529 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/22(日) 15:56:05
「あのね」「たぶん」「きっと」
なんであんたはいっつもそんなこというのもうおこったぶんなぐる。
もう呪文である。彼女の口はきっと毎朝潤滑スプレーでも噴いているに違いない。
「わかった。今回は俺が悪い。だから、ね。……許して」
両手を顔の前で合わせ彼女を拝む。そして上を覗くと、ハリセンボンが居た。
「何!? また面倒くさくなりそうだから早めに謝っとこうとか考えてるの!?
最ッ低! 死ね! エロ!」
直後鳩尾に正拳突きを喰らい、痛みになす術も無く僕はその場にへたり込む。
このままでは追撃が予想される。弁解を図らなくては。
「あ……あのね、罵詈雑言やエロを含め僕は君に惚れてるんだ、好きなんだよ」
彼女の動きがが停止し、ハリセンボンだった彼女は現在熟れたトマトである。
追撃は回避されたし。
「だから……、まあちょっとだけでいいから……」
彼女は固まったまま僕を見ている。それがとても可愛らしくって、
思わず言ってしまうのだ。
「巫女のコスプレをしてください」
追撃被弾。
次は「=」「点」「人形」
そのモノリスは数万年前からそこにあったのだろうか?
巨大な砂漠の海に光る一本の塔。
太陽の光を反射して一点の灯台と化す。
さらに数万年がたち雨が川を作り川はジャングルを作り
やがて生命が生まれ、類人猿が生まれた。
ある日、好奇心旺盛なサルが塔に登り そこに彫られた模様を指でなぞる。
直線を組み合わせて表現された人形といつくかの図形そして、
π=3
サルは塔を降りると手に取った枝で地面に円を描き始めた。
サルは不思議そうに自分の手と円をじっと眺める。
なんでこんなことしたのか自分の行動が理解できないと
いう風に。
それは何時間も続いた。
太陽がジャングルの西に傾きかけたころ
彼は群れに戻っていった。
群れに戻ると彼は言った。
「ここに巨大な四角錐の建造物を建てよ」
それはのちにピラミッドとよばれるものになった。
次は「日本語」「普通に」「やってられない」
題:「日本語」「普通に」「やってられない」
「日本語には、魂がある」
白髪に皺くちゃの顔の先生は、右手で僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でながら言った。
「良く聞き、良く見ておきなさい」
先生は左の手で、窓の外の木を指差しながら何事かを呟く。
――幹――要らぬ――、僕にはそこだけは聞き取れた。
先生が言葉を止めると、外の木は、幹の真ん中から音を立てて圧し折れる。
僕には何が起ったのかは良くわからなかった。
ただ、電気ショックを受けたように体が一瞬震えた。
「どんな言葉であれ、意思の力や魂は、どんな言葉にも普通に入り込む。
例えば、お前が人間に悪意を吐けば、その人は悪意の通りに死ぬであろう」
先生は相変わらず、僕の頭を撫で続けながら言った。
けれども、僕は窓の木に目を奪われ、返事が出ない。
「言葉には細心が必要。『やってられない』、そう思わば言葉を使ってはならぬ」
先生は撫でるのをやめ、僕の頭をコツンと叩く。意識が木から頭に移る。
よいな? との言葉に、我に帰った僕は条件反射的に「はい」と答えた。
題:「単語」「文節」「文章」
532 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/23(月) 01:04:45
思うこと、感じたこと
心の中を照らそうと
捕らえた単語を縛りつけ
文節刻む、深夜にも
考え抜けども、文章にならず
次「桃」「FTA」「保険」
「こんなものしかなくてごめんね。」
そういいながら申し訳無さそうに缶切りを操る。
保険の外交員をしていた叔母の家に遊びに行くと
いつも黄桃の缶詰を御馳走してもらうのが楽しみだった。
甘いシロップづけの桃は旬の白桃よりも甘く
幼い私にとって何よりの御馳走だった。
FTAの範囲が拡大するにつれ世界中の作物は
国境を越え、旬の物が安価に流通するようになり
缶詰のような加工品は廃れて行った。
「あれはあれで美味しかったよな」
味覚の記憶という物は消えない物なのだと思った
次は、「大丈夫」「真っ直ぐ」「靴」で
「大丈夫でしょ」
気楽な感じで君は言う。
僕にとってはこの世の終わりにも近い一大事なのに。
「だけどさぁ・・・」
言いかけた僕の言葉を遮るようににっこりと笑う。
「靴の紐、結び直して真っ直ぐに行ったらうまく行くよ。」
ちぇっ、人ごとだとおもって・・・
「待ってるからね。」
無邪気な笑顔がじっと見つめる。つられて笑顔になる。
根拠のない自信が伝染したようだ。
次は「電車」「常連」「無意識」で。
私のうなじを焦がす光
無意識にジーンズで手汗を拭う
電車の中
いつもの座席
むらむらと人のぬくみが立ち上る
うなだれ頭をひざに倒す
頭を抱えると指先に毛の隙間の水分がにじみ込む
手の隙間から覗き込む
『常連』と目が合う
あいつはいつも長袖のシャツを着ている
あいつの薄手の生地に汗がにじみ皮膚に張り付いている
ゆっくりと目をそらす
手のひらの赤み
じゅるじゅると移動しているのだ
手のひらが何かに覆われている いや、全身が
狭い車内に揺らめく大気
見られている そうか
次は『ウエストポーチ』『ほくろ』『左足』で
ほくろ。それはある時は魅力となり、またある時は汚点となる、まか不思議なものなんだ。
ほら、俺みたいに、頬骨の上、ヘイッ、と自らの名乗りあげてる様なほくろは、大抵汚点。俺はこのほくろと二十数年過ごしているが、こいつを殺してやろうと思った回数は、年齢の五乗ぐらいあるんだ。
……時々、他人のほくろが羨ましくなる。ほら、あそこ。座って文庫本を読んでる女がいるだろ? そうそう、ウエストポーチしてる女。
あいつの……そう左足だよ。あるだろ、ほくろが。控え目で、いかにもおしとやかです、って言わんばかりのほくろがさ。ああいったほくろを見る度思うわけよ。何で俺のほくろはこんななんだってな。
頬骨の上にあるのは……まあ、それも嫌だけど、今はいい。問題は大きさなんだ。ムカつくだろ、このほくろ。見てると潰し殺してやりたくなる。こいつのせいで俺がどんな人生を歩んできたことか……
ん? えっ、さっきの女が俺を見てる? ……ちょっと熱くなり過ぎたかな。ほくろでこんなに語れば、そりゃ深夜の電車だ、注目されるよな。しまったなぁ……失敗だよ。
ん? 向かってくる? 向かって来るって何がだよ。ええ? 後ろ?
「あのー……ちょっといいですか? ……自分のほくろ、そんなに嫌いにならないで下さい。それは貴方の分身だから。そんなに大きいのは、貴方という人の大きさの現れですよ。あ、すみません。ちょっと話が聞こえたので」
………………な、何だったんだ今のは! びっくりしたじゃないか!
ああ? ……まあ、平均よりは上だな……。う、うるさいうるさい! ドキドキなんてしてねぇよ! その、ちょっと可愛いかなって……ちょっとだけ思っただけだ!
…………もういい! 勝手に言ってろ! もう寝る。
次回
「君、黄身、気味」
あげあげ
538 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/29(日) 19:52:11
「君。君」
私は廊下でちょうど通りかかった男に声をかけた。
「なんですか?」
男はお前は誰やねんという目つきでこちらを見ている。
「いやー、君、君は卵で例えると卵の黄身だね」
「はぁ?」
貴様は何を言っているんやという眼で男はこちらを見ている。
「いやね、黄身と言うのはね、つまり白身の部分で守られているということなのだよ」
「で?」
男はあくびをして通り過ぎた。
(うんこ気味だな。もうこれを当たり前のように思っている)
私は帰宅の準備をした。
次は「アンモナイト」「太古の海」「重油が浮かぶ海面」
539 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/29(日) 22:16:14
太陽が昇り、海面がキラキラ輝いた。砂浜に埋もれた目覚まし時計に、波を伸ばす。
「いっけない!遅刻しちゃうわ!」
背中に重油が浮かんだ海面は、急いで着替えると、太古の海になった。
「父なる者よ!食事中は、大地を広げて読まないで!海も、朝ごはんくらいちゃんと食べなさい!」と、母なるものが叫んだ。
「帰り遅くなるかも、行ってきまーす!」
トーストのようなアンモナイトの化石をくわえ、まだ名前の無い、新しい五月の坂道を、海は、遺伝子を漕いでダッシュで駆け抜けた。
540 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/29(日) 22:20:45
次の方「留守番」「汗」「子供の頃」で。
541 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/30(月) 22:42:10
留守番 汗 子供の頃
会社帰りの道すがら、ふと僕は夜空を仰いだ。
視線の先にある、さえぎるもののない星の瞬きに導かれて、ある記憶が甦る。
とおい、はるかとおい、子供の頃の思い出だ。
ひとり留守番をしていた、あの夜。君が遊びに来たんだ。
僕らは、近くの海岸を臨むベランダで、時が訪れるのを待った。
ゆるやかに風になびいた君の長い髪が、
かすかな香りをともなって僕の心をくすぐっていた。
やがて、時報の音とともに、雷にも似た轟音が重なって響いた。
目の前では、真っ黒なキャンバスに滴っては飛び散る虹色の水滴のように、
無数の花火が連なり咲いては闇に溶けこんでゆく。
「きれい……」何度もそう言いながら、君は無心で光の宴に見入っていた。
僕はといえば、君の瞳に映った光の閃きしか見ていなかったっけ。
そして、何度もためらったあと、汗ばんだ手を伸ばし、君の手をそっと握った。
君は驚いていたけれど、何も言わず、ただ笑顔で僕の手を握りかえしてくれた。
僕のいる今という現実からは隔絶された過去の残り香。
それでも思い出さずにはいられなかった。君と過ごした、花火のように儚い時間を。
542 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/30(月) 22:44:47
543 :
sou:2007/04/30(月) 22:48:07
541ですが、お題忘れてましたね
「鎖」「牢獄」「こんな世界で」
544 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/01(火) 01:27:52
牢獄で食うメシは、兵隊時代に、蛇の干し肉よりもまずかった。
吐くのを我慢して食い切ると、目尻に溜った涙が頬を伝った。
泥水の匂いのする粥と、水滴を眺める日が続いた。
隣の罪人が、テリサに訊ねた。
「なぁ、鎖を外してくれ、オレのおっかあは病気なんだ。」
テリサは言った。
「外してどうする。どうせ、治らない病気だろ?しゃべるな。みんな長くはないんだ。」
苔の尖端で膨らんだ、水滴が落ちた。
「それより、外は雨かな?」
「こんな世界なんて、ましてや、天気なんざ、もう知らねぇよ」
「洗濯屋だったのかい?」
「農夫だよ。足のわるいおっかあじゃ、とても無理だ。麦もみんなダメだ。」
ある日テリサは、自分の鉄の鎖が、水滴で、錆び始めたのを知った。
「なぁ、おじさん、もう一度きくけど、今って雨期なのかい?戦争で、頭が少しおかしくなったらしくて、いつなんだろな。」と暗号めいた事をいった。
しかし、心弱い農夫は、自分の事しか言わなかった。
「一日でも晴れたら、おっかあの足も良くなるんだが、神様、お願いだ、明日だけでも晴れにしてくれ、首をはねられても、おっかあが、見にくるといいな、ああ、あ」と、農夫が泣き崩れた。
王が発狂してから、牢獄はいつもこんなふうだった。
「おっさん」英雄テリサは、流れ落ちるのが遅くなった水滴と、自分の鎖を眺め、目をつむると「明日、晴れるといいな。」と言った。その夜、農夫は泣いてばかりだった。
次の日、発狂した王が罪人を直々に見に牢獄に来た。王が、テリサを見た。
テリサは王を睨み、ボロボロになった鎖を見せた。
「これはどういうことだろうな、王が親殺しの腰抜けだと、鉄も腰抜けになるな。今日おれを殺さなきゃ、逃げるだろうね」と叫び、王の顔にツバを吐いた。
その日、絞首台に登ったのはテリサだった。丘の向こうで、大麦がざわめいているのを見ると、彼は安堵した。
そして、妻と農夫の母ために祈りながら、一歩一歩、太陽に近づいていくような気がした。
次の方「カメラ」「不器用」「6」で
「でも、これらの写真を見比べてください」
机の上にずらと並べられた6枚の写真には、それぞれ同じ場面、炎上中の田中邸が写っている。
どれもほぼ同時刻、田中家の長女が消防士に助け出される瞬間を撮ったものだ。
それぞれの写真は別々に週刊「ホットスキャ」編集部に持ち込まれてきた。現場には偶然、
6人のカメラマンが居て、6枚の決定的瞬間が記録されたというわけだ。
「君の言いたいことはわかる」
彼は6人のうちでもっとも良い写真を撮っているのだから、ギャラも相応に払えと訴えている。
編集の目にも彼の腕は群を抜いているように見えたし、もし載せるなら他の素人だか駆出し同然の
不器用な絵は実用に耐えないのだから、彼のものを使うより他にないのは明白だった。
「だが駄目だ。他と同じ金額しか出せない。」
「どうしてです?」
「はっきりいって、どの写真にも価値がないからだ。これは腕の良し悪しの問題じゃないんでね」
それを聞くと6人目のカメラマンは出された金だけを持ってスゴスゴと帰っていった。
当の編集担当である田中氏は、彼がドアの向こうへ消えると、六枚目の写真をまじまじと眺めつつ、
そっとアルバムの一番手前に仕舞って元の業務を再開した。
次「次代」「センター」「アルミ」
546 :
SF:2007/05/08(火) 10:17:03
おれは部室棟の裏に呼び出された。その場所はこの学園内でも最も人通りが少なく、おそらく最も地面が血を吸っている場所。
正直なところ、タイマンなんてものは時代遅れだと思ったし、そもそも腕力には自信がないので行きたくはなかった。
でもその申し出を断るわけにも行かない。おれを呼び出したのは、今付き合ってるカノジョの、いわゆる元カレだった。
そういった因縁にはなるべく筋を通しておきたかった。
そんなわけで今が、俺の顔面に元カレの拳がのめり込んだ瞬間。
彼のヤンキー仲間がいれば、「センターど真ん中あ!」なんてヤジも飛ぶような一撃。
そういえば今日の朝、担任が「君たちは次代を担う人間なんだから、しっかり勉強しなさい」と言っていた。でも、それはちょっと無理かもしれない。そんなことを俺は地面に這いつくばって考えた。
鼻血も、だらだらと口の周りに溢れている。とても無様なんだろう、俺の姿は。
元カレはそばに置いてあった缶ジュースの栓を開けた。
それを自身の口に近づけ……思い直したようににやりと笑い、俺の頭上に掲げた。そして傾ける。
頭に炭酸の不快な感触。糖分のねばねばと甘ったるい匂いとが俺の顔にまとわりつく。
へへへ、と元カレは残りを飲み干した。
「ちょっと!」
そこへ誰が呼んだのか、カノジョが走ってきた。
彼女は元カレの威圧感に一瞬だけ足をすくませ、すぐに俺の元へ駆け寄り介抱しようとする。
元カレの表情が固まった。
彼はアルミ缶をぺしゃりと握りつぶした。
次、「夕焼け」「自転車」「電線」
僕は今、七階建てのビルの前に立っている。
大宇宙真理平和祈願センター。思ったよりずっとデカい。
屋上から下がる垂れ幕には、「次代を担う若者たちへ」と大きく書かれている。
先輩が言ってたスペースなんとか、って団体名に聞き覚えはないけれど、この様子じゃ信者はかなりいるようだ。
宗教って儲かるんだなぁ、と改めて思う。
「そんなとこで何やってんだ、早く来いよ。講演始まるぞ」
入り口から先輩の呼ぶ声がして、僕は慌てて会場に向かった。
薄暗いホールに通された。周りにいるのはみんな僕と同世代の若者ばかりだ。
まもなく静かな音楽が流れ始め、前方のステージに灯りがともる。
舞台の右端から小柄な男が現れ、深々と一礼をした。
マイクに向かい、すぅっと息を吸い込む音が聞こえて。
「一円を笑うものは一円に泣くッ!!」
よく通る声が、スピーカーを震わせる。
「ハイ、いいですか皆さん! 貴方達は一円玉のことを軽視しているでしょう!
道に落ちていてもわざわざ拾う人など居ないでしょう?
しかしッ!! 知っていますか一円玉の本当の価値を!
一円玉を作るのに約二円のコストがかかっているということを!!
貴方達は例えるならば一円玉! 正当な評価をされていないだけなのです!!
そう、真の価値は二倍!! 胸を張って世間にアルミニウムの輝きを見せ付けてやろうではないかッ!!」
ああ、と僕は一つ納得した。
それで先輩は一円単位まできっちり割り勘したがるのか。
549 :
548:2007/05/08(火) 20:11:38
ああ、リロードしてなかった…すみません
お題も忘れたのでちょうどよかった。
僕は枕もとの目覚まし時計を見て、ため息をついた。
もう塾へ行く時間だった。
読みかけの漫画雑誌を閉じて、僕はベッドの上でのそのそと起き上がる。
机の脇においてあるショルダーバッグを肩にかけて、部屋を出た。
居間からはテレビの音が漏れて聞こえる。
祖母が好きで、よく見ている時代劇シリーズの決め台詞だ。
僕は居間の外から「塾、行ってくる」と声をかけてから外へ出た。
空がすっかり朱の色に染まっていた。
グラデーションが僕をなんとなくさみしい思いにさせる。
庭に止めておいた自転車を出してまたがると、僕はそのさみしさから
逃げるように勢いよく漕ぎ出した。視界の先はあくまで赤く、電柱も
電線も、何もかもが黒いシルエットになっていた。僕は小学生の頃に
作った切り絵を思い出していた。そして、僕自身もその絵の中に取り
込まれてゆく気がした。
次は、「かごバッグ」「手帳」「椅子」でお願いします。
551 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/12(土) 21:36:54
午後十二時三十五分。いつもどおりに噴水のヘリを椅子代わりに休憩する僕の前を、
いつもどおりに名も知らぬ美しい女性が通りがかる。初夏の爽やかな風とともにアカ
シアの甘い香りがただよい、顔を上げた僕のボサボサ髪がそよそよとなびく。二十八
歳の遅い青春の胸の高鳴りとともに、思わず瓶底メガネを押し上げて彼女を見る。今
日の彼女は、白レースの日傘に、籐で編んだかごバッグを持っていて、相変わらず清
楚だった。女性と殆ど会話をしたことのない僕は――最近の女性との会話は「ご注文
は?」「コーヒー」だけである――彼女に声を掛けることも、ましてやこの胸の高鳴
りを伝えることなど、とても出来ない。振り返らない彼女を、ただただ見詰めるだけ
である。昨日まではそうであった。しかし今日は、今日こそは声をかけようと決意し
て会社を出てきたのだった。ごくりと唾を飲み込み、手を握り締める。行くぞ、と何
度も自分に言い聞かせ、立ち上がった。膨らんだ鞄を肩に掛けるのももどかしく彼女
を追う。手を伸ばし呼び止めようとしたそのとき、運命が動いた。少なくとも僕はそ
う思った。初夏の風が彼女のバックからハンカチを攫ったのだ。ハンカチはふわりと
僕の手の中に舞い降り、彼女が振り返った。
次:五月、浜辺、南国
553 :
552:2007/05/14(月) 22:42:27
推敲過程で「手帳」が抜けてしまったorz
もういちど同じお題で書いてください
次:「かごバッグ」「手帳」「椅子」
窓を開けると、新鮮な風が室内に舞い込んできた。
机の上の手帳もぱらぱらと音を立てめくれてゆく。
ああしまった、と僕は急いで駆け寄り、手帳の今日の日付を探し出す。
五月十四日の欄には赤い丸印。そこに書かれた言葉は『彼女が恋人ではなくなる日』。
三ヶ月も前から計画してきた。彼女自身、口には出していないけれど、今の関係に飽きてきているようだ。説得する自信はある。
椅子に座り、僕は、日付の丸印に斜線を入れた。
そうしているとインターフォンのチャイムが鳴った。
時計を見ると、もう約束の時刻。
窓から外を見下ろすと、かごバッグを手に提げて彼女が立っていた。
僕は階下の玄関へ向かう。机の引き出しを開け、その中の婚約指輪を確認してから。
次、「涙」「坂道」「選択肢」
――こんな時こそ頭の上に選択肢が出てきたらいいのに。
その三択か四択の中からだったら、正解を選ぶ自信があるのに。
人生最大のピンチにして最大のチャンスである。
目の前には美少女と言って差し支えないクラスメイト。
その頬に流れる涙。
カードの切り方次第で今後の学園生活が大きく変わるってこと、
ギャルゲーの鬼とまで呼ばれた俺にはハッキリわかる。
好感度アップか?ダウンか?
フラグ立つのか?立っちゃうのか!?
いきなり逆転ホームランかっ!?
どうする、俺!!!!
ああ、今すぐ選択肢降りて来い。そして俺を導いてくれ。
目を閉じてゲームの神に祈る。
――よし。
まずは声をかけようと再び目を開けると、彼女はいなかった。
視界の端に学園前の坂道を駆け下りていく姿が映った。
ゲームオーバー。
今こそ頭の上に文字が表示される瞬間である。
現実世界って、人生って、どれだけ難易度高いんだ。
セーブとロードが使えないなんて。
次 「数学」 「遊園地」 「高校野球」
556 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/15(火) 23:08:50
557 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/16(水) 19:24:07
傲慢で粗暴な親父の平手を食らったあの夏の日からもう25年。
我が家は数十年の歴史を持つ野球家系だったらしい。
なんとかの星よろしく。徹底的な野球漬けの日々が幼い頃の俺には待っていた。
春の暖かな風を切り裂くようにバットを振り。
夏の暑い日にはスタミナをつける為に徹底的に走り込み。
秋の緩やかな空を背景に強烈なノックをし。
冬のは肩を壊さないように気をつける。
そこには娯楽など無く、旅行はおろか遊園地さえ二十歳を越えるまで行った事は無かった。
嫌気が差した俺は、17の夏野球を辞めた。平手を数発と怒声を少々、仕上げは勘当。
着の身着のまま親戚の家へと放り出されたおかげで野球とは縁を切った――
今年も例年通りの夏が来た。甲子園の夏。
あの親父は今では大好きな高校野球の監督だ。死ぬときはマウンドで死にたいらしい。
俺は数学の研究を生業にした。昔気質の根性論などクソ食らえだ。勿論、親父への中てつけでもある。
TVのスイッチを付けると洗い物もそこそこに妻が駆け寄ってくる。
途端、リビングのTV越しに硬球とバッドの弾ける気持ちの良い金属音が響いた。
放物線を描くように綺麗なアーチが球場外へと延びる。妻が両手に持ったエプロンを中空へと投げ出し歓喜した。
あの夏の日の親父の平手のような感覚がビリっと頬に走る。
悠々とベースを踏む息子を眺めていると、嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちだ。
相手のチームの監督の知った顔がチラリテレビに映った。ニヤリと笑った気がする。
どうやらもう暫らく我が家の野球戦争は続くらしい。
「銭」「電話」「飴」
なぁあんちゃん、世の中は銭や、ぜ〜んぶ銭でできよるんや。
せやさかい銭持っとらん奴はカス扱いされてもしゃあないやろ?
それが世の中の道理っちゅうもんや。
で、あんちゃんはカスなんか? 違うやろ。わかるで、うんわかる。
上等なおべべ着とるもんなぁ。ほらナイフで軽う撫でただけで柔らこう裂けよる。
わしのんなんかもうがびがびのがっちがちや。赤黒いシミもようけ取れんしな。
あ? 持ち合わせがないから親に電話させてくれって?
まぁええわ。そこの公衆電話からかけ。ほら10円くらいくれたったるわ。
一つ言うとくけどな、持ってこさせるんやない、お前の口座に振り込ますんやで。
あんちゃんは利口やからわかっとる思うけど、念のためな。
そうそう上出来や。それじゃ早速そこの機械で引き出してもらおか。
ああ、ほんまおおきに。これでようようDS Lite買えるわ。
何かあったら遠慮なく言うてき。力になったるさかい。ほな。
一気にまくし立て、お下げの少女は軽やかな足取りで駆け出した。
残された少年は、30分前から忘れていた口の中の飴をようやく思い出した。
「義理」「嘔吐」「敗色」
僕は布団にうつ伏せになりながら、先刻買って来た現代絵画集を開いた。
抽象画のページをぱらぱらと捲っているうちに目に留まったその絵は、
何か真っ白い画用紙に茶色い絵の具をぶちまけた様な――いや、絵の具というには余りにも汚い。
画材に何か混ぜているのか、目の粗い土のような滓がこびり付き、
その表面にはがびがびと乾いた何か粒の細かい穀物が付着している。
絵画の説明に目をやると次のようなことが記されていた。
「敗色」 喜志田 玉雄(1913〜1949)
晩年の喜志田が嘔吐した際、その吐瀉物を画用紙に擦り付けた彼の作品群の中でもとりわけ異質なもの。
喜志田は戦時中に兄・孝雄を失い、その妻フサ江も終戦後心身を病み後を追うように他界した。
喜志田自身も遊興と放蕩の末に自らの生の進路を断つことになる。
喜志田の死後発見された書簡には義理の姉フサ江への秘めた思いが綴られていたが、
この作品にその思いを託したかはあくまで閲覧者の想像に委ねる他はない。
561 :
560:2007/05/23(水) 01:48:54
忘れてた
次の方
「愛媛」「ドロップ」「だんだん畑」
562 :
「愛媛」「ドロップ」「だんだん畑」:2007/05/26(土) 23:53:35
だんだん畑のはたを登っていくと、愛媛みかんが植えられた斜面がある。僕は、
うちの庭のもみじよりも小さい、僕の手の半分よりも小さい、小さい小さい妹の
手を引いて、だんだん畑のはたを歩く。妹に合わせてゆっくり歩く。妹の小鹿の
靴が、歩くたびにクウクウと鳴く。これからみかんを採りに行くというのに、妹
が嬉しそうに、「ロロップ、ロロップ」と言って、ドロップが二・三個入ったク
マさんのポーチを振っている。「ドロップ好きか?」と聞くと、「あのね、おば
あちゃんがね……」と満面の笑みで説明してくれる。その、妹にドロップをくれ
た、風邪で寝込んでいるおばあちゃんの代わりに、僕はみかんを採りに行く。
そうこうするうちにみかん畑に着き、僕はみかんの収穫をした。妹は畑の隅に
テンと座って、土を熱心に掘っていた。
帰り道、妹にみかんを一つやった。
そうして、愛媛みかんにまみれた僕たちは、夕焼けでみかん色に染まっただん
だん畑のはたを、手を繋いでゆっくりと降りて行った。
次 「蛍」「露」「稲」
「蛍、みたことある?」
彼はいきなり、そんなことを言った。
何か裏に意図があるのか、と思いながらも僕にはそれが想像も出来ず、ただ素直に首を横に振った。
「ほら、ネットで見たんだけどさ、俺たちが昔通ってた小学校の近くに、けっこう良いスポットがあるらしいんだよ。」
行ってみないか、と彼は目を輝かせながら言った。
地図でよくよく確かめてみると、僕も何度も行ったことのある場所だった。
当時は良く、帰宅するとき道草を食いながら帰った。
「何年ぶりだろ。」
その晩。独り言を漏らしてから、僕は自分の案外と楽しんでいるのに気がついた。
一車線の小さな道の両側には、延々と田んぼがつづいている。
昔はそこに侵入して、稲を滅茶苦茶にして叱られたものだ。
そうしてずっと歩いてゆき、山へ入った。
街灯がないため、彼は懐中電灯を付けた。
「準備が良いね。」
僕は言った。こちらは全くの手ぶらだったのだ。
足首に背の高い草が触れる。露に濡れているのか、ひんやりと冷たい。
小川の匂いがする。たまに、友達をそこへ突き落としたりしたものだ。
そこから歩いてゆくと、すぐに目的地へ到着した。
その小川は、コンクリートですっかり舗装されてしまっていた。
僕と彼は肩を落とした。
ネットのページを帰ってからもう一度確かめると、更新日時は僅か半年前のものだった。
次、「ロケット」「電池」「ブリキ」
564 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/02(土) 21:37:32
「ブリキ」「ロケット」「電池」
ブリキのロンには、友達がいる。友達の名前はリン。「おはよう、リン。」
町を歩いていると、リンが走っているのが見えたので、声をかけた。
「お!おはよ、ロン。なぁ、今から皆で、探検しに行くんだ。ロンも行かない?」
リンは走っていた足を足踏みに変え、話しかけてくれた。
「行く!」
ロンは嬉しそうに答えた。そして二人は走っていった。
たどり着いたのは、大きな沼。沼の前には「立ち入り禁止」の看板がある。
リンとその友達逹は、ぎゃいぎゃい言いながら沼に入っていく。
ロンは沼の前に立ったまんまだった。
「ロン、この沼に恐竜がいるんだって!」
「恐竜?」
「そう、恐竜。一緒に探さない?」
「ちょっと僕は遠慮しとくよ、ごめんね。」
そっか、と言ってリンは仲間のとこに行った。
結局、夕方まで探しても恐竜は見つけることができなかった。
あ〜あと言いながら、皆家路に向かった。
「あ〜泥だらけだ。これ絶対起怒られるだろなー。」リンが自分の汚れた足を見て、つぶやいている。
僕は、汚れることもできない。
「なんで入んなかったの?」
リンがなんとなく聞いてくる。
565 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/02(土) 21:38:44
「僕の体、鉄板薄いから…。」
「あ〜、そっかー。誘っちゃってごめんね。」
リンは申し訳なさそうに言った。
「違うんだ!誘ってくれて、すごく嬉しいんだ。一緒に行こうって言ってくれなくなるのが、一番悲しいし。」
「なら、よかった。」
リンはケラケラ笑っている。
「リン逹は好きだね。」
「ん?」
「危険なとことか、怖いとこ。この前だって、幽霊でるんだー!って言って廃墟まで行ったじゃん。」
「あ〜、あれね。だって危険だとか怖いだとか言われると、恐ろしいんだけど、凄く見たくならない?」
相変わらずリンの笑顔は太陽みたいに暖かい。
僕が笑うと、ギコギコ鳴る。それが嫌だった。
「僕は臆病だからな〜」
とても弱い、いつ止まってしまうかわからない僕の体と心が怨めしい。
566 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/02(土) 21:41:11
「じゃあ、また今度ねー」「うん、バイバイ〜」
ある朝、リンは目の前の光景に呆然とした。
「なんで…なんでロン…」リンの頬に涙がつたった。
ロンの家に遊びに行ったリンは、ロンがいなかったので、辺りを探したのだ。
そして見つけたのは、前に一緒に行ったことのある、ロケット工場。
ロケット工場に行くには、川を渡らなければならなかった。
「ロケットいいよな〜、カメラ持ってくればよかった。」
「なんで?」
「いや、記念に撮っておきたかったなーと思って」
「そっか〜…」
あの時の、ロンのうつむき気味の顔を思い出す。
「僕があんなこと言わなければ…」
リンはその場にしゃがみこんだ。
そこには、倒れているロン。手にはカメラを持っている。
警官が来た。
「あ〜、可哀想に。電池が壊れてるわ。この型のブリキロボットは水に入ると壊れちゃうんだ。」
ロンが手に持っていたカメラには、しっかりとロボットがうつっていた。
無駄に長くてごめんorz
次のお題「髪の毛」「くまさん」「メガネ」
すいません、最後、ロボットじゃなくてロケットでした…or2
569 :
「髪の毛」「くまさん」「メガネ」:2007/06/05(火) 11:26:12
「パパー、くまさんから髪の毛ぇ…」
泣きそうになりながら訴える娘の声に、私は居間へ向かった。
見るとテーブルの上でお行儀よく座らされたテディベアの頭部から、たわしの様に何かが生えている。
バニラアイスの様な色の生地から作られた彼は、先日インターネットで私が購入したものだ。無名作家さんの作品ながら非常に丁寧なつくりが見て取れ、手の平の上で無垢に微笑む姿に娘も愛らしい笑みを返していた。
それが、今は。
テーブルに近づきメガネをかけ近くで確認すると、クマの頭部から生えているのはどうやら人毛らしいことがわかる。娘の言うとおり、まさしく髪の毛が生えてきたのだ。
…触るとチクチクする。剛毛だ。
娘が不安そうに、少し離れた位置から私とクマの様子を窺っている。
まさか髪の毛が生えるとは、迂闊であった。なんと説明すればよいのだろう。
髪の毛の伸びる人形の怪談も知らないというのに。剛毛の生えるテディベアもいるんだよ、なんて教えてしまったら人形の怪談話を怖がるという夏の楽しみの一つを奪ってしまいかねない。それは親としてあるまじき行為だ。
気付けばモミアゲまで生やしかけてきている彼とにらめっこしつつ、うまい説明を考える。
「ミサキ、これはね…」
「ただいまー」
妻の声。旅行から帰ってきたようだ。
「あ、ママ−!」
居間へ入るなり妻の視線はテーブルの上の剛毛ベアへ。
「何、それ?」
「くまさんからね、髪の毛が生えてきたのー…」
「……。あなた、また私のいない間に…」
「いや、今度はホラ、ワラとか木の人形じゃないから…」
「ワラや木じゃなくてもそのモミアゲで充分よ」
そう言い放った妻はテディベアをゴミ袋にいれ、その上から日本酒と粗塩を振り撒き袋の口をしっかり結ぶと
「これ、明日ちゃんと捨ててきてちょうだい」
私に突き出した。
「はい…」
オカルト趣味に馴染んでもらおうと、可愛い「のろいのテディベア」を選んだのだがまた失敗してしまった。髪の毛の生える「のろい」とは思わなかったのだ。
テディベアが根性で我が家に戻ってくる事を夢想し、妻の土産話と土産物を、それはそれで楽しむ事にした。
次は「手袋」「香水」「雨雲」でお願いします
それは、バイトが長引いた日の帰り道のこと。
いつもの道を歩いていると、前方から1人の女性が歩いてきた。
彼女は上から下まで真っ黒な服で、雨雲もないのに黒い傘を差している。
そう、黒い手袋に握られているそれは、日傘ではなかったのだ。
……何か、嫌な予感がした。
俺は来た道を引き返そうと彼女に背を向け……肩を掴まれた。
「あ、やっぱり守ちゃんじゃないのー!」
頭のてっぺんから出ているような甲高い声を浴びせられ、しぶしぶ振り返る俺。
「なんつー格好してんだよ……」
上から下までフリルだらけの真っ黒な服に、まるでノコギリのような装飾がゴテゴテとついた黒い雨傘。
「死獄幼女の澪ちゃんよ。 かわいいでしょー!」
そう言ってその場でくるりと回転する彼女。
強烈な香水の香りが、徹夜明けの俺の脳にトドメを刺した。
彼女は日高薫子2X歳。
正真正銘、血の繋がった俺の実姉である……
えー、わたしにホラーは書けませんでした。
次のお題「田舎」「月」「井戸」
571 :
570:2007/06/06(水) 01:31:57
って、一文抜けてる!
最後から四行目、「スカートとともに広がる強烈な香水の香りが」に置き換えて読んでください。
夏休み、恒例だった父の田舎への帰省。
当時は祖父母が住んでいた大きな屋敷を、小学生最後の夏休みだからというだけの理由であてもなく真夜中コッソリ抜け出した僕は、庭に白い人影を見つけた。
時間が時間だけに考えられる可能性はいずれも有り難くないものばかり。
小心者のクセにおとなしく寝ていないからだと罵る心臓を押さえつけながら、祖母の愛でるサボテンを避けつつそっと木の陰に隠れ、それでも低い位置から覗いてみた。
白い人は大して動いておらず、ぬるい空気の中近くの川から時折流れてくるひんやりとした空気に揺られる様に、井戸のぐるりをゆらゆらと周っていた。背すじがゾクリとした。
「月を飲みたい」
聞き間違いかと思ったが、声は間違いなく僕へ向けられていた。白い影が動きを止め、こちらを向いている。血の気が引き、一瞬目の前が真っ白になった。
「月を飲みたい」
激しくはねる心臓とは対照的に、静かに、全く同じ調子で繰り返される言葉。
「月を飲みたい」
かぼそい声だった。
何故だか急に居たたまれなくなってしまった僕は、木の陰から白い人の正面へ出てしまった。
空には月が皓々としていたのに、近くで見てもその人は輪郭意外はっきりしない。
今度は井戸を見ながら言った。「月を飲みたい」
月は天頂の辺りだ。もしかすると井戸の蓋を外せば月が水に映りこむのかもしれない。蓋に手をかけると、涼やかな甘い香りが周囲に満ちた。昼は日陰に避難させられていた無数のサボテンが、夜は今かと一斉に花開いたのだ。
井戸の蓋を完全にどけると、あたりに溢れる白いサボテンの花をより一層輝かせながら月は、深い穴の底でも輝いていた。
安心した僕は顔をあげ、横にいた白い人に声をかけようとしたが、その姿は無かった。
翌朝、「一部地域で皆既月食」というローカル新聞の記事を何やら熱心に読み耽る父を尻目に、庭の井戸へ向かった。
そこらじゅうの日陰からサボテンの花がこちらを覗く中、井戸の蓋を開けると中に一輪。真っ白な大輪のサボテンの花が月の様に、真っ黒な水に浮かんでいた。
次は「襲名」「ヘビ」「花盗人」でお願いします
573 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/06(水) 16:25:56
相変わらずツマンネーなここ
574 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/07(木) 01:02:16
お題がマニアックすぎるし、誰が書くか気になる…(´・ω・`)
書けない私は多分、確実に頭が悪い
575 :
「襲名」「ヘビ」「花盗人」:2007/06/09(土) 11:40:00
「襲名」「ヘビ」「花盗人」
30年ぶりに憧れの女のドアをたたく。男は年甲斐もなく震えていた。
最初に会った頃、彼はまだ少年だった。画家に憧れる名もなく貧しい少年だ。
時折、階上から響く彼女のピアノと歌だけが、彼の唯一の慰めだった。
「勉強家なのね。いつか、貴方の素敵な絵を見せてください」「…は、はいっ」
名画家となり、門の中から彼女を連れ去る事を、何度夢見た事だろう。
何の憂慮もない、劣等感のかけらもない、花盗人としての自分を。
しかし、彼女は堂々たる家業を襲名する継ぐであろう、大富豪の娘だ。
クリーム色の荘厳な門を前にすると、ヘビににらまれたネズミの様になる。
ノックできないまま30年が過ぎ…そして今、彼は粗末な薄いドアの前にいる。
昨日、彼女を見た。
屋敷もドレスも没収され、粗末な服に身をやつしてはいたが、瞳の色で判る。間違いなく彼女だ。
「今なら会える!」と、彼は決心した。なんだかすご卑屈だけど。
「そうさ、やっと地位を得た、胸を張って会えさ。そのために今まで、努力を重ねて政策を通してきたんだ。」
でも…
モジモジと珍しく目を落とし、こっそり深呼吸をする彼をみて、収容所長が小さく囁いた。
「大丈夫ですよ、総統」
※削った行数の方が多いなあw
次のお題は:「猿」「コンピューター」「納豆」でお願いします。
576 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/09(土) 13:30:56
文章作法くらい守れよw
「猿」「コンピューター」「納豆」
猿顔のコンピューターに納豆をぶちまけた時から全てが始まった。
思わず僕は叫んで、猿の額っぽい液晶画面の表面で糸を引いて転げ
落ちる納豆を一粒一粒取り除いていく。
飯を食いながらレポートの作成をしていた僕が悪いのだが。
「これは雨期か。ただの気まぐれな暴風雨か。私は濡れ飛ぶノイズを
前にして呆然としていた」
どうやら故障は免れたようで、僕は気を取り直して入力を続ける。
『これはウキィか。たんぼも木まくってボーナスステージだ。私は濡
れ手に粟のリスを数えて呆然としていた』
しかし、コンピューターに表示された文字は、僕の意図したもので
は絶対に有り得なかった。
「やっぱり故障したのか。時間が少ないのに」
僕は画面を見つめて途方に暮れた。
『あっぱれ遡上ショーのカジカ・スキャンライン』
音声入力をONにしたまま呟いたら、それがそのまま意味不明な誤変
換に変わってしまった。このソフトは調子が良い時の変換率99%以上
で誤変換は全くと言っていいほど起きないのに。
「困ったな。どうしよう」『小股な。ドリアン』
本格的に故障らしい。
『ていうか、君。コンピューターは計算機なんだぞ。君の脳みその補
助具。それに納豆ぶちまけるというのはいったいどういう了見してん
だ。納豆菌もツーツーだよ。あのねえ……』
故障じゃなくて、故意らしい。
「なんだよ。その投げやりな誤変換は?」
『まあ、なんだ。ついつい粘着質になっちまった。正直すまんかっ
た。ていうか、変換に専念させて』
次は「舟」「月」「番茶」で、お願いします。
路上で二人の男が言い争っていた。
「なんで番茶なんか買っちまったんですかアニキ! しかも1kg!」
「水は飲まねぇ主義なんだよ!」
「じゃあペットボトルの茶で充分じゃないですか!」
「茶葉から淹れる方が経済的なんだ! そんな事もわかんねぇのか!」
「だからって残りの有り金使い果たしちまったら、茶ぁ飲みきる前にオレら餓死ですよ! 『本国からの送金が遅れるから金はできるだけとっておけ』って、今朝オレに言ったのアニキですよ!?」
『返品』という言葉が浮かばず途方に暮れる二人の目の前に、まだ小学校入学前と思しき子供が一人歩いてきた。剥き出しのガマグチを手に持って。
互いに目配せをする男二人。
ひょろりとした男が子供に近づき、カタコトを強調した奇妙な発音で話し掛けた。
「チキュウ コニチハ。ワタシタチ ツキ カラキタ」
空には半分程の月。
「月にはウサギがいるんだよ。本で見たもん。おじさんたちじゃないよ」
「ぐっ…ワタシタチモ スンデイル」
「えっ、じゃあUFO乗ってきたの!?」
「乗ってきたのは舟だ! 手漕ぎモゴ……」
苦戦しそうな弟分を助けようと突然話に加わってきたアニキの口を抑えつつ、男は何とか言い繕った。
「フネノカタチ ノ ユーフォー! コ、コイデキタ!」
「ふ〜ん」
「ワタシタチ ツキ カエリタイ。デモ オカネナイ。オカネナイ チキュウノヒト ツキヘ カエシテ クレナイ。アナタ オカネ モッテル?」
少々強引に話を運び、男は地球人の慈悲を乞う様な瞳で子供を見た。正確には子供が持つガマグチを凝視した。
「マミちゃんのとこでお買い物する約束したんだけど……可哀想だからあげる」
子供は少し考えてから、ガマグチごと男に手渡した。
「アリガト! アリガト! チキュウ バンザイ!」
ガマグチを手にしたらもう用はないとばかりに手早く礼を言い、誰かに見咎められぬ内にと男二人はその場を急ぎ去った。
茶葉1kgとガマグチを手に、アジトであるところの狭い一室へ転がり込んだ二人は『ひゃくまんえんさつ』が6枚という大収穫に狂喜し、部屋にあった残りの食パンを全て平らげてから、うららかな陽気の中意気揚揚と、食料の買出しへと飛び出していった。
次は「ウサギの群れ」「王者」「封筒」でお願いします