348 :
ローゼソ:2012/05/07(月) 23:28:49.10 0
ローゼソの夢の中。
マリカと同じ顔をした人物が現れて仰々しく格好つけて何事か言おうとしますが……
そこで何かの妨害電波を受け、目を覚ましてがばっと起き上がってしまいました。
「SUGEEEEEE!! 可愛い!! しかもなんかスライドになってる!!
速攻保存しますた!!」
やたら興奮しながら叫んでいるローゼソ。頭にはどこからか忍びこんだメタるスライムが乗っています。
メタるスライムが頭からぴょんっと飛び降り、我に返りました。
「……? ボクは何を言っていたんだ? 早く寝よう」
あんな大声を出せば隣で寝ているはずの幼女が起きてしまうはずですが、この時隣はもぬけの殻。
しかしそれに気付かず、普通に寝てしまいました。
さて、シジルとの会話の続きです。
要領を得ないルェルルに代わって、酒場の主人がある事ない事流暢に説明してくれました。
代理母とか、やたら物騒な単語が混ざっているのはいつもの事です。
>「わたし、お使い、一人でできるもん」
お使いという名目を得て、神殿への旅が再開します。
ルェルルは一人でできる気満々ですが、一人で行かせた日には途中で目的を忘れるのが目に見えています。
仲間が1人と1匹に加えてゲストキャラクター1人加入で4人で出発とあいなりました。
「シジルちゃん、学校放っといて大丈夫なの?」
「ええ大丈夫よ、私の事は心配しないで」
不思議に思うローゼソでしたが、同行してくれるのは助かるので、あえてそれ以上突っ込む事はありませんでした。
349 :
ローゼソ:2012/05/07(月) 23:31:20.54 0
一行が洞窟の奥へ進んでいくと、ついに件の謎かけ魔物のエリアへやってきました。
何の攻略方法も手に入れないまま来てしまいましたが大丈夫でしょうか。
いえ、あれだけ尺を取ったホグワーシ編。何かヒントが隠されているはずです。
特に、あの謎掛け授業が怪しい。ローゼソは無い頭を捻って考えていますが、いい考えは浮かびません。
その時、ローゼソの頭にメタるスライムが乗ったのでした。突然メタな考えを口走ります。
「そうか! 絶対回避《ネタフリニキヅカナイ》は自分のネタ振りは回避できない。
という事は人のネタ振りは回避できるんだ!」
メタるスライムが頭から離れると、ローゼソは先程の発言をきれいさっぱり忘れ、やはり頭を悩ませています。
対処方法が見つからないまま、謎かけ魔物のところに到着してしまいます。
謎かけ魔物は、ロマンスグレーのおじさんの顔をしたミノタウロスでした。
魔物は、ご丁寧に自己紹介をはじめます。
『私は謎掛け魔物のミノモンタウロスという者だ。極限の闘技場なぞなぞミリオネアへようこそ。
先日も胡坐なんとかという聖騎士が無謀にも私に挑戦し破れた……。さあ来い、新たな挑戦者よ!
――おりはおりでも、冷たいおりとはどんなおり?』
まさかの過去問的中です。が、誰も答えを覚えていそうにないので、あまり意味がありません。
尚、答えが正解であっても不正解であっても ファイナルアンサー? と問いかけてプレッシャーをかけてくる事でしょう。
謎かけ魔物は精神戦も得意なのです。
デジモンを仲間にするよ。
【( ・∀・) 聖地】
ルェルルはお使いの務めを果たすべく、洞窟を突き進みました。
なだらかな坂道を登り、時には単調な一本道で迷い、時には岩の丸椅子に座って。
「あっ、出口があるよぉ!」
やがて一際広い空間に辿り着くと、ルェルルは行く手にぽっかりと開く穴を指差します。
洞窟に新鮮な風を吹き込む楕円形の黒は、長い洞窟の端に違いありません。
出口を見つけたルェルルは、他のものには目もくれず、一目散に走り始めました。
「もう夜になってるね」
久しぶりに見る外の世界は夜でした。
昼の王である太陽は眠りに落ち、代わって空を彩るのは、無数の星々を従える白銀の女王。
彼女に睥睨された大地は、月灯りの下で全貌を明らかとします。
この土地は峻険な山脈に囲まれた盆地で、広さは村一つ分程度。
夏の暑さもなく、冬の寒さもなく、これと言った名所も無く、中央に古びた建造物が建立されてるだけ。
もちろん、ぽつんと建っている建物こそが、人工聖典の納められたTRPG神殿です。
「お使いして、早く帰ろぉ。
晩ご飯が無くなったら、大変だもんね」
幼女は月灯りを頼りに、白銀の夜を歩き続けました。
一つだけの建物が目印となったので、幼女が迷うこともありません。
ほどなくして、TRPG神殿の前に立ったルェルルは扉を開けようとします
押して押して押して、それでも開かないと見るや、今度は引いて引いて引いて。
ごめんくださいぁい。お使いに来たから開けてーっと言いながら、ドンドンと扉も叩きます。
ですが、大きくて頑丈な鉄の扉は、ルェルルが何をしても微動だにしません。
「閉まってて開かないね。夜だからお休みなのかなぁ?」
名も知られぬ整頓の神の話(
>>102)に拠れば、この扉を開くには四つの鍵が必要です。
幼女がどんなに頑張った所で、神秘的な封印の施された扉は開くはずもありません。
TRPG寺院にも行ったよ。
353 :
ローゼソ:2012/05/13(日) 02:37:20.57 0
「かき氷ッ!!」
自信満々で答えるローゼソ。過去問の問答を聞いていなかったようです。
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!」
「不正解!」
ミノモンタウロスが斧を振り上げ、襲い掛かってきます。
鉄壁防御も今回ばかりは通用しません。なぞなぞに答えられなかった者は必ず殺されるのです。
ローゼソは固く目を瞑りました。しかしいつまでたっても衝撃はきません。
代わりに聞こえてきたものは――幼女の朗らかな声でした。
>「あっ、出口があるよぉ!」
目を開けると、いつの間にか洞窟の出口に来ていました。
これこそが、絶対回避《ネタフリニキヅカナイ》の真骨頂。
他人から降られたネタを全て無かったことにしてしまうという禁断の神の御業。
ただし、ローゼソはもちろんルェルル自身もこの能力の発動の仕組みについては知る由もありません。
「あ、あれ? 謎かけ魔物は……? 何!? そんな物には会ってないだって!?」
ローゼソは不思議に思いながらも、ルェルルの後を追いかけます。
>「もう夜になってるね」
シジルが星空を見上げて言いました。
「綺麗ね……この空は、ずっと前から変わらない。
ねえ、世界を守ってね。弟がこの空をずっと見れるように」
「シジルさん……!?」
ローゼソは、まるで自分たちが神の使徒である事を知っているかのようなシジルの言葉に、只ならぬ雰囲気を感じ取ります。
しかし問い詰める間もなく、珍しく普段とは逆にルェルルが本来の目的に向かって一行をせかします。
354 :
ローゼソ:2012/05/13(日) 02:37:47.26 0
>「お使いして、早く帰ろぉ。
晩ご飯が無くなったら、大変だもんね」
一行は星空の下を歩き、TRPG神殿に到着しました。
>「閉まってて開かないね。夜だからお休みなのかなぁ?」
「ちょっと待てよ、入るには鍵が4ついるんじゃなかったっけ」
ここで、今まで手に入れた鍵を復習してみましょう。
・ベルマークの森でベルマークと交換してもらった鍵(古びた鍵)
・ノアルスイユ伯爵が持っていた鍵(赤色の水晶を削って作ったような美しい鍵)
・賭博集団ツキの女神の首領が持っていた鍵
ナレーターの人がボケていなければ、持っている鍵はまだ3つです。
これは困ったことになりました。
「悪魔め、鍵も持たせずにお使いに出すなんてあんまりだ!」
そんな時、シジルが、優しく寂しげな微笑みを浮かべて一行に語りかけます。
「鍵なら……ここに。
私が一緒に来れるのはここまで。短い間だったけど楽しかったよ」
「え……!?」
シジルから光の帯がほどけるように解け出てきます。よく見ると、それは光の文字列でした。
魔法学校で少女が消えて行った時の様に、シジルが情報の欠片となって消えていきます。
「あなた達に4つ目の鍵を渡すのが私の役目だったの。
ごめんなさい、私も所詮はカノンの手先……。でも、信じてるから……この世界をどうか……」
「ちょっと待って! 何を知っているの!? 消えたら駄目だ――!」
ローゼソが伸ばした手は虚空を掻き、代わりに金属音をたてて鍵が地面におちます。
神殿の扉を開く、4つ目の鍵です――!
国際TRPG協会も有るよ。
【( ・∀・) TRPG神殿】
>>354 お使いとして聖典の誤字を探しに来たルェルルは、神殿の前で扉を開けられずに立ち往生。
このまま夜を明かすしかないかと思われた時、シジルが話を切り出します。
彼女の口から飛び出した言葉は、幼女には予想も付かないものでした。
>「あなた達に4つ目の鍵を渡すのが私の役目だったの。
>ごめんなさい、私も所詮はカノンの手先……。でも、信じてるから……この世界をどうか……」
お別れの言葉を残して、シジルが消えていきます。
もちろん、幼女の想像力では事態の把握は一切不可能。
何が何やら分からない幼女は、夜空に散逸する文字を眺めて怪訝な顔をしていました。
「シジりゅ、どうして光ってるの?」
ルェルルは問いかけますが、シジルからの応えはありません。
伸ばした腕の先は、まるで夢の手触り。
後に残ったのは床に落ちた鍵。音符の形をした黒い鍵だけです。
「あっ、かぁぎぃ!」
ルェルルは石段に落ちた鍵をサッと拾うと、得意げに高々と掲げました。
ついに"さいごのかぎ"を手に入れたのです。
そして、長かった鍵集めが終わると、すぐに消えたばかりのシジルの行方を追います。
神殿の周囲に造られた柱廊の柱や、近くの木に視線を飛ばし、実際にそこまで走って裏側を探してみます。
「ロゼそ、シジりゅは、どこいったの? かくれんぼ?」
しばらく探してもシジルを見つけられなかった幼女は、小首をも傾げながらローゼソに問いかけました。
しかし、ルェルルの得意技は聞き流し。
ローゼソの応えを全て聞かないまま、すぐに幼女は自分の思い付きを口にします。
「こっそり、中に入ったのかなあ……あっ!カギがあるから開けられる!」
シジルの残した鍵が神殿の扉に刺し込まれました。他の鍵も三つ仲良く。
ルェルルがそれらを回すと、カチリ、カチャン、ガチャン、ガコンと四つの音が響きました。
死を模したかのような夜の静寂の中で。
「おじゃましまぁす。お使いに来たよぉ」
ルェルルが扉を開けて神殿に入り込むと、天井に備え付けられていた幾つもの発光石が周囲を照らします。
空色の天蓋には太陽と月と星。壁の装飾には無数の人と獣が描かれていました。
神殿は荘厳な雰囲気を備えていましたが、空気に人の熱は感じられません。
幼女がシジルの名を何度呼んでも、その声は無音の中に吸い込まれます。
「…………だれもいないね」
ルェルルは真紅の絨毯の上を歩きました。
鮮やかな絨毯は時の経過を感じさせず、たった今敷かれたかのよう。
床一面に広がる絨毯の中央には黄金の祭壇が設置してあり、その上には一冊の書物が置かれています。
表面に光沢を輝かせ、美しい宝玉を嵌入され、非時間の中で未完の物語を綴り続ける稀書の中の稀書。
無限の叡智と詩情を収め、溢れんばかりの物語を封じた書物の王が。
聖典《カノン》は、微動だにしない時間の中に鎮座しています。
我を讃えよ、との気配を世界に拡散させながら。
「お使いでもってくるのはぁ……えっとぉ……ごみを拾ってくる!」
お使いに来たことを思い出した幼女は、唐突に床を這い回り始めます。
残念ながら、お使いの内容までは正確には思い出せませんでした。
357 :
ローゼソ:2012/05/18(金) 01:58:51.86 0
魔法学校でミリが消えたのを見ていないルェルルは、何が起こったのか認識できませんでした。
ルェルルは無邪気な笑顔で鍵を拾い、かくれんぼの鬼のようにシジルの姿を探します。
>「ロゼそ、シジりゅは、どこいったの? かくれんぼ?」
「ルゥ、シジルはね……」
>「こっそり、中に入ったのかなあ……あっ!カギがあるから開けられる!」
>「おじゃましまぁす。お使いに来たよぉ」
荘厳なる神殿の扉を、ルェルルは事もなげに開けて入っていきます。
さすが幼女、どんな時でも自然体。そこに痺れる憧れる。
そして、ルェルルのシジルを呼ぶ声が虚しく木霊します。
>「…………だれもいないね」
誰もいない、というのは不適切かもしれません。
そこには、絶対不可侵の《神》がおわしました。
果たして、聖典《カノン》は、無造作に祭壇の上に置かれているのでした。
>「お使いでもってくるのはぁ……えっとぉ……ごみを拾ってくる!」
「違うでしょ! この本の誤字を探さなきゃ! ……あれ?」
ローゼソは気付いてしまいました。確かに表面上の目的はそうですが、本当の目的は違ったはずです。
>>102によると、整頓の神の使徒である彼らの使命は、カノンの力を手に入れ大悪魔を退け邪神カオスを封印する事です。
いつも当初の目的を忘れるルェルルですが、いつの間にかローゼソも当初の目的を忘れていたのでした。
なぜならきっと、ルェルルとの旅が楽しくて、楽しくて。
聖典《カノン》を目の前にして最終目標が一気に現実的なものとなり、ローゼソは葛藤します。
このまま使命を果たしていいのか、と。
道中ではどう見ても悪役のカノンの使徒に苦しめられ、あまりに呆気ないミリの死を目撃し、そしてシジルは意味深な言葉を残しています。
迷いながらも恐る恐る、聖典に手を伸ばすローゼソ。
触れた瞬間――忽然と姿を消します。いえ、正確には消えたのではありません。聖典の中に吸い込まれてしまったのです。
ルェルルとホイミソも一緒に吸い込まれたかもしれません。
【( ・∀・)聖典《カノン》の中の異空間】
ローゼソが気付くと、周囲に光の文字がびっしり浮かんでいる空間にいました。
何者かが語りかけてきます。
『我が名はカノン、全知全能にして無限の物語を統べる真の神――
よくぞここまで辿り着いた、整頓の神の使徒よ』
「カノン……!?」
ローゼソはその人物の姿を見極めようとしますが、姿は定まりません。
男性になったり、女性になったり、子どもになったり、老人になったり。
揺らめき、移ろい、無限の様相を見せます。
『長い年月の間に、完璧であるはずの我に誤字――僅かなバグが生まれた。
整頓の神の力をもって誤字を取り除いてほしい。
その暁には、我が力を授けよう――』
かなり胡散臭い気がしなくもありません。
幸福の科学未来館も実在するよ。
【( ・∀・) TRPG神殿】
ルェルルは床を這い回ってゴミ拾いを始めましたが、絨毯はつやつや、床もピカピカ。
神殿の中にはゴミどころか、塵一つ落ちていません。
やがて、何も収穫を得られなかったルェルルが顔を上げると、ローゼソの姿は忽然と消えていました。
シジルに続いて二人目の失踪者です。
「ロゼそも、いなくなっちゃった……」
ホイミソの姿も幼女の視界には映らず、広々とした神殿の中には幼女が一人だけ。
聖典に触れなかったルェルルだけが、ぽつんと取り残されてしまいます。
「ホミそもいないね……みんな、かくれんぼしてるのかなー?
あっ、これって、わたしが鬼ーっ!」
ルェルルはローゼソが異空間に消えたなどとは思いもせず、消えた者たちを探します。
探して、探して、しかし誰も見つからず。
やがて、ルェルルは疲れから眠くなってしまいました。
「ふぁ……ぁぅ……今日は眠いからぁ……明日からがんばる……」
疲れて床に寝そべったルェルルは、ただちに眠りに落ちます。
そして、完全に眠りに落ちた瞬間、ぱっちりと瞼を開きました
幼女の意識の代わりに、大悪魔の意識が入り込んだのです。
立ち上がったルェルルの影も、悪魔的な造形に変わっていました。
「ふむ、連れはどことも知れぬ空間に行ってしまったか。
それでは、私は外側の世界で校正作業を行うとしよう」
ルェルルの肉体を乗っ取った大悪魔は、パチンと指を鳴らすと虚空からハサミを取り出します。
そして、聖典の神言文字を解析して読み解き、誤った箇所を探し出して、ジョキジョキッと切り刻み始めました。
ハサミで切られた箇所を見れば、不思議なことにすぐさま復元!
誤った部分も、正確な文章に書き変わっています。
かくして、ローゼソが異空間に送られている内に、聖典の校正作業は開始されてしまいました。
力ある言葉を手に入れたい大悪魔と、誤字を取り除きたい聖典の思惑が一致して。
さて、この聖典を刻む存在を何と呼びましょう……ルェルル?大悪魔?
肉体はルェルルなのですが、その精神は大悪魔。
まるで、題名と内容の異なる書物のようでした。
名前に関しては難しい所ですが、とりあえず便宜的に大悪魔ルェルルと呼びます。
【( ・∀・).。o○ 校正作業中】
◆ ◆ ◆
38・『こと』=脱字
42・『が』="を"が適切
52・『逢い見える』=相見えるの誤用
110・『の』"が"を使うのが適切
133・『ブレート』=プレート
135・『天上』=天井
163・『ローゼン』=ローゼソ
173・『逢い見える』=誤用
179・『ローゼン』=ローゼソ
153・『お腹』=脱字
159・『ら』=脱字
159・『い』=脱字
162・『鋼鉄の銅像』=誤用
173・『馬ルェルルも車』=ルェルルも馬車
215・『だ』="が"の誤り
260・『載せ』=乗せの誤変換
281・『ま』=脱字
332・『億へ』="奥へ"の誤変換
◆ ◆ ◆
校正に勤しむ大悪魔ルェルルは、聖典(>14-357)に18箇所の誤りを見つけました。
大悪魔の知識を備えているので、聖典の解読にも支障はありません。
やがて切り離された紙片たちは、大悪魔ルェルルの手で接ぎ当てらると一枚の書面となります。
「ふむ、聖典と同源の力ならば、絶対不可侵の特性も破れることだろう。
この紙片は、厨ニっぽく“混沌詩篇”とでも名付けておこうか」
大悪魔ルェルルは校正作業が終わると、瞬間移動の魔術を用いて洞窟の宿屋に帰還。
一瞬にして、ホールで掃除しているマリカの前に現れます。
「さて、マリカ。君は今の生活を続けていても良いと思っているのかね?
記憶の無いまま、自分が誰かも分からないまま、宿屋の下働きとして一生を終えて。
この宿屋も今日で閉店になるが、その後はどうするつもりかな?」
『……』
マリカは自分の過去や未来について考え込みますが、どちらも何も見えてきません。
自分のことだというのに、茫漠としていて、霧の中のようでした。
沈黙するマリカに大悪魔ルェルルは囁きかけます。
「今こそ、記憶を取り戻す時ではないかね?
このままでは、玉座で勇者を待ち続けた日々よりも無為の時が流れてしまうぞ。
そうだろう……名も知られぬ混沌の神」
『えっ、あ、頭が……私は……わたしの名前はマリカ……よ……』
本当の名前を呼ばれた瞬間、マリカの頭の中で切れていた記憶の糸が戻り始めました。
うずくまって頭を抑えるマリカに、自分のものではない記憶が入り込みます。
濁流のように混沌とした神の記憶が。
『私のニューロンがインフィニティスパークする……ぎゃぁぁぁぁ!』
頭からぷすぷすと煙を上げた女装ウェイトレスが、元の記憶を取り戻しました。
名も知られぬ混沌の神・カオスとしての記憶を。
『む、ここはどこだ……?
はっ! 君はいつぞやのラッキーガールではないか!
と言うか、このメイドの格好はいったいなんなんじゃああっ!』
復活した名も知られぬ混沌の神は、とても混乱していました。
その混乱につけ込んで、大悪魔ルェルルは有ること無いことを刷りこみます。
「かーくんが寝てる間にTRPG神殿に異世界の魔王が棲みついて、聖典を自分のものにしちゃったの。
このままじゃ、大変なことになっちゃうよ。
かーくんも聖典で管理された世界なんて、やだよね?
だから、悪い魔王を退治して聖典もぶち壊しに行こっ!
チートアイテムに対抗する切り札も、ちゃーんと用意しておいたよ。はいっ!」
混沌詩篇が、カオスの手に渡ります。
宿屋の入り口にも、ペタリと閉店のお知らせが張り付けられて、旅立ちの準備は万端でした。
「まだ誰か残ってなぁい……?
ぼんやりしてたら、美味しいものは全部食べられちゃうよ」
万が一、まだホイミソが宿屋で眠ったままなら、大悪魔ルェルルは触手を引っ張って一緒に連れて行きます。
こうして、名も知られぬ混沌の神を連れた大悪魔ルェルルは、再びTRPG神殿に向かいました。
ローゼソが聖典の異空間から出る頃には、大悪魔ルェルルも神殿に辿り着くことでしょう。
まだウェイトレス姿をしているカオスと一緒に。
素晴らしい目的ですよ。
363 :
ローゼソ:2012/05/27(日) 03:24:30.88 0
ローゼソは周囲の文字を読もうとしますが、すぐに目がチカチカしてきます。
「いちいち直してられるかい! 多少の誤字ぐらい別にいいよ」
その間に、大悪魔ルェルルが外側から聖典の誤字の訂正を完遂してしまいました。
『よくぞやった! 整頓の神の使徒よ、約束通り我が力をそなたに授けよう!』
「いや、何もしてないけど? うわぁああああああああああああ!!」
時の始まりから終わりまで、宇宙の果てから果てまで――深淵なる哲学から相対性理論の数式まで――
ありとあらゆる情報がローゼソの頭に流れ込んできます。
その膨大な情報に比べたら、ローゼソの元々の記憶なんて雀の涙程もありません。
これは力を授かったというより、取り込まれた又は乗っ取られたと言った方が妥当でしょう。
ローゼソを寄り代とし、物質界で直接力を行使する肉体を得る事――最初からそれがカノンの目的だったのかもしれません。
カノンはその身から溢れだす膨大な魔力の波動に金髪をなびかせ、祭壇の前に佇んでいました。
この存在をローゼソ=カノンと命名しましょう。
ローゼソ=カノンは不敵な笑みを浮かべて言いました。
「馴染む……馴染むぞお! 永遠に歳をとらぬ少女の肉体……実にいい!
思えば我は悠久の時に渡り自らの肉体を持たぬGM稼業に勤しんできた……。
折角だから大暴れしてやるとしよう。
まずはカオス……世界を団結させる大ボス役としての威厳ブチ壊れのアイツは用済みだ。
自らが召喚した者に倒される気分はどうだろうなあ、ククク…ハハハハハハハハ!!」
そこに神殿の扉が開き、大悪魔ルェルルとカオスが入ってきます。
ローゼソ=カノンは両腕を広げて大立ち回りで彼らを迎えます。
「フハハハハ、よく来たな! 世界を混沌に陥れる悪魔どもよ!
唯一絶対の神にして世界の真理たる我が直々に成敗してやろう!」
代行依頼
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/15289/1328199912/33
【( ・∀・) TRPG神殿】
大悪魔ルェルルがTRPG神殿に入ると、出迎えたのは聖典に意識を乗っ取られたローゼソでした。
>「フハハハハ、よく来たな! 世界を混沌に陥れる悪魔どもよ!
>唯一絶対の神にして世界の真理たる我が直々に成敗してやろう!」
ローゼソ=カノンが不敵な笑みで悪魔成敗を口にしますが、あまり威厳が感じられません。
ですが、ウェイトレス姿の混沌の神も、同じくらい威厳が無いのでお相子です。
『なんだと、何が唯一絶対の神だ! お前なんか、たかが数万年前に作られた人工知能じゃないか!
こっちは一億年以上前から神やってんだよ! 後から来てでかい顔すんな! ばーかばーか!』
子供のように言い返しながら、カオスは大悪魔ルェルルを肩車します。
その大悪魔ルェルルは頭にホイミソを乗せて、ここに見事な三身合体が完成しました。
『今まで、さんざん勇者たちが使ってきた友情パワーを自分の身で受けるが良い……フォーメーション・ブレーメン!』
「うん、みんなで力を合わせてやっつけよーね」
混沌の神は、どこかから取り出した妖精のフルートを口に当てて吹き始めます。
大悪魔ルェルルは、指パッチンでリズムを取って音を添えました。
演奏の効果は誰にも分かりません。訳が分からないと言うことしか分かりません。
他の者たちを放ったらかしにした運命的な対峙は、何もかもがゴチャゴチャのままに進行して行きます。
全ては、混沌の神が発する力の仕業に相違ありません。
>『なんだと、何が唯一絶対の神だ! お前なんか、たかが数万年前に作られた人工知能じゃないか!
こっちは一億年以上前から神やってんだよ! 後から来てでかい顔すんな! ばーかばーか!』
「ええい、1億年と2,3年前世代の老害が!
人は本質的には予定調和の箱庭の中の安寧を望むものなのだ、そう、我が作り出す美しき箱庭のな!」
まるで子どもの喧嘩です。しかし、神話TRPGとしては間違いではありません。
世界各地の神話を見てみると、神々の戦いはおしなべて全世界を巻き込む規模の子どもの喧嘩そのものなのです。
>『今まで、さんざん勇者たちが使ってきた友情パワーを自分の身で受けるが良い……フォーメーション・ブレーメン!』
>「うん、みんなで力を合わせてやっつけよーね」
「いくら力を合わせても無駄だ……。
絶対神《GM》としての力を持つ我は自らの手駒《NPC》を無限に作り出す事が出来るのだから!
出でよ、聖典の使徒達よ! その最強の力を持って我を全力でマンセーしつつあの者達を屠るのだ!」
ポポポポーンという間の抜けた効果音と共に、何故かバレー衣装(女性向け)を着た筋骨隆々の漢達の軍勢が出てきました。
混沌の神の力によるものか、それとも憑代の影響か。
憑代としているローゼソは、元々カオスによって召喚された異界の魔王。
だからこそカノンというとんでもない存在の器になれたとも言えるのですが――。
カノンは自分の力を過信して油断したのでしょうが、憑代は慎重に選ばないといけないものです。
「なんだ!? この無駄に汗臭い軍勢は……。まあいい、あの者達を片付けるのだ!」
しかし、筋骨隆々の漢達は、フルートの音色に合わせて華麗に踊り始めました。
指パッチンでリズムを取る大悪魔ルェルルを見て、ローゼソ=カノンは何事かを閃いたようです。
「アホの子がリズムを取っている……これこそまさにアフォリズム!」
実際には今のルェルルは大悪魔が乗っ取っているので、アホの子ではないのですが。
とにかく、これでは話が進みません。それもそのはず。
ルェルルとローゼソは、《絶対回避》と《鉄壁防御》というシナリオ崩壊級のチート能力を持っていますが
代わりに二人とも大して(全く?)攻撃力を持たないからこそ物語が成立してきました。
それが神や大悪魔の力と合わさってしまった今、まともに話が進行するはずはないのです。
ナレーターの人ですらこれからどうなるか皆目見当が付きません。
そうしている間に、筋骨隆々の集団がローゼソ=カノンを取り囲んで踊ります。
気付けばローゼソ=カノンもバレー衣装になっていました。
体に密着する服装になり、今まで見えなかったものが見えるようになりました。
お腹のあたりに、四角く浮き上がっている物が見えます。どうやら本のようです。
時間法則を超越し物理法則の外に存在するはずの聖典《カノン》は
服の中に入って体に密着するという意外とアナログな方法でローゼソの体を乗っ取っているのでした。
この聖典《カノン》を引きはがせば、ローゼソは元に戻ると思われます。
ローゼソ=カノンは、バレエダンサーを召喚すると自分の周囲で踊らせます。
くるくるくるくると回る群舞は、完璧な調和を持っていました。
「やれやれ、間近に会ってみれば随分と簡単な唯一神様だ。
人間は人間に理解できる玩具しか造れなかった……と言う所か。
神を理解できないものが神を造ろうとした結果、こんなグロテスクなものが出来上がってしまったわけだな。
まず、人の常識を使って神を解釈する事自体が誤読以外の何者でも無い。
つまりは聖典も有象無象の神と同じく、人間の自意識を投影した自画像でしかないわけだ」
大悪魔ルェルルは軽く溜息を吐きます。
そして、四角く浮き上がったローゼソ=カノンのお腹を見ると、その溜息はより深いものに変わりました。
「ダメだ、全然ダメだな。GMというものは。
あからさまに弱点を示すなんて負け犬根性が、染み付いてしまっている。
どうなるかの想像が付かないように装いながら、混沌を恐れて負けフラグを立ててしまっている。
しかしね、真の混沌は八百長とも無縁なのだよ……」
大悪魔ルェルルは、名も無き混沌の神の頭にぎゅっと抱きつくと、その耳元で囁きかけます。
「かーくんは混沌の神だよね?
でも、ここで聖典を倒しちゃっていいの? それで本当の混沌になるの?
機械神の管理を否定するなんて主題なら、もうたくさんの異世界でもやってるよね。
そして、これからも同種の主題は色んな宇宙に拡散するよ。
その全部が機械神の管理が破られる顛末で良いの? 全部同じ結末が本当の混沌って言えるの?
大宇宙が混沌としているためには、機械神の完全管理が成立する小宇宙も存在した方がいいんじゃなぁい?」
『な、なんだと……そうも……そうかなあ?』
「それに聖典が無くならなかったら、聖典が消しちゃった人にも、ちゃーんとした人生を与えられるよ。
謎掛けが尺を取ったからボツになった、音楽会でのラインとシジルの対決だって行えるの。
それとも……かーくんは、聖典が創った人をただの夢や幻や情報って片付けちゃう?」
『う、うぅん。いや、しかし、それは……むむむ』
「聖典にかーくんの力を上げたら、聖典はもっと凄い聖典になるよぉ!」
頭を抱えた混沌の神は、完全に隙だらけの格好で混乱します。
そして、その苦悶する顔は大悪魔にとって最高の絵画にも匹敵するものでした。
大悪魔ルェルルは、細い指で混沌の神の首筋をつつーっと撫で回します。
薔薇の唇に浮かぶのは、幼女には似つかわしくない艶やかな笑みでした。
◆ ◆ ◆
361・『接ぎ当てらる』=接ぎ当てられる
◆ ◆ ◆
そして、大悪魔ルェルルも混沌の神も気付きませんが、また聖典に新たなる誤字が現れました。
ルェルルの借金は100万Gで、一箇所の誤字には5万の報酬が与えられる契約です。
誤字発見の報酬は、ローゼソが行っても変わりません。
これまでに発見された誤字は19箇所。
あと一つの誤字を見つけられれば、ルェルルたちは100万G分の労働をしたことになります。
すなわち、大悪魔の支配からも脱することが出来るでしょう。
遊戯王をプレイするよ。
>「ダメだ、全然ダメだな。GMというものは。
あからさまに弱点を示すなんて負け犬根性が、染み付いてしまっている。
どうなるかの想像が付かないように装いながら、混沌を恐れて負けフラグを立ててしまっている。
しかしね、真の混沌は八百長とも無縁なのだよ……」
「フフフ、分かっていないな……神《GM》たるもの、負けるが勝ちなのだ!
いかに時に勇者、時に異教の使徒《PL》達にカタルシスを与え美しくド派手に散るか、これぞ負けの美学!!
そうすれば我は何度でも甦り無数の伝説を紡ぐ事が出来るのだからな! ハーッハッハッハッハ!!
お前が手をかけずとも横の混沌の神が我の思うがままに動いてくれる!
そうだろ? カオス! お前は我を倒すためにここまでやってきたのだ――!」
カノンには、カオスへの絶対の信頼感がありました。
誰が何と言おうとPC1として問答無用でラスボスの自分を倒してくれるという絶対の信頼です。
しかし、大悪魔の言葉によってその信頼が揺らぐことになります。
>「かーくんは混沌の神だよね?
でも、ここで聖典を倒しちゃっていいの? それで本当の混沌になるの?
機械神の管理を否定するなんて主題なら、もうたくさんの異世界でもやってるよね。
そして、これからも同種の主題は色んな宇宙に拡散するよ。
その全部が機械神の管理が破られる顛末で良いの? 全部同じ結末が本当の混沌って言えるの?
大宇宙が混沌としているためには、機械神の完全管理が成立する小宇宙も存在した方がいいんじゃなぁい?」
(中略)
>「聖典にかーくんの力を上げたら、聖典はもっと凄い聖典になるよぉ!」
カノンは、ここに来てヤバイと思い始めました。
遥か昔に作られて以来、ずっと全能の神《GM》として力を振るってきたカノンにとってはじめての事です。
長い年月の間に、唯一神《GM》の思惑を揺るがす程の力を持ったトリックスターが生まれてしまっていたのです。
「ええい、それもこれもきっと誤字が直りきっていないからだ! この整頓の神の無能使徒め!」
焦りに焦ったカノンは、ローゼソの手を使って服の中からカノン(つまり自分)を取り出し、誤字を探し始めました。
自らの中に誤字を見つけたカノンは、羽ペンを取り出して急いで訂正します。
接ぎ当てらる→接ぎ当てられる
369 :
ローゼソ:2012/06/05(火) 22:33:50.43 0
しまった! とナレーターの人は思いました。
よく見ると接ぎあてらる、で19個目の誤字でした。このままではまだ話は進みません。
しかし心配ご無用、聖典にまた新たな誤字が現れます。
365・『最強の力を持って』→『最強の力を以て』
それにしても、誤字とは一見無いように見えてもその気になって探せば意外と見つかるものですね。
出版において、ほぼ出来上がった後に複数人で誤字訂正作業を行って、それでも時々誤字が残ってしまうのも頷けます。
やはり、人の力で完璧な神を作る事は不可能という事なのでしょう。
とにかく、ローゼソ=カノンは19個目に続けて20個目の誤字を直します。
持って→以て
ブルーアイズウルトラスーパーハイパーアルティメットインフィニティホワイトエターナルドラゴンをシンクロエクシーズ儀式融合召喚。
神々と悪魔の思惑が錯綜してごちゃごちゃになっているので、複雑な四角関係に整理整頓が入ります。
混沌の神・世界を混沌に陥れるために聖典を何とかする。
整頓の神・ツヴェルフレギオンエンゲルに大悪魔を倒させて、混沌の神を封印する。
大悪魔・混沌の神を愛でる。(困ってる姿や、苦痛に喘ぐ顔も見たい)
聖典・ローゼソ=カノンを倒させて、新しい物語を作らせる。(聖典自体は破壊されない事が前提)
神々の熾烈な権謀術数からは、片想いの相関図が浮かび上がって来ました。
そして、ルェルルがすやすや寝ている間にも、神と悪魔の最終決戦は繰り広げられます。
人間たちとは次元の異なる恐ろしい戦術と戦略は、神殿に集まった三者の間を飛び交いました。
>「ええい、それもこれもきっと誤字が直りきっていないからだ! この整頓の神の無能使徒め!」
神殿の空気は、思惑が外れ始めたローゼソ=カノンの怒気で震えます。
誤算が誤字に起因すると判断した聖典は、筆先を走らせて自ら聖典の誤字を取り除きました。
この瞬間、幼女の体から大悪魔の精神がぷっつりと切り離されます。
100万G分の仕事が成し遂げられたので、借金の形にされていたルェルルの体が自由を取り戻したのです。
「ふぁ……ぁん……」
長い眠りから目覚めた幼女は、あくびをしました。
寝ぼけ眼をしながら指の先で目を擦ると、目の前にはローゼソが立ってます。
ローゼソは周囲にバレエダンサーを従えていて、彼女自身も同じ格好をしていました。
ルェルルはと言うと、銀色の髪をした誰かに肩車をされていて、頭の上にはホイミソが乗っています。
「ロゼそ、なにしてるの……? Σあっ! お絵かき! 私もするー!」
状況の把握は出来ませんでしたが、幼女は深く考えません。
ただ、ローゼソが何か楽しそうなことをしているので、自分も同じことをしてみたくなったのです。
遊びたい盛りの幼女は、自分の手に一枚の紙があるのに気付きます。
混沌詩篇でした。
『よし、私の混沌力は大いなる混沌のために使うぞ! 聖典よ、お前に私の全てを託す! 受け取れ!』
何やら、名もなき混沌の神も進むべき道を決断したようです。
ぶわっと混沌的な霊気を纏った混沌の神は、ローゼソ=カノンに向かってタックルしました。
その衝撃で、ローゼソ=カノンの手から聖典が離れます。
さらに、混沌の力で聖典の神秘的な糊付けも剥がれます。
散らばった聖典のページの一枚一枚は、バラバラになって神殿中にばら撒かれました。
エターナルフォースブリザード改良型。
>「ロゼそ、なにしてるの……? Σあっ! お絵かき! 私もするー!」
「大悪魔は戦線離脱したようだな……それで良い」
大悪魔の離脱にほっとするカノンでしたが、時すでに遅し。
名も無き混沌の神はすでに大悪魔によって調教済みでした。
>『よし、私の混沌力は大いなる混沌のために使うぞ! 聖典よ、お前に私の全てを託す! 受け取れ!』
「うわなにするやめ……アッ――!!」
374 :
ローゼソ:2012/06/10(日) 02:57:50.63 0
「うーん、あいたた……」
カノンが手から離れたローゼソは尻もちをついて元の人格に戻ります。ついでに服も元に戻ります。
PC同士の対決という一触触発の状況はようやく解除されました。
そういえば、PC同士の対立構造を作るのが好物なのが、トリックスターでしたね。
周囲には、紙が散らばっています。神が散らばっているとも言います。
ローゼソの目の前では、混沌の神がワクテカしながら事態の行く末を見守っています。
次に進む前に、この世界の歴史を復習しておきましょう。
遥か古に人間が作り出した絶対の機械神――それを倒すために立ちあがる、一般的に悪とされている存在。
どこかで見た事があるような設定ですが、よくある設定なので見た事があってまあ当然です。
混沌の神によると、1億年前と2,3年前に勇者に倒されて封印され
眠っている間にカノンが作られて世界を支配していたそうです。
注目すべきは、1億年と2,3年前に玉座で待っているだけで勇者が倒しに来た……
つまり、実はカノンが作られる前から世界を牛耳っている存在がいたという事が考えられます。
カノンが作られてからの世界も、いや、カノンが作られた事すらも、そいつの掌の上だったとしたら?
混沌の神はここに来て、その事を思い出しました。
『そういや私の元に勇者が来たのは黒幕が操っていたという話だったな。
だとしたらカノンをバラバラにした所で世界は真の混沌になるのか……?』
今更思い出しても後も祭りです。
ローゼソ達の周囲の神殿の情景がふっと掻き消えました。辺り一面、荒野が広がっています。
この世界は元々の実体とカノンの情報体が重なって構築された世界。
カノンがバラバラになった事によって、情報体の部分が消えてなくなったのです。
「ルゥ……、ルゥは、ここにいるよね……!?」
ローゼソはルゥの手を握りしめ、彼女がカノンの情報体ではない事を確認するのでした。
ざわ・・・ざわ・・・
何かざわざわしているにを見れば、バラバラのカノン達が内輪もめをしているではありませんか。
《次は正統派中世ファンタジーの世界で……》
《いやいや、近未来SFで行きましょう》
《は? 和風に決まってんだろ!》
脈絡なく、周囲に様々な様式の建造物が建って行き、
都市計画も何もない混沌とした世界が形作られていきます。
バラバラになったカノン達が、自分の望む世界を作る競争を始めたのでした。
375 :
ローゼソ:2012/06/10(日) 03:16:46.01 0
【( ・∀・) 聖典の街・カノニア】
混沌の神の体当たりで聖典はバラバラになって散らばり、分割された一枚一枚が小さな世界を作り始めました。
聖典の一枚一枚は自律しているようで、それぞれが異なった世界を作ろうとします。
その増殖する色と形の中でローゼソはルェルルの手を握り締め、少し不安そうな様子で言いました。
>「ルゥ……、ルゥは、ここにいるよね……!?」
「いるよぉ! なんかぁ、急に建物がいっぱいになったねー。お祭りかなぁ?」
ローゼソとは裏腹に、ルェルルは増えてゆく建物に楽しげな期待を寄せます。
そして、その間にも分散した聖典の切れ端は次々に建物を増やし続けました。
増設に増設を重ねる建物たちで、まるで周囲は混沌とした迷宮。
無限増殖するかのような建物は聖地を覆い尽くし、あっという間に大きな街を造ります。
このままでは世界が聖典の街に押し潰されて滅亡? あるいは滅亡するかも知れません。
「あっ、ロゼその本がごちゃごちゃになっちゃってる! わたしがお片づけしてあげるね」
地面に散らばったままの紙切れに気付いたルェルルが、それらを屈んで拾い始めます。
さっきまでローゼソが持っていた本なので、聖典はローゼソの落し物なのだと考えて。
一週間の宿屋生活で、掃除も片付けもルェルルが得意科目と自負するところ。
散らばった聖典の断片が集められて、束ねられれば一冊の本ができあがり。
聖典が再び結合することで、建物の増殖はあっさり停止します。
「よいしょ、よいしょ……でーきたっ! はい、ロゼその本」
ルェルルは聖典をローゼソに渡します。
新しい聖典はページの順序も上下もバラバラで、シャッフルされたエピソードで過去と未来は錯綜。
繋がりと順序の断たれた理解不能の書物として、捏造されてしまいます。
しかも、ルェルルは整頓しているうちに、うっかり集めた紙片の中へ混沌詩篇も混ぜてしまいました。
従って、今の十全と言えない聖典が意志の力を備えた人間を統御するのは難しいでしょう。
ですが、やはり危険物には違いないので誰かに整頓して欲しい所です。
そして……予期せぬ事態は続きます。
先ほど混沌の神が放った体当たりで、聖典に書かれた無数の文字と文章は、少なからず紙の上を動いてしまいました。
混沌の力と共鳴したのか、混沌詩篇の意味を為さない幾つかの誤字も、文字の置換で意味を為します。
“最強だるま銅像の力をもって ゼンブ載せる億の馬車とルェルルが逢い見える”
不要な誤字の集まりが、アナグラムで新しい文意を作り出しました。
混沌詩篇も元は聖典の一部ですから、情報生命体を作る力は他のページと同様。
一つとなった聖典は文意に基づいたものを創り出します……全部を載せる億の数の馬車を!
その中には、大勢の人たちが乗っています。
混沌の神と戦った勇者、ノアルスイユを警備していた神官、ホグワーシ魔法学校の生徒。聖典に創造された人物の全てが。
『私は混沌の神との戦いに破れたはずだが……ここは死後の世界か?』
『えっ? ここどこよ? ホグワーシじゃないみたいだけど』
『大きな街のようですが、住人は誰もイマセンネ?』
古代と近代の風景が同居して、中央には不思議な銅像が飾られる街。
この雑然とした街に連れて来られた人々は、ここがどこなのだろうかと話し合っています。
その人だかりにタタタッと走り寄ったルェルルが、一人の少女の腕を取りました。
「シジりゅ、みーつけたっ! ふふーん、わたし、かくれんぼも得意だよぉ!」
『ニ度と……ニ度と誰にも見つけられない場所に隠れたはずなのに……見つけられちゃった』
捕まえられた少女は困惑した様子でしたが、しばらくすると柔らかい微笑みを浮かべました。
しばらくの間、シジルは熟考するかのように眼を閉じていましたが、たちまち瞼を開いて声を上げます。
聖典と自分たちの行く末に関する第一声を。
『みなさん……まずは聞いて下さい。
ここに集まった私たちと街は、みんな聖典に創られた存在です』
『どういうこと? 創られた存在って? 聖典は神なんだから人間を創ったのも当然のことでしょう?』
訝しんだ誰かがシジルに問い返しますが、その疑問に応えたのは混沌の神でした。
『いや違う! この名も知られぬ混沌の神が断言する! 聖典は数万年前の人類が造った機械なのだ!
そして、君たちは人類の管理のために聖典が特定用途を与えて作った情報体生命!
要するに、役割を終えれば消されてしまう使い捨てのNPCと言っても良い……』
混沌の神の言葉に群衆がどよめきます。
この女装ウェイトレスは何を言ってるんだ、と言う顔をしている者がいました。
NPCって何それ? ヌガー・パン・ショコラの略? という顔をしている者もいました。
直観的に正確な意図を把握する者もいました。
魔法学校の生徒、ミリが混沌の神に言い返します。
『ちょっと待って! 神様の一人だからって、勝手に私たちを不幸っぽい感じにして憐れまないでよ。
それって、とっても余計なお世話。
アンタ神様なんでしょ? それなら他の神様の中に人の想念が集まってできたような存在って知らない?』
『神の中には、人間の描いた概念が力を持った奴もいるぞ』
『それなら、聖典が人の作った機械でも、やっぱり神だって言えるんじゃないの?』
『う〜ん、そうとも言えるかも知れないな』
聖典は改めて神とし定義され、その地位を保ちました。
自分が情報体生命という事実は、全員が啓示のように自然に受け入れます。
砂に水が浸み入るような自然さで。
『それで……今の私たちは何の役割でここにいるの?』
『そこまでは分からん。今は聖典も何やら混乱しているようだからな』
『では、聖典から新しい役割が与えられるまで、私たちは聖典の造った街に住みマショウ。
たくさんの建物だけが在って、誰も住んでいないみたいデスノデ』
『ええ、そうしましょう。聖典が私たちの神なのは今までと変わらない訳だし』
かくして、混沌の神も聖典の創造物との対話を終えます。
聖典の街には大勢の住民が住み始めました……カノンを待ちながら。
『はっ、そう言えば整頓の神じゃないのか!? 一億年と二、三年前の勇者たちを操っていた黒幕は!?
昔から私と思いっきり敵対してる奴と言えば、奴くらいしかいないぞ!』
混沌の神は急にピーンと来たようで、ふわふわの銀色ツインテールを揺らしながら言いました。
ですが、ルェルルはラスボスも黒幕もあまり興味が無いようです。
無人の屋台に並べてある情報体のパンを勝手に食べながら、ただただ不思議そうな顔をするのでした。
「このパン、食べてもお腹がいっぱいにならなぁい!」
378 :
ホイミソ:2012/06/13(水) 23:44:29.89 0
混沌渦巻く神殿で、ホイミソは一人(?)違う世界を見ていました。
雑魚モンスター故に、世界の大いなる秘密の核心に触れる事が禁じられているかのように。
ホイミソの前に「聖典」が現れます。
>連想することによってどんなポジションになっても大丈夫な協力能力にしてしまえる
>どこの能力まで使うかはポジションや話の流れ次第ということで
・・・・・・
>お金が欲しい!
>親?あんなところにモンスターに襲われて困っている村がある!
>○モンスター退治してお礼をもらおう!→主人公側
>○モンスター使って村人皆殺しにして、死体はモンスターに、金が俺が!→敵側
・・・・・・
>周囲を沼地にして相手の機動を奪う、切りを発生させて視界を奪う
>直接的なダメージはないですが、全体におよび相手を弱体化、自分は強化
・・・・・・
>でも万が一、無策で突っ込んできそうな時
>条件揃わないから無駄無駄無駄あああ!と突っ張寝てばかりもいられませんので寝
>臨機応変に弱点を作ったり、攻略アイテムやヒントをさり気に後出し出来る伏線を貼っておくと便利です
・・・・・・
>続きなので突然これだけ見てもなんのこっちゃとなるかもしれませんが、そこはそれ!記にせず突き進む!
>そして今日も見直さずに即投下なので、例のごとく誤字脱字は仕様ですw
「・・・・・・。
ごじだつじは しようです」
ホイミソがつぶやくと「聖典」は消えてしまいました。
辺りの光景はいつのまにか
最強だるま銅像を中心に億の馬車から降り立った乗客達が住まう
雑然とした街並へと変わっています。
>「このパン、食べてもお腹がいっぱいにならなぁい!」
ルェルルの声に気付いたホイミソは言いました。
「ホイミ!?ルェルル、ホイミする!?ねぇ!ホイミ!ホイミする!?」
空腹による体力の衰えはホイミで治せますが、
空腹そのものにはホイミの効果は及ばないので
ホイミでルェルルが満足する事はないでしょう。
しかしその前に、この新しい世界でホイミソの魔法が効果を発揮する保証はありません。
379 :
ローゼソ:2012/06/15(金) 00:04:42.55 0
>「よいしょ、よいしょ……でーきたっ! はい、ロゼその本」
「あ……うん。ありがとう」
ローゼソは困惑しつつも、カノンだった本を受け取ります。
何故か、今までに死んだ(消えた)人も含むNPC達が勢ぞろいします。
>『それで……今の私たちは何の役割でここにいるの?』
>『そこまでは分からん。今は聖典も何やら混乱しているようだからな』
> 『ええ、そうしましょう。聖典が私たちの神なのは今までと変わらない訳だし』
「聖典によると……
クライマックスで死んだ人も含めて有象無象のNPCが勢ぞろいして
ラスボスに立ち向かうのは古からの王道展開。
世界を滅ぼすラスボスに立ち向かうために呼び出されたのかもしれない……」
聖典の知識から推理するローゼソ。
聖典には、古今東西のあらゆる物語が刻まれているのです。
もっとも、今は物語の色んな所がシャッフルされてトンデモ物語が出来上がっているかもしれませんが。
>『はっ、そう言えば整頓の神じゃないのか!? 一億年と二、三年前の勇者たちを操っていた黒幕は!?
昔から私と思いっきり敵対してる奴と言えば、奴くらいしかいないぞ!』
ここで整頓の神黒幕説が浮上しました。
整頓の神といえば、最初にルェルルを送り出した張本人ですが、
良く考えると依頼主=ラスボス、これも王道パターンです。
「ねえ、あなたと整頓の神はいつから敵対してるの?」
『なにせ大昔だからなぁ……はっきりとは思い出せん。
あれ? そういえば何がきっかけだったっけ……』
ローゼソは、バラバラのカノンから世界各国の創世神話の知識を引き出します。
そうすると、どこの国の創世神話にも共通するパターンが見えてきます。
「原初に混沌があって、次に秩序が生まれて世界が形作られた。
分かりやすく言うと、ごちゃごちゃなものが整頓される事によって世界が始まったんだ。
その後の世界の歴史も歴史の転換点にごちゃごちゃになっては整頓される事の繰り返しだ……。
かーくんは整頓の神に毎回負けては性懲りも無く復活して戦いを挑んでるわけだよね?
つまり……かーくんって原初の神なんじゃない?」
そういえば、出オチのネタスレとして始まったこのスレも、奇しくも混沌の神と整頓の神の対立構図からスタートしましたね。
混沌と秩序の対立は、古からの不変のテーマのようです。
『何!? 私が原初の神……!?
そして今までの経験によるとこれだけ世界が激動すればそろそろ整頓の神が黙っていないはずだが……』
380 :
ローゼソ:2012/06/15(金) 00:06:26.09 0
>「ホイミ!?ルェルル、ホイミする!?ねぇ!ホイミ!ホイミする!?」
ホイミソが唱えたホイミは思わぬ効果を発揮します。
ホイミは、”補遺見”というかなり無理のある誤変換がされました。
一行は、どこかの光景を垣間見ます。
それは、大悪魔が整頓の神に取り入ってそそのかしている光景でした。
『実は計画が上手く行かなくて困っているんですよ。
今度こそかーくんに完全勝利をおさめ世界に秩序を……と思っていたのに』
『無駄だ。お前が何度倒しても混沌の神は甦る。
何故なら奴は原初の神。全ては原初の混沌から生まれ出でているからだ。
だから、何度倒しても世界が存続している限り奴は復活する……』
『そこをなんとか!』
『……一つだけ方法はある。
世界を全て滅亡させ何も存在しない無に帰すこと……!
何もない事こそが究極の秩序なのだから!
散らかった部屋を二度と散らからないように片付けるには全ての物を捨ててしまえばいいのだ』
『……なるほど!』
納得してしまう整頓の神。大変です。世界滅亡へのカウントダウンが始まってしまいました。
>>378-379 幻のパンは、どんなに食べてもお腹がいっぱいになりません。
それでも、ルェルルはいつまでも手と口を動かしてパンを食べ続けていました。
ドーナツにチュロス。パンケーキにマフィン。甘いものばかりを選んで。
幼女が無心にパンを食べ続けていると、それに気付いたホイミソが話しかけてきます。
>「ホイミ!?ルェルル、ホイミする!?ねぇ!ホイミ!ホイミする!?」
「うん、ホイミしてっ! お腹が変なのぉ」
幼女の頼みを聞いて、ホイミソが回復魔法を唱えました。
いつもなら、柔らかい光に包まれて体力が回復する場面です。
しかし……今は近くに混沌の神がいるせいなのか、効果もデタラメ。
幼女の瞳には捏造なのか、実際にあったやり取りなのかは不明ですが、大悪魔と整頓の神の会談が映し出されました。
内容からすると、どうやら整頓の神が"世界滅ぼしたい病"にかかったようです。
大悪魔の方は悪魔的な知恵を持っているだけあって、ラスボスなんて狙われるポジションには就かないようでした。
「むずかしいこと言ってるけど、きっと構ってほしいだけだよ。わたし、分かるもん」
世界規模の話は理解できませんでしたが、ルェルルはさも分かったような振りをして、こう言うのでした。
しばらくすると映像の世界も消え、周囲は元の混沌とした街並みを取り戻します。
その雑然とした街並みの中には、馬車を走らせながら叫ぶ御者がいました。
『この中にルェルル様はいらっしゃいますか?』
「はぁい、わたしがルェルルだよぉ! ご用はなぁに?」
ルェルルが応えると、御者は鞭を操って馬車を止めます。
中世風の古めかしい馬車の上には、二匹のメタるスライムが行き先のプレートを掲げていました。
【( ・∀・) ◆帝都ラグリオン・ENDING◆ (・∀・ )】
プレートには“帝都に着けば、ルェルルの冒険は即終了”と暗示されていました。
大悪魔はカノン戦をルェルルの最後の戦いと位置づけ、直後に幼女の旅を終わらせる算段を付けていたのです。
聖典の創造物が結集したのも、ローゼソには決戦の勢ぞろいと映ったようですが、幼女の旅には大団円を迎えた象徴そのもの。
最後の戦いに意気込む混沌の神を他所に、すでにルェルルには終わりが始まっているのでした。
帝都から迎えに来た、この御者とのやり取りから。
『ルェルル様をお迎えする馬車として参りましたので、どうぞお乗りください。
帝都では、祝宴の準備も万端整えたと窺っております』
「しゅくえんってお祭り? んーとぉ……じゃあ、呼ばれたから行ってきまぁす!」
振り返ってみんなに言うと、ルェルルは馬車へ乗り込みます。
御者が鞭を一打ちすると二頭の馬は闊歩を始め、大きな車輪も緩く回り始めました。
世界滅亡の戦いを混沌の神と整頓の神に任せて、お終いの場所を目指す馬車は疾走開始!
ベルウ山脈の洞窟を抜け、街道を西に向かえば帝都はすぐそこです。
ここでうっかり様子見でもしようものなら、馬車は間違いなく終着点に辿り着いてしまうことでしょう。
『いいわ、魔法の練習の成果、見せてやろうじゃない!』
『整頓の神がなんだ! こっちは部屋を散らかす名人じゃあ!』
『整頓の神は混沌の神たる私を何度もてこずらせてきた強敵だ……気を抜くな!』
一同が最後の戦いに向けて準備を進めていると、突然、ルェルルに迎えの馬車が来ました。
>『ルェルル様をお迎えする馬車として参りましたので、どうぞお乗りください。
帝都では、祝宴の準備も万端整えたと窺っております』
>「しゅくえんってお祭り? んーとぉ……じゃあ、呼ばれたから行ってきまぁす!」
「えっ、ちょっと……」
あまりのナチュラルな流れにポカーンとしている間に、馬車は走り始めてしまいました。
幼女誘拐事件発生です。
大悪魔ルェルルが帝都で行っていたのは、もしや祝宴の準備でしょうか。
VIP待遇で幼女を永遠に帝都に閉じ込める作戦かもしれません。
――オカルトSFスペースオペラTRGなりきり。――
〜CAST〜
空中に、不思議な光る文字でなんかエンドロールみたいなものが流れはじめました。
「エンディングかあ。なんだ、じゃあこれでいいのか。
ボク達の冒険はここまでだ。混沌の神、後は任せた!」
ローゼソは納得しているようですが、BADENDルートの気がしてなりません。
ルェルルは世界が滅亡したのも知ったこっちゃなく
閉ざされた帝都で贅沢三昧をして暮らしましたとさ、めでたしめでたし的な。
まあそれはそれで主人公は幸せなのでハッピーエンドな気もしますが。
「……本当にそれでいいの? ホイミ!」
やり遂げたような表情をしているローゼソに、シジルがホイミをかけます。
その影響で、再び、真偽の定かでないマスターシーンが始まります。
『行ってきます! 混沌の神め、あたしの力をとくと見なさい!』
『……行ったか。
絶対回避《ネタフリニキヅカナイ》……因果律を超越する最強の能力を我が手にすれば
私は真のトリックスターとして君臨する事が出来る!!
そのためにはルェルルは早めに退場させて整頓の神との直接対立を避けさせてと……』
「なんてこった!」
「こっちよ! 運転手、すぐルェルルを追って!」
ローゼソは、シジルの手引きでいつぞやのホグワーシ所有の直方体の乗り物に乗り込み、ルェルルを追います。
やがて、前方にルェルルの乗った馬車が見えてきました。
ローゼソは窓から顔を出して叫びます。
「ルゥ、罠だ! 大悪魔がルゥを利用しようとしてる!!
おちおちごはんが食べられない世界にするのに利用しようとしてる!」
その時です。
どどーん。巨大な何かが落ちてきて、馬車の行く手を遮ります。
見れば、落ち物パズルゲームの凸棒のようです。
『金の凸棒 降る降るまわりに
銀の凹棒 降る降るまわりに』
聞き覚えのある歌が聞こえてくる方を見上げれば、長い金髪の女性が虚空に佇んでいます。
人の姿を取った整頓の神です!
彼女は全世界に向けて、世界滅ぼしたい病発症を宣言します。
『世界は何度整頓してもごちゃごちゃに散らかってしまう……。
そこであたしはこの世界を二度と散らからないように整頓することにしました。
簡単な事です、世界の全てを凸棒で埋め立ててしまえばいいのです!』
【( ・∀・) 極限の闘技場・なぞなぞミリオネア】
ルェルルを乗せた馬車がベルウ山脈の洞窟に入り、ローゼソを乗せた直方体の乗り物がそれを追います。
馬車と魔法で動く乗り物で競走? いえ、競走にもなりません
直方体の乗り物は馬車よりも速いので、割とすぐに追いつきました。
極限の闘技場・なぞなぞミリオネアと呼ばれる洞窟内の大空間で。
そして、この場所の天井から凸棒たちが降って来て、馬車の進行を止めます。
幾つもの凸棒を降らせたのは、虚空に浮かんで金髪をなびかせた女神。
彼女は人間たちに向けて言いました。
>『世界は何度整頓してもごちゃごちゃに散らかってしまう……。
>そこであたしはこの世界を二度と散らからないように整頓することにしました。
>簡単な事です、世界の全てを凸棒で埋め立ててしまえばいいのです!』
「わたしも整頓するー! お片づけは、とっても得意だもん!」
整頓の神の宣言を聞いたルェルルは、顔にやる気をみなぎらせて馬車から飛び降ります。
意気は揚々。腕まくりもして準備は万端。
もちろん、整頓の神が敵であるなどいう認識は微塵も持っていません。
ルェルルは近くに落ちている凸棒を持つと、それを洞窟の隅っこに置き始めました。
重い凸棒に足取りはよたよた。
当然ながら置かれた凸棒と凸棒も、ぴったり嵌らずに隙間だらけ。
ですが、ルェルルは無数に降って来る凸棒をひたすらに積み上げ続けます。
385 :
ローゼソ:2012/06/19(火) 01:29:42.76 0
さて、ルェルルは気付くはずもありませんでしたが
実はこの時絶対回避《ネタフリニキヅカナイ》の能力は失われていました。
ローゼソも、鉄壁防御が無くなって紙装甲になっていました。
これらの能力を与えた神と敵対してしまったので、当然といえば当然です。
ルェルルにその気はなくとも、暴走した整頓の神には、ルェルルもすでに敵と映っているのでした。
>「わたしも整頓するー! お片づけは、とっても得意だもん!」
ルェルルはやる気満々ですが、凸棒がひたすら積み上がっていくだけです。
遊びに詳しいルェルルも、テトリスは知らなかったようです。
そこに、混沌の神の声が響き渡ります。
『出たな……整頓の神の究極奥義、”テラ・トリニティ・スライダー”! 略してテトリス!
昔あれに生き埋めにされた事がある! しかし同じ手は通じん! 凸と凹を合わせて平らになるように並べるのだ!』
混沌の神が整頓を呼びかける、なんという自己矛盾でしょう。
しかし、これを乗り越えてこそ真なる混沌の領域に到達する事ができるのかもしれません。
『なんか分からんがやったるぞー!』
『このまま世界が埋まるのを黙って見てるよりはいいわ!』
直方体の乗り物からNPC達が続々と降りたち、凸と凹を並べ始めます。
それらが綺麗に平らになると、思った通り、光の粒となって消えました。
『さすがはあたしのライバル、少しはやるようですね』
整頓の神は、右手にほうき、左手にちりとりを召喚しました。混沌の神が解説します。
『あれは……神器”ホーリィ・キラー”、と”チリソース・リトミック・リアクター”
略してホーキとチリトリ!』
「適当に言ってるっしょ!?」
そんな事を言っている場合ではありません。
整頓の神は、ほうきを武器に、ちりとりを盾として構え、普通に襲い掛かってきました。
ほうきとちりとりとはいえ、神の攻撃。今のルェルルとローゼソにとっては絶対絶命です。
386 :
ローゼソ:2012/06/19(火) 01:31:22.97 0
しかし――こちらにも紙の神がいます。そう、ごちゃごちゃになったカノンです。
ローゼソの持っている聖典が、眩い光を放ちました――。
『汝らは選ばれた……聖典の勇者よ!』
聖典によって、勇者――ラストバトルのメンバーが選ばれます。
“聖典の勇者”――それは古からの様式美に則る事により、最強の力を発揮する存在。
今まで袋を被っていたルェルルは、勇者っぽい服装に。主人公だから勇者という事でしょう。
ローゼソは、実は剣も魔法も殆どできなかったはずですが、イメージを優先して魔法戦士になりました。
ホイミソの頭には、神官っぽい帽子が乗ります。回復魔法の使い手なのでここは普通ですね。
音楽が得意なシジルは吟遊詩人。ラスボス戦には普通入れない職業です。
ウェイトレス姿のカオスはメイド。そのまんまです。
もう一度言います。“聖典の勇者”――古からの様式美に則る事により、最強の力を発揮する存在。
……しかし、今の聖典はごちゃごちゃなので、様式美の基準もずれているのでした。
凸棒と凹棒が降り注ぎその他大勢達がせっせと片付けている中、運命の最終決戦が始まります。
「整頓の神……お前の好きなようにはさせない!!」
まず整頓の神が仕掛けて来たのは“はやぶさ掃き”。すばやいほうき捌きによる2回攻撃です!
混沌の神の呼びかけで、人間たちは一致団結して凹凸棒の整頓作業に入りました。
あちこちに散らばった凹凸棒は、ぴったり重ねられると不思議な力で消滅。
次々に片付く凹凸棒を見ると、ついに整頓の神が本気を出します。
混沌の神に着いて来た人たちが、神のほうきでササッと掃かれ、ちりとりで掬われました。
洞窟の中には、バリエーションも豊富な叫び声が響き渡ります。
『ぐふっ』 『うぼあぁぁ』 『すぺおぺっ』
神業としか思えない整理整頓術で、すぐさま何人かがゴミ箱行き。
空中に浮かぶ大きなゴミ箱の中に閉じ込められて、蓋までされてしまいました。
この絶体絶命の窮地に、聖典が自分の出番とばかりに力を振るいます。
>『汝らは選ばれた……聖典の勇者よ!』
聖典が光を発すると、真っ白に輝く空間の中でルェルルはお着替え。
全身の服が一瞬で弾け飛んで、紋章が描かれた服とマントに装備変更されます。
小さな両手には、鋭い長剣と頑丈な盾も持たされました。
ローゼソの方は魔法戦士の格好になって、自らを鼓舞するように整頓の神へ宣言します。
>「整頓の神……お前の好きなようにはさせない!!」
その隣で、ルェルルは勇者の剣と勇者の盾をポイッと投げ捨てていました。
あまりにも金属製の装備が重たくて。
「おもぉい! こんなのもてないよぉ!」
すかさず、整頓の神の“はやぶさ掃き”が勇者の剣を弾きます。
くるくるんと空中で放物線を描いた剣は、瞬く間にゴミ箱行き。
返す柄は電光石火の二撃目! 最強の盾もが一瞬で整頓されてしまいました。
「あっ、みんな服が新しくなってる!」
ルェルルは新しくなった装備に気付いて、ローゼソの装備やホイミソの帽子を触ります。
さらには自分も新しい服を自慢しようと、くるくる回転して背中のマントを振り回しました。
もちろん、すぐに幼女は目を回して、ふらふらになります。
そして、前後不覚の幼女は、何かを掴みながらバッタリ倒れ込みました。
「目が回るよぉ」
『えっ、あっ!』
ルェルルに服の裾を掴まれたシジルは、体を傾がせて転んでしまいます。
ふらりと倒れる寸前に、混沌の神のスカートを掴んでから。
『おっとっと……ぬわーっ!』
混沌の神も、やっぱりバランスを崩してしまいました。
まるでドミノ倒しのように、混沌の神も前の二人と同じように何かを掴んでから倒れます。
388 :
ローゼソ:2012/06/22(金) 22:27:40.59 0
>「おもぉい! こんなのもてないよぉ!」
ルェルルは 最強の剣と 最強の盾を 投げ捨てた!
「な、なんだってー!?」
一応驚いてはみたもののルェルルの(端から見ると)奇行はすでに慣れっこです。
気を取り直してローゼソは真面目に行動を選択します。
ところで、魔法戦士と言えば紙装甲で真っ先に死ぬのが古来からの様式美です。
具体的には、某龍探訪RPGの2作目の緑色の魔法戦士の事ですが。
それにちなんで、ローゼソはブラックユーモア溢れる技を放ちました。
「奥義、棺桶落とし!」
棺桶の雨が降り注ぎます。
これは、今までの死亡回数に応じて威力が上がっていくという、固定ダメージの超凶悪な奥義です。
しかし……この話の魔法戦士は今まで鉄壁防御で死ぬことが無かったので、殆ど効きません。
ダメージは1ポイント程度でしょうか。
『無駄無駄無駄ァ、今度はこっちの番よ! ゴミ収集!』
ちりとりを横にスライドさせるように投げました。
ブーメランのように敵を一掃して帰ってくる寸法の、一網打尽の全体攻撃です!
ちりとりに回収されればもちろんゴミ箱逝き。整頓の神の攻撃は全てが即死攻撃なのです。
しかも、それは神の早業。相手の行動を認識してからではかわせるわけもありません。
しかし、そこでルェルルのミラクルプレイが炸裂します。
>「目が回るよぉ」
>『えっ、あっ!』
>『おっとっと……ぬわーっ!』
「あべしっ!」
混沌の神に引き倒されるローゼソ。
見事なコンボで、全員転びました。その頭上をちりとりが疾走していきます。
『まさか、あたしのちりとりを、かわした……だと!?
…ってぎゃーっ! 何をやってくれてんの!?』
実はローゼソも転ぶ時に何かを掴んでいました。
いつの間にか、カチカチに凍った何だか分からないものがたくさん転がっています。
そして目の前では、ゴミ箱がひっくりかえっています。
ローゼソは転ぶ際、ゴミ箱のふちに手をかけたのでした。
例によって例のごとく混沌の神が解説します。
「あれは整頓の神が今までに整頓してきた色んなごちゃごちゃを圧縮したものだ……!
解凍してしまえばこっちのもの!
”デンジャラス・シーリング・レンジ”略してデンシレンジを誰か持って無いか!?」
死闘は続き、今までに整頓されたものたちが床に散らばります。
それを見た混沌の神は、圧縮されたものを解凍すれば勝機があると叫びました。
『レンジならここにっ!』
元ノアルスイユ邸の料理長が、謎めいた古代帝国の謎めいた調理器具を掲げて応えます。
たちまち解凍作業が始まり、混沌の神はポイポイと色んな物を不思議な箱の中に投げ入れました。
一方、転倒していたルェルルは頭をさすりながら立ち上がります。
小さな頭にはたんこぶが出来ているので、頭を打ったのは明白。
その影響で、いつも混乱しているような幼女は、もっと混乱したのかも知れません。
起き上がったルェルルが、ささっとローゼソに走り寄り、そのお腹をポカリと殴りつけたのですから!
「おっきい箱なんかぶつけたらダメ! あの子、ロゼその子どもでしょっ!」
ルェルルは、ローゼソが整頓の神を攻撃したことを怒っているようでした。
怒ってる理由を聞き返そうとしても、なにぶん論理的に話すことを苦手とする幼女のこと。
ただただ、だーめーだーめっ!と言いながら、ぽかぽか叩くだけです。
そんな中、混沌の神は混沌的な大砲を担いで、砲身を整頓の神に向けていました。
『圧縮した物を全部混ぜたら出来たぞ! ラスボスバスターがな!
二人(匹)の力を合わせて撃つ武器で、ラスボスだけを回避不可で即死させる最強の魔導砲だ!
さあ、誰か早くラスボスバスターを撃て! 私一人では後ろのスイッチが押せない!』
混沌の神がパーティーメンバーに呼び掛けます。
整頓の神は“ぐぬぬ”と言いながら防御態勢を取っていますが、ラスボスバスターの前には無力!
発射すれば一撃で倒せることでしょう。
残念ながら、ルェルルには戦闘を行う意思自体が無いので、混沌の神の呼びかけには応えません。
何やら、へそを曲げてしまったようで、ぷーぷーとふくれっ面で座っているだけでした。
秩序の神を召喚するよ。
391 :
ローゼソ:2012/06/24(日) 19:58:16.18 0
>「おっきい箱なんかぶつけたらダメ! あの子、ロゼその子どもでしょっ!」
「えっ!? 何を言ってるの!? ……うっ」
ルェルルに訳の分からない事を言われ、頭を抱えて膝をつくローゼソ。
脳裏に、古の記憶が甦ります。ただし、本当かどうかは誰にも分かりません。
ごちゃごちゃの聖典が見せた悪戯かもしれません。
―――――――――
異界の魔王「暇だなあ、いい暇つぶしは無いものか」
暇を持て余した異界の魔王は、様々な世界を映す魔法の四角い箱を切り替えながら、様々な次元を見ていました。
ある世界に、魔王の目が止まります。画面は砂嵐の様になっていて何も映っていません。
異界の魔王「ほう、創造の神に捨てられた”建て逃げ世界”か。これは面白そうだ」
異界の魔王は、その万能の魔力でもって使者を作りました。
整頓の神「何をいたしましょうか、ご主人様」
異界の魔王「そなたを整頓の神と名付ける!
すぐ隣の次元に丁度よいごちゃごちゃがあるようだ。ちょいと整頓して世界を作って参れ!」
――――――――――
392 :
ローゼソ:2012/06/24(日) 19:59:19.08 0
>『圧縮した物を全部混ぜたら出来たぞ! ラスボスバスターがな!
二人(匹)の力を合わせて撃つ武器で、ラスボスだけを回避不可で即死させる最強の魔導砲だ!
さあ、誰か早くラスボスバスターを撃て! 私一人では後ろのスイッチが押せない!』
「はいっ! 結局何もしなかったので最後ぐらいは!」
頭を抱えているローゼソに代わってシジルが立候補し、ラスボスバスターの後ろを持ちます。
ラスボスバスターを向けられ、絶対絶命の整頓の神。しかし全ては、彼女の思う壺でした。
(これで……いい。あたしが死ねば、世界は滅ぶ。そうすれば永遠に散らかる事はない……)
整頓の神が死んでしまえばどうなるでしょうか。
世界は、原初状態の真なるカオスに戻ってしまいます。
カオスとは混沌の他に空隙という訳もあります。空隙とは何もない状態のこと。
つまり、おかしな話ですが世界の全てを整頓するという整頓の神の野望が達成されてしまう事になるのです。
「「発 射 !!」」
混沌の神達がそんな事を知る由もなく、無情にもラスボスバスターが発射されてしまいます。
発射されたのは、極寒の冷気。即死技という事で、エターナルフォースブリザードと同じ原理でしょうか。
その時です。
「ちょっと待ったあああああああああ!!」
ローゼソが両手をひろげて立ちふさがります。
ラスボスバスターが直撃しますが、ローゼソはラスボスではないのでその体をすり抜けていきます。
しかし、ローゼソを透過した事で、ラスボスバスターの効果に変化が現れました。
「ぐ、うわぁあああああああああああああ!!」
当たった瞬間、整頓の神はカチカチに凍り、美しく輝く氷の彫像となります。
そのまま、砕け散る気配はありません。
整頓の神は、死なずに封印されたのでした。
暫し固唾を呑んで整頓の神を見つめる一行。そして、混沌の神が口を開きます。
「勝った……のか!?」
ローゼソが氷の彫像を剣の柄でコンコンと叩きながら答えます。
「まるでアストロン、びくともしないや! ……整頓の神は封印された! 勝ったんだよ!」
シジルが、先程の奇行の理由を尋ねます。
「さっきは何でとめたの?」
「えへへ、ルゥに釣られて混乱しちゃって……」
本当の理由を言う必要は無いのです。それが真実かどうかすら、誰にも分からないのですから。
謎は謎のままで残しておくのもまた一興でしょう。
393 :
ローゼソ:2012/06/24(日) 20:22:14.47 0
「やった……聖典の勇者様バンザーイ!!」
勝利を祝う人々の歓声が響き渡ります。
そんな中、拍手をしながら現れる者がいました。
「いやあ、実にお見事だったよ」
黒髪ストレートのクールビューティ、通称大悪魔です。
真打登場かと思い、ローゼソは身構えます。
「そんなに警戒しないでおくれ。
ラスボスバスターで整頓の神が封印された、という事は彼女がラスボスだったという事さ。
今更ラスボスを座を奪うなんていう無粋な真似はしない。
実は整頓の神を唆したら予想以上に暴走してしまってね。世界が滅びたらどうしようかとヒヤヒヤしたよ。
自分で唆した者の手綱を握れないなんて私もまだまだだ、はっはっは」
「と、いう事はあなたの目的は……世界を滅ぼす事ではない。じゃあ何を狙ってるの?」
「それは極秘だ。なんてったってトリックスターだからな。
謎は全て明らかにすればいいというものではない、そうだろう?」
ローゼソは少し考えてからにっこり笑って頷きます。
「……そうだね!」
大悪魔の後ろから、馬車の大群が現れます。ゼンブ載せる億の馬車です。
「さあさあ、世界を救った勇者達を帝都に招待しよう。その他大勢の者達も全員だ!
予想外に人数が増えたから急ごしらえになるとは思うが出来る限りのもてなしをしよう!」
きっと今度こそ、本当のENDINGです。
危惧していた通り、ほんの少しだけページ数が足りなくなりそうです。
ENDINGだけDISC2とは、また斬新な作りですね。
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1304692443/l50
走る馬車の窓の外を、エンドロールが流れていきます。
―― オカルトSFスペースオペラTRPGなりきり。――
CAST PC
ルェルル=ルュル ルルゥ
ローゼソ
ホイミソ
名も知られぬ混沌の神(カオス)
名も知られぬ整頓の神
深遠に潜む名も知られぬ大悪魔
シェンパイル→イマブレル
アベル=エルロンド
インディー・アヌス・ジョーンズジュニア
名も知られぬ開墾の神
名も知られる味噌煮込み饂飩の神
ライス(NPC)
山田(NPC)
名も知ってる近藤野上
ベンクミ
CAST NPC
シジル
聖典カノン
アニャキン
アショーカ・ニャノ
スライムABCD
領主ロリータ
フロレット
レマ
アデライド
セルシャ
ジルドレ将軍
聖騎士アグラヴェイン
ノアルスイユ=フォン=テルピア
メリー
エイヴィス=ステイルメイト
ティーシャ=エルロンド
ブレナン
サラ
ロソ
ダモア
ライン
デシ
センチ
ミリ
マイクロ
ナノ
ピコ
ミノモンタウロス
戦いも終わって、ルェルルもローゼソや混沌の神と一緒の馬車に乗せられました。
道程の途中で、混沌の神はさっきの戦いで幼女の言っていたことを思い出して、ハッとした顔をします。
『ローゼソ……ローゼソの子ども……ローゼソが作ったもの?
ローゼソってのは、勇者にして異界の魔王という設定が気に入って召喚した下僕じゃないか!
ああっ、なんてこった! 魔王という部分に着目して肝心な部分を見落としていた!
こいつは勇者の属性も持つ! そして勇者ほどラスボスを必要とする奴はいない!』
頭の中で様々なピースが嵌った混沌の神が、ローゼソの手から聖典を取り上げます。
すると、荷台に括りつけられていた氷像が、光の文字列になって消えて行きました。
“ローゼソが聖典で作り出したニ柱目の整頓の神”が。
そう……この整頓の神は、無意識にラスボスを求めるローゼソの心が作り出していたもの。
敵を必要とする心は実際の敵も作ります。聖典が無かった時代でも。
そして、聖典は敵を求める心があれば、幾らでも敵を創り出してくれます。必要とする者の求めに応じて。
勇者ほど敵の存在を渇望するものはいないのですから、聖典と勇者の相性は抜群でした。
それでは、本物の整頓の神は? さあ……今頃どこかの空を飛んでいるかも知れません。
『ああ、全然ダメだ。ラスボスバスターの対象が整頓の神では!
ラスボスなんてのは、それを必要とする奴が作り出した観念に過ぎない。
何度もラスボスに仕立て上げられた私だからこそ分かる。真のラスボスは―――』
混沌の神が、ラスボスバスターの砲身を自分の胸に向けました。
『ラスボスを求めちまう心! こいつがラスボスだぁぁ!!』
馬車の中が光で溢れました。もちろん回避は不能です。
前夜―――帝国の皇帝と居並ぶ廷臣の面前にて、突如として大悪魔ルェルルが現れていました。
後の世に混乱を残すべく。
大悪魔ルェルルは、帝国の皇帝に禅譲を要求すると百の魔術を炸裂させました。
帝都には輝く雷が雨と振り! 城壁の端から端まで業火の柱が駆け抜け! 土塊の巨人が命を持って歩く!
嗚呼、恐ろしい! まるで子供の乱暴な書き殴りをそのまま現実に写したかのよう!
精猛なる聖騎士の剣も、司祭の魔術も、まるで虻を払うように容易く打ち払われました。
もはや廷臣団の面々も怖れ慄き、平伏の他はありません。万歳三唱で皆が新たなる皇帝を迎えました。
幼女万歳!新帝陛下万歳! 歴史上唯一の、幼女による新王朝樹立に幸いあれ!
日が明けて……帝国の臣民は即位の宴を整えて新帝を待っていました。
そして、ついに新しい皇帝を乗せた馬車の一団が現れます。
その先頭の馬車で窓から身を乗り出したルェルルは、賑々しい街の様子を見つめて無邪気に言いました。
「わぁ、お祭り! これなら、いっぱぁい食べられるねー」
この日から、幼女による世界征服と帝国の崩壊が始まります。
【( ・∀・) ◆ENDING◆ (・∀・ )】