卓上ゲーム板作品スレ その4

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1NPCさん
ここは自分が遊んだ卓上ゲームのプレイレポートやリプレイ、卓上ゲーム同士のクロス、
公式キャラやリプレイのSSなど卓上ゲームに関係する文章作品を総合的に扱うスレッドです。

・不要な荒れを防ぐ為に、sage進行で御願い致します。
・次スレは>>980を踏んだ方、若しくは480kbyteを超えたのを確認した方が宣言後に立ててください。
・801等、特殊なものは好まない人も居るので投下する場合は投下前にその旨を伝えましょう。
・各作品の初投下時は、元ネタとなるゲーム名も一緒に書き込んでもらえると助かります。
・内容が18禁の作品は投下禁止。 相応しいスレへの投稿をお願いします。

前スレ

卓上ゲーム板作品スレ その3
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1223894801/

卓上ゲーム板作品スレ その2
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1204870381/

初代スレのログ

卓上ゲーム板作品スレ
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi/monament6/1054980691/
2NPCさん:2008/11/08(土) 13:56:18 ID:???


3NPCさん:2008/11/08(土) 14:01:12 ID:???
>>1
たておつー。
保管庫はこっちなー。

卓上ゲーム板作品スレ保管庫
http://www20.atwiki.jp/takugess/
4NPCさん:2008/11/08(土) 14:02:17 ID:???
はわー。即死防ぎに>>1乙。
助かったよ。
5NPCさん:2008/11/08(土) 14:19:52 ID:???
最近仕事しない俺です…(ぉ
前スレで次スレが立ってないとか言ってたんで、立てようと思ったら既に立ってたな。
というわけで、>1乙。
6NPCさん:2008/11/08(土) 14:25:04 ID:???
>>1乙っした!

>前スレ三サンの人
奴はガキの頃から男前だったな……ゴチになりやす!
だがな、前スレの最後の書き込み、ありゃいけねぇよ。お前あれじゃ単なる「構ってチャン」だ「やめないでー><」って言われるのをまってるだけだぜ?
俺はお前にそんな甘い言葉はやらねぇ……だがな、俺は、お前がここやどこかで作品投下すれば読む、あぁ必ず読んでやる! ……だから、次の作品、待ってるぜ?
7NPCさん:2008/11/08(土) 14:45:17 ID:???
>1
乙。

前スレ三サンの人、乙。ケーキ屋の娘さんは……
8NPCさん:2008/11/08(土) 15:05:17 ID:???
>前スレ三サンの人
「お前は最初からつまらないSSを書こうなんて思った事はあるのか?」
「いいえ…、そんなことは」
「だったらお前が二次書き引退する必要はどこにもねぇ! 顔を上げて胸をはれ!」
9mituya:2008/11/08(土) 15:05:37 ID:???
>>1
お疲れ様&ありがとうございます! 本当にご迷惑をおかけしました………
KB全く意識してなかったので………最後のコメで満杯とか本気で焦りました………(汗)
しかもあんな愚痴みたいなコメで………ORL もうちょっと、いろんなことに気を配ろう、自分………(猛省)

>>6
本当に甘えた発言でしたね、すいません………割と最近いろんなことで凹み気味だったもので、弱気になってました。
そんな自分に読んでくれるといってくれてありがとうございます! もう何か目から汁が………(感涙)
自分がホントにネタ出し尽くして搾りかすになるまで、思うように書けねぇ! と血反吐吐きつつ書き続けようと思います!

>>7
………あ、あはvv き、気づかれました? はい、“彼女”がゲストですvv

10mituya:2008/11/08(土) 15:15:06 ID:???
>>8
ありがとうございます……… 何かもう、ホントに………だめだなぁ、最近涙腺が(感涙)
………って、あれ?この台詞………じ、自分エリスポジですかっ!?/// (汗)
111:2008/11/08(土) 15:32:28 ID:???
>>三ツ矢氏
まあとりあえず落ち着け。
つ 下がるお茶

次回からは容量やばそうだなーと思った時は少し中断して、スレ立てするか頼むかしたほうがいいよ。
まあ最近のこのスレの消化速度は2の時よりも数十倍以上に膨れ上がっているがw
ちなみに意見も聞かずに立てると重複などをしてしまうので、レス立てする前に立っていないかどうかリロードして確認するといいよ。

というわけで失礼。
某所のスレかいていて、柊SSを書くことが出来なかったダメな泥人形より ノシ
12NPCさん:2008/11/08(土) 15:41:22 ID:???
>>11
あんたかよっ(笑)!?

いやまぁ、みっちゃんさんが二回目の投下で止まった時に残り15切ってたから
マズいな誘導しなきゃなー、と思いつつ最後ら辺で突貫し過ぎたせいなのか超寝落ちしてた役立たずな音呼参上。

いや、にーさんのアレも、ある意味記念といや記念では(笑)。

ま、何はともあれ。新しいスレにまだ見ぬ新しい作品が投げられることを祈って、 >>1乙(かんぱい)。
13NPCさん:2008/11/08(土) 16:05:52 ID:???
>1おつー。


しかしアレだなぁ。
鈴木さんちの原型はあそこにあったんだなどりぃ〜む。
14NPCさん:2008/11/08(土) 16:12:35 ID:???
今スレも豊作でありますように。(・人・)

しかし流れが速いなあ。
半分くらいナイトウィザード効果なんだろうか。


by 某板の某クロスSSスレの保管庫の人
15NPCさん:2008/11/08(土) 20:28:36 ID:???
容量の問題で誘導無理なのか
16NPCさん:2008/11/08(土) 20:31:19 ID:???
>前スレ三サンの人
ぐっじょぶ、あまりに柊らしくてニヤニヤしてしまいました。
あと、サンタがプレゼントするなら、自分の三倍返しのメニューを変えないと、と
探りを入れる子供思考に萌え悶えしました。

ところでケーキ屋さんの娘さんはあの方として、取り置きを了承してくれた
アクセサリー屋のおねーさんも、なにやら存在感ありますが、どちらさまかに
あたるのでしょーかね?
17mituya:2008/11/08(土) 21:09:29 ID:???
>>16
感想ありがとうございます〜!
………すいません、そっちは公式キャラではなく、身内ネタです(汗)
セッション仲間がやったPCを元にしました………ちなみにキャスター/夢使い
実を言うと、前スレでツッコまれてた兄ちゃんの方も、アタッカー/勇者な友人のPCが元です。

自分でもどうなんだ、とは思ったんですが………ちょい役だからいいかと。
セッション仲間に「GMやるのと、こいつ(PC)SSにゲストで出すの、どっちがいい?」とか笑顔で聞かれたし………(汗)
18NPCさん:2008/11/08(土) 22:14:30 ID:???
>>17
こんだけ話考えられるんだからGMやったれよ
19NPCさん:2008/11/08(土) 23:42:20 ID:???
なんだ、アクセサリ屋はてっきりロンギヌスの某サポートメンバーとばかり。
20NPCさん:2008/11/09(日) 00:47:32 ID:???
>ねこの人(人?)
当日投下乙。
姉→弟は目の付け所が面白かったです あんまりないよね。
流鏑馬姉はあんまり書く人いないからうれしかったよ

>mituyaさん
書くのはやめんにゃ。楽しみにしてるから
でもあなたがそれを重荷だというのならばいつでもやめればいい。
決めるのはあなたであり、あなたでなければならない。他人の意見で決めるのは意味がないことでしかないから。

作品の方の感想としては相変わらず丁寧な描写でよかったと思います
柊は柊だねー、ですか。一言で言うなら
21ゆず楽:2008/11/09(日) 04:15:54 ID:???
ちょっと間が空いて覗きに来たらなんてスレの伸びですかっ!?
スレ跨いでのコメントでなんですが………
>風ねこさま
まみ姉きょーこ姉をクローズアップした作品って私の知る限り初めて読んだ気がします。
普段語られることのない弟(たち)への想い、やっぱり本人たちの前では言えない奥ゆかしさがなんとも………
まみ姉はリプのときよりもSS読んで好きになったな、って。あるんですね、二次創作で本家のキャラを好きになるってこと(笑)。
>mituyaさま
蓮司×くれ派ならば黙っていられまいっ!あのクリスマスエピソード、こんなに膨らむんだっ!?
惚れるわ。そりゃ、惚れるわ。大きくなってなんであんなになってしまったのか………
い、いや、柊とくれはが大きくなっても強く固い絆で結ばれているとは信じてますけど(笑)。
んで、完全に私信なのですが。
mituyaさま。色々な人が強く、厳しく、優しい励ましをされているのでいまさら私がなにを言うこともないかもですが。
私も経験上、同じことを思ったこと一度や二度じゃありません。でも、スランプとかリアルでの気持ちの浮き沈みとか、
誰でも、いつでもありますよ。だけど、私はいつでもそこで一歩立ち止まります。考える時間とか、悪いものとか辛いものとかが
心身から抜けていく時間を取り戻すために。そんな息抜きみたいな時間を取ると、ふつふつとまたSS書きたい病(笑)が沸いてきたりして。
なんだか言ってることわかりませんが、ただひとつ。
貴女のお話で、誰かを笑わせたり、頷かせたり、嬉しくさせたり、なにかを動かすことができているということ。
そんなことができるんだ、ってことだけは言っておきたいです。

では、少し短めですが「エリス」投下〜。ではでは〜。
22柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/11/09(日) 04:18:46 ID:???
 嘘から出た真。
 いや、言葉の中身にも、その想いにも嘘などないのだが、結果的にはそうなってしまったと言わざるを得ない状況に陥ってしまった少女がひとりいる。
 少女の名前は志宝エリス。
 なんの考えもなしに柊蓮司宅へと押しかけてしまい、なんの用事があるわけでもないのに柊に会いに来てしまった、恋する少女である。
 ただ会いたくなってしまって。ただ顔を見たくてしょうがなくなってしまって。ただ声を聞きたくなってしまって。本当にただそれだけで。
 恋する少女特有の行動力でやってきた柊のマンションで、こともあろうに「なんの用事で来たんだ?」などという、あまりに乙女心を解さぬ台詞を吐いた当の朴念仁に、
「先輩のちょっと遅い卒業祝いにお料理を作りに来ました」
 と、口からでまかせの思い付きを口にしてしまったエリス。いや、口からでまかせ、と言うと語弊があるかもしれない。
 エリスが柊のためになにかしたいと思う気持ちはいつでも本当だし、それが自分の得意分野である料理ならばなおさら、振るう腕にも力が入るというものだ。
「ただ会いたくて」
 そんな台詞を正直に言うには少女の性格は控え目すぎた。そして強い恥じらいを吹き飛ばす勇気もちょっと足りなかった。だから、ついつい言ってしまったのだ。
 先輩の卒業祝いにお料理を作りに来ました、と。
 そして、結果的には彼女の言ったとおり、ほのかに好意を抱く先輩に料理を振舞うことになってしまったのだから、これは明らかに嘘から出た真。
 いや、半分の嘘と半分の本当から出た真。
 そして、それをひどく喜んだ先輩が、買出しに行くなら一緒に行こうぜ、と言ってくれて。
23柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/11/09(日) 04:20:45 ID:???
「荷物持ちぐらいやらせてくれよ。女の子にばかりやらせるわけにいかねーからさ」
 と、持ち前の天然フェミニズムを発揮して買い物に同行してくれるということで、エリスのテンションはいやがおうにも高まっていた。
 一緒に晩御飯の買い物に行くということ。
 これはもはや、デートなのではないだろうか!?
 そして晩御飯の食材を連れ立って買いに行くということは、デートを通り越してまるで新婚さんみたいなのではないだろうか!?
 そこまで思考が飛躍した瞬間、エリスは瞬く間に瞬間湯沸かし器のように顔から湯気を噴き出し、慌ててそんな恥ずかしい想像を頭の中から追い出した。
 そんな様子のエリスを生温かい視線で見つめていた京子が、なにかに思い至ったように自分のポケットをなにやらまさぐり始める。
 札入れから一枚の紙幣を抜き出すと、それを弟の手に握らせた。
「なんだよ姉貴………って、おおっ!?」
 柊が驚いたのも無理からぬこと。
 京子が手渡した紙幣には、『天は人の上に人を作らず』という御言葉を遺したあのお方のご尊顔が、燦然と光り輝いていたのである。
「あー………いまさらだけど、あたしからもまあ、蓮司の卒業祝いってことで」
「い、いいのか」
「うん。それで、このお祝いは………」
 紙幣を握ったままの柊の手をぐわっと掴み、そのままエリスに持っていく京子。
24柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/11/09(日) 04:22:51 ID:???
「はい、エリスちゃん」
「え?」
「せっかくうちの愚弟のためにお料理してくれるんだから、姉の私にもこれくらいさせてよ」
 つまりは、このお金で食材を用意するといいよと、そう言っているのである。
「そ、そんな、悪いですよ」
 恐縮して両手をパタパタと振り、遠慮するエリス。
 勝手に押しかけて、勝手に料理を作ると言っているのは自分なのだ。食材費まで出してもらっては、あまりにも図々しすぎるではないか。
「わーるくないって。ほら、蓮司に卒業祝いしてなかったのは事実なんだし。でも、私じゃ気の利いたお祝いなんて出来ないし。だから、エリスちゃんのお祝いと連名させて欲しいのよ」
 そう言って、ウィンクしてみせる京子。その言葉と仕草に、エリスの胸の中がなんともいえず温かな気持ちで満たされていく。
 エリスに気を使って、変な口実を作ってまでお金を渡す不器用な気遣いは、やっぱり姉と弟。よく似ている。
 それでいて、弟の蓮司のために「どうせ祝ってもらうならたくさん祝ってもらっちゃいな」という気持ちで奮発しているのも事実なのであろう。
 さすが柊先輩のお姉さんだな。やっぱり、私、京子さんのこと好きだな。エリスはそう思う。
「ありがとうございます。それじゃ、私と京子さんで、先輩のお祝いしましょうね」
 笑顔でお金を受け取り、エリスが微笑んだ。
「おおっ、これだけあったらどんだけ食えるんだー!?」
 可憐な後輩と不器用な弟思いの姉の心中が、本当にわかっていないのはこの男。
 やっぱり、柊蓮司なのである。
「さっそく買いだし行こうぜ、エリス!」
 柊の顔には満面の笑み。お正月とクリスマスと誕生日を一度に迎えた小学生のような笑顔であった。さっさと一人立ち上がるとエリスの手を取り、ぐいっと引っ張る。
「きゃっ!?」
 不意に手を握られて、エリスの心臓が高鳴った。大きな手。自分の手など丸ごと全部包み込んでしまうほど、大きくて力強い手。力強いだけじゃない。とっても、温かい手。
 手に手を取って、二人の若い男女が歩く。
 それはやっぱり。間違いなく。私たちがそうだとは言わないけれど。
 これはもしや、傍から見たら恋人同士に見られるのではないだろうか!?
 今日のエリスは、想像力がひどく豊かであった。
25柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/11/09(日) 04:24:53 ID:???
 柊家にお邪魔しているという事実、姉の京子と仲良くなることが出来たこと、そして柊と仲良くお買い物。
 こんな夢のようなイベントが次々と成立しているという僥倖が、エリスに普段の平静さを失わせていることは間違いがないのである。
 だからほんのちょっぴり。だから少しだけ。エリスは勇気を出してみようと思ってしまう。
(これくらい………いいよね?)
 自分の手を掴む柊の手を、握り返してみる。
 いままでは。いつもは引っ張られていただけだったエリスの手が。
 いま、初めて柊の手を対等に握り締めた瞬間であった。
 だけど、そんなエリスのなけなしの勇気にはどうしても気づけないのは柊蓮司の真骨頂。
 京子に「ちょっくら行って来るわ」と左手を挙げると、エリスを振り回すようにしてマンションから飛び出して行ってしまう。
「きゃーっ!? ひ、柊先輩、走らないでくださいーっ!?」
 叫ぶエリスの声が遠ざかり、続いて、どたん、ばたばた、と慌しい足音とドアの閉まる音。
 瞬く間に静けさが喧騒に取って代わり、ひとり居間に残された京子は、おもむろに新しい煙草に火を点けた。
「ほんとに………気をつけなよね、蓮司」
 いろいろな意味で心配をかける弟に、いまはもう届かない言葉をかける。
 弟が、自分の知らないところでなにやら無茶をしていることには京子だって気づいている。
 それはきっと、自らの身体を傷だらけにするような無茶であり、それはきっと誰もが音を上げてしまうような無茶なのだ。
 柊はなにも言わないけれど、二十年近くも一緒にいる弟のことだ。京子が気づかないはずはない。
 でも。どんなに無茶をやっても馬鹿をやっても。
 絶対にそこから生還するだけのタフネスぶりを柊が持っていることも知っている。だから、京子はそんなことは心配していない。
 あいつが命を落とすとしたら、まず女の子が原因だろうなあ。
 京子は溜息と共にそんなことを思っていた。
「あんなイイ娘、泣かすんじゃないよ、蓮司」
 イイ娘 ――― それがエリスのことか、それともくれはのことなのか。
 言った本人ですらそれは判別しかねて、京子は憮然と煙草の火を消した ――― 。

26NPCさん:2008/11/09(日) 04:26:45 ID:???
しえーん
27NPCさん:2008/11/09(日) 04:52:47 ID:???
支援。
28柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/11/09(日) 05:01:46 ID:???
     ※

秋葉原の街を歩く。見慣れた電気街に少し寄り道しながらそぞろ歩く。
二人揃ってパソコンとか電子機器のことはさっぱりわからないので、本当に冷やかし程度のウィンドゥショッピングだ。
それでも楽しい。こうやって柊先輩と二人で寄り添って歩きながら、他愛もないお喋りをすることがすごく楽しい。
笑って、驚いて、感心して、そしてたまにちょっぴり拗ねて。くるくると感情豊かに変わるエリスの表情が、とても輝いている。
エリスは気づいているだろうか。その愛らしさ、可愛らしさがいつも以上に人目を引き、いつも以上の魅力に満ちていることに。
二人とすれ違う道行く男性たちが、例外なく、輝明学園の制服を着た小柄な少女を振り返る。それほどエリスの魅力は街中でも際立っている。
恋をすると女は美しくなる、と言うけれど。まさにいまのエリスがその言葉の証明であった。
「それじゃ、時間も時間ですし、買い物行きましょうか?」
街の中を一時間ほどぶらぶらと歩いた頃、電気屋の店頭で新作ゲームのプロモ画面を眺めていた柊を見上げ、エリスが声をかけた。
「え、もうか? まだ三時過ぎだけど早くないか?」
「ええ。だけど、今回は食材選びにも調理にもいつもより時間をかけたくて………せっかく、柊先輩にごちそうするんですから」
そう言いつつ、ほんのりと頬を桜色に染めるエリス。普段の彼女よりも、言いたいこと、本音の部分、柊に対する想いが自然と口をついて出る自分に、少し驚く。
「リクエスト、聞いちゃいます。柊先輩が食べたいもの、仰ってください」
はにかみながら首を傾ける仕草がやっぱり愛らしい。普通ならば撃沈である。普通ならばフラグが立つ。普通ならばもう、本当に男であれば放っておかない。
しかし柊蓮司は。
29柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/11/09(日) 05:03:28 ID:???
「おう。俺のリクエストは特にないぞ」
エリスがへなへなになるような台詞を素で吐いた。
「え………でも、なんでもいいですよ? 食べたいものとか、好きなものとかありませんか?」
「いや、エリスが作りたいモンでいいぞ」
あっけらかんとそんなことを言ってのける柊である。せっかく意気込んで頑張ろうと思っているエリスに向かって、あんまりといえばあんまりな台詞であった。
「でも………」
柊先輩のために作るのだ。柊先輩が食べたいものが作りたいのだ。柊先輩が喜んでくれるものを作りたいのだ。そんなエリスの気持ちに、気づいてはくれないのだろうか。
「だからさ。せっかくエリスが俺のために作ってくれるんだろ? だったら、俺は自分の食べたいものを食べたいとは思わねえなあ」
え? 柊先輩、いまなんて言ったんですか?
『自分の食べたいものは食べたくない』ってどういう意味ですか?
柊の言葉の意味が本当にわからなくて、エリスは顔中にクエスチョンマークを貼り付けた。
「エリスが作る料理はどれも美味いのは知ってるけどさ。どうせなら一番美味い料理を食いたいんだよ、俺」
にこにこしながら柊が言う。
「たぶん、それは俺の好物のことを言うんじゃなくて ――― 」
エリスを見つめながら少し真面目な顔をして。
「エリスが俺に食べさせたい、食べてもらいたいって思う料理のことを言うんじゃねえかな、って思うんだよな、俺は」
柊の言葉の意味がようやくわかって。料理のことなんかなにもわかっていないはずの柊に、目を開かれた思いのエリスであった。
30柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/11/09(日) 05:04:45 ID:???
どんな高級食材でも、どんな名料理人でも適わない最上級のご馳走。それは、食べてもらう人のことを思って、食べる人にこんな料理を食べてもらいたいって思う、作り手の気持ちがこもった料理のこと。
卒業式の日、肉が食べたいと言っていた柊。だけど、それはただの彼の好物に過ぎない。
好物よりも美味しい料理があるとすれば。それはきっと柊の言うように、『こんな料理を食べてもらいたい。食べさせてあげたい』と思うエリスの気持ちが込められた料理であろう。
柊先輩ったら ――― なんて難しい。でも、なんて嬉しいリクエストをしてくれるんだろう。
エリスはふふ、と笑いながら柊の期待に満ちた顔を見上げる。この期待は裏切れないなあ、とそう思う。
「じゃあ、柊先輩。私、今日は本気の本気でお買い物、しちゃいますよ?」
「おうっ、エリスの料理のためならいくらでも付き合うし、荷物持ちだってまかせとけ!」
ガッツポーズで答える柊に、エリスが微笑む。

(柊先輩? 女の子のお買い物に付き合うのはちょっと男の人には大変かもしれませんよ?)

少し悪戯っぽく、内心でそんな言葉を思い浮かべるエリス。
志宝エリスの本気の本気、見せちゃいますからね。
最高のお祝い、しちゃいます。

料理は愛情。愛情こそが最高の調味料。そんな使い古された言葉を、エリスは信じている。
そして ―――

その“調味料”には自信もあるし、たくさんたくさん、私、持ってます ―――

ちょっと強気に、ちょっと気恥ずかしさを覚えながら。
柊蓮司攻略の第二のゴングを ――― 今度は自分自身の手で鳴らすエリスであった ―――

(続く)
31mituya:2008/11/09(日) 08:34:53 ID:???
>>18
SS書くのとシナリオ組むの、自分的には全然難易度が違うんですよ〜(汗) シナリオ>>>SSくらい(汗)
SSが簡単なのではなく、シナリオ組むのがものすごい難しい………

>>19
ご期待に沿えず申し訳ありません(汗) というか、そのキャラが誰なのかぴんと来ない(汗)
自分の持ってるNW資料は2ndルルブと文庫なってるリプレイ&ノベルなので………
サプリとかファンブックとかGFは全部借り読み………(<買えよ)

>>20
暖かいお言葉をありがとうございます………
書きたい気持ちは強くて、でも思うようなものが書けなくて、ちょっとドツボに入っちゃってたようです………
でも、まだ書きたい気持ちは強いままなので、まだきっと書きます。………ちょっと間は開くかもしれませんが(汗)
>柊は柊だねー、ですかね。一言で言うなら。
そういってもらえて嬉しいですvv 柊の柊らしさは、ものすごく書くのが大変なので(汗)
32mituya:2008/11/09(日) 08:35:27 ID:???
>ゆず楽様
丁寧なアドヴァイス、ありがとうございます(感涙)
ゆず楽様のような書き手さんでも同じように悩むことがあるのだと、こういう言い方は変ですが、ちょっと安心しました。
>貴女のお話で、誰かを笑わせたり、頷かせたり、嬉しくさせたり、なにかを動かすことができているということ。
>そんなことができるんだ、ってことだけは言っておきたいです。
本当に、この言葉で、元気をもらえた気がします。また書こう、と思えました。本当にありがとうございます。
ただ、しばらくは読み専に戻って、充電しようと思います。次なる柊くれは話は気長に待ってくれると嬉しいです(汗)

で、感想! エ、エリスの乙女思考がっ! 本当に可愛いなぁっもうっ!
ゆず楽さんの柊は本当に柊的鈍さを持っていて、こんな風にキャラを生かせるのが本当にすごいと思います。
こちらの続きも、ゆにばの方も、楽しみに待ってます!
33NPCさん:2008/11/09(日) 08:59:17 ID:???
  __..へ
  '´   )ヽ
 l l从从)〉》
ノ l| ゚ ヮ゚ノ|l   < 「柊蓮司攻略作戦・エリスの場合」 第03話を登録しましたわ♪
((( l|「_Y'i|ウ0)
  く_人_)
 .  UU


 最近めっきりリアル投下に遭遇しないので、久々に登録した。
 溜まってる感想は後ほど…。
34NPCさん:2008/11/10(月) 01:31:51 ID:???
>柚子の方
うぉう、感想一番乗り?
最近俺の中の京子姉さんの株が超上昇中。
相変わらず柊の朴念仁っぷりと周囲のギャップがすごく描かれててステキ
柚子の方は心の機微描かれるのがすごく上手いですよな。なんつーか、言葉の背景が整頓されて頭ん中入ってくるイメージ。すげー。

エリス!頑張れ!応援してるぜ!
次回更新をお待ちしています。
35NPCさん:2008/11/11(火) 08:37:20 ID:???
なんとゆう暴走エリス。
ぜひ続けていただきたい。
36NPCさん:2008/11/11(火) 12:03:45 ID:???
>>ゆず楽様
感想が遅れてすみません(汗)
あーもう相変わらずエリスがかわいいなぁw
全力乙女モードって感じですw そして、柊……フラグスルーに加えて天然ジゴロ過ぎるだろう。
そんな意図全くない分救われるような救われないような……どちらにしても罪深い(確定)
某所といい、エリス描写には定評のあるゆず楽様の奴にはもう砂糖がげーげー出てきます。糖死しそうだwww
エリスの内心がすげえ前向きでもうガンバレといいたくなります! これからも頑張ってください!

追伸:保管庫の作品機能に感想などをいれられるコメント機能が追加されたのと、あとおせっかいながらに多少解説などもチマチマと付け加えておいたので、職人の方はたまに確認するといいと思います。
37NPCさん:2008/11/11(火) 19:54:45 ID:???
すげー。
保管庫がどんどん高機能に! 保管庫管理人さんも頑張ってる。
自分なんか某所を普通に2週間放置してたからなあ。
38ゆず楽:2008/11/11(火) 20:45:34 ID:???
ご感想等々へのレス返信をば。
>32ことmituyaさま。
自分でもよく分からない事書いてしまいましたが、もし少しでも貴女の気持ちに穏やかなものをもたらせたのならば幸いです。
乙女エリスと、にぶちん柊の攻防戦はまだまだ続きますよ〜。職人復帰、慌てず焦らずのんびりと、私もお持ちしています。
>34さま。
なんかありがたいお褒めのお言葉です〜。乱暴だけど弟思いでキップの良い京子姉を書けたら、と思ってましたので、
私の話で株が上がったのならいいのですけれど(笑)。
>35さま。
アニメ本作で大人しかった分、うちのエリスは柊ラヴの暴走娘でいきますよ〜。あくまでも公式イメージを壊さないでどこまで
暴走させられるか、というのが難しいところですが。
>36さま。
そんな謝っていただくとこちらのほうが恐縮です(汗)。
ダダ甘を目指して書いてますので糖死上等! もっと砂糖吐いてください(笑)。

皆様の温かい声援と応援で、エリスは頑張ります。難攻不落の柊蓮司城をどこまで攻略できるか。
本丸陥とせ、とは言わないけれど、せめて外堀ぐらいは埋められるか!?(笑)
あ、それと、どうか続きのほうはのんびりお待ちくださいませ。
私事であれなんですが、別板での創作にただいま煮詰まってまして(笑)投下ペースが安定しないかも、なので。
三本掛け持ちはやっぱり大変。慣れないことはするもんじゃないなぁ(笑)。
次にお会いするときは「ゆにば」にて。ではでは〜。
3935:2008/11/11(火) 20:53:30 ID:???
>38
この程度の暴走なら十分に可愛いエリスですよ!
アニキャラの黒エリスといったらもう……。
40NPCさん:2008/11/12(水) 09:43:42 ID:???
黒エリスにも二種類あって、初期の黒エリスは可愛くて黒かったんだけどなw
41NPCさん:2008/11/12(水) 12:33:29 ID:???
>>三ツ矢氏へ
某笑顔動画で支援動画が作られていたんだぜよ☆
三倍返しのサンタクロースのが……おめー
42NPCさん:2008/11/12(水) 18:21:42 ID:???
>40
公式の黒エリスは、「戻りなさい私の光」モードのことだよ。
43mituya:2008/11/12(水) 18:54:17 ID:???
>>41
見てきました! 教えてくださってありがとうございますvv 最初書き込み見た時どっきりかと思いましたが(笑)
嬉しすぎて、あの動画作ってくれた人にご奉仕(リク話書く)したくなってしまいましたvv
思いっきり書きモード(トランス状態)に入れないスランプだったのに………今なら容易く降りてきそうな気がします。
………我ながら単純だなぁ………(笑)
44NPCさん:2008/11/13(木) 05:40:43 ID:???
>>43
動画作った者です。や、2chは書き込むの初めてで緊張する(笑
リク話ですが、やはり作者さんの作りたいモノを書くのが一番いいと思いますので
一番書きたいお話でお願いします!

SSは作品の雰囲気を壊さないで作らないといけないので、大変だと思います。
ですので、作者さんは皆尊敬してます。
投下待ってますので、ゆっくり頑張って下さい。
45mituya:2008/11/13(木) 05:59:00 ID:???
>>44
お返事ありがとうございます!
では、書こうと画策している(っていうか今書いてる)“くれは柊語り”を、僭越ながらあなた様に捧げさせていただきます。
………投下は大分先になりそうだけですが、気長に待ってくださいませ(汗) っていうか、捧げものは柊くれ派で大丈夫ですよね?(ビクビク)

というか、ここと動画自体の書き込みの後にあなた様が某“下がる英雄”の作り手様だと気づいてビビりました(汗)
こんなすごい方にまで読んでもらえてるとは………頑張らないとなぁ、と思ってしまいましたよ。精進しますさー!
46風ねこ:2008/11/13(木) 18:56:38 ID:???
近所のペットショップのフェレットは超ツンデレ(挨拶)。
どうも、一週間ちかく経過してからレス返しにきた空気の読めなさに定評のある風ねこです。レス返しに参りました。前スレのですが。orz

>>667 三下以下のロンギヌスなんてそんなもんです。

>>668 Yes. ヴァリアブル! いえ、単に気分的なもんですよ、ほら世を忍ぶ仮の姿的な感じの。副将軍が光衛門とか名乗るようなもんですって。

>>671 ミサカを愛して止みません。具体的に一番は19090号。10032はかみやんの。早いとこ画面で動くのが見たいなぁ。

>>677 仲良くねぇっ!? あいつのせいで俺がどれだけ苦労したことか……っ!? あ!? なんか天のことを愚痴る王子とかベネットのこと愚痴るトランみたいだってっ!? えぇいそーゆーこと言うのはこーのーくーちーかーぁぁぁぁっ!!!(フェードアウト)

>>678 はい、三下以下じゃあんなもんですよ。バーレスクとかでもあんな感じだったと思われ。
   属性うんぬんですが……まぁ、なんつーか属性そのものを表すわけでなくて、それを象徴するプラーナがあるかどうか、ですね。第一の炎でも第八の火でも、どっちに行っても薪に火を起こすことは可能だし、それに干渉してカタチを変えることはできる的な。
   ついでに言うと聖虚姫のは属性がなかったからこそ不適応が起きてまずいことになってたんだと思いますけど。使えたのは彼女の膨大なプラーナゆえというとこでしょうか。それでも納得無理そうなら、まぁフレーバーとして流してくださると。
   ……っていうか1stに属性の記述(周囲に使う魔法に即したもの、もしくはプラーナがないと使えない)があったような気がするんだけどなー。水属性当たりのへんに。気のせいかな?
   お役所仕事うんぬんっていうのは、こちらの表現力不足でしたね。真魅姉の台詞の場合は『責任の押し付け合い』というよりも『形式ばって回りくどい』という意味でとってくださるとありがたいです。
   アンゼの責任感、については……まぁ、柊の感想ですし。そこまで無責任でもないはずです。柊もある程度は軽口的な面があると思いますよ。そもそも今回の狙いはロンギヌスどもの鍛錬ですしね。バーレスクみたいな。
   ……レス返しで作品説明してるようじゃダメ作家もいいとこだなぁ……(遠い目&ため息)。
47風ねこ:2008/11/13(木) 19:00:22 ID:???
>みっちゃんさん
 お。その通りです。夢物語ともリンクしてます。実をいうとらむねとともちょっとリンク。まぁセルフパロみたいなもんですけどね(笑)。
 夢の話のみやこ姉さんは京子姉の転生っぽいものだったりする。京子姉さんがそれを思い出すことは、これから先なにがあってもありえませんが。一応作中的な理由で。
 柊に関しては……まぁグレイゾーンのままで。個人的にはどっちか決まってますけどあえて口にはしません。読者様の受け取りかた次第ってことで。

 チラ裏
 ついでにちょろっと裏話すると、みやこ姉は夢物語後、後を追おうとする翡翠を説得して生かす。出家しちゃうけど。
 かえでちゃんはあの話では星の巫女ではないので、星の巫女の子供を実家の後継ぎにした後に約束の場所に神社を建てます。
今でいう東京赤羽にその神社はあるのだとか。500年前の資料なんぞが残ってたりするらしい。
 みやこは家が潰れたため、ヒマができたので世界を放浪してなんかどこぞの郷里の姉ちゃんみたいなキャラに。
世界結界がない時代に魔王を笑いながらずんばらりってどんだけ強いんだよ、とかは心の中にしまっておく。そんな裏設定があったりする。

>>697 超待ってるー。

今スレ >>20 はっはっは、マイナーキャラ強化に定評あるらしいよ、おいら。

>ゆず楽氏
 あー……そういわれると、嬉しいです。はい、ありがとうございます(赤面中)。
 とても素敵なお話を書かれるゆず楽氏から言われると、その、あの、マジ照れるんでうわーもうだめだー(ばたり)。
 なんか、マイナーキャラの強化に定評があるらしいです。最近そう言われた。えぇと、そう言われれば真魅姉も喜んでくれると思います。たぶん。
 流鏑馬姉弟は二人とも察しがよくてわかってるから言わない、柊姉はわかってるから聞かないけど、柊はわかってないから言わない、みたいな感じです。わかり辛い。


 ではこの辺で。また何か浮かんだらお邪魔します。それでは。
48風ねこ:2008/11/13(木) 19:20:16 ID:???
PS
大事なこと書き忘れた……(大馬鹿者)。
えーと……みっちゃんさん、イラストありがとうございました。このご厚意は墓まで持ってこうと思います(平伏)。

っつーかこんなことは掲示板に書くこっちゃねーですが(汗)。ごめんなさいほんとに嬉しかったんでちょっと場をお借りします。

お礼が言葉だけってのもアレなんで、その……できることがあったら、なんでもおっしゃってください(SS的な意味で)。
できることだったらなんとかしてみようと思います(SS的な意味で)。よっぽどの無茶じゃない限りは(SS的な意味で)。

てゆうかウザいよSS的な意味でって何度くりかえすんだよコピペかと思われるだろうが!?

では。スレ汚し失礼しました。
49mituya:2008/11/13(木) 20:17:45 ID:???
>風ねこ様
うーわー………姉ちゃんはどこの世界でも最強なのでしょうか………?(笑)
って、わわっ!? あ、あんないっぱいいっぱい精一杯、てな感じのイラストでリク権って………!
自分、この僥倖の反動で、何か罰当たるんじゃなかろうか………(汗)
イ、イメージはあんな感じでよろしかったでしょうか? ちみっ子特有の愛らしさが出せなくて、自分的に悔しかったんですが。
リクというよりはネタ提供ぐらいのレベルで、アリアンロッド無印で、シグの過去話とか、本編後のエイジとアムの話とか言ってみたり(笑)
風ねこ様のお話は普段の自分の宗旨と違う話でも、常に自分のストライクゾーン直撃させてくれるので、上と違う話でも余裕で小躍りして喜びますがvv
色々お忙しいでしょうし、ご無理はなさらず………


………とりあえず、自分は“くれは柊語り(仮)”を書かねば。明日の午前中までに、一章くらいは投下したいなぁ………(汗)
50ゆず楽:2008/11/13(木) 23:38:18 ID:???
投下ペースが落ちるといったそばからお邪魔します。

(あらすじ)
忙しいと言っていた矢先に平日の休みが取れたゆず楽。だけど平日に付き合ってくれる友達などいようはずもなく。不意に出来た暇を持て余して、昼間からキーボードを叩き続けていたという。

はい、投下中の作品をほったらかしにしてやってきてしまったゆず楽です。
なにか小ネタでも………と考えていたとき、以前ありがたくも、私に「アンゼ」や「くれは」も書いてみたら、と仰っていただいたことを思い出し、また以前から温めていたネタもあったため、今日書き上げて参りました。
「合わせ神子」を呼んだときに浮かんだストーリー。というか妄想。
とりあえず、アンゼと柊のネタ話でございます〜。ちょっとしたら投下。
ではでは〜。
51Sweet & Small Secret:2008/11/13(木) 23:42:08 ID:???
きっかけは、取るに足らない思いつき。ほんのちょっとした悪戯心。
それが彼女に“あんな行動”を取らせてしまっただけ―――というのは、いまとなってはただの言い訳に過ぎないのだろう。
結果として、彼女が、とても人には言えない小さな小さな秘密を作る羽目になってしまったということ。「もうどうしてどうしてわたくしったら」と、いまでも思い返すだけで赤面してしまう。


わたくしはなんてことをしてしまったのでしょう。


軽挙であり愚行。世界のウィザードたちの規範であり象徴たるべくして存在するはずの自分が、どうしてあのようなことをしてしまったのだろうか。
それは言うなれば、魔が差したとしか言いようのない行為のもたらした事故。
悠久を生きる彼女の犯した過ちのひとつ。
他人から見ればつまらない過失と言われるかもしれない。大した事じゃないだろうと笑われるかもしれない。

だけど。

そのことを思い出すだけで、自らの軽挙に叫びだしたい気持ちで一杯になるのは、しばらく続くかもしれませんわね。

ほんのわずかの間かもしれないが ―――
そのことが彼女を一時悩ませ続けたことは、確かな事実なのであった ―――
52Sweet & Small Secret:2008/11/13(木) 23:45:48 ID:???

 ※

「いーーーーかげんにしやがれアァァァァァンゼロットォォォォォォッーーーーーー!」

聞きなれた心地良い楽の音に耳を傾けるように、青年の叫び声を澄ました顔で聴いている。
それは明らかに罵声であり、怒声なのだが、それを浴びせかけられた当人はどこ吹く風。
むしろどこか楽しげに、嬉しげに、割鐘のような野太い声に聞き惚れているような風情があった。

これこれ。柊さんのあの顔と声。

内心でくすくすと笑いながら、だけど表面上は平静な表情を装ったまま。彼女はお気に入りのティーカップを手に取った。
一部の側近だけが知る事実であるのだが、叫び声の主 ――― 柊蓮司という名の一流のウィザードであり魔剣使い ――― をおちょくるとき。

――― 訂正。

侵魔がらみの事件を解決してほしいと“依頼”をするとき。
そういうときは、大抵彼女自身が「お気に入りのティーカップで、好みの銘柄の紅茶を嗜みながらでないといけませんわ」 ――― というルールがあるらしい。

「せっかくの観劇ですもの。わたくしの好きなお茶を、手触りの良いカップで楽しみながらでなくては」

冗談か本心か判断がつきかねました ――― とは、彼女にもっとも近しい側近のひとり、ロンギヌス・コイズミがなにがしかの折に語った言葉である。
柊蓮司の、赤くなったり青くなったりする表情を、舞台上の役者の演技のように眺め。
彼の発する怒声をオペラ歌手のバリトンのように聴き。
世界中のウィザードたちの実質的・精神的指導者であり、“真昼の月”という麗々しい二つ名と、“世界の守護者”という荘厳たる呼び名を持つ彼女 ―――

――― アンゼロットは、今日も絶品の「歌劇」を楽しむのであった。

53Sweet & Small Secret:2008/11/13(木) 23:47:39 ID:???
   ※

「これからする私のお願いに ――― あら有難うございます柊さん」
「てめえアンゼロット! めんどくさくなってはしょりやがったな!?」

時空の狭間に浮かぶ城。異界の虚空を漂う不可侵の地。
通称アンゼロット宮殿と呼ばれる巨大な浮遊城の一室。
謁見の間と呼ばれる長大な広間で、城主と、哀れなる捕らわれ人が最初に交わした挨拶がこれであった。
「んもう、柊さんったら。いつもはわたくしのお願いに『はい』と言って下さるじゃありませんか」
「俺がいつ『はい』なんて言った!?」
「………いつもわたくしのお願いには『イエス』と言って下さるじゃありませんか」
「同じだコノヤロウ!? お前、いつも俺の返事は無視するじゃねえか!?」

大理石の床をダンダンと踏みつけながら、柊蓮司が叫んだ。わかりやすく言うと、これが「地団駄を踏む」という見本の姿である。

「それはまあいいんですが」「よくねえよっ!?」

コンマ二秒で入るツッコミ。世界の守護者たるアンゼロットに、ここまで容赦のない台詞をぽんぽんと吐けるウィザードも、おそらくこの世に五人といまい。ましてや ―――

アンゼロットの姿に直面して、ここまで臆面もせず接することが出来る男というのは、なお稀であろう。

名工の手がけた銀細工を、さらに微細に仕上げたような。
さらには、星の瞬きをそこに織り交ぜて編んだような ――― そんな髪。
瞳に湛えられた青はどこまでも深い。海か、さもなければ空の青。宝石にたとえるものも、おそらくはいるであろう。
細面の顔、整った鼻梁。どこか嬉しげにほころんだ、小さな唇はほのかな桜色。
その美しい唇から発せられる言葉たちは、どれもが詩であり歌である。
54Sweet & Small Secret:2008/11/13(木) 23:53:01 ID:???
柳枝の如くに華奢で、均整の取れた小さな身体は黒いロングドレスに包まれていた。
いや、ただの黒、ではない。
彼女が身につけるならばその色は、「黒檀の深みを持つ夜」であり、「天鷲絨の滑らかさにも似た闇」とでも呼ぶべきだ。
髪の毛一筋から爪先にいたるまでが可憐さに満ち満ちている。
可憐でいて、ときに艶やか。艶やかでいて、ときには慈母のごとき深い抱擁を見せ。
そうかと思えば、その姿はやはり見目麗しき少女のそれであり、また侵すべからざる高貴な輝きを放つのだ。
年の頃は、十三、四歳の、この上もなく美しい少女。
多くのウィザードに慕われ、またロンギヌスと呼ばれる彼女直轄の部隊に、絶大なカリスマを誇る美少女。視線を向けられれば心奪われ、微笑みかけられれば魂ごと蕩けさせられてしまう。
それほどの美貌を誇る彼女に対しても ―――

「今度はなんだってんだ、こらっ!?」

このように無骨な叫びで返す数少ない男 ――― それが柊蓮司なのである。
対象の愛らしさや美しさなど歯牙にもかけない。というよりも、美的感覚が備わっていないとしか思えないその素振り。
それを無欲と呼ぶかどうかは議論が分かれるところであろうが、その無欲さゆえか不思議と柊の周囲には美少女の取り巻きが絶えることはない。
もはや腐れ縁と呼ぶしかなくなってしまったアンゼロット。どういうわけか彼のことをお気に入りのようでもある“蠅の女王”ベール=ゼファー。
この二人だけでも両手に花 ――― いや、片方は理不尽に任務を強要する疫病神で、残る一方は裏界の大魔王だから除外するとしても。
55NPCさん:2008/11/13(木) 23:53:47 ID:???
とりあえず支援
56NPCさん:2008/11/13(木) 23:54:55 ID:???
この時間だと不要かな?支援
57Sweet & Small Secret:2008/11/13(木) 23:57:24 ID:???
幼馴染みである赤羽くれは。一個下の後輩である志宝エリス。
どちらも目を見張るほどの美少女であり、また柊のことを強く想う仲間である。
そして、どういうわけか。柊の周りにはなぜか美少女がたかるのだ。
任務の度に。出歩く度に。はたまた異世界へと飛ばされる度に。
柊が接してきた美少女たちの数は、(それこそ仲間のひとりである緋室灯も勘定に入れれば)両手両足の指を使っても数え切れないのではないだろうか。
数多くの女性陣の中には、彼に対して“特別な”感情を抱いた娘も、実はいたりして。
それでも柊蓮司という男は、そんなものを振り切っていく。いや、振り切るのではなく、始めから気づかないし気にしないし気にも留めないのである。
柊蓮司の女性観というものは、ひょっとするとひどく単純なのかもしれない。
『疫病神』、『仲間』、『護る相手』。
柊蓮司フォルダの中にはこの三つのファイルしかない。四つ目の、『恋人』あるいは『恋愛相手』というファイルは未作成のままなのだ。だからこそ ―――

「まあ、そんなに大きな声を出さなくても。まずは落ち着いてお茶でもいかがですか?」

花が咲くようなアンゼロットの微笑みですら、薬にもしたくない。
「いらねえよっ! 帰せ! 戻せーーーーっ!」
と、万事がこんな調子なのであった。

アンゼロットが柊蓮司を頻繁に酷使する理由というのも、実はここに原因のひとつがあったりもする。
世界の守護者と呼ばれ、絶大な力を秘めた彼女には、ロンギヌスを始めとしてそれこそ数多くの信奉者がいる。
組織に属するものであろうが、フリーランスのウィザードであろうが、それは同様だ。

それなのに彼は。
柊蓮司は。
58NPCさん:2008/11/13(木) 23:59:14 ID:???
はわしえん
59NPCさん:2008/11/14(金) 00:01:07 ID:???
滑り込み支援
60NPCさん:2008/11/14(金) 00:02:02 ID:???
支援〜
61Sweet & Small Secret:2008/11/14(金) 00:03:55 ID:???
アンゼロットのことを「お前」呼ばわりする。
ひどいときには「てめえ」と罵ることもある。
はたまた「おB(自主規制)」と信じ難い台詞を吐くこともしばしばである。
それだけでも希少なのだ。それだけでも稀有なのだ。
加えて、彼は有能なウィザードでもある。有能なだけのウィザードならば吐いて捨てるほどもいるのだが、柊蓮司はおそらく現存するウィザードたちの中でも最高クラスの魔剣使い。
世界の危機を幾度となく救い、それはこの世界のみならず異世界すらも例外ではない。
だが、それだけではない。
そんなウィザードだって、彼のほかにまったくいないわけではないのだから。
柊蓮司は、それだけではないのである。
世界を救ったとか、最強の魔剣使いだとか。その手合いのウィザードなら、アンゼロットも十や二十、すぐさま諳んじることができるのだ。柊と彼らの違いは、そんなものではないのである。

諦めない。へこたれない。真っ直ぐで。不器用で。鈍感で。口が悪くて。デリカシーがない。
それなのに。大きくて。それなのに。温かくて。
甘っちょろいし。子供みたいで。大らかで。明るくて。
他人の心に疎いように見えるくせに。誰かの傷ついた気持ちなんかには時々すごく敏感で。
だけどやっぱり。女心だけは理解しない。
おまけに無礼だ。礼儀を知らない。世界の守護者にも食って掛かるし。
それなのに憎めない。世界の危機が迫ると、最近ではなにかと彼の顔を思い浮かべてしまう。

柊蓮司。
柊 ――― さん。

この若者の不思議な魅力は、アンゼロットの叡智を以ってしても、十分には図りかねる。
だから、近頃の彼女はそのことを気にしないようにしていた。つまり ―――
62NPCさん:2008/11/14(金) 00:04:40 ID:???
さるがくる
でも支援
63Sweet & Small Secret:2008/11/14(金) 00:06:33 ID:???
「問題ありません。さあ、貴方の任務は ――― 」

アンゼロットは、それを気にしない代わりに徹底的に楽しむことにしたのである。
「待てっ! 俺はまだ受けるとは言ってねえぞっ!? こら、その天井からぶら下がった飾り紐はなんだっ!?」
「情景の事細かな解説、有難うございます。柊さんにわたくしの依頼を聞いていただく心の準備と余裕がないようなので ――― 」
柊の言うとおり、天井から垂れた紐をグイッと握り締めるアンゼロット。

「とりあえず現地で事情を確認してくださぁーーーーい」

ぐいっ。ぱかっ。がくんっ。
ひゅるるるるるうううううううううううっ〜〜〜………。

これがなんの音であるかは、いちいち説明を要しない。ただ、
「うおおいっ!? アァァンゼロットオォォォォォッ!? おぼえてやがれェェェェッ!?」
といういつもの絶叫が次第に小さくなり、漆黒の宇宙空間を真っ逆さまに落ちていく柊が、成層圏へと消えていく姿に、
「ごきげんよう〜〜〜」
アンゼロットがハンカチをひらひらと振って別れを告げるという、いつもの光景が展開されただけである。
キラン、と柊の姿が星になった。
なにごともなかったかのように再びティーカップに口をつけるアンゼロットの背後に、
「お茶のおかわりなど ――― ?」
絶妙のタイミングでロンギヌス・コイズミが立ち、ティーポットを掲げてみせた。

   ※

それからわずか五日後。
アンゼロット宮殿の一室で、再び柊蓮司の姿を見ることができた。
大理石の床に座り込み、魔剣を杖代わりに身体を支え。疲労困憊の様子でいまにも崩れ落ちそうな姿は、痛々しいというよりどこかコミカルである。
64Sweet & Small Secret:2008/11/14(金) 00:08:14 ID:???
荒い呼吸をつく様は、まるでたったいまフルマラソンを完走したランナーのよう。ところどころ服が破れ、かすり傷やら青あざやらを作った姿を無惨にさらけ出していた。
理不尽な任務を無事に終えた柊は、それと察したアンゼロットの手によって(例のごとくに)空からの捕獲という憂き目に遭い。
任地で出合った仲間や助け出した少女(これも例のごとくである)との別れを惜しむ暇もなく、ここアンゼロット宮殿へと連れてこられたのである。

「ぜはー、ま、まさか、この足で、ぜはー、次の、任務だ、とか、言わない、だろうなー………」
すっかり疑心暗鬼に陥ったどんよりした目で、眼前に立つ疫病神を睨みつける。
へたり込んだ柊からわずか三歩の距離。
この宮殿の主がにこやかに笑いながら立っていた。
「まさか。わたくしもそこまではいたしません。第一、いまの柊さんを放り出したところで、任務を無事に果たせるとは思えませんもの」
「そうかよ………そりゃ、ありがたい………話だ、な………」
皮肉を言ったつもりだが、当のアンゼロットの面の皮には通じないであろう。確かにいまの柊ではものの役には立つまい。その言葉には反論の余地がなかった。
「柊さん ――― ?」
これもいつもの彼らしからぬことだが、どうにもツッコミにキレがなかった。
一歩、アンゼロットが柊に近づいた。もっと激しい怒声を浴びせられるかと思っていたのに。
そうしたら、どうやって切り返してやろうかしら、とワクワクしていたのに。

「………すうぅーっ………すうぅーっ………」

柊蓮司は ――― 極度の疲労のためであろうか、途端に眠りに落ちていた。
頼みの魔剣に寄りかかり、器用にもその姿勢のままで。
そんな柊の姿を、呆れたようにアンゼロットが見下ろした。
65NPCさん:2008/11/14(金) 00:08:18 ID:???
にょろ支援
66Sweet & Small Secret:2008/11/14(金) 00:12:52 ID:???
「柊さんったら。よりにもよってこのわたくしの前で寝こけるだなんて ――― 」
もう一歩。アンゼロットが柊へと距離を詰める。
しゃがみこまなければ顔の高さを合わせることも出来ない。だからそこが床であるにもかかわらず、アンゼロットはその場に膝をついた。
正座をして、膝の上に軽く握った両の拳を置く。近づいてよく見れば、柊の目の下や、頬についた傷やあざはやはり傷ましかった。
目を閉じて寝息を立てる姿は、しかし、遊び疲れた小さな子供が眠りを貪るようであり。
なんとなく、アンゼロットは微笑んでしまう。
五分。十分。飽くことなく、柊の寝顔を見つめる。不意に、

「任務、ご苦労様でした。わたくしの期待通りのお働きでしたよ、柊さん」

掛け値なし、裏もなし。心の底からの賞賛とねぎらいの言葉が、アンゼロットの唇から紡ぎ出された。周囲に側近のひとりもいない。語りかける柊すらも、眠りの淵に落ちている。
そんなときだからこそ言える。そんなときでなければ言えない。
そんな言葉を、彼女は呟いた。

「ご褒美 ――― 差し上げなければなりませんよ、ね」

どことなく躊躇いがちなアンゼロットの呟き。
言ってしまってから、ハッと気づく。
どうしてこんなことを言ってしまったのかはわからない。だけど、言ってしまったのだからしかたがない。
かつて、一度だけ同じ“ご褒美”を柊に与えたことを思い出す。アンゼロットが無意識に呟いてしまったのは、そのせいであろうか。
67Sweet & Small Secret:2008/11/14(金) 00:15:20 ID:???
それは、『あの事件』が解決された直後のこと。
“金色の魔王”ルー=サイファーによる、蒼紅二人の巫女と神子を利用した世界掌握計画を、柊を始めとするウィザードたちが叩き潰した後。
自らの居城に柊を招いたアンゼロットは、いまと同様に疲れた身体の柊に、普段の彼女らしからぬ“ご褒美”をあげたのだ。

柊の戸惑った顔。なぜだか自然と、手が彼の服の裾を掴む。
彼の頬を両手で掴み、視線が合わないように無理矢理横を向かせ。
「なんだよっ!?」
警戒して叫び声を上げる柊の頬に、自らの唇を押し当てた ―――

『傷も癒えたところで次の任務です』

それは、一瞬だけ夢幻の世界に陥ってしまった二人を、もとのあるべき姿に戻すための無粋な呪文であった。子供のような、かすかに触れ合うだけの頬への優しい接吻。
それが、アンゼロットのご褒美であった。
いま、あの時と同じように、彼にご褒美をあげたい、と思っている自分がいる。
戸惑いと、躊躇いと、ほんの少しの羞恥心。
だけど、思ってしまったのだから。
ご褒美を上げたいと思ってしまったのだからしかたがないじゃありませんか。
自分自身を誤魔化すような、駄々っ子の理屈で自らをかばうアンゼロット。

ひざまずいた形で、眠る柊に近づく。自分の呼吸が柊の頬にかかる距離。彼の寝息が耳に激しく届く距離。瞳を薄く閉じ、かすかに開いた唇を寄せる。
傷だらけの頬。あざだらけの頬へ、小さな唇が次第に近づいて。
68Sweet & Small Secret:2008/11/14(金) 00:17:15 ID:???
そのとき、事件は起きた。

このことについては柊を責められまい。深い眠りに落ちて意識はなく、ゆえに一切彼の意思とは無関係のところで起きた事件なのだから。

「んが」
寝惚けて、ただ寝返りを打った。ただそれだけ。本当にただそれだけのことである。
しかし、寝返りを打ったということは。
柊が、期せずして「真横」を向いてしまったということであった。
真横 ――― それはつまり、よりにもよって、迫るアンゼロットの真正面に顔を向けてしまったということであり ――― 。

「〜〜〜〜〜〜っ!?」

柊の頬に触れるはずのアンゼロットの唇が。

――― 頬ではない、別の場所と触れ合った。

ばっ、と立ち上がり、自らの唇に手を当てるアンゼロット。その白皙の美貌が、瞬く間に手に染め上げられていく。

「………ガッデム………なんということでしょう………」
呆然と、力なく呟いたアンゼロットの声がかすかに震えていた。
きっかけは、取るに足らない思いつき。ほんのちょっとした悪戯心。
こんな行動を取ってしまったがゆえの、小さな事故。
アンゼロットの軽挙が招いた小さな小さな秘密。
69Sweet & Small Secret:2008/11/14(金) 00:19:27 ID:???
わたくしはなんてことをしてしまったのでしょう。

軽挙であり愚行。それは言うなれば、魔が差したとしか言いようのない行為のもたらした事故。
悠久を生きる彼女の犯した過ちのひとつ。
他人から見ればつまらない過失と言われるかもしれない。大した事じゃないだろうと笑われるかもしれない。

だけど。

恥ずかしさはあったけれども。
不思議とこのことに、後悔の気持ちだけは沸き起こらなかった。
眼前で寝息を立てる柊蓮司は ――― この数瞬の事件にまったく気がつくこともなく、太平楽に眠り続けている。
それがなぜだか腹立たしくて、アンゼロットは。

「柊さん。次の任務です」

いつもの台詞を呟いてみる。

「ん、んが………むにゃ………」

柊の寝顔が苦しげに歪む。
鈴の音を転がすような声で少しだけ笑い、アンゼロットはようやく溜飲を下げ ―――

「いまは、ただその身体を癒してくださいね」

心の底からの労わりの言葉を囁くと、きびすを返して姿を消したのであった ―――


(了)
70ゆず楽:2008/11/14(金) 00:23:12 ID:???
はい。妄想を形にするとこういうネタ話になりますよ、といういい見本でした(笑)。
ちなみに、いまさらながらに誤字に気づいた………
>>68
「瞬く間に手に染め上げられて」→「瞬く間に朱に染め上げられて」でした………。
すいませんが皆様の中で変換して読んでください………
ではでは。
71mituya:2008/11/14(金) 10:42:49 ID:???
にゃー!? 何か投下されてる!? というわけで感想!

>ゆず楽様
アンゼがっ! 乙女チックアンゼがここにいます軍曹ー!(<誰)
っていうか、柊その姿勢で放置っ!? ゆっくり休めって言ってるのに!(笑) この辺がアンゼっぽくてステキですvv
誤字ですか、無問題! 誤字脱字王がここにいます!(<えばるな)


で、昨日言ってた“くれは柊語り(仮)”の序章を投下しに来たんですが、この後だと何か気後れするなぁ………(汗)
とりあえず、作品解説↓

タイトル:君を想えること 〜It is my happiness〜
元ネタ:ナイトウィザード
注意:くれは→柊。時間軸はくれは幼少期〜黒皇子OP。捏造幼少期話+柊サーガの星継ぐ〜黒皇子OPのネタバレ有り。
星継ぐ準拠設定なので『柊蓮司第一の事件』とは矛盾します。
散々“くれは柊語り”といいながらくれはの一人称じゃない罠。………一人称苦手ですよー(汗)

↑こんなのでもOK!という心の広い方は読んでやってください。………今回は非常に短い序章だけだけど(汗)
72君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/14(金) 10:44:45 ID:???
《〜Prologue〜 三度目》

「ちっくしょおおおぉおおっ、こんなに早くかよ───っ!」
 学校の単位がー! と絶叫を上げながら黒服の男達に黒リムジンへ連れられていく少年を、笑顔で少女は見送る。
「んじゃ、あたし先に行ってるねー♪」
 彼女の名を赤羽くれは。陰陽道の名家、赤羽家の長女。つい先日まで、彼女の意志とは全く関係のなく負わされた“星の巫女”という数奇な宿命に翻弄され───永き悲劇を繰り返してきたその宿命から、奇跡的に解放されたウィザードの少女。
「満面の笑顔で見送るな薄情者─────ッ!?」
 彼女の言葉に、絶叫で返すのは連れ去られていく少年。
 彼の名を柊蓮司。くれはの幼馴染で、多少水準より裕福だったり片親だったりしても、血統という点では何のしがらみも持たない家庭に生まれた、二人姉弟の下。本来なら世界の真実に触れることもなく、ごく普通の人生を歩んでいたはずだろう少年。
 しかし、彼は選ばれた。───“星の巫女”を護る宿命を負う魔剣に。
 そして、彼は受け入れた。───その宿命を知らぬまま、しかし、目の前で傷つけられそうな誰かを護るために。
 そうして、彼は───ウィザードになった。
 くれはは、彼の手によって“星の巫女”の宿命から解かれ、それにより彼の魔剣ももはやその宿命を失った。
 だがそれで、魔剣そのものが、魔剣に因って目覚めた彼の力が、消えるわけではない。
 故に、彼は本来ならば知ることもなかったはずの知られざる戦いへと借り出されてゆくのだ。───半ば強制的に。
 悲哀すら感じさせる様子で連れ去られてゆく幼馴染を笑顔で見送るくれはは、確かに傍から見れば薄情に見えるかもしれない。
 だが、くれはは柊に対して薄情などではない。───彼に対して“情が薄い”などということは、有り得ない。

 何故なら───くれはは、彼に恋をしているのだから。

 くれははずっと柊が好きだった。彼は一向に気づいてくれないけれど、幼い頃からずっと、他の誰かが心に入る余地もないほど好きだった。
 けれど今、彼女が彼に抱いている恋心は、彼女の十七年と少しの人生で、三度目の恋だ。

 そう───彼女は二度、彼に失恋している。
73mituya:2008/11/14(金) 10:49:22 ID:???
………………本気で序章短かった(汗) 1レス分で収まっちゃったよ ORL
………そういや、“裏切り”の時も序章短かったな、自分………(汗)

えと、第一章は明日の夜に投下したいと思ってます。………こっちは逆に無駄に長くなる予定です(汗)
74mituya:2008/11/15(土) 20:09:31 ID:???
話の続きを考えながら髪を洗ったら、シャンプーとボディーソープ間違えました(挨拶)
………水道管壊さなかっただけマシですよね!(ぉ)

まあ、間抜けな挨拶はさておいて、本題の投下予告。
えーと、本日22時頃、“君想”の一章を投下したいと思います! もしかしたら一気に二章まで投下するかも(汗)
読んでやってもいいぜ!という方は、お時間が合えば支援のほどをよろしくお願いします(一礼)
………っていうか、気づけば連レス(汗) すみません………

PS.
>>44様、昨日は書きそびれてしまいましたが、僭越ながらこの作品を、あなた様へのお礼として捧げさせていただきます〜。
75NPCさん:2008/11/15(土) 20:46:17 ID:???
りょーかいー。
まったくこの時期の全裸待機はキツいぜ……。
76NPCさん:2008/11/15(土) 21:51:27 ID:???
つ【あかりんの手作り肉まん】

待ってるー>みつや氏
77mituya:2008/11/15(土) 21:56:41 ID:???
うぴー、二章は間に合わなかったんだぜ………(泣)
ちょっと早いけど、とりあえず一章投下開始です〜。

>>75
待機ありがとうございます〜vv って、ぜんら………??? いや、普通に待っててくだされば(汗)

>>76
あ、あかりんの………!? コワッ!?(ぉ)
待機ありがとうございます〜vv
78君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:00:27 ID:???
《〜Scene1〜 出会い/呼び名の誓い》

 くれはが彼に出逢ったのは、くれはもまだ世界の真実を知らなかった頃───早生まれであるくれはが五歳になる前の、年の瀬のことだった。
 当時、くれはは全国に分校を持つマンモス私立学園の幼等部に通い、柊は地元の保育園の園児で、家こそごく近所だったがそれまで接点はなかった。
 普通なら近所の公園などでもっと早くに自然と顔を合わせてもおかしくなかったのだが、その頃のくれはは、学園以外の場所に他出することが殆どなかった。───否、許されていなかった、というほうが近い。
 家の大人達は、口では特に何も言わなかったけれど、くれはが不用意に外に出るのを嫌う節があった。
 それはくれはを外に出すまい、というのではなく、外でくれはに何かあったら、という類の空気で、その空気はくれはに、幼さ故の好奇心を上回る外への漠然とした恐怖心を植えつけていた。
 そんな風に、ただ家と学園を往復するだけだったくれはが柊と出逢ったのは、くれはの家───赤羽神社でのことだった。
 当時、くれはの母が身ごもっており、そこに正月の準備なども重なって、家の者は皆、それらにかかりきりだった。くれはは一人で外に出ることが出来ず、幼等部から帰れば、家の敷地内で一人遊びをして過ごしていたのである。
 その日も、くれはは神社の境内で一人、鞠つきをして遊んでいた。
「あんたっがったどこさ、ひごさ、ひごどっこさ、くっまもとさ、くっまもっとどこさ、せんばさっ………♪」
 と、鞠が、ぽん、と大きく跳ねて、手から離れて転がってしまった。
「あっ………」
 転がった鞠を目で追って───そこに、自分と同じ年頃の男の子がいることに気づいた。
 洗いっぱなしでぼさぼさの短い髪、ちょっと怒った風につりあがった目。子供用のブルゾンとジーパン姿のその少年は、足元に転がってきた鞠を自然なしぐさで拾い上げた。
 そうして、鞠を持ったまま、少年はくれはの方に視線を向ける。
「………え、えっと………」
 返して、と言おうとして言えずに、くれはは口ごもる。外に対して臆病だった彼女は、それに比例して人見知りな性質だった。
 その上、相手がちょっと恐そうな目をした男の子である。意地悪されるのでは、と思うと恐くて声が出なかったのだ。
79NPCさん:2008/11/15(土) 22:00:51 ID:???
きませいー。
80NPCさん:2008/11/15(土) 22:02:04 ID:???
いらさいまし〜
81君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:02:25 ID:???
 けれど、その少年は不自然に沈黙したくれはに首を傾げて、
「これ、おまえんだろ?」
 無造作に歩み寄り、くれはに鞠を差し出した。
「う………う、うんっ」
 かくかくと頷きながら、くれはは鞠を受け取る。───内心、意地悪されるかも、などと思った自分が恥ずかしかった。
「ご、ごめんなさい………ありがとう………」
 失礼なことを考えてしまったお詫びも込めて、消えるような声で告げる。
 本当に小さなその声を、少年はきちんと聴きとめてくれて、にぱっ、と破顔した。
「どーいたしまして!」
 笑ったその顔はちっとも恐くなんかなくて、何だか安心して、くれはもつられた様に笑う。
「おれ、ひいらぎれんじ。おまえは?」
 笑顔のまま、唐突に告げられた言葉の意味を一瞬理解し損ねて、くれはは慌てて答えた。
「く、くれは。あかばねくれは、です」
「です? そんなオトナとはなすときみたいないいかたしなくても………くれは、トシいくつ?」
 少年は不思議そうに首を傾げる。
「よ、よっつ。おしょうがつがおわったら、すぐ、たんじょうび、ですけど」
 たどたどしく答えれば、少年は苦笑気味に笑う。
「おれ5さいだけど、すぐたんじょうびなら、ほとんどおんなじじゃんか。です、とかいうなよー」
 少年が笑って言うのに、くれははちょっと考える。です、とか言わない話し方───幼等部の友達と同じように話していいということだろうか、と思って。
「じゃ、じゃあ、れんじってよんでもいい?」
「おう、いいぜ!」
 おれもくれはってよんだしな、と少年は笑う。それが嬉しくて、くれはも笑った。
「なあ、くれはってミコさんなのか?」
 と、少年は唐突に訊く。その目はくれはの姿に向けられていた。
 長く伸ばした黒髪に、白の小袖に緋の袴。それは、神社にいる“巫女さん”そのままの姿で、それで少年はそう思ったらしい。
「えと、あたしここのむすめだから。まだミコじゃないけど、おてつだいはしてるよ」
「へぇ、えらいなー! おれなんか、おこづかいほしいときしか、いえのてつだいなんかしねーもん」
 ねーちゃんはよくてつだってるけど、という少年の言葉に、くれはは首を傾げる。
82君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:03:51 ID:???
「おねーちゃん、いるの?」
「うん、ここにはねーちゃんといっしょにあそびにきたんだけど、ねーちゃん、カイダンんとこでガッコのトモダチみつけてひとりでいっちまった」
 それで神社の中を見て廻っていたのだという少年に、くれはは目を見開いた。
「こどもだけで、おそとにでるの?」
「え? コーエンとかあそびにいくときは、こどもだけだろ?」
 心底不思議そうに言われて、くれはは戸惑う。くれはの家では、子供だけで───くれはだけで外に出るなどきっと許してくれない。
「うちは………だめっていわれる。おそとはあぶないから、って」
 そう告げれば、今度は少年の方が目を見開く。
「そーなのか? でも、たしかにさいきんオトナがよく、いろいろブッソーで、っていうよな。ブッソーって、あぶないってイミだって、ねーちゃんいってた」
 だからかなぁ、くれは、おんなのこだし、と少年が呟く。
「いっしょにコーエンであそべないかなぁ、とおもったんだけど、それじゃあダメだよなー」
 その言葉に、くれはは自由に外に出れない自分を初めて歯がゆく思った。───“外”は怖い、その思いが封じていた“外”への好奇心。それを、“外”で自由に生きている少年に呼び覚まされているのだと、そこまでは幼い彼女にはわからなかったけれど。
 せっかく友達になれたのに一緒に遊べない、そのことにくれはは項垂れて───
「───じゃ、ここであそぼうぜ!」
 明るく告げられた言葉に、弾かれたように顔を上げた。
「ジンジャのそとにでなきゃいいんだろ? ここ、ひろいからいろんなあそびができるぜ!」
 なにする? と笑う少年を、くれはは信じられないような思いで見つめた。
 彼は外で自由に遊べるのに───自分を置いて外に行くのではなく、出れない自分に合わせて、ここで遊んでくれるという。
 何だかすごく嬉しくて───とびっきりの笑顔が零れた。
「じゃ、じゃあねぇ───ケンケンパ!」
「よし! じゃあ、マルをかくやつさがそう! いしとかあるかな?」
「きのえだなら、あっちにいっぱいおちてるよ!」
 二人で騒ぎながら、神社の境内を駆けていく。
 その日、くれはは初めて日暮れまで友達と遊んで過ごした。

  ◇ ◆ ◇

83NPCさん:2008/11/15(土) 22:03:53 ID:???
はっはっは、わかってんなお前ら?
ここの連投の厳しさを、よ!支援っ!
84君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:05:10 ID:???
 そして───その次の日もまた、柊は赤羽神社に遊びに来た。
 その更に次の日から、彼は保育園の友達も神社に連れてくるようになり、くれははそれで学園の幼等部以外での友達が一気に増えた。
 皆で、神社の広い境内で鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり。そんな風に過ごすうち、くれはの人見知りは見る間に直っていった。
 くれはの家の大人達も、子供達が神社を遊び場にすることを特に咎めはしなかった。
 もしも、子供達が立ち入りを禁じられた場所に入るなどの度を越す行動を取っていたら、話は別だったのかもしれないが───誰かがそういう悪戯を言い出すたびに、
「そんなことしたら、もうここであそべなくなるかもしれないだろ!」
 そう、柊が言い諭し、全て未遂で終わらせていたのである。
 さすがに大晦日から年明けを迎えてしばらくは、神社を訪れる人が多すぎて、境内を遊び場にすることは不可能だったが、冬休みが終わり人がはけ始めると、また皆で集まって遊んだ。
 そうこうするうち、くれはは五歳の誕生日を向かえ───家人が催してくれた祝いの席の後、母・桐華に部屋へ来るよう一人呼び出された。
「───おかあさま、まいりました」
「どうぞ、お入りなさい」
 きちんと声をかけ、許しを貰ってから部屋に入る。
「しつれいします」
 桐華は膨らみ始めた腹部を庇ってか、それまでこの部屋にはなかった椅子に腰掛けていた。
「お座りなさい、くれは」
 言って、桐華は自身の対面に置かれた座布団を示す。くれはは素直に従い、そこに正座した。
「今日で、あなたも五歳になりましたね。おめでとう、くれは。無事にこの日を迎えられたことを、私もとても嬉しく思います」
「ありがとうございます、おかあさま」
 穏やかに目を細めて言う母に、くれはも笑みを綻ばせて応える。
 桐華はくれはのその笑みを見て、嬉しげに言った。
「すっかり明るくなりましたね、くれは。あなたは少し、内にこもる性質でしたから、心配していたのですけれど」
 そう言ってから、桐華は、いえ、と一つ首を振る。
85NPCさん:2008/11/15(土) 22:05:11 ID:???
よいしょ
86NPCさん:2008/11/15(土) 22:06:15 ID:???
レインボーカラー
支援
87君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:06:43 ID:???
「………違いますね。私を含め、家の大人達があなたを外に対して臆病にさせてしまった。………ごめんなさいね、くれは」
「───おかあさま、そんな」
 突然の母の謝罪に、くれははうろたえる。そんなくれはの様子を、桐華は愛おしげに見つめた。
「くれは、あなたは優しく、聡い娘に育ってくれました。それ故に、私達の言葉にしないことまで察して、あなたは外を避けてしまった。確かに外には恐ろしいものも、厭わしいものも多い。けれど、外でしか得られぬものも、確かにあるのです。
 このままでは、あなたは得られるはずのものを得られないまま年を重ねてしまうのではないかと、私は密かに案じていました」
 けれど、と母は愛しい娘に笑いかける。
「それは杞憂でした。あなたは、外で得るべきものたちを、きちんと己で手にしました。───あなたにそれらを齎してくれた良き出逢いに、私は心から感謝しています」
 正直、その母の言葉は、まだ幼いくれはには理解しきれるものではなかったけれど。
 良き出逢い───その言葉に、くれはは自然と一人の少年の姿を思い浮かべた。
 外に出ることの出来ない自分に、“外”を教えてくれた友達。置いていってしまうでも、無理やり引きずり出すでもなく、“外”の空気をくれはの元まで届けてくれた少年。
「───はい。わたしも、かんしゃしています」
 自然と、そんな言葉がくれはの口から零れた。
 桐華は、その言葉に深く頷くと、一度目を伏せ───俄かに表情を改めた。
 穏やかに細めていた瞳に威厳の色を湛え、綻ばせていた口許を厳しく引き締める。
「───そろそろ、あなたを呼び出した、本題に入りましょう」
 母の顔から、当主の表情(かお)になった桐華に、くれはも笑みを消して、姿勢を正した。真っ直ぐにその目を見て、その言葉を待つ。
「あなたは今日、満五歳になりました。───それにより、あなたには赤羽の者としての資格と責務が与えられます」
「───しかくと、せきむ………?」
 告げられた言葉を、口の中で転がすように繰り返すくれはに、桐華は一つ頷き、続ける。
「そう───世界の真実を知る資格と、世界の真実を背負う責務です」
 重々しく告げられたその言葉に、くれはは息が詰まるような感覚を覚えた。
88NPCさん:2008/11/15(土) 22:08:37 ID:???
支援を持て、明かりを掲げよ!
89君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:09:27 ID:???
 その言葉の意味を理解できた訳ではない。それでも、告げた母の表情と、その声で、その重大さはわかった───わかって、しまった。
 くれはの表情に、娘が自身の言葉の重さを悟ったと察したのだろうか。桐華は、殊更淡々とした調子で語り始めた。
 世界の真実───世界の“常識”の陰に隠された、知られざるもう一つの世界。そこから来(きた)る、世界を侵さんとする魔性の存在を。
 そして───その魔性から世界を護るため、人知れず日々戦う者達の存在を。
 世界結界、裏界、エミュレイター───ウィザード。
 初めて聞くその言葉達は、不思議と何の反発もなく、くれはの中へと染み渡っていく。
「赤羽は、世界を護る者として血を重ねてきた一族。一族の者は例外なく、満五歳の誕生日に世界の真実を教えられ、その真実を背負うのです」
 桐華は真っ直ぐにくれはを見つめて、問う。
「くれは。あなたは赤羽の者として、古き血脈を継ぐウィザードとして、世界を護る責務を負うのです。───わかりますか?」
「───はい」
 真っ直ぐに頷いたくれはに、桐華は更に問いを重ねる。
「今、あなたが知った真実は、決してウィザード以外の者に漏らしてはいけません。どんなに仲の良い友にも、です。───わかりますか?」
 その言葉に、くれはは一瞬返事に詰まった。
「───ともだちにも………れんじくんにも、ですか………?」
 思わず、そう問い返す。脳裏に浮かぶのは、ちょっと目つきのきつい、でも笑うとちっとも怖くなんかない少年の顔。
 幼等部の先生が言っていた。「友達や周りの大人に隠し事をしてはいけない」と。
 彼はくれはにとって一番大切な友達だ。彼に隠し事をするのは、『いけないこと』ではないのか。
 そんなくれはの胸の内を読んだかのように、桐華は告げる。
「くれは。ウィザードではない友に真実を隠すのは、その友を仲間外れにしたり、傷つけるためではありません。その友を護るためです」
 その言葉に、くれはは母の目を見つめなおす。
90NPCさん:2008/11/15(土) 22:10:35 ID:???
私怨
91君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:12:15 ID:???
「この真実は、ウィザード以外の者には受け止めきれません。───いえ、世界自体が、ウィザード以外にこの真実が広まることを嫌っている、という方が正しいでしょうか。
 ウィザード以外の者───イノセントが、この真実を知った場合、世界結界の効果により、最悪、その人そのものの存在が世界から消されてしまう場合もあるのです」
「………きえる………?」
 母の言葉の意味がよくわからなくて、くれはは戸惑った声を漏らす。
 桐華は険しい表情のまま、答える。
「言葉通りの意味です。───そんな人間は最初からこの世界にいなかった、そういうことにされてしまうのです」
 その説明も、いまいちわかりづらかったけれど───それでも、わかったことが一つ。
 この真実をくれはが柊に告げれば───彼は、いなくなってしまうかもしれないということ。
「そこまで行かなくとも───そもそも、世界結界を維持しているのは、イノセントの“常識”を信じる力。
 その“常識”を揺るがせるこの真実をイノセントに知られれば、世界結界を弱め、徒らにエミュレイターの侵略を促すだけ。どちらにせよ、イノセントを危機に晒すことには変わりありません。
 イノセントには、エミュレイターと戦うことはおろか、世界の真実を知ることすらも許されないのです。己の身を護ることはおろか、危険の存在を知って警戒することすら出来ない。
 その分、私達ウィザードがエミュレイターの脅威を退け、彼らを護らなければならないのです」
 そう言って、桐華は最後の問いを告げる。
「───くれは、真実を投げず、漏らさず、赤羽の者としての責務を全うできますね?」
「───はい」
 今度こそ、くれはははっきりと頷いた。
 彼が───あの大切な友がいなくなるなんて嫌だ。だから───

 ───あたしはウィザードとして、イノセントのれんじたちをまもる───

 そう、決意を込めて。
92君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/15(土) 22:13:11 ID:???

  ◇ ◆ ◇

「きょうから、あたし、れんじのこと、ひーらぎってよぶからね」
「………へ?」
 世界の真実を知った翌日、くれはは一方的に友へと宣言した。
「なんでだよー、いきなりー」
「なんでもいーの! もーきめたんだから! ひーらぎはひーらぎ!」
 不思議そうに首を傾げる友に、くれははそう繰り返す。
 ウィザードである“赤羽”の家の生まれである自分と、“柊”というイノセントの家の生まれである彼。
 くれはが幼いなりに護るという誓いのために引いた、護る者と護られる者の線引き。

 その日から───くれはは、彼を名で呼ばなくなった。
93NPCさん:2008/11/15(土) 22:14:48 ID:???
支援びーむ
94mituya:2008/11/15(土) 22:16:01 ID:???
と、一章はここまで(汗) たくさんの支援ありがとうございます〜vv

………長いわりに、話進んでない……… ORL
二章は………明日の夜、投下できればいいけど………ちょっと厳しそうです(汗)
95ゆず楽:2008/11/15(土) 22:24:29 ID:???
祝・帰還!
mituyaさまのくれは×蓮司待ってました! 
ていうかリアルタイム遭遇ラッキー。
くれはが柊を「ひーらぎ」と呼ぶ理由。そうか。こういう視点で見たこと、なかったなー………。
目の付け所とか、自分とは違うなあやっぱり。
それにちびらぎ、いい少年だっ!幼なくれはも、小さい頃は素直なイイ娘で(も、もちろんいまのくれはも好きですよ!?)。
ていうか、ちっちゃい少年少女の交流話、好きだ、自分。続き、楽しみに待ってますよー。
96NPCさん:2008/11/15(土) 23:00:56 ID:???
保管庫設置より一ヶ月経過。
やっと規制解除された中の人です。

作品スレ その2で
>287 名前:NPCさん 投稿日:2008/09/28(日) 19:07:17 ID:???
>はっはっは、ROMは一人見かけたら30人は居ると(ry

というのを見て、実際どれくらい人が居るのかを知りたくなったというのが設置の動機だったり。
結果、多分4〜50人はいるんじゃないかな、と思われます。

もう規制されないと良いなとは思えど、恐らく来週当たりまた全鯖規制食らうんだろうなぁ・・・・・
97mituya:2008/11/17(月) 07:53:34 ID:???
寒さも厳しくなり始めた今日この頃、皆さんお風邪など召していませんでしょうか。自分は寝冷えしたのか、お腹の調子がおかしいです(挨拶)
とりあえずお腹を暖めようと、腹の上に熱源(ノーパソ)を置いて文章書いてみたり(<湯たんぽか)
さて、まずは返レスです〜。

>ゆず楽様
くれはが「ひーらぎ」と呼ぶ理由は、自分がフレイスの回想シーンを読んでからずっと暖めてたネタです。
あれくらいの年の時って、普通名前呼びじゃないか? 小学校高学年くらいだったら、気恥ずかしくて呼び方変えるのもわかるけど………
などと、つらつら考えて。そこに二人の生まれを被せてこんな風に妄想してしまいました。
自分の中で柊はめっちゃ良い漢(笑)なので、子供の頃から良いやつに違いないと………書き表わせたなら良かったですvv
自分の中のロリくれははこんなイメージ。もう素直素直。………なんであんなことに(いや、今のくれはも大好きですが!)
続きを楽しみにしくれているというお言葉に、書く速度一割増(当者比)ですvv

>>96こと、保管庫管理人様
ちょっと遅れましたが、お帰りなさいませ〜!
って、そんな動機だったんですか(笑) そんなに見てる人がいるんですね………ちょっと緊張(<今更)
どうか規制に負けず、これからもよろしくお願いします(一礼)

とりあえず、“君想”二章が書きあがったんですが………プロパティ見たら66Kbって………?
今のこの時間に、ここ、人がいるのでしょうか?(汗)
ま、まあ、とりあえず見てくれている方がいらっしゃって、もし読んでやってもいいぜ! と思われたなら、支援お願いします!
最悪、一人でさるさんと戦いながら投下しますだよ!
98君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 07:55:56 ID:???
《〜Scene2〜 一度目/砂糖菓子の恋》

 くれはと柊が出逢ってから一年後の春、くれはの通っていた私立学園───輝明学園に柊が編入する形で、同じ小学校に通うようになった。柊の二歳上の姉・京子もそこに通っていたから、柊の家としては、元々小学校からはそこに上げるつもりだったのだろう。
「ガッコはいるのって、シケンたいへんなのなー」
 家で大分スパルタ教育されていたらしく、編入試験前の柊はよくそうぼやいていた。
 彼が無事に受かった時、くれはは自分のことのように嬉しかったのを覚えている。
 一年目のクラスは二人とも同じクラスに入ることができて、クラス割り発表の時、二人で一緒に喜んだ。
 二人は、それまでと変わらず───否、それまで以上に共に過ごす時間も増し、神社以外でも遊ぶようになって、
「まるで、兄妹のようですね」
 京子さんとこの子を含めたら四人兄弟かしら、と、桐華がすっかり大きくなった腹部をさすりながら、笑って言ったものだった。
 そうして、桐華が無事にくれはの弟・青葉を出産し、彼や京子も交え、二人はそれこそ兄妹のように一緒に過ごしたのである。
 しかし、小学校にもなれば、特に女の子同士では俄然マセた話題が出るようになる。くれはの友達の女の子達も、それは例外ではなかった。
「わたしは、ショーライたっくんのおよめさんになりたいなー」
「あたしはねぇ、ゆーちゃんがスキ!」
 友達は口々にそんな風に言っては、次にくれはにもこう問うのだ。
「くれはちゃんはー?」
 そう問われる度、くれはは戸惑った。くれはにとって、まだ恋心は遠いものだったから───柊を通じて他の子達より男友達は多かったが、その中の誰かを別格に思うようなことはなかったから。
 その手の話題の度、困ったように首を傾げるくれはに、ある時友達がこう言った。
「くれはちゃんがスキなのは、れんじくんじゃないの?」
 その言葉にくれはは驚いて、目をまん丸に見開いた。
 確かに、彼はくれはにとって、他の男の子と違う“特別”といえる相手だったけれど。
「ちがうよー、ひーらぎはキョーダイみたいなものだもん」
 母が度々そう称すから、くれはもその“特別”は、そういうものだと思っていたのである。

 くれはの中の“特別”が、その形を変えたのは───その年の冬の日のことだった。
99君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 07:58:30 ID:???

  ◇ ◆ ◇

 二学期を終えたその日、商店街から聞こえてくるクリスマスソングを聞くともなしに聞きながら、くれはは神社の石段に腰掛けて眼下の街並みを眺めていた。
 まだ昼間だというのに、ちらほらと見えるイルミネーションの輝き。綺麗なはずのそれも、くれはにとっては寂しさを掻きたてるだけのもの。
 神社の娘であるくれはは、クリスマスをやったことがない。サンタにプレゼントを貰ったことも、当然ない。───そのことを寂しいと感じるようになったのは、幼等部に入った年からだった。
 幼等部に入った最初の年、クリスマスの話で盛り上がる皆に話を振られ、やったことがない、と答えたくれはに、皆は口々に言ったのだ。───「かわいそう」、と。
 ───あたしは、「かわいそう」なの?───
 確かに、自分の家はクリスマスはやらないけれど、その分お正月は豪華だ。プレゼントだって、お年玉の時に貰える。
 ───それでも、「かわいそう」なの?───
 悪意のないはずのその言葉に、くれはは深く傷ついた。───自分の家を、家族の在り方を否定されたようで傷ついたのだと理解するには、くれははまだ幼すぎたけれど。
 それでも、その言葉によってついた傷は、くれは自身にもはっきりとわかって。
 ───だから、クリスマスの話は、痛くて、悲しくて、寂しい。
 だから、くれはは柊とクリスマスの話をしたことがない。
 他の誰に「かわいそう」といわれるより───彼に「かわいそう」といわれるのは、耐えられない気がしたから。
 出逢った年はもうクリスマスが終わった後だったし、去年は家の手伝いを理由に巧く柊を避けて、話をせずに済んだ。今年も、その話が出るたびにさりげなく話の輪から離れて、話題に入ることを避けていた。
 今日もまた、学校が終わるなり、遊びに誘われるのを避けて、一人で帰ってきてしまった。
 いつも皆で遊んでいる場所から、一人で虚ろに街並みを眺めて───そのことが、余計に寂しさを増す。
 ───ひいらぎ、なにしてるかな───
 寂しくて、そんなことを思った、その時、
「───くれはー? なにやってんだ、んなとこでー」
 耳慣れた声が下から聞こえて、くれはは我に返ってそちらを見遣った。
100君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:00:04 ID:???
「………ひーらぎ?」
 会いたかったけれど、会いたくなかった友達が、こちらに駆け上がってくるのを見つけた。
「………どうしたの? なにか、ようじ?」
 話したいけど話したくなくて、微妙に突き放した言葉がくれはの口をついて出る。
 けれど、柊はその言葉の調子を気にする風もなく、くれはの隣に腰掛けながら答えた。
「いや、うちでつーしんぼ見せたら、おこられそうになって………にげてきたら、おまえがボーッとすわってるから」
 いつもだったら、明るい笑いを誘ってくれただろう、ちょっと間抜けな返事。けれど、今のくれはは笑えるような気分じゃなかった。
「そっか………」
 こんな態度は、柊を困らせるとわかっていたけれど、気のない返事しか返せない。
「………えぇっと………」
 案の定、柊は困惑したような声を漏らして、落ち着きなさそうに身じろぎする。
 二人の間に落ちた沈黙を、商店街から響いてきたクリスマスソングが埋めて───
「そうだ───くれは、サンタにプレゼント、おねがいしたか?」
 はたと思いついた風に告げられたその言葉に、くれはは内心激しく動揺した。
 避けていた話題───けれど、正面から聞かれた以上、答えなかったり、嘘をついたりするわけにはいかない。
「うちにはこないよ、サンタさん」
「―――え?」
 面食らったように目を瞬く柊に、くれはは一気に告げてしまう。───言うなら、いっぺんに済ませてしまいたかった。
「うち、神社だもん。クリスマス………やったことないし。サンタさんだって………」
「―――ホントに?」
 心底驚いた風に目を見開いて言う柊に、くれははせめて、精一杯笑う。
「しょーがないけどね―――」
 かわいそう、なんて言われないように―――けれど、思わず顔を逸らすように、項垂れるように、俯いてしまうのは抑えられなくて。
「―――ふぅん………」
 何気ないような、彼の呟き。―――次に、皆の言う『あの言葉』が来ないことを祈るような、同時に覚悟するような気持ちで、くれはは、彼の次の言葉を待って―――
101NPCさん:2008/11/17(月) 08:01:41 ID:???
支援、するよ?
102君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:02:19 ID:???
「―――あ!」
 けれど、次に彼が発したのは、くれはに向けた言葉ではなく、何かを思いついたような声。同時に、すっくと立ち上がって、
「よーじ思い出した! ちょっとここで待ってろ! ―――いいか、ぜったい動くなよー!」
 驚いて思わず顔を上げたくれはにそう叫びながら、階段を駆け下りていく。
「―――ひーらぎ〜?」
 くれはの声にも振り返ることなく、彼の後姿は階下の街並みに消えて行った。
「どーしたんだろー………ひーらぎ………」
 一人残されたくれはは、訳がわからないままに、それでも彼が言った言葉に従って、その場に座って彼を待つ。
 しばらくして、白いものが空からちらつき始めたけれど、降り注ぐその冷たさにも耐えて、その場から動かない。
 ───だって、ひーらぎが、うごくなって、いったもの―――
 そう自分に言い聞かせるくれはの脳裏に思い返されるのは、二ヶ月前の出来事―――二人で神社の裏にある雑木林で遊んでいた時のことだ。
 その前の日にくれはの家に来たお客さんが、くれはにお土産としてくれた花飾りのついた白い帽子。巫女装束には合わないけれど、つい柊にも見せたくて、遊びにも被っていってしまった。
 その帽子が―――遊んでいる最中に風に飛ばされて、林の奥へと飛ばされていってしまったのだ。
 飛ばされた帽子は木の枝に引っかかって止まって、くれははともかく、木登りの上手な柊にすれば、それを取るだけなら何でもなかった。
 けれど、その引っかかった木の場所に行くには、大人に取っては少々高い程度の、けれど七歳児にとっては崖に等しい段差があったのだ。
 そこで、柊はくれはに言ったのだ。「おれがとってくるから、くれははくるな。ぜったいうごくなよ」と。
 くれははその言葉に頷き、柊が急な傾斜を降りていくのを見送った。けれど、すぐに下から柊の短い悲鳴とずり落ちるような音が聞こえて―――追いかけてしまったのだ。
 さっきの柊の見よう見まねで傾斜を降りて―――転げ落ちた。
「―――くれは!」
 聞こえた悲鳴のような声。続いて、衝撃―――けれど、それは、思っていたよりずっと小さくて。
 思わず瞑っていた目を開ければ、柊がくれはを抱えるように下敷きになって、庇ってくれていたのだ。
103NPCさん:2008/11/17(月) 08:02:41 ID:???
つーか他に人は居ないのか、この時間じゃ。
104NPCさん:2008/11/17(月) 08:03:16 ID:???
独りで支援してると、支援でさるさん喰らうのかなぁ…?
105NPCさん:2008/11/17(月) 08:05:34 ID:???
支援の嵐。
106NPCさん:2008/11/17(月) 08:06:59 ID:???
……さるさん?
107君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:07:00 ID:???
 それで、くれははほとんど怪我もなく―――柊の方も、幸い大きな怪我はなかったけれど、たくさんの擦り傷と打撲を負った。
 その上、柊は危ない無茶をしたことを、いろんな人にたくさん怒られた。「もうすこしで、くれはちゃんもケガするとこだったのよ!」とは京子がゲンコツと一緒にやった言葉だ。
 けれど、くれはは殆ど怒られなかった。勿論母には怒られたけれど、他の家人はくれはの無事を喜ぶばかりで、叱る者は殆どいなかった。
 ───ホントは、あたしがわるいのに―――
 柊はくれはに動くなと言った。くれはがその言葉を守らずに、柊を下敷きにしてしまったのに―――
 けれど、柊は自分ばかり怒られても、くれはを責めるようなことは一言も言わなかった。それどころか、「あぶないめにあわせて、ごめんな」と謝ってくれて―――
 そのことに、くれはの方が「ごめんなさい」の気持ちでいっぱいになってしまった。
 その後すぐ柊の誕生日だったから、その「ごめんなさい」を込めてプレゼントをあげたけれど、それでくれはが柊に怪我をさせてしまった事実がなくなるわけではない。
 だから―――

 ───うごいちゃ、だめなんだもん―――

 柊が動くなと言った―――ならば、くれははここから動いたらいけないのだ。
 勝手に動いて、あの時みたいに、柊に迷惑をかけないように。
 降り注ぐ雪の冷たさに震えながらも、くれははそこから動かなかい。
 そして―――
「―――くれはー!」
 待ち人の声がくれはの耳に届いたのは、降り注ぐ白が町を染め始めた頃だった。
108君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:08:30 ID:???
「………さむい」
 身体に積もった雪の冷たさに、くれはが思わず呟けば、駆け寄ってきた柊はぎょっとしたように、くれはに積もった雪を払いながら怒鳴る。
「バカ! なんで雪つもったままにしてるんだ!」
「だって、ぜったいうごくな、っていったから」
 今度は言いつけを守って、動かなかった―――その思いを込めてくれはが答えれば、彼は困ったような呆れたようなため息を漏らして、手にした小さな箱を差し出した。
 きょとんと差し出されるままに受け取ったくれはの肩に、ふわりと暖かいものがかかる。
「ほら、あっちにいくぞ。ここじゃ、雪かぶっちまうだろ」
 自分のマフラーをくれはの首に巻いて、ぶっきらぼうに言うと、柊はすたすたと賽銭箱の横―――拝殿の廂(ひさし)の下へと歩き出した。
「ま、まってよ、ひーらぎ!」
 マフラーのお礼を言う間もなく、くれはも慌ててその後を追う。
 廂の下に柊と並んで腰掛け、促されるままに箱を開ける。その中身を見て、くれはは思わず歓声を漏らした。
「―――はわぁ〜!」
 小さな白い箱―――その中にちょこんと入っていたのは、小さなサンタが載ったイチゴのショートケーキ。
「ほら、見てないで食えよ」
 ぶっきらぼうに柊が言う。これは彼が怒っているのではなく、照れている時の声だと知っているから、くれはは笑顔で頷いた。
「うんっ!」
 箱に入っていた小さなフォークで、イチゴの載ったところを一口。―――イチゴの酸っぱさと、クリームの甘さが口の中に広がって、
「―――おいしい!」
 思わず満面の笑みで言えば、柊も嬉しそうに顔を綻ばせる。
109NPCさん:2008/11/17(月) 08:10:18 ID:???
支援!
110君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:10:20 ID:???
「そっか、よかったなぁ!―――ほら、そのサンタ、それも食えるんだぜ!」
 言って、ケーキの上に座ったサンタを目で示した。
 くれははじっとそのサンタを見つめる。お菓子なら、食べてあげた方がいいのかもしれないけれど―――
「―――もってかえる、もったいないもん!」
 初めてくれはのところに来てくれたサンタクロース―――柊がくれはのために連れてきてくれたサンタクロース。それを食べてしまうのは、もったいなくて出来なかった。
 と、そこでくれはは気づく。小さな白い箱の中―――その中に、ケーキが一つしかないことに。
「………ひーらぎのぶんは………?」
 思わずそう呟けば、ははーっ、と柊は笑って答える。
「おれはさー、ガマンできなくて、とちゅーで食っちまったんだよ。―――きにしないで、ほら、食えって!」
 それが嘘なのは、くれはにもすぐわかった。だって、箱にはもう一個入っていたような跡はないし、そもそも柊がくれはを待たせたまま、自分だけで先にケーキを食べたりするわけがないのだから。
 くれはを気遣った優しい嘘。それに、胸が暖かくなるのを感じて―――くれはの顔に、とびっきりの笑顔が浮かんだ。
「ありがとぉ、ひいらぎ!」
 笑みを向けた相手は、照れた時のぶっきらぼうな声で、「どーいたしまして」と言った。

  ◇ ◆ ◇

 小さなサンタを握り締めて、柊と分かれたくれはは一人、家の台所に向かった。
 このサンタは砂糖で出来ているから、普通に取っておくと溶けて大変なとこになると、柊が教えてくれたのだ。妙に実感がこもった言葉だったから、実際に大変な目にあったことがあるのかもしれない。
 だから、くれはは冷蔵庫にしまっておくことにしたのだ。本当は、自分の部屋にこっそり隠しておきたかったのだけれど。
 一人廊下を歩きながら、手の中のサンタを覗き込んで―――くれはは顔が綻ぶのを抑えられなかった。
111NPCさん:2008/11/17(月) 08:11:41 ID:???
うお。ほんとに支援だけで連続投稿規制に…w
112NPCさん:2008/11/17(月) 08:12:13 ID:???
孤独に支援。…と思ったら他にも支援者が…!
113NPCさん:2008/11/17(月) 08:12:13 ID:???
さるさんに負けるな支援。
114君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:12:47 ID:???
 ───ひいらぎは、あたしのこと、かわいそう、っていわなかった―――
 他の皆と違って、くれはの家のあり方を否定しなかった。
 ───ひいらぎは、あたしのところにサンタさんをつれてきてくれた―――
 その上で、くれはの寂しい気持ちを、暖かいもので包んでくれた。
 いつだって、そうなのだ。彼はいつだって、くれはが寂しい時、悲しい時、当たり前のように来てくれて、くれはに暖かいものをくれるのだ。
 その時の柊の笑顔が脳裏に浮かんで―――甘くて酸っぱい、さっきのショートケーキみたいな気持ちが、くれはの胸いっぱいに広がった。
 青葉や、京子の笑顔には、こんな気持ちにはならない。―――これは、母が言うような、兄弟のような気持ちじゃなくて。

 ───ひいらぎは、あたしの“トクベツ”なんだ―――

 気づいた気持ちを抱きしめて、くれはは幼い頬を染めて笑う。

 ───ひいらぎが、あたしの“トクベツにスキ”な男の子―――

 えへへ、と宝物を見つけたような気持ちで笑って、くれはは台所に続く戸に手をかけて―――

「―――でも、このまま、蓮司君をくれは様のお側においていていいのかしら」

 僅かに開いた隙間から漏れ聞こえたその声に、凍りついたように動きを止めた。
 ───え………?―――
 聞こえたその言葉の意味が判らず、くれはは混乱する。
 そんなくれはの様子など知る由もなく、戸の向こうの会話は続いていく。
「なに、いきなり。蓮司君、いい子じゃない。彼のおかげでくれは様の人見知りが直ったわけだし」
「まあ、それはそうなんだけど………」
 聞こえてくる声は二つ。どちらも家の手伝いをしてくれている巫女見習い―――ウィザードとしての修行の一環として赤羽の家に来ている女性達のものだった。
115NPCさん:2008/11/17(月) 08:13:21 ID:???
再接続してさるさんは回避支援〜。
116君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:14:13 ID:???
「いい子だけど………いい子だからこそ、まずいんじゃない」
「はぁ? なにそれ」
 なぞなぞのような言葉に返された疑問の声に、くれはも内心同意する。―――意味がわからない。
 ───なんで、ひいらぎが、あたしのそばにいちゃいけないの―――
 そう、思って―――

「―――だって、もしもくれは様が蓮司君のことを好きになっちゃったりしたら、どうするのよ」

 聞こえた言葉に、頭を横殴りにされたような気がした。
 ───え………?―――
 混乱を深めるくれはをよそに、中の会話は進んでいく。
「それ、御門家と真行寺家から来てる話のこと? いくらなんでも今から気にするような話じゃないんじゃないの?」
 ───みかど、しんぎょうじ―――
 その名前は、くれはも知っている。赤羽と同じように―――否、赤羽以上に血を重ねたウィザードの名家の名。
 しかし、何故、ウィザードの名家の話に、あの幼馴染の名前が出てくるのか。
「何言ってんの、初恋って根が深いのよー? 私の友達に、超ラブラブだった玉の輿付きの彼氏振り切って、十年ぶりに会った平凡な幼馴染との再燃愛に走った娘とかもいるんだから」
「あー、まあねぇ………万一くれは様が、あの二家からの話蹴ったあげく、イノセントと駆け落ちなんかしちゃったら、赤羽の面目丸つぶれだけど」
 ───カケオチ………?―――
 その言葉は、学校の友達がお母さんと見ているドラマの話の中で出てきて、時々くれはもその話を訊いているから知っている。―――周りから、恋人になったり、結婚したりするのを反対された人たちがする家出のことだ。
 つまり、中の二人は―――くれはと柊が恋人同士になったら―――否、それ以前に、くれはが彼を好きになったらいけないと、そう、言っているのだ。
 難しい理由はわからないけれど、その理由には赤羽よりも偉いウィザードの家も関係していて―――くれはが柊を好きになったら、赤羽の家は、とても大変なことになるのだと―――
 そういう話をしているのだと、わかってしまった。
117NPCさん:2008/11/17(月) 08:16:29 ID:???
噂話は情報源にもなり得るけど、事件の発端にもなり得るよな支援。
118NPCさん:2008/11/17(月) 08:18:36 ID:???
とりあえずさるさん回避は可能みたいだな支援。
119君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:19:12 ID:???
 こみ上げてきたものをこらえるように、強く両手を握り締めて―――くれはは踵を返して駆け出した。
 今聞いた話から、逃げるように走って―――自室に駆け込む。
 乱暴に戸を閉めて、その場に崩れ落ちた。
「―――っぅくっ………」
 懸命に歯を食いしばって、漏れそうになる嗚咽を堪える。
 目から溢れそうになったものを両の拳で拭おうとして―――気づいた。
「―――あ………」
 柊に貰ったサンタクロース。強く握り締めたくれはの手の中で、それはばらばらに砕け、溶けてべとべとになっていた。
「―――っふぇっ………」
 今度こそ、嗚咽を堪えられずに―――くれはは泣き出した。

 ───あたしは、ひいらぎをスキになっちゃいけないんだ―――

 その思いが、幼い胸を深く深く抉る。
 ウィザードの名家が関るような、大切な話が理由なら―――将来ウィザードになるくれはは、それを破るわけにはいかないのだ。
 ウィザードになることをやめれば―――そう、思わなくもなかったけれど。ウィザードは、なりたくてなれるものでも、やめたくてやめられるものでもないと、母は言っていたから。
 それでなくても―――くれはは、ウィザードになるのをやめられない。だって、彼への呼び名を変えたあの日に、誓った。

 ───ひいらぎは、あたしが、まもるんだもん―――

 ウィザードになって、イノセントの彼を守ると、そう、誓ったのだから。
 彼を想えないのは辛いけれど。本当に胸が痛くて痛くて、張り裂けそうなくらい、辛いけれど。
 彼が―――エミュレイターに襲われて、殺されたり、いなくなってしまう方が、もっともっと嫌だから。
 だから―――
120NPCさん:2008/11/17(月) 08:19:25 ID:???
携帯から支援するという手もあるが。
121君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 08:20:04 ID:???

 ───あたしは、ひいらぎを、スキなんかじゃ、ない―――

 そう、自分に嘘をつく。ウィザードとして、赤羽の者としての責務のために。

 ───あたしは、ひいらぎを、スキになんか、ならない―――

 そう、懸命に自分へと言い聞かせながら―――くれはは一人、泣き続けた。


 この日、彼女は彼に、人生で初めての恋をした。
 彼女の手の中で壊れた砂糖菓子のように、あまりに脆く、儚い恋を。

 この日、彼女は彼に、人生で初めての失恋をした。
 己に科した誓いが故に―――彼に恋する資格を、失った。
122mituya:2008/11/17(月) 08:21:29 ID:???
と、とりあえず二章終了!
こんな時間に支援してくださった皆様、本当にありがとうございました!

………さて、続き書くんだぜ!
123NPCさん:2008/11/17(月) 08:21:33 ID:???
大人ってや〜ね〜支援。
124NPCさん:2008/11/17(月) 08:23:20 ID:???
お? 終わってた。
mituya嬢、乙でした。
125mituya:2008/11/17(月) 17:57:31 ID:???
がはっ(喀血) ………三章目………終わった(ガクッ)
長い………長いよ………。朝の投下分より長いよ。
しかも、微妙にくれはがヤンデ………げふんげふん。………精進しよう、自分………(泣)

えーと、というわけで、19時頃、“君想”三章を投下しようかと思います。
連続投下にもほどがあるんで自重しようかとも思ったのですが………リアルの事情でいつ投下できるかわからないので(汗)
支援してくださるという方は………よろしくお願いします(一礼)
126mituya:2008/11/17(月) 18:55:22 ID:???
うぐー、さるさん対策に、ちょっと予告より早めに参上です。
では、“君想”三章投下、開始します〜。支援してくださる方がいらっしゃったら、よろしくお願いします〜
127mituya:2008/11/17(月) 18:56:57 ID:???
《〜Scene3〜 二度目/夢想の恋》

 初めての恋を失ったその日から―――くれはは殊更、柊に対して強く振舞うようになった。
 懸命に殺したあの甘酸っぱい気持ちが、また生まれてしまわないように。
 護るはずの彼に、助けられてばかりいる自分と決別するために。
 ───強く、ならなきゃ―――
 呪文のようにそう繰り返して、くれはは“そういう”自分を作り上げていく。
 自分に対し突如として傍若無人とも言える態度を取る様になったくれはに、柊は少々驚いたようだったが、それでも、くれはに対する彼の態度は変わらなくて。
 そんなくれはを怒るのでもなく、厭うのでもなく、ただ、それまでのくれはに対するのと同じように―――くれはが寂しい時、悲しい時には傍にいてくれて、当たり前のように暖かいもの、嬉しいものをくれるのだ。
 正月を終えてすぐのくれはの誕生日には、自分の誕生日のお返しといって、くれはにすごく嬉しいプレゼントをくれた―――それも、三つも。
「男から女の子へのおかえしは、3ばいだってきいたからな」
 照れた時のぶっきらぼうな声で、そう言って。
 プレゼントはどれも彼の普段のお小遣いでは買うのも難しいようなものばかりで―――きっと、これでお年玉を殆ど使ってしまったのだろうと、くれはにもわかって。
 自分だって欲しいものがあったはずなのに、それを我慢して、当たり前のようにくれはに嬉しいものをくれる。
 そんな彼の優しさが、嬉しくて嬉しくて―――それ以上に苦しい。
 また、芽生えそうなあの気持ち―――それを抑えるのが苦しい。
 本当は自分の方が護らなくちゃいけないのに―――貰ってばかりの自分が苦しい。
 彼から離れた方がいいんじゃないか―――そういう声が、時々自分の中からしたけれど。
 彼から離れたら、彼に何かあった時、護れない。―――何より、彼から離れるのは、傍にいて気持ちを堪えるよりずっと苦しいと、自分でわかっていたから。
128君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 18:59:35 ID:???
 芽生えそうな気持ちを蹴散らすように、くれはは柊に対して更に傍若無人に振舞う。彼の秘密を知ったら、その秘密を盾に脅してみたり、思い切り我侭を言ったり。
 とてもじゃないけれど、女の子が“特別”な男の子に対して取る態度ではないと、そう見える、そう思える態度で。
 そういう態度を取って、自分に言い聞かせる。―――彼に、恋などしてないと。
 ただ、ずっと一緒にいる、兄妹の様な友達だと。
 そんな風に傍にいて―――そのままの距離で、二人は高校生になった。

  ◇ ◆ ◇

「ひーらぎ、おっそーい! どこいってたのよ!」
 とっくに部活終わったわよ! と、巫女服の腰の横に両の拳を当てて、仁王立ちでそう言うくれはに、柊は心底呆れた風に呻いた。
「お前なぁ………人を毎日のようにこき使っといて、それ言うか?」
 場所は巫女クラブの部室前。―――ウィザード養成所の側面もある輝明学園に設けられた、ウィザードやウィザード候補の隠れ蓑として用意された部活の一つだ。
 高等部に上がってから、当然のようにくれははこの部に籍を置いた。いまだ、ウィザードとしての力は目覚めていないけれど、赤羽の巫女としてこの部に入るのは自然なことだったから。
 対して、柊は特にどこの部にも入らなかった。「変な部しかねぇんだもん」というのが彼の主張。―――確かに、輝明学園は変わった部活が多いが、真っ当な部もあるのだが。
 部活動の差で行動時間がずれ始め、中等部までより、二人が一緒に過ごす時間は格段に減った。それでも、一年の時はクラスが一緒だったから、毎日のように顔を合わせていたのだけれど。
 二年に上がって、クラスが分かれると、殆ど顔を合わせなくなった。たまに、家の近所や学校の廊下ですれ違って、挨拶を交わす程度で―――
 そんな風に彼と会わない日々を一ヶ月ほど過ごし―――くれはは急に不安になった。かつて、彼から離れようかと迷った時に抱いた危惧が、また湧き上がってきたのだ。
 ───離れている間に―――もしも、柊に何かあったら―――
 学校にいる間はまだいい。輝明学園には多くのウィザードがいる。エミュレイターの襲撃があっても、大丈夫。―――けれど、それ以外の時間は?
129NPCさん:2008/11/17(月) 19:00:58 ID:???
支援・・・できるうちにやっておこうか。
130君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:01:36 ID:???
 それまで、それこそ兄妹のように時間を共有していたから、気づかなかった。くれははずっと柊の傍にいて、彼を護れるわけではないのだ。
 まだウィザードではないくれはが側にいても、何も出来ないかもしれないが―――側にいれば、せめて一緒に逃げるくらいのことはできる。側にいなければそれすらも出来ない。───それが、恐かった。
 いまだウィザードの力に目覚めず、そのためにまだエミュレイターを直接見たことのないくれはにとって、エミュレイターとは、いつ自分の元から彼を奪っていくかわからない、理不尽な恐怖の象徴だったのだ。
 折りしも、くれはがそんな恐怖を胸に抱き始めた頃、くれはの身の周りに異変が起きた。―――登下校時にまとわりつく、奇妙な視線。
 エミュレイターによる怪異ではなさそうだから、人の仕業だろうけれど―――気味が悪かったし、気持ち悪かった。誰かに相談しようと思って―――最初に浮かんでしまったのが、柊の顔だった。
 結局、護るべき相手である彼に頼ってしまっている自分が悔しかったけれど―――よく考えれば、いい口実だと気づいた。
 きっと、視線のことを話して、登下校の送り迎えを頼めば、彼は聞き入れてくれるに違いない。そうなれば、くれはが部活をしている間、彼は安全圏の学園内に残っているし、登下校の間もくれはが一緒だ。
 それで、くれはが彼に登下校の送り迎えを頼んだのが二ヶ月前。今日この日まで、彼はぶつぶつ文句を言いつつ、くれはの送り迎え、更には部活の手伝いまでしてくれていた。
 いや、してくれていた、というよりは―――
「―――へぇ〜、そういうこと言う〜? なんならあんたの秘密、学校中にばらしても………」
「だぁぁぁぁぁぁああああッ! 悪かった! 謝るからそれは勘弁ッ!?」
 と、このように、殆ど脅してやらせていたのだが。
「よし、格別の慈悲をもって、今回は許してしんぜよう」
 絶叫して懇願する彼に、くれはは鷹揚に頷いてみせる。はぁっ、と息をついて苦笑すると、柊はそれに調子を合わせた。
「それはありがたきしあわせ、っと。―――んで、もう帰るのか?」
 うん、と頷いて歩き出したくれはに並んで、柊も歩き出す。
131君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:03:00 ID:???
 その足の運びはゆっくりめで―――その歩く速さで、普通に歩くくれはと同じくらい。
 一歩の歩幅が全然違うのだ。高校に上がってぐんと背が伸び、男子の中でも長身の部類に入った柊と、成長期は早かったけれど、もう殆ど伸びが止まってしまって、女子の中でも小柄な方に入るくれはでは。
 大分上にある幼馴染の顔を見上げて、くれはは改めて問う。
「で、今まで何やってたの? いつもなら、うちの部活の手伝いやって時間潰してるのに」
「あ?―――ああ、バスケ部の練習試合、人数足んねぇからって、クラスのやつに引っ張り出されたんだよ」
 疲れたぜー、とぼやく柊に、くれははちょっと損した気分になる。―――それは、ちょっと見てみたかった。
「はわー、ひーらぎがバスケねぇ………チームの足引っ張っちゃったんじゃないのー?」
 何だか悔しくて、思わず思ってもいない言葉を投げてしまう。
 柊はさも心外、というような顔をして、
「そりゃ、普段から練習してる連中にはかなわねぇよ。でも、それでも足引っ張っては、なかったと………思う。………多分」
 言ってるうちに段々表情が冴えなくなり、言葉の最後は相当自信なさげだ。多分、自分のミスを思い出したのだろう。
「えー、あっやしー。やっぱ、足引っ張っちゃったんじゃない?」
「―――うっせぇなぁ! こっちのチーム勝ったんだからいいんだよっ!」
 面白がってくれはがツッコめば、柊はムキになったように怒鳴り返す。―――声変わりを終えて低くなったその声は、子供の頃よりずっと迫力を増しているけれど。
 その照れたり困ったりした時の、ぶっきらぼうな調子はそのままだから、くれはには全然恐くない。
 ころころと笑えば、柊は拗ねたように口を尖らせて、ふいっ、とそっぽを向く。
 それでも、その歩調はくれはに合わせたままで―――その不器用な優しさがくれはには嬉しくて―――同時にやっぱり、苦しかった。
 相反する二つの感情を持て余すうちに家について、彼と分かれる。一抹の寂しさを抱えて、玄関をくぐり―――
「ただい―――まぁっ!?」
 途端、飛びついてきた弟のせいで、後ろに引っくり返りそうになった。
132NPCさん:2008/11/17(月) 19:04:32 ID:???
支援
133君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:04:53 ID:???
「あっぶなぁ………! 何するの、青葉!」
「ご、ごめんなさい………! で、でも嬉しくって、お姉ちゃんにも早く言いたくて!」
 何とか踏みとどまったくれはが怒鳴ると、青葉は一瞬しおたれて、けれどすぐに勢いを取り戻して言う。
 きらきらした目で見上げてくる青葉に毒気を抜かれて、くれはは首を傾げた。
「………何? 何かあったの?」
 そう問えば、青葉はくれはから離れ、正面に立って姿勢を正して胸を張る。
「ボク―――ウィザードになりました!」
 誇らしげに告げられた言葉に―――くれははこの上なく目を見開いた。
「―――本当!?」
「うんっ! 唱えた呪が発動したんだ!」
 制御は失敗しちゃったけど………、と、最後は俯いて、尻すぼみに告げる。
 けれど、くれははそれに首を振って、満面の笑みで言う。
「それでも、すごいじゃない! よかったねぇ、青葉!」
「―――はいっ!」
 姉の言葉に、青葉は本当に嬉しそうに頷いた。
 その様子を微笑ましげに見つめて―――ふと思いつき、くれはは溜息をついてみせる。
「あーあ。でも、青葉に先越されちゃったかぁ。あたしなんか、なに唱えてもうんでもすんでもないのになぁ」
 わざとらしく言ってやれば、浮かれていた青葉は途端にうろたえて、
「だ、大丈夫だよ! お姉ちゃんもすぐにウィザードになれます!」
「どーかなぁー、ホントかなぁー。あたし、もしかしたら、一生イノセントのままだったりして―――」
 と、弟をからかうつもりで意識せず紡いだその言葉に―――くれはは自分で硬直する。
 ─── 一生、イノセントのまま?―――
「そ、そんなことないです! お姉ちゃんは赤羽の血を引く巫女なんだから!」
 慌てたように、青葉が叫ぶ。―――そうだ、そんなことはありえないはずだ。くれはは赤羽の巫女なのだから。
 けれど―――事実、今までくれはが何の呪を唱えても、何かが起こったことはない。常の世にあらざる異変を感じ取ったことも、それらに遭遇したこともない。
 ───あたしは、本当に、ウィザードになるの?―――
 今まで思いつきもしなかった、疑問。けれど、一度浮かんだそれは、もう脳裏から消えてくれない。
134君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:06:06 ID:???
 ───もしも、一生、イノセントのままだったら―――
 それは、赤羽の者としてはあってはならないことだ。けれど―――もしも、そうなったら、

 ───あたしは、柊を好きでいてもいいんじゃないの?―――

 幼い頃に聞いた、家の巫女たちの会話。その言葉の意味が、今のくれはにならわかる。
 あれは―――くれはの縁談の話だ。女系の家系である赤羽の家を継ぐくれはの、婿の話をしていたのだ。
 御門と真行寺。赤羽より格上であるこの二家からの縁談は、例え当の婿候補が傍流の末子であろうと、無碍にすることはできない。
 けれど、その縁談はくれはがウィザードであり、赤羽の跡継ぎであることが前提である話のはずだ。―――ウィザード同士の婚姻により、その血を守るための話なのだろうから。
 だから、それこそ、あってはならないことだけれど―――もしも、くれはがこのままウィザードとして覚醒せず、イノセントであったなら、その話はなかったことになるのではないか?
 より強くその血が顕在化した弟の方が、跡継ぎとして相応しいということになったなら―――
 そうなれば―――誰憚ることなく、彼を想っても構わないのではないか?
 都合のいい夢想。―――彼を護るという誓いを捨てて、家の責務すらも投げて、それでも彼の隣へ行きたいという、身勝手な―――けれど、あまりにも甘美な夢想。
 一度浮かんだその夢想は、幾ら拭っても消えてくれなくて―――

 一緒に湧き上がってきた彼への想いは―――もはや押し殺せるものではなかった。

  ◇ ◆ ◇

 青葉がウィザードに覚醒した三日後の日曜日。その朝に、身勝手な夢想の報いはくれはの元を訪れた。
『―――わりぃ、くれは。明日から、送り迎え出来なくなった』
 珍しく柊の方からかかってきた電話―――それに少々浮かれていたくれはは、言いにくそうに告げられた彼の言葉に、突き落とされたような感覚を覚えた。
135NPCさん:2008/11/17(月) 19:06:57 ID:???
それは、世界の危機に応じて現れる―――さるさん。
136君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:08:24 ID:???
「え………? な、んで………?」
『いや………ちょっと、バイト始めてよ。これがシフトきつくて。早朝とか、放課後も速攻で行かないと間にあわねぇんだ』
 呆然として呟いたくれはの声に返る、歯切れの悪い彼の言葉。―――きっとそれは、くれはとの約束を反故にしてしまうことを気にしてのことで。
『ホント、わりぃ、いきなりで。―――もっと早く連絡できればよかったんだけどよ』
 見えなくても、彼がいつもの、ちょっと困ったような仏頂面を浮かべているのが、わかって。
「―――いいよー、そんな気にしなくて」
 精一杯、笑みを装った声で、くれはは告げる。
「実は最近、視線感じなくなってたし。ひーらぎがいると、部活に男手得られて便利だからさぁ、つい黙ってたんだけど」
『―――ぅをいっ!?』
 こき使ってただけかっ!? とキレのいいツッコミが返る。
 くれはは、そのことに安堵する。―――作り笑いも、視線を感じなくなったという嘘も、ばれてない、と。
 電話でよかった。きっと、面と向かって話していたら、くれはの嘘は見破られてしまっていたから。
 はぁ、と呆れたような幼馴染のような溜息が、受話器越しに響く。
『まあ、それなら良かったけど―――』
 言いかけてふと、不自然に柊の声が途切れた。
「………柊?」
『―――あのさ、くれは………』
 何かを問いかける前置きのような呼び掛けに、くれはの心臓が跳ね上がる。
 嘘に気づかれてしまったのか―――そう思って―――
 けれど、柊は迷うような沈黙の後に、
『………いや、最近物騒だからよ。変な視線がなくなったにしても、気をつけろよ』
「え………あ、うん」
 当たり障りのない気遣いの言葉に、くれはは肩透かしを食らったように、ただ頷いた。
 彼が何を言いかけたのか―――結局わからないままに、じゃあな、という言葉と共に電話はそこで切れた。

137君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:09:54 ID:???
 そして―――その電話の日を境に、くれはは全く柊と会う機会がなくなった。
 同時に、奇妙な視線もふつりと感じなくなったけれど、正直それは殆ど慰めにならなかった。
 学校や家の近所で彼の姿を見かけても、いつも声をかけるタイミングを逸してしまって――― 一言も交わすことなく、そのまま、夏季休暇に入ってしまった。
 あれほど恐れていた、彼から完全に離れるという事態に―――くれはは陥ってしまったのだ。

 そして―――更に、追い討ちのように―――報いは重なる。

  ◇ ◆ ◇

「―――ねぇ、さっき柊君っぽい人見かけたんだけど、彼、こっちに知り合いとかいるの?」
「―――え?」
 買出しから帰って来た友人の問いに、くれはは目を瞬いて振り返った。
 夏季休暇を利用しての女友達だけでの旅行。友達の一人が、軽井沢にある実家の別荘を使わせてくれたのだ。
 正直、くれははそんな気分ではなくて、家の手伝いを理由に断ろうかとも思ったのだが、当主である桐華に、是非行ってきなさいと送り出されてしまっては、その理由も使えず。
 結局、来たんだから楽しんでやれと、半ば開き直りの空元気で過ごしていたのだが―――
 予想外なところから告げられた彼の名に、くれはは一瞬反応に戸惑った。
「………いや、そんな話、聞いたことないけど………」
「そっかー。じゃ、やっぱ見間違えかー」
 くれはの返答に、友人はうんうんと頷きながら、一人ごちるように言った。
「そりゃそうだよねー、柊君がくれは以外の女の子と歩いてるなんて、ちょっとおかしいと思ったんだ」
 その言葉に―――くれはは声もなく硬直した。
 代わりに、別の友人がその言葉に反応する。
「え、うっそ。柊君が女の子と?」
「いや、だから人違いだって。………まあ、かなりそっくりだったけど」
「もしかしたら、本人かもしれないじゃん。秘密の彼女と軽井沢デート! ………って、柊君に限ってそれはないか」
 彼、そっち系鈍そうだもんねー、と友人は暢気に笑うけれど―――くれはは全く笑えない。
138君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:11:28 ID:???
 ───柊に、彼女?―――
 普段のくれはだったら、あの朴念仁の柊に限って、と笑い飛ばせるけれど―――今回は、できなかった。
 夏休み前に突然始めたバイト―――言いかけてやめた言葉―――もしかして、それは全部―――
 ───それが原因だったんじゃないの?―――
 彼女とデートするために、バイトを始めて―――くれはに彼女のことを言おうとして、言い淀んだのではないか?
 そう、思ってしまったのだ。
 ───なんで、今まで、考えなかったんだろう―――
 それまで、くれはは自分の側の事情しか考えていなかった。―――ウィザードのこと、赤羽の家のこと、自分の婚姻話のこと。
 けれど、何より一番重要なのは―――柊自身の気持ちだったのに。
 去年まで、柊の友達は即ちくれはの友達を言えるくらい、人間関係も重なっていた。それで、柊にくれは以上に仲のいい女の子がいなかったことを知っていたから―――その可能性を考えもしなかった。
 でも、クラスが分かれて、それぞれに人間関係ができれば、それはあって当然の可能性で。
 くれはが柊を想ってくれるように、彼がくれはを想ってくれるとは限らず―――彼が別の誰かを想う、という事態は、決して絵空事ではなくて。

 ───これは、報い?―――

 ぐらつく視界の中で、くれはは思う。
 この事態は、彼への誓いを反故にして、家の事情も放り出して、身勝手に、自分の気持ちだけを彼に押し付けようとした報いなのだろうか、と。
 あんな夢想に囚われず、想いを封じたままだったら、きっとこの可能性に、ここまで苦しくならなかったのに、と。
「―――くれは!?」
「ちょ、どうしたの!?」
 友人の声を遠くに聴きながら―――くれはは自責と悔恨の渦の中に、意識を落とした。

  ◇ ◆ ◇
139NPCさん:2008/11/17(月) 19:11:50 ID:???
支援、支援
140君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:12:52 ID:???
 くれはが次に目覚めた時、既に時刻は深夜だった。
 側についていてくれたらしい友人も、ベッドの端に突っ伏して眠ってしまっている。
「―――ごめんね………」
 くれはは、思わず呟いた。
 自分の身勝手な思いに呑まれて、周りに心配をかけて―――なんて、勝手なのだろう。
 ベッドから身を起こして、自身にかけられていた上掛けを友人の肩にかける。
 そうして、窓から差し込む月明かりに誘われるように――― 一人、庭へと降りた。
 皓々と降り注ぐ月光の白さは、いつかの雪の日を思い起こさせて、くれはは声もなく涙を流す。
 あの日の想いは、ただ純粋で真っ直ぐだったのに、今時分が抱えてる気持ちはこんなにも醜い。
 ───ウィザードも、赤羽の責務も、かつての誓いもどうでも良くて、ただ彼の隣に行きたいと渇望して。
 ───自分以外の誰かが彼の特別になるなんて嫌だと、見苦しく駄々をこねる。
「―――嫌だな………」
 ぽつりと、呟く。―――こんな汚い自分が嫌だと、そう、思って―――

 瞬間―――世界が紅く染まった。

「―――え………!?」
 愕然と、空を見上げたくれはの目に映ったのは、白い光を降らせる月ではなく―――妖しい輝きを放つ、紅い月。
 悲鳴のような声が、くれはの喉から漏れた。
「―――月匣………!」
「あれ、よく知ってるね?」
 背後から響いた涼やかな声が、その悲鳴に答えた。
 くれはが弾かれたように振り向いた先にいたのは、年の頃十前後の少年。
 紅い世界の中で映える碧眼。金の髪にあどけない容貌を備えた、まるでビスクドールのような美少年。
 けれど、その実から放たれる禍々しい気配は、彼が人間ではないと、くれはに訴えている。
「―――エミュレイター………!」
 思わず後退りながら、くれはは叫ぶ。その様子に、少年は楽しそうに―――愉しそうに、嗤う。
「本当によく知ってるね、お姉さん。もしかしてウィザード?―――うーん、未覚醒(たまご)か、いいとこ新人(ひよこ)ってとこかな?」
「はわっ………!?」
 余りにも容易く看破されて、くれはは思わず呻く。
141NPCさん:2008/11/17(月) 19:13:31 ID:???
支援します!
142君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:14:06 ID:???
 その様を更に嗤うように、少年は―――少年の姿の魔性は、惑いの言葉を紡ぐ。
「プラーナの量はものすごいのに、それをずいぶん持て余してるね。―――何をそんなに迷ってるのかな………?」
 妖しい光を湛えた瞳に、心の奥底まで見透かされた気がして、くれはは金縛りにあったように動けなくなった。
 少年は、更にくれはの胸の内を暴いていく。
「側に居たいのに、居られない誰か………何を投げ打っても欲しい人が、いるんだね………?」
 言われた途端、胸を襲った締めつけるような痛みに、くれははその場に崩れ落ちる。
「―――っかはっ………!」
 息が苦しい。声が出ない。膝を突き、胸を押さえて蹲るくれはに、繊手のような白い手が伸びる。
 魔性はくれはの顎を持ち上げて上向けると、間近に顔を寄せてその瞳を覗き込む。
「彼が、欲しいんでしょう? ………側に、居て欲しいんでしょう………?」
「―――ち、が………っ………?」
 くれはは苦しい息の中、必死に否定する。
 ―――ここで、この魔性の言葉に頷いたら………!―――
 けれど、必死に抗おうと奮い立たせた気持ちは、魔性の一言にあっさりと崩された。
「………他の誰かに、取られてしまってもいいの………?」
「―――ッ!」
 今度こそ、くれはははっきりと息を呑む。その胸のうちの間隙をつくように、魔性は嗤い―――
 瞬間―――世界が一変した。
 魔性の肩越しに見えていた紅い世界が消えて―――現れたのは、白く雪化粧をした生家の神社。賽銭箱の横に並んで座る、二人の子供。
 一人は、自分のよく知る、幼い頃の幼馴染の少年。けれど、その隣に居るのは、幼い頃の自分ではなくて―――知らない女の子。
 その少女の手には白い小さな箱があって、二人はそれを覗き込みながら、楽しそうに笑っていて―――
「―――ッ、なんでっ………!?」
 思わずくれはの口から悲鳴のような声が漏れた。―――あそこに居るのは、自分のはずなのに―――
「そうだね。―――あそこはお姉さんの場所だ」
 胸の内を読んだかのような声が、魔性の口から紡がれた。
「元々、お姉さんが居るべき場所なんだから―――取り戻しておいでよ」
 謳うように告げられた言葉に―――くれはの身体が独りでに立ち上がった。
143NPCさん:2008/11/17(月) 19:14:42 ID:???
このスレに足りない物、それは! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さそして何よりも!! 支援が足りない!!
144君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 19:15:40 ID:???
 ゆらり、と幽鬼のような動きで、くれは自身の意志とは関係なく、二人の元に向かっていく。

 ───いけない―――

 胸のうちから激しい警鐘が響いているのに、身体は心とは無関係に動いていく。
 二人の子供は、目の前に立ったくれはの存在にも気づかない風で、談笑を続けている。
 楽しげに笑う、その少女の首へと、独りでにくれはの手が伸びて―――

 ───だめ!―――

 思って、唯一自由になる視線だけを、少女から逸らして―――瞬間、

 少女の持っていた、箱の中のサンタと、目が合った。

「―――ッ!」
 くれはは息を呑む。身体の動きが、止まった。

 ただ真っ直ぐだった幼い日の想いの象徴。―――妬心もなく、ただ、彼を護りたいと想っていた頃の気持ちの証。
 それを―――

 ───利用されて―――穢されて―――

 ぎり、と少女の間近に迫ったくれはの拳が、強く握られる。

「―――たまるもんかぁ――――――ッ!」

 胸のうちの迷いも、妬心も、エゴも―――全て吐き出すように、叫んだ。
145NPCさん:2008/11/17(月) 19:19:34 ID:???
四円
146NPCさん:2008/11/17(月) 19:23:51 ID:???
さるさん来ちゃった?
147君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 20:00:11 ID:???
 途端、くれはの身体の自由が戻る。振り向きざまに、母からお守りにと貰っていた符を懐から引き抜いた。
「―――狙い過たず、我が敵を貫け!」
 呪を紡ぎながら、驚いたようにこちらを見つめる魔性を指し示し―――

「―――ヴォーテックス―――――ッ!」

 強い意志(プラーナ)と共に放たれた言葉は力となり、符は強き輝きまとう闇の礫と化して―――
「―――なァ―――ッ!?」
 驚き呻く魔性を、一撃の下に、葬り去った。

  ◇ ◆ ◇

 再び世界は一変して、くれはは、別荘の一室に立っていた。
 そこは、くれはが寝かされていた部屋で、先ほどの白い世界の中で、くれはの立つ位置から見て少女が居た場所には、ベッドに突っ伏して眠る友人の姿があった。
「―――っふっ………っ」
 その場に崩れ落ちて、くれははただ、涙する。―――魔性を撃ち滅ぼした力を放ったその手を、ただ見つめて。
 あの瞬間―――くれはの胸にあったのは、ただ護りたいという気持ち。
 ウィザードのしがらみも、赤羽の責務も関係なく、醜い妬心も、身勝手な渇望もなく、ただ、ただ―――護りたいという、それだけの気持ちで。
 その気持ちのまま―――くれははウィザードになった。

 ───結局、ここに行き着いちゃうんだね―――

 泣きながら、くれはは笑う。
 側に居たいとか、他の誰かに取られたくないとか、そんなものは飛び越えて、結局―――

 ───あたしは、蓮司を、護りたいんだ―――

 あの時、くれはが護りたかったのは、あの日の思い出―――あの日、彼がくれた思い出。
 くれはにとって、あの思い出を踏みにじられることは、彼の心を―――彼の在り方を、踏みにじられるのと同じで―――それだけは、許せなかったのだ。
148君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/17(月) 20:02:25 ID:???
 例え、彼を想うことを許されなくても、彼が別の人を選んでもいいから。

 ―――ただ、彼が彼らしく、彼の在り方を何者にも穢されないでいられるように―――

 あの時願ったのは、ただ、それだけ。―――そのための力だけ。
 だから―――

 ───この護りたいという気持ちと、そのための力だけを抱いて、生きていく―――

 そう、くれはは新たに誓いを立てる。
 例え、その引き換えに―――

 ―――彼に恋する資格を、一生失くしたとしても構わないから―――

 その、思いと共に。
149mituya:2008/11/17(月) 20:05:43 ID:???
途中、さるさんきちゃった………(泣)
とりあえず、三章終わりです。次はいつ来れるか本気でわからない〜(汗)

支援してくださった方々、ありがとうございました!
150NPCさん:2008/11/18(火) 08:16:31 ID:???
乙でした〜。
いいもの見せてもらった!

ちびくれはと今のくれはの柊に対する
態度の違いまで話に織込んであってすばらしいです。

次章も楽しみにしております。
151ゆず楽:2008/11/19(水) 00:26:13 ID:???
mituyaさま、GJでした!
なんか、くれはが正統派ヒロインしてていいなあ。
「凛」とした格好良さとか、柊への想いとか、心が揺れてしまう弱さ、でもやっぱり柊のために強くなれるところとか、ああもう!
いますぐ「柊もウィザードになるから大丈夫」って教えてやりたい!
正妻の面目躍如だなあ。続き待ってますよ〜。ではでは〜。
152mituya:2008/11/22(土) 10:26:44 ID:???
今更“君想”二章(03話)で凄まじいミスしたことに気づいて、まとめサイトの分を慌てて修正してきた子です(汗)
文章の組み立ての順番を間違えたせいで、くれはと柊が小学校に上がってから青葉が生まれたみたくなってた………!
一年以上桐華さんのお腹の中にいた計算になっちゃうよ!(汗)
うちの青葉君は三月生まれです。くれはと柊が出逢った年の三月に生まれた設定です(汗)
ううう………なんてミス………恥ずかしいっ………猛省ものだ、これは………(泣)

………とりあえず、反省の続きは四章を書きながらすることにして………(ぉ)
ありがたい感想へのレス返しをば〜。

>>150
暖かいお言葉、ありがとうございます〜(感涙)
そういってもらえると、書いてよかった、また書こうと思えます。エネルギーをありがとうございます!(笑)

>>151ことゆず楽様
丁寧な感想をありがとうございます〜(感涙)
せ、正統派ヒロイン………そう思ってもらえたなら救われます………
「な、なんかヤンデレっぽい?………いやいや、これは一途、一途というんだ!」と自分に言い聞かせて書いてたので(汗)
続き、頑張って書きますよ! そして、ゆず楽さんのお話の続き、どっちも楽しみに待ってますよ!(笑)

さて、続きを頑張って書きますよ!………この三連休に完結できたらいいなぁ、とか(<願望か)
153風ねこ:2008/11/24(月) 14:47:24 ID:???
さてと。色んなところで話題に出て切ない気分を味わいながらも書きたいから今日も書いてます。
ちょいと投下しにきましたよっと。

支援ほしいにゃー。とりあえず50分から投下予定です。
……この時間帯人いない気がひしひしするけどな!

元ネタ:アリアンロッドリプレイ(シリーズ)
 傾向:ほのぼのだと言い張る
154重なる手のひら:2008/11/24(月) 14:53:59 ID:???
1.

 ライン、と呼ばれる街がある。

 エリンディルと呼ばれるこの大陸の中原に存在する都市国家の一つであり、『遺跡の街』とも呼ばれる。
 近隣7つの都市国家間で締結されたパリス同盟、その指導都市とされる一大勢力の盟主国である。
 また、国王エレウォンドが元冒険者であったこともあってか、近隣の遺跡の発掘に力を入れており、街には多くの冒険者が滞在する。
 踊る小鹿亭など、街に数ある酒場から彼らのにぎやかな声が絶える日はない。

 そのラインの街は、今三日間に渡る大きな祭りの真っ最中。
 街は人であふれかえり、そこら中に吟遊詩人や踊り子、曲芸師が闊歩し、人種も性別も国籍も関係なく、熱気と常ならぬ雰囲気が街全体を覆う。
 そんな中で一人、町角に設置されている小さな円柱型のオブジェに腰掛けて、中央通りの人の波を見てため息をついている少年がいた。
 赤毛のくせっ毛、まだあどけない少年ではあるものの、その腰には剣帯ときもち反りの入った細身の黒鞘―――東方の武器、カタナ―――がある。
 いかにも旅暮らし、という彼のいでたちを見て、冒険者だとわからない人間は相当の節穴だろう。

 ともあれ、祭りの見物客というにはやけにアンニュイなため息をついている少年。そんな彼に、声をかけるものがあった。

「……エイジ」
「あれ、フェルシアさん」

 長く伸びた銀糸の髪を、ゆらゆらと柳の枝のように揺らしながら現れたのは、透き通るような白い肌を夜闇のローブから覗かせる、少女と言っても通りそうな年頃の娘。
 しかし彼女―――フェルシアは、けして見た目どおりの年齢ではない。悠久の長きを生きる『銀の髪の』監視者、それが彼女の実の姿である。
 そんな彼女に気安く笑いながら、少年―――エイジは話しかける。

「どうしたんです? 僕らにシグさんに言伝するように頼んだから、別の用事に行ったと思ったんですけど」
「……計算外の事態が起きた。
 けど。結局今私は神殿に入れないから、あなたとアムに頼んで正解だった」
155NPCさん:2008/11/24(月) 14:55:01 ID:???
にゃ
156重なる手のひら:2008/11/24(月) 14:55:49 ID:???
 一介の少年にしか見えないエイジと、人類の監視者であるフェルシアがこうも気安く話すのは、彼らがほんの少し前までギルドを組んでいたことが要因である。
 彼らの他にも、今名前の出たシグとアム、そしてもう一匹がそのギルドの人間であり―――とある事情により、そのギルドは事実上解散してしまっていた。

 別れた彼らは別々の道を歩むことになったのだが、ちょっとした偶然で再会し、ちょっとしたお使いを頼まれたのである。
 そのお使い―――かつてのギルドメンバーであるシグへの伝言―――に今のエイジの同行者であるアムが動くことはできても、彼はある事情により同行できない。
 だからこそ、今お使い中のアムを待って、エイジはまちぼうけを食らっていたのだった。
 エイジは苦笑しながら言う。

「今度はどんな悪いことしてるんです。わざわざアムを通さないと言えないことなんですか?」
「……悪いことをしているとは思っていないけれど。アムから、聞いていない?」
「『フェルシアからシグに伝言頼まれたからラインまで行くわよ』の一言だけですよ。あとはなにを聞いても答えてくれなくて」

 そうノロケ混じりの返事を聞いて、フェルシアは無言のままふるふると首を振った。

「……アムが話さないのなら、わたしが話す必要はない。そもそも、あまり人にもらしていいことでもないから」
「僕だけ、仲間はずれですか」

 少しだけ唇を尖らせて言ったエイジに、フェルシアは優しげな微笑を浮かべて答える。

「……アムがなぜ話さないのか、わたしはわかるから言うけれど。
 それはきっと、アムの優しさ。あなたに直接関わることではないけれど、あまり気分をよくするものでもないから」
「優しさ、ねぇ……」

 なにやら複雑そうな表情で考え込むエイジ。
 わかってはいる。アムの挙動は女の子としてはかなり乱暴で、さらに強気である。が、彼女が気弱なところもある女の子であるとエイジにはわかってはいるのだが―――
 生来の朴念仁気質もあいまってか、どこまでが本気でどこまでが照れ隠しなのか、長く付き合っている今でもいまいち判別がつきづらいのである。
 そんな悩める少年にくすり、とほんの少しだけ笑って、フェルシアはさらに告げる。
157重なる手のひら:2008/11/24(月) 14:56:46 ID:???
「……最初は、アムもこの仕事を渋ってた。けど、一ついいことを教えてあげたら、行くって言いだした」
「いいことって、なんですか?」
「シグがこの日来るはずのラインでは……お祭りをやってるって」

 悪戯っぽく笑うフェルシアに、頭に疑問符を大量に浮かべるエイジ。
 その鈍感っぷりに内心呆れながら、彼女は続ける。

「エイジ。あなたは、クラン=ベルでも祭になんて参加したことはないでしょう?」

 あ、と。エイジが間の抜けた声をあげた。

 クラン=ベル。パリス同盟加盟都市のひとつであり、またの名を『水の街』という。エイジと旅の仲間アムの生まれ故郷である。
 今現在、クラン=ベルは大きな川二つの合流する場所にある運河と水路の街となっているが、ほんの少し前までは砂漠の中の街であった。
 十数年間魔族の陰謀により水が枯れ果てさせられていたのがその理由であるが、その陰謀に巻き込まれたエイジの父ガイアは水の街から水を奪ったといわれなき罪を受け、
その子であるエイジにも辛い生活が強いられた。
 水により繁栄を迎えていたクラン=ベルは、その基盤を奪われ大きく衰退する。
 人々の心を一つにするための祭りも、罪人の家族を交えることはなかったのだ。
 そんなクラン=ベルも、エイジの立ち上げたギルド『のっとぎるてぃ』により再び過去の栄華を取り戻し、神官長代理のウェルチという少女の元復興の道をたどっている。

 ともあれ。エイジはそんなわけでこれまで祭に参加したことはない。
 それを知っていたアムは、エイジに祭を体験させてやるためにフェルシアの仕事を受けたのではないか、と彼女は言ったのだ。
158NPCさん:2008/11/24(月) 14:57:12 ID:???
ぬこ
159重なる手のひら:2008/11/24(月) 14:58:09 ID:???
 エイジの表情の変化を柔らかな表情で見つめていたフェルシアは、中央通りにひときわ背の高い赤いメイジハットを見つけ、無表情に戻る。

「……ごめん。わたし、仕事の時間になったから。これで行く」
「へ? あ、はい」

 反射的に返事をしたエイジに、フェルシアはもう一度だけぽつりとささやく。

「……エイジ。アムにお礼、しないと」

 そう告げて遠ざかっていく魔法使いの背中に、エイジは両手を拡声器のように添えて、叫ぶ。

「フェルシアさんも、お気をつけてっ!」

 声を背に、魔法使いは雑踏の中に入りこんでいく。懐からローブを取り出し、頭からかぶるところまではエイジにも見えたが、その後は人ごみの中に消えた。


160重なる手のひら:2008/11/24(月) 14:58:48 ID:???
2.

「お礼って言ってもなぁ……アムは何を喜ぶんだろ」

 出店の屋台で買ったカバル焼きを一口。
 しっとりとした卵の味のする柔らかな生地に甘酸っぱいベリーの味のする熱々のコンフィチュールが入っており、中々においしい。
 ……なんか変な鳥の形をしているが、そこらへんは気にしない方がいいだろう。たぶん。

 ともあれ。
 これまで彼は祭りなどに参加したことはないわけで、いまいち勝手が掴めない。
 とりあえず人の良さそうな店員の青年の言葉にほだされ、そんなに高くもなかったので一袋買ってしまったカバル焼きがおいしかったのは僥倖だったが、
今の彼の目的はアムへのお礼探しである。
 しかしこれまで贈り物なんて気の利いたことをあまりした経験のない彼にとっては、エルクレストカレッジの入試問題なんかよりもよほど難しい関門として立ちはだかる。
 下手なものを贈ったら軍隊仕込みの今や進化に進化を重ねた銃撃を受ける、なんてことになりはしないかと思っている彼の心中は必死である。

 なにが欲しいかアムにたずねたら迷わず『金!』と答えそうな気がした。それは人間として間違ってる気がするので却下。
 同じ女性として妹であるウェルチにたずねる、というのも考えたが今すぐたずねるのは限りなく無理だ。よって不可能。
 あと彼が知っている女性は、神殿関係者で会うことの不可能なシルヴァ、場所のわからない上参考になる気のしないベネット、そも会えるとも思えない魔族のショコラ。
 みんな今すぐ聞くことが不可能である人物ばかりだったわけで、アムが帰ってきたらすぐありがとうの気持ちを伝えたいエイジとしては参考になりえない。

 ……正直な話。第三者から見ると聞けなくて正解だと思える面子しかいないあたり、エイジの女運の悪さが垣間見える。

 閑話休題。
 そんな悩める少年に、声をかける者があった。

「ちょっとちょっと、そこ行く冒険者さん」

 真剣に悩んでいたエイジはその声で思索の海から現実に引き戻される。
 呼びかけられたのが自分なのかもわからなかったが、声のもとをたどろうと周囲を見渡す。その彼に再び声がかけられる。

「そうそう。今きょろきょろしてる冒険者さん、あなたあなた」
161重なる手のひら:2008/11/24(月) 14:59:40 ID:???
 声の方を振り向けば、そこにいたのはにこやかな笑顔を浮かべる長い金髪の女性の姿。
 深い藍色のメイジハット、それと同色のコートとよく似た色の瞳。おっとりとした雰囲気のあるヒューリン。
 『ブル』と書かれた看板のようなものがはみ出た大きなリュックを背負っているところを見ると行商人のようにも見えるが、
メイジハットや手に持つ杖を見る限り冒険者にも見える。
 不思議そうな表情をしているエイジの顔を特に気にしていない様子で、苦笑しながら女性は言う。

「ちょっと寝坊しちゃって。お店出しにきたんだけど、どこに出店届け出しに行けばいいのか昨日確かめたのに道がこの人ごみでわからなくなっちゃいまして。
 確か神殿に出しにいけばいいのまでは覚えてるんだけど、神殿までの道を教えてはもらえないです?」
「あ、商人さんだったんですか。神殿だったら、ここの中央通り沿いに歩いていくと、ラインでもう一つある大きな通りの神殿通りとぶつかるんで、そこを渡ったとこです」
「うわぁ、ありがとう〜。
 もう。せっかく新しい目覚まし時計買ったのに、また焼いちゃって寝坊しちゃったからどうしようかと……」

 ほっとしたように胸を撫で下ろす女性。
 やや不審な言葉があったものの、柔らかい笑顔を見る限りいい人そうである。
 これまでまともな女性の知り合いのいなかったエイジ的にはこんな生き物が本当にいたことに涙があふれそうな気さえしてくる。
 感動にじーん、と打ち震えているエイジを見て女性はその柔らかな笑顔をエイジに向け、言う。

「本当にありがとうございます。お礼、と言ってはなんですが、冒険者さんはなにかご入用なものはありませんか?
 助けてもらったんですし、相互利益は商売の基本。普通のお値段よりも、ちょっと勉強させてもらいますよ?」

 なんでも言ってください、と女性は笑顔でエイジに告げる。

 初対面の人に言うことにためらいがなかったわけではない。
 しかし。
 正直なところ何をあげていいのかも、相談できる相手もいなかったエイジにとっては本当にありがたい申し出だったわけで。

 エイジは、にこやかに笑う女性に、ことのなりゆきを話しだした―――


162NPCさん:2008/11/24(月) 15:01:01 ID:???
みゅ
163重なる手のひら:2008/11/24(月) 15:02:25 ID:???
3.

「―――っていうのが、フェルシアの言ってたことよ」
「ふぅん……そうか。こりゃ大ごとになりそうだな。
 アム、ご苦労さん。茶でも飲んでってくれ」

 ライン神殿にある巡礼神官用寝所の一室で、彼らは話をしていた。

 一人は軽めの装備を身につけた、鳶色の髪のヒューリンの冒険者少女―――アム。
 もう一人は重厚な防具を身に纏う、三つ角ドゥアンの体つきのよい待祭(アコライト)―――シグ。
 ともにギルド『のっとぎるてぃ』に一時身を置き、その功績により『クラン=ベルの四英雄』と呼ばれる内の二人である。
 アムは出てきたログレス産高級発酵茶を口にする。

「んじゃ、遠慮なくいただくわ」
「それにしても。ずいぶんと優しいじゃないか」
「なにがよ」
「エイジの奴が神殿に近寄れないのをわかってて一緒に来たのは、お祭り騒ぎを楽しませてやるためだろう?」

 シグがからかうようにニヤリと太い笑みを浮かべながら腕を組みながら告げる。
 その声を聞いて一瞬で顔をトマト並みに赤くするアム。

「な―――なに言ってんのよっ!?
 あたしはフェルシアにどうしてもお願いしますアム様って言われたから仕方なく来ただけで、別にエイジのためとか、そんなんじゃないんだからねっ!?」
「そうかい。それは悪かった」

 慌てふためくアムを、笑いながら横目で見つつシグも茶の器を傾けて飲む。
 久しぶりに会う年下のギルド仲間は、素直じゃないのも変わっていないようである。
 アムはむぅぅぅぅ、とむくれている。シグとしてもこれ以上アムを怒らせていらぬとばっちりを受けたくはないため、先ほどまでの話を反芻した。

「……しかし、また『粛正』の話とはな。神様はそんなに俺たちがお嫌いなのかね」
164重なる手のひら:2008/11/24(月) 15:03:19 ID:???
 神に仕える者としてはありえてはならない発言。
 それをふと漏らしてしまうほどに、今シグは重い話を聞いていたのだ。

 『粛正』。神々の意思によって作られた『救世装置』。
 世界を救う装置、といえば聞こえはいいが、やることといえば善し悪しを無視して全てを壊してやり直すための 装置(リセットボタン)だ。
 『粛正』とその装置は、アムたちの元ギルド『のっとぎるてぃ』と少しばかり因縁があるのだ。
 フェルシアからの伝言とは、新たな粛正が目覚めかけていることと、その粛正の鍵を握る者の監視を開始したこと。
 そして、シグたちが遭遇した粛正の時とは違い、装置そのものを破壊できる可能性があるが、それをしていいかどうか迷っていること。
 そしてこれが一番大きなことだが、最悪神殿側全てを敵に回す可能性があるため、敵対する覚悟を決めておいてほしいということ。
 今現在カナン神殿神官長補佐の護衛役として冒険者から神殿仕えになっているシグには、先に言っておきたかったのだという。

 そんなシグの重い口調を破砕するように、アムはやれやれ、と肩をすくめた。

「なに言ってんのよ、アンタは。あの日のこともう忘れたの?」

 彼女が思い返すのは、『のっとぎるてぃ』の解散の日。
 あの日彼女は一つの誓いを口にし、そしてそれを胸に彼女たちはそれぞれの道を歩き出した。
 だからこそ胸を張って、彼女は言う。

「『粛正』の起こらない世界を作るために、みんなでがんばる。それがあたしたち『のっとぎるてぃ』の仕事でしょうが。
 神様がどうとかはどうでもいいわ。『粛正』が起きるような状況を潰していくために、あんたも神殿であの女に協力してんでしょうに。
 いまさら神さまがどうのなんて言ってらんないでしょ。あたしたちはその神さまに人間はやれるんだってこと見せつけるためにやってるんだから、ね?」
「……そいつはそうだ。まったく、ガラにもないこと言っちまったな」

 苦笑しながら彼は言う。
 若さというのは時に全てを凌駕するだけの勢いを持つ。
 昔を振り返るだけでは前には進めないんだと、そう告げるように。そして、その考え知らずの無軌道に、シグも同意して彼のギルドに入ったのではなかったか。
 だから。
165NPCさん:2008/11/24(月) 15:04:00 ID:???
ぬっこぬこ
166重なる手のひら:2008/11/24(月) 15:04:34 ID:???
「フェルシアに会ったら了解したって言っといてくれ。タイミング見計らってウチのボスにも言っとくよ。
 ヴァンスターの方の妨害のことも含めてな」
「わかったわよ。ま、もし会ったらだけど。フェルシアもふらふらしててどこにいるかわかんないとこあるから」

 空になり、机に置いたアムのカップを取って彼は言う。

「悪いが、もうすぐ神殿会議でな。ウチのボスの護衛の仕事が入るんだ。
 人が来てごたごたするし、早いとこエイジんとこ戻ってやれ」
「そ、そうね。あいつこんな人ごみはじめてだろうから、人の波におぼれてないといいけど」
「あぁ。はじめて来る奴は結構人波に流されまくってエラいことになるからな、この町」

 だから早く行ってやれ、と言われ、丸め込まれて釈然としない様子ながらもアムは部屋を出た。
 シグはカップを流しに持っていきつつ、一言。

「若いってのはいいねぇ。
 ……ま。若い奴らに負けてもいらんねぇ、か」

 騒がしい足音が近づいてくるのを聞きながら、彼は上司の到着を待つ。ギルド仲間の忠告をどこまでどう聞かせるか、そんなことを悩みながら。

167重なる手のひら:2008/11/24(月) 15:05:27 ID:???
4.

「どこ行ってたのよ!」

 待っていろ、と言われた場所にエイジが戻ってくると、そこにはすでに戻ってきていてご立腹のアムがいた。
 体に染み付いた習慣により半ば反射的に謝る。

「ごめんアムっ! ちょっと道案内してて、それで……」
「ふん、あんたらしいけど。あたしがここで待ってなかったらどうするわけ?」
「ほんとにごめん、アム。あと……待っててくれてありがとう」
「なっ……ま、まぁいいわ。今日の夕飯代は全部あんた持ちくらいで許してあげる」

 うん。と素直にうなずく機嫌がよさそうなエイジ。
 ふん、と鼻を鳴らしつつアムはたずねた。

「なにかあったの? やけに機嫌よさそうだけど」
「そうかな、まぁそうなんだけど。
 ……うん、あのねアム。これ」

 言いながら、エイジは黒いなめし革に赤い小さな石と片翼の銀製アクセサリトップのついたチョーカーを手渡す。
 虚をつかれたアムはそれに一瞬反応ができない。
 反応がないことに少しびくびくしつつ、エイジは言う。

「これ、道案内した行商人のお姉さんが手ごろな値段で譲ってくれてさ」
「……あたし、に?」
「うん。アムにもらってほしい。その、お姉さんに色々と話は聞いたけど、僕が選んだんだ。
 お祭り見せてくれた、そのお礼」
「あ、あんたに祭り見せるためとかじゃなくてっ! あたしはフェルシアに頼まれて仕方なく……っ!」
「それでも。嬉しかったからさ、受け取ってくれないかな」
168NPCさん:2008/11/24(月) 15:05:54 ID:???
ねここねこ
169重なる手のひら:2008/11/24(月) 15:06:41 ID:???
 照れたように笑って渡されたチョーカーをまじまじと見るアム。
 白銀の翼は陽の光を鈍くはね返し、ちらちらと燈を灯したように輝く。緋色の石は艶鮮ときらめく。
 動きを完全に止めていた自分を自覚し、顔が赤いのを自覚しながら彼女は言う。

「も、もらっておいて―――う、ううん。


 その……ありがと、エイジ」

「よろこんでもらえたなら、よかった」

 顔が赤くて直視できないのを自覚しながら、彼女はうつむく。
 うつむいてしまい、視線が外れたその一瞬。チョーカーを持たない方のアムの手を取りエイジが歩き出す。

「ちょ、エイジっ!? なに、なんなのっ!?」
「せっかくお祭りに来たんだから、一緒に楽しもう! あっちにね、カバル焼きのおいしいお店が……」
「ま、待ってってばっ! ちょっと引っ張らないで―――」

 そう言ったところで、はじめてのお祭りの告白もどきでテンションのおかしいことになっているエイジをアムは止められなかったわけで。
 二人ともやけに顔が赤いまま、人波の中に消えていく。


 そうして。
 祭りの輪に、片翼に赤い石のチョーカーをつけた女の子と、片翼に青い石の革ブレスレットの男の子が、手をつないで加わった。


fin
170風ねこ:2008/11/24(月) 15:10:12 ID:???
12月になると金星(火星だっけ?)と木星と月の直列現象が見られるらしいですよ(挨拶)。
ただだだ甘い話になってしまいましたよすみませんみっちゃんさん。
アリアン1stパーティ解散後の話ってことで―――まぁ、色々と遊んではみましたが。シグの過去話はちと想像できませんでした、申し訳ない。
今回の裏タイトルは「比翼連理」。
その話をブル○○○の露天商お姉さんから聞いたエイジが思い切った話とも言う。
あの世界に比翼の話があるかは知らない(マテ)。いや、鳳雛と臥竜の話があるんならあるんじゃね?とか言ってみるテスト(オイ)。
ラブってむずかしーね。

ここ以外のスレッドで色々とご意見をいただきました。いや別にたまたま見たらそんな話になってただけだけど。
喜んだり凹んだりしたけど、好きでやってるのでもう少しがんばっていきたいと思います。

ではご縁がありましたら、また。
171NPCさん:2008/11/24(月) 15:11:00 ID:???
支援しようと思っていたら終わっていたっ!?
ともあれ乙ですー。色々状況が垣間見えるあたり流石の構成力だなー、とか思いましたが
可愛らしいエイジとアムにめろめろなので見えないことにします。

ショコラに相談してたらひどいことになっっていたに違いない。いろんな意味で。
こう、地下スレ逝きな意味で。
172mituya:2008/11/24(月) 15:46:09 ID:???
>>170こと風ねこ様
きゃーッ!?///(歓声) 何か来て見たらすごいの投下されてる!?
か、風ねこさん、自分を悶え殺す気ですか!? か、可愛すぎる!! リク通りなんてものじゃないですよGJ!!
本当に、キャラの立て方、話の組み方が上手で、何かもう、脱帽の一言ですよ!?
………どうやったら、その領域にいけるんだろう………(遠い目)
風ねこさんの作品は、本当に自分のストライクゾーンを剛速球で貫いてくれるので、次の作品も楽しみにしています!!


三連休で完結させようといった矢先、なんか友達の感想でべっこべこに凹まされました。
でも、ああでもないこうでもないともがきつつ、やっとこさ“君想”四章書けました〜!
………三回くらい「こうじゃねぇだろキーッ!」と、全消しして書き直したのは秘密です。
何か、また長くなっちゃった感じ(恐いからプロパティは見てない)なので、支援なしだとちょっと………

と、いうわけで、本日20時くらいから投下しようかと。支援してやってもいいぜ!という方、お時間が合えばよろしくお願いします〜。
173mituya:2008/11/24(月) 19:59:17 ID:???
そろそろ予告時間なので参りました〜。
予告時間のうちに終章(エピローグ)まで書き終わってしまった罠。………序章と同じく短いですけどね!

というわけで、“君想”四章と終章一気に投下しまーす!
支援のほど、お願いいたします!
174君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:01:36 ID:???
《〜Scene4〜 背負う宿命/解き放たれる日》

 くれはがウィザードとして覚醒した後、しばらくは、ただ目まぐるしかった。
 まず、くれはが侵魔を滅ぼしてすぐ、数人の男女が泡を食ったような様子で別荘を訪れた。
 彼らは全員、メカニカルなデザインの、“常識”的な技術力ではまだ有り得ないような乗り物―――魔術と科学を合わせて作られた“箒”に乗って、別荘の庭に下りてきた。
 彼らはくれはが赤羽の者だと知ると、自分達が“コスモガード”―――主に宇宙に関する事件を担当するウィザードの組織―――に所属するウィザードであることを告げて、事情を説明してくれた。
 彼らは、くれはが倒した侵魔を追って数日前からこの街に来ていて、先ほどの月匣の展開を感知して駆けつけたのだという。
「本当は、別のチームが先に出ていて、そちらがもう着いているはずだったのですが―――途中、突然展開された別の月匣に取り込まれて………」
 言いかけた、一同のリーダーらしい男の懐から電子音が響く。彼は音源である携帯電話―――ウィザード専用携帯“0−Phone”を取り出した。
 彼は液晶を見て、飛びつくような勢いで通話に出る。―――その様子で、くれはにも相手が別口の月匣に取り込まれた別働隊なのだとわかった。
「―――“ワイヴァーン”か! 無事か!?」
 彼は相手の二つ名―――魔術的に重要な位置を占める姓名を秘匿するために、ウィザードが持つコードネーム―――らしい呼び名を叫び、相手の安否を問う。周りのウィザード達が食い入るように男を見つめた。
 くれはも、誰とも知れぬそのウィザードの無事を祈り、男を注視して―――
「―――そうか、全員………良かった………」
 受話器の声は漏れ聞こえずとも、男のその一言で、場が一気に緊張を解いた。
「こちらは被害ゼロだ。居合わせたウィザードが討伐してくれていた。―――いや、報告は後で上にしてくれ。俺にされても困る」
 受話器に向かい苦笑して言う男の言葉に、くれはは、相手はまだ組織の仕組みに疎い新人なのか、と思った。
「―――では、また後で」
 男は通話を終えると、くれはに簡単な事情聴取をして、
「今日はご友人のこともありますから、詳しい事情は後日こちらから赤羽のお宅に伺わせていただきます」
 彼らは現場の事後処理を終えると、箒に乗って撤退していった。
175君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:03:35 ID:???


 次に、その翌朝、くれはは実家に事件のことを連絡し、友人達に家の事情と断わると、慌しく実家へと戻った。
「お姉ちゃん、おめでとうございます!」
 ボクの言ったとおりだったでしょう? と誇らしげに、青葉はくれはがウィザードになったことを喜んだ。
 家人も口々に祝いの言葉をくれて、青葉の時にも催した祝いの席を設けてくれて。
 その席の後、くれははいつかのように母の部屋へと一人、呼び出された。
「おめでとう、くれは。無事にこの日を迎えられたことを、私もとても嬉しく思います」
 優しく微笑んで―――けれど、どこか痛みを堪えるように告げた母の表情に、くれはは、母は自分の想いに気づいていたのかもしれない、と思った。


 そして、数日後、男が言っていた通り、コスモガードからウィザードが侵魔襲撃の詳細を訊きに来て―――それで襲撃事件に関しては片がついたものの、くれはの目まぐるしい日々は終わらなかった。
 くれははウィザードとしての能力の訓練などに明け暮れ―――柊に一目会う機会も暇もないまま、日々は過ぎていった。

  ◇ ◆ ◇

 くれはの目まぐるしい日々がようやっと一段落ついたのは、夏季休暇が終わり、二学期が始まった頃だった。
 しかし、柊は夏季休暇が終わってからも何故か学校に来ず、京子に尋ねても「たまに生存報告はあるけど、帰ってこないのよあの馬鹿」、と、彼が完全にどこで何をしているのかわからない状態だった。
 当初、何かあったのだろうかと不安を覚えていたくれはだったが、その状態のまま年が明ける頃には、その不安は怒りに変化していた。
 ───どこで何してるのかわからなきゃ、護れないじゃないのよ!―――
 勝手ではあるが、そう思ってしまったのだ。
 側に居られないのはいい。彼が彼らしく生きることで、くれはから離れてしまうなら、それはしょうがない。
 けれど、彼がどこで何をしていて、その行動が彼の自発的な意思なのか、他者から押し付けられたものなのか、それがわからないのは耐えられない。
 応援すればいいのか止めるべきなのかわからない宙ぶらりんな状況が、耐えられない。
176NPCさん:2008/11/24(月) 20:04:20 ID:???
sien
177NPCさん:2008/11/24(月) 20:04:21 ID:???
にゅえん
178君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:04:43 ID:???
 ───あの馬鹿!―――
 そんな風にふつふつと怒りを煮やしていたくれはの前に、その怒りの元凶がひょっこり顔を出したのは―――くれはがウィザードになってから半年以上経った、四月のこと。
 その再会は、完全にくれはの予想外の形で。
 会うなら学校でだろうとは思っていたが―――まさか、くれはが部長を務める天文部に、“一年生の”新入部員として彼が入ってくるなど、どこをどうひっくり返しても出てこない展開だった。
 余りに有り得ない展開に、怒り以上のおかしさが生まれてしまって、くれはに笑われるだけで済んだのは―――柊にとって幸福といえるのか、微妙なところだったが。


 そして、その日―――くれはの世界は引っくり返る。

  ◇ ◆ ◇

 学園からの帰路、くれはに突如降り注いだ凶弾。
 本来なら共闘すべき、同じウィザードからの襲撃。
 何一つわからないままに、命を奪われるところだったくれはを救ったのは、奔った一筋の閃光。
 鋼が鋼を弾く硬い音に思わず身を竦ませたくれはが、次に見たのは―――
 自分を庇うように立つ、大きな背中。その上の、洗いっぱなしの茶髪。
「よう、お待たせ」
 振り返らぬままに告げられた、耳に馴染んだ声。
 それらは、紛れもなく―――くれはのよく知る幼馴染のもので。
 それでも、くれはが彼を自分の幼馴染だと信じられなかったのは、彼の手にしたものせい。
 くれはに向けられた鉄(くろがね)の死神を弾いた―――燐光を放つ白刃。
 襲撃者はその刃を「魔剣」といい、その主を当たり前のようにくれはの幼馴染の名で呼んだ。
 魔剣の主―――それは意志ある魔器に選ばれた異能者―――即ち、ウィザードであるということ。
 襲撃者は、“星の巫女”であるくれはが死ななければ世界が滅びるなどと、信じられないようなことを言っていたけれど―――そんなことより、ずっと、
 信じられない―――まさか、まさか―――

 ───蓮司が、ウィザードだったなんて―――
179NPCさん:2008/11/24(月) 20:05:13 ID:???
保管ついでに支援
180NPCさん:2008/11/24(月) 20:06:00 ID:???
はわしえん
181君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:07:16 ID:???
 自分と彼の間にあった線引きが消える。
 それで、失くした恋の資格が取り戻せるわけではない。赤羽の跡取り娘である以上、御門と真行寺の話を蹴るわけには行かない。
 けれど、それでも―――

 その瞬間―――くれはの世界は、確かに引っくり返った。

 どうしようもなく嬉しかった。―――例え、失くした恋の資格が戻らずとも。
 想うことは許されなくとも、彼との間にあった、消えないはずの線引きが消えた。
 同じ世界(しんじつ)を共有できる、同じ世界で生きられる―――ただ、それだけで。

 どうしようもなく―――嬉しかったのだから。

 けれど、世界が一変した嬉しさを噛み締める暇もなく、知ることになる残酷な真実。
 “星の巫女”―――己が負う、その宿命を母から聞かされて。
 くれはが、自身の死を考えなかったかといえば、嘘になる。
 誰が自分のせいで世界が滅びる、などという重い十字架に、ただ耐えられるだろうか。
 けれど―――
 涙を湛えて、何も知らないとくれはを庇ってくれた弟が。
 声を震わせて、帰ってきなさいと言ってくれた母が。

 そして―――その真っ直ぐな瞳に、くれはの死で片をつけようとする者達への憤りを宿してくれている彼が。

 自分の存在を許してくれる―――生きろといってくれる彼らがいる限り、この命を諦めてはいけないと、思えたから。

 何より、彼が、彼らしく在ることで、くれはが犠牲になることを許さないのなら―――くれはは犠牲になるわけにはいかないから。

 ───ただ、彼が彼らしく、彼の在り方を何者にも穢されないように―――

 ここでくれはが己の命を諦めることは、彼の生き方を穢すこと、否定することだから。

 だから、くれはは己の死に逃げず、忌まわしき“星”へと挑み―――
182君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:08:48 ID:???
 その“星”の元で見る。もう一人の自分と、彼女にとっての彼を。
 ある意味、くれはと同じく―――けれど、それ以上にずっと重い葛藤に苛まれていた少女と。
 ある意味、くれはの幼馴染と同じく―――けれど、それ以上に苦しい決意でもって守りたいものを守り抜いた少年を。

 その二人と共に―――忌まわしき赤い星は、青い光の中へ消えていった。

 生き残って、くれはは噛み締める。―――ただ、大切な人と同じ場所で生きられることの、大切さを。
 生き残って、くれはは思う。―――もう、これ以上は望まないと。
 これ以上を望んだら―――きっと、罰(ばち)が当たるから。

 ───ただ、彼が、彼が彼らしく、彼の在り方を穢されないように―――

 自分の願いは、ただ、それだけでいいから―――と。

  ◇ ◆ ◇

「―――くれは。今日は大切なお話がありますから、早く帰ってきなさい」
 朝、登校のために家を出ようとしたくれはに、真摯な声音で桐華がそう声をかけた。
 ほんの数日前に、秘められていた自身の宿命を乗り越えたばかりで、この上大切な話とはなんだろうと、くれはは目を見開く。
「大切な話………ですか?」
「ええ。―――あなたの、これからの人生に関る話です」
 母のその言葉に、くれはは察した。
 これは―――くれはの縁談の話だ。
 今まで、母の口からはこの話は出てこなかった。それはきっと、くれはが“星の巫女”であることを唯一家で知っていた母が、その時を向かえる前に命を落とすかもしれない娘に、余計な柵(しがらみ)を与えないように。
 けれど、もはやくれはには世界から命を脅かされるような理由はなく、何の障害もなく赤羽の跡目になれるのだから。
 けれど、くれはの方にも、もうその覚悟はできているから―――
「はい、わかりました。できるだけ早く帰ってきます」
 いってきます、と笑って言って、くれはは家を出た。
183君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:09:45 ID:???
 けれど、この日、くれはは母と話すことは叶わなかった。

 幼馴染と共に神社に帰り着くなり―――現れた異界の戦士に、その身から魂を奪われてしまったのだから。

  ◇ ◆ ◇

 まどろむ。たゆたう。―――溶けてゆく。
 自分が大きな闇の中に呑まれて、その闇と一つになっていくのがわかる。
 星を喚び、星を墜とす、星統べるもの―――魔王、ディングレイ。
 呑まれたくない―――そう思っているのに、闇に抗うことが出来ず、ただ溶けていく。
 その中で、まだはっきりと、自分の―――赤羽くれはのものだと言える思いに縋って、自分を保つ。

 ───ただ、彼が、彼らしく、彼の在り方を穢されないように―――

 ほんの数日前、世界も、くれはも、守ろうと奔走してくれた彼。
 そんな彼は、きっと今でもくれはを助けようとしてくれているに違いないから―――

 ───あたしが先に、諦めるわけにはいかない―――

 けれど、もう縋る希望も、闇に取り込まれて見えなくなりそうで。
 完全に闇に呑まれそうになった時、ただ一面の闇しか見えなかった世界に、一人の少年の姿が現れた。
 それは、今まさに最後の希望として思い描いた相手。
 彼は、驚いたように軽く目を見開き、こちらを見つめて。
 どうして、彼がここにいるのか、そんな風に思う余裕もなく―――

「………また、あたしを助けてくれる?」

 そんな言葉が、くれはの唇から零れた。
 一言でいい。―――たった一言でいいから、支えになるものが欲しい。
184NPCさん:2008/11/24(月) 20:10:14 ID:???
支援します!
185君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:10:35 ID:???

 ───あなたが、あたしを助けるといってくれたなら―――

 彼が、自分を助けることまだ諦めていないなら―――自分が消えることを是としていないなら―――

 ───あなたが、あたしの存在を、認めてくれるなら―――

 それだけで、まだ頑張れるから―――

 縋るように訊いたその言葉へ、彼はぶっきらぼうに返す。

「………お前は、ただ待ってればいいんだよ。なにも心配するな」

 その声は、くれはのよく知る、照れたり困ったときの彼の声で。
 それで、ここにいる彼が夢でも幻でもないと―――否、これが夢幻であったとしても、紛れもなく、この言葉は彼のものだと―――くれはには、思えた。

「………待ってるから。柊来るの待ってるから」

 ───あなたの言葉を支えに、闇に呑まれず、あたしのままで待ってるから―――

「………お願い―――助けて―――」

 ───あたしを助けると決めた、あなたのその決意を守るために、あたしも精一杯、闇に抗うから―――

 だんだんと薄れてゆく、彼の姿。
 消えゆく瞬間、彼は、ポケットに両手を突っ込んだ無造作な姿のまま、何の気負いもない、当たり前のような声で、告げる。

「―――ああ、待ってろ」

 揺らぎない、絶対の決意。その言葉に、自分の口許に笑みが浮かんだのが、くれはにはわかった。
186NPCさん:2008/11/24(月) 20:11:06 ID:???
支えてみっかね……支援!
187君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:12:12 ID:???
「ん………」
 小さく頷く。―――待っていろと、彼がそう言うなら、彼は絶対に来てくれる。時間はかかっても、必ず、来てくれるから―――

 ───あの雪の日のように、あなたが来てくれるまで―――

「待ってるね―――」

 どんなに寒くても―――あなたが来るまで。絶対に、勝手にいなくなったりしない。

  ◇ ◆ ◇

 浮上するように、意識が晴れていく。
 最初に目に映ったのは、こちらの顔を覗き込む、泣きそうな幼馴染の顔。
「………あ、柊―――」
 身体の熱が逃げていくような寒気と、痛みと認識しきれないような痛みを感じて、胸元を見れば、彼の手にした剣がそこに食い込んでいて。
「あたしに向かって………なんてことするのよ」
 いつものように―――彼の知る、いつもの“赤羽くれは”として、憎まれ口を叩く。
「わりぃ―――」
 泣きそうな笑みで、彼が言う。―――くれはが、思った通りの言葉を。
 最初から、くれはは彼を怒ってなんかいないけれど、それでも、彼は―――
 ───あなたはあたしに謝らなきゃ、あなた自身を許せないんだもんね―――
 だから、くれははただ一言返す。彼が、自分を許せるように。
「―――うん、許す」
 その言葉に、彼はほんの少し、いつもの彼の顔で笑って、言う。
「もう少し待ってろ。まだ終わりじゃねぇんだ」
 状況はよくわからなかったけれど、まだ、彼が彼の守ろうとするもののために戦っているのだと、その一言でわかったから―――
「ん、わかった」
 優しく横たえられるまま、ゆっくりと瞼を閉じる。
 けれど、柔らかな眠りに落ちかけたのもつかの間、再び、意識が浮上する。
 気がつけば、先程までくれはがいた闇の中で、一人の少女が抗っている。
 何人もの人々が彼女を囲んで光を―――力を、与えているけれど―――
 これではまだ足りないと、くれはにはわかった。
188NPCさん:2008/11/24(月) 20:12:55 ID:???
支援
189君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:13:09 ID:???
 あの闇を滅ぼすだけなら、これで足りるかもしれない。けれど、彼女を救うにはまだ足りない。
 それでは、意味がない。闇が消えても、あの少女が救えなかったら、それはきっと彼の決意に反してしまう。
 彼女を救うにはどうすればいいか―――くれはと闇を分かった、あの力が―――彼の力が必要なのだと、何故だかくれはにはわかって。
 だから、くれはは、彼をこの闇の中に呼ぶ。くれはが闇に呑まれそうになったあの時、彼が来てくれた時の感覚を思い出して。
 闇の中に現れた彼から、少女に、最後の力が渡る。―――彼女を救うための力が。

 そして―――生まれた白銀の輝きが、ただ、闇だけを打ち滅ぼした。

  ◇ ◆ ◇

 永き魂の宿命から解かれて異界から帰ったくれはを、家人は抱きつきかねない勢いで迎えてくれた。
 実際、青葉はくれはに抱きついて、
「―――お、おがえりなざっ………おねぇぢゃぁぁんっ!」
 涙声どころか、殆ど嗚咽のように言ったものだ。
「―――よく………無事に帰ってきてくれました………くれは」
 桐華も、感極まったように目の端に光るものを宿して、そう言ってくれた。
 くれはを送ってきた柊は、赤羽の家人が彼に向ける英雄を祀るが如きの感謝の集中砲火に、早々に耐え切れなくなったらしい。そそくさと逃げるように自身の家へと帰っていった。
 桐華はそんな彼を笑って見送ると、くれはに向き直って、言う。
「くれは―――帰ってきて早々で悪いけれど、あの日、できなかった話をしましょうか」
 そういう桐華の表情は、何故だか、当主の顔ではなく、母親の顔のように見えて―――くれはは頷きつつも、首を傾げてしまった。
 話のために移ったのは、応接間で、そこには二人の女性が先に卓についていた。
「―――先日は、何の助力にもなれず………」
 くれはと桐華が席に着くなり、二人はそう深々と頭を下げる。―――くれはの魂が異界へと連れ去られた日、場に居合わせた二人の巫女―――御門霧花と真行寺巴だった。
「き、気にしないで下さい!こちらこそ、大変なことに巻き込んでしまって………」
 ぶんぶんと頭を振って言うくれはに、二人は一瞬目を見開いて、ついで柔らかく微笑んだ。
190君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:14:15 ID:???
「では、本題に入りましょうか」
 桐華が場を仕切りなおすように言うと、二人の客人も表情を引き締める。
 まず、桐華がくれはに向き直って告げた。
「―――くれは、あなたには告げていませんでしたが、あなたが幼少の頃から、あなたには御門と真行寺の家から縁談が来ていました」
「―――はい」
 驚くでもなく、静かに頷くくれはに、桐華は痛むような表情を見せた。
「やはり、知っていましたか―――家人には、くれぐれも、あなたが十八になるまでは報せぬよう言っておいたのですが………」
 ですが、それなら話は早いですね、と桐華は話を続ける。
「あなたが十八になったら、御門と真行寺、それぞれから選ばれた数人ずつとあなたを引き合わせて、その後二年の間に、あなた自身に一人を選んでもらうつもりでした」
 決められたうちでも、せめてくれは自身に選ぶ余地を与えようと、そういうことになっていたらしい。
「ですが―――あの日、あなたが十八になるのを待たずに、私がこのことを話すことにしたのは、事情が変わったからです」
「―――事情………?」
 言葉を切って、客人二人を見遣る桐華に倣い、くれはも二人を見遣る。
 二人は、一瞬顔を見合わせ―――先に巴が口を開いた。
「―――真行寺は、赤羽への婿候補の選出を辞退することになりました」
「―――はわぁっ!?」
 驚きの余り、客人の前にも関らず奇声を上げてしまったくれはに、更に霧花が言う。
「御門も同様に、次期赤羽当主への婿を出すことはない、ということになりました」
「はわっ!?―――え、ええ!? な、なんで―――!?」
 もしかして、自身に何か落ち度があったのか―――と、くれはは動揺する。
「くれは、落ち着きなさい。―――今回、あなたの縁談が流れたのは、御門家と真行寺家の側の事情です」
 桐華の言葉に、くれはは思わず浮かせそうになっていた腰を、再び落ち着ける。
「え………えっと、どういう………?」
 首を傾げるくれはに、霧花が言いづらそうに口を開く。
「御門、真行寺の両家の者に―――“星の巫女”の抹殺作戦、赤羽家への襲撃作戦の参加者がいたからです」
 その一言に、くれはは息を呑んで絶句した。
191NPCさん:2008/11/24(月) 20:15:22 ID:???
あなたと見上げる蒼い月も裏切りのワイヴァーンも良かったです!
192NPCさん:2008/11/24(月) 20:19:54 ID:???
>>191
おいおい坊主、今はとにかく支援タイムだぜ?
投下終わってからの感想レスで過去作に触れてやろうぜ? もしくはずっと残るだろうから保管庫のコメントしてきな。

支援!
193NPCさん:2008/11/24(月) 20:22:42 ID:???
まぁやれることはやれるうちにやっとくべきではあるのだろう、きっと。支援。
194君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:25:19 ID:???
 巴が言葉の続きを告げる。
「更に言うなら、参加者の中には、当の婿候補もいました。―――殺そうとした相手の婿になれるほど、図太い者も無神経な者も、御門と真行寺の家にはいなかった、ということです」
 予想だにしなかった展開にくれははただ口をぱくぱくと開閉するしかできない。
「え………じ、じゃあ、あたしのお婿さんって………どうなるんですか!?」
 混乱したまま、くれはが母に縋るように言えば、桐華は、普段の彼女からは想像できない様な悪戯っぽい笑みで、
「有力な候補はいますよ。まあ、血筋・家柄の点では弱いですが、その分実力と実績は申し分ありませんから、どうとでもなるでしょう。―――家人は彼を、あなたを救った英雄のように思っていますしね」
 たっぷり五秒、くれははその言葉を吟味して―――理解した瞬間、
「―――はわぁ――――――っ!?」
 今度こそ腰を浮かせて、絶叫した。
 そんなくれはを、他の三人は咎めるでもなく、ただ微笑ましそうに見つめて、
「頑張りなさい、くれは。―――彼は、なかなか手強そうですから」
 桐華が、完全に娘の幸せを願う母親の表情で、そう言った。


 そうして、失くしたはず恋の資格は、くれはの手の中へと舞い戻る。
 忌むべき宿命を負っていたが故の展開。―――忌むべき宿命を、乗り越えたが故に拓けた道。
 彼が、忌むべき宿命から救ってくれたことで―――くれはは、自由を手に入れた。
 全ての柵(しがらみ)から解放されて―――

 くれはは、彼を想う自由を―――手に入れた。
195NPCさん:2008/11/24(月) 20:26:00 ID:???
はわ支援
196君を想えること 〜It is my happiness〜:2008/11/24(月) 20:26:53 ID:???
《〜Epilogue〜 君を想えること》

 そして、今―――異界から帰還し、本来の日常に帰ってきたばかりだというのに。
 彼はまた、知られざる戦いへと向かってゆく。―――黒ベンツに無理やり乗せられて。
「―――まーったく………柊らしいんだから」
 走り去るベンツを、くれははそう呟いて、笑顔で見送る。
 彼は最後までぎゃーぎゃーと、単位だ何だと喚いて嫌がっていたけれど、くれはは知っている。
 彼は結局、困っている人が自分の手の届くところにいる限り、手を伸ばさずにはいられないのだから。
 任務そのものは嫌々でも、結局、誰かを助けるというその行為は、彼自身の意志であり、彼の在り方そのもので。
 だから、くれはは止めないで、笑顔で見送るのだ。

 ───ただ、彼が彼らしく、彼の在り方を何者にも穢されないように―――

 あの誓いは、今でもくれはの中で生きているから。
 彼がどこへ飛び出していっても、ちゃんとここに帰れるよう、くれははこの場所を守り抜く。
 いつまでだってここで待ってる。―――彼に、待ってろと言われた訳ではないけれど、くれは自身がそうしたいから、待ち続ける。
 例え、彼が彼の在り方を貫いたことで、ここに帰ってこなくても―――ここが彼にとって大切な場所であるのには変わりないから。
 それだけで、くれはがここを守る意味は十分だから。

 誰に憚ることも、自分の感情を殺す必要もなく―――

 ───ただ、あなたを想えるこの幸福(シアワセ)を抱いて、ここで待ってる―――

 今はまだその勇気はないけれど、告げたいと思った時に告げられる、この想いを抱きしめて。

 くれはは、彼が見苦しく喚いてまで行きたがった校舎を見上げて、笑う。
 ───とりあえず、今日はあいつの分まで学校生活を楽しむことにしようかな―――
 そんな風に思って―――くれはは一人、彼が思いを馳せる場所へと歩き出した。

 彼への三度目の恋―――想うことを許されたその恋を、その胸に大切に抱きしめて―――

Fin
197NPCさん:2008/11/24(月) 20:34:47 ID:???
しかしほんと保管庫管理人は爆速だなぁ。

作者コメ支援。
198mituya:2008/11/24(月) 20:37:31 ID:???
と、いうわけで、“君想”終了です!
途中さるさんきましたが、皆さんの支援のおかげでお帰りいただけたようです(笑)
たくさんの支援、ありがとうございました!

うぐぐ………かなり、苦戦して書きましたYO。自分的に満足度70%くらい………
もうちょっと良くならんかと試行錯誤しましたが、これが全力………うぐぅ………精進しないと………

>>191
感想ありがとうございます〜vv
ただ、“君想”読んでいただけるなら、“三倍返しとサンタクロース”や“あなたに一番近い場所”も読んでもらえると、
自分(筆者)の小細工が見て取れるかも………(宣伝)

>>197
ありがとうございます、引っかかってました(汗)
199NPCさん:2008/11/24(月) 20:42:05 ID:???
保管完了〜。
200191:2008/11/24(月) 20:48:54 ID:???
>>192
や、もっともです。すみません。

>>198
言葉足らずでした。全部読んでます(笑
今回も楽しく読ませて頂きました。
お疲れ様でした〜。
201mituya:2008/11/24(月) 21:01:07 ID:???
>>199
保管、ありがとうございます! すごい早いなぁ………(汗)

>>191
あ、そうでしたか(汗) ありがとうございますvv
っていうか、自作のタイトル間違えてた(汗) “あなたに〜”じゃなくて“心に〜”だよ ORL
失礼いたしました(汗)
202NPCさん:2008/11/24(月) 22:34:26 ID:???
GJ!

何がコレは!?
コレ1本で漫画原作になるぐらい素敵な恋物語になってるよ ><
くれ派としてはもう終始にやにやしっぱなしでした。

次回作も期待していいですか?
203ゆず楽:2008/11/24(月) 23:20:15 ID:???
感想と投下予告〜。
>風ねこさま
アムはやはりハイクォリティのツンデレ娘ですね〜。アクセ貰って喜ぶところなんて、やっぱり女の子じゃないですかっ!?
しかもペアルックですよペア! くそう、可愛いなあ。
>mituyaさま
今回の感想、申し訳ないけど短いんです。読了後、思わず呟いた一言。
「もう、お前ら結婚しちゃえよっ!」
この一言に尽きます(笑)。

でも、お二人とも原作からのネタとか散りばめるの上手いなっていうか凄いなぁ。
私の場合は、原作ネタすっ飛ばして脳内だけで話作っちゃうことが多いんで、二次創作的なリアリティが乏しいのが悩みの種(汗)。

それでは、「ゆにば」のラスト、投下します〜。
ぐだぐだにはじまったので、ぐだぐだに終わりますよ〜。
ではでは〜。
204ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:22:32 ID:???
 場違い、とか。空気が読めない、とか。
 大抵そういう人間は、いつでもどこでも煙たがられるものである。
 そんな人間に向けられる、「オイオイ、お前いい加減にしてくれよ」という雰囲気は、それを浴びせかけられるだけでも辛いものだ。
 そんな周囲の無言の非難は、襲撃のために「喫茶ゆにばーさる」に乗り込んだはずの春日恭二ですらも、硬直させるのに十分であった。

 例えば。

 しめやかな葬儀の真っ最中に、犬の気ぐるみを着て参列したとしたらどうか。

 クラシックのコンサート会場に、調子の外れたアカペラを歌いながら開演時刻中に乱入したとしたらどうか。

 きっと冷たい目で見られる。可哀想なヤツ、という目で見られる。
 コイツ、なにを考えているんだ、という目で見られる。
 きっと、そう見られる。

 意気揚々と襲撃を開始し、喫茶店のドアを蹴破るほどの勢いで突入を敢行した恭二を待っていたのは、店内のメイドたちやウェイターたちの、まさにそんな視線なのであった。

「き、貴様ら! なんだ、なんだその目は! わ、私は春日恭二だぞ! ディアボロスだぞ!? 貴様らを襲いに来たFHのエージェントだぞ!? なんで静まり返るんだ!?」

 店内の沈黙と、「あーあ、やっちゃったよ、この人………」という空気に耐え切れず、恭二は金切り声でヒステリックに叫ぶ。しかし、彼が激昂すればするほど、場の空気が冷え切っていくのは当然のことであった。案の定、

「お、お久しぶりッスねー、春日さん………」
 狛江が、落ちぶれた知人に路上でばったり会ってしまって、気まずい思いをしてしまったときのようなそっけない素振りで目をそらした。
205ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:24:30 ID:???
「………」
 椿も、無言で非難と侮蔑の視線を投げつける。だらしない態度を取ったときや、なにかと任務に文句をつける隼人をたしなめるときですら、ここまでの表情はしない。
「場をわきまえない、礼儀知らずな方々ですわね………」
 智世が、こめかみをひくひくと痙攣させながら静かに憤る。
 ただでさえ、ケイトに噛み付いて混乱中の結希をどうしてなだめたらいいかという難題に直面しているというのに。こんなところで、この局面で春日恭二とは。
 相手にするのも面倒だが、一応は敵組織のエージェントである。それが白昼堂々と乗り込んできたのだからたちが悪い。
 闘争の雰囲気でもないし、正直構うのも厭わしい相手であったが、そう言ってもいられない状況であることは間違いない。
「仕方ありませんわね ――― 」
 智世の呟きがすべての合図となる。
 狛江が両の拳を握り締め、肩幅の広さに脚を開いた。
 椿が指をかすかに震わせ、五本の指先からすべてを切り裂く強靭な糸が垂れる。
 
「ふ、ふははははっ! そうだ、戦え! そうでなくてはならん!」

 これだ。これを待っていたんだ。UGNとの緊迫した戦闘のときを私は待っていた!
 ここ最近、主な戦場を家電売り場に移していた恭二にとっては、実に久しぶりのまともな戦い。
 両手を拡げ、戦闘姿勢を取りながら高笑いを上げた恭二の瞳に、うっすらと涙のようなものが浮いているのを、智世たちも見て見ないふりをする。
 戦闘開始直前、一触即発。
 まさに両陣営の張り詰めた緊張が最高潮に達しようとした瞬間、“それ”は、起こった。

 じりり、と。ぎりぎり、と。

 それが、ゆにばーさるのフロアを擦り上げる靴の踵が立てた音だとは、始めは誰もが気がつかなかった。
 フリフリのメイド服に良く似合う、リボンのついたファンシーな革靴が軋る。
 地獄の蓋を開くような音が、店内の大気を震わせる。
 戦いに突入しようとするオーヴァードたちへ向かって、スローモーションのように。
 静かに、ゆらあり、と。
 “それ”は静かに振り向いた。そして ―――
206ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:26:05 ID:???
「なーにーをー! 騒いでるんですかぁーーーーーーっ!?」

「ひ、ひいぃぃぃっ!?」

 まともに結希の怒声を浴びた恭二が、思わず情けない悲鳴を上げて飛びのいた。
 しかし、彼の失態を誰が笑うだろう。誰が馬鹿にできるであろう。
 結希と付き合いの長い司や、厨房にいた永斗は知っている。
 本気で起こった結希の恐ろしさ、その振りまかれる災厄を。

 人は彼女を死神支部長と呼ぶ。
 人は彼女を全滅支部長とも呼ぶ。

 なんせ、殺し文句が「そんなことすると私の部下にしちゃいますよ?」である。
 まあ、これは結希の冗談だとしても、周囲はそれを冗談とは受け取らない。
 なんといっても、彼女はその言葉を本気と思わせるだけの実績の持ち主だ。
 配属が即、二階級特進につながる ――― とか。
 あの支部への転属が決まった仲間には、やたらと贅を尽くした壮行会を催してやらなければ、とか ―――

 もはや都市伝説のレベルで語られる結希の偉業(?)、だからこその全滅支部長の二つ名。

 そして、哀れな恭二に真正面から浴びせられたのは ―――
 ――― 死神の名にこそ相応しい、結希の怒りの形相(はんにゃ)である。

 薬王寺結“鬼”、爆誕。

 そんなタイトルを思わずつけたくなるほどの結希の迫力に、恭二やFHのエージェントのみならず、椿や智世ですら凍りつく。
 狛江などは ――― いつの間にか店の端までダッシュで駆け出し、テーブルの下に身を潜めながらガタガタと震えていた。
207ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:30:05 ID:???
 店内の緊張が、新たに生まれたより巨大なオーラに飲み込まれていく。
 ごくり、と誰かが生唾を飲む音がした。

 張り詰め、指先で突いただけで壊れてしまいそうな場の空気。
 誰もが「誰でもいいからなんとかしてくれ」と心の底から願ったそのとき。

 無遠慮な声が、

「結希」

 と、彼女の名前を呼んだ。
 春日恭二と同様に ――― いや、それ以上に空気の読めない男がいるとすれば。
 それは、“彼”しかいないであろう。

 檜山ケイト。

 結希の名前を呼んだのは、彼だった。
 恭二や智世たちに向けられていた怒りの矛先は、コンマ数秒でケイトへと軌道修正された。
 涙を浮かべた赤い目が、ケイトをひた、と睨みつける。そんな結希に、こともあろうに、

「よかった。やっと、これで話ができる」

 ケイトはそんな台詞を吐いたのだった。
208ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:33:28 ID:???

 火に油! 誰もがそう思ったし、事実、結希は顔を真っ赤にして、涙声を張り上げる。

「は、話ってなんですかっ!? わ、私、怒ってるんですからねっ!?」
「うん。そうだね」
 なぜだか、ケイトは嬉しそうに笑うのだ。
「話なんてありませんっ! 話なんてしませんっ! 私、なにも言わないし、もう、ずっと怒ったままでいますよっ!? ケ、ケイトさんのこと、いっぱいいっぱい、怒りますよっ!?」
 腕をぶんぶんと振り回す。
 目をぎゅっ、と閉じながら、それでもこぼれ出す涙を拭くことすらせず。
 暴走し出した気持ちは抑えることも、鎮めることもできなかった。
 話なんてできない。まともに話し合うことなんて、もうできない。
 心の奥では知っている。ケイトがなにも悪いことなんかしていないってこと。
 自分が、ケイトと思った通りに触れ合うことができずにやきもきしているだけだということ。
 それが鬱屈した想いとなって胸の底に溜まり、女性客や同僚に思わぬ人気を博してしまったケイトへの、つまらないジェラシーとなって爆発してしまったこと。
 話したい。本当はケイトともっと話したい。
 でも、こんなんじゃもうダメだ。
 ひとりで怒って、ひとりでわめき散らして。ケイトだってきっと呆れてる。きっと、我儘で理不尽に叫んでいる私と話してくれる言葉なんて、彼だって持っていないだろう。

 話がない。話なんてしない。もう、なにも言わない。

 これは本当は私じゃなくて、ケイトこそが言うべき台詞なのだ。
 後悔先に立たず。その言葉の意味が、いまの結希にはよくわかる。
 結希の中で、なにかがガラガラと音を立てて崩れ去っていく。
 そんな音が聞こえたような、そんな錯覚を覚えた瞬間。
209ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:40:40 ID:???

「うん。それでもいいよ。怒られてるほうがずっといい。すれ違って、顔も合わせられなくて、声を掛け合うことも出来ないんだったら、僕は結希に怒られてるほうが、ずっと嬉しい」

 え ――― ?

「怒られてても、こうして結希が僕のことを見てくれているほうが、何百倍もいいよ」
「ケイト………さん………」
 呆然と、ケイトを見上げる。
 目尻にじわじわと湧き上がってくる熱いものは、さっき流していた涙と同じだが、その生まれてくるところはまったく別の場所から溢れてくるものだった。

「でも、できればやっぱり、怒られるよりは話がちゃんとしたいな。結希が許してくれれば、だけど」

 泣き笑いのような笑顔をケイトが浮かべる。
 それが物語る意味は、今度こそ結希にもしっかりと伝わった。
 それは、ケイトも自分と同じ想いを抱いていたのだ、ということ。
 会えなかった時間の溝を埋めたい。話がしたい。笑顔を見たい。一緒に過して、同じ時間を共有したい。
 自分がケイトとすれ違っていたのと同じで、ケイトも自分とすれ違ってしまっていたのだ。
 僕は ―――
 私は ―――
 お互いに、もうお互いしか残されていない ―――
 あの北の街で、二人は自分たちの絆をそう評したではないか。
 私たちは、そんな二人なのだ。そのことを、改めて結希は思い出す。

「結希」
 自分を呼ぶ声。肩に、手が回される。
210NPCさん:2008/11/24(月) 23:42:47 ID:???
支援だー
211ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:43:00 ID:???

「ごめん。仕事中で悪いんだけど、少し結希と時間を貸してくれるかな ――― 」
 唖然と見守る一同。それは、智世や恭二たちでさえ例外ではなく。
 ただひとり、壁にもたれかかりながら事の成り行きを見守っていた年来の戦友が、
「控え室、いまなら空いてるぜ」
 ケイトにそう声をかける。
「ありがとう、つかちゃん」
 結希を伴い、店の裏へと歩きながら、ケイトが礼を言う。二人の姿が店の奥へと消えた頃、
「く、くそっ! やってられるか! 興醒めだ!」
 我に返った春日恭二がきびすを返す。無論、その背中に不意を打つような無粋な真似を、チルドレンの誰もがするはずもなく。
 来たときと同じような慌しさで恭二がゆにばーさるから姿を消した頃合を見計らって、ぱちん、と司が指をひとつ鳴らした。
 店内に、いつもの喧騒と活気が戻ってくる。《ワーディング》が、解除されたのであった。
「上手く、店長さんをなだめてくれよな」
 ぼそりと呟く声は、どこかひどく楽しそうに響いていた ―――

212NPCさん:2008/11/24(月) 23:43:27 ID:???
もう一回ー
213NPCさん:2008/11/24(月) 23:44:38 ID:???
はにゃー
214NPCさん:2008/11/24(月) 23:45:17 ID:???
嵯峨童子がぽんと肩を叩く支援。
215ゆにば・ラスト:2008/11/24(月) 23:46:54 ID:???

    ※

 あと五分。いや、一分。
 あまりみんなを待たせるのも悪いし、仕事中に店長を拘束するのもよくないし。
 だから一分。やっぱり、もう一分。

 そんなことを考えているうちに、ケイトと結希の時間は過ぎていく。
 あんなに話がしたかったのに。あんなにお互いの顔を見つめあいたかったのに。
 恵まれた機会には、それができない。いまが、まさにそれを許された二人の時間であるはずなのに。
 話ができないのは、結希が「ふみ〜」とただただ泣き続けているからで。
 見つめあうことができないのは、結希が自分の胸に顔を埋めているからだった。

 だからケイトは仕方なく。

 なでなで。なでなで。と。

 いつもよりもたくさん。
 いつもよりもやさしく。

 結希の髪をただただ撫で続けていた。


 バイトは今日限りで辞めさせてもらおう。でも、結希にはたくさん会いに来よう。
 そんなことを思いながら。
 ケイトはいつまでも結希の髪を、柔らかく撫でていた ―――



(そんなこんなでよくわからないまま、ぐだぐだに終幕。でした)
216NPCさん:2008/11/24(月) 23:47:05 ID:???
はんにゃー
217ゆず楽:2008/11/24(月) 23:47:55 ID:???
な、なんだコレは?(笑)
終始ぐだぐだで行くとは行ったものの、なんというデウス・エクス・マキナ………
ストーリーの組み立てしくじったか!?
まあでも、八回も付き合っていただいて皆様には感謝でございます。
次は「エリ×蓮司」だ! 頑張りますよー!
ではでは〜。
218NPCさん:2008/11/24(月) 23:53:21 ID:???
>217
乙。ま、収まるところに収まったと。

次は、エリーゼ・サツキ・ソーンダイクと柊の出会いですかぁ。
219mituya:2008/11/25(火) 07:02:37 ID:???
>>202
ま、漫画って………そこまで言っていただけるなんてっ!///
にやにやしていただけたなら良かったですvv
………次回作………さ、流石にネタ尽きたんで、いつになるかなぁ………(汗)

>ゆず楽様
感想ありがとうがざいます〜vv そう思っていただけたなら、本望です(笑)
寧ろ、その言葉は自分が声を大にしていいたいことなんで(笑)
………マジで二人が結婚した後の話とか書きたいけど、さすがに妄想が過ぎるから書いても投下は自重するだろうな………(汗)
で、ゆにば感想です!
KY二人の、KYにおけるガチバトル………! な、なんて恐ろしい!(笑)
あんな犬も食わない空気に当てられたら、流石の春日さんでも帰りますか(笑)
見切り発車でここまで書けるゆず楽様に敬礼!Σ/−∧−) エリ蓮も楽しみにしてますよ〜!


と、“君想”の後書きで書きそびれたこと。
某笑顔動画の「三サン支援畑」の作者様、僭越ながら、この作品はあなた様に捧げさせていただきます。
「こんなんじゃ礼にならん!」とお思いになられたら、おっしゃってください。リクを受けたまわりますので………

さて………自分はそろそろネタがつきましたよ………柊くれはの、っていうより、話のネタが(汗)
前に書こうと思ってたワイヴァーン番外は、自分の中で蛇足過ぎる気がして没ったし。
シリアス大首領は………今の自分じゃ技倆が足りない。ぐだぐだになる………
ちょうど、師走は本気で忙殺されそうな悪寒(誤字にあらず)があるので、しばらく書き物はお休みするかもです。
………感想は書きにきますがね!(笑)
220191:2008/11/25(火) 20:14:20 ID:???
>>219
や・・すみません。191=支援動画のうp主です。
後、「支援します!」とかもです。

捧げさせていただきますって言われると何か恥ずかしくて・・(笑
きちんと書いておくべきでしたね・・・。

改めて、素晴らしい作品ありがとうございました。
師走は忙しくなりますからね。
定期的に見てますんで、新作まってます。
221NPCさん:2008/11/26(水) 01:16:11 ID:???
アリアンロッドのハートフル、ED後はどうなってるんだろうな?
ファムとヴァリアスは果たして上手くいくのか気になる
222NPCさん:2008/11/26(水) 09:54:28 ID:???
>>217
GJでした。
そのグダグダッぷりがよい。
何と言うかアレですよ。
不機嫌結希と言うマイナスに恭二乱入と言うマイナスをかけると一度はプラスになったけど、
結鬼爆誕生でさらにマイナスが掛け合わされ、おいおい絶対数がえらいことになってるぞー、
と言うときでも、「空気読めない天然・ケイト」というゼロが掛け合わされれば結局ゼロになるしかない、
というような、そんなイメージ。
223NPCさん:2008/11/30(日) 11:28:38 ID:???
hosyu
224NPCさん:2008/12/04(木) 21:03:06 ID:???
hosyu
225NPCさん:2008/12/04(木) 21:28:21 ID:???
一時期の賑やかさが随分落ち着いてきたなあ。職人さんたち一斉休眠?(人によっては冬のイベント追い込み?)
最近のラッシュに慣れてしまったせいか、チトさみしい、と感じてしまうのは贅沢なんでしょうけどね………。
226NPCさん:2008/12/04(木) 22:54:17 ID:???
まぁ初代スレなんて半年ぐらい書き込みなかったときもあるからなー。
元より人少ないしこんなもんじゃね?
227NPCさん:2008/12/05(金) 20:40:55 ID:???
作者さんたちももっとなにか言ってくれるくらい人のいるスレの方がモチベーションも上がるだろうしな
落ちることもないだろうし、ここらでちょっとまったりしようや。
228ゆず楽:2008/12/06(土) 00:50:28 ID:???
お久しぶりならぬちょっとぶり、でございます。
ちょっとしたら「蓮司×エリス」続きを投下に参ります〜。
229柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/06(土) 00:56:08 ID:???
 恋をすると目に見える世界が一変する ――― とは良く聞く話ではあるのだが。
 ありふれた街並みの景色が色鮮やかに見え、雑踏の中でざわめく喧騒でさえも耳に心地良い楽の音のように聞こえる ――― そんな風に言っては少々大げさだろうか?
 ともあれ恋する少女、胸に熱い恋心を秘めたひとりの乙女にとっては、駅ビルの地下食品売り場でさえもが見惚れるほどの絶景として目に映る。
 淡く、甘く、どこかくすぐったい想いを寄せる先輩と歩く、秋葉原の街並みでさえ ―――
 電気街を行き交う人々に、チラシやティッシュを配る電気屋の店員さんが惜しみなく振りまく愛想良い声は、マエストロの指揮するオーケストラの交響曲で ―――
 駅構内の乗降客を見送ったり出迎えたりする、なんだかよくわからないアニメの女の子の絵は、大英博物館所蔵のオールドマスターの名画にも見え ―――

 ………なんて。やっぱり、少し言い過ぎかも。

 たくましすぎる想像が、危うく想像力の限界を突破しそうになって、ちょっと踏みとどまる。
 だけど、間違いなく少女の五感が認識する世界は、かくも美しい薔薇色で。
 少しくらいの誇大なデコレーションは、大目に見たい気分なのである。
 少女は、自分の横に並んで歩く、背の高い若者の顔をこっそりと盗み見た。
 無造作に伸びた茶色の髪。形こそ鋭いけど、深い温かみを漂わせる両の瞳。
 どこか不機嫌そうに引き結ばれた口元が、一見、彼を気難し屋に見せている。
 しかし、良く見ればそれは機嫌が悪いのではなく、ゆっくり、のんびり街をそぞろ歩くという普通の行為に戸惑っている表情だというのに気がつくはずだ。
 普通の生活を送りたい、という常日頃からの思いに反して ―――
 『任務』の名目で連れ去られたり、異世界に飛ばされたり、という波乱万丈の人生を歩んできた彼は、実はこういう日常の風景には不慣れなのかもしれなかった。
 きょろきょろと周囲を見回す姿が、なんとなく迷子の犬を連想させる。
230柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/06(土) 00:57:15 ID:???
 少女はその連想に、口元へ手を当てて密かに笑うと、若者のどんな表情も見逃すまいと真摯な青い瞳を輝かせる。
 若者は、少女のそんな視線にも気づかぬようで。
 しかし、その鈍感さが今日このときだけは、少女にとってはひどく有難かった。

 だって、誰にも ――― 先輩にも ――― 気づかれずに、こうやって先輩のお顔をずっと眺めていられるんですもの ―――

 若者の端正な顔を見つめ続けることのできるこの至福に、青い瞳が細められて。
 少女 ――― 志宝エリスは微笑んだ。

 いまなら、もしかして先輩、私がなにをしても気づかないんじゃないかなぁ………

 エリスにしては珍しい悪戯心が、彼女にそんな想像をさせる。
 手をつないでみたりして。腕を組んでみたりして。
 ほんの少し ――― ほんの二、三秒の間なら、先輩、気がつかないかも………なんて。
(まさか、そんな、ね)
 いくらなんでも気づかれないわけはない。
 だけど、いまのエリスは、そんな夢のような映像を思い浮かべてしまうほどに幸せ一杯なのである。
 大股で歩くその歩幅に間に合うよう。吊りあうよう。ちょっと小走りに靴を鳴らす。
 はっ、はっ、と小さく息を吐き、気づかれない程度に早歩き。
 そんなエリスの呼吸の音が不意に止んだ。
 いつの間にか、並んでいたはずの若者を追い越していたことに気づいて、エリスは背後を振り返る。
「先輩………?」
 いぶかしむエリスに、はにかむような少年の笑いを浮かべて、若者が言う。
「わりぃ。少し、ゆっくり歩きすぎたかな………?」
 街の喧騒の中で掻き消えてしまっていたはずのエリスの呼吸。
 彼は、その忙しなさを敏感に感じ取り、いつの間にか歩調を普段の彼女に合わせるよう、歩いてくれていたのだった。
231柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/06(土) 00:58:29 ID:???
 それは、ぶっきらぼうにすら見える彼の、決して普通では目に付かない優しさで。
 エリスは、だから彼のそんな気遣いにくすぐったくなってしまうのだ。
「いいえ、私こそすいませんっ」
 慌てて手を振るエリスに、満面の笑みを返しながら。
「そっか。それじゃ、はぐれねえようにちゃんと一緒に歩かなきゃな」
 彼 ――― 柊蓮司は、そんな風に言うのであった。

    ※

 柊蓮司のマンションに押しかけて、つい思いついてしまった「ちょっと遅い卒業祝い」。
 彼のために料理の腕を振るい、彼のためにご馳走を作る。
 嘘から出た真、ではないけれど、エリスの言葉はいまこうして現実のものとなっている。
 二人きりの外出。
 エミュレイターとも任務とも関係のない、平穏な日常の風景を切り取った一コマの中に二人の姿がある。それがどんなに幸せで、どんなに大切な時間であることか。
 口には出さないし、そんな素振りすら漏らさないように努力はしているのだけれど、エリスの心の中では柊との夕食のための買い物という行為は、まさに「でえと」と言っていい。
 せめて自分にとってだけは、そう思うことを許してほしいエリスなのである。
(いつか、本当のデート………できたらいいのにな)
 難攻不落の柊蓮司相手に、どこまでそんな想いが通用するのか。
 正直に言えばエリスも心許ないのである。
 でも、自分の気持ちに柊が気づいてくれなかったとしても。
 “女の子としての”自分の気持ちが通じなかったとしても。
 せめて、「志宝エリスは、柊先輩のために一生懸命なにかができる女の子なんです」というところだけは見つけてもらいたい。
 そう思えばこそ、柊先輩に美味しいと言ってもらえる料理が作れるんです。
 そう思えばこそ、柊先輩が笑顔になれるようにと願っているんです。
232柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/06(土) 01:00:02 ID:???
 振り向いてもらえなくても。
 柊先輩にとっての一番じゃなくっても。
 ただの後輩の女の子のひとりに過ぎなかったとしても。
 だけど、なにかの形で柊先輩にとって特別な意味のある女の子でいたい ――― それが、エリスの切なる願いだといってよかった。
 二人、連れ添って歩きながらエリスは思う。
 やっぱり、慌てないで一度赤羽神社に帰ってからここへ来ればよかったな ――― と。
 輝明学園を無事に卒業した柊は、いまはラフな私服姿である。学生であったときと、卒業したいまでは、少し柊の雰囲気が変わっていることに、エリスも気がついていた。
 学生という身分から脱却したこと、学生という殻が取れたこと。それが柊を大人びて、いくらか精悍な「大人の男性」に見せている。
 対してエリスは ――― 下校した後、勢いで柊宅へと押しかけたため、輝明学園の制服姿だ。
 しかも、小柄で華奢で。同年代の友人 ――― 同い年であるはずの親友、緋室灯などと比べてしまうと童顔で、ややスレンダーな体型のせいか、幼く見えてしまう自分自身。
 せめて私服だったらな、とちょっぴり後悔気味のエリスなのである。
 確かに持っている服にしたところで、質素で地味なものが多いのだが、柊と一緒に歩くのなら私服のほうが良かったかもしれない。そう思う。
 柊先輩と二人きりで歩くのなら。せめて先輩とつり合う格好なら、もっと良かった。
 制服姿の自分が買い物袋を提げていたら、お家のお遣いに来た高校生にしか見られないだろう、と思ってしまう。
 さしずめ柊は、初めてのお使いを任された妹に連れ添うお兄さん、といったポジションか。
(もし、私が私服で。柊先輩と一緒に晩御飯のお買い物をしていたら………)
 エリスは想像する。
 脳裏に浮かんだのは、彼女がほのかに心に抱き、叶わぬ夢と知りながらもついつい夢見てしまう光景であった。

 買い物籠を入れたカートを転がして、エリスの歩幅に合わせるようにゆっくりと歩く柊。
 そんな彼を従えて、デパートの食品売り場で食材を捜し歩く自分。
 もし、柊につり合う私服姿であったならば。
233柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/06(土) 01:00:49 ID:???
 ………それはきっと、新婚さんのように見えてしまうのではないだろうか。

 火照る頬に手を当てて、思わずほころびてしまう口元を慌てて隠す。
 ………本当に、今日のエリスのイマジネーションは、止まるところを知らない。

「へえー、地下っていってもすげえ人ごみだなー」
 柊の驚嘆する声に、思わず我に返る。
 見れば、夕食時までまだ時間があるはずなのに、食品売り場は大盛況であった。
 楽しい想像にひたっている場合ではない。できるだけ多くの売り場を見て回り、可能な限りの素晴らしい食材を手に入れて、柊先輩に食べさせてあげたい料理を作るのだ。

 エリスの牧歌的な闘志に火が点いた。

「柊先輩っ。これはのんびりしていられませんよっ」
「お? お、おう、そうなのか?」
 小さな両手で握り拳を作り、むんっ、と可愛く気合を入れるエリスの姿に、思わず柊がたじろいだ。
「はいっ。美味しい料理を作るための戦いは、もう始まってるんですっ」
 真剣な表情。
 “かの戦い”の折にも時折垣間見せた、底抜けポジティヴ直情型エリス、降臨である。
 こうなったときのエリスは、とにかく前向きだ。
 くるっ、と広大なる食品売り場を振り向くと、輝く瞳を彼女の『戦場』へと向ける。

 そこに、彼女の好敵手たるべき存在が数多く蠢いていた。

 丸太のような太い腕。
 芋を洗うようなデパート内を猛進すべく、激突に耐えるために脂肪と重量を蓄えた体躯。
 そして、この戦場を歩くためのたくましい脚。
 晩御飯のオカズをより多く、より安く買い叩くための戦いに、エリス同様参戦するのは、百戦錬磨の主婦の方々である。
234柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/06(土) 01:04:11 ID:???
「こ、こりゃ、たしかに戦いだな………」
 柊ですら息を呑む光景が、眼前に展開している。
 目は爛々と殺気立ち、新鮮で安価な食材をかっさらう指は獣の鉤爪のごとく。
 日本の母、いまだ強し ――― そんな言葉が思わず脳裏に浮かんでしまう。

「さぁ、行きましょう、柊先輩っ!」
「だ、大丈夫か、エリス!? お前、あの中に入ったら潰されちまわないかっ!?」
「平気ですっ! 私、本気モードですからっ!」
「こ、根拠がねえっ!? お、おい、エリス、走るなよっ!? 待てってばっ!」

 ………繰り返す。
 今日のエリスは、本当に凄いのである。

「行きますっ ――― !!」
 猛者たち蠢く戦場へと、後ろを振り向かずに駆け込んでいけるのは、やっぱり柊のため。
 柊に、美味しい手料理を食べさせてあげたいという強い願いのなせる業。
 掛け声とともにおばさまたちの群れへと突撃するエリスを慌てて追う柊の、
「エリスっ! おい、アブね………どわあぁぁぁぁぁぁっ!?」
 人ごみに巻き込まれた柊の情けない悲鳴が木霊する。
 おばさまたち相手に奮戦していたエリスが、ちょっぴりよれよれになって。
 それでも満面の笑みを浮かべ、獲得した食材を両手に帰還したのは、それから二十分後のこと。
 すでに柊は人ごみから弾き飛ばされ、尻餅をついてぜえぜえ言っている。
235柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/06(土) 01:05:19 ID:???
「柊先輩っ、私、やりましたっ」
 実に嬉しそうなエリスの顔をまじまじと見つめていた柊が、ぷっ、と吹き出した。

「ははっ、エリス、すげえなあ」
「はいっ! 頑張りましたっ!」

 二人が笑いあう。
 少し大変だったけど、ちょっと怖かったけど。
 それでもこうして二人で一緒に居ること、居られることが、とても楽しい。

 しかし ―――
 エリスは気づいていなかった。

 この直後、彼女に迫る本当の試練に。
 ある意味、血相変えた主婦軍団などより、よほどの強敵が彼女に迫ってきていることに。

 “強敵”は、あまりにも唐突に、あまりにも不意に、エリスの元へとやってきた。

「はわわっ? エリスちゃん? それに ――― ひーらぎ………?」

 聞き慣れた、あまりにも特徴のあるその声に、我知らずエリスの身体が硬直した ―――



(続く)
236ゆず楽:2008/12/06(土) 01:07:28 ID:???
以上、投下でした。
私の中のエリスがどんどん変な娘さんになっていくのですがどうしたらいいでしょうか………
このまま作中の彼女のように暴走&妄想が進むと、別キャラになりそうです。
自重せねば………。
では、次回投下まで。ではでは〜。
237NPCさん:2008/12/06(土) 01:12:50 ID:???
ゆず楽様、乙です!
GJです〜!暴走エリス可愛いなぁvv とかニヤニヤしてたら、はわ来ちゃったよ!?
修羅場ですか? 修羅場ですね? ………続き楽しみですvv(<どS)
238NPCさん:2008/12/06(土) 01:42:37 ID:???
乙でGJ!
うむ、どんどんと突っらせるがよいのである!
239NPCさん:2008/12/06(土) 01:57:56 ID:???
GJ!

中の人補正なのか、ゆず楽さんの暴走エリスに全く違和感を感じませんw
これくらい一途な暴走超特急の方が可愛いよ、きっと!
240NPCさん:2008/12/07(日) 23:20:22 ID:???
ナイトウィザード放送終了後に投下された1枚のイラスト

中央のエリスは左手側の男性に視線は釘付け
画面から外れているので、誰だかは100%確認できない
エリスの右手側に、くれは
エリスの表情から彼女の感情を読み取ろうと、いや乙女の直感が、
はわっと発するのも不謹慎で、口をつぐんでしまっている

百聞は一見にしかずって言うか、エリスのSSを読んでいるとこの絵が
脳裏をよぎるのですが、ゆず楽さん、どんどん暴走して下さいwww
241ゆず楽:2008/12/08(月) 09:28:56 ID:???
レス返しでございます〜
〉237さま
 ヒドイ修羅場をご期待ですか!?いやいや彼女たちにそんな酷い目は見せませんのでご安心を(笑)。
〉238さま
 あまり突っ走るとホント別キャラになりそうで怖いです。でも暴走エリスは書いてて楽しい(笑)。
〉239さま
 暴走してもエリスらしく、とバランス取るのに苦心してるので、可愛いと思って頂いて良かったです。
〉240さま
 そのイラストって、お正月仕様の振り袖エリスのことですか?(違ったらすいません)でも、イラストをイメージして貰えるのは嬉しい〜。
それにしても、みなさん暴走エリス好きなんですね、自分含めて(笑)。
さて、多分次回か次々回が最後になりますが、終わりまでお付き合いのほどを。
ではでは〜。
242NPCさん:2008/12/08(月) 11:21:33 ID:???
彼女たち……?
……あぁ、そうですよね、何時の時代もそういうのは男の役目、逝って来い、下がる男っ(いい笑顔で
243NPCさん:2008/12/09(火) 21:50:15 ID:???
遅まきながらあまりのエリスの可愛らしさに失神
しかして次回はきゃっVSはわわか……待ち遠しや
244ゆず楽:2008/12/10(水) 00:46:15 ID:???
たとえ師走だとしても、走るほどには忙しくないので(挨拶)。
たびたびのレス返と、投下予告です〜。
>242さま
残念ながら、今回朴念仁に天誅が下ることはありませんでした(笑)。でも、いつまでもイイ目ばかり見ているフラグスルー男には、きっと誰かが天罰を与えてくれる気がします(笑)。
>243さま
ご期待の形式のVSではないかもしれませんが、別の意味できゃっとはわわがガチバトルです(笑)。
それでは、少ししたら投下に参ります〜。
ではでは〜。
245柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 00:51:26 ID:???
「はわわっ? エリスちゃん? それに ――― ひーらぎ………?」

 なんとなく間延びしたくれはの声が、あまりにいつもと変わらない調子だったので。
 だから、エリスはその後に訪れるかもしれない嵐の予感に、ひどく怯えてしまったのだ。
 強張る身体。引きつるほっぺ。
 きっと、自分の顔はひどく青褪めているに違いなかった。

 志宝エリス、史上最大の(?)危機 ――― 到来………か?

    ※

 そういえば、『恋』に関してはもうひとつ有名な言葉がある。
 それは、「恋は盲目」 ――― という言葉。
 とにかく目の前の“気になる”男性のことが最優先になってしまい、周囲へ気を配るという行為が少々疎かになってしまう。
 先を急ぐあまりに信号無視をしてしまうようなもので、すべてが上手くいくときは最短で目標地点へと辿り着けるのだが、そうでないときは ――― 当然、『事故』を起こしてしまう。
 いまのエリスが、その“交通事故”に遭った状態と言えた。
 柊先輩に会いたい。その一途な想いで柊宅に押しかけ、話の流れで柊にご馳走を振舞うことになり。それも、二人きりの買い物、二人きりの食卓、という幸せに我を忘れてしまって。
 エリスは、完全に失念していたのである。
 柊蓮司の幼馴染みの存在を。
 エリス自身、「敵わないなぁ」とその存在の大きさに圧倒されてしまうひとの存在を。
 大好きな柊先輩の、一番身近な女性の存在を。
 彼女も現在お世話になっている、赤羽神社の一人娘・赤羽くれはの存在を。

 エリスの名誉のために言及するならば ―――

 なにも彼女は抜け駆けをしようなんて思っていたわけではない。
 くれはを力ずくで押しのけて、彼女の居場所を自分が獲得しようとしたわけではない。
246柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 00:52:26 ID:???
 なぜならエリスは認めているからだ。
 柊にとっては、くれはが一番身近に居るべき女性なのだ、と。
 二人の絆は、なんというか、誰かがどうにかしようとして何とかできるような脆弱なものではないのだ、と。
 第一、エリスはくれはのことが大好きだ。
 明るくて、大らかで、面倒見が良くて。そんなくれはが好きなのだ。
 どんなときでも良く笑い、エリスを本当の妹のように可愛がってくれる。
 赤羽神社に住み込むようになってからはそれもなおさら、くれはは母娘ともにエリスのことを肉親のように ――― いや肉親以上に大切にしてくれた。
 一緒に寝起きし、食事も作り、境内の掃除をしたり、ときにはお風呂や寝室を共にすることもある姉妹のような関係の二人。
 くれはにとっては妹以上の存在がエリスであり、エリスにとっては姉よりも姉らしい存在がくれはなのだ、と言うことができる。
 そんなくれはを追い落とそうとか、哀しませようとか、微塵も思ったりはしていないエリスなのだ。
 しかし ――― それでいてもなお ―――
 柊を想うエリスの気持ちだって、ホントウのホンモノ、なのである。
 だが、別の誰かと強い絆で結ばれた男性を想うということが、本当にできるのだろうか。
 相手の女性を哀しませることなく、当の愛しい男性にも迷惑をかけることなく、『想う』ことなどできるのだろうか ―――

 その問いかけには ――― できる、と答えることができるだろう。

 この国に古くからある、『恋』に関わる言葉や思想は奥深い。
 それはとても古式ゆかしく、廃れてしまった概念かもしれなかったが、エリスの気持ちを何よりも強く代弁する言葉が、実はある。
247柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 00:53:06 ID:???
 それは ――― 『忍ぶ恋こそ至極』。

 なんとなく、なし崩し的に始まりを告げていた、『柊蓮司攻略作戦』。
 それはエリスにとって、柊に自分を好きになってもらうことを、必ずしも意味してはいない。

 いつも誰かのために戦っている柊先輩。
 自分の知らないところで、誰かのために魔剣を振るい続ける不器用な、愛すべき若者。
 そんな彼を想えばこそ、せめて彼の戦いの疲弊や辛苦を和らげる手伝いができたら良いな、とエリスはいつでも胸に秘め続けている。
 だから彼女が一番得意とする分野、すなわち料理という手段でもって、柊に安らいでもらいたい、と思うのだ。

 くどいようだが、もう一度言う。

 エリスは柊と恋人同士になれるとは本気では思っていない。
 それは確かに、今日の彼女は夢見がちで、恋に恋するちょっと暴走気味の女の子であったかも知れないが。
 それでも、本当のエリスの望みは。
 いつだってエリスの望みは ―――

 柊先輩が戦いに疲れたとき。
 柊先輩が戦いに傷ついたとき。
 柊先輩が戦いから帰ってきたとき。

 ああ、エリスの料理が食べたいな。エリスの料理を食べたら元気になるんだけどな。

 ――― と。
 そう思ってもらえる自分でありたい、ということなのである。
248柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 00:55:05 ID:???
 そこには男女の絆も恋もない。
 ただ、大切な人を、お互いに大切なものだと想う繋がりがあるだけである。
 だから振り向いてもらえなくても良かった。ひとりの女性として見てもらえなくても、後輩の女の子のひとりというポジションでも良かった。
 ただ柊先輩に、
『エリスは俺に元気をくれる女の子なんだぜ』
 と、言ってもらえるなら、それに過ぎたる喜びはないのであった。

 でも。
 いまのこの状態は。
 どうしても、エリスの望む状況からは程遠かった。

 今日は遅くなるから晩御飯はいらない、と言っておいて。
 柊先輩と二人で、どう見ても晩御飯のお買い物をしている。
 柊先輩のお家に行ったことも、こうして二人きりでいることも。
 赤羽のおばさまはおろか、くれはさんにだって告げてはいない。
 無論、その言動に他意はない。
 しかし、いまのこの現状もすべては成り行きの結果なのだといったところで、誰がそれを信じるだろうか。
 偶然、駅の地下食品売り場で出くわしてしまったくれはは、自分と柊とをまじまじと見比べて、驚いたような、不思議そうな顔をしている。
 なんだか、いたたまれない。くれはの目に、自分はどう映っているのであろうか。

「おー、くれはじゃねーか。おまえなにやってんだ、こんなところで」
 エリスの内心の葛藤を柊が気づくはずもなく。唐突に現れた幼馴染みを、普段と変わらぬ当たり前のような呼びかけで振り向かせた。
「なにって、私も買い物だよ。今日は夜、冷え込むって天気予報で言ってたからねー。お鍋にしようかなー、なんて」
 人差し指でぽりぽりとほっぺをかきながら、えへへと笑うくれは。
249柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 00:58:01 ID:???
「鍋かっ! 鍋も良いな………いや、でも俺たちだって負けてねーぞ」
 なぜか勝ち誇った表情で柊が言う。
「はわ? なによー、負けてないってー?」
「あ、あの、くれはさんっ」
 この空気に黙っていることが耐えられなくなって、エリスがついつい口を挟んでしまった。
「わ、わたしたちこれから晩御飯のお買い物なんですっ。柊先輩の卒業のお祝い、きちんとできませんでしたからっ。だから、私が無理を言って柊先輩にお料理作りますって。そ、そのお買い物の最中だったんです」
 くれはが言葉を差し挟む間もないほどに、エリスはまくしたてた。
 なんとなく、変に誤魔化したりはしたくなかった。本当のことをちゃんと言わなければ、と思った。自分の口から、それをくれはに伝えたかった。
 くれはにどう思われようと、自分がしようとしていることをはっきりと伝えよう。
 そして、このことを黙っていたことで責められるならそれも仕方がないし、ちゃんと正直に話した上で謝ろう、そう思っていた。
 ぎゅっ、と目をつぶる。
 くれはが、自分の言葉をどう聞くか。どんな顔で自分を見ているのか。
 怖くて、目が開けられなかった。
 目は閉じていても、くれはの唖然とした気配が伝わってくる。多分、ぽかんと口を開けて、エリスのことを見ているのに違いない。
「エリスちゃん………」
「は、はいっ」
 小さな身体をますます小さく縮こまらせて、エリスはくれはの呼ぶ声に答えた。
 最悪の想像が頭の中を駆け巡る。

 どうして黙ってひーらぎと一緒に居るの?
 それは私に言えないようなことなの?

 そんなことを言われたら。そんな風に詰問されたらどう答えたらいいんだろう。
 今日のエリスの、薔薇色の空想も少々暴走気味だったが、その思考は、マイナスに向かうときにも際限なく悪い方向へと突っ走っていく。
 さっきまでの想像がこの上もなく楽しかったことの反動か、エリスの考えはどんどん深みへと落ち込んでいくようだった。
250柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 01:00:13 ID:???
「やっぱりエリスちゃんはさっすがだねー」

 ぽむ、と。
 肩に置かれる柔らかな手の感触。
 その温かさが、エリスを最悪の思考パターンから呼び戻す。
「え? く、くれはさん?」
 目を開けると、そこにはいつものくれはの笑顔。にこにこと、大らかで、見ているこちらまで楽しくなるような、満面のあの笑顔がそこにはあった。
 きょとんと自分を見上げるエリスに、えへー、と笑いかけたくれはが、
「ひーらぎー、ちょっとエリスちゃん借りてくよー?」
 エリスの手を取って、人ごみから離れるように彼女を連れ出した。
 エスカレーターの陰、食品売り場の端っこ。レジの向こう側の緩衝地帯。
 ぐいぐいと引っ張られ、エリスは「くれはさんっ?」と叫びながら引きずられていく。
「なるべく早く済ませろよー? この後たっくさん買い物あるんだからなー?」
 遠くから呼びかける柊に、「わーかってるってー」と間延びした声で返事をするくれはの顔を、エリスはこっそりと盗み見る。
 いつもと変わらぬ声音でありながら ――― くれはの目が、どこか真剣であった。

 束の間の安堵は錯覚だったか。
 くれはの表情に再び身を固くするエリスである。
 これはもしかして、『放課後、体育館裏に呼び出される』、というやつではなかろうか。
 後から思えば随分と失礼なことを考えたものだ、と赤面ものの思考回路であったのだが、とにかくいまのエリスはそれに近い発想で、おどおどとくれはを見上げていた。
 だって、それほどくれはの表情は真面目で、固かったのだ。
 エリスがそんな勘違いをしてしまったのも、仕方がないと思えるほどに。
 しかし ―――

「エリスちゃん、ごめん。それと、ありがとね」
 くれはの口からは、意外な言葉が発せられた。
 なにが「ごめん」で、なにが「ありがとう」なのか。エリスにはさっぱりわからない。
251柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 01:02:04 ID:???
「いまのいままでほったらかしだったもんね、ひーらぎの卒業祝い。あーあ、やっぱりだめだなぁ、私って」
 普段のくれはらしくない、少し自嘲気味の笑みだった。
「ほら、私も本当は卒業式のとき、お祝いしてやりたかったんだけどね。でも、あのとき柊がアンゼロットに連れていかれちゃったでしょ?」
 柊たちの卒業式のときの情景が、エリスの脳裏にまざまざと甦る。
 肉が食べたいと大騒ぎしていた柊と、自分たち。
 そこへいきなり現れた世界の守護者によって、哀れ柊蓮司は新たな任務へと連れ去られていき、結局『卒業おめでとう食事会』はお流れになってしまったのである。
「情けない話なんだけどね………」
 くれはがぽそりと呟いた。
「私、ひーらぎが卒業できたの、本当はやっぱりすごく嬉しくてさ。ひーらぎと一緒に卒業できたのかすごく嬉しくってさ ――― 」
 訥々と語る言葉に、かすかな湿り気が混じっていた。
「でも、私もひーらぎにおめでとう、ってすごく言いたかったんだけど、なんか気恥ずかしくってさ………で、結局言えずじまいで」
 たはは、と笑う顔がなんとなく泣き笑いのように見える。
「ううん、私、気恥ずかしかったっていうより、どうやってお祝いしたらいいのかわからなかったんだよね」
 情けない話っていうのはそういうこと、とちょっと舌を出してみせるくれは。
 言葉でもなく。贈り物でもなく。
 とにかくおめでとうの気持ちをどうやって表したらいいのか、戸惑っていたのだと、くれはは言う。
「だから、卒業式の後、エリスちゃんやあかりんと一緒に御飯食べに行こうって決まったとき、実はちょっとホッとした。ひとりじゃできないけど、みんなと一緒ならお祝いできるな、って」
 エリスは、初めて聞くくれはの告白にいつしか引き込まれていた。
 当たり前のように近くにいて。当たり前のようにお互いを分かり合っていて。
 それでもなお、言えない言葉や表現できない想いがあるのだ、と。
 そのとき、エリスは初めて知った。
「だから、エリスちゃんにはごめん。私の代わりにひーらぎのお祝いさせてごめん。でも、ありがとう。ひーらぎのお祝いしてくれてありがとう」
 つまりそーゆーことなんだよねー、と。
 頭をかきながらしきりに照れまくるくれはの顔から、エリスは目を放すことができないでいた。
252柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 01:04:25 ID:???
「あーあー、私もエリスちゃんみたいに料理ができたら、これでもかってくらいひーらぎにエサ食べさせてやるんだけどなー」
 おどけて、砕けた口調はすでにいつものくれはのものに戻っている。
「くれはさん………」
「 ――― ね、エリスちゃん」
 エリスの言葉をさえぎって、くれはが言う。
「エリスちゃんは、私にはできないこと、たくさんできるんだよ」
「え………?」
「料理だって、そのひとつ。ほら、なにかと不幸なひーらぎに、幸せだなーって思わせることができるのは、たとえば美味しい御飯だったりするわけ。ほら、あいつ、単純なヤツだから」
 穏やかな瞳でエリスを見つめるくれは。それは、エリスを実の妹以上の存在として見るときの、慈愛に満ちた視線であった。
「だから、エリスちゃん。手のかかるやつだけど、たまにでいいからアイツの面倒みてやってくれると嬉しいな」
「えっ!?」
「あの朴念仁じゃ、苦労するかも、だけどね」
 ぱちり、と片目をつぶるくれは。
 エリスは内心、ひどくショックを受けていた。その言い方はまるで、くれはに「ひーらぎのことよろしく」と頼まれたようなものではないだろうか、と。
 だからつい、
「あ、あの、私でいいんですか ――― 」
 エリスはそう言ってしまう。だがしかし。
 そうじゃない。本当に言わなければいけないのは、次の一言だ。

「じ、じゃなくって………それで、くれはさんはいいんですか………?」

 言った。言ってしまった。エリスの心臓は口から飛び出るほどにドキドキいっている。
 胸の高鳴りは、くれはに柊を託されたという嬉しさのせい?
 とんでもない!
 一番柊先輩の近くに居なければいけないはずのひとが! くれはさんがそんなことを言っていいんですか!? と、憤りにも似た思いが、なぜか溢れてきてしまったせいだった。
253柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 01:06:14 ID:???
 しかし、くれはの答えは、なんの迷いもなく。
 ひとかけらの躊躇も遅滞もなく。

「ひーらぎが一番いーのが、きっといーんじゃないかなー、って私は思うよー?」

 はわはわ、と屈託なく笑いながら。だけど、その笑顔は満面の笑みであるはずなのにどことなく少し淋しそうで。
 その笑顔を見た瞬間、エリスも気づいてしまう。

 くれはさんは、大切なひとの一番を、心から願うことのできるひとなんだ。
 柊先輩にとって一番いいことを、一番望むことができる人なんだ。
 それはやっぱり、二人の絆の強さがあって初めて到達できる場所なんじゃないだろうか。
 やっぱり、くれはさんにとっての一番は柊先輩で。
 柊先輩にとっての一番はくれはさんなんじゃないだろうか。

 先に言った。
 エリスの恋は、『忍ぶ恋』だと。

 だけど、それを言うならくれはの気持ちだって同じじゃないだろうか。
 決して面に出すことはない、だけど誰よりもなによりも相手を強く想う、これ以上ないくらい純粋な気持ちなのではないだろうか、と。
「私の用はそれだけ〜。じゃ、エリスちゃん、しっかり餌付けしちゃいなよ〜?」
「あ………」
 肩に置かれた手が、すいっ、と離れる。くれはの背中が遠ざかっていく。
 向こう側で、二人の秘密のお喋りが終わるのを退屈そうな顔で待っていた柊に向かって、くれはがトテトテ、と駆け出していくのを呆然と見送る。
254柊蓮司攻略作戦・エリスの場合 :2008/12/10(水) 01:08:23 ID:???
(くれはさん………)
 壁にもたれかかる柊にくれはが近づいていく。声をかけることも、呼び止めることもできず、エリスはその光景をスクリーンの向こう側の風景のように見ていた。
 欠伸をしながら突っ立っていた柊のむこうずねを、突然くれはがバスケットシューズの爪先で蹴り飛ばす。その鈍い音がここまで届き、柊の絶叫がそれに重なった。
 そして始まる、幼馴染み同士の他愛のない罵りあい。
 わめき散らす柊の言葉を縫うように、くれはの声が断片的にエリスの耳にも届いてきた。
 それは、「このしあわせものー」とか、「ちゃんと味わって食べなきゃバチあたるよー?」とか、柊を揶揄するような、それでいてとても優しい言葉たち。

 いつしか、柊の前からくれはが姿を消していた。

 偶然出会った街中で。いつものように喧嘩して。
 いつものように、次の約束もしないままに。
 だけど、そんな約束はなくても、次にまた出会えることを知っているからこそ。
 不意に、唐突に別れることもできるのだ。

 そんな二人の、嵐のように過ぎていった時間を肌で感じながら。
 エリスの瞳に揺らいでいた気持ちのさざなみが、次第に穏やかなものになっていく。
 いまの彼女の頭の中は、目まぐるしく回転を続け、あるひとつの決意をエリスにもたらしたのである。

(作ろうとしていたお料理、もう一度献立の見直ししなきゃ ――― です)

 エリスは考える。
 本当に自分が、柊に食べてもらいたい料理はなんなのか。
 柊が一番喜ぶ料理はなんなのか。

(ありがとうございます、くれはさん)

 その答えをくれたひとに、心からのお礼を述べて。
 エリスは、柊の元へと再び歩き出したのである。


(エピローグへ続く)
255ゆず楽:2008/12/10(水) 01:11:00 ID:???
なんか、書いているうちにエリスとくれはのダブルヒロインぽくなってしまったりして(汗)。
お、おかしいな。今作はエリスをちゃんとメインヒロイン、PC@で行こうと思ったのに(笑)。
んで、いよいよ次回が(きっと)最終回でございます。
それでは次回の投下時まで。
ではでは〜。 
256NPCさん:2008/12/10(水) 01:42:07 ID:???
柊もエリスも応援するくれはがいい女過ぎるが、同時に別れてからこっそり落ち込むいじらしい姿も
なんとなく想像できて、そういう意味でもまたいい女過ぎるっ!
257NPCさん:2008/12/13(土) 01:20:25 ID:???
エリス結婚して…くれなくていいので幸せになって!
くれはも幸せになって!
柊は頑張って空砦生き残って!(←作品と関係ない)
258ゆず楽:2008/12/15(月) 12:32:06 ID:???
遅くなりましたが返信です。
〉256さま。
私の中でもはわは「イイ女」カテゴリーなんでそう言って頂けると感無量です。アネゴ肌なところありますよね〜。
〉257さま。
みんな幸せハッピーエンドを目指して書いてます!お待ちくださいね。
年内には大団円にたどり着きたいなあ。やっぱり掛け持ちキツイ(笑)。別板でのダブクロがおもた〜い雰囲気なんで、頭の切り替えがすごく大変。
いろんなところで書いてる人、真面目に尊敬します。
では最終回投下のときまで。ではでは〜。
259NPCさん:2008/12/21(日) 11:54:27 ID:???
まったり
260NPCさん:2008/12/28(日) 15:46:47 ID:???
静かだな
261NPCさん:2008/12/28(日) 18:05:03 ID:???
じゃあ保守代わりにオススメSSとか述べてみるアルか?
262ゆず楽:2008/12/29(月) 02:52:01 ID:???
 随分ご無沙汰していまして、申し訳ありません。
 年の瀬のお忙しい最中、皆様いかがお過ごしでしょうか?
 やっと、『柊×エリス』の完結編がお届けできます。
 とはいっても今しがた書き終えたところなので、すごく眠い……
 投下は目を覚ましてからということになりそうで、今回は投下予告のみということでひとつご容赦願います。
 書きたいことがどんどん増えて、いつもの投下量の倍近くテキストがあります。投下のときは気合入れないと。昼ごろにはなんとか起きていてくれ、自分。
 では、数時間後の投下のときまで。ではでは〜。
263ゆず楽:2008/12/29(月) 11:28:30 ID:???
ちょっと遅めのお早うございます〜。午前中に起きられた〜。
昨夜(というか今朝方ですが)予告させていただいた『柊×エリス』最終話投下に参りました〜。
正午ごろを狙っても一度やってきますので。それではまた後ほど〜。

     ※


 嬉しいことってなんだろう。
 楽しいことってなんだろう。
 それは私にとって「だけ」じゃ、絶対にダメなことで。
 ましてや、柊先輩「だけ」でもダメなことで。

 みんな嬉しい。みんな楽しい。
 それがなにより、絶対、絶対に大事なこと ―――

 私は、そんな風に思うんです ―――

     ※ 

 キッチンに小気味良く響く、まな板の上を包丁が踊る音。
 タン、タン、タン、と一定のリズムを刻む軽やかな音にはひどくご機嫌な鼻歌が乗せられて、周囲を漂い始めた食欲をそそる匂いとともに、居間のほうまでふわりふわりと届いていく。
 そして、また。
 ことこと、ぐつぐつ、しゅうしゅう、と。
 キッチンを賑わす調理の音色。それは音ひとつだけでも、「食欲」という名のオーディエンスを期待させてやまない、食材と食器たちの混声合唱である。
 たっぷり買い込んだ食材と。
 まるで魔法のように広げられた鍋やらフライパンやら一杯のお皿やら、と。
 これらが「食」を題材とした楽曲を奏でる楽団であるとしたならば、炊事場に立つ少女 ――― 志宝エリスは、作曲家であり指揮者でもあるのだろう。
 指揮棒の代わりに、味見用の小皿とおたま。
 右へ左へと軽やかにステップを踏む彼女はまた、“演奏者”の一人でもあるのだった。
 組曲『晩御飯』 ――― エリスのステップと鼻歌、そして調理の賑やかな音を評して、そんな表題をつけてもいいかもしれない。
 うきうきと、エリスが踊るキッチンは ――― いや、キッチンというよりいかにも和風の台所は、奥行きのある大きな日本家屋の一角に存在していた。
 いまの彼女が住み暮らす、馴染みの台所。
 霊験あらたか、家内安全、商売繁盛。
 その名も由緒正しき、赤羽神社の人々が暮らす母屋の一角なのであった。
「エリスちゃーん、お野菜の皮むき終わったよー」
「はーい。お疲れ様です、くれはさん。それじゃ、次はそのお野菜を千切りにしておいて貰えますか?」
「……エリス。足りなかった調味料……これでいい……?」
「わ、ご苦労様、灯ちゃん。寒いのにお使い頼んじゃってごめんね。うん、これで全部揃ったよ。ありがとう。居間のほうで休んで? コタツもあるし、先輩も待ってるし」
「……もっと手伝う。なにか、仕事言いつけて……?」
「うーん、それじゃ、頼んじゃおうかな。居間に人数分の食器を用意しておいて貰えるかな? それと、物置に土鍋とガスコンロ、あるはずなんだけど……」
「……了解。取ってくる」
 台所に立ち、この後に控える楽しい食卓の準備に余念がないのはエリスだけではない。
 くれはと灯も合わせて、三人の少女たちの賑やかな声が赤羽家の居間と台所の間を飛び交っている。エリスは布巾で包丁をひと拭きすると、次の食材を手に取った。
 鶏肉である。それをまな板の上で一口サイズに切り分ける作業が開始された。いつの間にか、エリスの細い歌声は、冬の年の瀬の定番「第九」へとスライドしている。
 楽しげに調理を続けるエリスの真横へと、くれはが遠慮がちに立った。
 わざわざ野菜用のまな板をずりずりと引きずって。
 くれはが、いつもの彼女らしからぬ歯切れの悪さで、エリスに呼びかける。
「エリスちゃん、ごめん」
「はい?」
「なんか、気を使わせちゃったのかなって」
 くれはが言うのは、地下食品売り場での邂逅を指しての言葉である。
 一足どころか二足、三足遅れの柊の卒業祝いということで、エリスと柊二人きりのお夕飯のため、食材の買出しにやってきていた二人と、偶然出会ってしまったくれは。
 柊のためになにかをしてあげたい、というエリスの切なる願いに気づいたくれはが、二人から逃げるようにして別れた直後、携帯にエリスからの着信が入ったことで、現在の状況にいたる。

『着信:エリスちゃん』

 携帯のディスプレイに表示された文字に息を飲み、わずかに躊躇った後で呼び出しに応じたくれは。
「も、もしもし、エリスちゃん? どうしたの?」
 上手く声の震えを隠せただろうか。そんなつまらない危惧に心を砕く。
『あ、くれはさん。いまどちらですか?』
 息せき切って、そんな風にエリスが問う。
「は、はわ、いま、帰るとこだよ」
 だって二人の邪魔はできないから。せっかく、エリスちゃんが勇気を出して柊を誘ったのに、いつまでも二人を引き止めておくことなんてできないから。
『直接帰るんですよね? 寄り道とか、しませんよね? それじゃ、買い物済ませたら私たちも帰りますから、待っていてくださいね』
「はわ!? か、帰るってウチに? だってエリスちゃん、ひーらぎと……」
『はいっ。柊先輩と一緒に赤羽神社に帰ります。くれはさん、すいませんけど、ほかにもお客さん連れて行っても構いませんか?』
 エリスがそんなことを言う。
 なんで? どうして? ひーらぎと二人きりのお夕飯なのに、なんでウチに帰ってくるの?
 しかも、お客さんを連れてなんて、どういう意味?
「う、うん。ウチは全然平気だよ。居間、広いから。だけど ――― 」
『よかったあ。ありがとうございます、くれはさん。それじゃ、期待して待っていてくださいね』

 プツッ、ツーツーツーツー。

 呆気に取られたくれはが言葉を繋ぐ暇もなく、エリスからの電話は切れてしまった。
 疑問符だらけの混乱した頭で、とりあえず帰途についたくれはは、玄関に到着した瞬間、エリスの取った行動にますます不可解な思いに囚われたのである。
「……くれは」
「はわっ!? あかりん!?」
「……エリスに呼ばれて、来た。たくさん、エリスの御飯食べられるって」
 お客さんを連れてくる、とは灯のことか。
 エリスとの通話からのタイムラグを考えると、きっとあの後すぐに灯にも連絡を入れたのに違いない。くれはの帰宅と同時に到着したということは、きっと箒に乗って飛んできたのだろう。
 そして、くれはの驚きはそれだけに収まらなかった。
「今晩は、くれはさん。灯さんも」
「ご無沙汰しております」
 神社の境内の宵闇の向こうから、男女の声が呼びかける。
 いつの間にやら音もなく(おそらくはどこかの空から灯と同様に飛んできたのであろう)、境内には一台のリムジンが停まっていた。
 夜の闇の中でさえ映える黒いドレスに身を包んだ銀髪の少女と、その背後で彼女を守護する騎士のように控えた仮面の青年の姿が視界に飛び込んでくる。
「はわわっ、アンゼロットにコイズミさんまで!?」
 “世界の守護者”とその側近が、そこには立っていた。境内の玉砂利を音を立てて踏みながら、アンゼロットが歩み寄る。
「年の瀬の忙しいときに急な呼び出しなんて、随分忙しないことですわね」
 そう言いつつも、アンゼロットの声に非難の響きはない。
 これは時節柄の挨拶のようなものなのだろう、とくれはは理解した。
「……二人ともどうしたの?」
 灯の不審げな問いかけに、一礼をして主の代わりにコイズミが答える。
「は。先ほど柊様から私の0 ― PHONEへご連絡いただきまして」
「ひーらぎが?」
「はい。なんでも、エリスさまが手ずからお料理の腕を振るわれるとのことで。ぜひ我が主を、そして勿体無くもこの私めも晩餐にご招待いただきまして」
 ますますエリスちゃんの行動がわからない。
 私、あかりん、アンゼロットにコイズミさん。
 これだけお邪魔虫が勢揃いしたら、二人きりのディナーどころじゃなくなっちゃうよ?
 そんなことを、くれはは心配してしまう。
 もしかしたらエリスちゃん、私に気を使ったのかな。だから、私も一緒にお夕飯に誘ってくれたのかな。でも、私たち三人だと気まずくて、こんなにたくさん人を呼んだのかな。
 そうも思ってしまう。
 しかし、不可解な面持ちのまま居間へと来客を通し、数十分後に帰ってきた二人 ――― 言うまでもなくエリスと柊 ――― の姿を見た瞬間。
 自分の心配が杞憂だったことにホッとする半面、やはりエリスの考えていることがわからなくなるくれはなのであった。

     ※

「ただいまー。皆さんもうおそろいですかー?」
 溢れんばかりの喜色を浮かべたニコニコ顔のエリスと。
「ぐぬぬ……も、もう二度、と……女の買い物には、つき、あわ、ねー、ぞー……」
 両手だけでは到底足らず、背中や首にまで買い物袋をぶら下げて、よろよろと境内への長い石段を登ってきたのであろう柊の、息を切らした声。
 くれはの見る限り、エリスの表情に暗いものや懊悩の影は微塵も見えない。
 居間に勢揃いした面々の顔を見つけて、本当の本当に嬉しそうな顔をしているのであるから、くれはにしてみればますます不可解である。
 いったい何人分の食材を買い込んできたのだ、と唖然とするぐらい大量の荷物を、柊が居間の畳に降ろしたとき、すでにエリスは制服の上からエプロンを羽織っていた。
 エリスの真意がわからなくて。エリスの真意が知りたくて。その好奇心についつい抗うことができず、だからくれはは台所でエリスに話しかける機会を窺っていたのである。

     ※

「気を使うなんて。私のほうこそ、くれはさんにお礼言わなくちゃ」
「はわ? お、お礼?」
「はい。私、やっぱりまだまだですね……だって、気づきもしなかったんです。柊先輩のためにお料理を作りたいって思っていたのに、私ったら ――― 」

 本当に柊先輩にとって一番のご馳走がなんなのか。それに気づいていなかったんです。
 エリスは、そのときだけちょっぴり淋しそうな表情をした。
 柊と二人で買い物をしていたとき、確かにすごく楽しくて嬉しかった。
 だけど、あの場所と時間には、「私たち」だけしか居なかった。
 柊先輩の一番喜ぶことをしてあげたい。そう、考えていたはずなのに、一番喜んでいたのは他の誰でもない、自分ひとりだけだったのではないだろうか。
 自分のために、くれはがそっと身を引こうとしていることに気がついたとき、エリスはそのことにも気がついたのである。
 くれはは、柊が幸せであるのなら、と身を引くことを知っていた。でも、自分はそのことに気がつくまで随分と時間がかかってしまったものだ。
 だから、くれはに心から「ありがとう」。
 だから、やっぱり私は「まだまだです」、と。

 エリスは考えた。柊先輩のために。柊先輩が喜ぶこと。柊先輩にとっての一番。

 それは、いつでも誰かのために、みんなのために戦い、傷ついてきた柊が、もっとも望むこと。
 みんなが笑って、みんなが一緒で、みんなで平和な時間を共有できること。いつだって彼は、そんな時間や場所を守るために、戦っていたのではなかったか。
 だからこそ、みんな。みんなを呼んで、みんなと一緒に御飯を食べて。
 それこそが、柊の一番囲みたい食卓なのではないだろうか。
 エリスの考えが正鵠を得ていたことは、柊の笑顔と言葉が力強く証明してくれた。
 あの時、地下食品売り場で。
「柊先輩! ごめんなさい。やっぱり、二人きり……じゃなくて、柊先輩お一人に、お料理を独り占めさせてあげられなくなっちゃいました!」
 エリスが柊の顔を見上げ、そうきっぱり言い切ったときの柊の顔。
「そーだな。そりゃそーだよな」
 と、そう言って笑った柊の顔と声の、なんと嬉しそうであったことか。それは、エリスの選択が間違っていなかったことの、なによりも確かな証拠であった。

「だから、いいんです。みんなで楽しく御飯食べたいのは、私も柊先輩も一緒なんです」
 エリスは調理の手を休めずに、うふふ、と笑ってそう言った。
 包丁を操るその手元を、くれはがじっと見つめている。そのリズムに狂いはなく、エリスの心が平穏そのものであることがよくわかる。
 なにごとかが、くれはの胸の中で腑に落ちたのか。その顔に浮かんだ表情は、いつものくれはの太陽のような笑顔であり。
「ぃよぉーし、私もじゃんじゃん手伝うからねー。そんで、今日はじゃんじゃん私も食べちゃうもんねー」
 そして、二人が笑い合う。ようやく、いつもの二人が戻ってくる。
 エリスの耳に、かすかに柊とアンゼロットの他愛もない言い合いと、たしなめるコイズミのオロオロした声が届いてきた。

「あんまりお待たせすると、みなさんお腹が空きすぎて不機嫌になっちゃいますから。急いで用意しましょうね、くれはさんっ!」

 ガッツポーズも凛々しく、エリスは満面の笑顔を浮かべていた。

     ※

「お招きに預かっちゃってー……って、本当に来ても良かったの? 蓮司」
 エリスの料理が完成に近づく丁度いいタイミングで。
 赤羽家の居間に顔を覗かせたのは、誰あろう蓮司の姉・京子であった。帰宅途中に柊の携帯を借りて、エリスが直接話をつけて呼びつけたのである。
 力一杯遠慮する京子を、時たま鎌首をもたげる押しの強さで説き伏せて、エリスが半ば強引に同席を承諾させたのだ。
「エリスがいいっていうんだから断る理由はねーだろ。むしろ、姉貴にはぜひ来てくれって言ってたぜ」
 弟の台詞に、一瞬きょとんとした顔をする京子。しばらく思案顔をしていたが、その表情には次第に理解の色となんともいえない微笑が広がっていく。
「な、なんだよ。急に笑い出しやがって」
 気味悪そうに一歩引く弟に、軽くゲンコツを入れてやる。
「いてッ!」
「ったく、この幸せモン」
 その言葉の意味が分からずに眉をひそめて弟を見て、京子が深い溜息をつく。彼女の思いは、実に複雑なものであった。
(そっか。そういうことね……まったく……思った通り、どころか私の思ってた以上に、やっぱりエリスちゃんスゴクいい娘じゃないのよ)
 これじゃ、ますますくれはちゃんとどっちを応援してあげたらいいのかわからなくなるわ。
 贅沢な悩みといえば贅沢だと言える。問題なのは、当の弟がこの状況を僥倖ともなんとも感じていないところにあった。
「てゆーか、蓮司。随分とこの部屋の女の子率、高いわね」
 居並ぶ面々を一瞥して、目ざとく指摘する京子である。
「あ? ああ、まあそうだな。でも油断ならねえぞ。女ばかりだからって食が細いわけじゃねえからな。いかに自分の食う分を確保するかが勝負の別れ目ってばぶらぼげらばっ!?」
「だーれが食いモンの話をしてるかっ!?」
 柊の頭頂部に、京子の踵が落ちる。あまりの朴念仁ぶりを発揮した柊の色気のない発言に本日何度目かの体罰行為が発動したのは無理からぬことで。
 きっと、京子の造詣が深いのはプロレス技だけではない。
 新体操選手でもこうはいくまい、と思わせる柔軟な体躯の開脚から放たれたのは、頭上から垂直に降り落とされた踵 ――― 通称、“ネリチャギ”と呼ばれる足技である。
 ド派手な音を立てて畳みの上に沈んだ柊を、アンゼロットが目を丸くして凝視した。
 ウィザードである柊をイノセントでありながら叩きのめす京子 ――― 実際に目の当たりにしてみると、新鮮な驚きがあった。
「お見事な体捌きですわね」
 溜息とともに漏れた言葉にはまぎれもない感嘆の響きがある。赤羽神社敷地内ということで、一応は遠慮して禁煙パイプをくわえていた京子がたははと笑い、
「いやー、恥ずかしいとこ見られちゃったなー。愚弟を折檻しているうちに自然に身についただけなんだけどね」
 そうアンゼロットへ謙遜してみせた。
 さすがは柊様の姉君です、と誉めそやすのは数少ない男性のひとり、コイズミである。
 京子とアンゼロット、初対面であるはずの二人だが ―――
 居間に飛び込んできた京子を見るや否や、アンゼロットはどういうわけか緊張の面持ちで顔を引き締め、そのアンゼロットが視界に入るや否や、京子のほうでは無意識に身構えた。
 あわや一触即発か、という不穏な空気が漂い始める中。
 どちらからともなく二人はニカッと笑い、
「始めまして。失礼ですが、もしかして柊さんのお姉さまではありませんか?」
「あはは、たしかに不本意ながら“そいつ”の姉ってやつには違いないけどね。で、そういうそちらさんは?」
 互いのことがわからぬながらも、互いの中にあるなにごとかを敏感に感じ取ったものか、二人の間に奇妙なシンパシーが芽生えたようだった。
 のめりこんだ顔面を畳から引っぺがしながら、柊が起き上がる。
「ちきしょー! やっぱ呼ぶんじゃなかったぜー!」
 鼻の頭を抑えながら泣き言を喚く柊であった。

 騒々しくも和やかな(?)居間の風景に。
 今夜の主役が登場したのはそんなときである。

「そんな風に言ったダメですよ、柊先輩。みんな一緒じゃなきゃ、意味がないんですから」
「うんうん。エリスちゃんの言うとおり。ひーらぎ、ほら運んで運んで」

 手に土鍋を持ちながら登場したのはもちろんエリスとくれは。後ろからは運搬係に徹した灯が、食材溢れる何枚ものお皿を乗せた大きなお盆を軽々と運んでくる。

「おっ、到着か」

 手もみをしながら柊が声を弾ませる。テーブルの上のガスコンロに土鍋を置きながら、
「お母様も青葉も、寄り合いとか終わったら急いで帰るって言ってたよー」
 くれはが柊にそう言った。みんな一緒、ということは、この神社に住み暮らす住人ならば当然同席してもらいたい ――― エリスたっての願いで、くれはが家族に連絡を入れておいたらしい。
 ぱかり、と土鍋の蓋を開ける。ゆらゆらと白い湯気が立ち昇り、かぐわしい香りが漂った。
 葱、白菜、春菊、人参、椎茸。色とりどりの野菜に囲まれて、その中央には神々しくさえ見えるカニのご本尊。柊の口から「おおー、すげー!」と芸のない感想が飛び出した。
 しかし、その鍋の美味しそうなことといったら。
 アンゼロットですら思わず身を乗り出し、鍋の中身を覗きこむ。その行為をはしたない、と思ったのか、すぐに姿勢を正して咳払いをするところがご愛嬌であった。
 赤羽神社への来訪時、
「エリスさんの手料理というのでなければ、世界の守護者たるものホイホイと出向いたりはしませんわ」
 などと言っていたらしいが、要は食べ物に釣られたということである。
 しかし、それでもアンゼロットを引っ張り出すという快挙を成し遂げたのは、エリスの料理の腕があって初めて為しえたことであろう。
「早く帰ってくるといいですね」
 エリスがそう言いながら、もうひとつのコンロに鍋を置く。
 こちらの土鍋は多少趣が違い、鶏肉が主役である。
 野菜に囲まれているのは同じにしても、濃い目の醤油で味付けされて、香ばしい香りが食欲をそそる。エリスお手製のつみれが、ころころとたくさん浮いているのもポイントが高い。
 土鍋のセッティングが整うと同時に、灯がお盆を畳みの上に置いた。
 野菜や鶏肉のおかわり、カニだけでなく白身魚の切り身などの魚介類、その他、箸休めのお漬物やら白い御飯やらが所狭しと並ぶ壮観な眺めのお盆であった。
「ちょ、いくらなんでもこれ多すぎない?」
 心配そうに京子が言った。三十人前はありそうな食材の山は、確かに圧倒的な迫力だ。
「大丈夫だって。俺たち全員揃えば十人近くいるんだぜ? それにこいつらだって、こう見えて食い意地が……い、いてててっ、くれは、耳引っ張んなっ!?」

 楽しい夕餉の前の、楽しい寸劇に笑いが起こる。
「でも、ちょっと残念です。おばさまたちも入れて私たち全部で九人じゃないですか。あと一人居ればちょうど十人だったんですけど」
 先輩、くれはさん、灯ちゃん……と、指を折って数えながら、エリスが言う。
 それを聞きとがめたのは柊で。
「そうだ! 思い出した! エリス、気持ちはわかるけどな、誘う相手はちょっと考えたほうがいいぞっ!?」

 柊は、二人が神社への帰路を急いでいたときのことを思い出している。
 エリスが、「思い込んだら一直線」的なところがあるのは薄々感付いていたが、まさかあの時、エリスがあのような暴挙に出るとは予想だにしていなかった柊なのである。

 それは、大量の食材を買い終えて、二人が秋葉原の街中を歩いていたときのこと。
 重たい荷物にひーひー言いながら歩く柊の耳に、
「ああっ!」
 なにかに驚いたようなエリスの声が聞こえて、思わず顔を上げた。
 エリスが呆然と立ち尽くし、街中の一角をじっと見つめていた。なにか驚くようなものでも見つけたのか、といぶかしむ柊も、エリスの視線の先を目で追ってぎくりとする。
 柊が注意を喚起する暇もなく ――― エリスは見つけた相手めがけて走り出していたのである。
「お、おいっ、馬鹿 ! 待てよ、エリスっ!」
 柊の切羽詰った叫びなど聞こえていないかのようだった。
 エリスが駆ける。駆けていく。
 そして。

「お、お久しぶりですっ。あの、この後、ちょっとお時間ありますか!?」

 不意に声をかけられて振り向いた相手は、自分に声をかけた相手が誰なのかを見て口をあんぐり開け、その後ろから大荷物を抱えて走り寄ってきた柊の姿に、もう一度慌てたように目を見開いた。
 エリスと同じ輝明学園の制服 ――― そして、トレードマークのポンチョ。
 秋葉原の街を堂々と、裏界の大公 ――― 大魔王ベール=ゼファーが、呑気にぶらぶら歩いていたのである。
「あ、あーら、お久しぶりねエリスちゃん? わざわざこの大魔王ベール=ゼファーを呼び止めるなんて、相変わらず無謀な勇気を持っているじゃない?」
 ベルが不敵に笑い、唇の端をきゅっと吊り上げる。美しき蠅の女王、空を舞うもの全てを支配する大魔王としての威厳をたっぷり持たせたつもりなのだろうが ―――
「……おい。お前、歯に青海苔付いてんぞ」
 柊のツッコミが全てを台無しにした。
 顔を耳まで真っ赤にして、慌てて口元を隠すベル。
 きっと、さっきまでたこ焼きを食べていたのだろう。
「う、うるさいわね! 大きなお世話よ!」
 金切り声を出して抗議した途端、威厳も威圧感もどこかへ吹き飛んでいた。
 ウィザードたちの間でまことしやかに囁かれる噂。
 大魔王ベール=ゼファーは、ファー・ジ・アース、特に日本の文化に興味があるらしく、時折裏界からお忍びと称して来訪し、おでんやらたこ焼きやらを買い食いする姿が見られる……。
 噂は、どうやら真実であったようだ。
「そんなことよりなによ? まさか、この場で戦いでも始めるつもりじゃないでしょうね? どうみても戦いに向いた格好じゃないと思うけど、柊蓮司?」
 それは確かにベルの言葉の通りである。両手や身体中に買い物袋を大量にぶら下げておいて、戦いもウィザードもあったものではないからだ。
「戦いなんて、違いますよっ。私たち、これからお鍋なんですっ」
「……はぁ?」
「お、おい、エリス、まさか!?」
 勢い込んでベルに向かって身体を乗り出すエリス。
 眉をひそめて理解不能、という顔をするベル。
 エリスの意図するところを瞬時に悟ってしまい、青褪めていく柊。
「鍋ってなによ」
 毒気を抜かれ、当然の疑問を口にする大魔王。
「だから、お鍋ですっ。今夜のお夕飯は鍋パーティーなんですっ。だから、ベルさんもご一緒しませんかって、そう思いましてっ」
「はあっ!? あ、あによ、それっ!?」
 大魔王を鍋パーティーに誘うとは、まったくの予想外。
 秘密侯爵の書物でも見なければ、こんな展開考えつきもしないはずである。
「私、ずっと気になってたんです。あのとき、助けてもらったお礼ちゃんとできていなったし」
「あ、あのときってまさか、宝玉戦争のときのこと言ってるんじゃないでしょうね!? わ、私はそもそも、もとはといえばあなたを狙って……」
「はいっ、知ってますっ。でも、最後に助けてもらったのは本当じゃありませんか」
 やるな、エリス ――― 柊は内心舌を巻いていた。
 あの大魔王が、至近距離に迫るエリスの迫力にたじたじになっている。
「だけど助けてもらったのは……」
「あーーーーーっ、もうっ! あれは結局、そうすることが裏界のためでもあったからそうしただけよっ!? り、利害が一致したから協力しただけなんだからっ!?」
「はいっ、そうですよね! それで、鍋パーティには来て貰えるんですかっ?」
 人の話をとことん聞かないエリスである。
 そんな彼女に、大魔王ベール=ゼファーは ―――

 顔をますます赤らめて、口を酸欠の金魚みたいにパクパクさせながら。
「ば、馬鹿じゃないのっ!? そ、そんな仲良しごっこ、願い下げだわっ!?」
 回れ右をして、脱兎のごとく ―――
 そう。大魔王が、どう反応していいのかわからずに、無様にエリスたちに背中を向けて、なんと逃走してしまったのであった ―――

     ※

「……でも、やっぱり残念でした」
 ほんの少し、エリスがしょんぼりとした。
「でも、それで正解ですわよ、エリスさん。もし、ベール=ゼファーがここへ来ていたとしたら、十人で囲む食卓が、八人に減るところでしたもの」
 つんとそっぽを向いて、アンゼロット。大魔王と同席するくらいなら、エリスの手料理を諦めてでも、コイズミを連れて退散するつもりだ、という意思表示である。
「まったく、エリスは時々怖いもの知らずになるからなぁ」
 呑気に鍋の中身を覗きこんでいる柊のそんな言葉に、多少なりともくれはや灯は顔を引きつらせている。彼女たちにしたところで、大魔王と鍋をつつくのは抵抗があるだろう。
「さ、さっそくだけど始めよっか? これだけおかずがあれば、先に始めちゃっても大丈夫だよ」
 手をパタパタと振り回しながらくれはが言う。遅れて来る二人に気兼ねをせずとも、これだけの食材をたいらげてしまうことはないだろう。
「待ってました!」
 いち早く箸を取り上げた柊が、喜色満面のほくほく顔で叫ぶ。そして、はた、となにかに気づいたように、エリスのほうを振り向いた。
「そういえば、エリス」
「はい?」
「エリスの手料理、どんなメニューかなって俺もいろいろ想像はしてたけど……鍋、ってなんか普通じゃないか?」
 朴念仁が朴念仁らしい台詞を吐いた。
「ちょ、ちょっとひーらぎ、なんてこと言うのよ!?」
「……柊蓮司……無神経……」
 女性陣から非難の声が次々と上がるのは当然のことであっただろう。
278NPCさん:2008/12/29(月) 12:31:12 ID:???
支援。
279NPCさん:2008/12/29(月) 12:34:18 ID:???
おっと、必要かな? 支援。
280NPCさん:2008/12/29(月) 12:52:29 ID:???
「い、いや、不満があるわけじゃねーって! た、ただなんとなくそう思っただけだってっ」
「蓮司、もう一発お見舞いしとこうか……?」
 京子が拳を固めたその瞬間 ―――

 エリスがくすくすと笑い出す。

「はいっ。“普通”が、今晩のお夕飯のテーマですっ」
 満足げに微笑んで、エリスが声を弾ませる。
 柊先輩に感じてもらいたい。柊先輩のためにしてあげたい。
 それは日常の大切さ。ゆっくり、ゆったりと流れていく優しい時間。
 エリスが宝玉の力を失ったいまでも、この世界や、ここだけではないどこかの世界のために戦い続ける柊に捧げたい時間は、なんでもないただの日常。
 そんななんでもないことの大切さを、巨大な運命に翻弄されていた自分に教え、また与えてくれた柊に、エリスが本当にお返ししたいのは、そういうものだった。
 それに、気づくことができた。
 だから、特別なものなどなにもない食事を。
 だけど精一杯、お腹一杯になれる献立を。
 そんなものを、エリスはご馳走したかったのである。
「それと、もうひとつ……」
 ちょっと照れ臭そうにエリスが笑う。
「ん?」
「今晩のお夕飯のコンセプトは……“家族”、です」
 だからこそ、みんな一緒。
 お姉さんみたいなくれはさん。やさしいおばさま。自分をもうひとりの姉のように慕ってくれる青葉くん。
 そして、そんな家族を取り巻く、柊たち、大事な仲間たち。
 みんな一緒。みんな含めて大事な、エリスにとっての大事な家族。
 だから、たくさんの人が集まる献立を。
 それが柊先輩に一番食べてもらいたい料理なんだ、と。
 エリスは、そう思い、そう信じている。
 しかし、エリスの発言は思わぬ波紋を投げかけてしまったわけで。
「は、はわ……か、家族……?」
「幸せなご家庭を築きたい……そんな願望の現われ、ということですのね……?」
「……柊蓮司……エリスは、あげられない……」
 エリスの言葉を必要以上に深読みした女性陣が、皆一様に複雑な表情をし ―――

「え、ええっ!? そ、そんな、そういうのじゃないですっ! ち、違いますってばっ!」

 そして、“茹でエリス”の再臨である。
 真っ赤になって弁解するエリスの乙女心が再燃したことも、木石たる柊は一切気づくことなく、
「そうだよなー、エリスは俺にしてみればもう妹みたいなもんだしなー」
 笑いながら土鍋に箸を突っ込んでは、自分用の小皿にカニの脚を放り込んでいくのであった。

「い、妹……そ、そうですよね……あ、あは、はは……。はあ……」
「エ、エリスちゃん、気を落とさないで。こんなことくらいでへこたれてたら、まともにひーらぎなんかと付き合えないよ……」
「エリスさん……心中、お察しいたしますわ」
「エリス……なにもそんな茨の道を歩くこと、ないのに……」

 口々にエリスを慰める言葉が皆から発せられ。
 少女たちの心の機微などなにもわかっていない男どもは、まるっきり見当違いの言動をいつでも繰り返すのである。
「おおっ! この私めも家族の端に加えていただけるのですねっ。やはりエリス様は、お心の美しい方だっ!」
「うおおっ、カニ美味えっ! おい、お前らっ! 早くしないと俺が全部食っちまうぞっ!?」

 などと ―――

 振舞われた晩餐にがっつく柊たちの姿をしばらく見つめていたエリスが、不意に笑顔になった。
(そうか。そうですよね、柊先輩。これも、私たちの大切な日常ですもんね)
 いまさらだけど、そう気づく。
 これでいい。これが二人の仲の進展なのか、それともそうではありえないのか。
 そのことはいまのエリスにも分からない。
 だけど、確かに言えること。
 それはこの一時が、なにものにも代えがたく、光り輝いているということである。
 エリスの手がエプロンを外し、自分の分の箸を取る。そしてくれはたちを見回すと ―――
「それじゃ、みなさん。私たちも頂きましょうっ」
 一足遅い、晩餐のスタートを号令するのであった。
(家族の一員……これも、一歩前進ですよね、柊先輩?)
 エリスが、食卓を満たしていく白く温かい湯気の向こう側にいる柊に、そんなメッセージを心の中でだけ呟いた ―――



 柊蓮司攻略作戦。
 Mission Complete(………?)

(了)

途中、規制に引っかかりもしましたが、なんとか投下完了しました。
長らくのお付き合いどうもありがとうございます。
それでは住人の皆様方、良いお年を。
ではでは〜。
284NPCさん:2008/12/29(月) 16:10:35 ID:???
ゆず楽さま、完結おめでとうございます。
いやー、ほんっとうにエリスはいい娘さんですね。
それに比べて男性陣の朴念仁さ加減ときたら…。
とてもいいお話でした。
次回作を楽しみにしております。
285NPCさん:2008/12/29(月) 23:48:35 ID:???
お疲れでした、ゆず楽さん。今はその身を休めることだけをry
ところで、次回作はなんですか?

一生懸命なエリスが微笑ましかったですよ。ベルを夕食に誘うのは危機感なさ過ぎにもほどがありますが。
ベルって、もう敵だと思われてないですよね。
男性陣が朴念仁なのは・・・・まあ、そうでなかったら、すぐに話が終ってしまいますからね。
おもしろかったですよ。
次の投下を待ってます。
286NPCさん:2009/01/01(木) 01:26:45 ID:???
あけましておめでとうさん
昨年一年はこのスレが怒涛の進みを見せたが、また今年も作品が投下されるのを祈るよ
287NPCさん:2009/01/01(木) 12:08:24 ID:/B9kekC+
あけおめっす。

をぅっ
エリスの話が完結してたぜ!
……ゆず楽様、お疲れ様でした。
エリスちゃん、本当に良い娘さんだなぁ(ホロリ)
柊には勿体無い。いやくれはも勿体無い。勿体無いお化けが出るわい!

うぅ〜。次も楽しみにしております。
288NPCさん:2009/01/01(木) 16:23:12 ID:???
しかしみかきさんの同人誌では、ベルとリオンがスクールメイズのど真ん中ですき焼きを食べていたという。
289ゆず楽:2009/01/01(木) 18:30:55 ID:???
(簡単なあらすじ)
→今年の初詣こそは赤羽神社に行こうと決意する。
→はわはわ鳴く巫女さんはおろか、肝心の赤羽神社が見つからないことに絶望する。
→代わりにDVD三巻のジャケットをご本尊に見立てて拍手を打ち、参拝を済ませる。
→でもやっぱり空しくなる。そんな元日。

 住人の皆様、あけましておめでとうございます。ゆず楽です。
 年明け早々のご挨拶とレス返に参りました〜。
284さま。
 エリスをいい子だと思っていただいて嬉しい〜。「いい子」がイヤミにならないよう心を砕いて書きましたけど、感想いただいた限りではまずまず成功と思っていいのでしょうか?(笑)
285さま。
 その世界の守護者的ねぎらいの言葉、さては休ませるつもりなどありませんね?(笑)
 ベルを食事に誘うのはちょっと無防備すぎるかな、と確かに思ったんですが、ついつい。
 ていうか、別板でも同じネタやってるな、私。
287さま。
 同じくエリスをいい子と思っていただいてありがとうございます。確かにあの朴念仁にあげちゃうには勿体無いですよね。でも、くれはもダメですか?(笑)
 うーん。それじゃ妥協案ということで。
 柊に誰かをあげるんじゃなくて、柊がみんなのもの。これでよし。

 んで。
 うーん。次回作。次回作ですか……(遠い目)。
 私、想像&創造力に乏しいもので、ネタのストックとか全然ないんですよね……。ネタの神様が降って来るまでは、本当に白紙状態で(汗)。
 NWだと、くれは、ベル、あかりんがまだ(主なメインヒロインの中では)書いていませんけど、どうでしょうか。他作品でも魅力的なキャラたくさんいますけど、なにはなくともネタですね。
 長々と書き連ねましたが、本年もこの板の発展を祈って。
 ではでは〜。
290NPCさん:2009/01/01(木) 19:00:12 ID:???
>>289
遅ればせながら、完結お疲れ様でした。
エリスはホントにいい子ですな…。
もっとワガママになってもいいんじゃないかとも思いつつ、ならないのがいいところという、ね。
…幸せになれ〜。

>柊はみんなのもの
あれ? 今と変わらないぞ?
291NPCさん:2009/01/02(金) 17:13:53 ID:???
>>289
では、ゆず楽さまに自分で書こうとして挫折したネタを提供いたしましょう。

「モノクローム〜」でベルが看護師をしていたのは、スクールメイズで倒された夫、アステートの看病のための勉強だった!
例によって失敗ばかりするベル。やきもちを焼くアゼル。無意味に対抗しようとするパール。横で笑っているリオン。
アステートの運命や如何に!

・・・・・・アステートを出すと、公式シナリオのネタバレになるから挫折したんですけどね。

他には・・・・
アンゼロット様と、実家の皆さんや守護者その他の天界陣営との交流
フェダーインと下僕とロンギヌスの対比
裏界魔王と冥魔王と古代神(フール=ムール、エルヴィデンス等)の対比
この辺りが、自分でも挑戦したいテーマですね。

似て異なる者同士を比べることで、それぞれの個性がいっそう引き立つと思うんですよ。
292NPCさん:2009/01/02(金) 23:44:21 ID:???
一度や二度で諦めんな、お前がやりたいことなんだろ?
諦めてるヒマがあるなら前を向け、キー叩け、自分の幻想を自分で刻め!


……ってレスしろって電波飛ばしたの誰?
293NPCさん:2009/01/04(日) 11:20:22 ID:???
ゆず楽さま完結おめでとうございます、
帰省から戻ってみると素敵なお年玉がまっていました。

なんというか、全員で鍋をつつくエンドが非常に「らしい」ので、
ものすごく和みました。
さすがはエリス、シャイマールの力は失っても、場を繋ぎ人々を
集めるPC1力はパネェです。
294NPCさん:2009/01/04(日) 16:27:38 ID:???
   ∧l二|ヘ
  (・ω・ )  ←に土産を持たせてどこかのスレに送ってください
 ./ ̄ ̄ ̄ハ
 |  福  | |
 |  袋  | |,,,....
   ̄ ̄ ̄ ̄

現在の所持品: オプーナ オプーナ オプーナ オプーナ オプーナ 仲村みうのDVD「卒業」 オプーナ
オプーナ オプーナ オプーナ オプーナ 株券 オプーナ 信長の野望online争覇の章 オプーナ
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295ゆず楽:2009/01/05(月) 19:34:07 ID:???
度々レス返でお邪魔しますです〜。
〉〉290さま。
でもワガママいっぱいのエリスも可愛いかも、などと思ってみたり。柊に対して拗ねてみたり怒ってみたり、とかする彼女もなんか良くありません?(笑)
 拗ねてるんだけど、怒ってるんだけど、なんか小動物チックで微笑ましそう(笑)。
〉〉293さま。
大盤振る舞いというわけにはいきませんでしたが、お年玉ということで宜しければどうぞ受け取ってやってください。
 ええ、確かにエリスの「あの」力は、大魔王の力なんかよりもずっと大きくて、大切な力です(と、ちょっとイイこと風なことを言ってみる)。
〉〉291さま。
は、ハードル高っ!? なんか随分と密度の濃いネタですね!? 公式シナリオとかS=Fの世界知識まで幅を広げるとなると資料が物凄いことに(笑)。
S=Fって、リプレイ(フレイスとか黒皇子とかぐらい)の知識しかないダメな私です(笑)。
でも、魔王勢にスポットを当てるのはやってみたいかもですね。やきもちアゼルという素敵ワードに思わず身を乗り出したりして。
だけどなあ、私が書くと彼女たちが魔王の名に値しないダダ甘っ娘ばかりになりそうだなあ……。
主役は当然ベル。ベルをライバル視してなにかと突っかかってくるパールちゃんさま。ベルに淡い親愛の情を寄せるアゼル、みんなに色々助言をしながら生温かく見守るリオン、そしてそんな彼女たちみんなの(苦労症な)お姉さまルー=サイファー、etc……。
なんですかこれは。裏界版マリみてですか。裏界女学院設立ですか。妄想ダダ漏れのぐだぐだ話にしかなりそうにありませんね(笑)。
296NPCさん:2009/01/05(月) 20:10:15 ID:???
何を言っているんだ!とても、とてもいいじゃないか!
さあ筆を取れ!ハリィハリィ!(馬鹿は二日貫徹して眠る前なのでテンションがおかしくなっている)
297NPCさん:2009/01/06(火) 23:39:54 ID:???
>>295
では、ゆず楽さまに更なるネタを。

アンゼロットの初恋(視点人物がアンゼなのかパパなのかエルヴィデンスなのかで雰囲気が大きく変わりそうです)

第一次古代神戦争のときの話
晶が柊に書いた、届かなかった手紙
柊がマサトに書いた、どこにも出しようがない手紙

ルーの部下だったリオンが、ベルと付き合うまでの話
いつもベルと一緒のリオンに嫉妬するアゼル
ベルがアステートに書いたラブレター
ベルの子育て日記(黒皇子のアレ)

ゆず楽さまの作品は心理描写主体なので、何か事件を起こすよりも誰かが別の誰かに手紙を書く、という話が似合いそうに思えます。
で、「書いた手紙をどうするか」がオチになる、と。



ネタ提供ばかりでも気が引けるので、小ネタも少し。
裏界女学園と聞いて、何故かこんな電波が。

「ああ、アステート。愛してるわ」
 友人の想いが報われる瞬間を間の当たりにして、アゼルは喜びと寂
しさで、涙が溢れて前が見えなくなった。
「さよなら、ベル。・・・・幸せにね」
 ベルに背を向け、アゼルは逃げるようにその場を去った。

同時刻 第一世界
「ああ! 冥魔の全身に無数の人の顔が!」
「コイツ・・・今までに喰った人間を吸収してるのか!」
298NPCさん:2009/01/06(火) 23:40:35 ID:???
「タスケテ・・・タ・・ス・・・ケ・・・・テ・・・」
「―――すまん。もう、手遅れなんだ・・・」
「止めて! あの中には兄さんがっ!!」
「・・・駄目だッ! おい、ダチ公! 先に地獄で待っていやがれぇ!」
「いやぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」

再び、裏界
「ねー、アゼル。そんなに簡単にベルを諦めちゃっていいの?」
 数少ない友人の魔王ジャッカルが落ち込む姿を見かねて声をかけた。
「だって・・・ベルはアステートのことを・・・」
「友達と恋人は別でしょ? アステートと付き合うからって、アゼル
と絶交する必要はないじゃない。もう一度、会いに行ってみなさいよ」
 友人の暖かい励ましの言葉が、胸の奥へと染込んで行く。
「・・・ありがとう。もう一度、ベルに会ってくるわ」

同時刻 第三世界
「まさか、もう一度、お前と戦うとは思っていなかったぞ、闇冥姫」
 聖地姫は戦場で、15年ぶりに出会った妹に武器を向けた。
「何故、冥界などに従う?」
「冥界? 私が仕えているのはセフィス女王です。貴女こそ、何故、
 アンゼロット様の名を騙る不埒者などにつくのですか、“姉上”?」
「皮肉を言うな、闇冥姫。それに、あの方は本物のアンゼロット様だ」
「貴女はアンゼロット様にお会いした事がないではありませんか。
 どうして、本物だと分かるのです?」
「お前も会えば分かる。一緒に来い、我が妹よ」
「それなら、まず先にセフィス女王にお会いしていただけますか?」
 姉妹は鋭い視線をぶつけ合い、慎重に間合いを計った。
「どうやら、これ以上の会話は無意味のようだな」
「はい。ここから先はお互い、武器で語りあうとしましょう」
 そして、15年のときを経て。姉妹は再び、その刃を交えた。

299NPCさん:2009/01/06(火) 23:41:45 ID:???
三度、裏界
「やっぱり、ダメ。ベルに、どんな顔をして会えばいいか分からない」
 アゼルは胸を押さえ、固く目を閉じてその場に蹲った。

同時刻 第五世界
「これはこれは冥魔王へルクストー殿。今日はどのようなご用件で?」
「ぐふふ。エンジェルシードを確保したそうだな。ミカエル宰相。
 空導王に奪われては大変じゃ。わしが安全に保管しておいてやろう」
「残念ながら、シードの確保には失敗したのですよ。
 もしも確保に成功したなら、そのときは保管をお願いします」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。それは、それは残念じゃなぁ」
 好々爺めいた笑みを見せる冥魔王に愛想笑いを返しながら、ミカエ
ルは胸の中で呟いた。
(いずれ、お前たちも人間界から追い出してやるわ!
 シードはその為の貴重な武器なのよ。絶対に渡すもんですか!)

四度、裏界
「何やってんのよ、アゼル?」
「ベル?」
 蹲るアゼルに、通りかかったベルが声をかけた。
「丁度よかったわ。出かけるから付き合ってよ。アステートったら、
スクールメイズで受けた傷が開いて入院しちゃってね。
 お見舞いに持ってく花や果物を買いに行くのよ」
「・・・うん。わかったわ。一緒に行くわ」
 アゼルは満面に笑みを浮かべ、ベルと並んで歩き出した。

同時刻 冥界
「裏界は一体、どうしてしまったのだ?」
「第八世界からウィザード達が溢れ出し、主八界中で暴れているではないか。
 奴等の相手は裏界の筈だろう?」
300NPCさん:2009/01/07(水) 03:13:08 ID:???
裏界魔王共仕事しろwwwwwwwwww
301ゆず楽:2009/01/07(水) 14:19:28 ID:???
なんかネタがないない言ってる私のために色々提供頂いて恐縮です(汗)。
たくさんアイデアを貰いましたが、私がピンときたキーワード、それは『手紙』。
地味なところに食いついた気もしますが(笑)。
というわけで、書くこと浮かびましたよ!
主役はあかりん!
『手紙』をテーマにしようと思った瞬間、彼女で書いてみたいな、と啓示を受けた!(予想・期待外だったらごめんなさい)。
こんな予告みたいなこと言って大丈夫か私?と思わないでもないですが。
でも別板のDXが終わるまでは無理かもです。
同時に複数執筆の大変さを以前味わいましたので(笑)。
向こうも多分、あと二回や三回じゃ終わらないだろうなあ……(苦笑)。
302NPCさん:2009/01/08(木) 02:22:43 ID:???
>>301
……ゆず? ……あー!? そうかそういうことだったのか!(今気づいた)
同時進行だったんすか(汗) マジでお疲れ様です。
303mituya:2009/01/09(金) 10:57:24 ID:???
ご無沙汰しました&明けましておめでとうございます(<今更)
えー、昨年の年末、別板での作品書いてる途中でパソ子の中のデータが飛んで、泣きを見た子です。バックアップは大切ですね……(遠い目)
書きかけの作品と過去の作品が全部逝った……ORL
友達に愚痴ったら「お前、PC本体に保存してたのかよ!」って怒られました(汗)
そんなわけでフラッシュメモリ購入。……本体に保存してた時、どんだけパソ子が重かったのか思い知る今日この頃です……

それはともかく、遅ればせながら、ゆず楽様、連載完結お疲れ様です。
エリスとくれはのいい娘っぷりに改めて惚れましたよvv エリス(そして柊)らしい締め方にGJの一言です。

最近、今書いてる別板でのクロス以外に何もネタが浮かばず呻いていたのですが、>>297様のゆず楽様へのネタ提供を読んで、きゅぴーん☆と!
食いつくところが被ってしまうのですが、『手紙』ネタは自分もやってみたいのですよ!!
一人称は無茶苦茶苦手なんで、実は鬼門っちゃ鬼門なんですが(汗)
>>297様とゆず楽様のご許可をいただければ、書いてみたいものがあるのです。よろしいでしょうか……?
304ゆず楽:2009/01/09(金) 12:19:52 ID:???
302さま。
はい、私です(笑)。結構バレバレかと思ってたんですけど(笑)。
そしてmituyaさま、お久しぶりです。
いやいや「許可」だなんてそんな!ネタが浮かんだときが書くときですよ、ええ!
私のことなんかぜんぜん気にしないで下さい、ほんとに。
いつ書けるかも不明なのに予告みたいなの入れて、ネタにツバ付けるような形になってしまって、かえって申し訳ないことしちゃいました。すいません。
久方ぶりのmituya節、楽しみにさせてもらいますよ〜。
305297:2009/01/09(金) 23:35:09 ID:???
 ゆず楽さま。みつやんさま。私の提供したネタがお役にたったようで何よりです。
 他のネタも、ゆず楽さまさえよろしければ、皆様ご自由にお使いください。

 別のスレで「灯は外に出てくるものが少ないので、主役にするなら心理描写中心にしないといけない」
という指摘もありましたが、ゆず楽さまなら、きっと素晴らしいSSになると信じています。
 気長に待っていますので、焦らずにゆっくり書いてください。

 ゆず楽さまは、御自分の作風をグダグダと評されていますが、単にプロットがシンプルなだけですよ。
「ストーリーは重要ではない。重要なのは雰囲気だ」とHPLも言っていますし、オチにインパクト
さえあれば― 偉そうな事言ってますね。すみません。

 しかし、ゆず楽さまは、エルオース復活計画でベルと共闘した他の7人が続々と自分の担当世界の征
服を達成している事も、アンゼが初恋の相手に、柊が問題にならないくらいひどい事をして、まだ一言
の謝罪もしていない事もご存知なかったんですね。S=Fの方の話ですから。

(仕事手伝いに行ったら、いきなりサボられて世界の危機起こされて、何の落ち度もないのに責任取ら
されて解体されて聖姫作る材料にされて、後で復活したらアンゼがゲイザーに引き抜かれてて世界の守
護者3人分の仕事押し付けられて、それでも怒らないって“包容力に富む”どころじゃないよなぁ)

 いや、それを踏まえて読んでいたので、多分、ゆず楽さまの意図とは違う印象を受けていました。
 ベルが蛸焼きを食べているとき、第三世界ではセルヴィが既に征服した世界を作り変えていたり。
 アンゼが柊を弄ってるとき、その最大の犠牲者が物理的に身を粉にして古代神から世界を取り戻そう
と奮闘していると思うと、ぽんこつぶりや性格の悪さが言い訳出来ないように見えるのですよ。
 公式にも言える事ですけどね。

 手紙SS、私も書いてみましたよ。柊からマサトへの手紙です。
306最初の、戦友へ:2009/01/09(金) 23:36:48 ID:???
 陽当たりの良いベランダで椅子に座り、心地良くうたた寝を楽しんでいた柊は、突然、膝の上に柔ら
かく暖かいものを載せられて目を開けた。
「なぁ〜ん」
「・・・・・・アゲハか」
 愛らしい、一匹の猫が柊の胸に前脚をかけ、身体を伸ばして顔を舐めてきた。
「よしよし。今、ミルクをやるからな」
 猫を抱き上げて立ち上がり、キッチンに足を運ぶ。冷蔵庫から取り出した牛乳をお椀に注ぎ、自分の
指にエンチャント・フレイムをかけて突っ込み、温度を“上げる”。
「・・・・・・俺はもう、下がらない。下がらないんだ」
 ミルクが程よく温まると、柊はお椀を床に置き、猫が美味そうにそれを舐めるのを優しく見つめた。
「やっと、やっと平穏な生活を手に入れたんだ・・・・俺は、もう出席日数を気にしなくていいんだ・・・・」
 感慨に耽りながら、目を閉じた。目尻に、光るものがあった。
 やがて猫がミルクを飲み終わると、柊はお椀を拾い上げ・・・・ふと、カレンダーの日付が目に付いた。
「―――そうか。あれから、もう1年になるんだな・・・・・・」
 “星を継ぐ者”事件。マジカル・ウォーフェアの始まりとも言われる、世界の危機。
 その闘いで柊は、初めて戦友を得て・・・・・・そして、失った。
「高二んときは、ずっと単独任務で・・・・たまに、何人か集まる事があっても、勝手に戦うばかりで、戦
友と呼べる奴はいなかったっけ。俺にとっちゃ、アイツが、最初の仲間だった・・・・」
 それなのに。自分は。彼一人に総てを背負わせて・・・・・殆ど、何の役にも立っていなかった。
「―――何が最強の魔剣使いだ。マジカル・ウォーフェア最大の英雄だ。神殺しだ・・・・・・」
 仲間一人守れない、非力な、紙装甲の、特技:生死判定の足手まといでしかないってのに。
 ギシリと歯を噛み締め、柊は強張った表情のまま、猫に煮干を与えてから自室に向かった。
307最初の、戦友へ:2009/01/09(金) 23:37:45 ID:???
「確か、このへんに・・・・・・おお、あった、あった」
 あちこちの引き出しを引っ掻き回して便箋を取り出した柊は、暫く使っていない机の上にそれを広げ、
実に2年ぶりに机に向かうと、長い間使っていなかった鉛筆を取り出した。
「・・・・・・夢手紙、だっけか? もう会えない人に宛てて手紙を書いて、枕の下に引いて寝ると、夢の中
に相手が出てきて返事をくれるとかいう都市伝説」
 なんとなく、夢に出てくる相手はエミュレイターの化けた偽者のような気もするが、それなら叩っ斬
るだけだ。そう思ってから柊は、こんな事を考えてしまう自分の思考パターンに悲しくなった。
「・・・・・・それより手紙だ、手紙。つっても、俺、手紙なんか書いた事ねーし、何書きゃいーんだ?」
 まあ、いいか。人に見せるもんじゃないし、と気楽に構え、柊は年賀状以外で初めて手紙を書いた。

 マサト。お前の守った世界は、今日も続いてる。くれはも無事だ。色々、やっかいな事もあったけど、
全部丸く収まった。そうだ、俺、卒業したんだぜ! 卒業したんだ! 卒業したんだよ! 何度も学年
下げられて、一度は中学生にまでされて、出席日数もやばかったけど、無事に卒業したんだ!
 お前も、もっと、学校に行きたかっただろうけど、それは俺が代わりにやっておいた。学校にいる間
だけ、お前が傍にいるような気がしたよ。お前、言ったよな。天文部に入って、友達を作ってみないか
って。あの時は腹立ったけど、俺のコトをまっとうに気にかけてくれた男はお前だけだったような気が
するよ。他の奴は弄るか殺そうとするか、なんか知らないけど敵意剥き出しだったりとか、ロクな奴が
いねぇ。ホント、お前は、最高の戦友だった。だった、んだよな。 もう いないんだよな
 おお、そうだ! くれはの奴、また妹分が出来たんだぜ。エリスって言ってな。料理が上手い、優し
い、いい奴だ。くれはンとこに住み込んでて、本当に姉妹みてぇなんだぜ。前に篝、だったっけ? お
前の彼女。くれはの奴、アイツと居た頃と同じようにあったかい笑顔をみせ


    篝

308最初の、戦友へ:2009/01/09(金) 23:39:22 ID:???
 なんで、なんでアイツは
 くれはは助かったのに、なんで

 すまねぇ、マサト。全部お前に押し付けちまった。どうやったって、俺がくれはのためにお前を犠牲
にしたのはとりかえせねぇ。けどよ。もう、絶対、あんなことはしねぇ。
 世界も、仲間も、全部守る。
 犠牲なんか、払わねぇ。これは俺のわがままだ。お前の供養のためじゃねぇ。何をしたって、供養に
なんかなりゃしねぇんだ。それでも、俺はやる。お前から逃げてるだけかもしれねぇけどよ。
 なあ、一遍、顔見せに来てくれよ。罵ってくれてもいい。殴りかかってきてもいい。
 全部、受け止める。言い訳はしねぇ。避けもしねぇ。だから、一度、会いに来てくれないか?

「――こんな、トコかな・・・」
 思いつくままに書き殴った手紙を封筒に入れ、枕の下に置いた。
「・・・・これでマサトが出てきて、『気にするな』とか言い出したら、ぜってぇエミュレイターが化けてんな」
 柊は一人呟いて寝台に横たわり、静かに目を閉じた。

 夢の中のマサトは、篝とイチャついていた。ラブコメしていた。二人の為に世界はあるの状態だった。
 いくら柊が声をかけても、全く聞こえない様子で、篝しか見えていなかった。

「―――まあ、アイツ等が幸せなら、それでいっか・・・・・・」

309297:2009/01/09(金) 23:40:05 ID:???
以上です。スレ汚し、失礼しました。
夢手紙は創作ですが、思いついた瞬間、「これはエミュレイターの罠だ!」と思いましたよ。
いかにもシナリオに出てきそうです。
では、次回作をお待ちしております。
310mituya:2009/01/10(土) 15:54:33 ID:???
ゆず楽様、297様
ご許可いただき、ありがとうございます! 遅筆なもんでいつ書けるかはわかりませんが、精一杯書かせていただきます!

それでもって297様、GJ! オチに盛大に吹きましたよ(笑) 聞こえてないとか、マサト……(笑)
311ゆず楽:2009/01/10(土) 20:02:53 ID:???
>309さま
そんなに信じていただけるなんてこそばゆいけど嬉しく思います。過分な評価だったと思われないようにしなければ(緊張)。
ちなみに仰る通り、私の知識やネタのソースは基本的に、ほぼアニメと数冊のリプレイのみ。話のネタとして、昔はアンゼ様もナイスバディのお姉さまだったことくらいは知ってるんですが。
キャラや世界観もアニメ準拠、なんですね私。でも、乏しい知識で頑張ります(笑)。
で。SSなんですけど。
柊がヒロイン以外のキャラと絡む話って、私には難しい分野なので素直に「すごいなあ」と感心してしまったり。男同士の友情とか想いとか絆って書くのが大変な気がします。そうですよね、柊もたくさんの戦いや出会い、それに別れも経験してるんですもんね……。
こちらのあかりん話はゆっくり書くことにします。mituyaさまも来ておられましたけど、お手紙SS、楽しみに待ってます。ではでは〜。
312NPCさん:2009/01/10(土) 22:31:12 ID:???
>>309
GJ。狭界での彼らのバカップルっぷりを見せ付けられたかw
313NPCさん:2009/01/11(日) 01:59:35 ID:???
柊が学校、卒業に拘った理由をマサトと絡めて解釈するってのは、すごく意外で、でも凄くいいですねこれ
神殺しだなんだって囃し立てられても、最初の世界の危機で仲間救えなかったってのは彼にとってのトラウマなんだなぁ……
314NPCさん:2009/01/13(火) 12:00:31 ID:???
シナリオ
http://www1.axfc.net/uploader/He/so/181720 pass:love DX2nd ドロドロ愛憎
http://www1.axfc.net/uploader/He/so/181609 pass:nova N◎VA-D 利害交錯
http://www1.axfc.net/uploader/He/so/180973 pass:blood ALG ベーシック・ボス逆切れ
http://www1.axfc.net/uploader/He/so/180369 pass:moon ALG 月姫
http://www1.axfc.net/uploader/He/so/180288 pass:〔JIMMY〕のキー・ナンバー N◎VA-D
315NPCさん:2009/01/13(火) 12:12:17 ID:???
>>314
スレ違い。
316NPCさん:2009/01/17(土) 20:43:59 ID:???
保守かねて投下しますー。

実家に帰ったアンゼのところには全下僕の3割しか集まらなかったわけですけどー、招聘
を断った神姫はこんな感じなんじゃないかなーと思うんですよー。
読参時代にも星王神☆軍団とかいたそうですしー、超美形ですしー、オシリスやアドニス
と同じ「死んで蘇る神」とゆー性質と星を司る点から星の運行によって季節の変化を教え
る農業の神様としての側面もあるっぽいですしー、エル=ネイシアは稲作文化らしいんで、
神としてのエルンシャは結構民衆に人気あるはずなんですよねー。
読者人気はないけれどー。
出演作がGF別冊の公式シナリオの依頼人役ぐらいですから、仕方ないんですけどねー。


モトネタ:セブン=フォートレス メビウス エル=ネイシア
タイトル:ある神姫の述懐

語り手はサンプルキャラの神木の姫君をイメージしてますー。


317ある神姫の述懐:2009/01/17(土) 20:45:59 ID:???
また、私を招聘しにきたのですか、ロンギヌス。
無駄足でしたね。私は、アンゼロット様にお仕えする事は出来ません。
私はエルンシャ様の神姫です。他の誰にも、お仕えする事はありません。

あれは、アルクスタの大森林で木々の嘆きを聞き、己の無力さに泣いていたときでした。
この世界、エル=ネイシアの“世界の守護者”、星王神エルンシャ様にお会いしたのは。

あの方は、お美しい面差しに深い憂いを湛えながら、温もりに満ちた声で告げたのです。
私を、優しいと。その優しさは、神姫となるに相応しいと。
神姫となり、世界を救って欲しい、と。

それは、この上も無く名誉な事でした。

そして、それ以上に、私はあの方の憂いを晴らしたいと、あの方の笑顔を見たいと思った
のです。
天上から世界を見守り、人々の安息を願い、世界を守る為にその身を砕き、世界の行く末
を憂う、あの方を。

私は弓を取り、志を同じくする下僕達とともに冥魔との戦いに身を投じました。
下僕達も皆、いつの日かエルンシャ様の笑顔を見る事を夢見ながら、私のような非力な娘
を支えてくれました。
下僕達の前では、私は神でした。神として、振舞わなければなりませんでした。それが神
姫の役目でした。
私は神として、幾度となく下僕達に死を命じなければなりませんでした。それでも皆、笑
いながら散っていきました。
私は何度も、何度も、死んでいく下僕達に微笑みを見せながら、よくやったと湛えながら、
その死を看取ってきました。
ですが、それもエルンシャ様の苦悩に比べれば、きっと些細な事なのでしょう。
あの方は、もっと多くの死を看取っている筈なのですから。
318ある神姫の述懐:2009/01/17(土) 20:46:59 ID:???
下僕にとって、主に身を捧げるのは至上の名誉。
この身もまた、我が主たる“世界の守護者”に捧げるものなのです。

下僕達は皆、良くやってくれました。
私と、エルンシャ様の為に、そのお顔の憂いを晴らす為に、どんな死地にも喜んで飛び込
んで逝きました。
中には、エルンシャ様が女神だったら完璧だったのにと、不敬な事を口にする輩も居りま
したが。

あるとき、私はエルンシャ様の御息女、聖木姫様に拝謁を賜る栄誉に恵まれました。
永き闘いの日々を過ごされた後、神の力を天へと返し、今はひっそりと穏やかに暮らす聖
木姫様は、とても気さくに接して下さいました。

そして、私は知ってしまったのです。
かつて、この世界を襲った災厄の元凶が、アンゼロット様であったという事を。

エルンシャ様に想いを寄せられたアンゼロット様が仕事をすっぽかした所為で、古代神の
封印が緩んで世界の危機が起きたのだと。

アンゼロット様はエルンシャ様を、“世界の守護者”を独占しようとしたというのです。
私は、エルンシャ様のお声を聞く事も、ご尊顔を拝する事もままならないというのに。

エルンシャ様は世界を守る為に、その身を引き裂いて聖姫様方を生み出し。
アンゼロット様は、聖姫様方に御自分の力を与えつくして、お命をなくされたそうですね。

この話を聞いて、私は疑念を覚えました。
319ある神姫の述懐:2009/01/17(土) 20:47:31 ID:???
エルンシャ様の、あの憂いに満ちた表情は、本当に世界の痛みを悲しむものだったのでし
ょうか?

その日から。
私は、自分が物心つく前に亡くなられた月女王陛下への嫉妬に苦しむようになったのです。

しばらくして、第八世界に転生したアンゼロット様がお越しになられて神姫を集め始め、
私のところにも招聘の使者が見えました。
世界を救う為にアンゼロット様に協力して欲しいと訴える使者の言葉に応じ、私はアンゼ
ロット様にお会いする事にしました。

初めて出会った“恋敵”は、思っていたよりも小さな方でした。
いえ、指導者としての器の事ではなく、体格の事ですが。
アンゼロット様は、その幼い容姿に似合わぬ老練さを感じされる威厳に満ちた態度で、私
に告げました。

「よく来てくださいました、神木の姫君。
 わたくしのお願いに“ハイ”か“イエス”でお返事してください。
貴女は聖木姫と懇意であると聞いています。
 行方の知れぬ聖木姫の居場所を、わたくしに教えてくださいませんか?」
「いいえ。お断りします」

私は、反射的に、そう口にしていました。
そして、アンゼロット様が口元を引き攣らせるのを見て、密かに溜飲を下げたのです。
アンゼロット様は私を罵りました。私も建前を押し通して抗弁しました。
永い闘いを終えた聖木姫様を再び戦場に出すなどもっての外であると。
これからは、この世界は、我等、星王神様の神姫が守るのだと。
私は星王神様の神姫であり、他の者には一切従わぬと。

それは建前でした。本当は、アンゼロット様を困らせたかったのです。
320ある神姫の述懐:2009/01/17(土) 20:48:07 ID:???
アンゼロット様の言う、セフィス女王が冥界の傀儡だと言う話は信じられませんでしたし、
ラース=フェリアはエルンシャ様の差し伸べた手を振り払って冥界に堕ちていったのだか
ら自業自得だという気持ちもありましたが。

私はアンゼロット様の元を去りました。
何故、生きて去らせて貰えたのか、今でもわかりません。
或いは私の後を付け、聖木姫様のところへ案内させようとしたのか、それとも・・・・

私は聖木姫様の元へは戻らず、下僕を率いて大陸各地で冥魔と闘いました。
戦って戦って、戦い続けて、ある日、エルンシャ様から神託を戴きました。
極めて強力な冥魔である、冥妖姫を討ち取れ、と。

私達と下僕達は冥妖姫と戦い、倒しました。

そして、力尽き、今、ここに倒れているのです。
 
私はアンゼロット様にお仕えする事は出来ません。
私はこれから、エルンシャ様の御許に召されるのです。

下僕達はどこにいったのか、ですか?
私の下僕達は皆、下僕玉にして冥妖姫に打ち込みました。
それで、今、ここにいるのは私だけなんです。
なぜ、そんな顔をするのですか、ロンギヌス?
私は幸せなんですよ。この命の総てを、主に捧げ尽くしたのですから。


エ・ルンシャ・・様・? 迎えに・・来て・下さった・・の・です・・か?
ああ・・・どうぞ、この身を・・御身のお傍へと・お召しに・・なって・くだ・・さい・・・
それこそが、我等、神姫の・・・最大の・喜び・・・・
321ある神姫の述懐:2009/01/17(土) 20:52:05 ID:???
・・・・・どうして?
どうして、そんなにも・・・憂いに・・満ちた、お顔を・されて・・いる・のですか?
どうして・・・そんなにも・・・悲しい・お顔を・・・される・の・・です・か・・・・
私は、使命を果たしたではありませんか?
褒めて・・・褒めてください・・・
なんで・・・なんで・・・謝る・・の・です・・か・・・・・・・
笑って・・・笑ってください・・・せめて、最期に・・・貴方の・・笑顔を・見せて、くださ・・い・・・・

322NPCさん:2009/01/17(土) 20:52:30 ID:???
以上ですー。ゆず楽さん、mituyaさん、おてがみss待ってますですー。
323NPCさん:2009/01/18(日) 06:27:22 ID:???
やっぱりねー、思うわけですよ

ナイトウィザードやセブンフォートレスを今から文庫リプで知れる人は数多くても
当時の聖姫や天使達の物語は最早サプリなどで情報……歴史の教科書みたいな感じでしか知れない人と、生で知ってる人とでは思い入れに差が出てくるんだろうなぁ
恐らく当時のゲボク読者だった>>322氏の姫愛に感動した、GJ

俺も天使で一本やってみっかなぁ……セラと天使の物語の事、今のナイトウィザード好きの人にも伝えたいな

……納得出来るよう書き上げる自信が柊力並みに下がるがww
誰か書いてくれないかにゃー(チラリry
324NPCさん:2009/01/19(月) 14:45:06 ID:???
下僕の扱いがなんというか大雑把なたり実にエル=ネイシアだなあw
325mituya:2009/01/27(火) 23:50:16 ID:???
ども、お久しぶりです。
以前もらったお手紙ネタ。ようやっと書けました……
相も変わらずうちの柊は偽者くさい……(泣) しかも短いORL

タイトル:君と歩む道 〜Infinite choices〜
元ネタ:ナイトウィザード
内容:柊×くれは……というか、くれは×柊?(汗)
   うちの青葉君は柊大好きです。いや、今回青葉直接出番ないけど。

今回は短いから予告なしでいきなり投下! いっきまーす!
326君と歩む道 〜Infinite choices〜:2009/01/27(火) 23:51:01 ID:???
 おれは、将来、ふつうのサラリーマンになって、ふつうにおよめさんをもらって、ふつうに暮らしたい。
 トオルなんかは、テレビのヒーローみたいになりたいって言っていた。かっこいいから、おれもちょっとはあこがれるけど、やっぱりいやだ。
 だって、ヒーローのまわりはいつも事件ばっかりだ。家族とか友だちとか恋人とかが事件にまきこまれる。おれがヒーローになったら、おれのまわりで事件が起きて、姉ちゃんとかくれはとか青葉とかトオルとかユリとか……みんながきっとまき込まれるんだ。
 そんなの、いやだ。ぜったいごめんだ。だから、おれはふつうでいいんだ。
 でも、ちょっとは出世しないといけないかもしれない。
 青葉に頼まれた。「お姉ちゃんのおむこさんがもしもみつからなかったら、蓮兄ちゃんが幸せにしてあげてください」って。
 くれははおれの大事な友だちだから、やっぱり幸せになってほしい。「良いケッコンは女の幸せだ」って姉ちゃんが言ってた。良いムコが見つかるのが、きっとシアワセなんだろう。だから「いいぜ」って答えた。
 だから、ちょっと出世して、くれはのムコに良いヤツを見つけないと。あいつの家は大きいから、大きい家のヤツじゃないと、モンダイがおきる。テレビでよく見るから。イサントラブルとか、オイエソードーとかいうの。よくわかんねぇけど。

 ふつうにサラリーマンになって、ふつうにおよめさんもらって、ちょっとは出世して、青葉との約束守って、ふつうに幸せに暮らす。

 これが、おれの夢。なあ、この夢、叶ってるか?

  ◇ ◆ ◇

「……はわー……」
 幼馴染に心底呆れたような溜息を枕辺でつかれ、柊は眉をしかめた。
「『普通に』って夢がないし。っていうか、『ヒーローにはなりたくない』って、『普通』の子供はヒーローに憧れるもんじゃない?」
 その時点で『普通』じゃないじゃん、との突っ込みに、
「……悪かったな……」
 呻くように返した声は、がさがさと掠れ、しゃがれていた。
 殆ど病気などしたことのない柊だったが、今現在、病魔にノックアウトされている状態だった。
 ただの風邪だが、任務のために無理をしたためこじらせて、現在体温が38,5℃という少々洒落にならない状態だ。
327君と歩む道 〜Infinite choices〜:2009/01/27(火) 23:52:43 ID:???
 世界を守るためならどんな非道も行う守護者様も、流石に高熱にうなされる人間を任務に駆り出すほどではなかったらしい。もしかしたら単に戦力にならないから、という理由だけかもしれないが――ともかく、柊は拉致の心配もなく、自室で静養中なのだった。
 折り悪く、姉の京子は柊と入れ違いで旅行に出かけてしまって、三日間帰ってこない。そこで、ぶっ倒れたその場に居合わせたくれはが看病してくれているのだった。
 柊とくれははそれこそ幼少の頃からの付き合いだが、くれはが柊の部屋に入ったことは実は数えるほどしかない。殆どの場合、くれはの家である神社に柊の方が顔を出す、というパターンだからだ。
 それで、物珍しさからくれはは柊の部屋を見回し、机の上に置かれていた“それ”を見つけたのだった。
 “それ”は小学校の頃に、何かの特別授業で書いた手紙――『未来への手紙』だった。
 過去の自分から将来の自分に宛てた手紙。郵便局で眠っていた夢は十年の時を経て、それを綴った本人の元へと送り届けられたのだ。
 くれは自身が書いたものも、赤羽神社に届いているはずだ。ただ、ここ数日任務で帰っておらず、任務終了後にそのままここに来てしまったから、まだ読んでいない。
 それは柊も同じで、柊の留守中に届いた手紙を京子が机に置いておいたらしい。柊も内容が気になったらしく、くれはに取ってもらって読もうとしたのだが、無理だった。熱で視界が朦朧としているため、手紙が読める状態ではなかったのだ。
 見かねたくれはが「朗読しようか?」と冗談交じりで言ったのに、柊が頷き――冒頭の台詞となったわけである。
 柊の思考は相当茹ってしまっていたらしい。くれはに朗読してもらう、ということは、くれはに内容を読まれる、ということだということに、本気で気づけなかったのだ。
(まあ、別段くれはに知られて困る内容でもなかったから、いいか……)
 青葉の頼みのくだりは少々気まずくはあるが、大したことでもないだろう。姉の将来を案じた弟が、その友達に手助けを頼んだ、それだけだ。何故だか、そのあたりを読むとき、くれはの声が震えていたような気がするけれど、耳鳴りも酷いから、確かじゃない。
「……けど……思ってたのと……えらく違うな……」
 笑って言ったつもりの言葉は、引き攣れしゃがれて、皮肉のように響いてしまった。
328君と歩む道 〜Infinite choices〜:2009/01/27(火) 23:53:27 ID:???
 昔、そうなりたいと思っていた『普通』とは、かけ離れた生き方をしている自分。
 “常識”の外に在る者達と、“常識”の外の力で戦う、ウィザード。
 なりたくない、と思っていたヒーローのように化け物と戦って。周りをトラブルに巻き込んで、周りのトラブルに巻き込まれて。結果、無茶して風邪菌にノックアウトされる有様だ。
(……バカみてぇ……)
 ただでさえ、病気のときは気が弱るものだ。何だか無性に、今の自分が情けないような気分になりかけ――
「はわ〜、そうだねぇ。定職についてすらいないから、出世も何もないし」
 あっけらかんと笑って言うくれはの声が、沈んでいこうとする柊を引き止めた。
 追い討ちをかけるような言葉なのに、あまりもあけすけに軽い声で言うものだから、逆に救われる様な気分だった。
 そうだ、所詮、笑い話の種になる程度のことだ、と。
 子供の頃、思い描いていた通りになれる人間など、それこそほんの一握りだ。そうなれるのが良くて、そうなれないのが悪いわけじゃない。その逆も同じ。ただ、成長する、ということは、変わっていくということだというだけ。
 様々な人や出来事に出会い、視野が広がって、選択肢が枝分かれする。その中でただ一つを追い求めるのも強さだが、新たな道に進んでいくのもまた強さだ。
 今、柊が“ここ”にいるのは、他ならぬ柊が選んできた道の結果だ。
(俺は、今までの道を、後悔してるのか……?)
 そう自問すれば、答えは一つ。
 “No”だ。
 いつだって、自分で一番いいと思う道を選んできた。望む選択肢がないときは、自分で道を斬り拓いた。それでも、全部思い通りになったわけじゃないし、思い返すのが苦しいことも、自分を責めたくなるような結果を残してしまった出来事もあるけれど。
 それでも、自分で選んだ――自分らしく生きた結果だから。
(俺は、俺だ)
 きっと、あの手紙を書いた頃に戻って、そこから何度やり直しても――自分は、今居るこの場所に来るのだろう。
 そう、思って――
「お嫁さんはおろか、彼女もいないし。ホント、夢とは程遠い方向に来ちゃってるね……って、柊? 大丈夫? 」
「――あ? ……ああ……」
 くれはの声に我に返る。熱のせいか、思考が暴走していたらしい。幼い頃の微笑ましい手紙から、自身の人生について考え出すなど。
329君と歩む道 〜Infinite choices〜:2009/01/27(火) 23:54:59 ID:???
「さっきから、反応鈍いし……っていうか、ごめん。うるさかったね、あたし」
 いつもならツッコむような場面で無反応だったことに、くれはは柊が不調だと、今更再確認したらしい。さっきまで、話は普通にできていたから、それほど深刻には思っていなかったのだろう。
 少し黙るね、ゆっくり休んで、としょげたような声で告げられて、柊は小さく首を振る。
「いい」
「でも……」
 戸惑うような声に、苦笑する。
 さっき、沈んでいこうとした気分を救い上げてくれたのは、お前の言葉だから――そんなこと、言う気もないし、言えないけれど。
「お前が、横で黙ってる方が……落ち着かねぇ」
 いつでもぎゃいぎゃいうるさいのによ、と言えば、くれはは怒鳴る形に口を開いて、寸前で踏みとどまった。流石に、病人の耳元で怒鳴るのはどうかと思ったのだろう。
 声量を押さえて、抗議する。
「ぎゃいぎゃいなんて、言ってないじゃない」
「じゃ、はわはわか?」
 そゆことじゃないっ、とくれはは声を抑えたままむくれた。
「ったく、そんな風だから、彼女の一人もできないんだよ」
 ふんっ、と拗ねた風に言うくれはに柊はくつくつと笑う。
「ホントにな……お前の婿紹介するどころか、俺の方が嫁さん紹介されそうだ」
 その切り返しに、くれはは酷く表情を揺らした――ような気がした。視界が霞んでいるから、そう見えただけかもしれないけれど。
「紹介なんて……」
 彼女が俯いて呟いたその先は、耳鳴りに掻き消されて、よく聞き取れなかった。
「は……?」
「――だいたい、あんたの知り合いのウィザード、殆ど女の子じゃない。男は変態か相手がいる人ばっかだし」
 きっ、と顔をあげると、くれははそう告げる。柊は苦笑した。
「……確かに……イノセントじゃまずいだろうしな」
 仮にもくれはは陰陽道の名家の跡取り嬢だ。その血を薄めるようなことはできないだろう。というかそもそも、ここ一年の激務で、イノセントの友人とは縁が薄くなってしまっているし。
「青葉の頼みも……叶えられないか……手紙の内容、全滅かよ」
「……なんで、そうなるのよ」
 嘆息に混ぜて呟けば、くれはがぶすっとした声を漏らした。
330君と歩む道 〜Infinite choices〜:2009/01/27(火) 23:55:36 ID:???
「肝心なのが、一人いるじゃない。……まあ、その場合、あんたの『お嫁さん』は無理になるだろうけど……」
 くれはの言葉に、柊は眉を寄せる。
(……誰だ? つーか、なんでそれで俺の『嫁さん』が無理に……?)
 熱のせいで思考がまとまらず、混乱する柊に、くれははたまりかねたように怒鳴った。
「この……朴念仁! 鏡見て考えなさい!」
 言うなり、冷却シート新しいの持ってくる! と部屋から飛び出していった。
「……………………え?」
 秒針が一周するだけの間の後、ようやっと幼馴染の言わんとしていた意味に気づいた柊は――熱を一気に40℃台の大台に乗せて、意識を彼方に飛ばした。

  ◇ ◆ ◇

 思い描いていた未来。
 平穏で、誰とも争うことなく、自分の大事な人々は傷つかず、笑っていられる世界。
 刃を手にしたその日に、そんな世界は、どうやったって手に入らないと知ってしまったけれど。
 それで、思い描いた夢が全て消えるわけじゃない。
 そこから斬り拓けた道もある。

 それは、きっと――君と同じ世界を生きる道。


Fin
331mituya:2009/01/28(水) 00:03:25 ID:???
以上です! しっかし短い!(汗)

某笑顔動画でいつか応援動画作ってくださった方の新作見たら、柊くれは魂に火がついて一日で書きました(汗)
やっぱ、動画の持つ力はすごい……
自分にできる表現(文字書き)で、あの魂揺さぶる領域に行けるよう、精進したいです。

次はいつお目にかかれるかは、ネタの神様しだい……
そんな言い訳を残して、今日は退散させていただきます。
おやすみなさい……
332NPCさん:2009/01/28(水) 00:27:20 ID:???
みつやんさん、GJです! 待ってましたよ! 誰から誰への手紙なのかと思ってたら、柊
自身からの「未来への手紙」でしたか! その発想はなかったぜ!

に、しても。相変わらず柊は心に防波堤を築いているというか、一生懸命、現実から目を
逸らしてますねぇ。
それが恋愛関係だけなら微笑ましいんですが、最近では、もっと深刻な事実も見ないよう
にしてる、という指摘もあちこちで見かけるようになりましたね。
みつやんさんとしては、どのようにお考えでしょうか?

では、次回作にも期待しています。
333NPCさん:2009/01/28(水) 10:37:02 ID:???
GJです!
自分の大切な人の平穏と言う、芯の部分は相変わらずですなー。

さてそれで。
くれはの手紙の内容はどうなんでしょうかねー?
334NPCさん:2009/01/28(水) 15:00:36 ID:894jN+Rw
335ゆず楽:2009/01/28(水) 20:32:22 ID:???
mituyaさま、ぐっじょぶりっ!(お久しぶりでGJの略)
さすがは柊×くれ派の正統継承者! 糖分過多の甘味を食べたような二人の甘甘ぶり(笑)。
ちょっとツンデレ風(?)のくれはが可愛いんですけどどうしたらいいですか先生!?
まったくもう、ついこの間並行執筆は懲りたといった舌の根も乾かぬうちに投下に来てしまったのは、mituyaさま、貴女のせいだ(笑)。
いや、冗談はともかくとして、やはり他の職人様が元気だとインスピレーションとかモチベーションは高まります。とても良い刺激を貰いました。
そんなわけで、頂いたネタを元にした『手紙』のお題、こちらも投下させていただきます。
他スレとの同時進行厳しい! でもやっぱりすごく楽しい! 業が深いと自分でも思いますが(笑)。
336灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:42:24 ID:???

     ※

 壁紙も。華も。
 飾るものなど何もない部屋で。
 色彩の乏しい。コンクリートの冷たい気配に包まれた。
 ひとりで過ごすにはあまりにも広すぎる無機質な部屋で。
 部屋の主は時折、思い出したように小さな机に向かう。
 一枚の便箋と万年筆を目の前に置き、ただただじっと、身じろぎひとつもせずに。
 真っ白な便箋は、まるでそこに文字が綴られるのを静かに待っているかのよう。
 ルビーの赤を思わせるような。燃え立つ炎を宿したような。
 そんな赤い瞳が、躊躇いがちに紙の上に落ちてから、どれだけの時間が経ったことだろう。
 手探りで辿るように、ほっそりとした繊手が万年筆をつまみあげる。
 百の言葉を、千の想いを、万の愛情を ――― 心の内に秘めた激情を書き綴ろうと、彼女が最初の一文字をそこに生み出したのは、置時計の長針が丁度一周し終えてからのことだった。

 『命』

 ただ、その一文字。
 それだけの文字を書いただけで、ぴたりとその手は止められてしまう。
 それは、ほとばしるほどの思いの丈を、綴ること叶わぬもどかしさのせいだろうか。
 手紙を書く、という単純なその行為。
 それで百の言葉を書くことはできる。千の想いを表す言葉を連ねることもできるだろう。
 もしかしたら、万の愛情を表現することだってできるかもしれない。
 でも。だけど。
337灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:44:37 ID:???
 百や千や万どころか、それ以上 ――― そんな気持ちを伝えるにはどうしたらいいのか。
 それ以上の想いをぶつけるにはどうしたらいいのか。
 この部屋の主には、そのことだけがどうしてもわからなかった。
 このたった一枚の便箋の、なんと薄っぺらで頼りなく思えることか。
 まるでそう言いたげに眉をしかめる。
「………、っ………」
 便箋の上に押し付けられたままの万年筆。じわり、と黒いインキが滲み出し、紙の上に広がっていく。長い時間を経てようやく書かれた『命』の文字が、歪に汚れていく。
「………、あっ………」
 まるで、なにか取り返しのつかないことをしてしまったかのように、部屋の主は後悔のつぶやきを漏らした。その声に、足元の小さなフェレットが耳をぴくりと動かす。
 しなやかな白毛のフェレットは、一瞬気遣わしげに自分の主人を振り仰ぐと、机の前に正座するその腿に駆け上った。軽やかに身体を翻し、机の上へとよじ登る。
 まるで、それが主にとってなんであるのかを理解しているかのように、便箋を決して踏みつけることもなく。フェレットは、自らの主の、万年筆を握り締めたままの右手に身体を摺り寄せた。
 わずかな静寂。重たい沈黙。
 主の赤い瞳がゆっくりと、便箋の上の黒く滲んだ文字から離れ、フェレットのつぶらな瞳と視線を合わせた。
「なんでもない………平気。どんぺり」
 どんぺりと呼ばれた白いフェレットが、頷くように頭を上下させると、器用に主の腕を伝ってその肩へと駆け上った。その頬へと頭を擦りつける様子は、どこか彼女を慰めているようでもある。

 彼女の、無機質な硝子のような瞳がかすかに和む。
「ん………。今日は………ここまでにする」
 フェレットの飼い主。この殺風景な部屋の主。そして、絶滅社の誇るエージェントにして強化人間。赤い髪の少女、緋室灯は静かに万年筆をテーブルに置いた。
 元々乏しい表情の微細な変化。彼女をよく知るものでさえ、いまこのときの彼女の心情を果たして読み取ることができるかかどうか。

 憂い。

 灯の伏せた瞳に漂うのは、かすかな憂いの色だった ―――

     ※
338灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:46:04 ID:???

     ※

 すべての発端は、灯が自身の定期メンテナンスのために、絶滅社の特別研究施設に赴いたある日のことである。
 調整槽に満たされた、ぬるま湯のような溶液から身を起こし、
「お疲れ様です、灯さん」
「検査結果、特に異常は見られません」
 と、口々に淡々と語る絶滅社の研究員たちの声を無感動に聞きながら、灯は黙々と大きなバスタオルで濡れた身体を拭いていた。もはや彼女にとっての日常の風景と化した“調整”は、灯になんの感慨も与えることはない。
 食事をするように、呼吸をするように。当たり前のスケジュールの一環として行われるこのメンテナンスに、灯がある種の精神の高揚を覚えることがあるとすれば。
 調整後の彼女が決まって訪れる、一室の病室 ――― ただそのことを想うときだけである。
 機械のように正確に、てきぱきと輝明学園の制服に着替えると、灯は愛用のスポーツバッグを手に持って、研究施設の扉をくぐった。
 白く冷たい壁に仕切られた長い廊下を歩き、幾つも角を曲がる。目指す一室が近づくにつれ、灯の歩幅がより大きく、歩みがより速くなることに気づくものはいるだろうか。

 ぴたり。

 規則的な足音が止むと、灯が立ち止まったのは、やはりなんの変哲もない白い扉の前である。
 ただ他の病室と違うのは、扉にかかったネームプレートに、彼女にとって特別な人の名前が書かれていることだった。

 真行寺命 様

 灯の瞳がその文字を何度も何度も追っていた。それは、まるで「確かにここに彼がいるのだ」ということを確認するかのような、どこか真摯で、どこか必死にも見える仕草である。
 灯の右手が扉に触れる。かすかに空気の抜けるような音と共に、白い扉が開かれた。
 病室へ、一歩。わずかに一歩だけ踏み出すと、さほど広くはない部屋の中央へと視線を注ぐ。
 清潔に保たれたベッドに横たわる少年の、まるでただ眠っているかのように見える顔。
 本当に、声をかければ今にも欠伸をしながら起き上がってきそうなほどに、少年 ――― 命の顔は安らかな眠りの中にあるようだった。
339灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:48:27 ID:???
 しかし。しかし、命が目を覚ますことはない。
 深い昏睡状態が続く中、どれほどの治療を続けてもなかなか芳しい反応が見られない、と医療班のスタッフが躊躇いがちに灯に告げたことを、彼女は思い出す。
 現状、命の治療に関わっているのは、実は絶滅社の研究スタッフだけではない。
 密かにアンゼロットが送り込んでくれたロンギヌスの医療チームが少なからぬサポートをしてくれていることも、灯は知っている。それでも。だけれども。
 命が長い眠りから回復できる目途は、残念ながらいまだ立っていないのである。
 だから、いまは単純な生命活動の維持だけが、命に対して出来うることのすべてと言えた。
 ただ、それだけのことににしたところで、莫大な費用と人員を割いていることは言うまでもないのだが。

「………」

 灯は、無言。なぜかベッドに近寄ることすらしなかった。
 距離を置いて、遠目に命を見つめるだけ。それがいつもの彼女の見舞いなのだった。
 わずかに灯の唇が動く。呼びかけるように、語りかけるように、ほんのかすかに開かれた唇は、しかしすぐに閉じられてしまう。
 紡ぎ出されようとした言葉を飲み込んで、灯はきびすを返す。わずか十秒に満たない邂逅は、いつもこんな形で締めくくられてしまうのである。
 振り返った灯の表情は、すでに彼女が普段見せている無表情に戻っていた。
 彼女の肩に乗せているどんぺりが、灯の頬に鼻を摺り寄せる。その小さな頭を指先で撫でてやろうと手を伸ばしたとき、灯は自分に向けられた視線と、その気配に気がついた。
「………?」
 長く続く廊下の向こう。こちらを遠慮がちに伺う視線の主は ――― 白衣の“魔法使い”のひとりのようだった。
 目が合ってしまったことで向こうも踏ん切りがついたのか、ツカツカと靴音を鳴らしながら灯に歩み寄る。灯に見覚えはないが、確かに絶滅社の研究員のひとりであるらしかった。
 どうやら自分に用事があるらしい ――― そう見定めて動きを止める。二人の距離が、声の届くほどまでに近づくと、研究員は灯に向かってぺこりと軽く頭を下げた。
 女性である。年齢は二十台後半であろうか。
340灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:50:00 ID:???
「緋室………灯さん、ですよね」
 わずかな逡巡の後、確認するようにかけた言葉に灯は頷いた。
 彼女との出会いと短い会話が、灯が慣れない直筆の手紙を書く努力をすることになった原因なのであった ―――

     ※

 東の空から射す光に目を覚ます。
 開け放たれたカーテンは陽の光をさえぎることなく、窓際で眠る灯の閉じられた瞼を優しく照らし、毎朝のように彼女を浅い眠りから覚ますのだ。
 薄く開いた赤い瞳に最初に飛び込んできたのは、彼女の枕元で丸くなって眠るどんぺりの白い背中である。
 灯は静かに、フェレットを起こしてしまうことを怖れるかのように、ゆっくりと身体を起こす。
 ベッドの上に座ったまま、ぐるりと室内を見渡す灯の目が、ある一点で止められた。
 屑篭。それはそれは見事なまでに、こんもりと大量の紙屑で一杯になった屑篭である。
 ほとんどすべてが、白紙に近い形でぐしゃぐしゃに丸めて捨てられた便箋だった。それらの一枚一枚を拡げてみれば、九割がた『命』という一文字しか書かれていないことが分かるだろう。
 ひどいものになると、万年筆でただ黒い点を打っただけという、書きかけとも呼べないような状態で捨てられているものも何枚かある。
 これは、灯が昨夜、便箋相手に奮闘していたことの空しい惨敗の結果である。
 手紙を書こうとして結局書けず、無駄に時間と紙を消費し続けたことを雄弁に物語るのが、この屑篭きの中身なのであった。

『緋室………灯さん、ですよね』

 昨日の定期調整の日。
 すべての検査とメンテナンスを終え、命の病室を見舞った灯を呼び止めた絶滅社の女性スタッフの言葉が甦る。灯は彼女を知らなかったが、彼女のほうでは灯のことをよく知っているらしかった。
 彼女はまず、簡単な自己紹介と、突然声をかけた非礼を丁寧に詫びると、彼へのお見舞いはいつもこんな風に済ませられるのですか、とわずかに悲しげな瞳をして灯に尋ねたのであった。
341灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:51:57 ID:???
 その問いかけに頷いてみせる灯に、お節介は重々承知していますがと断った上で、

『もっと近くで、もっと長く、彼に話しかけてあげるといいですよ』

 まるで灯自身をいたわるような口調でそう言った。
 彼女は、灯と命のおおよその関係や、命が長い昏睡から目覚めることが出来ないでいることをも熟知しているようである。訊けば、どうやら彼女は命担当の医療スタッフの一員であるらしい。
 命に対する医療スタッフの懸命な治療行為も、そしてそれがなかなか結果を出せないことも、だから詳しく知っており、同時に結果が出せないことへのもどかしさや悔しさも感じているようだった。

『親しい人の声や、呼びかける言葉が、患者さんご本人の力になることもありますから』

 そう言って柔らかく笑う彼女の表情は、彼女自身も命の回復を心から望んでいるのだという優しさが垣間見えるようである。
「話す………? なにを………?」
 灯の赤い瞳が戸惑うようにかすかにぶれた。
 灯はもともと口数の多いほうではない。いや、どちらかというと無口なほうだ。
 必要なこと以外はほとんど喋らないし、それが必要なことであったとしても、喋らないことで大した支障がないとしたら、それすらも口にしない灯である。
 病床の物言わぬ命に話しかけろと言われても、普段の会話以上にどんなことを言えばいいのか分からない。そもそも、灯が命への見舞いをこんなに離れた距離からするのも、言葉一つかけずにきびすを返すのも、かける言葉が見つからないからこそなのである。
 女性スタッフは、そんな灯の特質や性格をもよく知っているようで、その場ですぐに話すことなんてやっぱり難しいですよね、と笑って言った。
 言われるがままに、灯は頷くことしかできない。
 それは彼女の言うことが正しかったからだ。戸惑うような灯に助け舟を出すように、

『手紙を書いてみたらいいんじゃないかしら?』

 彼女はそんなことを、灯に告げたのである。

     ※
342灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:53:31 ID:???

     ※

 その場で突然喋るように言われても。
 いきなり話すことを見つけろと言われても。
 それは、実は、思いのほか難しいことである。普通の人間だって、唐突にそんなことを言われたら気の利いた言葉など言えやしない。これが普段無口な灯であればなおさらであろう。
 だから落ち着いて、ゆっくり出来る場所で、命にかけたい言葉や話したいことを『手紙』という形でまとめてみたらいいのではないだろうか。
 彼女は控え目な助言をすると、最後に、余計なことを言ったのならばごめんなさい、と丁寧な謝罪をして言葉を締めくくると、その場を立ち去っていった。
 思うに。
 灯と命のことをよく知っている、と言っていた彼女は、二人の不器用な邂逅と短すぎる見舞いの様子を、胸を痛めながら見守っていたのではあるまいか。
 唐突な出会いと、彼女が言うところの余計なお節介は、こうして行われたに違いなかった。
 彼女と別れた後、ふと思い立ってコンビニに立ち寄り、便箋と封筒を一揃い買い求め。
 その勢いで文房具屋にも、普段使うことのない少し高価な万年筆まで購入してしまい。
 助言どおりに命への手紙を書き綴ろうとして ―――

 いとも容易く灯は挫折したのである。

 言葉を綴ろうとすればするほど、溢れる想いは濁流となって。
 灯の右手は、とめどない想いの奔流を受け止めきれずに硬直してしまう。
 『命』と呼びかける最初のただ一文字を紙の上に書いただけで、すべての便箋を、万年筆の中のすべてのインクを使っても、彼女の中の気持ちを上手くまとめることが出来ないのである。
 しばし不動の姿勢で身じろぎもせず。
 灯はベッドに半身を起こしたままの姿勢で、彼女にしては珍しい深い溜息をついた。

 屑篭の縁から ―――

 丸めた便箋のひとつが乾いた音を立てて、フローリングの床にぽろりと落ちた ―――

(続く)
343灯〜Speak The Word 〜:2009/01/28(水) 20:57:49 ID:???
以上投下でございました。305さまが書かれていましたが、
>別のスレで「灯は外に出てくるものが少ないので、主役にするなら心理描写中心にしないといけない」
という指摘もありましたが
との一文に、「それなら心理描写を極力排除して、彼女を主役に書けないだろうか?」
と思い立って、ある意味実験的(挑戦的?)に書き始めたのが今作です。
チャレンジャーだな、自分。と思わないでもありませんが(笑)。
では、次回投下時まで。ではでは〜。
344NPCさん:2009/01/29(木) 00:17:32 ID:???
GJ! GJ! GJ!

GJですよ! ゆず楽様! いつもながら、丁寧な描写が素晴らしい。
他所のSSが終わりそうになかったので、手紙SSはしばらく先になると思ってたのに、こんなに早く読めて嬉しいです。
しかも、単発ではなく、連載ですか。
灯が手紙を書くまでには、色んな事が起こりそうですね。

次回を楽しみにしています。
345mituya:2009/01/29(木) 08:10:42 ID:???
レス返し&感想です!
>>332
捻くれ者なので、まともな方向でネタを使えないのです(汗)
恋愛ごと以外での自分の柊のイメージは、「目を逸らしている」ではなく、ただ「表に出さない」って感じですね。
表に出すことで、誰かに「もう気にするな」「もういいよ」って言われるのが逆に恐い、みたいな。
いつか、この辺のイメージをお話で表せれば、と思います。

>>333
柊の根幹を成すのは、「自分の大切な人の平穏」だと考えているのでvv
くれはの手紙の内容も考えてはいるんですが、思いっきり“君想”と内容が被るので書く気はあんまりありません(汗)
っていうか、最初はタイムカプセルネタで、赤羽神社幼馴染五人(柊、くれは、青葉、トオル、ユリ)の手紙を出そうとして、
トオルとユリのキャラがうまくつかめず、挫折してこういう形になっちゃったんで、多分くれはの手紙だけで書くことはないかと……(汗)

>>ゆず楽様
凄まじくGJです!
あの手紙SSでゆず楽様のモチベーションを上げられたなら、それだけでアレには価値がありました(笑)
でも、そんな甘いですか?(<mituyaは自作の味見で味覚が可怪しくなっている)

あかりんみたいなキャラは、心理描写だけでも難しい気がするのですよ。
それだと、延々喋ってるのと同じような形になるから(少なくとも自分の場合はそうなってしまいます)
寧ろ、三人称からの細かい描写で滲み出る感情を表す方が、あかりんらしい、素敵なお話になるかとvv
というわけで、期待に胸ときめかせて、続きをお待ちしておりますvv
346NPCさん:2009/01/29(木) 23:42:57 ID:???
>>345
上の方のマサトへの手紙みたいな感じ?
>「もう気にするな」「もういいよ」って言われるのが逆に恐い、みたいな。

柊はベルと馴れ合ってるって批判はたまに見かける。
ベルは世界を滅ぼそうとしてるのに、柊はまったく気にしてないからよくない、と。

ベルは今でこそギャグ萌え担当のボケキャラのイメージが強いけど、ポリの父もガーネットの父もディ
ングレイにクレーターにされた街の人たちもベルの“ゲーム”で死んだんだから、もー少し敵視しても
いーだろうに、とは思う。

他にもちょっと前にキャラスレで、エリスの自殺は許さないが、青葉が戦場に出るのはおk、絶滅社が
灯を薬漬けにするのもおk、晶やザーフィが次元の狭間に消えても気にしてないけど、それってどーよ?
みたいな話になったこともあったっけ。

個人的には、柊はマサトの一件がトラウマになってて「世界を救うために誰かを“積極的に“犠牲にす
る」とゆー考えにはアレルギーを持つようになったけど、”結果的に発生した犠牲“には無関心なよーな
気がするなー。
347NPCさん:2009/01/30(金) 14:23:21 ID:???
>>346
ベルと馴れ合うってのが共闘に関してなら、魔王としてのプライド、ゲームとしてのフェアさは守るっていう性格を理解したから「ある状況なら信頼できる」ってわかってるからだろうと思うし
ギャグの部分で馴れ合ってるっていわれたらさすがにそれはKYだと思う
本質的に敵だってのは忘れてない、まぁ単純馬鹿だから目の前で苦しそうにされたら反射的に手を差し伸べるんだろうけど
エリスの自殺云々はアニメ10話かな? あれでは柊はエリスに自分が悪いと思うかどうか尋ねて違うなら胸晴れって言ったわけだし
青葉も灯も晶もザーフィもそれぞれ自分の意思で戦うことを選んでるのに他人がどうこう口に出すのはお門違いだと思う。
灯は勝手に薬漬けにされたんだろ、という反論もありそうだけど、それいえば青葉だって生まれが赤羽の家じゃなければウィザードなんぞにならなかっただろうし
自分で判断できるようになってからの選択で戦うことを選んでるっていう点では同じ
というわけで、俺はその辺は別におかしくないなぁ、マサトの件がトラウマ説は同意
348NPCさん:2009/01/30(金) 15:08:03 ID:???
ザーフィの件は心配じゃなくて信頼しているんだ、とちょっといいことを言ってみる
349NPCさん:2009/01/30(金) 17:30:41 ID:???
>>346
たぶん某所のクロスSSの影響受けて言っているんだろうけど。
ぶっちゃけ柊は聖人でもなければ、何もかも救ってみせるみたいな「正義の味方」でもない。
なんでかんでも、柊自身に押し付けるのはなあ。前の人も言ってるが、他人の意志になんでもかんでも口出しして、止めるようなキャラが柊かよって思うし。
350NPCさん:2009/01/31(土) 00:30:06 ID:???
柊が何もかも一人でしょいこむ必要はねぇんだが、本人はしょいこむ気満々だぜ?
アンゼの集めたエース級ウィザード60人全員追い返して一人で冥魔七王倒しに行っちまったし。
原作スレじゃ、パペロス一人を相手に50レベル5人がかりでやっと相打ちになったとか言ってるってぇのに無茶しやがって……

他人が決めたことに口出しするってぇのは、確かに柊のキャラじゃねぇけどよ、だからこそ、「柊は都合の悪いことから無意識に目を
そらしている」とか言われんじゃねーかな?

いくら「自分で考えて決めた」って言ったって青葉はまだ12歳だぜ? 自分で判断できる歳じゃねぇよ。
日本が第二次大戦で負けまくってたときでさえ16歳以下は徴兵してないんだぜ? 葬式代が無駄になるだけだから。
つまり、事実上自殺でしかないはずなんだよな。
そいで、それは同時に、今のウィザード社会が敗戦直前の旧日本軍よりも厳しい状態だってことも示してんだが…

柊はいい意味でばかな漢だし、そこが魅力なんだが現状認識が甘すぎる。
とりあえず、ベルは見かけたら殺しとくべきだろう。ディングレイが街一つクレーターにした件の責任は柊にはないと思うが、ベル
にはあるだろう。どうせすぐ復活するから戦うだけ無駄って意見もあるが、ベルは柊とは滅多に戦おうとしないから神殺しの剣で刺
したら復活しないかもしれんし。
351NPCさん:2009/01/31(土) 02:05:05 ID:???
俺は>>347に同意かなあ


>>350
12歳だから判断できないとか事実上自殺ってのは決め付けすぎだろう。
実際、同年代のドリームキッドはちゃんとウィザードとして活動してて魔王ローズ・ビフロまで退けているぞ
青葉の事あまり知らないんで、青葉は「そうでない」「自分で判断できない」キャラであるのが明確ならこちらの間違いなんだが


あと、柊はベルと相対して殺そうと(戦おうと)しなかった事はないぞ

フレイスではディングレイ(くれは)と一緒にいて明らかな劣勢(ベルがゲームを提案して見逃してもらった)
黒皇子では摩耶が瀕死な上に皇子が魔神化していの一番に吹っ飛ばされた(ベルは灯の攻撃の後撤退)
合わせ神子では翠覚醒やイノセント乱入でベル逃走(三度目は助けられた上で手を組む提案)
ネタ的にリオンCDドラマでは秘密をばらされかけて戦意喪失(リオンが逃走したためベルも撤退)

という風に状況変化によって実際切り結ぶまでには至らないだけだ
(なお、合わせ三度目及びCDドラマ以外の総てで柊は魔剣を抜き構える行動を明確に宣言している)

そういう状況を無視して「ベルはとりあえず殺しておく」という選択をする方が現状認識が甘いというべきだと思うが

352NPCさん:2009/01/31(土) 09:12:25 ID:???
というかとりあえずで殺しておけるような相手じゃないだろ
明確にキーとなっているボスが明らかになっているならそちらを優先すべきだしゲームとなれば手を出さないことが明らかなベルに手を出して戦力消耗することもない
353NPCさん:2009/01/31(土) 22:19:54 ID:???
ベルを殺したところで、過去の犠牲者が蘇るわけでもなし。

いや「過去の恨みを水に流そう」なんて意味じゃなくてな?
写し身でしかもそれがポコポコ復活するベルを相手に、その場で周囲を危険に晒し
報復行動を取られる恐れのあるような藪をつつくのは愚策だろう。
少なくとも、「過去に犠牲になった奴もいるから」なんて理由とでは釣りあわん。
354191:2009/01/31(土) 23:54:53 ID:???
ファンブック読み聞き終わったんできました。
mituyaさんの柊くれは、はさすがです。
動画のくれは、柊のシーンはSS読んで思いついたものなので
柊くれは魂に火がついたと言って頂けるとうれしいです。

ゆず楽さんの作品もエリスかわいいよ、エリスって感じで好きです。
灯の話も続き待ってます!
355NPCさん:2009/02/01(日) 00:11:23 ID:???
公式の柊はベルと馴れ合ってないよな。
馴れ合ってんのは、ssと翠、竜作、リビング・レジェンド、くれは。


ところで、コスモガードってさ。
ウィザード覚醒直後の16歳の子供に何の訓練もサポートもなしで、休学手続きもせずに半年も一
人で侵魔狩りやらせて、帰ってきたら幼馴染殺せって言ったんだよな? どんだけ鬼なんだよ。
そして、そこまで感覚が麻痺るほど追い詰められてんのに、世界滅亡の鍵を攫って逃げる柊・・・・・
粛清されてないのが不思議でならない。
所属組織の命令に違反したウィザードは、みんなアンゼが引き取ってるみたいだけど。
(絶滅社に逆らった灯とナイトメア。表向き、マーリンに破門されてるマユリ等々)
356NPCさん:2009/02/01(日) 09:54:13 ID:???
コスモガードは柊とくれはが幼馴染みだと言うことを知らなかった節がある
一端出した命令を出したからと引っ込みがつかなくなったてのは硬直気味の組織な感があるな
357NPCさん:2009/02/01(日) 11:42:22 ID:???
コスモガード関係はあくまでもきくたけの勘違いを
ネタに膨らませただけの鳥取企業だからなぁ。

3年のくれはを殺させる為に、な・ぜ・か1年生に退級させるし。

ま、くれはの自己紹介時にいきなり「幼馴染」設定が付いてしまって、
単純にPC間の出会いを演出する為の「接点のないPC2を殺せ」なシナリオが
「幼馴染を殺せ」に変わってしまった為の違和感というか齟齬なんだろうな。
358NPCさん:2009/02/01(日) 12:59:09 ID:???
いや、ちゃんと柊のハンドアウトに幼馴染のPC2にかかわる物だって書いてあるがな
359NPCさん:2009/02/01(日) 14:21:54 ID:???
まー、社員の家族ならともかく幼馴染という名の単なる赤の他人の事情まで鑑みて仕事与えるとか普通ねぇし、むしろターゲットに警戒されずに近づけるから適役と考えたんだろうね
360NPCさん:2009/02/01(日) 15:11:09 ID:???
柊の場合、ウィザードとしての開始地点をどうするのかってのもあるしなぁ

漫画基準だと高1からだが、
高々2年〜3年仕事した程度で「ベテラン」言わんだろ。



…2年でベテランってなるぐらい消耗率が高いって可能性もあるが
361NPCさん:2009/02/01(日) 16:23:25 ID:???
年数じゃなくてセッション数で数えるんじゃないか

メタな話だが
362NPCさん:2009/02/01(日) 16:31:42 ID:???
「歴戦の」って意味なら柊は十分ベテランだと思う
実際のところ、平均的なウィザードはどの程度のペースでミッションこなしてるんだろう
単に街に溢れてる野良エミュレーター狩ってるだけとか、重要地点の監視任務だけとかってのも結構いそうな気がする
363NPCさん:2009/02/01(日) 19:54:46 ID:???
斉堂少年もそんな感じだったしな
364ゆず楽:2009/02/04(水) 18:48:44 ID:???
ちょっと短めですが続き書けたので、後ほど投下に伺います〜。20時ごろにまたお会いしましょう。ではでは〜。
365灯〜Speak The Word 〜:2009/02/04(水) 20:04:03 ID:???

     ※

 普段から分刻みでの行動が身についた灯にしては珍しく、今朝の身支度を始めるまでには随分と余計な手間がかかってしまった。
 それは起き抜けに、ベッドの上から無為に眺めていた屑篭の中身 ――― そんなものにいつまでも気を取られていた所為である。
 書きかけとも呼べぬ手紙のできそこない。
 ほとんど白紙のまま、インクで汚してしまった便箋たち。
 紅い瞳を虚ろに泳がせたままでいると、気がつけば、登校のためにマンションの玄関をくぐる時間まで、あと十分を切っていた。
 ぎしり、と大きな音を立てて灯がベッドから這いずり出す。その音に目を覚ました枕元のどんぺりが、驚いたように上半身を起こし、無粋な起床をうながした主に非難の視線を向けていた。
「どんぺり………ごめんなさい」
 どこか茫洋とした声で呟いて、灯はパジャマのボタンを素早く外していく。視線を移せば、室内の壁にかけられたハンガーには、アイロンのしっかりとかかった輝明学園のブレザーが見えた。
 歩きながら、灯は躊躇なく上着を、パジャマのズボンを脱いでいく。
 壁際まで到達するころには、灯の歩いた跡に点々と、彼女の寝巻きが脱ぎ捨てられていた。
 少々お行儀は悪いが、時間に間に合わせるために、これは仕方のないことであったかもしれない。
 手早く制服を身に纏うと、振り返り、その足で冷蔵庫まで歩いていく灯。
 栄養補給だけを目的とした、ドリンクタイプの栄養食品の缶をそこから取り出すと、灯は卓上時計のデジタル表示に目をやった。
 小気味良い、カキンという音を鳴らしてプルタブを引くと、その中身を一息に飲み干す。
 学園生活という平穏な日常にあっては、昼食までの時間であれば、活動に支障ない程度の栄養分がこれで摂れるのだ。空腹感など抑えが利くし、またいくらでも誤魔化すことができるはずだった。
 キッチンに、飲み終えた空き缶を置く。質素な机の上には、あらかじめ前の晩のうちに用意しておいた学生鞄が置かれていた。灯は身をかがめ、鞄を手に取ってもう一度時間を確認する。
366灯〜Speak The Word 〜:2009/02/04(水) 20:05:21 ID:???
 残り時間、あと二分。
 どうやら急ぎすぎて、予定の時間よりも早く準備が出来てしまったらしい。
 数秒の黙考の後、灯はきびすを返して玄関口へと向かった。
 たかが二分で出来ることなどたかが知れている ――― そう考えたのかもしれない。
 靴を履き、マンションの鍵をポケットから取り出し、出発の準備がすべて整うと、すでに灯の表情にさっきまでの憂いは欠片も残ってはいない ――― いや、いないかのように見えた。
 ただ一度だけ、住人の姿を無くして空虚さを増した室内を振り返り。
「じゃあ………行ってくるね、どんぺり」
 抑揚のない、あのいつもの声で出立を告げた。
 金属音を鳴らしてマンションの扉が開閉されると、冷たい鉄の向こう側で規則正しい靴音が響き、すぐに遠ざかっていく。
 もう見えなくなったはずの主の姿を、どんぺりがいつまでも見送っていた。

     ※

 普段と変わらぬ表情で、普段と変わらぬ受け答えをし、そして普段と変わらぬ挙動を保っていたと、そう思いこんでいた。
 今朝のこれも、普段と変わらぬ朝の登校風景の一幕だと、これっぽっちも気に止めていなかった。
 しかし、実はそう思っていたのが自分だけだったということに、灯はすぐに気づかされることとなる。
 灯にその自覚があったわけではない。また、努めて自分の気持ちを隠そうなどとしていたわけでもない。それでも彼女の心にほんのわずかでも生じたさざ波を、鋭く見抜いていたものがいたのである。
「………なんだか元気ないみたい。どうかした? 灯ちゃん」
 そこに、気遣わしげに自分を見上げる少女がいた。
 海と空の色をしたカチューシャに、大きな青いリボンが揺れている。同年代の少女たちの中でもすらりと背の高い灯と並んで歩くと、彼女のただでさえ小柄な身体がより小さく見えた。
 志宝エリス。
 かつての宝玉戦争の呪縛から解き放たれた彼女は、いまでは灯の同級生として輝明学園に通う三年生である。
 灯が任務で学園に通えない朝はともかくとして、いつの頃からかエリスも灯に時間を合わせて登校するようになっていた。
367灯〜Speak The Word 〜:2009/02/04(水) 20:07:39 ID:???
 無表情、無愛想、無口の三拍子揃った灯だが、不思議となぜか学園で孤立することはなく、意外に言葉を交わす相手は少なくない。いや、それどころか友達と呼べるものも少なからずいる。
 その友人たちの中でも、特に親密な友人同士と呼べるのが彼女、志宝エリスなのである。
 それはやはり、“あの戦い”を経たおかげでもあったのだろう。
 共に戦い、あるときは袂を分かち、そしてまたふたたび強い絆で結ばれた親友として、いまや灯が特に気をかける仲間の一人なのだった。
「………どうして………?」
 言葉少なに、灯が疑問を投げかける。
 それは、なぜエリスが自分に元気がないと思ったのか、という意味の問いであろう。
 かすかに ――― ほんのかすかにではあるが、実は灯は動揺していた。
 心のぶれを極力少なく保ち、平静に努めることは戦士としての必須条件である。絶滅社における訓練でも、実戦の中でエミュレイターと戦うときでも、灯は常に模範的な『戦士』であった。
 それが、今朝の他愛もない憂慮 ――― たかだか手紙が上手く書けなかったというくらいのつまらないことに因る ――― に、わずかながらであっても煩悶しているということ。
 また、それをあっさりとエリスに見抜かれてしまったということ。
 それは取りも直さず、自分の動揺が灯の感じている以上に大きいということであり。
 またそれを、エリス相手にですら隠しきれていないということでもある。
 それが、自分の『戦士』としての沽券にひどく関わることのような気がして。
「………………」
 灯は、形のよい眉をかすかにひそめ、無言の姿勢を崩さなかった。
 ところがエリスは、灯の内心にはあえて触れることなく、
「わかるよ。だって灯ちゃんのことだもん」
 そう言って淡い笑みを浮かべるのであった。
 しばらく無言でいた灯が、エリスの微笑みにぶつかってようやく愁眉を開く。
 自分の心の内を見透かされたことを気に病んでいたはずなのに、いまは不思議と、その表情に穏やかなものが漂い始めていた。
368灯〜Speak The Word 〜:2009/02/04(水) 20:09:58 ID:???
 心の揺れを恥じる気持ちよりも。
 そのことを気づかれた気まずさよりも。

 二人の少女が交わした、たった二、三の会話には大切なものが秘められている。
 言葉数も少なく、表情の変化にも乏しい。そんな自分の心情を、たったこれだけの会話の中で感じ取ってくれる友がいるということ。
 それは決して恥ずべきことではない。
 むしろ喜び、そして誇るべきことであったからである。
「………うん」
 空から射す朝の陽光が、かすかに赤らんだ灯の頬の色を上手く隠してくれた。
 しばし無言で歩く二人。その間もずっと、気遣うようにエリスは灯を見上げながら歩いている。
 決して言葉を急かすでもなく、彼女のことをただじっと待ちながら、エリスは灯の唇が言葉を紡ぎ出すのを待っているようだった。
 アスファルトを踏む自分の足元を見つめながら、灯はじっと黙りこくっている。
 しかし、その逡巡の時間はそう長くは続かなかった。不意に顔を上げ、エリスのほうを振り向くと、今朝から溜まっていたもやもやしたものを、灯はぶつけてみようと思い立ったようだった。
「てが ――― 」
 話し始めた灯の唇が、たった二文字の言葉を吐いただけで固まった。
 手紙、と言おうとして、はたとなにかに思い当たったように口をつぐむ。
「手が? 手がどうかした? もしかして、手が痛いの? 怪我とか、してるの?」
「いや………そうじゃなくて………」
 赤の他人の多少の誤解など気にも止めない灯だが、相手がエリスとなれば話は別である。
 変に話をこじらせて心配をかけたままでいるのは、さすがに心苦しいような気がするのだ。
 灯が口をつぐんでしまったのは、エリスに手紙の書き方を尋ねることを躊躇ったからである。
 明敏な灯は、すぐさま『手紙』というものが、エリスにとって決して良い想い出とは言えないことに気がついたのだ。
 一時期のエリスが、まるで日課のように書いていた手紙。
 それは、身寄りのなかった彼女の、心の拠り所となる相手へと捧げられたものであった。
 だがいまは、エリスが手紙を書き続けていた相手はもういない。
 彼女の夢見た親愛なる“足長おじさん”は、文字通り夢のように、儚く消えてしまっていたのだから。
369灯〜Speak The Word 〜:2009/02/04(水) 20:12:03 ID:???
「………」
 灯の沈黙は続く。こんなことは余計な気遣いかもしれない。エリスに手紙の書き方を教えて欲しいと言えば、彼女は屈託なく笑って、灯に優しく手ほどきしてくれるであろう。
 しかし、これがエリスにとって辛い頼みごとになるかもしれないと気づいてしまった以上、灯にはそれを訊くことが憚られてしまったのだった。
「………灯ちゃん?」
「自分で………なんとかしてみる」
 灯には、それしか言うことができなかった。
 ほんの少しだけ、エリスは泣き笑いのような顔をした後で、
「そっか。うん、頑張ってね、灯ちゃん」
 なにを頑張るのかは分からないが、分からないなりに、灯を励ます言葉をかけてくれた。
「………うん」
 エリスからそっと視線をそらす。本当のことを話せなかったことが、やはりエリスにとっては残念なことなのだ、ということに改めて気づかされて、なんとなく気まずく思う。。
 そのとき、灯の心中をひとつの決意がよぎる。

 書こう。ちゃんと手紙を書こう。

 エリスを心配させ、悲しい顔をさせてしまったことが、不思議と灯の強い決意へと変わる。
 手紙を書くことで、エリスになにを報いることが出来るわけでもないのだが、なぜか灯はそうすることが妥当だと ――― いや、そうしなければいけないような気になっていた。
 この話題はそれっきりでお開きとなり、他愛もないお喋りが輝明学園までの道すがら、しばらくの間続く。エリスの朗らかな声に曖昧に相槌を打ちながら、灯は放課後を待とう、とそう思った。
(便箋、買い足しておかないと ――― )

 彼女が用意しておいた便箋一式は ――― 昨晩のうちにすべて屑篭行きとなっていたのであった。

     ※
     ※
     ※
370灯〜Speak The Word 〜:2009/02/04(水) 20:14:54 ID:???
     ※
     ※
     ※

『命へ。
 先日あったことを話す。▲月×日午前。絶滅社からの連絡で学校を早退。
 指定ポイントにて月匣の展開を確認。
 下級侵魔二体と交戦後、此れを撃退 ―――― 』

 ぐしゃり。
 わずか百文字にも辿り着くことなく、灯が便箋を握りつぶす乾いた音が室内に響く。
 放課後、意気揚々と(傍目にそうは見えなかったが)コンビニで便箋を一揃え購入し直し、自宅マンションへと帰宅した灯が、命への手紙を書くことを再開したのである。

『話すことをすぐに見つけるのは大変だろうから、今日こんなことがあったよ、とかこんなことを思ったんだよ、とか、そういうことを手紙のようにして書いて御覧なさい』
『そしてそれを、命クンの前で読んであげたらいいんじゃないかしら』

 絶滅社の研究施設で出会った女性スタッフの言うとおり。
 助言通りのことを試してみた灯であったのだが ―――
(………なにか………これはなにかが、違う ――― )
 低く呟くその口調はどこか呆然としているようだった。
 いや、むしろ『途方に暮れていた』という表現が正しかったかもしれない。
 買い足したばかりの便箋の枚数が、途端に心許ないもののように思えてきて ―――

 ――― 灯は、そっと溜息をついた。

(続く)
371ゆず楽:2009/02/04(水) 20:16:12 ID:???
以上、投下でございました。いつもよりもちょっと短めの投下でしたが。
では次回にお会いするときまで。
ではでは〜。
372mituya:2009/02/05(木) 19:09:41 ID:???
ゆず楽様乙&GJ!
口下手で筆不精。自身の思いを言語変換するのが苦手、という不器用さがあかりんがあかりんたる所以にして魅力かとvv
っていうか、あのままの調子で書いてたら報告書が一枚出来上がってたのでしょうか?(笑)
エリスも可愛くて、健気で、いい友達ですねvv そのエリスを不器用に気遣うあかりんがまた素敵vv
続きを楽しみにしていますvv

っていうか、他の方の作品読むと「自分も何か書かなくては!」と思うのは何故だろう……(汗)
そろそろNW以外の作品も……アリアンのルージュとか……(ぶつぶつ)
……誰かネタを! ネタを恵んでくれませんか!?(<他力本願かよ)
373NPCさん:2009/02/05(木) 20:03:38 ID:???
おや、久しぶりに見たら投下されている。いいね。思わずニヤニヤするくらいにw
374NPCさん:2009/02/05(木) 21:14:20 ID:???
>>372
アリアンならあんまり作品を見たことないハートフルなんてどうですかい?
ファムとヴァリアスとかネタになりそうだけど
375ゆず楽:2009/02/05(木) 22:40:52 ID:???
>mituyaさま。
灯を描写するにあたっては、どうしても他者との対比や交流を絡めて書かなければうまくいかずに四苦八苦してます(笑)。
というか、あかりんをメインに書くのがこんな難しいとは思いませんでした(汗)。
彼女らしさを失わないように、という意味では、エリス以上に手強いです……。
ところで、ネタ出しに私同様(笑)困っているご様子ですね。
ルージュは私も手を着けたい題材の一つなんですが、目移りしますよね、どのキャラも魅力的で。ナイトウィザード並みに誰を書けばいいか悩みそう(笑)。
ヒロインをノエルにしたとしても、絡む相手をトランにするかエイプリルにするかで悩むし、ノイエや大首領との親子ものもありだと思います。
あ、クリスとガーベラの絡みも捨てがたいなあ。
そんな私はナイトウィザードファンブックのせいで、ポンコツ魔王さまとアゼルさんをイチャイチャさせたくて仕方なくなってます。
CDドラマの二人、カワイ過ぎ……(笑)。
376mituya:2009/02/06(金) 07:46:01 ID:???
>>374
ハートフルは以前読んだけど、手元にないんですよ(汗) でも、ネタとしてはおいしいしなぁ……全巻買うかなぁ(汗)

>>ゆず楽様
口下手キャラは難しいですよね(汗)
自分は、某クロススレで出したクロス先の無口キャラが、喋らせすぎて別人になってしまったという……(汗)
ネタ……ノエルメインは確かに目移りするんですよね。ゆず楽様のおっしゃったキャラ達に加え、レントという選択肢もありますし……
っていうか、主人公だけあって、どのキャラとも大抵シチュが作れる(笑) 膨らませられるかは別として……(汗)
クリガーは私も好きなんですが……あの二人が一緒にいるシチュって、絶対ノエル絡みな気がする(汗)
そして、ファンブックはまだ買ってない……近所のお店全滅だった……うぐぅ……(泣)

なんだかんだと悩みつつ、王子スキーな自分は、多分トランかレントメインの話になりそうです(汗)
カップリング話か、ファミリー話かは、まだ未定ですが……
377NPCさん:2009/02/06(金) 07:57:35 ID:???
できればシグがまだウォーリアだったころの話で!シルヴァは登場。
378NPCさん:2009/02/06(金) 21:49:08 ID:???
エリスに相談した場合、

「手紙を上手に書けないのなら、
お弁当で伝えればいいんだよ、灯ちゃん!」

とか、言っちゃいそうだよな。
唐突ですが。
最近てーぶるとーく始めて、流れでここにたどり着きました。
保管庫も、まだ全部じゃないけど楽しく読ませてもらってます。
HN持ちの職人さんってここ以外にも書いてる人が多いみたいすね。
クロススレとかはたどり着いたけど、他にも作品とか読んでみたいなあ、と。
アニキャラとか二次創作の板とかにいらっしゃるんでしょうけど、
ここに長く居る人、お奨めの板とか、SSとかあったら教えてもらってもいいすか?
(場違いな書き込みだったらゴメンなさい)
>>379
うーん……火群は閉鎖しちゃったからなぁ。

2ch内はナイトウィザードならリリカルなのはクロスwiki内白き異界の魔王
ダブクロアライブならゼロ魔のルイズが召喚したようですwiki内(ルイズ、召喚などで検索してくれ)に一作品

2ch外だとNWしか知らんがNightTalker(中将、とか夜華、なんかと一緒に検索してくれ)内に一作品と、
arcadia内に一作品くらいかな?
あとお前さんが一定年齢以上なら地下を探してもぐりこめ

まぁ確かにこれだけだとスレ違いだろうから、このスレのまとめで気に入った話について話したら許してやろう
>>379
外部だと笑顔動画にNIGHTWIZARD×iDOLM@STERのクロスが2つあがってたなぁ
片方はノベル動画で、もう片方は架空リプレイ。微妙にスレ違いだが
>>379
とりあえずArcadiaにゼロ魔とのクロスでD&Dリプレイとのクロスとカオスフレアとのクロスがあるな。
あとゼロ魔wikiにN◎VAのリプレイとのクロスもある。

>>380
なあ、別に責めるつもりはないんだが、あの作品のキャラがルイズに召喚されましたのwikiにあるのはアライブじゃなくてオリジンじゃないのか?
あとN◎VAも忘れてやるなよ
383380:2009/02/09(月) 17:12:40 ID:???
>>382
あ、いや普通に知らなかっただけなんだ。すまん<NOVA
あとアライブ×オリジン○は単純に間違い。うわぉ、超間違いだらけ。orz

まぁ、自力で探してみるがよかろうよ>>879
あの作品のキャラがルイズに召喚されましたのwikiってリニューアルかなんかした?
半年くらい前に見たときはダンディとか隼人とかNWのサイモン・マーガスが召喚されたのとかがあったんだが、
今年に入ってから久しぶりに覗いてみたらその辺の作品がなくなってたんだが
リニューアル…てかSS作者やらまとめwiki管理人やらがいろいろとやらかしてなぁ…
こんなところに作品置いていられるかーってんで結構な量の作家&作品が逃げてったw
まぁそれはここではスレ違いじゃからその話はここまでー。

なんか見たい話でもだべろうか
オリジンのサイドストーリー(地下抜き)とか、アルシャード系とか
はーい先生。柊・くれはコンビと隼人・椿コンビの本気の殺し合いが見たいです。
テスラネタが見たい
コイズミ(スルガ)×きくたけ(テスラ)………だと?(ゴクリ)
ルージュのレントの話とか見たいかも。トランと比べてあんまり見ないし。
つーかレントの中身って結局何割ほどがトランなんだ?
391ゆず楽:2009/02/17(火) 21:53:03 ID:???
お久しぶりです、ゆず楽でございます。
あかりん手紙SSの最終話、投下予告に参りました〜。
11時頃、伺います。では後ほど〜。
392ゆず楽:2009/02/17(火) 22:51:03 ID:???
投下開始します〜。
あ、一応ご注意。
このSSは、ファンブックのネタバレ含みますので、未読の方はお気をつけて下さいませ。
では投下です〜。
393灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 22:53:13 ID:???

     ※

 日常の他愛もないことや、ふとした想いを紙の上に綴ることの、なんと困難なことか。

 ここ数日の灯の奮闘は、マンションの屑篭に溜まっていく丸めた便箋と、無駄にした便箋を買い足すために、足繁くコンビニへと通う回数が、なによりも雄弁に物語っていた。
 書いては紙を丸め、紙を丸めてはまた万年筆を手に取って。
 だけど、その気持ちを伝えたい相手の名前をただ書き綴っただけで、それ以上なにも書けなくなってしまう。
 いや、書けないわけではないのだが、どうにもこれは自分が伝えたいこととは違う、ということばかりを書いてしまい、溜息の回数だけが日増しに増えていくのだ。
 その日にあった出来事や命に伝えたいこと。
 それは、エミュレイターとの交戦回数や任務の内容、はたまた任務における自分の戦術の反省などでは、断じてなかった。第一、これではまるで報告書ではないか ――― 灯はそう思う。
 まるまる、書き上げた手紙を無駄にするのも勿体無いので、せっかくだから無粋な文章ばかりを連ねた便箋は、有効活用させてもらうことにした。
 結果として、「普段よりも報告書の提出が早くなったな」と絶滅社の上司に褒められたが、別段嬉しくもなんともないし、それについて、灯にはなんの感慨も沸かなかった。
 結局、無為な日々がただ過ぎていく。
 次の定期調整までに書き上げようと思っていた手紙は、ついに書き終えることができず、それどころか、書き始めることすらもできずに、灯は今日という日を迎えてしまった。
 繰り返される日常の中で、意識レベルにまで刷り込まれたもうひとつの日常。
 絶滅社の息のかかった病院の別棟で、生温い溶液に身を浸すあの時間。
 すべての検査をいつも通りに滞りなく済ませ、手早く制服へと着替えた灯は、また命の病室へと向かう。研究棟から一般病棟へと足を運ぶ灯の足取りは、普段よりもやや重い。
 たとえ眠ったままの姿とはいえ、命には会いたい。だけど、また病室の外から彼の寝顔を見つめることだけしかできないのは ――― 気の利いた言葉一つかけてあげられないのは、やはり辛かった。
 受付へと向かう途中、自分の元へと駆け寄ってくる軽やかな駆け足の音に、灯が気づくのが遅れたのは、そんな憂悶を心に抱えていたせいかもしれない。
394灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 22:55:00 ID:???
「灯さーん!」
 足音の主が、やたらと陽気な声で自分に呼びかける。
 そのとき初めて、灯は彼女の存在に気づいたようだった。
「マユリ、久しぶり………」
 肩の辺りで切り揃えられたおかっぱ髪。かつてともに戦ったときからまんまるでふくよかだった幼い少女の顔立ちは、宝玉戦争で再会したときも、そして今でも変わらず愛くるしい。
 大きく、くりくりとした瞳に、トレードマークの大きなトンボ眼鏡。立ち止まり、呼吸を整えると胸に手を当てながら灯を見上げ、にこりと微笑む。
「どうして、ここに………」
「お見舞いです。命さんの」
 人懐っこい笑顔が灯を気遣うようにわずかに曇り、
「………命さんの容態は、どうですか………?」
 おずおずと、そう尋ねた。
「相変わらず眠ったまま………」
 答える声に動揺や憂いを込めないように努めたつもりであったが、マユリは敏感に灯の声音からなにかを感じ取ったのであろう。
「そうですか………」
 と、そう言ったきり、重たい沈黙が二人を包み込んでしまったのである。
「 ――― でもでもっ」
 ちんちくりんの魔法使いが爪先立ちになって、灯へ顔をぐいっ、と近づけながら明るく笑う。
 余った袖からわずかに見えるちんまりとした両手をぶんぶんと振り回しながら、まるで灯を元気づけるように、
「目を覚まして! 元通りに、元気に、灯さんと一緒に暮らせますっ! きっと、きっと!」
 そう声を張り上げるのであった。
 それは、なんの根拠もない、気休めのような励ましである。
 でも、マユリが心の底からそれを信じ、そう願っていることは疑うべくもない。
 だから灯も、それに素直な気持ちで頷くことができた。
「ありがとう、マユリ………」
 てらいも躊躇もなく、口をついて出たのは感謝の言葉である。
 はにかんだように笑うマユリに促されるようにして、灯は命の病室へと急ぐ。
395灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 22:56:15 ID:???
 目をつぶっても、もう命の病室へどう行けばいいのか分かるほど、何度も歩いた建物の中。
 目にするだけで、胸のどこかがちくりと痛む、『真行寺 命様』と黒いマジックで書かれた病室の扉のネームプレートが視界に入る。
 名札の文字をじっと見つめ続ける灯の替わりに、マユリがそっと病室の扉をノックした。
 控え目に、ガチャリ、という音を立てて扉を開け、
「灯さん」
 灯に入室を促した。
 そこで初めてハッとなる。
 らしくもない。ついつい、呆けて立ち尽くしてしまっていたようである。
 灯が一歩、足を踏み入れるのを確認すると、そこでようやく、
「お邪魔しまーす」
 マユリがのんびりとそう言った。
 だが。その声は、灯の耳には届いていない。
 それは灯の赤い瞳に、目を疑うような光景が飛び込んできたからだった。
 白いベッドの上にいつも横臥していた少年の姿が ――― ない。
 しわくちゃのベッド、跳ね除けられたシーツ。深い眠りにあったはずの病室の主が、そこにはいなかった。
「………え?」
 横でマユリが間抜けな声をあげたのにも気がつかない。いまの灯は、まるで五感のうち視覚しか機能していないかのように、眼前の光景だけに心を奪われている。
 ベッドサイドに。こちらへ背中を向けて佇む少年の姿。
それは、いつも灯が憂いとともに見つめていた、この病室の主の背中である。
たとえ背を向けていたとしても、灯が彼を見間違えるはずもなく。
 そして、それはかつてともに世界を救うために戦ったマユリにとっても、すぐさま気がつく彼の背中であるはずだった。その証拠に、顔一杯の笑顔を浮かべて、
「灯さん、命さんが起きましたよ!」
 マユリがそう言ったのは、彼が振り返るよりも先のことである。

 そう。真行寺命が、自らの二本の脚でそこには立っていた。

 完全に予定外、予想外の事態に出くわして、灯は呆然と立ち尽くす。
 冷静沈着であるはずの強化人間の少女は、あまりの驚きと ――― あまりの喜びのため、その場に硬直してしまったのである。
 二人の入室に気がついたのであろう。命がゆっくりと身体をこちらへ向けた。
396灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 22:57:18 ID:???
(みこ、と)
 唇を震わせて声にならない声で呼びかける。かすかな、あまりにもかすかな呼びかけは、きっと真横にいるマユリにも、聞こえなかったに違いない。
 どんな顔をして会話をしたらいいのか。どうやって命の側まで行けばいいのか。
 そんなことも分からぬまま、溢れ出してしまいそうになる想いが心の中で渦を巻く。
 そして、命が灯を振り向いた、次の瞬間。

 灼熱が、灯の腹部を焼き尽くした。

 虚空に迸る光の帯。
 それは、きびすを返した命の、突き出された右手から伸びていた。
 腹部に感じた熱の正体が、その光の先端に自らが刺し貫かれたせいである、と気づくと同時に、灯は吐血した。
 背後で、尻餅をついてへたり込むマユリの、息を呑む音がようやく耳に届く。
 ああ。そうか。あの光から、自分はマユリを護ろうとしたのだ。
 初めて、灯はそのことに気がついた。
 意識を取り戻した命に駆け寄ることは出来なかったのに、マユリの危機に身体が無意識に動いたのが、むしろ不思議な感じがした。
 命の顔を邪悪に歪めながら、命じゃないモノがほくそ笑んでいる。
 腹部から背中までを一気に突き抜けた激痛に、初めて灯の五感が回復した。
 自らの流す血の匂い。自分の名前を悲痛な声で叫ぶマユリの声。

 だけど遠のく。遠のいていく。意識が、生温かい血液と一緒に零れ落ちていく。

 後から考えてみれば。
 このときの灯は、不測すぎる事態とあまりの痛みで、意識が混乱していたのに違いない。
 なぜなら、このときの彼女はなによりも、
(目覚めた………よか、った………)
 自分の身よりも、命の変貌よりも、ただ彼が目覚めてくれたことへの喜びだけを、感じていたというのだから ―――

     ※
     ※
     ※
397灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 23:00:12 ID:???

     ※
     ※
     ※

 それからしばらくの日が経って。
 灯は、いまや見慣れたはずの病室を、普段と違う視点で見上げていた。
 真っ白な天井が視界一杯に広がる。
 天井を見上げているということはつまり、灯も病室の主となったということだ。
 突如覚醒した命に『ヒルコ』で貫かれ、昏睡状態にあった灯。
 絶滅社特製の調整槽の中での治療が続けられ、二、三日は危険な状態にあった灯だが、すべての“異変”が終結を迎えると、一般病棟に移ることが出来るまでに回復した。
 灯の意識が戻り、最初に彼女を見舞ってくれたのはマユリと、いまやアンゼロット直々の指名を受け、世界の守護者代行として重責を負うようになった赤羽くれはの二人であった。
 会話が出来るようになってから最初に教えてもらったのは、命の変貌の理由である。
 冥魔と手を結んで甦った魔王アスモデートの陰謀、ラビリンスシティにおける激闘、そして彼らの勝利。
 自分が眠っている間に新たな世界の危機が勃発し、そして収束していたのだという驚きに、灯は彼女たちの話を聞きながらわずかに目を見開いた。
 彼女と長く付き合いのないものにはなかなか判りづらいことだが、これが灯の驚きの表現である。
 そして。
 一通りの説明を終えれば、あとは年頃の少女たちのこと。
 絶対安静の状態は脱したとはいえ、まだ万全ではない灯の体調を気遣いながらも、少女三人のかしましいお喋り(もっとも灯は聞き役に徹していたが)が始まるのであった。
 他愛もない会話が十分も続いた頃、
「それにしてもさ〜」
 お見舞いに持ってきたはずのお菓子をばりぼりと食べながら、くれはが笑う。
「随分と粋な計らいもあったもんだよね〜? ねぇ、あかり〜ん?」
 まさしく「にまにま」としか表現しようのない、なんとも味のある笑顔であった。
 灯の顔を見たかと思うと、視線を真横にずらして「んふふ」と笑い、そしてまた灯を意地悪な表情で盗み見る。
 すなわち ――― くれはの視線の先には、この病室の元々の主、真行寺命が安らかな寝息を立てて眠っているのであった。
398灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 23:20:21 ID:???
「………なんのこと」
 一瞬声を詰まらせて、結局灯が発したのは、どうにも下手糞な誤魔化しの言葉である。
 そう。一体どこの誰が余計な気を回したのかは知らないが、一般病棟に灯が移るとき、こともあろうに命と同室になるように手配したものがいたのである。
 相手が深い昏睡状態にあるとはいえ、命と同じ病室でしばらく寝起きする日々が続くというこの状況を、くれははからかっているのである。
「あ、ああ〜っ! そうです、そうですよね〜」
 ここにいたってようやくなにかに気がついたかのようにマユリが声を上げた。
「よかったですねぇ、灯さん! あ、いえ、怪我しちゃったのはアレですけど、でも、これって不幸中の幸いって言いませんか〜?」
 胸の前で両手を握り締めながら、やけにキラキラとした目をしてマユリが身を乗り出した。
「………別に。そんなことは、ない」
 ぷいっ、とマユリから顔を背けて灯が横を向く。
 それが、灯の鉄面皮をもってしても隠し切れない、彼女の動揺と赤面を気づかれぬための仕草であるということは、さすがにマユリにもばれてしまうだろう。
 しかし、それでも顔を背けた反対側には、当然のようにくれはが座っているのである。
 かすかに赤らんだ頬と泳いだ視線が、真正面からくれはとぶつかってしまい、慌てて首を元の方向に向ければ、やはりそこにはマユリのまんまる笑顔があって。
「………もう、寝る」
 灯が、逃げ場をなくしてベッドのシーツに潜り込む。
 そして、くれはとマユリが優しい笑顔を見合わせた。

     ※

 退院まで一週間 ――― 。
 そう言い渡された灯が、消灯時間までの長い暇をつぶすための手段というのが、気にかけていた例の『手紙』を書くことであった。
399灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 23:22:34 ID:???
 枕を背もたれ代わりにベッドに半身を起こし、膝の上の便箋に目を落とす。
 難しげな思案顔で、時には小首を傾げながら考え事をし、夜が更けるまでの時間を命への手紙を書くことに費やす日々が続いている。
 このために購入した万年筆と便箋を、灯に届けてくれたのはエリスである。
 輝明学園の学友たちを、絶滅社の息のかかった病院に来させることはさすがに出来なかったが、灯の入院を聞きつけて(情報のソースはくれはであろう)、エリスも見舞いに来てくれたのだ。
 そのとき、マンションの鍵を手渡され、自室に置き去りにしてきた道具を取ってきてほしいと灯に頼まれたエリスは、なぜかやたらと嬉しそうに、
「うんっ、まかせて、灯ちゃん!」
 二つ返事で頷いたのであった ―――

     ※

 書いては筆を止め。筆を止めては考え込み。考え込んではまた筆を動かす。
 最初はたどたどしかった灯の右手の動きは、二晩、三晩と過ぎるうちに、次第にペースを上げていった。
 考えに詰まると、ホッと息をつき。
 隣のベッドで寝息を立てる命の安らかな寝顔を眺める。
 考え事をしすぎて眉間に寄せていた皺が、その寝顔を見つめているうちに柔らかくほころび、顔つきも穏やかなものになっていく。
 そしてまた、命の寝顔を眺めているうちに、新たな書きたいこと、伝えたいことが浮かんでくるのであろうか、ふたたび灯は便箋に向かうのだ。
 二枚目の便箋に最初の一文を書きかけて、灯の右手がピタリと止まる。
 自分が書いた文面をなにげなく見直しているうちに、その表情に明らかな困惑が拡がっていくのだった。
 ――― なんだか、とても支離滅裂な文章を書いている気がする。
 それが、灯の手が止まった理由であった。しばし沈黙、そして硬直。
 だが、すぐに気を取り直したように手紙を書くのを再会する。
 文才とか、気の利いた文章とか、初めから多くを望みすぎているということに気がついたのだ。

 いまの自分に書けることを書こう。

 そう、思い定めてしまえば、後はとにかく書くだけだった。
400灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 23:24:39 ID:???
 消灯時間は、いつのまにか過ぎている。
 蛍光スタンドの光だけが照らす淡い闇の中、ペン先と紙の擦れる乾いた音だけが、いつまでも続いていた ―――

     ※

『命。
 いま、私はあなたへの手紙を書いている。
 書きたいことを、ただどんどんと書くだけだから、変なこと、書くかもしれない。

 あれから、とにかくいろいろなことがあった。任務も相変わらず忙しい。
 世界の危機も、何度か。戦いは日常のように続いている。
 ついこの間、本当に大きな戦いがあって、私たちの周りの環境も随分と変わってしまった。

 変わったことといえば、くれはがアンゼロットに指名されて世界の守護者の代行になったこと。
 忙しすぎて、アンゼロット宮殿からいつも抜け出す悪巧みをしている、とそうぼやいていた。
 先日お見舞いに来たとき、はわ、の発音もどこか元気がなかった気がする。
 少し、心配。

 マユリが久しぶりに日本に来た。
 たぶん、命が知っているマユリよりも、少し大人っぽくなっているかもしれない。
 小さくて、丸い顔なのは相変わらずだった。
 今回、色々と世話になった。改めて、きちんとお礼しに行こなければ。
 そのときは、きっと命も一緒に。

 そういえば。大きな戦い、という話に戻ってしまうけれど、そのときエリスという友達ができた。
 女の子らしくて、とても可愛い娘で、料理が上手。
 とてもいい娘で、私だけがそう思っているのでなければ、たぶん一番の友達。
 目が覚めたら、紹介してあげる。
 そのときは、私とエリスの料理を食べ比べてもらうつもり。
 結構、私の料理の腕もあれから上達した ――― かなり』
401灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 23:26:34 ID:???
 書きあげた手紙の文面を、ぽつりぽつり、と囁くように。
 命のベッドの縁に腰掛けながら、彼の寝顔を見つめながら語りかける。
 こんなに多くの言葉を、灯が喋るのは本当に珍しいことであった。
 ここまで読んでみて、はた、と気がつく。
 そういえば、他人のことばかり書いていて、自分のことをあまり言っていない。
 そんなことに気がついた。

 灯は口ごもる。
 自分のこと。自分の言いたいこと。自分が、命に本当に伝えたいこと。
 それはやはり、こんな紙切れに書き連ねることが出来るほど、小さな想いではないことに改めて気づかされる。
 たった一つの想いが大きすぎて。それは多分、二言、三言で済んでしまう言葉なのに。
 紙に書こうとすれば、その行為が途端に味気ないものに感じられてしまう。
 部屋一杯に紙を敷き詰めて、マンションの屋上からでなければ読めないような大きな文字で書けばいいのだろうか? 違う。それは、多分違う。
 灯は、手にしていた便箋を畳み、命の寝顔をじっと見つめた。

「命」
 ゆっくりと、愛しい名前を呟く。
「命………起きて」
 灯が心の底から願っていること。灯が命に伝えたいこと。
「………なにか喋って。言葉にして、私に伝えて ――― 」

 Speak The Word ―――
 これが、命に望む灯の気持ちだった。
 目を開けて、私を見て。私の名前を呼んで。そして、話しかけて。
 大して喋ることのできない私の代わりに、たくさん、たくさん命の声を聞かせて。
402灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 23:28:31 ID:???
 くしゃり、と灯の拳の中で便箋がひしゃげる。
「命………命………命………」
 蛍光スタンドの薄明かりの中、灯の俯いた顔に紅い髪がふわりと覆い被さった。
 膝の上に、握り締めた便箋ごと両手の拳を置きながら。その肩を、頼りなく震わせながら。
 そして、紅い目を伏せる。だからそのとき、灯は気づかなかった。

 この部屋に、思いがけない奇跡の刻が舞い降りたことに。

「………呼んだ………? あかりん………?」

 懐かしい、愛しい呼びかけが、まるで夢のように病室に小さく木霊する。弾かれたように顔を上げた灯の目の前で、瞳を開けた命が ――― 多分 ――― 笑っていた。
 きっとそう。
 多分、命は笑顔でいるに違いない。
 そのことに灯が確信が持てなかったのは、なぜだか視界が霞んで、命の顔がよく見えなかったからで。
「みこ、と………」
 彼の名前を呼ぶ声の、どうしようもなく震えてしまうのも止めることができない。
「ただいま、あかりん………あ、先に『おはよう』、かな」
 そんな呑気なことを、命は言った。
 灯は思う。
 あんなに声が聞きたかったのに。あんなにお喋りしてほしかったのに。
 でも、いまこのときだけはそうは思わなかった。
 ふわり、と。灯の紅い髪が、横たわる命の顔をカーテンのように覆い隠して。
 二人の間に優しい沈黙が降り積もる。
403灯〜Speak The Word 〜:2009/02/17(火) 23:30:36 ID:???
 いま、このときだけは。
 言葉を紡ぐ時間ではありえない。
 言葉を紡ぐためのものを、言葉を紡ぐためのものが。
 かなりの長い時間、温かく、柔らかく塞いだのだった ―――

     ※

 長い、長いときを経て。
 ようやくかなった願いがある。

 灯の真横を護るように、ヒルコを振るう命の姿。
 命と隣り合わせになり、彼の横でガンナーズブルームの引鉄を絞る灯の姿。
 かつてそうであり、そしていまそうあるべくしてある二人の姿を、いまは見ることができるだろう。
 世界の守護者代行となった赤羽くれはによって ――― かつてのアンゼロットと柊蓮司との関係のように ――― ほとんど彼女専属のお抱えウィザードのような扱いを受けるようになった灯と命。
 くれはが気を利かせたのか、性懲りもなく訪れる世界の危機を回避するためにはそれが必須条件であるせいなのか ―――
 それは余人の与り知らぬところだが、こうして二人が対となって戦場に立つ姿を、今後は見る機会も多くなるであろう。

「援護する ――― 走って、命」
 クールに、手短に灯が的確な指示を出せば。
「よろしく、あかりん! いっけえぇっ、ヒルコぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!」
 光り輝く剣を振るい、どこまでも駆けていく命の姿。

 もう、灯が万年筆と便箋をその手に取ることはないであろう。
 伝えたい気持ち、伝えたい言葉。
 届けたければ届く距離にいるお互いを、いまは強く感じていられるのだから。
 駆ける。駆ける。どこまでも駆ける。

 命の背中を見つめる灯の紅い瞳は、いつよりも優しく、温かなものに見えるようだった ―――

(了)
404ゆず楽:2009/02/17(火) 23:32:40 ID:???
 投下終了〜。
 ファンブックの影響で、話の展開に大幅な軌道修正をするはめになってしまい、大慌てしていたゆず楽です(笑)。
 祝、命、復活! だからSSのなかでも命覚醒へとつながる話にしたくなってしまった(笑)。
 リプレイのエンディングでともに戦うあかりんと命が描かれていたので、このSSは、リプレイの描かれなかった裏話にしてしまいなさい、と神様がそう言いました。ええ、言ったんです。
 それにしても、オペケー(私流のファンブックの呼び方)は色々想像力を刺激してくれた!
 前に冗談で言った裏界女学園ネタ、輝明学園を舞台に書きたくなるくらい(笑)。
 ていうか、登場するキャラがリプレイもドラマCDも魅力的過ぎてどうにもこうにも(笑)。
 では、また、もしなんかネタでも浮かびましたらお邪魔させてもらうかもしれませんが、とりあえずはまた会う日まで。
 ではでは〜。
相変わらずスゴいなぁ……作品への愛を感じて仕方がありませんw

GJ!もうね、灯と命が再会できたのが嬉しくて嬉しくて……ゆず楽さんの手にかかればあかりんがここまでヒロイン力を出すんですね〜流石は元祖NWヒロイン筆頭!w

次の作品を楽しみにお待ちしておりますー!

そう、具体的には竜之介がヒロインな漫画、小説版など外伝メンバー集結なお話を(馬鹿はここぞとばかりに妄想をぶつけてきた)
>>405
君が書けばゆず氏が楽しくなれてみんなも楽しくなれて一石二鳥だよ!
GJですよ、ゆず楽さま! いつもながら心理描写の美しいこと!
(なしでいくと言ってたような気もするけどそんなコトはなかったぜ、と)

次回作も期待してますよ、裏界女学園!
冥界学園の冥魔王が転校してきたり! 天界学園の天使や聖姫と学園対抗のイベントで競いあったり! は、なさそーですけど。

にしても手紙SSは3作書かれたのに夢手紙・過去の自分からの手紙・結局書かず仕舞いとマトモな手紙が一通もないのは何故なん
でしょうね?
ふつーに手紙届いたら文通話になっちまうからじゃねーの?
そして文通話になったら長い間離ればなれだけど深い仲じゃないと。

現代ものだとメールの問題もあるから、ファンタジーの方がそれっぽくできるだろーね

どっかの推理作家は携帯が広まったせいで
密室とか閉じ込められた状況が作り辛くなったって言ってたなぁ
409mituya:2009/02/20(金) 11:48:19 ID:???
きゃー! 気がついたらゆず楽様のあかりん話完結してる!? 何はともあれ、感想!

見事にファンブックに繋げる軌道修正、すごいですね! 改めてゆず楽様の構成能力に脱帽です!
自身の負傷より、相手の目覚めを喜ぶ乙女なあかりんにきゅんきゅんですよ!
ぜひ、その調子で次は乙女なくれはを……(ぉ)


>>407
その答えは、自分の作品の場合、>>408様のご明察の通りです(汗)
ホントは、第一世界と第八世界の文通的な話も考えたけど、そもそも手紙やり取りできる状況じゃないし(汗)

>>408
そうなのですよ! メールがある文化圏だと、それなりの訳がないと、手紙が書けないんですよ!(汗)
で、自分は、無理やり捻ってあんな形になったという(笑)


で、今日は、随分前に言った、ルージュのお話もって来ました!
>>390様のお言葉でレント主役の話書いてみた!(嘘、ホントは自分が王子スキーなだけ)
>>377様、すみません(汗) シグの話は、どうにも妄想が広がらない……なんでだろう(汗)

ってな訳で、投下前の説明をば!

タイトル:趣味と病の関係性
元ネタ:アリアンロッド・リプレイ・ルージュ
カップリング傾向:レント×ノエル(ほのラブ? にやにや?)
内容:なんか、いまいちレントのキャラが掴み切れてません(汗)
>>390様もおっしゃっていましたが、どんくらいトラン要素含んでるのー?(泣)

そんなでもいいよ、という心の広い方、どうぞ呼んでやって下さいませ(一礼)
410趣味と病の関係性:2009/02/20(金) 11:50:15 ID:???
「……空(から)だな」
「どうわっ!?」
 ぼそり、と背後から声をかけられ、釣り糸を垂れていたクリスは、危うく眼前の湖面にダイブするところだった。
「……レント! いきなり後ろから話しかけるな!?」
 何とか踏みとどまって、肩ほどまでの金の髪を翻す勢いで振り返る。驚愕と怒りから、白磁の頬がやや紅潮していた。
 クリス=ファーディナント。その名も、その端整な顔立ちも中性的。背もそれほど高くはなく、やや長身な女性とも、平均的な男性とも取れる。しかしその声は確かに、少年から青年に移り変わる、若い男のものだった。
 細い体躯に不釣合いなほど重々しい鎧兜姿。足元には大きな盾が置かれている。そのいずれも、聖別が施されたもの。腰の剣も何らかの魔力がこめられた品のようだった。まさに聖騎士、といった姿だ。
 しかし、物理的にも魔力的にも硬いこの防具達はひたすら重い。常人が纏えば重みでまず動けなくなるし、平時の活動に支障がないレベルのクリスにしたって、この格好で湖に落ちたらまず確実に溺れる。
 そんな彼を接触に寄らず水面に突き落としかけた相手は、怪訝そうな表情で問うた。
「……何をしている? バランス感覚の鍛錬か?」
 自身が不意打ちで声をかけたせいとは露にも思っていなそうな調子で言ったのは、二十代前半に見える、怜悧な面立ちの青年だった。
 見える、というのは比喩でも何でもない。事実、彼――レント=セプターの外見は、実年齢と一致しないからだ。
 レントは自称・世界掌握を目的とする悪の組織――実際にはどこかアットホームな活動を続ける反神殿勢力組織、ダイナストカバルの技術によって生み出された人工生命。二十歳過ぎに見える彼の実年齢は、満二歳にすら届いていなかったりする。
 しかし、実際には二歳児だろうと、彼は並みの成人を軽く上回る知性と知識を持つ、優秀な魔術師だ。こと戦術的判断において彼の能力はギルドメンバー随一である。クリスも、彼の機転に救われたことは多い。
 しかし、だからといって、危うく重い鎧姿のまま飛び込みさせられそうになったことを、許容できる訳ではない。
「お前のせいだろが、お前の!?」
411趣味と病の関係性:2009/02/20(金) 11:52:58 ID:???
「……私が背後から声をかけたから驚いた、と? それならば、気配察知能力の鍛錬を推奨するぞ、クリス=ファーディナント。別段気配を殺して近づいたわけでもないわたしに気づけなかったというのは、敵からの不意打ちを察知するにあたり、致命的な能力欠如だ」
 いきり立ってクリスが怒鳴るのに、レントは淡々とそう述べる。無表情を飾る乳白色の髪に紫紺の瞳、青を基調としたローブという、どこか冷え冷えとした色合いのせいで、余計に冷たく聞こえる。
 聞きようによってはかなりの皮肉、嫌味の類に取れるが、生憎と彼にその自覚はない。驚かせてしまったことに対する言い訳ですらない。本気でこう思っているのである。
 知性や知識の面では成人以上でも、感受性の面では幼児並み――つまり、思ったことを遠慮容赦なくそのまま口にする。その上で、なまじ知識や判断力がある分、無邪気さがない。結果、どうにも皮肉げとも嫌味とも言えるような言動になってしまうのである。
 しかしこれでも、本当に生まれたばかりの頃――彼らが出会ったばかりの頃に比べれば、マシになったといえるのだ。当初の彼なら、クリスの不明を一刀両断するのみで、『鍛錬を推奨する』などといったアドバイス的な発言はなかっただろう。
 そう考えて、角の立つ物言いに関しては目をつぶることにして、ついでに、驚かされたことへの謝罪を要求するのも諦めて――八割がた自身の油断のせいである、要求したところで言い負かされるのがオチだ――、クリスは溜息混じりに言った。
「で、何しに来たんだ、お前は」
「エイプリルが鹿を仕留めた。運ぶのを手伝え」
 端的に告げるレントに、クリスはもう一つ溜息をこぼした。
「見ての通り、こっちは何も収穫なしだ。今日の晩餐は鹿尽くしだな」
「わたしとノエルで山菜や木の実なども集めておいた。栄養価的には、最良とは言えないが、大きな問題があるほどではない」
 手際よく釣り道具を片付けながら、バケツを目で示してクリスが告げれば、レントは淡々とそう答え、
「しかし、エイプリルより先に自信満々で出て行って、結局収穫なしとは情けないな」
 口調はそのままだが、これは間違いなく、そうと意図して吐かれた嫌味だ。
「うるさいっ! 今日はどうも調子が悪かったんだ。この前もその前も、バケツいっぱい釣って戻っただろうが!」
412趣味と病の関係性:2009/02/20(金) 11:54:30 ID:???
 気まずいのもあって、思わず怒鳴るクリスに、レントはやれやれと言った調子で、
「過去の栄光を持ち出して言い訳とは、情けない。これだから神殿は」
「たまの失敗をねちねち言うほうが陰険だろう! この悪の手先が!?」
 互いに言い合って、睨み合い――どちらともなく、その視線を緩めた。
「……馬鹿馬鹿しい。さっさと行かんとエイプリルがうるさいだろうしな」
「そうだな。ノエルが空腹を覚えている様子だった。彼女を待たせてはいけない」
 口々にいい、さっさと夕食の準備に参加するため、分担して手際よく釣り道具の片付けに入るのだった。

  ◇ ◆ ◇

 今晩は、山道で見つけた地元猟師が使っているらしい山小屋を使わせて貰うことにした、フォア・ローゼスの一同は、各々分担して手際よく夕餉の支度を整えていた。
 一年半前、この四人で旅をしていた際は追われる身だったが、今は追っ手を警戒する必要もない。野生動物などの襲撃はあるかもしれないが、それほど気を張る必要もなく、一同はそれぞれの仕事をこなしていた。
「……不可解だ」
「何がですか?」
 捌いた鹿の肉を見事なもみじ鍋へと調理しながら呟いたレントに、側で器を用意していたノエルが首を傾げた。
 ノエル=グリーンフィールド。レントを造ったダイナストカバルの大首領、そして長らく反逆者として扱われていた薔薇の巫女・ノイエを両親に持ちながら、複雑な事情で実の両親と離れ、16まで貴族の娘として育ってきた少女。
 グリーンフィールド家の養父母達に大事に育てられてきたゆえか、それとも生まれついての気性か、どうにもお人好しで疑うという概念が薄い。邪気のない大きな碧い瞳に、肩ほどまでの栗色の髪がよく似合う、溌溂とした表情が愛らしい少女だ。
 小柄な体躯でちょこまかと夕餉の準備に動き回るさまは、まるで小動物だった。まあ、二年近くの冒険で鍛えたその剣の腕は、小動物どころか百獣の王も真っ青なフィニッシャーっぷりなのだが。
「クリスです。得意分野の釣りで失敗したというのに、落ち込んだ様子がない」
 と、残った鹿の肉を干し肉にする作業中のクリスを目でさして、レントは答えた。
413趣味と病の関係性:2009/02/20(金) 11:55:15 ID:???
「あ〜、そういえばそうですね。でも、クリスさんは釣りが好きだから、釣れる釣れないは関係ないんじゃないでしょうか?」
「……よく、わからないのですが……」
 ノエルの返答に、湖畔でクリスと話していた時とは異なる、丁寧な口調でレントは問い返す。
 レントにとって、偉大なる大首領の息女にして、自身の所属するギルドのマスターでもある彼女は、最大級の敬意と誠意を持って接するべき相手なのだ。
 まあ、そんな“肩書き”を差っ引いても、彼女はどこか放っておけないというか、大切にしなければいけないような感覚を、レントに抱かせたりするのだが。
「う〜ん……うまく説明できないんですけど、趣味とかって、うまくいったとか失敗したとか関係なく楽しむものというか〜……やってることそのものを楽しむというか〜」
「まあ、結果に関わらず、その過程を楽しむもの、ってとこだな。趣味ってのは」
 自身の分担――鹿の毛皮や角など手入れと片付けを終えたエイプリルが、鍋の脇に腰を下ろしながら、ノエルの言葉をそうまとめた。
 エイプリル=スプリングス。ノエルよりは大人びて見える少女。腰ほどまでもある、緩く波立った金の髪。絶妙な均整の面立ちの上の、宝石のような蒼い瞳。すらりとした肢体に深紅の衣装を纏ったその様は、人の目を引かずに入られない艶姿。
 しかし――
「……エイプリル。つまみ食いをするな」
「いいじゃねぇか、ちょっとぐらい。獲ってきたのは俺だぜ」
 ひょい、と素手で鍋の端で煮えていた肉をつまんで口に放り込み、レントの抗議をぞんざいな口調であしらう様は、オヤジ以外の何者でもなかった。
「レントさんは、何かそういう趣味はないんですか?」
 ノエルが、二人のやり取りに割り込むように、ややズレたタイミングで訊いた。レントは鍋の灰汁を取りながら、少し考えてみる。
 結果に関わらず、過程を楽しむ。戦術に関しては、失敗しては楽しむどころか命が危うい。失敗しても大事無い事柄――料理、裁縫、清掃、洗濯……様々な分野を思い浮かべてみるが、“失敗しても楽しめる”ことは何も思い浮かばなかった。
414趣味と病の関係性:2009/02/20(金) 12:00:47 ID:???
 というか、そもそも何でもそつなくこなしてしまうので、“失敗しても”という過程に当て嵌めて考えられる事柄がない。ならば、やっているときに“楽しい”と思うことは――そう考えても、どれも必要だからこなしていることであって、何の感慨もなかった。
「……思いつきません……」
 何故だか無性に情けないような気分でそう答え、そのまま沈黙するのが何となく辛くて、問いを口にする。
「エイプリルは?」
「俺か? 俺は食べ歩きだな。あと、賭け事か。どっちも当たりを引くのに越したことはないが、失敗するリスクがあるからこそ、やりがいがあるってもんだ。まあ、スリルを楽しむ、ってヤツだな」
 エイプリルはあっさりとよどみなく答える。
「……ノエルは?」
「あたしですか? う〜ん、グリーンフィールドのお家にいた頃は、よくお父様とチェスをしたり、お母様とお料理をしたり……どっちも下手なんですけど、楽しいんですよ! あとお母さんと手紙も楽しみだし、レントさんの携帯大首領でお父さんとお話しするのも……」
 問われたノエルは、指折り数えながら次々と上げていく。
「エイプリルさんとお買い物や食べ歩きに行くのも楽しいし、クリスさんと剣の練習をするのも楽しいし……」
 それに、とレントに満面の笑みを向けて、彼女は言った。
「レントさんと、こうやっていっぱいお話しするのも楽しいです!」
 その瞬間、何故かレントの人工頭脳は、全身に対する指示を放棄して、凍結(フリーズ)した。
 そのくせ、循環器系は暴走したように活性化し、頭部――というか顔面に、オイルが集中する。
「……レントさん、どうかしました?」
「い、いえ……その……ノエルが楽しい、と思えることに、わたしが役に立っているなら……光栄です」
 ノエルの言葉に、何とか全身の制御権を取り戻して凍結から脱すると、しどろもどろでよくわからない返答を口にしてしまった。言語中枢と思考回路が、やや混乱しているようだった。
 原因不明の自身の不調に、近いうちにドクトル・セプターに診てもらうべきかも知れない、とレントは思った。その横で、にやにやと面白がるような笑みを浮かべているエイプリルに、気づかないままで。
415趣味と病の関係性:2009/02/20(金) 12:01:45 ID:???

  ◇ ◆ ◇

 レントは夕餉の後、片づけを終えると、見回りと称して小屋を出て、携帯大首領で本部に連絡を取った。自身の不調で、仲間達に――特にノエルに不安を与えたくなかったためである。
 まず、偉大な大首領に近況報告――主に彼の愛娘であるノエルに関すること――を済ませてから、少々不調があることを告げて、自身の製作者であるドクトル・セプターに替わってもらった。
 最初は案じる調子で聞いていたドクトルだったが、レントが経緯と症状の説明を終えた途端、何故か爆笑した。
『ぎぃ――――ひっひっひッ! くくっ……いやいや、レントや、それは心配するようなもんではない。安心せい』
「……そうなのですか?」
 レントは思わず眉を寄せた。突如、言動が凍結することが心配するような問題ではないとは、どういうことなのだろう。
『それはな、人なら誰しも罹る病だ』
「……病……ですか?」
 放置していて平気なのだろうか、と不安げに呟くレントに、ドクトルはあっけらかんと笑い飛ばすような調子で言った。
『まあ、こじらせると厄介なものだが、お前の場合は大丈夫だろう。それに、その病に罹ったということは、お前がより人間らしくなったということだ』
 父は寧ろそれが嬉しいぞ、と笑みを含んだ声で言われて、レントも我知らず口許を緩めた。
 自身の作った人工生命を我が子と想うこの博士が、大丈夫だと言い切るのだ。ならば、大事にならぬうちに自然治癒する類の病なのだろう。
『しかし、レントや。結局、お前の趣味は見つからずじまいか?』
 問われて、レントは少し考える。ノエルの答えを聞いてから、自分の中で、うっすらと浮かび上がったものがあった。
「……結果の予測はつかないものの、やっている最中に、どことなく心が弾むことなら、見つけました」
『ほう、なんじゃ?』
 興味津々、といった調子で問う父にレントは答える。
416趣味と病の関係性:2009/02/20(金) 12:05:28 ID:???
「ノエルに何かしてあげること、です」
『………………』
 何故か、博士が沈黙した。
 やはり的外れな回答だったのだろうか、と、レントは不安になった。
 しかし、ノエルにお菓子やぬいぐるみを作ったり、彼女への土産などを店で見ている時など、確かに“楽しい”と思うのだ。喜んでくれるだろうか、驚くだろうか――その結果(リアクション)は、必ずしも予測通りにならないが、それでも楽しい。
 結果に関わらず経緯を楽しむ、というのには、合致していると思うのだが――
『まあ……それも、ありかもしれんのぅ』
「そうですか」
 沈黙の後に告げられた博士の言葉に、レントは静かに安堵した。
『しかし、その“趣味”はあまり他言せん方がいい。――特に、大首領とノエル嬢当人には』
「は……? 何故――」
『いいから。父の言う通りにせい、息子よ』
 こうまで言い切られてしまっては、問うに問えない。最も敬愛すべき二人に秘め事をせよ、というのは不可解だったが、まあ、この父が言うのだから、それなりの理由があるのだろう。
「わかりました」
『うむ、それでいい。……では、またな。大首領に替わる』
「はい、ではまた、ドクトル」
 替わって通話に出た大首領に、いつものように合言葉のような挨拶を告げて通話を終えると、レントは、憂いの消えた軽い足取りでノエル達の待つ小屋へと戻っていった。


 ちなみに、
「……我が息子の恋の病は、些か重症かもしれんのぅ……」
 本部でドクトルが大首領に聞こえないようにボソリとそんなことを呟いていたが――それは、レントには知りようもないことである。

(終わり)
417mituya:2009/02/20(金) 12:11:10 ID:???
って感じで終了です!
……気がついたらドクトル出張りすぎだろ(汗) 大首領一言も喋ってない!
レントは天然わんこ系だと思う(by佐々木あかね先生)

あえてここで宣言します。自分はトラノエ&レンノエ派っ!
全ては王子と力丸さんと佐々木あかね先生と、なによりきくたけ先生のせいだ!(笑)
うむー、GJー。

むぅ、相変わらずラブコメがいい味出してますな。きちんとまとまった楽しいお話でした。
あとは一行をもちょっと短くすれば見やすい、かも。

ルージュ話も少ない中、楽しく読ませていただきました。
書いてる当人様と似ているからなのか、実にノエルがノエルっぽいww

では、次回の作品をお待ちしています。
419390:2009/02/20(金) 14:36:50 ID:???
ちょっと目を離した隙になんか投下されてるー、と思ったらオレのリクエストだっだとぉぉ!!?
…思わずポルナレフコピペを貼り付けそうになったが寸前で我にかえった。
えーGJとか以前にありがとうございます。そして改めてGJ!ノエル可愛いよノエル。
420ゆず楽:2009/02/20(金) 18:27:57 ID:???
レス返&感想でございます〜。
>>405さま
あかりんと命の再会を喜ぶ同士として、ご感想ありがとうございます。
アニメだとクールという印象の強いあかりんも、紅巫女のころはガッツリとヒロインしていたと思ったので、彼女のヒロイン力のポテンシャルは十分だと思うわけです。
そして、漫画や小説の外伝的お話、というのを読んで、なぜか私の頭に浮かんだのは、柊を主軸にグィードや要いのりが周囲を取り巻き、別世界から以蔵や応理クンが乗り込んでくる、という(中の人的に)大変ひっちゃかなストーリーでした(笑)。無理、絶対(笑)。
>>407さま
前・中篇は心理描写極力押さえたつもりでしたけど、最後にやっちゃいました(笑)。
どうしても、私が書くとこうなってしまいますね。そういう意味ではチャレンジ失敗だったかも。
裏界女学園は完全に小ネタというかただの妄想話なので、書くことは多分ないかも。ぶっちゃけると、

アゼル「ベル……温泉が駄目なら、私、ベルと一緒に学校に行ってみたい……」
ベル「はあ!? あ、あんた紅樹星のときに十分学園生活楽しんだでしょう!?」
アゼル「でも……ベルと一緒じゃなかったもの……私、ベルと一緒に登校して、一緒にお弁当食べて、教科書見せっこしたり、それにできれば部活も、やってみたい……だめ……?」
ベル「う、うぐっ……だ、だけど学校行くって言ったって、どうやって行くのよ!? ま、まさかその格好(帯のみ装着)で通えるわけ……」
アゼル「大丈夫……ルーが用意してくれた……」
ベル「なっ……!?」
421ゆず楽:2009/02/20(金) 18:28:42 ID:???
(ここから回想台詞)
ルー『そういうことならこれを使うがよい。素材は魔殺の帯と似たような原理で作られておる。そう長くは持たぬが、十日程度ならプラーナ吸収能力もほぼ完全に抑制できるであろう』

アゼル「……魔殺の下着、魔殺の制服、魔殺の靴下、魔殺の体操服、魔殺の学生鞄、魔殺の……ベル……どうしたの……?」
ベル「あ、あのコロネめーーーーーーっ!?」

でも、アゼルと学校生活送るのがまんざらでもないベルさま。そんな妄想話(笑)。これもSSにはしないだろうなあ(笑)。

そしてmituyaさま。
ええい、罪な少女だぜ、ノエル! 人工生命にまで恋をさせるとは!
あまずっぱいったらもうっ! レントの人間らしくあるための第一歩がノエルへの恋心……前途多難な予感がひしひしと(笑)。
ノエルは、TRPGにおける、『私の好きなヒロイン四天王』の一人なので、彼女の登場する話はやはり嬉しいです。
ところで。
乙女くれは、かぁ……(笑)。そういえば、私をこの業深き道(SS書き)に引きずり込んだのが、彼女だったんですよねえ(遠い目)。ここしばらく彼女の話書いてなかったけど………なにかネタが思いつけば書いていきたいと思うヒロインではあるんですよね(笑)。
422罵蔑痴坊(偽):2009/02/20(金) 23:12:19 ID:???
>421
年老いたくれはの回想、というのが思いつきました。
>>422
以前どっかで出ていた、柊が戦死したifの話で
「ひーらぎ・・・。あたし、待つの疲れちゃったよ・・・・・・」
とか言うのを思い出した
424NPCさん:2009/02/27(金) 02:02:56 ID:???
>417
GJでしたー、レント可愛いよ、かわいいよ。
ARAの投下は少なめなので、ルージュ分が補給できて嬉しいです。

>420
荒廃、改め『後輩の魔王』が誕生した瞬間だった!
同時に『先輩の魔王』→『千敗の魔王ベールゼファー』とか思いついた

あ、ハエが飛んで(ry

425mituya:2009/03/02(月) 17:41:19 ID:???
超今更ながらにレス返しに来ました(汗)

>>418
アドヴァイスありがとうございます〜。以後気をつけてみます〜。
……自分、ノエルに似てますか?(汗) 確かにパニくりやすくてたまにすごいボケをかますとは自覚してますが(汗)

>>419
ポルナレ……? とは何でしょうか?
こんなのでお気に召していただければ、幸いですよ〜。何か、ノエル好評だなぁ(笑)

>>ゆず楽様
……アゼルとベルの転入先はやっぱ秋葉の輝明学園ですか?(笑)
うちのレントは、自覚なしだけどノエルにめろめろです(笑) そして、嫉妬とか嬉しさとか恥ずかしさとか、いろんな感情を覚えてく、みたいな(笑)
なるほど〜、ゆず楽様がこの道に入られたのはくれはがきっかけだったのですね!
ここらで一つ、原点復帰を……! ネタが思いついたら是非に!

>>422
ぜひ、その思い付きを形に!(笑)

>>423
詳しく! 詳しく! それどこで読めるんですか〜!

>>424
レントが可愛いと思っていただけたなら嬉しいです! レントはカッコイイより可愛いだと思う(笑)
ネタがあれば、またルージュネタも書きたいと思います〜!

今度はいつお目にかかれるか不明ですが、今日はこの辺で〜。
ではでは〜
426ゆず楽:2009/03/13(金) 00:04:50 ID:???
(分かりやすいあらすじ)
→週一ペースの投下なのに、夏に始めた物語が秋に完結するという、SSとは程遠い長話(たぶん文庫本一冊分)を書いてしまった経験上、「次は気をつけよう」と思っていた自分。
→次に書き始めた物語も、冬の初めに書き始めて春完結という(やはり文庫本一冊分)、前回の反省がまるで生かせていなかったことに気づいて愕然とする私。
→やっぱり長編になってしまい、書き終えたのはいいけど「電池の切れた玩具」、「完全にネタを出し切った抜け殻状態」になって、二、三日呆けていた私。
→気分転換に、久しぶりに覗いてみよう、と思い立ってここへお邪魔した私。最新の自分のレスから、本当に久しぶりだったんだな、と実感。
→そして、充電期間に入ろうと思っていた矢先に誰かさん(笑)のレスを見て、またパソコンのキーを叩き始めている自分に気づき、やはり業が深い……と実感する。
427ゆず楽:2009/03/13(金) 00:05:38 ID:???
 というわけで、お久しぶりですゆず楽でございます。
 電池が切れた、抜け殻になった、充電期間だといった舌の根も乾かぬ内に投下に参上です。
 といっても、SSというよりはある意味「妄想小話」なんですが。
 皆さん、経験ありませんか?
 リプレイ読んだり、もしくは一枚の挿絵を見た瞬間に、ストーリーのある話なんていう大それたものじゃなく、一枚絵のようになにかの情景が浮かんでしまうことって(人はそれを妄想と呼ぶ)。
 SSとして形に起こすのは難しいけど、ちょっとした小話的なお話とかイラスト的なものが浮かんでしまうことがよくある自分。たとえば最近だと、NWファンブックが良い妄想の源泉でした。
 私の頭の中に浮かんだ情景(イラスト、一枚絵)のサンプルを挙げると。

 テスラがチョコの味見をする横で、真面目な顔をしながらパン生地をこねているスルガ、とか。
 風呂上り、浴衣姿で牛乳瓶を腰に当てて飲む大魔王と代行殿、とか。

 ……なんか気持ち悪いな、私(笑)。
 まあ、それはともかく(あ、誤魔化した)。そんな私の妄想を形にするために参上した次第です。

 レスしてくれた誰かさん……ええい、言っちゃえ、mituyaさん(笑)。
 小話的なちょっとしたもので恐縮ですが、原点復帰のくれは話、捧げます。ファンブック、リプレイ最終頁のイラスト一枚を見て、ぽわぽわと、とりとめもなく浮かんだお話です。
 よろしければ受け取ってやってくださいね。では、投下です。
428くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:08:17 ID:???
 人間がこの世で最も書き慣れた文字。
 それはおそらく、『自分の名前』ではないだろうか。
 葉書の差出人欄やテスト用紙の氏名欄、はたまた宅配便の受け取りのサインまで。人が生涯で最も多く書く文字は、もしかしたら自分の名前なのかもしれない。
 芸能人やタレントであれば、平凡な人生を送る普通人よりも『サイン』という形でより多くの名前を書き散らすことになるだろう。
 しかし、芸能人でなくとも、自分で自分の名前が嫌いになってしまうのではないだろうかと要らぬ心配をしてしまうくらい、サインを書かなければならない立場の人間というのは確かにいるものである。
 そう。
 それはたとえば、『世界の守護者代行』という役職に就かされた、とあるひとりの少女のように。

     ※

「はわ〜………はわ〜………もーサインするのやだよ〜………右手が痛いよ〜………」
 時空の狭間に浮かぶ豪奢なる宮殿の執務室。
 主人不在のアンゼロット宮殿の一角に位置するその部屋に、世にも情けない泣き声が響き渡る。
「左手ももう動かないよ〜………判子押すのも疲れたよ〜………もう飽きたよ〜………」
 泣き言に混じって時々聞こえてくるのは、ぺたん、ぺたん、という弱々しい音だった。
 見れば、書類の束とスタンプインキの間を行ったり来たりしている左手が、疲労のあまり痙攣しながらも、慢性的に紙の上へと判を押し続けている。
 利き手で書類の確認欄、承認欄に自分の名前を書き、そのつど左手で同じ書類に判子を押す。
 これは、彼女がいまの地位に就いてからはほとんど日課となった定例業務のひとつであったが、今日の書類の量たるや、普段とは比べ物にならないほどなのであった。
「うう………あと、ちょっと〜………」
 黒檀製の豪勢な机に突っ伏すようにして、両手を紙の上でわさわさと動かすその姿は、ほとんど生ける屍である。口は半開きで、目も死んでいた。
429くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:09:05 ID:???
 椅子に腰掛けた彼女の目の高さまで積み上げられていたはずの書類の山は、いつしか十数枚を残すのみとなっている。なんだかんだ言いながらも、きちんと与えられた仕事を果たすのは性分だ。
 彼女の名前は赤羽くれは。
 ウィザードで巫女で、でもいまはなんの因果か世界の守護者(の代行)である。
 ぺたん。かりかり。ぺたん。かりかり。
 赤いインクと重なるように走り書きされた文字は、ちょっとミミズがのたくったように崩れてはいたが、確かに『赤羽くれは』と読めないこともない。
 自らの過去の清算をしに行くなどと嘯きながら、世界の守護者という大任をくれはに任せて異世界へと旅立った銀髪の少女のことを思う。
 いまさらではあるが、やはりくれはは彼女の存在の大きさというものに感嘆を禁じえなかった。
 これほどの激務をあんな涼しい顔でこなしていたのだから、やっぱり彼女は凄い人だったのだ。
 いつも優雅に紅茶を飲み、その合間に、おちょくると面白い魔剣使いをいたぶっているだけの性悪少女ではなかったのである。
「あと三枚………二枚………はわ〜………お、終わったよ〜………」
 フルマラソンを完走したランナーのような面持ちで、ごちん、と机の上にオデコを乗せる。
 ようやく人心地がついた。そう、彼女が思ったのも ――― 無理のないことだった。

 どさり。

「はわ………?」
 机に突っ伏した耳のすぐ横で、なにか不吉な音がした。
 そう。それはまるで、両手で抱えなければ持てないほどの大量の紙の束を、よっこらしょ、っと置くような音だった。
 昔、聞いたことのある、怖い、そして悲しい話をくれははなぜか思い出す。
430くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:11:04 ID:???
 賽の河原で石を積む子供たち。
 せっかく積んだ石を、鬼風が吹いては崩し、また子供らは石を積む。
 一じゃうつんでは、ちちのため、二じゃうつんでは、ははのため。

 おそるおそる、目を開く。
 そこには、せっかく片付けたのにまた新しく追加で置かれた書類の束。
 賽の河原の子供たちは石を積み、くれはは積まれた書類を処理するという正反対の行動ではあったが、鬼が余計なことをしに来て、悲しい目に遭わされるのは同様の立場であろう。
 そこには鬼 ――― 仮面を着けたくれは付きのロンギヌス・メンバーがしれっとした顔をして直立しており、
「赤羽代行。本日中に処理いただかなければならない案件書類、“第二弾”でございます」
 小憎らしいほどに冷静な顔をして、そんな絶望的な台詞を吐いた。

「は………はわーーーーーーーーーっ!?」

 本当に泣き出したい気分になって、くれははこのフロア中に響き渡るような、大音声の「はわ」を叫んだ ―――

     ※

 それからきっかり六時間後。
 ロンギヌス言うところの「本日中に処理が必要な書類“第五弾”」までを片付け終えたくれはは、真っ白に燃え尽きていた。かつてない激務。かつてない物量の書類という名の悪魔。
 これほどまでに仕事が溜まってしまった理由は、実はくれはもよく理解している。
 日頃の仕事を淡々と片付けているわけにはいかなくなるような大事件が二つ、立て続けに彼女の身の回りで起きたからだ。その事件の詳細はあえて割愛するが、
「ぐす………冥刻王め〜………」
 とか、
「柱なんて落としてくれちゃって………余計なことを〜………」
 とか、半泣きで恨み節をぶつぶつと呟く彼女の様子から、くれはがどのような「事件」に関わっていたのかは、事情に明るいものならばおおよそ理解できるであろう。
431くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:13:07 ID:???
 彼女がそれらの事件の処理に、仲間たちと共に東奔西走しているうちに ――― 見る見るうちに仕事は溜まっていったのである。
 というよりも、それらの事件にしたところで、ただでさえ仕事量の多さに音を上げていたところをわざわざ抜け出して処理したものなのだ。
 その結果として、このような末路が自分を待っていたということは、当然のことながらくれはにとっても予測の範疇であった。だが、甘かった。認識が甘すぎた。
 世界の守護者の多忙さが、たかが代行 ――― いやさ見習いのくれはにとって、数日空けたブランクを容易く埋められるほど生易しいものではないのだということを、今さらながらに思い知る。
「お疲れ様でした、赤羽代行。本日の業務はこれでつつがなく、すべて終了です。お茶など、お持ちいたしましょうか?」
 事務的な調子でロンギヌスが言う。本日の激務がよほどこたえたものか、
「いい………いらない………たぶん、吐く………なにか口に入れたら、絶対そのまま、吐く………」
 真っ青を通り越して紫色に近い顔色で、くれはは虚ろに呟いた。仕事の後の煎餅と緑茶をくれはが断るなど余程のことである。彼女の疲労が極限に達していることが、容易に見て取れた。
 左様でございますか、では ――― と、簡潔に述べて一礼し、ロンギヌスが執務室を退去する。
 ぱたり、と扉が閉まり、自分ただひとりとなった執務室で、くれははしばらくの間、
「はわ………はわわ………」
 と、うわごとのように繰り返していた。
 ほっぺたをべったりと机の上に押し付けているので、顔がすっかりへちゃむくれている。
 とても誰かに見せられたものではない。自分ひとりのときにしかできない荒業である。
 そんなとき、この執務室を訪れた来訪者たちが、部屋の扉をノックするというごく当たり前のマナーを知っていたということは、くれはにとっては僥倖であった。
 こん、こん、と二つ。
 なんとか疲労しきった肉体に鞭打って、せめて顔だけはきちんと起こそうと、首をもたげるくれは。
432くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:15:11 ID:???
「………はわ〜………どうぞ〜………」
 本当は居留守のひとつも使いたいぐらいである。
 こんなときに訪ねてくる間の悪い来客に、タンブリングダウンでもお見舞いしてやりたい気分なのである。
 だがそういうわけにはいかない。
 いまこのときにも、どこかで世界が滅亡の危機にさらされているかもしれない。
 これはその予兆を告げる報告なのかもしれない。
 はたまた、世界の守護者代行という立場の自分を頼って来た誰かであるかもしれない。
 それを無碍に追い返したり、自分の気分ひとつで居留守を使うのは、どうにもくれはは気が引ける。これも、結局のところは彼女の性分なのである。
「お疲れ様です、くれはさん。いま、お時間大丈夫ですか?」
「………お疲れ様、くれは」
 同時に入室してきた二人の姿を見て、くれはも思わずほっと息をついた。
 最初の挨拶は真行寺命。つい先日まで長い昏睡状態にあったが、ごく最近目を覚まし、いまではくれはのお抱えウィザードのような立場で働いてくれている。
 そして命に続けて言葉を継いだのは、緋室灯。
 命同様に、最近ではちょくちょくくれはの呼び出しを受け、彼女の元で任務に就くことが多い。
 くれはとは、かつてこの世界の命運をかける大きな戦いを共に切り抜けてきた仲間でもあり、気心も知れている。
 さすがにいまは、くれはの立場もあるからであろう。
 変なところでTPOをわきまえたところのある灯は、人前では「赤羽代行」と呼ぶこともままあるが、こうして仲間内だけのときは、「くれは」、「あかりん」と呼び合う間柄である。
「二人とも〜………いらっしゃ〜い………」
 地の底から這いずり出すような低い声で歓迎の挨拶をされて、命と灯が思わず仰け反った。
「うわ………いつにもまして………」
「………」
 これはいつもよりひどい。
 瞬時にそう察知して、二人ともなんと次に声をかけたらいいものか分からずに絶句する。
433NPCさん:2009/03/13(金) 00:16:55 ID:???
おっと、ひさしぶり。しえん。
434くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:19:13 ID:???
「あ〜、お茶とお茶菓子用意するから待ってて〜………」
 そう言いつつ、のろのろと身体を起こすくれはに、
「あ、いいです、いいです! そんなに気を使わなくても!」
 命が慌てて制止した。実は二人とも、こうしてくれはをちょくちょく訪ねてきてくれるのだ。
 それには、慣れない守護者業務に勤しむくれはをねぎらう意味がある。
 気分転換の話し相手だったり、ときには手土産を持って参上したり。
 実際、彼らのおかげでストレスを溜め込むこともさほどなく、なんとかくれはがやっていけるのは、命たちの働きに負うところも少なくない。
「………ちょっと様子を見に来ただけ。すぐに帰るから」
「今日はとにかく、早めに休んだほうがいいですよ」
 気遣う言葉も、その気持ちも。不思議と二人の息がぴったりと合っている。
 一目でいまのくれはの状態を見抜いたのもそうだが、ほぼ異口同音にそういう台詞が出てくるというのも、二人がいかにくれはを案じているかの良い証拠であろう。
「ううん、平気だよ〜………って言いたいけど………ごめんね………ほんと、今日はもうだめみたい〜………」
 目をうるうるさせながら命たちに謝るくれは。
「そんな。僕らのことは気にしないで、今日はたっぷり休息を取ってください」
「また、今度はもう少し大丈夫そうなときに………来るから」
 そう言い残してきびすを返す二人に、ごめんね、と机にへばりついたままで、くれはがもう一度声をかける。
 揃って首を振り、振り返って歩み去る二人の背中を、くれははしばし見つめ続けていた。

 ぱたん。

 ゆっくり、静かに、執務室の扉が閉まる音。
 急に静まり返った室内に、くれはの長い、長い溜息が落ちた。
435くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:21:07 ID:???
「はあっ………やっぱり、ちょっと変わったなあ、あかりん ――― 」
 唐突に。あまりにも唐突にそんなことを言ってみる。
 やっぱり、命くんが目を覚ましてからだよね ――― 記憶を探るように、そんなことをつらつらと思い浮かべるくれはであった。
 どこが変わったといって ――― やっぱり、瞳 ――― かなあ。
 くれははそう、思う。
 鋭く ――― そして、大きな紅い瞳。
 以前は感情の変化に乏しく、付き合いの長いものでなければ読み取りづらかった灯の心情の動きであったが、いまのくれははほぼ彼女がどんな想いでいるのかを理解することが出来る。
 理解できるからこそ、
「ああ、いまのあかりんは満ち足りているんだなあ」
 そう考えることが出来るのだ。
 かつては冷静すぎた瞳に、いまは随分と穏やかなものが漂っている。
 彼女と任務を共にしたり、ときには任務を与えたりするくれはは、灯の戦い方にも以前と比べて大きな変化が起きていることを見抜いていた。
 機械のように正確で、緻密。
 それがいまは、もっと思い切った戦い方ができるようになっている ――― そんな気がするのである。以前はもう少し、機械的な戦い方のなかに、ある種刹那的なものが漂っていたようだった。
 それは、任務を遂行する上で、自分の身体や生命をもひとつの『作戦の駒』のように見るきらいがあった ――― とでも言えばいいだろうか。
 それがいまは、違う。
 任務を遂行するにあたっての正確さや緻密さはそのままに、なにより『生きよう、生かそう』という強い意志がより如実に表れている。
 それにはやはり、眠りから覚醒した命の存在が大きいのだろう。
 灯の横で寄り添うようにヒルコを振るう少年の存在は、静かに、しかし確かに灯に変化を及ぼしていた。
 灯は前よりも強く、大きく、そして眩しくなった ――― そんな風にも思えるのだった。
436くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:23:14 ID:???
 だから、くれはは溜息をつく。いや、だから ――― という表現は正しくない。
 “なぜか”、くれはは溜息をついてしまう。
 背伸びをする猫のように、机に前のめりにへばりついたままで。
 疲れきった心身を持て余したように、くれはは冷たい机の上でもぞもぞと意味もなく身体をよじらせた。
 そして、命と灯の去った後、誰もいなくなったはずの空間に向かって、これもけっして他人の前では言わない ――― いや、言えない言葉を呟いた。
「羨ましくなんか、ないもんねー………」
 机の端っこ、伏せたままの写真立てに手を伸ばす。
 かたり、と乾いた音を立てながら、一葉の写真が収まった写真立てを引き寄せた。

 そこに写っているのは ―――

 げんなりした顔で、『卒業証書』と書かれた一枚の紙を提げ持ち、突っ立っている幼馴染みの魔剣使いと。
 そこに割り込むように身を乗り出し、満面の笑みを咲かせながらピースサインをする自分。

 二人の ――― 二人だけの写った、記念写真であった。
 輝明学園卒業を記念して二人で撮った写真は、くれはがこの大任を引き受けるに当たって、まず一番初めにアンゼロット宮殿に持ち込んだ品である。
 命たちが居た空間を、どこかふてくされたように眺めていたくれはの顔が、写真に写った自分たちの姿を見ているうちにだんだんとほころんできた。
「………まったく………ほんと、ひとつの場所に落ち着かないやつだよねー………」
 いまはこの世界とは別の場所で、きっと戦い続けているに違いない幼馴染みを、どこか優しいからかいの言葉で揶揄するくれは。
 げっそり、げんなりしていた表情が、段々と快活な、普段通りのくれはの笑顔を取り戻す。
 どこかで戦っているんだよね。どこかで、頑張っているんだよね。
 ぼろぼろになって。ちょっぴり笑える、不幸な目に遭いながら。
 それでも、誰かのために、世界のために走り回ってるんだよね。
437NPCさん:2009/03/13(金) 00:26:44 ID:???
支援。
438NPCさん:2009/03/13(金) 00:27:55 ID:???
はわわ! 支援するよ!
439NPCさん:2009/03/13(金) 00:29:23 ID:???
し。
440NPCさん:2009/03/13(金) 00:32:24 ID:???
あれ? 手が止まった?
441NPCさん:2009/03/13(金) 00:32:56 ID:???
しえーん!かむばーっく!
【違。】
442NPCさん:2009/03/13(金) 00:36:34 ID:???
さるさんついたのかな?
443NPCさん:2009/03/13(金) 00:41:23 ID:???
え。
444NPCさん:2009/03/13(金) 00:42:41 ID:???
ん。
445NPCさん:2009/03/13(金) 00:47:01 ID:???
これは一時を待つしかないか? 支援
446くれは小編〜彼女の最近の日常:2009/03/13(金) 00:50:34 ID:???
「相変わらず、なんだから ――― 」
 でも、だからこそ。
 異郷の地で幼馴染みが奮闘しているさまを思い浮かべると、不思議と心に浮かぶ気持ちがある。
「よし。私も、がんばろ」
 打って変わって生気を取り戻したくれはが、勢いよく席を立ち、両の拳を握り締めてガッツポーズを取っていた。
 明日、頑張るために。今日は、もう休もう。
 でもその前に、お茶を一、二杯と、お煎餅を何枚か。
 今日頑張った自分へのご褒美に、それくらいはあげてもいいだろう ――― くれははそう思う。

 席を立ち、扉のほうへ向かって歩きかけて。
 はた、となにかに気づいたように、慌てて机へと引き返す。

 表になったままの写真立て。
 誰にも見えないよう、見られないよう。
 ぱたんと、優しくひっくり返して、机の所定の位置にまた置いて。
 備え付けの内線電話でロンギヌスの控え室へとコール一回。
「やっぱり、熱いお茶。それとおせんべ。これからテラスに行くから、用意お願い〜」
 受話器の向こうから、かしこまりました、という声がするのを満足げに聞きながら、くれはは執務室の扉へと、再び歩き出した。
 最後に一度。机の上で裏返った写真立てを振り返り。

「おーい………早く、帰ってこーい」

 自分の耳にさえ聞き取りにくいほどの小声で、そう呟くと ―――

 どんな激務も、世界の危機も乗り越えられるよう。
 世界の守護者(代行)の名前に恥じない、明日の自分であるように。

 くれはは心機一転、意気揚々と執務室を歩み出たのだった。

(了)
447ゆず楽:2009/03/13(金) 00:57:02 ID:???
はい、以上、妄想小話でございました。
ストーリー的にはなんの起伏もないSSではございますが。
ゆず楽はリプレイとか読みながらしょっちゅうこんなこと考えてますよー(笑)、という良いサンプル例でした。この妄想癖、なんとか社会の役に立たないだろうか(笑)。
なんというか、浮かんだ映像とかに解説をつける、みたいなやり方で書いてみたんです。
リプレイ最後のイラストで、書類の山に囲まれてはわはわ言ってるくれはの横に、ひっそり柊と一緒に写った写真が置かれてるのを見て………
「ああ、世界の守護者の激務に疲れたとき、くれははきっとこの写真を見て元気を取り戻しているんだろうなー」とか考えたら、浮かんじゃいましたよ、こんな話が(笑)。
とりあえず、こんなものでよろしかったでしょうか、mituyaさま?(笑)
お久しぶりのご挨拶にかえての投下はひとまずこれにて。
ではでは〜。
448mituya:2009/03/13(金) 09:07:45 ID:???
にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?(歓声) 何か来てると思ったらリクした話!?
くれはだはわだくれはわだぁぁぁ〜〜〜!(<意味不明) うわわわ! ゆず楽様ありがとうございます!
何はともあれ乙&GJです! くれはが可愛いっ! 乙女だ! 乙女くれはがここにいます軍曹ー!(<誰)
……すみません、歓喜のあまり取り乱しました(汗)
「こんなものでよろしい」かってよろしすぎますよ! 日本語可怪しくなるくらいよろしいですよ!
充電期間中に無茶言ってすみません! でもいってみるもんだなぁ、とか何かものすごく得した気分だったり!(<おい)
ファンブックの挿絵は自分も「これは!」と思いましたが、小話にすら昇華できませんでした(汗)
ゆず楽様、流石です! 無茶を叶えてくださって、ありがとうございました!(感涙)

……自分は、他所で抱えてる連載も、諸事情(スランプとかでなく、時間とか資料の問題)で書けず、こっちの板に何か書こうにも、ネタが浮かばず……
何かぐつぐつ、あかりんの鍋並みにヤバイ感じに煮詰まっていたのですが、はわ要素が摂取できたおかげで、回復の兆しが見えた感じです!
随分前(それこそ処女作を投下させていただくより前)に考えていたシリアス妄想、何とかちゃんとしたお話に昇華できないか画策してみたり。
……考えてみたら、自分、“裏切り”以降、シリアスなお話書いてない気がするんだ。ラブ妄想ばっかなんだ(汗)
だから今度はシリアス話を! とかいいつつ、ラブ要素入りまくりそうな予感。悪寒。
いいんだ! 愛のない話なんて点睛の欠けた竜だよ! 自分の持ち味なんだ! とか色々自分に言い訳……
何かテンション可怪しくてすみません。いろいろ煮詰まってます(汗)
何とか、煮詰まって味の濃くなりすぎたこの中のものを、どうにか皆さんにご賞味していただける代物にしたいと願いつつ……
次にここに来るときには、作品を投下できれば、と思います(汗)

……なんかゆず楽様への感想のはずが、自身の近況&次回作品予告みたいになってしまった……(汗)
ゆず楽様、申し訳ありません(汗)
これからもお互いに、SS書きの業の道を突き進んでゆきましょう!(<おい)
ではまた〜。
449NPCさん:2009/03/14(土) 23:30:40 ID:???
このさりげない慕情がよい
450ゆず楽:2009/03/21(土) 13:44:36 ID:???
mituyaさま。
喜んで頂けたようで何よりです。というか、そこまでテンション上げてもらえるとは思ってなくてちょっとビックリでした(笑)。
煮詰まっている貴女の一服の清涼剤になったのだとしたら、私も嬉しいです。
SS書きの業の道、ですか……(笑)。今、こちらも煮詰まってますよ(汗)。資料の問題とかなんとかじゃなくて、完全なアイディアの枯渇(笑)。
大抵、一本書き終えるとしばらく放心状態が続くのが常なんですが、書きたいことはいつもくすぶっている、というのが普段の私なんですけど……。
いやー、今回ばかりは本当になにもない!(笑)
立て続けに長編二本でガス欠になったのか、って思うほど(別板の話で申し訳ありませんが)。
でもがんばりますよー。好きなゲームで、まだSSにしてないキャラだってたくさんいるんだから!(空元気)
紫帆とか委員長とかノエルとか、最近だとピアニィ×アルなんてのもちょっといいカップリングですよね?
……なんだ、書きたいキャラ一杯いるじゃん、自分(笑)。
まあ、復帰がいつになるかは分かりませんが、のんびり行くつもりです。
それと、シリアスものじゃなくても、あまあまなラヴものも大好物なんで、書き上がったらジャンジャン投下してくださると嬉しいです(笑)。復帰待ってますよ〜。
>>449さま。
柊とくれはは、表面上はさらっと、だけど根っこの部分では何より誰より深く繋がっているという意味合いで、淡い親愛表現を心掛けて書いてみたんですが、もう少しラヴ成分があっても良かったかも……?と、少し思います。良い、と思って頂けてなによりです〜。
それではこの辺で、次にお目見えの機会があればまた。
ではでは〜。
451NPCさん:2009/04/23(木) 00:48:23 ID:???
ほしゅる
452NPCさん:2009/05/04(月) 11:42:45 ID:???
保守
453NPCさん:2009/05/14(木) 23:32:48 ID:???
久しぶりに投下

元ネタ:ナイトウィザード
メイン:愛さだ
内容:ジュブナイルもどき

では。
454夜を往く者:2009/05/14(木) 23:34:45 ID:???
夜を往く者


 夜風の吹き抜けるビルの屋上。
 その給水塔の上に、片膝を立てて腰かけている少女がいた。
 強く吹き抜ける風に、緩いウェーブのかかった桜色の髪の毛をあおらせながら、その瞳は彼方を見つめる。

 風に吹かれようとも、夜の闇に溶け込むことのない鮮烈な 姿(いろ)。
 春の夜に舞う桜の花弁のようなその髪をそのままに、絡み合う二匹の白蛇と翼を象った、白く、彼女の身長よりも長い杖を肩に。
 しかし、その表情には咲き誇る花のような華やかさはなく。
 少女の面立ちには―――迷子になった子どものような、どこか途方にくれた色があった。
 彼女は、自分がらしくない表情をしていることを自嘲し、溜め息をつく。

「……まったく。
 ワタシともあろうものが、血迷っているようだな」

 彼女は、気が遠くなるほどの悠久の時を生きる存在だ。
 その永い生の目的は、この世界―――ファー・ジ・アースを守護すること。
 正確には、遥か古代に施された封印『大地の護符』を護ることであり、『大地の護符』はある強力な冥魔を封印するためのものだ。

 冥魔。
 存在するだけで世界を汚染する命。狂い捻じれ歪み、ただ汚染し破壊するもの。世界に対する『害悪』。
 そういったものが人の世に出ないために見守り続けることは、永くを生きて、いまだ生き続ける彼女の使命。
 これまで、それを守るためにあらゆる『封印の敵』を消してきた。
 『大地の護符』を宿した人間を食らおうとする侵魔を狩り。
 冥魔と知らずに力ある封印を解明しようとした魔法使いを殺し。
 封印が弱まれば次代に継がせるために封印の継承者の命すらも奪ってきた。
455夜を往く者:2009/05/14(木) 23:47:41 ID:???
 生物らしい情動がなりをひそめた後は楽だった。ただただ『封印の維持』のみを至上命題として永い時を生きてきた。
 それが。

「……いつぶりだろうかな。『悩む』などといった、人間らしい感情を表すのは」

 確かに、彼女ははじめは人間だったはずなのだ。
 あるひと時から、『転生』という一つの生の区切りを失っただけのこと。
 記憶を次に引き継ぐという『転生』をやめ、精神体となって適合者の体に移り住み、『大地の護符』を宿した人間を見守るようになった彼女は、いつしか人間らしい感情を失ったように思う。
 その彼女は、思い返すことすら難しいほどに久しぶりに、自分の『感情』に引っかかりを感じていた。


 原因は、少し前に起きた『大地の護符』の今代の『器』を巡る戦いの出来事。
 害悪でこそないものの、人間を食うバケモノと認識していた侵魔。
 そのうち、下手をすれば彼女よりも遥かに長い時を生き、人間などエサ程度にしか考えていないだろう『魔王』。
 その一柱が、たかが人間のために死んだという事実。
 しかもかの魔王は、人間に抱いた『愛』のために死んだというのだ。

 彼女は、いまだにそのことにわだかまりを抱いている。
 魔は人を食らうものだ。相容れるはずはない。
 人間とて、食物相手に相互理解の意味で愛を抱くことなどない。
 それは決まり。それは定め。覆らぬ条理にして普遍たる不変。食う側と食われる側、という立場に変化があるはずもない。
 彼女はその決まりを、強く理解し強く信じている。

 不変。
 長く生きれば生きるだけ、変化は起きにくくなる。凝り固まる、頑固になるなどとも言いかえてもいい。
 刺激を刺激と受け取れなくなるため、生き方が固定されていくとも言える。
 にも関わらず、『彼』は、悠久の時を生きた魔王の根源欲求である『生命を食う』という本能を、一時の気の迷いだろう『情』が超えたというのだ。
 そのことは、彼女にとって大きな衝撃だった。
456夜を往く者:2009/05/14(木) 23:50:29 ID:???
 変わらないはずの生き方を、100にも満たない人間が変えてしまったということ。
 すでにもういなくなった『彼』は、その変化に気づいた時どう思ったのだろう。

 怖くなかったはずはないのだ。
 変わらないことが変わることは、特に生まれてからずっと変わらずに生きてきた 魔王(もの)たちにとって、何よりも恐ろしいものであっただろうと思う。
 それでも『彼』はその選択をした。
 魔王として生きることを捨て、人のように誰かに情を込めて呼んでもらいたい衝動を優先させた。
 たとえそれがその身を滅ぼそうとも、その願いが叶えられなかった未練を持ちながらも、その選択には後悔一つ残さずに。

 そして彼女は思う。
 ただ使命を続けている自分という存在よりも、それはずっと『人間』らしい生き方なのではないかと。

 羨ましいとは思わない。
 彼は彼自身の使命にして存在意義たる『世界の征服』を捨てた。その時点で彼女と彼は思想的に分かり合えるはずもない。
 けれど。もともと人間だった自分よりも、ヒトでない侵魔たる『彼』の方がずっと人間らしい、と思えてしまった。
 『ヒトではないバケモノ』、『ヒトを食らうバケモノ』と認識して侵魔を狩ってきた彼女にとっては、『ヒトとは何か』ということはとても大きな問題だった。


 風が一際強く吹き抜けた。
 髪があおられ、一瞬だけ目をつむる。その時を狙ったかのように。
 がんっ、と。彼女が腰かけている給水塔に向けて『誰か』が飛んできた。

 目を開けた彼女は、いきなり目の前に出現した人間に目を丸くした。

「よう、こんなところでなにやってんだ?」

 色の濃い肌、チョコレート色の髪、太めのきりりとした眉、澄んだ湖のような瞳の色。
 掛け値なしの美形ながら、爽快で屈託も邪気もない表情の青年。
 少女はその相手を知っていた。彼女は相手を認識すると、つまらなそうに目を細めた。
457夜を往く者:2009/05/14(木) 23:55:31 ID:???
「何をしている、勝てないヒーロー?」
「いきなり手厳しいなぁ……。
 夜間パトロールだよ、夜の方がやっぱりエミュレイターは出やすいからな」

 彼の名は橘 倫之助(たちばな りんのすけ)。
 奇妙な謎生物に寄生されたにも関わらず、その悲劇にも受け取れる状況をまったく理解することなく、しかし世界を守るためにその力を行使する紛れもないウィザード。
 秋葉原界隈の近所の平和を守るヒーロー『リンカイザー』を名乗るちょっと―――正確には、ものすごく頭のよろしくない青年である。
 頭はまったくよくないが、大事なものは知っている。意地をはるべき場所もわかっている。けれどやっぱり脳みそスライム。
 そんな彼は、彼女にとっては一度共に戦ったことのある―――関係性を表すのなら、腐れ縁というのが正しいだろうか。

 彼女には他の腐れ縁二人とは異なり、この青年だけは何を考えているのかいまいちわからないところがある。
 相も変わらず能天気な顔をしている知り合いに、悩んでいる自分などというものをさらしてしまうのは彼女の沽券が許さなかった。
 彼女はいつもの通り、酷薄な瞳で彼に尋ねる。

「ご苦労なことだな。今日は成果はあったのか?」
「エミュレイターは今のところ出てないぞ」
「そうか、挨拶に来ただけなら帰れ」
「冷たいなー。様子が変だから何かあったのかと思ってあいさつがてら見に来たってのに」

 聞けば、地上から20階建てのビルの屋上にある給水塔の上の彼女の表情が見えたのだという。
 本当に頭以外の機能はムダにいい奴だな、と言うと、別に彼女は誉めているつもりはないが、彼は照れたように笑った。

「で。今はお前は葵じゃなくて、ゲシュペンストってことでいいんだよな?」
「子ノ日葵はイノセントだぞ。こんな所に来れる道理もあるまい」
「……よくわからんが、今はゲシュペンストなんだな?」

 相変わらず働きの悪い相手の頭に彼女―――ゲシュペンストはため息をつく。
 そんな彼女を見て、倫之助は自分も給水塔に腰かけた。彼の行動に睨みをきかせながら、彼女は呟く。
458夜を往く者:2009/05/14(木) 23:57:25 ID:???
「なにをしている。街のパトロールならばこんなところで休憩しているヒマはあるまい」
「さっきも様子が変だって言っただろ? 何かあったのか?」
「恩着せがましい奴だな……個人的な問題だ、お前が気にすることではない」

 そう言ったにも関わらず、彼はニコニコとした笑顔でゲシュペンストの方を見ている。
 彼女が話すか、もしくは別の事件でも起きない限りは離れる気はなさそうだ。
 大きくため息。面倒な奴に見つかったな、と悪態をつきながら、彼女はぽつぽつと話し出した。

「……お前も、覚えているだろう。魔王モッガディートのことを」
「あぁ、覚えてる。忘れるわけもないさ」
「アレを見るまで、ワタシは侵魔というものを人食いのバケモノと信じてやまなかったのだがな。
 ―――今、その認識が少し揺らいでいる。
 まったくもって馬鹿らしい。これまで何百、何千、何万……いや、数え切れぬほどの侵魔をこの手で潰してきた『ワタシ』が、だ」

 そう言って、彼女は嘲いながら吐き捨てる。

「くだらないと思わないか、ヒーロー。
 バケモノとはなんだ。外れたものとはなんだ。そんなものはワタシたちも変わらない。そんなことはわかっていたはずなんだ。我らと侵魔の間には差はさしてないことは。
 モッガディートのように愛を抱くことができる侵魔もいれば、ワタシのように情を捨てることのできるヒトもいる。
 ならば―――我らは、何をもってヒトであることを証明すればいい?」

 そこまで言って。
 彼女は大きくため息をついた。

「……なんてな。
 お前に言ったところで、解決するはずもない話だ。忘れろ」

 頭のよろしくない彼に言ったところで解決などしないと、言外にそう言って彼女が会話を一方的に打ち切ろうとする。
459夜を往く者:2009/05/14(木) 23:58:43 ID:???
 しかし、倫之助はしばらく考え込んだあとで、聞いた。

「えーと……ゲシュペンスト、悪いが聞いてもいいか?」
「なんだ。どうやって忘れればいいか、なんてふざけた話だったらならその辺を3歩ほど歩いてこい」
「そうじゃなくて。
 俺にはよくわからんのだが、今の話のどこに悩むところがあるんだ?」


 一瞬、あまりのことにゲシュペンストの息が止まった。
 困ったように尋ねてくる倫之助は、至極真剣な表情をしている。
 もちろん頭のよろしくない彼のことだ。からかっている、という選択はありえないだろう。
 頭痛がしてくるのを感じながら、彼女は言う。

「あ、あのな……もういい、お前に話したワタシがやはり馬鹿だったと―――」
「そうでもなくて。バケモノとか、俺たちと侵魔が一緒とか……そんなわけないだろ?」

 倫之助が首を傾げる。
 その目は真剣で真摯で、心底不思議そうな瞳だった。

「俺にとっては、誰かを傷つけようとする奴は敵。悪いことする奴は敵だ。
 侵魔は悪いことする奴だから敵だろ? 悪いことしない魔王なんて俺もはじめて見たけど、少なくともモッガディートはただ人間として生きたかった奴だった。
 お前はさっき俺たちと侵魔は一緒だって言ったけど、悪いことするから敵なんであって、力があるから敵なんじゃないだろ?」

 不思議そうな彼の言葉は、実に単純な内容だった。
 侵魔だから悪、ウィザードだから善ではなく、害を為すから悪であり、害を為す悪から人を守るのが自分の正義だと。
 たったそれだけの、単純で、簡単で、けれどだからこそ―――長い時をかける内に削り消えてしまった、一度は彼女も胸に抱いた思いだった。

 く、とノドが鳴る音がした。
460夜を往く者:2009/05/15(金) 00:01:13 ID:???
「は。ははは、ははははははははははっ!!
 力があるから悪とは限らない? 立場が悪を決めるわけではない? 単純っ、実に単純だなぁお前はっ!」

 腹の底からの笑いなどいつぶりだろう、とゲシュペンストは思いながら。
 ありのままに、今聞いた言葉で浮き上がってくる言い表しようのない感情の爆発を、ただただ笑うという表現で発散する。
 目の前で爆笑している仲間を見ながら、思ったことを言ったら相手が妙な反応を返すことは日常的によくある倫之助は、不思議そうに首を傾げた。

「なぁ、俺変なこと言ったか?」
「自分が誰にそんなことを言っているか理解できていないのだろうな、お前は。
 ……まったく、こんなところで年を感じるとは思っていなかったぞ」

 あぁ、まったく。年を重ねることは嫌になる。
 大切だと感じていたことは、何よりも大事だと思っていたものは、確かにこの胸にあったはずなのに。
 いつのまにか、端からどんどん忘れていってしまうことが、悲しくて、悔しい。

 だからこそゲシュペンストは宣言する。目の前の、そんな単純なことを思い出させてくれた彼に心よりの賛辞と、わずかばかりの感謝を込めて。
 彼女は知らないが、話題になった魔王・モッガディートも発した、目の前の青年への賞賛を。

「―――認めよう、橘 倫之助。
 どこの誰がお前をそうと認めずとも。
 お前の行動は。お前の言葉は。お前の振る舞いの全ては。誰かのためにあるものだと。
 誰かを守り続けるその信念を捨てぬ限りにおいて、お前はヒーローだよ、リンカイザー」

 桜色の深い底の見えない瞳が、倫之助を射抜く。
461夜を往く者:2009/05/15(金) 00:02:15 ID:???
 それは彼の行動に対する彼女の心よりの賞賛だったのだが―――当然、彼に理解できるはずもなく。
 なんとなく、その瞳に頷いた。

「あ、おう。ありがとう」
「それを言うべきなのは、むしろこちらの方なのだがな……。
 まぁ、いいだろう。ワタシはそろそろ戻らねばならん、子ノ日葵の家族が心配するからな」

 あまりよくわかっていない様子の倫之助を置き去りにするように、ゲシュペンストは給水塔の上に立ち上がった。

「ワタシがこの体から出る気が起きないことを鑑みるに、まだ事件は終わっていないのかもしれん。
 お前たちの周りで何か起きれば、またワタシも動くとしよう」
「……よくわからんが、何か事件があったら手伝ってくれるってことか?」
「おおむねその解釈で間違いはない。
 ではな、ヒーロー。いずれまた、紅い月が昇った時に会おう」

 そう告げて、彼女はその顔に不敵な笑みをとり戻し。
 自らの認めたヒーローを、その場に残してそこを離れた。



 ゲシュペンストは、自らの旅の終わりを幻視する。
 これまでの記憶の中では覚えのない、『大地の護符』の監視を終えてもいまだにこの場に残る理由に、終焉を感じ。
 再び彼女の使命と運命が彼らに絡む時がある予感を感じて、そのために行うべき用意を考えながら。
 今日も彼女は、夜を往く。

fin.
462風ねこ:2009/05/15(金) 00:03:45 ID:???
 ご無沙汰してますお元気ですか(ほんとに挨拶)。
 風ねこですー。やっぱりナイトウィザードです。

 今回の主役はゲシュペンスト。脇にリンカイザーでありますっ!
 時系列としては愛さだ一話と二話の間の話。
 ゲシュ子もモッガちんと同じく長い間生きてきた存在なんで、一番最初の気持ちとかは大分薄れてるんじゃないかなーという超俺解釈。
 リンカイザーの『ヒーロー』っていうのは、『こどもの夢』だと思うのです。
 誰もが現実を見て諦めていく中、倫之助は『バカ』っていう特徴だけでそれを貫く奴だと思います。
 理想論、なんて言葉がありますが、あいつはその理想を真っ正直に掘り進んで突き抜けるタイプのバカです。エネルギーが凄そうだからなぁ(笑)。

 そのあり方は、凝り固まった相手にこそ強く響くものだと思います。
 モッガちんにしろ、ゲシュ子にしろ、長く生きると一つのあり方に固まりやすいもの。
 それを年若い彼が『バカ』ゆえに固めたその『正しい』ユメで貫き通すことで、ほんの少しだけあり方を変える。
 そんなところをちょっとばかり書いてみた次第。
 後世畏るべし、ですね。

 こんな感じで、また別のキャラも書いてみたいなぁ。
 ではまた何か思いつきましたときにでも。
463NPCさん:2009/05/15(金) 20:52:00 ID:???
乙。
これはよい脳味噌スライム
464NPCさん:2009/05/16(土) 01:22:48 ID:???
これは惚れるw
465NPCさん:2009/05/16(土) 23:21:39 ID:???
グッジョブ。グッジョブ。グッジョーブ!
……いやはや、リンカイザーみたいなバカって、お利口さんよりずっと偉大だよな、マジで
466NPCさん:2009/05/24(日) 17:49:57 ID:???
>>462
今更ながらGJですw なんていいリンカイザーw
467NPCさん:2009/06/01(月) 16:51:03 ID:???
どうもお久しぶりの保管庫の中の人です。

昨日今日と保管庫の方に荒らしが沸いていたんでアク禁しました。
コメント等に怪しいURL張ったりしてるのを見かけても踏まないよう注意してください。
468NPCさん:2009/06/01(月) 19:23:03 ID:???
>>467
おぉぉ、素早い対応乙ですー
469NPCさん:2009/06/05(金) 00:58:55 ID:???
さて、それじゃ投下しますか

ジャンル:S=F空砦
メインキャラ:赤い人
注意:リアルで空砦追ってる人専用。それ以外はブラウザ閉じましょう




おーけーですか?
470星灯下話:2009/06/05(金) 01:05:04 ID:???
 夜の帳が落ち、星の明かりがいくつもいくつも光を投げかける。

 ここはラース=フェリア。
 深遠な闇に閉ざされ数多の魔の跋扈する『滅亡した』とされる世界。
 しかしどこの誰が『滅亡した』と言おうと、確かにそこに人は懸命に生きていた。
 常に襲いくる冥魔や、それらを統べる王達の力によって起きる天変地異という、到底生きていけるとは思えないような環境の中で。
 ―――それでも、人は生きていた。

 彼らは身を寄せ合い自身の身を守り、自分たちの生きる場を奪い返すため、より強い戦団に希望を見て集いだす。
 壮絶と言うのも生ぬるいほどの戦いが起こった。
 いくつもの命が失われ、数多の屍が地を覆い、涙と血がその土をぬらし、戻らぬ人への悲しみと叶わぬ帰望の声が風に混じる。

 痛みを当然のように生み出し、滅びを撒く闇を纏う魔の支配。
 それを、ただ人間の意志をもって覆した地域があった。
 その名をフレイス。
 炎の守護者ジュグラットが加護し、膨大なプラーナを持つ『紅き巫女』とその騎士たちや、強き国ラグシア新興国のある、現状唯一の人類の地。

 いかにその地といえど―――いや、ただ一つ人間側の地であるがゆえにか。その地を狙う冥魔は昼夜を問わず、いつ襲撃してくるかわからない。
 だからこそその場に集う者たちに気の休まる日はないと言っていいのだが。
 その夜は、少しだけ違った。
 もちろん境の警備が緩むことはないのだが、人類陣営の戦士たちの集う炎砦には、出るものはささやかながら宴の輪があった。
 宴の要員は、この世界を滅ぼそうとする冥魔七王の一柱、冥界樹と呼ばれる冥魔の巣窟を生み出し、侵攻をかけたエンダース。
 それを見事打ち倒し戻った、4人の戦士の帰還だった。
471星灯夜話:2009/06/05(金) 01:12:44 ID:???
 謎の仮面のカニ鎧こと、シンゴ。
 彼は、人と話した経験も(記憶喪失もあいまって)あまりなかったからなのか、自分に快く話しかけてくれる戦士たちにもみくちゃにされながら飲まされ食わされている。
 変態嫌いのハーフウンディーネ、リューナ。
 彼女は、たしなみ程度に酒を入れつつ、有力な傭兵団や各国からの騎士の統括者らと海千山千な話をしている。
 無口なアルセイルからの助っ人戦士、ディフェス。
 彼女は、出される少し豪勢な食事と振舞われる酒をやはり無口にちびちび食べている。
 そして、もう一人は―――
472星灯下話:2009/06/05(金) 01:14:13 ID:???
 ***
「―――宴の中心が、こんなところで何をなさっているのですか?」

 柔らかな声が、炎砦の屋上に響いた。
 声を発したのはまだ幼さの残る少女。深紅の髪を肩口で揃え、髪と同系統の色でまとめた神職風意匠の裾の長い薄絹を纏った少女の名はガーネット。
 この砦の年若い主にして、『紅き巫女』と呼ばれるフレイスにおける反冥魔勢力のトップの一人である。
 彼女に声をかけられた屋上の先客は座って夜空を見ていたものの、声の主に気づいてそちらを見た。

「あぁ、巫女さんか」
「はい。宴会場の中に柊さんの姿が見当たらなかったので、探しに来てしまいました」

 そう微笑んだまま言うガーネットは、先客こと柊蓮司の近くまで行くと自分もしゃがみこんだ。
 彼女はいたずらっぽく尋ねる。

「いない柊さんの分も、シンゴさんが遊ばれてるんですよ?」
「あー……そりゃ悪いことしたな。ほら、俺も一応未成年だから酒は勘弁してほしいんだよ」
「えぇと、すみません『ミセイネン』ってなんでしょう? 第八(そちら)の言葉ですか?」
「んー。酒飲んでいい年ってとこか? 一人前じゃないから飲むなってのが決められてんだ」
「第一(こちら)では、15になったらとりあえず世界の危機を一度は解決することで大人だと認められるのですが」
「相変わらずすげー世界だな、ラース=フェリア……」

 呆れたような様子の柊を見て、くすくすとガーネットは笑った。

 彼女と彼は異なる世界の住人だ。
 そんな彼らの会話は互いの世界の常識が通用しないことも多い。
 少し前までは異世界どころかこの塔の外からすら出たことのなかったガーネットは、外の話を聞くことが大好きだった。
 義妹の『魔王殺し』ポーリィ=フェノールや、側近で姉代わりのリューナとともに一時期とはいえ旅をした時は毎日が新鮮で。
 世界の滅亡という事態が起き、炎砦で人を導く標として望んで担ぎ上げられた後はなかなかそんなことをすることもできなかった。
 だから、久しぶりにそんな事ができて嬉しかったのだ。
473星灯下話:2009/06/05(金) 01:15:34 ID:???
 柊がそんな彼女を見て聞く。

「そういや、一人で出歩いてて平気なのか?
 あんた今はラース=フェリアでもとんでもない重要人物なんだ、お供も連れずに一人でほいほい外に出ちゃマズいだろ」
「外、と言っても炎砦の中ですし。メイヤーもクロトワ、リューナにポーリィも中にいます。
 一言呼べば来てくれますし……それに、ここには柊さんがいるじゃないですか」
「そりゃ言われなくても守るけどな。けど、俺は守るのに向いてるわけじゃねぇんだからあんまり頼りにされても困るぜ?」
「じゃあ、頼りにできるくらい強くなってください」
「言うなぁ、あんた……」

 そんなことを言いながら頬をかく柊を見て、ガーネットは微笑み続ける。
 彼女が『紅き巫女』である以上、この砦に集まっている者たちは誰もが命を賭して守ろうとするだろう。
 けれど彼はポーリィやリューナ、元からの守護騎士たちと同じく、『紅き巫女』でなくとも彼女を守ってくれる相手だと彼女は思っている。
 戦局で失ってはならない人間だからという意味ではなく、親しい間柄だからという理由で。当然のように。

 彼が自分のために剣を振るってくれるかもしれない、ということに少し胸が温かくなる。
 それは、家族が自分を守ってくれることとはまた違った意味で彼女に力を与えてくれる。
 彼女が感じる力はなんと名づけるべきものなのか、彼女にもまだよくわからないけれど。

 その力に後押しされ、ガーネットは自分でも驚くくらい積極的に隣にいる青年に話しかけた。

「それで、柊さんはこんなところで何をなさっているんですか?
 柊さんのお部屋は用意してありますし、迷ってらしたならわたしがご案内しますよ」
「迷子で外来るとかどんな方向音痴だよ、ちゃんとわかってるから気にしなくていい」
「じゃあ、なんでこんなところにいらっしゃるんです?」
「来る前にはよくわからないもんに襲われて、来てすぐにバカでかい樹まで行って戦って……って、息つく間もなかったからな。
 ちょっと息抜きしたかったんだよ」

 常に争いに狩りだされる彼は、けれど戦いに飢えているわけではない。
 むろん売られたケンカは買うし、降りかかる火の粉は払う。強い相手を見て心踊らないほど枯れてもいない。
474星灯下話:2009/06/05(金) 01:25:16 ID:???
 けれど、柊はウィザードだ。
 魔を叩き紅い月から夜を守る者。それが第八世界において『夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)』と呼ばれる者たちだ。
 あまり本人は意識してはいないだろうが、彼は相棒である魔剣を執ったその時から常に何かを守るために戦い続けているその在り方は、紛れもなくウィザードである。
 その背に守るべきものがある時やその戦いに誰かの命がかかっている時など、負けられないという思いが強ければ強いほど彼は諦めない。
 すべてが終わった後に続く日常が、なによりも尊いものだと知っているから。

 そんな彼も今回は、宮殿からずっと緊張感を張り詰めたままだったので、うまく緊張感を抜けなかったのだという。
 そうですか、と頷いたガーネットを見て、柊はたずねた。

「ポーリィは? 出る時には姿を見なかったんだが」
「あぁ、ポーリィなら『料理が足りないにょー』と言って厨房に突貫していきましたけど」
「それは……災難だな、料理人も。っていうか、止めろよ巫女さんも」
「大丈夫ですよ。どうにもならなくなったらリューナたちが止めてくれますから」
「信頼してんだな、リューナたちのこと。ポーリィのこともか」

 そう苦笑した柊に、ガーネットは以前なら決してしなかっただろう、花開くような全幅の信頼を置いた顔で笑った。

「はい。だって、家族ですから」

 柊が以前この世界に来た時に見た彼女の笑顔は、どこかぎこちなく、その上涙と共にあったはずだ。
 けれど、今彼女が浮かべる笑みは心からのものであり、影は見当たらなかった。

 強い子だな、と柊は思う。
 以前の戦いで、彼女の命がかかっていたとはいえ、彼女は実の父を亡くし、また慕ってくれていた騎士たちの大半を失い、彼女自身も傷ついた。
 それだけのことがあったのに、今彼女は笑っている。
 きっと、柊が帰ったあの日から今日まで、ずっと一生懸命に生きてきたからこその笑顔だった。
 忘れることなどないだろうが、いくつもの悲しみを乗り越えて、かけがえのないものを築いてきたのだろうと。
475星灯下話:2009/06/05(金) 01:34:46 ID:???
「そっか。そういや、ポーリィとは姉妹になったんだっけな」
「お姉ちゃん、とは呼んでもらえませんけどね。
 逆にリューナはことあるごとに『リューナお姉ちゃんって呼んでもいいんですよ?』ってすすめてきますし」
「リューナ……まぁあいつはなんかポーリィにもお姉さんみたいでしょ、って言ってたらしいしなぁ。
 何かしらお姉ちゃんって呼んでほしい理由でもあるんじゃないか? 郷里(くに)では末の妹だったとか、そういうの」

 共通の知人の話題を冗談めかしてそう言う柊。
 それに小さく笑いながら、ガーネットは話題をつなげる。ほとんど知らない彼のことを強く知りたいと思ったから。

「そうかもしれないですね。そういえば、柊さんにご兄弟は?」
「いるぞ、上に姉貴が一人」
「お姉さん、ですか」
「言っとくけど、ポリみたいに食い意地は張ってないし、リューナみたいに変態変態言ってるような妙な奴でもないぞ。
 すぐ暴力に訴えるし、妙な勘違い起こすし、イノセントのくせに人の月衣貫通して俺をボコったりできるバイクとタバコが命の不良姉」

 はぁ、と肩をすくめる柊を見て、ガーネットは首を傾げた。

「柊さんとお姉さんは、仲がよろしくないのですか?」
「仲が悪いってことはないと思うぞ。
 なんつーのかな、頭が上がらないっていうか、逆らえる気がしないっていうか。想像しづらいかもしれないけど、あれはあれで悪い人間ではないっつーか……」

 ガーネットの何気ない一言に、困ったように弁解を始める柊。
 単に世の中には色んな形の仲のよさがある、ということなのだが、柊自身言葉をうまく使い説明できるわけではない。
 ガーネット自身、意味を成してるようであんまり意味のない柊の言葉ではうまく理解できない。
 けれど、仲が悪いわけではないということを得意ではない口先でなんとか伝えようとしていることだけはなんとなく理解できた。

「なるほど。柊さんのお姉さんは、柊さんがそんなに一生懸命になるくらいいいお姉さんなんですね」
「……そうストレートに言われると、否定するのがバカらしくなってくるな」

 ツンデレは天然に勝てないものなのである。かえるに対する蛇、ハブに対するマングース、パーに対するチョキのごとく。
476星灯下話:2009/06/05(金) 01:42:44 ID:???
 閑話休題。
 なんだか言いたいことがたくさんあるものの、それを噛み潰したような不機嫌そうな柊にガーネットが尋ねる。

「けど、心配じゃないんですか? こちらに来られたのは柊さん一人で、お姉さんみたいに向こうに大事な人がいっぱいいるんでしょう?」
「心配したことがないって言ったら嘘になるけどな。
 それでも、信じてなけりゃ任せられねぇよ。あそこの連中は強い。そう簡単にエミュレイターなんぞに世界をくれてやる奴らじゃないさ」

 そう言って、どこか誇らしげに夜空を見上げる柊。
 そんな彼を見て、胸がちくりと痛むガーネット。
 彼女自身は見たことはないものの、以前の危機の際、空に柊たちの住む世界が映ったことがあったと聞いている。
 柊にとって、故郷はこの空の向こうにあるものなのだ。
 おそらくはその向こうに思いを馳せ、無意識にこんなところに来てしまったのだろう、とガーネットは思った。

 その大切なはずの場所を離れ、彼は一人ででもラース=フェリアに来てくれた。
 それは確かに世界の成り立ちを知っているアンゼロットじきじきの命令もあったからではあるが、ポーリィたち昔の戦友の安否が気になったこともあっただろう。
 柊が気にかけた『大事なもの』の中に、自分があってくれたら嬉しいと思う。
 そんな少女の淡い思いなど気づくはずもなく、柊は笑って続ける。

「まぁ、来ちまった以上は責任持ってなんとか自力で帰れるように努力するさ。
 それにこっちもなんとかしないとな。リューナもポーリィも巫女さんも、前みたいに旅したいだろ? せっかく来たんだし、ちょっとくらい手伝わせてくれよ」

 柊の言葉には裏表がなくて、それでもいいか、と思えてしまう自分がなんだか現金に思えるガーネット。

「頼りにしちゃいますよ?」
「おう。あんまり無理はさせないでくれると助かるけどな」
「残念ながら無理してない人はここにはいないんです。奪わ(とら)れたものを奪い(とり)かえそうって人たちなので」

 それもそうだな、と笑う柊を見て、それでもこの人は自分で無茶を背負い込むんだろうなぁ、と確信にも似た思いを抱く。
 ガーネットは、以前この世界に来た柊を知っている。
477星灯下話:2009/06/05(金) 01:45:38 ID:???
 その時の彼は幼馴染を助けるのに一生懸命で。
 力の壁とか、世界の闇とか、立ちはだかるそんなものは全て前からぶち抜いてただ走り抜けていた。
 それこそ奪われたものを奪い返すただそのためだけに。
 今の自分たちは、その時の彼と同じことをしなければならないのだ。
 大事なものを圧倒的な敵から奪い返す。言葉にすればただそれだけだが、どんなことが起きようと諦めず、どんな敵が現れようと最後に勝つ、酷く困難で厳しい道。

 そのために、今日を生き延び、明日を見続けなければならない。
 どれほどの苦難が襲い掛かろうと、どれほどの辛酸を舐めようと、それでも。
 それはどれほどの熱意があれば可能なのか、今でもわからない。
 けれど、唯一人間の手に奪い返したこの地は。この地に宿る熱は。希望の灯火は、何があっても消してはならない。
 そのためなら、ガーネットは名の通り情熱を示す者となってこの地で踏みとどまり続けられる。

 ―――全てを奪い返すそのために、彼がもしも自分を守ってくれたなら、と思ったことも確かにある。
 自分のそばで、熱を持って大切なものを奪い返した柊がその剣を振るってくれたなら、と。
 それはガーネットにとって甘美な誘いであり、しかしその思いが頭をもたげた度に頭から追い出した考えでもある。

 柊の意思はあくまで故郷にある。
 こんなのは不公平だ。せめて勝負はイーブンで始めたい。
 彼をこんな形で奪ってしまっても、彼の心が故郷から離れることはないだろうから。
 だから、ガーネットは宣言した。目の前の相手を通して、その先にいる人たちへ。

「柊さん、わたし夢があるんです。聞いてもらえますか?」
「は? おう、別に聞くくらいならいつでも」
「当面はこの世界をまた元のように皆で生きられる世界に戻すことですけど。
 わたし、その後そちらといつでも行き来できるようにしたいんです」

 彼女の顔は、笑顔だった。
478星灯下話:2009/06/05(金) 01:48:24 ID:???
「柊さんの世界では、こちらは闇に閉ざされた世界だって認識されてるんですよね? そういう風にアンゼロットさんが言ってました」
「あぁ……そもそも別に世界があることを知らない奴の方が多いはずだけどな」
「聞いています。もちろん、こちらに来て平気な人だけでもいいんです。
 けど、この世界だってこうなる前は緑と海の豊かな土地がたくさんありました。
 わたしはこの世界に住む一人として、ここがそう悪いところではないんだって知ってほしい。
 同じ人間が、一生懸命に生きてる場所なんだって知ってほしいんです」

 2つの世界を自由に行き来できるようになったら、もっとこの世界を知ってもらえる、と彼女は言った。
 もちろん、そうなれば彼ももっと気軽にこちらにこられるのではないかという打算もないとは言わない。
 けれど確かにガーネットの胸には、もっとよく自分の故郷を見てほしいという思いがあった。
 この世界を愛することができるようになった彼女は、決してラース=フェリアが守られ助けられるだけの世界なのではないと知ってほしいと思う。
 こんなにも強く、たくましい人間が生きているのだと知ってほしいのだというのは本心なのだ。

 色んな世界を行き来したことがあるという柊にこんなことを言ったら、どんなことを言われるだろうと思っていたガーネット。
 アンゼロットにすら怖くて言えなかったことだ。
 危険だと止められるかもしれない。迷惑をかけるなと怒られるかもしれない。けれど誰かに知っておいてほしかった。
 胸の鼓動はこれまでの人生で一番の最高潮。
 半分酒の勢いと淡い気持ちの相手と二人きりという状況が彼女の行動に拍車をかけたともいえる。

 そんなガーネットの途方もない夢を聞いて、柊は怒るでも止めるでもなく。
 しばらく唖然とした後―――楽しそうに笑った。

「はははっ! 巫女さん、あんたすごいこと言い出すなぁ。
 俺じゃ考えつかないし、どうすりゃ実行できるのかもわかんねぇけど、そうだな、そういうのは面白いかもしれない」
「え……ほ、本当ですかっ!?」
「何言ってんだ、あんたがやりたいことなんだろ? 俺だっていつでもポーリィたちと会えるってのは嬉しいしな」
「ほ、本当にそう思ってます?」
「俺、嘘は下手だぞ。苦手だし」
479星灯下話:2009/06/05(金) 01:53:17 ID:???
 そう言って笑った柊の顔を見て、顔が熱くなったガーネットは下を向く。
 彼女の夢は困難に満ちている。
 それを為すためにはさまざまな困難が待ち受けていることくらいは、彼女にだってわかっている。
 まずはその技術の確立、第八との協力体制、ひいてはアンゼロットとの交渉、侵魔対策などなど、その前にこの世界を元に戻さなければならないという一番の問題もある。

 それでも、その夢を果たしたいと思う。
 自分を育ててくれたこの世界を、他の世界にもいいものだと思ってほしい。
 色んな話を聞いて育った少女は、自分の住んでいる場所を色んな人に紹介したいと考えるようになった。
 たくさんの人からたくさんのものをもらった以上、まだ見ぬ人たちにそれを与えられる人間になりたいと。
 そして、今度は正々堂々とまた彼に会うためにも。
 顔が熱いのを自覚しながら、ガーネットは視線を合わせないようにして、聞いた。

「じゃ、じゃあ……もしもわたしの夢が叶ったら、柊さんはこっちに遊びに来てくれますか?」
「もちろんだ。ちゃんとその時はお祝いしないとな」
「はい。お祝い、楽しみにしてます」

 期待を込めてそう言った彼女は、はしごを登る音を耳にして、この二人きりの時間の終わりを感じ取る。
 だから彼女は立ちあがり、柊に表情を見られないようにすぐさま踵を返して数歩歩き、立ち止まる。

「柊さん」
「なんだ? お迎え来てるんだろ?」

 彼の耳にも入っていたらしいあわただしい足音は恐らくはポーリィだろう。
 速さからいってもう少しだけ時間があることを知っている彼女は、構わず告げる。

「わたしの名前、ご存知ですよね?
 対面を保つ必要がありますので対外的な場では『巫女』でも構いませんが、身内しかいない時くらいは名前で呼んでいただけますか?」

 それは、小さな彼女のわがまま。
480星灯下話:2009/06/05(金) 02:01:04 ID:???
 ポーリィだってリューナだって名前で呼んでもらっている。もちろん、彼が以前ここまで追いかけてきた『少女』も。
 だから自分だけ飾りの名などで呼んでほしくはない。

 そういった意図の下放たれた言葉に柊は少しばかり戸惑うものの、相手がそういうのなら、と思い直して、やや自信なさげに、その名を呼んだ。

「……ガーネット?」

 呼ばれた彼女は、その場を全力で駆け出す。
 さっき以上に早くなった鼓動と顔の熱から逃げるように。髪のように顔が真っ赤になっているだろうことが、鏡などなくてもわかるような気がした。
 そうねだったのは自分であるものの、予想以上の自分へのダメージにも近いくらいの衝撃に、この場にいることに耐えられなったのだ。

 ガーネットは、迎えにきたポーリィがはしごを登りきり、彼女に声をようとするのすら無視して全力で走り去り、はしごを落ちるように降りて、炎砦の中に逃げ込んだ。
 残されたポーリィは、しばし姉には珍しいその様子に驚いていたものの、先客に目線を向けてたずねた。

「ひいらぎー、ガーネットに何したの?」
「人聞きの悪いこと言うなよっ!?
 何もしてねぇ、単に話してただけだ」
「にょー……ひいらぎ、ザーフィのおっちゃんみたいなことしちゃダメだよ?」
「誰がするかっ!? あんな歩く18禁みたいなおっさんと一緒にすんなっ!」
「18禁じゃなきゃ並列攻略は許されるってわけじゃないんだよ?」
「何の話をしてんだよっ!?」

 まるで自覚のない彼に少し辟易しながら、ポーリィは一つため息。
481星灯下話:2009/06/05(金) 02:02:57 ID:???
「じゃあ、あたしはまだお腹減ってるから帰るけど。
 他にも見回ってる人いるんだから、少しくらいきちんと休むんだよ?」
「……うるせぇよ」

 素直ではないぶっきらぼうなその言葉に、変わってないなぁ、と思いつつ。
 ポーリィは戦友に気遣いの言葉を告げた口で、返事を促した。

「他に言いたいことはないのかにゅ?」
「あー……もうしばらくしたら寝る。あと、ガーネットに会ったらおやすみって言っといてくれ。言い忘れた」

 了解にゅ、と言って去っていく足音を聞きながら、柊は頭をかきつつ再び星空に目を移した。

「……ポリの奴、いつの間にあんなに鋭くなりやがったかなー」

 それに答えを返す者はなく。そんな青年を、星明かりだけが見つめていた。


 fin
482風ねこ:2009/06/05(金) 02:07:27 ID:???
 ナイトウィザードから離れてセブン=フォートレスにしてみた。変わんねーよ、というツッコミは胸に痛いからやめて(挨拶)。
 どうも、風ねこです。エルクラムの精霊術師作成楽しー!
 さて、今回の主役はあくまで『紅き巫女』ちゃんガーネット。
 基本的に相手を名前で呼ぶ柊が珍しく巫女さんって呼んでる相手なので、こう、名前で呼ばれたらどんな反応を返してくれるのかすごい楽しみだったのだ。
 いつか公式でやってくれると信じてる。

 ポリは別にそういう気持ちを抱いてはいません。色気<食い気だけど家族は大事。
 つーかなにゆえ炎砦一行たりともポリが出ませんか。くそ、表紙絵だけでファンが救われると思ってんなよっ(笑)!?
 ガーネットは炎砦でポリに「友愛」の意味を持つ宝石の名前、ということだったはずですが、
 調べてみると宝石言葉っていうのは一つにつき複数あるものも多いらしく、『情熱』って意味もあるらしい。
 正確には『火』っていうのは五大石(火・ルビー/水・サファイア/地・トパーズ/風・エメラルド/空・ダイアモンド)の一つが司るもので、
 ガーネットはどっちかっていうとその赤さから血、また血から生命力を連想させる石だということ。ちなみに他にも『真実』とかの意味もあるとのことです。
 空砦の彼女はなんかイイ性格になっちゃってます。多少自分にわがままになってくれるのは悪いことじゃないと思う。個人的には。
 ちょっと情熱的(=積極的)な行動をとるようになった彼女がどういう物語をつむぐようになるのかは、この後を楽しみにしたいところです。

 柊が外にいた理由は、ポーリィの答えもガーネットの答えも正解。もちろん本人の申告も間違いではないです。
 ポーリィはあれで一応長旅で一緒でしたから、大抵の柊の行動なんてお見通しです。行動も分かりやすいしな!

 では。今回はこのへんで。
 また何か思いついたら書きにきたいと思います。ではでは。

PS >>471のタイトルは間違いでーす。星灯下話が正解。携帯投下とかするもんじゃないね!
483NPCさん:2009/06/05(金) 20:48:03 ID:???
乙。

15歳で世界救って成人、な世界で18禁ってつーじるんだろうか?とふと思った。
まぁあの瞬間は異世界でなくきくたけ時空だった、で゙説明できるか。
484NPCさん:2009/06/05(金) 21:07:40 ID:???
乙であります。

柊の家族関係で“片親不在”が追加されていたっけ
数ヶ月行方不明でたまに帰ってきたらボロボロだったり、
ボーっと安楽椅子に揺られていても問題ないっぽいとこ見ると単身赴任なのかな
485NPCさん:2009/06/05(金) 22:02:59 ID:???
乙ー。

俺の妄想の中の柊の親は親父。筋骨隆々の大男。職業はカメラマン。龍使い。
486NPCさん:2009/06/06(土) 00:46:59 ID:???
俺の妄想の柊の親は母親。
仕事場ではやり手のキャリアウーマン。笑顔でビシバシ部下をこき使い、
強面の交渉相手にもにっこり笑ってばっさり拒絶ー、みたいな。
でも家族の前ではほにゃほにゃしてて、むしろ甘えてくるタイプ。
たまの休みに帰ってきてはジャージ姿でリビングでごろごろして、
「蓮司ー、おなかすいたー、なんか作ってー♪」みたいな。
487NPCさん:2009/06/06(土) 07:39:06 ID:???
>>風ねこ氏

乙ですー。いや〜ガーネット可愛い可愛い、くそっ!柊が羨ましいぞっ!!

あと風ねこ氏も表紙だけで満足出来ない様子ですがあえて言いたい!一番我慢出来ない空砦の表紙はアイラとディフェスの二人だと!!あの表情のディフェスは萌えます、えぇ萌えますとも!!

はっ、いかんいかん暴走してしまった……べ、別に柊以外にも空砦ネタで本編を保管するカタチで書いてほしいわけじゃないんだからねっ!
488NPCさん:2009/06/09(火) 15:09:35 ID:???
空砦と言えば、第二パーティの皆様がどういうスキル構成にしてるか楽しみ。

あのメンバーで、「あの人」がアタッカーだとすると、必然的に「あの人」と「あの人」はヒーラーと
ディフェンダーになるわけですが……

「攻撃は最大の防御。ダメージを受ける前に殲滅」とか言い出しそうで……
489NPCさん:2009/06/11(木) 21:13:53 ID:???
毎度、保管庫の中の人です。
ここの所、ナイトウィザードクロスSSスレが荒らしに埋められる被害が続いてるのと、
いい機会なんでこのスレでも利用できる避難所を開設しました。
書き込み規制に巻き込まれた方等、ご利用ください。

SSスレ避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12795/
490NPCさん:2009/06/11(木) 21:47:11 ID:???
>>489
やっぱりアンタかいw
491NPCさん:2009/06/27(土) 14:30:11 ID:???
保守っているっけ?
492NPCさん:2009/06/27(土) 14:51:44 ID:???
この板では何年経っても不要

ここのSSって今はNWとARAしかないんだな…
前はDXも見たような気がしたが
493NPCさん:2009/06/27(土) 15:41:44 ID:???
アイデアとしてはミナリと柳也の話とかなくはないが、いかんせんあまり時間がなくてな

それはさておき、ないない言うよりかは自分で書いた方がはやいぜ?
494NPCさん:2009/06/27(土) 17:03:03 ID:???
すまん、俺はエロSS専門でな
495NPCさん:2009/06/28(日) 04:10:56 ID:???
以前、作品スレが完走(残り容量含む)せずに落ちた記憶があってな
記憶違いだったらいいんだオチないってのは安心だし
496NPCさん:2009/06/28(日) 13:25:46 ID:???
保守
497NPCさん:2009/07/02(木) 11:15:34 ID:???
過去スレは全部容量オーバーでのDAT落ちだから記憶違いだな
498mituya:2009/07/03(金) 23:15:13 ID:???
>>497
すいません、一回容量オーバーさせてしまった子です……ORL

どうもお久しぶりのmituyaです。
先日もここにも素晴らしい作品を投下なさっていった ねこの方が、しばしお休みされるとのことで、
最近余所の板に浮気してた子が、本格的にここが過疎りそうな危機感で、あっちは一時お休みして里帰りです。
お盆だし!(まだ早い)

しかし、書きたいものはあれども、どれから何書こうか迷い中で、少々皆様のご意見を……
1.アリアンロッド・ルージュ(『趣味と病〜』の続き的なレンノエ)
2.アリアンロッド・ハートフル(つい最近全巻入手! メインキャラは未定)
3.ダブルクロス・ジパング(イフクサor勇太or真弓メインで)
4.他にもこんなんどーだ! というありがたきネタ振り

柊くれはも書きたいけど、自分は空砦の連載追っかけてないので、ネタが……ORL
でも、ねこの方の作品はおいしく頂きました。もぎゅもぎゅ☆ ガーネット可愛いよ〜。
文庫になったリプレイは大抵読んでる(TRPG仲間からの借り読みも含む)んですが……

ともあれ、もし上の1〜4の中で『これ読みたい!』というのがある方、その旨をレスしていただけると、
自分のやる気と執筆速度がちょっと上昇します(笑)

そして最後に>>493さん、待ってます。超待ってます。
499NPCさん:2009/07/04(土) 00:39:07 ID:???
あんまし見かけない2のハートフルか、他でもいいなら4で勇士郎&双子メイズ
500NPCさん:2009/07/04(土) 01:16:11 ID:???
>>498
5年後くらいの勇太(ときどきイクフサ漏れ)と真弓の話とか読みたいですな。
リプスレだとサッカーチームとかの話の方が盛り上がってたけど
自分は勇太=イクフサの流れにちょっとぞくぞくしてしまったので。
501NPCさん:2009/07/04(土) 02:18:04 ID:???
>>498
ここでそんな事言ったらホイホイリクエストしちゃうぜ?w

個人的に怖いもの見たさだが……みっちゃんで
4の元祖ブラストハンド×でシャル、モルガン、マーヤ、エルさんの個別ルートを見てみたいぜ!
いや、みっちゃんさんのIZOってどんな感じなるか凄い気になってさwww
502NPCさん:2009/07/04(土) 02:34:42 ID:???
空砦一巻は8月だから、来月末まで待ってれば見られるのでは?
503NPCさん:2009/07/04(土) 05:22:02 ID:???
つーか、やっぱりROM多いなここ。わらわらと湧いてくるw
504NPCさん:2009/07/04(土) 11:32:34 ID:???
はいはーい。ALGでかがみんが周囲の人々よりどう思われているか
505mituya:2009/07/05(日) 09:48:05 ID:???
うわ、何かリアクションが早くて多くてびびりましたよ!?w


>>499さん
ハートフルですか! これで書くとしたら、カッツメインかなぁ?……このキャラメインで!っていうのいますか?
すいません、勇士郎の話は借り読みしたがために資料が手元にないので、難しいやも……


>>500さん
あなた様とは非常に趣味が合いそうですw
あの流れ! イフクサの初期ロイスと真弓に執着するロールプレイがかっちり嵌って鳥肌でしたよ!
しかも、人外と人間の少女、男の子とお姉さん、というそれぞれ単独でも萌えツボだというのに、その両者が同一(?)だった日には!
これに萌えずに何に萌えるんですか!?(<落ち着け)
……はっ!取り乱しました……申し訳ありません(汗)
時間はかかるとは思いますが、是非書かせていただきたいと思います!


>>501さん
リクエストという名のネタ振りは寧ろ大歓迎ですじょ?
ネタを言ってもらったのに、書けないと心苦しくはなりますが(汗)
って……I Z O ! ?
うわ予想斜め上高度成層圏的なのが……!w
ルート分岐は無理はちょっと厳しそうですが、以蔵×もみじなら……書ける、かなぁ? あ、でもこれリクにない(汗)
じゃあ、以蔵×シャル……いけるかなぁ……? 天さんと矢野さんのコンビだし……そのノリで書けば……
カップリングつーより、漫才になりそうですが(汗)
ただ自分は、キャラの思考回路(っていっても、自分の想像上の思考回路ですが)を脳内にトレースするイタコ方式(友人命名)で書くので、
以蔵メインで書いたら乗っ取られそうで怖いなぁ……(汗) 濃ゆくて、なかなか頭から出てってくれそうにない……


>>502さん
8月! 出るんですか! 最近、新刊情報チェックしてなかったから抜かりました……!
それ読んだら、多分また柊に偏りそうなので、今のうちに他をバリバリ……書けるといいなぁ(汗)
506mituya:2009/07/05(日) 09:49:51 ID:???
>>503さん
ホントですね〜。最近過疎っていたので、もうちょっとリアクション来るの遅めかなぁ、とか思ってましたよ(汗)


>>504さん
うっ……ARGのリプレイは全部借り読みなんです……
なので、ちょっと厳しいかも……


本当に、皆様、ネタ振りありがとうございます!
とりあえず順次書いて行くつもりですが、何せ遅筆なので気長に待って下さいませ(汗)
多分、最初は萌えツボな勇太(イフクサ)のお話か、あまりにも予想外でインパクトの強かった以蔵のお話か……
次に来る時は、お土産(作品)を持ってこれるように頑張ります!
507NPCさん:2009/07/05(日) 14:27:27 ID:???
>>499だが、まぁ他の人もそうだろうけど好き勝手言ってるだけなんで、
無理のない範囲でお願いしますー。



でも個人的にはヴァリアスとファムのうぃうぃしい交流とかツンデレイエミツさんとか(ry
508元祖ブラストハンド:2009/07/05(日) 14:55:34 ID:???
501だけど……みっちゃんに呼ばれた気がするから今すぐ憑依してシャルりんとかとの話囁いてくるぜヒャッハー!俺の頭の中じゃ妄想なんてケツ拭く紙にもなりゃしねぇんだよおぉぉぉぉ!


……あ、全面的に>>507に同意なんでムリだけはしないよう自分のペースで書きたいものをお願いしますね。

俺的にはもみじは小太刀に書かせたから他のが見たいだけなんで……あ、もみじお前も愛してる愛してるよでも他の女の子もry(ぐしゃ)
509NPCさん:2009/07/07(火) 21:51:31 ID:???
レンノエの続きも見たい。見たい。
510mituya:2009/07/09(木) 19:59:53 ID:???
>>507さん、>>508さん
お気遣いどうもです!
というか、書きたいものしか書けない子なので、その辺は心配後無用です!(<リク取っといてそゆこというか)

>>509さん
どもです! これは脳内で大分話の筋が出来上がってるので、書き始めれば早いかと!
ただいつ書き始めるかは不明(汗)


どうも、こんばんわ。お土産持って来ましたよ☆
最初になるだろうと言っていた、勇太と真弓のお話です。
っていうか、自分、イクフサの名前、イフクサだと勘違いしてた……恥ずかしいッ!

まあ、何はともあれお土産(作品)の紹介を。
元ネタ:ダブルクロス・ジパング
カップリング:勇太(一部イクフサ)→真弓
ライトなラブコメにするつもりが、思いの外シリアス風味なお話に。あれぇ?
そんなんでもいいよ、という方、どうぞ読んでやってくださいませ!
511我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:01:36 ID:???
「うわぁ、ホント背伸びたねぇ! 久しぶり、勇太! 元気だった?」
 五年ぶりに出会った従姉(いとこ)の笑みに、前もって身構えていたにも関わらず、勇太は動揺を抑え切れなかった。

  ◇ ◆ ◇

 並行する異世界の戦国乱世を救った二人の従姉弟。彼らが自分たちのあるべき世界へと帰ってきてから一年後。母の病をきっかけに伯母夫婦の家に預けられていた勇太は、母の快癒と同時に帰郷することになった。
「ちょっと寂しくなるなぁ〜。でも、休みになった遊びに行くとか来るとか、会おうと思えば会えるもんね!」
 精一杯の笑みでそう送り出した真弓の言葉の裏には、きっともう、一生会う事はできない仲間たちの存在があって。
「そうだな、真弓が寂しくなったら会いに来てやるよ」
 勇太の中にもその仲間たちの存在はあったから、そう小憎たらしい笑みで答えてやることができたけど。
 以前から異能を持っていた勇太は無論、彼(か)の乱世で異能に目覚めた真弓も、“日常(せかい)”を守る慌しい生活から、互いの元に足を運ぶ暇を作れない生活になっていたのだ。
 電話やメール、時折手紙なども交え、交流が途切れることはなかったけれど、直接会う事はできない。
 写真越しに見る、受話器越しに聞く、従姉の姿と声。どこか実直すぎて危なっかしい“少女”から、真っ直ぐな芯はそのままに、“女”としての柔らかなまろみを帯びて。時を経るごとに綺麗になって。
 そのくせ、彼女の中の自分の扱いは、声変わりしても、成長した自身の写真(すがた)を送っても、ずっと“小さく生意気で可愛い従弟”のまま、変わらなくて。
 そのことに、じりじりと灼けるような感情が勇太の胸を焦がす。
 会えない彼(か)の人の面影を追うそのもどかしさは、まるで、異形の狼として永い時を流離(さすら)っていた頃のようで。
 そしてその感情は、ついに三ヶ月前、ある報せによって臨界へと達した。
 真弓が、たまたま遭遇したジャームと一人で交戦し、危うく死に掛けた、と。
 辛うじて助かったものの、一歩間違えれば、命を落とすか正気を失うかの瀬戸際だった、と。
 UGN越しに知ったその事実に、勇太は一瞬本気で視界が真っ暗になった。
 自分が傍にいないうちに、どこの馬の骨とも知らない輩に、彼女が永久に奪われるところだったのだ。
512我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:03:41 ID:???
 ───真弓(アイツ)は、自分(オレ)が守るンだ!

 胸のうちで弾けた思い(叫び)は、数百年抱き続けた想い。

 ───真弓(あの女)は、自分(ワシ)のものだ!

 かつて一つになった大神(イクフサ)の名残が、胸のうちで咆える。

 胸のうちで弾けた二つの思いは、何が何でも彼女の元に、と己を急かす。勇太は、その思いに違わず行動を開始した。

 そして、現在――高校進学前の春休み。真弓の地元の高校に進学を決めた勇太は、それを理由に天野家に下宿することとなったのだった。

  ◇ ◆ ◇

 再び天野家へと越してきた自分を玄関先で出迎えたのは、五年ぶりに直(じか)で見る愛しい女(ひと)の笑みで。
 その威力を十分予測して身構えていたというのに、勇太は思い切り動揺してしまった。
 地元の大学に在学中の、今年で二十二になる彼女。かつてと変わらない、澄んだ明るい笑みを浮かべた容貌は、しかし、かつてはなかった“女性”の色香を確かに湛えていて。
 自身の頬が朱に染まるのが鏡を見ずとも知れて、勇太は己の顔を彼女から隠すため、真っ直ぐに向けられた笑みから視線を逸らしてそっぽを向いた。
「あったりめぇだろ! オレ、もう今年十六になんだぞ? それで小学校の頃のままとかありえねぇだろ」
 ぶっきらぼうに告げて、テンポ良く返されるだろう彼女の言葉を待って――しばらく待っても来ない彼女の返答に、訝しくなって視線を戻す。
 見れば、彼女は何故かひどく驚いたように目を見開いて固まっていた。
「……真弓?」
「――え!? あ、ごめん!」
 声をかけると、我に返ったように息を吹き返して詫びてくる。それから、少し照れたように頭を掻いて、彼女は言った。
「いや、電話でわかってたつもりなんだけど、生で聞くとやっぱり全然違うね〜。声、結構低くなっててびっくりしちゃった」
 男の人みたい、と言われて、思わず勇太は顔が奇妙に歪むのを堪えることができなかった。
513我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:05:48 ID:???
 “男”と意識されるのは歓迎すべき事態だろうが、今更そう言われるほど、これまでは全く意識されてなかったのだと思うと些か凹む。
 はあ、と一つ深い溜息をついて、勇太は靴を脱いだ。
「……上がンぞ」
「あ、ごめんね、玄関先で長々――っとと、言い忘れてた」
 言って、思い出したように手を打つと、真弓は上がり框を踏んだ勇太に一言。
「――おかえり、勇太」
 その一言に、勇太は一瞬目を見開いて動きを止めて――框に両足を上げると、微笑って応えた。
「――ただいま」
 しばし真弓は目を見開いて、そんな勇太をじっと見つめ――
「……背、微妙に抜かれた……」
 顔を逸らし、そう、ふてたような声で告げた。

  ◇ ◆ ◇

「……こんな狭かったっけ、この部屋」
 これからの自室となる、かつても一年間自室として与えられていた部屋を見渡して、勇太は思わずぽつりと呟いた。
 先に送っておいた未整理の荷のせいもあろうが、それを差し置いても、かつてより狭くなった気がする。
「それは勇太の方が大きくなったんだよ。自分の視線の高さが変われば、見え方も変わるって」
「あ、なるほど――って、おま、何やってンだ!?」
 真弓の声に頷きつつ振り返って、勇太は思わず声を荒げた。
 そこには、いつの間にやら荷を解きにかかっている真弓の姿。
「何って……片付けの手伝いだけど?」
「そうじゃねぇよ、そりゃ見りゃわかるよ! 勝手に人の荷物いじるなっつってンだ!」
 きょとんとした真弓に、返す声が思わず上擦る。思春期の少年として、当然の反応だった。
 もっとも勇太は、同年代の同性が好む『異性に見つかると非常に気まずい』類の代物には興味がない。心底惚れた相手がいるのに、よく知りもしない見た目だけ綺麗な女を眺め回しても、楽しくも何ともないからだ。
 それでも、以前は友人から押し付けられたものをいくつかは所持していたが、それらはこちらに越す際に全部処分した。その点では、荷の中身を見られたところで問題はないのだが。
514我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:09:36 ID:???
 荷物の中には、当然衣服が――下に着込むものも含めて、入っているのだ。
 その辺りは、寧ろ真弓の方が気まずくなるのではないだろうか。というか、それに出くわした時に彼女が平然としていた場合、それはそれで意識されていないという意味で、勇太の方がショックであるし。
「つか、別に手伝いなんかいいって! お前病み上がりだろうが!」
 思わずそう怒鳴れば、真弓は心底驚いたように目を見開いた。
「え――それ、誰から……」
「いくら支部違うったって、親戚同士で同じUGN(そしき)にいるんだから、話入ってこない方がおかしいだろ」
 呆然とした声に、些か件のある声で返せば、彼女は、あう、と呻く。
「……そりゃそうだよねぇ……かっこ悪いからあんまり聞かせたくなかったんだけど」
 情けなさそうに頭を掻く従姉に、勇太は口には出さずに「うそつけ」と呟いた。
 彼女は外聞なぞ気にしない。自身の体裁など取り繕わない。怪我のことを伏せていたのは、ただただ心配をかけまいという思いからだけで。
 けれど、そんな風に気遣われ、頼ってもらえない、彼女の中の自身の立ち位置が、勇太には腹立たしい。
「でも、三ヶ月も前の話だよ。もう全然平気! へっちゃら!」
「三ヶ月前っつったって、その三ヶ月間もどうせちゃんと休んじゃいなかったンだろーが」
 勇太のツッコみに、力こぶを作って見せていた真弓は、う、と呻いて固まった。
 事情を知らない家族や学校の友人の前では、いつも通りに振舞い続けていただろうし、彼女の性格からして、動けるようになった途端にUGNの仕事にも復帰したに違いないのだ。
 ジト目で睨む従弟の視線に、真弓は気まずそうな表情でしばらく沈黙していたが、ふと気がついたように訊いた。
515我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:12:20 ID:???
「……もしかして勇太、UGNに、あたしのフォロー役頼まれたとか?」
「……ま、それもあるけどな」
 そっぽを向いて、勇太は答える。
 実際、勇太が土壇場で進路変更できたのは、UGNの力添えがあってのことだ。
 真弓の所属するK市支部は、もともと人材不足気味だった。そこにきて、応援が遅れたがゆえの、エージェントの負傷。そこでK市支部は他の支部に応援を要請し、それに勇太が飛びついたのだ。
「……ごめん、あっちで高校受かってたんでしょ?」
「べっつに〜? 家から近いってんで選んだ学校だし。新しく決まった学校の方が登校楽だし」
 萎れる真弓に、勇太はどうでもいいような口調で告げる。しかし、真弓の表情は晴れない。
「けど、あっちに友達もいたでしょう? それに、彼女とかもいたんじゃないの?」
 遠距離恋愛になっちゃうじゃない、と気遣わしげな声音で告げられた言葉。
 その言葉に、勇太は思わず硬直した。
「……勇太?」
 こちらの気配に気付いたのか、真弓から案じる声音が掛かる。そこには、“可愛い従弟”を気にかける色しかなくて。

 ───オレは、そこまでお前にとって“男”じゃないのか。

 そんな平然と『彼女』の存在を問えるほど。その恋路を気にかけられるほど。
 そう思った瞬間、勇太の中で何かが切れた。
「いねぇよそんなもんッ!」
 思わず噛み付くように咆える。突然の大音声に、真弓が身を竦めた。
「ゆ、勇太……?」
「いねぇよ! いるわけねぇだろ!――なんでわかんねぇンだよ!」
 勢いのまま、真弓を追い込むように歩み寄る。彼女は驚いたように後退って、その背が壁に当たった。
 壁際に追い込んだ彼女の顔の左右に両手をついて、告げる。
516我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:15:24 ID:???

「――オレはもう、真弓の“可愛い従弟”じゃ、足りない」

 その言葉に、覗き込んだ彼女の瞳が見開かれる。

「そんなンじゃ――ずっと昔から足りなかったンだよッ!」

 叫んで、無理やり引き剥がすように壁についた手を離し、彼女を視界から外すために踵を返す。
「……出てってくれ。これ以上ここにいられると、オレ、真弓に何するかわかんねぇから」
「……ゆ、勇太――」
「――いいから出てってくれよッ!」
 何か言いかけた真弓の言葉を遮って、叫ぶ。
 ややあって、おずおずと背後の気配が動き――しばしして、右手の戸が開いて、閉じられた。
 彼女の気配が、小走りに去っていく。
「――バカか、オレはッ……!」
 呻いて、目の前の、彼女が解きかけていった荷をぶん殴る。
 衣服しか入っていない、柔らかい荷のはずなのに――殴った拳は、酷く痛かった。

  ◇ ◆ ◇
517我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:18:21 ID:???
 ───どうしよう。

 その思いだけが、足早に勇太の部屋から離れる真弓の胸の内を、ぐるぐると渦巻いていた。
 小さい頃から知っている従弟。生意気だけど可愛くて、ぶっきらぼうな言動の裏に、こちらを慕ってくれている気配がだだ漏れで。
 そう、慕ってくれてるのは知っていた。けれどそれは、ただ小さな男の子特有の『年上のお姉さんへの憧れ』だと思っていた。
 誰もが一度は罹る麻疹のような、時が経てば自然に冷める初恋とも言えない様な感情(もの)だと思っていた。
 そう、思っていたのに。
 さっき、自分を壁際に追い詰めて、覗き込んできた彼の目は、

 ───本気の、目だった。

 本気で焦がれる“女”に向ける、“男”の目で。
「……あんなの、勇太じゃないよ……」
 思わず零れた呟きは、我知らず震えていた。
 怖いのか、悲しいのか、よくわからない。ただ、泣きそうに声が震える。

 ───あんな勇太は、知らない。あたしの知ってる勇太じゃない。

 知らない“男”になってしまった従弟から逃げるように、真弓はそのまま家を飛び出した。

  ◇ ◆ ◇
518我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:22:14 ID:???
「どういうことだよ、それ!?」
 白い応接間に、勇太の怒声が響いた。
 真弓と気まずい別れ方をした後、多くない荷物をざっと片付けた勇太は、自身の転属先となったUGN支部へ挨拶に顔を出した。
 応対したK市支部長は、挨拶のあと出し抜けに、『天野さんが狙われています』と勇太に告げたのだ。
「“傀儡師”――先日、天野さんを瀕死に追いやったジャームのコードネームです。血を操る能力からして、ブラム=ストーカーだと思われます」
 血を操る傀儡使い。その言葉に、かつて異形の狼であった頃、幾度も死合い、共闘し、好敵手と認めた男の顔が浮かんで消える。
 あの男と同じような能力者が、真弓を殺しかけた。――そのことに、怒りが相乗されて、視界が赤く染まったような錯覚を覚える。
「……そいつは、真弓がぶっ倒したんじゃねぇのかよ?」
 湧き上がる怒りを押し殺して、低く問う。少なくとも、勇太は以前の支部でそう聞いた。
「ええ、そう思っていました。しかし、天野さんが倒したのはどうやら傀儡だったようで。――“傀儡師”と思われるジャームが、ここ一ヶ月で度々目撃されています。しかも、真弓さんの生活圏内で」
 その言葉尻に重なり、ぎり、という妙な音が響く。それが、自身の噛み締めた奥歯が立てた音だと気付いて、勇太は忌々しそうに舌打ちした。
 そうして、吐き捨てるように確認する。
「復讐――か?」
「おそらくは。――当人にも気をつけるよう言ってはありますが、南方くんも、“傀儡師”の件に片がつくまでは、天野さんの身辺を気にかけてあげて下さい」
 支部長の言葉に、勇太は強く頷いた。――言われるまでもない。
 今日の一件で、気まずくなってしまったけれど、嫌われてしまったかもしれないけれど。
 これからも、いつまで経っても、彼女にとって自分は、“可愛い従弟”のままかもしれないけれど。
 そんなことは、関係ない。
 数百年もの間、変わらず抱き続けたこの想い。今更、この程度で揺らぐものか。
519我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:25:35 ID:???

 ───真弓は、オレが守るンだ。

 決意も新たに支部を辞去すると、荷の片付けなどで来るの自体が遅かったのもあり、もう既に夜半に近かった。
 歓迎のご馳走を作ると張り切っていた伯母に、今晩は要らないので明日に、と告げて出て来て正解だった。そんなことを思いつつ、コンビニで適当に晩飯を調達して、家路へと急ぐ。
「ただいま〜」
「あ、お帰り、勇太君。遅かったわねぇ」
 まだ居間にいたらしい伯母が、わざわざ顔を出して出迎えてくれた。
「あ〜、すんません、来て早々」
「勇太君ももう高校生だもんねぇ。こっちのお友達とは久しぶりだろうし、今日は大目に見てあげるわ」
 次からは流石にこんな遅くまではダメよ? と悪戯っぽく告げられて、勇太は思わず曖昧な笑みで俯く。――UGN(しごと)の関係上、それは難しい。
 と、その拍子に、玄関に並んだ靴の違和感に気付く。
「……真弓は?」
「ああ、あの子もねぇ。大学の友達に誘われたとかで、合コンですって。日付変わる前に帰ってきなさいとは言ってあるんだけど……もう成人だしねぇ」
 その言葉に、勇太は大きく目を見開いた。
 ───真弓が、合コン?
 どこぞの馬の骨とも知れぬ野郎共から、好色の視線に晒されるような席に。
 そのことに、かっと血の気が上って――次いで、そんなことよりも危険な事態に思い至って、今度は血の気が引いた。

 ───今、真弓は、命を狙われている。

 こんな夜更けに出歩くなど、狙って下さいと言うようなものではないか。
「――あンの馬鹿ッ!」
 思わず叫んで、コンビニの袋を放り出すと、勇太は踵を返す。
「ゆ、勇太君!?」
 驚いた伯母の声も振り切って、全力で勇太は駆け出した。

  ◇ ◆ ◇
520我が心、君知らず:2009/07/09(木) 20:29:55 ID:???
「――真弓〜、どしたの〜?」
 掛けられた声に、はっと我に返って真弓は顔をあげた。
「あ、ごめん、なんでもないよ」
「も〜、珍しく合コン(こういうとこ)出てきたと思ったら、上の空で。もったいないよ〜」
 隣に座った幹事の女友達が、ばしばしと肩を叩くのに、何とか笑顔を返す。
「うん、そうだね。いい加減、彼氏いない暦イコール年齢は、記録更新ストップしないとね!」
「――意外ですね、あなたのように綺麗な人が」
 わざとおどけた声で宣言すれば、向かいから落ち着いたテノールの声がかかった。
 真弓と友人は驚いてそちらを見やり――真弓は、声の主の姿に更に目を見開く。
 細面の、物腰の柔らかい印象を受ける青年。その風貌は、まるで――
「――浄ノ進さん……」
「え?」
 声の主は、きょとんと目を見開く。真弓は我に返ると、慌てて頭を振った。
「あ、ごめんなさい! 知ってる人と、よく似てたから、つい!」
「ああ、それで。ですが、残念ながら僕の名前はジョウノシンじゃなくて、太一といいます。三条太一」
 気にした風もなくにこりと微笑する太一に、真弓も慌てて名乗り返した。
「あ、天野真弓です」
「ええ、知ってます。最初の自己紹介の時に覚えましたから」
 笑顔で返される。暗に自分が上の空だったことを指摘された気がして、真弓は思わず俯いた。
「いえ、お気になさらず。僕もあんまりこういう席には興味なくて、上の空になるのわかりますし。――でも、今日は来て良かったです」
 あなたに会えたので、と臆面もなく笑顔で告げられて、真弓はどう反応していいかわからない。
 ともすれば気障に聞こえる台詞も、柔らかな口調で告げられるとそう聞こえない。かつて共に戦った青年と面影が、真弓に好印象を与えているのも確かだろうが。
「いえ、あの……どうも……」
 赤面して、よくわからない言葉を返すのでいっぱいいっぱい。そんな様子を微笑ましげに見つめられて、真弓は余計に気恥ずかしくなった。
「天野さんは、今時珍しいくらい、心根の綺麗な方ですね」
「でっしょ〜? でもねぇ、綺麗過ぎてフツーの男じゃ近づきにくいみたいで。なんていうの? 高嶺の花?」
 太一へ友人がそんな風に返すのに、真弓は目を見開く。
521NPCさん:2009/07/09(木) 20:37:22 ID:???
おおっと、支援
522我が心、君知らず:2009/07/09(木) 21:01:16 ID:???
「えぇっ!? そんなことないよ、何言ってるの!」
「『何言ってるの』はこっちの台詞〜。真弓、ピュアすぎるから気付いてないだけで、あんたムチャクチャモテてんだよ?」
 友人のその言葉に、真弓は思わず硬直した。

 ───あたしが気付いてなかっただけで――勇太は、ずっと、想っててくれたのに。

 自分は、それにどう返していいのかもわからなくて。顔を合わせたくないというだけで、今日たまたま誘われたこの席に、逃げるように参加して。

 ───あたし、逃げないって、約束したのに。

 彼が小さな可愛い従弟だった頃、そう、確かに約束したのに。

「――ごめん、帰る!」
「え、何いきなり!?」
 驚く友人の声を振り切って、真弓は店を飛び出した。
 早く帰らなければ――その一念で近道しようと裏路地に入った真弓に、後ろから声がかかる。
「――天野さん!」
「え――三条さん?」
 振り返った先にいた太一に、真弓は目を見開く。
「忘れ物です。――というか、こんな時間に女性の一人歩きは危険ですよ」
 差し出された鞄に、真弓は身一つで飛び出してきたことに今更気付き、自身の迂闊さに赤面した。
「あ……すいません。でも、大丈夫ですから」
「ダメですよ、送ります。最近何かと物騒ですから」
 鞄を受け取りながら返すと、太一は険しい顔で頭を振る。その様子に、送り狼のような下心は感じられない。
 しかし、最近物騒、というその言葉に、真弓は更に自身の迂闊さに気付いた。

 ───あたし、狙われてるんだった。

 勇太のことでいっぱいいっぱいになって、失念していた。一人歩きは確かに拙い。
523我が心、君知らず:2009/07/09(木) 21:02:15 ID:???
 かといって、一般人の太一が一緒では余計に危険だ。しかしこの様子では、彼は何が何でも真弓を送るといって聞かないだろう。
「え〜と……じゃあ、迎え呼びます。三条さんにこれ以上、お手数掛けられませんから」
 言って、届けてもらった荷から携帯を取り出す。
 一瞬迷って――それでも、その番号を呼び出した。
 呼び出し音が一回、そして二回目が鳴りきる前に、
『――真弓ッ!?』
「ゆ、勇太?」
 余りに速攻で繋がったことに目を白黒させつつ、真弓は従弟に告げる。気まずさから口早に、用件だけ。
「ごめん、あたし今、一人歩き拙いから迎え来てもらえる? 場所は駅裏の――」
 と、場所を告げかけた時、ブッ……と通話が切れた。一瞬、余りに虫のいい頼みに従弟が怒って切ったのかと思ったが、違う。
 街の喧騒が切り取られ、辺りに沈黙が満ちる。
 視界の端で、三条の身体が、糸の切れた人形のようにその場に倒れ伏した。
「――ワーディング……!」
 真弓のその声に答えるように、路地奥の暗闇が、一つの人影を成す。

「……久しぶり……やぁっと会えたねぇ、真弓……」

 闇に溶けるような黒装束――歌舞伎の黒子のような姿をしたその影は、若さも老いも、性別さえも感じられない、面妖な声で告げた。
524mituya:2009/07/09(木) 21:07:06 ID:???
今日は、とりあえずここまで!
前後編に分けるほどのものじゃないけど、ちょいと本日の時間が尽きた(汗)
ちくしょー! さるさん、お前のせいだこのヤロー!

支援下さった方ありがとうございます!続きは明日に!
では、お休みなさい〜。
525mituya:2009/07/10(金) 17:55:16 ID:???
昨日は中途半端に帰ってしまった子です(汗) おごご……申し訳ないORL

続きは、今日の20時くらいに投下いたします〜。
お暇な方は支援してやってくださいませ〜
526我が心、君知らず:2009/07/10(金) 19:55:18 ID:???
「……今日はこの前と違って一人なんだ……それとも、あなたも人形?」
 手にした鞄を弓矢へと変えながら問う真弓の硬い声に、黒子が笑う気配がした。
「察しがいいねぇ。賢い子は大好きだよ? それでこそ、手に入れる価値がある」
「手に入れる……?」
 殺す、ではなく、手に入れる。その言葉に、真弓はどことなくおぞましいものを感じて、眉を寄せる。
「そうとも。僕は美しいものを愛している。それは、僕自身がとても醜い姿をしているからだろうけれど。美しいものは手に入れて、飾っておきたいんだ」
 執着と妬心が綯い交ぜになったような、おぞましい声音。くくく、と聞く者の背を、怖気の冷たい手で撫で上げるような含み笑いが、響く。
「君は、僕が見てきた中で最も美しい人だ。姿が美しいだけでなく、聡明で、その心も穢れなき純真なもの。――何が何でも手に入れたい」
「残念だけど、お断り! 人形越しでプロポーズされても嬉しくないから!」
 熱烈な告白を一言で切って捨てた真弓に、黒子は何が楽しいのかくつくつと笑った。
「うんうん、君ならそう言うと思った。でも――これならどうする?」
 瞬間、真弓は視界の外で新たな気配が動いたのを察し、身を捻ろうとして――迫り来るものの狙いが自身ではないことに気付く。
「――三条さん!」
 叫んで、真弓は咄嗟に動いていた。
 倒れ伏した太一と、迫り来る黒い矢。両者の間へ咄嗟に割って入る。黒い矢は、咄嗟に身を庇って出した真弓の両腕に命中し、
「なっ――」
 瞬間、幾本にも解けて真弓の体を拘束し、地に引き摺り倒した。
「さて、まだやる? 真弓?」
 視界の外から太一を撃った――否、太一を狙うと見せかけて、真弓を撃った新手――異形の男が問う。
 顔半分が焼け爛れたように引きつり、左手は醜くひしゃげた姿。
 異形の人形遣いが、低く笑った。
「人形越しじゃダメだと言うからね。直接言いに来たよ」
「な……んど、言われても――お断りッ!」
 強く叫んで、不自然な体勢で弓に矢を番えようとして――
 横手から伸びた白い手がその弓に触れた途端、ぼろりと弓が崩れて落ちた。
527我が心、君知らず:2009/07/10(金) 19:56:08 ID:???
「え……?」
 呆然と呻く真弓に向けて、その手の主は、穏やかな笑みで、告げる。
 先程まで、人形のように地にしていた男――否、人のように、気を失った振りをして倒れていた人形が。
「もうやめてください、“真弓様”。これ以上やりあっても、あなた様の美しい御身に、要らぬ傷が増えるだけです」
 彼(か)の人とよく似た風貌の人形が、彼の人の口調を真似て告げるのに、真弓は絶句して、その顔(かんばせ)を見上げるしかできなかった。
 どうして気付けなかったのだろう――こんな不自然な、作り物の笑みに。
「屑人形を量産して手数で押すだけじゃあ、君を徒(いたずら)に傷つけるだけだって、前回でわかったからね。今日は絡め手で攻めさせてもらったよ」
 人形遣いが、そう、異形の相貌をゆがめて、嘲弄の声を告げた。

  ◇ ◆ ◇

 家を飛び出して、駆け出して――勇太は、己の迂闊さに気付いた。
「――真弓、どこだよ!?」
 とりあえず、伯母が行き先を聞いているかもしれない、と携帯を取り出した時、掴んだ手の中から着信音が響く。
 液晶には、『真弓』の文字。
「――真弓ッ!?」
『ゆ、勇太?』
 余りに速攻で出たことに驚いたのか、こちらの名を呼ぶ真弓の声が上擦っている。
『ごめん、あたし今、一人歩き拙いから迎え来てもらえる? 場所は駅裏の――』
 そう、妙に口早に真弓が告げかけた時、ブッ……と不自然にその声が切れた。
「真弓!?……真弓ッ!?」
 いくら携帯に怒鳴りかけようと、聞こえるのは、通話が切れたことを告げる電子音だけ。
 嫌な予感と冷たい汗が、勇太の背を伝う。
 こちらから掛け直してみても、返って来るのは呼び出し音ではなく、繋がらない旨を告げる無機質なアナウンスのみ。
「――クソッ!」
 悪態と共に、通話先を変える。こちらは三回の呼び出し音の後に繋がった。
528我が心、君知らず:2009/07/10(金) 19:57:31 ID:???
『はい、もしもしこちら――』
「南方勇太だ! 天野真弓になんかあった! 多分、例の傀儡野郎の襲撃だ! 駅裏周辺中心に、すぐ捜索隊出してくれ!」
 相手の言葉を遮る形で一方的にまくし立てると、通話を切って駆け出した。
「……無事でいろよ、真弓……!」
 間に合ってくれ――そう切実に願いながら、勇太は全力で駆け出した。
 とりあえず、駅裏辺りにある合コンに使われそうな店を、片っ端から覗いて周り――
「――あんた!」
 五件目で、見覚えのある顔を見つけて思わず叫んだ。
「あんた、真弓の友達だよな!」
 以前、真弓が送ってきた写真に、一緒に写っていた女友達だ。
 相手も、真弓に写真を見せられるなりしていたのか、勇太の顔を見て目を見開いた。
「君、真弓の従弟の……ユウスケくんだっけ?」
「違う、勇太!――って、ンなこたどーでもいいんだ! 真弓は一緒じゃないのか!?」
 勇太の剣幕に、真弓の友人は、やや身を引きながらも、
「真弓なら、帰るって言って大分前に店出て……でも、三条さんが送ってったから、大丈夫よ」
「……サンジョウさん?」
 我知らず、声が一段低くなった勇太に、友人は顔を引きつらせつつも答えてくれる。
「ええと、今日はじめて、ここで会った人なんだけど……」
「え、そっちの連れだろ? あいつ」
 隣にいた男子側の幹事らしい男が、目を見開いてそう言った。
「え、違うよ。っていうか、こっち女子グループじゃん。なんで男連れてくるの」
「いや、男女比合わせるのに来て欲しいって女子に頼まれた、って本人が言ってたぞ?」
「何言ってんの? 今日一人男増えるから、女一人増やせって、昼にいきなり言いに来たのそっちじゃん! それで私、真弓呼んだんだよ?」
「そっちこそ何言ってんだよ! 俺、昼にお前になんか会ってねぇよ!」
 噛みあわない会話に、勇太は低い声で問う。
「――つまり、どっちの連れでもないのが、一人紛れ込んでたのか?」
 端的なその言葉に、事態の異常さを理解したのか、二人の顔から血の気が引く。
「マジかよ、なんだそれ……」
「そんなわけわかんないやつと一緒に……真弓……ヤバんじゃ……!」
529我が心、君知らず:2009/07/10(金) 20:01:30 ID:???
「オレが探す。そいつ、どんなヤツだ」
 普通なら高校生に事態を任せる方が拙いが、動揺している二人は気付けなかったらしく、
「細面で……身体弱そうな感じの……」
「真弓の知り合いと似てるとか……確か、ジョウノシンとか何とか、えらい古風な名前の……」
「――ンな偶然があってたまるかッ!」
 告げられた名前に、勇太は思わず叫んでいた。
 かつて共に戦った、人形使いの修験者。二度と会うはずもないその青年似の男と出て行って、その直後に音信不通。――そんな偶然あってたまるか。
 十中八九、“傀儡師”の撒いた疑似餌だ。
 何故、“傀儡師”が浄ノ進のことを知っていたかは大した問題ではない。オーヴァードの中には物を介して情報を得る者もいる。おそらく“傀儡師”は、痛み分けで終わった最初の戦いの際、真弓の記憶を読んだのだ。
 そして、真弓の友人に、この男幹事の姿の人形で虚偽の情報を流し、真弓を呼び出させて、浄ノ進を模した人形を場に潜り込ませた。
 回りくどいが、闇雲に待ち伏せるよりは、確かに真弓に接触しやすい。
 厄介な相手だ。手間暇や小細工を苦としない、絡め手タイプ。こうなると、呼び出した後の細工も、相当練っていると見るべきだ。
 ───真弓が、危ない。
 改めて湧いた危機感に、勇太は二人に咆えた。
「どっち行ったかわかんねぇか!?」
「いや、見送ったわけじゃないし……あ、でも、真弓、エラい急いでたから、ショートカットで裏路地通ったかも……」
 それだけわかれば十分だ。勇太は即座に踵を返して、
「わかった、ありがと! あと任せろ!」
 そうとだけ告げて、店を飛び出して裏路地の方へ駆け出した。

  ◇ ◆ ◇
530NPCさん:2009/07/10(金) 20:02:29 ID:???
四円〜
531我が心、君知らず:2009/07/10(金) 20:06:05 ID:???
「……どうして、頷いてくれないの、真弓」
 悲しげな声音で異形の男が継げる先には、赤黒い縄で地に縫いとめられ、見るも痛ましいほどに傷ついた娘の姿。
 得物を作る。矢を射て躱される。弓を壊される。相手の黒い矢を避けきれずに、地に這わされる。――何度繰り返しただろう。
 もはや声を出すのも辛いのか、無言で睨み返す娘に、異形の男は心底悲しげな声音を紡ぐ。
「これで最後だよ。これで頷いてくれなかったら――僕は、君の身体だけを持って帰る」
 つまり、頷かなければ、殺して遺体だけを蒐集する、という意味。
「……そっちこそ、どうしてわからないの」
 荒い息の下、それでも確かな声音で、真弓は言葉を紡いだ。
「あたしは……絶対、人を物扱いするような相手の言いなりになんてならない!」
 真っ直ぐに、相手の目を見返す眼差しには、不屈の光。
 その脳裏に浮かぶのは、一人の少年。想う相手(じぶん)を目の前にして、それでもこちらの意に反することをしないようにと、自分を制するように背を向けて。
 思い出すのは、かつて奇妙な異界で出合った異形の狼。ことあるごとに喰ってやると狙われて、でも弱いものいじめが嫌いな彼の言葉は、裏返せばこちらを一つの“命”と認めていて。
 ただ物みたいに、『欲しい』『手に入れたい』と駄々を捏ねる、相手の意思も命も認めない。こんな相手に屈したら、自分を認めてくれた“彼”に、申し訳が立たないから。
 例え──ここで殺されたって、
「あなたなんかに後生大事に飾って置かれるくらいなら、例え姿がどんなにぐちゃぐちゃになったって、“彼(オオカミ)”に食べられて死んじゃう方がずっといいッ!」
 真っ直ぐな真弓の答えに、すっと異形の面から表情が消えた。
「そう……それが、君の答えか。――さよなら、真弓」
 その言葉を合図に、真横にいた太一が真弓に手の平を向け――

 瞬間、生まれた漆黒が、獲物を呑み込んで跡形もなく消し去った。

「――え……?」
 人形が黒い球体に消し去られたのを、目の前で見届けた真弓は、呆然と、不自由な身で、現れた気配の方を振り返る。
「……ゆう、た……?」
 通りから差し込む逆光に、シルエットだけを浮かび上がらせた少年が、そこに立っていた。

  ◇ ◆ ◇
532我が心、君知らず:2009/07/10(金) 20:09:07 ID:???
 やっと見つけた探し人は、ぼろぼろに傷つき、地に拘束され、今まさに命を刈り取られようとしていた。
 まず一つ、勇太の中で音を立てて何かがキレた。
 かつての好敵手の姿を模した人形(でくのぼう)を、怒りのまま、一撃で消し去って――
「……ゆう、た……?」
 弱々しい声で己の名を呼ばれた瞬間、完全に、ブレーキが壊れたのを自覚した。
「――……くも……」
「なんだ、お前――!」
 漏れた呟きを遮って、異形の男がヒステリックに叫ぶ。
 その声に応えて、黒子が動いた。その手から、赤黒い矢が放たれて、貫く。
 しかし、撃たれた少年は、腹を穿たれたことに気付いた風もなく、自身の力を行使した。
 生み出された闇が、大きく顎(あぎと)を開いて人形へと突貫する。
 人形は咄嗟に後退るが、遅い。漆黒の狼と化した“重力”は、美味くもない獲物を一飲みに下し、消えた。
「……な……」
 呆然と呻いた人形遣い。そこへ、改めて“狼”の主の声がかかる。
「――よくも、真弓を……!」
 低い低い、極限まで憤怒を煮詰めたような、声。
 無造作に、一歩。何重にも己の大事なものを踏みにじってくれた、憎き相手に歩み寄る。
 表情を影に隠したまま、声にだけ憤怒を宿して歩み寄ってくる少年に、“傀儡師”は思わず後退る。しかし、そこで我に返ったように踏みとどまると、
「……た、たかだか二体潰したくらいでいい気になるなッ!」
 腰の引けた姿勢のまま、アスファルトの大地に自身の血を振り掛けた。血に触れた部分から、地がむくむくと隆起し――
「――遅い」
 一言。少年の呟きと共に生まれた漆黒が、形を成しかけた人形を無造作に呑み込んで屠った。
 絶句して立ちつくす“傀儡師”に、少年は吐き捨てるように告げる。
533NPCさん:2009/07/10(金) 20:13:19 ID:???
さる避けに、支援。
534我が心、君知らず:2009/07/10(金) 20:13:38 ID:???

「この程度で、あの山住の姿を人形に使うか」

 声と共に放たれた漆黒が、人形遣いの片腕を食らう。
「……ぁぁあああああッ!」
 悲鳴のような声と共に放たれた血矢を、無造作に闇で相殺、更に一歩。
 煮えたぎるように、凍えるように、灼熱の怒りを冷徹な殺意に転化した声音で、告げた。

「この程度で――このオレ(ワシ)の女(エモノ)に手を出したか」

 声と共に、彼の眼前に、巨大な漆黒が生まれる。
 それは見る間に形を変えて――雄雄しく、勇ましい、威厳ある姿を成した。

 ───大神(オオカミ)。

 先程、人形を飲み込んだものとは比べ物にならない荘厳たる霊威の化身が、夜の闇より深い漆黒の姿で顕現する。

「消えろ、身の程知らずが!――地獄の底で悔いやがれッ!」

 大喝と共に放たれた漆黒の獣が、許しがたい仇敵の姿を覆い隠し、呑み込んで――夜に還るようにして溶ける。
 一拍置いて聞こえ出した街の喧騒が、終わりを告げるように少年の耳を打った。

  ◇ ◆ ◇
535NPCさん:2009/07/10(金) 20:22:15 ID:???
>252
FSQとは懐かしいな
536我が心、君知らず:2009/07/10(金) 20:22:39 ID:???
「――勇太、大丈夫!?」
 掛けられた声に我に返って振り返ると、束縛から解かれた従姉が、身を起こして駆け寄ってくるところだった。
 目の前でよろけた彼女を慌てて支え、怒鳴るように返す。
「そりゃこっちの台詞だ! ンな時に一人で出歩きやがって! オレがどんだけ駆けずり回ったと思ってンだ!?」
「……ごめん」
 真弓は萎れて告げる。泣きそうに、声を震わせて。
「危ないことして、ごめん。気付けなくて、ごめん。――逃げて、ごめん」
 震える肩に寄りかかるようにして抱きしめて、勇太は頭を振った。
「……もういい。全部いい。真弓が無事ならそれでいい」
 抱きしめるその感触が、その熱が、彼女の存在が失わずに済んだことを、確かに伝えてくる。
 あの異形の狼の姿で、ただ胸に宿った面影だけをよりどころに彷徨っていたような日々は、もうごめんだ。
 この熱を失わせはしない。側にいる。絶対に守り抜く。
「……ごめんっ……!」
 ごめんね、と繰り返す彼女の頭を、勇太は腕に抱きこんで、それ以上の言葉を遮った。
 しばしして、彼女の嗚咽が治まった頃、勇太が腕を緩めると、彼女は顔を上げる。
 真っ直ぐに、こちらを見返したまま、いつもの明るい笑みを浮かべて、口を開く。
「あのね。まだ正直、勇太を“男の人”とは見れないけど。それでも、それでもね、勇太はやっぱりあたしにとって特別だから」
 その言葉に、勇太は僅か、苦笑する。

 ───そんなことは、遠の昔に知ってるよ。

 あの奇妙な戦乱の中で、真弓がどれだけ自分のために奔走してくれたか、知っている。
 だから――とりあえず、今は、それでいい。

 この熱を抱き込んでも拒まれない。この熱を守れる距離にいられる。それだけで――
537NPCさん:2009/07/10(金) 20:23:12 ID:???
うお、ゴバーク
538我が心、君知らず:2009/07/10(金) 20:24:52 ID:???
「……あぁ、いーよいーよ、十分だよ」
 勇太が内心の思いを隠してわざとふてたような声で返せば、真弓はむっとしたような表情で、
「あ、信じてない! ホントなんだからね! さっきだって、あの人形遣いに殺されそうになった時、『こんなやつの好きにされるくらいなら、イクフサ(ゆうた)に食べられちゃう方がいい』って思ったんだから!」
「――っげホッ!?」
 怒鳴るように告げられた言葉に、勇太は思いっきり呼吸を乱して咽こんだ。
「……だ、大丈夫!?いきなりどーしたの!?」
「――どーしたの、じゃねぇッ! いきなり何言うかこのボケ女ッ!」
 慌てて背を擦ってくる従姉に、勇太は思い切り怒鳴りつける。
「ぼ、ぼけ女ぁ!?」
「ああ、ボケもボケ、大ボケだッ! もしくは男の純情理解してねぇよお前ッ!」
 目を剥いて怒鳴り返す真弓に、勇太は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「全然意味わかんない! 何それ!? どういうこと!?」
「だからボケだっつーのッ! もうちょっと言葉を裏返してみてから、口にしろッ!」
 ムキになって問う真弓に、真っ赤になって怒鳴る勇太。
 二人の言い合いは、勇太が先に呼んでおいたUGNの捜索隊が二人を発見するまで、延々続いたという。


 こんな不器用な二人が、どのような形で決着するかは――まだ、しばらく先のお話。

(Fin.)
539mituya:2009/07/10(金) 20:36:24 ID:???
なんか展開が足早過ぎた気がするんだぜ☆
っていうか、勇太がギラギラしすぎた気がして、反省……よよよ……(泣)
おいしい二人の関係を生かしきれなくて、若干不燃焼気味ですORL

リプレイ読んでて、まず思ったのは、勇太は明らかに真弓に惚れてても、真弓の方にあるのは庇護欲意識(母性)なんだよなぁ、と。
勇太からすれば、いつまで経ってもそのポジションじゃ不満というか、もんもんしそうだなぁ、と。
真弓からすれば、成長したその男の子にいきなり『男』の顔されたら戸惑うよね、という……
それが書きたかったのに……ORL

>>500さん、こんな中途半端な代物になってしまって申し訳ありません……
540mituya:2009/07/10(金) 20:39:54 ID:???
って、一番大事なこと言い忘れました(汗)
支援ありがとうございました!

でわでわ、今晩はこれで失礼いたします〜
541NPCさん:2009/07/11(土) 16:26:17 ID:???
お、一番のり?w

GJでーす!やっぱりこういう雰囲気出すの上手いですねぇ、思わず引き込まれてしまいましたよw

スレ活気も含めて新たな作品を何時までもお待ちしております!
542500:2009/07/11(土) 21:28:50 ID:???
>>539
おおお!さっそくありがとうございます。
すばらしいです。ありがたや、ありがたや。
思わず読み終わった後ジパングを読み返してしまいましたよ。

例えばですけどこの後は
真弓と勇太がUGNでコンビを組むようになって、
守ってあげなきゃと思っていた勇太の戦闘力を間近に
見てちょっとずつ意識するようになる
…とかそういう妄想が走りますよね〜。
543mituya:2009/07/25(土) 14:44:26 ID:???
ハマったコミックの最終巻が絶版で入手できずに涙目なってたら、近所の小さい本屋で見つけてハッピー!(挨拶)
どうも、遅筆なmituyaです。遅くなりましたが、感想下さった方にレスです〜。

>>541さん
>GJでーす!やっぱりこういう雰囲気出すの上手いですねぇ、思わず引き込まれてしまいましたよw
そう言って頂けると、ありがたいやら面映いやら……ありがとうございます〜!

>>542さん
リク主様にご満足いただけたようでホッと一安心ですw
この後ですか! 自分も脳内に妄想の断片はあるんですが、うまくまとまらないので今は熟成期間ですー。
というか寧ろ、あなた様の妄想を是非形に!w


そんでもって今日は、>>501さんからリクを頂いたDXストライクのお話が書きあがったので投下予告!
本日21時くらいに持ってきます!
5レス分くらいの短い話なので、さるさんは来ないと思いますが、お暇な方は見に来てやってくださいませ〜。
544mituya:2009/07/25(土) 20:54:00 ID:???
予告していたDXストライクのお話持って来ました!
とりあえずは作品紹介!

元ネタ:ダブルクロス・リプレイ・ストライク
カップリング:以蔵×シャル……のつもりがシャル×以蔵っぽく……(汗)
時間軸:二巻の一話と二話の間くらい
注意:いつものことながら、自分の脳内妄想フィルターによるキャラ崩壊発生(汗)
こんなの以蔵じゃない! シャルさんなんか違くね? とか思われるかもしれません……

そんなのでよろしければ、どうぞ読んでやって下さいませ!
545月夜の気まぐれ:2009/07/25(土) 20:56:18 ID:???
 それは、取り戻せない過去への感傷か。
 月に惑わされるように首をもたげた、彼女には珍しい悪戯心。

  ◇ ◆ ◇

「こんの、スケベ男ぉぉぉぉおおっ!」
「のぅぁおおおおおっ!」
 少女の絶叫と共に、一つの人影が、奇声を上げて夜空に放り出された。
 その影はまだ若い少年。黒髪に黄色(おうしょく)の肌。東洋人の特徴そのままの容貌に、この平和な島国ではごくありふれた学ラン姿。
 自身の住まう古アパートの窓からコードレスバンジーさせられている彼の姓名を、国見以蔵という。
 少し前、『特異点』という未知数の力を偶然その身に宿すこととなり、それ故に世界規模のトラブルに巻き込まれて、宇宙まで行く羽目になった少年である。
 現在、彼自身に『特異点』の力はなく、それは今、このアパートの新たな住人となった少年と、シャンカラと名乗る謎の男のものとなっている。
 故に、彼が人類にあるまじき体勢で虚空を泳いでいるのは未知数の力のせいなどではなく、ひとえに、彼自身の業に対しての因果だった。──具体的にいうと、幼馴染である大家の娘に、セクハラの制裁として窓からぶん投げられただけである。
 と、重力に従い、放物線を描き始めた以蔵の視界に、一つの人影が映る。
 アパートの庭に佇む後姿。長い金の髪を束ねてまとめ、すらりとした長身を男装に包む、凛とした麗人。
 彼女の名をシャル。生家と共に姓を捨てた女。『特異点』を研究する少女博士に仕え、それが縁でこのアパートにやってきた傭兵である。
 軌道から推測される落下地点に彼女の姿を見出した以蔵は、虚空で器用に身を捻って、両手を彼女へと突き出すと、
「――シャルりぃぃぃぃぃいいいんっ! 俺の熱い思いを身体ごと、その豊かな胸で受け止めてぇぇえええっ!」
 感情を露にすることを是としないはずの傭兵が、虚空の人影の絶叫に振り返って、思い切り眉をしかめた。そして、無造作に一歩右へ。落下ルートからズレた位置に移動。
「そりゃないぜよベイベェーッ!」
 阿呆な叫びを上げて、以蔵はシャルが退いた後の冷たい大地へと、顔面から突っ込むのだった。

  ◇ ◆ ◇
546月夜の気まぐれ:2009/07/25(土) 20:59:13 ID:???
 闇は遠く、星明りも遠いこの土地にしては、珍しく月の良い澄んだ夜。
 誘われるように庭に出て、一人月夜を楽しんでいたというのに。
「……で、今度は一体何をやったんだ、君は?」
 足元に転がる無粋な闖入者に、女傭兵は冷たく不機嫌な問いを投げた。
 首がヤバイ角度に曲がってしまった、常人なら死んでいてもおかしくない――というか、寧ろ死んでなければおかしいような体勢の少年。だが、この少年は――否、自分達はこんな程度のことでは死にはしない。嫌というほど、その事実を体感してきている。
 常人を越える能力(ちから)を得てしまった自分達(オーヴァード)は、この程度では死なないのだ。
 案の定、痙攣していた少年は、予備動作なしに、がばっ、と身を起こして、シャルの腰の辺りにしがみついてきた。
「聞いてよシャルり〜ん! もみじってば酷いんだよ! 俺はただ、俺とあの野郎のどちらが本当にもみじを愛してるか、伝えたかっただけなのに!」
「……つまり男二人でもみじ嬢をはさんで馬鹿騒ぎして、君の方が先に地雷を踏んだわけか……」
 げしっ、と以蔵の腿を踏み抜くように蹴り、緩んだ拘束から抜け出すと、シャルは呆れた声で呟く。
 以蔵の言う『あの野郎』とは、新たに現れた『特異点』を有する二人のうちの一人、このアパートに身を置くことになった記憶のない少年のことだ。
 彼は表面こそスマートな好青年だが、一皮剥くと目の前のこの男と全くの同類である。この二人は同類であるが故の近親憎悪というやつか、放っておくと、ひたすらに低レベルな諍いを飽きもせず繰り返す。今回もそのクチだろう。
 その諍いに巻き込まれた少女へ、シャルは同情の吐息を漏らす。まあ、ある意味二人の諍いの元凶は彼女にあると言えるから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。
「……全く君は……本気でもみじ嬢を想うなら、もう少し節操とか慎みとか、遠慮とか言うものを身につけたらどうなんだ? というか、こんな目に遭っていい加減懲りないのか!」
 しつこく腰に抱きつこうとする少年へ、スラックスに包んだ長い足で踵落としを決めつつシャルが言えば、彼は即座にダメージから復活して叫ぶ。
547月夜の気まぐれ:2009/07/25(土) 21:00:54 ID:???
「今は跳ねつけられても、叫び続ければいつかは届くかもしれないだろ!? 遠慮して伝わらない想いをただ抱え続けるくらいなら、俺はうざがられてもいつか届くかもしれない愛を叫び続けるぅぅぅぅ!」
「少しは自制しろ! 叫べばいいってものじゃ――」
 怒鳴り返しかけて――シャルの声はそこで途切れた。
 以蔵に向き直った時、彼の肩越しにアパートの庭が――かつて生家と縁を切った時に、一緒に捨て来た兄の最期の場所が、月明かりに照らされて見えて。
 ふと、感傷にも似た思いが、過ぎったから。

 ──叫べば、届いたのだろうか。

 古い因習に囚われた家だった。それがどうにも耐えられなくなって、一人飛び出して逃げ出した。逃げた先で新しい居場所を見つけ、そこで自分を貫くことが、置いてきた者達への言葉になると信じて、生きてきた。
 けれど、あの狭い世界で、狭い視野しか持てずに生きてきた兄に、そんな声にしない言葉が届くことなど、果たして有り得たのだろうか。
 そもそも自分は、置いてきたもの、捨て来たものに、本気で何かを伝える気があったのだろうか。
 どうせ無駄だと、届かないと、声にする前から、どこかで諦めていなかったか。届かない声を張り上げる空しさと、無様さに、それを避けて生きてきたのではないか。
 もし――もしも。この目の前の少年のように。
 自分があの家に疑問を持った最初の時から、呆れるほど不恰好に、鬱陶しいほど喚き続ければ。
 あの兄も、彼に見えている狭い世界から、外(こちら)へと振り返るくらいのことはしたのではないだろうか。
 そこから引き摺り出すとまでは行かなくとも、世界の広さに、道の多さに、気づかせるくらいのことはできたのではないか。

 ───みすみす、狭い視野の目の前に歪んだ理想をぶら下げられて、それが全てと不帰路に踏み出すような、そんな結末を迎えさせなくても済んだのではないか。

「……シャルりん?」
 と、訝しむような声に、我に返る。見れば、以蔵が珍しく神妙そうな表情でこちらを見上げていた。――こちらが見ていたものに、気付いたのだろうか。
 こんな少年に気遣われるほど、幼くもなければ、老いてもいない。そんな思いを苦笑に湛えて、シャルは掛けられた声に応えた。
548月夜の気まぐれ:2009/07/25(土) 21:02:33 ID:???
「別に斬ったことを悔いてるわけじゃない。他に道はなかったのだから」
 誰とは言わず、ただそう告げる。
 再会したあの時には、もう、兄は目の前にぶら下げられたものを唯一として、既に不帰路へ踏み込んでいたから。
 引き戻すことは不可能で、その時の自分にできることは、ただその歩みを止めることだけだった。その時にできる事をやったのだから、後悔はない。
 ただ、あの兄は、ある意味でもう一人の自分とも言える存在だったから。あの家に置いてきた、かつての自分だったから。それを救えなかったことに、少し未練があるだけ。
 逃げたことで始まった今の自分だけれど、それでも今は胸を張れるから、後悔はしない。自分を救ってくれた人に応えるために、後悔だけはしないと、決めた。
 そう思って、シャルは、その救い主の少女が仄かに想いを寄せる相手を見遣る。
 いつもはやかましいくらいに賑やかなのに、らしくもなくこちらに気を遣ってか、ただこちらを見つめる少年。
 舞い込むトラブルに耐えきれなくて逃げ回り、けれど、最後の最後で踏ん張って、自ら立ち向かった子供。調子ばかり良くて、鬱陶しくて不恰好で、けれど、どこか憎めない何かを持っている男。
 自分とは対極の生き方の、少年。
 彼のような生き方の人間こそが、きっと、本当の意味で、誰かを救うのだろう。
 不恰好であればこそ、下らないプライドなんて投げ打って、想いを叫べるから。賢くないからこそ、根拠や確立なんて気にもせず、信じた希望に向かって行けるから。
「……しゃ、シャルりん? そんなに俺のこと熱烈に見つめちゃって……さては、俺に惚れた?」
 と、視線を向けたままそんな思考に沈んでいたら、当の以蔵がそんなことをほざいて来た。
 珍しく好意的なことを考えていたら、すぐこれだ。呆れて溜息をついて――ふと、シャルの中で珍しく、気まぐれにも似た思いが過ぎった。

 ───たまには、好意の類を表現してやってもいいのかもしれない。

 彼のように相手に鬱陶しがられるほどでは論外だが、確かに想いと言うものは、ある程度、言葉や態度で示すべきものなのかもしれない。
 そんな風に思ったのは、想いを示すことで救えたかもしれない兄への、感傷だったのかも知れないけれど。
549月夜の気まぐれ:2009/07/25(土) 21:04:29 ID:???
 ふっと口許を緩め、柔らかい笑みを浮かべたシャルを見て、いつもは鬱陶しいくらいに騒ぐ立てる少年が、何故か狼狽したように後退りした。
「え、なんですかシャルさん、その笑みは? イエスってこと? って、そんなわけないですよねすみません調子ぶっこきました! ごめんなさい謝るからっていうか俺は何されるのどうされるの本日二回目のお仕置きタイムー!?」
 思いっきり怯えた風に後退る以蔵に、シャルは笑みを引き攣ったものに変える。
 本心の好意から笑みを見せたというのに、その反応はなんだ。というか、彼の中の自分の位置づけはどういうものなのだろう。
 流石に面白くない。しかし、それ以上に、笑みだけでこのリアクションなら、これ以上ならどう反応するのか、という好奇心が首をもたげた。
 シャルはじりじりと逃げる以蔵の襟首を引っ掴んで、自身の方に引き寄せる。
「きゃー! 痛くしな――ッ!?」
 叫びかけた以蔵の声が不自然なところで切れる。

 引き寄せられた額に、俄かに落された柔らかな感触のために、硬直して。

 しばしして、シャルは引っ掴んでいた襟首を離し、
「――良い月夜に話相手になってくれた礼だ。まあ、二度はないだろうから、ありがたく取って置くといい」
 告げられた方は、その声も聞こえていない様子で、ただ額を押さえて、金魚の如く口をぱくぱくさせている。
 その様子に先程のことに対する溜飲を下げると、女傭兵は悠然と笑んで見せ、
「では、おやすみ」
 そう言い残し、月光の差す庭から、アパートの中へと戻っていった。

  ◇ ◆ ◇
550月夜の気まぐれ:2009/07/25(土) 21:06:27 ID:???
 ちなみに、その後。
 一人残された少年が、彼女の姿が完全に消えた後に硬直から脱し、
「……え、何これ、どゆこと? シャルりんが俺にデコチュー? デレ期? いや、あのツンツンツンツンツンツンなシャルりんがデレるなんて、そんな夢みたいなこと……はっ! そうか、これは夢か!? 夢なんだな!?」
 拳を握って、そんな結論へ一人勝手に辿りついて、
「もみじにぶっ飛ばされた後に気絶して夢見てんだ俺! そうに違いない! しかし、なんて都合のいい夢……! きっとこの夢の中なら何やっても大丈夫! ハーレムだってきっとできるよ、俺!」
 ガッツポーズを取って阿呆なことをほざき続ける最中に、背後から声がかかり、
「以蔵〜……? あ、良かった、生きてた。……なかなか戻ってこないから、打ち所悪かったのかと……っていうか、流石に窓から投げるのはやりすぎだったかも。ごめ」
「ハーレム攻略対象キタ――――ッ!」
 降りてきた幼馴染の言葉を皆まで聞かず、彼女へと勢いよく抱きついて、
「きゃ―――ッ!? いきなりなに訳わかんないこと言って抱きついてくんのよバカ以蔵―――ッ!?」
 少女の悲鳴と平手打ちの音が、短い夢の終わりを告げるように、音高く月夜の空に響き渡ったことは――女傭兵のあずかり知らぬ事である。

(Fin.)
551mituya:2009/07/25(土) 21:16:13 ID:???
スレ汚し、お目汚し、失礼いたしました(汗)
なんか、自分の中の以蔵は、女の子に冗談では迫れても、女性の方から不意打ちで来られると許容オーバーしてリアクションできないイメージが……
なんつっても、MNOですしw いや、三巻ではモテてたけど……相手人じゃなかったけどw
シャルさんが妙に感傷的になってしまって、別人化してしまったような……おごご……
>>501さん、リクがこんなんなってしまって申し訳ありません(汗)

多分、次はレンノエ続き辺りをお土産に持ってくると思います〜。いつになるかはわかりませんが(汗)

……ところで、480KB越えしてしまったんですが、これは自分が次スレを立てるべき……?
552NPCさん:2009/07/25(土) 21:38:08 ID:???
乙ー。シャルの微デレGJ!

・次スレは>>980を踏んだ方、若しくは480kbyteを超えたのを確認した方が宣言後に立ててください。

なので次スレよろしく。
とりあえずテンプレは↓


ここは自分が遊んだ卓上ゲームのプレイレポートやリプレイ、卓上ゲーム同士のクロス、
公式キャラやリプレイのSSなど卓上ゲームに関係する文章作品を総合的に扱うスレッドです。

・不要な荒れを防ぐ為に、sage進行で御願い致します。
・次スレは>>980を踏んだ方、若しくは480kbyteを超えたのを確認した方が宣言後に立ててください。
・801等、特殊なものは好まない人も居るので投下する場合は投下前にその旨を伝えましょう。
・各作品の初投下時は、元ネタとなるゲーム名も一緒に書き込んでもらえると助かります。
・内容が18禁の作品は投下禁止。 相応しいスレへの投稿をお願いします。

前スレ

卓上ゲーム板作品スレ その4
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1226119982/


卓上ゲーム板作品スレ保管庫
http://www20.atwiki.jp/takugess/


投稿規制時の代理投下や荒らし等の緊急時は避難所へ。

卓上ゲーム板作品スレ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12795/1248525425/
553mituya:2009/07/25(土) 21:58:18 ID:???
>>552
了解です! テンプレありがとうございます! 立ててみます〜
554mituya:2009/07/25(土) 22:02:04 ID:???
無事立ちました!

卓上ゲーム板作品スレ その5
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1248526786/l50
555NPCさん:2009/07/25(土) 23:54:04 ID:???
>>554乙ー

じゃ、梅ネタ代わりにこのスレでよかったssについてでも話すかい?
556NPCさん:2009/07/27(月) 01:08:27 ID:???
557NPCさん:2009/07/28(火) 01:07:54 ID:???
埋めもりー
558|ω・`):2009/07/28(火) 02:07:54 ID:???
埋めがてらに呟いてみますが、サガのドラマガ外伝のタイトルは

『ヴァリアブルミッション』

であるべきだったと思うんだ。
(超真剣)

559ダガー+我コソハ浪漫派也:2009/07/28(火) 02:12:04 ID:nN972jK3
「ゆにば」と「月夜の気まぐれ」が良かった。単にマイナー嗜好ともゆう。

たまにはサタスペとかD&Dとかも読んでみたいねー。
560NPCさん:2009/07/28(火) 02:25:12 ID:???
ってかダガーさんまだ見てたのかこのスレw
561|ω・`):2009/07/28(火) 02:29:16 ID:???
「…アル、今度はこれ着てみてくれませんか?」
嬉々とした顔で衣服を差し出すピアニィに、アル(女性化済み)は深々と溜息をついた。
「―――あのなあ、姫さん。これは修道院への潜入任務のはずだろ? なんだってそんなに服が出て来るんだよ」
いつもより高くて柔らかい声で拒絶されて、ピアニィの頭がしょんぼりとうつむく。
「……うぅ、だって…きっと似合うと思ったんです…」
「そういう問題じゃねえだろ…」
どんどんずれていく会話に、アルの表情が呆れ顔になる。だが、ピアニィは怯まなかった。
「だって、折角きれいな髪の色なのに、それに合わせて服も選んだらいいのになって、思ってたんです。
だけど、男の人の服は良くわからないから、この機会にと思って――」
―――正面切って誉められては、流石にアルも返す言葉がない。が、引っかかる点がひとつ。
「―――待て。この機会ってことは、前々から画策してやがったな?」
問い返すと、正直なことにピアニィの視線がさまよいだす。
「………え、と…画策って言うか、女の子だったら服が選びやすいかな、とは…」
「…………」
渋い顔で黙り込むアルの前で、ピアニィが見る見るうちにしおれていく。
「―――ごめんなさい…」
蚊の鳴くような声での謝罪に――アルはもう一度、深々と溜息をついた。
「…………もういいって、今回は引き受けたからにはきちんとやるさ。服だって、選んでくれりゃあ着るよ――だから、そんな顔すんな」
多分に諦めの混じった承諾に、ピアニィの表情が明るくなる。
「ほんとですか? あたしが、アルの服選んでもいいの?」
「ああ、そのうちな。――だから、早く服持って来てくれ。ちゃんと修道院用のやつを」
「はい! ちょっと待っててください!」
嬉しそうに身を翻すピアニィの背に、アルはもう一度だけ小さく溜息をついた。

その後、ピアニィは修道服を持ってきたものの
『これだとスリットが』『こっちは丈の長さが』
と、修道服だけで何パターンも着替えさせられることを、アルはまだ知らない。
562NPCさん:2009/07/30(木) 20:59:17 ID:???
埋めつつ>>561ナイス小話と叫んでみるっ。
ピアニィ可愛いよピアニィ。

>>555
自分は「夜を往く者」と「くれは小編」がストラーイク。
あと、あかりんのお話も。

でも、ホントNW率高いなぁ、このスレ、と読み返して改めて思ったり。
>>561さんが次スレのアリアン率を向上させてくれることを密かに期待。
563NPCさん:2009/07/31(金) 10:22:13 ID:???
「こっちは防御が1点高くてこっちは行動値のマイナスが無くてこっちは【魔術】ダメージにプラスが来るんですよ!」
「最後のを俺にどうしろと」
564NPCさん:2009/08/01(土) 11:24:07 ID:dmGxDRoW
ピ「じゃあ、このナンベールで精神+1、70pスリットのスカートで敏捷+1ならいいですか?」
ア「まあ、その程度なら・・・って、何だそのスリット?!!」
565NPCさん:2009/08/01(土) 23:32:58 ID:???
うめ
566NPCさん:2009/08/04(火) 01:21:17 ID:???
>>563
「実はこないだベネットちゃんに聞いたエリンディル式対魔法訓練っていうのに酷く感銘を受けまして・・・」
「何か関係あるのか? でもまあ、エリンディルにはそんな訓練があるのか。ちょっと興味あるな」
「じゃあさっそく試してみましょうっ!」(すちゃ)
「・・・え? なんで俺に杖を向ける?」
「あたしの全力の《コキュートス》に耐えられたら合格ですっ!!」
「なにぃ!? 待て、ちょっ――!!」

・・・こうしてアルは見事《ディフレクション》を会得したのだった


一話の時点で覚えてるがまあ気にするな
567NPCさん:2009/08/05(水) 00:32:25 ID:???
つまり、ピアニィをエルザに、ベネットを適当に風の噂とかに置換すれば完璧、と
568NPCさん:2009/08/05(水) 00:43:24 ID:???
なにそのGMゆーらが意図的に流しそうな風の噂。

GM「ところでエルザさん、こっちはアルディオンですが、基本世界であるエリンディルには耐魔法訓練という(ry」
エルザ「そうなんですか! わかりました、ツヴァイ君に全力で魔法を打ち込めば良いんですね?」
GM「そうそう、それで新しいスキルを覚えたり魔法防御が上がったりすることがあります」
ツヴァイ「てきとーこくな――っ!?」
GM「…うひひ」
569NPCさん:2009/08/10(月) 19:51:03 ID:???
               l^丶
        もさもさ   |  '゙''"'''゙ y-―,
               ミ ´ ∀ `  ,:'
             (丶    (丶 ミ
          ((    ミ        ;':  ハ,_,ハ
              ;:        ミ  ';´∀`';,
              `:;       ,:'  c  c.ミ
               U"゙'''~"^'丶)   u''゙"J

570NPCさん:2009/08/11(火) 05:09:57 ID:???
しばらく見ないうちにここも馴れ合いとかで気持ち悪くなったなぁ……
次スレとかヒドいね。
571NPCさん:2009/08/11(火) 22:39:02 ID:???
そんなもんだ。
572NPCさん:2009/08/13(木) 03:18:47 ID:???
いやほら、前はなれ合ってると注意とか飛んだじゃん
……そうする人もいないくらい過疎ったのか
寂しい限りだな
573NPCさん:2009/08/13(木) 11:27:14 ID:???
じゃあ俺が注意してやるよ

>570,572
古参ぶってグダグダ愚痴るくらいなら作品の一つも投下して空気変えて見せろやクズ
574NPCさん:2009/08/14(金) 11:59:40 ID:???

「アルは、あたしを護って…くれますよね?」
その言葉にアルが振り向いた時、少女の姿は既に無かった。
「―姫さん…?」


「ありがとう、シャル…あなたに感謝を」
告げられた言葉に不審を感じ、シャルが扉を開くと――そこにソフィアの姿は無かった。
「――お嬢さま…!?」


ダブルクロス2nd×アリアンロッド・サガクロスオーバー
『デュアル・ブレイド〜双剣士の双影〜』

背後の殺気に同時に気づき、振り向きざまに両手の武器を互いの喉元に突きつける。
「……同じ、タイミングかよ…」
「―――厄介だな。殺さずというわけには、行かないようだ」


「…私にとって重要なのは、お嬢さま一人だ。足手纏いにだけは、なってくれるなよ」
言葉とともに。シャルの手の中で、白い硬質の棒が大剣へと変化する。
「……誰に向かって、物言ってやがる」
殺気をみなぎらせて、アルもまた腰の双剣を抜き放った。







続かない。というかここ、どの世界だよ。
575NPCさん:2009/08/15(土) 16:38:56 ID:???
        l^丶
        |  '゙''"'''゙ y-―, あ ふんぐるい むぐるうなふ すとらま
        ミ ´ ∀ `  ,:'       
      (丶    (丶 ミ   いあ    いあ
   ((    ミ        ;':  ハ,_,ハ   ハ,_,ハ
       ;:        ミ  ';´∀`';  ';´∀`';, ,
       `:;       ,:'  c  c.ミ' c  c.ミ  
        U"゙'''~"^'丶)   u''゙"J   u''゙"J


576NPCさん:2009/08/17(月) 20:52:44 ID:???
>>574
二人の仲裁に入ったつかちゃんと柊が斬られそうな、よ・か・ん♪
577NPCさん:2009/08/21(金) 13:36:14 ID:???
              (゚∀゚)<スレ埋め!スレ埋め!
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578NPCさん:2009/08/21(金) 13:39:20 ID:???
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579NPCさん:2009/08/21(金) 13:48:02 ID:???
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580NPCさん:2009/08/21(金) 13:51:29 ID:???
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581NPCさん
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