とりあえずオリジナルならいいです
下ネタエロネタはできるだけ控えてください
俺の名前は春野海斗、高校1年だ
んで俺に縋り付いてるのは春野冥、俺の彼女だ
なぜ名字が同じかはあとで明らかになるだろう
そんなある日、平凡な俺の人生を変える出来事が起きた
冥「今日は何処行く?」
海斗「お前の好きな所でいい」
???「春野海斗さんと春野冥さん・・・・・ですねぇ?」
誰の声か分からないが何処からか声がする
???「ここです、気づいてくださ〜い!」
声が下から聞こえてくる、俺は下を見た
???「あっ、良かった気づいてくれましたねぇ」
誰かは分からないが小さな子供がそこに居た
???「あっ言い忘れてた〜僕は神様の代理〜」
なんだこの糞餓鬼は神の代理?ふざけるな
海斗「どうした、神なんか信じてんのかお前は?あのなぁ神様ごっこに付き合ってる暇は無いんだ」
神の代理「いいから僕の話を聞いて欲しいのですぅ」
いちいち伸ばすなうっとうしい
冥「話だけでも聞いてあげましょうよ」
海斗「まぁいいさっさとしろよ」
神代理「あのねぇ〜地球がね〜う〜んとねぇ〜」
海斗「さっさとしやがれ!!この餓鬼!」
神代理「う・・・・・・うえぇぇぇぇん!」
冥「もう!小さい子供を泣かしちゃ駄目でしょ!」
くそ何で俺が怒られなくてはならんのだ
俺が怒っただけですぐ泣くな糞餓鬼、怒られた俺が微妙に恥ずかしいじゃねぇか
何がしたいんだ
ここは自作小説を書くスレただそれだけ
誰か来いよ
誰も来ない
そして長い長い話が終わった
神代理の言い分を一言でまとめると地球を救えらしい、バカバカしい
海斗「で、なんで俺らがそんな事を?」
代理「息ぴったりだから、お願いしたんです」
ここは断りたい、だが冥は断然やる気のようだ
大丈夫かおい・・・・・・・・
続きまだか
このスレオワタ
14 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/15(日) 16:20:10
そして再び始まった
静かな草原の中で少女と一人、立っている。
真上には何処までも広がる青空。
その中に雲がたゆたゆと流れていく。
柔らかな陽光が世界を照らす。
僕の隣には白いワンピースを着て、麦わら帽子を被っている少女。
その少女の黒く、長い髪が風に揺れてる。
少女は草原の向こう、地平線の奥をただ見つめていた。
時代遅れのその格好を、僕はただただ美しいと感じた。
『ねぇ。』
少女が語りかける。
天使の様な微笑を口元に浮かべて。
『いつか・・・、きっと・・・・・・・・・・。』
「起きろーーーーー!」
ボゴッ。
誰かに殴られて、一瞬で夢の世界から現実の世界に戻ってきた。
「寝てないで、起きろーーーーー!」
肩を掴んでゆさゆさ、ゆさゆさ。
がっくんがっくん俺の頭揺れまくり。
「・・・・・。」
「まだ起きない?じゃ、遠慮なくもう一発。」
起きないんじゃない。痛さと脳震盪で反応できないだけだ。
手を振って『起きてる』というサインをする。
「痛ってぇ。起こしてくれるの有り難いけど、殴らないでくれと毎朝言ってるだろ?」
目の前で俺に馬乗りになって頭をブン殴ってきやがる奴に言ってみる。
「だって、声だけじゃ起きないじゃん?だから刺激を加えようと・・・。」
「もういいよ。とりあえず俺から降りろ。優香。」
「へーい。」
そう言ってのそのそと俺から降りる優香。
坂下 優香
今時高校生になっても毎朝俺を起こしにきてくれる典型的な幼なじみ体質の変な奴。
料理は出来る、洗濯も出来る、おまけに美少女ときている。
一見完璧に見えるが、奴にはある『欠点』が2つある。
それは・・・・。
「ららららー。」
音痴な事。
「止めてくれ優香。お前の歌声は寝起きにはキツイものがある。」
「うがっ、ひっどー。
ここで聞いてるのは東也君だけなんだから良いじゃん、別に。」
「良くないぞ、ご近所さんに迷惑だ。」
「うががっ。
そんな大声で歌ってませんー。
音痴でも生きていけますー。
ホラ、そんな事より起きた起きた。」
「はいはい。」
俺はベッドから抜け出すと、二階にある自室から一回洗面所へと着替えに行った。
階段を下ってる途中にまたアイツの音痴な歌声が聞こえてた。
洗面所で顔をフキフキ。
『ここで聞いてるのは東也君だけ』それは確かにその通り。
俺の親は半年前から海外赴任中。
2人とも理工学者でその手の道では結構有名らしい。
なにやらノーベル賞に手が届くとか届かないとか。
でも、そんな事俺には関係ない。
よく近所の叔母さんには『東也君も将来学者志望?』
とか言われるけど、学者なんてとんでもない。
そんなモンになる気はまったくねぇのである。
確かに俺は学校でも頭の良い方に入る。
でもそれは毎日2時間きっちり勉強してきたからであってそれ以外のことは何もしない。
親の後を継いで・・・とかも微塵も思ってない。
当面の目標は『平凡に生きる』である。
まぁ、それが一番難しいんだけどね。
「顔洗ったーーー?」
リビングから優香の声が聞こえてきた。
「おーー。今そっち行く。」
俺は蛇口を捻って冷水を止めた。
18 :
15:2007/04/15(日) 17:19:41
書き溜めてた奴をちょっと放出。
嫌ならここで止めるが・・・。
19 :
15:2007/04/15(日) 17:23:09
「今日は『日本の朝食卓』をイメージしてみました。」
テーブルには目玉焼き、魚焼き、海苔、みそ汁、それにあつあつのご飯が並べられていた。
例によってそれぞれ2人分。
「すまないな、いつも。」
「いえいえ。これも幼なじみである私めの仕事。
ご用の時はなんなりとお申し付け下さい。」
ははぁ、と深々と頭を下げる優香。
何かの召使いのつもりだろうか?
優香は俺の親が海外赴任したその日から毎朝、朝食を作ってくれる。
優香が『一人で食べるよりは2人で食べた方が良いよねー?』とか言いながら一緒に食べ始めたのも必然的にその頃。
こっちとしてはとても有り難いんだが、優香に迷惑だろうから一度
『明日から来なくて良いよ。』っと言ったことがある。
その時、何故かは解らないけど優香は本気で起こった。
本当に今まで見たことが無いってくらい。
・・・・・しかも泣いてたし、優香。
んで、その本人は今自分で作った魚焼きを頬に手をあててうっとりしながら頬張っていた。
もうお星様キラキラ状態。
「ん?東也君。食べないの?」
「いや、食べる。」
俺はそう言って箸を進めた。
悪い、もうちょい放出するわ。
20 :
15:2007/04/15(日) 17:23:58
「ちなみに今回の自信作は魚焼きね。」
ああ、お前が魚焼きを食べる様子からして察しがつくよ。
「・・・・・。確かに。」
「だよねーーー。いやぁ、これ以上料理センスが上がると私としても参っちゃったり。
でもー、東也君がー、もっと私の料理を食べたいっていうならー、私もー、頑張ろうかなー?とかー。」
無視して箸を進める俺。
「無視するなーーー!」
優香の怒号を聞きながら俺は朝食を終えた。
「準備出来たかー?」
「はーい。」
「んじゃ、鍵閉めるぞー。」
「おー。」
そうこうあって学校に出発。
学生たるもの勉学には励まなくてはなるまい。
まぁ、俺の目の前に勉学に励まないバカが一人いるが・・・。
「うががっ!今日英語のテストじゃなかったっけ?」
欠点その2
勉強が出来ない。
「YES」
その瞬間、優香の表情が変わる。
「・・・・・・・・。」
みるみる間に青白くなっていく優香。
優香は英語が特に苦手なのだ。
「・・・・・・・東也君。」
「・・・・・・・何か?」
「カンニングさせて。」
「・・・・・・・ああ。」
※優香は自分が生き残る為には何でもします。
21 :
15:2007/04/15(日) 17:24:28
「THX!
東也君THX!!」
「まぁ、毎朝毎朝朝起こしてもらって、その上メシまで作ってもらってるしな。
それくらいなら手を貸すさ。」
「うんうん。持つべき者はデキる幼なじみだね。」
「まぁ本当はお前が自分で何とかするのが一番なんだがな。」
「うぅ〜、英語は嫌い〜。」
「はいはい。」
登校中はいつもこんな感じだ。
今朝は英語のテストだったが、普段は優香の日常に起こる事が主な話題で、俺に関する事は殆ど出てこない。まぁ、別に良いんだけど。
学校に近づくにつれて道行く生徒の数は増えていった。
「到着っと。」
校門をくぐり校舎の中へ。
ゲタ箱で中靴に履き替えて教室へ。
ちなみに俺と優香は同じクラスの2B。
っていうか、生きててコイツと違うクラスになったことは一度たりとも無い。
小中と9年間同じクラス。
腐れ縁もここまでくれば絶対運命だなぁっと最近思う。
「おはよー。」「ちわー。」
っと2人同時に2Bの教室へ。
ちなみに席は優香の隣。
これもまた小中以下略。
馴染みの男友達と軽く朝の挨拶。
自分の席に着く前に
22 :
15:2007/04/15(日) 17:27:18
「っよ、朝霧。おはよ。」
俺の前の席の少女に一言挨拶。
朝霧は「・・・。」と何も言わず俺を見た。
朝霧 唯
こいつはかなりの曲者で無言キャラだ。
必要なとき以外は一切話さない。
応対も首を縦に振るか横に振るかだ。
それに感情も表に出さないから何考えてんだかわかんねぇ。
身長は俺の胸ほどしかない。
そのくせ出るとこは多少出てる。
その容姿と性格から一部の男子から猛烈に人気がある。
「朝霧。朝はしっかり食べたか?」
「・・・・(こくり)。」
「夜更かししてないだろな?」
「・・・・(こくり)。」
「俺の事、好きか?」
「・・・・・・・。」
あっ、そっぽ向きやがった。
23 :
15:2007/04/15(日) 17:28:37
ここらで一時中断するわ。
神代理「では海斗さんには悪魔の力冥さんには天使の力を与えますぅ」
いちいち小文字がうるさい餓鬼だな
冥「で、どうやるの?」
神代理「注射だよ♪」
冥「ええっ!?注射いやぁぁぁ!」
いい年してそんなもんも出来んのかお前は
注射ごときで騒ぐのは小学生の1、2年だろが
海斗「ほら、お前もさっさと注射してもらえ!」
冥「絶対にイヤ」
神代理「じゃあ魔法で麻酔かけます」
魔法みたいな嘘くさいものがこの世に存在したとはな
冥「あっ痛くない」
良スレ
26 :
15:2007/04/15(日) 17:44:39
>>2氏には迷惑をかけるがこの際だから全て一気に載せる。
そうすれば混同しなくて済む。
何故か朝霧を前にすると保護者ぶりたくなる。
一種の『愛』だな。
「弟。今朝も朝ちゃんに嫌われてやがんのー。」
後ろから『ははーん』っと一番聞きたくない声が聞こえてきた。
「うるせぇーよ、名雲。」
「ふふん、朝ちゃんはハードル高いよ。」
名雲 さや。
女子生徒達のリーダー的存在でダブり生。
成績は悪くない。
リーダーっと言っても特に素行が悪いわけではない。
それなのにダブった変な人。
本来、一年先輩なのだが事実としては同級生だからタメ口をきけるわけ。
優香は律儀にも先輩と呼ぶが。
27 :
15:2007/04/15(日) 17:46:27
「困った事があったらお姉さんに話してみなさい、弟よ。
んっ?んっ?朝ちゃんに振り向いて欲しい?
はいはい、任せなさい。朝ちゃーん!
東也クンが放課後に朝ちゃんへ愛の告白があるんだって。
放課後東也クンのこと待っててあげてよー。」
「おい待て!俺はそんな事口にしてねぇ。
朝霧!黙ってねぇで何か反論しろ。
それに優香!何おろおろしてんだよ。」
見ると優香は俺の方に指を指して口をパクパクしてる。
振り回されるの嫌いじゃない。
でも今日のはやたらヘビーだ。
予鈴が鳴って朝のHRが始まった。
いつもの朝の風景。
悪く言えば機械的。
良く言えば日常。
惰性で続くような毎日を、俺は何の方向性も無く
ふわふわと漂いながら過ごしてる。
毎日がつまらないわけじゃない。
むしろ楽しいし、それなりに充実してると思ってる。
でも、本当に自分はこのままで良いのだろうかと時々不安になる。
28 :
15:2007/04/15(日) 17:48:20
何も変わらず、何も変えることが出来ない弱い自分。
窓の奥の空を見上げると、海原に白い小さな塊が一片だけ流れていく。
行くあても無く、道しるべも無く、行くべき目標も無い。
「人生ってそんなモンだよな。」
小声で呟いてみる。
欲しいものがあるなれば自分の手でつかみ取れ。
どこぞのケチな神様が、そんな感じの言葉を言ってたな。
空の日光が俺を照らした。
午前の授業が全て終わった。
今日は午前で学校が終わりだから帰る事にした。
午後はずっと読書にいそしむ。
夕方になり、カップ麺でも買いに行こうとした時。
29 :
15:2007/04/15(日) 17:50:42
「やっほーー!家にいるーー?東也――――!!!」
何やら騒がしい客人が来やがったらしい。
しかも三人。
優香と朝霧と名雲だ。
三人とも手になにやらスーパーの袋を抱えてる。
「いやー、今夜は東也の家でパーティーでもやろうと思ってね。」
「俺のアポ無しでか?」
「はっ?アポ?姉が弟の家に行くのにアポなんていらんでしょ。」
「いや、お前、姉じゃねぇし。」
言うが早い、名雲はリビングへと侵入していった。
「東也君、硬いこと言わない言わない。」
優香は優香で満面の笑みでリビングへと入っていった。
「はぁ・・・。」
頭が痛くなってきた。
「っん?」
朝霧は自分の履いてきた靴をちょこんと揃えると俺を見つめてきた。
「・・・・・・・・ああ、そうか。
名雲はたびたび優香」と一緒に来るけど、朝霧は俺ん家始めてだよな?」
「・・・・・(こくん)。」
「まぁ、汚い家だけどあがってくれ。」
言うと朝霧は無言でペコリと頭を下げると
トテトテと名雲と優香が消えていったリビングへと入っていった。
30 :
15:2007/04/15(日) 17:51:58
そういえば・・・・。
一人玄関に残って呟く。
「パーティーって、何の?」
31 :
15:2007/04/15(日) 17:53:50
小一時間で、リビングのテーブルには豪華な料理がならんだ。
そういえば名雲って全国の料理大会で準優勝だったけ?
話を聞くと、今日は朝霧の誕生日らしい。
「いや、知らなかった。ごめんな、朝霧。」
朝霧はふるふると頭を横に振る。
気にしなくて良いという合図らしい。
「さてさて、主役の朝ちゃん。」
そう言うと優香は朝霧のグラスになみなみとビールをついだ。
朝霧、酒、飲めるのか?
つうか俺たちまだ未成年。
名雲は・・・、もう飲んでるし。
「ああ〜、先輩駄目ですよ。
今日の主役は朝ちゃんなんですから。」
「気にしない、気にしない。
さて、乾杯しよ。」
名雲、今日の主役はお前じゃねぇ。
32 :
15:2007/04/15(日) 17:54:47
テーブルの頭上に掲げられたグラス4つ。
それぞれがぶつかりカチンッと小気味良い音を放つ。
一杯飲んで、「俺、酒あんま好きじゃないんだよな。」と漏らしてみる。
「甘いね。そんなんじゃ朝ちゃんは落とせないね。」
「いや、落とす気ない。それより朝霧、お前、酒強いの?」
俺の問いにコクコクと頷く朝霧。
朝霧はグラスを両手で抱えるようにして持っている。
・・・いや、もうすでに顔真っ赤なんですが。
「ほらほら、飲んでないで食べて食べて。
私と先輩が作った共同料理なんだから。」
33 :
15:2007/04/15(日) 18:00:01
・・・・・・・。
・・・・!・・・・・!。
・・・・・・・・・!!・・・。
そんなこんなで朝霧の誕生日会は夜遅くまで続いた。
名雲はああ見えて実は酒にそんなに強くない。
優香は酒豪。
何気に朝霧は顔は紅かったけど酔ってる風ではなかった。
いや、本当は酔ってるのかもしれない。
感情表に出さない奴だからな・・・。
誕生日会は終始笑い話で一杯だった。
学校の事、友達の事、ETC
いつも無表情の朝霧も、その時は微かに笑っていた。
いや、そう見えただけかもしれないけど。
俺はあえて酒は飲まず、料理の方を口にした。
そんな俺はいま一人で二階のベランダで黄昏れてるところ。
34 :
15:2007/04/15(日) 18:00:33
夜風が心地よい。
周りの民家の電気や、街灯のせいで、晴れてるのに星は見えない。
俺はただ、地平線の向こうを見つめていた。
「そんな所で何してるだー?」
ギョッとして振り向く。
優香だ。
上気した頬でニコニコと笑いながらこっちに向かってくる。
「いいのか?名雲と朝霧ほうっておいて。」
「いいのいいの。先輩と朝ちゃん、眠ちゃったから。」
確かにあれほど騒がしかった一階が今では物音一つしてない。
「隣、良い?」
「ああ。」
優香は俺の隣に立つ。
元々小さい一人用のベランダだ。
2人入ると密接状態になるわけで・・・。
35 :
15:2007/04/15(日) 18:01:07
「懐かしいな。ガキの頃、夕方によくこうして眺めてたよな?」
「そうだね。」
毎日が新鮮だったあの頃。
今となっては取り戻せない過去。
「ねぇ、覚えてる?ず〜っと昔、私と東也君がした約束。」
「約束?」
はて?そんな事したかしらん?
「・・・・・。」
無言。
「はぁ〜、やっぱ覚えてないか〜。」
「悪い。全然思い当たる節がない。
何の約束だっけ?」
「ううん。いいよ。
子どもの頃の、お遊びみたいなものだったから。」
優香の顔が少しだけ、曇った。
でもすぐに、いつものように笑って、
「ねっ、下に戻ろうよ。」
っと、俺の腕を引っ張った。
酔いつぶれてる名雲と朝霧を起こすために、一階に戻る。
時計を見ると深夜の二時。
明日は学校が休みだが、俺ん家に2人を泊めるのはマズい。
36 :
15:2007/04/15(日) 18:01:49
名雲はテーブルに突っぷしていて、朝霧はグラスを両手で抱えたままコックリコックリと船をこいでいた。
「先輩、起きて下さい。もう帰りますよ。」
「ん〜、ん〜。」
「ん〜ん〜じゃないですよ先輩。
ほら、東也君も朝ちゃんを起こして。」
「ああ。」
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
いや、待て。
俺は触れただけで壊れそうな女の子の起こし方なんて知らない。
「なぁ、優香・・・。」
優香に起こす奴の交代を申し出る。
だが「それじゃ私、先輩を抱えて先に帰ってるから。
東也君、悪いけど後かたづけお願いしていいかな?
私もちょ〜っと限界が近いみたい。」
確かに優香も眠たそうだ。
つうか、そのまま帰ったら親にバレるんじゃないの?
「それじゃ、バイバイ。
ほら、先輩。私の肩につかまって・・・。」
行ってしまった。
37 :
15:2007/04/15(日) 18:02:51
残されたのは俺と朝霧。
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
とりあえず起こそう。
「おーい、朝霧。起きろー。」
「・・・・・(こっくりこっくり)」
駄目だ、起きない。
「朝霧起きろ!見ろ、頭上にUFOが!!」
「・・・・・(こっくりこっくり)」
自分でも意味不明な謎ワード。
それでも朝霧は起きない。
まっ、まずはグラスを手から離させよう。
まだ中には酒が半分くらい残ってるっぽいからな。
俺は朝霧の手からグラスを引きはがすことにした。
だけど、
「取れない。」
38 :
15:2007/04/15(日) 18:06:19
すまん。
夜十一時くらいにまた載せる。
・・・まぁ人少ないから見る人いないと思うけど。
39 :
1:2007/04/15(日) 21:58:12
ルールとしては
エロ、下ネタは禁止
小説を書く人は始めた場所の番号か小説のタイトルを名前欄に入れる
追加とかあればお願いします
今来た良作が多いな
多いといっても2作しか無いが・・・・・
このスレ広めようぜwww
42 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/15(日) 22:42:11
考えてる奴SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
43 :
15:2007/04/15(日) 22:49:03
到着っと。
44 :
15:2007/04/15(日) 23:00:48
レスがあることにビックリ。
ところで続き載せても大丈夫か?
さっきは軽い気持ちで投稿しまくってたんだが、
今になって少し恥ずかしい気持ちが・・・。
45 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/15(日) 23:07:04
おk
朝霧の手に触れないようにと、微妙な角度からグラスを取ろうとするからかもしれないが、
全然取れない。
目の前にはグラスを抱きしめるように両手で抱えて眠ってる朝霧。
無防備の寝顔がそこにある。
「・・・・・。」(俺)
「・・・・・(こっくりこっくり)。」(朝霧)
ええい、ままよ。
俺は意を決して、朝霧からグラスをガバッと強引に奪った。
朝霧は何も無かったように相変わらず眠ってる。
奪ったグラスをテーブルの上にのせる。
朝霧はグラスを握ってないのに、さっきと同じポーズ。
何かその様子が可愛かった。
さて、問題はここからだ。
この分だと朝霧は朝まで起きそうにない。
だからといって朝まで家に泊めるのは男女の関係上よろしくない。
とすると残る手段は一つ。
「おぶっていくしかないのか・・・。」
幸い、朝霧の家は学校の近くだ。
優香から聞いた話だと、なんでも朝霧は祖母と2人で家に住んでいるらしい。
何でも朝霧がまだ幼稚園かそこらの頃、家で共働きしていた両親が強盗か何かに殺されたとか。
噂によれば、朝霧が言葉を話さなくなったのも、その頃かららしい。
47 :
幻灯:2007/04/15(日) 23:16:31
「そりゃ、失語症にもなるわな。」
おっと、他人に深入りしないのが俺のポリシー。
それにこんな鬱になる話なんて止め止め。
「よし。」
そうと決まれば残るは『実行』をするだけだ。
俺は「すまん!」っと眠ってる朝霧に一言先に謝ってから
朝霧を背中におぶった。
「!」
予想はしてたが、かなり・・・・・、軽い。
以前、登校中に足を挫いた優香を学校までおぶったことがあるけど、
どうして女の子ってこんなに軽いんだ?
「ちゃんとメシ食ってんのか?」
俺の肩にちょこんとのっかてる朝霧の顔に向けて問いかけた。
相変わらずスースーっと眠っている。
48 :
幻灯:2007/04/15(日) 23:17:28
家を出て、暗い夜道を歩く。
優香と名雲、ちゃんと帰れたかな?
まぁ、大丈夫だろ。
優香、ああ見えて実は柔道少女だからな。
無言で俺を朝霧の家へと歩を進める。
耳のすぐ横から「すぅ〜、すぅ〜。」っと
規則正しい朝霧の寝息が聞こえる。
深夜のこともあって、通りに人はいない。
それがせめてもの救いだ。
こんな所、知り合いにでも見られたら自殺ものだ。
「んっしょと。」
体勢を整える。
その時「んっ。」っと声が。
「あ、朝霧。起きたか?」
「・・・・・・。」
どうやらよく現状を察知出来ていないご様子。
「あれから誕生日会がお開きになってさ。
朝霧、寝ただろ?俺の家に泊めるわけにもいかないから、悪いけどこうしておぶって
お前ん家に向かってる所。」
「・・・・・・!」
現状を理解した朝霧。
てっきり起きたら恥ずかしさでバタバタと反抗するかなって思ってたんだけど
背中の朝霧は静かだ。
「おぶられるのが嫌なら俺の背中を軽く叩いてくれ。
そうすりゃ降ろすから。」
一応、案を提出。
だけど朝霧はいつまでたっても俺の背中を叩かない。
むしろ、より一層深くその体を俺に預けてくる。
49 :
幻灯:2007/04/15(日) 23:18:59
「・・・・・・・・・。」
俺は朝霧の顔をチラリと盗み見た。
朝霧は頬を紅くして、うっとりとしながら俺の背中にその体を預けている。
・・・そうか。
朝霧は本当に小さい頃に親を亡くしたんだ。
大抵の奴が親に甘える、いや、甘えないといけない時期に朝霧は甘えることが出来なかったんだ。
親におぶってもらうことだって、物覚えしてるうちにはそんなになかっただろう。
俺は・・・。
いや、
俺達なら・・・。
「なぁ朝霧。」
「・・・・?」
「辛いこととか、悲しいことがあったら俺達に遠慮せずに知らせろよ。
50 :
幻灯:2007/04/15(日) 23:19:30
力になれなくても、一人で抱え込むよりはかなりマシだぜ。」
「・・・・?」
朝霧は?な顔をしてる。
そりゃそうだ。
何の前触れもなく話したんだ。
意味がわからなくて当然だ。
「・・・・・・??」
「いや、ただ言ってみたかっただけだ。
気にしないでくれ。」
「・・・・・・・・。」
朝霧はギュッと俺の肩を握る手を強めた。
それが何の意思表示かはわからない。
だけど俺はなんとなくその時から朝霧の事が好きになり始めた。
朝霧を無事家に届けて、俺は帰宅した。
テーブルの上に散乱している食器を片付け終える頃には
もう深夜の三時だった。
このまま眠るのも微妙だから俺はずっとベランダから景色を眺めた。
あと二時間半くらいで、世界が目覚める。
その時、俺は何を考えてるんだろ。
今日のことか、今の事か、明日の事か。
51 :
幻灯:2007/04/15(日) 23:20:03
ぼんやりしてると時間は矢のように過ぎていく。
夜の空気が朝の空気にかわり始める。
俺は軽く深呼吸してベランダから出た。
いずれにせよ、俺たちの生きる世界は確かにそこにある。
52 :
幻灯:2007/04/15(日) 23:24:01
これで第一話終了。
要望があれば第二話も載せる。
53 :
スペルドルフィン:2007/04/16(月) 01:10:46
手から糞の匂いがする。
洗ったはずなのに・・・。
イシハラはそう思いながら、高崎線13時発東伊勢崎駅行き
各駅停車の第3車両に乗り込んだ。銀色のアクセサリーに
身を包んだ若者の隣に座り、ポケットに入れていたブック
カバーを掛けた新書版「国富論」を取り出し、読み始めた。
i-pod、というのだろうか、若者の携帯音声端末機とつなが
ったヘッドフォンから音楽が洩れてくるのが分かった。人間
が感じる不快な音の度数は80MHZと聞いたことがあるが、今は
その倍の音量が自分の耳に聞こえてくる。
電車はゆっくりと動き始めた。乗客のサラリーマンらしき人物
の体はぐらりと揺れた。
な・・・何だこの良スレは
良スレ記念age
あげ
姉が省線電車に轢かれて死んでしまっても涙は出なかった。
むしろ嬉しいと思ったかもしれぬ。
もともと姉は脳に病を患っており、明瞭に言語を発せられぬのであった。
だから家族の内には、わたしの外にも幸いと思った者があったろう。
失敗
まさに
神スレ
62 :
幻灯:2007/04/17(火) 21:36:07
ちょっと寄ってみたら思ってもない評価に心底びっくり。
64 :
スペルドルフィン:2007/04/18(水) 21:23:09
東伊勢崎駅に着き、ホームへ降りる。せむし男たちが
かさかさと自分の周りを蠢いてるのが気にいらないが、
構わず歩き続けた。階段の昇降を繰り返し、歩道へ出る。
何ヶ月も放置されている生芥から、耐え難い匂いが発せられていた。
だが、それには目をくれることなく、何も考えないまま、
ひたすら自宅へと急いだ。
65 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/18(水) 21:42:24
それにしても、無名草子さんたちとは、さぞやすごい作家先生の匿名書き込みなんでしょうね。
作家なんて才能が全てだから、津井ついみたいに、いくら努力したって駄目なものは駄目ですよ。
私なんか、早々に見切りをつけて趣味の世界で細々ですから。
66 :
15:2007/04/18(水) 21:58:07
>>65 確かに。
俺も五つ短編書いてやっとこの程度。
改めて文章見るとやっぱ恥ずかしい。
もっと違う表現があるだろっと自分を叱り付けたい気分だ。
コピペにマジレスすんなよw
68 :
15:2007/04/18(水) 22:11:42
ついさっきコピペだと知った。
死にてぇ。
マジレスにコピペすんなよ
70 :
スペルドルフィン:2007/04/20(金) 22:41:25
自宅に入り、電気をつける。
お久マタ書くわ
ちょwwまだww期待するわww
73 :
15:2007/04/26(木) 22:58:56
そろそろ俺も次の話を載せる時期かな。
74 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/27(金) 02:05:25
あがー・・・
今まで頑張って書いてたやつと、某有名大作の設定がかぶってることに気づいた・・・
ゴミ箱に捨てるのももったいないので、全部書いたらここにうpします。よろすく
第一話〜天使と言うよりペテン師にしか〜続き
「とりあえず地球を守ってください、それでは」
勝手に帰るな、だいたい地球を狙うとかどんな奴だ
「僕の計画を邪魔する奴が出てきたみたいだねぇ・・・・・・」
「そのようです」
「めんどくさいから君たちが殺しちゃって」
「了解しました」
何この急展開ww
皆さんマダー?期待してるんすが・・・・・・・
78 :
15:2007/05/01(火) 23:43:45
いや、誰が先に始めるのかなぁっと。
79 :
74:2007/05/02(水) 00:08:44
>15さん
お先にどうぞどうぞ。
まだまだかかる上に大しておもしろくもないので・・・
80 :
スペルドルフィン:2007/05/03(木) 05:13:45
自宅に足を踏み入れる・・・たったこれだけのことが、数年前から出来なく
なったのだ・・・。最も、自分からそうなるように仕向けたわけではない。
むしろそれを拒むように生きてきた、という言い方が正しい。しかしこの
感情の、恐怖による昂りは抑えようとすればするほど、際限なく細胞から
溢れ出てくる。生きていることが倦厭化するような・・・言ってみれば、
目玉焼きを作ろうとして割った卵の中から黄身が2つでてきたものの、落下
地点を誤り、足元にぶちまけてしまった・・・そんな、幸と不幸が同居した、
言いようのない感情。過剰な教育を子どもに押し付ける親が、自分の3歳に
なる息子の絵を、キュービズムであると称するような・・・(或いはシュルレア
リスムであると称するような・・・)もちろん、そんなのは牽強付会に溢れる
論理だ。破綻しているのは火を見るより明らか・・・この月並みな表現群すら
も許すことができない。
81 :
スペルドルフィン:2007/05/03(木) 05:37:40
玄関のドアノブに手を掛ける。
掛ける。かける。カケル。か・け・る。
自嘲せずにはいられない。ノブを回す。あっさりと開く。まるで手応えを
感じさせないドアノブに、ぼくは翔子の尻を思い出した。尻には悩みがある、
と言っていた。しかしぼくはそんなことどうでもよかったし大事なのは尻では
なく翔子の太ももであったのだ。全体的に、柔らかく仕上がっている女の
体の中で、唯一攻撃力を、男の其れよりも感じさせるもの・・・ぼくがそれに
舌を這わせる欲望を告白したのはもういつだったのかは思い出せない。だが、
その欲望を翔子に吐き出したことは今でも覚えているし、昨日のことのように
反芻することができる。この狭い世の中で、ぼくが彼女に披瀝できたことは
彼女の太ももに対する盲愛だけである。その点・・・翔子はそれをよく咀嚼し、
猫のような、いやらしい眼でこちらの顔を覗き込んでくる。そうして彼女は
ぼくの中のもうひとりのぼくを先端だけ玩ぶのだ。彼女の文字通り玩具と
なったその先端は、ぼくという人間そのものを表すようなものでもあるし、
最もぼくから遠いところにあると言っていい。そう、ぼくがあれだけ酢を
飲んでいるのも、そうした欲望をとても汚く感じていて、その欲望を
オートメーションしたいと感じていたからなのだ。だが、それすらも、
彼女の前では崩壊してしまう・・・自己が崩壊するのだ。遺憾無く、彼女の
魅力はそこに集約される。翔子こそが医療ミスから生まれた永遠の
乳幼児である。翔子の髪の毛をぼくはとても忌避する。
だが翔子がそこに存在している、というわずかなオプチミズムすら感じ
られる、この感情こそが、ぼくがこの世界に見出すただひとつの立論なのだ。
82 :
スペルドルフィン:2007/05/03(木) 05:51:39
テレビをつけることによって得られるものなど何も無い・・・嘘だらけ
の情報にタンゴを踊り、口幅った物言いで、まるで自分が存在して
いるのを否定されるかのような、糞味噌な人間たちが話しかける。
だが、箱は・・・箱は常にニュースを知らせる。それこそ、24時間だ。
この高度情報社会に、箱からしか情報を得る術を知らない私を翔子は
笑うだろう。だが笑うなら笑えばいいとすら思えてきたのだ。正直、
翔子にこれだけは知られたくなかった・・・自分の、箱に対する愛情。
箱を翔子が嫉妬するなど・・・それはない、それはない。だが、先の読め
ない感情の機微は、まさに箱の中身そのものだ。翔子と箱の、奇妙な
シンクロニシティ。リンクしたものを、翔子は感じることでぼくに
それを表現し、箱は、ぼくに与えることで証明とする。甘受している
ぼくは、明らかに、おかしくなっていく。だが、それすらも快感となる
瞬間が訪れるときがくる。限りなくその状態に近い・・・ぼくはそれを
認めようとする。裸で翔子とつながっている状態。腕や、頭や、腰が、
からみつく。集約するのではなく、かろうじて繋がっている、かさぶた
のようなもの。ぼくは彼女のかさぶたとなり、彼女は白血球を嫌悪する。
箱は情報を伝え続ける。・・・・・・
83 :
スペルドルフィン:2007/05/03(木) 06:06:08
恥辱に塗れる瞬間・・・それはぼくと私が同居し、遜色なくなること
だ・・・。それは許せない。ぼくは許せない。私は許せない。記号論
として認めることが出来ない。ブランドを認めない。
ああ・・・だが、この感覚は何なのだろう・・・ぼくが犯されていく。
私が犯していく。入る隙間がない・・・ふたりだけの空間。
重力が、斥力が、向心力が・・・体から消えていく。そうしてはじめて、
ぼく(私)と、翔子が、繋がることができるのだ・・・。
この奇妙な同居人を追い出すことが可能かは、目下不明である。
其れが見えるか?・・・・・・
84 :
スペルドルフィン:2007/05/03(木) 22:00:01
街中で過ぎ去る人の手に握られている鍵がぼくには鋭利なアイスピックに見える。
そうは言っても、ぼくが彼に殺意を抱く理由にはならない・・・ただそこにあるものを
眺めるだけだ。
風に舞っているのは芥や草木だけじゃない。この世界に生きている人間自体が、
風に舞うが如く存在している。オポチュニズムの典型だ。風に舞う人間たちは
やがてその存在の希薄さに気付く。だが気付いたところでもう遅い。頭を抱え
こもうが、もうそこから先に進むだけ・・・死の奥行きが深くなる。もがく。
体の老化。腐敗した頭脳。腐敗が進むたび、自ら感情を捨てる術を知る人間を
ぼくは賞賛する。言語的思考を捨てた先にあるものとは、何なのだろうか・・・。
生きていくことに苦悩したぼくは、自慰によって得られる飽満を捨てた。
勃起する対象は自己から他人へと向けられた・・・あおいは、そんなぼくを見出した
唯一の存在だった。だからぼくはあおいを愛せずにはいられなかったし、
彼女独特の、まるで生きていることを黙認するのではなく、全面的に肯定する
ような、近しい友情からの発展としての恋愛を、ぼくは今となっては過去と
なってしまったあおいという存在から得ることができたのだ。そこからの
跳躍は難しかった・・・それを補うことは、不可能に思えた。だが、その存在を
払拭しなければ・・・存在していたことを、払拭する。そのために、ぼくは
新しいカンバス、新しい朱肉、黒板、肢体、胸、顔、脳・・・代用品として
賄いえるすべての存在、それが翔子なのだ。
父が帰ってきた。
85 :
スペルドルフィン:2007/05/03(木) 22:16:11
省略することによって、得られることなどない。
だが、着々と人生の省略は進んでいる・・・それは絶対的な存在による
ものであって、極言するほどのことでもない。強いて言えば、それが
存在の省略であれば・・・認めてもよいのだろう。
いや・・・だが、ぼくはその省略された事象を非常に愛おしいとまで
感じることがある・・・絵画の中の裸婦像、スクリーンの中で蠢く
無数の光に彩られた女優、箱の中にいる無限とも見れる性の塊。
それこそが情愛のひとつを・・・見出す手段として、認知されているはずだ。
即ち、見ることによってぼくは、自己のなかの欲望を具現化する。
そしてその受け皿は・・・想像の中に閉じ込められる。
この現実との乖離が、ぼくを大人しくさせている。
自らの羞悪を破壊する。
ああ、翔子。
こんな時、ぼくはどうすればいい?
『感じるのよ』
どうやって?
『反目すればわかるわ』
でも、何を見出したら?
『ブリューゲルを思い出しなさい・・・イカロス墜落の風景・・・』
・・・・・・
階段を昇る父の足音。吐息。
ぼくの部屋に、近付いてくる。
86 :
スペルドルフィン:2007/05/03(木) 22:35:22
死の風景・・・。
一瞬考えて、それをあっさりと切り捨てる。そんなものは幻想でしかない。
そうやって今まで人生に陶酔していたのだ・・・効験した数は計り知れない。
精神の崩壊を、止めなければ・・・ゼリー状の・・・生きている証が・・・。
冗長的になっていく。これも全て自分の所為だと人は言うだろうか?
豪壮な存在である父を持ち。そのために自分の中で弾けとんだものを掻き
集め、再生しようと、画策した果てに得たあおいを失い、今また失われた
翔子を想像の産物であると知りながら自他問自答を繰り返し、その存在を
まぶしつづける・・・許されなかった。父だけには、理解されなかった。
眼前に広がる父の顔。放蕩の果てに得た父の愉悦は、ぼくを抹消すること
によって、最高のフィナーレを迎える。ファンファーレ。地獄の逃避行。
掴まれた右腕。ブルータス。咆哮。・・・・・・
幻影をちらつかせながら、最終段階に入る。文字を書き込もうとする。
思索すること・・・それは即ち、赤く染まった眼球が映し出す人生について思う
こと。自分の死。翔子の死。あおいの死。
脳が裂ける。臓物が根こそぎ持っていかれる。心臓の停止音。
肉体を失ってもなお、この思考は止まらない。迷路に迷い込んだアリス。
ぼくは死んだ。・・・・・・
文学的な描写ですね。
あまり読んでる方ではないですが、明治〜昭和初期の文学を彷彿としました。
88 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/11(金) 19:51:12
無駄な体言止めがうざい
保守
90 :
15:2007/05/17(木) 19:19:21
悪い。
ちょっと身の回りでごたごたがあってパソ最近触ってない。
もうちょっとこの状態が続くかも。
ホッシュ
(・∀・)
15氏早く続きを。
94 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/15(水) 03:50:32
初投稿ですが感想頂ければ嬉しいです
『羽化』(1)
孝之は塗料が剥げかけたブランコにゆっくりと腰を降ろした。そして校庭を見渡した。人の気配はない。ただヒグラシの鳴き声が虚しく響くだけである。夕焼けを正面から浴びる木造校舎を見ると無意識に孝之は溜め息がでた。
羽化ほど私を苛立たせるものはない。それがどれほど軽微であれ、むしろ変化の前後の連関を際立たせるが故に、僅かな羽化はより悪質でさえある。
人々は私の過敏を嗤ってきた。それが無理からぬことであるうと理解する分別くらいは持ち合わせている。
だが、事実羽化は蛹の否定である。蛹として生きる他無い人間が、羽化へ呪怨の念を抱くのはけだし当然ではあるまいか。
羽化ほど私を苛立たせるものはない。それがどれほど軽微であれ、むしろ変化の前後の連関を際立たせるが故に、僅かな羽化はより悪質でさえある。
人々は私の過敏を嗤であろう。それが無理からぬことであると理解する分別くらいは持ち合わせている。
だが、事実羽化は蛹の否定に他ならぬ。蛹として生きる他無い魂が、羽化へ惨憺とした嫉妬の念を抱くのは蓋し当然ではあるまいか。
97 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/15(水) 15:48:45
『羽化』(2) 涙は出ない。ただ胸にじんわりと何かが広がり血管を伝い、やがて身体の隅々に行き渡るような感覚を覚えた。あまりの切なさに力が抜け虚無感に襲われるが不思議と居心地は良かった。
98 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/15(水) 16:09:09
足立の裏路地に駆け込んだ尾崎豊は、そのまま急いではってん場へと向かった。馴染みのはってん場で見城さんに似た
ステキなお兄様に出会い、肛門をイジメてもらうためだ。
「もうすぐだ。もうすぐ俺は、マッチョなお兄様たちのデカチンでアナルをほじくりかえしてもらえる」
涎も鼻水も拭わぬままに尾崎豊は走った。全裸で夜道を疾走する尾崎豊の姿に通行人の多くが悲鳴を上げる。しかし尾
崎豊の耳にその悲鳴は届かない。
(あと少しだ!あと少しで俺は、本当の自由に辿り着けるのだ!)
尾崎豊は笑った。走りながらクスクス笑った。そして何時しか大爆笑していた。
股間で勃起するペニスが走りながら振れて両腿に当たる。その感触に思わず感じてしまう尾崎豊。
このままだとたどり着く前に、射精してしまうな、と思わず苦笑した。
尾崎豊は立ち止まった。
(…はってん場に辿り着く前に、一発ヌいておいたほうがいいかな?)
尾崎豊は悩んだ。あまりに早く射精してしまったら、せっかく自分を苛めてくれるお兄さん達に失礼にあたるのではないか
と思ったのだ。そう思った尾崎豊は、右手でペニスを掴んだ。 そして、勃起しても皮が半分以上被った仮性包茎のペニス
をシゴき始めた。
(それと…快感を高めるために、予めあのクスリを仕込んでおいたほうがいいな!)
パラフィン紙に包まれた白いパウダーを取り出すと、それをそのまま思いっきり肛門に突っ込んだ。電気が走ったような、
そんな凄まじい快感が脊髄を駆け抜ける。同時に勢いよく射精してしまった尾崎豊。
「あうう、うばがああっ!」
言葉にならない喘ぎ声を上げて地面でのた打ち回る尾崎豊の肉体は、押し寄せる快感に耐えかねるように何度も何度も
痙攣を繰り返し、暴れながら自分の肉体を引っ掻きまわし、何度も打ち据えた。
そも痛みすら、今の尾崎にとってはたまらない快感であった。
(あと少しだ!あと少しで俺の天国へと辿りつける!)
再び立ち上がった尾崎豊は、脱糞したのも気づかずに走り始めた。そう、夜の帳の中を、ただひたすら駆け抜けてゆく…。
翌朝、足立区の民家の庭先で、自分の糞に塗れて倒れている尾崎が発見された。
99 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/15(水) 16:56:56
馬鹿スレ
まあ「自作小説を書いて見るスレ」だからな。
誰も読むとは言ってない。
101 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/15(水) 17:06:34
正論
102 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/16(木) 17:08:49
異論
暴論
104 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/16(木) 18:04:52
総論
105 :
名無し物書き@推敲中?:2007/11/27(火) 14:57:41
>>100 オレは読み続けている。どんな才能に出会えるか、楽しみだからね。
106 :
名無し物書き@推敲中?:2008/01/03(木) 22:56:08
パロディだが投下
「最終兵器スイーツ彼女(笑)」
107 :
106:2008/01/03(木) 23:00:23
「シュウちゃん!」
愛しい恋人の背中を見つけ、坂道の下からチセが叫んだ。息を弾ませながら走るチセ。
「おはよう、シュウちゃん」
「あぁ、おはよう」
チセの動悸がなかなか治まらない。
体力がないから?それともシュウジの前だから…!?
いつもの通学路を二人で歩きながらチセは髪止めを直した。シュウちゃんの前ではセレブな私でいたいと思ったから。
「きゃっ」
髪に気を取られていて、足下の段差につまずいた。
「あぶねっ」
すかさずシュウジがチセの腰を支えた。
「まったく…お前はドジだな」
意地悪に笑うシュウジを見つめ「―っ〜もうッ、シュウちゃんのばかぁ!!」
とチセは顔を赤らめ、上目使いでシュウジを見つめた。そんなチセも可愛い。
そう、チセは可愛い。小柄であいくるしい顔、周りの友達からはよく天然と言われる(そんなことないもんッ byチセ)。
そしてその彼氏のシュウジは長身のメガネ男子。インテリで陸上部のエース、当然モテる。チセの自慢のダーリンだ。周りから見てもベストカップルだろう。
「あ、」チセが足を止めた。
何かを思いついたようにセレブなヴィトンのバッグを漁る。
「どうしたんだよ」
「あ、あのね…」
ケータイを取り出し、恥ずかしそうに言った。
「一緒に…ホームページ作ろう?」
消えそうな声で呟くので、シュウジは断ることが出来なかった。
108 :
106:2008/01/03(木) 23:30:02
そして二人はホームページを作った。タイトルは『ドンストップ恋愛中*:。.:.。:*ミ☆』
プロフィールと日記、アルバムとBBSを設けた簡単なものだった。
チセのプロフィールはもちろん《性別.シュウちゃんにパコられる方(*´∀`*)ワラワラ》《資格.シュウちゃんを愛すること☆ワラ》
そして日記には二人のラブラブっぷりが綴られた。
しかしシュウジの日記は、なかなか更新されなかった、されたとしても部活のことや男友達のこと、チセには心底どうでもいい内容だった。
ある日のチセの日記
[シュウちゃんどうして日記書いてくれないの?uU寂しいよぉ…最近アケミと仲良く話してるし…チセ嫌われちゃったかな(TДT)泣]
部活中、グラウンドの隅の木陰で休憩するシュウジ
「シュ〜ウジッ」
突然頬に冷たい物が当たった。驚いて振り向くとアケミがスポーツドリンク片手にシュウジを見下ろしていた。
「ホームページ見たわよ、相変わらずラブラブなのね」
「うるせぇな」
「何よ、私に感謝しなさい、あんたたちをくっ付けたのわ私なのよ。たまにはスイーツでも奢りなさいよ」
「はいはい」
シュウジは適当な返事を返し、トラックに戻った。
その背中を見送りながらアケミは微笑んでいた。
「…ま、それももうすぐ終りね」
それが何かを企んだ笑みだということをシュウジは気付かなかった…
ほsy
妹が死んだ日
その日は
とても不思議だった
真夏にも拘らず、雪が降ったのだ
111 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/01(日) 00:50:48
age
112 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/20(金) 00:20:16
113 :
名無し物書き@推敲中?:2008/07/08(火) 03:07:13
頭に来る不条理
奴ら笑ってた。
私を見下し、股間を弄りながら私の喘ぎ悶える様を見ながら笑ってた。
あいつらは私の心から憎いこの世に存在させる事すらも許しがたい完全な敵だった。
おいおい体は正直だな、というよりむしろ変態だなとか言いながら爆笑のうず。私は逆らう事も出来ずになにせ相手は集団だった。
しかしあいつらのやり方はレイプとかそういう物と違った。人間性の戦いを挑むように私を仕向け、理路整然とした姿勢で私を負かした。
私は悔しさと快感のごちゃ混ぜで、頭がぐわんぐわんしてでもどんどん気持ちよくなって同時にあまりの悔しさに頭が久しぶりに冴え渡った。
奴らは延々とお前の負けなんだと分かり易く説明し、私に逐一反論する隙を残し反論するとまた分かり易く私を否定した。完全に負けだった。
そもそも私の求めていた物がこういった敗北だった事に愕然としたし、私が変態だという事を深く認識させて
私の本当の心から憎い敵に私は完全にされるがままで私は股間を含む体と心は繫がっているんだと改めて気が付いた。
エロネタに抵触するのであれば書きませんが要望があれば続きかきます。
できちゃったから上げるわ、スレ汚しスマヨ
私はその間に絶頂になんども達したけれども来るたびに増大するその波の絶頂が真近である事を感じた。
これが究極の絶頂だという事がわかる。
脳みそが溶けていくかのような感覚に襲われ、頭の中がもうどろどろになってその溶けたものが脊髄を中心に体全体へ広がって行きその部分が熱くなって全身が気持ちよくなる。
その時私は獣のような絶叫をして涙とよだれと大量の汗をダラダラ流しながらやつら全員のスペルマを浴び爪で全身を撫ぜられていた。
そして諸悪の根源たる悪魔といっても足りないその男の巨大すぎるその男根で貫かれ熱い液が中に迸ると同時に失禁、脱糞をした。
尿は有り得ないぐらいに濃く、粘質を持っているかのようで、凝縮されたような匂いを放ち、糞は中の物が全部排出されたたのを感じ、
その排泄の快感で私は果てた。何もかも中のものが出て行ったように思った。
「おまえは俺達の次元に入る事はできない」
と耳元で囁かれたとき、膣内の液体の全てガが勢い良く迸った。
夢を見た。
死んでいった家族の事。父、母、夫、息子、娘。
生まれてきてから今まで有った出来事。それに対して私がしてやれた事はほんの少しだった。
もっと色々してやれたのに、と思った。悲しかった、現実に翻弄されるばかりの私が。
相手にしてやれた事、私は最後までなにもかもを犠牲にして戦ってきたのに。涙が止まらなかった。
波の音がした。まだ涙は止まらないけど子供の頃みたいにわくわくした。想念と記憶がどこまでも私を連れて行ってくれる気がした。
116 :
名無し物書き@推敲中?:2008/07/14(月) 04:28:47
>>115 生々しい、ダークな世界観は完全に確立されてますね。
「反論する隙を残し〜」らへん巧妙。
リズムもすごい素敵。
気になったのは直接的すぎる表現かな。
普段口に出すのが躊躇われる、むしろ絶対口にしないような表現を冷静にぷっと吐き出せば衝撃的になる、
っていうのは確かにあるけど、それが多すぎるとくどい気がする。
117 :
113:2008/07/14(月) 13:02:52
>>116 感想ありがとうございます。
他にもっと書き方があるんだろうなと思いつつも、それを考えだすと面倒かな
と思い取りあえず形にしようとしたらこうなりました。
118 :
116:2008/07/15(火) 15:20:06
あ、なるほど。
改めて読んでみたけど、やっぱりあいまいな言い回しとか
婉曲表現を練習すれば文体にあうのかな、と思いました。
あくまで一意見だけども。頑張ってください。
>>116 >>115は読み手をおいてきぼりにしているだろ
>波の音がした。
って川幅も湖の広さも書かれていない
これを読み手に想像解釈させるのは無責任と言うより無能力
>>115は夢を見た事無いだろうとしか評価できない
そういえば、昨日、きみに似た人をみた。
後姿だけだったけど、声を掛けようかどうしようか悩んで、結局、やめてしまった。
後姿だけだったけど、伸びた髪に揺れるすき間から覗いたうなじが、昔のきみを思い出した。
細い腕にわずかに走る筋肉がきみの昔の息遣いを思い出した。
きみにとっては辛い思い出だったのかもしれなかったのに、なぜか私の体が硬直してしまった。
なぜだろう?
私は後悔しているのだろうか?
私はきみをふってしまってから失敗したと思っているのだろうか?
あれから随分記憶が薄れてしまうほどに経過したはずなのに、未練を持ってるのは私の方なのだろうか?
随分複雑な時間を経験してしまった。
ほんの数秒の出来事だったのに・・・・・・
我が子の小さい手が握り返してくるまで。
>>119 波は海の波で、目が覚めた時聞こえたものなんだけど
確かに言葉足らずでした。とりあえず負けて目覚めたら海みたいな事が書きたかったのです。
無能ですいません。
122 :
名無し物書き@推敲中?:2008/12/09(火) 18:48:55
保守しとくか
123 :
113:2009/01/03(土) 01:01:28
というかここにいる全ての奴らに小説を書く資格も読む資格もないよ。120は認めるけどお前らもう才能ないから筆を折れそして小説なんか二度と読むな。
まあいいよ。君らがラノベが大好きでラノベだけ愛して生きていってもいいけど。
お前ら結局くだらない空想話並べてるだけだろ?俺は純文やってるんだ。
すむ世界がそもそも違うのさ。ラノベが世界を革命する?ただ消費されて無くなるだけだろ?
いい加減自分の人生とか世界とかまともに考えたら?まあもしお前がそれでいいていうなら俺はそれでもいいけどな。
結局敗北するのが目に見えてるけどなw
自作小説書くんだったらそれなりの覚悟決めてまあ始めは私小説でもかよ、とあえてヒント与えてあげるけどな。
お前らは本物を知らない豚みたいなもんだ。それが無理だったらせめて妄想じゃない哀愁をかけよ。
本を読んで悲しくなるなんて馬鹿みたいじゃないか?世の中にはもっと面白い小説があるんだぜ?
まあお前らの乏しい感受性、洞察力、想像力じゃ無理だろうだがなw120にはぜひ続編を書いてもらいたいけどな。
背負ってるものが違うからああいう小説がかけるんだ。机上の空論?
真のスラッガーはな、心の中ですでにアーチを描いているのさ。
まあなんだ、今の文壇は腐りきってる。日常をかけよ。どうでも良い日常をかけよ。
シズム感だかしずる感だかしってるか?日常をいかに楽しそうに書くか。そこが才能なんだよ。お前らのはただの妄想。
リアリティゼロ、抽象性もゼロ。だからいますぐ筆を折れ、それか最後まで戦え。
以上だ。
124 :
名無し物書き@推敲中?:2009/01/15(木) 10:41:28
そして113は脱腸した。
突然の激しい痛みに襲われ、悶絶した。
「誰か!救急車、いや、俺は才能のある小説家だ」
113が手に取ったのは原稿用紙ではなく、履歴書だった。
fin
記 憶
玉 虫
近所にあった聖福寺というお寺の境内で、
覚えたての文字や絵を砂に書いて遊んでいた
時、門の柱の下辺りに黒い虫の死骸が仰向け
に落ちていた。
そばにあった枝の切れ端でおそるおそる突
ついてみた。
すると今までの暗い黒色とはうって変わっ
て、深みのある金色に近い、濃い緑色のつる
つるした羽根が、強い日差しを浴びて煌びや
かに輝いた。
手に持って帰って母に無視の名前を聞いて
みると
「玉虫よ」
と教えてくれた。
「ふぅーん玉虫か」
呟きながらも心の中では反面
『玉のように丸くないけど……』
と考えていた。
それから数日たった日曜日、いつものよう
に遊びにお寺の門をくぐった瞬間、あまりに
も華麗に、優雅に飛びかう玉虫の数々にしば
らく立ちつくしてしまった。
気が落ち着くにつれもっと近くで見ようと
一歩踏み出せば、参道に沿った植木の枝葉の
上々にも、玉虫が止まったり飛んだりしてい
るのがわかった。
目の前の玉虫に触ろうと手を出してみた
が、生きているものへの恐ろしさ、蠢いてい
るものへの醜さ、美しい羽根とは不釣合いに
グロテクスに動く足のために指も触れずその
まま帰ってしまった。
あれほど死んでいるから捨てなさい。と言
われても大事に持っていた玉虫を、何の躊躇
いもなくすぐにゴミ箱に捨ててしまった。
だが捨てながらも心の中では
『飛翔している玉虫は綺麗だったなぁ』
と呟いていた。
朝、フライパンで卵を焼くことを、日課にして長い間、私はそれをささやかな占いの道具にしていた。
卵がうまく巻ける時、それは精神的にも落ち着いている日であり、
そしてそれがうまくいかないとき、巻くのにちょうど良い頃合いが待てぬほどに、
心が焦っているのだ。
そして具の煮上がった鍋に味噌を落とし、火を止め、
炊きあがったジャーのご飯を仏壇用の小さな飯入れによそい、
朝一番のお茶とともに仏壇にあげる。
灯明を点し、手を合わせると、そろそろ命日だと気づくのだ。
そして二階の目覚ましが二度目のアラームを鳴らす。
129 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:27:43
西暦2014年 日本国 東京の某所
男は人生に絶望していた。株式で多額の借金、彼女に捨てられ
、実家の会社も破綻、一部上場企業に努めていたが会社も倒産、
職もなく、どうするか悩み酒に溺れ。自殺を決意し樹海に向かうが、
樹海である男に声をかけられる。
髭の男「人生に絶望したのか、俺のところで働かないか?」
その男はとある田舎で農作業員の募集をしているという。
人生に絶望した人々を集め自分の広大な土地で町を作り人口を増やしているという。
その町には医者や自警団、法律もあり他の町と一切の交流がないという。
その男を信じついていく。止めてあったマイクロバスに乗り込む。
6人の男女が乗っていた。皆どことなく暗い顔をしている。
しばらくして男性より説明があった。
ひとつもう日本の社会には戻れないこと。
ふたつ到着まで会話をしないこと。
みっつこのふたつを破ったら死んでもらうこと。
しばらくしてバスが動き出した。
高速に乗りしばらくしてある事件が起こった一人の女性が、
やはり帰りたいと言い出したのだ。
髭の男はにっこり笑うと「そうか、じゃあ死んでくれ」
もう一人の男が電気ショックで気絶させた。
髭の男「このバスの中はすでに違う国なのだ、この女性は法律を破った。
万死に値する。のちの裁判で正式な判決を言い渡す。」
と甲高く皆に言い放った。全員、すでに青い顔がさらに青くなる。
130 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:32:34
出発から10時間程たっただろうか。
山道を抜けたところにそれはあった。
検問所らしき建物が見えてきた。そこで全員おろされ、
まず金属探知機にかけられる。携帯電話、刃物類はすべて没収された。
次にシャワーを浴び医者に持病やアレルギー聞かれ、
簡単な身体測定をやった。その後に髭が生えた男性より、
法律について説明を受ける。基本的には日本の法律に、
にているが。この国にはリーダーがいて絶対に逆らってはいけないという。
リーダー以外の人と会話をする場合は許可を得るようにしゃべられた。
しばらくして又バスに乗り込み奥へと入っていく。
広大な畑と木造の建物が沢山ある所に到着した。
比較的に建物の出入りは自由で一人一人に部屋と着替えを何着か渡された。
リーダーたる人物が出てきて、
ニコニコしながら「何でも私にきいてくださいね。」
とやさしそうにしゃべってきた。
俺「お腹が減ったのですが」
リーダー「あと一時間後に食事になるから待っててくださいね。」
リーダー「その間、仕事の内容を簡単に説明します。」
男性は基本的に農作業を行い。女性は洗濯や食事を行うという。
まるで江戸時代の生活のようだ。
・・・・優秀な働きをするとリーダーになれるという。
そして僕の第二の人生が始まった。
131 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:35:13
1ヶ月もすると仕事になれたが食事は味気ない。
肉や酒は禁止、毎日野菜ばかりだ。牛はいるが牛乳のみ移動は馬車だ。
賭博、タバコ、TVも禁止されている。休みは雨の日のみ、
風邪をひいたりするものはちゃんと医者の診断を受けられ仕事も休める。
恋愛も禁止、異性の接触もない。
まるで監獄のようだがなぜか喧嘩もおきない。
喧嘩の元になるような争う物もないし会話もないからであろうか。
共同作業はリーダーから許可を得てリーダー監視の元、会話を行う。
作業に必要のない会話を行った場合。リーダーから注意を受ける。
注意を受けても尚会話をした場合は裁判を行うという。
リーダーに逆らった罪は死刑だそうだが。
ここしばらく逆らった人もいなくずっと死刑は行われていないそうだ。
会話はほとんどリーダーのみなので仲がいい人はリーダーだけ、
たまには他の人と会話をしたくなるものだ。・・・・
132 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:37:42
ここにきて半年がたった。
社会と断絶してから欲望がなくなり、幸せさえ感じ始めていた。
とある事件が起こった。一人行方不明になったのだ。
リーダー同士が話し合っていた。担当のリーダーから行方不明者は、
病弱な親の心配をしていて。たぶん逃亡を計ったのだろうと。
担当のリーダーは無線機で自警団へ逃亡の連絡をしていた。
担当のリーダーは青ざめている。しばらくすると。
ジープが一台停車した。逃走をした人物が血まみれで降りてきた。
手には手錠がはめられている。検問所にいた髭の男も降りてきた。
男は大きな声で「ただ今より裁判を行う。リーダーは全員集まれ。」
全員が逃走犯を円で囲み地べたに座った。
133 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:41:04
髭の男「この者は逃走を計った。死刑に値する。異存がある者は起立しろ」
血まみれの男「いえ違うんです。散歩をしていたら道に迷ってしまって」
髭の男「散歩だと・・・・水と食料をもってか・・・信じられないな」
血まみれの男性「ピクニック気分でしたので・・・」
髭の男「真夜中にピクニック気分で散歩だと・・・・」
髭の男の目が血走る。
担当のリーダー「私の管理ミスです。この者は精神が不安定で親の心配をしていたのです。
どうかお慈悲をたわむりたく存知ます。」
髭の男「こ奴はもう日本に戻らないと誓ったのだ。
私が自殺を救ったのだ。裏切り者に慈悲などいらぬ。死刑を宣告する。」
血まみれの男「あああああ助けて、だれか助けて」
大きな斧が担当のリーダーに渡された。手が震えている。
髭の男性「お前の責任だ、殺さなければお前も反逆罪で同罪だ。
簡単には殺さんぞ。・・・」銃を向ける。
担当のリーダー「・・・・・南無阿弥陀仏・・・・・南無阿弥陀仏」
斧を捨て目を閉じる。
134 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:44:00
Aリーダーがその斧で血まみれの男の首を一瞬の内に切り落とす。
血が噴出した周りは血の海と化した。
Aリーダー 「担当のリーダーの手に余るようなので代わりに私が処刑しました。
担当のリーダーは、リーダーとしての自覚が無いと思われるので、
処刑よりも降格させ国へ貢献させるべきと思います。」
髭の男性 「ふん、よけいなことを・・・まあいい、そのようにしろ。」
Aリーダー 「寛大なお慈悲に感謝いたします。」
その後、Aリーダーと一緒に遺体を袋に入れ墓地へ埋めた。
Aリーダー 「恨まないでくれよ。ああでもしないとBリーダーも殺されていただろう。」
手を合わせ泣きながら本音をぼっそとこぼした。
俺は、この時から国に疑問を抱くようになっていった。
その後、担当のリーダーの降格により新しいリーダーが選ばれることになった。
しかしあの事件でリーダーの責任の重さを感じ希望者もなく、
Aリーダーの進めもあり俺がリーダーになることとなった。
135 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:45:56
リーダーにも階級があり、少リーダー(平民10人を統括)、
中リーダー(平民100人少リーダー10人を統括)、
大リーダー(全少中リーダーを統括)、
この上に自警団、国王(髭の男)総員約1000名という形になっている。
もちろん俺は少リーダーだが来て半年で異例の出世だそうだ。
Aリーダーも少リーダーとなる。俺の所属する中リーダーは白髪の老人で無口であまりしゃべらず。
Aリーダーに、ほとんどまかせている。昔、自警団にいて国王の右腕として働いていたそうだが、
今はどこにでもいそうなしょぼくれた老人となっている。
136 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:48:38
リーダーになり解ったのだが、
この国は国王居住区と男性居住区と女性居住区は、
別れているのだがその他に子供居住区もあるそうだ。
中リーダー以上になれば結婚も可能で、
女性の結婚希望者より相手を選ぶこともでき。
結婚したら子供居住区で一緒に暮らすことができるが、
女性は選ぶ権利が無いので希望者はめったにでないそうだ。
俺はリーダーとなり人と話す機会が増えいろんな質問や愚痴を聞くようになった。
皆、元自殺志願者だったので精神的に弱いやつが多く気を使う、
あまり強く言うと自殺したり逃げ出さないとも限らない。
処刑はごめんこうむりたい。・・・・
中には放火魔や元大手倒産企業の役員だった奴もいる。
ここにいる者は皆、何かしら影があるようだ。俺もあまり変わらないが。・・・
137 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:51:29
気がつくと2年が過ぎようとしていた。
女性住居で事故が起こった。木造の建物が老朽化で崩れたのだ。
不幸中の幸いか怪我人がでなかった。
国王の支持で復旧するよう支持があり。
俺のグループが禁断の女性居住区で働くこととなった。
部下A 「何年かぶりに女が見れる、へへ楽しみだ〜」
俺 「女性居住区では自警団立会いの元、作業を行う。
淫らな行いをすると処罰の対象となる。肝に命じろ。」
部下A 「わかってますよ〜、ちょとくらいいいじゃないかぶつぶつ・・・・」
Aリーダーが俺に耳打ちした。
Aリーダー 「部下から目を離すなよ、前に女性をレイプして処刑された奴もいる。
レイプされた女性は自殺した。」反吐がでるような話だ。
138 :
未完成マン:2009/01/23(金) 11:55:27
女性居住区の門の前に着くと自警団が5人、
銃を持ち待っていた。
俺 「少リーダーの○○です。復旧作業でまいりました。」
北山 「女性居住区保安主任の北山だ。話は聞いている。着いて来い。」
衝撃を受けたその保安主任は美しい女性であった。
俺より5〜6歳年下であろうか、身長も170センチ位、
しかも丹精な顔立ちでスレンダーなスタイルである。
なぜか軍服と銃がすごくマッチしていた。
よくみると自警団全員が女性である。
自警団の一人が俺を睨めつけ銃を向けている。
北山に見とれていたのがばれたかな?
北山 「おまえの部下をなんとかしろ。怖がっている。」
俺 「え?」
すぐとなりにいた部下Aが顔をニタニタしながら自警団を見ていた。
部下Aの顔を引っ叩いた。
俺 「恥をかかせるな。」
部下A 「すみません。あまりにも可愛くて」
クスクスと自警団から笑い声が聞こえた。
しかし銃を向けた女性は笑わず銃を向けたままだ。
139 :
未完成マン:2009/01/23(金) 12:03:28
北山 「新藤、もう銃を下ろせ」
新藤はにらめつけたまま銃を下ろした。
新藤 「やはりこの者たちは信用できません。」
北山 「もうその話はついただろう。それとも国王の命令に背くというのか!」
北山のその一言で新藤は泣き出した。やはり女性だ。
北山 「新藤と自警団Aは、このまま南口で待機!
自警団Bはこの集団の前方、自警団Cは後方着け。
私は中間地点に着く!」
北山の号令の元、複雑な心境を胸に女性居住区へ向かうのであった。
第一章 完
まだ文章も直してないし、主人公の名前も決まってませんが楽しめましたか?
続きを乗せる予定はまだ未定です。・・・・・よろしかったら感想よろしこ
面白いですww
モバゲー小説投稿サイトに載せればかなり良い評価もらえると思いますよww
141 :
名無し物書き@推敲中?:2009/03/21(土) 14:48:18
本当にどうでも良い話だけど
>>134 >血が噴出した周りは血の海と化した
血を強調する気がはやって変な文だし、そこは色合いを強調することで血生臭さを表現した方が良い
>素っ首叩き落とされた野郎のロースの付け根からトマトケチャップが噴出し、
ディック野郎がビクビクと痙攣しながら倒れ込むとそこにはナポリタンが完成した。
144 :
日本神人:2009/03/29(日) 08:12:07
「おいでよ、一緒にいよ」
高橋は、泣きながら口の中で飴玉を転がす明菜をそっと抱き寄せた。
「おじちゃんは何で私を構ってくれるの?」
「そりゃあ、アキちゃんが好きだからだよ」
「おじちゃんだけだよ、そんなこと言ってくれるの」
明菜は高橋の腕の中で心底安堵し、甘い息を彼の顔に吐きつけた。その匂いは甘さが口臭にまさった。
その漠然としたかったるさは彼の陰茎を不意に持ち上げ、明菜を更にきつく抱くと同時に刹那の快楽が彼の下半身全体を包み込んだ。
「ごめんね。いじわるしたくなるんだ。君の笑顔と肌の感触は僕を狂わせて仕方がないんだよ」
「よくわかんない」
「つまり、こういうことさ」
「やめて!相手は無敵のキングチャンピオン、ジャンプ・マガジンなのよ!」
「どくんだサンデー」
146 :
名無し物書き@推敲中?:2009/05/26(火) 02:39:40
字書き諸君、日本語入力は何を使ってる?
日本人ならATOK。
月額版は常に最新。
うちもatok、キー配列も効率的にカスタマイズしてある
149 :
ふみあ:2009/05/31(日) 00:31:21
昨日買った花乙の体験版をやっていたら、なぜか無性に女装男子がアホな理由で女子高に飛ばされるモノを書きたくなったので書いてみた。
そしたらものすごい長編になってしまった。
長編になってくると今度はどうしても晒したくなったのでうpすることにした。
ただ文章も拙いし、やっつけ気まぐれで書いたものなので(しかもまだ途中)ちゃんとした投稿サイトに投稿したり、HPにうpできるような代物でもないし、
そもそも題名がまだ決まっていない。
とりあえずここにうpするから、感想をいってくれ。
あと誰かいい題名つけてくれね?
このスレに来るのは初めてなので使い方やマナーが間違っていたら教えてくれ。
とりあえず次にレスするときからからに第一章分だけ載せていくんでよろしく!
150 :
ふみあ:2009/05/31(日) 01:19:00
第一章 悲劇の始まり
1-1曾祖母の葬式にて
>>薫
事の始まりは、足を悪くして長年寝たきりだった曾祖母がこの2月にとうとう天に召されたところまでさかのぼる。
僕の曾祖母は先の戦争のころからずっと曾祖父と共にうちの会社を支えてきた上に、3男2女を育て上げ、挙句、様々な慈善事業をし、
この学校の先代の理事長を務めていたこともあったらしい。
とにかく人望に厚かった人なので、葬式のときには親戚以外にも沢山の弔問客が訪れて、
遠くは外国から遥々知らせを聞いて駆けつけたという人もいたくらいだ。
僕自身曾祖父や曾祖母といえる人が彼女しかいなかったこともあり、曾祖母を慕っていた。
そんなおばあさんの葬式が一通り終了し、涙もさすがに枯れて、気分も落ち着き悲しみから立ち直り始めたころ、
親族会議で曾祖母の遺産相続の分配について話すことになった。尤も、すでに曾祖母は正式な遺言書を顧問弁護士を通じて作成したので、
特に話し合うこともなく遺言書のとうりに進められ、家財や土地は後を継いだ祖父に、その他の金品は兄弟で平等に分け、
相続税の手続きの手順も決め、曾祖母の形見なども孫・曾孫に一通りいきわたった後、弁護士の手塚さんが身の毛もよだつような遺言状の一節を読み上げた。
「…え〜、なお、綾小路 智代および浩彬が嫡子、薫は「聖リリカル女学院高等部」へ編入し、卒業す…」
ん?ちょっと待て。手塚さんやいま変なこと言わなかったか?
151 :
ふみあ:2009/05/31(日) 01:20:09
続き
そう思って「ちょっと待ってください!」手塚さんを静止すると。
手塚「何か?」
僕「何かって。何かやないでしょう。僕男ですよ。
なんで女子校に通わんといけないんですか?」
手塚「何故って、故人の遺志ですし。」
どうも手塚さんは仕事を済ませて早く帰りたかったらしい。訝しい目で、いかにも面倒
くさそうにこう答えたが、こっちはそうも言っていられない。書面一つで人生狂わされて
たまるか。だけどこちらの事情を知ってか知らずか非情にも手塚さんは話を進めていく。
「故人の遺志を尊重して、そこは薫さんも従ってもらいませんと…」
「そりゃ、曾祖母の遺志は尊重したいし、できれば従いたいですよ。そやけど…」
無理だろ、ぶっちゃけ。
152 :
ふみあ:2009/05/31(日) 01:21:03
さらに続き
不毛だ、話が平行線をたどっている。手塚さんによれば遺言書は法的に有効なものであ
り、すでに手続きを済ませているとのこと。要は今更変更など効かないというのだ。
悲嘆にくれている僕に更に祖父が追い打ちをかけた。
「あのなあ薫。」
「何?おじいちゃん。」
「ずっと黙っていたんだが…、曾おばあちゃん、実はずっとお前のことを女の子やと思い
込んでいたんじゃ。」
「…はい?」
「だからお前のことをずっと女の子やと勘違いしていたんじゃ。」
「いやいや、おじいちゃん。小さい頃ならいざ知らず、この遺言書を曾おばあさんが書い
たの、確かこの間のはずやで?あり得へんでしょう?」
しかし、祖父は沈黙した。無言の同意だった。
「まさか、今の今まで曾おばあちゃん僕のこと女の子やと思い込んでいたんか?!」
そう僕が叫んだ瞬間、僕以外のその場にいた全員が頷いた。
とりあえず1-1終わり
1-2に続くよ
153 :
ふみあ:2009/05/31(日) 14:00:45
1-2曾祖母
>>薫
僕は小さい頃からチビで、臆病で、女々しい印象の為に、よく女の子に間違われてきた。
中学の時、中高一貫の男子校に通っていたが、女装企画で無理やり女装させられた時も、何人かに、
女に生まれたらよかったのにとか冗談で付き合ってくれとは言われたけど、まさか14年間、いやほぼ15年も
曾祖母がそんな思い違いをしているとは思わなかった。
いや、待てよ。よく考えたら、思い当たることがないわけではないぞ。僕は少し昔のことを思い出していた。
松江の祖父母の家に家族で帰省して、ついでに曾祖母へ挨拶に出向くたびに、曾祖母は僕にこう言っていた。
「全く薫や、いつ見てもおまえは男っぽいねえ。」
「え、本当? 曾おばあちゃん。」
普段、女々しいとか、女っぽいとか、男らしくしなさいとか言われている身の上としては、この意見は中々貴重で嬉しかった。しかし曾祖母は…
「何喜んでるんやこの子は、もっとしとやかにせんといけへんよ。」
「?」
何故男がしとやかにしなければいけないのか、当時から疑問には思っていたが、男はあま
りやんちゃするより、落ち着いている方がいいのかと勝手に自己完結していた。
その後も曾祖母は嫁がなんたらとか何か言っていたが、なにぶん年のせいもあってよく聞こえなかったし、
特に重要だとも思えなかった。今ならわかる、あれは嫁の来手がないと言ったのではなく、
嫁の行き先がないと言ったのだと。
続くよ
154 :
ふみあ:2009/05/31(日) 14:01:31
そんなことを思い出しながら、僕はその場にいた全員に問いかけていた。
「みんな…、知ってたん?」
その瞬間全員がまた、「うん!」と答えた。元気よく答えるな!!
「誰も訂正する気あらへんかったの?」と訊くと、その場にいた全員が口々に、
「だって、ばあさん頑固やったからなあ。」「自分の間違いは絶対に認めん人やったしねえ。」
「それに放っておいた方がおもろかったからなあ。」「あ、それ言えてる。www」
こ…こいつら。思わず叫んでしまう。
「笑いごとやあらへんよ。どないすんねん遺言状。マジで女子校に通えっていうの?」
「まあ、それも一興とちゃうか?」「薫ちゃんの女装かわいいもん。」
僕「いつみたねん! んなもん。↑」
「去年薫ちゃんの学校でやってた文化祭。」
「来てたのかよ!」
「それに薫ちゃん、あんた女装趣味があるやろ?」「え! マジで?」
僕「いや、それは…」
「なら問題ないんちゃう? ばれなきゃいいんだし。」
「そういう問題じゃないでしょ!」「お婆ちゃんの思い、反故にする気?!」
「そんな…」
気のせいか皆の期待に満ちた眼差しが僕に注がれる。どう考えても断れそうな雰囲気ではない。僕はとうとう断念した。
「わかった。行きますよ。行きゃいいんでしょ。」
「よう言うた。それでこそ漢や。」「がんばってね。薫ちゃん。」
この時、実行はしなかったものの、親戚を一人一発ずつ殴ってやろうかと本気で思った。
かくして僕の東京行きは決定した。
155 :
ふみあ:2009/05/31(日) 14:02:41
1-2終わり1-3に続くよ
156 :
ふみあ:2009/06/01(月) 19:31:26
1-3 Let’s go!女子校ライフ
>>薫
その後は散々な目にあった。
学校の友人や教師に相談すれば、こちらも当然のように爆笑され、ともすれば、
「ええやん、うらやましいわ。俺も連れて行けや。」
「ええ人生経験にはなるんちゃうか? 向こうの学校はうちほど進学とかにうるさなさそう
やし、君には合うんちゃうかなあ。」
何よりショックだったのは、いくら僕が優等生ではないとはいえ数少ない友人を除けば、
誰も引き留めてくれなかったことだった。
走り屋仲間の先輩や知り合いに相談したら、別れを惜しまれたが、なぜか餞別にと車を
もらった。たぶん処分するのが面倒だったんだろうな。もらう僕もどうかと思うが。
行きつけのショップに、何台か向こうに陸送する手続きを取ってから、ついでに家具や
家電のようなかさばる物も宅配の営業所で輸送してもらう手続きをした。
3月の末日、母親と共に入学式に出席するため、新幹線の駅へ向かった。駅までは父親が
車で送ってくれた。が、道中ずっと、僕の気分は晴れなかった。
助手席側から左側のサイドミラーをのぞき込む。そこには、丸い童顔のロングヘアーで、
ややゴスロリ調の黒い丈長のワンピースに白いガーディガン、黒いパンストを履いたかわ
いらしい女の子が助手席に座っているのが見える。ただ変わっているのは、その娘が男物
の黒いスニーカーと銀色の腕時計、そして四角いシルバーフレームの眼鏡を付けているこ
とだ。尤もこれは彼女、もとい僕のささやかな抵抗であるのだが。
続くよ
157 :
ふみあ:2009/06/01(月) 19:33:47
「なぜ、家を出る時から女装なんだよ。」
と、納得できないので後ろにいる母に尋ねると、
「そりゃ、向こうに着いたらそのまま寮に入る手続きをするためよ。」
「そうかい。」
ふて腐れていると隣でハンドルを握る父が、
「だけどおまえ結構かわいいぞ。もっと自信を持て。」
「いらへんよ、そんな自信。」
「まあな、だけど葵ちゃんが同じ学校の先輩でよかったよ。」
と、後ろにいる母方の従姉である葵お姉ちゃんに話しかける。
「そんな、私こそ、クーちゃんと一緒に通えるなんて夢みたいです。」
面長で腰まであるロングヘアー、いつもどうりのブラウスにスカートを着て、ニーソを
履いている葵姉ちゃんは一言で表せば、清楚な美人、文武両道で何事も卒なくこなし、か
といってそれを鼻にかけることなく、なお且つ胸もそれなりに大きくグラマラスでスタイ
ルがいい、いわば、マドンナという感じの女性である。
そんな葵姉ちゃんに今度は僕の母が、話しかける。
「葵ちゃん、薫のこと頼むわね。何かあったらビシバシしごいてもかまわないから。」
「わかりました。任してください。智代おばさま。」
なんだかんだと言っているうちに、駅につき、親父と別れ、一路東京へ向かい、入寮の
手続き、引越しの整理、入学式の準備をし、初めて寮の部屋で一人で床に就くことになっ
た。
1-3終わり、1-4に続くよ
158 :
ふみあ:2009/06/03(水) 02:10:59
1-4なんというか…カオス
>>葵
朝6時15分頃、私は風紀委員として全学生に起床時間を知らせるために、食堂に向かっ
ていた。
途中、同じ風紀委員でクラスメイトの雪乃さんと合流した後、集合場所の寮の食堂に向
かうと、すでに他の風紀委員は全員集合して、私たちの到着を待っていた。
「遅れてすみません。」と、風紀委員長に詫びると、
「なに、まだ集合時間にまだ時間があるわ。気にしないで。」と答えられた。
続きます
159 :
ふみあ:2009/06/03(水) 02:12:19
「では、これより本年度初の朝の点呼を行います。今朝の割り振りなのですが…」
と委員長がいつもどうりに活動内容を確認しようとしたとき、
「あのう…」
「どうかしましたか? 葵さん。」
「今日の私の担当、1年生棟に変更していただけないでしょうか。」
「かまいませんが、どうして?」
「いえ、従妹が今年度の新入生として入学したものですから。」
「あら、それはおめでとう。」
「ありがとうございます。」
「もうこちらにお越しになられてるのかしら。」
「ええ、昨日到着して、今日の入学式に出席するんです。」
「じゃあ、こちらで朝を迎えるのは初めてなのね。」
「はい。」
「よろしければ、私も一緒に行っていいかしら。あなたの妹さんに会ってみたいわ。」
「ぜひ。だけど妹じゃなくて従妹ですよ。」
「みたいなものでしょう?」
いたずらっぽく笑う委員長を見ていつも思う。まったくこの人にはかなわない。
まだ続くよ
160 :
ふみあ:2009/06/03(水) 02:14:12
>>薫
朝だ、日が昇り始めて辺りが明るくなり始めたのを確認して、僕はため息をついた。
とりあえずぐるっと周りを見回してみる。
まず南側に大きな開き戸タイプの窓があり、そのそばに机があり、向かい側の東側の壁
沿いに南枕のベッドが置かれ、反対側に本棚が見える。部屋の北側にクローゼットと入口があり、その向こうに玄関とシャワールーム、玄関そばに小さなキッチンらしきものも付いている。だがなぜかトイレが付いていない。これでざっと8畳の1DKといったところだろうか。
未だ寝起きでぼうっとしている頭で、僕は昨晩の出来事を思い返していた。昨日はほとんど眠れなかった。昨晩こちらの方についた時、無事到着したことを伝えようと、実家や向こうの友達に電話した時にいろいろ恐ろしいことを聞かされたからだ。
まだ続く
161 :
ふみあ:2009/06/03(水) 02:15:26
祖父からは、曾祖母が僕が前にいた学校、つまり中学を中高一貫の私立の男子校ではな
く、普通の公立中学校だと勘違いしていたと聞かされた。確かにうちの学校は地名がその
まま学校名になっているからそう思い違えても不思議ではないが、それと今回の転校とど
ういう関係があるのか問い詰めると、
「うーん、どうやら曾お婆ちゃんはおまえをどうにかして女らしくしたかったようじゃ。
ことに聖リリカルはキリスト教とこの手の教養教育に熱心な…」
もういい。と結局お茶を濁してしまった。曾祖母の公立校への不信と、淑女を育成するた
めの教育が僕にとって必要だという誤った認識が今回の遺言書を書かせた原動力らしい。
続く
162 :
ふみあ:2009/06/03(水) 02:18:13
さらに親友だった多田からは、聖リリカル女学院が、高等・中等・初等・幼稚舎からな
り、さらに名前こそ違うが、同系列の経営の大学まであるかなり規模の大きいマンモス校
だが、大学を除くすべての学校が、BFとなっているという事実を教えてもらった。
「ボーダーフリー? どういうこと?」
と、訊くと、
「うーん、ボーダーフリーというよりも、そもそも試験で一般公募しとらんみたいや。」
「試験をせえへんて?」
「寄付が多かった生徒や、スポーツや芸術なんかの推薦を取ったやつ、将来を嘱望、また
は名家出身の生徒を専ら取っているらしい。ま、後は綾小路みたいにコネがある奴やな。」
「いやな言い方するなよ…。」
「事実だろ。」
「まあ、そうだけど。こんなやり方でやっていけるんか?」
「いけるんとちゃうか、現に相当な生徒が毎年はいっとるんやろ?」
「みたいだけど。」
「まあガンバレや、どうせ連休には帰ってくるんやろ?」
「たぶんね。」
「じゃあその時また一緒に遊ぼうや。」
「ああ、楽しみにしてるよ。じゃ、おやすみ。」
「おやすみ。」
終話スイッチを押す。どっとため息が口から出てきた。
続く
163 :
ふみあ:2009/06/03(水) 02:36:55
その後、自分のノートPCをネットに繋いで聖リリカル女学院をググッてみると、一応ホ
ームページがあるが、確かに多田の言ったとうり入学試験は大学以外一切行っていないよ
うだった。その代り寄付金、否学校側の説明によれば慈善支援金、なるものの応募フォー
ムがあり、見てみると、
「うわっ! 一口ン千万を10口以上って。なにそれ?」
普通に億超えてるやないか。いや、最低が5億円なら下手したら10憶超える場合も当然あ
るのだろう。慈善と言うレベルじゃないだろ、これ。
しかもこの支援金の他に正規の授業料や諸経費もしっかりと取っている。額面はだいた
い前の学校と同じくらいのようだ。前の学校 私立高市中学高等学校は基本的に授業料以外
で寄付を取ることはなかった。しかし前年に中学、高校の校舎を新築し、通信環境も一新
したが、僕の知る限り黒字経営だった。
つまり大規模でないとはいえ、普通の学校が健全な経営が行えるくらいの授業料を取り
ながらさらに何百億もぼったくっているのである。こんな学校の理事長をしていた曾祖母
は果たして人格者だったのか? 今まで抱いていた曾祖母のイメージが崩れていく音を聞き
ながら、PCの電源を切って、床に就いたのだった。
164 :
ふみあ:2009/06/03(水) 02:37:38
正直眠いが、寝れる気がしない。そのうち眠たくもなくなったので少し早いかとも思っ
たが起床することにする。
とりあえず洗顔をして、歯磨きをし、髭をそる。電動剃刀の音が気になったが、完全防
音ということなので、よほどのことがない限り外に漏れることもなかろう、ついでに手や
足の無駄毛も剃っておく、電動剃刀なんて何に使うのと訊かれたら「無駄毛処理」と答え
るためにね。ついでに眼鏡も洗っておく。
そのままパジャマを脱ぎ棄て制服に着替える。パット入りのブラとショーツとロングの
ウィッグは昨晩から寝込み対策のためにずっとつけていたので、そのままパンストを履き
制服を着ようとした。
しかしなんだこの制服は、どうやって着るんだ? なんていうかギャルゲーでお嬢様学校っ
て言ったらたいていこんな感じの制服だよね、と思えるような代物なのである。困った、
ただでさえ女ものの服は構造が分かりづらいのにこれじゃあ。
僕は制服を手に取ったまま困惑していた。
第一章 完
第一章はこれにて終了。只今第二章を鋭意制作中。できたらうpしようと思う。
165 :
ふみあ:2009/06/14(日) 06:33:12
皆さんお久しぶりです。何とか第二章が完成したので、これから順番にうpしていきます。
というか、この板本当に人がいないのか? 感想が聞きたいので突っ込みたい人や感想を書きたい人はどんどん書いていったください。
あと、題名の方は引き続き募集中、今はとりあえず、「がんばれ男の娘(仮)」で行きます。
では第二章 2-1を次のレスからうpします。
166 :
ふみあ:2009/06/14(日) 06:34:34
第二章 入学式
2-1たぶんデビュー戦
>>薫
さあどうしたものかと手をこまねいていると、玄関の扉がノックされた。
「クーちゃん起きてる? おはよー。」
「あら、クーちゃんていうの?」
と葵姉ちゃんの声と他にも誰かが話している声が聞こえた。今更ながら自分が下着一枚し
か着ていないことに気づき、とりあえずパジャマを着なおそうとすると、突然鍵が掛かっ
ていたはずの玄関の扉がガチャッと開けられる音が部屋中に響いた。
167 :
ふみあ:2009/06/14(日) 06:35:53
ビクッとして振り向くと、そこには制服を着た葵姉ちゃんが今まさに入ってこようとし
ているところだった。とりあえずシャツだけ羽織ってその場をしのぐことにする。
葵姉ちゃんは他に二人の女生徒を引き連れていた。一人はいかにも最上級生といった感
じの落ち着いた雰囲気の、腰まである髪をゆるやかにカールさせた背の高い、制服の上に
ピンクのエプロンをした女性。もう一人はポニーテールが愛らしい、おそらく葵姉ちゃん
と同学年の女生徒、こちらも制服を着ている。そして3人とも左腕に風紀と大きくかかれ
た橙色の腕章をつけている。
168 :
ふみあ:2009/06/14(日) 06:36:38
どうやら見回りのついでに寄ったという感じを受けたが、混乱しているのでどういう対
応をとればいいか分からない。とりあえずどうにか「お…おはようございます。」とあいさ
つをすると、エプロンをしたほうの女生徒が、
「ごきげんよう。あなたがクーちゃんね。」
と話しかけてきた。僕が返事する間もなく葵姉ちゃんが猛烈な勢いでしゃべり始める。
「ええ、この娘が私の従姉の薫です。」
「薫ちゃんて言うの? 素敵な名前ね。」
「そんでもって薫、この方が紫苑お姉さま。風紀委員長をされているわ。」
「はじめまして薫ちゃん。葛城 紫苑です。よろしくね。」
と言われて初めて、
「こ..こちらこそ初めまして、綾小路 薫と申します。これから宜しくお願いします。」
と答えると、紫苑さんは少し困ったように笑いながら、
「あら、そんなに畏まらなくていいのよ。」
というと葵姉ちゃんが、
「お姉さま、この子内気というか昔からこうなんです。それと…」
といって、傍らにいるポニーテールを示し、
「彼女は春日 雪乃、風紀委員にして、私のクラスメイトにして一番の親友よ。」
というと、
「春日 雪乃だ。君の話は葵から聞いてるよ。よろしくな。」
「は…はい。」
169 :
ふみあ:2009/06/14(日) 06:37:31
とどうにか返事をすると雪乃さんが、
「ところで君はどうしてそんな恰好をしてるのかな?」
今更ながら、自分がやや恥ずかしい恰好をしていることを思い出した。仕方ないので、
「制服の着方がわからないんです。」
「ああ、確かにうちの制服変わってるからねえ。でもお家で一度着なかったのかな?」
首を横にフルフルと振る。
「着てこなかったのか。」
今度は縦に振る。
170 :
ふみあ:2009/06/14(日) 06:53:37
さすがに見かねたのか葵姉ちゃんが
「薫、教えてあげる。手挙げて。」
「えぇ! 今着替えんの。」
「当たり前でしょ、文句あるの?」
「だってぇ。」
人前で服を着せてもらえと? 冗談じゃない。
空気を読んだのか葛城さんと春日さんは、部屋の外に出て行ってしまった。悪いことし
たな。
「じゃあ、手を広げて。」
「教えてくれたら自分でできるよ。」
「まあ、そんなこと言わずに…えい!」
「あぁ!」
その頃、部屋の外ではこんな会話がなされていたらしい。
「雪乃、あの娘、どう思う?」
「さすが葵の従妹というべきか、可愛い娘だと思いますよ。ただ少し固いかな。」
「初対面だから緊張していたのよ。すぐになれると思うわ。」
まさか二人とも、先ほど出会ったメガネっ娘が実は男だなど露ほどにも疑っていない。
2-1終了 2-2に続きます。
今回第二章は2-8まで、分量にして第一章の2.5倍ぐらいあるけど頑張ってうpするからよろしく。ノシ
171 :
ふみあ:2009/06/15(月) 03:07:34
2-2をうp!
2-2大いなる誤算
>>薫
胸ポケットに校章が刺繍してある白いブラウスを羽織り、裾に白いラインの入ったシンクのスカートを穿き、黒い革ベルトを締め、チャックのついていない半袖のセーラー服のような、白い襟に紺色のラインが入った赤い上着のようなものを頭からかぶり袖を通す。
「これでいいのかな。」と訊くと、
「ええ、後はネクタイをして、出来上がり。」
「ふつうネクタイしてから上着を着いひん?」
「後からネクタイをシャツの襟に通して、押し込んだ方が皺になりにくいでしょ。」
なるほどねえ。
「これ、お姉ちゃんと色違うんやね。」
「これで学年を区別するのよ。クーちゃんたち一年生は青、私たち二年生は黄緑、
そしてお姉さま方三年生は桜色という風にね。」
「へえ、学年章じゃないんだ。ところでこれ三年間ずっと同じ物を使うの?」
「まさか、来年はクーちゃんも私と同じ黄緑を使うことになるわ。」
「ふーん。じゃあさ、体操服はどうなの?」
「体操服?」
「例えば学年ごとにジャージの色が違うとかさ。」
高市高校は学年ごとにジャージの色が違い、6年間同じ物をずっと使う。だから、毎年新色のジャージがでて、今年の一年生はどんな色のジャージをしているのか、楽しみにしたものだった。だからこっちでもそうなのかと思って聞いてみたのだ。しかし…
「ないわ、みんな同じものを使っているもの。」
「なんだつまんないな。うちの学校がそうやったからこっちでもそうなんかなと思ったのに。」
「うちのって高市?」
「うん、そうだよ。」
「へえ、高市って変わっているのね。」
ここほどじゃないと思うけどな。
172 :
ふみあ:2009/06/15(月) 03:12:10
「でもクーちゃん。うちの学校の体操服、ジャージじゃないわよ。」
「へ?」
「ブルマよ。」
「まさかぁwwww」
「嘘言っても仕方がないでしょう。」
「マジで? 今時ブルマはないでしょう。」
「ここにあるわ。」
「いやいや。」
「でも、男の子ってブルマ好きなんでしょ。」
「どっから仕入れたかは知らんけど訂正しておくよ、葵姉ちゃん。男はブルマが好きなんやない。ブルマを穿いている女の子を見るのが好きなんや。まして自分が穿くなんて…」
「あら、どっちにしてもブルマを穿いている女の子を一杯見れてよかったじゃない。」
「よくないよ。冬どうすんのさ、寒いやん。それにグラウンドで座ったら足が砂で汚れちゃうじゃんか。」
「お風呂でよく洗えばいいでしょう、それくらい。」
「そりゃそうだけど、ブルマやと僕が男やってばれへんかなあ。」
「うーん。」と唸ったと思ったら、葵姉ちゃんはいきなり僕のスカートをめくって、中を確認し始めた。
173 :
ふみあ:2009/06/15(月) 03:13:32
「きゃっ! 何すんだよう。」と思わず叫ぶと、
「きゃって、女の子じゃないんだから。」
「今は女の子なんだい。」
「はいはい、そうだったわね。」
「で、何してたのさ。」
「クーちゃんのあそこ、小さいからそんなに目立たないと思うわよ。」
「さらっと失礼なこといわへんでよ。」
「気にしてるの?」
「そういうわけじゃ。」
「それにそのくらい目立たなきゃたぶん水泳の授業も大丈夫ね。」
「水泳?」
「どうかしたの。」
「水泳の授業ってプール使うの?」
「当たり前でしょ。」
「プール、あるんだ。」
「いや、普通あるでしょ。」
「うちの学校なかったから。」
「高市ってプールないの?!」
まんま信じられないって顔で葵姉ちゃんは驚いた。
174 :
ふみあ:2009/06/15(月) 03:15:01
「だってそもそも土地がないんやで。」
「増やすわけにはいかないの?」
「無理、そもそも正門が大阪外環に面してるし、近くにはR171と外環R170の交差点もある街中にあるもん。近くに歓楽街もあるし。医大と土地を折半してるから。」
「それは、ご愁傷様。」
「ま、その代り娯楽と交通事故には事欠かないけどね。」
「こ…交通事故?」
「しかし困ったなあ。水泳があるとなると着替える時に必然的にマッパになる瞬間があるもんなあ。まあどうにかするか…」
「ちょっとクーちゃん。」
「何?」
「交通事故って?」
「ああ、うちの学校、僕もそうやったけど電車通学が多いんだよ。だけど学校から最寄駅に行くには、阪QでもJRでも外環とR171を越えへんといけへんからさ。交通量が多いから、急いでいて信号無視した時にたまに撥ねられて怪我したり死んだりするやつがいるんや。」
「….(汗)」
「まあ僕も5回くらい10tダンプや路線バスに轢かれそうになったことがあるけどね。」
「….( ゚д゚)」
「あれ、葵姉ちゃんどうしたの?」
さっきから黙りこくっている葵姉ちゃんに話しかける。
「え、ああどうしたの?」
「いや、葛城さんと春日さんを待たせてるんじゃないの?」
「あ、そうだった!」
といって、葵姉ちゃんは急いで部屋を出ていく。
「クーちゃんもそろそろ準備しなさい。朝食の時間だから。寮の食堂の場所はわかるわよね?」
「うん、一応昨日案内はしてもらったから。」
「じゃあ、一人でも大丈夫ね。朝食は7時からだから急ぎなさい。」
「うん、わかった。」
「じゃあ、また後でね!」
そう言って葵姉ちゃんは部屋を出て行った。
さて、腹も減ったし言われたとうり朝食にするか。時計と携帯と部屋の鍵とハンカチ、そして財布をポケットに突っ込み、カバンを持って部屋を出た。
2-2終わり、2-3に続きます。
175 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:32:34
2-3食堂にて
>>薫
学校の寮は学校内の一番北側にあり、東側の1年生棟、西側の2年生棟、南側の3年生棟が真ん中にある大きな十字型の本館を中心に七の字になるように配置され、
正面入り口は本館の南西にエントランスとして設けられており、エントランスの北側、本館一階の本館と1・2年生棟への連絡する廊下の交差するところに大きな食堂がある。
北側の少し飛び出したところまで食堂として機能しているので、学校案内によれば300人が一度に食事をとることが出来るらしい。
ちなみに、一棟あたりが30世帯×10階建てと半端ない大きさのため、それに見合わせて本館もかなり大きく、食堂以外のリクリエーションもいろいろあるらしい。
(よくまあこんな広い建物で、たった10人そこらで全員を起こそうとするよなあ)
と、風紀委員の活動に感心したが、後で聞くと長期休暇明けの前後数日間だけで普段はほとんどやってないらしい。とにかく僕はエレベーターホールから食堂に向かっていた。
176 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:33:15
1階のエレベーターホールや廊下はお嬢様学校の寮のそれに相応しくやたら豪華な造りになっている。だが、一面大理石の床や真紅の絨毯、壁や天井の彫刻やシャンデリアなどは少し高級なホテルや豪邸にはよくある仕様なので特に驚くことはないが、
少し、いやここまでやるかと思うくらいやり過ぎている感がある。しかしながら建築家やデザイナーのセンスや職人の腕が並外れて良かったのか、不思議とそこまで下品には感じない。
廊下の豪華な雰囲気に共鳴するように左側の壁に並んでいるシックで重厚な扉の群れを抜けしばらく行くと廊下は大きくL字型に折れ曲がったところに出る。角を曲がってしばらく行くと、向こうに本館のエントランス、こちらに本館エレベーターホールと階段、
そして右側に例の食堂が見えるエリアに来る。ちなみに先ほど一年生棟のエレベーターホールから歩いてきた廊下の上、つまり2階以上の共用廊下については普通のマンションと同じような感じになっているがドアのデザインは同じである。ついでに食堂入り口から
エントランスを突っ切ってまっすぐ走る廊下をずっと行くと3年生棟の入口にぶちあたる。
177 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:33:56
とりあえず予想はしていたが、寮の食堂も食堂というよりホテルか高級フレンチのレストランのでかいやつだと思った方が正しいらしい。金メッキの格子戸に、分厚いガラスがはまった重厚な観音扉の向こう側には仕切りがあるのか薄暗く、
よくわからないが、奥からかすかに光が洩れているし、向かって右側の扉のドアノブには飾り字で「Open」と書かれたプレートが掛っている。
誰の姿も見えない分不安が募るが、Openというからにはやってはいるのだろう。恐る恐る扉に近づくと、突然人影が現れたと思ったら向かって左の扉が奥の方へ開いた。見ると黒いスラックスに黒の皮靴を履き、白いフォーマルシャツに黒いベストを着た
若いドアマンが「いらっしゃいませ、ようこそ。」と、お辞儀しながら中に通してくれた。
178 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:34:36
ドアマンがいんのか、本格的だなあと感心していると次はカウンターの奥からドアマンと同じような格好をした、しかし上から黒い燕尾服を着た中年の男性、おそらくここのチーフか何かだろう、が現れ、
「いらっしゃいませ、お早う御座います、お嬢様。お一人でいらっしゃいますか?」
とお辞儀しながら恭しく聞いてきた。
179 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:35:18
「今は一人ですが、中にたぶん連れが待っていると思うんですが。」
と答えると、
「さようですか。それでは御席はその方と相席で構いませんね?」
「ええ、ですけどいない時は一人でお願いします。」
「かしこまりました。ところで今朝の朝食はどのようにいたしましょうか。」
「あの、僕、今日初めてここを利用するので、何があるのかわからないんですが。」
「初めて?」
「僕、今日入学する予定の新入生なので。」
「それは失礼しました。御無礼をお許しください。」
「いえ、そこまでは、ところで朝はどのようなものがあるんですか。」
「当レストランでは朝食に、和食、ブリティッシュ、アメリカン、フレンチ、中華の計5種類をご提供させていただいています。」
「具体的には?」
「和食はご飯に味噌汁と納豆と焼き魚が付きます。」
「ブリティッシュは?」
「ブリティシュは定番のトーストとサラダ及び、ベーコン、ハム、ウインナーエッグの3種類のなかから1品、コーヒーか紅茶のうちいずれかをお選びいただけます。トーストにはバターとジャムをお付けいたします。」
180 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:52:17
「フレンチは?」
「ブリティッシュのトーストがフレンチトーストに変わります。」
「アメリカン?」
「ブリティッシュのトーストがホットケーキ、またはリングドーナツに変わります。」
たぶんそう来ると思ったが、わざわざ三つに分ける必要があるのか?
「中華は?」
「基本的に飲茶のコースとなっております。ただこちらは日によって内容が変わります。」
なぜ中華だけ別扱いなんだ?
「一番人気なのは何ですか?」
「すべてご好評を頂いています。」
いや、答えになってないだろう。
181 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:53:22
「ただ強いて言えば、フレンチや和食の注文が他より若干は多いようです。」
「そうですか。」
うーんどうしようか、昨日の朝食は思いっきり和食だったから今朝は洋食にするか。
そう考えた僕はチーフに、
「では今朝はフレンチにしようと思います。」
「エッグはベーコン、ハム、ウインナーのうちどれになさいますか。」
「ベーコンで、あとコーヒーをお願いします。」
「左様ですか。では、案内の者を呼びますので暫しお待ちください。」
そう言ってチーフが奥に引っ込んだと思ったら、今度はメイド姿のウエイトレスがやって来た。
182 :
ふみあ:2009/06/16(火) 04:54:12
「いらっしゃいませお嬢様。御席へご案内いたします。」
そう言って中に入りかけたが、
「ところで、お連れの方はおられますか?」
「そうでうね。えーっと、どこだろう。」
食堂の中はとても広く、きれいにクロスが掛けられた4〜6人数用のテーブルが何十台も並んでいる。無論椅子など何脚あるか分からない。
一度に300人はマジで入るかもしれない。もしも、ラッシュ時なら不可能だったろうが、今日は入学式、本日付で入る新入生がほとんどだし、
在校生も今はまだ春休みでほとんどが帰省中である。はっきり言ってガラガラだったから葵姉ちゃんたちはすぐに見つかった。恐らく向こうも同じだったのだろう。
葵姉ちゃんたちが軽く手を振っているのがわかった。とりあえず先ほどのウエイトレスにこう言った。
「いました。つれです。」
「では、あの方たちと相席で構いませんね。」
「はい。」
「では、御案内いたします。」
まずは席に着こう。
2-3終わり、2-4に続く
183 :
ふみあ:2009/06/17(水) 04:30:12
2-4食堂にて その2
>>薫
「ではこちらの席にどうぞ。」
「ありがとう。」
とりあえず、4人掛けのうちあいている入口に一番近い席に座る。
「すみません。遅くなりました。」
「こちらこそ、悪いね。先に頂いているよ。」
遅くなった詫びをすると、真正面の春日さんが返事をしてくれた。僕の右側に葛城さん、左隣に葵姉ちゃんが座っている。
見ると三人とも和食を食べているらしい。
「あれ、皆さん和食なんですね。」
「そうだよ〜。」
「日本人なら、朝は御飯と味噌汁だろう。」
「あら、薫さんは和食ではないのですか?」
「僕はフレンチにしました。」
「ああ、そうなんですか。」
「クーちゃんも和食ならみんなそろったのに。」
「僕、昨日の朝食がおもいっきり和食やったから、たまには別のものがいいかなと思って。」
「ふうん。まあいいわ。でも和食も食べてみてね。」
「考えとくよ。」
184 :
ふみあ:2009/06/17(水) 04:30:53
そこに突然春日さんが会話に割り込んできた。
「ところで薫君。」
「何でしょうか?」
「君は自分のことを呼称するとき『僕』っていう一人称を使うんだな。」
「それがどうかしましたか。」
「僕っていう一人称は普通男の子が使うものだと思うんだが。」
おそらく彼女はこの時婉曲に僕のことを、女の子、いや淑女らしくないと注意したかったのだろう。だが僕から見れば、一人称こそ『わたし』であるものの、彼女の言葉遣いも相当ボーイッシュに感じる。
それに『僕』という呼称は今の僕に出来る数少ない現況における抵抗手段の一つ、ないしアイデンティティの一つである。簡単に譲るわけにはいかない。
185 :
ふみあ:2009/06/17(水) 04:31:33
「でも、最近は僕みたいに自分のことを『僕』っていう女の子結構いますよ。」
主に二次元にな。ちなみにこういうのを萌えの世界では「僕っ娘」というらしい。
「そうなのかい?」
「そうですよ。」
ていうかあんたのその宝○の男役のような話し方はどうなのさ。
「ふーん、まあいいや。だけど自分のことを「僕」と呼ぶことはここではあまり感心されないだろうね。」
「ここではというと?」
「君も知っているようにここはお嬢様学校として世間に知られ、一流の淑女を要請するための情操教育をおこなっている。」
「らしいですね。よくは知りませんが。」
「当然その分生徒にはそれ相応に振る舞うことを要求される。」
「でしょうね。」
「ここでいう淑女の振る舞いには主に3つの種類があるんだがわかるかい?」
186 :
ふみあ:2009/06/17(水) 04:32:13
いきなり振るか?
「3つというと、行動、服装、喋り方でしょうか?」
「まあ、大体あっているけど、正確には立ち居振る舞い、話し方、知識教養だったかな。」
かなって…、大丈夫かこの人。
「その『話し方』に引っ掛かるということですか。」
「そういうことになる可能性があるということだよ。」
「はあ。」
「君も『僕』っていう一人称が淑女に相応しいとはよもや思わないだろう。」
「そう言われればそうですが。」
「ん?」
「春日先輩のしゃべり方も男性、いえ男役のようなしゃべり方ですよね?」
「君もそう思うのかい。」
「失礼しました。」
「何故謝るんだい。」
「先輩がそこまでお気になされているとは知らなかったし、後輩として出過ぎたマネをしたと思いましたので。」
「律儀というか、やっぱり君相当変わっているねえ。」
「そうでしょうか。」
「そうだよ。で、私の話し方のどこが男ぽかったのかな?」
「そうですね。全体的な雰囲気というのでしょうか、強いて具体的にいえば、文尾を『だろう』とか『だ』で切ったり、僕のことを薫君と呼んだりするところですね。」
187 :
ふみあ:2009/06/17(水) 05:01:16
まさか僕が男だとわかって君付しているわけではないのだろう。
「なるほど、確かにそうかもしれないね。」
微かに笑いながら春日さんはそういった。
「ただ、『先輩』という言葉も、できれば使わない方が無難だね。」
「こちらでは下級生は上級生のことを何て呼んでるんですか。」
「お姉さま、だ。」
ああ、やっぱり。
そうこう言っているうちにウエイトレスが僕の分の朝食を運んできた。
「フレンチのお嬢様は?」
「あ、僕です。」
「どうぞ。」
「ありがとう。」
188 :
ふみあ:2009/06/17(水) 05:03:01
4席あるうち3席にすでに和食のトレーが置いてあるのだからわざわざ訪ねる必要もなさそうだが、一応聞いておくことがこの店のマニュアルなのだろう。とにかく遅れを取り戻すために急いでかき込むことにする。
「クーちゃん?」
「何? 葵お姉ちゃん。」
「頬っぺた何かついてる。」
といって、持っていたおしぼりを頬に押し付けてくる。よく見ると3人とも食べ終わり、またはもう食べ終わろうとしているところだった。急がねば。
2-4終わり、2-5に続きます。
189 :
ふみあ:2009/06/18(木) 04:35:54
2-5初登校?
>>薫
「ところでクーちゃん。この後どうするの。」
と、食事を終えて食堂を出てから葵姉ちゃんが訊いてきた。
「どうって、この後ホテルに泊まっているお母さんと合流して9時半からの入学式に出席するけど。」
「と、いうことは今日が初登校となるんだね。」と春日さん。
「ここも一応学校の中ですから、登校というのかはわかりませんけど。」
「確かにここも学校の中だ。登校とは少し違うかも知れないね。」
「すでに学校内にいますからね。強いて言えば建物から建物への移動でしょうか。」
「そういうことになるね。ということは君の初登校は昨日ということになるのかな。」
「そういうことになりますね。」
190 :
ふみあ:2009/06/18(木) 04:36:36
そこに葛城さんが、
「そういえば式は何時に終わるんですか。」
「12時半だそうです。」
「あら結構かかるのね。」と葵姉ちゃん。
「ついでにオリエンテーションも済ませるそうだから。」
「なるほど。」
「じゃあ、終わった後にみんなでどこかに遊びにいきませんか。薫さんに街を案内したいですし。」と葛城さんが言うと。
「お、いいね。」と春日さん。
「そうしましょう。」と葵姉ちゃん。
「お気遣いありがとうございます。」
「どういたしまして。お気になされることはないですよ。」
「ところで、」とずっと気になっていたことを訊く。
191 :
ふみあ:2009/06/18(木) 04:37:16
「講堂ってどこにあるんですか。」
「んーそうだなあ。一言ではいいきれないし。」と春日さん。
「ややこしいところにあるんですか。」
「いや、そういうことではないんだがね。」
「なにせん広いからねえ。」と葵姉ちゃん。
「迷ってしまう可能性もありますからね。」と葛城さん。
「そんなに広いんですか。」
「少なくとも裏の丘の向こうまで一応学校の敷地ですよ。」
「ま…マジで?」
「そういえば去年迷子になってしまった子がいませんでした?」と葵姉ちゃんが言うと、
「ああ、いたねえ。なんて言ったかなあの娘。」と春日さん。
「あの時は大変でしたねえ。」と葛城さんも相槌をうった。
「学校の中で遭難しちゃった人がいらっしゃるんですか?!」と驚くと、
「3日3晩捜索して、見つかった時は相当衰弱されてましたから。」
なんか嫌だな、それ。
「そうなってはいけないから私たちが薫さんを案内して差し上げますね。」
「ありがたいですが、母と一緒に回ることになっているんです。」
「かまいませんよ。薫さんのお母さんにもお会いしたいですし。」
「はあ、じゃあお願いします。」
2-5終わり、2-6に続きます
192 :
ふみあ:2009/06/19(金) 13:19:52
2-6講堂にて
>>薫
そういうことで僕ら4人は寮を出て僕の母親と合流するために学院の南側にある正門に向かった。途中いくつかの施設や学舎を通過するたびに3人からどういう建物か紹介してもらう。
中でも厳かな雰囲気を放つ礼拝堂ときれいな花が咲き乱れる庭園や温室、5階もある大きな図書館が印象的だった。
大通りに面した正門に着いた時には寮の玄関を出てからすでに40分以上経過しようとしていた、いくらゆっくり歩いていたとはいえ、ここまでは基本的に一直線だったので、
改めて学校の敷地の広さを思い知らされた。
193 :
ふみあ:2009/06/19(金) 13:27:19
校門ではすでに母が待っていた。どうやら泊まっていたホテルからこちらに直行してきたらしい。気のせいかいつもよりめかしこんでいるような感じがする。
母に葛城さんと春日さんを紹介しようとしたが、またしても葵姉ちゃんに先を越されてしまった。
「おはようございます。智代伯母さま。」
「おはよう葵ちゃん。えーと、そちらの方は?」
「こちらは私の先輩で3年生の葛城 紫苑さん。こっちが私の同級生の春日 雪乃さん。紫苑お姉さま雪乃さん、こちらの方が、私の母の妹に当たる人で薫ちゃんのお母様でもある、伯母の智代さんです。」
「はじめまして、薫の母です。いつも姪がお世話になっています。」
「はじめまして、葛城 紫苑と申します。こちらこそいつも葵さんには助けていただいています。」
「はじめまして、春日 雪乃です。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、今年は姪と共にムス…メともどもよろしくお願いいたします。」
今絶対息子と言いそうになったな。間違いない。
194 :
ふみあ:2009/06/19(金) 13:28:31
「母さん、葵姉ちゃん達が案内がてら会場まで一緒に行こうと言ってくれているんやけど、かまわんよね?」と母だけに聞こえるように言うと、
「かまへんよ、むしろ良かったやないの。あんた会場の場所分かっているの?」
「なんとなくは。」
「なんとなくじゃあかんやないの。絶対に一緒に行ってもらった方がいわよ。」
「じゃ決定ということで。葛城先輩、母もかまわないそうなので、講堂まで連れて行ってもらいませんか。」と母に同意を取ってから改めてお願いする。
結局、校門から講堂まで交差点ごとに案内表示やスタッフの人がいてそれほど迷う危険性は少なそうだったが、目の前に現れた建物は度肝を抜くものだった。
講堂というと普通は体育館のことを表す言葉だと思うのだが、案内されたのは想像していたものとは全く違う、一言でいえば小規模の会議場やコンサートホールのような建物だった。
195 :
ふみあ:2009/06/19(金) 13:29:47
中の方もエントランスを通り階段を上がるとホールがあり、入ると、一番奥にステージのような演壇があり、それを扇形に囲むように階段状に座席が並んでいて、後ろの方にご親切に2階席までついている。まさに文字どうり講堂だった。
思わず「すごい。」といってしまった。
「そんなにすごいかい。」と春日さんが訊ねてきた。
「確かに他よりはしょぼいかも知れませんが、学校、それも高等学校にこんな建物があるなんてすごいです。」
「そんなにすごいかな。」
「すごいですよ。僕なんか講堂と聞いて体育館だと思い込んでいたんですから。それにしょぼいといっても、規模が小さいというだけで機能としてはその辺の会議場やコンサートホールよりも上を行っているんじゃないですか? たぶん。」
「さあね、わたしは詳しくないからよくはわからないが、そこまですごくはないだろう?」
「すごいですよ。というより珍しいです。」
「珍しい? 普通にあるものだと思うが。」
「そんなことないですよ、普通の学校にこういう建物はありませんし。」
「だけど、私は講堂というものはどこの学校にもあるときいたけどな。」
「そりゃ、確かにいますけど、普通の学校で講堂といったら体育館のことを指すんです。」
「そうなのかい。」
「大抵体育館の奥にステージを設置するものですから、大抵の屋内行事や演説は体育館で行われることが多いので、体育館のことを講堂と呼ぶ習慣があるんです。」
「ああ、だからさっき君は会場が体育館だと思い込んでいたと言ったんだね。」
「ええ。」
196 :
ふみあ:2009/06/19(金) 13:31:03
建物の中に入るとすでに入場の案内を始めていた。
「ではみなさん、また後で。」と3人に一時の別れを告げた後、母を促して会場となるホールに入った。
2-6終わり、2-7に続きます。
197 :
ふみあ:2009/06/20(土) 05:49:45
2-7入学式
>>薫
2階席に設けられた保護者席へ向かった母と別れた後、1階席の生徒席に向かうため生徒用の受付に行く。
「すみません。今度高等部に新しくは入ったものなのですが。」
「はいはい、ちょっと待っていてくださいね。」
応対してくれたのは50歳くらいの、眼鏡をかけた太ったおばさんの事務員だった。彼女と僕を隔てる机の上、彼女の前には灰色のノートパソコンが開いておいてある。
「お名前を言ってもらえるかなぁ。」と訊かれたので
「綾小路 薫と申します。」
「えーと、アヤノコウジ、カオルさんね。」
そういいながら彼女はおもむろにPCのキーボードを叩いていく。
「チョーと待っててねぇ。これ少し時間がかかるのよぉ。」
「はあ。」
しばらく待っていると。
「あ、出てきたわ。綾小路 薫さんやね。15-Fの席になるから。」
「わかりました。どうもありがとうございました。」
198 :
ふみあ:2009/06/20(土) 05:50:26
入学式のプログラムと座席番号の書いた紙をもらってF-15、F-15と念じながらホールに入ると、相当数の生徒が既に集まっている様子が見渡せた。
ホール自体の雰囲気はその辺のコンサートホールや会議場とそう大差ない感じである。やや橙のきつい黄色い光を放つ間接照明に音響の良さそうな壁や天井、これでもかとライトアップされたステージには豪華だが厳かなオーラを放つ演壇が真ん中に置かれ、
お約束のようにやや離れたところにグランドピアノが置いてある。ステージの奥の壁には校章旗と日本国旗がならんで掲げられ、その下に『202X年度 第11X回聖リリカル女学院高等部入学式』と達筆に書かれた横断幕が掲げられている。そしてステージからこちらまでずっと緋色の
着地が張られたジャンプ式の折りたたみ椅子の座席が通路の階段に沿って整然と並んでいる。ただ、その通路がど真ん中に一本とホールの壁沿いに2本の計3本しかないことと、扉自体は5つあるのに出口はステージ正面、一階席の一番後ろの列のさらに後ろに設けられたスペース、
今現在僕がいる所だが、の3つと、舞台の袖に設けられた非常口の3か所しかない点だろうか。2階席はよくわからないが真ん中の通路と非常口がなく、扉も2つしかないことを除けば1階と大差ないようである。
199 :
ふみあ:2009/06/20(土) 05:51:06
見たところ学生は真ん中付近、通路をはさんで二手に分かれて座らされているようである。
F-15の席はステージから数えて6列目、出口から向かって右側の真ん中の通路側の席だったのですぐに見つかった。が、なぜかそこにはすでに先客がいた。少し小柄だがセミロングの元気の良さそうな娘である。
「あの、すみません。」
「ごきげんよう。なんですか?」
「そこ僕の席なんですけど。」
「え、ここ私の席ですよ。」
「まさか、何番ですか。」
「私の席?」
「ええ。」
他に何がある。
「E-15よ。」
「ここF-15ですよ。Eならひとつ前の席です。」
「あなた何言ってるの。ここにE-15って書いてあるでしょ。」
といって、彼女は眼の前の座席の背もたれのトップに埋め込まれた『E-15』と書かれたプレートを叩いて、さも自分が正しいかのように「えっへん」と胸を張っている。よく見ればプレートの文字が上下逆に書いてあることに気付けたと思うのだが。
「だから私が間違っているというのは間違いよ。他をあたりなさい。」
「ちょっと待ってください。このホールの座席はステージから数えて一番前がA、そこからアルファベット順にTまであるんですよね?」
「それがどうしたの。」
「ということは、あなたの席がEで始まっているんなら、あなたの席は前から5列目ということになりませんか?」
「そうなるわね。」
200 :
ふみあ:2009/06/20(土) 05:51:47
「でもここ前から6列目ですよ。」
「E-15と書いてあるわよ。」
だからそれは己の目の前の席の番号だっつうの。埒が明かないので後ろの席、G-15に座っている娘に声をかける。
「すみません。ちょっといいですか。」
「なんでしょう?」
「ここF-15番ですよね。」
「そうですよ。座席にそう書いてあるでしょう。」
「ありがとう。ほら、やっぱりここF-15ですよ。E-15じゃないですよ。」
と第三者の言質を取った上で言うと。
「わかったわよ。前に移るわよ。ごめんなさいね。」
と謝っているというよりは、ふてぶてしいというか、いかにも譲ってやったわよとでも言いたげな不遜な調子でこう言って、彼女はどうにかその場をどいてくれた。
201 :
ふみあ:2009/06/20(土) 05:52:28
やれやれ、やっと座れたぞと思いながら席に着くと、今度は左側に人が立っているような気がする。なんだろうと思って目をやると、
僕と同じぐらい小さい、少し長めのおかっぱ頭の、何か言いたげな女の子がそこに立っていた。恐らくF-2から14の間のどこかに彼女の席があって、
僕の足元を通ってそこに行きたいのだろう。
何も言わずにそっと立ち上がり彼女に一言「どうぞ。」というと、彼女は「あ、ありがとうございます。」と何かあわてたような、
というよりやっと絞り出したようにそれだけ言って僕のそばを通った。
202 :
ふみあ:2009/06/20(土) 06:00:48
あの娘相当人見知りをするんだなあ、となにか微笑ましいものを感じながら座ると、
「さ、さきほどはありがとうございました。」
と言う声が聞こえた。振り返ると隣の席に先ほどの彼女が座っている。
「どういたしまして。気にしないで、全然大したことしてないから。」
この程度で感謝されても困るのでそう断わっておく。
ステージ上座の方にある非常口の上に備え付けられたLED式のデジタル時計がAM9:30をちょうど指した頃、突然照明が落とされ、ステージの上が明るく照らされる。
「始まったな。」と小声で一人ごちた時、壇上に誰かが上がってくるのが見えた。
203 :
ふみあ:2009/06/20(土) 06:02:03
「それでは皆様、ただ今から202X年度、第11X回聖リリカル女学院高等部入学式を開始いたします。まずは、当学院理事長、西脇 貞子より祝辞と挨拶を述べさせていただきます。」
という女性の挨拶と共に演壇の前に現れたのは、パープルのスーツに、濃いバイオレットのレンズのサングラス、ご親切に頭の白髪まで淡い紫に染めた。いかにも口うるさそうな胡散臭い70位のおばあさんだった。ふーん、この人が今の理事長か。
204 :
ふみあ:2009/06/21(日) 04:50:34
壇上に上がった西脇理事長はやや甲高い声で「あー、あー、ただ今マイクのテスト中、本日は晴天なり。皆様聞こえますでしょうか。」と前置きを置くと、同じような感じで祝辞と挨拶を云い始めた。
「えー皆様、わたくしは先ほどご紹介に預かった理事長の西脇 貞子と申します。本日はお日柄もよく、晴天に見舞われ、誠によろしい入学式日和をむかえられ、遠路はるばるお越しくださいました皆様と共に、今日この時を過ごせることを大変喜ばしく思います。
生徒の皆さん、高等部入学おめでとうございます。保護者の皆様、御息女のご入学誠におめでとうございます。そして御来賓の皆様方、本日はお忙しい中、当学院の入学式にご足労いただき本当にありがとうございます。
生徒の皆さんは、中等部、中には初等部や幼稚舎からずっと一緒の方がほとんどだと思いますが、高等部から入って来た子達ともども、この3年間でより一層友情を深めるとともに….」
すまん、正直覚えているのはここまでだ。あとはこんな感じの話が40分も延々と続いただけだった。
205 :
ふみあ:2009/06/21(日) 04:51:14
「続きまして、学院長島本 和子より挨拶です。」
と紹介されて出てきた学院長は、紺色の僧衣に白いフードをしたシスターだった。歳はおそらく60前ぐらいだろう。西脇理事長のような話に聖書の逸話を交えたような訓話を30分くらいした。
さらにその後、校歌斉唱をした。尤も歌っていたのは中等部からの繰り上げ組だけで、こちらとしては案内に書いてある校歌の歌詞を眼で追うのに精いっぱいだったのだが。
続いて新入生の名前が順番に呼ばれた、どうやらこちらから見て真ん中の通路をはさんで左翼の7席×20列に1〜3組の生徒が座り、こちら側の右翼の8席×20列に4〜6組の生徒が着席させられているようである。
206 :
ふみあ:2009/06/21(日) 04:51:55
1組から順番に呼ばれ左翼の分が済み、4組の生徒の番になってしばらく経った頃。
「4組40番吉野 あゆみさん。」
「はい。」
と、先ほどひと悶着あったE-15の女子が名前を呼ばれて返事をした。そうか、吉野っていうのか。
そして、4組が終わり5組目に入ったころ、
「5組 2番天城 祈さん。」
「は、はい。」
と、今度は僕の隣、さっきの女の子の名前が呼ばれた。同じクラスらしい。
そして続いて、
「5組 3番綾小路 薫さん。」
おっと名前が呼ばれたぞ。
「はい。」
と返事をする。
そのうち今度は
「5組 11番菊池 静香さん。」
「はい。」
とすぐ後ろから声が上がった。この人も同じクラスらしい。
6組の45番の人まで名前が呼ばれると、保護者会長からの簡単な挨拶があり、なんだかんだとあった後入学式は終了した。
2-7終了 2-8に続きます
207 :
ふみあ:2009/06/22(月) 04:21:34
2-8 教室にて
>>薫
入学式が終わったと思ったらすぐ新入生はクラスごとにそれぞれの教室、新校舎1階の1年生の教室にクラスごとに移動することになった。
徒歩10分で教室に着くと、クラス番号順に座ることになった。
僕の席は一番廊下側の前から3列目、少し微妙だ。ほんとのことを言うと一番教卓の傍、3列目か4列目の一番前が良かったんだけどな。え、普通後ろじゃないかって。実は後って教壇から丸見えな分さぼりにくいんだよね、寧ろ前の方が案外教師の死角になっている場合が多いのだ。
208 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/22(月) 04:22:20
まあ、それは置いといて、先生が来るまでの間、早速僕は後ろの人にからまれ、もとい話しかけられていた。
「ねえねえ。」
猪瀬って呼ばれてたよなこいつ。そこそこ良い髪質の肩までの長髪をツインテールにした、いかにもミーハーな感じの、名前の通り猪突猛進というか、直線番長というか、そんな感じの女子生徒だった。
「なんですか。」
とりあえずウッとしいので返事をすると。
「綾小路さんだよね?」
他に誰がいるんだ、番号順に並んでいるだろう! と思って
「そうですが。」
と返事すると。
「珍しい名前だよねえ。綾小路 清麿と親戚だったりするの?」
綾小路 清麿というのは今(202X年現在)ティーンエンジャーを中心とした若い女性に人気があるイケ面俳優、シンガーである。
209 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/22(月) 04:23:10
「まさか、違いますよ。それにあの人のは芸名で、本名は全然違う名前のはずですよ。」
「あれそうだっけ、じゃあひょっとして綾小路グループの?」
「ええ、まあ…祖父が一応総帥をやっています。」
「へえええ、すごおおい! じゃあ深窓のご令嬢?」
「いえ、違いますよ。母も家を出て大学の講師をしているし。父も大学病院に勤める医学者ですから。」
「それでもお嬢様には違いないじゃない。」
おまえ、それ本気で言ってるのかと、思わず相手の顔をじっと見てしまった。はっきり言ってお前が思っているよりずっと給料やすいぞ。これでお嬢様なら親が部長や課長でも令嬢になれるわ! と言いたいのを我慢して。
「ほんとにそんなことないですよ。」
「またまたあ。」
「ほんとにそんなことないですってばア。」
しつこいなと、すこしいらいらしていると。
「そういえばさあ。」
いきなり話題を変えてきた。
210 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/22(月) 04:24:14
「綾小路さんって、見かけによらずハスキーだよね、声が。」
「?!」
「なんていうか、アニメの男の子の声を聞いてるような。」
「そ、そうかな。ははは..」
精いっぱいクールに決めようとしてはいたが、内心は、ひょっとしてバレタのかと、ヒヤヒヤしていた。
「わたしはかっこいいと思うよ。」
「そ、そう。ありがとう。」
良かった。どうやらバレテないらしい。少しほっとする。
そういえば名前を訊くのを忘れていた。それは向こうも同じだったらしい。
「そういえば綾小路さん、下の名前なんていったけ?」
「薫ですけど、えーとあなたは?」
「わたし、直子、猪瀬 直子ていうの。よろしくね。」
なんて素晴らしいセンスな名前だ。ピッタリにもほどがある。今更自己紹介かよ。
「そういえば天城さんも、珍しいって言えば珍しいよね。」
211 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/22(月) 04:25:23
こいつまた脈絡もなく話題を変えてきたぞ、しかもターゲットまで変えてきた、まさか自分に振られるとは思わなかったのだろう。哀れな天城さんはただ、
「え、え、えええ。」と困惑しながら繰り返すばかりである。
「天城ってさ、あの天城山の天城? あの演歌の。」
「え、そ、そうで…す。」
「じゃあ、ひょっとして天城さんて、あのアマギ 弥勒と親戚とか?」
天木 弥勒というのは、今をときめく漫才コンビ『天女』のツッコミを担当し、ボケの早乙女 勝と共に世間で、
一番面白いイケ面漫才師として有名な若手のお笑い芸人である。もっとも僕個人としては、なぜ彼らが世間、特に若い女性から面白いと評されるのかは理解に苦しむのだが。
212 :
ふみあ:2009/06/22(月) 04:33:14
ま、どっちにしろ親戚ということはないだろう、字が違う。と思ったが。
「あの、ひょっとして天女の天木 弥勒でしょうか?」
「そう、その天木 弥勒!」
「ええ、私の兄です。」
えー!マジで親類かよ、しかも実の兄貴だよ。予想の斜め上いっているよ。そういえば彼の名前は芸名であることをどこかで聞いたことが得るように思う。と、いうことは?
薫「じゃあ、ひょっとして天城さんて…」
直子「アマギ製薬のお嬢さん?!」
祈「は、はい。」
アマギ製薬は最近とある画期的な新薬を開発し、急成長している製薬会社であるとともに、天木 弥勒の実家が経営をしていることでも有名である。
213 :
ふみあ:2009/06/22(月) 04:34:29
「ひゃあ、信じられない。入学早々いきなりこんな大会社の令嬢と、二人もお近づきになれるなんて。」
と猪瀬は興奮して泣きそうになっている。ここまでとり乱す様子からして、おそらく彼女は推薦で入って来たのだろう。でなければよほど、ミーハーな性格か、令嬢マニアに違いない。
2-8終わり、2-9に続きます。
214 :
ふみあ:2009/06/22(月) 20:38:09
215 :
ふみあ:2009/06/23(火) 04:40:14
2-9 新しい友達
>>薫
やはり、猪瀬は特待生だった。本人がそう言ったのだから間違いない。去年のその世界的に有名な芸術祭のジュニアの絵画の部門で金賞だかを取って、それによる推薦で来たのだという。
天城さんもまた、他の大部分の生徒と同様に中学部からのエレベーター組であり、リリカルには幼稚舎のころから通っているのだという。
よく見ると、早くももういくつかの、おそらく中学からの友人同士であろうグループが形成されていた。そして大部分がそのどれかに入っている。当然のように少数の高校から入って来たはみ出し組がこちらに引き寄せられていた。
スポーツ推薦で入って来た25番の成瀬 瑠衣、全中のインターハイで去年短距離の中学生記録を大幅に塗り替えた新星である。もう一人の42番の吉本 麻里亜、彼女は芸術推薦枠だが、猪瀬とは違い、2年前にウィーンで行われたコンクールでいきなり最年少で入賞し、
今や世界中でリサイタルを行っている天才ヴァイオリストである。この二人はメディアに大きく取り上げられたので、この手の世事に疎い僕でも名前と顔だけは知っているし、吉本 麻里亜に至っては、僕自身長くヴァイオリンを習ってきた関係で、買ってきた彼女の
CDが家に何枚かあるはずだった。まさか同じクラスになるとは思わなかった。
216 :
ふみあ:2009/06/23(火) 04:41:30
おそらく彼女らもよそ者として扱われたのか、有名人なので恐れ多くて誰も近づかなかったのか、はたまた両方なのか、かなり席が離れているにも関わらずこちらの方へやって来た。
まず、いかにも人見知りをしなさそうな成瀬が
「ヤホー、直子、おひさー。」
「瑠衣! やっぱり同じクラスだったのね。よかったあ。」
どうやら猪瀬と成瀬は同じ中学だったらしい。どんな中学だったんだ?
「そっちの人たちは?」
と成瀬が訊くと猪瀬は
「新しくできたクラスの友達!」
と嬉しそうに言った。おいおい、いきなり友達かよ。こっちはまだ知り合い程度の認識しかないんだが。まあいい、とりあえず自己紹介だけしとく。
217 :
ふみあ:2009/06/23(火) 04:42:46
「綾小路 薫です。よろしく。」
「あ、天城 祈…と申します。よ..よろしくお願いしま..す。」
「私、成瀬 瑠衣。よろしくー。しかし二人とも固いねえ。もっとリラックス、リラックス♪。」
「そうですか、僕はこれが普通だと思いますが。」
「わ…私もこれが普通..です。」
と、いうよりむしろお前の方が軽すぎるわ!と思っていると今度は猪瀬が、
「瑠衣はね、去年インターハイで新記録を取ったんだよ。」
とすでに誰もが知っていそうなことをいう。しかし天城さんは知らなかったらしく、
「そうなんですか。すごいです。」と感心している。
「すごいだろう。えっへん。」
「ほんとすごいんだよ。」
「すごいです。すごいです。」
と盛り上がっている。
「100メートルの中学生記録を大幅に更新したそうですね。期待の新星として新聞にも載っていましたから、ご活躍のほどは存じています。」と僕が言うと、猪瀬が、
「そうなの、そうなの。それでね…」
だいたい何を言うのか見当がついていたので先手を打たせてもらう。
「おそらく、それを買われてこの学校に推薦で入って来た。ということでしょうか。」
「何でわかったの?!」
「ほー!」
「綾小路さん。…すごい..です。」
「いや、この学校にいるという時点ですぐに予想できることですから(;・`д・´)。」
ていうか、なんで天城さんまで感心しているんだ? そんな尊敬をこめた目で見られても困るんだが。
218 :
ふみあ:2009/06/23(火) 04:46:02
すると猪瀬がこちらを窺っていた吉本の存在に気が付き。
「あなた、吉本 麻里亜じゃない。あの天才ヴァイオリストの!」
「ええ、そうだけど。」
「やっぱり!」
「ほ、本当だ。すごい! 本物だ!!」
「わ…私、あなたのファンです。サ..サインを頂けませんか?」
どうやら、僕を除く3人は彼女の猛烈なファンだったらしい。それこそ今回最高潮かと思うくらい、テンションを上げてはしゃいでいる。
吉本の方も、さすがに自覚があるのか、いや満更でもないのか。笑顔でサインに応えていく。ただ、一人だけサインをねだらない僕を訝しく思ったのか。
「あなたは、私のサインはいらないの?」と訊いてきた。
「別に。あなたが世界的にその将来と才能を嘱望され、ご活躍なさっていることはよく存じているし、ヴァイオリンを習っているものとして、あなたの事をとても尊敬しているし、お会いできたことを本当に光栄だと思いますけど、
僕自身はそこまで熱烈なファンではありませんので。それに…」
「それに?」
「今、サインを頂かなくても、頂こうと思えばいつでも頂けるじゃないですか。だって私たちクラスメイト何ですから。」
「それもそうね、あなた面白いわね。名前を聞いていいかしら。」
219 :
ふみあ:2009/06/23(火) 04:47:24
「そう言えば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。僕は綾小路 薫と申します。これからよろしく。」
「こちらこそよろしく。吉本 麻里亜よ。そちらの方々は?」
「私、猪瀬 直子。これからよろしくね。麻里亜さん。」
「こちらこそ。そういえばあなた確かこの前の東京世界芸術祭でジュニアの絵画部門で金賞を取ってなかったかしら。」
「そうです。よくご存じですね?」
ホントよく知っているなあと感心していたら。
「私もあの大会の開会式と閉会式の時にゲストとして弾いていたからよく覚えているの。」
ああそうだったのかとも思ったが、普通そんなこと覚えているか? よほど記憶力がいいのか、いや、それだけ猪瀬の作品が印象深いものだったのか。いずれにしろ猪瀬の絵がすごかったということに間違いないだろう。
機会があれば見せてもらおう。
220 :
ふみあ:2009/06/23(火) 06:12:33
次に成瀬が自己紹介する。
「私は成瀬 瑠衣、よろしくねー。」
「よろしく、あなたの噂も聞いているわ。短距離の中学生記録を塗り替えたんですってね。世界記録じゃないけど大したものだわ。」
「これは、どーも。」
最後に天城さん。
「わ..私、天城 祈と申します。こ..これから宜しくお願いします。」
「こちらこそよろしく。ひょっとしたらあなた、天女の天木さんの妹さんかしら。」
「そ…そうです。」
知っていることもすごいが、天木 弥勒のことをよく知っている友人か知り合いのような感じで呼んでいたぞ?
「やっぱり、天木さんが妹がこの学校に通っているというような事を言っていたからもしかしてと思って。」
やはり、よほど親しい知り合いのようである。しかし、漫才師とヴァイオリストに接点などあるものなのだろうか? 押し付けがましいが聞いてみる。
「あの…。」
「何、薫さん。」
「麻里亜さんは天女の天木さんと親しいお知り合いなのですか?」
「ええ、以前ある番組でご一緒して、それから親しくさせていただいているわ。」
「へえ、そうなのですか。」
221 :
ふみあ:2009/06/23(火) 06:13:13
なるほど、どういう番組か知らないが、彼女はある意味アイドル視されているから音楽番組だけでなくちょっとしたバラエティ番組にも出演することがあるのだろう。
そんな感じにいつの間にか仲良くなった我々5人は、担任が来るしばらくの間、取り留めもない雑談をして過ごしていた。
第二章 完
第二章終り、次は第三章をうpします。
222 :
ふみあ:2009/06/24(水) 03:51:06
第3章 お出かけとか
3-1 鈴木先生登場
>>薫
この教室は、というより校舎はかなり変わっていると思う。
まず、すごくというより無駄に豪華な造りと設備を備えているのに、全く新しくない。
廊下と教室の仕切りの壁に窓がついていないのはいいとしても、教室の扉が木製の重厚
な外開きの扉なのはどうかと思うし、後者の窓も普通の引き戸タイプではなくアーチ型の、まるでヨーロッパのお城かお屋敷にあるような、いかにも重そうな感じの開くタイプのものだし、
蛍光灯も黒板を照らす二本と、真ん中辺りを照らす、2列ずつ3組並んだもの以外は壁と天井の間のポッドに仕込まれた蛍光灯から照らされる間接照明が使われている。
教室にかかった黒板も立派なものである。埃一つないピカピカの黒板自体もそうだが、黒板の取り付け枠もよく見ると黒檀てできたレリーフまで掘られている無駄に立派なもののようである。
しかし、そこについているチョーク入れや、黒板消し、チョーク、黒板消し機は至極普通、というより華麗な黒板の雰囲気と相まって余計安っぽく見える。
黒板に金掛けるなら他の備品にもそれなりに金を掛けてやれよ、聖リリカル女学院…。
クリーム色の壁は、まっ白よりも温かみがあり、上品な感じを受ける。黒板の両側に50Vくらいの大きな液晶テレビが掛けられている。教壇も年季が入った材質の良い、いかにも高級そうな作りなのだが、
なぜ教卓だけその辺の学校に普通にあるありふれたものなんだ? どうもこの学校は中途半端に金をかける高校らしい。
223 :
ふみあ:2009/06/24(水) 03:52:48
教卓こそ安っぽいが、学生の机は椅子と机が分離した、木製の高そうなものである。すごく古いものであることに目をつぶれば、一体型と違って椅子と机のポジションを自由に調節できる点で背の低い僕にはかなりありがたい。
校舎が古いためか、教室の後方の天井に2機並んでぶら下がった業務用のエアコンは教室で操作できない。まあ、これは高市でもそうだったので気にはならないが、ここの事務の人は体感温度が人と違うのか、この時期にガンガンに暖房を掛けている。
お蔭で熱いったらありゃしない。窓際の人は窓を開けているが、こちらには開ける窓すらない。地獄だ。
そうこうしているうちに、廊下を何人かの人が歩いている気配が感じられた。思わず、
「先生が来られたようですね。」
というと。猪瀬と成瀬の、
「え、先生来たの?」
「やばい、私戻るね〜。」
という声を皮切りに、三々五々と各々の席に戻り、姿勢を正す。
ついにその中の一人が教室前方、教壇がある方の扉に誰かが立ったことが足音と、扉の向こうの気配で伝わってくる。
ついに、扉が開き一人の女性が教室に入って来た。
とたんに教室中の、のけもの組以外の全員が、「キャー」だの「やった、命先生よ。」
「命先生だ。わーい。」「良かったぁ。ミコちんだぁ。」などの黄色い歓声があがった。
どうやらこの学校は一貫校ではよくあるが、高等部と中等部を同じ先生が兼任しているらしい。そしてその中では、命先生は生徒にかなり人気があり、慕われているらしい。
224 :
ふみあ:2009/06/24(水) 03:54:04
先生は教壇に登り、教卓の前に立つと、よくとおる声で、
「みんなー、久しぶりー、元気でしたかー?」
と言った、というより叫んだ。て言うか普通自己紹介しね? みんながあなたを知っていること前提で話進めんな、先生!
そういうことはお構いなく先生の話は進む、
「休み中は楽しかったですか? だけど楽しい休みも今日でおしまい。今日から新学期です。姿勢を正し、張り切っていきましょう!」
「はーい。」(←のけもの以外)
どうやら先生は、教師としての質よりも、生徒の受けの良さで人気があるらしい。髪が長くて、面長な美人ではあるのだが、身長が低い。恐らく僕より少し高いくらいだろう。僕が大体145cmだから、147か8cmぐらいか。
そんなミニマムサイズ+こういうハッチャけた性格で、生徒から親しまれているのだろう。
だからと言って、取り残させるのは勘弁したい。他の生徒と一緒になってはしゃいでいる? 天城さんに話しかけた。
「祈さん。祈さん。」
「何でしょうか。薫さん。」
「今、教壇でお話をされている先生は、どなたなんでしょうか?」
「しらないんですか! 薫さん。命先生ですよ(`Д´)。」
「いや、今日が初登校なので、先生のお顔とお名前をよく存じてないんですが(;・∀・)。」
「あ、そうでしたっけ?」
「僕、高等部から編入することになったので。」
「それなら仕方ないですね。彼女は鈴木 命先生。国語の現代国語を教えられています。」
「そうですか、鈴木先生というんですか。へえ。」
僕たちの私語に気がついたのか、鈴木先生が注意してきた。
「そこ、私語は慎みなさい。」
「すみません。気を付けます。」
「よろしい。」
225 :
ふみあ:2009/06/24(水) 03:55:10
はあ、とため息をつきながら席につき、姿勢をただすと、鈴木先生が出欠を取り始めた。
「では、出欠をとります。相田さん。」
「はい。」
「天城さん。」
「は..はい。」
「綾小路..さん?」
「はい。」
「あなた、高校から入ったの?」
「はい。」
「綾小路っていうことは、2年3組の綾小路さんの妹さんかしら。風紀委員の。」
「いえ、妹ではありませんが、従妹です。」
「ということは先代理事長の曾孫さんということになるのかしら。」
「はい。」
「そう、えーと次は、猪瀬さん。」
「はい!」
「元気いいですね。あら、あなたも高校から入って来たのね。しかも特待生?」
「はい。」
「ひょっとして、去年の世東芸で金賞を取った猪瀬さんかしら?」
「はい、おかげさまで金賞が取れました。」
「そう、それはおめでとうございます。そして次は今井さん。」
「はい。」
226 :
ふみあ:2009/06/24(水) 04:02:26
と、点呼がつつがなく進む中、天城さんや、その他僕の周りにいた。4.5人の生徒が身を乗り出してこんなことを聞いてきた。
「綾小路さんは本当に葵様と従姉妹同士なのですか?」
「ええ、葵お姉様のお母様と僕の母が姉妹ですから。お姉様は母方の従姉に当たります。」
人前でお姉ちゃんというのもどうかと思うし、リアル姉妹でもないし、かといってこの状況で呼び捨てにするのもあれなので、柄ではないがお姉様と呼ぶことにした。
従姉妹同士だと言った瞬間、へえ、とか、えー、とか周りから小さな感嘆のため息がもれている。どうしたものかと思って、
「あの、葵お姉様って、この学校でめちゃくちゃ有名な人だったりするのでしょうか。」
確かに、お姉ちゃんは成績も優秀な生徒で、美人で、マドンナのような雰囲気があるが、この学校でそこまで有名だとも思えない。
「有名も何も、この学校で葵様を知らない人の方が珍しいですわ。」
「風紀委員長の紫苑お姉様のプティ・スールで、次期風紀委員長のナンバーワン候補で、凛々しい雪乃様とのツーショットも素晴らしい。」
「へ、へえ。(;・∀・)」
「将来のエルダー候補の一人ですわ。」
「そ、そうなんだ。」
どちらかというと葵姉ちゃんというよりも葛城先輩や春日先輩の方が有名らしい。
227 :
ふみあ:2009/06/24(水) 04:54:48
そうこうするうちに、いつの間にか点呼が終わったが、驚いたことがある。
クラスに外国人の生徒が二人もいたのだ。
一人は父親がIT系の大手企業を経営する華僑の楊 美鈴、そしてイギリスから留学してきた自称伯爵家令嬢のレイラ・A・フォルチュナの2名である。
ただ、それだけのことであるのだが、一つのクラスに外国人(楊は在日の華僑なので微妙だが)が二人以上いるってその手の学校でない限り、普通そうそうないだろうと思って、珍しいと思った次第である。まあ、ただ単に僕が田舎者だというだけのことかもしれないが。
3-1終了。3-2に続きます。
228 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/25(木) 01:26:09
青森にまで車中泊の旅に行った帰りのこと
携帯のバッテリーがなくなって秋田のとある道の駅によった
夜の10時も越えていたので人もなく店も閉まっていたが
観光客用の案内所だけは灯りがついていたので中に入ってみると
壁際にコンセントがあるのを発見した。
当然、他人のコンセントから無断で電気を借用するのは窃盗罪にあたるので
常識人の俺が充電に使うことはないが、1つだけ解せないことがあって
【ご自由にお取り下さい】
という張り紙が壁に貼っており、その下には観光案内用のパンフレットが並んでいた
しかし、ここで問題なのは
そのご自由にお取り下さいが、その下にあるパンフレットを差して言っているのか
それとも、さらにその下の電気コンセントを差して言っているのか不明だと言う点だ。
俺は悩んだ。
そして状況判断するよしもない事象に対し
悩んでも明確な答えが出るわけないと、無意味な考慮を止め
そして、このような場合は両方を差して言っていると解釈するのが一番自然だと結論を締めくくり
なに気兼ねなく携帯の充電をして待つことにした。
それから5分くらいして、その近所に住むであろうヤンキー風の青年たちが5,6人集まって来た
秋田の田舎で、雨風を凌げて灯りもあり夜に集う場所なんて言ったら、どーせここしかないのだろうと
俺は納得をして一人、部屋の片隅で携帯の充電を待つことにした。
因みにその建物は自動ドアになった入り口が1つだけあり、俺のいるのはその真反対の壁際だった。
充電を待っている間、暇なので彼らの話に耳を傾けていると
どうやら盗んだバイクの代金を巡っての会話であり
先輩らしき青年が後輩らしき青年にその代金の請求をしているという内容だった
229 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/25(木) 01:27:51
・・これは酷い。俺は内心、舌打ちをした。
まっとうな代金の請求ならともかく、盗んだバイクの請求を人に対して行うなんて、なんて酷い輩だ。
それが盗品であっても、金を出して購入した者は、その事実を知らなければ罪に問われない。
しかも正当な売買にあたるために、仮に事件が発覚しても、その品物の所有者としての権利はあるのだという
だから早く17万払えと・・先輩風の青年は後輩風の青年に対して説得していた。
確かにそのバイクはカワサキのゼファーという400ccの中型バイクで、それが盗品とはいえ17万円なら安いものだ
俺でも欲しいくらいだ。いや、何なら俺が買おうか?実家の大阪まで乗って帰るよ
と、思わず話しに割り込みそうにもなったが
それはそれ。常識人の俺は、つぶさに、事の善悪に立ち戻り
いやいや、それでは元の持ち主の立場はどうなる?と、その先輩風の青年を苦々しく見守った。
するとその先輩風の青年は、そんな俺の心を見透かしたかのように、このように付け加えた。
「心配すんな。仮に見つかっても捕まるのは俺だし、バイクの代金の半分くらいは元の持ち主のポストにでも入れとくからよ」
これで決まりだ。
元の持ち主にもチャンと、それ相応の代金が支払われ(若干、市場価格から低いとはいえ)
尚且つ、自らは法に裁かれないとなると、これは完全に合法であり公平な売買ではないか。
迷うことはない。後輩風の青年が支払う意志がないというのであれば、それは不当な収得にもあたる
すみやかに所有権を放棄して、そのバイクを俺に渡せ。
俺は一人でそんな結論に達し、ヤキモキした気持ちで後輩青年の言動を見守った。
すると後輩の方も、先輩の説得に納得したのか代金の支払いに合意し、次の給料の時に支払うということで話がついた。
しかし、その後にその先輩の言った言葉に俺は耳を疑った
「ああ。これで決まりだな。出来るだけ早く払えよ。ところでよ、そこで1つ頼みなんだけど
金払った後もこのバイク、俺に貸してくれねーか? 俺、今、足がなくてよ。暫くこれ必要なんだわ」
なに〜い!!!
これは酷い。金だけ払わせておいて、自分の物にするとは
これは先輩の風上にもおけない。チョッと見直した俺がバカだった。
230 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/25(木) 01:29:47
ええい!もう我慢ならぬ
一層のこと、この傍若無人な若者を警察に通報してやろうかしら
いいや、俺は恐くないぞ。別に警察が来るまでこんな奴ら、いくらでも対抗してやる
こんな気負いとも似た正義感に火をつけられた俺だったが
なにかハッキリとした理由は分らないが、自分もやばいような気がしてやめておいた。
いや、別に自分はバイク盗難なぞに関わっていないので、何も後ろめたい気持ちはなかったが
なにか別件ぽいことで自分にも非があるのではないかという妙な罪悪感に襲われ速やかに、その場を立ち退いた。
見ると携帯のバッテリーが1に増えて大量の迷惑メールを受信していた。
単純で平凡な日々にやられちまえ
単純で平凡な日々にやられちまえ
単純で平凡な日々ってやつは
特別に単純で平凡な日の連続だ
そりゃもう、言葉に出来ないくらいのもんで。
米田だいき
テーブルの中央に置かれた花瓶を避けながら、亜美はこの作文用紙を僕に突きつけた。
なに、と問いかけると、対面に座っているだけの僕に対して不満があるような口調で
「読んで」
とだけ言った。
読み始めると、僕がまだそれを読み終わらない内から「この文章って変でしょ」
と聞いてきた。
僕は少し間を置いてから
「うん、変だね」と返した。
「おかしいでしょ」
「うん、おかしい」
「私、本当に変と思ってるのよ」
「分かってるよ」
と言い返すと、さすがに亜美も静かになって先程の花瓶を見つめ出した。
僕はその沈黙を利用して、だいき君の名前の字を予想した。
きっと、大輝か大毅なのだろう。ただ「大き」と書くのが恥ずかしくて、平仮名で書いてるだけなのだろう、と考えている内に
「やっぱり、変よね」
ともう一度亜美が呟いた。
僕には段々と、彼女が自分の担当クラスの生徒がこの作文を書いたと認めたくないだけなのではないか、と思えてきた。
それは「だって、小学三年生なのよ」という言葉を彼女が必死に食い止めている様に思えたからだ。
だから彼女には、変だ、という表現しか出来ないのだ。
そんな彼女を見て、僕は笑いを吹き出してしまった。彼女は、何で笑うの、と机を叩いた。花瓶が少しぐらついた。
「だって、これはベルギーの有名な詩人のパクりだよ。使っている単語は随分子供向きになっているけどね。だいき君は見栄っ張りな可愛い小学生だ」
と僕が教えると、彼女は大きな溜め息をついた後に少し笑った。
僕はこうやって毎日嘘を増やしている
234 :
ふみあ:2009/06/25(木) 07:09:22
>>227 >>薫
点呼が終わったあと、鈴木先生がいきなりこんなことを提案した。
「それでは、ここで初めてお友達になる人もいることですから、順番に自己紹介をしましょう。それぞれ自分の出席番号と名前、後は趣味とか得意科目とかをみんなに紹介してください。では、先生からいきますね。」
といって、黒板に大きく鈴木 命と書くと、
「私は鈴木 命。イノチと書いてミコトです。今日から1年間1年5組、つまり皆さんの担任として1年間一緒に頑張ることになりました。担当は現代国語です。趣味は読書と映画鑑賞です。
皆さんこれから1年間一緒に5組を盛り上げていきましょう。では、相田さんからお願いします。」
うわー、自己紹介か、苦手なんだよなー。下手すると僕が男だとばれる可能性もなくはないわけで、あまりしたくはない。しかし、僕は3番目である。後の人を考えれば、下手な質問攻めにも逢わないだろう。天城さんも自己紹介を終えて、すぐに僕の番が回って来た。
「出席番号3番、綾小路 薫です。得意科目は生物と歴史と数学と現国、趣味は音楽を聴くことと読書、あと車が大好きでよく変わっているね、と言われます。家庭の事情でこの春からこちらに入学することになりました。不束者ですが、皆さんよろしくお願いします。」
一言も嘘をつくことなく、かといって正体を晒すこともなく簡潔に自己紹介をすることができた自分に呆れつつも感心しながら、周囲からの軽い拍手を受けながら僕は席に着いた。
3-2終了。3-3に続きます。
235 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/25(木) 08:42:02
ラノベ
236 :
ふみあ:2009/06/26(金) 06:20:10
3-3 第一陣到着!
>>薫
「それでは、今日は、この位にしときましょう。では、瀬川さん。」
「はい、起立。礼。着席。」
一同が起立礼した後、鈴木先生は教室を出て行った。
自己紹介の後のオリエンテーションは特にやることもなかった。あったことと言えば新学年を迎えての学校からのお知らせと自己啓発と健康診断の案内を書いた何枚かのプリントが着たぐらいで、
後は号令を掛けるクラスの級長、たまたま席の位置的に先生の一番近くにいた、16番の瀬川 湊を決めたぐらいである。
予定の12時半よりだいぶ早く終わったのでどうしようか思案していると、猪瀬が話しかけてきた。
「薫さん。祈さん。一緒にこれからどこか遊びに行かない?」
「私は…かまいませんけど。」
「ごめんなさい。誘ってくれたのはうれしいんだけど、すでに先約があるので一緒に行くことはできないわ。また今度お誘いしてくれないかしら。」
天城さんは行くつもりのようだが、僕には葵姉ちゃんや母さんと約束があるので、悪いけど今回は断らせてもらった。が、
「あら、先約って?」
「僕の母と、葵お姉様と一緒に出かけることになっているんです。」
というと、猪瀬と天城さんは急に前のめりになりこう言った。
「葵様も来られるんですか。」
「ええ、たぶん葛城先輩と春日先輩も来られるはずですが。」
「紫苑お姉様と雪乃様も来られるんですか?!」
「え、ええ。」
「薫さん。」
「は、はい?」
猪瀬、顔が近い近い。
237 :
ふみあ:2009/06/26(金) 06:21:38
「私たちも御一緒していいかしら?」
「で…できたら私も。」
「ちょっと待って、お母様とお姉様に訊いてみますから(;・`д・´)。」
少し予定外なことになったので、母親の携帯に電話するため、携帯の電源を入れる。恐らく4人とも同じ場所にいるだろう。
何回かの着信音の後母親が出てきた。
238 :
ふみあ:2009/06/26(金) 06:22:20
「もしもし。」
「もしもし、薫です。お母さん?」
「そうだけど、どうしたの?」
「葵お姉様と、紫苑様と雪乃様そっちにいる?」
「いるけどどうしたん。あなた急に女言葉になって。」
「今、教室からかけているの。」
「ああそうなん。」
「それでみんなはそこにいるの?」
「ええ、いるわよ。」
「実はクラスで友達になった子たちがさ、一緒に行きたいって言っているのだけど、かまわないかしら? って訊いてみて。」
「お母さんはかまわないけど。」
「お母さんがいいならいいけど、一応葵お姉様たちにも訊いてみて、どっちかっていうとそっちが目当てだから。」
と小声で言うと、
「葵ちゃんたちはいいってさ。」
「そう、だったら連れて行くわ。待ち合わせは正門でよかったよね?」
「いいけど。もう終わったんなら待ち合わせの時間、早めようか?」
「ありがとう。10分でいいかしら。」
「かまわないわよ。」
「ありがとう。じゃあそういうことで。じゃあ。」
と言って電話を切ると、
239 :
ふみあ:2009/06/26(金) 06:23:01
「どうだった?」
「いいって、一緒に行きましょう。」
「やった。おーい瑠衣、麻里亜さーん。」
「どうした?」「何かしら直子さん。」
「実は薫さんがね…」
連れて行く人数が増えた。
その時、急に僕の携帯が鳴った。出てみると、
「綾小路 薫様の携帯ですか?」
「はい、そうですが。」
「ショップ如月の者ですが、お車を届けましたので受け取りを…」
いつも利用している馴染みのカーショップからの電話だった。陸送を頼んでいた車が届いたようである。聞かれたら少しまずいので、その場から席をはずし廊下に出る。
「そうですね。できれば高等部の寮の前で受け取りたいのですが来れますか。」
「さあ、なにぶん車が大きいものでどこまで入れるかわかりませんが、いけるところまで行ってみます。」
「では、寮の前でということで。目印は何かありますか?」
「赤いトレーラーなのですぐにわかると思いますが。」
「そうですか、いつ受け取れますか。」
「もう、目の前まで来てますから、5分もあれば十分ですよ。」
「じゃあこれから取りに行きます。」
「ではお待ちしています。」
「お願いします。」
電話を切った。
240 :
ふみあ:2009/06/26(金) 06:23:42
天城さんと、猪瀬と成瀬、吉本さんを連れて葵姉ちゃんと合流した後と、葛城先輩が困った顔で待っていた。どうしたのかと思ったが、そばに止めてあったミニバンでとりあえず状況は呑み込めた。どうやらこのミニバンで行くつもりだったらしい。
僕が4人も連れてきたせいで、全員乗り込めなくなったのである。
葛城先輩が免許持ちだったことも意外だが、逆に僕にとっては好都合となった。
とりあえず、「ちょっと寮の方に荷物置いてくるけど、一人で行くわ、少し私用があるの」
と言っても怪しまれるのが落ちなので、母親にだけ、
「車が届いたそうだから受け取ってくる。ついでにそっちに回してくる。」というと、
「別にいいけど、あなた大丈夫なの、取ったばかりでしょ。」
「大丈夫だよ。得意だから。」と答えて荷物を置くがてら車を取りに行く。
寮棟まで戻っていると、すでに寮の玄関へ続く道に入る交差点の傍まで赤いトレーラータイプのキャリアカーが止まっていた。
運転していた店の人は、はじめは僕の姿に驚いていたが、事情を知っているためか、受取証を僕が提示したためか、すぐに車を下ろしてくれた。
241 :
ふみあ:2009/06/26(金) 06:59:30
今回来たのは、フォグランプが付いた後期型のGT-R34、前期型jzx-100のマークUとチェイサーとクレスタ、
後期型の180クラウンアスリート、Y31シーマ、Y31セドリックセダンのVIPブロアム、Y33グロリア アルティマの計8台だった。
とりあえず目の前の道路に縦列で並べてから、後は一人でできるのでと、トレーラーには帰ってもらった。
トレーラーが去った後、一台ずつ寮の裏手の駐車できそうなスペースに注射した後、マークUのトランクに鞄だけ積んで、シートベルトをしてエンジンを掛けて、
ブレーキを踏みながらギアをDレンジに入れ、パーキングブレーキをはずしたあと、ステアリングを切りながらアクセルを踏み、校門の方に車を回した。
当然というべきか、20年以上前の古いモデルで、ローダウンにホイールやブレーキを交換、マフラーも左右二本だしにし、ハイマウントストップランプ付きのウイングを付け、
フルエアロにした、ドリ車なのかVIPカーなのかよくわからないシルバーメタリックのハードトップセダンがミニバンの横に並んだとたん、母親以外の全員が目を点にしていた。
242 :
ふみあ:2009/06/26(金) 07:00:29
葵姉ちゃんが目を丸くしながら、
「クーちゃん、この車は?」
「僕のですけど。」
と言うと、猪瀬が、
「なんか、暴走族の車みたい。」
「せめて走り屋と言っていただけないでしょうか。」
天城さんが、
「兄の車に雰囲気がよく似ています。」
「そうなんですか?」
春日先輩や葛城先輩まで、
「確かに男が乗るような車だね。」
「あまり女の子が乗るような車ではないですね。」
もはや何も言うまい。
243 :
ふみあ:2009/06/26(金) 07:01:30
そこに成瀬が突っ込んできた。
「ところで薫ちゃん、あんた免許持っているの。」
「AT限定の少年用普通一種なら持っています。」
少年用普通免許とは近年加速する中年以前の若者の車離れを抑止するために2年前に政府が、現時点で15歳以上か、その年の4月時点で15歳以上になる見込みがある児童にも、普通車・普通二輪・原付きの免許をとれるようにした制度のことである。
AT限定しか取れないが、自動車を運転できる人口を、年齢を引き下げることで、需要をかさ上げしようとしたメーカーの思惑は一応成功したといっていいだろう。
現在僕の車と並んでいるミニバンは、やはり葛城先輩の家の車だった。さっきは気がつかなかったが、よく見ると運転席に正装した運転手が座っている。ということは、都合葛城先輩の家の車に都合6人、こちらに5人乗れるということになる。
「2台で分乗すれば宜しいと思うのですが、順番の組み合わせはどうしましょうか。」
と訊くと葛城先輩が、
「そうですね、まずは皆さんの希望を訊いてみないと。」
なんだかんだと話し合ったのち、僕の車に僕と母と春日先輩。もう一台に残り全員が乗り込むことになった。
葵姉ちゃんは葛城先輩と姉妹だし、他の連中も元々葛城先輩と葵姉ちゃん狙いのようなものだったので至極妥当だとは思ったが、一人追い出された形となった春日先輩のことが気にかかった。
244 :
ふみあ:2009/06/26(金) 07:02:12
先輩に、
「向こうの車じゃなくてホントに良かったのですか?」
と訊いてみると、彼女は、
「別に構わないさ、移動の間のことだから。それに君とはもう少し話してみたいしね。それに道がわかる人間が一人はいた方がいいだろう?」
と答えた。
「そうですか…。それもそうですね。じゃあ、向こうの準備もできたようだし、こちらもそろそろ出発しましょうか?」
と言いながら、車に乗り込んでシートベルトを締め、エンジンを掛けようとしたその時、向こうのミニバンの助手席のドアが開いて、天城さんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
何かトラブルでも起こったのか?
何のことはない、フル乗車でのミニバンが予想以上に狭かったために天城さんが一人脱落してこちらの車に乗り換えたというだけのことだった。
結局運転席に僕、助手席に春日先輩、後席左側に母が座り、僕の後ろに天城さんという配置で出発することになった。
3-3終了。3-4に続きます。
245 :
ふみあ:2009/06/27(土) 05:32:33
3-4 ドライブ1
>>薫
マークUのエンジンをかけ、軽くドラポジとミラーのチェックをして、全員が乗り込んだのを確認してから、ロックをし、左後方、左右のサイドミラーとルームミラー、
右後方をチェックした後、右ウインカーを点滅させて、ミニバンの方に合図する。
ミニバンが発進したのを確認してから、ギアをPからDレンジに入れ、ブレーキから足を離しながらサイドブレーキの解除フックに手をかけた。
「それじゃ、改めて出発しましょう。」と言いながら軽くアクセルを踏み込み、ステアリングを切りながらミニバンの後ろにつく。
葛城先輩の家のミニバンは、正門を出ると、大通りを左に曲がり、東の方向に進路を取った。
こちらも周囲の状況を確認しながら左折して次の交差点で信号待ちしているミニバンの後ろに停車する。ギアをNレンジにしてサイドブレーキを踏みながら春日先輩に、
「そういえば僕たち、これからどこに行くつもりなのでしょうか?」
「ん、とりあえず西武の池袋店だけど。」
「百貨店ですか…。」
この街を案内してくれるんじゃなかったのか? 道理でなぜ車が必要になったか疑問に思ったが、都心へ行くとなればそりゃ必要になるだろう。この学校武蔵野台地にあるせいか、都心と比べればだいぶ西の方にある。
近くに駅があるわけでもないし、車があるなしではだいぶ違いそうな立地にあるからな。
246 :
ふみあ:2009/06/27(土) 05:33:14
「しかしなんで百貨店へ?」
と訊くと、母親が、
「あなたの服を買うためよ。」
「はい?」
「今のままじゃ足りないでしょ、私服。」
「そう? 結構ある方だと思うけど。」
「そうでもないわよ、これから夏物だって必要になってくるし。」
「まあ、そうだけど。」
「それにあなた少し心配なところがあるから。外見だけでもきちんとしてないと。」
「ああ、そう。」
気持ちは痛いほどわかるが、口に出すなよ。
信号が青に変わったので、Dレンジに入れ、サイドブレーキを解除し、前車に合わせてアクセルを踏み込む。
葛城先輩の家のミニバンはしばらく東の方へ進んだ後、とある国道の大きな交差点で右折レーンに入った。案内標識にはこの方向に高速のランプがあるらしい。
ただでさえも交通量の多い道路なのにみんな高速の方へ行くのか、こちらの右折レーンと対向の左折レーンだけ混んでいるらしく中々進まない。信号の変わり目に行こうとしたが、
ミニバンが行った後僕の番になった時に完全に赤となってしまい、ミニバンと離れ離れになってしまった。
247 :
ふみあ:2009/06/27(土) 05:33:55
次に信号が青になるまでの間、気になったことを春日先輩に尋ねてみる。
「あの、雪乃様。」
「なんだい急に。」
「西武までの道はご存じだとおっしゃってましたよね?」
「ああ、言ったよ。」
「前の車とはぐれてしまったので、しばらく道案内をお願いしてもよろしいですか。できるだけ自力で頑張りますが。」
「構わないよ。いざとなったら葵や紫苑様と連絡できるようになっているから。」
と春日先輩は笑いながらこう言って、携帯を見せてくれた。
「ならたぶん大丈夫です。すぐ追いつくと思いますから。おっと、青になりましたね。」
ギアをDに入れて、サイドブレーキを解除する。そのままブレーキを踏みながらクリープでゆっくりと前進する。
248 :
ふみあ:2009/06/27(土) 05:34:36
予想通りというべきか、只でさえ交通量が多いうえに対向の左折車が列をなしているのでなかなかタイミングがつかめない。どう考えても右折オンリーになるまで待つしかなさそうだったが、
後ろに止まっているガラの悪そうなメルセデスのCクラスが、こちらに対してパッシングしているのがルームミラー越しに見えた。思わず舌打ちをすると、僕以外の全員が驚いてこちらを見てきた。
「何?!」と訊いてきたので、
「いや別に、後ろのベンツがパッシングしてきたものですから。どう見ても今右折できるわけないでしょ、バカって思って。」
本当は、何煽ってんじゃ、空気読めや馬鹿野郎! と思っていたが口に出すわけにもいかないので黙っておいた。
その後もベンツは何度もクラクションを鳴らしながらパッシングをしてきた挙句、いざ右折するときにもパッシングしてきたので、
さすがにムカついてきたので、喧嘩売っとんのかこの野郎、そんなに売りたいならその喧嘩買ったっらあ、と思ってしまい、自分以外にも人が乗っているという事実を忘れて、
ステアリングを右に切り交差点を曲がりきったところから、一気にアクセルを踏み込んで車をキックダウンさせ、ベンツを振り切った。
急に後ろの方に体を押し付けられたためか、加速したとたん悲鳴が車中に響いた。あわててアクセルを緩めて、次の信号が赤だったのでついでに減速して停車する。
249 :
ふみあ:2009/06/27(土) 05:35:19
何だろう、気まずい、視線が痛い。まず、春日先輩が口を開いた。
「薫君。」
「は、はい(-_-;)。」
「今のは何だったのかな?」
「いやあ、後ろの車がしつこかったので、振り切ろうって思いまして思いっきり加速したのですけど。…ハハハ。」
なんとかそれだけ言うと母が、
「あんた何キロ出せば気が済むの。事故起こしたらシャレじゃすまないのよ。」と呆れ、怒っている。
「ごめんなさい。」と謝ると、天城さんが「怖かったです。」と泣き出しそうになっていたので、
「ごめんね。祈さん。大丈夫だから。ね。」
泣かないで、頼む。
肝心のベンツはさっき振り切られて戦意喪失してしまったのか、だいぶ距離を取って後ろに止まっている。もちろん煽ってこない。
250 :
ふみあ:2009/06/27(土) 06:05:25
気を取り直して出発することにする。とりあえずここからランプまでのルートを確認する。
「ここから先はしばらく道のりで行くとして、ランプまでの道順はどうなっているんでしょうか?」
「というと?」
「中央高速のランプだと一方方向の可能性が高いので、高速沿いにどこかで東の方に左折しなきゃいけないかな、って思いまして。」
「いや大丈夫だよ。この道はこのまま自動車専用のバイパスとして高速道路と立体交差しているからね。」
「というとそこのジャンクションで高速の入口に直接入れるんですか。」
「ああ、最近できたんだよ。もうすぐバイパスの入口だよ。」
見ると、前方に道の真ん中だけ坂になっておりその先が高架になっている。そして入口には自動車専用道の標識が立っていて、車がどんどんそちらに流れている。
しかも高速とのつなぎであるためか、高速並に流れが速い。制限速度は80キロのようである。
僕は流れに乗るため、みんなに声をかけた。
「今から速度を思い切り上げますから気を付けて下さい。」
「え?」「ちょっと!」「きゃっ」
「上げますよ、いきますよ。」
右ウインカーを点滅させながら追い越し車線に合流し、加速しながら坂を登って行く。気がついたら100km/hを超えていた。みんな飛ばしているねえ。
251 :
ふみあ:2009/06/27(土) 06:06:07
結局120km/hまで加速し、周りの車をバンバンと追い越すことになった。
「しかし、走りやすい道ですねえ。ホントに高速道路みたい。どちらかというと新御堂筋かしら。」
思わず感想がもれてしまう。本当にそれは標識が青くなかったら、ちゃんと出入り口に、加減速用の車線と、案内標識、交通情報ラジオを備えた中々のものだった。
しばらく前から、高速道路の補完事業としてこのような規格の自動車専用の一般道が整備されているが、これもその一つだろう。
「だからと言って、少し飛ばし過ぎじゃないかい?」
「そうですよ、少し落とした方が…」
「飛ばし過ぎよ。スピードを落としなさい。」
「そうですか、160くらいなら普通に出しますよ。むしろこれでもゆっくり走っている方ですから。」
「まさか。」
「ホントですよ。そろそろ高速との接続みたいですね。確か新宿方向でしたよね? 4号からC1経由で5号か、C2か、どちらかで行こうと思うので。」
「ああ。そうだね。」
「じゃあここの出口をでて、こう行ってっと。あ、本当に料金所がある。お母さん、ETCで行くけど、いいよね?」
「いいわよ。」
「ありがとう。」
ETCカードを機械に挿入する。
252 :
ふみあ:2009/06/27(土) 06:06:48
料金所のETCレーンを通過しようとすると、目の前に見かけたことのある車が現れた。
「前の車、紫苑様のお宅のお車ですよね。よかった、追いついた。」
後は、この車の後ろについていけばいいだろう。だが、そう思ったのもつかの間だった。
合流するときまでは良かったのだが、本線車道を走り屋と暴走族が集団で猛スピードで疾走していたために、ミニバンは減速して一時退避。
僕の方はこの手の合流には慣れていたので、気にせずスピードを上げながらそのまま合流してしまい、またしても離れ離れになったのだ。
「あらら、また逸れちゃいましたね。」
「薫さん。そ..そんな呑気なことを言っている場合ではないような。」
「そうだよ薫君、成り行きとはいえ、この先どうするんだい。」
「別に、このままこの流れに乗っていくしかないでしょう。」
「そうはいっても、このままだと危険だと私は思うのだが。」
「大丈夫ですよ。」
確かに現在180km/h以上を出しているが、カーブでは減速するし、普段からこのくらい出しているので特に問題には思わないのだが。むしろ前を走るローレルのドライバーがよほどうまいのか、
的確な加減速とライン取りで走っているので安心してついていっていられるのだけれど、やはり3人とも怖いらしい。
料金所を知らせる看板が見え始めたころ、前を走る車が次々とハザードを点滅しながら減速し始めたので僕もそれに倣う。料金所が見え始めると、今度は青と白のレーンで色分けられたETCレーンにレーン変更し、
徐行しながらブースを通過する。
253 :
ふみあ:2009/06/27(土) 06:35:28
そのまま加速して本線に合流しようとしたが、前方の車が次々とブレーキランプを点灯させて停車していく。平日昼間の首都高の名物、渋滞に巻き込まれたようである。
しかも厄介なことに完全に停止するわけではなく少しずつだが、動いている。
「あーあ、やんなっちゃう。」
思わず不満を漏らす。
「どうせ渋滞になるなら完全に止まってくれればいいのに。」
「少しでも動いていた方がいいやない。」と母が言う。
「同乗だとね、でも運転している分では止まっていた方がいいですよ、休めるから。ブレーキ踏みながらの徐行って神経使うから疲れるんですよ。」
「そういうものなのですか?」と天城さん。
「そういうものですよ。」
と答えた。
しばらく行くと今度は完全に止まってしまった。車のギアをNに入れ、サイドブレーキを踏み、ステアリングから手を離して姿勢を楽にする。
暫くはこの場所から動けないだろう。少し休むことにした。
3-4終了。3-5に続きます。
254 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:19:33
3-5 首都高でナンパ?
>>???
「チキショー、完全に止まっちまいやがったジャンよー。」
「ホントパネェ。」
隣の助手席と後席の左側に座った男がグーたら文句を言っている。それを聞いた運転役の男が、
「文句いっても仕方ねえだろう、お前ら。」
と二人をなだめている。
こんな時間に男3人が一台の車に乗って移動しているのもどうかと思うが、仕事中でもないらしい。3人とも典型的なチャラ男のようである。運転役の男は金髪の短髪で、耳にピアスをした、
黄色い半袖のTシャツにブルージーンズを着て、首にゴールドチェーンのネックレスをしている日焼けした若い男である。この中では一番の二枚目で、このグループのまとめ役のようである。
助手席の男は茶髪にロン毛の、いかにも自分の事をかっこいいと勘違いしたお調子者の三枚目な感じの、赤い半袖のTシャツに白いチノパンを着て、青いジージャンを羽織った若い男で、
後ろに座っているのは黒いTシャツに迷彩のミリタリーズボンをはいた
スキンヘッドに赤いバンダナをした若い男である。
3人はどうやら八王子から渋谷の方へナンパに行くらしい。その道中で渋滞に巻き込まれてしまったという訳だ。尤も改造されているとはいえ、半分クラッシックカーとなっている
黒いY32のグロリアに乗りたがる女子高生がいるかどうか疑問だし、どこかで車を降りるにしても、とてもじゃないが彼らに女の子をゲットすることができるとは思えないから急ぐ必要ないと思うのだが、
彼らはこの状況に不満を持っていた。なぜ、今俺たちは男3人で渋滞の中こんな狭い車の中に閉じ込められなきゃいけないのか、と。
もうそろそろイライラも限界に来た頃、ロン毛の男が気晴らしに窓を開けたとき、彼の眼に一台の車、シルバーメタリックの古いマークUが映った。どう見ても黒いスモークが張ってある普通の改造車なのだが、
何か違和感がある。男が目を凝らしてスモーク越しに内部を窺って見ると…
255 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:20:14
「おい、見ろよ。あの車。」
と、中を確認した男が仲間に向かって叫んだ。
「なんだどうした。」
「あの100がどうかしたのかよ。」
「よく見ろよ、運転しているの女の子だぜ。」
「マジで、うお! 本当だ。」
「どれどれ….ほう。」
「他にも女の子が乗っているみたいだぜ。」
「本当だ、っておい、オバンが一人乗っているじゃねえか。」
「でもよお、3人も女の子が乗っているぜ。しかも3人とも女子高生らしい。制服着てるぜ。」
「しかも結構かわいくね? やる? やっちゃう?」
「そうだな、さそうか。おい、直哉、声かけろや。」
「おう、任しとけ。」
と、直哉と呼ばれたロン毛男は助手席から身を乗り出した。
256 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:20:55
>>薫
すごく誰かに見られている、そんな嫌な気配を感じたその時だった。突然運転席の窓をノックする音と振動を感じたので、ドアに肘を掛けて頬杖をついた状態で外を見ると、たまたま並んだ黒いY32から身を乗り出した若い男と目があった。
と思ったら突然その車がクラクションを鳴らしてきた。よく見ると身を乗り出している奴以外に二人の男が乗っているのが見えた。3人ともこちらに手を振ったりクラクションを鳴らしたりしている。
最初は僕の車に異常があるのか、知らず知らずの内に迷惑をかけたのかと思ったが、警告灯は点いてないし、どうもそういう感じではない。どうやらナンパを仕掛けているようである。関わらない方がいいな、と思ったので天城さんに呼びかけた
「祈さん。祈さん。」
「何でしょうか? 薫さん。」
「絶対にそちらの窓の外を見ないで下さい。」
「?」
「なにも聞かないで、ただ目を合わせなければいいんです。前を向いて。」
「は、はい。」
と、天城さんは少し混乱しながらも従ってくれた。
257 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:21:37
その時春日先輩が話しかけてきた。
「薫君、何かあったのかい。」
「ええ、どこかの馬の骨がナンパを仕掛けてきたみたいです。」
「ナンパ?」
「隣に並んでさっきからモーションをかけているみたいです。聞こえるでしょう、クラクション。」
「ああ、それでさっきから警笛が何度も鳴っているのか。で、君はどうするつもりなんだい。」
「僕は無視した方が賢明だと思うんです。だから雪乃様もあまり向こうの方を向かないで下さい。」
「わかった。私もその方がいいと思う。」
その時母親が、
「でも薫、この車に何かあるんじゃないの? その、どこか壊れてるとか、そういう事を教えてくれてるんやないん?」
「それはないわ。どこも壊れてないし。それにあの雰囲気は絶対ナンパよ。」
「そやけどね…」
「言いたいことはわかるわ、お母さん。この車は黒いフィルムを張っているからたぶんあの人たちにはお母さんのこと、見えていないわ。ただ…」
「ただ?」
「保護者がいることをわかった上でやっているとしたら少し厄介ね。」
258 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:22:17
渋滞が解消することを、今か今かと待っていたが、少しずつ列が動くことはあっても、Y32を振り切れるほどには全然届かないレベルである。未だに隣にくっついているY32からは、
余程諦めが悪いのか、まだチャラ男どもがアプローチをかけている。
いい加減に諦めろよと呆れつつも頑なに彼らの誘いを断っていると、「ドンッ」という音と共に茶髪ロン毛が車のドアを拳骨で叩いたのが目に入った。
野郎っ、と怒鳴りかけたが、ここは理性で抑えて右手を左の方へ掌を突き出すように抑止のジェスチャーを取る。左と後ろの方へ口出しをするなと合図してから、
ドアのひんじに付けられた運転席側のパワーウインドウのスイッチをいっぱいに押して窓をあけ、隣の車を睨みつける。
こっちが振り向くのを待っていたのか、目があったとたんすぐに男どもが、
「Yo Yo、彼女。俺らと遊ばない?」
「楽しいことしようゼイ。」
「かわいがってやるぜ。」
と、この手の定番というか、ありきたりの慣用句を並べ立ててきた。やはりその手の誘いだったようである。
259 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:53:40
もともとナンパに乗るつもないし、そもそも乗れないので適当に聞き流して文句を言う。
「すみませんが、今私の車を叩いたのはあなたですか?」
と助手席の男に尋ねるとロン毛の男は、
「叩いたって、ヤダなあ、ちょっとノックしただけじゃん。」
「そうそ、全然俺らの熱いアプローチに気づいてクンねえだもん。」
「だからって、そんな何触ったか分からないような手で車に触らないで頂けませんか。それにあなた方のような色男のお誘いに乗るほど、
私お尻の軽い女じゃありませんから、やめて頂きません? はっきり言って迷惑なんです。」
「車叩いた事は謝るからさあ、そう固いこと言わず付き合ってよ。」
「ていうか、この娘ひょっとしていいとこのお嬢じゃね? ね?」
「ピチピチの女子高生でいいとこのお嬢様かよ、こいつぁ悪かねえな。」
「ねぇ彼女ぉ。ひょっとして隣と後ろの娘もお嬢様のお友達ぃ? だったら俺らにも紹介してくれねぇ? 一緒にどっか行こうぜぇ。」
「ごめんなさい。私たち所用があるんです。他の方を当たって頂きません? それにお気づきではないかもしれませんが、保護者も乗っているんです。諦めて下さい。」
「他の人なんてどこにいるのかなぁ。」
「せめて、名前とメアドくらい教えてよ。」
「ババアなんてほっといて楽しいことしようぜ。」
「全力でお断りします。」
260 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:54:22
「そう固いこと言わずにさ、ねぇねぇ。」
「嫌です。」
「そう言わずにさあ。」
「しつこいですよ。」
「ひょっとして彼氏いんの?」
「大丈夫、彼氏よりきもちよくしてやっからさぁ。ヘッヘッヘ。」
「いませんし、そういうの興味ありません。」
「だったらさあ。俺らにつきあってよぅ。」
「いい加減にしないと怒りますよ!」
「うぉっ、怒った顔もかわいくね。」
「キュンってくるう。」
ダメだこりゃ、少しでも相手をした僕が馬鹿だったと、後悔しながらパワーウインドウのスイッチを思い切り引っ張った時だった。
261 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:55:04
「おいシカトしてんじゃねえぞ。このアマ。」という声がしたかと思うと、後席からバンダナが下りてきて大きな手でせり上がってくる窓ガラスを抑えているのが目に入った。
あわてて、パワースイッチを下に押し付け、ガラスを下ろす。
「何ですか! 急に。」
「何ですかじゃねえよ。折角俺らみてえないい男が遊びに誘っているのに断った挙句シカトしやがって、調子こいてんじゃねえぞこのアマ!」
と言って、逆切れして殴りかかって来た。のをかわして肘鉄を喰らわせる。
「危ない!」と、天城さんが叫んだ気がするが気にせずドアをアンロックし、思い切り力をかけて、ドアを振り開けた。
案の定ドアは思わぬ反撃にあってよろめいた哀れな男を直撃し、男を振り払った後勢いあまって隣に止まっている男たちの車に「ゴツン」という音と共に激突した。
哀れな男は完璧に体勢を崩し、地面に伸びている。Y32は真新しいへこみができている。やりすぎたかな。急いでドアを閉めてロックし、窓を閉める。
Y32の運転席と助手席からは、仲間をやられ、さらに車に傷がついたことに逆上した金髪とロン毛が降りてきた。
262 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:55:45
やばい、どうしようかと思ったその時、「パーーーーーーーーン」というものすごい音量のクラクションを鳴らしながら後の車がパッシングしてきた。何事かと思って前を見ると、
とうに渋滞が解消して、前車がスピードを上げて向こうの方に走り去ったところだった。
今なら振り切れる! そう確信した僕は、数回ブレーキを踏み、後続車にお詫びを込めてテールパッシングした後、ギアをNからDに入れ、サイドブレーキを解除しながらアクセルを思い切り踏み込んで車をキックバックさせた。
急加速する車中で、ミラー越しに後ろを見ると、後続車にパッシングで急かされながらのびた仲間を後席に運び込む二人の男たちの姿を確認することができた。この車はもう100km/h以上も出している。僕自身はこのまま加速して
180kmオーバーまで出すつもりだったので、気絶した男をどうにか車に乗せてから発進させても追いつくことは無理だろうと思った。
思わず心の中で笑みがこぼれたことはここだけの秘密である。
263 :
ふみあ:2009/06/28(日) 05:56:26
3-5終了。3-6へ続きます
264 :
ふみあ:2009/06/29(月) 05:21:56
3-6 ドライブ2
>>薫
前方を走る車の集団の最後尾に追いついてしまったので、結局120km/hまでしか出せなかったが別に問題ないだろう、集団の中ほどに来るまで追い越していたらまた渋滞にはまりこんだからだ。
すでに隣と後ろに後続の車が続いている。この先に待つ西新宿JCTでの分流を考えてすでに追い越しから走行車線に入っているので彼らの車が左側につくこともないはずだ。
「ここまで、来ればもう大丈夫ですね。」
徐行しながら皆に話しかけると、天城さんがこう言った。
「あの薫さん、大丈夫ですか。」
「何がです?」
「その…さっき男の人に…」
「ああ、それなら僕は大丈夫ですよ。あのパンチかすりもしませんでしたから、怪我なんてしていませんし、安心して下さい。」
「それならよろしいんですが。」
「寧ろ殴りかかって来た彼の方が心配ですよ。あの様子じゃたぶんこけた時に地面に後頭部をぶつけて脳震盪を起こしたようですから。何もなければいいのですけど。」
265 :
ふみあ:2009/06/29(月) 05:22:36
そこに春日先輩が、
「しかし、さっきの人たちは何をしたかったのかな?」
「言ったでしょう。ナンパですよ。」
「ナンパ?」
「体良く言えば逢い引きです。僕たちをデートに誘いたかったんですよ。」
「たち、というより君を誘っているようだったな。」
「さあ、どうでしょう。僕は雪乃様や祈さんも誘うつもりだったように感じましたが。」
「そうかも知れないが、私は主に薫君を誘っているように見えたがね、祈君もそうだろう?」
「は..はい、私もそう思いました。」
「そうですか。あの人たち、よほど女に飢えていたんでしょうか?」
「?」
「僕みたいなのをナンパに誘おうと思うなんて、よほど飢えていたんでしょうね。」
「….」
「ところで、もうすぐC2の新宿線との分岐ですけどどうします? どっちが近いんでしょうね?」
そういいながら、カーナビの画面と照らし合わせてロードマップを調べる。
「あ、C1から5号に入った方が近いですね。じゃあこのまま真直ぐ行きましょう。」
どうやらC2から5号を抜けて、外環から関越道や東北道、磐越道に抜ける車が多かったらしく、西新宿JCTを抜けると一気に車の台数は少なくなった。
そのまま快調に飛ばしながら新宿で右方向にまわって三宅坂JCTに向かった。
266 :
ふみあ:2009/06/29(月) 05:24:23
JCTのトンネルの入り口で大型トラックを抜かした後すぐにライトをつけながら走行車線に入り、そのまま左方向に入る、そのまま一車線のトンネルの中を減速しながら進み、
C1で合流するときにまたアクセルを踏み込む、右ウインカーをつけながらミラーと後ろを振り返って目視し、走行車線を並走するタクシーを先に行かせた後合流し、そのまま加速しながら走行車線を越え追越車線に入る。
「ふん、ふん、ふふん♪」
FMデジタルラジオから流れる音楽に合わせて鼻歌を歌いながら右手でステアリングのスポークを、左手でシフトノブの頭を叩く。そんな感じで気持ちよく運転している時だった。
「薫、薫。」
と突然母が声をかけてきた。
「何? お母さん。」
「あなた、左手はどこへ行ったの?」
「左手? 左手ならここにありますけど?」
と答えながらATのシフトノブを叩く。すると母は、
「なんで左手がそんなところにあるの?」
「? ああ!」
片手ハンドルのことを暗に言ったのだと思ったので両手でステアリングを握りなおす。
「またあなたは、お父さんにもさんざん注意されてるでしょ?」
「わかりましたよ。気を付けます。」
確かに父からは散々片手ハンドルを止めるよう言われてはいるが、癖だからしょうがない。
母はまだ何か言おうとしているようだが、無視して運転に集中しようとしたその時だった。
突然僕の携帯の着メロが鳴り出した。ポケットの中を探って携帯電話を取り出し、左手で開いてそのまま通話ボタンを押す。画面には「葵姉」と書いてある。
267 :
ふみあ:2009/06/29(月) 05:25:04
「ちょっと薫さん。危ないですよ(゚Д゚)」
と天城さんが叫んだが、
「え、なにが?」
「何がって、運転中に携帯電話なんて…」
「大丈夫ですよ〜。あ、もしもし。薫です。」
「あ、もしもし! 今どこにいるの?」
と葵姉ちゃんが言った。
「今ですか? 4号からC1に入ってもうすぐ5号に入るところです。あ、今竹橋JCTに入ります。」
携帯を首に挟んだまま左車線に入りハンドルを切りながらJCTの分岐に入る。
「今5号に入りました。」と伝えると。
「え、もうそんなところ?!」
「今どこにいるんです?」
「え、今どこだろう?」
「まあいいや、とりあえず僕らはこのまま池袋まで行こうと思うんですが。」
「そうねえ、ねえどうしましょう?..........ええ….はい、じゃあ、どこかで落ちあえないかしら?」
「さあこの辺はPAもSAもないから途中で止まるわけにもいかないし。東池袋の出口を出て反対車線側とも合流したところでハザードを付けて停車してますから、その時落ちあいませんか?」
と提案すると、
「ちょっと待ってて…………はい、……..はい、いいって。」
「わかりました。そういうことで。また。」
終話ボタンを押し左手で元のように左ポケットにしまう。そしてステアリングを持ち直し、姿勢を正してから、車を加速させていく。
268 :
ふみあ:2009/06/29(月) 05:55:04
「今の電話葵ちゃん?」
と母が訊ねてきたので、
「ええ、現在地とこれからどうするかを教えてほしいって。」
「どうするのこれから?」
「とりあえずこのまま行って、出口を出たところで落ち合うことになりました。」
「そう。」
「しかし、運転中の携帯電話とはあまり感心しないね。」
と春日先輩が割り込んできた。
「そうでしょうか。確かに好ましいとはとは思いませんが、まさかここで止まるわけにはいかないでしょう。ただでさえレーンが狭いうえに路側帯もありませんから。」
「そうかも知れないけれど、誰かに代わりに出てもらうという手もあったんじゃないか?」
「今どこを走っているか正確に伝えられる人が僕以外の誰がいるんです?」
「・・・・・」
「雪乃様、今回は大目に見てもらえませんか? もうこう言う事はしませんから。」
「わかった。今回だけはそうしよう。」
「ありがとうございます。」
269 :
ふみあ:2009/06/29(月) 06:14:11
目的のランプに近づいたので左ウインカーを出して減速しながら減速車線に入り少し強めにブレーキを踏みながらカーブに合わせてステアリングを切っていく。対向車線の方から来た道と合流した所をやや過ぎたところで左側に車を止め、ハザードを点滅させ、
ブレーキを踏みながらギアをPに入れ、サイドブレーキを掛ける。携帯電話を取り出して電話帳から葵姉ちゃんの携帯に電話を掛ける。
「…もしもし。」
「もしもし、薫です。今到着しました。」
「え、もう?」
「ええ、待ってますので近くに来たらもう一度連絡してもらえないでしょうか?」
「わっかたわ。」
「じゃあ、お願いします。」
と言って一旦電話を切る。
葵姉ちゃんの様子だとかなりかかりそうだったので、この間に少し休憩することにした。後にいる天城さんに声をかけた。
「祈さん、祈さん。」
「な…なんでしょうか薫さん。」
「少し狭くなると思いますが、シートを倒してもいいでしょうか。」
「え、ええ?」
「じゃ、すみません。」
と言いながら少しだけシートをリクライニングさせる。オーディオの音量を落とし、シートベルトをはずしてシートに体を預け、少しだけ眠ることにした。
270 :
ふみあ:2009/06/29(月) 06:14:54
突然携帯のアニソンの着メロが車中に響き渡った音で目が覚めた。音の発生源が自分の携帯で、葵姉ちゃんから発信されていることを確かめて通話ボタンを押す。
「もしもし、薫です。」
「もしもし、クーちゃん? 私たちもうすぐそこまで来ているから。」
「わかりました。それじゃあまた。」
と言って、終話ボタンを押しシートを元に戻し、ドラポジをチェックしてからオーディオの音量を上げ、バックミラーを見る。
しばらくすると後方からカーブを下ってくる白いミニバンが見えてきた。後方を確認してから解錠してドアをあけ、外に出て車の後ろに回り込みながら手を振って合図をする。
ミニバンは左ウインカーとハザードを点滅させながら僕の車の後ろに停車した。運転席の窓が開き、運転手の男性が「どうも」と言って頭を下げたので、「こちらこそ」と挨拶する。
「これからどうしましょうか。」と男性が訊いてきたので
「こちらとしては道も知りませんので、案内していただければ…」
「では、私が先導するという事で、宜しいでしょうか。」
「お願いします。」
「畏まりました。」
そう言って、男性は窓を閉めたので、こちらも周りに気をつけながら車に乗り込む。
ドアをロックしブレーキを踏んでギアをPからDに入れ、ハザードを切って右ウインカーを点滅させる。ミラー越しにミニバンが発進したことを確かめてからサイドブレーキを切って、
周囲の安全を確かめてから、ミニバンに続いて車を発進させた。
第三章 完
第三章終了。只今第四章をgdgdと制作中。でき次第適当にうpしようと思います。
271 :
名無し物書き@推敲中?:2009/06/30(火) 21:57:37
おK
272 :
ふみあ:2009/08/06(木) 13:32:43
みんなおひさー\(^o^)/
まだ、第4章できていないけど話の目途が立ったので久しぶりにうpします。
話は次スレから...
273 :
ふみあ:2009/08/06(木) 13:35:17
第四章 4月
4-1 駐車場にて
>>薫
先にミニバンが駐車して、乗員が全員下りたことを確認してから、シートベルトを外し、ブレーキから足を離して車を少し前進させ、一旦ステアリングを右に切ってから、ギアをRレンジに入れてから左に切り直し、
バックでミニバンの隣の縦列駐車スペースに駐車する。少し前進して、位置を微調整してからもう一度バックで入れ直し、RからPレンジに入れ、サイドブレーキを踏んでからエンジンを切った。
「さあ、着きましたよ。皆さん降りて下さい。」
他のみんなが下りてから右側に止まっているミニバンを傷つけぬよう注意しながらドアを開け、外に出る。
ドアを閉めてキーについてるドアロックボタンを押す。「ガチャッ」という音と共にハザードが一発点灯し、ドアが開かないことを確認してからみんなが待っている方へ向かう。
「お待たせしました。」
274 :
ふみあ:2009/08/06(木) 13:38:00
道中ハンドルを握りながらずっと考えていたのだが、僕と母は服を買いに行くとして、後のみんなはどうするのだろう、と考えていると、葛城先輩が葵姉ちゃんに、
「それじゃあ私は雪乃さんと一緒にこの子たちを連れて行きますから、あなたは薫ちゃんと叔母様に付いて行ってあげなさい。」
「ありがとうございます。」
「それでは4時頃にまたここに集合しましょう。皆さん行きましょうか。」
と言っているのが聞こえた。所詮高3から見れば高1など子供も同然かとも思ったが、これが一番いいだろう。僕の買い物に付き合わせるのも悪い気がする。
とりあえず駐車場の出口で別れて、我々3人は婦人服売り場に直行した。
4-2へ続く...これだけやけに短くてワロタww
275 :
ふみあ:2009/08/07(金) 14:09:06
4-2 帰り道
>>薫
ガタンッと音を立てながらマークUのトランクを閉め、運転席の方へまわってドアを開けて車に乗り込んだ。隣には母親が、後部座席にはなぜか猪瀬と成瀬のコンビが座っている。さっきからキョロキョロ辺りを見回して落ち着きがないので正直うざい。
そんなに僕の車って珍しいのか? 完全自律走行制御補助機能が付いてないくらいでその辺の車とそこまで性能や雰囲気に差があるとは思えないんだが…。
しかもただ落ち着きがないならいざ知らず、なんかいろいろなことを訊いてくる。例えば、インパネの中央、エアコンの吹き出しの上のダッシュボードに取り付けた3連メーターを指差し、
「これ何?」
「後付けで取り付けた3連メーターです。」
「3連?」
「左から、水温計、油温計、油圧計と3つのメーターが仲良く並んでいるので。」
「水温計って?」
「冷却水の温度を測るための温度計です。」
「油温って?」
「エンジンオイルの温度のことです。」
「油圧は?」
「エンジンオイルがどれだけの力でエンジンの中を流れているかをあらわしたものですね。」
276 :
ふみあ:2009/08/07(金) 14:10:38
こういう事ってある意味常識じゃね? というようなことを聞かれるがままに答えていく。はっきり言って運転に集中できないのでやめて欲しいのだが、やり取りはまだ続く。
「何でこんなものついてるの?」
「何でって、そりゃこれを見れば車に、特にエンジン回りでトラブルが起こった時にすぐにわかりますから。こういう車にはつけている場合が多いんですよ。」
「でもうちの車にはついてないよ。」
「そりゃ、後付けですから(;・∀・)」
猪瀬とこんなアホらしいやり取りをしていると、何故か天井の辺りを眺めていた成瀬が急にこんなことを訊いてきた。
「ところでこのパイプみたいなのは何なんだ?」
「パイプ? ….ああ、ロールバーことですか。」
僕の車には乗員変更なしのタイプの6点式の鉄製のロールバーがルーフやピラーに沿って溶接で取り付けられている。無論つけられるところには全て黒いパッドを巻いて、
運転席と助手席のドア下にはBピラーとAピラーに沿ったロールバーに取り付ける形でサイドバーを増設している。
277 :
ふみあ:2009/08/07(金) 14:11:47
「ロールバー?」
「これのことですよ。ロールバーっていうんです。」
「へえ。….何でこんなものつけているの?」
「?」
「わざわざ、室内をせまくする必要もないじゃない。」
「まあ、この方がいざという時安全だと思いましたから。」
「でもいらなくない?」
「買える安全はとりあえず買っておく主義なんです。」
「ふ〜ん。わからないな。」
なんか面倒くさい。
走り始めたら走り始めたで、今度は乗り心地が悪いとぬかしてきた。そりゃ、シャコタンして最低地上高を3cm落して大判ホイールにして
足元を固めているから多少は悪いとは思うけど、エアサス組んでいるからそこまでひどくはないと思うぞ?
278 :
ふみあ:2009/08/07(金) 14:16:26
また、狭いともぬかしてきやがった。セダンだから頭周りの空間が制限されるのは仕方がないが、この車かなりでかい方だぞ。すると今度は自分ちの車より狭いと言ってきたので、
「あの…、猪瀬さんのお父様はどんな車にお乗りになられているんですか?」
と訊くと
「アルファード。」
と返ってきた。比べる対象がおもいっきり間違っていると思うのは僕だけなのか?
他にもこんな改造車に乗っていて(法的に)大丈夫なのかとか、ひょっとして不良なのかとか、この手の車に乗っていると一般人から言われそうなことをこれでもかというくらい質問されたが適当に受け流した。
(途中だけど少し長いので次回に持ち越します。続くよ)
279 :
名無し物書き@推敲中?:2009/08/07(金) 14:56:54
ふ〜ん
280 :
ふみあ:2009/08/11(火) 09:55:19
>>278つづき
なんだかんだで寮の前について解散した時にはだいぶ日がかたむていた。少し休憩したかったが、母親が今日中に京都まで帰らなければいけなかったので。そのまま車を出すことにした。
「私も見送りたい」と葵姉ちゃんが言ったので3人で向かうことにした。昼間通った道を辿るように車を走らせていく。夕方のラッシュが始まったのか対向車線が込み始めている。暗くなってきたので車幅灯とフォグランプの他にロービームでヘッドライトをつけると、
ハロゲン色のフォグランプにグラデーションを重ねるようにHID特有の真っ白な光が目の前の路面を照らした。真っ暗になった車内の後ろの方では、先ほどからずっと母親と葵姉ちゃんが何かを話し合っては、時々二人揃って高い笑い声を上げている。車は白い街灯に照らされ
縞縞模様を作り出した道路の上をスピードを出して駆け抜けていく。
東京駅に着き、駐車場に車を停め、探すのに苦労しながら新幹線の改札に着いた。見送るために券売機で入場券を2枚買おうとすると、母がホームまで上がらなくていい、改札の前で別れようと言い出した。
「別にいいじゃない。荷物もあることだしさ、このまま上まで持って行くから見送らせてよ。葵お姉ちゃんも行くでしょ?」
と、葵姉ちゃんの合意を取りつつ半ば強引にホームまでついて行った。
281 :
ふみあ:2009/08/11(火) 09:56:32
ホームにはすでに博多行きの「のぞみ」がすでに入電し、発車の合図を待っていた。
指定席に一番近い車両のドアまでつくと、僕は荷物を母に渡しながら、
「じゃあね、母さん、気を付けて。」
というと
「あなたも葵ちゃんや学校のみんなに迷惑をかけないように気をつけなさいよ。」
と母が別れ際に釘を刺してきた。
「わかっているよ。心配しなくても大丈夫だから。」
「わかった、わかったって言いながらやったことないでしょ、あなたは。」
「そんなことないって。」
「そうでしょうが、いっつもぼーっとして。もっとしっかりしなさいよ。」
「大丈夫だよ。しっかりするつもりだから。」
「ホントにしっかりしなさいよ。今回はめ外すことがあったらただじゃ済まないんだから。」
「母さん…。それは僕が一番よくわかっているから。きちんとするから。ね、大丈夫だから。ほら、そろそろ新幹線も出る時間だし。」
「ホントにしっかりしなさいよ。後お父さんとお母さんがいないからってさぼるなんてことしないでよ。」
「しません。誓ってしません。(口約束)」
「葵ちゃん、この子すごいヘマをしでかしたり、失礼なことするかもわからないけど、その時は私たちの代わりにこの子のことを叱って頂戴。」
「はい、任せて下さい。おばさま。」
「ホントにお願いね。葵ちゃんだけが、頼りだから。そうだ、5月の連休に薫と一緒に家へ来ない? 歓迎するわ。」
「はい、喜んで。」
「母さん。まだ連休にそっちへ帰れると決まったわけじゃあ…。」
「帰ってこれるでしょう。帰ってきなさい。」
「はい。」
「じゃあ、もうそろそろ汽車もでるからこの辺でね。葵ちゃん、ホントに薫のことお願いね。それじゃあね。」
「さようなら。お気を付けて。」
「父さんと怜にもよろしく。」
282 :
ふみあ:2009/08/11(火) 09:58:59
新幹線のドアがゆっくりと閉まりながら、行く人と見送る人を一枚の扉で隔てて行く。ちなみに怜とは僕の3つ下の弟で今回入れ違いに高市中学に入学して、明後日の入学式に出る予定だそうである。
ホームの彼方に赤い光の軌跡を名残惜しそうに残しながら、新幹線は暗闇の向こうへ消えていった。さて、帰るか。
帰りの車の中で葵姉ちゃんは何故かものすごく嬉しくなったのか、やたら普段よりずっとテンションが高かった。理由はあえて考えないことにしている。この分じゃマジで四六時中葵姉ちゃんに監視されそうだ。今更ながら彼女が風紀委員で、
それもかなり皆から信頼されていて、次期風紀委員長に一番近いところにいることを考えても冗談じゃなく可能だろう。
こちらが人知れず戦々恐々としているのを知ってか知らずか、相変わらず葵姉ちゃんは上機嫌でいる。なんだかよくわからない空気が車内に流れ込んできた。
やっぱり考えるのはやめよう。
4-2終わり4-3に続く...
283 :
ふみあ:2009/09/04(金) 18:36:46
4-3 新しい学生会長
>>薫
入学式から2〜3日たってから授業が開始された。その間に車第二陣(140マジェスタ後期、160アリスト後期、200クラウンアスリート前期、2代目レクサスIS、W212、
BRレガシィ、Y50フーガGT後期、UA4/5インスパイア前期)が来たが、面倒なので機会があればどこかで追記するかもしれない。
とりあえず、自己紹介と簡単に授業内容を説明するだけの特に授業とは言えない授業や、オリエンテーション、部活案内などが続いた。
やはりお嬢様学校だからか、授業にもかなりの部分でどう考えても花嫁修業としか思えない家庭科系や作法系の授業が全体量のかなりの部分をとってたり。部活動も運動部、
文化部共に、一般的なものから金持ち好みのマニアックなものまで多彩な部や同好会があるのはいいのだが、何故か科学・工学系、乗り物系の研究会が一切ない。いや、
辛うじて「生きものクラブ」という同好会があったが…。まあ、基本男しかそういうの興味持たないから仕方がないか。
284 :
ふみあ:2009/09/04(金) 18:40:11
学校生活のリズムにも慣れてくると、今度は生徒会執行部(学生会)とやらの
会長選挙が行われた。
会場となったのは入学式でも使用された講堂だった。入学式の時はそれでも大きいかと思ったが、さすがに全校生徒が入るとかなり狭く感じた。
先日あったオリエンテーションで行われた事前の説明によれば、この学校は学生会会長を中心として副会長以下何人かの役員を中心とし、風紀委員会、学校行事実行委員会、
社会奉仕(ボランティア活動)委員会、クラス委員会といった下部組織がそれを支える形で生徒の自主性に任せて運営されているらしい。生徒会長は全校生徒を代表してこれらの組織と
学生をまとめ上げる立場のため全校生徒による総選挙で、他の役員は生徒会に入った生徒から会長が指名し、残りの委員会の委員長は前任者が所属する委員の中から新任者を指名するらしい。
しかも生徒会には会長の、委員会には委員長の認可を取り付ける必要があるそうな。
学生会長に関しては一応自由に立候補が出来るらしいが、前任の会長が学生会所属の生徒の中から一人を指名して立候補させるため、大抵その指名された生徒一人か、二人以上でも前任者の推薦を受けている点で
有利であるため大体前任の人が指名した人が当選することがほとんどらしい。そのためか今回も立候補は前任の学生会長から指名された2年生一人だけが出馬し、本日この場で選挙演説をし、所定の紙に学年・クラス・
学生番号・氏名を明記した上で信任の欄に、信任なら○、不信任なら×を書いて選挙を取り仕切る実行委員に提出すればいいらしい。
285 :
ふみあ:2009/09/04(金) 18:42:13
前にいた学校の高校の生徒会長戦を思い出してみると、大体立候補者本人の演説が5〜10分、その立候補者を全力で応援する友人・知人・または後援会の代表など応援演説が1〜3人ほど続き全体で長くても10分、
選挙用紙の記入・提出は教室に戻ってから行われた。恐らくそういう段取りであれば、たぶん30分もすれば教室へ戻れるだろう。と、そんなことを暗がりの中で考えていた。
周りの女生徒達は下級生、上級生を問わず、選挙や候補者の演説に対する期待し、楽しみにしているのか、先ほどからずっと周りでざわざわと互いにそのような言葉を口に出し、会場全体がワクワクするような
ゾクゾクするような、異様なほどの熱気に包まれていた。
そんな空気を感じながら、なぜ僕はみんながそこまで生徒会長選挙に熱くなれるのか理解に苦しんでいた。確かに生徒会長は重役かも知れないが所詮は学生の下部組織の長にすぎない。上には下から教員、
教頭、校長、理事会、理事長の順番で君臨しているし、これらの組織の意向にはどうしたって避けられまい、結局誰がなっても同じじゃね? と。だから信任か不信任かも、本人の話を聞こうと聞くまいと適当に決めるつもりでいた。
286 :
ふみあ:2009/09/04(金) 18:43:53
学校行事実行委員の選挙担当の生徒が舞台の傍らからマイクで、
「全校生徒の皆さん、大変ながらくお待ちしました。ただいまより第11X回生徒会執行部・学生会会長選出選挙を始めます。まずは本選挙立候補者有栖川 麗子の選挙演説です。」
という声と共に舞台がサッとサーチライトで眩しいほど明るく照らされると、それらを跳ね返すかごとく、華奢だが、堂々とした風格と存在感と豪華さをその身から周囲に振りかざすような、
強烈な雰囲気を備えた美少女が、自身に満ちた表情で、猛烈な存在感をにじませながら、しかし静かに舞台袖から舞台上に登場するや否や、爆発したかと思うほど会場を揺らすような歓声が全ての女生徒の口から発せられた。
遠く離れた舞台上のたった一人の女性から発せられた。すさまじい威圧感と、それを上回るような地鳴りのような歓声に思わず圧倒された僕は、すごいのが来たなあ、前の学校の存在感が希薄な生徒会長とは大違いや、
とただただ感心するしかなかった。このぐらい気迫があれば理事会は無理にしろ、その手前くらいまでならごり押しが効くかも知れない。
彼女が放つ圧倒的なオーラからは、彼女こそが生徒会長に相応しいとその場にいた全員に感じさせた。また、そもそも今回立候補している生徒は彼女ひとりである。彼女で決まりでいいじゃないかと思ったが、
形式上一応演説をやらないといけないらしい。
287 :
ふみあ:2009/09/04(金) 18:46:31
彼女が演壇の前に立つと、それまで湧いていた歓声は鳴りを潜め、彼女の放つ存在感だけを残し会場は、今度は異様なほどの緊張感と澄みきった水のような緊張感に包まれた。
会場全体が完全に沈黙すると、彼女は泉の水のように澄みきった、しかし空間を切り裂くような意志のこもった鋭い声で、しかし穏やかに彼女の演説を始めた。
「ごきげんよう、みなさん。はじめまして、今回学生会会長に立候補した有栖川 麗子と申します。この度は前任者の大原 美千代お姉様の推薦を預かり、僭越ながら皆様の面前で、正々堂々と戦う事を誓い、
皆さんと一緒によりよい学校の環境を創ることをここに所信表明いたします。…」
その後、彼女は延々30分も、学生会長という重責や、それを全うとする覚悟、己の信念、マニュフェストとそれに懸ける並々ならない意気込みについて熱く語り続けた。
途中何度も運営委員が止めようか止めまいか迷っているのを何度か見かけたが、彼女の尋常ではない気迫に打ちひしがれて結局誰も何も言えなかった。
投票用紙の所定の欄に氏名などがきちんと書けているかを確認して、信任の所に○を書いたあと、なぜ公開選挙なのか疑問に思いながら回収してきた選対の委員に渡してその場は解散となった。
その日の昼休みに、全校放送の選挙開示結果速報で彼女の当選確実が真っ先に伝えられたことは言うまでもない。
4-3終了、4-4に続く。気が向いたらまたupします。ノシ
288 :
名無し物書き@推敲中?:2009/09/04(金) 19:01:03
かったるぅ
289 :
ふみあ:2009/10/08(木) 03:25:42
てすと
290 :
ふみあ:2009/10/08(木) 03:28:26
よっしゃああああ、アク禁解除!さっそく載せます。
4-4 生徒会長との邂逅
>>薫
急がなきゃ、急がなきゃ。くそう、何でこんな日に限って寝坊しちゃうんだろう? まあいい、このまま10分で朝ごはんを終えて出れたら遅刻は回避できるかも…
ん、いや、ちょっと待てよ、なんか忘れてないか? えーと、鍵、携帯、財布、ハンカチ、学生証にMP3ウォークマンはあるな。カバンの中は教科書とノートを昨日のうちに
チェックしてカバンの中に入れてきたから大丈夫なはず、えーと、今日は数T・国T・家U・英T・体…ん、体育?
と、朝食をかきこみながら行儀が悪いのを承知してそばに置いたリュック型の学生鞄の中をチェックしている最中に僕の思考は完全に停止していた。確か今日は5時限に
体育があるはずなのだが、なぜか体操服一式が入った青い布袋が見つからない。やばい、部屋に忘れてきちゃった。
朝食を食べた後寮の食堂からダッシュして1生棟のエレベーターの所へ向かうが、こんな時に限って9階に止まっていたりする。しかも中々降りて来ない。やっと降りてきたエレベーターに飛び乗り7と閉のボタンを同時に押す。
何とか部屋にたどり着き体操服を鞄に詰め込んで部屋を出ようとしたときには8時15分になろうとしていた。やばい、このままじゃ確実に遅刻してしまう。ただでさえ誰も遅刻しない校風な上に、鬼婆のような数学教師の顔を思い浮かべると、
何としても遅刻を回避したかった。
291 :
ふみあ:2009/10/08(木) 03:30:15
ふと、机の上に車の鍵が放り投げてあるのが目についた。とたんに僕の中である黒い考えが浮かんだ。背に腹は変えられない、車で行っちゃおうか…始業は8時半だから車なら余裕で間に合うはず…。
思い立ったら吉日、車のキーを引っ掴むと、そのまま玄関の方へ踵を返し、靴を履いて扉に鍵をかけ、学校へ向かってダッシュした。
寮のエントランスへ降りると、皆先に登校したのかだれ一人いなかった。そのまま外に出て少し裏手にある駐車場へ向かう。手に取ったキーがアリストのものだったので、そのまま開錠してアリストを発進させた。
発車してから2分もしない内にもう女子高生の集団に車は追い付いていた。時刻はまだ20分になったところなので十分間に合うだろう。やたら校内が広い分、中を通る道路も充分に広いため、女子高生の集団が歩いていても
車一台くらいが通れる隙間はそこかしこに開いている。ブレーキングをしてゆっくり徐行しながら、僕は彼女らの傍を通過していた。
しかし、間もなく校舎の入り口に近づいたところで女子高生の山ができていたため完全に停車せざる得なくなった。なぜか他の後から来た女子高生たちも何かを言いながら足を止め、次々とその輪に加わり、
車は完全に周りを囲まれてしまった。
292 :
ふみあ:2009/10/08(木) 03:32:43
まだ、二週間も通っていないが、前日までこういう事はなかったので、一旦停止措置をすると、窓を開けて上半身を外に出し、箱乗りの要領で前の方を覗いてみたが人が多すぎてよくわからない。周りの会話からはなにか相当な人気者が前にいて、
みんなが集まってきたらしいというようなことがわかったが、さすがにこれ以上ここにると冗談抜きで遅刻しそうだった。ここで、車を乗り捨てることも考えたが、さすがに道のど真ん中に駐車するのも考えものだろう。僕はそんなことを考えながら
ステアリングの真ん中、エンブレムの下に付いているホーンボタンを手のひらでグイッと押した。
「パアーーーーーーーーーーアァァァァン!!」と威勢のいい音を出しながらクラクションが辺り一面に響き渡ったとたん、その場にいた全員がこちらの方を睨みつけてきた。少し怖かったが、通りたい意思を示すため数回パッシングした。
露骨に嫌な顔をされたが何人かが車が通れるように道を開けてくれたため、サンキューハザードを点滅させたり頭を下げてお詫びをしたりしながら集団の傍を通過した。
293 :
ふみあ:2009/10/08(木) 03:35:22
その時、先日見事新しい学生会長になった有栖川先輩と新しく役員になった2年の先輩方がいるのが目についた。どうも集団は彼女たち、というより学生会長が目当てだったらしい。話に聞けば会長は
日本随一を誇る多国籍企業である有栖川コンチェルンの一人娘らしく、学校一であろう名家の令嬢である上に、持前の才色兼備な性格からカルト的な人気を誇っているらしい。どうりでこんなに人が集まるはずだ。
そんなことに納得しながら横目で彼女たちを見たとたん、かなり機嫌が悪そうに見える会長と目があった。が、一瞬のことだったので特に気にせずそのまま通過した。そのまま校舎そばの適当なところに停車するまで、
フィルムを掛けた運転席側の窓が全開で向こうからも丸見えだったという事に、僕は全然気付いてはいなかった。
4-4終了。4-5に続きます。
294 :
ふみあ:2009/10/09(金) 04:27:52
4-5 なぜか学生会に入ることになってしまった。
>>薫
車で登校したことについては特に何も言われなかった。というより、生徒によっては実家から車と専属の運転手を取り寄せて通っている人もいるらしくスルーされているようだった。
さすがに自分で乗ってきたのは僕だけらしいが…。
ただ、何人かのクラスメイトに車から降りてくるところを見られたらしい。車乗ってくることもさることながら、その車がドリ車仕様のVIPカーだったためものすごく奇異な目で見られた。
ただ、自分でも意外だったが、車を自分だけの更衣室として十分活用できたのは一つの収穫だった。更衣室での着替えだと他の女子に絡まれることで男だとばれそうになったり、
時間差を稼いで人が少なくなった後に急いで着替えるにしろ、何かしらの罪悪感があり、第一授業がプールで行われた時にどうしようかと考えていたので、更衣室に行くふりをして
車の中で着替えればすべての問題が解決できることを発見できたことは本当に良かった。これから体育があるときや着替える必要があるときは車を使う事にした。
295 :
ふみあ:2009/10/09(金) 04:30:17
その日の終業のホームルームが終わった僕は、特に部活に入っているわけでもないので寮の方へ帰ろうとして、車の元に向かっていた。やや日が傾いてきたせいか、夕陽の光を浴びてアリストは
そのシルバーメタリックの車体を金色に光らせて、朝停めた場所と同じところに止まっていた。
車の鍵をボタンで押してアンロックして、ドアノブに手を掛け、ドアを開いて乗り込むためサイドバーを片足でまたごうとした時だった。突然とてつもない気迫を纏った何者かに右肩を掴まれた。
「お待ちなさい。」
限りなく澄みきった、しかし容赦を許さない女神のようなその声を耳にして、僕の体はガチガチに硬直していた。
このオーラ、この独特の声の響き。振り返るまでもなく今後ろに立っているのが誰か、嫌でも理解できた。
296 :
ふみあ:2009/10/09(金) 04:31:48
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには僕の肩を掴んだまま仁王立ちしている学生会会長その人がいた。そこはかとなく命の危険を察知つつも、
後ろ背に夕日を浴び、金色に髪を輝かせ、時折吹く風に靡かせながら、堂々として佇むその風格に圧倒され、僕は不覚にもかっこいいと思い、
そしてどうしてよいか分からずしばらく沈黙した。
先に沈黙を破ったのは会長の方だった。
「あなたがこの車の持ち主かしら?」
「………(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) 」
「名前を訊いても宜しいかしら?」
「……( ゚д゚)ハッ!」
「黙っていては何もわからないわ。お名前はなんていうのかしら。」
最初のやや棘のある感じから、何か柔らかい雰囲気に変化したところで漸く僕は口がきけるようになった。
297 :
ふみあ:2009/10/09(金) 04:33:10
「いっ、1年5組3番、綾小路 薫とも、もうしまう。は、初めまして…。」
「初めまして、薫。いい名前ね。わたくしのことはご存知かしら。」
「は、はい! よく存じ上げています。こ、この度の選挙、御当選、お、おめでとうございます。」
「そんなに力まなくてもいいわ。少し肩の力を抜きなさい。」
「は、はあ…..。」
いったいこの人はこんな名も無い新入りの元へ何用で来たのだろう。まさか野暮用ではあるまい。未だパニクっている頭でテンパりながら思案していると、
「薫、今朝あなた、わたくしに対してこの車の警笛を鳴らさなかったかしら?」
この人、ひょっとして今朝のことまだ根にもているのか? 彼女の言葉を聞きながらはっと、今朝の出来事を思い出した僕は、まさかの野暮用に驚きつつもすぐに彼女に対し謝罪と言い訳を始めた。
「すみません。僕、いえ、わたし、麗子様があの場にいらっしゃることを知らなくて。今朝は急いでいたので、つい。やだわたし、本当に失礼なことを。ごめんなさい。本当にすみませんでした。」
と、頭を下げた。今は、僕は女の子として過ごしていることを考慮して、また何かこっちの方が心象が良さそうだったので自分のことを「僕」ではなく、「わたし」と称してみた。
それでも、ものすごく怒られる事を覚悟していたのだが。以外にも会長は、
「畏まらなくてもいいわ。わたくし、そこまで怒ってはいませんから。」
と言ったので、少し拍子ぬけた。が、
「ただ、申し訳ないというなら、少しわたくしに付き合ってもらえないかしら?」
「……?」
何処へ行くか分からなかったが、申し訳も込めて、取りあえず後部座席の方へ乗ってもらった。
298 :
ふみあ:2009/10/09(金) 04:37:44
会長に言われるがまま校内にそびえる小高い丘を登っていくと、頂上、行く手の先にこじんまりとした、しかし造りが華奢な、2階建ての洋館が見えてきた。事前に人から聞いた情報では、
通称学生会館と呼ばれ、他の校舎から離れており他の生徒が寄り付かず、そして一番高い所にあるため、学生会部員の詰め所、兼憩いの場になっているらしい。
建物の前で車を止め、停止措置をし、エンジンを切って車から降り、後ろの扉を開け、会長を車から降ろしてすぐに、会長から「ついてらっしゃい。」と言われて、おとなしくついて行く。
建物と見事に調和した玄関の扉を開けると廊下と階段があり廊下を真直ぐ行くとキッチンと物置、階段を真直ぐ登って行くと上の階にある執務室に辿り着くようだった。
(長いので一旦ここで切ります。後半へ続きます。)
299 :
名無し物書き@推敲中?:2009/10/10(土) 00:20:08
めんどくせえwww
300 :
名無し物書き@推敲中?:2009/10/10(土) 01:12:51
恋愛小説の陳腐さが日本の小説を糞にしている。
そりゃノーベル文学賞は無理だわ
301 :
名無し物書き@推敲中?:2009/10/10(土) 18:15:15
まだ続くの?
個人的には
>>16の続きの話が読みたい
302 :
ふみあ:2009/10/10(土) 21:08:15
>>298 玄関に入ると、足元にある籠に入ったスリッパに履き替えて、脱いだ靴は其処にある下駄箱に仕舞うように指示された。
その通りに靴を脱ぎスリッパに履き替え、下駄箱に靴を置こうとすると、もう先に何足か靴が収まっていることに気がついた。
次に会長は階段を上って行き、そのまま突き当たった奥の、見た感じかなり広そうな部屋に入って行った。そのまま僕も続けて
その部屋に通じるドアを開けて部屋に入った。
まず目に入ったのは向かいと左右に開いた大きな飾り窓だった。そのせいか薄暗い廊下と比べて部屋全体が明るく感じた。
床には赤い、少し古びた絨毯が引いてあり、壁・天井の壁紙の色はベージュ色で、部屋の明るい雰囲気に華を添えている。
そして天井には古びたシャンデリアがぶら下がり、まるで祖父母の家の応接間を彷彿させるような部屋だった。広さも20畳
くらいはあるだろう。2階一杯を使って一部屋を作ったようである。
何よりも目についたのは、かなり古い骨董そうな大きな長方形のダイニングテーブルと十数脚位の椅子、そしてそこに座る何人かの
生徒だった。皆さっきまでティータイムに興じていたみたいだが、我々、いや会長が部屋に入って来たとたん、急に姿勢を正して部屋に向かいいれた。
一旦その場にいた全員が会長の方へ向き直り挨拶を交わした後、ほぼ同時に会長についてきた僕の方へ視線が注がれる。中には今朝、あの場にいた
生徒もいたのか、互いにこそこそと耳打ち合う人もいた。しかも全員役員を務める2年生か、引退してある意味OGを気取っている3年生しかいないようである。
非常に気まずい。
303 :
ふみあ:2009/10/10(土) 21:13:10
その時一人のショートヘアの2年生が、
「その娘どうしたの麗子? ひょっとしてもう妹なんてつくったの? 手が早いわね〜。」
と言った。この先輩、会長にため口をきいている?! 麗子様には同級生どころか上級生すらその気品に対し皆敬語を使う
と聞いていたので、僕はこの先輩がよほど親しいのか、ただの無謀な馬鹿なのか、どちらか判断しかねた。
「違うわ、凛。それにここでは会長とお呼びなさいと何度言えばわかるのかしら。」
「はいはい会長さん。別にいいじゃない。あんたとわたしの仲なんだし。で、妹じゃないならなんなのよこの娘?」
どうやら前者だったらしい。
「だから今説明するわ。おほん。皆さん、この娘の名前は綾小路 薫。この春入ったばかりの一年生で、本日から本生徒会執行部で
役員見習いとして入部することになりました。ほら、薫。皆様に挨拶なさい。」
304 :
ふみあ:2009/10/10(土) 21:18:28
あまりにもサラリと言われたので、一瞬思考が追い付かなかった。生徒会? 入部? 学生会に入れとは一言も…ただ
付き合えって…あれ、もしかしてあれ、学生会に参加せいっていう意味だったの? えっ? えっ? Σ(゚Д゚;エーッ!
聞いてないと抗議しようかと思ったが、頻りに挨拶を迫る会長の顔に鬼気迫るものを感じたのでなし崩し的に
受け入れてしまった。ええい、ままよ。
「1年5組の綾小路 薫です。これからお願いします。」
と、挨拶をすると、先ほど凛と呼ばれた2年生が、
「宜しくね、薫ちゃん。わたしは尾添 凛、今期の副会長をやってる麗子の親友。
んで、今そこにいるおさげ眼鏡が会計の朝倉 綾乃で、反対側に座っている貧乳ツインテールが書記の中西 怜。」
と言うと。
「誰が、貧乳ですか! 誰が!」
と中西と呼ばれた先輩が凛先輩に噛みついた。どうやら相当なコンプレックスらしい。
「貧乳でしょ。どう見ても。」
とよせばいいのに凛先輩も煽る。
「私は普通ですよ。皆さんが大きすぎるんです。」
「まあまあ、レイちゃん落ち着いて、リンちゃんも煽らないで」
と、朝倉と呼ばれた先輩がなだめる。すると二人とも喧嘩を止め、
「アヤノンが言うなら…」
「はいはいごめんね。んでそこにいるのが前回役員だった…」
とその時来ていた3年生で前役員をやっていた先輩達を一人ずつ紹介された。
305 :
ふみあ:2009/10/10(土) 21:20:16
一通りその場にいたメンバーを紹介した後に、凛先輩が。
「しかし薫ちゃん。わたしの記憶が確かなら、今朝私たちの傍を車で通らなかったかい? えっ、えっ。」
「はうう、ごめんなさい。」
「ダメだぞ〜そんなことしちゃ。まあ、誰も咎めないけどねうちの学校。ところで免許持ってるの?」
「少年用の普通免許ですが持ってます。」
「へえ、見せて見せて。」
「あうう…」
どうしたものか、免許証にはウィッグも化粧もしていない僕の写真が写っている。見られたら僕が男であることがばれてしまう。困ったな。
「ねえねえ、お姉さんに見せて見せて。」
「はうあ….うぅ」
どうしよう。
その時僕に一計が案じた。そうだ、写真のとこだけ隠して一瞬だけ見せるのはできないか? 免許証には氏名、生年月日、住所、免許一覧と写真以外は性別すら書いてない。
写真さえ隠せればオールOKジャン。善は急げ、早速財布を取り出し、写真だけがうまく隠れるように出した後、「ねっ。」と言いながら少しだけ見せる。すると先輩は、
「お、持っているのか。だったら素直に見せれば良かったのに。」
「は、恥ずかしかったんです。」
「何言っているのそれくらいで、かわいいなあ、もう。」
と言いながらどこぞの親父の如く、いきなり先輩が抱きついてきた。どうやら写真の件はスルーしたらしい。ひとまずホッとしたが、如何せん胸が顔に当たって苦しい。
306 :
ふみあ:2009/10/10(土) 21:36:54
「うぅん、やっぱ小さい子は抱き心地がいいなあ….ε-(´∀`*)」
とわけのわからぬ事を云いながら先輩はずっと抱きついていたが、急に何かに気がついたのか、離れたと思ったら、後ろにいる怜先輩に向かって、
「怜、喜べ。薫ちゃんも胸がないぞー。」
と叫んだ。先輩、今ここでいう必要がありますか?
思わず赤くなったとたん、それまでずっと我慢していたのか。麗子先輩が、
「凛、もうそれくらいになさい。薫、今からあなたの仕事を説明するわ。」
と言ったとたん。凛先輩は悪ふざけを止め、再び静寂が訪れた。
仕事は簡単な役員の補佐と雑用だった。とりあえず放課後になったらここにきて、お茶を入れたり、役員の指示に従って簡単な作業を行う事が当分の仕事だそうである。
そしてなぜか先輩のことを敬意を込めてお姉様と呼べと言われた。つまり会長なら麗子お姉様。副会長なら凛お姉様という風に。要は尊敬する姉を一途に慕う妹の如く姉にこき使われろ、
というようなことらしい。なぜか凛先輩の何かのつぼにハマったらしく、何度も「薫ちゃん。」「なんですか? 凛お姉様。」「なんでもなーい。」などという不毛なやり取りをさせられたことには閉口したが…。
とにかく、その日僕は半ばなし崩し的に、学生会の一員になった。
4-5終了。4-6に続きます。
>>301 ごめん、まだ当分続く。正直いつ終わるかわからんOTL
307 :
名無し物書き@推敲中?:2009/10/11(日) 02:36:18
ブログ「イザ」の相模文芸クラブ。
ここに作品がさらされ、批評を求めてる。
他の作品を見るのも、批評するのも有益だ。
308 :
名無し物書き@推敲中?:2009/10/15(木) 01:42:59
>>301 二年前にうpされた作品だからもう続きはみれないだろ
309 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/07(木) 12:28:06
アク禁解除テスト
310 :
ふみあ:2010/01/07(木) 13:47:17
久しぶりに
>>306の続きから
4-6
>>薫
学生会館へ続く坂道の右カーブの途中から学生会館前の広場に突っ込むように左方向に車の向きを向け、
そのままブレーキを踏みながら建物の前まで突っ切ったところで停車してエンジンを切る。
シートベルト外しながら助手席の上に放り投げてた青色の封筒を手にとり外に出る。20クラウンのドアがロックしたことを確認してから
いつものように玄関の扉に歩み寄り建物の中に入る。
中に入るとさっきよりも薄暗く、やけに静かなような気がした。決して大きくはないが古い上に重厚な造りをした建物なので物音が響きにくい上に、
日も落ちてきたので気のせいだと思いながら履物を履き替えて階段を上る。
階段のあるホールにやたら大きく自分の足音がこだまするので、どうやら他の人は今で払っているらしい。そんなことを考えながら
執務室のドアの前に立つと、部屋の中から微かにだが異音がすることに、ふと僕は気がついた。何の音かわからないので
異音の正体を見極めるため僕はドアに聞き耳を立てた。
扉の向こうからは人の…女の子の「はぁ、はぁ、んん!、あぁ」という感じの喘ぎ声が聞こえてきたので一瞬僕の思考はフリーズした。
固まりながらなお聞いているとさらにもう一つ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ふふ、加奈ちゃんったらかわいい声なんか上げて..ほらもっと私にその声を….」
「….んうん、あぁぁ…様..ダメ♡…」
311 :
ふみあ:2010/01/07(木) 13:49:59
心臓が飛び出そうなところをなんとか堪え、中の二人に気づかれぬようにそっとドアを開け、隙間から覗き見る。残念ながら眼鏡の外だったので大まかな輪郭しか見えなかったものの、
それを尾添先輩と、リボンの色から自分と同学年だとわかる、知らない女の子が百合っぽい情事に耽ってる現場だと確認するのには十分すぎるものだった。
あの噂は本当だったのか….と感心しながらも、気づかれないようにドアをそっと閉める。残念ながら僕には他人の情事を興奮しながら覗き続けるような真似は出来ないので、
抜き足差し足しながら階段の方へUターンして、一階に降りた。
階下に降りたのはいいが、どうしようか、車の中でやり過ごそうかと考えていたとき、何故か自分が手ぶらであることにふと気がついた。封筒よ、どこへ行った?
312 :
ふみあ:2010/01/07(木) 13:54:42
2階までは確かに持って上がった記憶があるので落としたとしたら執務室の前だろうと考え、階段に足をかけようとした時、執務室のドアが開き、こ
ちらに向かってくる足音が聞こえた。急いで階段の下に隠れてやり過ごすことにする。
一階に降りてきた二人は階段のそばで何やら話している。時折「彼氏」だとか「あいつなんか」とか「気持ちよく」とか聴こえてきたので
恐らく碌な内容ではないと察せられたが良くは聞こえない。それよりよく考えたら今外には僕の車が止まっていることに気がついた。
封筒と車…ああ、詰んだな。
予想通りか、二人は扉を開けて外に出て行った。恐らく車に気付いただろう。先輩が戻ってくるまでここに隠れていた方がいいかもな。
で、戻ってきた後にさも今まで外に封筒を探しに行っていた振りをして合流する方がいいだろう。
313 :
ふみあ:2010/01/07(木) 13:59:01
そうこうするうちにすぐに先輩が戻ってきた。そして先輩はそのまま階段の方に目をくれず一階の廊下の方へやってきた。そして階段下のスペースを覗きこみ…
「みーつけた♡」
と言いながら隠れていた僕と目があった。
先輩と目があったので「こんにちはお姉さま♡」とさも今出会ったかのように下級生らしくなるべくかわいく同じように挨拶を返す。すると先輩は
「何やってるの?薫ちゃん、ひょっとしてかくれんぼ?」
とおそらく当然疑問に思うであろうことを聞いてきた。
「いえ、違うのですが…あ、でも、そうかもしれませんね。私おっちょこちょいのせいかファイルを失くしてしまったみたいで..
確かにここまでは持ってきたはず何ですけれど、ああ…ホントどこへ行っちゃたんだろう。」
と答えながらさも探しているかのように床に手をつきながら動きまわていると、
「それって、ひょっとしてこれのこと?」
と言いながら先輩は僕に先程の青い封筒を差し出してきた。
呆然としながらそれを受け取ると、先輩は
「見つかってよかったわね、ここではなんだから上でお茶でもしない?」
と言ったので、反射的に「はあ。」と返事をしていた。
続く...
314 :
ふみあ:2010/01/08(金) 14:24:09
続き
二階に上がり執務室に入ってしばらくした頃になってやっと我に返った。そしてこれからどうするか考えた。やはり、いったん執務室の前に来たものの
車に忘れ物をしたことを思い出して封筒を放って来てしまった、ということにしておくことにした。
先輩と向き合ってお茶を飲みながら、先輩に
「お姉さま、さっきは本当にありがとうございました。あの封筒、どこで拾ってくださったのですか?」
と聞いてみると、
「ああ、そこの…この部屋の前の廊下のところに落ちてたよ。」
と予想通りの答えが返ってきたので、
「あ、そこに置いて来てしまったんですね。先程執務室の方に来た時車の方に忘れ物をしてしまったのを
思い出して慌てて取りに戻ったんです。私おっちょこちょいだからそのと…」
と言おうとしたが、途中で遮るように
「ねえ、薫ちゃん」
と先輩が意味深な雰囲気で話しかけてきた。
「はい?」
「ひょっとして、見てたんじゃない?」
「ほぇ、何のことですか?」
全身全霊、全力をかけて精一杯とぼける。
「(ΦωΦ)フフフ…何って、わたしたちのこと♡」
「だ、だから何の事を仰ってるんですか?お姉さま。」
「知ってるわよ…わたしたちがしてること、あなたが覗いていたこと。」
「し、知りませんよ。本当に、な、何のことですか?」
やばい、ぼろが出そう、っていうかばれてるじゃん。
「とぼけないで、知ってるのよ。」
「い、いや、ほんともう、なんのことやら…」
顔が紅くなってるのが自分でもわかる。
「あら、ひょっとして見ていて興奮していたの?」
と耳元で先輩が囁いてくる。
「そ、そんなこと…」
315 :
ふみあ:2010/01/08(金) 14:25:49
やばい、ドキドキしてきた。否、ドキドキしすぎているような気さえする。よく考えたら覗き見たのは確かだが興奮している程覗いてはないし、
殆ど視界にも入ってはいなかった。思い出して、というよりは明らかにすぐ隣で甘い声で囁かれているからドキドキしている気さえする。そういえば
なんで先輩は僕のすぐ隣にいるんだ?先輩は確かテーブルの向かいに座っていたはず。
疑問に感じたのとほぼ同時に、突然先輩が僕の首に腕を回すように後ろから抱きついてきた。
「な、何をするんです?!止めてください!」
と半ば叫びながら振りほどこうとしたが、時すでに遅し、かなり強い力で抱きしめられてしまった。
「ふふ、こんなに紅くなっちゃって、やっぱり見ていたのね。」
「こ、これは、ちがっ…」
力がだんだん強くなる。
「違うの?」
「いえ..ほ、ホントはみ、見てい、まし、た。」
急に力が緩んだ。深呼吸をしながら改めて聞いてみる
「お姉さま。」
「ん、なーに?」
「あ、あの噂、本当だったんですね?」
316 :
ふみあ:2010/01/08(金) 14:28:35
最近一年生の間に『学生会関係者で、1年生を次々と喰っている2年生がいる』らしいという噂がまことしやかに流れていた。もうなんだかんだと10人近く喰われたそうで、日替わりで下級生を捕まえては学生会館へ連れて来て事に及んでいるという、そういう噂だった。
この噂を聞いた時、信憑性はともかく狩人の目星はついてたが、実際目の当たりにするまで正直信じられなかった。と、いうより先刻から狩人の顔色を窺うと、どうやら次の獲物は僕らしい、ヤバイ、ヤバすぎる。
「あら、あの噂って何かな?」
フフフと、小悪魔っぽく微笑みながらその人は逆に聞いてきた。
「その、一年生に、その…あんなことやこんなことをさせているとか、そういう…。」
「あんなことやこんなことって?」
「ご、ご想像にお任せします。」
「もしかして薫ちゃんもこういう事、考えていたの?」
と言いながら僕の股間の方へ右手を伸ばしてきたので、
「止めてください!怒りますよ!!」
と言いながら彼女の右手を叩くように払った。あぶねえ、男だってバレルとこだった(; ・`д・´)。
317 :
ふみあ:2010/01/08(金) 14:32:19
「あら、嫌なの?それとも嫉妬いているのかな?」
「どうして嫉妬くんですか?!」
「薫ちゃんがツンデレかもしれないじゃない。それに…」
「….?」
「わたしのテクで気持ち良くならなかった娘なんていないんだよ。」
「…?..あっ!しまっ…」
遅かった、僕が油断した一瞬のすきを突いて、彼女は右手を僕のスカートの裾の中に突っ込み、そのままショーツの上から指で艶やかに撫で始めた。が、股間にある一物の違和感に気がついたのだろう。急に愛撫を止めると彼女は驚愕した表情でこういった。
「薫ちゃん、君、ま…まさか…」
「あ、ああ、あぅ….あぅ、あ…..ああああああああ!」
/(^o^)\ナンテコッタイ、バレテもうた。\(^o^)/オワタwwwwwwww
4-6終 4-7へ続きます
318 :
ふみあ:2010/01/28(木) 13:32:56
test
319 :
ふみあ:2010/01/28(木) 13:35:30
>>317 規制解除されたので続きをカキコ
4-7
>>薫
五月が近づいてきたせいか今日も頭上には嫌なくらい澄んだ青空が広がっているが正直朝から気分がどんよりとして重かった。昨日はあの後その場から逃げだしたこともあって正直帰りたかった。あの人が来るまでは…
「薫、あなたにどうしても確かめたいことがあるから….わかってるわよね?」
そういってものすごい剣幕をした麗子先輩は放課後呼び出しに、僕のところへ昼休みになったとほぼ同時にやってきた。
「わかってます..お姉さま。」
「あるとは思わないけど、間違っても逃げようなんて考えちゃ駄目よ。」
「め、滅相もないです!」(((( ;゚д゚))))アワワワワ
「あと、今度新しい風紀委員長になった綾小路 葵、あなたの従姉だそうね。」
「は、はい。」
「あの娘も当然このことを知っていたんでしょうね。」
「あ、葵お姉さんは…ッ。」
知らなかった、じゃ済まされないか…そう気付いた途端、黙らざる得なくなった。
「私はなるべく事を大げさにしたくないの。綾小路 葵はあなたがそれとなくわたしのところへ連れて来なさい。いいわね?」
「わ、わかりました。」
強い口調で言われて気落されながら力なく返事をすると、麗子先輩は教室から出て行った。
320 :
ふみあ:2010/01/28(木) 13:37:15
今をときめく生徒会長が僕ごときに会いに来たのが不思議だったのか、クラスどころか廊下からも
おおくの生徒がこちらの様子を窺っていたようだった。その場から逃げるように学食へ昼食を取りに行こうとすると、スクープに喰いついた芸能週刊誌の記者のごとく瞳を輝かせながら猪瀬がついてきた。
「ねえ、ねえ、薫さん。今の麗子さまよね、ね?どこで知り合ったの?麗子さまのことお姉さまって言ってたわよね?ひょっとしてあなたたち姉妹の契りを….いえ、もしかして、
もしかすると、百合!キャ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
お前は無駄にテンションの高い腐女子か?とうんざりしながら
「ちがいます。ひょんとしたことで僕が学生会に入ることになったので面倒を見てもらっているだけです。」
と訂正すると
「でもさ、でもさ、わざわざ放課後自分のところへ呼びに来たってことはさ、さ、ホントは満更でも…」
「あるわけないでしょ、昨日学生会の仕事で大ポカをやらかしちゃったから、そのことで説教するために呼び出されただけです。」
「そ、そうなんだ…(゚听)ツマンネ」
そういって猪瀬はどっかへ行ってしまった。遠巻きに様子を窺っていた野次馬もつまらなそうに退散していた。お前らは何を期待していたんだ?
321 :
ふみあ:2010/01/28(木) 13:39:52
学食へ行くついでに葵姉ちゃんに軽く事情を話して学生会館に一緒に来てくれるよう話しておこう、と思い遠回りになるが階段で3階まで登り2年の葵姉ちゃんのクラスまで向かおう。
としたがちょうどいいところに他の春日さんと一緒に葵姉ちゃんが階上からこちらの方へ降りて来るのが見えた。
向こうの方も僕の存在に気付いたのか、こちらに声をかけて来た。
「あら薫、どうしたの?」
「ひょっとしてランチのお誘いかな?」
「あ、まあ、そんなところです…」
適当に茶を濁しながら精いっぱい作り笑いを作りながら葵姉ちゃんのそばに行く。
「あのさ、お姉ちゃん。放課後、少し時間貰ってもいいかな?」
「ん、どうして?」
そこで僕は彼女の耳元で他の人には聞こえないように囁いた。
「バレちゃった…」(∀`*ゞ)テヘッ
次の瞬間僕は彼女の表情が強張ったのを見逃さなかった。というより、只でさえ大きな瞳をさらに大きくして目を見開き、全身を固まらして凍りついているようだった。
そしてそのあとすごい形相で、青から赤に顔色を変えると、僕の腕を引っ掴み、傍らにいる春日さんに向かって
「雪乃ちゃん、食堂へ先に行ってくれない?少し薫と二人だけで話したいことがあるから。」
「ん?うん、わかった…」
322 :
ふみあ:2010/01/28(木) 13:43:46
そうして春日さんが行ったのを確認すると、そのまま僕の腕を引っ張りながら、階段そばの女子トイレの個室の一つに入り、鍵をかけた。そして
「薫、バレたってどういうこと?まさか…」
「…うん。」
「なんてこと…」
葵姉ちゃんはこめかみに手を当てて溜息をついた。
「いったい何があってどうしてバレタの?」
しどろもどろしながら昨日の尾添先輩との顛末を語り、今現在尾添先輩と有栖川先輩の両名がこの事実を知っていること、そして証人として有栖川先輩のもとにお姉ちゃんを連れてくるよう言われたことを葵姉ちゃんに話した。
全部話し終えると、葵姉ちゃんは半ばあきれながら
「ホント、あなたって子は….。」(# ゚Д゚)
「不可抗力だったんだから仕方ないじゃん。」(TдT)
「仕方ないじゃないわよ、わたしの立場も考えてよ。」ヽ(`Д´)ノプンプン
「悪かったと思ってるよ!だけど…。」(;´Д`)
「もー、風紀委員長が女装した男の子の存在を黙認するどころか幇助してたなんてことが学校中に知れ渡ったら…。」( ´Д`)=3
「あ、でも、でも!麗子様は事を荒げるつもりはないって仰ってたよ。たぶん内密に処理するつもりだろうから…」
「それでもあなたと私が従姉弟同士であることは周知の事実だから勘のいい人は簡単に察するわ…」
「あー...」
323 :
ふみあ:2010/01/29(金) 03:54:58
そうしてしばらく、お姉ちゃんは頭を抱えながら、僕は足元を見つめながら、完全に沈黙した。
そして腹が据わったのかお姉ちゃんの方から静寂を破った。
「とにかく、向こうの出方次第ね。ここで愚痴ってても仕方ないわね…」
「放課後になったらそっちの方に迎えに行くよ。」
「わかったわ。とりあえず今はお昼を食べに行きましょう…」
「うん..」
僕らはトイレを後にした。
4-7完 4-8に続く
324 :
ふみあ:2010/01/29(金) 03:56:14
4-8
>>薫
執務室のドアの前に来ると、すでに部屋の中から人の気配が感じられた。僕は左側に立っている葵姉ちゃんの方へ顔を向け、
互いに何かを確認するように二人でうなずいた後、覚悟を決めて扉を二回軽くノックした。
すると同時に部屋の中から
「どうぞ。開いてるわ。」
といつもよりやや険しい口調の会長の声が聞こえてきた。僕はドアノブを握り
「失礼します。」
と言ってドアを開けて先に部屋の中に入り、ドアを支えながら葵姉ちゃんが入ったのを確かめて扉を閉めた。
部屋の中には既に4人の役員全員が席に着いていた。
「遅かったわね、いの一番に来なさいって言わなかったかしら?」
と会長が依然険しい口調で尋ねた。
「す…すみません。お姉ちゃんを迎えに行く時に…手間取ってしまって…」
とオロオロしながら答えると
「まあ、いいわ…悪いわね、葵さん。呼び出しちゃって。少しこの子…」
とちらりと僕の方を見ながら
「…のことで確認したい事があったから、証人として私たちに証言してもらいたかったのよ。話はたぶん聞いてるわよね?」
と言うと、葵姉ちゃんは
「ええ」
とうなずいた。
325 :
ふみあ:2010/01/29(金) 03:57:35
しばらく沈黙が続いた後有栖川会長が僕の方を向きながら
「薫、まずはこれだけは確認させて、あなたは女ではなく、男なのね?」
「はい、そうです。間違いありません。」
「では、凛のいうことは間違いないのね?」
「あたしゃ嘘はつかないよ?」
「凛、あなたは黙ってて、わたしは今薫に訊いているの。で、どうなの?」
「凛お姉さまが麗子お姉さまにどのように説明したのかはわかりませんが、たぶんそうです。」
「そう、つまりあなたはこの学院が女子校であることを知りながら、男なのに女だと詐称して入学して、今まで学生として生活していた。と、いうことね?」
「はい。」
「しかもあなたにはこの学校に親しい身内がいた。しかもその娘はわたしと同じ学年で、しかも今期の風紀委員長だった。あなたたちが親しそうにしているのを目撃した生徒が何人もいる。まさか知らなかったというわけではもちろんないのでしょう?葵さん。」
「ええ、知ってたわ。」と葵姉ちゃん。
「なら、なおさら悪いわね。ただ、あなたのような風紀委員、それも責任ある委員長がこういう真似をしたということが腑に落ちないわ。ばれたらただじゃ済まないってわかってたでしょうに。どうしてこんなことを?」
「そ…それは…」
326 :
ふみあ:2010/01/29(金) 03:59:19
どうしようかと葵姉ちゃんと二人、顔を見合わせて苦笑する。葵姉ちゃんは心底困ったような表情をしていた。恐らく僕も似たような表情をしていたのだろう。
そんな僕らの様子から何かを悟ったのか
「どうやら一応それなりの理由はあるようね。話してくれないかしら?」
「え、ええ…でも。」
言えない。曾祖母のボケた勘違いでふざけた遺言状によって女子校送りになりましたなんて言えない。
曾祖母の名誉に関わるし、親戚一同白い目で見られかねない。何より僕自身が恥ずかしい。そこは同じだったのか葵姉ちゃんが
「すみませんが、公にできない身内に関する話になりますので返答を慎ませて頂きます。」
と言うと、会長は別に気にすることでもないように
「構わないわ。私も他言無用にするつもりだし。ここに他人の恥ずかしい秘密を言い回るような娘はいないから話してくれない?
理由次第では私も酌量しないでもないわ。」
と言った。
327 :
ふみあ:2010/01/29(金) 04:00:44
どうしたものかとも思ったが、やはり話さぬわけにもいかないだろう。僕は葵姉ちゃんの表情を窺うと、彼女もこちらを向いた。話した方がいいと目で合図された気がしたので、
僕は事の顛末を一から説明することにした。
「実は…こうこうこういうことがあったんです。」
「なるほど、そういうことがあったのね。」
「ホントにわかったのかな?」
「さっぱりわからなかったけど、おおよその事情はわかったわ。難儀なおばあさまをもったものね。」
「そうですね…」
「でも、あなただって嫌だったのなら断ってもよかったんじゃないの?」
「そうしたかったんですが..断ると私以外の親族も遺産相続できなくなるような書式だったらしくて
無理やり入れさせられたんです。ちょうど中学を卒業する頃でしたから丁度いいって。」
「フフフ…ひどい人たちね。」
「全くです。迷惑です。」
「で、こちらでのお目付け役を葵さんが仰せつかった、ということね?」
「はい。」
「そういうことなら仕方ないわね。薫、あなたには風紀委員による監視付きで
ここに残ることを認めましょう。葵さん、あなたもこれまでどうり風紀委員長として頑張って頂戴。」
会長はこういうと今度は同席していた他の役員の顔を見渡しながら
「3人ともこれでいいわよね?」
と決定に対する同意を求めた。
328 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 00:12:34
「いいんじゃない。」
「私も別に構いませんよ。」
と二人は一応同意したが怜先輩だけが強硬に反対した。
「私は反対です!絶対に同意なんてできません。」
「なぜ?」
「なぜ?って!当り前じゃないですか。男ですよ、お・と・こ!この神聖であるべき女学園に汚らわしい男がいるんですよ。」
「別に女子校って、いうほど神聖でもないわよ。むしろドロドロしてるんじゃないかしら。」
「でも…!」
「それにこの子の問題が綾小路家の遺産問題に絡んでいるとわかった今、あまりこの問題に執着しない方が得策だわ。
わざわざ学生を一人切って収入を減らす必要だってないでしょう?」
「でも、でも、会長。不正を許すんですか?」
「許すつもりはないけど、そこに執着するつもりもないわ。それに一応監視させるという対策は執るって言ったでしょ?」
「ですが…!」
「怜、あなたにはわからないかも知れないけど、わたしも凛も綾乃の家も、綾小路の家とは
ビジネスでもプライベートでも付き合いがあるの。綾小路家の遺産問題が絡む以上、この子を強引に追い出しても、
先方に混乱を招いて私たちが綾小路家の人々の恨みを買うだけで、デメリットはあってもメリットは全くないわ。
むしろ事を丸く収めるためには全力でスルーする必要もあるのよ。」
329 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 00:18:59
怜先輩はまだ何か言いたいようだったが、黙ってしまった。だが会長は続ける。
「それに今はもう四月の末、さすがに新入生同士互いの顔も覚えたでしょ。理由なく失踪したクラスメイトの事情をあれこれ詮索する…
そういう子が現れたら厄介だし。まだ入って一カ月も経ってないから家庭の事情と説明することも苦しいわね…余程大きな問題を起こしたならともかくね。」
怜先輩は叫んだ。
「起してるじゃないですか!現に。彼女、いえ、彼は男の子ですよ。女子校に男!大問題じゃなきゃ何なんですか?会長!これは糾弾すべき重大な問題です。」
「怜、あなた少し落ち着いて考えなさい。もしこれが外部に漏れたら学校中が混乱するわ。それにさらに学校の外に漏れたら…女装男子の入学を許した学校という
レッテルを貼られて女学院の面子や信用を傷つけることになる。そうなったら学院の経営にも重大な影響を与えかねないわ。」
「わかりますが、わたしは…!!」
先輩はまだ続ける。
「だから今のところわたし達で薫を監視しながら保留しておくのが一番いいのよ。わざわざ事を荒立ててややこしくする必要もないわ。
今のところ誰かが何かの被害にあったわけでもないでしょ。それに本人達もそれなりに覚悟してここにいるようだし…問題ないでしょ。」
「今はそうでもいつか絶対問題を起こします。男なんてみんな女を食い物にする獣なんです。すぐに被害にあう娘が絶対に出ます。追い出すべきです。」
「そうならない様に監視はつけると言っているでしょう?本人だってその気はないって言いてるんだし。」
「男のいうことなんて信用できません。」
「もうわかったわ。話はこれでお終い。葵さん、こちらにいる時と授業中以外…できるだけでもいいから保護者として、風紀委員として責任もって薫を監視すること、
お願いできるかしら?」
「はい。わかりました。」
330 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 00:20:56
「じゃあ、下がっていいわ。ごめんなさいね、時間を取らせて。」
「いいえ、では失礼します。」
「…それと薫。」
「はい。」
「あなたもくれぐれも妙な問題を起こさないように気を付けること。間違っても他の人に男だと勘付かれないこと。あとついでにこの書類一式をクラス委員会の方へ持って行ってくれるかしら。」
「クラス委員会….議長の田淵さんのところへですか?」
「ええ、いなければ副議長か、他の委員に頼んで議長に回すよう頼みなさい。」
「わかりました。行ってきます。」
そして僕は小型の段ボール一杯にある書類の束を両手で抱えると執務室を後にした。
331 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 00:22:49
その後学生会館に戻ってくると、執務室には麗子、凛、綾乃の三人の先輩しかいなかった。
「あれ、怜お姉さまはもう帰られたんですか?」
と訊くと、三人は困ったように顔を見合わせながら
「ええ。男と同じ空気は吸いたくない、そうよ。」
「怜の奴も強情だよなあ。」
「まあ、仕方ないといえばそうなんだけど…」
「….?」
何が仕方ないのかと不思議に思っていると、その疑問に答えるがごとく凛先輩がこういった。
「怜はね、男嫌いなんだよ。それも相当のね。」
「はあ、何かあったんですか?」
と訊くと綾乃先輩が答えた。
「怜のお父さんがね…」
332 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 08:22:29
綾乃先輩の話によれば、事の発端は去年のクリスマスを過ぎた頃、正月へ向けて準備するための買い出しに家族で出かけた車中で中西母が明らかに自分でも娘の物でもない髪の毛を偶然発見!
すぐに運転中の中西父に詰め寄るが、中西父が明らかに目を泳がせながら必死に白を切ったのですぐに極秘に馴染みの探偵社と大手興信所に調査を依頼、あっけなく中西父に愛人がいることが発覚したのだという。
「あー、そういうことですか。この手の話じゃよくありますよね。父親の不倫って…」
「不倫というより、怜ちゃんのお父さんの場合そっちが本命らしかったらしいんだよね。」
「と、言いますと?」
「怜ちゃんのお父さん、怜ちゃんのお母さんと結婚する前に付き合っていた女の人がいたらしくてね…」
「ま、まさか結婚して家庭持ちになった後も愛人として付き合っていたんですか!?」
そもそも中西父には昔結婚まで約束した恋人がいたようなのだが、中西家の家族に猛反対を食らったらしい。というのも有名な政治家であった父親である中西祖父が長男である中西父に自分の後を継がせ、
さらにその政治的地盤を強化するために当時財界で名を馳せ、中西祖父とも親交が深かった中西母の家と血縁を結ぶことを画策していたかららしい。もっとも後に愛人となった恋人というのも銀座のクラブの
新人ホステスだったそうだからどっちにしろ反対されるような気がせんでもないが…とにかく中西家はその恋人だった女性に大金の手切れ金を払い、息子を家に軟禁してまでも徹底的に二人を分かれさせたらしい。
333 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 08:24:40
普通はここまでされたら諦めるだろうが、いや事実中西父は政治家となり、中西母と結婚し一女までもうけているが、彼の恋人に対する執念は凄まじく、
また恋人も銀座でクラブを新しく始め(出資金はもちろん手切れ金)てそこのママをやってたこともあり、政治家という立場を利用して仕事の接待と偽っては
事あるごとにその店に飲みに通っていたという。無論実際は愛人として通っていたことは言うまでもない。
「ひどい話ですね。」
と言うしかなかった。
「ただの不倫ていう関係ならまだよかったんだけどねえ。」
「どういうことです凛先輩?」
「だからいつもお姉さまry…」
「失礼しましたお姉さま。それでどういうことなんです。」
「愛人の他にね、怜に腹違いの弟や妹達がいることも発覚してね…」
334 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 08:26:15
毎晩のように仕事の付き合いと嘯き愛人のもとに通っては愛人の所に泊って朝帰り、そのたびに(*´Д`)ハァハァな事をするうちに愛人との間に子供が出来てしまった。
しかも二人。これだけでも最低だが、さらにその店に雇われて働いていた女の子とも仲良くなってしまい、その人との間に一人、さらに別の女ry…な感じで何と五人の愛人と
10人の隠し子がいることがつい最近発覚したのだという。
もっとも中西父は若い時から女癖が悪く、家族が手をこまねく程だったし、事情を知る中西母はただ呆れるだけだったが、
問題は娘。父親の不祥事へのショックと、有名政治家の不祥事というスクープを聞きつけたマスゴミの連日の来襲というストレスから怜先輩は重度の男嫌いになってしまったという。
335 :
名無し物書き@推敲中?:2010/01/30(土) 08:27:40
最も怜先輩の男嫌いも綾乃先輩や凛先輩の協力もあってここ最近大分収まってきたようだったが今回の件で振り出しに戻ったような状況になってしまったらしい。
「だからさ、薫ちゃんには責任をとって怜の男嫌いを治してほしいんだ。」
「え?でもどうやって…?」
「任せる。じゃ、あとよろしくねー。」
「え、ちょ、おま、( ´゚д゚`)エー!」
4-7完 第四章完
第五章へ続く..
■兄弟1■
多分ぼくは、ブラコンだ。
幼い頃から、ぼくの頭の中は兄と弟のでいっぱいだった。それは愛しさだけじゃなくて、憎しみも含めて。
兄はぼくより3つ上。弟はぼくより1つ下。歳の近い弟とは仲がよく、自然と兄が孤立する構図になってしまった。
兄は長男の宿命で、親の期待を一身に受け塾に通い、私立中学を受験した。
戦争ごっことロボットが好きで、小学生の時、自由研究の題材にしたいと、パトリオットミサイルのプラモデルを親にねだった。
パトリオットミサイルは、湾岸戦争の時にアメリカがイラクにぶち込む為に開発したミサイルだ。兄は一生懸命そのミサイルの格好よさを親に説明していたけど、うちの親は戦争が大嫌いだから、結局プラモは買って貰えなかった。
そんな兄がやった自由研究は、『渡嘉敷島の貝殻の標本作り』とか『沖縄弁と標準語の比較』とか『新聞の折込チラシの分析』という、難易度の高いものだった。
最初の2つにも親の入れ知恵はあったかもしれないけど、最後のチラシの分析は、小学生が企画したとは到底思えない内容な訳で、まあ勿論それは受験勉強に忙しい本人に代わって親が考えたやつな訳で。
こんな風に、兄は、とても窮屈な環境の中で育ったと言える。
■兄弟2■
競争とか戦いが好き、っていう時点で、中道を志すうちの家族の中では異端であったと言える。
兄が東京で生まれた後、家族3人が沖縄に引越してからぼくと弟が生まれた。
両親は時々冗談で、兄や弟に向かって『〇〇は橋の下で拾ってきたの』と言ってはからかっていた。ぼくだけからかわれなかったのは多分、ぼくがそういう冗談を冗談として捉えられずに、真に受けて泣いてしまうからだと思う。
ぼくは、自分の分のアイスが用意されていなかった(母がうっかり食べてしまっていた)だけで、『自分はこの家にはいらない子なんだ』と思い込んで涙するくらいで、その軟弱さと言ったらカイ・シデンもびっくりする程だと思う。
話を兄に戻す。
兄は元々普通であり、ちょっと『変わって』はいたけど、塾に通い出してから、段々それが『おかしい』レベルになっていった。
兄は真面目で、勉強はきちんとしていた。でも、遊びたい盛りの子供である事も揺るぎない事実。押さえつけられた何かが、歪みとなって現れ出した。
■兄弟3■
兄はぼくや弟に対して、色んなちょっかいを出して来るようになった。それは、『ちょっかい』と呼べるかわいい悪戯から『嫌がらせ』と呼べるものまで、ありとあらゆる内容だった。
モノを隠されたのも、ゲームのデータを消されたのも、トイレやお風呂を覗かれたのも、100回や200回では収まりきらない。トイレ風呂云々は多分1000回を軽く超えるんじゃないかな。トイレと風呂のカギは、いまだに兄に壊されたままの状態だ。
兄に対してぼくや弟が怒鳴らない日は殆ど無くて、それは兄が小学5年生になった頃から、大学3年生になるまで、約10年間続いた。ぼくは髪の毛が沢山抜けて、弟は不眠症になった。
兄はぼくらにちょっかいを出している時、本当に、心の底から楽しそうに笑った。人が嫌がる事をして喜ぶ人がいる事を、ぼくは兄から教わった。
唯一大人しかった高校の3年間、兄はぼくらをいじる事よりも剣道に夢中になっていた。戦いが好きな兄らしいとは思う。
■兄弟4■
時が経つにつれて、兄と弟の喧嘩はエスカレートしていった。兄も弟も、体が大きくなっていったから。ぼくはと言うと、途中から『兄は頭がおかしいから相手をするのは時間の無駄だ』と考えて、何かされたり言われても無視するようになっていた。
ぼくが高校3年になってから大学1年の終りに留学するまでが、一番酷かった。
弟は反抗期との相乗効果なのか、よくブチ切れて台所から包丁を持ち出して振り回していた。
親はいつも外に出ていて家にいなかったし、無視を決め込んでいても死人が出るのは御免だと思ったから、弟をなだめるのはいつもぼくの役目だった。
いつもギリギリでなんとか抑えていたけど、ぼくが大学1年の秋、それは起こった。
リビングでぼくいつものように兄と弟が言い争いをしているのをBGMにテレビを観ていた。
弟が何処かへ消えて、戻ってきたのはわかった。その後、兄の悲鳴が聞こえて、驚いて振り返ると、兄の右足から真っ赤な血が流れていた。
弟は手にパン切り包丁を握り締めながら泣いていた。
『こいつを殺して俺も死ぬ』
そう言っていた。
その後の事はあんまりよく覚えていない。居合わせた両親が弟をなだめて、兄は翌日外科に行った。病院では怪我の理由を『ぶつけた』と説明したらしい。
兄は元気そうだったから良かったけど、ぼくは弟が警察に捕まるんじゃないかと思って怖くて弟が警察に捕まるんじゃないかと思って怖くて、布団の中でずっと泣いていた。
■兄弟5■
弟が警察に突き出される事は無かった。法律には詳しくないけど、兄が被害者として届け出ない限り、弟は罪に問われないみたいだ。
ぼくはほっとした。兄は被害者にも関わらず、両親にこってり絞られていた。件が起こるまでの過程から判断して、兄が悪いと両親は踏んだのだ。
それが効いたのか、その後しばらく、兄は大人しかった。
そしてぼくは、今までに無いくらい情緒不安定になった。一人になるとフラッシュバックに襲われて、涙が止まらなくなった。家に帰るのが嫌で嫌で、泣きながら自転車を漕いでトンネルを走った。
母親はいつも言っていた。『みっともないから、家の外で家族の悪口を言うな』
ぼくは母親の言う事は大体正しいと思って育ってきたから、10年間それを守っていた。でもあの時のぼくの情緒不安定さは、何をどうしたって抑えきれるものじゃなくて、ある日ぼくは、たまたま帰りが一緒になったサークルの同期の前で一言、『家族が仲が悪いんだ』と漏らした。
始めは別に話す気なんかなかったけど、その時のそいつの登場の仕方が可笑しくて(信号待ちしてたら後ろから口笛吹きながらやってきたw)、笑いながら『こいつなら、家族と面識ないから話してもいいかな』なんて思った。
そいつは、ぼくが徐々に泣き、寒さで鼻を啜りながらたどたどしく喋るのを一生懸命聞いてくれた後、関西弁で『話聞くからメシでも行くか』と言ってくれた。
こんなに親切な人は多分めったにいないのに、ぼくはそれを断った。
■兄弟5■
それでもぼくは、何事も無いようなフリをして大学に通っていた。講義は殆ど右から左だった。
ご飯会の時、ぼくが生まれて初めて家族の話をしたあの関西弁の子がいた。ぼくはその時のことと、前日のことを思い出して、泣きたくて仕方なかった。
堪えて堪えて、なんとか泣かずにご飯会が終わった。
ぼくはそいつを引き止めて話をしようかすごく迷ったけど、そいつが忙しそうだったから諦めた。
まあいいやと思って、同期の女の子と一緒に二人で歩いて帰った。
その子は普段はのほほんとしていて、『お弁当作ってきました!』と言ってワサビやチョコレート入りのおにぎりを皆に食べさせたりする、いわゆる電波な女の子だ。
でも本当はすごく賢くて勉強熱心だから、電波な部分はぼくと同じように性格を演じているだけなのかもしれないと思う。
その子は頭がいい上に空気が読めるみたいで、その日のぼくの様子がおかしいと言ってきた。
まあ、ぼくがよっぽど泣きそうな酷い顔をしていたせいなのかもしれないけど、そのへんはさして重要じゃない。
■兄弟6■
ぼくは答えに窮した。こないだの子に話そうとは思ったけど、目の前のその子に話す気にはなれなかった。
母親にいつも言われていたように、家族の悪口をベラベラ喋るのは、なんだか恥ずかしいような気がしたからだ。
ぼくは、たとえ地球上でたった一人だけでも、ぼくがこんな風に悩んでいるのを知っている人がいると思っただけで、不思議と強くなれるような気がした。
部室で学祭の準備をしていた時、そいつは、それはそれは器用に口笛でFly Me To The Moonを吹いていた。エヴァのエンディング曲だったからぼくでも知っていた。
■兄弟7■
そいつもヲタなのかと思ったら、アニメ好きではなくてジャズが好きなんだと言った。でも一度、カラオケで爆れつハンターの曲を入れていたから、多分やっぱり、やつもアニヲタだと思う。
ぼくはそいつのメール着信音をオルゴールのFly Me To The Moonにしていた。普段メールなんか送らないし、そいつからも来なかったけど、死にたくなったら延々とそれを聴いた。
そいつはいろいろと忙しくて、サークルには滅多に顔を出さなかった。大学3年の学祭の時、珍しく手が空いたからと手伝いに来てくれた。ぼくはその時、部長の権限を利用してそいつに掃除を手伝わせた。
誤解の無いように言っておくけど、ぼくが部長の権限を私的に利用したのは、後にも先にもその一回だけだ。
と、思う。
■兄弟8■
二人でやきとり焼き器をたわしでこすって洗った。焼き付いた鶏の脂とタレはなかなか落ちなかった。
ぼくはたった一回だけど、あの時のお礼が言いたくて、チャンスを伺った。家族が学祭を観に来ていて、兄も来ていると告げた時、そいつは予想だにしない言葉を吐いた。
『へ〜。お兄ちゃん、おるんや?』
はっきり言ってぼくはかなりショックだった。
でも2年も前に、暗闇の中でたった10分しどろもどろで話した内容を覚えている方が奇跡だ。しかもそいつは人がいいから、よくいろんな人の相談に乗ると言っていた。
ぼくがあの話をした時も、『似たような話聞いたことあるで』と言っていた。大変なのはぼくだけじゃないって意味で言ってくれたんだろうけど、それを聞いたぼくはその先を話す気になれなかったのだ。
■兄弟9■
覚えていないなら、まあいいやと思った。よくよく考えると、ぼくは今までこいつに対してまあいいやをかなりの回数発動させてきた。
でもぼくはこいつがご飯会をすっぽかしたりサークルに来る約束を守れなくても憎めなかったし、ピンチの時には必ずと言っていいほど助けてくれたから、すごく感謝している。
ぼくは自分が大嫌いだったけどこいつのお陰で自分のことも少しだけ好きになれた。
もしもぼくの性別が違っていたら、間違いなくぼくはこいつの友達面をして、朝から晩までベッタリくっついていただろう。生まれ変わっても友達でいたい。こいつみたいになりたい。とてもとても尊敬している。
346 :
名無し物書き@推敲中?:2010/02/22(月) 05:41:25
■兄弟10■
ぼくが泣きながら話をした日、こいつは夜中の3時前にも関わらず、長文のメールをくれた。
メールはずっと大事に保存していたけど、TU●Aからa●に変えた時に消えてしまった。
消えてしまったけど、何度も何度も読んだから、今も覚えている。
『苦しい思いをした分は、種になっていつか花が咲くから、今度はそれで他の人を照らしてあげてやり』
メールが届いた時、ぼくは眠れなくて、トイレで一人で泣いていた。
その時聴いたFly Me To The Moonは、トイレの壁に反響して、すごく綺麗な音色だった。
「兄弟」書いてる人、すごくいいよ
読ませるね
応援しています。
348 :
名無し物書き@推敲中?:2010/03/10(水) 21:08:09
349 :
おやや:2010/03/17(水) 01:03:52
さ、今の間に雑炊をも一度温め直しておきましょ
・・・おはる、おはる!
ちょっとひとっ走りして、お母様と嘉助殿を呼んで来ておくれ
まだ畑にいらっしゃる筈だから
350 :
おやや:2010/03/17(水) 01:11:42
んまあ汚い!
小袖から袴からいったいに泥だらけでどうだろマア・・・
どんなお勤めをなさったらこうも汚せるものかしら
これは気張ってお洗濯しないと
351 :
おやや:2010/03/17(水) 01:25:09
お帰りなさいまし、弥太郎殿もつい先刻お帰りですよ
いいえいいえもう直に風呂が空きまする
ええ、もうお出でになる頃でございます
お寒うございましたろう、白湯をお召し上がりなすって
352 :
おやや:2010/03/17(水) 01:33:20
ほほほ
召し上がってというのも大仰ですわね
今日は菜の漬物と梅干しの雑炊ですよ
夕さりのあきんどが・・・ええ、そうなんですのその紀州とやら
本当においしゅうございますよ
353 :
おやや:2010/03/17(水) 01:37:50
ああお前様、湯加減はいかがでございましたか
・・・
さ、嘉助殿、風呂とお召しかえの支度を整えてございます
さ、さ、汗の物をいつまでもお召しではお体に触りまするぞ
まあ厭だ、そのような所で寝そべっておられいで、早う早う、湯が冷めぬ内に早う
354 :
おやや:2010/03/17(水) 01:44:25
お母様、お肩をお揉みしましょう
・・今日は久し振りのほんとうにいいお天気でございましたな
お洗濯が良う乾いて・・・ええ
そうそう、お前様お洗濯といえば、あの尋常ならざる汚れ方は
どうなすったのです?
355 :
おやや:2010/03/17(水) 01:55:10
・・・
まあ、おに川の堤を?
それを根津様とおふたりでなさるのでございますか?・・
まあ、それはたいへんなお役目を賜ったのですなあ・・
・・・いいえそのようなこと・・
それほどお目にかけてくだされるのでございましょう
お気張りなさってくださいましね
・・・
356 :
おやや:2010/03/17(水) 02:18:34
お母様、さとの祖母が抜け毛にほとほと困り果てて薬を求めたのですが
それが大そう良い塩梅だったそうで、是非にもこちらのお母様にと申して、
その薬を少しばかり寄越したのでございます
どうぞ使うてやってくださいまし
・・・ええ、おぐしに塗る物で、おお島とやら・・何でも齢百を数えても
くろぐろと美しく保つのだとか、ほほほ・・
357 :
名無し物書き@推敲中?:2010/03/25(木) 16:31:02
おれも書く
この話は子供時代の俺を再現したものがたりである
ここは?県のなんとか市。この物語は俺がとある治安の悪い島で
悪党をぶっ潰す物語である
ぶんぶんブーン隣のマンションに誰かが引っ越してきたようだ
俺はそのときゲームを完全クリアだーとガチでよろこんだ
ピンポーン
「ったぐーなんでこんなときにー」と俺は文句を言った
「隣に引っ越してきた飯島です。お願いします」と母親がいっていた
どうやら転校生のようだ。おれらに新メンバーか!?とおもいきやあっち側は女子だった
でも可愛らしかった。「宜しくお願いします」と、とてもいい声で言ってきた
「どーも失礼しました」と最後にこの家を去っていった。
次の日
なにやらそいつが転校してきた。そいつはどうやら勉強もできる。運動もできる。
「おれとは大違いだ」と心の中でつぶやいた
このつぶやきが悪党との大事件を引き起こす
帰り、漏れはきれいな石を見つけたのでもって帰ることにした
358 :
佐藤:2010/03/26(金) 12:02:42
書きます!
俺は中学生でした。北海道にいました。
書くと苦しいよ。でも書こう。
彼女との出逢いは衝撃的だった。
僕は中学の入学式の日、教室にいたのであった。
周りは割りと静か。でもちらほら喋り声。
周りはDQNそうな人ばっかりだった。
俺は入学式に向かった。
騒がしい。
そして、校長先生が来た。
入学式は終了した。
そして、教室に戻った。
やっぱりDQNそうな人ばっかりだった。
Aが話しかけてきた。
「どこから?」
「××」
「××か。俺は××」
ここは私立中学である。
A「勉強、大変だったよな」
俺「大変だったな」
A「音楽聞く?俺、××が好きなんだよね」
××とは今流行りの音楽グループのことである。
俺「俺は○○が好きだな」
○○とは、そんなに売れてないが昔からの音楽グループである。
A「○○?渋いな。ところで、部活はどこ入るんだ?」
俺「まだ、決めてない」
A「そうか。俺はやっぱりサッカーかな。女の子にモテモテだぜw」
当たり障りない会話を繰り返した。
359 :
佐藤:2010/03/26(金) 12:04:13
担任が入ってきた。女の先生だった。
改めて、周りを見回したが、やっぱりDQNそうな人
ばっかりだった。そんな中、俺は幻想を目にしたのである。
長い綺麗な黒髪の澄んだ目をした少女が座っていた。
それは正に幻想だった。
俺は見とれた。とりあえず見とれた。そして心の中でこう思った。
「神様ありがとう」
360 :
佐藤:2010/03/26(金) 12:05:24
担任「まずは班を作ります。」
その時、奇跡が起こったのである。
何と、あの子と一緒の班。その時、俺は心の中で、こう思った。
「神様ありがとう」
「班で○○を作ってください。」
共同作業で仲良くなろう、というヤツである。
班は4人だった。俺とあの子とAとある女子Bである。
A「じゃんけんで分担しようか」
その時、奇跡が起こったのである。
俺とあの子で作ることになったのだ。その時、俺は心の中で、こう思った。
「神様ありがとう」
361 :
佐藤:2010/03/26(金) 12:06:29
「お…おれ…佐藤っていうんだ…よろしく…」
やべ…何でふるえてんだ、俺…
「原田です。こちらこそよろしく」
すんなりと答えた。
「原田さんって音楽とか聞くの?」
「たまに聞くかな」
「俺××が好きなんだよね」
××とは、Aが好きな今流行の音楽グループ。さっきAに○○が好きと言ったら
微妙な反応をされたので、反応への期待込みで本心を偽って言った。
「私、××ってあまり好きじゃないわ。何か今流行りの音楽って気がして」
「そっそう…」
あまりにもストレートな反応に躊躇してしまった。
「部活は入るの?」
「テニス部に入ろうと思ってるの」
その時、俺はこう思った。
「俺も入ろう」
作業は順調に進んでいった。そして作業を完成させた。
そして、ある放課後、
担任「それではこれで終わります」
階段を下りると、原田さんが歩いていた。テニスバッグを持っている。
362 :
佐藤:2010/03/26(金) 12:09:09
「原田さん」
「佐藤くん、どうしたの?」
「俺もテニス部入ろうかなと思ってて。テニスバッグ持ってるから」
「そうなの?じゃあ、一緒にコートに行こう?」
コートでは熱い練習が繰り広げられていた。
「新入部員はとりあえず玉拾いをしてもらう。俺はキャプテンの中田だ。
よろしくな。」
俺はいままでテニスをしたことがなかったので、先輩たちの熱いプレーに
釘付けになった。そして、俺は原田さんの姿を探した。
原田さんは体操服姿で同じように玉を拾っていた。かわいいな。
日が進むにつれて、テニスができるようになった。
ここで驚いたのが、原田さんがとてもテニスが上手いことだった。
「原田さん、上手いね。テニスやってたの?」
「小学校の時、クラブチームに入ってたの。」
俺は、原田さんと話し、テニスをがんばったり、勉強をがんばったりしている
原田さんを見ていて、とても幸せな気持ちになる日々を送った。それは正に、
俺にとって薔薇色の青春だった。
363 :
佐藤:2010/03/26(金) 12:11:19
俺は夜、眠りにつく時、目を閉じて原田さんを思い浮かべていた。
普段は落ち着いてクールなんだけど、時々笑う笑顔が眩しい。そんな女の子。
俺は、原田さんの笑顔を思い浮かべ、幸せな気持ちを抱いていた。
そして俺はあらぬことか、こんな妄想を抱いてしまっていた。
原「佐藤くん、アーン♪」
俺「アーン♪おいしい!原田さんの手料理」
原「本当?嬉しいな♪」
それは普段の原田さんのテンションとは似ても似つかぬテンションだったが、
自然とそんな妄想を抱いている自分を発見し、一人照れていたのであった。
それは俺の初恋だった。彼女と結婚し、子を産み、幸せな家庭を築きたい。
そう、本気で思っていた。
364 :
佐藤:2010/03/26(金) 15:13:07
ある日、Aがテニス部に入部した。そして俺に、こう言った。
「テニスも女にモテるしなwしかも女の子と一緒に部活できるなんて最高
じゃねぇかw」
Bもテニス部に入部した。Bは女子で名字は村田である。
ある日、加藤(A)がおもむろに俺に言ってきた。
「俺、村田さん(B)と付き合うことになったwウハウハだよwマジでw」
村田さんは、ギャルっぽくて口は少々悪いが、美少女で、正直、加藤を妬ましく思った。
しかし俺には原田さんという心の(?)彼女がいたので、全く気にならなかった。
彼女以外は目に入らないほど、彼女のことが好きだった。
365 :
佐藤:2010/03/26(金) 15:14:43
中学2年になった。俺たちはというと平凡な日々だった。
偏差値の高い私立中学なので毎日勉強をガリガリ、放課後は部活と、
忙しい日々を送った。
俺は原田さんに告白しようと思っていた。しかし、できずにいた。
そして、2年の2学期の終わり辺りの、部活終了後、俺は原田さんに告白
することを決めた。
366 :
佐藤:2010/03/26(金) 15:18:45
「原田さん」
「何?」
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
俺は原田さんを人気のない場所に呼び出した。
「俺、原田さんのことが、ずっと好きだったんだ」
勇気を振り絞って、こう言った。平静を装っていたが、内心は心臓が
バクバク状態だった。手に汗が滲んだ。
原田さんは少し下に俯いた後、一言こう言った。
「ごめんなさい」
外は雨が降っていた。
俺は気持ちが一気に沈んだ。初めての恋は見事に砕けた。
しかし、俺は未練がましく、こう言ったのだった。
「好きな人、いるの?」
367 :
佐藤:2010/03/26(金) 15:20:19
彼女はまた少し下に俯いて、
「ごめん」
そう言って、走り去ってしまった。俺はただ、その場に立ちすくんでいた。
俺は無気力な日々を送った。あれから原田さんとは一言も会話を交わしていない。
俺「あ…原田さ…」
原「…」
原田さんは俺を避けている。
薔薇色の日々は、薔薇ように散ったのであった。
ある日、原田さんから俺に話し掛けてきた。
368 :
佐藤:2010/03/26(金) 15:21:25
「佐藤くん」
「原田さん…」
「ごめんね、最近。その…ちょっと、あって」
原田さんはその大きな目を伏せた。
「実はね、私、本当は好きな人がいるの。」
俺は息をのんだ。
「好きな人って…?」
「…その…川島先生…」
「せ、先生…?」
俺は彼女の発言が信じられなかった。先生は女である。
彼女は、また大きな目を伏せた。
369 :
佐藤:2010/03/26(金) 17:40:42
その雰囲気から、俺はすべてを把握した。いや、しかし、そんなことって…。
その時の俺には、あまりにも衝撃的な発言だった。嘘と信じたかった。
川島先生は、俺たちの担任で、テニス部の副顧問でもあった。若くて、
美人で、人気のある先生である。もしかしたら先生の隠れファンも存在
しているのかもしれない。顧問は、高齢の男の先生だが、部活には、
ほとんど関心がなく、あまり来たことがなかった。その変わり、副顧問の
川島先生がよく来てくれていて、皆の面倒を見ていた。
俺「でも、どうして…?」
原「先生、楽器やってるの。私が音楽が好きって言ったら、こっそり教えてくれた。
それで、音楽室で先生のピアノ聞かせてもらったの。もう凄く綺麗な音で。先生も綺麗で…。
私、どうしたらいいんだろう…。胸が苦しくて…」
放課後、川島先生が来ていた。何食わぬ顔で涼しい表情をしている。
原田さんは今日も一生懸命、練習をしている。俺は、そんな原田さんと
川島先生を見合わせ、思わず、先生にテニスのボールを投げつけたい
衝動に駆られた。もちろん、そんなこと、できるはずがないが。
俺も胸が苦しかった。
ある日、加藤(A)が俺に、こう言ってきた。
「佐藤…やばいよ…村田さんが妊娠したって言い出したんだ…本当だよ…嘘じゃない…
もう俺の人生終わった…佐藤…助けてくれ…俺、人生終わりたくないよ…」
その数日後、学校は、加藤と村田さんの妊娠騒動の話題で
持ちきりになった。
その数日後、村田さんは転校、加藤は出席停止になってしまった。
俺は一本のギター買った。原田さんに、川島先生のピアノ以上の
音を聴かせるためである。毎日練習し、一曲を完璧に弾けるぐらい
までに上手くなるつもりだった。
手には、テニスでは作ったこともないような、マメが何箇所にもできて
いて、その何箇所かには血が出て来ていて血マメになっていた。
370 :
佐藤:2010/03/26(金) 17:51:02
ギターを弾いていると、手に激痛が走る。マメが潰れ破れるのである。
手を見つめると、血やらマメやらでボロボロだった。それはいつか見た
原田さんの川島先生の授業のノートに似ていた。
そして、一曲を完璧に弾き、そして歌えるぐらいになった。
この曲を原田さんに捧げたい、そう思った。
俺「原田さん」
俺は原田さんを呼び止めた。
原「何?」
俺「ちょっと、いいかな」
俺は原田さんを近くの川縁に呼んだ。そこで俺はギターを持ち、
あの一曲を演奏し、歌った。それは中島みゆきの「空と君との間に」
である。
「君が笑ってくれるなら 僕は悪にでもなる」
俺は力強く、歌った。
原「ありがとう。気持ち、伝わってきたよ。」
原田さんは笑ってくれた。
原「でも、私、佐藤くんの気持ちには応えられない。ごめんね。」
そう言った。
その時、俺はなぜか幸せな気持ちになっていた。彼女のために全力を尽くし、
歌った。たとえ、気持ちが届かなくても、あの時の彼女の笑顔を俺は忘れないだろう。
371 :
佐藤:2010/03/26(金) 17:52:43
その頃から、俺は自分で作詞作曲するようになっていた。独学で音楽を学び、
時々、ギターを買った店の、音楽に詳しい店主にいろいろと教わったりして、
曲を作っていた。全ては原田さんのためだった。また、あの笑顔が見たい、その
一心で、俺はギターを鳴らし、歌った。
また、加藤が、出席停止から回復し、戻ってきた。しかし、あの事件
のことは一切話さず、俺もそのことについて、加藤に聞かなかった。
俺は曲を作っては、原田さんに聞かせていた。普段の何気ない毎日から
フレーズを考え出し、書いたものだが、その一曲一曲に、原田さんは
感嘆し、また、あの時と同じように笑ってくれた。
それは俺にとって、第2の薔薇色の日々だった。好きな人に自分への気持ち
がなくても、その人が笑うだけで幸せを感じられるということを俺は
初めて知った。
372 :
佐藤:2010/03/26(金) 17:53:51
ある日、加藤が俺にこう言ってきた。
「佐藤、おまえ原田さんとできてるのか?」
「そんなわけない。それに彼女、好きな人がいるって」
「川島先生だろ」
「何で、おまえ、それ」
「そのぐらい見てればわかる」
「…」
「おまえは原田さんのことが好きなんだよな」
「…」
「俺は、原田さんが好きだ。」
「おまえ、自分が以前何やったか忘れた訳じゃないよな?」
「…」
「彼女に近付いたら、許さないぞ」
「俺は、はめられたんだ。あの女に。あの尻軽女に。俺だって、ちゃんと
恋したかった。でも、誘惑に勝てなかったんだ。本当は最初から、俺は
原田さんが好きだった。でも、おまえが原田さんと、いつも一緒にいるから…。」
「原田さんは本気で先生が好きなんだぞ」
「そんなのすぐに冷めるさ。同姓だぞ。とにかくおまえには負けない」
そう言って、加藤は去って行った。
373 :
佐藤:2010/03/26(金) 17:54:51
俺は相変わらず、曲作りに没頭していた。そんなある日、川島先生に呼び
止められた。
川「佐藤くん、ギターやってるんだってね。」
俺「えぇ、まぁ」
川「曲も作ってるんだって?君と仲のいい原田さんに聞いたんだけど。」
俺「素人レベルですけど」
川「でも素敵じゃない。実は私も昔音楽をやっててね。今は教師だけど、
今でも音楽が好きで、楽器やってたりしてるの。もし良かったら、今度
セッションなんてしてみない?音楽室とかで。」
俺「遠慮しときます。先生に時間取らせるの、悪いので」
俺は不機嫌をほとんど隠さずに答えた。
川「そうかぁ。でも、もし何か音楽のことで聞きたいことがあったら言ってね。
ここだけの話、私の父、結構有名な音楽家なのよ。かなり詳しいと思うから。
それじゃあね。」
俺「ちょっと、待ってください」
川「?」
川島先生は振り向いた。
俺「音楽家って?」
川「あぁwレコード会社で結構いいところのポジションなのよ。自身も
音楽をやっててね。佐藤くんも将来音楽家になりたいのなら、父に言って
見てもらってもいいわよwなんてね。」
俺は自分自身の利己心が湧き上がってくるのを肌で感じていた。
374 :
佐藤:2010/03/26(金) 17:56:52
「川島先生」
俺は川島先生を呼び止めた。
「前に言ってた、音楽のことなんですけど、先生と一度、一緒に演奏してみたいと
思って」
「あら、そう?音楽家に引かれたかな?いいわよ、じゃあ今日の放課後
音楽室にいらっしゃい。部活はもう引退してるから無いわよね。」
ガチャッ
俺は音楽室の扉を開いた。
「あら、早かったわね。じゃあ早速、始めましょうか」
俺はギターケースからギターを取り出し、手に構えた。
「ずいぶん古い感じのを使ってるのね。父に言って、もっと新しい
良いのを譲ってあげようか?お金は気にしなくていいから。こういう時、
使えるわよね、地位って。アハハ」
俺「アハハ…」
俺は息をのんだ。
「じゃあ、まずは佐藤くんが得意な曲を弾いて聞かせてくれる?」
俺は一番得意な曲を先生に聞かせた。
「ふーん、いい曲だね。何か感動しちゃった。じゃあ、その曲、
今度は先生と合わせて、演奏してみようか」
「即興できるんですか?」
「もちろん」
375 :
佐藤:2010/03/26(金) 17:59:21
そして、俺と先生は何度もセッションを繰り返した。先生のピアノの腕は
予想以上に上手く、原田さんを惚れさせるだけはあると思った。最初にあった
先生との溝が何だか縮まっていくような気がした。先生は気さくに笑いかけ
俺も音楽の世界を心から、その時楽しんでいた。そして、今まで一人でやって
いたことが、とてつもなく小さいことのような気がした。
「今日は楽しかったわ。また、セッションしましょうね」
「はい」
「それじゃあね。気をつけて帰るのよ。」
帰り支度をしている先生の後姿を見ていて、何て綺麗な髪なんだと思った。
そのモデルかと思うほどスラリと細見で、でも出るところは出ている体系は、
一瞬、原田さんへの想いが消し飛んでしまうかと思うほど、魅力的に見えた。
376 :
佐藤:2010/03/26(金) 18:01:11
その後も、俺は何度となく先生を誘い、先生もまた俺を誘い、セッションに
高じていた。先生とセッションを繰り返すうちに、どんどん自分の技量が増していく
のがわかる。
「随分と、前より、上手くなったね」
そう先生からも褒められた。
「先生は、こんなに上手いのに、音楽家になれなかったんですか?」
「そうだね。学生の時は本気で音楽家になりたかったけど、いつしか
それも無理かなって思い始めたんだ。ほら、音楽家って、安定しない
イメージがあるでしょ。だから気付いたら、諦めてて、ここにいた。
本当は後悔してるのかもしれない。もしかしたら、あの時、本気で夢を
追っていたらって思ったら…」
「追いましょうよ!」
俺は思わず言った。
「今からだって、まだ間に合いますよ。先生は若いんだし。夢を追いましょう!」
先生は微笑んだ。
「ありがとう。何か佐藤くんと話してたら、あの時の気持ちを思い出したわ。
佐藤くんもその気持ち、忘れないでね。」
先生と微笑みを交わし合った。先生の瞳は綺麗だった。
その時、ガチャンッ、と微かに扉が閉じる音がしたと思った。
しかし、気のせいだと思い返し、そのまま先生と別れ、その場を後にした。
377 :
佐藤:2010/03/26(金) 18:02:31
その頃から、俺はよく職員室に行き、先生と音楽について話していた。
川島先生の音楽についての知識は豊富で、本当にためになり、面白かった。
「今日、音楽室、放課後来れますか?」
「いいけど、ちゃんと勉強もしてよね」
「はい、はい」
実際、俺は勉強の方も順調で、常に学年上位だった。
俺は川島先生に好意があるのかもしれない。そう思い始めていた。
原田さんには悪いけど、俺だって男だし、先生が異性である以上、
そう思ってもいいじゃないか。そう思っていた。
そして、音楽室の扉を開けた。
しかし、先生はそこにはいなかった。変わりに、原田さんがいた。
原田さんは不機嫌そうに顔をしかめている。
378 :
佐藤:2010/03/26(金) 19:47:53
あの日の後は、もうすっかりハルカと会うこともなくなり、俺はバイトを
せっせとこなすことで日々を消化していた。しかし、ふとした時にハルカが
鳴らしたあのギターの音が俺の心を揺さぶるのだった。
もうどれだけの間、ギターを弾いていないのだろう?歌っていないのだろう?
そんなことを思った。しかし、そんなことを思う度に俺の胸はかきむしられるような、
かさぶたをはがされる時のような激しい痛みを感じ、それを落ち着けるために十分な
時間を必要としなければいけないありさまだった。忘れなきゃ、忘れなきゃ。
そう思えば思うほど煮えくり返る、人恋しさと音楽への想いがあった。
あとどれだけの時間が経てば、この苦しみから解放されるのだろう?
そんな時はくるのだろうか?そんなことを思っていた。
ある日のことだった。バイト帰りの俺は、何となく知っている姿に
遭遇する。それはハルカの姿だった。俺は何となく声をかけることに
躊躇し、ハルカの後を密かにつけていた。
彼女は“あの場所”に向かっているようだった。そこは俺が以前、
ギターを鳴らしていたハルカと出会った場所である。
「ハルちゃん!」
その時声がした。
何とそこには、ハルカを待っていたと思われるような人がたくさんいた。
「今日もいい歌聞かせてくれよ!」
若い男性がそう言ってほほ笑んだ。
ハルカはその人たちの方へ近付き、ギターケースを下ろした。
「ふふっ待っててね」
ハルカは柔らかい口調で観衆の人達に呼びかけ、ギターを手に取った。
ハルカはギターを鳴らした。心地良い音を出す。上手い。しばらく鳴らした後、
ハルカは歌い始めた。
379 :
佐藤:2010/03/26(金) 19:49:07
378はミス。後の文章です。
380 :
名無し物書き@推敲中?:2010/04/01(木) 21:00:19
>>347 ありがとう。しばらく携帯規制で書けなかったから訂正・補足します。
訂正
5が二つある→ミスです。
補足
5と5の間の分が抜けていましたので追加させて頂きます↓
その時のぼくは『どんなに話を聞いてくれても、この人は結局他人で、ぼくの痛みをわかってくれる訳がない』と思った。
すごく乾いた考え方だけど、ぼくは小学生の頃からずっとそういう考え方だったから、仕方ない。
世の中は自分の願い通りになる訳じゃなくて、ぼくが他の人の痛みを完全に理解しえないように、他の人もぼくの痛みなんか理解できない。
ぼくに二面性が生まれて、外では傷を隠す為にヘラヘラしていたから、なおのこと、他人がぼくの本当の痛みを理解できるなんて思わなかった。
そんな風に、自分を晒す機会を投げ捨てた後、もう一回、大きな波が来た。
ぼくが留学を決めて、1年の後期の試験が終わった日、ぼくはサークルの同期全員で仲良くなる為のご飯会を企画していた。
ぼくの同期は兼部等で皆忙しくて、全員が揃った事は一度も無かった。ぼくが留学すると、活動できる部員が減って、つまり、存続の危機だった。
381 :
名無し物書き@推敲中?:2010/04/01(木) 21:06:04
補足続き
ご飯会と言っても、ただ部室に集まって、パンやお弁当を食べながらだべる、そんな軽いものだった。
この日も結局、同期全員は集まれなかったけど、なんとなく親睦は深まったと思う。なんでここで推測なのかと言うと、ぼくにはこの時の会話の記憶が殆どない。
この食事会の前日、久々に兄と弟が喧嘩をした。両親は出掛けていて、仲裁できるのはやっぱりぼくしかいなかった。
兄が血を流してから、母親は千枚通しや包丁や、ハサミ等の刃物を全部どこかに隠してしまっていた。弟はあらかたの場所を漁って見つからないと判断した後、リビングのテーブルの上にあった大きな皿をバリンと割った。その割れた鋭利な部分で兄を突き刺そうとしたのだ。
怒髪上指な頭に血が上った状態で、よくそんな機転が効くもんだ。なんて感心している暇などあるはずもなく、ぼくは慌てて弟の腕を抑えつけた。
『あいつを殺して俺も死ぬ』
弟は前と同じことを言った。泣きながら。
ぼくはなんとか自分もケガせずに弟を取り押さえた後、兄に別の部屋に行くように促した。
弟は兄がいなくなった後もずっとずっと泣いていた。
ぼくは割れた皿の破片を見て、今更だけど恐怖に襲われて震えた。ぼくは多分、何か弟を慰めるようなことを言ったと思うんだけど、何て言ったのか、そのあとどうしたのか、覚えていない。でもその晩布団の中でいろいろな事を考えたのは覚えている。
ぼくは弟を守りたいと思った。昔の弟に戻ってもらいたいと思った。
弟は兄のことを本当に憎んでいた。殺そうとした。
ぼくは弟を人殺しのように変えてしまった兄が許せなかった。ぼくも兄を殺してやりたいと思った。
補足続き
でも心のどこかで、兄をこんな風にしたのは、自分達家族なんじゃないかと思った。
心当たりは腐るほど沢山あった。
窮屈な教育で縛る母親。
忙しくて構ってくれない父親。
妹と弟だけが仲が良くて、親に怒られるのはいつも一番上の自分。
兄がいつもちょっかいを出してきたのは、淋しかったからではないか。
そんな憎悪と疑念が、頭の中をぐるぐる回った。
ぼくは兄を殺したいと思ったけど、そんなことを考える自分も嫌いだった。
憎悪と疑念に自己嫌悪が混ざり、ぼくの頭は益々混乱した。
前年の秋、弟が兄に切りかかってから、ぼくはどうしてこの家に生まれたんだろう、と自分の運命を呪った。
来る日も来る日も、泣く、怯える、悲嘆するの繰り返しだった。
以上、補足終わり。
さっきの書きこみ、さげ忘れです、すいません。
■兄弟11■
話はぼくの留学前に戻る。
ぼくは同期の女の子の親切を、申し訳ないと思いながら断った。その半月後、ぼくは飛行機に乗って中国に飛んだ。
留学の大義名分は、勉強だ。ぼくは周恩来が好きだったから、あわよくば彼の生まれ育った街や大学にも行ってみたいと思った。
でも本当の理由は、あの家から逃げ出すためだった。
ぼくはもう本当に、毎日おかしくなりそうだった。
責任を誰かに押し付けてしまえば楽になれたのに、生ぬるい自責の念に取り付かれてからはそれはできなくなった。
ぼくの頭の中は、兄のことでいっぱいだった。
ぼくが中学生の時、渡部篤郎がストーカーの役を演じたドラマが放映された。
その中で、渡部扮するストーカーが半笑いで囁いた。
『海ちゃんの頭の中、ぼくのことでいっぱいだ。』
この台詞を聞いた時、ぼくは、兄の心理的傾向はこのストーカーのものに近いのではないかと思った。
■兄弟12■
構ってほしい、振り向いてほしいから、どんなことでもする。たとえそれが憎しみや恐怖であっても、相手が自分のことを考えてくれていることには変わりない。
根幹にあるのは淋しさと、幼稚さだ。
嫌がらせは、兄からすれば愛情表現なのかもしれない。だとすれば、非常に屈折している。そしてされる側はたまったものではない。
そんな可能性が出てきても、不安と恐怖の方がまだまだ大きかった。
ぼくは留学してからも毎日、兄や弟や両親のことを考えていた。どんなに物理的に遠く離れても、海と国境を越えても、ぼくの心は、あの家族から逃れることはできなかった。
寮の部屋の電話が鳴ると心臓が止まりそうになった。家族が家族を殺したという知らせかもしれない。
ぼくは日本でそういうニュースを見る度に、次にこの画面に映るのはうちではないかと怯えていた。
大学の演劇部の公演を観ていて、台詞の中に『尊属殺人』という単語が出て来た時も、頭の中が一瞬で真っ白になった。
ぼくが小学校高学年の時、兄は中学生だったけど、途中から中学に行かなくなった。
ぼくはその理由を知らなかった。兄も何も言わないから親も理由がわからなくて、いつも親子で喧嘩をしていた。
親はいつも命令ばかりしていたように思う。ああしなさい。こうしなさい。
遂には、学校に行かないのなら図書館に行って勉強しなさいと言った。ろくに外に出ないのに、さすがにそれは無茶苦茶だと、ぼくでさえそう思った。
385 :
ふみあ:2010/04/11(日) 08:32:49
豚切りスマソ
>>335の続きです
第五章
5-1
>>薫
僕が男だとばれてた数日後、内心びくついてはいたが、最小限に留められていために
見かけ上は普通に学校生活を送っていた時の事だった。
昼休み、図書室で適当に小説を漁っていると、突然典型的な金髪縦ロールの、
気が強そうな奴に因縁を着けられた。曰く
「1年5組の綾小路 薫ってのは、あ・な・た?」
「ええ、そうですがどちら様ですか?どうやら同じ学年の方のようですが。」
ネクタイの色が青かった。
「あら世界的大企業、龍宮司グループが総帥の一人娘こと、わたくし龍宮司 聖華の事をご存じでないなんて…」
龍宮司グループなら知っているがそこの総裁の一人娘なんぞ知らない。思わず
「知らんわ! んなもん。」
と突っ込んでしまった。
「はい?」
「いえ、存じていませんでした。で、その龍宮司家のご令嬢がどんな御用で私の所へいらっしゃったのでしょうか?」
「用も何も、あなた、凛様とはどういう関係ですの?」
「と、言いますと?」
「あなた、噂じゃ麗子様の妹でありながら凛様とも関係を持っているらしいじゃないの。」
と顔を赤らめながら大層憤慨されておられる。ひょっとして凛先輩のファンなのか?なんか変な奴に絡まれたなあとうんざりしながら、
「何を御想像されているかどうか想像しかねますが、あくまで凛様と私は上司と部下の関係でそれ以上でもそれ以下でもないですよ。」
386 :
ふみあ:2010/04/11(日) 08:37:07
「でもお姉様って…。」
「あれは凛様が私にそう呼ぶよう命じられているだけです。どうもあの人の趣味らしい。」
「でも凛様はあなた以外にお姉様などと呼ばせておられませんわ。」
「そうなんですか?でも少なくとも私は麗子様の妹であって凛先輩の妹ではないですよ。無論愛人なんかでもない。」
「愛人?」
「いえ、ご存じなければいいんです。失言でした。」
「ま、ともかくあなたと凛様は…」
「そういう関係では一切ございません。」
「じゃあ、凛様は今…」
「一応フリーでしょうね、今は。たぶん今頃学生会に引き入れるための妹候補を探している最中じゃないですかね…
ほら、噂をすれば向こうの方に…。」
おられますよと言おうとして振り返るともう龍宮司嬢は消えていた。
「早っ…。」
放課後凛先輩が妹ができた。新しい部員だと言って龍宮司を連れて来た。よかったな龍宮司。そう思って「これからよろしくお願いします」と言って
握手しようと手を伸ばすと、何故か龍宮司が化け物か何かを見るような怯えた目で、顔全体を強張らせながら僕を見ていることに気が付いた。
思わず何かを確認するように凛先輩の顔を見ると、凛先輩は何故か急に僕から目をそらした。もう喋ったのかよ…早いな、おい#。
387 :
ふみあ:2010/04/11(日) 08:41:31
その後全員が揃ってから暫くして、幾つか備品が必要なことが分かったので、近くのホームセンターへ買いにお使いに行かされることになったのだが、何故かもれなく「監視役」という名目で中西先輩が付いてくることになった。
釣銭をちょろまかす可能性があるから僕ひとりでは行かせられんそうな。ま、僕もそのホームセンターがどこにあるのか知らなかったので、場所を知っている人がナビしてくれるならありがたいし、別に断る必要もなかったので了承した。
買い物のリストが書かれた帳面の紙一枚と金が入った集金袋を受け取って制服の上着を羽織り、自分の傘を手にとって、怜先輩の2〜3歩先を歩いて行き、車の助手席を開けて、先輩に雨がかからない様に傘を捧げた。
そのまま、無言で乗り込んでくれるだけなら、まだ良かったかもしれない。だが、生憎僕の耳は先輩がこれみよがしに、「いつも思うけど、ボロくて汚らしい車ねえ。」と言ったのを聞き逃さなかった。確かに30年以上前の車で、
廃車からの再登録車で、車検とって以来一度も洗車してないけどさ、わざわざ口に出して言わんでも…。
エンジンを回して一旦車を広いところまで後退し、車の向きを変えるためにハンドルを切って前進しかけた時、突然先輩が、
「薫、あんたが持っている買い物リストと集金袋、貸しなさい。」
「え?はい。」(^−^)つ[]
と渡すと、先輩は集金袋の中にリストの紙と紙幣が入っている事を確認すると、そのまま自分の懐に集金袋を仕舞った。
「やっぱり私が持っている方が安心できるわ。」
「そうですね、先輩がお金を持っている方がよろしいかも知れませんね。そうすれば僕もお金を失くすとか、ネコババするとかという不安や責任から解放されますから。」(^−^)
「あら何?嫌味?」
「さあ、どうでしょう?ところでホームセンターマルサでしたっけ?道案内お願いできますか、先輩?」
「いいけど…大丈夫なの?この車。五月蠅い上に変な音がしてるんだけど。」
「古い車ですからね。でも大丈夫ですよ。いつもこんな感じですから。」
388 :
ふみあ:2010/04/11(日) 08:45:58
先輩の指示に従いながら走っていくとかなり大きな店舗と駐車場を備えた件の店が見えてきた。店の少し前の交差点にはでかい看板がかかっている。
段ボールを何箱かとプリンターのカートリッジなどを買い込んで、駐車場に戻り車を発進させた。
順調に片側2車線の道の追い越し車線を少しスピードを出しながら流れに乗って走っていると前方の走行車線を少しふらつきながらノロノロと走る軽のEVが視界に入ってきた。
気のせいかサイドミラーに運転手の顔が写っていなかったので一瞬速度を落としてそのまま追い越すことを躊躇おうとしたが前を走るワンボックスが普通に追い抜いていったので、
多分大丈夫だろうと僕もそのままその軽の横を追い越そうとした。
が、何を思ったのかその軽は僕が横についた途端急にハンドルを右の方へ切ってきた。前のタイヤがこっちに向いてきた瞬間に気づいて慌ててクラクションを鳴らしながら急ブレーキを踏んだが….
キキィーーーーーーーーパーーーーーーーーン….ガシャー――――ん!
と派手な音を立てながら僕の車は前のめりになりながら鼻先を軽自動車の右の横っ腹に突っ込んで急停止した。
突っ込んだ瞬間から先輩がなにか喚いている気がするが気にしている余裕なんて無い。急いでハザードを着けてPレンジに入れてサイドブレーキを踏み、
後ろに気をつけながらドアを開けて外に出て軽自動車の方へ駆け寄った。
駆け寄りながら自分の車の前を見ると、バンパーカバーの左側がハズレてエアロが傷つき曲がって、衝撃でボンネットが少し開いていたがフレームは特に曲がってはなさそうだった。
がロールバーやボディーパーツを仕込んでいるのでそこから伝播して変なところまで歪んでいる可能性までは否定できなかった。下手すると場所が場所だけにラジエータなどが傷ついている可能性もあるが
とにかく自走は出来そうだ。
一方未だに接触している相手の車を見ると右側の後部ドアに大きなヘコミがあり、そのヘコミのせいでBピラーや前のドアまで凹んで少し潰れている。
389 :
ふみあ:2010/04/11(日) 08:51:50
サイドカーテンのせいで車内の様子が見えなかったので前の方に回って覗き込むと、運転席で如何にも主婦してますって感じの30位のおばちゃんが、何が起こったかわかっていないのか、
ハンドルを握ったまま固まっていた。よく見ると後部座席左側ににチャイルドシートに座った小さな子供が泣いている。不謹慎だが正直反対側じゃなくて良かったとホッとした。
軽自動車を運転してたのは子供の母親らしい。物凄く火病ってる。自分が後方確認せず突っ込んできた癖に事故の原因は僕にあるという。むちゃくちゃだと思ったが、
「と、とりあえず後ろの車の邪魔になりますから左側へ車を寄せません?動かせますか?」
なんとかおばちゃんから開放されると、僕は今度は未だ停車していた僕の車の後続車、おそらく衝突を避けるために相当の急ブレーキをかけただろうタクシーに近づき、
運転手の男性に事故の目撃者の証人として警察が来るまでここにいてくれないかと、迷惑も承知でお願いした。幸いタクシーは空車だったし、タクシーのルームミラーの近くに
ドライブレコーダーのカメラがついているのが見えたのでひょっとしたら事故の瞬間が映っている可能性があったし、なによりこういう事故では当事者以外の第三者の証言があるのとないのとでは
警察の対応がずいぶん違うというようなことを聞いていたので、できれば残って欲しかったのだが、案の定断られた。
だが、
「迷惑なのは十分承知です。最後までとは言いません。残っているならドライブレコーダーの事故の記録映像を提出して下さるだけでも十分なんです。お願いします。」
とお願いすると、渋々ながら了承してもらえた。
390 :
ふみあ:2010/04/11(日) 09:18:58
車に戻ると非常に高いテンションで、誰かに電話で事故の報告をする先輩がいた。一瞬通報してるのか?と思ったが、よく聞いてみると相手は凛先輩らしい。
車を一旦バックさせて軽自動車との距離を開けて、左後方に気をつけながら車線変更して軽自動車の前に出たところで路肩に停車して停止措置をしてエンジンを切った。
僕の後ろに相手の車、さらに後ろにタクシーがそれぞれ路肩に止めたことを確認すると、スカートのポケットから自分の黒い携帯をだし、110番へ電話をかけた。
もうすでに誰かが連絡していたのかすぐに2台の白黒のパトカーがやってきた。降りてきた4人の警官の一人に自分の免許証と車のクローズボックスから取り出した車検証を提示してなるべく簡潔に詳しく事故の説明をし、
タクシーのレコーダーに記録が残っているかもしれない事を話すと、すぐにPCを使ってレコーダーの映像を確認すると、幸い事故の瞬間の映像が記録されていた、ということだった。すぐに映像は証拠として提出されたので、
タクシーの運転手さんにお礼を言って去っていただいた。そして簡単な事情聴取の後、鑑識課の車がやって来て簡単な現場検証をし、そうしてできた調書にサインをしてやっと開放された。一応相手の名前と連絡先などを聞いておこうと思ったが、
調書の方に書いてあったので止めといた。この調書を祖父を経由して保険屋に渡せば多分大丈夫だろう。あとはその道のプロに任せることにした。
そして警察も相手の車も去ってしまったので、またポケットから携帯電話を取り出して両開きの携帯の隙間に指を潜り込ませるようにして片手で開き、そのまま電話帳を開いて母親と祖父に電話をかけた。二人には怒られたり心配されたりしたが、
保険屋へのやり取りなどそういう処理は大人に任せろと言うのでそうすることにした。
391 :
ふみあ:2010/04/11(日) 09:21:05
電話を終えて車に戻ると、まだ怜先輩は電話を掛けていた。そして僕が戻ってきたことに気づくと慌てたように
「あ、戻ってきた!代わるね!」
と言いながら持っていた携帯を、えいって感じで差し出した。何が何だかわからぬまま赤い携帯電話を受け取ると、今度は不機嫌そうな声で
「みんな、心配してるわよ。」
携帯の受話器のスピーカーに耳を押し付け、マイクに口を近づける。
「もしもし、代わりました。綾小路です。」
「薫ちゃん、事故にあったって?!大丈夫?」
「凛先輩、一緒にいた怜先輩が無事なんだから僕も無事に決まってるでしょ?ていうかずっと電話で話してたんですか?」
「で、どうなったの?」
「今さっき現場検証が住んで解散した所ですよ。最も保険屋に連絡して、車も修理に出さないといけませんが。今から戻るんで詳しいことは後で報告します。じゃ。」
「あ、ちょっと、待っ」ブチッ、ツ―――ツ―――ツ―――
電話を切って先輩に電話を返し、周囲に気をつけながら車を発進させ…ようと思ったが、部品が脱落したら大変なのでバンパーとヘッドライトにガムテープでテーピングすることにした。トランクのロックを外して蓋を跳ね上げ、
車の後ろに回ってずいぶん前に放り込んだままになっているガムテープを取り出して、ボンネットとバンパーとフロントフェンダーパネルを十字で結ぶように固定する。用済みになったガムテープをトランクに放り込みまた運転席に戻った。
何故か隣から刺すような視線を感じた気がするが、無視して周囲を確認して車を発進させた。
5-2に続く
392 :
ふみあ:2010/04/11(日) 17:04:03
5-2
>>薫
何が起こったのか解らなかった。いや、何が起こったのかは理解できるのだが…どうしてこうなったのか理解できなかった。ありにままに起こったことを列挙したとすれば、単純に学生会館について車から降りてきた途端、
建物の中から飛び出してきた麗子先輩に思いきり抱きつかれた。
驚いたが、それでもただ単に抱きつかれただけならすぐに正気に返ってやんわりと先輩の腕を振りほどけたかもしれない。実際振りほどこうと声をかけようとすると、
「どうして連絡しなかったの…心配したのよ…無事でよかった…」と、むせび泣くような先輩の声が僕の耳に聞こえてきた。また驚いて慌てて先輩の顔を見上げると、安どの言葉をつぶやき続ける先輩の眼もとから
頬を伝って流れる一筋の涙が見えた。またまた驚いていると麗子先輩は「ホントに…ほんとうによかった…」といいながらさらにギュッと僕を抱きしめて、頭を撫で始めた。先輩の大きな胸が顔に当たるのと、
まるで小さな子供をあやすかのような撫で方に少し恥ずかしく思ったが、それ以上にまるで小さい頃に母親にされたのと同じような、いや、それ以上にどこかすごく懐かしい感じがした。
5-3に続く
393 :
ふみあ:2010/04/11(日) 17:43:16
5-3
>>薫
5月に入って春のゴールデンウィークを目前に迎えた。連休中は実家に帰ろうかと思ったが、
連休後すぐに中間テストがある上に、入学早々男であることがばれたり、
車で事故った上に修理に出しているので正直両親や親戚のもとに帰りずらい、
さらに今年の連休が4日間しかなかったので実家に帰るのは止めて学校に残ることにした。
という事を昼間学生会で何かの拍子に話すと、麗子先輩が「なら家に来ない?」と誘ってきた。
断る理由が見つからなかったし、なによりめったに人を家に招き入れない事で有名な麗子先輩から
家に誘われる事はそれなり名誉なことであって断る方が失礼である上に、ぶっちゃけた話をすれば
天下の有栖川家が一体どのような豪邸に住んでいるのか軽く興味を持ったのでご厚意に甘えて誘いを受けることにした。
有栖川家に行くことになった事を、一応両親には電話した方がいいだろうと実家に電話をかけると、それまで淡々と
相槌を打つだけだった母親が有栖川という単語が出て来たとたんに異常なほど喰いついてきた。
少し奇妙に思ったが祖父の会社が有栖川と取引していることもあり特に気にはならなかったので、
聞かれるままに麗子先輩や麗子先輩が現在学生会の会長をして自分が個人的に世話になっている事などを話していくと、
母は普段とは少し違うテンションでやや興奮しながら、くれぐれも先方に失礼なことがないように気を付けろと、
重ねて念を押すように話の最後に釘を刺した。わかっていると答えつつも、あまりにもしつこく念を押すので
いらつきながら電話を切ったが、何故そこまで念を押す必要があったのかその時は解らなかった。
ゴールデンウィークの初日、着替などを入れたカバンを持って麗子先輩について行き、迎えに来た有栖川家の車に乗って
有栖川家の本邸に向かった。地方に住んでいても一度ならず耳にしたことがあるような都内の高級住宅地の一角に鎮座する
無駄に広く、壮大で、門構えもどっしりとした絵に描いたような西洋風の大豪邸を見上げた途端、想像の斜め上を行く
そのスケールのでかさに思わず( ゚д゚)な顔のまま暫く固まってしまった。しかもよく見ると本邸の向こう側に離だろうか、
だとしても相当大きい一軒家があるのが見えた。
394 :
ふみあ:2010/04/11(日) 17:46:19
いきなりスケールのでかさにド肝を抜いたが、有栖川夫人、つまり初対面の人間にいきなり
「久しぶりねえ、こんなに大きくなって。おばさんのこと覚えてる?お母様とお父様はお元気?」と言われてさらに僕は混乱した。
訳が解らず、はじめましてと自己紹介することも忘れて混乱しながら
「あ、あの…どこかでお会いしたことが御座いましたっけ?あと両親をご存知なのですか?」
「知ってるも何も、あなたのお母さんは女学院時代のわたくしの妹でしたもの。」
「工エエェェ(´゚д゚`)ェェエエ工!?」
はじめて聞いた…
「それに、まだ一歳だったもの、覚えてないわよね…お母様に連れられて会いに来た事もあるし、一年だけでしたけどここの…
裏の離れにご家族で住んでいた事もあったのよ..。」
「本当ですか?」
俄かには信じ難かった。
「ええ、それにしても麗子から聞いた時は驚いたけど、また薫ちゃんに会えるなんてねえ。久しぶりに智代から電話も頂いたし…。
聞いたわよ、災難だったわねえww」
「は、はい…」
「ここじゃなんだから、遠慮せずにお上がりなさい。さあ、さあ。」
「お、お邪魔します。」
「あらあら、そんなに緊張しなくていいのよ。自分の家だと思って気楽に過ごしてね。」
「は、はい。ご気遣いありがとうございます。」
有栖川夫人、つまり麗子先輩の母親は、こちらからは何も言っていないのに僕が知らない我が家の昔話を
お茶を飲みながら話して聞かせてくれた。
395 :
ふみあ:2010/04/11(日) 17:51:10
そんな折に当時大学生だった有栖川父の高校時代の同級生で、当時K大の医学部に進学してK大オケのバイオリンパートに在籍していた男性がいたのだが、K大オケがN響とタイアップでNHKホールで演奏することになった。
そこで久々に有栖川父とその人(N)が会うことになったそうで、その時Nが同じ学年で、医学部の京大オケでトランペットを担当し、一緒に東京へ来ていた僕の父親を連れてくることになり、それならばと有栖川父が有栖川母と
その同級生であった親友と、妹であった母を連れて6人で食事、もとい軽い合コンのような事をやることになったらしい。
「お父さんとお母さんから、こういう話聞いたことはない?」
「いえ、全然。今はじめて聞きました。」
その後高校を卒業した後、母はN女大に進学し卒業後父と結婚、有栖川母は学院が併設していた大学にそのまま進学、卒業後有栖川父と結婚してしばらく音信不通だったのが、
15年ほど前に赤ん坊だった僕を連れて母が有栖川家を尋ねた事があったらしい。
互いの結婚式以来だったのでそれなりに話に花が咲いたが、その中で我が家の近況に至ったらしい。
その当時K大で医師になった父はK大大学院で博士を取りながら助手として産科で働いていたそうだが、天才肌の上にくそ真面目で融通が効かない性格が災いして
上司や先輩医師から目の上のたん瘤のように扱われ、折角博士号をとったのに仕事がなく、乳飲み子を抱かえて、いろんな病院のバイトをすることで食いつないでいたらしい。
その中で、卒業後地元に帰り実家の開業医を継いでいたN先生に、「うちの産科で働かないか?」と誘いを受け、一年程そこで働く事になったらしい。
396 :
ふみあ:2010/04/11(日) 17:54:25
その為、生活拠点を京都から東京へ移すことになり、その時に家さがしを兼ねて有栖川家に挨拶に来たらしい。
「その時ね、離の方を全然使ってなかったから、おばさんあなたのお母さんに、どうせこちらへ引っ越すのなら、よかったら家の離れをお貸ししましょうか?って
提案したのよ。あの時はもう智代ちゃんの実家は島根にお戻りになってたし、N病院ならここから比較的近いところにあったし、なにより昔みたいにまた智代ちゃんと
二人で過ごしたいとも思ったから。」
母は初めは提案を、迷惑をかけるからと受け入れられなかったそうだが、有栖川母の提案に最終的には同意して一家揃って有栖川家の離れに引越す事になったらしい。
そして男どもが仕事で家からいなくなった後、二人でお茶を飲むことが多かったらしい。当時有栖川家にはしっかり者の3歳の女の子が、我が家にはやっと1歳になったばかりの
甘えん坊な上に女ぽくて頼りない男の子がいて、よく二人で遊んでいたらしい。一人っ子だった女の子にとって、突然やってきた赤ん坊はまるでずっと欲しかった兄弟ができたのと同じような事
だったのだろうか…男の子をいろんな所へ連れ回したり可愛がったり、姉っぽいことを色々やって、傍から見たら本当に姉弟のような感じだったらしい。
「あの娘ったら、薫ちゃん達が京都へ帰った日に寂しさのあまりわんわん泣いてね…」
「へ、へー….」(覚えてねええ…)
397 :
ふみあ:2010/04/11(日) 17:57:32
その後3つ下の弟が生まれるまで我が家は父がK大で講師になり、京都で落ち着くまでまで関西地方を転々とする羽目になるのだが、さすがにここから先はおぼろげながら記憶に残っている。
とにかくそれから十数年後の今年の四月、美しく成長し学生会長となった女の子こと麗子先輩はある朝登校中にクラクションを鳴らしながら半ば強引に集団の中を車で通り抜ける一人の少女?に出会った。
あまりにもはしたなく無礼な振る舞いに憤慨した彼女は、夕方偶然見つけた少女に説教をたれるために近づいたのだが、少女の名前が昔弟としてかわいがっていた子供と同じ名前である事を知って、
急に湧いた親近感から彼女を自分の手元に置くことにした。
ところがどっこい、ひょんなことから少女は実は少年である事が発覚し、縁戚関係を問いただすと、紛れも無く昔可愛がっていた男の子であることがわかった。
398 :
ふみあ:2010/04/11(日) 17:58:51
「その時の麗子のはしゃぎっぷりといったら電話越しでもわかるくらい激しくてねえ。まあ、14年ぶりにかわいい弟君に会えたんだもの、仕方ないとは思ったんだけど..ねえ。」
「もう茶化さないでください!お母様。」
「あらあら、ごめんなさいね。麗子さん。」
「すみません。全然覚えてないです。」
ひょっとして僕、知らない間に先輩に対して失礼なことをしでかしてたんじゃないか?と思いながらおどおどとそう言うと、
「気にしなくていいわよ。まだ赤ちゃんだったんだから覚えていなくても何の不思議もないわ。そうだ、よかったら離れの方を見てみない?あなた達が出て行ってからずっとそのままにしてあるから、
ひょっとしたら何か思い出すかもしれないわね。」
「ぜひ、お願いします。」
399 :
ふみあ:2010/04/11(日) 19:56:32
格式こそあれど、大豪邸には不釣り合いな、屋敷の一番奥まったところにある粗末な造りの板敷きの渡り廊下を通って、洋館である本館とは対照的に純和風仕立てで、裏側に勝手口へと続く玄関がついた離れに入った。
渡り廊下に張られた窓ガラスの向こうを除くと、表側の英国風のガーデンからも屋敷の敷地内からも渡り廊下と塀以外は生垣で仕切られており、ほぼ完全に別の敷地に建つ別の家になっている。少なくとも外から見る限り
超大豪邸の隣に立つ、というより三方を囲まれた普通の家という、マンガかエロゲくらいでしかお目にかかれないシチュエーションをそのまま実現したような感じになっている。実際離れの周り、表の英国風庭園と仕切られた
生垣に面するところはちょっとした日本風の庭園になっているし、渡り廊下は離れの真後ろにあるので言われなければ同じ敷地内の家だとは分からないようになっていた。
そもそもこの離れは先々代の当主が古伊万里や古有田と言った焼き物や掛け軸などの骨董品を収集したり日本庭園や盆栽などが大好きな人で、自分の家の中に日本庭園と自慢のコレクションを置いておける離れが欲しいと思って建てたものらしい。
ただ、屋敷の中にいきなり日本庭園と和風建築の離れを建てると、屋敷と前庭が純正洋風である故にとてもカオスなことになったのでわざわざ屋敷と敷地を分けたという経緯があったらしい。しかし先々代が引退し、地方のどこかに改めて純和風の
大きな別宅を拵えてコレクションごと夫婦で移り住んだ後は誰も使うことが無かったらしい。
それでも使用人が掃除や整備などをきちんとやっているのだろう。十何年間使われてないという割りに屋敷の中は凄く綺麗にまとめられていた。それでも使われてないことを示すかのように離れの中は家具が殆どなく、すっからかんになっていた。
ただ、さっきの話を聞いたからではないが、確かに小さい頃、自分はここにいたことがある、と頭のどこかで何かが湧き上がるように、意識を感じた。
400 :
ふみあ:2010/04/11(日) 20:08:33
何かもやもやとしたものを抱かえながら本館にある客間に戻ると、今度は麗子先輩の部屋に案内してもらった。屋敷の他の部屋と同様、先輩の部屋も軽く見積もっても二十畳くらいありそうなほど広く、見るからに高そうだが、
品がある落ち着いた西洋風の調度品であつらえられ、床には紅い絨毯が敷かれている。強いて言えば本棚や机、ベッドなど他の部屋よりもやや家具が多い印象があるが、雑念とした印象は一切なく几帳面なくらいきっちりと整理整頓されており、
先輩らしい部屋だなあというのが印象に残る部屋だった。
先輩の部屋は屋敷の最上階である4階の角部屋であり入り口となる扉の正面と向かって右側に窓があり、左側に隣室との壁があって正面の大きな格子窓と入り口を結ぶ線を境として窓際に学習机と幾つかの本棚とベッドが、
壁際に30型の薄型液晶テレビとBD/DVD/VHSデッキとそれらとサウンドシステムスピーカーを収納したラップ、その横にLDレコードまで聴けるような大型のコンボが鎮座しており、それらを囲むようにラックが置かれ、テレビの正面にちょうど良い距離に
二人がけ用の黒い本革のソファーとガラス板が敷かれた背の低いテーブルが置かれている。よく見るとテーブルの両端にも一脚ずつ同じような一人掛けのソファーが置かれており、4人くらいなら座ってテレビを見れるようになっている。
そうしてそうした棚やラックの隙間からかわいらしいぬいぐるみや人形などが顔を覗かしており、それだけが唯一この部屋の主が妙齢の少女であることを示していた。
401 :
ふみあ:2010/04/11(日) 20:15:51
だがそうしたぬいぐるみの中に気になるものがあった。あれは…トミカのミニカー?
いや確かにミニカーだ。それもずいぶん前のとうに絶版となった国産セダンのモデルである。しかもそれたった一台しか無く、他のものには傷どころか汚れすらないのに、
そのミニカーは汚れてはいないもののところどころ塗装が剥げており、そこからサビが侵攻し紺色の車体が赤茶けた色になっている。
なぜこんな場違いな物があるのかわからなかったが、大昔これと同じものを持っていた記憶があるので懐かしくてつい手にとってしまった。もうこれと同じように錆びついてしまったので
殆ど全部捨ててしまったが、物心ついた時から車が好きだったのでこういう物をよく転がして遊んでいた。そんなことを思いながらそいつを何気なく指先で前後に転がしていじっていると、
突然昔の記憶が蘇ってきた。
三つか四つの頃、何かの拍子にこれと同じミニカーを見つけようとしたが、見つからず大泣きした事があった。結局どこかで失くしたのだろうということになり、今の今まで見つかっていないし
探してもいないが、何故その時だけ必死にこのおもちゃを探したのか今でも解らない。特に気に入っていた車ではなかったからだ。
でも確かにその時探していたのはこのモデルだった。それを確かめるように何気なくトミカを持ち上げると車体の裏の所に何かがあるのが見えた。裏返してよく見ると黒い台車に白いサインペンで
『薫』と書いてある。そう言えば当時母親は僕が持ついろいろな物に僕の名前を書く習慣があった。恐らくこれも母が書いたものなのだろうか….とういうことは…
402 :
ふみあ:2010/04/11(日) 20:32:35
「おまえ、こんなとこにいたのかwww。探したんだよ。」
と思わずミニカーに話しかけてしまった。そりゃいくらなんでも京都の実家で探したところで見つからないはずだ。
「ああ、それね、薫ちゃん達が帰った後に麗子さんが見つけてね。多分忘れたのかなって思ってとっといたのよ。」
「今までとって置いていただいてたんですか?!」
なんか申し訳ない気持ちになった。こちらもすっかり存在を忘れていたくらいなのだから処分していただいても一向に構わなかったのだが…
むしろ今更返されてもミニカーで遊ぶような年でもないし困るというのが本音だったりと複雑な思いに囚われていると、
「そうね、わたしもそうしてもいいんじゃないかって思ったんだけどこの娘がどうしてもって聞かなくてね…この子(ミニカー)を薫ちゃんの代わりにするんだって….」
「やだわ、お母様。恥ずかしい。」
と先輩が顔を赤らめながらやっかむと、それに対して母親が昔語りを語るという会話が続いた。
促されるままテレビの前のガラス卓の前の二人掛けのソファーの左側に座って出されたお茶を飲みながら、同じソファーの右側とさらにその隣のソファーの間で繰り広げられる母娘の会話を聞きながら、
だんだんと忘れていたことを思い出せるような気がし、情景が頭の中に思い浮かんできた。確かに凄く小さい頃ここに何度も来たことがある。そしてこの人達と逢ったことがある。そう確信した途端、
今まで眠っていた様々な思い出が頭の中を駆け抜けて行く。
403 :
ふみあ:2010/04/11(日) 20:37:03
「そういえば、いつかは忘れましたが、僕がお姉さまの大切にしていた人形の服を汚してしまって凄く怒らしちゃったことがありましたよね?あの時はごめんなさい。」
と、そうした思い出の一つを口にすると、
「そういえば、そういう事もあったわね。」と有栖川母が笑い。
「もうずいぶん前に済んだことだし、赤ん坊がした事だから今更謝られても困るわ。」と先輩、もといお姉様が応える。よかった、どうやら本当に思い出であって僕の勝手な妄想では無かったらしい。
なんだか少し自信がついてきたのでさらに
「そういえば、もう一人よく一緒に遊んだお兄さんが居られましたよね?名前なんて言ったかな?はお元気なんですか?」
と訊くと、有栖川母は困ったような笑顔でお姉様の方を伺いながら黙り込み、お姉様はお姉様で
「薫、あまりその方の話をわたくしの前でしないでちょうだい。」
と急に不機嫌になったように思われた。
確かにたまにだが僕とお姉様と一緒によく遊んだお姉様より少し年が上くらいの、今なら多分高三か大学生くらいの男の子がいたような気がしたんだが気のせいだったのか?
それともこの家ではタブーな話題となっているのか?どちらにしろ墓穴を掘ったような感じになりその場を気まずい空気が流れているように感じられ、居心地が悪かった。
5-4に続く
続きマダァ〜?
楽しみにしてまーす
405 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:10:52
巻き込み規制につきシベリアからお送りします
>>403の続きです
5-4
>>薫
場が気まずくなった原因は翌日自ずと僕も知るところとなった。というのもその張本人である少年、
今や高三となった麗子先輩の母方の従兄弟、八重樫 進が突然有栖川家を訪問してきたからだ。
向こうはこちらの事をよく覚えていたようで、気さくな感じで「久しぶり、かわいくなったね」
と話しかけてきているがこちらは殆ど忘れていたので「お、お久しぶりです…」とぎこちなく、
かなり温度差があるやりとりを交わしてしまったが。気のせいか有栖川家の人達も進さんに対して、
もどかしいというか、ぎこちなく感じるような応対をしていた。聞くと、進さんのこうした訪問は
結構頻繁にあるようなので、第三者から見てもそう感じられるのはおかしいのだが、進さん本人から
聞いた話によって何故そうなったのか納得してしまった。
406 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:11:16
よくある話だが、元々麗子先輩と進さんは年が近く家柄もよく、いとこ同士で仲が良かったことから
両家の取り決めで許嫁の関係になったらしい。なったらしいというのは事実上その約束が反故になったかららしいが、
何故か名目上は依然として許嫁の関係にあるという。訳がわからずに(・д・`)な感じになったが、
「だって、表向きだけでもそういう関係だとしておけば、お互い言い寄る異性だとか気に入らない縁談をお断りしやすいだろ。」
と言うのはあくまで進さんだけだが、そういう理由で未だに周囲には許嫁として強引に通しているらしい。
そもそも許嫁の約束を反故にしたのも進さんの方であり、その理由も
・麗子先輩を従姉妹として妹のように可愛く思うが、あくまで妹のように感じるだけで異性として性愛の対象として見ることなどできないし。
ましてや将来を誓い合うなどできない。
・麗子先輩自身もそのような目で進さんを見ていないだろうし。もしかしたら他の人の事をす気になるかも知れない。
・というより進さん自身に他に気になる女性がいるのでできればこの約束を返上したい。
・そもそも勝手に親同士が子供の結婚や将来を指図するなど横暴だ、承服しかねる。
等色々あったらしいが、ほぼ自分勝手な理由で無かった事にしてしまったのだという。
407 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:11:38
驚くべきことは、名家同士が決めた縁組を破棄して勝手な事をホザいている目の前の人物が、実家を追い出されるわけでもなく、
と言って有栖川の敷地内に出入することを禁じられるわけでもなく、さも当然のように八重樫と有栖川の家を行き来していることだろう。
なぜ先程有栖川の人たちが彼を、手の届きにくいところにできた腫れ物に触れるようにもどかしく扱っているのかわかる気がした。
顔にこそ出さないが呆れた僕を他所にして進さんは自分の近況を話しだした。今彼は家の女学院となぜか兄妹校の関係にある女人禁制の
仏教系の進学校の生徒会長を経て現在三年の首席を任されているらしい。そしてそこまで言うと急に後ろを振り向いて
「で、これが僕の後任の生徒会長を務めることになった後輩の富士之宮だ。」
といって傍らで控えていた、例えていうならその筋の作品で主人公の悪友として出てくるいじられキャラを、
雰囲気はそのままにしてそこそこ二枚目にしたような感じの男が、ガチガチに緊張したような顔で固まりながら突立ていた。
富士之宮は自分に話が振られた事に気がつくと今度はものすごく慌てながら、
「はっ、初めまして。自分富士之宮 和樹と言います。よ、よろしくうぅぅ!!!」
とかなりギクシャクした喋り方とでかい声で挨拶した。
408 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:12:01
有栖川の家の家のデカさと格式の高さにビビっているのか、それともこういう場に慣れていないのか、どっちにせよしゃあないなと思いながら、
なるべく笑顔で穏やかになるように
「こちらこそはじめまして、綾小路と申します。よろしく。」
と簡単に挨拶をすると、富士之宮が少しかがみながら顔をこちらに近づけ
「名前は?」
と訊いてきた。
「え?だからあ…
「そっちではなくて下のほうの..」
ああ!
「薫、と申します。」
と答えると、今度は顔を離して立ち上がり天井を仰ぎ見ると
「薫さんか…良い名前だ。」
と呟いた。格好だけなら夕日をバックにタバコを吸いながら黄昏るダンディーでカッコいいオヤジのように見えなくも無かったがどこか厨二病臭かった。
409 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:12:25
だが名前を褒められてもうれしくなくはない。
「ありがとうございます。富士之宮さんも珍しい苗字ですね。」
「ああ、俺の家製薬会社をやっているんですよ。」
「ひょっとして、富士之宮さんて富士之宮製薬工業の御曹司なんですか?」
ジェネリックから始まって、近年面白い薬をいろいろ開発している事で医療者や学会の間で話題になった会社なので
名前だけは聴いたことがあった。
「え、ええ、ご存知なんですか?」
薬局用に風邪薬などの認可薬より病院へ直接卸すような医療薬をメインに作っている会社でCMなどは作っていないので
専ら医療関係者しか知らないような会社である。ただの女子高生がそんな会社を知っていることに疑問に思うのも無理ないだろう。
「いえ、父が医者をやっているのでそれで…」
「ああ、そうでしたか。」
などと少し会話に興じているとそばで見ていた進さんが。
「富士之宮も薫君も仲良くなるのは良いけどここではなんだ、居間の方へ移らないか?」
と提案したので同意して居間の方へ移動した
(取り敢えずここで切ります)
410 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:15:51
テスト
411 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:20:08
規制解除┐(´∀`)┌ヤレヤレ
>>409の続き
>>
連休早々厄介な先輩に捕まり、無理やり車でその先輩の許嫁であるという親戚の家へ連れ込まれた和樹は道中ひたすら抵抗し、隙を見ては逃亡を企て、
いざ家に入る際にもぶつぶつと文句を垂れていたが、屋敷の玄関に出迎えてきたその家の二人の母娘の後ろについてきた少女を見た途端、その少女に目が釘付けになり、
それまで散々吐いてきた不満を全て撤回し、逆に来てよかったとさえ思い始めていた。早い話が、彼はよりによって男に一目ぼれしてしまったのである。
だがこの時点でまだ彼は少女が実は男だとは気付いてもいないし、毛頭にも思ってはいない。
玄関から屋敷の応接間に通され、茶でも飲みながら世間話をするが、すぐに有栖川家の人々と八重樫の3名が内輪の話で盛り上がり始めたので、他人である2名が話題からあふれ、
薫にとっては知り合いでも無い和樹と事実上二人きりという苦痛な時間が、他方和樹にとっては薫と二人きりで話せるというまたとない機会が訪れた。
薫は和樹の、まるでダムが決壊したかのようなものすごい勢いであれこれ質問してくる和樹に対し最初は面食らったが、久しぶりに男同士で、科学などの専門分野やマニアックな情報、
オタクとかマニアっぽい趣味趣向などを気楽に語るのは久しぶりだったので思いのほか会話を弾ませた。和樹の方も、薫が普通女子が食いつきそうな話題には全く食いつかず、
どちらかと男が好みそうな話題に終始食いついたので変わっているなとは思ったが、思いのほか会話が弾んだこともあり、それに関して特に疑問には持たなかったし、シモネタとか
性的な話題だけは必要以上に嫌っているようだったので、男というのは大抵性的なことにある程度以上の興味と情熱を持っているものだという考えを持つ彼にはそういう事に対して
否定的な立場の男がいるなど理解の外であり、やはり女だろうとしか考えなかった。
412 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:23:52
しかし、否定し続けた違和感が疑惑として変わる決定的瞬間が訪れた。普段は自分勝手な癖していざという時に周りに余計な配慮をする男、
八重樫 進が自分たちだけで盛り上がっていたら客人である二人がたいそう困るかも知れないと思って、薫と和樹にも十分参加できるような、
学校などの関係の話題に二人を無理やり引きずり込んできた。
話題や薫そのものになんの不都合は見いだせなかったが、進が薫を呼ぶときに全て「薫君」と君付けして呼んでいることに和樹は不思議でならなかった。
なぜなら中一からほぼ4年間進と過ごしている和樹にとって、男以外で進が君付けをしたのを耳にしたのはこれが初めてだったからだ。
そもそも進は女の子をたとえ身内や、一見男のように見えても絶対に君付けや呼び捨てにはしない主義だし、その上自分の論理や考えは絶対に変えずに
真っ直ぐに突き進む頑固者で、自分が確信した筋道さえ立てれば何をしても構わないとすら考えている類の自分勝手な人間である。薫にだけ例外を設けるとは考えにくい。
と、いうことは….やめよう。そう思って心のなかで頭を振ると、和樹はそのことに関する思考を中止した。
しかしやはり気になるものは気になる。じっと観察していると、一見女のようだがよく見ると男らしいように見える気がするような所も無いわけじゃないような気がする。
結局もやもやを抱かえたまま、帰り道に進に事の真相を聞かされ、あっさり和樹はそれを知ることになるのだが、生憎同級生の悪友に見せられた、女装少年物のエロゲに始まり
その手の物に嵌りつつあった彼は、落胆するどころか却って萌えていた。そして「あんなにかわいい娘が女の子のわけがない」などとよくわからん事を叫びながら家路についた。
5-5へ続く
413 :
ふみあ:2010/04/16(金) 10:26:54
5-5
>>薫
この前ホームセンターでの帰途で事故った、JZX100チェイサーの修理完了の知らせを電話で受け取った僕は、特に今日は用事がなかった事もあり、
放課後校門の前からバスに乗るために校内を正門の方へ歩いていた。修理代は結局祖父が持ってくれることになったので内心ホッとしながらマリア像の前を通ると
正門の方、丁度学校名が入った青銅の細長いプレートが収まっている門柱の陰に見慣れない人影が見えた。( ゚д゚)っと思って凝視した途端こちらの方へ気がついたのか
僕から見て左の方から覗いていたそいつはパッと右の方へすっ込んで見えなくなった。
何だったのかと思いながらも校門の外へ歩いて出ると、校門から歩道に出たとたんに突然リンカーンセダンの黒いスモークを前面に張った長くて白いリムジンが
右の方からにゅっと現れて後部ドアが僕の目の前に来るようにして止まった。
414 :
ふみあ:2010/04/16(金) 16:36:59
今度は何事だと思いながらリムジンを凝視するとこちら側の後部ドアの窓が下がって、先程こちらを隠れて窺っていた人物が顔を出した。
「やあ、薫さん、奇遇ですね。」
とさわやかに言う富士之宮 和樹の服装は何故か白銀のごとく輝くネクタイとワイシャツに薄いグレーがかったこれまた白いスーツという。思わずお前はこれから何しに行くんだと
突っ込みたくなる服装をしていた。しかも奇遇も何も彼の通う山寺高校はリリカルの近くにあるとはいえあさっての方向にある上に彼の実家は山寺から見るとこことは真逆の方向にあり、
さらに先程の彼の行動から鑑みるにたぶんずっとここで待っていたのだろう。
そうだとしてもリリカルの学生は基本寮生活なので外に出る用がない限りは校門など通らないので出待ちは基本やっても無駄な気がするのだが…と訝しんでいるとそれを察したのか彼は
「薫さん、この間事故に遭ったって車修繕ったそうですね。これから取りに行かれるなら僕がこいつで…」と言いながらリムジンの車体を軽く叩いて「..送って差し上げますよ。」
と言った。
ああそういうことかと納得して申し出を受けようと思ったが、本能的に躊躇した。一瞬僕→お姉様→有栖川家→進→和樹のルートで話が伝わったのかと思ったが、進さんならともかく
有栖川家がそこまで軽口だとも思えないし、第一車を取りに行くと決めたのはつい先刻でまだ誰にもこの事を言ってはいない。なぜこいつがそれを知っているんだ?
例えようがない恐怖感から後ずさろうとしたが、リムジンの運転席から執事屈強な男が降りてこちらの方へ歩いてくるのが見えた。
415 :
ふみあ:2010/04/16(金) 16:38:29
やばい、と本能的にそう思ったので
「お気持ちは嬉しいけど今日はバスで行きたいなあ…って、ハハハ…」
と苦し紛れな逃げ口上で立ち去ろうとすると、突然窓から伸びた手に腕を掴まれた。振り向くと富士之宮がこちらを怖い顔で睨んでいた。
「この時間のバスはラッシュで混んでいるし、この辺のバスには意外とこういう時間帯を狙う痴漢が多いですから危ないですよ。」
「じゃあ、タクシーで…」
「だったらそれこそ俺の車の方がいいでしょ。乗り心地はいいし金もかからない。それに…」
「…?」
「…そもそもこの辺は自家用車での移動が多いからタクシーもバスもあまり走っていないんですよ。」
「そうなんですか…でも走ってないわけじゃないでしょう?」
「林田….!」
「….?!」
「はいっ。」
振り向くと先程降りて来た男性が後ろ側、僕の右側に立っていた。
「林田、薫さんを…」
「かしこまりました。」
と言って林田さんはそのままドアノブに手を掛けてドアを一杯に開けて、和樹が奥の方へすっ込んだのを確認した後僕に向かって、
「どうぞ」と丁寧だが強迫ともいえないニュアンスを漂わせた口調で車に乗り込むよう促した。仕方なしに乗り込むと林田さんは丁寧にドアを閉めた。
416 :
ふみあ:2010/04/16(金) 16:40:48
走り始めて暫くはお互い無言だったが、信号待ちなのだろうか…壁のせいで前が見えないが雰囲気的にそんな空気の中で暫く停車したとき、富士之宮が急に口を開いた。
「薫さん。いや、薫君か? 少し確かめたい事があるんだが…あんたホントは女じゃないんだって?」
「…….ッ!?」
「本当に男だったのかぁ。騙されるところだったぜ。」
そういう割に彼の口調はとてもうれしそうな感じだったが、こちらはいきなりの事で心臓が飛び上がりそうながらも聞き返す。
「どこまで知ってるんや?」
思わず口調が男のそれに戻ってしまったがばれている以上それは些末な差でしか無いと思う。
「いや、そもそもいつどこで気づいたんや?」
「最初気づいたのはあんたと有栖川邸であったとき、八重樫先輩が何故かあんたを君付けで呼んでたんで気になってね。こいつはおかしいなって思ったんだ。」
「別に女の子を君付けで呼んでもおかしくはないでしょう?」
「普通はな。だがあの人は女の子を君付けで呼ぶことは絶対にないし。一例たりとも自分の言動に例外を作りたがらない人間だ。だから余計におかしいと思った。
で、聞いたらあっさりとあんたが男だって認めたよ。ついでにその時一緒にあんたの事情も聴かせてもらったよ。」
「あんにゃろ…」(#・∀・)ムカッ!!
「お前の抱える事情には同情するが、だからと言って容認する気にはなれない。」
「どうするつもり?」
「知ってしまった以上は告発する。こちらの生徒会から理事会を通じてそちらの理事会に密書を送る積もりだ。
大騒ぎになるだろうがな。」
「馬鹿、止めろ!!そないことしたら…!!!」
「お前だけじゃなくお前の大好きなお姉様や周りの知っていた奴らもただじゃ済まないだろうな。
それだけで済めばいいが下手すると綾小路家や有栖川の家も破滅に誘うかもしれん。」
「…..このっ!!」
思わず睨んでしまう。
417 :
ふみあ:2010/04/16(金) 16:41:51
「まあまあそう睨むな。俺だって鬼じゃない。お前の行動次第では不問にしてやらなくもない。」
「な…何をしたらいい?」
「ふむ、なんでもするんだな?」
「ああ、そのつもりだ。」
「ホントに何でもするんだな。」
「ああ、男に二言はあらへん。」
「そうか、じゃ、お前、俺と付き合え。」
「….?今から買い物にでも行くのか?」
「いや、そういう意味じゃないんだが…」(^□^ι)
「…..?」(´・ω・`)
「言い方が悪かった。もう一度言うぞ。俺の彼女になれ。」
( ゚д゚)「ちょwwwwおまwww正気か?僕男やでwww彼女とか付き合えとか何馬鹿なことを、寝言は寝ながら言ってえなあ。」
「…俺は本気なんだが。」
「….」(;・∀・)
「….」( -`д-´)キリッ
「…いやいや、冗談でしょ?」
「冗談でこんな事言うと思うか?」
「いや、冗談であるべきセリフだと思うけど…」(; ・`д・´)
「少なくとも俺は本気だ。お前を俺の物にしたい。これが一目ぼれという奴なんだろうが…好きだ。」
418 :
ふみあ:2010/04/16(金) 16:45:07
と言いながらゆっくり近づいてくる奴に恐怖した。やばい、早く逃げないと、と思いながら、なるべく気付かれない様に手を伸ばして開錠しドアノブをひねる。
が、うんともすんともいわない。チャイルドロックでもかけている様だった。
しかも最悪な事に普段の癖で僕はシートベルトをきちんと締めていた。しかも外そうにもうまく外せない。素で自縄自縛を実演しながらあたふたしているうちに
富士之宮は近づいて来るわ、信号が青に変わったのか車も動き出すわで、完全に機を逸してしまった。だが、だからと言って奴の要求を受けるのは嫌だ。かといって
無下に蹴り倒すほど悪い話でもない。相手は一応新進気鋭の製薬会社の御曹司様だ。うまく利用する価値があるのは間違いないし、同時にその程度で秘密が守られるのなら
払うに安い代償だ。どちらにしても暫く考える時間が欲しかった。
もうすぐそこまで迫ってきた顔をなるべく見ない様に、いきなりそんな事を言われても困るから暫く考える時間が欲しい、後日回答じゃ駄目かと恐る恐る訊いたものの、
次にいつ会えるかわからんから今ここで答えを出せと一蹴された。メールや電話も、直接僕から答えを聞きたいというよくわからない理由で却下された。
そして付き合って秘密を守るのか、断って全てをばらして皆に迷惑をかけるのか今すぐ選べとこれまで強い語気で脅してきた。自分だけの犠牲で留めるのか、
周りも全て巻き込むのか…考えるまでもない。
419 :
ふみあ:2010/04/16(金) 18:40:15
「わかった。付き合えばいいんやろ、付き合えば。」
と諦観しながら言うと、奴は「そうか、それでいい。」と言いながら散々近づけていた顔をさらに近づけ、自分の唇を僕の唇に押し当て、舌を強引に口の中に絡めこませながら物凄い力で抱きつきついて来た。
何が起きたか分からず金縛りにあったかのようにそのまま固まっていると、暫くしてからやっと富士之宮が離れたと思ったら車のドアが開けられた。どうやら目的地へついたらしい。
半ば放心状態でシートベルトを外して車から降りようとした時後ろから声を掛けられた。メールがどうたら言っていたようだが聞き取る気力など湧かなかった。
修理を終えた車が、事故時についた傷以外にも全体につきまくっていたかすり傷やへこみが修復され、外装も内装も掃除と洗車とメンテで新車のようにピカピカでカッコよく、
予想以上にいい仕事を安く施されていた事がせめてもの救いだった。
5-6へ続きます。
420 :
ふみあ:2010/04/16(金) 18:42:04
5-6
>>薫
中間テストが無事に終わり、久々に学生会の会合に顔を出した時、只でさえ性別詐称問題、怜先輩の男嫌いの克服、
富士之宮による迷惑電話・スパムメールという難題を抱かえているのにも関わらずまた厄介な課題が科せられる事になった。
もっとも僕だけでなく龍宮司も、一年生二人に課せられた課題、ないしお願いというものだった。
早い話が学生会のメンバーとなってくれそうな一年生を二人以上、つまり綾乃先輩と怜先輩の妹候補をそれぞれ見つけて連れて来い、
というものだった。おっとりした綾乃先輩ならともかく、近くに男がいるだけでヒステリーを起して暴れまわって宥めるのに苦労することに
定評が付きつつある怜先輩の妹になろうとする勇者いるのか疑問に思うが、それ以上に候補の認定基準がすごく厳しいという事が厄介に感じた。
421 :
ふみあ:2010/04/16(金) 18:44:09
学院の生徒主体の運営組織の運営方法は少し変わっていて、一つの生徒会が一元的に管理運営するのではなく、立法と行政に分けた二権完全分立制を取っている。
つまり、一クラスから2~3人のクラス委員が選出され、クラス委員長を頂点に構成された議会であるクラス委員会、そして風紀委員、美化委員、放送部、行事実行委員、
体育系と文化系に分かれた各クラブの部長・同好会長によって構成された部活連合・連盟などの行政補助団体を統括・指揮する学生会の二つに大きく区別され、
クラス委員会で審議された法案を学生会が生徒会則や校則、学校側の意向と照らし合わせて認可し、執行する。または学校の意向を学生会が提案として委員会に審議させる、
というような方法を取っている。
こういう仕組みなので予算など金が絡むと、特に月初めに毎月支給される定期予算を上から学生会が引きだす時から委員会がもっと値上げしろとケチを付けるわ、
委員会が出した予算案の活動資金の支給の割合を増やせと下が騒ぐのを宥めるわ、挙句の果てに他の委員会や部活と掛け持ち、または関係が深い族委員が自分たちの待遇を
良くしようと暗躍するわ、で結構大変なことになる。
そのため、実際に予算を取って来て管理する立場の学生会は不正を防止するために委員会はもとより、他の委員や部活を兼任することが会則で厳重に禁止されている。
つまり5月の半ば時点でまだどこのクラブにも委員にも加盟しておらず、かつ先輩方の好みに合う人材を選出しなければならず。しかも書記や会計として、
PCなどを使いこなせて大量の書類や数字を処理できるスキルを持った奴を連れてこなければならないのである。もちろん大前提として学生会内の秘密を絶対に口外にしない
という点も持ち合わせていなければならない。
422 :
ふみあ:2010/04/16(金) 18:47:55
ざっとクラス内にいる知り合いや友人の顔を思い出しただけでも、全員が何らかのクラブか委員に所属しており該当者はいない。仮にいたとしても帰宅部の奴の一体どれだけに
学校の運営に関わろうとする奴がいるのか疑問に思うし、そもそも口の堅い人はこの学校には非常に少ない気がする。必ずどこかで何らかの噂話に花を咲かせているような有様である。
この間など全く知らない上級生から話しかけられ、ご丁寧に僕が学校の間で「麗子様の背後霊」、お姉様が「スタンド使い」と呼ばれている事を教えてもらった。
どうも僕の「人と一緒に歩くときに横に並ぶと対向する人が迷惑に思うだろうから一列縦隊になって歩こうとする」癖でお姉様の数メートル後ろをひょこひょこついて行って手伝う様が
スタンド使いと背後霊のように見えるのだという。怒る以前に言い得て妙だなと思ったが、こんな下らないことでも話に華を添えてあっという間に広がっていくものなのかと呆れてしまった。
そういう学校だから該当するような人間はいないんじゃないかと思うのだが、翌年僕らにお鉢が回った後に4人分の仕事を二人でこなせと言われても困る。仕方ないので候補を探すことにする。
423 :
ふみあ:2010/04/16(金) 18:51:34
取りあえず知り合いに声を掛けまくっていい人がいれば紹介してくれるよう頼んだり、廊下の目立つ所に募集している旨のプリントを何枚か貼り、連絡を待つ。
意外や意外、思っていた以上に未所属で、運営参加に興味があるという奴が続々とやって来た。が、実際に学生会館へ連れて来て先輩達と引き合わせるというわけには行かなかった。
というのも希望者の殆どが異口同音にこういうのである。
「わたし、生徒の一員として文化祭や体育祭の運営に携わって皆を引っ張っていきたいんです。」
と、しかし
「あー、確かに学生会も運営のサポート人員として活動は致しますけど実際に運営をするわけではないので、それなら行事実行委員の方がいいんじゃないでしょうか?」
とか、
「私はこの乱れた学生の風紀をたて..」
「風紀委員へ行け。」( ゚д゚)ノシ
のように先輩達から手渡された「面接応答Q&A」というこう聞いてこう答えたらこう対処しろとか、こういう奴を連れて来いとか事細かに書かれたメモ帳を参照してその都度御断りをするのが
デフォになりつつあった。どうやら運営・管理に対して全体を把握できる人材が欲しいのであって、一部しか見えない、もしくは興味がない奴を採用するくらいなら全くそういうことに興味がない奴を
採用した方がましだと、先輩達はそう考えているらしい。
お蔭で当初予想以上に応募が来て、案外すんなり決まるんじゃね? と考えられた人員選出も、たび重なるお断りと、そうした話が蔓延するにつれ誰も来なくなったし、紹介すらされなくなった。
何故か月末までに決めなければいけないので正直やばい状況に陥っていた。
5-7に続きます
424 :
ふみあ:2010/04/16(金) 20:55:20
5-7
>>薫
先輩方の早く連れて来いというありがたいお言葉を頂戴し、どうすりゃいいんだよと愚痴りながら途方に暮れているそんな放課後に、
いつものように1年5組の教室で面接希望者を待っていると、とある筋からの紹介で聞いて来たという、セミロングのかわいいが
やや人を寄りつけなさそうなオーラを出す女生徒がやって来た。
その日の昼休みに聖華が得意げに、綾乃先輩に妹候補となりうる女生徒を紹介し、無事に新しいカップルが成立したと報告してきて焦ってたのと、
彼女、吉野 あゆみの外見がボーイッシュではなかった点と、本人が何でもいいからやってみたいと、どうやら多方面に興味の視野を広げているらしく、
先輩方のいう欲しい人材にマッチしているようだったので まさに渡りに船という感じだった。
話してみると気こそ強そうだが寡黙な性格で、一般常識もきちんと持ち合わせてかつ必要最低限の採用基準を満たしていたので学生会に連れていくことにした。
さて、困った。どなんしよう...と、逃げ出したくなる空気の中どうしてこうなったと思いながら頭を抱かえ込んだ。
最初お互い連れて来た生徒を執務室で各々の先輩に引き渡すまでは良かった。僕が連れて来た吉野も聖華が連れて来た彼女の友人という、背が高く美人だが
おっとりした感じを受ける黒髪ロングの女生徒、鳴滝 かなめもそれぞれ怜先輩と綾乃先輩に気に入られたようで、お目通りはうまくいった。
425 :
ふみあ:2010/04/16(金) 20:57:54
だが問題は仕事の手順などを説明する合間に、いつものノリで凛先輩が僕の正体、実は男だという事、をばらした時に
かなめが失神したことで事態が急変した。
その時解ったのだが、かなめは男性というものに対しての免疫がなかった。気絶自体は軽いものですぐに起き上がったのだが、
男性恐怖症のようなものになったようで現在彼女から物凄く怯えたような視線で見つめられている。怖いなら見なければいいのに….
そして吉野の方は思った以上に一般人で常識人だったようで、どうやら彼女の中で僕のような女装して女子校に紛れ込む男=変態
ないし不審者と位置付けられたようで、先刻から殺気というか敵視というか、僕に向けられる視線が物凄く痛い。こっちだって好きで
こんな所にこんな格好でいるんじゃないのに….
こんな調子でこいつらとほぼ2年間一緒に仕事をしなきゃならんのかと鬱になっていると、そこにさらに追い打ちをかけるように
凛先輩が衝撃的な事を言った。
「あ、そうそう。来月の3日から一週間私達修学旅行でいないからその間の留守番お願いね〜♪」
「は?」(゚Д゚)ハァ?
426 :
ふみあ:2010/04/16(金) 21:01:00
ただでさえひよっこ同然なのにこんな調子で仕事なんぞ出来るのか?責任なんて持てねえよ?と思いながら無理だと答えると、
「大丈夫、今は3年になって引退したわたしらのお姉様たちが代わりに監督で来てくれるから心配いらん。それに仕事なんて殆どないから心配いらないって。」
と凛先輩は言った。
なるほど、考えてみれば来月分の月度予算は今月末に委員会で型を付けて各組織に配布するし、6月にやる行事など修学旅行以外は皆無だし、
そもそもうちだけじゃなく委員会も各委員も修学旅行で2年生がごっそりと抜けるので仕事にならずほぼその間は一部の部活を除いて活動を事実上休止するので仕事なんぞ殆どないのである。
だがそれでも不足の事態と下級生の監督も兼ねて3年生が来るということらしい。それならばと安心しかけたが、よく考えれば僕という元凶で生じたいらぬ軋轢や足並みの悪さを最上級生が
目の当たりにするということである。やばくないか?そもそも3年の諸氏は僕の正体など知らないだろう。ばれたらそれこそただでは済まないんじゃないか?と一転して不安になると、
それを察したのか先輩は只一言僕に
「大丈夫♡」(^−^)
とだけ言った。が、その笑顔と言い方に何かあるんじゃないかと勘繰ったが、なるべく顔には出さないようにした。
第五章完
第六章へ続きます。
427 :
ふみあ:2010/04/16(金) 23:34:16
第六章
6-1
>>薫
どうもこの学校には修学旅行へ出発する2年生をその妹分である1年生が集結して見送る壮行会のようなイベントが毎度開催されているらしい。
6月になったばかりでまだ当分お天気が続きそうな、そんな朝。その日に学生寮の玄関前からバスに分乗して出発する事を本人達から聞いていたので
いつもより早めに準備をして、見送りお為に玄関前で待っていた。
6台の大型バスが正面からやって来て玄関前でUターンして1号車から順番に一列縦隊で6号車まで手際よく並んで行く様を感心しながら眺めながら
ふと周りを見ると自分の他にも制服姿の一年生が三々五々と散らばりながら二年生を待っているようである。
その集団の中に龍宮司と吉野と鳴滝が一緒にいるのが見えたので、もたれていた壁から離れて彼女らの所へ向かい声をかけた。
「お、おはよう…」
「おはようございます。薫さん。」
「お、おはようございます。」
「….#、おはよう。」
「は、ははは」(^□^ι)
一人に睨まれ、もう一人に怯えられ、残る一人がこの場の雰囲気にうんざりしたような顔でこちらに応える様子を見て思わず苦笑いしながら、
3人とは少し距離を取り聖華の隣に立った。すると今度は今度で、何故そんな不自然な立ち位置を取るのか。まるでわたしたちがはぶっているように
見えるじゃないか、いい加減にしろ。と吉野に怒られた。僕としては自分なりに彼女ら、特に吉野と鳴滝の両名、に配慮したつもりだったんだが…
久々に人付き合いの難しさと云うものを感じた。
428 :
ふみあ:2010/04/16(金) 23:39:59
バスの陣形が完成し、運転手の男性達がバスから降りてきて、ガイドの女性らと共にそれぞれのバスの座席下の貨物ハッチを開放し出発の準備が整った頃、
丁度良いタイミングで出発前のオリエンテーションが終わったのか、食堂の方から2年生の一団がどんどんこちらの方へ出てくるのが見えた。
続々出てきた中で一番初めに葵姉ちゃんと春日さんの姿が目に付いたので先にそちらに行ってらっしゃいと声をかけた。そんな感じであちこちで
「行ってきます」「行ってらっしゃい」などと互いに声を掛け合う中、殆ど最後の方で学生会の役員達が揃って出て来たので、今度は4人全員でそちらの方へ向かい、
それぞれの上司、もとい姉の方へ向かいあう。
「行ってらっしゃいませ、お姉様。お気を付けて、楽しんできて下さいね。(よっしゃー、自由だー!)」
「ありがとう、薫。行ってきます。でもわたくしがいなくても本当に大丈夫?(不安だわ…)」
「大丈夫です。3年生の方のバックアップもありますし、頑張ります!(いや、頑張るも何もそもそも仕事がねーから大丈夫じゃね?)」
「そう…そうだ!お土産何がいいかしら?何かリクエストしたいものがある?(男の子の欲しがるものって何かしら?)」
「そんなあ、お土産なんていいですよ。お姉様が無事に帰ってきて下さればそれで十分です。(つーか、京都人に京都土産を
持って帰ってどうすんだよ。リアクションに困るっつーの!)」
「そう?じゃあ、みんな、わたし達がいない間留守を頼むわね。」
「はい!(いってらー!)」
429 :
ふみあ:2010/04/16(金) 23:44:34
そんな感じで2年生全員がクラスごとにそれぞれのバスに乗り込み、いざ出発となった時、それまで散らばっていた一年生がこちら側、
バスの進行方向から見て左側に集結し、我々4人は囲まれていた。ふと、目の前にあるバスの方を見ると何人かの二年生が席から立ち上がり、
窓から身を乗り出して手を振っている。よく見ると他のバスも、というよりうちの役員連中も窓から身を乗り出し手を振っている。
そしてそれに応えるかのように周りの一年生も全員が手を振り返し
「お姉様―!!!!行ってらっしゃいませー!!!!!」
などと黄色い声を上げている。
正直何事かとも思ったが、恐らくこれがこの学校の姉貴と妹分の間で執り行われてきた伝統、もしくはお約束なのだろう。やりたくは無かったが、
やらなければ余計に目立し、向こうも手を振っているし、郷に入れば何とやらともいうから手だけは振り返したが、叫ぶ気にはなれなかった。
どう考えてもあれは見送りというより自衛隊とかの壮行会という感じがぴったりとするぐらいやかましい物だった。
一通り騒ぎバスが去っていった時、丁度そろそろ学校の方へ行かなければならない時間だった。龍宮司と吉野と鳴滝と別れて、そばに止めていた
3代目インスパイアに乗り込んで、発車させた。
430 :
ふみあ:2010/04/16(金) 23:46:31
6-2
>>薫
遅い….
放課後になり、2年生から業務を引き継いで我々を監督する3年生が来るとすれば、常識的に考えて今日だろうと踏んでいたが、
なぜか一時間半以上過ぎても誰も現れる気配がない。しかもそれ以上に、前日にしなければならない仕事を全て片付けてしまったので暇で暇でしょうがない。
もう窓の外の光も橙色っぽい黄金色になり部屋の東側の奥の方まで明るく照らしていた。もうしばらくすれば日も沈んで暗くなるだろう。
もう今日は来ないんじゃないか?とそんな風に思われた。そこで帰り支度をして今日はもう帰ろうと他の3人に提案し、片づけをして部屋から出ようとドアを開けると、
人がいた….1、2、3、4人。いずれもリボンタイの色から3年生の様であった。
431 :
ふみあ:2010/04/16(金) 23:49:44
ドアを開けたらいきなり人がいたので吃驚仰天したが、すぐにこの上級生たちが前年の役員達で相違ないと直感し、
やばいなあ…と思いながらもすぐにその場からドアの裏側へ隠れるように移動して「お…お待ちしていました…どうぞ。」
と声をかけた。すると2番目に入って来た凛先輩より少し長めのショートヘアの女性が、
「お待ちしていました。ねえ…。今丁度帰ろうとしていたんじゃないの。ボク?」
と口調こそ明るいが皮肉たっぷりとすれ違いざまにそう言った。
事実だがこちらも立場上素直にそう認めるとお咎めを喰らうことは目に見えてたので、
「中々お越しにならないので心配になってお迎えに行こうと思ったんです。」
と心にもない言い訳を出まかせに言うと、最初に入って来たセミショートの女性が
「心配掛けてごめんなさいね。今日は8時時限目まであったからどうしてもこの時間まで来れなかったのよ。」
とこちらに対するフォローなのか言い訳なのかわからないような事を言った。なんで一日にそんなに授業のコマ数があるんだよ、
と突っ込むべきか信じるべきか悩んでいるうちに先輩達は窓際の上座の方へ座ってしまった。
いつも会長が腰を掛けている席、つまり自分の席の向かい側に先程のセミロングのお姉さんが座った。彼女が前会長らしい。
目測170くらいで背が高く、面長の顔と大きな瞳と綺麗に手入れされた髪、そして胸が大きく足もスラッとしている典型的な美人である。
が、自分が147しかなくて座った状態でも彼女の顔を見上げる体勢になってしまうせいか、物凄い存在感というか、オーラを感じた。
この人は怒らせない方がいい、直感的にそう感じた。
432 :
ふみあ:2010/04/17(土) 00:07:03
そして次に、僕の右隣りの聖華の向かい、会長の左隣りに先程冗談ぽく皮肉っていったショートヘアの女性が座った。
前回の副会長だったのか。雰囲気と言うか全体から感じる印象は明るくさばさばした感じで、この人も美人だがどこか
超越しちゃってるような所があるようだ。
以下順番に前書記らしい、頭に付けた赤いカチューシャとオデコが印象的な女性に、やたら豪快な雰囲気を纏った、
ポニーテールが印象的な前会計が席に着いた。
全員が席に着いたのを見計らって前会長が口を開いた。
「では遅くなりましたが、まずはお互いの自己紹介でも始めましょうか。それではわたしから、3年1組の水島 杏子です。
前の生徒会では会長を担当していました。今回は現役員が修学旅行で不在の間、代わって皆さんを指導・監督します。
一週間だけですがよろしくお願いしますね。」
と言ったのを皮切りに以下、前副会長の佐倉 愛、前書記の菅沼 恵里、前会計の永沢 晶子と順番に自己紹介をしていき、
入れ違いに今度は吉野から順番に簡単な自己紹介をしていき、よりによって最後に僕の番になった。
「1年5組の綾小路 薫です。以上一年生四名、見習いであるが故に業務に関してまだまだ不安で解らない事が多いですが、
先輩方のご指導のほどよろしくお願い致します。」
と、gdgdになりながらもできるだけ綺麗にまとめたつもりだったのだが、先輩達の感想はいいものではなかった。
堅い、短すぎる、他の娘のようにもう少し趣味とか特技を入れろとダメ出しを喰らって内心涙目になった。
6-3に続きます...
433 :
ふみあ:2010/04/17(土) 01:30:52
6-3
>>薫
さて、一通り自己紹介を終えた後に学生会について何か質問があるかと前会長に訊かれたのでかなり前から不思議に思っていた事を聞いてみることにした。
なぜ学生会では他の委員会や部活動との兼任を禁止したり、権限を不当なまでに校則によって制限されているにもかかわらず委員会にはそのような縛りは存在していないのか。
そして、前回の予算の支給額や例年の学校行事等の支出に見合った予算を請求しているのにも関わらず、委員会で審議して各組織に分配すると財源が不足している事が発覚し、
予備財源から確保したり学校側に追加発注する必要に迫られるのか。まだシステム全体自体を完全に把握していないので何とも言えんが、この学校の運営システムに違和感を感じるのは
僕の気のせいなのか。というような事を質問してみた。
先輩達は何故か互いに目配せをし、こちらに他言無用とするようにと念を押して。こんな昔話を始めた。
10年ほど前、まだ学生会が10人以上の生徒で構成されていたころ。月初めに支給された予算を各方面に配り決算してみると、実際の支給額が予測を大幅に上回り予備費や補助費
はては学校行事用予算までもを圧迫し盛大な赤字を出すという事が何カ月も続き、その都度前月分を大きく上回る金額を学校に要請し続けた結果、学校側がぶち切れて
「どう考えてもおかしい!調査しろ」と命令したため学生会が内密に調査した事があったらしい。
434 :
ふみあ:2010/04/17(土) 01:33:48
すると、どうやら悪いのはクラス委員会らしい、という事がわかったそうな。
そもそも委員会が各クラス各クラス2名×6~8クラス×3学年で構成される36~48人ほどで作られる以外とこじんまりとした集団であるため
一人当たりの発言権が以外と大きく、しかも学生会と違い人員を確保するため、他の委員会との兼任はできない(クラス委員以外の委員は
全て学生会に帰属する行政組織であるため)が他部活動との兼ね合いは基本OKなので、そこの部長や同好会長にとってみれば実際の予算の配分
を決めるクラス委員に一人でも部や会の関係者が選出されれば、それだけでそいつによって少しでも多くの補助金が配分される可能性が大きい。
特に議長や幹部クラスになればいくらでも好きなだけ引き出すことも不可能なわけではない。
また、関係者にクラス委員がいなかったとしても、何らかの方法で取りいることで金を引き出すことも可能と言えば可能であった。
その結果部活の関係者、賄賂を得たクラス委員が特定のクラブに加担する族委員が氾濫し、派閥を作って我田引水をやらかしその結果とてつもない金額の
予算要求がこちらに突きつけられるという事態を引き起こしていたのであった。
当然当時の学生会長は当然のように抗議をし、クラス委員会に議会の即時解散と、クラス委員は他部活動との兼任や賄賂を受け取る事を厳重に禁じ、
違反者には重大な罰則を付与する事を明記した法案を提出し、それを校則化した上でクラス委員を再選出しろ、と要求した。ま、当然そうするわな普通。
435 :
ふみあ:2010/04/17(土) 01:36:25
しかし当時のクラス委員長は納得せず、学生会が実行するなら私達も言うとおりにするよ、とさらに他の委員の活動も含めた案を出し、
要求して来たのだという。
普通ならふざけんなと抗議するものだろうが、当時の会長は争い事が嫌いだったのかおめでたい人だったのか。それを受け入れたため、
当時他の委員と兼任していた人はどんどん学生会を離脱し、結果残った人員は4人の役員とその妹分だった平の8人のみ….そして現在へ至る。
クラス委員会?彼女らは学生会が自分達の要求に従って規模が大幅縮小されたのを見たのち、何事もなかったかのように堂々と約束を反故にした。
さすがに学校側に睨まれたこともありあからさまな金品の要求こそしてこないものの族委員や派閥は今でも存在しているのだという。
そしてこの時規模が大幅に縮小した学生会はそれまでいた本館校舎の一室を追い出され、その時大学で新しい学生会館が建ち、
さらに新校舎を建設するため邪魔になったので高校の敷地内の小高い所に移設された大学の旧学生会館の建物を宛がわれ、以後現在まで他の組織から
半ば孤立させられるという憂き目に遭う。そして、以来学生会とクラス委員会は犬猿の仲となり、時を経るごとにこじれ続けているのだそうな。
436 :
ふみあ:2010/04/17(土) 01:39:24
うんざりするような話だったが、さらに絶望させられるような事実を突き付けられた。骨抜きにされた学生会は権威こそあるが実権が殆どなく、
しかも他の活動と掛け持ちが出来ないのでなり手がなく、役員の二年生が早い時期に一年を妹として確保し、出来レースという役員選挙を経て
次の役員として送り出すという自転車操業を現在まで続けているそうなのである。他の一般生徒もそれを理解しているようで毎年ほぼ100%の確立で
役員候補は当選するのだという。別に高い得票率で麗子先輩が当選したのは特にすごいことでもなんでもなく毎度のお約束だったのだ。いや、
ある意味殆ど当選するとわかっている出来レースで本気の演説をするというのもある意味すごい事か…閑話休題、問題はそれらのしがらみを
殆ど全てをお姉さま方から引き継ぐのが現時点で自分だと決定している事である。いや、何となくそうかなあという予感はあったが改めて
そう宣告されると…ねえ。僕はがっくりと肩を落とした。
6-4へ続けます
437 :
ふみあ:2010/04/17(土) 02:11:01
6-4
>>薫
そう言えばもう一つ気になる事があった。なぜはるか昔にIT革命が叫ばれ、様々な物が高速ネットに乗って情報がやり取りされる現代において
なぜ我々は紙媒体に一々情報を記載したものを離れた校舎まで自分たちに手で持っていかなければならないのか?せっかく高性能のラップトップPCが
あるのだから書類を作成した後内線やLANを使って電送すれば、雨にぬれることもないし多くの情報をたくさんの所に正確に伝達できる点で効率化することが
できるのになぜそうしないのか?ずっと不思議に思っていたのだ。そうすれば現時点で予算概要やクラス委員会から寄せられた予算案や校則の法案、
学校側へ提出する書類、各組織へ配る明細書や持ち込まれる領収書などに大量に消費する紙の量を大幅に削減できるエコという観点からも非常によろしいはずである。
どう考えてもうちの学生会は世間の時の流れを真っ向から逆走するような滑稽な事をやっているのである。
そんな素朴な疑問を口にすると今度は僕以外の全員が呆れたように溜息をついた。何か変な事を言っただろうかと首をひねっていると水島先輩と佐倉先輩が優しく解説してくれた。
どうもやろうと思えば校内中を無線LANや光ファイバーを張り巡らせ校内を高速回線で繋ぐことでネットを通じて情報をやり取りする事自体は可能だという。実際そうした
ネット環境によって事務や教職員や情報科学室や図書室にあるPCやセキュリティはそうして学校側によって一括で管理されているのだという。だったらそこを間借りさせて貰って
生徒間でも情報のやり取りをし、その情報を学校に一括で管理してもらえば情報漏洩の心配も少なくして効率化を図れるのでいいのではないかと思うが、あえてそうしないのは
生徒の自主性を尊重するという教育精神のもとでは、もしかしたら生徒会の運営情報も学校側が管理することで学校側がやろうと思えば検閲まがいの事ができる可能性があるという観点から、
そうした事は宜しくないので使わせないと表向きはそう説明されている。
438 :
ふみあ:2010/04/17(土) 02:13:03
だが実際は余りに余りまくった供給過多の紙を少しでも消費するために生徒会に紙媒体を使う事を強制しているだけである。
そもそも学院は殆どの生徒が特定の企業、資産家や名家、識者などの令嬢やそこに関わる(企業の役員・名家の使用人など)人々の
子弟や令嬢の侍女などで構成され、学校の運営基盤となる理事会もそこの家や企業の人たちで構成され、深く経営に関わっている。
そうした中には製紙会社や出版社、物販、レストラン等学校とも取引できるような会社もいくつかありそうした会社は
学院と専属契約をし、寮や学院内にある食堂や喫茶店、購買部などになって学院内に入っており。場合によっては学院内で使うものも
そうした企業、つまり身内から全て購入している。紙もまた例外ではない。
特にうちの学院は何代も前からそこの令嬢が学院に通い自家も理事会や保護者会の役員を輩出している製紙会社から大量の紙を
安く買い取っている。時勢の流れで学校や研究機関以外の紙の需要が年振るごとに減少の一歩をたどるばかりのせいか、学院が
その会社の赤字補填分を埋めるために売れ残った大量の紙も購入する事を条件に格安の値段で買い取っているらしい。
439 :
ふみあ:2010/04/17(土) 02:14:51
ただこの量が馬鹿にならないくらい大量にあり、事業仕分けや免許更新などで効率化を求められている学校や教員だけでは使いきれない。
そこでその分を学生に使わせることによってどうにか消費しているのが実情なのだという。
普通の組織なら「じゃあ、買うなよ。それでもごり押ししてくるならそんな会社との取引何かやめろ」となるが、
現在そこのご令嬢が現在在学中&理事に就任して学院の経営に関わっている事もあり切ろうにも現実的にできないのでまだ当分この状態が続くという。
要するにこの学院、いい意味でも悪い意味でも身内というものに対して非常に寛容なのである。身内の頼みとあらば不正を承知で叶えてしまったり、
逆に都合の悪い事を身内のよしみでなあなあと言って有耶無耶にしたり…何より最悪なのは自分もそうした都合の悪い、不正な事実というものに組み込まれているのが
明白なので、おかしいと思っても声を上げられないことである。
その後一週間、幾つかの運動系のクラブが他校との練習試合を行うための部活動援助金を請求するための手続きをしに来た事以外、案の定暇で暇でたまらなかったが、
嘘でもいいから何か仕事をするそぶりをしなければいけないという拷問のような日々を過ごす羽目になった。
440 :
ふみあ:2010/04/17(土) 02:17:40
特に家庭科の被服の課題で完徹を余儀なくされた日の放課後は酷かった。授業が終わるまでも一睡もせず眠気に耐えきった体の限界と
暇すぎる環境に耐えきれず、5分だけと思いながら机の上に組んだ腕にうつ伏せになって顔を思いっきり埋めて、一時間後に
口から垂れた涎が机に下垂れ落ち、頬っぺたに触れた冷たい感触を感じて起き上がった時、目の前の杏子先輩が目だけ笑っていない笑顔で睨みながら
「おはよう、薫。よく眠れたかしら?」
「…..。」m9っ`Д´) ビシッ!!
「そう、でも今はお昼寝の時間じゃないからきちんとしましょうね。」
と口調だけは優しい感じで説教され、佐倉先輩に一発蹴りを入れられ、菅沼先輩に眼鏡奥からじっと睨まれ、
何故か僕の後ろに回り込んでいた永沢先輩にとどめの拳骨で頭頂を一発殴られるという止めを刺され、
他にもいろいろな事もひっくるめて弛んでいる、という評価を頂くことになった。
第六章終了
第七章に続きますがまだできてないので以降はでき次第うpします。ノシ
441 :
ふみあ:2010/04/17(土) 10:42:23
第七章
7-1
>>薫
早朝、ザーザーと降りしきる雨音のせいで目が覚めた。窓辺に寄り、カーテンをめくると窓の外に広がるどんよりと灰色に濁った雲で一杯になった
空と雨で濡れて真っ黒になったアスファルト、そしてその間を勢いよく落ちていくたくさんの雨粒が目に入った。
「もう梅雨か…」
そんな時期かと思って独り言ちながら眠い目を擦りつつ出かける用意をする。
普段より少し早かったが、目も覚めたし今日の準備もできたし、丁度腹も減ったので朝食を摂るため部屋を出て下へ降りると、すでに朝食を摂ったのか
これから学校へ出かけようとする集団とこれから朝食を摂るために寮内に併設されたレストランに入ろうとする集団で寮のエントランスは足の踏み場もないくらい
たくさんの人でごった返していた。何故か外が土砂降りなのにも関わらずその殆どが傘を持っていないといういつもながら不思議な光景には違いなかったがそれにしても
今日は多いと思う。気のせいか表も騒がしい。
今朝は皆えらく早いなあw、と思いながら自分も食堂へ入ろうとすると早く来たせいだろうか、葵姉ちゃんと雪乃さんと紫苑様のトリオや何人かのクラスメイト、学生会の
仕事関係で知り合った人たちなど知り合いとすれ違ったので、人とすれ違うたびに互いに「ごきげんよう。」と挨拶し軽い雑談を交わす。
最初は男ゆえに使うことに抵抗があったこの言葉も、毎日人とすれ違う度に使っているうちに抵抗が薄れてきて、今では逆に「ごきげんよう」という言葉って実は
ものすごく便利な言葉なんじゃないかとも思えるようになっていた。だって朝昼晩関係なく対応することができるんだぜ?「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」
の三つしか使い分けていなかったときは、例えば朝の11時くらいような朝というわけでもないし、昼とはいえ「こんにちは」を使うには少し早い気がするような中途半端な
時間帯には「ごきげんよう」という言葉は非常に使い勝手が良かったりするのだ。
442 :
ふみあ:2010/04/17(土) 10:44:09
閑話休題。人ごみをかき分けながら食堂の入り口へ辿り着くと、丁度良いタイミングで麗子お姉様と杏子様が連れ立って食堂へ入ろうとしているところに出くわした。
が、二人ともこちらに背を向けている上になにやら話に夢中になっているようで僕の存在に気付いていないようである。
仕方ないので麗子お姉様のブラウスの右の袖の肘のあたりをクイクイっと、小さな子供が母親に呼びかけるために母親のスカートの裾を引くように、
軽く引っ張った(二人とも自分より身長が高く目線より少し高い所にあるので肩は叩きにくい)。
驚いて振り返った麗子様とつられて振り返った杏子様の顔を面白いと思いながら元気よく
「お姉様、杏子様お早うございます。」
と挨拶すると、向こうも腕を引っ張ったのが自分だとわかったのか、なんだお前か、とでも言いたげな表情をして
「あら、お早う、薫。」
「ごきげんよう、薫君。今朝は早いのね?」
という。
「なんか早く目が覚めてしまったから、二度寝も何なんでこのまま降りて来たんです。しかし今朝はみんな早いというか…なんか騒がしいですね。」
「今日はバスが出ないからかしらね。」
443 :
ふみあ:2010/04/17(土) 10:45:48
水島先輩のその言葉に僕は驚いた。
「え、今朝はバスでないんですか?雨降ってんのに!?」
「あら知らない?昨日急に故障して、原因がわからなかったから今日から暫く工場で検査するから当分出せないそうよ。昨晩から掲示板にそんな紙が貼ってあったんだけど..」
「へえ、知りませんでした。あのエアロスターが故障ねえ…まあ、濡れるから嫌だと言ってバスに乗ってないでたまには自分の足で歩きなさいと言う神の御啓示ですかね。
…ん?そう言えばみんな傘を持っていないみたいですけど、どうするつもりなんでしょうか?」
「学院の方でタクシーを何台か呼んでそれに生徒を分乗させるそうよ。」
「ふ〜ん。」( ´_ゝ`)フーン
ふと手元を見ると、僕や、高校からの編入試験で入って来たごく一般的な家庭の出身の杏子様だけでなく、何故か麗子様も傘を持っていた。
「あれれ、なんでお姉様まで傘をお持ちなんです。」
「あら、わたしが傘を持っていたらいけないかしら?なければ濡れてしまうわ。」
「いえ、その、お迎えの車が来るのではないかと思ったので。」
「薫、あなたわたしが学院と寮の間を行き来するのに車を使った所を見た事があって?」
「そう言えば….でも今日はひどい雨ですからお呼びになってもいいんじゃないですか?」
「たかが数百メートルを行き来するのに家の車を呼ぶくらい無駄な事もないわ。それにそんな事で己の地位を誇示しても仕方ないでしょ?」
444 :
ふみあ:2010/04/17(土) 10:49:21
たしかに一部の学生のように家から一番いい車を呼んで、運転手つきのリンカーンやキャデやハマーやベンツと言った高級車のリムジンやスーパーカーを寮の玄関前に
横付けさせているようなものを見てあまりいい気がした事がない。お姉様がいうことももっともな気がする。が、自分が傘を持っている理由も寮の玄関から車を置いている
裏手の広場まで少し距離があるからである。妹分としては姉が歩いて行っているのに自分は車に乗って行くというシチュエーションは物凄く後ろめたい。敢えて例えるなら
先輩や師匠はチャリや電車で現場入りしているのに自分は車で来てしまった吉本のお笑い芸人くらい後ろめたい。
そもそもこの土砂降りの中だと普通に傘をさして歩いていてもビショビショになるのは目に見えていた。だからこそ僕は二人に提案した。一緒に僕の車に乗って行けばいいと。
朝食を終えてエントランスに出て二人にそこで待ってもらってから、人ごみを掻き分け外に出て、腕に掛けていた木製の把手にステンレスの柄がついた紺色の70cmの紳士用の傘を
天にかざして広げる前に、ハイヤーのような黒い高級車や関東特有のカラフルな色で塗られたセドやクラウンのタクシーがところ狭しと列を作って、はたまた大きな駅か空港の
タクシープールのような喧騒と成っている様を見渡してから車がある裏手の方へ回った。
Y31シーマの助手席にリュックだけ放り込んでから傘を畳んで運転席に乗り込み、傘を横にして丸めてボタンを止めてから、リュックの上についている、肩にかける二つの帯の
付け根の間についている輪っかのようなところに傘の把手をかけて立てかけエンジンをかける。そして車を寮の正面玄関の方へ回すため発進させた。
445 :
ふみあ:2010/04/17(土) 10:52:16
駐車場から寮の正面に面する小径を玄関の方へ左折しようと走っているとその小道の入り口を塞ぐように寮と正門を結ぶ大通りに
ズラッと車が止まって並んでいるのが見えたので、交差点内へ少し車の鼻先を出したところで左ウインカーを付けて停車してやり過ごす。
が、二列縦隊で並んだタクシーの列は一向に進む気配がない。いや、左から右へと走る反対側の対向車が一台走り去る度にのっそりと動くが
すぐに止まってしまう。ワイパーとハザードのカチカチ音と屋根を叩く雨音だけが車内に響く。
埒があかないのでずっと待っている右側のタクシーには悪いが、丁度フロントバンパーの右側の所に偶然できた車の隙間にバンパーの角を少しねじ込み、
左側にいる前車の動きに合わせてブレーキを踏む足を緩めながら、車高短スモーク直管左右二本出しフルエアロ仕様の改造車を割り込ませんとクラクションを
鳴らす後続車を無視して、ゆっくりと車をねじ込んで行く。流石にそのままスルーするのも悪いので3発だけサンキューハザードを焚いて渋滞の列に加わった。
レバーを少し上げたために、時たま思い出したように「ウィーン、バシャッ、ウィーンガタ」動くワイパー以外無音状態となったので気晴らしのために
MP3ウォークマンを三極プラグでオーディオに繋いで手持ちのアニソンかけ、オートエアコンを外気取り込みから内気循環に切り替え、設定温度を少し下げる。
そしてハンドルに両腕をかけ、抱かえるようにしながら背中を丸めて前を見てひたすら前車が動き出すのを待つ。
そういう感じで二人を待たせてから10分以上立ってからようやく玄関前に車を横付する。ハザードを焚いてギアをPレンジに入れサイドブレーキを掛けてから
エンジンキーを抜き、右側に二重停車しているベンツのトランクサイドとその後ろのセドリックのタクシーのフェンダーに注意しながら傘を開きながら車から
外に出てお姉様達のもとへ急いで向かう。
446 :
ふみあ:2010/04/17(土) 11:32:09
二人に僕の傘に入って貰う形で車まで案内し、左の後部ドアを開けて乗り込んでもらった後自分も運転席に乗り込んで
エンジンキーをstartまでいっぱい回した。「キュルルルルル…..ブォオオオオオオオオオン….ゴッゴッゴッ….」と
ターボエンジンと直管マフラー特有の轟音と先程まで全開でかけていたアニソン(萌え系)が車内に響き渡る。滅茶苦茶焦ったが
二人ともその筋には疎い人だったのと、ドライブ用BGMとして入れたそこまで電波じゃない曲だったのでうまくごまかせた。
アニソンの音量を落とし、ギアをDに入れてサイドブレーキを解除し、いつもの癖で左後方→左サイドミラー→ルームミラー→
右サイドミラーと目線を走らせてから右ウインカーを焚いてハンドルを切りながら右後方を確認して発車させようとしたのだが、
前後と右側に車が殆ど隙間なく停車しているので脱出できない。こちらも前車も発進したいが右側のベンツとその前のキャデと
後ろのセドタクはまだ発進する気がないようであるので、結局右側の車に人が乗るまで進めないという事態に陥っていた。
やっとキャデに一人の生徒が乗り込んで発車したので、前車が右ウインカー焚いてゆっくりと車体を右側に向けながら
発進し始めたのでこちらも前車に合わせてブレーキから足を外して車の隙間を縫うように最徐行する。
447 :
ふみあ:2010/04/17(土) 11:34:24
寮の玄関前の広場から寮と正門までを結ぶ広い通りまで出て右側にできた渋滞を横目で見ながら
30km/h位まで出せるくらいになってからワイパーの速度を2段階目まで上げる。
その頃には運転にも余裕が生まれてきたので
「お待たせしてすみません。急いだんですが予想以上に混んでいたものですから。」
と後ろに声をかける。
「この混雑なら仕方が無いわ。それに薫、誰もあなたを責めているわけじゃないのだから謝れても困るわ。」
「それに時間的に遅刻をするような時間でもないから気にしなくても大丈夫よ。」
とお姉様と杏子様にそれぞれ気にするなと言われたが、このままじゃ折角早起きした意味が無くなってしまう。
「兎に角、なるべく急ぎます。」
途中校舎の方へ行く道との交差点を左折する時、わざと大回りして右側に膨れながら前方の方を覗き見ると、
丁度対向車も無く前車もスピードを落としていたようだったので、ステアリングを戻しながら車をキックバックさせ、
対向車線に出たところでそのまま60km/hまで急加速してコンフォートを追い抜き、そのままその前を走っていたキャデを追い越し、
対向してきたクルーをギリで躱して左側に戻りブレーキを強く踏んで急減速し、左右に大きくフラつきながら左折と右折を繰り返し、
本館校舎入り口の下駄箱前に到着した。
ハザードを出して出入口のそばまで車を寄せて停止措置をしながら、
「お姉様ー、杏子様ー、着きましたよー。」(^−^)
と言いながら後ろを向くと、何故か二人とも(#^ω^)な顔をしていた。そう言えば
先刻の黒いキャディラックのセダンを追い越して小型タクシーと接触しかけたあたりから
後ろで二人の悲鳴らしきものがずっと聞こえていたような、いなかったような…(†≧Д≦)。
448 :
ふみあ:2010/04/17(土) 11:36:34
やっちまったなーと思いながら固まっていると、後部座席右側にいる杏子様が僕の顔の方に両手を伸ばしながら、
「何考えているの!あんな危ない運転をして!死ぬかと思ったじゃない!」
とすごい剣幕で怒りながら、両手で僕の頬を左右に引っ張った。
「うにゅー、ほ、ほへんあはい。」(←ごめんなさいと言いたかったんだ…)
と謝った。が、何故か杏子様は先程のお怒りは何処へやら、しきりに僕の顔をしげしげと眺めながら
頬っぺたを引っ張ったり抓ったりしている。そして….
「麗子、麗子みてみて、薫の頬っぺたとてもぷにぷにしていて気持ちいい!」
すると麗子お姉様は不思議そうにしながらも手を伸ばし僕の頬っぺたを抓り
「あら、本当、やわらかい!」
と驚きながらも同じように引っ張ったりして暫く僕の頬で遊び始めた。
「むにゅー。」(´・ω・`)
どうやら僕の頬は保湿力が普通の人よりぷにぷにとしていて柔らかくて、触っていてとても気持ちい物らしい。
そのせいか、いやそのせいでよく人からよく遊ばれる。こんな感じで。だからというわけでゃないが頬を触られても
あまりいい気持ちはしない。自慢では決してないが、頬っぺたが柔らかい上に色白(外に出てる?と全く知らない人から
心配されるレベル。いやガチで小学校のPTAのおばさんや知らないおっさんに言われた)で童顔で小柄で女の子のような外見と
性格のせいかたまーに全然知らないおばさんから嫉妬というか、いちゃもんをつけられることもある位だ。男なのに…orz。
だが、結局この頬っぺたに免じて車の使用を禁止される事態は回避されたので、こんな頬を持っていてよかったと言うべきか…
それとも、この後ずっと何かある度に頬っぺたをいじられそうな気がするのでそうでもないと言うべきか…複雑な気分がした。
7-2に続きます。
449 :
ふみあ:2010/04/17(土) 16:39:46
7-2
>>薫
6月もそろそろ後半に入り、気象庁から梅雨明け予報がチラチラと入るようになったが、
雨だけはまだ降っていたころ、この時期限定だとはいえ、僕と麗子様と杏子様の3人での登校が続いていた、
そんなある朝の事だった。たまたま点けていたJZX100クレスタについているカーオーディオのラジオ
(NHKのAM)から、もうまもなく梅雨が明けて今年の夏は去年以上に熱くなるかもしれない、というような感じの
アナウンサーと気象予報士の遣り取りが聞こえて来た。
「梅雨明けですか…もうそんな時期か….そろそろ期末の勉強始めんと。」
などと独り言ちると、それを聞いた杏子様が
「そうね、もうそんな時期ね。そろそろ水泳の授業の案内がされるかしら。」
と言った。ん?水泳?
「水泳?プールでやるあれですか?」
「それ以外何があるのよw。」
「いや、あるんだと思って。」
「普通はあるものだと思うけど?」
「いや、うちの学校プールが無かったんで水泳の授業なんて無かったので。」
「…….(゚Д゚)」
「ところで水泳の授業って全員必修ですか?それとも希望者だけの選択ですか?」
「体育だから全員必修に決まっているでしょう。」
「はは…そうですよね。」
450 :
ふみあ:2010/04/17(土) 16:42:01
まいったな、俺男だぞ。制服やブルマならごまかせてもスク水なんて着たら確実に男とバレるだろうし。
第一、そのスク水に着替えるのに必然的にプールに併設された女子更衣室を使用することになる。体操服のように
車で着替えるわけにもいけないだろう。プールに入る前は水着を制服の下に下着替わりに着用してごまかせても、
授業が終わって濡れて戻ってきたら体を拭いて制服に着替える時に必然的に脱いで裸になる事になる。大騒ぎになることは目に見えている。
さてどうしようかと思ったときに、ふとある考えが浮かんだ。
「ねえ、お姉様。怪我や病気、生理なんかでどうしてもプールに入ることができないときは制服のままで見学ってできますよね?」
「できるけど、それがどうしたの?」
「いえ、聞いてみただけです。」
451 :
ふみあ:2010/04/17(土) 16:44:11
それからすぐしばらくして、放課後のHRの時に水泳の授業に関する概要と注意事項が書かれたプリントが配られた。
それによると、水泳の授業は6月末から翌月第二週にある期末試験の直前までの二週間、週2で行われる体育の授業を使って
体育館横にあるプールで行われるらしい。
その晩から、部屋に帰ると学校指定の水泳バックから同じ指定のスク水を引っ張り出して眺めながら、如何にして
これを着る羽目にならないよう回避するか対策を立てる日々が続いたが、いい案が浮かばない。いや、一応の案はあるのだが、
それをどのタイミングで実行すればいいのか。早すぎれば最後の方の水泳の授業に出る羽目になるし、遅すぎれば今度は
期末に影響する可能性もある。時期が一番重要だった。
そして遂に対策案を実行する瞬間が訪れた。
7-3へ続きます
452 :
ふみあ:2010/04/17(土) 16:47:14
7-3
>>薫
さあ、明日はとうとう待ちに待った水泳の授業(笑)があるという日の放課後、人気がなくなった校舎の階段の踊り場の上で、
教科書などが入ったリュックサックを背負い、これからやろうとする事に期待半分、恐怖半分で身構えながら、覚悟を決め、意を決っして一歩を踏み出した。
トントンと一段とばしで助走を付けて4段階段を降りて、4段目で助走した勢いそのままに二段抜かしをして7段目で着地にわざと失敗して怪我を拵えるつもりだった。
ちょっとした大怪我をして水泳を見学する。足なら歩くのに苦労するだろうが手と違ってテストや仕事にまで影響することは少ない。僕のちっぽけな脳みそではこれ以上の、
確実で最良の妙案を考えることは出来なかったのだ。
が、実際は2段どころか3段以上飛び越えてしまいわざとしなくても着地に失敗し、転んだ勢いで後頭部から階段に倒れ、そのまま背中を下にして階段を滑ってフロアに落ちる
羽目になった。教科書とノートで膨らんだ重いリュックサックを背負ってなかったら、そのまま後頭部をぶつけてあの世逝き担っていたかも知れない。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
が、転んだ拍子に左足を怪我したのか、足首の痛みの所為で動く事が出来なかった。というより直撃こそ食らわなかったとはいえ、やはりそれだけの衝撃を受けたせいかショックで気絶してしまった。
痛みで目が覚めると保健室のベッドの上にいた。どうやら運ばれて来たらしい。ベッドの枕元に僕のリュックサックが立てかけれ、足には湿布と包帯が巻かれて氷嚢ごと
サポーターで固定されているのがぼんやりと見えた。
枕のそばに置いてあった眼鏡を手さぐりで探して眼鏡をかけると、それに気が付いた女性の校医が「あら、気が付いたのね。」と声を掛けて来た。
彼女の談によると、左足首が捻挫しているようだったので応急処置を施したとのことだった。急な運動は禁止。無論プールは見学決定。そして念のため頭のMRIと整形外科で診察してもらって、
必要なら通院するよう注意を受けた。
その後市内の総合病院に一応行って診察されると、頭の方は異常なしだったが足の方は少し酷いものだったらしく、全治2週間くらい掛かると診断された。
453 :
ふみあ:2010/04/17(土) 16:49:20
当然翌日の第一回目とその次の週の第二回目の授業はサポーターをしたまま制服で見学。体育科の女性教諭にはクラス担任と保健室の方から事前に通達されていたのか、
見たまんまの状態だったからか、特に何も言われなかった。
クラスメイトには、単に階段を踏み外しただけだと説明したが、余計に心配させてしまったようで申し訳なかった。まあ、今更故意に踏み外しましたなんぞ死んでも言えないが。
唯一誤算だったのは、最後の水泳の授業の前にプールに入っても問題ないくらいまで治癒してしまったことである。医者からは「やっぱ若いねえ。もうここまで治っちゃうなんて。
これなら水泳しても大丈夫だよ。よかったね。」と太鼓判を押されたが、冗談じゃない。こちとら事情が事情だけにプールに入ることはできるだけ避けたいのだ。その為にわざわざ
痛い思いをしたというのに…仕方ない別の手段を考えるか。
間違っても怪我はもう使えない。流石にドジっ娘でもないのに短期間に何度も怪我をしたら色んな意味で怪しまれる。かといっていくら病弱でも都合よくその日に風邪を引くなんて芸当は出来ないし、
かといって仮病を使うのも気がひける。結局これしか思いつかなかった。
水泳の授業最終日、プールサイドに体育科の女教師が現れたのを確かめると、僕は一目散に先生の元へ向かった。
教師は他の生徒全員がスク水に着替えている中で一人だけ制服のままでいる僕をいぶかしく見ながら、
「ん、どうした綾小路。水着忘れたのか?」
「いえ、持ってきたんですけど…あの、その、今日も見学してもよろしいでしょうか。」
「ん、お前怪我が治ったんじゃなかったのか?まだ痛むのか?」
「いえ、そうじゃなくて。その…私、今日、あの日なんです。」
と顔を赤らめ、モジモジとしながら恥ずかしさを精一杯こらえるように声を絞り出しながら教師に申告した。無論演技である。言うまでもなく僕は男だ。生理?何それ?おいしいの?
すると若い体育教師はアッハッハと胸を反らして笑い、
「なんだ、そんな事か。女しかいないんだからそんなに恥ずかしがる事ないだろw。まあ、それなら仕方ない。今日は見学しな。ただし….」
と言った後衝撃的な事を口にした。
「後日補修な。」
\(^o^)/
7-4に続きます
454 :
ふみあ:2010/04/17(土) 22:27:10
↑
×補修
○補習
誤字スマソ
455 :
ふみあ:2010/04/18(日) 10:36:53
7-4
>>薫
水泳の授業が終わった日の放課後の学生会執務室に、僕はお姉様に呼びだされた。理由は水泳の補習をどう躱すかを馬鹿正直に相談したからだ。
ものすごく怒られた。でもそうしたくなる気持ちが分からないでもなかった。事故で怪我をしたのを心配していたのに、実はその事故が
「授業に出たくねええええ!」というしょうもない理由だけで仕組まれたものであって、人が良いのをいい事にものの見事に騙されたと知れば誰だって、
信じていたのに裏切られたと怒るだろう。
だが実際問題水着を着て水泳の授業に出たらほぼ間違いなく男だとバレるのは目に見えている。そしてバレてから起こるであろう深刻な事態も
手にとるようにわかる。避けられるなら正直避けられるに越したことはない。
唯一前向きに考えられることは、補習は通常授業と違いクラス全員ではなく補習対象者に限定される点だ。
人数が少なければ男だとバレる可能性も少なくなるかもしれないし、例えバレても人数が少なければ少ないほど口止めもしやすくなり、
秘密が守られる確率も上がる。ただあくまでも希望的な観測である。
そんな事を考えながら執務室のドアをノックし、開けて中を覗くと、お姉様だけかと思ったが、部屋の中には僕以外のメンバー全員がいた。
丁度今現職4人と見習い4人の総計8人が揃ったことになる。
「失礼しま…あれ?なんでみんな居るんです?」
呼び出したのはお姉様で呼び出されたのは僕一人なので、てっきり二人だけの話し合いになると思っていたので、正直意外に思った。
456 :
ふみあ:2010/04/18(日) 10:38:39
すると吉野がイラつきながらこう答えた。
「わ・た・し・た・ち・も補習に引っかったのよおおおおおおおおお!」
「補習?水泳のか?」
「それ以外何があるのよ。」
「ええええええええ!まさかぁ。全員?水泳の授業に一度も出てなかったのはこん中で僕一人だけやろ?
なんで全員対象者なんだよ?一回でも授業に出ていたら水泳の単位を融通つけたげるって星野さん言ってたで?!」
確かに体育科の教員はそう言っていた。一回でも授業を受けていれば評価のし甲斐もあるが一回も出席していない生徒に対して
単位を与えるというのは制度上できない。だから補習を受けろ。その代わり正規の授業とは違うから制約があるがある程度僕の都合を
考慮する事が出来る、と。
だから僕を除いた3人は普通に全ての授業に出席していたのだから対象者に選別される事はまず考えられないのだが、何故かこの場にいる
一年生が4人とも対象者になっている。だから驚いた。何故なんだ、と。
するとそれに応えるように聖華がこう言った。
「25m泳げなかった人も補習の対象になるのですわ。」
「は?…ああ、成程。」
そういうことか。と納得できた。要するにお前ら泳げないのか…。
457 :
ふみあ:2010/04/18(日) 10:40:14
無意識のうちに僕は彼女らを上から目線で憐れんでいたらしい。しかも普段殆ど感情が表に出てこない性質の僕としては珍しく、
諸にそれが顔に出ていたらしい。吉野が突然火病った。
「なによ!25m泳げなかったら何か悪いわけ。」
「悪くはないと思うが、ある程度の距離泳げたら25m位余裕だろ、普通。」
「なワケないでしょ!大体あんたはどうなのよ。」
「あのね、僕がサボってたのは男だとバレないためであって、泳げないからじゃないぞ?」
「じゃあ、25m位余裕っていうならどのくらい泳げるのよ?50m?」
「んー、体力がどのくらい持つかにもよるけどクロール(自由形)で1kmから1.5km位かなあ。」
トライアスロンや遠泳で3kmとか5kmとか下手すれば10km以上どこまでも泳げる猛者が沢山いることを考えれば
決して長距離ではないが、目の前の三人は目が点、というか人間じゃないものを見るような目で見てきた。
458 :
ふみあ:2010/04/18(日) 10:41:39
すると凛様が、なにか凄くいいことをたった今思いついたかのように素っ頓狂な声を上げて
「じゃあさ、薫ちゃんが聖華ちゃんたちに今から泳ぎを教えてあげたらいいんじゃない?うん、そうしようよ。」
「い、今からですか?」
「うん、確かにそれはいいかもね。」
「お姉様まで!プールなら今水泳部が使っているだろうから使えないと思いますよ。」
「あら、そんなの特別手当を出すといえば多分大丈夫でしょ。丁度これからインターハイや国体で色々入用になる時期でもあるから、
そう言えば貸してくれると思うわよ。別にプール全部を貸しきるわけじゃないんだから。」
「うーん、まあ、いいのかなあ?」
7-5に続きます。
459 :
ふみあ:2010/04/18(日) 13:51:09
7-5
>>薫
皆と離れたところでコソコソと隠れながらスク水に着替えた後、更衣室のロッカーの陰から顔を出してみんなのところへ行く。
「ど…どうでしょうか。」
と恥ずかしさに目を瞑って俯きながら、皆に水着姿を披露する。
「おおー!」
と、いきなり予想したものとは違った歓声が上がったので、(゚Д゚)ハァ?と思いながら目を開けて上目遣いで皆の反応を窺った。
男のスク水姿だ。かなり嫌厭されるのではないかと思ったが、意外と好感触な雰囲気が感じられた。中でも凛様に至っては
「何これ?!可愛い!これ絶対女の子にしか見えないよ!」
などと絶賛している。他の人の反応も似たり寄ったりのようである。特に懸念された股間の膨らみも、女として違和感を感じるレベルではないらしい。
いや、解ってはいたけどさ。改めてそう言われるとかなりショックだよね?男として。別にデカイからいいとは全然思わないけどさ….。
蛇足になるが、吉野から
「あなた、生まれてくる性別を完全に間違えたわね。」(´_ゝ`)フッ
と言われたときは違う意味でプライドが傷ついた。
460 :
ふみあ:2010/04/18(日) 13:53:48
そろそろプールの方へ行こうかということになり、手に持っていた度付きのゴーグルを布製のキャップの上から頭にかけ、
帽子についている校章が書かれたワッペンの当たりでスタンバイさせる。普通は競泳の選手がよくやるように、まずゴーグルを
掛けてからキャップを被るのが正しい作法なのかも知れないが、直接ゴーグルを頭にかけると髪とゴーグルのゴムが絡まって
引っ張られて凄く痛いので、昔からキャップの上からでないとゴーグルをかけることが出来ないのだ。できれば不問にして欲しい。
シャワー室でシャワーを浴びてから屋内プールへ入ると、時間的に遅かった所為もあるのか、何人かの水泳部員が練習しているだけで、
1レーン位なら短時間借りても問題なさそうだった。だからといってやはり使わせて貰うのだから一応お礼しておこうと、水泳部の部長のところへ
行ったが、男だとは思われなかったようだ。補習自体も対象者が我々4人しかいない事を考えれば更衣室での着替の件も問題にはならないだろう。
どうやら水泳の補習授業から男だとバレるフラグは僕の杞憂で終わりそうだ。
構内にある屋内プールは体育館に隣接する施設内にある25m+2cm×6レーンでそれぞれのレーンのプールの底と天井の真ん中に誘導用の黒と青の帯が
都合6本ずつ引かれていて、天井の一方にセンサーが感知するタイプのタイム表示用のLEDパネルのついた至極普通の25mプールである。
その中の一番端の第1レーンを使うことになった。
461 :
ふみあ:2010/04/18(日) 13:57:29
自分を除く7人はプールサイドでしっかりと準備体操をしていたが、僕は面倒臭かったので、手足を軽くバタバタと振って
関節をなじませた後、飛び込むための台が備え付けてある方からプールの中に飛び込み、水の中に体を慣れさせることも兼ねて立ち泳ぎをした。
それを見た麗子先輩がストレッチをしながら
「薫、危ないからきちんと準備体操なさい。」
と咎めたが、僕の方はこれまでこの方法で、泳いでいる最中に足がつった事以外は特にトラブったことがなかったので、
「ヘーキ、ヘーキ。大丈夫ですよ、お姉様。」
とそんな心配すること無いのにと思いながら、さらに体を解す為にプールを軽く往復しようとゴーグルを掛け、
プールの壁を蹴ってクロールで泳ぎだした。
ゆっくりと50m泳いで戻ってくると、他の7人も丁度ストレッチを終えたところだった。
「1キロはともかく、一応それなりには泳げるようね。」
と吉野が言ったので、
「こんなの軽い準備運動の代わりみたいなもんやて。で、特訓する前にどの位行けるのか見せてくれへん?
まずはどの位出来るのか見てみなきゃわからんから。」
と答えた。
実際クラスも違うから、彼女らがどこまで泳げるのかは見てみなければ判断のしようがない。だから取り敢えずプールの中に入って泳ぐところを見せて欲しかったのだが、
吉野と龍宮司の二名はプールに入ったのに、何故か鳴滝は水の中に入ろうとしなかった。というかお前はなんで眼鏡を掛けているんだ?
「鳴滝さん、どうして入って来ないの?ひょっとして水が苦手?」
と不安になりながら訊いてみた。もし水に入ることから始めなきゃならないなら正直補習の時までに25m泳ぐ事など絶望的に不可能だ。
462 :
ふみあ:2010/04/18(日) 14:02:05
だが僕の不安をよそにかなめはこう答えた。
「いえ、そういうわけではないのですけど…その眼鏡がないとわたし…」
つまり眼鏡がないと何も見えなくて不安だから何もできない。かといって眼鏡をつけたままでは顔を水につけることが出来ず泳げない。
ということか?
「ゴーグル持ってないの?だったら後で僕のこれ、貸してあげようか?度も入ってるし。」
と自分が今かけている度付きゴーグルを指しながら言うと。
「は、はい。ありがとうございます。」
とかなめは答えた。
鳴滝を後回しにすることにしてまずは残りの二人がどの位行けるのか見ることにする。
「じゃあ、取り敢えず聖華。やってみて。て、どした?」
何故か水の中で前方に腕を伸ばして突っ立ったまま動こうとしない聖華を訝しく思いながら訊ねると。
「人間が…ゴニョゴニョ….」
となんかブツブツとつぶやいている。よーく聞いてみると、
「人間の体が水に浮くなんて比重の観点から見たら有り得ないのですわ。」
つまり浮けないのか…。(ノ_-;)ハァ…
吉野は泳ぐ事は泳げていたが、あと少し20mくらいの所でリタイアしてしまっていた。というかどう見てもこいつが
息継ぎをしているようには見えなかった。要するに息が続かなくてダウンしてしまっていたのだ。
聖華とあゆみの様子を一通り見た後、ゴーグルを外して水で濯いだ後、眼鏡を外した鳴滝に手渡した。
するとかなめは至極普通に25m泳いでターンして戻ってきた。おまえ、泳げるんじゃねえかorz。
7-6へ続きます。次回少しエロい表現が出てくるかも知れないです。耐性ない人は回避して下さい。
463 :
ふみあ:2010/04/19(月) 00:53:09
7-6
>>薫
取り敢えずかなめがゴーグルがあれば泳げるとわかった以上こちらがどうこうする必要はない。
あくまであゆみと聖華の二人をどうするかを考える。
取り敢えず軽症の方、と言ったら語弊があるが息継ぎさえできるようになれば25m位余裕で行けそうな
吉野の方からどうにかしようと思う。
「ねえ吉野、背泳ぎって出来るか?仰向けで天井見ながら泳ぐやつ。」
「え、ん、まあ少しくらいなら。」
「ちょっとやってみて。」
背泳ぎの方は息継ぎの心配が無いせいか、問題なく25m以上行けるようだった。水泳の試験自体が「自由形で25m以上泳げる事」
が合格基準になっているので背泳ぎで達成できても意味がないが、背泳ぎができるのならクロールの方もなんとかなると思った。
「それじゃあ、次はクロールと背泳ぎを交互に繰り返しながら泳いでみて。」
「?」
「だから、まずうつ伏せの状態でクロールを一回掻いてから、すぐに仰向けになって背泳ぎを一回掻いて、またすぐにうつ伏せになって
クロールを…って感じでループしながら向こうまで行くんだよ。」
と手振り身振りで説明する。
「わかった。やってみる。」
クロールと背泳ぎを交互に繰り返し、仰向けになった時に呼吸をして、徐々に背泳ぎの形を崩しながら息継ぎの感覚を体で覚えて行く。
最終的に仰向けになる時に完全に仰向けにならず、顔がかろうじて水面に出せるくらい横になった体勢を一瞬だけとって、その瞬間に吸気し、
クロールで顔が水面下にある時に呼気を出せるようになればいい。これで立派な自由形の完成である。
息継ぎしなくてもそこそこ距離を泳げる今の吉野の実力から考えれば息継ぎの感覚さえつかめればそこそこの距離を泳げるはずだ。
こちらもすぐに大丈夫のはずだ。
464 :
ふみあ:2010/04/19(月) 01:17:33
問題は、泳ぐ以前に水に浮けないとホザいている聖華をどうするか、ということだ。人間が肺呼吸をし、真体腔という空気が入った袋状の生物である以上、
肺の中に水が入らなければ誰でも水の中で浮くことができるはずなのだが…。
荒療治かもしれないが、浮き輪やビート板が無くても体が浮くことをわからせるために、下から腕で支えた状態で仰向けに浮かせてみた。
想像に難くなかったが、水着にくるまれた形の良い大きな双丘が水面から顔を出してそそり立つ様を改めてよく見ると、そのある種の神々しさに息を飲んだ。
そして同じように比較的ゆったりと作られた水着にくるまれているにも関わらずその存在を強烈に主張するクビレや小ぶりな尻や妖艶な腰のあたり、そして水着から伸びる
スラッとしたカモシカのような足へと自然と視線が移っていく。おまけに日本人と白人系イギリス人のハーフである。こうしてみると聖華って美人だよな。と素直に感心していた。
しかも、バタ足をするために足が床の方へ下がらないように尻のあたりに手を置いているので、足をばたつかせる度に手に感じる、前後左右に揺れる尻の感触に心地よい興奮を覚えた。
バタ足をしながら聖華が前進するのに合わせてこちらも支えながらゆっくり移動して行き、バタ足の勢いと前進するスピードが上がるに連れて支える力を弱めていき
最後には完全に手を離して自走させる。ただし側には付いていて、本人にはあくまでまだ支えられていると思わせて安心させる。例えるなら小さい子供が補助輪のない自転車に
乗れるよう練習するときに、保護者が自転車の後ろのところを持って支えて、子供と一緒に走ってやりある程度スピードと安定感が出てきたら手を離して子供一人で行かせるのと
同じような感覚でやっていた。
465 :
ふみあ:2010/04/19(月) 01:19:54
自力である程度背泳ぎができるようになったところで、今度はうつ伏せの状態でも浮けるようにする。
いきなりクロールは難しいと思ったので、俯せでバタ足を掻きながら息継ぎをするときだけ、犬かきや平泳ぎの
要領で前方に顔を向けて呼吸をさせるという方法を採った。
その為今度はバタ足をしやすくし、且つ顔を上げやすくするために両手を腹と胸に手を当てて支える。
つまり彼女の巨乳に思いっきり触る事になった。柔らかいが、しっかりと反発してくる張りと弾力を感じて
思わず興奮する一方で、ものすごい罪悪感を感じながら、下ろしては持ち上げ、下ろしては持ち上げを繰り返しながら進んでいった。
持ち上げる度に乳房を揉んでいるためか、手や腕に彼女の乳頭が立っているような感触がして、気のせいか彼女が息継ぎをする度に、
気のせいか呼吸音に喘ぎ声が混じっているように聞こえる。なんだか二人とも顔が火照って赤くなっていくのを意識しながら
進んでいくうちにプールの反対側に到達したので、この練習をやめて聖華を下ろして立たせた。
聖華の足元が覚束なく、放っておいたらそのまま倒れてしまいそうだったので、慌てて横から肩を手で抑えるようにして支えた。
しばらくそのまま支えていると落ち着いたようなので、
「だ…大丈夫?」
と聞くと、応える代わりに聖華は少し腰を落として、僕の股間のところに手を持ってくると、人の大事なところ(推して知れ!)
を掴んで思いっきり握りつぶしてきた。
「い、痛い!痛い!止めて!ちょ…死ぬ!…いやマジでやばいって!」
と叫びながらしばらく悶絶する羽目になった。涙目になりながら聖華の方を見ると、彼女は清々したとでもいわんばかりにこう言った。
「先程のお返しですわ。しっかりと反省なさい。」
「ごめんなさい。」<(_ _)>
悪気はなかったんだけどなあ。(´・ω・`)
466 :
ふみあ:2010/04/19(月) 01:22:41
それからある程度浮けるようになったところで、次は普通に、俯せで万歳のような体勢でバタ足をする聖華の手を、後ろ向きで立っている僕が掴んで引っ張って行く練習に切り替え、
それができるようになったらバタ足で進みながら手を回す練習、そして吉野にやっていたのと同じクロールと背泳ぎをひたすら繰り返す練習を経て、紛いなりにも二人とも25m泳げるように
なるまで、補習までの期末試験期間を除く数日間ひたすらこれを繰り返した。
余談だが、鳴滝がある時ゴーグルを返しに来るついでにこんなことを言った。
「薫さん。そのこのゴーグル、よく見えるんですけど見えすぎると言うか、何と言うか。度がきつすぎるようなのですけど大丈夫ですか?」
要するにこんな度がきつい物を掛けていて頭が痛くならないのか心配したようだが、無論そんな心配はない。そのゴーグルは僕に合わせて度を調節したものだし。
僕と君の視力は違うわけだから度があわないのは当たり前だ。ついでに言えばお前が思う以上に僕の視力が低かった、それだけのことだ。実際裸眼なら両目とも
0.01を切っているし、このゴーグルや普段している眼鏡で矯正したところで0.8しか無いから、実際問題もっと矯正がきつくても難の問題もない。
でもまだこの年で30cm先からはボヤけて眼鏡なしには生活出来ないほどの近視というのはやはりまずいものらしい。
7-7に続きます。
467 :
ふみあ:2010/04/19(月) 05:52:14
7-7
>>薫
期末試験が終了した翌日、試験採点のために設けられた振替休日だった日、に水泳の補習試験が行われた。
内容は単純、自由形で25m以上泳げれば合格。補習対象者はものの見事に我々4人だけだった。ぶっちゃけた話
他にも居るんじゃないかと思ったのだが…。
まあ、人がいないというのは少なくとも僕にとってはありがたかったので、少ないことに越したことは無かったが。
取り敢えずジャンケンで勝った者順で聖華→かなめ→あゆみ→僕の順でテストを受けることにした。
付け焼刃故の物凄い不安定感があったものの、なんとか向こう岸まで渡りきった聖華を筆頭に、僕のゴーグルを借りて
余裕で向こう岸まで行って戻ってきたかなめ、息継ぎが出来るようになった事でなんとか泳げるようになったあゆみと
順当に課題をクリアして行き、僕の番になった。
かなえが返してきた自分のゴーグルを受け取ってキャップの上から掛けながら、
(このまま25m行って帰ってきても面白くないよなあ…)
と、止せば良いのにそんな事を考えていた。ぶっちゃけた話、水泳は僕が持つ特技といえる数少ないものの中の一つなので、
タカがクロールで25m泳いだところで満足出来るわけが無かった。それに監督をしている星野先生は、25m以上泳げとは言っていたが、
具体的に何mを越えて泳ぐなとは言ってなかった。
しかもここ数日聖華とあゆみの特訓に付き合ってばかりで自分が泳ぐ時間など殆どなかったのでまともに泳げる機会というのは久しぶりだった。
468 :
ふみあ:2010/04/19(月) 05:54:10
だから久しぶりに自分がどの位長距離を泳げるのか挑戦してみたくなった。できれば1000m以上行きたかったが、それだと
体力の配分上50m/1分半のペースになり時間がかかりすぎる。だから300mくらいにしておいた。これなら初端からエンジン全開で
ぶっ飛ばしてもスタミナがぎりぎり持続するだろうし、例え途中でへばったとしても10分以上は掛からない筈である。
それで途中で限界を感じたら、最後の帰りの25mをバタフライにして占める。よし、それで行こう。
そんな事を思いながら飛び込み台の上に立ち、屈伸のような姿勢でスタートの合図を待つ。
「おや、綾小路は飛び込み台を使うのか?」
「はい。」
「そうか、じゃそろそろ始めるよ。よーい、スタート!」
合図と勢いよく足を蹴り上げて水底に向かって飛び込んだ。
バシャン!と勢いよく水しぶきを立てて飛び込んでから、ひたすらプールの底を目指して急降下する。
そして底ぎりぎりの所を加速しながら息が続くまで滑走し、そろそろきつくなった時にタッチ・アンド・ゴーの
要領で機首を上げて水面に向かって急浮上し、離陸と同時に左手を回してクロールの体勢に入り水面に出たと同時に
右手を回しながら顔を右に向けて口で息継ぎをする。そしてそのまま加速しながら15秒間息継ぎの体勢を保ちながら
そのまま殆どクロールすることも無く最初の25mを終える。
469 :
ふみあ:2010/04/19(月) 05:56:42
プールの壁にタッチしたらそのまま体をグルッと回して壁を足で蹴って次の25mをスタートする。ここで競泳の選手がやるように
体を丸めて前転させながらターンできたら格好良いしロスも少ないことは承知の上だが、前にあれやって失敗して鼻から水が入って
溺れかけたことがあるので、それ以来絶対にやらないようにしている。
ターンした後からひたすら普通にクロールをして行く。できるだけ足を水しぶきを上げて足をバタバタさせないように、両足の親指を
擦るようにしながら脹脛の振り幅を小さく、なるべく高速でバタバタさせながら少ないエネルギーでスピードを稼ぐ。
何往復した頃だろうか、そろそろ疲れてきた。丁度帰りの方の25mだったので後25mクロールで泳いで最後25mだけバタフライをして止めることにして。
最後の一掻きをしてプールの底に足をついて顔を上げて、プールサイドに手をついてジャンプをし、プールからプールサイドに出た。
当然のように合格したが、シャワー室から更衣室に戻る時他の3人に攻められた。
「あんた一体いつまで泳ぎ続けるつもりだったのよ!」
「え?時間的に300行けばいいかなとは思ったけど….250か300くらいじゃないか?」
「700よ。一体どんな計算すれば250や300って数字が出てくるのよ!」
「面倒だったから150から先カウントしてなかったんだ。」
「あんた、もしかしてバカ?」
「今更だな。じゃなきゃこんな所でこんな格好してないって。普通。」
と言いながら改めて自分の情けない格好を見渡した。
470 :
ふみあ:2010/04/19(月) 05:58:21
その後直ぐに期末の結果が、テスト問題の解説と共にテスト後の短縮授業期間中に却って来た。
一教科を除いて赤点こそ免れたものの決して褒められない点数を見てうんざりする。生物や化学、国語はトップとは言わないまでも
そこそこ平均点を大きく超えられたし、それ以外の数理社の教科は平均点を前後する位の得点は取れたのに、英語科はTもUも40点台と
ほぼ赤点というか、まともにやっていれば取りようがない位ひどい点数だし(間違いなくクラスの平均点を下げたの僕だわorz)、
家庭科や修行系の教科も芳しくなかった。被服に至っては提出物として出した布袋の刺繍に関して、適切でないという評価が下されていた。
花や動物はいいのに何故車を刺繍してはダメなんだろうか。意味がわからん。
さらに意味不明なのが保健体育のペーパーの平均点が80超えってなんなんだよ。高すぎるだろ。僕25点しか無かったのに。
(ま、そもそもこんな教科勉強するのがバカバカしいから捨てたんだけどな。むしろ0点じゃなくて良かった。ありがとうマークシート)
なんだかんだ云って赤点を3科目以上取った補講対象者になって夏期休暇が潰れなくて良かった。ただ欲を言えばもう少し点数が欲しかったな。
今更言ってもどうにもならないが…
471 :
ふみあ:2010/04/19(月) 06:02:04
どうにも成らない愚痴や不満を言っても仕方がない。今日の終業式が終われば
待ちに待った夏期休暇が始まる。今は嫌なことは忘れよう。
そろそろ時間だなと思って待っていると、担任の鈴木先生がこう言った。
「皆さん。そろそろ終業式が始まるから、講堂の方へ移動して下さい!」
「はーい!」
さて、そろそろ行きますか。
終業式が終わって寮の部屋に帰りテストの成績だけを書いたメモを添付したメールを
実家に送信して、驚速で返ってきた母親の返信によってズタボロになったところで一学期は終了した。
第七章終了
一年生一学期編完
第八章へ続きます。でき次第またうpするつもりです。ノシ
やっと巻き込み規制が解除されたのでこれから夏休み編をできてるところだけうpします。
第八章
8-1
>>薫
チャーラーラーララララー…..
音もない漆黒の世界に突然携帯の着メロ(アニソン)が響き渡った。こんな朝っぱらから誰だよ、こちとらまだ眠いんだよ。夏休みの一日目ぐらい寝て過ごさせろや、ワレ。シバくぞ!
と、思いながら徹底的に無視してたら1分鳴り続けたところで急に携帯は沈黙した。
「目覚ましかよ。」
よく考えたら、電話の着信メロディーはこれとは違うアニソンを登録していた事を思い出して安心してまた眠りかけたが、二度寝を防ぐために携帯の目覚ましに5分毎にスヌース機能が
発動するように設定していたことを思い出し、(面倒くさいなあ)と思いながら、被っていたタオルケットを剥がしてベッドから出て机の上でLEDランプを青く明滅させている自分の
黒い二つ折りタイプの携帯電話を手に取り、開いて電源ボタンを押す。そのまま充電した状態で机の上に携帯を戻し、ベッドに入ってタオルケットに包まり、横向きに丸まった状態で
また夢の中に旅だった。おやすみー。ノシ
どれだけ経ったのかわからないが、今度は人の声で現実に引き戻された。が、未だ寝ていたいので気にせず目を閉じていると、部屋の中に何人か気配がする。
初めは家族か親戚でも入ってきたのかな?と思ったが、すぐにここは実家でも祖父母の家でも無く、寮の自分の部屋である事を思い出す。しかもドアの鍵は
きちんと閉めて寝たはずだから部屋には自分ひとりしか居ないはず….。
こ、こいつらは何だ?まさか幽霊か?幽霊なのかー?!金縛りはないけど居るはずの無い人の声や気配がビンビンするから幽霊だ、
幽霊に違いない。怖いから禄に確かめもせずに一人で勝手にガクブルして目を閉じてオカ板の書き込みを思い出しながら、
こういう時ってどうするんだっけ、などと考えていると幽霊さん達が
「おーい、薫ちゃん起きろー。」
「もうお昼だよー。起きなさい。」
「薫、いい加減にしなさい。」
などと話しかけてきた!向こうに認識されちゃってる?!ひょっとしてこれ心霊的に死亡フラグだったりするのだろうか?
そうこうするうちに今度は手らしきもので、僕の体をケット越しにゆさゆさと揺すってきた。やばい、冗談抜きにヤバイ!どどど、どうしよう?!そ、そうだ。オカ板によく載っている除霊方法を実行すればいい。
だが、生憎ボクの部屋にはファブリーズもバルサンも置いてはいなかった。「びっくりするほどユートピア」にしても、できれば実行したくないし
パジャマを脱いでる途中で金縛り食らったら即終了だろ。他の除霊法にしても強力な霊を複数倒せてタイムロスも少なくてできれば簡単なものがいい。
そうだ、大声で何か叫べば霊が気迫によって撃退出来るって誰かが書いていたな。と、言う事を思い出したので、気配のする方向に向かって
「は・か・た・の・しおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」
と絶叫して瞼を開いた。
目の前に葵姉ちゃんと麗子お姉様と凛様と聖華がいた。自分でも頭から血の気がサーッと引いていくのが恐ろしいくらいよくわかった。
8-2
>>薫
寮内の食堂で朝食と昼食を兼ねた食事を食べながら、僕は顔を赤くしながら縮込んでいた。というより、文字通り穴が空いていたら入りたかった。
今朝の事は悪夢で魘されて思わず叫んだ寝言だということにして誤魔化したが、その後の昼食の時、珍しく学生会のメンバーが集結し通路で挟まれた
二組の4人席に別れて食事をしていた時にお喋りな凛様が「さっきね….」と話し始めたばっかりに、この恥話がメンバー全員に知れ渡ったのだ。
ある意味男とばれる以上に恥ずかしかった。
食後の珈琲やデザートが運ばれてきて一段落ついた頃、凛様が
「よし、みんな。今年の夏はみんなと一緒に思いっきり夏休みをエンジョイするわよ。
第一弾としてまずは海に行くわよ!」
といきなり宣言した。別に構わないが第一弾があるなら第二弾以降もあるのだろうか。
「構いませんが、いつ行くんです?」
とコーヒーを飲もうとした手を止めて訊いてみる。
「まだ決まってないけどそのうちすぐにね。」
「そうですか。」
出来るなら早い時期がいい。こちらとしてはお盆休みの前後あたりで帰省して親戚まわりなども済ませたかったからだ。
それに出掛けると決まったならその準備をするために必要なものを買う必要だってあるかもしれない。
そんな事を考えながら改めてコーヒーを飲もうと、右手でカップを持って左手をカップに添えて、熱いから猫舌なので冷ますために
フーッフーッと吹いていると、隣に座っている麗子お姉様が僕の手の中のカップの中を覗き込み、
「あら、薫。あなたなにも掛けてないじゃない。」
と言った。が、僕は紅茶もコーヒーもそのまま飲む方が好きな方だったのでそれでよかったのだが…
「そのままだと飲みにくいでしょう?ちょっと貸しなさい。」
と言って、お姉様は僕からカップを掠め取ると、コーヒーについて来てたクリームとテーブルに取り置いてあるスティックタイプの砂糖を2袋分入れてスプーンでかき混ぜた後、
「これで飲みやすくなったと思うわ。」
と黒から薄茶色へと変貌したコーヒーを返してきた。
お姉様の心遣いは嬉しいし、やって貰ったことに関して文句言うのもどうかと思うが、「余計な事をするな」と思った。
8-3
>>薫
思い立ったら吉日!とばかりに、凛様は早速予定を組み立ててくると、誰の予定も聞かずに行ってしまった。参加するとは言ったが、
せめて予定が開いているかどうか聞いて欲しかった。いや、暇と言われたら暇だけどさあ。こちとらあんたと違って実家が遠隔地にあるから、
もし出発日と帰郷時期が被ったらいろいろ面倒な事になるんだが…まああの調子だとすぐにでも出発しそうな感じだから帰省を少し先延ばしにすればいいけれど…
「そういえば…皆さん休み中はどうする御予定なんです?御実家に帰省されるんですか?」
と訊いてみると、若干の時間差こそあれ、基本的に休み中はみんな実家に戻るらしい。で、その実家がみんな都内か、関東南部の都市にあるため凛様から
いつ集合の号令をかけられても馳せ参じる事ができると…どうやらこのメンバーで寮に居残るのは僕だけらしい。
食事を済まして退散すると、皆帰省するための荷物の準備があるらしく、各々自分の部屋へ戻って行ったので自分も部屋に戻った。
何もする気が起きずにベッドの上に寝転がってゴロゴロする。が、別に眠たいわけでもない。かといって勉強する気にもなれん。
(少し外に出かけようか…)と思い、ベッドからもっそりと起き上がり机の、コロ付き圧縮ガス式パイプ椅子と一緒に並んでいる、
付属品のコロが付いている上から小中大と三段の引き出しがついたワゴンの一番上の引き出しを開けて、引き出しの中から
ブリキ製のクッキーの平たい空き箱を取り出して蓋を開けて、中に無造作に突っ込んであるたくさん車のキーの中に手を突っ込んで漁っていると、
偶然BNR34GT-Rの鍵を見つけた。
しばらく乗ってなかったから久しぶりにエンジンを動かしてみるか、ついでに久しぶりどこかへ「走り」に行くか。そう思って鍵を取り出し、
菓子箱の蓋を閉めて元の通り引き出しにしまって引き出しの鍵をかけると、出掛ける準備をしようとした。
ふと、自分が制服(しかもブラウスだけ長袖のまま)を着ていることに気づく、そしてそう言えば自分以外私服だったことに思い当たり、
なんか恥ずかしいので自分も私服に着替えることにした。
黒い半袖のTシャツに黒いミニスカートの上からさらに黒い綿製の薄手のGジャンを羽織り、ジャケットのポケットに部屋と車の鍵と携帯と財布と吸盤がついた双葉マークが書かれた四角い紙、
それと三極プラグとイヤホンを変換するケーブルをつけたウォークマンを適当なところへ突っ込み、左手首に腕時計をはめ、ベッドの上に放って置いた白い野球帽を被ると、電気と戸締りを確認してから部屋を出た。
部屋を出てからエレベータホールへ向かい、やってきたエレベーターに乗って降りている途中、途中の階で乗ってきた吉野と鳴滝に出くわした。彼女らもコンビニかどこかへ出掛ける途中だったらしい。
特に話すことも必要も無かったので軽く挨拶を交わした後は1階に着くまでお互い始終無言で済むと思われたが、突然吉田が僕に向かってこんな事を言ってきた。
「ねえ、薫。あんたなんでそんな暑苦しい格好しているのよ?」
「へ?そうか?」
確かにジャケットもTシャツもスカートもパンストも、御丁寧にスニーカーまで黒という、首から下は黒ずくめの格好だが、汗をかいても特に暑苦しいとは思わないんだが…
「そうか?じゃ、ないわよ。なんでこの糞暑い時期に長袖なんて羽織っているのよ?こっちまで暑苦しくなるじゃない。」
「知らんがな、そんな事。」
「兎に角、外に出たらその上着脱ぎなさいよ。」
「やだよ。日焼けするじゃないか。それにこいつのポケットに貴重品を全部入れて持ち歩いているから脱げへんって。」
「日焼けって….そんな事気にするような年じゃないでしょ!あと財布や携帯はハンドバックに仕舞って持ち歩くのは常識でしょ?!持ってないの?」
「いちいち鞄から財布や携帯出すの面倒くさい。というか気持ち的に持ちたくない。」
それにあんなもの持っていたら、引ったくり犯に貴重品が入っていることを教えているようなものだろう。
そこで鳴滝が不毛な会話に入ってきた。
「でも薫さん。あゆみさんの言うとおりにした方がいいですよ。そんな格好で今外に出たら絶対熱射病になって倒れちゃいますよ!」
「鳴滝さんまで…そない心配せんでも大丈夫やって。大げさやなぁ。」
「でも…」
「大丈夫。平気平気。」
だって車で出掛けるもん。
478 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/14(金) 20:58:06
寮の玄関を出て寮の裏をまわり、シルバーメタリックの、エアロについたフォグランプが特徴的なR34スカイラインGT-Rの改造車を止めているところまで行き、
開錠してドアを開け、乗り込む。
内装が黒い所為か、車内は余計に蒸し暑くなってサウナのようになっている。エンジンキーをさして思い切り回し、エンジンを掛ける。そしてしばらくしてから
エアコンの送風口が冷たい空気を吐きながら車内を冷やし始めた。
ドアを閉めて、運転席側のパワウインドースイッチを一杯に押して窓を全開にし、シートベルトをして発車措置をしてから車を発進させた後、寮の周辺を一周し、
走りながら車内に入ってくる風でさらに車内の体感温度を下げる。
ある程度下がったところで窓を閉めて寮の玄関前に戻り、オーディオのスイッチを入れて、三極プラグを差込口に挿してウォークマンの電源を入れる。
そしてスピーカーから流れるアニソンを聞きながら、センターコンソールの適当なところにウォークマンを引掛け、助手席側のフロントウィンドウに
未成年運転者証(双葉マーク)を貼りつけて、車を正門の方へ走らせた。
8-4へ続きます。
479 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/16(日) 00:18:37
8-4
>>薫
学院高等部から下がったところに大学までにある道路の中に、主要都道と市道を結ぶ、少しだけだが山越えをする道がある。
山越えと言っても殆ど麓のあたりをかすめる程度で、周辺に住宅地があるので、道幅の広い2車線道路で制限時速50km/h、
最も半径が短いカーブでR=70mという高速カーブが何個かあるだけの、ドリフトなどの練習にはもってこいで、昼間でもたまに
地元の走り屋さんが走りに来ているが、住宅地の中にあるため夜間など結構な確率で交機が鼠を取りに不定期でやって来ることでも有名な、
道路へ走りに行くことにした。
先述した通り殆どが高速ターンで道幅も広いことから。AT車でも相当なスピードを出しながらフットブレーキ誘導でドリフトしやすいという、
AT乗りもドリフトを楽しめる公道という意味で貴重だと思うが、中々外で走る時間がなく、一度走ってみたいと思っていた道だった。
市道交差点から住宅街を突っ切り、人家が少なくなって山の中に入った当たりからアクセルを全開にしてキックバックさせ、120km/hまで加速してから
最初のカーブの手前でハンドルを切りながらブレーキを思い切り踏み込み、タイヤが滑り出してから行きたい方向へカウンターを開けながらアクセルを煽って挙動を調節し、
白煙を巻き起こしながらクリアし、次のカーブへのアプローチをかける。コの字を大きく引き伸ばしたような、カーブとカーブの間の直線区間を三発ドリフトで繋ぎながら走っていると、
カーブの先にチラリと車のテールが見えた。距離にして100m位だろうか…頑張れば山越え区間が終わるまでに追い抜けそうだ。
普段滅多に出さない闘争心を剥き出しにしながら、力の限りアクセルペダルを踏み込んで急加速する。90km/h→100km/h→120km/h→140km/h→160km/hと
どんどんスピードメータの針が上がっていき、それに連れてどんどん前車のテールが目の前に迫ってきた。
「赤いFT-86か、また古い車が走っているな。まあ、僕の車よりゃましか…しかし思ったより遅かったな、170まで出す必要なかったな。」
とひとりごとを言いながら橙色の中央線を大きく越え、対向車線に出てFT-86の右側を追い越して前に出たのと同時にステアリングを切りFT-86に
こちらの腹を見せる形で真横になりながら左カーブのイン側を攻めながらリアを流す。普段より進入速度がずっと速かったのでスリップして制御不能に成りかけたが、
アクセル操作で強引に持ち直し、危ない危ないと思いながらギアをセカンドに落としてアクセルから足を離して少し減速させる。
ふとルームミラーを見ると、先程追い越したハチロクが加速しながら追いかけてくるのが見えた。
勝負でも仕掛けてきたのか?追い抜けるものなら追いぬいてみい。所詮2lのNAのクセに。コチトラ車体はボロくて重くてもRB26DET改RB30DETT
(2.6l→3.0l大排気量化ツインターボ仕様)を載っけて、ミッションをスポーツ仕様3速ATに換装して、その他足回りから排気系、エンジンオイルまでいじって
500PS以上出るようにした高出力車や、お前なんか敵じゃねーよ。ばーか、ばーか。
と、思いながらアクセルを踏み込みハチロクとの距離を一気に引き離し、ドリフトをかまして盛大に、
後ろの車の視界が悪くなる位白煙を上げて振り切った。ルームミラーから赤い影が消えた。
そのまま吹っ切りたかったが、すぐに山越え区間が終わったことを示す交差点の赤信号が見えてきたので、
ハザードを点滅させながらかなり急な減速をして停止線の手前で止まる。そしてすぐ後ろに先程のハチロクが止まった。
が、止まったと思ったらバンっと音を立てながら助手席のドアが開き、人が出てきたと思ったら突然車のすぐ前に、
まるでこちらを発進させまいとするかのごとくさっき後ろの車から出てきた女の人が両手を広げて立ちふさがっていた。
おいおい何だよ?と思って見ていると、今度は運転席側のドアの窓をコンコンと叩かれた。振り向くとスモーク越しに
また別の女の人がこちらを伺っているのが見えた。後ろの運転手か?
窓をいっぱいに下げて相手と顔を合わせる。相手は少し面食らったような、驚いた表情を一瞬したが、すぐに怖い表情になると
「あなた何考えているの!危ないじゃないの!勝手に事故るのは勝手だけどこっちまで巻き込まないでちょうだい!」
と、怒鳴ってきた。事故らないようにうまく車をコントロールしていたつもりなんだが、
「….す、すみません。」
無意味な争いは避けたい性格なので、謝って済ませられるならそれに越したことが無い。
が、お説教は止みそうにない。
「大体あなた、どう見てもまだ中学生じゃない?!無免許?」
「..いえ、高校生です。免許も持っています。」
ジャンパーのポケットから財布を出し、この間更新しに行って交付された、名前だけじゃなく
写真まで女のほうになった新しい免許証を新しい免許証(未成年用制限付き免許証の交付期限は1年間)を提示する。
「少年免許か…だったら車に双葉マークを付けなきゃだめじゃない。」
「一応ここに…」
と黒い線で囲った円の中にヤッツケで書いたような四葉マークのような緑色の双葉を図案化したマークが書かれた、
フロントウィンドウに張ってある紙を指さしたが…
「後ろにも貼らなきゃダメでしょう。」
ごもっともだとは思う。確かにマークを車の前後に提示しなければならない。法律上はな。実際問題双葉マークだとわかったら、
後続車にわざとらしく無駄に車間距離を取られるか、逆に急接近して煽るかのどちらかなので、貼りたくないだけである。
俯いて黙っている間にも話は勝手に進み、とうとう学校に連絡するから学校名を教えろという段取りまで進んだ。
そんな事になったら立場上洒落にならなくなるので全力で黙秘を続けた。
すると今度は都道の方から一台のロードスターがやって来て、ハザードを出して対向車線の自分達の側に停車した。
オープンなので乗っている人間の顔がよく見える。姉妹なのか、顔や背格好がよく似た二人組の女性だ。そしてそのうちの
助手席に乗っている方の顔を見て僕は驚いた。佐倉先輩だった。
驚いていると、今度は運転席にいた女性がこちらへ声を掛けてきた。
「和葉、夏実、どうしたの?なんかトラブル?」
「あ、部長!」
と言って先程まで説教を垂れていた女性は頭を上げ、声をかけてきた女性の方へ振り向いて事情を説明し始めた瞬間、
佐倉先輩と目が合った。こちらも窓を全開にしていて筒抜けだったから向こうも気が付いたのだろう。
車から降りてくると、コチラの方に歩いてきて、僕の車の横に立つとむっと窓から上半身を乗り入れて僕の顔を正面から覗き込み
「あんた、こんな所で何してるの?」
いやいや、あんたこそなんでこんな所にいるんだよと、逆に聞きたかったがやっぱり面倒なので黙秘を続けて俯く。
すると部長と呼ばれたロードスターの運転者が佐倉先輩に、
「愛ちゃん、この娘のこと知っているの?」
「知っているも何も高等部の後輩の一年生で今の学生会会長の妹よ。しかし危険運転って、あんた何やったのよ?」
「…150キロでドリフトを….」
「…まあ、如何にもって車ではあるわね…。」
「…公道仕様です…。」
「まあ、何があったかよくわからないけど、この娘も反省しているみたいだし。ね?」
「……..。」(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) コクコク
「ほら、そうだって。もう許してもいいんじゃない。」
「部長がいうなら…」
「まあ、これ以上はさすがにあたし等も大人げないか。」
「だって、もう危ない事をしちゃ駄目だぞ。お姉ちゃんと約束できるかな?えーとっ….」
「…..綾小路..薫..です。」
「よし、約束よ、薫ちゃん。あ、そう言えば私も自己紹介がまだだったわね。私はここにいる佐倉 愛の姉で萌っていうの。
大学の自動車学部の部長をやっているから仲間からは部長って呼ばれているけどね。」
「そうなんですか….。よろしく…です。」
「こちらこそよろしくね。」
「…あの…。」
「ん、なーに?」
「そろそろ行ってもいいですか?」
窓を閉め、エンジンを掛け直し、発車措置をしながら周囲の安全を確かめ、右ウインカーを出しながら車を発進させ、
交差点に入って一旦ステアリングを左に切ってから右に切り返して交差点の広さを利用して右側手前の角まで300°ほど転回して、
左に切り返しながら少しバックして、右に切りながら前進してロードスターの後ろに停車した。
大学の自動車部の面々もそれぞれ自分たちの車に乗り込み、FT-86も交差点でUターンして、ロードスターを先頭にGT-R34とFT-86が
三台並ぶという陣形が完成した。
ロードスターのテールを凝視しながら、ギアをNに入れてサイドブレーキをかけた状態でリズムつけてアクセルを煽ってエンジンを
「グォン、グォン、グォオオオン」と空吹かし、ロードスタが発進するのを待つ。
ロードスターが「準備はいいか」と言いたげに右ウインカーを出して発進したので、ドライブに入れてサイドを解除し、同じように
レバーを下げてペダルを踏み込んだ。
8-5に続きます。
486 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/18(火) 23:05:50
8-5
>>薫
山越え区間の終点を示す左に緩やかにカーブを描きながら下った坂道の麓にある交差点の、そのまた先の左側にポツンとあるファミレスの駐車場にロードスターに続いて
自分の車も入っていく。
ロードスターとFT-86に両脇を囲まれる形で横列駐車を終えてエンジンを切って車外にでる。ドアを閉めて軽く伸びをする。するとロードスターから降りていた萌さんが、
「これから時間があったら一緒にどう?」
とファミレスの建物を指でさしながら尋ねてきた。
「構いませんが。僕、もう昼食を摂ってしまったんですけど…」
「うわー、ボクっ娘だぁ!」
「ボクっ娘か…」
「……にょ?」(・д・ )?
どこからともなく聞こえて来た感嘆とも突っ込みともつかぬ声がハチロクの方から聞こえてきて思わず小首を傾げていると。
突然携帯が鳴り始めた。着メロとすぐに鳴り止んだことからメールの着信であることが分かった。背面ディスプレイには
封筒のアイコンと「尾添 凛」という文字が表示されている。
片手で携帯を開いて新着メールを確認するとそこには、
「件名:今どこー?」
とあり、開けて見ると至急寮の中にある喫茶室に集合しろという感じの文章が書いてあった。
487 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/18(火) 23:08:56
メールボックスを閉じて携帯をジャケットのポケットに仕舞うと、佐倉先輩達の方へ向き直る。
「すみません、せっかくのお誘いですがやっぱりお断りします。」
「あら、何かあったの?」
「ええ、急に学生会の寄合に招集されたのでそっちの方へ行かないと..。」
「あらあら。」
「また今度機会があればその時御一緒させてください。では失礼します。」
一礼して車に乗り込んだ。
「Open」と書かれたプレートの傍を通って寮の2階、丁度食堂の真上にある喫茶室に入る。普段こそそこまで人が多くいる事はないが、
いつも以上に閑散とした店内に、すぐに目的の集団がたむろしているのが見えたのでそちらの方へ歩いていく。
一番奥、丁度一階の食堂を見渡せる二階までの吹き抜けの境界にある手すりの側の小さな丸テーブルの周囲に椅子が4つ正方形状に並べられている四人席を
二つ並んで占領する形で、自分以外の7人はすでに集合していた。
「すいません!はぁ..はぁ..遅くなりました。」
「遅いよ。どこ行ってたの?」
「ちょっと車で外へ…」
「?まあ、いいや。全員集合したことだし早速始めるよ。」
と、言うと凛先輩はテーブルの上にクリップで纏められた薄い書類の束を2つ取り出して置いた。
どちらも一番上にホームページをそのまま印刷したらしい、どこかの旅館とホテルのパンフレットらしい、
A4の用紙にインクジェットで印刷したから多少荒くなっているが、モニターやカラー印刷専用の表面がツルツルと
反射するような質のいい紙なら見栄えがいいだろうと思う、建物を望む景色や部屋や料理を映したカラー写真が貼られた物が付いていた。
488 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/18(火) 23:11:05
机の上に両手をつき、つま先立ちで立ちあがるように覗き込みながら
「湘南と….熱海ですか…。」
「家と懇意にしている所を幾つか当たったんだけどね…今すぐ泊る事が出来る所がこれとそれしか無かったんだよね。どっちがいい?」
「これからどこも繁盛期ですからね。しかし写真を見る限りどちらのホテルの部屋も随分雰囲気がいいですね。さすが…」
政治家の先生方の御用達になっているところだけはありますね、と言おうとしたが、部屋の写真のすぐ下に小さく書かれた食事付きでの一泊あたりの値段が視界に飛び込んできた途端、
あまりにも驚愕したので声が続かなくなった。高い、高すぎる。どう考えても高くてこの位だろうと予想していた値段の倍以上はある。間違っても学生が、小規模とはいえ、
集団で泊まりに行くようなホテルでは絶対ない。本当にこの人、普段家族で泊まりに行っている旅館を学生同士での旅行でも使うつもりらしい。
489 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/18(火) 23:13:04
唖然としかけたが、金だ。お金どうすんのさ?一人いくらになるかわからないが割り勘だと言われても両親や祖父母が出してくれるとも思えんからはっきり言って払えねえよ?
「あの、凛様。野暮ったいというか、不躾である事は重々承知してますが…そのお金の方は大丈夫なんですか?」
「何が?」
「いえ、その会費という形で割り切るとしても一人当たりの金額が…その…高すぎないかなぁって?思った次第ですから….。」
「あら、この手のホテルにしたらさほど高いとは思いませんけど?」
「そんな事承知ですよ。聖華さん。僕が言っているのはサービスの値段が妥当かじゃなくて、学生の旅行で掛ける金額が妥当かどうか。という事を言っているんですよ。
いや、悪いって言ってるんじゃないですよ。全額ホステスである凛様が負担なされるなら兎も角、あまり一般的な金銭感覚から外れたような金額を各人で分割して
お互いに負担しあうってなったら個人的に少し困っちゃうかなと。」
「あら、でも綾小路位の家なら出せないことも無いと思いますけど?」
「そりゃ家だって物凄くというわけでは無いですがそこそこ大きな家だと自負してますから出せないわけはないですけど…」
「なら大丈夫でしょう。別に心配する必要はないとおもいましてよ?」
「でも出せないのと出さないのとは大違いですから。」
「?」
「ウチの家、祖父は曾祖父と曾祖母から社長職や会長職を引き継ぐ前は島大の生資の教授だったし、両親も大学は違えど医学部の講師や家政学の教授をやってるし、
他にも会社関係以外では小学校から高校までいろんな学校の教師や公務員をしている人が多い所為か兎に角理屈っぽいんですよ。だから普段貰っているお小遣いと学費や教材費、
月々の生活費以外で何かお金が必要になったら、逐一必要な金額と用途を言って納得してもらえなかったら出して貰えないんですよ。」
490 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/18(火) 23:15:38
つまり今回のホテル代のように、どう考えても学生ごときが泊まるには分が過ぎるような値段の場合出してもらえない可能性が非常に高いのである。
「大丈夫。必要な分は皆の分もパパが払ってくれるから♪」
と言って凛様はハンドバッグの中のエルメスの財布から黒いカードを取り出して、それを手で持ってフリフリしながら笑っていたが、それはそれで気を使う…
というより余計に贅沢したらいかんだろうと思うのだが…まあ兎も角金銭的な不安は払拭された。予定が立ったら実家の方に報告して、僕一人分掛かる分でも
お礼金として尾崎の家に払ってくれるように頼んでみよう。
さて話を戻して候補地の内どちらに行くか決めることになった。
「で、さあ。どっちにする?麗子会長?」
「わ、わたし?」
「ここは会長の鶴の一声を!ほらほら。」
「そうね。薫。」
「はい?」
「あなたはどっちに行きたい?」
「え、うーん、僕は….どちらでも構わないですよ?」
おそらくこの場合、僕の母親の弁を借りれば質問の答えを聞いた相手が一番反応に困るらしい回答をすると、やはりお姉様は困った顔をした。
いや実際強いて言えば泊りがけで行くなら温泉もあるし、そこそこ距離もある熱海の方がいいんじゃないかとも思ったが、どうしても熱海に行きたいわけでもなく、
熱海も鎌倉も訪れた事もなく機会があれば行ってみたい所ではあったがどうしても行きたくてたまらない所でも無いので本当にどっちでもよかった。
「困ったわね…」
「?」(・д・ )?
「あなたが行きたい所に決めようと思ったのだけど…」
「僕、お姉様と一緒に行けるなら何処だって構わないですよ?」(僕に振られても困る。ここは年長者らしくお姉様が選んで下さい。)
「……。」
(そんな困った表情で見つめられても…うーん、どうしてもと言うならやっぱり…)
「熱海….でいいです。」
「熱海?熱海がいいの?」
「どうせ泊りで行くんだったら、近場よりも少し距離がある所の方がいいかな、って思ったので。」
「そう。なら凛、わたしも熱海にするわ。」
「はいよ、薫ちゃんと麗子は熱海っと。聖華、あんたはどうしたい?」
と言いながら凛様はメモ帳の一紙片の、熱海と書かれた字の右側に正の二画目までを書いた。
491 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/19(水) 00:19:00
結局目的地は熱海、ということになった。鎌倉も悪かないと思うがやはり温泉が付いていたという事が大きかったのだと思う。
ま、取りあえず週末の予定はたったわけだ。
で、目的地が決定すれば次は何で行くかという話になる。候補としては車か新幹線の二択になるわけだが….。
「で、熱海まで何を使って行くおつもりなんですか?」
「何がって?」
「新幹線と自動車のどちらをお使いになるつもりなのかなと。」
「ああ、そうだね。….そうだなあ、新幹線でいいじゃない。オンシーズンでどっちも混んでるでしょ?
だったら渋滞なんて関係ない鉄道の方がいいでしょう。」
「でもそれだと持っていける荷物が制限されますよね?そこで提案なんですが…僕一人だけ移動は別行動というのはダメですか?」
「?」
「皆さんが新幹線+タクシーで移動している間に僕が自分の車に皆の荷物を積んで向こうで落ち合うというのはどうでしょうか。」
「え、でもそれは….」
「ダメよ。」
「…お姉様?」
「あなた一人だけ単独行動を許すわけにはいかないわ。」
「えー、でも海水浴に行くなら場合によったら荷物も大変な量になるでしょう?車があった方が良くないですか?
それに僕も久々に高速を使って長距離をドライブしたいですし。いいでしょ?ね、ね?」
「本音はそこか…。」
「どうしてもというなら仕方が無いわ。わたしもこの子に着いていくことにするわ。」
「えー!」( ̄д ̄)エー
「だってあなた。目を離したらすぐに危ない運転をするでしょう?」
「うっ。」Σ(゚Д゚;)ギクッ
「わかった。じゃあそっちは麗子に任せるね。」
「ええ、任せて。それでいいわよね、薫。」
「はい、わかりました。それで、出発はいつになさるおつもりなのですか?必要な物を買い揃えたいので、少し間が頂けると非常に嬉しいのですが…。」
「わたしも今すぐ出発する気はないし、そこは追々ね。そうだ、明日は皆で一緒に必要な物を買いに行こう。ね?」
「そうですね、そうして頂けるならとても喜びます。ところで一つ質問があるのですが….」
「?何?」
492 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/19(水) 00:20:24
「今回の旅行、僕の扱いは凛様の中ではどうなってるんでしょうか?」
「えーと、どういうことかな?」
「単刀直入にいえば男に戻るのか、このまま女のままずっと過ごすのか、と言う事なのですが。どちらにするかで用意する荷物もこちらの心構えやスケジュールも大きく違ってくるので。」
「ああ、そういう事。」
そう言って凛様は、僕の方に顔を向け、さも当たり前だろと言うような調子でこう言った。
「そんなの、女の子に決まってるじゃない。一応は女学院の学生旅行と言う名目で行くんだし。」
「でもそこはお姉様の親戚か、身の回りの世話人という形で男に戻れる方がこちらとしてはありがたいのですが….」
「そんなのダメに決まってるでしょ。」
「駄目って言われても……はぁ…..わかりました。どうにか乗り切ってみますが騒ぎが起きても責任取れませんよ?」
「うん、がんばれ。でも楽しみだなあ。薫ちゃんの水着姿♡」
「見てガッカリする顔が想像に難くないですが….僕で遊ぶのもほどほどにして下さいね。じゃあ、そういう事でお願いします。」
如何にも楽しい事を思いついて計画を立てている悪ガキのような笑顔で「うふふ…」と笑っている凛様に釘だけは打っておく。
493 :
ふみあ:2010/05/20(木) 16:33:35
8-6
>>薫
「あのー凛様、お姉様。ホントにこれ着なきゃいけないんですか?」
学校から車で20分ほど走ったところにあるそこそこ大きな、主に若者向けの比較的安価な服飾ブランドや雑貨店などが集結したショッピングモールにある
水着売り場に設けられた試着室の前で、凛様とお姉様が持ってきた…ど派手ではないが到底地味とは思えない茶色のビキニの、ブラもパンツも紐で
蝶結びするように成っているタイプの、所謂紐パンとか紐ブラとかいう水着を見てうんざりしながら聞き返した。
女物の、しかもかなりきわどい水着に対する男故の抵抗感ももちろんあったが、散々二人で人を着せ替え人形のように扱って、僕の意見そっち除けで
遊びながら何枚もの中から試着するために選んだ奴が結局それかよという失望感の方が大きかった。
だが、こちらも選んでもらった以上立場的に試着しなければいけない。それに際どい、派手という要素がなければ、水着の下の上から普段使っている
半ズボン型のポケットが付いた男物の水着を重ねて着るつもりだったので、一体型の水着よりも上下に分かれるタイプの水着の方が都合が良かったので
凛様からそれを受け取って靴を脱ぎ、フィッティングルームの中に入ってカーテンを閉めた。
着ていたサマージャケットとジーパンを脱いで、半袖のTシャツとパンティーと靴下だけになってから、そのままの格好でTシャツとパンティーの上から
水着を着てカーテンを開けて外の三人に正面を向けた。
494 :
ふみあ:2010/05/20(木) 16:35:48
案の定というか、三人とも開いた口も塞がらないと言わんばかりに目を丸くして僕のことを見ていた。お姉様は反応に困っている。すぐ側で自分の水着を選んでいたらしく
こちらを振り向いた聖華は何かあり得ないものを見たかのように驚愕した表情を浮かべている。凛様に至っては何か楽しみにしていたものにものの見事に裏切れれた後のように
落胆とした雰囲気を漂わせている。
「えーと、どうしてあなた服の上から水着を来ていますの?」
と少し不審感を込めて聞いてきたので
「え、だってこれ売り物でしょ。試着だからって直にそのまま着るのはまずいかなって思って。ほら僕汗っかきな方だからそのまま肌に触れたら汚しちゃうでしょう?」
と弁解すると、そばで様子を伺っていた店員のお姉さんに
「お客様、そこまでご配慮されなくてもいいですよ。」(^□^ι)
と言われたが、こちらとしてはこれを購入すると決めたわけじゃないから、もし売り場にそのまま戻すときに汚れていたら気が滅入るだろ。
495 :
ふみあ:2010/05/20(木) 16:44:52
服の上からだとはいえ、ゆるくも無くきつすぎず違和感なく調度良いことを確認する。
「どうでしょうか?もうこれでいいんじゃないかって思うんですけど。」
「薫、あなたがいいならそれでいいのだけど…わたしがあなたのために選んだ水着に何か不満があるのかしら?遠慮せずに言っていいのよ?」(#・∀・)
「いえ、そんな事ないです。お姉様が選んでくれたこの水着がいいです。」(;´Д`)ヤベー
「そう。私もよく似合っていると思うわ。」(^−^)
些細な助詞の違いくらい見逃してくれたらいいのに…といつも思う。
いつも思うが女の人の買い物ってなんでこんなに長いんだろう、と思いながら横目で水着を選んでいる聖華とお姉様と凛様の様子をチラ見して手に持っている
星新一の文庫本のページに目を落とす。ふと腕時計を見ると、もうかれこれ30分近くこうして、時々移動しながら3人のそばの床にしゃがみ込んでふくれっ面で
本を読んで暇を潰すという、母親の買い物に付いてきたもののあまりの長さに閉口して退屈を持て余してぐずる幼児のような行動をとっていることになるらしい。
496 :
ふみあ:2010/05/20(木) 16:45:52
しかも突然、どちらの水着がいいかどうか話しを降ってきて適当に答えたら…後はお決まりの面倒くさい話の流れになる、
そしてまた良さそうな水着を漁る事の繰り返しである。いい加減早く終わらないかなぁ。退屈なせいで何だか眠くなってきたので
本のページにしおり替わりの緋色の細い紐を挟んでジャケットのポケットに仕舞い、先程買った水着が入った紙袋を膝の上に置いて
両手で膝ごと抱かえこんで、瞼を閉じてうとうとといつの間にか舟を漕いていた。
どのくらい経っただろうか、肩を揺すられた衝撃で意識がこちら側に戻ってきた。
「おーい薫ちゃん、起きろー。そんな所で寝てたら風邪を引くよー。」
「ムニャ、ファァァァン。ウーーーーーン….凛様、終わったんですか?」(ノД`)
左手を眼鏡に掛けて眼鏡を外して右手で目を擦って掛け直してから、そのまま右手を口元に持ってきて大きな欠伸を出して
立ち上がって伸びをしながら訊くと、
「終わったけど…よく寝てたねえ..。」
「そうですか?そんなに寝てましたか?」
「それ程でもなかったけど、あまり行儀の良いものではなかったわね。」
「すみません、お姉様。少しうとうとしちゃって…ファァァァン。」(ノД`)
「おいこらこら、言った傍か歩きながら寝るなー!危ないよ!」
おっと、危ない危ない、と思いながら首を左右にブンブンと振って眠気を追い出した。
497 :
ふみあ:2010/05/20(木) 16:48:09
昼食をとるために水着を売っていた区域からレストランやカフェなどが集まっている区域へ移動する途中、あるアウトドア用品店の前に来た途端、急に凛様が立ち止まった。
「ねえ、あれいいんじゃない?」
と言って指さした方向を見ると空気を入れて膨らませるタイプの3〜4人程度までならのることが出来る、ちゃちなオールが二本ついた水色のゴムボートが膨らました状態で陳列棚の上に
こちらを向かって横にして展示してあった。
必須というわけではないが、こういう物はあった方が無い時よりも数倍いいに決まっている。それに折りたたんで付属のオールごと専用のトランクケースに入れて持ち運びができることが
売りらしく、ケースが入っている箱もコンパクトで軽量だからセダン程度ならトランクに積んでもそれ程スペースを取らずに済ませそうだし、金を出すのは僕じゃないから特に反対する理由はない。
他も同じだったらしく特に誰も反対すること無く購入が決定したが、色々あるカラーバリエーションの中で展示してある水色が一番人気らしく該当する箱が一つしか残っていなかった。
だがいくらコンパクトと言ってもこれから食事するのにこんなの持っていったら邪魔でしか無いが、食事中に誰か他の人に買われてもそれはそれで邪魔である。店員に言伝を頼んで商品を
確保して於いて貰うか、購入したものをレジで預けておくという方法もあるにはあるが、百貨店や高級ブランドの専門店のような所ならともかく、庶民向けの薄利多売なチェーン店でそこまでの
サービスをバイトの店員がしてくれるのかはっきり言って疑問だ。
話し合いの結果、結局その場で購入し、僕が一時離脱して駐車場に戻って荷物をY34グロリアのトランクに積んでまた戻ってくるという、僕が提案した案を実行することになった。
そして寮に戻ってきてから、何故かそのまま僕の部屋でボートをそのまま預かるという形になった。
8-6終了8-7へ続きます。またでき次第うpするつもりです。ノシ
498 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 10:02:37
8-7
>>薫
学校から車で20分走ったところにあるJRの最寄り駅の小さなロータリーの隅にシルバーメタリックのフォグランプのついた後期型のV36スカイラインのVIP仕様の改造車を路肩に寄せて停車させ
運転席から降りて車の左側に回って後部座席のドアと助手席のドアを順番に開けてそれぞれ聖華と吉野と怜様と、凛様をエスコートして改札まで案内した。
「電車の時間には余裕で間に合ったみたいですね。じゃ、僕は学校の方に戻らせていただきますが…皆さん大丈夫ですよね?乗り換えとか…」
事前に指定席券と乗車券を往復で確保しているが、乗り換えとか切符の買い方とか窓口での指定列車のダイヤの変更とか知ってて当たり前なような事も使わないと知らない、という人も多いからもしものために訊いてみた。
「大丈夫。聖華とあゆみちゃんは知らないけど怜とわたしは何度か旅行で新幹線を使っているから慣れてるもの。大丈夫。」
「それならいいんですが…。」
「心配してくれてありがとう。薫ちゃん。」
「じゃあ、僕もそろそろ行きますね。新幹線と違って大分遅れるかも知れませんが…ホテルで落ちあいましょう。」
「ええ、そっちも事故に遭わないように気をつけてね。」
「はい、皆さんも道中お気をつけて。それでは失礼します。」
見送ってから急いで自分の車に戻り、学校の寮前に戻り裏の駐車場に車を停めると、寮の玄関前に運転席にキーが刺さっていて運転席のドア開けっ放しになって放置されている、
自分のシルバーメタリックの黒いカラーフィルムがフロント以外のすべての窓に貼られ、ハザードを車幅灯に移植してLED化して一体にし、フォグランプを楕円にして蒼いバルブに変えて
フルエアロ化し、20インチのアルミホイールを履き、エアサス+4輪ディスクブレーキ化、マフラーを左右二本出しにして車高を落として、乗員変更なしの6点のロールバーを車内に取り付けられ
トランクにストップランプが付いた申し訳程度のリアウィングが付いているという他の自分の車と同じような改造を施された後期型の15クラウンの方へ歩み寄った。余談だがエンジンを
3Lにボウアップしたツインタービンの2.5lのjz-1エンジンのターボに換装し、ミッションとマフラーも交換した、他にはちょっとないと思う自慢の車でもある。洗車をしないせいで汚れて汚いという点に目を瞑ればだが。
499 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 10:08:21
兎に角今僕のクラウンには、ボートや8人分の荷物、その他色々をトランクに詰め込む作業を朝からやっていた。車のトランクが閉まっているということは持っていかなきゃいけない
荷物の積み込みはほぼ終わったのだろう。そう思ってエンジンスロットからキーを抜くと自分も用意と戸締りをするために一旦部屋に戻った。
戸締りをして玄関前まで降りてきて車に乗り込むと、背負っていたリュックサックを助手席側の足元に置かせて貰い。エンジンを掛け、オートエアコンの設定を内気循環の21℃にして
冷房をガンガンつけて車内を冷やしながら他の3人が降りてくるのを待つ。
しばらくして玄関前に綾乃先輩と鳴滝、その後にお姉様がやって来たので車から降りて後部座席左側のドアを開けると、綾乃先輩と鳴滝は乗り込んだがお姉様は助手席の方に乗ると言った。
確かに5人乗りの3ナンバーの大型セダンだとはいえ、後ろに3人並ぶのは狭いよな、と思ったのでそのままドアを閉めて助手席のドアを開けて
「足元に僕の鞄がありますがよろしいのですか?」
と訊くと
「構わないわ。」
と仰るので、助手席の下のほうへ体をかがめて潜り込んでリュックをセンターコンソールの方へ少し押し込んで出来る限り足元のスペースを広げてシートを2cm程少し下げ、
「お姉様どうぞ。」
と助手席のむき出しになっている窓ガラスに手を掛けて、運転手がやるような仕草をして、お姉様に乗り込んでもらう。
「僕の鞄を置かせて戴いて本当に申し訳ありませんお姉様。窮屈ではございませんか?」
「心配しなくても大丈夫よ。」
「ならいいんですが。それじゃ、ドアを閉めますね。お手元に気をつけて下さい。」
バタンっとドアに両手を添えながらそっと、だけどしっかりと閉めると、車の前の方を確認してから左方向の障害物の有無を確かめながら後ろに回って確認し、
そのまま右側に回って運転席のドアを開けて中に乗り込み、スロットルにキーを差し込んで一杯に回してエンジンを始動させた。
500 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 10:09:24
キュルルルル...ブーン..パチップスッ….グォオオオオオオオオオオンォンォンォンっとエンジンが一瞬すごい轟音だして収束していき、タコメーターの針が
1000rpmまで戻ったことを確認してからブレーキを一杯に踏み込みながら、シートのスライドや座高やリクライニング、ハンドルの位置を弄ってドラポジを軽く調節し、
ミラーの位置を調節し、
「よしっ!出発!」
と気合を入れてからギアをPからDに入れてサイドブレーキを解除し、右ウインカーを点滅させながらブレーキを緩めて行きステアリングを切って車を発進させた。
学校の正門から高速に乗るために左折して正面の道に合流するために停車して右から来る車の列が途切れるのを待っている時に後ろに話しかけた。
「後ろの方も大丈夫ですか?狭くないですか?」
「ええ、大丈夫よ。」
「だ、大丈夫です。」
「わかりました。何かあったらすぐに仰って下さいね。対処出来るのならすぐにそうしますから。」
「わかったわ。ありがとう。」
「わ、わかりました。」
「あ、今行けるな。よしっ行こ!」
車を発進させて道路に合流し、都道の交差点まで車を走らせる。
501 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 10:11:29
ふと、メーターを見るとガソリンスタンドの給油機のマークが黄色く点灯していた。昨日入れ忘れていたことに気づき失敗したと思ったが、
どうせ高速に乗るのだ、ついでに空気圧の方もチェックしておこうと思ったので、
「すみません。申し訳ありませんが高速に乗る前にガソリンスタンドに寄ってもいいですか?ガス欠しそうなので…。」
「別に構わないわよ。」
(゚Д゚ )クルッ
「私も構わないわ。」
( ゚Д゚)コクコク
「じゃ、そういう事で。すみません。たしか都道沿いにバイパス入る前にスタンドがあったはずなのでそこへ行きます。」
町道から都道に入り少し下がった処の左側にあるスタンドが見えてきたところで左ウインカーを点滅させ、歩道の手前で一旦停止して
安全を確認してからスタンドに入り、パワーウインドウのスイッチを強く押して全開にしながらハンドルを切って一番奥の給油機の右側に停車した。
502 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 10:16:25
車が来たことに気がついた店員が「いらっしゃいませー。」とお決まりの掛け声を上げながら運転席のドアを開けたので吃驚してドアのヒンジを掴んで
引き戻してドアをロックした。いつも思うがガソスタの店員て、全部が全部とは言わんが、わざわざウインドウを全開にしているのにどうして
運転席のドアを開けたがる人が多いのだろうか….謎だ。そういう事を不愉快に感じる人がいることに気がつかないのだろうか?
この店員の兄さんもそこに気が付いたのか
「あ、お客様すみません。」
と謝ったから許すことにした。
「いえ、別に大したことじゃありませんから。レギュラーを…満タンでお願いできますか?」
と満タンに力を込めて言った。
「はい、レギュラー満タンですね。おーいレギュラー満タン!」
「了解、あ、お客様。給油口の方開けていただけませんか?」
「あ、はい。(ゴソゴソ…ギュッ..ガチャッ!)どうぞ。あ、あとこれから高速に乗るので空気圧をチェックして頂けませんか?」
「はい、畏まりました。他にはございませんか?」
「他には特に…」
「窓の方は如何しましょうか?」
「あ、お願いします。」
「わかりました。少々お待ち下さい。」
503 :
名無し物書き@推敲中?:2010/05/26(水) 13:20:05
504 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 16:23:34
店員が去った後、パワーウインドウのスイッチを強く引き上げて窓を閉じる。後は店員がワイパーを上げて、スプレーを吹きながら窓を布巾で拭く様や、かがみ込んでタイヤをチェックする様子を眺めつつ、
給油機に表示されるガソリン量と値段がどこまで上がるのか睨む。
窓拭きも空気圧のチェックも終わって少ししてから、ガタッという音と共にメーターの上昇が終わり、店員が給油口からノズルを外して栓をして、蓋を元通り閉めたことを確認してから窓を全開にした。
店員が給油機のメーターを確認してからこちらにやって来た。
「えーっと、空気圧の方他は大丈夫でしたが左後輪のタイヤがヘタってたようなので入れておきました。あとレギュラー60Lでお代8,400円頂きますが、お支払いの方どうしましょうか?」
「ありがとう。それじゃ、えーと、キャッじゃないカードでお願いします。」
手持ちの現金で払おうかと思ったが、カードのほうがいいだろうと思い。必要があれば自由に使えと持たされた祖父が後見人となっている自分名義の某社のシルバーカードを出そうとすると、
お姉様が急に財布を出しながらこう言った。
「それなら、わたしが払ってあげるわ。」
だが、こちらも今燃料代を払ってもらう義理など無いので
「いえ、お姉様いいですよ。ウチで払いますから。どうせ僕が使うから構わないです。」
とお断りし、自分のカードを店員に渡した。というか今財布から会社こそわからなかったが
真っ黒なブラックカードが顔を出しているのが見えてマジでビビったんだがww。しかも3枚!
ま、家の規模を考慮したら持っていてもおかしく無いんだけど…。一枚で十分だろ、それ?
なんで違う会社の奴を一枚ずつ持ってるんだよ?コレクターじゃあるまいし…まあ家の親とかも
違うカード会社のゴールドカードを何枚か持っているが、それは限度額というのがあるからであって、
限度額が存在しないカードを複数枚持つって凄く意味が無いと思うのは僕だけだろうか…。
505 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 16:26:30
そんな事を考えていると、奥のレジから店員が戻ってきた。
「カードの方から額面分引かせて頂きます。こちらの領収書にサインを頂けますか?」
「はい。(カキコキ….)どうぞ。」
「はい、ありがとうございます。あと〇〇カード(ポイントカード)をお持ちですか?」
「いいえ、持ってないです。」
「ならお造りしましょうか?」
「結構です。」
「わかりました。すみませんがもう少しお待ちください。」
数分後…
「お待たせしました。こちらお客様のカードと、こちら今回の領収書になります。お確かめ下さい。」
「どうもありがとう。」
「こちらこそご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています。」
サイドブレーキを外してDレンジに入れた後左ウインカーを焚きながらステアリングを右に切って道路の方へ車を向け、右の方向を見ながら後ろ手で制止している
店員のそばで停車する。丁度車の流れが停滞し、道路に出て腕を右から左の方へ振りながら案内する店員に従って道路に出て左折し、「ありがとうございましたー!」と
帽子を脱いでお辞儀する店員に見送られるようにしてスタンドを出た。道路に出てしばらくしてからさっきのスタンドで待っている間にトイレに行っときゃ良かったと思ったが、
もう遅い。我慢することにした。したくなったら途中のS.AかP.Aか道の駅でトイレ休憩をとればいい。あれば、の話だが…。そんな漠然とした考えを持ちながらバイパスに入るために
右車線へ車線変更した。
506 :
名無し物書き@推敲中?:2010/05/26(水) 16:27:33
なに、これ?
507 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 16:29:33
バイパスに入ってからアクセルを踏み込んで110km/h位まで加速して追い越し車線を他の車をどんどん追い越しながら走っていく。
高速のICに着いて中央高速に入ってからも、下りと違い行楽地へ行く車が少ないためか思いのほか空いていたので、ここで時間を稼ぐために本線に合流してからさらに加速して
180km/hオーバーで飛ばした。
「やっぱり高速は楽しいな♪特に今日は首都高も空いているみたいだし思ったより早く付けるかも。」
「薫!飛ばしすぎよ。スピードを落としなさい!」
「えーっ!大丈夫ですよお姉様。いつもこのくらいで走ってますし。あと運転中は用がないならあまり話しかけないで頂けませんか。気が散ります…おっと危ね!
チンたらしながら追い越し車線に出てくんなって!バカファード!」
「あまりそういう言葉遣いはするものじゃないわ。はしたないわよ。」
「すみません、つい。気をつけます。」
都心に近付くにつれ、車やバス・トラックが増えて来た。150km/hまでスピードを落とし、これから打ち合わせに向かうために飛ばすADバンのように左に右に車線変更を繰り返し
トラックやタクシーの隙間をすり抜けて行く。そしてすり抜けられなさそうなら強めにブレーキを踏んで減速し、前の車との車間を思い切り詰めて煽り、前車が左車線へ車線変更するや否や
アクセルをキックバックさせ、一気に追い越して行く。そしてそれを繰り返す。
4号線西新宿JCTで3号線へ出るために本線と分流し、さらに内回り方向へ入りC2と合流し山の手トンネルへと入る。地下に潜る直前に一瞬だけハイビームにしてしてすぐにレバーを引き戻す。
そしてロービームにしたままフォグランプも一緒につける、ヘッドライトのHDDバルブ特有の真っ白な光と、バンパーのエアロの口の両脇に埋められた二つのフォグランプの青い光が混ざり合って
前方を青白く照らすが、トンネルの照明も白い蛍光灯なので正直フォグランプの青い光しかわからないが。
本線に合流するため、左ウインカーを明滅させながら車を寄せて行き、追い越し車線からの合流ってやりたくないんだよなあ、と思いながらいつも以上に注意して左後方を視認して、スピードをうまく合わせて、
並んで走っていたアコードと10tの日野のトラックの車間に入って合流する。合流するためにアコードの右後方に並んだ時、10tの運転手がパッシングを一発つけて「入れ」と合図してくれたので、無事に合流した後に
「ありがとう」とサンキューハザードを焚いてお礼をいい、そのまま左ウインカーを点滅させながら左車線へ車線変更しそのままアコードを追い越した。
そのまま追い越し車線を走行車線を走る車をどんどん追い越しながら順調に走っていると左車線だけが凄く混んで渋滞している光景が前方に見えてきたので、事故や自然渋滞ではなくすぐ先の大橋JCTから3号線へ出る車が
JCTから列を作っているのだろうと見当を付けて左ウインカーを着けて車線変更し、ハザードを点滅させて渋滞の最後尾に着いた。その後すぐに同じようにして後ろに二台続けて並んだのでハザードを切って顔を正面に向けたとき
左ウインカーを出しながら右車線を突っ走っていく一台の黒いフーガが見えた。
渋滞に巻き込まれて数分後、今まで普通に流れていた追い越し車線が急に混み始め、いつの間にか流れが完全に止まってしまった。
「あー、さっきのフーガさん、やっちゃいましたねwww。こりゃ当分動きませんわ。」
「?何がどうしたの?」
「いえ、こっちの話です。」
JCTの入り口を示す看板が目に入ってきた時、右車線の渋滞の列の中にこちらに入って3号線に入ろうとしているらしい車が何台か目に入った。
そのうちの一台のプリウスの後方に来たので、Nに入れてサイドブレーキを踏み、完全に停車をし、窓を開けて右腕を出し、クラクションを一発鳴らしながらプリウスに向かって振り「前に入れ」とジェスチャーをし、
前を走っている車との距離が十分開いて、プリウスがその間にうまく入ったのを確認してから。またノロノロと走り始めた。
30分近く経ってからやっと高架の上にたどり着いた。最悪な事に混んでいたのは東名方面にでる車の列だけで、C1方面は混んでないどころかガラガラだった。しかも3号線の下り本線が超渋滞を引き起こしているらしく、
本線を目の前にしながら一向に合流出来る気がしない。しかも大橋名物のループ構造を楽しむどころか急坂+急カーブに渋滞のコンボで足元とステアリングの操作に集中しなければならなかったので正直この時点で相当疲れた。
同乗者は退屈だろうが、今はただ、完全に止まってしまっている状態がかなり嬉しかった。当分動きそうに無いから5分くらいなら仮眠出来るかもしれない。いや、眠らなくてもリスライニングを少し倒してボーッとするだけでもだいぶ違うはずだ。
そう思って、頭をレストに着けてリスライニングのレバーをひねって座面を少し倒すと、
「わぁっ!」
と驚く声が聞こえてきた。
「あ、先輩すみません。」
慌てて座面を少しだけ戻し、軽く伸びをして、首をコリコリと鳴らしながら回し、片手を回して反対側の肩を揉み、
リクライニングを元に戻して、シートに体を預けて溜息をついた。
510 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 18:53:18
やっと本線に合流し、停車しながら少しずつ進んで行くとハイウェイラジオの標識が見えてきたので、
「すみません、ラジオに変えますね。」
と断ってからオーディオについている標識のマークと同じ物が着いたボタンを押した瞬間、今までスピーカーから流れていたアニソンが消え、
オーディオの表示が外部入力からAM1620に切り替わった途端。
「..方面に走行中の方にお伝えします。ただ今、東名高速、及び首都高3号線はスムーズに流れています。現時点での渋滞、事故等の報告は入っておりません。
下り方向、都心から名古屋方面に走行中の方にお伝えします。ただ今用賀料金所手前11kmポスト付近で3台が絡む玉突き事故が発生しています。この事故処理のための
左車線の車線規制の影響により、現在該当地点から約7kmの渋滞が発生しています。走行の際は十分にご注意ください。以上…」
また同じボタンを押してラジオを切ると、また思い出したかのようにアニソンが流れ出した。悪態をつきたかったが車内に自分以外にも人がいるので自重する。
代わりに大きなため息を着き右ウインカーを点滅させてステアリングを右に切ってできるだけ追越車線側に寄せて、渋滞の車列に合わせて後ろに注意しながら、
擦り寄るように車と車の間に割って入っていく。
511 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 18:55:41
右車線に入って30分近く経ってからようやく車列が進み始めたと思ったら車線規制のパイロンと標識を掲げたランクルの道路パトロールカーが見えてきた。どうやらここが事故現場らしい。
パイロンに沿って進む内にだんだんと交通整理をする職員や覆面パトカー、レスキュー隊の消防車、救急車、左前部が潰れた事故車のトラック、その運転手らしき人と警官、前部が潰れた事故車と
それにぶつけられたまま止まっている事故車と争っている二人となだめる警官、レッカー車、白黒パトカーと続き大分行ったところにまた道路パトロールカーと車線規制が終わったことを示す係員がいて
パイロンの列が無くなり車が左右にバラけたところで渋滞も収束した。
用賀TBから東京TBに入った時には予定していた時間より一時間近く遅れていた。思ったよりやばいなと思いながらETCレーンを通過し、少しでも遅れを取り戻すために急加速する。主に頭上にあるカメラと
覆面に気を配りながらひたすら突っ走ていると、速度メーターの針が振り切っている事に気がついた。リミッターは外してあるから確実に180km/hは超えている。周りの車が止まって見えるスピードを出しながら
左に右に車をすれすれで躱し、場合いによっては後数センチで突っ込む位までハザードを焚きながら接近して右ウインカーと度重なるパッシングで煽り、事によってはそのままフロントバンパーと相手のリアバンパーを
接触させてアクセルを全開にして前の車を押しながら加速して無理やり進路を譲らせる。手段は選んでいないことは承知しているし、あまり余裕もないし、こういう運転の所為で車内に剣呑とした嫌な沈黙が立ち込めている事も
合点しているが、新幹線組を待たせるわけにもいかない。いや、新幹線に敵う訳など無いことは十分承知しているんだけど….。
なるべく遠くを見るようにしながら遠く近く、ミラーに後方目視と縦横無尽に視線を絶えず巡らせながら同時にタイヤやエンジンから車の挙動を感知し、自車と周りの車の挙動を瞬時に予測して的確な操作をするという
一瞬でも気が抜けない状態なのにさらに最悪な事態が襲いかかっていた。やばい、さっきから尿意が….トイレ行きたくなってきた。ハンドルを握りながら必死で道中にあって一番近いSAやPAを考える。たしか東名で
一番最初に通過するSAは…海老名か。
512 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 18:57:24
海老名サービスエリアの入り口まで数百メートルの予告を示す標識が見えたあたりで減速し始めてそのまま、減速帯に入ってブレーキを踏みながら坂を駆け上がりハンドルを左に切って、
矢印に従って乗用車用の駐車区域のS.Aに設けられた歩道に沿って徐行し、SAの建物の近くに偶然空いていた駐車スペースにバックで入り、ステアリングを真直ぐに戻して、Pレンジにいれて、
サイドブレーキを掛けてエンジンキーを抜きシートベルトを外すと、
「すみません、お手洗い行ってきます!」
と言って車から降りて、車道を渡る前に左右の確認をして、カローラを一台やり過ごした後一気に歩道まで渡ってトイレまでダッシュする。が、女子トイレには行列が出来ていた。
一方男子トイレは混んでこそいるが行列までは出来ていない。恐らく個室の方は開いている。こんな格好で男子トイレに入るのは遠慮したい。だがよく考えれば表向きは
女として生活しなければならないが性別では男なんだから関係ないな。第一漏らしたらそれこそ洒落にならん。それによく見たら関西から来たらしいオバチャンたちが何人か
「今、わたしは女やのうて男やからええねん、ええねん。」(ええんかな?)
と強引に凸してるから大丈夫だろう。
513 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 18:59:19
えいや、とばかりに男子トイレに駆け込もうとすると、丁度出てきたおっさんに
「姉ちゃん、ここは女子トイレやのうて男子トイレや。女子トイレはあっちやで!」
「そやけど、おばちゃんやって入ってますやん。トイレ借りるだけやから別に構へんでしょ?少しくらい….」
「オバちゃんは別に構わんけど、あんたみたいな若い姉ちゃんにしょんべんしとるとこ見られんのはなあ…流石におっちゃんでも恥ずかしいわwww。」
とおっちゃんが言うと、行列に並んでいたオバサングループの中の一人が
「そうやで、お嬢ちゃん。わたしらオバちゃんは半分男になっとるから別にかまへんけど、若い娘が入るようなとこちゃうで、こっちおいで。」
と加勢して、なんかよくわからないうちに女子トイレの並ばされてしまった。
514 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 19:00:26
S.Aでラッシュ時によく見るような長蛇の列じゃないがそこそこ混み合っている。ガマンできるだろうがトイレを目の前にして尿意を我慢するのは少しキツイ。
せめてもとまぎらわせるためにオバチャンたちの一行に話しかけた。
「皆さんは関西の方から来られはったんですか?」
「ええ、わたしが大阪で此の人が神戸で…佐藤さん、あんた今どこに住んどったかいな?」
「ウチは京都ですけど…。」
「あ、わたしも京都なんですよ。京都のどの辺りに住んではるんですか?」
「家は祇園ですねん。お嬢さんはどちらに?」
「わたしは西陣です。と言うても紫野のそばですけど。で、皆さんこちらの方へは何で来られはったんですか?」
「ウチらバスツアーでな、東京見物に来ましてん。今その帰りなんやけどな。」
「そうなんですか。こちらは楽しかったですか?」
「ええ、お陰さまで楽しませてもらいましたわ。お嬢さんはどうなん?」
「わたしはこれから学校の友達数人と一緒に熱海の方へ遊びに行くんです。」
「あれ?家は京都やったんやないの?」
「実家は京都ですけど東京の方の全寮制の女子高に進学したんで、わたしだけ家を出て寮の方で一人暮らししとるんですよ。」
「そうなん、大変やねえ。ところで東京の学校ってどこの学校に通ってるん?」
「東京は東京でも武蔵野の方なんですけど…聖リリカル女学院っていう学校なんですけどね…。」
「知らんわあ。あんた知ってる?」
「わたしも聞いた事ないわ。」(´・ω・`)
「初めて聞いたけど、まだそういう学校があるんやねえ。」
515 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 21:34:21
「けど大変やねえ。いくら規則で決もうた寮生活でも中学生で一人暮らしやなんて、本人も大変やし親御はんも心配なさるでしょ。」
「(高校1年生なんやけどな…まあ同じようなもんか)ええでも、個人的に色々と面倒を見てくれはる上級生がいてはりますさかい、
そこまで不安になる事はありまへん。」
「そらよかったなあ。どんな人なん?」
「才色兼備で何でもできるのに、それを鼻にかけるわけでもなく、弱者への優しさや己の信念を貫き通す力も持ち、人望もある、一番尊敬する大切な憧れのお姉様なんです。」
「そうかそうか。若い内にそういう人に巡りあえてよかったなあ。そう人との絆は一生の宝ものやさかい大切にせんとあかんで。」
「はい!」
「あ、トイレ開いたな。ほな、お先に。」
2分後…
「お先でした。ほな、わたしらはここで。旅行、気をつけて楽しんできなさいな。」
「おおきに、皆さんもお気をつけて。さよなら。」
さ、さっさと出すもん出して車に戻ろうと個室に入ろうとした。が、突然右手で後ろから右の肩を強くつかまれた感覚がした。
振り返ると、そこには明らかに怒っているとわかる麗子お姉様がいた。
「あ、お姉様。お姉様もお手洗いですか?」
「ええ、それもあるけど。薫、あなたに話があるの。終わったらわたしが出てくるまでそこで待っていなさい。」
「は、はぁ。じゃない、はい。わかりました。」\(^o^)/
516 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 21:39:38
その後…頭頂部に拳骨を一発食らったのを皮切りに、何故あんな危険運転をしたのか、事故を起こして大惨事になったらどうするつもりだったのか、
やたら車の運転をしたがっていたからおかしいとは思ったがこういう事だったのか、裏切られた気分だ、わたしを失望させるなetcという感じのかなり壮絶な
お説教をされ、説教の間ごとに半ば泣きながら「ごめんなさい、反省しています。」と謝り続ける羽目になった。(←悪い事をしたという自覚と謝意はあるが特に反省はしていない)
不幸中の幸いだったのは条件付きとはいえ、車を取り上げられなかった事だった。車の運転という楽しみを禁止されたら正直生きていけないもん。でも何故だろう、と不思議に思う。
「まあ、今日のところはあなたのわたしに対する気持ちに免じて大目に見ましょう。でも次に同じようなことをやったら….。」
「わかっています。肝に命じておきます。」
「じゃあ、車に戻りましょう。綾乃とかなめがわたしたちが戻るのをずっと待っているわ。」
「え、ずっとですか?」
「ええ、あなたったらすぐにお手洗いに行ってしまったものだから。鍵がかかってない車を無人にしておく訳にもいかないでしょう。」
「確かに…それは失礼しました。でもその前に…」
そばにあった自販機に近づきジャケットのポケットから財布を取り出して投入口に100円玉を投入し冷たい缶コーヒーのブラックを買って取り出し。
「お姉様もどうですか?」
「わたしは他のものにするわ。あと二人の分も買って持ってきてあげましょう。」
と言って、お姉様はペットボトルの清涼飲料を3本購入した。
「お姉様、先に行っておいてくれませんか。これ飲み終わったらすぐに行きますから。」
「ええ、でもなるべく早くね。」
「わかりました。」
517 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 21:42:22
缶コーヒーを殆ど一気に飲み干し、近くの水道で口の周りを漱いでから車に戻ると、隣の車にぶつからないくらいに運転席以外の3枚のドアが少しだけ開けられた愛車の姿が目に入った。
車内にはお姉様と、後席でなんかぐったりとしている二人組がいた。
理由がわからず不審に思いつつドアを開けて乗り込もうと、ドアの隙間に手を入れると、
「あちっ、」
と不覚にも叫んで思わず手を引っ込めた。車内はまるでサウナのように熱くなっていた。しかも内装が黒い上に黒いカラーフィルムを掛けているので普通の車よりも酷い惨状になっていた。
今更だが、エンジンスロットからキーを抜いて出てきたことを思い出す。オートエアコンはエンジンキーがスロットに入っていて且つONの位置にないと作動しない。
同じ理由でパワーウインドウも動かないので窓を開ける事も不可能。だからドアを開けることで外の空気を取り入れて暑さを誤魔化すしか無かったのだろう。
と、いう推論にやっと到達した途端、とんでもない事をしてしまったという罪悪感のような思いで胸が一杯になった。
「申し訳ありません!すぐエンジン掛けます。」
と叫びスロットにキーを差して思い切り回した。
ぐぉオオオオオオオン….ブーンブーンブーン…とエンジン音とオーディオからの音楽と一緒にエアコンのファンの音が車内に響き始め、それと共に送風口から
冷たい風が勢いよく流れ始め、だんだんと車内の温度を低くしていく。
「二人ともすみません。こういう事になるなんて思い至りませんでした。」(;´Д`)
「ええ、これ(さっき買った飲み物)がなければ喉の渇きで死にそうになっていたわ。」
「はぁ…生き返ります。」
「重ね重ね面目ない。」
「私たちもお手洗いに行ってきていいかな?」
「どうぞ、どうぞ。お待ちしています。」
518 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 21:46:26
綾乃先輩とかなめが出ていってから、後ろに上体を曲げながら助手席の裏側に手を伸ばし、シートの背面に付いているポケットに突っ込んでいたロードマップを取り出し、
これから通る予定のルートをオーディオの下からニョキッと出ている収納式のカーナビのモニター上の地図と照らし合わせて確認し、元のように助手席の裏側に地図を突っ込むと、
リクライニングを倒し、二人が戻ってくるまでの少しの間軽く仮眠を取った。
リクライニングを戻し、ドラポジの調整をして気合を入れながら、ふとした拍子に入ってきた後ろと助手席の間で交わされる会話を聞く。どうやら綾乃先輩とかなめは手洗いへ行くついでに、
売店で二人でソフトクリームを買って食べたらしい。そういう事をかなめが嬉しそうにお姉様に話していた。ただそれが彼女の姉と二人で食べ合いっこして嬉しかったからなのか、ただ単に
先程まで苛まれていた灼熱地獄から解放されたことによる反動だったのかは定かではない。できれば前者であってくれ、そう思いながら右足をブレーキペダルに掛け、ギアをドライブに入れてサイドブレーキを解除する。
「皆さん、そろそろ出発しますね。」
「薫、今度は安全運転でね。」
「….善処します。」
SAに設けられた左側にある歩道に沿って進み、出口を示す矢印に従って本線への合流車線へ入り、後方に見える本線を走る車を見てタイミングをつかみながらキックバックさせて加速し本線に合流した。
今度はスピードを出しすぎないように160km/h位で抑えて走るように気を付ける。
厚木ICで一旦高速を降りてそのまま小田原厚木道路に入りTBを二つ越えて小田原西ICから西湘バイパスを大磯・藤沢・圏央道方面へ入りさらに早川JCTから石橋ICに出た後、
そのままR153の一般バイパス道を抜けて真鶴道路を走る。ここまで来ると左側にチラチラと海が見え始めた。
吉浜橋交差点から一度一般道のR153に降り、少し走ってから熱海海岸自動車道にへ入る。料金所を抜けてすぐに左から前方にかけて広大なオーシャンビューが広がった。
すごく天気がよく、太陽の光が水面に反射してキラキラ輝いていることも相まって、思わず
「うわぁ、すごーい!」
と感嘆して息を飲んでしまった。
R153号を降りたところで、一旦車をハザードを焚いて停車させ、凛様の携帯に電話を掛け、もうすぐ到着することと落ち合う場所を確認した。電話をしまい、また車を発進させた。
8-8へ続きます
8-8
>>薫
凛様達と合流する予定のホテルは、砂浜から程近いところにある、とても豪華な作りの一目で高級な方に入るホテルだとわかる
大変おおきなホテルだった。ホテル業界の事は疎いのでさっぱりわからんが、この辺り一帯でも一番大きいとまで言わなくても
少なくとも三本の指には入るだろうと素人でも容易に想像できた。なにせ国道に面したホテルの正面のロータリーへ続く副道の入り口に
守衛小屋が設けられており、警備員が一々入ってくる人や車を厳重にチェックしているのだ。外国の高級ホテルでならよく見かける光景だが
ここは日本である。普通はそこそこのクラスの高級ホテルでもそこまではやらないし、23区内ならいざ知らずここは一介の地方都市である。
一泊いくら取られるのか知らないがムチャクチャ高いに違いない。政財界の重鎮が保養で使う事が多いと言うのも頷けるが、正直言って
他人の財布の金じゃなかったら泊まろうとは思わん。そう意味では凛様からいい機会を与えられたのかも知れない。
副道に右折して入って、左側にある守衛小屋のに取り付けてあるバーの手前に停車し、トランクのアンロックスイッチを引いてトランクの蓋を軽く跳ね上げる。
「窓を開けるので手に気をつけてください。」
と言って、運転席のスイッチを強く一回、他の三つを長押しして前の窓を全開、後ろの窓はガラスがホイールフェンダーに当たるまで開け、車内がよく見えるようにする。
やって来た警備員に、知り合いが宿を取っていて自分達も宿泊する旨を伝えて車内にもトランクにも武器になるような危険物が無いことを確認させて、
トランクと窓を閉め、警備員がバーを開けたゲートを潜ってホテルの敷地に入った。
521 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 23:37:14
ホテルの正面口のロータリーのようになっているところに入ると、正面口にある自動ドアの正面に後部座席が来るようにうまく車を横付し、
ドアとトランクのロックを外す。
ホテルのホール・ボーイが後部座席と助手席のドアを開け、何人かのポーターがラゲッジルームから荷物を取り出し、受付まで運び始める。
駐車場に車を回して来るので先に言っていて欲しいという事を伝えるとお姉様が、
「だったらこれ(リュックサック)も一緒に持って行って貰うように頼んでおくわね。」
「いいですよ、お姉様。そのくらいの荷物なら自分で持って行きますから。」
「ダメよ、薫。例え大したことが無いと思うような荷物でも客であるあなたが自分で持って行くことはあまり良くは思われないわ。
それにこの人達はその為にいるのだから木を使う必要なんて無いのよ。」
「…そうですね。じゃあ、ついでにお願いします。」
とお姉様経由でそばに控えていたポーターにリュックサックを渡す。
「畏まりました。」
「あ、そうだ。ここの宿泊客用駐車場ってどこにあるんですか?」
「ここを真っ直ぐ行った突き当たりの…今お客様のお車が入っていった所を左折して地下に潜ったところにございます。」
「ここの駐車料金とか駐車した後はどうすればいいんですか?」
「えーと、申し訳ありませんが後というのはどういう意味でしょうか?」
「だから、フロントにナンバーを伝えてキーを預けるのか、駐車場で整理券を貰うのかとかそういうのです。」
「それなら駐車場の方に係の者が居りますので、その者がご説明いたしますのでそちらの方にお聞き下さい。」
「わかりました。ありがとう。じゃあ、お姉様。また後で。」
522 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 23:41:44
教えられた通りロータリーの角を曲がって「↓お客様専用駐車場↓」と天井にプレートが掲げられたスロープを降りて行くと、係らしいおっさんがいる目の前に二分割された、
ガラスで向こうが見えるタイプの扉が左右にスライドして開くタイプの大きな荷物用エレベーターのような機械が鎮座する、Uターンくらいなら出来そうな、こぢんまりとしたスペースに辿り着いた。
車が駐車場の機械の扉の前の、円形のでかいマンホールのような鉄の板の上まで来ると係員が静止するように指示したのでその場で停車して待つ。係員が機械の操作盤のところまで行き
なにやら操作すると、突然真っ暗だったガラスの向こう側の空間に突然蛍光灯の明かりが付いたかと思うと、今度は機械が唸り声を上げて動き出し、右から左へとどんどんゴンドラに乗った自動車が
流れて行った。この手の駐車場ではいつもそうだが、タカが車が流れていくだけなのにここまでわくわくするのは何故だろうか。特に出庫するときに今止まっているターンテーブルが回転して
車が向きを変える瞬間は最高だと個人的には思う。装置の規模がでか過ぎて滅多にお目にかかれないという稀少性だってこの駐車場の魅力の一つだと思う。
しばらくガタゴト動いていた機械が急に止まり、扉が開いてレールをスライドするタイプの空のゴンドラが出現し、係員の合図でゆっくりと前進しながらゴンドラの上に車を載せて、
停車措置をしてエンジンを切り、車から降りてゴンドラから出る。後ろを振り返ると駐車場の機械の扉が閉まり、自分の車が他の車と同じようにゴンドラに載せられてガタンゴトンと
左の方へ流れていくのが見えた。
駐車場から出るときに係のおっさんから整理番号の書かれた駐車券を貰った。どうやら宿泊客はこれをフロントに持って行って手続きを行えば無料で停めることが出来るらしい。
出庫するときはこのおっさんに整理券を渡せばいいらしい。
523 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/26(水) 23:43:29
車が出入するところとは別に設けられた人用の出入口からホテルの中に入り、エレベーターで1階のラウンジへ出てフロントに向かい、フロントの人に話しかける。
「あのー、すみません。」
「はい、なんでしょうか?」
「今夜から宿泊する予定の者なんですが、同行者が先にそちらにチェックインしているですけど….これ(整理券)お願いできますか?」
「畏まりました。お連れのお客様のお名前と部屋番号はご存知でしょうか?」
「『聖リリカル女学院学生会』で3001号室です。」
凛様から聞いた予約者名と部屋番号をフロントマンに伝えると、彼は一瞬眉をひそめると、
「失礼ですがお客様のお名前とお泊りになられているお連れの方の人数をご確認させて頂いても宜しいですか?」
「綾小路 薫です。それとわたしを含めて8名です。」
「…はい、ご確認しました。それでは整理券の方お預かりさせて頂きます。」
「お願いします。」
フロントマンは整理券にスタンプを押し、パソコンの画面に何かを打ち込み、そばにいたボーイを手招きで呼び、耳元に何かコソコソとささやくと
「それでは、整理券をお返しします。お車でお出かけの際はこの紙を駐車場の係員に渡して、お帰りの際は駐車場の係りの者から新しい整理券を受け取って
またこちらの方まで御面倒ですがお越し下さい。」
「わかりました。」
「では、そこの係の者にお部屋までご案内させます。ごゆっくり御寛ぎ下さい。」
「どうもありがとう。」
部屋番号と建物の高さから容易に想像は付いていたが、ホテルのボーイに案内された先にあったのは最上階のスイートルームの一室だった。
部屋のドアの前まで来ると、もう迷いようが無い上に荷物がある訳でもないので、
「どうもありがとう。もう大丈夫だからここまでで結構です。これ、ほんの心配りですけど…」
とチップとして1,000円札を渡す。
「ありがとうございます。それでは私はこれで失礼させて頂きます。何かございましたら内線でフロントの方までご連絡下さい。
内線番号や外線のオペレートに関することは電話横の冊子に書いてございますのでご確認下さい。それでは御ゆっくり御寛ぎ下さい。」
と言ってボーイは行ってしまった。
一人になった後、少し深呼吸してドアをノックする。ドアの向こうから声が聞こえる。
「はぁーい。」
「薫です。あけ..うぉあ!」
いきなりドアが向こう側に開いたかと思った途端凛様の顔が目の前に飛び出してきたので吃驚して腰が抜けそうになった。
「もう、薫ちゃん遅いよー。ずっと待ってたんだから。さあ、全員集まった処で早速海に出かけよう!」
「凛様、ちょっと待って。少し休ませて下さい。というか出掛ける以前に全然準備できてないから出かけられないです。」
「しょうがないなあ。もう。」
部屋の中に入ると入ってすぐに広いリビングルームがあり、右側の奥まったところに廊下があり、そこに沿ってリビングの奥正面とその隣とさらに隣に部屋があり
廊下に沿った部屋と廊下を挟んで真向かいにキッチン・トイレ・バスとその奥に部屋がひとつあるという、リビングとトイレ・バスルーム以外に都合4つの寝室が
付属しているような感じの部屋であるが、正直凄すぎてよく解らん。リビングルームには壁掛けテレビの前のテーブルを中心に何脚かのソファーや椅子が点在し、
みんなそれに座ってテレビを見たり雑談したり本を読んでいたりしている。部屋の隅の一角に持ってきた荷物が集合していた。
そうした内の一つ、テレビのそばに置いてあった一人がけのソファーに腰を下ろし、目を閉じる。
「…zzz…。」
「おいこらっ!来た途端に寝るなー!」
「うぅ…少しくらい休ませてくださいよ…。2時間以上運転した後って結構肩とか腰にきて、かなり疲れるんですよ。5分でいいですから寝させて下さい。」
「ダーメ!さっさと準備する。」
「わかりました。でも先にお昼ご飯にしませんか?もう一時まわっていますし、凛様もお昼はまだお摂りになってらっしゃらないでしょう?」
「そんなの海へ行ってから海の家で食べればいいでしょ。ほら、さっさと着替える。まだ準備できてないの薫ちゃん達だけなんだから。」
「そりゃ今来たばかりですも…わ、わかりましたから…ちょ、凛様止め…脱がさないで下さい!」
8-9
>>薫
水着に着終わって日焼け止めを塗り終えてから、リュックからパーカーやサンダルと一緒に完全防水仕様のビニール製の薄い財布と携帯の防水カバーを取り出し、財布の中身の幾らかと携帯をそこに入れてきちんと密封する。
その後財布と携帯をビキニの上から履いた半ズボン型のカーキ色の男物水着のポケットに突っ込み、グレーのパーカーを羽織って黒い男物のビーチサンダルを履いて普段している男物の腕時計を手首に填めて、タオルと
ゴムボートが入ったケースを持って皆と一緒に部屋を出た。
ホテルを出て徒歩10分も有るか無いか位近くにある海水浴客で一杯になっている海岸の砂浜に着くと、人の群れも疎らになっている所を見つけ、バカでかいレジャーシートを広げて荷物で重しをし、近くの海の家で借りてきた
ビーチパラソルをシートのそばの砂浜に立てた。
海の家で昼食を摂った後、一段落したところで持ってきた浮き輪やビーチボールに空気を吹き込み、ゴムボートを取り出し、持ってきていていた足踏み式の手動の空気ポンプを踏みまくって空気を入れて膨らませる。
他の皆が各自それぞれ浮き輪やエアマットに乗って優雅に浮いていたり波打ち際でビーチボールに興じていたりして遊んでる最中、ただ一向空気を入れまくるという作業を続け、なんとかゴムボートがそれらしく
パンパンに膨れ上がった頃には先程の疲労も相まってかなりしんどくなっている。なんとかゴムボートに栓をして空気が逃げないようにしてからゴムボートをレジャーシートから砂浜の上に追いやって、レジャーシートの上に
大の字に横になった。仰向けになりながら澄み切った青空を(気持ちイイなあ)と思ってみているうちに眠気が襲ってきたので、体を左に向けるように寝返りを打って目を閉じた。
527 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/27(木) 00:24:33
どの位眠ったのかわからないが、頭が何かに載っけられている感覚と髪(4月からずっと伸ばしっ放しにしてたら結構伸びたのでもうウィッグはしていない、つまり地毛)を
撫でられている感触がしたので目を覚ますと、いきなり目の前に下から眺めた、藍色のビキニのブラに包まれた大きな乳房が飛び込んできた。
「???????!!」(゚Д゚)ハァ?(つд⊂)ゴシゴシ(゚д゚)!
今現在自分が置かれている状況が飲み込めずに目をパチクリと何度も瞬きさせていると、頭上からお姉様の顔がこちらを覗いているのが見えた。」
「あら、やっと起きたのね。お寝坊さん。」
と言われてやっと自分が膝枕されていることに気が付いた。
寝返りを打つように体を右方向へ垂直に傾け、そのままうつ伏せになるように太股の上からレジャーシートの上に転がり落ちると、
「うぅーん!」
と伸びをして起き上がり、腕時計を見ると15時を大分回っていた。彼是一時間近く眠っていたようである。
起き上がってはみたものの、さてこれからどうしようかと当たりを見回すと、
「ねえ、折角持ってきたんだからこれ使わない?」
「そうですわね。」
「いいと思います。」
と吉野と聖華と鳴滝が話しているのを聞いた。ゴムボートを使おうという話になったようである。
528 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/27(木) 00:27:40
そういう風な事を聞きながらボーッとしていると、吉野がやって来て
「と、いう事でひとつよろしく!」
と言って僕の両肩を両手でバンバンと叩いて漕ぎ手になれと陰に促した。
えーっ、面倒臭いと思ったが、立場上断りづらいし、お姉様が
「行ってきなさい。」
と促したので、あまり乗り気がしなかったがゴムボートにオールを積んで、海面まで砂浜の上を引き摺って適当な深さに来たところで乗り込む。
僕と聖華と吉野と鳴滝の4人でゴムボートに乗りこみ僕と吉野の二人でオールを持って沖の方へ漕いで行った。成るべく力とタイミングが合わず、中々進まなかったのでお互いに相手に文句を言いまくってはいたが、
海岸からある程度距離がある遠浅なところに来たので漕ぐのを止めて、ボートが波に揺られるに任せた。
膝の上にオールをのせて、とりとめのない雑談を聞きながらぼんやりしていると、ふとした拍子にいつの間にかかなり沖の方へ流されていることに気が付いた。ああ、離岸流にでも乗ってしまったんだな。
と特に危機感も感じずにボーッとしていると他の3名も気が付いたのか騒ぎ始めた。
「ねえ、わたくしの気のせいかわかりませんけど…さっきより海岸から遠ざかっているような気がするような、しないような….。」
「ていうか、流されてる!私たち沖の方に流されてるよ!」
「離岸流に嵌っちゃったようですね….。」
「ど、ど、ど、どうしましょう〜。」
「取り敢えず、戻らないと。」
と吉野が岸に向かって波の流れに逆らって漕ぎ出そうとするので
「止めときなさい。波の勢いに逆らったところで無駄に体力を削るだけです。」
と諌めると、
「んっ….ていうか、なんでさっきからそんなに落ち着いてられるのよ、あんたは?」
「?たかが離岸流に流されているだけでしょ?」
お前こそ何でそんなにパニクっているんだ?
529 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/27(木) 00:28:53
「だったらなおさら大問題、非常事態でしょう!どうすんのよ!」
「取り敢えず落ち着いて。いいですか、そもそも離岸流というのは、沖から岸に打ち寄せてきた波が岸に当たって跳ね返されて、一箇所に集中して岸から沖へ
勢いよく帰っていく波のことです。つまり、離岸流から一歩でも離れてしまえば、沖から岸に向かう波に乗って楽に帰ってこれるということなんですよ。
離岸流で流され続けて海流に巻き込まれたら終りですが、この辺りならまだ、海岸と平行に漕いで行って離岸流から離れれば、ほっといても砂浜の方へ流されていくはずです。」
「でも、もし戻って来られないようなことがあったら。」
「大丈夫。その時はこの携帯で110番か119番に電話して海保に連絡してもらって、捜してもらって保護されればいいんですよ。兎に角今はこの離岸流から離れましょう。」
と言って、不安そうな顔をしている鳴滝に防水カバーをかけた携帯電話を見せた。
結局、遭難なんてしなかった。海岸と並走するように西の方へ漕いでいるといつの間にか沖から岸の方へ戻りつつあることに気付いたので、後は方向転換して岸に向かって漕ぎ続けたら
いつの間にか砂浜に到着していた。
「ね、大丈夫って言ったでしょ?」
と、ボートに括りつけられた紐を持って、波間に浮かぶボートを引きながら波打ち際の近くを歩いているきながらそう言うと、向こうからお姉様方4人がこちらに駆けてくるのが見えた。
「おおーい、皆大丈夫?!」
と凛様が叫んだのを皮切りに、姉たちはそれぞれの妹に抱きついてきた。
530 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/27(木) 00:30:39
お姉様に抱きつかれ、僕は驚いた。いきなり抱きつかれた事にも驚いたが、お姉様が泣いている事の方がもっと驚いた。
お姉様、何で泣いているの?と不思議に思っていると、お姉様は抱きつつ僕の頭を撫でて涙を流しながら
「よかった。無事でホントに良かった。」
「……..?」
「心配したのよ。気が付いたら見えなくなるくらい遠くまであなた達が流されていて…一時はどうしようかと思って…でも無事に帰って来てくれてよかった。ホントによかった。」
と言っていた。どうやら地上の方でも騒ぎになっていたらしい。いらぬ心配をかけて申し訳ないと思ったが、何も言えなかった。
531 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/27(木) 02:06:05
空が紅味を帯びてきたのでもう帰ろう、ということになりボートを片付けるために空気を抜いて畳んでいると、鳴滝が声を掛けてきた。
「あの、薫さん。」
「?鳴滝さん、どうしたの?」
「さっきの…薫さんは、怖くは無かったんですか?」
「別に。そりゃ流されていると気づいたときはちょっと驚いたけど…原因と対策が解ってましたから特に怖いとは思いませんでしたね。」
「わたしは、怖かったです。怖くて、不安で、胸が張り裂けそうでした。このまま遭難して帰れなくなったらどうしよう。お父さんにも
お母さんにもお祖父ちゃんにもお祖母ちゃんにも綾乃お姉様にも、大好きな人達に二度と会えないようなことになったらどうしよう!
そう考えたら怖くて泣きたくて仕方がありませんでした。」
「………………..。」
「だから、戻ってきてお姉様の顔を見れたときとても嬉しくて、でも心配をかけてしまったことが凄く申し訳なくて、やっぱり泣いちゃいました。」
「………………….。」(何が言いたいんだ?)
「なのに薫さんは、どうしてそこまで冷静でいられたんですか?…ううん、それだけじゃないです。麗子様が
あんなに心配されていたとわかるのに、どうして表情一つ変えずに無表情でいられたんですか?何とも思わなかったんですか?」
「….いや、そ、そりゃ心配掛けて申し訳ないとは思いましたけど….」
「大したことではない、と思ったんですか?」
「そんな事ないよ!そんな事ないけど…何と言うか昔から感情が表に出にくいタイプのようで、よく言われるんですよ。」
532 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/27(木) 02:07:57
「ここまで来る時だって、わたし、物凄く怖かったです。」
「ああ、あれは….怖い思いをさせて御免なさい。」
「ええ、でもスピード以上にわたしは、薫さん、あなたの方が怖かった。」
「……………..。」
「普通はあんなスピードで走ったり、危ない運転は怖くてできないしやりません。でもあなたは平気そうだった。いえ、むしろその行為を本当に心から楽しんでいるようにも見えた。
そんなあなたの方が死の恐怖なんかよりずっとわたしには怖いと感じました。」
図星だった。だから余計に反論することなどできなかった。
「実を言うと、始めて会った時から薫さんの事を少し変わった人だなとは感じていたんです。」
「………………….。」
「別に男の人なのにそんな格好をしているから、というわけでは無いです。もちろん、始めて知った時は驚きましたけど….。きちんとやるべき事が出来る人だし、
誠実で優しくて気遣いもできて変なことも殆どしてこない良い人ですけど、服装とかに無頓着で、主体性が感じられなくて、いつも受動的で自分からは行動を起こそうとしない、
斜めというかどこか冷めているところがある….子供っぽくて変わっている人だなって…。男の人には少年の心を持ったまま大人になってしまう人も多いというし、
わたしも受身がちな処があるので、そういう人も居るのかな、と思っていたんです。」
「…………………….。」
「でも今ならはっきり分かります。薫さん、あなたはおかしいです。人として何かとても大切な物を失くしているとしか思えないんです!」
533 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/27(木) 02:10:40
「….そうかも知れない。」
「….え?」
「今のセリフさ、殆ど同じようなニュアンスのことを前にも言われたことがあるんです。母や父や、他にもいろんな親戚や人達から。」
「…………….。」
「こういう性格だから、せめて文武両道で成績が凄く良ければよかったんだろうけど、残念ながらそうはいかなくて、教育の仕方が悪いんじゃないかって
母が責められて。申し訳なくて頭が上がらないんですよ。対人関係もあまりうまくいかなくて、前の学校じゃ知り合いはいても友達って言える奴は殆ど居なくて…
いじめにも遭ったから余計に両親に心配かけちゃって。」
「………………….。」
「自覚はしていた…つもりだったんですけどね。多分遺言だとはいえ、女子高に転入することに親が賛成したのもそういう意図が少なからず在ったからだと思いますから。」
「………………….。」
「…………………。」
「……………。」
「何か、話が変な感じになっちゃいましたね。戻りましょうか。」
「….え、ええ。」
8-9終了、8-10へ続きます。でき次第またうpします。
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:: i へ___ ヽゝ=-'"/ _,,> ヽ
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ヽ、_ __ -_'"--''"ニニニニニニニニヽ ::
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8-10
>>薫
ホテルに戻り、一度順番にシャワーを浴びて水着や体についた砂や塩分を落とし、普段着に着替えて干せそうな所に適当に水着を並べて干してから
しばらくダベっている内に、そろそろ夕食を食べようか、という話になった。
どうするんだろう、ルームサービスでも使うのか?と思って聞いてみると、どうやら併設されているレストランへ食べに行くらしい。
その理由を聞いて凄く納得してしまった。確かに無造作に何枚も女物の水着が欲してある部屋に第三者が来るのは勘弁願いたいし、
今この状態の部屋で夕食を摂る気にはあまりならない。
ならどこへ行くのだろうと皆で後を追ていくと、凛様はホテルのエレベーターに乗りホテルの中にあるレストランやビュッフェが入った階の
番号を押し、そのフロアまで下がると、真っ直ぐにその中の、雰囲気的に高級フランス料理だと思われる、レストランに入っていった。
恐らく先輩はこの店の常連だったのだろう。殆ど顔パスで案内された、8人がけの長テーブルには予約席と書かれた金色のプレートが掛かっていた。
先輩は慣れた手つきで物怖じすること無くウェイターを呼んでディナー用のフルコースを8人分頼み、ウェイターが注文をとって去っていくと凛様はお姉様に向かって、
「ね、このお店中々いいでしょ?このホテルを使ったらいつも使っているお店なんだ。」
「そうね、雰囲気は中々いいわね。」
「味の方も行けるわよ!何せ〇〇(←聞き取れなかった、後でお姉様に詳細を聞いてみたところパリでそこそこ有名な、ミシュランから三星と認定された老舗の高級フランス料理店らしい)
で主席シェフをしていた人をわざわざ引きぬいて料理長にしている位だからね。」
とまるで我が事のように自慢していた。なお断っておくが、尾崎家はこのホテルやレストランをよく利用する常連というだけで、このホテルやレストランの出資・経営に携わっているわけでは決してない。
そうこうしているうちにテーブルにオレンジ色の食前酒が運ばれてきた。食前酒の口上を述べた去った後、凛様が音頭をとり、
「それでは、聖リリカル女学院高等部学生会のこれからの栄転?違うか..成功?発展?…何でもいいや、乾杯!」
「乾杯!!」
と全員で軽くコールし…たまでは良かったが、なぜか僕を除く全員が食前酒が入ったグラスに口をつけ始めた。いや、飲んでいいのか?ジュースのように見えなくもないが腐っても酒だぞ。
皆未成年だろ。でも皆飲んでるから、法律は置いといて郷に従うべきか….いやいや流石にこん中で最年少の15歳である僕まで酒を呑むのはかなり問題無くないか?でも、他の皆が、
何故飲まないんだって顔でこっちをチラ見してるしな…ええいままよ。と、観念して僕もグラスに口をつけた。
グラスの中に柑橘類とアルコールの混じった匂いと酒特有の苦味が広がる。飲めない程不味くはないが到底うまいとも思えないのは
僕がまだ子供だからだろうか。正直言って大人が美味い旨いという程美味しくはないと思った。ただ良い香りが口の中に広がるということは
よくわかったので、もう少し大人になれれば普通に美味しいと感じられることが出来るようになるんだろうか。
と、思ったがその後出てきた赤ワインを少し飲んで前言を翻した。不味い、というか何をどう頑張ればこの、全く甘味が感じられない
酸っぱくて苦いだけのグレープジュースのような飲み物を美味しいと感じることが出来るのだろうか?物凄くいい奴ですらこんな感じだから
一本数千円の粗悪な安物なんかどんな感じなんだろうか?どう考えても前にお茶と間違えて飲んでしまったブランデーの方が度数が高い分
香りも強くて美味しい気がする。こういう付き合いの場でなければ飲みたくはないな….美味しそうに飲む他のメンバーを見ながら、
顔には出さないようにしたが心からそう思った。
テーブルクロスの上にオードブルの載った皿とパンが置かれた。さて、ここからが勝負どころである。頑張って次の料理がやって来るまでに
目の前の皿に載った料理を食べきっておかなければならない。
膝上に載せたナプキンの位置を少し調整し、一番向こう側に置かれたフォークとナイフを手に持ち、音をたてないように気を付けながらひたすら黙々と食べ続ける。
が、どうしても他の人からタイミングが遅れる、次の皿が着てもまだ前の皿の料理が食べ終わってないという事態が発生してしまう。というか間に合いそうでも
左隣に座っているお姉様が事あるごとに、
「薫は成長期なのだから、もっとたくさん食べなくてはだめよ。」
という訳がわからん理由で、少量だが自分の皿の物をこちらの皿に取り分けてくるので結果間に合わないという事になった。お姉様の心遣いは嬉しかったが、
食事のスピードが遅い少食者にとったら、この量でも十分お腹が一杯になるので正直言っていらなかったりする。
しかも、こっちは必死こいて食べているのに、
「食べ方が上品すぎる。育ち盛りなのだからもう少し男らしくガツガツと食べなさい。」
と言うのはどういう事なのだろうか?ていうか上品すぎるって….確かにチマちまと少しずつ食べていることは認めるが上品であることに越したことはないだろ…
それとも皮肉なのだろうか?
無事に食事が終わって部屋に戻ってから、今度は風呂に行こう。と、言う事になった。話を聞くと源泉を引いてきた大浴場が建物の2階にある(温泉地だから当然か…)そうなので、
温泉ならぜひ入りたいと思ったが、超個人的な理由で、人気の無くなった後にこっそり男湯へ向かうことにして、今は断念して部屋で待機しようとしていると、凛様が
「薫ちゃーん、何してるの?置いてくよ。」
「僕、もう少し経ってから行こうと思っているので、先に行っておいて下さい。」
「えー?一緒に行こうよ!ねぇねぇ。」
と言って猫のように抱きついてきた。
「まさか本気で女湯に入れ、という事はないですよね?流石に風呂は別ですよね?」
「あれぇ、たしかわたしとの約束では『この旅行中ずっと女の子として過ごす』という約束だったハズだけど?」
そりゃあんたが勝手に言ってきた約束だろ。てかこの人、本気で僕に女湯へ凸させるつもりらしい。なんか、頭が痛くなってきた。
「でも、はっきり言って乗り気になりませんよ。止めましょうよ、こういう事は。」
「ダーメ。ていうか男の子って、女湯に入ることが夢なんじゃないの?」
「全然違いますよ。それより凛様の中では男の人ってどういうイメージなんですか….兎に角嫌な事は嫌ですよ。」
「エー?折角お姉さん達の裸が拝める絶好のチャンスなのにー。勿体無い。」
「そんなチャンスと比べるまでも無くバレた時のリスクが洒落にならないから全力でお断りします!」
「じゃあ、もしお姉さんと一緒にお風呂に入らなきゃ、皆に向かって薫ちゃんに襲われたーってわたしが叫んだらどうなるのかな?」
「……….っ!」
「せーのっ…」
「わ、わかりました!行きます!行きますからっ。叫ぶのだけは勘弁してください。頼みますから。」
承諾してもアウトの可能性があるのと断れば即アウト、それなら少しでも死亡フラグが立つのを少しでも先送りにした方がいい。しょうがないなあと思いながら、
「でも、お風呂に入る前に済ませておきたい事があるので、5分程お時間を頂けませんか?」
自分の鞄から、クレンジングと洗顔料と電動シェーバーと透明のエチケット袋出し、エチケット袋の中に替えのブラとパンティーとTシャツを突っ込むと、
クレンジングと洗顔料と電動シェーバーを持って洗面台へ行く。蛇口を捻ってから、まずクレンジングで化粧を落とし、洗顔料を使って顔についた皮脂を軽く落としてから
タオルで水気を取り、電動シェーバーを使ってジョリジョリと丁寧に伸びた髭を深剃りで綺麗に剃り落として、シェーバーから剃り落とした髭を洗面台に落として流して、
リビングへ戻るついでに置いて在った備え付けのバスタオルと手ぬぐいのようなものを持って行く。
戻ってからシェーバーとクレンジングを鞄に仕舞って、手ぬぐい(?)を一緒に袋の中に入れてバスタオルごと小脇に抱えると、
皆と一緒に部屋を出た。
「ねえ、何でさっき髭なんか剃っていたの?」
と凛様に聞かれたので、
「だって、女風呂の所に髭面の奴がいたらそれだけでアウトでしょ?」
と答えておいた。
入り口に掛けられた「女」と書かれた赤い暖簾を潜って大浴場の脱衣場に入る。時間が21時を大夫回った遅い時刻だったせいもあるが、
自分達以外の女性客が殆ど居なかったことにひとまず安堵する。
服を脱いで脱衣かごに入れ、ショーツを脱ぐ前にバスタオルとエチケット袋を手に取りやすいように上のほうへ置いてから、
奥の方へショーツを突っ込み、手ぬぐいを使って両手で始終前を隠しながら中に入り、両脇に人が居ない洗い場の一つを確保すると、
「眼鏡置き」と書かれた小箱の中に眼鏡を置き、必死の勢いで体と髪を洗うと、また眼鏡を掛けて前を隠しながら大きくて広い湯船の中に入った。
ここまでくれば大丈夫だろうと安堵していると、少し向こうの方からバチャバチャと誰かが湯船の中を、お湯を掻き分けながらこちらへ歩いて来るような音が
聞こえてきたので顔を上げて音のする方へ向けた。湯気で眼鏡が白く曇っているのでよくわからなかったが誰かがこちらにやって来るのが見えたので思わず身構えた。
警戒しながら固まっていると、その女性は僕の左隣に肩を寄せ合うように腰を下ろし、
「どこに行ったのかしらと思ったら、こんなところにいたのね。」
と声を掛けてきた。
「なんだ….お姉様だったのですか。」
少しホッとした。
「なんだとは何かしら?」
「いえ、知っている人で安心したものですから。湯気の所為で眼鏡が曇って良く見えなかくて、誰かわからなかったので….。」
「…そう。」
少し沈黙。
「凛も他の皆も向こうの方で集まって遊んでいるけれど、一緒に行かない?」
「別にいいです。一人でのんびりするする方が好きですから。」
「….そう。」
少し長い沈黙。
「ねえ、薫。」
「…何ですか?お姉様。」
「今日は楽しかった?」
「楽しかったです…けど、何でそんな事をお聞きになるんですか?」
「わたしの気のせいかも知れないけれど、あなたがあまり楽しんでいるようには見えなかったから。」
「…そんな事ないですよ。」
「心からそうだって言える?」
「…………。」
「今だって皆と一緒に過ごせばいいのに、こんな所に一人だけ離れて…。」
「………….。」(だってハシャいで羽目外したらバレるかも知れへんやん)
沈黙。
「ねえ…」
「…はい?」
「薫は、今わたしと一緒にいて楽しい?」
「僕はお姉様と一緒なら、いつでもどこでも何をしていても、楽しいです…よ?」
「そう。ならもう少し楽しそうにすればいいのに。」
「……気恥ずかしいだけです。」
そしてしばらくして、
「そろそろ上がりましょうか。」
「はい、お姉様。」
「あれー、麗子達もう上がるの?」
「ええ、凛、あなたたちは?」
「わたしらはもう少し浸かってから上がるつもりだから、外で待っててくれない?」
「わかったわ。また後で。」
脱衣場に入る前に手ぬぐいで体についた水分を軽く落とし、手ぬぐいを絞って水気をよく取ってから、バスタオルで体をよく拭いて下着と下のTシャツだけ
エチケット袋の中のものに着替えて、元通り服を着て、古い方の下着とかを軽く畳んで袋の中に入れ、ドライアーが置いてある細長い洗面台へ行って、
髪を拭きながらお姉様と並んでドライアーをかける。
「薫って、かなり綺麗な髪質をしているわよね?」
「そうですか?よく言われますけどそう思ったことはないですね、そんな事言ったらお姉様の方がずっと綺麗な髪質だと思います。
まっ黒で長くてサラサラした綺麗なストレートじゃないですか。男だけど羨ましいです。僕の髪はかなり茶色がかった焦げ茶のような色ですから。」
と、言いながらドライアーを元の場所に片付ける。
「ありがとう。でも、もうドライアー掛けなくてもいいの?」
「持ってないから普段使わない所為かあまり好きじゃないんですよね。それにあまり髪に熱風をかけ過ぎるのも良くないといいますし。」
と、言いながら眼鏡を外して、洗面台の中に手をかざして水を出し、そばの石鹸液が出てくる所に手をやって泡状になった石鹸を出し、
その泡を眼鏡のレンズに着けて眼鏡を洗い、水でまた流し、バスタオルで水分が残らないように丁寧に拭く。
「そう言えば薫、あなた眼鏡を掛けながらお風呂に入っていたけど大丈夫だったの?」
「何がですか?」
「前に知り合いから眼鏡のレンズはお湯に弱い、という事を聞いたことがあったから。」
「大丈夫ですよ。僕の眼鏡はガラスですから。最も今回は床で滑ると危ないから掛けていたというだけで普段風呂に入る時は外していますけどね。
….それではお姉様、お先に。外で待っていますから。」
「ええ。」
身の回り品のチェックをしてから、手ぬぐいと袋を包んだバスタオルを小脇に抱えてスニーカーを履いて脱衣場を出た。
(えーと、どこだっけな?)
と思いながら当たりを見回す。浴場へ来るすぐ手前のところに、ゲーム機の筐体が並べてある遊戯場のようなスペースを見つけたので
機会があれば遊ぼうと風呂に入る前に目を付けていたのである。
入り口の直ぐ側にあった両替機で千円札を百円玉10枚に両替すると、UFOキャッチャーやエアホッケーや格ゲーの傍を通って、少し奥の方にある車の運転席を模した
レースゲームの筐体のところへ行き、それぞれ2~4人で対戦できるレースゲーが幾つか並んでいるが、その中の4人対戦ができる筐体の四つある内の一つに乗りこんで100円玉を投入する。
ステアリングとアクセルペダルで、普通のレベルのATのセダン系の車のコース1の夜間を選択してゲームをスタートする。
都市高速道路のような広い周回コースを他の車を抜きながら一向制限時間以内に回り続けるゲームの三週目に入った時、
「あれ、麗子。何であなた一人なのよ?薫ちゃんは?」
「先に外で待っているて言って出ていったんだけど…どこに行ってしまったのかしら?」
「さり気なくよく行方不明になるよね、あの子は….。捜すの手伝おうか?」
「ええ、ありがとう、凛、助かるわ….はぁ….一体どこに行ったのかしら?」
と、いう会話が耳に入ってきた。
やべ、皆出てきた。怪しまれないうちに合流しないと….と思いながらゲームを放置し、時間切れで「GAME OVER」という文字がディスプレイに表示された筐体に、
名残惜しいものを感じながらその場を離れ、急いで皆の元に向かう。
僕が皆の所へ出てくると、出てきた所が所だからか、僕が何をしてたかすぐに全員が勘づいたようだった。
「全く、遊んではいけないとは言わないけど、せめて一言声を掛けてから行きなさい。と、何度言えばわかるの!」(# ゚Д゚)
「御免なさい……。」(x_x;)シュン
怒られた….。
「まあまあ、大したことでなかったんだから麗子もそこまでにしてあげたら?ほら、薫ちゃんも反省しているみたいだし。」
「凛、あなたは口を出さないでくれないかしら。これはわたしとこの子の問題よ。」
「ハイハイ。」┐(´∀`)┌ヤレヤレ
やれやれ、と言わんとでもするように腕をすくませて凛様は僕に向かってウィンクした。まるで「(自業自得だとは思うけど)大変だねえ。ま、がんばれ!」
とでも言われたようだった。
部屋に戻るとすぐに、僕とお姉様の分として割り当てられた寝室のベッドの上に一着ずつ置かれていた、二つの浴衣の内の一着を手にとり、
服を脱いでパンストとTシャツの上から羽織る形で着替える。そして鞄の中から旅行用のデンタルセットを取り出すと、そのまま洗面所へ向かって
ブラシに歯磨き粉を付けて歯磨をし、備え付けのコップを使って口をすすぎ、ついでにトイレも済ませて手を洗って歯磨きセットを持って洗面所を出た。
リビングルームを通ると、他の皆はテレビを見ながら取留めのない雑談を交わしていた。まだ当分眠るつもりはないらしい。
「お姉様、皆さん。お先におやすみなさい。」
「あれ、早いね。もう寝るの?」
「ええ、明日も運転しなきゃいけませんから。なるべく休んで疲れをとっておきたいので。」
「ふーん。あ、そうだ。明日の朝食7時30分からだからよろしくね。じゃあおやすみ。」ノシ
「わかりました。それでは、おやすみなさい。」
一礼して寝室に退散するとすぐに二つある内の、先程着た浴衣が置いてあった方のベッドに、左側に顔を向けて俯せで潜り込み、眼鏡を外して枕元に置き、
ふかふかの枕に顔を思い切り埋めて、僕は夢の世界へ落ちていった。
8-11
>>薫
翌朝、お姉様が体を揺すって起こす声で目が覚めた。
「ほら薫。起きなさい。」
「うー、もう少しだけ…ムニュ。」
「もう7時半よ、そろそろ朝食を食べに行くから起きなさい。まだ用意できてないのあなただけよ。いい加減に起きなさい!」
「ちょ…え?マジで?…すみません。今起きます!」
ガバっと掛け布団を引き剥がして飛び起きて、手探りで眼鏡を探して掛けて、眼鏡のそばに置いていた腕時計を探して時間を確認する。
確かに7時半過ぎていた。
昨夜誰よりも早く寝たのにも関わらす、起きてきたのが一番遅いという失態をやってしまった。慌てて浴衣を脱ぎ捨て、スカートを履き、
ジャケットを羽織ってポケットに財布や携帯やハンカチなどを突っ込んでいき、最後に左手首腕時計をはめる。
鞄からシェーバーを取り出し、洗面所へ駆け込んで、顔を水で軽く洗ってから髭をなるべく綺麗に剃り、
寝室に戻ってからシェーバーを仕舞う代わりに化粧ポーチを鞄から取り出し、化粧水と乳液をつけ、
ファンデーションだけ軽く掛けて準備完了。ざっと10分弱で用意を終わらせる。
「お待たせしました!」
「早っ!というか、お化粧はもっときちんと丁寧にした方がいいと思うよ?薫ちゃん。」
「青くなっているところが目立たなくなればいいですからこれでいいんです。」
「だけど…。」
「僕がいいって言ったなら良いんですよ、凛様。さ、早く朝ごはん食べに行きましょう。」
朝食を摂る場として宿泊客に開放されているビッフェでは、よくあるタイプのバイキング形式、
テーブルを確保した上で自分で皿を持って料理が並んだテーブルまで行って欲しいものを欲しいだけ取ってくる形式の、
朝食がホテルに用意されていた。
大皿に並んだ沢山の料理を物色しながら欲しいおかずを、バランスに気を付けながら少量ずつ手に持っている皿に盛り付けていき、
一旦席に戻ってからパンと冷たい烏龍茶を一杯取ってきて、席について食べ始める。
実を言うと僕はこのバイキングと云う物が、好きなものが好きなだけ食べられるという点では好ましいと思っているが、嫌いである。
何故なら、こういう自分を含めて複数人で一緒に一つの食卓を囲むと、大抵一緒に食事を摂っている人全員が、僕の皿に乗っている料理の量を見て、
「え、たったそれだけ?」
「それだけだと足り無くない?」
「ダイエットでもなさってますの?」
「もっと食べないとダメよ。成長期なんだから。」
「そうそう、元が取れない。もっと食え!」
と、いうような事をさんざん言われる羽目になるのである。始めて一緒にバイキングに行った相手ならまだわからんでもないが、解せないのは
既に何度も一緒に行っている家族や親族からも行く度に同じ事を言われる事である。
少ない足りないと言われるが、僕自身は少食な上に朝食は空腹が紛らわされる程度でもいいと考えている性質なので、ぶっちゃけこの程度の量でも
十分だから放っておいてくれと思う。というか、バイキングに来たら元を取るために沢山食べなきゃいけないって風潮、どうにかしろ。
口だけならまだいい。厄介なのは…と考えてチラリと、さっき料理を取りに行って戻ってきて皿を置いたと思ったら、すぐにまた料理を取りに行ったお姉様を
チラ見して様子を伺う。今さっきとったはずの料理をまた新しい皿に取っている所を見て、嫌な予感がだんだんと確信に変わる。
予感的中、料理が盛ってある皿を持って戻ってきたお姉様は、その皿を自分のところではなく、僕の手元に置き、
「さっき美味しそうなパスタを見つけたから薫にも食べさせようと思って…。」
と言って食べさせようとした。別に持ってこられた料理が嫌いなわけでは決してないが、欲しければ自分で取りに行くし、
こういう風に持ってこられると無下には断りづらい。だから結局出されるままに食べる羽目になる。いや、すごく嬉しいし、感謝はしているのだが、
それでもこう思ってしまう。あんたは僕の母親か?と。
食事中に帰りのことで凛様がこんな事を話し始めた。
「そういえばさ、帰りのメンバーの組み合わせなんだけど。わたし、そっちに行っていい?」
どうやら行きしのメンバーと帰りのメンバーの内、綾乃-かなめペアと凛-聖華ペアを入れ替えて、車組『麗子、薫、凛、聖華』、新幹線組『綾乃、かなめ、怜、あゆみ』
にしようと言うことらしい。僕からすれば、特に異論はない。むしろ入れ替えても良いのではないかとすら思う。というよりもう一度僕の運転する車に乗ることに
綾乃先輩と鳴滝が同意するのかどうか、甚だ疑問だ。恐らく十中八九拒否すると思う。そういう意味で、入れ替えると言うことは彼女たちにとって最良の選択だと思う。
ただ問題は入れ替えたメンバーの内、言い出しっぺの凛様は兎も角、聖華の方がそれで納得するかどうかである。把握はしてないが、あゆみも彼女も鳴滝から大体僕の運転が
どういうものであったか、脚色も含めて耳に入れているはずである。
と、少し心配になったが、当の本人は
「わたくしはお姉様がそう仰るのでしたら、それでかまいませんわ。」
と大旨同意しているっぽい。そう言えばこいつはそういう奴だったな。
朝食を終えてから部屋に戻ってから、荷物の整理を始め、10時までには荷物をまとめ終えて、自分のリュックを背負い、忘れ物が無いかチェックして、
ゴムボートのケースやその他重くて嵩張りそうなものを持って、皆より一足先にエレベーターで地下に降りる。
駐車場の係員に駐車整理券を渡し、駐車場の機械から愛車の15クラウンを召喚してもらう。
大きな機械の扉についた向こう側、左の方から車が流れてきて停止し、扉がゆっくりと左右にスライドすると、
機械の中に入って車の鍵を開錠し、運転席のドア下に付いている摘みを引っ張ってトランクを開け、荷物を積んで
トランクを閉め、車に乗り込みリュックをまた助手席下におく。
車のエンジンを掛け、サイドを解除してギアをRに入れ、運転席の上に頭を載せて後ろを覗き込むように、
右手をハンドル、右足をブレーキペダルに置いたまま体を後ろに捻って、ブレーキを若干緩めるようにして
係員の誘導に合わせてゆっくりと車を後退させて行く。
ターンテーブルの真上まで真っ直ぐバックして停車すると、体勢を元に戻してシートベルトを掛ける。
係員が操作盤に何かすると同時に、ターンテーブルが回り始める音が聞こえ、正面の景色が右から左へ
ゆっくりと流れて行く。そして完全に止まって、目の前に出入口の急なスロープが現れると、係員の合図と同時に
ブレーキから足を離してアクセルをグッと踏み込んだ。
スロープを駆け上がって出口を出て一時停止し、右方向のホテルの玄関のロータリーから出てくる車に気を付けながら
ロータリーに合流し、ロータリーに沿ってUターンするように右転回し、途中左方向の副道から来る車に注意しながら
玄関前へ戻って、自動ドアを少し過ぎたところでハザードを付けて停車し、トランクを上げて停車措置をする。
シートベルトを外し、運転席のドアを少しだけ開けて、体を横にむけて右足だけを外へ向かって投げ出す。
しばらく待っていると皆が各々の荷物を持って玄関前に出てきたのが見えたので、右手をドアのヒンジ、
左手をステアリングの真上に引っ掛けて、左足でペダルを操作して、右足を投げ出したまま車を皆のそばまでバックさせ、
左足でブレーキを踏んでギアをPに入れ、外に出て、トランクの蓋を持ち上げ、荷室へ荷物を収めて行く。
トランクの蓋に両手を掛け、しっかりと音がするまで勢いよくトランクを閉めて、そう言えばJRの駅迄はどうやって行くつもりなのか、
と聞こうとして振り返ると、ホテルのボーイがそばに止まっていた、ロータリーの内側の路肩に停車していたクラウン・セダンのタクシーに
合図を送ったと思うと、タクシーの左側のリヤの自動ドアが勢いよく開いて、綾乃先輩以下4名がその車に乗り込んで行った。どうやらタクシーに乗って駅まで行くらしい。
綾乃先輩たちが乗ったタクシーが去って行くのを見送ってから、左側の後部扉と助手席のドアを開けて、助手席にお姉様、後部右席に凛様、左席に聖華を乗せ、
自分も運転席に乗り込んでドアを閉めて集中ドアロックを掛けて、シートベルトをして、右ウインカーを焚いてゆっくりと車を発進させた。
554 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/05/30(日) 16:50:22
行きしと全く同じルートを行くのもつまらないので、一旦左折してr103へ入り、r103からr11へ右折して北上して山越えし、
そのままr20へ入ってR1まで北上し、R1を西の方へ走って三島塚原ICから東駿河湾環状道路に入り、長泉JCTから第二東名に入る。
第二東名に入ってから車速を80-120km/hから200km/hまで上げる。上り方向が空いていたので特にトラブルも無く、
走行車線を走る車を追い抜きながら追い越し車線をひた走る。
途中の秦野SAで一度休憩を取り、海老名南JCTから圏央道を北上し八王子JCTから中央自動車道を4号方向へ走り、バイパスを抜け、
学院の中に入って寮の前に着いたときは昼の14時を過ぎていた。
第八章完
第九章に続きます。次回から2学期です。
ペンギンは傷だらけになった。
崖下で痛みに震えながら諦めかけていた。
「駄目だ。俺は飛べないんだ。どうせ、飛べないんだよ」
嫌な記憶が蘇った。みんなから言われていたことを思い出した。
「どんなに努力したって、無駄なんだ。俺は飛ぶように出来ていない」
ハトの野郎のあざ笑うような顔が目の前に浮かんだ。
その目は「さっさと諦めろよ、阿呆が」と言っていた。
ペンギンはすべてが嫌になっていた。
556 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 11:59:16
第九章
9-1
>>薫
2029年8月28日深夜3時55分。
「じゃあ、父さん母さん行ってきます。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
「もう夜も遅いし、気をつけて行くんよ。」
「わかってる。また向こうに着いたら電話するさかい。じゃあ、孝。お兄ちゃん行ってくるから、また冬休みか秋の連休にな!」
「うん、ああ、行ってらっしゃい。」
両親と弟に見送られて家を出て、マンションの玄関前の路地の所に路駐してある、3LV6を3.5Lに増強し、スーパーチャージャーを付けたホンダ・アヴァンシアに近づき、
後ろのハッチバック式の跳ね上げドアを上げて旅行用のトランクケースをラゲッジスペースに積んで、運転席に乗りこみリュックを助手席下に放り込むと、エンジンを掛け、
フォグランプとロービームを付けて車を発進させた。
前回の旅行の後、親の仕事の都合で8月になるまで帰省出来なかったが、あまりにもしつこく誘ってきたので付き合った富士之宮との、何故か僕が車を出すことになった
ディズニーリゾートでのデート?を除けば、特に何もすることも無く実家に引込み、定期報告を親戚まわりと親戚回りを兼ねて松江の祖父母の家に家族で行った以外は
ずっと実家で過ごす夏休みになった。
557 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 12:04:40
100km/h近くで飛ばしながら北大路通りを東に進み、高野大橋を渡った処で右折し、川端通りを80km/hで南下する。
出町柳から4車線に増える辺たりからまたスピードを上げ、三条通を左折し、山科方向に向かってひた走る。
時間が時間だから、京阪大津線線路跡を利用して3車線から中央分離帯付きの4車線の広い道になったものの、未だに山越えと急カーブをドライバーに強要する
この府道の特色故か、他に走っている車も、暴走族のCR-Zやスカイラインとかデコトラなどが100km/h近いスピードで飛ばしている。
急な下り坂にあるS字の急カーブを過ぎて山科に入ると京都東ICへの緑色の案内標識が見えてくる。外付けETCのユニットにカードが入っているか、
信号待ちを利用して確認した。
京都東ICを通り、名神高速へ入り、名古屋方向の上り車線に合流する。軽く気合を入れて、ハイビームをロービームに切り替えて
180km/hまでスピードを上げて疾走する。
いつもこの時間にこの道を車で走る度に、本当にこの国はトラックによって支えられているんだなあ、と嫌でも実感する。
さっきからどんどん追い抜いたり追い越している車だけでなく、中央分離帯の向こう側対向車線を走る車もずっとトラックと
高速バスばかりである。たまに走っている普通の車といえば、自分のかなり前を走っているBMWの3シリーズらしいテールランプをした車と、
追い越した途端何故か対抗するように馬鹿みたいにスピードを出して僕の後ろを追いかけている、なにわナンバーの白いC20セルシオの後期のVIPカー位である。
558 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 12:06:27
米原JCTに差し掛かったとき、前を走る黒いBMWが左ウインカーを焚きながら車線変更し、軽く減速しながら北陸道へと入っていった。
そして入れ違うように北陸道から青いステージアとFUSOの10tが合流してきた。
滋賀県と岐阜県の県境を越えてしばらく行った辺りで、目の前の空が段々と白み始め、紅くなり、朝日が登り始める。
回りの車の様子を見て、ロービームを消し、スモールとフォグだけを付けた状態で暫く走る。
名古屋まで来ると完全に日が登り、当たりが真っ白になって朝が来た。ライトを完全に消し、工業地帯の中を一向東に向かって走る。
この時間になるとトラックやバスと混じって段々と一般車両がその数を増やしてくる。
小牧ICを過ぎて東名高速に入り小牧JCTに差し掛かる。普段ならこのまま東名高速を走るのだが、今回は敢えて、中央自動車道を走ってみることにした。
いや、敢えてというよりむしろ何故今までこっちを使わなかったのかと我ながら突っ込みたくなるが。
中央自動車道に入り、山の中へとどんどん入っていく。途中、恵那峡SAに朝食とトイレと仮眠と燃料補給をするために立ち寄った以外は休むこと無く走り続けた。
559 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 12:08:39
久々に学院の女子寮の自分の部屋に入った時には、昼を少し過ぎた頃だった。部屋の電気と換気扇を付けてから、部屋が荒らされたり、おかしな所がないかどうかを点検し、
実家に電話をかけて無事に辿り着いたことを報告する。
電話を切ると、一階のレストランで遅めの昼食を摂ろうと思って部屋を出た。部屋へ帰ろうとさっき前を通り過ぎたとき営業していたのを確認済みである。
ただ、学期期間中のように学生に無償提供されているかどうかは知らない。念のために財布も持っていこうか。
結論、無料だった。しかも夕食まで普段どおり提供されるのだと言う。というより夏休み中といえど、お盆の三連休以外は通常通り営業していたそうである。
よく考えたら学生全員が僕のように休み中に実家に戻っているわけではない、中には少数ながら実家に戻らずにずっと寮で過ごしていた娘もいるだろうし、
実家に戻っていても部活動などで学校に来て、学校か寮の食堂で昼食くらい食べて行く奴も結構な数いるに違いない。それに学生は休みでも長期休暇中も教職員は
ほぼ全員働いている。考えてみれば休み中だって営業していても驚くようなことじゃない。
560 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 12:10:07
昼食を摂って部屋に戻ると、少し一眠りしようと思い、一時間ほどベッドで寝転がった。その後掃除も兼ねて、トランクやリュックサックから大なり小なり、衣服や教科書などの荷物を取り出して整理し、
軽く掃除機とペーパーモップを掛けた。ウィンドクローゼットから夏冬の制服全部と秋物の革のジャケット3着をデパートのでかい紙袋にまとめて突っ込んで、車で近くのクリーニング店ヘ預けに行った。
翌日、クリーニングした物を取りに行くついでに服を片付けて必要な物は洗濯する。学校の購買部へ行き、ノート2冊とシャー芯2箱と消しゴム一つと愛用の4色油性インクの0.7mmボールペンの替芯の
赤と黒と青を1本ずつ購入。それ以外特に何もせずに過ごす。
更に次の日、前日から増え始めていた帰還した生徒数がどんどん増え始め、クラスメイトや仕事で知り合った上級生などと一月以上ぶりに出くわし、お互いにいい休みを過ごせたか挨拶がてら確認しあった。
明日が始業式という日になって、一月ぶりくらいにお姉様を出会ったので明日からの学生会の予定を軽く確認する。事務要件をたった数分話しただけだから明確な根拠は皆無だが、いつもと違って
お姉様にどこか陰があるように感じた。休み中に何かあったのだろうか?
561 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 14:32:14
9-2
>>薫
学生会館の前に90チェイサーのツアラーVを駐車して、玄関で履物を履き替えて建物の中に入る。階段を登って執務室のドアの前に立ち、ノックをする。
「……」
「…………………」
普段なら何らかの応答があるが今日は何の応答もない。居ないのかと思いながら
「失礼します。」
と言ってドアを開けて部屋の中に入る。
部屋のなかは明らかに無人だった。
「なんだ、僕が一番乗りか….。」
とどうでもいい独り言を言いながら自分の席に鞄を置き、茶でも入れてこようと思い、執務室を出て一階の給湯室へ電気ポットを取りに行った。
執務室に戻り紅茶を入れていると、ドアが開いて。お姉様が入ってきた。
「ごきげんよう、お姉様。」
「……ああ、ごきげんよう、薫。」
普段なら間髪を入れずに反応してくるくせに、今日に限って妙な間を入れてくるお姉様の様子を僕はすごく不審に思った。
「お姉様、どうかなされたのですか?御気分が優れないとか?」
「え、ううん、何でもないわ。…少し疲れているみたい。」
と言って少し溜息をついたお姉様を見て、僕は、今日始業式が終わってからの初めての学生会の活動でまだ始まってすらないのに疲れるなんて事があるのかと
不思議に思いながらも、お姉様は将来有栖川の家を引っ張って行く跡取りだ、それこそ凡人の考えなど及びにつかないくらいの気苦労があるのだろう、
と勝手に納得しながら「どうぞ。」と淹れたばかりの紅茶をそっとお姉様に差し出した。
562 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 14:34:00
紅茶を一口飲んで気分が落ち着いたように見えたので、一安心してほっこりしていると、凛様が勢いよく、
「いよーーーーー!皆ぁ!!元気かー?!」
と怒鳴りながら入って来た。いつも以上にテンションが高い……つーか、キャラ代わってね?と疑いたくなるくらい異様にテンションが高かった。
呆気にとられて暫く唖然としていると、周りの反応に気付いて急にテンションが下がったのか、入って来た瞬間とは対照的に一気にトーンダウンして
「…あれ、麗子と薫ちゃんしか来てないの?つまんないの。」
と、どこかわざとらしく部屋の中をキョロキョロと見回していた。
いきなりハイテンションで叫ばれて吃驚して呆然としたが、僕も正気に戻ったので、
「今日は随分上機嫌なようですが、何かとてもいい事でもあったんですか?」
と聞くと、凛様は込み上げてくる笑いを無理やり押さえつけるように肩を震わせながら、
「フ、フ、フ….よくぞ聞いてくれたぞ、薫ちゃん。ついに、ついに来たのだよ。二学期が!あーもう、考えただけで待ちきれないよ!」
と、また叫んだ。
「いや、あの、ちょ。落ち着いて下さい。待ちきれないって何がです?」
「何が!何がって!!決まってるじゃない。二学期と言えば、体育祭、学院祭、聖夜祭….etcとお楽しみ目玉イベントが目白押しの時期なのよ!落ち着いてなんかられないよ!」
と、心からそう思っているのが手に取るようにわかる位ノリノリで凛様は喋っていた。
563 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 14:35:31
一方僕は、恍惚とした表情をしている凛様とは別の意味で落ち着かなくなっていた。体育祭、学院祭、聖夜祭….確かに学校生活に華を添える大きなイベントが、
確かに今学期中にこれでもかと集中している。と言う事はつまり、今学期は滅茶苦茶忙しくなるということである。
ただ単純に大元の裏方として、学校の指示を順守しながら各実行委員や部署に指示を出す雑務が増えるだけならいいが、6月に杏子様達に聴いた話では、
月初めごとに学校から支給される予算の他に、イベントごとに実行委員(学院祭ならクラス、部活にも)に支給される「特別会計」または「特別手当」と呼ばれる
臨時予算が支給され、通常の予算と共にこの臨時予算も捌かねばならないらしいのだ。
これからの事を考えるとすごく不安になるのだが…テンションMAXではしゃいでいる凛様はいざ知らずお姉様も落ち着いたものである。
やはり未経験と経験者は胆の座り方も違うということか…来年ぼくもこの二人のように泰然としてられたらいいなあ、とふとそう思った。
たまたま上がってるから開いてみたが、何だこの拷問のようなスレは・・・
自作落としてる奴以外に人いるのか?
いないとは思いたくないが、超過疎スレなのには違いない...
566 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 18:38:13
9-3
>>薫
クラス委員への怒りと己の力量の無さに対する情けなさに肩を若干震わせながら、閲兵式歩行をする軍人のように手を大きく振って、
「ゴツッ、ゴツッ」と盛大に足音を上げながら、クラス居委員会の議会室がある本館校舎3階の廊下を歩く。余程顔がひどいことになっていたのか、
それとも心の中で悪態ついて毒づいていた独り言がつい口から漏れたのを聞かれてしまったのか…すれ違った女生徒が、口元に両手を持ってきて
「ひぃっ」と小さく叫んで、大げさにポーズを取って避けた気がしたが気にする余裕すら無かった。
廊下と階段の踊り場が交差している交差点を左折して階段を1階まで降りながら、
「はぁっ」
と溜息をつく。
事の起こりは2日前、9月5日にクラス委員会から、学期開始後すぐ学校から提示された今月分の予算用に出資された金額が書かれた領収書の額面を
クラス委員会に送付し、予算の内訳をクラス委員会内で討議されたものが、翌6日にクラス委員会から回答として帰って来たものを、
各々団体ごとに小分けし、それぞれを管轄する委員会や組合に纏めて書類を通知した日の翌日、つまり今日の放課後の事だった。
うちの学校の場合、学校から予算が出てクラス委員会が内訳を決定すると、実際に所属組織を通して各団体に補助金として学生会から支給される前に、
各団体の間に学生会が入って予算の調整を行う期間がある。つまり明らかに支給される補助金が多すぎる場合、学生会権限で削減をし、
逆に団体から少ないなどの抗議を所属組織を通じて受けた場合、多少の融通を利かせたり、クラス委員会に兼ねあったりして出来る限り不満を解消するのである。
そして今日、学生会の活動を始めてすぐに、文化系部活や同好会を統括する部活連盟の担当者が、一枚の抗議文を持って学生会館にやって来た。
567 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 18:42:32
その抗議文は園芸部から提出されたもので、昨日提示された予算について「少なすぎる!不当だ!もっと寄越せ!」というような趣旨のことが書いて在った。
取り敢えず事情を確認するため、会長命令によって担当者と共に僕がその担当者と共に文化系部室棟にある連盟の本部事務所に向かうことになった。
携帯と筆箱と手帳を持って外に出て、学生会館前に止めていた最終型ルーチェの助手席に担当者を乗せ、自分も運転席に乗りこみ部室棟まで向かった。
本部事務所がある部屋につくと、担当者にお願いして園芸部に関する資料を連盟のPCから検索して持ってきて貰った。
その資料によると…なんとこの5年ほど活動らしい活動をしていなかった。いや、正確には校内に設けられた園芸場で花を作ったり、野菜を作って
自給自足生活みたいな事をしたりといった活動したりしているのだが、補助金の増減の評価に関わる活動…かつて出ていた園芸コンクールへのエントリーや、
校内に至る所に設けられている花壇や庭園の自主的な整備、栽培した花や野菜をフリマなどの場に売るなどした、地域振興に繋がるような活動などを
一切やっていない。ちなみに校内の花壇や庭園の整備は全て出入の業者が行っている。
つまりクラス委員会が補助金を出す見返りとして要求する活動をほぼ5年間何一つしてなかったので到頭見限られたらしい。
それで今学期から補助金が今までの半額という同好会並の金額に下方修正されたと言う訳だ。
568 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 18:46:02
僕としては、そんな状態で5年間も、何故この中途半端な時期まで補助金を満額まで貰えていたのか疑問に思ったので、一緒に資料を見ていた担当者の女子生徒に尋ねてみると、
どうやら最近まで学院祭の時に園芸場を一般開放して、栽培した草花を展示して活動内容を報告したり、お茶会に文字通り華を添える一輪挿しの花を細々と提供したり、
生花部やフラワーアレンジメント同好会へ要望があれば卸したりしていたらしいのだが、最近はそうしたこともほとんど無く、今回にいたっては学祭に参加するかどうかさえも
諸事情によって怪しくなってきたらしい。
資料を読む限り、クラス委員会の決定事項に関する根拠に不審な点は見られなかったが、活動実績が無いとはいえ、部活として現在も登録されている団体を金銭面に於いて
同好会と同程度まで実質降格処分に処すのは確かに不当な扱いには違いない。しかし予算の決済が決まった以上、限りある予算をその団体に予算を増額すれば、その分を
別の団体に割り当てられた分から差し引かなければならない。そんな事をすれば今度は補助金を減額された団体から抗議が来て更に事態がややこしくなる。
そういう事態を防ぐため、学生会には通常予算とは別の、他の委員会のお目通りを必要としない、学生会だけが自由に使うことができる特別支援金が毎月学校から支給されている。
今回の補助金の問題も不足分を特支金の会計から出せば解決するように感じられた。
しかし、特別支援金による特定団体への補助金の支給には学生会幹部による審査が必要であり、その結果によって会長命令で会計から対象団体に支払われる事になっている。
とてもじゃないが幹部ではない一介の一年の見習いがその場でどうこう決められることではなかった。
なので、筆箱の中から私物のUSBフラッシュメモリを出しながら担当者に、
「上の者に相談して判断を仰ぎたいので、このデータをここからここまでとこのページを、これ(USBフラッシュメモリ)にコピーして持ち出させて頂けませんか?」
と、お願いすると…
「それはちょっと…こちらとしても個人情報の秘匿義務がありますので、データの持ち越しはちょっと…。」
「そうでしょうけど、こちらとしても上の者に掛け合うには判断材料になるこの資料がそうしても必要ですから…私たちもその点に関しては十分に承知しておりますから…
何とかなりませんか?」
「そうですよね…困ったわ。わたしの勝手には出来ないし…リーダーに相談しないとイケないので少しお時間を頂いても構いませんか。」
「どうぞ…。」
5分後、担当者が戻ってくると、
「すみませーん、リーダーが言っていたのですが、USBにコピーはダメですが紙に印刷して学生会さんに渡すのは大丈夫らしいです。」
フラッシュメモリはダメなのに紙媒体での持ち出しはOKなのかよ…まあ、電子データは簡単にコピーや改竄ができるけど紙はスキャンで取り込んだところでjpg画像だから、
電子データをそのまま取り込むよりは改竄やばら蒔かれる危険性が薄いし、USB経由のウイルスの感染の危険性も無いとは思うけど、なんかなあ…と、突っ込めばいいのか
納得すればいいのか、それとも呆れればいいのか、自分でもよく分からない感情を胸に抱きつつ
「そうですか、ならそれで構いません。先程の部分を印刷して頂けますか。」
と、答えた。
文化系部活棟から車に乗って直で学生会館まで戻り、お姉様に資料を提出して事情と現状を説明し、特支金で何とかならないかと相談をしたが、
間髪を入れずに4人の役員全員が満場一致で反対し、結局特支金流用案はあえなく瞬殺された。
ただ僕が出て行っている間に、クラス委員会から提出された予算案の内訳の内、使途目的が不明瞭な項目と、部活の規模の割に貰える補助金の取り分が
明らかに多すぎる部活動団体があることが発覚したらしい。そこの部分をクラス委員会の方に問い質して、もし不正が発覚した場合は、これらと共に
園芸部の扱いも不当であると申告して不正金分を再分配して、再分配された金の一部を園芸部の補助金の不足部分に流用出来るかも知れない、という事だった。
というわけで、本館校舎の三階にあるクラス委員会の議会室と、その隣の議会室の続き部屋にあるクラス委員の詰所兼事務所まで、わざわざこちらから出向いたワケなのだが。
あいつら、こっちが予算の件で確認したい事があるから委員長か、この予算の不正部分を決定した責任者を連れて来いと言っているのにも関わらず、会わせないばかりか…
「例え学生会の方々がどう言われようと、この予算案はクラス委員会で十分に議論を重ねて討議され当委員会に所属する委員全員の総意で決定した物で、不正だとか私的流用だとか
いちゃもんを付けられる道理なんてございませんわ。それにタカが一年生の新人が三年生の委員長にお目通りが叶うわけがないでしょう?素直におかえりなさい。」
「しかし、この件に関して僕は有栖川会長から全権を移譲されています。それに、この件に関して会長から正式な申告書もこのように持参しているわけですが、
それでもお会いする事は出来ませんか?」
「出来ませんわ。それに委員長は現在席を外してここにはおられませんわ。」
「そうですか…なら戻ってこられるまでここで待たせていただきましょう。」
571 :
ふみあ ◆vk4jlKOWS. :2010/06/04(金) 20:56:56
クルッと、先程まで話していた委員から背を向けてポケットから携帯を取り出し、お姉様の携帯へ電話をかけた。
「もしもし…」
「もしもし、お姉様、薫です。」
「薫?どうしたの?」
「今、クラス委員会で委員長の帰りを待っているんですが…躱されているというか、あくまで白を切り通すつもりみたいです。
あとこちらに委員長を合わせる気も全くないようなのですが、どうしましょう?」
「まあ、予想出来ていたことだから仕方ないわ。申告書だけ提出して後日回答を求めると言って一旦戻りなさい。この件は保留しましょう。」
「申請書を預けるとして、期限をいつにした方がいいでしょうか?また明日来るとでも言っておきましょうか?」
「そうね…いいわ。そうして頂戴。」
「わかりました。」
電話を切ってクラス委員の方へ向き直った。
「急に仕事が入ったので仕方がありませんが今日の処は戻らせて頂きますが、この田上クラス委員長宛の申告書を預けますので、
田上委員長に明日のこの時間にまた来ますのでそれまでにこの書状に対する回答を用意して貰いたいという事をお伝いして頂けませんでしょうか。」
「ま、まあ。そのくらいなら宜しくてよ。」
「有難う御座います。それでは僕は失礼させて頂きます。」
と言って、その3年生の委員に申告書を預けて、背を向けてドアに歩み寄って教室からでようとすると
「彩!塩を!」
「ハイッ!環お姉様!」
というような会話が背中から聞こえて来たかと思うと、バサッと音がしてかなりの量の塩のシャワーを背中から浴びる羽目になった。
なんていう奴だ、失礼な奴だなあと思うとともに、どこから塩なんか出してきたんだよwwwてか、持ち歩いてるのかwwwと、
とも思いながら廊下に出て現在に至るのである。
9-4へ続きます。ノシ
572 :
名無し物書き@推敲中?:2010/06/05(土) 19:05:51
過疎ってるのは長い小説をここに長レスを延々と投稿して見にくくなってるからだろ
アリとか自分のサイトにあげればいいのにそれをしないからしない奴がいるからな
sage
9-4
>>薫
慇懃無礼に門前払いを食らった後、憮然としながら本館校舎を出て校舎前に停めていたルーチェに乗り込む。
シートベルトをしながら、園芸部の活動本拠地が本館校舎にあることをふと思い出した。確かエリア単位で見たら園芸場はこの先の学校の敷地の外れの方にあった筈だ。
思えば今まで、というか抗議文が舞い込んで来た今日でさえ、まだ一度も当の園芸部へ顔を出していない。連盟とクラス委員会側から提出された書面上からでしか
園芸部というものを捉えていなかった。だから園芸部を訪問してみてより現状を正確に判断したした方がより良いだろう、と勝手に判断した僕は園芸場に寄るために
学生会館とは反対方向へ車を走らせた。
車を東の方にある、薔薇園とその隣にある温室をひっくるめて、通称「ガーデン」とか「庭園」とか呼ばれるエリアに向かい、そこからそのエリアを縦断する形で
南の方へ下がって行く。
薔薇園の、両側を茨の生垣に囲まれた、1.2車線ほどしかない石畳のメインストリートを40km/hで進んで行く。ここの薔薇園はこのメインストリートを中心に
休憩や茶会をするための小さな広場のような沢山の区画とそれらを結ぶ石畳の細い道が迷路のように入り組んでいて、所々に結構な数の交差点があるだけでなく、
すれ違いできるように待避所のように生垣の幅が広くなっている所が数カ所あるので対向してくる車が出てきても、交差点や待避所をうまく使えばそこまですれ違いに困ることはない。多分。
薔薇園を突っ切ると目の前に大きな温室が見えてきた。というよりガラス張りのでかい倉庫と言った方が正確かも知れない。
いや、確かに見た目はどう見ても大きな温室なのだが…大型トラックでも入れそうな横4m×縦7m位のバカでかい左右スライドするタイプの
厚いガラスが嵌め込まれた自動ドアが鎮座している様子は異様としかいいようがない。しかも入り口のところに御親切に、
「温室内での駐停車時のアイドリング厳禁!」
という看板と、ここで止まれと言わんばかりに石畳の道に白い停止線と、その手前に人が両足を揃えた時の足跡の絵と「止まれ」と書かれた路上表示、
蛍光灯が埋め込まれていて夜間は光るタイプの逆三角形の赤い一時停止標識まで立っていて、自動ドアの上には料金所に付いているような赤青の信号機があり、
赤いランプを光らせている。
温室の中を車で突っ込めるのかよ、と仰天しながら停止線のところで車を停めると、「グォォォォン」と重厚な音を立てながら自動ドアが開き、
また15m程先に同じものが鎮座しているのが見えた。そして完全に開ききったと同時に信号が青に変わった
車を発進させて2枚目の自動ドアの前で停車すると、またドアが開いたのと時を同じくして自動ドアの上に付いている信号が青に変わった。
真ん中に車が通れるように5m程の幅が不自然に開けられている以外は、両脇にベンチやテーブルと椅子が並べられて休憩出来るようになっている、周りを植物で囲まれた、
薔薇園と同じ石畳の広い広場になっている、ごく普通の温室の中を徐行しながら走っていくと、温室の反対側の入口と同じように二重になった自動ドアがある出口を通って外に出た。
温室から外に出ると、急に道路が白い破線のセンターラインが引かれた、鬱蒼とした木立に両側を囲まれた2車線の大きく右側にカーブして行く道路に出た。
そのカーブの途中に更に南下するための、どう見ても軽自動車推奨としか思えないくらい細い、しかもグラベルのかなり荒れ果てた小径が現れ、
その側に「園芸場」と白い字で書かれた登山道でよく見かけるような矢印の形をした焦げ茶色の木製の案内標識が隠れるように立っていた。
随分端っこにあるなと思ってはいたが、これまたスゲエ所にあるなあと思いながら、左ウインカーを出して減速しながらその小径に入るために
ハンドルを慎重に左へ切って、鬱蒼とした森の中に入って行く。
すれ違うどころか、車一台がやっと入っているような暗い森の中をフォグランプを付けながらゆっくりと徐行しながら入っていくと、
急に目の前に紅くてまぶしい光が見えたかと思うと、夕日が燦々と降り注ぐ開けた畑のような所に出た。
というかまんま畑である。先程の小径が急に畑に囲まれた畦道に変わり、畦道の両側に花畑や野菜を植えた畑、小さなビニールハウスなどが並んだ、
家庭菜園よりはデカイが農家と言う程でもない広さの中途半端な広さの畑がある、例えるならプチ田舎のような光景が目の前に出現した。
最も畑の直ぐ側に学院と外界を隔てる高い塀があるので幾分興ざめな景色ではあったが。
畦道はすぐに畑に沿って左の方にL字に曲がって広くなりすぐに行き止まりになったちょっとした空き地のようになっており、そこに畦道が突き当たるように
バラックの物置のような掘っ立て小屋が建っていて、入り口に「園芸部」と書かれた木版に墨で書いた看板が掛けられていた。
あまりの光景に、車を止めて茫然と見入ってしまった。自分達学生会も敷地内の丘の上の洋館という他の部活や組織から見たら陸の孤島なような所に追いやられ不便を強いられて、
常日頃それを若干不満に感じていたが、自分達よりも更に過酷で辺境の地へ追いやられている部活が学院内にあるなど考えた事もなかった。というか、こんな人里離れた廃村寸前の
限界集落のような所でよく15人も部員かき集めることができたな、この部活。学生会と違って部活動や委員活動を重複して所属することが出来るとはいえ正式なメンバーでこの人数は
マジで凄いと思う。
が、15人も部員がいる割りには畑には人っ子一人見当たらない。言い知れぬ不安にかられたが、きっとあの小屋にいるか時間的に寮の方へ帰ったのだろうと自分に言い聞かせて、
車を発進させ、L字を曲がった先の突き当たった行き止まりの処に車を止め、小屋の中に入っていった。
掘立小屋のドア?を開けて不気味な位薄暗い室内を覗き込む。錆だらけでボロボロのトタン屋根に取り付けられた、埃まみれで真っ黄色になった、唯一の光源である小さな出窓から
降り注ぐ仄暗い黄土色の夕陽の光が、床に園芸用のスコップなどが至る所に散らばり、トタンの壁に土木用のシャベルや鋤や鍬や一輪車がまるで叩きつかれたように乱暴に掛けられている。
そしてそれら全てが殆ど真っ白になるまで灰色の埃が降り積もっている。どう好意的に見ても廃屋寸前の納屋である。
ただ目が慣れてくると辛うじてそこがまだ人によって使われていると思われる、床に散らばった物を避けるように、埃の上にくっきりと付けられた数人の足跡が残っているのが見て取れた。
データベース上では15人が在籍しているのにも関わらず、多く見積もっても2〜3人程度の特定の人物の足跡をたどって奥に入っていくと、物置の奥の入り口からわかりにくくなっている
奥まったスペースのその先に更に何か空間がある事がわかった。しかもそこから人の気配が密かにだが、感じられた。