>>1 早々と乙。
次回投下は多分こっちだな。
今書いてる分は、多分前スレには収まらないから。
4 :
前スレ729 :2006/02/15(水) 06:16:28 ID:???
第801小隊です。 続き物だったので、早めに上げようと頑張りました。 だんだんとガンダム色が強くなって来ていますが、 知らない方は戦争物と思うようお願いしますw 13レスで投下します。 今回も、読んでくださる方々におぎおぎ。
前回のあらすじ。 「敵新型兵器の行方を捜索せよ!」 指令を受けた第801小隊は、 すでに皇国軍が撤退したはずの密林を突き進む。 川のほとりで食事をし、束の間の休息を楽しむ面々。 しかし、そのとき敵の接近を告げる警報が・・・。 ゲリラ戦法を得意とする敵軍は、密林へと小隊を誘う。 先走ったササハラが一人密林へと突撃し、 システムを起動させ二機までは撃破するが、 三機目に攻撃を仕掛けたところで罠にはまる。 動かなくなった機体。迫る敵機。 「う、動け!動けーーーーーーーーーーーーーー!!」 密林に、ササハラの叫びがこだました。
ザクのヒートホークがコクピットに狙いを定める。 「うわーーーーーーーーーーー!!」 動かない機体をそれでも必死に動かそうとするササハラ。 叫び声が悲痛なものになっていた。 振り下ろされるヒートホーク。 ジャラララララララララ・・・・・。 その刹那、鎖のようなものが伸びる音がした。 ブヅン! 何かが千切れるような音がした後、 ササハラは機体の右手だけが自由になったのが分かる。 「うわああああああ!!」 元々振りかぶっていた右手が、そのままヒートホークの軌道に移動する。 グシャ! 右手が切り落とされたのがわかる。しかし、機体そのものは大きな損傷は無い。 「はあ、はあ。」 しかし、いまだ動けないのに変わりは無い。 他の三肢は固定されたままなのだから。 目の前のザクは何かが起こったことをわかっているようだが、 当面はササハラを撃墜することにしたようで、 再びヒートホークを構え、攻撃を仕掛けてくる。 ドゥン! ビームライフルの射撃音が響くと、ザクの上半身を貫いていた。 両肩を損傷したようで、腕が機能不能になったようだ。 『大丈夫?ササハラ君!』 「はぁ、はぁ、うん・・・。今のコーサカ君が?」 『うん。ちょっとしたギミックでね。』 ジャララララ・・・・。 鎖が引きずられるような音がする。
ササハラの両端にいた二機のザクは、敵増援に気付き、 まず手負いのジムにマシンガンを構え、挟撃の形をとる。 「くっ!」 ザクの両手からワイヤーが離れたため、自由に動けるようになる。 しかし、多勢に無勢。しかも右腕は損傷している。 ドダダダダダダダダダダダ・・・。 ザクのマシンガンをかわそうとするも頭部センサーが破壊される。 ディスプレイから周囲の映像が途絶える。 「しまった!」 『もう少し耐えて!もうちょっとで到着する! 混戦になってるからライフルじゃ狙えない!』 コーサカの声に、逃げ回るしかないと判断したササハラ。 しかし、センサーは利かない。 「くそ!」 ベキキッ! コクピット前のハッチをはがし、ササハラは肉眼で周囲を把握しようとする。 二機のマシンガンは相変わらずジムを周到に狙う。 「くそ、くそ!」 情けない! そんな感情を抱きつつも、必死に逃げ回るササハラ。 そこに、黒い影が一機のザクに接近していた。 『待たせたね!』 ビームサーベルを構えたコーサカのガンダム。 頭部を破壊し、武器を破壊。ザクはあっさりと沈黙した。
「コーサカ君!」 そのままコーサカのガンダムはもう一機のザクに狙いを定める。 腕を前方に伸ばすと、腕の上部からチェーンのようなものが飛び出す。 ジャララララララララ・・・。 チェーンは高速でザクの体を貫く。そのままチェーンを手繰るガンダム。 チェーンの先が広がり、抜けずに固定される。 そのまま引っ張られた15t以上あるはずのザクの機体が浮く。 ズシン・・・。 そのまま、動かなくなるザク。パイロットが気絶してしまったようだ。 『・・・大丈夫?』 「・・・うん。すごいね。そんな武器持ってたんだ。」 とりあえず周囲に敵がいなくなったようで、一息つく二人。 チェーンをザクから抜いて、巻き戻すコーサカのガンダム。 この間もジムのプレジデント・システムはスイッチオンのままだった。 あまりに必死で、情報が入ってたのかどうかもササハラは覚えてはいなかったが。 『・・・大丈夫ですか?』 心配そうな会長の声が響く。 「・・・はい。またよろしくお願いしますね・・・。」 『・・・はい。ではまた。』 そういいながらスイッチを切ったササハラは少し自嘲めいた笑みを浮かべる。 『これ、実は僕が設計したんだ。工作用MSを参考にしてね。』 「・・・へぇ・・・。」 『だから、他にもいろいろ仕込んでるんだ。 どこに何があるかは多分僕しか把握し切れてない。』 コーサカが自機の説明をはじめるも、ササハラは気もそぞろ。 『そういう意味で、僕はこいつをガンダム・クラフトって名づけたけどね。』 「ふーん・・・。あ、そうだ、他の皆は?」 『大丈夫、無事だよ。ササハラ君のおかげで敵の統率が乱れたようだから。』
「うおら!」 マダラメのザクがヒートホークを振り下ろす。 しかし、敵ザクには避けられてしまう。 「なにぃ!?接近戦で俺と戦おうってかぁ!?」 かち合うヒートホーク。鍔迫り合いの様になる。 「ヒヒヒ・・・。やるじゃねえか。」 思いのほか得意の接近戦で均衡しているため、軽い口を叩かないと気が紛れない。 「く、こいつ・・・、本当にやるな!」 力の均衡が続く。少し静けさが広がる・・・。 ガサッ! そこに現れたのは敵増援のザク。 「ま、マジか?」 マダラメがあせったため、力の均衡が破れる。 「うおっつ!」 間一髪振り下ろされたヒートホークをかわすが、かすり傷を負う。 「二人の戦いに水をさすのは野暮ってもんじゃねえかぁ?」 とは言いつつも、戦場では数が強力な武器であることも理解している。 地面に突き刺さる敵のヒートホーク。 もう一機のザクは見た目が両方ともザクのため、 その上暗い夜の密林のためにどちらが友軍機なのかを見分けられない様子だ。 「うおら!」 その隙を見逃さず、腕を切り落とすマダラメ。 両腕をもがれたザクは、体を持ち上げ、体をぶつけてこようとする。 その間に、もう一体のザクは、識別信号で敵を判断したようだ。 マダラメに向けてマシンガンを向けるザク。 ズダダダダダダダダダダ・・・! 「うお・・・!」 かわすマダラメ。その銃撃が腕なしザクに当たる・・・! 「・・・馬鹿野郎!味方に誤爆覚悟で撃つんじゃねえ!!」 マシンガンに蜂の巣にされたザクは、沈黙した。
言い知れぬ怒りを込めてマダラメは残ったザクに襲い掛かる。 「・・・味方殺してどうすんだよ!」 ヒートホークを振りかざし、マシンガンをかいくぐる。 ズダダダダダダダダダダ・・・! むこうも必死なのだろう。ひたすらマシンガンを連射してくる。 「おらあ!」 接近し、ヒートホークが当たる距離まで来ると、 マダラメはまず拳で相手のバランスを崩す。 動きが鈍る。相手パイロットに直接のダメージを与えたのだ。 そのまま、敵機を抱え投げ飛ばす。 ズシン・・・。 生えていた木に背中からぶつかるザク。 パイロットの意識が飛んだようだ。ザクが機能を停止する。 「・・・はあ・・・。」 気分が悪くなる。味方殺し。 「うう・・・。」 吐き気がこみ上げる。ザクのコクピットのハッチをすぐに開ける。 周囲に敵がいないことを確認してから、コクピットから出るマダラメ。 「う、うげえええ・・・。」 思いっきり先ほど食べたものを吐き出すマダラメ。 「はあ、はあ・・・。いまだに・・・。ダメだな・・・。」 そういいながら口を拭い、空を見上げる。 高い木がうっそうと茂っているため、空は見えない。 まるで、自分には見せてくれないかのように。 「・・・宇宙は・・・遠いな・・・。」
「ほおおおおおおお!」 奇声を発しながらクチキがジムキャノンの砲を敵に向けながら発射する。 ドオン!ドオン! 240mmの砲弾が敵ザクに襲い掛かる。が、見事にかわされる。 「な、なんですと!」 クチキはあせりながら次の攻撃を準備する。 しかし、その間も敵はクチキに向かってマシンガンを放ってくる。 「ひょおおおおおお!!!」 再び奇声を発しながらかわすクチキ。 まるで軟体生物のような動きでかわしまくる。 これによって逆にあせったのは敵機のほう。 マシンガンを捨てて、ヒートホークを持ち、接近戦を仕掛けてくる。 「ひほ!?」 接近武器を通常装備していないジムキャノンは、 接近されると頭部バルカン以外に武器は無い。 クチキもそれは理解しているので、接近してくるザクに対して240mm砲を放つ。 ドオン!ドオン! 一発がザクの腕に命中するも、武器を持っているほうではない。 「ひゃあああああああ!!!」 接近され、頭部バルカンを放つも、相手の頭部センサーを破壊するにとどまる。 そのまま振り下ろされるヒートホーク。 ドオーン! 響く大きな砲弾の音。 その砲弾は見事にザクに命中していた。 『だ、大丈夫か、クッチー・・・。』 「は、は、助かったであります!」 クチキがその音の元を見ると、クガヤマのガンタンクUが、 少しはなれたところでその砲身をこちらに向けてたたずんでいた。
「あ、後二機かな・・・。」 今までの連絡の内容を聞いている限り、残り敵機数は2。 『そうでありますね・・・。』 その瞬間。二機のザクがクガヤマの上方から落下してきた。 木によじ登って好機を狙っていたのだろう。それほど太い木がここにはある。 「な、なんだって!」 『ひいいい!!!!』 驚愕するクガヤマ、叫ぶクチキ。 接近戦能力の皆無なガンタンクUには、この距離は危険だ。 叫びながらもクチキは援護のために砲身をザクに向ける。 クガヤマもキャタピラを動かし牽制をしようとするが、 場所が密林なだけに、うまく動けない。 キュルルルルルル!メキメキメキ! 木を踏むキャタピラの音が響く。 ザクはその間もクガヤマ機に向かいヒートホークで襲い掛かる。 ドオン!ドオン!クチキの砲弾が一機のザクに命中する。 うまく急所に当たったのか、機能が停止される。 しかし、もう一方のザクはヒートホークを振り下ろした。 「う、うわ・・・。」 衝撃がクガヤマに伝わる。どうやら右腕を破壊されたようだ。 「く、くっ・・・。」 なんとか距離をとり、ミサイルランチャーを飛ばせる射程に持ってくる。 残った左腕から発射されるミサイル。三連装だ。 ドンドドン! 命中するミサイル。しかし、機能を停止するには至らない。 ボロボロになった機体で接近してくるザク。 「ぐ、せ、せめて両手あったら・・・。や、やばい!」 ズガシ!衝撃音が聞こえたかと思うと、停止しているザク。 『ふう・・・、間に合ったようだな。』 そこにはヒートホークを構えた赤いカラーリングのザク。 すなわちマダラメが到着していた。
「よ〜し、生き残った敵兵はこれで全員だな。」 翌朝。後ろ手を縛った敵兵を集め、河原に集める隊員たち。 「・・・こ、今回もここで放置?」 「まあな。あと二時間もしたらほどけるようにしたからな。 後は自分らで何とかしてもらわにゃ。」 ふふん、とマダラメが笑う。 「いつもこんなことしてんだ。大変だね。」 「でもま、殺すわけにもいかんでしょ、ほっとくわけにもいかんし。」 「まあね。かなり見直したよ、あんたらのこと。」 サキがにこりと笑って、マダラメに言う。 「・・・あはは。今まではダメだったわけね・・・。」 「いままで接してきた軍人が軍人だったからねえ。」 そこに、相手MSの回収をしていたタナカがやってくる。 「回収、終了したぞ。今回は大漁だな。」 「へへ。使えそうなパーツはありそうか?」 「まあ、今回の修理分にはなるだろう。 特にササハラのがひどいからな。ジム用に調整せんとね。」 そのササハラはというと、回収作業を手伝いながら、 どこか気が抜けたような顔をしていた。 「・・・そうだな。あと、ガンタンクUの腕は?」 「あれは、元がほとんど残ってるからすぐ治る。 すぐ直らんのはジムだけだ。」 そういいながら苦笑いするタナカ。 「まあ、よほどの戦いだったんだな。」 「・・・ササハラがつっこまにゃ、劣勢だったとは思うがな。 しかし、アレじゃ死ににいくようなもんだ。」 すこし顔を強張らせてマダラメはササハラのほうへ向かった。
「・・・ササハラ。」 「・・・あ、はい!」 マダラメの声がかかるまで、接近に気がつかなかったササハラ。 先日の疲労もあるのだろう。ものすごく眠そうである。 「・・・わかってるな?」 「・・・覚悟は出来ています。」 そういいながら河原のほうへ出てくる二人。 その雰囲気に周りの注目が集まる。 「な、何が始まるんですか?」 心配そうな声を上げ、オーノに質問するオギウエ。 「・・・軍隊式のけじめですよ。」 そういって、少し怒った表情を見せるオーノ。 その表情に緊張するオギウエ。 「修正だ!いくぞ!」 「はい!」 バキッ! 二人の叫び声の後、マダラメは思いっきりササハラの顔を殴った。 「えっ・・・!」 その光景に両手で口を覆い顔を強張らせるオギウエ。 「な、なんで!」 「・・・命令違反ですから。 それに、命を捨てに行くような戦い方はマダラメさんの一番嫌いな事なんです。」 そういって真剣な面持ちでオーノは二人を見つめる。 「ササハラさんも、覚悟はしてたみたいですね。」 オーノの表情が少し緩む。
「・・・軍隊ってまったく・・・。殴りゃいいってもんじゃないでしょうに・・・。」 サキがあきれたような表情でその光景を見る。 「サキちゃん、アレは重要なことなんだよ。」 「・・・なんで?」 コーサカの言葉に不思議そうな表情をするサキ。 「軍隊って言うのはね、統率が乱れることが一番危険なんだ。 ササハラ君の行動は結果的にはOKだったけど、 命令違反は命令違反だ。そこはケジメつけないとね。 隊、ってものに纏まりがなくなっちゃうから。」 「ふー・・・ん。」 「へー、やっぱりコーサカさんは物知りですねーv」 「だあ、離れろ!」 「あいた!」 ここぞとばかりにコーサカに接近するケーコにサキはチョップを加えた。 「ありがとうございました!」 完全にはれた顔で、ササハラはマダラメに敬礼をする。 「・・・マジで勘弁しろよ。あまり好きじゃねえの知ってるだろ?修正。 まあ、結果オーライだったけどよ。死にに行くような真似はするんじゃねえ。 それに・・・。お前一人で戦ってるわけじゃねえんだからよ。」 そういって強張っていた顔を緩ませ、にやりと笑うマダラメ。 「・・・はい!」 ササハラはその言葉に思う。 (何を思い上がってたんだろう。一人でやらなきゃって思い込んでたけど・・・。 俺にはまだそんな力は無い。システムに頼り切って強くなった気分でいたけど・・・。 頼り切ったらダメなんだ。俺自身が強くならなきゃ。 それに・・・。皆もいる。そうだ・・・。皆で戦ってるんだ!)
「だ、大丈夫ですか・・・?」 オギウエが早速ぬれたタオルを持ってきてササハラに渡す。 「あはは・・・。ありがとう。まあ、自業自得なんだけどね・・・。」 それを受け取って、頬に当てるササハラ。 「で、でも・・・。頑張ったのに・・・。」 「んー・・・。それでも、ここはひとつの隊だからさ。 それを乱したらいけないんだよ。」 「そうですね・・・。それに、絶対に死なないで下さい。」 その言葉に、ドキッとするササハラ。 「え・・・?」 「私を守るっていってくれましたけど、死んでしまったらダメです。 それだけは・・・。私、許しませんから。」 先ほどオーノから聞いた話からササハラの行動がどんなものかを知り、 泣きそうな表情で話すオギウエに、自分の愚かさを知る。 (そっか。俺が死んだら悲しむ人達がいる。 ・・・考えたことが無かった。俺も、昔悲しんだ一人なのに。) 「ありがとう・・・。」 「・・・いえ・・・。」 二人に優しい風が吹く。 「おーい、そろそろ行くぞー。」 タナカが叫ぶ。 「あ、はーい。いこうか、オギウエさん。」 「・・・はい!」 二人は母船に向かって駆け出した。
タナカ達がジムの修理に追われる中、 オギウエは洗濯物の中から、ロケットタイプのペンダントを見つける。 一方、ササハラもそれをなくしたことに気付き、探し始める。 次回、「ペンダント」 お楽しみに。
18 :
4 :2006/02/15(水) 07:10:37 ID:???
今日びっくりしたこと 私、初めてスレ立てしました。
>>4 あんただったのか〜〜〜!!スレ立て担当!
まあそれはともかく、本格的になってきましたねバトル展開。
これホント、マジでアニメ化したい勢いだな。
多分サンライズの許可下りないけど…
ガンガルでいいじゃない。
21 :
マロン名無しさん :2006/02/15(水) 14:09:24 ID:XVA9ZhN2
>>4 スレ立て乙!801小隊新作乙!
うおおお!戦闘シーンは燃える…!!!
目に浮かぶようですよ。
今回の見所は斑目ですね。
ていうかもう…もう…斑目スキーのワシとしては斑目のあんな活躍やこんな表情が全部…!
うおおお!!!斑目シーンは萌える…!!!
ワシが笹原に代わって修正された(ry
…はっっ!いかん取り乱したっ…ゴホゴホ。
すいません。次回も期待してます。
22 :
マロン名無しさん :2006/02/15(水) 14:53:51 ID:XVA9ZhN2
連投すいません。
「卒業式前日 前編」の感想くれた人ありがとうございます。後編も早めに投下します。
>>723 原作読みかえしてると、「高坂、わざと言ってんのかな?」と思うような、気になる台詞が多い。
それを、今回のSSの中で自分なりに解釈して示したつもりです。
(深読みしすぎかも知れませんが)
また、高坂なしに斑目と咲の関係を考えることはできないので、高坂もからませたほうが話がまとまるかと思ったのです。
「斑目が好きな咲が好きな高坂」という一文、いいですね。
>>724 卑怯モンです。すいませんwww
「餓狼伝」を知らないのですが、興味深いです。
「自分を認めさせるため」に必死になるのは咲ちゃんもですね。
必死のときは恐いし辛いですが、それが人間的成長につながると。
>>725 ご期待にそえるかどうか…どきどき
>>728 告白できない話がやはり多いですよね。
斑目がへタレすぎるから…wそこが魅力でもありますが
まとめサイトのSSで「告白した話」もありましたね。
あの話読んで、ワシも頑張って考えようと思いましたよ。
色々ありましたが、こうしてSSスレもその4まで迎えたんですねー。
前スレの消費、けっこう早かったですねー。改めて
>>1 乙
投下作は、後でゆっくり拝見します。
>>801小隊第7話 いつもありがとうございます!早めに作成頑張られたようで、感謝です。 いいところで終わってたので気になってました(苦笑)。
25 :
卒業式前日 後編 :2006/02/16(木) 04:52:21 ID:FPS0vi9j
SSスレその3で投下した話の後編です。 最後まで一気に投下いっきまーす!
26 :
卒業式前日14 :2006/02/16(木) 04:53:32 ID:FPS0vi9j
コン、コン。 「入るよー」 春日部さんの声だ。 ガチャリ。ドアが開き、笑顔で春日部さんが入ってくる。 「高坂待ったー?あれ、斑目?久しぶり。アンタまだ部室来てたの?」 「あ…ああ、うん」 動揺を隠せない斑目。 (何じゃ、このご都合主義な展開は!?) 驚いている横で、高坂はすっと席を立ち春日部さんに向かって言う。 「咲ちゃん、僕トイレ行ってくるね。ここで待っててくれる?」 「ん?わかった。待ってる」 春日部さんと入れ替わりに部室を出る高坂。 机の上にカバンを置き、斑目の左の椅子に座る。 その間ずっと心臓バクバクの斑目。
27 :
卒業式前日15 :2006/02/16(木) 04:54:04 ID:FPS0vi9j
「はー、明日で終わりだと思うと、この部屋に来れなくなるのも名残惜しい気がするね」 「………へーーー!春日部さんの口からそんな言葉が出るとはね!」 「何よ。似合わないって?何だかんだ言っても4年も出入りしてたわけだし、情が沸くのも当然じゃない?」 「ま、そうだな」 「だからあんたも未だにココ来るんでしょ?」 「あ、ああ、まあな」 …それだけじゃねーけど。 「でも春日部さん、高坂がいなかったらこんなに通わなかったっしょ?」 「そりゃ、そうだけどさ」
28 :
卒業式前日16 :2006/02/16(木) 04:54:35 ID:FPS0vi9j
「…卒業しても高坂と仲良くやれよ」 「え?あんたらしくない言葉。どうしたの?」 「いやハハ…明日から会えなくなるし、感傷的になってんのかなー…」 「大げさねえ、一生会えなくなるわけじゃないし」 「…でももうあんまり来ねーだろ?」 「当たり前じゃん。誰かと違って忙しくなるからね」 「………」 「…? どうしたの。本当に変だよ」 「いや俺…春日部さんに言いたいことが」 「は?何、改まって。前フリ?ツッコんでやるから言ってみな」 「……………謝ろうと思って」 「え?」
29 :
卒業式前日17 :2006/02/16(木) 04:55:06 ID:FPS0vi9j
謝る?斑目は自分で言った言葉に驚いていた。 「俺、口悪いから色々嫌なこと言ったかなーって…特にあの、活動停止で、部室使用禁止になった時とか」 「うっ…思い出させんなよ」 「いやあの、あの時俺ちょっと言い過ぎたからさ」 「はぁ?何よ今さら。そんなこと気にしてたの?」 あの時。 泣かせておいてただオロオロしていた自分と、フォローしてみせた高坂。 自分のふがいなさに改めてヘコんだ。 「俺、春日部さん好きだったのに、あんな言い方して…」 「え?」 「だから、その…悪かったなーと……」 最後の方は声が出なかった。
30 :
卒業式前日18 :2006/02/16(木) 05:07:31 ID:FPS0vi9j
………言っちまった!!! うわ、顔が上げられねえ… 「………へっ?え!?」 驚く声。春日部さんの顔がまともに見れない。 「え?あ、ああー…そんな気にしないでよ…ってそうじゃないか。え? あんた私のこと好きだったの?」 「……………」 「……………」 沈黙に耐え切れなくなり、斑目は勢いで喋りだした。 「………やーーーその、ねえ!それはいいんですよ!別に俺二人の邪魔したいとか思ってないし! ただ単に、その…もう会えんからね…」 「………」 「…………いや、スマン…」
31 :
卒業式前日19 :2006/02/16(木) 05:08:20 ID:FPS0vi9j
言わなきゃ良かったかな…春日部さんを困らせるぐらいなら… 「…そんな、謝らないでよ。それにこっちも謝りたいことあるし」 「…へ?何を」 思わず顔を上げる。 「よく口ゲンカしたじゃん、オタクがどうこうって。…アレ、八つ当たりだったんだよね」 「…八つ当たり?」 「コーサカにはぶつけられない疑問とか苛立ちとか、全部アンタらにぶつけてたからさ。 …昨日、コーサカと初めて喧嘩したんだ。その時コーサカに言われたんだ。 やっと僕に向かって不満を言ってくれたね、って。 そう言われて、初めてそのことに気がついたんだ。 でもこれからもコーサカとやってく以上、それじゃいけないなあって。 …だからまぁ、アンタには迷惑かけたかな、って」 「いや別に迷惑じゃねーし。口ゲンカもある意味楽しかったしな」 「アハハ、そうだね」
32 :
卒業式前日20 :2006/02/16(木) 05:09:01 ID:FPS0vi9j
「まーお互い様ってことで、気にすんな」 「………その、気づかなくて悪かったね…」 「へっ!?いや、それもまあ、気にすんな!!」 「…悪い気はしないかな?アンタに言われるなら」 「え!?いや、は、ハハハハ…」 「あははは…」 二人して照れ笑い。 「……まぁ俺、良かったよ。春日部さん好きになって」 さらっと言ったつもりだったが、ふと見た春日部さんの顔がみるみる赤くなっていく。 「…へ?」 うつむいてしまった春日部さんを見て何事かととまどう。
33 :
卒業式前日21 :2006/02/16(木) 05:09:39 ID:FPS0vi9j
その時、ポン、と春日部さんの手が斑目の左肩に乗る。 思わずビクッとする。 「……こんな風にしか言えないけどさ。ゴメン」 下を向きながら申し訳なさそうに笑う。 肩に乗った手はすぐに離れた。 一瞬の温もり。余韻。 触れたい… 唐突にそう思った。 抑えていた感情が一気に膨れ上がる。
34 :
卒業式前日22 :2006/02/16(木) 05:10:45 ID:FPS0vi9j
ブルルルルルッ ブルルルルルッ 突然くぐもった音が響き、二人はビクッとする。 「……あ」 春日部さんは、机の上に置いたカバンの中から携帯を取り出す。 「コーサカからメール…」 「あ?あーー、そう」 『コーサカ』の名前に、一瞬後ろめたいものを感じる。 しかしさっきから、何でこんなにタイミング良く… 「そういや、トイレ行くって出て行ったきり戻ってきてないな」 「あっ…そだね」 「………高坂、何て?」 「校門で待ってるから、話が終わったら降りてきてね、って」
35 :
卒業式前日23 :2006/02/16(木) 05:22:21 ID:FPS0vi9j
春日部さんは慌てて立ち上がる。 「じゃ、ゴメン、私行くわ」 「ん」 「今日、話できて良かったよ。…明日の卒業式には顔出すんでしょ?」 「おう、そのつもりだけど」 「…じゃ!また明日!」 「ん、じゃあな」 バタン。ドアが閉まる。早足で遠ざかる足音。 しばらくの間呆けていた。 さっき一瞬だけ、肩に手を置かれたときの感触を思い出す。 俺あの時なんて思った?思い出して赤面する。体中が熱くなる。 (…引かれなかったな。高坂の言うとおり) 深い安堵のため息をつく。 そして気づいた。心がすごく軽くなっていることを。
36 :
卒業式前日24 :2006/02/16(木) 05:23:19 ID:FPS0vi9j
校門の外にいるコーサカを見つけ、早足で歩いていた咲は走り出した。 「おかえり」 「へ?」 おかえり?コーサカの言葉の真意がわからずとまどう。 二人はゆっくりと歩き出した。 「…あの、さっきのメール…話が終わったらってあったけど、ドアの外で聞いてたの?」 「うん、というか知ってたんだ。斑目さんの気持ち」 「えっ、そうなの!?………あれ?…今日呼び出したのって…」 何やら考え始めた咲が気づく前に、コーサカは答える。 「僕ね、斑目さんにきっぱり諦めてもらおうと思ったんだ」 「え…」 「咲ちゃんのことを」
37 :
卒業式前日25 :2006/02/16(木) 05:24:12 ID:FPS0vi9j
「………なんかコーサカらしくないね」 「そう?僕は僕だよ。自分のしたいように行動しただけ」 「だからって、なんで斑目に告白…?」 「そしたら、咲ちゃんがスッパリ振ってくれると思ったから!」 「…………………」 「ん?」 「…コーサカも、ヤキモチ焼くこととかあんの?」 「あるよ」 コーサカはいつもの笑顔で即答する。 「…へえ、コーサカがねえ…」 ふだん分かりにくいコーサカの感情を垣間見れたことに、喜びがこみあげてくる。 「コーサカ」 「ん?」 「私のこと好き?」 「好きだよ、咲ちゃん」 自然に手をつなぐ二人。 それ以上何も言わず、二人はゆっくりと歩いていった。
38 :
卒業式前日後編あとがき :2006/02/16(木) 05:26:10 ID:FPS0vi9j
以上です。 くはー!!!長かった!!! 書き上げるのに2週間もかかってしまった!!! 最近こればっかやってたなあ… 「こんなの(斑・咲・高坂)じゃない!!」 と思った人すいません。ワシの中ではこんななんです。 ジオングとエルメスとギャンの性質をワシなりに考慮したつもりです。 (詳しくはオフィシャル&ガンダム占いで。) しかし難しかった!斑目の告白 どんなシチュ妄想してもなかなか告ってくれないんだも… てか色々盛り込みすぎ…? さて。この話は続編も考えております。「卒業式当日」 次はコメディーでいこうと思います。 頑張るぞー!おー!
>卒業式前日後編 高坂鬼やなー! でも決着を付けておくことは、斑目にとっても高坂にとっても(そしてひょっとしたら咲ちゃんにとっても)必要なことだったのかもしれない。 それに高坂の「本気の恋愛感情」を1度ハッキリさせることは、咲ちゃんにとっては必要だったと思う。 斑目もこれで、好きな気持ちに決着付けて明日へ進んでいけるんじゃないかな。 また唐突な連想でスマンが、昔アニマル浜口がジャンボ鶴田とシングルでやった時、負けた浜さんがコーナーポストに登って「負けたー!」って絶叫してたシーンを思い出した。 斑目、気合だ!
>卒業式前日後編 高坂がメールをしたのは不安だったからかな・・・と想像してみたり。 私は高×咲という関係性が好きで、高坂の奥にある感情をいつも憶測してみたり。 うん。いい。 うまくまとまってて、とても心地よくなった。 斑目はこれからっしょ。と、マジで考えてしまうのだなあ。
>>卒業式前日 それなんて木尾クオリティ?(最大級のホメ言葉です) 斑目せつないよ斑目〜
>>25-38 うんうん、斑×春はこーいう決着が清々しい・・・・
斑目さんもこれで新しい第一歩を踏み出す事になるんですよね〜
その先にたとえ地獄があったとしても。でも何かのきっかけで
よい縁が来る事を望んでやまない自分がココにいます・・・・斑目たん強くイキロ゚(゚´Д`゚)゚。
43 :
木尾 :2006/02/16(木) 13:14:53 ID:???
よし! 斑目・咲ネタは貰った! メモメモ
今日の木尾先生は何号だろう?
45 :
木尾 :2006/02/16(木) 14:24:06 ID:???
ばかもーんその木尾がルパンだー!
46 :
木尾 :2006/02/16(木) 15:11:34 ID:???
>>43 >>45 何度言ったら解るのかね?この私を語るんじゃぁない!!
当然そのネタも わ た し の も の だ !
カツカツカツ...シャシャシャシャシャー
先生たちまたキター!
これはある意味、名物みたいなものかな……?
SSスレのマスコットアイドル「たち」です。
>第801小隊 第七話 密林の戦い(後編) 一気に読みました。臨場感あるね。ガンダムが見たくなった。 最近のシリーズはよく知らないんだけど、戦争のリアリティーや内面の葛藤とかは やっぱりファーストでしか描かれてないのかな。 >卒業式前日 これも前編後編一気に読みました。俺、告白ですべったその後を描いてみた ことあるんだけど、(告白ですべる以外の光景が浮かばなかったから)これは しっくりくる。けじめのある内容だ。斑咲の友愛を感じさせる。高坂が 人間らしい。最後くらいは人間らしさ見せてほしいな、確かに。
>>卒業式前日 なるほど!!よく考えられてて納得しました! 僕もだいぶ前に斑目告白SS(咲爆笑→気付く→二人とも気付かないフリ)書きましたけど、 斑咲ふたりだけよりも高坂が必須というのは…GJですね。
52 :
卒業式前日 :2006/02/17(金) 02:02:36 ID:XSi5blLm
読んでくださった方、感想書いてくれた方アリガトウゴザイマス。
>>39 高坂は、ああみえてすごく周りが見えてるんです。
でも自分に関係あるとき以外は手を出さない。咲ちゃんのフォローはする。
ただ、今回は自分だけしか斑目の気持ちに気づいてないようなので、助けるつもりで悪役をやった。
…と、いう自分設定です。ワシの思い込みでもあります(汗)
>>40 ワシも高×咲の関係は大好きです。…でも斑目のことを思うと…くぅ…複雑な気持ちです。
>>41 あわわ、そんな、もったいないお言葉。なんかすいません…(^^;)
>>42 原作で、いつか書かれたらいいなあ、斑目の春。外伝とかであればいいなあー
>>43-46 木尾さんたちにそう言ってもらえて嬉しいですwww…二番目の木尾さんは銭形w
>>50-51 「斑目の告白・告白その後」SSをまとめサイトで読んで、もともと頭でくすぶってた妄想に引火して今回の話をかくきっかけになりました。
この話と、「げんしけんの秘密」が大好きです。本当にありがとうございました。
長文長々とすいませんでした。
木村カエレのように、グルグル回りながら次々人格を変えて書き込みを続ける木尾先生…
間違えて前スレの投稿したんですけどまたこのスレで投稿したほうがいいでしょうか。 迷惑をおかけしてすいません
55 :
マロン名無しさん :2006/02/18(土) 01:17:44 ID:E+17OG4y
>>54 SSスレその3で読んできました。ふむ…
前スレで読めるので、このままでいいかと思います。
初投稿の時は色々わかんなくて苦労しますよね。私もそうでした。
文としては、オチというか、起承転結の結が欲しいな、と思いました。
私も斑目の話考えるの好きなんで、これからも頑張って書いてみて下さいね。
>>54 今読んできた。
まあまずは書いてみることが第一だから、思いつくままに書いていけばいいと思う。
ただ書く前に(あるいは書きながら)次のことは考えた方がいい。
・自分は何をテーマに書きたいのか
・どういうストーリー展開にするのか
・オチをどうするか
・あとオリジナルのキャラを出すなら、何の為に出すか、そのキャラに何をさせるかを考える
(一般に名前のあるキャラには、何らかのストーリーの主軸に絡む役割が与えられている。その場限りの機能のみを求めらめるキャラなら、役名はいらない)
さて、10分ぐらいしたら12レス分で書き込みます。 荻上の現視研直前の話を書いてみたくて書きました(そのまんまやんけ)。
とある東北の女子高では、今日が卒業式のようだ。 和装や礼服の父兄、父母の姿も見えるが、やはり主役は卒業生。 別れを惜しみ涙をハンカチで押さえる女子高生たち。 あるいは最後の楽しみとばかりに談笑しながら 連れ立って打ち上げに向かう集団。 皆、高校生活を謳歌し、新生活に向けて晴れやかな顔をしている。 その中でも浪人した者や受験が終わっていない者はスッキリしていない。 その構内に、誰とも連れ添わず挨拶もせずに一人で歩く、背の低い 厚い眼鏡の卒業生が居る。荻上千佳その人だ。 この子も卒業式だというのにその顔は暗く疲れが浮かんでいる。 談笑している友人達の方に目をやると、一瞬寂しそうな色が浮かんだ かに見えたが、黒目がちな鋭い目のまなじりは吊り上がり、 怒っているような様子になった。 彼女もまた浪人決定なのだろうか。 歩いていく前方に卒業生を送る担任教師の姿を見つけると 別れの寂しさでも感謝の笑顔でもなく、無表情になった。 「あ、先生、とりあえず3年間担任ありがとうございまシタ」 「そうね、卒業おめでとう。東京での学生生活頑張ってね。大学合格もおめでとう」 祝福の台詞とはうらはらに、その表情は卒業生を送り出す 達成感は無く、いかにもぎこちない。 そして別れた後に、肩の荷が下りたといった仕草をして、溜息をついた。 ベテランの女教師らしからぬことだ。 同じ時、荻上の方も、(ああ、清々した……)といった 様子だったのでお互い様だが…。
部活の先輩を見送る後輩たちと別れを惜しむ一群の横を 無表情に通り抜ける荻上。 3年間を過ごした高校だというのに、別れを惜しむ人、 祝福を述べられる人など、只の一人も居ないのだろうか? その背の低い眼鏡の少女は、一人で校門から出て行きかけると 目つきが険しくなった。 背中ごしにヒソヒソと、いや、聞こえるように会話しているのが聞こえてくる。 卒業生のグループのようだ。 「……見てよ…れ……」 「……ホモ上じゃ……」 「なんか椎応…行く………」 「東京……良いな……」 「やっぱり………だから………」 「……友達居ない…」 「無理無理……」 「………秋葉原………オタク……」 アハハハハと、そのグループから笑い声が上がる。 荻上の背中に受ける、とぎれとぎれの言葉。 一人で歩く小さな体から怒の熱が滲み出て、怒気が目からほとばしる。 「馬鹿はほっとけ……!!どうせ二度と会わね」 自分に言い聞かせるように呟くと、荻上は高校を振り返りもせず 躊躇うことなく門を出た。 その足どりは早くなり、さっきまでの疲れたような陰と重さを 校門の内側に置き去って、少し身軽になったように見えた。
一月余り経って、ここは東京、椎応大学の入学式終了後。 初日の履修手続き説明会などが終わると、新入生たちはさっそく 同じ学科の者、気の合いそうな者と新しい友達を手探りで作り 数人で連れ立っては歩いている。 高校時代一人で居たあの少女、荻上千佳はその輪に入っているのだろうか。 いや、地味な眼鏡と髪型はイメチェンしているものの、 今日、自分から人に話しかけた様子も無い。 「授業、何を取るの?これから学食行って俺らと相談しない?」 などと誘ってくる同級生の男子グループも無視してしまった。 「ねえ、一緒にシーズンスポーツ同好会見に行かない?」 などと誘ってくる女子学生も居たが、曖昧な返事で断ってしまっている。 新入生らしき女子大生が一人で歩いていると、軽いノリで上級生が サークルに誘って来たりもしているが、馬鹿にしたような視線を送り 「興味有りません!」 と、きっぱり断っている。 しつこい勧誘には 「ちゃらちゃら遊んでる、あなたみたいな軽い人たちは嫌いなんです」 と、厳しい言葉を投げつけている。大丈夫だろうか……。 結局、大学に来てもまた一人になっている。 その状況に自嘲的な笑みを浮かべながら歩く荻上。
やがて、ひとつのテーブルの前で足を停めた。 ノートに1枚物のイラストを描いて、台詞を入れて遊んでいる眼鏡の男。 ここは漫画研究会のブースだ。 「ん?漫画に興味有るの?読むだけでも良いんだけど」 「いえ、一応描けます」 「それはすごい、有望な新人だねぇ。じゃココに名前書いてね」 そう言ってさっきまでイラストを描いていたノートを差し出す。 どうやら新入会員募集用のノートだったようだ。 絵の隅に書いてあるサインは「ヤナ」とある。 「サークル室の場所と活動時間はこのチラシを見てね」 と、コピー用紙を1枚渡された。それに目を落とす荻上。 「あ、僕は会長の高柳って言うんだ。よろしく」 「……なんかこの絵、オタくさいだけじゃなくてホモくさいんですけど」 「え?いやウチの女子会員さんたちの合作でね、女性向けというか」 見ると、新勧用のチラシは男女用2種類作られている。 「ホモ好きに見えましたか?オタクっぽかったですか!?」 言葉こそ初対面で丁寧だが、急に不愉快そうになった荻上に 高柳は少し焦る。 が、有る意味で女性慣れしているのですぐにフォローする。 「いやそんな、全然そんな風に見えないよ? この絵もそういう意味じゃないから…ね? うちでは普通の範囲内だし……」 「……そーですか」 「ま、まあ漫研でも、いかにもオタクっぽい奴も、一般人っぽいのも居るし ともかく、また是非サークル棟に来てみてよ」 会釈をしてその場を去る荻上を見送った高柳は、冷や汗をぬぐう仕草をした。
「荻上千佳と言います。漫研は初めてですが、絵を描くのは好きでした」 新会員が数名揃ったところで、部室での自己紹介となった。 今日のところは、男子3名に女子2名といったところだ。 さっそく先輩会員たちの雑談に加わるほかの新入会員たち。 「最近読んでる雑誌ってなんなの?」 「いや、こないだまで受験であんまり読めなかったんで」 「ジャプンとマガヅンどっち派?」 「私はジャプンよ、愚問ね」 「拙者はチャンピョンが今一番アツイと思うんだが」 「なんか絵が重いのよね」 「しかもREDが最高!!」 「すんません読んでません」 「むしろビームズとかガソガソじゃないのか」 荻上は、その様子を眺めている。 『げっ…オタくさい会話……でも漫研だし漫画の話で当然だし』 隣の高柳は少し心配そうにチラッと見たが、緊張こそしているものの 今日は少し楽しそうで安心した。 『でも、大勢で……なんかこの感じ、良いナァ…』 中学の文芸部時代を思い出すのだろうか。 しかし荻上の思考はそこまで具体的には思い出さない。 いや、思い出せないとも言える。 しかし楽しい雰囲気に加わる感覚は懐かしいものだった。 机の上の共用ラクガキ帳に手を伸ばすとパラパラと見てみる。 『上手い人も何人か居るみたい…流石……しっかし、オリジナルなんだか、 元ネタ知らないだけか分からないのも多いなぁ』
「…あ、机の上の鉛筆立て使って良いよ」 高柳に促されて鉛筆を1本抜き取る。 「…ん、んん」 軽く咳払いをして、適当にオリジナルで女の子の胸像画を描いてみる。 「ん?描くの早いね」 「へーーー上手わね」 「どれどれ……へーーー」 「即戦力!即戦力!」 ノートに人が集まってくる。 荻上は照れくさくも嬉しいようで、笑顔の上に無表情を重ねている。 『絵を描いて、やっていける場所なんだな………嬉しい』 高柳も荻上に話しかけてくる。 「えーと、はぎ…いや、荻上…さん。夏コミの原稿もたぶん有るから宜しくね」 「がんばります」 『よし、実家じゃおおっぴらに買えなかったけど、画材や道具を揃えよう!』 「あの、画材ってどこで買ってるんですか?」 「あー、それはね―――」 これからの学生生活に、東京生活に。いや、荻上自身の日常に光が差した。 かに見えたが………。
翌日、部室に行って見るとまだそんなに人は来ていなかった。 高柳と、先輩の女子会員が3人。 「ども………」 「ちわ〜〜〜」 「いらっしゃい」 高柳は一人で今日発売のウェンズデーを読んでいる。 女子会員はどうやらジャプンで連載だった「ヒカリの棋」について論争中だ。 幽霊の指導の下、ヒカリ少年がライバル達と競いながら将棋に励み成長していく。 「ヒカリってザイに対しては強気で受ける感じに――」 「それよりも攻めが少ないわね、あの漫画―――」 『うっわー堂々とヤオイ話……恥ずかしくないべっか』 話には加わらずに、何の気なしにヒカリの棋のイラストを描き始める。 ヒカリが駒を盤面に置くカットだ。 「ねえ、荻上さんはヒカリの棋ではどのカップリング?」 「………いえ、そういう話は、あんまり」 「ふ―――ん」 高柳がウェンズデーを読み終わったので、女性陣に手渡す。 そして荻上の描いたイラストを見て話しかけてくる。 「ふーん、線の感じが女の子っぽいけど、けっこう少年誌読んでる?」 「ええ、まぁ弟も居ますし」 「ちょっと俺も描いてみるかな」 荻上の描いた横に、高柳も描き始める。 線の太い絵柄で、昔から描いてたらしくちょっと古い感じもする。 「炎燃って知ってる?」 「ええ、燃えペンは面白いですね」 同じ構図だが、指にパースがかかっているし背中に炎を背負っている。 その差した駒が焦げて煙が上がっている。 高柳の絵を見てクスリと笑う荻上。
その頃、女子会員達はウェンズデー連載の「いせじゅう」について会話している。 柔道部を基本設定としたギャグ漫画なのだが。。。 「亀次郎って毎回さー、菊千世にヤられちゃって記憶飛ぶの笑えるよね」 「堂々とホモネタ描いちゃっても良いのかな、少年誌で」 「むしろウェルカムじゃん、あたしら」 「会長もそうでしょー。どう?」 「ん、まあね…認知されてる……のかな(汗)?」 『あっけらかんとホモ話なんかしやがって、許せないわ』 内心ご立腹の荻上だが、容赦なく話かけられる。 「荻上さんもこっちに来て話しようよ」 「どーしてそんなにホモが好きなんですか!?」 「え……?何言ってるの?自分も読むんでしょ」 「まーまー、荻上さん抑えて抑えて、ね?」 高柳の額から嫌な汗が吹き出る。 「私は読んでません!オタク扱いしないで下さい!」 中3から高校3年間にかけての条件反射か、反発してしまう荻上。 『なんでそんなに堂々として居られるのよ!しかも人に押し付けて!』 まだ押し付けるという程では無かったのだが……。 荻上の脳裏に中学時代の記憶が具体的に戻りはしなかったが 不快感が胸の奥に込み上げる。 『……苦しい……苦しい……憎い…………何が?自分が?ホモ趣味が?』 胃が痛い気がするし、呼吸が苦しくなってきた。 見た目、青ざめて具合が悪そうな顔色になってきた。 「は?漫研に入っておきながらオタクじゃない?」 「漫画は読むし描きますけど、ホモは嫌いです!」
「えー、怪しいなぁ………」 「そうね、怪しいわね」 そのうちの一人がロッカーからヤオイ同人誌を取り出した。 「ほらほら、それなら試しに1冊読んでごらん、楽しいよ」 「けっこうです!恥ずかしくないんですか!?そんなの鞄から取り出して」 「何言ってるの、漫研女子としては必須科目よ(笑)」 「だからっ、だからオタクは嫌いなんですよ!迷惑なんですよ!」 女子会員達も笑っては居られなくなってきた。 「ちょっとー、さっきから自分の事を棚に上げすぎなんじゃないの」 「まっまあそれは、〈心に棚を作れッ〉っていう名言が有ってね――」 「会長は黙ってて下さい!!」 「読みなさいよ!早くそれを」 テーブルに置いたヤオイ同人誌、ヒカリの棋アンソロものを指差す先輩女子会員。 かなりの厚みのあるものだ。 「読みませんったら!」 ガシャーーーーーン テーブルごと付き返す荻上。椅子がなぎ倒され、ロッカーなどにも色々と当たる。 その表情は具合の悪そうな様子を覆い潰して、手負いの獣といった雰囲気だ。 「何するのよ!」 がしゃーーー 押されたテーブルは押し返される。 「ホモ趣味なんて、オタクなんて、女オタクなんて―――死ねば良いんですよ!!」 荻上の小さな体の、どこからこんな大きな声が出るのだろう。 そしてその台詞が責めているのは、相手なのか自分自身なのか。 「あなたが死ねば良いのよ!カッコつけちゃって、自分がそうなんでしょ!?」 すると荻上は冷淡な笑みを浮かべて、左手の窓辺に手を掛けた。
「簡単に死ねばって言っちゃって…確かにこんな高さじゃ全然死なないですけどね」 「何言ってるの?馬鹿じゃないのアンタ!」 窓枠に後ろ向きに上る荻上。 「こういう事を言ってるんですよ!あと馬鹿はそっちでしょ!」 言うなり、そのまま落ちていく荻上。 高柳は部室内をテーブルで遮られ、近寄るのが一歩遅れた。 窓から下を見て落ちた荻上を見る女子会員達。 「な、何なの、あの子って一体―――」 高柳は部室を飛び出すと急いで荻上の所へと下りていった。 『2階なんて低いもんだな……足とか大丈夫っぽいけど、左手が駄目かも』 飛び降りてそのまま、荻上は痛いとも言わずに黙って座り込んでいた。 『せっかく、楽しく絵を描いていける居場所が見つかったはずだったのに――― 何やってるんだろ、あたし。何がしたいんだ………自分でもわかんね』 周りでは少し遠巻きに人が集まり始めている。 そこへ高柳が駆けつける。 『ああ、会長、すみません、私もう―――』 「大丈夫?荻上さん?」 急いでやってきた自治会への説明をしたりしてから、荻上を すぐ近くの総合病院の救急窓口まで付き添ってくれた。
「こんな時間まで、長い時間お待たせしましてすみません」 「や〜、頭打ってないと思っても、一応CTとか脳血管撮っといた方が良いからね」 病院のロビーから見える外の景色はもう暗くなっている。 付き添いは高柳一人だけだ。 「でもまさか、飛び降りちゃうとはねぇ」 「ご迷惑、お掛けしました」 「入院はしなくても良いの?ご両親に連絡は?」 「あ、いえ入院もしませんし、家にも連絡しません」 「まあ足より手で助かったのかな。左手だし」 苦笑しながら高柳は荻上のギプスに目をやる。 「そうですね、大丈夫です」 荻上は申し訳なくて、高柳の方を見ることが出来ない。 「誰か道連れにして落ちてたら〈暗黒流れ星〉だったんだけどね〜」 「?? 何ですかソレ」 「あ、いや冗談。古い漫画の話でね………」 「そーですか」 そして、しばらくの、沈黙。 高柳から話を切り出す。 「待ってる間に他の会員とも話したんだけど………」 「―――はい」 「やっぱりね、3年生や4年生も、お互い気まずいというか」 「ええ、もう辞めます………」 「………すまないねぇ」 「いえ、こちらこそスミマセンでした」 そうは言ったものの、明らかにさっきより落ち込んでいる荻上。 重い空気が辺りにのしかかる。
「他にも、この手のサークル有るけど、紹介しようか?」 「え?」 「いくつか懇意にしてるサークルがあってね。どう?」 「でも、私……」 「あんなに絵を描くのが好きそうだったじゃないの」 「…………はい」 「じゃ、さっそく明日行ってみようか」 「お願いしマス」 そうして翌日、現視研のドアの外に立つ荻上の姿があった。 『なんか漠然とし過ぎてない?このサークル』 高柳は今、部室に入って説明というか交渉をしている。 『でも、もう同じ失敗はしない。最初から言ってやるんだ、オタクが嫌いって!』 このドアが開く時、荻上の本当の学生生活が始まる。
異常…じゃない、以上です。 まあ、またこんなところを掘るのか!異常者め!って言われそうですが…中学時代に続き…。 しかし高校時代はSSでは難しくて僕には無理です。
71 :
マロン名無しさん :2006/02/18(土) 14:55:50 ID:E+17OG4y
>>夜明けの一秒前 リアルタイム乙! すごくうまくまとまってて良かったです。 高校時代(卒業式)の荻上の様子を、淡々と第三者的に綴る手腕に脱帽。 中学時代の悪夢のような出来事、高校時代の停滞。 それがあるから初登場時のあの暴言があるのだ、と改めて認識しました。 そして漫研の飛び降り事件。 そこにいたるまでの経緯がすごく納得できる展開でした。 荻上の今までの苦しみを、今読めてよかったです。 きっと今後は、そこから荻上がいい方向に変わっていく話が読めるのでしょうから。 GJ!!
>夜明けの一秒前 荻ダイブエピソード1キタ〜〜! と思ったら、あんただったのか東條監督! いやー相変わらずの掘り下げっぷりに感服しました。 それにしても、具体的に書くとやっぱりイタいね、初登場時の荻上さん。 でも荻過去知ったら、漫研女子との間の38度線は解消されて、腐女子の友情が芽生えるかも。 そういう明るい未来を望みたいものです。
>>58-69 乙。 もしあそこで荻が暴走したりしなかったら
高柳とフラグが立ってたかもしれんな・・・面倒見いいし、
漫研女子から荻をフォローしてあげたりして、色々相談に乗ってあげてるうちにそのまま・・・
それは一枚の葉書から始まった。 『現代視覚文化研究会OB会のお知らせ』 (誰が出したのだろう?) 笹原の疑問に答える人はいない。 就職後改めて借りたアパートの一室、酷く雑然としたその部屋に、たばこの煙が立ち昇る。 「もう5年か…」 つぶやきと共に記憶を遡る。 あれはまさに人生の転機だった。あの時間が無ければ、自分の趣味を隠しながら、一消費者として生きていただろう。時に無責任な批評をしながら。 それは酷く気楽で、仕事に疲れた今の笹原には魅力的に見えた。 編集という仕事を選んだ事には後悔はない。自分で作り出す事は出来なくとも、『共に』作りだす事はできる。作家の気まぐれに振り回されながらも、一つの作品を作り上げた時の喜びは決して嘘ではない。 とはいえ、この五年でろくな成果をあげていない事実は笹原を苦しめる。 上司の小野寺は「運が悪いな、お前」と一刀両断してくれた。自分の才能について質問した時は、「才能より成果を示せ」というつれない返事が返ってきた。それが小野寺流の慰めだと知っていても、堪えた。 たばこをもみ消し、葉書を睨む。 何の変哲も無い往復はがき。印刷された特徴のない文字。あて先は少し悩んだが、現視研の部室だと思い当たった。 笹原は何かを期待して、出席にマルをつけた。
「変わらないねえ、高坂くんは」 互いの近況を話しながら部室へ向かう。高坂の説明によると、高坂と咲の二人は卒業後半年で結婚したそうだ。お互いに酷く忙しくて、式も何も無く、婚姻届を出しただけ、との事だが。実際今でもあまり一緒にいられないのだそうだ。 それでも大丈夫なのか、という問いに高坂は、「大丈夫。ちゃんと愛し合ってるから」と満面の笑みで返してくれた。 (はいはい、ごちそうさま) 心の中でつぶやいて、サークル棟の入り口をくぐった。相変わらず雑然としているが、改装されたのか壁も床も天井もきれいになり、張り紙もほとんど無くなっている。少々寂しく思いながら歩く。 「そういえば春日部さんは来るの?」 「電話したら、表が明るいうちに店を空けられるか〜!って怒られたよ。でも、どうせ飲み会になるだろうから、その時は顔くらい出すって」 そんな事を話すうちに現視研の前にたどり着く。扉もきれいに塗り替えられ、小さ目のネームプレートに「現代視覚文化研究会」とある。少々緊張しながらドアをノックして、開けた。
そこには良く知った顔と、見知らぬ顔があった。 「お久しぶりです。斑目さん…と」 「お、おい。いくら久しぶりでも、そ、それはないだろ」 「あっはっは、やっぱわかんねーよ、普通。変わりすぎだって」 「お、おまえが変わらな過ぎなだけだろ」 見知らぬ顔は久我山だった。何でも一念発起してダイエットしたそうだ。体だけでなく顔つきまで変わっているとは…。 再び互いの近況報告。斑目は今も同じ会社に勤めているそうだ。さすがに部室に昼飯を食べに来る事はなくなったが。久我山は二度ほど転職して、現在は某社の事務をしている、との事。ちなみにダイエットの理由は、彼女に言われたから、らしい。 「田中さんと大野さんは?」 「さっきまでいたんだが…辺りを見てくるってさ。それに今や田中夫妻だしな」 「へえ、そうだったんだ」 「こ、高坂くん知らなかったの?結婚式の招待状、行った筈だけど…」 「いつ頃?…ああ、その時期は忙しくて会社に泊まりこんでたから…」 そんなやり取りを聞きながら部屋を見渡す。ポスターや並んでいる本は変わっても、基本的な配置は同じだった。並んでいる本の中に、自分が担当した作者の本を見つけ、軽くあわてる。 「どうした?笹原」 斑目の問いに何か答えようとした時、ドアが開き。 「「「ただいま〜」」」 と三つの声が響いた。二つはよく知った声。もう一つ、聞きなれない子供の声は、二人に手を引かれた幼女のものだった。 挨拶を交わし、三度近況報告。田中と旧姓大野とその娘については、全く知らなかったわけではない。田中は今ではコスプレ業界のカリスマwとして結構有名になっている。おまけに妻と娘がこの間のコミフェスで親子でコスプレして話題になっていた。 「こーにゃにゃーちわー!」 能天気な声と共に朽木登場。異常にハイテンション。無駄に騒いで、すべって、転ぶ。沈黙が痛い。視線が痛い。特に田中の娘の視線は絶対零度。でもくじけない。 「どうでしたか〜!最近芸人を目指して猪突猛進してるであります!」 部屋に皆のため息が満ちる。 結局、高坂の「普通に喋れば?」の一言で常態にもどった。 そして。 「…こんにちは」 聞きたくて、聞きたくなかった声が聞こえた。
一通り挨拶をかわす。 「それで今何をやってるんです?」 「普通に会社勤めしてます」 「ところで漫画の方は?」 「やめました」 「全くやめちゃったの?」 「はい」 旧姓大野と会話する荻上から目を逸らし。別の事を考えようとする。思い出す。思い出してしまった。 あれは卒業式の日。 「別れましょう」 荻上の唐突な言葉に、声が出ない。 「就職したら笹原さんも忙しくなるでしょうから…邪魔になりたくないんです」 そんなことはない、と何度も訴えた。けれど返ってきたのは、 「もう決めましたから」 という言葉だった。 その後は良く覚えていない。多分酷い言葉で彼女をなじったと思う。ただ、彼女は決して涙を見せなかった。そして、去り際に浮かべた寂しげな微笑を、覚えている。 その後一年は忙しくて思い出す暇さえなかった。二年で苦痛になり、三年で稀になり、四年で忘れた。忘れたと思いたかった。 ちらりと視線を向けると、あの頃のままの少し不機嫌そうな顔で話す彼女がいる。 さらに視線をめぐらすと、何か言いたげな斑目に気付く。 「何か?」「いや」 短く言葉を交わす。短い沈黙の後、思い出と近況を話し合う。彼女の思い出に触れないように。
「やあ、だいたい揃っているようだね」 外が薄暗くなってきた頃、ドアを開ける気配すら見せずに初代会長が現れる。全然変わっていない。容姿もその態度も。 「今回皆を集めたのは、最後を見届けて欲しかったからなんだ」 「うん、今年で終わりなんだ。部員がいなくなってね」 「ああ、それはいいんだ。この部屋はそのまま倉庫になるだけだから」 「どうやって?本当に知りたい?」 皆の矢継ぎ早の質問に淡々と答えを返す初代。 「じゃあ、そろそろ行こうか?」 一通り質問が終わると、唐突に切り出した。飲み会をセッティングしているらしい。 皆が部屋を出る。閉じたドアに初代が鍵をかけ、ネームプレートを取り外す。それらをポケットに入れ、初代は歩き出す。(返さなくていいんですか?)と皆が思ったが、聞いた人はいなかった。
「じゃあ、そろそろ行こうか?」 一通り質問が終わると、唐突に切り出した。飲み会をセッティングしているらしい。 皆が部屋を出る。閉じたドアに初代が鍵をかけ、ネームプレートを取り外す。それらをポケットに入れ、初代は歩き出す。(返さなくていいんですか?)と皆が思ったが、聞いた人はいなかった。 会場はごく普通の居酒屋だった。少しほっとする一同。そして皆が席につく頃には初代の姿は無かった。「会計は済んでます」という伝言を残して。 飲み会はしめやかに始まった。何かを思い出していたのかも知れない。それが変わったのは、朽木の空気を読まないギャグのおかげだった。 「「こんばんわ」」 宴がそこそこ盛り上がっている中、咲と恵子が現れた。ちなみに恵子は、学生時代の借金のカタに咲の店で働いている。実際には普通に給料をもらって、それから借金分を天引きされているのだが。返した側から借りるため、完済はいつになるのかわからないそうだ。 二人を加えて宴はさらに盛り上がる。そんな中、荻上の笑い声を聞くたびに、笹原は傷ついたような気がした。
宴は、眠り込んだ娘を抱いて田中夫妻が退席すると、それを皮切りに咲と恵子が、高坂が、久我山が帰っていった。3人で静かに飲む。 「よし、じゃあお開きにするか!」 斑目の提案に賛成する。そして店を出たところで物陰に引きずりこまれた。 「なんなんですか、いったい」 「笹原…言いたい事があるならちゃんと言っておけ」 「斑目さんに言う事なんてないですよ」 「違う。荻上の事だ。…何があったかは知らんし、知りたくも無い。でも、言いたい事があるなら彼女にちゃんと言え」 「斑目さんには関係ないでしょう!」 怒鳴る。苛立つ。抑えてきた、忘れたはずの感情が蘇る。それが怒りなのか、悲しみなのか、後悔なのか、思慕なのかはわからない。ただ、それは笹原を責めたてた。これでいいのか、と。 「関係はないさ…ただ、言いたい事をいえなかった人間がどうなるか、を知ってるだけだ」 それだけ言い残して斑目は去っていった。
店の前には荻上が一人立っていた。 「えーと、荻上さん?」 声を掛けたはいいが、次の言葉が見つからない。頭の中がぐるぐる回りだす。何か言おうと思った時、 「ようやく話し掛けてくれましたね」 そう言って彼女は軽く微笑んだ。 その後、彼女に誘われ、一緒にタクシーに乗り、彼女の部屋へ行った。机に載ったトレス台に気付く。 「あれ、漫画やめたんじゃ…」 「嘘です。でも…誰にも見せない漫画なんて、意味ないですよ」 「どうして…」 「…わからなくなったんです。自分が何を描きたいのか。何をしたいのか」 「あれから何回か本を出しました。売れた時も、売れなかった時もありました。買ってもらえることが嬉しくて、皆が好きそうな物を描いて、それで本が売れて…」 「皆が私を受け入れてくれた気がして…嬉しくなってもっともっと描きました…でも気付いたんです。自分が、好きでもない作品の、好きでもないキャラを、好きでもないシチュエーションで描いてることに」 「ずっと私の本を買ってくれた人がいるんです…コミケの外でも会って、いろんな話をしました…でも、この前言われたんです。『荻上さん、嘘が上手くなったね』って」 「ショックでした…それで、本当に自分が描きたいものを描こうとしたら…何も思いつかなかったんです…」 「描いても、描いても、そこにあるのはいつか見たようなシーンと台詞しかなくて…」 告白を続ける彼女。その顔にはいつか見た寂しげな微笑。
(ああ、俺は馬鹿だ。彼女は泣いていたんだ。悲しくて、苦しくて、でも俺に迷惑を掛けたくなくて、必死に堪えていたんだ。) 彼女を強く抱きしめる。彼女が暴れる。 「同情なら止めてください!」 「同情なんかじゃない!」 彼女の肩をつかんで顔を覗き込む。 「俺はまだ荻上さんが好きだ。だから力になりたいし、一緒にいたいんだ!」 「嘘ですね」「嘘じゃない!」 頑なに拒む荻上に業を煮やし、むりやり唇を奪う。そしてきつく、きつく抱きしめた。 やがて唇が離れ、彼女は笹原に呟いた。 「痛かったです」 「ゴメン」 「ひどいです」 「ゴメン」 「…もう二度と離さないでくれますか?」 荻上は顔を赤らめて尋ねる。 「誓うよ」 笹原の言葉に、彼女は、泣きながら、笑った。 それからも笹原の忙しい日々は続く。相変わらず担当作品の評価は伸びない。加えて家にはもう一人の担当作家がいる。それでも頑張る。売れるだけでも、作者の自己満足だけでもない面白いものを目指して。 「ずいぶん張り切ってるな。なんかあったか?」 「いえ、目標を再確認しただけですよ…ねえ、小野寺さん。」 「なんだ」 「誰かに必要とされることって嬉しいですね」 小野寺は呆気にとられた顔をすると、処置なし、と言わんばかりに肩をすくめ、自分の仕事に帰った。
OB会で完璧に無視されるハラグーロ&過去のげんしけんOB達
疲れました。やっぱりフルメンバーなんて出来ません。後半に出てくる人物は台詞も ろくにないし。 おまけに読み返したら、欠損と重複が。欠けた方は無くても大差ない部分でしたが、重複分は 脳内で削除してください。
ついでに、後半はほとんど「それ何てエロゲ」ですね。 一応言われる前に。
>いつか見た夢の続きを 内容はいいんだから、後でいろいろ言い訳するのはやめれ。 俺はあの重複した分は、何かの演出効果かなと思った。
88 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:20:13 ID:2MycS4rc
はじめて書いてみました。 恥ずかしながら投稿させていただきます。 お手柔らかに。
89 :
& ◆3eNs7crgZ. :2006/02/19(日) 05:21:26 ID:2MycS4rc
斑目は疲労の染み込んだ体で帰路についていた。 合宿から帰って早半月。 笹原と荻上は案の定くっつき、今は宜しくやっている。 一方、社会人で彼女もいない斑目は、合宿以来、仕事仕事の単調な毎日の繰り返しであった。 斑目の職種は事務職。現場で汗を流している社員からは楽そうだと羨ましがられるのだが、 一日中椅子に座ってディスプレイを眺めているのも、結構疲れるものだ。 (ふぅ〜、あー、学生にもどりてー…。てもしゃーないか…。) 今日は土曜日。ようやく一週間の仕事を終えて、明日のアキバ巡回に思いを馳せた。 しかし…、少し空しい。 (あんあ〜、笹原はアキバも荻上さんと一緒にいくんだろうな〜。 俺も春日部さんと同人ショップ巡りしたいよ…、ってそりゃぜってームリだな…) もう9月も終わりが近づき、風は徐々にその熱を失ってきていた。 今日は特に時折ゾクリとするような寒い風が吹く。日が沈むのもだいぶ早まった。 (そろそろ冬物のスーツ、クリーニングに出しとこ…) そう心の中で呟きながら、斑目は通いなれたスーパーの買い物カゴを手に取った。 昼はコンビニ、夜はスーパーのお惣菜というのが、最近の斑目の定番になっていた。 「あれ、斑目さんじゃんっ!」 甲高い声に斑目は顔を上げた。
90 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:22:12 ID:2MycS4rc
「ん? ぁあ〜、笹原妹…じゃなかった、恵子ちゃんか…。何してんの?」 くたびれた斑目とは対照的に髪型からアクセサリーから靴までバッチリにキメた恵子が、 オシャレっぽい紙袋と買い物カゴを片手にそこに立っていた。加えて、いつも以上に濃い化粧で…。 「あー、今は買い物。これからアニキんとこに行くとこだからね。ま、買出し。」 ふ〜ん、と斑目は相槌を打つ。 恵子が笹原宅をホテル代わりに使っていることは、未だに現視研部室に出入りしている彼はよく知っていた。 恵子が部室にいることも度々である。が。 (あ〜、やべ。笹原妹ってあんま話ことねぇーぞ…。どうすっかな……。つか名前で呼んだのも初めてかも…。) 疲れた体に更に疲労がのしかかる…。 一方、恵子も。 (う。会話途切れたよ…。マジで話しことあんまねぇし。まあ、無視するわけにもいかんからねー。 声かけたのは正解…だよなぁ…。) 二人の間に微妙な空気が流れた。 「あ〜、斑目さん、今日仕事だったんだぁー!」 無理からに声を張る恵子。 「うん、そ…。んで、飯買いにきたの…。何かそっちは酒ばっかデスネ。」 恵子の買い物カゴにはビール、チューハイ、ワインなどなど…。あとは菓子のみ。 「あー、いやねー、今日ホントはさ、友達と遊び行って、そのまま友達んちに泊まるはずだったんだけどぉ、 何かイキナリそいつのオトコが来ちゃってさー。マジむかついたんだけど、仕方ねーから追い出されてやったのよ! もう急遽よ、急遽! やってらんねーよ。」 「あ、じゃあ、それ。笹原への手土産なわけだ…。」 「まま、楽しく呑もうと思ってね。アニキも彼女できたし、こういうのも必要ってことを教えてあげないとさっ。」 ふ〜んと斑目。 (あ、だめだ。続かない。くそ、このオタクめ。ちっとは気ぇー使えよ! アニメの話なら何時間でも続けるくせにっ! 仕方ねーな…、て、まあ好都合だったかな?) 「斑目さんも来る? つーか行こうよ! 明日休みなんでしょ?」
91 :
& ◆3eNs7crgZ. :2006/02/19(日) 05:23:03 ID:2MycS4rc
「え?」 急な誘いに、斑目は急に背筋が伸びた。 「あ〜、ま〜、でも邪魔じゃない? 荻上さんとかいないのかな?」 「だからじゃ〜ん。アニキ達二人のとこにアタシ一人乗り込むのはヤなのよ。ほら、はいはい行くのけってぇ〜!」 「うわ、決定されちゃったよ…。」 しかし、まんざわ悪い気もしない。というか、むしろ嬉しい。あー、久しぶりに楽しく酒が呑める。そんで笹原と荻上を冷やかしたり、 からかったり、イジリ倒せるじゃないか! 疲労の奥からムクムクとテンションが上がっていくのを斑目は感じた! 「んじゃ、行くかあ!」 「おお、元気でたじゃん。」 「よし、呑む! そして笹原を冷やかす、いじる!」 「じゃ、これの代金、割り勘で頼むね。」 「えぇぇーー、つーかそれが狙いかいっ!」 「いーじゃん、お金ないんだもん。斑目さん、社会人でしょ! 一応割り勘って言ってんじゃんよー。奢りじゃないだけいいじゃん!」 「まま、いいのデスケドネ。そのくらいは。」 (ま、先輩だしな、こんくらいはね…。) と納得する斑目。 「んじゃ、もう会計行こーか。」 「あ、ちょっとまって。こっちの惣菜も買ってく。俺、飯食ってねーから。」 「あ、そっちは別会計で頼むね。斑目さんのだから。」 「うわ…。」 (マジカヨ…。) やはり現実の妹は恐ろしいなと斑目は思った。
92 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:23:42 ID:2MycS4rc
「おい…。」 恵子のオシャレ紙袋を含めて全ての荷物を持たされた斑目が後ろから声をかける。 「笹原んちの電気…。消えてんですけど。」 「あ、ホントだ。」 「鍵もってんの?」 「ん、もってないよ。コンビニでも行ってるんでしょ。ちょっと電話してみる…。」 携帯を取り出して開くと、画面にメールの着信が表示された。 件名は、『悪いんですけど』。 悪いんですけど さっき来ていいといったが、ち ょっと用事でこれから出る。明 日帰る 鍵はポストの下にガムテで張っ とくから、勝手に入れ 散らかすなよ あと、男をつれこんだら、コロ ス 「どーしよー、殺すってさ!」 恵子はいつものように大口を開けて笑っている。 「ははは…。」 斑目は苦笑を返した。
93 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:27:48 ID:2MycS4rc
「あー、じゃー、いーや、今回は。帰ってこれ食うよ。」 「えー、つまんねー! いいじゃん、呑んでこーよ、斑目!」 帰り道の会話で馴染んだのか、今や完全にタメ口、アンド呼び捨て。 「でもコロスみたいデスシ…。」 「え、なに? マジちょっと意識してんの? うわ、やらしー、ムッツリだよこの人。」 「ちょ、チゲーヨ! してないっつーの! 後輩の妹ごとき!」 「あ、ショー失礼じゃなーい? ソレ! じゃあーいいじゃんか。入ろ入ろ。」 う〜んと斑目は眉毛を歪ませた。 (あー、まー、いーか。別にそんなんじゃないしねぇ。期待もしてないし…。) 「ま、そういうことならお邪魔しマスヨ。」 恵子は電気を点けると、ガムテープの切れ端をグニグニと丸めてゴミ箱に投げた。 「おお、これが片付けてないリアル笹原ルームか!」 意気込んで見渡したもの、あんがい片付いてやんの。 「なんだよ、こざっぱりしてんじゃねぇーか。」 「まあ〜ね〜、最近はこんな感じ。オギーも来るようになったかんね。」 むむ、っと斑目の眼鏡が光った。 「あ、何、マジでもう来てんの?」 「来てるよー。チョー来てる。飯とか作ってもらったりしてるみてー。今日だってぜってーオギーのとこでしょ。」 「ふぇ〜、なんだよ〜…。」 ややヘコむ斑目。まあ、そうだとは思っていたが、あの笹原がラブラブしてるのはやはりちょっとショックだ。ていうかムカつく。 「その辺、適当に座ってよ。あ、レンジそこね。」 「あいあい…。」 斑目は適当に買い物袋をおいて、惣菜をレンジに突っ込む。 恵子はバックと上着を放って、座布団を引っ張り出すと、いそいそと酒盛りの準備した。
94 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:29:06 ID:2MycS4rc
「んじゃ、乾杯しますか? んじゃま、サルの幸せを祝して! かんぱ〜い!」 「かんぱ〜い…!」 恵子は勢いよくビールを飲み干す。 斑目も釣られるように一気にグラスを空けた。 「お、いいね、呑めんじゃん。」 「はは、まね。」 正直、さっさと酔っ払いたいのです。生涯をオタクとして過ごしてきたのであるからして、女の子と二人っきりというのは、 何だかもうそれだけでツライ。後輩の妹であっても。マジで耐え難い。油断すると変な汗が出そうになる。 酔うしかない。酔って場を和ますのみ! 惣菜を摘みつつ、斑目はちょっとオーバーペース気味に酒をあおった。 「おお、いくね〜、こりゃ負けてらんねー!」 置いていかれまいというわけでもないのだろうが、恵子も未成年とは思えぬ呑みっぷりでグビグビと飲み干していく。 しばらく呑むと、もう何か変なテンションが場を支配していた。 「あ゛あ゛〜、何か飯もういいわっ、呑も!」 「あ、じゃーこれちょーだーい、イカ刺し好きなんだよねー!」 「何だよ、食ぅーんじゃん、結局!」 「あははは、まーねー、ごちになりやすっ、先輩(はぁと)!」 「良い良いー。くえい、くらえい!」 (あー、けっこー酔ってなーオレ。疲れてたからなー。まーいーかー楽しいし。) 眼鏡を外して斑目は眉間の辺りを軽くマッサージした。 「あ、ちょっとストップ!」 イカ刺しをごっそりすくいならだ恵子が叫ぶ。 「うん? 何?」 「斑目の眼鏡外したとこ初めて見たよー。ちょっとそのままストップ、よく見せてよ!」 「あん?」 目を細めた恵子の顔が近づいてくる。
95 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:31:16 ID:2MycS4rc
眼鏡が無いので良く見えいないが、ちょっとドキッとした。至近距離の女子には免疫が無い。 (うわ、香水の匂いキツー…。)。 「ん〜ん。」 「…何だよっ!」 誤魔化すように大声を出したのだ。 (少し顔が火照ってるような気がする。いや、これは酒のせいか?) 「どーすか…?」 ぼやけた恵子の顔をまともに見れない…。 「…何か眼鏡ないと、顔、変だね。あははは!!」 「うわ、それはないデショ!」 力が抜けた。焦った分だけ、余計に恥ずかしい…。 「もう眼鏡だよ、斑目は。顔と一体化してるもーん!」 「あー、それ、前に春日部さんにも笑われた気がする…。」 「あ、そうなん?」 「いっぺん眼鏡を違うのにしたことあんだけどね…。…おもっきり笑われた。」 「だよー。」 「いや、一応眼鏡だったんだけどねぇ。」 「じゃあ、丸メガネ限定だあ。丸メガネ限定顔!」 恵子は自分のセリフにハマってさらにバカ笑い。 「俺の顔は丸メガネありきかよ!」 「あひひゃひゃはははは、だって変なんだもん。もう一生丸メガネけってーだよ、斑目は!」 「まーね…。(自分でも感じてないでもないですケドネ…。)」 「あ、怒った?」 ニヤニヤしながら恵子が尋ねる。 「いや、いーですよー。丸メガネ好きっすから!」 「まあーまあー、機嫌直して、呑みましょうよ、先輩(はぁと)。」 「へいへい。」 「ビールやめてこっちにしようよ。焼酎。最近ハマってんだよねー。」 恵子は斑目のコップに仰々しく焼酎を注いだ
96 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:32:23 ID:2MycS4rc
3時間後。 もう呑みっぱなし、菓子食いっぱなしで、斑目も恵子もベロベロになってきた。 「あのさー、ちょっと着替えていい?」 「えっ!」 ブバッと酒を吹く斑目。一瞬、酔いが醒めた。 「このカッコ疲れたあ。化粧も落としてーしぃ。」 恵子は酔っ払っていて、座っていてもなんだかフラフラしている。 「ああ、いいんじゃね…。俺あっちいってよっか?」 (何、焦ってんだか…。つくづくオタクだな…俺。) 「あーいい。アタシがあっちいく。斑目も着替えたら、Yシャツしんどいっしょ?」 「ああまあ、でも着替えねーし。」 「アニキの着りゃいいじゃん。ジャージか何かあるでしょ。テキトーに探して。」 ドタドタ足音を立てて、恵子は荷物とともトイレの方へ歩いていく。 斑目もフラフラと立ち上がる。 (ふわー、ひっさしぶりに酔ったなあー、ちょっとやべーかも。) 壁を支えにしながら歩くと、押入れの中のタンスを物色し始めた。 (おんや?) 着替えの中に斑目の琴線に触れるもの発見。斑目はスーツのベルトを外して、その服に着替え始めた。 「うす、お待たせー。」 ネズミ色のスエットに着替えた恵子が出てきた。靴下を脱いだ足で、ペタペタと歩いてくる。 視線が部屋の斑目の姿を捉えた。 「どう、これ!」 「……んんん、ぶはははーーーー、何だよそれーーー!!!」
97 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:33:25 ID:2MycS4rc
斑目が着ていたのは、笹原の高校時代の体操着だった。 「いやー、やっぱ高校のジャージは落ち着くよな!」 (キマッタ!) 狙い通りのボケがハマッて改心の笑みの斑目! 「うおー、アニキそんなん持って来てたのかよー! オタクっつーか、ダセーっついうか、いや、最高っすよ、先輩!」 「いやー、喜んでいただけて嬉しいデス!」 「うわー、名札はってあるよ。『3-1 笹原完士』だよ。しかも、丈短くてツンツルテンだー、くわはははーーーー!」 何だか気持ちよくウケたのとスーツから開放されたのとで、また妙に斑目のテンションもあがってしまった。 「よっしゃー。呑み直すかぁあ。今日はもう朝まで呑んだらー!」 再び天井知らずの酒盛り大会が再開された。 「そういやさー、ぶっちゃけて、笹原と荻上さんのアレって、恵子ちゃんどのへんで気づいたの?」 「ん〜?」 裂きイカをかじりつつ恵子は答える。 「もう、とっく! 冬頃には感じてたよ。」 「それはウソだー。冬って俺まだいたよー現視研、って今もいるけど。それはウソだ。」 「いんや、マジで。ウッスラ出てたのよ。そんな空気。」 「え、笹原から?」 「ちがうちがう、オギー。」 「え、荻上さん? マジデスカ?」 かぁーっと唸りつつ、焼酎を呑む斑目。 「じゃあ何? むしろ笹原が惚れられてたわけ? あの笹原君が?」 そう言うとまた一口あおる。 「あの笹原君だよぉ? ワタクシがアキバの歩き方を手取り足取り教えてあげた笹原君ですよ?」 「そーなんだよねー。」 恵子の手にあるのはワインだ。
98 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:34:44 ID:2MycS4rc
「あのサルに惚れる女もいたんだよねー。やー、人生に希望が持てるね、ある意味。」 ふははは、恵子は大口を開けて笑う。 「斑目はどうよ〜? どのへんで気づいてたー?」 「え、俺?」 う、っと言葉に詰まった。ちょっと冷や汗。 「あ、あああ、う〜ん、ま、俺、昼休みしかいないからね…。」 「えええ? もしかして全然気づいてなかったのー!」 「……春日部さんから教えてもらいましたよ…。」 「ワァー、マジ? チョーウケるんですけどお! さっすがオタ師匠だよねー! うわははは、いや、マジでウケるわ!」 「はは、あっはっはははは…。」 斑目は照れ笑い返すしかない。顔も少し赤くなっている。 「でもなんか『らしい』わ。斑目らしい! そういうの苦手っぽいもんねー、恋愛つーの? 男と女つーの? もうぜんぜんって感じだよね。」 「悪かったデスネ…。もーこっちは筋金入りのオタク星人デスカラ!」 (あーもー、言い返せねー!) 「笹原も地球に帰っちゃたしなー…。」 斑目はチーズおかきをチーズとおかきに分離させている…。 「ん〜ん…。」 恵子はクイっとワインを呑むと、ジト目で斑目を見据えた。今までと少し表情が違う。 真面目顔を装いつつ、その実、ワルーイ顔になっている。 「でも、斑目も好きな人ぐらいいるっしょ?」 「ぶっ! ええ?」 「いや、それはいるっしょ? それは! マジで! そこはぶっちゃけようよ先輩。」 「あ〜。」 腕組みしつつ考える。どう答えたもんかな…?
99 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:41:48 ID:2MycS4rc
(まあ、いいか、名前言うわけじゃねーし。) 「…まあ、いるわな…。そんくらいは…。」 「えー、いんのー? ダレよダレダレ?」 (あ、やべ、この展開…。しくじった。) 「そりゃー、秘密だよ、君ィ。言うわけねーじゃん。」 軽く焦っているので、斑目はあえて余裕のある態度に出る。しかし、視線は虚空を漂うのであった。 一方、恵子はジト目でしっかり斑目の表情を観察している。 「あー、こりゃ、現視研の誰かだね! じゃなきゃ、別にゆったってヘーキだもん。」 うっ…。 「まー、想像に負けせマスヨ。妄想は止めれませんからね…。ンン〜、名言だな、これは。」 (うー、やばやば、ここで引いたらいかん! あえて強気強気でいかんと…。社会人としての成長を今こそ発揮セネバ!) 恵子は酒のせいか、座りきった目で斑目を睨む。 内心ドキドキだが、斑目はポーカーフェースをきどっている。 「ん〜、大野さん?」 「………。」 「ん〜、春日部ねーさんか?」 「………(平常心、平常心)。」 「もしや、オギー?」 「………。」 「あー、アタシか。 「それだけはない!」 「くはー、シツレーだなあー、オタ師匠!」 グラスのワインを一気に空ける恵子。 「 ぐはー、ダメだ。酒回って頭まわんねー!」 (ふー、乗り切ったか。) 斑目は小さくため息をついた。
100 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:49:36 ID:2MycS4rc
「あー、ぜんぜん、手ェー止まってんじゃんよ、斑目ぇー。もう、お前もワインの呑めよ。こっちの呑め、こっちの白呑め。」 だんだんと絡みっぽくなってきた恵子に圧されて、再び酒に手を伸ばす。 しかし、やられてばかりでは形勢の悪化を招くばかり。 両肘をテーブルに付くと、今度は斑目がジト目で恵子を睨んだ。 「んじゃよ、お前さんはどうなんよ。高坂は。まだ諦めてないわけ?」 「あい?」 「春日部さん、強敵だよー。手強いよー。」 「わかってんよ、うんなの。」 ちょっと不機嫌そうな恵子。視線を外してあさっての方向に目をやる。 「実際、もう正味のとこ半年もないぜ、卒業までさ。」 (ま、それは俺もだけどな…。) 微かに自嘲の笑いが漏れる。 「まーね。もー、じゃー、ここだけの話、ぶっちゃけるけど。」 「おうおう。」 「もう諦めてんのよ。とっくに。」 「へ、そうなの?」 意外な言葉に斑目は驚いた。斑目の中の恵子は、とにかく高坂LOVEでグイグイ突っ走る恋愛マシーンのイメージがあったからだ。 脈があろうがなかろうが諦めない、どこまでも追いかける恋愛ターミネーター。 合宿でもウザがる咲をよそにしつこく二人のあとをついて回っていたし。部室でも高坂がいるといないとでは露骨に態度が違うのも見ていた。 それがとっくに諦めた? 「え、そうなんだ…。ふーん、…またどうして?」 「だってさー。もうこっちはこんだけラブラブ光線だしまっくてるわけじゃん? 気持ち伝わってるわけじゃん? アタシの。」 「ああ…。」 恵子の言葉に少し心が痛い斑目。 「でも、二人は相変わらずでさー、もうヨユーなんだよね、なんか。春日部ねーさんの態度も。敵じゃねーみたいな? ま、実際その通りだと思うし。高坂さんも優しいのか、アニキに気ィー使ってんのか、ハッキリ言わないけどさ。 わかるつーの。こっちも場数踏んでんだから。『もう無理?』って空気〜?」
101 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:55:37 ID:2MycS4rc
「まあ、ねー…。」 (それは、当初からじゃないですか?) ジト汗の斑目。 「そんなら、引くしかねーわけよ。女としてね。」 そういうと恵子はテーブルに突っ伏してふぁ〜とため息をついた。 斑目がぼそりと呟く。 「まあ、お似合いだしね。あの二人。」 「そうだよ。似合ってんだ。これがまたムカつくんだな〜。ま、そういうわけすよ…。」「そっか…。」 少し悲しくなったような気がした。 あれだけ猛アピールをしてる恵子をしてコレである…。絶望的な状況はわかってるし、自分もとうに希望は捨てているとはいえ、 やっぱりちょっとショックだった。 「まあ、斑目はがんばんなよ。」 「いや、無理だって。恵子ちゃんがどうにもならないんじゃ、俺に春日部さん落とせるわけないっしょ?」 …。 …。 ………………。 ………………………。 「えっ???!」 「あ。」 斑目は固まった。ピキッという音がした。ような気がした…。 恵子は軽く引いてる…。 「あ……、ねーさんだったの…。斑目の好きな人って…。」 ジト汗を流してつつ、恐る恐る尋ねる。 「……あ、ま、言っちゃいましたね…、ワタクシ…。」 「………うん…。言っちゃったよねー…。………マジなんだあ…。」
102 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 05:56:24 ID:2MycS4rc
「ははは。……言わないでね………ダレにも……。」 (あー…、……言っちゃったなー…。ついねー…、ポロッとねー…。言っちゃいましたー、いつのまにかー…。) がっくりとうな垂れてる斑目を恵子が苦笑いで見つめている。 「へー…、いつから…、とか…聞いていいっすかね?」 「…ま、けっこう前から…。」 「告ったりとかは…、してないよねー、その様子だと…。」 「………してない、し、デキマセン………。」 恵子の額にイヤな汗が滲んだ。 (う、苦手だよ、こういうの。マジでオタクの絶望的片思いだよ…。人のこと言えないけど。しっかし隠し続けた分だけ、イタイな…。) 突然、ガバッと斑目が顔を上げた! 「あー、いーや。もういいわ。もう呑もうよ。気にすんな気にすんな。気にしねぇから気にすんなよ。」 そう言ってグラスをむんずと掴むと、グビグビっと酒をあおった。 苦々しい笑いを浮かべていた恵子も、ここは流石に空気を読んだ。 「そーだよ、呑も! 呑んで忘れなよ、斑目! てゆーか、いっそ、アタシがねーさんのこと忘れさせてあげよっか?」 恵子は大口を開けて笑った。 斑目は思いっきり吹いてしまった。 「ぶっ、え? やめてよ、もー!」 「え、なになにその反応? なに童貞捨てるチャンスとか思った?」 「ちげーっつーの! 単なるツッコミだッ!」 斑目は照れ隠しにグラスにワインをドクドクと注いだ。 ふふふ、と恵子は不敵な笑みを浮かべる。 「かわいいな〜、斑目は〜。純情さが萌えるよね〜。ねーさんにはわかんないか〜、萌えは!」」 「なっ!」 「うふふ、顔真っ赤んなちゃってカワイー!」 テーブルに腕を組み、その上に顔のせてしどけない表情を作ってみせる。 斑目は心臓の鼓動が少しだけ早まった気がした。
103 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:00:13 ID:2MycS4rc
「ちょ、純なオタクをからかわないでくれませんかのう…。」 「ふふ、高坂さんは諦めたしー。次は斑目先輩に乗り換えよーかなー、ふふふ。」 「あー、だ、ダメダメ。あ、ありえねーって、さ。」 「うーん? なんでー?」 じりじりと恵子がにじり寄ってくる。 (わーたー、マジで? いや冗談だろうけどさ。くそ、この小娘め! 社会人をおちょくりおって! な、なんか、いい反撃はないもんか? 答え@オタク斑目は突如反撃のアイデアがひらめく 答えA仲間がきて助けてくれる 答えB言われっぱなし。現実は非情である。 ってジョジョネタ考えてどうする!) 「ねぇ〜ねぇ〜どうなのよ。は・る・の・ぶ。」 ニヤニヤ顔の恵子がふぅ〜と息を吹きかける。 いよいよ進退窮まった斑目に、神が降りた。 「ううううう〜、いや、もうだって、…顔が……笹原にそっくりだもんよ…。」 「ぐわっ!」 ドサドサっと恵子はカーペットに崩れ落ちた。 「きっつー! そうくるかー!」 「いやあはははは、でも、ほんと、似てるよね…。」 斑目は心の中で呟いた…。 (ふー、答え@、答え@、答え@。) 「いやまーね…。化粧しないと、マジで似ちゃうんだよねーコレガー…。」 恵子は少ししょんぼりとしたように、斑目には見えた。 (あ、少しヘコんじゃったかな?春日部さんの名前出しちまった気まずさをフォローしてもらったのに悪かったな…。) 「でも…、…あんま濃くないほうがいいんじゃない…? 化粧はさ…。オタクは化粧濃いのは苦手じゃないかな、…たぶん。」 「え、なになに? それは斑目の好みぃ〜? やらしー!」 (うわっ、トラップはまった!!) その後も二人は、そんなこんなで朝まで呑み明かした。
104 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:17:31 ID:2MycS4rc
目覚まし時計の音がする。それも一つじゃない。幾つかの目覚まし時計が同時に鳴っている。 (なんだ〜。) 眼鏡をかけたままテーブルに突っ伏していた斑目は、ゆるゆると立ち上がった。 「笹原のやつ〜〜、目覚ましかけたまま出かけやがって〜〜。」 ベット横の目覚ましを止めようとフラつきならがらも歩いていく。 途中で、床に寝転がっている恵子を軽く踏んづけてしまった…。 「がっ。」 「あ。悪い、踏んじゃったよ…。大丈夫?」 「あ……、あ〜〜〜………、寝ちゃってたー…。」 斑目は漸く目覚ましまで辿りつき、一つ止めた。もう一つ鳴っている。それは台所の方からだ。 「いまなんじ〜〜。」 「あ〜、んと……、7時ちょっと前…。」 もう一つの目覚ましも、やっと止めた。 「わ〜、はや〜、ちょーねみ〜よ…。」 「俺もだよ…、5時過ぎぐらいまで呑んでたか〜? …だめだ、わかんね…。」 斑目は台所にきたついでに水を飲んだ。少し頭が痛いような…。それよりもまた酔いが残っているせいで、体がフワフワしている感覚があった。 「あ、水飲む?」 「ん…、いー…。ちょっとトイレいくわー…。」 恵子は寝起きのむっつりとした顔でふらつきながらトイレに入っていった。 斑目は入れ違いでテーブルについた。 (ん〜、マジで朝まで呑んじまったなー…。あー、でも恵子ちゃんって意外に話しやすくてよかった…。 ぜんぜん話合わねぇかと思ったけど、結構会話弾んでたよな…。まー、同じサークルだし、分かり易い共通の話題があったかんねぇ…。 本人も思ってたよりいい子だったってことかな? じっさい、楽しかったしなぁ…。はじめて見たときは異次元生物みたいでしたけどね……。 ほんとねー、何であんな厚化粧してたのかね? 別にブサイクってわけじゃないのに、むしろカワイイ系っつーか…、ってアハハ…、 なんだ…、まだ酔ってんな俺…。)
105 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:21:23 ID:2MycS4rc
「ういーす。」 トイレから恵子が戻ってきた。 斑目は恵子から視線を逸らして、食べ残した菓子を摘んだ。 「目覚ましってさ〜、斑目がセットしといたの〜?」 口調はまだハッキリしてない。目も半開きで見るからに眠そうだ。 「違うよ。たぶん笹原。あいつこんな早い時間に…、ってそうか今日日曜か…。ちょっとゴメン、テレビつけていい?」 恵子の返事を待たず、斑目はリモコンを手に取った。 「おーセーフ。まだ始まってなかった…。」 「あ〜、何、アニメ〜?」 「…そー……。」 「こんな朝っぱらからよく観る気になるね〜。…そんな面白いの〜?」 「あー…、どうだろ? けっこう評判良いよ。俺も今やってるので一番好きだし。」 「ふ〜ん…。」 寝ぼけているせいで、恵子の真意が読めない。 「あ、何、だめ? …寝たいっすか?」 「ん〜…、いんや…、ちょっと観たいかな〜って。面白いんでしょ?」 「まあ…、俺はね…。……じゃあ、ちょっとテーブルを片付けマスカ…。」 斑目は近くに転がっていたレジ袋にゴミを放り込む。 恵子も空き缶と空き瓶をそれぞれレジ袋にまとめている。 「うわっ!」 突然、恵子が大声を出して驚く。 「これ中身入ってんじゃんよー! うわ、全部こぼれちった…。」 「あー、かかっちゃった?」 「や、それはヘーキ。ちょっ、ティッシュ取って。」 箱ごと渡すと、バババッっとティッシュを抜き出してカーペットを拭く。 「色ない酒だったから、これでいいや。アニキんちだし。」 「うわ、テキトー。」
106 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:25:07 ID:2MycS4rc
そーこーしてるうちにアニメのオープニングテーマが聞こえてきた。 「お〜、始まった始まった。」 恵子は酒の染み込んだティッシュをぐるぐるに丸めてゴミ箱に投げた。 ティッシュはものの見事に外れた。 しかし恵子は気にしない。 斑目も画面前のベストポジションに移動した。 「あ、ちょっとそっち詰めて、詰めて…。」 恵子が手をヒラヒラさせて斑目を追い払う。 「こっち酒こぼしたせいで冷たいし、観にくい。」 「あいあい。」 画面を凝視したまま、横移動する斑目。 そのすぐ脇に恵子が座った。恵子の二の腕が斑目の腕に当たった。 (わ、何か柔らかい…。) 「あ、なんかこの歌、あんまアニメっぱくないね〜。」 「ああ…、最近けっこうそういうの多いのよ…。」 「そうなんだ〜。」 (うー、なんか照れるな…。そっちは気にしてないみたいだけど…。) 斑目は壁に寄りかかって、恵子の二の腕が当たらないように体をズラした。 背中を丸めて、恵子は画面を見つめている。 その後ろから、斑目は恵子の姿を眺めていた。 髪はボサボサで表情もまだ眠たそうだったが、時折ぐっと目を見開いて真剣にテレビ画面を見てる恵子。 その一瞬のいつもと違う恵子の横顔に、斑目は何故か目を離せないでいた。 「これってさ〜…。」 不意に恵子が画面を指差しながらこっちを向いた。 斑目は瞬時に視線を画面に向ける。
107 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:26:58 ID:2MycS4rc
「なんで空でサーフィンしてんの?」 「あ、あ〜、ま、そういう設定…。説明すると長くなる…。」 「ふ〜ん…。」 ふぅ〜。斑目は恵子に気づかれないように息を吐いた。 (なんだろ、オカシイナ…。酔ってるか…? 眠いし…。調子狂う…。 というか、一晩一緒にいて何もなかったのに、今更何が起こるんだって話で…、 ってそういうことじゃないでしょ!) 集中、集中!と念じる斑目。 気を取り直して画面に目をやる斑目。アニメの内容に意識を向ける。 しかしそれが良くなかった。 集中しようとすればするほど、今度は瞼が重くなるのである。 日も差してきて暖かくなってきたのに加え、少ない睡眠時間、体に残るアルコール、 一週間の仕事と徹夜の疲労が猛烈な眠気となって襲い掛かってきた。 もう壁に寄りかかった体を起こすのも億劫である。 (あー、寝みー………、でも見なきゃ…。うう〜……………。) 一方恵子も、最初こそ興味を持ってアニメを見ていたが、まったく分からない設定と登場人物のせいで即効で眠気がぶり返してきた。 斑目に話を振って目を覚まそうとするが、なんだが返答が素っ気無い…。 (つまんない…。斑目もかまってくんないし…。眠い…。眠ちゃいたい…。てか……寝る………………。) ガチャリとアパートのドアが開いた。
108 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:29:08 ID:2MycS4rc
鍵をポケットに仕舞いながら、この部屋の主である笹原と彼女の荻上が部屋に入る。 時刻は10時を回ったあたりだ。 「ただいまー。上がって、荻上さん。」 「……失礼します…。」 付き合って半月ほど経つのだが、荻上は未だに慣れないようでやや緊張の面持ちである。 「おーい、恵子〜。来てんのか〜?」 部屋からテレビの音がしている。それに部屋が何だか酒臭い…。 靴もあるし。あれ、俺の革靴ってこんなだっけ? 「お〜い。……おかしいな?」 「寝てるんじゃないですか?」 スニーカーを脱いで、二人は部屋に上がった。 玄関からはテーブルとテレビ画面は見えるが、恵子の姿はない。 テーブルの上には酒のボトルが乗っていた。 「あ〜、そうみたいだね。酒の呑んで寝てるみたい…。」 荻上は玄関で脱いだ靴を揃えてる。 笹原はちょっと不機嫌そうにドタドタと歩いていった。 「おいっ。泊まってもいいけど散らかすなってメールしといただろうよ。」 兄の威厳の見せるべく強気に出ていた笹原だが、室内の光景に一瞬で凍りついた。 「ん、ん…ん。」 (あ、また寝ちまったか…。あー、もうアニメ終わってる…。) 眼鏡の隙間から目をこする。と、視界の端に気配を感じてふと顔を向けた。 「あ、ども、お邪魔してマス。」 笹原は無言だ。 (あれ? なんだろノーリアクション? 勝手に来たから怒ってんのかな?) 「いやあ、あのさ、昨日仕事終わりでスーパーよってたらさ。お前の妹…。」 「斑目さん…。」 笹原はスッと斑目の太腿の辺りを指差した。
109 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:40:34 ID:2MycS4rc
「なにしてんですか?」 「え?」 指先をなぞって視線を落とす斑目。 そこには自分の太腿に突っ伏して眠っている恵子がいた。 (あー、なるほどねー。そーいや、なんか重いなーって気がしてたんだよねー…………。 って、やべええええええええええーーーーー!!!!!!!!!!!) 一気に目が覚めた。 「いやっ、これっ、ちがうってっ、マジで!!!。」 斑目は慌てて立ち上がった。 「いや、ちょっと眠っちゃっただけっ! それだけですからっ! ほんとですっ!」 何故か敬語になっていた。 「斑目さん…。」 「はい?」 斑目ははじめて、笹原の視線が怖いと感じた。 「何を着ているんですか?」 斑目は『3-1 笹原完士』ジャージを着用していた。 「いいあーこれはだねー、まー、ノリといいますか、勢いといいますかー…。あ、勢いってのはそういう意味ではないからねっ!!!」 (不思議だ…。自分の言葉が…すごく遠くに感じる。) イヤな汗が止まらねぇ…。 ふと笹原が視線を逸らした。 その隙に斑目は笹原に歩み寄った。 「ちょっと、そんな、なんもないデスカラ! なあ、ササハラ! 俺がそういうことするわけが…。」 笹原の視線の先にあるものを知って、斑目は震撼した。
110 :
斑恵物語-1- :2006/02/19(日) 06:42:46 ID:2MycS4rc
ゴミ箱の横に落ちている、丸まったティッシュのボール…。 (うわっ、何か…、すげーそれっぽい…。) 「いやっ、ちがうよそれササハラ君っ! それはただのゴミ以外の何物でもないよっ!」 (言ってるそばから震えが止まらねええええぇーーーーーー!) 笹原は怒りとも悲しみともつかない表情で、丸まったティッシュのボールを見ている。 斑目は滝のような汗を流しながら笹原にすがり付いてる。 恵子は寝ている。 そして荻上さんは…。 斑「笹原、ちっ、ちがうんだこれは!」 笹「ふふふ、いいんですよ、言い訳しなくても。むしろ僕は嬉しいんですから。僕の計画通りに事が運んでくれて…。」 斑「なっ、それはどういう…? お前…、まさか実の妹をつかって?!」 笹「ふふふ、言ったじゃないですか、斑目さん。『僕から逃げられると思っているんですか?』って…。これで貴方は僕の家族だ…。ふふふ。」 斑「そ、そんな…!!。」 笹「もう貴方は、一生僕といるしかないんですよ。まあ、実の妹とはいえ、他の誰かがこの体に触れるのは耐え難いですが、 でもそれも二人の為ですからね…。あとでたっぷりと僕の感触を思い出させてあげますから…。」 斑「な、なんてことを…、お前は…。妹を利用してまで…。彼女の気持ちを考えたことが…。」 笹「貴方はどうなんです? 正直に言ってくださいよ。恵子を抱きながら、心の中では僕のことを考えていたんじゃないですか? ほら…、この僕にそっくりな顔を見ながらね…。」 斑「くっ、そんなことは…。」 笹「嘘をついても無駄ですよ。ほら、体は正直に反応している…。」 斑「や、やめ、やめてくれ…。笹原…。彼女が、彼女が起きてしま…。あぁっ! ふぁああっ!!!」 その夜、荻上さんは徹夜で原稿に向かったのでした。 おしまい
>斑恵物語 リアルタイムで読んだ。 久々に大爆笑もののオチに吹いた。 ラブコメ展開のオチが荻ワープとは… やはり腐女子脳内は宇宙だ。 でもよかったね、荻上さん。 ちゃんと立ち直ったんだね。 (これは立ち直ったと言うのか?)
ぶはははははは。 面白かったす。最高。 オギー帰ってきて 帰ってきてオギー
恵子と斑目のその後が気になる。 笹原と斑目のその後も気になる。 荻上の傑作のその後も気になる。
114 :
マロン名無しさん :2006/02/19(日) 14:25:40 ID:C3mkO4cs
>>斑恵物語 とりあえず一言。 ちくしょおおおおおおーーーーーー!!!!!!面白い!!! さて、叫んだらスッキリしました。 まさか最後が801オチだとは誰が予測できたろうか。 斑目の台詞&心の声が等身大でイイ!ぜひ見習いたいものです。 笹原の体操服ではっちゃけるトコは絶品。しかもずっとそのカッコだったのね…笹原帰って来るまで… それでこそ斑目!! 斑目スキーとしては泣くほど美味しい話でした。 …恵子に手を出さなくて、少しホッとしましたよ。
115 :
マロン名無しさん :2006/02/19(日) 14:32:49 ID:C3mkO4cs
連投すいません。 斑恵物語、初投稿なんですか…?ホントに?アワワ 最新のSS書きは化け物か…
116 :
斑恵物語-1-あとがき :2006/02/19(日) 17:40:08 ID:WUPi0v13
読んで頂いて感謝です。 ボロクソに言われはしないかとビクビクだったのですが、 好意的に読んで頂けてホッとしました…。 よかった…。 他の人のSS読んで、妄想が膨らんで書いてしました…。 けっこうインスパイヤされてる部分も・・・。 思いのほか長くなってしまって反省してます。 続きも考えてはいるので、そのうちまた出せればと思います。 ありがとうございました。
>夜明けの一秒前 俺も内面を掘り下げるの好きだけど、ますます荻上の内面が深まってくるエピソードだね。 すごい。ヤナが燃ペンのファンとは!暗黒流れ星ww受けるー。 >いつか見た夢の続きを バットエンドの続きからのスタートなわけですね。少し、きついと思いましたが、 読み進んでいくうちに解消されてきましたね。タバコ吸い始めた笹原が、社会人の 憂いと哀愁を背負って業界の慣習にすすけた気がしましたが、二人の人間的成長が 見られた気がします。 >斑惠物語 初めてとは思えないですね!自然な流れ、惠子とのぎこちない会話からのスタート、 コーサカとの事、ジャージに着替えた斑目、迫られた時の切り替えし、そして ティッシュの伏線、笹原に見つかったときの様子や、最後のオチへ突入するまでの 構成など巧みとしか言えません。
>>116 自分でも書いてるけど、導入部〜中盤の展開が
俺が前スレで書いたSSそっくりなんだよね
初SS書きのとっかかりにされる分には光栄だけど、
なにごともほどほどがよろしいかと
次回作に期待します
遂に完成しました、笹原卒業後の荻上会長編。 物凄く長いので、先に投下したい方、もう少しで書き上がるって方、もしいらしたら15分待ちますのでレスなり投下なりして下さい。 その間待ちますので。 無ければ15分後、24レスで爆撃開始します。 SSスレを石器時代に戻してやるぜ!
>>118 ああ…、すいません…。
もっと斑目と恵子が親密なるシチュエーションについて練るべきでした…。
反省です・・・、猛省。
単なるパクリにならないように、頑張りたいと思います。
夜明けの一秒前、感想ありがとうございます!
投下直前に急いでお礼を〜
>>71 次号で成立でオギーが幸せになると信じているからこそ、頑張って急いで書きました!
>>72 最初の痛さも、徐々に本誌連載で理由が明らかになってきたので、妄想が。。。
>>73 あとはヤナがビジュアル的に範囲内か…あとオギーはスローペースなので
ヤナ卒業までに成立が間に合わない気がしますけど、どうだったでしょうね(苦笑)。
>>117 どうしても暗黒流れ星をコメントさせたかったので(笑)。
西暦2006年4月。 結論から先に言うと、荻上新会長率いる現視研新体制下の新人勧誘は、男子5人女子6人の計11人という例年にない大漁で終わった。 後でサークル自治会の役員の人に聞いた話によれば、これは現視研創立以来最高記録であり、今年の新人勧誘では体育会系も含めて全サークル中トップだそうだ。 今年の新人勧誘が大成功した理由は、大きく分けて三つあった。 一つ目は、例のアキバ系小説原作のドラマと映画の大ヒットでオタクがちょっとしたブームになり、全国レベルでニワカオタや新人オタが増えたことだ。 椎応大学にもそんな新米オタが何人か入学していた。 普通こういった人が目指すのは、漫研かアニ研だ。 だがこの両会は、初心者オタには敷居が高過ぎた。 高校ならともかく、大学にもなって絵心のない人には漫研は入りづらい。 椎応に限って言えば、アニ研も事情は似ていた。 筋金入りの創作系オタにとっては魅力的な、年に何回か短編アニメを作っているという実績は、初心者にとっては逆に引いてしまうマイナス材料になった。 こうして消去法による消極的な選択ながら、ぬるい初心者オタたちが現視研に集った。 二つ目は、切迫感あふれる積極的な勧誘活動だ。 何しろ今年新入生がいなければ、冗談抜きに会の存続は厳しい。 今回の勧誘ばかりは、OBまでも巻き込んでの総力戦となった。 荻上新会長は、前回の失敗に懲りて今回はみんなの助言を聞きながら慎重にことを進めた。 前回クッチーをハブにして失敗したことへの反省から、今回はクッチーに裏方仕事や力仕事の大半を担当してもらった。 「あいつには仕事をたくさん与えてガンガンこき使ってやれば、喜んで真面目に働くよ」という咲ちゃんの忠告もあっての措置だった。 さらに新入生歓迎祭にて、大野さん発案で大野&クッチーのコスプレどつき漫才(もちろんクッチーがどつかれ役)を敢行、これがウケた。 荻上さんも露出少な目な代わりにロリロリなコスで、自ら勧誘のビラを配った。 しかもそのビラとは荻上さん作のミニ四コマ集で、最近の漫画やアニメをネタにしたパロディ四コマと、四コマ形式の現視研の案内が収録されていた。
OBたちも時間を作って顔を出してくれた。 斑目などは本業をサボってビラ配りをやってくれた。 「ここ潰れたらメシ食う場所なくなるからなあ」 …まあ理由はともかく、斑目もがんばった。 さらに笹原のアドバイスにより、ずっとコス一色で押さずに途中で着替えて、私服でも勧誘するようにした。 あまりにもコスを前面に出し過ぎると、内気な初心者オタが引いてしまうからだ。 コスはこんなのもありますよ的な扱いに留め、今回は広く浅く人を集めることに専念した。 その結果、初心者オタ5人(男子4人女子1人)と創作系オタ2人(男子1人女子1人)が入会した。 (残り4人については、三つ目の理由で触れる) 三つ目の理由は、荻上さんの漫画家デビューだった。 合宿の後、荻上さんは笹原と付き合い始めた。 笹原は彼女のトラウマを知って、当初は2人で巻田君の所へ謝りに行こうと主張した。 だが転校後引っ越したので巻田君の居所が分からないと聞いて、このトラウマになった出 来事を漫画にしてみてはどうかと提案した。 それを彼がどこかで見てくれたら、許す許さないは別にして、荻上さんに悪意が無かったという事情が分かって少しは救われるかもしれない。 そして作品として昇華することで荻上さん自身も救われるかもしれない。 そう考えた上での提案だった。 荻上さんは自身初の長編であるその作品に、夭逝した某ロック歌手の歌のタイトルから取って「傷つけた人々へ」と題した。 ちなみにペンネームは、同人ネームより本名に近付けて「荻野小雪」とした。 笹原の薦めで巷談社の主催する春夏秋冬賞に出したところ、その作品は審査員特別賞を受賞し、月刊デイアフターに掲載された。 そしてこれがきっかけになって、デイアフター編集部から新連載の執筆依頼が来た。 当初真面目な荻上さんは、学業と会長業の2足のわらじ状態では連載は難しいと断った。 だが編集の人は熱心で「うちは作品の完成度優先主義で、1回や2回休載するのは珍しいことじゃない。2〜3ヶ月で1本なら学業と両立出来るよ」と粘った。 結局秋頃から新連載開始することになり、今はその構想を練っている状態だ。
「傷つけた人々へ」に対する評価は、読む人によって好き嫌いが両極端に分かれた。 春夏秋冬賞の審査員は15人いたが、支持したのは3人だけだった。 だがその3人の支持ぶりは熱烈で、「この作品に何の賞もやらないのなら、今年で審査員を降りる」とまで言うほどだった。 以下はその3人のコメントである。 1人目 多少ヤオイがかった作風の少女漫画家 「古傷をえぐられるような痛さだが、目をそらすことが出来なかった。腐女子ならこの痛み分かるはず」 2人目 戦前生まれのベテラン漫画家 「田舎に疎開してた少年時代を思い出した。田舎の中学校の閉塞感がよく描けている。自 分も疎開先でいじめられてた漫画少年だったから、他人事とは思えない」 3人目 特撮が専門だが、アニメや漫画にも詳しいオタクライター 「この話は21世紀の『怪獣使いと少年』だ!中学高校の先生は生徒に読ませるべき!」 (注釈)「怪獣使いと少年」は「帰ってきたウルトラマン」のエピソードで、民族差別問題を宇宙人に置き換えて正面から描いた問題作。(脚本を書いた上原正三先生は沖縄出身) 特撮オタなら誰もが名作と認める一方で、好き嫌いとなると真っ二つに評価が分かれる。十年ほど前に聞いた話なので今でもやってるかは分からんが、ある中学の先生は社会科の教材として生徒にこの話を見せていたという 読者アンケートでは、ベストでもワーストでも上位にランキングされた。 荻上さんの中学時代のトラウマを基にしたこの作品には、ヤオイ系のイタい過去のある腐女子の読者の琴線に触れるものがあったようだ。 その一方でアンチ腐女子の読者は、露骨な拒否反応を示した。 2ちゃんねるにも崇拝スレとアンチスレが早くも立った。 そして残りの新会員の女子4人とは、崇拝スレ住人でもあるガチガチの腐女子だった。 彼女たちは受験前にも関わらず、たびたびオフ会を開いて情報の収集と交換を続けた。 そして志望校決定直前、遂に作者の荻上さんが椎応の学生であることを突き止め、椎応を受験したのだ。 ついでに言うと、彼女たちは調査の過程で荻同人誌をゲット、全員よりリアルなヤオイ描写を目指す写実派ヤオイなので、よけいに荻崇拝熱が高まった。
そんな4月のある日のこと。 荻上さんは部室を出てトイレに行った後、サークル棟の屋上に向かっていた。 ちょっと独りになっていろいろ考えたかったからだ。 今の部室は、それをやるには賑やか過ぎる。 階段から屋上が見えてくると、荻上さんは最後まで登り切らずに立ち止まり、屋上を見渡した。 サークル棟の屋上は誰でも自由に出入り出来るが、柵や金網等は無い。 幅はあるけど高さは膝ぐらいまでしかない、コンクリートの淵があるだけだ。 ちょっとした事故で、簡単に転落しかねない。 4階建てだから、下手すれば命に関わる大事故になる。 同じぐらいの高さの校舎の屋上から一度飛び降りた身の荻上さんにとっては、他人事ではない。 トラウマを克服したからこそ、逆に恐怖感と警戒心が強かった。 『いつも思うことだけど、ここの屋上危ねえな。笹原さんたち、よくこんな危ないとこでガンプラ作ってたなあ』 さらに荻上さんの思索は続いた。 『だけどもし「あの計画」を実行するなら、スペース的にはここが最適だな。でもやっぱ危ねえな。先に鉄柵か何か作んねえとな』 不意に背後に人の気配を感じ、荻上さんは残りの階段を登り切って振り返る。 階段の後ろのスペースに先客が居たのだ。 サイドに黒のラインの入った黄色いジャージの上下を身に着けた長身痩躯のその先客は、こちらに背を向けて不思議な動きを繰り返していた。 空間に向かってパンチやキックを放ち、その合間に手をあらぬ方向に振ったり押したり、ガードするかのように腕や膝を持ち上げたり、上体を左右に振ったりする。 どうやら具体的に仮想敵の動きを想定したイメージトレーニング、ボクシングでいうシャドー・ボクシングらしい。 しばしそれを不思議そうに見つめる荻上さん。 やがて一段落したのか、その先客は動きを止めて空手式の息吹きで呼吸を整えた。 そして背後の人の気配に反応して振り返った。
先客はクッチーだった。 朽木「おう荻チンじゃないの、こんなとこで何してんの?」 荻上「朽木先輩こそ何やってんですか?」 朽木「ちと空手の稽古をね」 荻上「そんなことは見れば分かります」 売り言葉に買い言葉でそう言ったものの、格闘技に詳しくない荻上さんには、クッチーの動きが典型的な空手の動きなのかどうかは判断が付きかねた。 昨今の空手は、素人目にはキックとあまり区別が付かない。 ましてやクッチーのそれは、新興の流派にありがちな様々な流派や他の格闘技の技をミックスした動きなので、玄人でもひと目では分かりにくい。 荻上「私が聞きたいのはそういうことじゃなくて、何で屋上でわざわざやってるのかってことですよ」 朽木「いやー最近の部室、賑やかで本読んでられないから、ついつい僕チンも参加して目いっぱい騒ぎたくなるんだけど、そしたらお師匠様の教えに背くことになるからね」 クッチーの言うお師匠様とは、彼が掛け持ちで所属している児童文学研究会(以下児文研) の会長(以下児会長)のことだ。 児会長は彼に2つのことを命じ、彼もまた日々その言いつけを守っていた。 (児会長はあくまでもアドバイスの積もりなのだが、クッチーはそう受け取った) 1つ目は非日常的なイベント以外では静かにしてること、2つ目は児会長の薦める本を読むことだ。 (この辺の経緯は「あやしい2人」とリレーSS参照) クッチーはストレッチをしつつ、以下のような事情を説明し始めた。 日々児会長の言いつけを守り、普段は大人しくしているクッチーだったが、彼のウザオタエナジーは年に何回かのイベントぐらいでは消費し切れないぐらい膨大だった。 まずは体を動かして発散しようと考え、家で体力トレーニングを始めた。 だが彼の肉体の適応力は、本人の想像を超えていた。 明日に多少疲れが残る程度の練習量を目安にトレーニングしてきたが、すぐに慣れてしまうのでドンドン回数を増やしていき、その結果夏頃には以下のメニューが日課になった。 (ちなみに夏合宿で妙に大人しく疲れ気味なのは、合宿中はトレーニングできないと思って前日に多目にやっておいた為だ) 腕立て伏せ200回 腹筋100回 背筋100回 ヒンズースクワット500回
これだけのメニューをこなすには、ストレッチも含めてかなりの時間を要する。 時間が何時間あっても足りないオタクにとっては、時間の無駄だ。 ウェイトトレーニングなら少ない回数と時間で同じ効果が得られるかもしれない。 そう考えたクッチーはフィットネスジムに通うことにした。 ちょうど学校の近くのビルの1階に、窓からたくさんのマシンが見える施設があった。 さっそく見学に行くクッチー。 だがそこは実は空手道場で、窓から見えない角度にサンドバッグや巻き藁があった。 (まだ道場が出来たばかりなので、看板や表示は無かった。) 安直な男クッチーは「これも何かの縁にょー」と入門することにした。 基礎体力が出来ていたせいと、新興の流派で昇段試験の審査がイージーなせいもあって、クッチーは半年も経たずに黒帯を習得した。 だがそれは言い方を変えれば、クッチーの体力即ちウザオタエナジーがパワーアップしたことを意味した。 彼にとっては本末転倒の想定外の事態だ。 結局彼は自らのウザオタエナジーを時折発散する為に、何時でも何処でも時間があれば稽古することにした。 まるでピーター・パーカーがスパイダーマンのスーツを日々着込んでいるように、いつもジャージを持ち歩いて。 (道着は一人で稽古するには仰々し過ぎるし、いつも持ち歩くにはかさばるのだ) 朽木「(軽くパンチを打ちながら)そんな訳で、余ったウザオタエナジーを発散してたわけだにょー」 荻上「まるで原発ですね」 (注釈)原子力発電所の原子炉は熱エネルギーが膨大過ぎる為に、その内のかなりの分は冷却水(海水)を湯に変えて海に捨てるという形で、電力に変換されること無く捨てられている。
朽木「ところで荻チンはどうしたの?」 荻上「いえ…別に何も無いです…」 朽木「ん?何か元気無いんじゃない?」 荻上「…別にそんなこと無いです」 だが確かに荻上さんは心もち元気が無い。 クッチーは荻上さんに近付くと、キリンが餌を食べるみたいにぬっと顔を荻上さんの顔の高さまで降ろした。 そしてたじろぐ彼女に対し、ニッコリ微笑んでこう言った。 朽木「学食でお茶しない?」 所変って、ここは学生食堂。 朽木「いやー不思議な光景ですなあ」 荻上「?」 朽木「こうして荻チンと差し向かいでお茶を飲むなんて光景、ちょっと前までは考えられなかったにょー」 荻上「それはお互い様です」 少し前まで部室で2人きりになることさえ嫌っていた相手と、ごく普通に向かい合って座ってお茶してる。 まあ確かにクッチーに言われるまでも無く不思議な光景だ。 それをさほど嫌とも思わない自分も不思議なら、そんな自分をごく自然にお茶に誘うクッチーも不思議だ。 まあ慣れたということもあるだろうが、やはり笹原と付き合い始めて気持ちにゆとりが出来て、些細なことではイラつかなくなった為かもしれない。 荻上「最近の部室、何だか落ち着かないんです」 朽木「1年生の子たちと上手くいってないの?」 荻上「(軽く首を横に振り)あの子たちはみんないい子です。礼儀正しくて、私みたいな自分より年下に見える会長相手に、あの子たちなりに敬意は示してくれてます」 朽木「まあ確かに良くなついてるよね。特にあの四天王の子たちは」 四天王とは、新入生の腐女子4人組のことである。 荻上「(苦笑)まあ、なつき過ぎですけどね」 朽木「確かにね。特にあの巨乳の子とゴッグみたいな子、何かと荻チンハグするもんな。大野さんでもあそこまでやらなんだもんな」
ふと沈黙する2人。 朽木「それなら問題ないのでは…」 荻上「ええ、問題はあの子たちじゃなく、私にあるんです」 朽木「荻チンに?」 荻上「感覚がまだ付いて来れないんです、あまりにも何もかも一気に変り過ぎて…」 荻上さんはクッチーに、今自分が捕らわれている違和感について語り始めた。 1年前、斑目たちの代が卒業して笹原たちの代が就職活動を始めると、現役の会員は恵子を含めても4人となった。 その4人にしても以前に比べて出席状況は悪かった。 大野さんは以前以上にやたらといろんなコスプレ関連のイベントに顔を出すようになり、その準備で出歩く頻度が増えた。 クッチーは児文研に掛け持ちで入会した。 恵子は何時来るか分からない。 結局現役会員では荻上さんが一番出席率がよかった。 (ついでに言うと、昼休み限定とは言え、それに次ぐ出席率を誇るのは斑目だ) 独りきりで1日中絵を描いていたことも、1度や2度ではなかった。 この1年間で部室に5人以上集まった日は、数えるほどしかなかった。 ところが今では、部室には最低でも6人は居る。 新1年生の大挙入会に加えて、従来のメンバーの出入りの頻度が今年になってもあまり減らなかった為だ。 いや、人によっては却って来る頻度が増えた。 斑目は新年明けた頃から社長に「早目に帰らしてやるから車校通え!」と命令されて早退することが多くなったので、自動車学校の前後の時間にも寄るようになった。 さらに免許を取った新学期頃からは、人手不足で外回りの仕事も手伝うようになり、勤務中に外を出歩きやすくなったせいか昼休み以外の時間にも時々来るようになった。 大野さんは卒業が半年遅れということもあってか、就職活動はのんびりしていた。 彼女の就職に対する考え方はアメリカ的で、納得出来る仕事に就けないのなら契約社員で何年か潰しても構わないと考えていた。 その一方で、父親の仕事関係のコネ入社の当てという、切り札の保険も確保していた。 そうなると卒業まで安心してめいっぱいコスプレを楽しめるので、連日部室にやって来て1年生たちをコスプレの道に勧誘し、その結果何人かは執拗な説得に折れた。
そうなると田中もコスする1年生本人に会う為に部室に来るようになった。 さらにこの1年ご無沙汰だった久我山までもが、仕事に慣れてきた上に大学の近所の病院が彼の顧客になったので、仕事の帰りに部室に来るようになった。 クッチーは真面目に就職活動してるのか傍目には分からない。 4年生の時の斑目と同じぐらい、頻繁に部室に出入りしている。 恵子は高坂卒業と共に疎遠になると思われていたが、先輩風吹かして威張れる相手が出来たせいか以前より頻繁に来るようになった。 そして意外にも、社会人1年生として一番忙しいはずの卒業生3人も頻繁に顔を出した。 笹原が初めての担当になった漫画家は、何と漫研の会員の3年生だった。 彼は大学の近所に下宿してる上に部室で執筆することも多い為、必然的に笹原も大学かその近所まで仕事で来ることになり、その前後に部室に顔を出すことになった。 ついでに言うと、かねてより懸念されていた荻上さんと漫研女子との関係は改善され、今では高柳がいた頃のような友好関係を築いていた。 笹原と漫研会員の漫画家との縁、人格者の笹原が間に入ってくれたこと、「傷つけた人々へ」が荻上さんの自伝と漫研女子が知ったことなどが全て上手くプラス方向に作用した為だ。 咲ちゃんは店の出資者の1人が椎応の学生(株で1発当てたが、それに熱中し過ぎて留年した)だった為にしばしば大学を訪れ、そのついでに部室にも寄った。 どうやら1年生たちの中で、バイトに雇えそうな者を物色中らしい。 ちなみに店の開店そのものは4月開店の予定より遅れていて、夏頃開店の予定だ。 高坂は後輩たちをゲームのモニター代わりにする為に、むしろ4年生の時より来るようになった。 何でも最近は男性向けだけでなく女性向けのゲームも作り始めたので、現役の腐女子の意見を聞きたいらしいのだ。 いつの間にか現視研は、某高校の変わった名前の写真部みたいに、異様にOB出席率の高いサークルになりつつあった。
朽木「まあ確かに、今の部室っていつも賑やかで、前みたいに黙々と絵を描いたり本読んだり出来る雰囲気じゃないにょー」 荻上「人間の感覚って、勝手なもんですよね」 コーヒーをひと口飲んで荻上さんは続けた。 荻上「どんな悪い環境でも、それが長く続くと慣れちゃうんですよね。だから今みたいに急な変化には感覚が付いて来れないんですよ。良い方への変化なのに…」 朽木「寂しい部室に慣れちゃったわけか。寂しさで泣いちゃったこともあったのに…」 荻上「(赤面)なっ、何で知ってるんです?」 朽木「いやーあの日の夕方、部室に入ろうとしたら荻チンの泣く声が聞こえたんでね。あそこで僕チンが入ったら嫌がると思ったから、そのまま帰っちゃったんだ」 荻上「そうだったんですか…」 朽木「まあ気になったけど、ちょうど入れ違いで笹原さん入ってくるの見たから安心して帰っちゃった。今思えばナイス判断だったにょー」 アイスコーヒーを一気に飲み干すクッチー。 (この辺の経緯は「ひとりぼっちの現視研」参照。筆者は違うけど) クッチーの思わぬ気配りに気を許したのか、荻上さんは彼女の抱えるもう1つの不安を打ち明けた。 荻上「私、後輩を持つのが初めてなんです」 中学の文芸部には下級生が居らず(風のうわさによれば荻卒業の年に廃部になったそうだ)高校時代は帰宅部だった。 朽木「恵子ちゃんは?」 荻上「あの人は…身内ではあるけど後輩というのとは微妙に違うような…」 朽木「やっぱり?実は僕チンもそんな感じにょー」 荻上「だから嬉しいことは嬉しいんですけど、後輩に甘えられるってシチュエーションに慣れてないんです」 朽木「まあ確かに、いきなり出来た後輩が女子高生のキャピキャピ感残る腐女子たちで、そんなのに『荻上さまー』ってベタベタ甘えられちゃ、戸惑うのも無理ないか」 荻上「私はお蝶夫人や姫川亜弓じゃないんだから…」
しばし沈黙の後、クッチーが口を開いた。 朽木「荻チンってやっぱり真面目だね」 荻上「えっ?」 朽木「初めてだから慣れてないのは当たり前なんだし、難しく考えずに自然にやってればいいんじゃない?」 荻上「そんな簡単に…」 朽木「大丈夫だって!今の荻チンなら自然にしてれば問題無いって!」 やや声を大きくして強く言うクッチーに驚く荻上さん。 朽木「笹原さんと付合い出してからの荻チンって、自分じゃ気付いてないと思うけど、凄く穏やかで明るい顔してるにょー。前は殆ど見たことなかった笑顔も見せてるし…」 思わぬ褒め言葉にリアクションに困り、コーヒーを飲みかける荻上さん。 そして急に赤くなったクッチー、何気に爆弾発言。 朽木「いやーこんなに可愛く変るんなら、僕チンが先に口説いときゃよかったにょー」 思わずむせる荻上さん。 荻上「なっ、なっ…(言葉が出ない)」 朽木「まあもっとも、僕チンでは荻チンのトラウマを癒すことなんて出来んかっただろうな。やっぱり笹原さんは偉大だにょー」 彼氏を褒められて赤面する荻上さん、照れ臭さから強引に話題を変える。 荻上「そう言えば朽木先輩、就職活動ってやってるんですか?」 朽木「まあそれなりにね」 荻上「どんなとこ狙ってるんですか?」 朽木「どんなとこって言うか…時間の拘束のきつくなさそうなとこ探してるだけだから、職種はこだわってないよ」 荻上「それはまたどうして?」 朽木「いやー卒業までにものに出来るか分からないんでね…実は僕チン、最近小説書き始めたのよ」 コーヒーを飲みかけてた荻上さんは、再びむせた。 朽木「やっぱ変?」 荻上「い、いえ…あまりにも意外だったんで…」 朽木「まあ中学生ぐらいを対象にした、ジュニア小説みたいなやつなんだけど、賞でももらえたらそのまま物書きでやってく積もりだにょー」 荻上「へー」 朽木「でもあと1年足らずじゃ難しそうだから、とりあえず働きながら書こうと思ってるんだ。僕チンはお師匠様みたいに賢くないから院には上がれんし」
荻上さんは改めて目の前のひょろ長い男を見た。 2年前に出会った時は意味不明のウザオタでしかなかった男が、いつの間にか彼なりにいろいろ考えながら自分の人生を歩み始めている。 そんなクッチーを見てて、荻上さんは不意に悟った。 『朽木先輩は、もう1人の私なんだ』 考えてみれば2人は似たもの同士だ。 2人とも他人とのコミュニケーション能力に難があった為に、別のサークルを追われて現視研にやって来た。 たまたまクッチーはでかくてウザい男だった為に厳しく躾けられつつも放置され、自分は見た目も中身も幼かった為に構われ甘やかされただけだ。 対応の違いはあっても、2人とも厄介者だったことには変わりない。 その2人の厄介者が今では、それぞれの人生を模索し始めている。 そんなことを考えている内に結論が出た。 時計の針を巻き戻すことは出来ない。 ならば変化に戸惑っている暇は無い、進むしかないと。 荻上「あの、朽木先輩」 朽木「にょ?」 荻上「ありがとうございました…何か気が楽になりました」 朽木「いやー荻上会長のお役に立てて光栄ですにょー」 「会長、こんなとこにいらしたんですか?」 不意に声がかかる。 声をかけたのは1年生の神田美智子だ。 彼女は高校の時は笹原のような隠れオタだったらしいが、その一方で1人で漫画を描いてコミフェスに出品したりする、荻上さん的な側面も持っていた。 荻上「どうしたの神田さん?」 神田「大野さんがお呼びです。ミーティングやりたいからって」 荻上「何でまた?」 神田「何か重大な発表があるそうです。ちょうど1年生全員居るからって」 荻上「ったくあの人、何時までも仕切りたがるなあ」 朽木「姑付きの現視研ですな」
サークル棟の入り口まで来ると、1年生の浅田と岸野がパイプ椅子を運んでいた。 2人は同じ高校の写真部出身なせいか、一緒に居ることが多い。 浅田「あっ会長」 岸野「ちわっす」 荻上「どしたの?」 浅田「(1度椅子を置いてメガネを直し)いやー今日大入りなんすよ、部室」 岸野「(1度椅子を置いて、少し乱れたリーゼントの髪を手で直し)何かOBの方、今日はあらかたみなさんいらっしゃるんで椅子足んないんです」 部室の備品の椅子は、以前は9脚しかなかった。 だが新入生の大挙入会で当然足りない。 OBの出入りも多いので、それも考慮して自治会に交渉して新たに8脚もらってきた。 それでも足りないのかと、ため息をつく荻上さん。 浅田「あっ朽木先輩もいらっしゃるんですか…1脚足らないな…」 朽木「僕チンのはいいよ、すぐ引き上げるから」 神田「そうは行きませんよ。私が椅子お持ちしますから先に行ってて下さい」 朽木「すまんね、ミッチー」 いつの間にか愛称で呼ぶようになってるクッチー。 部室の前の廊下に来ると、あちこちで1年生たちとOBたちが話し込んでいた。 廊下の一角では、1年生で初心者オタの日垣と国松千里を相手に、斑目がオタ談義に精を出していた。 日垣「いやー勉強になるなあ、斑目先輩物知りだなあ」 国松「凄いシゲさん!なのじゃよ博士みたい!」 斑目「いやいや、こんくらいは普通知ってるって『なのじゃよ博士って何?』」 そう言いながらも、まんざらでもない斑目。 その姿は孫に囲まれた幸せな好々爺といった風情だ。 身長185センチの大柄な日垣と、身長150センチほどの小柄でロリ顔な国松。 まあ確かに、この2人に尊敬の眼差しを向けられれば、悪い気はしないだろう。 メガネでガリガリで作業着姿で、甲高い声でテンションの高い喋り方をするところから、いつしか斑目は1年生たち(特に女子)の間で「シゲさん」という愛称で呼ばれるようになっていた。
ちなみに「なのじゃよ博士」とは、ウルトラシリーズ第1作「ウルトラQ」の登場人物で、専門が何なのかよく分からない謎の科学者、一の谷博士の愛称である。 喋る時、語尾に「〜なのじゃよ」と付けるのでこう呼ばれる。 ちなみにこの愛称は、80年代の懐かしテレビ系の某番組内で言われたのが語源で、普通彼女の年齢では筋金入りの特撮オタでない限り使わない。 隅っこにいた咲ちゃんと恵子が声をかけてきた。 咲「(軽く手を上げ)よっ」 恵子「ちゅーす」 荻上「こんちわ」 朽木「こにょにょちわー」 荻上「今日はどうしたんです?」 咲「いやーこいつが何時までもフラフラしてるから、うちの店で働かせようと思ってね…」 恵子「あたしゃ別にフラフラしてねえよ」 咲「最近学校行ってないだろ?毎日ここに来てるそうじゃない」 恵子「いや前だって行ってないし」 咲「(恵子をどつき)自慢になるか!」 朽木「それはそうと、みなさん何故廊下に?」 咲「あれよ」 咲ちゃんが部室のドアの方を親指で示す。 新1年生の有吉と伊藤がテーブルを運び出していた。 最近はミーティングの際には、全員分椅子を並べると狭いので、テーブルを外に出して椅子を並べるようにしているのだ。 有吉「あっ会長、ちゅーす」 伊藤「こんちにゃー」 顔が猫に似ている伊藤は、動作も猫に似ていて、喋る時も語尾に「にゃー」とつける癖があった。 この2人も同じ高校出身なので一緒に居ることが多い。 もっとも伊藤は文芸部、メガネ君の有吉は漫研だったそうだが。 2人はテーブルを外へ出し終わると、空いてる壁に立てかけた。
そこへ浅田と岸野が椅子を抱えて帰ってきた。 国松「おかえんなさい」 日垣「手伝おうか?」 浅田「いいよ。人数居ても却って狭くなって動けないから」 部室に入る2人。 浅田「ダメだな。テーブル出しても狭いな」 岸野「今日は窓際のテーブルとテレビも行くか」 廊下からも叫び返す。 有吉「よし、先にテレビとビデオとゲーム機出すぞ」 伊藤「ほい来たにゃー」 別の一角では、高坂が腐女子四天王の沢田彩と台場晴海の2人と話しながら、何やらノートパソコンに入力していく。 今度自社で出すBL系ゲームの企画について、2人に意見を聞いているのだ。 ショートカットの文芸少女風の沢田と、優等生風メガネっ子の台場は、話をしながら妖しい視線を高坂に向けている。 それを咲ちゃんは見逃さなかった。 咲「こらこらそこの2人、たとえ妄想の中でも高坂に変なことやらせんなよ!」 沢田「いやですよ、春日部先輩。してませんよ、総受けになんて」 咲「してるじゃねえか!」 台場「ちょっと彩!高坂先輩に失礼でしょ!」 咲「そうそう」 台場「高坂先輩は総攻めの魔王に決まってるじゃない!」 咲「そうじゃねえだろ!」 沢田「そうよそうよ、高坂先輩は受けだって!」 咲「お前も違う!」 そんな3人の会話を笑顔で見つめていた高坂、ポツリと言った。 高坂「咲ちゃんも分かってきたね」 咲「えっ?」 高坂「いや、前だったら『高坂に色目使うな!』とか言ってただろうから」 咲「そう言えば…」
ニヤニヤしながら咲ちゃんを見る沢田と台場。 咲「(視線に気付き)ちっ、違うぞ!あたしゃそんな趣味は無いぞ!」 沢田「隠さなくてもいいですよ、先輩」 台場「さあこちら側の世界へ…」 咲「やめんかっ!」 別の一角では、大野さんが腐女子四天王の残りの2人、水中用モビルスーツのような体格の豪田蛇衣子(ごうだじゃいこ)と肩幅が広くて巨乳の巴マリアを相手に議論している。 ヤオイのカップリングについてらしい。 そんな様子をまた別の片隅で見ているのが、田中と久我山の2人。 男オタ2人は隔世の感に呆然としていた。 久我山「しばらく来ない間に…随分変ったね」 田中「ああ…」 そんな様子を見つつ、荻上さんは考え込んでいた。 荻上『あちゃー、全員集まったらやっぱ凄い人数だな…いい機会だから「例の計画」発表してみるかな…あれっ?笹原さんがいないな…まあさすがに全員は集まらんか…』 そんな荻上さんの肩がポンと叩かれる。 振り返ると笹原が立っていた。 笹原「やあ、何か凄い人数だね」 荻上「…こんちは」 2人の後ろから声がかかる。 神田「こんにちは、笹原先輩」 椅子を抱えた神田だ。 笹原「やあ、たいへんだね」 神田「笹原さんも見えたんですか。椅子足りないな」 有吉「俺取って来るわ」 テレビ等窓際のテーブル周辺の機器を運び出し終えた有吉が、自治会室に向かった。
笹荻揃うと笹荻オーラが発生するせいか、それまで話に夢中になっていた面々が一斉に注目する。 「あっこんちわ」「ちゅーす」「ちわーっす」「うっす」「ういーっす」「おはようございます」 様々な挨拶の言葉が飛び交う。 豪田「荻さまー!どこ行ってらしたんですかー!」 言いながら突進し、荻上さんに抱きつく豪田。 ムギュッ! 体重百キロ近い水中用モビルスーツのような体型の腐女子にハグされては、小柄な荻上さんはひとたまりも無く、たちまち目が渦巻きになる。 傍らで笹原は呆然としていた。 話には聞いていたが、荻ハグを目の前で見るのは初めてだったからだ。 巴「ダメよ蛇衣子、独り占めは」 物凄い怪力で豪田の腕を振りほどくと、自分がハグする巴。 豪田ほどの体重は無いが、ソフトボールで鍛えた怪力で大野さん並みの巨乳を顔に押し付けてくるのだから、再び彼岸の彼方寸前まで行く荻上さん。 豪田「ズルいーマリアー。私ももう1回ハグしたいー」 巴「じゃあ2人でサンドイッチでしましょう」 2人の耳に手が伸びてきて引っ張られる。 恵子の手だ。 豪田・巴「痛たたたた…」 恵子「お前らいい加減にしろ!千佳姉さん殺す気か!」 豪田・巴「(平身低頭で)すんません」 恵子「まあ千佳姉さん可愛いからハグしたい気持ちは分かるけど、ほどほどにしろよ。(笹原に)アニキも止めろよ!」 笹原「ごっ、ごめん。荻上さん、大丈夫?」 荻上「(目に渦巻き残しつつ)なっ、何とか…」
窓際のテーブルがどけられた後の床は、跡は残っているものの埃や汚れはなかった。 こんなところにも、1年生たちの掃除が行き届いていることが分かる。 有吉が戻ってきて、ようやく全員分の椅子が揃った。 窓際には椅子が3つ、ドアの方を向いて並べられている。 会長で議長である荻上さんの席と、今回重大発表があるという大野さんの席、そして学生ではないが現役会員という微妙なポジションの恵子の席だ。 あとの椅子は、窓の方を向けて3脚ずつ並べられている。 前半分の列に1年生たちが座り、後半分の列にOBたちが座る。 (クッチーは1年生たちの最後列が1脚余るので、そこに割り込んだ) 窓際の中央の席に、会長の荻上さんが座る。 窓際の左右の席に着いた大野さんと恵子は、椅子をやや横に向けて荻上さんの方を向く。 そして1年生たちとOBたちは、全員荻上さんの方を向いている。 つまり、荻上さんは他全員と向かい合う形になる。 何かのカルチャースクールのような光景だ。 荻上「『まるで授業参観だな』(立ち上がり)それじゃあ、えー第256回、今週の緊急ミーティングを始めます!」 1年生一同「そんなにやってましたっけ?」 OB他一同「そこは流せ!」 まるで何回も練習したみたいに、気味悪いほどピッタリと声が合う。 荻上「ったく、『いいとも』じゃないんだから…えーとそれじゃ先ず、大野さんから何か重大な発表があるとのことなので、お願いします(座る)」 大野「はーい。(立ち上がり、1年生たちに)喜べ、男子!えー実はですね、私がアメリカに居た時の友だちが、9月からこの大学に留学することが決まりました!」 一同「おー!」 浅田「その言い方からすると、女の子ですよね?」 大野「もちろんです!」 斑目「それって、スーとアンジェラなの?」 大野「はいっ!」 1年男子一同「スーとアンジェラ!?」 日垣「(後ろを向き)斑目先輩、知ってるんですか?」 岸野「(後ろを向き)どっ、どんな子なんですか?」
他の1年男子も口々に質問を斑目にぶつける。 斑目「(皆を手で制しながら)ハイハイハイ、静かに!(ニヤリと笑い)聞いて驚け。君たちの大好きなブロンドの巨乳ちゃんと、ロリロリ少女だ!」 1年男子一同「おー!」 その騒ぎの中、荻上さんは軽いショック状態にあった。 決して思ってはならない一言が、一瞬脳裏をかすめた。 『まだ増えるのかよ…』 だが先程クッチーといろいろ話した効果か、立ち直りは早かった。 荻上「(立ち上がって手を叩き)ハイハイハイ、静かに静かに!」 一瞬で静まる一同。 荻上「大野さん、続けて下さい(座る)」 大野「えーとえーと、どこまで言ったっけ?」 荻上「スーとアンジェラが留学してくるってとこまでです」 大野「そうそう。ちょっと待ってね」 自分の鞄の中をゴソゴソする大野さん。 何やらパソコンからプリントアウトしたらしい紙の束を出す。 数枚のプリントをホチキスで束ねたものらしい。 大野「(荻上さんと恵子、それに前列の席の1年生たちに渡しながら)ちょっと全員分は無いかもしれないから、無い人は隣の人のを見て下さい」 笹原「(プリントを見て)これは…?」 プリントの束の1枚目には、アニメ風のイラストに大きな文字で「GENKEN」のロゴが入っていた。 咲「ゲン…ケン?」 各々パラパラとめくってみる。 中は漫画やアニメのイラストと英文が溢れている。 大野「(1年生に)スーとアンジェラは、去年の夏コミに来てたんですけど、その時にうちのサークルのこと気に入って、向こうでも同じようなサークル作ったそうなんです」 神田「じゃあこれは、その会報か何かで?」 大野「そう、ネットで送ってもらった、原稿の一部です」 荻上「じゃあこの『GENKEN』って?」 大野「スーたちのサークルの名前ですけど、会報名も兼ねてるみたい」
荻上「ちゃんと通訳して下さい!SHIが抜けてるじゃねっすか!」 大野「ハハハ…ごめんなさい」 斑目「うちはハルマゲドンはやってないんだけどな…」 大野「とにかく!向こうでうちみたいなサークルやってて、その会員の内の何人かも留学を希望していて、ひょっとしたらあの2人以外にも何人か留学してくる可能性があります」 再び軽いショック状態に陥る荻上さんだったが、一方でこれで「あの計画」を発表するきっかけは出来たと秘かに意気込む。 朽木「ほほー、いよいよ我が現視研も国際化の時代ですかにょー」 高坂「凄いね」 久我山「やはり時代は変ったね」 田中「ああ…」 豪田「と言うことは、男の子も増える可能性ありますよね」 大野「そうですね。まだ未定だから何とも言えないけど」 ワイワイと盛り上がる部室内。 荻上「みんな!ちょっと聞いて!(OBたちに)先輩方も聞いて下さい!」 シンとなる一同。 荻上「この場を借りて、提案したいことがあります」 恵子「何なの、改まって?」 荻上「みなさん見ての通り、今の部室はたいへん手狭です。(一息置いて)そこで、部室を移転しようと思うのです」 一同「えっ?」 再びざわつく部室内。 咲「で、どこに移転する気なの?」 大野「そうですよ。サークル棟は年中満室で、代わりの部室なんて無いですよ」 荻上「屋上に…プレハブを建てようと思うんです」 一同「プレハブ?」 荻上「私が見た限り、サークル棟周辺で空いてるスペースは、そこだけです」 笹原「なるほど、あそこなら邪魔にはならないね」 田中「プラモ作りにもピッタリだな」 台場「でもあそこ、毎日人が出入りするには危なくないですか?柵も無いし」 荻上「周囲は鉄柵か金網を張ろうと思います」
恵子「張ろうと思いますって、予算はどうすんのよ?」 荻上「…春夏秋冬賞の賞金を使います」 一同「おー!」 沢田「百万ならプレハブぐらいは余裕ですね」 巴「でも鉄柵や金網まで入れるとどうかしら?」 荻上「そこでOBの方々には、もし私の分だけで足りない場合の経済的援助をお願いしたいのです」 頭を深々と下げる荻上さん。 咲「荻上、成長したな」 荻上「えっ?」 咲「前のお前だったら、自分の金だけで何とかしようとして煮詰まってたと思う。だけど今のお前は、自分で頑張る分と人にお願いする分とをちゃんとわきまえてる」 大野「ほんと大人になったわね、荻上さん」 荻上「(赤面)よっ、よして下さい」 高坂「よし、そういうことなら僕も少し出すよ」 斑目「俺は金ねえから、代わりに社長に話してみるよ。社長なら土建屋に顔利くだろうから、安いとこ紹介してもらえるかもしれんし」 笹原「『初任給まだもらってないんだよな』おっ、俺も…」 恵子「アニキはいいよ」 笹原「なっ、何で?」 恵子「千佳姉さんが賞獲った漫画って、アニキが描けって勧めたんだろ?だったらアニキとの合作みたいなもんじゃん。アニキは愛情だけでいいってさ。ねー千佳姉さん」 荻上「(赤面)なっ、何を…」 笹原「(赤面)ばっ、馬鹿!」
「そういうことなら、僕も力を貸そう」 OBたちプラス大野さんには聞き覚えがあるけど忘れかけていた、クッチーより下の世代には聞き覚えの無い、間の抜けた声がドアの方から聞こえた。 いつの間にか開いていたドアの前には、小柄で撫で肩で、メガネをかけた犬のような顔の男が立っていた。 OB一同・大野「初代会長!」 初代「や、久しぶり」 呆然とする1年生たち、クッチー、恵子、そして荻上さん。 荻上『この人が噂に聞いていた初代会長か』 有吉「初代ってことは…OBの方?」 伊藤「そうだにゃ」 日垣「でも確か、斑目先輩って2代目の会長だって言ってなかったっけ?」 国松「それにしては、もっと年上のような気が…」 そんな1年生たちを咲が制する。 咲「(冷や汗)その問題に触れるな」 そんな会話の間に、初代会長は何時の間にか荻上さんの前にいた。 初代「今の会長の荻上さんだね?」 荻上「はっはい。はじめまして、荻上です」 初代「はじめまして。さっそくだけどさっきの計画、OB会の方で資金を提供するよ」 ポケットをゴソゴソする初代会長。 やがてポケットから銀行の通帳と実印らしきいかつい印鑑を取り出した。 名義は「現代視覚文化研究会 OB会」となっていた。 斑目「OB会?」 笹原「そんなもん、あったんですか?」 初代「まあ一応ね。こんな時に備えて蓄えておいたんだ。(通帳と印鑑を差し出し)さあ荻上さん、これを使ってくれたまえ」 荻上「(通帳を開き)こっ、こんなに?」 初代「それだけあれば部室と鉄柵作っても余るでしょ?お金の問題をクリアした上で鉄柵なり金網なりまでこちらで作ると言えば、自治会も説得しやすいと思うよ」
荻上「でもほんとうにいいんですか?こんな大金…」 それを手で制する初代会長。 初代「現視研を頼むよ、荻上会長。僕はいつでも君たちを見ているから」 荻上「はいっ!」 純粋に感動する荻上さんや1年生たち。 だがOBたちは、言葉通りの意味に解釈して戦慄する。 特に咲ちゃんは「やはりあるのか?」と監視カメラを探してキョロキョロする。 荻上「みんな!お礼言うよ!(最敬礼で)ありがとうございました!」 一同「(最敬礼で)ありがとうございました!」 そして一同が顔を上げたその時、再び声を合わせて叫んだ。 一同「いないし!」 その後、新しい部室は夏を待たずに完成した。 自治会との交渉の際、荻上さんは屋上に現視研の部室を作る交換条件として、屋上に柵を作ることを提案したのが効いたのだ。 自治会でも前々から屋上に柵が無いことを気にしていたのだが、予算が無い為に放置していたのだ。 その為、まさに渡りに船とばかりに荻上さんの提案はすぐに承認された。 新しい部室は快適だった。 従来の部室の3倍近い面積になり、テーブルを2つ並べても全員が余裕で座れた。 エアコン付きの上、水道まで付いていた。 屋上の周囲は、高い金網で囲まれているので見晴らしは悪くなったが、安全性は高まった。 さらに部室の備品も、OBたちからの寄贈によって充実した。 ビデオ、ゲーム、漫画、同人誌、DVD、プラモデル、フィギュア、ポスター、そしてコスの在庫は、ちょっとしたアキバ系ショップ並みの品揃えとなり、展示スペースも広くなった。 難点と言えば、トイレに行くには下に降りなければならないことと、荷物を運ぶ時がたいへんなこと、それに何よりも部室に来ること自体にけっこう脚力がいることだ。 (サークル棟は4階建てだから、屋上は実質5階。エレベーター無しではチトきつい) それでも部室そのものの快適な条件ゆえに、会員たちには好評だった。 いやサークル自治会内でも好評で、他のサークルからの来客も増えた。
かつての部室は、荷物を運び出された後でドアに板を打ち付けて、完全に封印された。 次の使用サークルが決まるまで、それは解かれることはない。 昔、椎応大学でも学生運動が盛んだった頃、大学側にロックアウトを宣告されたサークルが部室で篭城するという騒ぎがあった。 まあ今ではそんな心配はないだろうが、部室の不正使用を避ける為、この習慣はその頃から今日まで続いていた。 部室の封印が終わった後、荻上さんは旧部室のドアの前に「移転のお知らせ」の張り紙をした。その下には小さくこう書かれていた。 「オタ空間よいとこ1度はおいで」 こうして荻上新会長の初の大仕事は無事に終わった。 だがこの後にも夏コミに学祭、そしてスー&アンジェラ来襲とイベントは尽きない。 がんばれ荻上会長、オタクたちの自由と平和の為に。
以上です。 妄想と希望的観測とご都合主義のナパーム弾で、SSスレを焼け野原にしてしまいました。 申し訳ありません。 あと最後にもう1つお詫び。 久米田康治先生、津田雅美先生、ひぐちアサ先生、ゆうきまさみ先生、そしてリアルに漫画の神様になってしまった藤子F不二雄先生。 ごめんなさい。
乙!
ここまでオリキャラ多用で押し切られると、却って清々しくて良いし、面白い。
>>11人いる! これは…オリキャラって出すの勇気要るんですけど、元ネタありなのが読み手にも 嬉しいですね(分かるの少ないですけど)。 さらにSSスレの過去投下作品まで巻き込んでの総集編といった趣きです。 ともかく長文乙でした!! 僕は好きですよ!!
>11人いる!! 大作だ!!あなたクッチー神ですね。クッチーの内面が掘り下げられている。 禁断のオリキャラを大量登場させたから、ハラハラして読んだが、面白い まとめぶり!まさに過去の作品の統合という印象。加えて自分の趣味も 詰め込みましたねW あなたの荻上は実に逞しくて素敵だ。 >120 新作はさむと遅レスになるが、他の作品との重複は気にされる事も無いかと。 元々、ここはお互いの妄想に寛容な場だと思いますし、匿名投稿ですから 著作権などあって無きがごとしですし、お互いの作品に影響しあってますからね。 それに時々、木尾さんたちもネタ探しにくるしwww
>>11 人いる!
キタコレ!
かなりおもしろい!こんな来年度なら見てみたいなー。
俺も考えてたけど、これはこれで素晴らしい!
クッチーがカッコよすぎです。こうなったら行き着くとこまでいい男になれい!
しかしながら自分が書いた作品とか参照されると恥ずかしいですなー。
(ちなみに一人ぼっちの現視研・しかも最初に投下した思い出の作品)
前の斑目の話の人も大好きな作品とか言ってくれてたし・・・。(これは現視研の秘密)
なんか俺のハートにも火がついてきた!
次号発売までに801小隊一本上げるか!
・・・最近こればっか考えてて正統派のSSが書けませんw楽しい誤算です。
ちと疑問、銀行口座て個人以外だと、法人名義だけが可能だったような 気がする。それともOB会は法人なのか? 初代会長ならやりそうだがな。
153 :
マロン名無しさん :2006/02/20(月) 02:20:01 ID:7u3CHwaQ
>>11人いる!
題名は萩尾望都先生ですね。
感想ですが…まず、お礼をいいたい。荻上と斑目と朽木をSS内で救ってくれたことに。
アリガトウ!!(号泣)
この展開ならげんしけんも安泰ですね。www
げんしけん1巻のKEEP OWTに、そんな前向きな理由思いつくなんてすごいなあ…
神SSだァ…まぶしい…
>>151 前の斑目の話の人です。現視研の秘密は名作だと思います。
SSまとめサイトの人に提案があります。
「11人いる!」と「現視研の秘密」を『傑作』カテゴリーにしてはいかがでしょうか。
801小隊と同じ人でしたか!芸の幅が広いですね〜。
次回作楽しみにしています!!
>>152 個人用口座を団体名で登録したりできるはず
法人じゃない商売人が屋号で登録してるから
>>152 OB会名義(○○会とか漢字名)の講座は実在しますので大丈夫っしょ。
他分野ですがうちの部にも有りました。
やっぱりげんしけんは「あーる」なんですね。 だらだらとした心地よい空間の演出は「あーる」に近い気がしました。
157 :
151 :2006/02/20(月) 05:49:44 ID:???
>>19 アニメ化してみたいですね〜。無理だろうけども・・・。
>>21 マダラメさんはある意味主役です。ある意味。
>>24 頑張りました〜。
>>50 臨場感ありますか!よかった〜。
こういうのはそれがないとダメダメですからね〜。
>>153 実はSSまとめの中の人も私だったりします。
考えましたが、「傑作」というカテゴリは作りません。
なぜなら、それは人の感性で違うものだと思うからです。
今のように客観的に作品の傾向で分けていくほうがいいかなとおもっちょります。
なにか、他にこういうカテゴリがあれば!
という意見があれば、採用できるときはしようと思います。
他の皆さんもよろしくお願いします!
158 :
157 :2006/02/20(月) 05:55:07 ID:???
では第801小隊第8話、いきます。 今回は閑話休題、といった内容でしょうか。 14レスで投下いたします。 今回も、読んでくださる方々にズッキュウウウーーーン!!(意味不
「・・・君には人殺しはしてほしくないんだ・・・。」 誰だろう?私はこの人を知っているはずなのに、思い出すことが出来ない。 とても、悲しそうな顔をしている。 とても、つらそうな顔をしている。 場面が変わる。何か大きな機体の前に私とその人は立っている。 「・・・君が適格者だったとはね・・・。」 諦めのような、自嘲のような笑みを浮かべるその人。 その人のことを、大切に思っていたはずなのに。 私はどうしてこの人を思い出せないのだろう。 頭が痛い。割れるような痛みが走る。 大切な何かを、忘れている。 また場面が変わる。研究室のようなところ。 「・・・この機体は破棄するよ。これ以上戦争を大きくしたくない・・・。 あいつも、納得してくれたしね。」 にっこり笑うその人。 ああ、そうかこの人は・・・。 そこまで出掛かってきたところでまた痛みが走る。 また場面が変わる。一人、私は研究室にいる。 急に大きな黒いものに覆われたかと思うと、意識が沈んでいった。 凍えるような思いを心に広げながら。
「・・・夢?」 オギウエはそう呟きながら目を覚ます。 自分が泣いていることに気付き、驚く。 「なんで泣いているんだろう。・・・思い出せない。」 さっきまで見ていたはずの夢が思い出せない。 体を起こすと、腕で涙を拭く。 「・・・昨日、あのペンダント見つめてたからかな・・・。」 ベッドの横にある棚の上に、淡いブルーの宝石が付いたペンダントが置かれている。 「基地で起きたときには持ってたものだけど・・・。 これがなんなのかさっぱり思い出せないんだよなあ・・・。」 今までの記憶がないわけではない。 コロニー爆破事件で親を亡くしたこと。 皇国軍に入り、半年ほど訓練をしたこと。 一緒にコロニーで過ごしていた学友も、復讐のためにと共に入った。 ・・・あれ? 「・・・なにか、ぽっかり開いている気がする・・・。」 思い出の中に、大きな空白。それを思い出そうとしても、出てこない。 一人分開いている。それが誰なのか、思い出そうとする。 「う・・・。」 吐き気をもよおしそうなほどの頭の痛み。 何かで記憶がシャットダウンされているかのような。 さっきの夢に関係があるような気もするのだが、頭痛はさらに激しさを増す。 「・・・違和感を感じるけど・・・。しょうがないか・・・。」 とりあえず立ち上がり、顔を洗うために廊下へ出る。 そう、ここは輸送船の中。個室に水道があるほど大きいものではない。 顔を一回ぱん、と張り、気合を入れる。 「よし、今日も頑張ろう。・・・私に出来ることを。」
ジムの補修にてんてこ舞いの整備室。 とっくに補修の済んだほかのMSは奥に詰め、総員で修理に取り掛かっていた。 「おーい、クッチー!そこそれじゃないだろ!」 「え!?そうでありますか??」 「おいおい、たのむぞ、そのパーツはガンダム用にカスタマイズしたもんだ。 似てるがバランスが大きく変わっちまうんだ。」 「りょ、了解であります!」 そんな会話を外でしているのを聞きながら、ササハラはコクピットにいた。 別に修理をサボっているわけではない。訓練の時間として、認められている。 『大分落ち着いたようですね。』 「え?」 あの戦い以来、毎日訓練は行っていた。その合間もずっと会長とは会話してきたわけだが。 「・・・やっぱり気負って見えましたか?」 『ええ、まあ。いい意味で、今はいつものあなたです。』 「ああいう失敗をしてしまいますとね・・・。」 ササハラは苦笑いをしてその言葉を受け止める。 確かに、あの後多少気負っていたかもしれない。 「・・・自分自身が強くならないと、と思いまして。」 『・・・凄いですね。』 「え・・・?」 意外な言葉だった。会長は、AIとはいえ元はニュータイプと聞いた。そんな人から『凄い』なんて。 『・・・私は逃げましたから。そんな記憶がなんとなくですがあるんです。』 「・・・。」 『失敗を乗り越えて、さらに前に。・・・そのお手伝いを私にもさせてください。 それはきっと、私自身のためでもあると思うのです。』 AIがここまでのことを言うなんて。驚きもあったが、どこか納得してしまう自分もいた。 このAIは人間味がありすぎる。ここまで一緒に会話してきてよくわかった。 何か大きなウラがある気がするが、それを考えても始まらない。 ササハラはその言葉に満面の笑みをして、こういった。 「もちろんです。よろしくお願いします。」
そのころ、オギウエは洗濯物を洗濯機兼乾燥機に入れていた。 「やっぱりこの人数だと大変だな・・・。」 そうはいいながらも、この仕事をすることが楽しい。笑顔がこぼれる。 自分に役目がある。しかも、こんな平和な。 向こうでの殺伐した生活とは違い、ここはとても落ち着いた。 特に、自分は・・・。 あれ? また記憶が飛んでいる。なんでだろうか? 「・・・まあ、いいか・・・。」 とにかく自分のやることをやらなくては。 そういいながら一つの洗濯物を取り上げるオギウエ。 「・・・ん?」 その下には、古びた金属で出来た丸いものが一つ。 「・・・ロケット?」 ロケット型のペンダント。写真などを入れて保管するものだ。 誰のだろう。なんにせよ、大切なものだったら大変だ。 少しでも情報を得ようと、その中を見ることにする。 パカッ。 古い金属のこすれあう小さな音が聞こえると、写真が見えた。 「・・・綺麗な人だ・・・。」 思わず呟いてしまった。若い、一人の女性がそこにはいた。 誰かの想い人なのかもしれない。 ・・・もしくは、だったのかもしれない。 オーノの「誰もが大切な人を無くしている」という言葉が蘇った。 それはともかくとして、持ち主に返そう。オギウエはそう思った。 「・・・とりあえずは洗濯物を片そう。」 そのロケットをポケットにしまうと、腕まくりをして作業を再開した。
「よーし、昼飯にでもするか。」 ふう、と汗のかいたおでこをぬぐうタナカ。 「・・・はあ、なかなか修理終わんないっすねえ。」 ササハラが苦笑いしながらため息をついた。 目の前にいるジム。ササハラが前回の戦いで半壊させたものだ。 見た目には大分修理が進んでいるように見える。 「誰が悪いんだ〜?ササハラ少尉〜?」 そのササハラにむけて意地悪そうな目線を送るマダラメ。 その言葉を受けて他の皆もササハラに視線を送る。 「・・・重々反省シテオリマス。」 「なーに、あとは足回りの確認だけだ。ダメージはないはずだったが、 無理して動かしたツケだな。大分ガタが来てやがる。」 タナカがササハラを慰めるよう肩をポン、と叩く。 「やっぱり、無茶な動きになっちゃうんですね・・・。」 「ああ、あのシステムに機体の反応性が追いついてない。 ・・・まあ、出来る限りのチューンアップはするけどな。」 困ったような顔をしながら、苦笑いのタナカ。 「ガンダムのパーツ流用してとか無理なのか?」 「それは無理ですよ。本体とのバランス・・・さっきタナカさんが言ってましたけど、 それがめちゃくちゃになっちゃいますから。根本的に作り直さないと・・・。」 コーサカがそこで意見を述べた。 「コーサカはMS工学、研究してたんだな。」 「ええ、元々工学の知識はありましたし。MS自体は3ヶ月くらいですけどね。」 「コーサカの知識は凄いぞ。俺も知らんテクを教えてくれたりするからな。」 「設計がおもな仕事だったんです。・・・色々あってパイロットに戻りましたけど。」 (あれ?) 一瞬顔色を曇らせるコーサカ。その一瞬を見ていたのはササハラだけだった。 そのササハラも見間違いだろうと思い、そのまま気付かなかったことにした。 「ふーん。まあ、そのおかげで俺らも助かってるわけだしナ。」 そういって、コーサカの肩を叩くマダラメ。 「よし!飯行くぞ!」
「ウマ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「あんた、毎度毎度大声出すな。」 天井を仰ぎながら大声を出すマダラメに、サキが突っ込みを入れた。 「しかしだな、うまいものにはうまいと感情を込めることはいけないことかね?」 「うまいと言うのはいい。だが、大声を出すな。」 「あはは・・・。怒られちゃいましたね。」 「むぅ・・・。」 いつものにぎやかな食事をする皆。 「あ、そうだ・・・。」 その中でオギウエはさっきのペンダントのことを聞こうと思い立った。 その矢先。 「あれ・・・?」 声を出したのはササハラ。何かを探すようにポケットをまさぐる。 「どうかしました?」 その焦りように心配そうに声を出すオーノ。 「いや・・・。ペンダントが無くなっていて・・・。」 「ああ、いつも持ってるロケット型のか?」 「はい・・・。」 ズキン。 オギウエの心が少し痛む。さっきのペンダントはササハラのものであった。 入っていたのは女性の写真。戦火にまみれた彼の故郷。 そこに、あの写真の人はいたのだろう。・・・どういう関係だったのだろうか。 「おいおい、部屋においてあるんじゃないのか?」 もっともなマダラメの意見に、ササハラもそうかと納得し、食事を再開した。 オギウエは、言い出そうと思っていた事が出来なくなってしまった。 タイミングを逸するとこういうことはかなり言い辛くなる物だ。 なぜ、そのとき黙っていたのか。そういう疑問が出てくることが間違いないからだ。 (しまった・・・。どうしよう・・・。) そうは思っても、さまざまな思いが交錯し、ついに言い出せぬまま、食事は終わってしまった。
「う〜ん?」 ササハラは部屋を徹底的に探したものの、ついには見つからなかった。 その悩み顔に、通りがかったサキが声をかけた。 「なに?やっぱりないの?」 「そういうこと・・・。」 困った顔で苦笑いをするササハラ。 「大切なものなの?」 「うん・・・。物自体も、中に入ってる写真もね。」 「そっか。じゃあ、探すの手伝ってやるよ。」 サキが笑顔で提案した。 「え。いいの?」 「まあね。男連中も忙しそうだし。オーノとオギウエに妹呼んで来て探そう。」 「助かるよ〜。」 サキの要請にすぐさまやってきた三人。 「で、どの辺まで持ってた記憶があるんですか?」 「今日の朝、見た記憶はあるんですけど・・・。」 オーノの問いに、そう答えるササハラ。 「いつものようにポケットに入れて・・・。」 そういいながら洗濯物置き場まで歩いてくる五人。 「洗濯物出そうとここまできたんですよね・・・。」 (そのとき落としてかごに入っちゃったんだな・・・。) そうは思っても、オギウエは声に出すことはできない。 「ふーん。あのさ、兄貴、それってあれでしょ?」 「・・・まあな。」 「そりゃ困ったね・・・。」 ケーコが兄がなくしたものの正体を知り、同じように深刻な顔になる。 (あのケーコさんがこんな顔になるなんて・・・。やっぱり大切なものなんだ・・・。) そうは思いつつも、やはり言い出せる状況ではない。 「で、その後洗面所に向かって行って・・・。」 そういいながら進むササハラについていくしかないオギウエ。 その顔には冷や汗がだらだら流れてくるのだった。
「・・・で、クガヤマさんとここであって少し話した後、外に出て・・・。」 そういって洗面所を出るササハラと四人。 「あ、そうだ、そのときにクチキ君とぶつかったんだ。」 「そのとき落としたんじゃないですか?」 オーノの予想に、頷くケーコとサキ。 「あー、そうなのかな?でも、落ちてないよな・・・。」 そういいながらきょろきょろ周りを見渡すササハラ。 「・・・そうなると答えは一つ。」 「え?」 ケーコの言葉に、わからないといった表情をするササハラ。 「クッチーが持ってるんじゃない?」 「ええ?そんなわけないでしょ。そうだったらそう言ってる筈だし。」 ありえない、といった顔でその意見を否定する。 「うーん・・・。まあ、とりあえずクッチーに聞いてみよう。」 サキの言葉に、皆ひとまず整備室へ移動することにした。 (やばい・・・。クチキさんに疑いがかかりそうになってる・・・。) 関係ない人を巻き込んでしまいそうになりつつも、やはり言えない。 中の写真が誰なのか。それを知ってしまいそうで。 (誰だっていいじゃない・・・。) そうはいっても、気になってしょうがない自分と知りたくない自分。 二人の自分が心の中で大戦争を繰り広げているようだった。 (馬鹿なこと考えてる場合じゃない・・・。本当、どうしよう・・・。) 「オギウエさん?」 オーノの言葉にビクッ!となる。 「どうかしました?」 「・・・いえ大丈夫です。」 様子がおかしいことには気付いてはいるものの、オーノは一応その言葉を聞き入れる。 「そうですか・・・。調子悪いようでしたら言ってくださいね?」 「も、もちろんです・・・。」 冷や汗をだらだら流しながらとぼとぼと四人の後を付いていくオギウエであった。
「え、部屋に帰った?」 サキが椅子に座っているクガヤマに聞く。 「あ、ああ、さ、さっき仕事がひと段落して休憩してたんだ。」 クガヤマはタオルで「ふぅ・・・。」といいながら汗をぬぐう。 「なんか変な様子なかった?」 サキが取り調べをするようにクガヤマに聞く。 「え、え?ま、まあ、ふ、普段から変なやつだからな・・・。 た、確かに、さ、最近は特にそれが目立ってるかも・・・。」 あごに手を置き、考えるように呟くクガヤマ。 「そ、あんがと。」 そう聞くだけ聞いて四人の下に戻るサキ。 「部屋だって。最近ちょっと怪しいともいってたよ。」 「ええ?でもさ、それはいつものことだし・・・。」 クチキの奇行と奇言は慣れっこ、といった顔でササハラは呟く。 「最近は特にってさ。まあ、別に犯人と思ってるわけじゃないんだよ。 話は聞いといたほうがいいだろ?」 「・・・まあね。」 五人はそのまま個室のほうへと向かう。 「な、なんでありますか?」 クチキは明らかな挙動不審であった。 (あやしい・・・。) 全員が全員そう思うほど何かにおびえるような顔つき。 「ササハラがペンダントなくしたの知ってるだろ? 朝あんたとぶつかったとき落としたんじゃないかってことになってね。・・・何か知らないかい?」 サキがストレートにクチキに尋ねる。 「え、え、知らないでありますよ。」 「なんかあやしいね・・・。部屋、検めさせてもらうよ。」 「うぇ、ええ!?・・・まあ、どうぞですにょ・・・。」 クチキはしぶしぶ部屋へ五人を通した。
殺風景な部屋はどの部屋も一緒。皆はそんなクチキの部屋に入ることとなった。 「まあ、なんかあるわけないか。」 予想通りとはいえ、何もない部屋にため息をつくサキ。 「そりゃそうでしょ・・・。なんか大きな余計なものもって来る余裕はないよ。」 苦笑いをして回りを見渡すササハラ。クチキの趣味なのか、風景写真が張ってある。 デジタルカメラも一つ、無造作に置いてあった。 「これじゃ隠す場所も・・・ん?」 オーノが見つけたのは一つの小さい金庫。 「これ、何が入ってんのさ?」 ケーコが興味を持ったようで、その金庫を持とうとする。 「シャラーーーーーーーーーップ!」 大声でその行動を制止させ、金庫を奪い去るクチキ。かなり気が動転しているようだ。 「こ、これには触ってはいけないであります!」 「・・・あやしいねえ・・・。」 「・・・あやしいですねえ・・・。」 「・・・あやしいぜ・・・。」 サキ、オーノ、ケーコの三人にじわじわ詰め寄られ部屋の角に追い詰められるクチキ。 「これにはササハラ少尉のペンダントは入っていないでありますから!」 「なら見せてごらんって・・・。」 サキが子供をあやすような声でクチキに言う。 「う、うう・・・。」 うめき声を上げて詰め寄る三人を何とかかわそうと方法を模索するクチキ。 息を荒くしながら肩を上下させるクチキ。そして数十秒の間・・・。 「う、う、うおーーーーーーーーーーん!!」 耐え切れなくなったのか、大声で泣きながら走り出すクチキ。 部屋の出口へと突進し、その近くにいたオギウエにぶつかってしまう。 ドンッ! 「いたっ・・・。」 腰から倒れるオギウエ。その拍子に例のペンダントを落としてしまった。 そのままクチキは叫び声を上げ、金庫を抱えながらどこかへと走り去ってしまった。
「だ、大丈夫?オギウエさん・・・。」 オギウエに近寄るササハラ。しかし、その視線はその横に釘付けになった。 「だ、大丈夫・・・、あ・・・。」 その視線の先にあるものに気付き、顔が青ざめる。 「あ、あ、あの・・・!」 弁解をしようとしても、こういうときに言葉はすぐに出てこない。 ササハラはペンダントを拾う。視線は合わせない。 「オギウエさんが持ってたのか・・・。」 「言おう、言おうとは思ってたんですけど・・・。なかなか言い出せなくて・・・。」 もうどうしようもない。泣きそうな声になりながら言葉を搾り出すオギウエ。 非難を浴びる覚悟をして、オギウエはぎゅっと目をつぶった。 「・・・ありがとう。拾ってくれたんでしょ?」 思いもよらない言葉に逆に目を見開くオギウエ。 そこにはにっこり笑ったササハラがいた。 「え、え、でも・・・。」 「いやー、本当よかった見つかって。これ、親の形見なんだ。」 ロケットの中身を空けて、確認するササハラ。 いつにない優しい顔をしていることにオギウエは気付く。 「中の写真も母親。写真はほとんど燃えちゃって、残ってたのが若いころのだけでね・・・。 俺ら二人は親父似だから似てないけどね。あはは・・・。」 「私は母さん似がよかったのになー。」 その言葉に反応して口を尖らすケーコ。 「そんな事いって、お前、ちゃんと自分の持ってるんだろうな?」 「モチのロンだよ。いくらつらくてもこれだけは手放さなかったんだから。」 ケーコもまた違う形のロケットを取り出す。 「あの・・・。本当に・・・。すみません・・・。ウェ・・・、エック・・・。」 たまっていたものがこみ上げてきたのだろう。 堰を切ったように泣き出すオギウエ。その様子を見たサキが苦笑いしながら一言。 「・・・後頼むわ・・・。」 その言葉を合図に、オギウエとササハラを置いて部屋から出て行く三人。
「大切なものなのに・・・。私・・・。ウェ・・・。」 「もういいって。別に怒ったりしてないよ。仮にクチキ君が持ってっても怒る気はなかったし。 それに、実はこれね、オギウエさんに持っててもらおうかなって考えてもいたんだ。」 にっこり笑うササハラの言葉に、オギウエはさらにショックを受ける。 「え、でも、これは・・・。」 「いやね、これからよく出撃することになるだろうし、無くさない為にね。 ・・・オギウエさんに持っててほしいんだ。」 笑顔の中に真剣さを含んだ表情を見せるササハラに、オギウエは言葉も無かった。 ササハラはゆっくりとペンダントを持った手をオギウエに差し出す。 「・・・わかりました。じゃあ、代わりにこれ持っててください。」 それを恐る恐る受け取りながら、意を決して自分の首に手を回す。 胸の中から取り出したのは青いペンダント。記憶は無いが、大切なものだというのはわかる。 これをもっていると、安心する。きっと、そういう効果のあるものだと思うから。 何とか泣き止み、それをササハラに向かって差し出すオギウエ。 「・・・お守りです。ササハラさんの無事のために。」 「・・・うん。」 そのペンダントを受け取るササハラ。少し、沈黙が続く。 視線が交わされる。何かが通じ合ったような気がした。 「・・・じゃあ、クチキ君に謝りに行こうか・・・。」 「そうですね・・・。」 冤罪のために嫌な思いをしたクチキ。彼には謝る必要があるだろう。 そう思って、立ち上がったオギウエ。 しかしそこに、緊急放送が入る。 タナカだ。 『おい、誰か来てくれ!クチキがジムキャノンに・・・おいやめろ!』 「ええ!」 ササハラは驚いた声を響かせた。
「おい、クチキ、やめるんだ!」 船内回線の近くからクチキに怒鳴るタナカ。 ジムキャノンはどんどんと出口へと迫っていく。 「もうこんなところいられないにょ〜!!!出て行ってやる〜!!」 そういいながら出口のほうに向かうクチキ。もはや何にも聞く耳を持たない。 顔は涙目であり、興奮したように荒い息を繰り返す。 「ば、ばか、や、やめろ!い、今結構高い所にいるんだぞ!」 同様に位置もは声の小さいクガヤマもあせって叫ぶ。 オートパイロットで飛んでいるため、細かい操縦が出来ないので、高度を高くしている。 「うるさ〜いにょ〜!」 そういって手動ハッチを動かし、扉を開けるクチキ。 「ば〜いば〜い!!」 そういって空へと飛び出すクチキ。その姿を、タナカとクガヤマは呆然と見ているしかなかった。 光のテールランプを光らせながら、夕闇のジャングルへとジムキャノンは消えていった。
輸送船から降り、一人ジャングルをさまようクチキ。 ある村へとたどり着くことになる。 そこで出会った少女がクチキに向かって言った。 「あなたが勇者様ですね!?」 次回、「戦禍の村の伝説」 お楽しみに。
173 :
158 :2006/02/20(月) 07:00:43 ID:???
今回気付いたこと。 投下時間待ち中にまとめサイトの更新をすると効率的だが、 ということは自分が投下しない限りはサイトは更新されないことになってしまう。 マテマテ、それは逆に非効率的ではないか? 眠いので思考が定まりません。
174 :
マロン名無しさん :2006/02/20(月) 12:57:05 ID:7u3CHwaQ
>>159-172 801小隊新作キター!こういう展開、イイ!
乙です。今回は荻上さんが…笹原のロケットの写真に嫉妬して、持っていることを
言い出せないなんて、切ない…
しかしクッチーは災難でしたね。
MSで逃亡かあ…ア○ロ…
次回作も期待してます。
>>157 そうでしたか。まとめサイト、これからも頑張ってください。
なんか余計なこといってすいません。
確かに客観的に分けたほうがいいですね。
ども、「11人いる!」を書いたキルゴア中佐気取りのバカです。
いろいろご意見ありがとうございました。
>>147 年末に考え始めてから完成まで約2ヶ月、ほんとに疲れました。
>>148 厳密にはオリキャラではなく、他の漫画のキャラを基にしたパロキャラですが、今回は荻上さんの苦闘ぶりを描く必然性として敢えて大量投入しました。
>>149 一応全員元ネタはあります。
殆どのキャラの名前は元の名前のもじりです。
一部ひねり過ぎて元が分かりにくいのもいますが。
ちなみに当初は元ネタの名前そのまんまで行こうとしました。
でもジャイ子の本名が不明だったので、勝手に名前をでっち上げる手前バランスを取る為に他のキャラも変名にしました。
(何かのインタビューによると、藤子F先生はジャイ子の本名は決めておらず、その内決めるとおっしゃったまま他界されたので、永遠の謎となってしまいました)
>>150 当初の企画では、実は似たもの同士の荻上さんとクッチーの和解話として書き始めました。
何のかんのいっても2人は同期の桜、いつかほんとに和解して欲しいものです。
>>151 勝手にSSの設定お借りして、えろうすんまへん。
>>153 でも実は「11人いる!」、この歳になってまだ読んでないんです。
萩尾望都先生、ごめんなさい。
あと私ごときに傑作なんてもったいない。
せいぜい掘削ですから。
カテゴリー分けするなら、むしろ801小隊シリーズを別枠にすべきではないかと…
今読んだクッチー脱走編も面白かったし。
次回クッチーを迎える少女とは、まさか児○研○長?
勝手な予想すんません。
>>156 実はそちらから6人もキャラお借りしました。
ゆうきまさみ先生、重ね重ねごめんなさい。
最後の最後らへんまで名前をつけてくれなかった2人が速攻で出てきたのがおもろかった。
>第801小隊第8話 ペンダント 物語も佳境ですね!オギウエの回想の「あの人」とは 「あの人」なのでしょうかね。続きが気になる展開です。 それとクッチーも!金庫の中身も! まとめの中の方だったんですね。気付きませんでした。いつもご苦労様です。 大作続きで、斑目は告白するわ、クッチーは子供向け作家目指すわ、 さらに絵板で、孫荻見るわ、妄想に刺激を受けてばかりで、ヒートアップです。 久々の投下ですが、閑話のつもりで書きました。ジャンルはアンデルセン童話 が元ネタなのですが、内容は『名付け親』が主役のようなものですので、分類の 判断はお任せします。思いっきり原文パクリのパロディーです(汗)
その日はオギーちゃんの誕生日の日でした。その女の子はオギーちゃんと呼 ばれていますが、もちろん、ほんとうの名前ではありません。その家の女の 子は、なぜかオギーちゃんと呼ばれるのです。その理由を知る人は家族にも いません。お母さんも、お父さんも知りません。 家族やお友達、親しい人たちが集まって、オギーちゃんのお誕生日をお祝い するために、『名付け親』のうちに集まりました。オギーちゃんはおばあち ゃんからもらった服を着ています。おばあちゃんもそのお母さんからもらっ たということです。『名付け親』はおばあちゃんのお母さんのお友達でした。 その日はオギーちゃんのために、たくさんの贈り物がテーブルに置かれてい ました。そこにはオギーちゃんの大好きなマンガ本やイラスト本、絵本があ りました。でもどんな物語よりもすばらしいものは誕生日を祝福してもらう ことです。 「一日、一日、生きていくことがとても楽しいわ!」 オギーちゃんは言いました。 『名付け親』はそれを聞いて、これこそいちばん美しい物語だと言いました。
『名付け親』は楽しそうにはしゃいで飛び回るオギーちゃんを、古ぼけた丸 メガネの奥から、目を細めて、うれしそうに見つめました。でもオギーちゃ んには不思議なくせがありました。お友達の男の子達が仲良くしていると、 ジーとそれを見て、顔を赤らめるのです。 『名付け親』が聞きました。 「オギーちゃん、何をお絵かきしているの?見せてくれる?」 「絶対見せてあげない!」 そう言って、オギーちゃんは筆のように束ねた髪をピョコピョコふりながら、 顔を赤らめて立ち去るのです。 『名付け親』はオギーちゃんのお友達にもプレゼントを用意してました。プ ラモデル、新しいゲーム、『名付け親』の家には何でもありました。 「僕、このゲームよりおじいちゃんのお父さんが作ったプシュケーのレアゲ ームがほしいや!」 と、女の子のように可愛らしい男の子が言いました。 男の子のお母さんは男の子を叱りました。その子のお母さんは『名付け親』 のとてもよく知っている人にそっくりでした。 もちろん、『名付け親』は何でも持ってます。本棚には名作アニメから名作 マンガまで、ずらりと並んでます。でも子供に見せられないものは、部屋の 奥に隠してます。さらにその奥には古ぼけた一枚の写真が誰の目にも触れず に隠されています・・・。
暖炉のほのおにあたりながら、『名付け親』は言いました。 「ほのおが、わしのために、古い思い出を読んでくれる!」 オギーちゃんにもほのおの中に、いろいろなものが見える気がしました。 「このアニメや本の中には、世界で起こることのすべてが描かれているのだ よ!」 そう言う『名付け親』の目は、よろこびに明るく輝きました。この目も、む かし、若いころには、泣いたこともあるのです。 「だが・・・あれもまた、あれでよかったのだ・・・」 『名付け親』は続けました。 「あれは、神様が、ためされるときだった。あのころは、、なにもかもが、 灰色に見えたものだ・・・」 「ところが、いまは、わしのまわりにも、わしの心の中にも、お日様がかが やいている。」 「一日、一日、生きていくことが、とっても楽しいわ!」 とオギーちゃんは言いました。 家中の人が同じことを言いました。そして『名付け親』もまた言いました。 『名付け親』はこの中で誰よりも長生きです。若いころの知り合いも、遠い 昔に、いなくなっていました。そして世の中のことを、誰よりも知っており、 いろいろな物語を知っていました。 その『名付け親』が、オギーちゃんの筆頭を、シビビと弾きながら、言いま した。 「人生こそ、いちばん美しい物語だよ!」
斑恵物語の続きを書く前に箸休めという感じで書いてみました。 今回はインスパイヤしてないと思います・・・、大丈夫だよな・・・。 内容は、笹原と恵子の近親相姦モノです(エロなし)・・・。 ドロドロではないですが、ダークな感じなので嫌いな方はスルー願います。 恵子好き、笹原好きな方に最初に謝っておきます。 どうもすいませんでした。
182 :
マロン名無しさん :2006/02/20(月) 21:45:51 ID:6eYBqE/P
すいません かぶっちゃいました。 あとにします
183 :
マロン名無しさん :2006/02/20(月) 22:12:57 ID:6eYBqE/P
すいません。 改めまして、投稿させていただきます。
階下から母の呼ぶ声がする。 「恵子ー、完士ー、晩御飯にするからー、降りといでー。」 彼女は、透き通った声で応える。 「はーい、今いくー。」 彼女はベッドの横に腰かけて、下着をつけていた。 「…………なあ……。」 彼は体をベッドに横たえたまま、上気する呼吸の合間に声を発した。 「なんで…、こんなことしたんだよ……。」 乱れた制服。赤く火照った頬。 彼は顔を隠すように、目を手のひらで覆っていた。 「…決まってるじゃん……、アタシ…、アニキのこと…、好きだから……。」 それは、とてもとても薄暗い部屋での出来事だった。
「じゃあ、俺、行くから。出かけるときは電気消して、エアコン止めてけよ。」 彼は玄関口でスニーカーを履いている。 横顔に緊張と不安とをのぞかせながら。 彼女はゲームの画面を凝視していた。 アニキはこれからあの女(ひと)のところに行く。 合宿で気持ちを告げた、あの女のところへ。 まだ誰のものでもないアニキが、あの女のものになりに行く。 「わかってるよ。」 アニキはあの日から、アタシの目を見ない。 あの日の前は、いつも真っ直ぐにアタシの目を見ていたのに。 アタシの視線から、アニキは逃げていく。 いつの間にか、アタシもアニキの目を見なくなった。 だって、いつでも、アニキはアタシの目を見てはくれないから。
「アタシだってもう、子供じゃないんだからさ。」 アタシは家に居るより、友達と街にいることが多くなった。 アニキの居る家には、居たくない。 アタシはいろいろな男と付き合って、いろいろな男と、寝た。 どれも、うわっ面のいい男ばかりと。 アタシは男のうわっ面しか見ない。 男の、性格も、考え方も、趣味も、好みも、アタシは見ない。 アタシはうわっ面しか見ない女だから。 アタシはアニキのうわっ面を見て、好きになったんだから。 小学生が担任の教師に憧れるような、世間知らずな恋。 アニキの優しさも、頼もしさも、頼りなさも、かわいさも、アタシは見ない。 アタシはうわっ面しか見ない女だから。 うらっ面の恋をしていたんだから。 「よかったよね。大学行って。」 そのうち、アニキが家から居なくなった。 アニキはどこかへ、行ってしまった。
「……友達もできたしさ。」 アタシは、今までで一番うわっ面のいい人に会った。 アタシはその人を好きになった。 アタシはうわっ面しか見ない女だから。 その人の性格も、考え方も、趣味も、好みも、アタシは見ない。 うわっ面がいいから、その人を好きになった。 「そうだな〜。今回のことは、ほんと、みんなに感謝してんだよ。」 「そう…。」 「…お前にもさ。」 「ウソだね。」
アタシは嘘つきだ。 アタシはその人の、性格も、考え方も、趣味も、好みも、見ていない。 その人のうわっ面も、見ていない。 その人が、アニキの友達だから。 その人を好きと言えば、アニキの側に居てもいいから。 その人を好きと言えば、アニキが話しかけてくれるから。 その人を好きと言えば、ただの兄妹に戻れるから。
「じゃあ、行って来るわ…。」 アニキが出て行く。 まだ誰のものでもないアニキが、あの女のものになりに行く。 アタシのものにならなかったアニキが、あの女のものになりに行ってしまう。 「あ、ゲームし終わったたら、ちゃんとソフトをケースにしまっとけよ。」 「…………。」 「おい、聞いてんのか?」 「………いかないでよ。」 アニキにあの女のところに行かないでほしい。 また、アタシの目を、真っ直ぐに見つめてほしい。 「アタシ…、今でも…、ずっと…、アニキのこと……。」 涙を流したくなかった。 でも、それでアニキが、アタシの目を見つめてくれるなら。 「アニキ…、……お願い………。」
「……ゲーム…、終わったらコンセント抜いとけよ………。」 アニキは、ドアの向こうに消えていった。 またどこかへ行ってしまった。 アタシをここに残して。 あの女のものになるために。 でも仕方ない。 アタシはアニキの、うわっ面しか見ていなかったんだから。 彼女は、彼の布団に顔をうずめる。 尖ったナイフを握ったままで。 アニキの匂いがする…。 彼女の涙が布団に染み込んだ。 布団を濡らしたら、アニキ怒るかな…。 でもそのときは、アタシのこと、ちゃんと見てくれるよね。 終り
…。 …なんちゅう話を書きやがりマスか、アナタは。 なんか泣けるじゃないですか。 …あー、だから笹原「妹萌え」を封印してたのかなー、 とか、「妹が…」「そこの駅に…」の時、 やたら顔赤かったのはそーゆーことか。 とか、また妄想がふくらむデスよ! GJ!!
192 :
マロン名無しさん :2006/02/20(月) 23:53:46 ID:RA3b9SmC
>>184-190 うわアナタ何ちゅうモノを!!!!!!!!!!
まさかあの二人でこんな話が読めるとわ。
やっぱこのスレッドすげえレベル高いわ。
いつのまにか801小隊もメチャ楽しみだし。
(つうか俺ガンダムも何も知らないのに)
やっぱ愛かなあ。やっぱ愛だよなあ。
ほんと力作多くて読ませるスレだよ。皆様これからもがんばって下さい。
(しかし「うわっ面の思い」、泣かせるわ。タイトルのうまさといい。
もしかして「げんしけんの秘密」と同じ人じゃろか?)
193 :
マロン名無しさん :2006/02/21(火) 01:00:58 ID:LRgVr3ou
>>192 いやいや、斑恵物語書いた人のようですよ。これが二作目なんですね。
>>うわっ面の思い
ほほう…なかなか…読ませる文章ですなあ。
恋愛小説の形式で、今までのSSスレにない独特の雰囲気。
恵×笹というのは笹×斑みたいに「現実にはありえない」カップリングではあると思いますが、禁断の兄弟愛……なんかいいのう。
面白いと思います。
>>第801小隊第8話ペンダント 笹荻のラブコメと、色んな伏線が同時進行で、毎回楽しみです。 お疲れ様です〜〜〜。 しかしまさかクッチーが…次回どうなるんでしょ。 >>いちばん美しい物語 元の話は知らないんですが、なんか良い話ですね。 こんな斑目もありですね。 >>うわっ面の思い どこからこんなの思いつくんだろう…自分には絶対無理っす。 しかし読んでみると意外としっくりきますね。GJです。 しかし最後の「尖ったナイフ」が比喩なのか直接表現なのか…(汗)。 読み手によって好きに解釈すれば良いんでしょうけど、僕は恐い方で読みました。 これで2本目?頑張ってこれからも投下よろしくです!
今月は書いたの重い方が多いので、こんな馬鹿なのも有りかなと…。 では4レスでいきます。 タイトルは深い意味はないです。
「荻上さんも、珍しくスカートですなぁ……」 今日は斑目たちの卒業式、打ち上げ。 斑目と笹原がテレパシーで会話しつつ、二人して 咲と荻上を見ていたのではない。 斑目は咲を見て悶々とし、笹原は荻上を見てたかぶっていた。 大野の「天罰ですね!」のあとも、今宵の宴は長丁場だ。 ガックリくるものの、大野の喜びに気圧されて落ち込み切れない 田中を巻き込んでクッチーがテンションを上げていく。 「さあ!くじびきアンバランスでも皆すぁんで合唱しましょうッ!」 「ばか、よせ!!」 「現視研、春から大丈夫かな〜(汗)」 「焼酎ロック…いえ、ボトルでくださーい」 斑目がトイレに立って、笹原からは座布団の向こうに荻上が見える。 『今日はなんだか、女の子として意識しちゃうな…どうしたんだろ、酔ってるのかな』 笹原がドキドキしているのは酒のせいか、恋心か、欲情か。 スカート履いただけでこんなに効果があるとしたら、これ以上のものを 見たとしたら笹原は死ぬんじゃないだろうか。 「ん…ちょっとラフレシアを摘みに」 その時、荻上がテーブルに手を着いて、膝をこちらに捻って 片膝立ちになり、立ち上がった。 パンストは履いていないので、膝の白い肌が笹原の目に痛い。 視界の端でだが、意識を集中してしまう。 女の子としての動作はもちろん身についているが、 普段ズボンしか履かないということもあってか、なんと一瞬だが 笹原には、荻上の東北美人らしい色白な太ももの広がりの、さらに奥に 小さな黒い布地を見てしまった。
『えっ!?うわっ………!!!!!』 パニック。思考停止。 みるみるうちに顔が真っ赤になる。 荻上は正面を向いていたので笹原の変化には気付かなかった。 笹原はジョッキを持ったまま固まっている。 そこへ戻ってきた斑目が声を掛ける。 「おまっとさん。ん?笹原、大丈夫かおめー?」 「え…?? な、何がデスカ?」 「なんかお前、顔がすごい赤いぞ」 「マジですか? えーと、えーと、飲み過ぎましたかね?ハハハハ」 なんとか誤魔化す笹原だった。 そこへ向こう側の咲が声を掛けてくる。 「斑目ー、とりあえずおめでとさん。こっち座りなよ。乾杯しよ」 「いっ?あ、俺、卒業だった」 「何言ってんのよ〜。酔っ払い過ぎじゃないの?」 そして荻上が座っていた座布団に斑目が座る。 斑目と荻上の取り皿や箸、グラスは場所を交換になった。 そこへ戻ってくる荻上。 「あ。こっちになったんですね」 「うん、お皿とかグラスは移してるからね」 荻上の顔は見ずに話しかける笹原。 料理を取り分けながらなので余り不自然ではないが…。 『荻上さん…今日の下着は黒いのか……いや、考えるな俺!』 その脳内は大変な葛藤だった。 とりあえず笹原は手にしたジョッキを一気に空けた。 荻上としても、この時点では現視研内でまともに話をするのは 咲と笹原ぐらいで、移動は問題なかったので素直に横に座った。
「なんか今日で四年生の人達が去っちゃうなんて実感わきませんね」 「んー、そうだね」 などと会話をしながらも、意外としっかりした荻上のふくらはぎが 笹原の精神を侵食してくる。 「あ、次の飲み物、何か頼みますか?」 「生中で頼むよ。あ、いやもう、生大でいいや」 「え?良いんですか?」 「うん、今日は飲みたい気分でね」 「笹原さんにとっては特に思い出深い先輩方ですもんね」 再び、オーダーを頼みにちょっと立つ荻上。 笹原は本能的に荻上の足に目が行くのを強固な克己心で抑えた。 笹原はその晩、今までの人生で最大量のビールを呑んだ。 居酒屋の帰り道、千鳥足の笹原に斑目が肩を貸す。 「おいおい、卒業生と在校生が逆じゃねーの、これって(苦笑)」 「やー、斑目さんが近くで、俺、嬉しいっすよー」 そんな様子を見ながら少し後ろを歩く女性陣。 咲は少し身震いをした。 「うー、まだまだ夜風が寒いねぇ。オギーもスカート大丈夫?」 「……えっ?あ、はい」 「どうしたの?オギーも酔った?」 「いえいえ、大丈夫です!」 「寒いネェってさ。東北育ちだから大丈夫?スカート珍しいから」 「あー、これはですね……下に、中学の時のブルマ、履いてるんですよ」 小声で答えた荻上だが、その言葉は笹原のハンター化した耳に しっかりと届いた。
『あの黒いのはブルマだったのか……でも中学の時のって……』 ドキドキドキドキ 『それはそれで、ありだな!!』 中学生の荻上の体操服姿を思い浮かべる笹原。 「おいおい、笹原。もうちょっとしっかり歩けよ」 「ああっ、すみません」 斑目に注意を受けて我に返る。 その頃、荻上は笹×斑の妄想がフル稼働中だった。 『うわー、弱った攻めを介抱する受けってのも、アリだなぁ』 今夜の様子でまたイラストが増産されることだろう。 こんな笹荻二人の物語が、春から始まるのだった―――。 お似合いの二人なのだが、本当の春はまだまだ遠い。
すんません、真のタイトルは「ぶるまつり」です(爆)。 でもそのタイトルだとセルフでネタバレになるので、こんなカッコイイタイトルに…。 さっき荻絵チャにお邪魔したときに聞いた「ぶるまつり」という言葉にインスパイアされて書きました。。 出来心でした。今は反省している。
ブルマ!ブルマ! はいていそうな気はするね。 こういうマッタリした話はいいですねw
履いたことないからわからんがブルマってあったかかったんだ そうか、あったかいんだ…よーし!
よーし!って…
1 あれから一週間が経った。今日も土曜日だ。退社する斑目。やはり定時。 (あれから一週間かー……)(あれから昼にも部室に顔出してないし……) (どーしちゃったんだろ、俺……) 2 扉絵 3 何とか部室に足を向けようとする斑目 (今日行けば……えーと……笹原妹いるかも……)(いるから何なんだろう……) (いや、何を怖がってんだか俺)(いつも通りに部室に行けばいいんじゃん) とりとめない事を考えているうちに部室棟の下に着く。部室には明かりが付いている。 (…………)部室の扉を開ける斑目。 4 「おっ」 部長席で少女マンガを読んでいる恵子が声をあげる。 (…………本当にいた)呆ける斑目。 「やーマダラメさーん」「今仕事上がり?」ぴっ。手刀で挨拶をする恵子。 「……ああ、そうだけど……」 「もー、相変わらず暗いねー!」「……って、まぁ無理も無いか、アハハハ」 (…………)無反応の斑目 5 「おや、珍しい組み合わせだこと」 (うおっ!) 不意に声をかけてきたのは、片手にノートパソコンを持った春日部さんだった。 「ねーさんこそ、こんな時間に珍しいじゃん」 「あーまーね、ショップ開店準備で忙しくてさぁ……」相当疲れている感じだ
6 「コーサカさんは?」 「……仕事」 「ふーん!!」(ニコニコ) 「……何が言いたい?」 「ぶぇ〜つにィ〜〜」 「ま、いいけどね」斑目を横を素通りして恵子の隣に座る咲 「あんたらこそ何してんの?」「って斑目も来たばっかりか」 「えー、いや、ちょっといろいろあってねー!」 立ち上がって斑目の方に歩いていく恵子。 7 「ねー、斑目先輩っ!」斑目に抱きつく恵子 斑目(!!) 「…………」「えー」「なに」「あんたら……そうなの?」ぼんやり呟く咲 「えっ、いや、ちがっ……」顔真っ赤の斑目 「へへー!どーでしょーね!」嬉しそうな恵子 「やめろよ!」恵子の肩を小突いて押しのける斑目 ハッとした表情の恵子、斑目。やっぱりぼんやりの咲 8 「なんだよー!」「あたしとねーさんのどっちがいいんだよー!」 目をつぶって怒鳴る恵子。我に返って斑目と咲の顔を見る。 (しまった)という顔を見せて、部室から走り出る。 残った斑目と咲。 「斑目」 「え?」 「正直よくわかんないけど」「追いかけた方がいいと思う」「行ってやんな」 「あ」「ん……」 部室の外に出る斑目 背中を視線だけで追いかける咲 (なんだありゃ)(わけわかんねー)
ぐったり疲れて、ため息をついて椅子の背もたれに全体重をあずける咲。 ふと天井を見上げると、そこには人の顔が。 『やあ春日部さん久しぶり』 「はうあ゛――――!!」(4倍角) 『……そんなに驚かなくても』 「いや絶対に驚きますって!! 会長!!」(ドキドキドキドキ) 咲の傍らに初代会長が立っていた。 『だから会長じゃないってば』 「……卒業したんじゃなかったんですか!!」 『んー、ちょっと顔出したら、なんかすごい事になってたんで陰で覗てたんだよ』 「……本当ですか?」 『……どう思う?』 「……信用する他ないじゃないですか……」 『どうだろうねぇ』『それより、「あれ」はどういう状況なのかな?』 「え……『あれ』って……」「今のですか?」 『春日部さんに何か心当たりは?』 「さぁ……斑目の反応はともかく、恵子の方がわかんないかな」 『そうだねぇ、恵子くんの方がちょっと変だったねぇ』 「え、会長、アイツと会った事……無いですよね?」 『いや、笹原くんから話は聞いててね』『前から興味深く思ってたんだ』 「……そういう事にしておきます」 『それでどうかな』『長くなるかもしれないけど、僕の話聞いてみない?』 「会長のお話とあらば、聞きましょうか」 『だから会長じゃないってば』『ただ、そうだねぇ、どこから話そうかねぇ』
『……そうだな、前に聞いたけど、笹原くんのご両親ってのが放任主義らしいんだよね』 「あー……そういえばどっかで聞いた気が……」 『そうか……春日部さんは覚えてないんだ』 「は?」 『いやこっちの話』 『それでひとまず、子供の頃にご両親の愛情が足りなかったから 恵子くんはあの通りになってしまったという仮定をしよう』 「えー、心理的に充足されてないから依存に走るなんて」「なんかありがちな話ですねー」 『蓋を開けてみれば単純な話かもしれないよ?』 『それはそうと荻上くんの件ではご苦労様だったねぇ』 「えー、いや、あれはほとんど笹ヤンと大野が……」 『合宿で二人をくっつけちゃおうと最初に考えたのは春日部さんでしょ』 『まそれはともかく、荻上くんの場合は原因はとてもはっきりしているんだけど、 笹原くんたちの場合は、ご両親も普通にご健在だし、 笹原くんも東京で一人暮らし、恵子くんもあっさり専門学校に入学するし、 笹原くんのウチも経済的には恵まれていると言っていいだろうね』 『どう見たって親御さんには大事にされているとしか見えないし、親も本人もそう思っているだろうしね、 ただしそれがこの問題を目立ちにくくさせているとしたら?』 「…………」 『親御さんは放任主義で笹原くんたちに自由とお金を使わせているけど、 親の愛情ってそれだけじゃ足りないしね』 「えー、でも、恵子があんなに染まっちゃう程なら、笹ヤンは何で……まぁ、普通なんですか?」 『程度の問題かな、2つ考えられる』 『1つは笹原くんが第一子だったからかな、その分第二子の恵子くんよりは大事にされただろうしね』 『それに二人に3年の年齢差がある』 『ある時期から母親も不在がちになったとして、 笹原くんの方が3年は長く母親と接していたのかもしれないよ?』 「うーん……」
『ご両親が不在がちなら、笹原兄妹が子供の頃にべったりな兄妹だったかもしれないよね』 「……でもあの二人の仲の良さは、喧嘩しすぎなように見えますけど……」 『でも最近はどっかでお互い信頼しているでしょ』 「……否定はしません」 『だから僕はあの二人の間に何か事件があったんじゃないかと思ってるんだよねぇ』 『昔の二人の態度からすると、笹原くんに何かの原因があったんじゃないかなぁ?』 「原因てなんなんですか?」 『さぁ、校内の事じゃないからそこまでは知らないよ?』 「……校内の事だったら何でも知ってるみたいですね」 『さぁどうかなぁ』 「…………」 『もう1つ違いがある』 『笹原くん、高校時代はオタク趣味を隠していて、友達いなかったって、 春日部さん、そう言ってたよね?』 「ええ、そうですね」 『一方恵子くんは中学時代から遊び歩いていて、友人や彼氏もいっぱいいたみたいだ』 『でも僕が見る限りでも、笹原くんの方が一見危なげなく育っている』 「言われてみれば……」 『恵子くんは他人に家族を求めて、笹原くんは脳内に家族を創ったんじゃないかな』 「は?」 『いやわからなくてもいいけど、恵子くんはご家族が与えてくれなかった愛情を 他人に求めたのさ、一見当然の選択だけど、友達も彼氏ももちろん家族じゃないから、 恵子くんが本当に欲しかった物は得られなかったと思うよ』 『笹原くんの場合、現視研に入る以前からアニメやゲームに没頭していたわけだ、 もちろんくじアンも含めてね、彼の入学当時の事を思い出すなぁ、 あの業の深さは「ヌルいオタ」どころの話じゃないよ?』 『高校時代友達はいなかったけど、アニメやゲームで出会ったキャラクターで 理想の家族を脳内で構築して、それを実際の家族の代わりにしていたとしたら?』 「ありえるんですかそんな事」 『人間はフィクションの物語に感動したり泣いたりするんだよ? ちょっとした想像力と それを求める心理があれば可能さ。フランス兵の捕虜収容所の話って聞いた事無い? 「脳内共同ガールフレンド」で検索してみるといいよ。』
『そう言えば笹原くんの大好きな「くじアン」だけど、春日部さんは読んだことある?』 「ええまぁ……コスプレさせられた後に一応……」 『キャラクターの設定覚えてる?』 「……いやそこまで覚えてないですよ……」 『「片親か両親が不在」って設定のキャラ多かったね』 「…………」 『主人公からしてそうだったかな』 『恵子くんに読ませると意外とハマるかもしれないよ?』 「……だから笹ヤンが『くじアン』好きだって言うんですか?」 『本人がどこまで意識しているかはわからないけど、そういう可能性だってあるって話さ』 『それにこれは恵子くんにも言えるよ』 「え?」 『笹原くんが言ってたけど、恵子くんが「けっこうハマったゲーム」って言ってたのが 「ドラクエV」なんだってさ、プレステもあるのにスーファミのゲームだよ?』 「いや、アタシはやってないんで知らないですけど…」「それがどうかしたんですか?」 『「ドラクエV」のテーマの1つが「家族の絆」なんだよね』 「…………」 『もちろんそうだと書いてあるわけじゃないけど、歴代ドラクエシリーズや、数多あるRPGの中でも 家族がプッシュされている作品で最も有名なのが「ドラクエV」なんじゃないかな、 「MOTHER」シリーズも捨てがたいけどね』 『僕としては笹原くんがこの道に踏み込むきっかけになった 作品を教えて貰いたいと思うけどね、ひょっとしたらくじアンかもしれないなぁ、 千尋を見て「これは俺だ」とか思ったのかもしれないよ?』 『そういえば千尋の姉妹は外面(そとづら)はよくて、自宅では自堕落なお姉さんだったっけね、 彼女の友達や彼氏付き合いの良さと、兄妹関係のギャップという観点はどうかな』 「……………」
『笹原くんの「お色気系好き」も、甘える事のできる母親か姉を求めている、 って事で一応の説明は付くよね』 『そのまんまだけど、大きな胸は母性の象徴だしね』 「……でもそれなら大野が入学した時、何か反応があってもおかしくなかったんじゃないですか?」 『だって大野くんは現実だもの、笹原くんが求めているのは理想の母親像だよ?』 『でも海水浴行った時、大野くんの水着が見られなくて残念がってたね、彼にしては珍しかったな』 「じゃあなんでオギーには……」 『笹原くんが荻上くんを気にし始めたきっかけって知ってる?』 「……部室だったんですか?」 『いや大野くんから聞いたんだけどね、大野くんが荻上さんにちょっと大胆なコスプレさせたんだって』 『時期的にあれがきっかけだって大野くんは言うんだけど、そうだとすると笹原くんはコスプレを見て 「現実にも想像と同じように興奮できるものがある」というのに初めて気づいたんじゃないかなぁ』 『他にも荻上くんに構いたいという気持ちもあったのかもね』 「と言うと?」 『笹原くんの場合は、自分が得られなかった愛情を、 自分が誰かに与えることで充足させようとしたんじゃないかな』 『一見、守るまでもない頑なさ持った女の子が、実は脆い存在で、 そんな子を自分が守ってあげられる……とまで言い切るのは無粋だけどね』 「……はぁ……」 『恵子くんが現視研部室に入り浸るようになったのも説明できるかもしれないな』 「そうなんですか?」 『これはさえないジョークだと思って聞いて欲しいんだけど』 「はい?」 『春日部さんに母親を見たのかもしれないよ?』 「ぶはっ!」「え――それはないですよ――!」 『だからさえないジョークだってば』
『恵子くんがコーサカくんにちょっかいを出すのも、 最初はコーサカくんの外見が目当てだったかもしれないけど、 目的が変化しているようにも見えるんだよね』 「どう変わったって言うんですか?」 『コーサカくんにちょっかいを出すと春日部さんがかまってくれるからじゃない?』 「……んなバカな……」 『だからさえないジョークだってば』『本気にしないでほしいなあ』 「……本気になんかしてませんよ」 『なんだったら春日部さんの感想も言ってあげようか?』 「……遠慮しておきます」 『コーサカくんもあれが天然じゃなくて抑圧の結果という事も考えられるし……』 「……いやホントマジでやめて下さいってば」 『……聞きたくなったらいつでも呼んでね』 「……覚えておきます」 『ちょっと話しすぎたかな』 「……そういえば斑目……」「いないし」 ぐったり疲れて、ため息をついて背もたれに全体重をあずける春日部さん。 何故か、久しぶりに煙草を吸いたくなった気がした。 斑目、恵子を見つける。 人気の無い場所で、斑目に背を向けて立っている恵子。 斑目が恵子に語りかける 「一体どういうつもりだよ……」 自分に納得の行く展開を思いついたら続く ただしどっちに続くかわからん
Q&Aコーナー Q:これってSSなんですか? A:体裁はそうです Q:本当は何なんですか? A:げんしけん作品分析論です。でもマジに書いて本スレに投下してもキチガイ扱いされそうなので SSっぽくしてみました。SSスレならなんでもアリだろうし Q:ネタは本気ですか? A:本気です Q:なんて途中からページ数構成やめたんですか? A:途中まで普通のSSと思わせるための罠です Q:続き書くんですか? A:春日部&初代問答ならすぐにでも書けます、斑恵は正直難しいです 参考資料 岸田秀「ものぐさ精神分析」 本田透「電波男」
投稿の勢い衰えませんね!新しい書き手の方も増えて何よりです!
>うわっつらの思い
前書きでインモラルと言ってたので、びびって読みましたが、そんな
ダークじゃないですよ。これで二作目とはすごい。散文詩のようで
きれいですね。惠子は軽い内面のイメージしかなかったですが、見方一変しますね。
>>194 感想、ありがとうごさいます。元ネタはたぶん知ってる人の方が少ないマイナー
作ですよ。一応、アンデルセン童話第三集にのってる「家じゅうの人たちの言ったこと」
ですが、童話パロ流行がきっかけで読まなきゃ、自分も知りませんでしたね。読んでそういう
光景が浮かんで、自分の心の癒し目的で書いた、そんな感じです。
>君という花
某サイトのブルマを思い出しました。あのブルマは今どこに・・・(ワープ)
楽しいっすねww 情緒的なのが好みですが、面白いのも大好きです。
215 :
マロン名無しさん :2006/02/22(水) 00:23:10 ID:u48ZYLOd
>>君という花 いいですねえ…笹原のどきどき感がたまらなくいいです。 こういうミニSSも、どんどん書く人が増えてくれたらいいですね。 ワシはどうしても長文になるので…ひさびさにまったりしました。 >>斑恵話とみせかけたげんしけん作品分析論 笹原と妹の人格分析ですね。 面白いと思うのですが、初めにSSっぽくみせる演出は邪道かな?と…。 初めから「げんしけん作品分析論」と題して、咲と会長の会話形式で始めたほうが、 読む側も読みやすかったと思いますよ。 それはさておき、笹原と妹分析、とても興味深く読みました。 こういう研究論文的なものがあってもいいとおもいますよ。 よければ他のキャラ分析もみてみたいな〜なんて…どきどき
>>斑恵話とみせかけたげんしけん作品分析論 うーむ、かなり考えていますな。 人間一人とりあげてみれば論文書き上げられるほどの 精神構造をしているとも思えますしね。 でもまあ、行き過ぎかなあとも思いますけどもね。 それに笹やんがこの道にはいったのはゲームが出発点である気がしますけども。 格ゲー、RPGあたりのSFC全盛〜PS・SS戦国時代を同じようにすごしてきた 自分なのでそんな気がします。最初の同人も格ゲーキャラでしたからねえ。
ぶるまつり…もとい、君という花、感想有難うゴザイマス!非常に励みになります。
>>201 スカートの時は標準装備かもしれません!
>>202 まさか購入&装着ですか!?
>>215 僕はいつも、4レスとか長くても14レスぐらいまでなので…。
短くても、みなさん書いて欲しいですね。
>>斑恵っぽい分析 普通のSSと思わせる為の、最初のページ数構成って…(笑)。 すっとこさんしかものスレではソレやってないので、無くても普通のSSっぽいですよ〜 分析面白いですね。語りたくて、しかも一番まともに読まれそうな場を選ぶところに、 情熱と冷静さを見ました。
×>すっとこさんしかものスレでは ○>すっとこさんしかこのスレでは
寝たバレきてますよー
それにしても、猛烈な勢いでSS増えてるな。 日曜の晩に書き込んだ俺のSS、24レスもあったのに最新50にはもう跡形も無い。 あまりにも増えるの速い上に良作ばかり、しかも今までと傾向がちょっと違う作品が増えてきたので感想が追っ付かん。 管理人さんも大変だ。 ご苦労様です。
感想ありがとうございます。
>>191 いや・・・、どうもすいません・・・。
痛み入ります。
>>192 まだまだ修行中です・・・。
頑張らせていただきます。
>>193 恋愛小説ですか、ふむ。
読んだことないので、よくわかんないのですが、少女マンガっぱいかなと自分で思いますね。
ありがとうございます。
>>194 ナイフはですね・・・。
自分でもいろいろ悩んだんですが、あえて死を連想させるラストにしました。
そういった意味で、恵子好きな方には申し訳なかったです。
>>214 ちょっと陰鬱な内容でどうかな、と思ったんですが、
そう言っていただけて安心しました。
これでもっとダークな話が書けますね、よーし!!
読んでくださった方、どうもありがとうございました。
>>斑恵話とみせかけたげんしけん作品分析論
うーん、深いなー。久々の考察SSですねー。入り口は普通のSSだから騙されたw
確かに本スレじゃこういう考察投下しても不毛なんですよねー。議論にもならない。
色々なアプローチの仕方があるのに・・・。もう長文投下は俺もしてません。
>>222 >これでもっとダークな話が書けますね、よーし!!
ええ!!!!いや・・・あのですね・・・そんなに・・・意気込まれず・・・
ほどほどで・・・ガクガクブルブル きっ木尾節ですか!?
224 :
続編 「卒業式当日」 :2006/02/23(木) 15:40:58 ID:rctsmgfF
「卒業式前日」の続編を書きました。 25日過ぎると笹荻一色に染まりそうなんで、急ぎました。 斑目と咲話です。10分後に25レスで投下。灯火管制よろ。 先に投下したい方はカキコして下さい。
コースグリーンです。よろ。
226 :
卒業式当日 :2006/02/23(木) 15:55:12 ID:rctsmgfF
オールクリア出たようなんで 投下一気にいっきまーす!!
227 :
卒業式当日 :2006/02/23(木) 15:56:58 ID:rctsmgfF
今日は笹原たちの卒業式だ。 昨日まではまだ肌寒かったのだが、今朝は空がすっきりと晴れ、柔らかな日差しがさしていて暖かい。 まさに卒業式日和といったところだ。 式が終わってから笹原たちと合流する予定になっている。 時間は十分にあるのだが、妙にそわそわと準備をしながら、斑目は思い出していた。 昨日は家についてすぐ着替えてから、ベッドに座ったきりボーっとしていた。しばらくして急に睡魔に襲われ、そのまま寝てしまったのだった。 仕事疲れと、昨日のあの出来事でずいぶん精神的にも疲れていたらしい。熟睡していたようだ。 今朝はすごく寝覚めが良かった。頭がすっきりしている。 (今日で春日部さんの姿も見納めかぁ……。なんか、昨日あれだけお互いに本音で話しあった後だと、気まずいかな…? いや。かえって開き直れる気もするな。 つーか、あれって昨日実際にあったことなんだよな?全然現実感ねぇなあ…。)
228 :
卒業式当日2 :2006/02/23(木) 15:57:48 ID:rctsmgfF
ふと気づくと、家を出る時間になっていた。 そのまま出ようとしたとき、あることを思いつき靴をはきかけていた足を止める。 (そうだ…アレ持っていこう) もう一度部屋に引き返し、奥の机の引き出しに手をかけた。 椎応大の正門前で田中と久我山を見つける。後ろから声をかけた。 斑「よう!」 田「お、斑目も来たんか」 久「ひ、久しぶり」 斑「久我山ホント久しぶりだよなー。お前もうちっと部室にも来いよなー!」 久「ま、斑目は来過ぎだろ」 田「そのうち現視研の主って呼ばれるようになるぞ」 斑「いいのう…そしてヘビ神様とか呼ばれるようになるのじゃ!尻尾も二つに裂けたりなんかして。」 田「なんか色々まざってないか?」 久「一体何になる気なんだか…そ、それに主っていえば初代会長じゃない?」 田「じゃあ二代目襲名ってことで」
229 :
卒業式当日3 :2006/02/23(木) 15:58:34 ID:rctsmgfF
あははは、と笑いながら、斑目は心の中ではこうつぶやいていた。 (もう、来ないけどな。……なんて、言い出せる雰囲気じゃねえなー。 まあいいか。ていうか来ないほうが普通なんだし) ふと空を見上げる。 雲のほとんどない澄んだ青空に、ちくりと胸が痛む。 卒業式が終わり、卒業生がぞろぞろ外へ出てくる。 斑「笹原たちは?」 田「いまメールでこっちの場所送ったから、そのうち来るんじゃないか?」 久「あ、お、大野さんたちだ」 在校生は卒業生より先に外に出ていたらしく、お互いを早く見つけることができた。 大野さんと荻上さん。後ろから朽木君がルルゥ〜と歌いながら歩いてくる。
230 :
卒業式当日4 :2006/02/23(木) 15:59:17 ID:rctsmgfF
大「う、うううっ…ひぐっ!」 荻「あーもー、泣かないで下さい!」 大野さんは号泣している。 荻上さんは口調こそ厳しいが、大野さんの背中を、小さい体をのばして支えたり、ハンカチを渡したりと気遣いをみせている。 笹原と付き合うようになって、彼女は変わった。ずいぶん雰囲気が丸くなった。 朽木君はいつものペースだが、大野さんと荻上さんのほうを気にしてチラチラ見ている。だが結局自分は役にたたないと諦めたようで、こちらの姿を見つけ先に走ってきた。 「どおも〜〜〜〜〜〜!!お久しぶりデッス!」 (…ううむ、ああいうときの役に立たないっぷりは、以前の自分を見ているよーだ…) 斑目は思った。朽木君は正直言うと苦手なのだが、なんで苦手なのかわかった気がする。 (…同属嫌悪?空気読めるか読めないかの違いはあるけどな) そう思うと、少し苦手意識が薄れた気がする。
231 :
卒業式当日4 :2006/02/23(木) 15:59:58 ID:rctsmgfF
大「だってみんな…卒業しちゃうう〜…」 荻「最近泣いてばっかりじゃないですか…どっからそんなに涙出てくるんですか」 大「うっ、うっ…お、荻上さんは寂しくないんですか?笹原さん卒業しちゃうんですよ?」 荻「そりゃ、寂しくないといえば嘘になりますけど…」 大野さんの言葉に、荻上さんまで少し沈んでしまう。 それを見た田中は、あわてて大野さんに泣き止んでもらおうと言葉をかける。 田「ホラでも、もう会えなくなるわけじゃないしね?」 大「でも…でも…今までとは…」 それ以上言葉を続けることができず、大野さんは泣き続けた。泣き止むことができないでいる。 田中は困ったように荻上と顔を見合わせる。皆どうしていいのか分からず、微妙な雰囲気になってしまった。
232 :
卒業式当日6 :2006/02/23(木) 16:00:54 ID:rctsmgfF
(…そうだ。今までとは…) 斑「…確かに、今までとは違うよな。学校の中で当たり前のように会うのと、卒業しちまってたまにしか会えなくなるのとさ」 不意に言葉が口をついて出た。 斑「空気みたいに、身近にあった時間がなくなる、ってのが、大野さんは不安なんじゃねーかな…」 そういいながら、ふと顔をあげる。 すると、この場にいるメンバー全員が、目をまんまるにして斑目のほうを向いて固まっていた。 大野さんでさえ、泣くのを忘れてこっちを見ている。 一同「……………………」 (…あ、アレ!?なんだこの雰囲気!?あ、俺らしくないこと言ったから? うわどうしよ、引いてる!?みんな引いてるノ???) 皆の反応に激しく慌てる斑目。
233 :
卒業式当日7 :2006/02/23(木) 16:01:35 ID:rctsmgfF
大「…そうですね」 そのとき、泣き止んでいた大野さんが喋り始めた。 大「私も、そう言いたかったんです。この大学にきて、現視研に入って、楽しい事がすごくたくさんありましたから…。思い出していたら、つい泣いてしまって…」 大野さんはもう泣いていなかった。涙をぬぐいながら笑顔をみせる。 それを見てほっとする一同。 荻「…まだ終わりませんよ」 大「え?」 荻「新学期になれば新しい人も入ってくるかもしれないし。…というか、新会員の勧誘とか、やることいっぱいあるじゃないですか。泣いてる暇ないですよ」 荻上さんの目も、心なしか赤くなっている。荻上さんなりに思うところがあったようだ。
234 :
卒業式当日8 :2006/02/23(木) 16:02:09 ID:rctsmgfF
大「…そうですね。では…新会長は荻上さんということで」 荻「えっ!?」 大「私も頑張りますので頑張ってくださいね!」 誰も突っ込まないようなので、斑目は一応聞いてみた。 斑「…あの〜、朽木君は?」 大「却下です!」 一刀両断。にょ〜といいながらオーバーにのけぞる朽木。 大「…まあでも、今後の行動しだいでは、副会長に指名してもいいです」 朽「ふ、副会長?うわ〜なんか微妙ですなァ!!!影の会長とかなら美味しいんですけども〜ゥ?」 大「嫌ならいいんですよ?」(ジロリ) 朽「い、いえっ!身にあまる光栄であります!!」 何だかんだ言って、イジられて嬉しそうな朽木君。
235 :
卒業式当日9 :2006/02/23(木) 16:04:16 ID:rctsmgfF
田「ふう…助かったよ。」 復活した大野さんを見て、安心したように息をはく田中。 田「スマンな」 斑「いやいや別に、大したことしてねえし!」 照れ笑いでごまかす斑目。 (ていうか、自分のことを言っただけだからな…) 田中はまだ何か言いたそうにしていたが、そのまま言わずに大野さんのほうを見た。 大「よろしくお願いしますね!そして、コスプレもして下さいね!」 荻「コスプレ関係ないし!それにもうやったじゃないスか、春日部先輩の溜まってたコス大会やったとき!」 大「うふふ〜、駄目ですよ〜。それにまだ、忍先生バージョンと副会長バージョン荻上さん仕様が残ってます!」 荻「まっ、まだあるんですか!?あんだけ着たのに!」 大「荻上さんくじアン化計画、目下進行中ですよ!!」 【すいませんが、「春日部先輩の溜まってたコス大会」のSS書いてくださる方いたらお願いします。ワシは無理orz】 すっかり元気になった二人。 ふと向こうを見ると、笹原が妹と歩いてきた。今日は笹原は濃いグレーのスーツを着ている。
236 :
卒業式当日10 :2006/02/23(木) 16:06:07 ID:rctsmgfF
斑「おう、笹原」 笹「どおも…なんか盛り上がってますねぇ」 笹原は新学期の話で盛り上がる大野さんと荻上さんの様子を見て言った。 田「いや、さっきまでは大野さんが泣いてて大変だったんだけどね」 久「そうそう。…ひ、久しぶり」 笹「お久しぶりです。…えっ?そうなんですか?」 斑「まーまー、それは置いといて。卒業おめでとう笹原!」 田「おめでとう」 久「お、おめでとう」 笹「ありがとうございます。…なーんか長いようであっという間でしたよ、四年間」 田「ま、そんなもんだ。」 恵「ねー、コーサカさんは?」 笹「おまえなあ、この期に及んで…」 恵「いいじゃん、今日で見納めなんだしィ」 田「高坂と春日部さんはまだ来てないぞ。さっき高坂にもメール入れたけど、そのうち来るんじゃないか?」 笹「そうなんですか。…あ、来た」 笹原の言葉にどきっとする斑目。おそるおそる笹原の視線の先に目をやる。
237 :
卒業式当日11 :2006/02/23(木) 16:08:20 ID:rctsmgfF
高「どおもー、遅くなりました。ここに来るまでに咲ちゃんが友達につかまってまして」 咲「もー何枚写真とれば気がすむの、って感じに撮られまくったヨ」 高坂は黒のジャケットにネクタイ、ベージュ地に格子柄のパンツと、少しラフな格好をしている。 春日部さんは卒業式らしい姿をしている。山吹色の着物に、袖口まで描かれた小さい桜の花柄。明るい若草柄の袴をはいて、髪をアップにしている。 …思わず見とれてしまった。 まぶしく見えるのは空が晴れているせいだろうか。 咲「…よ」 斑「…やあ」 咲「………」 斑「………」 (あ、アレ?言葉が出ねー) 春日部さんの姿を見て、現実感が戻ってくる。 今やっと目が覚めた気がする。 (………………今朝家を出るときは、『開き直れるかも』なんて思ってたけど、…駄目だ。 駄目だ。なんかもーーーーーー、頭真っ白でなんも思いつかねーヨ!!!!!)
238 :
卒業式当日12 :2006/02/23(木) 16:09:20 ID:rctsmgfF
斑「…あ、そ、卒業おめでと」 咲「…ありがと」 斑「……………………」 咲「……………………」 斑「…き、着物似合うね」 咲「…ぶっ!!!」 春日部さんはいきなり噴き出した。必死で笑うのをこらえているため肩が震えている。 咲「く…くっくっくっく……………!」 斑「へ?な、何…?」(激汗) 咲「に……似合わね〜台詞!!!」 笑いをこらえすぎてひーひー言いながら、やっと一言言う。涙目になっている。 斑「わ、悪かったな!何だヨ!『馬子にも衣装』とでも言やー良かったんか!?」 咲「…それは言いすぎ」 急に目じりがつりあがる。 斑「…別に、本気で言ってねーし。その、本当にきれいだと思…」 咲「ぶふうっ!!」 斑「だから、何でそこで笑う!失礼な奴だなー!」 咲「いや、ゴメンゴメン。だってさ……………くっくっく…………!!」 ツボに入ってしまったようで、際限なく笑い続ける春日部さん。
239 :
卒業式当日13 :2006/02/23(木) 16:10:22 ID:rctsmgfF
ふと、違和感に気づく。 (?…なんか春日部さんのテンションが変だな。もしかして春日部さんも、緊張してたり、するのかな…??) 斑「…ふん!好きなだけ笑うがいいさ。今日の俺は寛大だからな。そう、この晴れ渡る空のよーに!」 咲「くくっ…!ちょ、笑かさないでよ。帯が苦しいんだから………あは、ははっ………」 何がそんなにおかしいのか、いつまでも肩がヒクついている。ナチュラルハイになっているらしい。 (ったく。ま、いいか。気まずい雰囲気になるよりずっと。一応、意識されてるわけだし! …笑われてるけどな!) そのころ、高坂は笹原たちと『くじアン第二の黄金期について』という内容の話に花を咲かせていた。 田「まさか新キャラにここまで萌えられるとはなぁ」 高「初登場時には予想もつきませんでしたよねー」 久「う、うれしい誤算かな?連載始まった頃とは、趣旨変わってきてるけど」 笹「俺的には、OBとして元会長がちょくちょく出てきてくれるだけでもう…!」 【上のくじアンについての内容はワシの希望的妄想であり、ネタバレではありません。 ちなみに「くじアン」の部分を「げんしけん」にかえても違和感ないようにしてあります…w】
240 :
卒業式当日14 :2006/02/23(木) 16:11:09 ID:rctsmgfF
大野さんと荻上さんは、笑顔と無表情で聞き役に徹している。 恵子は高坂と話したいので近くにいるものの、全く話に入れない。 (くそう…さっきからオタク話しかしてないしー。あーあ、つまんねーな………………ん?) ふと春日部さんと斑目のほうに目をやる。 (んん…?) 恵子は笹原の袖を無理やり引っ張った。 笹「ですから、真ん中分けは最強の『背伸び』の証…ん、何?何だよ?」 『髪型を変えたことでさらなる萌えキャラになった元会長』について熱く語っていた笹原は、恵子に引っ張られて不機嫌そうに言う。 恵子はみんなから少し離れ、小声になって言う。 恵「あのさー、あの二人、なんかあったんじゃね?」 笹「は?あの二人って誰」 恵「春日部ねーさんと斑目」 笹「おまえ先輩を呼び捨て…」 恵「いいから!なーんかあの二人、態度変なんだけどー」 笹「態度が変って?…別に喧嘩してるようにはみえんけど」 恵「ちげーよバカ!恋愛の話だって!!」 笹「はあぁ??ありえねーよ。それはない。絶対ない」 恵「女のカンだよ!とにかく確かめてみなって!」
241 :
卒業式当日15 :2006/02/23(木) 16:11:53 ID:rctsmgfF
恵子に無理やり押し出され、笹原は斑目と春日部さんに近づいていく。 笹「あ、あの〜斑目さん?」 斑「ん、どうした笹原」 笹原が来ると、春日部さんは高坂のほうへ戻っていってしまった。 視界の隅で追う。少しがっかりする。 (二人で話すのもこれが最後かな…) そう思うと急に寂しくなる。 笹「あのですね、うちのバカ妹の勘違いだと思うんですけど………。」 笹原は声を落としておそろおそる聞いた。 笹「…春日部さんと、何かありました?」 斑「………………」 斑目は空のほうに目をやり、ぽそりとつぶやく。 斑「告った」 笹「え…」
242 :
卒業式当日16 :2006/02/23(木) 16:12:39 ID:rctsmgfF
一同「 えええええええええっっっ!!!!!!??????」 斑「うおっ!!?」 実は笹原と斑目の会話に聞き耳をたてていたげんしけん一同(春日部さんと高坂は別)、一斉に驚愕の声をあげた。 その大声にびびる斑目。 笹「アハハハ…そうなんスか。いやーまさかそう来るとは…」 恵「ほらね!ほらね!やっぱそーだろ!」 大「はああぁ…びっくりしました。そうだったんですか…」 田「つか、俺らも知らんかったよな…」 久「そ、そうだね…」 荻「…私も気づきませんでした」 朽「おぉう、荻上さんチガウデショ!!そこは『何で笹原先輩にじゃなくて春日部先輩になんですか!』デショ?」 荻「絶対言いません!!!」 大「なっ…何で私が温泉で言った台詞をパクッてるんですか!まさか盗…」 咲「…いやいや、あの時ベルトで縛ってたじゃん。誰か見張ってたし。」 笹「あ、あれ?高坂くんは驚いてないけど、知ってたの?」 高「うん、昨日咲ちゃんに聞いたんだ」 笹「あ、そうなんだ…」
243 :
卒業式当日17 :2006/02/23(木) 16:13:35 ID:rctsmgfF
斑「なっ、な、な、な、な、」 あまりに苦手な話題、しかも自分の話題でみんなが盛り上がっているのを見て言葉が出てこない斑目。 朽「で、どうなんですかァ?見事に玉砕したんですかァ?」 凍りつく一同。 「朽木〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」 大野さんと荻上さん、朽木君をフクロにする。 大「言っていいことと悪いことがあります!」 荻「どうしてわざわざ聞くんですか!」 笹「ま、まあまあ二人とも…それ以上やると朽木くんが………」 田中と久我山、完全に肩を落とす斑目の両肩にぽんと手をおく。 久「ま、まああんまり落ち込むな」 田「そうそう、これからいい出会いがあるかも知れんし」 斑「………田中には言われたくネェ………」
244 :
卒業式当日18 :2006/02/23(木) 16:17:20 ID:rctsmgfF
咲「まあでも、格好良かったよ、あんときの斑目。声小さかったけど」 一同「!!」 春日部さんの言葉に一同、再び固まる。 斑目は真っ赤。 斑「…え、それはフォロー?」 咲「うんまあ、それも半分」 斑「ふーーーん………」 一同「………………………」(////////) 笹「…え、でも高坂君とは別れないよね」 咲「当たり前じゃん!」 笑顔で即答する春日部さん。 (最近キツいな笹原!………う〜む、まあいいか。 めちゃめちゃ恥ずかしいけど、こうして皆にバレてから気持ちの整理をつけるのもいいかも知れん。)
245 :
卒業式当日19 :2006/02/23(木) 16:18:30 ID:rctsmgfF
その夜、追い出しコンパのため居酒屋に移動するげんしけんメンバー。 (春日部さんは服を着替えてきた。) 田「しかしあの斑目がなあ…」 久「せ、成長したかな?」 笹「いやー、びっくりしました…」 居酒屋でも例の話題が出てきて針のムシロの斑目だが、ふと思い立ってすっくと立ち上がる。 田「お?」 笹「何ですか斑目さん?」 皆が斑目に注目する中、斑目は拳を握り、演説口調で喋りだす。 斑「ここまでバレてしまっては仕方がない…もう隠すことなど何もない! ならば今、あえて晒そう!!! ワタシの『最後の砦』を!!!!!」 一瞬しんと静まり返る一同。 荻上さんと朽木君と笹原妹は知らない。 恵「ん?」 荻「は?」 朽「最後の砦??」
246 :
卒業式当日20 :2006/02/23(木) 16:19:10 ID:rctsmgfF
一瞬後。 一同「 や め ろ ーーーーーーー!!!!!!!!」 大慌て。 笹「ちょっ、いったい何出す気ですか!!」 田「おいまさかこんなところで…SMの…何か…!?」 久「や、やややばいって!!はや、早まるな!!」 三人は上着の内ポケットに手をつっこむ斑目を止めようと慌てて立ち上がりかける。 斑「ええい止めるな!!これだあーーーーーーー!!」 と、取り出したのは一枚の封筒。 皆、訳が分からず沈黙する。 急にテンションが戻る斑目。 斑「これを春日部さんに。」 咲「へっ?私?」
247 :
卒業式当日21 :2006/02/23(木) 16:20:24 ID:rctsmgfF
何を始めるのかと遠巻きに見ていた春日部さんは、びっくりしながら斑目に差し出された封筒を受け取る。 大「な、何が入ってるんですか!?」 恵「えっ何、何?」 咲「ちょっと、今ここで空けてもいい物なんでしょうね」 斑「あー、大丈夫、大丈夫。変なモンじゃないから。」 荻「私達も見ていいんですか?」 笹「…ほ、本当に大丈夫なんでしょうね…」 封を開けると、そこには初めて会長コスをした時の春日部さんの写真が入っていた。 斑「春日部さんに持っていてもらおうと思ってさ。 春日部さんは嫌がるけど、現視研にとってはいい思い出だから。」 咲「……わかった。」 春日部さんは素直に受け取る。 斑目の今までの思いと、斑目の春日部さんを吹っ切ろうとする思いの両方を受け取ったのだと感じていた。
248 :
卒業式当日22 :2006/02/23(木) 16:21:18 ID:rctsmgfF
笹「あー…あの時の写真ですか…良かったー…」 田「いやーでも、ある意味恥ずかしいなー…好きな人の写真って…」 久「み、見てるこっちが落ち着かないよね」 大「はああぁ…ドラマのワンシーンみたいですねえ…」 荻「…ドラマだとしたら、いいシーンですね」 恵「うわー春日部姉さん、本当に会長のコスプレもしてたんだ…初めて見た」 高「懐かしいねぇー」 そこへ朽木君。 朽「なるホド、これを毎晩オカズにしてたんデスね!!!!!」 大地雷。 あまりに身もフタもない発言にみんな石になる。 感慨深げに写真を眺めていた春日部さんの額に、ビキッと青筋が走る。
249 :
卒業式当日23 :2006/02/23(木) 16:22:11 ID:rctsmgfF
咲「…え、そうなの?」 斑「いや、そんな、事は、しないと思うぞ………?」 咲「こっち向いて話せよ」 恵「いやいやでも、いーじゃん姉さん!それだけ好きだったってことっしょ? 許してあげなよー1人でするくらい。2人でできないんだからさー」 大「け、恵子さん、その辺にしといてあげて下さ……」 (あ…哀れすぎる……) 荻「…せっかくいい場面だったのに、ぶち壊しですね。朽木先輩のせいで…」 荻上さんは朽木君をぎろっと睨みつける。びびる朽木君。 田「………いたたまれねえ……」 笹「…もう聞いてるこっちの胸が痛いっス。すいませんバカ妹で……」 斑「こんなトコで出さなきゃ良かった…」 テーブルにペシャンコに伸びてしまった斑目。穴があったら入りたい。
250 :
卒業式当日24 :2006/02/23(木) 16:22:49 ID:rctsmgfF
高「いいじゃない、咲ちゃん。『最後の砦』になるなんてすごいことだよ。」 高坂はそう言った。 この場を救う最上の言葉だった。 咲「ん…まあ高坂がそういうなら、そうなんかもね」 春日部さんは、そのまま写真を受け取ってくれた。 そして。打ち上げも終わり、解散になった。 大「また部室にも顔だしてくださいね!!」 咲「あー、また暇をみていくヨ。大野も、店に遊びに来いよー」 春日部さんと高坂は、「じゃ、またね」と、皆にいつもと変わらない挨拶をして背を向ける。 斑目は皆と一緒に二人を見送っていた。 (…この二人の背中を、今まで何回見送っただろうな…) 斑「…んじゃ、俺らも帰るか!」 笹「あ、そうですか?」 田「……そうだな。今日のところは」 久「じ、じゃあな」 斑「ん、そんじゃ」 なんだか早くこの場を抜け出したかった。一人になりたかった。
251 :
卒業式当日25 :2006/02/23(木) 16:23:49 ID:rctsmgfF
斑目は家までの帰り道をゆっくりと歩いていた。 (…………) (………………………) ひたすら歩き続ける。自分の足元の1メートルくらい先を見ながら、ただひたすら。 (…やるべきことは、全部やった。もう何も思い残すことはねー。 …何だろ…開放感?いや…喪失感?疲労感?) (…わかんねー………今わかってることは) うつむいていた顔を上げる。まっすぐ前を見る。 (もうめったに会えないってことぐらいだ) そのまま、さっきより少し早足で歩き始めた。 さっきより少し力強い足取りで。 END
252 :
卒業式当日あとがき :2006/02/23(木) 16:27:34 ID:rctsmgfF
以上です。 笹荻が目立ってないのは斑目SSだからということでご勘弁を。 斑目に対する思いのたけをつぎ込みました。さらに続編(蛇足)書くかもしれません。未定ですが。 斑目、幸せになってくれ〜。 コブクロの「さくら」を聴いて、斑目をイメージしておりました。
ケリをつけたねえ…えらいぞ斑目 あとはスーを待つだけだ!
おー、班目のTrue Graduation! やっぱり、咲のことと部室のことに、ケリつけないと彼にとっての「卒業」は無いんですね。 絵が浮かぶような面白さでした。乙。
>卒業式当日 クッチー八面六臂の大活躍じゃねえか! これは何もギャグ担当という意味だけではない。 彼がとことん斑告白をギャグにしてしまうことで、斑目が深刻にならずに済むという役割を果たしている。 意外にいい仕事してるぞ、クッチー。 さて斑目は、果たしてほんとに明日から部室には来ないのか? 俺としては、明日になったら何事も無かったかのように、普通に部室で昼飯食ってて欲しい。
普通に部室で昼飯食ってたりするんだけど 顔は少しこわばってるのな。
>>卒業式当日 これは斑目の恋の、理想的な終わり方かもしれん。 これでやっと斑目は本当の意味で「げんしけん」を卒業できて 新しい一歩を踏み出せる。 で、昼休みに部室に弁当を食いに来て、新入部員の女の子に一目惚れするんだな
いや・・・過去を振り切ったとしても一目ぼれは斑目らしくない
どうも、斑恵物語の第二話が書きあがりましたので、 投稿させていただきたいと思います。 10分後ぐらいから行きます。
バッチコーイ
>>卒業式当日 なかなかイイですね! 斑目への熱い想いを感じました。 こんな流れだと、いいなぁ・・・ あと春日部さんのコス大会は、、まだ木尾先生が描く可能性が有るので、 可能性が無くなったらみなさん書かれるかも!? >>斑恵物語2期待してます ドゾー
いやあ・・・。 ハードルあげんといて下さい・・・。 ふー・・・。
月曜日の朝である。 月曜日の朝というものは、多かれ少なかれ憂鬱なものだが、今日は特にそうだ。 (まさにブルー・マンデー…。) 斑目は上半身を起こしたっきり、ベッドの上に静止していた。 頭が重い…。 (いきたくねー…。) 会社がイヤなのではない。酒が残っているわけでもない。 今日はアレ以後の第一関門がまっているわけで…。 (今日は部室いかんとこうかな〜…。) カーテンはもう太陽をいっぱいに浴びて、その繊維の隙間から日の光が零れ落ちそうなほどだった。 原付が鬱陶しい騒音を上げて近づいて、走り去っていく。 散らかし放題の部屋の片隅を、斑目は空っぽにした頭でじっと見ていた。 (でも時間置くと行きづらくなるしな〜…、あーやだ…。笹原と顔合わすの…。) まさか、かの後輩をここまで恐怖するとは…。 しんとして室内に自嘲が漏れた。
突然、けたたましく目覚しが鳴る。 (はあ〜ぁ…、んじゃ、起きっかね…。) 布団を除けて、床に足をついた。 少ない地面を探して流し場に向かう。 あとはいつも通り、朝のルーチーンワーク。 時計代わりのテレビを点けて、電気を点け、 歯を磨き、顔を洗い、髪を整え、 トイレに行って、 着替える。 Yシャツに、いつものスーツ。 いつものネクタイ。 (あれ…、土曜日ってどっちのネクタイ締めてたっけ?) 斑目は2つしかないネクタイを毎日交互で締めていた。 ファッションに疎い斑目なりの自意識である。 「ま、いいや…。」 片方を手に取ると、もはや手馴れたふうにネクタイを締めた。 充電していた携帯を取って時間を見る。 いつも通りの時間だ。 「いくかな…。」 テレビを消して、戸締りを確認、電気を消す。 鍵とハンカチをポケットにしまった。 「忘れもんねぇな…。」 最後にカバンを肩にかけて、革靴を履く。 (はあ〜、いきたくねーなあ…。) 斑目はため息混じりで通勤の途についた。
斑目はドアの前で立ち止まり、深呼吸した。 (こんちわ〜。あ、笹原。昨日は悪かったね〜。…よし、こんな感じ…。) もう一度深呼吸して、ドアノブに手をかける。 大丈夫…、俺はやれば出来る子…、俺はやれば出来る子…。 「こんちわ〜。」 正面に座った笹原が、斑目を睨んだ。 「あ、笹原…。」 (さあ、言え! 言うのだ! 昨日は悪かったね〜、と! 何事もなかったように!) 「あ〜、昨日は…。」 そう言いかけたところで、笹原は視線をマンガ本に戻した。 (へ…、へぇぇ〜、挨拶もしてくれないんだぁ〜…。…そうなんだぁ〜……。 そして、笹原ってマジで怒るとああいう顔するんだぁ〜…、初めて見た…。) 「こんちわー。」 「ああ…、こんちわ、春日部さん…。」 咲に虚ろな挨拶を返すと、笹原と微妙な距離感を保ちつつ、斑目は席に付いた。 コンビニ袋からガサゴソと昼飯を取り出す。 食欲は一切無いというのに…。 視線を向けてはいないが、笹原の気配を斑目は細心の注意をもって伺っていた。 (なんだろ、いま、俺…。『円』が使えてる気がする…。念能力が目覚めたのか…。) 部室には、笹原、咲、斑目の三人きり。 笹原は今日発売の週刊少年誌を読み、咲はファッション誌を読み、斑目は飯を食う。 会話が、ない…。
「……アレ…、あんたら、何かあった?」 雰囲気の奇妙さに気づいた咲が、無邪気にそう言った。 斑目はすかさず『円』で笹原の反応を伺う。 「いや、別にないけど…。」 声が低い。いつもの笹原の声ではない。 「いやっ、明らかにヘンじゃん。無言じゃんか。いっつもくっだらないオタ話してんのにさぁ。」 笹原は少し考えて、応える。 「いま、マンガ読んでるから…。」 「あー…、そう?」 ここっ! と、斑目は覚悟を決めた。 ここで! ここでこの波を逃したらもう今日は喋れない。 ここしかない! (いけ、俺!) 斑目は『エクソシスト』の女の子のような動きで、顔を笹原に向けた。 「あの〜、笹原…。ちょっといいかな。」 斑目は笹原に笑顔を向ける。 笹原の目は誌面を見つめたままだ。 「昨日のことだけどね…。誤解があると思うんだよ…。二人の間にね…。」 「…………。」 (引くな、オレ!) 「ちゃんと説明すればね……、分かり合えると思うんだよね…。」 「………。」 笹原は無言のまま、チラリとあさっての方向を見た。 斑目は苦笑いを浮かべる。 笹原は…、また視線を誌面に戻した。 「あははー、ササハラ君、ちょっと聞いてよ〜。」 斑目はマンガ本に手をかけて邪魔をする。 もはやこれしかない…。
「ちょ、なんすか、斑目さんっ!」 「ほらね…、今のうちに話しといた方がいいんじゃないかな。俺も昼間しかこれないし。」 「話は昨日したでしょ?」 「いやいや、まだ話し足りない…。まだ行き違いがあるのよ、その態度は!」 「あ、やっぱ何かやったの…。斑目…。」 呆れたような咲の目に、斑目は少し焦った。 「やー、何もしてないんだけどね! 笹原がさ! ちょっとなんか、勘違いしててさっ!」 「勘違いしてないっす。」 「いやしてるよぉー! 笹原ー。すごいしてるぞ、いま!」 咲はファッション誌を置いてため息をついた。 (なんなんだか…。) 「で、何やっちゃったのよ…。」 「え!?」 斑目は息を飲んだ。 (こ、これは、言えないよね…。笹原も言えないはずだしね…。) 「いや、まあ、こっちのことだから…。」 「はー…、言えないの?」 咲の顔が、少しだが確実にタチの悪い顔になりつつあった。 斑目は、額の汗腺が開いたのがハッキリと分かった。 「なになに、何で言えないの? 私に言ったらマズイ?」 「まあまあ、あんまり人に言うようなことじゃないから…ね。」 咲は横目で笹原を伺う。 やや赤面して視線を逸らす笹原。 「ふ〜ん…、まあ、いいわ…。どうせオタク臭い話なんでしょ?」 「ははは…、まあね…。」 斑目は咲に感づかれないように小さくため息をつく。 (ふぅー、どうやら最悪の事態は回避できたか…。)
「まあ、笹原さ、あとでちゃんと話しとこうよ…。じっくり…。」 「別にいいっす…。」 「ははは、まあ、そう言わずに…。今日電話するから。」 「………。」 (これはOKってことだよな…。) 取り合えず勝ち取った小さい戦果に、斑目は人知れず祝杯をあげた。緑茶で。 「コンニチワー…。」 荻上が気だるそうに部室にやってきた。 何だかひどく眠そうな表情だったのだが、斑目を見たとたん、ビクッっと跳ねるように目を覚ました。 斑目はその様子に苦笑いした。 「や…、こんにちわ…、荻上さん。」 「ちわー、オギー。」 「こんにちわ。」 荻上はそそくさと斑目の後ろを通ると、恥ずかしそうに笹原の隣に座った。 「おー、いーじゃーん。」 「何がですか…。」 「そういうの、すごいカップルっぽい。」 「なっ! 止めてくださいよ!」 荻上は顔を赤らめてそっぽ向いてしまった。 笹原はやっといつもの笑顔を見せた。 (ふー、よかった。この空気、いつもの現視研。よかった。こんなに嬉しいことはない…。) 感慨に耽る斑目を、無情にも咲の言葉が切り裂いた。 「あ、そうだ。オギー知ってるー? 何か斑目と笹原がケンカしてんの。」 (ああ………。) ぶわっと汗が噴出し、肌着が体に吸い付いた。 「オギーは原因知らない?」 何故か荻上の顔が真っ赤になっていた。
「知らないっす…。」 「ん〜、ホントに〜?」 惚れた女ながら、なんてワルイ顔していやがるんだ、と斑目は思った。 「ホントに知らな〜い?」 「……知らないっす。」 荻上に対する咲の執拗な責め苦に、笹原の表情が曇り始めた。 (ヤバイ! また心に鍵をかけてしまう。 心の迷宮に閉じこもってしまう!) 堪らず斑目が口を挿んだ。 「ちょっ、春日部さん、それもういいじゃないっすか!」 「いや、気になるんだよ、私が。」 「いや、関係ないから、こっちの問題ですからネ…。」 「えーーー。」 咲は心底つまらそうに叫んだ。 (ヤバイ、春日部さんのスイッチが入った…。この状態では何が何でも聞き出しかねん…。 どうすべ…。) もやは咲の詮索に、荻上は顔を背けて耐えることしかできない…。 「まま、今日のところは収めてくださいよ。きっちり片付いてから春日部さんにもお話しますから…。」 「えー、今知りたーい。」 「まま、ここは、今日のところは…、どうぞヨシナニ…。なっ、笹原っ! なっ!」 必死に目で訴える斑目にほだされたのか、笹原も助け舟を出した。 「……まあ、今日のところは、勘弁してもらえますか…。」 (よかった…。まだ笹原の心の扉は閉じ切っていない!) 「しゃーねーなー。」 咲も渋々、刀を納めた。 (ふー、一難さってまた一難か…。ヤバかった。) 斑目は疲労した己の肉体と精神を潤した。緑茶で。
「ちわーす。」 (うわ……。) 一番来て欲しくないヤツが来てしまった…。 「あ、斑目悪かったねー昨日は。せっかく面白かったのにさー。」 恵子の言葉に、斑目は、相槌を打ったような気もするし、打ってないような気もした。 「あ、アニキー。まだ怒ってんの昨日のこと! あ〜、こめんね、気にしないでね斑目。アニキってエロいからさっ!」 「誰がエロじゃ。」 「あ、何、あんたも絡んでんの?」 咲がググイと身を乗り出してくる。 「あん? なにが?」 「なんだかね、さっきから斑目と笹原の様子がヘンなのよ。ケンカしてるみたいなんだけどさ。あんた原因知ってんの?」 (や、やめてくれ…、それ以上はもう…。) 斑目は泣いていた。 「あぁ、それ? 昨日さ、アニキんちでまだら…。」 「まああああぁーーーー!!! それは、あとでいいんじゃないかなああぁーー!!」 唐突に絶叫しながら斑目は立ち上がった! 心の中に『特攻』という文字が浮かんでいた。 「いまねっ! 話すことではじゃないんじゃないですかねっ!! 今この場ではっ!!!!!」 斑目は必死に目で恵子に訴える。 (ほれっ! わかんだろっ! ほれっ! 昨日のアレっ!!) もう、メガネの奥の目がヤバイくらいに拡大していた。 「え、なに?」 (声に出すなよ!) 「ほら、今はいいんじゃない? みんな居るしさ…。」 斑目の視線が、一瞬、咲を捉えた。 恵子は理解した。 「ん…、あ〜、そうだね…、いま言うことじゃないないよね…。」 (そういうことか…。そりゃそうだわね…。)
恵子は目で、OK、と返信した。 「えー、なんだよ! 知らないの私だけじゃん! 言ーえーよー!」 「まあ〜、ねーさんここは。アタシの顔に免じて。」 「何か気に食わないんですけどっ!!」 「まあまあ、そう言わないでさ。ネ、ねーさん(はぁと)。」 「クッソ、みんなで除け者にしやがって。」 恨めしそうに全員の顔を睨む咲。 苦笑いの斑目。 恵子はその斑目の様子を見る。 (アブねアブね。ねーさんの前で言っちゃかわいそーだよな、流石に…。余計な恨みを買うとこだった。 まー、今更何をばらしたところで変わらないだろうけどさ…。) 恵子はバッグを机において席に着いた。 「う〜ん…、話を総合するとだね…。」 顎に手を当てつつ、思案顔の咲。 斑目はビクついた。 「あ、春日部さん…、まだ諦めてない…?」 「そう簡単には引き下がらないよ、私は!」 (ねーさん、しつけー。) 「もういいんじゃん? その辺にしとこようよ。」 「恵子あんたねー、私をここまで本気にさせといて、それは通らないよ!」 うわ…、マジたちわりー、と恵子は思った。 「総合すると、昨日、ここにいる私以外の面子が、笹原んちで、面白いことをしてたときに…、笹原がエロいことをした…。」 「してません…。」 困り顔で笹原がツッコむ。 斑目はバクバクだ…。 「だよなあ…。第一それじゃ笹原が怒ってんのがわからないし…。」
ソワソワしながらやり取りを見守る斑目。 恵子は頬杖を付きながら、斑目を見ている。 「じゃ、やっぱ斑目がエロいことをした?」 「シテネーヨ!」 明らかに一段上のテンションで否定する斑目。 咲の眼光が怪しく光る。 「ほうほう、斑目さんですか…、なるほど…。」 「イヤイヤ、してないよ! なんでそうなるの? 憶測で決めつけてはイカンヨ!」 焦る斑目を、恵子はじっと見つめている。 (オタクくさ…。そんなにバラされたくないもんかねー。別にヤッたわけでもないのに…。 だいたい、ねーさんに脈も何もあったもんじゃないっしょ? 未練たらしく片思いしてんなっつーの…。) 「ホントしてないから、ほら、恵子ちゃん、俺エロいこととかしてなかったよね?」 「あん?」 再び、斑目が目で訴えかける。 「ネ!」 恵子はその目をじっと見つめて…。 ニコっと笑った。 「まあ、いい線ついてんじゃない?」 恵子はそう言って笑った。 「ほうほう、なるほどなるほど…。」 いい笑顔を浮かべる咲。 何気にショックな笹原。 斑目は裏切りに心を痛めた…。 「恵子ちゃん…、嘘はいけないよね…。特に今は……。」 もう恵子は斑目の目を見ない。 (いい気味…。) 頬杖をついたまま、そっぽを向いてしまった。 (はは…、女を殴りたいと思った月くんの気持ちが「言葉」でなく「心」で理解できたぜ…。)
「と言うことは…、どういうことだ?」 咲はまたもや思案顔で推理に頭をひねる。 「斑目がエロいことをしたってことは…。」 「いや、してねーデスカラ!」 もはやその言葉は咲に届いていない。 「斑目さ〜ん、見苦しいですよ〜。」 恵子は抑揚のない声で追い討ちをかけた。 (はは、バレちゃえバレちゃえ。そっちのが楽になれるよ。) 「う〜〜〜…、わかった!」 咲が両手をパンッと鳴らした。 「斑目が、笹原にエロいことをした!」 斑目は脱力のあまり、崩れ落ちた。 笹原が苦笑してツッコむ。 「………なんでそうなるんすか?」 「えー、だって斑目が女子にエロいことなんか出来るわけないし。そしたらササヤンしかいないじゃんか。」 「フン……。」 恵子はつまらなそうに鼻を鳴らした。 「あ、ハズレ? かすってもない?」 キョロキョロと一同を見渡すが、荻上はぽーっと赤面しているし、笹原は苦笑い、恵子は不機嫌そうで、 斑目は疲れ切っていた。 「なんだよそのリアクション。だったら真相を教えてよ!」 斑目はゆらゆらと立ち上がった。 (はは、何か疲れたよ、昼休みなのに…。) 「あー、じゃ、そろそろ時間なんで、会社戻るわ…。」 「あー待て、逃げんな。」 「いや、マジで時間なんでネ…。そいじゃ失礼…。」 そう言ってコンビニ袋にゴミをまとめる。
「笹原、マジで今日電話するから…。」 「はい……。」 (ま、これだけで十分かネ…。) 斑目は現視研部室から出ていった。 「なんか疲れてましたね、斑目先輩…。」 「………ま、反省してるってことかな…。」 笹原は苦笑いを浮かべて、荻上に視線を送った。 「なに、なによ! やっぱ斑目が何かやっちゃったんでしょ?!」 「もういいから、春日部さん…。」 血に飢えた野獣のように食い下がる咲を、笹原が何とかなだめる。 もういつもの笹原に戻っていた。 「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ…。」 笹原と咲のやり取りの横で、恵子は部室を後にした。 学内の通りで、恵子は斑目を見つけた。 ゴミはもう捨てていて、飲みかけの緑茶のペットボトルだけを片手に持っていた。 「ちょっと斑目!」 「ん…。」 斑目が振り返る。 こうやって立って並ぶと、斑目の身長は恵子より頭ひとつ高かった。 「あ〜…。」 恵子は視線を外して、言葉を探す。 「悪かったね、さっき。悪ノリしちゃって…。」 斑目はポッキリと首を折った。 「ああ…、まさかあそこで、裏切ってくるとはネ……。」
「はは、マジごめ〜ん…。」 苦笑いをしていたが、声は少し沈んでいた。 「こめんねぇ…。ねーさんもいたのに…。」 「…まあ、いいよ。事無きを得たし…。」 「………。」 「それに、ハナから負け戦デスカラ…。」 斑目は乾いた声で笑った。 恵子はその表情が、やけに心に引っかかった。 「ねぇ…。」 「ん?」 恵子はソワソワと腕をさする。 「………ねーさんに告んないの…?」 よそを見ながら尋ねる。 「はは、いや、…今更言えないっしょそんな!」 また斑目は、乾いた声で笑う。 「言ったところでどうなんもんでもないし。結果が目に見えてんよ。」 斑目の言葉に、恵子は小さく応える。 「そうだけど、ね…。」 恵子の頬に笑顔はない。 「まあ、後は笹原にちゃんと話せば問題ないと思うから。今夜電話しとくわ。 恵子ちゃんからも、ちゃんと説明しといてよ。」 「うん…。」 生返事のような恵子の声。 斑目には、恵子が少し沈んでいるように見えた。 「さっきのはホント気にしなくていいから。そんじゃ、春日部さんのフォロー、宜しく頼んマス。」 「そう…、わかった…。」 斑目は振り返って、大学の正門の方へ歩いてく。 恵子はそれを少し見ていてから、部室に引き返した。
「おー、どこ行ってたんだよー。恵子ー。こいつらひでーんだよ。仲間はずれだよー。」 「………。」 「なー、お前は私の味方だよなー?」 「………。」 「ん? どしたー…?」 「…ねーさん、ウザイっっ!!」 「??」 恵子は乱暴に腰を下ろした。
ドンブリからもうもうと湯気が上がる。 出来上がったばかりのサッポロ一番塩らーめん。 笹原も恵子も塩が一番好きなのである。 テレビからはコナン終わりの流れでバラエティ番組が垂れ流されている。 特に話すわけでもなく、二人はズーズー、スビズバーと麺をすすっていた。 「あのさ〜…。」 「ん〜?」 麺を咥えたまま笹原が応える。 「斑目から電話きた〜?」 「ん〜? まだきてねぇけど。」 テレビに目を固定したまま、笹原は麺をすする。 「ふ〜ん………。」 恵子は箸をドンブリに刺して、手を止めた。 「あんさ〜…。」 「ん〜?」 麺を咀嚼しながら、笹原が応える 「昨日のことだけどさ〜…。」 「ん〜…。」 「ほんとに何もないかんね〜…。」 「ん〜…。」 「だだ酒呑んで〜、ダベってただけだかんね〜…。」 「ん〜…。」
「…だいたいアニキんちで、んなことするわけないし〜…。」 「ん〜…。」 「……斑目とそんな雰囲気になるわけないし〜…。」 「ん〜…。」 「………アニキはここでオギーっとヤッてるかもしんないけどさ〜…。」 「ヤッてねーよ。」 「…なんだ、聞いてんじゃん。」 笹原はドンブリを持って、汁をごくごくと呑んだ。 「ま〜、いいよ、昨日のことはよ。」 「あ〜?」 恵子はハス目で笹原を睨んだ。 「今朝はあんな怒ってたじゃんか!」 「ま〜、それはな…。いちおう兄として。」 「なんだそれ!」 「いいだろ、もういいつってんだから。」 納得いかなげに、らーめんをいじくる恵子。 笹原は満腹感からふぅーっと息を吐き、座椅子に体をあずけた。 「まー、お前より俺のが斑目さんとの付き合い長いかんな。信用があんだよ。」 「そうですか〜…。」 もう相手にしないで、恵子は麺を口に運ぶ。 笹原はコップに注いだウーロン茶を飲みながら恵子を見ている。 恵子は無視して、らーめんを頬張る。 笹原はコップをテーブルに置いた。 「ま、よくよく考えれば、斑目さんつーのもアリかもしんないな…。」 ブッ。
「な、何言ってんの?」 「まー、アリかナシかで言えばアリかなって。」 「いや、ナシだって…。ビジュアル的にありえん…。」 苦笑いの笹原。 「まあ…、ビジュアルはひとまず置いとくとして…。」 「ダメ、そこマジ重要だから。」 「まー置かせろよ…。そうすっと、今までお前が付き合ってた男よりはマシじゃねーの?」 「えーー! マジありえねーーー!」 らーめんカスを飛ばさんばかりの咆哮。 笹原は苦笑いで見守る…。 「だいたい、アニキ、アタシの彼氏知らねーだろ?」 「ま、全員はね…。でも大概似たようなもんだろ…。顔が良くって、頭悪いつーか…。」 「うっ……。」 (こりゃ言い返せねーわ……。) 「だろ?」 「まー…、そうじゃない人もいたよ!」 ジト汗をかきつつ、そっぽを向く恵子。 「それとか、なんか、アザ作ってるときとかあっただろ。男に殴られて。」 「それは一人だけ!」 「何してんだかわからんヤツとかさ…。」 「まあ…、それはケッコーいたかな…。」 「ほら、斑目さんのがマシじゃん。」 う〜、と唸る恵子。 笹原はリモコンを取ってチャンネルをザッピングする。 「まあ、そういうのに比べれば、まだ斑目さんのが安心ってこと。」 う〜、う〜、と恵子は悔しそうに唸る。 そして少しだけ、真顔で考えてみる…。 「でも…、ねーわ、斑目は! 好みじゃないし…。だいいち…、オタクじゃんか!」
「そーですか〜…。っと、あ、電話きた…。」 笹原はリモコンを置いて、ジーパンのポケットから携帯を取り出した。 「はい、もしもし、あ、はい…、いま仕事終わったとこすか? あ、そうすか……。」 笹原は再びリモコンをひったくって音量を下げた。 「あー、いんスいんス、もう。ははは…、や、信頼してますから…。ああそれは…、ちょっと面白かったんで…。 ははは、悪かったっス、はは……。」 「……ったく、らーめん冷めんじゃん…。」 小さく毒づくと、恵子は温くなったらーめんをすすった。 「じゃ、それじゃ、どうもー、失礼しまーす…。」 ひとしきり話すと、笹原は携帯を閉じた。 少し神妙な表情で、携帯をテーブルに置いた。 「…斑目さん謝ってたよ。」 「そう…?」 ドンブリを流し台に置く恵子。もちろん、自分が食べた分だけだ。 それにイラついたわけでもないが、笹原は語気を強めて言った。 「お前も謝っとけよ!」 「謝ってるでしょ。」 「俺じゃなくて斑目さんにだよ。」 蛇口をひねってジャバジャバとドンブリを水に浸す。 「斑目さんの携帯とメール教えとくから、あとで埋め合わせしとくんだぞ!」 「なんでよ!」 「オメェーのせーだろーが!」
む〜……。 「うっせー。」 軽くスポンジで擦っただけで、恵子はドンブリを棚にしまった。 「どけ、ゲームやる。」 恵子はハエを追い払うように兄を追っ払う。 笹原はヤレヤレといった感じでベッドの上に退避した。 「メールで送っとくからな。」 「うっせーし、マジウゼー。」 恵子はコントローラーを引っ張り出し、ゲーム機にディスクをセットする。 「へーへー…。」 諦めた笹原は、恵子の携帯にメールを送ると転がっていた雑誌を拾った。 ヴゥーー ヴゥーー ヴゥーー ヴゥーー 恵子の携帯が震える。 ヴゥーー ヴゥーー ヴゥーー ヴゥーー 恵子は目の端っこで、ブルブルと揺れる携帯を見ていた。 つづく
>>斑恵物語2 長文書ける人って特殊な才能あるんでしょうかね…乙です! これだけ長くてまだ続くとはーっていうか斑目と恵子、まだ始まってないし ひょっとしてまだ序章!?
>>斑恵物語 いーねいーね〜。 原作では考えられない(と個人的には思っている)展開を ここまで違和感なく書けるのはスゴイと思いますよ! ぜひとも第3章を!
284 :
クガピ :2006/02/24(金) 18:39:44 ID:???
えー、初めてSSを書いてみました。 スレ汚しになってすみませんが、しばらくしたら計16レスで投下させてください。 前もって申し上げると、この話では、「毎日営業の外回りで死んでる」というあの人をメインに据えてみました。 また、ある小学生の女子の視点から見つめ、ベタな内容なので、乗り切れない部分があったらスミマセン。 よろしくお願いします。
【少女の独白】 ワタシが病気で小学校を休み、病院に入院して1ヶ月になる。 8月。11歳の誕生日も病院で迎えた。 本来の治療薬が体に合わず、入院期間は延びている。 友達が見舞いに来てくれることも少なくなってきた。 だって夏休みに入院したもんね。みんなもお見舞いに行くより、プールに行ったり、一日中ゲームして遊ぶ方がそりゃ楽しいよ。 もうすぐ誰も来なくなる。 毎日、入院病棟をとぼとぼと歩いて、ナースステーションの向かいにあるソファーに座ってマンガを読む。 3人がけのソファーはお気に入りの場所だ。 マンガはお母さんに頼んで家から持って来てもらった。 「面白いの、コレ?」と、お母さんは変な顔をするし、友達は「男向けの漫画だから」って敬遠する。 けど、ワタシは黒木優は大好き。 「くじびきアンバランス」はマガヅンで一番面白いと思うんだ。
くじアン全巻は病室に置いちゃダメだとお母さんが言うので、ワタシは大好きなキャラが活躍する巻を選んだ。 もう、同じところを何回読んだだろう。 ソファーに座っていつものマンガを読んでたら、突然、ドスンッと、大きな揺れを感じた。 「キャッ!」 体が浮き上がるような揺れにびっくりして周りを見渡した。 病室からは誰も出てこない。正面のナースステーションも静かだ。 地震じゃないみたい。 病棟の入口は、と目を移すと……大きな物体に視界をさえぎられた。 「あれ?」ワタシが物体を見上げると、それは大きな男の人だった。 ソファーはワタシとその人で満席。 三角おむすびをおっきくしたような体つきで、白いワイシャツやネクタイにまで汗が滲んでいる。 カバンを小わきに抱え、「フヒー」と小さな悲鳴をあげながらタオルで汗を拭いている。 見ているこっちが暑苦しくなってきちゃった。
私はちょっとむさ苦しい思いをしながらも、気にしないそぶりでマンガを読みはじめた。 すると、なんだか妙な視線を感じる。 ワタシが再び物体、いや、男の人を見上げると、男の人はプイッと視線をそらした。 またマンガを読みはじめると、また視線を感じる。 またワタシが見上げると、またプイッと視線をそらした。 同じことを3回繰り返して、ワタシは何だか気味が悪くなってきた。 だけど、ひょっとしたらと思って聞いてみた。 「……おじさん、“くじアン”好きなの?」 そしらぬ顔でナースステーションを見てた男の人は、“ビクッ”と反応してこっちを向いた。 「あ…、お、俺?」 「そうだよ、おじさん。“くじアン”好きなのって聞いてるの。ワタシがマンガ読んでるの見てたでしょ」 大きな顔を見上げてると首が痛くなる。デカイなあこの人。 やがて、「……お おじさん……」とだけ口にして、その人は黙りこくってしまった。
ワタシが「スミマセン」と呟いて再びマンガに目を向けると、質問の返事がやっと帰ってきた。 「そ それ第一部だよね。お 俺も好きなんだけどね……」 どうも口数の少ない人らしい。 だけどワタシはうれしかった。 お母さんも看護婦さんも優しいけど、話が合う人がいなかったから。 ワタシは息継ぎも忘れて話しかけた。 「第一部って面白いよねワタシねー副会長とアレックスが大好きなんだよ強いしさーカッコイイしさー結婚したのにはビックリしたけどお似合いだよね、会長の祝福に泣いちゃうシーン、ワタシももらい泣きしちゃってぇ……あ、えーと、そうだおじさんは誰が好き?」 驚きの表情でワタシを見ていたおじさんは、ちょっと間を置いて答えた。 「お 俺は……えーと……山田かな……」 「え、山田…」 山田って蓮子の子分の……ワタシはおじさんの予想外のチョイスに戸惑った。
その時、ナースステーションから婦長さんの太くて大きな声が聞こえてきた。 「久我山さんでしたっけ。お待たせしましたね。どうぞー!」 「あ はい。……じゃあ」 クガヤマと呼ばれたおじさんが立ち上がると、ワタシの座っている場所もグワッと持ち上がった。 ナースステーションからは、婦長さんとおじさんの会話が聞こえてきた。 「き きょうは新型の で 電子体温計の、試供品を…」 「もっとシャキシャキしゃべんなさいな。それじゃあ売れる商品も売れないよ!」 「は はい」 この人セールスマンだったのかー。 いかにも「図太いオバン」の婦長さんが相手だから、最初から圧倒されている。 この人、こういう仕事に向いていないんじゃないかしら。
その日から、おじさんはちょくちょく営業で病棟に来た。 ワタシはよくソファーに座っているので、時間があったら話をするようになっていた。 交わす言葉はとても少ないけど、おじさんはくじアンにとても詳しい。大人なのに。 一人で延々と話していることもある。こういう人をオタクというのかなと、まじまじと見つめることもあった。 そんな日々を過ごすうち、ワタシの夏休みは病院の中で終わってしまった。 9月に入り、いつものようにソファーに座っていると、たどたどしく医療器具の売り込みをしているおじさんの声がナースステーションから聞こえた。 仕事を終えてドスン!とソファーに座ったおじさん。ワタシの体も一緒に沈みこむ。 いつものようにタオルで汗を拭きながら「フー」と一息ついている。 ナースステーションの中は冷房効いていたはずだけどなぁ。
「ねぇおじさん」 「い いつも思うけど、おじさんはやめてよね。こ これでも春に椎応卒業したばかりなんだから」 椎応は知ってる。この人が最近まで大学生だったことには驚いた。 「ねえねえ、久我山さんは何でセールスマンになったの?」 「か 会社が飯田橋にあってね。ち 中央線で秋葉原が近いから決めたんだけどね。営業まわりは予想外だったんだ」 ワタシは、そんな理由で仕事を選ぶ人もいることに、さらに驚いた。 秋葉原がオタクの街だってことはワタシも知っている。ちょうど今、オタクのドラマが人気なのだ。夜10時からの放送なので見れないけれど。 やっぱりこの人、オタクだったんだ。詳しいはずだわ。
私はますますオタクに興味がわいてきた。 「久我山さんホントのオタクなんだね。絵も描ける?」 「マ マンガは一応描けるんだな。現視研っていうサークルで……」 「でんし…けん? 変な名前」 久我山さんは「げんしけん。略称だよ」とジト目でワタシを睨んで話を続けた。 そんな怒ることないのに。いや、怒っているのか無表情なのか分からない人なんだろう。 「そこの仲間と、くじアンの、ほ 本を出した時に……」 「え! どんな本を描いたの? 教えて、今度持ってきてよ!」 質問した途端、久我山さんは急に顔中に汗をかいてうろたえだした。 「あれ? 嘘なの?」 「い いや、うう 嘘じゃないよ。今は、て て 手元に無いからなぁ」 たわいもない会話は、入院生活が長くなった私の退屈や不安をやわらげてくれた。
ある日のこと。ワタシは、「久我山さん、マンガ家になれば良かったのに」と聞いてみた。 「き きびしいこと言うなぁ。なれればいいけど、な なれないから就職したんだろ」 もったいない。と、ワタシは思った。絵の描ける人がうらやましかったんだ。 「ワタシはマンガの編集者になりたいよ。絵は上手くないけどマンガは大好きだもん」 久我山さんは、軽くため息をついた。 「田中が…、な 仲間が言ってたけど、後輩に編集者をやりたい奴がいて、全然就職先が決まらないって。こういう業界は難しいからさ、は 早く元気になって、ふ 普通に勉強して普通の仕事をした方が吉」 「…そんなの、分かってるよ…」 ワタシはちょっと不機嫌になって足下の床に視線を落とした。 「?」久我山さんはワタシの様子に気付いて向き直し、ソファーが大きくきしんだ。
「お母さん達は心配ないって言うけど、同じ病棟に2年も3年も入院している人もいる。ワタシもこのままずっと病院暮らしなんじゃないかって恐くなる。早く元気になれと言われたって……」 ワタシは、溜め込んでいた不安を久我山さんにぶちまけてしまった。 「それに毎日、注射を打たれるんだよ。注射の針は嫌いだ。痛くって、刺してる時間も長くて、つらくて……」 「あ、ご ごめん」 久我山さんが悪いわけじゃないのは分かっている。でも、言葉はとまらなかった。 「……久我山さんだって普通の仕事より、マンガ家の方が良かったんでしょ。難しいからあきらめたの? やる気はなかったの? ワタシにだって夢ぐらい、見させてよ……」 ナースステーションから久我山さんを呼ぶ婦長さんの声がした。 久我山さんは無言で立ち上がり、ソファーが浮き上がった。
それから、ワタシは久我山さんには会わなかった。 自己嫌悪もあって、あのソファーに座ることがなかったから、会うこともなかった。 何日か経ったある日のこと。 「注射を打つから処置室に来てね」 看護婦さんがワタシを呼んだ。ワタシはいつものように、パジャマの袖をまくり、顔をそむけて目をつぶる。 だけど今日は、痛みがいつもより軽いと感じた。おそるおそる、刺されている腕に目をやった。 「あ、この針」 いつもの注射針じゃない。チューブ状で、蝶の羽根のような取っ手がついてる。看護婦さんがワタシの視線に気付いた。 「これね、翼状針って言うのよ。チョウチョ針とも呼んでるの。結構高いのよ。予定よりも多く仕入れたから、投薬治療が終わるまでこれでしてあげるからね」
看護婦さんは続けて、「注射が痛くて嫌だったのなら、我慢せずに言えば良かったのに……友達に感謝するのね」と言った。 「友達?」 ワタシは何のことだか分からず聞き返した。 「久我山さん。おっきいおじさんよ」 看護婦さんの話では、いつもはセールストークが下手な久我山さんが、前回の営業では婦長さんや担当医の先生に一生懸命に頭下げ、熱心に翼状針を売り込んだそうだ。 そのとき、ワタシが注射を痛がっていた話をしてくれて、婦長さんも先生に追加購入を勧めてくれたという。 そして、久我山さんは翼状針の納品を最後に、別の病院への営業に回ったので、もう来ないと言うのだ。 「最後の日も、婦長が“病室まで行ってあげて”って勧めたし、あなたをナースステーションまで呼ぼうとしたんだけど……」 話は途中から聞こえなくなっていた。 あの日以来、ソファーに座らなかったことを後悔した。
床に視線を落として黙り込むワタシの目の前に、看護婦さんが小さな紙袋を差し出した。 「これ、久我山さんからのプレゼント。翼状針使った日に渡すよう頼まれたわ。お上手ねぇあの人」 「お上手?」 紙袋の中には、色紙が入っていた。ワタシの大好きなアレックスと副会長の結婚式のイラスト。綺麗なウェディングドレス……それとなぜか山田が描かれていた。 山田だけが妙に手が込んでいた。 「本当に絵が上手いんだな。久我山さん」 色紙の端には、文字が描かれていた。 『後輩は、編集者になれました。俺もがんばるから、君もがんばれ』 あ、と思った時には、ぽろぽろと涙がこぼれてきた。 ごめんなさい。あんなことを言って、ごめんなさい。 処置室を出てソファーに座った。 色紙を濡らさないように、久我山さんが座ってた場所に色紙を置いた。 軽い。ソファーはきしみもしなかった。 ワタシは両手で顔を覆って泣いた。
それからしばらくして、ワタシは退院できた。 入院していた時の不安なんて嘘のように、気分は晴れ晴れとしている。 だってワタシには目標があるから。 一生懸命勉強して、大学に行く。 椎応大学に入って、「げんしけん」と言うサークルを探して入会するんだ。 久我山さんのいた「げんしけん」の雰囲気は、話の中から伝わっていた。 頼りない元会長、 衣装やプラモ作りの名人、 コスプレ狂の現会長、 オタクじゃないのに入会した人、 完全無欠のイケメン、 時には意見をぶつけ合った後輩、 絵のうまい女の子(←結局この人が夏に描いたという、くじアンのマンガも見せてもらえなかった)、 神出鬼没のOB、 ギャル、 変人……。 楽しい話を聞くうちに、自然と“そっち系”への興味もわいてきた。 立派なオタク(?)になっちゃうかも知れないな……。 そう思いながら、ワタシは、まだ暑い院外へと飛び出した。
【エピローグ/1】 久我山光紀は、このところとても気分が良い。 医療機器メーカーの合同展示会で、以前の営業先の婦長と再会し、少女が元気に退院したと聞かされたからだ。 彼女は久我山が贈った色紙を枕元に置き、「マンガの編集者になる」と目を輝かせていたという。 仕事に愛着はないが、今回だけは一生懸命に翼状針を売り込んだ。 針を通した時の痛みの違いなど、気休め程度の差でしかないが、それでも何とかしてあげたかった。その努力は報われたと思った。 また、笹原から連絡があったことも久我山の気持ちを動かした。 編集プロダクションへの就職内定。彼の成功を少女に伝え、励ましたいとの思いで、遅筆の彼が懸命に色紙を描き上げたのだ。
【エピローグ/2】 「毎日、え 営業まわりでさ、し 死んでるよほんと」 彼は自嘲して笑う。自分がオタクであることに変わりはない。 だけどほんの少しだけ、仕事にもやりがいを感じた。 「ごめん田中、こ 今度の合宿、行けそうにないよ」 仲間と軽井沢に行くことはできなかった。 休みを取ろうと思えば取れたかもしれないが、残暑の中、営業まわりで歩くのも悪くはないと、この時の彼は思っていたのだ。 ひと仕事終えた後のアキバ散策が、また一段と楽しくなるから……。 久我山と少女。7、8年後、現代視覚文化研究会の古参OBと新会員として再会を…………するかどうかは、まだ分からない。
クガピに萌えたの初めてだ。 なんかサンタクロースとかそんな感じの生き物に進化するのかな。
>となりのクガピ いいねえ。 やりたくもないのに生活の為に仕方なくやってる仕事って、この少女みたいに必要としてくれる人の存在が大きいんだよね。 昔読んだ、怪獣の着ぐるみに入る破目になった役者が、風呂屋で自分が出てる番組を見る為に早く帰ろうと泣く子供に会って、それがきっかけでやる気を出すという話を思い出した。
303 :
マロン名無しさん :2006/02/24(金) 20:39:42 ID:QX7rwXDI
>>となりのクガピ とにかく泣けた。涙GJ! え、ええ話や…!!!!!〜(T□T) そうか、仕事頑張ってたから軽井沢いけなかったのね。 メガネの人とは大違い。 (メガネの人が一番好きなのにこんなこと書いてしまうヨ…) 少女は久我山に励まされたけど、久我山は少女に救われたと。 はあああ…じいんときました。いいね。 泣ける話、ワシも書きたくなってきました。
稚拙な文章で申し訳ありません。お粗末さまでした。
一応、あとがきとして……。
笹荻クライマックスまっしぐらの昨今、久我山を扱うのは「隙間産業」のような気分でした。
少女の外見には言及しなかったのは、読者の皆様各人にフィットするロr(ryをイメージしてくださいということで……。
>>301 >なんかサンタクロースとかそんな感じの生き物に進化するのかな。
自分では、序盤を書いていて、クガピーというより「醜いトトロ」の絵柄が浮かんでました。で、
♪となりのクガピ クガピー クガピ クガピー
月夜の晩に エロい絵をかいてる♪
↑コレがずっと頭の中をリフレインしてました。
>>302 >やりたくもないのに生活の為に仕方なくやってる仕事って、この少女みたいに必要としてくれる人の存在が大きいんだよね。
>>303 >少女は久我山に励まされたけど、久我山は少女に救われたと。
ありがとうございます。
現視研部員はお互いに影響し合いながら成長しているなあと感じていたので、「その影響力が他の誰かの幸せにもつながったらいいなあ」という思いから、第三者の視点を主にしてみました。
笹原の内定が久我山にも好影響を与え、その久我山の頑張りは、名も知らぬ少女を励まし、自分の生きがいにも繋がっている。そんな話にしたかったです。
読んでいただいて感謝です。
>>282 いえいえ、才能なんてありません。
なんか当初の計画より長くなりそうです。
また読んでいただければ幸いです。
>>283 自分はこの二人は原作でもなくはないなと思っているんですが、
あって欲しいな〜。
無理かな〜。
>>となりのクガピ
いいですね〜。
好きだな〜、こういうの。
久我山さんのキャラが活きてるし、読後がすごく気持ちよかったです。
オリジナルキャラは勇気が要りますね。
自分には出せないです・・・。
これで初SSとは!
尊敬。
>>304 となりのクガピGJ。
これは、木尾に見せたいよね。
307 :
木尾 :2006/02/24(金) 21:58:02 ID:???
見たよー! こりゃいい話だ、メモメモ!
>>となりのクガピ このへんな生きものは、 まだ病院にいるのです。 たぶん ...
309 :
クガピ :2006/02/24(金) 22:25:12 ID:???
>>305-308 褒めてもらったりメモられたりで、ほんとにありがたいです。感謝。
こんな話ができたのも、そもそも各SSの面白さに圧倒されて、「メインストリーム(笹荻、班目系の主流)ではとても勝負できない、隙間産業に走るしかない」と思ったからでして……。
>>305 班目の右往左往する笑える描写や、生活感が秀逸な班恵2の直後だったので、「こういうのはとても出来んわ」と思い、投稿するのに勇気がいりましたw
>>となりのクガピ
笹荻とか荻過去とかばっかり書いてても、実はクガピーやクッチーにも興味が有りました。
しかし、僕が書くと救いの無い重いものを書きそうで断念…!!
書かなくて良かった〜〜〜だってこんなに良作を読めたんですから!!(スピードワゴンか自分)
今後とも宜しくです。是非、色々書いてください!
>>310 誇大妄想と思わなかったので読んでみました。なるほど…。
文系的分析って深みにはまると大変 じゃない、奥が深いですねー。
>>となりのグガピ そういえば前、クガピの話書きたいなあってレスをしたことがあった。 しかし、うまく思いつかなかったため放置していた。 ・・・・これいいですねえ。将来二人が出会ったら面白いだろうに。 きっと、この先本誌でクガピが注目されることはないから、 これが正式裏ストーリーとしてあってもいいような気分ですよw
313 :
木尾 :2006/02/25(土) 03:32:45 ID:???
また偽者か! いいかげんにしなさい! 近況:カミさんにリュックをバカにされた〜
うーむ困った。 実は自分のオリジナルの作品書く為に、ちょっと前に書いたSSで引退する積もりだったんだが、ここ読んでたらまた新しいネタが浮かんだ。 どうやらここから脱け出すのは一筋縄では行かないようだ。 まるで最終回のたびに仕事人やめようと決意するのに、新番組で再び仕事人始める中村主水みたいだ。 人のお命(他人の漫画をSSのお題に)いただくからは、いずれ自分も地獄道、南無阿弥陀仏…
>>314 オリジナルですかー、いいですねー。
まあ、SSはオリジナルが詰まったときにでも息抜きで書くのもいいんじゃないですか?
そうやってバランスとって行くのもいいと思うのですよ。
私も、まだまだ抜けだせそうにありませぬ。
冥府魔道を突き進む・・・。
316 :
木尾 :2006/02/25(土) 06:14:05 ID:???
>>313 にゃにお〜! 偽者の分際で〜!
カミさん=エムカミさんじゃありません
カミさんが東北出身 オギーの方言指導 いやそれとも木尾本人が東北出身?
長く願っていた笹荻成立が無事に成されてめでたいです。 しかし、なんていうか、つきあってもじれったく進行しない笹荻のSSを、事前に いっぱい書いておいて良かった…!とか思いました。今後の笹荻の書き方変わりそうなのでw くはーーー笹やンの強気さとオギーの誘い受け度が予想以上だけど、これはこれで最高です。 来月予想はともかく、これからも色々書くぞう。
319 :
マロン名無しさん :2006/02/25(土) 13:33:21 ID:Lc5GWpjP
空気読まずにかいてみる。 今月号の見所は斑目だ!!!(←オイ) え…来月号から斑目話…?マジですかエムカミさん? もしかして笹荻ばりにディ〜プに展開したりとか…します? ひいいい、こええ!!なんか期待よりも不安のほうが大きいんですけど… で、でも、嬉しい…早く読みたい来月号!!! えーと、笹荻も良かったですよ。うんすごく。 おめでとう笹荻!!! オギーの強受けだーと思ったら誘い受けかい!! 笹原は本来へタレ攻めだけど、オギーの誘い受け&性欲に理性が吹っ飛んだんです! 私はそう思ってます!! とにかく木尾先生は神。 どうみてもスレ違いです。本当にありがとうございました。 でも今回のオギーのおかげで、書きたかったアホなSSが書ける! よっしゃ!というわけで頑張ります。すんませんでした。
>>319 あんたの熱い気持ちは分かった!
待ってるぜ、アホなSS!
>>317 まぁ、筑波大卒だし、出身自体が東北かどうかはさておき
知人に山ほど東北弁しゃべるのがいるよな
しかし今回のウソバレも神がかってたね 普段このスレにいる人が書いたのかな?
見てなかったけど今回のもまたウソバレだったんだ? この調子で風物詩と化していくのかな… しかし次回の展開は当てられた奴がいたら神かもしれないな。
あまりに自然で、てっきり本物とばかり思ってた>ウソバレ そのあと登場した本バレ(バレスレ103)があまりにもあっさりと紹介され、しかも、あの内容(たつよね→チュー→セクロス?)だから、とても信じられなかった。 「同一人物による巧妙な釣」とさえ思ったよ。
斑目さんが唐突にニューヨークに旅立って アンジェラとくっつくとかでいいや・・・。
本物の方がウソっぽい展開っていったい
ネタバレスレで最初に本バレが書かれた直後の感想。激ワロスw
106 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/02/22(水) 03:22:21 ID:???
嘘バレもいいけどもっと「らしく」書いて欲しいな。
本気で信じさせたいのなら「見たものを伝えようとする姿勢」まで徹底して欲しい。
ただ嘘バレ用に考えたストーリーを羅列するだけで終わってちゃ話にならん。
107 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/02/22(水) 03:26:51 ID:???
キスとか絶対無いよな。
109 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/02/22(水) 03:57:20 ID:???
>>103 勃つよねこれ
勃つよねこれ
勃つよねこれ・・・
バロスww
114 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/02/22(水) 09:43:10 ID:???
>>103 もレスが淡々と書いてあるからそれほどでもないような気がするが、
この筋書きを木尾タソが書くとするとかなりワクテカな気がする。
どっちが本バレと信じるか聞かれれば
>>13 だけど、
>>103 も乙。
119 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/02/22(水) 11:10:56 ID:???
>>103 毎月楽しみにしているのに柱があるが
柱は?
嘘バレなら、
引用もとの選択が重要だから
これはセンスが問われるよ・・・
ちなみにあのウソバレの人(本物かどうかは不明だが)本バレと被る部分も多かったんで「アフタ見ながらアレンジしたろ?」と問うたら、「後でアフタ見て驚いた」と言ってた。 全くの偶然だったらしい、被ったとこ。 ニュータイプかもしれない。
あのウソバレは、流れ的にも妥当な予想 しかし本編は、読者の想像を超えた爆発っぷりだった まさに木尾マジック あと、ウソバレに無かった要素といえば『イラストに対する批評をする笹原』『また俺だけ知らなかった斑目』 でも予想としてみたらかなり凄いものだと思うよアレ
今回ばかしは、ちと考えにくいな、来月号の予想的SS。 何しろ笹荻ハッピーエンドで一応一段落だから、ちょっと予想しにくい。 予告編は斑目話っぽいが、アフタの予告は当てにならんし… だが待てよ。 予想しにくいぐらい分からないということは、逆に言えば何でもありということだ。 諸君の活発な投下を期待したい。 俺?実は新シリーズ(シリーズ化出来るか?)を執筆中。 内容は…10年後の話とだけ言っておこう。
333 :
319 :2006/02/25(土) 23:07:13 ID:Lc5GWpjP
さて。アホSSを今日中に書き上げたわけだが。 バイト終わって、今日もこんなことばかりしてたワケだが。 たまにはこんなSSもいいかと。 今回書いた荻上さんが壊れているのは、 ひとえに原作、今月号のせいです。本当にありがとうございました。 10分待って投下。11パート。 先に投下したい方はカキコよろ。
334 :
アホなまえがき :2006/02/25(土) 23:19:45 ID:Lc5GWpjP
…では、投下します。 脳内でくすぶっていたアホなイメージが、今月号読んで爆発しました。 脱皮した荻上さんは最強です。 虫が、蛹から成虫へと姿を変えて行くことを『完全変態』といいます。 おたまじゃくしが蛙になるのとか。 つまり荻上さんの筆は、おたまじゃくしのしっぽだったと新説を(←マテ) だんだんしっぽがちぢんできて、『完全変態』になると予想を…いや変態って、そういう意味じゃありませんからね!! いやだから違いますってば。 独り言はこのくらいにして、そろそろ本筋に。 タイトルは「荻上さん最強伝説」 てきとーに読み流していただければ吉かと。
335 :
「荻上さん最強伝説」1 :2006/02/25(土) 23:20:58 ID:Lc5GWpjP
咲「よう荻上、大野も、ひさしぶり」 大「あっ、咲さん!!」 荻「お久しぶりです。」 咲が久しぶりに部室に顔を出すと、大野と荻上がいた。 咲「(にやり)荻上〜、なんかちょっとみない間に雰囲気変わったんじゃね〜?」 荻「そうですか?」 咲「上はうすいピンクのパーカーに、下は巻きスカートかあ…ほーほー、笹やんはそういうのが好みなんだあ〜?」 荻「ええまあ、そうです。でも私が着たかったから着てるんです」 荻上が即答したので、咲と大野はびっくりする。 咲「へえ…いい傾向だね。そんな素直に答えるなんて。 ふーん、笹やんに愛されてるからかね〜?」 荻「ええまあ、そうです。でも私のほうが、もっと好きです。」 咲と大「!!」 思わずのけぞる咲と大野。 咲「すげ〜!荻上がのろけてる!!」 大「あらあらあら、まあまあまあ」
336 :
「荻上さん最強伝説」2 :2006/02/25(土) 23:21:42 ID:Lc5GWpjP
咲「ところでさ…付き合う経過はどんなんだったか、聞かせてよ」 大「いいですね!私も聞きたいです!」 咲「お前、自分のときは恥ずかしがって教えなかったのに…」 大「まあまあ、そんな過去の話は流しちゃって、どんなんだったんですか!!荻上さん!」 咲「流すのかよ!」 荻「合宿の終わった次の日、笹原さんがうちに来たんです。私が呼んだんです。」 咲「ほうほうほう!」 大「それでそれで!?」 荻「笹原さんに、笹原さんと斑目さんをモデルにした801漫画やイラストを見せたんです。」 大「…ああ!アレですね?前にノートに描いてた…」 咲「…は?何それ??…801?笹原と斑目で??」 まだよく分かってない咲。 荻「…あんなモンじゃないです。」 大「え?」 荻「もっとハードコアなのを、全部です。」 大「…え、それってまさか、夏コミに出した同人誌並みの…」 荻「あんなモンじゃないです。」 大「…………………」 冷や汗だらだらでうつむく大野。
337 :
「荻上さん最強伝説」3 :2006/02/25(土) 23:22:29 ID:Lc5GWpjP
咲「…えーとそれは、笹原と斑目が…」 荻「つながってる絵です」 大「………………………………」 咲「…んん〜?なんか、いまいちピンとこないんだけど。一回見せてよ」 大「さ、咲さんっ…」 (知らないって恐ろしい…) 荻「いま持ってきてないです。」 大「で、ですよね!!」 荻「けど、描こうと思えばすぐに描けます。」 咲「そうなの?じゃあ描いてみてよ、簡単に」 大「お、荻上さん!?」 いうや否や、カバンをあけてノートを取り出し、ペン立てから鉛筆を抜くととものすごい速度で描き始める。 荻「いつどこで誰に描けと言われてもいいように、心の準備はしてあります。 …たいがい無駄ですが。今日は如何なく発揮させていただきます。」 淡々とした口調とは裏腹に、手はものすごい速度で動いている。 大野はその手の動きに既視感を覚えた。 (どこかで…あ、田中さんが衣装を縫ってるときの、ミシンの針の動きに似てる…) 絵を描いている人を見て、普通、そんな感想は抱かない。
338 :
「荻上さん最強伝説」4 :2006/02/25(土) 23:23:10 ID:Lc5GWpjP
どうやら1ページだけにおさまらないようで、どんどんページがふえていく。 荻「描きあがりました」 荻上さんは疲れたような、しかしどこか達成感で満たされた顔で鉛筆を置いた。 大「で、できたんですか?」 咲「へえ…10ページもかいてるじゃん。漫画になってる。すごいな、この5分間で。」 大「ご、5分っ!!?」 大野は荻上のかいたノートを見る。鉛筆でやや荒い線ではあるが、とても5分でかいたとは思えない。 咲「プロの漫画家ってこんなに早く描けるの?」 大「…いや、荻上さんの速さは、珍しいと思います…」 咲「へー?…って、うわほんとにエロいな!」 大「そ、そうですね…」 咲「妙にきっちり描いてあるし…笹原かっこよすぎないかコレ!? って、斑目女の子みたいだな!…ぶっ、あっははははは!! 言わねー!!!絶対そんなクサイ台詞言う奴いねーーー!!!!!」 大爆笑する咲の隣で、大野さんは顔を赤くして黙って読んでいる。 (むむむ…これはこれで…)
339 :
「荻上さん最強伝説」5 :2006/02/25(土) 23:24:01 ID:Lc5GWpjP
荻「大野先輩?」 大「…えっ!?はい!なんでしょう!?」 荻「大野先輩は斑目さんのへたれ攻めがいいって言ってたんで、あんまり面白くないと思いますけど」 大「は!?いえ、そんな…」 咲「大野…お前もか…!!」 大「え、えーとえ−と、これはこれで…斑目さんの受けもアリかと…」 そこへ、今まさに話題の渦中の人物が部室に顔を出した。 斑「や、こんちは。………どしたの?」 斑目の登場に固まる三人。 咲「よ、よう、斑目」 斑「春日部さん、久しぶり」 大「………………………………」(////////) 荻「………………………………」(////////) 女三人の焦る心のうちなど知る由もない斑目は、のんきに、 (今日は春日部さんの顔を見れたな…いい日だ) などと思っていたらしい。
340 :
「荻上さん最強伝説」6 :2006/02/25(土) 23:24:58 ID:Lc5GWpjP
斑「ん?なに読んでんの?」 春日部さんの持っているノートに興味を示す。 咲「ああ、荻上の描いた漫画」 斑「へ〜〜〜」 咲「はい」 あろうことか、そのノートを斑目に渡す咲。 大野と荻上が止めるひまもなくノートをひらく斑目。 大「!!!」 荻「!!!!!!!!」 「……………」 「…………………」 「………………………………………」 今度は斑目が固まる番だった。
341 :
「荻上さん最強伝説」7 :2006/02/25(土) 23:26:42 ID:Lc5GWpjP
(……………………………… 801漫画…………だよな。うん。 ………………なんか誰かに似てる気がするんだけど…………。 うん、いや、ひとコマ目に「笹原」「斑目さん」って呼び合ってるし。うん。 ほら、801漫画って実在の人物もネタにするらしいし。 荻上さんは、生粋の801書きだからな! ………って、俺かコレ?なんか可愛すぎないか!? はあ……ていうか、不思議な世界だな………………。 なんかすげえからまってるんですけど…………………………… ………………………ま、内容はともかくとしてだ。 問題は春日部さんもコレを見たってことだ。 なんか好きな人に、イメージとはいえ自分のアレなアレを見られたということに問題があるような。 それって、きっと、すごく………… うわああああああああああああああ○△×※□!!!!!!!!)
342 :
「荻上さん最強伝説」8 :2006/02/25(土) 23:27:21 ID:Lc5GWpjP
完全に固まる斑目に、かける言葉も思いつかない。 荻上は下を向いて冷や汗を流している。 大野は、つい萌えてしまったことに後ろめたさを感じて顔を赤くしている。 斑「あ、あの」 荻上と大野、ビクッとする。 咲「ん?何」 斑「…か、春日部さんも読んだの?」 咲「うん、まあね」 (うわあ……………) 咲「でもさ、全然別物だよね」 斑「え?」 咲「読んだけどさ、本人とかけ離れてるじゃん。イメージをちょっと借りただけの別物。 そう思わなかった?斑目は」 (あっ…そうか。だから春日部さんは俺に…) 斑「そ、そーだな!俺、こんなに可愛くないしな!ていうかこんなに美化されたら照れるよね、なんか」 あはははと笑う斑目。 本当は笑っている場合じゃないのだが、春日部さんが『全然別物』と言ってくれたので、とりあえず安心する。 (そうか。荻上さんの為に、あえて俺に見せたんだな)
343 :
「荻上さん最強伝説」9 :2006/02/25(土) 23:28:15 ID:Lc5GWpjP
一方、咲は内心冷や汗をかいていた。 (うわ、あぶねー!!もう少しで荻上のトラウマ再びになるとこだった…) 斑目の反応を見てほっとする荻上。 それを見てほっとする咲。 (結果オーライってことで…斑目が空気呼んでくれて助かったよ…) 荻「すいません、勝手にこんなの描いちまって…」 斑「いや、別に、大丈夫よ?気にしないでも。 あ、でも今度描くときはカッコいいのも描いてネ…ハハ……」 荻「あの…実は他にもあるんですけど」 荻上はカバンからもうひとつ、ノートを取り出す。 荻「こんなのも描いたんですけど。801じゃないジャンルで」 斑「へー!どんな話?ラブコメ?ファンタジー?」 そう聞くと、荻上さんはこう言った。 荻「大野先輩×春日部先輩の百合モノです。 温泉のときのことを思い出してつい、合宿帰ってきてから描いてしまいました」
344 :
「荻上さん最強伝説」10 :2006/02/25(土) 23:28:54 ID:Lc5GWpjP
大・咲「!!!!!!!!!!!!!」 戦慄する大野と咲。 一方斑目は、 (み……………………………………… 見 て えーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!) 斑「え、見ていいの?」 と聞くと返事を待たずに荻上さんの手からノートを抜きとる。 そしてノートを開き、1ページめが視界に飛び込んでくる直前。 咲「見るなーーーーーーーーーー!!!!!」 今までで最大級のグー突っ込みが炸裂、吹っ飛ぶ斑目と百合本ノート。 斑目は床に転がり、百合本は見開きのまま宙を舞い、いま部室に入ってきたばかりの笹原の顔に見事に着地した。 笹「うわっぷ!!」 大「ひゃあああっ!!!」 大野さん、慌てて笹原の顔からノートを奪い、しっかりと腕に抱きかかえる。
345 :
「荻上さん最強伝説」11 :2006/02/25(土) 23:29:46 ID:Lc5GWpjP
大「…見ました?」 笹「へっ!?ななななにが!?見てない!なんにも見てないよ!!」 大「こっち向いてください!見ましたね!? 記憶消してください!今すぐ初期化してください!!」 向こうでは斑目と咲が喧嘩している。 斑「いてーな!今のはマジ痛かったぞ!」 咲「見ようとするからだろーが!このムッツリ!! 荻上、描いたのまでは許してやる。妄想は誰にも止められないし! だけどいますぐシュレッダーにかけろ!!」 斑「うわ、ズリー!!人のは見たくせに!」 咲「本物見たわけじゃねーだろ!!」 斑「あの本だって『イメージ借りただけの別物』だろーがよ!」 咲「うわ、ああ言えばこう言う。このへ理屈!」 斑「どっちが!!」 咲「オタク!!」 斑「それ関係ねーだろ!!」 大野につめ寄られた笹原、荻上に助けを求める。 笹「お、荻上さ〜ん…なんで百合なんか…妄想進化してない…??」 荻「今は反省している。」 OWARI
346 :
アホなあとがき :2006/02/25(土) 23:30:32 ID:Lc5GWpjP
以上! 今は反省している。 すいません本当にすいませんorz
>荻上さん最強伝説 このどアホ! (褒め言葉の積もりです) 即興にしちゃあ上出来! 原作でも、こういうドタバタな日常の復活を望みたいものです。 最新号発売以来初のSSとしての役割は十分果たせたと思います。 例えるなら、ビートルズの日本公演の前座のドリフターズぐらいの… (分かりにくい例えでスマン。これも褒め言葉の積もりです)
>「荻上さん最強伝説」 はじめて、リアルタイムで遭遇できたげんしけんSSがコレで 良かったと思う。 百合までこなすようになった荻上さんはマジで最強ですね。
>>荻上さん最強伝説 キタコレキタコレw いや〜。斑目があの本を見るというのも展開としてはありですね! 即興とは思えないおもしろさ! で、私も大野さんと咲さんの百合は見てみたいな・・・・。 ぶっちゃけ、荻も絡めて3Pとか見たいな・・・。
よっしゃ! 勢いで書いたぞ! げんしけんものを書くのは初めてだ。 一応直接的なものは表現してないが、サロンか一般かの境界線は俺にすらわからん。 みなで判断してくれ。
目が醒めた。見慣れない天井が視界に飛び込んでくる ズキッ・・・! 「うっ・・・」 右肩が痛い。ついでに言えば右腕にザリザリとしたものが乗っている。 痛みの方向に顔を向けると、笹原を腕枕に荻上がクゥークゥーと穏やかな寝息を立てながら寝ていた。 彼女は今、髪を下ろし、生まれたままの姿でいる(無論笹原もだが) −−あぁ、そうか。オレ、ヤっちゃったんだな。 笹原は荻上との行為を思い返す。 とにかく夢中だった。 ヤるたびにどんどん自分ももちろんだが、荻上さんも良くなってきたらしく・・・ 5回目から先はもう覚えていない。いつの間にか寝入っていたようだ。 自分でもよくここまで攻めたものだと思う。 時計を探してみたが、暗くてよくわからない。だいぶ時間が過ぎているようだ。 日はもうすでに落ちている。 再び時刻を確かめようと時計を探すが、荻上を腕枕した状態ではなかなか難しい。 −−確か、脱いだ衣服はベッドの下に投げ捨てたんだっけ・・・ ズボンの中に携帯電話がある。 ベッドの下に目を向けると、少し遠いが身体をずらして手を伸ばせば届く距離にある。
352 :
事後2/2 :2006/02/26(日) 06:41:40 ID:???
笹原がベッドの下にある自分の衣服から携帯電話を取ろうと、身体を捻−− 「んっ・・・」 ろうとしたら、荻上がそれを許さない、というようにギュッと笹原の身体に密着するよう抱きついてきた。 「荻上さん?」 起きているのか? と思ったが 「スゥ・・・スゥ・・・」 寝ているようだった。どうやら無意識下にいても、今は一時一寸たりとも離れたくないらしい。 −−オレもだけどね 笹原は密着してきた荻上をやさしく包み込むように抱いてやる。 腕枕していた右腕は頭を。残っていた左腕は彼女の背中に回してやる。 胸に当たる荻上の寝息がくすぐったかった。 だが、ものすごく心地よかった。。・・・ついでに言えば、笹原の胸から腹にかけての部分に当たっている彼女の柔和な胸も心地よかった。 「・・・荻上さん。胸、当たってるんだけど」 某漫画の笹原は台詞を吐いてみる。 「・・・あててんのヨ・・・くぅ〜・・・」 荻上も寝ぼけながら答える。 「ははっ・・・」 −−時間なんて気にしたらもったいないな。すごく幸せだし 笹原は荻上の寝顔を見ながらそう思った。 やがて、笹原も再びまどろみの中へと落ちていった。 できたばかりの最愛の人を抱き枕にしながら。 −−時間なんて気にしなくていいか。すごく幸せだから -end-
よっしゃ投入完了! 反省も後悔もしてない! それじゃ、絵板に行ってまたハァハァしてくる!
>事後 混ぜ返すようでスマンが、俺漫画の読み方古いらしくて、笹荻やっちゃったという実感が無い。 でもこういうの読むと、やはり2人は結ばれたのかなと、改めて思う。 がんばれ笹荻。 でも避妊は怠るな。
「げんしけん」でなければ、一発必中、オタク夫婦のどたばた育児日記、でもいいんだけどw 子供を抱いてげんしけんに来る笹荻。 子供を中心にはしゃぐ女性陣。笹原の肩を抱いて励まし、脅す男性陣。 突然泣き出す子供。「あ、おなかすいたみたいなんで」とかいって平然と授乳する荻。 一瞬慌てるが、荻の表情に何もいえなくなる一同。照れ笑う笹原。 携帯で撮るべく移動する朽木。 あ、笹原に踏まれた。「にょー」
いい絵だと思うぞ、やらしい意味じゃなく。 クッチー、堂々とデジカメで正面から撮れ! 朽木「あとでパネルにして送りますにょー」 荻上「何か嫌です、それ」
>>355 ササヤン「あの乳はオレと子供のもんだ!」
クッチー「にょー」
さ、さすがに授乳はちょっと離れて、そう、窓際とかで窓向きにやるんじゃなかろうか? んでさりげなくガードするように腕組みササヤンが後に座るの。 朽「あ、あのー」 笹「なにか?(にっこり)」 朽「い、いいお天気ですにょう」
雑談スレっぽくなってるし、スレ違いもはなはだしい疑問なんだが・・・ 笹原ってコンドーム持ち歩いてるのか?持ってるとしたら、何と用意周到、その気満々。 無いと考えるのが自然かー。今後のSS考察のためにも、この点は重要。となると・・・。
俺は持ち歩いてないと見る
ゆえに
>>351-352 は生でやりまくりw
ちなみに。田中ユタカのイメージで書いた。
>361 見た。んー。となると二人とも(健全な意味での)下心と覚悟であの場に挑んだ と解釈すべきか。持ってなければ持ってないで、自然な情愛の昂ぶりでそうなった としても、それはそれで良い感じなんだが。その辺の機微は微妙。
あのウソバレ、こっちに転載してもいいですか? 自分もあのウソバレ信じ込んでたクチです・・・ 2度おいしい思いができたんで満足ですがwww
第47話 「花曇り」 1 荻上の悪夢。『夢酔い』の悪夢コマ仕様。 {夏コミのときの笹原の笑顔} {ゴミ箱に破って捨ててある巻田総受け本} {ノート(おそらく笹斑イラストの)を見て青ざめている笹原} {神社の木にもたれかかって泣いている荻上} {飛び降りる笹原。そしてあの悪夢と同じ表情の荻上。} {病院のベッドの上で放心状態な荻上。頭など全身に包帯。} うつぶせに寝ている荻上。汗だく。右手でシーツを強く握り締めて震えている。 2(扉絵) 鏡の前で筆を縛る荻上。後ろ姿。 3 荻上の携帯の画面『From:笹原先輩 それじゃあ明日の13時に行きます。』 時計。12時43分くらい。 荻上の部屋へ向かう笹原 インターホンを押す笹原 笹「…やあ」 荻「……こんにちは」「どうぞあがってください」 4 笹「いやー旅行帰りだってのに妹が昨日ウチに泊まりに来てさー」「「洗濯物とか荷物あんのに来んなよ!」ってカンジ? ははっ…」 荻「ソファーに座っててください」「今飲み物持ってきます」 笹「あ……うん……」 荻上後ろ姿。7巻表紙みたいな表情の笹原。今度は逆視点で、苦しそうな表情の荻上。 キッチン。お盆に載ったコップ2つとペットボトル。服の胸の近くを握り締めて壁にもたれかかる荻上。苦しそうな表情。 オギルーム。腕組みをしてソファーに座っている笹原。夏コミの荻上退席時みたいな表情。
5 荻「今日は旅行帰りでお疲れなのにすみません」 笹「ん? ああ」「いいって全然」「うん」「あんま時間空いちゃってもね」 荻「…………」 引き出しから1冊のノートを取り出す荻上。震える手で笹原に手渡す。 荻「……コレです」 6 笹「あ」「ん」「ありがと」「へー」「ふーん」「じゃあコレに?」「……いつから?」 荻「…今年の…2月頃からです」 笹「…ふーん」「ん」「えーと」「見ていい?」 荻「……本当にいいんですね?」「もし気持ち悪くなったら…すぐに見るの止めてください」「…………」 机に突っ伏す荻上 7 部室。咲と大野。 咲「笹原も荻上も来てないってことは」「んー勝負どころだね」 大「もしも…荻上さんの決意がフイになってしまうようなことになったら…」 咲「……ああ見えて笹原はこういうときしっかりしてるし」「荻上が何見せるのかは知らないけど」「まぁ大丈夫なんじゃない?」 大「そう…ですかね…」 咲「それに私らが心配してもどーこーなるワケじゃないんだし」 大「…………」 ガチャ 恵「ちわー!」 8 荻上の心の中 {電話口で頭を下げているおそらく荻上の母親(顔は見えない)} {冷たい表情、生気を失った軽蔑の眼差しで自分を見る笹原} {自分の部屋の机で同じように突っ伏して泣いている中学荻上} {笹原のいない現視研部室} ─────また同じ事を────── ─────また好きな人を────── 急に体を起こす荻上。そして笹原の手からノートを奪う。
13 笹「最初に聞かされたときは」「…俺も少し驚いた」「でもね」「それで荻上さんのことをもっと知ることができたっていうか」 「荻上さんがそうゆうものを描きたいって気持ちを抑えられないこととか」「そのことが荻上さんを5年間も苦しめ続けてきたこととか」 「なんでオタクが嫌いなのかとか」「なんで自分を嫌いなのかとか」 荻「…………」 笹「けどね」「……俺はそういう部分も含めて」「つーかむしろ?」「そんな荻上さんの……そばにいたいと思ってる」 荻「!」 14 笹「……ほら俺って高坂くんや田中さんみたいに何の特技もないし」「確かに男として頼りないかもしれない」「けど」 目を押さえていたハンカチから笹原を覗き見る荻上 笹「俺を信じてほしい」 ←デカコマ 荻「!!!」 15 {VSハラグーロのときの笹原} {冬コミでメガネを拾ってくれたときの笹原} {夏コミで初めて本が売れたときの笑顔笹原} {橋の上での『それに妄想〜』のコマの笹原} そして目の前にいる笹原 ・・ 笹「他の人が受け止められなかったんだったら俺が受け止めればいい」「……って口じゃ簡単に言えるけど」「けど」「その覚悟はある」 「だからそのイラストも全部受け止めなくちゃいけない」「だってそれも荻上さんだから」「ダメかな?」 16 荻「………………」 下を向きながら笹原にノートを差し出す荻上 荻「……信じます」 ほっとする笹原 荻「……でも無理しないでください」「イヤならイヤって言ってください」「そうゆうのも大事です」 笹「うん ありがとう」 荻「…………」 赤面しながらうつむく荻上
9 笹「え?」「あ」「え?」「ど どうしたの?」 荻「……や やっぱりこうゆうの止めませんか?」「その」「なんで私なんかが偉そうに笹原さん試したりして……」 笹「え…でも…」「んー…でも…」「………………」 荻「こんなんで笹原さんいなくなっちまったら私……」「それこそ……」 ノートを抱きかかえる荻上 10 笹「……昨日」 荻「?」 笹「ウチの妹から聞いたんだよね」「その…中学の時のこと」 荻「!」「………え」 校長室での驚き顔→原稿できてねぇよ会議のときの『そーですか』顔→俯いて目が隠れる 横3コマ 部室 咲「え!?」「あのこと話したの!?」 恵「あ…やっぱまずかった?」 大「…………」 11 咲「…どーよ大野?」 大「それがプラスに働けばいいんですけど……」 オギルーム 荻「……え……え?」 床に涙が落ちる 笹「お 荻上さん?」 荻「…じゃ…じゃあ…なんで今日来たんですか!?」 12 笹「え?」「なんでって?」 荻「だって……」「だって!」「それで分かったでしょ!?」「私がどんな事したか!」「私がどんなひどい人間か!」 笹「……あのね荻上さん?」 荻「なんでそんな女と付き合おうだなんて思えるんですか!」「…私は……私は…………!」 泣き出す荻上。ハンカチを差し出す笹原。
17 笹「……ところで気になってることが一つあるんだけど」 荻「?」 笹「ホラ今こうしてるけどさ」「えーと」「なんかあのときの勢いで無理矢理約束させちゃったみたいな気がしててさ」 荻「いやそんなことは……」 笹「つまりさ」「ん」「その」「荻上さんは俺のことどう思ってるのかなーって?」 荻「!」 笹「あ 答えにくかったら別にいいんだけど…」 荻「察してください」 18 笹「え?」 荻「だからこうして……」「部屋呼んで!」「イラスト見せて!」「……察してください」 ←俺的今月最萌えコマ 笹「あ」「ああ!」「そっか」「ごめん」 荻「……謝んないでください」 再びノートを見始める笹原。それを赤面して少しニヤけながら眺めている荻上。 ─────信じる───── ─────信じられる────── 荻上の視線に気づいた笹原が微笑む。目線をはずす荻上。 {晴れた空の風景} 19 翌日(?) 部室で一人で弁当を食べている斑目 斑「(あー…合宿で有休使っちまったしなー……)」 ガチャ 斑「ん?」 笹「あ 斑目さん」 斑「よう笹原」「…………ん?」 笹原の背後から荻上
20 荻「……こんにちは」 斑「あ」「…こんちは」「ん?」「え?」「どゆこと?」 笹「えーと……」 荻「…………」 赤面しながら見つめ合う笹荻 斑「…………」 {中庭の木} 21 咲「いやー!」「よかったよかった!」 笹「はは……おかげさまで」 荻「…いろいろとご迷惑をおかけしました」 二人並んで赤面の笹荻。そんな荻上を見つめて微笑む大野のアップ。 22 大「ほんとに……よかったですねっ!」 荻「……ありがとうございます」 そのやりとりを見ている咲 斑「ほんと」「うん」「よかったよかった」 咲「とか言っちゃってほんとは嫉妬してんじゃないのー?」「コレで彼女いないのアンタとクガピーとクッチーだけだし」 斑「……初代とか原口とかいんだろ」 咲「うわ」「ソイツら完全に忘れてた」
23
笹「つーか斑目さんいいんすか?」「もう3時ですけど」
斑「え?」
3時10分辺りを指す時計
斑「…………」「う」「うわー!! しまったぁ!」
バタン
咲「……アンタらに動揺してたんじゃない?」
笹「はは……クビになんなきゃいいけど……」
24
笑う咲・大野・笹原・荻上
笹原の笑顔アップ
荻上の笑顔アップ
会社で土下座をしている斑目
終わり
あ、
>>27 の『・・』ずれちゃったけど、『覚悟』に付いてました。
>>369 >>笹「つまりさ」「ん」「その」「荻上さんは俺のことどう思ってるのかなーって?」
>>荻「!」
>>笹「あ 答えにくかったら別にいいんだけど…」
>>荻「察してください」
>>笹「え?」
>>荻「だからこうして……」「部屋呼んで!」「イラスト見せて!」「……察してください」 ←俺的今月最萌えコマ
このシーン、今月号を見る前に書いたって言うからスゲーよな。
木尾センセと同じインスピレーションが天から降りてきたんだよなこの人
その日、 “彼氏”“彼女”になりました。
バレには近づきもしなかったから、初めて読んだ。恐るべきシンクロニティー。 SSとしても良く出た作品だと思う。なんでもホンバレがウソバレ扱いされ、ニセ バレが本当扱いされたたとかいう混乱振りだったとかいう噂だそうだが、そんな 場に居合わせなくてよかったと冷や汗。 冷静にバレと分かってて読んでいるので、違和感には気付く。ここに投下された 予想SSの影響を多少受けている印象も感じたし、セリフも多すぎるような気がした。 回想シーンを使いまわしているし、増ページでもこの内容だと、収まんないくらい 描写が多いような気がした。 そう言えるのも今月号見ちゃった後だからなあ。その場にいたら、どうだったかな。
いや純粋に良く出来てると思うよ
>>375 374だけど、俺もそう思うよ。ああ、ごめん「SSとしても良く出た作品」
じゃなく「SSとしても良く出来た作品」だね。書き違えてたね。
377 :
マロン名無しさん :2006/02/26(日) 22:33:43 ID:+CUWx0Lp
ども、遅レスですが「荻上さん最強伝説」書いたへタレです。
お目汚しスマン。感想くれた方に感謝。
>>347 >>このどアホ!
(褒め言葉の積もりです)
ありがとうございます!いや、ホントに。
前座のドリフターズ言われて、「っしゃあ!!」と大喜びしてしまいました。
このアホSSに対する最上の褒め言葉として受け取りました。
>>348 すいませんこんなSSで…
「嬉し涙」かいたときは、今月号の展開は全く予測できなかったですからね。
脳がはっちゃけてしまいました。
>>349 7巻巻末おまけまんが読んで、「荻上さんがコレかいたらどうなるんだろう」
と、思いついてしまったのが運の尽き。
百合話自体は、書くの無理です。というかスレ違い宇宙。
さて、ウソバレですが、すごいですね。笹原と荻上さんの心の機微、話の進め方が上手い。
「予想SS」として見ても、ほんとに上手いと思います。げんしけんメンバーみんなが出てくるのもいい。
…でもやはり、原作のが好きです。笹・荻・斑の三人にしぼってかいているのが!!
隙間産業ふたたびまいりました。 再度のスレ汚し申し訳ないです。 普通の「げんしけん」の日常世界を書くのは不得手なんで、また変な話を書いてみました。 タイトルは、「先刻」までの「現視研」を意味していて、語呂のネタは「戦国自衛隊」から。かといって、現視研の皆様が武田信玄と戦ったりするわけではアリマセン。 しばらくしたら、6レスで投入いたします。
合宿から数日が経ったある日の午前。 サークル棟を訪れた荻上は、部室のドアの前に立つ怪しい人影を見かけた。 物陰に隠れて様子をうかがう彼女の位置からは、男の背中しか見えない。背は低い。なで肩で猫背だ。 「何をやってるんだ……」 大野のコスプレ衣装が盗まれそうになった事件を思い出す。当時の犯人像はハッキリしていないので確証はない。 (大野先輩狙いの再犯? あのとき、朽木先輩が顔を覚えてくれていたら!) 笹原に電話しようと思ったが、彼は就職先の研修中であることを思い出す。迷惑は掛けたくない。ふと、笹原の顔が浮かぶ。最近脳内で再生されるのは強気攻めの顔だ。 唇を重ねた感触、肌のぬくもり……。 「いげね!」我に返って口元を押さえる。顔は紅潮しきっている。最近は多方面にワープできるイケナイ体になってしまった。 笹原以外に誰か呼ぶべきか、とも考える。 咲が相当忙しいことは知っている。大野は上野方面にある田中の家に入り浸りなので、すぐに来ることができない。仕事場が近い班目もお昼でないと来ない。朽木は知らない……というより、朽木や恵子が来たら事が悪化しそうで頼れない。 背中から感じる雰囲気では、悪い人ではないかもしれない。荻上は、勇気を振り絞って男の肩を軽く叩いた。 「あの……」 声を掛けたつもりが、その瞬間男の姿は消えていた。 「え、え?」 混乱しつつも、とにかく部室に入ろうとドアノブに手をかけた荻上は、はたと立ち止まった。妙な違和感を感じる……。 「何か」が違うのだ。
荻上が部室の前で怪しい人物を見かけてから約2時間後。時計の針は12時を指していた。 部室の昼間の主は班目である。 彼が訪れた時、部室には誰もいなかった。 「軽井沢の後も、みんなそれぞれに楽しんでいるんだろうなあ」 しかし、社会人である班目はそうはいかない。 コンビニで買ってきた弁当をいそいそと口に運びながら、テーブルの上に無造作に置かれていた最新号のマガヅンを読む。 「くじアンも潮時かなー」「ゆっくり読みてーな、社会人は辛いよ……」 誰もいない部室で独り言を繰り返す。静かすぎるからだ。 「……ま、合宿で遊んだ分は取り返さないとなー」 ここまでしゃべった後、独り言が止まった。 揚げ物をつまんでいた箸の動きも止まった。 沈黙。 遠くのグラウンドの方から、バットがボールを叩く乾いた金属音や掛け声だけが微かに響いてくる。 しばらくして、班目はぽつりと呟いた。 「俺は 遊んだ のか?」 何で参加したのか。何のために一緒について行ったのかを思い起こすと、咲の顔が浮かぶ。 (春日部さんはコーサカに付きっきりだった。そりゃ当たり前のことだ。俺も別にそんな気持ちで参加したわけじゃない……) がぶりを振って、「んなわきゃねーだろ〜、ありゃオタクの敵……」と否定する言葉が口をついて出た。 が、それを覆すような記憶がすぐに蘇る。 『あ でもこないだ ちょっと一緒にゲームやったよ』 2人で寿司を食べたときのことが浮かんだ。 また、沈黙。再びグラウンドからの掛け声が小さく聞こえてきた。
過去の出来事がどんどん思い出されてくる。 卒業式でのやりとり。 「イバラの道」を自覚した夜。 行き詰まった同人誌作成会議を仕切ってくれたこと。 選んで金を出した服(=俺自身)を認めてくれたこと。 グーパンチを喰らったときの妙な幸福感。 不意に泣き出してしまったときの焦り。 そこで感じたコーサカとの「差」。 守り通した「最後の砦」。 学園祭の会長コスを見た時の……。 そういえばボヤ騒ぎの時に、初めて体に触れたっけか。拳以外で。 「最初に妙に意識しだしたのはいつだっけ、この部屋で2人だけになったときかな……。あの時はハナ…(略」ずっと1人で呟いている班目。 しかし、さかのぼっていく記憶の中で、ある出来事を思い出した。 『おい高坂』『もう面倒くせえから こいつにはじめてのチューしたれ』 「あの出来事で成り行き上、コーサカが告白することになって……、まさかホントにやるなんて思わなかったもんなぁ、アハハハ」 ふいに笑いが止まる。 「あれ……、あの2人をくっつけたの、お 俺?」 ちょっと動揺した。当時は「乱暴女」としか思っていなかったから何とも思わなかったが、もしあのとき彼女を意識していたら……。 「いやいや、何考てんだ俺!」と叫び、がぶりを振る。 「なんだか、一人で楽しそうだね」 いきなりの声に、現実世界に引き戻され、班目は心臓が止まる思いがした。 いつの間にかテーブルの向い側に、長い間会う事のなかった初代会長の姿があった。
「うおっ!しょっ…初代! ぜんぜん気が付かなかったですよ」 「ずっとブツブツ独り言を言ってたからね君は」 聞かれたか。何かマズイこと言ったっけか。と頭の中で言葉を繰り返す。 「初代、どうして今ここに?」 「“二代目”こそ、卒業してもなぜここに?」 初代は、穏やかな口調で聞き返す。感情を表に出さない瞳から、何を考えているのかは読み取れない。 「班目くん、機会が過ぎたからといって悔やむことはないよ。時は流れ去るものではない。積み重なって今につながる財産だと思った方がいいね」 何のことだろう。思わず席を立ち、初代のそばまで歩み寄る班目。 「初代、いったい……」 「じゃあ僕はこれで……」 いつものように消え去るのか、班目は慌てて会長の肩を掴んだ。 「あ、ちょっと待ってくだ……」 瞬間はなぜか覚えていない。 視界がブラックアウトしたような感覚の後、気が付いた時には、班目は部室前の廊下に1人で立っていた。 「あれ、一緒に出たのか? また消えちゃったよ。初代って何者なんだ?」 しばらく廊下でぼう然としていた班目は、ふと我に帰った。 「あ、いけねぇ、会社に帰らなきゃな!」 部室に入って荷物を取ろうと思い、ドアの正面を見る。 「現代視覚文化研究会」のプレート下に、数年前のゲーム「サムライ・タマシイ勘九郎無法剣」のキャラ、ナコ○ルのピンナップが貼ってあるのに気付いた。 「……おい待てよ……」 最近は、ドアにこの手のもの貼ってはいなかった。 いや、班目が部室を訪れた数十分前も貼ってはいなかったはずなのだ。
混乱を鎮めたいという思いからまわりをキョロキョロと見渡す班目。 隣近所の部室のドア周りに目をやると、303号室「比較文化研究会」、305号室「環太平洋文化同好会」のプレートやポスターが目に付いた。 「……あれ、比較文化研究会は……」 班目は、現視研が自治委員会によって潰されそうになったことを思い出した。 その際、未活動サークルが整理されて、比較文化研究会は別の部屋へと移転していたはずだった。 不安が過る。さらに周りを見回す。 廊下の様子が来たときとまったく違って見える。 「つ、疲れたのかな。早く帰ろう」 部室に入った。しかし、持ってきていた荷物が無い……。 いやそれどころか、部室内も様相が変わっていた。 壁や窓のポスターが古い、最新刊だったはずのテーブル上のマガヅンは3年前のものになっていた。 班目は、「おいおい誰だよ趣味の悪いイタズラしやがって」と、窓を開け、顔を出し、向い側の棟にある児文研部室の窓を見た。 「ドッキリでも仕掛けてるんじゃないのか〜?」 しかし、班目自身、本当にそうは思っていなかった。 心が正常を保とうとして、必死の思いで言葉を絞り出す。しかし、語尾が震えている。 班目がロッカーを開けてみると、エロゲーの古本が立てかけられていた。 1冊1冊を取り出して、表紙に目をやっては足下に投げやる。そのうちの1冊を手にしたときに、急に動きが止まった。 「この本は棄てた……いや、春日部さんがボヤ騒ぎで燃やしちゃったハズの本だ!」
汗がダラダラと流れて止まらない。 頭の中で、ホワ●トベースのサイレンが鳴りっぱなしだった。 ゆらゆらと後ずさりする、トン、と軽くテーブルにぶつかり、「はうっ!!」と、うろたえて後ろを振り向いた。 テーブル上のマガヅンが目に入った。奪い取るように手にしてページをめくる。「くじびきアンバランス」を探した。 「だから…」「姉さんの5年間の想いだけは…」「わかって下さい…」 「うん…」 マガヅンを持つ手がわなわなと震え出す。なぜだか、細かい記憶が鮮明によみがえってきた。 班目は、この号のマガヅンを3年前にコンビニで買い、午前中にこのテーブルに置いておいた。その日の午後に読み返した。 そこには田中、久我山、笹原がいて、「第256回 今週のくじアン面白かった会議」を招集した……。 ここで班目の思考は「面白かった会議」の内容を振り返っていた。気持ちが妙に落ち着いてくる。さすが班目である。 「あんときゃアニメ化もしてなかった。あんな出来になるなんて、あの時は思わなかったよなあ」「エロゲー化したらどうなるかって話にまで進んで……その時に……、ん?」 細い目がぐっと見開かれた。 「そうだよ、その日は!」 ガチャ! ドアが開く。 そこには見慣れた奴がいた。 「班目」はいつものように「やあ」と、軽く声をかけたが、瞬間、動きが止まった。 「あれ?」出会った2人は同じ事を考えていた。 知ってる人がいる。 でも何か変だ……いや、変ってもんじゃあない! いま目の前に立っているのは…… 「班目晴信」ッ……俺自身だッッッ! <つづく>
<次回予告> 「歴史は俺たちに、何をさせようとしているのか!」 2005年就職後の班目が、2002年のギラついた班目と対峙する! 次回、第二部「オタク超時空決戦 マダラメ対マダラメ」に、ご期待ください。 「班目のマネはアブないから、マネしないように生きようね!」
>せんこくげんしけん 何だこりゃ! 何かとんでもないのが来たぞ! (褒め言葉になるかどうかは、とりあえず保留)
387 :
マロン名無しさん :2006/02/27(月) 01:38:09 ID:2Rx9V3nA
隙間を狙うというか
めっちゃ斬新で興味深いとオモウヨ
389 :
失礼 :2006/02/27(月) 01:46:40 ID:2Rx9V3nA
隙間をねらうというか、変わり者というか。 でも303号室と305号室とか、サムライタマシイとか芸細かすぎw
>>せんこくげんしけん 戦国自衛隊と同じオチだったらどうしよう・・・ま、斑目が・・・(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
新作まだ鑑賞してないのが、増えてきたなー。投下ペースが賑わしいのは喜ばしい けど、シリーズ物も増えてきたし、投下ペースが速いとスレ形式だと読みづらいんだよね。まとめに 分類整理してもらってるから助かる。必ず全部鑑賞してるけどね。今日は寝る。
>>荻上さん最強伝説 これは!おもしろーーい!! 僕なんて今月号読んでから、何やら妄想エネルギー量だけは大量に溜まってますが 何も形になってきません。絵も文も…。 とっても「アリ」ですね!これは。 >>事後 田中ユタカは好きだけど、まぁ確かに…。それっぽいかも。 「あててんのよ」と言いたいだけちゃうんかと小一時間(ry って言いそうになりましたが その一言で読み直すと、とりあえずGJです。 >>せんこくげんしけん こっ、これは!?とりあえず、絶対に続編書いてください。
393 :
マロン名無しさん :2006/02/27(月) 02:49:56 ID:pjEvHwgv
>>せんごくげんしけん お…お…おもろい!どきどきどき 元ネタ「戦国自衛隊」がわからないですが… 今日は斑目について1巻からよみかえして考察してたとこなので、読んでてどきどきしました。 三年前の斑目が!!! うあーーー!続きが気になるう気になるう できるだけ早く書いてください!!
394 :
マロン名無しさん :2006/02/27(月) 06:11:30 ID:pjEvHwgv
連投スマン。 「せんこくげんしけん」を読んで、妄想がふくらみ、 挿絵のようなものをひとつ描いてしまいますた。 もしSS書かれた方のご迷惑でなければ、「SSのネタより」と注釈つきで 絵板でうpしてもよいでしょうか? ご迷惑なら出しません。
お目汚し失礼しました。
「げんしけん」内で性格が大きく変化(成長)している班目を主にして、今と昔のギャップを楽しみたいと思って書いてみました。
書いてるうちに膨らんでしまい、エラソーに「第一部」にしてしまいました。
ほんとにすみません。
サムライ・タマシイ勘九郎無法剣
「ナコ○ルのピンナップ」があるドアとないドア
比較文化研究会
環太平洋文化同好会
は、1〜7巻を読み返しながら拾っていった「ネタ」です。
ちなみに、「歴史は俺たちに、何をさせようとしているのか!」は元祖「戦国自衛隊」コピー。
「オタク超時空決戦 マダラメ対マダラメ」のタイトルは特撮映画風。
「班目のマネはアブないから、マネしないように生きようね!」 は、昭和のヒーロー物番組予告のナレーションが元ネタでした。
大変申し訳ないですが、早くて今夜、第二部投下でるかと思います。あ、導入部だけに出て来た荻上さんのその後も出します。
日中は仕事してるので確定ではないですが…。
よろしくお願いします。
>>394 皆様におまかせします。私も新参なので。
むしろモチーフ絵はがんがん描いて欲しいよね って前にもそんなこと書いた記憶が…
397 :
マロン名無しさん :2006/02/27(月) 15:05:27 ID:pjEvHwgv
>>395 わかりました。では絵板でうpさせていただきます。
斑目VS昔の斑目という、斑目スキーにとってウマー!
な話でしたので、つい描いてしまいました。
元のSSとかけ離れないよう、ほどほどにします。
続編頑張ってくださいね。応援しとります。
たびたびスミマセン。 「せんこくげんしけん」昨晩の続きを投下します。 10レス予定です。 まだ完結ではありません。エライことになってしまいました。次で終わるよう努力します。 仕事も途中なので(仕事しろよ!)、推敲も十分ではなく、分かりづらい部分が多々あると思います。 どうか容赦なくツッコんでいただければ幸いです。
現視研部室のテーブルを挟んで向き合った2人の班目。2人は確かに同一人物でありながら、雰囲気は全く違っていた。 “部屋にいた班目”は、目は細くやや目尻が下がって優しい印象を与え、口はだらしく緩んでいる。白のワイシャツの襟裳とネクタイも緩ませていて、全体的に温和な感じがある。 しかし、“後から入ってきた班目”の髪型はおかっぱで、顔の輪郭はやせ細って頬がこけ、メガネの奥から無愛想なまなざしが鋭く相手を凝視している。 さらに四肢はクモの足のように細い。一方の班目も体の線は細いが、それとは違った印象だ。例えるなら「妖怪」といった風体なのだ。 「妖怪」は、しばらくの沈黙の後で、「だ、誰?」とだけ呟いたが、2人の班目は向き合った瞬間すでに、「俺の前に居るのは俺」だと直感していた。 それは本能というべきか、魂の共鳴というべきか、それとも、説明描写を避けたがっているというべきか……。 温和な顔立ちの班目は内心、「俺ってこんな顔だったっけ」と思いつつ、愛想良く作り笑いをしながら語った。 「み、見ての通り、俺はお前なんだよね。ななっ…何ていうかなぁ、3年後のお前なんだよ、たぶん。言わば、“班目2005年バージョン”ってこと?」 腰が低い。そして、事の経緯を自分の理解できる範囲で説明してみた。 「妖怪」班目は耳を傾けている間、動揺した表情を見せていたが、「未来から来たってか? フン、“ネコドラくん”じゃあるまいし。それなら俺はさしづめ、“班目2002”だな」と言い放った。
班目02(2002Ver)は、低姿勢の班目05(2005Ver)を睨み、一拍置いて話掛けた。 02「俺の誕生日は?」 05「10月25日、O型だ」 02「誕生日をガン●ム占いで占ったら?」 05「ジオ●グ」 02「好きなアニメは」 05「万に一つの神隠しとか嫌ダモンとか、それとハレガンかな」 02「ハレガン?」 05「あ、すまん、それは未来での話だ」 02「同人誌購入のポリシーは?」 05「値段を見ない」 今度は班目05の方から語り掛ける。 05「お前らは今、アニ研と“交戦中”だろ。味方は漫研のヤナぐらいだ。アニ研の近藤に何言われたかは知ってるぞ。でも、将来アニ研にもお世話になることがあるんだからさ、ほどほどにしとけよ」 班目02は、「ほお、さすが未来人。新入りが増えたことは知ってるだろ。高坂はアニ研に引き抜かれてないだろうな? あいつはルックスもいいし戦力になる。この戦い、まだだ、まだ終わらんよ!」と胸を張る。 「何だこの根拠のない自信は……」班目05は、さすがに自分の「イタさ」がいたたまれなくなってきた。 顔中に汗をしたたらせ、「戦力って何の……、敵ばっかり作ってさー」と吐き捨てた。 班目02が窓の方を向いた。キャラを作っている素振りだ。 「まあ、それはしょうがない。何せ……」と語りはじめた瞬間、班目05が間髪入れずに指摘した。 05「次にお前は“俺の前世はヘビだ”と言う」 02「俺の前世はヘビだからな……ってオイ!」 イタイのはお互い様だったようだ。
部室内では、班目同士の奇妙な会話が続いていた。 05「何て付き合いにくいんだ、俺ってイタすぎる……」 02「お前自分に向かってイタイはないだろうに」 05「お前とは何だよ、一応俺は年上で社会人だぞ」 02「同じ自分のくせに……って、仕事してるのか? 情けない。時間がもったいない!」 この“もったいない”とは、オタクライフが仕事で割かれることを指すらしい。 05「……確かに、バイトしてでも生きていけると思った時が、僕にもありました(汗」 のんきに自分同士で語らっていたものの、事態は尋常ではない。もうすぐ田中や久我山たちが部室に来るだろう。2人は話題を切り替えた。 02「それで、未来から何のためにやってきたんだ? もうすぐ人が来るんなら、用件は早く済ませた方がいいぞ」 班目05は、別に用があって来たわけではないが、ある思いが浮かんでいた。 この日は、咲が部室に高坂の事で相談をしにきた日。班目の「チューしたれ」発言で、カップルが成立した日だ。 班目05「まあ、大きな声でもなんだ。こっちに来てくれ」 班目02は呼ばれるままに、すぐ側まで寄ってきた。 「あのさあ、春日部さんのことなんだけど……」と、ヒソヒソと小声で語りかける。班目02は一瞬、「春日部さん」というフレーズにムッと嫌な顔をした。 その瞬間、またしても部室のドアが開いた。 (…しまった!)班目05は忘れていたのだ。 この日、咲が部室を訪れるのは「2度」。最初はコーサカを探しにきていたことを……。
「コーサカいないかー……あれ、なんだ班目だけかぁ」 咲だ。咲が来た! 咲が、「あれ……?」と班目を凝視する。 「どどっ、どーしたの?」 「さっき、班目が二重に見えた」 「……疲れてるんじゃねーの、ハハハ」 顔中汗をかいて愛想笑いしているのは、班目05の方だ。 班目02は咲が入って来た瞬間、長い手足を窮屈に折り畳んでテーブルの下へ潜り込んでいた。後の海水浴の時にも立証されているが、班目の危険回避能力は高い。 02(なんで俺が隠れなきゃいかんのだ) 05(なんで俺が出てなきゃいかんのだ) だが、要領は悪かった。 咲はまだ班目との付き合いも短く、風体の違和感を感じつつも詮索まではしない。むしろ無関心というべきか。 「まあ、あんたがこの狭い部屋に2人もいたら、さすがにオタ菌が空気感染するわ。ハハハ!」 (何だよオタ菌って)心の中でツッコミを入れた。あくまでも心の中で。この時期の咲に普通にツッコミを入れたら、どんな仕打ちを受けるかわからないからだ。 実際、部屋に入って来てすぐに班目を見た咲の一瞥に、(目ぇキッツイなあ)とも思ったが、これも心中の声だ。 「で、何でネクタイしてんだ? まあいいや。コーサカはいねーのか……」 挨拶もなく黙って行こうとする咲。班目05は思わず、「あ、ちょっと……」と呼び止めてしまった。 班目05「……」 咲02「なに? 用があるなら早く言ってよ」 班目02(……何やってんだこのバカ!)
班目05は、自分の行き当たりばったりな言動を後悔した。しかし何か言葉を掛けたい。ひょっとすると未来を変えられるかもしれない。と、思ったのだ。 今、班目05の脳内のモニターでは、ゲーム画面に変換された咲と背景が映し出された。 (高坂のこと忘れて俺……)……そんなこと絶対に言えない。 心臓のバクバクという鼓動が外にも漏れそうだ。伝える言葉のハードルを低く設定してみた。カーソルが選択肢を選んで右往左往している。 (今後は班目に優しくしてね)……いや、それは逆効果だろう。 (鼻毛はちゃんと処理してね)……コロサレル、しかも秒殺で。 (タバコは控えた方がいいよ)……コレダ!火事を未然に防げる。 「あのさ、タバ……」 しかし、班目はその言葉ですら途中で飲み込んだ。タバコについては触れない方がいいと直感したのだ。 (……ボヤ騒ぎがなくなれば、学園祭での「会長コスプレ」が見られなくなるんじゃないか? 映画みたいに、「最後の砦」の写真から咲のコス姿が消えてしまうかも!) (……俺はどうしたいんだ?) (どうしたい……)
班目05「……こ……」 咲「あ?」 班目05「……高坂、今日は一緒じゃないのか? しっかりキープしとかんとイカンだろ……イケメンなんだからさー……」 咲は意外な言葉にキョトンとした。 「何だソレ? 気持ち悪いな……そりゃあ分かってるけどさぁ……」 咲の表情は陰うつだ。 勝負を賭けたせっかくのデートが、「秋葉原の0時売り」の前に砕け散ったばかり。しかも高坂の部屋には無造作にエロゲーやその筋の雑誌が散らかっているのにようやく気付いて鬱になっていたのだ。 そのことを、「3年後の班目」は知っている。 班目05「そ、相談事が……あったら、また後で部室に来たらいいよ? みんな居るから」 咲「何だよホントに気持ち悪いなあ。確かにコーサカは分かんないこと多いからなぁ。でもお前らじゃあ……」 班目05「さっ、笹原が後で来るから。俺らの中じゃマトモな方だろ」 咲「ああ、まあね。後で居たら相談してみるか。じゃ、いくわ」 班目05「あいよ」 部屋を出かかった咲が、ドアから半身を出して振り返る。 「……あ、とりあえずさ ありがとう」 班目05は、少し照れた笑いを浮かべながら、「あ、ああ。じゃ、また……」とだけ答えた。
咲が部室を去った直後、ドカッと勢いよく班目02がテーブルの下から現れた。 班目02「あぶねえ、あぶねえ。おい、用件は何だ?」 班目05は呆けた表情で、「ああ……それね、もう終わったよ」とだけつぶやいた。 さっきまで咲がいた場所を見つめている。顔が紅潮していた。 班目02「……ん? オイまさかお前、あの女に!」 さすがの02も、察しがついたらしい。 班目02「勘弁してくれよ! 誰があんな暴力女に! 俺は二次元しか愛さないって誓ったんじゃなかったのか! 俺のくせに軟弱者!」 この言葉には、班目05もカチンときたらしい。キッと昔の自分を睨み、反撃した。 班目05「ウルセー! 今のうちに教えてやるがな、数年後のお前の部屋にはな、AVが10本近くあるんだぞ。しかもSMだ! このマゾラメが!」 自分で自分を罵倒する行為こそ、究極のマゾかもしれない。 班目02は蒼白になり、ワナワナと震え出した。 「う…う、嘘だあぁぁぁーーーーーーーーッ!」 静かだったサークル棟の一角に、班目(02)の絶叫がこだました。
自分同士の罵り合いの後、班目05は部屋を出ることにした。このままだと他のメンバーが来て、面倒なことになる。 班目05は昔の自分に、「春日部さんが来た時の会話レジュメ」を大筋でメモ書きして渡した。「二次元の素晴らしさ」について熱弁を振るい、対立する内容だ。 そして、「俺のことは気にするな、むしろ忘れろ。未来はお前が作るんだ。将来、春日部さんと親しくなるという、恐ろしい目に遭いたくなければ、今の自分を思いっきり出せよ」と、班目02に言い含めた。 (これで、春日部さんが笹原に相談を持ちかければ、こいつがかき回して、高坂が登場して……) 「いいのか?」と尋ねる班目02に、班目05は、「そうだな……これでいいんだ」と自分に言い聞かせるように呟いた。 (高坂と春日部さんがくっついてくれたら、これからも現視研に居てくれる。コスプレもしてくれる。皆で一緒に海に行ける……) 脳裏に、みんなが部室で談笑している風景が浮かんだ。 その中に咲がいた。 涙が出そうになった。 心中は複雑だが、未来の風景を守ったのだ。 部室を出る時、05は、「もし元の時間に帰れなかったら、アパートに泊めてくれ。金ないからメシおごってくれよな」と伝えた。 おごってもらっても、結局自分の金だが。
サークル棟を出た班目05は、「さて……これからどうしたものかな」と呟きながらトボトボと歩く。 「あ……あいつに先のことをチョット教えてやればよかったかな」と思った。班目02は、この年の冬コミで大ケガを負うのだ。 「ま、いいか……少し痛い目に遭った方がいい。無傷だったら、サンタバージョンのプレミアムカードをゲットするタイミングがズレるかもしれんしな」 自分に対してヒドイ言い様である。 気付くと、ゴミ捨て場の前に来ていた。約1年後、ここでボヤ騒ぎが起きる。 ゴミ捨て場のわきに、アルミの空バケツが転がっていた。もともと消火用水だったのかもしれない。 班目はバケツに水を注いで水道のそばに置いた。 「ここに水があれば、ボヤ騒ぎの時にちょっとは役に立つかもしれん」 あの時の火の勢いは凄かった。このくらいの水は気休め程度だろう。 (でも、ウチの誰かが水をかける姿を、北川さんが目にしてくれたら、年末ペナルティのボランティアが軽減されて、冬コミぐらいは行けるんじゃないかなあ) 密かな期待を抱きつつ、班目は歩き去った。しかし…… 我々は、このバケツを知っているッ! いや、バケツの中の水を知っているッ! 咲が大野にブッカケたこの水をッ! まさにこの水が、大野の風邪(その後のマスク愛用)のきっかけになってしまう……。なにしろバケツの水は1年間放置され、水は腐っ(以下略 そんなことは、燃え盛るゴミ捨て場の方だけを向いていた班目は知る由もなかったのだ。 ある意味、咲コスプレ実現の決定打でもあった。 班目グッジョブ。
話は遡るが……。班目(2005)が2002年にやってくる少し前に、もう1人、この時代に迷い込んだ人物がいた。 「これって、一体どうなってるんだべか?」筆頭を下ろし、度の厚いメガネを装着して「変装」した荻上だ。 荻上は班目と違って、部室内でパニックになることはなかった。もともと彼女は3年前の部室を知らない。 廊下で感じた強烈な違和感。そして部室内で目にする情報が全て「古い」ことから、状況を確認するために周囲を見て歩き、図書館の閲覧新聞で、今いる時代が、「2002年」であることを確信した。 ショックは大きい。だが、荻上の人並みはずれた妄想力は、自分の置かれた状況を、あたかも物語の設定を組み立てるかのように整理して対処をはじめた。 「あの猫背の男をもう一度みつけたら何か分かるかも?」 しかし、学内を歩いて顔を知られるのは後々マズイと感じた。すでに在籍ている現視研メンバーや、学部の講師に会うかもしれない。 荻上は化粧室に駆け込むと、髪を下ろしてコンタクトを外す。とっても都合よく持っていたメガネをかけた。 そして今、彼女は校内をさまよい歩いている。 歩きながら、(今ごろ、“自分”は何をやってたっけ……)と思い起こすが、ぶるるっと頭を振って忘れるよう努めた。彼女にとってある意味、過去は、地獄だ。 笹原と出会ったことで救われている自分であることを、心の中で反芻し、「帰らなきゃ!」とつぶやいた。 「そういや、平成14年っていったら、先輩方も在学中で、笹原さんや春日部先輩も1年生か……」 ちょっと見てみたいなと思い、口元がニヒヒ、とにやける。やがて、学内の長い廊下にさしかかった。 その向こうから、まさに1年生の笹原が歩いてきていることなど、ド近眼は気付く訳がなかった。 <つづく>
つづくのかw GJ
愛と単位と笑いが渦巻く キャンパスライフ 非情の消費社会に挑む 心優しきオタクたち 彼ら 現代視覚文化研究会 最終回「私だけの十字架」にご期待ください!
>>せんごくげんしけん2 なんと仕事中に!?その熱意だけは見習いたいっす!! 斑目の大人の判断に、GJです。次回作はオギーか…wktk
お目汚し失礼しました。
班目は未来を変える可能性を前にしてもヘタレだという展開にしたかったのですが……。「変えないことで、これまでの思い出を守る」ことを選んだ感じでカコヨクなってしまいました。
あと02と05の差をもっと出したかった…。
また、「元の時間に戻れない焦燥感」って、話の筋立てとしては大好きなんですが、さすがに鬱展開になってしまうので、今回は書くことができませんでした。班目も荻も、脳天気に構えてます。違和感のある人、すみません。力不足です。
やっぱ既存キャラの視点を書くのって難しいです。クガピ(
>>285 )の方が向いてる、というか「逃げる」ことができる…。
予告の元ネタ、分かるかなあ。
長々と、どうもスミマセンでした。
最後の回の投下には、チョット時間がかかります。
投げっぱなしだけはせずに終わらせますので、もう一回分だけご容赦ください。
414 :
せんこく :2006/02/27(月) 22:08:59 ID:???
>>412 いや、見習っちゃいかんだろうw
こんな大人になっちゃダメw
>413 それなんて特撮最前線? こうですか?わかりません!
>>せんこくげんしけん 面白いなあ。 しかしながら斑目さん2002の方も、あの状況でキャラ作っていられるほど冷静な感じなのがちょちょいと気になったかな。 もっとてんぱりまくる気がしないでもない。 でもま、そうなったらそうなったで話がおかしくなるのでこれでいいのかも。 一年の笹やんと荻上の対面、気になる!
417 :
マロン名無しさん :2006/02/27(月) 23:23:01 ID:pjEvHwgv
>>せんこくげんしけん2 いやね、もうね、涙出ました。 2005年バージョンの斑目が切なくて… 結局、春日部さんのために、思い出のために過去を変えない決意をした斑目。 すごくいいと思いますよ。この話読んで改めて思う。「斑目、丸くなったなあ」 2002バージョンとのかけあい漫才に激笑いました。 「昔の自分ってイタイな」って思わせた2002、ある意味すげー。 次回も期待してます。
418 :
マロン名無しさん :2006/02/28(火) 02:16:36 ID:eW3iOWPx
班と斑って似てるよね
>せんこくげんしけん2 仕事しろよ! (褒め言葉の積もりです) やはり「ドラえもん」を読んで育った世代は、タイムスリップへの精神的な耐性があるのでしょうか? 意外と冷静ね、斑も荻も。 はてさて次回はどうなることやら… 楽しみに待ってます。 それにしても意外と年配者のようだな、作者の人。 「特捜最前線」って、あの当時の刑事ドラマでも視聴者の年齢層が高い方の番組だったんだが。 あるいは刑事ドラマオタなのか…
420 :
マロン名無しさん :2006/02/28(火) 04:32:04 ID:HwswK83H
>>せんごくげんしけん うわ、スゲ〜。今月の笹荻祭りの直後にまさかこんなモノが読めるとわ。 いやホント、このスレッドのレベル高すぎ新作も多いし(失礼) 斑目のコミック内の4年間のギャップをここまでエンタテインメントしてくれるなんて。 堪能しました。続き激楽しみです。
421 :
:2006/02/28(火) 07:39:44 ID:???
>せんこくげんしけん 班目対班目って……朝から濃いの読んじゃったよw 「このマゾラメが!」爆笑 あと班目の何気ない行動がその後に影響を与えてるのに笑った>バケツ 次は笹02と荻05のカラミっすか!? 次も期待してますぞ!
422 :
マロン名無しさん :2006/02/28(火) 20:15:54 ID:gzRXulK1
>>せんこくげんしけん1、2 班ではなく斑ですね。王と王の間に文がはいる。
423 :
せんこく :2006/02/28(火) 22:50:11 ID:???
×班目 ○斑目 あらららら「はんめ」だわ。 誠に申し訳ありません。 ご指摘いただきありがとうございました。 そして大変恥ずかしい事をしました。もうこのようなことの無いよう、しないよう気をつけます。 あと、年配と呼ばれてしまいましたが、特捜最前線をライブで見た記憶はございません。 あの当時の、昭和の刑事ドラマや時代劇の雰囲気が好きなのです。 とくに昭和ものは、必殺など、OPのナレーションがカッコイイものが多いし。特捜最前線もOPと、ED曲「私だけの十字架」が大好きでなんです。 第三部にして最終回ただいま製作中です。 失礼いたしました。今日はこれにて。
な、なんとか第三話が書き上がりました・・・。 今回、かなり筆が重かったです。 笹荻クライマックスで、ちょっと集中できなかったのもありまして。 出来が心配ですが、投稿させていただきます。 10分後ぐらいから行こうと思います。 よろしくお願いします。
423 がんばって下さい! 楽しみにしてます! しかし本当にレベル高ぇーや。 まとめの中の人も大変だぁ。 王道から横道まで幅広いし、 みんな読み込んだ上で設定借りてる(ように見える)し。 絵チャの人たちに協力してもらってるし(*^_^*) 活字で本にならんかなー?
グワングワンとエスカレーターが上って行く。 恵子は立ち止まった。 (…う〜ん……。) グワングワンと、エスカレーターは淀みなくせり上がって行く。 (…う〜ん、……どうしよっかな……。) BGMも、そこだけはエスカレーターの音にかき消されている。 (…う〜ん………。) 不意に、後ろに気配を感じる。 腕を組んだカップルが、恵子のすぐ後ろに近寄っていた。 (あーもう…! 見るだけ見ちゃうか…。) 恵子はエスカレーターに足を乗せた。 「ありがとうございましたー。」 抑揚のない店員の声に押されて、恵子は売り場を後にする。 冷や汗をかきつつ、ミッションを終えた安堵感に浸る。 下りのエスカレーターの上で、恵子は紙袋に目をやった。 (…買っちった……。) 中には縦長で厚みの薄い箱が入っていた。 プレゼント用の包装がされていた。 (…やっぱヘンかな〜……、でも今更返せないし……。) グワングワンとエスカレーターは下って行く。 (…手ぶらつーのもなんだし〜…、最悪捨てるってテもあるか……、勿体無いけど…。 今日渡すか……、でも部室ってのはヤダな…。 んじゃ、呼び出す…? それもな……。) グワングワンと、エスカレーターは淀みなく下って吸い込まれて行く。 (いーやいーや、部室で。会社戻るとこ捉まえてもいいし…。さっと渡そ……。) 恵子は下に続くエスカレーターに乗り継いだ。
空の色が黄色がかってきた。 秋の気配というやつだ。 まだ暑い日もあるだろうが、季節は変わり始めている。 現視研の部室には、大野、咲、朽木がいた。 大野と咲は取り止めもない話を、朽木は二人の方をチラ見しながらプリンタのカタログを見ていた。 「クッチー、プリンタ買うの?」 「いあ〜ぁ、まあ〜考え中なのです。」 あからさまに嬉しそうなクッチー。咲も大野もちょっと引いた。 「今まで持ってなかったっけ…。」 「そろそろ買い替えの時期ではないかと思い至りまして〜。カタログをゲットして参りマシタ!」 「あ…、そう…。どれ買うの…。」 「これにゃんかいい〜んですけども〜、でも高いのですよぉ〜。グスン、グスン…。」 嘘泣きするクッチー。 咲は喋るのが嫌になってきた…。 「こんちわー。」 「ちわー。」 「こんにちわー。」 「こんにちわ。」 毎度毎度、斑目がやってきた。 「あ、朽木くん、プリンタ買うの?」 「はい〜。そろそろ買い替えようかと思いまして。」 「どれ狙ってんの?」 「これです〜。でも軍資金が足りませんで〜、途方に暮れております。グスン、グスン…。」 斑目は早くも朽木と喋るのが嫌になった…。 「そう…、ま、よく考えてね…。」 「イえぇすっ! アイ・コピーであります!」 「ああ……。」 斑目は適当に席についた。
「斑目、またその弁当だね〜。」 「あ〜、まーね。なんとなく…。」 「自分で作ったりはしないんですか?」 「そんな時間ないない。ギリギリまで寝てたい。」 「つらいね〜、サラリーマンは。」 「テキトーっすね…。でも店やるのがしんどいでしょ?」 「どうだろ…? やってみないと分からないけど、楽ではないだろうね…。」 「咲さんは立派ですね〜。私も考えとかないと…。」 「田中はどうなんだろうね…。将来、店とかやりたいのかな?」 「う〜ん、どうでしょうね〜…?」 「コスプレ専門店? そんなのあるのか知らないけど…?」 「あんじゃね。そのへん俺もよく知らんけど…。」 「じゃあ、大野はおカミさんかあ〜?」 「いえいえ…。照れること言わないで下さいよ…。まあ、その時はヨロシクということで…。」 「なんだ、否定しないよ、この娘。」 「ははは…。まあまあ…。」 「オーダーコスプレ店かあ。商売になんのかな。よ〜わからん。」 「どうなんですかね…?」 「んで…、マジな話しどうなのよ、大野?」 「あ、春日部さんスイッチ入っちゃった?」 「まーね、ここまでフラれるとね。」 「やー…、そんな具体的な話とかじゃないんじゃないかと〜…ぅぅ。」 部室のドアの前には恵子がいた。 三人(除く朽木)の声は、部室の外にも漏れて聞こえた。 (うわー…、居て欲しくないのが揃ってんなー…。) 手にさげた紙袋を見る。 (う〜…、ダメ! やっぱ無理…。出てきたとこ声かけよ…。)
「何だか漠然とは考えてるみたいですけどね、田中さん…。」 「まー、そんなもんだろうね実際。」 「お金になるか分かりませんからね…。」 「大野が一回着たヤツを高値で売れば?」 「やるわけないでしょ…。」 「鬼ダヨ…。春日部さん…。」 「う、軽い冗談なのに…。」 「ワタクシはご利用させていただきたいですけどもね〜。もし田中先生のお店出すにゃらば〜。」 「ダメです。」 「う…、そんなケンもホロロとは…。」 「大野はコスで店番しそーだな。」 「その時はゼヒ咲さんも!」 「いや…、私も自分の店があるからね…。」 「いやー、そんときは開店祝いでやってあげたら? 記念になるし。」 「なんの記念だよ…。もう二度とやらん!」 「あー! 卒業記念のコスプレ在庫処分の約束は忘れてないですよね!」 「……何ソレ?」 「ひどい! ちゃんと約束したじゃないですか。また泣きますよ私!」 「覚えてやがったか…。」 「大野さんがコスプレの約束を忘れるわけないでしょー…。諦めなさい…。」 「あれから更に在庫が増えてますからね〜。今から楽しみです!」 「これは、ちゃんと記念に残しとかないとな。」 「クソ、逃げ回ってやる…。」 「地獄の果てまで追って行きます…。」 「勘弁してよ…。」 「ははは…、大変ダネ…。」 踵を返す。 部室の声が恵子の背中にあたった。
「それじゃ、そろそろ俺戻るわ。」 パイプ椅子から立ち上がって、いつものようにゴミをまとめる。 すると咲も一緒に席を立った。 「あれ、咲さんもですか?」 「うん、ちょっと。コーサカと約束あるから…。」 ふ〜んと斑目は反射的に発した。 もうこのくらいのことは、別に何とも思わない。 ま、外まで一緒に歩けるのは、ちょっと嬉しいかな…。 「そいじゃまた〜。」 「またねー。」 「はーい。」 二人は部室を後にした。 学内の通りのベンチに、恵子の姿があった。 コーヒーを片手に、顔をしかめてサークル棟を見る。 (落ち着かね〜…。 …………。 いっそ今日は止めとこうかな…。 いやいやいや……、こんなことでビビってどうする…。時間経つとさぶいことになるからな…。 さっと謝る……。さっとな…。これだな…。) 空き缶をクズカゴに放る。 ハズレだ。 でも気にしない恵子。 いや…、面倒臭そうに立ち上がって、缶をクズカゴに叩き込んだ。 ベンチに座り直してサークル棟に目をやる。 斑目と咲の姿があった。 「うわ。」 ついてないな。 そう思った時には、もう咲に見つかっていた。
恵子は談笑しながら歩いてくる斑目と咲を、ベンチの上で待った。 「おう。」 「ちわ。」 「何してんのよ?」 「ちょっと…、部室行く前にコーヒー飲んでた…。」 恵子は斑目の顔を見上げる。 はにかんだ表情で斑目は咲を見ていた。 「もう昼休み終わりなんだ。」 「あー…、そう。これから戻るとこ。」 斑目はそう言って、視線を恵子に向けた。。少し照れくさそうだった。 「あんた最近学校いってんの?」 「ま、ぼちぼち…。思ってるほどサボってないよ…。今日はサボってるけど…。」 「いっとけよー。どーせ暇なんだろー?」 「まーね…。なるべくそうする…。」 咲は呆れた顔して笑う。 恵子は見上げる。 斑目も呆れたように笑っていた。 「どうしたの、二人で…。珍しいじゃん…。」 自分の声。ちょっとヘンな感じだった。 「あー、私もちょっと用事あってね。コーサカとデートだよ。」 「ふ〜ん…。」 視界の端の斑目は、あさっての方を向いている。 「あれ? リアクションうすー。」 「あ、そう…?」 斑目が恵子を覗き込んだ。
「今日なんか、静かだネ…。」 「あぁ…。ちょっとマッタリしてたからさ…。」 「まあ、私は付いて行くとか言われなくていいけどねー。」 「ははは、ねーさんそれはフリですか?」 いつものように大口を開けて恵子は笑う。 斑目も釣られて苦笑していた。 「どうなの高坂って? まだ仕事いってんの?」 「もー平気。さすがに卒論とかあるし。仕事してて卒業できなかったらマズイって向こうの人に言われたってさ。」 「はは、そりゃそーだ。………、じゃ、またフツーに会えてんだ。」 「ま、最近わね。」 咲と斑目の会話を、恵子は下から見上げる。 斑目の顔が、咲と話しているときはいつもとは違って見える。 「うんじゃ、そろそろ部室いくかねー。」 恵子は立ち上がって、お尻をパンパンとはたく。 ベンチに置いていた紙袋を指に引っ掛けた。 「あー、また買いもんか。」 「うん、まあね…。」 恵子は紙袋を見て、少し笑った。 「私への借金を忘れてはいないだろうね?」 咲がジト目で恵子を睨む。 「忘れるわけないですよ、ねーさん。」 微笑返しの恵子。 「ササヤンに借りんなよ、ちゃんと自分で返せよ。」 少し真剣に、咲は言った。 「大丈夫だよ。バイトしてっから。そんじゃねー。」
恵子は軽く手を挙げる。 「斑目も、仕事がんばって。」 「あ、うん…。頑張りマス。」 「じゃまたー。」 「あーい…。」 恵子は少しだけ早足でサークル棟へ歩いて行った。 「斑目、最近よく恵子と話すの?」 咲の言葉に、斑目はちょっとだけ汗をかいた。 視線を前に向けたまま、応え方を考える。 「まあ…、フツウに…。何で…?」 「なんか、雰囲気で。」 「ま、ちょっと話すきっかけあったから。そんでかな…。」 顎の付け根を掻いて、斑目は咲の顔色を伺っているのを誤魔化した。 (いちおう…、ウソはついてねーな…。) 「へー。」 咲は気のない返事。 斑目は苦笑した。 後ろを振り返ると、恵子の姿はもうなかった。
斑目は会社を出ると、すぐに携帯を開いた。 夕方。 今日は早めに会社を出た。 受信メールを見る斑目は、ニヤけそうな顔を必死で抑えている。 恵子からのメールである。 件名は『恵子です』と素っ気ないが…。 恵子です アニキがちゃんと謝れ とうるさいので飯でも おごります お金ないからファミレ スとかですけど 都合の良いのいつです か? 次のメールの件名は『了解』。 了解 駅前まで出てこれます か? ドナサンに7時でいい ですか? それをじっくりと再読すると、斑目は携帯をしまった。
口から漏れたのはため息だ。 (あ〜…、ダメだ…。慣れてない…、こういうの…。 ヤな汗でる…。そういうんじゃないってわかってても緊張してるよ…。 情けね〜な〜…俺…。) 足取り重く、斑目は駅への道を歩いて行く。 店内に入った時には、もう恵子が先にいた。 斑目が恵子を見つけたときには、もう恵子は斑目を見つけていた。 斑目はゴクリと唾を飲んで、席に向かった。。 テーブルにはアイスコーヒーと雑誌が載っている。 「あー…、わり…。」 「いいよ、まだ7時になってないし…。」 昼間会ったときのように、恵子は静かに応えた。 意外だった。 斑目は、元気のない恵子を見たことがなかった。 「そー…、いつ頃きてたの…?」 「さっき、5分くらい前。」 「ふ〜ん…。」 4人掛けの席に斑目は向かあって座る。 正面に座ると照れてしまって、斑目は恵子の顔を見れなかった。 「急でヘーキだった?」 「ああ…、別に…。暇だし…。」 「そー…、んじゃ頼もっか。」 「あー…、でも、そんな気ぃ使わなくてよかったのに…。」 せっかく誘ってもらって悪いと思いつつも、斑目の口からはそんな言葉が出てしまう。 (失礼だよな…今の…。もっと良い言い方できねーのかよ…)
恵子はメニューに目を落としたまま、応える。 「まー…、アニキに言われたからさ。気にしなくていいよ。」 「うん…。まーね…。」 気にしていない風の恵子に斑目はホッした。 メニューを取って、注文を選ぶ。 (あんま高いのダメだよな〜…、お金ないって言ってたし…。俺もヤだしな、そういうの…。) 「斑目、安いの頼もうとか思ってんじゃない?」 思わず声が出そうになる斑目。 「好きなん頼んでよね…。逆にムカツクから。」 「はい…。」 パラパラとメニューをめくりながら、候補を絞り込んだ。 「決まった?」 「まあ、だいたい。」 恵子はボタンを押して店員を呼ぶ。やって来た店員にそれぞれ注文を告げた。 恵子の視線が店員に向いたときに、斑目は恵子の顔にさり気なく目をやる。 いつもより化粧が薄い気がした。 注文を繰り返して店員は奥に戻っていった。 「今日…、何か化粧薄いよネ…。」 ちょっと緊張しながら斑目は訊く。 恵子はまだメニューを見たままだ。 「うんん…、さっきまでアニキんちで寝てたから…。」 そう言ったきりの恵子。 斑目は小さく自嘲が漏らした。 (そうだよな…。アホか俺は…。) 「笹原なんか言ってた?」 「別に。昼間部室で会っただけだから。」 短く応える恵子。
斑目は視線を外して、思わず出そうになるため息を飲み込んだ。 (あんま楽しそうじゃねーな…。) 席の背もたれに、グッと体をあずける。 視線は窓の外を向いていた。 (俺とメシ食ってんじゃ…、しょうがねーけどな…。) 恵子の目が外を向いた斑目を見ていたことを、当人は気付かない。 おずおずと恵子はメニューを片付けた。 「仕事ってどうなの? 大変?」 「んっ?」 斑目は驚いた様子で声を発した。 「いんや…、まあ、そんなには。一年目だから、覚えること多いけどね…。 「ふ〜ん…。」 恵子はアイスコーヒーをかき混ぜる。 テーブルの下に隠れた指先が、紙袋を撫でる。 「会社ってどんな感じなの?」 「まあ、普通かな…。他の会社知らないから、よくわからんけどね…。」 「………、仕事終わりに会社の人と呑んだりすんの?」 「あんまりないね〜、そういうのは…。」 「ふ〜ん…。」 「………。」 斑目は後悔した。 (もっと会話広げろよぉ〜。何してんだよ俺っ!) 「まあ、何とかやってますよ。意外と。」 嘘臭く笑う斑目に合わせて、恵子も笑った。 「あ〜…、んとさ…?」 恵子が言いかける。 「あ、何……?」 会社、若い女の子とかいんの? と、恵子は訊きたかった。
「まあ…、頑張ってよ。」 「ははは、はい。ぼちぼちネ。」 笑う斑目に合わせて、恵子も笑った。 「まあ、春日部さんぐらい頑張れたらいいんだけどネ。」 「うん…。ねーさん、頑張ってるもんね。」 斑目は屈託なく笑っている。 「まあ、俺の場合は好きで選んだ仕事ってわけじゃないから、さすがにあそこまでは頑張れんけど。」 「まあね…。」 そう言うと、恵子は視線を窓の外に向け、ストローを口に含んだ。 恵子の眉根には、深いシワが浮かんでいた。 (ねーさんか、結局…。) ストローがズズズと鳴いた。 「ねーさんてさ、ホントすごいよね。」 恵子の語気は強い。 斑目はちょっとたじろいだ。 「カッコいいしさ、性格いいし。頭も全然いいし。」 斑目は苦笑いを返す。 「まー時々きっついけどね〜…。」 恵子はそれをチラッ見ると、さもつまらなそうに視線を窓の外に戻した。 「頼れるし。面倒見もいいしさ。」 言葉をつなげる度に、恵子の声は強くなる。 「はは…。そーだね…。」 苦笑する斑目。 「なかなかいないよね。ねーさんみたいな人って。」 「ど、どーかな…。」 「斑目がさ…。」 好きんなんの、わかるよ。 その言葉は、飲み込んだ。
「………。」 「告白できないの、わかるよ。」 恵子はそう言って、またストローを口に含んだ。頬は少し紅くなっている。 ストローがズズズと鳴く。 斑目は、一瞬、言葉に詰まった。 「はは…、まー…、情けない男ですヨ…。」 斑目は苦笑するしかなかった。 恵子は、ずっと窓の外を見ている。斑目と目を合わせようとしない。 「………。」 「…………。」 「あ、来たよ。」 斑目が目ざとく店員の動きを察知した。 店員が二人分の注文を両手にやってくる。 恵子も斑目も料理が並べられるの黙って見守る。 「じゃあ、食べますか…。」 「いただきまーす。」 二人は無言で、料理を口に運ぶ。 恵子の横には紙袋が寝そべったまま、そこにいた。 カランコロンと扉が開く。 恵子の後ろに次いで、浮かない表情の斑目が出てくる。 携帯をチェックしている恵子。 斑目はその様子を横目で見ていた。 (やっぱ楽しそうじゃなかったな…。笹原に言われて誘ったんだろうし…。 悪かったな…ホント…。) 斑目は外の空気を思いっきり吸った。 少し冷たい初秋の夜の空気が、斑目の熱を冷まさせる。 「そんじゃ、俺帰るわ…。」
「あ、…そう。」 恵子は携帯を見たままだ。 斑目はそれが少し寂しかった。 「悪かったね…、なんか…。」 「いいよ、別に。アタシが誘ったんだから。」 「ああ…。」 斑目は喋るのを止めようと思ったが、口が勝手に動いてしまった。 さすがに恵子の顔は見れなかった。 「でも、悪いじゃん…。俺なんかとメシ食ったって、しょうがねーっていうかさ…。」 (自分で言うなよ…。言われた方が迷惑だよ…。) 恵子は携帯を見たままで。 その表情は見えない。 「やめてよ、そゆこと言うのさ…。スゲーオタクっぽい。……キモイよ。」 そう言ったきり、恵子は何も言わない。 斑目は言葉が出なかった。 口をついて出たのは、いつもの苦笑いだった。 「ははははは、そだな〜。ごめん。」 斑目は思いっきり笑って顔を上げた。 「それじゃ、また。」 「ああ、それじゃあ…。」 踵を返して、斑目は歩いていく。ポケットに手を突っ込んで。 少し背中を丸めて。 恵子は携帯を見たまま、駅に向かって歩き出した。 携帯を見たまま、顔を伏せたまま。
駅のホーム。 会社帰りのサラリーマン。学生。お年寄り。塾帰りの子供。親子連れ。 その中に恵子の姿もあった。 ホームに三列の塊がいくつも出来ていた。 帰宅のラッシュアワー。 滑り込んできた電車の車内は、もう随分混雑している。 降りる人を待って、列は一気に車内になだれ込む。 すし詰めの車内。 息苦しい。 四方から容赦なく圧され挟まれる。 車内の片隅。 恵子はずっと下を向いていた。 顔を上げることが、できなかった。 紙袋はシワくちゃに潰れていた。 最終話へ、つづく
え″え″〜! 続くのぉ〜!?
ごめんなさい・・・。 つづいちゃいます・・・。 でも次で終わりますから、許してください・・・。 すいません。
>斑恵物語3 こっちも続くか。 せんこくげんしけんもつづくだし… 当分目が離せんな、SSスレ。
>>斑恵物語3 すれ違いっぷりとか、上手いねーーー! そして続きが気になる……
>>斑恵物語3 すごぃ切ないわ、ほんと心理描写のレベル高いっすね。 次回も楽しみにしてます!
>斑惠物語 いや、けっこう繊細に惠子の内面を描いてると思うよ。正直、以前惠子がクッチーと くっついたり、斑目とヤッちまう話読んだ時、そのSSの話自体はいいと思ったけど 惠子が都合のいい女に扱われる事に違和感を感じたけど、この話はわりと丁寧に惠子の心の 変化を描いてると思うな。まあ、冗長になっても仕方が無いので、次で きれいにまとまると、よい話に収まると思うな。次回作期待して待ってます。
448 :
マロン名無しさん :2006/03/01(水) 02:22:31 ID:oFBV1PXB
>>斑恵物語3 ほほう…恵子の描写が…読ませますねえ。 なんかお互い意識してんのに「自分なんか…」と思って打ち解けられない感じがリアル。 まだ春日部さんのことも意識しまくっている斑目を見て、素直になれない恵子。 おおお…切ない…!! 次回が楽しみです。
449 :
173 :2006/03/01(水) 04:19:28 ID:???
みんな!今月号読んだかい!そりゃ読んだよね!俺も読んだ!
凄いね!凄いよ!思わずエロパロ書いちゃうぐらいね!(コッソリ宣伝)
で、その熱も少し沈静化して来たんで、第801小隊書きました。
>>174 まあ、クッチーはある意味自業自得といいますか・・・
その件に関しては今回のを読んでくださいw
>>175 児○研○長、借り受けしました。少女ではないですけど・・・。
>>177 クッチーの金庫の中身、それは彼が人生をかけて守りたいものですよw
>>192 知らないのに楽しんでいただけるのは嬉しいですね〜。
>>194 今回はクッチーが・・・ねえ?(何
450 :
449 :2006/03/01(水) 04:21:37 ID:???
というわけで、今回も楽しくかけました、第801小隊。 14くらいで投下していきます。 今回も読んでくださる方々に・・・・「ん」 ・・・え?それはいりませんか?では、おぎおぎ。
451 :
449 :2006/03/01(水) 04:22:38 ID:???
誰にだって触れられたくない物がある。 クチキ一等兵にとっての趣味は美しいものを撮影することだ。 戦場の殺伐とした中でも、自然は美しい。 沈みかける太陽、満天の星空、さざ波が寄せてくる砂浜。 さまざまな美しいものを集め、コレクトする。 その趣味は、時に許されない行動を伴うこともある。 しかし、それでも彼はそれを入手することを躊躇うことは無い。 なぜなら、それが美しい以上、残すことが使命だと感じている。 ・・・あの人にあってから。
「にょ〜〜・・・。」 勢いで飛び出してきたものの、すでに心細くなっているクチキ。 今彼は密林の中を一人歩いていた。 とりあえずおなかが減っていたので、何かしら食べるものを求めていた。 「勢い込みすぎたにょ〜。すぐに謝るでありますか・・・。」 自分が悪いことをしたと思い込みつつあるクチキは、 隊の皆に怒られることが怖いのであった。勝手にMSを動かし、隊を抜ける。 早い話が逃亡兵である。逃げた兵士がたどる末路は一つ。死刑。 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・。」 銃で撃たれる自分を想像し、体を震わせるクチキ。 ジムキャノンは密林の奥に、木や草で隠してきた。発見されることはまず無いだろう。 「しかしながらどこまで行けば食事が表れますか・・・。」 何か食べられるものを探しているものの、動物の一匹も出てこない。 夜になって暗い密林の中を懐中電灯一つで進んでいく。 足元ではパキパキ枝の折れる音。 クチキは気付いていないほどの小さい音だが、これでは敏感な動物達は出てこないだろう。 「にょ?」 目の前に少し明かりが見える。 「み、密林の終わりにょ〜〜!!」 密林がなくなるということは、すなわち人工の道、もしくは村になっていることが多い。 星明りも見えない密林は真っ暗だが、そのさきは星の光の当たる開けた場所。 「にょ!にょ!」 喜びのあまりスキップしながらその光へと向かうクチキ。 どんどんと光は近づいてきて、ついにその中へとクチキは身を躍らせた。 「・・・にょ?」 気付くと、地面がなくなっていた。 「・・・にょ。」 下を確認するクチキ。そう、崖だったのである。 「にょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 そのまま下へと落下していくクチキ。 地面に激突、「グキィ!」という音を聞き、痛みが走ったと思うと、意識が飛んだ。
暗い空間に朽木は一人立っていた。 目の前には一人の女性。軍服を着ているので、軍属なのもわかる。 「しょ、少将殿!少将殿ではありませんか!」 その女性はその声ににっこり笑うと体が透けていく。 「少将殿!待ってください!あなたには言いたいことが!」 しかし、その姿は完全に消えてしまった。 「少将殿ーーーー!!」 そこでぱちっ、と目がさめる。 「夢・・・。」 クチキはそういいながら体を起こす。周りは木で作られた家のようだ。 「にょ・・・?」 「あ、気付いたんですね!」 元気な女の子の声が掛かる。その方向を見ると確かに一人の少女。年の頃は14、5といった頃か。 かわいいみつあみが、話すたびに少しゆれている。 「あ、あの・・・。」 「あなた、崖の下で気絶してたんですよ!私が見つけて村の人に運んでもらったんです。」 元気は褐色の肌をした少女。元気なのは肌だけではないようだ。 「あ〜、そうなんでございますか〜。それはお世話様でした〜。」 そういいながらぺこりと頭を下げるクチキ。 「でも、腕がぽっきり折れちゃったみたい・・・。」 「にょ!?」 確かに、腕には包帯。固定されており、指先しか動かせない。 「あの上から落ちてきたんですか?そうだとしたらものすごく軽症ですけど・・・。」 「にょ〜。体の丈夫さだけには自信がありますです!」 そういってビッと敬礼するクチキ。 「あはは!面白い人ですね!」 満面の笑顔でクチキの言葉に笑い出す少女。 「そうだ、お腹すいてません?丁度ご飯にしようと思ってたんですよ〜。」 その言葉に、とてもいいにおいがしていることに気付くクチキ。 ぐ〜、とお腹がなる。その音に少女はさらに笑う。 「あははははは!じゃ、あっち行きましょう!」
「私ミヤっていうんです。」 「ボクチンはクチキ一等兵であります!」 食事をしながら自己紹介などを始める二人。 「ミヤは、一人なのかにょ?」 「うん・・・。お父さんは連盟の軍人さんだったの。でも、戦場で死んじゃった。 勇敢で優しい人だったから、しょうがないよね。」 そういって三人並んだ写真に目をやるミヤ。そこには、笑顔で並ぶ家族。 今より少し幼いミヤと、優しそうな父親と母親。 「お母さんも一人で私を育ててくれてたんだけど・・・。」 そこで俯き、悲しそうな顔をするミヤ。クチキもその変化に少し動揺する。 「皇国のゲリラの作った罠に巻き込まれて・・・二ヶ月くらい前に死んじゃったんだ。」 「それはそれは・・・。」 こういうときどういう反応をしていいかいつも解らない。悲しみは伝わる。 しかし、それに対しどういう言葉、どういう行動をとればいいのかが見えてこないのである。 自分の引き出しの少なさに口をつむぐしかないクチキ。 「でもね、お母さんが言ってたんだ。もし一人になっても笑顔で生きなさいって!」 表情を笑顔に変えたミヤに、少し、無理をしている感じをクチキは得た。 「・・・なるほどにょ〜。」 「クチキさんどうしてここに来たの?お父さんと同じ軍人さんでしょ?」 「・・・・・・それは・・・。」 逃げてきたとはいくらなんでも恥ずかしくて言えない。 それに、ミヤは軍人である父親を尊敬しているのだ。 「て、偵察にょ〜。」 とっさについた嘘に、ミヤの顔がパァッ!と明るくなる。 「え、本当!?じゃ、この村のこと聞いてきてくれたんですか?」 「え、え、話が見えてこないのですがにょ・・・。」 「それじゃ、私達が入れた連絡で来てくれた訳じゃないんですか・・・。」 少し、意外そうな顔に変わるミヤに、この村に何かが起こっていることを察知するクチキ。 「・・・事情を聞かせてほしいにょ〜。」
ジャングルの真っ只中にある昼過ぎの村に、三機のザクが現れた。 『おら、いつもどおり、食料用意できたんなろうな!』 乱暴ともいえる声がザクのスピーカーで村中に響き渡る。 マシンガンやマゼラトップを構えるザクに、村中の人たちは恐怖に慄く。 『よし、そこにまとめておいとけ。』 コンテナに集められた食料を担ぎ、外へ向かう。 『こいつは料金だ、取っておきな!』 そういうと、踵を返し、一軒の家に向かってマシンガンを放つ一機のザク。 マシンガンの銃声と共に、その家は崩れ落ちた。 悲鳴が飛び交う。中には人がいたのだろう。 『ひゃははははははは!じゃあ、明日は女もらいに来るからよ!』 そして、ジャングルの中へとザクたちは消えていった。 その様子を影から見ていたクチキとミヤは、その崩れた家に走っていく。 「だ、大丈夫ですかにょ〜!」 「あ、ああ・・・。だけど、中には子供が・・・。」 一人の男性が悲しそうな顔をしながら瓦礫を前に呆然としている。 「早く助けなきゃ!」 「し、しかし・・・。どうすれば・・・。」 「こうするにょ!」 一本の鉄棒を持ってきたクチキは、瓦礫の隙間に入れ、てこの原理で動かしていく。 怪我をした片手ながらも、必死に、救出を行おうとする。 「・・・な、なるほど!」 「村の人たち集めてくるにょ!すぐに!」 「は、はい!」 ミヤに向かってそう叫ぶクチキ。ミヤはすぐに走っていく。 「絶対に助けるにょ〜!」 そういいながら加勢したその家の主と共に瓦礫を動かしていく。 人がだんだん集まってくる。少しづつなくなる瓦礫。声が聞こえてくる。 「・・・助けて・・・。」 「生きてるにょ!」 そう叫ぶクチキの声に、村人達の動きはさらに元気になった。
「助かりました・・・。」 夜の村。家がなくなったその主と、息子は、人の少ないミヤの家に来ていた。 「ありがとう・・・。」 「当然のことをした前でにょ!」 少し、誇らしげに胸を張るクチキ。 「さすがね、クチキさん!軍人さんはやっぱり頼りになる!」 食事を持ってきたミヤは、とても嬉しそうに話す。 「・・・しかし、あいつら何者なんですかにょ〜?」 「・・・・・・はぐれ皇国軍ですよ。 宇宙へ皇国が帰還したとき、ゲリラ活動をしてて見捨てられた者達です。 ある意味、かわいそうな連中なのかもしれませんが・・・。」 そう語る男性に、ミヤは憤りながら叫んだ。 「だからと言ってああいうことしていい訳じゃないでしょう!」 「それはもちろんそうだ・・・。」 少しそれにびっくりしながら男性は答える。 「数日前から現れて、MSで脅かしながらさまざまな要求をしてくるのです。 初めは食料でしたが、女性も要求し始めてきました。 別に食事を分けるぐらいはなんでもないのですが・・・ああも高圧的だと・・・。」 なるほど・・・と合点がいったクチキ。食うに困り、山賊化したのだろう。 「・・・・・・連盟の方には連絡はしたんですにょ?」 「ええ、それはもちろん。ですが、到着は数日後と・・・。」 「だからですか、ミヤがそう勘違いしたのは・・・。」 「そう。でも、連絡無しできたクチキさんは勇者さまみたいね!」 食事を口に運んでいたクチキの手がそこで止まる。 「にょ?」 言ってる意味の解らないクチキに対し、男性が補足する。 「ははは・・・、村に伝わる伝説ですよ。 村、悲劇に見舞われしとき、手負いの英雄現れ、民を救い、悪意を断つ。 もう、何千年前からも伝わる伝承です。」 歴史の長そうな村ではあった。外には不思議なモニュメントなどもあった。 美しい概観、風景をしたこの村に、クチキは感動をしていた。
「そう、その勇者様!崖で見たとき、私ピンと来たんだから!」 そういいながら興奮してフォークを持ち上げるミヤ。 「クチキさんならあいつらやっつけてくれるよ!」 「おいおい・・・、伝説は伝説だろう。それに、腕の折れてるクチキさんがどうやって・・・。」 痛々しそうなクチキの手を見ながら男性は呟く。 「・・・・・・それはそうだけど・・・。」 ぷぅ、と頬を膨らませるミヤに、苦笑いの男性。 「・・・私のほうからも自分の部隊に呼びかけてみますにょ。 いま少し離れていますが、今来ている部隊よりも近いかもしれませんにょ。」 「そうしてくれるとありがたいです!早い方が、被害も少なく・・・。」 「解りましたにょ・・・。」 そうはいったものの、実は連絡手段など持っていなかった。 偵察といった以上は、言わなければならない言葉ではあったのだ。 「連絡を入れた部隊が来るのが明日の午後。しかし、やつらは昼には来てしまいます。 その前にやつらを何とか止められれば・・・。」 安心したような顔をする男性やミヤを前に、あせるクチキ。 しかし、先ほど言ったように、クチキには連絡手段がない。 「・・・わ、解りましたにょ・・・。」 そう繰り返すしかクチキには出来なかった。そして、一つ心の中で決心をした。 深夜。クチキはミヤの家から出て行く。ジムキャノンのところへ向かうのである。 ああいってしまった手前、やるしかないだろう。 一機のジムキャノン、そして自分の腕前でどこまで戦えるか不安はあった。 しかし。自分にやれることはやらなければならない。ジャングルへと戻るクチキ。 最初に所属した部隊で、直属の上司だった少将殿の顔が浮かぶ。 夢で見たせいだろうか、苦い過去を思い出し、重いものが心を埋める。 新人である自分を助けるために戦火に飛び込み、行方知れずになった少将殿。 彼女のいつも言っていた言葉。今でも共感するすばらしい言葉。 『私は軍のためじゃなくて、美しいものを守るために戦っているんですわ・・・。』 おっとりしていながら、その中に強いものを持っていた少将殿。 今でも、クチキの心の師でもあり、尊敬すべき人なのである。 今は美しいこの村、村に生きる人々を救うことが、彼にとってのリスペクトなのだ。
村の昼にて。朝、クチキがいなくなったことで、あわてていたミヤ。 今は少し落ち着きを取り戻し、クチキが来るのを待っていた。 自分の部隊を連れて来ていると信じて。しかし、クチキが現れる前に、やつらはやってきた。 『お〜い、来てやったぞ、ははははは!』 相変わらず品性の欠片も感じられないような言葉を出すザク。 三機ともいまだに健在のようだ。 「クチキさん・・・まだ・・・?」 ミヤが集められた村人の中で、祈るように胸の前に手を組んでいた。 『よ〜し、それじゃあな〜、そこの女、みつあみの、お前、来い!』 そういって、指をさしてきた。その先にいたのは、ミヤ。 「・・・!!」 驚きのあまり、ミヤは声も出ない。 「いや・・・っ!」 その大きな叫びは、ザクに登場している男にも聞こえたようだ。 『おいおい・・・いいのか〜?村がどうなってもしらねーぞー?』 ひゃはは、と言う笑い声が続けて聞こえてきた。 ザクたちの構える銃が村のモニュメントや、家のほうに向く。 「・・・うう!」 少しづつ、ザクへと近寄るミヤに、村人達は手出しを出来ない。 『あははははは!いい子だ!』 ザクとミヤの距離が後少しといったところまで来た。 (クチキさん・・・!) ここに来ても、ミヤはクチキを信じていた。 そこに、大きな砲弾の音が聞こえた。 ド・・ド・・ン!! 一体のザクに二つの砲弾が命中した。そのまま勢いで近くにあった家に倒れこむ。 「も、もしかして!」 ミヤがその砲弾のほうに向くと、そこには一機のジムキャノンがいた。
『な、な、連盟軍か!く、来るの早すぎじゃねえかあ!』 一応、連盟軍への報告は覚悟していたのだろう。 しかし、予想より早い到着に、動揺を隠せないリーダー。 『村の皆さん、一固まりになって安全なところに早く逃げてくださいにょ〜!』 クチキの声がスピーカーから響く。その声に反応した村人達は、一斉に逃げ出した。 「ほら、早くミヤも!」 「で、でも・・・。」 昨日の男性がミヤの手を引く。しかし、ミヤは一機しかいないクチキに不安感を得た。 しかも、彼は手を骨折しているのである。 『て、てめえ・・・!』 ザクは、そのマシンガンを構え、ジムキャノンへと向ける。 ドダダダダダダダダダ!! よけたジムキャノンの後ろにあった家に命中する銃撃。 「にょ〜〜〜〜!!」 ジムのコクピットで叫ぶクチキ。痛みはあるが、腕は動かなくもない。 再び240mm砲を構え、一体のザクを狙う。 ドン・ドン! しかし、一発は命中し、腕を落とすが、ザクは反撃に移ってくる。 マゼラトップ砲から発射される砲弾。 「キョオ〜〜〜!」 奇声と共によけようとするが、痛みの反射から、行動が遅れる。 直撃する砲弾。衝撃で後ろに倒れ、クチキは体を打ちつける。 「うぐおお〜〜〜っ!」 痛みに気を失いそうになるが、立ち上がり、片手のザクに向かってビームライフルを放つ。 すぐに反撃を受けると思ってなかったそのザクは、その一撃を足に受け、倒れる。 そして、そこにクチキは続けざまに砲弾を撃ち込み、そのザクは沈黙した。 「こ、これで二機・・・。」 予想よりもうまくいった作戦に、口が思わずにやけるクチキ。 隠れてまず一機。あと二体は気合で。作戦のような、なんでも無いようなものだが。 しかし、気付くと残りの一機がいない。ディスプレイを見渡すクチキ。 「ど、どこにいったかにょ〜〜〜??」
すると、敵影が目の前に現れた。 「にょにょにょ〜〜〜!!」 ドン、という衝撃音とともに、後ろにはじかれるジムキャノン。 蹴りを入れたザクは、悠々と倒れたジムキャノンへと近づく。 『やってくれたじゃねえかあ・・・・。』 怒り心頭、といった様子の声である。 接近戦では武器が使えないジムキャノンにとって、この距離は危険だ。 しかし、簡単に相手が距離を取らしてくれはしない。 『ちょ、ちょっと待ちなさい。後で、連盟の本体が到着するでありますよ! そうしたら、どっちにしろあんたら負けですから!残念!』 『うるせえ!仲間やりやがって!!』 『あんなことするあんたらが悪いんでしょうが!』 『なにいってやがる、それは関係ねーだろう!』 『おや、逆ギレですか、あーそうですか。 ・・・・・・・逆ギレ勝負なら負けたことねーよ!!』 叫びがスピーカーから響くと、ジムキャノンは、その体勢から思いっきり跳ね上がり、 体ごとザクへとぶつかって行った。そのまま、ザクは後ろへ飛ばされ、倒れる。 『ちょ、てめ・・・え!?』 ザクが声を出そうとした瞬間に、クチキはすでに近づいていた。 そのまま、ザクを抱えると、思いっきり高く持ち上げた。 「にょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」 叫ぶと、ザクを放り投げるクチキ。 綺麗な弧を描きながらザクは近くにあった家へと落下する。 ドシン・・・・! 家を破壊しながら落下したザクは、もはや動かなくなっていた。 「はぁ、はぁ・・・。」 荒く息をするクチキ。そこに、村人の歓声が上がっていた。 MSを停止して、降りるクチキ。 そこに駆け寄るミヤ。
「すまないにょ・・・。村ボロボロにしちゃったにょ・・・。」 しょんぼりするクチキに、ミヤは顔を振り、答える。 「ううん。物はまた直せばいいから。私、クチキさんに助けられました。 やっぱり、あなたは勇者様だったんですね。」 笑顔で言われて照れるクチキ。村人も、みなクチキへと賞賛を浴びせる。 「にょ〜、にょ〜、恥ずかしいにょ〜。」 そこに、一機の輸送船が現れた。連盟のものである。 「お、来たようだ。予定よりも早かったようですな。」 昨日の男性がクチキに向かって言う。 降りてきた輸送船から、兵が四人降りてきて、ザクの方へと向かう。 そして、最後に出てきたのは。 「少将殿!」 クチキは叫ぶと、降りてきた女性、少将の方へと向かう。 敬礼をするクチキ。微笑む少将。 「クチキ二等兵・・・今は一等兵でいらしたんですっけ?」 「そ、そうであります!少将殿こそ・・・。」 「あらあら。死んだと思っていたのですか?あの後、記憶を少々失いましてね。 最近ようやく原隊に復帰出来たのですよ。クチキ二等兵も元気そうで・・・。 あ、一等兵でしたね、すみませんねぇ。」 「い、いえ、恐縮であります!」 尊敬する人物の元気な姿に、涙を流すクチキ。よもや、こんな再会を果たすとは・・・。 「あらあら。・・・しかし、一等兵、頑張りましたね。一人でこの三機を倒したのでしょう?」 村人へと事情を聞いて回ったほかの兵が、少将へと報告に来た。 「あらあら・・・。素晴らしいじゃない。被害を最小限に留められましたね・・・。 しかし、あなたの隊はいま、皇国軍の兵器を追ってるんじゃなくって? あなたの隊の大隊長から聞いてますよ?」 「そ、それは・・・。」 「うふふ。安心なさい。隊の方々はあなたを探しおられるようですよ。 連絡機、お渡ししますから、隊へ復帰なさい。」 微笑む少将に対し、もはやクチキは言葉もない。 「あ、ありがとうございます・・・。」 今までした中でいちばんの敬礼を少将へと向けた。
「いっちゃうんですね・・・。」 次の日。輸送船に搭載されていた作業用MSが村を直している最中。 ジムキャノンに乗り込もうとするクチキに、ミヤは寂しそうな顔を向けた。 「・・・今のままじゃ、また同じことが起こるかもにょ。 戦争を終わらして、早くこんなこと無くして来るにょ。 ミヤのお父さんも、きっと同じ事を考えて戦場へと向かったにょ・・・。」 「・・・そうですよね。でも、クチキさん、ひとつ、約束してください。」 「にょ?」 小指を立てて、クチキへと向けるミヤ。 「死なないで下さい。あと、戦争終わったらまた村に遊びに来てください。」 「・・・わかったにょ。」 死ぬな。マダラメ隊長がいつも言っている言葉。 これほど重く、大切に感じたのは今回がはじめてであった。 同じように小指を立てミヤと指切りをする。 クチキはそのままMSの乗り込み、コクピットから手を振る。 同様に手を振り返すミヤ。ジムキャノンは皇国から接収されたドダイにのって、 空へと上っていく。ミヤはその姿を見上げながら、涙を流した。 「あらあら・・・。」 その姿を見ていた少将が、ミヤへと近づいてくる。 「大丈夫よ、ミヤさん。一等兵は強くなったわ、私と一緒の頃より。 いい隊に所属しているんでしょうねぇ。きっと、無事にまた会えるわ。 さっき、ザクのデータから基地一覧が見つかってねぇ。彼の隊の使命も果たせそうよ。」 「はい・・・。」 クチキが去った後も、その空を、ミヤはいつまでも見つめていた・・・。
「ごめんなさい・・・。」 オギウエに謝られ、きょどるクチキ。 隊に戻ってきたクチキに浴びせられたのは、謝罪。 「ごめんな、クッチー。オギウエが持ってたよ、ペンダント。」 「ごめんなさいね・・・。」 「ごめん!」 口々に女性軍から謝られ、動揺するクチキ。 「・・・いえ、ボクチンも大人気なかったといいますか・・・。」 「・・・とまあ、謝ったんで、この件はOK?」 そういった咲の顔が引きつりだした。 「・・・まあ、OKですが、・・・なんですにょ?」 「・・・あなたのデジカメ、見せていただきました・・・。」 ビクッ!顔から異常なほどの冷や汗が流れてくるのが解る。 「・・・・・・隠し撮りとはねえ・・・・・。」 「え、え、どういうこと?」 一緒にその場に立ちあっていたササハラが、不思議がる。 「・・・・・・こいつね、あの水浴びのとき隠し撮りしてたんだよ・・・。」 「ええ・・・?!」 すぐさま逃げようと走り出すクチキ。 「ああ!!まて!てめえ!」 ケーコ、サキ、オーノがそれを追いかけていく。 走るクチキの手から金庫がこぼれる。落下して中の写真がこぼれる。 飛び散る水浴び写真。それが丁度歩いてきたマダラメの目に止まる。 「なんだこりゃ・・・。」 拾い上げたマダラメはびっくりする。そこにあったのはサキの水浴び。 「うぉおおおお!!?」 「コラ!マダラメ見るな!」 叫ぶサキに、動揺を隠せないマダラメ。 クチキは走る。美しいものを守るため。女体は世界の神秘だと心で叫びながら。 時には、盗撮もする。それも、美しいものを守るためならいたしかたない事なのだ。
送られてきたデータからついに目的の基地へと到着した第801小隊。 初めてこちら側からの襲撃となり、少し戸惑いも感じる面々。 しかし、敵軍の新兵器の威力によって動けなくなる出撃隊。 そのピンチに、オギウエは自らMSに乗り込む。 次回、「オギウエ出撃」 お楽しみに。
465 :
450 :2006/03/01(水) 05:02:15 ID:???
今日気付いたこと 大分投下慣れしてきたはずなのに、番号のミスや、連続投稿に引っかかり。 これは慣れとかの問題でなく、ただのおっちょこちょいのようです。
流れを変えてスマンのだが・・・・ 笹×萩で一つ作って下さらんか 笹が萩の同人を見る 実は笹も萩をおかずにしたSSとか設定集みたいなものを作ってる それを萩に見せる 内容は、氏賀Y太もΣ(゚Д゚ノ)ノなグロ描写満載のSS (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルふるえる萩・・・そっと笹を見ると満面の笑顔 萩の脳内で・・・・窓ダッシュ・・・しかし手を掴まれて笑顔の笹 ここは強気攻めでいかせてもらいます。 こんな感じでお願いしますM(__)m
469 :
マロン名無しさん :2006/03/01(水) 13:06:28 ID:oFBV1PXB
>>801小隊第9話。
また今回も面白いですねえ…ぶぷぷぷwww
村を守る朽木かっこえかったです。少尉との再会も。
『どっちにしろあんたら負けですから!残念!』
そういやクッチーって波田○区にちょっと似てるわー。
村を守った美談の直後、「盗撮」がばれて再び逃走…!さすがクッチー、オチも忘れないんですね。
個人的一押しは水浴びしてる咲の写真をうっかり見てしまった斑目!(←そこかよ)
「荻上さん最強伝説」書いたときには寸止めにしたので、写真で見れて良かったな、斑目…☆と。(笑)
次回もたのしみにしています!
>>466 「萩(はぎ)」×
「荻(おぎ)」○
草かんむりに、火の横はけものへんですよ。
あと、このプロットで忠実に書こうと思ったらエロパロなのでは?と思いましたよ。
そもそも笹にグロエロ属性なんて無いと思う。
つ「防火用水」
つ[ヒゲ、ハゲ]
473 :
甘い話 :2006/03/01(水) 15:30:12 ID:???
「デート、ですか?」 食器を片付けながら荻上が聞き返す。 「うん。俺たちがその、付き合いだしてからずいぶん経つけど、そう言うことをしたこと無いな〜って思って」 笹原の声を背中に聞きながら、考える。 (確かに一緒に買い物したり、マンガ喫茶で作品談義をしたり、手料理を食べたり、…「する」ことはあっても、デートか?と聞かれれば微妙かも。でもデートってどういうの?と言う事になると…そんな経験ないし…) 「…俺も『研修』とかで忙しかったけど、今度の日曜に丸一日休みが取れたんだ。だから、行きたいところとかあれば、教えてくれる?」 「いえ、笹原さんの行きたいところならどこでも…」 荻上の内心の葛藤に気付かない笹原の問いに、とりあえず無難な答えを返す。 「それじゃ困るんだけど…考えておいてくれるかな?」 笹原は軽く苦笑を浮かべると、荷物を持って立ち上がり、玄関へ向かう。荻上は慌てて手を拭くと、エプロンを外して追いかけた。 「本当は泊まっていきたいけど…ごめん」 「いえ」 答えと裏腹に浮かべた寂しげな表情に、笹原は思わず彼女を抱き寄せ、キスをした。 「おやすみ…千佳」 真っ赤になりながらそう言うと、逃げるように出て行く。荻上は黙って見送る。 「…おやすみなさい……完士…さん」 彼以上に真っ赤になった荻上の返事は、それからずいぶん後だった。
474 :
甘い話 :2006/03/01(水) 15:30:56 ID:???
「こんにちわ〜♪」 「…」 「ちわーす」 翌日、部室で荻上がノートを前にぼんやりしていると、妙にご機嫌な大野、不機嫌な咲、いつも通りの恵子がやって来る。話を聞いていると、どうやら卒業式後の「春日部咲コスプレ大会」の為に、最終的なサイズ合わせをしたいらしい。 「…だから、咲さん。一度合わせてみないと。恥ずかしいなら、私も一緒に着ますから」 「そう言う問題じゃないの。当日ちゃんと着ればいいんだろ?」 「そうはいきません。着る以上、きちんとしたものを着るべきです!」 「な〜、ねーさん。いいかげんあきらめたら〜」 「じゃあ、お前が着るか?」 「死んでもヤダ」 「私だってあなたには着てもらいたくありません」 「あの…皆さんはデートしたことってありますよね?」 「え」「へ」「ハァ?」 険悪化しつつあった空気を破ったのは荻上の場違いな質問だった。他の3人は顔を見合わせると、にんまりと笑って向き直る。 「そりゃありますけど」「なんでそんなこと」「聞くのかなあ〜?」 荻上は失敗を悟ると、「聞いてみただけです」などと言い逃れようとしたが果たせず、洗いざらい話すはめになり…結果、3人を机に突っ伏させることになった。 「人に聞いておいてなんですか、その態度は」 「あのな、おぎー。自分がものすごい『のろけ話』してるって自覚…聞くだけ無駄か」 いち早く立ち直った咲が、苦言を呈しようとしてやめる。バカップルにつける薬無し。しかし、二人の仲を取り持った以上、放り出すには気が引けた。 「とにかく、笹原は『荻上の行きたいところ』を聞きたいんだから、思ったところを言えば?」 「私は笹原さんとならどこでも…」 「わかったから、ちょっと黙れ。大野!恵子!起きろ!!なんか言え!」 「…だったら定番のコースでも行ったらどうです?動物園でも遊園地でも…」 「うわ、古っっ!!それなんて80年代!?」 恵子の突っ込みに大野のこめかみに青筋がたつ。 「だったら恵子さんならどうするんです?」 「やっぱ買い物!全部アニキ持ちで。こういうときぐらい『かいしょー』見せてもらわないと!」 「そんな事できるわけが無いでしょう!!」 荻上がいきり立つ。 「まあまあ…だったらこういうのは?」
475 :
甘い話 :2006/03/01(水) 15:31:40 ID:???
あーでもないこーでもないと話は続く。内容が2巡ほどしたころ、恵子が疑問を投げかけた。 「でもさ、なんで今更デート?べつに改まってするような事じゃねーじゃん」 咲と大野も気付く。確かに今更、だ。そこには何か目的があるはず…。 「「「プロポーズ?」」」 「!」 ボン、と音を立てそうな勢いで赤くなる荻上。 「でも、付き合い始めて…ヶ月だろ?」 「そんなの関係ないって」 「手を出したから責任取らないと、とか」 「!!」 「でもそこまでするか、普通」 「結構堅いからな、うちのアニキ」 「妊娠させた、とか」 3人の視線が荻上に向かう。 「わ、わたし帰ります!!!」 荻上は慌てて荷物をまとめると、バッグを胸に抱いて部室を飛び出した。 結局、「どこでもいいです」とメールで送るのが精一杯だった。 返事は次の日の朝だった。了承と日曜日まで会えないことと、そのお詫びが記されていた。 Q.デートは結局どこになったのですか? A.水族館でした
476 :
甘い話 :2006/03/01(水) 15:32:28 ID:???
「「ただいま」」 言いながら荻上のアパートの玄関をくぐる。 「なんかほっとしますね。家に帰ってくると」 「ごめん、疲れた?」 「そうじゃありません。とても楽しかったです」 そんなやり取りをしながら笹原は思う。 (自分のアパートより、ここの方が『帰ってきた』って感じるようになったなあ。いや、部屋じゃなくて、『彼女』がそうなのか。『彼女』さえ居てくれればどこでも…って何考えてるんだ、俺!?) 顔を赤くして首を振る。荻上が不思議そうにこちらを見つめていた。 ソファーに並んで座り、今日の思い出を語り合う。そして、思い出したように笹原はポケットから小さな箱を取り出し、荻上に渡す。 その瞬間荻上の脳裏に部室でのやり取りが浮かぶ。顔が赤くなる。鼓動が早くなる。期待と不安で何も考えられない。 恐る恐る小箱を開けると、そこにあったのはシンプルな細い銀の鎖。少なからず気落ちしながら鎖を引くと、その鎖にはこれもシンプルな銀の指輪が通してあった。 思わず振り返ると、照れくさげに笹原が頬を掻いていた。 「あの。これはどう言う…」 「本当はちゃんとしたやつを送りたかったけど…無理だったのと、あと…他の誰にも渡したくないのと、こんな事言うと怒られそうだけど、『予約』ということで…」 指輪と笹原を交互に見た後で、荻上は微笑む。 「馬鹿ですね、笹原さんは…物よりも、はっきり言葉にしてくれれば良いんです」 そう言って指輪を笹原に返すと、左手を差し出す。笹原はひとしきり慌てた後、咳払いをすると尋ねた。 「荻上千佳さん。結婚してください」 「喜んで」 荻上が応える。彼女の薬指に指輪を通す。口付けを交わす。 そのまま覆い被さろうとする笹原の目の前に左手をかざす。そこにはぶかぶかの指輪。 「う」 「今度は『ちゃんとした』のをくださいね?」 しぶしぶ笹原は体を起こす。荻上は立ち上がると鎖を首に回す。胸元の指輪を押さえながら尋ねる。 「…泊まっていきますよね?」 翌日、荻上が部室を訪ねると、なぜか「荻上御懐妊」の噂が流れていて、大騒ぎになったのはまた別の話。
>>甘い話 あま〜い!ブラジルの黄色いお菓子くらいあまいよ〜!! 笹原男前だよ笹原… そりゃ荻も落ちます。
>>甘い話 (゚д゚)アマー ただでさえ虫歯が痛いのに、糖尿病にまでする気かwww
479 :
マロン名無しさん :2006/03/01(水) 21:30:07 ID:oFBV1PXB
>>甘い話 バニラアイスにはちみつと練乳とチョコシロップかけたような甘さにもうだめです。 くはあああーーー!! >>「おやすみ…千佳」 「…おやすみなさい……完士…さん」 あわわわわわあわ(////////) なんかもうこっちが恥ずかしい。キャー 正統派笹荻ですね。ごちそうさまでした。本当にありがとうございまいた。 あーなんか…いいなあ。甘甘な話、またなんか書こうかな…
>>801 小隊第9話
クッチー大活躍!骨折大丈夫なんだろうか?
児文研の会長まで出てくるとは、SSスレ祭りっぽくていいですね。
そして気になる、オギーの出撃!!
>>甘い話
初々しい初デート話かと思ったら、プロポーズだったとは!
羊羹にハチミツをかけて食べるぐらい甘いよ!GJッ
読んでいただいて感謝です。
>>444 今週末にはどうにか最終話を書き上げたいと思います。ふー。
>>445 いや〜・・・、今回は反省点が多いです・・・。力量不足を痛感しております。
>>446 ありがとうございます。励みになります。
まだまだ全然です・・・。もっとうまく書ければいいのになあ・・・。ままなりません・・・。
>>447 可愛らしい恵子が書きたかったので、嬉しいです。
頑張ります。何とか有終の美を飾りたい・・・。
>>448 そう言っていただけると、ありがたいです。
泣いても笑っても次で最後なのでしっかりと書き上げたいです。
今回は反省、反省です。文章力の無さを痛感してます。
長々と続いて来ましたが、次で最終話ですので、少しでもいいものを書きたいです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
482 :
マロン名無しさん :2006/03/01(水) 23:14:46 ID:3roDPUhx
>>甘い話 こんなの読んだらおしっこにアリが集まってくるよ…あっっま〜〜い!
>第801小隊 第九話 「戦禍の村の伝説」 世界の神秘乙!!てっきり。風景写真かなんかだと思いきや、まさか盗撮写真とはw しかし、真理だ・・・。是非みたい。クチキ作をうp!うp!次回はオギウエ出動ですか!waktk >甘い話 嫉妬!!笹原に激しく嫉妬!!推測ですけど、タイトルは某誌の「甘い生活」 って漫画からでしょうかね?笹原はゴットハンドを手に入れましたW
>801小隊 オロロ〜〜〜〜ン!!(ハクション大魔王風男泣き) やっぱいいなあ、こういう「クッチー侠客立ちの巻」な話。 それにしても、クッチー大車輪の活躍! つかみもクッチー、山場もクッチー、そしてオチもクッチー。 もはやクッチー独演会、いや座長公演か。 かっこいいクッチーとダメクッチーのバランス感も絶妙。 実は俺、ここのクッチー主役話の9割ぐらいを書いてるんだが、最近の作品ではちとかっこ良過ぎではと反省している。 見習いたいものです。この作品のバランス感。 >甘い話 漫画版「餓狼伝」のクライベイビー・サクラ愛飲の特製ドリンクを思い出した。 もう甘過ぎ、胃もたれしそう。 (ちなみに特製ドリンクとは、ハチミツとガムシロのカクテル。サクラは常人の20倍のカロリーを必要とするので、これを1日にジョッキで数杯飲む)
485 :
せんこく :2006/03/02(木) 20:50:48 ID:???
毎度毎度のスレ汚しすみません。 せんこくげんしけん3回目にして最終回を投下いたします。ご迷惑をおかけしますが宜しくお願いします。 ここんとこ凄い作品がバンバン投下されていて、この話を作るよりも、読む方にハマってました。 私の方はヒイハア言いながら何とか物語をまとめるのに必死で、他の作品に見られる、キャラへの愛に圧倒されて、「ここまでできたらいいよなぁ」と感銘を受けてます。 まあ、無理なことはせずに横道で!隙間で! それではしばらく後に、10レスです。
長い廊下を歩く荻上。 戻れるのかどうか分からない不安感や、この時代に生きていた当時の自分のことを思い出さないように、笹原のことだけを想った。 (今、笹原さんは私より年下でねが……キャー!)視線を明後日の方向に泳がせて、思わず想い人の名前が口にでそうになる。(まあいいよね。ここは2002年だし)と自分を納得させた上で、甘えた声を出してみた。 「笹原サン(はあと)」 「はい?」 「!!」 ありえない返事に我に帰る荻上。気が付いた時には、正面に見なれた顔があった。2002年当時の笹原は、ちょうど通り過ぎざまに、見ず知らずの女子に呼び止められた格好になった。 斑目05は、ぶらぶらと廊下の手前まで来ていたが、前方を歩いている後ろ姿を見て、笹原であると気付いた。廊下の角に隠れ、行ってしまうのを待つことにしたが、思わぬ事態が起きた。 「笹原サン」「はい?」 笹原が誰かに呼び止められた。しかもその声は斑目にも聞き覚えのあるものだった。(荻上……さん?)目を凝らして笹原の前に立つ女子の姿を見ると、メガネをかけて髪を下ろしているものの、どうも荻上さんっぽい。 斑目は物陰に隠れたまま様子を伺うことにした。 笹原02を前にして、荻上は口をパクパクさせるばかり。脳内では、さながらマシン語のように高速で思考が展開していた。 (ササササササササササハラサン!?ウワー!偶然?運命?コレって再会け?それとも初めての出会い?あーよく見ると線が細くて頼りねー感じがするー…って吟味してる場合じゃねー!そんなコト考えてる場合じゃねぇってば!あーもーどうすりゃいいかヴァカンネー!) 頭の中がグルグルしてくる。脈打つ心臓の鼓動は、緊張とはまた違った感情によって動かされ、顔が上気してきた。 (頼りなさそうだども……かっ……カワイイかも……) 胸の内が苦しくなってきた。
「?」いぶかしげに自分を見つめる笹原の視線を、荻上は直視できない。不安と寂しさに苛まれていただけに、次第に我慢ができなくなってきた。 (ああ、だめだ、とまんね……) 荻上は両手を伸ばし、笹原の頬に手を当てた。それでも、自分の顔とその表情だけは悟られまいと、グッとうつむく。一方の笹原02は状況が飲み込めないまま、目が泳いでいる。 荻上はうつむいたまま、手に伝わる感触に意識を集中した。 (出会うずっと前の、笹原さんに触れた……) 愛おしい想いがわき上がってきた。このまま首に両腕をきつく巻き付けて、その場で崩れ落ちたい。しかし、彼女は、耐えた。 「え……あの、これ、あれ?」笹原02のうろたえた声に、我に返った荻上は意を決してスゥと軽く息を吸い、強く言い放った。 「もっとしっかりしてください!」 「あ、っは……ハイ!」 意味も分からず返事する笹原、オタとしては(覚悟が必要だ)と思っている彼だが、男としての覚悟はわきまえてはいない。謎の少女に気圧されている。 これには廊下の角で様子をうがかう斑目も「?」と首を傾げた。彼はまだ笹原と荻上のカップル成立を知らない。 「あなたはもっとどっしり構えてていいんデス!」 この時期の笹原にそれを要求するのは酷だろう。 「今は無理でも、がんばってください……。そしてどうか……」 (……どうか、私を、救い上げてください) 最後の言葉は自分の心の中にだけ響かせた。 笹原02の頬に触れた手が離れる。離れぎわに荻上は、(いつかまた、会えますように)と、願った。 荻上は三歩、四歩と離れた。何が起こっているのか、まったく分からない笹原02。 「あ、あの……いつか、部室に包帯をした娘が現れたら……」 思わず口にした再会(?)予告。笹原02がようやく、「部室って? え? 包帯? あ、あの、君は……」と問いかけた時、荻上の後方から、田中の呼ぶ声が聞こえた。 「おーい、笹原いいところにいたな。部室来ないか。“あおい”のガレキ買ったんだ見せてやるぞー」
田中の言葉を合図に、荻上は弾かれたように廊下の向こうへと走り去った。 田中が笹原に歩み寄りながら尋ねる。 「誰? 知り合い?」 「いえ……なんだか分からないッス……包帯をした娘って何だ……」 「ホータイムスメ? エヴァか筋少の話か?」 「さぁ……。……包帯娘……」 荻上が走り去った廊下をいぶかしげに見つめた後、二人は部室へと向かった。 この出来事は笹原の中で、「変な人に会った」程度に思われ、記憶の中から次第に消し去られていった。しかし笹原は、2004年の冬コミ会場で、よく似た女性を見かけることになる。 「ん?」「んん?」 無意識に、変装した荻上に妙なひっかかりを感じたが、結局彼の中で、1年生のころの記憶と結びつくことはなかった。 2人の様子を廊下の角に身を潜めながら伺っていた斑目05は、あの女の子が自分の知る荻上千佳であることを確信した。 田中の登場とともに、荻上が駆け出した。 猛ダッシュで迫る荻上に気付いた斑目05は、「壁の掲示を見る学生」の振りをして、通り過ぎるのを見送った。2人を覗き見していた負い目がヘタレな行動に現れてしまったのだ。 (何やってんだ俺)あわてて荻上の後を追うが、もう立ち止まっていい距離なのに一向に止まる気配がない。斑目の方が先に息が上がってきた。 「お、荻上さんッ! ハァ ちょ と まった! ヒィ」 聞き覚えのある声に背後から呼び掛けられて、荻上は前につんのめりそうになりながら立ち止まった。 「斑目、さん?」一瞬体が硬直した。指先で眼鏡の奥をこすり、軽く鼻をすすり、アゴを引いて気丈に振り向く。 そこには、ヒイハアと息を切らせてガックリ肩を落とし、力なく手を振る斑目05の姿があった。 「なんで、“私のことを知ってる”んスか?」 荻上は、目の前にいるのは、この時代の斑目だと思っていた。 「やっぱりそうか……、僕の方も、入学もしていない荻上さんがなぜここにいるのかと思ったんだけど……」 荻上は安堵の表情を浮かべつつ、呼吸を整えた。
部室に到着した田中、笹原は、後に斑目02や久我山とともに、「第256回 今週のくじアン面白かった会議」で談笑。そこに咲が現れた。 咲は、コーサカの件を相談する前にメンバーの顔を見渡したが、斑目02と、少しばかりの間、視線を合わせた。斑目02は、2005年から来た自分の言動を思い起こして赤面した。 (確かによく見ればカワイイかも知れねー。でもこんな野蛮な女に俺の人生のエナジーを注ぎ込む訳にはいかんのだぁぁぁ! レジュメ通り、徹底して論破してやるっ!) しかし斑目02は、咲相手に高らかに持論をぶちながらも、咲と高坂が「幼なじみ」であることに萌えた。そして、「チュー」に動揺した。05作のレジュメでは、その展開を明らかにしていなかったのだ。 斑目02は、斑目05の出現によって、否定しつつもすでに咲を意識しはじめていたのかも知れない。それは彼の、「(彼女が)ほしくなくはない」という言葉に表れていた。 斑目05と荻上は、サークル棟近くのベンチに並んで座り、これまで何が起きたのかを語り合った。 斑目05は、(荻上さんの言う怪しい男って、初代のことか?)と思う。自分が2002年に迷い込んだのも、初代に会ってからのことだ。 また2人は会話を通じて、(そういえば、この人と、今までこんなにしゃべったことないな……)と互いに感じていた。 荻上の場合は、笹原と結ばれたことで精神的な落ち着き、ゆとりが生まれたことに起因するかもしれない。 それでも、いつもの自分であろうと思い、冷静さを崩さない荻上の様子に、斑目05は、「強いなあ、荻上さんは」と感心する。 「そんなこと ないデス」 孤立無援の中で仲間に会えたのだ。抱え込んでいた不安感、緊張感がほぐされてきて、ほんの少し、声が震えた。 「ホントに……会えてよかったですよ」 その瞳が泣いているのか、分厚い眼鏡に隠れて見ることはできないが、肩が小刻みに震える荻上の様子に、斑目05は動揺した。
沈黙が続いた。 (な、なんとかこの場を切り抜けないと士気に関わる)と思う斑目05。何の士気か自分でもよく分かっていないが、場を和ませるつもりで話を切り替えた。 「あー、このまま帰れなかったら、実家に帰って“生き別れの双子”ですって自己紹介して家に入れてもらうかなぁ〜」 いきあたりばったりに語りながら(ヤベー、全然フォローになってネエよ。逆効果じゃねーのか)と後悔する。 荻上の動きが一瞬止まる。 ボソッと、「もともと親が生んでるンだから、説明不可能スよ」と突っ込まれた。馬鹿な発言に呆れて軽くため息をつき、落ち着いてきたようだ。 「あれっ、そーだねー、そーそーアハハ……」斑目05は、荻上のフォローに成功したような、失敗したような、微妙な気持ちで愛想よく笑った。 「おっ、いた! おい2005!」 斑目05と荻上のもとに、何と、「第4回コーサカはオタクじゃねーんじゃねーか会議」を早々に切り上げた斑目02が駆け寄ってきた。02は、驚きの表情を見せる荻上には目もくれない。 02「あんなことになるなんて一言も書いてなかったじゃないか!」 05「成功したんじゃないのか?」 02「成功したさ、お前の予定通りにな。でも何だこの妙な敗北感はー!お前のせいなんダヨォーコノヤロー!」 どうも、結局自分が2人を結びつけるピエロに成り下がっていたことが気に入らず腹が立ってきたらしい。「自分が腹立たしくなった」02は、手っ取り早く「近くにいる自分」に怒りをぶつけにきたのだ。 02「(あいつらは)チューでカップル成立だ! コノヤロー」 思わず斑目05のネクタイを掴んで引っ張る斑目02。 「ネクタイ」「チュー!」「カップリング」 3つの力が1つになって、傍観していた荻上の妄想に変なスイッチを入れた! 今が非常時だというのに、もつれ合う2人の斑目05を見つめながらワープが始まった。 (夢のカップリング「斑×斑」!) (しかも斑目さん、過去の自分に対しても受けなんですね……) (ああ、ここで強気に目覚めた若き笹原さんが現れて2人を○※△$〜!!!!)
斑目02は、「キサマー、屋上まで来い! 暗黒流れ星で道連れだ!」と勢い良くタンカを切った直後、「あれ?……あの娘……」と荻上に気付いた。 すでに荻上は、過度の疲労と緊張感にさらされただけでなく、異常なカップリングを目の当たりにし、さらに妄想を果てしなく展開させて心がオーバーヒート。すでに目を回して倒れていた。 事情を飲み込めない斑目2人は、口論そっちのけで慌てる。 「おい、2002年バージョン、人呼んで来い!」 「誰を!? 現視研の奴ぁ呼べないぞ、説明ができん!」 「えー、あー、うー! サークル自治室にだれか居るだろ! 校外の人間が倒れてるって言えよ!」 「わ、分かった。そこに居ろよ!」 ホッとする斑目05。しかし、いざ自治会の人間が来た時に、どう説明するのかは全く頭になかった。 庭の長椅子に座り、荻上の頭を自分のひざに乗せて見守る斑目05。顔中汗をかき、うろたえていた。 「おいおい、どうしちゃったんだよ荻上さん」……よもや自分×2でホモ妄想されていたとは夢にも思わない。 それどころか介抱するためとはいえ、女性を自分のひざに乗せていることに緊張してきた。 (笹原ぁ、スマン……) その時、斑目05の背中に聞き覚えのある声が投げかけられた。 「大丈夫かい、斑目君」 初代会長だ。振り返って驚く斑目をしり目に、彼の隣に座って言葉を続けた。 「今日はいろいろと大変だったね」 「!?」 「時には辛かったり、耐えなきゃいけない事もあると思うけど、その経験があるからこそ、後々素晴らしい出会いや、幸せな未来につながることもある……」 初代は、気を失っている荻上に視線を向けた。 「……彼女が、そうであるようにね」 「初代……?」 「こういう経験の積み重ねで、より良い未来は創られると思うよ?」 斑目は考える。2002年に飛ばされた事態が全て、より良い未来とやらにするために仕組まれたことだとしたら……。 「もうじき自治会の委員長もくるだろう。じゃあ」 斑目は手を伸ばした。「待って下さい初代! 話はまだ半分……!」その瞬間、視界は再びブラックアウトした……。
約10分後のサークル自治会室。 委員長が浮かない表情で戻ってきた。書類をまとめていた北川副委員長が迎える。 「どうしました? 急病人が出たとか聞きましたけど……」 「いや、それが、いなくなっちゃったんだ」 「はぁ……。でも誰か付いてあげてたんでしょう?」 「うん、呼びに来た現視研の斑目君は、“あれ、俺がいない”とか、“帰っちゃったのか?”とか訳の分からんことをブツブツ言っててね……」委員長は状況を理解できぬまま、斑目02と分かれて帰ってきたというのだ。 北川は、ちょうど水虫がムズムズして苛立っており、攻撃的になっていた。 「委員長、この際、泡沫サークルは一斉に整理しましょう! 委員長に……いや、自治会に虚偽でメーワクかけるようなサークルなんて処分するべきです」 「いや、そんな急に……」 「やりましょうっ! 早速、各サークルを内定調査させます!」 「あ……うん」 北川さん主導によるサークルの取り潰し騒動が起きたのは、この後のことだった。
サークル棟の外で初代を呼び止めたはずの斑目05は、気が付くと現視研部室のドア前に立っていた。 ハッとして周りを見回す。 サークル棟の廊下は見なれた風景に戻っていた。ドア前の「ナ○ルル」のピンナップもない。腕時計に目を落とすと、部室で弁当を食べていた時間だった。 「夢か、夢だったのか……ハハハッ! 長ぇー夢だったなぁ。しかも立ったまま!」自分に言い聞かせるように笑い、ふと真顔になって「帰ろ」と、部室のドアを開いた。 「……夢、じゃなかったのか?」 部室のテーブル上には、ノートや雑誌を払いのけるように荻上の体が横たわっていた。気を失ったままの荻上は、メガネが外れ、髪が乱れて頬にかかるなど、何だか艶かしい。 斑目は動揺した。「今、部室のお昼の顔と言えば俺だよなぁ。このまま帰っちゃったら、俺すげー多方面から疑われそう……」もはや彼にとって、謎の真相よりも自己の保全が大きな問題になっていた。 (何とか、フツーに近付けよう) 斑目は、荻上の横顔に手を合わせて詫びた上で、バッグの中からメガネケースを取り出し、ド近眼メガネをしまう。続けてヘアゴムを探したが見つからないので、自分のコンビニ袋から輪ゴムを取り出して筆頭の復元に取り組んだ。 何度か目を覚まそうとする荻上にビビリつつ、作業を終えた斑目。 (荻上さんには合宿以来会わなかった事にしておこう)と思いつつ、いそいそと部室を出て行った。
しばらく後、テーブル上の荻上は、ボンヤリとした視界の中で目を覚ました。 ボーッと「あれ? 夢だったのか……コンタクトは……?」と呟く。気を失う前の記憶をまさぐろうとしていた時、部室のドアがガチャリと開いた。 誰が来たのかも分からなかったが、「荻上! 何してんのお前?」との一言で、咲であることが分かった。 「え、いや……寝てたみたいで……」 「大胆になってきたねぇアンタも」と呆れた口調だった咲は、ふと荻上を凝視し、次の瞬間「ぶひゃひゃはひゃやぁぁあ!」と爆笑した。 「なっ、何ですか?」 「だってお前、その頭……」 荻上の「筆」は、頭の右側に偏ってまとめられ、先っぽが花のように開いていた。しかも左右の耳にかかる「ブレードアンテナ」の髪は、両方とも2本に増えていたのだ。女の髪にまともに触ったことのない斑目では、完璧な荻上ヘアの再現など出来るわけがなかったのだ。 咲はもう一度じっくり荻上の頭を鑑賞する。 「パチモンみてー! 腹イテェー! タスケテェー!」 腹を抱えて笑う。ボー然とする荻上。 しかし、しばらく笑った咲は、ちょっと考え込んだ後、真顔で荻上に訪ねた。 「アンタのその乱れ方、ササヤンと……まさかココで!?」 「な、んな訳ないデスヨ! サササハラさんは研修です」 「サが一つ多いって。でも、まあ気をつけなよ……」 咲は近眼の荻上にも表情がハッキリ分かるほど顔を近付けた。荻上は思わず頬を赤くする。 「ひょっとすると、まだ“見ている”かもしれないからね……」 「???」 荻上には、何が何だか分からなかったが、悪い夢から現実に戻って来ていることが、ただただ嬉しかった。 しばらくして咲が、荻上が、部室を出た。 先刻(せんこく)までの喧噪が嘘のように、部室はひっそりと静まり返っている。 明日、また誰かが部室のドアを開く時、また新しい現視研の歴史が積み重ねられていくことだろう。
【エピローグ】 何日かが過ぎた休日。 荻上のアパートに、研修を終えた笹原が遊びにやってきた。 荻上は玄関のドアを開いて笹原を迎え入れた。 ドアが閉められる。荻上は玄関に立ったまま、2002年にくらべて少し背が高くなっていた恋人の頬に、両手を伸ばした。 「何? どうしたの?」 「何でもないデス。じっとしていてください」 目を閉じて、しばらく「3年越し」の感触を、かみしめた。 「“やっと会えた”」 「そんな大げさな……」 ゆっくりと目を開けて、そこに確かに立っている「今の笹原」を見つめて微笑む。笹原は意味が分からないなりに、いつもの優しい笑顔を返した。 やはり、愛おしくてたまらない。 今度こそ荻上は、笹原の頬に当てていた手を、その首に巻き付けた。 「お、荻上さんッ?」 「ここで……いいですから、一緒に居てください」 2人は玄関のフローリングの上にゆっくり崩れ落ちた。 <完>
【もう一つのエピローグ】 いつの時代かは分からない。 そこが今もサークル棟として役割を果たしているのかも、分からない。 ただ、その中は昼なお暗く、物音一つしない。 304号室、「現代視覚文化研究会」とプレートが貼られたドアの前に立つ人物がいた。猫背でなで肩、メガネの奥の瞳が黒く輝く。 「新しい未来がより良いものになるのなら、僕は協力を惜しまないつもりだよ……」 男はドアに向かって語り掛ける。手を伸ばすが、彼とドアとの間には、大きな板材が十字に打ちつけられ、封印されていた。 「……その未来が来れば、このドアも開かれると思うから」 ザアァァァァァァァーッ!……外の木立が風に吹かれて葉を揺らす。 「また、風が吹くな……」 ドアの前に立っていたはずの初代会長の姿は、すでになかった。 <完>
497 :
せんこく :2006/03/02(木) 21:47:04 ID:???
あ〜誤字があちこちに……。スミマセン、読み流してください。
498 :
マロン名無しさん :2006/03/02(木) 21:55:16 ID:VOKwlhTY
>>せんこくげんしけん3 リアルタイム乙です!!とにかく面白かった。 読んでると、頭の中に映像が広がっていくのを感じました。 懐かしさもあり、また、今の良さにも気づかせてくれる。 細かい設定も光ってますね!! (包帯娘、北川さんのサークル削減など) 荻上さん…斑目… SSスレ読んでて本当に良かった。こんな話に出会えたから。 スレ汚しなんてとんでもないです。これからも是非書いてください。
499 :
あとがき :2006/03/02(木) 23:17:18 ID:???
「先刻現視研」ようやく終わりました。 この話を書き始めたのは、単純に「今の斑目vs昔の斑目」を妄想したためなのですが、書いていくうちにネタがドンドン膨らんでしまいました。 どうせタイムトラベル物にするのなら、出来る限り「原作本編」にリンクさせちまえ、と。 実はお話の最後は、(9/10)の部分で幕引きにするつもりでしたが、荻上にとってのクライマックスは、笹原との「3年越し」の再会を果たす場面だと思ってエピローグを書き足しました。 また、書きはじめたころの落としどころとして考えていたのが、最後の「もう一つのエピローグ」の方で、入れる予定なかったですが、こっちも投下しちゃいました。 87年当時には既に会長だった初代の正体を考えると、「この世のものではない」という妄想が働きます。そのため都合のいいタイムマシン代わりになってもらいました(汗 このラストでの封印部室はご存知1巻のアレです。 もし本当に「いい未来」が来たとしても、ソレは別の時間軸の未来になってしまうので、初代がラストに向き合ったこの部室は、このままなのですね。それでも初代は、皆の幸せのために、ほかの時間の現視研のために、ちょくちょくと顔を出してくれるのです(涙 私自身は、「11人いる!」のような発展的な形での封印がいいなぁと思います(あの時間軸にも初代は現れたのです。資金を提供しにw)。 長々と失礼しました。 駄文におつきあいいただき、ありがとうございました。
ぅおつかれ様っす! なんかマンガ読んであとからその場面を思い出すよーに、自然に絵が頭に浮かんできますた。 「今」に戻って笹の頬に手を当てる荻がサイコーにかわういデス。 誰かホントに絵にしてくれんかなー。 しかし初代会長、ますます人外のナニかになってるなぁ。
>せんこくげんしけん うおっつ!いいですな! 三年ぶりの再会は凄くいいシチュエーションだわなー。 私は初代をコンピューターにしてしまった手前、この初代に文句をつけられるわけもなくw その正体は最先端技術か、はたまた人外の存在か・・・。 はっ!もしかして蟲か!?(蟲師面白いです、すれ違いすまん) とにもかくにもうまくまとまっていたよかったです。また次回作、期待します。
しかしながら、レス500の時点で容量400kオーバーとはね・・・。 投下量、多くなってやいませんか!!??ww
>せんこくげんしけん 面白かったww なんとなく「ハウルの動く城」のソフィーの「未来で待ってるから」 ってセリフ思い出した。 初代会長人間でつか・・・。もう原作で人間じゃないって言われても、驚かないと思う。
504 :
マロン名無しさん :2006/03/03(金) 01:54:25 ID:De4YPq0C
次の新刊はいつ出るんですかねぇ
>せんこくげんしけん 荻上さんのダブル斑目ワープにワロタ。 俺の場合は「パタリロ!」を思い出した。 (パタリロは、タイムスリップして出会ったご先祖様や、タイムマシンでやって来た子孫とヤオイしようとした)
>>せんこくげんしけん3 ついに完結!長編、乙でした。 やー、面白いですね。ギャグあり笹荻萌えあり、斑目萌えあり。 また他にも是非、書いてください!
仕事中にSSネタを思いついた。 今長編を書いてるんで、そっちまで手が回らない。 もし希望者がいらっしゃったら書いてみて下さい。 その1「花嫁の父来襲!東京大ピンチ!」 ある日、荻上さんが部室に携帯を忘れていく。 それにげんしけんメンバーが気付いたちょうどその時に着信が。 面白がって恵子が出ると、相手は荻上さんの弟だった。 いろいろ話すうちに、笹荻やっちゃったことをポロッと言ってしまう恵子。 だがその時、荻弟の後ろで荻父が聞いていたからさあ大変。 怒れる荻父、笹原をぶん殴ると宣言して東京へ進撃開始。 (ちなみに荻父は「ハガレン」の肉屋の旦那似の強面のマッチョマン。背が低いこと以外、荻上さんとの外見的共通点は無い) 携帯を取りに戻った荻上さんも交えて、部室は荻父対策本部状態。 でも東京に着いた荻父は高血圧でぶっ倒れ、偶然通りかかった笹やんに病院に運ばれる。 すっかり笹やんを気に入ったところで笹やんの正体が発覚。 だが荻父は「朝昼晩、食前食後に子作りに励んで、早く初孫を抱かせてくれ」と懇願する。 荻父の気迫に押されて、つい「ご期待に添うよう頑張ります」と宣言してしまう笹やん。 そこへ連絡を受けた荻上さんとげんしけんメンバーが駆け付け、笹やんのやりまくり宣言に全員赤面でオチ。 その2「オタクはつらいよ」 咲にキッパリ振られた斑目。 自分を見つめ直す為に旅に出ることを決意。 会社を辞め、わずかな貯金をはたいて秋葉原でオタグッズを仕入れる。 そして全国を旅しつつオタグッズを売り歩く、アキバ系テキヤとして再出発。 …ごめん、こっちはこの先考えてない。
>せんこくげんしけん 最終回は【絵になる】場面が多かった 荻チンが笹ヤンの頬に手を当てる場面(イイ!)とか (いつかまた会えますように)から3年ごしの(やっと会えた)とか 斑×斑へのワープとか パチモン筆頭by斑目とか(これ絵で見たいゾ) >オタクはつらいよ 全国を旅してオタグッズを売るですかw で、マドンナと出会って速攻失恋。斑目せつねぇな 文才があれば書きたいと思った。無理だけど(ゴメン
>>507 >「花嫁の父来襲!東京大ピンチ!」
何? その使い古された王道パターンは?
そだ |------、`⌒ー--、
れが |ハ{{ }} )))ヽ、l l ハ
が |、{ ハリノノノノノノ)、 l l
い |ヽヽー、彡彡ノノノ} に
い |ヾヾヾヾヾヽ彡彡} や
!! /:.:.:.ヾヾヾヾヽ彡彡} l っ
\__/{ l ii | l|} ハ、ヾ} ミ彡ト
彡シ ,ェ、、、ヾ{{ヽ} l|l ィェ=リ、シ} |l
lミ{ ゙イシモ'テ、ミヽ}シィ=ラ'ァ、 }ミ}} l
ヾミ  ̄~'ィ''': |゙:ー. ̄ lノ/l | |
ヾヾ " : : !、 ` lイノ l| |
>l゙、 ー、,'ソ /.|}、 l| |
:.lヽ ヽ ー_ ‐-‐ァ' /::ノl ト、
:.:.:.:\ヽ 二" /::// /:.:.l:.:.
:.:.:.:.:.::ヽ:\ /::://:.:,':.:..:l:.:.
;.;.;.;.;;.:.:.:.\`ー-- '" //:.:.:;l:.:.:.:l:.:
510 :
マロン名無しさん :2006/03/03(金) 16:31:55 ID:AY/XJbMs
>>507 その1おもしろそうですね。ワシも今自分のSSで手一杯なので、誰かかいてください。
でも、その2は…ちょっとおもいつかない。
>>508 絵板で「せんこくげんしけん」の挿絵的なもの描かせてもらってます。
作者の方、ありがとうございます。
>>パチモン筆頭by斑目とか(これ絵で見たいゾ)
その設定もらった!今日中にかけたらうpします。
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、 姓は班目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 どうせおいらはヘタレなオタク わかっちゃいるんだ春日部さん いつかアンタを見返すような マシな男になりたくて 奮闘努力の甲斐もなく 今日も稼ぎを 同人漁りで散財だ 散財だ〜 秋葉でオタグッズを大量に仕入れた班目は、アキバ専用服を颯爽と羽織って旅に出た。 電車賃をケチって大船から歩きはじめ、やがて三浦海岸の西の岬までやってきた。 「だいぶ過疎化が進んでるんだなぁ」 コーヒーショップでひと休みのつもりが、カフェを営むアルファさんなる癒し系美人に一目惚れ。 優しく応対してくれることで班目の期待は高まるが、アルファさんがA7M2人間型ロボットだと知って、恋はかなく散るのだった。 完
>>511 >アルファさんがA7M2人間型ロボットだと知って
逆に萌え上がるんじゃね?
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、 姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 言葉掛けようと心の中じゃ コマンド選んでいるんだよ 無視をされても小芝居打って 上手くその場を切り抜ける 演技で男がモテるなら 代々木に通って 声優コースを目指すのに 目指すのに アキバ系テキヤとして、猫実工科大学の学祭で出店を開いた斑目。外国人留学生と思わしき女性・ベルダンディが斑目のオタグッズに「かわいいですね」とイノセントスマイル。「まるで女神だ」斑目一目惚れ。 しかし、「女神のような彼女」は本当に女神という高嶺の花であり、しかもプラトニックに愛する男・螢一がいると知って身を引き、恋はかなく散るのであった。 完
テンプレ化吹いた。
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 海に行っても日焼けはしない オタクにゃオタクの道がある ヤンキーの揉め事他人の素振り そんな目するな後輩よ ツルペタ属性といいながら 咲の水着は〜 咲の水着は見たいんだ 見たいんだ アキバ系テキヤの今回の旅先は埼玉県浦和市。高校球児の練習をボーッと眺めていたところ、打球が当たり気を失う斑目。これをきっかけに西浦高校の野球部と知り合う。 斑目はモモカンのナイスバディよりも、かいがいしく介抱をするマネージャー藤岡千代に「血の繋がらない妹」を連想して一目惚れ。 しかしロリコンと誤解され、モモカンの必殺甘夏潰しを股間に喰らい、恋はかなく散るのであった。 完
あ、名前間違えた[篠岡千代]じゃった。
おまえらすげえなw
>>517 スミマセン1人でやってシタ。
ヒマじゃないんですけどネ。
>モモカンの必殺甘夏潰しを股間に喰らい、恋はかなく散るのであった。 斑目テラムゴスw
>ロリコンと誤解され まごうことなきロリコンです 疲れました。あとはたのむ
>>518 どうせなら全連載の制覇を望む。ガンガレ
>>518 ショートコメディーの才の輝きを見た!
たまに書いて〜
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 二次元愛する精神は 三次元より高次元 現実がゲームに敵うものかと 強弁するのがオタクのプライド でも二重三重に隠された 最後の砦は〜 最後の砦は棚の裏 棚の裏 アキバ系テキヤ繋がりで紹介された関西は平方市のメガネ喫茶「委員長」で期間限定 店内販売に挑戦。そこで出会ったロリ、オタ、プー三拍子揃った青年大森カズフサに 妙な親近感とライバル心を抱くと共に、その傍らの天使のような女性に一目ぼれ。 カズフサに思い切って仲介を頼むも、何と彼女は本物の天使、恋ははかなく散ると共に カズフサにもまんざらでない幼馴染がいると知り、「幼馴染」の響きにさらに古傷は開くのだった 完
無茶いうなw
526 :
マロン名無しさん :2006/03/03(金) 20:46:52 ID:AY/XJbMs
>>オタクはつらいよシリーズ ふ、腹筋が痛い…!!!(爆) 笑い死ぬところでしたよどうしてくれる。 できればまだまだやってください。最高。 常に玉砕する斑目ぇ…(笑泣)
527 :
518 :2006/03/03(金) 21:10:29 ID:XTUEzuVw
>523さん、テンプレ引き継いでくれてありがとうです。 >最後の砦は棚の裏 腹かかえて笑いまスタ このテンプレ考える際も、歌が楽しかったんですよね。 長編の頭を楽しく切り替えることができました。
528 :
523 :2006/03/03(金) 21:16:28 ID:???
>>527 いやお蔭様で楽しく作らせてもらいましたw
秀作ってテンプレですなぁ。
皆さんもやりましょうwハトよめは難しいけど;
凄いなーせんごくげんしけん。 初代がその扉を開く事が出来たら…その先にあるものは何なのか…ゾクゾクするよ
昨夜、毒落としの終わったSS書き人がやってきましたよ。
>>507 その1「花嫁の父来襲!…」
面白そうだけど、僕がやって良いんでしょうか?向いてない気がする…
日常風景笹荻か、重い過去掘り下げかしか書いてないし。。。
その2「オタクはつらいよ」
コレは難しいっぽいな〜 と思ったら、短編シリーズ化!!
すげーーーーー どれもGJです!!
>>525 江古田ちゃんはだめですか、そうですか。
オタクはつらいよ、GJ!
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 就職活動疲れていたが 眼鏡をチェンジで気分変え〜 それでも咲には笑われまくり 服屋に特攻 空気に負ける それでも何とか買っては来たが 後〜輩に〜 後〜輩に食われまくり〜 正月のにぎやかな初詣客を相手に神社でオタクグッズを販売していたが場違いの商品に総スカン。 そこに現れた若い巫女さんにその格好もあってか一目惚れ。 しかし15歳のその巫女さん、神社の息子さんと付き合っているという。 ばれたら色々大事らしく、自分の想い云々で大事になるのを恐れ、 その子の事を思って身を引き、その場を去る。心にやるせない想いを抱えながら。 完
534 :
533 :2006/03/04(土) 02:07:23 ID:???
今アフタ読んでたら書きたくなっちゃった。 ごめんね。
楽しい流れブッタ義理でもうしわけありません。 荻上が幸せになれば満足するとばかり思ってました。 時間がたつごとにジリジリと違う感情がにじり出てくる。地球温暖化より、 荻上の心の救いに対して自分の無力ぶり(当たり前)がきつい。 笹原と木尾神に見事なセリフで(それも当たり前なんだが)救われた事の方 が口惜しい。はっきり言って憎らしい。 そういう気持に向き合った作で、禁断のオリキャラ登場、おセンチ上等なん で、気に入らない人はスルーしてください。 ちなみに、オリキャラに感情移入が入ってますが、キャラ設定と私は無関係 です。タイトルとイメージはスキマスイッチの「奏」から。17レス投下予定 です。
笹「じゃあ・・・家に着いたら、また電話するよ・・・」 荻「・・・はい・・・待ってます・・・」 荻上の家の玄関前で、笹原と荻上の二人は言葉少なに、うつむいて照れくさ げに会話した。 笹「それじゃあ・・・」と笹原が言うと 荻「あ・・・」と荻上は名残惜しげに言葉を発した。 笹「ん?」 荻「いえ・・・何も。気をつけて・・・」と顔を赤らめて、改めて笹原を送 り出した。 笹原を送り出した後、荻上は部屋に戻り、先ほどまでいた笹原との時間の余 韻にひたっていた。まだ、そのぬくもりと、においを覚えていた。部屋にも さっきまでいた笹原の気配がなんとなく感じられる。さっきまで笹原が座っ ていたソファーに目をやる。 (ついさっきまで・・・) 荻上は先ほどまでの、自分と笹原の行為を思い出し、顔を赤らめた。とて も・・・とても・・・優しかった・・・。こうなった事に後悔は無かった。 むしろ、自分が受けた喜びに応えられた事が嬉しかった。 (本当に嬉しかった・・・) 笹原が自分のイラストを見た時、笹原が言ってくれた言葉が何よりも嬉しか った。今まで自分を縛り付けていた呪縛から解放してくれた、そんな感じが した。今まで、自分の身勝手で呪わしい妄想が憎かった。それをやめる事も できない自分が嫌いだった。
『自分がモデルとはいえ』 『ひとつの完成されたキャラクターのように思える』 『キャラクターへの愛に溢れている』 笹原のこの時の言葉は何度でも反芻して思い出せる。その時の表情、声、何 度繰り返し繰り返し、思い返したことだろう。 けっして・・・けっして・・・弄んだわけではなかった・・・わたしの中の 『別の』それはわたしの中で、わたしの愛によって、生まれたものだった・・・。 そう言ってくれた・・・。 荻上は涙を薄っすらと浮かべて、イラストの原稿を手にとった。 (痺れるような開放感と、許された事への歓びをけっしてわたしは忘れない。 次に彼に会った時、何を話そう・・・)
笹原もまた、帰路の途中、先ほどまでの余韻にひたりながら、歩いていた。 二人ともたどたどしく、ぎこちなかったが、気持を分かち合った実感があっ た。お互い、あまり不慣れな事を気にかけたりはしなかった。むしろ抱き合 ってる時間の方が長いくらいだった。自分の手の中で、安堵の表情を浮かべ る荻上が可愛らしく愛しかった。 荻上の喜ぶ顔を見るのが好きだった。また、喜んでもらえる事が自分の幸せ でもあった。でも荻上に対して言った言葉はけっして上面で言ったものでは 無かった。あのイラストは真剣に鑑賞して、真剣に感じた事を伝えたのだっ た。その方がいいと自分で判断したから。その結果がどうなるかに不安はあ ったが・・・。 (結局のところ・・・あれでよかったんだよなあ・・・)
(なんにしても・・・みんなには世話になったな・・・とりわけ一番世話に なったのは斑目さん・・・)(汗) でも何て言おう。詳しく説明するとどうしても、あのイラストの話にぶつか るし・・・。 (言えない・・・見せられない・・・)(汗) 笹原は斑目には機会があった時に、伝えようと思った。これから色々忙しく なるし、荻上さんから他のメンバーには伝えるということだから、そのうち 斑目さんの耳にも入るだろう!と一人で納得した。 (とりあえず・・・次にあった時には彼女と何を話そう・・・) 笹原の関心は次の荻上との出会いに移っていた。
一人一人、ちょくちょく顔を出す事はあっても、合宿に参加した主だったメ ンバーが部室に一同に集まるのに二週間がかかった。といっても、卒業を控 えた男性陣は忙しく、なかなか顔を出せない。笹原も研修が本格化して不在 だ。いるのは現役の荻上、大野、朽木、めずらしく咲、そして昼休みにほぼ いる男、斑目であった。 荻「大野先輩!いくらなんでも職務怠慢ですよ!やっと顔出して・・・。会 長なんですよ!大野先輩は!」 大「まあまあ(汗)そんなに怒らないで・・・。けっこうコスプレのイベン ト続きで・・・。まあ、荻上さんがいれば安心ですしー」 と、大野は怒りをあらわにする荻上の顔を恐る恐る覗き込んで、えへへと愛 想笑いを浮かべた。 咲「あたしも久しぶりだねー。最近、忙しくて・・・くたびれたよ。ここ落 ち着くんだよね。」 咲は疲れた顔をして言った。
荻「でも、今日春日部先輩に会えて、ちょうど良かったです。田舎から友人 が遊びにくるんですけど、東京のスポット不案内なんで、教えてもらえたら と思いまして・・・」 咲「あーそーなんだー。でも何で?あたしに聞くより、よっぽど大野とかの 方が詳しいんじゃないの?」 荻「いえ・・・あの、腐女子じゃないんです。オタク趣味もありません。」 咲「へえ・・・でもどちらかといえば、詳しいのはファッションとか飲食関 係かな、女だけで遊ぶレジャースポットねえ・・・。参考になるんなら、少 しくらいは・・・」 と、咲は意外そうな顔をしながらも、親切に荻上に教えてあげた。
荻「ありがとうございます」 咲「お役に立つかどうかは分からないけどね。でも、偏見は無いけどちょっ と意外だね、荻上に『一般』の友人がいたなんて」 荻「いえ・・・高校時代にちょっとこの手の趣味から遠ざかっていた時期が ありましたから・・・その頃に親しくしていた友人で・・・少ないんですけ どね・・・」 と声が小さくなる。 咲「ああ、なるほどね」 と咲は昔の事情を察してそれ以上深くは聞かなかった。 斑「それにしても急だね、そのお友達も。夏休みでも無いのに。学生さん? なら割と自由だけど。よく遊びにきてたんだ?」 荻「そうです、大学生です。でも初めてですね、わたしが東京にきてから、 遊びに来たのは。都会が嫌いなんです、その子」 (そういえば・・・そうだ。急に一体どうしたのだろう・・・) 斑目に言われて、初めて荻上は不思議に思った。とにかく近々彼女は来る。 その時には笹原も一緒に来てくれるという。二人を無性に会わせたいと思う。
その日の夕刻、『彼女』が上野駅の改札口に姿を見せ、荻上に向かって手を 振った時、荻上のそばには笹原が緊張の趣きで立ち尽くしていた。『彼女』 が着く前に、二人はこんな会話を交わしていた。 荻「こんどこそ、笹原さんの事を『彼氏』って紹介します。もちろん本当の 『友達』にです。」 笹「夏コミの時には本当に付き合っていたわけでも無いし・・・。そんな気 を使うこともないよ」 (『本当の』友達か・・・) 夏コミで出会った中学の友人が荻上とどういう関わりを持っているかは、そ れとなく聞いてはいた。荻上にとっては重要なことなのだろうと、笹原は思 った。
友人の『律子』って言います」 律「初めまして。律子と申します」 笹「えっ!律子さん!くじあんの『会長』と同じ名前ですね!」 律「はっ?何ですか、それ?」 笹「えっ・・・いや、その・・・アニメの登場人物の名前と一緒だなと・・・」 (しまった・・・『一般人』って言ってたっけ・・・うっかりした) 律「・・・そうですか・・・。」 律子はジロジロと観察するような目で笹原を眺めた。 荻「んで・・・紹介すんね。電話でも話した通り、『彼氏』の笹原さん。最 近、付き合い始めたんだけどね。」 笹「よっよろしく、笹原です。先ほどは失礼しました」 律「・・・いえ、気にしてませんから。んでさ、オギ!今日はおめんちさ泊 めてくれんだべ?美味しい店に連れてってくれんだべ?」 荻「急に押しかけてきて、ずうずうしい!」
二人はお国言葉で楽しそうに話始めた。律子は笹原に見せた素っ気無い態度 とは違って、荻上に対しては笑顔で話し掛けている。律子の顔立ちは端正で、 体の小さい荻上と対照的に女性にしては背も高い。理知的な面立ちで、意志 が強く、インテリそうな雰囲気を持つが、北川のようなキャリア志向という 風情は無く、物腰は柔らかい。あっけらかんとした東北弁が一層親しみを増 す。それなのに笹原に対しては、敵意があるのではと思わせるくらい素っ気 無い。 (俺・・・なんかしたかな・・・。第一印象が悪かったかな・・・くじあん の『会長』はまずかったか・・・) と笹原は落ち込みながら、二人の後に付いていった。
咲に教えてもらった、飲食店に三人は夕食を食べに行った。 律「やっぱ、東京は人多いね。ゴミゴミして殺伐として、長く住むところじ ゃないね。卒業したら、こっちさ戻ってくんでしょ?」 荻「そんな事、分がんねって!」 そう言いながら、荻上は笹原の顔をチラチラと覗き込んだ。笹原はそれに気 付いて、顔を赤らめた。律子もそれに気付いて不機嫌な顔になった。 律「そうだね!そしたら、明日の話すっぺ!どこさ行ぐ?」 荻「んー、どこがいい?」 律「どこでもいいよ。笹原さんはどこが楽しいか知ってますか?」 笹「んー、秋葉原ぐらいしか詳しくなくて・・・」 律「ああ・・・、わたしダメなんですよね。アニメもジブリぐらいしか見ま せんし、漫画もあんまり読まないんですよね。同人誌ってのも見たこと無い ですね」 笹「だっだろうね・・・。興味なければ、つまらないだろうね」 荻「じゃあ!遊園地にしましょう」 二人の気まずい様子に気付いて、助け舟を出した。 笹原も話題を切り替えた。
笹「荻上さんとは高校で一緒だったんですか?」 律「・・・ええ。公立の女子高で・・・。必ずどこかの部に所属する校則が あったので、美術部で一緒になりました。もっとも、中学も一緒でしたけど、 親しくなったのは高校からですね」 笹「へえ、荻上さん、美術部だったんだ。絵巧いものね」 律「そう、漫画になんか才能費やすのもったいないくらい、素質ありますよ。 まあ、漫画も悪くは無いでけど、所詮(しょせん)サブカルチャーですから ね。ああ、ごめんなさい、笹原さん漫画の編集者になられるんでしたね」 笹「はっはあ・・・」 (うわー、かつての春日部さんより取りつく島も無い・・・。表面の態度が 丁重な分、春日部さんより怖い・・・) 荻「・・・・・(汗)」
和やか?な食事が終わり、二人は笹原と別れて、荻上の家に向かった。荻上 の部屋で、二人は思い出話や最近の出来事について、夜遅くまで語り合った。 律「こうして、泊り込んで話したの、高校の修学旅行以来だよねー」 荻「んだね」 荻上は律子と知り合った頃の事を思い出していた。中学でも一緒だったが、 親しくは無かった。結局、アレ以来中島たちは荻上に対して、後ろめたさも 手伝って荻上に親切にしたが、以前の気さくな関係には戻れなかった。 高校に進んで、中島たちグループとは別々の高校になった。一部は一緒の高 校に進んだが、自然と疎遠になった。そこで律子と親しくなった。律子も何 故か努めて友人を多く作ろうとしなかった。 地元の老舗の酒造メーカーの娘で、県議も出す家に生まれていながら、どこ か冷めていた。ただ、威厳を感じさせる物腰に、周囲に一目置かれていた。 そんな彼女が何かと荻上にかまうのは、荻上自身には不思議であった。 一度だけ、修学旅行で旅館に泊まった時、誰かが自分の頬をさするのに気付 いて、夜中に目を覚ました荻上が薄目をあけると、自分の顔を寂しそうな表 情で見つめる律子に驚いたことがあった。体をこわばらせて、寝たふりをし て、律子に気付かれないようにした。その事を尋ねた事は無い・・・。
律「あんたの『彼氏』ちょっと頼りないねー」 二人はパジャマ姿で同じベットでゴロコロ横になりながらおしゃべりして いた。 荻「んなことねよ、けっこう頼りになるんだから」 律「んだかー?彼氏だからって採点甘いんでねの?」 荻「・・・音がした・・・」 律「えっ?」 荻「あの時、ずっと、ずっと心の中に重くのしかかっていたものが、ゴロリ と転がった音が聞こえた・・・。それがわたしの中で音楽のように鳴り響い て、奏でられたんだ・・・そしてわたしの中ですべてが意味を持つようにな ったんだ・・・」 律「・・・んだか・・・。わたしでは出来なかった事だな・・・」 荻「えっ?」 律「さあ、寝るべ!明日は遊園地だしな!ガキくせな、オギは相変わらず!」 荻「なしてよ!」
翌日、都内の有名な遊園地に三人は来ていた。 荻「もう一回、あの乗り物乗っていいですか?」 律「あんた、客差し置いて、自分が夢中になってどうすんの?一人で行って こい!」 笹「俺も酔っちゃった。ここで見てるからいいよ」 荻「すみません・・・じゃあ」 荻上は一人で乗り物に向かった。まるで子供のように目を輝かせている。 律「あんな明るい目をしたオギ見たことなかったな・・・」 律子はつぶやいた。 律「笹原さん・・・中学の件、聞いてます?」 笹「まあ、細かくは知りませんけど・・・」 律「実はわたし、その中学の事件の男子に再会したんです」 笹「えっ?」 律「わたしの通う地元の大学にいました。隣県の叔母の家にやっかいになっ てるとか。ばつ悪くて地元の友達にも知らせてなかったらしいし。もう荻上 には会うなって言ってやりました。オギはずっと地元で陰口にがまんして通 ったのに・・・」 笹「そうですか・・・」 律「もちろん、オギには言わないで!傷つけたくないんで・・・。」 笹「はい」
律「趣味の問題も・・・わたしは否定的で・・・オギの人格まで否定してた ようです・・・」 笹「まあ・・・知り合いに趣味の違うカップルがいるんですけどね・・・好 きになったら関係無いみたいで・・・ははっ」 律「ずっと守ってあげられると思っていました。知り合いのいない東京に一 人で行ったって幸せになどなれるはずが無いと思っていました。だから一 緒に地元の大学に行こうって言いました。でもそれは間違いでした」 笹「?・・・・・」 律「そしてわたしが一番オギを理解していると思っていた事も・・・。もう 戻ってくる事は無いんですね」 律子はハラハラと涙を流して、慌ててハンカチで目頭を押さえた。 笹原は驚いたが、気付かないふりをした。もちろん、その事を荻上に言う気 も無かった。
上野駅の改札口に三人はいた。帰り際に律子は笹原に笑顔で話し掛けた。 律「本当にありがとうございました。ぜひ地元に荻上と遊びに来るときには、 声をかけてくださいね。お返しにいろいろ案内しますから」 笹「ええ、ぜひ。ありがとうございます」 荻「近々、必ず行くから・・・」 律子は改札口をくぐって、笑顔で手を振って、そうして振り向きもせずに歩 き出し、駅の構内に消えていった。そして笹原と荻上もまた、その姿を最後 まで見届けてから、寄り添って、帰るべき所に向かって歩き始めた。
553 :
>>507 :2006/03/04(土) 04:15:14 ID:???
言ってみるもんだなー。 まさか1日でシリーズ化するとは思わなんだ、「オタクはつらいよ」シリーズ。 あとは時々部室に帰ってきて咲と大喧嘩するとか、寺の住職になった初代会長に説教されるとか、髪をアフロにしたクッチーがテキヤの弟分になるとか、いろいろやれそうw あと「花嫁の父、来襲〜」も、あくまでもストーリーは原案ですから、どなたでもけっこうですのでやり良いようにやっちゃって下さい。 >奏 こういうオギー空白の三年間を語るキャラは、今後本編でも出てきそうな気がする。 (連載がこの先も年単位で続いたらの話だが) その意味で木尾先生メモメモな話と思う。
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 エロゲを愛するその心 深夜売りにも並びます メーカー通販もGetして 心萌え萌え生活費破綻 でも本当に欲しいのは 咲タンの拳固なんだよマゾラメ君 アキバ系テキヤとしての今回のゴトは、「バカ繋がり」で紹介された動物ワールド。 よくわからない商品で暴利を貪る社長についていって、金玉を半分失うとこでした。 夕食にお呼ばれしてみれば、そこにあるのは豆ばっか。 逃げようとした途端に社長夫人の「はとビーム」で撃墜され、次に向かうはどの作品か。 嗚呼、流浪のオタクよ何処へ行く。
花嫁の父来襲、ちょっと今夜試してみます。コメディでよろし? 例の存在が定かではない「弟」に乱入してもらいましょうか。
>奏 乙です。 律子。序盤の笹原に対する態度で、これはこれでイタい女だなと思ったけど、彼女なりに荻上の過去を救済しようと思っていたのね。 スキマスイッチが元ですか、聞いてみます。 SS書く人って、話のモチーフになったり、場面をイメージする音楽とか頭の中にあるんですかね。 801小隊はいわずもがなのガン○ムだと思いますが。もしあったら、「この話にはコレ」という曲があったら教えてください。 僕は平原綾香聞きながらSSまとめサイト読んでたら、「明日」が「となりの久我ピ」にピタリとハマって号泣しました。 もう泣かない もう逃げない なつかしい夢だって 終わりじゃないもの あの星屑 あの輝き 手を伸ばしていま 心にしまおう 明日は新しい わたしがはじまる アレに出てくる少女が久我ピーに出会って、励まされ、「夢」を持って元気に退院して行く様子がかぶりました。 「なつかしい夢だって終わりじゃない」ので久我山も頑張れ。 しかも、歌の序盤は、 ずっとそばにいると あんなに言ったのに 今はひとり見てる夜空 はかない約束 きっとこの街なら どこかですれちがう そんなときは笑いながら 逢えたらいいのに なので、なんか久我山がスゲー美化されてくるwww 僕の中で久我山と少女のフラグが立ったwww
557 :
マロン名無しさん :2006/03/04(土) 08:16:42 ID:xzEicJXb
>>554 ワロスw
もはや恋じゃないし相手も人間じゃないしw
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 会釈を無視して喧嘩にゃあなるが ほんとは嬉しいんだ春日部さん 高嶺の花だし彼氏は美形 イバラ道だと分かってる 二人でお寿司を食べつつも 金が惜しくて〜 金が惜しくてベーコンだ ベーコンだ アキバ系テキヤの今回の旅先は第二次大戦時の南太平洋(オイ!)。 「慰問萌玩具」の旗指物をしてイカダで漂流する斑目は、帝国海軍のイ-507に救助される。 秘密兵器「ローレライ」システムの中枢である日系の少女パウラに萌えるが、心を読まれてロリコン趣味が発覚。パウラの兄・フリッツエブナーによってナチSS流の折檻を受け、魚雷射出管から追放。恋ははかなく散るのであった。 完
初代会長が一枚噛んだら、アフタ連載漫画全部制覇できそうだなw 何か寅さんのパロのはずが、何時の間にかタイムボカンシリーズに…
>>554 >>558 そうきたかwwww
絶対この二作品だけは無理だと踏んでたのにwwww
じゃあ、卍とか、EDENとかもありなんだな!?そうなんだな!?
俺と悪魔のブルーズでもありですよw
>>558 >ナチSS流の折檻を受け、魚雷射出管から追放。恋ははかなく散るのであった。
恋の前に命が散りそうなんですが
>>556 >SS書く人って、話のモチーフになったり、場面をイメージする音楽とか頭の中にあるんですかね。
読んでる時は何となく「マイペース大王」とか「びいだま」聞いちゃう。「びいだま」切なくていいですね。
書く人はどうなんだろ?
EDEN版待ってるぜ!>勇者
>>560 >何か寅さんのパロのはずが、何時の間にかタイムボカンシリーズに…
いや、俺は『お笑いウルトラクイズ』だと思うw
この後誰かが書くであろうEDEN編で斑目がアイオーンに屠られたら、「いけにえ」シリーズになるが。
どの道斑目カワイソス。
>>563 自己宣伝みたいになってしまうのですが(汗)、僕が書いたのについて言えば、(タイトル/アーティスト名/収録アルバム名)で書くと
【2月号予想】
雪溶けの前に(同名曲/遊佐未森/HOPE)
夢を見た(同名曲/遊佐未森/HOPE)
【3月号予想】
点灯夫(星の約束/ZABADAK/音)タイトル元(ZABADAK/音)
夢を見る方法(マーブルスカイ/ZABADAK/桜)タイトル元(ZABADAK/Decade)
【4月号予想】
扉(同名曲/ZABADAK/LIFE)
【エロパロスレ】
スパイダー(同名曲/スピッツ/空の飛び方)
ワールドアパート(同名曲/アジカン/シングル)
【笹荻】
いくらハンター(電気とミント/PSY・S/TWO HEARTS)タイトル元なし
いくらハンターU(Sailing day/ユグドラシル)タイトル元なし
リライト(君の街まで/アジカン/ソルファ)タイトル元(アジカン/ソルファ)
8823(同名曲/スピッツ/三日月ロック)
パンを焼く(同名曲/山崎まさよし/アレルギーの特効薬)
ランプ(イメージ曲なし)タイトル元(BUMP OF CHICKEN/Living Dead)
【斑目せつねえ】
長い夜(振り向かない/山崎まさよし/STEREO2)
【げんしけんの日常】
残暑の一コマ(イメージ曲・タイトル元なし)
君という花(イメージ曲なし)タイトル元アジカン/君繋ファイブエム)
ブラックアウト(同名曲/アジカン presents NANO−MUGEN COMPILATION)
夜明けの一秒前(サンデイ/アジカン/崩壊アンプリファ)タイトル元(辻香織/光る海)
といった具合です。アジカン=ASIAN KUNG-FU GENERATION で。
【オタクはつらいよ/どうしてこんなに可愛いのかよ】 新しいターゲットを探しながら辿り着いたのは、老人世帯の多い某住宅街 そこで出会ったのは妹属性の可愛い女子高生。・・・彼女は、同高校の生徒・甘栗甘味に二度目の襲撃を企てていた 体良く彼女の道具になっていた斑目だったが、何かに押されるように土壇場で彼女を裏切り、少女は再び破滅へ・・・ やがて気付いた斑目が鏡で目にしたのは、蝗のように沸いた老人の大群に混じって甘栗を撫でていた、自分の皺くちゃの笑い顔だった 得体の知れない魔力に恐怖を覚え、足早に魔界を後にする斑目 【オタクはつらいよ/青春六畳一間】 鈴木六文を偶然助ける格好になり、礼として鈴木家に留め置いてもらえることになったテキ屋斑目。 魔法少女(悪魔)のるくに萌えながら家事手伝いの日々が始まったが、 斑目が増えたことで食生活は細っていた。 鈴木家に外の揉め事をもちこまないよう、テキ屋を据え置いてバイトを始める斑目だったが 収入をペロに持って行かれ、妹キャラの諸刃を思い知らされる格好となる。 更にはルミエルに怒ったるくが悪魔の力を発動し、冗談抜きで失神に及ぶ小市民斑目であった。 【オタクはつらいよ/幻視繭】 次の交通代を省こうと、近道をした農村地帯で迷い込んだ斑目。 細身の斑目もさすがに空腹になっていた所、蟲師と名乗る男に手伝い条件付きで拾われる。 農村の少女達に萌える斑目を引っ張りながら、クライアントとの仕事を済ませていく蟲師ギンコ。 村に、やがて夜が訪れる・・・・ そしてギンコの目の前に現れたのは、斑目の周辺を我が物顔に飛び回る、幻都・秋葉原で寄生した六匹の毒虫だった。 翌日、護符を斑目に渡し、街行きの駅で別れる二人。 都会にはまだまだ俺の見ない蟲共が…
>>567 うーむ元ネタの歌は分からんが、大した作品数だ。
>>567 ふと今まで自分はどのぐらい書いたかと思い、まとめスレに行って数えてみた。
リレーSSを含めて14本だった。
一方
>>567 の人は、エロパロを除いても16本。
まいりました。
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、 姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 オタクはもてない独身童貞 それがデフォだと思っていたが 気付いてみたらば回りはみんな カップル成立ばかりなり 俺には2次元萌えのほが 高次元なんだと〜 強がってみても胸痛い 胸痛い まだ東北までやってきた斑目。仙台のその手の店でも仕入れ品を漁ると 掘り出し物の蓮子たん魔改造フィギアを発見する。 その夜から夜な夜な夢に出てくるようになり、幸せな夢の中での 夫婦生活に「俺にはこれが良いのかもな」と思い始める。 縁日で萌えグッズを売っていたある日、小学生の妹を連れた 中学生の女の子に呼び止められる。 ドギマギしながらその子についていくと、お爺さんにお祓いされてしまい 蓮子たんとの悲しい別れと、魔改造フィギアを姉妹に見られる羞恥プレイに 涙が止まらない斑目だった。 完
572 :
マロン名無しさん :2006/03/04(土) 17:31:48 ID:jXylRmNo
>>オタクはつらいよシリーズ 替え歌がどれも最高。 そしてやっぱり常に可哀想な斑目ぇ……もう大爆笑です(オイ) >>奏(かなで) 原作では一気にすくわれたオギーですが、まだ中島が出てくるかもとか、 伏線昇華しきれてない感がありますからね。また過去話、ありそうな気がする。 斑目の数年越しの恋も、長くなりそうな予感あるし。 「今月に限らないけど、キャラ攻略したくなる感じ? そう『俺はむしろこっちを幸せにしたいんだ!』」 この連載、まだだ、まだ終わらんよ!!(願望) ところで私も最近書き始めたSS書きですが、私の場合は音楽からよりも、 過去に感動した漫画やアニメ、小説がベースになってる…たぶん。 あとは、自分の経験とかも少し入ってます。 でも、音楽を聞いて「あ、この歌、斑目っぽい!!」と思うことはあります。 「卒業式当日」書いたときは、コブクロの「さくら」をイメージして書きました。 もう、めっちゃいい歌ですね…泣きそうになる。 特に「斑目の心情」と思って聞くと。(感情移入しすぎ…?) あとは山崎まさよしの「僕はここにいる」とか…すごくせつない。 「いくらハンター」書かれた方は、音楽がすごく好きなんですねえ。 書かれたSSを読むと、歌の歌詞のように流れるようなリズムや情感がつたわってきます。
初斑目話。やっつけ風味。たぶんエンドレス。と、いうことで。 「♪〜」 鼻歌を歌いながら斑目は現視研の部室へ向かう。手にはコンビニの弁当。いつも通りの日常…になるはずだった。 くい。 サークル棟の入り口をくぐったとき、何かにすそを引かれた。振り返る。誰も居ない。 くいくい。 また引かれる。視線を下げると、そこにはかわいらしい少女がいて、こちらを見上げている。どこか見覚えのある顔。 そしてその少女は満面の笑みを浮かべると、こう言った。 「お父さん♪」 「ちーす」 疲れきった顔の斑目が部室のドアを開ける。珍しい事にフルメンバー揃っている。 もの言いたげな視線をあえて無視して、無言のままパイプ椅子を引くと深深と腰掛ける。 「お父さん、だっこ」「はいよ」 少女をひざの上仁抱き上げる。少女の満面の笑み。精魂尽き果てたような斑目。沈黙が流れ、そして沸騰した。 「「「「「「犯罪だーーーーー!!!!」」」」」」 少女はきょとんとしている。斑目の返事は無い。ただのしかばねのようだ。
とりあえず、少女を女性陣にまかせて、斑目を詰問する。 「誰なんですか、あの子?」 「知らん。むしろ教えてくれ」 「そんな無責任な」 「あのな、俺が全く何もしなかったと思うのか?」 「警察呼びましょう」 「笹原…お前が普段俺をどんな目で見ているか、よくわかったよ」 「違うでしょ。まずは彼女の両親を探さないと…朽木くん、こっちに来て」 「!…ハイ…」 密かに少女の方に移動していた朽木。 一方、少女の方は… 「えっと、お名前教えてくれるかな〜」 「まだらめ よーこです」 「何歳ですか?」 片手を広げて差し出す。 「お父さんとお母さんの名前は?」 「え〜と、はる、の、ぶ、おとうさんと、さきおかあさん!」 「へ?」 呆ける咲。そんな彼女の顔をまじまじと見て、少女は言う。 「あ、お母さんだ」 「…つまり、あの子は私とあんたの子供、というわけね」 「…」 「あんたの子供を産んだ記憶なんて全く無いんだけど」 「こっちもねーよ」 疲れきって、半分魂の抜けた様子で会話する斑目と咲。 少女は他の4人と遊んでいる。朽木は撮影中。少女がこちらを向いて手を振る。2人は思わず手を振り返す。 「高坂が子供好きとは知らなかったな…」 「…」 咲はまっすぐに高坂を見つめている。その姿は酷くきれいで、残酷だった。
「まったく、何なんだよ、これは…」 「夢だよ」 斑目の呟きに答えが返る。時が止まる。世界が凍る。 「これは、ただの夢。ありえた世界とのありえない交差。そこには何の意味もない」 振り返ると初代会長がたっていた。 「人は選ぶ事、選ばない事で人生を築いていく。選ぶ事は何かを得て、何かを失う事。選ばない事は何も失わず、何も得られない事。選択肢は多数あって、可能性は限りなくて、時間だけが有限」 「いったい、何を言って…」 「君は何を望むのかな?…」 世界が溶ける。混ざり合ってぐるぐるまわって一つになって…消えた。 「って夢オチかよ!!」 叫びながら斑目は跳ね起きる。カーテンの隙間から差し込む朝の光。昨日と同じままの自分の部屋。 「なんか変な夢をみたような…寝る前に読んだ本が悪かったか?」 枕もとの本に目を向ける。 「まあ、いいか」 呟くと、大きく伸びをして立ち上がる。カーテンを開ける。ついでに窓も開けてみる。 朝の冷たい空気を吸い込み、斑目は決意する。 「よし、今日も弁当もって部室に行こう!」
以上です。
577 :
マロン名無しさん :2006/03/04(土) 18:19:40 ID:jXylRmNo
>>こんな夢を見た リアルタイム乙! (最近こればっかり言ってる。あわわわ) 斑咲!斑咲!斑咲! 斑目スキーにはなんとも幸せな夢でしたよ。 さて、斑目は夢を現実にできるのか? 斑咲話、ワシも書きたくなってきた。
>こんな夢を見た 斑目ぇぇぇぇ ショートですけど、まとまってますね。いいっすね。 ある意味、夢オチでよかったw 最近、人外の初代会長が怖くて、怖くて。 まとめてで恐縮ですが、感想ありがとうごさいます。でも読み返してみたら、 投下ミスと誤字が一つづつあったし(汗)精進が足りません。 >SS書く人って、話のモチーフになったり、場面をイメージする音楽とか頭の中にあるんですかね 俺はけっこう、イメージの増幅に聞きますね。でも必ずしも歌詞の内容と一致はしないですね。 奏(かなで)も駅での男女の別離、遠距離恋愛がテーマだけど、要所要所の歌詞が登場人物の 心象を表現していると思えれば、使っちゃいますからw >寅さんシリーズ すんげえ、面白いw なんでこんなに斑目とイメージ符合すんだろw >作品の数 何作俺も書いたっけ・・・。けっこう色んなジャンルに挑戦したから・・・ フォルダーの数見て自分でドン引きwww
>>578 ども、「オタクはつらいよ」の原案出した者です。
発想の発端の解説を少々。
ここでも本スレでもたびたび見かける展開予想に、高坂とのことで悩む咲ちゃんを斑目が励ましたり慰めたりして、結局高咲結ばれるというのがあります。
これって昔でいえば、チャップリン(この場合は山高帽にちょびひげの放浪の紳士チャーリー)や寅さんの定番パターンです。
そんなことから、もし斑目が咲ちゃんとのことに決着付けたら旅に出るのではと予想し、こんな企画となりました。
>こんな夢を見た たぶん、この後部室に行くと・・・。 というような展開を想像してね。あはーは。 >寅さん だれかっ!江古田ちゃんをっ!!江古田ちゃんをっ!! >作品数 リレー入れると二十以上書いてることに辟易。
「オタクはつらいよ」で シャドウスキルと爆音列島をリクエスト。
>>570 元ネタ、やっぱりマイナーですよね…半分以上が…。
>>571 山崎まさよし「僕はここにいる」一番好きかも知れません。
振られたあとの斑目には「One more time,one more chance」「名前の無い鳥」が似合いそうでは…。
リズムや情感…お褒めに預かり光栄至極です!!(照)
しかし代表作はやっぱり「いくらハンター」なんですね。他の方にも言われましたが。
>>578 僕なんて短いのが多いし、ひよっこというか…他のSS書きさん方、素晴らしいです!
あと実体験を元に書く事が多いんですが、歌詞のイメージを借りると良いこのも多いですよね。
>>580 多作な方が、けっこういらしゃいますよね。少なくとも、5,6人以上は。
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 「右手をケガすりゃオ○ニーができぬ」 ツッコミ入れてよ春日部さん 大ケガしてても気分はハイよ 何故といわれりゃ「冬だからな!」 タンカに乗せられ運ばれて 意識が飛んでも いい物(←同人誌)だけは二冊買え 二冊買え アキバ系テキヤはついにジャパ二メーションブームに乗って海外営業を実現。パリ(ただし未来)を訪れる。貴族のボンボン・アルベールと知り合い社交界でのオタグッズ販売に漕ぎ着けたが(いい加減キツイなぁ)、モンテ・クリスト伯爵の連れていた美少女エドに一目惚れ。 復讐の邪魔だと伯爵の逆鱗に触れ、エドモンダンテス同様に、死ぬことも許されない宇宙流刑の目に……もはや恋が散るとか、そんな事を言っている場合ではなく逃亡を図る斑目に、力を貸そうと“屁理屈王”が契約を迫る。はたして斑目の運命は? 待て、しかして希望せよ!
>巌窟王 しもた!先を越された!でも「屁理屈王」面白いからおK 屁理屈王「わたしの友人、斑目がオタク道の業に堕ちる姿が わたしを至上の歓喜に包んでくれます。おお、 その哀愁の表情をもっと!もっと!」 なんちゃって
アザーを書きたくなった。585よ、すまん。 「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、 姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 「俺がいたんじゃ イチャイチャできぬ。 わかっちゃいるんだ 妹よ(合の手:いないけどな!) いつかみんなの目が冷たくて 「げんしけん」に居辛くて 黙って食べる弁当の味もなく 今日も自問の 今日も自問の 昼休み 昼休み」 惑星ルナのカーニバルに行商に出たアキバ系テキヤの斑目は、花売りの "美少女"ペッポと隣合う。たちまち斑目の巨大なメガネが"彼女"の 「つるぺた」にロックオン。 「ねぇ、ちょっと一緒に来てちょうだい」 ウィンクする"彼女"にふらふらとついていけば、 「よ、あんちゃん」 そこは盗賊団の棲家であった。簀巻きにされて転がされる斑目。 「コメンネ」 舌を出して謝るペッポ。 「あんたも、化かされたのかい? こいつは男だぜ、アハハハ」 恋ははかなく散るのであった。
588 :
555 :2006/03/06(月) 00:10:34 ID:???
自己レス。 >花嫁の父来襲、ちょっと今夜試してみます。コメディでよろし? 申し訳ない、色々入れ込みすぎて力尽きました。明日あるのでここまで! もう数日のご容赦を〜。
>>588 いつまでも待ってます!
しかしあと50KB…微妙な容量でしょうか…?
590 :
まえがき :2006/03/06(月) 01:47:45 ID:KcNaH6QH
さて、「卒業式前日、当日」の完結編(斑咲)ようやく書けました。 残り少ない容量、不安ですが、26レスで10分後に投下。 またまた長文すいません。
591 :
卒業式から一週間後 :2006/03/06(月) 01:59:19 ID:KcNaH6QH
「卒業式当日」の続編です。 「当日」では流れを重視したので、あまり斑目の内面まで書けませんでした。 今回の話で、(自己満足ですが)三部作として「卒業式編」を完結とさせていただきます。 来月以降の原作の展開がどうなるか楽しみ…wktk ていうか、まだ斑×咲成立の望みを捨てたわけじゃありませんからね!! (玉砕SS書いといて何を言うのか。) いやでももしかしたら、と色々悩みながら…。
592 :
卒業式から一週間後1 :2006/03/06(月) 01:59:58 ID:KcNaH6QH
斑「っしゃ!今日は買って買って買いまくるぞ!!」 斑目は力いっぱい宣言した。 斑「えーというわけで、やって参りました秋葉原。 今日のテーマは『同人誌買いどこまで幅を広げられるか!?』に挑戦することですが、どうですか笹原さん?」 笹「あ、あれ?『斑目さんをなぐさめる会』じゃなかったですか?」 久「い、い、言うな!それ以上言うな!」 田「そこは流せ!全力で流せ!!」 斑「…はい、笹原のキツいツッコミでした。本当にありがとうございました。」 笹「すいません。ここは一応言っといたほうがオイシイかな〜…と」 斑「強気攻めにバージョンアップした笹原は無敵だな、ある意味。」 卒業式から一週間後の日曜日。 笹原と田中と朽木は、斑目を元気づけるつもりで集まったのだが、当の斑目はいたって元気だ。 …元気すぎるくらいだ。社会人になって少しは大人しくなったと思っていたのだが。 斑「いくぞ皆の者!欲望のおもむくままに!!」 田「あんまり大きい声出すな〜」 笹「元気ですねえ…」 久「し、心配して損した…」
593 :
卒業式から一週間後2 :2006/03/06(月) 02:00:39 ID:KcNaH6QH
「同じ穴のムジナ」についた斑目たちは、同人誌を物色し始める。 笹「あれ?斑目さん。会長本とかも買うんですか?」 斑「おう!今日の目的は『どこまで幅を広げられるか』だからな。 普段買わない属性や絵柄の本なんかも、お試しのつもりで買ってみようとおもっとる。」 笹「ははあ…さっきの宣言、本当に実行するつもりなんですね。 そうだ、会長本ならココのサークルなんかお勧めですよ。特にこの本!」 斑「………」 笹「どうしました?」 斑「つくづく立派になったよなあ笹原…昔はどんなのが好みか聞いただけでも恥ずかしがってたのに。」 笹「あー、初めのころはそうでしたね。でも今は『恥ずかしがってると損』って分かってますからね。」 斑「ふむ。それでこそ立派なオタク。もうワシに教えることは何もない。 老兵は死なず、ただ消え行くのみ。」 笹「あはは、何言ってんですか。」 斑「………」 笹「?…斑目さん?」 斑「いや、何でもない。これだな?オススメの本。」 笹「あ、そうです…ってかすでに大量の本持ってますけど…カバンに入らないんじゃ?」 斑「今日は紙袋に入れてもらうから、大丈夫!!」 笹「…ほ、ほんとに気合入ってますね…」
594 :
卒業式から一週間後3 :2006/03/06(月) 02:01:37 ID:KcNaH6QH
コミフェスばりに大量に同人誌を買った斑目。 斑「よーし、次はカラオケいくぞ!!」 久「ちょ、ちょっとまってよ」 田「おい、歩くの早いぞー」 笹「…本当に元気ですねえ…」 いつもの三倍は元気な斑目に、みんなふりまわされている。 しかし、何故こんなに無理やりカラ元気を装っているのか、皆分かっていたので、文句を言いながらもついていく。 斑「♪よみがえーる!よみがえーる!よみがえーる!ガンガル!! 君よ〜〜〜!! つかめ〜〜〜!!」 やたら熱の入った歌い方をしながら、右手で空をつかむ動作。 「♪まだ愛に〜ふる〜える〜、心が〜ある〜なら〜、 平和を〜求めて〜翔べよ!翔べよ!翔べよ〜〜〜!! 銀河へ〜〜〜向かって〜〜〜、翔べよ〜〜〜ガンガ〜ル、 機動〜戦士〜ガンガル〜〜〜〜、 ガ ・ ン ・ ガ ・ ル !!!」 笹「いつもの三倍は力入ってますね…」 田「赤い水性並みだな」 久「い、意気込みだけはね…」
595 :
卒業式から一週間後4 :2006/03/06(月) 02:02:12 ID:KcNaH6QH
斑「ちょっとトイレ行ってくるわ」 田「おう」 斑目が出ていったあと、誰も曲を入れていなかったので静かになる。 画面にはカラオケランキングが単調に流れている。 笹原は、一度切れてしまった空気のつなぎに、何か歌おうと電話帳のようなカラオケの曲目録に手を伸ばした。 田「あいつ無理してるよな、今日」 田中が唐突に言った。 笹「え?斑目さんですか?」 田「うん」 笹「…ですね。」 笹原も何となくは気づいていた。 久「……」 久我山は何か言いたそうにしていたが、黙っていた。 笹「…やっぱりこたえてたんですかね。卒業式のときには、あまりわからなかったですけど」 久「そ、そうかな。なんかいつもとは、違うと思ったけど。お、俺は。」 笹「…そうですか?」 久「な、なんつーのかなー、テンションが変だった」 笹「んんー…」 笹原は卒業式の時のことを思い出そうと、あごに手をやった。 (違和感?俺には分からなかったな…)
596 :
卒業式から一週間後5 :2006/03/06(月) 02:02:47 ID:KcNaH6QH
笹「でも、斑目さんも、何でよりによって…」 春日部さんなんだろう、と続けようとしたとき、田中が遮った。 田「笹原。お前、荻上さん好きになったとき、『何でよりによって』とか思ったか?」 笹「え、そんなことは…!」 反論しかけ、田中の言いたいことに気づき、言葉をとめる。 田「…状況とか、見込みがあるないとか、関係ないんじゃないかな。 俺や笹原はたまたまうまくいっただけでさ。」 笹「………」 (…俺も、荻上さん好きになったばかりの頃は、まさか付き合えるなんて思ってもみなかった。 斑目さんは、もっとそうだろう。出会ってすぐの頃からずっと、春日部さんは高坂君と付き合ってたんだから。 …今まで、別れ話もなく。) かつて荻上さんに言われた言葉を思い出す。 『私がオタクとつき合うわけないじゃないですか』 (…あのときは笑ってごまかすしかなかったけど、本当はかなりキツかった。 …斑目さんも…いや、きっと俺以上に…) そこまで思い至って初めて、斑目が今までどんな思いでいたか、わかった気がした。 田「俺なあ…あいつが何考えてるのか、よく分かんなかったんだよな」 笹「…えっ?」
597 :
卒業式から一週間後6 :2006/03/06(月) 02:03:20 ID:KcNaH6QH
否定的にとれるような田中の言葉に驚き、思わず聞き返す笹原。 田中はいつになく真剣な顔をしている。 笹「…そ、そうですか?…よく分からないって…」 田「まあ、見た目にはすごく分かりやすく見えるけどな。特に趣味のこととか。 ただ、なんつーかな…恋愛のことに関しては、ガキっぽいというか…そういう話ふるとすごく苦手そうにしてたし。 普通のエロ本持ってないって言ってたしな。三次元の女に興味ないんかと思ってた。」 笹「あれ、でもみんなで斑目さんのトコいったとき…SMのAV…」 田「うん、それで余計分からなくなった。 だってなあ………SMって、極端すぎるだろ?」 笹「…そうですね。でも…今回のことは」 田「うん、だからさ、笹原たちの卒業式のときに、あいつに対する見方が変わったんだ。 ちょっと人より不器用なだけなんかな、って…」 久「な、なんか、キャラを作ってるとこあって、それもあいつの一面なんだけど、 ず、ずっとそのキャラを演じてなきゃいけなかったのかなー?」 田「…そうだな…」 笹「…………………」 (…そうか。初めにそのキャラで通してたから。 いつから春日部さんを好きだったのかは知らないけど、最近までずっと…)
598 :
卒業式から一週間後7 :2006/03/06(月) 02:04:04 ID:KcNaH6QH
斑目は水道の蛇口をひねり、水を流した。 ザーーーーー… 洗面台に水音が響く。手を洗い、水を止める。 キュッ 今ハンカチを持ってないので適当に手を振って水気をきりながら、ふと鏡に目をやる。 疲れた顔の、もう一人の自分。 (…何て顔してんだ俺) 冷めた目で鏡の中の自分を見つめ、一度目を閉じる。 今日は、いつものようにうまくいかない。少し焦りを感じる。 (元気出せ。せっかく皆が気ー遣ってくれてんじゃねーか) しばらく目をつぶり、ぱっと目をひらく。 そして、意を決したように勢いよくトイレの戸を開けて出て行った。 戸はゆっくりと閉まっていった。
599 :
卒業式から一週間後8 :2006/03/06(月) 02:04:36 ID:KcNaH6QH
斑「…今日はさすがに疲れたなー」 ふー、と満足げな笑顔で斑目は言う。 秋葉原から、帰りの電車に乗ったところだった。 田「そりゃ、あんだけ騒いだらなあ」 久「ゲ、ゲーセンでもすごかったよね」 笹「………」 笹原は、何故かカラオケの後から大人しい。 斑「ん?どうかしたか笹原」 笹「い、いえ、俺もちょっと疲れたんで…」 田「………」 斑「?…そうか。でもお前、明日の予定ないんだろ?いーよなあ。 俺、明日会社あんだぜ。行きたくネーよ〜」 久「だ、大丈夫なんかそんなこと言ってて?ちゃんと仕事してんのか? ク、首になっても知らんぞ」 斑「バカ、当たり前だろ、ちゃんと仕事しとるわ!そんくらい俺でもわかってるっつーの」 久「S、SSスレでも心配されてたぞ」 斑「ハ?何だよそれ」 久「い、いや、何でもない…」 そのとき、笹原の携帯がポケットの中で振動し始めた。
600 :
卒業式から一週間後9 :2006/03/06(月) 02:05:15 ID:KcNaH6QH
笹原は携帯の待受画面をみる。荻上さんからだった。 あわてて携帯を開き、通話ボタンを押す。 笹「あ、荻上さん!?うん…ごめんちょっと電波悪くて…今電車の中だから… え?うん、そうしてもらえると…いやいや、気にしないで。うん。うん。 今日これから行けるから、うん。じゃ、よろしく…」 早口で言い、すぐに携帯を閉じる。 田「…荻上さんから?」 笹「ええ、電車の中って言ったら、またメールくれるみたいです」 斑「用事できたな。」 笹「え、ええまあ…」 斑「田中は?大野さん来るのか?」 田「うん、今日も来るって言ってたけど。」 斑「そっか。…なんか卒業式に元気なかったみたいだからさー」 田「ああ。まだ少しな。」 斑「…ま、彼女いたらいたで大変ってことだな。なあ久我山!」 久「えっ!?あ、あ、あーまあ、そ、そうだね…」 なぜか挙動不審になる久我山。 斑「?…どうした、久我山」 久「いやあ、あの、えーと…か、隠すつもりは、な、なかったんだけど…」
601 :
卒業式から一週間後10 :2006/03/06(月) 02:05:59 ID:KcNaH6QH
斑「!?…お、おいまさか」 久「じ、じつはその…か、彼女、で、できそう、なんだよね…」 笹・田「!!!」 斑「!!!?」 驚愕する三人。 笹「え…えええーーー!?」 田「おい、初耳だぞ!!」 (あ…なんだ。今回は田中も知らんかったんか。 『またまた俺だけ知らなかった☆』なんてことになったら、 立ち直れないとこだった、ふう……。 …って、問題はそこじゃねーーーーーーーー!!!!!) 言葉を失う斑目をよそに、笹原と田中は久我山を質問攻めにする。 笹「えっ、どんな人なんですか?」 田「こ、告白したのか!?」 久「い、いや、こ、告白された、というか…」 笹「ま、マジっすか!!」 田「久我山、すげーなあ…」 久「ん〜でも、なあ…お、同じ会社の別の課の人なんだけど、い、いきなり告白されたから… お、俺が好きになれるか、わからんかったから、しばらく友達って感じだったんだよなー」 赤面しながら語る久我山。
602 :
卒業式から一週間後11 :2006/03/06(月) 02:06:46 ID:KcNaH6QH
笹「で、ど、どうするんですか?」 田「つ、付き合うことにしたんか?」 久我山のようにどもる二人。 久「ん〜まあ…そ、そうしようかな、と。まだ付き合う前だから、み、皆に言わなかったんだよね」 笹「え〜なんか、久我山さんかっこいいな〜」 田「『友達』とかで引っ張るなんて余裕あるなあ…」 久「ん〜、だ、だってさあ…しょ、初対面でいきなり『久我山さんって和み系ですよね』ってその人に言われて… 意味わからんかったからなあー」 笹「うわ、相手の人、一目ぼれじゃないですか!」 田「………………斑目、大丈夫か?」 田中の言葉に、皆、一斉に斑目のほうを見る。 斑目は電車のドアにもたれかかって、某ボクシング漫画のラストのように真っ白に燃え尽きていた。 皆「………………………」 斑「……はは、あははは………」 笑い始める斑目。 田「……お、おい、斑目………………?」 皆が固まる中、田中は冷や汗をかきながら、おそるおそる声をかける。
603 :
卒業式から一週間後12 :2006/03/06(月) 02:07:17 ID:KcNaH6QH
斑「くそーーー!!てめーらオタクのくせに彼女なんかつくりやがって!!!」 急に斑目はブチ切れた。 斑「見える…見えるぞ、俺とお前らの間に引かれた白い線が!! アッチとコッチを隔てる境界線が!!」 笹「あの、白い線なんてありませんよ?」 笹原が床を見て言う。 斑「ウルセー!そんな天然ぶったって駄目だぞ!このヌルオタ!」 笹「え、いや今のはツッコミ…」 斑「もーいい!俺は一人で生きてやる!! 今日この日に誓う!!彼女は二次元で作る!!!」 一同(うわあ………………) 電車の中で大声で宣言した斑目。哀れすぎて、もうかける言葉も見つからない。 ……………………………
604 :
卒業式から一週間後13 :2006/03/06(月) 02:07:51 ID:KcNaH6QH
斑「つーかもう、吹っ切れたよ。」 電車から降り、みんなが心配そうにする中、斑目は言う。 笹「ふ、吹っ切れたって…?」 斑「心配すんな。さっきのは冗談だ。ちっと、驚いたりムカついたりしただけさ! むしろもういっそすがすがしい!!」 田「ま、まああんまり気にしないほうがいいぞ?またいい出会いとかあるかもわからんし。」 笹「そ、そうですよ。久我山さんみたいに」 久「い、いや、俺の話はいいから…」 斑「あー、もういいって。俺のことは気にすんな! 落ち込んでいるひまなどない。今日は大漁だしな!!」 紙袋を持ち上げて言う。 斑「じゃあなー皆!!またなーーーー!!!」 元気に去っていく斑目を、皆が引きつり笑いで見送る。 笹「…俺ら、全然役に立ちませんでしたね…」 田「むしろ、傷を広げてしまったかも知れんな……(汗)」 笹「久我山さんのことでトドメを刺しちゃったんですかね…」 久「す、すまん…言わなきゃよかったかな」 笹「いや、いつか分かることですし…」 田「そうそう」 一同「………………………」 笹「帰りましょうか……」 久「そ、そうだな………………」
605 :
卒業式から一週間後14 :2006/03/06(月) 02:08:42 ID:KcNaH6QH
さて、家につく頃には機嫌も直り、ほくほくしながら今日の戦利品(大量の同人誌) をベッドに積み上げ、ティッシュを横に置いて準備万端。 正座して一度深呼吸。 意気込んで、まずは笹原に薦められた分厚い会長本を手に取る。 ワクワクしながらページを開く。 ぱらぱら、とめくってみる。 しかし… (………あ、あれ……? なんか、内容に集中できん………………) けっこう悪くない絵であるはずなのに、内容も悪くないのに、頭に入ってこない。 (会長か………………) 今はもう手元にない、例の写真を思い出す。 写真に写っていた人物を思い出す。 (もう、あれから一週間か…………。) (って、違うだろ!あー、会長だからイカンのか!?) とりあえず会長本は脇へ置き、自分の属性であるロリでつるぺた、ツンデレの蓮子たんの本に手をつける。
606 :
卒業式から一週間後15 :2006/03/06(月) 02:09:19 ID:KcNaH6QH
(………何でだ?) やっぱり、集中できない。 さっきから、頭の片隅にチラチラ思い出すものがある。 それを必死にかき消そうとしている自分がいる。 同人誌を放り出し、ゴロンと横になる。 もう考えたくないのに、頭は勝手に考え続ける。 あの日を思い出す。もう幾度も繰り返し思い出したあの時のことを。 心の内を告げた夜。 あの人が不意に見せた表情。 赤くなりうつむく顔。 そして卒業式の、あの袴姿。 (いや、分かってる。忘れなきゃいかんことは分かってる。 ただ………あの時、あの瞬間だけは、 本当に俺の気持ちが春日部さんに通じた気がしたんだ ………………ただ、そのことに感動したんだ。)
607 :
卒業式から一週間後16 :2006/03/06(月) 02:10:07 ID:KcNaH6QH
(だからこそすっきりしたんだ。 だからこそ今までの気持ちも、あのときの言葉も全部、無駄じゃなかったと思えたんだ。) (なのに…) (何で今、こんなに苦しいんだろう。 …何でこんなに胸が痛いんだろう。) 頭を抱え、体を硬くする。 …ふと、新しい考えに気がつく。 (欲張ってるのか…?もっともっとあんな風に話したかったって。 あんな風に隣であの人の反応を見ていたかったって。) 自分の内に渦巻く感情に混乱する。 (あ゛ーーーーーー!!!何なんだ俺は!!そんな風に思ってどうする!どうにもなんねーダロ!! いや、分かってるから苦しいのか………) 重いため息をつく。
608 :
卒業式から一週間後17 :2006/03/06(月) 02:10:52 ID:KcNaH6QH
(そうだ、どうにもなんねーんだ。だいたい初めから望みなんてなかったじゃねーか。 それなのに勝手に好きになって、勝手に盛り上がってたんじゃねーか!) 何だか情けなくなってきた。目の前がじわりと滲む。 (あーもー、泣くな!落ち着け!) 頭をきつくかかえこみ、こらえる。 落ち着くために、ゆっくりと息を吐く。 (…深みにハマりすぎだろ。なんでこんな………) 思いかけて、いや、と否定する。 (…違う。今までこんなに真剣に、誰かのこと考えた事があったか…?) 淡い片思い程度なら、何度か経験があった。 いつも何もせず諦めて、気持ちを自然消滅させていた。 その方が楽だから。その方が傷つかないから。 恋愛だけじゃない。誰に対しても。 (そうか。だから今こんなに苦しんでるのか…) 急に、真っ暗だった目の前に、一筋の光が射した気がした。
609 :
卒業式から一週間後18 :2006/03/06(月) 02:11:40 ID:KcNaH6QH
(今まで楽してたんだな。だから今大変なんだ。 真剣になるのは、すげー勇気がいることで…。 だけど…必要なときには…真剣にならなきゃいけないんだ。) 抱えていた頭から腕をゆっくりと離し、仰向けになる。 (何か今………大事なことが…) そのまま目をつぶった。 そのことに気づいた今、これからも感じるはずの苦しみや葛藤を、 少しずつ受け入れていけるんじゃないかと思った。 もっと冷静にこの思いを見つめられるようになるまで。 それがいつになるかは、わからないけど。
610 :
卒業式から一週間後19 :2006/03/06(月) 02:12:19 ID:KcNaH6QH
…それから一ヶ月が経過していた。 大学はもう新学期が始まり、斑目の通勤ルート(=大学の通学路)にも行き交う人が多い。 斑「…………………」 春の日差しは柔らかく、暖かい。 うすく霞がかったような空気の中で、斑目は晴れやかな気持ちにはなれなかった。 もうあれから、部室には顔を出していない。一度も。 昼食は近くの店で適当にすませるようになった。 何かを考えるのが面倒くさい。仕事をしているときは仕事のことだけ考えていればいいので、むしろ気が楽だった。 最近よくやっていると褒められることすらあった。 (…こんなもんなんだろうな……普通に仕事して普通に生活して…。 もう就職して一年経つもんな。…はあ…学生の頃は楽しかったよなあ………) 大学の横を通るたびに思い出す、あの頃のこと。 居心地がよくて毎日のように通った部室。そこでの出会い。 (記憶が風化して、平気でいられるようになるまでに、あとどれくらいの時間が必要なんだろう。) 斑目は会社への道をゆっくりと歩いていった。
611 :
卒業式から一週間後20 :2006/03/06(月) 02:12:57 ID:KcNaH6QH
定時に仕事を終え、斑目は家に帰る途中だった。 昼間より温度が下がり、少し肌寒い。 (…さて、今日は本屋に行って立ち読みでもするかな…) 漠然とそんなことを考えながら、大学の前にさしかかる。 ふと見ると、向こうから見覚えのある人物が歩いてくる。 (…ん?あれは…………) その人物は口をとがらせながら、オランウータンのように前傾姿勢でのそのそと歩いてくる。 たまに「ル〜ルゥ〜♪」と歌のようなものを口ずさみながら… こっちが立ち止まると、向こうもこっちに気がつき、急にテンションを上げて駆け出してくる。 朽「おぉう、斑目先輩じゃないデ〜スカ〜!!」 (おわっ………) 思わず元来た道を引き返しかけたが、クッチーの行動は素早く、あっという間に間合いをつめられる。 朽「どぉも〜〜〜、コォ〜ンバンハ〜〜〜〜!!!」 斑「…や、やあ朽木くん、久しぶり。いつも元気ダネ君は…」 朽「おうぅ〜〜〜…それが、そうでもないんデスよ〜〜〜………」 斑「ん?なんか悩み事?」 朽「聞いてくださいよ先輩!!ワタクシ、もう限界でアリマス!!」
612 :
卒業式から一週間後21 :2006/03/06(月) 02:13:32 ID:KcNaH6QH
大学構内のベンチで話をする。 朽木君は、部室での大野さんと荻上さんの様子を話した。 前のようにあからさまに敵視されることはなくなったが、明らかに無理して付き合われている感があるのでこっちもキツイ、ということ。 朽「ワタクシがつい何かしでかしちゃっても、お二人とも引きつり笑いで済ませちゃうし〜〜… これなら、前のように蔑まれたほうがマシというもの!!」 (……………マシなのか?) 斑「怒られるようなことしなきゃいいんじゃ……もっと普通に…」 朽「分かっておりマス!!しかし!これはワタクシのキャラなのデスよ!! それを抑えて人と接することは、言わばアイデンティティの崩壊なのでありマスよ!!!」 斑「……………」 (やっぱ朽木君、俺と似てるわ〜…。キャラ作ってるところとか、俺がイタくて聞いてられん…) 斑「…ま、まあ…一度イメージを壊してみるのも必要だと思うがね?」 朽「むむ、そうでありマスか?『創造は破壊から』!!といいマスからね!!」 斑「………………………」 (朽木君は破壊しつくして終わりそうなイメージが…)
613 :
卒業式から一週間後22 :2006/03/06(月) 02:14:07 ID:KcNaH6QH
朽「…まぁ、それだけじゃないんですけどね……部室で一緒に格ゲーやってくれる人がいないのが寂しいんですよーーー…。」 急に素になる朽木君。 斑「あーそうか。大野さんも荻上さんもあんまりやらんもんなー」 朽「一応誘ってはみたんですけど、ダメでしたよーーー…。」 斑「(これ言っていいのかなー…)他の部の人とかは?」 朽「む〜〜、ワタクシは下手なので、逆に相手にならんのですよー」 斑「なるほど…。」 朽「ところで先輩は、なぜ最近部室に来ないのでありマスか?」 斑「え?いやー、だってなあ…俺ももう社会人だしねぇ」 朽「でもずっと来てたじゃないデスか??お昼休みに?」 斑「あははは……いや、ホラ………。 その………、春日部さんが卒業したしさ………………」 朽「あーーーー!!ナルホド!! 今までは春日部先輩に会いに来てたんデスね!!!」 斑「ちょ、声でかいって!!(汗)」 朽「じゃーもう、来ないつもりなんデスか?」 斑「う…まあね………」
614 :
卒業式から一週間後23 :2006/03/06(月) 02:14:40 ID:KcNaH6QH
朽「むーーー…寂しいデスよ。いや、ワタクシだけでなく、大野先輩と荻上さんも、最近元気ないんデスよー」 斑「へ?あの二人が?」 朽「大野先輩が元気ないので、荻上さんもー…。新歓の準備で忙しくして、気を紛らわせてるようなんデスけどもー。 そんな雰囲気の中にいるのは耐えられマセンヨーーーー!」 斑「ほほう…大野さん、まだ立ち直れてなかったのかー」 朽「ワタクシ、こんな時全く役に立ちませんカラね!!」 自虐というには、妙にさっぱりした笑顔で朽木君は言う。 朽「でまあ、そんな感じなんデスケド〜、斑目先輩に一度顔出してもらえたら、お二人も喜ぶんでないかと」 斑「え、そう…?んん〜…?」 朽「お願いしますよぉ〜」 斑「ん〜…。わかった。俺もそんな役たたんと思うけど…心配だし、明日様子見に行くわ」 次の日。 約束通り、かつてのように昼休みに弁当持参で部室の前までやってきた斑目。 (結局来ちまったな俺。あれだけ決意したのに…。まあ、いいか…後輩の頼みだもんな…。) 少し緊張しながら部室のドアをノックする。 「どうぞ〜」 大野さんの声だ。
615 :
卒業式から一週間後24 :2006/03/06(月) 02:15:20 ID:KcNaH6QH
斑「や、久しぶり」 大「あ!お久しぶりです!」 大野さんが笑顔で迎えてくれる。 荻「どうも、お久しぶりです」 荻上さんはたたんであった椅子をひとつ広げ、斑目に「どうぞ」といって差し出す。 斑「あ、ありがと」 朽「どおも〜〜〜〜!!」 朽木君は昨日見たときよりもずいぶん元気そうに見える。 皆よほど寂しかったのだろう、妙に歓待され、なんだか気恥ずかしい。 斑「昨日朽木君から聞いたんだけど、皆元気ないんだって?」 さっそく切り出す斑目。 大「えへへへ…」 大野さんは少しばつが悪そうに笑う。 荻「…すいません、私が至らないから…」 大「えっ?」 荻上さんの言葉の意味が分からず、聞き返す大野さん。 荻「私…会長なのに、場をまとめることもできねぐて………」 荻上さんは体を硬くしてうつむいていた。
616 :
卒業式から一週間後25 :2006/03/06(月) 02:15:56 ID:KcNaH6QH
大野さんと朽木君は、荻上さんが急にうつむいて辛そうに話し始めるのを見て驚いていた。 荻「こんな時、どうしていいのか分からないんです。 私はずっと、人の気持ちなんておかまいなしに、ケンカ腰で接してきました。 だから場を明るくしたり、和ませることがこんなに難しいなんて知らなかった。 雰囲気を壊すようなことばかり得意で…。」 言いながら荻上さんの目に涙が盛り上がる。 ずっとそのことで自分を責めていたのだろう。 荻「すいません…私、会長失格ですね…」 大「そんなこと………」 朽「何でそうなるのかにゃ〜〜〜〜〜〜〜??」 荻「…え?」 急に朽木くんが喋り出した。 朽「場の雰囲気って、荻上さんが一人で作るもんじゃないにょ。皆がいて勝手にできてくもんだにょ〜〜〜。」 荻「で、でも…!!」 斑「そう、別に会長になるのに合格とか失格とかはない」 斑目が喋り始めた。 斑「俺も笹原も、大野さんもそうだけど、自分の苦手なことを会長だからって無理にやってた覚えはないし。 自分の好きなようにやってただけ。」
617 :
卒業式から一週間後25 :2006/03/06(月) 02:17:22 ID:KcNaH6QH
大野さんと朽木君は、荻上さんが急にうつむいて辛そうに話し始めるのを見て驚いていた。 荻「こんな時、どうしていいのか分からないんです。 私はずっと、人の気持ちなんておかまいなしに、ケンカ腰で接してきました。 だから場を明るくしたり、和ませることがこんなに難しいなんて知らなかった。 雰囲気を壊すようなことばかり得意で…。」 言いながら荻上さんの目に涙が盛り上がる。 ずっとそのことで自分を責めていたのだろう。 荻「すいません…私、会長失格ですね…」 大「そんなこと………」 朽「何でそうなるのかにゃ〜〜〜〜〜〜〜??」 荻「…え?」 急に朽木くんが喋り出した。 朽「場の雰囲気って、荻上さんが一人で作るもんじゃないにょ。皆がいて勝手にできてくもんだにょ〜〜〜。」 荻「で、でも…!!」 斑「そう、別に会長になるのに合格とか失格とかはない」 斑目が喋り始めた。 斑「俺も笹原も、大野さんもそうだけど、自分の苦手なことを会長だからって無理にやってた覚えはないし。 自分の好きなようにやってただけ。」
618 :
卒業式から一週間後26 :2006/03/06(月) 02:18:01 ID:KcNaH6QH
荻「…でも…それじゃ、場はまとまらないじゃないスか…。」 斑「よし!そんなら、会長として場をしきるための必殺技を君に教えよう!」 大「え?どんな技なんですか?」 荻「必殺技………?」 斑「会議をやる」 一同「へ???」 大「あ!会議って、もしかしてアレですか? 『第一回、○○について語ろう会議』〜〜〜〜〜!…っていう斑目さんの名ゼリフ」 斑「そうそう、いや俺のも初代会長の受け売りなんだけどね」 大「ええ!?あの人の!?」 斑「初代はもっと落ち着いた言い方だったけどねー」 荻「第一回、新入生歓迎会をどうするか会議〜〜〜〜〜っ!!!」 荻上さんは急に立ち上がったかと思うと、大きな声で宣言した。 皆、びっくりして荻上さんを見る。 荻上さんは勢いで言ってはみたものの、外したという顔をして真っ赤になる。 荻「………こっ、こんな感じですかね…………?」 斑「あ、あーうん!そんな感じ…」
619 :
卒業式から一週間後27 :2006/03/06(月) 02:18:49 ID:KcNaH6QH
大「ほ、ほら皆さん、拍手拍手!!」 一同、荻上さんに拍手をする。 荻「いやもう、いいデス……恥ずかしいスから…」 朽「にょ〜〜〜!!オギチンが会長っぽくなったにょ〜〜〜〜〜!!」 斑「あはは…ま、そんな感じでいけるんじゃねーの?」 大「荻上さん、一人で悩ませてすいませんでしたね…。私ももっとサポートできるように頑張りますから!」 荻「あっ…ありがとうございます」 荻上さんは赤い顔をしていたが、やがて照れくさそうに笑った。 会社へ戻る間、斑目は考えていた。 (荻上さんはもう大丈夫だと思うけど…。もう少し、様子見に来るかな。 まだ俺にできることがあるかもわからんし。) …そうして、斑目は前のように、毎日部室に顔を出すようになるのだった。 END
620 :
あとがき :2006/03/06(月) 02:20:40 ID:KcNaH6QH
26でなく27レスでした(汗) こののちの展開は、ほかの方が書いていたSS「11人いる!」的な展開がいいなと思ったり。 そうやって原作もまだまだ続いて欲しいなあ…と。 さて、長文すいませんですた。 しかし、まだまだ書きたい思いを抑え切れません。(汗) 今回は玉砕→決着SSでしたが、また別ルートで、斑目と咲の話も妄想してみたり。 この恋、まだだ、まだ終わらんよ!!
乙! そのうち荻が『えー、第〇会、今度のげんしけん同人誌はハレガンか スクラムダンクどっちでいくか会議〜』とかやるようになるのだろうか。
622 :
あとがき卒業式から一週間後 :2006/03/06(月) 02:47:59 ID:KcNaH6QH
25、二回入れてしまいました。すいません(汗)
>>621 おそらくやるな。
その中で発言できない朽木君が途中で暴発したり・・・。
来年度の話もやればいいのにな〜とこの話を読んで思いました。
完結編乙でした!
624 :
623 :2006/03/06(月) 03:16:45 ID:???
来年度の話も・・・・というのは本誌連載の話です・・・。言葉足らずで・・・。
625 :
465 :2006/03/06(月) 05:24:54 ID:???
もうこの話も次で第10話か〜。長すぎ??w
>>469 「残念!」はノリです。
お笑い芸人としてのクチキのワンマンショー、楽しんでいただけたようで!
マダラメ好きの方には次の話、そわそわする事になるかも・・・。
>>480 SSスレ祭りのようにいろんな設定を盛り込んでかつ
ガンダムに仕上げようと四苦八苦しとりますw骨折は、すぐに治るかも!?w
>>483 >盗撮写真
実は『密林の戦い(前編)』でその伏線があったりします。
気付いてくれた方いたかな?
>>484 クッチーが好きになったのはこのスレと37話を読んでから。
多分、クッチーマスターであるあなた様の作品の影響も大です。
今後もよいクッチーお願いします。
626 :
625 :2006/03/06(月) 05:27:08 ID:???
ではでは、第801小隊の続編行きます。 このスレの最後を飾る事になりそうですね。 今回はオリキャラが出てくる(前回も出たか。)し、 あるキャラの性格が歪みまくってるかもしれません。 それはそれとして。 今回も読んで下さる方に、おぎおぎ〜〜〜!!
「何・・・?」 怪訝そうな顔で、ナカジマは向かい合う初老の男性を睨む。 ここは例の兵器を回収した部隊の基地。 「宇宙へ出ろ・・・、と?」 「はい、お嬢・・・いえ、ナカジマ大佐。 上層部から、兵器を持ち本体に合流せよとの命令が下っております。」 「・・・しかし、まだパイロットがいない。これでは動かせまい。」 ナカジマはくるりと体を反対に向け、ディスプレイを見る。 「・・・私も操作出来ない訳じゃございませんが・・・。」 「オギウエでなくてはいけないのだ!」 思わず激昂し、語彙が荒くなるナカジマ。 「・・・・・・大佐、少しあのパイロットにこだわりすぎでは・・・。」 「・・・なんだ、私が私情を挟んでいるというのか?」 睨みをさらに利かせるナカジマに、男はたじろぎもせず言葉を出す。 「・・・いえ、そんな事は決して・・・。」 「じい。私をいつまでも子ども扱いするな。 それに、あのMAの新兵器はオギウエでないと操作できん。 ・・・いや、操作し続けられん。そういうものなのだ。」 再び男の方に向き直ると、ナカジマはにやりと笑った。 「それに、例の部隊が近づいているらしい。 情報を少し漏らした甲斐があったというものだ。 ・・・・・・おそらく、あの部隊にオギウエはいる。」 「・・・・・・了解いたしました。我々はその捕獲に全力を挙げましょう。」 「頼んだぞ。父上が生きていた時代からお前は信頼できた。 ・・・・・・フフ・・・。フフフ・・・・・・。」 虚空を見なが笑いを漏らすナカジマ。その光景に、少し、歯噛みをする男。 「・・・・・・では失礼いたします・・・。」 踵を返し、廊下へと進む。その姿が闇へと消えた。
「ウマ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 食事の席にて、またもや大声を出すマダラメ。 「・・・あれ?突っ込んでくれんの?」 ニヤリと笑いながら咲へと顔を向ける。 「・・・・・・もう飽きた。」 「それは酷いな〜〜!!」 そういいながらも楽しそうにマダラメは笑う。 「あんたねえ・・・。まあ、いいか。」 「そういえば、もうすぐ到着なんでしたっけ?」 ササハラが食事の手を一旦休め、誰に聞くともなく言葉を漏らす。 「ああ、そうだ。第209部隊からの情報からだと、 この付近にあるあの兵器を回収できそうな大規模な基地はそこぐらいらしい。」 タナカが同じように手を休め、返事をする。 「ま、まあ、く、クチキも頑張ってたって事だね・・・。」 クチキの活躍によって得られたデータが情報源である。 「で、肝心のクチキ君は・・・。」 コーサカがその話題の人物を考え、苦笑いをする。 「懲罰房行き、と。盗撮はいかんからねー。骨折もしとるし、丁度いいんじゃないか?」 マダラメもつられて苦笑い。 「ま、明日には出すさ。女性の方々からきつ〜いお仕置き受けたしな。」 「あはは・・・。」 あの日から、すでに3日。 あの後言葉にするのも恐ろしいようなお灸を据えられたクチキは、一応懲罰房に入っている。 「・・・・・・で、どうすんの?基地の近くまで来たら。」 ケーコがどうでもいいような口調で聞く。 「・・・まあ、一応攻勢に出ざるを得ないだろうな。 兵器の発見、捕獲が目的であるわけだし・・・。」 「・・・そ、そうだね。こ、この部隊としては初めての攻勢側での任務か。」 タナカとクガヤマが次々に言葉を発する。その口調は少し重い。
「・・・・・・まあ、そうなるわな。」 マダラメが苦い表情で呟く。 「あーら、隊長さん。気弱なんだ?」 「ちげーよ。ちょっとな。色々あんだよ。」 サキの挑発をするような発言に、少し癇に障るマダラメ。 「・・・・・・何があるんだか・・・。」 「・・・そりゃ・・・。まあ、何だ・・・。」 口ごもるマダラメに、サキは鼻で笑う。 「なんだ、やっぱビビッてるだけじゃん。」 「・・・・・・あー、もう、そういう事でいいわ。 あー、みんな、明日には交戦区域に入るだろう。体は休めとけよ。」 それだけいうと、一人席から離れ、廊下へと出て行くマダラメ。 その姿を見ながら、サキはきょとんとした顔をしていた。 「・・・何?あれ?」 「サキちゃん、人にはね、触れられたくないことってあるんだよ。」 コーサカが少し戒めるように話す。 「えー、でもさー。なんかあるの?あいつ。」 その光景を見ていたタナカが重い口調で話し出した。 「・・・・・・昔あった宇宙での皇国との戦いの最中の話だ。 攻撃をしていたのはこちらだったんだが、かなり優勢だった。 だが、追い詰められた皇国軍が用いたのが味方もろとも消し飛ばす兵器でな。 その光景を俺も、クガヤマも・・・そして、マダラメも見てるんだ。 戦いを始めるって事は、そういうすさまじい事を呼び起こすことがあるのさ。」 「・・・あ、あの後、け、結構キツかったよね・・・。 せ、戦争ってああも簡単に仲間までも殺せるもんなんだなって。 い、今でもたまに夢を見るよ。」 クガヤマもそれに続いて話す。 「・・・・・・そう。そんな事があったんだ。」 サキ、ケーコ、オギウエだけ、驚いた表情になる。 「だからな、あまりこういう任務は乗り気じゃないんだ。俺らはな。」 タナカはそういうと、すこし、自嘲気味に笑った。
「・・・・・・タナカさんは、いまだにその夢を見ますか?」 食事が終わった後に、タナカとオーノは二人連れ立って歩く。 「ん・・・。まあね。俺もその当時はMSに乗ってたからね。 あの戦いで操縦恐怖症になったからさ・・・。」 「はい・・・。それは知ってます・・・。」 俯くオーノに、タナカは笑う。 「はは。気にしないで。今はこの仕事楽しくやってはいるんだ。 ・・・それに、何かと支えもあるし・・・。」 そういって、オーノのほうを向くタナカ。 「それって・・・。」 「ははは、なんか恥ずかしい言葉言っちゃったね。」 少し顔を赤らめながらタナカは再び前を向く。 「いえ・・・。そうなっているのなら嬉しいです・・・。」 「それよりも心配なのはマダラメだ。あいつはどうも一人で考え込むやつだからな。 支えがいたほうがいいのはあいつの方なんだよ・・・。」 そういって苦い表情で友を思うタナカ。 「でも、マダラメさん、いつも明るく元気ですし・・・。」 「あいつ、キャラ作るからね。いい隊長を演じようとしてるんだろう。 本当は、とても気弱で、寂しがり屋なんだよ。 そういう面では、部下が増えたのはいい事だ。」 「ササハラさん、クチキさんが来てからマダラメさん楽しそうで。」 「ああ。そうなんだ。それはよかった。作戦行動でも覇気が出ている。 でも、今回の作戦、一番乗り気じゃないのもあいつだ。 人を失うことに怯えている。・・・それがあいつのいい所なんだが。」 「・・・マダラメさん、大丈夫ですかね・・・。」 「・・・・・・きっと、ね。」 苦笑いをする二人。分かれ道に差し掛かる。 「あ、じゃあ、整備があるからここで。」 「はい。頑張って下さいね。」 そういうと、オーノはタナカの頬にキスをする。 「あはは・・・、頑張るよ。じゃ。」 そういって、タナカは整備室へと向かっていった。
一人部屋にて考え込むマダラメ。あの日、起こった惨劇を思い出す。 大きな閃光の中で、人の命が消えていくあの瞬間を。 敵も、味方もそこにはなく、ただただ、死があった。 自分らが攻めた事によって起きた惨劇。 自分が、その中心にいて、引き金を引いた部分があった。 いまでも、その事を思うと夜も眠れず、嘔吐する事もあった。 星空を見ると、今でもその事を思い出していしまう。 「・・・くそ・・・。弱ぇなあ、俺は・・・。」 そのまま拳を壁に叩きつけるマダラメ。隣はクチキの部屋だ、誰もいない。 コン・・・。コン・・・。扉を叩く音がする。 「なんだ?こんな時間に・・・。はい、はい、なんだぁ〜?」 ガチャ。扉を開けると、そこには思いもよらない人物が。 「・・・今大丈夫?」 「・・・カスカベ二等兵?・・・ああ、まあ大丈夫だけど・・・。」 サキはそのまま部屋に上がりこむ。 その唐突に起きたその事にマダラメは驚きを隠せない。 「実はさ・・・、あんたの昔の事聞いちゃってさ。」 サキは少し気まずそうに言葉を発する。 「ごめん!なんか考え無しの事言っちゃって!」 「・・・ん、ああ、何だそんなことか、気にするなよ、あはは・・・。」 「でもさ、この作戦だって、やらなきゃもっと被害大きくなるんだろ? だったらさ・・・、躊躇せずやらなきゃいけないんじゃない?」 サキの言葉に、はっとさせられるマダラメ。 「だからさ・・・、まあなんといいますか、頑張れと。それだけ!」 「・・・ん、あんがとさん。わかった。頑張るよ。はは・・・。」 そういって笑うマダラメ。その心に、何かが灯ったような気がした。 「じゃあ、わたしはもう行くね。それだけだから・・・。」 「おう。しっかり寝ろよ。明日は大変になりそうだから。」 「あんたもね。しっかりしてよ、隊長さん。」 そういってウインクして出て行くサキ。 マダラメは、それに苦笑いして、とりあえず寝る事にした。
「そう。思い出せない事があるんだ。」 ササハラはオギウエと二人、まだ食堂にいた。 「ええ・・・。なんか、その部分だけすっぽり抜け落ちてるような・・・。」 「ふーん・・・。オーノさんに相談してみた方がいいかもね・・・。」 「はい・・・。その事を思い出そうとすると、頭も痛くなるし・・・。」 そういって俯くと、不安げな表情になるオギウエ。 「・・・あまり気にしないほうがいいよ。」 その表情に、わざと笑顔を作るササハラ。 「はい・・・。」 重い返事に、すこし気を紛らわせようと話題を振るササハラ。 「皇国軍か・・・。どんなところなのかな。想像もつかないや。」 「普通ですよ。よく話す仲間もいましたし。」 「へえ・・・。」 「一人、軍の上層部の娘さんが友達にいましてね。 一緒に軍に入った仲間の一人なんですけど・・・。 お父さんが病気で亡くなられてからすぐにその代わりに出世しちゃいました。 跡取りがその子しかいないらしくて。世襲制なんですよ、そういう部分は。 その後、私が配属された先がその子の部隊でびっくりしました。 ん・・・?あれ・・・?またなんか忘れてるような・・・?」 頭を抱えて俯くオギウエ。 「あ、ごめん。変な話題振っちゃったね。」 ササハラはそういうと、その話題を断ち切った。 「いえ・・・。・・・明日、皇国と戦うんですよね・・・。」 「うん・・・。もしかしたら、その中にはオギウエさんの仲間もいるかもしれないね・・・。」 少し、ばつが悪そうに頭を掻くササハラ。 「・・・しょうがありません。それも、戦争です。 さっきの、マダラメさんたちのお話聞いて、それが再認識できました。 正義なんてないんですね。どっちにも。」 オギウエにまっすぐな目で見つめられ、ササハラも、真剣な目で返す。 「うん。だから、終わらさなきゃいけない。・・・もう寝ようか。明日も早いし。」 「・・・はい。」 そういって、立ち上がり、食堂から二人は出て行った。
埋めを兼ねて短いのを。荻の独白。季節は秋頃、ということで。
薄暗闇の中、ふと目が覚める。 隣に人の気配。それは間違いなく現実のもの。確かな形と熱を持ってそこにいる。 「笹原さん…」 囁きかける。答えは無い。穏やかな寝息だけが聞こえる。 体を少し起こす。素肌に夜気が冷たい。顔を覗き込む。穏やかな寝顔。 自分がそうであるように、かれも生まれたままの姿で、同じシーツに包まっている。 それが嬉しい。 昨夜の事を思い出す。 互いの名を呼び合い、ひたすら求め合った。彼にしがみつき、ねだった。 「笹原さん、もっと、もっとしてください」 夢現の中、そう言ったことを思い出し、赤面する。頬が火照る。 思い切って半身を起こし、夜気にさらす。寒さが心地よい。
もう悪夢は見ない。夢のなかの笹原さんはいつも強気で、悪夢と、弱くてずるい私を倒して、私を救ってくれる。 都合のよい夢だと思う。 結局、わたしは弱くてずるいままで、ただ笹原さんにすがっているだけかもしれない。 笹原さんなら「それでもいい」と笑って受け入れてくれるだろう。 でも、それじゃいやだ。 強くなりたい。傍に居れるように。共に歩めるように。いつか私が笹原さんを助けられるように。 『運命に負けない力を』 どこかで聞いた言葉を思い出す。 運命。もし笹原さんと出会ったことが運命なら、それはいつからだろう?
体が震える。思ったより長い間考え込んでいたようだ。ずいぶん体が冷えてしまった。 笹原さんに抱きつく。それは熱い位で、冷えた私を暖める。 笹原さんも私を抱きしめる。起きてはいないのだろう。息は穏やかなまま。腕にも力は入っていない。 彼の胸に擦り寄る。鼓動が聞こえるような気がする。 彼の鼓動に包まれて、再び眠りに落ちた。 …はじまりは、何だったのだろう。 運命の歯車は、いつ回りだしたのか。 時の流れのはるかな底から その答えを拾い上げるのは 今となっては不可能に近い…
以上です。最後の一節は「クロノクロス」のオープニングの一部。 少しあわないような気もしますが…好きなんで。
もうひとつ。 オリジナルの「事後」を書いた作者様。タイトルの無断借用をお詫びします。
> 「笹原さん、もっと、もっとしてください」 この1行に現在死亡中 =□○_〜0
641 :
マロン名無しさん :2006/03/06(月) 13:06:56 ID:KcNaH6QH
>>事後side荻上 『強くなりたい。傍に居れるように。 共に歩めるように。いつか私が笹原さんを助けられるように。 』 この一文、ぐっと来ました。 これからどんどん、荻上さんは成長してくれることでしょう。
>>事後side荻上 にゃー!いいw そうなんだ、笹原に頼るだけじゃなくて自分が強くなろうとする荻上さんが見たいんだ。 原作の「もう逃げねえって」は個人的にその意思表明だと考えていたりなんだり。
まとめサイトの4月号予想コーナーに、これ混ぜちゃダメですかね? 333 名前:マロン名無しさん 投稿日:2006/01/24(火) 20:12 ID:??? 斑目「やっやあぁらめぇっ…」 笹原「いいから…力抜いて……んっ…」 斑目「ぴぎゃあぁ!!」 笹原「あぁ…全部入ったよ……凄いしめつけだ…」 斑目「んあっ!! んあおっ!!おしりほられて変態みるくがきちゃうのぉっ!」 笹原「うぁ…もうダメだ、止まらないよ……」 斑目「あへええっ、いいいいいいっ!斑目きもちいすぎてバンザイしちゃうぅっ バンザイっ、ばんじゃいっばんじゃい゙っぱゃんに゙ゃんじゃんじゃいぃぃっ!!」 荻上「どうですか、これが私です」 笹原「とりあえず斑目さんに謝りにいこうか」 発表スレが違うんだけど、ショートの中ではダイナマイトワロタので。
>>卒業式から一週間後 うわー、なんていうか…斑目の気持ちがわかり過ぎる…。GodJobです。 しかし復帰してしまったら、30歳になっても部に出入りすること間違いなし! これほんと、こんな風に本編の連載が進んで欲しいですね。 このシリーズって、5月号予想といっても良いんじゃないでしょうか?
>>事後side荻上
荻上の成長もまだまだ見たい出すね。
そして
>>640 に禿同www
646 :
マロン名無しさん :2006/03/07(火) 02:42:41 ID:0jf1kvqw
埋めのためにカキコ。というか書きたいだけ。 最近のエロパロスレを久しぶりに見てみたら、笹原と荻上さんが… ものすごく真剣にやってる話ばかり…。 エロいだけでなく、SSとして、作品として完成度高かったなあ… あと、中×荻とか、恵×斑とか…。 うわあ、エロー!!と思いつつも最後まで読んでしまった。 恵×斑も、恵子がヤリマンっぽすぎ…と思って読んでたが、ラストのあたりは、 ちょっと胸打たれてしまったよ。
「あれ? 今日は笹原君1人?」 「うん。荻上さんも大野さんもまだ来てないよ」 高坂が部室に入ると、そこには今日発売されたばかりの少年マガヅンを読んでいる笹原の姿があった。部室には2人だけだ。 「あ、マガヅンだ。僕、まだ読んでないんだよね。くじアン読んだ?」 「いや、まだだよ」 そう言いながら笹原がページを捲ると、お待ちかねのくじアンが始まった。 「くじアン読んだら次、読む?」 「いいよ。2人で一緒に読もう」 「え?」 「駄目かな?」 「あ、いや…いいけど…」 「よかった、早く読もうよ。続きがもう気になるんだ」 2人は、1つのマガヅンを一緒に読み始めた。高坂が読んだのを確認して、ページを捲る笹原。 1冊の雑誌を2人で読んでいるため、2人の距離は肩と肩がくっつくぐらいに近い。というか、くっついている。 しばらくして、2人はくじアンを読み終わった。しかし…。 「こ…高坂君?」 一向に高坂は笹原から離れない。あろうことか、更に距離を縮めてきた。 「…笹原君…いい匂いがするね…」 「こ、高坂君!?」 離れようとする笹原の背中に腕を回し、抱き寄せる高坂。 「こっ…!」 「ふふ、可愛いよ笹原君」
「やめてよ! 俺たち、男同士だろ!?」 「そんなの、関係ないんじゃない?」 微笑むと、高坂は笹原の唇を塞いだ。あまりにも突然の出来事に、目を見開く笹原。 最初は抵抗していた笹原だったが、徐々に力が抜けていくのが分かった。 唇を離すと、つ…と銀の糸が2人を結んだ。 「笹原君……ごめんっ」 「え!? ちょっ…」 笹原を押し倒す高坂。 「もう我慢できないや…」 「こ、高坂君!? 駄目だよ! 荻上さん達が来ちゃうよ!」 「見せ付けてあげようよ」 「ちょっ…待っ…そこは…」 「ふふ…最高に可愛いよ、笹原君…」 「や、やめ……ふぁああぁッ!!」 「ふぅ、続きはどうスっかね」 荻上は1人部室で原稿を描いていた。たまには笹原が「受け」なのもいい。 そこに、咲と大野が現れた。 「ちーす。お、荻上なに描いて…」 原稿を覗き込むと、咲は固まる。しばらくして、ぷるぷると震えだした。 「おっ…お前………なに描いてやがんだああぁぁぁああッ!!!!」 「そうですよ! 荻上さん!」 拳を握りながら大野。 「高坂さんはどうみても『受け』でしょう!?」 「そっちかよ!」 急に目が覚めたので書いてみた。今は反省している。
ちょwwww
>>648 の続き
荻「いいえ!高坂さんは『攻め』です!『総攻め』です『魔王』です!
優男の美男子がベッドの上では鬼のように攻めまくるのがいいんです!」
大「いいえ!絶対に『受け』です!優男の美男子が受け入れて苦痛に歪む姿がいいんです!」
咲「人の男をホモネタに使うなあああ!!!」
荻大「「ホモが嫌いな女子なんていません!!」」
咲(ハモるなよ・・・orz)
正直すまんかった。
ハゲワロスwwww
>荻大「「ホモが嫌いな女子なんていません!!」」 この二人がハモれる仲になったと思うと感慨無量ですなぁ。面白かったデス! このスレ容量大丈夫なんですか?
あと4KB
>>652 コミックのおまけ同人誌の、二宮ひかるの漫画を思い出したw
仲良し?仲良しなの?ってw
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、 姓は班目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 昼に弁当買っては来るが 最近誰にも会えないよ 笹原荻上さんどうしているか そろそろくっついたのかなどうしよう それでも結果を知りたいよ 俺を仲間はずれにはしないでよ あーあー結局俺だけ、俺だけ知らなかったのね 将棋のゲームの販促で、将棋会今売り出し中の三人娘に会うことに。 三人、という数字に少しびびりつつも向かった先にいたのはこれはこれはと美人ぞろい。 その中の眼鏡をかけた女性に一目ぼれ。リアルロリには懲りたのか話せない子にはいかなかった。 少し積極的にアピールしてみるが、人のいないところで男だと告白される。 その恋はまたもはかなく散るのであった。 ・・・・・その話を聞いた荻上さんが凄い目つきになっていたのはまた別のお話。
ちょwwwwその3人てwwwww
「ワタクシ、ツルペタ属性、前世はヘビの生まれ、 姓は斑目、名は晴信、人呼んでマムシ72歳と発します」 オタクの街アキバを歩いていたが 最近きれいだどうなっとる? 大きな電気屋パンピー集い 俺の肩身はどんどん狭くなる どうかいつものアキバへと どうか〜戻ってくれないか だけど何かするでもなく帰途に着くだけ〜 同業者に誘われてフィリピンパブというものに始めていってみたマムシ。 パブなんて俺の趣味じゃ・・・。 と思いつつもそれなりに皆かわいくて舌足らずな感じが萌える。 しかし、その中で目を光らす一人の女。 ありゃ、何だ・・?と思っていたら家へと連行される。 しかし、二人きりになって色々アプローチかけられるが反応しない。 これが生理的に無理ってやつかあ・・・。と次の旅路に着くマムシであった。
658 :
マロン名無しさん :2006/03/08(水) 05:54:43 ID:EZldRSgG
江古田ちゃんには勃たないマムシに激ワロタwww
ついに江古田ちゃんまで出ましたね、乙です!
次スレでも続くかな、「オタクはつらいよ」シリーズ…
あとはEDENと、爆音列島と…とゆーか、やってない奴の方が多いな、まだ。 ぜひ続けて欲しい。
終わっちまいましたがBLAME!でも是非
ハ 〃'ハヾヽ はやく次スレにいきましょう! ⌒q*><)⌒ | |
ん?まだ余ってるのか?
ハ 〃'ハヾヽ はやく次スレにいきましょう! ⌒q*><)⌒ | |
667 :
マロン名無しさん :
2006/03/09(木) 11:32:59 ID:f8bwI/e6 ハ 〃'ハヾヽ はやく次スレにいきましょう! ⌒q*><)⌒ | |