吸血大殲 第31章 夜を往くモノ――Night Walker

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このスレは、吸血鬼や狩人、あるいはそれに類する者が闘争を繰り広げる場である。
無論、闘争だけではなく、名無しの諸君の質問も随時受け付けておる。
気軽に質問をして欲しい。
なお、新規の参加者は下記の『吸血大殲闘争者への手引き』でルールに眼を通した上で、
テンプレを用いて自己紹介をせよ。
テンプレは>2を参照するがよい。
 
■『吸血大殲闘争者への手引き』
http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Orion/4504/vampirkrieg.html
 
■専用JBBS(闘争の打ち合わせなどはこちら)←旧板
http://jbbs.shitaraba.com/game/163/vampirkrieg.html
 
■専用ふぁるがいあBBS(雑談・闘争の打ち合わせなどはこちら)←真板
http://fargaia.hokuto.ac/html/vampbattle/index2.html
 
以下は、関連リンクである。
 
■参加者データサイト『吸血大殲 Blood Lust』(左手作成・過去ログも全てこちらにあり)
http://members.tripod.co.jp/humituki5272/taisen/index.html
 
■『闘争記録保管所』(緑川淳司作成・各闘争ごとに整理された記録)
http://members.tripod.co.jp/tajuunin/taisen.html
 
■吸血大殲本家サイト
『From dusk till dawn』
http://www.uranus.dti.ne.jp/~beaker/
 
『戦場には熱い風が吹く』
http://ha7.seikyou.ne.jp/home/hagane/index.html
 
■前スレ
吸血大殲30章 薄暮の月/黎明の十字軍
http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1024844742/
 
■太陽板の質問スレ
吸血大殲/陰 其の15 混沌屋敷『眩桃館』地下 〜大殲資料の間〜 
http://www.alfheim.jp/~narikiri/narikiri/test/read.cgi?bbs=TheSun&key=1021881487
 
■吸血大殲専用チャットルーム入り口
http://www6.tkcity.net/~zap_zero/
 
■感想スレッド(闘争の感想などはここに)
真・吸血大殲感想スレッド
http://fargaia.hokuto.ac/html/test/read.cgi?bbs=vampbattle&key=1019409630
出典 :
名前 :
年齢 :
性別 :
職業 :
趣味 :
恋人の有無 :
好きな異性のタイプ :
好きな食べ物 :
最近気になること :
一番苦手なもの :
得意な技 :
一番の決めゼリフ :
将来の夢 :
ここの住人として一言 :
ここの仲間たちに一言 :
ここの名無しに一言 :
3以上、自作自演でした。:02/06/30 12:04
どりる吸尻ちんちん
4黒衣 ◆KokuiN9w :02/06/30 17:11
黒衣。それは守護者。
帝都イシィカルリシア・ハイエンドの治安を脅かす者全てと戦う守護者。

黒衣。それは執行者。
彼等に捕虜という概念は無い。彼等に拘束という概念は無い。
全ての罪人に等しく罰を与える。それが王都の最高刑執行者。

黒衣。それは怪物。
人は、怪物には立ち向かえない。それがこの世の決まり。
そして――――

          怪物は、怪物同士殺し合う。


黒衣は声を捨てた。
意思を捨てた。
過去を捨てた。
自分を捨てた。

最後に残ったのは絶対的な力のみ。

黒衣が意味するものは死だ。彼等はどこにでもいるし、どこにでも来る。
当たり前の話だ。死はどこにでもあるし、どこにでも訪れるのだから。



                  ――――――アイネスト=マッジオ「黒衣」より
5黒衣 ◆KokuiN9w :02/06/30 17:12
黒衣詳細報告

カテゴリー : A
出典 : エンジェルハウリング
名前 : 黒衣
年齢 : 不明
性別 : 不明
職業 : 黒衣
趣味 : 不明
恋人の有無 : 不明
好きな異性のタイプ : 黒衣
好きな食べ物 : 不明
最近気になること : 不明
一番苦手なもの : 不明
得意な技 : 不明
一番の決めゼリフ : 黒衣は言葉を持たないため、決めゼリフも持たない。
将来の夢 : 不明
ここの住人として一言 : ……。
ここの仲間たちに一言 : ……。
ここの名無しに一言 : ……。
6ルーク ◆ROOK2YqU :02/06/30 22:35
ルークvsジェダダスターツ
 
――詰まる所は、全て貧乏が悪いのである。

〈青い地球〉などという70年代特撮風味な組織からの依頼を受けなくちゃいけないのも、
しかもその組織から実に胡散臭いカルト臭が漂っているのに依頼を断れないのも、
更に依頼内容が『密かに来訪している宇宙人の暗殺』だったりするのに嫌な顔一つ出来ないことも……
 
全て貧乏が悪いのである。
 
 
最初は性質の悪いジョークだと思ったんだけどなあ……。
 
眼下に雑然とした町並みを望みながら、ルークはそんなことを考える。
背後では二体のポーンが『仕掛け』の敷設に勤しんでいる。 
その音も銀行の預金残高も間違いようのない現実であり……。 
 
高層ビルの屋上、風の渡る音を残して、全ての音が消える。 
ルークは遥か遠くに目標――ジュダダスターツと呼称される宇宙人――を確認。
そして、この日、この時を襲撃時間に定めた『理由』を視界の隅に捉えると、ポーン08を従えて走り出した。
ルークvsジェダダスターツ

グロウダイン!
そは重力地獄のふちより這い出る悪鬼の種族!
不死身の金属人間によって構成される修羅の軍団!
銀河連邦に対する最大の脅威、宇宙を蝕むガン細胞―――グロウダイン帝国!

                (BY 銀河連邦大佐 カーツ)


現在地球上に存在するグロウダインの数は、僅か9名。
その内の一人、第三皇女の側居役にして高速御座砲艦『突撃丸』艦長であるジェダダスターツは、
両眼を固く閉じたままあらぬ方向へ不意に向き直った。

一切無駄の無い細身の体格。
飾り気の無い軍服の下には、鋼線を束ねて作ったような肉体が見て取れる。
そして手にするは、1.2mにも及ぶ大太刀。

額の第三眼が赤く輝き、大太刀を手にした左手に僅かに緊張が走る。
危険過ぎる「何か」が近付いてきているのを、彼は既に察知していたのだ。
8ルーク ◆ROOK2YqU :02/06/30 22:38
ルークvsジェダダスターツ
 
ジェダダスターツの身体が僅かに反応したことをルークはポーン08の視覚を通して確認する。
彼我の距離約300m、全速で詰めれば一秒とかからない。
しかしルーク自身は速度を緩めると、ポーン08を先行させた。
 
先行するポーン08は更に速度を上げ、複雑な軌道を描きながら多弾頭と爆薬付き、二種類のフレシェットを乱射。
あっという間にジェダダスターツの周囲の空間が二の腕ほどの長さの針で埋まる。
 
フレシェットで仕留められれば、それで良し。
仕留められないときは爆薬付きフレシェットを起爆、その爆煙にまぎれて単分子フィラメントの一刀で仕留める。
 
前方150mの地点で飛び回るポーン08と感覚を共有しながら、
万が一の可能性に備えて高層ビル屋上に残したポーン01に『仕掛け』を起動させる
ルークvsジェダダスターツ

ジェダダスターツは即座に片膝をついた。
我流の居合術の構えである――――ジェダダスターツは次元刀の達人なのだ。
左手は太刀の鯉口を抑え、右手はその柄を握っている。
額の第三眼に意識を集中し、全方位を同時に見据える。
―――全身の攻撃紋に、薄く、赤い光が灯った。
その光は急速に密度を増し、金色に、虹色に色を変えながらジェダダスターツの右腕に集中。
太刀の柄を伝って鞘の中に滑りこむ。

乱射された針が次々にジェダダスターツの体に突き刺さると思われた瞬間、
ヂン、と音を立て、最初の針が空中に静止していた。
針の先端から飛んだ虹色の火花が、空中に溶ける。

ジェダダスターツは指一本動かしていない。
動いたのは刀のみ。
大太刀――――次元刀の刃が、『鞘から抜かれることなく』基準界面下を走り、
フレシェット弾頭を正確に受け止めたのだ。
攻撃紋を通じて次元振動を刃に送りこむことのできるグロウダインならではの技である。
付け加えて言うならば、ジェダダスターツ以上の精度で次元刀を操ることのできる者は、
王族たるギルガガガントス家の者にもいない。

マイクロセカンド単位で銃弾を見切り、無限にゼロに近い時間で超光速の刃を滑らせる
凄絶な剣技の前に、フレシェット弾頭は一つ残らず受け止め、落されていった。
10ルーク ◆ROOK2YqU :02/06/30 22:39
ルークvsジェダダスターツ 
 
優に千を超えるフレシェットの嵐をジェダダスーツはルークが全く予想しなかった方法でしのぎきって見せた。
反射的に叩き落された爆薬付きフレシェットを全て起爆し、既に攻撃動作に入っていたポーン08に攻撃中止命令を下す。
地面に突き立った幾本かのフレシェットを残して、残り全ての爆薬付きフレシェットが爆風を撒き散らした。
単分子フィラメントのアンカーを近くのビルに引っかけるとポーン08はニュートン力学に喧嘩を売るような軌道で退避。
爆煙のほんの僅かな隙間、ポーン08の視界からジェダダスターツの姿が遠ざかっていく。
 
ルークは目標の健在を確認すると、ポーン08の操作を破棄。
ポーン01に『仕掛け』――リニアレールガン――による目標の狙撃を命令する。
高層ビルの屋上丸々一面を占拠した巨大なレールガンは、驚くほど滑らかな動作でジェダダスターツをその砲口に捉えた。
発電機が咆哮をあげ、銃身に並んだ電磁石が電気を炸薬たる磁気に変換していく。
次の瞬間、全体の巨大さに比べるとあまりにも小さな弾丸が光と見まごう速度でジェダダスターツを切り裂かんと飛翔する。
ルークvsジェダダスターツ

死をもたらすフレシェット弾頭の雨の中、ジェダダスターツは奇妙な安堵を感じていた。
極限まで近付いた死から刃一枚、分子一つ分の間合いを隔てたこの場所こそ、
ジェダダスターツの本来の立ち位置―――おのが命を最も強く感じる位置なのである。
非常を日常とし、緊張の中にくつろぎ、死の中に生を見出す。
矛盾を矛盾なく自己の内に納め、ジェダダスターツは戦場と相対する。


針とは比較にならないスピードで飛来する小さな弾丸に意識が向いた。
眼で、光学的視覚をもって関知しているわけではない。
第三眼のハイパーウェーブ知覚によって射撃に先立つ予波を読み取っているからこそ、
可能な芸当である。

かわす事は―――出来ない。
弾丸の運動エネルギーを炸裂させては、周囲の被害が大きくなり過ぎる。
それは、ジェダダスターツ達、現在地球に居住しているグロウダインの望むところでは、無い。

斬る事は―――雑作無い。
無害になる大きさまで弾丸自体を切り刻んでしまえば―――いや、駄目か。
敵の姿が未だ見えないこの状況で弾丸に集中してしまうのは、万が一の危険がある。

マイクロセカンド単位の思考の後で、ジェダダスターツは太刀を『鞘の内で』振るう。
弾丸を包む虹色の光芒。
運動エネルギーの全てを吸収された弾丸が地に落ちるのを確認しながら、
体の内に引きこまれた余剰エネルギーを、轟音と共に爆風と熱の形で放出した。


敵の姿は、いまだ見えない
12ルーク ◆ROOK2YqU :02/06/30 22:40
ルークvsジェダダスターツ 
 
着弾予測時間のカウントダウンがゼロになった瞬間、センサーが目標内部に高エネルギー反応を検出する。
間髪を入れず先ほどの爆風がそよ風にしか思えないほどの激烈な爆発。
高エネルギー反応検出と爆音のまでの刹那の時間、確かにペレットが地面に堕ちる音を聞いた気がした。
熱と風とつぶての嵐の中、神をも恐れぬ速度で地を這う一匹の毒虫。
 
宇宙人……グロウダインというらしい……はエネルギーの吸収と放出を自在に操ることが出来るらしい。
やたらと秘密主義を気取る依頼人からようやくのことで聞きだした貴重な情報。
  
そこで罠を仕掛けた。
わざと起爆しなかった爆薬、誤爆防止のためのセキュリティもこの爆風には耐えられまい。
案の定目標の周囲で複数の爆発音。
そして、半ばまで地面に突き刺さっていたフレシェットは実に効率よく衝撃をアスファルトに伝えていく。
それまでと違った振動を感じた。
引きちぎられる苦悶に大地が身をよじっている。
目標の足元と地下鉄の線路を隔てる蓋は今無理やりにこじ開けられようとしている。
 
急ごう、ここから先は時間が少ない。 
七つのプロテクトを全て外す。
ルークvsジェダダスターツ

自らが放った爆風に対して体を安定させようと、自重を増加させたのが仇になった。
道路をぶち抜いて地下鉄の線路に着地したジェダダスターツの頭上から、
生き埋めにしようとする意志を持つかのごとく、大量のアスファルトと土砂が落ちてくる。

ジェダダスターツに動揺は無い。

再度自らの内に貯めこんでいたエネルギーを放出。
爆風が落下物を吹き飛ばし、もうもうとした土煙のみが後に残る。
まわりに何があるかもわからない状況の中、ジェダダスターツは動かない。

(さて……)

そろそろ『本命』が来るころか。
だが、ジェダダスターツには、気配に対して向き直る必要もない。
360度全方位からの攻撃に対応するべく練り上げられた次元刀殺法。
そのエーテルを切り裂く無形の刃に、斬れないものは存在しない。

次元振動と共鳴して鈴のような音を立てていた首飾りの震えが、
ゆっくりと小さくなっていく……
14ルーク ◆ROOK2YqU :02/06/30 22:42
ルークvsジェダダスターツ 

時間が粘り気を帯びていく。
感覚がこれまでとは比較にならないほど鋭くなる。
気流を読み、視界に移る全ての物体の軌道を読み、ジェダダスターツが線路に落ちるまでの時間を読む。
両攻撃肢の単分子フィラメントのアンカーを引き出し、目標までの最短ルートの障害物を微塵に刻んだ。
 
残り僅か数十m……予定外の爆音が響いた。
ピコセカンドの逡巡。
もう目の前にはぽっかりと開く魔女の釜。
鈴の音、鈴の音。 
そして―――何よりも濃厚に香る死の匂い。
理性は止めろとどなり、本能はもう止められないと叫ぶ。
 
――覚悟は決まった。
後脚に力を込めて最後の跳躍。
計算しつくした気流にのり、計算しつくした軌道で突入する。

右に左に攻撃肢を振るいながら、死と言う網を編み上げる。
予定切断面、131072。
ルークvsジェダダスターツ

単分子フィラメントのような攻撃は、先ほどの針のように受けるわけにはいかない。
点ではなく線――――時間的に連続した攻撃だからだ。
固体弾のように「一瞬」で処理するのは不可能なのだ。

そこで―――

単分子フィラメントの軌道上に虹色の光が閃き、空間の一部を歪めた。
歪みに捕らえられ方向を逸らされた極細の鞭が地を抉る。
空間の歪みそのものは1秒もしないうちに消えてしまうので、その後更に攻撃が続くようであれば
更に同じ場所に歪みを継ぎ足す。

破壊の中心にあるジェダダスターツの姿は今、あたかも虹色の繭に包まれているようだ。
全方位から迫る死の線は繭の表面に弾かれ、逸れた先にある障害物を無音で切り刻む。
無音で大量の塵を発生させるとともに、塵を構成する微粒子を更に切り刻む単分子フィラメントの嵐。
その中心にあって、ジェダダスターツは未だかまえを崩さない。
攻撃紋の光だけが、その体表面を目まぐるしく走っている。
鋼の肉体から遊離した戦闘意志が、その表面を駆け巡っているようだ。

首飾り―――妹の残した竜角(グロウダインの第三眼の奥にある器官)――の震えが大きくなる。
ジェダダスターツは極限の破壊の中心で、久しぶりに聞くその音に耳をすませる。
われながら馬鹿馬鹿しいことだが―――ジェダダスターツにはその音が、妹の笑い声のように思えるのだ。
闘争のさなかに考えることではあるまい。
そうは思うのだが……ジェダダスターツには浮かび上がってくる微笑みを止める気にはなれなかった。
16ルーク ◆ROOK2YqU :02/06/30 22:43
ルークvsジェダダスターツ

荒れ狂う単分子フィラメントの嵐の中、最初に見えたのは光る繭だった。
ホンの一瞬全てを忘れて綺麗だと思った……不覚。
恐らくはあの繭に触れれば自分もただでは済むまい、ルークは頭の隅でそんなことを考える。
相手戦力を甘く見過ぎた、この劣勢は自分の判断ミスだ。
だが、だがまだ手はある、帰るべき場所がある以上、まだ負けるわけにはいかない。
 
物理の教科書に載っていそうな理想的な放物線を描いて落下するポーン08。
しかし、突如として再起動。
衛星接続用の常温レーザープラグに火を灯し、遥か高みに浮かぶ『理由』――某国の攻撃衛星――へのアタックを開始する。
力任せに攻性防壁をブチ破ると、無防備な機能を次々に掌握していく。
こんな手荒い方法ではあっという間に地上の管制に感づかれるのは目に見えている……だが必要なのはその僅かな時間だ。
今はとにかく時間が惜しい。
目標の座標と攻撃命令を送りつけると、衛星の通信ポートを封鎖。
 
自分は例え巻き込まれても、一撃だけなら耐え切ることが出来る。
半ば以上捨て身の作戦。
 
曇り気味だった空に真円の穴が開いた。
目に映ることなく、避けること叶わぬ光の奔流、地球人類の持ちうる最も疾いその砲弾。
――衛星軌道よりのレーザー砲撃。
光の圧力が全てを白く染める。
地球準人類の持ちうる最速の武器、衛星よりのレーザー攻撃。
巨大な光の柱が衛星軌道から地表まで落ちてくる刹那の時間。
ジェダダスターツは妹の――――ルナスステニアの最後の言葉を思い出す。

(ねぇ、兄さま、お星様がたくさん降ってきます)
(まるで、夜空が丸ごと落ちてくるみたい。いえ―――私が天に昇っていくみたい。
 すいこまれそう。ねぇ、兄さま)

―――妹よ。
おまえとあの日見たのも、このように落ちてくる空だったか。
この空のむこうにひと足先に逝ったお前は、今も笑いながら俺を見ているのか。

……だが。
感傷を意識の片隅に押しこめて、ジェダダスターツは抜刀した。
この砲撃の彼方にいるのは、微笑む妹ではない。ただの敵である。

『鋭ヤッ!』

太刀の一振りで作りだされた、巨大な歪みの場。
歪みにベクトルを捻じ曲げられた光の柱は再び天に昇り、自らを生み出した衛星を一片も残さず焼き尽くした。
18ルーク ◆ROOK2YqU :02/06/30 22:44
ルークvsジェダダスターツ

光の槍は大地に突き立つことなく、空へと還った。
視界の端、攻撃衛星の爆発と大気圏に突入する破片が見える。
 
今ルークが感じているのは、強力な目標に対する恐怖でもなければ、依頼を失敗した悔しさでもない。
恐怖を抱くにはあまりにも戦力差があったし、悔やむほど乗り気な依頼ではなかった。
地球上に敵う者はいないとまで思った自分を子供扱いすることのできる存在がいる……それはむしろ愉快な事だった。
敵としてでなければ、もう一度ジェダダスターツに会ってみたいとさえ思う。

自分はコテンパンにのされて鼻血も出ないのに、相手は傷一つついていない。
策は全て破れた、いや、一つだけ残っている。
 
即ち―――――――三十六計逃げるに如かず
 
慣性制御で重力軽減。
フィラメントを振り回して重心を移動。
わざと体勢を崩すと、空気の断層に脚を引っかけるようにして跳躍。
手近なビルに単分子フィラメントのアンカーを掛け、振り子の要領でベクトルを変更する。
ポーン01、ポーン08、共に撤収命令を出すと、自身も一散に逃げ出した。
視界の中みるみるうちに道路に開いた穴が小さくなっていく。

リニアレールガンは置いていく事になるのは実に痛い――これで赤字は確定――だが、命には代えられない。
50Gを軽々と越える加速度で、巨大昆虫たちが疾走する。 
もしも、視認することが出来たなら、その姿はどこか楽しげに見えただろう。
ルークvsジェダダスターツ

手札が尽きたら迷わず逃走か。思いきりはいい。ついでに逃げ足は、こちらよりも確実に速いらしい。
相手の態度に賛嘆しながら、ジェダダスターツは残身をといた。

名誉と体面をことに重んじるグロウダインの価値観の中にあって、
逃走する相手を賞賛するということは異質な思考である。
変物であるジェダダスターツの導き出した答えは、
それでもきちんと彼なりの論理に従った答えではあった。

軟鋼がたわみながらよく外力に耐えるように、この敵はときに敗走し、
多くを失いながらも、それでも最後まで生き延びるだろう。

それは、自分にはない『しなやかな強さ』だ、とジェダダスターツは思う。
またそれは、妹にはなかった強さだ、とジェダダスターツは思う。

一度の跳躍で道路の上に飛びあがり、名も知れぬ敵が去っていった方角を見る。
あの敵とはまた会うことがあるかも知れない。
この狭い惑星ならば、その可能性は高いといっていいだろう。
次に会う時は、ジェダダスターツは皇女の側で彼女を守る為に戦っているかもしれない。

皇女の強さもまた、しなやかな強さだ。
ならばあるいはこの敵と、相通じるものがあるかもしれない。

一瞬だけ、竜角が強く震える。
自分の埒も無い想像を窘められたように思って、ジェダダスターツは静かに微笑む。

着衣の下でいまだちりちりと震えている竜角を撫でながら、
ジェダダスターツはあの世に笑う妹を想い、泣きながら生きる皇女を想う。
ジェダダスターツの中では、それは矛盾のないひとつの感情だ。

彼はただ微笑みながら、ふたりの妹を想う。
20エピローグ:02/06/30 22:46
ルークvsジェダダスターツ

道行く人々は皆前を向き、何かに急き立てられるように歩く。
だから、街の片隅、電話ボックスの中、帽子を目深に被って額の絆創膏を隠して電話する少女になど見向きもしない。
少女が話している相手は携帯電話なのか、テレカの度数は見る見る減っていく。
新品のテレカを用意しながら、少女――イーヴァ――は受話器に向かって話しかける。
 
「……はい、残念ですがおっしゃるとおりご依頼は完遂できませんでした」
「……ええ、言い訳するつもりはありません、すべてはわたしたちの力不足のせいです」
「……はい……はい……ええ、では、またのご依頼を心よりお待ちしています」
 
相手が電話を切ったことをしっかり確認した後受話器を叩きつけた。
イーヴァにとってそこにあるのはただの公衆電話ではない。
右手に報酬を左手に理不尽な要求を携えた告死天使。
毎日のように胃(があればの話だが)に穴が空く様なへヴィな交渉を強要し続けた不倶戴天の仇敵だ。
全てが終わった今、例え八つ当たりにしても罵倒してやらなければ気がすまなかった。
息を大きく吸い込み、頭の中に様々な罵詈雑言が駆け巡る。
しかし、出てきたのは実にシンプルな一言。
「ばか―――――――――――!」
 
そんな様子を眼下に映しながら、360°広がる視界でルークは夜空を眺める。
望んでなった身体ではないが、こんな時は便利だ。
思う。
ネオンに霞む星たちのどれか一つがあの強靭極まりない生命を育んだ太陽なのだろうか。
一言交わすことも叶わなかったが、彼らも故郷を懐かしく思うのだろうか……と。
 
見上げるもののない都会の空はいつもネオンで曇っている。
しかし、ルークの目に映るのは今にも落ちてきそうな満天の星空だ。
ルークvsジェダダスターツ

地球上に住まうグロウダインの居住地、木造アパート『ハッピーハイツ郷田荘』に帰ってきたジェダダスターツを出迎えたのは、
突撃丸の航海師ゼララステラだった。

「毎日の物見、御苦労様です艦長さま。……少々、埃っぽいのでは?」

「……立ち合って来た」

「……まぁ!」

普段発せられる事の無いジェダダスターツの低い声に、ゼララスタラの顔がぱっと輝いた。

「それでは艦長さまが手ずから哀れでもろくて弱々しい地球の方をぶぅち殺しておしまいになったのですね!
 ああ……そのかたはやはり頭から股間まで真っ二つにされて綺麗な断面で自分が何時死んだのかもよくわからないヒラキにされてしまったのかしら、
 それともやはりつま先から頭まで細かく細かく微塵切りにされてまっかな血だか肉だかわからないぐろげちょの塊になったのかしら、
 それとも首を浅く斬られてだくだくと逆流する血が肺に入りこんで塩っぽい味に混乱しているうちに窒息してしまったのかしら、
 それともお腹を切られて生暖かい血と粘液と白っぽかったりピンク色っぽかったりの内臓を地面に撒き散らして
 それでもなかなか死ねずに恐怖と絶望にまみれて発狂してよだれと鼻汁とその他もろもろのアレを垂れ流すことになったのかしら、
 
 
 ――――ああ、なんて……」

そこまでいうと、ゼララステラは額に手の甲をあて、よよよ、とよろめいた。
……かと思うと、口を耳まで裂けるほどに開き、ケタケタケタケタ、と笑った。

「なんて面白いんでしょう!」

ジェダダスターツは無言のままわずかに首を横にふった。
それを受けたゼララステラの表情は、先ほどまでの狂態が嘘だったかのように急速に元に戻る。

「なあんだ。つまりませんこと」

唇を尖らせたゼララステラは、すたすたとその場を立ち去ろうとして、ふと彼女は違和感に気付き振り向いた。
そうして、しげしげとジェダダスターツの顔を眺めなおす。

「あら、めずらしい」

普段は無表情なジェダダスターツの黒い顔に浮かぶ、
ほんのわずかな歪みに気付いたゼララステラは、ほほほ・・・・・・と艶然に笑った。

「笑っていらっしゃるのね、艦長さま」
22イーヴァ ◆OCEg7EVA :02/06/30 22:59
あ〜! また赤字じゃないのよ……。
どうするのよ……ホントに今月は余裕ないんだから。
…………銀行強盗って儲かるかなあ。
 
ROOK-RES(001):リスクが大きいだけだと思うけど? EOS
 
もう、誰のせいだと思ってるのっ!
 
ROOK-RES(002):……ごめん。 EOS
 
という訳で、レス番まとめ
 
ルークvsジェダダスターツ
青い地球は誰のもの?
 
>6 >7 >8 >9 >10 >11 >12 >13 
>14 >15 >16 >17 >18 >19 >20 >21 
 
感想などがあったら、こちらのスレに。
http://fargaia.hokuto.ac/html/test/read.cgi?bbs=vampbattle&key=1019409630
 
よろしくお願いしま〜す。
我の力を見よ!
ええい!
もう、一度だ!!
妙な気配がするから様子を見に来たのだけれど・・・
こんなに面白そうな場所があったなんてね。
新しい遊び場所にちょうどいいわ。

カテゴリ?
わたしはサキュバス。判るでしょう?Cよ。
テンプレートね。

出典 : ヴァンパイアシリーズ(カプコン・対戦格闘)
名前 : モリガン・アーンスランド
年齢 : 1678年生まれよ。
性別 : サキュバスをそう呼ぶなら女ね。
職業 : アーンスランド家当主って職業かしらね?
趣味 : 夜の散歩ね。
恋人の有無 : ・・・欲しいと思った事は無いわ。
好きな異性のタイプ : 美味しそうな人間なら性別は気にしないけど。
好きな食べ物 : 人間の精気よ。
最近気になること : あえて上げるならデミトリの動向、かしら。
一番苦手なもの : 退屈。
得意な技 : 基本は下僕の蝙蝠+魔力を駆使した格闘ね。
一番の決めゼリフ : 「永遠の愛なんて要らないわ。この一瞬だけ高まればいいの」
将来の夢 : 今が全てよ。
ここの住人として一言 : まあ、宜しくね。
ここの仲間たちに一言 : 暇潰しに付き合って頂戴。勿論お礼はするわよ?(艶笑
ここの名無しに一言 : 貴方もわたしと遊ばない?
27八雲辰人:02/07/01 23:09
よお、ここはトンデモ無さそうなのがうじゃうじゃしてやがるな。
これなら・・・俺に憑いたアイツも退屈しなさそうだぜ。

俺は八雲辰人。
闇を狩る闇、門を壊す者、無貌の神を宿す者だ。
まぁ、何と言うか、化物狩りみたいなこともやってるんで、そのついでに参戦していくぜ。
もっぱら、俺の中に居るヤツの退屈凌ぎだがな。

まぁ、俺の原典は発売したばっかなんで、ネタバレ防止の為にテンプレその他の
詳細はまた後日って事で。
じゃ、また来るぜ。
28名無しクルースニク:02/07/02 04:27
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>前スレ72
 
 助けなければ――という使命感を塗り潰して、憎悪が吹き上がった。
 殺意の胎芽が、一気に芽吹いた。
 虚ろな思考の中で湧き上がるのは、阿頼耶を越えて末那へと湧き上がった
純然たる殺害意思だ。
 グロックを投げ捨ててゴルフバッグに手を伸ばし、勢いを殺さずに跳躍。
 狭窄する視野の中、血中を大量に駆け巡るアドレナリンが、身体能力を四倍に跳ね上げる。
 狭い視界。敵。
 殺せ――と全身が叫ぶ。
 
 0.1秒でヴァルダレクと少年の間に割り込み、0.01秒でストックを横っ面にブチ当てる。
閃く様に舞い戻ったマズルが、0.001秒でその口内に叩き込まれた。
 漆黒の瞳が、有りっ丈の殺意を込めて吸血鬼を見据える。
 吸血鬼に反応は無い。狂った瞳は、自分を見ていない。
 ヴラドの直系。最悪のヴァンパイア。ヨーロッパの魔王。
 コイツが。
 コイツが――シスターを。二人を。
 
 苛付いた。
 俺を見ろ。
 自分のやった事を、思い出せ。
 トリガー。音高く弾ける銃声と、跳ね上がるシェル。
 コッキングしたチューブ内には、スラッグ弾が未だ眠っている。
 逡巡は微塵も無かった。
 
 ――死に晒せ――死ねよテメエは。
 
 トリガー。
29樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/02 20:32
スプリガンvs樟賈寶 導入1
 
「ったく、くだらねェ……」
 
 武装した戦闘員を片っ端から挽肉に、肉塊に変えながら、樟賈寶は苛立っていた。
 
 呉榮成からの依頼…… とある遺跡から出土したプレートを手に入れて欲しいと。
 その謎を解き明かせば現代のコンピューターを遥かに凌駕する物が作れるって話だ。
 だからって何故、金剛六臂がわざわざ出張る必要が有る?
 
 曲がり角から飛び出した戦闘員が三人、素早い動きで散開しつつ射撃をしてくる。
 奇襲のつもりだろうが、奴等の動きは数分前から対人レーダーが捉えている。
 一人がM3ショットガン、二人がG3ライフル、散弾なんざ命中しても痛くも無い。
 アサルトライフルの高速弾を鋼鉄の両腕で弾き返して突撃、G3ライフルの射手に
 正面から体当たりを食らわせて壁に叩きつける、プレスハムの一丁上がりだ。
 
 もう一人のG3の射手……ヒゲの大男は際立った動きで後退しつつ、更に銃撃を
 加えてくる。 だがもう一人の男は硬直したようにその場を動けず、無茶苦茶に
 発砲してくるだけだった。
 
「バカもん、下がれ!!」
 
 ヒゲの男の怒声が響いた時には左腕が一閃し、ショットガンの男の頭はスイカの
 様に割れて床に散らばっていた。 確かにこの戦闘員アーカムとか言う妙な組織が
 張り付いていたが、何の事は無い、ものの5分でこの有様だ。
 
30樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/02 20:33
スプリガンvs樟賈寶 導入2
>29

 保管庫にたどり着き、テーブルの上から奇妙な金属製のプレートを取り上げる。
 
「そこのおっさん、まだ殺る気かい?」
 
 気配は完全に殺している、大したものだが電子の目から逃れる事は出来ない。
 それともう一人、この部屋に向って人間離れしたスピードで近づいてくる奴も。
 
 棚の影からG3ライフルを構えた男が現れた…… 。
 
「そいつを……渡す訳にはいかねえんだよ」
 
 ヒゲの男が言い放つ。
 
「けっ……そんなに大切なら、受け取んな!」
 
 何の予備動作も無く無造作に、プレートを男に向って投げつける。
 だが男にそのプレートが飛来するのが見えただろうか?
 
 1kgに満たないプレート、しかしそれを受けた身体は壁際まで吹っ飛んでいた。
 プレートはG3ライフルを叩き折り、胸にめり込んで肋骨をへし折り、それは肺に
 突き刺さる。
 
「おうっと、悪りーな……加減するのを忘れちまって」
 
 左手でプレートを拾い上げ、右手で男の……図太い胴体を一掴みにすると軽々と
 持ち上げる。 そこに、この場には場違いな程若い男……少年が息を切らして現れた。
 
「優…… 逃げろ……」
 
 男が声を絞り出すが、ゴボゴボと吐き出す鮮血でうまく言葉にならない。
 
「坊主、言う通りにした方が身の為だゼェ…… こうならないうちにナァ」
 
 右手を握り締めると、ボキボキと骨の潰れる心地良い音と共に男の胴体が細くなり、
 断末魔の悲鳴と共に口から、尻から、あらゆる穴から血と臓物が押し出され……
 鈍い音がしたと思うと、完全に二つにちぎれて床に転がった。
31導入:02/07/02 20:57
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

―某市郊外―

黒貴族の大吸血鬼ギルバルスは、司教府の召喚を受け東へと旅する途中だった。
「腹が減ったな…。路銀はあるが、先は長ぇから節約したい所だぜ…。
 今日は久々に人里だ新鮮なトマトジュースとしゃれ込むか」
娼館で女を買い、吸った分だけ礼金を弾むか。
はたまた不幸な歩行者に任せるか。
そんなことを考えつつ、魔は闇を駆ける。
 
森が終わり、木々を抜けた時ふと、目と目が合った。
 
―――こいつ、気に食わねぇ。今日はこいつだ。

眼帯に覆われていない右目で黒ずくめの青年を見る。

「よう、いい夜だなチンピラ。
 ――――トマトジュース、もらえるか?」

隻眼から零れるは、飢えと殺意。
少女のような顔の口元からは犬歯が鋭く伸びていた。
32オーフェン:02/07/02 20:58
>31
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

「あん?」

眼帯をつけたツラはいいが、いかにもチンピラの気配をさせるクソガキが。
散歩をしていた俺に声をかけてきた。

「トマトジュースだ?ガキが、んな贅沢なもん飲むなんて100年早え、水でも飲んでやがれ!」

そう返事をして身構える。
丁度、虫の居所が悪かったため一切手加減をする気は無く本気で叩きのめそうと構え―――いや。

(こいつは一体!?)

ゾクリと身を震わせるようなプレッシャー。
ただのチンピラ―――いや、人間のものとは思えない威圧感。
纏っているチンピラの気配があまりに強く、最初は気が付かなかったが。

(どうやら、ただの馬鹿なチンピラというわけじゃなさそうだな)

いつのまにか臨戦状態まで集中していた意識を、更に集中させ、眼前のチンピラもどきの動きを見据えた。

(ったく、厄介なことになりそうだぜ)
33ギルバルス(M):02/07/02 21:00
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>32
双方共に黒を纏う。
だが、二人が闇に紛れるには生命の熱気と、不死者の狂気が邪魔をする。

『トマトジュースだ?ガキが、んな贅沢なもん飲むなんて100年早え、
 水でも飲んでやがれ!』

ただ、無性に気に食わなかった。
見ているだけで殺意が湧いてゆく。
前世の因縁か、血の飢えからか。

「ヘン、ガキはどっちだ。
 若造が…テメェ、見た所ろくすっぽ金も持ってなさそうだな。
 恵んでやるよ、三途の川の渡し賃だがな!」
もう一人の黒づくめを見てそう言い放つ。

双方の目の前の大気が歪む。
 
お互いに只者では無いと気付き、気を、注意をお互いに注ぎあう。
体温が上昇し、肉体が戦闘の為にギアをシフトする。
 
先にギルバルスが動いた。
予備動作も無く左足を、
剣豪の振り下ろす刀のように黒づくめ…オーフェンへと放つ。
34オーフェン:02/07/02 21:01
>33
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

人間とは信じられないほどの速度でチンピラもどきが近づく。

(速い!)

とてつもない速度でチンピラもどきが左足を上げ、空を裂くかのように振り下ろした。

それを認識するよりも速く体が反応する。
踵が右肩に当たるよりも一瞬速く、後ろに飛び退いた。

「―――っ!」

踵は右肩に触れず通り過ぎたが、風圧だけで革ジャンが踵落しの軌道の形に切り裂かれていた。

(この野郎!)

瞬時に構成を編み、目の前のチンピラもどき目掛けて魔術を放つ。

「我は呼ぶ破裂の姉妹!」

空気の壁を裂くように衝撃波が弾け飛ぶ。
35ギルバルス(M):02/07/02 21:03
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>34
紙一重の差で踵を避けられ、再度必殺の一撃を放たんと、
地に付いた左足を軸に右足で回し蹴りを放とうとするが、

『我は呼ぶ破裂の姉妹!』

オーフェンの魔術が完成し、ギルバルスは背後の大きな樹へと吹き飛ばされる。
「へぇ、魔術師かよ、上等だ…」
吹き飛ばされながらもオーフェンに聞こえる声で言い、
樹に両足で“着地”する。

「じゃあ、もう一回行くぜ?」

そのまま樹を蹴り中空で回転しオーフェンへと蹴りの連打を放つ。
36オーフェン:02/07/02 21:06
>35
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

衝撃波をまともに食らい、チンピラもどきは吹き飛ぶ。
普通ならこれで勝負は決まった―――いや、人間なら確実にこの一撃で気絶するだろう。

だが。

『へぇ、魔術師かよ、上等だ…』

チンピラもどきは平然とした口調で応えると。
吹き飛んでいく先にあった木に両足から“着地”し、それを足場にこちらへと飛び掛ってきた。

それは人間にできる動きでは無い。
一瞬、思考が停止する。

その一瞬の間にチンピラもどきに接近を許してしまう。

「ぐぁっ!」

そして、チンピラもどきが空中で放った連続蹴りをとっさに左腕で受け流すようにガードする―――が。
一撃目が左腕に当たった瞬間、信じられないような衝撃が迸る。
更に信じられないことに体が浮き上がり、後ろに吹き飛んでいった。

数メートル吹き飛んだところで止まる。
とっさに後ろに跳んだとはいえ常識では考えられない距離だ。

再び相手を見据える。
目の前にいる、人では無い“何か”の正体を見極めるために。
37ギルバルス(M):02/07/02 21:08
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>36
オーフェンがダメージを最小限に留めて吹っ飛んだのを見て、
ギルバルスは更に笑みを深くする。

顔は月夜に照らされ更に青白く見え、口元が裂けたかのように笑む。
眼帯に覆われていない右目は赤く輝き、人外に在る者を容易に想像させる。

「ますます、イイ。あの蹴りを喰らって威力の大半をいなせるかよ…。
侮って悪かったな、チンピラ。
気分もイイし名乗ってやるか。俺の名はギルバルス。
黒貴族の大吸血鬼だ」
チンピラめいた口調は変わらずに胸を張って名乗る。

静かに、滑るようにオーフェンへと近づいてゆく。
相手が魔術師であり、こちらの素性を明らかにした今、
一瞬の躊躇が命取りとなる。
そしてそのギリギリの境界線―――エッジをギルバルスは何よりも愛していた。
38オーフェン:02/07/02 21:09
>37
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

(黒貴族の吸血鬼だと!!)

黒貴族―――それは爵位を与えられた魔物。
しかも、吸血鬼。
黒貴族に選ばれるほどの吸血鬼なら並みの化け物では無いだろう。

(ちっ、妙に人間離れしてると思ったら。本物の化け物かよ)

だが、相手の正体がわかれば打つ手は無数に存在する。

「チンピラ、手前が名乗ったのに俺が名乗らねえのも悪ぃから。
俺も名乗ってやるぜ。
俺の名はオーフェン。
牙の塔の黒魔術士だ」

チンピラもどき―――ギルバルスに自らも名乗りを上げると、息を吐き、ゆっくりと相手を見据える。

(殺すつもりでなければ、死ぬのは俺のほうだな)

死と隣り合わせとなる瞬間。
だが、オーフェンの顔には知らずと笑みが浮かぶ。
見るものをぞっとさせるような笑みが。

(……もしかしたら、俺はこんな相手を望んでいたのかもな)

自らの学んだ全てを出し尽くして殺すことのできる相手。
人以外の存在。
殺せない暗殺者である自分にとってのストッパーがかからない相手。

オーフェンはキリランシェロだったときに幾度か体験した、特殊な感覚が自分を支配していくのを感じていた。
39御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/02 21:11
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>29-30 
 
その時、俺はたまたまアーカム上海支部に居た。
まぁ、気の乗らない任務も終わり、
折角上海まで来たんだ、美味いモンの一つでも食っていこうと滞在を少しだけ延ばした。
結局、それがいらんトラブルに巻き込まれる原因になったわけなんだが。
 
「たった一人でここに殴りこみかけてきたってのか!警備班は何やってんだよ!」 
 
俺はスーツのジャケットを羽織ながら、無線機で侵入者の移動場所を聞いていた。
まったくの奇襲だったそうだ。
敵はただ一人、突然、暴風の如き攻撃であっという間に保管庫まで侵入を許したという。
(ったく、ついてねぇぜ。先の任務といい、これといい・・・・・・さすがは魔都上海だよ)
俺は内心ぼやきながら保管庫へ向けて急いだ。
 
「な・・・・・・」 
 
俺は絶句した。其処はまさに地獄の釜でもぶちまけたような、
凄惨な光景が広がっていたからだ。何処の肉ともわからぬ塊が壁に付着し、
体の一部はモノのように床に転がっている。
そして血溜まりの中にそいつは立っていた。
巨大な体躯。そして腕を機械のそれに変えたそいつは、
イラついたように部屋に立っていた。
 
「手前!好き勝手してくれたじゃねぇか!これでも喰らえ!」 
 
俺はSAUERを腰から引き抜くと、奴のど頭目掛け撃ち込んだ。
アーカム開発部ご自慢、硬質セラミック弾頭超高速徹甲弾の味、とくと味わえ!
40ギルバルス(M):02/07/02 21:11
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>38
名乗りあう事で双方の気が高まり、さらに凝縮される。
感覚が増大し、世界が酷くゆっくりと見え始めた。

「牙の塔か、へぇ…。ますます持ってイイじゃねぇか…」

牙の塔、それは黒魔術師の最高峰、その魔術と体術の腕は並々ならぬものである。

こうしている一瞬の間ですら、自分を殺す構成を編んでいるに違いない。
そのことを考えただけでゾクゾクする。
吸血鬼としてそれなりの魔術は体得しているものの、
ギルバルスは自分の肉体を磨く事に喜びを得ている。
 
「(やっぱ、直のゲンコが一番よ…)」

滑るように移動していたが、その手前に一本の線があるかのように立ち止まる。

「(この線がデッドラインってとこだな…ええ?)」

口元からニヤニヤ笑いは消えておらず、細葉巻を咥え小さくハミングをする。
目が爛々と輝く。
紅に染まった月は天空高くにあった。
41オーフェン:02/07/02 21:12
>40
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

ギルバルスはこちらの間合いの紙一重まで一瞬で距離を詰めた。
が、その間合いから入ってこようとせず。
あまつさえ、紙葉巻を咥えニヤニヤと笑いながらハミングまでしている。

(舐めてるのか?
―――いや、違うな)

たしかに口元は相手を舐めているのかのように、ニヤニヤと笑っている。
だが、その目はまったく笑っておらず。
むしろ、相手の隙をわずかでも見つければ襲いかかってくるかのような、獰猛な光を帯びている。

(……挑発だな)

相手の間合いギリギリまで近づき、挑発し、相手を自らの間合いへと引き寄せる。
その挑発に下手に乗ってしまえば、確実に死が、その不用意に相手の間合いへと足を運んだものに訪れることだろう。

だが、このままじゃ千日手。
互いに相手が動くのを待ち続けることになる。

(持久力では俺が圧倒的に不利。
―――なら、俺から動いてこの状況を崩す!)

胸中でオーフェンは叫ぶと、懐から短剣を瞬時に鞘を抜いて取り出し。
取り出した軌道のまま、ギルバルスの眼帯に覆われていない方の目へと投擲する。
同時に、魔術の構成を編み、相手の反応に即座に対応し、放てる体制を整える。

(さあ、どうする?)
42ギルバルス(M):02/07/02 21:13
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>41
ギルバルスは肉体面においてはオーフェンに遥かに勝ると自負するが、
最終的な破壊力においては、一歩も及ばないのを悟る。
焦らせ、じらす事で懐に飛び込み、必殺の一撃を与えんと挑発した。
 
「(さて、ヤベェな…術のほうもしっかり学んどけば良かったぜ…)」
 
一瞬の後悔の隙間にオーフェンがギルバルスの眼帯の方へ短剣を鞘ごと投げつける。
 
その動作に、ギルバルスは酷くシンプルな行動に出た。
鞘に包まれているのを観るとそのまま、短剣に頭突きをするかのように前に出た。
 
魔術師相手に距離を取るのは危険と判断し、オーフェンの間合いに深く飛び込む。
自らの最大威力を直に叩き込むために。
 
ギルバルスの眉間が短剣の鞘で割れ顔は紅く染まった。
 
「痛ぇな…、だが根性の度合いが違うんだよ!」

身を深く沈め、踏み込む足と同じ手を突き出す。
打撃において威力の違う順突きである。
43オーフェン:02/07/02 21:17
>42
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

(しまった!)

ギルバルスは投擲された抜き身の短剣を避けるのではなく。
腕を刀身に叩きつけることにより、勢いを殺さずに、迫り来る抜き身の短剣という脅威を無効化した。

そして、ギルバルスの接近を許した。
近接戦では、魔術の使用は出来ない。

そして、ギルバルスの拳が突き出される。
踏み込んだ足と同じ腕―――短剣が突き立ったままの右腕を。

一瞬、ゆっくりと拳が進んでくるように見えた。
その一瞬でとっさに身をよじる。

ギルバルスの右腕の拳が避けきれなかった横腹を抉り、血が吹き出す。
常ならば、激痛で悶え、この時点で致命的な隙を相手に見せたことだろう。

だが、極限まで集中している今のオーフェンは何も感じない。
腹の肉が抉れ、血が飛沫いたのは感覚で認識したが。
痛みを感じない。

それどころか、意識が冷め、思考が集中していく。

―――相手を殺す。

ただ、その一点のみに意識が集中した。

そのまま、体を捻り込み、ギルバルスの懐に入ると同時に。
左手を眼帯に覆われていない、ギルバルスの右目に突き立てる。

何か柔らかいものが爪の間に入り、不快を催す感触が伝わる。
気にせずに、そのまま“それ”を抉り取る。

――――ぶちっ。

総毛だたせるような不快な音とともに、“それ”が抉り出される。

瞬間―――絶叫が響いた。

たった今失われた、右目がかつてあった場所をギルバルスの両腕が覆う。

その右腕に短剣が突き立ったままになっているの見た瞬間。
次の行動にオーフェンは移っていた。

ギルバルスの右目をまだ掴んでいる左手ではなく、空いている右腕で突き立っている短剣を掴み。

そして―――ギルバルスの右腕を深く切り裂き、その勢いのままギルバルスから離れた。
44ギルバルス(M):02/07/02 21:17
>42はミスだ…。

 『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>41
ギルバルスは肉体面においてはオーフェンに勝ると自負するが、
最終的な破壊力においては、一歩も及ばないのを悟る。
焦らせ、じらす事で懐に飛び込み、必殺の一撃を与えんと挑発した。
 
「(さて、ヤベェな…術のほうもしっかり学んどけば良かったぜ…)」
 
一瞬の後悔の隙間にオーフェンがギルバルスの眼帯の方へ短剣を鞘から抜いて投げつける。
その動作に、ギルバルスは酷くシンプルな行動に出た。
引き抜かれ月光に輝く白刃を観ると、短剣目掛けて右手を振り上げ、振り下ろす。

その動作のまま、オーフェンの間合いに深く飛び込む。
魔術師相手に距離を取るのは危険と判断し、自らの最大威力の打撃を直に叩き込むために。

傷ついた腕での突きは人間ならば自殺行為。
だがギルバルスは吸血鬼だ。
スピードはそれほど鈍らない。

身を深く沈め、踏み込む足と同じ手を突き出す。
打撃において威力の違う順突きである。
45ギルバルス(M):02/07/02 21:19
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>43
ギルバルスは貫く動作。オーフェンは巻き込む動作で相対した。
快音と共にギルバルスの拳はオーフェンの脇腹を砕く。
引き換えにギルバルスは右目と右腕に大きく打撃を受けた。

常人ならそこで終わっていただろう。
狂気を示す赤い月は魔に祝福を送った。
苦痛による絶叫は次第に哄笑となり、歓喜の雄叫びとなる。

「ハハハハハハハハハハッ!!!最高だ、まったくもって最高だ…。
オリジナルな奴にあえて嬉しいぜ…。お前もそう思うだろう?
なあ?殺人中毒者(キリングジャンキー)め」

同好の士に会えた喜びからかギルバルスは饒舌になる。
隻眼を瞬くと潰れきった眼球が再構成され、金に輝く。

「続けようぜ、乾いちまってしょうがねぇ…。
 お前もだろ?殺したりないんじゃないか?
 さあ、俺はまだ生きている。
 お前を殺すから、俺を殺せ」
 
詠うように言葉を続け、ハミングをする。
魔術の詠唱にも似た韻を踏んで。
46オーフェン:02/07/02 21:21
>45
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

左手に刳り抜いた目玉。
右手に血で朱に染まった短剣を携え。

血がとまらずに吹き出している脇腹など意に介さず、笑みすら浮かべながら。
先刻与えた傷すら、圧倒的な速度で再生していくギルバルスを眺める。

「は―――ははははははははははははははは」

知らずと、笑いがこぼれた。

歓喜の笑いなのか、それとも恐怖により生じた笑いなのか。

―――それすらもわからず、笑う、笑い続ける。

いつの間にか傷の再生を終えたギルバルスが言う。

『―――殺人中毒者(キリングジャンキー)め』

―――違う。

即座に否定する。

だが、心のどこかでもう一つの声が聞こえる。

―――そうだ、正解だ。
人を殺すための業(わざ)を極限まで高めた暗殺芸術品―――それが俺の本性、本当の俺の姿だ。

それは、悪魔の声にも、天使の声にも、自分自身の声のようにも聞こえた……

否定する……肯定する……否定する……肯定する……肯定する……否定する……

―――全てが混じりあい、混沌と化す―――

「くっ……は……はははははははははは」

笑う、先ほどまでの笑いとは違う響きで。
何かを捨てたかのような悲しい響きがこだまする。

「いいぜ……なら、スタッブ(暗殺)してやるよ」

左手にいまだ持っていた、血の固まりかけたギルバルスの右目を相手に見えるように掲げる。

そして目玉を投げる。
軽く……
まるでゴミを投げ捨てるかのように。

―――ぽん。

数瞬後。

気の抜けた音ともに、目玉が爆散した。

その瞬間。

オーフェンは、あたかも弓から放たれた矢のごとき速さで。
弾かれるように走り出した。
47ギルバルス(M):02/07/02 21:22
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>46
何かを捨てた笑いが夜の森に木霊する。
闇に、夜に一歩踏み入れようとした者と、そこに棲むモノ。
踏み入れようとした者が言う。
『いいぜ……なら、スタッブ(暗殺)してやるよ』

棲むモノが答える。
「ああ、後悔したいのなら来い」

月がとても朱い夜だった。
二人のいる空間だけ、別の世界になったかのように麗舞(レイブ)は繰り広げられる。

先ほどまで自分の頭蓋に納まっていたモノが弾けるのを合図として、
ギルバルスは地を蹴る。

ここまで来たら言葉は要らない。

二人の間合いは0に近くなり、一瞬の繰り返しを爆発させる。
右拳を打ち払い左手を防がれる。
左の蹴りをいなされ右の膝は短剣に突き刺される。

そして右の手刀を一拍溜めてオーフェンの急所へと突き入れようとする。
48オーフェン:02/07/02 21:24
>47
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス

無数の連撃。
飛沫く血、弾け飛ぶ肉片、砕ける骨。

だが、止まらない。
痛みも感じない。
ただ、相手を殺すことのみに集中する。

熱い―――寒い―――灼熱と極寒が脳内で混ざり合う。

―――焼け切れるほど熱く思考が熱される。
―――凍りつくほど冷たく思考が冷める。

狂っているのか―――それとも正気なのか―――それすらも、わからなくなる。

ただ、求めているものだけはわかっている。

目の前にいる相手の命。

それだけを求めて体が動く。

右腕の手刀が突き出される。
空気を裂き、命を刈り取るために迫る。

全ての動きがゆっくりと見える。
体が動く。
もどかしいほどゆっくりと進む手刀よりも遅く。

手刀が体にめり込む。
急所をほんの数ミリ外して。

手刀がめり込んだ部分から血が飛沫いた。

笑う。
血に朱く染められた顔で。
狂気とも正気ともつかない笑みを。

右腕が動く。
ギルバルスの首を掴む。

魔術の構成が瞬時に編まれる。

「死にな」

声を発する。
悲しみと、喜びの混ざり合った声を。

その声を媒介に魔術が発動する。
連鎖する自壊が手からギルバルスへと流れた。
49ギルバルス(M):02/07/02 21:26
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
>48
連鎖する崩壊の前では、魔術に対する耐性など何の役にも立たなかった。
崩れ行く感覚の中、笑いがこみ上げる。
沈黙の時は終わり、勝者に言を述べる。

「おい…、何怖がってんだよ…。
 テメエがカったんだろうが。もっと嬉しそうに笑っとけ」

狩ったのか、それとも勝ったのか。

ぴしり、みしりと何かが崩れる音がする。
それに構わずギルバルスは続ける。

「いや、愉しかったぜ?お前もそうだろ?
 否定するなよ…なあ?」

矢継ぎ早に続けながらもギルバルスの肉体は崩壊してゆく。

―――ははははははははははははは。

ギルバルスの頭部が完全に崩れ去り、もはや血溜まりしかない森のどこかで笑い声が上がった。

夜が明け、日が昇ろうとしていた…。
50オーフェン:02/07/02 21:30
>49
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
〜エピローグ〜

オーフェンは悔恨の目でそれを見ていた。
自壊連鎖により、崩れていく吸血鬼―――ギルバルスの姿を。

崩れていく、ギルバルスが言う。

『おい…、何怖がってんだよ…。
 テメエがカったんだろうが。もっと嬉しそうに笑っとけ』

(―――違う。
俺はお前を殺してしまっ―――)

『いや、愉しかったぜ?お前もそうだろ?
 否定するなよ…なあ?』

何かが壊れた。
必死で正気へ―――正気へと繋ぎとめようとしていた何かが。

―――殺すことの肯定。
―――いや、殺し合い、相手を殺すことを“愉しんだ”ことの肯定。

目をそらしていた事実―――必死で認めまいとした現実。

「―――は……ははははははははははははははははははははははははははははははは」

笑いだす。

―――歓喜の哄笑とも、嘆きの慟哭ともとれる笑い声で。
―――正気とも、狂気ともとれる笑い声で。

既に原形を止めていない吸血鬼の笑い声と合わせるかのように。

―――血の海の中で笑い続ける。
―――悔恨の涙を流しながら、心底愉しそうに笑い続ける。
―――自分と相手の血で朱く染まりながら、全身から血を流しながら、笑い続ける。

夜が明け、朝日が昇る。
だが、深き森の闇が照らされることは無い。

深い闇の中、笑い声は絶えることなく、いつまでも続いていた。

いつまでも、いつまでも―――

END
51樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/02 21:32
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>39
 
 目の前の小僧が拳銃を抜くや否や発砲してくる。
 正確で、しかも素早い射撃……樟賈寶の額に銃弾が弾ぜる。 徹鋼弾と言えども
 所詮は拳銃、樟賈寶の頭部を守る超合金製の頭蓋を撃ち抜く事は出来ない。
 
「何だ、この小僧は!?」
 
 只者では無い事が動きだけで知れる。
 樟賈寶はセンサー類の集中する顔面を鋼鉄の左腕で庇いつつ、声紋を照合する。
 呉榮成から事前に渡されたデータの中に合致した名前は……スプリガン御神苗優。
 
「まさか、テメーみたいな小僧たーな……
 だがそんな玩具で何とかなると思ってんのか?……ああ!?」
 
 一気に間合いを詰めつつ、22.3kgの鋼鉄の右腕を横殴りに叩きつける。
52ギルバルス(M):02/07/02 21:36
『チンピラ大殲』
オーフェンvsギルバルス
闘争纏めだ。
導入:>31 

闘争:>32>33>34>35>36>37>38>40>41>44>43>45>46>47>48>49

エピローグ:>50

無理に否定しなければ壊れずに済んだのによ…。
さて、この闘争について思いついた突っ込みや感想を下記の場所にくれ。
http://fargaia.hokuto.ac/html/test/read.cgi?bbs=vampbattle&key=1019409630
53御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/02 21:53
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>51 
 
「な、なんだ手前!体までサイボーグ化してんのかよ!」 
 
奴の頭に、確実に拳銃弾はヒットした。
にもかかわらず、奴はピンピンしてやがる。
その時、奴の言った言葉にカチンときた。
少々、怒気をこめて言い返す。
 
「へっ、小僧で悪かったな、この脳内筋肉男っ!?」 
 
俺が奴に文句を言い終わったのと、奴の豪腕が俺に振るわれたのは、
ほぼ同時だった。咄嗟にガードを固めたものの、
凄まじい衝撃が全身に走る。
(くっ・・・・・・なんちゅう破壊力だ・・・・・・まともに喰らった日にゃ、一撃でお陀仏だ)
 
しかし、奴の攻撃の型、どっかで見た覚えが・・・・・・ 
そうだ、こいつは北派少林寺・・・・・・それにあのガタイに機械の腕・・・・・・ 
なるほど、敵は青雲幇のサイバネ拳法家・・・・・・・
 
「なるほど――どっかで見た顔だと思ったら、あんた女衒の元締めじゃねぇかよ。
 最近は強盗までやるようになったのか?」 
 
俺は減らず口をたたきながら立ち上がる。
 
「これぐらいで勝ったつもりになられちゃ困るぜ・・・・・・見せてやるよ、A・Mスーツの底力を!」 
 
俺は叫ぶと、スーツを展開する。現代技術の粋をかけて作られた防護服。
矛と盾を両立させた鎧。その力を誇示するように、
俺は奴に向けて右ストレートを雷光のように叩き込んだ。
54ヴァルダレク伯爵(M):02/07/02 22:03
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>28

 即座に轟音。
 ぶち込まれたエネルギーは吸血鬼の口中を抜け、行き場を求めて荒れ狂う。
 コンマ一秒の間を置かず解放されたそれは、後頭部を石榴にした。
 
 両顎から涎と呻きが零れ落つ。
 衝撃で飛び出した眼球が、眼窩に引っ込みながら今度こそ白い狩人を射た。
 双眸は真紅に染まっていく。
 既に面前の温血者を煩わしい蝿もどきとは見ていない。はっきり敵と認識した眼だ。
 再び後頭部が、何事もなかった様に元の形を取り戻す。
 
 銃身を噛んだまま、吸血鬼は膝を付いた状態から立った。背中が曲がっているが、それでも
かなりの長身である。
 右手が振り上がる。拳は握り締められている。
 いや、握り締めている所ではない。指先と爪が掌に食い込み、抉っている。
 同時その疵は再生しているが。
 自傷行為とも云える拳は背に送られる。構えも何も無い、子供が殴るのと同じ体勢である。
 呆れる程稚拙なその拳は――。
 狩人へと放たれた。
 
 何の捻りも技もない只の、単純極まりないと云って良い、だからこそ恐るべき暴力。
 夜族は「力」だけで、人間を易々と破砕するのだ。
55樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/02 22:15
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>53
 
 スプリガンの放った右ストレートを左腕で受け止める。
 しかし奴の放った拳打は、その体格からは信じられない重みで全身に伝わって来た。
 
「こいつは!!」
 
 強化された両足で踏みとどまろうとするが、床のコンクリートが抉られる様に砕け、
 一歩、二歩後退する。
 青雲幇のサイバネ拳法家の中にも、これほどの拳打を持つ者はそうは居ない。
 並みの戦闘サイボーグならばこの一撃で破壊されてもおかしくは無かった。
 
「たいしたもんだ、だがなあ!!」
 
 力技で拳の軌道を逸らすと同時に、右腕で横合いから縦横に軌道を変えて、
 三連突きを浴びせ掛ける。
56御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/02 22:31
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>55 
 
ストレートは軌道を変えられ、俺はたたらを踏みかける。
そこに襲い掛かる右の3連突き。
この状態で当たれば一たまりも無い。
 
だが、それは当たればの話だ。
俺は上体を思い切り沈め、左腕を支点に足払いを狙う。
どう考えたってアンバランスな体型だ、ぶっ倒しゃこっちにも充分勝機はある!
57樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/02 22:40
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>56
 
 樟賈寶の視界からスプリガンの姿が消え、次の瞬間重力が消えていた。
 
「チィ!」
 
 脚払いを受けて崩れ落ちながら、右腕を振り、その反動を利用して体勢を変え、
 足元の少年に向って左肘を叩き込む。
 
「潰れちまいナッ!!」
58御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/02 22:52
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>57 
 
「にゃろ!大人しく倒れやがれ、この機械仕掛けの筋肉達磨(クロックワークマッチョドラゴン)!」 
 
倒れこみながらも肘を叩き込もうとする奴の脇に腕を差し込むと、
綺麗に円を描きながら床へと叩きつける。
が、叩き付けたはいいんだが、
奴の体重に慣性モーメント分の過重な質量に耐えられるような設計なんてされてるわけもねぇ。
結果・・・・・・床がぶち抜かれ、俺は奴と共に階下へと落ちていった。
59樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/02 23:09
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>58
 
「だあぁ!! このクソガキがぁ!!」
 
 叫びながらの落下―――――
 樟賈寶の巨体が一階の床に叩きつけられ、爆発でも起きたかの様な爆音と衝撃!
 粉塵が辺りを埋め尽くし、巨大なクレーターの様に陥没する。
 
「……ぅう、ぐっ……」
 
 サイボーグとは言え脳は生身のまま…… 対爆構造の頭蓋が衝撃を和らげているとは
 言え、一瞬意識が遠くなる。
60御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/02 23:16
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>59 
 
「げぇほ、げぇほ・・・・・・ったく、このデカブツ・・・・・・少しはダイエットしやがれってんだ」 
 
落下の衝撃と粉塵で咳き込みながら毒づくと、俺は腰からナイフをすらりと引き抜く。
世界最硬の金属、オリハルコンでできたこいつなら、
たとえ機械の体といえど、紙と切り裂くはずだ。
 
俺は逆手にナイフを持ち替え、奴が居るであろう場所へ、
思い切り突き刺した。
61樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/02 23:29
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>60
 
 右腕に何かが刺さる……刺さる!?
 樟賈寶は痛みを感じる訳では無い、だがその事実は的確に情報として脳に伝達される。
 火薬の衝撃で貫かれた訳でも、レーザーで焼ききられた訳でも無い。
 固体の刃が鋼鉄を切り裂く感触は形容しがたいものだった。
 
「なんだ…… なんだよこりゃあ?」
 
 立ち上がり『それ』を振り払った後の右腕には大きな傷が口を開け、オイルが滲み出し、
 電気スパークが走っていた。
62御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/02 23:44
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>61 
 
ナイフはやつの右腕にさっくりと刺さった。
そのお陰で奴の意識も戻ったらしい。
右腕を振るって払いのけようとするのを鮮やかな宙返りで回避すると、
青眼にナイフを構える。
 
「へっ、金剛六臂の名前が泣くぜ?ご自慢の腕も女衒の纏めでさび付いたんじゃねぇのか?」 
 
俺は軽口をたたくと、じりじりと間合いを詰める。
油断は禁物だが、少なくとも完全に俺のペースだ。
このまま押せば、こいつを圧倒できるだろう、そう思った。
緑川淳司&花村雅香 VS 弓塚さつき(27祖)
前スレ纏め『ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1024844742/564
 
【交錯する視線】
 
 白月の光に照らされて、男の影が現れる。
 わたしにじわじわと近づく男を睨みつけ、真っ向から対峙する。
 
『こんばんは。弓塚さつきさん。
 ……緑は大切にしなきゃいけないぞ。』
 
―――緑?
 
「だから……何?
 別にそんなことどうだって良いよ、貴方を―――」
 
 コワシタイだけなんだから、と呟いてわたしは男に向かい地を蹴った。
 男に向かって、ただ無造作に腕を突き出す。
 ヒュン、という風切音。
 わたしの腕を、難なくかわして、男は口を開いた。
 
「それは勘弁願いたいな。
 地球の間借り人同士、仲良くはできないかなぁ?」
 
―――間借り?
 相変わらず、頭に来る事を口にしてくれる。
 
 銀色の眼。
 呪縛の魔眼と呼ばれるソレを発動させた。
 先程よりも強い意思を込めて、相手の眼を睨み据える。
64樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/03 00:05
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>62
 
「ナメやがって…… 減らず口はこれを受けてから言いな!」
 
 にじり寄るスプリガンが自分の間合いに入った瞬間、樟賈寶が繰り出す【闖少林】
 鋼鉄の両腕から、縦横無尽に軌道を変えて連続突きを放つ!
 豪腕は二本、ナイフは一本、いかに強靭なナイフと言えども余程の技の切れが
 無ければ腕を切断するまでは至らない筈だ。
 
「死にやがれ!!」
65高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 00:14
<遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
「『神剣の御使い』ですか?」
 
やれやれ、まったくこの娘は…。
話す気など無かったのに、何故このような話しの流れになったのか?
…わしも気づかぬ内に飼われる側であったのか、まあ問題などあるまい。
この琥珀と言う名の少女が『退魔』と係わる事などありえる事ではないのだから…
 
「まあ神話伝説の類じゃな、魔を退け人を導く神剣を選ばれた者に与える天の使い…」
 
「それが、その方なんですか?」
 
尾ひれの付いた伝説の類じゃな、かつて混乱を極めた人の世を救う為、天より使わされた一人の天女、
しかし天に背き、然るべき相手にその神剣を与えず、自らの恋した一人の男にその神剣を与えたと言う。
その罪により永遠の転生を繰り返し…その罪を償うまで生まれ死に続ける罪人の伝説…
 
「退魔組織の馬鹿どもが、そう思いこんでいるだけじゃ」
 
「はあ、そうなんですか…」
 
人が抗う術がない純粋なる『魔』に付け狙われ、子供の頃に家族を全て全て殺されながら
唯一人生き延び、現在も『魔』を退け続けている。
それがどれ程非常識な事なのかは、かつて退魔組織から身を引いた老いぼれにも解る。
…が、神剣『天叢雲剣』が本当に存在するなど夢物語だとしか思えぬ。
 
「ふむ、まあ縁が在ってな、浅上の学園学院を紹介したのじゃよ」
 
「秋葉さまと同じ学校ですか、…相性が悪そうですねー」 
 
まあ、構わぬだろう浅上女学園はもともと退魔四家の『浅神』の創設した学院だ。
その目的が失われて久しいが、あそこが『魔』に対する隠れ蓑になるのは間違い無いしの。
あの娘も一時の平安を得られる筈だ。
 
「さあ、持っていけ、奴の薬が出来たぞ」
 
「ありがとうございます、これで暫くは志貴さんのお体も安定しますね」
 
「で、未だに秋葉の嬢ちゃんは帰ってこないのか?」
 
「はい、そうなんですよー。アレは意地を張っちゃって、志貴さんが戻られるまで帰ってこないおつもりですね、
いじらしいじゃないですか。くすくす…」
 
暇潰しに使ったこの話題がこれからどのような悲劇を生むのか…天ならぬ身に解る筈も無かった。
わしは所詮、時南宗玄は闇医者にすぎん未来など知る術もないのだから。

 
66高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 00:17
>65
<遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
冬の大気は澄みわたり、空は抜ける様に高い。
浅上女学院、雑木林に囲まれたその場所は何処か懐かしく美しい所だと思う、
けど、今の私にはそれを楽しむ余裕は無いのだろう。
 
「鷹久…、貴方はきっと私が……」
 
隣県で起こった、犯人のしれない連続殺人事件そこに鷹久の影を求め流れてきた…
それが無駄に終ったのは、喜ぶべきか…、悲しむべき事なのか…
 
どちらせよ、今は落ちついて情報を集め無ければ動きようが無いだから…
両親の古い知り合いだという時南のおじさまの口利きで、このような中途半端な時期に
編入がなったのは感謝すべきだろう。
67遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 00:19
>66
<遠野秋葉vs高原万葉 『矛盾螺旋』>
「転校生……?」
 
 冬休みの気だるい午後、蒼香たちの会話で唐突に出た話題がそれだった。
 
『ああ、遠野、お前さんは知らなかったのかい? まあ、昨日、いきなり来た話だから、無理も無いか」
 
『秋葉ちゃんに似た物凄く綺麗な人だよ。確か、名前は……』
 
『高原万葉だったかい?』
 
『そうそう、そんな名前〜! 蒼香ちゃん、凄い。よく、覚えているね〜!』
 
『というかだな、今、あたしたちの部屋の前にいる彼女がその本人なんだけどさ……』
 
 蒼香に言われて、はたと気づく。
 長い黒髪の私に似た(スタイルはどう見ても、私より全然良さそうだけど)女性―高原さんが、
 私達の部屋を開けっ放しのドアから私達を見ていた。
68御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/03 00:20
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>64
 
奴の両腕から繰り出される、怒涛の突き。
俺の目には、それが見える。
一つの突きがまるでスロー再生のように。
 
「なんだ、今日はやけに調子がいいぜ!今日なら打てるかもしれねぇなぁ、おい!」 
 
俺は叫ぶとナイフを握りなおし、
右腕を一閃させる。両腕から繰り出される突きを、
片腕のパンチで全て防ぎ、捌き、交わす。
奴の顔にちょっとした驚きが浮かぶ。
 
「あんたもその腕一つでのし上がったんだったら、もっと腹すえてかかって来い! 
 そんな気の乗ってねぇ拳じゃあ、俺は殺せねぇぞ!」 
 
俺は叫ぶや、半身を捻って奴のボディに掌底の一撃を叩き込んだ。
69『泡沫の夢』:02/07/03 00:31
>67 <遠野秋葉vs高原万葉 『矛盾螺旋』>
 
秋葉「あら、はじめまして、高原万葉さんですわよね? 遠野秋葉と言います。宜しくお願いしますわ」
 
蒼香「で、あたしが月姫蒼香。で、このぼーっとしたのが三澤羽居。ああ、羽ピンで結構だ」
 
羽居「蒼香ちゃん、ひどい。わたしにも自己紹介を……」
 
万葉「はじめまして、私は…ご存知みたいですね」
   (冬休みは無人だと聞いていたけど、以外に人は残っているのね)
 
秋葉「…漫才みたいで申し訳ありませんわね。ああ、よろしければこちらに来て、お話しません? 折角ですから」
 
万葉「…そうですね、少し退屈していた所です、甘えさせていただきますね」
   (本当は人は係わるべきでは無いけど…無視する訳にもいかない…)
 
秋葉「しかし、こんな時期に転校とは唐突ですわね? 何か事情でも?」
 
万葉「……色々ですね、この学園を紹介されたのは偶然ですから」
 
蒼香「まっ、そこらにつっこむほどあたしたちは不粋じゃないさ。で、高原、おまえさん、いける口かい?」
 
万葉「いける口ですか……?」
 
羽居「ええとね、お酒のことだよ。ホントはいけないんだけどね〜。秋葉ちゃん、物凄く強いんだよ」
 
万葉「まだ未成年ですのから、………嗜む程度ですけど」
 
蒼香「固いこと言うなよ、遠野なんかザルだぜ。加えて、絡み酒と来たもんだ。性質が悪いったら、ありゃしない」
 
秋葉「……コホン。まあ、この2人の言う事ですから、話半分に聞いておいて結構ですわよ。
   まあ、折角の機会ですし、歓迎会ぐらいはしたいと思いますけど……」
 
蒼香「遠野、素直にいえよ。呑みたいんだろ?」
 
秋葉(ギロリ!)
 
蒼香「おお、怖っ!」
 
万葉「先ほど先生方から聞いた話と随分違うような気がしますけど…」
  (門に在った『この門をくぐるものは、一切の青春を捨てよ』と書いてあったような気が…)
 
70『泡沫の夢』:02/07/03 00:33
>69 <遠野秋葉vs高原万葉 『矛盾螺旋』>
  
蒼香「気にするな、コイツは生徒会の役員様だ…なんとでもなるさ」
 
羽居「じゃの道は蛇なんだよ、秋葉ちゃんわね〜…実は蛇なんだよ〜」
 
秋葉「…間違ってはいませんけど、その言葉の後ろに悪意が見え隠れするのは何故です?」(ギロリ!!)
 
万葉「うふふ、仲がいいんですね…羨ましいです」
 
秋葉「………まあ構いません、折角の歓迎会を血で汚す事もないでしょう」
 
羽居(じょうだんだよね、…もしかして本気で言ってる?)
 
蒼香(もちろん冗談さね、最近血に餓えてないみたいだしな)
 
万葉(仲が良いの…よね、何でも話せる友人って、こんな感じなのかしら?)
 
秋葉「……流石に本気で取られると頭に来るのですけど?」
 
蒼香「悪いな、自分に嘘がつけなくてね」
 
羽居「秋葉ちゃんはかわいいよ〜、こわいなんて思ってないよ〜」
 
秋葉「…貴方達!」
 
万葉「楽しみです、本当は宴会って初めてなんです」
 
秋葉「…まあ、良いでしょう、それでは夜に迎えに行きますわ」
 
万葉「はい、楽しみにしていますね」
   (これぐらいは許される…、ほんの少し夢を見るぐらいは…)
71『泡沫の夢』:02/07/03 00:34
>70 <遠野秋葉vs高原万葉 『矛盾螺旋』>
 
蒼香「さてと、新しい友人も迎えたことだし……」
 
羽居「かんぱーい!」
 
万葉「かんぱーい…って、良いんですかこれは?」
 
(ウイスキー、ブランディ―、ビール、日本酒…etc)
 
秋葉「何を言っているんです、問題ありません」
 
羽居「じゃの道は蛇だよ〜」
 
万葉「この場合少し用法…」
 
蒼香「だ か ら 、飲め!!」
 
万葉「え、はい…」
 ・
 ・
 ・
羽居「所で、万葉ちゃんは趣味はなに?」
 
万葉「趣味ですか?」
 
蒼香「私なんかはロックだな、ライブは最高だぜ」
 
万葉「そうですね、趣味というより実益を兼ねていますけど…和弓ですね」
 
秋葉「……弓道? なかなか良い趣味ですけど…うちに在ったかしら?」
 
羽居「あるよ〜。設備は立派だよ。実質、休部状態だけどね〜」
 
秋葉「あら、羽居、詳しいのね」
 
羽居「えっへん! この三澤羽居に任せて〜!!」
 
秋葉「あまり、当てにしたくないけどね。……ところで実益って狩りでもするんですか、高原さんは?」
 
万葉「ふふ、違いますよ。……精神修行を兼ねてという意味です」
 
蒼香「枯れてやがる、秋葉もたいがい詰まらない習い事ばかりだけどな」
 
秋葉「淑女の嗜みです!」
 
万葉「………(趣味か、私には……)」
72『泡沫の夢』:02/07/03 00:36
秋葉「あら、高原さん、全然、お酒が進んでいませんわね? もしかして、苦手ですか?」
 
万葉「いえ、そう言う訳ではありませんけど……。秋葉さんこそ、お酒強いですね……」
 
秋葉「そう? ストレートで飲んでいるわけじゃないんだから、このぐらいは普通だと思いますけど?」
 
万葉「ええと、その、未成年してはアルコールに慣れて……」
 
秋葉「これくらい普通だと思いますけど……?」
 
羽居「うーん、もう、だめえ〜」
(ぱたり)
蒼香「……あちゃ、羽居がダウンしたか。遠野、羽居を寝かせてくるよ」
(あたしも、脱出だ。相も変わらず、出鱈目なペースだよ……。ウイスキーボトル3本……)
 
秋葉「ええ、宜しく頼むわね」
 
秋葉「しかし、高原さん、何か悩みでもあるんですか?」
 
万葉「いきなり……。どういう意味です?」
 
秋葉「あまり、心の奥底から笑っている気がしないな思っただけですわ。
   ……私も長い間、心の奥底から笑ったことはありませんでしたので」
 
万葉「……気のせいでしょうね、私は楽しんいるわ」
   (ウイスキーのダブルを一息で煽り、返杯する)
 
秋葉「そうかしら?、未だに本当の顔を見せてもらってませんわ」
   (当然の様に一気のみ、そして注ぎ返す)
 
万葉「では、私が笑えないと思った理由を聞いてもいいですか?」
   (ストレートに変更…一気のみ、そして逆襲)
 
蒼香(おいおい、ぶっ倒れるなよ…面倒みないぞ)
 
秋葉「そうですわね……。あくまで感覚的なモノでしか言えないんですけど……。
   何か高原さんが仮面をかぶっているような気がしたんです」
 
万葉「感覚的ですか…、理由としては弱いですね、それとも貴方も仮面をかぷって生きてきたと?」
>71 <遠野秋葉vs高原万葉 『矛盾螺旋』> 

秋葉「おっしゃる通りですわ。私は遠野家当主として、自由も与えられることも無く、
   想い人からも離されて、生きていくことを要求されました」
 
万葉「選ぶ道が無かった…そう言いたいのですか?少なくとも貴方は人を好きになる事は許されたのでしょう?」
 
秋葉「選ぶこともできたでしょう。第三者から見れば……」
 
万葉「それに…家を捨てる気なら、他の道も選べます、貴方の想い人と共に歩む事も出切るはずです」
 
秋葉「けれど……、そのようなことを考えることさえ実際許されなかったら? あなたはどうしますか?」
 
万葉「それは甘えです、人は自らの道を選ぶからこそ人である意味が在ります」
 
秋葉「甘え? …そのような理想論が通用しない現実など幾らでも在ります!」
 
蒼香(こいつら結局の所…鬱憤が溜まってるのか? …血を見るなコレは)
 
万葉「…それとも貴方は!」
73『泡沫の夢』:02/07/03 00:40
>71 <遠野秋葉vs高原万葉 『矛盾螺旋』>
 
秋葉「あら、高原さん、全然、お酒が進んでいませんわね? もしかして、苦手ですか?」
 
万葉「いえ、そう言う訳ではありませんけど……。秋葉さんこそ、お酒強いですね……」
 
秋葉「そう? ストレートで飲んでいるわけじゃないんだから、このぐらいは普通だと思いますけど?」
 
万葉「ええと、その、未成年してはアルコールに慣れて……」
 
秋葉「これくらい普通だと思いますけど……?」
 
羽居「うーん、もう、だめえ〜」
(ぱたり)
蒼香「……あちゃ、羽居がダウンしたか。遠野、羽居を寝かせてくるよ」
(あたしも、脱出だ。相も変わらず、出鱈目なペースだよ……。ウイスキーボトル3本……)
 
秋葉「ええ、宜しく頼むわね」
 
秋葉「しかし、高原さん、何か悩みでもあるんですか?」
 
万葉「いきなり……。どういう意味です?」
 
秋葉「あまり、心の奥底から笑っている気がしないな思っただけですわ。
   ……私も長い間、心の奥底から笑ったことはありませんでしたので」
 
万葉「……気のせいでしょうね、私は楽しんいるわ」
   (ウイスキーのダブルを一息で煽り、返杯する)
 
秋葉「そうかしら?、未だに本当の顔を見せてもらってませんわ」
   (当然の様に一気のみ、そして注ぎ返す)
 
万葉「では、私が笑えないと思った理由を聞いてもいいですか?」
   (ストレートに変更…一気のみ、そして逆襲)
 
蒼香(おいおい、ぶっ倒れるなよ…面倒みないぞ)
 
秋葉「そうですわね……。あくまで感覚的なモノでしか言えないんですけど……。
   何か高原さんが仮面をかぶっているような気がしたんです」
 
万葉「感覚的ですか…、理由としては弱いですね、それとも貴方も仮面をかぷって生きてきたと?」
 
秋葉「おっしゃる通りですわ。私は遠野家当主として、自由も与えられることも無く、
   想い人からも離されて、生きていくことを要求されました」
 
万葉「選ぶ道が無かった…そう言いたいのですか?少なくとも貴方は人を好きになる事は許されたのでしょう?」
 
秋葉「選ぶこともできたでしょう。第三者から見れば……」
 
万葉「それに…家を捨てる気なら、他の道も選べます、貴方の想い人と共に歩む事も出切るはずです」
 
秋葉「けれど……、そのようなことを考えることさえ実際許されなかったら? あなたはどうしますか?」
 
万葉「それは甘えです、人は自らの道を選ぶからこそ人である意味が在ります」
 
秋葉「甘え? …そのような理想論が通用しない現実など幾らでも在ります!」
 
蒼香(こいつら結局の所…鬱憤が溜まってるのか? …血を見るなコレは)
 
万葉「…それとも貴方は!」
74樟賈寶 ◆avKONGOU :02/07/03 00:41
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>68
 
「ぐ……ぬぅぅぅ……」
 
 スプリガンの放った掌底の一撃。
 筋力を強化されていると言うだけでは説明のつかない、内部に直接響く様な
 ダメージが樟賈寶を襲う。
 樟賈寶のボディに内蔵された人工心臓にも大きな負荷がかかり、血圧の変動は
 脳にも大きな苦痛を与えていた。
 
「……こいつぁ あいつと同じ」
 
 樟賈寶には覚えが有った、人体の内部から気を練り出して規格外の力を発揮する
 その技…… この少年は内功を操っている。
 
(だとすれば余計、負けられなねぇ)
 
 外家の意地にかけて、内家の化石の技などに破れる訳にはいかなかった。
 
「喰らいやがれ!!」
 
 樟賈寶が放つ奥義、【阿修羅憤怒弾】
 双手から挂拳、蓋拳、拠拳、横拳の6段式を一斉に放つ!
 連撃を超えた無数の豪腕がスプリガンへと襲い掛かる。
75『泡沫の夢』:02/07/03 00:43
>73 <遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
羽居「んっとね、秋葉ちゃんの想い人はお兄さんなんだよ」
   (何事も無かった様に、復帰♪) 
     
蒼香「因みに名前は、志貴って言うんだそうだぜ」
 
万葉&秋葉「……………」
 
秋葉「羽居……、起きていたの……!? 蒼香まで。……確かに私は兄さんが」
 
万葉「起きてらしたのですね……、私は別に…」
 
秋葉「今、現在は生死不明で行方不明ですけど……。きっと、何処かで生きています」
 
万葉「私は……を捜しているのです、……は必ず何処かに…だから」
 
秋葉「私の中にわずかながら、兄さんの鼓動を感じるから……。そう、きっと……」
 
万葉「だから、私は…、私も…解ります…貴方の気持ちが」
 
蒼香&羽居(やっぱり色々溜まっているんだ…似たもの同士?)
 
秋葉「……そうですか。深くは詮索しませんけど、見つかると良いですわね。
   ……湿っぽくなりましたわね。さて、景気直しにどんどん呑みましょうか?」
 
万葉「そうですね、手加減はしませんよ」
   
蒼香&羽居『えええーー、まだ飲むの?』
 
76『泡沫の夢』:02/07/03 00:44
>75 <遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
秋葉&万葉『これからが本番です!』
 
万葉「ええ、所で……お兄さんなんですか? …実の?」
(ウイスキーをお酌しながら) 
 
秋葉「いえ、血は繋がっていませんわ。けれど、兄さんは兄さんです」
(ウイスキーをコップ一杯ストレートで一気のみ)
 
万葉「いえ、血が繋がっていても構いません、好きなら相手が誰であれ許される筈です!」
(同じく一気のみ)
 
秋葉「ええ、全くですわね! 気が合いますわね!!」
(5本目のボトルを空ける)
 
万葉「だいたい、鷹久は何時も私の事を忘れて…、他の女と……」
(ブランディーを開ける) 
 
秋葉「ええ、全く! 私自身、身を削ってまで、兄さんを救ったというの…。今、どこかで他の泥棒猫と
仲良くやっていた日には……」
(ボトル一本一気のみ)
 
万葉「残念ながら、そう言う時に限って、悪い予感は当たるのです!いま志貴さんは絶対に他の女と居ます!!」
(同じく一気のみ)
 
秋葉「そうですわね、貴方の想い人も他の女と宜しくやっていますわ!!」
 
万葉「…覚悟の上です! 私はあんな妹みたいなあの女性に負けたりしません!!」
 
秋葉「いいえ、貴方は負けます…身近に居る事の強さは私が証明しました!!」
 
万葉「その上で逃げられているなら無意味です、問題は女性的な魅力です!!」
 
羽居(魅力か…、秋葉ちゃんはかわいいよ、…少し小さいだけで)
 
蒼香(…禁句だよな、魅力はいいんだよ。頭に『女』って付けなければ)
 
秋葉「胸は関係無いでしょう!!」
 
万葉「私はそんな事は言っていません!!」
 
秋葉&万葉(ギロリ!!)
 
蒼香「言ってない!! なんでこっちに来るんだよ」
 
羽居(酔っ払いの勘? …テレパシーかも?)
 
万葉「まあ良いです、私のは関係の無い事ですから」
 
秋葉「………敵ですわね(ボソ)」
77『泡沫の夢』:02/07/03 00:49
>76 <遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
秋葉「……ああ、もう人がこんなにやきもきしているというのに! 兄さんという人は!!」
(側にあった日本酒一升瓶一気呑み)
 
万葉「鷹久だって、私が出会う時は何時も何時もあの女性が側にいるんだから!!」
(秋葉の日本酒を奪い取って一気呑み)
 
蒼香(つーか、何時まで呑んでやがる、…空が明るいぞ、まったく…)
 
羽居(くー、かー、すー、うみゃ…)
 
蒼香(寝てやがるしな…、まあ休みで良かったよ本当に…)
 
秋葉「……兄さんの馬鹿」
(ばたっと倒れる)
 
万葉「………鷹久」
(秋葉さんの隣りに倒れこむ)
 
羽居(むにゃむにゃ〜)
 
蒼香「…あ!? なんだ…私か?後始末をするのは私だけなのか?」
 
見回りが来る前に、三人をベットに放り込んで、大量の酒瓶を片付け、換気して証拠を隠滅する。
…誉められて良い働きの筈だ。
 
「別に、誉めて欲しい訳じゃあないどな…虚しいぞ」
78琥珀 ◆Amber97g :02/07/03 00:52
>77 《遠野秋葉 vs 高原万葉『矛盾輪廻』》

―――窓の外に広がるのは、灰色の風景。
     冬の曇り空特有の、低く立ち込めた雲。
     それは同時に、自分のの心象風景でもあるかも知れない。

     『あの日』から決して晴れる事の無い 、わたしのココロ………。

それでも、脳裏には幾つかの色付いた場景が残っています。
 何も知らずに、ただ見上げた真夏の青空。
  お別れの日に手渡した、白いリボン。
   そして、赤い。紅い、朱い―――――


     ヒトのカタチを脱ぎ捨てて、異形へと変貌する『遠野四季』と呼ばれた存在

          射竦められたように、呆然と立ち尽くしたまま動けない『異形』の妹

        『妹』を庇うように立ち塞がる、兄になろうとした少年。

          ――――飛び散る、鮮血

                       誰かの、悲鳴――――


………あの『赤い』光景の役者のうち一人は、既に退場しました。
予定では、四季さまだけでなく秋葉さまも退場する筈だったんですが………。
どうやら見通しが甘かったようです。

先日まで行方不明だった志貴さんが帰って来られる、という連絡がありました。
この事ををお知らせすれば、秋葉さまは浅上の寄宿舎には戻らないでしょう。
時南先生には薬の調合の為に連絡を取りましたが、そちらから話が漏れるとは思えません。
けれど―――寄宿舎の方へも、同じ連絡が行った可能性はあります。

―――――時間がありません。
もう、手持ちの駒はありません。

それでも。それでも、わたしの『復讐』は終われないんです………。
だって、それしかわたしの生きている『理由』が無いんですから………。

―――――『神剣の御使い』

時南先生のおっしゃった言葉が頭に浮かびました。
…『魔』を退ける。それはつまり、秋葉さまの敵にも成り得る存在。
それならば、上手く誘導すれば駒の一つになってくれるかも知れませんね。
ですが、タイムリミットは近付いています。少々強引な方法ですが、仕方ないでしょう。
意を決して受話器を取り、ダイヤルをプッシュし―――――

「学院内……、遠野……、人喰い……、魔物……」

目的の相手が電話に出たのを確認して、一連の単語を羅列します。
『彼女』なら、きっと動いてくれるでしょう………。

『―――――』

『彼女』がなにやら聞き返しているようですが、それを無視して受話器を置きました。

――――舞台の幕は、切って落とされました。
      さあ、踊って下さいな。
      わたしの為に、『人形』を生かすために―――――
79遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 00:59
>78
《遠野秋葉 vs 高原万葉『矛盾輪廻』》
 やれやれ、つまらない迷信ともいえる七不思議に取り憑かれるというのもこまったものだ。
 既に、四条さんは強迫観念で動いている。
 こちらから、どうにかしないと後々、面倒なことになるだろう。
 何しろ、彼女は私を屋上から突き落とすくらい追い詰められている。
 
「はあ………」
 
 私は溜息をつきつつ、裏庭へと向かった。
 
 この時間、この場所なら誰の邪魔も入らない。
 ここまでお膳立てをしてあげたんだから、彼女もすぐにやってきてくれるだろう―――
 
「きた、かな」

 背後から落ち葉を踏みしめる音が聞こえた。
 足音を極力忍ばせているけど、子供のかくれんぼとなんら変わりのない忍び足だ。
 
「こんばんは。さすがに夜は冷えるわね、四条さん」
 
 相手を刺激しないようにゆっくりと振りかえる。
 
「げ―――」
 
 ナイフ……
 なんとまあ、そこまで……
 
「四条さん、あなた、自分が何をしているか分かっているの?」
 
 こういう時こそ、冷静に……
 なるべく、実力行使には出たくない。
 
『―――おかしいよ。屋上から落ちたのに、なんで生きてるの? 遠野さん、普通じゃないわ』
 
 ……嫌な予感。
 会話になっていない気がする。
 
『わたし、遠野さんに消えてもらわないと困る。ね、何度も転校してるんだから――!?」
 
 そこで彼女の言葉は唐突に途切れた。
 突如乱入してきた黒い影が四条さんを引き裂き……
 四条さんの上半身と下半身は永遠の別れを告げることになった。
 
「―――!?」
 
 私は、あまりのことに絶句する。
 一体、何が……!?
 呆然としている私に黒い影が話し掛けてくる。
80『泡沫の夢』:02/07/03 01:06
>79 <遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
こんな夜更けに、しかも私に電話なんて…一体なんだろう。
相手は時南の性を名乗ったらしい…、
 
「はい、代わりました高原です」
 
「学院内……、遠野……、人喰い……、魔物……」
 
「…!! 誰です、時南のおじ様ではありませんね!」
 
一体何故? 私を知っている? 遠野…秋葉さんの事なの? 
 
問いただす前に電話は無言のまま切られた。
相手はわたしの事を知っている、そして時南のおじ様の事も…
調べなくてはいけない。
 
そう思ったとき…、不意に強い魔の者の気配。
この学院にある結界内では感じる筈の無い気配の筈なのに…
一時の平安に慣れ、勘が鈍ったのだろうか?
 
親しくなった人を失う…それは天に背き罪を背負った私の運命だ。
…だけど、秋葉さん達を死なせる訳にはいかない。
彼女達は私とは無関係なのだから…
 
冬休み中で、学園内には殆ど人が居ない…それは幸運だ、同時にあの三人が犠牲になる
可能性が高いという事だ…
弓道部に入部すると言う名目で借り出してきた弓の弦をはり矢筒を掴み駆け出す。
…そう、この場でもっとも失いたくない人達の元へ…
 
81遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:22
>80
『クク、アイツの気配がしたと思ったが、とんだ勘違いだったな……』
 
 私は影を凝視する。
 
 身体が白い虎で、頭が猿……
 昔話に出てくるかのような怪物……
 鵺!?
 
『まあ、いいか。どうせ近くに居ることは間違いない。それに目の前にちょうどいい餌もあることだしな』
 
 鵺は醜悪な笑みを浮かべて、私に近づいてくる。
 
 ……このままでは殺される。
 これは使いたくなかったけど……
 仕方ないか。
 
『……な、何!?』
 
 鵺は驚きの声をあげる。
 
 それはそうだろう。
 何しろ、いきなり自分の右足が消失したのだから。
 
『グゥルオオオォォォッ!!』
 
 野獣その物の咆哮を上げながら、弾かれた様に飛びかかってくる。
 
 生物として規格外の速さ、今が昼間ならこの程度の相手などに、私が遅れを取る筈は無い…けど。
 夜の暗さは、相手に利を、私には不利しかもたらさない。
82遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:22
>81
 しかし、私の髪が鵺を略奪するより速く、鵺の牙が私を…襲うことは無かった。
 何時の間にか鵺の腹部から矢が生えている
 
「秋葉さんッ!!」
 
 叫び声……
 この声はついこの前やってきた……
 
「高原さん…!?」
 
 弓を構えた高原さんは、鵺を警戒しながら私の方を振り向いた。
 私の知る限り、唯の弓がこの手の化物に意味を為す可能性はない…、だが確実に効いている。
 それ以上に、人の死体と有得ない化物を前にこの落ち着き方はなんだろう?
 
「秋葉さん、それは後よ、この程度では死なないわ」
 
「……そうね、けど終わりよ。私のクラスメートを殺した罪は償ってもらうわ」
 
 髪を朱く染めつつ、私は鵺へそう告げた。
 
『き、貴様等!? おのれ、神剣の御使いめ! 何故だ!? 何故我等と同じ血を持つ者と共に在る』
 
 なにやら、鵺は叫んでいるが知ったことではない。
 
『何故貴様は、この女を狩らない、天を裏切り我等の側に付くと言うのか!?』
 
「うるさいわね。もう、消えて頂戴」
 
 私ははっきりと殺意を以って、鵺を見据えた。
 朱い髪が鵺に纏わりつき、同時に白い光を纏う矢が眉間を貫いた……
 数秒後、鵺は跡形も無く消滅した。
 
「終りですわね、でも…」
 
 問題はこちらの方が深刻だ、高原さんが私に弓を構えていたから、
 初めて出会った頃のあの冷たい仮面を顔に張りつけながら…
 
「秋葉…、貴方は…、貴方は…、土蜘蛛衆だというの?」
83高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 01:24
>82 <遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
「秋葉さんは何処ですか!?」
 
「遠野か? あー、少し問題を抱えていてな、今でてるぜ」
 
部屋の中には羽居さんと月姫さんしか居なかった…私の悪い予感は当たるのだ…
いや、予感とさえ呼べるものでは無い…私の周りに居る人が巻きこまれる…それは事実に過ぎない。
 
「部屋から出ないで下さい、すぐに秋葉さんも連れてきます!」
 
背後から聞こえる声を振り切って、駆け出す。
その時、更に強力な魔の気配が不意の生まれた…、獣の咆哮と共に。
 
「裏庭!? 一体何が起こっているの…」
 
獣の咆哮…、聞き覚えのある声だ…そう私の両親を転生の度に殺したあの土蜘蛛衆の鵺…
だけど…、あの紅い人影は…秋葉だと言うの?
この強力な魔の気配が彼女だと言うの?
 
「秋葉ッ!!」
 
わからない…、でも何も解らないまま死なせる訳にはいかない。
体内に残された神剣の神気をつがえた矢に込め放つ…魔を祓い闇を退ける神剣「天叢雲剣」
退魔の力として、最高の存在であるその神気。
 
けれど、それ以上に鵺を消滅させていくこの力は?
厳しい目つきで鵺を睨むその表情に狂気は無い…、けれどこの異常な事態を当然の様に
受け止められるのは…何故?
 
鵺の言葉を聞くまでも無い…、彼女から感じるこの気配は『魔』その物だから…。
魔の者を許す訳にはいかない、天が定めた律令だ…それは絶対のものなのだから。
  
「秋葉…、貴方は…、貴方は…、土蜘蛛衆だというの?」
 
声が震えるのは何故、…彼女は滅びるべき存在だ、それなのに…
84ウピエル ◆7C6xVWDQ :02/07/03 01:25
ウピエルVSファントム
 
前スレ>75
http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1024844742/75
 
ツヴァイとの闘いで、吸血鬼再生能力を無効化する銀の弾丸によって心臓は傷付いていた。
再生の効かない心臓の傷は、鼓動を打つごとに少しずつ、少しずつ広がり、ついに崩壊に達する。
ドライと闘う以前に。
 
俺は、死んでいたのだ。
 
今はただ、死者がその執念だけで彷徨っているだけだ。
闘争への執念が、常軌を逸する執念が、死者の肉体の脅威的な活動を支えていた。
だが、それも限界に達した。
 
想像を絶する能力の解放に、遂に心臓に最後が訪れた。
心臓が、破裂した。
 
崩れる。限界を超えた酷使に、肉体が灰と化し崩壊して行く。
音速に達した肉体がドライへと到達するまでの極僅かな時間に、全身が灰となり拡散して行く。
銃剣を咥える顎から力が抜けそうになる。
 
音速の跳躍も、非道くノロマに感じられる。
 
このまま、このまま、後わずかで良い。
崩壊せずに保ってくれ・・・俺の肉体よ、俺の闘志よ・・・!
 
だが、しかし肉体は無情に崩壊して行く。
目が霞む。感覚が消えて行く。意識が遠のく。
目前にドライの喉元が迫り、ドライの構えたナイフが目に入る。
避ける余裕などは無い。僅かに身体をひねり、肩で受ける。
瞬間、意識が途切れ─――――――――――――――――最後の姿勢制御に失敗した。
空気抵抗による急激な減速。
ドライの喉を浅く抉り、力の抜けた顎から銃剣が跳ぶ。
俺の肉体は、ドライを巻き込むように吹き飛び、壁へと衝突した。
85遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:31
>83 <遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
 ――秋葉…、貴方は…、貴方は…、土蜘蛛衆だというの?
 
 ……殺気を込めて高原さんは私を問い詰めてくる。
 正直、言って、私には彼女が何を言っているか分からない。
 
「……さあ? 貴女が何を言っているのか理解しかねますわね」
 
 チラリと無残としか言い様が無い四条さんの亡骸を見て、言葉を続ける。
 
「それより、高原さん、あなた、あの化け物と縁があるようでしたけど…? 一体、どういうことかしら?」
 
 語勢を強め、問い掛ける。
 
「……仮にも私のクラスメートが殺されたんです。事と次第によってはただじゃおきませんわよ?」
 
 なるべく、手荒な真似はしたくない。
 けど、人死にがでた以上は、私も退けない。
 私は彼女の口から、真実を聞かねばならない。
86高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 01:33
>85 <遠野秋葉vs高原万葉>『矛盾輪廻』
 
彼女のセリフは真っ当だ…だからこそ浮いている。
そして、彼女自身が普通ではない事を暗示している…。
 
「鵺ですね、これは私を狙ったのでしょう、…彼女は私の犠牲者です」
 
それだけは事実だ、私が来なかった彼女が死ぬことは無かった…。
無残に殺された少女に一瞬視線を送る。
 
「鵺が私を襲った理由は、私が『退魔』の側ある存在だからです」
 
私が天から使わされた天女だと言っても、彼女は納得しないだろう。
だけど、世界に魔があるのなら、その逆の存在もあるのだ。
 
「…そして、この鵺は貴方と同じ側に居る存在なの」 
 
弓を引き絞る…、そう彼女は滅びるべき存在だ。
罪悪感を感じる必要も無い、…無い筈なのに。
 
―― 何故あの時矢を放ったのか? 何故今こうして話しているの? ――
87遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:37
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>86
 
『鵺ですね、これは私を狙ったのでしょう、…彼女は私の犠牲者です』
 
 四条さんは余程、運がなかったらしい……
 彼女は憑かれていたとはいえ、結果、命を落とすことになったのか……

『鵺が私を襲った理由は、私が『退魔』の側ある存在だからです』
 
『…そして、この鵺は貴方と同じ側に居る存在なの』
 
 ……どうやら、私は狙われているらしい。
 確かに私は少なくとも半分以上は人間じゃない。
 
 けれど、ただそれだけで、はい、そうですかと殺されるわけにはいかない。
 私は兄さんに又会える日まで死んではならないのだから。
 兄さんに返してもらった命をこんなところで落とす訳にはいかない。
 
 高原さんの後ろの木を凝視する。
 檻髪が纏わりつき、みるみるうちに木が消滅していく。
 
「……高原さん、どうしても私とやりあうつもりかしら? 見ての通り、私は視ただけでそのものを略奪できます」
 
 弓を番える高原さんに向けて、宣告する。
 
「今なら、見逃して差し上げます。何も無かったことに。そう、この浅上にもあなたは来なかった。
 そうしてくれれば、悪いようにはしません」
 
 できることなら……
 
「――この実力差を見れば、私に挑む事がどれだけ無謀か分かるでしょう?」
 
 大人しく、退いて欲しい。
 私には、人は、殺せない……
88高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 01:40
>87 <遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
 
私の目には紅い髪が広がって木を被い尽くしたのがはっきりと見えた。
『魔』と『退魔』…これは決して別の存在ではない。
お互いに相容れることは無くても、その大元の法則は共通している。
 
つまり、彼女の力を私の神気で破ることは可能のだけど……
力の差は歴然だ、彼女が私を殺したいなら何時でも殺せるのに何故それをしない?
嬲る気が在るなら解る…、去れとは一体どう言う意味なの?
 
…秋葉さんの真意が解らない。
今の彼女、私を受け入れてくれた彼女、どちらが本当の姿なのか?
 
知りたい、如何しても知りたい、鷹久も土蜘蛛と人との混血なのだから…
 
「貴方はどちらの……」
 
だとしても…聞いてどうする?
彼女を見逃すの?
それを認めれば、私は天に逆らうことになる…
それは、…私の千年の贖罪を無に帰すだろう…それは…出来ない…絶対に。
だから…
 
「無謀ですか? 貴方こそこの矢に込められた力が解りませんか」
 
こう言うしかない…
 
「貴方は…私が殺します」
 
殺したくない、死んで欲しくない。
けど、殺さなくてはなら…罪は贖えない…。
89遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:42
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>88
 
 ――貴方は…私が殺します
 
 ……彼女の決意は固い。
 退くに退けない何かがあるようだ。
 
「けれど、私には分かりかねます。魔というだけで、殺されねばならないのですか?」
 
 どうしても彼女の論理が分からない。
 何か信念に基づくものということは分かるが……
 彼女には確実に迷いがある。
 
「高原さん、あなたは本当に自分のやっていることを正しいと思っているのかしら?」
 
 本当にただ、殺すということを追求するなら、こんな問答の余地はない。
 いきなり、バッサリやって当然のはずだ。
 
「私を殺すというのなら、おしゃべりなんかせずに不意をついて殺せばいいでしょう? 何故、それをしないの?」
 
 それに……
 
「あなた、この前の宴会の時、とても楽しそうだったわね。もう、あの時のあなたには戻れないのかしら?」
 
 そう、おそらくは彼女も少し、前の私と同じ。
 自分を傷つけても、大切なモノを……
 結果、背負い込みすぎて……
 
「もう、一度、言います。退いて下さい。私とて、この忌々しい力は使いたくありません」
 
 そう、これを使うということは遠野寄りに近づくということ。
 即ち、兄さんから遠のくということ。
 
 こんなモノを使わなくてもいいなら、それにこしたことはない……
90高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 01:45
>89 <遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
 
魔が滅ぼされるべき理由。
考えるまでもない、天が定めた律令だ。
自然界や人間界に寄生して生き続ける毒虫に過ぎない。
 
「貴方達『魔』の存在は神の考えに反します」
 
『魔』の存在は自然の流れを止め歪め正当流れから外れている
故に人は『退魔』と言う存在をつくり、神は魔を浄化する『神剣』と言う力を
人に与えたのだ…
 
―― なら鷹久は? 鷹久を愛した私は?
 
「疑う余地などありえません」
 
―― なら彼女は違うの? 血の繋がらない兄を愛しいると言った彼女は
 
「貴方が魔の者だと知っていたら…、同席などしません!!」
 
―― 嘘だ楽しかった、あんな風に人と騒いだ経験なんか無い
 
あの時感じた、彼女への親近感は?
想い人を待っている言う、彼女の想いは?
 
退魔でありながら、魔を身に宿した鷹久と愛した私と…
魔でありながら、人を愛した彼女…
なら…秋葉を否定する事は、鷹久を否定する事と同じ?
 
…だけど、それでも。
 
『もう、一度、言います。退いて下さい。私とて、この忌々しい力は使いたくありません』
 
「引けませんね、貴方は浄化されるべき者です、忌々しいと思うなら…滅びなさい」
 
例え、私の感情がどうであれ。
彼女を…、『魔』を認めることは天の意志に反する。
それは私が、鷹久が天に認められ、赦される可能性が無くなる事…
 
選択の余地は無い。
 
「世界は、天は貴方達を必要としていません!」
91遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:49
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>90
 
 ――貴方達『魔』の存在は神の考えに反します
 
 神、そんなものをあなたは拠り所にしているの?
 本当に?
 
 ――貴方が魔の者だと知っていたら…、同席などしません!!
 
 ……その割には本当に辛そうな顔
 
 この前の宴会……
 あの時の高原さんの素行は矢張り、嘘だとは思えない
 
 自分も騙せない嘘は最低だってこの人は知っているのかしら……?
 
 ――引けませんね、貴方は浄化されるべき者です、忌々しいと思うなら…滅びなさい
 ――世界は、天は貴方達を必要としていません!
 
「……ホントに意固地な方ですわね」
 
 溜息をつきながら、必死に思考を巡らす。
 
 もう、避けられないのか?
 けれど……
 
 駄目だ。
 私は高原さんを殺せない。
 
 ……単純に『殺す』という意味ならそれこそ一瞬だ。
 けれど、それをやった瞬間に『遠野秋葉』は死んだも同然の身となる。
 
 血に塗れた手で兄さんを迎えることは出来ないから……
 奇麗事かもしれないけど……
 兄さんが返してくれた『命』を血で汚したくは無い……
 
 そうだ、檻髪で彼女を動けない程度に略奪してしまえば……
 ……それしかない!
 
「……高原さん、一言だけ。自分も騙せない嘘は最低です!」
 
 私の朱い髪の毛が舞い上がる。
 狙うは彼女の四肢。
 
 もう、『視えている』
 これで気絶させる!
 
 朱い奔流が高原さんへの手足へと絡みついて……
92高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 01:52
>91 <遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
 
引き返せない拒絶の言葉。
相手にではない、むしろ自分に言い聞かせる為に言葉にしたのに…
弓を引き絞った指は、矢を放つ事が出来なかった。
 
―― わかっている、彼女には殺意が無い…、土蜘蛛の憎悪が無い
 
鵺を消滅させたあの能力、あれを使えば私を殺す事など簡単なのに
彼女は力に目覚めているのに、闇の意識に食われる事無く人の意識を保っているの?
ありえない、けど…、もしかしたら…
 
『学院内……、遠野……、人喰い……、魔物……』
 
あの電話は…、あの電話の主は一体何を?
 
『うるさいわね。もう、消えて頂戴』
 
あの力は…、彼女は鵺を食い殺した?
 
彼女は…、どっち?
人? それとも…魔?
 
『……高原さん、一言だけ。自分も騙せない嘘は最低です』
 
一瞬の躊躇い…、その一瞬は彼女にとって十分過ぎた。
紅い奔流が、風に舞う様な軽さと、荒れ狂う激流のような勢いで視界いっぱいに広がる。
 
「私は騙してなどいない、迷う事など無いわ!」
 
指が痙攣するように動き、白い神気を纏った矢が紅い流れを引き裂く。
けれど矢は、私の心を映した様にその軌道をそらした。
 
眉間を狙ったはずなのに、必殺の気を込めた矢は唯彼女の髪を一房切り裂く
だけに終わった…
93遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:54
>92
「―――!?」
 
 彼女の叫びとともに、矢が放たれる。
 
 しまった!?
 
 だが……
 
「…………」
 
 矢は私の髪を掠めただけに終わった。
 意図的に外したのか、動揺で外したのか……
 おそらくは後者の方だろう。
 
 この機を逃す訳にはいかない。
 
「……高原さん、大人しく眠っていただきます」
 
 彼女の四肢を意思を以って睨みつける。
 それだけで彼女の身体は金縛りにあったように動かなくなる。
 
 しかし、彼女はなお戦意を失わず、私を睨む。
 
「……存外に意思が強いのね。これだけで終わらせるつもりだったのに」
 
 けれど、もう、おしまい。
 逃れる術はない。
 
「……だけど、もう手遅れよ。これでおしまいね」
 
 きりきりと彼女の四肢を締め上げる。
 いかに耐えようと程なく彼女は気絶するだろう。
94高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 01:56
>93 <遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
 
紅い髪が私の四肢を締めける。
だが、鵺のように手足が消滅する気配はない…
ただ、手足から急速に体温が消えてゆき、手足の感覚が消えていく…
 
―― 嬲る気なの? それとも他に意図があるの?
 
どちらにせよ、まだ対抗手段は在る。
小さく、だけど明瞭な流れる様な音韻。
 
『高天原爾 神留坐須…
         …禊祓比給布時爾 生坐世留 祓戸乃大神等 』
         
禊祓詞…、魔を祓い、体内の神気を高める天が定めた秩序を守る言葉…
彼女との力の差は歴然だ…機会を待たなくては勝ち目は無い。
彼女はその場を動くことなく話しかけてくる。
 
『諸々禍事罪穢乎 祓閉給比 清米給布登 …
           …耳振立氏 聞食世登 畏美畏美母白須』
 
勝利を確信した彼女の声…、この瞬間を待っていたの。
一瞬の油断を、神気が最高に高まる瞬間を、祝詞が完成するこの時を。
体内の神気を右腕に集め、紅い戒めを切り裂き。
自由になった手で拍手を打つ。
 
竹を割ったよな小気味の良い音と共に、この場に在った不自然な力の流れが
消えうせる。
 
「まだよ、そして終わるのは貴方です!」
 
呆然とした彼女の隙を見逃す訳には行かない。
一気に飛び掛り、押し倒す。
 
「…何故殺さなかったのでか?」
 
神気を帯びた手刀を首に押し当てながら…、どうしたも気になる問いが口から
漏れた。
95遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 01:58
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>94
 
「えっ……」
 
 我ながら、酷く間の抜けた声。
 唐突に私の檻髪による拘束が消えた。
 戒めを解いた彼女は叫びとともにそのまま、私に飛び掛り、私の首筋に手刀を押し当てた。
 
 ――何故、殺さなかったのですか?
 
 彼女からの問い。
 無論、答えは決まっている。
 
「殺すと……」
 
 高原さんは私の能力をまだ理解していなかった。
 こんな超至近距離で私を仕留めずにおくということは自殺行為に等しい。
 夜といえど、こんな至近距離ではこれ以上ないくらいはっきり視える。
 
 即ち、それは檻髪が最大級の効果を発揮するということ。
 私がその気になれば、彼女は一瞬で消えてしまうだろう。
 流石にそれはやらないけど……
 
「私が遠野秋葉でいられなくなるからに決まっているでしょう!」
 
 私の叫びとともに、檻髪が一瞬で彼女を包み込む。
 高原さんの全身の力を満遍なく、略奪する。
 幾らなんでもこれで気絶するはずだ。
 今度こそ、おしまい……!
96高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:00
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>95
 
彼女の叫び、その意味に理解が及ぶ前に視界の全てが紅一色に染め上げられる。
 
―― 速い!
 
全身の感覚が、意識が途切れていく。
 
     『 死 』
 
過去に何度も味わった虚無勘…
消えていく感覚、薄れていく意識…
まだ、鷹久にめぐり合っていないのに…
確かめなくてはいけないのに…
 
そうだ、死ねない…
絶対に死ねない、鷹久に会うまで。
使命を果たすまで、天に赦されるまで!
 
―― 死ねない、死にたくない、まだ私は今生で何も為していない!!
 
意識が途切れるその瞬間、胸に収めた御守りから熱い光と意識を呼び起こす波動が
漏れ出す。
 
際限無く溢れ出す紅い光、かつて鷹久と私を守り魔を退けた八坂の勾玉。
あの子はその時に力の全てを使い切り、眠りについたはず……
 
硬質の金属が限界を超えて砕けるような、澄んだ清浄な音が鳴り響く。
二つの紅い光がぶつかり合い、打ち消し合った瞬間。
 
衝撃と閃光が私と彼女を吹き飛ばす。
胸元に在るのは私の身代わりに砕け散ったあの子の欠片。
97高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:05
>96 <遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
 
彼女の嘘を信じなければ…、こんな卑怯な嘘を…
また失った…
戸惑うから、多くを望むから、
 
―― もう信じない、信じたかった…、でもそのせいでこの子を…、彼女は魔だ!!
 
彼女の能力の性質は理解した、遮蔽物の無いこの場所では無理だ。
もっと、物陰の多い場所へ…建物の中へ。
そして武器を…
 
地面に散らばった、矢を集め弓を掴み寮へ走り出す。
けれど、その瞬間に身体中が悲鳴を上げる
五体は満足だ、しかし紛れも無く殺されかけたと実感できる。
 
―― 彼女は人食いの魔物だ
 
身体を起こし振り向こうとした彼女に躊躇うことなく矢を放つ。
寮へ辿りつく為のただの牽制…、しかし本気の殺意を込めて矢は放つ。
もう迷いなど無い、かけるべき言葉も無い、慈悲など必要無い。
 
「秋葉、貴方は私が殺します」
 
彼女にではない、自分自身に言い聞かせる言葉。
もう彼女にかける言葉など持っていない、彼女の言葉を聞く耳も必要ないのだから
98遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 02:06
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>97
 
 バチン!
 
 激しい閃光、そして衝撃。
 私と高原さんはそれぞれ吹き飛ばされた。
 
「くっ……」
 
 一体、何が……?
 私にとっては必殺(もっとも殺すつもりは毛頭なかったが)の、
 彼女には致命(気絶するだけだけど)のタイミングだったはずだ。
 
「………」
 
 無言で立ち上がろうとする私の側を矢がかすめる。
 矢の飛んできた方向を見ると、彼女が殺気を以って、私を睨んでいた。
 
 ――秋葉、貴方は私が殺します
 
 彼女の言葉。
 そこには一片の感情も感じられない、ただ冷たい、殺意。
 
 何本も矢が私に飛んでくる。
 牽制のつもりなのか、私に当たることはなかったが……
 
 彼女が寮へと駆け込んでいく。
 あそこで、私を仕留めるつもりらしい。
 
 遮蔽物の多い建物内は私は不利だ。
 けど、ここで彼女の誤解を解かないと明日からどんなことになるか分からない。
 万が一、そう、ありえない話ではあるけれど、もし、羽ピンや蒼香を人質に取られようモノなら、
 私に打つ手はない
 それにおちおち眠れない夜を過ごすのも、性にあわない。
 
「決着をつけるしかないわね……」
 
 寮の前に立つ。
 ……ここで彼女に逃げられるわけはいかないか。
 私が寮に入ると同時に寮全体が朱い檻髪に包まれた。
 これで、もう逃げられない。
 あとは、彼女を追い詰めて、気絶させるなり、なんなりして……



 寮の中はひたすらに静謐だった。
 もう、皆、寝てしまっているのか。
 
 何時、何処から飛んでくるか分からない矢への対策のために、私の周りを檻髪で覆う。
 朱い蒸気が私の周囲から、湧き上がる。
 これでどこから矢が飛んでこようともシャットアウトできる。
 
 さて、彼女を探さないと……
99高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:07
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>98
 
彼女の能力は理解した。
射程は視界と同義、そして威力や速度は近距離ほど強力だ。
取り得る対抗手段は二つ、死角から近づいての接近戦と弓矢を使用した遠距離戦だ。
私の力を考慮すれば、先ほどの様に虚をついての接近戦がベストだろう。
けれど…身体は既に悲鳴を上げている
 
―― 次は躊躇しない 
 
彼女の視界から逃れる為に階段を駈け上がる。
だが踊り場に身を隠した時、全身に虚脱感と鈍い痛みが広がる。
…当然だろう、あの子『八坂の勾玉』が居なければ、私は鵺のように食われていたはずだ。
 
この身体では彼女の虚を付くほどの動きは難しい…、けど…
その時、踊り場の窓から見える世界が紅く輝き、そして世界は異界に堕ちた。
身体中に悪寒がはしる…、ここは彼女の顎の中だ。
 
―― まさか! 他の人まで皆殺しにする気!?
 
いま、寮の中には殆ど人が居ない…けれど羽居さんや、蒼香さんは部屋に居るはずだ。
不幸中の幸いと言うべきか、幸運中の不幸と言うべきか…。
最悪でも私に巻きこまれ死ぬ人は少ない、だがそれが一番親しくしてくれたあの人達…
そして、その元凶が…秋葉さん。
 
―― ここで止めなければ。
 
『高天原爾 神留坐須…』
禊祓詞を唱え、体内の神気を高める。
彼女が階段に昇り始めた瞬間に上の死角から矢を放てば…
弓を逆手に構え神気を注ぎ込み機会を待つ。
射形は酷く不自然だが、場の利を生かせば十分に当てられる。
 
現れたのは、自らの周囲に紅い髪を纏わせた紅い鬼女だった。
何処まで化物なのだろう…、その身に纏う鬼気は先ほどと較べるべくもない。
 
もはやかけるべき言葉はなく、放つべきは必殺の一撃だ。
軽く鋭い弦の音と白い光を纏う矢が彼女の頭上から襲いかかった。
100遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 02:12
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>99
 
 夜の階段に走る白い閃光――
 
 気づいた時にはもう手遅れだった。
 
「ぐっ……!?」
 
 矢が私の周囲を覆う朱い蒸気を貫いて、私の左肩に突き刺さった。
 
 やられた!
 何処から、撃ってきた……?
 
 上を見上げる。
 階段の上、踊り場に彼女は身を潜めていた。
 
 彼女の瞳は依然として冷たい殺意に満ちている。
 
 ――殺される!?
 
 左肩の傷からとめどなく流れる血……
 焼け付くような痛み……
 私はここで彼女に……?
 
 冗談じゃない!
 全ての因果が収束し、後は兄さんの帰りを待つだけなのに……
 こんなところで殺されるなんて、絶対に認めない!!
 今、此処で私が死んだら、残されるであろう兄さんはどうなる?
 約束を破ってまで、命を返し、私を助けてくれた兄さんの行為が全て、無駄になる……!
 ……私は生きなければならない、兄さんのためにも!
 
 私の想いに応えるかのように、朱い蒸気が収束し、彼女に襲い掛かる。
 そうだ、彼女さえ、いなくなれば……
 私は又、安心して……!
101高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:16
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>100 修正
 
外した!?
違う…、結界を貫くだけで力を使い果たした…
 
凶がった目線、怒りと狂気を湛えた瞳。
……目が合った。
 
―― 駄目だ、彼女にとって視界は死界だ。
 
視線に弾かれたように、後ろに飛ぶ。
一瞬だけ、紅い蒸気のような塊が印象に残った。
 
―― 逃げなければ、もう一度身を隠さなければ…
 
立ちあがり、軋む身体に無理をいい走り出そうとした…けど。
結果は一歩も進む事無く終った。
 
―― 足が…、でもこれぐらいで…
 
…?
あ…れ?
痛い訳じゃない、わずかに焼けつく様な感覚…それだけだ。
けれど、まるで自分の足じゃないような異様な違和感…氷のように冷たかった。
 
―― ……!! アアアアアァァァッッッ!!
 
流れる血も無く………
痛みも無く……
現実感も無い…
けれど、間違い無く彼女は私を食らった。
 
『私の中にわずかながら、兄さんの鼓動を感じるから……』
あれはどう言う意味だったの?
……もしかして、食らった!?
想い人である彼女の兄を?
 
なんてことを…、吐き気がする、一瞬でも信じた自分が呪わしい。
友人だと思った自分が恥ずかしい。
 
――許せない、矢張り彼女は魔なのだ…、人を食い生きる化物だ
 
死にたくない、まだ鷹久に回り逢ってもいない。
これまでの千年の贖罪が無駄になる、鷹久を信じて待った千年が……
私を捜すと言ってくれた鷹久を置いて死ねない!!
 
這いずりながら、廊下を転げるように進む。
ただ弓だけは放さないない…最後のたのみの綱だ。
彼女を殺せば、また鷹久に会えるから…
102遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 02:21
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>101
 
 ―― ……!! アアアアアァァァッッッ!!
 
 夜の寮に響き渡る叫び。
 
 それで私の白熱した思考が元へと戻っていく。
 私の視界に映るのは、苦悶の表情を浮かべる高原さんの姿だった。
 
「……あっ」
 
 なんて事を……
 私は何て事をしてしまったのだろう……
 
 私は彼女の誤解を解くのではなかったのか?
 それを、私は何をしている……?
 
 
 高原さんが転がるようにして、奥の闇へと消えていく。
 私はそれを呆然と見つめる。
103遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 02:22
>102
―私は……を捜しているのです、……は必ず何処かに…だから―
 
 だから、私は…、私も…解ります…貴方の気持ちが
 
 酒の席での彼女の言葉……
 彼女は狩る者で魔性である私と立場は違えど……
 私と境遇は同じなのだ。
 
 愛しい人を求めて、ただ足掻く。
 私はもう、ただ待つだけだけど……
 確信を持っているから……
 必ず、兄さんが帰ってくるという……
 
 でも、彼女はそのような確信がない。
 不安で不安でたまらないのだろう。
 少し、前の私と同じだ。
 鏡に映るもう一人の私と考えてもいい。
 
 ――それを私は殺そうとした
 
 『もう1人の私』を……
 『自分』を殺した手で兄さんを迎える資格はあるだろうか……?
 
 ……ない。
 少なくとも、高原さんを殺して、血に塗れた状態で私は兄さんを笑顔で迎える自信はない。
 
 私も死にたくない。
 でも、彼女を殺す訳にもいかない。
 『自分』を殺してまで、自分を又、偽りつづけて、生きるのは……
 もう、嫌だ……
 
「……いきましょう。なんとしてでも、誤解を解かないと」
 
 左肩に刺さった矢を引き抜き、服の袖を破って止血をした後、私は彼女を追って、更に、上階へと進む。
 
 彼女を止めれるだろうか?
 いいや、止めてみせる……!
 
 私は決意を固め、廊下の奥へと……
104名無しクルースニク:02/07/03 02:24
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>54
 
 出鱈目を通り越した再生能力。
 吹き飛ばした筈の頭部は、物の数秒で完全再生を果たした。
 振り被られる怪腕。
 少年をベッドへと突き飛ばしながら、青年は両腕を胸の真正面で組んで後方へ跳んでいた。
 拳と腕が接触。
 触れた、と知覚した瞬間、不可視の魔神に撫でられたが如く、全身が背後へと流されていた。
何て馬鹿力……狼男の比じゃない。
 腕が軋んだ。握っていたベネリが落ち――足先に触れた瞬間、振り出した脚は、顔面へと銃身
を蹴り付けている。
 時間稼ぎにもならない僅かな時間を稼ぎながら、青年はヴァルダレク――より正確には、その
慣れの果てから飛び離れた。
 
 啓示の月が輝き続ける。
 ヘカテーは沈黙した。
 少年から注意を反らすように、青年はその懐からグロックを抜き放ち、寧ろヴァルダレクへと肉薄する。
 異教の闇の中――例え朽ち果て消ゆるとも、躊躇う事など有りはしない。
 青白い月光を浴びるから薬莢を撒き散らしながら――青年もまた、走っていた。
105高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:24
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>103
 
思考がグチャグチャになってきた。
ほんの僅かな期間の友達…優しかった、嬉しかった、楽しかった。
全部、……嘘だった。
 
解っている、私は罪を償うまで幸せなんか来ない…
親しくなった人は、心を開いた人は死んでいく…
分かり合えたと思った人は魔の者だった…
 
「天に赦されるまで…」
      ―― 鷹久に会うまで…
       
転げながら進む、無様だ…けど関係無い。
 
「私達の罪を贖うまで…」
      ―― 鷹久を天に認めてもらうまで…
 
角を曲がり、その先の壁まで辿りつく…もう動けない。
 
「あの人食いに魔物を殺すまで…」
      ―― 魔と交わった事実を消す為に…
 
弓に矢をつがえる、最後の一本だ…もう後は無い。
目が霞む、意識が途切れる…、ここが何処か解らない。
 
「終れないのよ、絶対に!」
      ―― まだ始まりすら訪れていない
 
半ば壁に身体を預け、無くした足を補いながら弓を引き絞る。
最後の気力、最後の力を振り絞り神気を込める。
 
後はただ放つだけだ…、どちらにせよ…それで終る。
ドアの軋む音と僅かに見えた紅い光、そして人影。
それに確認すると同じに、私は引き絞った矢と意識を手放し…
 
最後に幸せな未来を夢想した、そこに居たのは今生では今だ回り逢わぬ鷹久と、
共に一晩中騒いだあの三人の姿だった…
106三澤羽居:02/07/03 02:28
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>105
 
 ……叫び声
 
 それで、わたしは目が覚めた。
 
 一体、何かあったのだろう……
 
 ふと、横を見る。
 秋葉ちゃんのベッドは空だった。
 
 お手洗いにでも行っているのだろうか?
 
 ……廊下で何かひきずるような音。
 それは部屋の前に来て、止まった。
 
 ……以降、何の反応も無い。
 
「……あの〜、誰ですか?」
 
 ……返事は無い。
 
 あ、もしかして、秋葉ちゃん?
 わたしを驚かそうとして……?
 
 甘い。
 そんな手に引っかかる、三澤羽居じゃありませんよ〜。
 
 無言でベッドから起き、足音を殺して、ドアへと向かう。
 
 ……ドアノブに手をかけ、一気にドアを開けた。
 
 
「……え」
 
 そこにあったのは予想外の光景。
 弓を構える万葉ちゃんと朱い髪をした秋葉ちゃんが……
 
 ……ひゅん!と風切り音。
 
 え、え……!?
107遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 02:30
前: 遠野秋葉(La2AKIHA) 投稿日: 2002/06/21(金) 08:44

<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>41 >42
 
 高原さんを追って、寮の廊下を突き進む。
 
 いた……!
 しかも、私の部屋の前に……
 
 弓をつがえ、高原さんは立っていた。
 見た所、相当に消耗しているようだ。
 これなら、気絶させて……
 
   ――引き絞られる弓
 
         ――そこで開く部屋のドア……
 
                   いつも通りの間の抜けた表情の羽ピン――
 
      ――彼女は私と高原さんの間に……
 
           ――ヒュンと放たれる矢
 
 私は考えるより、先に身体が動いた。
 自分でも信じれないくらいに身体が軽快に動き、羽ピンを突き飛ばす。
 そして……
108三澤羽居:02/07/03 02:31
>43
 矢が放たれると同時に、私に駆け寄る朱い影――秋葉ちゃん……
 
 ……どかっとわたしは弾き飛ばされた。
 
 したたかに後頭部を頭にぶつける。
 
 痛いなあ……
 乱暴は駄目だよ、秋葉ちゃん、 万葉ちゃん……
 
 わたしはそう思いながら、気を失った。
109遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 02:32
(トリップ判定  ◆8ptVf02A(遠野秋葉)<◆NWsJIh/k(高原万葉) 高原万葉勝利)
>108
 
 ズブッと鈍い嫌な音。
 矢は私の身体を深々と貫いていた。
 
「うっ………」
 
 しまった……
 羽ピンを庇うのに思考が行っていて、自分のことに気づかないなんて……
 
「ぐっ………」
 
 私はその場に膝をついた。
 駄目だ、力が入らない……
 
 ぼやける視界の中で、羽ピンを見る。
 壁によりそって、ぐったりしているが、どうやら無事なようだ。
 
 もう、一度、身体に喝を入れ、立ち上がろうと試みる。
 途端、私は体勢を崩し、無様にその場に倒れ込んだ。
 
 ……どうやら、致命傷のようだ。
 身体の末端から、遠野秋葉が死んでいくのがはっきり感じ取れた。
 
「…………?」
 
 そんな私の側に立つ人影……
 もう、視界がはっきりしない。
 誰かも分からない。
 
 けれど、おそらくは羽ピンだろう。
 なんとなくそんな気がする…… 
 
「……羽居? 良かったわ。無事だったみたいね」
 
 人影からの返事はない。
 
「ああ、私のことは気にしないで。少し、休んでいるだけだから……。そう、もう少ししたら、部屋に戻るから……」
 
 とんだ大嘘だ。
 もう、私は立つことすら出来ない。
 視ることすらも……
 迫る死を前に言葉を紡ぐのみ……
 
「……ホント、馬鹿みたい」
 
 何とはなしに漏れた言葉。
 誰へと向けられた訳でもない言葉。
 でも、今の私の心境を表すにはこれ以上ない言葉……
 
 何故、どこで、間違えたのか……?
 もう、全ての因果は断ったはずなのに……
 きっと生きているであろう兄さんの帰還を待つだけだったのに……
 それより前に私自身が死んでしまうなんて……
 
「……兄さん、ごめんなさい」
 
 もう、何も見えない、聞こえない……
 兄さん、私は……
110高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:38
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>109
 
全身から感じる鈍い痛みにで意識が覚醒する。
 
「……生きている?」
 
何故…、勝ったというの?
気を失っていたのは、ごく僅かな時間だ…それは解る。
気を失う前と違うのは…倒れている二人の人影……
 
―― 二人? それにここは?
 
頭がしっかりと動き出す…
ここは…、それに…、あれは、羽居さん!!
 
一体何故!? 私は一体……何を?
…違う、違う筈だ、私は……、絶対に……間違ってない!!
 
―― そうでなかったら、私は一体……
 
『……羽居? 良かったわ。無事だったみたいね』
 
……貴方は、人食いの魔物。
何を守っているの、友達なんか嘘なんでしょ?
 
『ああ、私のことは気にしないで。少し、休んでいるだけだから……。そう、もう少ししたら、部屋に戻るから……』
 
それは致命傷でしょ?
神気を込めた矢傷よ…、助かるわけ無い…、なのに何を言っているのよ?
本性を現せば良い、私達を食らえばいい…、そうしなければ死ぬだけだ。
 
『……ホント、馬鹿みたい』
 
本当に馬鹿だ…、何時でも殺せた筈だ……、なのに殺そうとしなかった。
見捨てられた筈だ…、なのに何故庇ったの?
 
―― 解ってる、もう疑い様が無い…、彼女は…、秋葉さんは違う…
 
『……兄さん、ごめんなさい』
 
秋葉さんは…、私の鏡だ…。
私が望んだ未来を掴んだ鏡像だ。
違うのは、秋葉さんが闇の者で、私が天に属しているだけだ…
それだけの違いだ…
 

111高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:39
>110
 
信じなければならない相手だったのに、初めて受け入れてくれた友達…
鷹久という闇の者を愛した私が、人を愛した秋葉さんを否定する理由は何?
天の定めた律、神剣の御使いとしての使命…、
違う…鷹久に会いたいと言う私のわがままだ。
 
使命が在るから死ね無いのじゃない、鷹久に会わずに死にたくなかったんだ。
秋葉さんを認められないのじゃない、天に背く事になるのが恐かっただけだ。
 
全部…、自分のエゴだ…
 
「…秋葉さん、ごめんなさい…、お願い…死なないで…」
 
いくら呼びかけても反応はない。
魂が離れてる、命が消えていく、時が巻き戻ることはない。
 
不意に、秋葉さんの身体だ崩れていく…、全てが終る…
 
「――――――――――!!」
 
何を叫んだかも解らない、だたこれ以上なにも考えられず。
そして、耐える事が出来なかった。
112月姫蒼香 ◆SOUKANaQ :02/07/03 02:40
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>110 >111
 ――――!
 
 叫び声。
 あたしはそれで不意に目が覚めた。
 部屋の中を見回す。
 
 遠野と羽居のベッドがもぬけの空だ。
 
 ……ったく、こんな時間に何をやっているんだか。
 ドアまで開けっ放しにして……
 
 あたしは溜息をつきつつ、ベッドから出て、部屋の外へとでる。
 
「……おい、何があったんだ?」
 
 廊下には羽居と高原が倒れていた。
 何かあったらしいが……
 
「っと、ぼーっとしている場合じゃないな」
 
 羽居のところに歩いていき、羽居の頬をペチペチと叩く。
 
「おい、羽居、こんなところで寝てるんじゃない!」
 
『うーん……。あっ、蒼香ちゃん、おはよ〜。ええとね……」
 
「話は明日にでも聞いてやるから、さっさと寝な!」
 
 あたしは羽居を部屋の中に押し込んで、高原のところに向かった。
 
「高原、しっかりしろ、何、やっているんだ。全く……」
 
 高原の肩をつかんで揺さぶる。
 ・・…反応が無い。
 いや、何かうなされている様で、起きる気配がない。
 
「ちっ、完全に飛んでるな。やれやれ、世話が焼けるね」
 
 あたしは高原を背負って、高原の部屋まで連れて行くことにした。



 未だ、うなされ続ける高原をベッドに寝かせた後、高原の部屋をでる。
 
「やれやれ……。一体、何があったんだ? 遠野も何処か行ってるしな…」
 
 まあ、いい。
 遠野のことだ。
 ほっといても帰って来るだろう。
 遠野は殺しても死なないから、遠野なんだからな。
 
 あたしはそう思いながら、部屋へと戻った。
113高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:42
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>112
 
………朝日? 私は……何を? ここは……何処? あれは夢?
 
「目が覚めたか?」
 
枕元で呼びかける声が聞こえる。
まだ頭が動かない…、でもこの声は時南のおじ様の声だ…
 
「……ここは、私は?」
 
「三日も昏睡状態にあったのじゃ、もう少し寝ておれ…何も心配はいらん」
 
その声はとても優しくて……、それでも深い悲しみを隠す事は出来なかった。
それだけで、十分だ。
全部事実なんだ…、私はこの手で秋葉さんを…、友達を殺したんだ。
 
「……私が殺したんですね」
 
時南のおじ様は、浅上女学園で起こった全ての事件は気にしなくて良いを言ってくれた。
同時にそれは、私には罪を償う機会すら無いと言う事…
 
―― なら、私はどうすれば良いのだろう?
 
私は死ね無いのだ、探しているから。
                    彼女は死ね無いのだ、待っているから。
私にはやるべき事が在る。
                    彼女は為すべき事をやり遂げた。
私は魔を払う使命が在る。 
                    彼女は人として生きて来た。
 
何をすべきか……、決まっている。
償える罪でもない……、忘れない…できる事は他に無い。
だけど、もう人と交わるのは出来ない…、また同じ事が起きるから。
 
「誰にも頼らず、誰にも馴染まず…、ただ使命の為に在ればいい」
 
そう鷹久出会い、鷹久が魔に堕ちていたら…私は使命を果たすだろう。
泣きながら使命を果たし、そして泣きながら後悔するのだろう。
 
ただ…、先ずは信じてみよう、そして話してみよう。
秋葉さんのように…、誤解で全てを終らせる訳にはいかない。
秋葉さんに為にも、全てを背負って生きるしかないのだから……
114月姫蒼香 ◆SOUKANaQ :02/07/03 02:46
>113
『ねえ。蒼香ちゃん、秋葉ちゃん、何処にいっちゃったのかなあ?』
 
 部屋で本を読んでいたあたしに唐突に羽居の問い……
 
「……さあな。だが、どうにも嫌な予感がするな。あの遠野に限って、そんなことはないと信じたいんだが」
 
 あの夜から、遠野は忽然と姿を消してしまった。
 まるで、煙の様に消えてしまった。
 家にも帰っていないらしい……
 ついでに、四条も事故に遭ったとかで、もう、浅上にはいない。
 
 一部では、七不思議の呪いとかそうまことしやかに囁かれてすらいる。
 
「……馬鹿馬鹿しい。遠野は帰ってくる。間違いなくね」
 
 誰に言い聞かせるでもない、自分を納得させる為の言葉。
 だが、この一抹の不安は決して拭うことは出来なかった。
 
 あの夜の高原と羽居が廊下に倒れていたこと。
 これが鍵のような気がする。
 だが、この事に触れると全てが壊れそうな気がして……
 ……あたしらしくない。
 気になることがあれば聞く、それでいいじゃないか。
 
「…そういえば、羽居、あの夜、何で、高原と廊下に倒れていたんだ?」
 
 話を切り出す。
 
『ん〜、えーとね、蒼香ちゃん……』


「…………」
 
 あたしは無言で立ち上がり、部屋のドアへと向かった。
 
『あ〜、蒼香ちゃん、何処に行くの? 物凄く怖い顔をしているよ?』
 
「羽居、黙っていな。少し、重大な用事さ。ついてくるんじゃないよ」
 
 そう、あたしの嫌な予感が当たっているとすれば……
115月姫蒼香 ◆SOUKANaQ :02/07/03 02:46
>114


「……高原、話がある。そうだな、中庭に行こうか」
 
 あたしは高原を呼び出し、中庭へと向かった。
 真実を聞くために……


「さてと、高原、何で、あたしが呼び出したか、分かっているかい?」
 
 高原は無言で答えない。
 
「あの夜、何があった……?」 
 
 羽居が廊下で、朱い髪をした秋葉と弓を構えた高原を目撃したこと。
 直後、秋葉の体当たりを喰らい、気絶したこと。
 
 羽居から聞いたことをそのまま、高原に話す。
 ……羽居は夢かもしれないと言っていたが、羽居はそんないい加減な奴じゃない。
 もし、あたしの推測が正しければ……
 
「高原、アンタの口から、聞かせてもらおう。全てをな……」
 
 高原が口を開いた……
116高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:48
<遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
>115
 
あの後、秋葉さんの家系については時南のおじ様から全て聞いた。
『魔』と人との混血でありながら、力を押さえ人の側に立つ事を選んだ一族。
それが秋葉さん…
 
千年前に罪を犯して、無限の輪廻も檻に堕とされた天女。
それが私…
 
『天』と『地』、『魔』と『退魔』……、何も知らない蒼香さんに説明しても、
解ってもらえる筈は無い……。
だけど伝えないと、私の罪を…、彼女は秋葉さんの、そして私に取っても大切な人だから。
 
誤魔化す事など出来ない、真実を話し相手を信じる…先ずはそれからだ。
例えそれがどれだけ悲惨な結末をもたらしたとしても。
 
「全てを話しても理解はしてもらえないと思います」
 
私ですら理解して居ないのだから、説明など出来ない。
だけど真実は伝えよう。
 
「だから、一つだけ…」
 
彼女が本当に知りたがっている事を…
 
「秋葉さんは死にました…、私が殺したんです」
117月姫蒼香 ◆SOUKANaQ :02/07/03 02:49
>116
 嫌な予感というのは得てして当たるモノだ。
 本当にこの言葉だけは聞きたくなかった。
 
 グッと手に力が篭る。
 ……まだ、早い。
 まだ、あたしは全部、聞いちゃいない。
 
「……何故、遠野を殺した? 殺される程の理由が遠野にあったのか?」
 
 あたしはこみ上げるモノを抑えつつ、高原にそう問い掛けた。
118高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:52
>117 <遠野秋葉vs高原万葉 矛盾輪廻>
 
「本来なら理由はありました…」
 
そう、理由はあるの、本来なら属する世界が違う…それだけで十分なのだから。
だけど、私も秋葉さんも、それを乗り越える事を望んだいた。
鷹久の為に、お兄さんの為に…
なのに…、私は……
 
「けれど、秋葉さんと私には無かったんです、関係無かった……」
 
私が天の定めた律に拘ったから、自分の事しか考えなかったから…
友人だと思いたかった人を信じなかったから…
 
「だから……、私が悪いのです、ただそれだけです」
 
冷静に答えた筈だ…、けど蒼香さんの姿が歪むのは何故だろう?
119月姫蒼香 ◆SOUKANaQ :02/07/03 02:53
>116
 ……?
 言っている事が訳が分からない。
 けど、間違いなく、言えることは『遠野は誤解で殺された』ということ。
 
 高原にも深い理由があるんだろうが……
 だからといって、それで許される訳はない。
 
 あたしは、月姫蒼香は、親友を殺されて、なお寛容でいるほど、器は大きくない。
 
「……………」
 
 無言で高原の側へと歩いていく。
 右拳を握り締め……
 
 ――バキッと乾いた音がして、高原は吹き飛んだ。
 
「……いいか、2度とあたしの前に姿をあらわすな。アンタの姿を見ただけで、胸がむかつくからな!」
 
 あたしはそう吐き捨てて、中庭を後にした。



「おかえり〜、蒼香ちゃん。……あれ、どうしたの、泣いているの?」
 
「いいや、気のせいだろ……。なんで、あたしが泣く必要があるんだ?」
 
「でも、目が……」
 
「気のせいだ、気のせい!」
 
「なら、いいけど……。…秋葉ちゃんもまだ帰ってこないし。どうにも静かすぎるね……」
 
「……早く、帰ってくるといいよな」
 
 だけど、それはもう……
120高原万葉 ◆MAYOUdAo :02/07/03 02:55
>119
 
殴りつけられ、罵声を浴びせられる。
何故、この程度で終ったのだろう、何をされても文句など言えないのに…。
むしろ、その方が気が楽だ…、例え僅かでも贖罪になる…
 
けど生きなければならない、例えエゴだとしても死ね無いから…
例え死んだとしても、そこには何の意味も無いから…
彼女の代わりにとは言えない。
そんな資格はありはしない、鷹久に会う資格すらないかもしれない。
 
「鷹久……、それでも私は…貴方に会いたい…」
 
初めて得た友達を失った…、いえ私が壊した。
天に対する信念が揺らいだ…、それでも信じなくてはいけない。
初めて転生が甘美なものに感じる…、死が終わりでは無いと思いこめるから。
 
「秋葉さん、私は生きますよ…」
 
この学園を去る。
他に行く当てがある訳ではない、…けどもう居られない。
全てを棄てて逃げる気がした…
けど、もうできる事は無いのだから、留まればまた悲劇を呼ぶだけだから。
 
「さようなら」
 
最後に、私が何処で何を掛け間違えたのが…、それだけは知りたかった。
例え答えの無い問だとしても…
121琥珀 ◆Amber97g :02/07/03 02:58
>120 《遠野秋葉 vs 高原万葉『矛盾輪廻』》 ――エピローグ――

―――窓の外には、色褪せた風景。
     何処までも透き通った青い空も、
     身体の芯まで凍りそうな冷たい空気も、
     今は葉を落とし来るべき春を待ち侘びている木々も、
     全てが。
     眼に映るモノ全てが、
     空虚なココロのフィルターを通す事で、
     その彩りをモノクロームの世界へと換えてしまう―――



志貴さんが帰って来られました。
そして、時を同じくして。
浅上女学院から、秋葉さまの行方不明の知らせも舞い込んで来ました。

ああ、とわたしは思う。
『彼女』は成功してしまったんだな、と。

取り敢えず真実は伏せ、今はちょっと連絡の取れない状態にある、と伝えて。
現状の確認と、以後の対処の為に志貴さんと共に時南医院を訪ねます。
そして―――改めて時南先生の口から、聞かされました。

………秋葉さまの死を、その詳細を。
……ご友人を庇って、『彼女』の矢に貫かれた、と。
…それは、もしかしたらわたしが望んでいたかも知れないカタチ。


――――― 一瞬のフラッシュバック。

            真夏の青空。
              異形。
           胸を貫かれる少年。
  赤い、紅い、朱い、あかい、アカイ、生命の噴出。

        少年の姿が、現在の遠野秋葉の姿に摩り替る―――――


…どうしてなんでしょうね、志貴さん。
それを望んだのはわたしの筈なのに。
そうなるように仕向けたのもわたしなのに。
こんなコトをしたくなかった、というのも本当なんですよ………。


ほぼ問題なし、との時南先生のお墨付きを貰い。
この事はわたしから志貴さんに話すから、と口止めをして。
顔にはいつものように笑みを貼り付け、時南医院を辞去しました。
122琥珀 ◆Amber97g :02/07/03 02:58
>121
――――その後、お屋敷に戻ってきて。
わたしは『日常』に還る事が出来ずに、ふと『約束の木』の下へ足を運びました。

………思い出だけは、いつまでも色褪せず。
……手渡した、白いリボンも。
…戸惑ったような少年の顔も。
たった今の出来事のように鮮明に浮かんでくるのに………。

今、目の前にあるモノは。
ただの、目印。
果たされなかった『約束』への―――

…これからどうすればいいんでしょうね、志貴さん。
もう、わたしにはやるコトが残っていませんよ。
槙久さまも、四季さまも、秋葉さまも。
『復讐』すべき遠野家のモノは、全て消えてしまいました……。

琥珀という人形を動かす操り糸はプツリと切れて。
ゼンマイは弛緩して。
もう、ここから一歩も動けない。
本当に動けないんです、『わたし』は―――――


―――志貴さん。
あなたなら、『琥珀』の糸を手に取り、操ってくれますか?
それとも、ギリシャ神話のピュグマリオンの如く、『琥珀』という人形を『人間』に変えてくれますか?

無理、ですよね。
遠野志貴というヒトは、何モノにも囚われない。
けれど、一度何かを心から欲すれば、全てを投げ捨てででもソレを追い求める方。
秋葉さまと情を交わした志貴さんは、もうわたしたちには振り向いてはくれないんでしょうね。

――――その瞬間。
カチリと何かの歯車が噛み合ったかのような音が。
確かに頭の中で聞こえました。

そうか、秋葉さまと結ばれたというコトは、志貴さんも『遠野家』の一員になったんだ。
そうですよね、戸籍なんかは入れてなくても、今の志貴さんは名実共に『遠野志貴』。
だったら。
志貴さんも『復讐』の対象にしちゃえばいいんだ。
どうしてこんな単純な事に気付かなかったんでしょう、わたし。

意識せずにクスクスと笑い声が漏れてきました。

さて、どうしましょう。
始末するのは簡単ですが、時間はいくらでもありますよね、焦る必要はありません。
取り敢えずは秋葉さまを直接手にかけた『彼女』の始末でもしてもらいましょうかね。
いざ『ヒト』を殺す瞬間、志貴さんは躊躇われる可能性はあります。
それを計算に入れて、『真実』を少し脚色して、問答無用で殺害出来るようにして………。


―――頭の中で、キリキリと。
     ゼンマイのネジの、巻かれる、音が。
     確かに、聞こえ始めました―――――

…志貴さん。
琥珀は、もう暫くは、生き続ける事が出来そうです………。

【END】
123遠野秋葉 ◆La2AKIHA :02/07/03 02:59
―矛盾輪廻―

泡沫の宴
>65>66>67>69>70>71>72>73>75>76>77
 
マリオネットT
>78
 
矛盾輪廻
>79>80>81>82>83>85>86>87>88>89
>90>91>92>93>94>95>96>97>98>99
>100>101>102>103>105>106>107>108
>109>110>111>112
 

>113>114>115>116>117>118>119>120
 
マリオネットU
>121>122
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>104
 
 顔面にぶつかるショットガンも意に介せず、吸血鬼は咆哮した。
 少年が耳を押さえる。嘔吐した。
 凡そ現世の如何なる生き物がこんな声を出すのだろう。
 この怒号だけで、人によっては発狂死しかねない。
 
 忌まわしき吼え声を鳴り響かせ、吸血鬼は己に向かって来る狩人へ突進した。
 相変わらずローブの中で脚を動かしているとも思えないが、滑る様に床を走る。
 黒い塔の如き長身で続け様に銃火が爆発した。
 躯は僅かに揺れた。それだけが目に見える効果だった。
 穿たれた弾痕は、それが頭部であろうと黒いローブであろうとすぐに消え去る。
 
 走りながら両手を開いたまま万歳の形に上げる。
 腕が長く伸びた。阿呆らしい位簡単に、両手の長さは倍になる
 無造作に、しかし大木を切り倒す斧の重さを以って、双腕は振り下ろされた。
125如月蘭(M):02/07/03 09:42
生命樹に捧げる協奏曲 〜南武公&操vs如月蘭
Nizah ―――そは祝福されし音の世界―――
>第二十七章403 405 406

「そうだな。立ち止まっているばかりでは先はない」

催眠状態から脱した少年とその守護者に対し、かすかに微笑みながら青年はそう、言葉を紡ぐ。
開かれた魔書からは力ある波動が流れてきているにも拘らず。

「だが、契約破棄の代償は払ってもらおう」

青年の右腕が振り上げられた。一切の雑音が消え、静寂が少年たちの耳を穿つ。
そして―――

『均衡の御柱・・・流れ出る第10の小径(セフィラー)よ』

青年の周りを取り巻く鋭い『振動』が収束し、方向性が与えられた。

『我が守護・・・剣(ソード)の10(ディケム)の力 圧迫を以って結界を築かん!!』



ファ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ・・・


放たれた光が、公園を周りを覆っていく。

「・・・我が王国(マルクト)へようこそ」

王国結界。
それは振夜の来訪者が築く祝福されし音の世界。
外界と隔絶されたそこは、もはや何の介入も受け付けない。

「さあ、少年。お前は一体、何を以って代償をあがなう?」
126名無しクルースニク:02/07/03 10:40
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>124
 
 目測を誤った、のではない。「誤らされた」。
 地を滑るように移動するヴァルダレクの身体が急速に伸び上がるや、その両腕は何の
予備動作も無しに左右へと高く広がっていた。
 避け切れない――理性の告げた0.5秒先の未来を、本能は笑いながら否定する。
 
 ――悪魔に、何を退く事がある?
 
 殺意を燃料に変えて全身を起動、爆ぜる火薬となって青年はヴァルダレクの懐へと
飛び込んでいた。
 月光を浴びる異形の腕が、振り下ろされる頂点で霞む。
 埃を巻き上げ、空気の膜を作り出し、ギロチンを思わせる両腕が中央へと収束する。
 曲げられた爪先が、理性の戸惑いを嘲笑して伸び上がった。
 背中を舐め上げる悪寒がこそばゆい。背の表面を撫でるように走る豪腕の感触。
 
 踏み込みと同時に袖へと走った左腕は、聖水入りのアンプルを掴み出している。
 アンプルに詰め込まれた聖水は、人を加護し、祝す為の神の御業。輪廻の輪を外れ、
自然の輪を逸脱し、神の定めた輪を外れた不死者にとってのソレは、地球上の全ての
猛毒さえ上回る毒液となる。
 半円を描く左腕が、五指に掴んだ4本のアンプルを、だらしなく開いたヴァルダレクの
口へと放り込んでいた。ピコセカンドの思考と同等の速度で、右腕が顎へとアッパーを
叩き込む。
 アンプルの破砕音。
 
 足元のベネリを拾い上げ、口から白煙を上げるヴァルダレクへとポイントして――
 『――ありがとう』
 頭痛。
 少年の顔に、シスターの今際が重なった。
 一欠ら程残っていた理性が、本能を無理矢理抑え付けた。少年の襟首を掴み、青年は
壊れた扉から外へと飛び出す。
 扉の外へと少年を置いて、青年はゴルフバッグから兼定を抜いた。
>84 vsウピエル

 トス、と肉を突き刺す音を肌で感じた。
 見ることはできないが、恐らくあたしのナイフが吸血鬼の何処かを抉った音だろう。
 あれ? おかしいな……。
 あたしは生きている。まさか、実はもう死んでますなんてこたぁ、ねぇだろ。
 でも、だとすると――――

(……なんで、あたしは生きているのに、こいつを刺しているんだ?)
 
 そんなのは、あり得ない。このときの吸血鬼のスピードは、神速の領域だ。
 神速を操る相手より速く、あたしが攻撃を繰り出せる道理は無い。ならば、なぜ?
 
 シュッ、閃光が走る。眼で負うことは不可能。だけど、あたしには分かる。
 その閃光は吸血鬼がくわえていた最後の獲物……銃剣だ。
 
 テンションが、滾った血が急激に冷めていくのが分かる。
 先程の精神の高ぶりは何処へ行ったのか、冷水を浴びせられたかのように、急激に冷めてしまった。
 どうして……? 自分でも分からない。
 
 同時、見えない壁によってあたしは吹き飛ばされ、白い壁に叩きつけれた。凄まじい衝撃。
 
「――――ッ!!」

 意識は確実だが、その分このダメージが自分の命を更に縮める結果になったことも冷静に受け止めてしまう。
 だけど、そんなことは今のあたしにはどうでも良かった。あたしの命の話など、どうでも良かった。
 一番重要なのは、あたしの視界には写っているはずの吸血鬼。なのに、吸血鬼はいない。変わりに――――
 
「――――な、なんだこりゃあ!?」

 両手のナイフを投げ捨て、掴みようのないそれを必死で掴もうとしながら、叫んだ。
 あたしは気付かない。ホールを静かに包んでいたオルゴールの音色が、もう聞こえないことに。
128結城小夜:02/07/03 19:44
聞こえる……。
声が聞こえる。悲しみの声が。
絶望の声が。私が守るべき者達の声が。
 
出典 :式神の城
名前 :結城小夜(ユウキ サヨ)
年齢 :当年とって16になります。
性別 :女
職業 :人類の決戦存在
趣味 :有りません。
恋人の有無 :興味もありません。
好きな異性のタイプ :同上です。
好きな食べ物 :何でも、美味しく頂きます。
最近気になること :東京で起こっているという連続殺人事件
一番苦手なもの :ありません。
得意な技 :御符による退魔術、式神ヤタの使役
一番の決めゼリフ :
それは、夜が暗ければ暗いほど、闇が深ければ深いほど、燦然と輝く一条の光。
あしきゆめよ、あなたと本来戦う希望は、たった今生まれました。
将来の夢 :ヒトに、夢を。世界に希望の種を。
ここの住人として一言 :語ることはありません。
ここの仲間たちに一言 :古よりの古法。それだけの事です。
ここの名無しに一言 :語ることはありません。
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>126

 先の怒声に数倍する、轟くばかりの叫喚が腐った喉から奔騰した。
 白煙が立ち昇り、妖魔の口中を無理やり喰わされた聖水が灼く。
 血色の涙が止めどなく流れる。手足をばたつかせ、吸血鬼は泣き喚いた。
 
 後で判った事だが、この声は数キロ離れた街の隅々にまで、しかも均等に届いていた。
 樹木は完全に立ち腐れ、ほぼ全てのペットが発狂し、高齢者や心臓の弱い者などショック死した
者は実に三十余名を数えた。
 
 吸血鬼は仰け反り、身をかがめ、また仰け反った。
 天井を向いた紅い双眸が異様な痙攣を見せる。
 皮膚下で頭蓋骨が蠢く。
 変身が始まったのだ。
 上下の歯全てが牙と化した。出鱈目な方向に伸び、頬肉をぶち破って猶止まらない。
 躯が内部から膨れ上がり、纏わりついていたローブを引き裂いて更に膨張する。
 皮膚を薄緑の燐光輝く鱗に変えながら、全長は優に五メートルを越えた。
 全体のフォルムは巨人となっても、まだ躯中のあちこちでは筋肉が骨が脈打っている。
 
 床が揺れた。吸血鬼は両手をつき、四足獣の姿勢を取ったのである。
 一声吼えると闇の塊は白い狩人へ跳躍した。唾液の糸を引き、乱杭歯を光らせて。
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
導入
 
あれから、どのくらい経ったのかな・・・
歳を取らなくなった自分の体に折り合いをつけた私は、
あちこち旅して回っていた。
・・・時間は、たっぷりあるから。
 
そして。
私はある町の宿に一旦チェックインして町を軽く見回り、
ひとまず宿に戻ってきた。
 
 
・・・そこに、私の命を脅かすものがいることなど考えもせずに。
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
>130

「お待ちしておりましたぞ、『アセルス』さん?」

少女が自分の部屋にはいると、そこにはすでに先客がいた。
勿論、ありえないことだ。だが、確かにいる。
部屋の中央、ベッドの前のソファに腰掛けている、修道服姿のサングラスのの男が。

「ああ、これですか。 いや、気にしなくても構いませんぞ?」

男は、手にしたグラスを軽く掲げ、不信感をたたえた瞳で見つめる少女に語りかける。
カラン、と中の氷が揺れ・・・

「どうせ、すぐに滅びるんですからな」

そのまま虚空に『消えた』。
かわりに現れたのは一丁の散弾銃。

DUMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM!!!!!!!!

銃声が、部屋中に響き渡った。
>131 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
 
誰・・・そう呼びかける間もなく。
その男はいきなり銃を構えた。
 
「え、わわぁ・・・っ!?」
 
部屋に入るために開けたドアを、すぐさま閉め廊下に飛び出す。
同時にそのドアは、無数の穴をあけてボロボロになった。
 
―――また、命を狙われなきゃいけないの?
こんな体、好きでなったんじゃない。
それでも受け入れて、誰も傷つけずに生きていこうとしてるのに・・・
 
泣き言を浮かべつつ、ともかく逃げ出そうと私は廊下を走った。
>132
 ふみこたんの用事とやらに付き合わされてこんな変な国まで連れてこられた俺は、
結局その「用事」とやらに関わることなく、安宿に押し込められていた。

「ちぇ……だったら連れてくんなっての」

 そんな悪態をつきながらベットに寝転がる。
 と同時に、銃声。

 こんな場末の宿での銃声なんて、ただ事じゃねえに決まってる。
 俺は今寝転んだばかりのベットからから跳ね起きると、その勢いのまま
扉を蹴破り、廊下に飛び出した。

 飛び出した矢先、廊下を走ってくる、緑髪の女とぶつかった。
 そいつはいかにも焦っていて、何かから逃げて来ましたと言わんばかりだ。

「どうした? 一体何があった!?」
>133 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
 
「え、な、何って・・・」
ぶつかってしまった少年の問いかけにしどろもどろになる。
一言で話せる事情ではないし、馬鹿正直に話せる事でもない。
 
「えっと・・・と、とにかく部屋に戻ったら銃を持った男が・・・
 あーもう!」
 
説明もそこそこに、少年の手を取って逃げ出す。
ほっといて自分ひとりで逃げられるほど、私は腐っちゃいない。
―――少なくとも、今の私は。
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
>134

「そこの少年。怪我をしたくなかったら、下がっていた方が身のためですぞ?」

廊下の先、別の部屋から飛び出してきた少年に忠告の声をかけ、男は手の中の銃を虚空へと掻き消した。
かわりに現れたのは、一本の長銃。

「精密射撃と言うのは、あまり得意ではありませんから・・・っと!」

銃口から、鉛弾が飛び出した。
それは少年と少女の頭上を通り抜け―――

その先の照明を吹き飛ばした。
>135
 怪我をしたくなければ下がっていろだと? そっちの方が身のためだって?

 ふざけるな! 女が必死に逃げてるんだ、男の俺がすっこんでる場合かよ!
 しかも、この狭い宿で、躊躇いも無く撃ってきやがる。
 そんな奴の言うことを聞いて、すごすご引き下がっていられるか!

 俺はあの男を悪党だと決め付けて、女を助ける事にした。
 俺は銃が嫌いだし、女を助けるのは男の仕事だし、それに……あいつは悪党面だ。
 
「俺が時間を稼ぐ。その間にあんたは逃げろ」

 俺はそう言って女の手を振り解くと、男に向かって向き直った。
 そいつのサングラスをかけた顔を睨み付け、声を張り上げて名乗りをあげる。

「俺の名前は玖珂光太郎! 悪をぶっ飛ばす少年探偵!
 女に向かって躊躇いも無く撃ちやがって。テメェの頭ン中はどうなってやがる!
 とりあえず、テメェは俺がぶっ飛ばす。頭冷やして反省しやがれ!」

 そういうが早いか、俺はその男に向かって殴りかかった。
137八雲辰人 ◆r.NOFaCE :02/07/04 00:46
おっす。先日、参戦表明してたんだが。
それじゃぁ、そろそろ改めて自己紹介だ。
トリップテストも兼ねて、な。

出典 : 朝の来ない夜に抱かれて
名前 : 「八雲辰人(やがみたつと)」だ。様付けで呼ぶ事を心がけてくれ
年齢 : 推定18歳
性別 : 男
職業 : 無職(劇中は高校生)
趣味 : 女の子に声をかけること
恋人の有無 : ・・・まぁ、恋人は居るんだが・・・
好きな異性のタイプ : 可愛い娘は誰でも好きだぜ
好きな食べ物 : 好き嫌いは基本的に無いね。美味いものならなんでも好きだぜ
最近気になること : 美空が浮気を大目に見てくれない事、無貌の神が出て行く気配も無いこと
一番苦手なもの : 酒と女の子の泣き顔が苦手だ
得意な技 : 料理・・・まぁ、ずっと親父と2人暮らしだったからな。自然と身に付いちまった
一番の決めゼリフ : ああ・・・あがいてやるさ、なんぼでもな。運命を変えずにはいられない想いってのがあるんでね!
将来の夢 : 普通に生きて行く事
ここの住人として一言 : 可愛い娘は大歓迎だぜ!オレと愛を語ろう!
ここの仲間たちに一言 : 抗う相手は間違えない方がいいぜ・・・オレは、無貌の神でもあるんだからな
ここの名無しに一言 : まぁ、適当にやろうぜ

オレの力は、俺に憑いてる邪神『無貌の神』の力だ。
その能力は・・・『この世の法則を破壊して自分がその法則となる』ことだ。
まぁ、俺が使う分には制限もあるんだが、ハッキリ言ってなんでもできる。

それじゃそう言うことで、ヨロシクな。
>135>136 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
 
私のために少年は、男に殴りかかった。
こんな、見ず知らずの私のために・・・
 
  ―――私が人間じゃないってわかっても
                彼はこんなふうに庇ってくれるのかな―――
 
ふと、そう思う。
 
どうしよう・・・彼のためにもここから逃げたほうがいいんだろうけど・・・
このまま逃げるのなんて、あまりにも薄情すぎる。
でも・・・もし、血を見ちゃったら・・・
 
悩み悩み、逃げることが出来ずに立ち尽くす。
 
逃げられない・・・このままじゃ。彼も一緒じゃなきゃ。
でないと・・・白薔薇に怒られちゃうよ。
 
 
今ここにはいない大事な人を思い浮かべつつ・・・
どうしても、体は動いてはくれなかった。
 
―――ただ、手だけが剣にかかっていた。
ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1024844742/568の続き

『吸血海殲』 レス番まとめ3

対停泊艦艇班(ヘルシング)vs停泊艦艇(ミレニアム)
【参加キャラ】アシュレー・ウィンチェスター(M)、名無しクルースニク(以上二人ホバー)
リロイ&ラグナロク、トップガンダー(M)、シド・デイビス、レプリロイド水中部隊、
(乱入)カノン>288
>106>119>120>121>128>136>143>146>154>158>171>172>179>184>187>189>191>193
>199>204>212>214>220>221>224>227>229>231>235>239>243>245>246>250>252>259
>265>271>272>275>278>282>283>293>296>297>300>303>304>305>307>312>304>314
>316>321>322>323>329>333>334>337>339>341>357>360>361>367>371>377>383>385
>390>394>396>395>396>405>411>417>418>427>430>436>439>446>452>453>454>457
>458>460>468>474>478>480>482>484>487>492>493>498>503>505>511>520>524>525



軍港突入班(ヘルシング)vs軍港制圧部隊(ミレニアム)
【参加キャラ】祁答院マコト、フォッカー(M)、オーフェン、麻宮アテナ、
イワン・アイザック(M)、両儀式、レッドアリーマー
(乱入)ミア・フォーテー>289
>124>125>127>134>135>137>138>139>140>141>147>148>149>152>155>157>159>162
>166>170>173>174>175>181>186>190>191>195>200>201>203>208>209>216>217>222
>226>228>232>234>236>238>244>248>251>254>255>256>262>269>279>280>293>299
>297>309>318>319>320>324>326>331>332>338>340>349>350>355>356>362>365>369
>373>374>379>380>383>386>393>398>399>407>409>416>420>423>426>431>433>438
>435>447>450>455>456>459>461>465>467>485>488>489>499>500>502>512>516>517
>519>529>530>531>534


市街戦闘
【参加キャラ】ビリー・龍、ヴェドゴニア
(乱入)モリガン・アーンスランド>292
>167>169>192>197>211>233>247>261>274>291>306>342>358>376>402>406>415>428
>449>464>471>477>494>509


状況変化 >404
介入 >542>543

各キャラエピローグ
グール@プラズマ信者の群れ(オオツキ) >544>545>546
兵頭力(M) >547  御神苗優 >549  フリッツ(M) >550  レザード・ヴァレス >551
レイオットスタインバーグ >554  グリフター(M) >555  両儀式 >556
アルフレッド・スタインウェイ(M) >557  エリ&フィオ >558  名無しクルースニク >560>561

結末 >565>566
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
>136 >138

「ふむ・・・出来れば人間は殺したくないんですがな・・・」

真っ直ぐに突き込んでくる少年の拳を右側に飛んでかわし、
相手の足元に向かってひょいと足を差し出す。

「ほう? 剣を取りましたか。その剣で私を殺すと言うのですな?」

苦笑を浮かべつつ、視線を少女の方へ。
同時に銃口も少女の方へと向きを変え・・・

発砲。
>140
 勢いがついたところに足を引っ掛けられて、危うくすっころびそうになる。
 そのまま二、三歩、体制を整えるためにバランスを取る。

 そうしている間にも、安いホテルに響く銃声。

 クソがッ! 時間を稼ぐとかいいながらこのザマかよ!
 男に対する怒りよりも、自分の不甲斐なさへの怒りで、頭にかっと血が上るぜ。

 俺ははっしと二本の足で自分の身体を支えると、また男の背中に向かっ
て走り出す。

「どこ見てやがる! テメェの相手はここだ、おっさん!」

 そう叫びながら、その胴体に向けて鋭い回し蹴りを繰り出した。
>140>141 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
 
―――男の銃撃が私を襲う。
避けるのは・・・一瞬遅かった。
脇のあたりに激痛が走る。
・・・もっとも、ただの人間だったら全く避けられないだろうし
この程度なら、私の体はすぐ再生してしまう。
 
―――だけど。
 
 
「痛・・・だ、だめ・・・見ないで・・・」
 
思わず銃弾を食らった傷口を手で押さえる。
だが・・・私の紫色の血は、無情にも流れ落ちていった。
―――私が人間でないことの証が。
 
あの少年にこれを見られたら・・・私は・・・
 
彼らに背を向けるようなことも出来ず、
さりとて、この剣で斬りつけるようなことも出来ず。
 
男に蹴りを食らわせる少年の前で、
私はやはり、立ち尽くしていた―――
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
>141 >142

「流石は化け物ですな。もう再生を始めていらっしゃる」

紫色の血を流す少女の傷口を銃口で指し示した後、さらに発砲。
少女の腕めがけて銃弾が奔る。

ダンッ!!

その体が、右側へぐらりと傾いだ。
男の脾腹に食い込む少年の左脚。
地面を滑る、男の長銃。

「・・・やって、くれましたな」

先ほどまでは打って変わって、男の口調に怒りの色が混じる。
少年の背後に回りこむかのように、男の体が廊下を滑った。
空になった右手にはいつの間にか短機関銃が握られている。

轟音。

至近距離から放たれた大量の銃弾が、少年に向かって襲い掛った。
144ウピエル ◆7C6xVWDQ :02/07/04 02:19
ウピエルVSファントム
>127
 

まだ・・・意識がある。
致命傷に近いドライの喉に牙を立て血を啜る。
放っておいても溢れ出す血液を、牙を立てた傷からドライに与える。
これは、子を為す行為。
新たな眷属を生む行為だ。
そして、それは無駄な行為だ。俺はもう死ぬのだから。
何故、俺はそんな事をする?
さっきだって・・・何故、ツヴァイを殺さなかった?
ここに来て、心に引っ掛かっていた疑問が氷解した。
 
俺は、もう死ぬ。だが、まだ闘い足りない。まだ殺し足りない。
もっと、もっと、もっともっともっともっとっともっと闘いたかった。
もっともっともっともっとっともっともっともっともっともっとっともっと殺したかった。
だから、俺はファントムの、ツヴァイの、ドライの血を啜る。
吸血鬼になるか、俺の死によって人に戻るか、どちらにせよ2人は存える。
そして、どちらにせよファントム達は殺すだろう。これからも、数え切れないくらい。
彼等は、この世の地獄の泥濘を這い廻り、生きるために殺しつづけるしかない、そう言う存在だからだ。
そこに愉しみを見出すかどうかの差はあれども、奴等は俺の同類なのだ。
 
僅かばかりの間、吸血鬼の血を得ることで、ドライがどの程度生き長らえられるだろうか。
僅かで良い。後少し。ドライが再び死の淵から這いあがるまででいい。
その間だけ・・・灰になるのを、待ってくれ。
 
最後の力を使い、口を開く。
 
「クソ・・・残念だが・・・俺はここまでだ・・・だから・・・貴様はまだ死ぬな。俺の代りに殺せ。死ぬまで・・・殺し続けろ・・・!!」
 
意識が残っているかどうかもさだかでは無いドライに呼びかけ、そこで俺の意識は途切れた。
顔には、凄絶な笑みを浮かべたまま。
ドライは、死の淵より這いあがることが出来たのだろうか。俺の代行者になり得るだろうか。
意識と共に全ての疑問、懸念、未練は消え─――――――――――――――――
そこにはただ、一塊の灰が残った。
>141>143
 後ろに回りこむ男に合わせて、俺も身体の向きを変えた。
 そして、俺の目が男を再び捉えた時、俺は思わず目を見張った。
 男の手に、一体どこから持ち出したのか、それまでどこにも無かった
はずのマシンガンが握られてたからだ。

「クソったれッ!」

 俺は口から悪態を吐き出すと、俺の相棒の式神に声をかけた。

「ザサエさん、GO!」

 その掛け声と共に、俺の前方に立ちはだかるように、透き通った、淡い
色の髪をした女の影が現れる。

 彼女の名前はザサエさん。何が気に入ったのかしらねえが、俺の事を
守ってくれる、俺の式神であり、相棒でもある鬼だ。

 彼女はその手に持った肉切り包丁を振り回して、迫る銃弾を片っ端から
叩き落していく。だけど、後ろの女も守るとなると、それもちと厄介だった。

「ちっ……!」

 俺はその場をザサエさんに任せて、女の方に駆け出した。
 見れば、女は腹からだらだら血を流して、未だにぼうっと立ち尽くしている。
 
「ちっ、言わんこっちゃねえ………とりあえず、こっちだ!」

 俺はぼうっと立つ女の手を引っ張って、手ごろな空き部屋に滑り込んだ。
 そのまま、扉を乱暴に閉めると、女に向かって問い詰める。

「何で逃げなかった? 逃げろって言っただろうが? ……ま、いまさら言
 ってもしょうがねえけどな。こうなったからには、手伝ってもらうぜ」
>143>145 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト
 
続けて、腕に銃弾を叩き込まれる。
・・・今度は、避けられなかった。
 
痛い。痛い。
私の腕から紫の血が流れていく。
血が、血が、血が・・・私の血が。
あの男から受けた傷から。
―――人間ごときが私につけた傷口から。
―――代償を、払わせねば。
そう、我が剣で―――
 
 
(・・・えっ?)
突然、手を引っ張られた。あの少年に。
そのまま空き部屋に滑り込み、少年が私にがなりたてた。
 
でも、そんなことよりも。
 
「・・・驚かないの? この私の血を見て。
 それでも、私を助けてくれるの・・・?」
 
思わず、そう問い返していた。
妖魔化しかけていた私を引き戻してくれた彼に。
>146
「血……? あぁ、流れてるな。だからどうした。
 青かろうが赤かろうが紫だろうが、そんな事は関係ねえよ。
 女が撃たれて血流してる。だったら助けるのが当然じゃねえか」

 女の不思議そうな問いに、ぶっきらぼうにそう答えた。

「嫌なんだよ。とにかく。俺が嫌なんだ。だから助ける。何か文句あるか?」

 そう、ここで見過ごしたら俺は俺を許せねえだろう。
 ふみこたんならこんな時、笑って馬鹿だと言うんだろうが、賢くなるために
目の前の怪我人を放っておか無きゃならねえなら、俺は馬鹿のままでいい。

「傷は塞がったな? オッケ、ならここから反撃と行こうじゃないか」
>143>146>147

 牧師が放った銃弾の雨が息継ぎをするかのように鳴りやんだ。
 それに釣られ、式神の手も自然と止まる。
 一瞬の静寂が“空間”を包んだ。だが、彼はその一瞬を見逃さない。
 
「『反撃』か。 小僧、教えてやろう。その言葉はな……」
 
 静寂という酷く脆い空間は、その一言によって粉砕される。
 第三者の声。
 その発生源は、扉の奧の個室から響く。
 
「……既に自分の負けを認めた奴が言う台詞なんだよ」
 
 式神の背後、振り向いた少年の眼前に位置する扉がお上品にノブを回して開けたとは到底思えない、
蹴破れたような勢いで“ばん”と開く。
 続いて、ゆっくりと姿を現す乱入者。
 歩に焦りは無い。優雅に、だが力強く、彼はそこに現れた。
 
「おまえ達に質問がある」
 
 声の主は意外にも若かった。いや、若すぎる。年は14、5歳。
 この空間に存在する4人に中では、明らかに最年少だ。
 だが、鋭く輝く眼光がとても冷たく、幼さをまったく感じさせない。
 
 彼の身体を包んでいる薄紫の服と、お世辞にも高いとは言えない背丈の割りには長い手足。
 顔は童顔で、10人が10人とも“美少年”と答えるであろうほどに整っている。
 
 その美しい顔の一部が動く。この場に居合わせる全ての者へと言葉を紡ぐために。
 男は言う。 

「この三人の中で“最強”は誰だ?」
 
 最強は誰か。それを知るために殺し合え。
149嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/04 13:33
ふっ、愚者が滅ぶことには変わりは無い……
今こそ、新たな時代の幕を開けよう……

出典 :月華の剣士 1幕 2幕
名前 :嘉神 慎之介(かがみ しんのすけ)
年齢 :30才(2幕においては31歳)
性別 :男性
職業 :南方の守護者『朱雀』
趣味 :なし
恋人の有無 :なし
好きな異性のタイプ :なし
好きな食べ物 :なし
最近気になること :地獄門の動向
一番苦手なもの :美学を汚す者
得意な技 :紅蓮朱雀、鳳凰天翔
一番の決めゼリフ :全ては終わり、そして、始まる……
将来の夢 :現世の浄化(1幕)/贖罪、人の行く末を見守ること(2幕)
ここの住人として一言 :我が美学、汚すなどと……
ここの仲間たちに一言 :舞台の幕は今より上がる……
ここの名無しに一言 :……時間の無駄だな
>143>146>147

 少年が女を無理矢理引っ張りながら、空き部屋に転がり込んだ数秒後、牧師が放った銃弾の雨が
息継ぎをするかのように鳴りやんだ。それに釣られ、式神の手も自然と止まる。
 一瞬の静寂が“空間”を包んだ。だが、彼はその一瞬を見逃さない。
 
「逃げたな。反撃のための撤退とでも言うつもりか。だがな……」
 
 静寂という酷く脆い空間は、その一言によって粉砕される。
 第三者の声。
 その発生源は、少年が逃げ込んだ部屋と向かい合っている個室から響く。
 
「……既にその行動自体が、自分の負けを悟ったものが取る行動なんだよ」
 
 声が聞こえてくる個室の扉がお上品にノブを回して開けたとは到底思えない、
 蹴破れたような勢いで“ばん”と開く。
その勢いが共鳴したかのように、向かい合う扉――少年が逃げ込んだ扉も“ばん”と開かれた。
 勝手に……だ。
 
 続いて、扉の奧からゆっくりと姿を現す乱入者。
 歩に焦りは無い。優雅に、だが力強く、彼はそこに現れた。
 
「おまえ達に質問がある」
 
 声の主は意外にも若かった。いや、若すぎる。年は14、5歳。
 身体を包んでいる薄紫の服と、お世辞にも高いとは言えない背丈の割りには長い手足。
 顔は童顔で、10人が10人とも“美少年”と答えるであろうほどに整っている。
 
 その美しい顔の一部が動く。この場に居合わせる全ての者へと言葉を紡ぐために。
 男は言う。 

「この三人の中で、“最強”は誰だ?」
 
 最強は誰か。それを知るために殺し合え。
151アルカード(M):02/07/04 17:07
ペトレスク神父 vs アルカード(M) 
導入 
 
 静謐な空気が支配する空間、教会。 
 イーストハーレムのうらぶれた街中にあっても、その様相は変わらない。 
 神聖で近寄りがたく俗世から乖離した”異界”―――― 
 
「やあ神父、今日もお勤めご苦労さん」 
 
 その扉を開け放ち、男はニィ、と笑った。 
 赤いコートに黒い髪、長物を肩に担ぎ悠然と佇む・・・・・・吸血鬼が。 
 
「案外、綺麗にしてるんじゃないの。いやいや、きれい好きってのは良いもんだ」 
 
 大股で男、吸血鬼、アルカードは進む。 
 十字架、聖句、聖歌。神の威光も恐るる事なく、ライフルを突き出しながら歩く。 
 その双眸に微笑みを浮かべる神父を捉えたまま。 
 
「これから汚れちまうのが、何とももったいない」 
 
 冷たいコンクリートに足音が高く、響いた。 
 男と神父の距離が縮み、縮み、縮む。 
 
「ま、そこらはアフターサービスだ。うちの職員が上手いことやってくれるさ」 
 
 互いの視線がライフル越しに重なる。 
 穏やかな微笑みと狂笑が交錯する――――その、一瞬。 
 
「今までお勤めご苦労さん、後はゆっくり休んでくれ」 
 
 銃声が響く――――――
>151
アルカードvsペトレスク神父

 ライフルから放たれたのは銃弾ではなく、白木の杭。
 だが銃弾にも劣らぬ速度で飛来したそれを神父は首を僅かに傾げるだけで避けてみせる。
 
 鈍い音を立てて、杭は神父の背後に据えられた神の像に突き立った。
 
「ああ、丁度良かった……」
 
 明確な殺意を受け流しつつ、神父は微笑む。
 
「そろそろここを放棄する時期だったんですよ。
 もう“手駒”は十分に揃ったのでね」
 
 照明の消された教会の天井。そこに蟠る闇が微かに震える。
 それは、闇が神父の声に応えたようでもあった。
 待ち切れない、とばかりに闇はキキと甲高い声を漏らした。
 
「では、引き払う前に私の方でも掃除をしましょう」
 
 神父が手を掲げ、指を弾く。
 それを合図に闇は散り、月に照らされて本性を現した。
 
 冷たい光が照らし出すのは異形の群れ。
 
 腕は翼と一体化し、頭部は禿げ上がったコウモリそのままの姿。
 機械を埋め込み人間とコウモリを合成した改造人間―――コウモリ男だ。
 常に飢えに苛まれる彼等は涎を撒き散らしながら牙を剥き、目の前の男へと一斉に喰らい付く。
 
「立つ鳥後を濁さず、ですよ」
153アルカード(M):02/07/04 18:03
>152 ペトレスク神父 vs アルカード(M) 
  
「さすがは神父様。礼儀を弁えてらっしゃる」 
 
 牙が突き立つ、爪が切り裂く。 
 皮が破られ、肉が千切られ、血が噴き出す。 
 群がるコウモリの出来損ないどもは、吸血鬼の体にたかりその肉を喰らった。 
 
「ハン」 
 
 だが。 
 
「こんなものか?」 
 
 骨の浮き出た腕が禿げた頭を掴む。 
 膂力だけでギリギリと締め上げて、握り、砕く。 
 脳漿と鮮血を散らし、白の肌が朱に染まった。 
 
「最近の吸血鬼は、なんだ。こんなものかい」 
 
 胸元に齧り付いたヤツの無防備な首筋に牙を突き立て、逆に喰い千切る。 
 その肉を血を啜り、男の顔はより大きな笑みを、禍々しい笑みを浮かべた。 
 
 コートを振るう。 
 それに絡みついたコウモリもどきは辺りへ転がり、地に伏せた。 
 脳天へ、心臓へ、次々とクイを撃ち込んでいく。 
 
「やれやれ、結局汚れちまったな。こりゃ、清掃員でも呼ばないとねぇ」 
 
 真紅のコートを自らの血でより汚し、それでもアルカードは銃を構える。 
 長物を目の前に付きだし、また照準を絞った。 
 赤に血走る眼光がまた、神父へ向けられる。 
 
「その為にもまず、粗大ゴミは撤去しねぇとな」 
 
 マガジンを再装填、それを確認する間もなくトリガー。 
 トリガー。 
 トリガー。 
 三つのクイが再び、コウモリどもの親玉へ向かった。 
>153
アルカードvsペトレスク神父
 
 突然、三本の杭は空中で真っ二つに割れた。
 目標となっていた神父はただ口を広げているのみ。
 身動き一つせず、この神父は杭を撃ち落したというのだろうか?
 
 神父は無惨な屍を晒す手下を見ると、小さく溜息をついた。
 
「やれやれ、いくら改造したといっても所詮元は只の人間ですか。
 ゴミの再利用も中々上手く行きませんね……」
 
 そして視線を赤いコートの男へ移す。
 
「しかし―――どうやら貴方は違うようですね」
 
 微笑が徐々に歪んでゆく。
 浮かんだのは、ナイフで斬りつけたような深く陰惨な笑み。
 
「貴方がなんであれ、神に逆らう愚者であることに変わりはありません」
 
 再び無数の影が天井から躍りかかる。
 今度は殺意を持って喰らい付くのではなく、その動きを封じる為に。
 神父の口腔内で耳障りな高音が響き、可聴域を超える。
 
 触れればその肉体を切り裂く超音波の刃。
 不可視の刃が手下ごと敵を両断せんと迫る。
155アルカード(M):02/07/04 20:15
>154 アルカード(M) vs ペトレスク神父 
 
 もどきどもの拘束を受け、アルカードの足が止まる。 
 腕に足に胴に、所々が抉れた肉体に縋り付く出来損ないは、 
 滴る血に舌を這わせ歪む腕を絡み付ける。 
 
 それを、意にも介さず、男は、進む。 
  
 上半身を縛るコウモリを片手で振り解く。 
 足にしがみつく二本の腕を前に進める足で引き抜く。 
 醜悪な呪縛は吸血鬼の行進を止められない。 
 何も止められず、血溜まりになった。 
 
 コンクリートを打つ音が、コツコツからビチャビチャへ変わる。 
 引きちぎり、振り払い、叩き付け、道を築きながら進む。 
 
 音の刃すら、胴を二つに割ったが、足を止めるには至らない。 
 足りない、 
 足りない、 
 足りない。 

「たりない」 
 
 足音が、消えた。 
 吸血鬼は矢となり、飛礫となり、跳び上がる。 
 長物を肩に、右手を刃に。 
 躍りかかる影はより濃く、滲んだ闇へと転じた。 
156名無しクルースニク:02/07/04 20:23
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>129
 
「――ぁ…………!?」
 
 聴覚が、死んだ。
 脳幹まで犯すような甲高い絶叫は、全身に強制停止命令を発効する。
 頭が――割れる。
 ガラスが割れるような音のせいだ。あのせいで、虫が――血管の中を、脳から全身に
這い出して、内臓に尺取虫が
 
 ――フザけ――るな!
 
 末端で踏み止まった両腕の感覚が、滑り出る咆哮と共に太腿へと刃を突き立てた。
行動障害ギリギリのレベルで、切先は筋肉の束を引き裂く。
 脳に氷の棘を突き刺したような激痛が、精神の狂乱を叩き潰した。
 口元を抑えて喘ぐ少年を引っ掴むと、壁へと押し倒す。
 
「……此処を動くな。10分待つか、あのバケモノが部屋の手前まで着たら――
 思い切り走れ。足元を見るな。色々転がってるけど、誰もお前を傷付けないから」
 
 少年は、目に涙を浮かべ、口の端に涎を垂らしたままがくがくと頷いた。
 シスターの胸に突き立つナイフ。軽過ぎる死。何も出来なかった自分。
 青年は少年の頭に手を置くと、乱暴に頭を撫でる。びくりと体を震わせ、その瞳に精気
が僅かに帰還した。
 青年は顔を近付け、
 
「良いな? お前は死なない。俺が護る。護り抜くから!」
「あ――――」
 
 言い捨てて振り返り――目の前に、バケモノが居た。
 人のカタチを微塵も残さずに変容したヴァルダレクは、禍々しい、という表現を
通り越した塊と成り果てている。
 欠片も迷う必要なんて無く、微塵も躊躇する事は無い。
 何て事は無い。自分の使命はコイツ等を皆殺しにする事。
 考える必要なんて皆無。俺は人が幸せであればそれで良い。
 
 兼定を正眼に構える。
 真正面からヴァルダレクを睨み据え――青年と一本の刃は、一筋の光となってバケモノ
へと突撃した。
>155
アルカードvsペトレスク神父
 
 闇が閃いた。
 
 目には何も見えない。
 神父の背から伸びたのは闇に溶け込むような漆黒の翼。
 二対の翼はその速度と強靭さで刃へと変化する。
 
 その刃の存在を察知できる者は人間には居ない。
 風を切り裂く轟音と掻き乱される大気だけがその存在を主張し―――
 
 翼は挟み込むように、コートの男を迎撃に向かった。
158アルカード(M):02/07/04 21:06
>157 アルカード(M) vs ペトレスク神父 
 
 断たれかけた胴が、別れる。 
 自らの鮮血に染まるコートがより、朱に濡れる。 
 突き出された白の抜き手は宙を切り、地に転がる。 
 
 吸血鬼は千切れ、ただの肉塊に還り、静謐な空気の中に埋もれた。 
 
 広がる赤の輪はコンクリートの灰を浸食し、 
 ゴミの如く転がるコウモリさえも飲み込んで、何処までも何処までも飲み込んでいく。 
 血溜まりが教会の床を覆った時。  
 
 その、吸血鬼の残骸は霧と消えた。 
 
「クハ」 
 
 笑う。 
 
「クハハ」 
 
 笑う。 
 
「クハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――――――――――ッ!」 
 
 笑い声が集まり、形を作る。 
 それは神父の後ろに立ち、再び白い死を掲げた。 
 突き出される抜き手は、心臓を狙い伸びる――――――
>144

 吸血鬼はいた。喉に突き立つ牙。失われていく血液。
 一体、あたしの身体にどれだけの血が残っているというのだろうか。
 これ以上血を失うことを意味するのは、吸血鬼化では無く純粋な死だ。
 だけど、あたしは――――
 
        吸血鬼の吸血行動を、拒む気にはなれなかった。

 喉にしゃぶり付く吸血鬼を、翡翠色の瞳がそっと見下ろす。
 例えれば、母親が己の子供に母乳を与えるかのようにあたしは吸血鬼を見守っている。
 ふと、あたしの口が開いた。

「もっと、吸っても……いいんだぜ……」

 翡翠の視線が天を仰ぐ。真紅の血に装飾された金髪が流れる。
 
「それで、あんたが生き長らえるなら。あたしの手で、あんたを殺せるのなら――――」

 言葉は最後まで続かなかった。
 吸血鬼の弱々しい、それでいて不屈の意志を感じさせる言葉に遮られ、あたしは口を動かすのをやめる。
 が、それも数秒。吸血鬼が言葉を言い終えると同時。
 いや、言い終えるよりも速く―――吸血鬼は灰となりて、死んだ。
 死んだ。

「……馬鹿……野郎……ッ!」

 またか。玲二のときと一緒だ。またあたしは――――
 
 あたしは一面に広がる灰を拾い上げ、抱きかかえるように蹲ると、肩を震えさせながら……泣いた。
 床に散らばる灰の一部が色を変える。白い肌を汚していた赤い汚れが洗い落とされる。
 握りしめた両手から流れ落ちる灰が、白い滝を作る。

 殺したかった。この手で、あの吸血鬼を殺したかった。
 だけど――――
 
     ――――俺の代りに殺せ――――
 
 一体、誰を殺せと言うのか。その問いに答えられる者は、もういない。
>158
アルカードvsペトレスク神父
 
「ガ―――アッ!?」
 
 肉を抉る鈍い音。
 削げ落ちた肉片が床に叩き付けられた音がやたらと痛々しい。
 振り向き、何時の間にか背後に回った男を睨む。
 
「神二、逆らウ―――愚かモノガ……」
 
 神父の声が機械的な、無機質な声に変わってゆく。
 同時にその身体は膨れ上がり、コウモリの姿へと近づいてゆく―――
 
 人間の四肢を備えた、巨大なコウモリの異形へと変じるのにさして時間はかからなかった。
 
「フッ!」
 
 短い呼気を吐くと、凄まじい速度で爪を何度も虚空に躍らせる。
 頭部を。
 心臓を。
 胴体を。
 致命的な部位を狙い、何度も突き刺し、引き裂く。
 
 怪物の姿へと変わり、神父はその激情を包み隠す事もせず攻撃する。
 醜く歪んだ体のもたらす、醜く歪んだ心のままに。
161アルカード(M):02/07/04 21:46
>160 アルカード(M) vs ペトレスク神父 
 
 抉られ、肉が削がれ、鮮血が零れ、骨が剥き出す。 
 皮膚を千切られ、血涙を流しながら、吸血鬼は嗤う。 
 
「いいねぇ、実に良い」 
 
 凶相を浮かべ、手刀を翻し、コートを揺らしながら振るう。 
 抉り、肉を削ぎ、鮮血を呼び、骨を割る。 
 
 頭部を。 
 心臓を。 
 胴体を。 
 致命を砕き、死を招き、叩き込む。 
 
 二匹の化物は互いを血に染め上げ、ただ潰し合った。
>161
アルカードvsペトレスク神父
 
 青白い電流のスパークが散る。
 あちこちの『生体部品』―――と、本人は呼んでいる―――生身の部分からは血が流れ落ちる。
 
(何なんだ……コイツは一体何なんだ!?)
 
 化物であろうとも、これだけやれば死んでもおかしく無い程のダメージを与えた。
 それでも再生を続け、平然と立ち、あろうことか嗤いながら戦い続けている。
 脳に残された一握りの本能が全力で警告を発する。
 
 分かる。
 コイツは危険だ。
 危険だ、危険すぎる。
 
 “本物”の化物を前にして体が竦み、段々後退りしてゆく。
 生物としての格が違う―――いくら体を改造しようともこれだけは埋められない。
 
 守れ、戦え、と命じる本能に従い咄嗟に手は武器を探してしまう。
 右手に背後の白木の杭が当たった。
 
「カミ ヨ、アナタ ノ ゴカゴ ヲ!!」
 
 途切れ途切れの声を絞り出し、神像を粉々に砕きながら杭を引き抜く。
 祈るのはキリストでは無いのだが―――神に祈る異形。
 その姿は、喜劇的なまでに滑稽でもあった。
163横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:11
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
導入1「日常・・・?」 
 
 
「あ、横島さん! これ、見てください」 
 
 ある日、学校に行くとピートのヤツが新聞を片手に何やら興奮していた。 
 差し出された朝刊には、でかでかと「黒岩都知事、ついに消費税を撤廃!」と書いてある。 
 黒岩・・・はて? 
 
「消費税が無くなるんですよ! これで僕らの生活、ずっと楽になります!」 
「・・・マヂ?」 
「はい! いや、黒岩さんはやってくれると思ってました!」 
 
 黒岩。 
 はて、どこかで聞いた事があるような? 
 事ある毎に東京都知事を褒め称えるピートを後目に、俺はわずかな違和感を感じていた。 
 記憶の片隅に引っ掛かる、魚の小骨のような違和感を。 
 
 んで、放課後。 
 いつものように事務所に行くと・・・・・ 
 
「あれ? ラルヴァ。お前だけか?」 

 いつもは美神さんとか、おキヌちゃんとか、スミレさんとかの、美女いっぱいの事務所が、 
 妙にガランとしていた。執務室にラルヴァがぽつんと、所在なさげにいるだけで。 
 
「ええ・・・これ」 
 
 手渡された、一枚の書き置き。 
『ちょっと豪遊してくるわ。その間、事務所よろしく! ・・・赤字を出したら殺すから』 
 とっても見慣れた筆跡で、どこかで聞いた事がある文句が書いてあった。 
 豪遊? 赤字出したら殺す? 
 当分帰ってこない、って事ですか――――――――――――――――――ッ!! 
 
「ひ、ひどっ!」 
「おキヌちゃんも連れて行ったみたいね。スミレはいつも通り、何処かに行ったみたいだし」 
 
 溜め息をつく、ラルヴァ。 
 シロとタマモは西条の所でバイトしてるし――――こ、これは二人っきり!? 
 確かに豪遊出来ないのは痛いけど、これはこれで・・・!
 
「参ったわね。出ていったのが昨日、帰ってくるのは一週間先。その間、二人で事務所・・・」 
「大丈夫! そう言う経験、あるから!」 
 
 胸を叩く、俺。 
 こう見えても商才は人一倍ある! 
 
「な〜に。俺に任せておけば、何とでもなるって!」 
 
 二人っきり、一週間近くも・・・! 
 く、くっくっくっくっくっ・・・このチャンス、逃すモノか! 
 
「やったる! 俺はやるぞ!」
164黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:12
>163 

横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
導入2「独立声明」 
 
さて、どうやってラルヴァを口説いたものか。
 
横島の脳裏は、そのことで埋め尽くされる。
いきなり押し倒す?
否、まずは声をかける程度で?
否、否、せめて手を握ってから・・・。
 
「都民の皆さん、全都民のみなさん!」
 
低いが張りのある声が、突如テレビから響く。
その声が、横島の邪念に満ちた思考を破った。
ラルヴァの手が、テレビのスイッチを入れていたのだ。
 
「知っていますか?
 世界で初めてのホットケーキは1632年、イギリスの小さな農家で初めて焼かれたのです。
 その家庭に母親は無く、父親は、子供のために愛情を込めて、ホットケーキを焼きました。
 皆さん、全都民の皆さん、私に皆さんのホットケーキを・・・焼かせて下さい!」
 
テレビで意味不明の薀蓄を語っているのは―――――――
思わずぶっ飛ばしてやりたくなるほど気障な顔をした男。
その下には「黒岩都知事」とテロップが出ている。
 
その顔が、横島の記憶を引き戻す。
かつて横島を苦しめた、暗黒騎士ガウザーの記憶を。
 
「私は皆さん一人一人の為に尽くしたい。
 愛情を込めて、尽くしたい。
 皆さん、私はここに、東京都を独立国家とし、その東京国の・・・」
 
そこまで言うと、黒岩は拳を力強く握り締めた。
 
「初代皇帝となることを宣言します!」
 
握ったその拳よりも、さらに力強く、黒岩は言い切ってみせた。
横島とラルヴァの困惑した顔が、ブラウン管に反射する。
 
2人が困惑から回復する間もなく、事務書のドアが蹴破られる音が響く。
165ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:14
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>164
 
今日は何回も驚かされたが、最大の驚きは今のニュースだった。
東京国? 初代皇帝? ジョークにしては突拍子がなさ過ぎる。
 
テレビ画面の中で熱演する男は、コメディアンではない。
日本に来て長いわけではないが、あれは確かに黒岩都知事に間違いないようだ。
加えて、私が見ているのはニュース番組の筈である。
 
「…………」
 
横島と無言で向き合う。彼も困惑の表情を浮かべていた。
 
 
―――そうして向き合っていたのは数秒だろうか。
事務所のドアが蹴破られ、制服に身を包んだ男達が突入して来た。
 
(……美神所長に何と言おう?)
 
破壊された扉を横目にそんな事を考えながらも、入ってきた男達を観察する。
 
揃いのサブマシンガンに、同じ形のベスト、帽子。ご丁寧に、ナイフや拳銃も同じ物だ。
傭兵の集団ではなく、同一の訓練と武器の支給を受けた戦闘部隊。
今の日本には、公式にこんな部隊はいない筈だが……
 
「動くな! 黒岩皇帝の命令だ。ヴェドゴニア・ラルヴァを捕獲する!」
 
その言葉自体への衝撃は少なかったが、新たな疑問点が湧いてくる。
 
この男達は、たった今就任宣言されたばかりの「皇帝」からの指示を既に受けている?
……どういう事だろうか。
事前にマークしておく程の価値が、私にあるのだろうか?
 
 
だが、考え事は後回しだ。咄嗟に手近にあった花瓶を投げつける。
一瞬の隙を突いて、ホルスターを置いてある隠し戸棚の方へ向かう。
 
彼らは人を撃つのは慣れていないだろうという判断と、「捕獲」という台詞。
この二つが無ければ、こんな無謀な動きは出来ない。
 
 
……花瓶の値段を思い出したのは、銃を手に取り弾を確認した後だった。
支払いは東京国皇帝とやらに回すとしよう……
166横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:16
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>165  
 
「動くな!」 
 
 妙に高圧的な叫びで、ようやく俺は我に返った。 
 ギギギ、と音を立てて首を回すと、目の前にいる男達の事をのろのろと認識する。 
 同じ服装、同じ鉄砲、それと鼻につく言動――――これは、軍隊か!? 
 
 ちょ、ちょっと待て、俺は何もしてないぞ! 
 なのに、何でそんなモノを突き付けますかぁ! 
 イヤだっ! 死にたく、死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいい!
 
「無実やっ! 俺は何にも、ナニもしてないっ!」 
  
 ・・・・・・と。そ、そうだ! 
 
「こ、降伏! 降伏します! だから撃たないでぇ〜!」 
 
 なんか一緒に涙とか滝のように吹き出てたけど、それもむしろ効果的! 
 素早く動き出したラルヴァを後目に、俺は大声で叫んだ。 
 
 
 ――――ラルヴァ? 
 
 
 そうだ、こいつら捕獲とか言っていた。つーことは、命を狙われてる訳じゃないのか。 
 あいつらの狙いはあくまでも『ヴェドゴニア』・・・ラルヴァが危ない! 
 
 ほんの数秒間、思考が巡った。 
 巡って、答えが出なかった。 
 経験を照らし合わせても、ちょうどそれだけすっぽり抜け落ちていた。 
 
 ――――俺、人間相手に何が出来るでしょうか? 
 
 隠すように文珠を出しつつ、熟考。ひょっとして、俺って役立たず?
167黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:17
横島忠夫&ラルヴァ vs 偉大なる東京国皇帝・黒岩省吾 
 
>165
 
風が唸り、花瓶が兵士達に迫る。
それに反応した兵士は、迷わず銃弾を放つ。
空間が、絶叫する。
 
花瓶が砕け散り、破片が花びらとともに床に落ちる。
 
鈍く光る銃口が、ラルヴァを追って動く。
充分に訓練された動き。
リーダー格らしき男が口を開く。
 
「抵抗するなら、射殺するぞ!!」
 
>166
降伏を申し出た横島の顔のそばに、軍靴が現れる。
屈強な肉体に、下卑たにやにや笑いを浮かべた兵士。
 
「お前が横島か・・・」
 
ねとつくような口調とともに、兵士は怒涛のように涙を流す少年に銃口を向ける。
 
「お前は黒岩皇帝から、散々いたぶって殺せと命令を受けてるんだよ!」
 
銃口が、横島の顎を突き上げんばかりに振るわれる。
168ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:18
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>167
 
練度が低いだろうと侮っていた私は、その場で釘付けになった。
―――彼らは人を撃ち慣れている。
 
これは「東京国」とやらが、一朝一夕で作られたものではないという事か。
 
さらに悪い事に、兵士は横島の方へ向かっている。
横島の肉体自体は普通だ。銃で撃たれればひとたまりもない。
 
『お前は黒岩皇帝から、散々いたぶって殺せと命令を受けてるんだよ!』
 
……? どういう事だろう?
横島と黒岩都知事……いや、今は(自称)皇帝だが……は面識があるのだろうか?
 
 
横島の手の中に、文殊の輝きを見た私はその考えを中断した。
とにかく、現状を打破せねばならない。
 
「貴方達……」
 
無造作に前に出る。当然のように銃口が向けられるが、意に介さない。
 
「私が死んだら、黒岩皇帝に怒られるんじゃないの?」
 
私に向けられる銃が多くなるほど、横島は行動しやすい筈だ。
169横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:19
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>168  
 
 これでもかと厭らしい笑いを浮かべ、兵隊の一人が俺にマシンガンを向けた。 
 そして、口にするのは黒岩皇帝――――あんの、クソ忌々しいと知事もどきのこと。 
 やっぱり、聞き覚えでも思い違いでも記憶違いでもなかったか! 
 
「あの根暗蘊蓄、根に持ってたのかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 
 
 ふつふつと、怒りがこみあがる。あんのアホの所為で、俺は病院に担ぎ込まれる程の重傷を負い、 
 さらに這々の体で帰ってきたら、美神さんに死の瀬戸際へ追いやられたんだ! 
 マヂで死にかけたんだぞ、あの時! 
 その上揚げ句、いたぶって殺せだと!? 
 
 銃口の抜け落ちた黒が、顎へ抉る。 
 触れる寸前で身を背面に倒し、銃を上に見る。 
 追撃を受けたら一溜まりもない、不利な姿勢。 
 けど、ラルヴァの言葉に兵隊どもの銃は俺を一瞬、見失った。 
 
 ――――チャンス! 
 
「じ、人工幽霊! 時間を稼いでくれっ!」 
「了解しました」 
 
 事務所に寄生する『渋鯖人工幽霊一号』の名を叫ぶと、圧倒的な霊気が辺りを包み込んだ。 
 招かれざる客を阻む『結界』が、一時的にその動きを封じ込む。まばゆい霊波の光が漂う中、 
 微かな隙をついて、俺は足下に文珠を叩き付けた。 
 
 文珠「破」。高純度の霊波の塊、文珠が破壊の力を帯びて床を砕く。 
 迂回路を得た俺は、ラルヴァの手を引いてそこへ飛び込んだ。 
 この際、事務所の被害とか、怒り狂う美神さんの顔とかは一切忘れることにして。 
 
 走り、飛び、乗り越え、一目散にガレージを目指す。 
 このまま、事務所に留まってもどん尻! 埒があかない。  
 なら狙うは、あのクソ蘊蓄野郎・・・・・・『黒岩省吾』!!
 
「自転車運業の付け焼き刃風情が、皇帝だと!? 笑わせんなっ!」 
 
 コブラに飛び乗って事務所を飛び出た時、俺は自然と大声で叫んでいた。
170黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:26
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>168>169
 
「つけあがるな!貴様など取るに足らん実験材料でしかない」
 
並んだ銃口が、規則正しくラルヴァに近づいていく。
 
「逆らうようなら、殺す。これも黒岩皇帝の命令だ」
 
淡々と言う兵の目に、躊躇いはない。
命令に忠実な、思考停止したものの目。
危険を感じ、ラルヴァの背に、汗が一筋流れる。
 
兵士達は銃を向けたまま、ラルヴァへと歩を詰める―――――――
 
が、彼らの動きは、突然止まる。
突如現れた奇妙な光に動きを封じられ、戸惑いの声が部屋を満たす。
 
光が消えた時、横島達もまた、姿を消していた。
舌打ちや、歯軋りの音。
その音とともに、兵士達は横島の姿を求めて駆け出した。
171ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:28
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>169>170
 
コブラの助手席で弾丸の確認をする。
―――あまり数を持ち出せなかった。
 
「これからどうするの?」
 
「決まってるてだろ、あの蘊蓄野郎をぶちのめすっ!」
 
「……どうやって? 大体、黒岩皇帝とか言うのがどこに居るかわかってるの?」
 
横島の動きがピタッっと止まる。
どうやらそこまで考えていなかったらしい。
 
ひとつ溜息をついた後、横島に声をかける。
 
「TV局に行ってみて。 まだそこに居るかもしれないし
 そうでなくても、行き先を教えて貰えるかもしれないわ」
 
「そ、そうだよな。よっしゃぁぁ!」
 
強烈な加速感の中、私は再び溜息をついた。
 
(二人きりで軍隊相手か…… 辛い闘いになりそうね)
172横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:29
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>171  
 
 閑話休題。  
 
「抜けるような青空! 
 爽やかに肌を焼く太陽! 
 そして、穏やかな波の調べ!」 
 
 某国某所、某海岸。 
 日本で、いや世界でも名高いGS『美神令子』は、久方ぶりの休暇を愉しんでいた。 
 見習いGS氷室キヌが手に入れた、ペアの旅行チケットが休暇の原因ではあったが。 
 
「日頃の行いが良いと、幸運ってヤツは簡単にやってくるものね〜」 
「日頃の行い、ですか?」 
「な〜に? おキヌちゃん」 
「え、あ、な、何でもありませんよ!」 
 
 ブンブンと手を振って、おキヌ。 
 とまれ、南国の一日はゆったりと過ぎていき・・・ 
 
「横島さん達、大丈夫かな?」 
「大丈夫でしょ、横島くんなら。それに赤字出したら殺す、って釘刺しておいたし」 
 
 取り残してきた少年の事をちらりと思い出し、嘆息にも似た息を漏らす二人。 
 ペアのチケットであの少年を連れ回すわけにも行かず、置いてきたのだが。 
 どうにも気になる。気に掛かるのだ、霊感に何かが引っ掛かるように。 
 
「・・・え゛!? み、美神さん、美神さん!」 
「こ、これ、これ!」 
 
 慌てた様子のおキヌが差し出すのは、古びたラジオ。今は邦人向けのニュースが流れていた。 
 酷く混乱し、浮ついたニュースらしくないニュースが。 
 
『東京都が独立を宣言し、黒岩省吾都知事は自らを皇帝と名乗り、軍事クーデターを起こしました。
 現在、東京都とは連絡が取れない状況になってます。こーなりゃもう、大阪が日本の首都です! 
 始めっからそうすりゃ・・・あ、こら、まだ放送は・・・・・・・!!』 
 
 ぷつん。 
 しばし、沈黙。
 
「大丈夫なんですよね!?」 
「だ、大丈夫よ――――――――――――――――――――たぶん」
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 
 
「どないせいっ、ちゅうんじゃあ!」 
 
 高級外車コブラのハンドルを握りながら、俺は大声で叫んだ。 
 後ろからは数台のジープが追いすがってくる。何やら鉄砲やらバズーカっぽいモノとか、出して。  
 こちとら17やぞ? 免許、持ってないんだぞ? 無茶ばっかやらすんじゃねぇ――! 
 
「横島、泣いてないで前を見て!」 
「へ、あ、うわっ!」 
 
 大慌てでハンドルを立て直す。タイヤが金切り声をあげて、身を削り黒い軌跡を残した。 
 ああ、なんか終わりですか? 人生とかお終いですか? 
 こ、こんなの、こんなの嫌だぁ―――――――――――――――――――――――――ッ!! 
 
 ハンドルを急いで切ると、また車体が悲鳴を上げた。 
173黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:31
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>171>172
 
就任演説を終え、テレビ局から出てきた黒岩は、リムジンへと乗り込む。
傍らには、秘書のユリカがすでに座っていた。
 
「見事な演説だったわ。あなたの栄光が、これから始まるのね」
 
陶酔したような笑みを浮かべ、ユリカは皇帝となった男に言う。
その言葉に、しかし黒岩の表情は揺るがない。
仮面のように、無表情を保ったままだ。
 
「例の研究のほうは、どこまで進んでいる?」
 
遺伝子を進化させ、より優れた生物を作り出す研究。
その進捗状況を、秘書は皇帝に伝える。
 
「結構。やはり『ヴェドゴニア』のサンプルは必要か……。生死に、関わらず」
 
「その準備のためにも、劣悪な遺伝子は排除しなくてはな。
 まずは・・・あの横島からだ」
 
その言葉を発した時、わずかに黒岩の表情は歪む。
しかし、それがユリカの目に映る前に、皇帝は再び無表情に戻っていた。
 
―――――――――――――――――――――
 
軍用ジープが疾駆し、コブラの後ろに迫る。
 
「止まらないようだな・・・、射殺だ」
 
何の感慨もなく、あまりにさりげない隊長の命令。
それに即座に反応し、兵士達は銃を構える。
マシンガンが咆哮し、前の車を貫くべく弾丸を吐き出した。
174ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:33
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>172>173
 
私と横島の乗ったコブラを弾丸がかすめる。
横島の運転テクニックのおかげで、致命的な命中はないが
一瞬にして車体はボロボロになった。
 
「完全に殺す気ね…
 まさか、東京都のど真ん中で
 銃撃戦をやる事になるとは思わなかったわ」
 
散発的に反撃をしても、防弾仕様の軍用ジープには通じない。 
私は、「前」に向かって銃を構えた。
 
「頭を低くして、横島!」
 
「へ? どっちを狙って…」
 
轟音が2回、風切り音をさらに引き裂く。
.454カスール弾は、私の狙い通りに<それ>に命中した。
 
 
私達の頭をかすめて落ちてきたのは―――信号機。
 
この重量と相対速度ならば、それなりの威力があるだろう。
175横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:35
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>174  
 
 鉛弾の列がコブラの真っ赤なボディーに穴をいくつもいくつも開けた。 
 幸いというか、運転に支障はない。ないが・・・見た目、酷い事になっていた。 
 '65年型シェルビー・コブラ427。 
 響く破裂音と揺れる車体の中で、ふと、俺の脳裏に考えが過ぎった。 
 一体いくらするんだろう、この外車。やっぱ、弁償させられるんだろうな。  
 
 しばし、遠い目をして大きく開いた天井越しに空を眺める。 
 夕焼けの朱から夜の黒との過渡期、紫のベールがいくつも折り重なって空を覆っていた。 
 
 ――――――んなの無理だ、絶対に払えねぇ! 
 
 その光景は美しかったんだろうが、今の俺には理解する余裕はなかった。 
 
 
 
 震える手つきでハンドルを握りながら、ラルヴァの言うとおり俺はTV局を目指す。 
 角を曲がり、信号を突破し、反対車線を百q/h以上で走り抜けて。 
 でも、それでも、ジープは振り切れずにいつまでも追いかけて来る。 
 ダメだぁ! なんか人生終わる、終わる気がする!  
 
「頭を低くして、横島!」 
「へ?」 
 
 ガコン。 
 頭上で何か外れる音がして、後ろで鋼が潰れる音がした。  
176黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:37
>174>175
ジープに走る衝撃。
兵士達の頭が揺れ、目が眩み・・・
意識が、消失する。
 
兵士の1人が気を取り戻した時、目の前に映ったのは―――――――
信号機の残骸だった。
ジープは信号機の直撃を受け、無惨な姿と化している。動けそうにはない。
奴らの向かう先は、見た限りでは・・・。
 
彼は慌てて、無線を手に叫んだ。
 
「陛下!ヴェドゴニア達がそちらに向かっているようです!」
 
 
―――――――皇帝のリムジンに、その声が響いた。
 
その連絡を聞き、仮面のようだった黒岩の表情に薄く笑みが浮かぶ。
しかし、その表情は影に隠れ、ユリカには見えなかった。
 
「道筋を変える?」
 
秘書は黒岩に問う。
 
「いや・・・このままでいい」
 
その言葉とともに、黒岩は拳を握り締めた。
177ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:38
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>175>176
 
夜のとばりが都内を包んでいく。
なんと否定しようとも……夜は私達の時間だ。
 
微妙に重かった体が、はっきりと覚醒していくのが分る。
五感が人の限界を超えて研ぎ澄まされていく。
 
そう。何10mも向こうのリムジンの後部座席に乗る男を見分けられるぐらいに。
 
「! 黒岩都知事を見つけたわ、横島!
 あの黒い大きなリムジンよ!」
 
リボルバーに弾を込めながら、風に負けないように大きな声で叫ぶ。
そんな私の心は、一つの不安で占められていた。
 
黒岩都知事(現在は自称皇帝だが)を
衆人環視の中で殺す羽目になるのだろうか……?
178横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:41
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>177  
  
 遥か後ろに消えて行くジープを後目に、コブラは快調に都心を突き進み・・・ 
 闇に包まれる頃には、TV局の間際まで迫っていた。 
 おぞましい都心の渋滞をありとあらゆる手段――信号を突っ切り、路地で車体を削り、 
 文珠で壁に穴を開け――で切り抜け、独特のでかい建造物へ向かってハンドルを切る。 
 
 既に街は混乱の極みのようで、これだけ無茶な運転をしても警察は一向に現れなかった。 
 ふと、焦りを感じる。 
 これほどまでに都心を掌握したヤツに、本当に勝てるのか、と。 
 
 ――――そもそも、あの蘊蓄男と皇帝とが同一人物なのか、怪しさ満点だったが。  
  
「! 黒岩都知事を見つけたわ、横島!
 あの黒い大きなリムジンよ!」
 
 ラルヴァの叫びに我に返る。 
 見れば、テレビ局の前にこれ見よがしなでかいリムジンが走っていた。 
 なんとなく追いかけ回された覚えのある、でっかなリムジンが。 
 
 がこ。 
 シフトレバーを押し込んで、ギアをあげる。 
 ハンドルを急速に捻って、車体をゆらす。 
 アクセルを踏み込んで、一気に加速し――――――485馬力の化け物は鋼の矢になる。 
 
 
 コブラは蛇蝎の如く路上を這うと、リムジンへ向かって噛み付いていた。 
179黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:43
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>177>178
 
崩れかけたコブラが、自らのリムジンへと吶喊して来るのを、黒岩は見た。
ブレーキが金切り声をあげ、衝突を防ごうとする。
しかし、ブレーキはすでに遅く、轟音が耳に響いた。
 
激突に身が揺れるが、黒岩の、硬質の表情は揺るがない。
 
冷ややかな目で、こちらに降りて来る二人を一瞥する。
真剣な表情をした、二人。
それを見ても、何かを押し殺すように、皇帝は無表情を保つ。
 
「・・・来たか」
 
黒岩の呟きと同時に、ゆっくりとドアが開く。
やはりゆっくりと、黒岩はリムジンから降り立つ。
街の灯りが、皇帝を静かに見下ろしている。
 
「が、ここで終わりだ。所詮、貴様らには生きている必要はない。」
 
笑みに似た表情を浮かべ、黒岩はそう告げてみせた。
180アルカード(M):02/07/04 22:44
>160 アルカード(M) vs ペトレスク神父 
 
 酷く、笑いが込み上げた。 
 白木のクイ、ライフルから撃ち出したクイを掴んでコウモリは腕を突き出す。 
 血が、肉が、骨が、全てを散らす死の淵に立ちながら。 
 
「何を怯えてるんだい、化物」 
 
 左手が歪み、力を蓄えて破壊になる。 
 
「もうお終いか、化物」 
 
 白木。 
 吸血鬼を縫いつけ、死をもたらすクイ。 
 
「そうかい、ならお別れだ・・・」 
 
 ケズリ出された切っ先が、白の手袋に覆われた抜き手が、微かな時を経て交錯する。 
 
 そして――――――音もなく、クイが砕けた。 
 そのまま腕を二つに分け、肩まで千切り、刎ね飛ばす。 
 
「死ね」 
 
 淡々と、一言。 
 それに合わせるように肉を裂き突き出た腹を抉り臓物を引き出す。 
 血溜まりをより深く色濃く染め上げ、肉と絶叫で装飾を施した。 
 その肉を啜り、血を喰らい、吸血鬼は笑い声を上げる。 
 血と血と血と肉と肉と肉とで覆い尽くされた教会は、ただ夜に沈む。 
 
 細い月が陰る中「処理」はしばし、沈黙を切り裂くようにして続けられるのだった。 
181ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:44
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>178>179
 
大破したコブラから飛び降りる。
殲鬼化していないとはいえ、この程度でどうにかなる程の鍛え方はしていない。
 
リムジンから、一人の男が悠然と降りてきた。
スーツを一分の隙もなく着こなした、黒岩―――皇帝。
 
彼がこちらを見る目は、あくまで冷静である。
私の銃も、コブラの弾痕も目に入っていないかのようだ。
 
横島の話によると、普通の人間ではないらしいのだが、
今のところは闘気も殺気も見せずに静かに佇んでいる。
 
その表情は、私に僅かな焦りを抱かせた。
この状況は……私達の方がテロリストか何かのように見えているのではないか?
 
内心の焦りを抑え、黒岩皇帝にスーパーレッドホークを向ける。
 
「部隊を引かせなさい。
 貴方は東京を良くしようと考えているのかもしれないけど、
 武力で独立した国なんて、ロクなものじゃないわ」
182横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:45
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>181 
 
 テレビで見たのと、あの時公園で見たのと、同じ顔がリムジンから現れた。 
 前がすっかり潰れたコブラから這い出る俺の前に、『黒岩省吾』がキザっぽい顔で佇む。 
 黒岩都知事・・・いや、皇帝か。 
 あの薄っぺらな知識を披露して悦に入る変人が皇帝なんて、世も末だと思う。 
 
 いや、あの変身怪人がと言った方が、よっぽど正しいか。 
 俺の知る限り、あいつは人でない妖怪もどきだった。 
 
 凛と立つラルヴァを後目に、俺の背筋とか足とかにはじんじんと痛みが残っていた。 
 さ、さすがに飛ばしすぎたらしい。タイヤのカラカラと回る音が、ヤケに大きく聞こえる。 
 間違いなく廃車だ、これ。弁償・・・だよな、間違いなく。 
 
 キッ! 
 両目が光の尾を引いて、黒岩皇帝モドキを睨む。 
 ここで終わりだとか生きてる必要はないとか、尊大な言葉ばかりが立て続けに並んだ。 
 
 ぶちぶちぶちぶち・・・ 
 
「よくも偉そうにぬかすな、自転車操業。この、歩く雑学辞典!」 
 
 いつぞやかの戦いを思い出しつつ、脳裏に数多の言葉が浮かぶ。 
 俺はゆっくり噛み砕いて、的確に抉り込むような台詞を選んで吐き出した。 
 
「おまえなんぞ、所詮、主婦の暇つぶし程度の価値しかないんじゃ!  
 それが皇帝? 一冊百円野郎が何トチ狂ってやがる!」 
 
 あたりの喧騒を越す、大声で俺は吐き出し続ける。 
 ラルヴァの台詞とか様になっていたのに、それを全部打ち消す勢いで。 
 
「一昨日来やがれ、化物野郎!」 
 
 びしっと、中指を天に向けておっ立てる。 
 ふ、我ながら決まった! そう思う瞬間だった。
183黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:47
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>181>182
 
「・・・ふっ」
 
皇帝は1つ鼻を鳴らし、何かを喚きたてている横島を一瞥する。
しかし、すぐに興味を失ったように視線を逸らすと、ラルヴァの方に顔を向けた。
 
「違うな。ロクなものじゃないのは・・・」
 
黒岩はそこで言葉を止め、気付かない程の一瞬、自分の足元を見た。
すぐに顔をあげ、言葉を続ける。
 
「今の、日本だ。
 人間は戦うことを忘れ、弱者がのうのうと生きている。
 だが・・・」
 
そこで再び言葉を区切り、横島にちらりと目を向け、
 
「我が東京国には・・・あんな虫けら同然の人間に必要ない!」
 
そう、皇帝は言い切ってみせた。
184ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:48
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>182>183
 
「弱者が生きていけない環境を作るつもり?」
 
銃を構えたまま、じりじりと間合いを詰める。
相手の武器が分らずに接近するのは危険だが、
このままではラチがあかない。
 
「皇帝と名乗るからには、全ての民を愛さないと駄目なんじゃない?」
 
軽口を叩きつつも、状況を計算する。
今、警察官や先程の私設軍隊に来られては不味いのだが、
イノヴェルチでも無い人間を殺すのは躊躇われた。
 
私は、いつからこれ程甘くなってしまったのだろうか?
 
―――いや、理由は分っている。
 
 
横島の前で「人」を殺す事を……私は躊躇していたのだ。
185横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:49
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>184 
  
「む、虫けら、虫けら同然!?」 
 
 声が裏返る。 
 
「そ、そこまで言うか!」 
 
 わなわなと、腕が震えた。 
 どういうワケか、黒岩は俺の言葉に微塵も反応しない。 
 無視してさえいる――ちょっと前なら、動揺して逆上したはずなのに。
 たったあれだけの期間で、精神的な耐性を身に付けたって言うのか? 
 
「ぢ、ぢぐじょう゛・・・」 
 
 歯の根が音を立てて、震えた。 
 こ、このクソ野郎め、何処まで人をバカにすりゃ気が済むんだ・・・! 
 そんな湯気を立てる俺の隣で、ラルヴァは銃を構えるばかり。狙いは定めても撃とうとしない。 
 ええい、何でぶっ放さない! こんなヤツは撃たれた方が世のため人の為なのに! 
 
 ――――そうだよな、世の中のためだ。 
 
 ニヤリ、目に妖しい光が灯る。 
 虫けら同然のヤツに用がないなら、まっ先におまえが消えろっ! 
 俺から視線を外した隙に右手に霊波を集め、小さな楯を作り出した。 
 高圧の霊体で構成された楯は、それだけでも必殺の武器になる。 
 狙い、構え、投擲! わはははは・・・、貴様の野望は今ここに潰えるのじゃ! 
 
「スペシャル・ファイヤー・サンダー・ヨコシマ・サイキック・ソーサー!」 
 
 ここで張り倒せば、俺は主役! 人生の、いや世界の主役じゃあ!
186モーラ(M) ◆Mora/x/c :02/07/04 22:49
ウピエルvsファントム
>http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1024844742/57
>159
 
 ナハツェーラーとウピエルを追って、モーラとフリッツはそのオペラ座に来ていた。
 しかし、内部で突然始まった戦闘に状況が把握できず、完全に出遅れてしまった。
 
 銃声が聞こえなくなって、初めてモーラとフリッツはロビーへと侵入する。
 ロビーには散乱するガラスの破片と従業員達の死体、地下への階段から吹き上げた様な
 爆発跡が生々しく、まるで戦場の様相を呈していた。
 
「私は地下を調べる ……あなたはホールの方を。
 生存者が居るかも知れない、“犠牲者”も……」
 
 相棒は一言、「……あいよ」と答え、M4カービンとボウガンを組み合わせた奇怪な銃
 ……ウィッチハンターを手に、ホールへと向う。
 
「気をつけて……」
 
 “犠牲者”とは同時に“吸血鬼”に他ならない。 相棒の背中に声をかけて、モーラは
 愛用の巨大なスレッジハンマーを手に、慎重に地下への階段を下る。
 そこでモーラが見た物は、今正に少女の血を啜り続けている青年の姿……。
 
――――― 遅かった。 ―――――
 
 しかし、今すぐ吸血鬼を滅ぼせば、少女だけは助けられるかも知れない。
 ……そう判断して覚悟を決め、スレッジハンマーを構える。
 二人に向って駆け出そうとするモーラ、だが突然目の前で吸血鬼の身体が力尽きた様に
 不自然に弛緩する。
 
「……?」
 
 モーラにさえ、しばらく何が起こっているのか理解できなかった。
 青年の牙が、ゆっくりとその大きさを失い、ただの犬歯へと戻っていく……。
 
 つい先程までその牙が刺さっていたであろう、少女の首筋……
 そこに有った二つの傷跡が見る間に小さくなり、消えてゆく……。
 
 そして青年の首筋に穿たれたそれすらも、徐々に薄くなり、
 ……やがて完全に消え失せて、跡形も無くなってしまった。
 
――――― 血盟が……解けた? ―――――
 
187黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:50
>184>185
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
霊体の盾が、空気を裂く音とともに、皇帝を断つべく迫る。
避けるために、彼はわずかに身を逸らした。
風が、皇帝の髪をかすかに揺らす。
 
霊体は通り過ぎると同時に、黒岩の頬を傷つけていた。
 
そこから、細く、紅い雫が流れるのにも気を止めず、
黒岩はただ、冷たく笑みを浮かべる。
 
「言ったはずだ。弱い人間など虫けらも同然。虫けらにやる愛など、ない」
 
何かを振り切るように、黒岩は皇帝としての言葉を吐いた。
 
月は、その様を静かに見下ろしている。
ほんの少しの、静寂。
 
軍靴の音が、それを破った。
足並みを揃えた「東京国」の部隊が、一列に銃口を並べる。
 
「やれ」
 
何の感情もこもってはいない声で、皇帝は命令する。
銃声が、夜に轟く。
188ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:51
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
 
>185>187
 
横島が投げた霊気の楯は、あっさりとかわされる。
彼に近寄っていた私は、ほんの少しだけ空気に混じった血の臭いを嗅ぎ分けた。
 
心臓が高鳴る。
今の横島の攻撃には、明確な殺意が込められていた。
先程黒岩の事を「化物」と言ったが、やはり人ではないという事か。
 
私はGSの経験を積んだわけではない。
吸血鬼以外の人外の生物を見分ける事はできないのだ。
 
 
私の躊躇は、最悪の代償を払う羽目になった。
荒々しい軍靴の響き。そして、なんの躊躇いもない命令。
ハッとする間もなく、月下の静寂を銃声が引き裂く。
 
黒岩のリムジンの陰に避難しようとするが、間に合わない。
 
上半身が吹き飛ばなかったのは幸いとすら言えるだろう。
私は、大破したリムジンのボンネットに突っ伏した。
 
 
 
             ―――そして、殲鬼が目覚める。
189横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:52
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>188  
 
 ヤツが手を振り降ろした。銃が弾を立て続けに吐き出す。タタタ、と殺意は妙に乾いた音を立てた。
 ラルヴァが走り、身を捻る。銃は鉛を熱と速度に滾らせた。俺は動けなくて。鉛弾がかすめて、 
 当たって、痛くて。黒い拘束衣に赤が折り重なったのが、目に入った。肉を抉り血を吐かせ、 
 鉄の暴力は留まるところを知らない。血が流れて熱が流れて命が流れる。ラルヴァが倒れて、 
 俺は動けなくて。膝を地に着け息を荒らしつつ、背に冷たい感触を拾う。 
 
 ――――ふと、銃声が止んだ。 
 
  
 一斉射撃が終わった時、俺は血まみれになっていた。 
 まともに貰ったのは一発限り。ふとももに一つ、あの嵐を前に奇跡のような少なさ。 
 それでも無数のかすり傷が生まれ、あちこちから出血が起こった。 
 「幸」、俺の作り出した幸運を呼ぶ文珠に愚痴の一つでも零してやりたかったが、 
 命が助かっただけでもめっけもんだろう。そう思おう、でなけりゃ痛くてやってられねぇ! 
 それくらい、痛い。泣いて喚いて逃げだしたいほど。 
 
 あー、なんつーかもう、投げ出したい!  
 イヤ、これは夢だ、悪い夢だ! 
 本当の俺は暖かい布団の中で・・・って、今更自分を騙せるかぁ! 
 くそ、理性的な我が身が憎い――――逃避して、殺されるなんて真っ平だけど。
 
「・・・ラルヴァは?」 
 
 ふと見た時、あいつは撃たれてリムジンの上で血を流していた。 
 血を、殲鬼が血を流す。 
 バカな俺だって、それの意味ぐらいわかった。 
 硝煙があたりを漂う中、身を起こして痛む足で走り出す。 
 どんどんと、黒い霊波が膨れあがるラルヴァの元へ。 
 手には、最後に残った一個の文珠を握り締めて。
190ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 22:54
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
 
>189
 
貫通した銃創は問題ないが、いくつか体内に残ってしまった弾丸がある。
傷の再生を阻害するそれらをえぐり出して、私は立ち上がった。
 
スーパーレッドホークは手から滑り落ちている。
だが、人間の身体を素手で引き裂く事などは、今の私には児戯に等しい。
 
ぎしぎしと音を立てて、爪が、犬歯が伸びていく。
私の中のつまらない拘りが、流れる血とともに抜け落ちていき、
新しい別の意志が私を満たす。
 
「……いい月ね」
 
こちらに銃を向けたままの男達に微笑みかけた。
身体からの出血は既に止まっている。
 
「人が死ぬには丁度いいわ。
 寂しくないように、皆で逝かせてあげる」
 
次の瞬間、私の姿は彼らの視界から消えていた。
今の私は、まだ血に飢えた獣ではない。
 
自らの意志で殺戮を望んでいる、人の紛い物……
 
そんな自嘲心が心のどこかに残っている。
それは、まだ人間の心が消えていない事の逆証明なのかもしれない。
191黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/04 22:56
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
 
>190
 
そうだ、所詮貴様は殲鬼だ、殺し食らい、血を求める異形。
俺に銃を向けながらも、躊躇いの表情を見た時は失望しかけたが、今は、違う。
そうだ、血を流し骨をギザギザに砕いて殺せ。
所詮戦うしかない、鮫のように走らねば生きていけない、人とは相容れない。
「俺達」は。
 
どこか念じるような黒岩の思考。
 
「さあ、殺せ」
ただ皇帝の言葉が無慈悲に告げられて無慈悲に響く銃の並ぶ音。
皇帝の言葉は兵士に告げられたものなのか。
殲鬼たるラルヴァに告げられたものなのか。
192横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 22:57
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>191   
 
「ラルヴァ?」 
 
 リムジンの側まで辿り着いた時、既にその姿は月の元へと飛んでいた。 
 殲鬼、吸血鬼と人の合間に生きる者の姿。 
 今のラルヴァは、一体何を思ってヤツらに向かうのか。 
 
「行くなっ!」 
 
 黒の拘束衣が夜の黒に混じり合いながら、走る。 
 声が遠い、どうやってもあいつには届かない、そんな考えが過ぎった。 
 ダメだ。 
 あのままじゃ、あいつ人を―――― 
 
「行くなっ、ラルヴァ!」 
 
 叫びに全身が震えた。 
 足の傷が疼いて、血を吐いた。 
 皮膚を走る痛みにまた膝が落ちそうになった。 
 
 それでも、ヴェドゴニアと化したラルヴァは止まらない。 
 
 なら、実力で止める、しか。 
 そう腹を括ると、文珠を握る左手に「栄光の手」をイメージした。 
 淡く黄色い光が瞬く間に手を覆い、俺の霊能力の具現が出来上がる。 
 軽くかざすと、霊波で構成された光の腕は俺の意識と共に闇を走った。 
 
 ラルヴァを越え、黒岩を越え、掴むは居並ぶ軍靴のヤツら。 
 霊波の塊に宿る文珠が文字を浮かび上がらせ、その力を軍隊野郎に叩き込んでいった。 
 薙ぎ払われる栄光の手に合わせ、一人二人三人・・・全て。 
 
 ふと、銃がカタカタと鳴った。 
 カタカタはガタガタとなりガタガタはケタケタになり、ゲラゲラに変わる。 
 気付けば、軍人たちは腹を抱えて笑い転げていた。 
 文珠「笑」――――思いの外、効いてくれたようだ。 
 これで残るは黒岩の野郎だけ。だけれど俺の意思が向かうより早く、 
 皇帝を名乗る男からより強く冷たい霊波を感じた。霊感に引っ掛かる、凶暴なまでの気配を。  
193ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:01
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
 
>191>192
 
私の疾走のスピードをも越え、文殊が放たれた。
突然笑い出す男達に、私の殺気が揺らぐ。
 
振り返った瞬間、横島の目と私の目が合う。
 
心配そうな―――
私を気遣うかのような―――
 
私の心の中に、消えかけていたざわめきが起こる。
 
背筋に水を掛けられたような感覚。
世界から音が消えたような気すらする。
 
「い…いや…」
 
私の身体が、止めようもなく小刻みに震えている。
戦闘を目の前に高ぶっていた心が、一瞬にして冷えていく。
 
「こっちを見ないで…横島……」
 
震え続ける自分の身体をかき抱き、私はただただ哀願した。
194黒岩省吾:02/07/04 23:06
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
>193  
 
闇を引き裂くような笑い声。
歯軋りの音も掻き消され、黒岩は顔を歪める。
 
耳障りだ、何がそんなに可笑しい、いや滑稽の極みだ。
人でないものが、人の世の皇帝などと。
ああ―――――――なんて、馬鹿馬鹿しい。
 
己に苛立つ皇帝の目の前には、自らの力に怯える殲鬼。
そして、それを気遣うように見る横島。
 
「茶番はやめろ。戦えない奴は・・・死ね」
 
哄笑を浴びつつ、無機質な声で黒岩は言う。
風をなびかせ、手を眼前に翳す。
 
「ブラックアウト!」
 
変身ワードの叫びとほぼ同時に、けたたましい笑い声は止む。
代わりに響く、酷く緩慢な、ねとつくような音。
兵士達が、くず折れて行く。
 
月光を照り返した剣の銀光が、濃く深い朱に塗り込められている。
それを手にしているのは、異形の鎧武者。
黒岩省吾の本来の姿、暗黒騎士ガウザーだった。
 
「さあ、終わりだ」
 
暗黒騎士はそう告げると、地を蹴る音で夜を撃つ。
兵士達の命を絶った剣を、横島の喉へ向ける。
195横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:07
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>194  
 
「い…いや…」
 
 なんで、なんでそんなことを言うんだよ! 
 俺、ラルヴァが心配だったから・・・だから、こうやって・・・ 
 
「こっちを見ないで…横島……」
 
 撃ち抜かれた足がじゅくじゅくと痛んだ。 
 体から血より先に力が抜けて、膝が落ちた。 
 忘れていた、忘れようと努めていた痛みがわっと返ってきて、頭の中心に熱の塊が生まれる。 
 意識を、自我を引っ張って、押しつぶそうとする熱い熱い焼けた鉄のような塊が。 
 
 何で、だよ。 
 俺はお前が吸血鬼だからって、そんなことぐらいで―――― 
 
 震える姿。 
 向かおうとする意識。 
 石になったような足。 
 
 拙い状況はこれでもかこれでもかと迫り、立ち塞がり、行く手を阻む。 
 そして障害は切っ先となって、俺の首元へ突き付けられた。 
 赤く染まった鋼の刃。皇帝を名乗る黒岩のヤローが、化け物の姿になって目の前に立つ。 
 
「さあ、終わりだ」 
 
 殺意が俺の心臓を掴み、締め上げようとしていた。 
 足の傷からは血が溢れて、命を急速に奪っていた。 
 死ぬ、死んでしまう。 
 あの時よりずっと色濃い「お終い」が、脳裏を叩いた。 
 
「ふっざ、けるなあ!」 
 
 潰れそうになる心を気合いだけではね除ける。 
 ラルヴァが震えてるんだ、こんな事で死んでやれるかよ。 
 挫けそうになる意志をそう尖らせて、両手に残った霊波を点した。 
 
「サイキック猫だまし!」 
 
 叫びと共に霊波が爆ぜる。 
 光と圧力があたりに跳ねて、網膜を焼いた。焼いたと、思う。 
 俺は光にまぎれながら、身体を転がしてラルヴァの元へ急いだ。 
 
 行ってどうなる。そう思う心も決して嘘ではなかったけど。 
196ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:09
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
 
>194>195
 
大量の血の臭いが鼻腔に届く。
鋼が血と肉を断つ音が鼓膜を震わす。
 
その感覚に震える……最悪の意味で、だ……心を必死に押さえつける。
 
変わっていく自分を客観的に見つめる自分がどんどん侵食されて、
一つの自分に溶け合っていく。
 
そして、最後には今までの私は無くなってしまう。
 
 
    ―――それは、死んでしまうことよりも怖い事だった。
 
 
『サイキック猫だまし!』
 
聞き覚えのある台詞とともに、閉じていた私の瞼を強い光が照らしつける感覚。
同時に、走りよる人の気配がある。
 
「来…ない…で」
 
誰が来たかは、見なくてもわかる。
どんな顔をしているか、見なくてもわかる。
 
だからこそ、目を開けられない。
彼の瞳に映る自分の姿は、決して見たくない。
 
 
増し続ける喉の渇きが、私の心と身体を責め立てる。
 
お前はもう、日の当たる世界とは相容れない―――と。
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
>195>196 
 
横島が叫び黒岩の視界は白く白く白く包まれ世界から隔絶されて孤立する。
剣はただ夜の空気だけを裂いて持ち主には何の手応えも伝えようとはしない。
ガウザーは刀を強く握り、腰の辺りに払うように動かす。
 
「何を怯えている。人でなくなるのが怖いのか?」
 
ぼんやりと戻りつつある視界の中にいる、殲鬼へと暗黒騎士は語りかけた。
レンズを通したような視界の先に横島は入っていない。
いや、入れていないのか。
 
「なら、安心しろ。今、お前がなろうとしているのは……人の本来あるべき姿だ」
 
だから、誰かに心を許す必要など、ない。
そう続けようとして、言葉を一度封じる。
わずかな間。
 
「人は戦い、殺す事で発展するものだろう?」
 
再び口を開き、闇の騎士はそう、問う。
それが、黒岩が学んで来た知識だった。
話を終えたガウザーは、視線にはじめて横島を入れる。
 
「こいつが邪魔なら……消してやろう!!」
 
悲鳴のような疾風を巻き起こしたのはガウザーの一刀。
横島の頭部を柘榴に変えるべく、上段から死の刃が振り下ろされる。
198横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:10
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>197  
 
「消してやろう!」 
「誰が・・・誰が消されるかぁ!」 
 
 意識を外していた刹那、俺は一つだけ手を打っていた。 
 栄光の手――――霊気を無事な右脚に集め、栄光の手を作り出す。 
 光に包まれた足。俺はそれを黒岩に向け、飛ばした。 
 
 振り下ろされる剣。
 だけれど光を捉えきれない一撃は、鋭さに欠けた。 
 意識の速さで伸び、刃となる足。 
 振り下ろされる太刀を抜け、栄光の脚は怪人の腹を蹴り抜いた。 
 微かに胸を切り裂いただけで死は飛んで行き、俺には流血と苦痛が残る。 
 
 ――――く、くそ、何だよこれ! 
 
 視野が揺らいだ。 
 意識がぐらついた。 
 朦朧が全身を包み、脳に膜が貼ったように不鮮明になる。 
 闇がどんどんと頭と心を覆い、引きずり込もうと・・・・・・ 
 
 ふと、視線が彷徨い、見つけた。 
 震える黒い姿、泣くような声と表情、落ちる恐怖に怯える影、頼るべき存在、守るべき少女。 
 
 そして、乳。 
 美神さんに勝とも劣らない、乳。 
 ああ、乳や! 乳が美味しそうに揺れとる! 
 
「もろた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」 
 
 残った力を振り絞るようにして、俺は飛び掛かる。 
 抱き付く、柔らかい感触、揉む。 
 ああ、これや! ワイはコレの為に生きとったんやぁ! 
 
 後ろでガウザーの野郎が蠢く。 
 そんなモノは意にも介さず、しばらく俺はラルヴァの柔らかさを味わっていた。
199ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:12
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
  
>197>198
 
「……」
 
全ての思考が止まった。
 
私自身の胸を見つめる。
それに伸びている手を見つめる。
その手の持ち主を見つめる。
その持ち主の目と、私の目が合う。
 
「……」
 
その目に映る今にも泣き出しそうな自分を見たとき、
本能的に横島を殴り倒しそうになっていた手がピタリと止まった。
 
こんな所で泣いている場合ではない。
たとえ私が人で無くなったとしても……立ち止まってばかりではいられない。
 
「私」を受け入れてくれた人の為に。
殲鬼である「私」を仲間と呼んでくれた人達のために。
彼なら―――彼らなら、たとえ吸血鬼となった私でも救ってくれるだろう。
200ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:13
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>199
 
私の胸を掴んでいた横島の手を、がっちりと握り返す。
途端に、今度は横島の方が泣き声を上げた。
 
「か、堪忍や! 仕方なかったんやー!!」
 
「それはいいから… これを持って」
 
45口径のストライク・ガンを無理やりに横島の手に押し付ける。
 
「この銃じゃ、黒岩の鎧を貫通できないけど、私が必ず隙をつくるわ
 銀の弾頭だから、貴方の全霊力を込める事も可能なはずよ」
 
「ち、ちょっと待て! ラルヴァは素手でどうすんだよ!」
 
「大丈夫よ。武器ならあそこにあるわ」
 
会話もそこそこに、立ち上がって一気に走り出す。
目標地点は 先程スーパーレッドホークを落としてしまったリムジンの横。
 
皮肉なことに、大量の血だまりの中で体調は最高だ。 
アーミーナイフを逆手に抜き放ち、黒豹のように黒岩の横を駆け抜ける。
 
「人を発展させるのは殺し合いじゃないわ。それは、ほんの一面」
 
通りすがりだが、鎧の騎士には聞こえているはずだ。
挑発ではあるのだが、この言葉は心の奥底から出る、まぎれもない私の真意。
 
「本当に人を発展させるのは…… 誰かを助けたいと思ったときよ」
 
黒岩皇帝から目を放さず、銀色に輝くリボルバーを足で蹴り上げて左手に収める。
 
「知ってる? 世界最初のリボルバーというのは、1834年にアメリカの発明家
 サミュエル=コルトがガンスミスに依頼してつくったそうよ。
 その特許は、イギリスの方で先に取られ、翌年にアメリカで取られたそうね」
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>198>199>200 
 
胸がやけにイタイ。
蹴られたからか?
否。
 
では何故?わからない。
いくら学んでもわかりはしない。
人の事など、ダークザイドたる、暗黒騎士ガウザーにわかる由もない。
 
ただ、こいつらは不愉快だ。
馴れ合いなど、見ていて気持ちのいいものじゃない。
殺せ。殺し合え。できないなら、死ね。
 
「当然知ってるさ。俺に知らないことはない」
 
向けられた銃に剣の煌きが走る。
引き金を引くよりもっと早く、腕を裂く気で。
 
「そして、お前の言う事が戯言に過ぎんこともな」
 
風を切る音が、響いた。
202横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:14
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>201  
 
 銃を握らされて、きょとんとする俺。 
 これを撃て、とラルヴァは言った。 
 確かに経験はあったし、出来ないかと聞かれればやれないこともないかも知れない。  
 つまりやれと言われればやるしかないわけで、やるしかなくて。 
 
「・・・やれる、さ。やるっきゃないもんな」 
 
 鼓舞するような呟きは、口の中だけで弾けて消えた。 
 
 ラルヴァは走り、コブラの元へ急ぐ。 
 途中黒岩を牽制するように蘊蓄をたれ、黒い風のようになって。 
 殲鬼――――そうだ、あいつは化物を狩る者。任せていれば、きっと何とかなる。 
 
 立ち直った以上は、もう、何も怖いものなんて無いハズなんだから。  
 なら、俺は・・・?
     
「撃つぞぉ!」 
 
 ありったけの大声で、宣言。 
 気にも留めないガウザーの背に照準を合わせながら、俺は叫んだ。 
 
 脚が熱を持ってきた。 
 腕に鉛の重さが辛い。 
 この大口径砲を撃って、本当に無事なのかと言う疑念も沸いてくる。 
   
「これには銀の弾丸が詰まってる! これを撃つ、当たると痛い! だから――――」 
 
 とはいえ、躊躇してくれる相手でもなかった。 
 
「撃つぞ、撃つんだからなぁぁぁぁ!」 
 
 撃爪を引く。 
 銃声。
 酷い反動。 
 硝煙。 
 
 手が跳ね上がって肩が外れかけ、上半身がドンと地面に叩き付けられた。 
 肺の空気が一瞬無くなって、酷く咳き込む。涙が、ちょっとばかし出た。 
 
 そんな状況で撃った弾丸が何処へ行ったか定かではなく・・・ 
 私横島忠夫は、こうして己の無能っぷりに臍を噛むのであった。 
 ど、ドチクショー! 
203ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:15
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
 
>201>202
 
鋼と鋼が打ち合う音と共に、二つの金属片が宙に舞った。
9.5インチもあるバレルと、アーミーナイフの刀身がアスファルトに突き刺さる。
この剣速を正面から受ければ当然の事だ。
 
今の身体能力ならば回避できたかもしれないが、
あえて正面から受け止めたのは理由があった。
 
それに、全ての武器を失った訳でもない。
 
もっとも大切な、恐怖に立ち向かう心は今もらったばかりだ。
実際に敵に立ち向かう為の武器もまだここにある。
 
……血臭にまぎれたわずかな異臭。
 
私の鼻はその臭いすらも嗅ぎ分けていた。
今やスナブ・ノーズになってしまったスーパーレッドホークをその方向に向ける。
 
その先では、コブラから漏れ出しているガソリンが小さな水たまりを作っていた。
さすがにリムジンからは漏れだしていないようだ。
一瞬だけ視線を向けた後、引き金を引く。
 
 
   ―――閃光。 ―――轟音。 ―――爆炎。
 
新たなる牙を与えられた毒蛇は、私と黒岩をその顎に飲み込んだ。
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>202>203 
 
噴水のように轟音と炎とが一帯を覆った。
ガウザーの目と耳と体とを、銃弾の産んだ灼熱が焼く――――――――
ことはなかった。
 
放たれた弾丸を視認し、騎士は殲鬼に蹴りを見舞っていた。
ラルヴァは倒れ、ガウザーは火が上がる前にその場を逃れていたのだ。
 
火を背負って、青く静かに煌く鎧の騎士が、独り立っている。
 
「守るための強さ?こんな小細工がか?」
 
せせら笑う。彼には、それしかすることがない。
へたりこんでいる横島の方に、ガウザーは向き直った。
 
「こんな取るに足らん相手に、守る価値などないだろうにな」
 
地を蹴る。
騎士の姿が閃光の矢となる。
横島の喉を抉るための、矢と。
205横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:16
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>204  
 
 爆発の余波が髪を嬲る。 
 炎に包まれるシェルビー・コブラ。炎にまかれるラルヴァと黒岩。 
 どうなったんだ? 
 何が起こった? 
 ラルヴァは無事なのか、黒岩はどうなった? 
 
 息が詰まるような時の中・・・一つの人影が駆け出した。 
 頭に包丁ブッ刺したような怪人、黒岩省吾が。 
 
 ラルヴァの決死の策は――――失敗した。 
 
 
     
 一歩、黒岩が走る。俺目掛け、銀光を放つ死を携えて。 
  
 二歩、ふと火花が散った。 
 目を向ければ黒岩の後ろに切断されて踊る、一本の電線があった。 
 俺の弾が切ったのだろうか?  
 偶然にしては出来過ぎだけど、不審がってる暇はない。 
 
 三歩、銃を左手に持ち直し右手を突き出す。 
 「栄光の手」を生みだし、意識を込めて霊体の手を伸ばした。 
 思い描いた道――――黒岩の周りを包み、電線へと至る軌道を走らす為に。 
 
 四歩、手が電線を掴む。 
 溢れる人工の雷は霊体を伝わり、獰猛な力を解き放とうとする。 
 それが腕に伝わるより早く、俺はその手を引き戻した。 
 
 そして、五歩目。 
 俺に剣の切っ先が届くよりも早く、ワイヤーと稲妻の洗礼が黒岩の野郎を捕らえた。 
 青白い雷光が駆け巡るに合わせ、怪人の身体がにわかに痙攣する。 
 
 トドメを刺せたか、まだ余裕があるのか、それとも効いていないか。 
 それを確認する暇もなく、俺は転がるように逃げ出した。 
 感覚の消えてきた足を引きずり、重い鋼の塊を胸に抱いて。 
  
 走る、潰れる、這う、転がる、転がる、転がる。 
  
 未だ炎が燻るコブラの――――いや、ラルヴァの元へ。 
 身も体もなく、俺は急いだ。 
206ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:18
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
 
>204>205
 
動けない。
 
肺に折れた肋骨が突き刺さってしまったようだ。
私の呼気にかすかに血臭が混じっている。
他の内臓も痛めたかもしれない。
人間の身体であれば、内臓破裂で即死していただろう。
 
さっきの行為で死ぬ気は全くなかった。
その所為で…炎から逃れようとした所為で…
黒岩の蹴りをまともに喰らったのだから、とんだ本末転倒だ。
 
「よ…こ…」
 
声を出す事すらつらい。
再生するためには血が必要だ。
それでも、自分の身体よりも気になる事がある。
 
「横…島…」
 
黒岩を仕留めるどころか、傷つける事すら出来なかった。
横島は…無事だろうか?
 
そう思って首を持ち上げた瞬間―――
 
こみ上げるものに耐えきれなくなった私は、
盛大に血を吐いて再び倒れ込んだ。
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝
>205>206 
 
身を苛む電流。
全身に痛みが疾駆するが、激痛というまででもない。
ただ、つまらない小細工に苛立ちを覚えただけだ。
 
わずかに身を灼いただけの電線を切り落とすと、ガウザーは大きく跳んだ。
苦痛に顔を歪め、血を吐く殲鬼のもとへ。
 
「残念だったな。守れなかったようだ」
 
瀕死のラルヴァを見下ろし、皇帝はそんな言葉を投げかけた。
言葉を終えると、騎士は銃を手にラルヴァへと駆け寄る横島に視線を移す。
走り来る少年目掛け、裏拳が放たれる。
 
「もっとも、こいつは守る価値もないほどに、無力だったようだがな」
 
倒れた横島の心臓へと、無慈悲な死の刃が、走った。
208横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:19
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>207  
 
 声を上げる。儚く消える、微かな声を。 
 名前を呼ぶ。かすれた呟きは俺の名を繰り返す。 
 手が伸びる、俺を求める、血を吐く、倒れる。 
 
 ――――ラルヴァ! 
 
 叫ぼうとした。 
 駆け寄ろうとした。 
 なんとか、助けたかった。 
 
 だが、固い拳がそれを阻んだ。 
 
 喰らう、倒れる、ラルヴァが俺が。 
 
 痛い、頭が胸が足が全身が全てが・・・痛みの塊になったように、身体を打つ。  
 千切れて潰されて捻られて砕かれて、神経に塩でも擦り込まれたような感覚。 
 涙がこぼれそうになった。 
 押さえ込んだ。 
 そんな余裕はなかった。  
 
「残念だったな。守れなかったようだ」 
 
 うるせえ、黙れ。  
 
「もっとも、こいつは守る価値もないほどに、無力だったようだがな」 
 
 無力? 
 ああ、そうだよ。 
 俺はいつだって無力で、泣き言吐いて歯軋りするしかないんだ。 
 
 剣が迫る。 
 伏せたままの身体を捻る。 
 鋼が貫く。 
 腹を貫かれる。 
 血を吐く。 
 頭が白に染まる。 
 
 その白い中に、黒いラルヴァの倒れ行く様がくっきりと焼き付いた。 
 
 ぱきん。懐で最後の力を使い果たし、「幸」の文珠が割れる。 
 腹を黒岩の剣でぶち抜かれたまま、俺は手に銃を構えた。 
 内から起こる熱に晒された目は、ヤツの姿を捉えきれずに霞ませる。 
 銃の硬質さが、撃爪が重い。腹の中がぐちゃぐちゃになって、命と熱を急速に奪い取った。 
 
 でも。 
 それでも。 
 
「あぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――ッ!」 
 
 吼える。 
 銃口を都知事に向けた。 
 指を引く。弾を吐き出す。ありったけ、吐き出す。 
 腕が軋んで意識が滲んで、腕は死を与えよと咆哮をあげ続けた。 
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
>208 
 
仕留めた。
確かに、ガウザーの刀は奴の身体を貫いた。
これでこいつは死ぬ。
何も、できずに。
皇帝はそう確信し、剣を抜こうとした。
 
だが・・・熱い。
その熱さが膨れ上がり、腹を食らう痛みと化していく。
思わず、ガウザーは腹に手を当てる。
 
 
            真紅。
 
 
赤く染まった、その手。
 
「何なんだ、これは」
 
理解できない。
いや、理解したくない。
こいつに、人間にそんな力があるわけがない。
だが、確かに暗黒騎士の手は血に濡れている。
 
涙と血と苦痛とで無様に歪みきった、横島の表情。
しかし、その手の銃口は――――そして、その視線は。
確かに皇帝を捕えていた。
 
ラルヴァを守るためなのか。
自分の無力さに抗うためなのか。
あるいはその、両方か。
 
ただ、皇帝はその意志の前に敗れた。
>209 の続き。 
 
横島の意志に応じるように、騎士は。
自ら、黒岩省吾の姿へと戻る。
 
灼熱を宿した鉛弾の洗礼が、黒岩の肉体を蹂躙していく。
 
熱い。
   苦しい。
       痛い。
                
―――――俺は結局、何も知らなかったというわけか。
―――――人の、本当の強さというものは。
 
苦痛によろめき、黒岩は街灯にもたれ掛かる。
白い街灯の柱に、血濡れた指が赤い筋を走らせた。
 
だが、そんな中で、
黒岩は、満足げな笑みを浮かべていた。
 
「知って・・・知っているか・・・」
 
血に塗れ、己の意志で立つことすら叶わない体。
足の力も抜け、奈落に飲まれていくような錯覚すらある。
 
「世界で・・・はじめての・・・皇帝は・・・」
 
しかし、最期まで黒岩は、屈服だけはしない。
 
「皇帝は・・・」
 
膝の力が完全に消え、黒岩の体はゆっくりと地を打つ。
皇帝の倒れた音が、遠い月に吸い込まれていった。
 
(黒岩省吾/暗黒騎士ガウザー・死亡)
211ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:23
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>207>208>209>210
 
銃声はひどく遠くで聞こえたような気がした。
 
消えかかっていた意識を取り戻したのは、
その音ではなく、喉に流れ込んだ自分の血のおかげらしい。
殲鬼の身体に感謝すべきかどうかは微妙な所だ。
 
次に聞こえたのは人が倒れる重い音。
……しかも、二つ。
 
身を起こすほどの力は残っていない。
かろうじてそちらに目を向ける。
 
「よ…」
 
声が出なかったのは、傷のせいだけではないだろう。
横島は体中を朱に染めて倒れ伏していた。
子供が見ても致命傷とわかるほどの出血量。
 
「―――っ」
 
私はじりじりとそちらへ這いよる。
何をしたいのか? 何をしているのか?
自分でもよくわからない。
 
横島の手に触れられたのは何分も経ってからだった。
まだほんの少しだけ暖かいが、
その熱は秒を刻むごとに大地に吸い込まれていく。
 
「あ…」
 
そして横島の傷口に目を向けた瞬間、私の視界と思考の全ては紅く染まった。
212ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/04 23:24
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
 
>211
 
紅い―――そう、何もかもが紅く染まって見える。
自分の中の衝動がその紅と混じりあい、世界と私の境目がおぼろげになっていく。
私の自制心までもが、拡散して流れ出していくかのようだった。
 
いけない。   (このままでは私達二人とも死ぬ)
 
できない。   (助かる方法はあるわ)
 
そんな事は。  (とても簡単なこと)
 
駄目だ。     (私が一番望んでいること)
 
だって、私は… (ゼロよりは2がいいでしょう?)
 
 
           『それがマイナス2だったとしてもね』
 
 
私はここに告白する。
 
その血は―――
横島の血は―――
 
私が今まで味わったどの血よりも甘かった―――
 
 
私の頬を伝うものは悔恨の証だろうか。それとも歓喜の象徴だろうか。
213横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:26
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
『人と魔との間に』 エピローグ 
>209>210>211>212 
  
 ――――混濁。 
 
 ここはどこだ? 
  
 ――――漆黒。 
 
 暗い、どうしてこんなに真っ暗なんだ? 
 
 閉ざされた空間。そこに漂う俺は上もしたも判らず、出口を求めて藻掻いていた。 
 ワケもわからず、ただがむしゃらに明かりを求めて。 
 痛みも熱さも消えて、淡い泡に包まれるような浮揚感だけが妙に鮮明だった。 
 
 足掻き、足掻き、足掻く。 
 それがどれほど続いたのだろうか。 
 
 ただ一カ所、微かな光が差すところがあった。 
 いや、光じゃない。闇が揺らぎ、薄くなっているだけだ。 
 周りから切り取られたような空間、そこに何かが浮かんでいた。 
 体が、自然とそちらに流される。 
 
 ふと、それと目が合った。 
 深い闇の中に、浮き出るような顔が一つ。その口が歪な形に開いた。 

 ――――よう。 
 
 聞いた声。聞き慣れた声。知っている声が、答える。 
 それは、間違いなく―――― 
 
 
 白い天井だった。 
 微かに汚れを帯びた、くすんだ色の古い建造物特有の天井。 
 行き慣れた総合病院のベッドに俺は寝込んでいた。 
 
「助かったの、か?」 
 
 ようやく自分の置かれた状況を理解出来た。 
 体中に巻かれた包帯、重い体、心配そうな美神さん、涙を浮かべるおキヌちゃん。 
 そして、じっと俺を見つめる一人の女性。 
 
 ラルヴァ――――――無事だったのか。 
 
 胸がいっぱいになった。出来るなら、今にでも抱きしめてやりたかった。 
 でも、来ない。 
 でも、いけない。 
 少し離れて、寂しそうな笑みを浮かべるだけで。 
 体がベッドから動いてくれなくて。 
 
 じゅくり、傷が痛んだ。 
 とっさに手を伸ばすのは貫かれた腹でも撃ち抜かれた足でもなく・・・首筋。 
 小さな、小さな穴がどの傷よりも深く染みる痛みを俺に刻み続けた。 
214横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:27
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
『人と魔との間に』 エピローグ 
>213 の続き  
 
 俺は黒岩の命を奪った。 
 だけど、ヤツは俺から人間を奪っていった。 
 ヤツを打ち倒した力を俺は、根こそぎ持って逝かれてしまった。 
 
 最後に、あいつは嗤っていた。 
 あの笑いははたして、誰に向けられたものなのか。 
 
 首筋に打たれた二つの穴、心に撃たれた一つの杭。 
 人を捨ててしまった証に――――――俺は少しだけ、自分の鈍感さを呪った。 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 東京は大混乱だった。 
 皇帝は就任から僅か数時間で逝去、しかも化物だったことも知れ、上を下への大騒ぎが続く。 
 テレビは朝から特別報道番組ばかりを垂れ流し、やれ都民の責任だやれ政治の腐敗の極みだと、 
 無責任な台詞ばかりを繰り返していた。 
 
 その中で、皇帝を殺した二匹の吸血鬼について報道されないは、どんな絡繰りなのだろう? 
 
 美神さんは何も言わない。 
 ラルヴァも何も言わない。 
 おそらくは、知ることのない事。 
 
 ともあれ、日本は平和になって俺は吸血鬼になって日常は放っておいても押し寄せてきて。 
 何とか退院した俺は、事務所に戻ってきていた。  
215横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/04 23:29
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
『人と魔との間に』 エピローグ 
>214 の続き  
 
「――――――それで?」 
「で、ですから、もう俺は人間じゃなくなっちまったし、皇帝殺害とか色々あるし!」 
「――――――それで?」 
 
 もうここには居られません。 
 だから、ラルヴァと一緒に出ていきます。 
 
「そ、それでって・・・」 
 
 俺の申し出を美神さんは、ただ一言「それで」で突き返す。 
 
「それくらいで逃げられると思ってるの? あんた、まさか借金踏み倒す気じゃないでしょうね!」 
 
 結局それかい! 
 そう怒鳴り返してやりたかったけど、やっぱり美神さんは美神さんで。 
 
「ま、間違ってもそんな!」 
「横島、美神所長も落ち着いて・・・」 
 
 ラルヴァが間にはいるけど、止まらない。 
 
「美神所長は私たちがここにいて良い、って言っているのよ?」 
「それは・・・でも・・・!」 
「五月蠅いッ! ガタガタ言わずに従え!」 
 
 ――――気付くと、俺は今日も殴り飛ばされていた。 
 
「は、はい・・・」 
 
 結局、日常は変わらなかった。 
 美神さんに殴られて、おキヌちゃんに介抱されて、スミレさんは呑気で・・・ 
 そしてラルヴァは、今日も笑っていられた。 
 
 しばらく、吸血鬼をやるのも良いか。 
 
 その終わりが人への回帰か、破滅か、まだわからない。 
 でも今日も空は高く、風は流れ、太陽はジリジリと肌を焼く。 
 概ね、変わらない日。 
 それを今はただ、ゆっくりと噛み締めるばかりだった。 
216ラルヴァ ◆LARVAIdY :02/07/05 00:39
横島忠夫&ラルヴァ vs 黒岩皇帝 
『人と魔との間に』
 
導入>163>164
 
>165>166>167>168>169>170>171>172>173>174>175>176>177>178>179>181
>182>183>184>185>187>188>189>190>191>192>193>194>195>196>197>198
>199>200>201>202>203>204>205>206>207>208>209>210>211>212
 
エピローグ
>213>214>215
 
もし感想があれば、こちらにお願いするわね。 
ttp://fargaia.hokuto.ac/html/test/read.cgi?bbs=vampbattle&key=1019409630
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>156

 鼻腔から赤い蒸気が噴く。巨体には有り得ぬ俊敏さで吸血鬼は闇を駆けた。
 その間にも、鱗を押し退け、筋肉が膨れては引っ込む。
 躯の歪みは戻らない。寧ろ段々酷くなって来る。
 狩人によって与えられた痛打、それを癒す為の変異とは云え、明らかに暴走している。
 元々病んだ遺伝子配列の崩壊に拍車が掛かったのだろうか。
 
 迎え撃つ白い刃を、虹彩も瞳孔も朱色に飲み込まれた両眼が捉えた。
 怪物の巨大さを考慮に入れても、狩人はもう手の届く位置にいる。
 汚らしく涎を垂らす口は我慢出来なかったらしい。
 首が伸びた。
 蛇のしなやかさを見せた長首は数メートルの長さにうねり、そのまま狩人の頭上を追い越した。
 一息でUターンして戻り、開けた大口が狩人の背を狙う。同時に右手を叩きつけた。
 前後からの挟撃が白い力を飲み込まんと迫る。
>180
アルカードvsペトレスク神父
 
 一度崩れれば後はあっけないものだった。
 
 杭が砕かれた、と思う間も無く次の瞬間には解体が始まっていた。
 ショック死しかねない痛みが全身を焼く。
 それでも改造され、兵器として調整された体は意識を失わせない。
 
 生きたまま自らの腹を裂かれ、内臓を引き摺り出される。
 いっそ死ねたなら、どんなに楽なものか―――
 
 腸を掴まれ、引きちぎられる。
 感覚が少しずつ風化して行く。
 それに伴い、ゆっくりと意識も消えてゆく。
 
 それでも、内臓を抉り出される痛みだけは、常に鋭敏に感じられた。
 
「カ、ミ、ヨ……」
 
 苦痛の中、救いを求めながら。
 床に内臓の全てをぶちまけた所で彼の命は終わりを告げた。
 
(ペトレスク神父:死亡)
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルトvsフォルテッシモ
>150

「貴方達・・・若い方々だけでパーティでも始める気ですか?」

新たに出現した美貌の少年を目にし、男(おそらく30代)は苦笑した。
手にした短機関銃を消し去り、修道衣の裾を軽くはたいて埃を落とす。
廊下に隅に転がっている長銃を拾い上げ、肩に担いで二人の少年の間――女性の形をした式神の目の前に立ち止まると、
その奥にいる半妖の少女に向けて無造作に銃を向ける。

「夜更かしも結構ですが、私の仕事の邪魔をしないで欲しいものですな」

引鉄に指がかかり―――

左手の手首から先の部分がはじけ飛んで床に落ちた。
現れたのは鋼鉄製の筒――『何か』の発射孔。
続いて飛び出す一つの弾丸。
それは見る見るうちに膨れ上がり、巨大な光槍が形成される。
精霊石弾。
微細な紋章が彫り込まれた弾丸は、底部に衝撃が加わることによって
大気中の『流体』と呼ばれる因子と結合し、あらかじめ定められた通りの形へと変化した。

目標は―――式神。
アルカードvsペトレスク神父
>151>152>153>154>155
>157>158>160>180>218
 
今回の闘争の纏めです。
ク、やはり本物の吸血鬼には勝てませんか―――
221フリッツ(M):02/07/05 19:11
>186 ファントムvsウピエル ドライ側エピローグ案

 フリッツ・ハールマン。職業吸血鬼ハンターがホールに足を踏み入れた時感じたものは「死」であった。
 硝煙の臭いや、血の臭いを「死」として表す。そんな曖昧なものではない。
 死の臭い。死、そのものがこのホールに充満している。
 
 フリッツは、無意識のうちにカービン銃の撃鉄を起こした。
 そうさせたのは死に対する恐怖からか。それとも戦士としての本能か。本人にも分からない。
 
 一歩、また一歩。銃口を左右に振り回しながら、辺りを探索する。誰もいない。
 その結論は、ホールに入ったときから出ていた。ここに生は存在しない。死しか存在しないのだ。
 が、警戒を緩めることができない。死が襲いかかって来るかもしれないからだ。
 
 死? 死とは、なんだ? 吸血鬼のことか?
 あぁ、確かに奴等は死だ。死そのものだ。
 死を克服し、死を畏れない奴等こそ、まさしく死そのものと言えるだろう。
 
          ――――違うな――――
 
 「!?」
 
 頭の中で声が弾けた。脳に直接響き渡る声。フリッツは、その声の主を知っている。
 今回の舞踏の主人公。自分が知る限り最強の吸血鬼。最強の「死」……。
 
        ――――死とは、ファントムだ――――
 
 「……ファントム?」
 
 フリッツの耳に届いた声は、その二言のみ。一体、なんだと言うのか。
 
 ふと、何かが爪先に当たる。いつのまにか、ホールの中央まで来てしまったらしい。
 視線を落とすと、足下には灰の池が広がっていた。明らかに吸血鬼の亡骸だと見て知れる。
 が、フリッツが注意を向けたのは灰では無い。灰の中に埋もれた、真鍮の輝き。
 
「こいつは……壊れた……懐中時計?」

 そのホールには誰もいない。生あるものは、フリッツ・ハールマンただ一人であった。
 
 
             ――――Fin――――
222リン:02/07/05 23:01
人は何故戦うのかしら。
この世から戦争なんて無くなってしまえばいいのに・・・

“憎イノナラ 殺セ!! 殺セ!!”

いや! 私はもう誰も殺したくない!
でも・・・それ以上に誰かが死ぬのを見たくない!


出典 :「キメラ」(集英社・緒方てい)
名前 :リン
年齢 :17歳
性別 :女
職業 :村娘・・・そして戦闘種族キマイラ
趣味 :唄を、歌うことかな?
恋人の有無 :・・・いません
好きな異性のタイプ :お父さんみたいに、優しい人
好きな食べ物 :特にないです
最近気になること :孤児院の子供たちのこと
一番苦手なもの :・・・戦いは、嫌いです。
得意な技 :常人の数倍を誇る身体能力での攻撃
一番の決めゼリフ :私は破壊と殺戮を好む悪魔の種族、キマイラの末裔だ!
将来の夢 :みんなと、ただ一緒にいたい、だけ
ここの住人として一言 :よろしくお願いします
ここの仲間たちに一言 :・・・あまり、戦いたくはありません
ここの名無しに一言 :スープとパンはいかがです?
223導入:02/07/05 23:15
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック

―燦月製薬の工場―
走る走る走る走る走る走る走る。
鬱蒼と茂った森を月明かりから隠れるように走る。
 
ただひたすらに私は走っている。
チームのメンバーは逃げきれただろうか?
まさか、あんなバケモノだったとは…。
 
私の名前はチェルシ―・ローレック。
公司の師兵だ。
公司は東京の地下でさまざまな事業を展開している。

私達、公司のチームは公司が地上に進出した際、
最も危険とされる組織、イノヴェルチの支部に調査にきていた。
イノヴェルチの兵器、キメラヴァンプ…。
その存在はあらゆる意味で脅威だった。
データを得ることは出来たが、発見されてしまい破壊工作に移ったが…。
キメラヴァンプの奇襲を受け、メンバーは散り散りになってしまった。
その代りといっては何だが、破壊工作によりキッチリこの施設を再建不能に出来た。

目の前にイノヴェルチの私兵が見える。
後もう少しで脱出できるのに!

「死にたくなかったら道を開けなさい!!」
携行火器を放って牽制する…。

―数分後―

「ふう…、これで最後ね。後一人でミッションコンプリート!
 さあ!何なりとかかってきなさい!」
そしてイノヴェルチの私兵を叩きのめし、最後の一人に向かい会った。
銃も撃ち尽くし、閃光手榴弾とナイフ位しかなくなったが、私には能力がある。

あろう事か、最後の一人がバケモノだった…。
>223
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
 奥に控え、今まで手を出さなかった巨躯の男はじっと少女を見詰める。
 ダークグレーのコートに、同色の帽子を目深に被った男だ。
 まるで、本性を隠すかのような―――
 
「ククク、嬢ちゃん。威勢がいいのは結構だがな」
 
 喉に痞えるような笑いが漏れる。
 紳士を気取るには似合わない、下卑た響きを持った声がそれを追う。
 
「本当のバケモノ、って奴に会ってもそのままでいられるかな?」
 
 ぎち、と筋肉が軋み、コートの中で男の体が蠢く。
 巨躯の体積は更に増加。
 帽子を跳ね上げ、コートのボタンを弾き飛ばし、その姿を現した。
 
 それは、ひどく現実味を欠いた姿だった。
 コートの下から現れたのは無数の触手を備え、不気味な粘液で輝く異形の体。
 だが、それよりも―――
 
 人間では有り得ない、赤く輝く瞳。それが、やけに印象に残った。
 
「ヒヒヒヒ! タノシクヤロウゼ!!」
 
 言葉を置き去りにして、先刻まで居た場所から何時の間にか異形は消え去っていた。
 巨躯に似合わぬ、冗談のような素早さで動いたのだ。
 一本一本が丸太のような太さを持った触手が、横薙ぎに叩き付けられる!
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>224

『ヒヒヒヒ! タノシクヤロウゼ!!』
信じられない、ここまでとは…。
私は呆然となりながらも、カンに突き動かされ、
横薙ぎに振るわれた触手を避ける。

どうやって出来たのか自分にも分らない程焦っているようだ。
落ち着け、落ち着いて相手をよく見るんだ。
師兵になる為の訓練を思い出し、慎重に距離を取る。

あまり時間はかけられない。
イノヴェルチの私兵達はこいつだけではないのだから。

途中まで閲覧できたデータには、キメラヴァンプは火に弱いとのことだが、
残念ながら私の能力では火を起こせない。

「触手?下品ね。悪い子にはお仕置きをさせてもらうわ!」

仕方無しにナイフを取り出すと同時に閃光手榴弾のピンを抜く。
私の能力、重力を少しだけ操って触手持ちのキメラヴァンプが動きづらいようにする。
少し疲れるがそれぐらいでなくては立ち向かえないだろう。

「喰らいなさいよ!」

閃光手榴弾を転がし、ナイフをキメラヴァンプへと投げつけた。
目くらましにもなりはしないだろうが、少しの時間は稼げるはず。
226鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:04
<麻宮アテナvs鹿沼葉子 〜phoenix in the frantic monn〜>
 ーFARGO A棟 食堂―
 
 かしゃん……
 
 食事用のトレイをテーブルに置く。
 今日はエビフライ……
 嫌いじゃない…… 
 
 私1人しかいない食堂。
 相も変わらず、殺風景な食堂……
 もう、何年も此処で過ごしているが、全く何の変化も無い。
 変わった事といえば、私が年齢を重ねただけだろうか?
 
 ――もぐもぐ
 
 私は無言で食事を続ける。
227 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:07
>226
 ―FARGO B棟 精練の間―
 
「あ、あの、何をするんですか……?」
 
 私は部屋の目の前の黒い服を着た男性に話し掛けた。
 
「何をする? 今更、そんなことを聞くのか?」
 
 男の人達が私の衣服を掴み、引き破った。
 
「な、何をするんですか……!?」
 
 異常な笑みを浮かべ、男が私の方へとにじり寄ってくる。
 ただ私は嫌悪と蔑みのを込めた目で、それを睨み返すしかなかった。
 
「おい、なんだ、その目は……。信者なら、信者らしく大人しくしていろ!」
 
 ごぐっ!
 男の右足の靴先が、私のお腹にめり込んでいた。
 
 ちょうどその時、部屋の中に聞き慣れた電子音が響いた。
 ピロロロロロロ!
 突然鳴り響いた場違いな音に、男が、音の主を探して床に目を遣った。
 
「…ほう、携帯電話持ち込みとは、恐れ入った」
 
 男は携帯を拾い上げると、通話ボタンを押した。
 途端に受話口から、声が漏れる。
 
(もしもーし。どう? 元気にやってる?)
 
「あっ! アテナちゃん!?」
 
(どうしたの、電話遠いけど?)
 
「助けてっ!」
 
「おい! 何をやっている! 早く電話を切れ!」
「まあそういうな。せっかくかけてきてくれたんだからな」
 
 男はそう言うと、携帯電話に向かって話を始めた。
 
「君は彼女の友達かい?」
 
(そうだけど…あなた誰ですか? 彼女もそこに居るんでしょ?)
 
「勿論さ」
 
(アテナちゃん! アテナちゃん!)
 
 必死の叫び。
 しかし、もう一人の男に口を塞がれていて声がでない。
228 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:07
>227
(…ねえ。ちょっと!)
 
 何かただならぬ気配を感じ取ったのか、電話の声は険を帯びていた。
 
「彼女の声を聞きたいのか? …いいぜ、今からたっぷりと聞かせてやる」
 
 男はスイッチの入ったままの携帯を床に置き、私に向き直った。
 
「…何を考えている」
「決まってるだろ? こいつの晴れ舞台を実況中継で聞かせてやるのさ」
 
「嫌です! 降ろしてくださいっ!」
 
 自由にならない腕の代わりに、私は足をばたつかせた。
 
(どうしたの!?)
 
 漏れ聞こえる半狂乱の私の声に、うろたえるアテナちゃん。
 
「……ほう、年齢の割にいい身体してるじゃねえか。最近の餓鬼は発育が……」
 
 男はワザと電話の向こうの友人に聞こえるように大声で罵った。
 
 ―――――

 ―――

 ―
229麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 00:12
>228 vs鹿沼葉子さん
 
 
 <スターライトポップ>というラジオ番組に、一度だけ代役で出演したことがあります。
そのとき、番組内の<なんでもかんでも相談コーナー>に電話をくれた女の子が、
『踊るピンクペンギン』ちゃんでした。
 
 楽しげなラジオネームとうらはらに、ペンギンちゃんは疲れていました。
自転車のブレーキを壊して、そのままどこまでも走っていこうと、思ってしまうほど。
 
 ペンギンちゃんにはいなかったのです。私にとっての理香ちゃんのような存在が。
 
 私はよく、ペンギンちゃんのお見舞いにいきました。何度も何度もお話をしました。
そして、ほとんどその度に、ふたりで言ったものです。
 
 『誰の上にもちゃんと、幸せが降ったらいいね。そうだといいね…』
>225
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
 炸裂する閃光。
 視界を完全に覆い、空間を塗り潰す白い光が広がってゆく。
 これにより一瞬の隙が出来た。
 それは飛来したナイフが突き刺さり、体を抉るには十分な隙だった。
 
 だがその攻撃はあくまで体を抉るだけに過ぎなかった。
 脇腹に刺さっただけに終わったナイフを触手で器用に絡め、抜く。
 そしてそのまま何処かへと放り投げた。
 
「キキ……キィャァッ!!」
 
 小賢しくも銀製のナイフを使っていたらしい。
 傷の再生が中々始まらない。
 異形は怒りに任せて襲い掛かる。
 
 ナイフが地に落ちるよりも先に怪人は大きく踏み込んだ。
 相変わらず肉食獣のような素早さは衰えない。
 
 振り上げられた触手は不気味にうねり、ベクトルを変える。
 そして、全く同じタイミングで多方向から一斉に襲い掛かった。
231麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 00:18
>229
 
 「…待ってて! 今行くから、待ってて!!」
 通話をカットし、すぐさま位置情報読み上げサービスに接続。検索にかかった時間、
長い長い、長い長い長い1分。
 ”お探しのPHSは、T都、A市…”
 A市、A市、A市、何度か行ったことがあるはず。あれはたしか…。
 「…思い出したっ! レコード屋さんのときのあそこだっ!」
 1分20秒。
 
 A警察署。あのときの市街戦騒ぎで、何度も事情聴取を受けました。
 「○○町×番地ってどこですかっ!?」
 1分30秒。
 「え〜っと、どこらへんかなぁ…。お〜い、○○町×番地ってどのあたりだっけ?」
 「あれだろ。ナントカっていう新興宗教の。こないだも訊かれたろ」
 「お〜そうだそうだ。あっちに見える山のふもとを切り開いた敷地の、
白い大きな建物だよ。目立つから、行けばわか…」
 「ありがとうございますっ!」
 2分。
 
 警察屋さんの屋上に飛び上がって、山のほうを見下ろします。たしかに、ふもとの一部だけが
整地されて、白い建物が見えました。2分15秒。視界良好。遮蔽物無し。
 胸のうちの力を高めて、高めて、高めて。目的地イメージの希薄を視覚で代替して…。
 「…やぁっ!!」
 再度のテレポート。2分30秒。
 
 件の建物の屋上に到着。必要なのはたぶん、隠密行動ではなく騒ぎを起こすこと。
今は、1秒の遅延が事態の悪化に直結する緊急事態です。
 屋上を一回りして、進入方法を決めました。鉄格子付きの3階の窓。
鉄格子を捻り壊して建物の中へ。2分55秒。
すぐさま、いちばん先に目についた火災報知機を、右手で叩きました。耳障りな音が、
建物中に響き渡ります。行動開始から、ちょうど3分!
232 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:21
<麻宮アテナvs鹿沼葉子 〜phoenix in the frantic monn〜>
>229 >231
 ―FARGO B棟―
 
 鳴り響く火災報知機のけたたましいベル音……
 
 B棟の巡回員が一斉に顔色を変え、右往左往する。



「おい、そこのお前、何をしている!! さっさと避難しないか!!」
 
 3階を巡回していた黒衣の巡回員が制服姿の少女に声をかける。
 
「……待て、お前、見かけない顔だな。識別番号を言え!」
 
 巡回員は銃を構えつつ、少女―アテナへと問い掛けた。
233麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 00:24
>232 vs鹿沼葉子さん
 
 『……待て、お前、見かけない顔だな。識別番号を言え!』
 「3年B組、麻宮です」
 言うが早いか、私の手から飛んだ500円玉という名の暗器が、
暴漢の手に突き刺さりました。そのまま間合いを詰めて、指を開いた掌で
両目の縁を突きます。一時的に視覚を奪う穿掌(せんしょう)。
目が見えないくらいで戦闘能力を失うなんて、だらしないかぎりです。
 
 「こちらも質問していいでしょうか? 昨日ここに来た15歳の女の子、
いまどこにいます? 是非教えてください。お互いのために…」
 さもないと3階の窓からジャンプをする羽目になりますよ、と付け加えるのも、
私は忘れませんでした。
234 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:26
<麻宮アテナvs鹿沼葉子 〜phoenix in the frantic monn〜>
>233
 ーFARGO B棟―
 
「……き、昨日の? 今ごろ、1回、中央の精練の間で順番に……」
 
 巡回員がそう答えると同時に、巡回員の身体が激しく痙攣し、その場に崩れ落ちた。



「ちっ、なんだ? 火災か?」
 
 私の目の前の男達が怪訝な顔をして、何か話し合っています。
 
「……どうする? 今日の精練は中止か?」
「さて、どうしたものか。だが、ここまでやっておあずけを喰らうというのも癪だな……」
 
 バタンとそこで、ドアが乱暴に開け放たれました。
 そして、そこから現れたのは……
235ガンマル&アキラ:02/07/06 00:30
アキラ「皆さん、こんばんは!」
ガンマル「何の因果か……俺たちも参戦することになっちまった」
アキラ「しばらくは練習と様子見に専念すると思うけど、よろしく!」
 
出典 :都市シリーズ 風水街都香港
名前 :ガンマル(ローガン・マルドリック)&アキラ(李良月)
年齢 :ガンマル「もうすぐ三十路……ってところか」
     アキラ「の、ノーコメントで!」
性別 :ガンマル「正真正銘の男だ」
     アキラ「女ね」
職業 :ガンマル「欧州五行師宗家の一つ、マルドリック家の当主をやってる。……これって職業か?」
     アキラ「香港商店師団衛生課に所属してるわ。警察官みたいなものかな」
趣味 :ガンマル「アキラをからかうことだな」
     アキラ「風水かな、やっぱり」
恋人の有無 :ガンマル「まあ、世間的に言えばアキラがそうなんだろうな」
         アキラ「ガンマル……なんだろうねぇ、多分」
好きな異性のタイプ :ガンマル「おしとやかで暴力を奮わなくて大人しい奴だな」
              アキラ「真面目で優しくて頭のいい人かな」
              ………(睨み合い)
好きな食べ物 :ガンマル「特に無いな。何でも食う」
          アキラ「私も特に無いな」
最近気になること :ガンマル「特に無し。平穏な生活を送ってるよ」
             アキラ「こいつのバカがいつになったら治るのか」
一番苦手なもの :ガンマル「クソ真面目な奴は苦手だな」
            アキラ「風水で戦ったりするのは……苦手じゃないけど、好きじゃないな」
得意な技 :ガンマル「五行(バスト)を使った攻撃だな」
        アキラ「風水(チューン)を使った攻撃、防御、回復ね」
一番の決めゼリフ :ガンマル「『悪い! 盗作なんだ、この方法!』だな、やっぱ」
             アキラ「ん〜、決めゼリフって言うほどのものは無いね」
将来の夢 :ガンマル「特に強く目指してるものはないな」
        アキラ「私も目標達成しちゃったしなぁ……。結婚?(ぼそ)」
ここの住人として一言 :ガンマル「お手柔らかにお願いするぜ。俺、痛いの苦手だからよ」
                アキラ「やるからには全力でいくわ」
ここの仲間たちに一言 :ガンマル「足手まといにはなりゃしないさ」
                アキラ「お互い、頑張りましょう!」 
ここの名無しに一言 :ガンマル「他とは一味違う闘争を見せれたらいいんだけどな」
              アキラ「期待しないで待っててね」
 
236麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 00:33
>234 vs鹿沼葉子さん
 
 『……き、昨日の? 今ごろ、1階、中央の精練の間で順番に……』
 「ありがとうございます。では、おやすみなさい」
 
 障害が残らない程度に加減したショックを頭に浴びせて、お手洗いの
掃除用具入れに放りこみました。そのまま手近の窓の鉄格子を壊して飛び下ります。
スカートが死ぬほどめくれあがって慌てましたが、幸い目撃者なし。
地面に付く直前で落下を止め、さっきと同じ方法で窓から再侵入。
 
 「中央って言ってたよね。『精錬』って、なんのことかな?」
 考えてもわかるはずありません。とにかく、その1階中央とやらに行かないと。
 「だれd…」
 一撃のあと掃除用具入れへ。お互いに運が悪かったですね。
 
 ”精錬の間”と表札のある扉。どうやらここでしょうか。
入る前に透視。私のような人間は、人より何倍も慎重でなければいけませんから。
 室内には、2人の似たような暴漢。そして、そして……。
 
 ……裸にされたペンギンちゃんの姿。散乱する服と、白い下着の残骸。
 
 ドアを蹴り開けると同時に叫びました。
 「ペンギンちゃん目を閉じててっ!!」
 微塵の無駄もなく床の上を突進。手のひらを上にした貫手で鳩尾をえぐりあげた直後、
左足つま先でもう1人の喉を蹴り潰します。そのまま旋風脚の一撃ずつで、
2人の暴漢を壁に叩きつけました。真っ赤な色。
237 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:34
>236
 ―FARGO B棟 精練の間―
 
『ペンギンちゃん目を閉じててっ!!』
 
 聞き慣れた声……
 これは……
 
 私は咄嗟に目を閉じた。
 鈍い音……
 
 ……数秒後、目を開けると先ほどの男たちが壁に叩きつけられて、ピクリともせずに――
 
 何か悪いユメを見ているかのよう……
 遠のく意識を抑えて、私はアテナさんに話し掛ける。
 
「あの、他にも大勢、私と同じような人が……」
 
 ―FARGO B棟 管理室―
 
「ああ!? 侵入者だと? 何処の馬鹿だ、そいつは……」
 
 B棟の管理人、高槻は顔をしかめながらそう呟いた。
 棟内の監視モニターを見る。
 
 ――精錬の間に倒れ付す教団員
 
 ――半裸の少女と制服姿の少女……
 
「ほう、とんだ侵入者だな……」
 
 高槻は下衆な笑みを浮かべ、側に待機している教団員になにやら告げて、一緒に管理室を出て行った。
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>230

迫り来る異形の触手。
銀製のナイフを使っては見たものの、急所に届くには至らなかったようだ。
狂暴化して踏み込みは思ったよりも早い。
だが…。
 
「重力使いにスピードで勝つのは難しいわよ!」
 
自分の周囲の重力をほんの少しだけ軽くする。
力とスピードで勝てなければ頭を使うのみ。

避けられないのなら、吹き飛ばされて距離を取るだけだ。

「うぐっ!?」

思ったよりも大きな打撃が私の体を突き抜ける。
もし、重力をそのままにしていたら…。
太目の枝を折る程の勢いで木に叩きつけられる。
気絶したい思いを堪え、私は起き上がる。

「さあ、私はまだ死んでいないわよ?」

更に時間を稼がなければならない。
キメラヴァンプはそれほど多くないはず。
私がここで戦っているだけでそれだけチームの負担が減る。
その思いだけが異形と戦う勇気となる。
239麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 00:46
>237 vs鹿沼葉子さん
 
 『あの、他にも大勢、私と同じような人が……』
 「おねがい。見ないで。目を閉じてて。おねがいだから……」
 
 裸のままのペンギンちゃんの頭を、胸に抱きしめました。見せたくなかったのです。
暴漢たちの姿を。私のやったことを。
 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
 私は貴重な時間を無駄にして、ペンギンちゃんを抱きしめました。
 
 「……ね、先に、私の家で待ってて。送るから。私もすぐ行くから。ね?」
 返事を待たずに、携帯電話を短縮ダイヤル。私のいちばんのお友達に。
何回かの呼び出し音のあと聞こえてきた声は、もちろん。
 「は〜い、南風に抱かれる愛の美少女柏崎理香ですがどちらさんですか〜?」
 
 「おねがい理香ちゃん、私の家に行って! 今すぐ!」
 「お〜? アテナかぁ? どうしたぁ?」
 「時間がないの! おねがい! ペンギンちゃんといっしょにいてあげてほしいの!」
 「……あ〜、よ〜するに、あんたの家にいるやつの面倒見ればいいのね。5分で行くわ。貸しだからね」
 「ありがとっ!」
 
 「じゃペンギンちゃん、私の家に行ってて。理香ちゃんっていう私のお友達が来てくれるから。
理香ちゃんは優しくていい人だし、きっとペンギンちゃんともいいお友達になれるよ。ね?
帰ったら、いろいろお話したいの。ね?」
 
 また返事を待たずに、私はペンギンちゃんを家まで飛ばしました。
240 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:48
>239
 ―麻宮家―
 
 アテナさんの囁きとともに視界が光に包まれ……
 
 ――気づくと、私は見知らぬ部屋にいた
 
「……此処は? ……助かったの、私?」
 
 腰が抜けて、立てない。
 本当に今までのことが悪いユメのようだ……
 
「ユメじゃないね……、あははは」
 
 男たちの暴行による痣がはっきりと身体に残っている……
 
    バタン――
 
 部屋のドアが開いた。
 そこに1人の女の子……
 
「あんたがアテナの言ってた奴ね? ああ、何よ、裸じゃない!? ちょっと、何、ぼーっとしてるのよ!?」
 
 明朗快活な彼女の声が部屋に響く……
 そこでようやく、私は実感した。
 
 ――助かったんだ
 
 ―FARGO 精錬の間入り口―
 
「……そこのお前、勇気あるな。此処に侵入してくるとはな」
 
 高槻はアテナの全身をねっとりとした視線で舐めまわすように見つつ、そう声をかけた。
 
「此処に侵入してくるってことがどんなことかわかっているのか?」
 
 高槻の背後にいる10人近くの教団員が銃を一斉にアテナに構える。
 
「この状況、馬鹿でもわかるよな? どういう状況か?」
 
 にやにやと笑みを浮かべながら、高槻は言葉を続ける。
 
「おい、助かりたいか、命が惜しいか? 惜しいよな、助かりたいよなぁ?」
 
 高槻の背後の教団員たちもニヤニヤとアテナを見ている。
 
「クックックッ、俺もそんなに無慈悲な奴じゃない。そうだな、今から、大股でもおっぴろげて、俺に奉仕すれば、
 命だけはたすけてやらんこともないぞ? あははははは!」
 
 高槻の笑い声が廊下に響き渡った。
241麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 00:50
>240 vs鹿沼葉子さん
 
 『クックックッ、俺もそんなに無慈悲な奴じゃない。そうだな、今から、大股でもおっぴろげて、俺に奉仕すれば、
命だけはたすけてやらんこともないぞ? あははははは!』
 
 粘着質、というべきでしょうか。妙に気持ち悪い視線。俺に奉仕? 専属でタダ働きしろとでも?
いや、大股? 大股開いて視線……。 
 
 (……つまり、私に強姦されろと言ってる? 私に? この人は? そもそも人?)
 
 硬貨を投げつけて動きを止めるのは、今の私では同時に4人がせいぜいでしょう。
だったら選択の余地なし。本当の戦闘能力を発揮して、ケダモノの群れを退治し、
捕まっている人達といっしょに脱出を……!
 
 銃を持った人間が10人。そのうち、私と対等ないしそれ以上に戦える人間、皆無。
短距離テレポートで、最左翼の男の更に左へ。反応が遅い。一撃当てて昏倒させたとき、
ようやく残りの銃口が私に向かいます。本当に遅い。
 男を盾にしながら、光弾を連射。サイコビームと名付けた光が、次々目標を捉えます。
銃声。銃声。銃声。
 「だから遅いっ!」
 味方を撃ってうろたえた男達に、更に連射。一撃で1人ずつ。人数分マイナス一発の光弾を
ばら撒いたあと立っているのは私と、例の粘着視線男。
 
 「言いたいことがあるなら聞きますよ」
 「ちょ、ちょっと、待て!」
 「いえ、やっぱり止めます。さようなら」
 
 一閃。
242鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:53
>241
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―FARGO A棟 食堂―
 
 ヴォ―――ン、ヴォ―――ン……
 
 耳障りな警報が鳴り響く。
 ロスト体の暴走か……
 まあ、時間が経てば……
 
 ―
 
 ―――
 
 ―――――
 
 まだ、鳴り止まない。
 今回は余程の……
 
 そう、思っていると、スピーカーから声が漏れた。
 
「識別番号A−7・鹿沼葉子、B棟でイレギュラーが発生した。早急に消去せよ」
 
 私は空になったトレイをトレイ受けに置く。
 カランと音がして、トレイが奥へと吸い込まれていった。
 
「了解しました。識別番号A−7、ただちにイレギュラーの消去に向かいます」
 
 私はそのまま、食堂の出口へと向かった……
 
 ―FARGO B棟 1階廊下―
 
「……………」
 
 廊下に転がる教団員の骸の山……
 矢張り、強力なロスト体のようだ……
 普通、ここまで力を無節操に使えば、力を使い果たして、自壊する。
 
 そして、その骸の中心に立つ制服姿の女性……
 
「……こんにちは」
 
 私はその女性に挨拶をした。
 
「……これはあなたがやったのですか?」
 
 静かにその女性に問い掛けた。
243麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 00:55
>242 vs鹿沼葉子さん
 
 ……来ます。だれか、いえ何かが。私と同種、そして私に匹敵する力。
まっすぐこちらに。あと10秒……、9秒……、8秒……。
 3秒の時間を費やして、霊視発動。”second vision”の名のとおり、
普通の視覚では捉えられない存在を見る能力。
 そして、静かに確実に近づいて来るもの。3……、2……、1……。
 
 『……こんにちは』
 
 女性。私より何歳か上でしょうか。長くて綺麗な髪。
 『……これはあなたがやったのですか?』
 そうです。そのとおりですが……。
 「そのとおりですが、やりたくてやったわけではありません。銃を抜かれたから仕方なく…」
 
 半分は嘘。ほんとうは、相手が銃を持っていてよかったと思いました。だって、
躊躇がいらないから。でも、ほんとうのほんとうは、やりたくてやったわけじゃない。
この人……いえ、この暴漢たちは、ペンギンちゃんや他のたくさんの人に、口にも出せないような
酷いことをしてきたのです。仕方ないじゃないですか。私がやらなくても、他のだれかがやったでしょう。
たまたま私が、この場にいたというだけで……。
244鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 00:58
>243
 ―FARGO B棟 1階廊下―
 
『そのとおりですが、やりたくてやったわけではありません。銃を抜かれたから仕方なく…』
 
 そう返事をする彼女……
 
           銃を持っていてよかった――
    ――躊躇がいらないから
                    やりたくてやったわけじゃない――
       仕方ない――
               ――私がやらなくても、他のだれかがやった
 
 断片的なキーワードが私の脳裏に流れ込む。
 ……彼女の思考のようだ。
 
「……嘘はよくありませんね。仕方がなかったのですか? あなたがやらなくても、他の誰かがやったのですか?」
 
 そう喋りながら、彼女の右手に視線を送る。
 ……何も無い。
 FARGO信者ならあるはずの識別番号のタトゥーが……
 
「なるほど。ロスト体でもなんでもなく、本当にイレギュラーでしたか……」
 
 すっと、一呼吸置いて、言葉を続ける。
 
「FARGO宗団自体の、神の名の下に、識別番号A−7・鹿沼葉子、これより、イレギュラーを排除します」
 
 キーーーーーーーーーン
 私の前の気圧が急速に変化していく。
 
 バチン!
 
 空気が揺らめき、文字通り弾けた。
 不可視の衝撃波がイレギュラーへと襲い掛かった。
245麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:00
>244 鹿沼葉子さん
 
 『……嘘はよくありませんね』
 
 ……え?
 
 『仕方がなかったのですか? あなたがやらなくても、他の誰かがやったのですか?』
 
 なに? この人テレパシスト? しかも私より強力!?
 
 「……で、でもっ!」
 『なるほど。ロスト体でもなんでもなく、本当にイレギュラーでしたか……』
 「聴いてください! 私は……」
 『FARGO宗団自体の、神の名の下に、識別番号A−7・鹿沼葉子、これより、イレギュラーを排除します』
 
 衝撃波。
 
 「……くぅ!」
 足もとに転がる身体を蹴り上げて盾にしました。ばきっと、嫌な音。死体を傷つける罪。
 
 (歯が立たない相手じゃない。ということは、少なくとも話をする余地は……)
 
 あるのでしょうか。彼女と私との間に。話し合いの余地というものが。
 「聴いてくださいっ! 私は、お友達を助けに来ただけで……」
 いまは信じるしか、そして信じてもらうしかありません。無力な言葉と、ちいさな心を。
246鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 01:02
>245
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―FARGO B棟 1階廊下―
 
 衝撃波が彼女が盾にした教団員の死体に直撃。
 数瞬後、それは死体と呼べるようなものではなく、ただの肉塊と化した。
 
「………」
 
 ――聴いてくださいっ! 私は、お友達を助けに来ただけで…
 
 ……それは紛れも無い本心からの言葉。
 しかし、私はその言葉の真実性は肯定しても、私自身がその言葉を認め、彼女を逃がす道理はない。
 
「ですから、それがどうかしたのですか?」
 
 彼女は紛れも無く、FARGO宗団に害を為す存在だ。
 彼女を消去する理由はそれだけで十分……
 お母さんの信じたFARGOを彼女に傷つけさせる訳にはいかない。
 
「あなたはFARGO宗団にとって有害な存在です。それだけで消去される理由は十分です」
 
 再び、私は意識を集中する。
 
 キーーーーーーーーーン
 
 再び、大気が軋みをあげる。
 私の目の前の大気が不自然に歪む。
 
「……これで消えてください」
 
 重力の波が廊下に転がる無数の教団員の屍を無残な肉塊に変えつつ、彼女を消去するために突き進む。
247名無しクルースニク:02/07/06 01:03
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>217
 
 袈裟掛けに振り下ろした切先が、届かない。
 舌打ちするような暇なんて無く、迫り来る爪を鎬で受けるので精一杯だった。
 体細胞の崩壊を始めた塊は、見掛けよりも遥かに俊敏。
 突き抜けるような衝撃に、防御姿勢の体が背後へと投げ出される。
 其処で気付いて、どうしようもない状況に後悔。
 頭上で擡げられた蛇の鎌首――視認した瞬間、正面には巨躯が迫っている。
 首の気配は背後。振り翳される右手が押し込まれる。くそ。フザけるな。
 死ぬ。殺される。死ぬ――テメエは、俺に殺される!
 
 退くつもりは、チリ程にも無かった。
 
 目測を誤った切先を地擦りに擦り上げる。迫る首よりも早く早く、跳ねるような勢
いで身体は正面へと飛び込んでいる。
 ヴァルダレクの腹に切先が触れ――
 汚れた鋭い爪先が、左上腕を貫通していた。
 神経の束が数本、感情の螺子を三つ程道連れにして消し跳ぶ。
 異形の蛇は首筋へと牙を剥き出して迫っている。理性が弾ける。
 左手を柄から離し、半身で刺突。手応え。死なない。力が――緩んだ。
 
 本能だけが反応した。殺意は意識に刻まれた行動パターンを高速で洗い直し、
懐を開くと同時に、吊り下げたハンドグレネードの束を纏めて引き摺り出す。
 ピンが全て弾け飛ぶのと、青年が蛇の首の下を背後へと潜るのは同時だった。
 澄んだ音を立てて、無数のピンが踊る。ごとん、と。
 重い音を立てて踊ったのは――
 
 内側から膨れ上がったグレネードの群が、一つの爆発に吊られるように炸裂した。
 衝撃が窓を一瞬で桟ごと消し飛ばし、重厚な造りの壁すら破片に変えて吹き飛ばす。
 支柱だけで支えられた部屋へと、差すような月光が降り注ぐ。
 全ての生物を殺傷し得る破壊の渦の残痕――粉塵の奥で、影が揺らめく。
 
 ――成る程、頑丈にも程が有る。
 
 けど、関係ない。殺せない相手じゃ――無い。殺せる。殺せ。今直ぐに。
 あの子は無事だろうか。無事な筈だ。護らないと。だから、俺がコイツを殺さないと。
 シスターの笑顔が脳裏にこびり付く。護れなかった笑顔が意識を苛む。
 もう、繰り返さない。
 青年は埃と爆炎に包まれるヴァルダレクに徐に背を向けた。
 目眩を引き起こしそうな吹き曝しの部屋の隅に立ち、間隔の無くなり掛けた左手を垂らして叫ぶ。
 
「……ケリを付けようぜ、ゴミ野郎。俺の手で黄泉路に導いてやる。
 永久に痛みに鬩ぐ運命には飽きるだろ? あぁ、全部終わらせてやるよ――来な!」
 
 殺意の光を、濁った塵の奥――更に濁った眼窩の中に確認して、青年は奈落の淵を蹴り出した。
 月を望み――白い影は、闇を纏う忌城の空に飛んでいた。
>238
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
(クク、コイツァいい。思った以上の上玉だ)
 
 力の差を見せ付けて尚、諦めない強い意志。
 それを打ち砕き、踏み躙り、絶望へ叩き込んだ時の血の味―――
 考えただけでゾクゾクする。
 
 年頃も丁度いい。
 処女じゃないなんて事は無いだろう。
 
(出来るだけ甘くて、旨い血を吸わせてくれよ?)
 
 目の前には極上の素材が有る。
 ならば自分は料理人としてどうするべきだろう?
 異形の脳にすぐにその答えは浮かんだ。
 
 じっくりと『味付け』して、美味しく頂く。
 
 まずは第一段階―――とばかりに少女の周りを触手が乱れ飛ぶ。
 徐々にその衣服を剥ぎ取りながら無力感を味あわせる。
 
 どんな料理であれ、下ごしらえは肝心だ。
249麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:05
>246 vs鹿沼葉子さん
 
 盾にした身体が完全破壊。私は彼を2度殺したようなものです。
これでますます、自分が嫌いになるのでしょうか。いつものように。
もしそうだとしても、ここで生に対する執着を棄てる理由にはなりません。
 
 (……少なくとも、私を好きだと言ってくれる人が、いるかぎりは)
 
 ペンギンちゃんは、こんな私を頼ってくれています。お世話になってばかりの
拳崇にもお師匠さんにも、いつか恩返ししたい。包くんや薫ちゃんとも、
もっと仲良くなりたい。そして理香ちゃん。
 私の記憶のいちばん奥には、理香ちゃんがいます。泣くのも笑うのも、
いつも理香ちゃんの隣でした。離れたくない。その気持ちに比べたら、
いまさら自己嫌悪の材料がひとつふたつ増えたところで……。
 
 彼女がまた何か、仕掛けてきます。純粋で明確な敵意といっしょに、
思考の断片が飛びこんできて。
 
 ――FARGO宗団に害を為す存在
 
 ええ、その通りですよ。
 
 ――消去する理由はそれだけで
 
 それはお互い様ですね。
 
 ――お母さんの信じたFARGOを彼女に傷つけさせる訳にはいかない
 
 な……。
 
 口で喋る言葉よりもはっきりと感じた、それは意志。お母さん。お母さん。
 
 『お母さん』
 ほとんど使った記憶のない言葉です。だれかの話に聞くだけの言葉です。
辞書に載っているだけの言葉。単語の意味は知っていても、理解をしていない言葉。
彼女には『お母さん』がいて、遺してくれたものがある。それが、ここ……?
 
 『……これで消えてください』
 精神的な空白が墓穴になって、私の足下に開きました。最悪の反応速度。
聴勁修め、精神の動きまで感じ取って最善手を講じてきた、私が。
 
 サイコシールド展開。ほぼ同時に、私の周りすべてが圧壊していきます。
局地的な超重力。彼女の真後ろへのテレポートでかわせば、反撃の手段は
両手の指ほどもあったのに。
250鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 01:08
>249
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―FARGO B棟 1階廊下―
 
 重力波は彼女を飲み込み……
 
 しかし、それでも彼女は無傷で立っていた。
 彼女の周囲は重力波の余波でクレーターが出来ている。
 既に廊下は原型を無くしつつある。
 
「………?」
 
 再び、流れ込んで来る彼女の思考。
 
 ――少なくとも、私を好きだと言ってくれる人が、いるかぎりは
 
 そうですか。
 あなたは幸せなんですね。
 
 ペンギンちゃんは――
 拳崇にもお師匠さんにも――
 包くんや薫ちゃんとも――、
 そして理香ちゃん――。

 ――いまさら自己嫌悪の材料がひとつふたつ増えたところで…
 
 ……本当に幸せですね。
 私は、信じるしかなかった。
 お母さんの残してくれたモノは、このFARGOの教えと左手に刻まれた『A−9』というナンバーのみ。
 
 ……許せない。
 
 唐突に、久々に、湧き上がる負の感情。
 私と同じ力を持っていながら、彼女は私を、FARGOを、お母さんを否定しようとする。
 
 ……壊してやる。
 
 彼女の意識の、記憶の断片が流れ込んで来る。
 私は、それを……
>250
 ―― 夜の無人の野外ステージ ――
(19章(http://cocoa.2ch.net/charaneta/kako/1021/10211/1021106839.html)の記憶
(アテナvsラルヴァ 纏めは>672))
 
 星の瞬く夜空の下のステージで戦う2人……
 
 それを観客席から見る者が2人……
 制服姿の、同じ顔形をした少女……
 ただ、その表情は対照的だった。
 そう片方は目つきがとてつもなく悪い。
 まるで、少女の負の部分を投影したかのような……
 
「この時のこと、覚えている?」
 
 目つきの悪い少女はもう1人に話し掛ける。
 
「彼女、結局、殺しちゃったね? 満足した? 出来もしないことを、自己満足の良心でしゃしゃり出るから、
 あんな結果になったと思わない」
 
 黒い拘束衣を着た女性―ラルヴァがアテナの攻撃を喰らって、倒れ伏す。
 致命傷のようだ。
 ラルヴァは何か呟いた後、ピクリとも動かなくなった。
 
「そもそも、『私』程度の力で無理をするから……。本当に彼女のことを思うなら、
 あの場はすぐさま離脱すべきだったのよ。実力が拮抗している以上、凄惨な殺し合いになるのは当然じゃない?」
 
 ステージの上のアテナが呆然とした表情で涙を流す。
 
「あの時、後悔したでしょう? 『私』の無力さに……。でも、あなたが幾ら悔いてもね、
 結果はただ、苦しむ女性を殺しただけ……」
 
 少女はそこでニヤリと笑う。
 
「結局、無駄なのよ。いくらやっても、結果がついてこない以上はただの偽善。反吐が出るわ、『私』自身に……」
252麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:11
>251 vs鹿沼葉子さん
 
 あまりの過負荷に耐えかねた床が、不気味な音といっしょにクレーターになります。
私は無傷。大丈夫。勝てる相手。
 
 ――あなたは幸せなんですね。
 
 ええ、幸せですよ。
 
 ――本当に幸せですね
 
 あなたは、ちがうんですか? あなたの幸せは?
  
 ――お母さんの残してくれたモノは、この
 
 またお母さん。お母さん。だからって、私だって、あなただけじゃ。
 
 
 
 ……ステージ。客席。夜空。
 私と、名前も知らないままのあの女性。
 
 『彼女、結局、殺しちゃったね?』
 
 それは……。
 
 『『私』程度の力で無理をするから……』
 
 何とかしたいと思ったの。そうでしょ? 『あなた』はそうじゃないの?
だって、だってしょうがないじゃない。
 
 『結局、無駄なのよ。いくらやっても、結果がついてこない以上はただの偽善。
反吐が出るわ、『私』自身に……』
 
 むだ……じゃ、ないよ。理香ちゃんはそう言ってくれたよ。『あなた』なんかより、
理香ちゃんのほうが正しいに決まってるじゃない。だから、私のやってることは
無駄じゃない! 無駄じゃないよ!
>252
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―― 夜の無人の野外ステージ ――
 
 ラルヴァの死体を前に泣き崩れるアテナ。
 それを空から眺める、アテナともう1人のアテナ……
 もう1人のアテナは意地悪な笑みを張り付けながら、アテナと問答を続ける。
 
 ――何とかしたいと思ったの。そうでしょ? あなたはそうじゃないの?
 
「思ったわ。でも、それで結果はついてきてないじゃない?」
 
 ――だって、だってしょうがないじゃない。
 
「しょうがない? 『私』はその一言で結果を正当化するんだ?」
 
 ――むだ…じゃ、ないよ。理香ちゃんはそう言ってくれたよ。
 ――『あなた』なんかより、理香ちゃんのほうが正しいに決まってるじゃない
 
「はあ? 理香はいつも正しいの? あはははは、これは傑作ね。理香が殺せって言えば、殺すんだ?」
 
 ――だから、私のやってることは無駄じゃない! 無駄じゃないよ!
 
「無駄よ。だって、客観的に結果が出てないじゃない。ああ、『私』は自己満足すればそれでいいんだ?」
254麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:14
>253 vs鹿沼葉子さん
 
 『無駄よ。だって、客観的に結果が出てないじゃない。ああ、『私』は
自己満足すればそれでいいんだ?』
 
 「ちがう、ちがうよ! どうしてわかってくれないの!?
それに、理香ちゃんはそんなこと絶対に言わないよ。
だって理香ちゃんは 、私が大好きになった人だよ。
『あなた』なんかほんとは、理香ちゃんのことなんにもわかってないくせに!」
 
 目の前の女の子が、急に憎らしくなってきました。
なんで『あなたなんか』に、理香ちゃんの悪口を言われなければいけないの。
ふざけないで。ふざけないで。ふざけないで。
 
 「……あなたなんか、だいっきらい! いちばんだいきらいよ! ばかあ!!」
>254
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―― 夜の無人の野外ステージ ――
 アテナともう1人のアテナの空での問答は続く。
 
 ――それに、理香ちゃんはそんなこと絶対に言わないよ。
 
「絶対に? どこにそんな保障があるの?」
 
 ――『あなた』なんかほんとは、理香ちゃんのことなんにもわかってないくせに!
 
「あなたは、理香のこと、分かっているんだ?
 それは驚きね。私は『私』をいつも、見ていたけど分からなかったわ」
 
 ――あなたなんか、だいっきらい! いちばんだいきらいよ! ばかあ!!
 
「嫌いで結構よ。けれどね……」
 
 もう1人のアテナが皮肉な笑みを浮かべて、アテナをあざ笑う。
 
「私はあなたであなたは私。あなたが私を嫌いということは、あなたはあなたを嫌いなんだ?」
 
 パチンともう1人のアテナが指を鳴らす。
 途端に2人の周囲が漆黒の闇に塗りつぶされる。
 
「いいわ。だったら、更に現実を見せてあげる。自分の無力さを思い知るといいわ」
 
 もう、1人のアテナがそう呟くと同時に……
 
 ―― 夕暮れの校舎 ――
(26章(http://cocoa.2ch.net/charaneta/kako/1021/10217/1021741941.html)の記憶
(アテナvs遠野秋葉 纏めは>353))
 
 夕暮れの校舎を空から眺める2人……
 
 人が少なくなった教室で対面する2人の少女ーアテナと遠野秋葉。
 アテナの言葉で秋葉の髪の毛の色が赤く染まる。
 
 しばらくの後……
 無人の教室に怒りの表情で髪を赤く染めた秋葉が1人佇んでいた。
 
「ねえ、この時、余計なことを言わなければ、遠野さん、ここまではしなかったと思うけど?」
 
 秋葉が教室から出て、廊下にいる生徒・教師を次々に略奪する。
 一方、アテナは屋上に転移し、すすり泣いていた。
 
「……それに引き換え、『私』は現実逃避して泣いていたわね。本当に余計なことをしたんだから……」
 
 もう1人のアテナは一切の容赦をせずに言葉を続ける。
 
「もう、いい加減、認めなさいよ。『私』は無力で自己満足のために戦ってますってね! あはははははは!!」
256麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:18
>255 vs鹿沼葉子さん
 
 『嫌いで結構よ。けれどね……』
 
 私と同じ顔が笑うのを見て、精神的に殴られました。ひどく嫌らしい笑い。
同じ顔なのに、こんなにちがう笑い。
 『私はあなたであなたは私。あなたが私を嫌いということは、あなたはあなたを嫌いなんだ?』
 
 そうなの、かな。私、私を嫌いなのかな……。
 
 
 
 夕陽に赤く染まった教室。そして赤い髪。あのときのままの風景。
 
 『ねえ、この時、余計なことを言わなければ、遠野さん、ここまではしなかったと思うけど?』
 じゃあ、どうすればよかったの。
 
 『本当に余計なことをしたんだから……』
 だって、だってしょうがないじゃない。
 
 『もう、いい加減、認めなさいよ。『私』は無力で自己満足のために戦ってますってね!
あはははははは!!』
 
 どうして、どうしてひどいこと言うの? 私、なんにも悪いことしてないよ。
そんなに私が嫌い? どうして? ひどいよ。あなたは、私のこと嫌いなの……?
どうして? どうして? 
 
 涙が出てきました。ぽろぽろ。ぽろぽろ。
私はいつも精一杯やっているのに、どうして。他のだれか、私以上に
うまくやれた人がいるでしょうか。私はいつも、一生懸命やっているのに……。
>256
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―― 夕暮れの校舎 ――
 
 2人の問答は続く……
 
 ――じゃあ、どうすればよかったの。
 
「それを私に聞くの? 疑問に疑問で返すの? 流石、『私』ね」
 
 ――どうして、どうしてひどいこと言うの? 私、なんにも悪いことしてないよ
 
「酷い? 『私』自身が気づいていながら、目を背けている事実を指摘しただけよ?
 悪い? あそこまで無関係な人を巻き込むのは悪くないんだ?」
 
 ――そんなに私が嫌い? どうして? ひどいよ。あなたは、私のこと嫌いなの…?
 
「『私』自身、『私』を嫌っているじゃない? 気づいてなかったの、哀れね、あははははは!」
 
 ――私はいつも精一杯やっているのに、どうして
 
「精一杯やっているから、それが免罪符になるのね? それなら、誰も苦労しないわね」
 
 もう1人のアテナがアテナに校舎を見るように促す。
 場面はまさに校舎の中でアテナが秋葉を剣で貫いているところだった。
 気絶するアテナを前に秋葉が呪詛をもらしながら、息絶える。
 
「……ここまでに何人、死んだかしら? 校舎の中にはもう人の気配はしないわね」
 
 残酷な事実を淡々ともう1人のアテナは告げる。
 
「ああ、遠野さんの最後の言葉……。結局、遠野さんも救いを求めていたのね。
 けれど『私』は問答無用だった。これが『私』の精一杯?」
 
 再び、場が闇に包まれる。
 
「本当に都合がいいわね、『私』? なんでもかんでも、都合よく解釈して、免罪符を作って、いい子ぶる……」
 
 声が闇の中に響き渡った。
258麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:22
>257 vs鹿沼葉子さん
 
 あとからあとから、涙がこぼれます。こんなときに、理香ちゃんがいてくれたら。
私は、ひどく懐かしい気持ちで思い出しました。理香ちゃんの、お日さまのような笑顔。
私も、理香ちゃんのようになりたい。みんなに元気をあげたい。愛されたい。でも。
 
 『『私』自身が気づいていながら、目を背けている事実を指摘しただけよ?』
 なに? なんのこと? 言ってくれなきゃわかんないよ。
 
 『『私』自身、『私』を嫌っているじゃない? 気づいてなかったの、哀れね、あははははは!』
 私が私のこと嫌いだから、『あなた』も私のこと嫌い、なの?
 
 『本当に都合がいいわね、『私』? なんでもかんでも、都合よく解釈して、免罪符を作って、いい子ぶる……』
  
 だったら、だったら教えて。どうすればいいの? 私はどうすればいいの?
わからないよ。『あなた』にならわかるの? どうしたらいいと思う?
おねがい。答えて。ね、おねがいだから。おねがいだから……。
>258
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―― 暗闇 ――
 
 既に2人のアテナの周囲には何もない。
 ただ、ガランドウな闇が広がるだけ……
 
 ――なに? なんのこと? 言ってくれなきゃわかんないよ。
 
「分からないの? 今までの『記憶』は『私』自身の痕……。これ以上ない形で教えたんだけどね」
 
 ――だったら、だったら教えて。どうすればいいの? 私はどうすればいいの?
 
 ――わからないよ。あなたにならわかるの? どうしたらいいと思う?
 
 ――おねがい。答えて。ね、おねがいだから。おねがいだから…。
 
「……馬鹿にしているの? あなたの態度、そのものが問題よ」
 
 もう1人のアテナは呆れたような顔で呟く。
 
「いい加減、自分のやってきたことを理解しなさい! 結局、『私』は多々の可能性を自己満足で閉じてきたじゃない!?」
 
 怒声が闇に響く。
 
「救えたはずの人を救えない。それは『私』が勝手に自己満足で制限をつけたからでしょう!? その裏での『私』自身の力不足による後悔、無念、感じたことがなかったとは言わせないわ!」
260麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:25
>259 vs鹿沼葉子さん
 
 『……馬鹿にしているの? あなたの態度、そのものが問題よ』
 ち、ちがうよ。そんなことないよ。馬鹿になんかしてないよ。
  
 『いい加減、自分のやってきたことを理解しなさい! 結局、『私』は
多々の可能性を自己満足で閉じてきたじゃない!?』
 ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 
 『救えたはずの人を救えない。それは『私』が勝手に自己満足で制限をつけたからでしょう!?
その裏での『私』自身の力不足による後悔、無念、感じたことがなかったとは言わせないわ!』
 制限? 制限? 私が、私を制限していた? そうなのかな。そうなのかな。
でも、どうせ私なんか……。
 
 ……。
 
 「私なんか」かぁ……。
 
 そういえば私はいつも、心のどこかで言ってたような気がします。
「私なんかじゃダメだよ」「私なんかにはできないよ」「どうせ私なんか」
 
 いつも、いつも、言ってました。
>260
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―― 暗闇 ――
 
 ――「私なんか」かぁ……。
 
 ――そういえば私はいつも、心のどこかで言ってたような気がします。
 ――「私なんかじゃダメだよ」「私なんかにはできないよ」「どうせ私なんか」
 
「ようやく、認めたみたいね? そうね、つくづく『私』って情けないね?」
 
 もう1人のアテナは満足げに笑うと……
 
「………『私』の周りにいる人」
 
 暗闇が光に包まれ……
 
 ―― 教室 ――
 
 そこは何の変哲も無い教室。
 生徒が整然と着席して………
 
          ―――
  ―――
                   ―――
            ―――
 
 無音。
 不自然なまでの静寂。
 そう、鉛筆を走らす音も、本をめくる音も、生徒の話し声すら聞こえない。
 停滞する空気。
 
 よく見ると、生徒たちは明らかに異常だった。
 明らかに曲がってはいけない方向に首が曲がっている男子生徒……
 顔が半分吹き飛んでいる女子生徒……
 
 ガタっと物音。
 何か床に落ちた音。
 
 首が地面に落ちていた。
 そう、麻宮アテナの親友である柏崎理香の首が……
 彼女の表情はどこまでも無表情で……
 
 ―― 暗闇 ――
 
 再び、闇が辺りを覆う。
 
「『私』がこんな力を持つ以上、こういうことはないとはいえないね? 過去、私の『力』を狙う奴等もいたし……」
 
 もう1人のアテナは穏やかな笑みを浮かべて、問い掛けた。
 
「ねえ、どうするの、『私』?」
262麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:31
>261 vs鹿沼葉子さん
 
 『ようやく、認めたみたいね? そうね、つくづく『私』って情けないね?』
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 
 『………『私』の周りにいる人』
 まわり?
 
 
 
 そこは、いつもの教室。それは、いつもの授業風景。私もいつものように、
自分の席に座っています。でも、ちがうのです。なにかがちがうのです。
 
 あれ?
 
 (みんな、どうしたの……?)
 
 首がねじれています。頭が欠けています。胸に穴が空いています。
天井からぶら下がっています。みんな私の、クラスメートの姿。
 
 「……理香ちゃん!!」
 
 叫んだ瞬間、ごとりと床に落ちたもの。なぜか無表情な顔。
私が大好きな、いちばん大好きな、命よりも大事な人。
 
 「ぅ〜〜〜〜〜っ!!」
 
 かけよって、拾って、元の場所にのせました。
 
 ごとり。
 
 「あぅあ、ああうあうぅ……」
 
 頭の中のなにかが千切れそうになるのを必死で抑えながら、
元の場所にのせて、抱きしめました。抱きしめました。抱きしめました。
 
 そして、暗闇。
 
263麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:33
>262
 
 『『私』がこんな力を持つ以上、こういうことはないとはいえないね?
過去、私の『力』を狙う奴等もいたし……』
 いた。いたよ。そういえばあのときも。
 
 『ねえ、どうするの、『私』?』
 どうって、どうすれば……。
 
 ……。
 
 ……ああ、そういうことなんだ。
 
 私、情けないね。ず〜っと、ひとりで小さくなってたんだ。
理香ちゃんやみんなの言うこと、聞こえていたはずなのに。
他の人を励ますくせに、自分のことを信じていなかった。愛していなかった。
 
 でも、それに気付いていた『あなた』は。
 
 もしかして、『あなた』は。
 
 「……あのね。私、小さくなったりしない。いじけたりもしない。
私には、もっともっといろんなことができるはず。そうだよね?
まず、だれよりも先に私が信じてあげなきゃ、私がかわいそうだもんね」
 
 そのときはじめて、『彼女』の心が透明に見えました。笑顔。穏やかな笑顔。
知らなかった。私だって、こんなふうに素敵に笑えるんだね。
>263
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ―― 暗闇 ――
 
「……そう? 分かればいいの。『私』も」
 
 それは酷く穏やかな笑み……
 
「なら、いい加減に戻れええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!」
 
 
               バチン!
 
 
>150>219
 緑髪の女に向けられた銃口に、俺はとっさに女を押し倒した。
 だが、それが失敗だった。
 男は右手に持った銃口を向けたまま、くぃ、っと左手首を捻ると、その先
についた鉄の筒を、俺達とは正反対の方向に向ける。

 気付いた時には遅かった。
 発射された弾丸は次第に次第にその形を変えていき、やがてそれは大
きな光の槍になって俺の相棒の元へと飛んでいく。

 そう、あいつの狙いは、……くそったれ、あいつの狙いは、女じゃなくて
ザサエさんだったんだ!

 俺は咄嗟にザサエさんの使役を解いたんだが、それでもやっぱり無傷
というわけにはいかなかった。消える寸前のザサエさんは、脇腹に大きな
穴が空いて、力なく揺らめいたように見えた。

 俺は立ち上がって、男を強く睨み付けると、怒りに燃えて吐き捨てた。

「テメェにはゲンコ三発追加だ。この落とし前はキッチリつけてもらうぜ」
266鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 01:37
>264
 ――FARGO B棟 1階廊下――
 
 既に眼まで虚ろだった彼女の瞳が急速に光を取り戻す。
 
「……還ってきましたか」
 
 彼女は強い。
 そう、心も身体も……
 私は完全に壊すつもりだった。
 けれど……
 
「しかし、私は……」
 
 退く訳にはいかない。
 彼女にどんな理由があろうとも、此処は、FARGOは、お母さんは……
 
「護らなければいけません……」
 
 すっと眼を閉じる。
 脳裏に蘇るのはあの光景……
267鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 01:37
>266
 もう、10年以上前、手紙が届いた。
 お母さんから、私に……
 
『また一緒に暮らしましょう』
 
 …FARGO宗団の隔離施設
 この地球上で唯一私のお母さんが存在する場所。
 私は迷うことなく、そこに向かった。
 
 ……私にはお母さんがいない毎日など虚構に過ぎなかった。
 
 再開したお母さんはかつての記憶の姿ではなかった。
 頬はやせこけ、白髪になり、やつれ果てていた。
 
 ……それでも私はお母さんといるという事実、それが重要だった。
 
 FARGOでの毎日の修練と言う名の陵辱。
 それでも、私はお母さんといれば耐えることは出来た。
 
 ――お母さんの誕生日
 
                    お母さんの狂気の笑み――
 ――あなたを殺せばClassAにいけるの!
 ――嬉しいでしょう!?
 ――だから、笑ってよ!
                私の首にかかるお母さんの手――
              
 なんで、どうして?
 必死に逃れようとする私の手がその日の為に用意していたお母さんへのプレゼントの箱の触れた。
 
          ――――――!!
 
 声にもならない私の叫び。
 気がつくと、お母さんは『消えて』いた。
 
 その後、私が手に入れたノモノはこの力、そして、お母さんが切望したClassAという称号。
 
 ……私にはお母さんの気持ちを理解することはできなかった。
 
 私がFARGO宗団の教えを全て受け入れたとき、きっとお母さんの気持ちが理解できる。
 FARGO宗団を否定することは、お母さんを否定すること。
 FARGOの教えを拒むことは、お母さんを拒むこと。
 だから、私はFARGOの信者として生きる。
 
 
「……あなたなんかには絶対に」
 
 ――お母さんは壊させない
 
 私の前の大気が振動する。
 空中に巨大な水晶の珠が形成される。
 
 私の持つ力そのものの具現。
 FARGOを、お母さんに害を為すモノはこれで跡形もなく消し去る。
 
「消えてください……」
 
 空気が震え、水晶の珠が彼女を消去すべく飛んで行った。
268麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:38
>267 vs鹿沼葉子さん
 
 『……そう? 分かればいいの。『私』も』
 うん。がんばるよ。
 『なら、いい加減に戻れええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!』
 
 ばちん。
 
 
 
 もとの場所。目の前にあの人がいるのも、もとのまんま。
さっきまで私がいたところは、つまり……。
 
 『……還ってきましたか』
 ええ、私にもまだ、出切ることがありますから。
 『しかし、私は……護らなければいけません……』
 また、彼女の、心が……。
 
 ――再開したお母さん。
 
 ――毎日の修練と言う名の陵辱。
 
 ――お母さんへのプレゼント。そして。
 
 (……許せないよ)
 
 ――FARGO宗団を否定することは、お母さんを否定すること。
 「違う!」
 
 ――FARGOの教えを拒むことは、お母さんを拒むこと。
 「違うよ!」
 
 ――だから、私はFARGOの信者として生きる。
 「それであなた、幸せになれるの!?」
 
 私の声が聞こえていないのでしょうか。超圧縮されるパワー。
三たび空気が震え、現れたのは、不気味に光る球体。否定する心の権化。
 
 『消えてください……』
 「……こんなもののためにあなたはっ!」
 
 襲ってくる光。迎え撃つ光。私の力に、彼女の力は跳ね返されて。
 彼女の頭上をすりぬけたそれは、冷たい壁を破って、空へ消えていきました。
 
 「……ちがいますよ。こんなものが、私たちを幸せにしてくれるはずないです」
 
 私はいつも、自分のために子守唄を歌っています。なにかを抱きしめながら眠ります。
眠りながら泣いています。だから、私は知っています。こんな力では、寂しさは紛れません。
こんな……。
 
 「……こんなくだらないもの、お母さんの代わりになるわけないよっ!!」
269鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 01:41
>268 
 ――違う! 違うよ!
 
 何が違うのだろう……?
 
 ――それであなた、幸せになれるの!?
 
 幸せ?
 私は幸せ……
 そう、幸せなはず……
 お母さんを信じないと、私に幸せなんてない。
 
 
 ぶつかるチカラ……
 閃光が廊下を埋め尽くし、数秒後、私の頭上に大穴が空いていた。
 
 ――ちがいますよ。こんなくだらないものが、私たちを幸せにしてくれるはずないです!
 
 ――こんなくだらないもの、お母さんの代わりになるわけないよっ!!
 
「違いません!」
 
 ならば、私は何を信じればいいのか……?
 私にはお母さんしかない。
 それを否定することなんてできやしない。
 
「……………」
 
 再度、私は水晶の珠を作りだす。
 だが、その珠は先ほどと比べ物にならないくらい小さく……
 
                 パリン!
 
 と乾いた音を立てて、珠は砕け散った。
 まるで、私の心を反映するかのように……
 
                無音
 
 廊下を静寂が支配した。
270麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:43
>269 vs鹿沼さん
 
 静寂。静かなひととき。とくとく聞こえるのは、胸の鼓動。
 
 ……たしかに。
 
 「たしかに、お母さんは大切なんでしょうね。そりゃ私だって欲しいです。会ってみたいですよ。
でも、私たちを愛してくれるのはお母さんだけじゃないはずです。そうでなかったら……」
 
 そうでなかったら、私は。
 
 「だから、お願いします。本当に自分が幸せになれること、してください。
それは少なくとも、ペンギンちゃんや昔のあなたみたいな子たちをあんなふうに……あんなふうに……」
 
 今までにどれだけの人が、あんな恐ろしい仕打ちを受けたのか。それを想像すると言葉が続きません。
みんなの心の痛みが和らぐまで、どれだけの時間と愛情が必要でしょう。そんな人たちを、これ以上は。
 
 「お願いです。考えてください。本当に自分の幸せのためになるのは、なんなのか。
なんなら私も一緒に考えます。だから、だから……」
 
 悲しいかな、この人の心を動かすような言葉を私は知りません。でもそのかわりに、歩み寄って。
 
 私は彼女を抱きしめました。
 
 強く、抱きしめました。
271鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 01:45
>270
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ――FARGO B棟 1階廊下――
 
 ――でも、私たちを愛してくれるのはお母さんだけじゃないはずです。そうでなかったら……
 
 私は……
 私を認めてくれる人はお母さん以外にいるのだろうか?
 
 ――だから、お願いします。本当に自分が幸せになれること、してください。
 
 FARGOに、お母さんに仕える事以外に幸せはあるのだろうか?
 私は今までの自分の幻影を重ねてきただけ……?
 
 ――お願いです。考えてください。本当に自分の幸せのためになるのは、なんなのか。
 
 ぎゅっと彼女が私を抱きしめる。
 ……それは、とても、暖かい、ヒトの温もり。
 
 私はゆっくりと口を開いた。
 
「私に取り戻せるでしょうか? ……失った時間を」
272麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:46
>271 vs鹿沼さん
 
 『私に取り戻せるでしょうか? ……失った時間を』
 
 嬉しかったです。本当に嬉しかったです。私の言葉が、ちゃんと届いていました。
 
 「取り戻せます。だいじょうぶ。ぜったいだいじょうぶ! だって私たち、生きてるんですよ?」
 
 強く強く抱きしめた人。この人が、いろんな人に出会いますように。愛されますように。
この人の上に、幸せがたくさんたくさん降りますように。
 
 「……私たち、生きてるんですよ」
 
 涙で、顔がくしゃくしゃになりました。でも私は、この人を離しませんでした。
273鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 01:48
>272
<麻宮アテナvs鹿沼葉子>
 ――FARGO B棟 1階廊下――
 
 ――取り戻せます。だいじょうぶ。ぜったいだいじょうぶ! だって私たち、生きてるんです
 
 ――……私たち、生きてるんですよ」
 
「そうですね……。生きているんですよね、私達は……」
 
 彼女に抱きしめられたまま、私は言葉を返す。
 心地よいと感じたのは久しぶりだ。



「……あの、そろそろいいですか?」
 
 私は彼女にそういって、腕をほどいてもらう。
 
「そろそろ、行きますね、私。……ひとまず、お別れです」
 
 彼女にそう告げて、背を向けて、私は立ち去る。
 
 ……そこでふと、気づいた。
 ああ、そういえば……
 
 足を止めて、くるりと振り返る。
 
「まだ、自己紹介をしていませんでしたね。私の名前は、鹿沼葉子です。よろしくお願いします。あなたの名は……?」
 
 彼女が口を開く。
 
「そうですか。それでは、アテナさん、又、いずれ、お会いしましょう」
 
 私はそう彼女に告げて、今度はそのまま踵を返して、出口に向かった。
 
 ――こうして、私、鹿沼葉子の時は今、動き出した。
274麻宮アテナ ◆ESP0jjgI :02/07/06 01:52
>273
 
 『……その後の調べによるとこの教団は、30年以上前から
未成年者を含む1000人以上を入信させ、”精錬”などの名目で……』
 
 ぴっ。
 
 ……朝から嫌なものを見ました。教団の首謀者や幹部はじめ、
ほとんどすべての加害者が死亡あるいは逮捕。数百人にも及ぶ被害者たちは
無事保護されたものの、心身に深刻な障害を残しており、専門の医師たちのもとで
療養中。
 
 わざわざテレビに言われなくても、今朝の新聞はその関係記事で埋まっています。
まだなにか胸につかえるものがありますが、私にとっては早く忘れてしまいたい出来事。
そして、ペンギンちゃんにとっても。
 
 鹿沼さんは今、どうしているでしょうか。
 
 元気でしょうか。愛されているでしょうか。幸せでしょうか。
 
 『又、いずれ、お会いしましょう』と言ってくれました。だから、きっとまた会えます。
今度会うときはふたりとも、今よりもっと幸せになっていますように。
 
 (ううん、私たちだけじゃなくて……)
 
 気がつけば、ちょっと時間がピンチです。駅まで全力疾走しなくちゃいけません。
いつもの道を駆け抜けながら、私はまたあの言葉を口にしていました。
 
 「誰の上にもちゃんと、幸せが降ったらいいね。そうだといいね」
 
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>248
キメラヴァンプが少しずつ歩を進めてくる。
しまった、冷静になられた…。
一瞬の隙を突かれ異形の触手が乱舞する。

「…………?」

その一瞬で私は死んだかと思ったが、どうやらまだ生きているようだ。
なぜか、胸のあたりが少し涼しい。
その理由に気付いた時、
叫びだしたいのは堪えられたが、頬が紅潮するのは抑えきれない。

――――嬲るのだ。
吸血鬼は性衝動として吸血をする。
その際に性交をする奴も多いと聞く。
冗談ではない、私はまだ…。

奴が異形だとしても、
人の目ではっきり分るほどに笑みを浮かべているのが見えた。
恥ずかしがっていてもこのままでは犯されるだけだ。

「見たわね…乙女の胸を!」

自分の周囲の重力を思いっきり低くする。
そして地を蹴り、高密度の重力に覆われた拳を異形に叩きつける!
  
「ジオ・インパクト!!」
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>247
 
 呪われた声帯からそれに相応しい罵声が鳴り渡る。
 聖剣で斬られ突かれ、浄火に灼かれても吸血鬼は未だ動きを止めない。
 眼は狂おしい程の憎悪の赤に澱み、だが口元は笑いの形を取っている。
 痛みと快楽が入り混じった表情。それは永劫に渇き続けた果ての残滓であった。
 
 曲がった両脚に全体重が集中する。
 床と天井を薄緑の放物線が結ぶ。跳んだのである。
 崩れかけた天井を難なく突き抜け、轟音を発して巨怪は城の屋根に躍り上がっていた。
 
 屋根自体が揺れた。
 不安定な足場も気にした様子はなく、太い足を踏み鳴らす。
 城の各所からは火の手が上がりかけていた。狩人たちが暴れ狂った結果だ。
 無論、吸血鬼は下界など見てはいない。己が居城が陥ちかけている事を気に止める程の思考は
残っていない。
 只々食欲を満たす為に、何より戦う為に、吸血鬼は猶吼えた。
 
 夜の光は冷ややかに注がれている。
 狩る者にも、狩られる者にも。
 ――果たしてどちらがどちらなのか。
 吸血鬼が人を喰らうのか、人が吸血鬼を打ち倒すのか。
 
 蒼月のみが黙然と抱くその答えは、もう直ぐ出される筈である。何れかの死を以って。
>275
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
「クククク……カカカカカ……」
 
 じわじわと追い詰めていく。
 抗いもがく様は何時見ても最高だ。
 さぁもっと抵抗しろ。心を強く持て。
  
(―――俺が、それを折ってやる)
 
 人間としては異常なほど高く飛び上がり、桁違いの威力の乗った拳を叩き込む。
 常人ならば水風船のように弾け飛んでいる筈の攻撃。
 咄嗟に防御に回した触手が何本も引き千切られ、頭部に拳が減り込む。
 
 だが、この程度で吸血鬼を倒せると思ったら大間違いだ。
 
 既に再生の始まっている触手を後ろに回し他の触手で無防備な少女を縛る。
 ぎりぎりと締め上げる度に漏れる声がたまらない。
 
 どんな力があろうと、こうなれば蜘蛛の巣に捕らえられた蝶と大差無い―――
 ニィ、と残忍な笑みが異形の顔に浮かんだ。
 
(少しばかり痛かったな……どれ、少し弄ってやるか)
 
 少女を絡め取った触手が、怪しく蠢いた。
278鹿沼葉子 ◆iUFARGOU :02/07/06 02:37
レス番まとめです。
 
<麻宮アテナvs鹿沼葉子 〜phoenix in the frantic monn〜>

>226>227>228>229>231>232>233>234>236>237>239>240>241
 
邂逅〜激突
>242>243>244>245>246>249>250
 
二重存在
>251>252>253>254>255>256>257>258>259>260>261>262>263>264
 
亀裂、幻影、氷塊
>265>266>267>268>269>270>271>272>273>274
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>277
私の体を異形の触手が締め付ける。
ギシギシと体が軋む。

「んあああっあ…」

声が漏れる。
締め付けられ、身体に力が抜けてきた時に唐突に来た。

「…えっ!?」
触手が蠢いて身体を撫で摩る。

太腿を、胸を、腋の下を横腹を粘り這う触手、そのおぞましさに思わず叫び声が上がる。

「いやぁあああああっ!!」

その声に気をよくしたのか触手が緩む。
 
「くっ、こっんのぉぉぉッ!!」
 
重力操作により触手を千切り、
両腕の自由だけを確保するとすぐ近くの胴体に拳を何度も何度も叩きつける。

異形が痛みで私を突き飛ばす。
重力操作による制御も間に合わないまま、地面に叩きつけられ一瞬息が詰まる。
>279
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
 いい声だった。
 
 傷口が広がり、血が流れ出す脇腹も気にはならない。
 むしろ血が失われる事で渇きが強くなる。
 若干人間の面影を残した顔の、乱杭歯が疼く。
 
(もう吸っちまうか? いや、まだだまだ―――)
 
 必死に今すぐ喰らい付きたくなる衝動を押さえ込む。
 どうせ吸うなら美味い方が良い。
 恐怖は先程植え付けた。
 
 後は何が足りない? 料理に足す調味料は何が足りない?
 
 甘くしただけじゃあいけない。
 熱を加えないと食材はその味を発揮しない―――
 
 再生が終わった触手が地面に倒れた少女の体を這い上がる。
 少女の口に突き込まれた触手から、とろりとした液体が流れ込んだ。
 
 甘い、甘い、堕落の味の液体が。
>159>219>265 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルトVSフォルテッシモ
 
男の手首から発射された槍のようなものが、少年の相棒らしき不思議な女性を貫く。
少年が怒りに燃えたように吐き捨てる。
 
こんな・・・卑怯だよ、私を狙うと見せかけるなんて。
私だけを狙えばいいのに・・・なのにこの人は・・・!
 
さっき表れた紫色の服の少年が、好き勝手なことを言っている。
最強? そんなのどうでもいい!
 
「何が・・・何が仕事だよ。私たち何もしてないのに!
 私は人なんか襲わない・・・人を殺したくない。
 ―――でも!」
 
剣を・・・幻魔を構える。
殺すためなんかじゃなくて・・・
 
「黙って殺されるつもりも無い!
 少なくともあなたみたいな人に、殺されてなんかやらない!」
 
生き延びるために、剣を構える。
―――白薔薇が待ってるんだから!
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>280
ダメージが抜けていない体に再び触手が巻きつく。

「くっ…、いやぁ…」

弱音が少し漏れる。
最後まで言う事すら出来ずに触手が私の口に突き込まれた。
息をする事すら出来ず、
このまま死ぬのではないかと言う恐怖が全身を突き抜けた。
だが、私の口にどろりとした液体を流し込んだだけでそのまま触手を引き抜き、
何かの様子を見守るかのようにニヤニヤと笑っているだけだった。

「…えっ?」

力の大半が抜けたような状態で立ち上がる。
能力の為に集中することがあまり出来ない状態だが、なんとか走れるようだ。

軋む身体を引き摺るように本来の目的地へと一歩、また一歩足を進める。
作戦行動用のキュロットのホックが先ほどの触手で壊れていたらしく、ずり落ちて転ぶ。

異形の嘲る声に私は子供の頃に帰ったかのように怯えるばかりだった。
そして私の体の芯からなにか、疼くような感覚が湧いてきた。

「はぁっ、うっ…な、なにぃ……?これぇ…」

脚が、腰から下が溶けてゆくようなむずがゆいような感覚の中、
草むらを掴みながら這いずって少しでも前へ進もうとする。
>282
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
「キ、キキキキ……」
 
 余りに滑稽な様を見て、思わず笑いが零れる。
 今じゃどうしていいか分からない哀れな獲物。
 それを眺めるのは最高に楽しい。
 
「キヒヒヒヒヒヒヒ!!」
 
 異形はしばらく何もせず足掻くさまを見て笑うだけ。
 哄笑が響き、より恐怖感を煽り立てるように。
  
(OK。料理は鍋にぶちこまれてカマドにかけられた。次は―――)
 
 火だ。火にかけよう。
 まずは弱火でじっくりコトコトと。 
 
 再生が進み、生え揃ってきた触手。
 その内の何本かが少女の体の上を這いずり回る。
 
 時に、蛇のようにうねりながら、緩慢に。
 時に、蛇が喰らい付くように、獰猛に。
 
 緩急を付け、少女の体をじっくり舐めるように。
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>283
追いつかれ、触手が私の中を這い進む。
既に体の芯が限界まで熱くなっていて脳がとろけそうになっている。

「ひぃっ、いやぁ……やめてぇ…」

脚を、胸を、お腹を、臍の穴に触手がまとわりつき、体中を粘液で汚してゆく。
いつしか私の体のどこかが冷たくなってきた。
恐怖のあまり失禁したのかと思った。
だが、状況はもっと忌まわしいものだった。

―――感じている。

異形の触手がもたらす触感に、異形に犯されると言う現実に。
どこか壊れた自分が女としての悦びを感じ始めている。
たまらなく恐ろしい。
師兵としての訓練も子供の頃に捨てられたと言う現実すら、
この恐怖に比べたら屁でもないだろう。

「あふぅ…、ひゃんっ!」

触手が今度は私の足の裏と腋の下をくすぐる。
力が抜け、草むらにデタラメに手をばたつかせる。
そこで硬い感触が手に触れた…。
285頼往凱 ◆RIOTayFs :02/07/06 04:59
やれやれ、ヘモ中どもがウジャウジャしてやがるな。
俺の名前は頼往凱。
怪物愛護協会から派遣されたA級ビーストガーディアンだ。
得意な技は虚無すら切り裂くと言われた妖斬剣術と、
師匠我執影から仕込まれた妖術だ。
カテゴリはBで頼むぜ?

出典 : ヴァンパイア・ガーディアン(小学館SQ文庫)
名前 : 頼往凱(らいおう・がい)
年齢 : 300かそこらだったはずだ。
性別 : 男だが?
職業 : 怪物愛護協会のA級ガーディアンだ。
趣味 : 料理とか色々だな。長生きしているんで多趣味な方だ。
恋人の有無 : (ぶっきらぼうに)保護対象兼見習ガーディアンの来須前直だ…。
好きな異性のタイプ : さあな?気がついたらって奴だ。
好きな食べ物 : まあニンニクとかには少し弱いな。
最近気になること : ヴァンパイア種どもの動向
一番苦手なもの : 養女の仁と前直のお小言
得意な技 : 虚無すら切り裂く妖斬剣術!
一番の決めゼリフ :「血以外の物もちゃんと食えこのヘモ中!」
将来の夢 :人狼の地位復活、 贖罪を終えること。
ここの住人として一言 :任務の邪魔はするなよ。
ここの仲間たちに一言 : 絶滅危惧種は保護するぜ?
ここの名無しに一言 : 吸血種に関して一応色々教えておくぜ。
>284
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
「キヒヒヒヒヒッ!!」
 
 化物は、真っ白なキャンパスを汚すことに歓喜の声を上げる。
 意味も無く暴力を振るいもたらす結果に酔いしれる。
 赤い眼はサディスティックな喜びに濡れていた。
 
(弱火でじっくり煮込むのはここまでだ。さて、仕上げといくか―――)
 
 触手は蠢くのを止め、体を拘束することに専念した。
 至上の笑みを浮かべていた異形は大きく口を開く。
 長い犬歯がギラギラを飢えた光を放って威圧する。
 
 絶望と快感の味付けがなされた血を啜る―――ああ、なんという贅沢だろう!
 
 巨大な体が傾ぎ、ゆっくりと少女に覆い被さってゆく。
 料理はもうすぐ完成する。
 もうすぐ、もうすぐだ。
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>286
もう体中が熱くなり、まともに考えられなくなってきた。
その中で手に感じた硬くて冷たい感覚に必死で集中する。

異形が私の身体に覆い被さってくる。

このまま血を吸われ、犯されつづけるかもしれないと言う恐怖と、
硬く冷たい感触がもたらす希望が、小さく震えているだけだった私の理性を呼び覚ます。

先ほどまでの触手により感覚が高まり限界以上の力が身体に漲る。
異形の生臭い息が私の首筋を這う。
その舌が注射をする前の消毒のようにぴちゃぴちゃと顔を、髪を胸を舐めている。
そして、牙が私に突き刺さろうとした瞬間、

「はぅん……。ひゃん……だめぇ……やぁ…。
 貴方に……メインディッシュをごちそうしてあげるわ!」

袖の中に隠し入れたナイフに渾身の力と重力を込め、
異形の脳天から胴体を突き抜けろとばかりに振り下ろす!
>287
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
 触手ごと脳天を袈裟懸けに切り裂かれる―――
 この時、脳の大部分が損傷。
 異形からマトモな思考能力がごっそりと奪い去られた。
 
 もう料理を仕上げようなどという思考は無い。
 よろよろと後退した後、何とか踏みとどまる。
 そして、触手がデタラメに振るわれた。
 
(コロス、スウ、コロ―――)
 
 敵意一色に塗りこめられた脳内に、料理を楽しむゆとりは無い。
 ただ殺して血を吸う。それだけであった。
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>288
異形の脳天を切り裂いた瞬間、思考がクリアーになってきた。
気だるげな気分のままでは死んでしまう。
まだ、恋だってしたことはないのに。それでは嫌過ぎる。
その思いが私の体を加速させる。

無造作に振るわれた触手は先ほどまでの嬲る目的ではなく、
ただ純粋に殺すための意志の具現としてそこにあった。

その暴風の中、私は自分の重さを極限まで殺し、風圧で吹き飛びもう一つの目的地にたどり着く。

「吸血鬼は通常の方法では、土に還れないのよね?
 殺すのは性分じゃないけど………いいわ。
 貴方を死なせて上げる」
 
そう、結局私はイノヴェルチの私兵と言えども殺すことは出来ず、
手足を撃ち抜いたりする事で戦闘不能にするしか出来なかった。
甘いのかもしれないけど、それでよかったと思う。
人であるのなら、まだ取り返しはつくかもしれない。

目の前にいる相手は後悔する心さえ無くした存在。

―――せめて最後は人として在れるように殺すしかない。

公司の為だけではなく、人が人として在る為に。

先ほど私が折ってしまった太目の枝を拾い、重力で包み、異形へと投げつける。

「バイバイ―――」

そして銀のナイフを腰だめに構え異形へと突進する。
>289
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
 
 槍のように枝が頭部に突き立つ。
 
 赤と白とピンクの飛沫が飛び散って異形の頭が弾けとんだ。
 だがまだ異形は攻撃を止めない。
 考えることすら出来ず。
 本能すら消し飛んだ今。
 
 ただただ力を撒き散らし、殺そうと躍起になって足掻く。
 
 これは正に、呪いと言えるのではないだろうか。
 吸血鬼に身を貶めた、その代償―――
 
 その呪いに突き動かされ、異形はひたすらに触手を振るい続ける。
 壊れた玩具のように、目標すら確認しないままに。
 
「グォォォォォ!!」

 声にならない叫びが、唸り声になって喉から吹き上がる。
 何処か悲しげですらある、凄惨な咆哮が響いた。
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレック
>290
―エピローグ―

能力の限界を超え、先ほどまでのダメージが動くたびに体の内側を傷つける。
人であることを辞めた悲しげな咆哮。
その声を聞き、彼の苦痛を少しでも早く止めたいと言う思いだけで身体を動かす。

頭部が吹き飛んだ異形の脇をすり抜け、
先ほど傷つけた脇腹から両手を突っ込み心臓へとナイフを刺す。

さらさら、さらさらと朝焼けの風に沿って異形の体が灰になり、散ってゆく。

「灰は灰に塵は塵に…だったかしら。
 せめて安らかに眠ってね…」
 
緊張の糸がふっと切れて倒れそうになるが、累積したダメージのおかげで眠れそうにない。
苦笑して体を引き摺りながら私のチームの合流地点へと脚を進める。

―――この格好だけど…大丈夫だよね?

そう思ったのもつかの間、後輩が泣きながら私に抱きついてきた。

「あいたたたたた、苦しいってば…」

合流地点では太陽の下で全員無事に待っていてくれた。
何とか上着を受け取り、そのまま倒れ込むようにして意識を閉じた…。

―数日後―

「『生命の巫女』の護衛ですか…?」
体調も大分回復し、次の任務として私に割り振られたのは近々、
公司の主目的である計画の鍵となる人物の護衛だった。

人として生きるために…。どうすればいいかを私はまだ迷いながら行くのだろう。

たとえ、公司から離反したとしても。

                  to be continued..→東京アンダーグラウンド.
292報告書 ◆ZAKOAVfc :02/07/06 06:29
キメラヴァンプVSチェルシー・ローレックの戦闘記録
>223>224>225>230>238>248
>275>277>279>280>282>283
>284>286>287>289>290>291
>219>265>281 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト

 “最強”の男、フォルテッシモはけして理由無くこの場に居合わせたわけでは無い。
 彼が此処に居合わせる理由、それは統和機構から下った任務を遂行するという――“仕事”。
 ラルフ・グルトがこの場に存在する理由と、まったく同じものだった。
 
 任務の内容その物も、牧師のそれと酷似している。
 この世に存在する不安定要素“MPLS”の捕縛。または捕殺。
 牧師が“化物”を狩るのと同様に、フォルテッシモはMPLSを狩るのだ。
 
 任務の対象であるMPLSは『言像化』『言影化』などを操る“能力者”。
 “化物”という存在の生きる価値を認めず、狩り続ける“狩人”。
 常識を逸した身体能力を誇る化物に単身勝負を挑み、そして勝利を勝ち取る“戦士”
 
 一週間、その男を監察してきた。
 その結果、統和機構から与えられた情報以外に一つだけ分かったことがある。
 それは、
 
 ―――<幻崩の衛士>ラルフ・グルトは、フォルテッシモと闘う“資格”がある―――
 
 ということだ。
 
 改めてここにいる二人の戦士と見比べてみたが、やはり牧師が一番輝いている。
 しかしそうなると、不要となった二人は排除せねばなるまい。最高の舞台に観客は不要だ。
 
「もしかしたら、おまえ達もこの俺を愉しませる“価値”があるかもしれない。だから――」

 フォルテッシモが一歩踏み出すと同時、彼の腕が宙を泳ぐ。
 
「―――闘って死ね」

 ユラリと泳いでいた腕が、大きく薙ぎ払われる。同時、世界が引き裂かれた。
 空間が切断され、廊下と客室を分け隔てる壁を扉ごと粉砕し、その破片が二人の戦士へと高速で襲いかかる。
294須藤雅史(M):02/07/06 10:30
>293
最強決定戦・乱入
 
「フフフ・・・この私をさしおいて最強などと言うとは・・・」
 
鏡の中の世界で、蟹のような鎧の男が呟いた。
彼の名は須藤雅史、仮面ライダーシザーズ。
伝説の英雄とまで呼ばれた男である。
ほんの1部で。
 
「最強は私と言うことを教えてあげましょう!」
 
そう叫び、ミラーワールドから戦いの場に入ろうとした時。
 
「へくしっ!」
 
シザーズは思わず盛大なくしゃみをしてしまった。
勢い余ってたたらを踏み、足がそばのバケツに嵌まる。
気にせずに前へ動こうとするも、よたよたと情けない歩き方しかできない。
 
そして、最終的に―――――――
彼は思いっきりこけた。
ちょうど落ちていた手頃な石に、腰のベルトがぶつかり・・・。
ベルトに入っていたカードデッキが破壊された。
 
「ぐぎゃああああああああああ!!」
 
カードデッキを破壊されたライダーの末路。
シザーズこと須藤は、契約モンスター・ボルキャンサーのお腹に入ってしまいまった。
 
(須藤雅史・仮面ライダーシザーズ・死亡)
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルトvsフォルテッシモ
>265>281>293

「出来ますかな? 貴方がたに」

男は相変わらず皮肉げな笑みを浮かべたまま、半妖の少女と
それを庇う式神使いの少年に向かって言葉を投げかける。

「決意と結果が、必ず結びつくとは限らんのですぞ?」

そして再び向けられる長銃。引鉄に掛かった指が動く。
跳ね上がる銃口。撃ち出される銃弾。
白銀の弾丸が少女に吸い込まれるその前に――――

背後にいた少年が放った『何か』が、少女達のいる部屋の壁を打ち壊した。

(何事、でしょうか・・・)

目に見える一撃ではなかった。少年はただ腕を振るっただけだ。
だが、目の前にある瓦礫は決して夢ではない。
もっとも―――

「それが何であれ、私の邪魔をするなら排除するまでですが」

右手の長銃を少女がいる部屋の方向へ向けたまま、左手の義腕に仕込んだ銃口を
イレギュラーの少年に向ける。

「さて・・・何が目的かは知りませんが、引いてもらえませんか?」
296横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/06 19:23
 横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード  
 導入1 
 
 タイルと煉瓦の街並みは、どーやっても慣れない。 
 霧深い町中を歩きつつも俺は、ついて回る異国の空気に違和感を感じていた。 
 いつも通りの大荷物を背負いながら、俺とおキヌちゃんは美神さんの後を必死に付いていく。 
 イギリス某市――――GS美神除霊事務所の面々は、石畳の上にあった。 
 
 う〜む。どーせヨーロッパなら、地中海の方でバカンスとかが良かったな〜。 
 初めての街にもかかわらず足早に進む美神さんを追いかけながら、そんなことを思う。 
 
 ふと、俺の傍らを女性が歩いていく。長い黒髪が何つーか、ええ感じの娘だった。 
 漂ってくる匂いも何ちゅーか・・・・・・た、たまらん! 
 飛び掛かろうとする衝動を抑え込みつつ、しばし彼女の残り香を楽しんだ。 
 くぅ、えげれす! 良い国じゃ! 
 
「横島ぁ! 何やっとるか!」 
 
 美神さんの怒鳴り声にようやく我に返る。拙い拙い、美女も良いけど今は仕事。 
 なんでも、旧家でヤバメのオカルトアイテムが見つかったから、回収するとか何とか。 
 よりにもよって美神さんに頼むか? とは思ったけど、何でも西条の知り合いらしい。 
 
 あ〜、チクショー。 
 あいつがらみと思っただけで、こー、やる気がスルスルとなくなるっちゅーか・・・ 
 
 スコ――――――――ン! 
 
 と。後頭部にハイヒールが突き刺さった。頭が割れてだくだくと血が流れる――って!  
 
「早くしろっ! こんガキャ!」 

 しくしくしくしく。 
  
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 
『はい!?』 
 
 俺たち三人の声が重なる。 
 
「も、もう、持って行ったって?」 
「ええ、先程。霊能者のお二方が来まして入れ違いに・・・」 
 
 石になり固まる美神さん。 
 どーやら、目的のブツは誰かに持ち去られてしまったらしい。 
 あ〜あ、せっかくイギリスくんだりまで来たのに――――――
297名無しクルースニク:02/07/06 19:23
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>276
 
 月が冷えていた。
 凛冽な夜の気配が、静かに全身を覆う。
 朧気に雲の合間に揺蕩う光源が、済んだ空気の中で凛と映える。
 病んだ空気が、壊れそうな雲を吹き流して消えて行く。
 異郷の夜。蒼褪めた満月。何も――空だけは変わらないのだろう。
 
 蒼月が雲に泳ぐのを見届けたのは、一瞬。
 地鳴りを轟かせ、大気を震わせ、足場を破壊するような勢いで異形の巨躯が飛翔した。
 十数メートルの距離を置いて対峙するのは、闇を纏った、寧悪を通り越した貌形。
 蒼い光に映し出される体の表面は、内臓を想起させる蠕動を繰り返している。
 
 ――コレで、終わる。
 
 踏み締めた足場が、頼りなく軋んだ。
 崩壊を間近に控えた廃ビルの様に、巨城は既に原型を留めてなどいない。
 城の彼方此方からは、崩落の火の手が舞い上がっている。俯瞰する光景の中、燃え上が
る中庭の木々が、吹き上げ花火の様に闇を染め上げていた。
 
「……終わりだよ、ヴァルダレク。よぉく見とけよ? お前の世界の終わりを。
 その頭に多少でも理性が残ってるなら――」
 
 青年は、血で滑る柄を右手で強く握り直し、霜刃を月に添えるようにヴァルダレクへと差し向けた。
 蒼褪めた月と炎の照り返しを取り込み、白刃が幽明の輝きを燈す。
 ままならない左手を沿えるように柄に置き、ヴァルダレクとの距離を目算。
 
 ――一瞬。
 バケモノの元に駆け抜けるのも、バケモノが攻撃に移るのも――
 息を軽く吸う。肺の中を、氷の様な気配が凍らせて行く。思考が、剃刀のように冴えて行く錯覚。
 
 一瞬。
 幽かな鍔鳴りの音が、階下の爆音に掻き消された。
 その、刹那。
 
 月光を背に負う白い獣は、バケモノとの間合いをゼロに変えている。
 振り子のように支えられた刃が、蒼い月光の軌跡を帯びてヴァルダレクへと疾った。
298横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/06 19:24
>296 の続き。 
 横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード  
 導入2  
 
「今すぐそいつの身体的特徴を吐け――――――――――――ッ!!」 
 
 ぎゅ、掴みかかり。 
 
「な、なななな、何をしますか!」 
「美神さん、落ち着いて! それじゃ完璧に犯罪者!」 
「五月蠅いわねっ! アレは、アレは何としても手に入れなきゃならないの!」 
 
 旧家の主である初老の婦人の襟首を握り、ガクガクと揺らす美神さん。 
 ああ、なんかヤバイぞ。いつもに増して悪役っぽい! 
 
「そ、そうだわ! 今すぐ米国のホットラインに核弾頭の出前を・・・」 
「やめんかっ!」 
「アレが他人の手に渡るぐらいなら、消すー!」 
「だからって人を巻き込むなー!」 
 
 錯乱し喚き散らし取り乱す。妙にどでかい携帯電話を片手に叫ぶ美神さんを宥めつつ、 
 俺とおキヌちゃんは今日もまた、神経をすり減らした。 
 
 またそんな金になるモノなのか? 
 簡単に終わる仕事じゃなかったのか!? 
 いっつも、いっつもこんなんばっかりや〜!  
 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 ・ 
 
 一人は痩身で短髪、紳士風の優男。もう一人は長い黒髪の女性。 
 老婦人から聞き出せたのは、ここまでだった。 
 矢のように飛んで行った美神さんと残るおキヌちゃんを置いて、俺も石畳へ走り出す。 
 
 長い黒髪、入れ違い。 
 間違いない、持ち逃げしたのはあのねーちゃん+α! 
 綺麗な顔してなんて面倒な、いや、えげつない事をするか。 
 ええ匂いやったのに、やったのに・・・美女なんて信用出来ない生き物なんだ〜! 
 
 ――――ん、匂い? 
 
「そうだ!」 
 
 手の中から二つ、文珠を取り出す。そして、片方に「匂」片方に「追」の文字を刻んだ。 
 二つの文珠は音もなく浮かび上がると、互いに干渉しながら回転して宙を飛ぶ。 
 さあ、俺の記憶の中にある匂いをこれで追尾する! 
 
「わははははははははっ! 待ってろよ、黒髪のねーちゃん!」 
 
 色々欠落しているような気がしたが一通り忘れて、俺は引き寄せられるように街を駆けた。 
 ねーちゃんが、美人のねーちゃんが、俺を待っている!
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォート 
>298

魔法使いの青年とその助手の女性のちょっとしたお話。
それはいつもの様に見なれた町を眺めながら歩いている所から始まる。


「いやぁ・・・真逆こんなに上手く行くとは思って無かったよ。」

見た目はいかにも紳士のような格好で、見方によれば女性にも見える容貌をした
青年が、黒い包みで隠された『物』を大事そうに抱えながら歩いていた。
その様子は身内の彼女から見てみれば、新しい玩具を買え与えてもらった子供の様にも見えた。

そんな様子を、半歩程度後ろから不満げに付いて来る女性が一人。
黒髪の綺麗な髪を靡かせ、綺麗なドレスで着飾ったその姿は淑女の言葉を形に表わした。
・・・と言っても言い過ぎではない。

青年の方はジャック・セトフォード・カーライル。

そして―――女性の方はジュヌヴィエーヴ・コトフォード。

「いいんですか?」
「なにが?」

ジュネが問うた疑問に疑問で返すジャック。

「だってそれ、他人様のものなんじゃないんですか?」

そう―――ジャックがこれを手に入れたのは数分前の話。

たまたま通りかかった家から禍禍しい気配がするとジャックが旧家の屋敷にに立ち寄った事から始まった。
前にやったようなインチキ霊媒士の真似事で家の悪魔でも祓おうかと家の老夫婦に話を持ち掛けた所。
どうやら、ジャック達を前もって呼んだ霊能力者と勘違いした様で、
曰く付きのその『物』をジャック達にすんなりと渡してくれたのである。
そして、さらに達が悪いのは――――その『物』にジャックがかなりの興味を抱いていた事だろう。

「いいんじゃない?一応、僕達だって『霊能力者』さんなんだからさ」
「魔法使いって霊能力者なんですか?」

暫しの沈黙。

「たぶんね」
「たぶんってなんですか!?」
>299の続き

コンマ1秒で鋭い突っ込みをいれるジュネ。
いつもの調子でこんな他愛も無い会話をしている二人であるが、
黒い包みをジュネの目の前に掲げ、いつものような呆けた顔から一変して真面目な表情に変わる

「でもまぁ、危ない所を助けてあげた我々は言わばいいことをしてあげたわけだよ」
「危ない所を助けた?」
「そうとも。もし、仮に今来ると言っていた霊能力者が普通の霊能力者だったら・・・」

ジャックはニタリと愉快そうに微笑を浮かべながらこうつぶやいた。

「これの魔力で、とんでもない事になってたんだよ?」

イマイチ実感が湧かないが、ジャックの言うコトなのだから信用しよう。
ジュネは自分の中でそう言い聞かせた。
そして、再び静けさ漂う街の中を歩き出すと、奇妙な足音――――
いや、猛牛のような雪崩のような、そんな轟音が聞こえてきた。

「ああ、そろそろ来る頃だと思ってた」

独り言のようにジャックが虚空を見つめながら呟くと『物』とは別に持ち歩いている
黒い鞄の中から見た目には普通の手袋とブーツを取り出し、ジュネに向かってめんどくさそうに
放り投げた。
それを受け取ったジュネは何のことか分からずに只黙って渡された手袋とブーツを見つめるだけだった。

「多分、老夫婦の言っていた霊能力者だろうね。取り戻しにきたんだろ?これを」

ジュネはなるほどと相槌を打ち、その場で手早く戦闘態勢に入る。
いつもの戦闘用の服は来ていないが、そんなものはお構いなしで戦えるのが彼女の
持ち味でも有る。

「悪いけど、ここでしばらく足止めを頼めるかな?」
「わかりました。ジャック」

ゆっくりと街の中へと消えて行くジャックを背中で見送りながらジュネは迫る霊能力者を
ただただ待っていた。
301横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/06 19:51
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>299 >300  
 
 宙をくるくると回る文珠がパキン、と音を立てて割れた。 
 細かな霊気の破片を散らし、大気を小さな輝きと流れに充たす。 
 薄く蒼いヴェールの先に――――その、目的となる女性は居た。 
 
 黒髪の、美人のねーちゃん! 
 
 ドレスを纏う淑女は、不釣り合いな手袋とブーツを纏い、長く艶やかな黒髪を揺らす。 
 何やらヤバイ雰囲気というか、霊感にビンビン響くモノはあったが、構わない。気にしない。  
 
 あのねーちゃん、黒髪のねーちゃん、美人のねーちゃんにまた会えた! 
 ああ、横島感激――――――ッ! 
 
 地を蹴る。 
 石畳にスニーカーを銜えさせ、砂を散らして加速を生ませた。 
 俺のしなやかな肢体が風を渡る羽根のようになって、空を舞う。 
 
 跳ぶ。 
 空中で巧みに姿勢を整え、吶喊の型を作り上げた。 
 両手を広げ、その熱い熱い抱擁で美女を迎えるために! 
 
「おねーーーーさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」 
 
 その瞬間。 
 確かに俺は目的を忘れていた。 
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>301

轟音はすぐさまジュネのいる道まで聞こえてきた。
その音は、理由は無いがジュネの女性の感が拒絶する事を促していた。

「なんか・・・嫌な予感」

人影が近づくにつれ、追っ手と思われる霊能力者の姿が見えてきた。
見た目は少し野暮ったい格好をしているが、歳は16,7。ジュネよりも 
少し年下と言った所だろうか?
年下と言えども霊能力者。
ジュネはかなりの達人なのだろうと思いながらその姿を見ていたが

・・・・・・・?
 
どうも様子がおかしい、殺気も、怒気も、何も感じられない。
それよりも、これは煩悩に満ちた独特の気が少年から沸き立つ。
ジュネは(別の意味で)身の危険を感じ、即座に悪魔召喚の呪文を唱え始める。

「其は骨を包み肉を包み―――」

呪文を詠唱するごとにジュネの身に徐々に悪魔が降り立つ。
その姿は人型をしてはいるが、あきらかに人以外の別の次元の生き物。
それは戦う為だけに生み出されたような、そんな雄々しい姿を表わし始めていた。

が、



『おねーーーーさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!』

詠唱に集中する間もなく霊能力者はすぐ目の前に来ていた。
来ていた、と言うよりも飛びかかってきた。
攻撃するわけでもなく。ただ、己の煩悩を満たすが為に。
そして、そのターゲットにされているジュネと言えば、


「いやああああああああああああ」

現在過去未来、古今東西、老若男女、当たり前の拒絶反応を見せた。
ただ、その拒絶方法は普通の人間とは違っていた。

何せ、悪魔召喚。
拒絶の際に振り上げた拳から別の巨大な拳が現れ、ジュネが触れずとも
変わりにその強大な魔の力で霊能力者の小さな体を丸ごと拳で殴り飛ばした。

霊視の能力さえなれけば只のサイコキネシスにも見えるのだろうが。

少年の体は宙を舞い、綺麗な星空にこそならなかったが物理学に乗っ取った
綺麗な放物線を描き空から地面に叩き付けられた。

「いきなり何をするんですか!あなたはぁぁぁぁ!」

瞳に涙をうっすらと浮かべ、何故か両手で体を隠しながらジュネは
無残にも地面に叩き付けられた少年に向かって半泣きで怒鳴った。
これもまた、普通の女性の反応だろう。
303横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/06 21:00
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>302 
 
 殴られました、どでかい腕に。 
 凹みました、体とか腕とか。 
 とっさに栄光の手でガードしなけりゃ、向こう側へ逝ってしまいそうな一撃でした。 
 
「なっ!? なっなっなっ・・・」 
 
 霊気を、霊体を右手に伝わらせて楯を刃を腕を作る能力「栄光の手」。 
 それと交錯した瞬間、女性の腕から生まれた巨人の腕は、淡い光を放った。 
 向こうも霊体の腕を――――俺と同じ能力者か? 
 
 とか思いつつ、俺の体は石畳に頭から突っ込んでいた。 
 あ〜、やべ、ちょっと血とか出てる。何でいきなしこんな目に俺が・・・! 
  
 ――――――あ。 
 ――――――アレ、取り戻すんだった。 
 
「ちょ、ちょっと待って! 俺は貴女に危害を加えるつもりは――――――」  
「いきなり何をするんですか!あなたはぁぁぁぁ!」
 
 ううう、警戒されてる。しかも泣かせちゃったよ。  
 これは、これでは、俺のバラ色の人生、いや計画に色々とヒビがっ! 
 
「あああ、すんません! おねーさんがあんまり綺麗で、ついこんな真似を!」 
 
 体を反転させて、素早く石畳に体を伏せる。 
 そのまま、地面に頭を叩き付けるような土下座土下座土下座! 
 
「お、俺、横島忠夫って言います! 綺麗なお姉さん、是非お名前を〜!」
 
 血と涙でぐちゃぐちゃになりながらも、精一杯の笑顔を浮かべて訊ねた。 
 
 そーだよ。 
 話によれば相手は二組、でも居るのはおねーさん一人。 
 これはきっと、悪い男に騙されてるに違いない! 
 
 ならば・・・・・・俺が救う! 
 
 目の奥でギラギラとした炎が、燻った音を立てていた。 
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>297

 鈍い音を立て白い一刀は吸血鬼へ斬り込まれていた。
 あやまたず、とは云えない。斬りつけたのは胴でも命中したのは右掌だったから。
 胴を薙ぐ寸前に吸血鬼が手で防ぎ止めたのだ。
 鉄板じみた鱗を切り裂き、刀は一瞬だが止められた。異常な筋肉が刀身を咥え込んだのである。
 僅かとは云え、それは吸血鬼にとって十分過ぎる間と云えたろう。
 斬り込まれた刃ごと、強烈な掌底が狩人へ叩き返された。
 
 無論、刺さったままの刃は自らの打撃によりますます己が肉体を抉る。
 そんな事には何ら頓着していない、異常極まる強打。
305嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/06 21:47
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
 西暦2005年東京、謎の連続猟奇殺人事件が巷を騒がせる。
 その裏で、1つの異変が起こりつつあった。
 そう、本当に密やかに……
 ただ、それは確実に東京を、人の世の中を蝕みつつあった。
 
 ――予兆
 
 人々の鬱憤を反映するかのような凶悪犯罪の多発……
 各所で発見される犬や猫の惨殺死体……
 次第に色彩を失っていく木々や花々……
 
 黒いモノが確実にヒトを、モノを侵食していた……
 
 ――地獄門
 
 現世と常世を繋げる門……
 それが開きつつあった……
 1人の男の手によって……
 
 ― 奥多摩山中の洋館 ―
 
 男は、窓から天を仰いで気を集中させ始める。
 
「……もうすぐだ」
 
 空間が胎動を始め、自分の許容量を超えるほどの知識と、溢れんばかりの力が流れ込んでくる…。
 
「……全ては終わり、そして始まる」
 
 男―四神が一、朱雀を守護に持つ男、嘉神慎之介はニヤリと笑った。
 
「だが、まだ、それには少々、時間がかかるようだ」
 
 洋館のドアが音を立てて開く。
 
「ふっ……、壬生谷の血筋の者か。私を止めに来たのか」
 
 嘉神はスラリと愛刀「瑞鳳」を抜いた。
 鞘から抜かれると同時にその美しい刀身から炎が迸る。
 
「だが、お前のような者に私の美学を汚させる訳にはいかん。お前の死を以って、新たな時代の幕開けを演出してやろう」
 
 ――本来、人の護り手でありながら、人に絶望し、現世壊滅を図る「朱雀」を守護に持つ男、嘉神慎之介
 
 ――人に希望の種を残し、そのために死すら厭わない決戦存在、結城小夜
 
 同じ立場にありながら、絶望を象徴する男と希望を象徴する少女。
 今、現世の命運をかけた戦いの火蓋が切って落とされた。
306結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/06 21:50
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

少女が、その地に足を下ろしたのは今から数時間ほど前だった。
ただ一人、新幹線から降り立った少女は、
その身に祭祀の衣装を身にまとっていた。
 
「ヒノカグツチは巫女を遣わしました。」
 
迎えに来た警官に少女はそれだけ答えると、
静かというより凛とした表情で、その一歩を踏み出した。
 
 
そして今。
少女は、一体の荒神の前に立ち塞がっていた。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
「何ゆえ、南方の守護者たる朱雀が人に仇をなすのですか。」
 
小夜は、その眉根をひそめた。
 
「かつて、よきゆめだったゆめよ。
 貴方が人に害なすならば、私はそれを祓います。」
 
小夜は、全ての感情を捨て去り、世界の免疫機構として己を意識する。
 
彼女の肩に、光り輝く羽を持つ鴉が出現する。
 
 
そは、とじめ闇を照らす戦巫女。
 
人類の生み出した決戦存在。
 
対神専用に調整された一個の兵器。
 
絶望のみが支配する闇の中、光り輝く翼が、揺れた。
 
 
それは、吹き消せば消えてしまいそうなほど、儚い光。
 
 
「でも、まだ希望は潰えてはいない」
 
 
闇に対抗すべく人類が投入したのは、たった一人の人間兵器。
年端も行かぬ一人の少女。
 
一国を支えるには小さすぎる肩が、大きく上下に揺れる。
 
 
「対象を目視で確認。掃討に入る。」
 
 
小夜が走り出す。
>293>295 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルトVSフォルテッシモ
 
「・・・っ!」
さっきまで壁だったものが突然砕かれ、私たちに襲い掛かる。
大小さまざまの、無数の破片が。
 
全てを避ける余裕はない。
ある程度の大きさのものは剣で受け止め叩き落し、大きすぎるものは避ける。
細かい破片は一切無視・・・避けようがないのだから。
その細かい破片が体中を痛めつけても、それはほんのわずかの間のこと。
多少の打撲などすぐに再生し、痛みはひいていくはず。
 
―――全て、私があの人の血を引いてしまっているからできる芸当だった。
感謝する気持ちにはなれないけど。
 
 
襲い掛かる破片をひたすらやり過ごし続け、視界が開けたとき。
あの紫の服の少年が男と対峙していて、一方男は私たちとその少年に
それぞれ銃口を向けていた。
 
・・・動けない。
男が私に銃口を向けているのもさることながら・・・あの少年。
何をどうやって壁を粉砕したのか、私には全くわからない。
これでは、下手に動けない・・・
 
油断なく剣を構えながら、しかしただ情況を見守ることしか
私には出来なかった―――
308嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/06 21:54
>306
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
 嘉神に駆け寄ってくる小夜を見据え、呟く。
 
「ふっ、勘違いするな。四神の役目とはあの利己的で残忍な人間どもを守り続けること?」
 
 ――怒声。
 
「否! 断じて、そのようなことではない!! 我々四神、本来の務めとはこの現世の秩序を護ること!!!」
 
 嘉神の右手の愛刀「瑞鳳」が灼熱の赤に包まれる。
 彼自身の確固たる意思の強さを具現化するかのように……!
 
「……邪悪なるヒトに未来は無い。今こそ、新たな再生の時!」
 
 剣が煌々たる炎を纏い、振り上げられる。
 
 
              轟
 
 
 と爆音とともに炎の波が人の希望ー小夜を飲み尽くすべく襲い掛かった。  
309結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/06 21:56
>308
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

小夜は振り上げられた刀を見据え、飛んだ。
 
放たれた焔の波を紙一重で回避する。
そして、音もなく着地した。
 
「私とて、この国のあり方に疑問がないわけでは有りません」
 
「私は、希望。私の戦いが、私の死が、人が忘れたものを思い出させる」
 
「私は私の血でこの国を蘇らせて見せる所存!!それが、我らの生き様!!」
 
そう叫ぶと再び走り出す。
 
「……ヤタ!」
 
小夜の声に答え、光り輝く翼が彼女の周りを旋回する。
 
「参る!」
 
大きく、嘉神めがけ飛んだ。
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>303 

ぜいぜいと肩で乱れた息を吐きながら、倒れた少年を睨んでいた。
こう言う攻撃にあまり馴れていない所為か、はたまた彼女のトラウマか―――
少々過剰反応してしまった事は事実である。
ジュネは息を整えながら、自分のした事に少し反省をしていた。

すると少年がすぐさま起き上がり、地面を頭を擦りつけ何度も何度も自分のした事を謝っていた。
確かに少年が全面的に悪いわけだが、ジュネの心は自分が何か酷い悪いことをしたのでは
ないかと言う罪悪感に捕らわれていた。
少年が血と涙でぐしょぐしょになりながらも満面の笑みを浮かべて顔を上げ、
自らの名前を告げとジュネの名を尋ねた。

『お、俺、横島忠夫って言います! 綺麗なお姉さん、是非お名前を〜!』

こんな状況でも、横島があんまりにも道端でナンパをしてくる男のような言いぐさをするものだから
ジュネも少し安心した。
そして、一息溜息をつき、頬をぽりぽりとかきながらバツが悪そうに自己紹介した。

「ええと・・・私はジュヌヴィエーヴ・コトフォードって言います」

そして、しゃがみ込んで横島の手をそっと取り、ゆっくりと立ちあがらせた。
にっこりと笑顔を浮かべながら。

「ジュネって呼んでください。横島さん」

見れば横島も悪い人間ではないようだ。ジュネはそう思った。
と、言うよりも悪いことをしているのは彼女たちなわけなのだけれども、そ
れはジュネにとってあまり関係ない。ジャックが望む事ならジャックもそれに従うだけ。
それが彼女が思っている自らの存在意義だった。

「あのぉ・・・悪いんですけど・・・アレから手を引いて頂けないでしょうか?」

今の彼女の目的はあくまで足止め。
敵の殲滅などでは決してない。
自分の説得などで到底引いてもらえるとは思ってはいないが、やってみる努力はある。
正直、ジュネはこの(一応)人畜無害な少年を痛め付けたくは無かった。
だからもし、説得に応じて引いてくれれば御の字。ダメなら戦うだけだ。
彼女はそう思っていた。

「一応、私の連れは腕の立つ魔法使いなんです。ですから・・・アレの事は心配せずにこの件から手を引いてください」

この説得に応じてくれるかどうか。


その結果は――――――語らずともわかるだろう。
311嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/06 22:13
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
「蘇らせる……? ふっ、愚かな……」
 
 嘉神はヒトをわずかたりとも信じていない。
 
「ヒトは自らのエゴで貪欲に喰らい、侵食するだけの存在! そこにどれほどの救いがあるというのだ!?」
 
 洋館の上空に浮かぶ黒い穴、現世と常世の境界、地獄門がその大きさを拡大させつつあった。
 そこから聞こえるのは哀しみ、怒り、その他諸々の怨唆の声……
 彼はそれを全て、身に受け、ヒトという種を信じることが出来なくなった。
 
「聞こえないか!? あの空に浮かぶ怨念の声。ヒトのエゴの塊が!」
 
 光と共に突進してくる小夜。
 それに構え、嘉神は大上段に構え……
 
「壬生谷の者よ! お前は人の何を信じるというのだ!!」
 
 剣が朱雀の浄化の炎に包まれ、嘉神が剣を一気に振り下ろす。
 
                    斬
 
 直後、赤い閃光が走った。
312横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/06 22:27
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>310  
 
「ジュネさんですか、綺麗な名前ですね!」 
 
 差し出された手の柔らかさにドキドキしながら、俺はゆっくり立ち上がる。 
 ああやっぱり、この女性はええ人や。きっと騙されてるだけなんだ。 
 ジュネさん! 貴女は俺が必ず救いだしてあげるからな! 
 そして目を醒ましたジュネさんは俺と幸せになるんじゃ――――ッ!  
 
 が、そんな淡い期待を裏切るかのようにおねーさんは、 
 
「あのぉ・・・悪いんですけど・・・アレから手を引いて頂けないでしょうか?」
 
 おずおずとそんな申し出をして来た。 
  
「一応、私の連れは腕の立つ魔法使いなんです。 
 ですから・・・アレの事は心配せずにこの件から手を引いてください」
 
 手を、引く? 
 つまり、アレを諦めろって事か? 
 
「で、出来るわけないだろっ!」 
 
 咄嗟に叫んでいた。 
 
「見逃したなんて美神さんに知れたら、どうなると思ってるんすか!」 
 
 あ、あの取り乱しっぷり。一体いくらの金が動くのやら。 
 そして、それを丸々逃したりなんかしたら―――――――――― 
 
 
 コロサレル。 
 
 
 静止衛星軌道から突き落とされるか、マリアナ海溝の底に捨てられるか、 
 核弾頭に括り付けられて太陽に叩き込まれるか・・・ 
 
「どっちにしても破滅じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」 
 
 ぶわっと、涙が溢れた。 
 若い身空でそんな死に方、しとうない! 
 
「ダメです! アレがないと、俺は俺は・・・だから、返してぇ!」 
 
 泣きながら、俺はジュネさんに縋り付いた。 
 最悪――――文珠を使ってでも、この人から聞き出さないと。 
 
 人生計画のあっけない頓挫と迫る恐怖に俺は、また、涙を流した。
313結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/06 22:31
>311
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

「なればこそ!」
 
小夜は、ヤタを旋回させながら迫る。
 
「夜が暗ければ暗いほど、闇が深ければ深いほど、燦然と輝く一条の光」
 
風が、小夜の髪をすいた。
 
「私の命を薪に、希望と言う炎は蘇るのよ」
 
嘉神が刀を振り上げる。
刀が焔に包まれた。
小夜は、ヤタを消して御幣を構える。
 
「悪鬼退散!」
 
青い光の波が、辺りを包んだ。
そのまま、小夜は御幣を片手に嘉神に肉薄する。
 
「ヤタ!」
 
光り輝く翼が、嘉神の身体を引き裂かんと、迫る。
314名無しクルースニク:02/07/06 22:47
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>304
 
 止められた、と認識した瞬間、強風が顔を撫でた。
 迫る異形の腕。掠る所か、直撃で貰った。
 息が詰まる。肺が潰れる。骨が折れる。
 
 ――やり過ぎだ、このバカ。
 
 無茶な衝撃。コンクリートを容易く砕く腕が叩き付けられる。
 クソ野郎。無茶だ、ソレは、幾ら何でも――畜生。
 吹き飛ばされる瞬間、残った力を右手に集中させて両足でヴァルダレクの腕を蹴り飛ばし
た。小動物のような抵抗。無駄な足掻き。フザけるな、まだ終わるかよ。
 
 斜面になった屋上を転げながら、左手を叩き付けて勢い削減し、刃を突き立てて
全身の勢いを殺し切った。
 立ち上がる――立ち上がれない?
 体が、マトモに動かない。
 コレまで? 何て脆さだ、俺は。息が吐き出させない。何だよ、血か? フザけるな、
しっかり働けよ、肺。痛いな、くそ。痛覚は邪魔だ。消えろ。
 
 早く如何にか――しろよ。立ち止まるな。こいつの生命活動を停止させろ。
今直ぐ。お前に殺せないバケモノは居ない。消せ。
 思考が激痛にシェイクされる。
 殺せ。
 動け、殺せ早く奴を殺せ如何にかしろ敵だ消滅させろどうすれば出来る奴を始末する事が
俺はだから奴を殺さなきゃならない早く如何にかして――
 吐血。
 意識が薄れる。目の前にはヴァルダレク。殺さないと。
 
 ――ああ、殺せ。
 
 酷く冷静に、心の奥で誰かが言った。
 困憊で動かない筈の左腕が、一瞬でスイッチナイフのブレードを閃かせ、闇に紛れる様に
ヴァルダレクへと投擲していた。
 青年の瞳は、ナイフの行方を確認はしない。
 
 全身が微細な蒼い燐光に包まれる。
 光球が炸裂する。
 倒潰の騒音を押し潰して、高々と咆哮が響いた。
 城壁をその質量で押し潰しつつ、巨大な白狼が其処には具現している。
 蒼月の輝きを瞳に宿して、白狼はヴァルダレクへと跳んだ。
315嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/06 22:59
>313
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
 かつて、男が「地獄門」で見たモノ……
 世界の負の記憶……
 
 ――神の名の下に虐殺を繰り返すモノたち
 
     力無きモノは泥に塗れ、犯され、奪われ、骸と化す――
 
     ただ、廃墟には死にゆく者の怨念の声が響き――
 
 ――ある国……
 
     ドレスを着飾り、毎夜、舞踏会に繰り広げる華やかな人々――
 
     その裏で暗いスラム街に、食うものも着る物もなく寒さに震え、ただ木偶と化して生きる人々――
 
 ――ある山村……
 
     生きるために、泣きながら「口減らし」と称し、我が子を殺す母親――
     
 彼はその他、諸々の闇を全て見た。
 そして、出した結論は……
 
                滅び
 
 そして……
 
                再生
 
 
316嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/06 23:00
>315
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
 赤い閃光の後に光の翼が走る。
 瞬間、鮮血が宙を舞う。
 
 膝をつく嘉神。
 だが、その目は依然としてひるむ気配はない。
 
「少し、余興が過ぎたか……。だが、滅びが止まらぬ。時は来た……!」
 
 大気が震え、洋館上空の穴がさらに巨大化する。
 
 辺りを覆う青白い光……
 轟音……
 
 衝撃とともに洋館が瓦解していく。



 廃墟と化した洋館跡で対峙する2人。
 だが、前の対峙と明らかに異なる様相を呈していた。
 嘉神の剣は青白い炎に覆われ、嘉神自身から異様ともいえる威圧感……
 並みの者なら対峙することすら出来ないほどの……
 
 ――彼は地獄門の負の力を自ら取り込み、文字通り、滅びの代弁者となった。
 
「全ては終わり、そして、始まる……」
 
 呟きとともに嘉神の左手が青く光りだす。
 
「我が美学に泥を塗った罪……、存分に償ってもらおう!」
 
 嘉神の左手から放たれる青白い巨大な閃光……
 憤怒、嫉妬、嘆き、妬み……
 ありとあらゆる負が凝縮された光が小夜を襲う!
317結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/06 23:32
>315>316
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

「……朱雀……ここまで堕ちましたか!」
 
小夜が、顔をしかめる。
御幣を構えなおした。
 
嘉神の腕が、蒼い閃光を放つ。
 
「っ!」
 
小夜が、身体をひねる。
閃光が小夜の身体を掠めた。
飛び散る、鮮血。
 
小夜は、嘉神を睨みつけながら御符を投げつける。
一つ、二つ、三つ、たくさん。
 
「終わらせはしません。この国には、まだ守るべき民衆が、夢があります」
 
「滅びを美学と語るなら、あなたはもうすでによきゆめではない。去れ、あしきゆめよ。」
 
「希望とは、深い絶望の中より生まれでるもの。
 己が最後と言う覚悟が、希望を生む!」
 
そして、小さく息を吐いた。
 
「悪鬼退散!」
 
青い光の波が、辺りを包み込む。
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>314
 
 飛来するナイフは左手が難なく捌く。
 だがその隙に、閃光の中から生じた白狼が突撃して来る。
 それをかわす余裕は吸血鬼に無い。
 胸元へ飛び込む白い衝撃を受け止めきれず、一人と一匹――否、最早二匹の獣は
もつれ合って屋根を転がった。
 
 吼え声に吼え声が返された。
 吸血鬼の巨体の上から、ほぼ等しいサイズの狼が圧し掛かる。
 
 対する吸血鬼の四肢がうねった。
 長首と等しく数倍に伸び、狼に押さえつけられながらその脚に絡みつき、純白の毛に爪を立てる。
 四肢を追う様に首も更に伸長した。
 狼の首筋へ喰らいつかんと顎が開く。
319嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/06 23:50
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
「……守るべき民衆、夢などない。お前が抱いているモノ、全て、幻想だ」
 
 そう、あるはずもない。
 彼が命を賭けて、守ってきた民衆。
 それは次の日には平気で、自らのエゴで他者を貶める存在に慣れるのだから……
 
「あしきゆめ……? ヒトを守ろうとするモノ、それ自体があしきゆめだ」
 
 嘉神が剣を大きく右から左へとなぎ払う。
 ただ、それだけで嘉神の周りに負の炎が迸り、札は塵と化した。
 
「愚かしく、そして脆い……。最後の希望など、私がここで消し去ってくれよう」
 
 嘉神の指先が青白く光る。
 
「壬生谷の者よ、お前も所詮は愚者、救いがたき屑だったということだ!」
 
 瞬間、小夜の足元から光の刃が生えた。
 彼女を串刺しにすべく……!
戦士たちの決勝前夜 〜ミア・フォーテー&星川翼vsヌアラ王

プロローグ


「――――ココでOK、だよね?」

闇夜にまぎれて宮殿の中を移動しながら、私は『相棒』に話しかけた。
目的は、ヌアラ王の暗殺。
・・・卑怯とか言うな。こっちは命がかかってるんだから。
いや、私自体は死んでるけどさ。カードの力で仮初の生を謳歌してるだけだし。
なら何でかって?
アイツに聖痕が集まると世界が滅びるらしいから。
それだけは願い下げでしょ?

取り合えず、目の前の扉から私が陽動で突っ込み、『相棒』が窓から不意打ちをかけるはずになってるけど・・・。

「よし、いくか!」

気合を入れなおして扉をぶち破る私。
『ブレード』を構え、一直線に奥にいる人影に突進する。

「ヌアラ王、覚悟!」
321結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/07 00:19
>319
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

小夜が、飛んだ。
同時に足元から生まれる光の刃。
 
肉を断ち切る音とともに、小夜の左腕が切り飛ばされた。
 
赤い、雨が降る。
 
小夜は、表情一つ変えず嘉神めがけて走る。
 
「悪鬼退散!」
 
残った右腕で、御幣を振る。
嘉神に押し寄せる青白い光の波。
小夜は、さらに走る。
 
懐から御符を取り出し、投げつける。
 
「悪鬼退散!」
 
再び、御幣を振りかぶる。
二度目の波。
さらに、駆ける。
 
小夜の眼前に嘉神が迫る。
 
「ヤタ!!」
 
彼女の呼び声に答え、光の羽持つ鴉が飛ぶ。
あらゆる物を断つ羽が、羽ばたいた。
 
「勝負!」
 
小夜は御幣を大きく振りかぶり、嘉神の喉笛めがけ突きたてる。
 
とじめ闇の中、一人舞うは少女。
それは、人類の意地であり、足掻きであり、悲しみ。
322ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/07 00:29
「戦士達の決勝前夜」
>320
 玉座に腰を下ろしたヌアラは、突然の闖入者を一瞥すると、その顔に薄
い嘲りの笑みを浮かべた。

「ふっ…私を倒すというつまらぬ夢でも見たか。それとも、ジョカの為に
 少しでも疲労させておくつもりか。どちらにせよ愚かなことだ………」

 そう言うと、ヌアラはゆっくりと玉座から立ち上がり、いつの間にその手に
持ったのか、魔法のように右手の中に現れた槍を、ミアが振るうブレードに
打ちつけ、その身体を大きく弾き飛ばした。

「聖痕の輪に囚われ、王殺しの槍も持たぬお前に何が出来る、ミア・フォーテー。
 見果てぬ夢を見た代償、その命で払ってもらうぞ」
323嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/07 00:44
>321
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
「ふっ……」
 
 切りおとされた小夜の腕が宙を舞った。
 それを意に介さず、小夜から放たれる霊符による連続しての衝撃波。
 
「無駄なことを……」
 
 嘉神が前方に掌を突き出す。
 青白い壁が衝撃波を防ぐ。
 
「むう…・・!?」
 
 ……その壁を切り裂く一条の光。
 間髪いれず、小夜が嘉神に肉薄し……
 
 ――小夜の御幣が嘉神の首筋に突き刺さった。
 
 血が嘉神の白い衣装を赤く染める。
 
「……まさか、これほどまでとはな。だが、我が美学、この程度では終わらぬ!」
 
 嘉神の左手が小夜の首を掴む。
 
 ――ドン!
 
 と青白い業火が小夜を包み、爆発。
 そのまま、小夜の身体はボールのように宙を舞い、吹き飛んだ。
 
「……立て。私の美学とお前の希望、どちらが上か、答えを出す時だ……」
 
 嘉神の全身が負の、青白い炎に包まれる。
 
 それは彼の守護者である朱雀の形をした炎。
 だが、意味するは浄化の炎では全てを無に還す滅びの炎。
 
「塵となれ、エゴの塊よ……!」
 
 嘉神の叫びとともに嘉神の身体が、堕ちた朱雀が、小夜と飛翔した。
 人の最後の希望を無に還すべく……!
324星川翼 ◆KaSYAyFU :02/07/07 00:55
「戦士達の決勝前夜」
>320>322
 
 ブレードが弾き飛ばされる金属音。
 それとほぼ同時に窓から部屋の中へ飛び込む影があった。
 
「いやー、ゴメンゴメン。遅れちゃったよ。
 遅れた分はしっかり働くから許してくれない?」
 
 緊迫した空気に割り込む、やたらと明るい声。
 手に細身の剣を携えた痩身の青年。
 それが先程部屋に飛び込んできた人影―――星川翼であった。
 
「女の子はもっと優しく扱わないといけないよ?」
 
 言葉を言い終わるのが速いか、という速度で青年は大きく踏み込んだ。
 剣の届くギリギリの間合いを見切って停止。
 その間合いから、素早く細剣での刺突が繰り出される。
戦士たちの決勝前夜 〜ミア・フォーテー&星川翼vsヌアラ王
>322>324

「だぁぁぁぁっ!! 遅いっ!」

ったく、このスケベナルシストはもう・・・

「ここで負けたら、もう後がないんだからね!」

少なくとも、私はアイツの聖痕の一つにされ、『相棒』は命を落とすだろうから。
・・・黙って出てきた以上、他のみんなはアテに出来ないし。

私はいまだ痺れの残る腕で『ブレード』を構えなおし、『相棒』の刺突のタイミングを見計らって
時間差をつけて斬りかかる。

さらに、回し蹴りもセットにして。
326結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/07 01:16
>323
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

壬生谷のおじ様はお元気でしょうか?
小夜は、今宵、命をかけて戦うことといたしました。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
小夜の体が、飛んだ。
そして、二、三度地面をはねると、そこで止まる。
祭祀の衣装が血と泥に塗れた。
小夜はすっと立ち上がる。
その無表情な瞳が、一瞬愁いを帯びた。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
私も、この国のあり方に疑問がないわけではありません。
ええ、それはもう。
でも、思うのです
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
「人が生きる時、ゆめがうまれる。暗い絶望と嫉妬のゆめ。
 憎しみと後悔が産む、自分は罰せられるだろうという、ゆめ。
 けれど、それでもひとが生きようとするときに、もう一つのゆめがうまれる。
 はかなく頼りなくとも、たしかに存在する、夢。」
 
御幣を構える。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
誰かがやらなければならないのではないかと。
誰かが戦わねば、この国は死んでしまいます。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
「どこかで誰かが自分を見守っている。 影で人知れず、あしきゆめと戦っている!
 さもあるがように語られる、ありえない伝説。
 だが、人が戦うには十分な理由!人が人を信じるに十分な理由!」
 
御幣を振りかぶった。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
私は、その為に血を流して戦うつもりです。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
小夜の身体を、青い光が包む。
わずかな光だが、確実に存在する、希望。
 
「滅!」
 
小夜が、迫り来る朱雀へ御幣を向け、跳ねた。
ただ、一直線に、朱雀へ向けて。
青い光が、御幣を、小夜の腕を包み込む。
 
 
精霊が、答えた。
327ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/07 01:23
戦士達の決勝前夜
>324>325
 ヌアラは、突き出された剣を払いのけ、そのまま槍の中央を支点にして
くるりと槍を回転させると、今度は柄の部分でミアのブレードを払いのけた。

 そのままミアの回し蹴りを空いた左手で掴み取ると、翼に向かって投げ
つける。

「ふっ、よかろう。決勝前夜の肩ならしだ。存分にかかって来い」
328星川翼 ◆KaSYAyFU :02/07/07 01:35
戦士達の決勝前夜
>325>327
 
「う―――わたたっ!?」
 
 崩れた姿勢のまま、放り投げられた相棒――ミアを受け止めて後ろへ倒れる。
 至近距離で投げつけられても反応できたのは何故か。
 それは彼の持つ特殊能力の恩恵であった。
 驚異的な動体視力を持ち、物質の破砕点を見抜く目――『貫目』。
 これが彼の能力。
 
「ああ、ちょっと役得かも……ってそんな場合じゃないか!」
 
 柔らかい体の感触を楽しむのもそこそこに跳ね起きる。
 余裕綽々と言った表情でこちらを見下すヌアラ。
 その表情を打ち崩してやるべく、そこへ向かって鋭い三連突きが繰り出した。
329嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/07 01:42
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
 ――絶望の体現の青き朱雀
 
 ――人の希望の、万物の精霊の力の加護を纏った小夜
 
 両者は激突し……
 
 ――辺りを覆うは白き閃光
 
 ――静寂
 
 光が晴れた後、地に膝をつく嘉神とそれを見下ろす小夜の姿があった。
 もう、嘉神には先ほどのような異様な威圧感はない。
 既に彼の行使した力は彼の体の許容量を超えていた。
 
「愚かな人間どもなど、その歴史もろとも消し去ってくれるはずが……」
 
 嘉神の顔に浮かぶは笑み。
 だが、彼に後悔はない。
 彼は彼の信念の下に全力を尽くし、敗れた。
 ただ、それだけのこと。
 
「ふっ、だが、この野望の大穴とともに果てるのも又、美学か……」
 
 小夜を見上げ、嘉神は告げる。
 
「行け、己の始末は己でつける。お前は見事、その人の希望とやらを貫いてみるがいい」
 
 嘉神が右手を天にかざすと同時に轟音が辺りに響く。
 彼の野望の大穴、地獄門がその規模を弱め、閉じようとしていた。
 
 天を揺るがす轟音が響き、空気が震え……
 



 完全に崩壊した洋館と荒地と化した周囲の森。
 そこに1人、結城小夜は佇んでいた。
 
 空は今までの暗雲が嘘の様に晴れやかに青く澄み渡っていた……
戦士たちの決勝前夜 〜ミア・フォーテー&星川翼vsヌアラ王
>327>328

「え、あ? わわ!!?」

何で私の体が宙を飛んでるの!?
(答え:投げられたから)
いや、分かってるけど・・・じゃなくて!

「とと、さんきゅ・・・・・・って、ああ!!」

こら、ヘンなトコ触るんじゃない!

・・・ふぅ、畜生・・・

「これもみんな、アンタの所為だぁぁぁぁっ!!」

逆恨み上等!
私は思いっきり高くジャンプして飛び蹴りを放つ。
スカしたその顔に、靴跡をつけるために。
331ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/07 01:57
「戦士達の決勝前夜」
>328>330
 上空から迫る蹴りを見もせずにかわしつつ、三段の突きを難無くいなす。
 かつて武力によって世界を制し、異世界にまでその手を広げたヌアラ
という怪物にとっては、この程度の攻撃は攻撃ですらなかった。

「どうした、その程度か。ならば、こちらから行くぞ!」

 ヌアラは余裕の表情を浮かべたまま王殺しの槍を構えると、翼に向けて
風も断ち切らんばかりの斬撃を放つ。
332星川翼 ◆KaSYAyFU :02/07/07 02:10
戦士達の決勝前夜
>330>330
 
 斬撃が吹き抜けた直後、左肩に傷が刻まれ血が噴出す。
 『貫目』の動体視力で避けたつもりでいたが避け切れなかったらしい。
 
「痛ッ、やってくれるね……!」
  
 だが、手にした剣を振るうには右手があれば十分だ。
 
 弓のように腕を引き絞る。
 次瞬、引き絞られた見えない弦から解き放たれたかのように銀光が迸った。
 
 物質に必ず存在する、そこを突くことで容易く破壊出来る破砕点。
 胴体に視認した破砕点を剣の切っ先は確実に捉えていた。
333結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/07 02:18
>329
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

朱雀の化身は、最後に穏やかに微笑む。
彼の腕が動き、門が、閉じる。
後に残るは荒野。
廃墟。
澄み渡る空。
よきゆめであり、あしきゆめであった者の最後は、至極穏やかだった。
 
 
小夜は、小さく息を吐いた。
そして、がくりと膝をつき、倒れこんだ。
切り落とされた腕から流れ出た血が、巫女装束を赤く染め行く。
 
「壬生谷のおじ様……褒めて下さいまし。
 小夜は……小夜は、ヒノカグチの巫女が主命、果たしました……」
 
地に横たわりながら、呟く。
そして、満足げに微笑んだ。
 
 
そして、目を閉じる。
戦士たちの決勝前夜 〜ミア・フォーテー&星川翼vsヌアラ王
>331>332

(さすが化け物・・・)

気配だけでかわすなんて。それも、別の攻撃を捌きながらだし。
ああ、こいつに弱点はないの!?

「・・・でもチャンス!」

相手は完全に背を向けている。
しかも槍を突き出した直後のため、姿勢も崩れ気味だ。

私は『ブレード』を横薙ぎに振り回す。
tたとえ『相棒』の攻撃をどうにかできたとしても、この攻撃は対処出来ない筈!
結城小夜対嘉神慎之介
>333
 私がそこに辿り着いたのは、全てが終わったその直後だった。
 
 日本を襲う霊障の排除という私の任務を果たすために、私はしばらく前
から日本を覆う不穏な空気を察知し、独自に調査を開始していた。

 先程、ようやく、とある老人から事件の核心たる情報を聞き出し、箒に
飛び乗ってやってきたものの、先刻まであれほど立ち込めていた暗雲
は既に晴れ、青空まで覗かせている所を見ると、事件は私の干渉なく
解決に至ったらしい。

 私は事件が本当に解決したのか、念のため、首謀者と目される人物の
洋館後に降り立った。
 
 そこで私が見たものは、大量の瓦礫となぎ倒された木々と抉られた大地と。
 そして、その中央に倒れ付した、一人の少女だった。
 私はその少女に近付き、その顔を見て、一人納得した。

「ヒノカグヅチの巫女……そう、人が作った最強の魔導兵器がこの件に
 関わっていたのなら、どちらにせよ、私の出る幕は無かったわね」

 片腕が無いようだが、微かに胸が上下しているところを見ると、まだ息は
あるらしかった。ならば、助けないわけには行かないだろう。

「ふみこ・オゼット・ヴァンシュタイン、任務完了しました。なお、現場後に
 おいてヒノカグヅチの巫女を回収。これをしかるべき場所に送った後、
 帰還します」

 誰にでもなくそう報告すると、意識を失ったそれを脇に抱えて、私は
箒に飛び乗りその場を後にした。
336ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/07 02:59
>332>334
 相も変らぬ余裕の表情を見せたまま、ヌアラはその突きを難無く払おう
と手を動かした。だが、その直後、背後から襲いかかる殺気に、ヌアラの
腕は、我知らず背後のミアを薙ぎ払っていた。

 結果として、破砕点への直撃は免れた物の、翼が放った突きはヌアラの
身体を抉り取り、鮮血が脇腹からほとばしる。

「やってくれたな、小娘……死に急ぎたいなら、望み通りにしてくれる!」

 ヌアラはミアを憎憎しげに睨み付けると、左手を虚空に突き出した。
 すると、、空から一枚の石版が舞い降り、その手の位置で丁度停止する。

 その石版の名は、『聖痕書(アル=アジフ)』と言う。

 この世の全てを司る24の聖痕によってその石版に書き記された聖句
は、この世に対しての絶対の権利を持っていた。

「――――――――――――――――――」

 ヌアラは、今はもう失われた言葉でその聖句を読み上げていく。
 それは、聖痕を持つものをこの世から消去する絶対の魔法だった。
>295>307 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト

 粉砕した壁の向こう側に写る二つの影。
 その人影に焦点が合わさると同時、フォルテッシモは動き出す。
 が、その歩みは一歩も前進することなく止まることになる。
 
 突き付けられた銃口から滲み出る殺意が、彼の足を止めたのだ。
 フォルテッシモの鋭く研ぎ澄まされた視線が、牧師のサングラスを抉る。
 
「邪魔は、しない。むしろ結果的におまえの手伝いをすることになる」

 同時。視線を真横に動かすと、今度は瓦礫の奧に佇む二匹の少年少女に視線を突き刺す。
 
「だから、ラルフ“元”牧師。あんたは此処で“畑が荒らされるのを黙って見つめている案山子”のように
大人しく突っ立っていろ。あの二人は俺が殺してやる」

 そう言うと、再度フォルテッシモは歩きはじめた。
 無防備に、何の構えも無しに瓦礫を乗り越え、ズンズンと二人へと間合いを詰めて行く。
 その愚かな行為とは裏腹に、彼の表情は絶対の自信と不適な笑みに包まれている。
 
「そして、それが終わったらいよいよ……俺はあんたと闘えるということだ」

 自信と悦びに包まれたその表情は、とても幸せそうな表情だった。
338結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/07 03:02
>335
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>

そして、目を覚ます。
目覚めた小夜の目に入ってきたのは、見慣れた天井だった。
飛騨の山奥、小夜が東京に呼ばれる前、生活していた部屋。
 
「ここは……私は……」
 
夢だったのか。
そう考え、身体を起こそうとして、バランスを崩す。
あるはずの、左腕がなかった。
 
「……夢でなかった……」
 
なら、何故自分はここに居るのか。
 
思い出せない。
 
片腕で何とか立ち上がると、部屋の外に出る。
よく知っている風景が、そこにあった。
 
「生きている……」
 
呟く。
 
小夜の脳裏に蘇る、朱雀の言葉。
貫け、と。
人の希望を貫け、と。
 
目を、閉じる。
 
風が、小夜の長い髪をすいて、流れた。

                  ≪結城小夜・生存≫
339嘉神慎之介 ◆bzSUZAKU :02/07/07 03:42
<結城小夜vs嘉神慎之介 〜slight hope in the dark〜>
レス番まとめだ。
ふっ、コレも美学か……。
 
邂逅
>305>306
 
激突
>308>309>311>313>315>316>317>319
>321>323>326
 
終焉
>329>333>335>338
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>312

『で、出来るわけないだろっ!』

簡単に言ってしまえば交渉決裂。
分かってはいた事だがいざ口に出されると悲しいものである。
しかし、どうやらこの少年は今回の件が失敗すれば上司とおもわれし者から
仕置きを受ける様。
横島にも何やら事情がそれなりの事情があるようだ。

―――――――しかし、それはジュネには関係無い。


『ダメです! アレがないと、俺は俺は・・・だから、返してぇ!』

ジュネは泣きながら縋り付く横島を、感情も何も無い伽藍の瞳で見つめながら
『敵』を排除すべく、再び悪魔召喚の呪文を唱え始める。

横島ハ良イ人ダカラ殺サナイ。
ダケド、『敵』ハ排除シナケレバナラナイ。

ここで横島を無力化すれば、本来の目的の足止めを達成する事になる。
それが彼女の与えられた任務、役割なのだ。

「其は骨を包み肉を包み。其は気を裂き、岩を砕く者。」

詠唱。

ジュネもよくわかっていないが、悪魔と自分の契約のような物とは別に自分に
暗示を掛けるような物ではないかと最近考えていた。
事実はわからないが、召喚以前に自分の心も悪魔の様に強暴かつ残虐に冷酷にする為の暗示。

そうでなければ戦いという物は勝ち残れない。
大切な物も場所も守れない。

戦うと言う事は何かを守るために他人を傷つける事だとジュネは常々思っていた。


「汝は鎧、黒鉄の鎧。汝は銀矛、血濡れの矛なり。汝は聖盾、金い壁。汝は斧槍、偉大なる槍―――」

再び凶悪な鬼のような姿をした悪魔がジュネの体に降り立つ。
彼女は縋り付いていた横島を自分から離すようにして蹴り飛ばすと、素早く決着をつける為
即座に拳を地面を転がっている横島に向かって振り落とす。
そのモーションと同じく、ジュネの体を包む様に召喚された巨大な悪魔がその大きな拳を
思いっきり地面に叩き付けた。

「貴方に何の怨みも憎しみもありません。だけど―――少し痛い目を見てもらいます」
341星川翼 ◆KaSYAyFU :02/07/07 10:29
>334>336
 
(―――話には聞いてたけど、デタラメ過ぎない!?)
 
 確かにヌアラに刃は突き立った。
 だが、破砕点を外した攻撃では致命的なダメージを与える事は出来ない。
 自分の失敗はさらっと流し、相手の強さを呪う。
 しかし、呪ったからどうなるという訳でもない。
 さっさと切り上げて次の行動へ移る事にした。
 
 剣を引き抜く最中、ヌアラの唱える言葉が耳に届いた。
 全く分からない言葉だが―――危険だ。
 身内の言霊使いの能力にも似た、妙な響きの言葉が翼の本能に訴えかけた。
 
(女の子を危険に晒す訳にはいかないからし、もう一頑張りしようか!)
 
 躊躇している暇も無ければ、体勢を整える暇も無い。
 剣へと霊力を込め、突きと共に解き放つ。
 
「リレイヤーッ!」
 
 剣の先端から放たれた霊力による不可視の弾丸が、何かを呟く口へと直進。
 不安定な体勢のまま剣を引き戻し、もう一度剣を突き出す。
 狙うは石版の破砕点。
 どちらかが囮になればそれでいい。
 阻止だけを考えた、二段構えの剣が疾った。
342横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/07 11:45
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>340 
 
 縋り付くが蹴り飛ばされ、あっけなく地面を転がる俺。 
 やっぱりダメか。くぅ〜、綺麗な顔してなんてきっつい女性だ! 
 ――――って、まだ来ますか!? 
 
「ん、がぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」 
 
 振り下ろされた一撃を転がって避ける。道路をあっけなく砕いて、石を散らさせた。 
 し、死ぬ、あんなのまともに喰らったら死んじまう! 
 あんな細腕なのになんて力だ――――――――ん? 
 
 違う? ああ、違うんだ。 
 俺と同じ力かと思ったけど、それじゃ腕力まで増えない。それに何より、ジュネさんに 
 重なる影が、その巨躯を微かに揺らしていた。あれは妖怪? いや魔族、悪魔かもしれない。 
 ジュネさんの化け物じみた力は、そんな、異形の力だった。 
 
 「貴方に何の怨みも憎しみもありません」  
  
 表情は悲しげで、空虚で、何かを偽る仮面のようで。それでもやっぱ綺麗で。 
 優しいジュネさんの面影を宿したまま、禍々しい腕を振り上げる。  
 
 「だけど―――少し痛い目を見てもらいます」
 
 憑かれているのだろうか。それなら、あの悪魔だけ祓えばケリは付く。 
 ああ、そうであって欲しい! それなら、本当にジュネさんを救えるだろうし・・・ 
 
 よし、文珠で! 文珠で・・・文珠・・・ん? ああ、残り一個しかねぇ! 
 ダメだ、男の居場所を聞き出すのに文珠が要る。 
 別の手段を、そうだ今日は―――― 
 
「こっちだって、武器ぐらいあるんだからな!」 
 
 背負った鞄を素早く降ろして、口を開く。中にはたっぷりと攻撃用装備が入っていた。  
 霊体ボウガン、神通棍、そしてお札。大量のお札を探りながら、ある一枚取り出す。 
 つまり――――――事の重大性と俺の命の危機と、美神さんの許容する経費を天秤に掛け、 
 割り出された金額のお札を―――――――― 
 
「喰らえッ! 五十円攻撃!」 
 
 俺の霊力を帯びたお札が、ジュネさんを覆うような悪魔に向けて飛んだ。 
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>342 

ジュネは一撃では仕留められなかった悔しさに思わず舌打ちをする。
あまり時間はかけたくは無い。
何故ならばこの召喚の呪文は時間制限が限られているのだ。
正確な時間こそわからないが、効力時間は長期戦を単純にこなせるほどの
時間的余裕がないことは確かだった。
強大な力にはリスクが付き物。世の常である。

横島が器用に転がっている状態から拳を避け、此方への攻撃意欲を表わしているのを確認すると
それに対抗すべく防御体制を取る。
ジュネの体に降り立つ悪魔は自らの体を抱き込む様に両手を交わすと
そのまま相手の様子をジッと待つ。ジュネも同じように抱え込んだ動作をしているからだ。

そして横島の選択した攻撃は、霊能力者の専売特許とも言える御札を使った攻撃だった。

『喰らえッ! 五十円攻撃!』 

『ゴジュウエン』と言う言葉には聞きなれなかったが、札での攻撃をを防御する。

ぱす。

気の抜けた音。
横島の放った札の攻撃は情けない音を発し、ジュネにも、悪魔にも触れる事無く
悪魔の『瘴気だけ』で蒸発してしまった。
あまりの出来事に一瞬、塵となって風に流される数秒前に札だった物を
眺めてしまった。

「あの・・・あまりこう言う事は言いたくないのですが・・・」

おずおずと呆気に取られている横島に話しかける。

「お札・・・変えた方がいいですよ?」

がっくりと肩を落とすジュネ。
それに連なって同じく肩を落とす悪魔。
この光景はなかなか愉快というか滑稽な物である。


はっと我に帰り、自分の指名を思い出すジュネ。
ここで相手のペースに飲まれるのを恐れたジュネは横島を掴み掛かろうと腕を大きく広げ
そのまま横島の方へと走り出した。
ジュネの悪魔が広げた腕の大きさはかなり大きな物で、十メートル以上或る事は確か
その大きな腕を横島に向かって、拍手をするかのごとく手を振り下ろした。
戦士たちの決勝前夜 〜ミア・フォーテー&星川翼vsヌアラ王
>336>341

肩口に、大きな衝撃が走り、私の体が壁へと叩き付けられた。
だが、

「ナイスっ!!」

『相棒』の突きがヌアラ王の脇腹に痛撃を与えていた。
初めてこちらの打撃が通ったんだ。

「私も負けてられないね・・・」

言いつつ『ブレード』を腰溜めに構える私。
相手に向かってエネルギーを収束し――――

「――――――!!!?」

石板から溢れた力が、私の『存在』を否定する―――
―――王の歌声―――『相棒』の叫び声―――震える世界―――薄れ行く身体―――

意識が、ふつりと途切れて消えた。
345横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/07 15:34
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>343  
 
「え? あ、あれ?!」  
「あの・・・あまりこう言う事は言いたくないのですが・・・ 
 お札・・・変えた方がいいですよ?」
 
 必殺の五十円の札は――――触れる前に消えてしまった。 
 ああ、やっぱり。せめて一万円ぐらい使うんだった〜! 
 しかもジュネさんに気を使われるし。それに何だ、悪魔まで肩を落とす事ないじゃねーか! 
 
 畜生・・・なら、いや、まだまだ札も手もある! 
 少しばかりお仕置きとか減給とか覚悟すれば、じゅ、十万円ぐらいのお札は・・・ 
 
 ――――――何故だろう、はらはらと涙がこぼれてきた。
 
「悲しくなんか、悲しくなんか・・・!」 
  
 溢れる涙をゴシゴシと拭って、また鞄へ手を伸ばす。神通棍を一本抜き出しベルトへ刺すと、 
 手近なお札を掴んで――――――と、ジュネさんが巨大な腕を広げながら走り寄ってきた。 
 十メートルはある巨人の如き腕が風を切り大気を割り、俺へ奔る。 
 
 でかいのに、思ったより早い!?
 
 合わせるように後ろに跳ぶが、逃げきれない。指先が俺を捉えようとして―――――― 
 
「し、死んでたまるかぁ!」 
 
 咄嗟に、お札を叩き付けた。 
 霊波を帯びた長方形の紙は障気の壁を抜け、悪魔の腕へ張り付く。 
 そして、爆発。 
 圧倒的な霊圧と衝撃を撒き散らして、俺の体をあっけなく吹き飛ばした。 
 
 
 ――――――今の札、いくらだ!? 
 
 
 体勢を立て直しつつ、着地。霊気のカスが漂う中、俺はジュネさんの方へ身構えた。 
 けど、だけれども。逃れられた安心感よりも、やってしまった経費が怖い。 
 恐怖ばかりががたがたと募り、体が小刻みに震えたり震えなかったりした。 
346ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/07 15:37
戦士達の決勝前夜
>341>344
「ちっ……小賢しい真似を」

 ヌアラは心底忌々しそうに吐き捨てると、アル=アジフの詠唱を中止し、
放たれた弾丸を槍の一振りで消し飛ばすと、アル=アジフを破壊せんと
走る翼の剣を素手で掴み取り、そのまま壁に向かって翼の身体を投げ
つけた。

「ふん…お前らごときの為にアル=アジフを使うことも無い…」

 ヌアラは、一度垣間見せた本性を冷静な仮面の下に押し込むと、静か
に槍を構えなおした。

「ふっ…貴様らには過ぎた名誉だが、特別に王殺しの槍で死の祝福をくれ
 てやる。喜べ。本来なら王を殺すための槍で貫かれるのだ。ありがたく思
 うがいい!」

 言うが早いか、その場から疾風のように駆け出したヌアラは、壁に叩き
つけられた翼に向かって、神速の勢いで槍を槍を振り下ろした。そのまま
身体を回転させつつ横薙ぎに払い、続けざまに神速の勢いで槍をしごき
だす。
347ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/07 15:42
戦士達の決勝前夜
>341>344
「ちっ……小賢しい真似を」

 ヌアラは心底忌々しそうに吐き捨てると、アル=アジフの詠唱を中止し、
放たれた弾丸を槍の一振りで消し飛ばすと、アル=アジフを破壊せんと
走る翼の剣を素手で掴み取り、そのまま壁に向かって翼の身体を投げ
つけた。

「ふん…お前らごときの為にアル=アジフを使うことも無い…」

 ヌアラは、一度垣間見せた本性を冷静な仮面の下に押し込むと、静か
に槍を構えなおした。

「ふっ…貴様らには過ぎた名誉だが、特別に王殺しの槍で死の祝福をくれ
 てやる。喜べ。本来なら王を殺すための槍で貫かれるのだ。ありがたく思
 うがいい!」

 言うが早いか、その場から疾風のように駆け出したヌアラは、壁に叩き
つけられた翼に向かって、壁ごと断ち切らんとばかりに槍を振り下ろした。
そのまま 身体を回転させつつ横薙ぎに払い、続けざまに神速の勢いで
槍をしごきだす。
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルトvsフォルテッシモ
>307>337
 
「時間外労働は勘弁して欲しい所ですな」

少年の視線をサングラス越しに受け止め、男は手に持っていた銃を掻き消した。
そのまま少年が部屋の中に入っていくのを確認した後、

「言ったでしょう? 『邪魔をするな』と。引く気がないというなら・・・」

そのまま男は半壊した部屋の中を一瞥する。
男の口元が微かに歪み・・・

部屋の中に、大量の爆発物が現れた。
そして、魔法のように男の掌中に現れる起爆装置。

「――――――排除、です」

爆発。
349星川翼:02/07/07 16:14
戦士達の決勝前夜
>344>347
 
 壁に叩き付けられ、背中を痛打。
 一瞬息が詰まり意識が遠退いた。
 だが、消えそうになる意識を必死に手繰り寄せる。
 敵はまだ、こちらに向かってきているのだから。
 
「ちょっと……ハード過ぎないかな!?」
 
 人間を遥かに超えた動体視力をもってしても、ヌアラの槍はブレて見える。
 これを捌くのはかなり骨だ。
 一撃目は大きく横に転がり、避ける。
 だが二撃目は横から迫り、首を両断せんと唸る。
 
 それを防ぐために頼りない細身の剣を掲げ、受け止めに行く。
 如何に普通の武器と違うとはいえ受け止めれるかどうか―――これはほとんど賭けだ。
 
(サン・テグジュペリは欠けはしない―――!)
 
 自信をそのまま注ぎ込むように、霊力を細剣込める事で強度を上げる。
 サン・テグジュペリと名付けられた細剣はそれに応え、青白い燐光を放った。
 
 そして、金属同士のぶつかり合う轟音が室内を揺らした。
350:02/07/07 17:15
やあ、今日は調子が悪いみたいですね
でも戦いたいので募集 しますよ
誰かいますか<たたきたい人
351ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/07 17:43
戦士達の決勝前夜
>349
 槍と剣とがぶつかり合い、甲高い独特の金属音が室内に響き渡った。
 直後に訪れた静寂。 
 その中で、鍔迫り合いによる単純な力と力の押し合いが、静かに、だが
圧倒的な質量を持って展開されていた。

 だが、その顔に焦りの見えないヌアラに対して、星川翼の顔には、明ら
かな焦燥があった。元々、星川翼は細身の身体であり、スピードで押す
タイプなのである。幾多の戦場を駆け、そして幾千の敵をその力で葬って
来たヌアラとの力比べでは、分が悪いのは明らかだった。

 ヌアラは、そんな星川の表情を見て嘲笑の笑みを浮かべると、その腕に
さらに力を加え、星川の身体ごと一気に槍を振り抜いた。

「ふっ、聖痕も持たぬお前がよくやる……だが、この肩慣らしにもそろそろ
 飽きて来た所だ。残念ながら余興は――――――」

 そのまま、槍を星川の頭上から振り下ろす。
 瞬間、キィン、という澄んだ音が響いた。
 全力で振り下ろされた槍は、それを受け止めたサン・デグジュペリを叩き
折り――――――

「――――――終わりだ」

 星川翼はその身を朱く染めた。
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>345

窮鼠猫を噛む。噛まれた方はかなり痛い。
ジュネは今回その言葉を改めて身にしみて感じた。

横島を掴もうとした手は新たに出された札で大きく吹き飛ばされ、危うく
悪魔の手が消し飛ぶかと思ったくらい危ない状態だった。
それだけ強力な攻撃だった。

「痛・・・っ」

札を使った攻撃での爆発で数メートル吹き飛ばされ、その衝撃で家の近くの壁に
叩き付けられ、頭部からは少々出血している。
今の攻撃の衝撃で悪魔を降ろす集中力を削がれてしまったようだ。
さっきは情けない攻撃でやる気を削がれたと思ったら、今度は強力な攻撃で此方を驚かせる。
ジュネはとことん横島と言う男が分からなくなっていた。

ジュネは頭を振って、周囲を確認する。
回りには先ほどの爆発で硝煙のような砂煙が舞い上がり肉眼では目標を確認できない。
手探りで闇の中の無くし物を探す様に、ジュネはその何処も見ていないような瞳で
敵を探し始めた。

「横島さん・・・どこだろ?」

そう呟くまもなく、人影が見え始める。
ここにはジュネと横島以外に誰かがいるはずも無い。
それはあきらかにジュネの敵となる人物だ。

気配を消し、ゆっくりと近づく。
それに連れて目標とした人影も徐々に近づいていく。
そして、自分の間合いを取った瞬間、ジュネは腕を腕を振り上げ、拳を目の前の人影へと
振り降ろす。
ジュネが振り下ろした拳からはジュネよりも何倍も大きな別の腕がその軌道に沿って大きく伸びて行った。


―――敵を殲滅するが為に。


「ッだああっ!!」
353名無しクルースニク:02/07/07 19:46
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>318
 
 白い体毛が、鮮血を交えて散った。
 しがみ付くように蠢いたヴァンパイアの汚れた爪の一撃は、確実に肉を抉って骨に
達し様としている。
 夜を朱に染めたのは一瞬、流血が斜面を侵し、一気に泥濘に変えて行く。
 乱杭歯が首筋に触れるか否か刹那、狼は寧ろその全身を怪物めいたヴァンパイア
へと浴びせていた。
 双方の爪が双方の肉に食い込む。肉が爆ぜて骨が露出するも、ダメージを上回る
再生能力が傷を跡形もなく消失させる。
 絡み合って縺れる二匹の質量が、天井の耐久度を上回った。
 パラスへと衝撃を押し通し、二対の巨獣が縺れ合って転げ回り、既にベルクフリート
は崩壊寸前。
 耐え切れる筈が無かった。
 6メートルの厚みの外壁が、雪崩のように内側へと崩れ去って行く。
 クレーターが刻まれた床をヴァンパイアごと蹴って、狼はその場を走り離れていた。
 
 ヴァンパイアを振り落とした狼は、その勢いで前脚を顔面に叩き込むと、そのまま十数
メートル離れたアウセントウルムと跳躍する。蒼月に重なる狼の真下、クレーターに飲
まれつつあるヴァンパイアもまた、倒潰の直前でその場を脱していた。
 
 二匹の着地の衝撃に、外塔の外壁が瓦礫となって跳ね上がった。
 狼はついてこいとばかりに軽く振り返り、追って来るヴァンパイアを従えて破壊を撒き
ながら城を蹂躙して行く。
 蒼褪めた月の元――血臭を振りながら死のダンスを踊る狂獣と怪物の鮮血が、城壁と
夜の闇の間で、月光を受けて輝いた。
354星川翼:02/07/07 19:56
戦士達の決勝前夜
>351
 
「く……あっ!」
 
 冷たい鉄の感触が自らの肉を断ち割っていくのが分かる。
 後からやってくる鋭い、焼けるような痛み。
 更に血が止め処無く溢れ体温を一気に奪ってゆく。
 
 だがそれでも翼は倒れようとはしなかった。
 折れた細剣を杖の代わりにして、膝をついた姿勢から立ち上がろうとする。
 
「悪い、けど……女の子を見捨てるほど……薄情じゃ、なくてね……」
 
 余裕ぶった言葉を吐いて見せるが、既に視界は霞んできている。
 立ち上がる事はほとんど不可能と言って良かった。
  
 ぷつん、と糸が切れる音が聞こえそうなほどあっけなく、体が倒れる。
 
(この、ままじゃ、あの子が―――)
 
 力無く指が床を這う。
 何とか立ち上がらなければいけない。殺させる訳にはいかない。
 しかし、意思に反して体は動いてはくれなかった。
 
 どうしようもない無力感と脱力感が翼を飲み込もうとする。
 それに伴い、意識も闇の淵に―――
355横島忠夫 ◆.TadAo.Y :02/07/07 20:20
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>352 
 
 キンッ。 
 高く硬質な音を立てて神通棍が伸びる。霊波の青白い輝きが棒状の棍を覆った。 
 出力は低いが、咄嗟にしては上出来。これでも昔は一切使えなかったんだ。 
 いや〜、俺も成長したな――――――って、ンな場合じゃない! 
 
「ッだああっ!!」
「でぇぇぇぇぇぇい!!」 
 
 手首を返し、重い剛撃を横に逸らしつつ自分も飛ぶ。 
 鋼材の断たれる鈍い音、衝撃で軋む体の骨格、飛び散る破片が突き刺さる体。  
 手にした神通棍がへし折れるのを感じたが、意にも止めずに再び地面を転がる。 
 
 柔よく剛を制す! 
 見よう見まねにしては上手く行った――――神通棍、ダメにしたけど。 
 痛い体を引き起こしつつ、この隙にまたアイテムを・・・って、あれ? 
 そういや鞄、何処だ? 
 
「あ゛!?」 
 
 置いたままだった。今はたぶん、ジュネさんの後ろ。 
 
「しぃまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 
 
 何とか手持ちの札を確認・・・げっ、全部200〜300万円だ。 
 こんなの使ったらただじゃ済まない。神通棍も壊しちまったし・・・ 
 ふと、脳裏に「失敗=死」の明確なビジョンが浮かんだ。 
 
「イヤや――――――――――ッ!!」 
 
 舞い上がった埃が落ち、視界が明瞭になる。 
 その、僅か数歩先に、ジュネさんは、立っていた。
 汚れ、傷つき、流血し、それでもこの女性は・・・俺の意思がじくりと首をもたげる。 
 
 ダメだ、ダメなんだって! 命がかかってるんだぞ。 
 何としても、どんな事をしてでも、俺はこの女性を―――― 

 ジュネさんの右腕が、悪魔の腕が天を指す。塔の如く伸びた、破壊の象徴。  
 それが振り降ろされるより一瞬早く、俺はサイキックソーサーを、霊気の塊を放り投げた。 
 逆手に霊符を三枚、投擲する姿勢で構え――――畳み掛ける準備をしながら。 
 
「頼むから、もうこれで――――――!」 
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>353

 城壁を踏み砕いて狼は跳ね去る。いきり立った異形のフォルムが後を追う。
 吸血鬼の四肢と首は、既に触手と云うべき長さとしなやかさを得ていた。
 水中を泳ぐ様に闇でうねる。
 八つ当たり気味に振り回された両手が崩れかけた外塔(アウセントウルム)に決定打を与えた。
 両脚で城壁を踏みしだき、舞い散る粉塵と共に吸血鬼は跳躍した。
 着地の衝撃がまだ城を揺るがす内、再び跳躍。
 躯を濡らす鮮血と同色の瞳は、ひたすら狼のみを映している。
 
 魔城の天辺で行われる、これは鬼ごっこと云うべきか。
 但し追うのは本物の鬼であり、追われる者もまた只人に非ず、云わば人外の鬼ごっこ。
 
 鬼の手が伸びる。爪の尖端が狼の背を掴みかけた。
357閖(M):02/07/07 22:41
あけめやみ、とじめやみに現れるやさしきオーマよ。
どうぞ、願いを叶えたまえ。
あの者に今一度出会えることを。

―2005年―

森を縄張りとしていた私は木々の精霊の声を聞いた。
帝都にゲートが開くと言う声を。

かつて水門神社の巫女であった記憶が蘇る。
そこからなら・・・、『あの者』に再び出会えるかもしれない。
その思いが私を森から離し、帝都まで運んだ。
 
私ほどの格の妖怪――1000年も生きれば妖怪だろう――ともなれば、
『場所』に縛られ易くなる。
簡単に言えば、帝都に来た事により精気を得られずに飢えているのだ。
森の精気を得られないのなら人の精気を吸えばよい。

歓楽街で声をかけてきたバカモノ共から少しずつ頂いてゆく。
自分でも気付かないほどに飢えていたらしく、
あたりは真冬の山々と見まがうほどになってしまったが。
人心地が付いたので街を見てゆこう。

そう思ったとき、飛ぶように走ってきた巫女装束を纏う少女を見る。
凛、と私を見据える瞳。
寒空に対し歯を食いしばり、負けるものかと体全体で叫ぶように立ち尽す姿。

見ているだけで嗜虐心が刺激される。

「―――あら?貴女…退魔師ね?心配しないでいいわよ。
 今の私はお腹いっぱいだから、殺したりはしないわ…。
 じっくり楽しませてあげる」

そう言って私はにんまりと微笑む。
358結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/07 22:42
>357
小夜は、悪美代子の最後を見届けると精霊の声に耳を貸す。
 
「まだ、近くに居るのね……」
 
そして、精霊の指し示すほうへと駆け出した。
彼女の進む先には、闇。
電気の流れが止まり、闇に落ちた不夜城。
 
小夜は、7月にありえない雪を踏みしめ、走る。
 
闇の中、雪と、祭祀の衣装の白が、揺れた。
 
 
「不釣合いな」
 
 
小夜の前に、巫女装束の女性が立ちふさがる。
 
「水門神社の巫女………いえ、貴女はあしきゆめ。」
 
「私はヒノカグヅチに仕える巫女。
 あしきゆめを狩り、戦いが終われば地に還るが定め。」
 
小夜の肩に、輝く羽持つ鴉が舞い降りた。
 
「参る!」
359閖(M):02/07/07 22:52
>358
久々の人里に気分を出してかつて着ていた巫女装束に身を包む。
多少、トウが経っているが、まだまだ若い娘に見えるだろう。

『巫女……いえ、貴女はあしきゆめ。』
少女はそう私を断じた。
ああ、なんて曇りのない真っ直ぐな瞳。 
 
『私はヒノカグヅチの巫女。
 あしきゆめを狩り、戦いが終われば地に還るが定め。』

神を狩る者としての務めだろうか?
神を狩った者が新しい神となる。
それを防ぐ為に死を選ぶ娘……。

ああ、なんて儚い命なのだろう。

真っ直ぐに私を見据え、今にも壊れそうに戦いを挑もうとしている。
この少女は…今すぐ壊すには勿体無い。

――どう遊んでやろうか?

そう私は考えて周囲に舞う氷雪で壁を作る。
少女の表からの視界を遮ると、地面から逆さ氷柱を少女へ幾筋も生やさせる。
360結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/07 23:13
>359
飛び跳ねて氷柱をかわす。
 
「ヤタ!」
 
全てを両断する光の羽が、氷柱を切り裂いた。
再び、後方へ飛びのく。
小夜の周りを、ヤタが彼女を守る鎧の様に旋回する。
 
その様は、まるで舞を舞うがごとく。
踊るように死を運び、あしきゆめを狩る少女。
 
人の脅威の具現。
 
人外なる敵の天敵。
 
人類の決戦存在。
 
 
「愛ゆえに、鬼道に落ちましたか。
 愚かな。」
 
 
御符を投げつける。
361閖(M):02/07/07 23:32
>360
式神が少女を護る。
少女は舞うようにこちらへ歩を進め、絢爛たる眼差しをこちらに向ける。

『愛ゆえに、鬼道に堕ちましたか。
 愚かな。』
 
この気持ちは愛なのだろうか?
あの者は人魚の里に生まれた者。
人魚の男は種族のために種馬となる宿命だった。

あのときの契りを思い出す。
結局、あの者は私を捨て、人魚の里へと戻った。
あれから1000年もの時が過ぎている。

私がこの姿になっても生きているように、あの者もまた生きているだろう。
帝都は気が歪み、いつ何が起こるか分らない。
この状況なら、あの者も動いてくるに違いない。
あれでも、あの者は水門神社の守り神だ。

苦笑している中、護符が宙を切り裂き私の元へと一途に向かってくる。

「あらあら、キツイ目をしちゃって…。
 男の子が寄り付かなくなるわよ?」

ついついからかいたくなり、そう言ってみる。
吐息を掛けるようにして護符へ氷雪の弾幕を張る。

「私はそれを愚かだとは思わないわ。
 貴女、……まだ恋をしていないのね。
 愛を知りなさい…」

雹混じりの吹雪は護符を巻き込んで少女へと迫る。
>337>348
 急に壁を吹き飛ばして現れたそいつは、見た目は俺と同じ歳くらいの
ただのガキだった。上から下まで紫色の服を着たそいつは、一見して
ちょっと近寄れないぞ、という雰囲気を放っていた……いろんな意味でだ。

 そいつはわけのわからない事を言いながら、ゆっくりとした足取りで、今
自分でぶっ壊したばかりの瓦礫のを踏みしめて、俺達に向かって歩いて
来る。

 あの男を手伝う? 俺が殺す? くそっ、あいつもそう言うクチかよ。
 理不尽に殺すとか! 殺されるとか! あいつら、人の命ってヤツを一体
なんだと思っていやがる!

 とりあえず、コイツにも拳を一発くれてやろう、そう思った次の瞬間。
 それまで確かに何も無かったはずの部屋の中に、一体どこから取り出し
たのやら、大量の爆弾が忽然と現われた。

 その時俺は、緑髪の女の手を引いて、その場から駆け出していた。
 紫色の男の横をすり抜けて、そのまま廊下に踊り出る。
 全ては、あの悪党面の顔に、歪な笑いが浮かんだ、その一瞬の出来事
だった。

 直後、安宿に響く爆音。
 
 俺は爆風に吹き飛ばされながら、女の身体を庇うように抱きしめて、破
片やら衝撃やらを自分の背中で一気に受け止めながら、挙句の果てには
強く壁に叩き付けられた。一瞬、目の前が暗くなり、次いで口から血が流れ
出す。

 くそっ、肋骨でも折っちまったか。だが、こんな事で意識を失ってやるわ
けにはいかねえんだ。俺がへたばっちまったら、誰がコイツを守ってやる?
誰があの悪党面をぼこって反省させるんだ?

 俺は気合を入れて意識を繋ぎ止めると、そのままザサエさんを呼び出し
た。ザサエさんは、いつもよりちょっと透けて見えたけど、それでも毅然と
した態度はいつも通り、俺の前に現われる。

「ザサエさん、ワリィんだけど、また一仕事だ………GO!」

 そのファジーな命令で、ザサエさんは俺の意思を正確に汲み取って、悪
党面に向けてその手に持った肉切り包丁で切りかかる。

 俺はその間に、女を引っ張ったまま、悪党面とは反対方向に駆け出した。
 少しばっかり足元がふらついて、大きく蛇行しちまうが、とにかくこんな
狭い所であんなわけのわからねえヤツを二人も相手にするのは、あんま
り得策じゃねえからな。
363結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/07 23:45
雹弾が、小夜を掠めた。
服がわずかに裂ける。
 
「誰かを愛してしまえば、希望は明日の為に戦えない。」
 
雹弾の隙間を、縫った。
 
「希望とは、深い絶望の中から自分が最後と思うから出てくるもの」
 
御幣で、雹弾をはじく。
 
「私を怒らせようとしても無駄です」
 
ヤタの翼が、雹弾を砕いた。
そのまま、御符を投げつけつつ駆ける。
 
「悪鬼退散!」
 
御幣を振り、辺りを清める青白い光の波が閖に迫る。
さらに、護符を投げつけた。
 
「貴女も巫女ならば、わかるでしょう」
 
無表情な、視線を向ける。
364名無しクルースニク:02/07/07 23:59
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>356
 
 月に重なる塔の頂上、跳ね回るヴァルダレクの爪が白狼の背を捉えた。
苦痛の咆哮を漏らす狼は塔の先端で方向転換、触手めいた両腕を振り回すヴァルダレ
クを視界に捉える。
 
 両足を踏み下ろす形で、狼はヴァルダレクに圧し掛かった。
 爪が肉の奥へと食い込んで行く。
 狼の体毛と鮮血が散る。ヴァルダレクの腐臭を上げる肉片が引き裂かれて行く。
 剛健な主塔の外壁が豆腐のように砕け、バネのように軋み、舞い上がる粉塵の中で
横転しながら貪り合いを繰り返す二匹を飲み込むクレーターを穿つ。
 質量に耐え兼ねた正方形の主塔の頂上が、西側に向けて半壊した。
 主塔の瓦礫に埋もれ、落下寸前で支えられ――それでも、両者は互いを貪り合う。
 
 落下の衝撃でヴァルダレクに抑えられる形となった狼が、不意に燐光を放った。
 二体の巨体を纏めて飲み込む程の閃光が、夜の闇を引き裂く。
 収束する光――突如、前のめりに傾ぐヴァルダレクの巨体。
 軋む主塔は、その負担の半分を消失した。
 
 ヴァルダレクの巨体に圧し掛かられる青年が、苦笑を浮かべて血を吐き出した。
365モーラ(M) ◆Mora/x/c :02/07/08 00:13
ウピエルvsファントム
>221
 
 ……目前で起こった信じられない奇跡。
 モーラはハンマーを置いて駆け寄り、二人の息を確かめる……。
 
「……生きてる」
  
 だが二人共大量の血液を失い、身体も徐々に冷え初めていた。
 早く輸血をしないと、助からない。
 すぐさまフリッツに連絡を入れるモーラ…… やや有ってフリッツの返事が有り、
 大至急ハマーから輸血セットを持って来て欲しいと頼んだ。
 
「……それにしても」
 
 折り重なる男女をちらりと横目で覗き見て、モーラは初めて純白の頬を薔薇色に染める。
 宿敵、吸血鬼とその犠牲者…… そう言った割り切りが消えた後で、青年の逞しい身体と
 少女のたおやかな肢体を意識すると、そこにはあまりにも扇情的な光景が残されていた。
 
「……目の毒よね……これは」
 
 ゆっくりと辺りを見回して、楽屋へのドアが有るのを確認すると……
 モーラは中から舞台用の衣装を引っ張り出した。
 
「……う〜 うぅぅぅ〜〜」
 
 一体、何だって私がこんな事を……と思いながら、ぎこちない手つきで二人に着せ始める。
 ようやく、直視できる状態になった頃、フリッツが緊急用の輸血セットを持って現れた。
366閖(M):02/07/08 00:16
結城小夜VS閖
>363
雹弾が降り注ぐ中を少女は前へ前へ進む。
空は曇り、何かを悲しむかのように天はますます暗くなる。

『誰かを愛してしまえば、希望は明日の為に戦えない。』

「そうかしら?その誰かのために戦おうと思えるのじゃなくて?」
進み行く少女の前に空から氷柱を落とす。

『希望とは、深い絶望の中から自分が最後と思うから出てくるもの』

「何かをなしたいと思うからこそ、希望はでて来るのでなくて?」
淀んでいた空が少しずつ、少しずつ寄り集まってゆく。

少女の裂帛の気合が青白い波となって私の下に来る。

幾重にも氷雪の壁を貼り、威力を削ぐ。
迫り来る護符は氷雪に阻まれたが体の内を揺さぶる衝撃が来た。

『貴女も巫女ならば、わかるでしょう』
少女は冷たい、機械のような視線を私に向ける。

「巫女である前に、女なのよ?」
いたずらっぽく微笑んで足元の雪を氷と変える。
踏みしめた雪が固まり、動きはとりづらくなるだろう。
367吾妻玲二 ◆phantom2 :02/07/08 00:20
ウピエルvsファントム
>365
 
 狭いハマーの車内で目覚める。 身体が重く、方々が軋む様に痛む。
 
「……気がついた?」
 
 鈴が鳴る様な涼やかな声に目を向けると、金髪の小さな女の子が助手席から覗いている。
 10歳前後に見える少女 ……だがそのすみれ色の瞳は全てを見抜く様な深みを見せ、
 なんとなく初めてエレンと出会った時の事を思い出した。
 
「俺は、いったい ……エレンは?」
 
 隣に眠り続けるエレンの姿を見つける。
 何故か舞台衣装の様なドレスに身を包んだその姿はまるで御伽話の眠り姫の様だった。
 顔色はあまり良くないが不思議な程、体には傷一つ無い。
 
「大丈夫よ、すぐに目が覚めると思うわ。
 あのウピエルと戦って無傷だなんて、まるで奇跡ね」
 
「ウピエル!!」
 
 生々しく記憶に残る牙の感触を思い出し、首筋に手を当てて確かめる。
 
「そんな…… まさか!?」
 
 身体中を貫いた銃弾の傷さえも、全くと言って良い程残っては居なかった。
 そしてようやく自分が何をしたのか、はっきりと思い出し……
 
「エレン………」
 
 エレンの寝顔に手を伸ばそうとして、その手が途中で凍りつく。
 
「……俺は…………」
 
 エレンに触れる資格が有るのか、その薄汚れた手で……。
 吸血衝動の中、エレンへと向けたドス黒い欲望、それが確かに自分の中に有るのだと、
 今でもはっきりと自覚できる。
 
 知らず、凍りついた手が拳を作り、力の限り握り締められていた。
 爪が掌に突き刺さり、一雫、二雫、赤いものが滴り落ちる。
 
 最後まで俺を信じ続けたエレン、それを最悪の形で裏切ったのだ。
 眠るエレンが目を覚ました時、その心の傷を想うと、いっそ死にたい気分だった。
 
 突如、運転席のドアが開き、顔に傷跡の有る大男が顔を覗かせる。
 
「よおロミオ! ジュリエットのお味はどうだったい?」
 
 そう言われて初めて自分の出で立ちに気付く。
 衣装を茶化しながら、ゲハゲハと下卑た嘲笑を続ける大男……。
 
 助手席に座る少女ですら、複雑な表情で視線を合わせようとはしない。
 
 その時、傍らで微かに動く気配が有った。
368結城小夜 ◆YatatCS. :02/07/08 00:32
>366
結城小夜VS閖
 
「詭弁を」
 
表情一つ変えずに、呟いた。
 
「私はヒノカグヅチに仕えし戦巫女。強大なシステムの一構成要素」
 
氷柱をかわし、さらに駆ける。
 
「私は一人の為でなく、全ての為に戦う所存」
 
「私の戦いが、私の血が、私の死が。この国の民衆の心に希望の種を蒔く」
 
足元の雪が、アイスバーンよろしく凍る。
小夜は、躊躇することなく氷を裂けるように閖の頭上へ跳んだ。
そして、御幣を大きく振りかぶる。
 
「女である前に、巫女です。」
 
頭めがけ、御幣を振り下ろす。
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>364
 
 答える様に吸血鬼も嗤う。たが、多分狩人の表情など認識出来てはいない。
 只の偶然である。
 だらしなく歪む口の端から唾液が溢れ、下になった狩人にまで垂れ落ちた。
 
 左手を崩れかけた瓦礫に付き、右手を持ち上げる。
 五指がてんでばらばらに、まるで骨が存在しせぬが如く異様に蠢いた。
 そのまま無造作に、馬乗りにした狩人の顔面へ振り下ろす。
 激震が外壁全体を走り抜けた。
 猶も力を緩めず掌を押し付ける。狩人の顔面を叩き潰さんばかりに。
 
 忌まわしい歓喜の叫びを胸の奥底から絞り出し、吸血鬼は凱歌を上げた。
370結城・夕樹:02/07/08 00:42
空を見上げる少女が居る。
赤いブレザーを纏った、学生服の女。
右手には三角を組み合わせたような音叉状の巨杖
其の右目は、闇に薄赤く光っている。義眼だ。
「・・・・・・」
その口は紡がれ何も放たれない。
夜の町に、消えていった


主な戦闘方法

>神術射撃
巨杖・鳳星と神器による神術射撃。
凍神による凍結攻撃と水神による水をつかった攻撃がある
どちらも「MD」を聞いている間だけ使えるので、10分ごとにMDをリロードせなあかんけどな

得意な戦闘範囲は遠距離射撃戦や

以下、テンプレや

出典 :騒楽都市・OSAKA(電撃文庫/川上稔)
名前 :結城・夕樹
年齢 :17歳
性別 :女
職業 :古都圏総長と古都圏守護役を兼任
趣味 :南大門神社・離れの掃除
恋人の有無 :陽坂・勝意
好きな異性のタイプ :陽坂・勝意
好きな食べ物 :特になし
最近気になること :陽坂の行動
一番苦手なもの :自分の本心を見透かされること
得意な技 :巨杖型神形具「鳳星」による神術
一番の決めゼリフ :「……無駄なことはヤメぇ。他人を盾にしたっても、一緒に殺るだけや」
将来の夢 : ……(無視)
ここの住人として一言 :「ヒトも魔物も、邪魔するなら殺す。それだけや」
ここの仲間たちに一言 :「言った筈や。邪魔なら殺す」
ここの名無しに一言 :「一般人はさがっとれ。邪魔なだけや」

カテゴリは一応D。
状況によってAになる。
371閖(M):02/07/08 00:56
>368
『詭弁を』
「そうかしら?貴女には自分の意志が見られない。
 機械のようよ」
少女の声にそう答える。

『私は一人の為でなく、全ての為に戦う所存』
「ただ自動的に動くものが何を言うの?」

『私の戦いが、私の血が、私の死が。この国の民衆の心に希望の種を蒔く』
「自分を持たない機械が死んだところで、希望は生まれないわ。
 歯を食いしばり、大きな声で叫べるものが、バカが未来を生み出すの。
 バカにすらなれない機械が死んでも、
 ………何があったかも分らないまま終わるだけだわ」
 
もう、目の前の明かりすら見づらいほどに暗くなった空の下、
少女は氷に脚をとられる事なく天を駆け、私に御幣を振り下ろそうとする。

「残念ね……」
薄氷を自分に見えるように変え、変わり身を行う。
少女の目を見据え、悲しい気持ちで振り上げた手を下へと向ける。

――雷光が少女の方へ降り注ぐ。

先ほど蓄えた精気も尽きるほどではないが、かなり辛い。
だが、今しばらくは持つだろう。
372「鬼」:02/07/08 01:04
鈴鹿御前vsチェカラク 導入
 
 聞こえるものなど、なにもない。
 見えるものは、単調に続く石壁のみ。
 動くものは、空気のみ。
 ここに存在するものは、たったひとり。
 それは待っている。
 この獄舎への来訪者を、待っている。
 それの飢えを満たす食物を、待っている。
 最後にここへ来訪者があったのは、いつのことだったろうか。
 それにとって、時間が意味を為さなくなってから、どれほどの時が流れたのだろうか。
 それはまだ正気を保っているのか、すでに狂気の虜になったのだろうか。
 ただ続くのみ。
 飢えに苛まれ、何も存在しない獄舎への幽閉が続くのみ。
 
 
 私の足元に、人間だったもの、女だったものが転がっていた。
 もはや原型をとどめていないその顔から、かつての美しさ、冷酷なまでの美しさを想像することは難しいだろう。
 この女は私を弄び、嘲笑った。
 私の必死の懇願を足蹴にした。
 私に対して罪を犯したのだ。
 だから罰を与えてやった。
 この女は、もはや死ぬしかなかったのだ。
 私は復讐のための力を得た。
 その力をもって、女を八つ裂きにしてやった。
 復讐は為されたが、まだ足りない。
 女の家族を同じように引き裂いてやろう。
 それから、この町のすべての人間を壊してやろう。
 私には、それを成し遂げるだけの力がある。
 
 甘美な想像に耽っていた私の背後に、ひとりの少女が現れた。
 黒い髪と白い肌の、美しい少女だ。
 きっと、その中身も美しいに違いない。
 彼女の中身を見るために、私は爪を振るった。
373名無しクルースニク:02/07/08 01:28
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>369
 
 終わった、と思える程の衝撃が全身を襲った。
 トレーラーの正面衝突にも等しい巨体の一撃が全身を押え付ける。
 巨大な腕に、頭部を鷲掴みにされていた。万力のような力で頭部を締め上げるヴァルダレクの
顔が、狂ったような喜悦に歪む。
 粘液めいた涎が顔面を汚す。自分の血か返り血か、前髪を伝う血の塊が瞼の内側に入った。
 視界が濁る。
 頭蓋を砕こうと締め付ける巨椀に、脳がシェイクされる様な激痛と錯覚が思考を引っ掻き回す。
 骨が軋む。思考が混濁する。手足が言う事を聞かない。
 思考、が
 
『良いか、ここを動くなよ――』
 
 ――テメエで約束破って、如何する気だよ。
 
 怯える少年の顔が、意識のスクリーンに浮かび上がった。
 コイツを、如何にかして――殺さないと。
 僅かに生き残ったマトモな思考が、呟く様に叫んだ。連鎖反応で生き返った体の統括意識が、
ああそうだ、今直ぐ殺せと吠え立てる。
 手駒は? 9パラが通じる? いいや。ショットガンは? 抜ける状態じゃない。
 否――手駒は、有った。
 薄笑いを浮かべて、青年は震える左の指先を、霞むような速さでカソックの前袷に突っ込んだ。
再度閃く左手がヴァルダレクを殴り付けるようにその顔面へと走り、
 ――左手を、その口内へと押し込んだ。
 がぢ、と。当然のように閉じたその顎に、腕が引き千切られ掛ける。
 激痛に苛まれながら――理性のない瞳を見据えたまま、青年は笑った。
 
「……フィナーレだぜ、お山の大将気取りのクソ野郎」
 
 一瞬だけクリアになった思考が、両腕を閃光の速度で走らせる。
 左手が握り込んだ高性能爆薬が、口の中でピンを弾き飛ばした。
 腰の後ろ、カソックの継ぎ目の奥、ベルトに挟むように吊っていたククリナイフを一瞬で引き抜いた右手が
――左手の肘から先へと叩き付けられる。
 
 月の貌が朱に染まった。
 
 鋭い断面から盛大に血を撒き散らし、青年の身体はヴァルダレクから引き剥がされる。
 意識を沸騰させる様な熱さ。思考を沸騰させるような激痛。
 痛い。腕が無くなったから、そんなのは当然。意識が霞む。出血のせいだ。もう駄目か? ――さあ?
 
 左手は消失している。足の感覚が死んでいる。
 残り滓のような全力でヴァルダレクの体を蹴り放し――残った右手で銃を形作ると、青年は口の端を三日月
の様に歪めた。
 
「……ソイツからは――もう逃げられねえよ」
 
 置き土産の左手が、ヴァルダレクの口内で閃光を放つ。
 主塔から滑り落ちて行くのを自覚しながら――青年は隻腕で銃を形作り、こめかみに人差し指を押し付ける。
 
 ――ザマあ――見やがれ。
 
「――バァン」
 
 ――塔に沿うように、身体は落ちて行く。
 ヴァルダレクを埋める主塔が――崩落の音さえ遮断する轟音と、夜を昼に変えるかの様な閃光が包み込んだ。
374鈴鹿御前 ◆Y4SUZUKA :02/07/08 01:38
鈴鹿御前 vs チェカラク

>372
 寂しい街の、寂しい裏路地。
 鬼気を感じ、そこへ飛び込んだ私の目の前にあったのは、一匹の鬼──その身に纏った服の切れ
端から見て、女だったらしい。
 その鬼が、元は人間であったろう肉片を、ぐちゃぐちゃと踏みにじり、陵辱している。

 完全に鬼に堕ちた彼女を救うことは、もはや誰にもできない。
 だから私は、刀を振るう。鬼を突き、邪を裂く、鬼姫鈴鹿の愛刀・大通連を。

 その鬼の力そのものは、どれほどのものでもない。
 元より、鬼に堕ちたばかりの人鬼に遅れを取るような、私ではない。
 振るわれる、力任せの腕を交い潜り、その腕に大通連を走らせる。
 何の抵抗もなく、鬼の腕は宙に舞った。

 聞く者の肝を振るわせるような咆哮を上げながら、鬼は身を翻して逃げ出した。
 逃がすわけには行かない。ここで逃がしてしまえば、また新たな犠牲者が出る。手負いの鬼ほど、
危険なものはない。
 刀を収め、後を追った。
375「鬼」:02/07/08 02:29
鈴鹿御前vsチェカラク
>374

 少女はどこからともなく刀を取り出し、私の腕に一太刀を浴びせた。
 肉に食い込む鋼の冷たさを感じた一瞬の後には、炎で焼かれるような激痛が走った。
 私の腕がなくなっている。
 あんなひ弱な少女の持つ刀で・・・・いや、違う、彼女は普通の人間ではない。
 彼女はなにか別のもの、人を越える力を得た私よりも強い、恐るべきなにかだ。
 私の心の奥では、警鐘が鳴り響いていた。
 
 狼狽した私は、少女の姿をしたものに背を向け走った。
 逃げなければ殺される、私はまだ、死にたくない。
 全力で走っているというのに、奴との距離は開かない。
 どうすればいい、このままでは殺される。
 死にたくない、死にたくない。
 そうだ、山に逃げよう。
 あの山には洞窟があった。
 地元の人間は誰も寄りつかない、<火の神の洞窟>。
 子供の頃に少しだけ足を踏み入れたが、怖くなってすぐに引き返したあの洞窟。
 あそこに隠れよう。
 
 並外れた脚力で風のように駆けたが、奴はまだ追ってくる。
 私は背を屈めて洞窟に駆け込んだ。
 暗闇の中をしばらく進むと、道は塞がっていた。
 誰かが石を積み上げて、先に進めないようにしてある。
 邪魔だ、ここで立ち止まっていては殺されてしまう。
 私は力任せに片腕だけで石を砕き、放り投げ、道を開こうとした。
 石を取り除いた向こうに見えたものは、予想していたような通路ではなかった。
 それは、虹色に輝く奇妙な物質によってできた壁だった。
 恐る恐る、指でつついてみると、指先が壁のなかに沈んだ。
 そのまま肘まで沈めてみると、向こう側に空間の拡がりが感じられた。
 この奇妙な物質はどうやら、扉の役割を果たしているようだ。
 しかし、何の目的があってこんな物で道を塞いだのだろうか。
 
 いや、考えている暇などない、この扉を通り抜けて逃げ続けるしかない。
 奴はもう、すぐそこまで来ている。
 私は意を決して、虹色の物質に飛び込んだ。
376鈴鹿御前 ◆Y4SUZUKA :02/07/08 02:48
鈴鹿御前 vs チェカラク

>375

 片腕になった鬼は、山の方へと逃げていく。
 人の密集する方向に逃げられなかったのは、幸いだった。どうやら、これ以上の犠牲者を出すの
は避けられそうだ。

 木々の間を潜り、下生えを掻き分け、人には到底出し得ない速度で、疾走する。
 前方で、鬼が洞窟へと逃げ込むのが見えた。
 立ち止まって、眺めてみた。見た目には、何の変哲もない洞窟のようだ。
 中に入ってみても、その印象は変わらなかった。
 その通路に、行き着くまでは。
 
 虹色の奇妙な物質が、通路を覆っている。
 手を触れてみたが、何の抵抗もなく沈んでいく。行き止まりではなく、道は続いているようだ。
 おそらくそこを塞いでいたであろう岩が、力任せにどけられている。あの鬼の仕業であることは、
疑いない。
 ならば、私の取るべき選択は一つだ。
 この先に逃げ込んだであろう鬼を追って、私は虹色の壁を潜った。

 そこに、広がっていた光景は──
>337>348>362 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルトVSフォルテッシモ
 
逃げる。ただひたすらに逃げる。
私を身を呈してかばってくれた少年と一緒に。
 
・・・この少年は、こんな私を・・・人間じゃなくなった私をそうと知ってて助けてくれる。
たった今出会ったばかりの私を。
 
―――正直、申し訳なかった。
これは私自身のことなのに、それでも遭わなくてもいい危険に遭ってまで
私を助けてくれる少年。
・・・本当に申し訳なかった。だって、なぜなら・・・
 
 
《ドクン》
 
 
・・・欲しい。たまらなく欲しい。
彼の口から流れ落ちた血。人間には味わえない甘美なる赤い血。
私の喉が渇く。彼の血を欲しがって喉が喘ぐ。あの赤い色が目に焼きついて離れな―――
 
 
 
・・・耐え切る。
疼く牙と喉、熱くなっていく頭を何とか抑える。
人の血は吸わない。吸うわけにはいかない。
・・・でも、今回ばかりはわからない。とても花の生気を吸ってごまかす暇なんかありそうにない。
視界を掠める自分の髪の色が青みがかっているのが見える。
もう・・・時間の問題なのかもしれない。
 
だから、私は。
手を引っ張られて逃げながら、心の中で何度も何度も彼に謝っていた。
―――血を、吸ってしまうかもしれないから。
英雄&新世界vsレイオット
導入

とある、寂れた田舎道を奇妙な二人組が歩いていた。
一人は巨漢だ。
黒い軍用コートを着込み、右腕は巨大な鋼鉄の義腕。
二の腕に着けられた砲門には木杖がはまっている。
もう一人は、女性。
この様な場所だというのに、男物にも似た給仕服を纏っている。

「大尉ー?本当にこっちで良かったのかしら?」

女に大尉と呼ばれた男は左手でコートの内側を探る。
取り出したのは一枚の紙片。地図だ。

「間違いはないはずだ」
「・・・というか、そもそもG機関の長である私と、
空軍部大尉の貴方がなんでこんな任務しなくちゃ行けないのかしら」
「人員不足なのだ。戦後、我々G機関は解体こそされなかったものの、
規模を削減されてしまったのは確かだからな」

G機関とは、世界中から喪失技巧や秘技術をかき集め、独逸の力と為すために存在している
政軍の上にある高機密組織である。

「だからって、長を向かわせるのはどうかと思うわよ?」
「気にせず、君は楽にしているがいい。相手には戦闘能力はないそうだからな」
「ふむ・・・」

一つ、うなり声。数秒の間。
女は言葉を続ける

「モールド、ッていう機構鎧・・・興味深い技術よねー」
「技術を持ち帰ったらエルリッヒ様が狂喜乱舞しそうだな」

そんなことを話ながら、二人は農道を歩き続ける。
やがて、大きな倉庫が見えてきた。

「あそこかしらね?」
「そのようだな」

二人はその倉庫に向かって歩みを進める。

「さて・・・簡単に確保できると良いのだけれどねー」
へラード&レーヴァンツァーン戦(導入)
>378

昼下がりの午後――やや遅めの昼食を採り始める。
場所は、当然の如く気の利いたカフェテリア――などではない。
油の臭いと無数の機械がひしめく、大型倉庫を改造した工場の如き場所の一部分だ。
無理矢理に作業机を片付け、その上に清潔なテーブルクロスを敷き、持参した茶器一式と
サンドイッチを並べていけば、とりあえずは食卓としての体裁を整えることが出来た。
 
紅茶を口に含みながら、猛烈な勢いで消費されていくサンドイッチと、それを為していく人
物を呆れた様子で見つめている。
まあ、それも当然だろう。控えめに言っても美形だと言える顔が、口いっぱいに食べ物を
詰め込んで咀嚼している様は、どこか喜劇めいた印象すら与えている。
だが彼は、そんなこちらをまったく無視するように、ごくん――という音すら伴ってサンドイッ
チを嚥下した。
満足げな表情で紅茶を一口。そして。
 
「んー。いい香りだ。カペちゃん、また腕を上げたかな?」
 
にこやかに、静かにカップを傾けていた少女に声をかける。

彼の名は、ジャック・ローランド。24歳。
この工房――「JR総合機械研究所」の主にして、レイオットのモールドの修理、調整を手
がける、一級の腕を持つ若き技術者だ。
とはいえ――彼は、当局発行のモールド・エンジニア資格を持っているわけではないのだ
が。平たく言えば、モールド技術者として言えば、彼もレイオットと同じくモグリである。
 
「……ありがとうございます」
 
感情のこもらない声音で、少女――カペルテータが応えた。
だがジャックは気分を害した様子もなく、彼女の血のように紅い髪を軽く数度撫でていた。

「うんうん結構。これからも頑張って。普段からこれを味わうのが味音痴のレイだってのが
気に入らないけど」
「いいんだよ。俺はこういうのが好きなんだから」

風味が消えるほどにたっぷりとミルクを入れた紅茶を飲み下しながら、レイオットが言う。
知人にも軟弱な飲み方だ――と言われたことがあったが、それを特に変えるつもりもない。

そんな、どこかのんびりとした雰囲気の中。昼食はつつがなく終了しようとしている。
最後に残ったカツサンドに、レイオットが手を伸ばしたその時――――
へラード&レーヴァンツァーン戦(導入)
>379

表から、倉庫のシャッターを動かす音が聞こえてくる。手を伸ばしたままの状態で、レイ
オットはそちらを振り返った。

「……なんか、今日客とかの予定ってあったのか?」
「……いや。別にそんなのはないけど」

どこかくぐもった声で応えてくるジャックに、いやな予感と共にレイオットは顔を戻す。
そこには、最後のサンドイッチも咀嚼しながら、表の方へ顔を向ける美青年の顔がある。
レイオットはうんざりとした表情で伸ばしたままの手を引き戻し、

「……じゃあ、なんなんだろうな。どっちにせよ、出ないと拙いんじゃないか?」
「ああ――そうだな。んじゃ、ちょっと行ってみますか」
 
サンドイッチを飲み下して、ジャックがおもむろに腰を上げた。
歩いていく彼の背中をなんとなく見つめて、気まぐれに、その後を追う――

一分もかからずに目的の場所へと到達する。広いとはいえ、元々が倉庫だ。さほど距離が
あるわけでもない。
そこにいたのは、ジャックと――それに相対するように佇む、奇妙な二人組だ。
軍服らしきものを身につけた巨漢に、かたや給仕服らしき姿の女性。まず、あり得ない組
み合わせである。
事、こんな場末の工房を訪れる客人としては。

「なんなんだ、一体……?」

ぼんやりと呻く。このすぐ後に、彼らと戦う羽目になるなどとは、露ほどにも思わずに。
(>380修正)
へラード&レーヴァンツァーン戦(導入)
>379

表から、倉庫のシャッターを動かす音が聞こえてくる。手を伸ばしたままの状態で、レイ
オットはそちらを振り返った。

「……なんか、今日は来客とかの予定ってあったのか?」
「……いや。別にそんなのはないけど」

どこかくぐもった声で応えてくるジャックに、いやな予感と共にレイオットは顔を戻す。
そこには、最後のサンドイッチも咀嚼しながら、表の方へ顔を向ける美青年の顔がある。
レイオットはうんざりとした表情で伸ばしたままの手を引き戻し、

「……じゃあ、なんなんだろうな。どっちにせよ、出ないと拙いんじゃないか?」
「ああ――そうだな。んじゃ、ちょっと行ってみますか」
 
サンドイッチを飲み下して、ジャックがおもむろに腰を上げた。
歩いていく彼の背中をなんとなく見つめて、気まぐれに、その後を追う――

一分もかからずに目的の場所へと到達する。広いとはいえ、元々が倉庫だ。さほど距離が
あるわけでもない。
そこにいたのは、ジャックと――それに相対するように佇む、奇妙な二人組だ。
軍服らしきものを身につけた巨漢に、かたや給仕服らしき姿の女性。男に至っては、その
右腕の部位には、冗談じみた大きさの鉄塊がある。あれは……まさか、義手か?
なんにせよ、こんな場末の工房を訪れる客人としては、まずあり得ない組み合わせだ。

「なんなんだ、一体……?」

ぼんやりと呻く。このすぐ後に、彼らと戦う羽目になるなどとは、露ほどにも思わずに。
対レイオット戦
>381

巨漢と女はシャッターの閉まった寂れた倉庫の前に立っている。
女は倉庫を見上げて

「大尉、さっきも聞いたけど、ホントに此処なの?どう見たって農家の大型倉庫だけど」
「ああ。事前調査に寄れば相手は無免許の魔法工学者――つまりは、モグリだ。
 …カムフラージュの一環だろうよ」
「ふーん…つまり、居なくなっても法律的には誰も困らない訳ね」
「そうだな。だからこそ我々も目を付けたのだがな」
「…なんかまるきり私たちって悪者よねー」

女は腰に手を当てて溜息。ふと、自分の格好を見直しながら

「私、変じゃないわよね?」
「…いつも通りだ、レーヴェンツァーン」
「大尉がそう言うなら、安心ね」

膝裏まである長い編み髪をちょっと直して、頷く。

「これでオッケーね…じゃ、大尉、お願い」
「了解した」

レーヴェンツァーンの言葉に従い巨漢は鋼鉄の右腕をシャッターに掛けた。
鋼と鋼がこすれる音がして、シャッターが少しずつ開いていく。
それと同時、倉庫に封印されていた濃厚な機械油の臭いが自己主張。
それから顔を背けもせず、二人は倉庫の奥から歩いてくる人物を待っていた。
二人の目の前には、油にまみれた作業服の金髪の男。
彼に向けて、小さく微笑み、レーヴェンツァーンが口を開く。

「あら。わざわざ出迎え有り難う。えーっと…」

レーヴェンツァーンは傍らで黙って立っている巨漢に向けて頷く。
それを受けて、巨漢は再び紙片を取り出し
其処に書かれている事柄を蕩々と読み上げる。
それは、ジャックの個人情報の一部。

「ジャック・ローランド。24歳。工房「JR総合機械研究所」の工房主で、
工学者であり超一流のモールド・エンジニア。
だが、後者については当局の免許を持っておらず、違法営業を続けている。
……この情報に間違いは有るか?」

ジャックの返答を待たずにレーヴェンツァーンは言葉を続ける。

「唐突に現れて、しかもお食事中、不躾なのは解ってるわ。
不躾ついでに悪いのだけれど、私たちと一緒に来てくれないかしら?といっても――」

先ほどと同じように笑いながら、しかし眼だけは笑わずに
ジャックの背後から近づいてくる黒髪の男にも聞こえる声で

「――いやだ、と言っても無理矢理連れて行くのだけれどね?」
そう、大したことでもないかのように言い放った。
vsへラード&レーヴァンツァーン
>382
 
「なにやら色々と情報が偏ってる気がするけど――まあ、大体そんな感じだな」
 
苦笑を浮かべて、その唐突な来訪者に向けてジャックは応えた。彼が資格を取らないのに
は、もちろん理由がある。彼にとって、モールドを含めたその他機械を弄くり回すのは、実
益を兼ねた趣味なのだ。それに、一度資格を取得してしまえば、彼は一切の仕事を断るこ
とができなくなってしまう。何故なら、法律にそう定められているのだから。徹底した趣味人
として生きるジャックにとって、それは望ましいことではない。なので当然。
 
「残念だけど、丁重にお断りするよ。どっかの誰かに従がってなんかやらされるのなんて、
まっぴらだだしね――というわけで、レイ。あとはよろしく」
「――――あ?」
 
いきなりこちらに振り向いて、なにやら物騒なことをのたまってくる彼に、レイオットは怪訝
に声を上げた。ほんの一瞬のあと、何を言われたのかようやく理解する――次いで口から
滑り出したのは、悲鳴に近い怒声だ。

「――って、おい。一体どうしろってんだよ!?」
「なにいってんだよ。こういう荒っぽいのはそっちの専門だろ。天才は頭脳労働って昔から
相場が決まってるんだ。それに、俺が居なくなって困るのはそっちだろ?」
 
意地の悪い笑みを浮かべて言ってくる彼に、レイオットは苦虫を噛みつぶしたような表情を
浮かべた。
 
「――くそ。あー。わかった、わかったよ。まったく――これは貸しにしておくからな。」

言いながら、一歩前に出る――同時に、腰のホルスタから、流れるような動作で銃を引き
抜き、構えていた。<ハード・フレア>カスタム。競技用の重銃身を備えるリボルバー拳銃の
銃口が二人に対し向けられる。
 
「……というわけで、このまま帰ってくれたりすると楽でいいんだが。お互いに、怪我とかし
ても面白くないしな」

どこか疲れ切った口調で、レイオットは二人に向けて警告――らしき口上を述べる。
言ったところで無駄だというのは、なんとなく理解できてはいた。
また厄介なことになった――と、胸中で深々と嘆息しながら。
対レイオット
>383

レイオットは口上を言い放ち、銃口が二人に向けられる。
それを見てもレーヴェンツァーンと男の表情は余裕のままだ。
銃口を向けられているのもお構いなしに二人はつぶやき合う。

「はぁ・・・先客が居たのね。コレは予想外だったわ」
「退いてくれ・・・と言っても聞きそうにはないな」
「と言うわけで大尉。後はよろしく」
「了解した」

レーヴェンツァーンは後ろに下がり、男はその右腕をレイオットに向ける。
が、砲門に収まった杖が飛び出すことはない。途中にロックボルトがあるからだ。

「名を、名乗っていなかったな。自分はG機関空軍部大尉、
ヘラード・シュバイツァーと言う」

義腕を構えて、

「またの名を・・・『音速裁断師』」

砲声。義椀の半ばにある排莢口から大型の薬莢が排出され、杖がパイルバンクされる。
杖が空間を叩く音が確かに響き、そして杖が収納される前に一つの抑揚有る詞が響いた。
その詞は、言実詞と呼ばれる、世界を書き換える言葉。

《英雄に刃向けることは叶わず》

拳銃の銃口あたりが流体・・・世界を構成する純物質でできた青白い線で構成された立方体に囲まれる。
一瞬後、銃口はレイオットの方を向き、宙に浮いていた。
空間が、切り取られ、回されたのだ。

「・・・恨むなよ」

シュバイツァーはその鋼鉄の右手でレイオットを打撃。
為す術もなくレイオットは吹っ飛んでいく。
vsへラード&レーヴァンツァーン
>384

――――衝撃。
無防備に、背中から壁に叩き付けられ、ほんの一瞬、息が詰まる。
咳き込み、口内に広がる鉄のような味に、彼はわずかに顔をしかめた。

「レイッ!?」

吹き飛ばされた距離は、およそ五メートルほど――焦ったようにこちらに声を返るジャック
に片手を挙げて応えつつ、激突したのがただの壁であったことに軽く安堵した。
もしここに作業機械のひとつでもあれば、それこそ洒落になっていない。それにしても。

「……なんだ、あれは」

飛ばされたダメージよりも、その直前に起こった奇妙な光景が、はっきりと脳裏に焼き付い
ている。声と同時に発生した青白い立方体。
そして、それに従うかのように切断された銃口――

「……どうも、簡単にはいかないみたいだな」

ふらつきを抑えつつ、彼は素早く立ち上がった。すぐさま、現在位置を確認――
無表情にこちらを見つめるカペルテータを視界の隅に収めつつ、目的のものを探す。

――あった。
視線の先には、キャリア・フレームに固定されたままになっている黒い鎧。装甲を開いたま
ま主を待ち受けているその様子は、どこか中世に使われていたという拷問器具のような、
奇妙な凄味を発している。
モールド。それは、魔法士を魔法士たらしめる、拘束衣にして作業服だ。

「ジャック! 助けて欲しかったら、ちょっとぐらい時間をかせいどいてくれよ!」

一方的に叫びながら、レイオットはキャリア・フレームに向けてかけだしていた。
対レイオット
>385
 
「ジャック! 助けて欲しかったら、ちょっとぐらい時間をかせいどいてくれよ!」
 
立ち上がった青年はそう言いながら二人の死角へと駆けていく。
それを見つめつつ、レーヴェンツァーンはジャックに話しかけた。
 
「で、天才さん。肉体労働担当の人はどこかへ行ってしまったみたいだけど――あら?」
 
視線を戻した先に、ジャックは居ない。
その代わりに、部屋の隅で鎮座していた作業用のクレーンが起動し始めていた。
エンジンの、大気を叩く音が連続すると同時、クレーンのアームが振るわれる。
その軌道上には、ヘラードの影。屋内用の小型とは言え、加速度を伴った大質量がへラードに迫る。
それに対し、彼は一言だけ告げる。
 
「……無駄な抵抗だな」
 
それ以上、言葉は続かない。あとは行動が示すのみ。
ヘラードは右手を振りかぶる。
各部で装甲版が戦闘位置に自動展開、微かな蒸気を吐き出した。
一瞬だけ動きを止め、次の瞬間、全力で打撃。
砲弾のような鋼の一撃がアームと激突した。
打音!
稲妻のうねる音にも似た轟音をもって、鋼と鋼はその力を存分に吐き出しあう。
一瞬の均衡の後、先に負けたのは、アームの方だ。
ヘラードの義腕「英雄」は、その表面の防御紋章を僅かに光らせつつも、その力を失っていない。
動力機関とその質量をもってした一撃は、しかし戦闘用大型義腕という兵器によってうち負かされる。
半ばからアームがひしゃげ、その過負荷によって動力部が煙を吐いた。
ヘラードはすかさず操作基盤を探す。やや薄暗い倉庫の中、ジャックの金髪は余りにも目立ちすぎた。
視界に納めると同時、傷一つ付いていないその右腕をジャックに向けて、仮発動。
先ほどと同じ砲声と突音。そして、詞。
 
《英雄より逃れることはできず》
 
逃げようとするジャックを、広がりゆく流体の青白い線が取り囲む。
出来上がったのは、ヘラードの眼前とジャックを結ぶ巨大な直方体の結界。
そして、y軸を中心とし、回転。ジャックとその周囲にあった幾つかの機械、
そして慣性ごと結界内を切断・回転させた。
つまり、ジャックがヘラードの方に走ってくると言う構図が出来上がる。
慌てる彼の首根っこをヘラードが義碗でつまみ上げる。
ハンガーに掛けられた洋服のようなジャックにむけて、レーヴェンツァーンは微笑。
 
「…余り手間は掛けさせないで欲しいわね。大丈夫。はやければ数週間、
 遅くても1年はかからない仕事だから。ちゃんとお給金も出すし」
 
そう言って、給仕服の隠しポケットから通信機を取り出そうとする。
その時だった。
倉庫の奥から鋼の鎧が這い出してきたのは。
vsへラード&レーヴェンツァーン
>386

音らしい音も立てずに、その黒い鎧――<スフォルテンド>と銘を刻まれたタクティカル・モー
ルドが、彼らの前にその姿を現していた。仮面越しに映る視界には、見事なまでに軍服姿
の巨漢につり下げされている友人の姿。予想通りの光景に、思わずレイオットは苦笑を漏
らす。

「……ったく。もうちょっと意外な展開とかがあっても罰はあたらんだろうに」

ともあれ、このまま彼を連れ去られるわけにはいかない。彼ほどの腕を持つ正規のモール
ドエンジニアを捜すのは至難の業だし、何より――レイオットは無資格だ。そのモールドを
修理、調整させるとなると、どれだけの労力を支払わなければならないか。
うんざりとしながら、彼は考える。

(……さて。どうする?)

見ればわかるように、彼らはジャックを連れ去る気満々だ。説得など出来そうもない。それ
は、先程こちらに見舞われた一撃からも明らかだった。当然――こちらとしても引くつもり
など無い。ならば――

「――やれやれ。結局はこうなる訳かっ!」

明らかにこちらに気付いているであろう二人に向けて、レイオットはスタッフを構える。機関
銃とチェーンソーを合わせたようなその長大な機械をレイオットは素早く操作。ごきん――
そんな音と共に、脳内に一瞬にして魔力回路が構成される。無音詠唱。
基礎級魔法一回分の魔力が活性化。そして――


「――イグジストッ!」

口から、撃発音声が迸る。瞬間、それを窓口として魔法が現実世界に顕現した。
<フラッシュ>発動。

唐突に、強烈な光と音が炸裂する。相手の感覚を麻痺されることを目的とした魔法が、閉
鎖された空間を縦横無尽に弾け飛んだ。
それと同時に、レイオットは走り出す。その動きは、とても全身鎧を身に纏っているとは思
えないほどに鋭い。目指すは……ジャックを掴み上げているあの男だ。
対レイオット戦
>387

自己の意志を持った動きで、鋼で出来たそれは音も立てずに立ち止まる。
右手に奇妙な機械を携え、マットブラックに染め上げられた中世の鎧のようなそれを見て、
レーヴェンツァーンは呟く。

「……タクティカル・モールド!?まさか、さっきの彼が――?」

一呼吸。予想外の状況だ。捕縛対象に戦闘能力が無いと言うことが前提としてあったため、
たった二人で捕縛しに来たのだ。周囲には大きな施設もなく、民間人が出てきても排除で
きる。その筈だったのに。
が、一瞬後彼女は考えを改める。手に入れようとしていた技術が、実物として目の前にあ
るのだから、何を迷う必要があるのか――

「大尉!あれも、なるべく無傷で捕縛して!あー、もうっ!どうしてこんな時に限って必
要なモノがないのよ!」
「……難しい注文だな。だが、やってみよう」

なにやらわめいているジャックを吊る下げたまま、ヘラードはモールドの方を睥睨した。その時。
鋼の重奏音と共に、黒い全身鎧が右手の機械をヘラード達に向ける。結界に一部を切り取
られた機械達から発せられる火花が、長大で凶悪なその形状を際立たせた。

「――!?この男ごと攻撃するつもりか!?」

ヘラードは思い出す。資料にあった戦術魔法士の使う魔法を、そしてその威力も。
呪文詠唱や流体への干渉を必要とせず、個人級としてかなりの威力を発揮するという魔法。
彼は急いでレーヴェンツァーンとモールドの間に割って入り、右手のジャックを左手に抱
え直す。そして、右手を構えた時だった。

「――イグジストッ!」

そう、男声の叫びが響く。と同時、唐突に閃光と爆音が走った。それは、倉庫という閉鎖
空間の中、反響して通常の数倍の効果を発揮する。

「くぅっ!?」
「きゃーーーっ!」
「のわーーっ!?」

ジャックも含めたそんな声さえ掻き消され、三人の感覚は完全に遮断される。
閃光によって本能的に三人の瞼は閉じられ、爆音と言う人が扱うには過分な情報を脳が
自動的に遮断している。
そんな中、ヘラードは一つの気配を捕らえた。こちらに向かってくる、明確な敵意を持っ
た気配。そちらに向けて、義腕”英雄”を振るう。が、金属同士が微かに擦れるような感触がしただけだった。
空振り。そんな事実を知覚するよりも速く、身体に衝撃が走る。重く、速い物がぶつかってきたのだ。
左腕のホールドが弱まり、ジャックを離してしまう。そんなことを気遣う余裕すら無く、
作業用クレーンにも微動だにしなかった巨漢は倉庫の外まで吹き飛ばされた。
対レイオット戦
>388

其処に来て、やっと、爆音の大気振動が収まってきた。
二人の耳――特に、耳をふさげなかったヘラードの――はしばらく役に立たそうになかっ
たが、瞼を明ければ光を感じられる。倉庫の入り口から6メートルほど離れて体制を立て
直した二人が見たのは、悠々と倉庫から一歩を踏み出してくる黒金の鎧。
それに対し、耳の感覚が少し戻ったレーヴェンツァーンは言葉を放つ。激音で狂った三半
規管を補助するように、焼けた砂の上に膝を付きながら

「――本当に、驚いたわ。こんな魔法も、ある、なんてね。でも――」

頭を二、三度振って、立ち上がる。ややふらついているものの、その瞳には力が満ちてい
る。彼女は左胸に右手を当てて

「――G機関長である”速読歴(ゾフォルト・レーザー)”が予言するわ。……貴方の魔法
は、私たちに届かない。」

レーヴェンツァーンの言葉に応えるように、無言でヘラードは腰を低く、義腕を構え戦闘態勢を取る。
その身体は三半規管が未だ揺れているにもかかわらず微動だにせず、その視線は鋼の鎧を
捕らえたまま強い意志を保っている。

戦いが、始まる――――
vsへラード&レーヴェンツァーン
>389

とりあえず、目的は果たされていた。
解放されたジャックを視界の片隅に収めつつ、彼は軽く溜息をつく。
だが、真の厄介事は、ある意味これからだと言えた。ゆっくりと倉庫から歩み出る彼を待っ
ているのは、静かに戦闘態勢を整えているあの男だ。

「さて……どうしたもんか、これは」

普通に考えれば、馬鹿馬鹿しいことこの上ないことではある。モールドを纏った戦術魔法士
と、かたや丸腰としか見えない相手。考えるまでもなく、結果は明らかだ。
だが――と、彼はひとりごちる。頭に焼き付いているあの光景。突如として空間に出現した、
青白い立方体。
そして、耳へと届くのは彼女の言葉だ。貴方の魔法は、こちらへは届かない。

それを受けて、レイオットはその顔に、ゆっくりと表情を乗せている。獣を思わせる、獰猛な
笑み――

「は――なかなか面白いことを言ってくれるな。だったら、ひとつ試してみるとするか!」

即座にスタッフを構え直し、続けざまにそれを操作。呪文選択を変更し、そのまま勢いよく
無音詠唱する。魔法撃発準備完了。

「顕ッ!」

叩き付けるように唱えられた撃発音声が、周囲の閑散とした空間へと響く。
瞬間、爆炎が現実事象へと上書きされる。<第一の業火>――<ブラスト>が発動。
小型爆弾に匹敵する破壊力を秘めたそれは、まるで小手調べだと言わんばかりに、引く身
構えているその男――たしか、へラードとか言ったか――へと襲いかかった。
対レイオット戦
>390

「顕ッ!」

目の前で鋼の鎧がそう叫び、空間が変異する。
たった一言での発動が、世界を変える。その力を、二人は欲しているのだ。
虚空に現れたのは、衝撃波を伴った業火。6メートルという距離は一瞬にして埋まる。
そんな中、レーヴェンツァーンは悠長に言葉を紡いだ。

「良い度胸ね。無謀だけど」

ヘラードは無言で義腕を操作。本日三回目の突音が倉庫に木霊する。
薬莢が地面に着くよりも早く、詞が響く

《英雄は反撃する》

それだけでは終わらない。今度は、もう一つ、別の詞が響いた。
女性の、高らかな声で。

《新世界は――》

見れば、レーヴェンツァーンが、左胸にそえた手を強く握っている。
額には脂汗。だが、明らかに彼女の声で詞が響く

《――新世界は英雄を助ける》

二つの詞が重なり合う。そして、変化が訪れた。
爆発を包むように空間に立方体が描かれる。が、今までとは違う。
描かれる速度も、その線の太さも、桁違い。

一瞬すら超える時間において、結界が完成。内側の爆発を、爆圧も、完成も、進行方向すら回転させたのだ。
己の放った爆炎が、レイオットを襲う――――!
vsへラード&レーヴェンツァーン
>391

「――――!」

正面に、<ブラスト>。それは間違いなく、たった今自分が発動させたものだった。
だがそれは、生み出された青い立方体――先程とは規模が大きく異なっていたが――に
包み込まれた次の瞬間、それがまるで何かも間違いであったかのように、真っ直ぐにこち
らへと襲いかかってくる。
驚愕が、一瞬だけその思考を白く塗りつぶしていた。
わずかな一瞬ではあったが、思考が正常に復帰したその時には、すでに回避のタイミング
には遅い。

(反則だろうがそれは!)

舌打ちしつつ、スタッフを更に操作。無音詠唱と同時に撃発音声を叫ぶ。

「顕!」

瞬間、スタッフの先端から不可視の魔力が溢れ出す。
それは着弾寸前の<ブラスト>に襲いかかると、それを構成していた魔力回路に干渉、瞬時
に無力化、消滅させる。<ジャミング>発動。

「くそ。どんな手品使ってやがる……!?」

何をされたのかは、まるで見当が付かなった。だが、その仕掛けというか――「それ」を行う
ための手段は、なんとなく見えた。
この妙な手品を披露するためには、こちらと同じく声を引き金とするらしい。

「……それがわかったからって、どうにかなるってもんでもないけどな」

少なくとも、このまま馬鹿正直に魔法を叩き付けても、返り討ちに合うのは容易に想像でき
た。くそったれ――吐き捨てながら、スタッフに新たな呪文を読み込ませる。
即座には発動させずに、レイオットは男の周囲を回り込むように走り出していた。
対レイオット戦
>392

「――はぁッ…はぁッ……」

レーヴェンツァーンは左胸を押さえて荒い息を吐く。冷や汗が頬を流れ落ちる事すら感じず、ただ苦しさを感じていた。久しぶりに己の詞を使った故か。それとも、別の理由か。

「まさか――たった一回でこんなにも消耗するとはねー」

そう、軽い口調で呟く。口調とは裏腹に顔色は著しくない。彼女は息を大きく吸って、深
呼吸。段々と、鼓動が落ち着いていくのが解る。

「大丈夫か?レーヴェンツァーン」
「大丈夫よ。…久しぶりだったから、ちょっとびっくりしただけ」

敵を見据えて呟く心配そうなヘラードの口調に、見えていないとは知りつつも微笑を持っ
て返すレーヴェンツァーン。ヘラードは、言葉を続ける。

「キミは、やはり”新世界”を使わぬ方が良い」
「……どうしてよ?私、元気になったのに、大尉の手伝いをするために此処に――」
「どうしても、という場合以外は別の方法で手伝ってくれ。……背後が心配で集中できん」

ヘラードの言葉に、レーヴェンツァーンは微笑む。それが、彼の優しさだと知っているから。
が、彼女は戦闘中だと言うことに気付き、即座に気を引き締めた。

呟き合う二人の周りを、鋼の鎧が駆け回っている。その速度はそれが金属の塊だと言うこ
とを忘れさせてしまうほどに、速い。だが、それは常人から見た場合のことだ。そして、
此処にいる二人は常人ではあり得ない。
G機関の構成員は、約1000年前に救世者を助け、乱れた独逸を平定して回った独逸竜
騎師団の末裔達だ。一騎当千。総勢500人にも満たない機関が、独逸政軍の上に立って
いられる理由の一つでもある。

「大尉。気を付けてね。あちらには呪文詠唱がほとんど必要ないのだから」
「解っている」

ヘラードのすぐ後で、懐からワルサーP38を取り出したレーヴェンツァーンの声にそう短
く答え、”杖”を構えたまま周囲を駆ける鋼鉄の鎧に対しヘ彼は義腕を向けた。陽光に、杖
の補強用の鉄板が鈍く光る。
対レイオット戦
>393

構えられた義腕”英雄”は、黒金の鎧に向いているものの、その砲口は厳密に言えばそれ
の方を向いては居ない。向いているのは、鎧の周囲の空間。
次の瞬間、もはや驚くべきも無く、ヘラードの声と”英雄”の言実詞が空間に響く。

「今度はこちらから行くぞ……さぁ、どうする魔法士!」
《――英雄は敵の退路を塞ぐ》

砲声。杖が収納されきるよりも速く、二発目の砲声。同じように、三発目も。等間隔で仲
良く薬莢が空に飛び、空中にある間に一辺約15メートル程の結界が完成されようとする。
高速の連続音は現実において長く続く単音となる。杖が空間を叩く突音が一つだけ、長く
響いた。
モールドを着込んだ男は身構える。だが、結界が発生したのは彼の左右と背後。さらにそ
の下半分は地面に埋没していた。追い打ちのように次の言実詞が空間に響く。

《大地すら英雄に味方する
   大地の怒りは情け容赦なく》

詞は結界の中身を回転させることを望む。左右の結界はZ軸を、背後の結界はX軸を中心
としてそれぞれ90度回転。一瞬にして、鋼の鎧の周り三方が乾きと人々の通行によって
鍛えられた高さと厚さ8メートル程の大地の壁に囲まれた。

「レーヴェンツァーン、援護を頼む。」
「はいはい。任しといて、大尉」

走り込んでいくヘラードの背後からレーヴェンツァーンは射撃する。モールドを傷つけるためではなく、その動きを阻害するのが目的。鋼鉄の鎧の足下や左右の壁に小口径弾が連
続着弾する。
その間に、ヘラードが接近。走りながら、鋼鉄の義腕を構え上げる。
疾走と体重による慣性に、義腕と言う機械の動きによる直線運動が加わわった拳が今、放
たれんとする――――!
vsへラード&レーヴェンツァーン
>394

―――タイミングとしては、絶好だったはずだ。
後は、一声叫べばそれで事足りる。撃発音声。それと共に、構築されていた魔法が、佇む
二人に襲いかかる――そのはずだった。

(――――――)

視界に、その映像が流れ込んでくる。一瞬を切り取られ、意識に刻み込まれるその光景。
微笑み合う二人。それは、ひどくありふれた。だが彼にとっては手の届かない、触れては
ならないものに見えて――――

へラードが義碗――と呼んでもいいものか、正直判断に迷う――をこちらに向けて構えて
いる。その瞬間、彼は自分が、決定的な攻撃の機会を逃したことを悟った。

「くそっ!」

舌打ち。自分の馬鹿さ加減を罵りながら、足を止め、男に正対するように身構える。
同時に、義碗から一抱えほどもある巨大な薬莢が排出されていた。

――――来る!
反射的に、撃発音声と叩き付けようと口を開き――だが、それよりも先に。
世界を書き換える、男の声が響き渡る。

起こった変化は、これまでのどれよりも劇的だった。
正面を除く全てが、瞬時に壁に閉ざされる。すぐに、それがかつて地面と呼ばれていたもの
であることを認識。だが、もはやそれには驚かない。思考は、この状況にどう対処するか、
その一点に集約される。

前からは、男――繰り出される巨大な義碗は、その疾走をも力と変えて、逃げ場のないこ
ちらへと真っ直ぐに繰り出される。

「は――はっ!」

零れるのは歓声。一瞬とは言え、戦意を失っていたなどとは露ほどにも思わせないような、
そんな歪んだ――だが純粋な笑い声。反射的に、レイオットはスタッフを操作。
解放桿と呼ばれるレバーを操作し、構築済みだった魔力回路を一気に脳から消滅させる。
立て続けに呪文選択装置を操作。新たな呪文書式を選択し、流れるように無音詠唱。
その全てを、一秒にも満たない早さで達成する。

義碗が、迫る。だが、その光景は、肉体強化を行っているわけでもないのに、ひどく――
ゆっくりに見えた。銃声。壁や足下へと叩き込まれたそれの一部が跳弾し、モールドと激突
し火花を散らす。だが、それだけだ。小口径弾では、モールドの防御を突破できない。無視
する。そして――

「――――顕ッ!」

叫ぶ。撃発音声。男の鉄塊の一撃が命中せんとするこの瞬間に、へラードとレイオットとを
遮るように、波紋状の力場平面が出現した。<デフィレイド>発動。
圧力や熱、そして一定以上の衝撃をも遮蔽し拡散させる防御力場面は、男の一撃を見事
に受け止めていた。
そしてそのまま――展開したままの力場面を、まるで掌底打ちのように。
へラードに向けて勢いよく叩き付けていた。
対レイオット戦
>395

「顎ッ!」

ヘラードが放った必中の拳は、その一言によって受け止められる。言葉を介して放たれた
魔法は、世界を書き換え力場の壁となり鋼鉄の一撃と交錯した。

「ぬぅぅっ!」
「大尉!」

ヘラードの動きが停止する。否、確実に押されている。力場がこちらに押し出されている
のだ。ヘラードは腰を深く構え、左手を添えた拳を全力で突き出した。義腕”英雄”の表
面装甲と打撃装甲版に彫り込まれた防御紋章は、もはや目映いほどの光を放ち超過起動中。
だが、それにも限界がある。
乾いた地面はヘラードの脚を捕らえない。一度動き出してしまえば、加速されるのは、実
に容易だ。

「おおおぉぉぉっ!」

雄叫びと共にヘラードの視線に力がこもる。脚を踏ん張り、義腕の駆動器がうなりを上げ
る。一瞬だが加速率が確かに落ちた。
が。唐突に場違いな音が聞こえてきた。
しかし、それは、有る意味その情景に最も相応しかったのかもしれない。防御紋章が彫り
込まれた打撃装甲板が、突如として光を失っていく。鋼をむしり取るような物騒な音が連
続し、装甲版が剥離していくのだ。金属が砕けると言うよりは、古く、乾いたペンキが微
細に砕けて風に融けていくと言った様相。

「大尉!」

その光景を見たレーヴェンツァーンは急いで隠しポケットの中を探る。確か、緊急時用に
一発だけ持って来た、あの弾丸。一見普通の弾丸と変わりないが、よく見ればその表面に
は微細な紋章がいくつも刻まれているのが解っただろう。彼女はそれを取り出し、急いで
ワルサーの弾倉を取り出す。その弾丸を込めて、再装填。
女の手でも片手で撃てる筈のワルサーP38を両手で構え、腰を低く保つ。そして叫んだ。

対レイオット戦
>396

「大尉!避けて!」

発砲音と、カルシウムのような独特の燃焼臭。次の瞬間、銃口から放たれた弾丸は周囲の
流体を急速にかき集め、一抱えもある光槍と化した。それは、対魔光槍弾という対魔物戦
用の弾丸。巨大質量が飛び出た反動で、レーヴェンツァーンは少し弾き飛ばされ、それで
も逃しきれない衝撃が彼女の手からワルサーを奪い取った。
ヘラードは光の槍が直撃する寸前に横に大跳躍。光槍は、戦術魔法士の放った力場に激突。
大質量ならではの激音を立てて砕け散り、力場の壁を道連れとした。
ヘラードは立ち上がりつつあるレーヴェンツァーンを視界の隅に一瞬だけ写すと、すぐさ
ま機械の鎧を見据える。そして、たった一つの武器である右手”英雄”を構えた。

彼は、打撃装甲版を砕かれ、それでも尚相手を無傷で捕縛しようとする。
砲声三発。
その音を聞いたレーヴェンツァーンは、上体を起こしつつ、補助の詞を放つ。

「これで…どうだ!?」
「これで…どう!?」
《英雄は壁を砕く》
《新世界は英雄を信じている》

敵の三方を塞いでいるそれぞれの土壁の上方に向けて結界術が放たれる。二人の言葉と詞
を受けて放たれた結界術は己の使命を律儀に果たした。
それぞれの土壁の、上方半分。結界の中を回転させ、それだけの巨大質量を鋼の鎧の真上
に転移。さらに、結界が消えると同時に支えを失った土壁は砕ける。
膨大な量の土砂が、未だ囲いの中に居る戦術魔法士の駆るタクティカル・モールドを押さ
え込まんと殺到する。
vsへラード&レーヴェンツァーン
>397

男が飛び退くと同時、展開された力場平面に更なる一撃が叩き付けられる。先程の銃から
それが射出されたのは、わずかではあるがその光景を確認していた。
しかしその直後に現れた現象は、またしても彼の認識の中にはない。
瞬時に光槍と化した弾丸が、それが何かと思考するまもなくこちらへと着弾する。光槍のま
とわりつかせていた力――流体と、<デフィレイド>の防御力場面が激突。相互干渉を引き
起こし、同時にその効果が消滅した。

「くっ――――!」

飛び退いた男を追うように、レイオットはその場でスタッフを操作。
呪文書式選択を<スパイラル>に設定。無音詠唱。

ここに来て、ようやくその仕掛けが見えた。
あの鋼鉄の義碗。紡がれる言葉と同時に駆動する機械。それが、男の能力の源だ――!

まるでそれ自体が全てを貫く武器であるかのように、レイオットは男へとスタッフを向ける。
視界に映るのは、義碗をこちらへと掲げ、みっつの薬莢を碗部から排出するへラードの姿。

視線が交錯し、時が、止まったような気がした。

――瞬間。
       双方から。



《英雄は壁を砕く》
                                            「顕っ!!」
《新世界は英雄を信じている》



全ての決着を導く決定的な一言が、同時に世界へと叩き付けられた。

「――――!」

降る――と言うよりは、落下といった方が正しい。半ば一個の塊と化した土砂が、黒いモー
ルドに対し振り下ろされた。重く、そして深い衝撃が全身を揺さぶり、彼の意識を急速に奪
い取っていく。頭部に直撃した土砂が、彼に軽い脳震盪を引き起こさせたのだ。
逃げ出すことも敵わずに、彼は為す統べなく、落ちてくる土砂の中へと埋められていく。
だが――そんな中でも、彼はしっかりと見ていた。

へラードの右腕――義碗に、螺旋状の力場が発生する。
対象物に対し直接作用する<スパイラル>は、設定された座標へと発動。
そのまま――瞬時に、その鉄塊を捻り潰さんと収束する。

――だが、レイオットは、その結果を見届ける前に。
落下してくる土砂の、更なる一撃を受けて、そのまま沈み込むように意識を失っていた
対レイオット戦
>398

言葉が、交錯した。

シュバイツァーの強臓式義腕”英雄”が叫ぶ言実詞と
モールドを徐の身にまとった魔法士が叫ぶ撃発音声が。

ただ、前者にはレーヴェンツァーンの強臓式心臓”新世界”の補助があった。
故に、相手の魔法が発動するよりも速く結界が放たれ、世界が書き換えられる。

しかし、撃発音声によって放たれた魔法は確実に世界に顕現した。
ヘラードが気付いたときには、変化はもう始まっていた。

右の義腕に、突然強烈な負荷がかかるのをヘラードは感じる。
一瞬で残っていた装甲版が白熱。砕け散った。
鋼鉄の、無骨な手指がひねり潰されていく。フレームがねじれていく、嫌な音。
戦闘用義腕ゆえ、痛みは感じない。だが、衝撃は響く。

「ぐぅぅぅっ!?」

時間的には、たった数秒だろう。土砂に埋もれた魔法士が意識を失い、魔法が制御を離れ
るまでの間。ただ、それだけの時間でも義腕を戦闘不能にするのには十分な時間だった。

戦闘不能。

そう。その砲門にはまっていた木杖は基部を残して砕け散り、かろうじて生き残った駆動
器が歪んだフレームを支えているだけ。

「…やられたな…」

そう言いながら、ヘラードは土砂の山へと歩いていく。魔法士が埋まっている場所へ。
土山につくと、おもむろにその砕けた右腕を振りかぶり、打撃。
砕けた土の集合体は、鋼鉄の義腕の一部分をむしり取りながらも素直にその身に鉄を受け
入れる。
数秒。
ヘラードが腕をひき抜こうとする。が。駆動器の出力が足らず、引っかかる。
彼は嘆息して義腕のボルトロックを外し、義腕を身体から離す。左脇にかかえ、思いっき
り引っ張った。
いささかホールドの甘くなった腕につかまれていたのは、土に汚れたモールド。汚れては
いるものの、徐の身に目立った損傷はなく鎧としての意味を自己主張。
半身をいまだ土塊に埋めてぐったりしているそれを一瞥して、ヘラードは後ろに向き直る。

「……レーヴェンツァーン。大丈夫か?」
「……なんとかー。大尉はー?」
「大事無い。…義腕をやられたが、対象の確保は成功した」
「ごくろうさまー」


彼女は大の字に倒れたまま片手を上げてそう返事。
一息着いた後、寝転がったまま懐の通信機を取り出し、スイッチを入れる。

「……あ、ベルマルク?私だけど。……うん。…うん。というわけで、治療の準備と、予定よりも大きめの護送車両ね。後は――」

レーヴェンツァーンは、此処に来たときのことを思い出す。

「お昼ご飯。多めに」

それだけ言って、レーヴェンツァーンは瞳を閉じた。
400エピローグ:02/07/08 05:09
ヘラード&レーヴェンvsレイオット
>399

三週間後――――

昼下がりの午後――やや遅めの昼食を採り始める。

油の臭いと無数の機械がひしめく、大型倉庫を改造した工場の如き場所の一部分――など
ではない。
場所は、当然の如く気の利いたカフェテリアだ。南側に面した窓からは日光が程良く入り
部屋の中を明るく照らす。
此処は、G機関本部の食堂である。
幾つかのテーブルが並ぶ中、中央に置かれた十人掛けの円卓には、しかし5人しか座って
いない。
無論、ヘラードとレーヴェンツァーン、レイオットとジャック、そしてカペルテータであ
る。

円卓の上には、子鹿の丸焼き。付け合わせのタマネギ等の野菜が香ばしい臭いを立ててい
る。
だが、円卓に座っている者達は紅茶やコーヒーを口に含みながら、猛烈な勢いで消費され
ていく御馳走とそれを為していく人物を呆れた様子で見つめている。
もも肉をかじり終わったジャックが次の獲物に手を伸ばす前に、レーヴェンツァーンが声
をかけた。

「…よくたべるわねー…明らかに胃の容積以上食べているように見えるのだけれど…」

彼女は、クリームの浮いたカフェを飲みながら、最初に確保した野菜を少しづつ囓っている。
ヘラードは無言。ただ、彼もコーヒーの入ったカップを傾けるだけだ。

「――ほら。高級車って大抵燃費が悪いから」

朗らかに、ジャックはそう答える。分かったような、分からないような。一様に困惑を浮
かべる同席者を置き去りにしつつ、彼はさらに、次の皿へと手を伸ばしていた。その中で
唯一、カペルテータだけは、我関せずと言ったようにカップを両手で包み込んでいる。そ
の姿を見つめるレイオットの視線は、どこか恨めしげなものに見えた。

「…で、強制的に連れてきてなんだけど、色々有り難う。G機関の長として礼を言うわ。
思ったよりも高度な技術を使っていたみたいだし、妖物なんかの対抗策として使えそうよ」

実際、強制的だったのは連れてこられたときだけ。本部内の移動は監視付きだが比較的自
由に行えたし、ジャックなど休憩時(半ば仕事時間にも)には重騎にべったりと張り付い
ていたと言っても過言ではない。
401エピローグ:02/07/08 05:10
ヘラード&レーヴェンvsレイオット
>400

「……まあ、俺が言えた台詞じゃないが。運用には気を付けてくれよ。俺等のせいでこの
国にまで魔族災害が及ぶようじゃ、流石に寝覚めが悪い」

もっとも。彼自身、この台詞にあまり意味がないことも知っていた。魔法がそこにある以
上、魔族は必ず現れる。魔法と魔族が密接な関係にある以上は、それはさけられない事実
だ。どんなに細心の注意を払おうと、一定数の事故というものは、必ず起こるものなのだ
から。例の――風水と呼ばれる技術でも、呪素の完全な分解は望めいないことは、先の実
験で分かっている。

こちらのそんな思いを知ってか知らずか、彼女は軽く、だが力強く頷いていた。軽く、微
笑みすら浮かべて。

「ちゃんと、報酬は用意して置いたわ。帰るときに、受付に寄ってもらえればいいから。
…あと、報酬には重騎が良い…って話だけれど、量産中騎だったら…何とかなるかもしれ
ないわ」

「ああ、それでも構わないよ。いやあ――まさかあんなものが存在するなんて思ってもみ
なかったからさ。あれを弄れただけでも来たかいがあったってもんだ」

「というか、あんなデカ物を持って帰るつもりか、お前は」

なお、「騎」とは、人型の有人兵器のことである。
言い合う二人――それはどちらかというと、じゃれ合っているようにも見える――をしば
らく眺めてから、レーヴェンツァーンが静かに口を開く。

「此処の本部のことは、誰にも言わないでね。あなた達を殺したくないから」

その彼女の台詞に、レイオットは苦笑しつつ了解した。独断で魔法関連技術を国交もろく
にないような国に譲渡しているのだ。知られれば、むしろ彼の方が立場的には危うい。

「それじゃ、またね」

レーヴェンツァーンは席を立ち、それに続くようにヘラードが立ち去る。
円卓に残されたのはレイオット達三人だけ。
静かな昼下がりのことだった。
ヘラード&レーヴェンツァーンvsレイオット・スタインバーグ
戦闘記録(レス番まとめ)

>378>379>381>382>383>384>385>386>387>389>390
>391>392>393>394>395>396>397>398>399>400>401

……やれやれ。
終わったこととはいえ、とんでもないことをした気がするが。
まあ……仕方ないか。
403名無しクルースニク:02/07/08 06:39
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>369(修正)
 
 終わった、と思える程の衝撃が全身を襲った。
 トレーラーの正面衝突にも等しい巨体の一撃が全身を押え付ける。
 巨大な腕に頭部を鷲掴みにされていた。万力のような力で頭蓋を締め上げるヴァルダ
レクの顔が、狂ったような喜悦に歪む。
 粘液めいた涎が顔面を汚す。自分の血か返り血か、前髪を伝う血の塊が瞼の内側に
流れ込む。視界が濁る。
 脳がシェイクされる様な激痛と錯覚が、思考を引っ掻き回す。
 骨が軋む。思考が混濁する。手足が言う事を聞かない。
 思考、が
 
『良いか、ここを動くなよ――』
 
 ――テメエで約束破って、如何する気だよ。
 
 怯える少年の顔が、意識のスクリーンに浮かび上がった。
 コイツを、如何にかして――殺さないと。
 僅かに生き残ったマトモな思考が、呟く様に叫んだ。連鎖反応で生き返った体の統括
意識が、今直ぐ殺せと吠え立てる。
 手駒は? 9パラが通じる? いいや。ショットガンは? 抜ける状態じゃない。
 否――手駒は、有った。
 薄笑いを浮かべて、青年は震える左の指先を、霞むような速さでカソックの袷に突っ込
んだ。再度閃く左手がヴァルダレクを殴り付けるようにその顔面へと走り、
 ――左手を、その口内へと押し込んだ。
 がぢ、と。当然のように閉じたその顎に、腕が引き千切られ掛ける。
 激痛に苛まれながら――理性のない瞳を見据えたまま、青年は笑った。
 
「……フィナーレだぜ、お山の大将気取りのクソ野郎」
404名無しクルースニク:02/07/08 06:43
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>403
 
 一瞬だけクリアになった思考が、両腕を閃光の速度で走らせる。
 左手が握り込んだ高性能爆薬が、口の中でピンを弾き飛ばした。
 腰の後ろ、カソックの継ぎ目の奥、ベルトに挟むように吊っていたククリナイフを引き抜
いた右手が――――――左手の肘から先へとナイフを叩き下ろす。
 衝撃。
 
 月の貌が、朱に染まった。
 
 鋭い断面から盛大に血を撒き散らし、左手をヴァルダレクの口に残したまま、身体は
ヴァルダレクから引き剥がされる。
 意識を沸騰させる様な熱さ。思考を沸騰させるような激痛。
 痛い。腕が無くなったから、そんなのは当然。意識が霞む。出血のせいだ。
 もう駄目か? ……さあ?
 
 左手は消失している。足の感覚が死んでいる。
 残り滓のような全力でヴァルダレクの体を蹴り放し――残った右手で銃を形作ると、青年
は口の端を三日月の様に歪めた。
 
「……ソイツからは――逃げられねえよ」
 
 言って、意識が薄れるのと、ヴァルダレクが身を捩るのは同時だった。
 置き土産の左手が、ヴァルダレクの口中で閃光を放つ。
 主塔から滑り落ちて行くのを自覚しながら――青年は隻腕で銃を形作り、こめかみに
人差し指を押し付ける。
 
 ――ザマあ――見やがれ。
 
「――バァン」
 
 ――夜を泳ぐ様に、身体は真坂に落ちて行く。
 ヴァルダレクを埋める主塔が――崩落の音さえ遮断する轟音と、夜を昼に変えるかの様な
閃光が包み込んだ。
 意識が、暗転する。
>348>362>377  アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト

 爆発の勢いに乗って砕け散ったガラスの破片がストリートの歩行者へ降り注ぐ。
 爆発と炎上。爆風と轟音。驚愕と悲鳴。ストリートの“静かな夜”はこうして破壊される。
 そんな破壊と同時、爆砕した個室から湧き出る煙と炎を突き破り、
アスファルトの大地に降り立つ一つの影があった。フォルテッシモだ。

 爆発の中心にいたはずなのに、傷どころか埃一つついていない。
 あれだけの爆風を浴びて、なぜ彼は無傷でいられるのだろうか。ストリートの通行人に、
それが分かる者は誰一人としていない。
 そんな他人の目を知ってか知らずか、煙をあげる二階の一室を見上げながら彼は思う。

(これが世に聞く“言像化”か……使い方次第では、いくらでも強くなれる能力だな。――む?)

 フォルテッシモの鋭い瞳が、煙の奧で駆ける二つの影を捉えた。

「逃げるつもりか? ……ならば!」

 左手が宙を駆けたと同時、横一文字に薙ぎ払われた腕に対し、宿に垂直の亀裂が走る。
 両方の軌跡を合わせると、それは正確に十文字を描いていた。

「ふん……宿屋ごと真っ二つって奴だ!」 

 疾る亀裂の行き先は……堅く結ばれた二つの手。 
406「鬼」:02/07/08 13:35
鈴鹿御前vsチェカラク
>376

 それは、自分以外の存在がこの獄舎に入り込んだことを感じとった。
 ひとつ、いや、もうひとつ。
 それは歓喜に震えた。
 食物を得ることのできる喜びに、何の変化もないという苦痛を僅かに癒される喜びに。
 来訪者は出口の存在しないこの獄舎を巡って、いずれはそれの前に姿を現すだろう。
 だが、それは待つことを嫌った。
 来訪者の気配のする方向へと、動き出す。
 一刻も早く、来訪者を食らうために。
 
 
 虹色に輝く壁を通り抜けた向こうに広がっていたのは、自然が創り出した洞窟ではなかった。
 そこは、明らかに人工的に造られた広い通路だった。
 未知の場所に対する不安はあったが、背後から迫るものの恐怖に較べればどうということはない。
 私は通路の奥へと進み、闇の中をさまよった。
 ここは、何の目的で造られたのだろうか。
 無数の分岐と曲がり角が存在し、まるでテレビゲームに登場する地下迷宮だ。
 この迷宮の奥には、いったい何が存在するのだろうか。
  闇の中で私は、ひとつの話を思い出した。
 この地方に伝わる民話、伝承だ。

 数百年の昔、恐ろしい疫病に襲われた村人たちは、神々に祈った。
 神々の力で、村から疫病を一掃してくれと。
 その祈りにこたえて現れた<火の神>は、疫病だけではなく、田畑や家々さえも焼きつくした。
 神にとって、それは助力に対する当然の代償だったのだ。
 さらに<火の神>は人々を焼こうとしたが、旅の僧侶の法力によって、山の下の洞窟に閉じ込められた。
 村人たちは<火の神の洞窟>を、立ち入ってはならない禁断の場所にしたという。
 
 つまらない民話にすぎないと思っていたが、まさか本当に、ここが<火の神>の幽閉された洞窟なのだろうか。
 そう考えながら通路を歩いていた私は、空気が暖かくなっていることに気づいた。
戦士たちの決勝前夜 〜ミア・フォーテー&星川翼vsヌアラ王
>354

痛――――
久しぶりの痛みだ。頭がグラグラする。
肉体的な痛みじゃない、なんと言うか・・・『存在そのものが軋んだ痛み』?

頭を軽く振りながら立ち上がってみると、『相棒』が倒れていた。

「あ・・・」

頭が混乱する。何でだ? 私が倒れてる間に何があったんだ?
―――簡単なことだ。力及ばず、王に刺された。ただそれだけの事。

駆け寄って頬を叩いてみる。返事がない。
王がこちらを見下ろしている。嘲笑うかのように、蔑みを隠さずに。
私の体を鮮血が染める。どうすればいい?

不条理に命を奪われることの、志半ばで果てることの悔しさを私は知っている。
だったらどうすればいい?

私はすでに人間じゃない。私には『相棒』を救う力がある。

『なら、やることがひとつ・・・』

意を決して、私は『相棒』の顔に自らの顔を近づける。

そして――――Kiss。

閃光が走り、私の姿は宮殿から消えた。
ちょっと早いけど、次スレ。
吸血大殲 第32章 〜薔薇の月に血の涙

http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1026106111/
409「鬼」:02/07/08 16:42
鈴鹿御前vsチェカラク
>406
 
 それは、来訪者の気配に向かって進んだ。
 それは、あと少しで食物を得ることができる。
 それと来訪者の間の距離は、あと僅かだった。
 
 
 これは、暖かいなどというものではない。
 不快な暑さだった。
 涼しいはずの地下迷宮がこんなに暑くなるとは、いったいどういう理由があるのだろう。
 ここは火山でもなんでもない、ただの山の下の洞窟にすぎないのに。
 幾つ目かの曲がり角を曲がると、通路の果てに光が見えた。
 出口だろうか。
 いや、外は夜のはずだ。
 誰かが明かりを灯しているのかもしれない。
 なんだっていい、あの光こそ私を恐怖から解放してくれる、自由の明かりだ。
 私は光に向かって走った。
 あれは日の光でも、電灯の光でもない。
 火の明るさだ・・・火!?
 
 私はあの明かりと<火の神>の関連に気づいて、足を止めた。 
 まさか、この先にいるのは・・・この光と熱の源は・・・。
 私は一歩も進んでいないにもかかわらず、光はどんどん強くなり、温度は高まっていく。
 肌がじりじりと焼けるような痛みを感じる。
 やがて、次の曲がり角の先から、炎が噴き出した。

「あああ!」
 歓喜と絶望が混ざった凄まじい声が、通路全体に響きわたった。
「あああ!やっと!」
 その声は炎のなかから響いていた。 
 私は動けなかった。
 人間を遥かに凌ぐ力を得た私の力をもってしても、それに勝てないことは本能的に解った。
 恐怖に脚がすくみ、逃げることさえできない。
 私が殺したあの女と同じだ。
 私は彼女に、これほどの恐怖を味あわせてしまったのか。
 空気が熱い、全身が焼き焦がされるようだ。
 炎が揺れ、人間の姿へと変化した。
 全身が炎でできた、長身の人物。
 それの両手が、私に向かって伸ばされた。
 いやだ、死にたくない、動けない、熱い、恐い。
 それの抱擁によって、私の全身が瞬く間に火に包まれる。
 死にたくない、いやだ、ごめんなさい、熱い、私の命が、魂が、貪り食われていく!
 すべての感覚が、ゆっくりと薄れていく。
 あの少女の刀に斬られていれば、せめてまともに死ねたのだろうか。
 それが私の最後に考えたことだった。
あああ!
鈴鹿御前vsチェカラクの闘争途中纏めをこれに示す!

>372 >374 >375 >376 >406 >409

余と鬼姫の闘争は、ただ生存のための闘争は、始まったばかり!
411ユージン:02/07/08 19:57
「さて、残念だが」


 ――足音が響く。


「おまえには死んでもらわなければならない」


 ――渇、割と。


 少女の怯えは臨界に達していた。
 両足は震え腰は抜け、身体中が軟体動物のように脱力しているのに
肩の強張りだけが針金のように抜けない。
 頭の中から脳が抜け落ちたようにあたりが真っ白で何も見えない聞こえない。
 そのくせ追いかけてくる、あの眼、あの声。あの跫。


「指示が変わって、不要なMPLSは全員消去ということになった」


 逃げなければいけない――でも、どこへ。
 逃げなければいけない――でも、どうやって。
 逃げなければいけない――でも、なにから。


 ――かつ。


 止まる足音。
 かざされる手の気配。


 
 ああごめんなさい、ごめんなさい許して許してください。かみさま、どうか神様たすけ



 ひゅっと風切り音。
412黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/08 19:58
>411
vs合成人間
 
疾風を纏って放たれた手刀はしかし、途中で止まる。
俺がその手を掴み、止めたのだ。
 
「・・・・・・行け」
 
怯え切った表情を見せている少女に、俺は突き放すように告げる。
足を震わせながらも、彼女は立ちあがり、よたよたと俺達から離れていく。
 
MPLSと呼ばれる、特殊能力者。
東京都知事である俺は、彼らの調査を始めていた。
貴重なサンプルを、今失うわけにはいかない。
 
「何をしている?」
 
少女が立ち去ったのを確認すると、俺は掴んだままの腕の持ち主に問い掛ける。
彼から感じられる、妙な殺気。
この殺気は人間の物ではない。
 
そして、彼の動きを止めた俺もまた―――――――
ヒトでない事に気づかれてしまったようだ。
413ユージン:02/07/08 20:00
>412
vs黒岩省吾


ち、面倒くさい相手だ。
ユージンはそう思った。都知事黒岩省吾。
「何故ここにいるのか」「どうして自分の手刀を止めたのか」
この二つの問いを凍結させて、まず最初に思考した。面倒くさい相手だ。
消すと、一騒ぎ起こるのは間違いない。


――だが、だからといって、見過ごすわけにもいかない。


「あなたは何も見なかった。何もしなかった。そして何も知らない」

ぼそぼそと、されどはっきりと通告する。

「そうすれば――命だけは助けてやる」

掴まれたあたりに浮かぶじっとりとした熱。
なんということはない――このまま掴んだ手を焼いてやることだって可能なのだ。

(ディオゲネス・クラブ宛ての調査報告書より抜粋) 
 
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”(途中経過纏め)

二十八章
>468 途中経過纏め

二十九章
>465 途中経過纏め

三十章
>74 途中経過纏め

三十一章
>28 >54 >104 >124 >126 >129 >156 >217 >247 >276 >297 >304
>314 >318 > 353 >356 >364 >369 >403 >404
 
付記:事態は終息の兆しを見せつも、次スレにて継続せり。
415御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/08 20:02
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>74 
 
俺の掌打は腹部に突き刺さった。
と同時に、俺はサイコブローを叩き込む。
今ごろ、精神波を物理的な破壊力に換え、奴の体を駆け巡ってるんだろう。
言うなれば内家の発剄みたいなもんだ。
奴の顔が苦痛に歪む。これでやったか、そう思った。
 
が、それは奴の更なる闘争本能を目覚めさせちまったみてぇだ。
眼には憤怒が、体からは闘鬼が漲ってきやがった。
そして襲い掛かる破壊の暴風雨。
 
それはそう表現するしか他にねぇってくらいすさまじい攻撃だった。
それを俺は捌き、交わし、相殺し続けた。
だが、視界外からの一撃を喰らい、体の平衡を一時失った。
そこに飛び込む黒鉄の顎。
咄嗟に身を跳ばすことで直撃こそ避けられたものの、
風圧で壁まで吹き飛ばされた。口内に鉄の味が広がる。
 
俺は頭を振って混濁しかけた意識を取り戻すと、
スーツを再び展開させようと意識をこめた。
――が、うんともすんとも言いやしねぇ。
見ると、胸の部分が綺麗さっぱり引きちぎられ、
肉も軽く抉られている。・・・・・・・なんて野郎だ。あの野郎、スーツ切り裂きやがった・・・・・・
だが、こいつはモノに頼っちゃいけねぇって言う天の導きなのかもしれねぇ。
なら、やってやろうじゃねぇか。
 
俺はスーツの上着を脱ぎ捨てる。
その途端、俺の肌が周囲の風の動きを、気の流れを察知し始める。
これか・・・・・・・この感触なのか、朧が俺に言ってたのは。
今なら分かる。これなら・・・・・・いける!
 
「俺にスーツを脱がさせるとはね・・・・・・・いいぜ、見せてやるよ。
 スプリガンの真の力って奴をな!」 
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>355 

手応えあった。
何かが潰れる音。
ジュネは口元だけでニタリと笑いそのまま拳を振り抜いた。

しかし

横島は確かに吹き飛んだ。そして――――横島の手元には

「棒・・・?」

ジュネが殴ったと思われた物は横島本人ではなく、へし折れた何かの棒切れのような物だった。
いや、今では『棒だったもの』と言った方がいいだろう。
横島はその棒を使いジュネの攻撃をまんまとかわした訳だ。

舌打ちをして振りぬいた拳を見つめるジュネ。
そこには感情の無い瞳の中に徐々に生まれつつある殺意のような物があった。


先の攻撃で舞いあがった塵も地面に戻り、視界も戻ってきた。
そして、ジュネも目標に向かって歩き出す。
コツリコツリとブーツの足音を響かせながらゆっくりと近づいていく。

目元が長い黒髪で隠れて表情は見えない。だが、口元を歪ませ笑っていることは確かだ。
何ゆえ戦う人形と化しているジュネが笑っているのかは分からない。
今、戦っている事が愉しいのか。それとも苦戦を強いられている窮地が愉しいのか。
それは横島にも、

そして――――笑っている本人でさえも分からない。


横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
416の続き

ジュネは歩きながらゆらりと右手を天に向かって突き上げる。
また、背後に映る悪魔の影もそれと同じく拳を突き上げた。

そして、その突き上げた拳をそのまま力任せに振り下ろす。
それはまさに天から雷が落ちるがごとく。

「―――っ!!」

だが、それよりも早く横島が攻撃をしかけていた。
何かの光のような・・・。
ジュネが降ろしている悪魔とは正反対の神々しくも見える霊力の塊だった。
それに気が付き、ジュネは振り下ろしている拳を止め、そして腕で防御し様と思考するが
体がそれに付いて行かない。

「―――――――――!?」

直撃。

その衝撃は直接はジュネのダメージにはならなかったが吹き飛ばすのには十分な威力を
持っていた。彼女の軽い身体は宙を勢いよく舞いあがる。
だが、二度も同じような伝は踏まない。
ジュネはそのまま空中で器用にくるりと身体を反転させ、地面に手をつき着地する。
そして、手を付いたか付いていないか分からないほどの一瞬の時間で地面を蹴り、
そのまま横島を殴りに飛びあがる。

4度目の攻撃。

今回の攻撃は先ほどと違う点が一つある。
今までの失敗を思いだし、一つの結論に導いた結果。

それは――――――


「うあああああっ!!」



―――自身に悪魔を降ろしていない事だった。
418御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/08 20:07
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
 
俺たちの闘争のこの章の纏めだぜ。
 
導入
>29-30 >39
 
闘争
>51 >53 >55 >56 >57 >58 >59 >60
>61 >62 >64 >68 >74 >415
 
続きはこっちでやるぜ。
吸血大殲 第32章 〜薔薇の月に血の涙
ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1026106111/
 
それじゃ、いくぜ!
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォードの中間纏めです。

導入:>296>298>299>300

闘争:>301>302>303>310>312>340
   >342>343>345>352>355>416>417 

『アレ』って一体何なんでしょうね?
ジャックー早く教えてくださいー。      
420閖(M):02/07/08 22:24
闘争の途中経過よ。
導入:>357
>358>359>360>361>363>366>368>371

―――決着は、次スレよ。
421星川翼:02/07/08 22:24
戦士達の決勝前夜
>407
 
(体が……動く?)
 
 今まで動かなかった体が動く。
 完全に元通り―――どころか、前よりも体が軽い。
 体の中に感じる、確かな彼女の鼓動。
  
「は、はは――――」
  
 思わず笑いが零れる。
 彼女は自分を信頼してくれた。
 ならばそれに応じよう。女性の声に応えるのが、彼の信念なのだから。
  
 敵は強い。だが彼女が共にあるならば恐れる事は無い。
 折れた剣に意識を集中し、霊力を注ぎ込む。
 すると青白い燐光を放ち、霊力で構成された刃が細剣の形を取った。
  
 冴え冴えとした光を放つ月と、刃―――。
 彼はその輝きを身に纏いながら剣を目の前に構え、弾んだ声で言葉を紡いだ。
  
「最高の夜だね」
422ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/08 22:48
途中経過

>320>322>324>325>327>328>330>331>332>334
>336>341>334>347>349>351>354>407>421

ふっ、私を倒そうなどと、愚かな夢を見た物だ……。
緑川淳司&花村雅香 VS 弓塚さつき(27祖)
30章での纏め『ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1024844742/564
 
このスレでの経過。
>63
 
さつき「また終わりませんでしたね……」
雅香「…いつ終わるのかな?」
淳司「……まあ、頑張っていこう」
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト vsフォルテッシモ
途中経過

導入
>130

ラルフvsアセルス
>131>132

光太郎乱入
>133

光太郎&アセルスvsラルフ
>134>135>136>138>140>141>142>143>145>146>147

ff乱入
>150

光太郎&アセルスvsラルフvsff
>219>265>281>293>295>307>337>348>362>377>405

須藤雅史乱入
>294
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎vsラルフ・グルトvsフォルテッシモ
>前スレ362、377、405
>前スレまとめ424
(ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1025406070/424)
>56

「なかなか頑丈な方々ですなあ」

爆発の中、よろめきながらもお互い差さえあって立ち上がった少年と少女に対し、
男は素直な感想を漏らす。

「しかし二人・・・ですか。・・・ふむ?」

もう一人はいまだ瓦礫の下の埋もれているのだろうか?
それともあるいは・・・・・・。
男の意識が一瞬逸れた。
その隙を突いて響く裂帛の気合。式神が再び虚空に姿を現した。
そして振るわれる式神の包丁。
男の顔面を狙ったそれは、掛けていたサングラスを断ち割り、額から鼻梁へ斜めに赤い筋を刻み込む。

ダン!

次の瞬間、男の踵が式神の側頭部に叩き込まれていた。
続いて向けられる義腕の仕込銃。

「・・・逃げられましたか。まあいいでしょう」

式神の姿は、すでに掻き消えていた。少年と少女、二人の姿も。
だが狩人の耳は敏感だ。爆発後の静寂の中で遠く響く不揃いの足音を逃すはずもない。

「逃がしませんぞ?」

顔面を濡らす血を袖で拭い取り、男は銃を構えなおした。

振動。

建物が軋み、音を立てて爆ぜる。
歩調を速め、男は舞い上がる土煙の先へと急ぐ。
すると・・・

廊下が割れていた。
二人の姿は見当たらない。少なくとも、男の司会の範囲内には。
ただし、血痕が残っていた。半開きになっている奥の扉の向こうへと。
そして、何かが蠢く気配。
間違いない。二人は―――少なくとも、どちらか一人は―――この扉の向こうにいる。

「かくれんぼは、楽しめましたかな!?」

銃声。