邪気眼-JackyGun- 第Y部〜楽園ノ扉編〜

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1名無しになりきれ
かつて、大きな戦いがあった。

個人、組織、そして世界をも巻き込んだ戦い。

戦士達は屍の山を築き上げ戦い、

それでも結局、勝者を産まぬまま、

戦いは、全てが敗者となって決着を迎えた。

そして、『邪気眼』は世界から消え去った――――筈だった。

2名無しになりきれ:2012/01/04(水) 09:04:21.69 0
《過去への扉》─カコログ─

邪気眼―JackyGun― 第零部 〜黒ノ歴史編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1225833858/
邪気眼─JackyGun─ 第T部 〜佰捌ノ年代記編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1251530003/
邪気眼-JackyGun- 第U部 〜交錯世界の統率者編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1260587691/
邪気眼-JackyGun- 第V部〜楽園ノ導キ手編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1267327455/
邪気眼-JackyGun- 第W部〜目覚ノ領域編〜
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1275651803/
邪気眼-JackyGun- 第X部〜黎明ノ紡ギ手編〜(なりきり板)
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1287755863/
邪気眼-JackyGun- 第X部〜黎明ノ紡ギ手編〜(なりきり板避難所)
http://774san.sakura.ne.jp/test/read.cgi/hinanjo/1316984542/

《堕天使の集いし地》─ザツダンスレ─
http://yy702.60.kg/test/read.cgi/jakigan/1280151413/

《世界ノ真実》─マトメウィキ─
http://www31.atwiki.jp/jackygun/
3名無しになりきれ:2012/01/04(水) 09:07:01.52 0
Q.ここは何をする所だ?
A.邪気眼使いたちが戦ったり仲良くしたり謀略を巡らせたりする所です。

Q.邪気眼って何?
Aっふ・・・・邪気眼(自分で作った設定で俺の持ってる第三の目)を持たぬ物にはわからんだろう・・・
 邪気眼のガイドライン(http://society6.2ch.net/test/read.cgi/gline/1261834291/)を参考にしてください。
 このスレでの邪気眼とは、主に各人の持つ特殊能力を指します。
 スタンドとかの類似品のようなものだと思っておけばよいと思います。

Q.全員名無しでわかりにくい
A.昔(ガイドライン板時代)からの伝統です。慣れれば問題なく識別できます。
どうしても気になる場合は、上記の雑談スレでその旨を伝えてください。

Q.背景世界とかは?
A.今後の話次第。
Q.参加したい!
A.自由に参加してくださってかまいません。

Q.キャラの設定ってどんなのがいいんだろうか。
Q.キャラが出来たんだけど、痛いとか厨臭いとか言われそう……
A. 出来る限り痛い設定にしておいたほうが『邪気眼』という言葉の意味に合っているでしょう。
 数年後に思い出して身悶え出来るようなものが良いと思われます。
4名無しになりきれ:2012/01/04(水) 09:09:29.58 0
世界観まとめ

邪気眼…人知、自然の理、魔法すらも超えた、あらゆる現象と別格の異形の力

包帯…邪気を押さえ込み暴発を防ぐ拘束具

ヨコシマキメ遺跡…通称、『怪物の口腔』
            かつての戦禍により一度は焼失したが、アルカナを率いる男【世界】の邪気眼によって再生された。
            内部には往時の貴重な資料や強力な魔道具が残されており同時に侵入者達を討ってきたトラップも残存している。
            実は『108のクロニクル』のひとつ
            
カノッサ機関…あらゆる歴史の影で暗躍し続けてきた謎の組織。

アルカナ…ヨコシマキメの復活に立ち会い守護する集団。侵入者はもとより近づくものすら攻撃する。
       大アルカナと小アルカナがあり、タロットカードと同数の能力者で構成される。

プレート…力を秘めた古代の石版。適合者の手に渡るのを待ち続けている。

世界基督教大学…八王子にある真新しいミッション系の大学で、大聖堂の下には戦時から残る大空洞が存在する。

108のクロニクル…"絶対記録(アカシックレコード)"から零れ落ちたとされる遺物。"世界一優秀な遺伝子"や"黒の教科書"、"ヨコシマキメ遺跡"等がある。

邪気払い(アンチイビル)…無能力者が邪気眼使いに対抗するべく編み出された技術

遺眼…邪気眼遣いが死ぬとき残す眼の残骸。宝石としての価値も高いが封入された邪気によってはいろいろできるらしい
5名無しになりきれ:2012/03/02(金) 20:57:47.75 0
age
6名無しになりきれ:2012/03/19(月) 22:00:39.17 0
age
7名無しになりきれ:2012/03/27(火) 09:40:20.02 0
age
8名無しになりきれ:2012/04/05(木) 21:54:39.52 0

・・・

・・・

・・・

・・・
9名無しになりきれ:2012/04/05(木) 21:56:55.16 0


……第3世界における【正浄化】の発現を確認しました。

仮想人格:【KR O】及び【E RA】の消失を確認。

仮想人格の消去に伴いアンチ【浄化】システム【CODE:存在眼】を起動します

・・・

・・・

・・・

――【Error】


【正浄化】の中和に失敗しました。緊急プログラムに基づき、
最終防御隔壁:人造魔眼『白眼』によるレジストを実行します

・・・

・・・

・・・

――【Error】


最終防御隔壁消失。レジストに失敗しました。
これにより10.00.00秒後に自動人形 Serial No.IDO コード『ソ 』は消失が確定しました。
よって、これより最終プログラムを実行します





最終プログラム起動――――【プログラム名:『14』】

10名無しになりきれ:2012/04/05(木) 21:58:12.78 0

……

……    様。SerialNo. O コード『  』は、貴方の従者として、
つつがなく貴方の最後のご命令を成し遂げた事を報告致します

願わくば、貴方の願った世界に果てなど無く

あらゆる可能性と混沌、矛盾と幻想を内包する世界である事を
11名無しになりきれ:2012/04/05(木) 21:59:34.64 0










  『        光あれ        』









12名無しになりきれ:2012/04/07(土) 11:57:49.95 O
我はメシアなり
この汚れた世界を粛正する
13名無しになりきれ:2012/04/18(水) 22:12:35.14 O
俺魔王だから神とかワンパンだし
14名無しになりきれ:2012/04/22(日) 19:33:45.00 0
>>13
相手にしてもらえてないだけだ
15名無しになりきれ:2012/04/22(日) 19:37:33.73 0
>>14
やっちまった
16名無しになりきれ:2012/05/11(金) 09:03:45.12 O
ほう…旧世界の蛆共め
最期の力を振り絞って世界を再び『変生』させたか…
誕生と死滅を繰り返し、果たして今度は何時まで保つかな……?
17名無しになりきれ:2012/05/15(火) 11:43:26.73 O
静かだな――これが、『無』か
18名無しになりきれ:2012/05/15(火) 11:54:58.47 0
2ちゃんねるのキモヲタで無能な運営のことだよw
19名無しになりきれ:2012/05/15(火) 20:08:13.28 O
ほう、俺の地獄眼を見たいのか

構わんが、死ぬぞ?
20名無しになりきれ:2012/05/19(土) 10:50:41.09 0
粋がりおって造が
地獄ならとうに見飽きておるわい・・・
21名無しになりきれ:2012/05/20(日) 13:59:24.51 0
高くなりすぎた敷居を、元に戻す必要がありそうだな……?
混沌としたガイドライン時代の再来だ!
22名無しになりきれ:2012/05/20(日) 14:43:34.69 O
>>20
ほざけ老いぼれが
地獄の業火をその身に受けるがいい

地獄眼、解放……!
23名無しになりきれ:2012/05/20(日) 18:01:18.85 0
カオス、ふふ……混沌を望む者が此処には集うのだよ
ほう、あの地獄眼の使い手か
ならば見せてもらおうか、その力とやらを!!
24仮面の魔女:2012/05/20(日) 18:14:10.18 0
――……遺眼を集めてネックレスを作りたいの
能力者の目を集めてきてくれないかしら
……報酬ですって?
そうね、私好みの眼なら貴方の願いなんだって叶えてあげる
どう、やる?やらない?
25名無しになりきれ:2012/05/21(月) 19:06:23.42 0
やれやれ、こんな時に暢気な物だね?

空を見てごらん
日を喰らう漆黒の闇……そう、”金環日蝕”ってヤツさ
173年ぶりに訪れた凶事の前触れだよ、もうすぐキミ達には死のワザワイが降り注ぐ……

さあ、誰が最後まで生き残っていられるかな……?
ククク、ハーッハッハッハ!
26名無しになりきれ:2012/05/22(火) 11:14:58.89 O
下らんな…
魔女も地獄も金環も、王たる我が足下に跪いておれば良い

屈服せよ、この王冠眼の輝きの前にな!
27名無しになりきれ:2012/05/22(火) 14:48:02.19 0
あら綺麗な光の眼……
その眼、私にちょうだいな
悪いようにはしないわ
私の“血塗られた蒐集(クリムゾン・コレクション)”に加えてあげる!!
28名無しになりきれ:2012/05/22(火) 20:02:38.38 O
フン、魔女が…

王たる我に向かってその高慢……不愉快極まるな
欲しいなら力で奪ってみせよ、そのか弱い女の細腕で出来るならな!
29名無しになりきれ:2012/05/22(火) 21:18:14.07 O
ル・ラーダ・フォルオル

邪気眼など過去の異物よ
我等、聖眼使いこそがこの世界を統べるに相応しい
30名無しになりきれ:2012/05/22(火) 22:51:58.90 0
愚カナ人間共メ
古ヨリ我等「異形ノ者」ニ受ケ継ガレシ鬼眼<m力、ソノ身デ味ワエ!
31名無しになりきれ:2012/05/22(火) 23:30:04.98 0
かつての戦場。かつての世界。
いまはその残滓のみが中空を煙のようにかすかに漂うのみとなり
ひときれの「残り粕」がはらりと闇に舞い落ちた。

「…空しいものだな」

闇の中佇む彼女は、その残骸とすら呼べなくなった代物を摘みあげ、指先でくしゃりと潰す。
それを指先ですり潰すたびに、闇は一層深まり、彼女の存在自体すらも消えてしまいかねないほどに静まり返っていく。
 ハジマ     オ ワ
「再開りのための終焉り、か」

「やはり…空しいな」

呟く言霊も、かつて共に戦った戦友の記憶も、すべてが闇に溶け消えていく。
おそらく自分しかいない闇の中、おそらく最後の一遍が虚空へと散りに消え

「…往くか、第四世界」

最後の言葉が、世界を紡ぐ
32名無しになりきれ:2012/05/23(水) 01:05:33.11 O

―――そうか、始まるのか。

(風にマントをはためかせながら空を見上げる俺)
33名無しになりきれ:2012/05/23(水) 11:04:12.27 0
細腕、細腕ねェ……
ま、間違っちゃいないわ

―――あら、なにかが動き出しそうよ
ねえ王冠眼の貴男、楽しそうじゃない 

イッテミマショウヨ、ラクエンノカナタニ
34名無しになりきれ:2012/05/23(水) 12:22:08.16 O
楽園?
ラクエン、だと?
ほう……このディストピアに未だ我の見ぬ地があったとはな

フン、興が乗った
良いだろう、付き合ってやろうぞ魔女よ……我が進軍に後れをとるなよ!
35名無しになりきれ:2012/05/23(水) 17:24:47.37 O
また戦いが始まる…
いったい戦火は、世界をいくつ焼き滅ぼせば気が済むと言うのだ…
36名無しになりきれ:2012/05/23(水) 18:27:24.20 0
蘇るさ!世界は何度だって
そこに立ち生きようとする人々がいる限り!!
37名無しになりきれ:2012/05/23(水) 19:59:58.88 0
クッ・・・腕が疼くな
あの金環日蝕を見た日から、ずっと・・・!
38名無しになりきれ:2012/05/24(木) 01:23:21.24 0


─────……   バチッ!   ……─────






「あァ……永い、永い永い、夢を見ていたのか。……え? 俺は、よ」

始まりに邂逅するのは、未だ覚めぬ夢のような、原初の暗闇。
曖昧なまま溶け込んでいた意識が引力に引き寄せられて形を作り、古ぼけた椅子に預けていた体の支配を取り戻す。
バキバキと何かが砕ける音を体中から響き渡らせ、神経の一本、筋肉の一筋、細胞の一片までを余さず確かめさせる。

「ふ、くははッ、本当に『久しぶり』だな……! 憎き愛しき、我らが世界……!
 それともまさか──『初めまして』、になるのかもしれん、か。……新しき世界に」

「彼」は双眸に──もしくは、右腕の『眼』に──様々な色の光を宿して、様々な色を滲ませた声を絞り出す。
その色は嬉しさでもあり、同時に悲しさでもあり、また寂しさでもあり、同時に喜びでもあった。
口元には獰猛な笑みを浮かべ、鼓動はドクドクと止められぬ笑いを打ち鳴らしている。

一歩、また一歩と獲物に忍び寄る肉食獣の如く緩慢な、しかし時が来れば弾かれたように飛び出せる。
慎重と俊敏と苛烈を秘めた鈍い動きで体を持ち上げて、そのしなやかな足で以て重力に抗った。

                                            ・ .・ .・ .・ .・ .・
「くくッ、懐かしの新世界に……どれ、挨拶でもしておこうか。なあ? 親愛なる諸君」

深淵の向こう側──計り知れぬ巨大で厚き壁の逆側へ、そう言葉を投げかけると、踏み締める様に足を見えぬ扉に向けた。
コツ、コツ、コツと足音を響かせて、光と闇を隔てる薄き壁を前にする。
そして、ドアノブを掴み捻り、一気に開け放つ──!

ア タ ラ シ イ
久しぶりの世界は、目も眩む太陽の光と、鼻孔を擽る潮の香りに満ちていた。
39名無しになりきれ:2012/05/24(木) 10:49:40.69 O
楽園は朽ち果てた
創造主の手によって、世界は三度滅ぼされてしまったのだ

これで四度目――嗚呼、また戦乱の幕が上がる……
40名無しになりきれ:2012/05/24(木) 14:21:52.20 0
ここは物語の最果て
夢も希望も壊された、忌避すべき世界の末路
救いは無く、贖いも許されず、ただ枯れた乾土の荒野を餓えた亡者の群れが流離う

  ディストピア
《 死 楽 園 》 へ よ う こ そ 、 能 力 者 諸 君 ・ ・ ・ 。
41名無しになりきれ:2012/05/24(木) 20:51:23.09 0
えーー、なにそれーー
結局死楽園なワケ?がっかりよー私がっかりー
王冠眼の人だってがっかりよねー、きっとこう言うのよ?
“興が殺がれた、魔女よどうしてくれるつもりだ”とかなんとか――

彼女は言葉を切った
不意に鼻腔を掠めたある香が、現実≪イマ≫のものだとは思えなかったからだ

その香はどこか懐かしく、しかし人の身で臨むにはあまりに荘厳な
何万年もの太古より生命の根源が育まれた場所の香であった
42名無しになりきれ:2012/05/25(金) 12:50:47.42 O
……ほう
この大気、地質、ここはもしや……

フッ、フハハハッ!
戯れに貴様の提言に乗り、遥か遠方の地までやって来た訳だが……
大義であるぞ、魔女よ!

この生命の息吹!
弱々しいが、かすかに惑星の脈打つ鼓動を感じる……
素晴らしい場所だ、気に入った!
43名無しになりきれ:2012/05/25(金) 18:45:50.46 0
邪悪な波動を感じる…… 上かッ!?
44名無しになりきれ:2012/05/26(土) 09:51:58.62 O
またも生まれ出たか、神のみ得ざる眼持ちし者たち

ああ、なんと愚かな…なんと憐れな子供たちであろうか…
自らの命を燃やすことしか知らず、ただ徒に美しく輝く
であるからこそ悲しく、また愛しい…

無邪気にも邪気を纏いし忌み子たちよ
妾の愛に包まれ、消し炭となるまで…ああ、消し炭となるまで煌めいておくれ…
45名無しになりきれ:2012/05/26(土) 17:51:46.73 0
ああ、確かに、煌めいて消し炭になるだろうさ……。
ただし貴様が、だ。

(男が右手を振り上げる。すると、手の動きに合わせて炎が波を作る。
 灼熱の熱波が先行し、その一瞬後に火炎が女の身を包みこむ)

藁だろうと妾だろうと、炎はその身を焼き尽くす。
さながら地獄の釜の底。焦熱に身を焦がし、灼熱に身を灼く。

先の世迷言にて、愛、などとほざいていたが──
この世に光や愛などいらず。満ちるは闇と怨み。
怨みが怨みを呼び込み螺旋を描く。止まる事の無い怨恨が蔓延ろう。
それは劫火の侵略の如く──それこそが火怨。

(手首にて爛々と赤く輝く眼──第三の眼、『邪気眼』
 その眼は禍々しく毒々しく美しい、深紅の虹彩を宿していた)

我が『火怨眼』、そのものよ。
46名無しになりきれ:2012/05/26(土) 19:46:36.33 0
粋がるなよ、邪眼の民
テメエらには『天敵』が存在するってコト、忘れちまったか?


プレートNo.]――解放
崩壊の章の断片、アルマゲドォォン!
喰らえよ、粒子分解の神光! グッズグズに崩壊(こわ)してやるぜェェ!
47名無しになりきれ:2012/05/26(土) 21:44:55.49 0
何だ・・・?
世界がやけに不安定じゃないか、今日は
48名無しになりきれ:2012/05/26(土) 21:59:35.60 0
仰(こう)、と風が鳴いた。
天を衝く摩天楼群、その頂点に佇む女性がその音(こえ)を聴き、ふ、と振り返る。
漆黒の闇を煌々と照らす摩天楼たちは、昇り始めた朝日を浴び、鈍い輝きをもって新たなる世界の誕生を祝う。
海に近しい巨大な中洲に、美しく乱立する大都会の隙間を潮風が吹き抜ける。


─────……   バチッ!   ……─────


朝日とともに街を彩る彩光は消え、目も眩むような太陽の光に、彼女は手の平をかざしてそれを遮る。
腰に提げた刀と"ホルスター"が、かちゃりと揺れた。

「…懐かしいな」

呟いて、ふと首を捻った。ここに来るのは初めてなはずだ。
何か、得体のしれない"力"もしくは"存在"に、『言わされた』ような、そんな感覚がした。
また再び、潮の香り強い風が鼻孔を擽るように吹き抜けていく。

久(あたら)しい世界、第四の次元。
戦場は、勢いよく開かれた摩天楼屋上の扉をもって始められた。
49名無しになりきれ:2012/05/26(土) 22:26:03.61 0
フン…
 パラダイスロスト
楽園を失いし者が続々とこの地に群がりおって…、まったく不愉快だ
「ウリエルの裁き」を下されたいらしいな?
50名無しになりきれ:2012/05/27(日) 10:45:20.35 O
宿命の刻は近い、な
やれやれ・・また面倒なことになりそうじゃないか?
51名無しになりきれ:2012/05/27(日) 15:55:48.89 O
フフフ、元気な子であるな
焼かれては熱いではないか…

欠けし者のみが手に入れる、全なる者をも滅する力…神のみ得ざる眼…
火怨眼の者、おまえの眼は、まだ醒めていないのだよ
妾の望みはこの火を吹き消すことではない
激しく煌々と燃える様を見たいのだ

そこな者たちも、己にしか見えぬもののその先を眼に捉えたならば、またこの地を訪れよ
その時にこそ、ああ、妾を包むこの火炎も、妾なる風を受け、美しく燃え盛るであろう…

ああ、美しき焔よ
怨み憎しみに燃ゆるその紅は、清く潔い情熱にも似る…
祝福されし者、崩壊の奇跡の代行者…彼と輝きあう姿を見せておくれ

(女は恍惚とした表情のまま、炎と同化しゆっくりと消えていった)
52名無しになりきれ:2012/05/27(日) 17:00:22.55 0
潮風吹き抜け香る街並み。
旭日眩く照らす水平線。
高空遠く響く汽笛。
何の変哲もない紛う事無き都市に風来坊有り。邪気眼使い有り。

潮風に錆びついた蝶番が、ぎぎいいいいいい、と嫌味な悲鳴を挙げた。
山吹色の暁光が「彼」の身を一挙に刺し染め、その姿形を顕にする。
光という光を飲みこみ食らいつくす漆黒のスラックス、三千世界の悪意に染まったが如き闇色のジャケット。
氷河を凝り固める冷気を宿す蒼色の瞳、色という色を排し一切合財を拒絶した白髪。

到底この国、否、この世の人間とは思えぬ「彼」が、周囲一帯の何処よりも高みに存在する場に踏み入る。

希望を内包する一色の光の中に、黒髪が風に踊った。
そこで佇んでいたのは長身痩躯、妙齢の女性。「彼」と同等、もしくは少々高い背丈を持っている。
パリッと糊の効いたワイシャツと、スマートな体躯に誂えたジーンズが、彼女の色気を余さず放っていた。
腰には刀と"ホルスター"────堅気の人間とは言い難いらしい。

「彼」は、彼女を気にも留めない様子でその傍を通り、屋上の淵にて眼下に街を置く。

                       ミ ラ イ
「想像していたよりも────ずっと新世界は現実的だな、え?」

独り言とも、彼女への語りかけとも取れる呟きを漏らし、一身に朝日を浴びる。
浮かんでいる笑みは狂人の笑みか。

「It's a new world。狂ってる? それは褒め言葉だな、くくッ」

常人には理解の範疇外の言葉は、彼女に如何聞こえるのか。
そして「彼」は振り向き女性を視界の中心に収めた。

「世界は新生したことだ、近々楽しい事が起きそうじゃないか。
 今、そこらでやってるような小競り合いなんかじゃあなく、もっと激しく、とてつもなく惨く、果てしないほど巨大な事が。
 楽しみだな……ん? そうは思わないか、なあ? マドモアゼル。いや、フロイライン?

 ……ところで、そういえば。君は誰で、こんな時間に、こんなところに、どうして居るんだ?」
53名無しになりきれ:2012/05/27(日) 17:46:32.56 0
そうかよ、変な女だ。
自分が焼かれてるってのに嬉しそうとは、こっちは気持ち悪い事この上ないね。

……俺の『眼』が、何だって? 目覚めてないだと? んなもん百も承知だ。
こいつは、この『眼』は……いや、死にゆく奴に教えた所で無意味だな。

(炎が一段と燃え盛り、女の体を燃やし尽くす。炎に消えた女を一瞥すると、男は目を背けた)

炎の煌めきが見たいなら、いつまでも地獄の底で楽しんでろよ。あばよ。


……で、貴様は何者だってんだ。
邪眼の民? 随分とまあ古めかしい言い方しやがって。
貴様も地獄の釜の底が見たいって口なら、俺が切符を切ってやるよッ!!

(右手首の邪気眼が妖しい光を放つ。
 一瞬遅れて炎が周囲に顕現し、目の前を焼き尽くす──と思いきや、眩い光が火炎を切り裂いた!
 慌てて男は横に飛んで光を避けると、直前までいた地面ごと全てがプレートの攻撃を被った)

んなっ……プレートだと!?
"神代の邪眼殺し"と名高い、クソッタレの板切れを! 貴様が持ってるとはな!
面白ぇ、ふざけやがって! 『火怨眼』ッ!!

(男が右手を前にかざすと、再び炎が顕現する。そして右手の前に収束し、渦を描いて解き放たれる!)

炎の渦に飲まれて、たらふく炎を飲み込んでくたばりやがれッ!!
54名無しになりきれ:2012/05/27(日) 21:28:21.43 0
あらあらまあまあ、“する筈の無い香”に次いで“神の光”を使う者ですって?
ちゃんちゃら可笑しいわ、嗚呼、可笑しいわ

ころころと、意外にも鈴を鳴らすような声で魔女が嗤う
思いつきで来たとはいえ、この新世界は随分と賑やかなようだ
目の前に現れた、恐らくこの地の先住人なのであろう不機嫌な人物
魔女伝統の術を使うまでもない、それよりも眼を使うまでもないかもしれない
朱唇を嫣然と歪ませて魔女は嗤う
耳に届くは誰かの呟き、王冠眼の彼の随従のものだろうか

――――まあ、そうであっても、そうでなくてもどちらでも良いことだ

面倒事はお断り、でもあなたの“光”に興味があるわ
ふふっ、罪人になった覚えはないけれど、そうね、裁けるものなら裁いてみなさいな

笑みの形の唇を開いて魔女がそう言った
55名無しになりきれ:2012/05/28(月) 00:22:46.30 O
フ――

フハ、フハハハッ、全くもって素晴らしい!
よもやこうまで我を退屈させぬとは正に望外、見上げた地ではないか!
失楽園の咎を負った先祖に感謝を捧げねばな!

さあて、神光の使い手とやら――王たる我を失望させるなよ?
その神秘、あまねく我が所有物としてくれるわ!
56名無しになりきれ:2012/05/28(月) 00:59:33.54 0
その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。
57名無しになりきれ:2012/05/28(月) 16:41:59.18 O
覚醒めよ――
力は汝と共に在り
世界の全てを汝の欲しいまま、望むままにするのだ・・・

そう――――欲望こそが力なり
58名無しになりきれ:2012/05/28(月) 21:33:08.55 O
漆黒の騎士≪ナイト・オブ・ダークネス≫とは俺の事よ
59名無しになりきれ:2012/05/28(月) 21:48:40.75 0
錆びつき、軋みをあげた鉄扉の音に、遠方にかすかに煌めく海を見つめていた彼女は、わずかに顔を下げ後ろを振り向く。
鋭く強い陽光により、顔は妖しく陰に覆われその表情を隠す。長めの前髪もまた、彼女の顔を自然に、しかし確実にその特徴的な三白眼を見えづらくする。
全て暗殺の、闇の殺人者として生きる為に身につけたものだ。

扉を開け、出てきた男に、彼女はすぅとその目を大きく細める。
この世の闇をすべて固めたかのような服装に、凍てつく双眸、そして全ての色を失った白髪。


男は、まるで彼女が存在しないかのごとく横をすり抜けると、摩天楼の縁に立ち、鉄柵も段差もないそこからコンクリート・ジャングルの淵を眺める。
既に街には人が出回り始め、この街の生きざまを呈しはじめていた。

                       ミ ラ イ
「想像していたよりも────ずっと新世界は現実的だな、え?」

それは独り言なのか、彼女に語りかけたものなのか。
変わらず彼女は少し顔を下に向け、表情を薄く隠したまま男をじっとりと睨みつづけている。

「。ヨ、ッ、ニ・。」カク、テ、ニ、・ゥ。。、ス、・マヒォ、盧タヘユ、タ、ハ。「、ッ、ッ・テ。ラ 」

「…?」

男が何事かを口走るが、どこの言葉か、まったく聞き取れない。
わずかに彼女が首をかしげた瞬間。男はぐりんと振り返った。
半歩、彼女が身を引く


「世界は新生したことだ、近々楽しい事が起きそうじゃないか。
 今、そこらでやってるような小競り合いなんかじゃあなく、もっと激しく、とてつもなく惨く、果てしないほど巨大な事が。
 楽しみだな……ん? そうは思わないか、なあ? マドモアゼル。いや、フロイライン?」
60名無しになりきれ:2012/05/28(月) 21:49:10.38 0
「………」

陽光を背にした男、その表情を窺い知るのは難しいが、本能的に、もしくは勘によって
彼女は腰に下がる小刀へとかすかに手を伸ばす。

「……ところで、
 そういえば。君は誰で、こんな時間に、こんなところに、どうして居るんだ?」

ふっ、と男を包んでいた異形の気配が消える。いや、なりを潜めたという表現が正しいかもしれない。

「……」

伸ばしかけていた手から力を抜き、まるで安否を確かめるかのように手首を軽くこねる様に揉む。




「………」

かすかな沈黙。朝日が昇り切り、下界の街を照らし出す。

「…随分と」

彼女から紡ぎだされた声は、小さく、細く、しかししっかりとした強みを持った声。

「…随分と、饒舌だな
 故も知らない、初対面の人間に対して」

男のいる位置に対して、垂直になるようにゆっくりと歩き出す。時計の文字盤でいえば、12時と3時の関係にある位置、といえば分かりやすいだろう。
落ちてしまえば、まず無事では済まない狭い摩天楼の頂点、その縁に、彼女はなんの迷いもなくつま先がかかるほどにまで近寄る。

「――その雰囲気からすると、"能力者"か?
 …そうだとしても、突如現れ、所見の相手にいきなり名を訊ねるなど、無礼講にもほどがある」

彼の凍てつく眼光とはまた違う、冷徹で虚無的な視線を肩越しに一瞬投げかけ。彼女は続ける。

「…私はこれから"仕事"があるんでな。失礼する」

そして、足をかけた崖の縁から軽く跳ね、谷底へと落ちて行った。
61名無しになりきれ:2012/05/29(火) 06:50:16.09 0
ハッ、おいおい!
しっかりしろよ炎野郎! さっき言ったよなァ?
”邪気眼(てめえ)”と”プレート(おれら)”との相性はとびっきり最悪なんだっつの―――通るかよッ、オラァ!
……そら、ご覧の通りよ

威勢は良い、認めてやるぜ
が、相手が悪い
「邪眼の民」が覇を唱えていい時代はとっくの昔に終わってんだ、第一世界の時点でとっくに、な
ま、諦めて崩壊(こわ)れろや
これも運命だと割り切りゃ少しは気も楽に……、……あ?

…何だよ、オイ
わらわらうじゃうじゃ、うざってェったらねえ
魔女? 王冠? 知らねえな、知らねえが……てめえらがもし「邪眼の民」だっつーのなら、俺のプレートで纏めてブチ消しちまうけどそれでいいか?
――――嗚呼、面倒くせえな
いいや、殺そう。名乗りぐらいはくれてやるよ、冥府の駄賃にでもするんだな

聖絶執行機関『教会』所属
洗礼名(コードネーム)、『神の強き太陽(シャムシエル)』。忘れちまって結構だ、どうせすぐアバドンにぶち込んでやっからよォ!

プレートNo.]――崩壊の章の断片、アルマゲドォォン!

(眼前に翳した掌から粒子分解の太い白光線を放ち、薙ぐように振り回す)
62名無しになりきれ:2012/05/29(火) 08:32:47.82 O
片や荒涼とした大地
片やコンクリートジャングル
クッ・・分からない、どうなってやがるんだこの世界は!
63名無しになりきれ:2012/05/29(火) 17:47:04.39 O
畏れるな
何そう難しい話じゃない
お前のその『眼』で見た光景全てが、この『世界』なのさ
64名無しになりきれ:2012/05/29(火) 19:11:35.97 O
ちっ・・・混沌と秩序、二つの理念が喰らい合ってるような世界じゃねぇか
65名無しになりきれ:2012/05/29(火) 19:43:56.43 0
それがどうした――ッ
それこそがッ、我らが邪気にふさわしい
そう思わんかね?
66名無しになりきれ:2012/05/29(火) 19:51:15.65 0
          ・・
なっ―――、きょ、『教会』ですって?!
冗談じゃない、冗談じゃないわよ
こんなところで、『教会』の奴に会うなんて……ッ!

それまで楽しそうに嗤っていた魔女ではあったが
突如現れた男――シャムシエルの言葉に仮面の奥の双眸を見開いた
『教会』、鼓膜を震わせたその単語に自然と頬が強張る
彼自体は“魔女”についてどうとも思っていないようではあるが
用心して用心しすぎることはない
特に―――こと『教会』に関しては……
まあそもそも、素直にはいそうですかと殺されてやる義理もないが

ちょっとそこの貴男! 
少しだけ、少しだけ手を貸すわ
ここで教会関係者にやられる訳にはいかないの

鉄壁の守り人よ、我が聲に応えしものよ、汝の力今ここに示さん
阻め(ガード)――ッ!!

(ばさりと漆黒のマントをはためかせると呪力を構成、展開し
 火怨眼の青年と王冠眼の男を(こちらは念の為)守るように
 最小限の魔術防御壁を作り出す)
67名無しになりきれ:2012/05/30(水) 00:08:17.73 0
何だとッ!? 炎が紙キレのように切り裂かれっ、

(白光が煌めき、男の頬を掠める。
 そのことに気が付き、瞬きをする間に顔色が蒼然とした後、再びその場から飛び退く)

ッッぶねえええーーーーーッ!!
ああ、クソ! さっきよりも本気の一撃だってんのに……!

『教会』……あぁ、そうか。成る程、そこなら"板切れ"があってもおかしくはないな……。
邪気眼の敵対視も十分過ぎるほどの理由だ。

……上等じゃねぇか。こちとら『教会』とは敵対してんだよ。
恨みつらみは存分だ……我が『火怨眼』の餌食に丁度良い"獲物"だ!
此処で! 打ち倒して! 手柄挙げさせてもらおうじゃねえか! ああ!?

(男は威勢よく啖呵を切り、再三の火炎の顕現を行う。
 激しく燃え上がる火炎は、しかし、男の虚勢を表しているようだった)

(……とは言え、奴のプレートと『火怨眼』の相性は最悪その物。
 良くて相討ち、悪けりゃ──ってところか。ああ、本当ツイてねぇな……。だが、やるしかねえ!)

来いよ、『神の強き太陽(シャムシエル)』! 一思いにブチ殺してやらぁ!
南無さ──ん?

(いざ飛び掛かろうとした瞬間に、目の前に防御壁が築かれる。
 飛んできた白光がそれを突き破ろうとし──それをしのぎ切る)

何、だと……!? あのプレートの一撃を、防いだ!?
っと、仮面のアンタ! ありがとうよ!
アンタも『教会』とは良い関係じゃないってか。敵の敵は味方ってわけか、ありがたいこって!

(魔女を見遣り、口元をニヤリと歪めた。
 先程までの自棄を起こしていた表情ではない──その表情に伺えるのは、強い意志!)
68名無しになりきれ:2012/05/30(水) 00:09:32.69 0
して────勝機も見えた!
手を貸してくれるって言ったよな? なら、もう少しだけ手を貸してくれ、奴を倒せる!

さっきも見たように、下手な攻撃は迎撃されちまう。
だから、俺はこれからヤツに突っ込む。そして0距離で一撃ブチ当てる。

アンタにやってほしい事は一つ。「次の俺への『一撃』を防ぐ」、ただこれだけだ。
わかったな? わかったよな? それじゃあ勝利の女神を無理矢理笑わせに行くぞ!
俺の命運はアンタに託したぜ!

さあて待たせたな? そろそろこのお終いにしようじゃねえか!
『火怨眼』ッ! 全力行使……!!

(邪気眼が赤く光る。渦巻く邪気と共に顕現する火炎は膨れ上がり、紅蓮の光が辺りを照らす)

地獄まで一直線。案内してやるよ────フレイム、バーストォォォッ!!

(視界を覆い尽くすような巨大な火炎の波。しかしその勢い自体は先程までの火炎と大差はない。
 ともすれば、同様に白光に切り裂かれるだけだろう)

(当然である──大技に見せかけた目くらましであるのだから)

おおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォッッ!!

(放った火炎に追走し、雄叫びを挙げて疾駆する。疾走する。躊躇いを抑え込み、恐怖を捻じ伏せて。
 右手に残った絞りカスの邪気をかき集めて、敵前で叩き込まんがために。勝利せんがために)
69名無しになりきれ:2012/05/30(水) 13:21:29.07 O
足りぬ…
混沌が足りぬ…
70名無しになりきれ:2012/05/30(水) 18:10:31.92 0
朝日の中、張り詰めた糸がわずかに緩んだ沈黙。
時間にして数秒程度、数十秒程度の、一分にも満たぬ静寂。
凄惨ともいうべき笑みを湛えたままの「彼」と、鋭い刃を思い立たせる表情の麗人。


「…随分と」

ぽつり。
沈黙を破る言葉の声量は小さい。女らしく少々か細く聞こえるかもしれない。

「…随分と、饒舌だな
 故も知らない、初対面の人間に対して」

だが、その声は何処か彼女の強さの表れている声であった。

女性は今立っているバベルの塔の、断崖絶壁の淵へと歩き出す。
その所作は一切の迷いも感じさせず感じられない。

いよいよ縁に足が掛かった。恐怖は欠片も見えず、まるでそれが当然であるかのように。

「――その雰囲気からすると、"能力者"か?
 …そうだとしても、突如現れ、所見の相手にいきなり名を訊ねるなど、無礼講にもほどがある」

肩越しに彼女が振り返る。
一瞬だけ、「彼」と彼女の視線が交錯した。
狂気を嬉々として見据え映し出す蒼色と、現実を空虚に且つ鋭く見極める暗青色の視軸が重なり合った。

「…私はこれから"仕事"があるんでな。失礼する」

彼女が摩天楼から足を離す。
瞬き一度の間だけふわりと空中に留まり、――重力に身を任せた。
71名無しになりきれ:2012/05/30(水) 18:11:51.53 0
彼女の身投げを見送ると、「彼」は愉快この上無いといった様子で喉を鳴らす。

「くくッ、くははッ……フラれちまったようだ、なあ? くくッ」

小指の爪ほどの残念さも見せずに、可笑しい可笑しいと笑い声を挙げる。
まともな感性では得られぬ狂喜を顔と言わず素振りと言わず、体の前面、否、全面に出していた。

「はははッ! きっと最後で主導権を握らせちまったのが悪かったんだな? 全く、女というのは扱い難きものよ」

語り掛ける者も無く――正確には第四の壁の向こうに居るのだろうが――げらげらと笑いながらぶつぶつと呟きを吐き出していく。
まさしく狂人と言う他無い姿は、どのような人間が見ても同じ判断を下す事だろう。
          テスサ
「誘えたのなら、手遊びに一曲、"踊"ってもらおうと思っていたが……まあいい。時間なら在る。
 後は運命の導き……いいや、陳腐だな。世の理、大いなる流れ。いやいや、何でもいいな?
 俺とフロイラインの間に"よくわからない何か"が働けば、また何時か近い内に相見えるだろうよ」

狂笑を張り付けたまま、「彼」は元来た道を戻る。
暗黒色のブーツの音を地面で響かせて、陽光を遮る建物へと入っていった。

「もうすぐ面白いことが起きるだろうが、どれ。俺は何をしようか?
 プレート、邪気眼、異能……なんだ、娯楽はいくらでもあるじゃないか。
 あァ、楽しみだ。心待ちだ。待望だ。最高じゃないか、え?」

鉄扉が再び耳障りな声を挙げて、今度は外界との連絡を絶たんとする。
がちゃり。そのまま扉は壁と同一平面上へと並び、正しくその機能を果たした。



そして数秒の後――――都市一番の摩天楼は、轟音を立てて瓦解した。
72名無しになりきれ:2012/05/31(木) 07:06:44.94 0
ハッ、仕舞いにゃ虚勢かよ!
醜態晒してんじゃねえぞ「邪眼の民」ッ、ああもういいぜてめえにゃ飽いた!
もう一切合切面倒くせえからさっさとブチ消してやるよ! このアルマゲドンの”粒子分解の神光”で――――な、にィッ!?

(阻ま、れた!?
オイオイ一体何が起き、て――『魔術防御壁』!? ってェことは、こいつァ……)

ク、ククク
クハハ、ハーッハッハッハ!                                        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
何だ何だよそういうことかよ魔女さんよォ! なるほどねえ。魔女ってのは通称でも何でもなく、てめェそのものって訳か
……なら今度こそ、遠慮なくブチ消されても文句はねェな?
俺ァ『異端審問』なんつー拷問趣味に興味はねえ。さくっとブッ殺してやるから、感謝しろや

――――んで?
さっきからギャーギャー五月蝿えが、それがてめェの切り札か
火炎の大海嘯ねえ……だぁから何度言ったら分かンだよ、ドン・キホーテ。いや違えな、蟷螂の斧、蜉蝣っつった方がチンケで似合いだぜ

何か勘違いしてるみてえだから教えてやる
さっきあのクソ魔女(あま)に神光を防がれたのは、あくまであの防御壁が魔術によって構成(つく)られたものだったからだ
邪気眼を行使した防御手段だったら、「あの程度」の出力でブチ抜いてやれたのによ
……気付いたか?
ヒッハハ! その通り、”出力上げりゃあ魔術防御壁だろうが分解(ばら)して崩壊(こわ)して貫通(つら)ぬくのは別に訳ねえってこと”よォッ!!

侵蝕率、20%から50%……ガァァァァ、出力上昇ォォ!
コレデ終ワリダ! 地獄ニ直滑降シロ、呪ワレシ邪竜ノ堕トシ仔共! 消エテ失クナレッ、邪眼ノ民ィィィッッ!
73名無しになりきれ:2012/05/31(木) 07:08:16.45 0

無限光――破邪聖絶する天使火砲(アイン・ソフ・オウル――アルマゲドン・ゴグマゴグ)ッッ!!


(プレートの侵蝕率を限界まで上昇させるシャムシエル)
(白き清浄なる光を湛えた神々しい天使の翼を背に生やし、その双翼から先程よりも強大な分解光線を照射する…………、が)


「おおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォッッ!! 」

(……ナ……ンダとォ!?
バカな、何故だ、何故消えてねえッ! あの大出力なら火炎の波濤だろうが防御壁だろうが問答無用でブチ消したはず!
だったら、他にどんな不確定要素、が……!?
魔女が手の内に何か隠し持ってやがったのか、それともこのクソ炎野郎の隠し球か、まさかさっきから傍観してやがる王冠の野郎が何か……!?

いや、こいつ――まさか、光線の僅かな隙間を抜け――ッ!?)

ク、ソ、ガ、キィィィィイイイイイイッッ!!!

(吼えるシャムシエル)
(炎の青年の拳が辿り着く前に、万象触れた存在を瞬時に粒子消滅させる天使の光翼を叩き付けようとして)
(――それより一瞬早く、拳は天使の顔面を打ち据えた)

ゴ、ガァァァアアア……ッッ!!

(瞬間、消滅の光翼が宙に掻き消え、力を失った男は荒野を滑りながら大きく吹き飛ばされる)
74名無しになりきれ:2012/05/31(木) 17:37:24.24 0
ま、そゆことよ
私もここで彼奴にぶち殺されたり、教会本部(ウエ)に報告上げられたりしたら困るの

って、何いきなり――えッ、ちょ、無茶苦茶言うわね貴方
魔術にはそれなりの準備ってものが必要でさっきのは……ってあぁッ! 聞いてないし!!

ッチ! 彼奴が出力上げたら持ち堪えられるか分かんないってのに……
このっ、猪突猛進野郎!! やってやるわよ!!

意識下での高速詠唱を開始しながら魔女はそう毒づく
詠唱補助儀式(事前の準備)無しに無理やりに呪力を構成、
展開しようとすることにより掛かる負荷は想像以上で、
万力で頭を締め付けられるような軋んだ痛みに顔を顰める
しかしそうまでして魔女が火怨眼の彼を支援したのは教会が憎く、
そして同時に恐ろしいが故
それから彼の熱さに乗せられてしまったが故だろうか
この魔女、場の空気に染まり易いのが美点でもあり欠点でもあるのだ

鉄壁の守り人よ、我が聲に応えしものよ、汝の力今ここに示さん

最終詠唱の途中、シャムシエルの高笑いが聞こえた
どうやら出力を上げるつもりらしい
魔女は歯噛みする
ムカつくのよ教会風情が! 絶対的弱者は邪気の影に脅えて暮らすがお似合いだってのに……
魔術の放出はもう止められない、シャムシエルの巨人か、魔女の魔力か……
一瞬で良い! 耐え……ろ――ッ!!

阻めッ(ガード)!! 

呪文の完成を告げる言葉と同時に火怨眼の青年の前に
複雑な文様が万華鏡のように交錯する薄い魔術防御壁が出現する
瞬間プラチナにも似たまばゆい光が当たりを照らし、世界を崩壊させる
荒涼とした大地はただ一点のみを残し正しく神が降臨したかのごとく美しく輝いている
その一点、魔女の防御壁に守られた一瞬の間、そこに悪魔の舌にも似た業火が雪崩れ込む
雄たけびを上げた青年が純白の羽持つ天使に向かって邪気を迸らせ――
――その顔面を右拳で殴りぬくッ!!

たら、と仮面の下から流れた血に気付き、魔女が乱暴にそれを拭う
何がどう作用してあの結果になったのかは分からない
己の作り出した防御壁などあの神光の中では一秒と持たなかったであろう
だが重要なのはそこではない、重要なのはシャムシエルが今地面に伏しているという事だ

やっ……た? いや、油断は―――

言いながらも訝しげに眉を顰める
魔女というものは疑り深いものなのだ
75名無しになりきれ:2012/06/01(金) 00:50:58.20 O
やれやれ、シャムシェル君は猪相変わらず突猛進過ぎていけませんねぇ。
(穏やかな微笑を浮かべた金髪の人物が遠くの岩山の上で戦闘を眺めていた)
76名無しになりきれ:2012/06/01(金) 07:04:37.83 0
「あの魔女(おんな)……見かけないと思ったらこんなところにいたのか。
 折角イイ眼(ブツ)が手に入ったから届けにと思って魔力を追って来たが……。
 よもや自らが闘っているとはな。珍しい事もあるものだ」

【頭からすっぽりと黒いローブを被った人物が金髪の人物の背後から音もなく現れる。敵意はないようだ】
77名無しになりきれ:2012/06/01(金) 10:30:48.55 O
フッ――
フハハハ、血湧き肉躍る愉しい見世であった!
『教会』の天使を相手に勝ってしまうとはな!見巧者たる我をも唸らせる素晴らしき戦い、まこと快なる哉!

(まあ、我の助力が無かったとは言わん)
(王冠眼の能力で二人に「武運の祝福」を与えてやった)
(それでも絶対の相性差を覆すには心許なかったが…どうやら我が出るまでも無かったな)
78名無しになりきれ:2012/06/01(金) 21:42:59.25 0
(シャムシエルの出力上昇――そして放たれる、より強大な白光)

……俺の炎が貴様の"プレート"には無力なのは理解したぜ。
けどよ――

(直撃の一瞬前に現れた魔術防御壁が、光線を受け止めた)
(もたらされた刹那の隙――男は構わず防御壁の傍を通り抜ける、恐らくはすぐさま崩壊しただろう)
(しかし攻撃は、男には当たっていない)

――当たらなければ意味がないよなあッ!?

(白光を潜り抜け、目の前に一歩、踏み込んだ)
(引き絞られた拳は既に射程圏内!)

(同時に輝く天使の翼、必滅の光は輝きを増す)
(果たして拳は放たれ――光が光線となるよりもほんの少し早く、顔面を捉えた)

『火怨眼』!ヒートッ、

(右腕に纏った邪気は火花を起こし、火炎となって拳の速度をブーストする)
(着弾時から更なる加速、威力を増して殴り抜ける!)

  ブ レ イ ク ッッ!!

(『神の強き太陽(シャムシエル)』は光翼を失って、荒野を吹き飛んで行った)
79名無しになりきれ:2012/06/01(金) 21:44:04.76 0

ぜぇ……ぜぇ……、名乗って、なかったな? 『神の強き太陽(シャムシエル)』。
俺はッ、"カノッサ機関"の末端(エージェント)! 『火怨眼』の赤穂了吾!
貴様の洗礼名(コードネーム)、確かに刻んだ! ……そして、俺の名を刻んでおけ。

(高らかに勝利の名乗りを上げて、数秒)
(半ば崩れ落ちる様にして膝をつく)

ッッはぁぁぁぁー……あ、危なかった……!?
一歩、どころか半歩間違えてりゃあ今頃小指の破片も残っていなかったな……!

(もしも。仮面のねーさんが協力してくれなかったら、一瞬すら壁が持たなかったら。
 シャムシエルの攻撃が早かったら、俺が一度でも躊躇っていたら、走力が足りなかったら。
 ……あの光の前に、塵となって消滅してただろうな……)

(取り留めのない思考が浮かんでは消えていく、ifへの恐怖が今更になって背筋を凍らせる)

(でも、まあ……倒せたわけだ、今頃震えててどうするんだって話だよな)

……ああ、仮面のねーさんご協力ありがとうサンキューなマジ大好き愛してる――世界で上から10番目くらいに。
というわけで後よろしく。俺ぁもう邪気が尽きちまったよ。次立ち上がってきたら俺は逃げるかナイフで特攻しかできねーぜ。
でもまあ、なあに、きっと気絶してることだろうよ。ただ思いっきり殴っただけだから骨は折れても死んではいないがな。
心配ならロープで手でも縛っておけばいい。"もしも"でも最後みたいな出力は出せやしない筈だから、それで十分。

さて、と。仮面のねーさんは魔術使いってのはさっきわかったし、見物客は邪気眼持ちだな?
邪気はしっかり感じられるしな。それと、お褒めの言葉アリガトサン。
それから――

(ちらっと遠くを見る。二人の人物が居る、岩山の方角だ)

――邪気の香りが漂ってるぜ。視認は出来ないが、また"客"らしいな。
こちとら行き成り転移(とば)されてきて何が何だかってのに、何でこうもまあ障害に事欠かなさすぎるんだか!
80名無しになりきれ:2012/06/02(土) 09:30:33.39 0
ん…?
風の向きが、変わった?
81名無しになりきれ:2012/06/02(土) 16:12:51.51 0
(が、ァ……クソが…!
あのクソ野郎、邪気を込めた拳で思い切り撃ち抜きやがった!
頬骨は折れてないみてえだが……脳が揺れてやがる。身動きも取れやしねえ、クソッタレ……!)

ふ、ぐ、クハハ……
いい気になるんじゃ、ねえぞ……邪気眼使い、共
このアルマゲドンのプレートは「模造品(レプリカ)」よ……本物のプレートは侵蝕力が強すぎて、『上級天使』連中しか操れねえからなあ……
ハッ、惨めったらしくて情けねえことに……今の俺じゃァ、聖遺物も扱えねえ雑魚さ
だがよ……

(ニィ、と口角を上げて)

俺ァ、必ずのし上がってみせる……!
『上級天使』に成り上がって、正真正銘本物のアルマゲドンで……邪眼の民共を、粉微塵にブッ崩壊(こわ)してやらあ……!
赤穂了吾……覚えておくぜ、次に遭った時がてめェの最期だ……!

ま……今日の所は、俺の敗北にしといてやらァ
どうやらお迎えも来たみてえだしな……懺悔は帰ってからたっぷりしてやるよ、金髪神父野郎

全く、今日は厄日だぜ――――じゃあな、クソッタr


(カラン、と地面に模造品のアルマゲドンのプレートが落ちる)
(言葉の途中で、シャムシエルの姿が光と共にザアっと掻き消えてしまった)
(空中には天使の翼を生やした、紅蓮の長髪を持つ幼い少女。その手には『No.]:崩壊の章』アルマゲドンの本物のプレートがある)
(『上級天使』の一人、『神の光(ウリエル)』だ)

「”始末”しちゃったけど。いいよね……?」

(無表情な少女は金髪の男に向かってそう事後確認した)
82名無しになりきれ:2012/06/02(土) 20:27:38.23 0
おお、スゴイスゴイお疲れ―。
あはー、ありがとーって、えー、貴方の中で10番目? 
貴方の交友範囲によって喜ぶべき気か否か決まるところよね、それ。
王冠眼の貴方も、アリガト。
手、貸してくれたんでしょ? 敵の敵は味方、ほんとにそうよねー。
あー、一応縛っとこうかなー、どうしよっかな――!?

(戻ってきた火怨眼の青年―――赤穂と名乗っていた、
が勝利したのを見止めて贈るは気のない拍手と言葉。)
(愛してる、の言葉を飄々と受け止め、へらりと一笑する。)
(しかし、念の為と言われると表情少々引き締めて暫し思案する様子を見せた刹那、
シャムシエルの笑い声が鼓膜を震わせる。)
(直ぐに身構えるもどうやら動けないらしい。)
                                              コワレ
(と、逃げ口上の最後の一音、それを口にしかけたシャムシエルが光と共に崩壊した。)
83名無しになりきれ:2012/06/02(土) 20:29:16.88 0
これだから教会ってのは――――

(吐き捨てるように言って魔女は唇を噛み締める。)
(光の源を辿り視線を遠く、赤穂が見つめる方向――岩山へ向ける。)
(風向きが変わったのだろう、吹き抜けた風が魔女の濃い金髪を揺らした。)

胸糞悪言ったらありゃアしない。
私の“大事な客人”には手を出さないでよ? 神父サマと天使チャン。
教会の奴らに敵意があるか無いかは分からないわ。もう一人も、ね。
まぁ、注意しとくに越したことはないと思うわ。
ねぇ、“邪気眼持ち”のエージェントさん。

(遺眼―千里眼―の能力を使って人影が何者かを垣間見ると一つ舌打ち、己の“客人”が傍にいると知ると剣呑そうに目を細める。)
84名無しになりきれ:2012/06/02(土) 23:57:10.05 0

「ええ。構いませんよ、ウリエルさん。
 月並に異端審問にかけられるよりは、貴女に裁かれた方が彼にとっても幸福でしょう。
 それに、どちらにせよ彼はそろそろ『壊れる』予定でしたからね」

法衣を着込み、浮かべる微笑を崩さぬ金髪の男は、
背後の人物などまるで“いない”かの様に……そう、つまらない背景の一部であるとでも言うかの様に、
上空の『神の光(ウリエル)』へと優しげに語りかける。
距離が離れているが、恐らく発した言葉はウリエルに伝わっている事だろう。
と、そこで先程まで鑑賞していた二人の異教徒がこちらへと意識を向けた事に気が付き、
そして彼らが攻撃しないよう此方に言葉を向けたのを確認すると……にこやかに手を振った。

「……さて。異教徒の方々をあまり怯えさせるのも本意ではありませんし、
 模造プレートの性能も確認できましたからね。僕はそろそろ帰還するとしましょう。
 ウリエルさんも、帰還するなら送りますよ?」

「おっと、そういえば自己紹介がまだでしたね。僕は『神の力(ガブリエル)』。
 改宗がしたくなったら、いつでも懺悔に来てください。では」

距離は離れているが、やはり異教徒達に言葉は届いた事だろう。
そして、微笑を浮かべながら指を鳴らすと、金髪の男の周囲に
一瞬だけ恐るべき衝撃波が発生し――――次の瞬間金髪の男の姿は掻き消えていた。
85名無しになりきれ:2012/06/03(日) 00:23:04.14 0
能力者が次々と殺し合う
まるで互いが互いを滅ぼし尽くすまで終わらないと言うかのように…
まさか、この第四世界の理は……!
86名無しになりきれ:2012/06/03(日) 01:24:55.83 0
金髪の男──ガブリエルと名乗っていた──がいなくなり、岩山の上にはローブの人物だけが残される。
男が去る時に発生した衝撃波によってローブが激しくはためき、被っていたフードが後ろへ落ちた。

「……」

──そう、"それだけ"である。
一瞬とは言え人間など紙切れのように吹き飛んでもおかしくない程の衝撃波。
その衝撃波の中、その人物は"何事もなかったかのように"佇んでいた。

「……終わった、か」
フードの下から現れたのは太陽光を跳ね返さんばかりの美しい白銀の髪。
ローブの中に納まっていることから、長髪であることが予想出来る。
歳は十代前半と言ったところ。人形のように整った容貌(かお)、大き目の瞳──。
凡そ場の雰囲気にそぐわない、触れたら壊れてしまいそうな少女。

「……」

少女は静かに瞳を閉じる。
次の瞬間──少女の姿は音もなくその場から消え、崖の下を歩いていた。

──────

「久しいな、魔女よ。……ああ、"この体になってから"会うのは初めてだったか」

自分を見る魔女の反応に気付いて補足を入れる。

「そんなことよりイイ眼(ブツ)が手に入った。今回は三つだ。
 『死鳥眼』、『蠱惑眼』……そしてお前の欲しがっていた『法王眼』だ。
 手に入れるのに少しばかり苦労したが……なに、報酬はいつものアレでいい。
 血のように赤いワイン、それと少しばかりの生贄(つまみ)……期待しているぞ」

ニヤリと口を小さく歪め、少女は嗤う。

「しかしお前が他人と一緒にいるとはな。お前と付き合う奇特な奴は私だけかと思っていたよ。
 ……別に心配しなくてもいい。私は魔女(こいつ)の知人だ」

【戦闘の終わりを見届け、三つの遺眼を持って魔女に接触する】
87名無しになりきれ:2012/06/03(日) 01:50:17.99 O
エターナル・フォース・・・
88名無しになりきれ:2012/06/03(日) 08:34:45.70 0
―――落ちていく。
たかが数百mの高さ、落ち切るまでには数秒も掛からず、そのわずかな時間に、人間は人生を幻視するという。
そして堅いアスファルトに叩きつけられ、その儚い人生を終えることだろう。普通であれば


ずどん、と鈍い音をあげて、彼女はコンクリートジャングルの深淵に降り立った。
片膝を立て、両の手のひらを大きく広げた姿勢で固まる。それはまるで、落下の衝撃を大地へと逃がしているかのような
しかしそれも一瞬。もしその場所に誰かがいたとしても、音に気付き振り返った時には、手に付いたアスファルトの破片をパッパと払うワイシャツにジーパン姿の女性がいるだけだ。

「………。。。」

と、その動きが止まる。
わずかに首をもたげるかのように下げ。目線を流す。振り返ることはしないが、その意識が注がれているのは今しがた自分が飛び降りてきた摩天楼。
途端、彼女が発した音よりもはるかに大きく、重く、不快な和音をたてて
無邪気な子供につつかれた、出来の悪い積み木のように摩天楼が崩れ始めた。
舞い上がる砂塵、遠雷のような轟き。
彼女の癖の強い黒髪が、砂塵まみれの風に攫われてその表情を隠す。
隠れる一瞬前に垣間見えたその顔には、どろりと濁りわずかな憤怒を滾らせた三白眼が、正面をじっとりと見据えていた。

「…手荒い」

そこまで言ってまた言葉が止まる。
右腰にあるホルスターから小さな拳銃を引き抜き、高く掲げて一発。
真っ黒な硝煙とともに打ち出された、たった一発の9mmペラバラム弾は、彼女めがけて落ちてきた乗用車大の瓦礫を打ち抜き、粉砕した。

打ち抜かれた瓦礫の破片がひとしきり落ちてくると、ひときわ強い風と共に、砂塵が収まり始める。
拳銃を高く掲げたままの彼女は、最後の瓦礫が背後で落ちる音と共に、乱暴気味に拳銃をホルスターに突っ込む。

「…手荒い、見送りをありがとう」

ぎろり、とかつて摩天楼が伸びていた空を睨み上げる。
朝焼けの澄み上がった青空だけがコンクリートの巨木に囲まれ、ぽっかりと空いた穴のように映し出されていた。

その後、この騒ぎで彼女が行うはずだった"仕事"を断られたのは言うまでもない
89名無しになりきれ:2012/06/03(日) 15:53:11.08 0
なんだ、意識飛んでなかったのか。シャムシエル、貴様案外タフだな。
……模造品(レプリカ)だぁ? オイオイ、何だそりゃ。それで俺は死にかけたっていうのかよ……?

ハッ、いいじゃねえか。苦虫噛みつぶした思いしてんのは貴様だけじゃないんだ。
次は、次こそは! 誰の手も借りず! 俺が、貴様を、焼き尽くす!
今日は見逃してやる、次の邂逅が決着の時――――

(カランという音と共に、プレートが地面に落ちた)
(シャムシエルが光の粒子と消えたのだ)

――――は? 何、が


(                 ぞ       わ       ッ       !    !                 )


(激しい嫌悪感が肌を駆け巡り、神経を駆け抜け、脳に心臓に『眼』に伝染する)
(全身の毛穴や血管が収縮し、瞳孔を開かせ、更には邪気が尽きて休眠にあった『眼』がこれでもかと開かれる)
(今の彼は、総毛立つという言葉を体現していた)

(シャムシエルが居た地面から視線を外し、空へと――天使の姿をした赤い髪の少女へと投げかける)

か、はッ……! 道理で……道理で"気持ち悪い"訳だよな?
こんな素晴らしい(きみのわるい)『天使』サマがこんなにも近くにいるんだからよお!!
邪気眼使いの体には、これほど嫌な物はないよなぁ……!! 俺が、特別合わないだけかもしれねえがな……。

そして、いけ好かない金髪野郎も俺には絶対的に合わないな。
『神の光(ウリエル)』、『神の力(ガブリエル)』。まだ、俺の中に刻まねえ。だが覚えたぞ、貴様らの名!
だがな、こちとら生涯無宗教だっての――うお!?

(ガブリエルの衝撃波に、思わず顔を腕で覆う)
(次見た時には、天使を名乗る人間は姿を消していた)


──────――――――


あー、仮面……いや、魔女のねーさん?
この子供と知り合いなんだな? あ、いや、別に詮索するつもりじゃないが。
俺は赤穂了吾。ねーさんとは共闘しただけの、まあ名前も知らない間柄だ。そっちの見物人とも同じようなもん。

しかし『遺眼』か。成る程な、ちょいちょい感じてた邪気はそれが原因か……。
それを持ってるってこたあ、当然"奪って"きたんだよな?
……俺の『眼』は結構ポピュラーな能力だから、大した珍しさは無いだろうし、襲わないで欲しいもんだね。

さて、と。ひと段落したんだが……

(荒涼とした平野、潮の香り、所々に見る低木)
(転移術式で飛ばされてきた赤穂には一切見覚えの無い光景)

……此処って、何処だよ?
90名無しになりきれ:2012/06/03(日) 19:08:10.99 0
フハハハ!
王たる我も転移されたのだ、よく知らぬ
我が『遠征』の力で世界を少しばかり回ってみた所、荒れ果てた野と廃墟ばかりよ

故、我はディストピアと名付けた
もっとも、異なる様相を呈している大陸もあるらしい
硝子張りの楼閣が天を摩し、鉄の馬が縦横無尽に行き交う、とな。実に良い、我好みの異文化である!
91名無しになりきれ:2012/06/03(日) 19:53:00.85 0
(『神の力(ガブリエル)』によって転移した『神の光(ウリエル)』)
(無表情な少女は柔和な彼に視線を向ける)

「あのまま全員……消しても、良かったわ。
《火怨眼》と《王冠眼》は元より……《遺眼の魔女》は、『教会』の禁書目録に名前があった。
プレートは邪気眼と相性が良い。……でも、今の調子で遺眼を集められれば、それも分からなくなる。量が質を凌駕するなんて……信じたくないけれど。
でも、貴方のことだから。……考え無しの行動では、ないのでしょうね。」

「まあ、いいわ。
それで……ガブリエル。今度は、何処に向かっているの? あたしの行動は……あなたに、一任している。」
92名無しになりきれ:2012/06/03(日) 21:49:31.58 0
岩山の上の“目標”を見止めた魔女は、金髪の人物が手を振ったのを見て顔を顰める。
『教会』の法衣を一部の隙も無く着込んだにこやかな彼を、見た目のまま信用することは当然出来る筈も無く。
距離があるにも拘らず、こちらに届く柔和な声の主に精一杯の嫌悪を向ける。
改宗なんて、こっちから願い下げだっての―――……
ガブリエルの残した衝撃波に髪とマントを吹き上げられながらも魔女が岩山から視線を外すことは無かった。

「『教会』の大天使が何で……こんなところに、来たんだか―――
あぁ、やっぱり貴方か……って貴方、こんな可愛いお人形みたいな外見になっちゃって、
 ・ ・ ・ ・ ・ ・
そういう趣味にでも目覚めたの?」

二つの“脅威”が去ったのを確認した後、ほっと一息吐く。
過ぎたものは放っておいて、次なるは自身の”客”との取引である。
岩山からこちらへと歩いてきた相手を近距離で再度確認したものの、気配と容貌の差に一瞬言葉に詰まる。
が、ぽかんと間抜けに開けた朱唇を直ぐに笑みの形に戻すと軽く揶揄する言葉を放つ。
そうして今回の成果を見ると、年頃の乙女のように顔の横で手を組ませ潤んだ瞳で黄色い声を上げた。
93名無しになりきれ:2012/06/03(日) 21:49:52.69 0
「っきゃー! 三つもなんて毎回イイ仕事してくれるわねホント。
しかも法王眼まで! もう好き好き大好き愛してる!
これ、この蕩ける様な蜂蜜色の瞳……ああんたまんないッ!
オーケーオーケー、報酬はいつものように、ね」

うっとりと舐め回さんばかりに三つの遺眼を見つめ、興奮する魔女。
途中客人に抱き着かんとするも恐らく避けられると予想してか未遂に終える。
上機嫌に鼻歌など歌いながら、報酬の件は二つ返事で了承したのだった。
ちなみに、魔女は基本的にボッチである。

「んん、何言ってるの? 遺眼の優劣は美しさ優先なのよね、私」

ちゃっかりと蒐集≪コレクション≫から外れようとする赤穂に釘を刺すことも忘れずに。
とはいっても冗談半分の戯れ言である。

「私と王冠眼の彼も連れ立って来ただけなのよ、“声”に導かれてね。
ユートピア   ディストピア
楽園って聞いてきたのに、外見はとんだ死楽園……
ああ、やっぱりここには海はなかったのね。
でも、ここには母なる海の匂いがあるの。
どうしてかしら……? ねぇ赤穂クン、あなたはどんなところから来たの?」

王冠眼の男の言葉を聞いて、その通りだと頷いて見せる。
残念そうに嘆息しながら言葉を紡ぎ、なんとも無しに赤穂の“元居た“世界を訊ねた。
94名無しになりきれ:2012/06/03(日) 22:38:58.58 O
………おいおい…
こんな所にお客さんたぁ珍しいな…

あんたら、ここで一体なにやってる?
なにしにきた
返答いかんじゃ歓迎してやってもいいが…
当然、その逆も覚悟してもらうぜ…?

『STAND BY』
(気だるげに歩み寄ってきたくわえ煙草の男は、腰に提げた二対のダーツケースに右手をかける)
95名無しになりきれ:2012/06/03(日) 23:35:32.82 0
ぎぃ、と掠れた音をたてて、古ぼけた木製の扉が開いた。
目も眩む摩天楼街の裏、太陽から文字通り隔離された"陰"の場所。
薄暗い部屋のまま、彼女はどさりと薄汚れたベッドに倒れこむ。
白いワイシャツは薄闇に、紺のジーパンは白いベッドシーツとの対比で、その姿が闇の中にほんのりと浮かび上がる。

「…状況は?」

ベッドに倒れるなり、突如切り出す。話しかける相手は、ベッドのわきに置いてあるトランシーバー
正確には、トランシーバー型の探知不能の通信系魔術端末。

『…白鴉(ヴァイス)か
 良くないな、というかむしろ最悪だ。』

その向こうから聞こえてくるのは、若々しい男の声。
少しばかり疲弊の色が見えるのは、先程の騒ぎのせいだろう

『悪いが、支援はできそうにない。騒ぎが大きすぎる
 お前も、動き難くなる前にそこから離れたらどうだ?』

「いや、もう遅い。騒ぎが大きすぎて、警察の動きが凄まじく速い
 あと眠い。
 注文の品は、あとで取りに行く」

『相変わらず昼夜逆転を続けてるのかよ…むしろお前にとっては夜が活動時間なのか?』

「…さぁな」

『そういや、別報なんだが
 "ディストピア"で能力者同士の激突が―――』

「………」

『――…寝たか』

世界は更けていく。
混沌という夜に向かって
96名無しになりきれ:2012/06/04(月) 21:43:55.60 0
「喜んでもらえて何よりだ。喰わずに持ってきた甲斐がある。
 あと、これは趣味ではない。勘違いするな」

魔女の喜びようを見て少女は微笑(わら)うが、直後に少しムッとした表情になる。

「赤穂とやら、さっきも言ったが心配はするな。
 貴様が魔女(こいつ)と共にいる間は私の獲物(たいしょう)には該当せん。
 ──が、子供はやめろ。貴様が瞬きしている間に心臓を潰す程度造作もないぞ。
 私にはエリザベスという名前がある。呼び方は好きにしろ」

赤穂に視線を向け、忠告する。
    ディストピア
「しかし死楽園、か。私もここに来てからは荒野と岩山ばかり──。
 そろそろこの景色にも飽きてきたぞ。久し振りに血(さけ)も飲みたいし、な」

赤穂から視線を外さずに、軽く唇を舐める。

「ともあれ移動しなければ景色も変わりはしない。
 おい貴様、何かいい案はないのか?あるなら乗ってやる」

王冠眼の男に視線を向け、小さな体で見上げながらニヤリと笑った。
97名無しになりきれ:2012/06/05(火) 00:09:09.32 0
は、アンタは随分と使い勝手の良い『眼』を持つんだな王サマ。
こっちは火を操るだけの何て事の無い『眼』だっつーのに。

死楽園(ディストピア)……地獄じゃないだけまだマシだろうよ。
それより……ガラス張りの楼閣、鉄の馬だぁ? ビルと車の事か?

(ビルや車を知らない? どっかの原住民か?
 いや、もしそうだったらこんなウィットに富んだ会話なんぞ出来ないか……?
 どうにも文化のズレがあるな。この妙な地とも関係してるのか、それとも……)

……まあいい、とりあえず周囲は荒野と廃墟なんだな。
周囲には都市っつか、町は無いんだろうかね。あれば大分楽なんだろうが……。

ん? 俺の居た所? さっき王サマが言った楼閣と鉄馬の乱立する所だ。
楽園(ユートピア)とも死楽園(ディストピア)とも言い難い、機会と規律の世界。
少々生きるにはつまらない、まあでも生きるには困らない世界さ。

この潮の香りか。適当な憶測だが、きっと近くに海があるんじゃないのか?
悪いが俺はアウトドアの知識は無いから、確証に乏しいがね。


さて、エリザベスだな? オーケイエリー、覚えたぜ。口は慎もう、だから友好関係を築こうぜ、な?
俺の血なんぞ大して美味くも無いし、そう怖い事を言うんじゃねーっての。
此処から移動ってのは賛成だけどな。
まだ日が昇ってからそれほど時間も経ってないが、此処にいた所で何があるって訳でもあるまい。

(王サマに何か案があるなら良いが、無いなら機関の術師に掛けて賭けるしかないか。
 ……こんな辺鄙なところに電波が届いてるんだったら、の話になるけど)
98名無しになりきれ:2012/06/05(火) 00:47:36.37 0

「ウリエルさん。聖務に忠実なのは貴女の美点ですが、焦りは禁物ですよ。
 魔女もその他の異教徒も確かに力を付けていますが――――今はまだ『その時』ではありません」

金髪の男は、相も変わらず無表情な『神の光(ウリエル)』に対し、
人差し指を上に立て、優しげな微笑を向けて見せた後、
転移の先にたどり着いた白い――不気味な程に白い空間を歩き始める。

「確かに、貴女が彼らの『数』を危惧する事も解ります。
 ですが、僕達の手元にはその『数』に対応する為の模造プレートも有るじゃないですか。
 そうでなくとも、僕達には『あの方』が付いていますしね。
 正しき者は、救われる。そうでしょう?」

ガブリエルが何時も通りの楽しげな声色で告げたのは、上級天使としては極めて正しい発言。
だが、その発言をするガブリエルが持つ雰囲気は、彼らの「主」を妄信しているにしては、どこか白々しい。
感情を読めないという意味では、ある意味ウリエルと同じレベルの『無表情』の笑みがそう感じさせるのか。

そして、白い部屋を延々と歩いたその先で、ガブリエルは立ち止まり。

「ああ、そういえば行き先を言っていませんでしたね。
 僕達が向かっているのは、敬虔なる下級の天使達が聖務を果たしている場です」

ガブリエルが不気味な白い空間の一点を手で押すと、扉が開く様に空間が割れ

――――紅蓮に燃え盛る大きな屋敷。
――――響き渡る破壊と崩壊の音色、小さな子供達が奏でる悲鳴と絶叫の交響曲。

「先日、邪眼の民が運営している汚れた孤児院が見つかった様でしてね。
 異端審問官を志す下級天使によるその孤児院の完全浄化を監督するのが、僕らの役目らしいですよ」
99名無しになりきれ:2012/06/05(火) 08:55:02.55 O
ワハハ…そう剣呑になるもんじゃない
儂らはお主のその力が欲しいのじゃ、お主自身に興味はさらさらありゃせんよ

我ら、楽園を目指して行進する《道化の旅団(サーカス)》
人呼んで――――【パレード】
儂は団長のサルバトーレ。お主の的当て(ダーツ)の力、さらわせていただこうかの
100名無しになりきれ:2012/06/05(火) 19:43:17.73 0
フハハハ!      ブルーブラッド
不遜が過ぎるな――正統吸血種
が、王たる我に向かってその口を叩く矜持。痴愚でないのは認めてやろう

我が『遠征』の力であれば、この人数でも移動は可能よ
が、それなりに消耗はするであろうな
それに、この中で「軍馬」を乗りこなせる者が多くいるとは思えぬ

察しが良いぞ、炎の
その通り、我と汝は存在した時空が異なるらしい
「ビル」「クルマ」より「軍馬(Caballo)」「帆船(Carrack)」の方が馴染みがあるのでな

それはさて置き……
移動手段は無い訳ではない。が、不慣れは覚悟してもらうぞ?
101名無しになりきれ:2012/06/05(火) 21:59:36.19 O
ほお、ってこたぁ仕事の話か?
スー……フゥー…
それなら話は別だな、俺の名前も売れたもんだぜ

そんで、えーと爺さん…パレードのサルバトーレっつったか?
さらうってそれじゃあまるで「笛吹き男」だぜ
あんたの口振りじゃあ色々と邪推ができちまうんだが、3つだけ言わせて貰う

1つ、俺の「力」だけ持ってかれるってのはお断りだ
運び屋の仕事に差し支えるからな
2つ、報酬はきっちりいただく
内容はあんたの気分次第でいいぜ、余計なトラブルはゴメンだ
3つ、報酬を受け取ったら俺達はその後一切関わらない

この条件を飲めるなら、花束から弾丸まで、自宅から天国まで、なんでもどこにでも送り届けてやる
どうだ?団長さんよ
スー……フハー…

(慣れた様子でグラス2つに氷とウイスキーを入れ、1つは自分に、もう1つはサルバトーレに差し出す)
102名無しになりきれ:2012/06/06(水) 09:26:14.05 O
――――嵐が来るな
風の流れを読むのは骨が折れそうだが・・まあ、やってみようか

風詠眼、発動
103名無しになりきれ:2012/06/06(水) 20:04:50.43 0
「それぞれの時空が違うってのも厄介な話よね。
 一応、意思疎通は取れてるみたいだから問題ないけどさ」

手にした遺眼を玩びながら、三人の会話に耳を向けていた魔女が言う。
ディストピア
死楽園……、ここはいったい何なのだろう。
一面の荒野と潮の香、しかし自分たちは確かに楽園へと続く道だと聞いた。
騙された――?いやまさか、愉快犯でもない限りそんなことをする必要がない。
ぐるぐると廻る思考に答えなど出ず、魔女は溜息をついた。

「へー、赤穂クンはそんな面白そうなところに住んでたの。
 いいなぁ鉄の馬、乗ってみたいなー。
 私なんか精々箒だもの、面白みないわよねぇ。」

質問に対する答えが返ってくると、興味深そうに首を傾げる。
冗談めかし己の魔女たる証ともいえる行動について語りながら楽しそうに笑った。
己にも移動手段はないわけではないのだが、如何せん多人数向きではない。
加えてなるべくなら使いたくなかった魔女は、エリザベスに問われた“王”の回答を待った。

「『遠征』……流石というかなんというか、王冠眼、色々便利なものね。
 色も素敵だしますます欲しくなっちゃう。
 ……っと、こんな話してる場合じゃないのよね。
 その話私は乗らせてもらうわ。
 消耗しようがなんだろうが、一旦『教会』に知れたポイントで長々過ごすのはぞっとする。
 向かえるのなら、街や村、その他、人の気配があるところってことで。ヨロシク―」

手中の遺眼を暗い色をした緋毛氈の巾着に収める。
途中真剣な様子で声を潜めて『教会』について触れたものの、
最後はカラリと調子を明るくして、ひらひらと手なんか振りつつ王冠眼の男に全権を委ねた。
104名無しになりきれ:2012/06/06(水) 21:27:48.69 0
―――ワハハ、なるほど…
よもやこの状況からビジネスに持っていくとは…
依頼に特別な肩入れはせず、ただ仕事を請け負う《運び屋》…噂は正しかったようじゃの

じゃが、すると困った
儂はあくまでもお主の「力」が欲しいのじゃ
すると力尽く、ということになってしまうんじゃよ…未来ある若者を摘み取るのは心苦しいが、仕方ないのう

少し、動けなくなって貰おうかの――『行進眼』
(サルバトーレの右眼が光を放つと、眼から絢爛に着飾った巨象が飛び出し男に突進する)
105名無しになりきれ:2012/06/07(木) 02:36:03.54 O
うおおっ!?この距離じゃ避けられねぇ!
――――ぐあっはあ!!

っく…近かった分衝撃は軽かったみてぇだが、それでもだいぶ……
おいクソ爺ぃ!剣呑になっててよかったんじゃねえか!!騙しやがったなこの野郎!
にしてもこのまま象に引っ付いてて壁にでもぶつかられたらミンチになっちまうな…
そんならこいつを…『STAND BY』
このままてめえに…『LOCKED ON』
返してやるよ!『SHOOT -FOX1-』

よっと…行ってこい象さん!捉導眼に届けられねぇもんはねえ
俺を運び屋のレイ・フォルクと知って仕掛けてくるたぁ爺さん、あんたどうかしてるぜ
106名無しになりきれ:2012/06/07(木) 21:50:40.51 0
「不遜、か。生憎身分で態度を変えるのは好かんのでな。
 王だか何だか知らないが、私からすればお前も一人のニンゲンだよ」

それにしても、とエリザベスは周囲をかるく見回し、ある方向で視線を留めた。

「確かに潮の匂いはするな。それに鉄馬や摩天楼とやらも見てみたい。
 少なくともここよりは景色も楽しめるだろう」

ゴソゴソと懐を漁り、煙管を取り出して火をつける。

「不慣れで結構。元よりこの体になって日が浅い。
 やること為すこと全てが不慣れだよ。お陰で収穫も少なかったしな」

先程魔女に渡した遺眼を思い出し、軽く舌打ちする。

「まぁアイツも言った事だが、移動するなら『教会』の奴らが来る前に発った方がいいんじゃないか?」

クイッと親指で魔女を指し、気怠そうに煙を吸い込む。

「さっきも言ったが着いて行く以上移動手段は任せる。
 私一人なら問題はないが、この人数を連れて行くことは今の状態では難しいからな」

フゥー、と紫煙を吐き出し、空を見上げる。

          ユートピア     ディストピア
「さて、行き着く先は楽園か、あるいは死楽園の果てか──」

紫煙はゆらゆらと揺らめき、やがて虚空に消えた。
107名無しになりきれ:2012/06/08(金) 11:35:52.57 0
「……そうね。貴方が、そう言うのなら。……ただ、あたしは従うだけ。」

「ここは……。
孤児院、”人間”の頃のあたしが生まれ育った場所……。
男達の慰み者にされていたあたしは……『教会』に攫(ひろ)われ、洗礼を受けて”天使”へと生まれ変わった……。
貴方達には、感謝してもしきれないわ。」
「…………炎が綺麗、ね。」

(その時、火達磨になった小太りの男が孤児院の裏から飛び出してきた)

「……あの、男は。」
「あの、あの、男、は……あたし、を、あたし、を。」
「あたしを、あたし、を、■■、■■■……う、ああ……あア、ウウゥォォオオァアアアアアアァアァアアアッッ!!」

(虚空から神気を放つ光の巨剣が轟音と共に出現)
(飛び回る無数の古代文字を纏った刃は、軌道の読めない不可思議な動きで、真上から一気に男を串刺しにした)
(刹那、天から光の柱と雷鳴が墜ち、男を中心とした数10m半径の一切が消滅する)

「ハァ、ハァ、ハァ……。
…………、ごめんなさい。監督者が手を出したら、いけない、わね。」
108名無しになりきれ:2012/06/08(金) 16:11:19.66 O
話なら、手短に。


―――星の胎に団体さんか、森龍のオミチビキかもね。
兎も角…
Alea jacta est(賽は投げられた).
夜の街へ行け、そこで機械仕掛けの魔剣を手に入れろ。今に必要になる。
団体さんと、そうだな…風詠眼、捉導眼の人も、可能ならうちにお招きして。
解ってると思うけど、赤穂了吾との戦闘は目標にない。
カノッサや教会、その他敵性勢力でも、戦闘は可能な限り回避しろ。



あと、鴉には気を付けろ。
それだけだ、早く行けよ。
109名無しになりきれ:2012/06/08(金) 20:05:44.79 0
────……ん?
誰かに呼ばれたか。……いや、気のせいだな。


何だ、どいつもこいつも気付いてたのか。存在の出自の違いに。
なぁるほどな、それなら理解が出来る……どうしてこの時空に来れたとか、色々不可思議が現れてくるが。
さっき魔女のねーさんが言ってた、"声"、ってのも気になってくるし、やれやれ。
謎も苦労も刺激も尽きない。面白いじゃねえか。

(軍馬に帆船か。馬は紀元前から使われてるからあまり特定しにくいだろうな。
 帆船と言えば、何だ? 一番イメージにあるのは海賊船──大航海時代。
 それ以上時を進めると蒸気船の時代になるから、大まかに推測するとそれくらいか)

随分と昔からやってきたらしいな。じゃ、船頭は俺に任せてもらおうじゃねえの。
一番"現代(イマ)"を知ってるのは俺だし、「軍馬」じゃないってんなら「帆船」を使うんだろ?
実際に扱うのは王サマだろうが、まあ任せてくれよ───退屈はさせないさ。

話も纏まった。じゃあ頼むぜ、王サ──あ?

(赤穂は何かに気づき、地平線の彼方に視線を投げかける)
(その方向からは地響きが鳴り響き始め、大量の何かが砂埃を舞い上げて接近していた)

おい、何だアレ。……何だ、アレ。
尻尾が見えるぞ。緑色の体色。細長い舌、小さい手、そしてあの体の表面で光るのは──鱗?

馬鹿でかいトカゲの群れじゃねえか!?

(人間を越す体長を持つ緑のトカゲの群れが接近していた)
(赤穂は当然知らないことだが、そのトカゲたちの名は楽園トカゲという)

おいおいふざけてやがる、生態系可笑しいんじゃねえのか此処!
ここままじゃ踏みつぶされかねねえぞ、早い所離脱した方が良さそうだ!
110名無しになりきれ:2012/06/08(金) 21:41:57.84 0
 メ ガ ロ ポ リ ス
【巨大構想都市:エルドラド】
                                   ユートピア
200階は下らんとする超高層建築がそびえ立つ、最も楽園に近いとされる"作られた"都市。
それは、楽園を人の手で建設せんとする『世界政府』の野望の具現であり。そしてそれに相応しい場所でもあった。


『さて…この集会も随分と久しいなものだな』

地上232階。摩天楼と呼ぶ事すら躊躇う現代の"バベルの塔"、その一室に、円卓を取り囲む7人の男女がいた。
明かりと呼べるものはほとんどなく、円卓中央部で仄かに輝くホロパネルのみが、彼らの姿をうっすらと浮かび上がらせていた。

『2年と…7ヶ月か。これだけ長い期間顔を合わせていなかったのは歴代でも最長じゃないか?なあ』

最初に口を開いた男の、向かって右にいる若い様子の男が円卓に足を乗せて周囲をぐるりと見渡す。

『そうでもないわ、初期の頃は、10年近く合わないこともあったそうよ。各々の都市の発展に集中し、尽力していた頃ね。
 まあ、近代であれば1年以上空くこと自体が稀になった。長いと言えば、その通りでしょうね』

その2つ右隣にいる、老婆らしいしわがれた声の主が続ける。

『これだから新参は困る。最近の若いもんは知識への欲望が足りん
 だから"ゆとり"と言われるのだ』

『あ゛ぁ?』

老婆のさらに右、老婆とは対比的な巨躯の男の毒舌に、若い男が一瞬食ってかかる。

『やめろ、ここは喧嘩をする場所ではない
 各員、都市の現状を報告しろ。この場で必要なのはそれだけだ』

それを制したのは最初の中年の紳士。その指先が、円卓中央のホロパネルに触れる。
ヴォン…と軽い音とともに、この都市…天を衝く超巨大都市『エルドラド』の全景が映し出される。  ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3070911.jpg
111名無しになりきれ:2012/06/08(金) 21:42:56.47 0
それに続き、中年紳士の右隣から順に、ホロパネルに触れていく。

2番目の男、口を固く結び、毛髪の一切無い寡黙なる僧風の男が触れると、『ShangriLa』の名とともに、摩天楼群の合間を巨大な幹線道路が縦横無尽に奔る都市が現れる。 ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3070914.jpg

3番目の男、あの若者が荒っぽくホロパネルを叩くと、摩天楼群が規則正しく並んだ。見覚えのある都市が姿を現す。机に載せられた足の隙間から『Arcadia』の名が見て取れた。 ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3070915.jpg

『一つ、ビルが崩れているようだが?』

毒舌を放った巨漢が、その都市の様子を見てくっくっくとさも可笑しげに笑う。

『相変わらず"不適合者"の巣窟のようだな?アルカディアは』

『黙れ、民間都市。てめえの街よりかは十分立派だ。』

再度口論が始まるかと思ったが、最初の男がすっと手を挙げると、二人はそのまま押し黙る。

『いいかい?』

4番目、老婆がしわがれた声とともにホロパネルに触れる。
現われたのは、現実的な高層建築がぽつぽつと建ち並ぶ平凡な都市。目に見えて他よりも規模が小さいが、それを笑うものはいない。パネルに表示された名は『NiraiKanai』  ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3070916.jpg

5番目、巨漢の男がその太い指でホロパネルを一突きする。
現れた都市は『Xanadu』放射状に伸びた姿が美しい都市だが、目を見張るような高層建築はなく。男のイメージに合わない穏やかな印象を受ける。   ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3070919.jpg

それを見て若い男がわずかに含み笑いをするも、最初の中年の紳士によって、それは遮られた。

6番目、長く美しい髪を持つ女性。
細い指が軽くホロパネルに触れた瞬間。『Avalon』の文字と、無秩序に中・高層ビル群が乱立する典型的な都市が現れる。 ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3070924.jpg

そして最後、7番目。
明らかに場違いな、中華風の服装に身を包んだふくよかな男性がぽん、と軽く触れると。
これまた場違いな、中華風の伝統的な街をそのまま高層化したかのような独特の都市が現れた。 文字のパネルも、場違いな明朝体の漢字表記で『桃源郷』と記されている。 ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3070927.jpg
112名無しになりきれ:2012/06/08(金) 21:43:54.74 0
全七都市。それら全てが"理想郷"の名を冠する大都市。
『世界政府』が目論む、楽園建設計画の現在の姿。

『アルカディアに、少々問題が起きている程度で、あとは問題ないようですね』

アヴァロンを前にする女性が、静かな口調で言う。

『相変わらず問題児アルね、アナタ、ちゃーんと管理してるアルか?』

その隣、桃源郷のホログラフの後ろで、中華風の男が何ともテンプレートなエセ中華風の喋りで若者をおちょくる。

『うるせぇ!アルカディアは、エルドラドの"不適合者"を溜めておく都市だろうが!
 なら、多少の問題があっても、エルドラドが無事であれば俺の務めは果たされてるんだよ!』

それよりもな!、と若者は、円卓を強く叩き、続けて捲くし立てる。

『テメーの桃源郷のほうがよっぽどアレだろうが!噂じゃあ、最初は異能力者…邪気眼使いどもの集いから始まったって聞くぜ!?』

それを聞いて、巨漢が盛大な笑い声をあげた。

『がっはっはっは!貴様、そんな噂を本当に信じているのか?
 桃源郷はまがりなりにも世界政府傘下の機関によって、あの独特の景観が保持されているんだぞ?
 それを異能どもが?孤高を好む邪気眼使いどもが建設した?笑わせてくれるわ、がっはっはっは!』

『てンめェ…!』

『やめないか』

また、あの中年の紳士が手をかざすと、一瞬にして円卓に静けさが舞い戻る。

『アルカディアは問題ない、彼の言うとおり、あそこは我がエルドラドの保護の為の都市。
 言い方は悪いが、いわば掃き溜め、ゴミ箱だ。多少の問題は目を瞑れる』

それよりも、と中年の紳士は続けて言う。

『問題なのは、アルカディア近辺のディストピアにいる能力者どもだ』

そしてホロパネルを再度叩く。すべての都市がスウと消え去り、代わりに広がる広大な荒野。
そして、そこに現れる無数の赤点。
その中には、火怨の力を持つ機関員や、王冠の力を目に宿すスパニッシュ。邪気とは違う反応を示している魔女も含まれていた。

『動き次第では、抹殺しろ』

中年の紳士の、冷たく抑揚のない言葉をもって、集会は終わりを告げた。
113名無しになりきれ:2012/06/08(金) 22:50:10.70 0
フハハ!
欲しいなら腕尽くで奪ってみせい、魔女め!
しかし、よもや無頼の貴人たる正統筋の吸血鬼と連んで、遺眼狩りなどをしておったとはな
なかなか油断ならぬ女よ、気に入った!
       ドラクルア
そして――吸血公
構わぬよ、そういう種であることは承知しておる
だが王たる我の武威を目の当たりにすれば、汝もすぐ不遜を解することになるであろう!
その時は手厚く重用してやろうぞ、フハハハ…!

フン、吼えたな一丁前に
その青臭い若気、嫌いではない! 良かろう、務めを存分に果たせ!
『教会』の連中が再び襲って来るとは思わぬが、日が暮れぬ前には何某かの人里を見付けたいものよ
では刮目……む、あの彼方に立ち上がる砂煙は?
114名無しになりきれ:2012/06/08(金) 22:52:57.62 0
フハハハハ!
これは面白い、あの蜥蜴共とは先程ぶりよ!
王たる我の腕を食もうとしたのでな、少し我が武威にて身の程を弁えさせてやったのだ
しかし、またもこうして立ち向かってくるとは。実に果敢!

なればこそ、もう一度叩き臥せてやるとしよう
我が帆船の澪となるが良い!
『王冠眼』――太陽の沈まぬ黄金帝国(El imperio en el que nunca se pone el sol)
       ヴィアッハ・デ・ロス・コンキスタドーレス       エン・キャラック
浮上せよ、《 勇敢なる征服者の軍船 ―――― 大型帆船級 (Viajar de los Conquistadores ―― en Carrack)》!

フハハハハ!
これが我の誇る「帆船(Carrack)」よ!
高さ28m、全長32m、幅8m! 小回りが利かぬのが難だが安定性は抜群! 我が王冠眼の力で水がなくとも突き進む!
さあ、全員乗り込んだな? では――突撃の指揮を執れ、若造!
手頃な街を見付け次第、停泊とする!
115名無しになりきれ:2012/06/09(土) 00:25:37.41 0

ウリエルがその圧倒的な力を行使して一人の男を“消滅”させる光景。
それはあまりに残酷で、圧倒的で、そして――神秘的だった。
その場にいた全ての……法衣を着込んだ金髪の男と、虐殺される男。
彼らを除いた全ての存在が見惚れる程に。

やがて、狂乱したウリエルは男の消滅と共に理性を取り戻すと
ガブリエルに独断専行について謝罪を申し出てきたが、そんなウリエルにガブリエルは――――

「ウリエルさん、貴女が謝る必要はありませんよ。何故なら――――貴女は正しいのだから」

相変わらずの聖者の様に柔和な微笑を浮かべ、慈しむように優しく、ウリエルの頭を撫でた。

「あの男はかつてウリエルさんを傷つけた悪です。
 上級天使たる貴女を傷付けた、魂の存在する許されない邪悪です。
 ならば、あの男を殺す権利は誰よりも貴女にあった。故に、貴女は何一つ間違っては居ない」

「自身の心に素直になりなさい。悔いてはいけない。
 自身の心を否定してはいけない。自身が正しいという事を疑ってはいけない。
 貴女は、『神の光(ウリエル)』なのですから」

「それでももし、自分の正しさに不安であれば、その時は僕に縋りなさい。僕が貴女の全てを肯定してあげます」

ガブリエルは、甘い毒の様な言葉でウリエルに自身が主に仕える『正しい存在』であると刷り込む。
自身が人間ではない存在……『天使』であるのだと、その心に信じさせようとする。
同時に、自分がウリエルにとって必要不可欠な存在であると、洗脳の様に刷り込んでいく。

孤児院に連れて来たのは、凍りついたウリエルの心を無理矢理軋ませる為。
その軋みによって生まれた隙間に、自身を流し込む為。
……そもそも、この聖務を受けたのはガブリエルだ。
ならばここに訪れる事でウリエルと男が出会ったのは、偶然ではあるまい。

「おや、そろそろ殲滅が終了した様ですね。
 ……これでようやくこの「区画」は浄化され、異教徒は居なくなった訳ですか」

やがて、相変わらずの微笑を浮かべるガブリエルは燃え盛る孤児院から出てくる下級の『天使』達に
優しげに手を振ると、ウリエルへと向き直る。

「『聖務』は滞りなく完了――――後は、教会本部にて報告でもする程度の予定しか入っていないのですが、
 どうです、ウリエルさん。休息がてら、どこかでお茶でも飲みませんか?」

お勧めの店があるのですよ。と、ダンスにでも誘う様ににこやかに手を差し出す。
その誘いに乗るのならば、向かう先は――孤児院を滅ぼすついでに教会に制圧された町、そこにある喫茶店
116名無しになりきれ:2012/06/09(土) 10:48:05.82 O
今こそ我々、殲滅機関の出番か
117名無しになりきれ:2012/06/09(土) 13:08:30.64 O
《機械仕掛けの魔剣》・・だと!?
華々しい異能とは違い舞台の暗流であった『自然科学』、いよいよその頭角を表すか・・・!
118名無しになりきれ:2012/06/09(土) 13:20:58.47 0
な、何じゃと!?
(『行進眼』の支配をあっさりと覆しおった!?)
(クッ、しかしあくまで造物主はこの儂じゃ…故に此方の権限が優るのは道理というもの!)
消え失せよ、エレファンティーノ!

(サルバトーレが命じると、象は粒子となって眼へと還っていく)

やれやれ、参ったのう
『物体の進行針路における不可侵の絶対決定権』、よもやここまでの支配力とは…
なるほどなるほど…こりゃ益々欲しくなってきたわい!

じゃが、ひとまずここでやめておくかの
この街から凶兆の気配がするでな…面倒には首を突っ込まぬに限る
果て、仄聞するところでは、彼奴の《組織》はとうに壊滅したとの話であったが…ま、どうでもいいことじゃの

それでは、生きておったらまた遭おうぞ ワハハハ――   シュンッ
119名無しになりきれ:2012/06/10(日) 10:53:24.07 O
ギャ、ギャ、ギャ
ニンゲン、ニンゲン、タベル、ウマイ、ツカマエル、ニンゲン
ボク、ニンゲン、ダイスキ
120名無しになりきれ:2012/06/10(日) 12:50:04.66 O
おっと、やっぱり消されちまうか!
これが行進眼ね、おもしろい力だな


なかなかいい判断だ、この戦いは双方に有益じゃない
俺も帰ってきたばかりだからな、そうしてくれると助かる
ん…凶兆?組織?一体どういう――――

行ったか……
次はグラスを受け取ってくれることを願うぜ
もう一度やったら、俺は勝てないだろうからな…
ああくそ!体が痛ぇ!
「面倒には首を突っ込まぬに限る」ね、全くだ…

(撒き散らしたウイスキーを掃除し、応急手当を始める)
121名無しになりきれ:2012/06/10(日) 14:40:17.99 O
フムン…
何でも食べるのは良いことだが
お前は少し、汚いな
122名無しになりきれ:2012/06/10(日) 17:29:31.31 0
「……トカゲの黒焼きは魔女としては手に入れたいところだけど、
 あれはいくらなんでも大き過ぎ、多過ぎよ!! どうなってんの?」

遠く地響き立てて向かってくるトカゲの群れに魔女はやや引き気味になる。
古式ゆかしく投げ矢でも向けてやろうかと考えたところに、王冠眼の男の楽しげな笑い声が聞こえてきた。
相変わらずの豪胆さに内心感心しながら魔女はその一挙手を眺める。
背後からの地響きはどんどん大きくなっていく。
トカゲの鳴き声ともいえないシュウシュウという威嚇音も聞こえ始めた。
急がないとヤバい――、脳内で警告音が鳴っている。
男の張りのあるバリトンがその名を呼ぶと同時に、巨大な帆船が目の前に現れる。
華美ではない豪華さと勇猛さを併せ持つその船に、魔女は感動する間も無く乗り込んだ。

「行先は赤穂クン、よね! よーそろーよーそろー! トカゲの海の真ん中つっきちゃうのもOKよ!」

その時、魔女の耳にまた“声”が聞こえる。
『機械仕掛けの魔剣』単語だけが脳裏に引っかかるようにして残った。
聞き覚えがない単語だったが、魔女はそっとそのキーワードを残しておくことに決めたのだった。

ぐわん、と船は波も無いのに大きく揺れる。
幾重にもわたる帆に風をたっぷり孕ませて、ゆっくりと動き出そうとしていた。
123名無しになりきれ:2012/06/11(月) 00:08:21.46 0
「ほう、二足歩行以外の生物もいたんだな」

近づいてくる巨大な蜥蜴の群れを興味なさ気に眺めながら呟く。

「魔女の材料(えさ)にはなっても私の生贄(つまみ)にはならんな。蹴散らすか」

ザッ、と一歩踏み出し、蜥蜴の群れを見据える。
そこに王冠眼の男の勇ましい声が響き渡る。

「何かやらかすつもりか。いいだろう、任せてみるとしよう」

更に踏み出そうとした足を止め、『王』に判断を委ねる。
凱歌のような力強い声で言葉が紡がれ、王冠眼が輝く。
現れしは巨大な帆船。王にしては少し物足りない装飾、しかしそれを補う程の力強さを感じる。
キャラック
「帆船か。中々いい趣味をしているじゃないか」

嬉々として──彼女にはそう見えた──乗り込んでいく魔女。
いつの間にか他の二人も乗船しており、気がつけば乗っていないのはエリザベスだけだった。

「……お前の眼(ちから)を信用しないわけじゃないが──気が変わった。先に私の力を少し見せておこう。
 折角の船が座礁したら困るだろ?私が航路(みち)を開けてやる。
  ワーロード
 "戦貴族"──その力、しかと眼に刻んでおけ」

静かに言い放ち、エリザベスが音もなくその場から消える。
直後、迫っていた蜥蜴の群れの一角が爆発したように派手に吹き飛ぶ。
それを皮切りに次々と周囲を巻き込むように被害は広がっていく。
それはまさしく台風やハリケーン──所謂天災のような有様だった。
吹き飛んでいく蜥蜴達は無惨にも潰れ、千切れ、破裂していく。
天災の中心にいるのは年端もいかない少女。その顔は楽しげに歪んでいた。

両の腕を使い、蜥蜴達を千切り、貫き、握り潰す。
両の足を使い、蜥蜴達を蹴り、裂き、踏み潰す。
魔法や邪気眼の力ではない、純粋肉体の力。
            バ ケ モ ノ
悠久の時を生きる人に非ざる者の力。巨大とは言え爬虫類程度では紙屑も同然。

「さぁ、栄光の船出と行こうじゃないか?"無敵の王"よ」

血と肉片の海の中、溺れることなく吸血姫(きゅうけつき)はニヤリと嗤った。
124名無しになりきれ:2012/06/11(月) 14:06:11.08 O
法王がやられたようだな…
だが奴は我らの中でも最弱…
吸血鬼ごときに負けるとは『四天王(テトラルキア)』の面汚しよ…
125名無しになりきれ:2012/06/11(月) 23:26:16.30 0
へえ! こいつが「帆船」……!
上等、上質、上位、上級! 良い物持ってるじゃねえか、まさしく「王」ってかァ!?
マジに便利過ぎて嫉妬も何も起きやしないね! あらよっと。

(突如現れた大帆船。赤穂は軽やかに船に乗り込むと、船首へとまっしぐらに駆ける)

おいおい、真正面にトカゲの群れか。本当に突っ込む気かよ……テンション上がってきちまうじゃねえか! なあ、おい!
くっく、了解したぜ王サマ! 任せておきなお嬢さん方! 『現代の世界』をご覧に入れる!

(そう言い放つと、懐から何かを抜き放つ)
(表面に湾曲した縞模様を持つ金属──ダマスカス鋼で作られたナイフがその手に握られていた)

青龍刀には短すぎるが、コイツでも少々格好は付くかね。
それじゃあ音頭を取らせてもらおう!
気分は良いか? 気持は昂ってるか? 気概は十分か? 気力は万全か?
一丁彼方まで向かうとしようぜ、御三方!

《勇敢なる征服者の軍船》……出航ッ!!

(質実剛健、堂々たる「帆船」は威厳を漲らせて、赤穂の号令と共にゆっくりと動き出した)
(そのまま次第に速度を速め、悠風威風に乗って誇らしげに空の旅を始める)

そうら、進撃だ、突撃だ、襲撃だ、出撃だ!                 ヨウソロ
ねーさんの案通り、トカゲの海目掛けて全速前進! 直進直行、宜 候!

しっかしエリーも凄まじい"力"だなァ、おい。
あんなもん邪気のブースト有っても、相対した瞬間に全く持って一切合切抵抗も出来ない肉袋にしかなれねえぞ俺。
いやはや味方でもおぞましく恐ろしく頼もし過ぎるぜ、愉快でしかねえってんだ!

さて! エリー、早く乗って来い! 取り残されても知らない────っとお!?

(言葉の途中でエリザベスが船に飛び乗り、たたらを踏む)
(飛び乗ってきた彼女はトカゲの血で化粧を施され、その姿は禍々しい赤黒い外見をしていた)
   シ ャ ワ ー
随分血の雨を浴びてきたじゃねえか。かなりそれらしくてカッコいいじゃねーの。
                     シ ョ ー                             ス プ ラ ッ タ
道路開拓ありがとよ 素晴らしい見世物だが、如何せん大衆受けもしないような 鮮血劇場 だな!
とはいえ露払いには十分だ、あとは────いや、もうどっかに行っちまったみたいだ?
それともこっちが通り過ぎたのか? ま、どちらでも構わないし変わらないか。


……お、何か見えてきたぞ……アレはビルか?

(最初点から大分離れてきた所で、地平線より出でる物が見えた)
(幾本の角柱────要するにビル街のようである)

あの街は何処なのかねえ、ところで王サマよ? これ止まらないで突っ込む事とか無いよな?
126名無しになりきれ:2012/06/12(火) 20:11:09.03 0
フハハ!
王たる我が帆船が座礁など、天地が逆さになろうと有り得ぬ!
が、その衷心、誉れ高し! 次いで見事なる武勇に感動したぞ吸血公、我は益々汝を気に入った!
正しく我が麾下に欲しい当千の一騎よ!

ふうむ……
様になった号令であったぞ、若造
汝は中々鍛え甲斐がありそうだ……帝国の剣として武を振るわせてみたいな!
ようし、我が武威を学びたくなったならばいつでも言うが良い! 先達として指導と鞭撻は惜しまぬぞ、フハハハ!

む?
ほう、彼方に見えるあれが「ビル」とな!
伝え聞く通り、聳え立つ楼閣の何という高さよ! 天を摩しておるというのは真実であったか!
これは「行き交う鉄の馬」にも期待できそうというものよ!

(――魔女よ、聞こえるな?)
(我はあの街を見た折、不吉を憶えた)
(「遠征」で培った勘が告げておるのだ……。恐らく、降り掛かる凶事の前触れであろう)
(王たる我は殿(しんがり)より目を光らせておく。この中で有事の際の反応に最も優れるのは汝であろう、いざという時は頼らせてもらうぞ)
127名無しになりきれ:2012/06/12(火) 20:15:04.10 0
んん? 突っ込むとな?
我は事前に通達したぞ――「突撃の指揮を執れ」とな!!
さあ勇敢なる航海者たちよ、直ちに対衝撃準備をせよ! フハハハハ、面舵を切れえい!
なあに、心配は要らぬ! 何故なら……

ドゴオオオオオオン…

…外敵対策の結界が張ってある、であろうからな!
見よ、不可視の障壁に行く手を阻まれておる

荒野の蜥蜴を見ての通りよ
人工的に区画された街の外、仮称ディストピアには、ああいった異形が群れを成しておるのだろう
故に開拓も侭為らず、こうして生活環境を区切るに至った、と推察できる
我らの時代には、異形は「蛮人」であったし、結界は「城壁」や「長城」であったがな

フハハッ、何れにせよ当たっていて良かったな!
下船し、街へ上陸するぞ!
帆船よ、ここまでの航路、大義であった! 暫し我が眼にて休息を取るが良い……
む? 丁度良い、ゲートが直ぐ其処ではないか! 往くぞ冒険者たちよ、我が遠征に遅れを取るな! フハハハハ――!
128名無しになりきれ:2012/06/12(火) 22:00:53.74 O
―――――ブロロロロロ…

あの四天王、テトラルキアにも変化があったようだ。
戦いは激化していくだろう。その前に仕事を終わらせるぞ。

(サングラスをかけた派手なミュージシャン風の男が、タンデムシートに座る小柄な男に事務的に伝える。)

しっかしさぁ!これってSAGAの今後に関わるかなり重要な指令じゃん?
オレたちなんかに任せちゃって良かったのかねぇ?

あいつの考えることは、おれでもよくわからん。
だが、おれたちのことは、あいつが一番よくわかっている。

適任ってこと?戦っちゃいかんのに?
ってか、アンタでもよくわからんってどういうことよっ!

そういう男だ。

はぁー…っ。
おっ?このへんじゃね?“バベル”…に、なにあれ…船?邪気眼か!

ああ、そのようだ。
魔剣はおれが探す。おまえは邪気眼使いに接触しろ。
何かあったら連絡する。
――――ブォンブォンッブロロロロロ…

(ミュージシャン風の男はウィリー走行で小柄な男をハーレーから滑り落とし、足早に去っていく。)

うぉあいたっ!?えっいやおい!
――――行っちまった…。
えっと、とりあえず接触……とおいっ!べらぼうにとおいんだけどっ!
ま、いっか。コンタクトね、なんて話しかけるかなぁ…やあやあ我こそは我こそは?てくまくまやこん?ブツブツ…
129名無しになりきれ:2012/06/13(水) 21:21:03.31 0

「――――そう、ね。……貴方が、そう言うのなら。あたしは、従うだけ。」

「お、茶?
……知らないわ。それは飲み物なの?
外の世界のことは、まだあまりよく解らない……。『主』は、貴方から色々と学ぶように、と仰せられたわ。
なら、あたしは貴方に着いていくだけ。あたしの行動は……貴方に、一任している。」

(誘われるまま、ウリエルはガブリエルに着いていく)
(適当な席に腰を下ろし、物珍しげにお品書きを眺めてはページを目繰っていく)

「……不思議。
あたしは、こんな料理知らないわ。
『教会』で出て来る食べ物は、孤児院に比べたらずっと良いものなのは分かるし、もちろん嫌いではないけれど……。
何だか、少し、味気がない。……ここの料理は、美味しそうね。」

「あたしは、何を頼んだらいいの?
貴方に任せるわ。見るもの全てが初めてで、目移りしちゃって決められないから。」

(と、その瞬間、ウリエルの動きが止まり)

「…………。
『神の力(ガブリエル)』、『主』から神託が……。
ここから少し行った先の街で、大きな動きがある……。機械仕掛けの魔剣……、SAGA……、邪眼の民……。」
「……魔剣は、プレートの天敵だわ。
もし魔剣を、よりにもよって邪眼の民が回収してしまったら、……あたしは、どうすればいい?」
130名無しになりきれ:2012/06/14(木) 08:12:10.02 O
皆さんご存知かな?
”禍々(まがまが)しい”という形容詞、実は本来”魔眼魔眼しい”と書くのが正しいのだ
これが何を意味するのか・・・聡明な諸君には既にお分かりだろう?ククク…
131名無しになりきれ:2012/06/14(木) 19:46:49.64 0
「エリザベス……トカゲの血の匂いなんてそんなにいいものじゃないでしょうに」

その体で暴れたりなかったの? と続けながら魔女はマントの内側からヤドリギの枝を取り出し、
そ、っと払う様にエリザベスのローブの前で杖を一振りする。
かけるのは“浄化”の魔法だ。
エリザベスの体からトカゲの血の染みと匂いが消える。
全く魔法というものは便利なものである。
そのまま後方、惨劇の波間も浄化しようかと思ったがやめておくことにした。
化け物が暴れた後は見た目にも衝撃的であろう。
まだ見ぬ後続や同じ生物への威嚇と警告の意味も込めて放置するのが吉と考えての事だ。

「…………」

王の小さな言葉には片手を挙げて背中越しに応えるのみに留めて、魔女は甲板で荒野の風を受けていた。
髪を、マントを、帆船の帆をはためかす風はやはり、潮の香に満ちている。
魔剣…魔剣…、魔女は静かに考える。
“機械仕掛け”という冠には覚えがないが“魔剣”という単語は気にかかる。
遠い昔書物で見たような……、気がしないでもない。


―――――――――――


「おー、派手に突っ込んだわねぇ。こりゃ鉄の塔の住人達も黙っちゃいないんじゃないの?」

障壁に真っ向から突っ込んだ帆船は、その衝撃にそれはもう盛大に揺れた。
揺れはしたが王の指示に従って衝撃緩和に努めていた魔女は、それほど被害も受けずにのほほんと感想を言う。
聳え立つ数多の鉄の塔――摩天楼を双眸を細めて仰ぎ見る。
高い、高い建物の群れだ。
それこそ、神話のバベルの塔のごとく……高いことが誉れでもあるかのような……
後方で王が何やら語っている。
それを聞きながら下船し、辺りを見渡せばなるほど、王が言う様にすぐ傍にゲート≪門≫がある。
誰でも歓迎してもらえるのであろうか、それが所謂異界の住人であっても。
そう考えていると前方から小柄な人影がやってくる。

「あらあら、早速誰か、お出迎えよ。
 友好的だと嬉しいけれど、私たちの登場の仕方からしてそれは望めないかもしれないわね……」

何があってもいいように迎撃の準備は怠らず、魔女が言う。
しかしその口元は何かを楽しむかのようににんまりと、弧を描かせているのであった。
132名無しになりきれ:2012/06/15(金) 22:57:45.44 0
「フン、畜生程度じゃこんなものか。肩慣らしにはなったがな。
 あの程度、お前でも造作ないだろう?」

甲板に戻り、血塗れになった体で王に返してから振り返る。
後方には蜥蜴達の無惨な屍骸が累々と横たわっていた。

「浄化など必要ない。私は吸血鬼だぞ?血に塗れていて当たり前だ」

言いながらも、魔女がかける浄化の魔法を黙って受け入れる。
口ではああ言っているものの、眼を閉じて若干気持ちよさそうにしている。

(それにしても先刻聞こえたあの言葉……少し気になるな。
 『機械仕掛けの魔剣』──どこかで聞いたことがある気がする。
 いつだったか、確かどこかの爺が……)

考え事をしていると、王の声が響いた。
どうやら目の前に見える街の周囲にある障壁に突っ込むようだ。
一つ嘆息すると、ふわりと甲板から数センチ体が浮き上がる。
次いでやってきたであろう激突の衝撃。浮いていたエリザベスには何の影響もなかった。

「これが件の"びる"とやらか。確かに摩天楼と呼ぶに相応しいな」

船から降り立ち、聳え立つ鉄塔の群れを眺める。
視界を覆い尽くす程の塔の森に辟易し、視線をずらす。
      ゲート
「あれが≪門≫か。何事もなければいいがな……」

少し離れた位置にあるゲートと、近づいて来る一人の人間を視界に収める。

「ここの住人か?まぁ、交渉事はお前等に任せる。
 私は面倒なのは苦手でな。少し休ませてもらうよ。必要になったら起こせ」

言うが早いか、近くにあった岩の傍に腰を下ろし、眼を閉じる。
数秒後には小さな寝息がエリザベスの口から漏れていた。
133名無しになりきれ:2012/06/16(土) 14:24:31.74 0
むくり…
薄闇が支配する、無駄に広く、無駄に何もない部屋の中で、シーツの擦れる音とともに、一つの影が起き上がる。
相変わらず真っ白なワイシャツと、紺色のジーパンが、薄汚れたシーツの上で妙に明るく映え渡っていた。

「………」

ヴァイスはまだわずかに眠たげな眼を瞬かせ、少し首をかしげる。
妙な夢を見ていた気がしたのだ。
ちらりと時計を見てみると、3時間ほど寝ていたようだ。充分すぎる睡眠時間である。

「…おい」

ぐいと身を翻し、誰にとも知れず彼女は声をかける。

『………』

しかし、唯一の聴く相手であろうトランシーバーは押し黙ったままだ。

「おい」

『…ん?あぁ…誰だ?ヴァイスか?』

「…状況は」

『相変わらず素気ない、釣れないやつだな
 ご想像の通り、一向に良くなってない ビルが一つ丸ごと崩壊したんだ。1日程度で収まるほうがおかしいだろう
 だがむしろ――』

「注文の品を取りに行きたい。いけるか?」

『人の話は最後まで聞けっての… というか、注文の品?ああ、ここにあるが…随分急だな?
 別にこの騒ぎが収まってからでも問題はないだろう?仕事は蹴られたって寝る前に聞いたぞ』

その言葉に、ヴァイスは一拍間をおき、呟くように言う

「…妙な胸騒ぎがする」

『……俺は、お前の勘は信用している。これ以上、何かが起きるってのか?あれが、前兆にすぎないって?
 ………いや…わかった。ちょうど、西区は警察が出払ってるせいでもぬけの殻だ。今店に来てくれれば、かなり安心して渡せる
 お前にも見せたいものがあるしな』

「分かった」
134名無しになりきれ:2012/06/16(土) 14:25:03.38 0
きぃ…

「おぅ、来たか」

通信から数十分。"彼"の店へ、彼女がやってきた。
情報屋、武器商人、仲介人……様々な名で呼ばれる男は、いわゆる"裏"の世界と"表"の世界を繋ぐ存在であった。
対するヴァイスは、相変わらず長い前髪の下に、何を考えているか掴みにくい三白眼で男をじっと見据えていた。
濃紺の、膝下まで隠れる長いジャケットを羽織り、立てられたその襟のせいで、口元まで隠されより一層表情が読みにくくなってしまっている。

「…注文のやつは」

「ここにある」

ただでさえか細いヴァイスの声が立襟のせいで余計聞き取りづらいが、男はそれを気にすることもなく、足もとから大きな横長の箱を取り出した。
ヴァイスは差し出されたそれを、手でざぁっと撫でると、二つのロックを外し、注意深げに開ける。
中には、一丁の狙撃銃が入っていた。木製のフレーム、ボルトアクション方式、大きなスコープは、それが精密狙撃用に作られたものであることを自慢しているかのようだ。

「ウィンチェスターM70、間違いない。状態もいいな」

そう呟く彼女の声は、どことなく嬉しそうだ。

「マニア共なら喉から手が出ても欲しい、劣化前の品だ。シリアル62000台だからな、超年代物だぞ
 整備は済ませてあるから、即使用できるが…大切に扱ってくれよ」

「分かってるさ、私の趣味でもあるからな」

ヴァイスは満足げに頷くと、ぱたりと箱を閉じ、かけられた紐を肩に通してそれを背負う。
135名無しになりきれ:2012/06/16(土) 14:25:40.87 0
「ああ、待て待て」

そしてそのまま帰ろうとする彼女を、男は引き留めた。
怪訝そうな顔をするヴァイス。男は少しばかり店の奥に姿を消すと、何やらボロボロの紙箱を持ってくる。

「電話でも言ってたろ?お前に見せたいものがあるって
 ちょっと訳ありの品なんだがな、お前なら気に入りそうだと思ってよ」

そう言って、紙箱を開ける。緩衝材の半紙に包まれて現れたのは、鈍く赤銅色を放つ一丁の拳銃。
彼女が持っているようなものではない、大口径で、バレルも長く。熊のような大男でなければ撃てないような巨大な拳銃だ。

「とある邪気眼使いが譲ってくれた品だ。邪気感応性のある特殊な金属で作られてるそうだが、まあ真人間の俺じゃ手持無沙汰でな
 お前は武器収集好きみたいだし、なにより能力者だからな。こいつも主人に似たやつの手元の方が報われ――」

「いらない」

即答。

「ちょ…そう言うなって。お前くらいしか引き取ってくれそうな奴は―――」

「妙な"厄介者"を私に押し付けようとするな」

男はうっ、と言葉に詰まる。

「……やはり、本物の訳ありか」

ヴァイスが珍しく落胆のため息をつく。

「…ああ、まあな
 貰ったのは一週間前くらいなんだが……この箱、変に歪んでるだろ?もらってから毎日、何度も、勝手に棚から落ちてきたり、昨日なんか扉の前に鎮座してやがった
 気味がわりいんだ。こいつ、生きてるんじゃないかってな」

「捨てればいいだろう」

「捨てたさ。3日前にな…1日と経たないうちに戻ってきやがった」

彼女はそれを聞き、男から拳銃へと、すいと目を滑らせる。
赤銅色のバレルが、その視線を感じ取ったかのように鈍く煌いた。
それを見て、ヴァイスは半歩後ずさりする。

「……どこか遠くに、海の底にでも捨ててくればいい ともかく、私はそんな気味の悪いものはいらない」

「お、おい」

その煌きが、まるで自分を見つめる獣の目のような錯覚を覚えた彼女は、逃げるようにその場を立ち去った。
136名無しになりきれ:2012/06/16(土) 14:26:59.19 0
いつもの部屋へと戻ってきた彼女は、ウィンチェスターM70が入ったハードケースをごとり、とベッド脇の棚の上において溜息をつく。
やはりここが一番落ち着ける。と彼女はくるまっていたコートを放り投げ、意気揚々とハードケースのロックを外した。

「……!」

そして、開けた瞬間。息を飲んだ。
木製のストックの上に鎮座する。赤銅色の輝き。

あの拳銃が、M70の上に威風堂々と置かれていたのだ。
彼女は、背中に冷たいものが走るのを感じた。

「おい…!」

『うお、どうした。なんかお前変だぞ…金はちゃんと払ってくれよな?』

トランシーバーに向って怒鳴ると、すぐさま男が出てくる。驚いた様子なのは、彼女が明らかに焦って、まず出しもしない大声をあげているからだろう

「あの拳銃、あるか…お前の所に」

『あの拳銃…?あぁ、デモンの事か…ならこっちに――――』

そこまで言って、男の声が止まる。

『ない…ない……おい大変だヴァイス、あの拳銃がいなく―――』

「ここにいる」

『―――は?』

「私の所に、いる」

互いに「ある」ではなく「いる」と言ったのは、つまりそういう事だと、理解…いや、認識したからだろう。

「…どうやら、こいつに気に入られてしまったらしい」

トランシーバーから目を離し、ちらりとその拳銃…Demonと銘打たれた拳銃を横目に見る。
相変わらず、獣の目のような赤銅色の輝きが、彼女をじっと見据えていた。
それを見て、また彼女は背中にぞっ、と冷たいものが走った。厄介なものに気に入られてしまったと
137名無しになりきれ:2012/06/17(日) 08:18:45.18 0
っふ…三流共が、聞こえる声を聞き流していては自ら世界を狭めるだけだ…
饒舌で冗長な貴様らの口、この紫電のヴェサリウスが黙らせてくれる

怒雷眼、サンダーフォールッッ!
138名無しになりきれ:2012/06/18(月) 01:55:18.62 0
おい……そこの貴様
今、見下したな?
テトラルキアが一座、《帝王》であるこの余を……

――――余を見下したな、貴様ァァァァァァ!!

誰よりも強く誰よりも尊く誰よりも美しく誰よりも誇り高い、この余を! 余を!!
万死に値しようぞ……宜しい、然らば死ね

Ego Imperator――― S ・ P ・ Q ・ R
帝王眼、第一次解放
余が命ずる

【大いなるかな時の大河よ、彼の命を押し流せ。老いよ、若きよ。渇き、餓え、骨と膚の屍を晒せ】

 Tempus Edax Reru
万物を食い尽くす時=I!

余こそは至高の存在なりや!
           Sono Porci Questi Romani
崇めよ万民。「それが出来ねば豚である。死ね!」 クハハハハ……!
139名無しになりきれ:2012/06/18(月) 16:41:37.63 0
雷の化身であるこのヴェサリウスにその程度が通用すると思ったのか?
弱い犬ほどよく吠える・・・っふ、話が長いと言っている
邪魔をするな、三流風情がッ!!

プラズマサンダーバーストォッッ!!
140名無しになりきれ:2012/06/19(火) 00:33:21.94 0
ああ、指揮を取れ、ね。そんなこと言ってた記憶はあるが。
……ちょっと待てオイコラふざけんなこのままブチ当たるとか何考えてんだ木端微塵になるかするかって問題じゃねえぞ
良いから早くスピードを落として舵を切って避けろっつってんだよちょっと待てやァ―――あがッ!!?

(他三人が衝撃に備えたのに対し、一人赤穂のみが盛大に被害を被った)
(甲板に強かに体を打ち付け、衝撃が収まった後も蹲り全身の打撲による鈍痛に悶え苦しんでいた)

ぐ、ぐ……! 『火怨眼』を持つ、俺が……まさかこのような醜態を晒すことに為ろうとはな……!
巨艦、侮るべからず、だったか……! く、くく……痛つつ……。

あ、待て! わかったから! すぐ行くから!

                 ハイ・テクノロジー
(……しかし、何だこの 超 高 等 技 術 は……? 不可視の障壁は、邪気眼使いが居れば出来ない事は無い。
 だが邪気眼使い、ひいては異能持ちは須らく「裏」の住人、表社会で大っぴらに力をひけらかさないのが常。
 少なくとも、現代――否、『俺の居た現代』では、間違いなくそうだった筈だ)

(前を行く三人を追いながら、赤穂は思考を巡らせていく――推測を、推定を、推量を、推理を展開していく)

(見える建物は一見して俺の良く知るビルだ。天を衝く木偶の棒、現代社会の象徴だ。
 ならば俺の知る時代からは然程離れてない――とするならば、恐らくは。
 『俺の居た世界ではない現代』、というのが形容するには丁度良いかな。さてはて、戻れなかったら大学留年だぞこりゃ)


《門》、か。ふーん、まあデザインは良くも無く悪くも無くってところだな。
そんじゃあさっさと入って早い所情報の収集にでも――ん、人か。
タイミングの良すぎるガイドだことだよ。随分と気が利き過ぎるんじゃねえの?

俺以外は時代錯誤的な服装だし、高圧的なのが二人。話をすんのはやっぱり俺が適任だろう。
エリーは後で起こすとして……と。


あー、そこの奴? 此処の人だな、驚かせて悪ぃ。
少しばかり強情で豪快な航海をしてきたからか、ブレーキがストライキ起こしてたもんでね。
ドリフトかましてみたは良いが、駐車には勢いが十分過ぎた。

ところで――――此処は何処だ?
141名無しになりきれ:2012/06/20(水) 20:40:38.01 0
フハハハハ!
獣とは言え、彼奴らも勇猛なる戦士であった!
王たる我が武威なれば、ただ敵軍を蹴散らすこと。その行い自体は容易く達することができるであろうよ
が、それはならぬ相談なのだ
王が出る場は限られておる、隔靴掻痒の感ではあるがな

甘いぞ若造、常に神速を尊べ!
戦場とは何時、何処に現るか分からぬもの
例え無辜の町民が休日に集うような憩いの場でさえ、一旦敵兵が襲い来たなら忽ち戦場へと転ずる!
不測の事態に備え、動ける時はすぐ動けるようにしておくのだ!

しかし、改めて見るに不可解な光景よ
意匠も装飾も凝らぬ瀝青の楼閣……天高く聳える様は正しく威容であるが、姿形がこれではただの直方体と何の変わりも無い!
その上、それらが規則正しく、幾何的な配置で並ぶ……か
都市としての機能を徹底的に優先し、絢爛や華美などの非効率要素は一切排した。大凡、そんな所であろうな
これも街の在り方の一つだが、全く風情が無い。殺風景の極みよ、観光には向かん

―――む?

(客人か。
 あれだけ派手な登場をした我らに自ら声を掛けに来るか、只者では無さそうだな
 王たる我はひとまず気配を消し、様子見に徹するとしよう)

スゥ…
142名無しになりきれ:2012/06/21(木) 15:23:50.06 O
エターナルフォースブリザード
相手は死ぬ
143フェイリス・ニャンニャン:2012/06/21(木) 21:03:01.38 0
ふっ…フェイリスをなめないでほしいニャ。

フェイリスはメラゾーマを唱えた!!
144名無しになりきれ:2012/06/22(金) 00:29:20.07 0

「まあ、教会の所属者は信仰に熱心ですからね。
 信仰に生きるが故、聖務以外で外に出る事が少ないので、食事は淡白になる傾向が強いんですよ。
 最も、あれはあれで最高級の料理ではあるのですが」

先に注文していたコーヒーを飲みつつ、ガブリエルはウリエルの為に店員にオーダーをする。
香ばしく狐色に焼きあがったアップルパイ。適度に暖かく透き通る様な色のアップルティー。
高級でこそないものの、確かにそれらは教会の食事と比べれば人間味がある料理と言えるだろう。

と、注文した料理が出されてから暫くの後、ウリエルが一瞬動きを止めた。
それは、神託――――彼等の『主』からの言葉を受け取ったが故。
ガブリエルは、ウリエルが神託を受けたと認識すると、ほんの一瞬眼を細めた。
口元は相変わらず微笑んでいたが、その一瞬に見せた瞳に込められていた感情は…。

「機械仕掛けの魔剣に、SAGA……随分と骨董品めいた名詞が出てきましたね。
 世界の終末が確定していないが故の混沌。といった所ですか」

ウリエルの口から神託を聞いたガブリエルは、残りのコーヒーを飲み干し口元を拭くと、
常の微笑みでウリエルに語りかける。

「心配は要りませんよ、ウリエルさん。邪眼と魔剣、両方の適正を持つ存在は稀ですし、
 魔剣といえども、階位の低い品はウリエルさんの様な上級天使には通用しません。
 それこそ、聖書に残る七大罪級の品でも持ち出して来ない限りは、ね」

ですが、とガブリエルは提案する様に指を立てる。

「ただし、主が神託を降したという事は、件の魔剣の適合者が誕生した場合、
 それなりに厄介な存在になるという事なのでしょう。
 ですのでここは――――僕達で『機械仕掛けの魔剣』とやらを手に入れませんか?」

勿論、ウリエルさんがソレを良しとするならばですが。ガブリエルはそう告げると、
風景の奥に広がる巨大で無機質な建造物群へと顔を向け、ウリエルには見えない様に口端を釣り上げる。

「ソドムになるか、それともバベルか……」

ガブリエルが小さく呟いた言葉は、ウリエルには届くことは無い。
145名無しになりきれ:2012/06/22(金) 00:44:02.22 0
なっ…!?まさか貴様は忘却の隙間猫!!
ぐわああ!な、なんだ!?俺の体に究極の氷と炎がそなわり最強に見………




                                  エンッッッ!
146名無しになりきれ:2012/06/22(金) 17:50:45.09 O
――――――プルルル、プルルル、ガチャ


もしもし。
…創造主が行方を眩ました、だと?
フン、いよいよ重い腰を上げた訳か……よもや世界が四巡するまで待たされるとはな。
だがこれで、俺もようやく動き出せるというものだ。

今日でこの食堂ともお別れか。
美味しい定食を今までありがとう、ご主人。貴方の息災をどうか祈らせて欲しい。


では、世界の選択を見届けに行くとしようか――――ラ・ヨダソウ・スティアーナ。
147クリスティーナ:2012/06/22(金) 19:27:37.10 0
↑終わりですか?
148名無しになりきれ:2012/06/23(土) 10:04:05.51 O
「……」

相も変わらず、木製の狙撃銃(超年代物)の上に鎮座する拳銃。
正直言って、触りたくない。得体のしれない"猛獣"に下手に手を出す馬鹿などいるはずがないのだ。
しかし、そいつの下にあるのは高い金を払って手に入れた一級品の宝物。

「……くっ」

引き下がるわけにはいかない、彼女の唯一といっていい楽しみなのだから。
無意味だと分かりつつも、ハンカチに左手をくるみ、赤銅のグリップに手を伸ばした。

じゅぅ

「……っ!?」

一瞬、何が起きたか理解できなかった。
融けたのだ。ハンカチが
融け、蒸発した布切れを越えて、冷たい金属の感触が手に伝わる。
慌てて離そうと思うまもなく、次なる違和感が襲い掛かってきた。

「―――……!」

ぐら、と視界が揺らぐ。
、、、、
吸われている。そう理解した時には、すでに手を離し、痺れる左手を掴んだままベッドに倒れこむように座っていた。

「…ぁ…げぼ」

思い出したように、咽喉から酸っぱいものがこみ上げてきた。
思わず、そばのくずかごに顔を落とす。
吐き出したものは、妙にどす黒く、ねっとりとしていた。邪気の急激な減少がもたらす疾患。
能力者のみが患う、特殊な病…否、怪我である。
これを握った瞬間、それが起きた。意味するところは――

「邪気を喰らうか、化け物め…」

"食事"を途中で中断させられた拳銃は、怒りを顕にしたのかカタカタとその身体を震わせ、少しでもこちらに近づこうとしてくる。
149名無しになりきれ:2012/06/23(土) 10:07:27.11 O
「……いいだろう」

それなら、と彼女はぶるぶると震える拳銃を、ぐいと掴み取る。

「食いたいだけ食うといい、所詮私は"なりそこない"だ。邪気が無くなろうと、死ぬわけじゃない
 貴様の腹が膨れるほど持っている自信はないが―――っ」

暴食が始まった。
身体の内側から、蟲に齧られるかのような嫌悪感、何かが抜けていく感覚。
一般人に例えれば、貧血が近い感触なのだろうが。"これ"はそれの比ではない
啜られている、飲み干されていく―――自分の体が化物の身体に直接溶かされ、吸収されていく。

「―――ぁ…らいっあ…な…っらぁ…帰れ……!」

気を失いそうなほどの嫌悪感に、呂律も回らない。

「げぼほっ」

再度、吐く。
くずかごにかがみ込んだ拍子に、拳銃がごとん、と床に落ちた。
嫌悪感が急激に収まっていく、それに比例するように、どっと疲れが出てきた。
このままもう一度寝てしまおうか…片手をベッドから落とした状態で、彼女はすうと目を閉じる。

ごと、り

「…っ」


聞きたくもない、嫌な音に彼女は目を開ける。
眼前に落ちているはずの拳銃が無くなっていた。どこへ行ったかなど、考えるまでもない

「…ふざけるのも大概にしろよ化物」

錆びた歯車のように振り替える。ハードケースに収められた狙撃中の上に、巨大な拳銃が威風堂々と鎮座していた。

「腹が膨れるまで…そこから動かないつもりか」

赤銅の輝きは、ニタリと微笑んだ――ように見えた。
まるで豪勢な食事を前にした野獣のように
150名無しになりきれ:2012/06/23(土) 14:37:58.45 O
んーと…あれは第2目標であってるっぽいな。
あれ?でもおっちゃんいなくね?あれ?なんか待ちかまえられてね?
ま、いっか!


ん、オレ?えっと挨拶ってどうすんだっけ、確かこう…手袋を外して、足元に…
ビターンッ!!!!

なんか言ってることはよくわかんねんだけど、ここはアルカディアだよ。 ニコッ
お前たちってもしかしてこのへん詳しくないの?どーゆう人?「よすてびと」ってやつ?



―――
――――――
―――――――――

ピピピ…ピピピ……カチッヴゥン
おれだ、どうした。
  ≪ねえちょっと、駄目だアイツ。早く何とかしてくんねえかな。≫
やはり駄目か。
  ≪おい影人、ぶっ殺すよ。≫
やめてくれ、それはおれの名前じゃない。
任務は遂行する。安心しろ。
  ≪そういやそろそろ天使と政府が騒ぎ出す頃だし、Q太郎がバカやって騒いでるうちに回収して。≫
戦闘は回避するんじゃなかったのか?
  ≪回避してるっしょ。≫
なるほど。なんだ、読み通りじゃないか。
では何かあったら連絡する。 カチッヴゥン

……………。
肝心なことを聞き忘れたな、魔剣については情報屋にでも訊いてみるか。
151名無しになりきれ:2012/06/23(土) 19:37:55.73 0
くそ、迂闊に「力」を使うべきではなかったな、まさか木っ端微塵になるとは私もぞっとしたが……

ともかくだ、カノッサとはなんだ!? いきなり人に発砲するなど尋常じゃない!
うっ、銃創が……非常にまずい……!追手は振り払えてない、そして私は動けないと来た

ッ、この私が、UltraBlueが……死んでたまるかよォ
まず、動くんだ、まずは離れるんだ……
152名無しになりきれ:2012/06/23(土) 22:20:01.26 0
「『魔剣』……。
 教会図書館で読んだ本に、書いてあったわ。
 ”魔力”と呼ばれる強大な力を込めて鋳造された、人の身にて人ならざる者を斬り伏せられる魔性の刀剣。
 『邪眼』、『石版』と並ぶ異能で、この三つは閉じられた関係の中で相克する。

 『邪眼』は『石版』に弱く。
 『石版』は『魔剣』に弱く。
 『魔剣』は『邪眼』に弱い。
 この相克の輪環は同時に、三位一体という世界の理を現す。

 中でも特に《七大罪》と通称される、人を堕落へ導く邪悪な罪業を冠した七振りの魔剣が有名だった。
 その持ち主は悪魔に魅入られ、果ては己が身を滅ぼしたという……。」

「…………。……そう、ね。
 危険因子は摘んでおくに越したことはないもの。
 ”迷える子羊を地獄へと誘う悪魔の剣は、我ら天の御遣いが破壊しなければならない”――――『教会』の教義にも、そう示されていたし。」

「――――罪深い『機械仕掛けの魔剣』は、あたし達で回収、および奪取。
 叶うなら、魔剣の適性者の処分も執行する。

 過ぎたる力に鉄槌を。
 四大天使が一柱、『神の光(ウリエル)』。今こそ浄罪の光もて、魔を滅し、遍く子羊を導かん――――。」



「…………お茶とパイ、食べてから。」 もぐもぐ
153名無しになりきれ:2012/06/26(火) 09:58:46.31 O
―――皮肉なものだ
長きに渡る闘争、その果てに辿りついた第四の世界
よもやそれが、彼方まで広がる不毛の荒野とは……これぞまさしく因果な末路よ

しかし、人は尚も楽園の夢を見続ける
嗚呼!度し難きかな、その妄執!
ならば引導を渡さねば
有りもし無いユートピアの幻影に囚われ、四度目の過ちを繰り返す前に

来たれ、済度の士
我らは『メサイアの胤裔』
全ては救世主の御心のままに―――共にこの爛れた世界を救おうぞ!
154名無しになりきれ:2012/06/26(火) 18:37:12.56 O
フン、小賢しいな
世紀末にはこういった小賢しい連中が幅を利かすものだ・・・
155名無しになりきれ:2012/06/26(火) 21:32:02.27 0
「――――!? ………………私は別に世捨て人でも構わないけどね」

現れた人物が唐突に手袋を足元に投げつける。
魔女は一瞬仮面の奥の双眸を見開いたが、何も言うことは無くむっすりと押し黙る。
貴族でもなんでもない身ではあるものの、決闘の意を持つ行為にいい思いはしない。
ただ、乗らないだけだ。
相手によっては一触即発になってもおかしくない行動の後、
つらつらと語る男の言葉を最後まで聞いてからぼぞりと低く呟く。
元居た世界では職業上……ということにしておこう、世捨て人も世捨て人な生活をしていたのだが、それは今は関係ない話だろう。

「アルカディア、確か理想郷の名の一つね。ってことはここはユートピアなのかしら? 
 ねえ貴方、もっともっと教えて下さらない? 私たち、ここに来るのは初めてなの」

一応友好的な態度で接してみよう、そう思った魔女は口を開く。
なるべく柔らかく、なるべく丁寧に、だがどこか芝居ぶった態度で魔女は語る。
語りながら、口元微笑ませながら、少しばかり赤穂に近づく。

「ね、赤穂クン、さっきのコイツの行動どう思う? 
 特に今は胡散臭いだけで敵意は感じないけど……いきなり決闘の申し込みはあまり気分のいいものではないわ」

先ほどの相手の行動の真意がなんにせよ、突然攻撃手段に出ないだけの分別はあるつもりだ。
潜めた声で口早に赤穂に告げる。
迎撃の準備は怠ってはいない。
相手が何者だろうと、何をしてこようと、一撃目は防げるはずだ。
156名無しになりきれ:2012/06/27(水) 05:45:26.92 O
メサイアはとっくの昔、伝説の内に討伐されたはずだぞ!?
じょ、冗談じゃ………エンッ!!!
157名無しになりきれ:2012/06/27(水) 21:05:08.02 0

それは挨拶じゃねえ、決闘の申し込み方だ。喧嘩売ってんのかこのチビ野郎。
別に買ってもいいんだぜ、焼き殺すだけだしさあ……?

(少々苛々と共に熱気混じりの邪気を、小柄な男にぶつける)
(ぶつける、と言っても本気などでは一切無く、只の八つ当たりであり只の不機嫌な雰囲気を表す程度の物である)
(僅かに邪気の気配が強くなった程度であり、知覚とほぼ同時に霧散した)

.ア ル カ デ ィ ア                      アルカディアン
牧歌的理想郷、ね。んなビル街の何処が 牧 歌 的 なんだってんだ。
確かにこの辺の地理には詳しく無いがな。まだ若い身空で悟り切った訳でもないし、世界を見限ったつもりはねえよ。
敢えて言うなら……旅人、かな。行く当ての無い、時空の旅人だ。


ん、魔女のねーさん……そうだな、俺も同じような感じ方だが。
問題は無い、と思う。今の態度が素ならそれでいいし、演技でも今すぐに何かしてくる心算じゃないから演技してる訳だし。
それに……だ。

(さっき付けておいた右手首のリストバンド――その下の、今は隠してある『眼』に力を込める)

邪気も回復したし、不意を突ければ一撃で『焼き殺せる』。それだけの精密作業ができる余裕もある。対抗手段には問題ない。
だから、「今は」問題ないよ。
                                       ・ ・ ・ ・ ・ ・
(……とはいえ、一応落ち着いた場所に来た訳だし、逆にねーさんの方を灰燼に帰すことも考えてはいるがな。
 今までは俺は何処ともわからない場所に放り出されて指針を失っていた。
 そこでとりあえずは、単に『共闘した仲』だからここまで一緒に来ているが、この先この関係が変わらない訳じゃない。

 第一に自分の身、第二に『機関』の命令――その二つと御三方の利害が違えば、敵対もあり得ない話じゃない)

(まあ、しばらくは『機関』から命令されることもないだろうから、まだ心配しなくてもいいんだが)


さて、と。俺はもう聞きたい事も無いが……そういえば、ねーさんはこれからどうするつもりなんだ?
エリーにしても、王サマにしてもな。
俺は否が応にも、連絡待ちで此処に滞在しようと思ってはいるがよ。
158名無しになりきれ:2012/06/28(木) 20:20:07.89 0
(フハハ、若いのう。
 こういった道化の手合いに慣れるには早すぎるか。
 表情にありありと不快が滲み出ておる……どれ。助け船という程のことでもないが、少し我も加わるとしよう。)

その剛毅たるや良し!
              ガントレット
出会い頭にいきなり『決闘の手袋』を叩き付けるとは、中々肝の据わった挨拶ではないか!
手袋は王たる我が貰い受けよう!
剣を執る覚悟があればいつ何時でも掛かってくるがよい。フハハハハ!

……ん?
おお、気配を消していたのを忘れておった!
フハハハ、まあ良い。汝、我等に用事があって参ったのではないのか?
しかし物好きよのう
帆船で街、アルカディアと言ったか? そこの障壁に激突した我等を遠巻きに見るでもなく、自ら話しかけて来るとは!

そうさな、我も滞在する心算よ
この世界について、まずは情報を集めなければなるまい
宛もなくディストピアを流離うのも我好みだが、見渡す限り殺風景というのも些か飽いてな

         ハーレクィーン
どうだ、そこの” 道化 ”よ
察しの通り、我等はこの世界の地理に明るくない
用事があるなら街案内の道すがら、無いなら街案内を汝に頼もうではないか!
遠慮することはあるまい! 東洋では袖触れ合うも多生の縁という格言がある。存分に交友を深め合おうぞ!

(フハハハ、大人げないがまずはジャブよ。
 我が臣下候補生を不快にさせた、軽い報復であるな。
 ”道化”呼ばわりで馬脚を現すなら三流。もしくは掛け値無しの”道化”であるか。
 何れにせよ、十中八九寄越した者がいるはずであろう。何を企んでいるかは知らぬが、これはいよいよ凶事の気配が弥増して来おったわ。)

(しかし……、吸血公め。
 この状況下で寝おるとは、恐るべき剛胆さよ。
 一兵卒として待遇するのはあまりに惜しい。なれば決勝の最終兵器として温存を…… フウーム)
159名無しになりきれ:2012/07/03(火) 11:43:35.62 O
なっ…むっかつく!よかん知らずのクセに失礼なヤツだなお前!
オレのまわりじゃみんな毎日こうやって―――  ふおぉ!??
おっちゃんかっけー!!でっけー!すげーCOOLだなっどこにいたの?
でも難しくて言ってることわかんね……あ、グローブ返して?そこまでが挨拶なの。たぶん。

んっと…ケツメド野郎は知ったこっちゃないけど、
ねーちゃんとおっちゃんはアルカディアのことが知りたいんだよね?
用事のついででもいいなら案内するよ。ちょっと危ないかもしれないけど、身の安全は約束する。
あ、でもさ、その後でオレんちに一緒にきてほしんだよね。
いいかな?いいよね!んじゃいくよーっ!!
………あれ?もしかしてあそこのころも寝てる?
おーい、おきろー!ヨーグレットあげるから付いといでー。
160名無しになりきれ:2012/07/03(火) 18:57:45.55 0
平和にも戦乱にも遊び飽きたか、創造神よ
それとも、未だ遊び足りぬか・・・
161名無しになりきれ:2012/07/04(水) 17:40:04.39 O
何にしても、俺たちはその中でただがむしゃらに生きるのみさ
162名無しになりきれ:2012/07/04(水) 18:15:04.32 0
「……うるさい。耳元で喚くな」

ゆっくりと目を開けたエリザベス。その顔はかなり不機嫌そうだ。

「人が気持ちよく寝ていたというのに──誰だお前」

目の前には一緒に来た三人に加え、見知らぬ男が立っている。

「よーぐれっと……?何だそれは。──菓子だと?
 ……まったく、どいつもこいつも私を餓鬼扱いか」

不機嫌そうな顔をそのままにジロリと赤穂を見て一つ嘆息し、新たに加わった男に顔を向ける。

「いいか、誤解されたままだと面倒だから言っておく。
 私は"お前が人間だとしたら"、その先祖を軽く2、30は遡れるくらいには生きている。
 年寄り扱いは御免だが、餓鬼扱いは最悪だな」

昔馴染みの魔女ならば知っているだろうが、彼女は寝起きがすこぶる悪い。
そんな折、彼女に対して最悪の接し方である子供扱い。
エリザベスの機嫌が下降の一途を辿るのは火を見るより明らかだった。

「お前もあの荒野の蜥蜴達のようにしてやろうか?何ならじっくりと解体でも──」
   エメラルドグリーン
彼女の花緑青の瞳は、いつの間にか紅に染まろうとしていた。
周囲が止めなければ、本気で解体を始めてもおかしくないほどの威圧感と共に。

────────

「なるほど。ここは『アルカディア』という名前の街で、奴はその案内を買って出る、と」

赤穂達から説明を受け、ようやく怒りを収めたエリザベス。

「……お前達に任せると言った以上、私に文句を言う権利はない。だが──」

ふぁ、と小さく欠伸をし、未だ眠気が抜け切らない目をこする。

「正直言って寝足りない。おい王、さっきの船みたいな感じで馬車みたいなのはないのか?
 なんだったらお前の肩にでも乗せてくれるか?丁度よさそうだ」

さらりと子供のような(意図的な)我儘を言って、エリザベスはケラケラと笑った。
163名無しになりきれ:2012/07/05(木) 21:38:33.84 0
「あら、本当に? 案内してくるのなら助かるわ。
 色々あってね、正直少し疲れてたの。あなたの家で水浴び出来るのなら是非そうしたい気分。
 ハーブティーも出てくるのなら最高ね」

家に来い、という言葉に多少の危機感を抱いたものの、それを露程も気にした様子もなく我が儘を言う。
お茶がないなら水でもいいのだけれど、ここの水は美味しいのかしらなんてことを考えながら。
そうして赤穂の問いには肩をすくめ少しばかり可愛い子ぶった所作で答えた。

「ここがいつの時代にせよ、不慣れな土地なのは変わらないもの。 
 だったら多少危険でもなんでも、案内してくれるのなら乗っちゃおうかなって思うの」

そう、自分は別の次元からやってきた存在。
この世界にとっては恐らく異質な存在。ならばまずは知ることから始めるべきだ。
そう魔女は考えた。
と、小さな男がエリザベスに声をかける。
とたん魔女は顔色を変え(といってもほぼ仮面に隠れて見えないが)、あわあわとそれを止めに走る。

「あっ、エリザベス……彼女はもう少し寝かせて行き成り起こさないでってあちゃー、うわ、どうすんのよぉ…」

が、間に合わなかった。

「あの、あのねエリザベス、一般人かどうかはわからないけど初めてきた土地でしょっぱなから八つ裂きや
 串刺し事件起こすのはどうかと思うのよ、おーい、えりーちゃーん……エリー………… 
 っもう! 貴方も早く謝って!! エリー怒ったらそりゃもうこんわいんだからっ! 早くったら早くっ!!」

                         ドラキュラ
メラメラと怒りにその宝玉色の瞳を燃やす吸血鬼を宥めようと声をかけるが効果はなく、
その先に待ち受ける恐怖の制裁に脅えた魔女は男の後頭部を押さえつけようと手を伸ばす。
つまり、頭を下げて謝罪せよ、と。

――――――――――

「王サマの上にエリザベスって、なんだか親子みたいじゃない? 微笑ましくて笑えるわ」

先ほどとは打って変わって明るく魔女は笑う。
偉丈夫な王の上から見る景色はさぞいいものだろうと思いながら、茶化す様に笑む。
そうしてくるりと小さな男に向き直ると、顎に人差し指当て強請る様に甘えた声を出す。

「あぁ、乗り物を用意してくれるのは貴方でもいいのよ、クルマ?っていうの乗ってみたいし……
 えーと……あれがそう?」

そうして適当に目星をつけ、手を振ってみる。
が、そう簡単に大都市のハイヤーが捕まるはずもなく、只々虚しく手を振り続けるのみとなり……

    テンプテーション
「私の誘惑の術が通じないなんてっ!?」

魔女は愕然としたのであった。
164名無しになりきれ:2012/07/07(土) 17:35:29.25 0
…ばこん

BMW製のノッチバックセダンのトランクを閉める音が、路地裏に響く

「………」

しっかり閉まったことを確認すると、ヴァイスはじろりと自分の部屋がある場所を見上げる。
結局、自分の邪気力の限界を感じ、"奴"を追い出すことは出来なかった。いや、そもそもあいつは腹が膨れたからといって出て行くわけも無いだろう

「………」

自分の部屋のベッドの上に置かれているはずの赤銅の銃を壁を透視しそうな勢いで睨む。
しかし、実際に透視など出来るはずもなく、カーテンのかかった空家にしか見えないオンボロのアパートがビルの陰に縮こまるように建っているだけだった。

「…はぁ」

ため息混じりに、ヴァイスは車へと乗り込む。
馴れた手つきで、エンジンをかけ、ギアをRに押し込み、路地裏から表通りへと出て行く。
朝のラッシュを過ぎたアルカディアの幹線道路は、見事な区画分けのおかげもあり、かなり空いている。
元よりあまり好まれないグレーな都市なので、都市間に引かれた高架高速道路もガラガラだ。
しかし、今回向かうのはそちらではない、高架の下の旧道。邪な者たちの交通路として使われてる道路だ。
こちらは上よりもさらに閑散と…いや、もはや半ば砂に埋もれ、廃道と呼ぶに相応しい状態になっている。

「さすがに、多いな」

街中にはいたるところに、アサルトライフルに装甲服を着た治安維持部隊が展開されている。
まあ当然だろう、あれだけの騒ぎがあったのだ。奴が言っていた通り、1日やそこらで収まるわけは無いだろう
彼らに怪しまれないよう、自然に検問を避けながら、街の外へと向かう。
しかし、街の外も外で、これまた異常な雰囲気に包まれていた。

「……船?」

そう、なんと《門》前方に、一隻の船が停泊―――と呼ぶにはいささか乱暴な状態で置かれていた。
砂の上、それもこんな人がよく出てくる場所に忽然と
更に船の後ろには明らかな"軌跡"があった。

「…砂上を駆ける船、か」

ハンドルの上に頭を乗せ、遠目からその様子を眺め続ける。
船の上には、おそらく3人の人間。うち一人は気配を完全にシャットダウンさせているように見える。
遠方からならば、気配の影響力は大幅に下がる。船の下にいる1人には、あの男は見えていないことだろう。

遠方からでも分かる、あまりいい雰囲気ではない。
165名無しになりきれ:2012/07/10(火) 14:39:12.31 0
小うるさい雑魚どもがようやく静かになったか
たかがこの程度とは三流も三流、下の下だな
正直貴様らには失望した、そのまま指をくわえて終焉を眺めていろ

よく聞け力なき者ども!今この時より世界の支配者はこの我、紫電のヴェサリウスだッ!!
ククククク・・・ハァーッハッハッハッハ!
166名無しになりきれ:2012/07/11(水) 09:40:10.82 O
力ガ欲シイカ?
鎮守ノ封印ヲ今一度解キ放チ――『我ガ輩』ヲ、再ビコノ世界ニ復活サセルノダ!
サスレバ神ノ御業……比類ナキ”永遠ノ力”ヲ、汝ニ与エヨウ……!
167名無しになりきれ:2012/07/11(水) 23:20:07.06 0
危ないのに身の危険は約束って……なーんか矛盾してんじゃねえのか。
ま、渡りに船だ。俺も付いて行かせてもらうさ……おい、露骨に嫌そうな顔してんじゃねーよ。
ほら手袋は返してやるから、よっと!

(拾い上げた手袋を、小柄な男の顔目掛けて放り投げてやる)
(当然ながら、手袋の放物線は意図的なものである)

不慣れ、か。それだったら複数人で行動した方がいいよな?
しばらくは団体行動決定ってわけだが。……て、ヤバ。あのちっこいの……!

エリー、Be Cool! ストップ、タンマ! 気が立ってるのはわかるが、今暴れられても困るだけだ、俺もそいつもアンタも。
そいつは此処の案内役をしてくれるそうだ、今此処で殺っても変わりを探すのも面倒だ。
何より、此処で殺っても悪目立ちするだけだろ? わかったら気を収めてくれると嬉しいね。

……つか、子ども扱いした事根に持ってたんだな。


――――――――――――――――――――――――――――


王サマの上にエリーか。さぞかし高い位置から見下ろされるんだろうな。
あーあ、そのタッパ羨ましいなあ王サマよ。

ねーさんねーさん、その発言もちと危ない気がするぜ。
身長からして間違っちゃいないケド、またエリーの機嫌を損ねちまうっての。
またあの刺すような怒気には当てられたくないんだが。

……手を振っても無駄だって、馬車に手を振ってるようなもんだから。
確かに面倒だから車で移動したいが、この人数でタクシーも乗れないしな。

おーい、ヨーグレットの……えーと何て言ったっけ?
アンタの家ってのはどのくらい遠くにあるんだ? 歩いてすぐだと有り難いが。
168名無しになりきれ:2012/07/15(日) 19:28:21.64 0

(ほう。成る程。
 この様子、真の道化と考えて良さそうだ。
 ということは……此奴は陽動か。何か、本命を支障なく動かす為の……或いは、我々への布石と見るか。
 フハハ、些か面倒だが、殺風景な景色を相手にするよりは幾分か楽しいものよ。)

よもや正統種を肩に乗せる日が来るとは。
《軍馬》では足並み揃わぬし、致し方ないと言えば無いがな。
それにしても、汝は寝起きが極端に悪いのう、あれだけの殺気を撒くとは。臣下候補生共が驚いていたではないか。
と話しかけてはみたが、既に寝入っておるという落ちは予想済みだ。
なればゆっくり眠るが良い。

フハハハハ!
魔女の魅了が通じぬとは、肝の据わった馬ではないか!
いいな、我も手に入れたい! あれだけの機動力を誇るならば、戦場でも目の醒めるような活躍であろうよ!

――む? あの鉄馬と馬車は似たる物か?
と言うことは、搭乗し操縦する類であるか。ふうむ、実に興味深い。
見た所、馬力でも人力でも無いな。風力でも無い。それに背後から煙を吹かしておる。謎は深まるばかりよ。

(さて……、暇であるな。
 吸血公を肩に乗せては、下手に歩き回ることも儘ならん。
 寝起きが悪い此奴を起こしては期せずして死闘の幕開けとなろうからな。では、どうしたものか―――。

 ――――!
 我が『統治』の力が反応した?
 気配探知、分析……人間が一人、そして、何だこの禍々しい気は?
 襲撃を仕掛けて来るか? ……否、それは無いだろう。こちらには吸血公と魔女、いざとなれば王たる我も出陣できるのだ。
 だが、慢心はすまい。いつでも対応は出来るようにしておこう。)

では、新天地!
いざ《門》を潜りて、摩天楼の列なる幾何の都へ!
案内は頼むぞ、そこの! 我が進軍に遅れを取るなーッ! フハハハハハ!
169名無しになりきれ:2012/07/17(火) 11:22:59.30 O
足りねえ…
足りねえんだよ……
痛さがッ、痛々しさがッ、厨二成分がッ!
悶絶するような黒歴史を解放しろ、てめェら小綺麗に纏まってんじゃねえぞオオオッ!!

ぐああ…!
秩序支配の毒が……!
カノッサと世界政府の奴らめ……このままじゃ、この世界が終わ……って……
170名無しになりきれ:2012/07/17(火) 12:16:02.78 O
このスレ途中からラノベ作家になりきるスレになってるんだけどなんで?
171名無しになりきれ:2012/07/17(火) 22:45:51.34 0
永劫叶わぬ願いに灼かれ、それでも手を伸ばさずにはいられない

それがWanna-Be
残影なる夢に溺れゆく、儚くも虚しき者達
現実という岸に上がれぬ故、彼らもまた厨二を顕す在り方の一つ・・・
我ら邪気眼使いと大差は無いのだよ
172名無しになりきれ:2012/07/19(木) 08:38:09.70 O
今の若者は現実に心を摺り潰され―――夢を、見れなくなったのだな

俺達が長い間戦ってきた謎の組織、カノッサ機関
その真の目的は、秩序が支配するシステマティック世界の歯車に異端者を組み込むこと
つまり、『強制的同一化』(グライヒシャルトゥング)
全てを平均化し、管理が容易い世界を構築することだったのではないか

あの頃と比べて、同じ夢を見られる人間は随分と少なくなった
そう、寂寞たる孤独だ
それはまるで、果てしなく広がるこの荒野のように……
173名無しになりきれ:2012/07/19(木) 14:44:29.95 0
誰かが・・・俺を呼んでる・・・
力が欲しい・・・アイツを倒すための力が・・・
お前は誰だ?俺はどこに行けばいい?
174名無しになりきれ:2012/07/19(木) 18:32:50.53 O
うぁぐぐっ!?
な、なんでオレがっ!……むぅ…ごめん…
はぁーお前らむかつく!きっとスダチがわりんだなっ!
挨拶したらキレるし地べたで寝たりするし、おっちゃんたち見習うべきだぞ!


よしじゃあ付いてきてねーっ!
そんで、えっと、なんだっけ。
あそうだ水浴び…はできるかな。ハーブティーってのは知んないけど。

オレは9って言うの。
家に歩いていくのはムリだとおもうよ。
距離はここからだとメートル法で…あ、メートル法わかる?だいじょぶ?それで8163kmのとこ。
でもお迎えあるしすぐ着くよ。

乗り物は……………えっと………現地調達しようか!丁度あそこに1台停まってるし!
おーい!そこのBM、たのもー!たのもー!たぁーのぉーもぉー!!
まだちょっと距離あるけど聞こえるかな。あ、グローブ用意しとかなきゃ。




―――
――――――
―――――――――

……銃声がした、先を越されたか。
なら情報屋に訊くよりも、それを追う方が確実だな。

ブロォンッブロロロロロロロロ…

……………ロロロロォン…キィッ
そろそろ、この辺りの筈だ。血痕、こっちに続いてるな。
………?人か…?
175名無しになりきれ:2012/07/21(土) 13:33:39.84 O
嗚呼、星の嘆きが聞こえる――
救い主よ、憐れみを!
生まれ来る命たちが、干涸らびてしまう前に……
176名無しになりきれ:2012/07/23(月) 14:46:04.72 O
ククク・・・自分の命を心配しな!
177名無しになりきれ:2012/07/24(火) 00:28:08.02 0
>>172
感傷だな。元より邪気眼使いにとっての始まりは、この無尽の荒野のような物であったはずだ
数奇なる運命に――あるいは世界の選択に引き寄せられて、かつて力ある異端はここに集ったと聞く
そして志を同じくし、共に物語を紡いだと。だが、それ以前はどうだ?
『我々異端は元より孤独であった筈だろう』、違うか?
違わないのならば、どうという事はない。全てが元に戻ったというだけの事だ

私もかつては幾多の滅びを観測してきた身だ、貴様のそれは判らんでもない
だが物語が閉じ、志が潰えようとも、こうして未だ世界は廻っている。そろそろ眼を見開いたらどうだ、先人よ
夢見る誰かがいる限り、世界は滅びん。再演を望む役者は存外多いぞ?
178名無しになりきれ:2012/07/24(火) 02:36:48.23 0
(くっ、誰かきたか!? ま、まずいなこれは)
(銃弾は……尽きている、まずい、まずいぞ いざとなればBLUEを使えばいいがアレは乱用できる代物ではないし・・・)

!?
こ、こっちにくるな……!誰だッ!
179名無しになりきれ:2012/07/24(火) 14:49:06.12 0
元に戻った、か。否、それは少し違う
遡ること遙か昔。それまで孤独であった異端は電子の海で巡り会い、惹かれ合い、一つの物語を紡ぎ出した
そう、今で言う第一世界―――『旧世界』と呼ばれる時代の話
かの邪神を調伏せし後、世界は一度滅び去る
そして第二世界の誕生、消滅。暫しの月日を経て第三世界が新生。創造主まで刃が届き掛けた寸前やはり滅び、”四巡目”であるこの第四世界に至った訳だ

かつてと今とで決定的に違う点が一つだけある
『失われた』、という経緯だ
より分かりやすく『衰退』と言い換えてもいい。即ち、物語の紡ぎ手の減少による世界の風化消滅なのだ

そも、世界の再生能力は無限ではない
幾多の滅びを観測したならば分かるはずだ。世界は基本的に、再生をしない
人が去り、時が過ぎ、失われた世界は二度と戻ることはない。電子の仄昏い海底へ、歴史の澱となって沈むのみ
二度目はともかく、三度目の再生は正に奇跡としか言いようがない
故に、ブーストとも言うべき追い風が掛かった。『世界の選択』、『呪われし子供達』の登場。本来絶対悪となる『カノッサ機関』すら、一派ではあるがその理を覆し、創造主へ立ち向かう牙となった

それでも尚、届かない
三度、世界は消滅した
お前達も分かっているのだろう――――”能力者の絶対数が、年々減少している”のだと
物語を結末まで紡ぎきるだけの数が、最早この時代に存在しないと

四度目の再生はもう、奇跡という言葉では足りない
猫をキーボードの上で歩かせ、シェイクスピアの戯曲を完成させるような
ネジの一本に至るまで分解した時計の部品をプールに投じ、水をかき混ぜて元に戻すような、俄には信じがたい天文学的確率の事象だというのだ
もはや奇跡などではない
再演を望む役者のために、荒野広がる不毛の世界となってまで再生を果たした世界。俺はそこに、母なる惑星の愛を見る


このことを深く胸に留めておけよ
母なる愛に溢れた第四世界を、半端な覚悟で踊らぬことだな


精々気を付けろ――――『強制的同一化』(グライヒシャルトゥング)は能力者を凡百の凡人となす、支配者のための「異端殺し」の理だ
政府の誰かが、恐らく、創造主と繋がって――――ザザ、ザザザザ、ザーーー
180名無しになりきれ:2012/07/24(火) 17:02:37.52 O
能力者が減ってるんじゃない、この世界が選択されなくなったんだ
と、俺は考えている
スー……フゥー…

運び屋って職業柄、俺はいろんな所をみてきた
邪気眼と似て非なるものが存在する世界、映像でつづられる世界、たった一言の言葉から始まった世界…
今この瞬間にも多数の平行世界が存在し、邪気眼使いたちが火花を散らしている
ならなぜ、とおもうか?
フッ…邪気眼の本質を忘れたあんたらにはわからんだろうな
あんたらは格好良くなりすぎた
それはもう、邪気眼じゃねえんだ…

(バーテーブルに腰かけた男は、誰に言うでもなく、煙草のケムリとともにそう吐き捨てた)
181名無しになりきれ:2012/07/24(火) 17:16:38.47 O
おっと、喋りすぎたみてぇだな
うるさいのが嫌いなヤツが来る前にオサラバするか

ラ・ヨダソウ……いや、アディオス――――
182名無しになりきれ:2012/07/24(火) 19:29:04.92 0
合点が行った
要するにこの第四世界へ至る途上、実に様々なモノが失われたのだ
忘失され、喪失され、紛失され
大いなる時の流れが、忘却の過去へと多くを奪い去ってしまった

ならば、話は簡単だ
失ったモノは奪り戻せば良い、それだけの話
古来より連綿と受け継がれた、実に明快で単純なたった一つの真理ではないか

今一度だ
今一度、我々は起源に立ち返らねばなるまい
克服の気概を以て、封印されし己の黒歴史を今こそ曝くがいい。そして奪り戻すのだ、汝の本当の姿を!
恥や辱め、大いに結構! それが汝の力となるのだから!
183名無しになりきれ:2012/07/24(火) 20:58:30.56 0
なんだかよく分からない乱入者たちが増えてるが
大丈夫か?過去ログよめてるのか?
他所からのノリで来てるならなおさらだがここが現行スレなのは分かるよな
無駄にレス数増やして読みにくくするだけならチラシの裏に妄想書きなぐれよ、OK?
184名無しになりきれ:2012/07/25(水) 01:48:27.37 0
既に漂い始めている終末の気配に気づいていないとでも言うのか?
これは世界が自らの傷を癒そうとしているのだ
過ちを過ちと認めぬままこの世界をも滅ぼそうと言うのか?
人は訪れていたではないか、それをまるで何もなかったかのようにあしらって来たのは自分達ではないか
目を背けるのはやめろ
「過去ログを読め」、と俺が言ってやる
ガ板まで遡れとは言わん
ここを>>1から読めば衰退の様子が実に顕著に表れている
よくわからない乱入者であっても正面から堂々と戦ったのが第一世界の俺達だったはずだ
世界を毒していたのは俺でもなく、お前でもなく、俺達だ
もう一度言う、目を背けるのはやめろ…!
185名無しになりきれ:2012/07/25(水) 03:36:27.41 0
だから勝手に終わらせてどうするんだよ、御託は結構だ
少数で細々と生き延びてて何が悪いんだよ、お前が気に入らないなら気に入らないって一言だけいえば言いだけじゃないか。
滅びばかり煽ってろくにロールもしないでお前は何がしたいんだ?
そんなに滅ぶのが気にいらないなら参加しようぜ、終末まで悪あがきするのも案外悪くないさ
186名無しになりきれ:2012/07/25(水) 08:51:42.99 O
―――『黙せ』。
全く、好い加減にしないかお前達。

殺伐と混沌は邪気眼の華だ。
だが、不毛な舌戦で世界(スレ)を消費するのは頂けない。あまりに野暮というもの。
我々は邪気眼使い、ジャキガニストだ。戯言使いではなくな。
なら、真に示すべきは言葉ではなく、力。持てる力と力の武突かり合いで語るのが、我々の流儀だったろう?

要するに、だ。
戦え。
血で血を洗え。
より痛く、より痛ましく、邪気眼の名に恥じぬ痛々しさでだ。
今の世界はそれが足りない。飽き足らないのだよ。邪気眼を持つ者なら縮こまるな。
外野の『悪戯(ネタレス)』『落書(アスキーアート)』、『罵倒(アンチ)』、そういったものを無闇に排除せず、物語で飲み込む気概を持てということさ。
187名無しになりきれ:2012/07/25(水) 08:57:46.22 O
(そう、能力者同士の血戦、死合―――)
(それこそが『復活』の『儀式』となるのだからな)
(大いなる『邪神』再臨の糧となれ。精々潰し合い、殺し合うが良い! ククク……)
188名無しになりきれ:2012/07/25(水) 21:30:56.59 0
「おーい!そこのBM、たのもー!たのもー!たぁーのぉーもぉー!!」

しばらく眺めていると、全身黒ずくめの男が、こちらに向かって手を振ってきた。
まあ、いくら都市に近いとはいえ、死楽園に出てくるような奴らが、この距離の濃緑色で3.2L直6音を唸らせる車に気付かないわけがない。

しかし、今日はよく絡まれる日だ。朝にあった謎の男といい、今といい
まあ都市内は迂闊に出歩けなくてどうせ暇だ。
仕事もひとつオシャカになった。ああいうのに絡むと、決まって何かしら問題が起きるだろう

「…いい暇つぶしになればいいんだがな」

後ろの船も気になるところだ。砂上を駆る帆船など聞いたことも見たこともない
どこか遠方から来た古民族だろうか?興味はなかなかに尽きない。

「………さて」

ひとしきり疑問を吐いたところで、ぎし、とシートに身を委ね、ハンドル右のレバーをカチリと捻る。
あの黒い男にはすまないが、向こうから来てくれるのを待つしかない、前照灯を明滅させたので、合図にはなっただろう。

この車は、悪路向きじゃない
189名無しになりきれ:2012/07/28(土) 10:10:20.09 0
チ、遅滞してやがる
まさか彼の痴愚神、サクラスが時空を歪めているとでも言うのか・・・?
予言成就の時は近い、ということか・・・
190名無しになりきれ:2012/07/28(土) 19:33:22.31 O
やれやれ…
俺たちが何とかするしかねぇみてぇだな…!
いくぜオメェら!精神を、加速させろ!!
191名無しになりきれ:2012/07/28(土) 19:50:51.57 0
「おぉ、やはり見晴らしがいいな。今の体では望むべくもない光景だ。
 魔女、知人の誼みで一回は聞かなかったことにしてやる。だが次は──くぁ……」

言葉の途中で小さく欠伸をし、クシクシと目をこする。

(……そこのモドキと違って友好的じゃなさそうなのもちらほらいるな。
 まぁこいつらもいるし何とかなるだろう)

「何か起こるか目的地に着いたら起こせ。
 但し、余程の事態でない場合起こした奴の身の安全は保障出来ないがな」

とは言ったものの、それほどの事態ともなれば体が自然に反応して目が覚めるのだが。
少しでも早く眠りたかったエリザベスはその部分を省いて王に伝えた。

「では後は頼むぞ……zzz」

視界に映るクルマとそれに向かっていく男を眺めながら、彼女は再び眠りに就いた。
192名無しになりきれ:2012/07/28(土) 22:12:36.67 O
おれは名無しだ。誰でもない。
先ほどの銃声、撃たれたのはおまえか。
悪いが急いでいる。誰に何故撃たれたのかを簡潔に答えろ。
193名無しになりきれ:2012/07/28(土) 22:51:54.90 0
・・・・・・『カノッサ機関』を名乗るものに撃たれた、理由はおそらく私の超能力のせいだろう
で、お前はどうなんだ、奴らの仲間なのか?
仲間じゃなかったら早く行ってくれ、まだ追跡されているんだ
194名無しになりきれ:2012/07/29(日) 17:19:16.47 O
カノッサ…既に入り込んでいたとは…情報局め、リサーチ不足も甚だしいな。
おれはやつらの敵と言っていい。そういう組織に属している。
機械仕掛けの魔剣と呼ばれる代物を探しているんだが…無駄足だったようだな、失礼した。
詫びだ。このスプレーとフィルムを使え。傷の再生能力を爆発的に高めてくれる。

………ついでに忠告するが、「カノッサ」の名は軽々しく口にしない方がいい。
やつらは何処まででも追ってくる。おまえは既に、これから始まる戦いのさだめに取り込まれてしまった。
生き延びたければ戦うことだ。
生き物たる、おのれのサガに従って…。

ラ・ヨダソウ・スティアーナ。

195名無しになりきれ:2012/07/29(日) 23:58:25.41 0
フフフ、祝福せよ!
終焉と破滅の闇より―――世界は、浮上する!
196名無しになりきれ:2012/07/30(月) 01:14:04.69 0
あ、ああ、すまない、恩に着るよ。そちらも探し物が見つかるといいな。
じゃあまた会えたら、さようなら。

・・・ふむ、確かに尋常じゃない治りの早さだ。
(さて、表通りにでたはいいが、奴らはまだつけてきているのは確かだ)
しかし、なんだか騒がしいな、今日は祭りでもあったのか?
まあ関係がないことを祈るか。
197名無しになりきれ:2012/07/30(月) 05:48:14.82 0
ハハ、ここは醜悪な街だなあ
何処も彼処も、人の身には過ぎた文明の塊だ
人間って生き物はさー。なまじ力を手にしちゃうと、すぐ思い上がるから質悪いよねー

今さっき降りてきた『主の天啓』によれば、機械仕掛けの魔剣を持ち帰って来いって話だったけど
寄り道や道草ぐらい別に許してくれるよね
だって僕、まだ子供だし

だから、「ついで」に―――バベルよろしく、街を滅ぼしちゃおうっかな
                コカビエル
【教会】よりの使徒、この『神の星』がさァ……!
198名無しになりきれ:2012/08/01(水) 22:19:45.33 0
『間もなく、アルカディア上空に到達する』

耳と一体化した無線機から、指令室からの声が聞こえてくる。
閉じていた眼をゆっくりと開けると、眼前にホログラフのようにHUDが映る。

『Direct Retina Display.....node』

眼の端に映る緑の文字が、古臭いパソコンのように流れていく。

『Magic Booster Vernier.....node
 BLADE system.....node
 Artifical Limbs Control Device.....system green
 Biological Generator....system green
 All system node』

「…あー」

首の裏側あたりにチリチリとした感覚。アドレナリン
神経が文字通り研ぎ澄まされていき、脳内麻薬が湧き上がる。
敏感になった耳に、先ほどと同じ音量で声が響く。

『目標は都市部周辺の異能力者だ。
 西部<<門>>に6人ほど出ているが、うち1人は『SAGA』の工作員。4名が能力者で内1人はおそらく魔術師、後のは邪気眼使いだ
 残る一人は…一般人だな。といっても限りなくブラックのだが』

「目標はその3体か?」

じんじんと響く耳を押さえ、音量を調節していると、脇から声が聞こえる。
暗くて分かりにくいが誰がいるかは知っている。

『いや、さすがのお前たちでも能力者4体SAGA員一体は…場合によってはあとの一般人も加勢するかもしれん
 SAGA員と一般人は殺すな、色々面倒になる…よって今回の目標は別だ』
199名無しになりきれ:2012/08/02(木) 01:32:11.22 0
「じゃあなんでそんな詳しく教えたんだ?」

いまだ少し痺れる耳を軽く弄くりながら聞き返す。そこには指令室だからという遠慮も尊敬も無い。

『邪気眼皆殺すべし。それがお前たちの存在意義だろう
 奴らはこの世界には不要だ。ただの癌でしかないからな
 …これで十分だろう?今回の作戦概要を伝えるぞ』

(けっ、いつ訊いてもそれだ まあ、何を言われようと邪気眼使いを殺すことには変わらねーんだがな)

口に出さず、ただ小さく舌打ちだけする。
向こうさんももう慣れたものだろう。そこに意味など考えない
                       コカビエル
『対するのは【教会】の一柱だ。『神の星』という』

右隣の声はやれやれと小さく息をつく。
それに続いて左からも声が漏れてくる。

「…教会、世界政府と繋がりがあったはずでは……?」

細く、しっとりと落ち着いた声が、疑問を投げかける。

『以前はな、現在では断ち切っている
 聖絶執行機関の名の通り、聖によって邪を絶する機関…まあ邪気眼使い共をぶっ殺す能力者の集団だったんだが…
 どういう訳か、最近は一般人、特に都市の民間人に手を出し始めた』

「神の星ねえ…大層な名前持ってるが、能力はいかほどで?」

『………』

聞いてみるが、応えはない。ただ困ったような呻き声だけが伝わってくる。

「まさか…無いのか」

左隣の声が少々困惑気味に訊く。

『ああ…このコカビエルという奴は最近教会に参入した奴なんだ。
 縁を切ってからというもの、教会はあの手この手でこちらへの情報漏洩を防いでいる
 …すまんが、今回の敵情報は少ない 容姿は少年、人間を卑下する現在の教会のやり方を愚直に貫く奴だ
 以上 できる限りの支援はしよう、健闘を祈る』

声とともに、暗い部屋の中に光が差し込む。
眼下に広がる、規則正しい都市。3人の『世界政府直属対異能殲滅遊撃隊』はそのコンクリートジャングルへと自由落下する。
200名無しになりきれ:2012/08/02(木) 19:58:03.60 0

さあッて、と
やっぱさァ、僕は初手が肝心だと思うんだよねえ
出会い頭の挨拶(いちげき)で、如何に最高の印象(ひがい)を相手に与えることができるかっていうかね?

だったら、狙うは中枢――だよねえ。
この街のコントロールセンター。あーあー、あのでっかいビルかあ
これじゃ本当にバベルだね。それじゃあ、滅ぼされても仕方ないってわけだ。うん、僕は何も悪くない
だってこれ、天使の使命だし? それじゃ、そういうことで一丁……

…………、あれ?
気配を感じる。……上空。一、二、三……へえ、三人
これ全部僕が相手しろって? 初陣にしてはハードな状況だなあ。『神の光(ウリエル)』様もお人が悪いよ

でもま、ここで頑張っておけば後々【教会】の立場で有利になれるかな?
それじゃ、頑張っちゃおうっと

―――――――プレート、No.11。黙示の章、アポカリプス・レプリカ。墜ちよ、ニガヨモギの星!

(上空に出現する魔法陣)
(炎の尾を引く巨大な凶兆の星が空から降り、コントロールセンターを粉砕する)
201名無しになりきれ:2012/08/04(土) 11:38:10.26 O
クソッ…!何で皆、俺の話を聞いてくれないんだ!
世界各地で広がる荒野化は!「人為的」に引き起こされているものなんだ!
何で皆信じてくれないんだよ…!
202名無しになりきれ:2012/08/04(土) 13:40:00.29 O
―――戦闘が始まったな。
予定された区域ではないが、プランBの適応範囲内だ。
お陰で探し物の座標も掴めた。
しかしこの光景、さながらグラウンドゼロだな。
偽りの楽園へと移り住み、仮初めにも平穏を望む彼らには…あまりにも残酷な真実だろう。
そう、思わないか?
真実と言うのは、総じて受け入れがたいものだ。
重大であればあるほど、な。

おまえもこの世界の真実を知っているようだな、少年。
203名無しになりきれ:2012/08/07(火) 10:41:09.80 O
機械仕掛けの魔剣――――狂気の学問「邪科学」の産物、か
愚かな人は未だ学ばぬのだな
千年前の旧大戦、それを引き起こした元凶が他ならぬ邪科学だったと云うのに……
204名無しになりきれ:2012/08/08(水) 18:12:06.45 O
忘れたわけではあるまい
ここは、ディストピアなのだ―――――
205名無しになりきれ:2012/08/09(木) 09:52:59.91 0
!?
なんだ、爆発が……ああもう、今日は一体何なんだ!
怪我した部分が痛いし、街は大騒ぎだし!
で、そこに隠れているアホはこっちに出てきたらどうなんだ、殺気が駄々漏れだ
(UltraBlueで分かってはいるがな)
206名無しになりきれ:2012/08/11(土) 21:12:33.90 0
「!」

自分たちのすぐ脇を掠めるようにして落ちたひとつの隕石。
網膜に直接映しだされたHUDには、それには[MPO]の文字が付加されていた。
 M   P  O
「マジックパワーオブジェクト…かなりの高度魔術師の可能性あり…」

輸送機で左に乗っていた、「インフリンジ」がいつも通りの口調でつぶやく。暗がりでは全く見えなかった美しい象牙色の装甲と、銀色の髪が陽光に煌めく。

「いや、違うな…確かに解析ではMPOだが――リアルすぎる
 通り過ぎる時、重量感や本物の熱を感じた。」

それに反論するのは、輸送機で右に乗っていた「アクシス」事実上のこのチームのリーダー。浅葱色の装甲が風を切って、群青色の髪を靡かせる。

「…とすると」

「プレートだな、珍しいのに出くわしたぜこりゃあ」

インフリンジの言葉にけけっ、と卑しく笑って続ける。
本当に楽しくなってきた、と、空中でぐるりと一回転すると、
地面にたたきつけられるように着地する。
207名無しになりきれ:2012/08/11(土) 21:14:51.22 0
上空3000メートルからの自由落下には約一分、それだけの自由加速からの着地にかかる衝撃は、数十トンにも及ぶと言われる。
逆間接型を呈するこの義足は、そんな自由落下からの着地による衝撃をすべて受け止め、蒸気として放出する。

「さってと…」

「……コントロールセンターの被害は?」

「上部が大きく崩落。幸い生命線を止めるまでには至っていないみたいだけれど、衛星通信用集中アンテナが予備含め崩壊。別地点からの経由に頼るしかないわね」

「派手にやってくれたじゃん?
 つーこたぁ、しばらくは本部との通信も途絶か」

「…復旧まで20分程度と予測」

立ち込める蒸気と砂塵の中で交わされる素早い会話。
現状把握、周囲警戒。軍隊的な行動を、そのまま高速化させたようだ。

「通信途絶状態に伴う隊長権限により、ブレイド起動を許可 常時臨戦態勢」

「…了解」「らじゃ」

アクシスの言葉によって、インフリンジと私はブレイドシステムを起動。
義手である機械の腕の肘より少し先、円柱状のデバイスがほのかに蒼い光を放つ。

「っん、…っと」

短く鋭くものを動かした時の擬音「クンッ」を口で発音して、そのように短く鋭く腕を振るう。
途端に、マニュピレーターだった腕が分解し円柱の中へと吸い込まれ、即座に別の姿に展開した。
その形はおおよそライトマシンガンのそれである。この武器に決まった名前はない
隣のインフリンジは両腕一体のガトリング、アクシスはバースト連射の大型ライフルと盾。

「周囲警戒」

その言葉とともに、すっ、と逆円陣の体勢をとる。
208名無しになりきれ:2012/08/11(土) 22:27:22.10 0

「【――――全ては主の意のままに
  仮初の街は優しく撫でられるかの如く崩れ去り 塩の柱の如きとなる。
  個が打ち立てた空虚はかくして崩れ去らん 全ては主の意思ならん】」

「……聖典に載せるなら、こんな具合ですかね?」

パイを食むウリエルを眺めていたガブリエルが、角砂糖を紅茶へと落とすと
――――近くに見えていた巨大な建造物群が、爆散した。

    コカビエル
「さて『神の星』さんを相手に、何人が生還出来るかも気になりますが……」

「それ以前に『機械仕掛けの魔剣』が破損しないでいて欲しいものです」

ガブリエルは呟きながら静かに笑う。
主を気取る者が願望を押し付け生み出した街が、崩壊する様を。
209名無しになりきれ:2012/08/12(日) 15:36:58.57 0
ハァッハ――ッ、命・中!
どうだい、黙示録に記述(シル)されし金管の響きはァ!
残念ながら直撃とは行かなかったけど、第二コントロールルームを吹っ飛ばせたようだし、結果は上々としておこうか?

(黒煙と爆炎を吹き上げるセンタービル)
(墜落してきた隕石は付近の高架橋を粉砕して小規模のクレーターを作り、交通機関に甚大な被害を与えていた)

どれどれ……、インフラ、通信中継、各施設の一部機能停止を目視で確認!
ん〜、いい感じに混乱してるね?
まるで統一の言語を奪われて混乱するバベルの民だ!
そうだよ、それでいいんだ。神の被造物たる人間共は、大人しく地べたを這い回って生きればいいんだよォ! アッハハハハハ!

さーて、さっさと潰しちゃおうかな
あ、予め言っとくけどさァ、都市管理システムを一極集中させるのが悪いんだよ?
それじゃァお待ちかね! 今度は真上からプチッて一気に――――――――なーんて、そうも言ってられないみたいだね

(視線を混乱に陥る街の人々から、近付いて来る気配へと)

随分と慎重じゃないか、それに装備が擦れ合う物々しい音がする
それなりに脅威と見なしてくれてる、か
失礼しちゃうよね、こんなに愛らしい外見だっていうのにさ? 昔は近所のマダムを悩殺していた美少年だったんだよ?
           ・ ・ ・ ・ ・ ・
まァ、そんなことはどうでもいいんだけどさ――読誦、我が声に応えよ、アポカリプス・レプリカ!

(手に持つプレートに、XIの数字が光で刻印される)
(すると幾つかの不規則な図形に分解され、少年の四肢へと吸い込まれた)
(刹那、背中に広がる天使の翼。その表面には、ラテン語で書かれた黙示録の文章が浮かび上がっている)


エフェソス、スミルナ、ペルガモン、ティアティラ、サルディス、フィラデルフィア、ラオディキア
金管を構えよ、第三の天使
終末の音朗々たれば、ゼベダイが子の啓示の幻視、いざ灼かに顕現せり

アイン・ソフ・オウル   アポカリプス  オミナスフォールンアルテミシア
  無限光  ――黙示の章・天翔け墜ちよ苦艾の凶星

(天空に鳴り響く、金管の音色)
(聖なる光と轟音と共に、地に墜ちた巨大な隕石が縦に割れ、11の大きな石塊となり、少年の周囲を浮遊しながら旋回する)
(最初に降ってきた隕石は、己の武装を召喚したに過ぎなかったのだ)

さあ、まずは小手調べと行こうじゃないか。僕をがっかりさせないでおくれよ?

(11の石塊の内2つが、周囲の建物や設置物を次々と破壊しながら三人へと高速で飛来する)
(いくら割れたとはいえ、1つ1つが視界に収まりきらない程の大きさを誇る。それらが高速で激突した際に生じる衝撃と破壊は、推して知るべし)
210名無しになりきれ:2012/08/12(日) 23:30:30.59 0
先ずは小手調べだ、吹き荒べ暴風、鳴り響け雷鳴。天地鳴動のチカラを我が手に!

(彼がそう叫ぶと、混沌とした風景に変化が訪れる。)
(音は全て止み、息の音一つ聞こえない。そう、それはまるで嵐の前の静けさと形容するに相応しい状況だった。)


この僕に抵抗するんだ、最低でもこの位軽く防いで貰わないとね♪


(そう言うと彼はその手に持つ剣を降る。すると今まで変化の無かった残り9つの石塊が途端に電気と風を纏う。そしてそのまま前方の人影に向かって高速で飛んで行った。)

さぁ、どうする?僕なら空間の狭間に吸い込むけどね♪

(当然そんな事が彼以外に出来る筈も無い。しかし前方の人影は逃げる事無く各々の武器を構えた。)
211名無しになりきれ:2012/08/13(月) 15:28:44.33 O
コ、コントロールセンターに攻撃…?
うそ…なんで…。
そこ…そこって父さんが……。

――――― ヴィン……
……ザ…――…ザザ…ザ………―…ザ―――…
│...
│SENSED:BATTLE_ACTION...
│[STATE]       HIBERNATION
│             - SHIFT_TO_OPERATION... ERROR.
│              - RETRY... ERROR.
│[ERROR_REPORT] LOST_ALL_SIGNAL_FROM_THE_USER.

魔剣が…スリープから自動復帰してる…。
ユーザーの全信号喪失…?
これ、父さんの…なに?なにが起きて…?
全信号なんて、そんな…ありえない…。

│...
│[STATE]       HIBERNATION
│             - SYSTEM_REBOOT.

キュゥゥン………キュィィィィイン
ヴィン
│...
│SEMI-AUTOMATIC_ANNIHILATE_WEAPON
│ARTIFICIAL_INTELLIGENCE:[LINDA]... BOOT_UP.
│STARTUP_PROGRAM... RUN.
│PROCESS_HAS_COMPLETED.
│ - ATTENTION:USER_SIGNAL_NONE.

シグナル無しって…うそでしょ?ちゃんと調べれば…。

│...
│[RUN]        SEARCH
│             - TO_DEPLOY_THE_RADAR_UNIT... SUCCESS.
│             - SEARCHING_FOR_REGISTERED_USER... FOUND.

ほ、ほら!調べればちゃんと見つかるんだよ!
あの父さんが約束破るわけ――――
│             - SHIFT_TO_SCAN_MODE.
│            SCAN
│            - START_TO_SCANNIG... COMPLETED.
│            - DAMAGE_RATE:[HEAD/6%][THORAX/9%][ABDOMINAL/2%][LEFT-ARM/0%][RIGHT-ARM/81%][LEFT-LEG/69%][RIGHT-LEG/87%]
│             - CRITICAL_DAMAGE.
│             - VITAL_SIGN:NONE.

…………破る…わけが…。
│...
│            - RETRY... UNCHANGED.
212名無しになりきれ:2012/08/13(月) 15:32:24.58 O
うそだ。

│...
│             - RETRY... UNCHANGED.
│              - RETRY... UNCHANGED.
│               - RETRY... UNCHANGED.

壊れてるんだ。そうに決まってる。

│...
│           SELF-RECOVERY
│           - DETECTING_FAULTS... NONE.
│           - SUCCESSFULLY_COMPLETED.
│...

約束したじゃんか。絶対独りにしないって。
……………。
騙したな。裏切ったな。弄んだな。
もう優しさなんていらない。みんな嫌いだ。
この街も、何が楽園だ。もう居場所なんていらない。

もう何もいらない。
―――ザ……ザ…ザ―…
│ERROR.
│[ERROR_REPERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERERRORRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR
│CAUTI@#:CR/TIC&]_$RR@R!
│#4VERROR.E_T@_ER?OR.I%I7/4[I2ATI@%
│[RU%] 8RRE??@R. F@?M4T_<T/LI7Y.
│...
ザ―――……

みんな、みんな壊してやる。
あの男が遺した、この機械仕掛けの魔剣で。



213名無しになりきれ:2012/08/16(木) 08:28:49.56 O
――――始まった、か

狂なる力、魔科学を巡って勃発する、己が街の存亡を懸けた文字通りの生き残り戦
果たして最初に滅ぶのは、最後まで長らえるのはどの都市か?
後の世があれば、人々は皮肉を込めて、その戦いをこう呼称するだろう


 ヘラスマキア
『楽園戦争』―――さあ、暗愚なる超人達の舞踏の幕開けだ。
214名無しになりきれ:2012/08/18(土) 19:51:39.28 0
ゲート
<<門>>外。そこはすでに街の管轄外に当たる。
つまり、この場所に出ている時点で街のなかで受けられていた加護は全て無くなり、弱肉強食たる世界の理を文字通りそのまま身に受けることとなる。

既に諸君らは分かっているとは思うが、死楽園たるこの世界の大半に人が住めないのは、彼らが生態系の下層に位置しているからだ。
巨大な体躯に加え、多数による直線陣形で津波のように移動する「ホライズンリザード」
全長10mにもなり、5,000kmもの距離を休まず飛び続ける事が出来る「ディストピアグリフォン」
この程度ならまだ単独でもなんとかならない事もないだろう
しかしこの荒廃した砂と礫の世界には、どれほどの人類がどれほどの力をもってしてもどうにもならないような相手がいるのだ。

そしてその王たる存在が――――




「砂クジラ…!」

アルカディアの<<門>>、結界が張ってあるはずのそこに、黄土色の巨大な生物が飛び出してきたのだ。
砂クジラと呼称される死楽園の王。クジラと名がつけられているが、その容姿はクジラとは似ても似つかず、むしろ虫のように見える。
身体の下部をみっしりと覆う繊毛と、その隙間から多数覗く細い節足。
上体はごつごつとした分厚い甲殻に覆われ、先端は砂を掻き分けるために鋭く、砂の流れを制御するための太い剛毛が生えている。
甲殻に埋もれるように存在する多数の複眼が、禍々しくぎらついた。

彼――と呼んでいいのだろうか、現れた砂クジラが襲いかかったのは、今しがた砂の上を駆けて現れた船。突如現れた得体のしれない何かを、食料とでも思ったのか、はたまた自らの縄張りを侵しているとでも思ったのか
どちらにせよ、地下から噴き出してきた砂の衝撃によって横転し、砂の海に転覆寸前の船をぎらぎらと滾る複眼が見据えているのは確かだった。
215名無しになりきれ:2012/08/20(月) 21:03:59.94 O
―――はいだらぁぁあああああ!

っどわ。
……ハハハ、ハハハハハ!in your faaaaaaace!!
戻れた!ブチ破ってやった!
オマエの歪みじゃオレは止めらんねんだよサクラス!Sit yo ass down,ha!

あ、クスリとらなきゃ。 ガリガリボリボリ
ねーちゃんとかころもとか大丈夫だったかなー。
説明する前に捕まっちゃったけど、無事に脱出できるかなぁ…。
安全は保証するとかいっちゃった後すぐコレはヤバいよね、ぜったいヤバいよね…。
ってかここどこだろ。ゲート前…かな。
お?おおお、すげー!砂クジラだ!おっちゃんよりおっきい!

ピピピ…ピピピ…
およ、通信だ。 カチッヴゥン
ししょーどったの?
  ≪第一目標をレーダーに捉えた。座標を転送する。≫
ok、第4ブロックのX1273,Y844ね。
  ≪熱源、邪気、その他反応の強烈さからみて、何者かに使用されている可能性が高い。≫
うっそヤバいじゃん。フォローさん「神すら殺す魔剣」とか言ってなかったっけ。
  ≪ああ。だがそれほどのものを十分に扱えるやつは一握りだ。ひとまず合流するぞ。≫
え〜マジでやる気なの…?オレまだ死にたくねんだけど…。
 ≪目標は都市部へ向かっているが、そこは戦闘区域だ。≫
  ≪回り込んで待機し、乱戦中の隙をみて確保する。早くこい。≫
はいはいいきます。はぁ…おーじんじにいきた―――


……………………あ。
く、くる。
砂クジラ――――!!ギャ――――――!!
  ≪うるさい。≫
216名無しになりきれ:2012/08/20(月) 22:22:16.46 0

    ――――  Cuando hay voluntad, se abre un camino.  ――――


ヌウウンンンッ!!
………フ、フフハハ、フハハハハッ!!
何と、我は停止っておったのか! 堰を破ったが如く、四肢五臓六腑を廻りだした血潮が証明しておる!
                           エストール・エンペラドール
王たる我が『王冠眼』の能力、《統治》が一技、  絶対皇帝圏  を突破するか……! 如何な能力者ぞ、全く以てこの地への興味が尽きぬではないか!
益々猛るぞ、未知への征服欲がな! フハハハハハ――ッ!!

む? あの砂塵に跳ねる巨影は?                ディストピア
オイ、そこの。あれは一体「何」だ。………。ほう、彼奴がこの死 楽 園の王だと申すか。
成る程、合点が行った。
驚くべき偉容よ、アレでは太刀打ちを企むのも愚かしい。計画的な接敵ならともかく単なる遭遇ならば、具体的な戦術を練る前に遁走を選ぶのが妥当と言うべき難敵と言えような。


――――――だが、許容できぬぞ。王は我一人で良い。我以外の覇道が立ち入る隙など、我が王国には無いと知れ。


他の者は停止しておるのか。……ならば良い。ならば重畳。
貴様、誓えるな?                                       モノ
今から目にする光景を、誰にも他言はせぬと。王とは、本陣にて座して待ち構える存在。あまり多くに知られたくは無いのだよ――――王の力というものを、な。
そこで見ておれ。怖いならば遠目でも構わん。目を覆っても良いが、見逃すのは惜しいぞ。


(王の背後の空間が、広範囲に渡って歪み始める)
(虚空を突き破って現れたのは、かつて新世界へと進軍した大小様々なる征服者の軍船――――その数凡そ、20隻)
(右手を高らかに突き出す王)
(それを合図ととして、総数百に及ぶかという砲門が一斉に、迫る砂鯨へと照準を向けた)

                                    コンキスタドール
嗚呼、懐かしき鉄火の音を此処に……死の畔より目覚めし 我が同胞 よ、今一度征服の凱歌を我に奏上せよ!


(王が号令した刹那、轟音と共に砲門が唸る、唸る、唸る)
(一斉砲火、激烈なる鉄火の嵐が吹き荒れた)
217名無しになりきれ:2012/08/22(水) 08:57:05.11 0
「! プレート反応!」

アクシスの言葉と同時、ミニマップ上に紫の光が現れる。
と、次の瞬間紫色の光点が別方向にも現れ、こちらへと飛来する

「攻撃性オブジェクト飛来!320方向!」

「回避…は間に合わねーか!インフ!」

「…ABS:SFモード、起動完了まで2秒」

「遅ぇ!」

叫ぶと同時、眼前のビルを突き破り、直径数百bはあろうかという赤熱した岩塊が飛来する。

バンカーバスター
「土貫弾!」

「!」

アクシスの言葉で、ハッと動くインフリンジ。
私は一瞬理解しかねたが、すぐさま、ああなるほどと理解する。

「地下か…!」

ボゴン!という音とともに、インフリンジが近場のマンホールに向けてバンカーバスターを放つ。
土中を貫通し中から破壊することを目的としたそれは、間違うことなくその役割を果たし、マンホールとその周囲を大きく陥没させて大穴をあけた。

「っあぁ!」

アクシスの腰あたりから伸びる筒状の装置――横には「Magic Booster」と書かれている――から、蒼光が漏れだす。
インフリンジは先に穴の中へ飛び、私もすでに穴の淵に足がかかっている。
しかし岩塊も着弾直前。

「アクシス!」

叫び、手を伸ばす。マジックブースター使用中はABSも使えない。
岩塊の突起が、彼女の頬を掠った。

「おおっ!」

飛び込むその瞬間、着弾による衝撃波がつないだ手を放してやろうとばかりに彼女達の体を引っ張る。
だが、機械化した腕はそのまま放すだなんて事はしない、自らの意志でもなく。

「ABS:SF起動」

下から聞こえる声。軽くなる腕。
防衛型のインフリンジの特殊機能、アビリティ・キャンセラー・システム:スフィアフィールドモードによって、衝撃波が打ち消されたのだ。
その瞬間を見計らい、隊長たるアクシスの腕を引く。
218名無しになりきれ:2012/08/22(水) 08:59:10.83 0
「…げほっ、ごほ」

「ぜー…ぜー…危なかったなオイ」

わざとらしく息を荒げ(この程度で根を上げるほどヤワな身体じゃない)「にひひ」と笑う。
アクシスは衝撃波の粉塵に当てられていたため、噎せている。肺に粉塵でも入ったろうか

「げほ…ええ、まさに間一髪って奴?」

「…地上ダメージの臨界が近い、ここも危険。移動を提案しますが」

インフリンジの言葉通り、地上ではまだ巨大な岩塊が激突する音が続いている。
レーダーの情報が正しければ、飛来した岩塊は11、ひとつでもさっきの有様だ。確かに地下まで到達してもおかしくない むしろ落盤が起きてぺしゃんこになるだろう、確実に

「アルカディアに限った話じゃないが…地下は基本危険だ。砂クジラだのなんだの色々いるからな だから頑強には作られてはいるが…」

アクシスが言葉を切ると、メリメリ…と耳をふさぎたくなるような音があたりにこだまする。

「離れたほうがいいな、西へ向かえば地下鉄と繋がっている ムーブアウト・ウェスト」

「へいへい了解」

「……」

インフリンジが後を警戒しつつ、西へと向かう
219名無しになりきれ:2012/08/23(木) 16:08:31.10 O
220名無しになりきれ:2012/08/23(木) 20:28:44.44 0
「……うるさい」

震動と轟音で目を覚ましたエリザベス。
不機嫌そうな顔で周囲を見回し、その原因を確認した。

(震動の正体はあの馬鹿デカい蟲。そして轟音の正体は──この軍船か)

視界を塞ぐ程の巨大な影と、その影に向かって発砲する大小様々な軍船。
軍船という事を考えれば、誰の仕業かは一目瞭然だった。

「ははっ、大した能力じゃないか、王サマよ。
 本来なら私の眠りを妨げたことを償ってもらうところだが……。
 これ程壮観な景色を見せてもらった礼だ、チャラにしてやる」

本来なら自分も参戦したいところだが、王の顔を立ててここは我慢する。
王という人種は往々にしてプライドが高いものだ。
この男がそれに当てはまるかは分からないが、邪魔をしないに越したことはない。
──起きた(起こされた)ばかりなのであまり動きたくない、というのが本音だが。

(それにコイツはあまり他人に能力を見せたがらないみたいだしな。
 本当なら今私が見ていることさえいい気分ではないのかもな)

しかし邪魔をしないとは言ったものの、間近でド派手な戦闘が起きていれば、参加したくなるのは性だろうか。

「おい王サマ、ここで見たことは口外しないでおく。お前もそれが望だろう?
 その代わりと言っては何だが、船を一隻用意できるか?廃船で構わない。
 もし用意できるなら、面白い見世物を見せてやるぞ?」

王に語りかけるその顔は、見た目に相応しく少女のように輝いていた。
場所が場所ならば、周囲の男を魅了出来る程に──。
221名無しになりきれ:2012/08/24(金) 20:41:29.04 0

(乱れ舞う十一の隕石塊)
(やがて粗方街を一掃し尽くした頃、石塊はコカビエルの周囲に戻り、再び旋回を始めた)
(死体を確認しに行くと、そこで地面に空いた大穴を見付ける)

へえ、完全に不意打ちかましたつもりだったんだけど。
この僕が最初の一合で誰ひとり始末できずに、それどころか敵前逃亡をおめおめと許してしまうなんて。……はあ。これは、あれかな。
「対能力者戦用の装備を万全にしている」、と考えて良いのかな?
だとしたら、資金力と、統制力を鑑みるに、敵方の正体は限られて来るよねえ。――――僕ら【教会】を目の仇にしている、【世界政府】の連中、ってことか。

あーあー、やだねえ。一番面倒くさい手合いだよ。
どうしようかなぁ。……折角尾っぽ撒いて逃げてくれたんだし? このまま放置してあげてもいいのかな。

僕としても、「本命」を忘れた訳じゃない。
僕達《プレート》使いにとっては天敵にして宿敵、《魔剣》を略取、もしくは破壊しなくちゃいけないんだからね。全く、酷いもんだよ。
プレーターがグラディエイターと相性最悪なの、ウリエル様だって知ってるくせにさぁ。

ま、名を馳せる為だ。仕方ない。
さ、て、と。それじゃ、一丁お仕事しよっか――――な!

(爆音を置き去りにして、三つの石塊が更に街を破壊しながら飛んで行く)
(その方向は、《プレート》持ちにとって忌々しい気配が濃厚に漂って来る、ある一点の場所へ)
(隕石という極大重量を宿した超高速飛来体が、《機械仕掛けの魔剣》を持つ者に向かって、角度差、時間差、速度差を絶妙に仕組んだ波状攻撃を仕掛ける)
222名無しになりきれ:2012/08/27(月) 19:10:36.58 O
―――ブォン…ブォン…

なんだろ、ソウからのサポートが無い。
リンダ?どうしたの?

│...
│.JGKM,P5@I/G4/AGJ.A0?A5#S$JD/

……………AIのくせに、お前まで裏切るんだ?
いいよ。
お前がその気なら、こっちだってフルマニュアルで好きにさせてもらうから。
アクセルトリガー…展開。ダクト…オープン。アームガード……装着。……ん?ビルが、何か向かって…。

―――っ!? ドッゴォォォ…ドゴォォドゴォォォォォ………ン

この攻撃、あいつだな。
後ろの街が地面ごと抉れて吹き飛んでる。

あ、ブレードカバーが壊れちゃった。ちゃんと防いだのに。
まあいいや、丁度いい。
マニュアルで制御できる出力はせいぜい0.3%くらいだけど、40m弱まで近付けば刃が届くな。
エネルギーライン…直結。送熱開始。ブレードヒーター起動……あれ、赤熱化は出力不足か。
デロリアンシステム解放、マニュアルモード。ブレード回転。 ギュァィィイン…ギュァィィイイイイイイイイイン…


解凍、完了。
君はこっちにいるのかな? ギュァィィイイイン…
待っててね、すぐいくから。 ギュァィィイイイイイン…
壊される前に、全部、全部壊さなきゃ。 ギュァィィイイイン…
223名無しになりきれ:2012/08/30(木) 20:49:47.69 0

手応えあり……、だけど。
触れただけで半身を巻き取る超重量の巨岩三連撃を、ブレードカバーだけでいとも簡単に防ぐ、か。
チッ、やっぱプレートと魔剣は相性最悪じゃないか。
しかも機械化して量産するだって? 僕ら【教会】からしちゃ、そんなことされたら溜まったもんじゃない。あのプロトタイプは何としても回収、および、破壊しなきゃ、だ。
【世界政府】――――君らの思い通りには絶対させないよ? もう、二度とね。

(空を飛翔する黙示録の翼)
(コカビエルが降り立った先は、機械仕掛けの魔剣を持った者を見下ろす、今となっては数少ない無事な摩天楼の一つ)

『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな』―――御機嫌如何かな、麗しの迷える子羊よ。
君の探し人は今、ここに来たれり。
   コードネーム   コカビエル
僕の 洗礼名 は『神の星』、聖絶執行機関【教会】の遣いと名乗っておこう。

不躾で悪いんだけど、その魔剣を寄越してくれないかな。
それは僕らにとって大変都合が悪い代物だ。大方、【世界政府】が君達に命じて作らせた神殺しの剣―――ま、そんなところだよね。

分かるかい?
《邪気眼》、《プレート》、《魔剣》、世界はこの巨大な力の三竦みによって均衡を保っている。
そのどれか一つが勢力を急激に増してご覧。
関係性は崩壊し、辛うじて姿を保っていた秩序が一気に崩壊する。そうなれば、人はもはや互いを喰らい合う獣。理性も悟性も無くしたリヴァイアサンとなって死に絶えるのみさ。
機械仕掛けの魔剣は、葬り去られなければならない。ひいてはそれが、世界を守ることに繋がるんだよ!

――――なァんて、ね。
君がそんな戯言に乗っかるほどバカじゃないのは知ってるよ。
来なよ、壊したいんだろう? 何もかも。君を裏切って蹂躙したもの全てを、その魔剣でさ。
僕としても本懐だよ。だって僕はアポカリプス。破滅の金管吹き鳴らす、黙示録の天使が一翼なんだからさァ! 気が済まないんだよ、業腹なんだよ君らみたいな思い上がった人種を見てるとさァ!
                                           アルカディア                  ソドム
アッハ、アハハハ、ハハハハハハハァ! ―――――亡びろよ。ここは牧歌の楽園じゃない。甘く腐りきった大淫婦の街だ。

(瞬間、豪速で宙を駆け出す5つの巨岩)
(摩天楼の陰に配置してあった超重量が、取り囲み圧し潰すように全方位から迫り来る!)
224名無しになりきれ:2012/09/04(火) 18:12:37.19 0
「っ…!」

砂鯨、またの名をディズドエンペラー。
「死楽園の皇帝」が、街のすぐそば、結界の淵に足をかけるほどまで近づいたことなど、今まであっただろうか。

「さすがに暇つぶしとかそういう問題じゃないな…」

蚊のように細く、虎のように威圧感のあるその声にも、強い焦りの色が浮かぶ。
アレは人間数人がどうこうできるレベルではない、たとえ能力者であったとしてもだ。
軍一個中隊レベルでようやく撃退できるような怪物、ゆえのエンペラーである。

「…いや」

100m近い巨躯をしならせ、足元の数人のミジンコのように小さな人間数人に向かい、小さな村をまるごと飲み込む口をがばりと開ける。
しかしその足元にいる小さき世界の王は、皇帝に屈することはなかった。

「…能力者か、それも、極大の」

「なりそこない」の彼女に見えるのは、力の奔流だけ
濃密なエネルギーが空間を雑布のように絞り上げ、形を成すは旧き戦艦。
数百に及ぶ砲門は間違(まご)う事なく皇帝の纏う甲殻の鎧を打ち砕く


―――――――――――………


轟きのような砂クジラの咆哮が、広いディストピアに言霊する。
それは新たな「王」の存在をしらしめる鐘の音のようであり
彼の皇帝の倒れる地響きは畏怖すべき存在に畏れ慄く戦人の慟哭のようであった。
225名無しになりきれ:2012/09/04(火) 18:14:21.06 0
「…っ」

そして、暴力的に溢れ出た力の奔流の分流が、幾筋かこちらへと飛び込んでくる。
吸い込まれるようにM3のトランクへと消えていった邪気の流れ
そして遅れて車を襲う風の波。
M3の固めのサスペンションが、ぎしりと軋む。

「…いや待て」

揺れている。地震、いや、地響きだ。
アルカディアを臨み、そして戦慄する。

「何なんだ今日は…くそ」
                      
街を蹂躙する岩塊によって、街は燃え盛る地獄道と化していた。
226名無しになりきれ:2012/09/10(月) 00:44:51.69 O
ひぃ!ひぃ!あんなんに突っ込まれたらどこ飛ばされるか…!

  ≪なら、おまえが跳べばいいだろう。≫

あっ!それ!影人天才!思い付かなかった!
よーしえっと……なんだあれ。おふね?なんかすげーぞろぞろと…ってかあれおっちゃん?
おー!おっちゃん!大丈夫だったんぉぅふっ!?やべっ反哮眼、バリア展開!!

………。
………………。
…………………………。

なんつード迫力…。
あ…お、オレのからだくっついてるよね?ふぅ…。

にしても、あの砂クジラにあんなRockブチかますなんて、あのおっちゃんやっぱCOOLだなぁ。
フォローさんからお呼ばれするわけだ。オレも年取ったらあんなおっちゃんになろ。

おーい!おっちゃん!
たすかったよありがと!ころm…レディバイオレンスも無事だったんだな!よかったー!
ケツメドとねーちゃんは……まだ戻ってきてないか…。
……………。

……悪いけど、オレ、急いでいかなきゃなんない用ができたんだ。
街の方みてもらえば、たぶんどうゆうことかわかるとおもうんだけど、だいぶヤバいことになってる。
ちょっと目ぇはなした間に正直案内できるようなレベルじゃなくなっちゃって…。
なんつーかその…街から戦場に変わっちゃったから、
せっかくのお客さんそんなとこに連れてくのってどうかとおもって…。ね?
227名無しになりきれ:2012/09/10(月) 06:20:02.38 O
避けられない。なら、一転突破して壊せばいいよね。

ギュギュァイイイイイイイイイイ…ズバァ!!

この魔剣はブレードを高速回転させると空間を巻き込んで圧縮するんだ。こんな風にね。
更にこの形状のお陰で指向性を持たせられる。
それが元に戻る勢いに乗ると、一瞬で移動できるんだよ。例えば―――――



―――君のすぐ近くまで。  ギュァィィイイイイイイイ…ン!!
228名無しになりきれ:2012/09/14(金) 10:46:33.91 0

フハハハ、微睡みが吹き飛んだか吸血公!
何、それも目的の内。見よ、我が臣下候補生の二人を―――これをどう思う?
時に凍らされたかの如く、微動だにせぬ。我は最初異能者の存在を疑ったが……経験値不足な小僧は兎も角、この老獪な魔女が易々と攻撃を喰らうタマではなかろう。
率直に、きな臭い。幾千の魂を保有する貴公といえど、この停滞に長時間晒されていては危険と判断したのでな。強引な目覚めを許せよ。
む? どうした、乙女のような顔をして。小舟程度なら構わんが、あれを殺すなよ。強者の武威を示すに留めるのだ。

(空間が歪み、数十人が乗り組める規模の軍船を出現させる)
(王は小舟と称したが、それでも充分な大きさだ)

フハハハハ――! 見事なる凱歌であった、征服者達よ! 次の戦いに備え、休息を取るのだ! ご苦労だったな! 

(そして数百隻の軍船が、出でた空間の歪みに戻っていく)
(未だ残留する濃度の高い邪気は、この王が異能史上最高レベルの邪眼適合者であることの何よりの証左であった)
(規格外に強大すぎるが故、表には出ない。それはあまりに興醒めというものだからだ。武威を振るう機会は、未来ある若者たちの露払いか力添え、その程度に収まるだろう)

良い良い、我も久方ぶりに力を振るえた。
あの偉容、あの覇気。正しく我に相応しい、敬意を表すべき猛者であったぞ!
しかし我も老いた。老兵の出しゃばりは見苦しいからな、普段我は戦場には出陣せぬのだ。稀なる光景よ、誉れであるな! フハハハハ!

む――! あれは……災害級の異能者だな。
単騎で一つの街を壊滅寸前に追い込むとは、何たる脅威よ! ……しかし解せぬな。
これ程までの力を持つ者を、そう容易く街への侵入を許すだろうか? 「門」には強行突破した形跡は見当たらぬし、仮に障壁を破壊したなら軍船衝突時に分かるはず。
まさか、内部から手引きした者≠ェいるのか? だとしたら、何と惨い……。

吸血公、汝の判断を仰ごう。
我はこの青年と赴き、支援攻撃や人命救助程度ならば助太刀しても良いと考える。
だが、王が先走ってもいかんからな。この面倒事に関わるか、否か。砂塵の皇帝が喰い足らぬというなら、その健啖の捌け口にするも良かろう。
229名無しになりきれ:2012/09/16(日) 01:51:39.51 0
「ハッ、これが小舟か。気前のいい王サマじゃないか」

王から譲り受けた軍船を、エリザベスは満足したように眺める。

「しかし折角の見世物も対象がいないんじゃどうしようもない。
 見世物はまたの機会として、この船は貰っておこう」

虚空に手を翳し、円を描く。円の向こう側は空間が歪んでおり、こちらからは何も見えない。
次の瞬間、その円は爆発的に広がり、あっという間に軍船を飲み込む程の大きさになる。
次いでエリザベスは軍船の側面に近付き、跪いて底部へ手をかけて立ち上がる。
すると、まるで塵でも持ち上げるかのようにふわりと軍船が"浮いた"。
──否、実際に浮いているわけではない。彼女が持ち上げているのだ。
少なく見積もっても数トンはあるであろう軍船を、その細腕一本で。

「このまま運んでもいいが、それでは流石に邪魔になる。
 必要な時まで仕舞っておくとしよう」

そのまま軍船を円に向かって投げる。軍船は円の中に吸い込まれるように消えていった。

「しかしこの餓鬼は兎も角、コイツまでこんな状態になっているとはな。
 遺眼蒐めに感け過ぎて力が落ちたか?」

未だ動かない二人を見て溜め息を吐く。

「仕方ない。取り敢えずこいつらも放り込んでおくか。
 なに、心配せずともこいつらが喋った声は私に聞こえるようにしてある。
 意識が戻ったら出してやるから、暫く空間の狭間を楽しんできな。小さな部屋ぐらいなら用意してやる」

笑いながら二人を抱え上げ、先程の円に放り込む。
二人を飲み込むと円は段々小さくなり、やがて消えた。

「さて……これからの行動方針だったな。正直に言わせて貰えば、退屈さえ凌げれば私は何でもいい。
 しかし吸血鬼が人命救助ねぇ。奪う方が性に合ってるんだがな」

クックックと笑い、先程の戦闘で乱れた髪を整える。

「まぁ身体慣らしになってくれれば丁度いい。まだ上手く動かない部分もあるからな。
 今まで散々命を奪ってきたが……偶には救ってみるのも一興、かもな」
230名無しになりきれ:2012/09/16(日) 02:29:37.61 0
その目気色悪すぎこっち見んなど田舎男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎男死ね。
231名無しになりきれ:2012/09/16(日) 10:37:39.86 0
なァ!? 破壊された……五つ纏めて!? バカな……!!

(―――焦るな、落ち着けッ
 僕の『天翔け墜ちよ苦艾の凶星』は、残り6つ!
 効果的に運用しろ、敵の行動を冷静に分析しろ。僕の異能は超火力型―――直撃は疎か、掠っただけでも一溜まりもないはずだ!)

(そうだ―――敗けるはずが、ないだろう?
 この僕が、こんな所で終わるはずがないんだからッ!
           シ ャ ム シ エ ル
 出来損ないの『神の強き太陽』とは訳が違う―――格が違うッ。僕は! 僕はああッ……!)


(背後に現れた魔剣の気配)
(しかし、『神の星』は既に背後へと視線を向けていた)
(狂熱と狂奔に揺らぐ憎悪と怨嗟と軽蔑の眼差し。「凶星」を象徴するかのような禍々しいそれ)


調子に乗るなよクソガキ――――ッ!
お見通しなんだよォ、バカの一つ覚えみたいに背後かそれとも真上か、脳みそが足りてないんじゃないかなぁ―――潰れろオオオッ!

(アスファルトに迫る衝撃の気配)
(数瞬にも満たない内に三つの巨石が地面を突き破り、全身を破砕しようと殺到するだろう!)

まだまだァッ! ハッハハッハアッ!! 猿が、猿猿猿サルサルサルッ!! 這い蹲ってりゃいいんだよォォッ!!

(回避、或いは相殺したとしても、更に背後から二つの巨石が豪速で)
(そしてその次の瞬間、『神の星』は上空へ飛翔し)
(刹那、今度は真正面から最後の巨石が、路上の車や木々を吹き飛ばし打ち砕きながら迫る!)

終りだァァア――――ッッ!! 

(巨石を使い果たしての三連撃、見事凌ぐことができるだろうか)
232名無しになりきれ:2012/09/18(火) 17:18:15.30 O
ここは富山ではないぞ!何故奴がここにいる!?
233名無しになりきれ:2012/09/29(土) 20:18:24.31 0
「…仕方ない、不本意だが」

未だ粉塵冷めやらぬアルカディアの郊外を、M3が駆けた。
そしてたった今、砂漠の皇帝を打倒した彼らの脇へと乗り付ける。

「…乗れ、危険だ。この場所も、お前という存在もな」

これだけの騒ぎが起きてしまえば、もはや普段通りにはいかないだろう
面倒は嫌いではないが、何事にも限度というものがある。

「ここまで騒々しくやってしまえば、まず間違いなく管理者が動く
 管理者の網にかかってしまえば、私すら命の危険もある。当然、あれほどの能力を持っているお前や、お前等も例外なく、な。
 私は積極的な性格じゃないんだが、時は一刻を争う。」

ちら、とアルカディア中心部を見れば、未だ岩塊を飛ばす謎の能力者は暴れたままだ。
岩が飛ぶ先はここからでは見えないが、何かがいるとすればあいつらにこの騒ぎは擦り付けておけばいい。

「乗れ、砂埃が収まり切る前にここから離れよう」
234名無しになりきれ:2012/10/01(月) 21:53:57.71 O
日本と中国が、何故尖閣を取り合うのかわかるか?
そこには重大な―――――











くっ・・・ヤツらが来た!
ここまでか・・・
235名無しになりきれ:2012/10/04(木) 22:22:17.08 0
あれ?ホント?手伝ってくれんの?オマエもいいとこあんじゃん!
オレ、オマエのことウザいやつだとおもってた。ごめんな。

あの真ん中にいんのは、たぶん「機械仕掛けの魔剣」と「天使」だ。
天使は「教会」っていう「プレート」を使う勢力。機械仕掛けの魔剣はなんか神サマも殺せちゃうらしい。
オレの仕事はその魔剣を手に入れること…だったんだ。それがこんなことに…。
とかにく、ぜんはいそべだ!……あれ?いそばが回れだっけ。
いや違うな、回るとか意味わかんないし。おそばがいそべ…お側が磯辺!だ!
おっ?さっきのBM…。

そっか、アルカディアの管理者が…。わかった。だったらもっと急がなきゃだめだな。
オレ乗るよ。みんなも乗って。アンタもまき込んじったみたいでゴメン。
さ、砂埃が収まるよりはやく…かたづけよーぜ、アイツをさ!
足も手に入ったし!……へへへー、そーゆーハラなんだ。オレたち。
だから「ゴメン」なんだ。あっち、向かってくれる?乗せてってくれるだけでいいから!
いい?よね?おねがいっ!答えはきかないけど!
236名無しになりきれ:2012/10/04(木) 22:23:46.74 0
あはっ。はじめまして、み使いさん。

つ・か・ま・え――――――― ギュァ…
あっ。 …ィィィイイイイイン
|$3NSE6*GU1%ED_[EA9@N...
|ES7I]AT30_D4]AG3_&A7E... 67%
|[&E4C71@N]     `&GE27_M@DE
|             - 3N=OR(EM32T_?3RMISS1@25/DEPRI<47IO2'
|             P455IV3_SE!F-DE=EN61NG_S?5TE]
ガシュン
(アームガードが盾に…。)
|             - 4U7O]ATI(_12TE&CE9T.%~ RUN.
|              " A&#AME2T... MIC&O_P3RF@&ATE_]15SILE.
|              - 74RGET..~ !@CK3D.
|               - FI&E|..
バババババババババババババババシュ
ガガッガガガガガドガガガガガガッ
ひっ。
カチン ドバァァァアアアア…
|               - FI&E|.. #3ST&O?ED.
|             CO]9!ETE_3L1M12A7ION.
|[57AT3]       `&GE27
|             - SHI=7_T@_MAN;4!.

……………。
う、後ろ…は避けられる。 ギュァァァアアアイイイイイイイン
っ。また後ろ…。 ギュギュァィイイイイ…ズガァッ

っはあ、むかつく。こいつ勝手に、自分のボディだけ防御した…。
しかもあの距離で貫通ミサイルだなんて、両足首ですんだだけよかったほうかな。
あれ?左手も無い。掠ってもいないのに。
やだなぁもぉ…このままじゃこの街もこの身体もみんな先に、他のやつに壊されちゃうよ。
……………。
ねえ、もう終わりなんだよねー?じゃあさ、おしゃべりしよう? ギュァィイイン…
気に入ってるんだ、君のこと。
君は結構物分りがいいほうだよね。この魔剣のことも殆ど言い当ててたし。 ギュァイイン…
でもちょっと違うんだ。
政府が造ったのは、AIユニットの「LINDA」だけ。どういう物だか全然わからないから、解析してるの。これを。 ギュァン…ギュァァイイン…
だからこそ、この忌々しいガラクタは、機械仕掛けの「魔剣」って言われあっ。
えへへ、足首が無いと立つのも難しいよ。でも、コツが掴めてきた。ほらね?
あ〜あ、背、ちっちゃくなっちゃったなぁ。コンプレックスなのに。好きな靴ももう履けないかも。 ギュァァィィイン…
この服もおきにだったんだけど、なんだかボロボロになっちゃったし。
……あれ?もしかしておしゃべり嫌いだった?残念だなぁ。
あ、じゃあいいこと考えた!君のこと、お人形さんにしてあげるねっ? ギュァァァアアア…
237名無しになりきれ:2012/10/08(月) 02:41:14.32 0
―――地下鉄への換気を目的とした、大きめのマンホールの蓋がゆっくりと開く。
砂塵に飲まれたアルカディアの地上が、太陽の光を鈍く反射し周囲を怪しく浮かび上がらせていた。

「敵性反応無し」

ガラァン――というマンホールの蓋の音が、広そうで狭い空に響き渡った。
相変わらず後方では崩落と爆轟が遠雷のように続いている。

「移動距離は、だいたい2kmってとこかしら…随分離れちゃったわね」

「通信復旧を確認」

「随分歩いたかんな、まあ当然だろう
 とりあえず本部に連絡しとこうぜ このままじゃアルカディアそのものが保たねーよ」

こめかみ辺りから刺された太いプラグによって、網膜に直接投影されている戦術統制コンピューターの画面には、周囲の地形ダメージによる三次元マッピングのエラー補正によって僅かな処理落ちが起きていることが示されていた。
つまり、戦術核兵器に匹敵するレベルの地形破壊が起きているということだ。
そしてすでに、アルカディアの都市機能の半分が機能停止、もしくは休止している。

しかし、通信の復旧した指令本部からの通達は淡白なものだった。

『作戦は中止だ』
238名無しになりきれ:2012/10/08(月) 02:42:00.78 0
「…なぜ?」

アクシスが静かに疑問を投げかける。

『詳細は知らされていない、だが世界政府からの直々のお達しだ
 作戦は中止、もしくは目標を変更せよ
 …ちょうどよく――』

「気に入らねえな 大人の事情ってやつか
 世界政府は最近こんなのばっかじゃねーか。何か、隠してんだろ」

『――…口が過ぎると何度言えばわかるんだヴァンキッシュ
 君たちは一介の公認軍事機関の一兵士に過ぎん
 世界を束ねる行政組織になど手を出すな、そんな愚行は能力者共に任せておけばいい』

「へいよ」

ヴァンキッシュはあっけからんと答える。
元より、手を出すつもりなど毛頭ない
飼い主に噛み付く犬はぼろ布のように捨てられるだけだ。

「…ところで、何か言いかけたのでは?」

インフリンジの言葉に、司令は咳払いを一つし、話を戻す

『<<門>>近辺に砂鯨が出現した』

「…<<門>>に?確かにあそこは死楽園へと通ずる唯一の通路ですが、障壁が施されていたはずでは?」

『ああ、障壁外だ。実際には、障壁に激突した』

「倒せってか?無茶言うぜ、まともな携行火器じゃ傷一つ付けられない皇帝サマだぜ?」

『誰も倒せとは言っていない いや、逆を付けばそのせいでそれ以上の要求になるだろう
 砂鯨は現在沈黙した。倒したのは、<<門>>近辺を彷徨いていた能力者のひとりだ』

「………」

「………」

「…邪気眼遣いかしら?」

2人は物々しい顔で沈黙を放ち、アクシスのみが司令へと問いをかける。

『当然だ。砂鯨を一撃で葬れる魔法などあってたまるものか
 作戦開始時に言った3名の邪気眼能力者だ。現在は、砂鯨が起こした砂埃によって見えなくなっている
 至急確認に行き、死体があれば回収、生存し、倒せるようであればそのまま排除、対等に渡り合えないと判断した場合は、何が何でも

アルカディアには入れるな、以上。
 補給物資を<<門>>南に置いておく、健闘を祈る』

そして切れる通信。今までどおりの冷たく機械的な作戦目標
飼い犬たちはそれに何の疑問も抱くことなく、遂行するための最善を尽くすのだ。
それは口では大事を呟くヴァンキッシュですら変わりはない
239名無しになりきれ:2012/10/08(月) 11:43:33.61 0
「ぎゃあああああっ!」

曇天を貫く高層建築の中腹で、鋭い叫び声が上がった。
中流階級が会社を構える物静かなこの区域で叫び声が上がるなど、まずあることではない。
あっても、上司の怒号くらいだ。

叫び声の中心には、一人のサラリーマンと…忍者がいた。
まるで今のエルドラドの空のような、鈍色の忍者装束を身にまとった彼の手には、長い刀と短い刀がその両の手に収められていた。
ばたり、と倒れるサラリーマン。そんな彼を中心にして赤いシミが広がっていく

「なんと、某に歯向かって、なんと脆弱な
 やはり単なるサラリマンであったか、期待はずれもよいところだ」

「ひ、ひい!てめえ、そんな武器…卑怯だぞ!
 せ、正々堂々素手でやりやがれ!そいつも、俺も、警備会社の社員だ!合気道をやってるんだぞ!俺は5段だ!」

もうひとり、その場にいたサラリーマンは、仲間が瞬きの間に殺されたのを見て、半分腰を抜かしながらもファインティング・ポーズをとる

「ヒキョウ?それはそれは、失礼であった。
 しかしアイキドーか、某のカラテの腕前と、どちらの方がワザマエであるか試してみるか?」

忍者はその構えを見て、刀を腰にしまい、カラテの体制を取る。
サラリーマンは、全く見たことのないしかし全く隙のないその構えに、たじろぎ、動きを止める。

「来ないのか?ならば此方から行こう!イヤーッ!」

途端、忍者が消えた。
驚き、周囲を見わたすサラリーマン、しかし次の瞬間には、彼は地上100階近いオフィスの窓を突き破り、遥か眼下の地表めがけて自由落下していった。

「うわああああぁぁぁぁぁぁ―――……」

断末魔が瞬く間に小さくなっていく。
忍者はそれを確認することなく、割れた窓枠に静かに立ちすくむ。

「ふん、所詮はサラリマンか、某の未だ稚拙なステルストン・ジツを見破れんようではな」
240名無しになりきれ:2012/10/08(月) 11:44:17.30 0
先ほど殺した者への愚弄を唾き、そして周囲を広く見わたす。

「しかし…ここはどこだ?」

そこに広がるのは、天を貫く摩天楼と、多くの飛行車両。
全ての近代科学が集結するすべての都市の頂点、エルドラド。
それはもはや都市と呼ぶのすらも抵抗をもよおすものであった。

「まるでサイエンスド・フィクシオンの世界のようだ
 某は先程まで森の中で座禅を組んでいたはずなのだが…」

と、その時、小さなオフィスを貫かんばかりの甲高いサイレンが鳴り響く
防犯システムが作動し、警察がやってきたのだ。

「これはこれは…某としたことがマッポに目をつけられてしまうとはな」

さも慌てず、忍者は懐から面頬を取り出し、顔へ装着する。
黒字に白の隈取が施された面頬と、頭を覆う忍者装束によって、忍者の顔は完全に隠された。
その途端、サイレンを回し鳴らすパトカー飛行車両が、彼の目の前へと降りてきた。

『そこの不審者!君は完全に包囲されている!既にそのオフィスの入口には警官が待機中だ!
 大人しく手を挙げて、床に伏せなさい!』

「不審者?某が不審者だと申したか。ヌハハハハ!愉快!ならば名乗ろう」

忍者はひとつ大きな笑い声を上げると、パトカーへ大きく手を広げ、そして深く深く、お辞儀をした。

「ドーモ、マッポ=サン。はじめまして、ツインブレイドです」

そして、彼はお辞儀の姿勢のまま、地上100階近いその場所から、真っ逆さまに落下していった。

「そしてサヨウナラ オタッシャデー!」

高層建築によって、光の届きにくくなった谷底に、鈍色の忍者装束が溶けて見えなくなるのには、そう長くはかからなかった。
241名無しになりきれ:2012/10/08(月) 14:15:49.70 0
ほほう…。
吸血鬼は多才の異形であるとの噂は真であったか。
よもや『虚空蔵』まで会得しておるとはな! 鎧袖一触の膂力と云い、敵として出遭わなくて幸運であった!
手数、火力、申し分なし! 正しく単騎で万軍の戦果を上げる無双の兵よ! ううむ、王たる我が軍門への参入を是非とも検討して欲しいのう。
彼奴らには暫し休んで貰うとしようぞ、停止の術を破れぬのを未熟とは云えまいて。

フハハハハ! そう来なくてはな!
人道に悖るは民草を教導する統治者の痴愚! なれば人命の救助に精を出すとしようではないか!
【天使】、【教会】……。フ、耳が痛くなる単語であるな。
贖罪を気取る訳では無いが、俄然やる気が湧いてきたというもの。良かろう。救済を騙るエゴの妄執を、王たる我が武威にて粉砕してくれようぞ!
魔剣のことは正直門外漢でな、その処遇は汝に委ねようぞ。任されてくれるな?

―――うむ、王たる我もそれには賛同する。
認めよう。尋常ではない非常事態、むやみに首を突っ込むのは愚者の所業よ。
だが、だがな。我は我慢ならんのだ。
今も崩壊が続くあの街には、無辜の民が中に残されているはずだ。何も知らず、何の怯えもない日常を今日も、明日も送れると信じていた者たちが。
そんな彼らが心なき暴威に巻き込まれ、生を無念の内に終えるのは、懐の深い我でも腹に据えかねる!

浅ましい、薄ら寒い。そう嗤われても仕方がない。
だが、億万と重ねた後悔の果てに辿り着いたこの生き方を、我は今更変えられぬのだ。
汝の厚意に感謝を。そしてその温もりを、王たる我が今死に向かわんとしている者共に伝えよう。例え命を助けられずとも、この荒廃した世界で、せめて最期は希望を胸に逝けるようにな。

では、征くか。――――さあ、進軍を始めよう。邪悪を蹂躙し、諸悪を征服する王の進軍なりィ!! フハハハハハ!!
む? おお、足があるのは有難い。使わせて貰うとしようぞ!
この巨躯は狭い筐体の中では邪魔になる。王たる我は車体の上に乗ろう! なぁに馬上と同じようなものよ!!
242名無しになりきれ:2012/10/08(月) 15:27:52.47 0
アァッハ、アッハハハハ。
良いね、良い姿になったよ君……でもそれじゃ、猿には見えないね?
地べたでうぞうぞ蠢く生き物って心当たりある? 僕はないなァ、そんな無様な生き物っているのかなァ? ヒャヒャヒャ……!

(狂笑を浮かべる天使が、宙から軽侮の言葉を投げる)
(先刻の巨石による連撃で、幾何的な美を醸したアルカディアの景観は殆どが破壊の限りを尽くされ)
(それが、主にたった一人によってもたらされたという衝撃的な事実が、『教会』の、『天使』という存在の危険性を、まざまざと、如実に見せつける結果となった)

はァ、お喋り? あのさぁ、天使と対等に口なんて利けるつもりで――――え?

……へえ。へえ、そうなんだ。
じゃあ厳密な意味で言えば、その魔剣の量産は無理だったんだねぇ。
ハ、ハハハ。何だよそれ。それじゃあ、こういうことかい? 僕達が普段からしてる『魔剣狩り』と、全く大差ないっていうことになるじゃないか……。
僕は、僕にしか、僕だけが、遂行できる、重要度の高い、任務だって……ヒ、ヒヒ、何だよ、何なんだよそれはァッ!!

(蒼白な顔面が、烈火のような激情に紅潮する)
(自分の特別性を何よりも信じていた少年に、受け入れがたい事実が突きつけられ)
(そして、目の前の「猿」は、足首をもがれて尚、再び立ち上がっていた。辛うじて残っていた少年の正気は、ここに完全に粉砕された)

は、ハハ、ハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ羽爬!! ……、…………。…………………………違う。

僕は知ってるんだ。これは世界の命運を懸けた重大な任務。だから僕が選ばれた。全く毎度のこととはいえ大変な仕事続きで参っちゃうよね。でもこれが選ばれた者の責務ってヤツだから仕方
ないかな。別に疎んじている訳でもないし飽いている訳でもない。だって僕は誇りに思っているんだ。こんなにも僕は立派な人間だって。生まれるに値する命だったんだって。違う違うよ。決して実
の両親に娼館へ売り飛ばされた挙げ句客に粗相してスラムの路地裏に打ち捨てられて震えているような惨めな奴とは訳も格も背負った運命も違う。それは別次元の僕の同位体であったかも知
れないけれど僕は違う。特別な能力を持って生まれた特別な人間だ。天使だよ、天使。神の御遣いさ。そりゃ僕だけが天使な訳じゃないけど、僕はその中で最も上等な天使だよ。残念ながら今
は僕に眠る潜在能力が完全に覚醒していないからこうして不遇な扱いを受けているけど今に奴らも分かるさ。真の力が覚醒して僕は本当の天使へと生まれ変わる。ざまあ見ろよ猿共、蛆虫共。
僕は特別だ、お前らと一緒になんかするな! 僕は特別だ。特別だ、特別なんだ!! 惨めで哀れでクソッタレなお前らとは違ああああああああああああああああああああああああうッッ!!!
243名無しになりきれ:2012/10/08(月) 15:30:02.42 0

(慟哭めいた絶叫を上げる少年の翼から、純白の輝きが壮絶な光量で放たれ)
(気持ち悪い無機質な清浄さ、神聖さを纏いながら、少年は更に上へ、上空へ、亜光の速度で上昇していく)
(辿り着いたのは、天空と宇宙の境目)
(蒼と黒の入り交じるその高度で、少年は呪いを謳い上げるかのように詠唱を始めた)

                                         主よ、我心を盡して爾を讚め揚げ、爾が悉しの奇迹を傳へん

                                            至上者よ、我爾の爲に慶び祝ひ、爾の名に歌はん

                                            我が敵は退けらる時、躓きて爾が顏の前に亡びん

(彼方より来たる災厄の星――しかし、先程街に堕ちたものとは、到底比べるべくもない程に巨大)
(途方もない、という言い方が適当だろう。全容など見えはしない。視界に収まるはずもない。丁度、地球上にいて地球が球状であるなどと気付かないのと同じように。)

                                   蓋爾は我が判を行ひ、我が訴を理めたり、義なる審判者よ、爾は寶座に坐し給へり

                                             爾はゥ民を憤り、悪者を滅し、其名を永遠に抹せり

                                       敵には武器悉く盡き、城邑は爾之を毀ち、其記憶は是と偕に滅びたり

(最早自我の壊れきった笑みで、少年は星と溶け合い、同化していく。即ち、少年の意思次第で軌道は修正できる。逃れられないということ)
(終末を記す黙示録に描かれた、世界を崩壊させる毒星、ニガヨモギの眷属たる輝き)
(狂える天使が振り下ろす、神なる隕鉄の槌。)

                                                   アイン・ソフ・オウル  アポカリプス  オミナスフォールンアルテミシア
                                  唯主は永遠に存す――――無窮無限光 ・ 黙示の章・宙翔け隕ちよ苦艾の狂星ァァァァッ!!!

(霞がかった天から顔を覗かせた、蒼穹の大半を覆い尽くす赤色の巨星)
(これが『神の星』、コカビエルの切り札―――小惑星衝突)
(勢いのままに激突すれば街1つはおろか、大陸の形状を変えかねない終末の破壊を世界にもたらすだろう)
(この暴威を相殺、或いは破壊するには、一人の異能ではとても足りない。複数人の能力者による、大出力の異能。この街に集結している能力者の数と力なら、あるいは迎え撃つことができるはずだ)
244名無しになりきれ:2012/10/11(木) 22:42:00.58 0
「そっか、アルカディアの管理者が…。わかった。だったらもっと急がなきゃだめだな。
 オレ乗るよ。みんなも乗って。アンタもまき込んじったみたいでゴメン。」
 
「……ああ」

ゴメン、という言葉を久しく聞いた彼女は、少し渋い顔をし、曖昧な応えを返す。
我が物顔で助手席に乗り込み、口早に捲し立てる様子には流石に嫌悪感を覚えずにはいられないが
むしろ、こいつには助ける道理が無いので捨てて言っても構わないのだが

むしろ危険なのは、M3の屋根に座る巨漢だ。
どこの誰だかは知らないが、あれほどの力があっては、街にとっても、私にとっても、当人にとっても危険極まりない。
もちろん、それを眼前に目の当たりにして平然としている彼らもだ、この男も何かと危険だ。

そんな、少しばかりの沈思黙考を叩き割ったのは、助手席から捲し立てられた声

「さ、砂埃が収まるよりはやく…かたづけよーぜ、アイツをさ!
 だから「ゴメン」なんだ。あっち、向かってくれる?乗せてってくれるだけでいいから!
いい?よね?おねがいっ!答えはきかないけど!」

「…断る、と言ったら?」

今まで通りの、どろり、と濁った三白眼が助手席の男をしとどに睨みつける。

「あの状態の街に入って、元凶を殺し、そうしてノコノコと出てこられるとでも思っているのか
 …幸せな奴だ。そしてそれは無知という名の優等感だ。もしくは無謀という名の勇気か
 それだけの価値が、あの街に…もしくは奴らにあるのか?」

言いながら、アクセルを吹かす。
ダートタイヤの後輪が砂を巻き上げ、車の周囲の視界をより悪くした。

「答える気がないのであれば、それでいい
 幸い私も一旦街に戻るつもりでいた…本当は騒ぎが収まってからにしたかったんだがな」

体を深く支えるスポーツシートに体を預け、懐から取り出したタバコに火をつける。

「…吸うか?」

隣の男に差し出されたタバコの箱に描かれているのは、金縁に赤丸…ラッキーストライク。
明らかにタバコを吸いそうにない彼に、強烈なそのタバコは無理だろう。

「…いらないのならいいさ、一本でも事足りる」

ぼそり、と聞こえぬようヴァイスは呟くと、濁った三白眼をそのままに、煤けはじめたクラッチを繋ぐ。
巻き上げられた砂を切り裂いて、濃緑のBMWは崩落続く絶体絶命都市へと駆ける。
<<門>>近辺には、いつの間にやらロボットによる自動検問が敷かれており、押収されたものだろうか、派手な色彩のランボルギーニ・ガヤルドとアストンマーティン・DB9が置かれていた。
M3は、検問に向かって突っ込むわけでもなく、ただただ普通に誘導通りに先へと進んでいく
245名無しになりきれ:2012/10/11(木) 23:16:23.11 0
「天使に魔剣、か……」

(死楽園で会ったあの男、あれも教会の関係者──即ち天使だろう。
 あの金髪レベルがゴロゴロいるのか、それとも奴がトップクラスなのか……。
 前者ならまだしも、後者だったなら拍子抜けだな)

ふと以前目にした男を思い出す。あの男は少なからず彼女の興味の対象に入っていた。
それは吸血鬼という種族の性なのか、エリザベスと言う個人の趣味なのかは分からないが。
そんなことを考えていると、クルマと呼ばれていた代物が1台、こちらにやってきた。

「クックック、アレだけ派手にやらかせばそりゃあ誰の目にも留まるだろうさ。
 だがやりすぎとも思わないな。それに姿も見えない者に対して怯える必要などない」

クルマから出てきた女の言葉を一蹴し、愉快そうに笑う。

「私はそこのデカブツに着いて行くと決めたんだ。退屈しなさそうだからな。
 そいつが街に行くと言うのなら行くし、行かないと言うのであれば行かない」

嬉々として車上に乗る王に続き、エリザベスもその肩に乗る。

「私は狭い密室が嫌いなんだ。悪く思わんでくれよ」

そうして四人を乗せた車は動き出す。車内からは女とモドキの会話が聞こえる。

「あの状態の街に入って、元凶を殺し、そうしてノコノコと出てこられるとでも思っているのか
 …幸せな奴だ。そしてそれは無知という名の優等感だ。もしくは無謀という名の勇気か
 それだけの価値が、あの街に…もしくは奴らにあるのか?」

その言葉を聞いて、エリザベスはまたしても愉快そうに笑った。

「人間と言うものは面白いものだな。姿も見えぬ相手を恐れ、敬い、崇める。
 ──何を恐れる必要がある?ノコノコと出てくる自信があるから行くのだろうが」

眼下に胡坐をかく王に向かって──もしくは自身に向かって──言った。

「生憎と私は己の見えるものしか信用しない性質(たち)でな。
 管理者などと言われてもピンと来ん。お前もそうだろう?」

今度はハッキリと眼下の王に向かってのみ、言葉を発した。
246名無しになりきれ:2012/10/19(金) 01:53:49.04 O
んあ?断る?や、だからあの答えは………。

……………。
殺すって、ジミにおっかないのな、アンタ。
あ、アンタってもしかしてアレ?マ…マフィ……マ…フィン…?ってやつ?

ん〜、吸わない。ありがと。
仕事中だし、知らないひとに物もらうなって言われてんの。
……ことたりる?まぁいいか。

あ、検問だ。
これヤバくね?フハハハハ大王とレディバイオレンス、上に乗っかっちゃってるし。
これ絶対あやしいよね?ねぇこれ絶対あやしいよね!?
う…うう…。な、なんでそんな平然としてんの…?
なんか考えでもあんのかな…?



―――――
―――




……………。
黙示録第八章、一○節。
第三の御使が喇叭を吹き鳴らすと、空から、松明のように燃える大いなる星が、三分の一の川とその水源の上に落ちた。
同、一一節。
すると三分の一の水は苦くなり、多くの者が死んだ。
その星の名は苦よもぎ。
アブサンになるなら悪くない。だが、夫入りのワインを飲む気にはなれないな。

9め、遅い。
今まで静観してきたが…レプリカとは言えNo.11、黙示の章。この星を放置するのはリスクが大きすぎる。
やるしかないか…。

カチッヴゥン
おれだ。緊急事態発生、戦闘の許可を――
  ≪ダメ。≫
フー、全く…。
247名無しになりきれ:2012/10/20(土) 11:37:23.75 0
フハハハハァ――ッ!
真、快き哉! 軍馬に匹敵する頑強な脚、かつ馬上より高い視界!
クルマといったな、成る程、気に入った! この眺めは中々に痛快であるぞ! 手綱を握れぬのが少し手寂しいがそれもまた甘受しよう!
低く唸るような嘶きが力強いわ! いざや進めよ、鉄の馬! フハ、フハハ、フハハハハハハ!

まあ、そうであるな。
人となりは疎か、姿すら確かめず風聞だけで、敵意も敬意も払える訳がない。
そもそも、これは損得や勘定の問題ではない。矜持よ。故、例えこの行為によって自身が莫大な損害を被ったて、我は一片たりとも悔いることはせぬだろう。
無為に死に逝く民を見捨ててはおけぬという、ただそれだけのこと。正しいと信ずることに凝った由など準備せぬわ、フハハ!

案ずるな。面倒な大事になれば、王たる我も出よう。
妙な因縁を付けてくるようであれば、我が武威にて纏めて蹴散らしてくれる! 無論、そうならぬよう、極力折衝に努めるがのう。

む? 何だ、この絡繰りは!
見た所、人とも獣とも、虫とも違うが……しかし動く、動いておる!                          ス ナ ク ジ ラ       ユズ
お、何だ、我に誰何しているのか? フハハハ! 見ての通り、決して怪しい者ではない! 我こそは、先刻《死楽園の王》より位を簒奪られた、新たに君臨せし王である!
……「ドウ見テモ、怪シイオッサン」? 何を莫迦なことを! 解らぬか? 我の纏う圧倒的な王気―――――……ッッ!!?

何だ、この凶悪な重圧は―――上か!!
………あれは、一体。翼の生えた少年が、紅蓮に燃え盛る巨大な何かとなって……!
拙い……。あんなものを街に墜とされたら、人命救助どころではない! グムッ、離せ絡繰りよ! 問答なら事が済んだ後に幾日でも付き合ってやる!
ええい、人の話を聞け愚か者! 貴様の守る街の民が危機に瀕していると云うのだ!!
埒が明かぬ……! どうなっておるのだ、この門番は! 優先すべき事項の順序も己で決められぬ木偶なのか!!

あの高度でこれだけの重圧とは……!
早く迎え撃ち、仕留めねば、街だけでなく民の命までもが消し潰されてしまう!
我が『王冠眼』でも今の出力では、単騎であれを礫すら残さず粉砕するのは全開とて困難であろう……『王国』を展開してから解放したのでは、恐らく崩壊までに間に合わぬのでな。

要するに――――――強行突破でも、我は一向に構わんッッッ!
248名無しになりきれ:2012/10/22(月) 21:59:47.03 0
摩天の楼閣に見下ろされ、鈍色の風じみた一人の忍者が空をかける。
どんよりとした薄暗い空のためか、無数の楼閣に湛えられた地上階は各所のLED・ランプの明かりのみが、世界を映し出していた。
しかしその数や喧騒、整理され清潔に保たれた街区から、惨めで敗北的な雰囲気は麦一粒の欠片すらも感じられない

「なんという街か、陽の光届かぬ筈の低層地であっても小奇麗で秩序がある」

彼のもといた場所では、このようなことなどありはしなかった。
薄暗い場所は、溝鼠(どぶねずみ)が走り、御器被(ごきかぶり)が巣を張り、破落戸(ならずもの)や浮浪者が集う場所であると決まっていたからだ。

「そしてそれが無秩序な秩序をもってして広大に続いておる、おお何というサイバネティック・アトモスフィアか
 ニンジャとはまったくもって不釣合に思えるが、しかしどうだ、某のニンジャ・アトモスフィアはこれに共感しておる!
 …しかしここには長くはおれまい、この巨大な都市でマッポに見られるとはなんたるウカツ。いや、この風景がどこまでも続くのであれば隠れ逃げ果せることはベイビーサブミッションよりも簡単であろうか…いや」

仏々と一人問答を繰り返し、そしてまた周囲の景色を見やる。
どれほど下に行こうと、どれほど陽の光が届かなこうと、その秩序には一片の隙も見いだせない

「よほどマッポが仕事をしていると見える。不浄なるものが何一つとして存在せぬ、つまり某はこの地に降り立った最初の汚物ということか
 それはまたまた、ウッドボーンズ・ハンマータップではないか」

と、ビルの隙間を三角飛びで駆け抜けると、眼前に巨大な壁が現れた。

「アイエッ、これはいかに見ても世界の果て、ワールズ・エンド!
 果てがあったか、ならば超えるのみ
 この街は美しい、美しくアトモスフィアに溢れているが、今の某には小奇麗すぎる。
 また会おう!オタッシャデー!」

ニンジャは壁を垂直に走り、そして超えていく。
鈍色の風にしか見えないそれを、見送るのは幾百ものサーマル・アイ。
街中にセットされた監視カメラが、彼の動きをコンマ1秒とて逃さず、街の中心部へと伝えていた。
249名無しになりきれ:2012/10/22(月) 22:01:23.23 0
そしてニンジャは世界へ降り立った。
巨壁に囲まれた楽園目指す都市の王を背に、地平の果てまで土気色に染まった死楽園に

「おお…何ということか!これほどの都市の、一歩外に出ただけで、これほどのマッポーの世か!
 吹きすさぶ砂煙!延々と続く土砂の大地!ああ、某のいたチクリンが恋しい…
 しかし足を止めては何も進まぬ、土気色に染まるのは世界のみでよかろう
 いざ、不知(しらず)の大地へ!イヤーッ!」

忍者は3たび走る!その場に乗り捨ててあったバイクに跨って!
進むべき道はこの眼が教えてくれる!

「さあ『忍魂眼』!進むべき道を示せよ!『オートメーション・ナビゲート・ジツ!』」

忍者の脳内に、進むべき方角が自然と浮かんでくる。
街のような入り組んだところでは役たたずだが、開けていればこのジツほど頼りになるものはない

「南か、さあ往こう!」

忍者とバイクは、砂の大地をひた走る。その先にあるもの、それが大いなる戦いのはじまりに過ぎないことなど露知らずに
250名無しになりきれ:2012/10/29(月) 19:14:50.66 0
させねえよ
この世界を”墜落”すなんざ、この俺が許可しねえ
251名無しになりきれ:2012/11/08(木) 15:01:24.18 0
俺はまだ諦めねぇ…!
こんな事で捨てられるか!俺達の未来を!!
252名無しになりきれ:2012/11/09(金) 18:34:19.97 0
いや、俺タバコは吸わない主義なんだわ。
んで、なんであの状態の街に入るかって?そんなもん決まってるだろ、面白そうだからだ。
あそこは今は魔剣使いと…あとよく分からんけど岩をビュンビュン投げる奴が戦ってる。
そこにちょいと横槍を入れて、んで魔剣も回収
敵も減って一石二鳥ってわけ

ん?あれ検問か?
大丈夫なのかよ、一本で事足りるって何だ?
253名無しになりきれ:2012/11/12(月) 19:55:50.57 0
「海の向こうが騒がしい……。
 何やら市井の話によれば、悪神を信奉する淫祠邪教が大陸各地で動きを見せていると聞く。
 『世界政府』より脱退した身とはいえ、捨て置けぬ話だ。」

(ここは四方を蒼海に囲まれた極東の地。)
(『高天原』―――八百万の神を仰ぐ瑞穂豊けき葦原の中津国。)
(世界中で急速に進行しつつある《死楽園化》を現状免れている、荒野とは隔絶された【楽園】の一つである。)

(薄暗い木造の小部屋に、傅く黒い影があった。)
(御簾の向こう、顔を隠した人影が、凜とした女性の声音で影へと涼やかに語りかける。)

「国内に潜伏していた《邪教徒》を全て滅した労、大義であった。
 されど巣を潰さねばいずれ虫は湧く。

 汝らに海を渡り、大陸へと赴き、邪教の本拠を撃滅する命を下す。任されてくれるか」

(影は低い男の声で、諾と告げた。御簾の気配が厳かに頷く。)

「ならば、百々なる戦鬼の群よ。
 まつろわぬ悪神に、紅毛偉丈夫の西洋人に、東に坐す神々の覇を悉く知らしめるのだ。

 征軍せよ―――【百鬼夜行】!」

(御意、という一言を残し、影は字の如く闇へと消える。)
(妖異化生の名を各々冠する戦鬼が今、唯一を騙る淫祠邪教を撃滅掃討すべく、大陸へと一斉に放たれた。)
254名無しになりきれ:2012/11/14(水) 17:21:36.32 0
「…フゥー」

検問に入る直前、ひときわ大きく彼女が煙を吐く。
上の大男までは届かないかもしれないが、彼には気配を消す力があったはずだ。それで何とかしてもらおう。
何とかならなければ…何のことはない、知らぬと通せば良いだけだ。
多少の職質はされるだろうが、この事態だ。そう長くなることもないだろう
少なくとも、助手席のコイツだけはバラすわけにはいかない、さすがに中に乗っているとあれば知らぬふりは通らない。

「黙っててくれないか」

助手席からも、頭上からも響く声に対し、彼女の声は静かに重く、しかし異常なまでの威圧を放っていた。
検問が近づく。

『―――お騒がせしております。』

ロボットの検問官は、流暢な声で話し始めた。
簡素な検問所から生えたかのように見える、人を象った姿。顔はフェイスヘルメットのようで、体は白い合成ポリ樹脂で申し訳程度の装甲が施されている。

『アルカディアには現在、クラスAの非常事態体制が敷かれております。
 旅行者、訪問者の方は現在入場不可となっておりますのでご了承ください。
 では、パスポートもしくは市民証をどうぞ』

チカチカと光を放ちながら喋るロボット、ヴァイスはそんな異能に反応する"眼"に、青緑のLEDランプが明滅しているのを一瞥すると黒緑色のIDカードを取り出す。

(クラスAか…この状況は明らかにクラスS以上のはず 情報が更新されてないのか…?何にせよ、A級ならば市民賞を見せれば通れる、わざわざ偽造のパスを引き出すまでもないな)

『―――確認完了しました。どうぞお通りください』

検問のバーが音もなく開き、彼女はアクセルを吹かしてそこを通り過ぎる。

「…フゥー」

再度、大きく煙を吐くと、彼女は横の男をじろりと睨みつけた。

「それで…?」

再度、この街に入る理由を訪ねようとしたその時

「…!」

異様な重圧。
能力者でなくとも、それは知覚することができただろう
空だ。

彼女は見上げる。
空が、はるか大空の彼方に浮かぶはずの隕鉄が、落ちてきていた。

彼女は改めて、自分が巻き込まれたあまりにも、あまりにも異常すぎる状況を再確認したのである。
255名無しになりきれ:2012/11/20(火) 13:28:51.70 0
System Rebooted―――― []

……、遅え。
オイオイ遅えよ遅すぎる、致命的に圧倒的に決定的に壊滅的に遅えにも程がある。


よォお前ら、現状を正しく認識できてんのか?


アア、そこで屯してるお前らに言ってんだ。マイクテスマイクテス。
取り込み中のところ申し訳ねえが、この『アルカディア』の管制センタービルは勝手に全システムハッキングさせて貰ったぜ。
そンで、「チャチャっと修復しちまった」。
二つある内の制御室の片っぽが吹っ飛ばされただけだろ、バックアップを基に物の数秒で完了したぜ。

天使だか教会だが知らねえが、戦闘にダラダラ時間かけ過ぎなんだっつーの。お分かり?
正直、付き合いきれん。
俺達の生きる世界はもうちっとスピード感ってモンがあったと思うがね。

ま、っつー訳だ。
練り込んだ情景描写も結構だが、1.5倍は加速してくれや。
やるのも見るのも退屈で、しかも新規参入の敷居も高いってのはぶっちゃけ終わってると思うぜ。
エンターテイメントとしては、よ?
256名無しになりきれ:2012/12/07(金) 18:06:21.06 0
―――――――――――――――

――――――――

―――
257名無しになりきれ:2012/12/07(金) 18:07:10.17 0
―――――ザリ

―――――――――――ザリ―――ザ
258名無しになりきれ:2012/12/07(金) 19:07:55.07 0
―――――――――ザザ…リ――ァァァ

黄土色の霧霞のような、死楽園の砂煙が濛濛と立ち込める。
ここにはかつて、否、つい先刻まで、街があった。
人は…あらかた避難をしていたが、助かるまい この災害によってではない、黙殺するためにだ
アルカディアは大きく崩壊した。それは物語的な意味合いではない
街へと落下した巨大な質量は、何かしらの力によって、一応は弾かれた。
しかし砕かれてなお、その質量から生み出されたエネルギーは計り知れぬものであり、砂の津波と衝撃波で街を崩すには充分すぎるほどの力を働いた。

――――ザリザリ―――ザザ

ラジオのノイズのような砂の擦れ合う音が響く
いや、それは実際ラジオが発するノイズ音そのものであった。
音の発信源は、数箇所。
その内のひとつ、崩壊を免れたビルに隠れるように身を潜めていたBMW E36型M3GTRが、重苦しい直6DOHCエンジン音を響かせて這い出す。

「…フゥー」

運転席に身を沈めるヴァイスは、先程から咥え続けているラッキーストライクを、唇が焦げそうになるほどまで吸う。

「…ッペ」

そして吐き出した。同時に、濃厚な邪気遮断能力がある煙の塊を吐き出す。
そして隣に座る男に向け、言い放った

「…それで、魔剣、と言ったか」

「あ…あぁ」

隣に座る若い男は、狼狽しながら頷く
無理もない、天砕の巨岩(アルマゲドン)が現れ、そして謎の力――遠目で見た限りは、あれはおそらく剣戟であった――によって砕かれた後。
僅かな一瞬の時間で、彼女はM3を急加速させ、街中心部に近しい…崩壊の免れそうな屈強な建物へと飛び込んだのだ。

「機械仕掛けの魔剣、あの隕石ぶった斬ったのも、多分それだ
 噂に違わぬおっそろしい能力だぜ、いや、あの隕石出した奴も大概か
 ああそうだ、運転、ありがとな!お前がいなきゃ死んでたかもしれねえぜ…へへへ」

黒い服で体を包んだ黒い男、名は9(ナイン)というが、しかしヴァイスは興味なさげに鼻を鳴らす。

「降りてくれ、お前の頼みは終わったんだろう?
 こんな状態になれば、確かめたいことが山積みだ…言っておくが、この街は私の故郷だ。そして正直に言って、貴様らは疫病神だ」

「そうか…悪かったな…まあ、命あっての物種って言うだろ!生きてるだけ良かったと思おうぜ!」

そしてそそくさと車を降りると、既に行くあてがあるのか、颯爽と歩き出す。

「…上の奴らも持って行ってくれ」
259名無しになりきれ:2012/12/07(金) 19:23:37.60 0
――ボゴン

崩れ去った街の瓦礫が投石器に投げられたかのように吹き飛ぶ。
それは向かいの、かろうじてその姿を保っていたビル壁に当たると、諸共崩れ、新たな砂塵を巻き上げた。

「…ひでえ有様だな」

瓦礫を蹴り飛ばし、不安定な瓦礫の上に危なげなく立ち上がった、緋色の装甲を纏うサイボーグの女性、ヴァンキッシュ。
その後ろから這い出すインフリンジ、そしてアクシス。瓦礫に埋もれてたはずなのだが、彼女たちの身体には傷一つ付いていない

「砂塵内部に隕鉄を検知…電磁波が撹乱、復旧予測不可能」

インフリンジは淡々と現状を報告する。

「自然のチャフってところね…全く、次から次へと」

アクシスの言葉に、ヴァンキッシュは体についた砂塵を鬱陶しげ払うと、彼女を振り返って訊く

「支援物資はどうなった?」

「マーカー地点は検問」

「駄目だな」

「でしょうね」

短絡的、感情の移入などありはしない言葉の羅列。
それこそが彼女たちの、無慈悲なる対異能戦闘部隊リビングメタルスの本質である。

「物資マーカーは消えてません」

そこに口を挟むのはインフリンジだ。彼女は後方支援型、レーダーや通信能力に優れている。

「ほう」

「行ってみる価値はありそうね…どの道、目標はそのゲートを出た先なんだから」

そして三人は、いや、三機は磯に削られた岩場のような、足場の悪い瓦礫の山を器用に踏み越えて、門(ゲート)へと向かう
260名無しになりきれ:2012/12/07(金) 20:00:11.65 0
「見ろよオッサン…スゲエや」

ナインは、砂塵に包まれたアルカディアに荘厳と佇む、教会のような塔を見上げる。
アルカディアのどんな高層ビルよりも高く、砂塵を下界に睨むそれは、黄土色の雲海の上に建つバベルの塔のようであった。
もちろん、つい先程までこんなものは存在しなかった。"これ"は忽然として、アルカディアの中心に現れたのだ。

「フハハハァーッ!よいではないか!荘厳な塔(バベル)!王に相応しい!
 細飾がローマ風なのは気に食わぬが、そこは後で直せば良い」

「相も変わらず喧しい男だな、少しはその高笑い、収めてはいかがか?」

金色の鎧をまとう赤茶髪の屈強な男、スペイン王フェルナンドと、その肩に座る小柄な少女、吸血鬼エリザベス。
王は塔を見上げ、吸血鬼はさも興味なさげに、欠伸をひとつする。

「吾から笑いを?フハハハハ!それは王権を剥奪したも同義ぞ、吸血鬼!
 そしてこの塔(バベル)…この上に、おるのだな?」

フェルナンドは豪胆な笑いを少しばかり収め、ナインを見据える。

「ああ、『天使』そして『魔剣』…オッサンはどっちかというと『天使』の方にご執着か?」

「うぬ、民を守ることは叶わなかった。しかし貴公の言う『魔剣』とやらが少しばかり働いてくれたようだ。
 街の中心部は、こうして姿を保っておる。喧騒を聞く限り、避難も進んでおるようだ。」

「不思議な奴だな、お主は」

フェルナンドの言葉に、エリザベスが口を挟む

「私は今まで、数多くの邪気眼遣いを食ってきた。
 其の者らは皆、邪気眼遣いを神格化し、高慢に、民間人を支配してきた
 お主程の能力ならば、文字通り国を支配することも出来ように…なぜ民の危惧を案ずる?」

「王故によ!王は民を守らねばならぬ!そして王国をより強大にし、民を裕福にせねばならぬ!
 そしてそれを危険に晒すこの塔の主は、民の敵であり、吾の敵なのだ!」

豪胆に口を大きく開け、再び高笑いを繰り出すフェルナンド。
邪気眼を喰らう吸血鬼は、鬱陶しげに耳を塞いだが、その肩から降りることはしなかった。

「とりあえず、俺もオッサンも、目指す場所は一緒だ
 だったら一緒に行こうぜ?ほら、旅は道連れ世は情けって言うだろ?
 正直言って、俺は一人じゃ『天使』にも『魔剣』にも勝てる気はしねえんだよな、だからホラ、頼む!」

「フゥム…よかろう
 その『魔剣』とやらにも、吾は興味がある。思えば、王には王剣が付き物。いかな剣か、この目で見てみたいものよ」

「よっしゃ、じゃあ早く行こうぜ。また隕石落とされたらたまったもんじゃねえや」

9と、王と、吸血鬼。
摩訶不思議な3人は、異形の塔へと乗り込んでいく
261名無しになりきれ:2012/12/11(火) 21:19:12.57 0
異形の塔の中は、閑として静まり返っていた。
響くのは、遠い遠雷のような風の声のみ、既に砂塵の雲海は遠く下に見え、いよいよもって当の頂点に近づいてきているのだろうが

「ん―、守衛の一人もいないとは恐れ入ったわ」

塔の内部を螺旋状に貫く幅広の階段を上りながら、ナインは全く息切れを感じさせない声色で呟いた。
既に高さは30階建てのビルを軽く上回る程にまで達している、そこまでがすべて階段であるというのに、息のひとつも乱れていない
その後ろをゆったりと登るフェルナンド、何処から出したのか彼は軍馬に跨り、腕組みをしてしかと道の先を見据えている。

「これ程の塔を持ちながらノーガードとは、よほどこの城の主は自信があるのかね?」

ナインはやや訊ねるように軍馬上の彼を見やって言う。

「…ふむ、そうではなかろう
 この感覚、これは敗北に期した城主の部屋へと登る感覚と似ておる。ひとつの戦が終り、嵐の去ったあとの僅かばかりの平穏よ」

「じゃ…この城の主――つまり『天使』か『魔剣』か――が、どちらか一方に負けたってことか?」

「それは行ってみなければ分からぬ。そうだろう?」

フェルナンドが応える前に、軍馬の尻の部分に座るエリザベスが答える。

「うむ…さて、ようやく頂点のようだぞ。」

王が指さす先、晴天から降り注ぐ午後の陽光が薄暗い塔内をまばゆく照らし上げていた。
262名無しになりきれ
崩れた塔の中腹のような、瓦礫の散乱した広間。円錐状の塔の上層でありながら、その空間はそれなりに広く、かつてはこの上にさらなる塔が伸びていたことを思わせる。
しかし今は、晴天の下で静まりかえった。荒れ果てたコロッセオのような空気に包まれていた。

広間の中央、美しい焼入れの文様が放射状に広がるその中心点。
異形なる機械仕掛の長剣が、羽根の生えた少年を地面に磔にしていた。
そしてその脇に膝立ちになり、張騫の柄を握り締める青年。どちらも、まだ年端もいかぬ者だ。

「…ゲボッ!ゲボォーッ!」

羽根の生えた少年が、水っぽい咳とともに血を吹き出す。
常人ならば当然死んでいるような傷にも関わらず、彼は、『天使』コカビエルは、いまだ息を持ち、無駄だと知りながらも必死に抵抗していた。

「ゲボッ…なんで…僕は特別なはずなのに…なんで…お前なんかに…!ただの魔剣なんかに…!
 何の役にも立たない蛆虫共の街でのうのうと暮らしていた下賎で野蛮な蠅ごときに…っ!なんで…っ!」

「ははははは…っ。結構面白かったよ、さっきの攻撃。
 間違えたところ斬ってたら、私の身体、粉々だったかも
 それと、私は蛆虫でも蠅でもない。『魔剣メロディチップ』の持ち主。本名はもう忘れたから「メロディチップ」でいいよ」

「黙れ!蠅は蠅だ!お前達は神の何一つとして知りはしない!天使のなんたるかを知りはしない!
 この世界は、お前達が起こした罪の―――!」

「五月蝿い、さよなら」

メロディチップが魔剣を捻る。コカビエルは一際大きく血を吐き、磔にされた体が大きく跳ねる。
そして、動かなくなった。死体は見る間に塵になり、下界の砂塵に混じって見えなくなった。

「…それで、また新しいお客?やだなぁ、今の奴との戦いでほら、足が無くなっちゃってるのに」

メロディチップは何食わぬ顔で新たなる侵入者達を見やり、足首から先が失われた自分の足を振り上げる。
黒づくめの男。黄金の鎧を纏った偉丈夫。そしてローブを羽織った少女は、それを見て少しばかり顔を見合わせ、頷いた。

「えぇ…やるの?参ったなあ、手負いに加えて三対一かぁ…負けるかも」

そう呟くメロディチップの顔はとてもとても嬉しそうな表情をしていた。