたかな?」
口は軽やかに動いていたが、高坂の瞳はじっと二人を見ている。
微笑を口元に湛えた、人懐っこい表情。円らで、真っ直ぐな目が笹原と咲を映す。
咲は思った。
カンのいい高坂のことだ。もう全部分かっているだろう、と。
顔を上げられなかった。

笹原が目の前のアイスコーヒーを取った。ストローも使わずにグラスから直接、口に運ぶ。
一口だけ飲んで、打ち据えるようにグラスをテーブルに置いた。
笹原は言った。グラスをテーブルに置く勢いの力を借りているようだった。
「…今日は、大事な話があるんだ。高坂君…。」
「なに?」
高坂は弾むような声で応える。表情は笑顔のまま変わらない。
それは自分を責めているように、咲には思えた。
笹原に目をやる。笹原の手が、もう片方の手を赤くなるほど握り締めている。
302サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:41:38 ID:???
唇を何度も何度も湿らせようと、口を不恰好に動かしている。
それでも目は、はっきりと高坂を見ていた。
少し怯えながら。でもはっきりと。
「急に…、こんな…、話して驚くと思うけど…。」
「カンジ…。」
咲は手を笹原の手に添えた。握り締められた手は、すうっと力を失った。
「私が話すよ…。私が言わないといけないから…。」
咲は顔を上げる。いつもの凛として顔ではないけれど、それでも高坂の目を見つめる。
その目は自分に向けられているものだから。
自分が選んだことだから、自分で受け止めなきゃいけないと思った。
「私、カンジと付き合ってる…。」
咲は逃げようとする視線を必死で高坂に向けていた。高坂のいつもと変わらない笑顔が堪らなく苦しい。
咲は笹原の手を握る。
「だから…、……別れて欲しい。」
言葉の終わりはジャズの調べに消えてしまうくらいか細かった。
「ごめんね…。」
咲は涙が流れないように目を閉じる。そして笹原の手を、少しだけ強く握った。
笹原の手は汗まみれで、ベトベトに湿っていた。
自分の手もそうだった。

ふうと、高坂が息を吐くのが聞こえた。
そして次の瞬間、咲の手は高坂に手の中に奪われていた。
高坂はテーブルの上に身を乗り出していた。
「咲ちゃん。僕は咲ちゃんが好きだよ。」
目を開けると、寂しげに微笑む高坂の顔があった。
「僕は別れたくない。二人でやり直そう。」
高坂の手が暖かい。
外の日差しを閉じ込めたような、お日様に干した布団のような。
少し前までは、あたり前のように感じていた掌。
303サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:42:11 ID:???
咲の瞳から涙が零れた。
「咲ちゃんは僕がいなくて寂しかったんだよ。」
笹原は不安げに咲を見た。
咲は何も言わない。
「ごめんね、一人にして。でも、もうしないよ。寂しいときはいつでも傍にいる。」
咲は何も言わない。
「一緒にいたいよ。咲ちゃん。」
咲は涙が止まらなかった。
ずっとそう言ってほしかった。それをずっと望んでいた。
店が上手くいかなくて、どうしようもないときに。
寂しくて涙が溢れた夜に。
一人で心細くて、悲鳴を上げていたときに。
もっと早くに、こんな気持ちになってしまう前に。

咲は高坂の手を優しく解いた。
「ごめん…。私はカンジのことが好き。カンジのことが、一番大事だよ。」
冷房の音が、一際鈍く響いた。
高坂の手は、咲の手の残像に触れていた。使い込んだテーブルはところどころ薄汚れていて、傷が目立つ。
テーブルの放つ奇妙な光沢。高坂の手は、その上で止まっていた。
咲も笹原も、その手を見ていた。それが自分たちがしたことだった。

手を引っ込めたときに、高坂は小さく笑っていた。
「まだ暫くは帰れないから、それまでは家賃入れてて貰えるかな。来月には新しい部屋を探すから。」
「うん…。」
「荷物を持っていくのはいつでもいいよ。今週はたぶん、ずっといないと思う。」
咲はハンカチで涙を拭く。取り乱さないように、できるだけ淡々と。
自分もつらいなんて思わせるのは、ずるいことだ。
304サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:43:01 ID:???
「笹原君。」
笹原は顔を上げて高坂を見る。口元にもう微笑みはなく、少し疲れた美しい顔が自分を見ていた。
眉間にシワが僅かに寄り、目は鋭く尖っていた。
始めて見る高坂の顔だった。
「荻上さんは、もう知ってるの?」
言葉の終わりが、ナイフのようだった。
「これから言うんだ…。…それはちゃんとするつもりだよ………。」
「荻上さん、傷つくだろうね。」
乱暴に呟く高坂に、笹原は深く目を瞑った。
笹原に返す言葉なんてなかった。言い訳も、正当化のしようもなかった。
荻上にも、自分をなじる高坂にも。
当たり前の、当然のことなんだ。
「じゃあ、もう行くよ。」
高坂が注文表を取って立ち上がる。慌てて取り替えそうする笹原を手を、高坂は振り払った。
「笹原君に奢ってもらう理由ないから。」
からんころん、と古臭い音がして、高坂は出て行った。
苦い思いがした。
咲はまだ涙を拭いていて、笹原は髪を撫でようと出しかけた腕を、そのまま宙に漂わせていた。
笹原の顔は、女の子を泣かせてしまった子供の顔のようだった。
戸惑って、情けなくて、不器用で、自己嫌悪に歪んでいた。
思わず口から言葉が漏れた。
「ほんとに良かったの…、これで…。」
咲の顔はハンカチに隠れて見えない。涙交じりの声だけが笹原の耳に届いた。
「バカ…。そういうことは…、言っちゃいけないんだよ…。」
305サマー・エンド-4-:2006/04/09(日) 22:43:50 ID:???
分かってた。
分かっていたけど、言わずにはいられなくて…。
自分は高坂みたいにカッコよくもないし、できない。
荻上も傷つける。
そんな自分を好きでいてくれるのか不安で、口走っていた。
最低だった。

ぎゅっと、咲が笹原の腕を掴んだ。
「そういうこと言っちゃうのが、カンジなんだよな…。」
咲は笹原を見上げる。崩れた化粧なんか、気にもしないで。
「私はカンジが好きだから。自分で選んだんだから…。後悔するときがあっても、最後はこれでいいって思えるんだよ…。」
笹原は顔を伏せる。涙が零れ落ちる前に、目を拭いた。
ゴシゴシと、何度も不器用に、涙を拭いた。


最終話につづく    たぶん・・・
306マロン名無しさん:2006/04/09(日) 23:28:06 ID:???
291
ここにも一人〜。
「野性のチューリッ○゜」が好き〜。
アルバムは「ハルモニオデオ○」
しかしオギーが遊佐未森にはまるとはなぁ。もっとハードなイメージがあったけど。
女の子の音楽の趣味ってわからんからなー。
307マロン名無しさん:2006/04/09(日) 23:30:28 ID:???
>>306
荻だとCoccoとかでも結構それっぽい感じはしますね。
308マロン名無しさん:2006/04/09(日) 23:33:23 ID:???
>サマーエンド

まだ肌寒い日が続くのに喫茶店で二人が感じたジリジリとした焦燥感が伝わってきました
次はオギーに別れ話ですね…
オギーには不幸になってほしくないがこの先も気になるジレンマ
斑目も知ったら不幸になるしなあ
とにかく最後まで期待して待ってます
309マロン名無しさん:2006/04/09(日) 23:33:48 ID:???
あーでも、マンガでもスクラムダンクにハレガンなんだっけ。
意外とメジャーどころにハマりがちかもしんないんだなー
310マロン名無しさん:2006/04/10(月) 01:04:29 ID:iiF+wNpi
>サマーエンド
読んでいてすごく辛くなりました。う、うわあ…
荻上さんが…斑目が…高坂が……

ものすごい大波乱が起きるカップリングなんだなあ、改めて読むと…
続きがすごくきになりますよ!!うわー大修羅場かなぁ…と、とにかく待ってます。
311マロン名無しさん:2006/04/10(月) 01:52:45 ID:???
>サマー・エンド
これが五年生のノリという奴なのか!?
読んだことないので分かりませんが。
しかし、ヘビーな恋愛だなー。これは。
歯車がうまく合わない感覚というか。
崩れた歯車が狂いまくって飛んでいっちゃうというか。
・・・悲しいね。でも、たまにはこういうのもいい。
312マロン名無しさん:2006/04/10(月) 01:54:24 ID:???
え〜、絵版で人気のハルコさん。SSに仕上げてみました。
場面は「Come Here,My Dear」の回の斑目をモチーフに。
313がんばれハルコさん:2006/04/10(月) 01:55:20 ID:???
夏は暑い。それはハルコも知っていたことであったが、この夏はいっそう暑く感じる。
(オギーはコミフェス準備・・・笹原は就活・・・大野と田中はコスプレ・・・
 高坂はBLゲームメーカーでお仕事・・・春日部君は起業で大忙し・・・。
 朽木君は知らない・・・。今年のコミフェス、どうなるんでしょ?)
いつもの事ながらOGと言う立場にもかかわらず部室で昼食を取るハルコ。
サラダだけ、と言ういつもながらの食事は変わらない。
缶紅茶を一口飲むと、横目で窓を見た。

コンコン

ノックの音だ。だれか着たのかな?しかし部員ならノックなんかしないはず・・。
「?開いてるわよ〜。」
疑問に思いつつひとまず返事をする。

ガチャリ

「Hello....」
(!!!??外人〜!!??)
扉が開いて見えたのは、ブロンドの外人。しかも男。思わず立ち上がる。
(い、意外とイケメン?いや、そんなこと考えてる場合じゃないでしょ〜!?)
1人で独白を心の中で繰り返しながら、ハルコは冷や汗を流していた。
『ああ、あんたが斑目だね!飾り気のないメガネ、貧乳、切れ長の目。
 うーん、まるで「委員長」のようだ!』
言ってることがまったく理解できないハルコ。
その外人に詰め寄られて、顔を真っ赤にする。
(━━━頭真っ白!)
そしてふと気づくと横に一人の少女。
(も、もう1人か!!)
「アンタバカ〜」
(・・・誰か助けて!)
314がんばれハルコさん:2006/04/10(月) 01:55:57 ID:???
この世の終わりをそこに見ていたハルコ。そこに救世主。
『アンディ、スー!勝手に動き回らないでって言ったでしょ!』
大野が入り口から大きな声を上げながらやってきた。
(た、助かった・・・。ってか、大野の知り合いなの?)
『ごめん、ごめん、早くゲンシケン見てみたかったんだよ〜。』
そういいながら平謝りする外人ことアンディ。
「うわ、なに、これ?」
「わ・・・。」
荻上と笹原がそのタイミングでちょうど現れた。
(こ、これで落ち着くでしょ・・・。)
そう考えるハルコの方に再びアンディはハルコの方へ振り返り、
にっこりと笑いかけた。
「━━━!!」
それに再び顔を赤らめる。
(な、なに戸惑ってんのよ・・・。わたしが好きなのは・・・。)
しかしながら動悸がおさまるには少しの時間がかかった。
この夏は何かが起きそう━━━。
ハルコは心の中でそう思った。
315マロン名無しさん:2006/04/10(月) 01:56:43 ID:???
以上です。
316マロン名無しさん:2006/04/10(月) 02:09:30 ID:???
ハルコさんは委員長と言うよりお局さm(ry ゲホゲホ…
317マロン名無しさん:2006/04/10(月) 02:49:39 ID:iiF+wNpi
>がんばれハルコさん
わーいわーい!マダラメハルコさんキターーー!
絵板の絵をイメージできるだけに、このSSにも思いいれが…
アンディええわ〜〜〜w
『委員長』って、なかなかうまいなあ。
318マロン名無しさん:2006/04/10(月) 04:22:56 ID:???
>サマーエンド4
…まずい…ようやく治りかけてたのに…ダメだ…やつが来る…

絶望した!鬱展開にプラスしてイタイ展開に絶望した!

絶望病が再発してしまった。
続きを読んだら末期まで病状が進行しそう。
でも読みたい。
とりあえず最終話まで生きてみようと思った。

>がんばれハルコさん
サマーエンドみたいなのを読んだ直後にこういうの読むと、ほんと救われた気になります。
偶然ながらこのコンボは正解。
「ウルトラQ」の直後に放送されてた「オバQ」というか、「Xファイル」の直後に放送されてた「はぐれ刑事純情派」というか、そんな感じ。
319マロン名無しさん:2006/04/10(月) 18:25:29 ID:???
>サマーエンド
何がつらいかって、笹と咲が周りの仲間を欺き裏切る展開がつらい。宴会での荻上の姿がアレなだけに、絶望先生も速攻で絶望するくらいつらい。

笹原に向けられる高坂の目がまたつらい……。大学で最初に出来た友達との縁をなくしてしまで女を選ぶか笹原。
自分の満たされない心を慰め合うことからスタートした関係じゃあ、同情の余地はないのだろうか。
事情を知って激昂した斑目に刺されても仕方がないと思ってしまう。
そういうことをつらつら考えさせる、キツイけどいい読物ですね。
どんな鬱展開が待っているのか、またはささやかな救いが待っているのか、覚悟して最終回を期待してます。

>がんばれハルコさん
ついにハルコさんSSが登場ですね。1枚の絵がここまで転がるとは恐ろしくて楽しい!

アンディってやっぱメガネフェチっすか?
320普通の日:2006/04/10(月) 22:00:16 ID:???
たまに甘い話を書きたくなります。
皆さんはそういうことありませんか?

そう言う訳で、笹荻のお話です。
荻上さんがはっちゃけてます。
321普通の日:2006/04/10(月) 22:01:09 ID:???
それは何でもない普通の日。
強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。

荻上はいつも真っ直ぐ前を見て歩く。
ちょっとだけ不機嫌そうに。
別に機嫌が悪いわけではない。地顔なのだ。
実は本人も結構気にしていて、いくらかでも変えようと、毎日鏡の前で百面相しているのは秘密だ。
その度にため息をついて、自分が「かわいく」ないことに落ち込んでしまうのも秘密だ。
ついでに鏡に向かっているときに、うっかり「完士さん♪」などと囁いてしまい、照れくささと恥ずかしさで一人で大暴れした事は、荻上にとって最大級の秘密だ。
それらは誰にも知られてはならないのだ。絶対に。
特に笹原に知られたら…間違いなく飛び降りようとするだろう。

閑話休題。

荻上はふと足を止め周りを見渡した。
どこからか漂ってくる、かすかな花の香り。
名前も知らない人の家の、小さな庭の片隅の潅木に咲いた小さな花々。
その花の名前を、荻上は知らない。
でもバラのように派手でもなく、ランのように官能的でなく、桜のように圧倒的でないその花を、荻上は好ましく思った。
少しだけうれしくなる。
再び歩き出す。
その顔はわずかに笑っていた。
それはとてもかわいらしく。
322普通の日:2006/04/10(月) 22:02:00 ID:???
その日笹原は、大野から借りた本を返すため、部室を訪れた。
しかしそこには誰の姿もなく、仕方無しに返すはずの本で復習を始めた。
不意に扉が開いて荻上が入ってきた。
「やあ、荻上さん」
荻上の返事はない。彼女は部室を見渡し、向かいの児文研の部室を覗き、窓に背中を向ける。
それから軽く咳払いすると、満面の笑みを浮かべて言った。
「こんにちは、笹原さん」
この笑顔を見るたびに、笹原は照れてしまう。
「そこまで警戒しなくても…それに、荻上さんはかわいいんだから、もっと自信を持って笑えばいいと思うよ?」
照れ隠しに笑いながら、笹原は提案する。そう言いながら、その笑顔を独占したい自分に気付いて苦笑する。
「どっちもいやです」
荻上は不機嫌な顔で答えると、笹原の隣に座った。

「ところで、何を読んでいる…」
荻上はさっきまで笹原が読んでいた本を手にとって、絶句した。
机の上に置かれた紙袋の中身を確認する。
間違いない。荻上は確信する。なぜなら、その内のいくつかは、彼女も持っているから。
「笹原さん…?」
固く暗い声で荻上は笹原に詰め寄った。
「え〜と…」
笹原はあらぬ方向を見ながら頬を掻いている。
「どうして笹原さんが801本を読んでるんですか!?嫌がらせですか!?…まさか、本当に801に目覚めた、なんて言う…んじゃ……目覚めて…」
(『ふふ、どうしたの斑目さん?こんなに体を硬くして…』『だって、荻上が見てる…』『そう?見られて興奮してるんじゃないの?ほら、ここもこんなに硬い』『ち、違う!ああっ!』)
(『完士さま、私もどうか…』『だめだ。お前はそこで黙って見ていろ』『ああ、そんな…』)
(そして二人は私の見ている前で愛欲の限りをつくし…)
「…えさん!…ぎうえさん!聞こえてる?荻上さーん!!」
「ハヒッ!?」
荻上は我に返る。どうやら軽くワープしていたようだ。
323普通の日:2006/04/10(月) 22:02:44 ID:???
「大丈夫?まだ顔が赤いよ?」
「大丈夫です!それより、これはなんなんですか!?」
心配する笹原に、荻上はむきになって食って掛かった。
「笹原さんはこんなもの読まなくていいんです!こんな不潔でいやらしくて、作者の恥ずかしい妄想を固めたようなもの!」
「でも荻上さんも書いてるよね?」
笹原の一言で、今まで沸騰していた荻上がみるみるしぼんでいく。
「ああ、ごめん!それを責めてるわけじゃないんだ。ただ、いままで俺はこういう世界を知らなかったから、少しでも知りたいと思って…」
「何のためですか」
すねたような表情をして、荻上は笹原を見上げた。
そんな荻上を正面から真剣に見つめ、笹原は言った。
「荻上さんの力になりたいから」

荻上はトマトやりんごもかくや、というほどに真っ赤になる。
「俺は男だから、完全に理解できる自信はないけど、それでも何かの役に立てればいいな、と思ったんだ。」
「実際あの時以来、荻上さん、俺にそういう原稿を見せてくれないし…」
「俺はそういう趣味ごと、荻上さんが好きなんだ。だから、協力させてください」
しばしの沈黙の後、荻上はうつむいて、搾り出すように答えた。
「…アリガトウゴザイマス。コチラコソヨロシク…」
その答えに、笹原は満面の笑みを浮かべて荻上を抱きしめる。
荻上は何度か躊躇ったあと、笹原のシャツの背中をしっかりと握り締めた。
324普通の日:2006/04/10(月) 22:03:28 ID:???
二人で荻上の家に向かう。
ふと笹原が足を止める。
「どうしました?」
「いや、なんかいい香りがするな、と思って」
荻上は黙って庭の片隅の潅木を指す。小さな花々が咲いている。
「ああ、それだったんだ。すごいね、荻上さん。すぐにわかるなんて」
「違います」
「何が?」
怪訝そうな顔をする笹原。
「秘密です」
荻上はそう言って笹原に笑いかけた。
そして彼の手を取ると、先になって歩き出した。

それは何でもない普通の日。
強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。
そして初めて荻上から手を繋いだ日。
325普通の日:2006/04/10(月) 22:04:09 ID:???
以上です。
326サマー・エンド-4-〜あとがき:2006/04/10(月) 22:14:53 ID:???
感想ありがとうございます。
皆さんの感想を読んで頑張りますよ!

>>308
ありがとうござます。そうですね。次は荻上さんですね・・・。
はー・・・。書きたくないような、書きたいような・・・。複雑だ。

>>310
>ものすごい大波乱が起きるカップリングなんだなあ
その辺もあってなかなか良いんじゃないかと書き始めたものの・・・。
後悔先に立たずですね・・・。書いててしんどいです。

>>311
五年生を自分も読んでないので、分からないですが、鬱らしいですね。
これからも鬱全開で頑張ります。

>>318
すいません。今から司令クラスターを破壊しに行ってきます。
ああ、もう絶望先生を待ち望んでる自分が居ますね。
毎回ありがとうございます。最終話でも絶望をしていただけるように頑張ろう。

>>319
何がつらいって、自分で書いてることがつらいです・・・。
エウレカの最終回を見ながら、「やっぱりハッピーエンドにする!」と本気で思ったりしました・・・。
でも、こんなんなっちゃいましたよ・・・。
さすがに刃傷沙汰にはするとトンデモ展開になるのでしないつもりですけど、
斑目さんならやってくれるかもしれないです・・・。

なんだか愚痴まみれになってしまいました・・・。でも・・・、でもやるんだよっ!!! 
読んでいただいて、ありがとうございました。
327マロン名無しさん:2006/04/10(月) 22:50:39 ID:???
すごい長文の遊佐論をブログにうpしかけて消失orz
いや、むしろそれで良かったんだ………だって恥ずかしいし。

>>306
遊佐未森さんは、初期は「僕」による叙情的な曲でしたが
現在は、一見穏やかに見えながら、傷を抱えて歩く生身の「私」
の世界なので、よく歌詞を読み込むとけっこうハードですよ…(汗)。

>>307
Coccoも確実に抑えてますね。人前で歌わないかも知れませんが。

>>309
遊佐さんがメジャーだって!?そんな馬鹿なーーー


>>サマー・エンド
引っ張りますねーーー。荻上さんの様子が涙なくして読めませんっ!
ほんと、刃傷沙汰になりかねない展開ですよね…。
うまくまとめてください。ダメならもうBAD ENDでも良いですから(ぉ

>>がんばれハルコさん
キタ!現在急上昇中の激萌えキャラ、マダラメハルコさん!!
これシリーズ化ですよね?(と無理難題を口にする)

>>普通の日
会話の最中にワープ可能だなんて、能力向上し過ぎです荻上さんwww
しかし花の香りに気づく二人。こういうなんでもない幸せが良いですね!
328マロン名無しさん:2006/04/10(月) 23:29:09 ID:???
ハルコさんってステレオタイプのツンデレなので、
はげしく愚息がタツヨネします。
329マロン名無しさん:2006/04/11(火) 03:07:42 ID:???
>普通の日
荻上さん、悪いこと言わんから医者行け!
会話の途中でワープするようでは、いつ暴走するか分からん!
もはや可符香か羽美レベル。
330マロン名無しさん:2006/04/11(火) 18:37:10 ID:kpPC3vm0
>普通の日
鏡の前で百面相する荻上さん。かわいいなー。
それにしても荻上さんの妄想が、自分は放置プレイなのが激しく気になるところですがw
まあ、あくまで妄想なんでしょうが…。

それはともかく、会話の途中でワープ、荻上さんらしいですね。
自分も仕事中によくワープするので、暴走の危険性はないかとw
331マロン名無しさん:2006/04/11(火) 23:05:56 ID:???
>普通の日
何気ない日々にもまた違いがあって、日々変化していく。
そういう日常がうまく描かれてるなあと。
こういうの大好きなんだよなあ。
332マロン名無しさん:2006/04/11(火) 23:11:53 ID:???
「アルバムを覗けば」
「がんばれハルコさん」
読んで頂いた方ありがとうございました。

>笹原が剣道部「るろ剣」で
これはリアルな体験でそういう奴が剣道部には多かったのです。
私は文化部一直線でしたが、友達に剣道部が多かったです。

>アンディはメガネ萌え?
メガネというか、委員長萌えです。なのでメガネは必要不可欠だそうです。
ハルコさんはアンディのストライクゾーンだったということで。

では、続けて二本ばかり長いの投下します。
あわせて・・・25レスくらいでしょうか?
それでは。
333第801小隊第12話「孤軍、奮闘」1:2006/04/11(火) 23:13:56 ID:???
「うあああああああああああああああ!!」
暗い機械だらけの部屋の中に、ガラス越しに隔離されたオギウエが座っている。
電流が流されているのか、光のほとばしりにあわせて苦悶に顔が歪む。
「・・・これ以上は、命に危険が・・・。」
「そうか。・・・意外に時間が掛かっているな。」
白衣をきた研究者と思わせる男がナカジマに進言する。
それに答えながら少しナカジマは顔をしかめる。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
電流の放電が収まり、オギウエは荒く息をつく。
オギウエはこれを前に体験した事がある。前は自ら望んでだったが。
ナカジマはオギウエのいる部屋に入ってくる。
「・・・どうしたの?オギウエ。前はああもあっさり受け入れたのに。」
「・・・私は・・・もう・・・。」
戦う気はない。そう、暗に示す顔をする。
それに顔を歪めながら激昂するナカジマ。
「何をいってるの!?あの時私にいった言葉は全て嘘!?
 ・・・ああそうか。向こうで何かされたね?そうに決まってる。」
そういって口の端を不気味に上げて笑みを浮かべる。
「・・・これは?」
オギウエの首に掛かっているロケットに気付くナカジマ。
「・・・触るな!」
手に取り中を見ようとするナカジマに対し、オギウエは声を荒げる。
中を見たナカジマは怪訝な表情を浮かべるしかなかった。
「・・・女?よく分からないが・・・。まあ、いい。」
そういうと、ペンダントから手を離し、研究員に向かいって叫ぶ。
「死なない程度に続けていけ。」
「・・・了解いたしました。」
「ナカジマぁ・・・。」
オギウエは去っていくナカジマの背に向かって弱弱しい声をかけた。
彼女を歪めたのはきっと自分。これは、罪。それでも・・・。
「ササハラさん・・・。」
ペンダントが、少し光ったように見えた。
334第801小隊第12話「孤軍、奮闘」2:2006/04/11(火) 23:15:25 ID:???
「だから、急いでるって言ってるだろ!」
ケーコの叫びが基地内に木霊した。
ここは砂漠のニッポリ基地。シャトル発射場のある連盟の要だった所。
現在は主要軍隊の宇宙発射はほぼ終了しており、閑古鳥が鳴いている。
「何度言わせれば分かるの?肝心のシャトルの準備にまだ掛かるといってるでしょう?」
そういいながら、PCへ向かい黙々と処理を続ける一人の女性。視線すらもケーコに向けない。
かけた眼鏡が、一見したクールな印象をより強めている。
「・・・ケーコちゃん。待とう。しょうがない。」
「・・・でも・・・。」
ケーコはコーサカにそういわれ、しぶしぶその部屋から出て行く。
「・・・すまんね。キタガワ中尉。」
「・・・・・・マダラメ中尉、こちらこそ申し訳ないです。」
そういって初めてキタガワはこちらを向き、頭を下げた。
マダラメは手を始め全身に包帯を巻いていた。痛々しい。
「いや・・・。こっちも急に来てるんだ。頑張ってくれているのは分かってます。
 我々もいろいろあっていらいらしてる部分もあってね。」
「・・・・・・戦争は嫌なものですね。」
「・・・ああ。早く終わるといいですな・・・。」
そういって二人は苦笑いした。
外に出たケーコは、サキとオーノになだめられていた。
「ケーコ、焦るのは分かるけど・・・。」
「そうです。一番焦ってるはずのササハラさんが落ち着いてるんです。
 他の人がそうしてもしょうがないでしょう?」
「・・・落ち着いてる?兄貴が?そんなわけ無いじゃん。」
そのケーコの言葉にサキとオーノは驚いた顔をした。
「落ち着いてるのは表面だけ。分かるんだ。昔からああなんだよ。
 怒りとかそういう感情を・・・。心に溜めて、いつかバクハツさせるんだ。」
サキとオーノは顔を見合わせる。
「だから急がないと・・・。兄貴、壊れちゃうよ・・・。」
ケーコはそういって肩を落とした。
335第801小隊第12話「孤軍、奮闘」3:2006/04/11(火) 23:18:03 ID:???
ササハラはというと、一人、砂漠をガラス越しに見つめていた。
どこまでも続く砂漠。地平線は砂煙にぼやけてよく見えなくなっている。
「・・・くそっ!」
人のいる前では決して見せない表情を浮かべ、拳をガラスに叩きつける。
思い浮かぶのあの瞬間。連れ去られていくジムキャノン。
「何が・・・。守るだ・・・。」
約束は守る事が出来なかった。その自分が不甲斐なくてたまらない。
おそらく殺されている事は無いだろう。あそこまでして連れ戻したのだ。
パイロットとしての利用価値が高いのだろう。人を殺させるための。
ササハラは大隊長の話を思い出した。

「ということは、あの兵器は人の神経を犯す、と・・・。」
「そういうことだね。ある施設に侵入していた工作員が調べたところによると、
 ミノフスキー粒子の振動を利用した精神兵器の開発したところがあるそうだ。
 その調書によると・・・。君らが受けたのはおそらく・・・そのレベル2だ。」
「レベル2?まだ上があるって事ですか・・・?」
「うん。最高のレベル5になると・・・。神経がいかれる。死と同然になる。」
「そんな兵器・・・!」
「使う方にも影響はある。だからこそその防御システムの開発こそが重要だったらしい。」
「オギウエさんは・・・。」
「その使用者として耐性がつけられたんだろう。」
「だから・・・、連れ戻したと。」
「それが大きいとは思うんだけどね・・・。また作ればいいという考えもある。
 ・・・何か他に理由があったのかもしれない。」

砂漠を見ながら思うことは唯一つ。
「絶対に助ける。いや・・・。君に人殺しはもうさせない。」
人を殺すのが戦争。だけどそれをむやみに行う必要なんてないはずだ。
大量殺人兵器。それを起動させるわけにはいかない。
握りすぎた拳から血がにじむ。その目には決意が込められた。
336第801小隊第12話「孤軍、奮闘」4:2006/04/11(火) 23:24:11 ID:???
「しっかしまあ、宇宙に初めから行かせるつもりだったとはね。」
タナカは必要な部品だけを分ける作業を基地の人員を借りて行っていた。
「あ、あの作戦の後に宇宙に行って最終戦に参加する予定だったとはね・・・。」
クガヤマはそれを手伝いながら、汗を拭く。
「だから俺とかコーサカに宇宙用の設計なんかさせてたんだなあ。」
「そ、そんなことしてたの?」
「ああ。ただの道楽だと思ってたんだけど。」
そういって少し手を休めて苦笑いを浮かべるタナカ。
「じ、じゃあ、それが今宇宙で作られてるのかな?」
「らしいよ。最初の行き先もフェスト社の宇宙ドッグ「ビッグサイト」だと。
 あそこは連盟のお抱えだからね。だからあまり持っていく必要もない。」
「そ、そうか〜・・・。そ、そうなるとこいつとはおさらばかな〜。」
そういってクガヤマはとなりにあったガンタンクUを見上げた。
「そうだなあ。宇宙じゃこいつは役立たずだからな。」
「だ、だよなあ。け、結構気に入ってたんだけど。」
「おまえ、戦車好きだもんな。」
「ああ。き、キャタピラのあるMS大好きなんだよね。」
「タンクしかないじゃないか!」
そういって笑うタナカ。
「ははは。そ、そうだなあ。・・・う、宇宙か・・・。」
「行きたくないか、やっぱり。」
「ん・・・。お、俺は・・・まあ・・・。大丈夫だけどな。」
「・・・いい思い出は無いからなあ。俺らは。」
そういって、視線を窓から覗く空へと向けるタナカ。
満点の青空の向こうには、暗い宇宙が広がっているのだろう。
「タナカ殿〜、これはこっちでいいでありますか〜。」
クチキの大きな声にタナカは振り返る。
「おう、いいぞ〜。・・・まあ、頑張ろうぜ。」
「だ、だな・・・。」
337第801小隊第12話「孤軍、奮闘」5:2006/04/11(火) 23:25:48 ID:???
「これでよし、と。」
サキは医務室でマダラメの手を見ていた。
「・・・すまんね。しかし驚いたな。カスカベさんの研究が人工器官関係だったとはね。」
「まあ、医療系って言えば確かにそうなんだけど。オーノがやっているのとはまた毛色が違うから。」
「・・・・・・動くようになるかな?」
「・・・私の開発した義手ならきっと動くとは思う。だからいま私が診てる訳だし。
 宇宙にそれがあるらしいから、後は向こういってからだね。」
「・・・・・・すまん。」
「あやまんなよ!あんたはしっかり戦ってきたんだろ。・・・私はやれる事をやるだけだ。」
医療用の道具をしまいながらサキは立ち上がる。
「・・・だけどカスカベ二等兵。なんで軍人嫌いだったの?」
「・・・・・・今も嫌いだよ。あんたらは軍人の中でも特殊な方だろ?」
「それはそうかもしれない。」
「・・・負傷兵がよく送られてきた。私の研究にうまくフィットする患者ばかりだったよ。
 最初はそれを不思議とも思わず一生懸命働いてた。治したかったのもあるしね。
 でもね。ある日聞いちゃったんだ。わざと、その箇所を壊して送ってきてるって。
 ・・・ありえないだろ?こっちは治す為に一生懸命やってるのにさ・・・。
 それに気付けなかった私自身も、それを指揮した軍人も恨んだ。」
「・・・・・・なるほどね。」
「・・・一時は全部捨てようかと思ってたんだ。ここに来た頃は。
 でもね。それじゃあせっかく傷ついたあの人たちが無駄になっちまう。
 過去に戻る事が出来ないなら、それを今に使うのが一番なんじゃないかって。
 あんたらを見てそう思ったんだ。」
サキはマダラメを見て笑う。
「あんたの腕は必ず動くようにしてやる。安心しな!」
「・・・ああ。期待してるよ。」
一足先に医務室から出て行くサキ。
「・・・・・・過去に戻る事は出来ない、か。」
サキの過去とその言葉に自分を照らし合わせて考え込む。
目を細め虚空を見つめ、動かない自分の手へと視線を動かし、止めた。
338第801小隊第12話「孤軍、奮闘」6:2006/04/11(火) 23:26:45 ID:???
「というわけで、シャトルの方へ。」
キタガワがシャトルの準備完了を知らせに来たのは次の日の午後であった。
「は、早いですね!」
「・・・まあ、急ぎ、ということでしたから。」
目のしたにはクマがある。徹夜での作業だったのだろう。
「・・・無理を言ってすいませんでした。」
ササハラがキタガワに向かって頭を下げる。
「・・・・・・別にあなた方のために急いだわけではないですよ。
 戦争が広がる原因を止めたいのは私達も一緒だということです。」
「キタガワ中尉・・・。」
「ご武運を祈ります。頑張って下さい。」
そういうと敬礼をこちらに向けて行う。小隊員一同でそれに返すために敬礼を行った。
「そう・・・、お願いもあるんです。ドッグの連盟指揮官にこれを。」
キタガワが取り出した手紙を、サキが受け取る。
「・・・分かりました。」
「お願いね。」

皆が荷物をまとめ、シャトルへと向かう。
「ササハラ君。」
その最中、コーサカがササハラに声をかけた。
「これ、返しておくね。」
例の青いペンダントを取り出しササハラに渡すコーサカ。
「あ・・・。これ、なんだか分かったの?」
「うん。それはね・・・。」
プククッ!プククッ!プククッ・・・!!
そのタイミングで警報が鳴り出した。
「敵襲!?」
放送が流れる。
『敵襲です。防衛隊はすぐさま出撃準備を。第801小隊の方々はシャトルの方へ。
 ・・・必ず、安全に飛ばしてみせます。」
キタガワの強い言葉に、ササハラとコーサカは話をやめ、シャトルへの歩を早めた。
339第801小隊第12話「孤軍、奮闘」7:2006/04/11(火) 23:28:10 ID:???
「あれが鬼が言ってた連中のいる基地か?あいかわらず奴は情報収拾がうまいな。」
ドムが三機、連なりながらニッポリ基地へと接近してゆく。
「らしいな。・・・そいつらが宇宙へ来るのを阻止しろ・・・か。」
「奴が恐れるくらいの連中だ・・・。フフ、久々に楽しめそうだ・・・。」

「敵機は三機。こちらは五機。止められないはずがないわ!」
キタガワは司令室にてジム隊へ作戦指示をしていた。
「頼むわよ。キムラ准尉を中心にうまく展開。機体数の有利を守るのよ!」
『了解!』
司令室に響くMS隊の声。その言葉に、キタガワは強く頷いた。

この基地は砂漠の真っ只中にある。
シャトルの発射は散乱物がでるため、人のいないところに基地が作られる。
その砂漠に、五機のジムが敵の出現を待ち構えていた。
砂が風に舞い上がる。視界が悪くなる。
そして、それは唐突に現れた。
グワシャアアアア!!
一機のジムが上下真っ二つになる。友軍機の急な撃沈に動揺が走る防衛隊。
その隙を見逃すドム隊ではなかった。
彼らは、「砂漠サソリ」と呼ばれる皇国軍きっての熟練小隊であった。

「なに!?三機撃墜!!?」
恐ろしいほどの速度で防衛隊がおとされている事が報告され、キタガワの顔に動揺が走る。
「く、なんとか、何とかシャトル発射まで持ちこたえなさい!」
シャトルの発射はすでに十分を切っていた。
「彼らを・・・なんとしても飛ばすのよ!」
キタガワは叫び声を上げたあと、歯を強くかみ締めた。
340第801小隊第12話「孤軍、奮闘」8:2006/04/11(火) 23:34:57 ID:???
「・・・あと八分。」
サキが発射予定時刻までの時間を呟く。
801小隊の面々はすでにシャトルにて発射を待つ身であった。
「大丈夫かな・・・。襲撃は・・・。」
「数的には有利だし何とか・・・。うおぁ!」
衝撃がシャトル内に伝わる。どうやら流れ弾が基地の方に当たったようだ。
「おい、こりゃやべーんじゃねえのか!!?キタガワ中尉!!?」
マダラメが叫ぶ。それに答え、キタガワが通信で答える。
『大丈夫です!何とか持ちこたえます!この機会を逃すと次はいつになるか!』
延期をすればいいというものでもない。シャトルの発射には何かと手間が掛かるのである。
すでに余剰エネルギーを溜めている状態であり、ここでの停止は危険でもある。
「・・・り、了解した!・・・どうせ、加勢にも行けませんしな!」
加勢に行きたいものの、彼らに動かせるMSは無い。そう、一機を除いて・・・。
「・・・あれ?そういえば、クガヤマさんは・・・?」
ササハラのその言葉に、先ほどまでいた一番存在感がある男が消えてる事に皆が気付いた。
「ま、まさかクガヤマのヤロウ・・・!!」
「あいつ、一人で加勢に行ったのか!!?」
マダラメとタナカが口々にクガヤマの行動を見抜いた。
「そ、そんな!俺も・・・!!」
「バカヤロウ!俺達が行ってもどうせ動かせるMSは無いんだ!」
ササハラが自分も、と席から立ち上がるが、それをマダラメが制す。
「・・・クガヤマに、頑張ってもらうしかねえ。」
「なーに、大丈夫さ。あいつだって、この戦争生き抜いてきたんだ。」
マダラメとタナカが、ニヤッと笑ってそういった。
「し、しかし・・・。」
「それとも何か?信用できねえか?」
「・・・そんな事はありません。」
「よし。・・・信じてまとう。」
シャトル発射まであと六分。
341第801小隊第12話「孤軍、奮闘」9:2006/04/11(火) 23:36:08 ID:???
「なんだ、手ごたえの無い・・・。」
ドムはたった今破壊し、ちぎっていた四機目のジムの右手を投げた。
「あとは、一機、そしてシャトルか。」
ドムが動く。ジムは徹底抗戦の構えだ。
「あの一機だけがいい動きをしていたがな。期待はずれだ。」
三機のドムは一列に並ぶ。そして、そのままジムへと向かう。
ジムの視点からは一機しか見えないように見えるドム。
スプレーガンが放たれる。かなり良い精度で狙っている。
しかし三機はそれをうまく、見事に同調しながら交わしていく。
「ははぁ!!『トリプラー』の威力思い知れぇ!」
ジムの目の前に来た時、後ろの二機は左右に展開。
ジムは先頭のドムへと切りかかるが、それを読んでいたのか後ろへ後退していた。
そして、二機のドムが左右からジムへと襲い掛かる。
ドォン!!
その瞬間である。大きな砲台の音が砂漠に響き渡った。
その音を察知したドムは、ジムから離れ、距離をとる。
「なんだ?新手か?」
「戦車・・・?」
「違うな・・・。ガンタンクだな。ほほう、面白い。」
三機のドムが遠方に鎮座するガンタンクUの方へと視線を向ける。
「遠距離から攻撃されるのが一番厄介だな。」
「奴から破壊するか。」
「よし、『トリプラー』、仕掛けるぞ。」
距離をとられたジムはすでにタンクのほうへと身を寄せていた。
ガンタンクUは、静かに相手の出方を待つように佇んでいる。
「いくぞ!」
「おう!」
「はは!!」
342第801小隊第12話「孤軍、奮闘」10:2006/04/11(火) 23:36:56 ID:???
『クガヤマ少尉!』
「き、キタガワ中尉、お、俺に構わずシャトル飛ばしてください。」
『・・・加勢、感謝します。了解しました。』
ガンタンクUのコクピットで、クガヤマはドムの方を睨んでいた。
急いできたため、汗がにじむ。そして、向かい来るドムに、緊張が走る。
『クガヤマ少尉、どうしましょう!?』
ジムの方から通信が入る。小隊長のキムラ准尉だ。
「・・・あ、あの戦法、は、端から見てると間抜けだけど・・・。」
『正直、錯覚で敵が一機にしか見えません。
 寸前で横に展開されるため、避けようが無いのです・・・。皆あの戦法で・・・。』
キムラは少し弱気な声を出した。
「す、寸前・・・。よ、横に展開・・・。い、一列・・・。」
ぼそぼそとキーワードを羅列するクガヤマ。
「そ、そうか・・・。これなら・・・。」
『な、なにかいい方法が!!?』
「う、うまくいくかは分からないけど・・・。やってみる価値はある・・・。」
クガヤマはガンタンクを旋回すると、ドムと逆方向へ移動する。
『しょ、少尉?』
逃げるような状況になり、思わず上ずった声を出すキムラ。
「じ、准尉、奴らをうまく誘導してくれ。」
『どのように・・・。』
「お、俺の機体の前方直線ラインに奴らが来るように・・・。」
『わ、分かりましたが、その後は?』
ニヤ、とクガヤマは笑う。
「さ、作戦がうまくいくよう、祈っといてくれる?」
『はぁ?・・・分かりました・・・。』
いいながらクガヤマはガンタンクUを停止させた。ドムと十分な距離。
シャトル発射まであと二分。
343第801小隊第12話「孤軍、奮闘」11:2006/04/11(火) 23:38:21 ID:???
「停止した?」
「構わん。行くぞ。」
「おう。」
ガンタンクUに迫るドム。その距離が徐々に近づく。
ジムは巧みにドムに向かって発砲を続ける。位置が、うまく移動していく。
彼らの位置が丁度ガンタンクUの砲台一直線上に並ぶ。
「・・・この距離から・・・。1・2・・・。」
ぶつぶつとコクピットで数を数えるクガヤマ。
直前まで接近。ドムが左右に展開する。
その瞬間、上半身を180回転させて、その動きを牽制する。
キュキュキュ・・・!!
キャタピラが大きな音を立てて旋回し、後方へとガンタンクUを移動させる。
左右に飛び出たドムはその移動に、攻撃する先を失ってしまった。
「く、何がしたいのだ!」
三機のドムが、標的を近場にいたジムへと変える。
油断していたジムは、彼らの胸部拡散ビーム砲の一斉射撃を受ける。
下半身の付け根辺りに直撃を受け、ジムは沈黙した。
「・・・キムラ准尉!」
クガヤマがコクピットで叫ぶ。
『大丈夫です!しかし、もはや動けません・・・。』
「・・・あ、あとは祈るしかないね。や、奴らがまた同じ事をしてくる事を・・・。」
『え?』
言うが早く、クガヤマは再びある一定の距離をとってドムに対峙する。
「・・・なんだ、あいつは。」
「フン。逃げ回ってるだけだろう。」
「時間稼ぎか。厄介だな。しかし・・・。次は逃げられんぞ!」
再びドムが三機並んでガンタンクへと迫る。接近してくるドム。
「・・・1・2・・・・・・。」
ある一定距離から再び数を数えるクガヤマ。
再びドムの攻撃が始まるかというその矢先。
ドォン!ドォン!
シャトルは発射された。
344第801小隊第12話「孤軍、奮闘」12:2006/04/11(火) 23:40:22 ID:???
砂漠では、ドムが、三機まとめて吹っ飛んでいた。
『な、何が・・・』
「・・・さ、左右に展開する直前に砲撃した。それだけ。」
一回目の時、クガヤマはあるポジションから展開までの時間を計測していた。
そして二回目。その時間に合わせて引き金を引く。三機まとめて吹っ飛んだ、というわけだ。
油断し、展開に気を使っているだろうその瞬間をうまく狙ったのだ。
荒く息をつきながら、クガヤマは手に汗の滲んでいるのを感じていた。
『は、はあ。・・・うまくシャトル飛んでいけましたね。』
「う、うん・・・。次のシャトルで追いかけないとなあ・・・。」
『ははっ。すぐに追いつけますよ。』
「そ、そうだね・・・。」
クガヤマはコクピットから降りた。
「ふぅ〜〜〜〜。」
空を見上げる。少し、そうした後、ガンタンクUの方に向き直る。
ガンタンクUのキャタピラに手を当てて、ポンポン、と叩く。
「あ、ありがとうな、今まで。短い付き合いだったけど・・・。」
少しの沈黙。
パァン!
痛みが背中に走る。
「なっ・・・。」
振り返ると、そこには皇国軍の軍服を来た男が一人、銃を持っていた。
「よ、よくもやってくれたじゃねえか・・・。他の二人は逝っちまったよ・・・。」
頭から血を流した男は、さらに銃をクガヤマに撃とうとする。
クガヤマは逃げようとするが、血が口からあふれ、体が動かない。
バァン!
再び銃声。その音の元には銃を構えたキタガワがいた。労おうとクガヤマの下に来ていたのだ。
男は倒れる。クガヤマにキタガワは銃をしまいながら駆け寄る。
「クガヤマ少尉!・・・早く救護班!!」
クガヤマはその場に仰向けに倒れた。口から言葉が漏れる。
「・・・ご、ごめん、行けそうにない・・・。み、皆頑張れよ・・・。
 そ、宇宙は・・・どう?変わってる?変わってなんか・・・ないだろうなあ。」
345第801小隊第12話「孤軍、奮闘」13:2006/04/11(火) 23:46:46 ID:???
「・・・ん?」
宇宙に飛び立ったシャトルの中で、宇宙初体験のケーコは物珍しそうに外を見ていた。
そんな中で、マダラメも窓から地球を見る。
「どうかしましたか?」
ササハラがそのマダラメの様子を怪訝そうに見つめる。
「いや・・・。クガヤマの声が聞こえた気がしてね・・・。」
「へ?」
「ン・・・。空耳だろうさ。すぐに次のシャトルで追いかけてくるさ。」
少し口の端をゆがめるマダラメ。
「そうですね・・・。」
『あと一時間でドッグ艦に到着します。』
アナウンスが、響きわたった。
ササハラはその言葉を聞いて、顔をいっそう引き締めた。
346第801小隊(次回予告):2006/04/11(火) 23:47:39 ID:???
フェスト社ドッグ艦「ビッグサイト」にて新しいMS、
そして艦船の引渡しを受ける801小隊。
様々な面で彼らに最適にチューンされた新兵器たち。
彼らの最後の戦いが始まろうとしていた。

次回、「廻る宇宙」
お楽しみに
347ある日のヤナ〜幕間:2006/04/11(火) 23:50:33 ID:???
「ええ〜、死んじゃうのかよ〜。やっぱり死亡フラグか〜?
 あ〜、でもこの監督ハッピーエンド以外は描かねえっていってたしなあ。
 生きてたオチだろ〜な。ようやく風呂敷たたみ始めたよ・・。
 まあ、次回も見てみるか。
 あ、そうだ、現視研のラジオ更新されたっていってたな。
 曜子さん、曜子さ〜ん。於木野さんは再登場するのかな〜?」
348ラジヲのお時間【文月】1:2006/04/11(火) 23:52:16 ID:???
〜BGM・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』テーマソング〜

〜FO〜

「どうも〜、いつ誰が聞いてるか分からないげんしけんのネットラジオをお聞きの方、
 今日も私、神無月曜湖と!」

「・・・於木野な・・・」

「聞こえませんよ!大きな声で言ってください!!」
「於木野鳴雪でお送りします!!」

〜BGM・完全にFO〜

「皆さん、こんばんは〜、こんにちは〜、おはようございます〜。」
「こんばんは・・・。こんにちは・・・。おはようございます・・・。」
「ずいぶんと暑くなって、夏になってきたな〜という今日この頃、皆さんは
 いかがお過ごしですか?私はかわいい夏服が見つかって、少しワクワクしてます!
 夏コミまでも後一月、といったところ。
 サークル参加される方の中には締切りギリギリ!って人もいそうですね〜。
 で、見事に落としてコピー参加という結末に・・・。」
「嫌なこといわないでください!」
「於木野さんは完成させてるんでしょ〜?」
「作る側として、そういう事いわれるのは一番嫌です!」
「そういうものですか?・・・そういうものですか。顔が怖いですよ、於木野さん。
 あー、そうそう、前回メールを送ってくださった皆さんありがとうございました!
 見事にその数12通!全てに『於木野鳴雪再登場キボン』と・・・。」
「うー・・・。」
「何度も『これは偽装工作だ!』と叫ばれていた於木野さんでしたが、観念してくれました!」

〜パチパチ と拍手の音〜
349ラジヲのお時間【文月】1:2006/04/11(火) 23:53:21 ID:???
「私に何度もメールアドレスの確認を迫る於木野さんは、
 まるで追い詰められたねずみのよう・・・。
 フフフ・・・。私もそこまで極悪人じゃないですよ〜。
 プロデューサーともどもメールは来ないだろうと思ってジョークで言ってたんですから。」
「ならそのままジョークで済ましてくれればよかったのに!」
「いや〜、こうやって皆様を楽しませる立場の私たちとしては、
 リスナーの希望には沿わないと・・・。」
「うー・・・。」
「まあまあ、いいじゃないですか。
 於木野さんのお話を聞きたいって方がたくさんいらっしゃるって事なんですから。」
「物好きばっかですね!」
「そういう事はいっちゃ駄目ですよ〜。ファンの方々に失礼ですよ?」
「なっ・・・。」
「メールの中には『於木野さんのファンになっちゃいました!』という方もいましたよ?
 え、プロデューサーなんですか?『ファン一号は俺』・・・。」
「何書いてるんですか!!」
「ぷぷぷ・・・。於木野さん、顔真っ赤ですが。」
「何か!!?」
「いえ・・・。なんでもないです・・・。」

〜何かをがさがさ探す音〜

「さてさて、お便りの紹介は〜、於木野さんにやってもらいましょう!」
「ええっ!」
「ガタガタ言わない!認めたらどう?若さゆえの過ちというものを・・・。」
「意味が分かりません!!」
「パーソナリティになるっていったからにはちゃんと責務を果たしてください!」
「うー・・・。」
「だってこの方、ぜひとも於木野さんに、って書いてるんですもの。」
「はあ?だってこの前一回出ただけなのに・・・。」
「ファンになっちゃったって人ですよ!」
350ラジヲのお時間【文月】3:2006/04/11(火) 23:59:10 ID:???
「・・・!!」
「では、よろしくお願いしますね〜。」
「え〜・・・。ゴホン。・・・RN『ティルトウェイト』さんからのお便りです。
 『どうも、いつも楽しく聞かせていただいています!
  前回の放送、PCの前で笑い転げてしまいました!
  さて、私からも『於木野鳴雪再登場キボン!』とさけばさせていただきます!
  素であわてる於木野さん、台詞を叫ぶ於木野さん、全てかわいかったと!
  もう一度あなたの声を聞きたいと思いメールしました!
  もし、再登場なさるのでしたら、このメールをぜひとも於木野さんに・・・。
  次回も、楽しみにしています!それでは!』
 あ、ありがとうございました・・・。」
「凄いですね〜、かわいいですって!」
「や、やめてください!」
「だって、かわいいって、ねえ、うれしいでしょう?
 え、『そんないまさらいう事でもないでしょ』?
 プロデューサー、飛ばしてますねー、今日。」
「ちょ、本気で怒りますよ!」
「なんで怒るんですか〜?褒められてるんじゃないですか〜。」
「ベンジャミンさんのはおちょくりでしょう!!?」
「・・・それだけでもないと思うんですけどねえ・・・。まあ、いいです。
 他にもメールいただいた方々ありがとうございました〜。
 晴れて於木野さんはメインパーソナリティとなりました〜。
 再び拍手〜。」

〜拍手の音〜

「うー・・・。」
「やるからには全力投球!いいですね!?」
「わ、分かりましたよ!やればいいんでしょ!やれば!」

〜『創世のアクエリアス』・CI〜
351ラジヲのお時間【文月】4:2006/04/12(水) 00:00:24 ID:???
「さて、ここで音楽です。最近、この曲が頭の中から離れなくて仕方がありません。
 同名アニメの主題歌です。『創世のアクエリアス』。」

〜『創世のアクエリアス』間奏・FO〜

「や〜、この曲いいですよね〜。
 『いちまんねーんとにせんねんまえから あ・い・してる〜。』」
「は、恥ずかしいです・・・。」
「お話も設定というかそういう点で私たち向きな部分も・・・。」
「ああ、トマとか・・・。」
「そうですねえ。全体的に見ると見事に萌えと燃えとギャグとシリアスと
 エロティズムの組み合わさってる作品ですよね。」
「作画は一回崩壊しましたけど・・・。」
「ラストに来て何とか持ち直したっていうか。いや〜、最終回楽しみです。」
「そうですね・・・。どうやってけりをつけるのかとか・・・。
 アポロンとシルビーの恋の行方とか・・・。目が離せません。」
「後期は主題歌変わっちゃってるんですけどね。今のもいいですよね〜。」
「ですね。」
「ではここで一旦CMです!」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜

〜CM〜
「そこにいたのは・・・俺?」
「いつも見慣れた風景は少し違っていた。」
「これは"ムカシ"・・・。」
「出会うはずのない"一人"が出会う。」
「せんこくげんしけん」
「シアターコンフュにて、絶賛上映中!」
「君も、"先刻前"に旅立ってみない?」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜
352ラジヲのお時間【文月】5:2006/04/12(水) 00:01:14 ID:???
「CMの、見に行ったんですよ〜。」
「あ、どうでした?ちょっと見てみたいんですけど・・・。」
「なんか、見てて切なくなるっていうか。
 主人公がどうも報われるのか報われないのか・・・。
 一緒に過去に飛んだ女の子の方は色々と良かったんですけど・・・。
 主人公、せつね〜って言うか・・・。」
「眼鏡、掛けてましたよね?」
「ええ、かけてますよ〜。ああ、そうでしたね、於木野さんは・・・。」
「・・・ええ、まあ。」
「あはは、・・・え?『俺も眼鏡掛けてみるか・・・。』?あはははは!」
「それは駄目です!!ベンジャミンさんは掛けちゃ駄目です!」
「へ?ああ、そういえば・・・。」
「い、言っちゃ駄目ですよ!!」
「え〜、いいじゃないですか〜。
 言っちゃいましょうよ〜。コスプレしましょうよ〜。」
「全くもって関連性のない言葉をつなげないで下さい!」
「これはまあ、私のキャラって言うか・・・。」
「キャラで言われる身にもなってください!」
「於木野さんのキャラがもはや受けって言うか・・・。
 いじりたくなるって言うか・・・。これも、運命。」
「格好つけてヴァルキリーの言葉言わなくたっていいです!」
「お、さすが於木野さん、あれはチェックしてますか!」
「そりゃ・・・。中学の頃やりまくりましたから・・・。」
「じゃ、今度はそのコスで!」
「はあ??」
「今度PSPでリメイクするらしいし!」
「関係ないじゃないですか!」
「ウフフ・・・。於木野さんなら・・・。ジェラード、かな?
 ツンデレお姫様で!うーん、ユメルやナナミも捨てがたい!」
353ラジヲのお時間【文月】6:2006/04/12(水) 00:02:04 ID:???
「だ・か・ら!」
「私は・・・メルになるのかな〜。シホもいいけど〜。」
「・・・性格だけはそっくりですよ、メルと・・・。」
「え〜、私あんな性格してませんよ〜。」
「・・・ただの皮肉です。」
「あら〜。言うようになりましたね〜。」
「・・・まあ、しないんでいいですけどね。・・・ってベンジャミンさん!」
「え?『ユメル人魚コスキボン』・・・。了解しますた!!梟さんに終了しだい!」
「ちょ、待ってくださいよ!」
「うふふふふふふ〜。」

〜『僕達の行方』・CI〜

「はっ!軽く飛んでました〜すいません〜。
 ではここで『ガンガル種死』より第三期主題歌、『僕達の行方』」

〜『僕達の行方』・間奏FO〜

「で、話題の種死ですけども〜。」
「もう見たくないです・・・。結構苦痛かも・・・。」
「ありゃ〜。確かにそうですけどね・・・。」
「ステラが死んじゃったのは・・・まあ、Zのオマージュだからいいんですけど・・・。」
「でも、フォウに比べて描写が多かった分、
 「生き残るんじゃ?」って期待もあったんですけど。」
「それよりも問題は、主人公、シンじゃなくなってませんか?」
「あ〜、あれは物語として問題ありますよね〜。」
「マムシさんが『ああいうのがいいと思ってるんじゃないの?』って言ってましたけど・・・。
 流石にあれはないです!いくら私たちでも!」
「その通りです!
 しかし、もしかしたらって期待を持ってまた見ちゃうんですよね・・・。」
「うー・・・。同感です・・・。」
354ラジヲのお時間【文月】7:2006/04/12(水) 00:03:09 ID:???
「私としてはもっと大人の男を出して欲しいというか・・・。」
「・・・その辺は個人的な趣味の問題なので突っ込まないでおきます。」
「え〜。もっと出てこないと駄目ですよ〜。ガンガルは戦争ものなんですよ〜。」
「・・・・・・私としてはアスランとカガリが幸せになってくれれば・・・。」
「それももはや分からなくなってきましたけど・・・。」
「そうじゃなかったら私はあの作品を見限ります!」
「今後に、期待したいところですね。そうだ、最近の傾向で・・・。」
「はい?」
「アスキラ派よりキラアス派が増えてるようですが・・・。」
「元々アスランは攻めです。誰がなんといってもそうなんです。」
「え〜。種死見ると絶対にアスランは受けですって〜。」
「ち・が・い・ま・す!ぜってーにヘタレ攻めなんです!」
「シン君はどうですか?」
「総受けです。眼鏡さえ掛けとけば完璧なんですけど・・・。」
「また眼鏡ですか〜。まあ、いいですけど〜。」
「曜子さんに言われたくないですね!」
「まあ、そうでしょうけど・・・。え?『俺はラクカガ』?」
「・・・笑えないです・・・。」
「久々に滑りましたね、プロデューサー・・・。」
「あ、あ、落ち込まないで下さいよ・・・。」
「まあ、色々趣味は・・・マムシさん?『じゃあ俺はルナステだ!』?」
「・・・共倒れですか・・・。」
「うまくフォローしようと思って失敗しましたね・・・。」
「やっぱりあの二人・・・。」
「ではでは、ここでCMです!」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜
355ラジヲのお時間【文月】8:2006/04/12(水) 00:09:19 ID:???
〜CM〜
「個性あふれる人・人・人」
「私たちの居場所は広がっていく」
「変わっていくこと・変わらないこと」
「この場所に出会えて・・・本当に良かった」
「僕らはみな そう思う」
「オナキ賞受賞作」
「11人いる!」
「ハードカバー版発売中です」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜

「こういう単行本、って言うのもたまに読むといいですよね〜。」
「変わっていくこと・変わらないこと・・・。」
「いいフレーズですよね。でもどこかで聞いたような・・・?」
「まあ、そこはスルーということで・・・。」
「これ、連作小説の最新作なんですが、
 主人公の女の子が当初に比べてものすごく成長しているんですよ〜。」
「そうなんですか?」
「ええ。最初、周囲に攻撃性丸出しだったのに、人との交流を通して、
 かわっていってたんですが、この話で皆のために行動する姿は感動ものでしたよ。」
「・・・そういう意味なんですね、このフレーズ。」
「・・・ええ。さて・・・二回目のCMが終わったってことは!」
「はっ!!」
「まだまだいくよ〜!!
 『漫画・恥ずかしい台詞を大声で言ってみよう』のコーナー!」
「ひぃ〜!!」
「さてさて前回は『くじアン』で会長だったわけですが・・・。」
「・・・。」
356ラジヲのお時間【文月】9:2006/04/12(水) 00:09:57 ID:???
「今回は・・・。リクエストより〜『金色のカッシュ!』から。」
「か、『カッシュ』ならそうでもないか・・・。」
「『これ以上私の友達を侮辱してみろ!!お前のその口、切りさいてくれるぞ!!』」
「うわ〜・・・。」
「ではどうぞ〜。」
「わたしですか!!?」
「だって於木野さんが言わなきゃ誰が言うって言うんですか!!?」
「曜子さんが言えばいいじゃないですか!」
「チッチッチッ・・・。分かってないですねえ。」
「はぁ?」
「この台詞を私が言っても何の面白みもないじゃないですか!」
「まあ・・・。そりゃ・・・。」
「私もね、声の質とキャラを自覚してるんです。」
「はあ・・・。」
「於木野さんのようなかわいい声で言うからこそいいんです!」
「か、かわっ!」
「メールにもありましたけど、前々から思ってたんですよね〜。」
「いや、だからって・・・。」
「そうですよね?『ははは〜、いまさら言うことでもないって言ってるだろ〜』。
 そうですよね〜。」
「いい加減にしてください!」

〜ガラスを叩くような音〜

「ほらほら、落ち着いて、於木野さん。」
「ふー、ふー。」
「とりあえず、椅子に座りましょう。」
「うー・・・。」
「では、この台詞。やってもらいましょう!」
「・・・分かりましたよ!やればいいんでしょ、やれば!!」
「おお〜。於木野さんがいつにも増してやる気ですよ〜。」
357ラジヲのお時間【文月】10:2006/04/12(水) 00:10:43 ID:???
「『これ以上私の友達を侮辱してみろ!!お前のその口、切りさいてくれるぞ!!』」
「むは〜。かっこいいですよ〜。」
「うう・・・。恥ずかしい・・・。」
「いや、ものすごくいけてました!こりゃ、次回からもやってもらわねば・・・。」
「そ、そんな!曜子さんの声を聞きたい人だっているはずですよ!」
「うーん、その方々には残念ですが・・・。」
「せ、せめて次回は一緒にやりましょうよ!」
「考えておきますね!お、『じゃあ、今度は掛け合いにでもしようか』。いい案ですね。」
「うー・・・。それなら・・・。」
「フフフ・・・。徐々に嵌ってきてますね・・・。」
「何か言いました?!」
「いいえ〜。」

〜『見えない翼』・CI〜

「ここで音楽です。アニメ『金色のカッシュ・ベル』第三期OPテーマ、『見えない翼』。」

〜『見えない翼』・間奏FO〜

「で、カッシュですが・・・。読んでます?」
「面白いですよね。燃えとギャグのバランスが非常に凄いと思います。」
「そうですよね〜。仲間だった魔物の子が帰るシーンはどれも泣けますよね。」
「ええ・・・。高校の頃、特にはまってた漫画の一つでした。」
「そうですか〜。お気に入りは?」
「キヨマロはいいですよ。徐々に人間らしさを取り戻していく過程がとても好きです。」
「いいですよね〜。私としては、かっこいいおじ様がたくさん出てくるのが・・・。」
「その辺はスルーしていいっすか?」
「於木野さん冷たい〜。」
「魔物の子では、ティオですね。」
「あ〜、分かる気がする〜。」
「なんでですか?」
「似てますもん。」
358ラジヲのお時間【文月】11:2006/04/12(水) 00:12:01 ID:???
「私、あんな性格してます?」
「於木野さんの方が可愛げないと思いますけどね。」
「・・・どうせ私は可愛げなんかありませんよ。」
「じょ、冗談ですよ〜。まあ、まあ、それは置いといて。」
「はい?」
「カッシュといえば巻末の『僕の考えた魔物の子』コーナーですが。」
「・・・。」
「応募したことは?」
「・・・ありまs・・・。」
「え?」
「ありますよ!高校の頃に!」
「え〜、本当ですか!!・・・で、結果は・・・。」
「・・・入選しましたよ・・・。」
「じゃあ、コミックスに載ってるってことですか!!
 え??『今カッシュ全巻が手元に・・・。』さすが、プロデューサー!仕事が速い!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

〜ガラスを叩く音 扉をあける音 遠くに聞こえる喧騒〜

「さて、私たちは於木野さんが描いた魔物の子を見て今日の打ち上げの魚にしようと思います。
 それではまたの放送をお楽しみに!パーソナリティは神無月耀湖と・・・於木野さん!」

〜掛けてくる足音 椅子に座る乱暴な音〜

「・・・はぁ、はぁ・・・。於木野鳴雪でした!あ、見ないで!」

〜再び扉を開ける音 遠くに聞こえる喧騒 BGM・FI〜

〜BGM・CO〜
359幕後〜ヤナとマダラ:2006/04/12(水) 00:12:38 ID:???
「あの後、どうなったのよ。」
「漫画をもった笹原を荻上さんが追い掛け回してな。
 管理者に怒られちゃったよ。」
「出来はどうだったのさ。」
「いや〜、可愛かったよ、魔物の子。ああいうのも描けるんだ、って感じ。」
「へ〜。」
「で、打ち上げの時にその話で盛り上がったんだよ。」
「どんな風にさ。」
「荻上さんはジャプン向きだ、いや、ロコロコとかの方がいい。とかさ。」
「なるほどね。確かに少女漫画向きじゃないかもね。」
「そう思うんだ。」
「絵の傾向はどっちかっつーとね。まあ、種類的には楠木刑に近いかな?」
「あの両刀作家か。絵柄はぜんぜん違うけどな。」
「や〜、荻上さんが描いた少年漫画、読んでみたいね。」
「・・・やっぱあっちの気は入るんだろうけどな・・・。」
「・・・・・・それは言うなよ・・・。」
360後書き:2006/04/12(水) 00:13:29 ID:???
長い間占領してスミマセンでした。
お楽しみいただけたら幸いです。
361マロン名無しさん:2006/04/12(水) 00:19:31 ID:???
>ラジヲのお時間【文月】
おお〜〜!!
たのしーーー!!!
おもしろーーー!!!
またまた次回の放送が楽しみになっちまったっす。
於木野さんカワイっす。

途中からだったんで、こっち先に読んじゃいました。
これから801小隊を読みます。
こっちも楽しみだ!!

ヤナがいいですね。ヤナ再登場キボンヌ
362マロン名無しさん:2006/04/12(水) 00:53:44 ID:zVieRmGo
>801小隊・ラジヲのお時間
乙です!!まさかの2本立て、豪華ですね!
801小隊のほう、とうとうクライマックスですかね!?
ク、クガヤマが〜(汗)死なせないでください…(泣)いやきっと死なないと信じてます!
包帯だらけのマダラメも、痛々しくて…オギウエさんが苦しむすがたも…
いや、とにかく次回も期待しています!!

ラジヲのほう、何度も噴いたwww
オタ話、なかなか堂に入ってマスヨねぇ。部室でもこんなカンジなんかなあ…w
今回もCMが!「せんこくげんしけん(劇場版)」と「11人いる!」を持ってくるとはw
ナレーションとても良かったっす!!GJ!

さてワシも。「ヤナ再登場キボンヌ!!」
…あ、ついでにマムシもw
363マロン名無しさん:2006/04/12(水) 00:54:44 ID:???
>>801小隊12話
待ちわびていた続編、ありがとうございます!
ねぇ、なんでクガピー死んじでまうの…?(ホタルの墓風に)
キタガワさんもナイスです〜。

>>ラジオのお時間【文月】
ついに於木野鳴雪さんがレギュラーに!
これはもうヘビーリスナーになるしか有りませんね。もう。
ガッシュは持ってませんが本誌は買ってるので読んでます。
たまに泣いてしまいます。なるほど…いやー面白かったです!
364マロン名無しさん:2006/04/12(水) 01:46:42 ID:???
ああ〜、これ同じ作者だったの!?
スゲー!!
シリアスもギャグも、ネタもマジも、劇画もコミカルも、書ける人は書けるんだなぁ。
リクエスト(「於木野鳴雪登場キボン!」)して良かったーっ!(^^)v
365マロン名無しさん:2006/04/12(水) 03:10:21 ID:???
>>「・・・はぁ、はぁ・・・。於木野鳴雪でした!あ、見ないで!」

激しく妄想した
366マロン名無しさん:2006/04/12(水) 03:34:41 ID:???
ヤナが狂言回しになって801とラジオが繋がってるのがいいねw
連続投下ならではのお遊びが心地ヨス〜w

死ぬなクガピー!
367マロン名無しさん:2006/04/12(水) 06:45:05 ID:???
>801小隊
あまりにも続編が来ないのでSS道から足洗っちゃったかと危惧してましたが、執筆中だったようですね。
よかったよかった(涙)
クガヤマー!無事でいろよー!
俺的希望を言わせてもらうなら、サイボーグ化されて無事生還。
火が吹けるようになり、何故か中国人みたいな言葉使いをするようになる。
このぐらいで勘弁して欲しい。

>ラジヲのお時間
まさかこれも同じ人だったとは…
いやーおみそれいたしやした。

拙作をCMネタに使って頂き、感謝の極み。
(敢えてどれとは言いません)
今その話から9年ほど後の話を書いてます。
何とか来月号までに仕上げたいと思います。
368マロン名無しさん:2006/04/12(水) 07:04:33 ID:???
>>801小隊、ラジヲのお時間
さすがというか、レベル高いですねえ…GJです。

ところで、
>『いちまんねーんとにせんねんまえから あ・い・してる〜』
某平野のせいで、いちまーんとにせんえんくれたら あ・い・してる〜
としか聞こえなくなりましたorz
369マロン名無しさん:2006/04/12(水) 07:15:19 ID:???
>801小隊
とにもかくにもクガヤマ生きろ〜!
小隊をサポートする側にキタガワさんが登場して、3機のドムがやってきた展開に、「まさかキタガワさんが輸送機で特攻しないよね」と心配になりました(マチルダさ〜ん!)
さあ宇宙(そら)だ!新型モビルスーツだ!


>ラジヲのお時間
パーソナリティ2人の掛け合いが楽しすぎ!
またミキシングルーム?のベンジャミンやマムシの横やりと自滅には笑わせてもらいました。
また、CMでmyネタ出てきたときは思わず「キター!」な瞬間でした。ありがとうございます。

両SSのブリッジにヤナを使うのがまたイイですね。両方とも次回期待してます。
370マロン名無しさん:2006/04/12(水) 10:27:30 ID:???
>> 801小隊
クガヤマーーーーーーーーー!!
カッコ良かったよ、クガピー。イイ男だ。
基地の衛生兵の腕が良いことを祈ります…
生きててくれー!

>> ラジヲのお時間
於木野さんキターーーーーーーーーーーー!!!
はい、リクしたの私です。
まさか本当に言ってもらえるとは…嬉しいです。
どんな魔物だったのか興味あるなぁ…
いろんなネタを繰り出してくれるげんしけんラジヲ、
これからもリスナーやらせて頂きます!
371雨待ち風【ハルコ】0-26:2006/04/12(水) 21:27:43 ID:???
絵板で話題のハルコ編です。もはやオリキャラ、アナザストーリーです orz
男女変換キャラは斑目→ハルコ 咲→春日部 高坂→真琴と表記 
前半は合宿のストーリーを変換キャラにて進行、後半は創作展開となりました。
絵板のイメージを一部使わせていただいております。
26分割予定で投下します タイトルとストーリイメージはスキマスイッチより 
372雨待ち風【ハルコ】1-26:2006/04/12(水) 21:29:03 ID:???
第一幕 部室にて

ハルコ「えっ?」
部室でぼんやりとしているところ、突然声をかけられて、ハルコは驚いた。

春日部「だからー、今回の合宿で笹原と荻上さんをくっつけちまおうっ
て言うの!聞いてたの?今の話、ハルコさん!もちろん、そんな強引な真似は
する気無いけどさー」
そばで大野がウンウンと頷いている。
春日部「それとも、二人の事、気付いてなかったとか?」

ハルコ「もっもちろん、気付いてたわよ!」
とお茶をすすりながら、ハルコは慌てて弁解した。

そう言いながらも、本当はハルコがそれに気付いたのは最近の事だった。最初
は普通にハルコと接していた荻上が、急に素っ気無くなったのは何時の頃から
だったか・・・。思えば、その頃から荻上は笹原の事を意識し始め、笹原と親
しくする自分に穏やかでいられなかったのだろう。
(ほんと鈍いなー、わたし・・・)
そう思いながら、頭を掻いた。
373雨待ち風【ハルコ】2-26:2006/04/12(水) 21:29:51 ID:???
春日部「それでさ、さっき話した通り、俺が笹原にもっと積極的に押すように
促すからさ、ハルコさんたちは荻上さんの気持ちを和らげる方向で頼むよ」
ハルコ「はは、ここはドンとお姉さんに任せなさい!」
とハルコはここぞとばかりに、年長者風をふかした。
(自分の恋もままならないのに、人の恋路の手伝いしてる場合カネ?!)

春日部「頼むよ・・・笹原には色々と入学の頃から、ぐちを聞いてもらったり、
世話になってっからさー。こんなお節介、俺らしくないけどね・・・」
そう言いながら春日部は昔を思い出すような遠い目をした。

そんな春日部の姿を見て、ハルコもまた、春日部との昔の思い出が脳裏をよぎ
った。

第一印象はお互い最悪だった。むしろ嫌いだったかもしれない。ハルコはハル
コで、せっかく入った女子新人の真琴を手放したくなかった。
腐女子の先輩に誘われて入部した現視研は創作活動をしないオタクや腐女子
には居心地のいいところだった。男子もいたが、不干渉な領域にはお互い干渉
せず、共通の、例えば『くじあん』とかの話題で盛り上がっていた。
先輩が卒業してからはハルコ一人が女子だった。それに不自由はなかった。田
中や久我山もハルコを異性として意識する事無く、気さくに接していたし、ハ
ルコもまた意識せず気さくに彼らとオタク話を楽しんだ。
だが、やはりやおい話ができないのは寂しいと密かに思っていたところへの真
琴の入部希望だったから・・・。
374雨待ち風【ハルコ】3-26:2006/04/12(水) 21:30:56 ID:???
春日部も逆にきっと嫌っていたことだろう。意中の女性の趣味が彼には到底理
解できないものだった。なんとか辞めさせたくてしかたがなかったはずだ。ハ
ルコも思いっきり意地悪をして、やおい趣味と男女の交際とは「別物」だと言
って、春日部を口惜しがらせたものだった。

(何時からだろう・・・この感情が変わったのは・・・)
変わったのはハルコの感情だけではなかった。二人の関係は二人の性格にも影
響を与えた。ハルコの外見の変化も著しかった。野暮ったい服を春日部に指摘
されてからは服装にも気をつかうようになった。昔からの友人の高柳と久しぶ
りに会った時、「知らなかった!ハルコが女だったとは!」と言われた。「昔か
ら女だよ!」と軽口をたたいたが、悪い気はしなかった。

ただ、昔のような気さくな関係に戻れない事を寂しくも思った。田中が大野と
付き合い始めた頃にも同様に長年の友人を失ったように寂しく感じたものだ
った。

春日部「・・ルコさん!」
ハルコ「えっ、ああ、はい!」
春日部「今日はどうしたの?ぼんやりしてばっかりいて!」
ハルコ「あらあら、ごめんなさい」
(こうして春日部君と話すのもいつまで続くのかな・・・)
そう言って不思議そうな顔をしている春日部に笑いかけた。
375雨待ち風【ハルコ】4-26:2006/04/12(水) 21:31:47 ID:???
第二幕 別荘への風景

合宿当日の空は晴れ渡っており、空気も爽やかだった。樹々の生い茂る緑の光
が眩しかった。いつもと違う環境は心も軽やかにする。現視研サークル一行を
先導する惠子も普段以上にはしゃいでいる。

惠「こっち、こっちだよ」
惠子は春日部の手を引っ張って、合宿所のあるペンションまで導いた。恵子は
春日部への好意を隠そうともしない。ハルコは惠子をうらやましく思った。
真琴はあいかわらずおっとりぼんやりしている。イラストレータの仕事を在学
中から始めており、その締め切りに追われて、疲れた様子だ。
見せ掛けでない天然の愛らしさを持つ真琴は不思議と人の悪意に無縁に見え
る。真琴自身も、また周囲からも・・・。
ハルコは真琴を見つめてため息をついた。

静謐な林の中にたたずむ別荘は、小さいながらも木目の内装の綺麗な吹き抜け
の作りで、趣向をこらした雰囲気がとても良かった。惠子と大野は真っ先には
しゃぎながら、温泉のある浴室を探し当てた。二人は温泉がやや予想よりも作
りが雑な上、外から丸見えな事に失望していたが、ハルコはまずまずだと思っ
た。
376雨待ち風【ハルコ】5-26:2006/04/12(水) 21:32:43 ID:???
春日部「じゃあ、当初の計画通りに・・・」
と春日部はハルコに耳打ちした。
ハルコ「うっうん!」
ふいに春日部の顔が近づいた事に驚き、顔を赤らめながら答えた。

二人の様子をうかがうと、笹原が荻上に視線を向けても、荻上は意識的に顔を
合わせようとしない。むしろ不自然なくらいに見えた。
荷物の片付けが終わると、大野は荻上を散歩に誘った。惠子も春日部を誘って
ショッピングに出かけたがったが、徹夜続きの疲れからすぐに寝入ってしまっ
た真琴のそばに春日部は居たがった。
ハルコは真琴は自分が見てるから安心して出かけていいよ言い、春日部を安心
させて送り出した。笹原と朽木も疲れたからと、居残る事になった。
ハルコが笹原と二人になると知った時の、荻上の複雑な表情にハルコは気付い
た。

ハルコ「やっと、落ち着いたわね!」
笹「そうですねー、でもまさか本当に軽井沢に来る事になるとは思いませんで
したねー」
ハルコ「そうよね、そもそも私たちのサークルじゃ合宿なんて考えられなかっ
たけど、色々タイミングも合ったからね・・・」
377雨待ち風【ハルコ】6-26:2006/04/12(水) 21:33:39 ID:???
二人は気兼ねなく雑談を交わした。ハルコ自身、会長という立場もあり、また
人に気遣わせる性格でも無かったので、笹原とは普段から気さくによくオタク
話で盛り上がっていた。
元々、笹原は同世代とオタク話がしたくて入部したのに、同期入部した男子が
一般人の春日部だけだった上、春日部の相手も結局笹原がした為、笹原自身の
望みは主にオタク話も好きなハルコを相手にする事が多かった。
それが荻上の心を落ち着かないものにさせていたとすれば、笹原にも申し訳な
いなとハルコは思った。

ハルコ「でさ・・・どうだったの?」
笹「どうって?何がです?」
朽「サー!やはりのぞき・・・あっ斑目先輩!」
ハルコ「あのねえ・・・(怒)」

結局、お約束の期待を裏切らずに朽木が乱入した為、ハルコは肝心の会話を続
ける事ができずに終わってしまった。だが邪魔が入ってむしろほっとしてもい
た。
(難しいよ、大見得切った手前、どうしよう・・・)
ハルコはぼやっとした笹原の表情が自分を見ているようで、腹立たしく感じら
れた。
378雨待ち風【ハルコ】7-26:2006/04/12(水) 21:34:40 ID:???
第三幕 合宿初日の出来事

夕食前に皆がそれぞれ戻ってくると、急に部屋が賑わしくなった。特に惠子が
大騒ぎしている。春日部は笹原に何やら耳打ちしている。笹原の顔が途端に青
ざめた。何を話したかはハルコには聞こえなかった。

春日部「真琴、ずっと寝たまま?」
ハルコ「そうね、ずっと私たちここにいたけど、熟睡しっぱなし・・・」
春日部「そうかー、よっぽど疲れてたんだなぁ ま 今日はもうしょうがない
けど・・・」
愛しげに春日部は真琴の寝顔を見つめている。
ハルコ「(・・・『明日は一緒に出かけたい』ってことね・・・)」
春日部「で、どんな感じ?」
ハルコ「まっまあ、なんとか・・・」
春日部「そう・・・じゃあ夕食後にも手はず通りにね」

近くのレストランで夕食後、再び部屋に集うと、春日部が皆に言った。
春日部「じゃあ、女性陣先に温泉入りなよ!クッチーはこっちで一緒に酒盛り
しような!逃がさんよ」
朽木はそう言われると、いかにも残念そうな口ぶりをしたが、態度はかまって
もらって嬉しそうであった。
379雨待ち風【ハルコ】8-26:2006/04/12(水) 21:35:36 ID:???
ハルコ「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

最初はハルコと大野が温泉に入る事になった。

ハルコ「で、どうだったの?」
大「そうですね・・・何が問題なのかは大体分かりましたけど・・・」
大「その理由となると まだちょっと・・・」
ハルコ「ふーん 別に私と笹原君の事 勘ぐってるわけじゃないよね?」
大「そうじゃないみたいですよ・・・もっと別の理由で・・・」
ハルコ「ならいいけど、でも別の理由というのも、それはそれで気になるけ
ど・・・それは後で・・・」
大「そうですね」
ハルコ「おーい、次いいよー」
荻上が恐る恐る、そーっと浴室に入ってきた。ハルコが浴槽から出ると、大野
の視線がハルコの胸にいった。
(む!)
無意識に勝ち誇った大野の目にカチンときた
(おのれ!この女はー)
ハルコ「ねえ、オギー 胸は大きさじゃなく、形だよね!」
荻「はあ?」
ハルコ「そこはソウデスネと言ってほしかった!」
380雨待ち風【ハルコ】9-26:2006/04/12(水) 21:36:25 ID:???
風呂から上がると、すでに男性陣の酒盛りは、特に春日部が一人で飛ばして盛
り上がっていた。朽木はすでに酔い潰されていた。笹原はなんとか相手にして
いるが、時間の問題かもしれない。

大「なんか、春日部君、当初の目的忘れてませんか?」
ハルコ「まあ、いいんじゃない・・・こっちはこっちでやりましょう」

女性陣の酒盛りの盛り上げ役はハルコだった。やたら高いテンションでやおい
話を連発して、場を盛り上げようとした。大野は乗り気でその話に乗り、荻上
はやや遠慮がちに話に加わり、恵子は完全につまらなげに話を聞いていた。む
しろ恵子は春日部のグループに加わりたがっていたが、大野が押し止めていた。

ハルコの計画では荻上の緊張をほぐして、酒の勢いも借りて荻上から本心を引
き出すつもりでいた。だからこそ普段以上に大はしゃぎし、荻上に酒をどんど
ん勧めた。
ところがそれが裏目に出たと分かったのはすぐだった。酔っ払った荻上は聞き
もしない自分の過去話をし始め、恋愛告白話と思ったハルコと大野は、最初は
場を盛り上げて話を促したのだが、深刻な内容と気付くと、様子が一変した。
恵子は完全にドン引きし、一刻も早く、この場から逃げ出したい様子だった。
381雨待ち風【ハルコ】10-26:2006/04/12(水) 21:37:27 ID:???
ハルコ「なっなんか話が目的から大きく脱線したような・・・」
大「どうなんですか?こういう事って日本じゃよくあるんですか?創作系の人
が周りにいなかったんで分かりませんけど・・・」
ハルコ「いや、実在の人をモデルにするって話は知ってるけど・・・」

二人はコソコソと内緒話をして、オロオロしながら荻上の話を聞いていた。

荻「わたしがいけねくて・・・そんで・・・巻田君が今でもそれ気にしてたら・・・
どうしよう・・・」
その様子にハルコは途方にくれた。泣き崩れる荻上に大野はすっかり同情し、
笹原に絶対幸せにしてもらうと息巻いている。
こうした事情を春日部や笹原に説明し、理解してもらう事は非常に困難な様に
思えた。
とりあえず、ハルコは荻上を落ち着かせ、なだめて寝付かせた。
落ち着きを取り戻しはしたが、苦しみで顔を歪めている荻上の目じりには薄っ
すらと涙が浮かんでいる。笹原と荻上の事は所詮頼まれ事で、他人事のような
気持でいたが、この時初めて何とかしてあげたい気持ちにハルコはなった。
ハンカチで目じりから頬に伝う涙をぬぐってやりながら、
(なんて業の深い・・・わたしはどうしてあげたらいい?)
そう思い、途方にくれた。
ふと目をやると真琴が何も知らずにスヤスヤと無邪気に健やかな表情で寝て
いる。苦悩を知らないその表情がうらやましくもあり、妬ましくも感じられた
382雨待ち風【ハルコ】11-26:2006/04/12(水) 21:38:23 ID:???
第四幕 合宿2日目の出来事

翌朝、荻上は飲み慣れない酒に二日酔いになってしまった。男性陣はといえば、
そうとう飲んだのに春日部はけろっとしている。また早々と潰された朽木や笹
原も大丈夫だった。朝食の場で、荻上の看病をどうするかという話の段になり、
結局大野の強い主張で荻上の看病を笹原に任せることになった。

二人だけの状況にしてよいものかと、一抹の不安を感じながらも、ハルコも春
日部たちと一緒に外出した。大雑把な事情は春日部にも伝えた。首をかしげ、
理解できない様子だったが、事態を楽観的に見ていた。

春日部「大丈夫でしょ!よく分からないけど笹原次第だと思うよ」
ハルコ「まあ・・・特殊な事情と言えば事情なんだけど・・・」
性格なのか、悲観的になってしまう。
戻ってみると、案の定荻上が外に飛び出して、逃げ去っていく。驚いた春日部
と大野は別荘に走っていき、笹原がその後飛び出して、荻上の後を追っかけて
いった。
383雨待ち風【ハルコ】12-26:2006/04/12(水) 21:39:16 ID:???
真琴「青春ね!」
事情を理解しているのかしてないのか、真琴はいつも通りのおっとりとした口
調でにこやかに言う。
ハルコはといえば、事態の急転直下な展開に戸惑い、傍観者としてただ平静に
見ることもできず、かといって積極的にこれに関わることさえできずに、オロ
オロしてるばかりだった。
二人を待っている時間がもどかしかった。部外者でいることがこれほど苦痛と
は思わなかった。二人が無事に戻ってきて、荻上が前向きな姿勢を取り戻した
時は心からほっとした。

ハルコ「これで何とか無事にすみそうじゃない?でも私たちにも隠してる事っ
てなんだろ?」
大野と二人きりになった時、ハルコは大野に尋ねた。
大「いやだなあ、ハルコさん 『あれ』ですよ、『あれ』!」
ハルコ「『あれ』って?本当に分からないんだけど・・・」
大「あれ?ハルコさんには荻上さん、見せてないんですか、笹春を!」
ハルコ「はあ?まさか・・・まさか、笹原君と春日部君の!」
大「たぶんその事だと思いますよ。似顔絵だけ見せてもらった事ありますか
ら・・・」
384雨待ち風【ハルコ】13-26:2006/04/12(水) 21:40:20 ID:???
ハルコ「えええええ!だって・・・だって・・・どう考えても春笹でしょう!」
大「ですよね!ですよね!でも荻上さんにはそう見えるんでしょうね」
ハルコ「趣味が・・・じゃない!私たち思いっきりずれた会話してる!」
大「そっそうでした・・・」
ハルコ「ああ、オギー・・・オギー・・・あなたって・・・」
ハルコは立ちくらみに似た感覚に襲われた。

大「きっと、大丈夫ですよ!笹原さん予備知識だって持ってるし・・・」
ハルコ「本当に・・・本当に・・・そう言い切れる?オギーが傷つく反応を示
さないと言い切れる?」
大「それは・・・正直・・・。私から笹原さんに念押ししておきましょうか?」
ハルコ「いえ!・・・私がやります・・・もちろんもう一人の『当事者』にも
何も言っちゃダメですよ!私も言いません!」
いつもなあなあで流して誤魔化そうとする普段のハルコと違う様子に、大野は
戸惑いながらも
大「じゃあ、お任せしますよ?・・・」
とハルコに事を委ねた。
(オギーも笹原も周囲の手助けを得たとはいえ、少なくとも自分から動き出し
た。私もここで何かしなければならない・・・そう、待つのではなく・・・)
385雨待ち風【ハルコ】14-26:2006/04/12(水) 21:41:21 ID:???
第五幕 合宿三日目

前日、大野にああ言ったものの、ハルコは笹原と二人きりになる機会を見つけ
ることができずに、うろうろしていた。時間ばかりがたつ。大野も心配な目で
見ている。
考えてみれば、そんな器用な真似が自分にできるはずが無かったのだと後悔し
始めてもいた。そうこうしてるうちに、軽井沢のショッピング街にたどり着い
た。それぞれ、自分の買いたい物に目を奪われて、ばらけ始めた。この機会を
逃すともう後は無いだろう。そう思って、笹原のそばに寄った。すると笹原は
携帯を開いて、メールチェックをし始めた。やや離れたところでは、荻上が顔
を赤らめながら、携帯を閉じている。ハルコははっとその意味に気付き、笹原
に声をかけた。

ハルコ「やっやあ、ササヤン!」
そう声をかけると笹原は驚いた表情でハルコの方を向いた。『ササヤン』と呼
ぶのはもっぱら春日部で、ハルコがそう呼ぶことなど無かったからだ。
笹「ハルコさん、どうしました?」
ハルコ「いや、あの、その・・・」
喉が渇き、声は裏返り、言葉もしどろもどろになった。
(何て言ったらいいの・・・)
386雨待ち風【ハルコ】15-26:2006/04/12(水) 21:42:25 ID:???
頭の中がぐるぐると回る感覚に襲われた。しかしどうにか浮かんだ言葉を声に
した。
ハルコ「どっどんな事があっても、受け入れなさい!あなたの感じたすべてを
偽り無く、ありのままに伝えなさい!」
そう言って、ゼイゼイ息切れしてしまい、言葉が続かなかった。

笹原は最初はきょとんとして驚き、やがてハルコが伝えんとしている事の意を
悟り、無言で会釈した。
ハルコ「じゃ!じゃあ、そういう事だから!」
そう言って、顔を真っ赤にして、走り去った。
(限界!これが限界!)
でもやりきったという気はした。言葉で伝えられる以上の事を伝えられた気が
した。後は二人の問題だ。自分の事もこうできればいいのに・・・。
387雨待ち風【ハルコ】16-26:2006/04/12(水) 21:43:27 ID:???
第六幕 一週間後

ハルコ「あら?お久しぶり!オギー」
部室の扉を開けると、そこには合宿以来顔を合わせることも無かった荻上がい
た。

荻「あ こんにちは お久しぶりです」
ハルコ「私も仕事忙しくて、一週間ぶりなんだけど・・・けっこう来てた?」
荻「ええ、私 けっこう来てますよ」
ハルコ「他の人は?みんな忙しいのかしらね?」
荻「どうでしょう?大野先輩なんか旅行からずっと田中さんちにいるみたいで
すよ 昨日 メール来てました。」
ハルコ「そう・・・大野も来てないんだ・・・」
(バタバタして、こっちから電話もメールもしそびれてたな・・・)
ハルコ「・・・さっ笹原君も?」
荻「あ そうですね 研修とかで今週は・・・」
ハルコ「えー、しょうがないわね、一週間も音沙汰なしで!早く結論出しなさ
いって!」
荻「え?」
ハルコ「え?」
荻「・・・・・・」
ハルコ「また私だけ知らなかったの〜(涙)」
荻「あっいえ別に隠していたわけじゃなくて・・・聞いてきた人にしか教えて
なくて・・・あまり言いふらす事でもないんで・・・聞かれた人にも言いふら
さないようにお願いしてましたから・・・」
388雨待ち風【ハルコ】17-26:2006/04/12(水) 21:44:28 ID:???
ハルコ「まあ、いいんだけどね(涙)」
荻「でも・・・本当に斑目先輩には・・・お世話になりました・・・。」
ハルコ「なんにもしてないって!」
荻「いえ、笹原さんからも聞いてました」
ハルコ「・・・あ・・・別にたいした事言ったわけじゃないし・・・とにかく
良かったね!」
荻「いえ、本当に・・・」
ハルコ「・・・ところで・・・『あれ』はもう誰にも見せない方がいいかもね・・・」
荻「そうですね(汗)」
ハルコ「それもやおい?」
荻「まっまずいっすかね?」
ハルコ「まあ、イインジャナイデショウカネ」

二人は顔を見合わせて笑いあった。
ハルコ「色々ばたばたしちゃったけど、今度こそ温泉でゆっくりしたいね」
荻「そうですね」
ハルコ「次は女だけで行きましょ!」
荻「いいですね!」

(色々な事が・・・きっと良くなってくる・・・)
荻上の笑顔からは以前の暗い面差しは少しも感じられることは無かった。荻上
の苦悩を自分の事のように苛んだハルコもようやく安らいだ気持ちになった。
389雨待ち風【ハルコ】18-26:2006/04/12(水) 21:45:19 ID:???
第七幕 ハルコの告白

急に激しい雨足の夕立が降り注ぎ、慌ててハルコは雨宿りできる場所を探して、
駆け出した。急に駆け出したので、同じように駆け出した男の人とぶつかって
しまった。
ハルコはよろめきながら叫んだ。
ハルコ「ちょっとどこ見てるの!」
春日部「あれえ!ハルコさんじゃん!危ない!」
そう言いながらよろめくハルコの手をつかんだ。
ハルコ「え!春日部君?」
春日部「やばい、やばい、濡れちゃうよ!」
そう言いながら春日部はハルコの手を引っ張って、近くの建物の軒下に避難し
た。
(うわ、うわ)
顔を赤らめつつ、内心でハルコは思わずそう叫んでいた。

ハルコ「どうしたの?こんなところで!久しぶりだね!」
春日部「ハルコさんこそ!俺は出店する店舗の下見にきてるんだけどさ」
ハルコ「この辺なんだ!私は会社が役所に提出する書類を届けた帰りで・・・」
春日部「ああ、会社この辺なんだ。と言っても俺の場合、ここは出店候補地の
一つなんだけどね」
390雨待ち風【ハルコ】19-26:2006/04/12(水) 21:46:16 ID:???
ハルコ「そうなんだ・・・」
春日部「まあ・・・立地条件とか、家賃とか・・・折り合いが難しくて・・・」
ハルコ「大変だねー」
春日部「ところで、ハルコさんのOL姿なんて初めて見たよ!うわ、新鮮!」
ハルコ「じろじろ見るな!」
そう言ってハルコは春日部の足を蹴飛ばした。
春日部「痛てて・・・相変わらずキツイね・・・」
ハルコ「・・・昔は毎日のように嫌がらせしてたねえ・・・わたし」
春日部「まあ、それも良い思い出だよね・・・」
ハルコ「よく続いたよねキミ、あんなオタサークルで・・・染まりもせずに・・・」
春日部「そうでもないよ、漫画読むようになったし・・・コスプレもするはめ
になったし!二人でねえ!」
ハルコ「うっ!それは・・・」
二人は顔を合わせて笑い出した。

春日部「あれ?前にもこんな事無かったっけ?」
ハルコ「!! そうだっけ?覚えてないなあ・・・」
春日部「いや、あったよ!あの時は構内でやっぱり急に雨が降って雨宿りし
て・・・」
391雨待ち風【ハルコ】20-26:2006/04/12(水) 21:47:14 ID:???
(覚えてますよ・・・。最初から気付いてましたよ・・・。キミが手を引いて
くれた時から・・・)

鼻毛の件も言ってしまおうか?あの時だ・・・。あの時の表情がとても可笑し
くて・・・笑いを堪えて・・・いつも格好つけている男が・・・。あの時から・・・。

春日部「そうかー、覚えてないんならいいんだけど・・・」

(ああ、でも・・・覚えててくれているんだ・・・あんな事でも・・・)
ハルコの胸の鼓動は鳴り止まず、熱い気持ちがこみ上げてきた。

言ってしまおうか・・・言ってしまおう!オギーや笹原だって自分で勇気を出
したじゃない!そして私にも出来たじゃない!こうして手遅れになるのを待
ちつづけて、諦められると思わなくても・・・。

ハルコ「あの・・・」
392雨待ち風【ハルコ】21-26:2006/04/12(水) 21:48:17 ID:???
春日部「・・・でさー、真琴にプロポーズしようと思ってんだよねー」
ハルコ「!!・・・そう・・・それはおめでとう・・・」
春日部「ああ見えて、真琴は俺がいないと駄目なんだよね。俺が必要なんだ」
ハルコ「必要としてるのはキミの方でしょう・・・」
小さくか細い声でハルコは呟いた。
春日部「えっ?何か言った?」
ハルコ「いやいや、しょってるね!って言ったんだよ!」
春日部「ああ、ひどいね、やっぱりハルコさんは!」
春日部は笑った。
ハルコもまた笑った。
ハルコ「晴れたねえ!あんまり帰るの遅いとサボってるって言われちゃうね!
じゃあまた!結果教えてね!」
ハルコはそう言って小走りに駆け出した。

その夜、会社の飲み会の二次会で、同僚達とカラオケに行ったハルコは周囲の
目もお構いなしに、アニソンを熱唱した。普段大人しいと見られていたハルコ
の意外な面に、逆に同僚達は面食らって、やんやと喝采を浴びせた。三次会に
も誘われたが、歌い足りないからと、カラオケで同僚達と別れた。

そして一人カラオケを熱唱し、人知れず涙を流した。
393雨待ち風【ハルコ】22-26:2006/04/12(水) 21:49:12 ID:???
終幕 花信風の季節

5月初旬、梅雨入りする前の晴天続き、草花が雨を待ち望んでいる時節、ハル
コは休日前の週末の夜を自宅で何する事無く過した。笹原たちも卒業し、新社
会人として忙しい事もあり、以前のように気楽に会うことは出来なくなった。
もちろん、春日部や真琴とも。
荻上とは休みが合えば、イベント等に一緒に出かける事が多くなった。しかし
それでも大学に足を運ばないとなかなか会えない。大野は自分の趣味で忙しい
らしく、やはりご無沙汰している。
だから週末の夜に予期せぬ訪問者が来るとは思ってもいなかった。

春日部「ハルコさんいる〜?」
ドンドンとドアをたたく音が聞こえる。聞き覚えのある声。

ハルコ「春日部君じゃないの!どうしたの?こんな時間に!しかもこんなに酔
っ払って!」
春日部「いえね、飲み歩いてたら、近くにハルコさんちがあるの思い出してね、
水もらえないかと思ってね」
ろれつの回らない口調で春日部はしゃべった。
ハルコ「しょうがないなあ!」
394雨待ち風【ハルコ】23-26:2006/04/12(水) 21:50:09 ID:???
ハルコはでかい図体の春日部を引きずって、部屋に入れて、水を飲ませた。
春日部「ありがとうございま〜す」
春日部はおどけた調子で笑い声をあげた。
ハルコ「・・・なんかあった?」
春日部「・・・・」
ハルコ「言ってみなさい!」
春日部「いえね・・・真琴に・・・結婚しようかって言ったら、仕事が面白い
し今は嫌だって言われてね・・・それで喧嘩して・・・」
ハルコ「何だ、そんなことか・・・。別に今嫌って言ってるだけでしょう!」
春日部「喜んでもらえると思ってたんだよ!それが・・・」
ハルコ「はいはい、のろけはここまで!調子よくなったら帰ってね!」
春日部のグチは止まらない。
春日部「大体、イラストなんか兼業主婦でもできるだろうに・・・、俺の仕事
のプレッシャーが分かってないんだよ・・・親父の援助受けているからって、
うちの親父がそんな甘いわけが・・・俺そっくりな・・・親父の手口は分かっ
てる・・・俺が英会話勉強し直した時だって・・・援助して成功したらグルー
プの傘下に入れて、失敗したら・・・資金回収して、経験つんだ人材を引き抜
く・・・飼い殺しに・・・銀行屋の娘とか・・・」
395雨待ち風【ハルコ】24-26:2006/04/12(水) 21:51:04 ID:???
止まらないグチにハルコは初めて、春日部の抱えているプレッシャーの重さに
気付いた。何か元気付ける言葉をかけてやりたかったが、思いつかなかった。

春日部「ハルコさ〜ん」
そう言って春日部はハルコにのしかかり、くちびるを合わせた。
ハルコは驚き、もがいて春日部を払いのけた。
ハルコ「この酔っ払い!どけなさい!出てって!」
力をこめて春日部を部屋の外に押し出した。
しばらく春日部は部屋の前で騒いでいた。謝っている様子だったが、頭に血が
昇って耳に入らなかった。しばらくして静かになり、立ち去った事が分かった。

ハルコは急にガクガクと足が震えてへたり込んだ。ハラハラと涙がこぼれた。
ハルコ「出会わなければ良かった・・・」
396雨待ち風【ハルコ】25-26:2006/04/12(水) 21:52:03 ID:???
何時の間にか寝てたらしい。泣いていたのだろう。枕もとが濡れて、目がくし
ゃくしゃになってる。よろよろと、起き上がりシャワーを浴びた。
頭からかぶったお湯が頬を伝い、くちびるを濡らす。口元を指でさわり、昨晩
の感触を思い出す。夢などでは無かった。
バスルームを出で、初めて携帯の時刻を見るともう昼近い。メールが入ってい
る事に気付く。春日部からだ。
ハルコ「・・・・・」

『昨晩は申し訳ありません ハルコさんには無様な姿ばかり見られてます。合
わせる顔もありません。もし許してもらえるなら返事をください』

ハルコは返信を送った。

『許さない。罰としてやおいのイベントの行列に並んでもらう』

すぐ返信が返ってきた。

『分かりました。覚悟します 真琴とはもう一度話し合ってみます』
397雨待ち風【ハルコ】26-26:2006/04/12(水) 21:53:09 ID:???
携帯を折りたたむと、ハルコはアパートの窓から外の景色を眺めた。今日もや
はり空は晴れ渡っていて、草木の葉は少し乾いてる。雨を待ち望む声を上げて
いるかのように風に吹かれて、カサカサ音を立てている。心地よい風が頬を撫
でる。

アパートのそばでは白木蓮が大きな花をつけて香気を放っている。ハルコは木
蓮に目を奪われた。春は可憐な桜の花や梅の花に目を奪われる事が多く、木蓮
の花は気付かれる事無く、かえりみられる事も少ないが、木蓮もまた春の花で、
悠然とたたずみながら、春を彩り飾っている。

ハルコ「鈍いなあ、気付きなさいよ、馬鹿」
そう呟くと、ハルコは窓から振り返り、クスクスと笑いながら、春日部をどの
イベントに並ばせてやろうか、どんな顔して並ぶだろうかと想像した。
(慌てふためいて、さぞ可笑しいだろうな・・・それで許してやるかあ・・・。
でももったいないかな。しばらく意地悪してやろう・・・フフッ)
ハルコはその日何度も、その光景を想像しては、プッと吹き出し、心が浮き
立つのを止めることができなかった。

終劇
398雨待ち風【ハルコ】:2006/04/12(水) 21:57:00 ID:???
分割多すぎたかも 長くなって申し訳ない
399マロン名無しさん:2006/04/12(水) 22:14:32 ID:???
>雨待ち風
ふふ〜〜。長文乙です。

正直な感想をひとつ。
自分の思っているハルコさん像とは違いますね。
でも、そこが良かった。
ハルコさんというキャラを通して、げんしけんワールドで自由に遊べる感じ。
作者さんの中のハルコさんもカワイイですね。
できれば幸せになってほしかった・・・。女になっても切ないのが斑目なのか・・・。
自分もハルコさんSSを書きたくなりましたよ。
400マロン名無しさん:2006/04/12(水) 23:01:17 ID:???
>>雨待ち風
うわーーーっ、まさか涙を滲ませられる事になろうとは……。
切ない、切ないよハルコさんっ!!
誰かハルコさんを幸せにしてやってくれいorz

ともかく、GJでした。長文で乙でもあります!
401マロン名無しさん:2006/04/12(水) 23:11:22 ID:???
>>雨待ち風
なんかこれで一本漫画描けばいいじゃないか木尾士目先生!
そんな感じになるくらいせつねえわあ。
つーか斑目はどうなっても斑目なのか?
男でも女でも斑目は斑目か?
救いが・・・。救いが無いよ・・・。
それでも最後の笑うハルコさんに救われた気がしました。
402マロン名無しさん:2006/04/12(水) 23:41:47 ID:???
ハルコさん乙!

いい話や〜(涙
春日部君もいい男じゃないか!ハルコさんもいい女じゃないか!
例えは悪いがドラマみたいだ(>_<)
救いがないって意見が多いみたいだが、
深夜の訪問、
無理矢理キス(笑)、
次の日のメール(メアド交換してんだ!?笑)
そしていじわる(イベントに並ばせる)、と、なんかフラグ立ちまくりじゃないですか?
オレだったらじゅーぶん幸せかも。
って、オレが切ないのか(T_T)
いや!、ハルコさんはきっとこのあと、
カラオケで意外な一面を見て惚れちゃった会社のイケメンから、
びみょーにズレた告白をされて、
苦笑しつつ幸せになるんだ!

ダレカシアワセニシテヤッテクダサランカ…
403雨待ち風【ハルコ】:2006/04/13(木) 00:27:19 ID:???
ええと、まとめてレスで申し訳ないんだけど、感想ありがとうございます。
当初からハルコせつねえよハルコが書きたかったので、救いが無いように
見えた方は申し訳ない orz イメージにタイトル曲のほかに聴いた曲が
悪かったのか、ハルコが日陰の女みたいになってしまったのは反省 
それでも、春日部君と真琴は破綻する要素はけっこう多いように書いてて
思ったし、時間はかかるけど、ハッピーエンドに進む要素はけっこうあると
自分では思うので、誰か書ける人いませんか〜(今のところ自分は完全燃焼orz)
404マロン名無しさん:2006/04/13(木) 00:31:45 ID:tcHIkD1E
>ハルコさん
乙です!!うわーいい話…!
合宿から今月号、そしてさらに先の話…原作をたどりながら、ハルコさんと春日部くんと真琴の人間関係の変化をみごとに書いてます。
GJ!エクセレンツ!!
個人的には風呂場でのハルコさんが…いいなーあの会話w
あと、ハルコ版「インナースペース」も良かった。雨の中の二人…
その後の二人の展開まで…!
ハルコさん最高!
405マロン名無しさん:2006/04/13(木) 00:35:14 ID:???
どうでもいいがあげんなよ
406マロン名無しさん:2006/04/13(木) 00:50:42 ID:???
サロンで気にする必要ある?
407マロン名無しさん:2006/04/13(木) 02:10:07 ID:tcHIkD1E
ハルコさん、なんでこんなにせつない気持ちになるのか。
>『許さない。罰としてやおいのイベントの行列に並んでもらう』
この台詞に激萌え


408マロン名無しさん:2006/04/13(木) 03:15:37 ID:???
>雨待ち風
うーむ…何と言っていいか…
一見もはや違う話になってるようで、その実微妙に原作とシンクロし、オリジナル展開も何だか原作のテイストを維持してる。
何か不思議な作品。
斑目が偶然入った電話ボックスで「これがもしもボックスで、俺が女になったらどうなるかな?」てなことをふと考えたら、ほんとにもしもボックスだった…
そんな感じ。
ぐっじょぶ!
409妄想少年マダラメF91:2006/04/13(木) 11:55:59 ID:???
昼間っからスレ汚しにまいりました。
「F91」>>191-196の続き、今回で最終です。

このところの新作ラッシュで忘れられているはず。
しかも、オモシロ新機軸(ラジヲ、現聴研、ハルコさん)が目白押しで自分のSS書いている場合じゃありません(w
よってかなり間隔が空いてしまいました。スミマセン。

このあと7レスで投下します。
410妄想少年マダラメF91(3-1/7):2006/04/13(木) 11:57:40 ID:???
……Time Passed by.
  You unpick the hairstyle and turn around.
  Your how with a smile is also different now.
  Far away. It grows up by “the magic at time”.
  Fairy,Please do not become more beautiful than it.
  I' waiting for you, look into my eyes.……


【1991年9月21日14:35/ファストフード店前】
「メーくんの買い物も付き合うよ」
「あー、いいよ別に」
そっけないメーに、ハルは、「ムムー? 女の子に何かプレゼントでも買いにきたのか?」と、ニヤニヤしながら尋ねる。
真っ赤になって否定するメー。初めての女の子へのプレゼントは、すでにハルの頭の上でかわいく揺れているのだ。
メーは、「まーまー、そんな話はひとまず置いといてね、何か食べよう!」と目の前の店に駆け込み、ハンバーガーとコーラを買ってきた。2人の子どもは店のそばのベンチにちょこんと座る。

メーは、隣で目を輝かせておしゃべりする少女に見とれていた。
彼は、女子とは必要最低限しか話をしたことがない。女の子を前にすると赤面してしまうことを小馬鹿にされ、自分も距離を置いていた。まあ、クラスの女子との関係は、周りに配慮しない彼の言動のせいでもあるが……。
しかし、ハルとは自然と語らい、笑い合うことができた。

(あいつらとは大違いだよ。ハルはこのままどんどん可愛くキレイになっていくんだろうな……)
「……ずっと見守っていたいなぁ……」
「え、何?」
「いやいや何でもない(汗」

遠くに目を移したハルが何かに気付き、「アレレ?」と呟いた。メーが視線をたどると、ボーズ頭の男の子こちらへ手を振っている。
ハルは大声で叫びながら駆け出した。

「“マーくん”どこにいたのよ!」
駆け寄っていったハルは、両の拳でボーズ頭のこめかみをグリグリといたぶる。男の子は痛いはずなのに、ニコニコと笑顔を絶やさない。
「なにやってたのよ〜」「あ〜ごめんごめん!」
じゃれ合う2人の姿を遠目に見ながら、メーは置いてけぼりになったような寂しさを感じていた。
411妄想少年マダラメF91(3-2/7):2006/04/13(木) 11:59:21 ID:???
【2005年9月24日14:35/軽食店前】
「斑目の買い物も付き合うよ」
「あー、いいよ別に」
そっけなく答える斑目に、咲は、「あー……そうだったね……」と、何かを悟る。
斑目は濁った空気を振払うように、「まーまー、そんなコトはひとまず置いといてね、小腹を埋めますか!」と歩き出した。
2人は、この界隈では割と洒落た雰囲気の店に入る。
「うぉ、ネットやってるよー」と驚く咲。店内では無線LANを使い、手持ちのパソコンでネットを楽しむ客が大勢いた。
咲は、「ホントはメイド喫茶に連れて行かれるんじゃないかと思ってたよ」と笑う。
「そんな所行ったら速攻で帰るでしょ」
「ご明察〜! でもまあまあ雰囲気いいんじゃない?」
「春日部さんにそう言っていただければ重畳デスヨ」

斑目は、2人だけでも自然に会話ができていることに自分で感動した。いつもなら頬が紅潮してしまい言葉を選んで黙ってしまうのに。
しかし今日は違う。「自分の領域」である秋葉原にいることもあるのだろうか。
斑目はこの機会に、少しだけの勇気を出そうと思っていた。(どこかで、いいタイミングを……)自分のカバンの中に手を入れ、小さな紙袋を確認した。

軽い食事を終えて、咲は店の外を歩く人たちの姿を見ている。斑目は、その横顔を見ながらカップを口に運んだ。
遠くを見つめる咲の顔は、店外からの明かりを受けて肌が透き通って見える。
その姿を、ずうっと見つめていたくなる。このままこの店で、日が暮れるまで過ごしていたい。移り変わる陽射しに照らされた瞳と横顔を、何時間でも眺めていられる気がした。

(もうこれ以上、奇麗にならないでくれ……)
「……なーんて、言える立場じゃあないけどねー」
「え、何?」
「いやいや何でもないですよ(汗」

再び窓の外へ目を移した咲が何かに気付き、「何アレ?」と呟いた。
斑目が視線をたどると、着ぐるみが外からこちらへと何度も手を振っている。メイド服で、頭の大きな萌えキャラの着ぐるみだ。
着ぐるみはおもむろに自分の頭を抱え、その頭部パーツを脱いだ。

「コーサカ!」
店内にいた2人は思わず大声でハモってしまう。
咲がパッと明るい表情を浮かべた。それを見た斑目は、自分が必要とされる時間の終わりと、「タイミング」を失ったことを残念に思った。
412妄想少年マダラメF91(3-3/7):2006/04/13(木) 12:01:01 ID:???
【1991年9月21日14:55/神田青果市場跡地前】
ハルに、「どうしてここが分かったの?」と聞かれた“マーくん”は、「カン」とだけ簡潔に答えた。
そしてメーに向き直ると、「サッちゃんがお世話になってすみません」と、ぺこりと頭を下げた。メーは、(これもあだ名かな?)と思いつつ、ぎこちなく笑う。
ハルの友達。自分の知らない男の子との日常。メーは距離感を感じていた。

ハルが、「この子がマーくん。マコトだからマーくんだよ」と紹介して、「メーくん今日は本当にありがとう!」とニッコリ笑った。
「いいってば……」
「メーくん、お兄ちゃんみたいだった。ワタシお兄ちゃんが欲しかったからうれしかったんだー」
メーは、胸の奥がズキンと疼くのを感じた。

3人は、駅前の青物市場の跡地まで一緒に歩いた。市場は2年ほど前に移転している。
駅の入口で、「私たち帰るね。ありがとう、メーお兄ちゃん!」とハルが手を振る。隣でマーくんが頭を下げた。
メーは、改札を抜けて行く2人に笑顔で手を振ったが、ふと、(名前……本当の名前を聞かなきゃ!)と気付いた。どこに住んでいるのか知りたい。またいつか一緒に遊びたい。そう思い立ったメーは、ハルに向かって叫ぼうとした。

その時、「斑目、班で行動しろと言っただろ! もう集合時間だぞ!」と、後ろから担任の先生に襟を掴まれてしまった。
ホームへ向かう人の波の中に、手をつないだハルとマーくんの後姿が飲み込まれていく。弾むように揺れる赤いリボンも、見えなくなった。
(もう、会えない……)
先生の小言も耳に入らず、ハルを見失った場所をうつろに見つめるメー。深いため息をついた時、「メー」はもう「斑目晴信少年」に戻っていた。

斑目少年はようやく、集合場所へと歩き出した。
トランジスタや電飾類を売る店が、ぎっしりと軒を連ねる通りを抜けていく。店先のラジオの音が耳に入ってきた。
『先日ニューアルバムを出したT○ネットワークことT○N。このバラードは5年も前の曲になるんですね〜』

……Far away,君が変わってゆく全てを 見つめていたいから
  Fairy,それ以上離れていかないで
  I' waiting for you, look into my eyes.……

斑目少年はゆっくりと歩いていく。やがてその姿は、通りを埋める雑踏の中へと消えて行った。
413妄想少年マダラメF91(3-4/7):2006/04/13(木) 12:03:24 ID:???
【2005年9月24日14:55/クロスフィールド新ビル前】
着ぐるみを着てエロゲーのプロモーションにかり出されていた高坂は、近くのゲーム販売店で私服に着替えて出てきた。

「今日はもう終わっていいって!」
高坂はいつもの笑顔で、「斑目さん、咲ちゃんがお世話になっちゃってすみません」と、ぺこりと頭を下げた。
「いやー、たまたま時間が空いてたからハハハ……」
斑目はぎこちなく笑う。咲と2人で座っている姿を見られて、少しばかりの背徳感があった。
高坂の隣に落ち着いた咲は、笑顔で斑目に向き直り、「今日はごめんねー、バカな腹いせにつきあってもらっちゃって」と手を合わせた。
「いいってば……」
「あとは気兼ねなく“買い物”して頂戴!」
「ダカライイッテ……(汗」

青物市場跡地の広場は今、「クロスフィールド」と呼ばれる施設へと整備されている。その横を抜けて、3人は駅まで一緒に歩いた。
駅の入口で、「じゃあ、私たち帰るわ。サンキューね」と咲が手を振る。高坂も軽く頭を下げた。
斑目は、改札を抜けて行く2人に笑顔で手を振った。その姿が見えなくなると、「ふぅ」と、一つため息をつく。
彼のカバンの中には、咲と最初に入った店で買ったアスキーアートのマスコットが2体、包装されて入っていた。

『高坂、こういうのも好きかなあ』

この呟きを聞いた斑目は、咲が店を出た後に思わずマスコットを買い求めていたのだ。しかも、「自分と咲」のものではない。結局、渡すことはできなかった。
斑目は踵を返し、中央通りに向けて歩きはじめた。
414妄想少年マダラメF91(3-5/7):2006/04/13(木) 12:05:18 ID:???
斑目は歩きながら、(あー……、昔もこんなことがあったような……)と思う。
次第に思い出しつつある過去の記憶。可愛いリボンと、きれいな髪、屈託のない笑顔……。
(中学になる前だっけかな。あの子と友達になってたら、女の子にも慣れて、春日部さんと積極的に話せるようになっていたかな)
「そういや名前も聞かなかった……いや、読めなかったんだよな」
バカだなあと自嘲した時、その子の「読めなかった」名札が、うっすらと記憶の霧の中から現れてきた。
ピンクのチューリップをかたどった名札。クラス名の下に書かれた文字は確か、……春…………日……部……。

「ハル!?」

斑目は雑踏の中で立ち止まって駅のホームを見上げた。
2人を乗せているであろう電車は、ゆっくりと加速しホームを離れつつあった。
「まさかな……ありえない……」
斑目は、「秋葉原は大通りしか歩いたことがない」と話していた咲の言葉を思い起こした。
深いため息をついて空を見上げると、抜けるような青空に、突き刺すようにそびえたつ新しいビルが視界に入った。少しばかり傾いてきた陽に照らされて、キラキラと光を反射させている。

斑目は再び、ゆっくりと中央通りへと歩み始めた。やがてその姿は雑踏の中へと消えて行った。


【2005年9月24日15:00/秋葉原駅発山手線車内】
咲と高坂は、電車に乗り込んだ。
ドアのそばに寄り添って立つ。窓からは今まで歩き回った秋葉原の街が見渡せた。
高坂のイヤホンから流れてくる音声に気付いた咲は、「コーサカ、何聞いてるの?」と尋ねる。
「ネットラジオの番組落としてきたんだよ」
「また声優?」
「これはちがうよー。咲ちゃんも聞いてみる?」
高坂はイヤホンの片耳を咲に渡して左右を分け合った。咲は、子どもみたいな高坂の行為に微笑みながら、“繋がっている”喜びを感じた。
ホームに発車を告げる音楽が鳴り響いてドアが閉まり、ゆっくりと電車が加速した。
415妄想少年マダラメF91(3-6/7):2006/04/13(木) 12:07:47 ID:???
窓に映る秋葉原の街並み。咲は、動き始めた景色にふと懐かしさを感じた。(あー……、昔もこんなことがあったような……)と思う。
何気なく高坂に、「私たち、一緒に秋葉原に来たのは初めてよね?」と尋ねる咲。
高坂は、「小学生の時にも来たことあるよー。2年か3年の時だったかな? 神田から万世橋まで一緒に歩いてたのに、咲ちゃんは秋葉原まで行っちゃたよ」と、サラリと答えた。
「?」
咲は、忘れていた出来事を、記憶の棚の奥底から引っ張り出されたような気がした。
高架線を通る電車……、赤いリボン……、親切だった丸メガネの男の子……。
そこに重なる、あのひとの姿……。

「メーくん!?」

咲はドアに張り付くようにして、窓から秋葉原の街並と、眼下を歩いているであろう「メー」の姿を捜そうとした。
しかし、通りはすでに彼方へと過ぎて、次々と流れてくる景色の向こうに霞んでいる。遠くなっていく高層ビルが、少しばかり傾いてきた陽に照らされて、キラキラと輝いて見えた。
「どうしたの?」
高坂が声を掛ける。咲は外を見つめながら、「まさかね……ありえないよ……」と呟いた。
(斑目があの子だったら、あの日のことを憶えていないわけがない……)

一つため息をつくと、咲は高坂に向き直った。
「何でもないよ」と笑顔を見せる。気を使っているのではなくて、心からの笑顔だ。
そう、今日は高坂が一緒にいる。自分の心を満たしてくれている。今はその幸せに浸ろうと思った。

片方だけのイヤホンからは、ネットラジオのパーソナリティーの声が聞こえてくる。
『T○Nがこの曲を出して、もう20年になるんですね〜。もはや懐メロの域ですね……』
ガタンゴトンと揺られつつ、咲は高坂に体をあずけた。彼のぬくもりを感じて安堵の表情を浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。


……Time Passed by
  髪をほどいて振り返る
  君は今 ほほえみ方も違う
  Far away
  時の魔法にかけられて 大人になってゆく
  Fairy,それ以上奇麗にならないで
  I' waiting for you, look into my eyes.……
416妄想少年マダラメF91(3-7/7):2006/04/13(木) 12:10:33 ID:???
【1996年/エピローグ】
秋葉原駅。電気街口から次々と、紙袋を手に持った男達の群れが吐き出されては、ラジオ会館や大通りの方へと消えて行く。
パソコンが普及してから、マニアックな人種が増えてきたという。
そんな秋葉原駅の改札から、一人の少年が出てきた。

「秋葉原よ、私は帰って来た!」

改札で絶叫して周囲のヒンシュクを買った少年は、えりあしを少し伸ばし、顔の輪郭に比べて大きめの丸メガネをかけていた。
ひょろりとした長身にリュックを背負っている。
どこにでもいる男の子。
彼の名は斑目晴信。この時、中学2年生。今日は久しぶりに秋葉原に足を運んだ。

この日、彼は悩みに悩んだ末、晴れて初めての「18禁同人誌」を買う。←若すぎです。
悩んだ末……ではあるが、彼の好み自体はハッキリとしていた。
「ツルぺタでロリ」
その原点が、小学生の時にこの街で出会った少女・ハルかどうかは定かではない。
しかし、その影響を感じさせる発言がある。
彼は後年、大学の後輩にこう告げているのだ。

「血のつながった妹なんて、要るわけないじゃないか」と。


<完>
417F91(おしまい):2006/04/13(木) 12:11:34 ID:???
以上です。
お目汚し失礼しました。
418マロン名無しさん:2006/04/13(木) 14:05:47 ID:???
>F91
TMNっつーと、ダンサブルな曲連想しがちだが、この曲をネタに出してくるとは…
通だな、この人。
ちなみに俺は、当時は渡辺美里にハマっていた関係でTMNも時々聞いてた。

まあオッサンの自分語りはともかく、相変わらず過去と現在の整合ぶりはお見事。
ツルペタでロリ好きで、血のつながった妹は要らない斑目が、咲を好きになったことに理論的(?)な説明がついたし。
「秋葉原よ、私は帰ってきた!」にはワロタ。
419マロン名無しさん:2006/04/13(木) 14:37:14 ID:???
>F91
うまいな〜。
全てを通してしっかりと過去と現在が同じ流れになりつつも
違う感情が流れているんだな〜。
最後の「血のつながった妹なんて・・・。」に爆笑しつつも納得。
420マロン名無しさん:2006/04/13(木) 19:03:03 ID:VVB5znDe
>F91
うまーーーい!乙でした!!
まさか「血のつながった」発言がそこから出てきたとは…www
初恋の少女と、いつのまにか再会していたわけですな。
えーなんか、それって運命的な………だったらいいなぁ…。
幼少のマダラメに続き、中学生マダラメも見れてウマーーー!
421マロン名無しさん:2006/04/13(木) 19:04:54 ID:???
またいつものアゲ馬鹿か。
なんでルールを守れないんだよお前は。
もう感想書かなくていいよ。

422マロン名無しさん:2006/04/13(木) 19:10:18 ID:???
そこは流せよ
423マロン名無しさん:2006/04/13(木) 19:11:25 ID:???
やはりいつも一人でageているのは同一人物なのか?

>ID:VVB5znDe
メール欄に半角でsage、な。
424マロン名無しさん:2006/04/13(木) 19:17:42 ID:???
>やはりいつも一人でageているのは同一人物なのか?

感想の書き方を見るとほぼ間違いなし。
ちなみに、俺は以前あんたと同じようにサゲ方を優しく教えた。
それでもこの馬鹿には理解できなかったようだが
425マロン名無しさん:2006/04/13(木) 19:28:13 ID:???
すいません、420です。sageの意味が今までよくわかっていませんでした。
これからは気をつけます。
426マロン名無しさん:2006/04/13(木) 19:57:12 ID:???
まーまーまー。
アゲてた人もサゲ方が分かってもらえて良かった良かった。
これからは気を付けてね!



>F91
この作者の人は時間ネタ得意なんだね。交互に展開する斑目の話がどっちも切なくて悶絶した。
しかも現在の春日部さんが、さいごに思わず「メー」と呼ぶ場面は、時を超えてすれ違っているみたいで泣かせる。乙!



コーサカジツハ、メーノコトモハッキリワカッテンジャネーノカ?
427ハルコさんネタ。:2006/04/13(木) 21:23:01 ID:???
お詫びのつもりで…ひとつ。

マダラメハルコさんの台詞改変ネタです。
「委員長」キャラ!?と聞いてから、こんな風に思いますた。
(1巻P102参照)
428ハルコさんネタ。:2006/04/13(木) 21:24:34 ID:???
ある日、部室にて。
春日部くんに、お前って仕切り屋だよなー、昔からそうなん?と言われて、思い当たる節があった。
ハルコさんは恥ずかしそうに語りだした。

ハ「……だからさ、私、小学生の頃から、何かと委員長任されるんだよ」
春「へーーー…」

「うおおおおおおおおおお!!!」
と、田中と久我山がおたけびをあげた。(いちおう笹原も声をあげていた。)

久「ハ、ハルコさん委員長キャラだったのかあっ!」
田「すげえっ…マジいるんだ、そういう人!」
春「…???」
ハ「あーやっぱりオタクくさいよねぇ………今さらだけど」
田「やべっ…何かすっげえかわいく見えてきた……」
久「俺もっ…き、きっと人知れずクラスの問題に心痛めるような、かわいい一面とか持ってるんだぜ……」
ハ「無いわよ。そんなもん無いわよ」

笹「…あのう、じゃあ小学生の頃からメガネ着用ですか?」
ハ「うんまぁ……なんか髪もおさげだったし…典型的な真面目キャラで………」
久「うおおおおおお!!!」
田「すげーーー!!たまんねーーーー!!!」

春日部君置いてきぼりの会話は、しばらくの間続いていた。

                               OWARI
429マロン名無しさん:2006/04/14(金) 03:21:21 ID:???
>>妄想少年斑目F91(3)
うまっ!面白いし、何かと納得させられますね。
他のガンダムシリーズを今後もお願いしたいです!

>>ハルコさんネタ。
ほんとにハルコさんがネタになってるんですね、現視研のメンバーによって。
ハルコさんが萌える立場じゃなくて、萌えられる側に入れ替わってるのが
面白かったです!
今後もくじけずにどんどん書いちゃってください!
430マロン名無しさん:2006/04/14(金) 05:07:28 ID:???
>ハルコさんネタ
全く違和感が無いとこが怖い
431マロン名無しさん:2006/04/14(金) 19:06:57 ID:???
F91です。いつも駄文にレスいただいて感謝です。

>>418
>この曲をネタに出してくるとは…
「Time Passed by」や「あの夏を忘れない」など初期TMのバラード(確か木根作曲もの)は好きです。切なくてイイ。

>「秋葉原よ、私は帰ってきた!」
ガンダム繋がりでこのネタもやってしまいました。

>>419
>最後の「血のつながった妹なんて・・・。」に爆笑しつつも納得。
最後は切ないまま終わるつもりだったんですが、こんなカワイイ子にオニイチャンと呼ばれたことが後々に響くと面白いなと……。
まさか咲も、斑目の趣味の原点が自分とは思わないでしょう。しかしそうなると余計に「咲一筋」な感じで斑目せつねえ。

>>420
>初恋の少女と、いつのまにか再会していたわけですな。
>えーなんか、それって運命的な………
「運命的再会」つうのはあまり意識してなかったので、レスいただいてから、「あーそういえばそうだ」と気付いた次第です。
現代斑目ももう少し幸せなエンディングにしてあげれば良かったかも。

>>426
>コーサカジツハ、メーノコトモハッキリワカッテンジャネーノカ?
実は咲パートの最後、彼女が安堵して目を閉じた後に、高坂は無表情で遠ざかる秋葉原を眺めている感じで書こうと思っていました。
が、そうなると「メー=斑目」を知ってて教えない「黒高坂」を強調してしまうのでやめました。

>>429
>他のガンダムシリーズを今後もお願いしたいです!
ワタシ宇宙世紀と正歴しか見ないので、あとはVとか逆襲とかターンエーとか……どんな話になるんだ(w
432マロン名無しさん:2006/04/14(金) 20:31:19 ID:???
V    →出張先が女だらけで結構好感触。ハーレム展開を密かに期待するが、何も出来な
      いまま、一人二人と退職していき、最後には出張先が閉鎖されて、咲への思いを
      貫く決意をして戻ってくる斑目。
逆襲   →数年後、不慮の事故で咲が死亡。狂った斑目が暴れだす。
      「彼女は俺の恋人になりうる人だった!」
      「オタクにも恋愛ができると言うなら、今すぐ全てのオタクに恋人を授けて見せろ!」
      「このままではオタクの身勝手でコミフェスが潰れてしまう!」
ターンエー→数十年後。倉庫と化していたサークル棟のとある部屋に、オタサークルを
      作るべく活動する青年。彼は部屋の隅に隠された黒表紙の本により、かつて
      この部屋で起きた出来事の真実を知る。それは彼の両親に深く関わることだった…

なんて妄想www
433マロン名無しさん:2006/04/15(土) 00:08:31 ID:???
>>432
∀が激しく読みたいw
434笹荻BAD(非エロ)(0):2006/04/15(土) 00:38:05 ID:???
エロパロ板で先んじられたので今更感とか
シチュの被りとか色々ありますが、
妄想が止められなかったので投下しちまいます。
435笹荻BAD(非エロ)(1):2006/04/15(土) 00:38:45 ID:???

帰宅一番、ポストの中を確認する。

先日申し込んだイベントの合否結果がそろそろ来る頃で、
最近の帰宅後の最初の日課はまずポストの中を覗き込むことだ。

待ち人来たらず。

ポストに入ってたのは、引越し以来一度も読んだことが
無い地区の会報誌と何通かのダイレクトメール。
その中、結婚式場のものを見かけた荻上は、そのハガキの中に写っている新郎、新婦に
自分と笹原を重ねて、にやけていることに気付いて自分の額を小突きながらそれらをゴミ箱に捨てる。


最後に残ったのは白い封筒に薄墨で書かれた文字で自分宛に届いた一通の封筒。
封筒の紙もそれらしい上品なもので、不幸の手紙にしても質が悪い。

実家の家族は健康そのもので、親戚縁者にも急逝しそうな人間は居ない。
お悔やみ事とは言え、わざわざ呼ばれる程の親交があった人間は、
中学以降、現視研に入るまで居なかったし、第一現視研の誰かに何かがあれば、
まずは携帯に連絡が入るはずだ。

436笹荻BAD(非エロ)(2):2006/04/15(土) 00:39:25 ID:???
質の悪いいたずらだと思ったが、開けて見ないことには捨てるわけにも行くまい。
封筒の中には数枚の地方紙の切抜きと住所と日付だけが印字された紙片。

いずれもある一つの事件、成人男性による両親の殺害、そしてその後飛び降り自殺。
今となっては全国紙では三面記事にもならないような、不幸ではあるが、ありきたりの事件。

見出しだけをざっと見た荻上にはこの記事が何を意味するのか、
何故自分に送られてきたのか理解できなかった。

やっぱりただのいたずらか…
そう判断して封筒に戻しかけた記事に見覚えのある名前を見つけ、その手が止まる。
「巻田…?」

一気に血の気が引いた荻上は、震える手で改めて全ての記事に目を通す。


「中学を中退後、引き篭もり」
「数年間、心療内科に通院」
「将来に悲観?両親刺殺後、飛び降り自殺」


自分が知る中で「巻田」と言う名前の人物は1人しかいない。
その人間が起こした事件の記事の切抜きが、自分宛に送られてきた。

改めて紙片に目を通す。
指定の日付は今日の深夜。場所は大学のサークル棟前。

437笹荻BAD(非エロ)(2):2006/04/15(土) 00:42:20 ID:???
「どうする…?」
間違いなく何らかの悪意を持って送りつけられて来た物には違いない。
1人でのこのこと行けば確実に身の危険にさらされるだろう。

だが、もしこの記事が本物であれば自分は人を死に追いやったことになる。
自分の身の危険への恐怖よりも、それを笹原に知られることの恐怖の方が打ち勝った。


時間はまだ6時を回ったばかりだが、深夜に1人で出歩くとなれば
笹原がその理由を問うだろうし、それを上手く誤魔化せる自信は無い。
本当のことを話せば、1人で行かせてくれる訳が無い。

出るなら今のうちだろう。時間はどうにでも潰せばいい。

携帯は相手に奪われてしまえば、笹原だけで無く、
自分の数少ない友人にまでこのことを広められるかもしれない。
その恐怖を思って、電源を切って学校用のカバンに放り込む。

『急用で実家に帰ります。数日中には戻れると思います。』
メモ書きを居間テーブルの良く目立つ所に置くと、自室の机の引き出しを開ける。

あまり笹原の目には触れさせたくない同人誌といくつかの小物。
そして、まだ箱に入ったままの、初めて買ったペア物のアクセサリー。

クリスマスに買ったそれは、未だに気恥ずかしくて二人で一緒に身につけたことは無いが、
荻上にとっては何より大切な笹原との繋がりの印だった。
箱の上から抱くようにそれを握り締めた。
「大丈夫。」

現視研での穏やかな生活、笹原との満たされた時間を思い出し勇気を奮い立たせる。
今は一人じゃない。自分の居場所と、自分を受け入れてくれる人がいる。
438笹荻BAD(非エロ)(4):2006/04/15(土) 00:44:11 ID:???
春とは言え、まだまだ夜は冷え込む。上着を持ってこなかったことが悔やまれる。
寒い構内を歩きながら、指定の場所にたどり着いたその場所にいたのは、
彼女にとっては意外とも思える、だが最も会いたくない相手だった。

「中島…。」
「久しぶり。」

距離にして10歩。
それだけの距離の向こうに立つ過去の自分のトラウマを象徴する相手。
面と向き合うだけで動悸が激しくなり、嫌な汗が出る。

その人間があの切抜きの記事をポストに投函し、ここに自分を呼び出した。
不快と嫌悪を隠すことなく、厳しい表情で中島をにらみつける。

「あの記事、面白かったでしょう?」
そんな荻上を意に介すことも無く、彼女は心底楽しそうにそんな言葉口にした。
「あんなもの送って、どう言うつもり?」
中島の言葉に答えること無く、荻上は激しい口調で事の真意を問い詰める。
そんな荻上の様子を見ながらますます中島は楽しそうに笑う。
「あはは。そんなにムキにならなくてもいいんじゃない?
せっかく一緒に告別式を楽しもうと思ってわざわざ来たのに。」
「!!じゃあやっぱりあの記事は!」
「疑ってたの?まぁそれも仕方ないか。」

そう言うと、中島は持っていたバックから今日、荻上に届いたような白い封筒を取り出す。
「ほら、告別式の招待状。中2の時のクラスでこれ届いてなかったのあんただけ。
仕方ないわよね、何せあんなことになった当の原因だもん。」
当の原因、分かっていても、覚悟はしていてもはっきりと口にされたことで、
言葉を失う荻上と、そんな荻上を見てますます楽しそうにする中島。


439笹荻BAD(非エロ)(5):2006/04/15(土) 00:45:38 ID:???
「巻田、あの後、悲惨だったらしいわよ?
引き篭もり、家庭内暴力、自傷行為、向精神薬と睡眠薬漬け、挙句の果てに
ケンカで両親刺し殺した上に、半狂乱のまま投身自殺。
死体なんか顔面グチャグチャらしくて葬式の時も棺おけの中覗かせて貰えなかったっけ。
どうせだから記念に見せてくれればいいのにねぇ。」

あはは、とは笑いながらまるでお気に入りのドラマの話をする様に嬉々とした表情で語る中島に対し、
荻上は蒼ざめ、うつむき、震えていた。全身ひどい汗をかきながら肩で息をするさまはひどい熱病でも患った様だ。

「どう?自分がしでかしたことへの感想は?」

いつの間にかすぐそばまでに来ていた中島は、
一転、醒めた、冷徹な口調で、うつむいた荻上の顔を下から覗き込みながらそう問う。
瞬間的に顔を逸らそうとした荻上のあごをつかみ、強引に正面を向かせる。
440笹荻BAD(非エロ)(6):2006/04/15(土) 00:46:12 ID:???

「…私だってずっと苦しかった…。」
「そうね。それは私も知ってる。」
いつだって罪の意識は感じている。

「でも、あんたはまだ生きてる。」
「生きていて良いんだって…皆が教えてくれた…」
だけど現視研は居場所をくれた。

「あの時と同じことを未だにやってる。」
「笹原さんはそれでも良いって言ってくれた…」
私のどうしようもない所を受け入れてくれた。


「そう、良かったわね。」
だから罪を背負ってでも前向きに生きていこうと思った。

「でも巻田には誰もそうは言ってくれなかった。」
罪を背負ってでも生きていけると…。

「あんたとは違ってね。」

…思っていた。

441笹荻BAD(非エロ)(7):2006/04/15(土) 00:47:15 ID:???
最後の言葉と同時に中島は荻上のあごをつかんでいた手を離す。
既に自力で立つ力を失っていた荻上は、支えを失いそのまま前のめりに崩れ落ちると、
激しく嘔吐する。


「勝手なものね。自分だけ幸せになってるなんて。」
「違う…違う…。」
一歩離れた場所に立ち、露骨に嘲る口調で中島が言う。


明日になれば部室ではきっと、大野や朽木、相変わらず昼時だけ現れる斑目、
そして後輩の1年生達による賑やかな会話が繰り広げられるだろう。
アパートに帰れば、呆気に取られた顔できっと笹原が迎えてくれるだろう。

イベントに行けば、自分の本を楽しみにしてくれている人がいて
そんなやりとりを楽しそうに眺めてくれている笹原がいて…。

本当に、本当に毎日が幸せな日々だ。

「違う…ち…が…。」

その裏で、過去に自分が傷つけた人間が何一つ幸せを得ること無く、
絶望の中で、自らの手で人生を閉じた。

言葉では否定していても、何一つ違わない。
442笹荻BAD(非エロ)(8):2006/04/15(土) 00:48:23 ID:???
否定の言葉はもう出なかった。
代わりに出たのは、言葉にならない絶叫。

そんな荻上を満足そうに見下ろすと、トレードマークとも言える
後ろで束ねた髪をつかみ、サークル棟を見上げさせる。

「なんで私がこの場所を指定したと思う?」
「あ、あ…。」
涙で霞んだ視界の先には現視研のサークル部屋。
それは荻上にとっては幸せの象徴とも言える場所。

「あんたにここで聞きたかったの。まだここに“居られる”か?」

荻上はぐっと目を瞑り、首を横に振る。
「ごめんなさい…」
誰への、何に対しての謝罪かも分からなかった。


幸せな時間は終わったんだ。
そもそも最初から幸せになってなんかいけなかったんだ。

「そう。それでいいの。あんたが生きていて良い場所はここじゃない。
あんたが生きていていいのは、同じ罪を共有している私の元でだけ。」
443笹荻BAD(非エロ)(9):2006/04/15(土) 00:49:41 ID:???

荻上の姿が見えないことを特に不思議に思うものは居なかった。
原稿に集中しだすと数日間から長い場合は1週間以上、
現視研に顔を出さないことも多い彼女の行動パターンを皆良く知っていた。

笹原も笹原で、残されたメモを見て何も不思議に思うことは無かった。
荻上のことを信頼しているし、多少頼りないとは思うが、
今まででも、何かあった時はことの軽重に関わらず相談してくれていた。

実家に帰ると言うことで、親戚の不幸も考えたが、そう言うことであれば
事実上同棲しているとは言え、まだまだ他所の男である自分が
でしゃばることでもない。

携帯を忘れていっているから、数日間は声が聞けない、
少し引っかかる所と言えば、その程度だった。

荻上の姿が見えないことを特に不思議に思うものは居なかった。
原稿に集中しだすと数日間から長い場合は1週間以上、
現視研に顔を出さないことも多い彼女の行動パターンを皆良く知っていた。

笹原も笹原で、残されたメモを見て何も不思議に思うことは無かった。
荻上のことを信頼しているし、多少頼りないとは思うが、
今まででも、何かあった時はことの軽重に関わらず相談してくれていた。

実家に帰ると言うことで、親戚の不幸も考えたが、そう言うことであれば
事実上同棲しているとは言え、まだまだ他所の男である自分が
でしゃばることでもない。

携帯を忘れていっているから、数日間は声が聞けない、
少し引っかかる所と言えば、その程度だった。
444笹荻BAD(非エロ)(終):2006/04/15(土) 00:54:08 ID:???
スレ汚し失礼しました。

誤字・脱字・表記揺れとか、基本的な部分以前に
連番付け損なうと言う阿呆をやっていることは
スルーして下さい。
445マロン名無しさん:2006/04/15(土) 01:16:45 ID:???
>笹荻BAD

読んでから、怖かったけれど、認めたくない結末だけれど、「ありえるかも」とおもってしまう自分がいる。
このSSを書かれた方もそうではないかと思うけど、「中島」という存在は特別読者に強烈なインパクトを残す存在なのだと思った。
…自分としては、「中島」のことは未だに消化不良で、つかめない存在で、わからないからこそ怖い。
原作で少ししか触れられていないので、推測もぼんやりしたものになる。読む人によって「中島像」が違う。
自分は、そこまで中島が極悪人とは思えないのだが。…思いたくないのだが。もしかしたら、ただの願望かもしれない。
446ノートブック【ハルコ】0−17:2006/04/15(土) 01:44:42 ID:???
前回のハルコ編で終わらせるつもりだったんだけど、ハッピーエンドが
書きたくなったので、オリジナルハッピーエンド(すなわち今回で自分は終了)で。
といっても内容は映画の内容かなりパクッた手抜きです orz タイトルは映画の原題
17分割予定 すみません アンジェラ→アンディーネタ拝借してます
447ノートブック【ハルコ】0−17:2006/04/15(土) 01:45:47 ID:???
雨待ち風続編 終章

第一幕 郊外の病院

初秋の昼下がり時、一人の老人が郊外の「ある」専門の病院を訪ねた。この病院
に入院している親密な老婦人に会う為だ。

老婦人「また昨日もいらっしゃったのに、今日も来られたのね」
老婦人は微笑んで、この老人を迎えた。
老人「ああ、あなたに昨日の物語の続きを読んであげたくて・・・」
老婦人「わたしもあなたのお話をとても楽しみにしてましたのよ、それで
あの娘さんは・・・」
老人「ええ、ちょっとお待ちください」
そう言って老人は鞄から古びたノートブックを取り出した・・・
448ノートブック【ハルコ】2−17:2006/04/15(土) 01:46:38 ID:???
第二幕 イベント会場

ハルコ「さて・・・約束通りこの行列に並んでいただこうかしら!」
そう言って、ハルコはニヤニヤと意地悪そうな表情を浮かべて、春日部の顔を覗
きこんだ。
春日部「はあ・・・やっぱりやらなきゃ駄目?違う罰にしようよ・・・」
ハルコ「ふふっ、駄目よ 男らしくないわねえ それに例の『放火』事件の後の
ボランティア活動の時にも、コミフェスで同人誌買った事あったじゃない!たい
した事ないでしょう」
春日部「『放火』とは人聞きの悪い!それにあの時は、女性向の同人誌は惠子ちゃ
んの手伝いで買ってもらったし・・・」
ハルコ「だ め で す ! 覚悟決めて!さあ」
春日部「ぜってー、楽しんでるよね・・・ハルコさん・・・分かりましたあ・・」
渋々と春日部は行列の後尾に並んだ。
ハルコ「いい事!このサークルのヘウレカセブンとデスブックは二冊買いよ!二
冊!」
春日部「はい・・・」
ハルコ「えっ?声が小さい!聞こえたの?」
春日部「仰せののままに〜」
ハルコ「ププッ・・・よっよろしい・・・」
他の女性客のじろじろ見る視線に耐え切れず、顔を真っ赤にして上を見上げる春
日部の様子に、ハルコは笑いを堪えきれず、肩を震わせて腹を抱えていた。
449ノートブック【ハルコ】3−17:2006/04/15(土) 01:47:27 ID:???
春日部「ひでえよ、ハルコさん・・・」
そう言って春日部はやっとこさ購入した女性向の同人誌をハルコ手渡した。
ハルコ「はい、ご苦労様。じゃあ次は・・・」
春日部「ええ、これで終わりじゃないの?まだ買うものあるの?」
ハルコ「当然です!今日一日、春日部君は私の下僕です!」
春日部「んが・・・そんな・・・」
(ふふ、困ってる、困ってる、そろそろこの辺にしてあげようかな・・・)
本気で落ち込んで肩を落としている春日部が可笑しかった。ハルコはそろそろ許
してやろうかと思って、春日部に声をかけようとした。
ハルコ「嘘よ・・・じゃあ・・・」

真琴「あら!春日部君!それにハルコさん!」
二人は声のする方に一緒に顔を向けた。

春日部「あっあれ?真琴、今日仕事って言ってなかったっけ?どうしてここに?」
真琴「依頼先の都合で、納入日や企画が変更になって、新企画が確定するまで時
間が空いて・・・。だから今日は急にお休みになっちゃって・・・。春日部君こ
そ・・・。お邪魔だったかしら?」
そう言って、いつもの無邪気な笑顔で笑いかけてから、くるりと向きを変えて立
ち去った。
450ノートブック【ハルコ】4−17:2006/04/15(土) 01:48:26 ID:???
春日部「あ!真琴!ちょっと!」
追いかけようとして、春日部はハルコの方を向いて、困った表情を浮かべた。
ハルコ「・・・私はいいから早く追いかけてあげなさい・・・」
春日部「ハルコさん、すまない!埋め合わせは必ず!」
そう言って春日部は駆け出した。

ハルコ「・・・」
ハルコはその場にうつむいて静かにしばらく立っていたが、やがて駅に向かって
うつむいたまま歩き出した・・・。
451ノートブック【ハルコ】5−17:2006/04/15(土) 01:50:06 ID:???
第三幕 笹原と荻上と惠子

惠子「千佳さん、晩飯まだー?」
笹原「あのなあ・・・月末の休日になると必ず押しかけやがって。遠慮という言
葉はお前の辞書に無いのか?」
惠子「いいじゃん、ケチケチしないでさー高給取りなんだから!金無いのよ、私」
笹原「全然、高給取りじゃないよ、特にお前にタダメシ食われているからな!」
荻上は最近休日には、笹原の家で夕食を一緒にすることが多かった。外食するお
金もそうそうあるわけでも無いので、もっぱら一緒に食事を作る。笹原と惠子の
毎月のこのやり取りも最近は慣れてきた。

笹原「お前、春日部君のショップの開店の手伝いするんじゃないのか?」
惠子「開店準備は専門業者の仕事だから、わたしは下働きの手伝いだけ!まだそ
んなに忙しく無いのよー。春日部さんは別だけど。でも今日はコソコソどっか行
くとか言ってたなー。」
荻上「それ・・・やおいのイベントですか?同人誌関連の知人がイベント会場で
春日部さんとハルコさん見かけたとかメール入ってて・・・」
笹原「ええー、春日部君がやおいのイベントに?それこそ見間違いじゃないの?」
荻上「ええ、私もそう思ったんですけど。でもハルコさんも今日休みとイベント
合ったのに、誘ってくれなかったし・・・」
惠子「たぶん見間違いじゃないと思うよ、ハルコさん、春日部さんに気がある
し・・・」

452ノートブック【ハルコ】6−17:2006/04/15(土) 01:50:57 ID:???
笹原・荻上「ええ!仲の悪いあの二人が!まさかあー!」
惠子「これだから・・・オタクは・・・」
笹原「にしては、お前落ち着いてるね。一途に何年も春日部君を追いかけてきた
お前が!ハルコさんは敵じゃないって?それとも諦めた?」
惠子「なわけ、無いだろ、馬鹿兄貴!」
荻上「まあまあ、でも恵子さんも何年も春日部さんを慕ってるなんて凄いですよ
ね」
笹原「ほんと、意外。乙女だよなー」

(乙女なわけねーだろ!勝算あると思うから、付きまとってるんだって!)

これは惠子の自信過剰では無かった。顔で男を選んで、失敗している分、直感的
に春日部と真琴はうまくいかない、遅かれ早かれ別れると思っていた。春日部へ
の借金だって、その時一緒にいるための口実のようなものだった。恵子はいい男
が好きだ。だけど中身もある男もほしい。春日部はめったにいない『本物』だと
思った。

でもそういう男は競争も激しい。フリーになった時に身近にいれば有利だと言う
打算もあった。これは趣味の問題とか、二人に問題があるとかそういうことでは
なく、なんとなくそう感じた。予想外に長続きしてるが・・・。
453ノートブック【ハルコ】7−17:2006/04/15(土) 01:51:50 ID:???
春日部が真琴に一途なのも『本物』だと思った。恵子は真琴が嫌いだった。自分
を眼中に置いていない余裕の態度が。これは惠子の僻みだと言う事は惠子自身分
かってはいた。

笹原「でももしそうなら、大野さんの話は余計なお世話かな?」
荻上「スーと一緒に来日したアンディーがハルコさんと交際したくて、デートの
セッティング頼まれている件ですよね」
笹原「春日部君は真琴さん一筋だしねえ・・・」
惠子「・・・・」
(きっと、春日部さんもハルコさんの事が・・・)

言いかけて恵子は口をつぐんだ。誰にも言わない方がいい。春日部本人さえ無意
識で気付いていない事を穿り出して、墓穴をほってもしようがない・・・。でも
この事に気付いている人間はもう一人いる。真琴だ。あの女は直感で自分が春日
部さんに相手されない事を知っている。

同様の直感でハルコに対しては心穏やかではいられないのだ。真琴のその態度で、
春日部の心にも恵子は気付いた。『女』として真琴にもハルコにも負けているとは
思っていない。春日部とは趣味だって体の相性だってピッタリだという自信はあ
る。でも違うのだ。愛が無くても、男には女は抱ける。そういう事では無いのだ。

(潮時かな・・・)
惠子「あーあ、どっかにいい男いないかなー」
454ノートブック【ハルコ】8−17:2006/04/15(土) 01:52:34 ID:???
第四幕 某所でのデート

大野のセッティングで、ハルコとアンディーのデートが都内の某所で催された。
出席者は大野と田中、ハルコとアンディー、春日部と真琴だった。笹原と荻上は
笹原の方が仕事の都合で参加できないので、荻上も辞退した。

ここまで、話を持っていくのに大野は苦労した。ハルコが消極的で、英語喋れな
いし、外国人との交際は無理だのとぼやいたからだ。アンディーは日本語をマス
ターしたから大丈夫、別に会うだけだと諭しても、煮えきらず、誰か好きな人で
もいるのかと聞けば、そんな人はいないと言う。とうとう切れて、ここまで無理
矢理ハルコを引っぱってきた次第だった。

大「えー、本日はお日柄も良く・・・」
春日部「大野!お見合いかよ!」
春日部が茶々を入れる。春日部も何故か終始不機嫌である。
田「えーと、前に来日して面識はあると思いますが、アンディー君は大野さんの
在米中の友人で、スポーツマンな上、大変な親日家でもあります。日本文化、特
にサブカルチャーへの造詣が・・・」
春日部「要はアメリカのオタクって事だろ!むこうじゃなんていうんだっけ?」
あまりの行儀の悪さに、春日部は真琴に頬をつねられた。
大野「とっとにかく、アンディーは片言だけど日本語喋れるようになったし、分
からない事は私と春日部君が通訳しますから、気楽に、気楽に、ね!」
春日部「えー、俺もかよ!俺そのために呼ばれたの?」
455ノートブック【ハルコ】9−17:2006/04/15(土) 01:53:22 ID:???
ハルコは顔を赤らめ、高い背を気にして、猫背気味にうつむいている。アンディ
ーは大柄だが朴訥で誠実そうな青年で、優しい表情で、ハルコを見守っている。
そして春日部はその様子を横目で忌々しげに見ていた。

真琴「お二人、お似合いね!」
と真琴は笑顔でそう言った。
春日部「そうかー?」

その後の会食は和やかな雰囲気で進んだ。アンディーの話題は、ジャパニメーシ
ョンの現状から、ディズニーの中国を舞台にしたアニメの原典の出自や、古典を
アニメ化した『偏屈王』の監督の批評、絵画論、文化論まで大野が通訳に苦労す
る内容まで話していた。ハルコも真琴もそういう話も好きなので、興味深く耳を
傾けていた。また最近の時事ネタもジョークも入れた。

真琴「面白いわね、彼の話。趣味も合うし、あの二人雰囲気いいわね」
春日部「ぜんっぜん、話の内容分かんね!ギャグもつまんねー、文化の相違だ
な・・・」
真琴「はいはい、ハルコママが取られちゃうのが、嫌なのね!」
春日部「なっ!」

結局この会食の後、アンディーとハルコはアンディーの滞在期間中、交際を続け
ることになった。
456ノートブック【ハルコ】10−17:2006/04/15(土) 01:54:06 ID:???
第五幕 笹原と荻上と春日部

春日部「それでそいつの帰り際のセリフ!『私は貴方が思ってる以上に貴方の事
を分かっているつもりです』だとさ!」
笹原「はは・・・(汗)」
荻上「それじゃあ、滞在後も交際が続くなら、ハルコさんアメリカに行っちゃう
んですか?」
春日部「いや、何でもこっちに研究員としての仕事の当てがあって、日本に住み
たがっているとか。来るなと言いたいんだが。ハルコさんには合わないよ!」
笹原と荻上は顔を合わせて、怪訝そうな表情をした。
笹原「あの・・・春日部君はハルコさんが好きなわけ?」
春日部「いや、嫌い」
笹原・荻上「・・・・(汗)」
春日部「あの女は俺が会った女の中で最高に性格悪いね!」
笹原「じゃっじゃあ、別にハルコさんが誰と付き合おうと・・・」
春日部「不幸になるのは目に見えている!」
笹原は頭を抱え、荻上はポカーンと口をあけて、呆れた顔をした。
春日部「大体、真琴も俺をマザコン呼ばわりしてるけど、どちらかと言えば俺の
母親に似てるのは真琴の方だ!いや、だからってマザコンじゃねえぞ!」

(あれ?そういや、お袋と親父が離婚したのって、親父が浮気したからだっけ?)
457ノートブック【ハルコ】11−17:2006/04/15(土) 01:54:53 ID:???
第六幕 郊外の病院 その2

老婦人「あら、じゃあその娘さんは外国の方と一緒になるのね?」
老人「寒くはありませんか?」
老婦人「ええ、大丈夫。それにしても青年と娘さん以外の方々のお話は何時聞い
たのでしょう?」
老人「ええ、青年が後日、色々な人から聞いた話と、予想が入っているそうです」
老婦人「そうですか」
老人「では続きを・・」
458ノートブック【ハルコ】12−17:2006/04/15(土) 01:55:44 ID:???
第七幕 アンディーとハルコ

アンディー「日本の四季は美しいですね」
ハルコ「そうですか?」
アンディー「そしてあなたも」
ハルコ「・・・アンディーは日本にも私にも幻想を持ってるんじゃないんですか?」
アンディー「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えます」
彼はやはり大きな体を揺さぶりながら優しげに語った。
ハルコ「それはどういう意味ですか?」
アンディー「誰も自分の事は分かりません。人によって気付かされるものです。
海外の人が日本を日本人以上に愛する例も多いですよ 同様に人によって人は理
解されます」
ハルコ「それはそうかもしれません・・・」
アンディー「そしてわたしが美しいと言えばあたなは美しくなる」
ハルコは照れくさげにうつむいた。こんな事を言ってくれる人はいなかった。結
局、愛される事が女性にとって一番幸せということなのだろうか・・・。
459ノートブック【ハルコ】13−17:2006/04/15(土) 01:56:48 ID:???
第八幕 春日部と真琴

真琴「だから私が自分の趣味やイラストの仕事をやめることはないわ」
春日部「だから止めろなんて言ってないよ!ただ・・・」
真琴「無理する事は無いのよ、もう」
春日部「無理なんて・・・」
真琴「あなたはお父さんの真似をしたくないと思ってるだけ。あなたはお父さん
の浮気が原因で離婚したと思ってるんでしょうけど、先に再婚したのはどっち?」
春日部「お袋の方だった・・・親父は今も一人・・・」
真琴「先に愛が無くなったのはお父さんじゃなかったのよ。本当はあなたはお父
さんが嫌いなんじゃなく、好きなの。そして、その真似をしないようにしたかっ
ただけ・・・。もう自分の心が分かったでしょう?」
春日部は呆然として立ちすくんだ。
真琴は部屋に春日部を置いて、さっさと荷物をまとめて出て行った。
真琴の目には涙がうっすらと浮かんでいた。

真琴「日本もつまらないわね。しばらく外国に行こうかな でもその前に・・・」

真琴はハルコに会いに行った。ハルコはちょうど携帯で誰かと電話しているとこ
ろだった。

ハルコ「真琴ちゃん!どうしたの?」
真琴「ええ、海外に行こうと思いまして・・・ただその前にけじめとして」
真琴はハルコの頬を思いっきり平手打ちした。ハルコのメガネが地面に吹っ飛ん
だ。呆然とした表情でハルコは真琴を見つめた。
真琴「お幸せに!」
にこやかに真琴は立ち去った。
460ノートブック【ハルコ】14−17:2006/04/15(土) 01:58:08 ID:???
第九幕 ハルコと春日部

ハルコの部屋を春日部が訪ねた。
春日部「ハルコさん、開けてくれない!」
ハルコ「何しに来たわけ?また狼藉働きにきたわけ?」
春日部「しないよ、開けてくれないと騒ぐよ」
ハルコ「近所迷惑だからさっさと入って!」
春日部は部屋に入れてもらい、ハルコの顔を見て驚いた。
春日部「どうしたの、ほっぺたはらして!」
ハルコ「どうしたもこうしたも、さっき真琴ちゃんが来て、私を引っぱたいてっ
たの!」
春日部「真琴と別れた・・・つうか振られた・・・」
ハルコ「!!そっそれがどうしたの?そのとばっちりで私叩かれたわけ?いい迷
惑だわ!」
春日部「アンディーとはハルコさん、合わないよ・・・」
ハルコ「キミに関係無いでしょう!それに・・・さっき断りの電話入れたし・・・」
春日部「じゃあ・・・」
ハルコ「それとこれとは別!出てってくれる?」
461ノートブック【ハルコ】15−17:2006/04/15(土) 01:59:00 ID:???
春日部「ねえ、ハルコさん、欲しい物があったら値札見る?」
ハルコ「まさか!即買いよ!って何言わせるの?」
春日部「じゃあ、今も自分の心に聞いてみてよ。」
ハルコ「それこそ・・・無理だよ・・・違いすぎる・・・私たちは。環境も性格も・・・」
春日部「そりゃ、違うさ。俺たちはこれからも喧嘩ばかりするよ。俺はわがまま
でだらしないし、ハルコさんは強情で意地悪だ。でも何十年たって自分の隣にい
るのは誰だ?誰にいてほしい?死が二人を別つまで傍にいたいのは誰だ?」
ハルコ「それは・・・それは・・・でも私は背も高くてやせっぽちで、真琴ちゃ
んみたいに可愛らしくないし・・・」
春日部「そんなものは求めていない」
462ノートブック【ハルコ】16−17:2006/04/15(土) 01:59:49 ID:???
第十幕 郊外の病院 その3

老婦人「美しい話ね・・・。二人はその後どうなったの?」
老人はノートブックから絵葉書を一枚取り出した。それはアメリカから送られた
もので、写真にはアメリカ人と日本人夫婦の姿が写っている。
老人「これは二人の共通の友人の写真です。この物語の数年後に送られてきまし
た。二人はその後、一緒になりましたとも。旦那の方は女癖が悪く、友人の妹さ
んと浮気もしたりもしましたが・・・」
老婦人「まあ!悪い旦那さんね!」
老人「奥さんは奥さんで、時々高い買い物を衝動買いして、旦那さんに怒られた
りもしましたが・・・」
老婦人「奥さんも駄目ね」
老人「ええ、欠点の多い二人でしたが、そのたびに喧嘩しては、許し合いました。
二人は心を裏切る事はお互いしませんでした」
老婦人「・・・どこかで聞いた話・・・これは・・・これは私たちね!私たちの
物語ね!」
老人「ああ、思い出したんだね!そう、あなたは一週間前以上前の事を忘れる認
知症の一種にかかったんだよ!」
老婦人「ああ、キミの事を忘れてたなんて!」
老人「私たちの愛に不可能は無いさ」
老人と老婦人はハラハラと涙をながしながら抱擁しあった。
463ノートブック【ハルコ】17−17:2006/04/15(土) 02:00:38 ID:???
終幕 ノートブック

抱擁しながら二人は語り合った。
ハルコ「ずっと、ずっとこうしていたかった。いつの頃からか、キミに振り向い
てもらいたくて、かまってもらいたくて・・・気がついたら、知り合ってからこ
んなに無駄な時間が立ってしまったわ・・・」
春日部「これから先の永遠に近い無駄な時間に比べれば、たいした事無いさ・・・」

終幕
464マロン名無しさん:2006/04/15(土) 02:14:21 ID:???
>笹荻BADEND
こいつは・・・厄いぜ・・・。
現在の展開から考えてありうるかありえないではありえないなのだが、
ありか無しかで言われればありな自分です。
こういうのも、何歩か間違ってたら・・・とおもってしまうのです。
パラレルストーリーとしてはものすごく面白い。
>ノートブック
もはや違う世界の物語じゃあああああ!!
しかし、面白いのは、斑目女性化によるキャラがたっていること。
性別が反転するだけでこうもキャラの動きが変わるかなあ。
「こういうのもアリ?」
「そりゃあ・・・。アリでしょ。」
465マロン名無しさん:2006/04/15(土) 02:48:15 ID:???
>ノートブック
ありですねーこれは超アリですねー
春日部くんとハルコさんがくっつく話なんて自分の好みに直撃です。春日部くんのクサイ台詞がホストっぽさを出してていいですねー
ハルコさんは無条件でかわいい。

個人的には真琴さんが好きです。こっちの真琴はプライド高くて、笑顔だけど怒りをにじませるのがいい。
本物より人間くさいところがまたいい。
466マロン名無しさん:2006/04/15(土) 03:36:55 ID:???
>ノートブック
はまり過ぎだ。全く違和感が無い。

>笹荻BAD
絶望した!リアル絶望先生になってしまった巻田君に絶望した!

いかん、俺が遅筆なばかりに巻田君を不幸にしてしまった。
今書きかけの長編では、この作品と正反対の展開だというのに…
待ってろよ巻田君、俺が蘇生させてやるからな。
467マロン名無しさん:2006/04/15(土) 05:13:46 ID:???
中嶋許さん
468マロン名無しさん:2006/04/15(土) 05:51:31 ID:???
>>467
>>466だが、仇は俺が取ってやる。
前述の書きかけの長編内の中島は、とてつもなく不幸だ。
まあその代わりに改心したけど。
469マロン名無しさん:2006/04/15(土) 17:09:05 ID:???

>ノートブック
ハルコさん、ヨカッタネ。
前作ともに、性別変更キャラの微妙な変化による新たな展開、
関連性を楽しませていただきました。

>笹荻BAD
鬱ですね〜。
結婚という幸福絶頂妄想からの不幸の奈落に堕ちた現実。
鬱です(誉め言葉ですよ)
で、>>443の重複で文節が消えてたりしますか?
下手の勘ぐりでしたら、中島の眼差しで嘲笑スルーして下さい。

>F91−3
「Time passed me by」は思春期ソングです。ノスタルオサンデスマン
アーティストのTMNも、ストーリーの過去と現在の繋がりの暗喩かと深読みするほど。
とにかくF91完結乙です。

長々と失礼しました。
470マロン名無しさん:2006/04/15(土) 18:14:04 ID:???
ちょっと長いSS投下します。
投下に時間かかると思いマスがすいません。

471まえがき:2006/04/15(土) 18:15:32 ID:???

「壁の向こう側」(斑目のSS)

「壁」の続編です。今回もそうとうな欝展開ですが…(スミマセン)
少しだけ明るい方向に話を持っていってます。…たぶん。
472壁の向こう側1:2006/04/15(土) 18:16:55 ID:???
30レスです。

***

 八月も終わりに近づいていた。
日中の強烈な日差し。アスファルトの焼ける匂い。蝉の鳴く声。
ふと去年の今頃、軽井沢で合宿をしたことを思い出した。

あのころに戻りたい。不安や後悔が自分を苦しめる前の、あの頃に。
…もし、戻れたとしたら?俺はどうするんだろう。
後悔のないように行動できるんだろうか。

もし、なんて仮定に意味はないけれど。

それでも一時期よりはだいぶ気持ちが落ち着いてきた。二ヶ月ほど前、自分がおかしくなっていたことを思い出す。
鬱陶しい梅雨の時期、気分がどん底にまで落ち込んでいた時期。
…もしあの時、春日部さんが気づいてくれていなかったら、俺はどうなっていただろう。
未だにずっと暗い顔で日々を送っていたのだろうか。

もし、なんて考えても意味はないけれど…いや。
そう仮定することで、今の自分を見つめなおすことができる。
そんな風にならないように、自分を奮い立たせることが出来る。

あの日のことは今でも、毎日のように思い出す。
『迷惑かけてくれないほうが悲しいよ』
…この言葉を、きっと一生忘れないと思う。
473壁の向こう側2:2006/04/15(土) 18:17:58 ID:???
 斑目は会社帰りに新宿に来ていた。久しぶりにここの同人ショップに寄るためだ。
駅からゆっくりと歩く。今日も人が多い。
(…そういや、春日部さんもここに住んでるんだっけ)
そう思うと、少しそわそわする。
(…ま、そんな偶然に会えるワケないか…)
軽く首を振り、歩き続ける。

同人ショップから出るともう日が暮れていた。最近日が落ちるのが少しづつ早くなっている。
手に持った紙袋には同人誌が10冊ほど入っている。昔に比べれば大分買うペースが落ちた。
(俺も年取ったかなー…)
思わずそんなことを考えてしまう。

(そういや、春日部さんの店も新宿だったっけか)
通りをぶらぶら歩きながら考える。
同人ショップに寄ってから近くのラーメン屋で夕飯を済ませたところだった。
明日は平日だが、前に日曜に仕事に入ったので代休だった。だからあまり急いで帰ろうという気がしない。

(………俺はさっきから何を探してるんだろう)
自問自答する。自分でも呆れる。新宿という以外の手がかりがまるでないのに、漠然と探しても仕方ない。分かってるのに。
(そんな上手く見つからねーって)
だいたい見つけてどうするのか。女性の服屋なんかあまり入ったことがないし、声かけづらいと思う。
それに、いくら偶然に見つけたからって、急に行ったら引かれないか?
昔、新宿で春日部さんに声かけたとき、相当イヤな顔されたことを思い出す。
…まあ、声かけたおかげで、その後寿司屋に行けたんだが。
474壁の向こう側3:2006/04/15(土) 18:18:39 ID:???
ぶらぶらしていたら、いつの間にか9時を過ぎていた。
(…帰るか)
ようやく諦めがついた。
(無駄だ、ムダムダ。もう疲れたよ…十分探し回ったろ………)
自分のやってることが空しくなってきた。
近くにあったショウウィンドウに自分の姿が移る。くたびれた猫背の自分。
(…はあ。本当に何やってんだろ…………。)
ショウウィンドウには女性物の服が飾られている。白っぽい色のワンピース。
淡い草色の、少し変わった形の透け素材の上着。ふわりと広がったスカート。
春日部さんに似合いそうだな…と考えていた。
もう店は閉まっていて、ウィンドウから見える店内は薄暗い。中で人の気配がする。店員のようだ。

そのとき、店員の一人と目が合った。

春日部さんだった。

(!?)
春日部さんはすぐにこっちに気づき、口をぱくぱくさせた。…何か言ったようだが、ガラス越しでは聞き取れなかったのだ。
(???)
思わず耳の横に手を当て、聞こえにくいことを示すが、たとえ大声をだしてもガラスが分厚いので聞こえないだろう。
春日部さんは人差し指で右の方を指し示し、自分も右の方向へ歩いていった。
(? あ、入口のほうか)
シャッターの閉まった入口のほうへと歩く。店の中から、がしゃんと鍵を開ける音が響いてくる。
(………つーか、会えちゃったよ……………)
諦めたとたんに見つけてしまった。我ながらびっくりだ。
475壁の向こう側4:2006/04/15(土) 18:19:18 ID:???
ガラガラとシャッターが上がる音がして、春日部さんが出てきた。
咲「斑目!」
斑「…や、久しぶり」
とりあえず普通に挨拶してみる。何を話せばいいのだろう。今の状況をどう言い訳しよう。
………正直に言ったら引かれる気がする。
咲「えー、よくここが分かったね」
斑「い、いや!偶然!ホント偶然、通りかかってさ!」
(…ある意味『必然』と言えなくもない。あんだけ探し回ったらな…………)

咲「あーー、また同人誌買いにきてたんでしょ?」
咲は呆れたように笑いながら、斑目の持っている紙袋を指差した。
斑「あ、ああ、そうなんだよ、同人誌をネ…」
いかにもなロゴの入った同人ショップの紙袋のおかげで、言い訳せずに済んだ。
(…呆れられてるけどな。まあ、仕方ないか。)

斑「あ、もう閉店してたんだね…」
咲「うん、9時閉店だから。もう少しで作業終わるから、待っててくれる?」
斑「え、あ、わかった」
春日部さんは再びシャッターを上げると、中に入っていった。
この後も会ってくれるつもりらしい。
(時間かかったけど、探してよかったな。こうして春日部さんに会えたことだし…)
会って、言いたいことがあったのだ。

5分ぐらい経って、再び春日部さんが出てきた。さっきは着ていなかった上着を着て、鞄を持っている。
476壁の向こう側5:2006/04/15(土) 18:20:02 ID:???
斑「あれ、もういいの?」
咲「うん、副店長の子が『閉店作業は私がしておくから、店長はお友達とゆっくりしてきて下さい』って言ってくれたからさ」
斑「ふーん、そっか」
咲「ゆっくりって言ってもねぇ、あんた明日は仕事でしょ?私は休みだけど、そうゆっくりはしてられないでしょ」
斑「いや、俺も明日は代休だから…とは言っても、もう9時半だからねぇ…」
咲「あーそうなの?」
斑「うーんじゃ、どっかその辺の店でお茶でも…」
咲「…斑目、私行きたいところあるんだけど、いい?」
斑「ん?いいけど、どこ?」


………………………


(………………………なぜ俺はこんな所にいる。)
少し薄暗い個室の中で、二人きりだった。
春日部さんが来たいと言ったのだ。

せまいソファに座ったまま、自分の頭が現状を把握するのに時間がかかっている。
春日部さんは部屋に据え付けの電話から、メニューから選んだ料理を注文している。
受話器を置くと、春日部さんはこっちを向いて言った。
咲「さてと。…あれ、斑目、何も入れてないの?」
斑「うーん………知ってる曲って言っても、アニメのとかぐらいだけど、いいのカネ?」
咲「別にいいよ、こっちから無理に誘ったんだし」
斑「あ、ソウデスカ」
なんかいつの間にか、カラオケ屋に行くことになっていたのだ。
477壁の向こう側6:2006/04/15(土) 18:21:11 ID:???
斑「♪君のっ手で〜!切り裂いて〜!遠い日の記憶をーーー!」

歌っているうちになんだかテンションが上がって来た。選んだ歌のせいかも知れないが。
ハレガンの歌はオタクでなくても知っているだろう、と思ったので選んだのだった。

「♪悲しみの〜、息の根を止めてくーれーよー、さーあ、愛に焦がれた胸を貫けーーー!!」

一曲歌い終わると、春日部さんは感心したように言った。
咲「へー、けっこう歌いなれてるんだね」
斑「もーこの歌は何回も歌ってますから」
咲「この歌けっこういい歌だよね。…あ、でもアニメの曲なんだっけ」
斑「最近はアニソンっぽくない歌が多いからねえ…昔の古き良きアニソンが懐かしい………」
咲「…良く知らないけどさ、昔のアニメの曲って、サビの部分で主人公の名前が何度も出てくるよね。
あれ、どうにかならないの?」
斑「それがいいんじゃないか!!」
咲「…やっぱわかんねー…」
春日部さんは首をひねっている。

咲「♪あのー虹をー渡ーってーー、あの朝に帰りたいー♪
あのー夢をー並べーてーー、二人歩いたGRAMOROUS DAYS♪」

(そういや、春日部さんが歌ってるとこ初めて見たな)
歌っているときは少し声が変わる。少し鼻にかかった高音。
478壁の向こう側7:2006/04/15(土) 18:21:50 ID:???
歌い終わってから春日部さんが聞いてきた。
咲「…この歌は知ってた?」
斑「んー?」
咲「………映画の曲なんだけど。実写だけど、原作は『NANO』って言う少女漫画らしくて」
斑「ああ、『NANO』は知ってる!!」
咲「………うん、やっぱり偏ってるよね、興味が……………」
春日部さんは大きく溜息をついた。

咲「斑目、飲み物追加頼む?」
斑「え?あーそうね」
咲「ビールでも頼むかなー。あとおつまみとか…あんたは?」
斑「じゃあ俺もそれで!」

斑「♪消してーー!リライトしてーー!!」

咲「うーん、何歌おうかな…」

斑目の知らない曲を何曲か歌った後、春日部さんは考え込んでいた。
斑「あーなんか、ずっとでかい声出してたら喉渇くな!」
ビールを一気飲みする。
咲「私も元気出る曲歌おうかなー。なんかあるかなー」
斑「…リクエストは受け付けてマスカー?」
咲「へ?いいけど…何、アニメの曲じゃないでしょうね」
斑「アニメの曲しか知らんからね!!」
咲「いばるな!…でも私が知ってる曲で、何かあるかな?」
479壁の向こう側8:2006/04/15(土) 18:23:17 ID:???
超有名なあの曲のイントロが流れ出す。

咲「♪呼吸を止めて1秒 あなた真剣な目をしたから♪
そこから何も聞けなくなるの 星屑ロンリネス♪」

斑「南ちゃんキターーーーー!!」
斑目はさっきフロントから借りてきたタンバリンで拍子をとる。

咲「♪すれちがーいや まわり道をー あと何回過ぎたら2人はふれあうのーーー♪
おーねーがーい タッチ タッチ ここにタッチ!あーなーたーかーらーーー!
手をのばーして 受け取ってよー ためいきの花だけ束ねたブーケーーーーー!」

咲「…ふう。友達がよくネタで歌うんだけどさ、初めてでも結構歌えるもんだね!」
春日部さんはそう言うなりビールを一気に飲み干す。
斑「テレビでよく流れてるからねぇ。アニメ『タッチアウト』も、よく再放送してるし」
咲「よーし!次いこう次!!なんか元気出てきた!あ、斑目、ビール追加。瓶三つくらい頼んじゃって」
斑「へいへい。次いこう次!!」
なんか妙なテンションになってきた二人であった。


咲「♪この頃 はやりの女の子〜 お尻の小さな 女の子〜♪
こっちを向いてよハニー!
だってなんだか だってだってなんだもん♪」

アニメ『セクシーハニー』の昔のOPのほうでなく、実写の映画のOP(庵○監督)のほうを、春日部さんはノリノリで歌っていた。
480壁の向こう側9:2006/04/15(土) 18:23:58 ID:???
咲「お願いー お願いー 傷つけないでーー♪
わたしのハート〜は、チュクチュクしちゃうのーーー
イヤよ、イヤよ、イヤよ見つめちゃイヤ〜〜〜!  ハニー フラッシュ!!」

斑「ハニーーーーーーー!!!」

何故か拳を握り、演歌のように熱く歌い上げる春日部さんだった。
斑目はタンバリンを振りまくり、喝采をあびせる。

メンバーが二人とは思えないほどの、異様な盛り上がりを見せていた。

斑「いやーハニーはいいよね。ハニーはいいよ!」
酔ってきたせいか同じ言葉を繰り返す斑目。
咲「これはねぇ、何度か歌ったことあるんだよね!映画見に行ったし!
あーすっきりした。やっぱカラオケはいいね!!」
斑「そりゃ良かった。しかし春日部さんがアニソン歌ってくれるとはね、言ってみるモンだな!!」
咲「あーそりゃコーサカ………………」


春日部さんはそこまで言って、言葉を切った。

斑「…高坂とカラオケ行ったら、歌うの?あいつもアニソンばっかだからなぁ。」
斑目は気づかない風を装い、普通に返してみた。
481壁の向こう側10:2006/04/15(土) 18:24:31 ID:???
咲「………………」
春日部さんは黙り込んでしまった。
(…気にしてねえって…高坂の話題くらい、今さら…。だから気にすんなって………(汗))

斑「春日部さん?どしたの…?」
咲「………………………」

春日部さんは俯いている。
斑「あのー、もしかして具合悪くなった?飲んで騒いでたから…。」
咲「………ちがう」
斑「へ?」
咲「そうじゃな………………」

ぱたぱたっ、と春日部さんの膝の上に水滴が落ちた。スカートにしみを作り、広がっていく。

(………………え?)
ぎょっとして春日部さんの顔を覗き込もうとしたら、春日部さんは両手で顔を覆ってしまった。
(な、え?な、泣いてる…??何で!?
…え、俺なんかマズイこと言った!?いや、言ってねーよな………何で………)

(高坂の話、か………?え、でも俺から振ったわけじゃねーし…
いや、待てよ…………。)
482壁の向こう側11:2006/04/15(土) 18:25:05 ID:???
さっきから違和感を感じていたのだ。
今日の春日部さんは変だ。やたらテンションを上げようとして………
何というか『無理してる』感じだったのだ。

昔、部室が使えなくなったとき、春日部さんが急に泣き始めたことを思い出した。
あのときは、春日部さんが人知れず我慢していたところを、自分がトドメを刺してしまったのだった。
今の状態と、なんだか似ている。

(…やっぱ、何か言っちゃってたのか?)
自分では気づかないまま、失言をしてたのかも知れない。
斑「………あのーー、春日部さん?俺、なんか気にさわること言っちゃってたカナ?」
春日部さんは首を横に振った。
斑「じゃあ、何?どーしたの?」
咲「………………ごめん」

何で謝るんだろう。
そう思った直後、春日部さんがこっちの方によりかかってきた。


(………………………………春日部さん???)
びっくりして声が出ない。春日部さんは俯いたまま、こっちの胸に顔を押し付けている。
小刻みに肩が震えている。
483壁の向こう側12:2006/04/15(土) 18:25:36 ID:???
(…高坂と間違えてないよな。いやいや、いくら酔ってるからって…)
首を振って否定する。…何か考えてないと、冷静でいられない。いや、もうすでにテンパってるんだが。

斑「………………」

触れているところが暖かい。春日部さんの髪からいい匂いがする。
曲を入れてないので、さっきからカラオケの曲別ランキングばかりが画面を流れている。
沈黙。…いや、かすかに春日部さんの息遣いが聞こえる。嗚咽を押し殺しているような声。

何で泣いてるのか、分からない。
しつこく聞くのもアレなので、春日部さんが落ち着くのを待とう、と思った。
おそるおそる右手を春日部さんの肩に伸ばそうとして、ためらう。そのまま拳をつくり、腕を下ろした。

「………………………………」
何だかいたたまれない。

しばらくそうしていたら、春日部さんが顔を伏せたまま、話し始めた。
咲「………ごめん」
斑「何で謝んの?」
咲「急に泣いたりして………」
斑「別に謝らんでも………………」
言いながら、もうちょっと優しい言い方ができんのか俺は、と心の中で自分にツッコミを入れた。
484壁の向こう側13:2006/04/15(土) 18:26:11 ID:???
咲「………コーサカと会ってない。もう2ヶ月以上………」
斑「高坂のお仕事で?」
咲「そう。………1ヶ月って聞いてたのに、どんどん延期になって………………」
斑「ああ、そうなんか………ゲームだと、なんかディレクターとか変わったりすると、そういうこともあるような…」
咲「…知らないよ。もう仕事仕事って、そればっかり………」
斑「………………………」

咲「…分かってるよ。私だって仕事、大事だから。だから分かってる。
そんな風に言ったらコーサカが困ることぐらい分かる。でもさ、言いたくなるんだよ。
…今さ、自分の店の方も大変で………小売業は、2月と8月は全然売れないんだよ。
頭では分かってるけどさ、だからってこのままほっといていいわけじゃなくて………………。
店守ろうとしたら………1人切らなきゃいけないんだよ………」

斑「…え、切るって…辞めてもらうってこと?」
咲「嫌なんだよ!だからこの数週間、ずっとどこも切らずにすむように色々考えてた。
店の売り上げが回復するように、思いつくこと全部試した。でも………………。
どうにもならないモンだね………。
店長っていう立場上さ、店の子に弱音吐いたりできなくて…
どうしたらいいのか、もう答えは出てる。でも、それをしたくないんだよ。決断したくない………」

春日部さんはいっそう体を硬くしてしがみついてきた。
こちらの二の腕をつかんでいる。少し痛いくらいに。
自分をコントロールできないでいるのだろう。
485壁の向こう側14:2006/04/15(土) 18:26:49 ID:???
さっきおろした右手を、春日部さんの背中に回した。
何も言えない。事情を良く知らない自分が何を言っても、春日部さんの助けにはならないだろう。
…ただこうしていることしか、できない。

少し前屈みになり、春日部さんをなだめるように背中をさする。
さっきから自分の心臓の音が、耳の奥でずっと大きく鳴っている。
…少しでも、ほんのわずかでも、春日部さんの痛みを請け負えたらいいのに。

「………………………」

(本当は…高坂に相談したいんだろうな………。
高坂に慰めてもらいたいんだろうな………………。)

(俺じゃ役不足だ………)


春日部さんが、斑目の二の腕をつかんでいた手を下ろし、胴の方へ腕を回してきた。
抱きしめられ、よりいっそう体が密着する。
…息が止まるかと思った。自分の心臓の音がより大きくなる。
余計なことを考えたくない、今自分と一緒にいる人のことだけで頭をいっぱいにしたい。
春日部さんが落ち着くまででいい。その間だけでいいから。
486壁の向こう側15:2006/04/15(土) 18:27:25 ID:???
咲「…てない」
斑「え?」
ようやく春日部さんが喋った。

咲「してない。もう2ヶ月以上………」
斑「え?何が?」
…そう聞いてから、気がつき、ひどく慌てる。
(えええーーー!?そ、そんな相談されても………(汗))

咲「コーサカと………」
斑「ふ、ふーーーん………………(汗)」
咲「でも、コーサカは平気そうなんだもん…腹立つ…。
いくらそういうゲーム作ってるからってさ……………!!」

(何てコメントすればいいのやら……。)

斑「あ、あーそうだ、じゃあさ、高坂に頼んで女性向けのエロゲー作ってもらえばどーカナ!?高坂の趣味も理解できるし、一石二鳥!!」
あえてセクハラ発言を強行してみた。
それで、笑うなり怒るなりしてくれればと思ったのだ。

でも、どちらの反応もしてくれなかった。
487壁の向こう側16:2006/04/15(土) 18:27:59 ID:???
咲「浮気したら高坂、怒ってくれるかな……」
斑「は?」
咲「傷ついてくれるかな………少しは………………。」


(………………………………流そう。うん。ここは流したほうがいい!)

斑「え〜…、どうだろ…そりゃ傷つくとは思うけど………。
でも、しないでしょ春日部さんは…そんな仮定自体、意味ないと思うけど………………。」
咲「………………」
斑「なんか春日部さんらしくねーよな…そんなこと言うの……」
咲「斑目」
斑「はい?」
咲「私って魅力ない?」
斑「……いや、だからさー………」
咲「私のこと嫌いになった?こんなこと言って………」
斑「好きだよ!」
斑目は大声を出した。春日部さんの体を引き剥がす。

斑「どうしちゃったんだよ、いつもの春日部さんに戻ってくれよ!
おかしいだろこんなの…もっと強気でいてくれよ………」
咲「弱いよ、私は」
春日部さんは顔を上げた。頬には幾筋もの涙の痕があり、目は泣き腫らして真っ赤になっていた。
488壁の向こう側17:2006/04/15(土) 18:28:43 ID:???
咲「というか、最近気づいた…自分が弱くて無力で…。いままで『どうにかなる』って思ってたけど、全然………」
斑「そんなことねーだろ………」
咲「学生の時には見えてたつもりだったけどさ………。いざ飛び込んでみると………。甘かった」
春日部さんは震えていた。再び涙が頬を伝い始める。
見ていられなかった。苦しみがじかに伝わってくるようで、ひどく心が痛かった。

咲「ごめん…がっかりしたっしょ」
斑「そんなこと………」
咲「ごめん、変なこと言って、ごめん………」
斑「浮気………」
咲「…え?」
斑「春日部さんがそうしたいなら………………」

斑目は春日部さんの頬に手を添える。涙で濡れた頬はすごく熱かった。
春日部さんは目を閉じる。瞼を閉じたとき、涙がひとすじ頬を伝って流れた。


怖い。ほんの弾みで壊れてしまいそうな気がする。
斑目はゆっくりと顔を近づけた。


そして、触れたかどうか分からないような、かすめるようなキスをして、すぐに顔を離した。
489壁の向こう側18:2006/04/15(土) 18:29:16 ID:???
(………駄目だ)

息苦しい。罪悪感が胸に渦巻き、苦しくなるばかりだった。ひどく喉が痛い。
高坂に対してじゃない。春日部さんに対してだ。
春日部さんは絶対に後悔するだろう。そしてもっと自分を責めるに違いない。
確実に傷つける予感があった。
春日部さんがもっと深く傷つくのが分かっているのに、こうしているのが苦しかった。

顔を離してしばらくすると、春日部さんは目を開けた。
斑「…やめよう」
咲「………」
斑「やっぱ変だろ、こんなの…俺には向いてねえって…」
咲「………」
斑「あはは、はは…ご期待に添えなくてわりーんだけど………」
咲「…ごめん」
斑「いいって………」

そう言いかけたとき、春日部さんに唇を塞がれた。
(!!)
体重をかけられ、体をソファに押し付けられる。
後ろの壁で頭を打った。
490壁の向こう側19:2006/04/15(土) 18:29:46 ID:???
振りほどこう、と思えば振りほどけたと思う。でもできなかった。
罪悪感が、少しづつゆるんでいく。
唇の柔らかい感触だけに、感覚が支配されていく。
どのくらいそうしていただろう。とても長い、でも一瞬の間だったような気がする。
ようやく顔が離れる。春日部さんと目が合う。
その赤くなった目を見て、急にまた現実に引き戻された。

斑「…何でこんなことするかなー………」
咲「ごめ…」
斑「必死で抑えてんのに………」
咲「ごめんね……………」

春日部さんは再び抱きついてくる。
こちらも抱きしめてしまう。
背中に回した腕で、春日部さんの背中をさする。薄い生地の上から、肌の体温を感じる。

(………………………)
さっきから、背中をさすっていると、引っかかるところがある。…多分、下着の線だ。
その部分を少しだけ、指でなぞってみる。
背中がわずかに震えたのが分かった。

(………………………………………)

斑「………春日部さん」
咲「……………」
覚悟を決めないといけない、と思った。
491壁の向こう側20:2006/04/15(土) 18:30:21 ID:???
斑「春日部さん」
咲「…何?」
斑「俺さ、実は、さっきから………………………」
咲「………うん」
斑「トイレ行きたいんだけど」


春日部さんは体を離し、唖然とした顔で斑目を見た。
咲「……………は?」
斑「こんなときに悪いんですが!さっきからちょっと、我慢できそうにアリマセン。」
咲「………………………は?」
斑「すぐ行ってくるからさ、ちょっとタイム!」
咲「え、マジで?」
斑「こんなん冗談で言ったら怒るでしょ?」
咲「あーうん…勢いに任せてぶっ飛ばしてるね………………」
斑「じゃ、ごめん、ちょーっと待っててくれるカナ?」
そう言うと斑目は春日部さんをゆっくりどかし、ソファから立った。
そのままドアのほうに歩き、ドアの取っ手に手をかける。

咲「…帰るの………?」
春日部さんが小声で聞いた。
斑「何で?すぐ戻ってくるって!ほら荷物置いてるし」
斑目は同人ショップの紙袋を指差した。
咲「あ、ああ…そうか………。」
春日部さんを納得させてから廊下に出る。
492壁の向こう側21:2006/04/15(土) 18:30:57 ID:???
………………………


斑目はタクシーの中にいた。
さっきから何度も携帯で電話をかけている。
(出ねぇ…くそ、早く出やがれ………!!)

出るまでかけるつもりだった。
もしこのまま出なかったら、仕事先まで乗り込むつもりでいた。

8度目のコールでようやく繋がった。
『………はい…もしもし………』
寝ぼけた声が答える。


高坂の声だった。


………………………
493壁の向こう側22:2006/04/15(土) 18:31:30 ID:???
 さっき個室を出て、いったんトイレに寄って色々とクールダウンしてから、カウンターへ直行した。
朝の五時までのフリータイムであることを確認してから、二人分の料金を払い、「連れは朝までいるから」と店員に言い残してきた。
カラオケの店を出て、すぐにタクシーを拾った。
タクシーの中で、何度も高坂に電話をかけた。繋がるまで。

高『………はい…もしもし………』
斑「新宿の○□×っていうカラオケ屋に春日部さんがいる。」
高『……え?斑目さん………………?』
斑「新宿の○□×っていうカラオケ屋に春日部さんがいる。一人で泣いてる。」
高『………………』
斑「すぐに行け!体調が悪いとか明日が納期だとか関係ねー!全力で急いでこい!!
じゃないと俺がもらうからな!!」
高『斑…』
電話を切った。ついでに電源も切った。
乱暴に携帯をポケットに突っ込みながら、車の窓の外に目をやる。
しばらく車が流れるのを見ていた。ライトの光が流れていくのを見ていた。

高坂に嫉妬していた。すごく腹ただしかった。
誰かに対してこんなに腹を立てたのは初めてだと思った。
春日部さんに、あんな風になるほど想われていることが、ひどく羨ましかったのかも知れない。
494壁の向こう側23:2006/04/15(土) 18:32:06 ID:???
………………………


咲はソファに座ったまま、うなだれていた。
15分経ち、30分経っても斑目は戻って来なかった。
怒って帰ったのだ、と思った。ドアを出るときは分からなかったけど。
きっと失望させたのだろう。

また涙が滲んできた。
後悔していた。傷つけてしまった。
私はどうかしていた。あんな風に傷つけていい相手じゃなかった。

咲はカラオケのリモコンをつかむと、適当にボタンを押して送信した。何度も繰り返す。入れられるぎりぎりまで曲を入れる。
曲が始まる。知らない演歌だった。音をできるだけ大きくする。
部屋いっぱいに音が充満する。これならどんなに騒いでも外に聞こえないだろう。
そうしておいて、咲は急に大声をあげて泣きだした。


どれくらいそうしていただろう。いつのまにか曲は全部終わり、また曲別ランキングが画面を流れる。
泣きすぎて頭がぼーっとする。虚脱していた。
そのとき、ドアが開いた。
495壁の向こう側24:2006/04/15(土) 18:32:50 ID:???
一瞬、誰だか分からなかった。
咲「コー…サカ?何で………」
高「咲ちゃん………」
高坂は息をきらしながら咲の横へ来て、ソファに手をついた。
高「電話………」
咲「電話?…あ!!」
咲はあわてて自分の携帯を鞄から取り出す。
ずっと大音量で曲をかけっぱなしで、気づかなかったのだ。
咲「ごめん、気づかなくて………ずっとかけてくれてたのに………。でも、なんでここが…」
高「斑目さんが………………」
咲は目を見開いた。

高坂は咲を抱きしめた。
高「ごめん…咲ちゃん、ごめん………」
咲「コーサカ…」
高「さっき、全然電話繋がらなくて、焦った………………」
咲「…う、うう………」
高「ごめ………」
咲「謝んないで!!わ…私………浮気しようとしてた………
浮気したらコーサカに焦ってもらえる、なんて馬鹿なこと考えた……………」
高「…うん、そしたらきっと、ものすごく焦ってたと思うよ………」
咲「…ごめん。ごめ………!」
高「僕こそごめん。気づいてあげられなかった………」

高坂は震えていた。
咲はきつく高坂を抱きしめた。
496壁の向こう側25:2006/04/15(土) 18:33:26 ID:???
………………………


あれから3日が過ぎた。
斑目は会社から帰宅しているところだった。
残暑が厳しい。むっとするような、重い湿気を孕んだ空気。夕方の強い日差し。
並木道を、影の下を通るようにしながら歩いた。

昨日も一昨日も、春日部さんの夢を見た。
春日部さんの体に触れ、いいところまでいくのに、肝心なところで目が覚める。
そんな夢だった。

ポケットの中で携帯が震える。
取り出してみると、春日部さんからのメールだった。
(………来たか)
予想はしていた。多分今日あたり来るだろうな、と思っていた。
斑目はすぐに返信した。


喫茶店の中に入る。春日部さんの姿を探して店内を見渡す。
奥の席で、春日部さんが手を挙げているのを見つけた。

斑「…やあ」
咲「斑目………………」
春日部さんは疲れた顔をして斑目を見上げた。
497壁の向こう側26:2006/04/15(土) 18:34:07 ID:???
咲「………………………」
斑「………………届けに来てくれたんでしょ?」
咲「え?」
斑「同人誌。わざわざスマンかったね」
斑目は春日部さんの横の席に置いてある紙袋を指差した。あの時、カラオケ屋に置いて来たものだ。
斑「そんな恥ずかしい紙袋、持ってきてもらってスマンね」
咲「そんなこと………………というか、昔私に同人誌買いに行かせたくせに…」
斑「あー、そうだった。あはは………」
咲「…はい」
斑「どうも…………」
斑目は春日部さんの手から紙袋を受け取る。

「………………」
沈黙。会話が続かない。

咲「コーサカと会ったよ……」
斑「うん」
咲「…ありがと」
斑「いや…大したことしてねえし………」
高坂を呼んだだけだ。自分では役に立たないと思ったから。

咲「ううん…ホントに……………。」
春日部さんは俯いていた。ひどく悲しそうだった。こんなに悲しそうな顔、初めて見た。
498壁の向こう側27:2006/04/15(土) 18:34:40 ID:???
咲「何か色々…言いたいことがあったはずなんだけど、お詫びとか、感謝とか…言葉にならなくて………………」
斑「いいよもう…」
咲「どうすればいい?…私は何をしてあげられる?」
斑「………………」
咲「このままじゃ………」
斑「…じゃあさ」
咲「うん…」
斑「俺と付き合ってくれないかな」

春日部さんは顔をあげて斑目を見た。斑目は寂しそうに笑っていた。
春日部さんは体を緊張させて、何かをこらえるようにぎゅっと目をつぶり、しばらくしてゆっくりと息を吐いた。
そして言った。


咲「…ごめん。私はあんたと付き合えない」
斑「うん」
咲「ごめ………。」
斑「じゃあ何もしなくていいよ」
咲「えっ?」
斑「俺が一番望んでることが叶わないなら、何もしなくていいよ。というかもう、気にすんな」
咲「斑目………………」
斑「大丈夫、気にすんなって。『迷惑かけてくれないほうが悲しい』からな」
斑目はそう言って笑った。
499壁の向こう側28:2006/04/15(土) 18:35:19 ID:???
斑目は先に喫茶店を出た。太陽が向こうの街並みの輪郭を照らしながら、少しずつ落ちていった。
薄暗くなってきた中を歩く。時折吹く風が、少しだけ涼しくなってきていた。

この前、春日部さんの店を探していたとき、言いたいことがあったのだ。
自分が落ち込んでいたときに言ってくれた言葉に対して、お礼を言いたかったのだ。
…さっき、結果的にそれを言うことができたと思う。伝えられたと思う。

今回、自分で考えて行動できたのだから、だから後悔していない。………でも。
ふと、あのとき最後まで行っちゃってたらどうなっていただろうか、と思った。
自分も春日部さんも後悔するんだろう。…でもそれが原因で春日部さんは別れていたかも知れない。責任感じて俺と付き合ってくれたかも知れない。…そのうち、自分の方を本気で好きになってくれていたかも知れない。

もし、なんて仮定に意味はないけれど。

さっき、付き合ってくれと言ったことを思い出す。
(………………)
(………………………………………)

(やっぱり駄目だったなあ………少しだけ見込みあるかも、なんて思っちゃってたよ…………。
うん…でも、これで良かったんだよな。これで)
ようやく吹っ切ることができる。


斑目はゆっくりと家までの道程を歩いていった。道端に自分の影がどこまでも長く伸びていった。
500壁の向こう側29:2006/04/15(土) 18:35:52 ID:???
………………………


咲は喫茶店の中でじっと座っていた。目の前のコーヒーはとっくに冷めている。
さっき斑目に言われたことを思い出していた。

『俺が一番望んでることが叶わないなら………』
『迷惑かけてくれないほうが悲しいからな』


(…そうだ。もう私には何もできないんだ。高坂を選んだから)
あの日、高坂がカラオケ屋に私を迎えに来てくれてから、たくさんのことを話した。
そのときようやくわかったことがあった。高坂が初めて話してくれたことだった。
高坂の、一見完璧に見える「強さ」の内側に、あんなに弱い、脆い一面があったことに驚いた。
今までの高坂に対するイメージが変わった。

でも。…それでもなお、好きだと思う自分がいる。惹かれる自分がいる。
自分が支えられるだけでなく、自分も高坂を支えたいと思った。
だから高坂を選んだのだ。

(……………でも)
咲は、自分がカラオケ屋で斑目に対してとった行動を思い出す。
501壁の向こう側30:2006/04/15(土) 18:36:51 ID:???
あの時。
抱きつき、胸に顔を押し付けたとき、相手の鼓動が痛いくらい打つのを聞いた。
抱きしめ返されたとき、手が震えていたのを肌で感じた。
この人は本当に私のことが好きなんだと、胸が熱くなった。ここちよい安心感でいっぱいになった。

触れたかどうか分からないようなキスをされたとき、焦らされたような気分になった。
だからつい、キスしてしまった。
あの時、あの瞬間だけは、目の前にいる相手のことで頭がいっぱいになって、何をされてもいいと思った。…いや、私の方が求めていたのだ。


…このことは誰にも言えない。自分だけの秘密だ。
あのとき、最後までしてたらどうなっていただろう。傷つけて、後悔でいっぱいになって、今頃ボロボロになっていたんじゃないだろうか。
高坂も、自分も。…あの人も。
もし、なんて仮定に意味はないけれど。

でも、と思う。
それでも私は、高坂を選ぶのだ。きっと。

咲「ごめんね…選べなくて……………」
咲はもう何度めかわからない、謝罪の言葉をつぶやいてから、ゆっくりと息を吐いた。
冷め切ったコーヒーを残して席を立ち、店から出て行った。

                                END
502あとがき:2006/04/15(土) 18:37:29 ID:???
正直、書いていて辛かったです。
でも、こんなシチュだからこそ書ける心情もあると思い、書いたものです。
この後の展開はきっと、いつしか斑目がふっきれて、春日部さんと高坂がもし結婚しても心から祝福できるようになる、そんな風になれると思っています。

30レス、長文になりましたが、読んでいただいた方ありがとうございました。
503マロン名無しさん:2006/04/15(土) 19:13:05 ID:???
>>壁の向こう側
堪能しました…斑目…(泣
斑目の特徴はエゴイストに成りきれないところにあるのかもしれないねえ…
無理やりにでも抱いてしまえば、そこから新たな関係が生まれるかもしれないのに。
(もっともそうなったら斑目じゃないけど)
自分を犠牲にしてでも、相手の幸せを願う、いいひと。なんだけどねえ…

だれか斑目を幸せにしてやってください。
504マロン名無しさん:2006/04/15(土) 19:21:04 ID:???
>壁の向こう側
斑目は斑目ですねぇ〜・・・。
ずるくて悪い男にはなれないのですねぇ〜・・・。
だからこそ、こんなにも斑目さんがいとおしいしのですねぇ〜・・・。
そんな素敵なSSでした。

あと、自分はサマーエンド書いてる者なのですが、
最終話と局所的にネタが被ってるところがあったのが衝撃でした・・・。
くそー・・・、どうしよう・・・。このままじゃ二番煎じになっちまうぜ・・・。

一服して考えます。

とにもかくにも、素晴らしいSSでした。本当に面白かった。
ありがとう。
505ノートブック【ハルコ】:2006/04/15(土) 20:14:07 ID:???
>壁の向こう側
いい人なんだがなあ・・・。そういうのがキャラと同化してるから、
変わりようも無いんだろうけど・・・。
それにしても緻密な構成と文章ですね。衝動で書き上げた自分のとは大違い 

投下して人目に晒して、見直してから誤字とか文章の稚拙さが気になり、
校正や推敲したくなります。ハルコの心情も、もっともっと繊細に掘り下げ
各シーンの心の機微を細微に描いてから、ハッピーエンドにすればよかったかな
もっと「おいしく おいしく」堪能できたかもw もったいなかったかなー

感想言っていただいた方々ありがとうございました
506マロン名無しさん:2006/04/15(土) 20:44:35 ID:???
>壁の向こう側
弱まってる咲が斑目と・・・。
という話は考え付かなくはないけど、構成力と文脈がいい。
斑目が最後の一線を踏みとどまるのもいい。
こういう事があれば斑目も先に進めるね。
本編の先に、本当にあって欲しい物語でした。
507お江戸でげんしけん:2006/04/15(土) 22:37:03 ID:???
えーと、流れを読まずに、投下。
絵板の「本日は泰平なり」をもとに妄想。
とはいえ、導入部だけですが。
508お江戸でげんしけん:2006/04/15(土) 22:39:52 ID:???
時は泰平の江戸時代。
江戸市中に一軒の茶屋があった。
「荻上屋」という立派な看板があるにもかかわらず、その店の看板娘から、その店は
『筆屋』
と呼ばれていた。

”筆茶屋はんじょーき”

この『筆屋』、もともとは某家の家老まで勤めた、荻上某が道楽で始めたものだった。
商品も煎茶にだんごしかない。
場所も良くはない。
事実閑古鳥の鳴いていたこの店が、現在そこそこに賑わっているのは、数年前からこの店の看板娘を務めている、”千佳”と言う名の娘のおかげだった。
彼女の過去は、決して明るくなかった。
元々彼女は、東北の小藩の武家の娘だった。
彼女には巻田某という、幼い頃からの幼馴染かつ許婚がいて、その未来はすでに定まっていたようなものだった。
しかしとある事件によって彼女の運命は大きく変わった。
きっかけはささいな事だった。
家老の娘、中島某たちとのたわいのない会話。
「巻田の息子って、衆道っぽいよね〜」
そこから始まった巻田主役の艶本は、いつの間にか家老の手に渡り、衆道嫌いで鳴る領主の勘気を蒙り、当人は廃嫡となり、関係者は中島某を除いて追放された。
千佳は一人江戸へ出たが、不慣れな土地での生活がうまくいくはずもなく、仕送りを巻き上げられ、路頭に迷っていたところを老荻上夫妻に救われたのだった。
彼女は献身的に老荻上夫妻に仕え、結果、もともと子の無かった老夫妻に気に入られ、荻上家の養女となったのだった。
それ故に彼女は「荻上屋」の看板娘となった。
義理の両親の薦める見合いを避けるために。
509お江戸でげんしけん:2006/04/15(土) 22:41:49 ID:???
浪人、笹原完士の生活は苦しい。
素寒貧といって良い。
御宅流の目録までいった身とはいえ、押しが弱く、つい相手のことまで考えてしまう優しさが、この男から立身出世の機会を奪っていた。
彼と『筆屋』の看板娘との付き合いは、ずいぶんと情けないものだった。
当の『筆屋』の前に、笹原は空腹に行き倒れ、だんごと茶を恵んでもらったのだった。
以降、なにかあれば手を貸す、という約束でだんごと茶をたかっている。
むろんそれは彼にとって心苦しいものだった。
それでも、彼にしては珍しい事に、その縁を切ろうとはしなかった。
その理由が何なのかは、これまでを剣術修行に明け暮れた笹原には見当もつかなかった。

「おはようございます」
使用人の言葉で目を覚ましたふりをする。
すでに目は覚めている。
それでもふりをする。いつものことだから。
春日部藩、江戸別邸。
すでに他藩に嫁いだ姉や、亡き母にかわり、ここには咲姫が名目上の領主を務めている。
領国では側室に男児が生まれたと、すでに聞こえていた。
彼が長ずるまでの繋ぎ。
自覚はしていても、家臣のそれらしき態度は気に障る。
だから今日も着替えて市中に繰り出す。
いつの間にか傍にいる、高坂に気付かぬふりをして。
510お江戸でげんしけん:2006/04/15(土) 22:42:38 ID:???
「うあぁあぁぁああ…」
布団の中で浪人、斑目は二日酔いの頭を抱える。
夕べは親友の、田中の婚約発表に付き合わされ、朝まで飲んでいたからだった。
斑目は二人に、心から祝福を送っていた。いや、今だってそうだ。
それでも今の自分を省みると、うらやましさと、ねたましさが襲う。
そんな時にはいつも、彼の女神が降臨する。
いつか見かけ、言葉を交わした、見たことも無い仕草と、言葉を話す彼女を。
彼女は女なのに複数の男を軽くあしらい、叩きのめされた斑目に笑いかけるのだ。
「大事無いか?」
それだけで斑目はいきり立つ。
自分が仕えるべき主君を見出したと。

「真琴様?真琴さまー!」
「まったく、一体どこにいってしまわれたのだろう?」
「直参旗本三千石の後継ぎにあらせられるお方が…」
511お江戸でげんしけん:2006/04/15(土) 22:44:05 ID:???
以上です。半端ですみません。

なにか事件を下さいw
512マロン名無しさん:2006/04/15(土) 22:53:19 ID:???
あー、先にやられちゃったw
私が考えてたのと設定違うけど面白かったですw
513マロン名無しさん:2006/04/16(日) 01:21:28 ID:???
>壁の向こう側
斑目、やってることが完全に寅さんと化しているな。
この後「オタクはつらいよ」シリーズにつながって行きそう…

今回は絶望しない、斑目が成長したから。

>お江戸でげんしけん
元ネタは未見だが、筆屋にはワロタ。
て言うか、江戸時代にあの頭って、ただのチョンマゲのような気が…

あとの連中も考えてみた。
大野   お座敷で七変化をする売れっ子芸者
田中   呉服屋の職人だが、時々大野の衣装を作ってる
恵子   借金返済の為に岡場所で年季奉公
久我山  越中富山の薬売り
原口   悪徳商人の越後屋
朽木   浪人だが居合術「宇佐逆切流」の達人
     夜は吉原で太鼓持ちをやってる
初代会長 長屋のご隠居
     実は隠密という噂がある

514マロン名無しさん:2006/04/16(日) 01:41:06 ID:???
>>壁の向こう側
じっくりと読ませる文章。うまい。
ああ、せっかくの「チャンスタイム」なのに、咲や高坂のことを思って踏み切れない斑目の優しさに同情。やわらか戦車以上に何をやっても「負け戦」の人だなあ。
なんだかやりきれない思いにもなったが、決して無駄ではないよね。ヘミングウェイに関する解説の一節がスゴくいいので斑目にささげる(w

「人間の人間たる価値は、敗北に直面していかに振る舞うか、にかかっている。敗北とは、決して運命への屈服ではないのだ」


>>お江戸でげんしけん
ああああ、先を越されたー!(w
千佳の過去話が面白いですね。
あと、大名家(咲)と旗本(高坂)というのは結ばれるのでしょうか?
妄想がますます膨らみますね。
515マロン名無しさん:2006/04/16(日) 13:42:11 ID:???
さすがにヘミングウェとは、斑目褒め過ぎだろwww
でも斑目には、「君の青春は輝いているか ほんとうの自分を隠してはいないか(略)愛が欲しければ誤解を恐れずに ありのままの自分を太陽にさらすのだ」と特オタからエールを捧げてみる。
516マロン名無しさん:2006/04/16(日) 16:27:20 ID:???
>お江戸
なんか歴史小説っぽい文体で雰囲気でてるw
517現聴研第4話:2006/04/16(日) 18:53:29 ID:???
短いお話を一つ。
現聴研の第4話です。
他の方の話同様、個人の趣味に偏ったマイナーなネタが多いです。
この後4レスで行きます。
518現聴研第4話(1):2006/04/16(日) 18:55:32 ID:???
笹原「荻上さん、ギター弾けるんだね」
荻上「ええ、まあ…」

荻上さんが路上での弾き語りまで出来ることが部員に知れ渡って数日後。
現聴研部室では、皆でその腕前を堪能しようということになり、お馴染みの会議が開催された。

-議題-
「第123回荻上さんに演奏してもらいたい曲を決めよう会議」

しかし…。
大野「流行りのアレンジレンジの“鼻”とかどうで…」
荻上「あんなチャラチャラしたバンドは却下です。前にも言ったハズですが、私硬派なんで、ラブソングや流行歌なんか歌いませんから」
それを聞いて大野は憮然としている。
咲「なかなか頑固だな荻上〜、かえってイタイよそれ」
ツッコまれた荻上も憮然としている。

頑な荻上の態度に、会議はなかなか進まなかった。
519現聴研第4話(2):2006/04/16(日) 18:57:51 ID:???
部室の雰囲気が険悪になってきた時、斑目がパンパンと手を打った。
「はいはいはい〜!せっかくのギタリスト降臨なんだからここは一つ議題を絞ってね、ロックで行こうよロックで!」

-改題-
「第124回荻上さんに演奏してもらいたいロッカーを決めよう会議」

笹原「ロッカー…ですか?」
大野「曲じゃなくて?」
斑目「そうそう、そーよ。どんなバンドでも恋愛ソングは一つ二つあるもんだ。ここは硬派に“ロッカー”と縛りを入れることで、荻上さんも同意しやすいんじゃないかな、と?」
荻上は「まあ、いいですけど…」とやや及び腰だが、皆はかまわず議題を進めた。

咲「あー、私はロックとか趣味じゃないし、しいて言うなら“ジョルノグラフティ”くらいかなあ…」
田中「“伊エ門”はどうかな。吉井カズ哉は日本人離れした感じで、和製ネックジャガーっつうか…」
久我山「あ、い、“忌野喜代志郎”は…」
高坂「アニソンだけど、“Gクリップ”って知らないかなあ。一応ロックなんだけど、いい詩だよ」

斑目「うーん、キミたちはメジャーで順当すぎてイマイチかなあ〜。高坂は逆にマニアック過ぎるな」
斑目は勝手に仕切りはじめた。
520現聴研第4話(3):2006/04/16(日) 19:00:33 ID:???
大野「モービィなんかどうですか?」
斑目「ありゃちょっとアレンジ難しいよな」
田中は大野の隣で、(モービィか…、ハゲだからだな…)と分析した。

笹原「メジャーどころではあるけど、ホテイさんのギターは好きですよ。“ボフイ”“コンピレックス”とか、ソロで一貫して硬派というか…」
斑目「笹原お前、最近までウォンタウンバンドとやらの“アイノウタ”を着メロにしてたろーがよ。ここぞとばかり硬派ぶるなよ〜」
荻上さんにもジト目で睨まれて焦る笹原。
笹原「うわ、まだそのコト憶えてたんだ…」
斑目「俺は気に入らないものは何時までも憶えてるぜぇ。しつこいぜ、前世がヘビだからな!」

朽木「ハイハーイ!ボクは“UNDER-13”がいいと思いマース!」
斑目「…朽木君は廊下で議題を100回復唱してから入室してください(汗」

斑目は、ゴホンと一つ咳き込むと、「…どいつもこいつも、真剣にロックというものを論議せずに結果だけを追い求めておる」と大上段に語りはじめた。
笹原「いや、弾き語ってもらうロッカーを決めようって言ったの斑目さんだし…」
久我山「し、しょーもないオチに行き着くのを、だ、黙って見ているのが吉」
521現聴研第4話(4):2006/04/16(日) 19:03:23 ID:???
斑目「ロックというものはな、孤独なものなんだよ。誰にも理解されなくても、自分の信念をロックンロールに乗せて世の中にシャウトするものなんだよ!」
咲「聴くだけの音楽オタがよくまあエラソーに…」
斑目「うるさい、商業音楽に魂を引かれた心貧しき地球人よ」

斑目はイスを蹴飛ばすように立ち上がると、グッと拳に力を入れて語る。思わず一同も固唾を飲んで見守った。

「本当のロッカーとはなあ…、本当の…ロッカーとは……“ラ・ムゥー”のボーカリストォ、菊血ぃぃぃ桃子さんだァ!」

一同「(菊血桃子ォ………ッ!?)」
斑目「笹原ァ貴様見習ってるか桃子さんを!?」
笹原「…はぁ?」
斑目「愛はココロの仕事だ馬鹿者!」

田中「思いっきり恋愛ソングじゃねーか」
久我山「あ、こ、これ大月ケンヂのネタだよ…」
咲は、「ホント馬鹿ばっかでしょこのサークル…」と傍らの荻上に語りかけた。
「はぁ……」荻上も言葉が見つからない。しかし、彼女がラ・ムゥーも弾けることは秘密だ。

こうして部室内では、会議で挙がったアーティストの曲で、荻上さんが演奏可能な曲を弾き語りし、時には皆で歌て楽しいひとときを過ごした。

一方、斑目は廊下に立たされ、議題を100回唱える朽木の隣で、ラ・ムゥーの「愛はココロの仕事です」20回歌唱するはめになったのであった。
522マロン名無しさん:2006/04/16(日) 19:05:29 ID:???
菊池桃子・・・・・(笑
523現聴研第4話:2006/04/16(日) 19:07:38 ID:???
以上です。
ちなみに、分かり辛いところでは、「Gクリップ」は、懐かしい「サイバーフォーミュラ」の主題歌を歌った「G・GRIP」、モービィは外国人アーティストの「Moby」です。

あと、斑目の絶叫の元ネタは、筋肉少女帯のベスト盤「筋少の大車輪」に入っているミニコント(?)「パンクでポン」です。
失礼しました。
524笹荻BAD 2-0:2006/04/16(日) 22:04:43 ID:???
前回レス頂いた方々ありがとうございます。

結婚妄想話は入れるかどうか迷ったんですが、
落差を表す為にもと入れてみた所、
きっちり指摘頂いて恐縮でした。

第二段投下行きます。
525笹荻BAD 2-1:2006/04/16(日) 22:06:16 ID:???
笹原がことに異常さを感じ始めたのは3日を過ぎた頃からだった。
平時から小まめに連絡を取ってくる荻上が3日間何の連絡もよこさない。

その直前、何か怒らせるようなこともしたからかと思い、
比較的荻上と会う斑目や、彼女が信頼を置く春日部や大野に聞いてみたが
それらしい様子は見られなかったと言う。

1週間。
意を決して荻上の携帯電話から、彼女の実家の電話番号を調べ学校の関係者を
装って電話をかけた笹原は殴られたようなショックを受ける。

実家には戻っていない。
電話で話す限り特に急を要する何かが起こっているような気配も感じれられない。


なんとか動揺を隠し通したまま電話を切った笹原は荻上が残したメモ書きを見つめる。
526笹荻BAD 2-2:2006/04/16(日) 22:07:02 ID:???
何かのトラブルに巻き込まれたことには間違いない。

常識的に考えれば、警察に相談するのが最良だ。
だがこんなメモ書きを残しているということは、巻き込まれることをある程度予測していた上で、
一人でそこに向かった。そこには何かしら知られたく無い事情があったのだろう。

とすれば、少なくとも自分と彼女をよく知る人間で彼女を探し出すしかない。

だがまだ入社したてで基本的な仕事すらままならない笹原が
仕事と平行しながら何の手がかりも無く消えた荻上を探すことができる訳も無かった。
他の現視研のメンバーにも協力してもらい、わずかに自由になる時間を全て費やして、
やっと集まった手がかりらしい手がかりは荻上が消えたその日の夜遅く、
見慣れないナンバーの車がアパートや大学の近くをうろうろしていたと言う、ただそれだけだった。


527笹荻BAD 2-3:2006/04/16(日) 22:07:44 ID:???
1ヶ月。
何の進展も得られないまま時間だけが過ぎていく中、
笹原は疲労から、出向いた先の作家の事務所で気を失ってしまう。

病院で気を取り戻した笹原を迎えたのは面接を担当し、
今は直接の上司となる小野寺のきつい一言だった。
「まったく。自分の体長管理一つできない奴が、他人のスケジュール管理ができるとでも思うのか、この馬鹿が。」
「すいません。」

締め切り間際に編集者の方が倒れると言う前代未聞の珍事に社内は大騒ぎであったらしい。


「すいませんで済むか。お前一つのミスが全体の足を引っ張るんだ。」
「はい…。」
全くだ。このまま完全に倒れこんでしまえば荻上を探すことすらできなくなる。
延々と続く小野寺の小言に詫びを入れながらも頭は荻上のことで一杯だった。
「本当にすいませんでした。」
「分かればいい。で、なにがあった?」
「はい?」
「はい?じゃない。厄介事を抱えてるんだろうが。
そう言うのは先延ばしにせずさっさとケリをつけて仕事に集中しろ。」
現視研のメンバー以外に話すつもりは無かったが、
こんな大事を起こしてしまった以上、正直にことの経緯を話すべきだろう。
528笹荻BAD 2-4:2006/04/16(日) 22:08:18 ID:???
「…成る程。全く。実に厄介な奴だな。」
ぼやきながら小野寺は上着からスケジュール帳を取り出すと、
そこに電話番号を書き込んで笹原に渡す。
「これは?」
「俺が良く世話になっている興信所。全額現金前払いだが腕は確かだ。」

曰く、締め切り日を前に逃亡した作家の身柄を取り押さえる為によく利用しており、
人探しだけに関して言えば、警察よりもはるかに優秀らしい。

一見の客であれば、笹原の給料3か月分は取られると言うことからも
かなり際どい手法を使っているであろうことは容易に想像が付いたが
それでも、少なくとも自分が知る中では初めて小野寺から出た他者を褒める言葉は
信頼に値するだろう。


小野寺からの紹介であれば、と言うことで提示された金額は
それでも笹原にとっては目を疑う金額だったが、笹原はその場でサインとした。
529笹荻BAD 2-5:2006/04/16(日) 22:09:35 ID:???

3日後。
1ヶ月、もがき足掻いていた自分が馬鹿らしくなる。

依頼からたった3日。
昼休みを利用して、興信所から受け取って来た調査結果の報告書と関連する資料は
ちょっとした雑誌並みの量がある。

笹原と「迷惑料として内情を知る権利がある」と言う小野寺は、
近くのファミレスでその報告書に目を通す。

資料として添付されているものは、関係者の戸籍、学歴、家族関係、病気の履歴、
おおよその生活の経緯等、広範に、明らかに重要な個人情報までもカバーされている。
個人情報を保護すると言う法律も、その手の業者にかかれば何の役にも立たないことが良く分かる。


「忘れろ。この手の類とは関わるな。」
珍しく、ひどく不快そうに眉間に深いしわを作った小野寺は開口一番そう言い放った。
その顔には面倒なものに目を通したことに対する後悔がありありと浮かぶ。

報告書は主に3人の人物について取り扱っていた。

一人は荻上、もう一人は以前夏コミであった事がある荻上の過去の知人であるらしい中島、
最後に巻田と言う彼女達の同級生であった青年。


荻上についての報告書は、笹原自身が彼女の口から聞いた部分とほぼ相違ない。

ただ違うと言えば、荻上の高校を卒業するまでの生活は
笹原が荻上から聞き、想像していた以上に暗く、重いものであったと言うことだ。

問題は残りの二人だった。
530笹荻BAD 2-6:2006/04/16(日) 22:10:11 ID:???
巻田…かつて荻上が好意を抱き、その後転校に追い込んだと言う青年の
その後の人生は悲惨極まりないものだった。

中島と言う人物のそれもお世辞にもまっとうなものとは言えなかった。
高校進学後から、今に至るまで、同姓・異性を問わず執拗な性的・精神的虐待を繰り返し、
多くは内外に一生癒えない傷を負わされている。

その事実は、地方の有力者である両親によってもみ消されている為、
表沙汰になることは無かったが、その方法や程度を見れば
まともな精神の持ち主だとは思えなかった。



決定的な証拠が無く、あくまでケースから判断する推測に過ぎないがと前提を置いた上で、
巻田の事件を利用して、中島が荻上を虐待目的で拘束したと判断するのが妥当と結論付け、
少なくとも死亡している事は無いが、拘束からの時間を考えれば何らかの重大な
傷害を負わされてる可能性が高いとされていた。
531笹荻BAD 2-7:2006/04/16(日) 22:13:12 ID:???

「どのみち手遅れだ。」
過去の経緯を見れば、虐待が開始されてからその相手はもって2週間。
荻上がいなくなってから既に1ヶ月が経っている。

「すいません。俺、諦めが悪いタイプなんではっきりとした結果を見ないと納得行かないんです。」
そう言いながら、報告書をまとめて自分のかばんの中にしまいこむと
共に用意されマンションの合鍵をポケットに収める。

荻上が居ると言うマンションの住所、
荻上の実家からさほど遠くない都市部のそのマンションは、
最後にそこから巻田が身を投げたと言う建物そのものだった。


そんな所に荻上が押し込められていると言うだけでも、
怒りとも悲しみとも憎しみともつかないどろどろしたものが湧き上がってくる。

「救い様の無い馬鹿だな。」
心底うんざりしたような長いため息の後、やはり心底うんざりしたようにそう呟く。
「今長期間休むとなるとやっぱりクビですかね。」
先にも仕事中に倒れて、周りに絶大な迷惑をかけている所に持ってきて、
新入社員の笹原が特に理由も無く休めば、解雇されても文句は言えないだろう。
「本当に馬鹿か、お前は。新人教育費として金と手間を突っ込んでるんだ。
その費用も回収しないうちはクビになる権利も無い。2日で済ませて来い。
それ以上かかるなら損害賠償を請求する。」

言うだけ言うと小野寺はこれ以上、馬鹿といられるかとばかりに、
伝票を持ってさっさと行ってしまった。
532笹荻BAD 2-8:2006/04/16(日) 22:13:50 ID:???
「馬鹿だろうな。」
このまま、このことに目を瞑れば、少なくとも自分は傷つかずに済む。
既に自分がどうしようもない程、時間を浪費してしまったことも分かっている。

荻上がどこか精神的にもろいのは過去の経緯によるものだ。
その経緯の詳細を自分以上に知った人間によって、
それを使って1月以上に渡って傷つけられ続けているとすれば。

そこに居るのは自分が知る荻上で無くなってしまっているかも知れない。

だがそうだとしても、そこに荻上が居るのなら行きたい。
533笹荻BAD 2-9:2006/04/16(日) 22:14:53 ID:???
会社に早退の連絡をいれると、そのまま一旦アパートに戻る。
荻上と暮らしていたアパート、この1月は殆ど寝るだけだった場所。


荻上がいた頃の穏やかな日々を思い出し、覚悟を決める。

例え、荻上が変わってしまっていても、戻ることを望まないとしても、
引きずってでも絶対に連れ戻す。

荻上が生きるべき場所はここだ。

このアパートでの、傍からは馬鹿ップルと言われるような甘い生活の間、
現視研で尽きることの無いオタク話をしている時、大野に押し切られコスプレさせられたり、
原稿の締め切りに追われ煮詰まってパニックになっている時ですら楽しそうだった。


あの姿こそ本来の彼女の姿のはずだ。



過去に囚われ、暗く陰鬱な世界で暮らすのは彼女に相応しくない。
534笹荻BAD 2-10:2006/04/16(日) 22:16:17 ID:???
拒絶の言葉を掛けられるは怖い。彼女が変わってしまっていた時、
それを自分が受け入れられるかどうかも自信があるかと言えばそれも無い。

「強気でいかせて頂きます。」
弱気になりそうな自分に発破をかける為、そう呟く。
彼女はそう言って何かにつけて迫る自分を困ったような嬉しそうな笑顔で受け入れてくれた。


あの笑顔を取り戻す。
例えどんな代償を払ってでも。


今から出れば今日の夕方には現場につけるはずだ。
「いってきます。」
明日の夕方には2人でここに戻る、その決意を込めて誰もいない
アパートに向けてそう言うと、笹原は駅に向かった。

535笹荻BAD 2-11:2006/04/16(日) 22:20:03 ID:???

そこはただ暗かった。
常にカーテンは締め切られ、部屋を照らす明かりといえば、
ここに来てから毎日のように行われている汚らわしい行為を
記録した映像が流されるテレビだけ。


体を拘束されている訳でも無く、
外側から鍵を掛けられている訳でも無い。

流されているビデオだって、それがマスターテープであることは知っていた。
ここに来る時に着ていた服は、綺麗に洗濯されいつも目の届く範囲に畳んで置いてある。

立ち歩き回れない程、衰弱してもいない。

いつだって逃げようと思えば逃げられた。
それでも逃げる気が起きなかった。

あの時、現視研から、笹原から背を向けた時点で自分は死んだんだ。

ここは墓地。死体に意思は無いし、罪人の死体に尊厳は要らない
だから思考を捨て、考えることを止め、思い出にもふたをして、
与えられる状況にただ流されることを選んだ。そこに苦痛は無かった。


中島が楽しそうに、今の汚れた荻上を見れば、
笹原がどれくらい傷つき絶望してくれるか、そんな話をする時以外。
536笹荻BAD 2-13:2006/04/16(日) 22:21:59 ID:???
笹原がそのマンションに着いた時は、日が傾き始めていた。

その一角には新しい花と供え物、壁には消しきれなかったのだろう
茶色く変色した、飛び散った血の染みが残っていた。


笹原はその前に立つ。
彼の幸薄い人生には同情する。だがそれだけだった。
謝罪も祈りも必要ない。手を合わせる必要も無い。

「荻上さんは連れて帰るよ。」

ただそれを告げた。

その姿を中島が、マンションの最上階の廊下から見ていた。
小さくて顔までは見え無かったが、おおよその雰囲気から笹原であることを
察した彼女は、口元をゆがめる。

謀らずして向こうから来てくれたのだ。

いずれは呼びつけるつもりだった。

笹原に堕ちた荻上を見せつけ、傷つけ、去らせる。
537笹荻BAD 2-14:2006/04/16(日) 22:23:11 ID:???
本来は、荻上自らに電話を掛けさせるつもりだったが、
彼女があの日携帯を持ってきていなかったことから、
どうやって呼び出すか、どう見せ付けるかを考えていた。


荻上は自分が全てを諦めていると思っている。
そこまで追い詰めるのはまで容易かった。

だが彼女自身気付かないうちに、笹原と言う僅かな救いに縋っている。
その僅かな救いが、中島には目障りだった。

その救いを完全に打ち砕き、全て奪い取って、
そうして初めて荻上は自分と同じ場所に立ってくれる。

後ほんの僅かな時間でその瞬間が訪れることを知った中島は
嬉々とした足取りで部屋に戻っていった。
538笹荻BAD 2-14:2006/04/16(日) 22:25:26 ID:???
10階建てのマンションの最上階の一番端。
そこが、荻上が居ると言う部屋だった。

笹原は緊張した面持ちでその前に立つ。一応、念の為、呼び鈴を押す。
万一、この報告書が間違っていて、住人と出くわした場合、
不法侵入で通報される可能性もある。

ここまで来て出直しを要求される訳には行かない。

しかし呼び鈴はならない。電源が切られているのか、スイッチが死んでいるのか。
数回押して諦めた笹原はポケットから合鍵を取り出し、鍵を開けようとしたが、
意外なことにドアは鍵が掛けられていなかった。

やってることにしては随分無用心だ。息を殺してドアを開け、中を覗き込む。
電気はついておらず、窓と言う窓は遮光カーテンで遮られている。

廊下の奥、居間らしい空間から僅かに光が漏れている。

途切れ途切れに聞こえる声。
それは忘れようも無い声、荻上が弱弱しく喘ぐ声だった。
頭が真っ白になった。靴のままあがりこみ、扉を開け放つ。
539笹荻BAD 2-15:2006/04/16(日) 22:26:41 ID:???
そこには、ダブルサイズのベッドに腰掛けた、
「ほら、オギ。あんたの愛しい王子様の登場よ。」
中学の時と同じ髪型に、眼鏡をかけ首輪をつけられた裸の荻上と、
「…あ?」
その鎖を握り楽しそうに笑う中島がいた。

暗い部屋の中には十数台に及ぶテレビとビデオデッキ、
その全てはこの密室で繰り広げられた行為が流されており、
壁中にはポラロイドカメラで取られたであろう写真が所狭しと貼られている。

「感動の再開でしょ?ほら、あんたの汚れた面見せてやんな。」

荻上の目はかつて、笹原が見せてもらった荻上の中学、高校時代のどんな写真よりも虚ろだった。
笹原の姿を認めた荻上の目に一瞬だけ光がともり、その後大きく見開かれる。
540笹荻BAD 2-16:2006/04/16(日) 22:27:27 ID:???
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

絶叫を上げ、荻上がベッドにひれ伏そうとするが中島の鎖がそれを許さなかった。
ここに連れ込んで以来、どんなことをしてもこれ程取り乱した荻上は見ることができなかった。
それが楽しい反面、この男の存在一つでここまで追い詰められる荻上に苛立ちも覚えた。


「どう?王子様?汚れたお姫様の姿は?絶望した?失望した?それとも欲情した?」
「嫌…嫌…。」
「っ!!」

想像はしていた。覚悟もしていた。
だがやはり面と向かって見せ付けられた、この光景は笹原にとっては耐え難い苦痛だった。


「勘違いしないでね。別に私はこの子を強制的にここに押し込めた訳じゃない。
いつだって逃げようと思えば逃げられるようにして置いてあげた。それでもこの子は、逃げなかった。」
541笹荻BAD 2-17:2006/04/16(日) 22:28:27 ID:???

高慢な言い回しがいちいち鼻につく。
笹原は黙って、中島をにらみつける。相手が女で良かったとつくづく思う。
どんなに憎くても、腕力に訴えることに対してはブレーキが利く。
今そうなったら、恐らく相手を殺しにかかりかねないだろう。

「ねぇ。王子様?何でだと思う?この子はね…」
「ナカジ!!やめて…お願い。どんなことでもするから…。
笹原さんにだけは…そのことは言わないで…。」
「そう?」

懇願する荻上、その荻上を楽しそうに見る中島。

吐き気がする。前言撤回だ。こいつが何の躊躇も無く腕力に
訴えることのできる男だった方がはるかにましだ、そう笹原は毒づく。

その歪んだ顔が自分に対する嫌悪だと取ったのか、
荻上の表情がいっそう暗くなる。

「じゃあね、オギ。あんたの口で王子様にお別れの言葉をいいなさい。
『こんな汚れた私をどうか捨ててください。』ってね」
「…はい…。」

消え入りそうな声でそう答えた荻上はのろのろと立ち上がり笹原の前に向かう。
荻上は笹原の顔を直視する事ができない。あの嫌悪感に満ちた視線で見られるのが耐えられない。

542笹荻BAD 2-18:2006/04/16(日) 22:29:41 ID:???
「笹原さん…どうか…」
言われた通りの台詞を言うだけ、それでこの人は去って、
私はほんの少しの苦痛も感じることも無くなって、本当に全てが終わる。

笹原の右手が上がる。殴られるのか。それでも仕方が無い。
それだけのことを私はしたのだから。

だけど、その手は決して振り上げられることは無く、
私の首についた戒めの道具をはずし、それを床に投げ捨てた

「え?」
「帰るよ、千佳。」

汗でぬめつく革に代わり、そこには冷たい金属の感触。

2枚葉のクローバーを模したトップがついたネックレス。初めて買ったペア物のアクセサリー。
笹原の右手には対になる、2枚葉のクローバーのデザインがあしらわれたバングルがはめられていた。

2つ合わせて初めて、4つ葉のクローバーになる『2人で一緒に居て初めて幸せになれる』、
そんな意味合いを込めたものだと店員に言われて、購入を決めた2人の思い出の品。


「はじめてだね。下の名前で呼んだのも、2人でこれつけたの。」
私を抱きしめて、そう照れくさそうに言う
笹原の顔は、いつもの少し抜けた笑顔だった。

「あ…。」
顔が熱い。落ちてくる涙すら熱湯のようだ。

543笹荻BAD 2-19:2006/04/16(日) 22:31:59 ID:???
一方の中島は、まるで悪い悪夢を見ているように青ざめている。
「そんな…あんたは。オギ、あんたは…。」
その後に続くであろう言葉を察し体をこわばらせる荻上。

「巻田君とその家族を死に追いやった。」
何食わぬ顔でそう笹原は言った。


「……!!」

荻上の体が硬直する。中島も固まっている。
「ごめん。全部知ったんだ。知った上で迎えに来た。」
「…そ…そんな…だって私には…幸せになる権利なんか…人を…殺して。」
「うん。だから俺が幸せを押しつける。要らないって言っても聞かない。
幸せの押し売り。ワンクリック詐欺。叩き売り。クーリングオフも認めません。
逃げたって地の果てまで追いかけて売りつけます。」
「そんな…」
無茶苦茶だった。今まで強気攻めの名を借りて散々無茶を通されてきたが
こんな無茶苦茶な理屈を振り回されたのは初めてだ。
「強気でいかせて頂きます。」
この台詞を言われたが、最後だった。
この台詞後、荻上が笹原に打ち勝てたことは無い。

「無茶…苦茶…です。」
その無茶苦茶が嬉しかった。
一人で勝手に立ち去った自分を、自分の罪を知った上で、
ここまで追って来て、汚れた自分を抱きしめてくれて、
こんな無茶を押し付けてくれる笹原の存在が嬉しかった。
544笹荻BAD 2-20:2006/04/16(日) 22:33:08 ID:???
「いかれてる…あんな達、いかれてる!!」
さっきまでの余裕の態度は消え失せ、青ざめた顔で金切り声を上げる中島。

後少しだった。荻上が完全に絶望し、
自分と同じ場所に立ってくれるまで後少しのはずだった。
ここに現れたこの男が、ここまでいかれた人間でなければ!!

「こいつは人を殺してる!滅茶苦茶にして追い詰めて殺している!
なのになんでそんな人間を受け入れられるの!?」

「俺は千佳が好きだから。だから受け入れられる。」
その言葉が中島にではなく、自分に向けられたものであることに気付いた
荻上は笹原の背中に手を回す。


それで、中島は、何かが切れたようだ。
「は、ははっ…。」

ベットに倒れこみ、大声で笑い転げる。その様は壮絶なものだ。
545笹荻BAD 2-21:2006/04/16(日) 22:34:04 ID:???
ここまで来て、笹原にもようやく分かった。
中島も、荻上と同じ。巻田のことで深い傷を負っていた。

ただその結果として、荻上は自分自身を責めることを選び、
中島は他者を傷つけることを選んだ。


他人を傷つけ続けることで、その行為を正当化しようとしたのか、
傷つけても壊れないことを確認して、あの事件がただ巻田が弱かったからだけであると
結論付けたかったのか、あるいは全く他の理由か、それは分からないし、笹原には興味も無い。

その選択の結果、中島は一人で、荻上には笹原がいる。
その差が、受け入れられない。
546笹荻BAD 2-22:2006/04/16(日) 22:34:48 ID:???
「帰ろう。もうここに居る必要は無い。」
2つに分けて結ばれていた髪を解き、くしゃくしゃとかき回す。
見慣れた髪を下ろした姿。それでようやく本当に自分の知る荻上に戻ったような気がした。


本来であれば中島を警察に突き出したい所だが、どうせ揉み消されるに決まっている。
そうとなれば必要以上にこの空間や、ここで行われたことをさらけ出すことも無い。


その言葉を聞いて中島の笑いがピタリと止まりベッドから跳ね起きる。

「あんただけは…。」
そう低くつぶやくと、笹原と荻上の脇をすり抜け部屋から飛び足して行った。
扉を乱暴に閉める音が部屋に響く。笹原はぞっとした。全身から嫌な汗が噴き出て、
一瞬、抱きしめている荻上の体温すら感じられなくなった。荻上も唇が青ざめ、体を固くしている。


その声も表情も完全に常軌を逸したものだった。
547笹荻BAD 2-22:2006/04/16(日) 22:36:05 ID:???
「笹原さん…彼女を…追わないと…」
「うん…。」
追わないとまずい、そう分かっていても荻上に声を掛けられるまで体が動かなかった。

「行こう。」
自分の上着を脱いで荻上に着せると、笹原はその手を引いて部屋から出る。

廊下の逆端、そこには件の事件で立ち入り禁止となった屋上へと続く階段があった。
急ごしらえのバリケードを払いのけ、屋上へと駆け上がる中島の姿が見えた。

恐らく、その様子に巻田を重ねたのだろう、荻上の体が強張る。
「大丈夫?残る?」
「大丈夫…です。」

震える声でそう言う荻上の手を強く握り締め、屋上への階段に急いだ。
548笹荻BAD 2-終:2006/04/16(日) 22:43:38 ID:???
以上です。長々失礼しました。

この後3択の選択肢があるんでしょう、きっと。

頂いたレスの中に、「中島の人物像」の話題が合ったのですが
私的BAD ENDルート限定での中島像はこんな感じでした。

549マロン名無しさん:2006/04/16(日) 23:01:15 ID:???
>笹荻BAD
うわー…重い…
でも、笹原が荻上さんを受け入れてくれて…それだけは良かっ…
うーん、何て言ったらいいのか。辛いっす。
550マロン名無しさん:2006/04/16(日) 23:06:06 ID:???
>笹荻BAD
中島の「いかれてる!」が、ちょっと面白かったw。
笹原が荻上を見つける下りが、ちゃんと構成されてたのが素晴らしいですね。
自力で見つけたからこそ、荻上さんを受け入れられたのだと思うし。
ナカジ主導では、どうなっていたか・・・。

最後のシメが難しいなあ。次回も期待しております。
551ノートブック改編0−32:2006/04/16(日) 23:14:46 ID:???
>お江戸でげんしけん
笑ったw 池波正太郎的世界好きです どんな時代にもキャラ適応するもんですね

>現聴研
深いw 俺も音楽聞きながら、SS書くの好きですが、幅広いですね イメージの
世界も深いですねw

>笹荻BAD
すみません ハッピーエンド書き上げた直後なので怖くてまだ読めません

連作続きの合間に申し訳ないですが、今まで誰もしないタブー?の投下済
作の改編投下します 32分割(長っ)になっちゃいました 五分後投下します



552ノートブック改編0−32:2006/04/16(日) 23:21:55 ID:???
今度こそ自分の中のハルコ物は完結したいと・・・。一度読んだのはもういいという
方はスルーしてください。加筆部分は回転寿司のエピソードとアンディーと
真琴のエピソードを加えてます。若干セリフ変えてますが、大筋は前回のままです
553ノートブック改編1−32:2006/04/16(日) 23:23:04 ID:???
雨待ち風続編 終章

第一幕 郊外の病院

初秋の昼下がり時、一人の老人が郊外の「ある」専門の病院を訪ねた。この病院
に入院している親密な老婦人に会う為だ。

老婦人「昨日もいらっしゃったのに、今日もまた来られたのね」
老婦人は微笑んで、この老人を迎えた。
老人「ああ、あなたに昨日の物語の続きを読んであげたくて・・・」
老婦人「わたしもあなたのお話を、とても楽しみにしておりましたのよ、それで
あの娘さんは・・・」
老人「ええ、ちょっとお待ちください」
そう言って老人は鞄から古びたノートブックを取り出した・・・
554ノートブック改編2−32:2006/04/16(日) 23:23:46 ID:???
第二幕 イベント会場

ハルコ「さて・・・約束通りこの行列に並んでいただこうかしら!」
そう言って、ハルコはニヤニヤと意地悪そうな表情を浮かべて、春日部の顔を覗
きこんだ。
春日部「はあ・・・やっぱりやらなきゃ駄目?違う罰にしようよ・・・」
ハルコ「ふふっ、駄目よ 男らしくないわねえ それに例の『放火』事件の後の
ボランティア活動の時にも、コミフェスで同人誌買った事あったじゃない!たい
した事ないでしょう」
春日部「『放火』とは人聞きの悪い!それにあの時は、女性向の同人誌は惠子ちゃ
んの手伝いで買ってもらったし・・・」
ハルコ「だ め で す ! 覚悟決めて!さあ」
春日部「ぜってー、楽しんでるよね・・・ハルコさん・・・分かりましたあ・・」
渋々と春日部は行列の後尾に並んだ。
ハルコ「いい事!このサークルのヘウレカセブンとデスブックは二冊買いよ!二
冊!」
春日部「はい・・・」
ハルコ「えっ?声が小さい!聞こえたの?」
春日部「仰せののままに〜」
ハルコ「ププッ・・・よっよろしい・・・」
他の女性客のじろじろ見る視線に耐え切れず、顔を真っ赤にして上を見上げる春
日部の様子に、ハルコは笑いを堪えきれず、肩を震わせて腹を抱えていた。
555ノートブック改編3−32:2006/04/16(日) 23:24:31 ID:???
春日部「ひでえよ、ハルコさん・・・」
そう言って春日部はやっとこさ購入した女性向の同人誌をハルコに手渡した。
ハルコ「はい、ご苦労様。じゃあ次は・・・」
春日部「ええ、これで終わりじゃないの?まだ買うものあるの?」
ハルコ「当然です!今日一日、春日部君は私の下僕です!」
春日部「んが・・・そんな・・・」
(ふふ、困ってる、困ってる、そろそろこの辺にしてあげようかな・・・)
本気で落ち込んで肩を落としている春日部が可笑しかった。ハルコはそろそろ許
してやろうかと思って、春日部に声をかけようとした。
ハルコ「嘘よ・・・じゃあ・・・」

真琴「あら!春日部君!それにハルコさん!」
二人は声のする方に一緒に顔を向けた。

春日部「あっあれ?真琴、今日仕事って言ってなかったっけ?どうしてここに?」
真琴「依頼先の都合で、納入日や企画が変更になって、新企画が確定するまで時
間が空いて・・・。だから今日は急にお休みになっちゃって・・・。春日部君こ
そ・・・。お邪魔だったかしら?」
そう言って、いつもの無邪気な笑顔で笑いかけてから、くるりと向きを変えて立
ち去った。
556ノートブック改編4−32:2006/04/16(日) 23:25:21 ID:???
春日部「あ!真琴!ちょっと!」
追いかけようとして、春日部はハルコの方を向いて、困った表情を浮かべた。
ハルコ「・・・私はいいから早く追いかけてあげなさい・・・」
春日部「ハルコさん、すまない!埋め合わせは必ず!」
そう言って春日部は駆け出した。

ハルコはその春日部の背中を目で追い、思わず手が伸びた。
「あ・・・」かすれたような声が口からもれた。
(やっぱり、わたしのそばにいて!)
誰の耳にも入らない言葉に出来ない叫びが心の中だけに響いた。やがて春日部の
背中は雑踏に消え、ハルコの視界から姿を消した。

ハルコ「・・・」
ハルコはその場にうつむいて静かにしばらく立っていたが、やがて駅に向かって
うつむいたまま歩き出した・・・。
557ノートブック改編5−32:2006/04/16(日) 23:25:59 ID:???
第三幕 笹原と荻上と惠子

惠子「千佳さん、晩飯まだー?」
笹原「あのなあ・・・月末の休日になると必ず押しかけやがって。遠慮という言
葉はお前の辞書に無いのか?」
惠子「いいじゃん、ケチケチしないでさー 高給取りなんだから!金無いのよ、私」
笹原「全然、高給取りじゃないよ、特にお前にタダメシ食われているからな!」

荻上は最近休日には、笹原の家で夕食を一緒にすることが多かった。外食するお
金もそうそうあるわけでも無いので、もっぱら一緒に食事を作る。仲が良いんだか
悪いんだか分からない笹原と惠子の毎月のこのやり取りも、最近は慣れてきた。

笹原「お前、春日部君のショップの開店の手伝いするんじゃないのか?」
惠子「開店準備は専門業者の仕事だから、わたしは下働きの手伝いだけ!まだそ
んなに忙しく無いのよー。春日部さんは別だけど。でも今日はコソコソどっか行
くとか言ってたなー。」
荻上「それ・・・やおいのイベントですか?同人誌関連の知人がイベント会場で
春日部さんとハルコさん見かけたとかメール入ってて・・・」
笹原「ええー、春日部君がやおいのイベントに?それこそ見間違いじゃないの?」
荻上「ええ、私もそう思ったんですけど。でもハルコさんも今日休みとイベントの
日程合ったのに、誘ってくれなかったし・・・」
惠子「たぶん見間違いじゃないと思うよ、ハルコさん、春日部さんに気がある
し・・・」
558ノートブック改編6−32:2006/04/16(日) 23:26:49 ID:???
笹原・荻上「ええ!仲の悪いあの二人が!まさかあー!」
惠子「これだから・・・オタクは・・・」
笹原「にしては、お前落ち着いてるね。一途に何年も春日部君を追いかけてきた
お前が!ハルコさんは敵じゃないって?それとも諦めた?」
惠子「なわけ、無いだろ、馬鹿兄貴!」
荻上「まあまあ、でも恵子さんも何年も春日部さんを慕ってるなんて凄いですよ
ね」
笹原「ほんと、意外。乙女だよなー」

(乙女なわけねーだろ!勝算あると思うから、付きまとってるんだって!)

これは惠子の自信過剰では無かった。顔で男を選んで、失敗している分、直感的
に春日部と真琴はうまくいかない、遅かれ早かれ別れると思っていた。春日部へ
の借金だって、その時一緒にいるための口実のようなものだった。恵子はいい男
が好きだ。だけど中身もある男もほしい。春日部はめったにいない『本物』だと
思った。

でもそういう男は競争も激しい。フリーになった時に身近にいれば有利だと言う
打算もあった。これは趣味の問題とか、二人に問題があるとかそういうことでは
なく、なんとなくそう感じた。予想外に長続きしてるが・・・。
559ノートブック改編7−32:2006/04/16(日) 23:27:36 ID:???
春日部が真琴に一途なのも『本物』だと思った。恵子は真琴が嫌いだった。自分
を眼中に置いていない余裕の態度が。これは惠子の僻みだと言う事は惠子自身分
かってはいた。

笹原「でももしそうなら、大野さんの話は余計なお世話かな?」
荻上「スーと一緒に来日したアンディーがハルコさんと交際したくて、デートの
セッティング頼まれている件ですよね」
笹原「春日部君は真琴さん一筋だしねえ・・・」
惠子「・・・・」
(きっと、春日部さんもハルコさんの事が・・・)

言いかけて恵子は口をつぐんだ。誰にも言わない方がいい。春日部本人さえ無意
識で気付いていない事を穿り出して、墓穴をほってもしようがない・・・。でも
この事に気付いている人間はもう一人いる。真琴だ。あの女は直感で自分が春日
部に浮気以上の相手にされないだろう事を知っている。

同様の直感でハルコに対しては心穏やかではいられないのだ。真琴のその態度で、
春日部の心に恵子も気付いた。『女』として真琴にもハルコにも負けているとは
思っていない。春日部とは趣味だって体の相性だってピッタリだという自信はあ
る。でも違うのだ。愛が無くても、男には女は抱ける。そういう事では無いのだ。

惠子の目の前では、笹原と荻上が仲睦まじげに夕食の準備をしている。笹原が目を
ウロウロさせて何かを探していると、荻上がそれを察するように黙って調味料を手渡す。
その光景をぼんやりと眺めながら、「ちぇっ」と舌打ちした。
(潮時かな・・・)
惠子「あーあ、どっかにいい男いないかなー」
560ノートブック改編8−32:2006/04/16(日) 23:28:24 ID:???
第四幕 デート

大野のセッティングで、ハルコとアンディーのデートが都内の某所で催された。
出席者は大野と田中、ハルコとアンディー、春日部と真琴だった。笹原と荻上は
笹原の方が仕事の都合で参加できないので、荻上も辞退した。

ここまで、話を持っていくのに大野は苦労した。ハルコが消極的で、英語喋れな
いし、外国人との交際は無理だのとグズグズ言ったからだ。アンディーは日本語を
マスターしたから大丈夫、別に会うだけだと諭しても、煮えきらず、誰か好きな
人でもいるのかと聞けば、そんな人はいないと言う。引き受けた友人への体面もある。
とうとう切れて、ここまで無理矢理ハルコを引っぱってきた次第だった。

大「えー、本日はお日柄も良く・・・」
春日部「大野!お見合いかよ!」
春日部が茶々を入れる。春日部も何故か終始不機嫌である。
田中もカチコチに緊張した面持ちで、アンディーを紹介している。
田「えーと、前に来日して面識はあると思いますが、アンディー君は大野さんの
在米中の友人で、スポーツマンな上、大変な親日家でもあります。日本文化、特
にサブカルチャーへの造詣が・・・」
春日部「要はアメリカのオタクって事だろ!むこうじゃなんていうんだっけ?」
あまりの行儀の悪さに、春日部は真琴に頬をつねられた。
大野「とっとにかく、アンディーは片言だけど日本語喋れるようになったし、分
からない事は私と春日部君が通訳しますから、気楽に、気楽に、ね!」
春日部「えー、俺もかよ!俺そのために呼ばれたの?」
561ノートブック改編9−32:2006/04/16(日) 23:29:19 ID:???
ハルコは顔を赤らめ、高い背を気にして、猫背気味にうつむいている。アンディ
ーは大柄だが朴訥で誠実そうな青年で、穏やかで優しい表情で、そんなハルコを
見つめている。
そして春日部はその様子を横目で忌々しげに見ていた。

真琴「お二人さん、お似合いね!」
と真琴は笑顔でそう言った。
春日部「そうかー?」

その後の会食は和やかな雰囲気で進んだ。アンディーの話題は、ジャパニメーシ
ョンの現状から、ディズニーの中国を舞台にしたアニメの原典の出自や、古典を
アニメ化した『偏屈王』の監督の批評、絵画論、文化論まで大野が通訳に苦労す
る内容まで話していた。ハルコも真琴もそういう話も好きなので、興味深く耳を
傾けていた。また最近の時事ネタもジョークも入れた。

真琴「面白いわね、彼の話。趣味も合うし、あの二人雰囲気いいわね」
春日部「ぜんっぜん、話の内容分かんね!ギャグもつまんねー、文化の相違だ
な・・・」
真琴「はいはい、ハルコママが取られちゃうのが、嫌なのね!」
春日部「なっ!」

結局この会食の後、アンディーとハルコはアンディーの滞在期間中、交際を続け
ることになった。
562ノートブック改編10−32:2006/04/16(日) 23:30:08 ID:???
第五幕 笹原と荻上と春日部

春日部「それでそいつの帰り際のセリフ!『私は貴方が思ってる以上に貴方の事
を分かっているつもりです』だとさ!」
笹原「はは・・・(汗)」
荻上「それじゃあ、滞在後も交際が続くなら、ハルコさんアメリカに行っちゃう
んですか?」
春日部「いや、何でもこっちに研究員としての仕事の当てがあって、日本に住み
たがっているとか。来るなと言いたいんだが。ハルコさんには合わないよ!」
笹原と荻上は顔を合わせて、怪訝そうな表情をした。
笹原「あの・・・春日部君はハルコさんが好きなわけ?」
春日部「いや、嫌い」
笹原・荻上「・・・・(汗)」
春日部「あの女は俺が会った女の中で最高に性格悪いね!」
笹原「じゃっじゃあ、別にハルコさんが誰と付き合おうと・・・」
春日部「誰と付き合おうと、不幸になるのは目に見えている!」
笹原は頭を抱え、荻上はポカーンと口をあけて、呆れた顔をした。
春日部「大体、真琴も俺をマザコン呼ばわりしてるけど、どちらかと言えば俺の
母親に似てるのは真琴の方だ!いや、だからってマザコンじゃねえぞ!」

(あれ?そういや、お袋と親父が離婚したのって、親父が浮気したからだっけ?)
563ノートブック改編11−32:2006/04/16(日) 23:31:01 ID:???
第六幕 郊外の病院 その2

医師「あの人また来てるね」
看護士「はい・・・認知症のリハビリに今日も来てます」
医師「あの病例は回復が難しいからねえ 回復したら奇跡だよ」
医師はせせら笑った。

老婦人「あら、じゃあその娘さんは外国の方と一緒になるのね?」
老人「寒くはありませんか?」
老婦人「ええ、大丈夫。それにしても青年と娘さん以外の方々のお話は何時聞い
たのでしょう?」
老人「ええ、青年が後日、色々な人から聞いた話と、予想が入っているそうです」
老婦人「そうですか」
老人「では続きを・・」
564ノートブック改編12−32:2006/04/16(日) 23:31:51 ID:???
第七幕 アンディーとハルコ

アンディーとハルコは、アンディーのたっての希望で都内の有名な日本庭園を
一緒に見学していた。

アンディー「日本の四季は美しいですね」
ハルコ「そうですか?」
アンディー「そしてあなたも」
ハルコ「・・・アンディーは日本にも私にも幻想を持ってるんじゃないんですか?」
アンディー「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えます」
彼はやはり大きな体を揺さぶりながら優しげに語った。
ハルコ「それはどういう意味ですか?」
アンディー「誰も自分の事は分かりません。人によって気付かされるものです。
海外の人が日本を日本人以上に愛する例も多いですよ 同様に人によって人は
変わります」
ハルコ「それはそうかもしれません・・・」
アンディー「そしてわたしが美しいと言えばあたなは美しくなる」
ハルコは照れくさげにうつむいた。こんな事を言ってくれる人はいなかった。
結局、愛される事が女性にとって一番幸せということなのだろうか・・・。
565ノートブック改編13−32:2006/04/16(日) 23:32:47 ID:???
アンディーとハルコは日本庭園内にある食事処に場所を移して、昼食をとった。
そして、一緒に懐石膳を頼んだ。
アンディーはハルコの食事をとる姿を眺めて、うっとりとした表情を浮かべた。
アンディー「やはり美しい。特に箸を使う仕草はエレガントです!」
ハルコ「え?は?はは・・・」
(ただ単に貧乏くさいだけなんだけど・・・)
アンディー「それに服装も装飾品で着飾ることなく、質素でけばけばしさが無い・・・。
清楚そのものです。物を大事にする姿はアメリカ女性には見られません」
ハルコ「いや、まあ、はは・・・」
(それも同人誌や欲しい物に給料つぎ込んで、食費や生活費切り詰めてるだけ
なんですが・・・。もっとも服や化粧品は以前に比べて・・・。春日部君に
言われてからは・・・)
ふと春日部のことを思い出し、沈んだ表情になった。

アンディー「どうされました?」
ハルコ「いえ・・・。アンディーはどうしてわたしなんか?アメリカにも素敵な
女性はたくさんいるでしょうし・・・。それに日本でも可愛いといえば大野さんや
真琴ちゃんみたいな子の事を言うんですよ・・・」
アンディー「そんなことはありません!第一わたしはそんなにもてません。図体
が大きいのに、気が弱くて・・・それで小さい頃は物語やアニメばかり見て・・・
今でこそ、アメリカンフットボールしてますがね。それに失礼だがカナコは素敵な
女性だが、アメリカではむしろ貴方のようなスレンダーなスタイルの女性が知的で
エレガンスと思われていますよ。ご自分に自信を持ってください!」
ハルコ「そんな・・・」と顔を赤らめた。
566ノートブック改編14−32:2006/04/16(日) 23:34:08 ID:???
アンディー「それに映画やアニメの話ばかりして、女性には呆れられる事も多い
ですし」
そう言って、アンディーも照れくさそうに笑った。
アンディー「日本のアニメがきっかけで、日本の美意識や文化を知りました。
『ブシドー』も読みました!ヤマトナデシコ、サムライ!わたしは貴方のサムライ
になりたいのです」
その熱心で素朴に飾らない姿にハルコはアンディーを本当にいい人なんだなと思った。
(それに比べてあの男は・・・)
ハルコは春日部と一度だけ二人きりで食事した時の事を思い出した。

夜の雑踏で、友人達と雑談している春日部の姿を見つけた時、昼間と同様
気付かない振りして立ち去ろうかと思った。だが春日部の方が先に気付いて、
こっちの方を向いて手を振ったので、その方向を友人達も向いた。そして友人達も
ハルコの姿を見たので、無視するわけにもいかず、彼らの方に向かって歩いた。

ハルコ「やっやあ」
そう声をかけると、春日部の友人達はジロジロと観察するような目で、ハルコを見た。
日中は男友達ばかりだったが、今度は女友達ばかりだった。昼間は装飾品をジャラ
ジャラ付けたストリート系の風体した男達が怖くて逃げだし、それで春日部と喧嘩
になったのだが・・・。
567ノートブック改編15−32:2006/04/16(日) 23:34:52 ID:???
友人「誰?」
春日部「ああ、彼女の友人・・・」
友人「ああ、オタクの彼女のね・・・」

ハルコは春日部の友人達に軽く会釈した。早く立ち去りたい気分だった。
春日部「じゃあ、俺はこれで!」
友人「じゃね!」
ハルコ「?!」
春日部「ハルコさん、メシ食った?どっかで一緒に食ってくか?」
ハルコ「もっもういいの?彼女達?」
春日部「ああ・・・あいつら用事あんだとさ・・・」
ハルコ「そっそう・・・」

ハルコが春日部の女友達の方を振り返ると、女友達達もハルコ達の方を見て、
何か喋っている。
(何喋ってんだろ・・・わたしの服野暮ったかったかなあ・・・笑われてるのかも・・・)
春日部に指摘されてから、大分服のセンスはましになったとは思う。でもああいう
派手な女性たちの前では、少し卑屈になってしまう。昼間の男友達の時にも、
品定めされるような目で見られたらたまらないと思ったから・・・。
春日部はそんなハルコの気持ちもお構いなしに、鼻歌歌いながらズンズン先に
早足で歩いている。
(少しは察しろよ・・・馬鹿ぁ〜)
ハルコは少し哀しい気持ちになった。
568ノートブック改編16−32:2006/04/16(日) 23:35:47 ID:???
春日部「あ?少し歩くの、速かった?」
ハルコ「・・・あの女友達の事・・・真琴ちゃん知ってるの?」
春日部「は?何を処女くさ・・・ゴッゴホン、真琴も知ってる友達だよ!」
ハルコ「そっそう・・・」
春日部「ハルコさんだって、男友達多いじゃない!」
ハルコ「あいつらはわたしのこと女だって見てないだけだって!」
春日部「そんなこと無いよ。初めて会った時に比べて、服のセンスとかも良くなったし」
ハルコ「本当?」
春日部「ああ・・・」
ハルコは少し嬉しくなった。ちょっと前まで哀しかったのにこのくらいで単純だなと
自嘲気味に思った。

回転寿司で二人は夕食を食べた。春日部は平気で高いネタをガンガン頬張っている。
ハルコはイカとかタコとか安いネタばかり選んで食っている。
春日部「・・・おごるよ・・・だから・・・」
ハルコ「遠慮します。いくら金あるか知りませんけど、おごってもらって喜ぶ
女ばかりじゃありませんから!」
春日部「自意識過剰だよなあ・・・そんなにお金無いの?」
ハルコ「まあ・・・ちょっと高い漫画のイラスト集買っちゃって・・・」
春日部「相変わらずだなあ」
ハルコ「こちとら筋金入りの腐女子ですから!」
569ノートブック改編17−32:2006/04/16(日) 23:36:41 ID:???
春日部「うわ!嫌な言い方!女子と言えば・・・どう?女性の就職状況の方は・・・」
ハルコ「んー、実は今日もOGに相談に行ったけど、景気が上向いたとは言え、
女子には関係無いわー」
春日部「厳しいよなー」
ハルコ「春日部君は?アパレルのお店経営するんだっけ?」
春日部「まあ、親父の資金援助でね・・・」
ハルコ「いいわねー」
春日部「・・・なかなか本当は色々ありましてね・・・」

春日部は少し暗い表情になった。ハルコは少し気になったが、深くは聞かなかった。
食事が終わり、会計の段になると春日部が言った。
春日部「やっぱり、おごるよ!」
ハルコ「いいって!年下の後輩におごられるほど、落ちぶれちゃおりません!ああ!!」
そう言いながら、ハルコが財布を覗くと、しわくちゃの千円札が一枚と小銭がパラパラ
入っているだけだった。
ハルコは火が出るほどの恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
そばでは春日部がニタニタ笑って財布を覗き込んでいた。そしてハルコから注文票を
ひったくって、さっさと会計をすませてしまった。
ハルコ「かっ必ず返すから!」
その時の寿司代はいまだに返しそびれている・・・
570ノートブック改編18−32:2006/04/16(日) 23:37:41 ID:???
帰りの電車で、二人の前の席があいた。
春日部「ん!ほら!」
ハルコ「何?座れって?本当に男尊女卑ね!」
春日部「ここで普通、素直な可愛い女はキャーありがとうって言うんだよ」
ハルコ「可愛くなくてすみませんね!」
そう言ってハルコは座った。
帰りの電車のゴトゴト鳴る音だけが今も耳に残っている・・・
(本当にあいつは偉そうで生意気で・・・)
そう思いながらも、顔は自然にほころんでいた。

アンディー「ハルコさん?」
ハルコ「ああ、ごめんなさい!ボーとしちゃって!これじゃまるでオギーね!
オギーはご存知よね。あの子ったら・・・」
ハルコはおしゃべりでその場を誤魔化した。
アンディーは静かで穏やかな表情を浮かべ、ハルコの話に耳を傾けながら、目を閉じ、
少し寂しそうな表情をした。
571ノートブック改編19−32:2006/04/16(日) 23:38:45 ID:???
第八幕 春日部と真琴

春日部の新宿のマンションで春日部と真琴は口論していた。

真琴「だから私が自分の趣味やイラストの仕事をやめることはないわ」
春日部「だから止めろなんて言ってないよ!ただ・・・」
真琴「無理する事は無いのよ、もう」
春日部「無理なんて・・・」
真琴「あなたはお父さんの真似をしたくないと思ってるだけ。あなたはお父さん
の浮気が原因で離婚したと思ってるんでしょうけど、先に再婚したのはどっち?」
春日部「お袋の方だった・・・親父は今も一人・・・」
真琴「先に愛が無くなったのはお父さんの方じゃなかったのよ。本当はあなたはお父
さんが嫌いなんじゃなく、好きなの。大好きなお父さんが愛してる人を裏切った事が
許せなくて、そっくりな自分も同じ事をするんじゃと恐れているだけなの・・・。
ご両親の関係をなぞっているだけ・・・。でもあなたはあなた自身なのよ。
・・・もう自分の心が分かったでしょう?」
春日部は呆然として立ちすくんだ。
真琴は部屋に春日部を置いて、さっさと自分の荷物をまとめて出て行った。
真琴の目には涙がうっすらと浮かんでいた。

真琴「日本もつまらないわね。しばらく外国に行こうかな でもその前に・・・」

真琴はハルコに会いに行った。ハルコはちょうど携帯で誰かと電話しているとこ
ろだった。

ハルコ「真琴ちゃん!どうしたの?」
真琴「ええ、海外に行こうと思いまして・・・ただその前にけじめとして」
真琴はハルコの頬を思いっきり平手打ちした。ハルコのメガネが地面に吹っ飛ん
だ。呆然とした表情でハルコは真琴を見つめた。
真琴「お幸せに!」
にこやかに真琴は立ち去った。
572ノートブック改編20−32:2006/04/16(日) 23:39:49 ID:???
第九幕 アンディーと真琴(間奏)

真琴がハルコを引っぱたいて立ち去って後、真琴が海外に出国するのに数日を要した。
今、請け負っている仕事の調整等があり、すぐには出かけられなかった。真琴は
手際よくスケジュール調整やその他の出国の準備を終わらせた。パソコンがあれば、
仕事の一部は海外でも出来た。おっとりしているように見えて、真琴はそういう
手際や要領や決断力は極めて優れていた。

必要最小限度の荷物だけを持ち、タクシーから颯爽と飛び降りて、空港のロビー
に入ると、待合室のベンチに見覚えのある外国人の大男がしょぼくれた様子で
座っていた。

真琴「アンディーじゃない?どうしたの?日本の滞在はもう少しあるんじゃ?」
アンディー「ああ、たしかハルコさんの友人のマコトさんですね」
真琴「そうよ、どうしたの?」
アンディー「ハルコさんとの交際は駄目になりました・・・。断りの電話を
貰いまして・・・」
真琴「そう・・・。でも失礼ね、ハルコさんも。直接じゃなく電話で断るなんて!」
アンディー「いいえ、私から電話で聞いたのです。面と向かって聞く勇気があり
ませんでしたから・・・。ハルコさんは本当に申し訳ないと・・・心から・・・
分かってましたから・・・ハルコさんの心に誰かがいるということは・・・」
真琴「・・・・」
573ノートブック改編21−32:2006/04/16(日) 23:41:06 ID:???
アンディー「ああ、でもやはりハルコさんは私が思っていた通りの人でした。
一途にただ一人を想い続けるなんて・・・。彼女に想われている人がうらやましい
・・・。彼女の騎士に・・・サムライになりたかった。私も一途に人を想いたい
ものです・・・」

真摯な表情でそう語るアンディーの表情を真琴は無言で見つめた。

真琴「・・・そろそろチェックインの時間じゃない?ねえ、わたし海外初めてなの!
案内してくれませんか?」
アンディー「え?しかし・・・」
真琴「あら?騎士様がか弱い女性を置き去りにするのかしら?」
アンディー「はっはあ・・・」
そう言って真琴は戸惑うアンディーの腕をつかんで引っぱっていった。傍から見れば、
小さい女性に大男が引っ張られていく姿は滑稽に見えた。

(わたしはいつも心のままに生きてきた。そしてその選択に間違いは無かった。
春日部君と付き合った事も、この仕事を選んだ事も、そして春日部君と別れた事も・・・)
真琴はまたしても『正解』を選び取ったと確信した。
574ノートブック改編22−32:2006/04/16(日) 23:42:09 ID:???
第十幕 ハルコと春日部

ハルコの部屋を春日部が訪ねた。
春日部「ハルコさん、開けてくれない!」
ハルコ「何しに来たわけ?また狼藉働きにきたわけ?」
春日部「しないよ、開けてくれないと騒ぐよ」
ハルコ「近所迷惑だからさっさと入って!」
春日部は部屋に入れてもらい、ハルコの顔を見て驚いた。
春日部「どうしたの、ほっぺたはらして!」
ハルコ「どうしたもこうしたも、さっき真琴ちゃんが来て、私を引っぱたいてっ
たの!」
春日部「真琴と別れた・・・つうか振られた・・・」
ハルコ「!!そっそれがどうしたの?そのとばっちりで私叩かれたわけ?いい迷
惑だわ!」
春日部「アンディーとはハルコさん、合わないよ・・・」
ハルコ「キミに関係無いでしょう!それに・・・さっき交際断ったし・・・」
春日部「じゃあ・・・」
ハルコ「それとこれとは別!出てってくれる?」
575ノートブック改編23−32:2006/04/16(日) 23:43:19 ID:???
春日部「ねえ、ハルコさん、欲しい物があったら値札見る?」
ハルコ「まさか!即買いよ!って何言わせるの?」
春日部「じゃあ、今も自分の心に聞いてみてよ。」
ハルコ「それこそ・・・無理だよ・・・違いすぎる・・・私たちは。住む世界も
環境も、価値観や性格だって・・・」
春日部「そりゃ、違うさ。俺たちはこれからも喧嘩ばかりするよ。俺はわがまま
でだらしないし、ハルコさんは強情で意地悪だ。でも何十年たって自分の隣にい
るのは誰だ?誰にいてほしい?死が二人を別つまで傍にいたいのは誰だ?」
ハルコ「それは・・・それは・・・でも私は背も高くてやせっぽちで、真琴ちゃ
んみたいに可愛らしくないし・・・」
泣き出しそうな表情で、ハルコは言った。
春日部「そんなものは求めていない」
576ノートブック改編24−32:2006/04/16(日) 23:44:30 ID:???
第十一幕 郊外の病院 その3

老婦人「美しい話ね・・・。二人はその後どうなったの?」
老人はノートブックから絵葉書を一枚取り出した。それはアメリカから送られた
もので、写真にはアメリカ人と日本人夫婦の姿が写っている。
老人「その前に・・これは二人の共通の友人の写真です。この物語の数年後に送られて
きました。」
老婦人はメガネをかけて、その写真を見た。
老婦人「あら・・・この人たちどこかで見た事あります・・・どこだったかしら?」
老人「さて・・・二人はその後、一緒になりましたとも。旦那の方は女癖が悪く、
友人の妹さんと浮気もしたりもしましたが・・・」
老婦人「まあ!悪い旦那さんね!」
老人「奥さんは奥さんで、時々高い買い物を衝動買いして、旦那さんに怒られた
りもしましたが・・・」
老婦人「奥さんも駄目ね」
老人「ええ、欠点の多い二人でした。そのたびに喧嘩しては、許し合いました。
しかし二人はお互いの心を裏切る事だけはしませんでした」
老婦人「・・・どこかで聞いた話・・・これは・・・これは私たちね!私たちの
物語ね!」
老人「ああ、思い出したんだね!神様が私たちの時間をお返しくださった!」
老婦人「ああ、キミの事を忘れていたなんて!」
老人「私たちの愛に不可能は無いさ」
老人と老婦人はハラハラと涙をながしながら抱擁しあった。
577ノートブック改編25−25:2006/04/16(日) 23:46:04 ID:???
終幕 ノートブック

抱擁しながら二人は語り合った。
ハルコ「ずっと、ずっとこうして抱しめてもらいたかった。いつの頃からか、
キミに振り向いてもらいたくて、かまってもらいたくて・・・気がついたら、
知り合ってからこんなに無駄な時間が立ってしまったわ・・・」
春日部「これから先の永遠に近い無駄な時間に比べれば、たいした事無いさ・・・」

終劇
578ノートブック改編:2006/04/16(日) 23:48:20 ID:???
分割七つもさば読んでましたorz 永遠に満足しないような気もするが
どうしても書きたかったので、タブー承知で・・・申し訳ない
579マロン名無しさん:2006/04/17(月) 00:06:21 ID:???
>ノートブック改編
まあ、こういうのもいいんでない?
自分も出してから毎回直したくなるし。とくに誤字脱字を・・・。

追加されたのは、アンディとハルコの食事シーンと
寿司屋シーン。空港シーンで全部かな。
細かいところも直されてるのでしょうか?
580ノートブック改編:2006/04/17(月) 00:22:59 ID:???
>>579
実は読み直して気に入らなかったセリフとか、表現も
ところどころちょこちょこと・・・これ以上あがいても
たいして変わらないとは思うんですが orz
581マロン名無しさん:2006/04/17(月) 02:56:32 ID:???
>現聴研第4話
何で斑目のオタクネタって、年齢不相応な古いネタになるんだろう?
しかも何故か違和感が無い…

>笹荻BAD2
またもや絶望鬱展開を読まされるのかと怖々読んでみれば、鬱だけど行け行けな思わぬ展開。
これが40年ぐらい前の東映映画なら、笹原が監禁部屋を燃やして「中島、死んでもらうぜ」とかやりそうな展開だな。

まあそれはともかく笹原、この後どうするにせよビデオ処分するの忘れないようにね。
中島よ、年に何回かしか怒らない人が怒ったら怖いということを思い知ったか!

>ノートブック改編
デレクターズカットか…
まあ作りたい人は作りたいんだろうな。
後で読み返して、ああすりゃよかったこうすりゃよかったと思うことが何回あったか…
582マロン名無しさん:2006/04/17(月) 04:12:50 ID:???
>現聴研第4話
斑目の自爆フイタw

>笹荻BAD2
うおおお!!
この展開は・・・結構好みかもしれんです・・・。
なんていうんだろう、一回堕ちた後に這い上がるのがとても好きなのです。
それがたとえ人の手を借りたものであっても。
さて、ラストは三つのうちにどれになるのでしょう・・・。
ど、どれもきっついわ〜・・・。

>ノートブック改編
書き直しってやりたくなりますよね。
気持ちはすげー分かります。
583マロン名無しさん:2006/04/17(月) 04:33:10 ID:???
1.荻上さんをこの場に残して屋上に向かう
2.荻上さんと一緒に屋上に向かう
3.この場から立ち去る

グッドエンドへ繋がる選択は一つだけ・・・そんなイベントですな。こえぇ。
584マロン名無しさん:2006/04/17(月) 05:07:57 ID:???
完全なグッドエンドはないとか言う噂・・・。
585マロン名無しさん:2006/04/17(月) 10:14:35 ID:???
すごく遅レスになりましたが、「壁の向こう側」感想いただき、ありがとうございました。
>>503
>無理やりにでも抱いてしまえば、そこから新たな関係が
それも考えたんですが、この状況でそうなると更に欝、もう関係がドロドロになるのでやめました…。
あと、斑目は「いいひと」というより、「損な人」という感じで書きました。考える前に動けないので、結論が先に頭で思いついてしまって、できない。
あと、「春日部さんが傷つくから」というのは「自分が傷つきたくないから」というのと同義です。
結果的にも、やらないほうが後腐れないかと…これ以上ハードな展開は書けませんですた…。
>>504
良くも悪くも、強引にも卑屈にもなれないとこが斑目かなーと…そう思って書きました。
斑目好きなので「悪い人」に書けないというのもあります。面白いと言っていただけて嬉しいです。
「サマーエンド」いつもハラハラしながら読んでます。ネタ被りました!?わわわ、斑目が…!?うあー、気になる。
今後どうなるか楽しみです。あーでも不安だーハラハラ
>>505
いや、自分はまだまだです。文章とかネタとか…ただ、何度も見直しはします。まとめスレに保存されて残るものなので…。
>>506
>斑目が最後の一線を踏みとどまるのもいい。 こういう事があれば斑目も先に進めるね。
そー言ってもらえると救われます。ネタ的にはありそうなネタでしたので、あえて踏みとどまらせてみました。
>>513
寅さん展開になったら、可笑しくも切ないですねー。
>今回は絶望しない、斑目が成長したから。 > それが言いたかったんですよ!絶望されなくて良かったー。
斑目が「自分で決めて行動したから、後悔していない」だから、これから強く生きれると思います。
>>514
優しさ、と言っていただけると…。決して無駄ではありませんとも。ヘミングウェイの解説の言葉、いい言葉ですね。保存。
>>515
「愛が欲しければありのままの自分を…」この言葉も保存しとこう。

以上、長くなってすいませんでした。もーすぐ500KB…次スレの季節ですかねー
586現聴研第4話:2006/04/17(月) 21:34:45 ID:???
>>522  >>551 >>581 >>582
とりとめのない斑目自爆話にわざわざレスを下さってありがとうございます。
そして、現聴研のネタ元の方にも感謝します。

とりいそぎごあいさつまで。
587マロン名無しさん:2006/04/18(火) 02:57:00 ID:???
>>現聴研第4話
現聴研への参加ありがとうございます!
僕だけだと偏りが1方向へ激しいので、色んな方向に偏ってもらえればと思います。
これからも是非〜。

というわけで第5話いきます。短いから次スレ行かなくても大丈夫なはず…。
588現聴研第5話(1/3):2006/04/18(火) 03:04:32 ID:???
6月下旬某日、笹原宅に、夏の野外音楽フェスティバル
当選通知が届いた。
地元の自治体での祭りの一環で、野外ホールでのアマチュアバンド
による演奏フェスティバルに応募していたのだ。
斑目「うおっ、マジか!?」
笹原「ええ、受かってますよ。」
斑目「うわ〜〜〜〜。」
部室で驚く斑目と、実感が沸いてきて焦る笹原。
斑目「出演順は?………あー、まぁ真ん中ぐらいか。無難だなぁ。」
要綱のパンフレットに目を通す斑目。
その頃、笹原は自分のPCを立ち上げている。
斑目「久我山にはもう言った?」
笹原「ええ、『これでマジに奏らなきゃな』って。」
斑目「あははは。」
    「まあ、お前もDTMとかMTRいじくってた甲斐が有ったよな。」
笹原「俺のMTR、トラック数少ないから買い直さないといけないですかねぇ。」
斑目「そんなに音数要るかね。」
笹原「DABAZAKコピーとかならプログレだから多いですよねぇ。」
斑目「うーん、アルバム『3人組』のアレンジならいけるんじゃね?」
そう言いながら、応募の際にデモに送った曲を再生する。
PCに刺したヘッドフォンを二人で聴く笹原と斑目。
曲はUNDER-13による「きらめきサイリューム」。通称「くじゲー」という人気アニメのED。
斑目「送ったデモ、俺のボーカルなんだよなぁ(大汗)。」
げんなりした表情で斑目が言うと
笹原「コーラス俺ですよ……。」
顔に縦線が入っている笹原。
589現聴研第5話(2/3):2006/04/18(火) 03:05:12 ID:???
斑目「でもなんか、久我山のドラム気合入ってねぇ?」
笹原「UNDERー13というかウメーイが好きだからじゃないっすか。」
斑目「………歌ったのは俺だけどな。」
ガチャリ。そこへ入ってくる荻上。
あわてて再生停止ボタンを押す笹原だった。


荻上「え?夏に野外でライブ出演ですか?」
笹原「うん、だからバンド出演するから、荻上さんも是非ギター弾いてね。」
荻上「良いんですか?」
笹原「バッキング頼むつもりだけど、リード弾いてもらう部分有るかもまた相談だねぇ。」
そう言ってから、斑目と相談し始める笹原だった。
担いできていたソフトケース開けて今日はエレキギターを取り出す荻上。
携帯用の小さな電池式のアンプを机の上に出しておいて、まずはチューナーに
ギターを繋いで調音をしている。
笹原「まずは選曲ですかねぇ。」
斑目「なんていって募集したんだ?」
笹原「隠れた名曲を紹介する為に生まれたマイナーコピーバンド、って…。」
斑目「くじシーEDがマイナーか?まあ審査のおっさんは知らんだろうけど。」
590現聴研第3話(3/3):2006/04/18(火) 03:05:56 ID:???
と、やおら荻上がややオーバードライブ気味にギターを響かせ始める。
DABAZAKのインストロメンタル曲「チェコスロバキア」だ。
ギターやヴァイオリン、リコーダー、が入り混じる豪華な編成で
哀愁味とスピード感のある、初期からの名曲である。
それをベースとリズムをキープしつつ主旋律をギターで追い続ける荻上。
掛け声のところで思わず
「ハッ!」
と合いの手を入れる笹原と斑目に、荻上の少し口元がニヤっとしたように見えた。
さらに曲は佳境に入り、最後は
「アーーー(アーーーーー)」
とコーラスでハモる。
ラストのリコーダーは、荻上自身の口笛でカバーしながら素早く
アンプのエフェクトを切り、シンプルな伴奏でしんみりと終わった。
笹原「こないだは弾き語りでストロークメインだったけど、リード弾きっぱなしも
      出来るんだねぇ。ま、まあ俺も色々音は作るけど、弾ける限り弾いてもらえるかな。」
荻上「あ、大丈夫です、弾けマス。」
笹原「荻上さんが出来る曲に決まったら、好きなだけ弾いてもらうけど
      そうじゃなかったら、俺がDTMで作るから。」
荻上「いえ、大丈夫です、コピーしますよ。」
改めて荻上の技量に冷や汗浮かべつつ、心強い笹原と斑目だった。
斑目「選曲も良いけど、スタジオどこ使う?」
笹原「んー、とりあえず安い所とか融通効く所とか、高柳さんに聞きにいってみます。」
現聴研にとっても初参加だが、荻上にとってもステージは初体験。
荻上『すんご………やっぱす大学のサークル、本格的だぁ。』
期待に胸膨らむ1日だった。
591マロン名無しさん:2006/04/18(火) 03:06:49 ID:???
以上です。そうそう、現聴研は、マイナー曲と声優・アニメ曲のサークルですよ。
592マロン名無しさん:2006/04/18(火) 03:23:06 ID:???
あ、くじゲーとかくじシーとか言ってるのは、くじびきシーソーゲームの略です。
593マロン名無しさん:2006/04/18(火) 03:23:20 ID:???
うむ!いいですねw雰囲気が伝わってきます。
斑目の歌が聞きてぇーー
荻上さんのギターが聞きてぇーーー!

夏の野外音楽フェスティバル編 もあるのカナ…?どきどき
594マロン名無しさん:2006/04/18(火) 05:56:18 ID:???
荻上さんがライブで歌うなら、やっぱり尾崎豊だな。
そんでPAの櫓によじ登っちゃって、飛び降りようとして笹原に取り押さえられる、みたいな…

すまん、今酔ってる、流して下さい…
595マロン名無しさん:2006/04/18(火) 09:21:46 ID:???
>>現聴研♯5
うわ〜、ついに来たライブ!
荻上さんでなくても、こりゃ続きに期待が膨らむわ!

作者サンには酷なことで申し訳ないと思うけど、野外ライブの演奏曲をリクエストしてもいいだろうか?

もちろん作者サンの構想にある曲目があると思うので、取捨選択はお任せで。例えば、“フェスの他のバンドがこういう曲をやった”程度の紹介でもいいと思うけれど…どうっすか?
596マロン名無しさん:2006/04/18(火) 15:26:44 ID:???
遅レスだが現聴研4で菊血桃子が出てくるのは荻上さんにかけてるのか?
597マロン名無しさん:2006/04/18(火) 15:35:26 ID:???
ごめん・・・菊血桃子と岡田○希子 と間違えた・・・最低だ俺・・・
598マロン名無しさん:2006/04/18(火) 17:16:22 ID:???
(((((((( ;゚Д゚)))))))
599595:2006/04/18(火) 21:36:34 ID:???
595です。
“曲をリクエスト”なんて書きましたけど、考えてみたら現聴研メンバーが何曲も演奏するわけじゃないですよね。
すみませんでした。
600マロン名無しさん:2006/04/18(火) 21:47:39 ID:???
>>593
まずはハラグーロ来訪と、荻上さんの「ぐずぐす」、の後にライブですよ!
って言っちゃっていいのか自分(汗)。

>>594
うわーあのエピソードキターーーwww
でも尾崎は流石に超メジャーなのでスミマセン

>>595>>599
リクエスト有りですよ。僕の知らない曲だと描写が出来ないっぽいですが(汗)。
現聴研の持ち時間で3〜5曲ぐらいの設定にしようかと思ってますし、
他のバンドもたくさん出ますので、ちょっと出すぐらいなら全然オッケーです。

601マロン名無しさん:2006/04/18(火) 21:52:19 ID:???
ベースは誰が弾くのかな?

フェンダージャズベのあの形の美しさは大野さんが似合うかも…
ベースはギターよりも大きめだし(笑)
602マロン名無しさん:2006/04/19(水) 01:33:29 ID:???
Gt.兼Cho. オギー
しっかりしたバッキングからHR調の弾きまくりフレーズまでいけるツワモノ
弾き語りで鍛えた喉による広い音域でのコーラスワークも定評アリ

Dr.クガピー
ギターからドラムへ転向
経験の少なさ故に技術面での荒さは有るが、運動量の有るドラミングでバンドを支える屋台骨

Ba.コーサカ
「ベースどうするよ?」となった状況で大抵の楽器をそつなくこなせる高坂に白羽の矢が立つ
が、そこは完璧超人。堅実なベースプレイは当然の如く、DEAD ENDのC.C.JOE!を思わせるような動きまくるフレージングや
軽快なスラップ奏法も使いこなすプロフェッショナルぶりを発揮する。・・・ライブは当然女装で参加ですが何か?

Key.大野さん
昔ピアノやってましたよ的なイメージで俺脳内で決定
あとディープパープルとか好きそうなイメージが有るから。無論俺脳内。

言いだしっぺ兼PROGRAMMER ササヤン
DTMとMTRを駆使してバンド全体の音像を組み立てる割と重要な立場
裏方に徹するはずが、春日部さんの鶴の一声でVoを兼任する事に・・・・

My脳内による現聴研バンド構成・・・・・妄想垂れ流し申し訳ないorz
603マロン名無しさん:2006/04/19(水) 02:21:09 ID:???
イイヨイイヨー!
やはりコーサカは役に立つ!(便利だw)
きっと演奏法も1か月で本を読んでマスターしたに違いないw

このメンツで経験を重ねつつ、いつの日か、「何もしないのに口を出す」メガネの人も歌う展開があると面白そう。
604マロン名無しさん:2006/04/20(木) 01:06:05 ID:???
現聴研の続き、とりあえず丸パクリでパロディー化しました。
せっかくの機会(?)なので…(大汗)。このあともやって良いのかな…。
あと連投スミマセン。
605現聴研第6話(1/3):2006/04/20(木) 01:06:45 ID:???
笹原「何人編成にしましょうねぇ。」
斑目「スコアの無い曲ばっかりだと、バンドの負担でかくないか?」
笹原「しかしメジャーな曲にすると存在意義が無くなりますよ。」
現聴研の部室では、夏のフェスティバルに向けて会議の真っ只中。
田中「そもそもウチの割り当て時間は?」
笹原「まあ…入れ替えも含めて30分ぐらいって事です。」
朽木「準備と片づけで5分ずつだとして、残り20分。
    1曲4分でMC無しで5曲が限界ですな!」
笹原「うーん、余裕が無いと本番でパニック起こしそうだなぁ。」
大野「キーボード弾けますけど、ステージ衣装に凝りたいですね!田中さん!」
そう、田中と大野は普段はコスプレでライブに出かけて振り付けも
バッチリな傍目にちょっと痛い、いや深いファンだったりする。
そしてコスプレ衣装は田中の自作という脅威の特技。
大野「咲さんはドレスでヴァイオリン出演ですよね!」
咲 「勝手に決め付けるな!」
話は無軌道に盛り上がっている。
咲 「むしろオギッペ着ろよ。」
荻上「やですよ!普通の服でいいじゃないですか―――。」
そこへ
原口「よう〜〜〜〜 夏のフェスティバル受かったって?」
満面の笑みで原口が登場した。
全員『うわっ・・・・・・。』
冷や汗をかいてうつむいてしまう、現聴研の面々だった。
斑目「あれ、原口さん卒業してましたよね?」
原口「あぁ、今でもちょくちょく顔出しててね。
    いや、ちょっと良い話があるんだよ。」
606現聴研第6話(2/3):2006/04/20(木) 01:08:08 ID:???
そこで椅子を譲る高坂と、机に就いてしまう原口。
原口「有名インディーズバンドのメンバーいっぱい紹介してあげるから
    その人たちのコラボでバンド組まない?」
笹原「は?………。それってどういう意味ですか?」
原口「いや、1曲ごとにボーカルと面子も換えて10人以上参加でね。
     例えば老舗コピバンのウッドメモリーとか、シュリックとか知ってる?
     オリジナルの所ではポリネシアWARとかさ。あとはね―――。」
原口「まあ詰めれば7,8曲はいけるでしょ。久我山とかもボンゴか
     タンバリンで参加してりゃいいじゃない。」
少し神妙な面持ちで原口が続ける。
原口「まあ会場で各バンドのCD売れるからマージン貰えるし、
     スタジオ録音と本番の録音の音源をあとからネット販売すれば
     このネームバリューなら宣伝うまくやりゃ、1,000円のが3000枚は売れる。
     単純計算で、売り上げ300万!」
一同、沈黙・・・・・・・・・。
だが、笹原が口を開く
笹原「あの、原口さん、俺たち初めてだし自分らでやりたいんですけど…。」
原口「マイナー曲だし素人って、それじゃ受けないよ〜〜〜。
     受けないのは悲しいよぉ。静まり返って冷える会場。司会の人のフォローが
     また逆に痛いのね!一般のイベントだし子供が泣き出したりすんのね―――。」
笹原「あの、原口さん。はっきり言ってやりたい曲を演奏出来りゃ良いんですよ。」
原口「それは オ ナ ニ ー だよ。観客論の否定かい?それじゃ脳内で
     やってりゃいいじゃん。もう童貞捨てなきゃ!捨てていこうよ!」
笹原「…や、もう童貞ですから!いいじゃないですか!」
原口「おや逆ギレかい?アハハ。」
607現聴研第6話(3/3):2006/04/20(木) 01:09:08 ID:???
笹原「やー、もうマジ俺らだけでやらしてください!童貞ぐらい自力で
     捨てさせてくださいよ、お願いします―――。」
原口「んーーー、そう?でもさっきのメンバー、もう了承得てるんだよな。」
一同『なんてことしやがるっ!!』
笹原「じゃあ、俺が断りますから連絡先教えてください。」
へこへこしていた笹原が、真剣に申し出た。静まり返る部室。
原口「―――斑目、それでいいんだな?」
斑目「ま、現会長がそう言ってるんで、勘弁してやってください。」
原口「………わかった、じゃあ連絡先はあとで教えるから。ほんじゃバイバイ。」
バタン。
そいうって、あっさりと帰っていく原口だった。

溜息をつく、現聴研の面々だった。
咲 「笹やん、頑張ったんじゃない?さすが会長ってとこだね。」
笹原「やー、もういっぱいいっぱいだよ。全くあの人はさぁ――。」
荻上「ああいうタイプの人、ほんとに居るんですね。初めて見ましたけど嫌いです。」
咲 「じゃ、笹やんの今日の活躍に愛の歌でも捧げない?」
荻上「は?なんでそうなるんですか?そんなの歌いませんし恋愛否定派の硬派ですって。」
咲 「えー面白くないなぁ。」
荻上「何を言ってるんですか!?もう!」
咲 「まぁしょうがないか、笹やんやっぱり経験無かったし〜。」
荻上「そういう冗談はもっと嫌いです!」
そして赤面する笹原と、慰める田中だった。
笹原『く〜〜〜ッ!田中さん嫌味ですか!』

しかしその後、無事に他バンドの方々に断りの連絡を取り、感謝される笹原だった。
608マロン名無しさん:2006/04/20(木) 01:10:01 ID:???
すみません、次回からもうちょっと独自展開に持っていけるはずですのでorz
609マロン名無しさん:2006/04/20(木) 01:16:31 ID:???
というかもうスレの容量が危ないっ あわわ(竹本泉風)
610マロン名無しさん:2006/04/20(木) 01:34:53 ID:???
まだもうちょっとだけ書けるんじゃ!(DB風に)
611マロン名無しさん:2006/04/20(木) 01:45:45 ID:???
次スレ立てました。スレ立て初体験…

げんしけんSSスレ7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145464882/l50
612マロン名無しさん:2006/04/20(木) 01:46:04 ID:???
次スレまだー?…すんません自分、立て方分からんもんでorz
613マロン名無しさん:2006/04/20(木) 01:46:37 ID:???
URL最後の部分が要らない罠orz
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145464882/
614マロン名無しさん
あー!!立ってた…orz