この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連

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1名無し物書き@推敲中?
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。

お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。

前スレ:この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1064168742/
前々スレ:この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1058550412/-100

関連スレ
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第7巻◆
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1066477280/
この三語で書け! 即興文スレ 良作選
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
裏3語スレ より良き即興の為に 
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1035627627/
十人十色!3語で即興競作スレ
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1036437812/
2名無し物書き@推敲中?:03/11/16 14:57
パニクリュー
 |  |ノハヽ
 |  |。‘从 <http://nacci.mine.nu/angel/thum/angel9_0705.jpg
 |_と )
 |桃| ノ
 | ̄|
乙。
5名無し物書き@推敲中?:03/11/16 17:41
前スレ>>635より続き
「早朝・寝ぼけた・大失敗」

なんだろう…この感覚は。
早朝、俺は寝ぼけながら考えた。
夢の中なのか、それとも現実なのか。
長く続いた感覚…快感。まるで射精のような。
俺はふとパンツの中を弄った。滑り気のある液体状のものが手にこびり付く。
夢精――大失敗だ。俺は、こんなこと初めてだ。
雀の鳴き声で我に返る。早く処理しなくては……。

「相撲」「歴然」「皐月」で。
6踊るボボ人間:03/11/17 02:29
「相撲」「歴然」「皐月」
相撲部の隣に位置する、我が目指せプロレス部。だが今、存続の危機に陥って
いる。ことによっては、部員の半分が退学になるのかもしれないのだ。
マネージャの皐月が生徒手帳を手に、私の所へ怒鳴り込んだのが始まりだった。
「部長! こ、こっ、ここ見てください」と、蛍光ペンを引いたページを開く。
「にわとりのまねか?」と、私が茶化していうと、
「三歩、歩くと忘れる部長に言われたくありません! とにかくここ見て!」
思わず僕は、彼女を3カウントホールドしてしまうところだった。
【サングラスや眼帯、覆面で顔を隠すことを禁ずる。守れない場合は職員会議で
処分を決定する】と書いてある。目を疑った。なんだこれは、と皐月に詰めよる
が知らないわよの一点張りだ。こうなったら顧問に聞くしかない。後輩に呼ばせ、
問い詰めた。
「先生、なんですかこれは? 僕らはこれからどうすればいいんですか?」
「今まで何も言われなかったしぃ、このままでいいかなぁ、って」
ダメ顧問にラリアットをかましながら、今後の対策を考えた。他の部活との実績
は歴然とした差があるが、こちらには最後の手段がある。生徒会副会長を兼任す
る皐月に言った。
「生徒会議で全校生徒のハートを掴め! マイクパフォーマンスだ。女ラッシャー
木村になれ! お前にはそれができる!」

#18行。3行オーバーだけどご容赦。
「覆面」「顧問」「生徒会」
7上ミス:03/11/17 02:36
相撲部の隣に位置する、我が目指せプロレス部。だが今、存続の危機に陥って
いる。ことによっては、部員の半分が退学になるのかもしれないのだ。
マネージャの皐月が生徒手帳を手に、私の所へ怒鳴り込んだのが始まりだった。
「部長! こ、こっ、ここ見てください」と、蛍光ペンを引いたページを開く。
「にわとりのまねか?」と、私が茶化していうと、
「三歩、歩くと忘れる部長に言われたくありません! とにかくここ見て!」
思わず僕は、彼女を3カウントホールドしてしまうところだった。
【サングラスや眼帯、覆面で顔を隠すことを禁ずる。守れない場合は職員会議で
処分を決定する】と書いてある。目を疑った。なんだこれは、と皐月に詰めよる
が知らないわよの一点張りだ。こうなったら顧問に聞くしかない。後輩に呼ばせ、
問い詰めた。
「先生、なんですかこれは? 僕らはこれからどうすればいいんですか?」
「今まで何も言われなかったしぃ、このままでいいかなぁ、って」
ダメ顧問にラリアットをかましながら、今後の対策を考えた。他の部活との実績
は歴然とした差があるが、こちらには最後の手段がある。生徒会副会長を兼任す
る皐月に言った。
「生徒会議で全校生徒のハートを掴め! マイクパフォーマンスだ。女ラッシャー
木村になれ! お前にはそれができる!」
我がクラブは覆面レスラーがほとんどなのだ。理由は顔が悪(以下略)
8名無し物書き@推敲中?:03/11/17 02:55
ここは地下帝国である。以下、帝国地下高等学校で行われた会議の議事録。
生徒「先生、地上侵略部部長の地下沢です」
先生「どうぞ」
地下沢「はい、最近地上で仲睦まじいカップルばかりを狙う覆面の男どもが多数出現しています。そこで我ら地上侵略部としては
     この男どもを撃退するために地上外出をお許しいただきたいのですが」
生徒会長「君、それでは地上侵略部ではなく地球救済部に」
地下沢「黙れ死ね。もう顧問の地下村先生の許可は取っているんです。つーかむりくり獲りました」
生徒会長「君!! この僕に死ねなどと!」
地下沢「黙れ死ね。マントルに頭ぶつけて死ね」
先生「分かった許可する」
地下沢「わぁ!! 有難うございます先生!! それでは早速地上侵略部行ってまいります!」
英雄達は意気揚々と出発した。ドリル車を駆って地表を掘り進んでゆく。
ところがそれは地上にではなく地球の中央に向かって掘り進めていた。英雄達は外核の超高熱にやられて死んだ。
おまけにマシンは何故か溶けずに内核にぶつかった為、地球は滅亡した。

「曙」「夜明け」「銀杏」
後夜祭。校庭に募った生徒たちの情熱を受けて、キャンプファイヤーが校舎を照らす。
だが、ぼんやりとしたその光の中に、曙の如く確かな輝きを感じたであろう事に関しては、
僕も由利子も同じだったに違いない。由利子など、「日本の夜明けじゃ!」などと
坂本竜馬じみたことを口走って呆けている。なぜいい年の男女が馬鹿な醜態をさらしているかと言うと……
今年の文化祭で、僕たちのクラス、僕たちの展示したお化け屋敷が最優秀賞に選ばれたからなのである。
とりわけクラス委員長であった由利子と、副委員長であった僕の二人は、高校の文化祭程度に何を、
と言われるくらいに頑張った。その結果、紅葉も美しい銀杏並木の丘で、僕と由利子は二人だけで祝杯をあげていた。
「高校生がお酒なんていいの?」問うと、「何を今更。……いいの。今夜は嬉しいんだからさ」
そう言って由利子は僕の隣に腰を下ろす。それなりに酔っているようだった。顔が赤い。
ギンナンの臭いを死体の臭いに見立てた案は良かったねー、と言って、リキュール缶を呷る由利子。……確かに。
最初は驚いたが、今思えばそんな奇妙なリアルさが、変なものを好む審査会に受けたんだと思う。ちなみに僕の案である。
僕はいつだって、由利子の馬鹿な案に乗って、それを手伝っていただけ。それが二人の関係だった。
「来年も一緒のクラスだったらさ」唐突に、「今度はもっと、凄いことやろうね」振り向いて、由利子が言った。
当然だろと言わんばかりに僕は頷いて、いつものように「……案はあるの?」と言った。
由利子も悪巧みをする時の、会心の笑顔で頷いた。


お題「紳士」「玩具」「呪文」
109:03/11/17 14:22
一行あいてしまった……
本当は十五行だったんですけど。
長さ的に十六行に見える行があるかも知れませんが、看過願います。
11「紳士」「玩具」「呪文」:03/11/18 01:42
仕事が終わって電車に乗ると、目の前の席がぽっかりと空いた。
満員電車でこういうタイミングは滅多にない。
俺はラッキーなこともあるもんだと、その席に座って、文庫本を読もうとした。
俺が隣の老紳士に話しかけられたのは、その時だった。
「息子がね、好きだったんですよ」
俺の隣に座っていた老紳士はそう言うとポケットの中から古ぼけた玩具を取り出した。
別に価値のあるものでもない。俺が子供の頃はやった特撮戦隊ものの人形だ。
電車に乗っていて、隣の人に話かけられる程面喰うことはない。俺は老人と恐る恐る目を合わせた。
「息子がね、好きだったんですよ」
老人は呪文のように繰り返した。
「そうですか。いや懐かしいな。私も昔、これが好きだったんですよ」
老人はにっこりと微笑んだ。
俺は対応を間違えずにすんだことにほっとした。例えこの老人の中だけのルールであっても、だ。
「息子がね、好きでね。いくつも買わされたもんです。私の目にはどう見ても同じに見えるんだが、”違う”といってね」
「そういうもんですよ。ガキの頃は何が何マンでと言えたんですがね……息子さんは私と同い年ぐらいなんですか?」
「ああ。もういませんよ。私が殺したんです」
俺は笑顔を凍りつかせた。
「どうしようも子でね。30過ぎても定職にも就かなくて、ずっと私の脛をかじってね。私も今年定年なんですよ」
俺は唾を飲み込んだ。
「だから、殺したんですか?」
「ええ。働くのはどうしても嫌だというものですから。バットでこう、20回ぐらい殴ってやっといってくれました」
おかげで筋肉痛ですよ、というように、老人は手を振った。
「それでね、その子の引き出しを漁ると、これが出てきたんですよ。ああ、好きだったな、とね。懐かくてね」
老人はその人形を、我が子のように撫で回した。

次は「席」「トレーニング」「券」で。
 ブイーン―――ブイーン―――
 凄い音がしている。緊急を知らせるベルだ。しかし私は動かない。何事にも
動じない性格だから、というのではない。今はビジネスクラスの一席に身を置いて
いて、動くに動けないからである。
 思えば手続きで搭乗券を機械に通した時に、気付くべきだった。翼が折れて
いることに。なんで誰も気付かなかったのか不思議でならない。管制室も止めろよな。
 ブイーン―――ブイーン―――
 止まない。大体鳴っていてもしょうがない。飛行機は飛ぶものだから、飛んだ
後から鳴らしても乗っている人には迷惑なだけだ。第一、非常識だよ。鳴らすなんて。
一度パイロットはこの阿鼻叫喚の地獄絵図を見るべきだね。見に来たら困るけど。
 ブイーン―――ブイーン―――
 飛び降りることになった。翼の折れたのが飛ぶ(さらにそれから落ちる)のもだけど、
本当に非常識だな。パラシュートがあるからって言っても、もう乗ってやんない。
すっと、雲の上から身を投げる。ざーっと空気が私の体にぶち当たる。
 あ、スカイダイビングのトレーニングをしておけば良かった。どれがその紐だろう。

次「登る」「海面」「お金」
湾岸線を時速300kmオーバーで走っていくスカイライン。
オービス?関係ない…。うそぶく咥え煙草の男がハンドルを握っていた。
大黒ふ頭に車を止めて男は真夜中の東京湾を眺めている。揺れる海面。トランクの荷物のことを考えていた。
ここにはきっと何でも沈んでいるんだろう、そう思った。これから自分も…。
トランクを開けて荷物、否、半死体を降ろした。ガムテープと身体を縛り付ける幾重の縄を取った。
横たわり口で大きく息をする半死体の男。見下ろす男は言った。
「誰かが沈めば、それで済む。お前ではなくて俺が沈めばいい」
もう疲れたんだ。
大きく息をしながら半死体はかすれた声を出した。
「……お金が…目的…だった…んじゃ……ないんです…か」
別に、と答えかけて何故自分が拷問を受けていたこの男を連れ出したのか考えていた。

衝動的に路地裏の雑踏に隠れたビルの階段を登り、3階のドアを開けた。
囲んでいたチンピラとヤクザを殴り倒し、不意をついて拷問されていた男を連れ出した。
「口を割ったわけではないんだな?」と確認し、その男をトランクに乗せた。



次は「ラッシュ」「体裁」「直感」でお願いします。


14名無し物書き@推敲中?:03/11/19 02:28
何を隠そう、私は魔法使いだ。
とはいっても一応社会的体裁もあるので、人間界に来てからはフツーのOLとして都内の商社に勤めている。
え? ホウキには乗れるのかって?
あたぼうよ! 
十年来使ってきたMYホウキで毎晩夜空を駈け巡りたい…ものの、そんなことをしたらワイドショーのいいネタになってしまうので、ここ最近は控えている。
なんだか控えてばかりだな…私。
そうそう、今日朝いいことがあった!
いつもどおり超ラッシュの凄い東急線に乗り込んだんだけど、(そう、やはり通勤もホウキでは出来ないんだよね)、私の目の前に座ってた二十後半くらいの爽やか系のビジネスマン!
あの人、絶対魔法使いだ。
私の魔女としての直感がそういっている。
うふふ、明日絶対声かけちゃお。折角あんなカッコイイ人と共通項があるんだもの。
「やっぱりホウキ通勤は出来ませんよね…」って。キャッ!

次のお題は「自意識」「消滅」「恍惚」でお願いします。
「自意識」「消滅」「恍惚」

気がつくと、ワタルは花畑に倒れていた。白いひな菊の鼻に鼻腔をくすぐられ
「はくしょんっ」とくしゃみが出る。花粉症もちのワタルには花畑でぼやぼやして
いるのは危険だ。おばあちゃんがよく心配して「ブタ草病にははちみつがいいよ」と
言っていたが、そのおばあちゃんはもう居ない。鍵っ子のワタルが唯一心を預けられたのは
おばあちゃんだけだ。両親は心よりも物質に価値を置いていて、目に見えない心には
「気のせいでしょ」「自意識過剰だな」という言葉しか投げてくれなかった。
おばあちゃんに会いたくなって、トラックをヒッチハイクして山奥の老人ホームに向かったけれど
途中からワタルの記憶は消滅している。「ここ、どこだ?」周りには白いひな菊が
延々と咲いている。立ち上がって歩き出すと「ワタルちゃんかい?」と声がする。
「おばあちゃん?!」ワタルは叫ぶ。大きな垂れ幕を持っておばあちゃんが立っていた。
「歓迎 第23589代子孫 ワタル君」おばあちゃんの後ろには沢山の人が立っている。
「よくきたなあ」「がんばったねえ」写真で見ただけのおじいちゃんもいる。
ワタルは恍惚とした表情で人々の方へ歩き出した。天国の花畑に白いひな菊が一本ふえた。

**次は「廃品」「おもちゃ」「心臓」でお願い致します。
16「廃品」「おもちゃ」「心臓」:03/11/20 01:06
恭弥の自宅のリモコンはよだれでベタベタする。息子の弥久郎のせいだった。
「やっくん、本当にリモコンが好きなのよ」
妻の明美は微笑みながらそういうと、リモコンをラップでぐるぐる巻きにした。
「だからってリモコンはおもちゃじゃないだろ。壊れたらどうすんだよ。リモコンだけ廃品に出すのか」
「だからこうやって包んでるんでしょ! でもラップは嫌いみたいなのよ。プラスチックの舌ざわりがいいみたい」
「いいみたいじゃねえよ。よだれでベタベタのリモコンなんて気持ち悪くて触れないだろ」
明美はむっとした顔で恭弥を睨んだ。
「ふうん。気持ち悪いんだ。キスしたとき自分の唾もあたしの唾も飲み込めてどうしてやっくんのよだれは気持ち悪いわけ?」
「おまえ……違うだろ、それとこれとは」
「どう違うのよ。キョウくん最近あたしのこと全然わかってくれない」
「だから」
弥久郎が生まれてから言い争うことが多くなったな、と恭弥は思う。
「お、俺は、弥久郎と違ってリモコン舐めたりしないぞ」
「ぷっ……あははっ」
突然笑い出した明美に、恭弥はきょとんとした。
「キョウくんって可愛いよ。大丈夫。あたしはキョウくんもやっくんも大好きだから」
明美はご機嫌な様子で恭弥の頭を撫でた。
「そ、そう?」
恭弥は何がなんだか解らないまま、ほっとして明美にしがみついた。

次は「取手」「デパート」「私鉄」で
17うはう ◆8eErA24CiY :03/11/20 02:14
「取手」「デパート」「私鉄」

 古い箪笥の取手を引くと、冒険の書物がでてきた。
 中堅の私鉄で切符を切るだけの人生を送った祖父に、こんな趣味が!?
 擦り切れた冒険の地図が、彼を天空の世界へと誘う。
 私鉄マンとは大違いだ。彼は早速旅立った。

 書にはこうあった。<天空に達するには巨大鳥を友とせねばならぬ>
 彼はあちこち聞きまわり、巨大鳥を知る老人の家をつきとめた。
 老人は言った「山の頂にある「万年香」を持ってくれば教えても良いぞ」と。

 ・・・とても険しい山だ。
 一人の子供はこう言った「シェルパのパルシェ姉さんなら道を知ってるよ」
 しかし彼女は瀕死の病だった、病を治すには川底に光る「鮎の黄金」が必要だ。
 そして彼は驚愕の事実を知った。「鮎の黄金を探すには、月の磁石が必要だ!」

 手段のための手段。そのための手段のための、環境作りのための手段の・・・
  
 で、10年後ふと遭った時、彼は「水産物特売会」の責任者をやっていた。
 「「新月の雫」を買うのに1万ゴールドいるからね・・・」
 そう言って彼は、疲れた足を引きずり、私鉄デパートの売場に戻っていった。

※なんか・・・妙に重い(^^;
次のお題は:「雪」「灯篭」「大根」でお願いしまふ。
少し早い寒波で、やたらと星が綺麗に見える夜に、二人は神社に来ていた。
別にお参りをするわけではない、単に人気のないところで二人きりになりたいという少年の下心。
経験値が少ない故の焦りなのだろうか。年上の女はそれを可愛らしいと思っていた。
(普段はませたこと言ってるのに)
手をつないで石畳を歩く。彼女の背は少年よりも10センチは高く、彼の鼻を長い髪が時折くすぐっていた。
少年にとっての冬の匂いが刻み込まれていく。「石灯篭ってなんか禍々しいなあ」と、少年がつぶやいた。

境内の階段に腰を下ろして二人は寄り添った。耐え難い無言の間と、押さえつけようとする衝動。
くちづけようとする彼の唇を、彼女は人差し指で押さえた。「家においで…。ごはん食べよう。お腹…空いたでしょ?」

箸で器用に骨を取りながら秋刀魚を食べる少年を彼女は眺めていた。
いくら大人びてると言っても、大根おろしが雪みたい、なんて言えるほどの趣がある人間ではない。
そこまで老成した、あるいは気取った少年は気味が悪い。大根おろしは醤油の色に染まっていた。

茶碗に残った最後の一粒を口に入れ、彼は箸を置いた。食べながら考えていた。軽い動悸。
「今日は泊まっていってもいいんだよね?」彼は努めて冷静を装って言った。
「だめよ、遅くなるけど帰ってくるもの」彼女は微笑みながら言った。
お題忘れてた。
次は「嘘」「大袈裟」「紛らわしい」でお願いします。
「嘘」「大袈裟」「紛らわしい」

そろそろ寝るかと思いつつ、ベッドの上からテレビを眺めている。
丁度今の時間帯は深夜の通販番組だ。
いつも思うんだが、この手合いの商品は、実に胡散臭い。
そんなことを考えていたとき、ベルが鳴った。
こんな深夜に誰だ?テレビの音量は絞ってあるはずだ。
再び、ベルが鳴る。今度は連打。うっとうしい。
ベッドから降りてドアの覗きレンズから向こうを眺めると、黒服の男が見える。
俺はチェーンを掛けてからドアを開けた。すると男はその隙間に足を突っ込んだ。
「おい貴様、昨日の5時12分、会議で『15%の売り上げを達成出来ます』と言ったな?」
「はぁ?」
ドアの向こうにはもう一人黒服の男がいた。手にはディスク・グラインダー。
そのもう一人はグラインダーを始動、それをチェーンに押し当てた。
飛び散る火花も、俺の頭も真っ白。なんなんだよこいつら!
「誇大表現禁止法違反、貴様を逮捕する!」
そのときTVに映ったCMは、「『嘘、大袈裟、紛らわしい』、これらは処罰の対象です」。

次は「電信」「電話」「電報」
みんなでペットオフをしようよ!
http://jbbs.shitaraba.com/sports/8057/
「電信」「電話」「電報」
時代という時代には、それぞれ異なった風潮がある。
しかし、歴史は繰り返すと言われるように、実はその風潮も繰り返すことがある。
では、何故繰り返すのか? それは人の思考や判断にはあるパターンが在るからである。
脂っこいものを食べつづけた後、あっさりとしたものを欲するように、丸いものを見つづ
けた後、四角いものに新鮮さを感じるように、だ。
だが、同じことを繰り返しているだけでは、先には進めない。
新しい何かを生み出し、また、常にその新しいものに順応してゆく柔軟さがなければ、
進む先にはきっと袋小路が待っていることだろう。
さて、先日こんな事件があった。
電話で「俺だよ、俺……」と言って、お年寄りを騙そうとする輩がでたのだ。
確かに、半世紀も前なら、それで騙される人も居たかも知れない。
しかし、時代は進んだのだ。立体電信電話の時代は終焉を告げ、今は量子転送電話の時代
なのだ。常時量子波リンクの時代なのだ。
いくら何でも……。もう、苦笑するほか仕方がない。
20世紀頃で言う……、ああ、そうだ。電報、こんな電報を送っているようなものだ。
「オレハ ・・・」
いや、これ以上はやめておこう。
この話についてこれない香具師に、何を言っても無駄なのだから……。

次は「実在」「空想」「価値」でお願いします。
23名無し物書き@推敲中?:03/11/20 23:03
「実在」「空想」「価値」

「莫迦な!神が、貴様と結託しているだと!?ふざけた事を言うな!」
 暗黒神アウグスはその言葉を聞き、哄笑した。
「ふはははは……っ!これはお笑いだな。貴様は本当に『全知全能の神』が実在するとでも思っているのかね?
敢えて言わせて貰おう。それは権威に縋りたい貴様等が勝手に想像し、神格化したものに過ぎぬよ!
なあ、考えてみるが良い。本当に神が、
『貴様等が空想、あるいは妄想する所の全知全能の神』とやらが存在するのなら、
何故、儂という存在は直ちに抹殺されないのであろうな?
そもそも、『闇』などという『悪』は存在すらしないものなのではないのかね?それが、何故あるのか?」
「……」
 グレースが答えられないのを見て、暗黒神はニタリと嗤った。
「簡単な事だ。そんな都合の良い神などそもそも存在しないからさ。
神という存在が、実際的には何ら価値が無いからだよ。
そもそも、永久の平和とは何だ?聞こえは良いだろう。
しかし、一切の悪を認めない光の平和に馴染めぬ者もまた存在するのだ。
例えば、諜報軍長官リュクルゴン。
過去の技術偏重主義への絶望を引きずったまま死んだ哀れなる男。
魔物になりきれなかった人間かぶれの魔物。
『全知全能の神』がましますのであれば、こんな輩は出て来ないであろうが。
創造を生み出すのは、悪平等の平和では無い。熾烈な、時には殺し合いにさえなる、妬みだよ!
悪の心こそが、逆説的ではあるが創造を生むのだ。貴様等の如き青臭い者に、その真理はわかるまいな」
次は、「戦慄」「連絡」「灰燼」でどうぞ。
「戦慄」「連絡」「灰燼」


戦慄が走る、とはこの様な物なのだろうか。
背中にはシャツがじっとりと張り付き、手のひらはいやに粘ついている。
けれど体は少しも温かくない。寧ろ、冷凍庫に放り込まれたような具合だ。
向こうで七三髪の連中が、機関銃の様に声を発している。
電話で本社に連絡を取ってるのか、携帯を耳に押し当てている奴も見える。
「ハゲタカ、夷狄、毛党共!ゴミ野郎!」
「何もかもぶっつぶしたいのか?灰燼に帰す、ってか!?」
そんな怒声があちこちから聞こえた。
二週間連続のストップ安、日経株価平均は一気に6000円台まで突入。
口の中はからからで、ひりつく。妙に酸っぱい味がする。
こりゃ外人だの、投機筋だのの売り方じゃない、ヤケクソの売り――銀行、いや、政府機関?
ズボンの尻ポケットに突っ込んだ携帯が震えだす。
携帯を引っこ抜いて、通話ボタンを押した。
「おい、賢治、こりゃ誰だ?誰の嫌がらせだ?なぁおい?」
スピーカーからは涙声、しゃくりあげながらの声が聞こえてきた。



次は「株式」「ヘラクレス」「核ミサイル」
所謂インサイダー情報というやつを友人の株屋から聞いた。でもガセだったらしい。
今度はウォール街に核ミサイルが落ちました、なんてわけでもないのに。
何なんだ、この大暴落は!雑踏から眺める電光掲示板のニュース。涙目なんだろう、滲んで見える。
−今日も東京株式市場は全面安の展開で、ストップ安の銘柄が続出し…
携帯をポケットから取り出す。あいつにに電話しよう。どういうことなんだ!まだ下がってるじゃないか!
「おい、賢治、こりゃ誰だ?誰の嫌がらせだ?なぁおい?」
「俺にもわからないよ…すまない。ただ、もう売りのタイミングは逃してる。だから…」
「だからって指くわえて見てろって言うのかよ!もしかして…お前も一枚噛んでるのか!?」
「こんな恐慌が起こるようなやばい仕掛けができるかよ、日本経済を支えるヘラクレスなんて器じゃねえよ」
僕は苛立っていた。電話口の向こうから聞こえる怒声の中で、賢治は苦笑いしている気がした。
「相場は下がる、誰かが儲かってるんだ。疑いたくもなるだろう!」
僕は歩道の植え込みに座って俯きながら、タバコに火を点けた。空売り、頭の中に浮かんだ逆転の一手。
だが、今まで出した損で元手がもうない。まだはもう、もうはまだなり、格言。頭の中は錯綜している。
「…僕はどうすればいい?」
「すまない、俺にもわからない…とにかく慌てて動くわけにはいかないだろう?」



次は「投資家」「仕手」「信用買い」でお願いします。
「投資家」「仕手」「信用買い」



「――まぁ、そういうものなんです。仕手が手持ちの資金を超える……」
 狐に摘まれたというか、人智の理解を超えた世界なのだ、
投資家の世界は。
 彼はそう思わずにはいられなかった。
「――それが信用買いと申しまして……」
 彼の目の前にはグレーの、滑らかそうな背広を纏った男。けれども顔
つきは服に似つかわしくなく、相手を小ばかにしたようににやついている。
神経質な傾向の表れか、背広が何度も何度も手を組みかえるその仕草が、
彼にはひどく鬱陶しかった。
「まぁ、一度、ご自分で勉強なさることをお勧めしますよ」
 グレーの背広の彼の口調は、勝ち誇ったような、小ばかにしたような響きであった。

 ○○証券と書かれた石盤、聳え立つビル。
 くたびれた紺の背広を纏い、顔も同じくくたびれた皺の彼は
「ゴミ屑どもめ」と呟きながらビルを背にして歩み始めた。


次は「お姉ちゃん」「風呂」「侵入」
後、>>24は俺だが>>25は別人氏による。


夜更けに絹を引き裂くような叫び声が響き渡った。
絹を引き裂くとこんな音が出るの?、とその声を聞きながらぼんやりと思った。
ふと、気が付くと階下が騒がしい。なんだろう?
読みかけの本を脇に置いて様子を見に行く。
玄関に顔見知りのお巡りさんが居た。
パパとの会話を聞くとお姉ちゃんが風呂の窓に怪しい人影を見たらしい。
…なんだ。只の覗きか。本の続きを読むため部屋に帰る。
あれ?風呂を覗いた…?うちの風呂場の裏手は…確か……。
じゃあ侵入者は……。そう考えた所で私の意識は途切れた。


次は「放課後」「図書室」「教師」
母校が取り壊されると言う情報を聞いたので、取り急ぎ地元に帰った。
まだ手はつけられていないらしく、校庭には解体屋と思われる人々が幾人かと、
同級生の数もちらほらとみかける、恐らくはこの学校を母校としたであろう人々。
挨拶もそこそこに、僕は人目を忍んで裏手の窓から入り込む。
広く感じた廊下は既になく、自らの成長をまざまざと感じさせた。
……僕は放課後、図書室にこもって本を読んでいるようなタイプだった。教師達は皆
僕に「外で遊べ」だの「皆との交流を大切にしろ」などと言う。
そんな中で、一人だけ僕を理解し、僕に微笑みかけてくれた司書の先生がいた……
その人のお陰で、僕は今の仕事に就いているのだ。その人は、もういない。
懐かしい。木で造られた廊下を歩けば、かつての思い出が甦る。この廊下の続く先は
目指す図書室。中に入ってみれば、あれだけあった本はもう、無かった。
机に独り座り、腰のポケットから文庫本を取り出した。当時よく読んでいた小説は、
卒業した今になっても本棚に全巻揃っている。……勿論、学校から持っていってしまった
分もあるのだけれど。今日、持ってきたのはその、学校名が捺された本を返す為。
今は誰もいないカウンターに本を置き。長らく借りていましたと呟いて、僕は廊下に出た。

お題
「美少年」「病院」「ティーポット」
「美少年」「病院」「ティーポット」

「大きくなったらすごいハンサムになるんじゃない?」「うわー、美少年だねえ」
お菓子のひよこをくれたお姉さんたちは、赤くなる僕を囲んではやし立てる。
 小児病棟のプレイルームには、毎月、高校生のお姉さんたちのボランティアが
来てくれるのだ。僕の隣でハーブティを煎れていたママは、寂しそうに目を
伏せた。ガラスのティポットの中からいいにおいの湯気が上がっている。
「大きくなったら何になりたい?」「うーん……お医者さんかな?」
 僕は生まれてからのほとんどの時間を病院で過ごしている。医者が一番、身近だった。
 高校生のお姉さんは「えらいねー」と言って僕の頭を撫でた。何も知らない新一年生の
ボランティアだからまあ、しょうがないか。僕は多分、高校生になるまで生きていられないのだ。
 短い時間を惜しむように、僕は大人の知識を吸収している。もう、あらゆる病気に関する
文献や英語の論文はほとんど読んでしまった。「天才に生まれた恍惚と不安……」
 僕がそうつぶやくと、お姉さんは不思議な顔をした。僕は研修医に頼まれた小児学会用の
論文の翻訳を、ハーブティを片手に黙々とはじめた。もう周りの嬌声は聞こえなかった。

次は「送別」「声」「夜道」でお願いします。



30「送別」「声」「夜道」:03/11/21 14:14
 瀬田さんの送別会の帰り、少し飲み足りない私は
ガード横にあるラーメン屋に立ち寄った。やきそばと紹興酒の燗を
注文してから、ハイライトに火をつけ、ぼんやりと吸いながら
瀬田さんのことを思った。これでおそらく会うこともないだろう。
 別れ際みんなにぺこぺこと何度も頭を下げていた人のよい彼の
の姿を思い出す。
「瀬田さん、お元気で。お世話になりました。」
私の平凡な挨拶に、「佐久間さんもお元気で。福島のほうに来ること
があったら必ず連絡くださいよ。案内しますから。」と彼はあかるい声
で答えたが本心はどういうものだったか。油っこいやきそばを紹興酒
で片付けながら、もう少し何か言ってあげられればなあと思った。
どうも私にはそういう後悔が多い。
 終電で駅に着いた。自宅までの夜道は心が休まる静かな道だ。以前は
商店街のはずれに「小雨」という随分と古風な名の飲み屋があったが
今はもうない。これ以上の寄り道は要らない。帰って眠ってしまう
のがいいのだ。

次は、「豆腐」「物理」「露天風呂」で。
31「豆腐」「物理」「露天風呂」:03/11/21 21:07
 露天風呂の中に浮かぶ紅葉の落ち葉をつまみ上げると
可笑しくも無いのに笑みが口元に浮かぶのを感じた。
「伝説の豆腐……」
意識せずに声を出したことに驚きながら風呂から上がった。
 事の始まりは友人が紹介した豆腐の話だった。
物理学に熱を入れすぎて、家庭も生活も顧みない私を心配した
友人が紹介した話だ。人生を変えるほどに衝撃的な豆腐だという話だった。
つまりは人生を見直せと言う彼の一流の嫌味なんだろう。
 部屋に戻ると夕食の支度がすっかり済んでいた。
なんの変哲もない温泉地の料理と言った風情の夕食だったが
中心に据えられた豆腐は確かに不思議な存在感を放っていた。
箸を割って問題の豆腐を口に運んだ。
 始めに思ったことは後悔。この豆腐を知らなかった事への後悔。
次に気づいたことは涙を流している自分の存在。確かに人生を変えうる味だと思えた。
 結局、豆腐は私の人生を大きく変えた。研究対象が「豆腐」になるほどに。

次の三語は「バレー」「電話」「箒」でお願いします。
 バレーさんが箒さんに電話を掛けました

 阿呆かおまえ。
 じゃ、こういうのは?
『ママ、明日のバレー、中止だって電話があったよ』
 庭先で箒を掛けている母へ、廊下から大声で言う。
 
 五行から十五行って書いてあるだろ。そもそもこれじゃあ、話にもなってない。国語の試験じゃないんだからさ、展開を作って、語を修飾して、意図を含ませて、・・・・・・他にも色々さ、文学っぽい事を
 それじゃあさっさと書けばいいじゃん。やる事分かってんでしょ?そういう風に言うんだからさぁ、ほら。


次の三語 「競売」「対人地雷」「非ユークリッド幾何学」で御願いします
3332:03/11/21 22:33
すみません。二行抜けてました

>て、いうのはどうかな?
>がいしゅつでしょ。
34「バレー」「電話」「箒」:03/11/22 00:25
「わたしのあだ名、『箒』っていうんです。」山田さんは、ぽそりと言った。
「ほうき。」私はそのあとの言葉をとりあえず呑んだ。
山田さんは長身だ。図抜けて背が高い。バレーボールとかバスケとか
そういうスポーツの選手ぐらいはあるだろう。私はいくぶん圧倒されながらも、
「どうして箒なんです。」と聞いた。箒の柄のように背が長い(=高い)
という答えを予期していた私だったが、
「わたしの身長に合う箒がないって、クラスの子たちがからかったんですよ。
わたしが柄の長い箒を持っても、箒が短く見えるって。」と言って、低めの声で
くすくす笑った。白い七部袖のブラウス、裾の短いカーキ色のパンツ、
靴はコンバースのスニーカー。使い古した革のリュックを
背負っている山田さんを前に、私は上手く言葉が継げずにいるが、
しばらく成り行き任せたくなっている。
「電話でお話したときの印象と違ってびっくりしているのでしょうね。」
それはお互い様でしょう。そのまずい言葉も呑んでおいた。

次は、「バッタ」「居間」「教官」でお願いします。
35バッタ 居間 教官:03/11/22 01:28
「教官!」
 私は滂沱と涙を流しながら叫んだ。
「私はドジでのろまなカメです!もっと私をしごいてください!」
「よくぞ言った、松本っ!」
 教官も両の瞳から涙を滝のようにあふれさせていた。
「今日も特訓だ!」
「はいっ!」
 居間の中心に据えられたちゃぶ台。私はその前に、コメツキバッタのように
這いつくばった。
「そうだ松本。お前の武器は、その強靭な背筋だ。その瞬発力をもってすれば、
できないことなど無い!」
「はいっ!こんな飯がぁ〜〜……」
『食えるかぁ〜〜っ!!』
 私は教官と心をひとつにし、無心になって腕を振った。中を舞うちゃぶ台。
「教官っ!!」
 私は涙を振り撒くように流しながら叫んだ。
「私、わたしっ、できましたっ!!」

 次のお題は「再版」「土管」「ビーム」で。
「ママー、ママー!」泣き叫んだ。やだよ やだよ やだよ やだよ。「やだよ!ママー」
「大声出すな」小さな声。怖い声。鬼のような顔。手を大きく振りかぶる。
「嫌ぁ!」叫んだ。手をふりほどいた。部屋の隅に走って、頭を抱えて丸くなる。
「悪い事したのに、なんで逃げる?」覆い被さるように声がかかった。静かな声。でも、ものすごく
怒っている声だ。本当は大声で怒鳴りたいのに、近所に聞こえないようにしているだけだ。
「なんでこの子は、騒ぐの?」ママの、声。とても落ち着いた声。「パパにちゃんと謝りなさい」
「マァマ!マァマ!マァマ!」僕は狂ったように叫ぶ。こんなのパパじゃない。突然やってきて、
急に優しくなったり怒ったり、全然わかんないよ。もうやだよ。ママ、元に戻って、助けて!
「馬鹿っ!黙れ!」小さな鋭い声。居間に引きずり込まれた。「おとなしくしてればいい気に
なりやがって。てめえ何様だよ。誰に食わしてもらってるんだ!」小さな声の質はがらりと変わって
いた。声は呪文の詠唱のように低く響き、何発目か頬に張られた後、僕は後ろに吹っ飛んだ。真正面
から顔を蹴られた。世界が暗転した。頭が痛い。胸が苦しい。死ぬ、死んじゃう。やだ!やだよぅ!
……気がつけば居間は血の海。立っているのは私一人。倒れているのは、妻と、男。たしか、テニス
の教官とか。えらそうな奴だった。浮気の現場に出くわし、問いつめたのは私なのに、落ち着き払っ
ていて、いつの間にかに精神的な優位に立たれた。脅され、恐怖で米つきバッタのように土下座させ
られて、私は……何をした?何を考えていた?何を思い出した?
ああ、俺は、馬鹿な男だけでなく、母もまた、許せていなかったのだな。胸が、痛い。
3736:03/11/22 02:17
ごめんなさい。重なっちゃいました。
お題は >35様ので
「競売」「対人地雷」「非ユークリッド幾何学」

>>29
短い文章で、なかなか読ませてくれる。
天才には天才の悩みがある。その通りだ。
凡才の漏れに凡才の悩みがあるように、それは無差別に平等なのだ。
対人地雷が、敵味方関係なく動作するように、平等など、求めなくとも既に平等なのだ。
凡才に生まれたものが、何故自分は天才に生まれなかったのかと悩むように、天才は、
何故自分は凡才に生まれなかったのかと悩む。
そして、凡才は凡才なりの答えに辿り着き、天才は天才の答えに辿り着く。
悲劇は、その出した答えが違うのに、同じ世界に生きていることだ。
いや、悲劇とは限らない。違う価値観で同じ世界に生きているかこそ競売だって成り立つ
し、社会も発展する。それが多様性というものなのだ。
ロバチェフスキーやボヤイといった、非ユークリッド幾何学を発展させる親となった天才
たちの誕生も、大きな目で見れば必然であって、そして、その二人の出現も、ユークリッ
ド幾何学を日常とする「世界」の中に含まれているのだ。天才も、凡才も、それら全部を含
めて、「普通」なのである。
これが、多様性という名の、必然性という名の、現実という名の、儚い幻である。

>>32のサルベージにつきお題継続。
>>38
×生きているかこそ
○生きているからこそ
「再販」「土管」「ビーム」

 僕は大学生になった。彼がいなくなってから、六年以上経った事になる。
 専攻は物理学。落ちこぼれだった僕は、中学から必死に勉強し、東大に受かった。
 ここでは、ビーム(国際レコード著作権協会事務局ではない)加速器の研究をしている。
 それが目的だった。彼に聞いた二十二世紀の話の中に、そういう話があったからだ。
 だけど。
 量子力学、コペンハーゲン解釈、素粒子物理学、ニュートリノ、反物質、ダークマター、対消滅、超ひも理論、M理理論、そして、アインシュタインの相対性理論。
 僕が大学生になって学んだのは、タイムマシンが存在しえないという事。
 あれ以来、引き出しは開けていない。シュレ猫がいるのかいないのかは、まだ不確定だ。
 土管が三本あった空き地は、もうない。再開発事業の一環で再販され、今では駐車場になっている。
 
お題は「フラスコ」「ジュークボックス」「タルタルソース」です。
41「フラスコ」「ジュークボックス」「タルタルソース」:03/11/22 15:06
 この三語で、思いついたのは、
「僕が台所でビールを飲みながらタルタルソースの酸味に
ついてガールフレンドと議論している頃、鼠は実家のガレージで
ジュークボックスの修理をしていて、一方ジェイズ・バーでは、
ジェイが、ドレッシングを入れたフラスコを冷蔵庫にしまって、
じゃがいもの皮をむきはじめた。」というものだった。
 レイモンド・カーヴァーは英語で読むべきだとの認識を改めて
示したい。

次は、「筋肉痛」「図書券」「箱火鉢」で。
 じいちゃんの家には箱火鉢がある。
 じいちゃんはストーブとか、エアコンとかが嫌いだ。火鉢に豆炭を入れて火をつけ、
てろてろと燃やしながらゆっくりとあったまっていくのが好きなのだそうだ。
 冬にじいちゃんの家に遊びに行くと、じいちゃんはいつも箱火鉢に炭を入れて僕を
待っている。野良仕事の後は筋肉痛がひどいとこぼしながらもじいちゃんは僕を膝
の上に抱え上げ、凍えた指をごつごつした手のひらでもみほぐしてくれる。
 僕の手が温まると、じいちゃんは金網を上に敷き、その上で餅を焼く。直接しょうゆを
かけて焼くので、とても香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がる。ばあちゃんは匂いが
こもるとその都度怒るのだが、僕はこの匂いが大好きだ。
「浩一、勉強ばせんばなんねぞぅ」
 じいちゃんはそう言って、五百円の図書券を膝に抱えた僕のポケットにねじ込む。
「でも、参考書なんが買うでね」
 言いながら、じいちゃんは焼けた餅をのりで巻く。
「生ぐるっでごど勉強して、楽しく生きてかんばなんねぞぅ」
 僕はじいちゃんと、焼きたての餅を食べる。箱火鉢とじいちゃんは、いつもひどく暖か
かった。

>40
>35なんだが、「再版」であって、「再販」ではないんだよ……
 次のお題は「ロット」「動物病院」「みかん」で。
 動物病院に勤めているというのに最近は動物をさわる機会がめっきり減った
動物の飼育や処分といったことに対する行政の指導が強まり
ペットもロボットに取って代わられたからなのだが
ここ一ヶ月で見た患者──患畜というと怒られることが多い──といえば
二月前にでた猿型のペットロボットばかりだ。
餌──食事が適切だろうが──を食べる機能というのが目玉なのだが
初期ロットのプログラム不良と言うことで、食事の摂取と消化のバランスが悪いのだ
販売元から修正プログラムを受け取っているので仕事ととしては楽な物だが
消化が追いつかずに腐った元食品を洗浄するのは気持ちのいい仕事ではない。
二日前に手当したロボットはみかんをよく食べていたようだ。目にしみた。
 不愉快と言えば二ヶ月前に持ち込まれたものもそうだった
久しぶりに動物にさわることができたというのに、それは猿型ロボットの腹中に
納められた猿の死体だった。

次のお題は「インド」「武道」「八宝菜」で
休日だというのに、社長の引越しの手伝いに狩り出された。
現場に到着した俊郎が腕時計を確認する。午前4時。インドの大地は依然として
闇に包まれている。
社長はインドに住んでいる。アジャンタ遺跡脇の公衆便所を改装した大邸宅では
あるのだが、いかんせん日本の会社への通勤がちょっぴり不便で困っちゃう。
そんな訳で、このたびめでたく会社の向かいの公衆便所へお引越しの儀と相成った。

「社長、便所がお好きですね」
「何を言っとるんだ俊くん!この世に便所がなかったら、君は一体どこでナプキンを
 取り替えるつもりなのかね!」
「ボク男っすから。便所が大切なのは分かってますけど、住環境としてはどうなんで
 すか?臭くないんですか?」

居住空間を兼ねた公衆便所というのは、実はインド国内ではさほど珍しいものではない。
そういった知識を持たずに、臆面もなく己の無知をさらけ出した俊郎を見据えて、社長が
フフンと鼻で笑った。

「こいつを見ても、まだそんな戯言が吐けるかね?バーン!」

玄関のドアを開けた先には、一面の白菜畑が広がっていた。足の踏み場もないほどの
白菜の行列が、地平線の彼方まで続いている。ずいぶんとでかい便所もあったもんだ。

「うわぁ…」
「この白菜を、全部日本に送るんだ。さあ俊くん、いつまでも驚いてないで収穫収穫!」

俊くんがもいだ白菜を、武道のたしなみもある社長が手刀でぶつ切りにする。手早く
炒めてとろみをつけて、出来上がった八宝菜を皿に盛り付けていく。
火を通すことによって白菜のかさが減る。経営のスリム化に心血を注いできた社長
ならではのナイスアイデアである。

山と積まれた八宝菜の皿を、俊くんがダンボール箱につめて飛行機のコンテナに
押し込んだ。社長と俊くん、大量の八宝菜を乗せた飛行機が、いま空を駈ける。
短くしようと思えばできるのですが、カットするのがもったいないと
思ってしまう性質なのであります。申し訳ない。

次は「ままごと」「ゴムとび」「検死解剖」で。
46「ままごと」「ゴムとび」「検死解剖」:03/11/23 07:09
良き妻・良き母になる為に―。
社会の中で与えられた役割を認識する為の教育として、良家の子女を育成するとして名高い黒薔薇学園では毎年ある行事が開かれている。
全校一斉ままごとコンテスト。
これは毎年十一月二十二日に開かれる催しで、なんと武道館を一日借り切って行われる。
このゴージャスさは流石、あの黒薔薇学園というべきか。
因みになぜ十一月二十二日なのかというと、「いいふうふの日だから」ということらしい。このコバカにしたようなノリはある意味上流階級特有の世間ズレしてない間抜けさゆえなのだろうか…。
内容としては自分で決めたプロフィールを一日演じきり、一番充実した一日を送ることができた者には表彰状が送られる。
誰が判定を下すのか―ずばり、校長の独断である。
しかもこれで賞を取った場合は賞自体が一単位としてカウントされるので、生徒は必死である。
十一月に入った頃から、生徒らはみなどこかそわそわと校長の周囲をうろつき始める。リサーチである。
黒薔薇高校二年生・昨年検死解剖官の役で見事優勝を勝ち取ったAさんはこう言う。
「校長先生の今年のブームはどうやら小学生の女の子らしいよ。
私校長室でリカヴィネってフィギュアがこっそりと机の下にあるの見つけちゃったんです。
だから賞取りたい子は小学生の役をするといいんじゃない?」
この情報が学校新聞に載るや否や、たちまち校内にちぐはぐな光景が見受けられるようになった。
昼休みはバレーボールの代わりにゴムとびをしている生徒が多くなったのもそのひとつだ。
かあいらしく「やぁん、からまっちゃった〜」とべそでもかくつもりか? 
それともジャンプでひらつくスカートのかわいらしさを狙っているのか?
とにかく今日、彼女たちの努力が報われるのである。健闘を祈るばかりだ。
47「ままごと」「ゴムとび」「検死解剖」:03/11/23 07:13
軽いブラックジョークを狙ってみました。
リカヴィネわかりづらいかな…。小学生の女の子のフィギュアです。
次のお題は「1・2の3」「消火」「ハト」でお願いします。
グランドに集められ綺麗に整列した学生の間に拡声器の声が響き渡る。
「えー、こんなに集合が遅くては実際の火災の時には死者が出ますよ。ちなみに今回かかった時間はー…。」
そんな話をまともに聞いている学生は殆ど居ない。
「……では、消防士の方に来ていただいておりますので消化の実演をお願いいたします。
いざという時には君達がやらねばならぬかもしれないのでよく見て覚えておくように。」そう言って壇上を降りる教頭。
「はい、こんにちはー。じゃあ使い方の説明をしますねー。」
さっきよりは割合話を聞いている人数は増えたようだ。
「−−−…ではこうやってホースを火に向け1・2の3、っはい……うわわぁぁぁー」
殆どの生徒がいっせいにそちらを向いた。
空に上っていく数羽の鳩。
あたりに散らばったカラフルな紙テープ。
消化されるはずだった火。
呆然とする生徒、教師、消防士。
一番早く理性を取り戻したのは本職の人たちだった。
今でも記憶に残るあの光景。一体誰が仕組んだのだろう。

次は『柱時計』『注射器』『指輪』
 ボーンボーンと響く隣りの家の柱時計に押し出されるように、鳩時計から鳩が飛び出して
きた。オルゴールのメロディが「ボーン、ボーン」にかき消されていかにも情けない。
6時か……。それにしても、なんて壁が薄いのだろう。しかも消防署の上にある寮なので、
火事が起こるたびにサイレンが鳴り響く。窓ガラスはかなりの厚みがあって、多少の遮音効果
があるものの、建物内部の安っぽい作りといったら、呪いたくなるほどだ。夫の光二はさほど
気にしていないようだったが、南美は引っ越したくてたまらない。

 南美は、指輪をはずして小物入れ代わりに使っているスペイン土産のガラスの灰皿に入れた。
消防署員の家への土産としては、気が利いてるのか利いてないのかよく意図のわからない土産
だが、ぽってりした厚みと温かみのある色彩はけっこう気に入っている。ふと、緊急用キット
の銀色の箱が目に入った。また忘れ物? まったく出勤時間が一分というだけあって、光二は
しょっちゅう忘れ物をする。どうせ中は注射器と針が入ってるだけ……と思って開けると、中
には南美も見た事のない写真やプリクラが入っていた。ツーショットのもある。
 そのとき、火事を知らせるサイレンが鳴った。こんなときに、もうイライラするーとぶつぶつ
言いながらキッチンに戻ろうとすると、光二が慌てて部屋に入ってきた。
「たいへんだ、たいへんだ…」
「大変って火事? それともあの箱? 」南美は土偶のような表情で箱を指差した。

次は、『クリアー』『スポンジ』『反射』で
50『クリアー』『スポンジ』『反射』:03/11/24 00:40
壁にぶつかって、床で反射して、戻ってくる。俊朗はもう一時間ぐらい、スポンジ製のボールで遊んでる。
遊んでるっていうのかな? 携帯のテトリスが止まんなくなったような感じ。そういう感覚に近い気がする。
あたしは横で膝をかかえている。
時々腰まである髪を後にはらうフリをしながらじにじと。多分一時間前よりも、30センチぐらい俊朗に近い。
「誕生日のプレゼント、気にいってくれたんなら嬉しいけどさ」
そのスポンジのボールだって、本当はクリアケースに入ったおもちゃのラケットが二つついてる。
子供っぽい玩具をあげたのは九割がた冗談のつもりで、でも一割ぐらいは一緒にあそべたらなあって思って。
でも俊朗はボールが気にいったみたいだった。
幼稚園の時からわかってることだけど、俊朗って本当好きになるところが狭いんだよね。
「もう帰ろうよ。飽きちゃった」
でも俊朗はまたボールを壁にぶつける。
あたしは髪の毛を三つ編んでいくことにした。
半分ぐらい編み込んだ所で、俊朗がこちらを気にしている事に気付いた。
あたしはすかさず俊朗と視線を合わせる。
「帰ろっか?」
あたしは俊朗がまだぼうっとしている内に立ち上がってその手を引いた。

次は「秋」「終わり」「照る」で
51「秋」「終わり」「照る」:03/11/24 07:32
日付の上では一応次の日から秋が始まろうという夏休み最終日。
俺は幼馴染の腐れ縁・水穂にいきなり呼び出され、チリチリと照る日差しの中図書館へ向かっていた。
「呑気にアホ面下げてアイス齧ってんじゃねえよ」
嫌気丸出しのセリフと共におもむろに水穂の後頭部をはたく俺、揺れるツインテール。
「ふぶっ!……けほっけほっ、何すんのよバカ!」
人に課題手伝ってくれと泣きついておきながら、こいつ自身には危機感はもう無いのかよ。
たまには突き放して自分でやらせないとと思うんだが、だが……。

その後しばし二人とも黙々と歩き続けたが、ふと水穂がこちらを振り向いて言った。
「でも、雅樹ってすっごい不満そうにしてても、昔からこういう時はいつも終わりまで手伝ってくれるよね。
 本当人がいいと言うか何と言うか、不思議な奴よねー」
そんな事をしゃあしゃあと言ってのける水穂を見ながら、俺は表情を変えずに「うるさいよ」と一言心の中で呟いた。
が、次の瞬間、水穂は光が溢れそうな位眩しい笑顔で言った。
「ありがと!」
そう、俺はこいつのこの笑顔には勝てない、だからいつもつい面倒を見てしまうのだった。
悔しいから絶対本人には教えてやらないけどな。


次のお題は「水晶」「星」「人肌」で。
52名無し物書き@推敲中?:03/11/24 08:04
>>51
ギャルゲばっかやってる人ですかー?
そういうキャラはステレオなうえ魅力も皆無だから止めた方がいいですよ。

水晶の如き煌きを放つ夜空の星を見ていると、
ふと人肌が恋しくなる時がある。
わたしが無限の荒野が広がるこの名も無き星に漂流してから
すでに10年数年近いの月日が流れていた。
恐らく、わたしは二度と家族の元に帰ることは出来ないだろう。
だが、不思議と寂しさや孤独を感じることは無かった。
何故だろう?
多分、知ってしまっているのだ。
ここがその故郷の星だという事を。

次回御題:「糞」、「光」、「脳みそ」
「糞」、「光」、「脳みそ」

人の生きる理由はさまざまだ。
そこに正しいとか、間違っているといった概念を当てはめることは、あまり意味がない。
いや、意味のあることなど在るのだろうか?
もちろん在る。ただし、個人的なものだ。逆に言えば、個人的な意味しか、この世には
存在ないしない。

価値もまた然り。価値もまた、個人的な価値しかない。その多様な価値観の中で、時に
は分かち合い、時には反発しあって形成されるものなのだ、社会というものは。
その社会の中で、自分の価値が万人に通じる、などということは決してない。食事時に
恐縮だが、糞が汚いと思う者もいれば、その糞を食べる者だって居るのだ。そこに正しい
正しくないは存在しないのだ。

過去において脳に、「何を」「どう」インプットしたのかの違いに過ぎないのだ。
多くの者は、光だけを正しいと思い暮らしているが、闇だって同じように正しくなること
だってあるのだ。光は闇がなければ存在できなく、闇も光がなければ存在しない。
ステレオな価値観に染まらず、自分の価値観を模索することが大切なのだ。他人に
自分の価値観を押し付ける前に、そこら辺を考える必要があるのではないだろうか?


ただのお遊びにつき、お題継続。
 空港のトランジット・ロビーでは、旅行客が思い思いに時間を潰していた。
「もうそろそろ時間かしらね」 トーテムポールのようなオブジェのサークルの中で、町子
が稔に囁いた。ツアーのメンバー32人のほとんどが集まってきていたため、座る場所もない
ままぶらぶら立ち話をしているものもいる。日程の一日目だというのに、慌てて買い物をして
いるものまでいた。 この後、一行は、飛行機を乗り継いでアムステルダムに行くことになっ
ている。コーディネーター兼ガイドの田中は、行きの航空運賃の節約以外は、驚くほど豪華な
内容を組んでいますと胸を張っていた。「ヨーロッパ三都市物語」の初日は、透き通るような
青い空のジュネーブ。夜も更け始めて、照明を落としたロビーから見える飛行機が、ライトに
照らされて巨大なオブジェのように光っている。
「レストランでも、時期的に仔牛の脳みそ料理などはあまりお勧めいたしません」
 成田を発つ時の田中のベタなアドバイスに、一同は軽く笑った。ほぼ全員がそろっていると
いうのに、その田中の姿だけが見えない。チェックインの最終を告げるアナウンスが流れ、何
人かが不安になってカウンターに問い合わせをしてみると、ジュネーヴから先のチケットが買
われていないという。
 その頃、ひとりにつき五十万の金を浮かせて猫糞した田中は、バルセロナ行の機内にいた。
田中は、牛の頭そっくりのスペインの地図を見ながら顔を緩ませていた。

次は『ノート』『ネジ』『壁紙』で
55名無し物書き@推敲中?:03/11/24 18:08
 俺の家は貧乏だ。だから、ノートは壁紙を剥がし、B5に切り揃え、束ねて作った。学校では出来るだけ人に見られないよう
隠すようにノートを開いている。ところが、英語の時間、落ちた鉛筆を拾っている間に、隣りの山下に見つかってしまった。
「なんだ、そのノート?」
 俺は、山下を睨みつけ「うるせえな」とつぶやくように低く言った。
「穴あいてんじゃん」と山下。
 ネジの痕だった。

次は、『春うらら』『駅伝』『氷川きよし』
 俺は長距離走の途中、何かしら考えてしまう。酸素はたっぷり供給され、脳は
手持ち無沙汰。そういう状況が、俺を他愛も無い思索へと走らせるのだ。
 今日の駅伝の最中も、俺は益体も無いことを考えていたのだが、いつもと少し
ばかり違うのは、隣から他人の思索に割り込む奴がいることだった。
 滝。ただのクラスメートなのだが滅法口数の多い奴で、四六時中喋りどおしだ。
今も今とて、桜も七分咲きだな、春うららだよな、などと考えていると、
「昨日氷川きよしがテレビ出ててさ、このあったかいのに冬の歌歌ってんだぜ」
 などとめったやたらに話し掛けてくる。いつ息継ぎをしているのか、聞いている方
が不思議になるほどだ。
 だが、ふと気がついた。滝がのべつ幕なしに喋りつづける言葉が、俺の思索と微
妙に溶け合うのだ。これはなかなか小気味のよいことで、普段では到底思いもつか
ないような情景がぽんと湧いて出る。まさに今、俺の脳内では氷川きよしが例のよく
高域に響く声で
「はぁ〜〜るのぉ〜〜、うらぁらあのぉ〜〜」
 と始めているではないか。これは面白い、と味をしめた俺はしばし滝の戯言に付き
合うことに決めた。

 次のお題は「通学鞄」「小籠包」「うに」で。

「通学鞄」「小籠包」「うに」

 学校の授業は退屈だった。別に勉強が嫌いってわけじゃない。た
だ生徒の顔色をうかがって、受けをとろうとくだらないヨタ話で時
間をつぶされるのは授業料の無駄だと思うだけだ。

 休み時間だって、誰がくっついただの離れただの、そんなことは
正直僕には関係ない。そいつの幸せ、そいつの不幸。僕の幸せでも
不幸でもない。

 街に出ても灰色の風景。信号の点滅だけが奥から手前へと進んで
いく。コツコツと鳴る自分の靴音が誰かについてこられているがの
ように思えて鬱陶しい。僕は路地を抜けて川原沿いに出る。

 気分が変わるかと、土手に寝ころんで見る。一面の曇り空はゆっ
くりとその模様を変えるが、それが明確な像を結ぶことはない。十
月の風は既に冷たくズボンの裾から、シャツの隙間から滑り込んで
身体を冷やす。

 結局、僕は立ち上がって街に引き返す。来来亭の小籠包でも買っ
て帰ることにする。
 
#次のお題は「雪」「月」「鼻」で。
58ルゥ ◆1twshhDf4c :03/11/25 01:07
「雪」「月」「鼻」

新しい傘にしてよかった、と私は心から思った。
今日は朝から鼻の頭が赤くなるくらいに寒かったが、夕方になるにしたがって、さらに気温が下がっていった。
まだ十一月の下旬だというのに、すでに10℃を下回っているに違いない。
大好きなワインレッドの色をした傘には、雨とも雪ともいえない霙が重たく降り注いでいる。
私は同じ傘に入った彼をそっと盗み見しながら、彼と同じ傘に入っているというシュチュエーションに軽い高揚を覚えた。
「ごめんね、迷惑かけちゃって。今日はしくじったよ。朝、急いでたから天気予報チェックしてくるの忘れちゃって」
いつもは見せないような照れた表情の彼。
私は普段の教壇の上の彼を思い浮かべて、くすりと笑った。
「全然迷惑なんかじゃないですよ。濡れて帰る先生を見るほうが辛いですから。それに、もし無視するなら白状じゃないですか」
満面の笑みを向けると、彼も少しほっとしたような表情になった。
校門から駅まではたった5分足らずの道のりで、私と彼は反対方面の電車だった。
それでも、今日はその5分だけで満ち足りた気分になった。
別れ際、少し名残惜しげに彼の背中を見つめていると、突然、彼はくるりと私のほうに向きなおして微笑んだ。
「そのワインレッドの傘、下ろしたてだろ?いつもは若草色のだったから。ワインレッド、君によく似合ってる」
彼はそのまま軽く手を振って去ってしまったが、私はどうしようもないほど切なくなって、そっと傘を胸に押し当てた。

☆これはフィクションw
 次は「蛙」「チョコレート」「生徒手帳」でお願いします。
59「雪」「月」「鼻」:03/11/25 02:36
 菊は、ねずみ捕りの仕掛け籠を下げて、泥濘んだ道を歩いていた。挿げ替えたばかりの
撫子色の鼻緒が汚れるのが惜しくて、そろっと歩いてはいたが、両の足袋はすでに汚れて
しまっている。佐竹っ原はこれだからいや。
「いやあ、六三亭のもぎりのおかみさんは、木戸に張り付いた雪女のようだったねぃ」
「よせやぃ。噂をして、本物がついて来たらどうすんだい」
 寄席の帰りなのか、六三亭の手拭いを手にしたものと何人もすれ違う。昼間っから酔っ
ているものもいれば、寄席の前に配られる月餅を頬張りながら笑っているものいる。菊は、
泥はねを避けるように、ひとの流れから身をかわした。三味線掘に雪が降るころは、この
あたりもたいそうきれいな二の字ができるのに。菊は、佐竹っ原から見渡せる雪景色が気
に入っていた。雪にくっきり浮かび上がる三味線の形を見ていると、今にも空気をはじい
て音を鳴らすような気がする。その凛とした景色が好きなのだ。下駄の裏には、うさぎが
月に跳ねる絵が描いてある。菊の干支のうさぎを、母親が魔除けのため描いたものだった。
 仕掛け籠を持ち直して鳥越橋を渡ろうとすると、ひらりひらりと白いものが舞った。
「この寒さじゃ、ねずみさんもいなかろうて……」
 振り向くと、雪女のように白い顔の女が佇んでいる。思わず見た女の足袋は、泥で汚れ
ていた。菊の可愛い慌てぶりを見て、女はふっと笑い、風花の中にすぅと消えていった。

次は、>>58のかたの「蛙」「チョコレート」「生徒手帳」でお願いします。
「蛙」「チョコレート」「生徒手帳」

 窓を開けた途端、ふわりと花の香に包まれた。
 決してチョコレートのように甘い訳ではないけれど、私はどうしようもなくこの香り
が好きだった。
 中庭に植えられた金木犀。卒業生からの贈り物であることは、木の根元あたりの
杭からわかるけれど、そんな前の卒業生など、私たちにとっては見知らぬ大人だ。
 私たち、という単位には、目には見えないけれど明確な線が引かれているみたい
だ。明確と言っても、 オタマジャクシと蛙の境界線のように、その間の中間のような
ところがないわけではないけれど……。
 きっとそれは、好きと嫌いはかなり違うけれど、好きと、ちょっと好きの間のようなもの
なのかも知れない。
 私は、この人のことをどう思っているのだろう?
 生徒手帳の、私の写真の隣に張ってる写真を見つめながら、私は暫く物思いに耽った。

 「――ちょっと、本当にこれやるわけ?」
私は手に持っていた本から顔を上げて、片眉を上げてみせた。
 「いや、京ちゃんがイヤならやめるけど……」
 「却下」
 「はい……」

 現実と夢の境界を、誰かこいつらに教えてやって欲しい――。

次は「泡」「雲」「ブラインド」でお願いします。

 聞きたくても聞けない事って、いくつかある。
 私と私の彼氏は、いつも彼氏の部屋でセックスするのだけど、
二人して歯磨きして手を洗った後、彼は閉めた窓からちょっと外を眺めて、
それからもう下着だけになった私に触る。
 なぜ外を見るのか聞きたいのだけど、
それが何かの始まりになりそうで、私から始めた事になりそうで、
少し泡の残った彼の手が歪めたブラインドから覗く雲を、見ないようにした。

「ごま油」「海王星」「ボールベアリング」でお願いします。
62名無し物書き@推敲中?:03/11/26 00:18
油を求めて家捜しをした。
物置にあったさび止めのスプレー缶は、すっかり腐食して中身は空だった。
台所に行く。だが、当然あるはずのサラダ油はなかった。
たぶん兄がてんぷら火災を懸念して、母に使わせなかったのだろう。
代わりにごま油を手にして、表の自転車のところへ戻る。
チェーンを手始めに各所にごま油を差して行く。むっと強い臭いが立ちこめた。夏ならハエが五月蝿かろう。
環状をしたボールベアリングにかかったとき、ふと兄の言葉を思い出した。
――水金地火木土天冥海。ガキの頃習ったろう? 俺とお前は差し詰め冥王星と海王星だな。
太陽から遠く離れてるところが似てるよ。知ってるか? 今は海王星の方が、太陽に近いんだ。
奴らは持ち回りらしい。だから、お前も家に戻って来い。交代だ。

タイヤに空気を入れ、各所に油を差しただけで、ペダルはずっと軽くなった。
――簡単な手入れで、こんなに楽になるのにな。
母はきっとキーキーと重たいペダルを漕いでいたに違いない。母が入る病院に向かいつつ、
少なからず後悔した。なぜ、その簡単なことすら俺はしてやらなかったのだろう。遅すぎだ。
もう、母がこの自転車に乗ることはないのだ。
ごま油で揚げた餃子にパクつく。眼の前では二組の男女が言い争いをしている。
くだらない痴話ゲンカだ。女はどちらがこの四角関係の主かを争い、
男はこの中で一番の加害者から遠ざかろうとしている。
7年振りに皆が集う同窓会でする話ではない。7年も押し隠していたのなら墓まで持って行け。
「それならこいつに聞いてみよう!なぁ誰が悪いかぐらい分かるだろう!」
近場であった俺に声が掛かる。「ぐらい」は余計だアホ。こんな奴らに言う事は一つだけ。
「みんなそれぞれ問題を抱えているんだ。7年振りの再会にこれ以上泥を塗るなら消えろ」
周りの空気が止まる。ほとんどの奴らから言ってはいけない事をとか、
はっきり言うなよ気を使えといった雰囲気が発せられる。よしどんどん言ってやろう。
「もっと言ってやろうか、お前はあんな女どもなんてチョロいって吹いていたよな。
 そしてお前はどちらにせよヤラセてくれればイイやなんて犬以下の言葉を吐いていたよな。
 そして君らは二人の男よりも相手に負けたくないって気持ちで一杯の見栄だけで売春婦顔負けの事をしていたわけだ」
俺は彼等四人が罵った死人の為に怒った。破滅を加速させるボールベアリングになる気持ちで怒った。
彼女の死に対して湿っぽい事、シケた事などといった周りの奴らにも怒った。
「クソ以下の話は今の分だけで手一杯なんでね。失礼するよ、あと会費は此処に置いておくから」
四人からは言葉で、他の参加者からは視線で「どこかへ消えろ」と告げられる。
行けるのなら今から人のいないところ……海王星にでも行きたい気分だ。

次は「大切」「気持ち」「終り」
64名無し物書き@推敲中?:03/11/26 04:53
隣のキング様最高!
 終わりはまだ見えてこない。
歩けども歩けども見えてこない。
足は既に棒と化し、体は栄養分補給をうるさく求めているというのに。
それでも気持ちを切らすわけにはいかない。
大切なことがある。この道の果てにある。
たとえ足が千切れたとしても、胃が消え失せたとしても、道がなくなったとしても………。
辿り着かなくてはならない。あの場所へと――――。


「芽生え」「書家」「セキュリティ」
66「大切」「気持ち」「終り」:03/11/26 22:45
 深い青がどこまでも続く闇。ただ一点、場を占める船の中で、おれはつぶやいた。
「今日でちょうど二十年になる」
 宇宙開拓時代の幕開け。各国がこぞって船を打ち上げる中、おれも選ばれた
人間の一人だった。国のためにという気持ちは持ち合わせていなかったが、
個人の想いが抹殺されるということは十分認識しているつもりだった。
 出発の前日、Iに会って別れを告げた。もしかしたら、一緒に行くことも可能
だったかもしれないが、自信がなかった。二人だけの世界で、うまくいくだろうかと。
ひと月もすれば、お互いに執着しなくなるだろうと、少し冷たいことを考えていた。
「言うまでもなく、こちらでひと月経過したころには、地球では何十年と時を重ねている」
 当時の技術で、光速の九十パーセントに達するのに一週間かかった。いずれにしても、
Iの命はとうに終りを迎えているだろう。その遺伝子が引き継がれていたとしても、I本人は、もういない。
「人類だって、もういないかもしれないな」
 宇宙飛行は順調だった。船内コンピューターが話し相手になってくれた。モニターに
映し出される文字や画像にも生命が宿っているように思えた。
 速度が上がるにつれて視界が揺らぎ、やがて何も見えなくなった。これを「見る」には、
人が進化しなければならない、などと思ったものだ。
 何事もなく時が過ぎ、今に至る……。
 いや、一度何かがあった。船体が揺れたかと思うとアラームが鳴り響き、船内コンピューターの
指示に従って、おれは何かをした。
「何か大切なことだったような気がする」
 と、そのとき、船体がドスンと揺れて、急速に視界が晴れてきた。
「久しぶりに見る深い青色……」
 船内に何かが侵入してきた。アラームが鳴り響く。いや、鳴り響いている気がする。
 指令室のドアが開き、その生命体がいすに近づいてくる。
「見ろ、ミイラだ」
 後から来たもう一体の生命体に指し示している。
「酸素がない分、保存状態がいい」
 宇宙服越しに語りかける電波を拾って、おれにも聞こえる。が、何を言っているのだ。
おれはここにいる。船にはおれしか乗っていないはずだ。
 生命体が船内コンピューターをいじり始めた。
「……データを保存しておくか」
 作業を終えた生命体たちは、船の去り際に迷っているようだった。
「どうする?」
「できれば、このままにしておきたい」
「……偉大なる先人に幸あれ」
 生命体たちは去っていった。
 おれは理解した。あのとき、船内コンピューターの指示に従って、記憶をすべてコピーしたのだ。
きっと今日のような日が来たときのために。……彼らが保存していったデータを基に「おれ」が再生されるだろう。
 個人の想いが抹殺されるということは十分認識しているつもりだった。だが、Lの記憶だけは
プロテクトをかけてしまった。
 再び視界が揺らいできた。
 おれは沈黙することにした。


 長いですね。須磨疎。
6866,67:03/11/26 22:51
6966、67、68:03/11/26 22:54
>>67
恐ろしいミス。

>>だが、Lの記憶だけは

>>だが、Iの記憶だけは
です。

焦ってしまいました。すいません。
「芽生え」「書家」「セキュリティ」

「――ホーム・セキュリティ。……うん、もっとこう、力強くて堅固な雰囲気出ないかな?
この辺の止めが弱い気がするんだよね。それから、『テ』のかすれはいらないな。
でも、さっきみたいにただ荒々しいだけのはNGだよ。やっぱり、一定の秩序みたいのは
欲しいの。ほら、クライアントが、クライアントでしょ?」
――ふふ、知った風な口を利きよるわ。きのう、おととい生まれたような小娘が。
五十年、筆を握り続けてきたのだぞ、わしは。そもそもこの若島津源三郎にチラシなぞ……。
「がんばってもう一枚書いてみましょう? ね?」
「うん」

今、源三郎は、書家として、男として、体の中心から新しい何かが芽生えてくるのを感じている。

※簡素いらん。
次は「囮捜査官」「独身貴族」「国内総生産」
「ごめんくださいませー」
 私は大きな玄関をノックした。今日からここで、メイドとしての人生が始まる。
 私のご主人様は、まだ20にもならない独身貴族。先日ご両親が亡くなって、
莫大な遺産を相続したばかりの若きプリンス。
 でも、私には裏の顔がある。
 斜陽に傾きつつある帝国。その行く末は、全人口のたった2%でありながら、
国内資本の56%を支配する貴族たちが握っている。
 そこで、私のようなメイドが生まれた。若きプリンスに仕え、その政治手腕を
よいほうに導く、特務機関の鍛えたメイド。主人に仕え、そして真の忠誠を女王
陛下に捧げたメイド。
 私はご主人様にかしずき、経営手腕と倫理を陰から陶冶する。少しでも国内
総生産を増加させ、帝国が昔日の栄光を取り戻す日を少しでも近づけるために。
 そして万一、主人が救いようのない暗君だったとき、囮捜査官となってその悪行
を速やかに顕在化させ、首のすげ替えを行わせるために。
 扉がゆっくりと開く。私のご主人様は、いったい、どちらなのだろう。

 次のお題は「ビジョン」「後悔」「返却コーナー」で。
「ビジョン」「後悔」「返却コーナー」

返却コーナーを素通りした。
カウンターには可愛い女の子。
俺の手にはビデオテープ。『脱糞女子高生・7』『巨乳人妻黒人レイプ・3』
脳内コンピューターが未来のビジョンを予測する。
――ガチャガチャガチャ……チーン!
「カノジョハ オマエノコトナド キニモトメナイ」
まあ、そうだろうな。
俺はカウンターに引き返した。
「あれ? 優ちゃんのお兄ちゃん? どうもお久しぶりです」
可愛いビデオ屋の店員さんは、妹の同級生だった。
俺は少なからず後悔した。

次のお題「下戸」「ダメもと」「彩」 
73「下戸」「ダメもと」「彩」:03/11/27 01:29
彩川は下戸だった。
国際宇宙ステーション内、つまり実質的な無重力状態での酒はよく回る。
「ハラショー!」
一応ロシア航空宇宙局の規定でアルコールの持ち込みは禁止な筈なのだが、ロシアブランチでそんなもの守っている奴は誰もいない。
「アリシマ、飲んでるか? お前が飲まずにいたらだめだろ。これやるよ。ぱっと見水のパックみたいだろ? 衛生局のダチに作らせたんだ」
レオーノフはストロー付きのウォッカパックを投げてよこした。
気前よく、なんだろうが彩川にとっては迷惑な話だ。
「すまん、水くれ」
聞いてくれるわけないと思いながら、彩川はダメもとで言ってみた。
「お前宇宙で水が貴重なの知ってるだろ? そんなに小便から生成した水が飲みたいのか?」
「日本のブランチにはあるぞ。北アルプスから汲んできた自然水とかなんとかいう」
「わざわざ水を液体酸素と水素を使って宇宙に持ち上げるのか? その化学反応で一体何トンの水が出来ると思ってるんだ?」
イカれてる、というようにレオーノフは目を見開いた。
「ひょっとしてあのシャトルにも水がのっているのか?」
レオーノフはモニタに写されている日本初の宇宙往還船を指さした。
「ああ。たしかビオトープが丸々のってる筈だよ。重力発生装置と込みで」
レオーノフは信じられない、という顔で彩川を見つめた。

次は「銀河」「木」「土」で
74 ◆PpxR90VFBM :03/11/27 03:15
「銀河」「木」「土」

「先生、宇宙人っているのでしょうか?」
もう少しで授業が終わる。もしかしたらこの質問は来週に持ち越されるのかも。
なんてことを思いながら、私は先生のほうを眺めていた。

「うん、なかなか面白い質問だね」
この先生は、生徒に質問をさせ、その内容で生徒を評価する。こいつは好感触だ。
「現在、太陽系内で生物のいる可能性がある星。つまり水の存在する、
もしくはかつて水が存在していた可能性のある星は三つある。
一つ目は、火星。残りの二つは、惑星では無いけど、木星の衛星であるエウロパ。
そして、土星の衛星であるタイタンだ」

キーン・コーン……ここでチャイムが鳴った。
「さて、今日の授業はここでおしまいだ。もし、太陽系の中に生物の痕跡があるのなら、
銀河系の中には我々と同じ、もしかしたらそれ以上の文明を持った生物がいるかもしれないね」
なんてことを言いながら、先生は笑っていた。


次のお題は、
「兎」「錆び」「栄光」でお願いします。
「あなたー、夕飯獲ってきてよー」
「えっ、今空の気圧が高くて跳び難いんだけど…」
「いいから! はい道具!! いってらっ…しゃいっ!!!」
妻はオレを強引に入口に引きずり出し空に蹴りだした。ひでえ女だ。
空に出たからには仕様が無い。足をぎゅっと蹴りだして虚空を駆ける。
今日の狩場は…兎がくいてえな、森。
「まってろよ〜ラビットちゃん、おれの血肉の一部にしてあげるからね〜」
妻が手馴れた手つきで手入れした槍は錆びることを知らない。おれは兎を目測すると跳んで空中でもう一度飛び跳ねた。
目標は首根っこ。空中で何度か足を振り微調整を施す。跳びにくいけどなんとか、ざくり。
「おおー、いい血の出っぷりだ。こりゃあうめえだろう」
おれは再び跳び、空中の我が家に戻ってゆく。

この世界は『栄光の王』マドクリフが作り上げた。全ての人間に遺伝子手術を施し、空で駆ける事の出来るようにした。
それは彼が世界を統べる為の最強の兵団を形成することが目的だったらしいが、彼が不慮の事故で死に後継者もいなく、その通りにはいかなかった。
今、この国の人間は皆素朴な暮らしを営んでいる。
7675:03/11/27 19:37
ゴメンお題忘れてた。こんなミス初めてだな…。

「架空」「淫靡」「夢想」
77架空・淫靡・夢想:03/11/27 20:16
ネットの掲示板でコピペといわれる文章がある。
ゴミ以下のその文章の中で俺は一人の男がスパゲッティナポリタンを光学的に考察する奴が好きだ。
男は本当に必死になって普通のスパゲッティナポリタンをあれやこれやと考える。
その姿が日本の、いやひょっとすると世界の誰かが考えた架空の絵空事であっても、
……俺の胸を掻き毟るのだ。
今、俺は煙草を吸いながら本を読んでいる。
ひょっとしたら俺がこうしている事が周りの人間にとって先ほどの男のようにおかしい事かもしれない。
つまりは現実と非現実の境が不明瞭だと言いたいのか?
いや違う。現実と非現実を区別する前に自分が正気かどうかということだ。
主体である自分自身がおかしいのなら現実・非現実なんて関係はない。
今こうして偉そうに考えているのだって実は女と淫靡な狂宴を繰り広げてる最中かもしれない。
もちろんそんなことは夢想だ。第一、自分は石が見ているある男の夢かもしれない。
ただこうしている事さえも主体である己が異常な限りは確実に捉えることが出来ていないのだろう。
つまりは
目の前の見ず知らずの女がいきなり俺を膝枕をして耳掃除を始めてる現状はきっと夢に違いない。
「式はどうしましょうか、あなた」あっなんか凄い電波を発し始めてるこの女!

次は「死神」「手形」「医者」
「死神」「手形」「医者」

俺が漂っている天井裏に死神が現れたので早速文句を言った。
「やい、死神。どうしてくれんだ。ほんとに死んじゃったじゃないか」
「しょーがねーだろ。そういう契約だ。ほら、手形もちゃんとある。それより、見てみろ
みんな泣いてるぞ。」
死神は下を指差した。病室には俺の家族が勢ぞろいしている。
「あーあ、本当だ。オヤジもオフクロもみっともねえな。ミチコは泣き顔相変わらずキタねえし。
や、あのヤブ医者まで泣いてるぞ。ただの冷血漢だと思ってたよ。殴ったりして悪いことしたな」
「ま、死んでみなきゃわかんねーこともあるってもんよ。さあ、そろそろ行くぜ」
死神が俺の首根っこを引っつかむ。
「あ、ちょっと待ってくれよ。娘が手え振ってるよ。あいつ俺が見えてるのかな?おーい!
良かったな、病気治って!お父さん、遠く行くけど、元気でな!お母さんによろしく!
バイバイ!」
俺はヒューっとどこかへ連れ去られた。
79「兎」「錆び」「栄光」:03/11/27 23:20
 今ごろなんですが、書いてみたもので。よろしく。


「そもそも、なぜ兎であるこの私が亀ごときに負けなければならないのか? 解せぬ!」
 この不況風が吹く日本国で路上生活を送る兎は愚痴った。
 豪邸というほどではないが、一般的な中流階級よりはかなり上の生活を送る亀がうらや
ましくて仕方がない。
「才能という点から見れば、明らかに私の方が上のはずだ。ご先祖様の時代はいざ知らず、
資本主義が幅を利かす現代日本国においては、能力のあるものが上に位置するはずではな
いのか!」
 その日の食事にも事欠き、小学校の給食室に忍びこんで、レタスの切れ端を頂戴してい
る我が身が不甲斐ない。
「こんな生活、今日で終わりにしてやる!」
 兎は亀に決闘を挑むことにした。過去の栄光云々ということではない。この現代社会と
いう枠組みの中で、真の強者は誰なのかをはっきりさせるために。
「もしもし亀さん、ちょっと出てきてくれないかい?」
 亀邸のインターホンを鳴らし、取り付けられているモノアイに向かって兎は語りかけた。
「やあ、悪いな兎くん。今日はこれから会議があって、出かけなくちゃならないんだ」
「日曜日なのに仕事かい? ぼくなんか、いつもゆとりを持って暮らしているよ。いや、
ある意味、必死だな……」
 おっと、いけない。ついつい生活苦がにじみ出てしまう。今日は、真の強者は誰なのか
を思い知らせるために来たのだ!
80「兎」「錆び」「栄光」つづき:03/11/27 23:22
 兎は亀に懇願した。この機会を逃したら、来週の日曜日まで生きる術をまた考えなけれ
ばならない。このごろは、寒くなってきた。
「じゃあ、会社までの通勤経路でいいかい?」
「OK。じゃあ、外で準備をして待ってるよ。」
 兎は喜びに身を打ち震わせた。ついに、この日が来た。亀の会社までの道のりで競争を
して、先に着いた方が真の強者となる。亀の勤める会社は、タレント養成学校のスポンサ
ーをしていて、重役である亀にはある程度の権限がある。自分が勝ったら無料でその学校
の講義を受けられるよう、先ほど亀に約束させた。そこからは自分の努力次第。何もしな
くても富を得られる社会というのは、資本主義ではない。自分もそれは望んでいない。才
能ある者が努力をすれば、努力だけしかできない者よりも上に立てるはずなのだ!
「やあ、待たせたね」
 エンジン音をとどろかせ、サングラスをかけた亀が運転席から手を振っている。
「それは……?」
「愛車のスカイラインGTR。ここ海に近いから、錆びちゃって」
「パパ、行ってらっしゃい!」
「ああ、来週の日曜日は一緒にDVD見ような。五十インチプラズマテレビの竜宮城は迫
力あるぞ」
 兎と亀はスタートラインに立った。
「ねえ、亀さん。もしかして、今日はその車で出勤するの?」
「乗っていくかい?」
「いや……」
 車とかけっこの勝負をして勝った兎の話など聞いたことがない。舐められたものだな。
「お互い様か」
 そして、勝負の幕が切って落とされた。


 しかも、オチていないし。
81死神・手形・医者:03/11/27 23:55
天井にある手形は一体誰のものなのだろうか、
どう見てもまともな人間のものには見えない。
中指と親指が他の指の倍以上あるのだから……

ちょうど検診にやってきた医者に、そのことを尋ねてみたのだが
どうも話がかみ合わない。
もしかして、私以外の人間には手形が見えていないのだろうか?

ある日、私のところに来客がやってきた。珍しい事もあるものだ。
来客は、私に御辞儀をすると、こう名乗った
「私は、死神です。本日は、貴方の魂を戴きに参りました」

そういって、死神は手を差し出した。
その手は、親指と中指だけが異常に長かった。


次のお題は、「貧乏」「じゃんけん」「角(つの)」
俺の先祖は地方豪族だそうだ。
しかも藤原勢よりも古い上にちゃんと朝廷の覚えがあったそうな。
「でもあまり関係ないね」目の前のカッパが手酌で酒を飲みつつ漏らす。
「そういうなよ、涙が出てくる」顔を落として杯を見ると額から角が生えている。
あの日……あの日を境に世界中の絵空事や伝説が具現化してしまったのだ。
流通経路は、空は飛龍や風神が邪魔をして海は大蛸や人魚が海賊行為を働く。
陸のほうも散々だ。過去の口伝や歴史で怪異として変遷された民族の血筋は例外なく化生した。
俺も落ちぶれ貧乏貴族の血なんか引いていたおかげで鬼になっちまった。
目の前のやつなんかカッパだし、その向こうには小豆洗いと泥田坊がじゃんけんしている。
「なあ鬼さん、知っているか?あの有名人の事」カッパがなんか言い始める
「なんだよ、京極夏彦が男なのに文車に化生したのなら知っているぞ」
「いや、違う。人間がいるんだよ。変わっていない人間が」
「誰だよ、今となっちゃ羨ましくもないけどさ」
「誰かって言うとね

水木しげる

次は「漢(おとこ)」「汗」「漢女(おとめ)」
83名無し物書き@推敲中?:03/11/28 14:28
漢(おとこ)「茶色のくさいうんこ、うんこ、アナルから出るうんこ、うんこ、ぼくらが食べてるうんこ、うんこ、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
汗「一番でかいのは長男(漢(おとこ)、長男、一番かたいのは次男(汗)、次男、一番くさいのは三男(漢女(おとめ))、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
漢女(おとめ)「一番形がいいのは長男(漢(おとこ))、長男、一番色がいいのは次男(汗)、次男、一番おいしいのは三男(漢女(おとめ))、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
三人「うんこ、うんこ、うんこ、うんこ、うんこ三兄弟、うんこ三兄弟、うんこ三兄弟、ぶりっぶりっ、(最後に三人全員大量の超臭いうんこを撒き散らす)」
84名無し物書き@推敲中?:03/11/29 10:58
  経緯は省くが、ともかくオレは今大変なんだ。
後方30メーターあたり(いや、もっと距離を詰められてるかも知れない)に、すごいのがいるんだ。
ソイツはオレを気に入ったみたいで、判別不能な言語を吼えて走るってーか、狩り? ってカンジ。
オレ狩られるんか? ってカンジだよ………。
やべえ、大地を刻む轟きがすぐ後ろに迫ってきた!! ドゴンドゴンと響く音の中にジュッって何かが溶ける音がする。
コイツはオレの推測だが、多分奴の汗はあらゆる物を溶かすんだ。うっ! オレの服も溶けた!!!
恐怖に駆られたオレは後ろを振り返るのを止め、走る。ひたすらに走る。

  『ゲハァゲハァ…男男…漢ーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!』
行き止まりだ。ここまでか…。奴の丸太のような腕がオレの顔面を掴む。
奴の唇が近付いてくる…ああ、汗に物を溶かす作用があるんだから、唾液にも似たようなのがあるんだろうな…。
多分、ディープキスだろうな、コイツのキャラ的に。しかし、コイツ、女というより、漢女(おとめ)だなあ………。

  「ああ…名も知らぬ殿方、有難うございます!! 王子様のキスのおかげで元に戻れました!!!」
薄れ行く意識の中、オレは美少女になった漢女を見た。別人じゃねーか、なんか魔法でもかけられていたんかよ。
オレは人柱になった訳だ…要するに。ああ、もう何も考えられない、体も心も、溶けて………

「プライド」「オンデマンド」「マインド」
 空は青い。地面は黒い。じゃあ、ここは何色だ?
 勤めてたビルの屋上から、首を縄で絞めて練炭火鉢を抱えて瓶ウォッカ一気してオーバードーズして切腹しながら、飛び降りた。
 最後の晩餐はしなかった。脳内放送で流れた第一発見者のインタビューが、胃を黙らせた。
「えーと、ホームレスが着てるみたいなスーツで、体中変なボツボツがあって、お腹からはキャビアが漏れてて……」
 そんな、いかにもな死に様、俺のプライドが許さなかった。
 雑誌の記事を鵜呑みにする間抜けな専務の演説が、背中を押した。
「これからはユビキタスコンピューティングによるオンデマンドビジネスの時代なんだ。君のような人材は、派遣で賄えるんだよ」
 違うな。跳んだのは、自分の足でだ。
 ソーホー気取った馬鹿な主任の電話が、耳元で急かした。
「お前のところに仕様変更書、送ったから。三日で直さなかったらクビだ」
 はっ。空中じゃ、何言っても無駄だっつーのによ。
 クビになりました「ごめん、好きな人ができた」貯金が底を尽きました「如何する、アイフル?」家賃は必ず払いますから「外はまだ暖かいよ」助けて下さい「私達、サイエントロジーはあなたの味方です。さあ、オープンユアマインド」もう駄目だ「早まれ」

 空は青く、地面は黒い。間の俺は、透明な存「ゴギュァャ」
 聞いた事のない音が、全身を赤く染めた。
お題かいとくれ〜
8785:03/11/29 19:07
ごめんなさい
次は「媒介変数」「魔法使い」「革命家」で御願いします
88名無し物書き@推敲中?:03/11/30 01:53
ああっ、もうダメッ!
ぁあ…媒介変数出るっ、媒介変数出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!!!
ムリムリイッッ!!ブチュブチュッッ、ミチミチミチィィッッ!!!
おおっ!ウンコッ!!ウッ、ウンッ、ウンコッッ!!!ウンコ見てぇっ ああっ、もうダメッ!!はうあああーーーーっっっ!!!
ブリイッ!ブボッ!ブリブリブリィィィィッッッッ!!!!
いやぁぁっ!魔法使い、こんなにいっぱいウンチ出してるゥゥッ!
ぶびびびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!ボトボトボトォォッッ!!!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!!!
ムリムリイッッ!!ブチュブチュッッ、ミチミチミチィィッッ!!!
おおっ!ウンコッ!!ウッ、ウンッ、ウンコッッ!!!ウンコ見てぇっ ああっ、もうダメッ!!はうあああーーーーっっっ!!!
ブリイッ!ブボッ!ブリブリブリィィィィッッッッ!!!!
いやぁぁっ!あたし、こんなにいっぱいウンチ出してるゥゥッ!
ぶびびびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!ボトボトボトォォッッ!!!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、革命家ォォォッッ!
89赤い眼鏡@出張:03/11/30 02:24
タバコに火をつける。
タバコの煙が肺に充満している。
「見ててやるから、自分でやってごらん。」
もちろん、キンキンだ。
欲望をむき出しにした音が部屋中に乱反響する。
他者のまなざしの風を受けて、
暗闇が揺らぎ、
真っ白な毛で覆われた“震え”が、
むき出しになるのだ。
「もうダメ。」
痙攣した太ももに寂しさを映した滴が落ちる。
床に反射する音がリアルだった。
そう、世界だった。
“願い”だけが虚ろに部屋中を彷徨っていた。

Final Word.
At.羊
「媒介変数」「魔法使い」「革命家」

少女はいつものように黙々と床を掃除していたが、ついに嫌気が差してモップの柄をへし折った。
「魔法使い! いるのはわかってんだぞ! 出て来い! 魔法使い!」
少女が怒鳴ると、二階の書斎でガタガタと物音がし、ブロンドの女が着衣の乱れを直しながら
あわてて階段を降りてきた。
「もう、何ですかあ? 大きな声出して。びっくりするじゃないですか。あれ? おかあさまは?」
魔法使いは上気した顔を手で仰ぎながら、きょろきょろとする。
「お前、いつになったら俺をお姫様にしてくれんだよ。貸した恩はいつになったら返してくれんだよ!」
「猫から救ってもらったことは感謝してますってー。おかげでネズミからこうして元の姿に戻れましたしー。
でも、この前もさんざん説明したじゃありませんか。時流やあなたの資質、その他もろもろのデータを
媒介変数として解析すると、プリンセスは向いてないことがわかったんですよ。吊るされか、焼かれるかが
オチです。それより、おすすめは革命家ですって。これも吊るされる可能性がありますけど。うふ。」
「媒介変数とか革命家とか、お前の言ってること、全然わかんねえ。いいから、お姫様にしろ。今すぐしろ。」
「今すぐですかあ。パーティーは来月までありませんよう。困ったな……。そうだ。魔法使いになりますか?
けっこう、向いてるんですよ、あなた。そうだ、そうしましょうよう。うん! それってたのしいかも!」
こうして少女は灰被り姫になることはあきらめて、魔法使いの弟子となった。

次は「麻薬王」「隠れ蓑」「闇鍋」で書きなさい。


91Ca ◆wUDoc/GLN6 :03/11/30 15:02
「麻薬王」「隠れ蓑」「闇鍋」
今日は授業参観の日、先生はひとりひとりに質問をしてまわった。
「では、さよちゃん、将来の夢をいってみてくださーい」
「…んとね、んとね、さよこは大きくなったらユウくんのお嫁さんになりたいの!」
もじもじして顔を真っ赤にさせながらさよこは爆弾発言をした。といっても、
ここは幼稚園なので、本気で衝撃を受けているのはさよこの父親だけなのだが。
「ひゅーひゅー、モテモテですね。ではそのユウくんの将来の夢は一体なんでしょう?」
さよこと祐輔をちらちらと見比べながら、無責任な質問する女教師。そこにはあからさまな期待がある。
だが、祐輔は「麻薬王」とすまして答えた。
「だめです! もっと空気を読みなさい。そんなの冗談にしてもぜーんぜん面白くありませんよ」
「どーして駄目なんだよ? 先生だって夢はでっかい方がいいって言ったじゃんか?」
「とにかく、そんな危ない目にあいそうな夢は駄目です」
「麻薬王は闇鍋でもつつきながら命令するだけだから安全なんだよ。
 今の時代、石油王より現実的な夢だと思うしー」
「子供なんだから、大人からみて微笑ましい、もっと現実味のない夢を語りなさい」
さりげなく無茶苦茶なことを言う先生。
「じゃあ、とりあえずホスト王を麻薬王の隠れ蓑にする」
「あーもー、可愛げのない! だいたいユウくん、さよこちゃんのこと、どー責任とるつもりですか?」
「先生こそ子供の夢に現実的な話、持ち出すなよー」

#お次は、「跳梁跋扈」「伽藍」「世界樹」
92名無し物書き@推敲中?:03/11/30 15:48
>>91
お題の読み方、意味を教えてください。
>>92
ttp://www.goo.ne.jp
ちょうりょう-ばっこ がらん せかいじゅ
「跳梁跋扈」「伽藍」「世界樹」

奇々怪々魑魅魍魎が跳梁跋扈する人外魔境を疾風怒濤、獅子奮迅、八面六臂の大活躍で
切り抜け、俺はついに巨悪の権化が蟠踞する伏魔殿に辿り着いた。
廷内は伽藍堂でそこには存外な静謐があった。長靴の甃を打つ音が、殷々と石楼に響く。
悠久に続くとも思えた階段を上がりきると、そこに魔王がいた。
「世界樹の葉をよこせ」と俺は静かに、しかし決然と言った。
まるっきりパンダに見える魔王は、天井から吊られたタイヤのブランコから降りると、床に敷き詰められた
笹の葉をかじり始めた。
「ねえ、バファリンもってない? 朝から頭、痛くてさ」とパンダが俺に問いかけてくる。
バファリンはもちろん持ってる。正露丸と共に冒険者の必需品だから。
俺は背負い袋から青い箱を取り出し、それをパンダに渡した。
「全部いいの? 悪いね。これが一番効くんだよ。じゃ、これ、持ってきなよ。世界樹の葉」
パンダはどう見ても笹に見える葉っぱを差し出す。
「これ、笹の葉じゃないから。マジで。ちゃんと万病に効くよ。それからさ、僕のことパンダみたいだったとか、
外で言いふらさないでね。似てるけど、別物だからさ」
俺は礼を言って世界樹の葉を受け取ると、魔王の宮殿を後にした。

「追跡」「捜索願」「過積載」
95がああああああああああ ◆A4jsQTgi.Q :03/11/30 19:47
追跡した。操作願いを蚊さえ沢井がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おjふぁおfじゃおfじゃ@じゃ
だfj;ldsjfl;あdさ通信が途切れたまま心あだ
あああああああああああああああああああああああああああああああ
他青sjフォアsjdふぁjふぁjdkぁdjがklgじゃkgk;あgj

次の御代は 水晶 とうkもろこあお ふぉふぁおかお
「大したものだな」
もう十年、王国捜索隊の隊長を勤めているが、これほど鮮やかな手並みは久方ぶりだ。
神殿の神像が五体、そっくりそのまま消えうせている。今のところ、持ち運んだ跡もない。
「どうします、隊長。一回戻って、局長に報告するべきだと思うんスけど」
「……いや、追跡する。引き続き、証拠を探せ。今回盗まれた『水晶の神像』は、
次の式典で使う大事なモノだぞ。国王からじきじきに捜索願が出されておるのだ。時間はかけていられん」
「でも、神像の大きさを考えてみてくださいよ。盗まれた数は五体。何に乗っけて運んだとしても、
明らかな過積載だ。それでここまでなーんも出ないってのは考えられない。魔法かなんかで
運んだんですよ、きっと。なら俺たちの出番じゃない。しかるべきところがあるでしょうに」
部下の言うことは確かだ。しかし、やつらに頼むのは気が引ける……
「……わかった。王には私から報告しておこう。その上でもっと人数が必要なら派遣させるし、
やつらの手を借りるというのなら追って報告する。お前は捜索に戻れ」
「……了解」
そういって部下は神殿に入っていく。かつては探せぬものなしと呼ばれた王国捜索隊……
今は、なんて無力なのだろう。私は歯軋りを抑えることが出来なかった。


お題「雪化粧」「煙草」「陸橋」

街行く人々がオレの頭の上を凝視する。
何がそんなに珍しいんだか。ただ綺麗な花が咲いているだけなのに。
目の前に友人達発見。声をかける。おーい。
奴らは何故かそそくさと物陰に隠れる。なんて礼を欠いた奴らだ。
「相変わらずキレーな花だな」
頭上から声がした。陸橋の階段でダベってる知り合いの声だ。
「テメー煙草消せ。愛華が苦しそうだろ」
「愛華? それの名前?」
奴はオレと愛華を見下ろして言った。
「そーだよ。可愛いだろ? これからもっと可愛くなるんだぜ。花びらがまるで雪化粧したみたいに真っ白になってさあ…」
ここまで言って気付いた。オレは何語ってんだ? こんな街中で、大して親しくもない奴に………。
「ふ〜ん…愛してんのな、それ。いいことだ」
「ああ…じゃーなー……」
「ずっと一緒だといいな」
奴のその言葉を聞いたとき、胸が揺れた。考えもしなかったことなんだ。
この先もコイツはオレの頭に寄生し続けてくれるものだと思っていた。妄信的に……。
別れの時など考えなかった。が、それはどうでもいいやつのただ一言で突き崩されてしまうような安堵だったんだ。
オレの心のモヤモヤはしばらく消えなかった。

「市井」「弾劾」「論破」
98がああああああああああ ◆A4jsQTgi.Q :03/11/30 23:38
俺は昔住んでいたマンションに、といってもつい二ヶ月前のことだが、洗濯しに行ってる。
毎週休みにはこのマンションに完備されてあるコインランドリーで汚れちまった作業服を洗っている。
今住んでるアパートの近くにコインランドリーはあるのだが、そこは高いし、なにより、それより、
俺には好きな女がいるのだ! まあこっちが一方的にほれているだけでしゃべったこともないわけで、
会えたらいいなあなんて思いながら、陸橋をカブでくぐって、洗濯機に作業服ぶっこんで、外のべんちで煙草ふかしながら、
きょろきょろしてる。ああ、なんてブスばっかりなんだろう。あの娘はもうここには住んでいないのかな。なんて思いながら
ひび割ればかりのアスファルト見てうつむいてる。洗濯機が止まったあと、乾燥機に作業着ぶっこんで、止まったらまたぶっこんで、
またぶっこんで、それでも会えないから、昔、っていっても二ヶ月前だけど酔っ払ってあの陸橋にいたホームレスの
おっさんと銭湯に行ったよな。とかあの娘とは関係のないことも思い始めたりする。

この道が雪化粧されて綺麗になるころまでにはあの娘をレイプしたいな。

ツギノオダイ 「市丼」「弾劾」「論破」
99酷評して:03/12/01 17:50
市場からは昼の買い出し客が去り、商人達は遅い昼食を初めて
いた。その日売れ残った食品は煮るか揚げるかの雑な調理を
施され大抵が丼飯に乗せられる。
商人だけが市場の中で食べるその料理は市丼と呼ばれた。
僕も不味い市丼を掻き込んでいると、市場の中心では役所
との折衝に失敗した代表者を商人達が弾劾しているのに気づいた。
しかし、満足な教育を受けていない商人達の抗議は悉く
代表に論破され退けられた。僕は半分ほど食べた市丼の椀に
目を落とし泣きたいという衝動を飲み込んだ。


次は「寝取る」「夕日」「転落」でお願いします。

100名無し物書き@推敲中?:03/12/01 21:20
「寝取る」「夕日」「転落」

俺の転落はどこから始まったんだろう。夕日を眺めながら考えた。
やっぱり、あれかな、兄貴の嫁さんと寝たところかな。あれで、勘当だもんな。
いや、寝取るつもりなんてなかったんだ。向こうが誘ってきて、こっちは学生で。俺のせいじゃない。
部長の娘さん孕ましたのは、俺が悪いけど。あの子まだ中学生だったしな。失業で済んでよかった。
下手打ったといえば、アイリーンか。モデルとかいって、ヤーさんの愛人だもんな。
あれで、名前まで変える破目だ。ツイてねえ。
んで、今はキャバ嬢のヒモか。ひでえ人生。女運悪すぎ、俺。
そもそも、母親からして悪いよな。ダメ、子供の俺にあんなことしちゃ。

※100ゲット。簡素いらない。
次は「むしろ」「ラッキー」「かもしれない」
101「寝取る」「夕日」「転落」:03/12/01 21:45
1/1

窓から差し込む夕日を顔に受け、私は異様な静謐の中で目を覚ました。
私は初め、朦朧とした意識の中で自分がどのような状況に置かれているかも分からず、
ただ呆然と天井を見上げていた。
だが意識が晴れ渡って行くに連れて、私はある事に気が付いた。
ここが眠っていたはずのマンションの自室で無いことに。
黒ずんだコンクリートの天井。
辺りに漂う冷涼とした空気。
背中に感じられる、固い床の感触。
何もかもマンションの自室とは違かった。
私は起き上がり、「何故こんな場所に?」と首を傾げた。
広さ四畳半ほどの殺風景な部屋。四方をコンクリートの壁に囲まれ、
錆びた鉄格子の付いた小さな窓と、その反対側に外側から錠で閉ざされた鉄の扉があるだけの部屋。
とその時、私はある事に気がついた。私はすかさず窓に駆けより、外を見渡す。
崩れかけたブロック塀の向こうに、夕空に向かって垂直に聳え立つ三本の煙突が見える。
間違い無い、私が勤めている工場だ。
ならばここは私の住んでいる町。そしてここは、町外れの廃ビルなのだろう……。
私は自分のいる場所を把握すると、一つの結論に辿り着いた。
102「寝取る」「夕日」「転落」:03/12/01 21:47
2/2

私の住んでいる町では、近頃「ビル女」という噂が広まっていた。
この廃ビルには何処からかやって来た一人の中年女性が住み付いており、
男に捨てられた女は町に住んでいる既婚の男を次々と攫っては自分のものにし、
挙句の果てに惨殺してビルの中庭に埋めているという噂だ。
最近町で男性の行方不明者が相次いでおり、この噂はそれなりに信憑性はあったのだが、
私は単なる都市伝説とタカをくくってまるで信じようとはしなかった。
だがまさか、自分がその女の標的にされるとは……。
2ヶ月前に結婚したばかりの私は、男を寝取る彼女の格好の餌食なのだろう。
そして女は私を思い通りにした後、無残に殺し……

「誰か、誰か助けてくれ!」
言い知れぬ恐怖感に襲われた私は悲鳴のような声をあげながら部屋を駆けまわり、
脱出する手段を模索した。
窓を塞ぐ鉄格子は錆びている割に頑丈で、何度も乱暴に引っ張っても外れてはくれない。
扉は外側から錠をかけられており、簡単には開いてくれない。
夕闇が迫り、視界も薄暗くなってきている。
私は焦燥に駆られ、一層強い叫び声をあげた。

とその時、私の耳に微かな音が届いてきた。
私は動きを止め、その音に耳を澄ます。
人間の足音だ。
ヒールが、コンクリートの床を踏む音が聞こえてくる。
音は次第に大きくなり、どうやらこちらに向かってきているようだった。

私は、自分の人生が転落していくのを感じた。

嗚呼、書いているうちに>>100サンに先を越された…
というわけで次は「むしろ」「ラッキー」「かもしれない」でお願いします。
俺たちは太陽系一家。親父の地球とオカンの冥王星が不和で大変だ。
俺は親父に何度も忠告してんだ。夕日にばっか見とれてるんじゃねーよってな。
見てくれに騙されてんのかも知れんがそれはアンタの大嫌いな太陽だぜ?
だが親父は聞く耳を持たない。夕日タンハァハァとか言ってる。ダメだ。
あの野郎は、自分が針のむしろ状態なのが分かっていないらしい。いや、知らんふりしてるだけかも分からんが…。
ともかく迷惑なんだ。オカンがいねーと食事のバランスが悪すぎる。
俺と(つまり、ウチの家族と)同棲してる火星も頑張ってくれてるが、アイツはドジだ。
「木星君、今日の夕ご飯はお好み焼きだからね!!」
とか言うが、大抵水とんになる。ラッキーでも天ぷらだ。なんでそうなるのか論理的に解明して欲しい。
ある日、何の前触れも無くオカンが帰ってきた。ここは、土下座ポイント。一気に不和解消と相成るかもしれない。逃すなよ、親父。
しかし、この時丁度親父の中は夕方だった。親父は夕日にハァハァしていた。
修羅場になった。

「タイプ」「助平」「パンツ」
104うはう ◆8eErA24CiY :03/12/01 22:29
「タイプ」「助平」「パンツ」

 「はっ!」と目を覚ますと、彼女はいつもと変わらぬベッドの上にいた。
 「おかしいわ・・・」勉強机には、明日の宿題がきちんと並べてある。
 ついさっき、幼馴染の少年と家路を急いでたのに・・・時計は午前2時だ。

 「タイム・リープ。時間跳躍かな?そういうのに敏感なタイプなのかもね」
 翌朝、学級花壇で少年はいい加減な答えをした。
 「そうかあ」と少女も大雑把に答えた。「疲れてたのね、きっと」

 少年は、昨夜を思い出す。
 家に忍び込み、深夜時間に跳躍した彼女を運び込んだ事を。
 助平な誘惑を追い払う。だが、彼はせねばならぬ事があった。

 少年は思い出す。
 初めて異性の制服を解き、スカートを下ろし、パンツだけの姿にした事を。
 首を激しく振る。
 仕方ない事だ、時間跳躍をごまかすにはああするしかなかった。 
 第一、時間旅行をすれば制服がパジャマになるのか?なるわけがない。
 自分が、一枚一枚着せ替えてやる他なかったのだ。

※でも・・・これって映画見てないと何の意味もないなあ;
次のお題は:「聖杯」「聖堂」「製薬」でお願いしまふ。
105名無し物書き@推敲中?:03/12/01 23:38
飲みすぎた。
聖堂で嘔吐する。
その辺に落ちていた聞いたこともない製薬会社の胃薬を聖杯であおった。
やたらと苦い。
頭にきて聖杯を吊るされた男に投げつける。
陶器の器は砕け散ったが気にもとめない。ただ瓦礫が増えただけのことだ。
司教座に腰を下ろし、空を見上げる。
やたらと青い。
頭にくるが、どうすることも出来ないので、ただぼんやりと眺めた。

さて、そろそろ祈るとでもするか。
私の頭上には爆弾が落ちていないところをみると、少しは加護があるのだろうから。

次「はったり」「下克上」「対決」
106うはう ◆8eErA24CiY :03/12/02 00:33
「はったり」「下克上」「対決」

 「ふっふっふ、天下統一まであと一歩じゃて」
 最後の対決方法として、信長は奇手を用いた。
 「刀・鉄砲で敵を倒すなど古い。信長の新しいやり方を、天下に見せてくれるわ」

 なんと、彼は国民投票を宣言した。
 信長は自信満々。「猿!急ぎ全国をくまなく回り、余の偉業を讃えてこい」
 秀吉は愚直にもあることないこと褒め倒し、金をばらまき、ポスターをはったりもした。

 しかし、そんな情勢に一人表情を曇らせる男がいた。明智光秀である。
 「藤吉郎、これを見ろ。私の事前調査だ。」
 「ほう・・・1位は毛利で光秀殿は3位。で、信長殿は?」
 「当然最下位だ。寺を焼き、ジェノサイド三昧の大魔王なら当たり前だろうが。」
 焦ったのは信長である。このままでは開票50%で下克上されてしまう・・・

 村人達は妻子に刀をつきつけられた上で、投票に行かされた
 それでも信長に投票しない場合のため、投票上には鉄砲隊が伏せられていた。
 支持率が半数に達しない村は、焼き討ちに遭った。

 かくして信長は天下を獲ったが・・・彼はなんだか淋しそうだ。

※いみなし・・・
次のお題は:「三昧」「七味」「甘味」でお願いします。
おいこら。畜生風情が人間様をそんな目で見るんじゃねえよ!!
おっ、なんだぁ? やる気か? オレと? 貴様度胸があるな。言っとくがな…このオレは――――。
「何やってんだ山崎?」
なんだクラスメイトの高峰か。消えろ。オレは今対決中なのだ。
「対決って……そこの蟻と?」
いいから消えてくれ。これは人類の尊厳をかけた勝負なんだ。下克上なんだ。引っ繰り返るんだよ!!
「……ふーん…なんか、やけにはったり効いたセリフだな………まあ、いい。たまにはガッコ来いよな〜」
高峰の奴め、やっと消えたか…。さあ、今決めよう。どちらがこの世界の支配者となるのかを――。

「運河」「ワイン」「英雄」
お題はうはうさんのでたのんます。
ざるつゆに七味をたっぷり振りかける。
わさびが苦手なわたしは、いつもこう。
そばの甘味が引き立って、意外といけるのだ。
三枚くらいぺろりと平らげる。
あとは善哉三昧だ。
たぶん今日は記録が出そう。
向かいに座る恵美は、すでに胃薬をスタンバイしている。
さずが、親友。よくわかってる。
でも、あたしのことよく知ってるなら、何でもっと早く止めてくれないの?
いや、愚痴は言うまい。
今は、善哉が私の全てだ。
絶対に五杯は喰って見せるからな。

「退屈」「迷惑」「誤解」
授業中、退屈を紛らわせるためにノートの端っこに落描きをするなんて事は
皆、やっていることだと思う。何せ、授業はつまらないだろう。
そんな短時間で描けるものなんて高が知れているし、だからこそ落描きなんだけど、
それでもその一作には案外集中できるもの。いやさ、家で頑張って描いた作品なんかより
余程上手く描ける気がする。
他人は皆思い思いのことをやっていて誰も自分には目を向けない、迷惑はかからない。
家の場合と状況は変わらないというのにこの出来上がりの差はなんだろう?
線の一本一本に力はこもっているし、なにより構成がすらすらと浮かぶのを、邪魔する
要素は何一つない。ただ、誤解を招くような事になってはいけないから、こっそり描く。
それすらも成功の一端になっているような気がする。
ただしそれにより授業内容が頭に入らない可能性だけは常に気を配っておくべきだが。
さて、人はそれを逃避と呼ぶのだけれど……
どちらが将来の成功に繋がる大事な事なのかは、分からないよね。

学生の目指せ絵描きなんて、みんなこんなものじゃない?




お題「怜悧」「冷徹」「玲瓏」
111怜悧、冷徹、玲瓏:03/12/02 02:48
『陛下も四十を超えられた。これまでとは違い、いよいよ後継者争いも本格化するだろう』
跪いた宦官の楊高は鬢に白いものが混じり始めた乾隆帝のむくんだ横顔を盗み見た。
古今の美術品を集め、書家としても一流の名を恣にしてきた帝も老いには勝てなかったのだ。
「楊高。朕の死が待ち遠しいのであろう。最近、お主が太子に取り入ってるという噂をよく聞くが?」
「滅相もございません。陛下」
乾隆帝と自らのために数々の政敵を葬り去り、冷徹と呼ばれた楊高も体中の毛穴が広がる思いで頭を垂れ続けた。
昔日の玲瓏とした声こそ失ったものの、帝の口調はまだまだはっきりとしていた。
『存外、陛下は長生きされるのではないか』
楊高はふと実行に移された己の策を思い浮かべた。その瞬間、乾隆帝の声が再び彼を打った。
「ところで先日、朕に不老長寿の薬を献上した男な」
「はい」
「念のために親衛隊が男の素性を探ったらしいのじゃが面白い事がわかった。どうやら朕の近くにいる誰かに頼まれたらしい」
「……」
「それにしても、あの水銀なる不老長寿の薬はよく効く。男にたっぷりと食わしてやったら何を喋ったと思う楊高?」
非礼と知りつつも思わず頭を上げた楊高は帝の怜悧な眼差しに股を汚した。

次は「運河」「ワイン」「英雄」 でお願いします。
例(以下略)
>44
>現場に到着した俊郎が腕時計を確認する。
という一文から、三人称、もしくは「俊郎」以外の人物視点と思いきや、どうも
三人称視点と色々な視点の間を行き来しているようだ。視点のぶれについて、ココで
議論するつもりは更々無いが、長編ならともかく、こういった短編において視点がぶれる
と、正直読みにくいのも確か。例:「困っちゃう」のは誰? 地の文中の、俊郎→俊くん。

>「こいつを見ても、まだそんな戯言が吐けるかね?バーン!」
最後の「バーン!」は溜めが無いから、そこに迫力も面白みも、共に生まれる隙間がない。

>46
>社会の中で与えられた役割を認識する為の教育として、良家の子女を育成するとして名高い
「として」が連続しているが、その連続にリズムやおかしみ等を求めるなら良いが、
もしもそうではないなら、片方の言い回しを替えたほうが読みやすいと思われる。
ところで、世間ずれをズレと表記するのはどうだろ。擦れているんじゃなくて、ズレているように感じてしまう。

>誰が判定を下すのか―ずばり、校長の独断である。
誰が? 校長が。方法は? 独断で。それと、地の文の口調が途中で変わるのが気になったのと、
読点をもう少し増やしてくれると、読む立場としてはありがたい。
敢えてジョークになるかどうかを言うならば、同じ視点を持った人へ向けるならば、成り立つと思われる。

>48
あなたにも読点をもう少し願いたい。
リズムよく書けていると思う。ただ、

>「はい、こんにちはー。じゃあ使い方の説明をしますねー。」
>さっきよりは割合話を聞いている人数は増えたようだ。
のように、端折りすぎの部分も在る。「必要なものだけ」を書いていたら文学にならない w
なにを描写して、なにを省くのか。読み手の遊びの部分、書き手の遊びの部分。
そんなものを意識して書いてみるのも、新たな発見に繋がるかもしれない。
113112:03/12/02 16:42
ちがった。ここ本スレだった。
失礼。
114Ca ◆wUDoc/GLN6 :03/12/02 18:43
「運河」「ワイン」「英雄」
三十八年前、ある病院の分娩室に禍々しい鬼気を放つ魔王の魂魄が彷徨いこんだ。
「くくくっ、ついに理想の『器』を手に入れたぞ。肉体・頭脳共に最高だ。
 はは、我が野望を叶えるのに相応しい。時代の運河の流れを再び暗黒時代に戻してやるぞ!」

そして、三十八年後。
「係長、急に後ろから肩に手をおかないでください。セクハラ罪で訴えますよ」
「今日子君。ワシはただ、社の納会で飲んだワインの領収書を…」
「そんな、みみっちいことに気にしてたら、御髪の方までうすくなっちゃいますよ?」
周囲のOLに「もう手遅れよ」と笑われながら、男は薄くなった頭に手をあてた。
――なあ、いい加減、この生意気な女どもを地べたに這いつくばらせたいと思わないか?
頭のどこかから声が響く。幼少のころよりずっと聞かされてきた獣のような声だ。
石橋忠夫、三十八歳。仕事のできない、その歳で結婚すらしていない、冴えない中年。
それが定着して久しい評判であった。
だが、それでも石橋は幾度となく繰り返される誘惑にこう返事する。
『平凡に生を精一杯生きる。どうして、どうして。
 ワシにとっては、それが薔薇色の人生だ。あっはっはっ』
――ふん。早く楽になれ。歴史上のどんな英雄ですら余の誘惑には抗えなかったのだから。
石橋忠夫、三十八歳。
溢れんばかりの才能に恵まれながら、それを魔王との抗争で磨り減らす男がそこにいた。
今日も社会の平和は、この類い希なる精神力を内包したバーコード頭によって守られている。

#お次は「覇権」「諸刃」「対等」
115「運河」「ワイン」「英雄」 :03/12/02 18:48
よし、それならば俺が若い頃の話をしてやろう。
あの頃の俺は儲かるからという話にまんまと乗せられて、密造酒の運搬なんてアブない仕事をしていた。
そんなある日、俺は密造されたワインを入れた樽を大量に船に積んで隣国に航行していた。
だが国の入り口である運河に差し掛かったところで俺の船は役人達によって強制的に止められてしまった。
その時になって思い出したんだが、先日俺は仲間から
最近隣国では酒の密造が横行しているから運河で取り締まりを強化している。
という話を聞いていた。
しかし酒に酔っていた俺は話を聞き流してしまい、気にも留めていなかったんだ。
そして俺は積荷の確認をした役人によって捕えられ、2年ほど豚箱に入れられてしまった。
あの時しっかり話を心に留めておけば良かった、と俺は牢屋の中で何度も後悔したものさ。
今、俺は英雄と呼ばれ周りの憧れの的だが、
俺が成功したのもその頃の教訓のおかげだと俺は思う。

次は「道化」「濁流」「豊沃」でお願いします。
116115:03/12/02 18:50
被った……

次は「覇権」「諸刃」「対等」でお願いします
117「覇権」「諸刃」「対等」:03/12/02 19:20
数ヶ月前、我が社では社長とその座を剥奪せんと企む専務との間で
激しい覇権争いが繰り広げられていた。
去年の忘年会で社長に気に入られたことが切っ掛けでその争いに巻き込まれた私。
ある日私は社長に命じられ、キャバレーに行く専務に同行した。
何か専務の弱みを握ってこいと言われて。
だが正直言って社長が嫌いだった私は専務に協力を申し出て、
専務と一緒に社長の打倒に乗り出した。
社長に信頼されていた私は難なく社長の弱みを握り、
それをタネに失脚させることに成功した。
こうして新しく社長になった専務の信頼を勝ち取った私は
今度は彼の弱みを握って彼を失脚させた。
今や私がこの会社の社長。あの頃の社長も専務も対等以下の存在だ。
そんな私が君達に送る言葉はこれだ。
下手に他人を信頼して使おうとするな。他人は何を考えているか分かったものじゃない。
常に誰かを使う時は自分もリスクを負っている、
つまり諸刃の剣だということを自覚しておくことだな。

次は「夢」「モーテル」「裁き」でお願いします
不思議と心が穏やかだ。
俺はただモーテルのヤニで汚れた天井を見つめていた。

――数時間前。

そもそも、あんな夢を見たからいけない。自分だけの遊園地が欲しい、だなんて…。
それには莫大な予算が必要だ。途方も無いカネが要る――。
ツテは全く無い。だが、夢は叶えねばならない。リスクは大きくとも、自分の力で。
というわけで、俺はペンタゴンの最深部に忍び込み、まだ世界中どこを探してもお目にかかれない超機密を大量ゲットした。
あとはこれを中東アフリカ諸国のテロリストたちに売っぱらえばいい。しかし、そう首尾良くはいかなかった。
あらゆる脱出路、情報経由路は閉鎖され、俺は窮地に立った。客観的に見て、ムリ。
ここで選択肢が脳裏に描かれた。敵に裁きを受けるか、自らに裁きを与えるか――つまり自ら命を絶つか―― のふたつだ。

――現在。

そうして俺はモーテルに入った。仰向けになってベットに寝転がって、それ以外何もしていなかった。
恐らく、あと数分でFBIだかなんだか知らないが、強行突入してくるだろう。
さて、ふたつの選択肢どちらを選ぶか……。俺の心は穏やかだ。

「検算」「換算」「凄惨」
119「検算」「換算」「凄惨」:03/12/03 08:46
「やってられるか、こんな仕事!」
私は叫び、机を叩いた。
数列で埋め尽くされた何枚もの紙が宙に舞う。
すっかりやる気を無くした私は仕事の手を休め、
椅子に凭れ掛かって自分の人生について考えた。

私は検算電卓の中にいる。
外の人間が出してきた問題を正確に解き、液晶画面に答えを表示する。それが仕事だ。
だが最近の電卓はやたらと機能を付けるから、
中の私も仕事が増えて忙しくて堪らない。
やれ2進数で計算しろだ、通貨の換算をしろだ、挙句に税計算まで押しつけられて、
こちらは年中てんてこ舞いだ。
そもそも私がこの仕事に就いたのは
加法減法乗法除法しかしない先輩方を見て楽な仕事だと思ったからで、
こんな凄惨な仕事になると知ったら絶対に選ばなかっただろう。
私は己の先を見る能力の無さに悲嘆した。

「……おっと、こうしている間も外の人間は答えを待っているんだったな」
私は椅子から背中を離し、再び仕事に取り掛かった。
僅か0.03秒の休憩だったが、それでも私の活力を呼び戻すのには十分な時間だ。
私は手早く問題を片付けると、真上に見える液晶画面にそれを提示した。
120119:03/12/03 08:48
次のお題を書き忘れた…

「断末魔」「策略」「コロッケ」です。
彼は生まれたときから、策略に掛かっていた。当然、彼は知らなかった。
彼は今の平和なる立場を所与のものとして大地より食を得、養分を蓄え、
そうして数年を健やかに過ごした。しかし簒奪者は現れた。
緑の服の悪魔は数年と一日目に現れ、彼の首に縄を掛け、彼を観衆の面前に
力づくで引っ張り出した。
獣の数字が描かれた札を掲げ、100万150万と喚き散らす観衆。
彼が、自分はもうイキモノではなくモノとなった、と悟った瞬間であった。
そして彼は再び緑の悪魔に首を引きずられ、白い収容所に押し込まれた。
遠くで断末魔の悲鳴が聞こえる。ここは正に地獄だ。
ある日、彼は全てが真っ白の「処刑室」に連れて行かれた。彼は額に長い筒を
押し当てられ、軽い破裂音が部屋に響いた。脳漿を飛び散らせ、彼は絶命。
彼だった「モノ」は、フックで吊るされ、皮を剥かれて肉を切られる。
最後に彼の肉切れは、ミンチになってジャガイモと混ざりあい、爆ぜる油へ投じられた。
 コロッケへの書 11章02節

次の題は「RPG」「ロシア」「ゲーム」
122RPG ロシア ゲーム:03/12/03 20:17
 ネットゲームで戦争をやるのは、実に楽しい。誰かが死んで心を痛めることも
ないし、何よりもお手軽に神の視点が楽しめる。
 今日も俺は、ADSL回線の向こうにいる誰かと戦争をしていた。
 俺は好んでロシアを使う。なんと言ってもコサックと莫大な物量、これに尽きる。
単騎で先行させたコサックに偵察を行わせ、対抗部隊を雲霞のように生産して
木っ端微塵に粉砕する。この快感は、ちょっと他では味わえない。
 そら、コサックが情報をたんまり抱えて戻ってきた。アメリカ使いのよくやる、戦
車ばっかり死ぬほどこさえた大部隊がこちらに進軍している。馬鹿め、こちらの思う
壺だ。
 俺は直ちに量産態勢に入った。対戦車兵を百人単位で生産し、ツンドラの陰に潜
ませる。後は近づいてきたところを……
 今だ!俺は攻撃命令を出した。対戦車兵の抱えたロケット砲<RPG-7>が火を吐く。
画面が連爆でホワイトアウトし……
 霧が晴れた戦場では、親愛なる同志とコサックの勇士が勝利の凱歌を挙げていた。

 次のお題は「レシピ」「硯」「マリオネット」で。
レシピを睨みながら一人の少年が墨を磨り続けている。
レシピの紙は今にもバラバラになりそうなほど古く書いてある字体もまた古い。
少年が硯を抑えていた手を離し筋肉の疲れをとるかのように軽く振り
正面に掛かっている厳しい表情の老人の写真を見上げ小さな溜息をついて
墨の量が充分な事を確認した彼は立ち上がって部屋の隅に置かれていた
彼と同じほどの背のマリオネットを持ってきた。
「ほんとにできるのかな・・・。」
呟きながら筆をとりマリオネットに慎重に目鼻を描きはじめた。
次は『列車』『兎』『額』
124うり:03/12/03 23:34
お題カブリでゴメン。

『レシピ』『硯』『マリオネット』
「おいしい」女は、くちゃくちゃと口を動かしながら相好を崩す。
「一度レシピを教えて欲しいわ」いったん箸を置くと、煙草に火をつけた。
女がそのレストランを訪れたのは初めてだ。
隠れ家の様に町外れにひっそりと佇む小さな店は看板すら出していない。
女は友人の紹介でその店を知ったのだ。
「毎日のおすすめメニューって、マスターの自筆?」女は鼻から煙を吐き出す。
「ええ。毎日硯に向かってます」マスターは目元に微笑みを浮かべた。
壁には、半紙に書かれた本日のおすすめメニューが掲げられている。
「ところで、これは当店からのサービスです。初めていらっしゃった、あなたの様な方にこそ、食べていただきたい特別な料理です」亭主は恭しくカウンターに皿を置いた。
「凄くおいしい!」女は一口頬張ると、目を剥き、背を丸め、武者ぶりついた。
「ねえ、一体何の料理なの?!」口をソースだらけにして声を荒げる。
「これですよ」そう言いながら亭主がカウンターに置いたのは、人間の生首だった。
「食事のマナーをわきまえない奴に食わせる料理はない!お前らの様な連中に相応しい食いもんはお前ら自身だ!永遠に共食いしてろ!」亭主は包丁を振り下ろした。
女は、マリオネットの様にかくかくとした動きで椅子から立ち上がった。
「音をたてて食べるな!煙草を吸いながら食べるな!」何度も包丁を振り下ろした。
亭主は、血に塗れ肉の塊と化した女を見下ろすと、深く長い溜息をついた。
「こいつを出さなきゃならない客が来なけりゃいいが・・・」

123さんのお題で。


『兎』額にそう刻印された大男が列車内に突っ立っていた。
何を隠そう讀賣巨人軍のスカウト補佐である。
彼は体も心も讀賣に売った。一応スカウト補佐という役職ではあるが、実際はその体躯を見れば想像のつくように、闘うスカウト補佐である。
つーか、スカウトなんか関係なく讀賣営業の壁となる組織や機関、会社を次々と殲滅してゆくターミネーターである。
額の刻印には意味がある。ナベツネの命令を即座に遂行できるよう、脳に直接信号マイクをとりつけているという。
あの文字は手術痕を隠すためのものなのである。それだけではない。
ピンチになると額の文字が光りだし、大技が発動できるようになるという話もある。
いや、それどころか、額の文字と讀賣地下に合致する刻印があり、それらを示し合わせると大男と讀賣本社が合体し敵のボスをぶったおす仕様らしい。
ちょっと見方を変えて、あの刻印はもっと草の根的な目的を持っているのではないかと推測する向きもある。
活動資金に困った時、サーカス団に刻印見せると仕事貰えるとか。
あるいはプロ候補の少年にアニメ好きがいたと仮定して、額光らせて「悪を根絶やせ!! ファイティング・ビームッ!!!」とかやらせたら簡単に入ってくれるかもしれない。
墓石運ぶのに役立つかもしれない。畑仕事に役立つかもしれない。
まあ、ほとんどが噂であるわけだが。

「ガリ版印刷」「ジュビリー」「メロウ」
126「ガリ版印刷」「ジュビリー」「メロウ」:03/12/04 14:39
何か世間に貢献したい。
前からそういった考えを抱いており、メロウ・シンポジウムなどにも出たことのある私だが、
実際に何かやろうとなると途端に気力が無くなり、すぐに投げ出してしまっていた。
そんな私はある日、道端でガリ版印刷された1枚のチラシを拾った。
見るとそれには途上国の債務帳消しを訴えるジュビリー運動の参加申し込みが書かれていた。
どうやら私とは縁の無いキリスト教に関係のある活動らしいが、
世界を救おうという気持ちに宗教も何も関係無いはずだ。
そうだ、これならきっとできるに違いない。
私は勢い込んでチラシに目を通す。
だが参加申し込みのところに年会費2000円の文字を見つけると、
私はチラシをくしゃくしゃに丸めて道端に捨てていた。
毎日の食べ物にも事欠いている私が、そんな金を毎年払えるわけがない。
世間の役には立ちたいが、そのために金を払うなんて馬鹿げている。
こういった考えが私の頭を擡げたのだ。
「また、やってしまった……」
道を歩きながら私は、己の決断力の鈍さを呪った。
ふと後ろを振り返ってみると、
丸められたチラシは風に吹かれて遥か遠くへと転がっていた。

次は「逆転」「無料」「みじん切り」
127ルゥ ◆1twshhDf4c :03/12/05 02:58
「逆転」「無料」「みじん切り」

ほろ苦いコーヒー色の携帯電話を静かにキッチンテーブルの上に乗せ、流し台に向かう。
今日は、ハンバーグにしよう、と私は玉葱を手に取った。
リズミカルな包丁の音とともに、みじん切りの玉葱の山が出来上がっていく。
沈黙を守る携帯電話を背に、私は玉葱が目に沁みてどうしようもがなかった。
それでも、私は溢れる涙を止めることもせず、ひたすら玉葱をみじん切りにした。
私はほろ苦くも甘いコーヒー色が大好きで、今の携帯に一目ぼれをした。
新しい機種の並ぶウィンドゥの片隅に無料の札が提げられた型の旧い携帯だったが、それは私の心を掴んで離さなかった。
貴方は、「本当にそれでいいの?」と口には出して言ったけれど、満更でもなさそうな様子で微笑んでいた。
あの頃は毎日なった携帯電話。
貴方と会話するために、私は昼夜逆転の生活を送ってでも、貴方のコールを、メールを軽やかな気分で待っていた。
しかし、今はそのコーヒー色を見るだけで、心の中にほろ苦さが一杯に広がっていく。
一週間も鳴らない、貴方が大好きな色の携帯電話は、私の心の枷になっていた。
そして、私がメールを送っても、もう貴方に届くことはない。
貴方が携帯電話を天国へ持っていくのを忘れてしまったから。
――それでも私は貴方からのメールをずっと待ち続けている。

☆次は「山女」「呼子鳥」「タンギング」でお願いします。
テレビを流しているのも飽きたので、消し、そのままソファに寝転がった。
怠惰な生活を送っている、と自分でも思う。昔、知人に「お前はまるで山女だな」と
言われたことがある。要するに、どこかに留まる性質の人間を指す彼の比喩らしい。
確かにそうは思う。自分は決して自分から何かを為そうとはしない人間だ。
学生時代の情熱はどこへやら、今はただ流されるだけの人間だ。間違いない。
それでも暇だと友人知人に片っ端からメールを送る。反応が返ってくれば、
そんなもので毎回時間を潰したり。私を山女と称した知人は、私の行為を呼子鳥と言った。
何かに比喩されやすい人間なのだろう。私の本質であり、特質。
自分から何も与えないくせに、何か与えてくれることを待っている――そんな性質が、
私の事を形作っている。少しだけ、自己嫌悪に駆られた。
学生時代は吹奏楽部にいた。サックスを吹いていて、タンギングに苦労したのも今は昔。
結局、何が原因だったのだろうか。テレビの脇に今でも置いてある楽器は――
自分で購入するまで傾倒した、その証だったのではないか。
人間、年をとれば変わるもの。そんな安易な言葉で片付けてしまうには、余りにも楽しかった昔の話。
考えるのを止めて、眼を閉じた。目覚めた時、忘れていられればいいな、なんて思いながら。



お題「イミテーション」「四季」「合わせ鏡」
129名無し物書き@推敲中?:03/12/05 07:02
俺が世の女性に期待することっていうのはガキの頃からずっと変わらなくて、それはつまり俺の内面にあるものを見透かして引きずり出して俺自身さえ気付かない俺の深淵みたいなものに導いてくれるっていうことなんだが、
当然ながら実際にはそんな出来たコはなかなかいなかった。
そこで俺も諦めて、周りにいる適当に可愛いコを食っちゃ捨て食っちゃ捨て、というありがちながら最低な生活を送っていたのだが、
忘れもしない俺が18のある春の日、ついにそいつは現れた。
しかもヴィヴァルディ「四季」のレコードの中から!
正確に言うとこうだ――「春」の陽射しにあんまり気分がよかった俺は、お調子こいて聴いたこともないヴィヴァルディなんかかけはじめて、
そしたら俺の可愛いコンポの真空管が「ボン!」なんて拒絶反応を起こしやがった。
ウトウト最高の気分だった俺はぶったまげて、慌ててコンポを点検しそしてその中に入っていた俺のミューズに出逢ってしまったのだ。
彼女は自ら俺のアニマだと名乗ったが俺はドッペルゲンガーと呼んでもいいくらいに思っている。
彼女の言葉はいつも、俺のグジャグジャして体をなさない感情や感覚が明晰に言語化されたものであって俺はいつもそれを合わせ鏡のようだと感じる。
彼女は中身もさることながら外見も徹底的に俺好みであったのだが、ただ1つ問題があった。
それは彼女がアニマであり実体をもたないゆえに、俺が彼女に触れられないという事だ。
なんたる悲劇!俺は当然の権利として
「どうやったら君とセックスできる訳さ?」
と何度も訊いたが、その度に
「私はあなたの幻想のアニマのコピーのレプリカントのそのまたイミテーションだから無理よ」
などと訳のわからない言葉で煙に巻かれ、結局俺は今日も彼女のその柔らかそうな肌に触れられないでいる。

以上です。
次期御題:「宮古島」「空手」「蝋人形」で。
130名無し物書き@推敲中?:03/12/05 07:14
>>129
固有名詞入れるな。ちゃんと>>1読め。
131129:03/12/05 08:20
>>130
はうあっっ(゚Д゚;)大変失礼致しました。
訂正→「電子レンジ」「愛憎」「貧血」で。
空には白く燃える太陽があり、光が地表を照らして熱を加え続けている。
辺り一面は瓦礫とガラス片、ひび割れたアスファルト、しかし人の気配は
まるでない。
その中にひとつだけ、姿を保った灰色の構造物があった。
鉄の扉を押し開けると、こじんまりとしたロビーであった。
中は冷たく、合皮張りの椅子、リノリウムの床材には埃が積もっているが、
全く散らかっていない。この建物は、外の熱狂とは縁遠かった。
ロビーの奥には鉄の扉が再びあった。
それを押し開けると、無数の蝋人形と模型が並んでいた。
人形の首には「空手」と札が掛けられ、模型の下には「宮古島」と解説の札。
その人形や模型は何を意味するかを伝えようという意思を持った存在なのだ。
奥に進むにつれて、人形の顔の細部が崩れ、札は手書きの荒い字となり、
模型もサイズは小さく、説明も一行二行のものへと変わっていった。
一番奥に置かれていた、最後の模型、いや、展示物は瓦礫の山だった。
説明文は一言、崩れきった字体で「もう、二度と甦らない」

次は「SAM」「タバコ」「戦略」
SAMを「地対空ミサイル」と取ろうが別の略称だろうが自由だ。
133132:03/12/05 08:28
書いちまったYO!!!
俺の題は>>131氏ので上書き。

長年使っていた電子レンジが今日、とうとうお亡くなりになった。
抱いていた感情は愛憎を超えた私生活の友に近かったから、実際の人間が死ぬのと
同等に泣いた。一度死んだものであるから、修理はしないと決めて、電気街に向かう。
その日電気街はひどい快晴で、太陽が狂ったように照り付ける日だった。
無機質なビルの林立、濃い人肉の群れ、アスファルトには餌を請う鳩。
朝ご飯を食べてくればよかった、貧血を起こしてしまうかも知れない……それでも
フラフラと歩いて、家電を扱っている店へと足を運ぶ。
店名「SAM」。何かの略称であるらしいのだが、意味するところは知らない。
看板だけがでかでかと、太陽を反射して眩しい。一挙に、やる気をなくした。
探すだけの体力が、今はない。
休むために近くの公園に向かう。幸いそこに人は居らず、ベンチに腰掛けて
タバコに火をつけた。立ち上る紫煙を眺め、陽炎に目を凝らせば……
先ほどまでそこかしこにいたはずの人肉が、名前も知らない店の前に並んでいる。
何かの戦略だろうか?ああ、こいつらは存在だけで武器になるだろうな――なんて
考えていると、今日壊れた電子レンジのことなんて、どうでもよくなってしまっていた。



お題「定理」「公理」「倫理」
「純然たる人的行動体系の解析こそが先ず必要なのだ」
「我々は相互主観的にも、且つ相互客観的にも経験的知識と
科学的考証によって原体験を解釈し精錬することが重要である」
「凾人間感情の変数と置き、Nを外よりの障害とし、凾ェマイナスになった
その時こそが人間の悪意と憤怒の発露の瞬間であり、その凾ニNをどれだけ
より正確且つ詳細に定義できるか否かが問題なのである」
倫理を定理と推論で以って解析し、公理を編むことは出来ないか。
その問いに答えるものは数限りない。
ある者は論理学、ある者はオペレーションズ・リサーチ、ある者は
心理社会学、数学者の参戦もあった。
結局のところ何十年と論争があったし、今も続いている。

ハナクソほじりながら小学生が一言。
「自分がされて嫌なら人も嫌だから、人の嫌がることをやるなってのが
リンリって奴と違うの?」
――真理とは、単純である。

次、「社会学」「オペレーションズ・リサーチ(ORと略してよい)」
「コーヒー豆」
「社会学」「OR」「コーヒー豆」

新兵をORのために派遣した。そろそろ奴にも社会学を叩き込む必要がある。
新兵はすぐに引き返してきた。その右手には一瓶のコーヒー豆が握られている。
「それだけか?」
報告を待たずに思わず声が出てしまった。
新兵は力なく首を横に振り、左手を差し出す。私を見つめる目は不安気だ。
新兵といえど、事態の深刻さを察しているようだ。
「大丈夫。隊長が必ず旨いもの作ってやるから」
私は新兵の頭を軽く撫でてから、自ら台所へ向かう。
だが、冷蔵庫にはチューブ入りのワサビと中濃ソース、それに一塊のサラミしか入っていなかった。
「出前でも取るか。なあ? ピザがいいか? それともラーメンにするか?」
振り返ると、寂しげなたたずまいの四歳になる息子の姿が。
「……わたったよ。お母さんに帰ってきてもらおうな。これから一緒に迎えに行こう」
ささいな言い争いが原因で女房は実家に帰っている。
息子を置いてくあたりが、あの女の狡猾なところだ。
どうやら、社会学を叩き込まれているのは私のほうらしい。

次は、「エスニック」「周波数」「臨場感」
137クマ:03/12/07 02:43
ぼくはいたたまれなくなって机の下に隠れた。でもすぐ見つかって、
「おいこいつこんなところにいるぜ」ってげらげら笑われた。
エスニック料理を顔にかけられて、なんか、他の生徒もぼくを見てニヤっとしてる。
「こいつの頭の周波数おかしいから」って、馬鹿が言い出して殴ろうってことに決まったみたいだ。
ぼくは「許してください」ってお願いしたけど、ぼくと違うクラスのあったことも無いような奴まで
ぼくを殴りにきて、「臨場感無いからもっとなんか考えようぜ」って言ってた。見せつけるようにナイフを振り回して。
チャイムが鳴ったら、「また明日だ」っていってみんな帰ってった。ぼくは麻衣子ちゃんの縦笛を舐めてからいつも家に帰る。

次は、「一円玉」「乳首」「ろうそく」
  乳首いてえ。
おれは雪降り吹雪く12月の北海道を何を思ったか爆走していた。
シャツの材質がザラザラしてて、乳首が堪らなくいてーんだ。
痛みに集中してて寒さを感じないのでかえってよかったのかもしれないが。

  雪に変わって一円玉が降って来た。なんで五百円玉じゃねえんだ、チクショウ。
じゃらじゃらうっせー中をおれは掻き分けて走った。まだ乳首はいてぇ。
目の前がぼんやりしてきた。

  ろうそく、いりませんか。
俺は倒れていた。ここはどこだろう。見上げると、世界名作劇場に出てきそうな典型的な悲哀の美少女、みたいなコが立っていた。
ろそくなんか要らないよ。ただ、真っ赤に燃え盛る暖炉をおくれよ。

「メッシュ」「受信」「即席」
ろそくw
140「メッシュ」「受信」「即席」:03/12/07 17:47
山中の小屋に滞在して、長い年月が経つ。
出発する時にダンボール何箱分も買い溜めておいた即席麺も大分前に全て無くなり、
それから私はそこいらに生えている草やキノコを食べることで飢えを耐え忍んできた。
だがそれも限界だ。
私はメッシュの寝袋に潜り、枕元に置かれている無線機を虚ろな目で見張っていた。

仲間が無線機で連絡してきたら、小屋の外に出て花火を打ち上げる。
そんな奇妙な指令が隊長から出されたのは、どれくらい前のことであろうか。
最初の頃は私も指令の意味について考えを巡らせたこともあったが、
今となってはそのようなことはどうでもよくなってきている。
一刻も早く無線機が仲間の連絡を受信して、花火を打ち上げて帰還できれば、それでいい。
最初の話ではすぐに連絡が来るみたいだったが、
全く連絡が来ないまま今に至る。
何時まで私を待たせる気だ、全く……。

その後、無線機が故障していたのに気付いた時、
私の体は既に死に滅びつつあった。

「豊穣」「恍惚」「呵責」
141「豊穣」「恍惚」「呵責」:03/12/07 23:31
豊穣恍惚呵責ねえ。なんでこんな固い単語ばっかり選ぶんかなぁ。
原稿用紙300枚分の苦痛を煙草の煙に変えて、俺はそのまま燃やしてやりたい原稿の束を表向き丁寧に返した。
「かなり重いテーマみたいですね」
我が意を得たとばかりに目の前の、自称、新人賞で最終選考男は目と血走らせながら頷いた。
「ええ。豊穣すぎる世界では人の心というものが成りたたないのではないか、というのがこの作品の……」
腹減ったな。夕飯何にすっかな? 
俺は恍惚としながら自分の作品について自己論評している男を値踏みした。
……こいつじゃ交際費にするのは無理か。
まだ将来性があるならツバつけという理由も通るだろう。
でも三十も半ばを過ぎたこいつに将来なんてものは対して残っちゃいない。
「……豊穣であるというのは罪だと思うんです。しかし誰もそのことに呵責を覚えない……」
まあ、だから必死なんだろうな。
深く夢を見ていれば、夢を見ていることに気付かない。
夢であることに気付かなければ、ずっと夢の中でいられる。夢から覚めるには死ぬしかない。
つまりはそういうことだ。俺は二本目の煙草に火をつけた。
「いや、ご高説はよくわかりました。で、この作品は読者層としてはどこをターゲットにされているんですか?」
「ターゲット? ターゲットっていったってその、全部ですよ。日本人です」
「なるほど。つまりそれにはあなたも含まれているわけですね」
男は俺が何を言っているか理解出来ないというようにうなずいた。


次は「ふたば」「おえかき」「裏」で
142名無し物書き@推敲中?:03/12/08 00:00
「豊穣」「恍惚」「呵責」
じいちゃんは、この季節になると頭をたれた稲穂を優しく愛でながらよくこう言った。
「豊穣の秋ほど、嬉しいとことはねぇ」
俺は幼ながらにそんなじいちゃんの恍惚にも似た表情を見るのがとても好きだった。
あれから二十数年の月日が流れた。
じいちゃんはもういない。
せめて永眠したじいちゃんと対面したかったのだが、それもできなかった。
じいちゃんは、息を引き取る前に何度も繰り返し言ったという。
「仁だけは、よびもどすんじゃない。仁だけは……」
そこまでして、じいちゃんは俺の何を守りたかったのか…。
夢だけを追って飛び出した俺だったが、一体何を手にしたというのか…。
じいちゃんの思い描いている俺として存在しているのか。
まともな職にも就かず、ただ生きているだけの日々。
今の自分を思うたびに自らを呵責せずにはいられない。
車窓に映る金色の稲穂は眩し過ぎて、直視するに耐えなかった。
俺は車内の天井を仰ぎ見ると、熱くなる目頭にたまらず瞼を閉じた。

※スマソ一足遅かったです。お題は>>141でお願いします。
143「ふたば」「おえかき」「裏」:03/12/08 01:32
「あ、うん、マンション裏の駐車場に停めておいて。一番奥のが俺の場所だから」
そういうとアイツは、こちらの意見を聞くつもりもなく一方意的に受話器を置きやがった。
昨夜、突然ウチに来た彼は明朝まで酒を飲んだ挙句、
自分のマンションに車を運んでおいてなどとメモと地図を残して出勤していったのだ。
大体、ここまでの道のりだって、子供がおえかきでもしたような地図を渡されただけだし……。
(ったくアイツは何様なんだよっ)
私はなれないハンドルさばきで裏の駐車場へと車を進めた。
駐車場を目の前にして、更に深くため息をついた。
(こんな狭いところふたばマークの私に停められるかっての……)
暫く車を何度も切り返して、駐車を試みるも、いろいろ考えてるうちにとうとう沸点を超えた。
(もう、アイツの車なんて知ったことか私に頼んだアイツが悪い)
そう開き直ると狭い駐車スペースに荒々しく車を駐車しエンジンを止めた。
左の壁際からガリガリという音が聞こえたような気もしないでもないが、
聞こえなかったということにして確かめるまでもなく早々に運転席を立ち去った。
まぁ確かめるにもサイドミラーがすでに視界に入らなかったのではあるが……。
勢いついでに閉めた車のキーを壁向こうの空き地におもむろに投げ込んでみると
なんだか、雨が晴れたようにスッキリした気分になったので
バス停までの道のりをスキップしながら帰りたい気分ではあったが、
それは止めて即興の鼻歌をうたいながら、帰宅の途についた。

お題は『トートロジー』『青』『ナポリタン』で。
「君から見ても赤い。つまりこのナポリタンは高速移動しているのではない!」
 強い口調で目の前の男はそう断言した。私はフォークが刺さったままで
一本も減ることのないナポリタンを眺めて、確かにそうだなと思った。
「でも、そんなの当たり前でしょ」
「当たり前などということはない。論理学以外の世間にトートロジーなどない」
 言っていることがよく分からない。ひょろひょろとした青びょうたんだと思って
甘く見ていた。世の中何事も簡単にはいかないものだ。
「とにかく、この神様の壷を五十万で買いさえすれば救われるのよ」
「だから、何故救われるのか証明しろと言っているのだ。第一何から救うのだ」
 言葉に詰まってしまう。布教のアルバイトなんてするんじゃなかった。
「世の不条理からよ。とにかく、この壷を買えば私が救われるわ」
「困っていたのは君だったか。道理で顔色が悪いと思った」
 だんだん訳がわからなくなってくる。
「だが大丈夫だ。私が人生の集大成として執筆したこの”真理学”の本を買えば……」
 だんだん訳が―――

次「広い」「馬力」「廊下」
火曜日の午後五時ちょうどになると、彼は階段を駆け上がり、「3−A」の
教室前の廊下で、空を見つめた。
屋上は閉鎖されている。けれど、出来るだけ高いところに居たかった。
赤い光が差し込む中、目を細めて、空を。
その燃える空に黒い影が一つ見えた。
ボーイング747。
鳥と人はたとえるだろうが、彼には人類の英知の結晶である。
大馬力のエンジンを四発搭載し、人間を大空へ導く技術の最高点だ。
夕日の中では、機体は殆ど黒い影にしか見えない。
けれど彼の心のフィルターを通してみれば、白い機体が広い空を
悠然と舞い、ケロシンという養分を与えられたエンジンが、気流をタービンから
思い切り吐き出すジャンボジェットの姿が、まさに眼前にいるかのように見えた。
彼はその機の姿が見えなくなるまで現実と空想の両面で機体を追い、
機が見えなくなるとガッツポーズひとつ決めて、廊下を駆け出していった。

次「ターボプロップ」「少年」「管制塔」
ターボプロップは「構造はジェットと殆ど同じで排気でタービンを回転させ
プロペラを回すエンジン」の意味――だったと思う。
146145:03/12/08 12:15
>>141
ノシ<いよう、おまいもとしあきか
胸の奥深くに仕込まれたターボプロップに命の灯火が宿る。
灯火は全身を駆け巡り両腕のプロペラと、足の姿勢制御バーニアに息を吹き込む。
スリー……
「657回、ジェットサイボーグレーシング! 勝利を掴むのは一体だれだ!」
トゥー……
「37-レイクンファントム!? 42-デッドマッド!? 82-ジャスティスかァ!」
ワン……
「今、勝負の火蓋が――ッ!!」
ズィーロゥ!
凪いだ空気が嵐に変貌する。
一斉にスタートカタパルトから射出され、数多の選手達が空を切り裂く弾丸へと姿を変える。
「先ず先陣を切ったのは……ッ! なんと、無名の新人です! 歳は18、少年レーサーだァ!!」
空が蒼い。雲一つ無い、蒼い空だ。
俺の脳味噌に逐一情報を伝える管制塔が、ちっぽけなものに思えるよ。
後続となった選手達は次々とソニックブームに切り刻まれ、炎上する。
厳しさこそが優しさの世界は、厳しさを受け入れると心地良い。
今日、俺は少年から大人になる。


ターボプロップ、正直良くわかんね。
次は「連貼り」「コピペ」「電子」でよろしく。
148 ◆ra0S/YG2ds :03/12/08 21:09
「連貼り」「コピペ」「電子」

  窓枠に白い影が落ちた。私は左手で頬杖をついたまま視線だけをその方へ向ける。
今年初めて目にした雪は、左手の指をのばしているあいだに溶けてしまった。右手は
マウスを握ったままだ。携帯が、古めかしい電子音を響かせ、メールの着信を知らせ
てきた。
  着信のメロディですぐにSだとわかったが、返事を返さないでいると、ふたたび電子
音が鳴った。私は携帯電話の設定をバイブに切り替えて、机の上で震えるままにして
おいた。返信を待つSの顔を心の中で思い浮かべる。まるで地響きのようだ。
『会いたい』
  Sは電話ボックスにピンクチラシ貼る仕事をしている。一分もあれば、立派な簾をガ
ラス三面に完成させる。仲間からは連貼りのSなどと崇められているが、私から見れば
ただの違法行為だ。私は彼に、その仕事を辞めるように言った。彼の仕事を知ったその
日のうちにドトールで会い、そう頼んだ。そして、まっとうな仕事に就くまで連絡を絶つと
告げたのを最後に、半年あまりが経った。
  玄関の呼び鈴が鳴った。さては、自宅まで来たな。私は、悔しいけれどすこし嬉しく
思いながら、ドアを開ける。しかし誰もいない。ひとひら舞ってきた雪につられて、ふと、
ドアの外側を見ると、簾ができていた。一枚一枚の白い紙に、「仕事辞めたよ。ドトール
で待ってる」と、手書きされている。
「もうね、アホかと、馬鹿かと」
 と、私はあるコピペの一節をくちに出しながら、笑ってしまった。

次は「お久しぶりです」「思いやり」「片想い」でお願いします。
>132
※自作自演警報発令
文章が細切れすぎるとか、日本語が怪しいとか、
見ると欝だ。
当人は書くより評するほうが向いているのかもしれない。
>134
「濃い人肉の群れ」の表現は目を引いた。
レンジを人間のように扱い、人間を敢えて無機的にしている所は
見ごたえがあると思う。
レンジが壊れて泣いたというなら、その意思を使ったまま
話を転がしていったほうが話の筋は通ったろうが。
例えば「レンジを蘇らせようと、電気街へ修理を頼みに〜」と。
>135
※自作自演警報発令
スルー。
基本的に小説書きに於いては当人ヘタレらしいという確認しか出来ない
ところが情けない。
>136
子供を新兵に例えるのはちょっと無理があったんじゃないかと
思わないことはないが、話の内容は十分汲み取れる。
あと、誤植あり。
>137
微妙なところ。
突き抜けてしまえばそれなりに凄いモノになりそうだが、
若干ためらいが見える。
チト抽象的な表現だが、そうとしかいえない。
申し訳ない。
150149:03/12/08 22:47
――吊ってきます。
そういって>>149はLANケーブルを探した。
けれども彼は無線LANだったので、マウスケーブルで(以下略

申し訳ない。
お久しぶりです。黒田です。
単刀直入に言います。好きです。お付き合いしてください。
卒業式の日に泣いてお友達との別れを悲しんでいた姿を見て、ずっと片思いを続けていたのです。
もう、あの日から三ヶ月以上経ち、「何を」と思うかもしれませんが、全ては僕の優柔不断の性格ゆえです。申し訳ない。
とにかく、僕は全てのものに思いやりの気持ちを持てるあなたが大好きです。
あなたの恋人になりたいんです。

何の捻りもないストレートな奴を書くのもたまにはいい。
「素性」「怠惰」「退場」
『お元気ですか。私はちょっとだけ凹んでます』
メールの内容に宏は首を傾げた。送信者のマキという名前にはまったく覚えが無い。
人違いだろうか。よくある出会い系メールを想像していた宏は戸惑い、削除もせずメールを放置した。
しかし、マキからのメールはそれからも続いた。
学校帰りに友達と食べたパスタがまずかった、やけにしっぽの長い捨て猫を見つけた、
などの他愛の無い日常での出来事が毎日のようにメールには書かれている。
住んでいるのも宏と同じ東京だとわかった。
俺が素性の知れない独身の三十男ってばれたら徹底的に嫌われるだろうな。
そう思いながらも、宏はいつしか彼の灰色の人生に突然現れたマキにメールの返事をするようになっていた。
会社が終わると家に帰ってビール片手に野球観戦、というマンネリ化した生活と怠惰な自分に嫌気が差していたのだ。
そんなある日の日曜日、宏の携帯電話に緊急と題名のついたマキからのメールが入ってきた。
『どうしよう。車で人跳ねちゃった。ヤクザみたいな人が百万円払えって言ってるの。どうしよう。私どうしたらいい?』
『大丈夫だよ。何とかなるから。今どこ?』
宏はメールをマキに送信すると引き出しから貯金通帳を取り出し、調べた。
ちょうど百万ある。宏は数時間後には空になる貯金通帳を握り締めて家を飛び出した。
その日を境に宏の人生から永久に退場するマキのために。

次は「光」「家」「仔猫」でお願いしまつ
153名無し物書き@推敲中?:03/12/09 18:41
お久しぶりです。仔猫です。
単刀直入に言います。メシ下さい。もう駄目です。
あと家の中に入れて下さい。僕、植物じゃないんです。
光合成なんて出来やしません。自分でメシ取ってこいって? こちとら野生じゃねえんだよ、ボケが。
入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ
入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ死ね。
おっ、ようやく開けやがったか!! さあ、早く可愛いこの俺のために餌をよっこせ馬鹿。よこせ馬鹿。

気が付いた時、俺は見知らぬ場所にいた。ダンボールの中で放置。
誰か、この僕をお救い下さい。どうか、どうか。

「感度」「感帯」「スポット」。忘れてゴメンよ。
 お金も稼げないくせに……。
今年に入ってからの我が家のテーマはこればかりだった。
二言目には妻の罵声。そして、お金の話。お金の話、妻の罵声。
そうして、五月を過ぎた頃には私の頭の中は、マッターホルンを登る山男のように
地味で、目立たない大自然の一部と化していた。
 それから、気の狂うような罵声の日々をもう2、3ヶ月耐えた頃には、
大西洋の海面に浮ぶ、くらげのようなゆらゆらとした精神状態に私は為っていた。
 ここまで来るとゴールは間近だ。私は心も身体も大自然の一部と為り、神か仏か、
はたまた、悪魔なのか……いずれにせよ畏敬の何かに近づいてきたのが手に取るように感じれたのだ。
 師走に入った頃には完全に私の原型は消え去り、私から私ではない私へと変わる事を決めた。 
キリストの生まれた日。私は私で無くなろうと思う。
まづは、何か畏敬の「何か」に変わる準備として、妻の焼いたローストチキンに添える
妻の料理方法を思案することにしよう。

次は「トナカイ」「倒壊」「ニライカナイ」 

 流言によると大地震で倒壊したビル街。俺は鉄筋コンクリートの巨大な破片に腰掛け、喉にペットボトル
の水を少しずつ染みわたらせていた。
「モウトクどの!」
 突然呼びかけたられたのは、そのときだった。慌てて振り向くと、俺に駆け寄ってくる二つの影があった。
ひとつは、身長2メートルもあろうかという軍服を着た白人の男。もうひとつは、トナカイだった。
「モウトクどの! 無事でありましたか。駆けつけるのが遅れ、申し訳ありません」
男は、欧米風なまりの日本語でそう言った。当たり前だが、俺はモウトクどのではない。モウトク、三国志
の曹操のことなのか。愛馬がへたってしまいまして、と男は傍らのトナカイを示した。トナカイ、動物園に
いたやつだろうか。男は米軍兵のようだ。そういえば、米軍基地も壊滅したとかいう噂を聞いたことがある。
「このチョウリョウさえいればもう心配は要りませぬ。ご安心くだされ」
と妙な形の礼をすると、男は俺につき従おうとした。チョウリョウとか言うのは、曹操の部下のようだ。当然、
俺の理性はそのとき、こんな危険な存在とは早々にオサラバしろ、と信号を発していた。が、
「うむ。頼むぞ、チョウリョウ」
つい、言ってみたくなったのだ。金髪碧眼のチョウリョウは嬉しそうに俺に従った。俺に愛馬に乗れ、とすすめる。
馬はもちろんトナカイにも乗れないので断わった。
 しばらくチョウリョウと歩くと、居酒屋の看板が見えた。看板だけだ。「ニライカナイ」と書いてあった。沖縄から
やってきた人の店だったのだろう。理想郷。ふと「面白くもなんともない、いっそ吹っ飛んでしまえ」と思っていた
一ヶ月前までの世の中を思い出した。空を見上げた。空は、突き抜けるほどにただ青かった。

お題がわからないので、>>155さんのものを使いましたが、それでよかったのでしょうか。

一応あげておくと、次は「ハガキ」「蜜柑」「飛行機」でお願いします。
――ねぇ、おじいちゃん、サンタさんはどこから来るの?
――ニライカナイと呼ばれる所から来るんだ。
空を舞うトナカイを引き連れて、太陽神が眠りに付いている間に。
――どうして、サンタさんはお昼にこないの?
――サンタさんは遠い遠い昔、まだ若々しい顔立ちのころ、
太陽の神を洞窟に誘い出して、岩で洞窟の入り口を塞いだ。
それはサンタさんのいたずらだったのだけれど、地上の人々は困った。
米や小麦、とうもろこしが育たなくなってしまったから。
サンタさんが空から大地を見下ろすと人々が泣いていた。
これは大変だと思ったサンタさんは直ぐに洞窟へ。
岩の扉は倒壊しており、神様が洞窟から出てきたところだった。
神様は怒って「サンタの顔など二度と見たくない!」といったそうだ。
だからサンタさんは太陽が眠りに付いている時だけやってくるんだ。
――どうしてサンタさんはプレゼントをくれるの?
――お詫びの気持ちだ。閉じ込めた日は12月25日なんだとさ。

次「八百万(やおよろず)」「神話」「科学」
※上の話は完璧に架空のものです
158157:03/12/10 16:48
>>156の御題で。失礼した。
 地球という星には実に多様な世界が構築されている。最も分かりやすい世界が
目に見える人間界であり、実存する唯一の舞台である。だが世界はもう二つある。
 その一つが人間界にあっては神界と呼ばれる舞台だ。昔から神話に登場する神々
はこの幕内にのみ存在を許されている。人間界の科学に否定される理由がここにある。
「最近はめっきり信じる者が少なくなりましたなぁ」
 何とは無く言った者が福禄寿である。日本では八百万の一体として数えられる
歴とした神だ。周りにはギリシアやローマのが座して国会の様相を呈している。
「ここは一つ、天罰でも下してみるかい」
 クククと笑ってロキが言った。嘘の父はすぐに黒い烏へと変身した。
「待ちなさい終末の者よ。どうせろくなことにならないのだから」
 ゼウスが言った。彼こそろくでもない者の代表だが、今はもっとろくでもない
人間の処罰について論が荒れている。今度こそ滅ぼすか、また啓示で済ますか。
「フェンリルで食ってしまえばいい」
「キリストを降ろせ」
 右に左に言は飛び飛び決着つかず、やがて神々の黄昏が始まった。

次「はかばかし」「滅法」「勘ぐる」
160うはう ◆8eErA24CiY :03/12/10 22:04
「はかばかし」「滅法」「勘ぐる」

 イソップは、紀元前の開放奴隷らしい。
 ここまで昔だと、本当に実在の人なのか、勘ぐりたくもなってくる。

 子供達が家に帰ると、イソップは傍らの若者と話を始める。
 今度は童話とはちょっと違う滅法奇妙な話・・・今でいうSFだった。

 鉄の箱が地を走り、巨大な人工の鳥が空を飛ぶ世界。
 雷が縄を伝い、人は小さな箱で世界中の人々と声を伝え合う。
 何より、その世界では、建前だけとはいえ「奴隷」というものがなかった。

 「今から2千年以上後の空想の話じゃよ」と、イソップは声を詰まらせる。
 彼が、その生い立ちからか、様々な苦痛を背負っている事を若者は知っていた。
 「2千年も経てばこんな話も四散消滅。私の存在すら、実在か勘ぐられる事だろうな」

 イソップは空想の人物なのか・・・それは誰にも断定できない。
 というか、そんな事はあんまり断定したくない。
 こっちにとって勝率がはかばかしくない、もう一つの可能性があるからだ。
 自分達の存在の方が、イソップの空想という可能性が。

※:14行で収まると、なんか充実気分(笑)
次のお題は:「初潮」「禁止」「宇宙」でお願いしまふ
「初潮」「禁止」「宇宙」

今日こそ言おう。頼んでみよう。調理場をせわしなく動き回る母の姿を目で追いつつ、決心した。
でも、なかなか切り出せず、ついキャベツの千切りなど始めてしまう。
母がカツオを下ろし終えた頃、ようやく踏ん切りがついた。
「ねえ、お母さん、ウチのお店の名前変えられない?」
キャベツを皿に盛り付けながら、さりげなく聞いた。
「無理ね」と短く答え、母はアジフライをキャベツの上に載せる。
何故と聞かないのはありがたかったが、あまりににべもない。
やっぱり、父に話さないとだめなんだろうけど、あの宇宙一デリカシーのない海の男を思うと
血の気が退きそうだった。
アジフライを失敬して、表へ出た。入り口脇に駐車禁止の立て札が倒れていたので起こしてやる。
店の前を走る国道を渡り、アジフライを咥えて防波堤をよじ登った。
眼前には見飽きた海が広がり、振り返ると見たくもない『食事処 初潮』の文字。
何もあんなに大きな看板かけなくてもいいのに。
あーあ、ついこの間まで別に気にもならなかったんだけどな。……ちくしょうめ。

次「防波堤」「食事処」「看板娘」
>>161
文体がこなれてて(・∀・)イイ!
さり気ない状況説明(・∀・)イイ!
子供の頃にはどうしてこんなことが出来たのだろうか。
五十センチほどの幅しかない防波堤は見た目ほど平らでは無く、コンクリートが所々欠けて不安定だ。
私はその上を一人、懸命にバランスを取りながら歩いている。体の小さい子供だったから随分広く見えたのか。
それとも最近の防波堤がスマートになったのだろうか。私は現実から目を逸らそうとしている自分自身を強く意識した。
私は二十年前に妻と娘を置き去りにしてスナックの女と一緒に逃げた。
それも籍を抜くこと無く二千万の借金はそのまま残して。
二十五歳の時に見よう見真似で始めたレストランが大当たりして自惚れた私は他にも幾つかの店を経営し始めた。
しかし、気が付いた時にはレストラン以外の赤字ですっかり首が回らなくなっていたのだ。
お食事処と書かれた幟を見て私の動悸が激しくなった。ここに一度は捨てた娘がいるのだ。
『看板娘みたいですね。可愛かったですよ』興信所の所長が浮かべた笑顔を思い出す。
逃亡して一年ほどしたある日、女は金目の物を持って突然消えた。
履歴書すら書く事の出来なかった住所不定の私は自営業以外何も出来ない典型的な無能者だった。
しかし、そんなことはもうどうでもいい。長距離運転手で稼いだ金をどうしても娘に渡したい。
虫のいい話だとわかっているが謝罪の言葉を聞いてもらいたい。私は祈るような思いで暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
次は「ハガキ」「蜜柑」「飛行機」でお願いしまつ
164「ハガキ」「蜜柑」「飛行機」:03/12/11 19:26
飛行機の中から抜け出すと、激しい吹雪が私に襲いかかった。
凍てつく風に私は身を縮ませ、
視界も覚束ない中、森を抜けた場所に立っている小さいポストに歩み寄る。
そして鍵の無いポストの扉を開け、中を覗き込むと、
私は落胆して背中を丸くしながら再び二度と動かない飛行機の中へと戻っていった。
ポストの中にハガキは無く、私が3日前に投函した助けを求める言葉の書かれた紙切れだけが、
未だに回収されずに残されていた。

私は今、何処かも分からない雪原に遭難している。
雲行きが怪しかったのにも関わらず、餅やら蜜柑やら、
冬支度のための買い出しをしようと自家用飛行機を動かしてしまったことが運の尽き、
乱気流に巻き込まれて機は操縦不能になり、遥か遠くへと飛ばされた挙句に墜落した。
幸いにも私は生きていたが、場所は人気の無い森の中で、携帯電話も圏外になっている。
私は飛行機の中で、じっと助けを待つしかなかった。
だが飛行機は森の中の目立たない場所に墜落してしまったので、
中で待っていては誰かに発見される望みも薄い。
でも吹雪が止む事無く吹きつづけている森の外で待ちたくはない私は、
森を抜けた場所にポストがあるのを発見すると、偶然飛行機の中に残っていた紙切れに助けを求める言葉を書き、
回収しに来る郵便局の人が目にしてくれることを祈りながらポストに投函した。
だがこんな人気の無い場所にポストがあること自体が不可解だ。
誰も回収しに来ないかもしれない。不安に駆られながら、私は飛行機の中で待ちつづける。

「暴露」「破魔矢」「配線」でお願いします
>54
>トーテムポールのようなオブジェのサークルの中で、
「の」の美しさを意識しているのかも知れないが、率直に言えば把握しづらい。
一度認識してしまえば、別に何てことは無いのだろうけれど、手探りで進む中、
何処まで行っても壁が無いような感じで、漏れは落ち着かなかった。
>32人のほとんどが集まってきていたため
「集まっていた」為と、「集まってきていた」為は違う。進行中の事象なら、「ほとんどが」はちょっと変では?
それと、全体的にちと読みにくい。
時間の経過やそもそもの状態の説明がなく、一文、二文……と読み終わっていって、
初めて全体の関係や流れが把握できる構造になってる。
ほんの少し手を添えてあげれば、それだけで把握しやすくなるのだから、一考を。


> 「ヨーロッパ三都市物語」の初日は、透き通るような青い空のジュネーブ。
> その初日の夜も更け始めて、照明を落としたロビーから見える飛行機が、ライトに
>照らされて巨大なオブジェのように光っている。 空港のトランジット・ロビーでは、
>ツアー客が思い思いに時間を潰していた。
> 「もうそろそろ時間かしらね」 トーテムポールのようなオブジェに囲まれて、
>町子が稔に囁いた。

改悪だったらスマソ。


ふう。本日終了。
166165:03/12/11 20:42
>>165
うお。二度目の醜態をさらしてしまった。
申し訳ない。
神有月 敬一郎
神有月は十五歳のとき両親を自宅の火事で失い、配線工の叔父に引き取られた。
(神有月は逮捕後、両親を自分で焼き殺したと供述したが、別の放火犯がすでに逮捕されていたので虚偽とされる)
学業は無難にこなしていたし、人間関係も問題は特になかったという。
平成七年一月四日、出雲の某神社で賽銭を盗もうとしていたところを神主Aさん(仮名)に見つかる。
Aさんはその場で注意を与えただけで神有月を帰したが、神有月はそのことを逆恨みし、
三日後の一月七日、Aさんを鏃を付けるなどの改造を施した破魔矢で射殺した。
目撃者はいなかったが、四日以降に自宅近くの裏山で昼夜兼行で弓の練習をする神有月が目撃されたことがやがて犯人を暴露することになった。
神有月の自宅に警察が踏み込んだところ、神有月はすでにAさんを殺害したものと同じ改造を施した破魔矢で自らの喉を突いて自殺していた。
「暴露」「破魔矢」「配線」

 ここで一つ暴露しよう。俺は全知全能だ。
 世の中の愚民どもには、まるでそれが解かっていない。
 俺が神であり、全てなのだ。喩え悪魔がいたって、破魔矢なんて要らない。
俺さえ居ればそれでいい。もう少し、俺を崇めるべきなのだ。
 「――はい、そうねえ。じゃ、山下君。次の問題を解いてちょうだい」
 不意に呼ばれて、俺は意識を教室にもどした。
 どうやら、この俺様に問題を解けと言っているらしい。
 仕方なく「聞いていませんでした」と答えたら、どっと笑いが湧き起こった。
 やれやれ。
 「知らないこと」さえ可能である、その偉大さすらも理解できないとはね。
 皆どこか頭の配線でも抜けているんじゃないのか?

――知らないことも、知っていることも、馬鹿にされる能力も、馬鹿にする能力も、
全て完璧に備えている神の苦悩は果てしなく続く。

次は「夢」「色彩」「始まり」でお願いします。
 十三日の金曜日。そう、イエスが処刑された事から不吉とされている日の事だった。
「今夜の午前0時に合わせ鏡をするとね、その空間に悪魔が現れるの。何か身に着けてい
る大事な物をあげると、一つだけ夢を叶えてくれるんだってさ」
 付き合い出してから、かれこれ三ヶ月になる彼女が言った。俺は思わず苦笑する。
「じゃあ今夜辺り俺も悪魔を一匹、捕まえてみるかな?」
「どんな夢を叶えて貰うの?」
 小首を傾げる彼女に、俺は黙ったまま微笑みかけた。未だ大人の関係には至っていない、
彼女にだけは知られたく無いコンプレックスがあるからだ。だから、グラデーションの色
彩に染まりゆく空に目を細めただけだった。
 そして深夜。俺は彼女から聞いた話を実行に移そうとした。と言っても、合わせ鏡など
持っていないからテレビにビデオカメラを繋いだだけだ。両方を向かい合わせる事により
同じ状態を作りだした訳だ。テレビ画面には同じ映像が延々と続いている。テレビ、炬燵
で丸まる俺、背後に設置したビデオカメラ。そんな映像が何重にも連なっている。
 午前0時になると同時に、それまで静止していた画像の中で何かが蠢いた。目を凝らし
て見ると、重なり続ける画像の奥で、何番目かの俺だけが立ち上がっていた。そして幾重
にも重なる画像を次々に擦り抜けながら徐々にこちらに近付いて来る。もう一人の俺は既
に背後にまで迫っていた。だが俺は恐怖で振り返る事も出来ない。背中がぞくり粟立った。
『大事な物を寄こせば、お前の夢を叶えてやろう』背後から俺の声が響いた。その瞬間、
「俺の尻にある大事な蒙古斑をあげます!その代わりに、彼女と一生離れずに済む様に!」
 叫びながら俺は振り返った。が、既にそこには誰もおらず……俺は慌てて立ち上がると
パンツを下ろしてビデオカメラに尻を向けた。そしてテレビ画面を覗き込む。すると尻の
蒙古斑は綺麗に消えており――代わりにそこに彼女の顔があった。
「何て事を頼んだのよお!馬鹿ッ!」
 彼女は激高して叫んだ。それが永遠に続く、同棲生活の始まりとなった―― (了)
170169:03/12/12 19:35
 お題を書き忘れました……(汗)
 次の、お題は「街路樹」「木枯らし」「残月」で、おながいしまつ。
闇を駆け抜ける木枯らし。
その風は街路樹を眠りに誘い、木の葉の命を奪う。
磯辺の松に葉隠れて、沖の方へと入る月の――
彼の足元には、人の入れ物があった。
その入れ物は頭に穴を開けられ、もはや魂は天にある。
光や夢の世を早う――
空には白く鮮やかに、真円を描く月があった。
入れ物の支配者はそこへ向かったのか。
それとも空に瞬く星のいずれかとなったのだろうか。
覚めて真如の明らけき、月の都に住むやらん――
瞳から雫を流し、その雫は頬を伝い、大地へ。
唄う彼は、泣いていた。拳銃を硬く握り締めながら。
今は伝てだに朧夜の、月日ばかりは廻り来て――
「峰崎勾当、『残月』」
彼は死体に背を向け、闇へと消えていった。

次は「浪曲」「ポップス」「オーディオ」
――とても、悲しい。
彼女は高校生としては奇特な趣味の持ち主だった。
浪曲をよく弾いていた。僕は引き込まれ、いつのまにか嗚咽を漏らしていた。
古いオーディオ機具も沢山持っていた。蓄音機みたいなやつだ。詳しくは分からないけど。
それで古いポップスをこれまた古いバカでかい円盤で聞いていた。
そんな時、僕は遠くを見つめていた。たまに彼女を見ると、口元に微少な笑みを漏らしていたものだ。
そんな彼女は、もういない。

――世界がとても広く見えるようになった。
彼女しか見えなかったから。ただ、それは喜んでいいことなのか。

「柔」「硬」「カラメル」
173名無し物書き@推敲中?:03/12/12 23:38
「おい! どうなっているんだ! このプリンにはカラメルが絡まってないじゃないか!」
「・・・はぁ?」
 室長の言葉が瞬時に理解できないものだったので、ついつい考え込んでしまった。
 プリンはプリンでしょう! ・・・というかこだわりが意味不明。
「つつけば柔らかいから揺れる。しかし、このくずれない程度の硬さが…」
「あーはいはい。食べ終わったらちゃんとお皿を漬けといて下さいね」
 こんなとこ辞めてやる! わたしはこんなおっさんに付き合ってられないわっ!
174名無し物書き@推敲中?:03/12/12 23:41
あ、お題わすれてたスマソ。
「アドバイス」「お茶菓子」「お灸」でよろしこ。
あ!今日の中で173が一番良かった。マジで。
目から鱗だYO
これが、三語スレの妙だったのだな、と納得。
>>173
漬ける→浸ける
ああ……律儀に……そう言う事するから益々作者が(ry
178173:03/12/12 23:56
自分の場合、真っ先に題材を出しておいたほうがわすれないし、
早めにだしておかないと文章が先にすすめられないっていうか、
掛けないので、いつもそう書いてます。前スレとかみるとバレます。
はっ。こういう文章のクセを引き出すのがこのスレの活用法なのかも。
いやはや、このスレっていいね。文章に慣れ易くするためにこれからも
どんどん活用させていただきます。
>>173

ガンガレ!期待シテールヨ!
明日にでも最初から読み直そうw
180名無し物書き@推敲中?:03/12/13 10:58
感想は専用スレに。
灰色の空の下、私は日本有数のオフィス街を駆け回っていた。
今日、詳しくは分からないが、何やら偉い人が我が社に視察に来るらしい。
そこで部長にお茶菓子を買ってくるように命じられたのだが、
何かの偶然だろうか、私が寄る何軒かの店はこの日に限って悉く閉まっており、
私は今まで行ったことのない店を探さなければならなかった。
しかし見つからない。
だいたいこんな街でお茶菓子を売っている店なんて、そうそうあるものじゃない。
ふと時計を見ると、あと30分でお偉い方が来てしまう時間になってしまった。
会社に戻る時間を考えると、一刻も早くお茶菓子を買って帰らなければならない。
かと言って部長のアドバイスによると、この日の視察は社運が懸った大切なものらしいので、
まさかコンビニで買っていくわけにもいかない。
私は焦り、額に汗してオフィス街を駆けまわる。
とその時、私の目に一つの看板が留まった。
「肩こり・腰痛に○○堂のお灸」
そうだ、これだ。人をもてなすのは何もお茶菓子に限ったことではない。
お灸なら私も何度かやってあげたことがあるから自信がある。
わざわざ視察に来て下さったお偉い方にお灸をしてあげる、これで喜ばないはずがない。
私は自分を納得させると、急いでお灸を買いに走った。
その後、自分が部長達にお灸を据えられることなど夢にも思わずに。

「ハム」「荒波」「花園」でお願いします。
今、彼等は荒波に向けて漕ぎ出した。
日本ハムファイターズ。日本屈指の不人気球団。
彼等は自らの安住の地を求めた。東京は彼等のそれでは無かった。
彼等は独自のアイデンティティーを渇望した。そのため、日本最北部、プロ野球未開の地へと。
果たして彼等の旅の先にあるものは。花園は――――。

頑張れ。
「スカート」「ブルゾン」「納豆」
183「スカート」「ブルゾン」「納豆」:03/12/13 20:13
私の同僚であった霧島さんが亡くなった。
慣れないロングスカートを穿いたものだから、裾を踏ん付けて転んで頭をぶつけて急死したのだ。
葬儀が済んでから一ヵ月後、私の自宅に大きな荷物が届いた。
差出人は霧島さんで、中身は彼女が一年中愛用していたブルゾンだった。
生前に送られるよう手配していたのだろう。
また、ブルゾンとは別に手紙と多くの書類が入っていた。
手紙には「この書類をもとに、どうか私の遺した研究を完成させてください」とあった。
霧島さんがある重大な研究をしていることは知っていた。
私は一通り書類を読むと、彼女のブルゾンを着込んで研究を開始した。
何年かかろうとも、彼女に代わってこれを完成してみせる。
彼女が研究していたのは、納豆から核分裂エネルギーを得る方法である。


「吹き飛ばせ」「振り払え」「暴き出せ」
184浩君 ◆5edT8.HnQQ :03/12/14 02:10
般 羯 多 呪 多 得 想 掛 所 亦 無 耳 不 是 異 蘊 観 摩
若 諦 呪 能 是 阿 究 礙 得 無 意 鼻 増 舎 色 皆 自 訶
心 羯 即 除 大 耨 竟 無 故 老 識 舌 不 利 色 空 在 般
経 諦 説 一 神 多 涅 掛 菩 死 界 身 減 子 即 度 菩 若
   呪 切 呪 羅 槃 礙 提 盡 無 意 是 是 是 一 薩 波
  波 曰 苦 是 三 三 故 薩 無 無 無 故 諸 空 切 行 羅
  羅   真 大 藐 世 無 陀 苦 明 色 空 法 空 苦 深 蜜
  羯   実 明 三 諸 有 依 集 亦 聲 中 空 即 厄 般 多
  提   不 呪 菩 佛 恐 般 滅 無 香 無 相 是 舎 若 心
      虚 是 提 依 怖 若 道 無 味 色 不 色 利 波 経
  波   故 無 故 振 遠 吹 無 明 觸 無 生 暴 子 羅
  羅   説 上 知 り 離 き 智 盡 法 受 不 き 色 蜜
  僧   般 呪 般 払 一 飛 亦 乃 無 想 滅 出 不 多
  羯   若 是 若 え 切 ば 無 至 眼 行 不 せ 異 時
  諦   波 無 波 蜜 顛 せ 得 無 界 識 垢 亦 空 照
184なんか吹き飛ばせ!
184なんか振り払え!
184のIPを暴き出せ!
「暗い不況を吹き飛ばせ!」
「弱い自分を振り払え!」
「真実をここに暴き出せ!」

ホームの売店の一角では今日もニュースペーパーがスクラムを
組んで吠えている。スーツやヒールは箱詰めにされてベル待ちに
セットされていく。ドアはちょうど一分後に閉まる。

次は「神様」「フットボール」「水」

ヤツが蹴ったボールは、キーパーの死角をついた。
ゴールネットが揺れて、一瞬の静寂。選手の頬を、
汗が水滴となり流れ落ちる。

残るロスタイムもあと僅か、フットボールの神様も
残酷なものだ。こうなってしまっては、逆転は無理だろう。
来シーズンの、2部リーグ落ちが決まってしまった。


次のお題は、「犬」「プラモデル」「闇」
  闇に蠢くものども。阿鼻叫喚愉悦最高潮。強きものが勝ち弱きものは食い物にされる暗黒世界。
俺も今飛び込もうとしている。現世には何のしがらみも無い。俺は子供の戯れの目的により作られた、俗に言う「プラモデル」だった。
暗黒世界へは死を受け入れたものしか逝けない。俺は破壊された。戯れに破壊された。
目の前には小さな穴があった。ここに飛び込めば逝ける――俺はもげた部位を抱えて穴に入ろうとする。
その時、背後から聞きなれた声がした。『ええのんか? 入って』
声の主は、俺と同じく人間の戯れの対象であった犬。俺はいいのさ、どうせ地獄の釜逝きならば、最後に一花咲かせてやる。
『地獄の釜てなんや、ゴミ収集所か? 心配せんでもええんちゃう? 君、太郎君にごっつ気に入られとったやろ』
違う、そういうことじゃあないんだ。俺は、名を上げたいんだ。アンタには分かんないだろうな…。
『わしは今の生活を維持したいと思うがのお…失ってみてそれが意外に大きなことだったと、思うこともあるでえ』
今の生活!? ただ弄ばれ!! ただ辱められ!!! それを維持したいだと!!? おめえ頭おかしいんじゃねえか!?
『今のお前には見えんモンもあると思うで、若造』
彼の言葉が俺を強烈に威圧した。その老齢の飼い犬は、一転して厳しい眼つきで俺を凝視した。
俺はどうしたらいいのか分からなくなった。ただ、もげた右腕と頭を抱えて立ち尽くす――――。

「野武士」「強姦」「ソプラノ」
189「野武士」「強姦」「ソプラノ」:03/12/14 11:08
(これはもう強姦と言ってもいい)
 野武士のような面構えの男は考えた。額には脂汗が滲んでいる。目の前には、男とおなじくいかつい顔の体育教師が、どっかりと足を広げて回転椅子に座り、男を睨み付けている。
 男達がいる高校の職員室は、静まり返っている。学校は現在授業中で、職員室には職員も数人しか残っていない。
 ふいに、体育教師が男につかみかかった。男が着ているものを脱がせようとする。男は悲鳴を上げた。
「やめてください!」
「俺の気持ちも考えろ!」
「脱ぎたくないです!」
「脱げ! 全部脱げ!」
 職員室に罵声と絶叫が響き渡る。職員達は皆、男達を見ないようにしている。男は絶望的な気持ちになった。
(ひどい、お前らそれでも教師か! 生徒が暴力…いやこれは強姦だ! 酷い目に遭おうとしているのを、見て見ぬ振りをするのか!)
 涙目になり、体育教師を睨み付けた。
「水泳の授業に格好なんか関係ないじゃないか! 男が女物の水着を着たっていいじゃないか!」
「良くない! 皆が…、いや、俺が、気持ち悪いんだ!」
 体育教師の声は裏返り、顔に似合わないソプラノになった。

=============
次のお題「山茶花」「トーテムポール」「サッカリン」
「じゃあこの字はなんて読むか知ってるか?」
「知らない」
「サザンカって読むんだよ。じゃあサッカリンって知ってるか?」
「サッカリン・・・作家のリンさんのこと?」
「誰だよそれ」
「知らないの?作家のリンさんは小さな庭付きの木製の小屋に住んでいて
庭には山茶花が冬に色をつけるために綺麗に咲いているんだ。リンさんは
その庭がとっても気に入っているから週に6日はその庭を窓から眺めてる。
でも水曜日は恋人がやってくるからリンさんは恋人に三回キスして
窓を閉めちゃうんだ。そのリンさんのことでしょ?」
「誰だよそいつは」
「知らないの?トーテムポールのおじいちゃんが教えてくれたんだけどな。ふ〜ん」
彼は飲み終えた牛乳パックをストローから息を吹き込んだり吸い込んだり
してベコベコさせている。

「復讐」「謙遜」「サーカス」
俊郎の特技はナイフ投げである。
まったくの独学ながら、その腕前は数km離れたカツオを三枚におろすとも
B29をナイフ一本で撃ち落すとも言われ、業界では伝説の人物として
語り継がれている。流しのナイフ使いとして、全国各地のサーカス興行で
脚光を浴びた時期もある。履歴書には一度も書いたことはない。

今でも時々、当時のナイフを引っ張り出しては的当てに興ずるくらいの
事はする。この日も居間のテーブルにガラクタを並べ、それぞれに
『社長』という貼り紙をしてナイフ投げの的とした。社長への日頃の恨みを
バーチャル社長で晴らそうという、俊郎の小さな復讐でもある。
ガラクタは三つ。空き缶、招き猫、たまたま家に遊びにきていた社長本人。
まずは空き缶に狙いを定めた。右の中指と人差し指の間にナイフの刃を
はさみ、手の甲を標的に向けて腕を振り下ろした。
グサッ。
一条の光芒がたばしって、空き缶のど真ん中を貫いたナイフが奥の壁に
空き缶ごと突き刺さった。続いてクルリと後ろを向き、二本目のナイフを
背中越しに宙に放った。
サクッ。
ものの見事に招き猫の眉間に命中した。いよいよ三投目だ。ナイフは二本しか
用意していなかったので、代わりに砲丸を使う事にした。呑気に茶をすする
社長(という貼り紙をした社長)目がけて、俊郎が渾身の一球を投じた!

「あちょー!」

右手に湯飲み茶碗、左手にバット。社長の完璧なスイングが、俊郎の
ストレートを捉えた。衝撃でひしゃげた漆黒の砲丸が、ガラス窓を破って
虹を描いて飛んでいった。打たれた俊郎が、惜しみない拍手を社長に送る。

「お見事!」
「いやー、お恥ずかしい」

しきりに謙遜する社長だが、その目は少年のように輝いていた。
次は「粘着」「脱走」「グッドバイ」で。
193名無し物書き@推敲中?:03/12/15 00:02
「おい! こら待てやァ!!」
 大通り、買物客がまばらに通行してる中、追いかけられる10代の少年と
それを追いまわす30代後半のヤクザ風の男がいた。
 少年は必至の形相で逃げ、心の中では見に覚えのないことでおいまわされている
理由がわからず、逃げている。執着するようにおってくる男から。
「おい! 待てや」
「なんで追いかけてくるんですかぁ? なにもしてませんよぉ?」
 大通りを5,6分程走ったところで、男に捕らえられる少年。
「はぁ・・・はぁ・・・やっと捕まえたぞ」
「ゴメンナサイ。許して・・・」
 少年はその場に崩れるようにして、土下座した。
「なんだ? ほら、財布落しただろ。じゃ、グッバイ、少年」
「…はぁ…………」
194名無し物書き@推敲中?:03/12/15 00:03
スマソ、お題わすれた。
「女子学生」「眼鏡」「かき氷」でよろしこ
 「だいたい、なんで夏なのにこんなに寒いんだ?」
かき氷の夜店を横目で見ながら、男はつぶやいた。

 今日は、花火大会である。しかし、気温は23℃しかない。
とてもじゃないが、かき氷が売れそうな気配は無い。
その後、1時間は経過したのだが客は一人もやってこない。

 しかし、女子学生と思わしき三人がやってきて、
かき氷を買っていったではないか。どうやらかわいいっぽいが
「しまった、眼鏡をかけてくればよかった……」
これじゃあ女の子の顔が見えやしない。


お題「黒電話」「帽子」「泥酔」
196名無し物書き@推敲中?:03/12/15 21:09
「黒電話」「帽子」「泥酔」

 いつになく早めに仕事の片がつき、私はふらりと家路へ向かう足先を変えてみた。
ただ家並みを隔てた通りは、別段目ぼしいものは無かったが、路辺にうずくまる男に
目がいった。みすぼらしい風体の前には、ガラクタと思しき物が所狭しと置かれてある。
 飯代を稼ぐ物売りか、と一瞥をくれて立ち去ろうとしたが、ふと、色褪せた西洋人形
の陰にある黒電話が視界に入った。
 ふつと懐古の情に絆されて、私は物売りに声をかけてみた。くぐもった鼾が即座に
返ってくる。目深に被ったひしゃげた帽子の下に赤ら顔が覗いている。
 幾分か哀れむ表情に私はなったろう。値札よりひとつ色をつけてその場をあとにした。

 宵闇が迫るなか、斜陽に鈍く光る古道具を小脇に抱えて喜悦満面で帰途につく。
 そう、幼少の頃にダイヤルを意味もなく回して遊具にしたものだった。
私は気恥ずかしくも、人目を忍んでそっと輪に指先を通す。小気味好い音をたてながら
巻き戻るダイヤル。その中央のラベルには前の持ち主と思われる電話番号が記されてある。
赤茶けた紙に消え入るようにぼやけた数字。
 見覚えがある数字の羅列だった。刹那、脳天を貫くように若き兄の姿が脳裏を掠める。
泥酔する親父の醜態を羞じ、絶縁し荷物を纏め消息を絶った兄。その時分の番号に他ならなかった。
 あの物売りは若い頃の親父に似ている。私は西日を背にひたすら駆けた。


次のお題は「樹皮」「番える」「風評」で〜。
「お父さん。ぼくたち皆殺しにされちゃうの?」
「誰がそんな馬鹿なことを言った?ケツアルカトル様を信じるんだ」息子の頭をくしゃくしゃにしながらも私は心の中で舌打ちした。
族長によって緘口令が引かれている筈なのだ。誰が喋ったかは知らないが、風評という奴はまったくやっかいだ。
一度、流れてしまえば話に尾ひれが付いて、どんどんと住民の恐怖心を煽る。
私は無理やりに息子を寝かしつけると、樹皮で作った弓を掴み、族長の小屋へ足早に向かった。
族長の小屋は目尻を釣り上げた数人の若者たちによって占領されていて、車座に囲まれた族長が弱々しく頭を振り続けている。
「族長!奴らは神聖な王の墓を荒らしているのですよ。断じて神の使者などではありません!」
「きっとそれは何かの間違いだ。どうだ息子よ。お前も彼らとは共存出来ないと思うか?」
困り果てた族長は私の顔を見上げると縋る様な眼差しで訴えた。事態がここに至っては、私も若衆頭としての権力を使うしかない。
「王が神の使者と認めた以上、私たちがいくら騒いでもそれは王に対する反乱です。
私たちに出来る事は王とケツアルカトル様を信じるのみです。父上」
力強く宣言した私の小屋の中に響き渡り、不満げな若者たちの表情も幾分和らいだ。しかし、私たち親子も薄々は感づいていたのだ。
貪欲なイギリス人たちがいずれ、友好的な仮面を脱ぎ捨てて王に牙を向き、私たちの全てを奪い尽くそうとすることを。
私たちが強大な侵略者である彼らに対して、絶望しながらも弓を番えるであろうことを。
マヤ・アステカと続いたインカ帝国は1521年、その長い歴史を閉じた。

次は「はがき」「風」「飛ぶ」でお願いします。
 十二月に入ると、いよいよ空が冬の色に鈍ってくる。が、隆にはコタツとその上に映える
ミカンの暖色が、冬の到来を知らせる木枯らしの代わりである。隆は、外出が嫌いだ。
 ただそれが憂鬱であっても、進んで外に出ようと思わしめる行為が買出しの他に一つ
ある。今ミカンを目の端に退けて隆をとりこにしている白い紙が、それである。
 懸賞応募を趣味とする隆は、このために用意したはがきを書くのに余念がない。
この時期Xmasキャンペーンと銘打って各懸賞雑誌が競って豪華懸賞品を出しており、
隆としては新年の準備よりも重要な、年内最後の大仕事として取り掛かっている。
 全部で300通ほども書いた所で、一度投函に行くことにした。まだまだはがきは
残っているが、出すべき雑誌がまだ発売していない。外はもう日が暮れているし、風が
強いことを示して木々が大きく揺れている。
「寒くなった」
 寂しがりに特有の独り言が、何とはなしに口からこぼれた。それで気が抜けたのか、
言ったか言い終わらない内に足を滑らせてしまった。持っていたはがきが散らばる。
 丁度時期を見計らったように強い風が吹いた。はがきはそれに乗って空へ飛ぶ。
何通かを残して全てが空へ見えなくなった頃、白い雪が降ってきた。ひらひらと、
隆にははがきのようにも思えた。彼にとって、それが初めての冬の知らせであった。

次「癌」「レコード」「印刷」で。
199「癌」「レコード」「印刷」:03/12/17 22:38
「ハァハァ・・・。ん・・・くるしい・・・」
祖父が悶え苦しんでいる。ちなみにここは病院のべっと。しかも個室。
家族と医者、看護師が見守っている。
「抗癌剤がぜんぜん利いてなかったんだな・・・モルヒネ投与してくれ」
「はい」
看護師が手際良くそうする。
僕含め、家族全員はそれを見守っているわけじゃない。
「けい・・・すけ」
「なんだい? おとうさん」
父が祖父に呼ばれ、近くに踏み寄った。
「わしの遺言は、仏壇にはいっている、それ・・・」

――――ピー

「お父さんっ!」
父が身を乗り出して、祖父の手を握りしめようと手を伸ばすが医者に阻止された。
医者が祖父の手首を取りながら、腕の時計をみる
「午前11時9分、息を引き取られました・・・残念です」


帰宅後、父が祖父にいわれたとおり、仏壇の引出しをあけた。
すると、遺言書と、12センチレコードが入っていた。
曲はわかんなかったけど、美しい女性の姿が印刷されてある色あせて、セピア色に
なったレコードだ。

次は「ケジメ」「別れ」「東京」
200名無し物書き@推敲中?:03/12/18 21:37
「ケジメ」「別れ」「東京」
あちぃ、真夏の東京湾海抜100m。
もう海に飛び込みてーよ。
「坊主、この橋が完成するのはいつか解るか?」
班長さん、頭が茹だったの?
「そんなの決まってんじゃん、予定どおりの日ですよ」
とめんどくさく答える。
わはは あはあああはと爆笑する班長。
イラン人のホマホにも「アマイネ、ナニモワカッチャイナイ」と言われる始末。
「俺達はマイボルトを持って居るんだよ」
「ワタシモネ、シメテナイ、マイボルトシメタトキ ハシデキル」
お、お前達ケジメの無い人達だな、、よし俺も。

橋の竣工日、お別れに班長とホマホと小さい酒宴を開いた
「おう坊主、10年後の今日あの橋で」
「ナット、ナクサナイデ」
ああ、友よ10年後あの橋でまた合おう、それが俺達の竣工日だ。 
201200:03/12/18 23:41
おだい無しでスマソ
次 「流星」「真冬」「コート」
 おい何とか言ってくれ。あいつだよあいつ。……聞いてんだろ、あの話。そう。今夜の『流星を見る会』だ。
 勘弁してくれ、なんで俺らがそんな目に遭わなきゃなんない? コート着たぐらいで何とかなる寒さじゃねえだろ。12月だよ12月。
沖縄辺りならまだしも青森だよ? 真冬だよ? ――俺が言ったって聞きゃしない、あいつの一目置いてるお前からなら何とか……
今夜のうちに、お前から電話でもしてくれないかと思ってさ。
 ああわかってるよ、あいつは友達で、明日は誕生日だ。ちょっとのワガママなら聞かないこともない。
 だからってこれはないんじゃない? 俺達はもう30だよ? いい大人が、しかも野郎ばっか集まってお星様キラキラか? 
……ああそうそう、あいつだけまだ29だがな。……いや、またむかついて来たぞ。20代のうちに流れ星初体験したいって、
ああーなんだかもうー……。一人でやれってんだ、一人で! おい他の奴らほんとに賛成なのか? なんでそうお人よしなんだ、お前達は!
 いや俺は見たことあるよ、何回か。流星群とかでもなきゃ、そんなに珍しい現象でもないんだし。……そうそう。結構、いいもんだよな。『ラッキー!』て感じで。なんかああ言う、自分が得したわけでもないのに純粋に嬉しいことって、他にあんまりないよね。
 ……うん。……うん。しかしなあ……。うん。
 わかったよ。わかった、しょうがないなぁ。
 だけどきっかり12時までだからな!

次は『時間制限』『鏡』『スルメイカ』
203202:03/12/19 01:11
あ、間違ってる……
電話してほしいのは「今日のうちに」です。後出しスマソ
改行めちゃくちゃなのもスマソ。
「アッ●ちゃんの変身って、時間制限あったっけ?」
日本酒を漢らしく空け、思いついたようにマリコが口にした言葉に、ユウジは首を傾げる。
「ハ?何ソレ?」
「ほら、鏡で変身するやつ。テク●クマ●コン〜って」
「ああ、たしか無かったですよ。私も子供の頃あこがれたな。お姫様になぁれ!とか」
ピーチサワーを両手で持ったカナが照れ笑いで答えた。
「カナちゃんはカワイイなー。俺、今だったらさしずめ『テク●クマ●コン×2スルメイカになあれ!』ってとこだよ」
「あ、それ私が頼んだやつね」
カナの前に置かれたスルメを引き寄せ、マリコがにやりと笑う。「私に食べられたいって?ユウジ」
「んや、やっぱヤメトキマス…」
「でも、先輩、なんでいきなりアッ●ちゃん?」
「んー、ここの店員に変身したら時間気にせず酒飲み放題?とかって」
言ったそばから今度は焼酎を注文している先輩の底無しっぷりに呆れつつ、それだと席に酒運んでもバレないかもしれないけど自分は飲めないですよ、とカナは心の中でツッコミを入れた。

次『MD』『グローブ』『砂糖』
 飛んできた白球の行方よりも赤いマフラーが地面につきそうなくらい長く彼女の首から垂れ下がってしまっていて踏んで転んでしまわ
ないかとその事の方が気にかかった。
「いてっ」
 白球はグローブをかすめ僕の顔面にものの見事にヒットした。
「あはは、かっこわる」
 彼女は手際よくほどけかかったマフラーを巻き付けながら僕の所へと駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫大丈夫。」
「まったく、女の子の投げるボールくらい取ってよー。この前も私のお気に入りの曲全部パーにしちゃうし。かっこわる」
 あれは彼女がテレビに夢中になりすぎていてこたつの上にあったコーヒーとMDの絶妙な位置に気づいてなかったせいだ。
それにいち早く気づいた僕が悲劇が起こる前にMDを取ろうとしたら僕の分のコーヒーがこぼれて同じ結果になった。遅かれ早かれだ。
「え、何?」
 僕が急にジャケットを脱いで自分の肩にかけてきたことに彼女は驚いた。
「・・・あ、雪!」
 真っ白な砂糖菓子のような雪が空き地に静かに降り始め、両手を空に上げて喜ぶ彼女の横で僕は格好悪くくしゃみをした。

『知らない』『三人』『クリスマス』


 
206『知らない』『三人』『クリスマス』:03/12/22 15:20
もうすぐクリスマスの日が来る。
街は色鮮やかな装飾に彩られ、道行く者の目を楽しませていた。
だがそんな中、私は街の様子になど目もくれず、正面に佇む小さな交番を訝しげに覗き込んでいた。
交番の中には「故障中」と書かれた紙が張ってあるストーブと、
寒そうに身を震わせながら仕事に励んでいる三人の男がいる。
彼らは皆一様に警官の服を着用しており、多分ここに勤務している巡査なのだろう。
ところがである。交番の前の掲示板に目を移すと、
連続窃盗団の指名手配のポスターに彼ら三人と瓜二つの男達が写されているのだ。
これはどうしたことだろうか。
私は道を歩いている途中、偶々掲示板を見てその事に気付いてしまって以来、
ここから動くことが出来なくなってしまった。
交番の中の彼らは、何も知らない様子で仕事に励んでいる。
単なる瓜二つなのだろうか? それとも……

「どうかされたんですか?」
私の存在に気付いた男の一人が、交番から出てきた。
「いえ、何でも無いんです……」
私は軽く会釈すると、逃げるように交番の前から歩み去った。
世の中、不思議なこともあるものだ。装飾に彩られた街を横切りながら、私は思った。

「寺院」「裁判」「巍巍」
「巍巍」←これはないよな
>>207
巍巍(ぎぎ)
1 山などの高く大きいさま「―たる岩山」
2 徳の高く尊いさま「神徳―たり」

大辞泉によると、こう書いてある。
209名無し物書き@推敲中?:03/12/23 01:04
神光開宇宙 表裏山河壮皇猷
帝徳之隆  巍巍蕩蕩莫與儔
永受天祐兮 萬壽無疆薄海謳
仰賛天業兮 輝煌日月俟
ケンジがぼーっと新聞を眺めていると、ふとある記事が目に付いた。
『A寺院の僧、詐欺で訴えられる』
坊さんが詐欺?あまり聞かない話だ、と少々興味をおぼえたケンジはその記事に目を通した。

『○×寺院の僧、詐欺で訴えられる
 ○×寺院の僧(本名:ササキダイノシン)容疑者(46)が参拝者への詐欺行為で、S地裁に提訴された。 
 ササキ容疑者は、参拝者を増加させるために『徳の高い参拝者の方には、当寺院に眠る巍巍な
 るものを公開します』と大々的に宣伝していた。しかし、参拝者へ公開されたものがササキ容疑者
 の粗末なモノだったため、○×寺院に参拝者から「あんな粗末なもので巍巍だなんてよく言えた
 ものだ」と言う声が多数あがり、11月某日S地裁に提訴された。このことについてササキ容疑者は
 「私のモノは、粗末なモノではない!」と猛抗議しており、裁判で徹底抗戦の構えだ。』

記事を読み終わったケンジは、すこしだけササキのことを哀れに思い、手を顔の前で合わせると「南無阿弥陀仏」と唱えた。

「トナカイ」「骨折」「無職」
「サンタさんはいないけど、無職プーのヘッポコトナカイさんだけ登場ですよーん」
等とアホな事を小声でのたまいながら、俺は友人弘樹のアパートの鍵を開けて侵入した。
俺に鍵を渡した今回のサンタの正体は、弘樹の彼女和枝。
イブの日に大風邪を引いてしまい、それでもプレゼントだけはこの日に渡したいと、急遽俺に代理を頼んだ訳だ。
なお、それを引き受けてやった時の彼女の笑顔を見て「この子あのバカには勿体ねー」と俺が思ったのは弘樹には内緒だ。

抜き足差し足忍び足、奴の眠る布団まで行くと、寝言が聞こえた。
「うわ…和枝物を投……たったら骨折す……俺は浮気なん……てねー誤解だ……」
……こいつ絶対またナンパしてたな、そう思いつつもあえて聞かなかった事にして、
ラッピングされている小箱を枕元に置いてすかさず音を立てずの回れ右、脱出には無事成功した。

そして数日後、俺が何食わぬ顔で弘樹のアパートを訪れると、奴の左頬には綺麗な手形の跡があった。
てっきりまた和枝と喧嘩したのかと思ったら、なんとナンパで引っ掛けた相手と縁を切る際に張り飛ばされたという。
これは見上げた物だと思いつつ話を聞いてみたら、弘樹はこう言った。
「この前イブに和枝がプレゼントくれたんだけどさー、箱の中に一緒に紙が入ってて
 『好きだけど、これ以上浮気したら死んでやるからね♥』と書いてあって、最後にはなんと血判が……」

俺はもしかして、何か人として間違った事をしてしまったのだろうか。


次は「ハバネロ」「メルヘン」「ボールペン」で。
ハバネロはよく言えば「芸術的」に辛く、分かりやすく言えば「とんでもなく」辛く、
メルヘンの世界から抜け出したような出で立ちの彼女が、好物のクルミでも齧
るリスのような笑顔を見せながら頬張るにはいささか荷が重過ぎる。
気に入られるためなら、と「辛いモノ好きである」と己を偽った以上、彼女以上の
愛くるしさでハバネロを口に含まなくてはならない、私はええいと覚悟を決めた。
黄色ピーマンのナリをする、野菜というにはあまりにも刺激と酸味をまとった人
類の憎むべき発明の産物に負かされる事のないよう、例えそこにそびえたつ
山がチョモランマだったとしても、私は歩みださなくてはならぬ。
「おいしいね、これ」
滲んだ視界にボールペンで脳天を刺されたような心地でいる私に、彼女は
思ったほど辛くないね、と若干不満そうだった様子が印象的であった。

次は「ポテトチップス」、「エベレスト」、「初夢」で〜(゚д゚)
 昔から常々疑問に思ったものだった。

 夢には、一富士二鷹三茄子。
 何で富士なんだ? エベレストの方がもっと縁起が良いってか?
 スズメじゃ、あかんのか。トマトじゃ、あかんのか。
 初夢だあ? 人間が一晩に何回夢を見るのか、わかってるのか?

 等々、イチャモンを付ける人は、何故素直に楽しめないのだろうかと。
 富士もエベレストも同じだと言うなら、ポテトチップスも、ジャガイモも同じなのだから、
お前は生ジャガでもかじっておけと、そう思ったものだ。

 何でも一緒にすりゃあ良いってもんじゃねっつーの、ホント。

 あん? もっと気の利いた話を書けだあ?
 るせえっ。文章に貴賎はねーんだよ!


次は「喉あめ」「シャボン玉」「精霊」でお願いします。
 子供には、大人には見えないものが見えるという特別な能力がある。私も、昔は特別な
子供だった。その力も、今はない。だが思い返して、たまに喉あめを舐めたりしている。
「ねぇ、それなぁに」
 私がベランダでシャボン玉に興じていると変な姿をした小人が声をかけて来た。
 シャボン玉、とぶきっちょに答えると、小人は嬉しそうに虹色の模様がついた
空気の球を眺めていた。やる?と言ってストローを渡そうとしたが、小人は
残念そうにできないと答えた。
「精霊はね、モノに触れないから」
 小人はそう答えたっきり黙ってしまった。私はその姿に焦燥を感じていたように思う。
機嫌を直してもらおうと、自分が舐めていた喉あめを譲ろうとした。
 あからさまに嫌そうな顔をしながら、小人はかろうじてありがとうと言った。しかし
私は、自分が同じ轍を踏んでいることに気付かず、結局小人に喉あめをやることが
できなかった。
 思い出す度私は喉あめを舐めている。いつか、きっと渡そうと。
215214:03/12/23 22:27
あ、次「空想」「ケーキ」「ソリ」
216踊るボボ人間:03/12/24 00:12
サイレントフィルムに映し出される、空想癖をもつ女。
私は字幕を読まなかった。ただ目の前で繰り返される彼女の、孤独に対す
る恐怖ゆえの奇妙な行動に、興味を引かれていった。
彼女はアンティーク調の椅子に座り、誕生日を一人で祝っている。テーブ
ルの上にはワンホールのケーキ。だけれど、ロウソクは一本しかたってい
ない。どう見ても二十代なかばにしかみえないのに。私なら年齢の分だけ
立てる。優しく揺らめくおぼろげな炎を吹き消す瞬間は、とても楽しい。
一息で吹き消したときはそれこそ最高の瞬間だ。なのにたった一本しか彼
女は立てていない。
嫌悪感とも、あるいは、その真逆かもしれない感情を持ちながらフィルム
を止めた。
ソリチュード。それがこのフィルムのタイトルだ。私は薄ら笑いを浮かべ
た後、自分の部屋を出、リビングへ向かった。
ここには心から笑顔になれる現実があるのだよ。
大きな、とても大きな声で言よう。
「MerryCrismas!」

#_| ̄|○性に合わねぇ
「湯煙」「ひょっとこ」「殺人事件」
217踊るボボ人間:03/12/24 00:16
hがねえじゃねえか。_| ̄|○
Chrismasね。
じーさんが「あそこの家です」と家を指差し俺に伝える。了解、そう短く応える。
俺は目的の家の前にぴたりと停まる。それから、することもない俺は、これからはじまるやり取りを眺める。
小さな箱を二つ持ってソリから降りたじーさんは、目的の家のドアを叩く。暫くすると家の中から
小さな女の子が出てきた。「メリークリスマス」と微笑みながら二つの箱をを渡すじーさん。
「さんたさん、毎年、ケーキとプレゼントありがとうございます」と、愛らしい笑顔で元気一杯に言う女の子。
この後、じーさんは数回言葉を交わすとこちらにもどってきた。すかさず俺は「早く乗れよ、次行くんだろ?」
と、じーさんに言う。「いいんですか、休まなくても。疲れてますよね?」じーさんが俺を気遣う言葉をかける。
実際、疲れてる俺にはありがたい言葉だ。しかし、俺は言う「若い俺をじじいと一緒にすんな!早く行くぞ」と。
そんな俺に、じーさんは意味ありげな微笑を向けると、ソリへ乗った。俺はひとつ大きく深呼吸をすると
階段をかげあがるように一気に空へと、勢い良く駆け上がる。しんしんと雪が降る中、俺はソリを引く。
ソリに乗るこのじーさんは『サンタさん』なんて呼ばれて皆に愛されてる。しかしだ、俺にとっては
俺のことを年に一回こき使う、とんでもないじーさんだ。何故そんなじいさんを手伝うかって?
じーさんには報酬のためなんて言ってる。しかし、本当は喜ぶ子どもの顔が見たいんだ。
そのために俺はせっせと走る。だれがじーさんなんかのために走ってやるか。ふん。
俺は、じーさんが一匹のトナカイの乗るソリを引く姿を空想しながら夜の空を北へと駆けた。

「雪」「リボン」「コーヒー」
一生の不覚…。何分遅れで被ってんだ(つД`)
申し訳ありません。次のお題は216さんの三語でお願いします
やっぱし休み取って来て良かったなぁ。宿は少し古いけど紅葉も丁度いい頃合だし、気温も良いし、
湯煙越しに見る日本海も素敵、ひょっとこ男だって風情があるよねー……。
「え?!」慌てて今見ていたところを何度も何度も見返す香織。
だがしかしそこには人はまったく居ない。岩風呂の中に居るのも香織だけだ。
幻覚だったのかなぁ…?それにしちゃ変な物見たな。
そんな事を考えながら湯に浸かり直すがその直後に響き渡る女性の悲鳴。
「誰か!誰か早く来て!!」
騒ぎ声にムッとしながらも野次馬根性でザバッと音を立て湯からあがる。
「二時間ドラマなら殺人事件とか何だけどねー。」
鼻歌を歌いながら脱衣所へと向う彼女は気付いていなかった。
ひょっとこ面をつけた人物が彼女の後姿を見つめていた事を……。

「ひよこ」「蝶ネクタイ」「仙人掌」
人もまばら、騒ぐ奴もおらず、照明も薄暗いビヤホール。
そこの舞台の上にはシルクハットに蝶ネクタイ、タキシードの
如何にも手品師でございという風貌の奴が立っていた。
この店のオーナーらしい、とは聞いたことはあるがどうでもいい。
俺を含む少数の客も同じくどうでも良さそうに視線を宙に泳がせている。
「えー、私はいま何も持ってませんね」
店内のスピーカーから声が聞こえる。
男が手のひらをを客に見せびらかしたとき、男の右袖から造花が落っこちた。
「おかしいな」、そのつぶやきはスピーカーに伝わっていた。
「次は私の、何も入っていないシルクハットから動物を――」
と帽子を脱いで見せびらかしている最中、ピヨピヨとひよこの鳴き声。
「――失礼しました。では最後に、痛っ!」
ゴトン、と鈍い音をマイクは拾っていた。床には仙人掌の鉢植え。
ざっと五分ほどの、誰も見ていない余興が終わると、また静かな店に戻る。
これさえなければ落ち着けるんだがな、そう思いつつ俺はジョッキを傾けた。

次「銅」「海」「気流」
222:03/12/25 05:53
青い空 蒼い海... 機は順調に安定飛行移る。
私は、機を水平に保ち自動操縦に切り替える。

隣の副操縦士に 「後は頼むよ」 「悪いが、少し
休ませてもらうよ」「機長、最近お疲れのようでね」
「ああ、何かあったら起こしてくれ」 私は、乗客が
居ない荷物専用カーゴ便 ゆえの甘えから、睡魔
という 魔に引き込まれてしまった。

機体には普段乗客席が整然と並んでいるが、それ
らの席はすべて取り払われ貨物庫となり、荷物が
収まっている。

機は、なにごとも無く通常どおり安定飛行を数時間
続けた。 副操縦士は操舵窓からの見慣れた景色に
いつもと 何かが違うと感じていた。 それがなんな
のか... コントロールパネル上のレダーがいち早く
それをキャッチしていた。 「乱気流だ!」 「機長、
起きてくださいーー」
223:03/12/25 05:53
私たち ふたりを乗せた機は まるで睡魔に誘われる
ように 魔の空間に吸い込まれていったのかもしれま
せん。そこで、見てはいけないものを見てしまったのです。
「機長、後ろに ぴったりと戦闘機が...追尾して..」
ぐうんっと、戦闘機はスピードをあげる。

古めかしい機体の胴に 日の丸 零式艦上戦闘機

並走の形になり 操舵窓から相手の顔までもが見える
至近距離の位置にいる。 陽に焼けた 銅色の肌感
顔に白い歯がこぼれている。

そう、私たち二人を乗せた機は、50数年の時の壁を
超えてしまったのかもしれません。

その頃、所沢の管制塔では一機のジャンボがレダー上
から姿を消した。

昭和19年 秋
硫黄島 海軍飛行隊 管制塔
「テキ ミカタ カクニントレズ」 モールス信号が打たれた。

次、「たばこ」「切ない」「トンネル」でお願いします

「火ィ、貸してくれるかい?」
タクシーの運転手が言った。
俺は無言で上着の内ポケットからライターを出して、
運転手のおっさんのたばこに火をつけてやった。
「お、ありがとさん」
そう言うと、おっさんは嬉しそうにたばこを吸いはじめた。
ライターを出した俺が高校生だということにはつっこまないらしい。
俺はのんきなおっさんを横目に記憶の整理に努めた。
親に起こされて、朝飯食って、制服に着替えて、家を出て……
気が付いたらこのトンネルの中に立っていた。
そしてなぜだか、タクシーがそばに止まっていて、おっさんが話しかけてくる。
なんなんだこの状況。俺が遠い世界に旅立ちそうになっていると、おっさんが口を開いた。
「切ないねェ。どうしておまえみたいな若い奴が死ななきゃいけないんだろうなぁ」
そのセリフを聞いた瞬間、俺は車に身体を撥ね飛ばされた時の痛みを思い出してうめいた。
おっさんの吸うたばこの火が、薄暗いトンネルの中でやけに、明るい。

次は「猫」「セーター」「スケッチブック」でお願いします。
225:03/12/26 18:14
俺の名前は鉄平! 俺、勉強きらい。だから中学卒業
してすぐ家の近くの外壁材作ってる会社で働きだした。
朝、から夕方まで工場内で外壁の骨になる部分、ハリ
ガネの親分みたいなやつの溶接。いっしょうけんめい
働いたもらった給料のなかから、少しだけど 親に渡
した。休日はスケッチブックを手に絵を書く。俺の息抜き。

本当はトラックの運転手になりたかった。18歳まで
がまんした。ハンドルをにぎっていれば煩わしい人間
関係から開放され、なおかつ収入も得られる。俺、18
になるとすぐに免許を取得した。
その頃の俺は無口で目と目を合わせて人と会話が出来ない位
人間関係がへたくそだった。そんな俺でも地元の運送会社は
雇ってくれ、念願の運転手としての第一歩を歩む事となった。
免許を取ってまもない初心者な俺、当然、道など知らない。
俺は三ヶ月間、見習い待遇として先輩運転手の運転する10
トン車の隣に乗せてもらい荷物の積み降ろしをすると共に、
配送先までの道順を覚えさせられた。
「今日から働く事になった鉄平といいます」俺、あいさつする。
「おっ!じゃ、行くか」とハンドルを握りながらの、そっけない
返事が返ってくる。車内のラジオから流れる深夜の番組、こと
さら明るい声。俺と運転手、無言。俺べつに気を使わない。運転手
も気を使ってしゃべり掛けたりしない。夜の国道、対向車が
すれ違う風切り音路面を蹴るタイヤの音。それでいい。

「いくつ....歳」「18です」「じゅうはち..か」
それでいい。俺は人間関係がへたくそだ。
「半分だな」「えっ、なにがですか?」「....歳」
運転手は俺の方を見ずにフロントガラスの向こうに視線
をむけたまま、しゃべった。
運転手も人間関係へたくそだ。それでいいと俺は思った。
226:03/12/26 18:16
夕方、出勤。明け方退社。昼、夜まるっきり逆の生活。
俺は運転助手として荷の取り扱い方、道順を覚えた。
やさいを専門に運搬している会社なので夕方から荷物
をトラックに積み込む。旬のやさい、トマト、キュウリ
ごぼう、はくさい、ホウレンソウ、それこそ、野菜であれば
なんでも運ぶ。そんな、野菜達を行き先別に順番
を決め、積み込む。築地市場、葛西市場、多摩市場、一晩
で東京じゅうを駆け巡る。荷を降ろしていると、何処からか
「みゃ〜みゃ〜」と聞こえる。何処の市場でも猫を見かける。

見習い期間の三ヶ月が過ぎようとするそんな、ある日
いつものようにトラックは夜の国道を走っていた。

「鉄平、世の中に いいひと いると思うか?」
「この世の中に いいひと 悪いひと なんっーのは いないんだ」
「自分に良くしてくれる人が いいひとなんだよ 
 自分に悪くする人が、自分にとって悪いひとなんだよ」

俺は窓の外を眺めながら、聞いていた。遠くに高島平の
ビル群がいくつも見え、ぽっりぽっりと部屋に明かりが
灯っていた。目の前の交差点、横断歩道脇、セーターを
着た女の子が赤色信号灯に照らされ、ぼんやり立っていた。
深夜の景色が印象的だった。

あれから、18年 俺も当時の運転手と同い年になった。
運転手のいった言葉が、なんとなく分かるような気がする。
今、俺はトラックのハンドルを握って夜中の国道を走らせ
ている。隣の助手席には茶髪のあんちゃんが乗っている。
「いくつ.....歳」「18です」「じゅうはち..か」
  世界は納豆に侵食された。
とにかく、ありとあらゆるものが納豆のようなネトネト感をそこはかとなく醸し出している。勿論、臭いもだ。
僕は日本人にあまり認知されていないと思われる県に住んでいるんだが、ここも例外じゃない。
季節は冬、東北地方。雪が舞い落ちる。綺麗だ。とてもとても綺麗だ。でも、問題がある。
雪のせいで、ネバネバして歩きづらい。道路は普段そんなにネバネバしていないのだが、雪が降ると途端に性質を変える。
車は雪専用タイヤを付けないと走行すらままならない。もっとも、この地方に住む人なら対策も慣れたものだけど。
話は変わるが、僕は猫を飼っている。毛並みの美しいメスのシャム猫だ。まだ子供で、毎日すくすくと育っている。
あんまり可愛くて定期的にスケッチブックに成長日記を付けている程だ。
そんなある日のことだった。朝早く起きた僕は納豆臭い水で顔を洗い、朝ごはんの準備をしていた。
今日は昨日の残りの納豆カレーだ。わびしい…。猫には高級納豆入りキャットフード。いいんだ、それで。
食べ終えた後、仕事までしばらくの暇は彼女との至福の交わり。彼女の暖かいお腹に顔を埋める。
その時、気付いた。彼女からは納豆の香りがしない。不思議なことだ。
何故なら、この世界にアンモニア臭を発しないものなどないのだから。
それとほぼ同時に、窓の割れる音がする。間髪いれずにその原因たちが家に侵入し、僕を羽交い絞めにする。
あらかじめ計画されていたかのような速さだった。目を覚ましたとき、奴らと彼女は消えていた。
あとで知った。シャム猫のメスは世界で唯一納豆臭を発しないモノだということを。
そして、その希少性ゆえに衣服、つまりコートやセーターなどの材料に使われるということを――――。

ちょいオーバー。勘弁して。
「酢味噌」「カップル」「大将」
『酢味噌』『カップル』『大将』

 席に着くやいなやイカの酢味噌和えが運ばれてくる。居酒屋の店内は7時を過ぎたあたりで急激に活気
づき始めた。重そうに身につけていたコートや背広を脱いで温かい酒を飲みながら語り合うサラリーマン
達の笑顔に誘われて僕も日本酒を勢いよく飲み干す。
「私も半信半疑って感じですよ。きっとお客さん達もそうなんでしょうね。」
 刺身の盛り合わせをテーブルに置きながらバイトの女の子が僕の質問にそう答えた。
「ここでお客さんの笑顔とか見てるとそんな気が全然しないんですけどね。終わっちゃうなんて。
なんとかうまくやれると思ってたんですよ?私は。」
 彼女はちらっと赤い舌を出してすまなそうに僕に笑い、ごゆっくりどうぞ。と言って別のテーブル
へと注文を取りに走っていった。彼女だけじゃない。そこで互いの指輪を手に取ってじっと見つめながら
何も喋らないカップル達もそうだと思っていたんだろう。僕もそう思っていた。少なくとももっと後だと
は思ってしまっていた。
 ゆっくりと時計の秒針と長身と短針を意識して別々に見つめながら僕は日本酒を飲んだ。
 11時55分59秒。
「ありがとね。また寄ってって頂戴よ。」
 大将のいつもの台詞ももしかしたらもう二度と聞けないと思うと僕はどうしようもなく悲しい気持ちになった。

『やり残した』『おかしくて』『涙』
『やり残した』『おかしくて』『涙』

彼女は、海に浮かんでいた。
まわりにはかつての敵、今の統治者が浮かんでいる。
志半ばに海に消えていった仲間たちが今の光景を見たらなんと思うだろうか。
彼女がもし、人間であったならば自らのやり残したことをなんと考えるのだろうか。
自らの命を懸けて護ろうとしたものの未来を見たら、なんと思うだろうか。
しかし、その問いに答える声は誰も聞くことができない。

彼女の名前は長門。
長門は日本の誇りを護り、戦争ではなく二度の原爆実験のために沈没した。
日本の海ではなく、太平洋の真ん中で、実験の五日後に誰に見取られることも無く。
時折降る南洋独特のスコールは、あの戦争に参加した全てのものたちの涙のようでもあった。

あの夏以来、それが悪いことかどうかは別として、日本は戦争とは無縁の世界にいた。
人間が平和とは何かを考えずに戦争をメディアの向こうに押しとどめて生きる。
その陰で、彼女のような国民の安全の為に死んでいったものたちは忘れられようとしている。
私には、それがおかしくて、悲しい。

『約束』『人生』『世界』

  ハチ公なんて目じゃないね。おれはモヤイ像。もう300年待っている。
人生はとても短いものらしい。100年生きられるか生きられないかってくらいの。
でも…それでも、あるだろう? 限界なんてピュッと飛び越えて、それ以上生きる奴だっているんだろう?
そこで300年前だ。おれと大事な約束をしたあの男――おれは戦場にいくけど、必ずここに帰ってくる――って言ってた、男。
世界の詳しい状況なんてここに来る人間の会話でしか分からない(あまり有意義な中身はないな)けど。
でも、どんなコトになってもアイツは来る。きっと。だって、約束したんだから。

  それからさらに待ち続け、五年が経った。
相変わらずおれの周りにはバカで溢れている。彼は、来ない。
そんないつもと変わらない日、いつのまにか目の前に一人の少女が立っていた。
なんだ、おのぼりさんかい?
「あなたに伝えたいことがあります。ご先祖様の遺言があるんです」
ご先祖? 一体なんの――――。
「ゴメン」
なんだ、アイツは来ないのか。寂しいな。

「調教」「地下室」「徘徊」
231調教・地下室・徘徊:03/12/27 22:50
 引きこもりの娘が、こちらを見ずに言う。「中途半端にとがってるものが、気になる」
 こいつは遠い親戚。ほとんど他人。俺は黙って続きを待つ。彼女は椅子にかけたまま、ひょいと片足上げた。ピンヒール。
「このカカトとか、気になる」
通信販売で買ったはいいが、部屋の中でだけ履いている上等の靴。俺はやっぱり黙ったまま、それを見つめる。彼女は足を下ろして、
「こんなのが……眼球に刺さったらって、思う」
 俺は履けもしない女の靴で、目玉をぐりっとやるところを想像した。固そうだ。たぶん、ぐっとへこんで、それから潰れるのだろう。
ぶつんと。耐えかねたように。想像の中の目玉は誰の眼窩にも収まっていない。丸いのが単体で、地面にある。
「気になるのは……とがり具合より、目玉の方じゃないのかな」
俺がつぶやくと、彼女は興味深げにこちらを見つめた。
「なんかこう……独特の感触……じゃねえ?」
「そうかもしれないな」彼女は目を伏せ、そうっと自分のまぶたに触れた。
 珍しい生き物みたいで、こいつのことは嫌いじゃない。話し相手を務める理由は、この家に居候させてもらってる引け目だけじゃない。
 俺のいない昼間、プロのカウンセラーも呼ばれているそうだ。彼女の親はカウンセリングや俺とのお喋りを、矯正と呼ぶ。俺も
そう思ってた。だが本人は調教と言ってる。いつか吐き捨てるように言った。『調教場所が地下室じゃないだけがとりえだね』
引きこもりの癖に、閉ざされた空間を怖がるのだ、こいつは。いつだって窓は広く、あるいは細く、開いている。
 −−彼女の興味はとがったものから目玉に移り、やがてまた別のものに移り、結局、一回りしたらしい。ある晩不意に打ち明けた。
「この頃ねえ、夜中にちょっとだけ散歩してる。あれ履いて、窓から出て。あんた気付いてる?」
ピンヒールは、今は棚に乗せられていた。俺はちらと見やり、「補導されんぞ。深夜徘徊」
「もうそんな歳じゃないよお」彼女は面白そうに笑った。「あれ履いて、いろんなもの踏んで歩いてる。案外楽しいね」
「目玉も?」
「なかなか落ちてないね、眼球は。……でも、それはもういい」
彼女の顔付きは明るかった。

 #ごめんなさい。これ以上縮められない……。次は「ビール」「みみず」「静電気」で。
明かりのない部屋は、三方がコンクリートで、一辺に鉄の檻が付いていた。
何処かに監禁されてしまったようだ。

サーチライトと見まごうばかりの明るさのロウソクと食事を持った、
品のいい中年男性が現れた。
「ここは何処なんですか あなたは誰?」
どんな質問をしても男は答えることはなかった、時間がどれだけ過ぎただろうか。

ある時、男が話し始めた、
「私はこの地下室で、何人もの女性をさらっては監禁し調教してきたんだよ」
やっぱり! 「私を家に帰して下さい」と哀願すると
男は「5分で戻ってこないと君は放射能で死ぬ」
「ここには何十年分もの食料も水もある、君が戻るところは此処しかないんだ」
と言いあっさり私を解放した。
何を訳の解らないことを!と重い扉を開けると、一面は灰色の焼け野原になっていた。

戻るつもりはなかった、3時間ほど歩き、いつもの駅を見つけた。
駅から徒歩6分の自宅を探すのに、少し徘徊してしまった。
鼻血は止まらなくなっていた、ついに耳からも出血してきた。
私は自宅の、自分の部屋が在ったと思われる所で、横たわり目を閉じた。

次 「油絵」「アイスクリーム」「シクラメン」
233232:03/12/27 22:55
お題かぶりスマソ
>>231の 「ビール」「みみず」「静電気」でお願いします。
薄暗くじめじめとした地下室。何処かで漏れている水音に混じって時折鼠の声すら聞こえる。
その中に更にかすかな音で何かを叩くような音が混ざっている。
段々とその音は近づいてくる。……奴のステッキの音か!!
それに気が付き慌てて上体を起こして廊下の誘導灯のかすかな光を頼りに目を凝らし奴を待ち受ける。
何としてでも逃れなければいけない。隣の塔の徘徊する腐人形のようになってしまってはいけないのだ。
音がもうすぐそこまで近づいてきている。杖の音が切れた。ゆっくりと数度ノックされ開かれたドア。
よく調教された2匹のドーベルマンを従え奴が来た。
「そろそろ覚悟は出来たかね?Mr.Yagihashi?」

「医」「マフラー」「操る」
235234:03/12/27 23:27
リロードし忘れました…。
>231のお題でお願いします。
季節が春でよかったと思う。
夜中の誰もいない公園に咲く桜が、薄暗い照明塔の明かりを独占していた。
バイト帰りに自販機で買った缶ビールを開けながら、砂でジャリついているベ

ンチに腰をかけた。
「   」
思い出される彼女の言葉が、夜風に舞う花びらと共に散っていった。
空き缶が三つに増えた頃、足元に黒い紐のようなな物が落ちているのに気がづいた。
よく見るとミミズの様だ。桜を見に出てきたのだろうか?
暗い土の中に住むミミズにとっては夜桜こそが桜の姿なのだろう。
今の心境には陽光の桜よりも、暗がりの桜の方が落ち着ける。
何かの祝いで彼女にもらったセーターを脱いだ。
軽く静電気が弾ける。思い出せない彼女の言葉の代わりに責められている気が

した。
季節が春でよかった。
夜の風はもう暖かくなっている。

「オリオン」「鳥」「右回り」
237:03/12/28 12:33
漏れは、ステンレス製のわりと深さがある、取ってが両側に
ある鍋を買い求めた。
その包装紙にくるまれた鍋を大事に抱えるようにし持ち帰った。
今、石油ストーブ上のやかんを載せる部分にステンレス鍋が鎮座
している。ストーブは一昔前の赤い炎が見えるやつだ。
やかんを掛けとけばお湯が沸くし、ゴトゴトと長時間の煮物料理
にも使える。漏れは、小ぶりの皮を剥いたじゃがいもを6〜7個
ひと口大に切りスレンレス鍋に6分目位、水をはりじゃがいも達を
ぶち込んだ。奴らは沈んだ。
            料理名は オリオン煮 である。
まな板の上で大ぶりの玉ねぎを2個ぎざんだ。大量の玉ねぎの山。
迷わず、ステンレス鍋に投入。さじで右回りに掻き混ぜる。
漏れは、ボーッとストーブ前で赤い炎を見つめる。

赤い奴が、上方2cm 3cm 伸びたり縮んだりする様が滲んでみえる

玉ねぎにたまに泣かされる。

漏れは、昨日の電話での会話を反芻していた。「ごめん...
  遠くで一羽の鳥が鳴いていた.....

次は、「謝罪」「あわてん坊」「うたた寝」でお願いします。
行数制限あるの知らんかった。ごめんなさい。うぅ〜難しいぃ〜。
238「謝罪」「あわてん坊」「うたた寝」:03/12/29 00:36
 ぼくは君に謝罪せねばならない。
 教室で、ぼくの席は一番後ろで、君とは離れていたが、
君のそろえ切られた髪の下のうなじがよく見えた。授業中、
君が友達とこっそりと無駄話をする横顔や、テストの答えが
分からずに髪をかきむしる左手が、よく見えた。
 ぼくは君をよく怒らせていた。
 あわてん坊の君が忘れ物をしたといってはからかい、調理
実習の失敗を嫁の貰い手がないとなじった。君が少しは落ち
込んだことを、ぼくは知っている。
 それからもう1つ、ぼくは君に謝らねばならない。
 放課後に、うたた寝をする頬にキスをしたのは、ぼくなのだよ。


//-----
//次は、「幽霊」「有名」「茸」でお願いします
「幽霊」「有名」「茸」

 鬱閉とした密林は相変わらず果てを告げようとはしない。
頭上には分厚い樹冠が覆い、あまねく照らす光を拒んでいた。
じっとりと粘りつくような深い緑が視野を塗りたくる。
「見ろよ」
 促された目線の先、苔むした大樹の傍らに白骨化した屍がもたれていた。
我らと志を同じくする冒険者だろうか。懐から覗く朽ちかけた羊皮紙には
滲んだ地図が描かれている。未踏の地に馳せた思いは半ばにして潰えたのだろう。
記された道先はここで途切れていた。
「瘴気にやられたか、毒茸を食らいやがったか…」
 彼はつかつかと大樹に歩み寄り、樹幹にこびり付いた赤黒い球体を握り潰す。
つつ、と鮮血にも似た液が滴った。
「同業の間では有名なんだがな。植物学も少しはかじるべきだったな」
 目を伏せ胸前で十字を切ると、踵を返して再び秘奥へと挑んでいった。
 
 彼はこの後、隻腕になりながらも踏破を達成し、勇名を轟かすことになる。
 俺はといえば、口を開いた木々の虚の闇より、幽霊が出んものかと恐怖しているだけだった。


次は「捻り鉢巻」「ちょうちん(提灯)」「畦道」で〜。
240:03/12/29 06:34
ここにひとつの水晶があります。
自我に目覚めた水晶は自分の意思でコロコロと転がり
時には水溜りに身を滑らせ泥だらけになり畦道を歩く。
この畦道は親の畑仕事を手伝う時、学校に行く時毎日通る。
ある日、生意気盛りな水晶は遠くに見える提灯の明かりが
気になった。「あの明かりはなんだろう」気にし始めたら
止まらない。尽きる事のない興味。とうとう明かりを手に
入れるべく旅に出ることに
水晶は旅の途中で誘惑のパレットを手に入れた。飽食、嘘
権力、酒、セックス 七色の 快楽に溺れ流され染まりゆく
明かりを求め誘惑の絵の具にまみれてしまった己の体は
すでに光さえ見失い闇に佇む。愚かさに打ち震え 頬を濡らす

水晶の頬に ツッーと一滴のなみだの跡。そこだけ絵の具が
落ち 太陽の光が反射する。とめどなく落ちる大粒の涙。 
「あぁー捻り鉢巻をして額に汗してた頃に戻りたい」
心からそう思った。涙で溶かされた絵の具が足元で
七色の川になる。
    水晶の体に反射してキラキラと..
人はみな丸い水晶のような球を抱えもっている
気づく気づかないは関係無く
初めは穢れなくキラキラと周りの風景を反射して

次は「コンクリートジャングル」「砂漠」「銀河」でお願いします
「コンクリートジャングル」「砂漠」「銀河」

「東京砂漠って変な言葉だな」
夜の街を二人で歩きながら思ったことを口にする。
「何が?」振り向きながら、彼女は応えた。
「だから、東京なのに砂漠って」
「自然の潤いが無いってことじゃないの?」
彼女は俯いてアスファルトの地面を蹴る。
「コンクリートジャングルって言葉もある」
いいながら、ぼくはビル郡を見上げた。
「自然が無いことまで、自然に例えてる」
「砂漠・・・も自然か」
「こんな都会じゃ、自然なんて無いもんね」
俯いたまま、彼女は呟く。
「いや、見つけた。あれ」
ぼくの指先には、銀河の瞬く夜空があった。

次は「猫」「探偵」「太陽」で
 昔、ある男が太陽の沈みゆく地を求めて旅に出た。
飢えを凌ぎ寒さに堪え、長年の旅の末に男が目にしたのは
果てしなく広がる青。その地に暮らす人々はそれを「海」と呼
んでいた。
 男は人々に太陽の沈みゆく地は海にあるのかと尋ねた。ある
者はそうだ、と深く頷いたが、ある者は首をかしげた。まだ誰
も太陽の沈む地を詳しく知らないという事実は、男にとって意
外であった。そして太陽の沈む地を突き止め、人々に伝え広め
る事こそが、神が与えた使命であると、男はその時確信した。
 小さな舟を買い、太陽の沈む果てを求めて男は海へ旅立った。

 数週間後、岸に打ち上げられた舟の中には、猫のように丸く
なったまま息絶えた男。深く黒ずんだ皮膚を見て、人々は太陽に
近づきすぎて焼けてしまった、と噂した。使命と引き換えに息絶
えた、見も知らない探偵を、人々は篤く葬った。

次は 「月」・「犬」・「泥棒」で(゚д゚)
本当に全員集まるのだろうか。
お別れの酒盛りをし、「10年後の今日、ここでまた逢おう」と別れた友人。

あの日の私は、飲み過ぎてしまったのだろうか。
そういえば今日って言っていたけど、いったい何時なんだろう。
散歩をしている犬の影が、橋の反対側まで伸びて
しっぽの先が海に落ちていく。

ああ、もうタバコ無いや、帰ろうと思った矢先。
肩をバシーンと叩かれ「おう、ボルト泥棒!」とでかい声。

「班長〜!タバコ一本下さいよ。」

「久しぶりに逢ったっていうのに、いきなりタバコかよ!?」

班長の変わらない風貌に、甘えてしまい
あの日のままの会話をしてしまう。

「おう坊主、火をつけてやるよ、今日は新月だ、竣工式には理想的だな。」

ライターに照らされた班長の表情から、作業の困難さが伝わってくる。
244243:03/12/30 00:02
お題抜け すみません。
「クッション」「チューリップ」「出前」でお願いします。 
 毎年この季節になるとピザ屋は忙しくなる。
 寒い季節にバイクをとばすので体も芯から冷えてくる。
「ハックッション!ヴァァァ。」
 わざとらしいクシャミの勢いででた鼻水をすすりながら、配達先の玄関の前に立った。
 呼び鈴を押して出てきた主婦は、ピザを持って玄関先にたつ男の姿を見て怪訝そうな
顔をした。
「あの、大崎さんのお宅ですよね?ピザをお届けにまいりました」
「そうですけど、出前なんて頼んだかしら?」
 嫌な予感がしたとき、玄関の奥のほうから声が聞こえてきた。
「ああ、俺だよ俺。頼んどいたんだ。昼間掃除で忙しかっただろ、飯の用意も出来てない
みたいだしさ」
 ほっとしてピザを渡し、代金を受け取ろうとしたとき事件がおきた。
 代金を払おうとした主人のポケットから札束が顔を出したのだ。
「ちょっと、あなた!そのお金どうしたの?!」
「え、ああ、ああ、いやー今日はチューリップが良く開いてなぁ。大当たりだったんだよ」
 笑顔で答えた主人だが、昼間の大掃除に姿を消していた真相を話してしまっている事
には気づいてないようだ。
「家具の修理道具を買いにいくって言ってたのに……」
 静かに声を荒げる奥さんの顔が赤く染まっていく。
 結局、暖かかったピザも芯まで冷えるまで夫婦喧嘩の巻添えを食う事になり、毎年こ
の季節の忙しさを噛み締めることになるのだった。

お題は 「新春」「迎春」「青春」 でお願いします。
 習字教室に通い始めた。歳を取ると字の一つにも貫禄が無いといかん。孫が今年の年賀
状に書いた迎春の字を、ワシより巧いと認めるようでは威厳も何もあったものではない。
「それでは筆を置いてください」
 習字の先生が言った。教室には二十人ほどの年寄りがいて、今日は書初めをやっている。
新春、新年、正月、などどれも見事な達筆だ。ワシも負けてはいられない。
「ははぁ、これは見事な草書だ」
 先生がワシの隣に来て唸った。だが顔はワシの方を見ていない。どうやら隣の鈴木さん
の字が巧いらしい。先生の脇から覗いたが、そこに何と書いてあったかワシにはわからな
かった。
「おや、これは何と書いてあるのですか」
 いよいよ先生の目にワシの書いた字が映った。どうやら先生が見てもワシの字はわから
ないらしい。これはワシがよほど巧いのだろう。そう思い改めて眺めると、我ながら貫禄
のある字だと思わざるを得ない。
「見事な字でしょう。青春と書きました」

うーむ……オチがどうも。
次「螺旋」「落日」「トカゲ」
247うはう ◆8eErA24CiY :04/01/01 16:07
「螺旋」「落日」「トカゲ」

 「この曲・・・去年も聞かなかった?」
 紅白歌合戦のテレビ前、 応える者は誰もいなかった。
 「ほら、あの「鉛色の空」のあたりの歌詞、たしか・・・」
 無理もない、歌謡曲自体が落日の様相を呈している。気のせいかな。

 いよいよ終盤、アナウンサーが叫ぶ。
 「いよいよ新しい年。西暦!2003年が、やって参ります」
 「え?・・・」軽い眩暈がした。家族は黙して答えない。

 「・・・あっ、あ、そうだそうだ。来年は2003年だった、失敬失敬」
 お茶を濁したまま、年賀番組が始まる。「2003年、明けましておめでとう!」

 ・・・叔父が寝入った後、家族は話し合う。
 「聞いてなかったのね、年削減のこと。昨年は怖い事件が多かったから・・・」
 「トカゲだって尻尾を切る、<2003年は無かったことにする>とニュースにでてたのに」
 「時間は螺旋構造だからね、昨年と今年が最近距離の今が一番都合いいんだってさ」

 何の事情も知らず、叔父は寝ている。そう。今年の彼には大きな仕事が控えている。
 2003年病死した彼には、もう一度死ぬという大仕事が控えているのだ。

※新年からこんな縁起悪い話・・・
次のお題は、ぐっとおめでたく:」「振袖」「おめでた」「太陽系」でお願いします。
248名無し物書き@推敲中?:04/01/01 19:40
「逮捕」「冤罪」「極刑」
249:04/01/01 20:35
「最近、少し太ったかな」遼子はわき腹の肉をすらっと伸びるきれいな指で
つかみ、独り言を呟いた。その仕草をファインダー越しに見ていたカメラマン
が「何、言ってるの遼子ちゃん、それで太ったなんていったら世の女性達から
ブーイングだヨ!」 遼子はカメラマンに向かい ニコッと笑顔。 
「お疲れさまでしたーーーーー」 しかめっ面をしてみせ、悪戯ぽく舌を出し
た。「ほい! おつかれ」
ひょんな事からファツション雑誌のモデルを始めるようになり遼子の生活は
ここ一、二年で劇的に変わってしまった。華やかなスタジオを後にし着替えの為
廊下に出る。冷えたリノリュウムの床を見つめ遼子は重い問題を思い出さず
にいられなかった。「おめでたですよ」先日の診察結果。付き合っている彼の
赤ちゃんがお腹にいると思うと....
クリスマス前日にその事を彼に話すか話すまいか遼子は迷っていた。今日、12月
23日 堕胎するにはギリギリの時間を重ねてしまった。「気が重いな〜〜〜」 
遼子は溜息と共に待ち合わせ場所へと歩を進めた。冬の日が沈み、闇が辺りを包み
はじめる、街のビル灯り、車のヘッドライト、ジングルベルが流れる、さまざまな
喧騒渦巻く名古屋市中区錦のテレビ塔下の道端。ぽんっと肩を叩かれ「待った」
「すこし」「飯でも食いにいくか」遼子と彼は腕を組み歩きはじめた。
背後で「あっ!」っという声がする。夕刻の雑路は年末の為か人々で混雑しており
あちらこちらで「なんだ!」「ゲッツ!」人ごみ全体がざわざわし始めてきた。
「上、うえ、空..」ひらひらと雪のようなものが降ってくる。
1ドル札の雪 ふたりは夜空を見上げた。「遼子」「んっ」「結婚しよう」彼は
言ってくれた。ぽろぽと熱いものが止まらない。
広い太陽系の銀河の果て地球という星に生まれ、ひとりの人にめぐり逢う事の不思議。

そんな私も今年の成人式には振袖を着ます。もちろんお守りの中に1ドル札を忍ばせて。

次は「コーヒーカップ」「門松」「詐欺師」でお願いします
うちには妙なコーヒーカップがある。
右側面にハートの形の穴の開いたカップである。
穴が開いているからもちろんそこから中身がこぼれ出す。
問題は穴以外は全く普通のコーヒーカップに見える点だ。
穴は取っ手の右側面に開いているのだが、
我が家では左側面が見えるようにカップを置く決まりになっている。
一度だけそれがハートのカップであることに気付かずに注いでしまった
ことがあったが、あれだけ惨めな後片付けは他になかった。

何故そんな変なカップがうちにあるのかと言えば、母親が騙されたからである。
一見はただのセールスマンだったらしいが、こんな不良品を売りつけるのは
単なる詐欺師以外の何者でもない。
この詐欺師は何故かわざわざ売りつける家によって毎回品を
変えているらしく、隣の家の鈴木さんは同じ男に風船型膨らまし式門松を
買わされていた。
アナタの町にも現れるやもしれないから、ご注意頂きたい。

「電話」「カエル」「さいたま」でよろしく。
かえるに餌をやっている間に年が明けた。
もう新年か2003年も短かったなと思った瞬間に電話のベルが狭い部屋に鳴り響いた。
きっと母からだろう。年末も帰省しない親不孝な息子にも新年の挨拶をしようとかけて来たに違いない。
餌を水槽の脇に置き古めかしい黒電話の受話器を取る。
「はい、田中で…」僕の声は遮られた。いやそれ以上声が出なかったというほうが正しい。
「サイタマサイタマサイタマサイタマー!!サイタマサイタマサイ…」
僕は乱暴に受話器を下ろした。正月早々悪戯電話とは暇な奴も居たもんだ。
コタツに入り昨年の出来事に思いをはせる。だがそんな静かな時間を打ち破るような激しいノックの音が聞こえた。
驚いて振り返るとしっかり施錠したはずのドアから白い猫のような二足歩行する生き物と小さな太陽にしか見えない
生き物が顔を覗かせていた。夢でも見ているのだろうか?
「ここでサイタマサイタマしてもいいですか?」
その不思議な生き物達は三匹同時にそういった。
ああ、もうどうにでもしてくれ。きっとこれは夢なのだ。あれも夢だったんだ。
こたつの上に顔を伏せ背後にサイタマサイタマの叫び声を聞きながら僕は涙を流していた。

「お年玉」「本家」「お餅」
252お年玉 本家 お餅:04/01/03 22:59
 近所の和菓子屋に、『お年玉配布中!!』と大書された幟が立った途端、店頭は
押すな押すなの騒ぎとなった。普段は『本家元祖なんたら饅頭』を扱うのみのひな
びた店なのだが、今日に限ってはそこいらの神宮を遥かに凌ぐ客数を集めていた。
正月早々強欲なものだが、俺も気づいたが幸いと並んでみた。
 遠目にも、和菓子の箱を抱えた客のひしめくのが見える。僅かな店員が列の整理
を行おうと必死の努力を続けていたが、半ば暴徒同然の客相手にいいように翻弄さ
れていた。
 おおよそ百メートル進むのに一時間をかけ、俺はようやくショーケース前に立った。
あらかたの商品が売り切れ、葛饅頭と赤飯のみが陳列されていた。葛饅頭を三つ買
い求めた俺は、包みと一緒に水引のプリントされた箱を受け取った。
箱は、妙に重かった。大入袋程度を予想していたのだが、この重みは予想外だった。
俺は帰る道すがら、箱を開けてみた。
 中には餅と、能書きが入っていた。
『お年玉はそもそも江戸時代、大家が店子にお餅を配ったのが起源とされ云々』
 俺は餅を力いっぱい地面に叩きつけ、それから気を取り直してそれを拾って帰った。

 次のお題は「大根」「プラチナ」「希望」で。
253名無し物書き@推敲中?:04/01/04 06:34
胸から、止め処も無く血が溢れ出す。
目の前には俺を見て笑う顔が三つ----三人とも少年だ。

デビュー当時の俺は、“SUCKA MC”“WACK MC”
…役者で言えば「大根」と言われるような侮辱も受けた。
しかし、それを経て今では日本で押しも押されぬトップのラッパーになり、
you the rock★やtwigyのように、ここジャマイカへ数千万のプラチナの歯を入れに来た。
明日は日本に帰って、十五年ぶりに帰省するつもりだったのに。
親父が死んでから、今まで迷惑かけ続けた母親に孝行したかったのに。
それなのに、今こうして地元の少年達に胸を刺されてくたばりかけている。
お前等、この歯のプラチナ目当てなんだろ・・・
・・・これ売って、俺の代わりに親孝行してやれよ・・・
希望を持て・・・じゃ・・・
254253:04/01/04 06:37
次のお題は
【ハッスル】【緑茶】【自称】
「よいこのみんな、ハッスルしてるかなー?」
すげぇ嫌そうな顔の子供達に囲まれている髭面親父の姿が
テレビに映っていた。
「自称さわやか戦士のけんたろうおにいさんだよー!」
あーとかえーとか、どうでもいい相槌を返す子供達。
「今日は、この緑茶を、鼻から飲み込む健康法の紹介!」
そういいながら「おにいさん」はポケットから150mm缶を取り出して開け、
飲み口を鼻にあてがった。
「じゃーいくよー」
と缶を傾け、鼻からずずっと緑茶を啜った。
次いで咳き込み、鼻から飛び出す緑の液体。
「出来るわけねねえだろ! このクソ(放送禁止)プロデューサー出て来い
毎度毎度キ(放送禁止)させやがって、あ、おいてめえ逃げるな殺す殺し――」

暫くお待ちください。

次は「テレビ」「やらせ」「円盤」
256「テレビ」「やらせ」「円盤」:04/01/04 23:55
「最近は便利になったもんだよねぇ」
最終出力の業務用テレビモニタを覗き込みながら『緊急特番!! これがフライフィッシュだ!!』ディレクターの安井はため息をついた。
「昔はさ、円盤とか小道具に作ってもらったりしてね。ほらこれっくらいの」
安井は指で直径30センチほどの輪をつくった。
「今はパソコンで何でも出来るんだもんね。いや、便利便利」
「安井さん、人聞きの悪いこといわないでくださいよ。こりゃただ画質の調整してるだけなんすから」
「調整ねえ……目標物の彩度をわざわざ落とす調整ってのも珍しいわな」
このままじゃ使えないからせめて背景となじむようにしてくれっつったのあんただろ。
エンジニアの多古田はうっとうしそうに髪を払いながらマウスを幾分強くクリックする。
「大体これ、どこのどいつにやらせたんですか?」
「視聴者からの投稿だよ。匿名の」
「匿名ね……出来ましたよ」
多古田はベーカムを安井に渡した。
「そ、匿名匿名。余計なこと考え過ぎるとハゲちゃうよ」
安井は受け取ったベーカムで多古田のあたまをぽんとたたいて微笑んだ。
「俺の仕事はそーゆー仕事だからさ。ま、どの仕事もそうなのかもしれないけどね」
でも目は笑っていなかった。


次は「ツール」「六角」「大王」で
257「ツール」「六角」「大王」:04/01/07 15:27
目が覚めたばかりだと、どうも頭が働かないものです。
例えばこの間の休み、自室で昼過ぎまで寝ていた私は玄関のチャイムの音に起こされました。
私は欠伸をしながら布団から起きあがると、眠い目をこすりながら玄関に向かったのです。
そうしている間にも、チャイムの音は仕切り無しに鳴りつづけます。
「どなた様でしょうか?」
私は不機嫌そうにドアを開けました。
するとそこには黒いアタッシュケースを持った男が、愛想笑いを浮かべて立っていたのです。
「御免ください。こちら某社の者ですが、この度御注文していただいたツールセットをお届にあがりました」
「ツールセット? そんなもの頼みましたっけ?」
「はい、三日前に御自宅から注文の電話がありました。
……では商品をここに置いておきますので、代金をお支払いいただけないでしょうか?」
「あ、はい……」
私はどうしても注文したことを思い出すことができませんでしたが、
きっとまだ起きたばっかりで寝ぼけているのだろうと考え、素直に代金の一万円を払ったのです。
「では、ありがとうございました。またの御注文をお待ちしています」
男は受け取った代金を革の袋に入れると、六角ドライバーが5本だけ入った、
明らかに千円もしないようなツールセットを置いて足早に立ち去って行きました。
三日前、私は出張で家にいなかったことに気付いたのは、それから一時間後のことです。

とこんな風に、人間は目が覚めたばかりだと下らない詐欺にも引っかかってしまうものなのですよ。
ですから私は寝坊したからといって下手に急いだりはせず、
ゆっくりと紅茶の一杯でも飲んでから出かけるようにしているのです。
だからせめて一時間ぐらいの遅刻は許していただけませんかね、大王様?
……えっ? おまえはクビだ?
そ、そんな殺生な! 大王様ぁぁぁぁっ!

「願望」「陰謀」「辛抱」でお願いします。
久々に書くと碌なものが出来ない……
258名無し物書き@推敲中?:04/01/07 18:39
小学校からの腐れ縁だった山岡が仮面ライダーになった。
あいつは昔から変身願望があったが、それもついに叶えられたわけだ。
しかし、一つ気になることがあった。
あいつは自転車すら乗れない。バイクを乗り回すことなんて無理なはずだ。
バイクに乗らなきゃライダーとは言えまい。
家に遊びに行ったときにそのことを聞いてみたら、三輪車で辛抱しているらしい。
そう言えば玄関に妙に飾り立てた三輪車が置いてあった。
変身した山岡があれに乗ってるのを想像して、笑いをこらえるのが大変だった。
しかし、当の山岡はやる気まんまんだ。
あいつは今日も、悪の陰謀を叩き潰すために戦っている。

「ジーパン」「殉職」「何じゃこりゃあ」
 ある、殉職したジーパン職人の話をしよう。
 その男がどこから来たのかは誰も知らない。気が付くと男はそこにいて、最高のジーパンを作り出していた。
 その男の作るジーパンは、他のどのジーパンよりも頑丈で、しなやかで、滑らかだった。ジーニスト達はこぞって彼のジーパンを求めた。
 その男の奇妙なのは、ジーパンを作るとき決まって、作業場に一人篭ってしまうことである。扉には厳重に鍵が掛けられる。彼の作業する姿を誰も見たことが無かった。別人が作っているんじゃないか、なんて噂さえ流れた。
 また、その男はジーパンを作るたびに、徐々にやつれて行くのだった。十本目のジーパンを出荷した男は、頬もこけ、眼窩は窪んでいた。
 ともすれば、必ず好奇心の強い手合いが現れる。いったい彼はどのように最高のジーパンを作るのか、また彼はどうしてあんなにも衰弱して行くのか、一目その作業風景を見てみたいと思う輩である。
 ある日、そういった輩の一人がとうとう彼の作業風景を覗くことに成功した。そして、悲鳴が上がった。
「何じゃこりゃあ!」
 そこには、ジーンズ生地に自分の禿頭の脂を塗りこんでいる、カツラをとったジーパン職人の姿があった。彼はその姿を見られたと気付いた瞬間、ショックで死んでしまった。
 ある、殉職したジーパン職人の話である。

次は「幸せ」「だっこ」「変態」でお願いします。
260幸せ だっこ 変態:04/01/08 01:27
 娘と散歩に出かけた。娘はこの春3歳になったばかりで、なにかと興味を
持ちたがる。「あのお花なあに」「雲はどっちからどっちへ行くの」等々、率直
極まりないがゆえに回答に困る質問を、いくつも投げかけてくる。今日も娘は
何かを見つけ、だっこした腕の中から危うく落ちそうになった。
「おとーさん、これなあに、これなあに」
 モンシロチョウのさなぎだった。変態を遂げたばかりなのであろう、薄く透けた
黄色のさなぎはそよ風になぶられ、震えて見えた。
「これはさなぎだよ。イモムシさんがちょうちょになる前に変わるんだ」
「ちょうちょになるの!?」
 娘が目を輝かせる。
「わたしもさなぎになりたい、なりたい〜〜」
「人間はさなぎにはなれないんだよ」
 私は娘を抱え直し、ぎゅっと抱きしめた。
 さなぎなんかにならなくとも、お前は蝶のように美しく変わり、幸せを掴むのだから。

 次のお題は「鉤爪」「サッカーボール」「お香」で。
目の前に白く高い壁があった。
私は当然のように縄を投げ、鉤爪がしっかり食い込んだことを確認して登り始める。慣れない運動は辛かったが楽しかった。

どれくらい経っただろう。
登ることにも慣れ、途中で知り合った女性との間に子供も授かったが出産のときに下に落としてしまった。
まだ頂上は見えない。


ある日。息子が登ってきたので一緒にサッカーボールで遊んでいると、唐突に目の前の壁が崩れ頂上になった。
ふと下を見ると縄は消え、白い壁には様々な絵や彫刻が刻まれていた。

妻は泣きながらお香をあげていたが幸い息子に怪我はなさそうだ
262261:04/01/08 05:21
携帯から失礼しました。
次は「空」「屋敷」「宝箱」でお願いします。
263「空」「屋敷」「宝箱」:04/01/08 08:23
いつ頃からこんな風に空ばかり見て時をすごしていたのだろう
仲間というものをもったことがない
ひとりっこでひとりぼっち
大きな屋敷なのにひとりぼっち
宝物は母の形見の真珠のネックレス
宝箱をそっと開ける
母は父にとってなんだったんだろう
父は何人女を変えた?
女って何? 私は一人空を見上げる
いつか使って見たかったけど、このまま空を見上げて年をとっていきそうだわ
264263:04/01/08 08:26
次は「小猫」「魚」「春」で
265小猫・魚・春:04/01/08 13:44
 雪がちらついているが、俺は大きく窓を開けた。換気は、毎朝の日課だ。空気の冷たさが却ってすがすがしい。
入り込む冷気とファンヒーターの温風とのせめぎ合いを背中の辺りに感じつつ、俺は本日一本目の煙草に火をつけた。
 ライターに顔をうつむけた時、目の隅で何かが動いた。――隣家の屋根からの落雪。
 煙草の先の、三分の一まで灰にし、すがすがしさがはっきり寒さに変わった頃、俺は窓を閉めた。そしてテーブルの
灰皿を探した視線が、別のものを捕らえた。
 テーブルの上に、さっきまでなかったものがある。いや、「いる」。
「小猫ちゃんです。よろしく!」
テーブルの上の奴は、そう言った。三角形の薄い耳、金色の目、柔らかそうな毛むくじゃらの体。確かに、
「ネコだ……」
するとそいつは、鉛筆ほどのしっぽをぱたんと言わせ、
「違います。小猫ちゃんです。よろしく!」
 俺はそいつから目を離さず、煙草をもみ消した。
「寒いので、入って来ました。春まで置いてください。よろしく!」
「ああ、そうか……、小猫ちゃんか……」
「はい。小猫ちゃんです。魚を食べます。よろしく!」
せっかく目覚めた頭が再びぼーっとなり、俺は無意識に次の煙草を吸い始めていた。
266265:04/01/08 14:01
あ、お題忘れた。

「水」「たんまり」「勘弁してくれ」
267名無し物書き@推敲中?:04/01/08 20:19
「勘弁してくれよ!」
店主が花田さんに叫んだ。
「水だけで5時間も居座られたらたんまら…たんまりな…た…たまらないんだよ、こっちは!」
興奮して、店主は噛んでしまったようだ。
「ビーフカレーを」
花田さんは眉一つ動かさずに、平然と言った。
「あのねえ、ウチはラーメン屋なんだがねぇ。牛肉ラーメンでよかったらあるがね」
「無茶を言う…」
「な、なぁにィッッ!!!!」
「私は5時間前からッッ!ずっとッッ!ビーフカレーを待っていたッッ!!!!!!」
「花田さん、もういいんです。何がいいのかは僕にもわからないですけど、帰りましょう。
「小宮山君…いいんだ…ただ一言言わせてくれ…。『カツカレーだけがカレーの需要だと思うんじゃねえ!』って事を…」
「花田さん、僕はチキン派です。」
店主が
僕らは帰った。

次のお題。
「諸行無常」「きゃるるん♪」「愚の骨頂」
「小猫」「魚」「春」「水」「たんまり」「勘弁してくれ」
もうすぐ春、 などとはほど遠い寒さが続く、海に浮かぶ漁船の上に、 江戸
屋小猫はいた。
小猫は、厳しい芸の世界で生き抜いていくのに、動物の鳴き声だけではいけな
いのではないかと悟り、新しい芸を習得した。そして、それを試すため、この
船に乗っていたのだ。
「先生、お願いします」と、船長は小猫にウェットスーツと拡声器を渡した後、
船員に身につけてさしあげろと命令した。
ワイヤーに吊るされた小猫は、右手に拡声器を持ちながら、徐々に徐々にと蒼
く冷たい水の中へと入っていった。用心のため手配したダイバーたちでさえ、
勘弁してくれといいたくなるようなところへ。
小猫はしばらく目を閉じた後、重々しく右手を口の前辺りへと動かし、その新
しい芸をするため口を開いた。
甲板で待つ船長以下船員達は、海の中で拡声器を使うことに対し、訝しげな表
情をしながらことの成り行きを見守っていた。しばらくすると、魚群探知機に
大量の魚の反応を示すマークが現れた。
船が港に付いたとき、そこには満足気な小猫とたんまりと魚が漁れてほくほく
顔の船長の姿があった。小猫は魚の鳴き声(超音波か?)を完璧なものとした
のだ。
全ては順調にいっているかと思われた。だがこの出来事によって小猫はグリー
ンピースにマークされてしまったのだ。今彼は、どうやって植物の鳴き声をだ
そうかと頭を悩ませている。

「仮面」「火傷」「彗星」
 日常的に仮面を被っている奴がいる。名を山田という。
 そいつは去年の4月、俺の会社に彗星のように現れた。……正確には、採用試験に合格
して入ってきた。そいつは白いのっぺりした仮面を被っていて、目の穴の向こうには生々
しい眼があった。不気味だ。よく採用試験を通ったものだと思う。俺なら絶対採らない。
 社員の間に噂が立った。仮面の下には火傷にただれた顔が隠れているというものだ。俺
も他の社員と話しながら、あの仮面の下はどうなっているのだろうと興味を持った。
 そんな中、トイレに行った時に、洗面台に奴の仮面を見付けた。トイレの中を見回すが、
誰もいない。個室にも人は入っていない。俺は首を傾げながら、仮面に視線を戻す。する
と妙な気分になった。その仮面を被って、被り心地を知りたくなったのだ。俺は辺りを見
まわし、誰もいないことをもう一度確認すると、震える手で仮面を顔面に合わせた。被っ
てみると、心が平安になった。素晴らしい被り心地だ。外すのが嫌になった。そして、ト
イレからそのままの状態で出た俺は、その日から山田を名乗った。
 そして今、元の俺には行方不明ということで、警察に捜索願いが出ている。俺はその日
以来山田として、素晴らしく心安らぐ日常生活を送っている。
 しかし俺は最近、不思議に思うことがある。
 元の山田はどこへ行ったのだろうかと。
 そして山田になった俺は、これからどうなるのだろうかと。

「ベンツ」「マシュマロ」「ささやき」
 女の傷はただの傷でしかないが、男の傷は勲章である。
危機の最中(さなか)に彗星の如く姿を表し、ひっそりと危機に
立ち向かう、そして消える。
 引き際の美しい男、それが俺様である。冷酷だと揶揄されてい
るのは、仮面を被った俺様であって、それは本当の俺様ではない。
人気(ひとけ)のない喫煙室、煙がもうもうと立ち込める吸殻入れ。
今そこにある危機と格闘した俺様の手には名誉の火傷が刻み込ま
れている。

*次は「痛み」、「桜」、「夕暮れ」〜(゚д゚)
271270:04/01/08 21:53
カブッタッッ

次は「ベンツ」「マシュマロ」「ささやき」で〜(゚д゚)
走れば抜かれる、割り込まれる。駐車すれば詰められる。そんな交通戦争に嫌気がさして思い切ってベンツを買った。

出足最高。エンジン音が甘く囁き、ボルテージは最高潮。
レッドゾーンが近付くに連れ視界が狭まり、スリルをアドレナリンが塗り潰した。

突如目の前が真っ白になる。
ふわもちっと…でっかいマシュマロに突っ込んだら(…)こんな感じかなーという感触。
事故った?
(キィーン)おう、さすがベン(耳鳴り?)ツ、エアバッグも一味違(ぉ…ぃ、ぉ)うな。
雑音?
(レ……誰かっ!)
はっきり聞こえた。

「あーこりゃ駄目だ、頭から


世界が閉じた。
273272:04/01/09 00:33
上の題目は「マシュマロ」「ベンツ」「ささやき」でした。
携帯の字数制限上、ささやきを漢字にしてしまい、すみません。

次は「腹に響く」「都会」「ミント」でお願いします。
274「ベンツ」「マシュマロ」「ささやき」:04/01/09 01:05
彼のベンツのダッシュボードに形の悪いマシュマロが載っていた。
角が立っていたり凹んでたり。形も大きさも揃ってないそれは、クッキングペーパーを敷いたハート柄のかごの中に入れられていた。
「娘のなんだ。最近よく作ってくれるんだよ」
あたしを見ることなく彼はシートベルトを手直しした。
「あ、ごめんな。片付けるよ」
「もらっていい? あたしこれでも料理とかすきなの」
あたしの言葉に彼は戸惑ったような微笑を浮かべた。
「どうぞ」
やけに甘ったるいマシュマロだった。水あめみたいにやけに歯にまとわりついてくる。
「清美ちゃんだっけ? 小学校5年だったよね。清美ちゃん料理すきなの?」
「まあね」
「ほんと? じゃああたし清美ちゃんとうまくやれそうね。よかった。それにあたし、子供好きだし。ね、奥さんとはいつ別れてくれるの? あたしはいつでも」
「出すよ」
あたしが同意する前に彼は車のキーを入れた。
「……最低」
あたしは彼に聞こえないようにそうささやくと、シートベルトにしがみついた。

次は「痛み」、「桜」、「夕暮れ」で
275274:04/01/09 01:06
すいません、つぎは「腹に響く」「都会」「ミント」で
276「腹に響く」「都会」「ミント」:04/01/09 03:21
 腹に響く――本当に、そんな表現がぴったりなくらい大きな声を
出して、僕は必死に歌っていた。歌っていたというよりは、怒鳴って
いたといった方が正しいかもしれない。とにかくそうしなければな
らなかった……

 真冬の空の下、雪の舞う寒空の下で、僕は必死に歌い、踊った。
ところどころ破れて擦り切れた服に、容赦なく冷たい風が吹き抜け
る。頬をキリキリと刺すような痛みに耐えながら、寒さで顔に張り
付いたままの笑顔で歌う。こんな都会の雑踏の中では、ちっぽけな
僕の歌声なんてすぐにかき消されてしまう。

 つま先に大きく開いた穴の中から覗く靴下の、ボロボロになって
ほころびた大きな大きな穴。そこから飛び出した親指には、寒さで
もう感覚すらない。ただ、無我夢中で飛んだり跳ねたりしている僕
の、地面を蹴り上げる振動だけがピリピリ伝わってくる。

 あれはついさっきのことだった。

黒く磨かれた大きな靴が、僕の前でぴたりと揃った。心の中でハッと
息を呑みながら、僕は更に大きな声で歌い、激しく飛び跳ねた。彼は
捨て犬を見るような目で、そっと僕を見下ろした。自愛に満ちた慈し
み深い眼差し――父さんのような、暖かい……

 彼は立派なコートからピカピカに磨かれた金貨を取り出すと、黙っ
て僕の足元の空き缶に入れた。遠ざかっていく彼の背中をじっと見つ
めながら、僕は白くなるくらい唇を噛み締めた。そして、ありったけ
の力を込めて空き缶を蹴り上げた。ほんの僅かな銅貨と、彼のきらき
ら光る金貨が、雪と一緒に空を舞う。
277続き:04/01/09 03:22
 彼は驚いてこちらを振り返った。彼だけじゃない。道行く人々が
皆足を止めて僕を見た。僕は視線をそらさずに、ずっと彼を睨み続け
る。隣りで歌っていた少年が、すかさず金貨を拾い集める。彼は瞳に
哀しみの色を宿し、もう二度と振り向かずに歩いていった――

 あの寂しそうな背中が、瞼に焼き付いて離れない。その残像を振り
払うかのように、僕は歌い続けた。大声で、大声で、大声で……

 どれくらい時間がたったのだろう。喉は擦り切れ、僕の声は最早
声にもならなくなっていた。ふと気付くと、目の前に1人の少女が
立っている。
「あの、これ……」
彼女は手に何かを握り締めてもじもじしている。構わず僕は歌い
続けた。すると彼女は僕の手を取り、何かを握らせて走り去った。
暖かく、柔らかな手。すべすべと丸く、ひんやり冷たいものが
僕の手の中に収まっている。そっと開くと、そこには雪と同じ
くらい白い一粒のキャンディー。

 何故だか涙が溢れてきて、その場に立ち尽くしたまま静かに
泣いた。いつまでもいつまでも嗚咽がこみ上げてきて、それを
塞いでしまおうと僕はキャンディーを口に入れた。スーッと
ほろ苦い味が口中に広がる。ミントの香りが、全てを吸い込ん
でくれるようだ。

 深く深呼吸してみる。さっきと同じ、冷たい風が鼻腔を突き
抜ける。まだ、歌える。もう一度深呼吸すると、閉じていた瞳
を開いた。
278gr ◆iicafiaxus :04/01/09 03:32
「痛み」「桜」「夕暮れ」「腹に響く」「都会」「ミント」

さっき売店で買ったフリスクの封を切ると僕は真っ白な粒を唇に運んだ。郊外へ
向かう午後のローカル線の車内には人も少なくて、ドアの前に陣取った高校生たちの
おしゃべりを別にすれば、ディーゼル車の眠くなるようなエンジン音と時折通り過ぎる
踏切のかんかんという警鐘以外に音が無い。
ロングシートに掛けた自分の膝に体重を預けながら、僕は絶え間なくフリスクを噛んで
いた。そうすることで、ペパーミントの刺激を口内上皮の粘膜いっぱいに感じることで、
僕はまだ人前で泣くという粗相をしないでいられた。フリスクの粒は痛みにも似た
清涼感を僕の舌に残しながら、歯の間に崩れていつのまにか消えていく。
モケット張りの座席の生暖かい振動も、高校生の笑い声も何か遠い世界のことの
ようだった。フリスクを嘗めつづける自分の唇さえ、他人のもののように思えていた。

――都会を離れていくつもの駅を過ぎ、もう客もほとんどが入れ替わった。
窓の外を冬枯れの桜並木が飛んでゆく。

深刻そうに向かい合う男女が一瞬だけ見えて消えた。
鉄橋を越えて、トンネルを抜けて。窓の外をもう映画何本分もの景色が流れて行く。
「でもどこかに、終点があるんだ」。ふっとした呟きが僕には裏腹に響く。
フリスクも、いつか空き箱になっていた。

夕暮れの無人駅で乗ったどこか懐かしい人に似た女の子に席を譲り、窓際に立って空を見る。
不審なまでに早く沈もうとする冬の日。桜の季節になったらまた乗ろうと思った。春が来たら。

終点まではあと五駅。

>>276にお題がないようなので、次は「猿」「桶」「はがき」で。
「これ何に見える?」
一枚のはがきを渡された。

父は毎年、年賀状に干支を使った自作の版画を刷っている。
今年は猿年、枝にぶら下がった猿が水面に映った月を掴もうとする定番の構図だったのでそのまま答えると「ほら、分かるよなー」と嬉しそうだった。

「ちょっと見て」
床の間には新しい掛け軸と生けた菖蒲が飾ってある。合わせの枝の方向と火鉢の位置に少しだけ意見を出し、受理された。
母は季節感のある食事といい、本当に気が利く人だ。

初詣で手桶に汲んだ水の冷たさは、幸せを際立たせ、私はそれを噛み締めた。

次は「甘酒」「餅」「掃除機」
  「ぶぐふっ!!!?」
「大変!! マサオが餅を喉に詰らせたわ!!」
二つ上の姉が大仰に叫ぶ。いや、あながち大仰ではないかもしれない。
長年の経験からして、これはマズイ詰り方だ。口から空気のカケラも吸い込めない。
死ぬ。
「かあさーん!! コンセント入れてぇ――!!!」
姉は俺の口を掃除機の吸引口で覆った。なんとまあコント的な。
「最大パワー!! 『じゅうたん』!!」
ベロが! ベロがっ!! ベロが千切れっ……!!!
「綾子っ!! これをマサオのチンチンにっ!!!」
「甘酒!?」
「超高温のね!! 男はイチモツを強く刺激すればなんとかなるらしいわ!」
いや、ならんって、ならんウワアアhんrglんdcfmpうぇふぉほあ;

  その後の冬休みは病院暮らしとなった。

「ほのぼの」「蟻地獄」「サービス券」
 義母さまが、これ使ってくださいなと言ってエアロビのサービス券を持ってきた。
またか、と私は思った。以前も消火器と壷を一度に買わされた前科がある。
 この女として枯れて腐り始めた年寄りは、もう外界から入ってくる話を噛み
砕いて飲み込む作業が出来ない。もし餅を食えと差し出されればそのまま
飲み込んで喉に詰まらせるに違いなかった。
 つまり、私が出かけている間に押し売られたというわけだ。一応困りますと顔で
訴えたが、姑はシワだらけの顔でほのぼのと私を見ているだけだ。
「広子さん少し太ったでしょう。どお? ちょっと運動でも」
 などといきなり言われると、いくら温厚な私でもカチンと来る。だが言うことが
一々勘に触る他は、彼女の纏う空気が穏やか過ぎて怒鳴ることもできない。
「でも、広子さんずいぶん太ったわねぇ。私が若い頃は……」
 自然体は一種の武器だ。最近増してきたしつこさも強力で、一度話始めると
終わりが来ない。まるで蟻地獄のようで、最近は心の中で蟻母さまと書いて
「おかあさま」と呼んでいる。
 今日も二時間ばかり、内心で女王蟻を踏み潰す妄想を続けた。
282281:04/01/09 20:33
お題忘れた。次「辞典」「ハニカム」「孤軍」
283 ◆lGts3wLpEM :04/01/10 17:18
このスレって与えられた題は本来の意味で使わなきゃだめ?
漏れは、「指示された言葉が、その表記のままで
作中に文字列として含まれていること」が条件だと思っているが。
過去の投稿とか見れば、多分他の人達も、少々の違いはあれ
大体そんな感じに認識してると思う。

あと、雑談は雑談スレに行った方が喜ばれるかも。
285 ◆iicafiaxus :04/01/11 03:21
#「辞典」「ハニカム」「孤軍」

テーブルの向こうの壁際では従妹の夏実ちゃんが、パジャマの襟首にバスタオルを掛けた
ままもう三十分も、パソコンゲームに興じている。濡れたショートカットの後ろ髪が
一房だけぴんと飛び出して、そのままの格好で乾きかけている。
僕はリビングダイニングのテーブルに両肘をついて、叔母さんの入れてくれた紅茶を飲んで
いる。慣れない茶碗から立ち上る湯気に曇った縁なし眼鏡を明るい蛍光灯にかざして拭うと、
ブラウン管を見つめたまま手元のマウスだけをカチカチと動かしていた夏実ちゃんが、
ふいに両手をかざしながら、「あーー、」と叫んで振り返った。
画面を覗き込むとそこでは町や城の絵の描かれたハニカム状のたくさんの陣地が赤一色に
染まり、ただ一つ残った青の孤軍も見る見る間に勢力をそがれてまさに滅びようとしている。

「高志兄さん〜」と夏実ちゃんは泣きまねをしながら、大げさに僕に抱きついてみせる。
僕は夏実ちゃんの体重を格好だけ受け止め、パジャマの背中をとん、とんと叩いて
やってから床に落ちたバスタオルを拾って軽く畳み、パジャマの胸に抱えさせてやる。

夏実ちゃんがそれを受け取ったときちょうど戸口から這入ってきた叔母さんが「あらー
高志さん、だめよまだ夏実に手を出しちゃあ」などと言って笑った。真っ赤になった夏実
ちゃんの抗議を遮って「せめてあなたが大学を出るまではだめよ、その時ちょうど夏実も
16だしね」と本気のように諭す叔母さんに僕も「叔母さん、16って」と問い返すと
「あら、女の子は16になったら結婚できるのよ。六法辞典に書いてあるわ」と嘯く。
「本家は浩志さんが継ぐんだからあなたはうちを継げばいいわ。高志さん、あなたも
嫌じゃないでしょう? あなたと夏実がその気になれば、もう万事めでたしよ」。

目をそらすとパソコンの画面では青の軍隊が全滅して真っ赤な旗が大写しになっていた。


#次は「レモン」「底」「さも」で。
「レモンが食べたいな」
 妻の一言にはっとした。妻は妊娠をしていた。それは当然の願いだ。妻は悪くない。
 悪いのはこの世界だ。レモンのなくなったこの世界だ。大地の腐ったこの世界だ。
「ごめん」

 妻を残して世界を旅した。心残りはある。だが大丈夫。家にいる限り、妻は大丈夫。
 でもレモンは食べれない。だから僕が世界を旅した。レモンを探して。求めて。
 死の風吹くひび割れた大地。赤い空から見下ろす悪魔の眼。さも地獄の底のよう。
 防護服の中、皮膚が爛れ、血が流れ、毛が抜け歯が溶けた。僕は地獄の亡者のよう。

 かつて人は遺した。そこに希望を。未来に夢を。自分に試練を。レモンの種を。
 安全を切り抜いた箱庭で、僕は種を手にして、死神に手を取られた。
 種と死。一石二鳥の方策。僕は種を植える。僕の身体に植える。僕の命を吸え。
 僕の子は生まれたか。妻よ。次の夫の子を宿せ。そこに僕のレモンを届けよう。
 だから、すまない。この手紙を読む旅人よ。もし目の前にレモンの木があるならば、届けて欲しい。僕を、そこに。

次は「かわいい」「ぬいぐるみ」「パジャマ」でお願いします。
  「え〜!! でもあたし、もうお風呂入ってパジャマだしぃ」
彼女は、まあかわいいんだが、病気だ。
俺が何を言ってるっていうんだ。だって俺ぬいぐるみだし。
「けーたクンは凄いよね〜だって剣道の全国チャンピオンでしょ?」
ぬいぐるみ剣道なんざねえよ。つか俺けーた君かよ。
この子、声でかいんだよな。どのくらいかっつーと両隣二軒から苦情が毎日来るくらい。
日中、この子の部屋掃除しながら、彼女のかあさんは泣いていた。とうさんは毎日パチンコに出かける。窓から見えるんだ。
「ねーねーきーて。あたしアイドルになるのぉ!! さぁ〜てぃ〜え〜んじぇ〜る……♪」
下からガラスの割れる音が聞こえる。かあさん、ヒステリー起こしてるんだ。黄色い救急車がやってきた。

「サーバー」「無免許」「信者」
「あの、サーバーって何ですか?」
授業後に70歳を少し過ぎたくらいの老人が質問に来た。
既に帰り支度を済ませていた私は、予期せぬ事態に戸惑ってしまった。
パソコン教室で講師を務めている者であれば即答して然るべきことだが、生憎私は只の和尚だ。
 パソコン教室を開いている知り合いから頼み込まれ、仕方なしにやった授業だったのだが
全くちんぷんかんぷんで、テキストを読む声が他人の物ように思われた。
「代打講師が単なる坊主である」ことは授業の最初に言ったので、私が(パソコンに関して)素人であること、
言わば無免許教師であることは知られているはずである。
だから適当にあしらってもそれほど問題は無いのだが、ここで巧くやればこの老人を信者に引っ張り込むことが出来るかもしれない。
そこで上手いことを言ってやろうと思っているうちにふと気がついた。
「教師だけじゃなく坊主としても失格だな」と

「目薬」「コンビニ」「毛布」でお願いします
289 ◆iicafiaxus :04/01/12 05:26
#「目薬」「コンビニ」「毛布」。

河村いずみは立ち上がると、壁面に凭れたままの僕の目の高さでジーンズの臀から
コンクリートの粉をはたいた。河村は小さな窓の外の街灯の明かりを頼りにコンタクト
レンズを外して、目薬を垂らすと、リュックから円い縁無し眼鏡を取り出して掛けた。
――コンタクト洗ってられないから。
そう言って透明なレンズ越しに僕を見る河村の薄い頬に、その日頃見慣れない眼鏡が
妙に似合っているように感じた。眼鏡似合う、と言った僕に河村はただにこっとして、
再び僕の横に腰を下ろすと、毛布でその身を包んだ。
――寒ーい。
打ちっ放しの床が冷え切って容赦なく熱を奪う。僕たちは薄明かりの中で震えていた。
毛布の下で河村の手を握っている力が強くなるのを感じた。寒い。
このだだっ広い倉庫に温かいものはこの同じ毛布にくるまった僕と河村だけ。

手をつくと一度尻を上げて、河村に近づくように坐り直す。新しい床が冷たい。
隣り合うと肩に感じる河村の体重が寒さにびくびくとこわばっているのが分かる。
ここには無い暖かい部屋や家族や宿題や激励や叱責やすべてのものの代わりに、
眼鏡を掛けた河村が僕の顔のすぐ横で身をすくめている。僕はもう一度身震いをした。

河村がコンクリートの壁から背を浮かして、僕はその肩を抱いた。毛布を引き寄せて
腰の向きを変えると温かさと重さをもった脚と脚がぶつかり合って、足元でコンビニの
弁当殻ががさりという音を立てた。
自分の目よりも近い場所で縁なし眼鏡の奥から河村が笑った。その冷たい唇に残る
ハンバーグソースの味を僕は、いつまでも大事なもののように確かめていた。

#次は「骨」「川」「スネ」で。
スネかじりだのガキだのと言っても、わが子。
祭場の煙突からうっすらと煙が天へと昇り、残されたのは骨だけ。
それでも、わが子。
あの子は川の渡し守にやだまされてはおらぬか。
あの子は川から落ちてやおらぬか。
初めの頃の涙ながらの読経。
幾月も幾年も過ぎるうちに涙は尽きたか、ただ残されたのは心の穴と喪失感。
あの子は川原で石を積まされてやおらぬか。
そう思うと、枯れたと思った穴からは悲しみの水がとめどなく溢れる。
何とぞ何とぞあの子の来世の幸せをと、
何百回何千回と繰り返した読経のたびに祈る。
子を思う親の願いは斯様なものなり。

次「仏教」「サイケデリック(或いはサイケ)」「芸術」
 住宅街を歩いていたら、男が一人、降ってきた。
 あまりのことに呆然として立ち尽くす私に、彼は突然お願いを始めた。
「通報しないで」もとより通報する気などないが、そう言われると通報したくなってくる。
「えー」どうしよっかなーなどと呟く私に、彼は事情を話し始めた。なんでも彼は芸術家
で、サイケデリック(或いはサイケ)というのを見るため屋根の上を散歩していたらしい。

「そんなんで見えるんですか?」と訊くと、
「よく富士山の右の辺りに現れるんだ」と教えてくれた。
「君、仏教徒だろ」と彼が突然訊いてきたので、
「創価学会員です」嘘をつくと、
「じゃあ駄目か」彼は何かを諦めた。
「嘘ですよ」と言ってあげると彼は瞳を輝かせて、
「仏教徒なら通報しないで!」と言うので、
「でもキリスト教徒なんですよ」嘘をつくと、
「じゃあ駄目か」彼はまたも諦めた。
 私は自分が仏教徒のような気がしてきた。

次は「なでなで」「こちょこちょ」「ちゅ」でお願いします。
私は犬です。見た目は猫です。
漫画とか小説でよくあるアレですよ。ぶつかったら中身が入れ替わっちゃったんです。
なので猫だけど犬なんです。ご主人様が構ってくれても僕は猫じゃらしなんかに興味は無いし
喉をこちょこちょくすぐられたってゴロゴロと鳴らしたくないのです。
それなのに意に反して手が動き猫じゃらしを捕まえ、喉がゴロゴロ鳴るのです。
僕はこのまま猫になってしまうのかな?あの自慢のふさふさの黄金色した素敵な体には
戻れないの?なでなでしてもらうことも出来ないの?……猫の姿じゃ撫でてもらってもツマンナイな。
しかし猫で居るとご主人様がちゅっ♥とキスしてくれるのはいい事だと思います。
犬の時は顔を舐めようとしただけで嫌がられていたのに不思議な事です。
「プレゼント」「魚」「喋る木」
 今年の誕生日プレゼントは彼が東南アジアで見つけた喋る木というものだった。
確か去年は土を泳ぐ魚という、これまた訳の分からないものだったはずである。
プレゼントをされた事は嬉しいのだが、その後の始末に困ってしまう。
彼がくれる心のこもったプレゼントにはそういうものが多い。
だからと言って変な物ばかり見つけて喜んでいる変わり者かと思うと、
何でもない時に素晴らしい贈り物をくれることもある。
付き合い始めて二年になるが未だに彼の考えてる事が分からない。
だが、それこそが彼の最大の魅力と言えるだろう。
もし彼からその魅力が無くなってしまったら、私は愛する対象というものを永遠に失ってしまうだろう。
決して大げさでなく、それほどまでに彼の行動が私に与える刺激は心地良いのである。

「レポート」「タクシー」「CD」でお願いします
 目の前が暗くなった。早く帰るつもりが付き合いで飲みに行くことになり、やっと
抜け出したと思ったら終電は過ぎている。妻には、早く帰れると言ってあった。
 仕方ない。と手を挙げると、待ってましたとばかりにタクシーが一台やってきた。
ドアが開く。乗る。ドアが閉まる、と同時に
「どこまで?」
 声は意外にも若かった。二十歳ぐらいだろうか。言葉遣いがなってない若者である。
眉をしかめながら自宅近くの住所を告げると、返事も無しに発進した。
 突然、大音量で音楽が流れ出した。驚いたがラジオだと思ってしばらく聴く。
ところがいつまでたってもDJの声が聞こえてこない。どうやらCDのようだ。
「少し音が大きくないかな」
 言っても全く意に介さない。おいおい、客商売だろうが。もう一度言おうか思案
していると、音の方から急に止んだ。やれやれ。
「レポート忘れてた!」
 青年ドライバーはそう叫ぶと、いきなりウィンカーを点灯させてUターンを始める。
大学生だったのかと思うより先に、妻の怒る顔が脳裏を過ぎった。

次「頭痛」「つば」「センチ」
 何とも綺麗に晴れ上がった空だというのに、頭痛はちっともおさまらない。
原因は自分でもよく分かっている。マサミが結婚する、その事実に体が
拒絶反応を引き起こしているのだ。
 マサミが結婚する相手は俺より数センチ背が高い、学歴もわずかに
俺を上回っている。歳が少し上の分だけ、年収も少し負けているんだろう、
だから切ない。
 何ひとつ俺が叶わない男にもらわれてゆくマサミとは大学で知り合った。
ありふれている出会いではあるが、4年間もの長い間、俺はマサミだけを
みていた。垢抜けなかったマサミが化粧を覚えて、たまに口紅の色を失敗
してバーのホステスみたいになって、そして淡いオレンジが似合う事を
覚えた頃にあの男と出会った。浮気されてるかも、なんて不安気なマサミ
を励まして、時には抱きしめた。それでも結局好きの一言すら言う事が
できなかった俺はやっぱり少し何か足りないのだ。
 吐き出した自分の唾のちっぽけさに少し笑った。唾くらいは豪快に飛ばし
てやろうと、次は空めがけて思いっきり口をとがらせた。

次は「あくび」「チョコレート」「1月」で〜(゚д゚)(゚д゚)
一月の末、センター入試も終わり次は私大、公立大へと流れが移る。
受験生諸君はエスタロンモカだのコーヒーだので眠気を紛らわせつつ、
審判の日までに功徳、いや知識を積めるだけ積もうと朝から晩まで修練していた。
とある、この趨勢に付いていけなくなった受験生某は一つの案を講じた。
「アンジェリカ・ルートとチョコレートであくびは消える」。
とある受験生用掲示板にそれを書き、噂となるように他の掲示板の数々に
同じよう書きまくった。
アンジェリカは精油で、精神安定と若干の導眠作用があり、
チョコレートは当然カカオのアレ、同じく多少の精神安定と導眠作用。
――ということで、そんな噂は直ぐに消えるはずであったのだが、
なぜかその噂は「確かに効く」との評判を得て、止まる事を知らなかった。
後日、その噂を試して志望校に受かった君に言わせると、
「試したところ、心がすっきりしてもう寝ちゃおうって諦めが付くんですよ。
よく寝ると次の日の勉強が良く進み、眠たくならないので、ああ噂は本当なんだなと。」
果たして、よく寝た受験生のパワーには勝てず、噂の大元の君は受験に失敗したそうな。

#えー、一応申し上げますが、受験生諸氏は「ある程度は寝ておいたほうがよい」ですが
#上記のネタを実践して「受からなかったぞヴォケ!」と言われても私は知りません。

次「カウンセリング」「導眠」「薬」
「カウンセリング」「導眠」「薬」

ときどき、死んだ女房が見えてしまったりするので、カウンセリングを受けることにする。
まあ、かつては深く愛した女だから、目の端にちらちらと入ってきても、さほど気にはならないんだが、
さすがに性交の最中に鏡越しに視線があったりするのは、勘弁してほしい。

「それ、ほんとに奥さんの幽霊でしたか?」
このカウンセラーは相変わらず間の抜けたこと聞きいてきやがる。
「尋ねた訳じゃないから絶対とは言えないが、あれだけ似てれば問題ないだろ。たとえ別人でも。
それに女房だとしたら、間違いなく幽霊だ。何しろ俺が殺したんだから、それだけは確かだ。
まあ、ただの幻覚という線もあるだろうから、こうしてここに来てんだよ。で、幻覚じゃないとわかったら、
今度は霊媒師のとこへ行くからさ。頼むよ先生」
導眠剤でうつらうつらしながら、俺は答える。
「奥さんはね、幻覚じゃありません。それだけは確かです。でも、霊媒師は必要ありませんよ。
ほかの病院を紹介しますのでね、そちらに行って下さい」
俺が気付け薬を嗅がされて目を覚ますと、カウンセラーはのうのうと女房の幽霊と話をしている。
「奥さん、これが紹介状。少し強めの安定剤も出しときますので、食後にご主人に飲ませてあげてください」
おいおい、誰か急いで霊媒師呼んで来てくれねえかな。

お次は「殺人事件」「携帯」「刑事」
携帯していた銃は全弾撃ちつくした。今はとにかく逃げなければならない。
打たれた脇腹の痛みに顔をしかめながら俺は排水路を往く。
気分を紛らわすためにつらつらと考える。
一昔前なら薬莢を拾わなければいけないし、拾ったら拾ったで報告書を書く。
「何某がどうのこうので支給された銃弾を○発使い……」
まだるっこしさに反吐を吐き、亡くなった平和に涙を流す。
この国は変わった。暴行事件一つをとっても直接支援する団体が現われるぐらい変化した。
刑事と万引き犯支援団体の銃撃戦。人権擁護団体の自爆テロ。
その上、前世紀の自衛隊派遣での防衛庁強権化。
それの暴走を塞ぐための警察の武装強化。
そしてそれを塞ぐために衆参直属の治安隊発足。
戦争はしないが国内の人間は戸籍国籍関係なく処理。
もうこの国には馬鹿とお山の大将しかいない。賢い奴は馬鹿に撃ち殺されるって寸法だ。
でもそんな国でも……守らなければならない。俺たちの国だから。
速めにこの米国大使殺人事件の証拠資料を……!!バラタタタタ!!

「フォックスへ報告、刑事を射殺し目標の資料を確認」
「45へフォックスより。治安出動までには必ず帰投せよ」
お題が無いので、一個上ので書きます。
===============
(女刑事が携帯の指示に従って行動するってドラマがあったな。携帯で指示
するのは引きこもりの有能刑事なんだ。リモートだっけ。深田恭子が
可愛いかったな。刑事じゃなくて、刑事のコスプレしてるって感じでさー)
 ――と、携帯握り締めてぼんやり考える俺。
「山本オッ! 何ぼんやりしとるか! さっさと聞き込みに行け!」
 と、目を血走らせて俺にゲキを飛ばす刑事部長、53歳。振り返って、
そのバーコード頭に目を当てる俺、23歳。
 2日前、この町で殺人事件があった。その担当刑事の一人が俺なんだな。
ぼんやり携帯握り締めてるんだな。事件があってから、ずっと2時間睡眠なの。
 皆が行きたがる刑事課に、交通課から、何故か移動になったんだよ。
望んでないのにさ。んで、一発目の担当事件が、この殺人事件。脱力。無理。
どうしていいのか、全っ然分かんね。
 つーかさ。やめようよ。殺人とか。悪いことは駐車違反くらいにしとこうよ。
俺に白線引くチョークを返してくれよ。
 しかし俺は、これまでの人生経験で出来上がった笑顔で、
ニヘラッと刑事部長に笑いかけるのだ。
「すんません、行って来マース」
 くそう。誰か、俺にも携帯で指示してくれ。
===============
次は「喫茶店」「脚本家」「雪景色」で。
人の頬を切る風は、頬と体から温もりを奪う。
大気によって運ばれた蒸気の塊は大地へと己が分身を吐き出していた。
アスファルトの路面には雪、家の屋根にも雪。
二階の窓際、喫茶店の特等席から見える外の世界は雪景色であった。
その雪、あるものは踏まれて薄汚れ、あるものは自らの純白を誇るよう。
その脚本家は、外に飽きたように店内に目を向けた。
BGMの音、かすかな金物と陶器の擦れる音が支配して……
――だめだ、面白くない。
彼は呟き、ノートPCを閉じた。彼の呟きで世界に音が戻る。
喧騒とクーラーの音、J-POPの系譜に連なるような曲の不協和音を、彼の耳は捉え始めた。
向こうではウエイトレスがひざを突いた格好でオーダーを取っているのが見える。
「あちらの世界」では彼は人も世界も、音すらも支配できた。彼が望む世界を構築できた。
けれど、この現実は、喧しく鬱陶しい。
テーブルに置かれた、冷たいコーヒーを一息で飲み干すと、彼は再びPCを開いた。
逃避かどうかは知らない。ただ、望む世界を見たい、その一心で。

次は「バイパス」「神経」「カット」
「バイパス」=迂回、または迂回路の意
301300:04/01/15 01:37
あと300(σ・∀・)σゲッツ!!
302「バイパス」「神経」「カット」:04/01/15 01:59
全てが神経に障った。煙草の煙と消毒薬と腋の下の匂いが層を作っていた。
電気の半ば落ちた薄暗い病院。「手術中」のランプだけが何か、巨大な単眼の生き物のように、
ただ闇夜を睨んでいた。ナースステーションから清潔な灯りが漏れている。
そこでは、髪を後ろに結んだ40がらみの女が神経質そうに爪を噛んでいた。
バイパス手術の成功率は6割程度とのことだった。祖父の年齢は八十二。とっくにお迎えが来てもいい歳だ。
この数年で祖父が買った健康食品について考えてみた。
それは何かを醗酵させた酵素であったり、野菜を乾燥粉末にしたものだったりした。
その全てを、祖父は栗鼠が穴に団栗を溜め込むように胃袋に納めてきた。
そして、その全ては今平原に帰ろうとしている。違うところは芽が出ないことだけだ。
骨は焼かれ、そして長い時間をかけて土に還る。祖父が自分を殺すのにかかった以上の時間だ。
また病錬を見渡した。そこはあまりに整然としすぎていて、大きな鯨の腹の中を連想させた。
喉を切り裂いて、チューブを差し込まれた祖父を思い出した。祖父は痩せこけ肌は黄ばみ、
その顔は、老獪な猿を連想させた。そして、その祖父は今切り刻まれている。
心臓の太い血管をカットし、ゴムのチューブを刺しいれ、そして塞ぐのだ。
その言葉にするにはあまりに簡単な作業は、今日の昼には終わる筈だった。
ロングピースに火をつけた。甘い匂いが立ち込めて、鯨の腹は少し人間味を取り戻した。
あ、次の題は
「選定」「倫理」「経文」で
南無妙法蓮華経
幼い頃からばあさんの隣で幾度と無く聞いてきたこの経文を、僕は仏前で正座して聞いている。
合わせた手の指先は冷え切って感覚が無かった。その癖足の先は痺れて妙に暖かい。
すました坊主のハゲ頭を見ながら、ゆっくり足を動かした。びり、とつま先に痺れが走った。
顔を顰めて痛みを堪える。まだまだ読経は終わらない。
うんざりしながら、ばあさんを見た。遺影の中で小さく縮こまってしまっている。
あんなに元気だったのになぁ。
ばあさんの掌はしわしわだし骨ばっててとても小さかったけど、僕にはあの感触を忘れる事など出来はしない。
幼い僕を膝に抱えて、色んな事を教えてくれた。桃太郎がどれだけ強かったか、竜宮城がどれだけ綺麗だったか。
そして人間として大切な倫理を真摯に教えてくれた。それは経文のように支配的ではなく、道徳のように強制的ではなく、
寧ろ、息をするように自然な論理で僕の中に植え付けられた。
そう言えば、お経の中にはお釈迦様が仰った沢山の道徳が入っていると言うけれど、
僕はそれより、ばあちゃんの道徳を選定したい。
あの暖かい笑顔で繰り返し、僕の記憶に流れてくる言葉。
「人様には「有難う」ち、頭下げないかんよ。」

お題「雪」「雑踏」「タクシー」
 「こんばんわ」
 そうユウコに声をかけられたのは、まだ俺がホステスのスカウトをはじめて
間もない頃で、体の芯まで冷え切る夜の事だった。
 こんばんは、ととりあえず返事をしたものの、女の方から声をかけられるのは
初めてで、しかもどう考えてもとびきり上等な女だったものだから、まともに
目を合わせるのが恐ろしく困難だったのを今でもよく、覚えている。
 「私、どうでしょうか?あなたの所で働けますか?」
 「だ・大歓迎だよ、い、いま所属はどこ?」
 たどたどしく言葉を発する俺に柔らかい眼差しで微笑みかけながら、ユウコは 
礼儀正しく客層や待遇などを熱心に聞いた。単価高いんですね、と心配そうにつ
ぶやいた。今の店より待遇いいです、と恥ずかしそうに打ち明けた。お客さんとト
ラぶっちゃって、と大げさに溜息をついた。
 そして、あ、粉雪。不意にユウコは空を見上げた。
 銀座で星なんか見えやしない。ましては月の光を覆い隠す程、その日は黒い雲
が空を厚く覆っていた。けれどもユウコが見ているその先だけには星が広が
っているようで、自分から言葉を交わす事を諦めた俺は、じっとユウコの視線の先
を追った。銀座の雑踏、時折り耳を刺すタクシーのクラクション。ざわめいた空気
の中でユウコは唇を少し開けて、ぼうと雲の裏側を眺めていた。
 何も見えない空をこんなにも眺めたのはきっと初めての事だった。飛び切りの女
が向こうから飛び込んできたというのに、俺はただ空の向こう側を見つめていた。
 「面接、受けさせてください」
 つかの間の沈黙を破ったのはユウコの方だった。ぎこちなく顔を下ろし、ユウコ
を見た。ひょこりと頭を下げ、そしてじっと俺を見た。
 銀座で生き残るには飛びぬけてキレイか飛びぬけてどこか放っておけないか、
どちらかを満たしてさえいればいい。そしてユウコはといえば、立ち居振る舞いの
全てが驚くほどクールな癖に、捨てられた子猫のような瞳で俺を見た。

#次は「夕暮れ」 「カラス」 「ホーム」 〜(゚д゚)(゚д゚)
306gr ◆iicafiaxus :04/01/16 02:00
#「夕暮れ」「カラス」「ホーム」

東京に出てきてもうすぐ十ヶ月になる。「バイトとレポートが忙しくて」と結局、この
正月も故郷へは帰らないまま終わってしまった。
僕は学生マンションの屋上の鉄柵に凭れて住宅地の家並を眺める。知らない町。

足音に振り返ると夏美だった。ちょっとびっくりした僕に手を振りながら「下から
見えたから、」と夏美は答えて、僕の隣に肩幅一個分くらい空けて並んだ。

英文学科の夏美はこの四階建ての四階に住んでいる。二階の僕とは引越しの時に知り
合ってから意気投合してそれから時々行き来し、いつのまにか呼捨てになった。

「寒いのにこんなところで何してるの?」
「一人で夕日なんて眺めれば、僕にもホームシックってものが味わえるかと思ってさ」

夏美は笑って、何も言わず一緒に夕暮れの西空の赤く染まった冬雲を見ていた。
日が沈みきって、おもむろに「私もホームシックなんてなってないなー。」と口を開く。
「――ねえ、今日うち来ない? 私、なんか作るよ」
僕は、「おっ、悪いね。じゃあおじゃましますか」と興じた。

手伝いながら簡単な煮物を仕込んでしまうと、とりあえず煮えるまで、とこたつを挟んで、
小皿に盛ったカラスミを両方からつつきながら、折半で買った一升瓶の焼酎を乾杯。

「酒のつまみって不思議だよなあ…。つまむと酒が飲みたくなるし、じゃあ食べなきゃ
いいのに旨いからついつい箸が出ちゃうんだよなあ」
「それでも、つまみを主食にしようなんて絶対思わないんだもんね。おもしろいよね。
私たちみたい」
その時箸と箸がぶつかったので僕は一度手を止めて夏美を見た。夏美が意地悪げに笑う。

#次は「センター」「マーク」「シート」で。
307寒 ◆GNeSanpo26 :04/01/16 13:00
ここ連日、寝不足の身体に朝の新鮮な空気を当てる為、ウィンドーを全開にする
「ふっーさむっ」それでもしばらくすると運転中の居眠りがでてしまう。黄色い
センターラインが二重に見えてきた。目はひらいているが意識が寝ているのかも
しれない。その間、車体は一秒間に数十メートル先に進んでいる。道は上り坂で
右カーブにさしかかっていたのだが気付かなかった。キィーーというブレーキ音
が辺りに響く。車体は黄色い線を跨ぎ対向車線を走っていた。危ない視界に白い
物が入ってきた。対向車だ。ハッと思う間もなくハンドルを左に切ると同時に
ブレーキペダルをおもいっきり踏んでいた。対向車線を下って来ていた白いバン
も止まった。中から紫色のニッカズボンに髭面のいかつい男と手ぬぐいを頭に
ほっ被ぶりし作業エプロンをした、おばちゃんが出てきた。僕は車を車道脇に止
めすぐさま、車から降り彼らに駆け寄り「すいませんでした」と頭を下げた。バン
の後部には青いシート、スコップ、建設用の道具類が側窓から見える。頭上から
言葉の槍がささった。「すいませんじゃねぇだろ」顔を真っ赤にした髭面の男は拳
を固めていた。僕は目をつぶり歯を食いしばる、一秒、二秒と長い時間がたち、
おそるおそる目を開けてみた。エプロン姿のおばちゃんが髭面の右腕袖の部分を
引っ張っていた。ほっと胸をなでおろした瞬間、髭面とおばちゃんは消えていた。
あれっ、辺りを見回すが道路標識が寂しげに立っているのみだった。ひし形に
背景色が黄色、黒文字で「!」びっくりマークが描いてあった。このマークの意味は
その他に注意 である。その他とは異界も含むらしい事を始めて知った。

次は「スピーカー」「コーヒー」「地震」でお願いします
濡れた髪を拭きながら
牛乳とコーヒーをコップに注ぎ
できたソレを一気に飲む

ふと窓を開け空を見た

「はぁ……今日もいい天気だな」

澄んだ空気を吸い込み徐に吐いた
体の毒気が抜けていく感じがした

キーンコーンカーンコーン

近くの学校からお馴染みのチャイムが鳴る
これもまたいつもと同じ


   同じだった


つい先ほど大きな地震が起こった
ほとんどのモノが破壊尽くされた
だがそれでも、明日はくる


そう、いつも通り


次は「マッサージ」「貧乏」「疲労」でお願いします。
309「マッサージ」「貧乏」「疲労」:04/01/16 23:38
 俊郎の部署は、五名の社員で構成されている。ゴリラ課長、ブタ、アナコンダ、
ハマチ、そして俊郎。人間は俊郎一人という多彩な顔ぶれである。
残業も終わった午後10時、俊郎とゴリラ課長で呑みに行こう、ということになった。
エレベーターを降りて正面玄関まで来たところで俊郎は忘れ物に気が付いた。
すぐ戻ってきます、とゴリラ課長に頭を下げて、再びエレベーターに乗り込んだ。
 薄暗いフロアの中央のデスクに、社長が座っていた。俊郎が照明をつけると
社長が腕組みをしたままこちらを見た。その顔には、経営者ゆえの苦悩と疲労の
色が濃くただよっている。

「ああ、俊くんか。ちょうどいい、話を聞いてくれないか」

 下に人を待たせている、とはこの場合言えない。相手は社長だし、だいいち
待っているのは人間ではない。

「5分位ならよろしいですよ。なんでしょうか?」
「俊くん、ゴリラ課長をどう思う?」
「はぁ。文句のつけようがないくらいゴリラだと思います」
「そんなことは分かっとる!ゴリラ課長が便所で用を足そうとしないのは
 一体なぜだ、と言っておるんだ!」

 俊郎がフロアを見回すと、なるほど床のそこかしこに糞便が垂れ流されている。

「まあ、所詮はゴリラですからね。水洗便所なんて説明しても分からんでしょう」
「あのバカ、水洗便所も知らんほど貧乏なのかね!けしからん!クビだクビ!」

 社長の怒りが頂点に達したその時、入り口のドアがぶち破られて、ゴリラ課長が
諸手をあげて駆け込んできた!上げた両手で解雇反対のドラミングが火を噴くかと
思いきや、社長のバックに回って社長の肩をタントンタントン叩き始めた。

「あーん!気持ちいいー!」

 社長の顔に生気がよみがえった。やっぱりマッサージはゴリラに限るね!社長!
310「マッサージ」「貧乏」「疲労」:04/01/16 23:40
明けましておめでとうございます。
次は「孤島」「ランドセル」「味噌汁」でお願いします。
 丁度日が山の向こう側に沈もうと、その稜線に差し掛かった頃だ。その身に紅く
まとっていた葉を燃えるほど紅く照らされた楓が、風に吹かれて音をたてた。
 と、同時に
「みーつけた」
 という高い声がして、黒いランドセルを背負った子供が楓の木の裏にいる誰かに
声をかけた。どこか意地の悪い響きがあり、しかし嬉しそうにうわずった声色である。
 観念したのか、楓の葉と同じ赤色のランドセルがひょいと飛び出す。
「みつかっちゃった」
 寒さからか頬を赤らめて、少女は男の子の手を握る。握って、帰ろ、と短く呟いた。
小さな紳士は頷き、徐々に冷気を含み始めた風から庇う様に淑女をエスコートした。
 体温を奪われ行くのを感じながら、少年は母の作る味噌汁を思い浮かべた。
それだけでもう、少年は体の芯から温まるような思いがしたのだった。
 二人が去ってしばらくして、楓の枝から一人の少年が飛び降りた。独り忘れられた
少年には、楓の周りが孤島のように感ぜられた。絶海とも言うべきその場から見た
二人の後ろ姿は、少年の目にはとても羨ましいものに映っていた。

次「トーン」「うぐいす」「ベスト」
 接続手段を、モデムから無線LANに変えた。ナローであること、また
出張が多く、家で接続できる環境にないことからの決断だった。
 躊躇はもちろんあった。ネット環境の移植と言う手間も勿論だが、ベス
トエフォートという転送形式にも不安があったからだ。しかしショップの
店員が、それに関してはまったく問題ない、データの破損はありえないと
太鼓判を押したので、決断することとした。
 ADSL利用の無線LANは、確かに速かった。56.6kbpsで接続して
いた頃とは比べ物にならない。
 しかし、音がない。
 トーン式接続時にモデムの発する、あの若いうぐいすの鳴くような接続音。
あれは私にとって「インターネットに接続する」という行為を告げ知らせる、
儀式のようなものだったのだと、今更ながらに気づかされたのだ。
 それ以来、私のデスクトップにはファイルが一つ増えた。
 それをダブルクリックすると、ブラウザが立ちあがる前にファックスから録
音した接続音が鳴り渡るのだ。

 次のお題は「振込用紙」「鍵」「ギター」で。
一人の男がギターケースを背負って銀行に入ってきた。
「お客様、本日はどのような御用事でしょうか?」
ドアの側に立っていた身なりの良い中年男性がすぐさま
声をかける。これも防犯の一環なのだろうか。
「金を、ダチのとこに振り込みたいんだけど」
「それでしたらこちらでどうぞ。わからない場合は声をおかけください」
軽く頷きATMの前へ行きギターケースを肩から下ろした。。
蛍光黄緑の髪を立てた体格の良い男が横に立ち隣のATMを使っている
初老の女性は自分の使用しているATMの画面を体で隠すような位置に変えた。
男は首にかけていたごついチェーンの先についていた鍵を取り出し
ギターケースにつけていた小さな錠前をあけた。
中にはギターなど無くあるのはぎっしりつまった一万円札だった。
となりの初老の女性が気付き驚いた顔をしている。
札束の上に乗せられた振込用紙を取り出し入金をはじめようとした時
さっきの中年男性が近づいてきた。
「お客様、お時間が掛かりますので奥へどうぞ。」
彼はまた無言で頷いて中年男性の先導についていった。
『人形』『消毒液』『哀しみ』
314gr ◆iicafiaxus :04/01/18 21:51
#「人形」「消毒液」「哀しみ」

扉が開いた。一斉に注目する僕らを見渡して、入試センターの腕章をつけた男が呼ばわる。
「皆さん、今から入室できます。受験票の番号を机の番号とよく確認して着席してください」

僕は眺めていた参考書を閉じると、今のうちに手洗いを済ませておこうと、試験室とは
反対へ向かう。この春に開学を控えた新築の廊下を小走りにして、洗面所に立ち入った。

推し戸をくぐる。と、懐かしい匂いに襲われた。新築のホルマリンか、洗面所の消毒液か。
不快に鼻を衝くようで、同時になんだか哀しみと嬉しさの混ざったような刺激。すぐわかった。
これは市民病院の匂いだ。僕が虚弱だった幼年時代のかなりを過ごした、川のほとりの病院。

自動水栓で手を洗いながら、ぴかぴかの鏡に映る自分の目をきりっと睨んで見せる。
襟を直すと、鞄を持ち直して、息を大きく吸って試験の教室へと廊下を戻った。

長いこと廃墟だった工場の跡地についに建った新しい県立大学が僕たちの試験場だ。大きな
講義室の机から椅子、カーテン、天井のスピーカまで何から何までが新しい。

僕は机の下のリノリウムの床に置いた鞄を少しだけ開けて人形の顔を見た。
小児科病棟のあの子が、いつも寝るとき抱いていた人形。僕がそれを羨ましがって、
じゃあ今夜だけ貸してあげるね、やったあ、と借りたまま、返せなかった人形。

「僕が大きくなったらお医者になって直美ちゃんを治してあげる」という約束は、もう
あっけなく潰えてしまったけれど。

「時間になりました。それでは解答を始めてください」
どこかの僕に愛されている、どこかの直美ちゃんのために。僕は、必ず合格する。

#次は「門」「前」「払い」で。
「はい、では三千六百八十円確かにお受け取り致しました。ありがとうございましたー。」
宅配便の男の人の車が門の前から居なくなるのを見届けて祥子は家へ入った。
孝明宛ての郵便物だが一体何を買ったのだろうか?
今日、着払いの郵便がくることはあらかじめ知らされていたからこの荷物が
孝明の購入したものである事は確かなのだ。もう一度送り先も確認するが間違いが無い。
また、怪しげな育毛剤でも購入したのだろうか?
以前から年々減り続ける毛髪に彼は異常なまでの執着を示していた。
だが養毛剤にしては中身が軽すぎる様だ。金額も安い。
中身を見てみたい誘惑に駆られたが流石に夫婦間であってもそれは拙いだろうと
思いとどまり祥子は荷物を孝明の書斎へと運んだ。
すでに波平以下の量なんのだから諦めて鬘でも買えばいいのに……。
ふと、そんな思いが胸をよぎったがさすがにそれを言ったら彼を傷つけてしまうだろうと
思いその気持ちを振り払うように軽く頭を振る。
まあ、そんなシツコイ性格もきらいじゃないんだけどね……。

次は『扉』『命がけ』『羽根』
 戸、ではなかった。まちがいなく扉と呼ぶのがふさわしい。
 英語にしてしまえばどちらもドアなのだろうが、僕の目の前にある
これはどう見たって「戸」などとわずか一音で表現されるべきものでは
なかった。「扉」という三音ですらなお軽い。「お扉」。四音、まあ妥当か。
 なぜ僕はこんなに緊張しているのか。友達の家に遊びに来ただけじゃないか。
別に二人っきりってわけじゃない、後からもう二人ほど来ることになっている。
そうだ落ち着け。なにがお扉だ。ドアで十分だ。door。アールは舌を上の歯の
付け根に当てるように発音するのだ。ドーァ。うむ。落ち着いてきた。
「さ、上がって」彼女が無造作に(!)お扉を開けて僕に言った。
 僕は緊張すると微妙な笑顔(微笑み、と言っていいのだろうか)で表情が
固定されるという、わりとありがたい体質なので、今の僕のパニクり具合は
彼女にはバレていない筈である。思考をおくびにも出さず、その笑顔のまま
僕は玄関扉を突破した。
 ここで一人暮らししても不自由ないんじゃないかという広さの玄関には、
僕の身長くらいある大きな羽根が飾られていた。靴を脱ぐ間中見ていたら、
何とかいう日本には居ない鳥の羽根であり父が海外で買ってきたのだ、と彼女が
説明してくれた。へえ、と曖昧に返事をしながら、僕は父という単語にさらなる
緊張を体中にみなぎらせる。
 自宅では和服で過ごすという、彼女の父。自宅ではジャージ姿のわが父と同じ生物
とは思えないが、とりあえず今日は居ないらしいと聞いている。その点だけは安心だ。
会うときは命がけになるだろう……
「峰子」
「あ、お父さん。出かけたんじゃなかったの?」

次は「消防」「皮肉」「意訳」
317gr ◆iicafiaxus :04/01/22 05:54
#「消防」「皮肉」「意訳」

昼休み。まだ寒い二月の風をよけて壁際に寄りながら、昨日の雪が残る部室棟の外階段を
小走りに駆け上がると、僕はいつものように文芸部の部室のドアを開けた。
先に来て弁当を広げていた岩崎まどかは僕を見ると箸を止めて、コートも脱がない僕に
傍らの包みを投げて寄越した。僕は手袋の手で受け取ると、何これ、と言いながら、頚に
巻いたマフラを解く。消防の都合で火の気が使えない部室棟だけれど、大きな窓から
一日中太陽の光が差し込むので、昼間は温室のように暖かい。
かじかんだ手が緩んでくるのを待って、僕は渡された包みの封を切った。
「何これって分からんか、鈍い奴だな。それはバレンタインのチョコレートというものだ」
「それはわかるけど、随分大きいし、それに重い…」
包みの中には袋があった。小さなハート型のチョコレートが何十も詰まっていた。
顔を上げて岩崎の目を見る。岩崎は、スカートの下の体育ジャージを丸見せにしていた
脚組みを解いて立ち上がると、皮肉げに僕を見つめて笑った。
「お前はチロルチョコしか貰ったことが無いのかも知らんがね、本命チョコってのは、
 そういう大きくて可愛らしい包みに入っているんだよ」
僕は笑っていいのか照れていいのか分からなくて自分が奇妙な表情になるのがわかった。
「なんだその顔は、それに物を貰っておいてお前は礼も無しか」
僕はありがとう、と言った。その岩崎も柄になく視線を逸らすようにして頬が充血する。
ありがとう、と繰り返した。二度も要らん、と向こうを向いてしまった岩崎の背中で僕は
中身を出してみた。チョコレートの粒はどれも歪に融けて、しかし確かにハート形だった。
「お前のような鈍い奴にはそんなんじゃ伝えるものも伝わらんだろうが、一応な」
僕は岩崎の後ろ髪と赤くなった耳たぶを見ていた。もう意訳には慣れている。

#次は「寒中」「国」「サイド」で。
まず初めに言っておこう。ここは北国である。
当然のごとく今日の積雪は1mを軽く超えるし、気温はこの一ヶ月、零度より上昇していない。
吐く息はいやがらせのように白く、鋭い冷気が耳を真っ赤に焼く。
こんな時期に外で元気に活動しているのは小学生か雪女くらいのものだろう。
なのに……だ

今日の体育は水泳である。寒中水泳。
水面には平気な顔をして氷塊が浮かんでいるし、プールサイドは一面の銀世界。
生徒達が一列に並び、そんな有様のプールサイドから次々と飛び込む様は
さながら、レミングの自殺風景のようだ。

まぁこれが年に一度の神事とか言うならわからないこともない。
しかし、この寒中水泳はそんな特別行事では決してない。
ごく普通の体育の授業。週4。3月まで続く。

なんというか、もう気分は八甲田山である。
演習中に遭難した兵士と授業中に遭難した生徒。うむ。そっくりではないか。

そうして一通り納得したとたん、僕の視界は急速にホワイトアウトしていった。

次は「舌」「展開」「おかあさん」で
 唐突だが、私の母は料理が下手だ。壊滅的と言っていい。
 私が小学4年生の時だったか、母が買い物袋を下げて帰ってきたこと
があった。
「今日はお母さんがご飯作るからね」
 既に家族の台所を受け持つようになっていた私は、母の言葉に少なか
らず驚いた。そして、不安を覚えた。
「大丈夫、大丈夫」
 そう言いながら、母は包丁片手に、舌平目を鬼のような形相でねめつけ
ていた。
「今日は平目のムニエルよ〜」
 待って待っておかあさん、平目のムニエルは別に捌かなくてもいいし、な
んで包丁を振り上げてるの、刻んだりしたら、あー、あーあー!

 その後の展開は、思い出したくもない。
 ただ食卓には、舌平目のフレークが上がっていた。

 次のお題は「計量カップ」「油脂製品」「怒号」で。
320名無し物書き@推敲中?:04/01/24 18:25
「計量カップ」「油脂製品」「怒号」

きっちりな。きっちり。俺はきっちりやるのが好きなんだ。Kさんはそう言った。
僕は自分でも驚くほど落ち着いていて、手許が震えるなんてことはなかった。
ふと目を落とす。額の濡れた55082号が僕を見ている。まるで腑抜けのようだ。
この作業は蛇口のひねり加減がすべて。いったんきつく締めて、ゆるっ、ゆるっと開ける。
位置にセットした計量カップにあるかなきかの水が溜まってゆく。
そおおだ、いいぞ、だいぶ慣れてきたな。Kさんがほめてくれた。
カップの底の針穴に水が丸まり、丸まって、ついに水滴が落ちた。
ぴたっ。55082号は小さく、ひっ、と声を上げて右足を跳ねた。
おい、右足緩いぞ。ちゃんと縛っておけ。すみません。

ひっ。僕は見ていた。ひっ。Kさん。なんだ。こいつはあとどれくらいですか。
三日もすりゃ立派な油脂製品だな。再刷り込みにも付き合うかい。
勉強になります。そうだそうだ、最初は誰だって勉強だ。
前から思っていたが、Kさんはとてもかわいらしく笑う。
ひっ。55082号の額の中央に水滴が跳ねた。水量、間隔、位置、ばっちりだ。
んじゃ、あと任せるから。昼飯食いはぐれるなよ。Kさんは僕を残して出ていった。
鉄扉が閉まるとき、廊下から怒号が響いてきた。原料かな、と思った。
次は原料から任せてもらえるかも知れない。僕は少しわくわくしていた。

次回お題「ひいらぎ」「現代語訳」「期間限定」
321Catail:04/01/24 19:20
「ひいらぎ」「現代語訳」「期間限定」

節分が近い。隆は花屋のひいらぎを見て足を止めた。
つきあいだして二ヶ月のコヨミは隆と同じ国文科で、イマドキの若者にしては珍しく
やたら年中行事にこだわる。最初のデートで血液型の話が出たとき、
「うちは祖父母四人ともA、お父さんもお母さんも私も弟もAのA一族なの」
と胸を張って言ったことを思い出した。息がつまりそうだなあ、と最初は思っていたが、
これが意外やけっこう楽チンで、気がついたら交際を始めて二ヶ月経過していた。
最初、期間限定のおつきあいだろうなあと思っていた隆の予測は、簡単に覆されたのだ。
コヨミは「昔の人は今の頭のいい人より立派なんだよ」と言いながら、『御伽草子』の
現代語訳の本を手に取る。大江山の鬼退治までページをめくり、細い指でしおりを挟む。
「ひいらぎとか、いわしの頭とか、用意してる?」
隆はそのとき、何を言われたのかまったく分からなかった。節分の時に用意するアイテムだと
きいて「今時そんなのやってるのか」と一瞬考え込んだ。
「そんなのやらないほうがおかしいんだって」チクリ、と、ひいらぎの葉のようにコヨミは
やりかえす。二の句が告げない。
隆はそんなコヨミがなぜかお母さんっぽく思えてしまい、一人でフフと笑う。
花屋の店員をつかまえ、「すみません、これ下さい」と、その葉の尖った枝を指差した。

次は「ポケット」「フィンランド」「弘法大師」で。
最近、海岸沿いの道路を散歩していると観光案内の看板をよく見かける。
「サマースポーツのメッカ サーフィンランド××ここより直進1k」
「波と太陽の王国。××ロイヤルビーチ右折5分」
といったようにそのうたい文句は様々だが
どれも、今のこの町がどのような町なのかをよく表していると思う。

かつてのこの町はこんな風ではなかった。
漁師とその妻、子供が自らの生活をただ黙々と、悠然とこなす、静かな港町だった。
名所といえば、弘法大師が修行した洞窟くらいしかない普通の町だった。

あの頃の町は、もう消えてしまったのだろうか?
あの頃の町は、私にとっての故郷は、既にこの町からいなくなってしまったのだろうか?
観光客やサーファーのポケットマネーではなく、
魚を食べて暮らしていた私の故郷はもうここにはいないのだろうか?

問いかけても答えは返ってこない。

…………わかっているんだ。
私が、故郷に先立たれたことくらい。
↑は「ポケット」 「フィンランド」 「弘法大師」です。
次のお題は「消防」 「厨房」 「工房」で
324gr ◆iicafiaxus :04/01/25 03:55
#「消防」「厨房」「工房」

消防訓練というものがある。火事なんて、起きるかなとか思ってるときには案外起きない
のに、全然意識してすらいない時に急に起きたりするものだから、本当なら毎日でも
しなきゃいけない――まあ、そんなわけにはいかないのだけど、僕たち「パン工房つばめ」
では、一応年に4回は訓練をすることになってる。店長一家とバイトが6人いるだけの
小さな店なのだけれど、厨房のオーブンが多量の揮発油を使うので、万が一事故があった
ときには大変なことになりかねないから、店長が何度でも消防訓練をしたがるのだ。

大学に受かって下宿を始めた頃、僕はパンばかり食べてた。お金が無かったんじゃない。
下宿から2分の場所だったパン工房つばめのお姉さんに惚れこんだのだ。僕はその頃、
矢島という名札をつけたバイトのお姉さんがいる時を狙って行っては、パンばかり買ってた。

男子アルバイト募集、という張り紙に飛びついたのは、去年の冬のことだ。

「あー、今日から働いてもらうことになった水野くんだ。みんな仲良くしてやってくれよ」
矢島さん、矢島ナッちゃんは、憧れの人から、楽しい同僚になった。

今年も、冬の消防訓練が無事終わった。法隆寺が焼けたとかいう今日に合わせて、
閉店後のパン工房つばめで実際に動きながら火災発生をシミュレートした。最後に店長が
火の怖さについてお決まりの訓示をして、僕らは解散になった。

ロッカー室で、水野くん、と呼び止められた。楽しい同僚のナッちゃんだ。
「えっと… ちょっと話したいんだけど、今から、時間あるかなあ?」
時計を見る。10時15分――遅くはない。遅くはないけど、話って世間話じゃないだろう。
「うん、平気だけど?」
口が渇いてくるのを感じた。普段の備えが無いと、とっさの対応ができない。

#「灰皿」「マス」「開け」で。
325物書き@推敲中:04/01/25 23:20
いつだって、見ていた。

十年もののマスにお神酒が注がれる。
境内は新年を祝う客でにぎわっていた。巫女の衣装を彼氏に見せる女子高生から、熊手、絵馬、ごっそり買い物をしていく上客まで様々。
事務所にまで焚き火の煙が入り込んでくる。窓もカーテンも閉めていいんじゃないですか、と部屋の主に言うと要望が受け入れられ蛍光灯の明かりと煙の名残だけが残った。
「父さん」
卓上に置かれた、一枚の紙。
それを見てしまったからには、そう、呼ぶほうが良いのだろう。
神主は卓上に頭をこすりつけて、水っぽい声で何かを言っている。
「もう、今さらですし……謝らないでください」
そう言って、私はガラスの灰皿を掴んだ。

ずっと、この瞬間を考えていた。
誰かが扉を開けた瞬間。次の押し込められる先が決まる。運命が。
室内に、錆びた匂いが充満していた。

次のお題「錆びた」「二の次」「先」
錆びたカギを手に入れた。これで三つのカギが揃った。
あまりの錆びの酷さにカギを持った手が茶色くなるほどだった。
錆びを落としたいがそれは二の次だ。
まず先にこれが本物かどうか確かめなくてはならない。
僕は大きな扉の三つの鍵穴の前に三本のカギを持ち立っていた。
一つ目・青のカギ。
……開いた。
二つ目・赤のカギ
…………開いた。
三つ目・錆びたカギ。
僕は、大きな音を立てている心臓を左手で押さえ右手に持った
錆びたカギをゆっくりと鍵穴に入れ、そして回した。
しかし錆びが原因なのか容易に回らない。
ゆっくりゆっくり少しづつままわす。
何か引っかかったような感触が僕の手に伝わったが僕は無視した。
あと、35度回れば扉が開く……!!
その瞬間いやに軽い音がした。僕は目の前のものを信じられない気持ちで、
いや信じたくない気持ちで見ていた。カギが……………折れた。
どうしようどうしようどうしようもう失格だ!この先に…僕は、行けない……。
そして…締め付けられるような頭痛に襲われ…僕の意識は段々遠くなっていった…。

次のお題『ペットボトル』『候補者』『月』
327名無し物書き@推敲中?:04/01/27 09:52
 「えー、みなさ〜〜ん、聞こえてますかぁ〜〜〜〜っ!?」
中央広場にとてつもなく大きな台がそびえ立っていた。壇上の男ががなる。
「えーっとぉ、僕の眼下に見えるゴミのような人たちぃ〜? 君らは月に行きたいわけだねぇ?」
そーうでぇ〜す!!! 広場に集まった数百の男たちは一斉に声を上げる。
「はいはい、わっかりましたぁ〜!! 君たちは全員月への勇敢なる候補者で〜す!!」
お――――っ!!!!
「でもねぇ、君ら全員は連れてはいけないわけよ。お分かり? 分かるよねぇ。そこで……」
男は壇上から大量のモノを放り投げた。その数数百。煉瓦作りの地面にカランコーンと落ちる。
「皆さんにはぁ…『甘ったれたメンタリティでペットボトル甘殴り合戦』を行ってもらいま〜すっ!!」
候補者たちは、少しどもった後、また無駄に鬨の声をあげ、甘殴りを始めた――。

 『甘ったれたメンタリティでペットボトル甘殴り合戦』は熾烈を極めた。
幾人もの生命が塵と消え、志半ばで人生を終えていく――。
勝ち残ったのは地元の鉄鉱員・メローンさん(32)だった。彼は、人々の希望,信念,そして、怨念を一身に背負い、飛び立っていった。

「エアロビクス」「梅干し」「髭」
「エアロビクス」「梅干し」「髭」

その男は挑戦していた。自らの肉体の、精神の限界に。
毎日欠かさず彼が自らに課す苦行は凡人の想像の範囲をはるかに越え、
それが彼の肉体からポンプのように汗を吸い取り、彼の精神を無残に切り裂いていた。
無精髭を生し、目は血走り、顔は土気色を帯びた彼の様子を見れば、誰でもその苦しさを理解するに違いない。
その様子はまさに体が悲鳴をあげているという表現がぴったりだった。
しかし、彼はどんなに辛くともそれをやめるわけにはいかなかった。やめられない『理由』があった。

かつて、その『理由』は彼の体に突然降って湧いた。
はじめはたいした影響もなかったのだが、その『理由』が少しづつじわじわと成長していくにつれ、
彼の姿は醜いものに変わり、彼の身体は病魔に犯されてしまったのだ。
彼は、自分の運命と、その『理由』に侵略を許してしまった自らの油断とを心底呪った。
しかし、泣いてばかりはいられない。
一念発起した彼は、自分の身を鍛えることで、その『理由』に反旗を翻したのだ。
彼は今日も、自らの中の『理由』に向かってこう言い放つ


「脂肪め!今に見ていろ!!いつも失敗に終わってきたが今度こそ貴様もおしまいだ!
 あ×ある大×典が生み出した梅干しエアロビクスダイエットで貴様を燃やし尽くしてやる!」

次は「愛」「正義」「オオサンショウウオ」で
329名無し物書き@推敲中?:04/01/30 05:26
 オオサンショウウオは愛を知らない。
水中に暮らす彼にとって、愛というものは砂漠で突如として吹き荒れる砂嵐くらい
縁がないものだ。他の魚達が口々に愛の素晴らしさ、偉大さをオオサンショウウオに
説いてきても、彼は少しも興味を持たない。
「餌を食べて、腹を満たす。その他に必要なものなんてあるか。」

 そんなある日、美しい流線型の魚がオオサンショウウオに愛とは何たるかを語りにきた。
魚の見事な語りっぷりにさすがの彼も心が動き始めた。魚の正義感ぶったその語りはいよいよ最高潮。
「な、愛ってのは素晴らしいものなんだよ。」
「そうなのかもしれないな。」
「そうそう、愛さえあれば素晴らしい事だって起こる。ほら、見ろよ。愛の力があんなに素敵な彼女を
呼び寄せたのさ。ちょっと行って愛を語りあってくるよ。」
 優雅にダイナミックなフォームを描きながら、魚は突如として現れた銀色の美しい魚へと泳いでいった。
語り合おうと近づいた瞬間。魚は空中へと引きずり出され、放り上げられた。
銀色の動かない模型と共に魚はオオサンショウウオの知らない世界へと連れ去られていった。
 
 オオサンショウウオは未だに愛を知らない。

「カウンター」「キス」「紙」
レジの女の子がキスをしてきてびっくりした。
反射的に唇をぬぐった失礼な俺を見ても、彼女は怒らずににっこりと
「ごいっしょにポテトはいかがですか?」
俺はカウンターの向こうの張り紙に気がつく。
『スマイル0円!キス0円!』
ハンバーガー屋のサービス競争はここまで来ていたのか。
なんてお得なんだ。
上機嫌で俺は、秋葉原にパソコンの部品を買いに行く。
なんて安いんだ。これが欲しかったんだ。
レジのカウンターに特売のハードディスクを置いて、尻ポケットから財布を引っ張り出してたら、
店員のキモヲタが顔を近づけてきた。
うわあ。うわあ。

「サービス」「野生」「時計」
 短針と長針が重なりあって、ハトの模型がポッポと鳴き始めた。
会社にこんなカラクリ時計が置いてあるのは、まぁ社長の趣味みたいなものだ。
五十階建ての高層ビルの全ての部署にこのハト時計が備えてあって、
全社員の自宅に同じものをつけさせる徹底ぶりである。
 だから昼頃になると、ビル全体からハトの鳴き声が染み出るように聞こえて、
少し怖い。しかも、ビルの近くにいる野生のハトがかなり騒ぐ。
「やっとお昼だー。ねぇ、外に食べに行かない?」
 隣席の頼子が伸びをしながら昼食に誘ってきたので、一緒に外に出た。
 一歩出ると辺りはやっぱりハトとそのフンで蹂躙されている。どうもこの会社の
ハト時計にはそういう、分けの分からない効果があるらしい。
「きゃっ」
 頼子が小さな悲鳴を上げたので、半ば予感しつつ彼女を見て、ビルのロビーに
逃げ戻った。彼女の頭にハトがプレゼントをしてくれたのだ。もちろん、フンを。
 ハトだけにとんだサービスを受けて、私と頼子は社内食堂へ向かった。

次「ライン」「研修」「パイ」
「おまえっ、このラインを超えて入ってくるのはルール違反だろうがっ!」
「あ、すっすいません」
僕は、今にも手にしたパイを投げつけてきそうなその男に謝り、そのまま顔も
見ずに走って逃げた。走っている途中に、抱えているパイが崩れていくのが
わかったが、気にはしてられなかった。誰にプレゼントするわけでもなし、
中に隠してあるのものが見えなければ問題ない。僕は何とか自分の陣地に
もどるとやっと安心してパイを置き、両膝に手をついて体を支え、ゼーゼーと
呼吸を整えた。
 あぶなかった、獲物を追いかけているうちに誤って別の陣地に踏み込んで
しまった。おかげでパイをぶつけられなかったけど、本当にあぶないところ
だった。そこら中から爆発の音がする、皆がパイをぶつけあっている。中に
手榴弾を埋め込んだパイを。

その様子をモニターで見ている男がいた。その隣りに立った男が尋ねた。
「何じゃ、こりゃ?」
「パイ投げですよ、爆発パイ投げ。楽しませながら人口削減です」
「ナメてんのかーっ!研修を受けてきたんだろうがっ。こんなもんどうやって
 ここの歴史に載せれるんだっ、バカものがぁ!」
「・・・すいません、やり直します」
『神様(見習い中)』の名札をつけた男が、しょんぼりと答えた。


次「からくり」「れんが」「衝動」
この四角く囲まれたラインから出てはいけない。
この四角の中に居る間は安全だが少しでも出たらパイの餌食になる。
そう、ここは『パイ投げ』の会場なのだ。
由緒あるこの大会の実況を研修中の人間が任されるのは初めてのことだ。
通常ならばパイ避けに馴れた人間が投げられるパイを避けながら実況するのだが昨年の大会で死者が出てしまったため方式が変わった。
パイの中に若干粘度の高い物が混ざっていたらしく実況の人間の顔に当たりそのままパイが落下せず彼は窒息死したのだ。
この四角の線上にパイが来るとパイは焼き落とされる仕組みになっている。
数少ないプロの実況者を失うわけには行かないという事で研修も終わらぬうちにこの私が選ばれたのだ。
だがしかしこれが成功すれば研修期間中にもかかわらず私の知名度は通常の新人とは比較にならぬほど上がるのは間違いない。
この狭い四角の中でいかに臨場感のある実況ができるかに私の今後の人生は掛かっている。
さあ、ここの範囲を体で覚えておかねば。
そして彼ははたから見ると何が起こっているのかわからぬほど激しくその四角の中で動きはじめた。

『振る』『空き箱』『編み棒』
334『振る』『空き箱』『編み棒』:04/01/30 14:42
編み棒職人の朝は早い。
4時起床で、1時間かけ空き箱、ノミ、材料を準備し、それからすぐに仕事に入る。
作業は午後8時頃まで続く。
食事や休憩を除いても14時間は編み棒と向かい合っているのである。
作業が終わる頃には空き箱に出来上がった編み棒がぎっしり詰まっている。
実際にはもっとたくさん作られているのだが、
職人が納得しなかったものは破棄されるため箱には入れられない。
「振るとピュンと音がするものでなきゃ駄目なんだよ。すぐ折れちゃうからね」
と職人歴50年の吉田さんは語ってくれた。
吉田さんの編み棒に対する情熱が感じ取れた瞬間だった。

333を使ったので次は332の「からくり」「れんが」「衝動」でお願いします
それは瞳に意思の光を持ち、髪に艶、肌に張りを得、着物の奥から
存在を主張する胸、腰には帯に隠れた女性特有の曲線が見える。
まさに人そのもののからくり人形であった。
それを誰が作ったかは分からない。けれども皆はそれをからくりと呼ぶ。
だから、からくりなのだろうとされていた。
彼女は瀟洒なるれんが造りの家に置かれ、不平不満一つ言わず飯を炊き、
常に笑みを浮かべて子をあやし、異国の壺の埃を払い、
寒波が押し寄せる日にも文句を言うことなく床を磨き、雑巾を絞るものであった。
しかし彼のからくりは年に一度だけおかしな挙動を見せる。
年の瀬、除夜の鐘が鳴り出すと、彼女は何かの衝動に駆られたかのように
さめざめと泣き始めるのであった。
――私は、からくりなどでは御座いません
そうつぶやきながら自分の部屋に篭り、年が明けるまで泣き続けるのであった。
336335:04/01/31 00:37
次は「ケーブル」「配線」「コード」
337名無し物書き@推敲中?:04/02/01 00:12
彼の遺した「コード」を辿った先。そこは。
開かずの間。
俺は、意を決して扉を開けた。
闇。淀んだ瘴気が、複雑な電子回路の配線の如く張り巡らされ、
絡み合っていた。一瞬の呆然・・・そして。
足下から、何かが這い上がってくる感触がした。それは細くてひんやりとぬめった
ワイヤーケーブルの様な、しかしそれ自体が意思を持った生物の触手の様に徐々に
成長し、俺の身体に枝を伸ばし、侵食していく。
「もしかして・・・俺は、喰われているのか!?」







338337:04/02/01 00:16
次は「脅威」「残影」「風」
339名無し物書き@推敲中?:04/02/01 01:04
「人類の造った建造物で、月からでも眺めることができる唯一の物は万里の長城」
有名な言葉である。
古の中国は秦の時代、覇王である始皇帝は北方の異民族、匈奴の脅威に備え、
周の時代から各地に造られていた城壁を一つに繋ぎ纏め、「万里の長城」を
造ったと云われている。
私はいま、その長城の上に立っている。近い内雑誌に連載を始める事になった
歴史小説「始皇帝〜ザ・ファーストエンペラー」の取材に来ているのだ。
今日は実に清々しい晴天だ。頬を伝わる微かな風が心地よい。
私は始皇帝の残影を踏むが如く、これからこの広い中国を取材して回るのだ。
ここはその記念すべきスタート地点なのである。
さあ、やるぞ〜!!

小説家の日記風に書いてみたw
次は『腹巻』『狸』『博多弁』
>>339
なんか知らんがオモロイ
341 :04/02/01 02:11
342名無し物書き@推敲中?:04/02/01 02:36
「狸ねえ……」
 教授は顎鬚を皺くちゃな手で摩りながら、小馬鹿にしたような笑みを
口元に湛えて、僕を見ていた。
「……で、その狸の最終変体っていうのは、
どうしてこの地球上から姿を消したんだね?」
「立証されたわけではありませんが、
体表面積減少の法則が関係してるのでしょう」
僕は落ち着き払ってそう答えた。
 その時、僕の腹巻の自動博多弁探知機が鳴った。
「教授、残念ながら、この話はここまでです。
どうやら九州人がこの病棟内に侵入した模様です」
「何だって!」

次は「携帯電話」「ハリウッド」「マラソン」
343名無し物書き@推敲中?:04/02/01 05:00
それにしても便利な世の中になったものだと思う。
なんだってそうだ。可能に、が出来るだけ早く可能に、になる。

出来るだけ早くという点では、マラソンも同じだ。
彼らは誰よりも早くゴールに辿り着く、そのためだけに練習を重ねる。
今日は言うなれば、彼らの披露宴なのだ。今まで鍛えてきた己の肉体を
全てここで見せつける。栄光を掴むのはたったの一人。

「今入りました! 加藤です! 加藤が一位でゴールです!」

それほどまでの過酷な過程をたった一瞬。
俺は選手がゴールを切る、その瞬間だけを捕らえさえすればよい。
携帯電話で編集長へ。便利な世の中になったものだ。

「よし、しっかり撮れたな? でかした! 次はスキャンダルだ!
ハリウッドスターにスキャンダルだそうだ。急いでアメリカに飛べ! すぐにだ!」


世の中と共に俺もますます便利になっていく。


「迷路」「歌」「紫」
「ねぇ、何で信号の黄色は紫じゃないんだろうね」
「は?」
妹の珍妙な質問に僕は思わず疑問符を浮かべた。
「信号は青から赤、赤から青に変わるのにその中間の色が黄色だなんておかしいでしょ!?」
妹は僕の方をキッと振り向き、力説した。いたって真剣そのものの顔で。
僕はふぅっと息をつき、笑顔で妹にこう応えた。
「いいから、早くこの数式解けよ。やり方教えたろ?」
机の上にはノートとともに2点の数学のテストが広げられている。
僕は小遣い目当て・・・・・・いや兄として、妹の勉強をみてあげているのだった。
「だって分かんないんだもーん。信号の色も気になるしぃ〜」
なのにこの妹ときたらちょっと思考の迷路に陥ると、すぐわけわかんない事に逃げ出すのだ。
10分前にはジャイアンの歌の音響効果についてぬかし始めたりしたが、僕がジャイアンの物真似で歌って
やったら大人しく勉強にもどってくれた。その時窓に小さなヒビが入ったのは母には黙っておこう。
「ねぇ〜、もうそろそろ休憩しない?」
やる気のやの字もない声で妹は椅子に背をもたれた。
まだ、勉強を始めて20分しか経過してないし、問題は1問しか解いていない。
僕は極めて優しい笑みを浮かべて、妹にこう言った。
「うだうだ言ってねぇで、はよこの数式解けや」
「・・・・・・っ!」
妹は真っ青な顔で問題にもどってくれた。

「しゃちほこ」「コーヒー」「新聞」
345五十歩千五百歩:04/02/01 11:06
姉貴が最近凝っているのは、確かに「ノンフィクション・随筆口座」のカルチャーだったはず。
弟として心配するのは、流行りモノ好きの姉貴が、時代遅れのカルチャーにハマっていると言う事実。
どこでどう人生を間違えると、こういう有様になるのか分からないけれど、最近の姉貴の流行は「自分の流行を即廃れさせる」って事になるらしい。
「姉さん、好きな男でも出来たの?」
少々うめき声を混じらせながら、姉貴が答える。
「どうし、てよ…?」
「いや、姉さん、顔が広いからしゃちほこなんか知合いがいるのかなと思って」
「は…?」
「いや、どうせ姉さんの事だから、性格の合わない男を好きになって、せめて体系だけでも真似ようとしてるのかなって」
僕は催促される前に、姉貴とついでに僕自身の分のインスタントコーヒーを入れながら、姉貴の姿を見やる。
「あのねぇ、これはヨーガなの。美容と健康を保つために今一番良いって言われてるの」
「それってカルチャースクール?」
姉貴はしゃちほこポーズを解き、少々脅しをこめたようなめで見下ろしながらコーヒーを受け取った。
「あなたはねぇ、きっと一生女の子にもてないわよ」
そういいながら、新聞を取り上げ、また元の位置へ戻る。
「言い忘れたことがある」
「なによ?」
「自分でも女にモテないと思ってる。けど、人に指摘されると、凹むね」
姉貴はフンと鼻をならし、新聞紙を広げて爪を切り出した。
「あ、僕まだ新聞読んでないんだ」

「ピンク」「グレネード」「アンタッチャブル」
 私の家の斜向かいに住まっている男はアンタッチャブルである。
 日本語で不可触民と書く。意味は読んで字のごとく。触っちゃ駄目な人たち。
 なぜかは知れない。ただ、法律でそう決まっているのだ。

 玄関先での挨拶ついでに、つらくないかと聞いてみた。彼はにっこり微笑みこう言った。
「あなたに、これを上げます」
 それは、不思議な筒だった。拳ほどの大きさの、金属製の円筒。
「これは擲弾、つまりグレネード弾です。使うためには、僕の家にある擲弾筒が必要です」
 ぽかーんとする私に、彼はにこにこしながら告白してくれた。
「僕は今、これを使って世の中に復讐しようと思っていました。でも、今あなたが僕を気遣
ってくれたから、やめます。その誓いに、これをあなたに預けます」

 家に帰るなり私は、危険人物がいますといって警察に通報した。
 擲弾を差し出した彼の、ピンク色の掌を思い出す。私と何も変わらない。ただ法律上での
差。しかし中味は明確に別物なのだなぁ。被差別民の歪み具合に驚いた今日の日。

次は「甘い」「とろける」「ラブラブ」でお願いします。
347「甘い」「とろける」「ラブラブ」:04/02/02 00:03
「だからぁー、ラブラブなのよー私達。え? 意味わかんない? 
もー、美咲もさぁー、もうそろそろ恋とかさぁー、高校なんてあっという間なんだよー?」

ラブラブってなんだ。だいたい、ラブラブってラブが二個もあるじゃん。
ラブは一個でいいじゃん。愛は二つもいらないじゃん。
電話越しの遼子の声はとても明るくて、私はかれこれ一時間以上も前からうんざりしっ放しだ。
そして、うんざりする出来事がもう一つ。この時期特有のこの匂い。
十分も嗅いでいれば、それだけで胸焼けしてきそうなチョコの甘ったるい匂い。
妹はもうキッチンで三時間も缶詰になっている。
そこから漏れる匂いは、家がチョコレートケーキになってしまいそうなくらい凄い。

「そうそう、もっと美咲は恋しようって気持ちにならなくちゃー、バレンタインも近いし、
美咲もチョコあげたら? そうねぇー、長谷川君なんてどう? 彼かっこいいし、あげちゃいなよ」

え? 何言ってるんだか、この子は。そりゃ長谷川君はカッコいいのは認めるよ?
うん、認める。長谷川君はカッコいい。でも・・・・・・ねぇ?
キッチンにこっそり忍び込んだ私は、妹に気づかれる前にチョコの欠片をくすねた。
人差し指の上でチョコはとろける。目をつむって舐めてみた。うん、甘い。

「唄」「ここまで来て」「花」
>>347
つまり、妹LOVEという解釈でいいのですよね?ね!?
 一人の少年がコンクールに向けて唄を練習していた。だがその甲斐も空しく、
思いのほか出来は良くなかった。残された時間も少なく、少年は少し焦り気味であった。

ある時家路に向かう途中、少年は地面に咲いている花を見つけた。立ち止まり、道端で
佇んで、じっと見つめた。その目の先には、アスファルトの割れ目から、
茎をくねらせ生え出る花があった。その花だけがそこに存在していた。
(この場所から動けずに、いつ終わるかも分からない生に縋り付いている)
少年は屈んで花に手を差し出すと、その蕾や茎に指先が触れた。その瞬間、少年はある種
の感銘を受けた。指先から伝わる、曲がりながらもこの茎の固さ、蕾の瑞々しさ。
とても人工的な物質の割れ目から発生するようには思えないほどの生々しさであり、
剰えこの花が枯れる所をその少年は想像し得なかった。
(生命というものはかくも儚そうで力強いものなのだろうか)
この場所から動けないながらも、この現状にありながらも、
その花は力強く息づいている。そう考えると、その光景に浸りながらも、少年は
ぞっとして畏怖の念に駆られた。
(まだ自分は現状に甘えて、ここまで来て、焦ってばかりいる)
この花が少年に指し示すものが何であるのかは分からない。けれども、この花の鼓動、
生命の唄とでも言うのだろうか、それが少年には聞えたのだ。
 少年は名残惜しそうに、しかしどこか気分の晴れた、清々しい顔をして、その花を後に
した。その少年がその後どうなったのかは分からないが、結果はどうであれ、私にはその
少年の晴々とした姿が、容易に浮かんで見えた…。

「空」「生命」「企業」
企業ってムズそう
「空」「生命」「企業」

 御当選おめでとうございます。この度は(生命つく〜るキット)に御応募頂き、
有難うございました。貴方に相応しい生命の誕生を願っております。

「あからさまに怪しいわね。本当に身に覚えがないの幸子?」
「ありっこないでしょ? 第一、夢企業って会社自体知らないし」
缶詰に似た金属製の物体と当選通知を見やって、美香は訝しげに物体を手に取る。
「や、やめなさいよ。何か変なものが出てきたらどうするのよ!」
「変なものって何よ。大丈夫、きっとオモチャか何かなのよ」
「ゴ、ゴキブ…ああ、言葉にするのもおぞましい。そんなのが入ってたりしたら承知しないからね!」
 承知しないって私に言われても…。
 ビクつく幸子を尻目に私は一気にプルタブを引き上げた。
と、同時に物体から飛び出す黒い影。

「あなたのお母さん、よっぽど病院で暇してるのね」
びっくり箱に入っていたのは赤ちゃんの人形と紙切れ一枚。
白目をむく幸子に、私は呆れ顔でそれを手向けてやった。
紙には一筆。(幸子、赤ちゃんの名前、海よりも空の方がいい気がしない? どうかしら)


次は「稲荷」「入道雲」「精悍」で〜。



 
352名無し物書き@推敲中?:04/02/02 23:43
兵庫のゆくてを、幾つかの黒い影が遮った。
その数、数体どころではない。何十体という数であった。
その一体一体が、巨大な入道雲のように膨れ上がっていき、溶け合い、
やがて兵庫の前一面に、漆黒の巨壁を形づくった。
巨壁が兵庫に向かって語りかける。
「汝、あくまで稲荷様の結界を破ると申すか。どうなるか分かっておろうな」
「云いたい事はそれだけか」
禍々しい巨壁に怯える風もなく、兵庫がいう。
「ならば、汝を呑み込み滅するまで」
巨壁が兵庫に覆い被さり、呑み込まんと蠢き始めた、その時。
兵庫の太刀が電光の速さで三日月を描いた。
精悍な太刀が、薄紙を切り裂くように漆黒の巨壁を二つに分かってゆく。
巨壁が、おぞましい声を上げた。断末魔の声であった。
「滅されたのはお前の方だったな。それにしても手応えの無い」
半ば落胆したように兵庫はいい、消えゆく巨壁を背に歩を進めていくのだった。




353352:04/02/02 23:46
お題書き忘れました。
「ビーム」「輝く」「フラッシュバック」
 「目からビーム!」
それは常軌を逸した戦闘だった。
「なんの! トラウマフラッシュバック!!」
闇夜の中、朧に輝く月光に映し出された二つの影が躍る。
「うぐわあああぁぁ!! 目からビームダブルボルテージ!!」
片方の両目から膨大な光が発せられる。それは一目で「ヤバイ」と判別できるレベルだった。
「あッ危ねえッ!!」
もう片方の影が飛び上がり、寸での所でそれをやり過ごす。光をもろに浴びた地表には巨大な大穴が開いていた。
「あんなんモロに喰らったら……」
「続いて!! 目からビームフルスロット…!!」
「待てっ!!」
巨大な穴の奥に、何か見つけた。鋼鉄の大きな箱だ。
二人は一時休戦して、箱を開け、中を覗き見る。大量の金だ。
「………………山分けで、いいな?」
「ああ………いいんじゃね?」
「つか、闘ってた理由は何だっけか」
「忘れた」
二人は、お互いに顔を見合わせて半笑いを浮かべた。闇は白み始めていた。

ちっと長いかも。「あこぎ」「雪掻き」「詐欺」
355名無し物書き@推敲中?:04/02/03 17:34
最後の方しか読んでないけど、3題噺って全く脈絡ない
3語で書くから難しいし、読んでもおもしろい、ってものなんじゃないの?
このスレのは1つの文章に普通に出てきそうな3語が
割とセレクトされてるように思えますが
>>355
三語スレの感想・批評・雑談はこちらで!
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1066477280/l50

こっちでなら、そういった議論も歓迎されると思うよ。
三十分で玄関と車庫前の雪掻き終わらせたら五千円!
母さんが珍しく太っ腹な条件を提示してきた。要は自分が炬燵から出たくないがために息子を金で釣ろうという魂胆だ。
だが破格のその金額に俺はすぐに飛びついた。三十分を1秒でもでも越えた場合、びた一文寄越さないとの事だが時間内に
終わらせてしまえばいいだけの話だ。スキー用手袋をはめ耳当てをつけ長靴を履く。よしっ、戦闘準備完了!
大急ぎで雪を塀に掻き寄せ一通り終わって腕時計を見ると……五分過ぎている。
だがこんなこともあろうかと居間の時計を壊れているものと変えておいたのだ。あれは普通の時計の半分しか時を刻まない。
すなわち!まだ17.5分しか立っていないのだ。あこぎな真似をしているとは自分でも思うが五千円あればいろいろできる。致し方ないだろう。
「かあさーん、雪掻き終わったよー。約束の金くれー。」長靴を脱ぎながら居間に向って声をかける。
「駄目。六分オーバーよ。」炬燵に入ったまま、今にも欠伸でもしそうな様子ながらもきっぱりと答えた。
「そこの時計が証……。」俺は自分の目を疑った。隠したはずの時計がそこにある。俺が置いた時計じゃない!
「あんたのしようとしてることなんてすべてマルッとお見通しよ。」間抜け面しているであろう俺を見ながら母さんが笑う。
「これにこりたら二度と詐欺なんてしない事ね。雪掻きお疲れ様。」その言葉と小細工虚しくただ働きになってしまった三十分を思い俺は涙した。

「ビーダマ」「走る」「辞書」
358「あこぎ」「雪掻き」「詐欺」:04/02/04 00:39
 少し前に各地で大雪が降り積もった。それに関連してか、明くる日、山の雪掻き
アルバイト募集要項と書かれた広告が新聞に挟まれて自宅へと運ばれてきた。
表記されている『時給1500〜』という文字に真っ先に目を運ばせた自分が、
何か物悲しいのだが、それはさておき、どうもこれは怪しい。時給の以外の
他はある一つを除いて一切表記されていない。その一つとは、…電話番号。
そして自分は、電話機の受話器を取った。

 今自分は雪を掻いている。ひたすら掻いている。
「え、でもこれって時給1500〜って書いてあるじゃないですか。」
――だから基本1500円で、それから掻いた雪の分量によって色々差し引くから。
「それじゃあ、普通のバイトと変わらないじゃないですか。」
――普通のバイトだよ。まあ、頑張れば普通よりは稼げるんじゃない?
騙された。もうこれは詐欺である。期待した自分も自分だが、こんなあこぎな
バイトがあっていいのだろうか。…と思ってみたものの、意外と雪掻きが楽しく
感じる。久しぶりの大雪に心が少年に戻ったのだろうか。どんどん雪掘り下げていく、
とその時、一瞬視界が真っ白になった。気がつくと、自分の範囲1メートル四方が
雪でびっしりと固められている。どうやら掘りすぎて深みに嵌ったらしい。
雪を掘っていて墓穴を掘るとはこれいかに。この後、他のバイトの人の通報で、
山岳救助が来たのは良いが、民間なのでがっぽりと料金を支払わせられる羽目になった。
バイトの給料は差し引かれて殆ど残ってないし、いきなり借金である。


「宇宙」「前人未到」「お餅」
ぬお、先着のお方がおられたか…。
360gr ◆iicafiaxus :04/02/04 04:06
#「ビーダマ」「走る」「辞書」「宇宙」「前人未到」「お餅」

太陽帝国の若い二等宙将、瑞穂スタリニコワ佐藤は、肩までの銀髪を軍規どおりに束ね
なおしながら、アリ・サルード一佐の報告を聞いている。壁面に時々刻々と映し出される
軍況は、友敵あい乱れて形勢不明の相を呈し、陪席する将官佐官らの顔も一様に渋い。

近代宇宙戦においては、戦艦と戦艦とが向い合って戦うことは稀となった。光子線砲や
重力波爆弾など、いわゆる超光速兵器が撃ち込まれるようになっては、戦艦の速度では
とても戦争にならないからである。佐藤二将の任されたこのウィルゴ前線基地も、前線
とはいえ敵軍の前線とは二十光年以上の距離がある。その二十光年の幅を持った交戦
地帯に両軍の拠点が無数に配置され、そこここを超高速の近代兵器が飛び交うのだ。

迫撃砲に迎撃砲、レーダの立体映像を走る幾つもの光の玉がぶつかっては、弾け飛ぶ。
見ているだけなら綺麗な幻燈だが、これは一つ仕損なえば一つコロニーが消えるという
命がけのビーダマ遊びだ。軍民一体が叫ばれ、宇宙軍が宇宙自衛隊になっても、なお
餅は餅屋、帝国の国防を預かる職業軍人の名は夢々辞書から消えることはあるまい。

殉職以外では前人未到の五階級特進を果たして二十代で師団長を任された佐藤二等
宙将のロシアンブルーの双眸を一座が注視する。二将は、今一度髪を解いて結帯を
直すと、室内を見渡した。もう何も進言しようとする者がいない。息を呑む。

ややあって、年輩の副官が、転進ですか、と尋ねた。
「いいえ。むしろ敵陣の乱れた今こそが時です。行くしかないでしょう。
 本部からの指令も、行けるところまで行け、と教えています。大丈夫、行けます」
佐藤二将は決意すると笑窪が出る。その軍服の横顔を見ていると本当にこの戦争に勝てる
ような気がしてくるのが不思議だった。司令室は、おお、といういつにない昂揚に染んだ。

#次は「いわし」「甲」「春」で。
行数大幅オーバーのテンプレ無視か……
>>361
>>1
> 3:文章は5行以上15行以下を目安に。
行数オーバーは昔から再三議論されているけど、20行くらいまでは
許容される傾向にあると思ってるのは漏れだけか?

> 三語スレの感想・批評・雑談はこちらで!
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1066477280/1
無視か…
>>362
お題6個使ってるのも兼ねての文句+忠告、
感想じゃないしここに書かないと意味がない。
>>363
なんだ、それか。
6個使うことも昔からよく行われてるけど、その根拠はこういうもの。

たとえば先の例なら、ルール通りに解釈すれば
「ビーダマ」「走る」「辞書」がお題なので、確かに
「宇宙」「前人未到」「お餅」は使わなくていい。
でも、それは「使わなくていい」のであって
「宇宙」「前人未到」「お餅」も使ったからといって
ルール違反にはならないはず。
前例主義ではないけど、実際、今までそういう運用がされてると思う。

そして漏れは、文句や忠告は「批評・雑談」のような気がするのだけどなあ。
>>360
これは個人的な見解。言っていることにはある程度の筋が通っているし、
作品の方もじっくり読むと味はあるかと。
でもね、でもね、即興ってことは求められるのは、臨機応変な洒脱さであって、
正論じゃあないんだよ(もちろん、正論だって大事だけども)。
気がつけばなんとなく読みはじめていて、そのまま最後まで読ませきる。
というのが理想だと思う。今回はその敷居が高かったかと。
香寿子の声は酒場の喧噪に溶け込み、早くもできあがっているように感じられた。
「昔はいわしの刺し身なんて食べられなかったのにねー」
たしかに鮮度の問題で生食用の青魚は今ほど流通していなかったと思う。
だが、真市の実家は築地の近くに屋敷をかまえる華族の名門であった。
「あーそーかー! 真市くんは、お金持ちの家に生まれて、
いわしのお刺し身まで食べ放題だったんだー。いいですねー」
「ほ、放題? 金持ちの息子がいわしの刺し身食ったら悪いのかよ?」
「ふん。当たり前じゃない。そんなことも分からないの? これだからブルジョワってやつは!
覚えときなさい。金持ちが首を突っ込むと、決まって庶民の楽しみって奪われるの!
マグロだってね、昔は大衆魚だったんだから、ぐちぐちぐちぐち」 「……降参」
「まあ、今日は庶民にとっての春の日だから特別に許したげる」 「春の日?」
「真市くんが実家から勘当されて庶民の仲間入りを果たしますー!
そしてあたしと一緒に貧乏生活はじめますー! 逆らったら一生許さないんだから!」
どこか道化のように冗談めかした口調で。嫌みのひとつでも言ってやりたかったのだろう。だが、
「うん。−−」 「え……ホ、ホント…に?」 「うん」 「こ、後悔するよ?」 「うん」
「……っ、ぐす、あ、ありがとう……ありがとう…ありがとう!」
香寿子の背後に見える生簀では、料理人の網を掴む手から逃れるべく、
甲殻類の海老や蟹たちがどこか滑稽な祝福のダンスを繰り広げていた。

#「不幸」「輪廻」「カズノコ」
367名無し物書き@推敲中?:04/02/04 22:26
「おまえ、輪廻転生って信じるか」不意に真吾が言った。
「輪廻転生って、あれか、カズノコから稚魚が生まれるとかいうやつだろ」
輪廻転生なんて小難しい言葉の意味を知らない俺は適当に答えた。
「ぜんぜん意味が違うよ」呆れたように真吾は言った。
どうやら相当的外れだったらしい。
真吾は物分りの悪い生徒を前にした教師の口調で俺に言った。
「輪廻転生ってのはなぁ、仏教用語で云々・・・」
それから真吾は長々と俺に語り続けた。
難しい長話をする奴だ。すっかり眠くなってしまったじゃないか。
これ以上、子守唄を聴かされては堪らない。俺は真吾に言った。
「ちょっと用事を思い出した。今日中に不幸の手紙を七通配らなくちゃ
ならないんだった。その話はまたじっくり聴かせてもらうわ。じゃあな」
「お、おいちょっと待てよ」
無視して、俺は停めてあった自転車に乗った。これで奴の子守唄から解放されるぜ。
(とりあえず夕方まで駅前のパチンコ屋で暇をつぶすか)
そんなことを考えながら、俺は自転車をこぎ始めた。


368367:04/02/04 22:29
次のお題「刺身」「凱旋」「テクノロジー」
369「刺身」「凱旋」「テクノロジー」:04/02/05 06:50
「な? すごいだろ? レーザーで一発よ。それで邪魔なメガネやわずらわしいコンタクトと
ばいばーい、さよならーってわけよ」
「あ、すいませーん、生中追加で」
「おいおい、俺の話聞いてる? 今、俺すっげー高次元の話してんのよ? なんかあるでしょ」
「ふーん。その技術であんたももうちょい男前になったらいいね」
「ひでぇー、まじで愛の欠片も感じられない発言」
「まぁ、もともとあんたに愛を感じた覚えはないんだけども」
「ますますひでぇ、最近ちょっと突っ込み冷たくない?」
「別にー、あ、すいません、鳥軟骨とポテト」
「そういやあ、冷たいって言えばうちの部内の日高さん。あの人も最近メガネやめたらしいけど
やっぱりレーザーだってよ。おかげで彼女も氷の女からすっかり民衆に慕われる美しき女王へと
凱旋帰国よ。あー、俺も現代のテクノロジーにあやかって視力戻して、女王にお仕えしたいね」
「・・・・・・」
「あ! それ、俺が取っといた最後の刺身!」
「へへーん、悔しかったらその現代のテクノロジーとやらで取り戻してみろってんだ」


「ドライブ」「ありえない」「見えない壁」
370名無し物書き@推敲中?:04/02/05 09:57
「ねェ、ドライブ、いかない・・・?」
ぼくの様子をうかがうように、肩をややすくめて彼女はそういった。
ここ最近、ぼくらの関係はあまりよいものとは言えなかった。
というのも、ぼくが他に好きな女の子ができたからなのだけれど、
自然、彼女にたいしてのぼくの態度というのはぞんざいになった。
付き合い始めたころのような気持ちはすでになく、ぼくと彼女の間には
見えない壁が確かにある。その壁がぼくと彼女の心の呼応や気持ちの往来を遮断し、
はたして触れ合うことすらなくなった。
きっと彼女は今後のぼくらの関係についてはっきりさせたいのだろう。
このしんとした部屋でその話をするにはあまりにも空気が重く、であれば流れ行く景色を
目で追いながらのほうが、多少は気も落ち着くのかもしれない。
ぼくは、---これは彼女のための最後の行為だ---言った。
「もう、今日で終わりにしよう。好きな人、いるから。おまえとのこれからは、ありえない」

「東京ドーム」「たばこ」「ノートパソコン」
 「なあさ、よく『東京ドーム○個分』とか、『たばこ○本分』とか大きさの比較で使われんじゃん」
「ああ」
俺は近所のファミレスで資料作成をしていた。明日の朝いち会議で使うのだ、急がないと。
しかし、ノートパソコンは文明の利器といわれる物の中でも最高峰のものであると思う。
どこにいても仕事が出来る。友人の至極どうでもいい、まるで価値のない話を聞き流しながらでも――。
「俺あれはなんかの陰謀だと思うんだよなー例えば…んー、たばこをプッシュしたい貴族とかの」
「ああそうだな」
「その貴族達はさ、きっと恐れているんだよ! たばこは煙を出す煙は英語でsmokeだから…そう、世界を包む雲をさ!!」
「そうだな」
ここの資料は確か、ここのフォルダに……あった。
「結局のトコ、貴族連中は皆キリスト教信者なんだろーな。
キリストが太陽に住んでるから、たばこの煙で太陽が包まれると困るからだろうな」
「うん」
ここの数字は…円グラフだな。
「そこで東京ドームが出てくるわけだ!! 日本全国の東京ドームに煙を集めちゃうのが最終目標なんだろうなぁ!! 奴らめっ!!」
「そうだな」
三時間後、資料は完成した。頭をクリアにするにはうってつけの環境だったな。

「風車」「鉛筆」「コスモ」
「日が暮れて横浜の空に花火が上がったら、その下に僕がいると思って」進也は繰り返し言っていた。
「花火って、冬でも上げてるわけ?」
「いや、花火っていっても大観覧車のことなんだけどね。あのコスモクロックって、僕も設計に
加わったんだ」進也がぼそっとつぶやく。
「えぇー、そうだったの? 前に、一緒に乗ったときには何も言ってくれなかったじゃん?」
「ああ、あのときはミクちゃんと一緒にいるんだーっていう興奮で、そんな余裕なかったし。てか、
頭のなかは別な妄想の花火でいっぱいだったしね、ははは」
「やーん、なんとなく最近の進也ってへん」ミクは進也の目が笑っていないのが気になった。
「そうだね、へんかもね。でも、さっき僕が言ったことぜったい忘れないで。花火のこと」

 ミクはみなと未来の観覧車をぼんやりみていた。夕暮れどきの屋上に強い風が吹きつけている。
六十本の巨大な鉛筆を丸く並べたようなコスモクロックに灯が点りだした。
「僕はね、風車に突進していったドン・キホーテの気持ち、よくわかるんだ」
 進也は最後にそう言っていた。進也が自殺した本当の理由は今でもわからない。時計が六時を指した
とき観覧車のライトが点滅をはじめ、風車の羽根のようにくるくる回り始めた。――進也はこのことを
言いたかったのかな。風車は数分の間回っていた。その後は夜空に大輪の花が浮いているだけだ。
「進也、自殺するドン・キホーテなんてかっこよくないよ」ミクはくちびるをかみしめ、泣いた。
 とくにすることがなかったわけではない。宿題だって勉強だって、やらなきゃならなかった。
 けれど僕はスケッチが好きだから、先生に怒られても、テストで悪い点をとっても、
またそれでいじめられたとしても、近くの川に行って絵を描いていたかった。
 町近郊に流れるにしては綺麗で、春は堤防にそって立つ桜が散り、秋は対岸で小さく
コスモスの咲くのが見られる、町の重い雰囲気とは少し違う川だ。今は、梅が桜を招かんと
シグナルを送っている。
 手に返る紙の振動が心地よく、静かな時間の流れを感じさせる。まだまだ写実的とは
言いがたいけど、ただ鉛筆を動かしているだけで十分だった。
「おにいちゃん、なにしてるの」
 まだ小さな男の子が、僕が隠す脇から覗き込みつつ声をかけた。手に持った今時珍しい
風車は、春一番を待っているのか全く回転していない。
「絵、書いてる」
 ぽつりと答えてやると、男の子はへたくそだねと笑って、母の待つ堤防の上まで走って
逃げた。僕は何気なく最後まで見送って、スケッチの仕上げに風車を持って駆ける子供を
書き入れることに決めた。

次「妃」「一番」「サイクル」
374371:04/02/05 12:37
次は「チョコ」「裏」「辞書」で。
375371:04/02/05 12:38
ほぼ同時だったみたいですねw
お題はおまかせします。
376373:04/02/05 12:42
うーん。でも順番から言えばこっちのは無効ですから。
次「チョコ」「裏」「辞書」でお願いします。
『St.Valentinedayにおけるチョコ撲滅同盟!』
筆で荒々しく書かれた文字の下に山崎学園教師一同の字がある。
最近変な会を立てるのが流行っているらしく右を見ても左を見ても壁には勧誘ポスターばかりだ。
『チョコ撲滅同盟を退治する会』私たちの楽しみを取るな!貰えない者の僻みは醜いZOv
『チョコ撲滅同盟を退治する会に意義を申し立てる会』チョコが駄目なら手作りケーキをあげればいいじゃない。
『真!チョコレート作りクラブ』愛する彼にとろ〜り蕩けるような恋心をチョコに詰めて届けませんか?
『裏★チョコ作成委員会』憎いアイツをバレンタインに乗じて抹殺v貴方も私たちと一緒にLet’s抹殺!
……バレンタインが近いからか妙な会が増えている。
これだけ流行っているとどれかに入ってみたくなるものの心惹かれるものが見つからない。
ポスターが途切れた先にひとつだけ他のと感じが違うものが貼ってあるのに気付いた。
『日本語の乱れ粛清部隊』最近の日本語の乱れは目にあまるものがある!!同じ思いを持つものは、愛用の国語辞書を持ち放課後2-B高田まで。
バレンタインに興味の無い僕はとりあえずこの部隊を見学することにした。
あとから考えるともっと慎重に他の会を探すべきだったんだ。

『バレンタイン』『真実』『行方』
378『バレンタイン』『真実』『行方』:04/02/06 00:07
 僕は夢を見た。それは千葉ロッテのバレンタイン監督にチョコを貰うという
少し気持ちの沈む駄洒落た夢だった。訳も分からなく、しかもロッテのファン
というわけでもない。何故バレンタイン監督が夢に出てきたのかは知らないが、
多分このチョコの溢れかえる時期の所為だろう。正直、自分自身の歪曲した脳内
の思考機能があらぬ方向へと向かって、行方不明になるのではないかと心配である。
 それにしても、この時分にチョコが溢れかえる事に陥る自体、おかしな話だ。
真正なキリスト教徒でもあるまいに、たとえそうであったとしても、本来なら
カードとか普通に菓子類が主流であろうに。チョコを送るという習慣は日本人だけで
ある。まんまとお菓子業界から流されるプロパガンダに騙されおって、なんと
愚かな事であろうか。真実は別にあるだろうに。
 母から貰った唯一のさもしいチョコをちょいと一口摘まんで頬張りながら、
テレビから流れるニュースをじっと、他に何をするでもなく眺めていた。
スポーツの特集をしているその時、千葉ロッテのバレンタイン監督が目に映った。
結局何を言おうとも貰えない奴は惨めであると痛感し、先日夢で見た
バレンタイン監督と、テレビに映るそれを重ね合わせながら、僕は涙した…。


「名前」「味噌汁」「無常」
世の中は無常である、それこそが真理であると世の偉人たちは言った。
しかぁし!今、私の目の前に、その真理に真っ向から挑戦するように、不動の形態を曲げぬものがあるッ!

朝食!我が食卓の朝食!

ご飯、味噌汁、たくあんッ!ご飯、味噌汁、たくあんッ!ご飯、味噌汁、たくあんッッッ!!!
永遠に三拍子を刻み続けるワルツのように!その連鎖は消えることなく続いている。
私が班長になり、係長に昇進し、課長を越え、部長に至っても!
その流れはなんら変わることなく、縄文杉のように泰然とそこにあるッ!

なるほど、それを平和と、それを安定と呼ぶ者もあるかもしれない。
その不断の三拍子が!会社という名前の戦場に赴く私を支え続けてきたのだと言う者もあるかもしれない。

しかし、諸君!現実を、今、我が同僚宅で起こっているであろう現実を直視して欲しい!
ほとんどの同僚宅で、朝食は日々、めまぐるしくその形態を変え、進化し続けているという現実を!

こんな格差が!こんな差別が許されていいのだろうか!?いいはずがないッ!
私は、夫婦間の信頼と正義に基づき、今ッ!ここにッ!この格差の是正を要求するッッッ!!!


「文句言うんなら、明日から作りませんよ」

ごめんなさい。


次のお題は「幕」「うぐいす」「代表」で
固有名詞でもとくに個人名使うのはNGだろw>378
カレーパン工場の代表として本社の会議に出席することになった。
来年の商品展開の方針を決める重要な会議だという。
平社員の僕が代表に選ばれたのは不思議だったが、
工場長は、君が工場一のカレー好きだからさ、と言っていた。

そして会議当日。白熱した会議だった。
クリームの魅力を語り続ける部長。
ジャムの復権を叫ぶ係長。
うぐいすあんの境遇に涙する専務。
どうにも意見の一致は期待できそうに無かったが、
あんこ好きな社長の鶴の一声で会議は幕を閉じた。


「達成」「しくみ」「朝顔」
一ヶ月前、一人の老人が死んだ。
自宅の脇の川べりで、腹を切ってあの世へ逝った。

老人は植物学者だった。
川辺に建てた掘っ立て小屋で、種子の発芽のしくみを研究していた。
ある一つの夢を抱えて。

老人が若かった頃、血みどろの戦場で見た花を、
死体で埋め尽くされた大地に咲いた、美しい、黒い朝顔を、
自分の手でもう一度咲かせたい。
それが老人の夢だった。

夢を達成するために、老人は人生のすべてをこの黒い朝顔に捧げた。
戦場からこの朝顔の種を持ち帰り、なんとか発芽させようと躍起になった。
しかし、どんな水、どんな空気、どんな温度を与えようと種は発芽しない。

そしてついに一ヶ月前、老人はこの夢を諦め、同時に人生のすべてを諦めた。


時は流れ、一ヶ月後の今日、老人の死んだ川べりに、美しい、黒い朝顔が咲いた。
老人がかつて一度としてその朝顔に与えたことが無かったもの――老人の血を吸って育った朝顔だった。


次は「マガジン」「ミステリー」「調査班」で
 世界有数の考古美術収集家である海藤氏が死体で発見された。鍵のか
かった自室で、細い紐状のものでで首を絞められて殺されていたのだ。
 どう見ても他殺。しかし、完全な密室。お手本のような密室殺人だった。
 しかし、この世はミステリーのようにはいかない。警視庁特別科学調査班、
すなわち我々に出動命令がかかり、我々は速やかに謎を解き明かした。
 解き明かしたのだが。

 歪んだ音を立て、ドラムマガジンが床に転がった。トミーガンは既に千発
近い弾丸を吐き出し、銃身を灼熱に焦がしていた。弾がなくなる前に、銃身
が焼け付いてひずむだろう。
「くそったれぇぇっ」
 俺は吼え、のそろのそろと近づくそいつ――海藤氏殺害の前日に屋敷へ
搬入され、石棺の隙間から海藤氏の喉首へと包帯を放った、都合四千年前に
永遠の生命を約束された古の王――へと、弾丸を放ちつづけた。
「これはミステリーじゃなくて、ホラーじゃねえかっ!!」

次のお題は「ロット」「編成」「ヘッドホン」で。
384gr ◆iicafiaxus :04/02/08 23:47
#「ロット」「編成」「ヘッドホン」

十時になった。僕自身自分の教本や講義ノートをまとめながら、自習室全体に聞こえる
ように、「さあ、もう遅いから今日はここまで。急いで支度して帰るぞー、」と促す。

奥の席で松永美咲は、勧めた通り三時間ずっと過去問を解いていた。僕が個人指導を
見ているこの松永は、二学期ごろから急に伸びたわが塾最鋭のホープだ。中堅あたりに
いたのが編成替えの度にクラスが上がり、半年でついには公立トップ級にまで成長した。

その松永と、ゲタバコの前で一瞬だけ目くばせる。ハーフジャケットにラグランのTシャツ、
キュロットスカート。変わり映えのしないいつもの格好だけれど、気づかれないような
目くばせが最近巧くなったと、僕は妙に可愛くて可笑しくて心の中で笑っていた。

静かになった教室を掃除して、日誌を急いで書いて、先輩の先生達に挨拶して僕も帰る。

いつもの曲がり角の電柱のところの暗がりに松永は待っていた。松永は僕の姿を見ると
掛けていたヘッドホンを取って歩み寄り、先生〜、と僕の腹のあたりにすがりつく。
「先生、今日佑子ちゃんに教えてるとき嬉しそうだった」
不満げに訴える松永に、そりゃ僕も先生だ、良くできてたら嬉しいよ、と言って詫びる。

「私の方ができるのにな」
「お前は特別、僕が違う意味で好きなのはお前ただ一人だけだよ」
僕は覆い被さるようにして松永を抱き上げる。街灯の途切れた十時過ぎの住宅地に飼い犬の
鳴き声がどこか遠くから聞こえている。足の浮いた松永美咲を僕の腕が支えている。一日の
終わりまでに積み重なったそれぞれの心地よい体臭が吸われあう。
外されたヘッドホンから「速単」入門編のCDが響いている。僕ら以外誰にも聞こえない。

#次は「背伸び」「初恋」「タブ」で。
385うはう ◆8eErA24CiY :04/02/09 22:45
「背伸び」「初恋」「タブ」

 「お腹の具合が昨夜から、ねえ」「まずは、診て見ましょう」
 屋敷のベルが鳴り、長い廊下の足音と声を聞いただけで、彼女にはすぐ分かった。
 「あの人が…あの人が、来たのだわ」
 開業間もないその若き医師は、彼女の初恋の人だった。

 「また会ったね、お嬢さん」と、無邪気に笑いかけられるだけで心が揺れた。
 その手で青いパジャマの胸を開かれると、恥らいで前を見ることもできない。
 それは、彼女がいずれ迎えるであろう、婚礼の夜を連想させた。

 心配はない、明日にはよくなる。そう行って医師は去った。
 だけど彼女は、バスタブの中で小一時間、ぼうとしたままだった。
 見られてしまった。小さな胸も、お臍までも。
 夕食も胸を通らなかった、病気のせいなのだろうか。

 その夜、彼女の母親は、娘の塞ぎ込む様に、心配を訴えた。
 「あなた。やっぱり明日も診てもらった方が」
 「うむ、明後日は小学校の入学だしな…浣腸でもしてもらうか。」

※書いてて恥ずかく…ない;
次のお題は:「ピアノ」「ロボット」「兵器」でお願いしまふ。
386いま気付いた:04/02/09 22:50
ごめん、「背伸び」いつのまにか消えてますた^^;
(7.5行目に・・・)
387「ピアノ」「ロボット」「兵器」:04/02/10 09:43
目を閉じると、君の清清しい背中が浮かんでくる。
窓からの朝日に、シャツの白さがいっそうまぶしく焼きついた。

君が美しく揺らした世界は、ひとばんで無くなった。
ニュースが絶賛したあの兵器が、一瞬で焼き尽くした。
私は、私だけではなく誰もが、真実を知っていたはずなのに。

だけど、真っ白にやけただれたこの世界でだって、私は感じてしまう。
君の奏でる、あのピアノの音が、ありありと聞こえてくる。
笑顔でうなづき、そして大好きな曲を弾いてくれた、あの柔らかい空気が鼻先に漂ってくる。

同時に、私は認識している。
1cm×1cmのプラスティックで覆われたこの記憶媒体が、あと数時間で燃え尽きるそのとき、
この「気持ち」は、この世界のように「無」になることを。

「だって君はロボットじゃないか」
そういって悲しそうに私を抱きしめた、
君の美しい笑顔が、この世界から消えてしまう。

ああ、私は、君がすきです。


「トイレットペーパー」「奨学金」「化粧水」でおねがいします。
 ペラペラの紙が手渡された。進学希望調査書だ。先日そんな調査があって、
俺はとりあえず、だが揺るぎない夢を二つほどサラサラと書いておいた。それが今、
「あのな、お前は優秀だ。うちとしても就職と言わず進学して貰いたい。金がない
のなら奨学金を狙えばいいじゃないか。お前なら行けると思うが、どうだ」
 という軽い言葉と共に戻ってきた。冗談じゃない。誰も俺がドモホルンリンクル
の化粧水を一滴ずつじっと見る人になる夢を阻止できんのだ。
「俺がドモホルンリンクルになる権利は、先生にはありません」
 強く、大きな声で断定すると先生は目を丸くして黙った。当然だ。俺の将来は
俺の自由なのだから。
「わかった。好きにするといい」
 かろうじて先生はそう言った。そうだ、何者にも邪魔はさせない。
 だが俺は、ドモホルンリンクルの他にもなりたいものがあった。実はどっち
にしようかとても迷ったのだが、そちらは面倒そうだったから第二希望にした。
「だがね、トイレットペーパーを巻くという仕事はこの世に存在しないから、そのつもりで」
 なんてこった。次は俺が黙る番だった。

次「腸」「住民」「水田」
389うはう ◆8eErA24CiY :04/02/11 09:26
「腸」「住民」「水田」

 水田に稲穂がたわわに実り、収穫の時を待っている。
 それは、盗賊の季節でもあった。
 収穫を奪う盗賊と、それを撃退する雇われ侍たち…

 しかし、彼等が裏で盗賊と結託し、雇われ料をとっている事は明白だった。
 「戦う事しか能がない、寄生虫めが」まさに断腸の思いだ。
 ついに、住民達は決意した。

 「おめら帰れ。これから、稲は自分で守るだ」
 「ほーお、我ら抜きでどうやって?」と、雇われ侍達は薄ら笑いを浮かべる。
 「これだべ!」「おおおっ!」

 それは、品種改良され、意志をもった稲…小型レーザー砲で自分を護る稲だった。
 その秋、水田に稲たちの声が響いた。
 「やったな〜、ミニミニレーザー発射!」「うぎゃぁぁ!」
 盗賊も、腐敗侍も、全滅だ。

 そして、収穫の時がやってきた。
 今年の戦死者は何名か…農業は、作物との戦いだ。

※「レーザー」か「猛毒花粉」かで10分悩んだ、情けない;
次のお題は:「天誅」「派閥」「腐敗」でお願いしまふ。
327
甘殴りってなんだよ!ってツッコミが欲しいならくれてやりましょう。
甘殴りってなんやねん!
ルールの分からないゲームは見ていてつまらない、ってのは定説だよな。
それより『甘ったれたメンタリティで駄文書き殴り大会』に今度参加しようと思うんだけど、
会場しらない?

328
報われない前フリ。手口としてはありがちだから、早よ落とせよって思っちゃった。
ちょいクドイのかも知れないね。センテンスが長い。もっとテンポを大事にしてみてはいかが?

329
童話チックでいい感じ。語り口がうまいです。
お魚は、ただ単に魚とはせずに、アユとかイワナとかヤマメとか名前があったほうが良かったかも。
実際は、オオサンショウウオに食べられちゃうんだけどね。まあ、童話だからね、キニシナイ。

330
うわあ。うわあ。面白かった。こういう簡単なネタもたまには欲しい。 良。

331
なんか開き直り感の漂うオチだな。まあ、個人的にはそこが笑えたので座布団一枚くれてやります。
文章は読みやすくて良いです。最初の一文はツカミとして優れていると個人的には思います。
391390:04/02/11 15:33
誤爆すまん。
392「天誅」「派閥」「腐敗」:04/02/12 05:15
俺は誰かとつるんだりして馴れ合いになるのは好きじゃない。
だからこのくだらない派閥争いにも参加しようとしなかった。
どちらかに入ればもう片方から敵視される。
それ自体は全く構わないが、いちいち面倒なことになりそうだからどちらにも属さないことに決めた。
これなら問題が無いだろうと思ったのだが、違った。
ちょっと前までは自分側に取り込もうと媚を売ってきた奴も
「自分はどちらにも興味がありません」
と言っただけであっさりと態度を変えて俺を攻撃するようになった。
今のところは我慢しているが、このままだと間違いなく参ってしまう。
あんな腐敗の象徴みたいな奴らのために俺が潰れてしまうなんて考えただけでも具合が悪くなりそうだ。
「こうなったら後の事は考えずに先手必勝だ、俺が奴らに天誅を下してやる!」
そう決心した俺は受話器を取り、こう言った。
「酷い奴らがいるんだが、いつもの様に一緒にやってしまわないか?一人でやるのは慣れてないし・・・・・」

次は「スプーン」「リモコン」「ネクタイ」でお願いします
393[:04/02/12 09:46
 三口目で彼のことを思い出した。
 まだそれはこの部屋に歯ブラシが二本あった頃の話、彼はよくアイスを買ってきてはそれを
神妙な面持ちで食べていた。普段の食事の時はなんでもかんでも腹に入れば同じ、といった速さ
で次々と料理をたいらげていくのに、アイスを食べる時だけは違った。まるで武士が決闘を挑む
ような雰囲気でアイスと対峙している彼を見た時、私は笑っていたが彼はいたって真剣だった。
 こんな寒い時期なのに、私はバニラアイスにスプーンをつきたてる。
 口の中はとても甘くて、それでもどこかほろ苦い。彼とはささいなことで別れた。ほんとにささい
なことだった。テレビのチャンネルがどうとか、リモコンがどうとか、そんなことだった気がする。
 彼と別れたあと、私はアイスを食べるようになった。彼がいた頃よりも食べるようになったかも
しれない。特別な理由はない、それでも私はいつしか彼がそうしたようにテーブルにアイスを置い
て一口ずつ慎重にアイスを口に運ぶようにしていた。
 そういえば、寒い時のアイスほど美味しいと言っていたのは彼だった。
 そういえば、私がアイスクリームの蓋を舐めなくなったのは彼が注意したからだった。
 もうすぐ春だ。鏡の前で神妙な面持ちをして、締めなれないネクタイに悪戦苦闘している彼を思
い出す頃にはアイスはもう無くなってしまっていた。

「ライター」「挨拶」「缶ビール」
 私の宝石箱の中にある、金のライター。お給料の七ヵ月分だった。
 でも、いいの。これであなたが私を見てくれたのだから。
お店で包みを開けたときの、あの顔。驚いて、笑み崩れて。他の客達のとがった視線にもかまわず、両手で抱きしめ、まぶたにキスしてくれたわ。
 私の大切な宝物。誰にも触られないように、蒼い宝石箱にしまっておくわ。
 ライターの横には金の空き缶。
初めて、あなたが私の部屋で飲んだ缶ビールの缶よ。
 仕事じゃないんだから、安いお酒でいいよって。その頃はもう、会社を辞めてソープで働いていたから、お金はたくさんあったのに。
 あなたが帰った後に、ゴミ箱から缶を救い出しわ。そして、なくさないように私の箱に閉じ込めたの。
 優しいあなた。大好きよ。
 だから、別れの挨拶なんて聞こえない。さよならなんて、信じない。
 宝石箱に鍵をかけて、あたたかな湯気がゆらめく私たちの食卓につく。
「いただきます」
 あなたで作ったクリームシチュー。
 あなたを私の中に閉じ込めるわ。
 
 次は「梅」「バレンタイン」「鍵」でお願いします。
395「梅」「バレンタイン」「鍵」:04/02/12 22:49
付き合って七年目になる彼女がいる。
彼女は毎年バレンタインデーが近づくと
「チョコレートなんてありきたりでつまらないでしょ」
と言ってチョコレート以外の物をくれる。
それは食べ物だったり観葉植物だったりで、あまり一貫性は無い。
きっとその時の彼女が興味を持っている物で、なおかつ僕にも興味がありそうな物を選んでくれているのだろう。
だから僕も一月後のお返しは同じ基準で選んでいる。
一年目に梅酒を贈った時以外はそれでうまくいっているし、特に問題は無いのだろう。
今年は何をくれるのだろうか。
いつもは貰ってから考えてるけど、今年はもう何を渡すか決まってるからその辺は気楽だ。
え?何を渡すかだって?
それはこの鍵と指輪だよ。
そして渡す時にこう言うんだ
「いろいろ考えたけど簡単にいうよ、結婚してくれないか?」って。

次は「政治」「外国」「ボールペン」でお願いします

396「政治」「外国」「ボールペン」:04/02/13 00:19
 変わらないのはボールペンをくるくる回すところだ。
器用に指先を動かしては止めて、また動かす。
無骨な指の上でダンスを繰り返すボールペン。
忙しない動作のはずが、どうしてか不思議と落ち着きを感じさせる。
彼だけが持つ独得の雰囲気。
こんなところも変わっていないのだな、と思うと自然に笑みが零れた。

 今は政治記者をやっているという彼と再会したのはつい一週間ほど前のことだ。
酒好きというわけでもない千佐子がどうしても、という誘いを断りきれずに
仕事仲間に連れられて行った、外国製のガラス製品がいたるところに飾られた洒落たバー。
ぼうっとしていれば見落としてしまうぐらいの小さな薄汚れた入り口からは
想像もつかない幻想的な世界と足を踏み入れた瞬間に広がるカクテルの匂いが
一瞬にして千佐子をその世界に引き込んだ。
この空間だけ時代が逆巡りしたかのような。
 そのカウンターに彼がいた。
397396:04/02/13 00:25
すいません、次は
「傘」「ビートルズ」「カリブ海」でお願いします。
 ここはどこ?
私は羽根を広げて空に瞬く。海に大きな文字で「カリブ」って書いてあった。カリブ海なわけね。
確認を終えて再び陸へ降りる。困ったことになったなあ……。
だって、ここがカリブ海の近くだとわかっても、「それがなに?」って感じだし……。
祈るような思いで周りを見渡すと、立て看板があった。ワケの分からない文字に見えたけど、不思議と意味が頭の中に入ってくる。
『拒むものに奇跡がもたらされる』――ますます意味が分からなくなった。
「お嬢さん、傘はいらんかい?」
頭がおかしくなりそうだった私に、声をかけてくれたおじいさん。
「もうすぐ雨が降るよ。あと五秒後だ」
えっ…? 空には雲ひとつない……わあっ!!
見る見るうちに青空が暗黒の雲に覆われる。驟雨が私たちの大地に降り注ぐ。
「そんな薄っぺらい服では、下着が透けて見えてしまうよ。これをお使いなさい」
『拒むものに奇跡がもたらされる』――本当は、すぐにでも傘を受け取りたかったけれど――。私は丁重に申し出を断らせてもらった。
「よく守ったね。さあ、お帰りなさい。君の本来の世界へと――」
おじいさんが、突然光りだした。神々しささえ感じさせるその御手から、七色の暁光が放たれて、陸に降りた。
ビートルズのアルバムのジャケット絵みたいな――そんな色鮮やかな虹が私の真前に架かった。遠くの方に白光が輝く。
「あの光に向かって歩けばじきに戻れる。私が与えた命は大事にすべきだよ、お嬢さん」
向こうに還って思い出すことはないのかもしれない。でも、私は確かにここにいた。”死後の世界”にいたのだ――。

「タンバリン」「ガソリン」「水色」
399名無し物書き@推敲中?:04/02/14 02:31
みんなが笑ったよね。
さやかちゃんの顔を水色で塗ったの、僕だけだった。

みんなが笑ったよね。
きらきら星のタンバリン、上手に叩けなかったから。

先生も、笑って、僕のくれよんとタンバリン、
壊れてるのかなって、みんなの前で、じっと目を寄せて、
みんなと先生が、笑った。

最後の日、ガソリン撒いて、火をつけた。
400399:04/02/14 02:33
「塩」「はさみ」「頑固親父」

すみません…。
 俺のはさみは特別で、どんなものでも断ち切れる。
鉄だろうと、空間だろうと、人の夢だろうとなんでも――そこに制限は無い。
しかし、そんなパーフェクトなはさみにも弱点があった。
ここだけの話、俺のはさみは外に在る物質ではなく、俺に内在する何らかの力が作用して発生するものなのだ。
その「何らかの力」ってヤツが、どうもやたら不安定な代物らしい。
心の在り様によってはさみが長くなったり短くなったり……場合によっては地球を断絶できる程長くなるかもしれないし、
あるいは、その真逆もあり得るというか、ある。
今――そう、今俺のはさみはうんともすんとも反応しやしない。
目の前にいる畜生並のひん曲がった根性を持つ頑固親父のせいだ。ハッキリ言って今すぐにでも存在を切断してやりたいのだが、
出来ない。俺の「何らかの力」とは、多分心の力だ。糞親父の目の前にいると心が萎縮してしまう。苦手なのだ。
「てめー高校いかねぇんだからバイトでもしやがれ! 家計が苦しいんだからよぉ……」
親父はそう言って俺を威圧したあと、「パチンコ行ってくらぁ」と言い残し家を出て行った。恐らく今日中には戻ってこない。
頑固親父と言うより、横暴親父だな。人の意見なんて聴く耳持たない、だからこちらも何も言わない。くだらねえ親子関係。
強く願を込めて、いつものように玄関先に塩を撒こうとした時、俺の「何らかの力」が弾けた。
これまでに類を見ない大きさの「全てを切断するはさみ」が手から飛び出す。急な出来事で、抑えはきかなかった。

次に目を覚ましたとき、世界は原型を留めてはいなかった。夢だったらいいと思っていたのに。

次は、「肋骨」「清潔」「校庭」です。
体育の時間に校庭を走っていたら十五週目あたりから肋骨付近が痛み出した。
最近運動していなかったからそのせいだろうと思ってヒーヒー言いながら走っていて
気がついたときにはベッドの上だった。
自分のベッドじゃない白く清潔なシーツ、ヘッドボードは冷たいパイプ、ベッドを囲むようにカーテンが掛かっている。
ああ、ここは病院なんだ。けど何で僕はここに居るの?上体を起こし辺りを見回す。
知っている病院とは何か雰囲気が違う。ぼんやりとした頭のままナースコールを
押す事もせずに考えていたが何故ここに居るのか思い出せない。
その時、外の通路を通っていた看護婦さんが僕に気付いてお医者さんを呼んできてくれた。
その後、彼らや見舞いに来たう友人から聞いた話を総合するとこういうことだったようだ。
僕は、走っていていきなり倒れたらしい。そして級友や体育教師が近寄ってきた。
むくりと起き上がり『馬鹿げた事させてんじゃねーぞ!ジジイ!!』と叫び体育教師をぼこぼこにしたらしい。
何も覚えていない。ベッドに座り窓の外を見ながら考えを纏めた。僕が聞いたのは僕じゃなくてきっと何処かの他人の話なんだろう。
だって僕はこんなに大人しい良い子なんだから。

「きのこ」「天使」「チョコレート」
僕はきのこを栽培する。
くたびれたシメジのような姿のそれは、しかし魔法の味がする。一切れ舌に乗せてみる。舌が甘味に浸される。
そして味覚に引き摺られ僕は俄かに夢を見る。
遠い昔の学校の赤く染まった放課後に、誰も居ない教室で君がくれた贈り物。
少し歪な形のそれは君が作ったチョコレート。天使のような笑顔で君は微笑みながら差し出した。
もう一切れを舌に乗せると、別の君が現れる。
髪を乱した姿の君はいつかの天使の面影は無く、空気の足りない金魚のように水の中で喘いでいる。
一体いつのことだろう。僕は酷く悲しんで、さらに一切れ乗せてみる。
再び彼女が現れて、天使のように笑ってくれる。

ぼくはきのこを栽培する。いつも彼女に会うために。
彼女が誰で僕が誰なのか最早わからないけれど。


「高校生」「バッティング」「自我」
「高校生」「バッティング」「自我」

「これはまた、特異なものを発明されましたな博士」
 半ば好奇の目で見やるその先で、老博士は喜々として振り返る。
乱れた白髪から覗く丸眼鏡の奥に爛々と輝く目が垣間見えた。
「私の集大成といっても過言ではないぞ。溝川君、君には理解できるかね、ん?」
「はは、私のような一書生に何を言われますか」
口端に笑みを添えて、私はその老獪の集大成とやらに目線を投げる。
 生命をもったバット。この事象を述べるなら莫迦のひとつも言おうではないか。
ただそれ以外に似つかわしい表現は見つからなかった。
 私の、博士の頭上はたまた床上を、薄汚れた木製バットが所狭しと暴れている。
それはフラスコにあたりガラス片を四散させ、試薬瓶を粉砕しては研究室を刺激臭で満たした。
「ほほ、こやつの習性か自我の現れか、丸みを帯びた物に興味を示すようだねぇ」
博士は小さく頷きながらそう言うとパイプを燻らせながら、差し込む朝日に目を細めて再び口を開く。
「上手く操ることさえ出来れば、バッティングフォームの乱れなどものともせず打点を量産ではないか」
「私は憂いているのだよ。今の高校生は野球への関心が薄れているというじゃないか。嘆かわしい」
「第一、君も含めて若者というものはだねぇ…」
 私は言わなかった。博士の後頭部に向けて思いきり振りかぶるバットのことを。


次は「腕力」「苺」「虹」で〜。
 虹の根本には何かがある。何かとはなんなのか。
俺はそれを確かめたくて、今こうして山を登っているのだ。
早くしないと、せっかく山頂から伸びて来てくれた虹が消えてしまう。
生まれ持った腕力を最大限に駆使して、ゴツゴツとした岩肌を曝け出す断面をよじ登る。
体力が限界にきたら、すぐに水分補給用の野苺を口に突っ込んで飲み込む。

 山頂に辿り着いた。もやった空気が全体を覆っている。
ぼやける視界の中で微かに捉えるは七色の薄光り。その中心に何かいる。
『タジィ……ン…ギッタ……ス…!!』
それは、ぶつぶつと小さな声でうわ言を発していた。
しっかし…小さい。俺はそんなに大きくはないのだが、それでもアレの全長は俺のそれの半分にも及ばないだろう。
「君が虹の『何か』かい?」
『タジィャーナザーン!! オンドゥルルラギッタンディスカー!!』
突然の咆哮に俺はたじろいた後、「宇宙人なんだ!!」と確信。刹那、俺の中の探究心が再び唸りを上げた。
宇宙人はタックルなどで抵抗してきたが、思いのほか弱く、簡単に捕獲することができた。
これから精細に研究しよう。報告は執筆予定の著書などで確認して欲しい。

「クルー」「惑星」「おでん」 
 夜明け前の薄暗い道と私を、照らし出す様に街灯が燈っている。
高い丘から市外の星のような電灯と、空から窺い知る事の出来る星が覗ける。
それらを見つめながら、鞄の中にある苺の入ったパックを取り出す。
そばにあるベンチに腰掛け、そしてパックから苺を一つほど摘まんで、
それを口に頬張り嚥下する。仄かな甘酸っぱさが口に広がり、ベンチに凭れる。
 慕う人の為に忙しなく動き回る人。齷齪しながらも夢を目指す夢追人。
 腕力を行使して希望を掴もうとする人。
何かの為に、誰かの為に、人々はこの世界を闊歩してゆく。
 雲一つ無い空から、雫が垂れる。私は急ぎ足で近くにある建物へと身を寄せた。
もしこの雨が何かを洗い流すために在るのだとすれば、それは何であろうか。
低い位置に沿って、汚れた地面に雨が流れ込む。それには洗い流された地面の汚れ
だけではなく、人の汚れた、人によって汚されたモノの汚れが含まれている。
そのような気が、私にはする。
 雨が止み、朝日が顔を覗かせ、そして視界に大きな虹が広がっていく。
私はそれがこのように思えるのだ…そこには人々の様々な思いが馳せてある…と。
 虹から視線を逸らし、ゆっくりと顔を解して、その場を静かに私は立ち去った…。


投稿しようと思ったら、既に先のお方が居られもうしたか…。
折角書いたので、載せておきます。お題は勿論前の>>405氏ので…。
紛らわしい事してスマソ…。
 海に落ちた小石のように、宇宙船は進んでいった。二名のクルーを乗せた惑星探査船おでん号。
 新地球政府が中心となった巨大プロジェクト。食料とエネルギーを求め、何艘もの船がこの大宇宙に漕ぎ出していった。
記念すべき第一号はケーキ号。続いて、ハンバーガー、カレー、ボルシチ、炒飯。おでん号は数えて五十六号目だ。
 コックピットは薄暗く冷たい。果ての見えない探査ゆえに、必要時以外、クルーは冷凍睡眠処置をされていた。
 ピーッと、甲高い音をたてて十四年ぶりに惑星発見のブザーが鳴る。
 機械は人のために動き出す。照明をつけ、部屋を暖める。良い香りで満たされた頃、クルーが目を覚ました。最初に冷凍
ケースから出てきたのは体感年齢六十二歳のヨサク。ヨサクは皺だらけの六本指の手で、まだ幼いケイスケを起こした。
「ほら、起きな。朝ご飯だぞ」
「ごはん? また、おでんが食べられるの!?」
 生まれつき視力のないケイスケは、おでんの匂いに声をはずませた。
 ヨサクには子供の頃に食べたおでんの記憶があった。その記憶のため、クルーに志願した。だが、ケイスケは乗船するま
で錠剤とゼリーしか食べたことがない。湯気がたつ食事をしたくて、命がけの航海にでたのだのだそうだ。もっとも、今の
船乗りの大半はそんなものだろう。
「今度の惑星にはおでんの材料があるといいね」
 ケイスケの言葉にヨサクはほろ苦くうなずいた。
408407:04/02/14 20:46
あ、すいません。
お次のお題は、「猫」「台風」「風邪薬」でお願いします。
409猫・台風・風邪薬:04/02/15 00:50
風邪薬を三十粒ほど飲み下し、今日もケメ子はゆるやか自殺ライフを満喫して
いた。足元には、かつて飼い猫の「カオスRX」だったものの生首が転がっている。
「うひはー。うひはー。きょうはー、台風をしょうかんする方法を教えまーす」
彼女は宙を舞う黒くて細長い妖精たちと、六本足の小人達を見回した。
「まず扇風機を二十台揃えまぁぁーす。そしてスイッチオーン!」
そう言って彼女は、親の経営する家電屋からくすねてきた扇風機のスイッチを、
風邪薬に含まれるアンフェロトミンのせいで震える指先で、次々と押していった。
「きょーーーーーーーー。タイフーーーンーーーー」
彼女は吹き飛ばされる妖精たちを尻目に、ゴロゴロと転がって、床に産卵する
蜘蛛や蜥蜴や蛙の死骸や祖父の死骸を踏み潰していった。

 その狂乱から一時間ののち、目を覚ました美香子は部屋の有様を見て呆然と
していた。なかでも、彼女の長年の愛猫だった「にゃー太」の死骸は彼女を悲しませた。
 彼女は多重人格者だった。一週間おきにケメ子と美香子の人格が入れ替わるのだ。
そして、その元凶であった、かつて彼女の精神をあらゆる方法でズタズタにした
祖父のバラバラ死体を、彼女は見つけた。そして彼女は、やはりケメ子の存在も
自分には必要なものなのだな、と考え、悲しく複雑な気持ちになった。
410猫・台風・風邪薬:04/02/15 00:55
産卵ってなんですか。
お題忘れてました。
「変態」「編隊」「変体」で。
つけっぱなしのテレビに、台風の接近を告げるニュースが流れている。
閉め切った窓の外は昼間の時間を感じさせない光に照らされている。
一人部屋の布団で寝ている俺の枕元にミケがすりよってくる。
「あっち行ってな、風邪がうつるぞ」
頭に置いている濡れたタオルを振ってミケを追い払った。
一声鳴いて離れたが、また俺の布団にあがって居座ってしまった。
前より悪い。猫の重さが体にこたえる。確実に病状は悪化していた。
「なぁミケ、風邪薬買ってきてくれよ。猫缶デラックスやるからよぉ」
咳き込みながら、ミケに頼んでみたが、ミケは振り向きもしなかった。
今の時間に呼び出せる知人はいない。一人暮らし(彼女なし)の悲哀というやつだ。
薬箱ぐらい用意しとくんだった。
後悔はなぜ過ちの後にやってくるんだろう。
突然ミケが窓を振り向いた。古いアパートの窓が風に鳴り始めのだ。
ああカゼがひどくなってきたなぁ。
灰色の窓をぼんやり眺めながら、俺の意識は遠のいていった。


即興なのに30分もかかったから先に投稿されてる。
お題は410のでお願いします
この場合ここに投稿しちゃまずいのかな?
412パピヨン:04/02/15 05:56

 四十過ぎのオッサン達が、舞台で全国、数百万人の視線を浴びながら裸になった。
十人のオッサンは組み体操のように絡みあいながらイモムシの真似をすると、
今度はグネグネと動き出し、さなぎの真似をした。
さらに今度はグネグネと蝶に変化した。迫真の演技だ。
 『おおおお〜〜っ!!』
観客席から歓声が沸き起こる。
審査員は一斉にボタンを押した。
 「トウルルル〜〜ルル〜〜〜ル」
20点満点だ。文句無く予選通過。そして気になる結果発表。
審査員が結果を発表する。
『え〜、第100回金ちゃんの仮装大将、優勝は【裸のイモムシオヤジ!】』
オッサン達は優勝した。編隊になった変態と、昆虫の変態をかけた見事な演技だった。

413パピヨン:04/02/15 05:58
お題忘れてた。「カレンダー」「アスファルト」「夢」でお願いします。
414ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/15 10:21
「カレンダー」「アスファルト」「夢」

 可憐だ……。ふゆめほど、可憐な少女はいない。
「明日は降ると?」
 眼球の裏まで届き、俺の脳の、貧弱なシナプスを伝う微弱な電流
の邪な煌きまで見透かすような真っ直ぐな視線に耐え切れず、俺は
目を逸らした。少しうろたえながら答えた。
「あ、ええ、降るそうです」
「そうですか」
 天才少女。彼女は、十四歳にして物理学の新生面を開いた新進気
鋭の研究者であり、天文学の権威でもある。今、世界で最も宇宙の
真理に近しい人間のひとりであるといってもあながち間違いでは無
いだろう。俺のような就職先が見つからずに、処世として、ぐずぐ
ずと大学に残ってしまった男とは、本来、接点の無い筈の人類の至
宝――。しかも、この生ける奇跡の具現は、完璧な精神をもってい
た。彼女の精神は、気高く、澄み切っているのである。彼女の精神
の器を透過し、周囲を照射するオーラは――研究者の端くれとして
オーラという表現には抵抗があるが――それを浴びる人間を感化し
さえする。非人間的なまでの、そう、もし神というものが本当に存
在するならば、その精神の構造は彼女に近いのではないか、と確信
に近い思いがある。
 肉体は、精神の道具である。彼女の精神は、まず彼女の肉体を彼
女に精神に適応させた。彼女の肉体は、崇高だった。そして、それは
おそらく、普遍のものである。


次、「ひなげし」「炭酸」「誰何」でお願いします。
「ほほほ。ひなげし。ひなげし。別名虞美人草。これぞわらわに相応しい草じゃ」
 雲子は言った。長女の「空子」次女の「陽子」に継ぐ三女として生まれた「くもこ」は、
学校ではいつも「うん子」と呼ばれからかわれていた。幼い心を傷つけられた彼女は、
両親にその事を何度も訴えてみたが、いつも、
「そういえばあの時は役所の人が変な顔をしていたねえ。あっはっは」
 と笑われるばかりで、まともに相手にもされなかった。そしていつしか彼女は、
そのコンプレックスの裏返しで、常にうんことは無縁の可憐な美しさを心がける
ようになっていた。
 彼女はペプシ・コーラの缶を開けて、その中にひなげしの茎を差し込んだ。
「炭酸水クラッシュ! 虞美人草よ、黒く朽ち果てるが良いですわ、おほほほほ」
 コンプレックスは、同時に、彼女から美への憎悪を引き出してもいたのだ。
「おい! そこで何をしておる!」
 うん子は憎むべき美の象徴である空子の、上品な香水の匂いを背後に嗅ぎ取り、
大声で誰何した。「わらわの半径二メートル以内に近寄った美しいものは、生きては
帰さぬ」彼女は、うんこを両手に握り締めて振り向いた。きっと彼女は、こんな調子で
ずっと生きてゆくのであろう。巡り巡って、結局名は体を表すものである。
うわあお題忘れちゃいました御免なさい。
「あんこ」「インコ」「うんこ」で。
「あんこう鍋にしようか」
「あら、インコが飛んでるわ。こんなとこに、珍しいわね」
「電車、なかなかこないな。運行してるのかな」
「さあ、しばらくかかるんじゃないの。やあね、あの踏み切り飛び込み多いのよ」

次、「下品」「幼稚」「野卑」でお願いします。
418下品・幼稚・野卑:04/02/15 19:13
「まあ、奥様の文章はお上品で高貴で熟達したものでいらっしゃいますわね」
「そうでしょうおほほのほ。そういえば奥様、この間創作文芸版を覗いてみたら
ですね、『うんこ』とか何とか……あら、わたくしとした事が汚らわしい言葉を。
ごめんなさいね奥様。これからは『運行』と言い換える事にいたしますわ。
運行などという言葉を多用した、下品、幼稚、かつ野卑極まりない文章を見つけて
しまいましてねえ。まったく。今の世の中はどうなっているんでしょうねえ」
「まあ、まったくけしからぬ事ですわね。いったい、その文章は具体的にどのように
下品で幼稚で野卑だったのですか? 例えば、文章が極端に下手糞だとか……」
「え? ……ええ、だからその、「運行を握り締めて」……とか、登場人物の行動が、
ですね……その……とにかく、「うんこ」って言葉を使って喜んでいるような者はみんな
幼稚な精神の持ち主ばかりざぁましょ? とにかく野卑なんざぁます」
「あ……その書き込み、心当たりがあるような気がしますわ。あの、「あんこう鍋」
がどうとかいう高等で面白い文章は、奥様の手によるものだったのですか?」
「そうざます。自分の価値観で全てを判断し、他人の作品をこきおろすような真似、
この高等な精神を持つわたくしにしかできないことですわ。おほほのほ」
あ、お題は「感動」「希望」「愛」で。
420「感動・希望・愛」:04/02/15 20:55
 うんこを語れ。そして感動せよ。露悪こそ人間の真の姿、スカトロジーこそ魂の希望。救済
である。愛は、糞便のように排泄され続けるのだ。幼稚を誇れ。うんこを語れ。自らが垂れ流
す糞便に一切を取り込むがいい。そして、糞便は増大していき、横溢する糞便こそが真理、
いや、世界そのものとなるだろう。糞便の世界。その果てに何があるか。
 さらなる逆転が訪れるのみ。



「大同小異」「ベクトル」「偏狭」
421名無し物書き@推敲中?:04/02/15 21:41
「うーん、どっちにしよう」
「どっちでも良いじゃん。ベクトルが違うだけで、大同小異だよ」
「大いにちがうよっ!!君のその偏狭な知識で軽々しく言って欲しくないね」
「じゃあ、もう、両方にしちゃえば」
ポン、と手を打ってその人は頷く。
「うん、そうしよう」
こうして彼…いや、彼女?いやいや…ともかくその性別:ニュートラルの人は誕生した。

「狐の嫁入り」「信楽焼き」「のっぺらぼう」
「何を馬鹿な」
 私は肩を落とした。目の前の男が世界の滅亡を予言したからだ。
恋占いに来てそんなこと言われても、信じるわけがない。
「偏狭な方ですね。占いには来るのに、信じないなんて」
「私が占って欲しいのは、そんなことじゃないもの」
 そう言って私は料金も払わず、席を立った。私が部屋から出る際、
「大同小異ってやつですよ。……ふふ、いずれ分かります」
 なんてことを男は言ってたけど、私が信じるのは飽くまで恋占いの結果だけだ。

「ごめん、君は素敵な人だけど、僕とは合わないと思う」
 ああ、なんてこと。思い切って告白した後、彼がためらいがちに言った台詞が
耳から離れない。何度も何度も、頭の中に響いて涙が止まらない。
 そう……事の大小は関係なく、ベクトルが同じならショックもそう変わらないのかもね。
 ふっと、私はもう一度だけ彼の言葉を思い返して、目を閉じた。世界滅亡の時もきっと、
こんな絶望感を味わうのだろう。

次は「つぎ」「付属」「パッチ」で
423422:04/02/15 21:47
ぐあ……申し訳ない。お題は421さんので。
 かん。こん。からん。
 かん。こん。ちろりん。
 青い空から虹色の水滴が落ちてくる。
 狐の嫁入りに、花嫁御寮となるのは狐ばかりと限らない。
 猫又の鉦、窮鼠の鈴の音にのって、そこのけここのけ、もののけ通る。
 ふらり火の灯りが照らす、花嫁どんはのっぺらぼう。
 白い内掛け引きずって、頬をほんのり赤らめて、顔もないのに笑っている。
 花嫁が一目ぼれした花婿どのは、信楽焼きのたぬきどん。
 いまかいまかと花嫁御寮を待ちわびて、空の胸がとくりとくりと鳴っていた。
 かん。こん。からん。
 かん。こん。ちろりん。

 次は「青空」「吸血鬼」「とんこつラーメン」でお願いします。

「ねえ君、人間というのは実に残酷で野蛮な生き物だよ。
 どんな生き物でも彼らの手にかかればあられも無い姿にされてしまう。
 例えば豚という生き物がいるだろう?
 彼らは本来青空の下、草を食んで育つべく天命を受けてきたんだけれども、
 今は何の因果か薄暗い小屋の中で真ん丸にされ、挙句の果てに縛り首だよ。
 人々は肉だけでは飽き足らず、あらゆる手段で骨の髄液まで消費し尽くす。
 このとんこつラーメンみたいにね。
 まさに屍食鬼と吸血鬼の合いの子さ。肉も血も食べ尽くすなんて。
 なんて食欲だ、いじきたない。恥を知らないとはこの事だ。」
  
隣の男はそう一息にまくし立てると、丁寧にニンニクを取り除いたスープを
大層美味そうに飲み干した。


次は「田舎」「工場」「請求書」でお願いします。
私の父は田舎の工場の社長だった。
目を瞑れば思い出す。オイルの匂い、五月蝿い機械音。
大声で母に返事を返す父と従業員の為にお昼を作る母。
けっして裕福ではなかったけれど、にぎやかで幸せな家だった。
それが、あの請求書ですべてが崩れ落ちてしまった。

今だから思う。
父と母を返してください。
借金はなくなったけれど幸せは返ってきません。
返してください。私の家を、家族を・・・


『鼻血』『冷酷』『焼肉』で。
「食べるんですか?」
焼肉のヤツが突拍子もなく言った。
網の上でジュウジュウ音を立てて焼かれているくせに生意気だ。
「ああ、食べるとも。なにか問題でも?」
私は小皿にタレを注ぎつつ、そう言い返してやった。
まだ表面が赤く、生焼けの肉はせつなく身を縮れさせていた。
「いや、食べてもいいんですよ。元々食べ物ですからね。
食べちゃダメなんて言えやしない。ただね……」
私は割り箸で肉をひっくり返した。おいしそうな焼き色。

「このまま焼肉で終わっていいのかなって、そう冷蔵庫の中にいた時から
思ってたんです。自分には他にやれることはないかなって」
私は肉が何か言い続けているのもかまわず、箸で取り上げ、タレに付けた。
「あっ!もう食べる気だ!私が肉だから肉の私が言う事になんか耳を傾けない気だ!
あんたは冷たい!冷酷だ!酷い!ひど」
ぱくっ。ああ美味しい。鼻血がでるほど旨いなぁ。


「パンダ」「パンチ」「パンの耳」
 ある地方の動物園が経営の危機に瀕していた。
割引や無料開放などのサービスを行うが、悲しいかな、 不況の中で人を呼ぶにはあまりにも立地が悪かった。
 いよいよ存続が危ういという時、最後の博打を打つために全職員が集まった。
「立地の悪さを吹き飛ばせるくらいの、インパクトのあるイベント案を出して欲しい」
ここ何日もパンの耳しか口にしていない園長が、大声を張り上げる。
職員でごったがえしている小さな会議室がざわざわと揺れる。
 突然、パンダ厩舎担当の飼育員が席を立った。
「我が動物園で一番人気があるのは、パンダです。パンダを使って何かできないでしょうか」
「笹を食べて寝ているぐらいしか能のないうちのパンダに芸を覚えさせようなんて無理だよ」
すぐさま反論が飛んでくるが、パンダ舎の飼育係はひるまない。
「パンダは熊の一種です。カンガルーにボクシングをやらせるというイベントがあると聞いたことがあります。
 パンダに格闘技をやらせてはどうでしょうか。相手は僕自身がします。実は僕、空手の有段者なんです」
「馬鹿な。熊殺しでもするというのか」
「大怪我をしたらどうする。死ぬぞ」

 良し悪しはともかく、会議は大いに盛り上がった。
結局この案に対抗できるほどのインパクトのあるイベント案は出ず、
問題点はうやむやのうちに実行に移されることになった。
 かくて動物園は広告を大々的に打ち、イベント当日は何年ぶりかのの大入りになった。
そして大歓声が飛び交い、空手着をまとった人間と寝転がるパンダという不思議な構図の中、イベントは始まった。
結果は言うまでもないが、パンチの応酬などという展開ではなく、
蝿でも追い払うようなパンダの一発のラリアットで決着した。
 新聞やニュースでその事件が大きく報じられると、連日のように人が詰めかけ動物園は大盛況となった。
しかし、こんな馬鹿なイベントをして怪我人まで出したこの動物園は
園長が責任を取って辞任し、債務超過で閉園とあいなった。
ちなみにパンダ舎の飼育係こと空手男は、未だに病院のベッドでパンダのごとく寝転がっている。

次は「バイク」「発泡酒 」「試験」で。
429「バイク」「発泡酒」「試験」:04/02/16 18:34
そりゃお父さんは昔はワルだった。
15の時にバイクしこたま盗んだり誰かと目が合ったら即座に胸倉掴んでた。
何? 尾崎みたいだって? しらねぇよあんな現実逃避野朗。
とにかくだ、男子たるもの若い内に悪いことしとくもんだ。お前みたいに
勉強ばかりしてるのは不健全だ。
勉強ほど無価値なものなんて探すの大変だぞ。
お前にはわかるめぇ。
高校中退して19の時に再入学して必死こいて勉強して世間でいう試験が糞難しい一流大学に
入ったよ俺は。ちゃんと卒業したし。
それでもよ・・・俺の楽しみっていったら仕事帰りの一本の発泡酒だぜ。
俺が覚えた数学の公式とか、歴史上の偉人とかが俺の人生には一切介入しなかったよ。
人間、学歴なんて大した意味合い持たねぇんだよ。
今の内にやりたいことやってたっぷり後悔しろ。
勉強なんて所詮自己満足に過ぎんのだ。そこには後悔なんて微塵もない。
お前は俺と違って過去から学べるようになれ。

次は「宅配便」「マッチ」「降下」でお願いします。

430414:04/02/16 21:37
あ、遅れてしまって本当に申し訳ありませんが、ろくにスレを読み返しもせず
に書き込みしちゃってスレの趣旨と大きく外れた文章になってるので、感想
はなしでお願いします。次はちゃんと話としてまとめます。スレ汚しごめんな
さい。
431「宅配便」「マッチ」「降下」:04/02/17 00:02
朝起きたら、覚えのないダンボール箱がリビングの真ん中に置いてあった。
なんだこれ?まさか、宅急便屋が勝手に入って来た、なんてことないしな。
とりあえず、開けてみようとビリビリと包みを破ると一定のところまで破ったところで蓋が弾けて中から異様なモノが跳び出して来た。
……人だ。
きちんとポーズをつけるんじゃない!!なんだ、お前。
全身タイツにピンクのアフロのソイツは俺に顔を近づけてにっこり笑う。……いや、俺の気持ち的には是非とも「にやり」と表現したいところだが。
「はあい、こんにちは。あなたの元に愛をお届けに参りました。ロベルト渡辺でございます。若かりし頃のマッチに似てる眉毛がチャームポイント」
語尾にハートマークをつけるな!
「ごめんなさい。僕、変態とはお友達にはなりたくないんです」
「んまあ失礼な」
「帰ってくれませんか?大体、誰なんですあなたは、そしてどこから不法侵入しましたか?」
玄関にじりじりと押し出しながら言うと、どう見ても純正日本人の自称ロベルト氏は必死の抵抗を見せて部屋に戻ろうとする。
「通報しますよ?」
「帰るわよ!帰るから、手を放して!」
その言葉に、とりあえず手を放したのがいけなかったか、ロベルト氏は一気に部屋の中へ駆け込んだ。
怒鳴る俺を無視して、ベランダの窓に手をかけると、手すりをよじ登り、そのまま降下する。
やばっ。こんな所で飛び降り事件なんて、なんてこったい。
慌てて駆け寄ると、ベランダの手すりには見慣れないロープ。そして、伝って既に下のベランダに着地したロベルト氏。
「あ、引越し蕎麦、キッチンに置いておいたから」
軽快にそう言うと、さっさと部屋に入ってしまう。
なんてこったい。下の部屋に新しく越してきた人があんなんなんて。

「おかか」「かさ」「鮫」
432名無し物書き@推敲中?:04/02/17 00:06
難しいお題だな。かさはあえてひらがななのか?
書いてみるからちょっと待ってね。
433「おかか」「かさ」「鮫」1/2:04/02/17 01:27
台所の梅干が切れていた。今朝台所に立ってそれに気づいた。
しかしそれが司にとってさほどのダメージだったわけでもない。ただ、あ、梅干が切れている、と思った。
掌に汗が滲んで体が震え、司は叫び出したいような衝動に駆られてぐっと踏ん張った。司の神経は習慣を乱されることにささくれ立った。とりわけ問題だったのは会社に梅のおにぎりを持っていくことが「あのこと」以前からの習慣だったことだ。
七時のニュースでは夜半に出された台風警報は解除されていた。総武線は司の微かな期待を裏切って今日も運行している。司はため息をひとつついてカバンにおかかのおにぎりを詰めてまだ小雨の続く外に出た。
なぜ司は台所であんなに怯えてしまったのだろう。梅干以外にもおにぎりの具材ならいくらでもあるのに。思えば小さい頃の司が一番好きだったのはおかかのおにぎりだった。鰹節のパックは流しの下から簡単に見つかった。
鰹節をご飯につめて握りながら、司は心中、でかしたぞ、と呟いた。鰹節は、梅干の習慣を凌駕するようなもっと大きな習慣をつれてきて、危うくばらばらに分解しそうになった司をなんとかひとつにまとめ直してくれた。
昼には雨が上がっていた。濡れたベンチにビニール袋を敷いておにぎりのラップを取った司はつとめておかかから幼少時の記憶を蘇らせようとした。試みは半ば成功した。司の嗅覚にノスタルジーの香りが広がった。
しかし、視覚には公園に来る途中ずっと側を沿って歩いてきた側溝の水の色が染み付いていた。
側溝は台風の影響でかつて見たことのないほどに水かさが増し、ちょっとした急流になっていた。鉄錆色の濁流。注意してみなければ、それほど血の色に似てるってわけでもない。
その濁流が司の網膜の上でどんどん肉感的にメタモルフォーゼしていき、どろっとした赤い飛沫にかわった。
434「おかか」「かさ」「鮫」2/2:04/02/17 01:28
そうだ、どんなにごまかしても「あのこと」は現実の過去であり、あの瞬間から司は不可逆的に絶望的で、周囲の世界に対して異質で、やりきれないくらい無力な存在に変質したのだ。
自分であることがただひたすら重荷だった。しかし不思議と後悔というような人間的な感情は浮かんでこなかった。
そのかわりに、法律とか制度とか道徳とかそこからの乖離と言った機械的なほど無機質な理屈と、あとは動物的なおびえや震え。それから、叫びだしたくなるほど生々しい映像のフラッシュバック。
彼女の皮膚が裂け、そこから一瞬の間隔をおいてほとばしった血液はその皮膚を流れ、ただひたすら流れ、ベッドの白いシーツにじんわりとしみ込んでいった。
そのときがはじめてだった、司が彼女の皮膚を美しいと思ったのは。五年前、彼女の裸を見たとき司はその鮫肌に萎えて抱くことができなかった。それで、司は26の今になっても童貞のままだ。
その鮫肌が、血に洗われて青磁のように透明にさえわたった。抱いておけばよかったと思った。
だがそんな彼女はすでに死んでしまった、だからもう抱くことはできない、そして彼女を殺したのは自分自身だ、そんな簡単なロジックが頭の中で噛み合わなくて司は混乱した。
司は立ち上がり、ラップとビニール袋を公園のゴミ箱に捨てて午後の会社に向かった。ひたすら簡単で機械的な入力の作業が山積みで待っている。欝だ。
今のところは習慣が司を自動的に操って仕事をこなすことができる。だけどそれもいつまでもは続かないことは自明だった。
どの道、司を待っているのは破滅のひとつだ。

ちょっと長くなっちゃった。。
お題。
「サティ」「写真」「エスプレッソ」
「おとと達は、いつ海から帰るの?」
 娘が、水汲みをたのんできた母に問うた。
「水神様しだいやが、漁が終われば明後日にも帰ってくるけ、心配せんどき」
 娘は手桶を持って屋外に出ると、薄曇りの夜空を見上げた。
「おかか、月さんにかさがかかっとるよ。雨が降らなんだらええんやけど」
 満月を、ぼんやりとした光の輪が取り巻いていた。天の崩れる兆しである。

 井戸の水を汲んで、手桶をかかえて帰る時、娘を呼び止める声があった。
「そこの娘、どうか水を恵んでくれぬか。皿が乾いて死にそうじゃ」
 道端の巨木に、黒くひからびかけた河童が、太い縄で縛られていた。
「私を助けてくれれば、今ここで願いを三つ叶えてやろう。何ら見返りはいらぬ」
 娘はしばし考え、父が早く帰る事、嵐に会わぬ事、大きな魚が捕れる事を願った。
「よし、叶えてやろう」
 娘に水をかけてもらった河童は、縄を引きちぎり、側を流れる川に飛び込んだ。

 次の朝になると、港に漁船が戻ってきた。獲物は大きな鮫が一頭だけ。
 なぜ早く帰ったかと問われた漁師は応えた。娘の父が喰われたからだ、と。

一時間ほど遅れ。お題は434で
毎年いつもこの日は有給を取る。
朝、五時に起きてサティのジムノペティのCDをかけながら簡単な部屋の掃除をし、
エスプレッソをつくりトーストとトマト多めの生野菜サラダで朝食にする。
六年前から毎年同じ事を繰り返している。だがこの習慣も今日で終わる。
このCDも朝食のメニューも彼が好きだった物。そしてこの後は、彼の墓参りに行く。
五年が過ぎ、ようやく気持ちの整理をつけることができて縁があって結婚する事になった。
見合いではあるけれど過去を知ってもなお一緒になりたいと言ってくれた誠実な良い人だ。
もう未練は残さない。あの日、彼と一緒に行けなかったのはまだ少し後悔しているけど今更、同じ所へ行く気にはなれない。
あの時、彼の手と自分の手を一緒に縛ったリボンもこの箱に入れておこう。
今日、彼の墓前に結婚の報告をして写真や彼に貰った本、服、指輪……、全部詰めて彼に返そう。
彼に貰った最後の物、今までかかっていたCDを箱に入れ、その箱を抱えて彼女は部屋を後にした。

『星』『直線の』『滑らかな』
 ――変わってないな――
 坦坦した直線の、夕暮れの農道は俺の過去へと続いている。ちょ
ろちょろと流れる農水路の音と、ひなびた景色はおおむね昔のまま
で、変わっていないことをうれしく思った。二次会に参加する前に、
この景色をみておきたかったのだ。
 四半世紀ぶりの同窓会。母校が廃校となったのを期に、誰からと
もなく集まろう、ということになった。初めて同窓会に出てみよう
か、という気になったのは、日々の生活に飽いていたのと、もうひ
とつ理由があった。当時、ほのかな想いを抱いていた、あの娘はど
うしているだろうか、とふと思ったのだ。
 毎日、ただ二人並んで、むっつり黙って自転車を押して帰った。
それだけだった。半袖から伸びるすべらかな二の腕が、熟す前の硬
い桃の実のようだったことを覚えている。
 ろくに口もきかず、手も握らぬまま卒業して、あの娘は仙台へ、
俺は東京の大学へと進学した。それっきり、手紙も交わさなかった。
何年か後、風の便りに、彼女が結婚した事を聞いた。
「や、遅れてすまん。佐藤です」
 懐かしい面々が思い思いに応えた。
 ――みな、年を取ったなあ――
 感慨にふけりながら、素早く居酒屋を見回して、彼女を探した。
目が合った。向こうも俺を待っていたようだった。視線に、押し殺
した秋波を感じた。
 派手なワンピースがよく似合う、いい女になっていた。少し意外
に思った。記憶の中の彼女は、控えめで、壁の花でいることが多か
った。人の輪の中心で笑顔を振り撒くような女ではなかったから。
しかし、白い二の腕に、あの頃と変わらぬ、いや、あの頃にも増し
たすべらかさがあった。
 挨拶だけして、あえて離れた席を選んで座った。お互いに暗黙の
了解があった。
 しばらくしてから、二次会を抜け出した。外は夜、まばらな星が
瞬いている。このあたりも、ずいぶん開けてきていた。
 ――あの頃の空はもっと星が多かった――
 たばこをくゆらせた。一本、二本。彼女もかならず抜け出してく
るという、確信めいた思いがあった。三本目に火をつけたところで、
彼女が出てきた。手を上げて、自分の場所を知らせた。
「歩きましょうか」
 彼女は俺をみつけるなり、そう言った。当然のように、足は人気
の無い方向へと向かった。小さな公園をみつけた。缶コーヒーを買
い、二人はペンチに腰を下ろした。
「綺麗になったな」
「お上手ね。これでもママなのよ。スナックをやっているの」
「へえ、水商売には見えないけど」
「あなたは貫禄でたわね。あの頃は細っこくて頼りなかったわ」
「太ったよ。娘に腹をつままれる」
「ふふふ。きっと、いいお父さんなのね」
「そうでもないよ。まあ、ふつうかな」
 彼女は淀みの無い、なめらかな口調で話した。記憶の彼女は、と
つとつと、言葉少なだった。
「結婚、してるんだろ」
「別れたわ」
「そうか」
「聞かないのね。そういうところは、昔のまま……」
 沈黙をつなぐようにタバコを咥えると、彼女がどこからかライタ
ーを取り出して火をつけた。彼女もメンソールを取り出した。右側
に座る癖のある女が、顔を横に向けて煙を吐いた。紫煙が立ち昇っ
て、闇に溶けていった。
 彼女のほうから、身をもたせ掛けてきた。アルコールの匂いと
タバコの匂いに混じって、きつい香水の匂いがした。
 肩を抱いた。自然に肩を抱ける自分がいた。妻には泊まかもしれ
ない、と言ってある。妻は「あら、そう」と応えただけだった。
「ね、時間だいじょうぶなんでしょう?」
 肩から二の腕へ、手を滑らせた。見た目とは裏腹にねっとりとし
た質感があった。それは、熟して木から落ちた桃の実の裂け目から
のぞく果肉の、濃厚な蜜のぬめりを思わせた。それが、なぜかとて
も悲しかった。
 夜空を見上げた。街灯の明りで星の光がかき消されていた。
「……いや、帰るよ。妻が待ってる」
 身体を離した。視線が名残を惜しむように絡んだ。腕に、肌の余
韻が残った。
「水商売の女はきらい?」
「そうじゃない」
「……そう。奥さんいいわね。いい旦那さんで」
 離れ際、彼女は淋しく笑った。
 ――星はあの空の向こうで瞬いている。それでいいじゃないか。
それでいいんだ――
 彼女と別れて、俺は家路を急いだ。



次は「花粉症」「電気メーター」「紅葉おろし」で。
440437:04/02/17 15:31
×坦坦した
○坦坦とした
鬱すぎ。ケアレスミス……。
俺はチンピラ。そして取り立て屋。
今日も金を返さない不届き者のアパート前にいるぜ。
「お金返しなさーい。いるのはわかってるんだよ。おーい」ドンドンドン。
電気メーターはグルグルと勢い良く回っている。中に人がいるのは間違いない。
「早くでてきなさーい。でてこないと」
途中まで言いかけた俺の口からクシャミが飛び出した。
俺は花粉症だ。花粉症でチンピラで取り立て屋。この時期辛い。

家主はまだ出てくる気配はない。長期戦に突入しそうだ。
俺はドアの前に座り込んで、あらかじめ買っておいた雑誌をペラペラとめくった。
……ふーん、花粉症には紅葉おろしがいいのか。
俺はさっそく近くのスーパーで大根と唐辛子を買ってきた。

しまった!おろし金がない。
「すいませーん」ドアを軽くノックする。
「なんですか?」「あの、すみませんが、おろし金あります?」
「あ、ありますよ。ちょっと待っててください」
ドアが少し開いて、隙間からおろし金が現れた。
俺はそれを受け取り、大根に唐辛子を挟んで擦った。
これで花粉症対策はバッチリだ!さぁて、取り立てに精を出そう。

「お金返しなさーい。いるのはわかってるんだよ。おーい」ドンドンドン……。
お題忘れてた。

「ジュース」「ブタ」「輪ゴム」
何かを思いきり噛みたい気分にとらわれた。いらいらしている。
理由が判らないことが、いらいらをつのらせる。
とりあえず「何かを思いきり噛みたい」欲求を満たそう。
シャープペンにレポート用紙、財布にマスカラ、と、歯形くぼみの被害が拡大して行く。雑誌についていた輪ゴムを外して、口の中に入れる。ぎゅちぎゅちぎゅち。普通に噛むのに飽きて上下の歯ですり潰すようにしてたら切れた。残念。
何か他に、もっと歯応えのあるものはないだろうか。こたつ机のふちに歯を立てながら部屋を見回すと、ブタの形の貯金箱。ベタなものが欲しくて入手した可愛いヤツ。手にとって丸焼きにかぶりつくみたく、あーんと口を開けて、がちり。じゃり。
……じゃり?
砂を噛んだような感触がして、口を離した。舌先で口の中を探る。と、下の前歯のうち一本が、いつもよりひっかかる気がする。イヤな予感を眉間に集めて鏡を見ると、心なしか歯が欠けているような……。
どうしよう。歯医者行かないといけないかな。でもどう説明すればいい?「貯金箱に噛み付いたら欠けました」……キャラメルで歯が欠けるのとどっちが恥ずかしい?差し歯になる?差し歯ってお金かかる?
落ち着こうと、歯形のついた缶のジュースを飲んだ。オレンジ100%。
「痛っ」
ずんとした痛みが神経を伝わった。せつない。かくしていらいらはおさまったけれど、次なる課題が生まれてしまった。……とりあえず後でシュミテクト買って来よう。



長くなりました。次は「パウダー」「ディスク」「サラダ油」
 「あなた、手軽にお金が稼げる仕事、興味ある?」
駅前でぼーっとしていると、こんないかにも怪しげな勧誘を受けた。声の主はパウダーを厚塗りしたおばさんだった。
「このディスクを売ってきて頂戴。一枚350GBの超大容量ディスクよ」
「それ、ありえねぇだろ……大体、俺はまだやるとは――」
「この高級クローン大豆ブレンドサラダ油もセットでなんと15万円。これを今日中に15セット売ってきてね」
「無理だよ!! つーかそれ詐欺じゃん。クローン大豆ブレンドって何よ?」
「売上はあなたと私で折半よ。どう?」
「オバサン、頭どうかしてんじゃねーの? 俺は善良な一フリーターですんで」
「あ、ちょっとそこのあなた」
おばさんは別のヤツに声をかけた。
「無理だって……」
遠目で見ていると、その男はオバサンのトンデモ説明に頷き、売り物を受け取った。
「マジで!?」
男は道行く人に片っ端から声をかけ、あっという間に15セット売り切ってみせた。
オバサンが、信じられないという顔をしている俺に笑顔を向けていた。

「規制」「葉巻」「18禁」
彼女に、妙なもののプレゼントをせがまれた。
ポルノのDVD、18禁のやつだ。
先週あったとき、俺のエロDVDコレクションのことを話しに出したらせがまれた。
正直、変わった女だなと思ったが、俺はにっこり頷いて、一枚焼いてやることにした。
女だって当然そういうものに興味を持つってことだ。
俺はコレクションの中から一番ソフトでノーマルなやつを抜き出し、PCに挿入した。
純情な彼女に露出やSMやスカトロのプレイを覚えて欲しくなかった。
まっとうな男心、男性心理というやつ。
別に彼女に軽蔑されたくないからってわけじゃない。
彼女に対してだけは、自分のすべてをさらけ出してみせておきたいとさえ思う。
俺は舌打ちした。
DVDが焼けない、コピー規制がかかっているのだ。
ほかのタイトルを2、3枚棚から出して試してみたが、やっぱり駄目だった。
迂闊だった、今時、市販DVDがコピーコントロールされてるのなんて常識じゃないか!
これは彼女へのプレゼントに金を惜しんだことに対する神様の罰だ、てなことを思って、俺は新品を一枚買うべく近所のTSUTAYAに向かった。

週末、さくら通りのお店に行って彼女に会う。
彼女とはもう随分な馴染みであるのに、今から楽しみで不思議なことに夜も寝付けない。
今度のプレゼントは喜んでくれるだろう。
なんたって彼女本人のご所望なのだ、吸いもしない高い煙草をプレゼントするようなやつに負けるわけがない(実際、マレーシアで買ってきたという葉巻をプレゼントしたおやじがいたらしい)。
待ちきれないんだけど、ちょっとあうのが怖い気もしてくる。
いつもそうなんだ、どうしてかな?
また名刺入れから彼女の名詞を取り出して汗ばむ掌に包んでみる。
「キャバクラ☆スターダスト 馳 響子」
ああ、俺は君に会うのがもう待ちきれないよ。
446445:04/02/17 21:53
お題は
「響き」「CPU]「新宿」
で。
447響き CPU 新宿:04/02/17 23:41
 俺が知る最高のオーバークロッカーは、新宿中央公園に住むホームレスの
おっさんだ。おっさんは街灯から盗電して、PCを回し続けている。
 俺がおっさんと出会ったのは、秋葉原のPCパーツ屋だった。オーバークロッ
カーとして名の売れつつある俺が店頭でCPUを物色していると、おっさんが近
寄ってきて、こうつぶやいたのだ。
「やめときな、そいつじゃ1ギガプラスが関の山だ」
 俺は思い上がっていたのだろう、おっさんの言葉を歯牙にもかけず、そのCPU
を買い求め、帰宅した。
 自宅で俺は愕然となった。おっさんの言うとおり、どれだけ冷却装置を強化しても
1ギガ加速したところでCPUはうんともすんとも言わなくなったのだ。
 翌日から俺はおっさんの姿を探し始めた。おっさんはすぐに見つかった。昨日の
店で、おっさんはCPUをガラスケースから店員に取り出させ、指で弾いてシリコンの
音の響きを確かめたりしていた。
 やがて一つのCPUを選び出したおっさんは俺についてくるように言い、新宿中央
公園のバラックに案内されたのだ。
 おっさんが選び出したCPUは、標準のファンのまま、2ギガオーバーを叩き出した。

 次のお題は「ドロー」「もののふ」「アラビア」で。
「おじちゃん、なにがこわい?」
子供がコタツの向こう側から問い掛けてきた。
眠くなったのか、とろんとした顔をして、コタツ布団に顔をうずめて寝転んでいる。
付き合って、俺も座布団を枕にして横になる。
「そうだな、のめりこめる奴が一番怖いかな」
「のめりこむ?」
「そうだ、自分のためじゃなく、信じるもののために全てをなげうつような奴が一番怖い」
テレビでは中東の宗教の戦いを紹介していた。アラビアといわれる地域で普及している宗教は、人々を強く支配している。
「あんな風に皆、神様のために戦ったりするんだ。死ぬことも恐れないでな」
「ふーん。ああやって戦う人を『もののふ』って言うんでしょう?」
「ああ、そんな風にいうこともあるかもしれないな」
子供はそっと手を伸ばしてきた。
布団の上で、そっと握ってやる。
「ねぇ、おじちゃんももののふで怖い人なの?」
「俺が?」
「……ぼくをここに連れて着てくれたでしょう。ぼく、ここにこれてよかった。ぼく、もののふ好きだ」
子供の指が私の指に絡む。
「そうか、よかったな」
軽く力をこめて握り返すと安心したように子供は眠りに落ちていった。
子供のまぶたにはいまだ治りきらない傷跡があり、足はギブスで固定されている。
どれくらいの痛みをその小さな体に受けてきたというのか、父親からうけたという傷は見えないところにも多く残されていた。
「『もののふ魂』という点では、お前だって負けてないんだぜ?」
体をずらし、子供の頭をなぜる。
「あんな所で、よく生きてきた。がんばったな」
俺もお前も、勝負はドロー。
449448:04/02/18 00:25
お題は 「カーネーション」 「風邪」 「メール」 で。
ある日、風邪で寝ていた私のもとに娘から一通のメールが届いた。
その文面はこうだ

「かあちゃん、げんきですか?
 あたしはげんきです。
 ねえさんにもそうつたえてください。
 えのべんきょうはあいかわらずたいへんだけど
 しっかりみっちりがんばっています。
 ようやくBクラスにあがることもできました。これからも
 ん〜〜〜っとがんばってはやくAクラスにあがりたいものだわ。」

なんだってこんな意味不明なメールを送ってくるのか、はじめはさっぱり分からなかった。
娘に返信して、意味をきいてやろうかとも思ったが、
どうせ、寝ているばかりで暇なので、意味を考えてみることにした。

 
………………あ
カーネーションかぁ……

そういえば今日は母の日だったことに私はそのときはじめて気がついた。

次のお題は「仮面」「歴史」「ホテル」で
 今時の若者ってやつは常識がない。携帯だ。メールだ。ネット社会だ。
 偶然乗り合わせた電車の中。俺は目の前に座る若造カップルに対して、胸中であらんかぎ罵倒を繰り返していた。
 軟派男は赤い花束なんて抱えてやがる。女は花の匂いをかいで、携帯を親指でピポパ。だから、何故そこで直接話し
掛けない。人付き合いの基本は自分の耳で相手の言葉を聞くことだろうが。わざわざ携帯メールを使うんじゃねえ。
 バカップルが顔を見交わして笑う。なんの苦労もしたことのない、温室世代の連中。
 貴様らに、俺の、俺らの世代の苦労が分かるか。今日だって朝から風邪で熱があるのに、仕事を終えてやっと帰って
きたんだ。まったく、近頃の奴らは相手を思いやることをしない。他の人を理解しようという、想像力がなさすぎる。
自己中心的な、優しさ欠如品どもめ。
 電車がホームに止まる。バカップルが降りる。俺はなんとなく、奴らを目で追っていた。
 ホームでは中年女が出迎えていた。手を振る。大きく。指が奇妙な動きをしている。
 男が花束を渡した。中年の御婦人が嬉しそうに微笑む。あの花はカーネーション? 
 今日が母の日だったことを、俺はやっと思い出した。会社にいく道すがら、母の日のポスターはたくさん目に入って
いたはずだったが、心まで届いていなかったようだ。
 体温が急激に上がる。この発熱は風邪のせいではないだろう。
 電車が発進する。俺は手話で会話をするホームの若者に対して、胸中であらんかぎりの謝罪を繰り返していた。
452451:04/02/18 02:24
すいません。深夜だったので油断して新着レスの表示を怠りました。
お題は452氏ので。……って、元からお題書くのも忘れているよ、自分。
僕の趣味の一つは、旅行で。まだ、独身なので休暇を利用し年に一度、一人で国外へ行く。
しがないサラリーマンのささやかな楽しみだ。
今日の夜は、欧州の古城を改装したというホテルに止まる事になっている。
中に一歩足を踏み入れるとそこは壁一面に仮面が飾られていて非常に賑やかだった。
世界各国の仮面が並べられていてその中には日本の鬼面やおたふく等もあった。
写真で見てはいたが、さすがに実際目にすると迫力が違う。これだけの仮面に囲まれていると何故か気後れしてしまう。
部屋に入るとテーブルの上にウェルカムワインが置いてありそれを飲むと疲れのせいかすぐに眠くなった。
彼の目覚めは爽やかにはいかなかった。よく寝たのに体調が悪いのだ、息苦しいとでもいうのが正しいのだろうか。
肺が重く感じられるが、別段その他に異常は感じられなかったのでそのまま旅立つ準備を始めた。
チェックアウトをしていると、ここのオーナーだという人が出てきてにこやかな表情で挨拶をし見送ってくれ、彼も手を振ってそこを後にした。
彼を見送った後、支配人は実に満足そうな表情でホテルの奥へ消えていった。
そしてこのホテルの地下のコレクションルームに東洋人の仮面が一つ増えた。

「結び目」「幽霊」「花」
454名無し物書き@推敲中?:04/02/18 03:50
門をくぐると蕾を膨らませた梅が目に入った。
小ぢんまりとした庭では老人が、目を細めて枝を見上げている。
半纏を着たその背中は去年よりカーブがきつくなったようだ。
「こんにちは」
私は帽子を取って一礼する。
「ああ。ああ、どうも。ようやく来なすったね」
始めは少し驚いて、しかし私を認めると老人は顔をくしゃくしゃにした。
「お待ちしとりました。どれ、茶でも入れましょう」
「あ。いえ。本当にお構いなく。すぐに仕事にかからねばなりませんので」
「そうですか。ではよろしくお願いしますよ」
そう言って老人は目を閉じた。
「はい。お任せ下さい」
私はきびすを返し、そして・・・・・・。

「あら?お義父さん。今どなたかとお話をされてませんでした?」
家の中から声がかかり、老人は目を開ける。振り返れば嫁がきょとんとして彼を見ていた。
「ああ。ちょっとな。お前さんにはまだ見えなかったかい?」
紐の結び目を解きながらそう言うと、
「やだ。ちょっとお義父さんたら、幽霊とでもお話されてたんですか?」
彼が脱いだ半纏を受け取りながら、嫁が言った。
「いや、春だ」
見上げた枝には一輪、こぼれるように梅の花が開いていた。
455名無し物書き@推敲中?:04/02/18 03:56
次は、「夕日」「土手」「青春」で。
456ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/18 08:12
「夕日」「土手」「青春」


 夕暮れの帰り道。二人は足を止めた。ゆっくりと流れる川を
挟んだ対岸の土手で、なにやら揉めているようだ。
「わかやずや!」
「なにを! おまえがそんなだから!」
「うるせえ!」
 片方が片方に飛び掛った。二人はもつれ合って土手を転がった。
「……!」
「……!」
 パアアアアアン。怒声が、橋架を通過する電車の轟音にかき消さ
れた。
 夕日に見守られながら、数学教師のMと教頭のWが取っ組みあっ
ていた。怒声の断片から判断するに、どうやら教育方針で対立した
らしい。

「なんか、青春だねえ」
「そうだねえ」
 騒ぎを尻目に、二人は家路を急いだ。受験生の彼女達は帰ったら
すぐに塾へ向かわなければならないのだ。


「髷」「へその緒」「年金」
457ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/18 10:00
わからずや、でした。あああん。
会議室にコの字型に並べられた机に、ちょん髷のかつらを被ったしごく真面目な顔をした男が十五人。
町人髷のかつらの男が書類を手に立ち上がり良く響く声で話し始めた。
「さて、今回の商品の内容は端的に言ってしまえば”ゆりかごから墓場まで”です。
しかし、キャッチコピーに墓場と入れるのは見栄えが良くないという事になりました。それに代わる意見をどなたかありましたら挙手願います。」
いくつかの意見が出されたが中々良い意見が出ず、そのうちアイデア切れで皆考え込んでしまった。
その時、一番下座に座ってずっと考え込んでいた禿(かむろ)の型のかつらをつけた新入社員が、勢い良く手をあげた。
「”へその緒時代から年金時代まで”と言うのはどうでしょうか?」
しかしすぐさま反対意見が出た。母親の腹の中にいる間はサポートできないと言うもっともな意見だ。
その案に対する意見も出尽くした頃、上座に座り黙ったままだった大名髷をつけた貫禄のある男が時計を見て立ち上がった。
「じゃあ、とりあえず今日はここまで。皆、かつらは元の位置に置いておくように。」
そして皆、自分の席にかつらを置き昼食を食べに三々五々散っていった。

『ブレイク』『鮭』『耐久』
459『ブレイク』『鮭』『耐久』:04/02/18 15:33
「おおーっとぉ! すごいぞ! これも壊しました! ブレイクしましたよ! すごいぞぉ、すごいっ!」
興奮気味に何度も繰り返されるアナウンサーの甲高い声。見守る観衆の雄叫び。
「さあ、3日間飲まず食わずでいたオス達の、この厳しい耐久力自慢を制するのは誰でしょう」
差し出された大きな岩はその、毛深い腕によってヒビが入り、また、砕かれる。
「さあ、次はいよいよ決勝戦です! 商品の新巻鮭1年分を手にするのはいったいどっちだ?」
見守る家族の期待と不安の交じり合った表情。響き渡った岩を砕く音。
「決まったーーー!! 優勝は熊左衛門!!」

そう、今日は数年に一度の野生のクマ達の力自慢大会の日。

「ひかる貝殻」「夏の宴」「わだつみ」
460名無し物書き@推敲中?:04/02/18 16:47
彼女へのプレゼントに選んだのは、ひかる貝殻の付いたキーリング。
『夏の宴』というシリーズの陶器セットにも心惹かれたのだが、
どちらにしようか悩んだ末、手に取ったのがキーリングだった。
「プレゼント用でお願いします」とレジの店員に告げると、店員は小さく「はい」と答え、
フィルムケースを取り出し、キーリングを入れ、それを透明の袋でラッピングした。
「リボンは何色になさいますか?」上目使いで尋ねる店員。睫が長く、なかなか綺麗な顔をしている。
「…ピンクで」と俺。店員はピンク色のリボンと『雑貨 WADATSUMI』とプリントされた
シールを袋に張った。わだつみか。なかなか良い店名じゃないか。
ふと店員のネームプレートを見ると『店長 和田摘子』と書かれている。
和田摘子…。わだつみこ…。わだつみ…。WADATSUMI!
頭の中に電球が点った。いかん、吹き出しそうだ。俺は必死で笑いを堪えた。
下を向きながら商品を受け取る俺。店を出る俺に「ありがとうございました」と
声を掛ける和田摘子。出口への階段を上りながら、また来てみようかなとぼんやりと思った。

次は「ブレーキ」「ポストカード」「クッション」でお願いします。
 いよいよ明日はテストだ。いい加減勉強をしなければ。
そう心の中で宣言してからが脱線の始まりなのだ。
 ひと通り机の上の惨状にうんざりし、読みかけの本やら、授業で
配られたプリントやら、飾ってあったポストカードやら、さっきま
で食べていたキャラメルの袋やらを片付けるのに没頭する。
 それが終わると、テキストをぼーっと見て範囲を確かめる。その
間に食事をとるなどのワンクッションを挟むこともしばしば。下手
をするとそのまま居間に居座ってテレビに釘付け。脱線しっぱなし
のまま明後日の方向に走り始めたりもする。テストは明日なのに。
もし親に小言でも言われた日には、やろうとしていたことを横から
言われると腹が立つ、などと言ってふてくされる。
 なぜこうもやる気を出すのは難しいのか。アクセルを踏んでいる
つもりがブレーキを踏んでいる。ギアを変えていなければ脱線どこ
ろかエンストだ。もう動けない。そんなことを考えているうちにも
時計は動き続け、いつの間にやらすずめの囀りが聞こえ始めるのだ。
 自分がもし時計やすずめなら、永遠に朝は来ない。断言できる。

次は「みかん」「かぜ」「橋」で。
462「みかん」「かぜ」「橋」:04/02/18 21:02
私の陰鬱な気持ちなど斟酌するきがないのだろうか、都会の橋はどれもきらびやかになイルミネーションに彩られている。
帰宅途中にどうしても通らなければならない橋がある。
その中腹あたりで、手摺に肘をつき、はるか眼下に流れる黒い川を見ていた。

帰りたくない。

橋の上はかぜが強く吹いていて自然と半目になる。その所為で昨晩の光景が瞼の裏に甦る。

私が帰宅するやいなや、玄関で待ち構えていた妻がいきなり三行半を叩き付けた。
いくら理由を問いただしても一向に口を開かない妻の煮え切らない態度に腹が立ち、つい殴ってしまった。
それほど強く殴ったつもりはなかったのに、妻は下駄箱に頭を打ち付けて死んでしまった。
私は酷く狼狽した。
なんとか隠さなければと見の保全を考えた。
だが、玄関を右往左往して思案に耽っているところを娘に見られた。
トイレから出てきたのだ。「見られた」という恐怖に頭が混乱していた。
私は、私は、娘も殺した。妻の時と違って衝動的なものじゃなく、隠蔽のために。
まだ幼く、みかんの香りを微かに漂わせるかわいい娘だった。
でも、殺した。
ただの肉塊と化した二人を浴槽に投げ入れ、私は布団に潜った。

そして一日が経った。私は眠ることも自首することもできずに一日が経った。
いつも通りに会社で働いてきた。
そして今、橋の上で佇んでいる。
私はどうやって償えばいいのだろう。橋から飛び降りることができればどれだけ楽だろうか。
妻はなぜ私に離婚の要求をしたのだろう。腑に落ちない。
橋から飛び降りる前に妻の身辺を洗おう。
自殺するのは離婚要求の理由を知ってからでもいいだろう。
もし私に過失があったなら、妻と娘の為に死んで償おう。
もし妻に過失があったなら、娘の為に死んで償おう。
私はそう決心して歩き出した。

次は「被害者」「加害者」「傍観者」でお願いします。
有加は泣いていた。読経の音が遠く聞こえる。
制服に、涙が染みこんだ。

有加はあの日「傍観者」だった。
今は棺で眠る同級生・・・「被害者」である佐川がいじめられている
のをそのまま見過ごしたのだった。
「加害者」である西村たちはあくびをこらえながら正座している。
罪の意識は微塵も感じられない。有加はギュッと拳を握り締める。
佐川は一年の時に有加に告白してきた生徒だった。
交際することはなかったものの有加にはとても親切にふるまってくれた。

自分はそれなのに何もできなかった。
何気ない出来事が蘇る。
友達だったのに、自分はなんて最低なんだろう。
西村たちがクスクスと忍び笑いをしている。
有加は、ひたすら泣きつづけるしかなかった。

「アイス」「宝クジ」「マンション」でお願いしまつ。
464462:04/02/18 22:28
誤字が二箇所も・・・
お目汚し大変失礼しました。
申し訳ない。
ふと窓の外に目がいった。私の部屋の窓から道路を挟んで向こうに側には
郊外型スーパーの駐車場の一角に宝クジを売るプレハブの建物が見える。
今は深夜二時。
誰もいないはずの駐車場に黒い人影が動いたような気がした。「んっ」
私は目を凝らしもう一度よく見た。
コツコツ 黒い人影の足音まで聞こえる。おかしい!あきらかにおかしい!
革靴の底でアスファルトを叩く音が聞こえるはずがないのだ。
「ここはマンションの三階だぞ」思わず声に出してしまった。
部屋の明かりは落としてあるので外の黒い影の人物からは私の姿は分からないはず。
コツコツコツ 足音が近づくように大きくなってきた。
コツコツ…… コツコツ……
おいおい、なんなんだ。私は分けがわからない。私は怖くなりカーテンを閉め部屋の
明かりを点けテレビの音を普段より大きめにする。
コツコツコツ まだ聞こえる。マンションの中を歩いている。何故かそう感じた。
コツコツコツコツ 隣の隣で一旦止まった。コツコツ……
コツコツ 隣の部屋まで来た。なにか探しているようだ。
コツコツ…… コツコツ……私の部屋のドア前で止まった。
私はふとんを頭から被り 「来るな こっちに来るな」 心の中で思った。
トントン、ドアが叩かれた「御注文のアイスをお届けにまいりました」
「アイスなんか頼んでないーーーー」 
その瞬間、体が金縛りにあい動かなくなり私の背中に冷たい物が走った。

次は「住民票」「海」「福耳」でお願いします。
466「住民票」「海」「福耳」:04/02/19 01:36
就職活動のために住民票を貰いに行ったら受付の人がものすごい福耳で、思わず笑みが漏れた。
これは、幸先が良いかもしれない。もしかしたら副のおすそ分けをもらえるかも。
そんな良い気分で家に帰って書類を書く。
『○×海洋研究所』海辺に立つ立派な研究所。
これが、海の好きな俺の大本命。よし、気合入れて書類書くぞ。

確かに、副のおすそ分けはあったらしい。第一希望の場所に見事内定を貰った。
だが、それも所詮おすそ分け程度。
本日、そこから電話有り。
スポンサーの経営不振により、研究所はあっけなく潰れてしまったとの事だった。

「UFO」「お菓子」「ブランコ」
あるひ ぼくの町に UFOが やってきた。そのひ ぼくは いつもの ように ひとりで あそんでた。
UFOから びびびびびっと 光が でて こうえんや がっこうの ゆうぐは お菓子に なった。
ぼくの すきな ブランコは チョコポッキーと ビスケットと グミで できていた。
ぼくたちは みんなで それを 食べた。 ブランコは なくなって しまった。
ジャングルジムも すべりだいも 砂場も ない。 ぜんぶ おいしかった。
町に お金が ないから 新しい ゆうぐは 作れないと テレビに でていた えらい人が 言っていた。
みんなが がっかりしてたから ぼくは おじいちゃんに おそわった むかしの あそびを おしえた。
そして ぼくは みんなの ヒーローに なった。

「足跡」「玉」「輪っか」

 
 まるい円を描くように歩きながら、男は手を顎に当て神妙面で考えている。
「舞うように丸くついた足跡、このような癖を持っている人はこの中に一人しかいません」
「だ、誰なんですか、犯人は」
 問われた男は十分にタメてから推理を聞く人々の目を睨み渡し、ゆっくり手を上げ、
「そう、私だ!」
 と親指で自分を指した。
「あなたが犯人だったんですか!」
「なにぃ? 何故私が犯人だと分かった!」
「ご自分で言われたじゃありませんか」
「一言も言ってないぞ私は。しかしバレてはしょうがない! いかにも私が悪の親玉、
怪人三面相だ!」
 大声で宣言すると、怪人は床をかかとでコツンと叩く。足跡の輪っかの内が抜けて
三面相がその穴に吸い込まれていった。
「さらばだ諸君! また会おう」
 部屋に穴から聞こえる声が虚しく響き、残った人々は呆然と立ったままだった。

次「雷」「パッド」「液体」
薄暗い部屋の中、一人の男が仲間から送られたメッセージボックスを聞こうとしている。
小さなカードが付いていたがそれには『キヲツケロ』としか書かれていなかった。
男は、ゆっくりと蓋を開けた。少しの静寂の後、静かな声が流れ出した。
「-------------私は魔術師で、私の仕事は、雷を出す事です。
毎日、ベルトコンベアに載って運ばれてくるパッドの中の液体の種類に合わせ雷の量を調整します。
そうしてきるのが、このインスタントスライムです。
ご家庭でのおもちゃ、ペットのおやつ、クッション代わり、ユーザーのアイデア次第でどんな風にも使えます。
そして最後に無機質な女性の声がはいった。
<インスタントスライムは片川法務の登録商標です。偽物にご注意ください。> -----------」
男は背後の商品をじっと見つめ溜息をつき、肩を落として部屋を出て行った。
「急転直下」「為替変動」「カラフル」
ネットで知り合った友達にエロゲーを借りた。
カラフルハートってタイトル。
僕は画面に映る非現実的な美少女たちの絵にすぐに辟易して、急転直下、ベッドにからだを投げ出した。
頭が痛い、ただ真空の中で僕の心は窒息してのた打ち回る。
静寂。
つけっぱなしのテレビの中ではニュースキャスターが今日の為替変動を告げている。
世界はどんどん変動していく、たった一人、欝と孤独に身を震わせる僕を取り残して、ものすごい速さで。
テレビの中はもう春がくるのに、僕の部屋は凍りついたまま、意識が遠のいていく……。

(急転直下の用法ってこれでよかったんだっけ。。違う気がする。いや、あきらかに違う)

次のお題は
「早春」「氷」「希望」
 運がよければ、早春までは……。
 梅の花を見る希望はある。
 だが、桜の花には届かないだろう。
 小さな窓から、私は外を見上げた。
 自分は一生ここを出ることはないのだから。
 桜。桜。雪のように散る花弁。
 雪とは違ってきっと暖かいのだろう。
 その暖かさに私は触れることはない。

 桜の花弁が降りしきる夜。
 しとしとと、雨も一緒に舞っていた。
 その雨粒の一滴が、
 札幌時計台の奥にあった氷の欠片だとは、
 本人さえも気付かない。


 次のお題は「美少女」「牛丼」「バックドロップ」でお願いします。
「チャンスなんですよ!社長!」
販売促進部の部長が、意気揚々と部屋に踏み込んできた。
いったい何をそんなに張り切っているのか。私は訝しげに部長を見た。
「社長!ついに牛丼のチェーン店で牛丼の販売が中止となったのです!!」
いちいち声を張り上げる部長に辟易しながら、私は詳細を話すよう促した。
そして一時。私は彼の意図することを理解するにいたった。
つまり世間から牛丼の消えた今こそ、在庫過多になっているわが社の牛丼
レトルトパックの大キャンペーンを行い、乾坤一擲社運をかける!
ということらしい。
却下。と一言のもとに懸案を退けた私だが、すごすごと豪快な体をしぼめて
帰る後姿に情にほだされ声をかけてしまった。
「キャンペーンって何するの?」
「まずCMです!国民美少女を起用し……」
おおと、ちょっとこの男らしからぬ言葉に新奇の期待をかけたが、
「マスコットの牛パッ君を豪快にバックドロップ!そしてキャッチの
肉サイキョー、(最高らしい)と叫んでもらうのです!!」
却下。結局この男らしい回答に安心し、自身をもって不採用することがで
きたのだった。



言葉って難しい。
「霧」「整理」「選挙」
でお願いします。
473名無し物書き@推敲中?:04/02/20 00:14
有加は泣いていた。読経の音が遠く聞こえる。
制服に、涙が染みこんだ。

有加はあの日「傍観者」だった。
今は棺で眠る同級生・・・「被害者」である佐川がいじめられている
のをそのまま見過ごしたのだった。
「加害者」である西村たちはあくびをこらえながら正座している。
罪の意識は微塵も感じられない。有加はギュッと拳を握り締める。
佐川は一年の時に有加に告白してきた生徒だった。
交際することはなかったものの有加にはとても親切にふるまってくれた。

自分はそれなのに何もできなかった。
何気ない出来事が蘇る。
友達だったのに、自分はなんて最低なんだろう。
西村たちがクスクスと忍び笑いをしている。
有加は、ひたすら泣きつづけるしかなかった。

次「アイス」「宝クジ」「マンション」でお願いしまつ。
473は463のコピペにつき、
お題は472の「霧」「整理」「選挙」でお願いします。
 眠れないので、空がだんだん色を薄くして行くのをぼんやり眺めていた。街灯の発する光と風景のコントラストの弱さは夜明けゆえかと思ったが、それは霧のせいだった。
 霧の街を歩いてみようと、上着を着て外へ出る。澄んだ空気が鼻につんとした。人がほとんど出歩いていない住宅街は、きちんと整理された本棚のような整然さがあった。その人工感が霧の幻想さとあいまって不思議な空間をつくっている。
 道の真ん中でくるくると回ってみた。上着の裾がふわりと揺れる。白い世界で、くるくる、ゆらゆら、ふわふわと。街灯をスポットライトに見立てて回り続けた。
 と、霧の中に人の顔が見えた。驚いたが、よく見るとそれは選挙のポスターだった。いやらしい笑顔と自己主張に溢れていて、幻想世界には不釣り合いだ。
 ――もっと霧が濃ければこんなもの、隠してくれただろうに。
 ――醜いものは覆い隠してしまえばいい。
 そう思ったが、そんなことを考える自分が一番醜いのだと気づき、恥ずかしくなって部屋へと駆け戻った。鍵を閉めて靴と上着を脱ぎ捨て、布団を被り目を閉じる。しかし眠りは訪れず、暗闇にも覆ってもらえない自分の醜さを呪った。

次は「ひまわり」「リップクリーム」「もち」でドゾー
「このひまわりダメだね」
マオはそう言って自分より背の高いひまわりを指先でチョンとつついた。
アブラムシが大量にうごめいている。
「生きながら食べられるってどんな気分かな。もちろん、植物も生き物って
考えた話だけど」
俺はセミの鳴き声を聞きながら額の汗をぬぐった。
ひどく暑い。体の中から溶けたもちになっちまうみたいだ。
「わたし、ひまわりって嫌い。人の顔みたいで気持ち悪いんだもん」
マオは言いながら唇にリップをぬりはじめた。
唇が弱い彼女は会話してる時でもしょっちゅうリップを塗る。
形のいい口がつやつやと光る。
「ケンタさん、ひまわり好きなの?」
「別に。好きでも、嫌いでもない」
「ふーん」
白いキャミソールが汗で張りついている。
その下に極彩色の下着が透けていてもマオは気にしない。そういう女だ。
「マオ。おまえが使ってるリップ、ひまわりの油入ってるんだぞ」
その無防備さに腹が立ち、そう突っ込んでやった。
「ひまわりってわからなきゃいいの」返って来た返事はそれだけだった。
それからマオは、ゆっくりと俺に近づき顔に手を添えた。
「たとえば、私はケンタさんが大嫌い。でも」目を閉じる。
「こうすれば誰かわからない」唇が触れた。
マオはいつもそうだ。気まぐれで、好きに毒を吐き、俺を翻弄する。
それに付き合うのが嫌いじゃない俺もどうかしてる。
夏だ。夏のせいだ。ひまわりが見ている気がして、俺は空いた手の方でその頭
をむしってやった。
477476:04/02/20 10:37
お題忘れてた(汗)えっと、「金木犀」、「夜空」、「初恋」で
お願いいたします。
夜空を見ながら思い出し、考えてみた。僕が彼女の事を意識し始めたのはやっぱりあの夜からだった。
皆で寮を抜け出してこっそり裏山を調べに行ったあの夜。
実際には、噂のような幽霊なんて居なかったけど。物音に怯えた彼女の表情と、きつく握られた手の感触、
そしてかすかな金木犀の香りははっきりと僕の記憶に残ってる。
最初は、この感情がなんなのか解らなかった。可愛いとは思ったけど、好きと言う感情なのか自信がもてなかった。
けど、やっぱりこの気持ちは恋なんだろう。保育園の先生相手に感じた初恋の時の感じとは、あまりに違いすぎて解りにくかったけど。
後悔しないように寮に帰ったら告白しよう。そう決めるとなんだか気持ちがスッキリした。……明日の電車は早いしもう寝ないと。
そして、僕は小さな欠伸をし布団に入り羊を数え始めた。
「壊れた」「入国管理局」「末期」
 『……あと………ガガ……68時間39分後…………ザー…………ブツン』
とうとう、完全に壊れてしまった。まあ、構わない。どうせあと三日もないことくらい、分かってるから。
昨日、仕事納めがあった。もう入国者はいない。皆最後は自分の国で暮らすのだから、入国管理局に存在意義はない。
椅子に座りながらボーっとしていると、甲高い声が場に響いた。
「ねえ!」
俺はハッとした。そうだ、ここは式場だったのだ。目の前に、純白のドレスを着込んだ彼女が立っていた。
「どう……? 似合うかなあ」
「凄く、いいよ。可愛い」
あと、67時間くらいだろうか。もう避けようのない大隕石がこの星に直撃するのは……。
末期的な地球。しかし、この残り僅かの時間は、俺の人生の中で最も密度の濃い時間になるに違いない。
一番好きな人と一緒にいる一分間は、一年にも百年にも感じるに違いないから――。

「惑星」「動物」「侵略者」
 銀河系全域を巻き込んだ全面戦争の後に結ばれた星雲間講和条約の第二条に、
「恒星系間不可侵の原則」というのがある。これは恒星系間の軍事介入を禁止する
ものだが、政略商略に関しては一切触れられておらず、現在その大きな間隙を
縫って各恒星系では経済戦争が頻発している。
「問題は、ただでさえ他所の恒星系と仲が悪いのに、馬頭星雲で地球型の惑星が
生まれつつあるってことだ。事業開発の名を借りた侵略者どもの縄張り争いが激化して、
いつ戦争になるとも知れん」
 ケボーキアンは経済学者としてよりも政治家として、その新しい星を巡る動向に目を
向けていた。仮に戦争になったとして、馬頭星雲での領土権を獲得すれば身内の
惑星間に溝が出来る。そうなれば恒星系外の経済干渉を、この連帯を欠いた恒星系は
無防備で受けねばならない。
「経済は流動的だ。そんな形の無いものに牙を剥く動物がいて、その相手をしなきゃ
いかんのなら、猛獣使いに弟子入りした方が良さそうだ」
 若い経済学者はため息をついて、三日後学会で発表する論文に「猛獣を飼いならす」
というタイトルをつけた。

次「凡百」「八百長」「藁」
「ただいまー」
私は大きく膨らんだスーパーの袋を玄関に置きっぱなしのまま
冷えた体を暖めるべくコタツの中に滑り込んだ。
いたっ。なにかが素足のふくらはぎに当たった。

コタツ布団をめくると、息子二人がコタツの中で割り箸で作った銃を構えていた。
「ピーピーピー! 侵略者! 侵略者! 大きな動物がいるであります! 」
これは次男。来年小学生になる。弟の言葉に兄が答えた。
「むっ! あれはなんだ!? 」
「隊長! あれは『ケーツデカ・カーチャン』であります! 危険です! 危険です! 」
「なにぃ! 我々の惑星を守れ! 一斉射撃だぁ! 」
輪ゴムが私の足を目がけて飛んでくる。痛い痛い痛い。

「こらっ!」私はコタツの中に入り込んで二人を捕らえようとした。
「わっ! 撤退ー! 撤退ー! 隣の星に逃げろー! 」
チビッコ隊長と隊員は、大袈裟に悲鳴を上げながら子供部屋に逃げて行った。


お題は>>480氏ので。
482ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/20 15:49
「凡百」「八百長」「藁」


 年の離れた妹が、こたつで漢字ドリルをやっている。
「藁……。ワラ、だよね」
「ぼん……ひゃく……?? おにいちゃーん、これなんて読むん?」
 妹は漢字ドリルの問題を指差す。
「凡百<ぼんびゃく>」
 俺は答える。
「……はっぴゃくちょう?」
「八百長<やおちょう>」
「ふーん。お兄ちゃんすごーい。意味は?」
「んー。お前、最近ハマってるHPあるだろ」
「2ちゃんねる?」
「それみとけ」


「川蝉」「奢侈」「交換日記」
 川蝉の鳴き声が山全体に響き渡る。
「『……であり、今の生活は私にとって身の丈に合わぬ奢侈なものである』っと……」
電話をかける。この僻地から、日頃無理を言って働いてもらっているバイク便会社にだ。
今しがた書き終えた交換日記を遠く離れた友へと送り届けてもらうため、至急来るように言った。

 しばらくして、我が最愛の友からの返事が返ってきた。
「『奢侈ってどー読むの? あたしちっちゃいからわかんない』か……」
その反応が一々愉しい。これだからやめられないのだ。

「瀬戸際」「殺生」「アンビバレンス」
――瀬戸際

「なあ、ロンさん、落ち着いてくれよ。おいおい、そんな物騒なものはしまってくれ。
俺があんたを裏切るはずがないだろ? あんたがこの国に来てからずっと尽くしてきたじゃないか。
冷静になって考えたら分かるはずだ。
そ、そうだ。お袋さんの話を思い出してくれ。いつも話してくれたじゃないか。
頭に血が上ったら、目を閉じて十数えろって言われてたんだろ?
まず、俺に時間をくれ。きっちり誤解を解いて見せるから。なあ?」

――アンビバレンス

「……七、八、九、十。数えた。……悲しみが増したよ、リチャード」

――殺生

バン。バン。バン。

お次は「張り込み」「最年少」「銀行」
道端をコロコロと空き缶が転がって来る。
電柱の影には風に飛ばされた新聞紙、寄り添う空き缶。
人通りのない深夜の裏路地。あまり目立たないこの場所に銀色の
小さなステンレス扉が壁に貼りついている。銀行の夜間金庫。
この先突き当たりが表通りになっていて十字路の角に銀行のビルが建っている。
ひとりの男がこちらに向かって歩いてくる。紺の仕立ての良いスーツに派手なネクタイ
黒い皮カバンを小脇に抱え、今、営業を終えましたという雰囲気を気だるさに変えていた。
今日の店での売り上げを金庫に納めレシートの紙片を手にするまでが男の仕事だった。
ステンレス扉の前に一枚の張り紙を見て男は 「工事中か」 なんの疑いもなく
その隣に設置してある“仮夜間金庫”の鍵穴にキーを差し込む。「よし本日の仕事終了」

それを遠くの物陰から張り込みをしていた若者がいた。若者は携帯電話を手に
「これから仕事始めます」と仲間に連絡を入れた。若者は絵師集団の最年少だった。
絵師といっても絵を描く絵師ではない。犯罪を企画立案、実行する者の事を若者のいる
世界では絵を描くとか絵図を描くという。 
仮の夜間金庫からは大量の黒カバンが出てきた。若者はそれらをすばやく運び去った。

次は「時計」「非常階段」「アンテナ」でお願いします。
486くし:04/02/21 15:11
こんなこと、誰にも教えたことないんだけど……私の頭の中にはブロンズのアンテナがある。
そいつが今朝からプレアデス星団に潜む黒い太陽からの毒電波を受信して、なんだか体調が悪い。なにを食べても胃が重くて、吐き気がする。
こめかみを貫く電波に耐え切れずに目を閉じると、瞼の裏にたそがれに赤黒く輝く天空が広がる。そこは高いビルの廃墟、周囲に視界をさえぎるものは何もない。
空一面から強い電波が振ってくる。私は手摺も踏み板も錆付いた螺旋の非常階段に逃げた。
後ろから誰かの声が聞こえる。「その下は黄泉の国。そっちにいっちゃいけないよ」
私は気にせずにどんどん駆け下りる。規則正しく甲高い足音が響き渡る。
高度が下がるに連れて私はどんどん若返り、身長が縮んでいく。心の奥底に押し込めていた様々な記憶が蘇り、私は耐え切れずに両目から涙を流した。
涙がこぼれないように目をぎゅっと瞑ってさらに駆け下りていく。足音だけが聞こえる。
――カン、カン、カン、カン、カン。
しばらくして目を開くと私はベッドに座って涙を流していた。
すさまじい反響で耳を領していたのは壁時計の秒針の音だった。
私はぼんやりと時計を眺める。もうすぐ夕食の時間だ。
私は喉元にこみ上げてくる胃液を飲み込んだ。胃腸が死んでる。今日は電波が悪い。
487くし:04/02/21 15:15
次のお題は
「アマリリス」「お喋り」「余裕」
でお願いします。
488ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/21 15:38
「時計」「非常階段」「アンテナ」


 最近、上司の大坪根女史が妙にご機嫌で、気持ち悪い。以前のよ
うな嫌味や悪態が減った。妙にニヤニヤしたりしている。
 男でもできたんかねえ――まさかなあ。すぐに打ち消した。大坪
根女史は、眩暈がするほどの醜女である。日々、顔を合わせている
うちに少しは慣れたが、うっかり直視してしまうとまだ、五分はく
らくらしてしまう。お見合いの席など、相手の男が不憫で仕方が無
い。対面に座ることを強いられるのだから。
 そんな事を思いつつ、俺は非常階段へと向かった。なあに、少し
ぐらいサボっても構わんさ。会社は、不良社員の俺なんかいなくて
も回っていくしな。
 携帯電話を取り出した。俺は時計を持たない。携帯電話が時計の
代わりをしてくれる。ケータイひとつで時計から夜のお相手まで見
つかるのだから、ほんとに便利な世の中になったもんだぜ。
 アンテナが3本、通信状態は良好。さて、可愛いあの子にメール
でも打つか。俺は出会い系サイトにハマっていた。どうやら、一人
良い感じにデートに持ち込めそうな相手がいるのだ。あとひと押し
ってとこかな。俺はほくそ笑んだ。

 非常階段から出たところで、ばったり女史と顔を合わせた。小言
を言われるかと思って首をすくめたら、こうだ。
「あらあら、サボりはダメよ。うふふ」
 全身、総毛立つような微笑みだった。蛇に睨まれたひき蛙のよう
に、からだ中に脂汗が流れた。
 どうしてあんなに機嫌がいいんだ? 変だな、と思ったが、小言
を言われなかったのを幸いに、俺は仕事に戻った。


お題は>>486氏のでお願いします
そのラッパ状に開いた紅い花弁を僕はいとおしく指で触れる。アマリリス
あまり耳なれない名前だ。彼女は僕の耳元で囁く、「ねぇ知ってるんでしょ」
「なにを?」 「わたしの事」
言葉に詰まった。僕は彼女の事など知らなくていいと思っている。
ただ、此処にいる。彼女の発する魅力的な声を聞ければそれだけでいい。

華奢な腰つきに長い黒髪が肩越しまで垂れ、澄んだ瞳で僕を見詰める。
その眼光に僕のすべてを見透かされているような、そんな錯覚に囚われる。
「ねぇ聞いてる?」 「うん」 余裕のない僕の返事。
「さぁ お喋りもこのくらいにして自分の世界に戻ろうよ」僕は畳み込むように言った。

今、僕の目の前には、ヒガンバナ科のアマリリスの花弁が紅に燃えていた。
その咲き誇る姿に…… 僕は見惚れた。

次は「櫛」「感謝」「姫」でお願いします。
渋谷のとあるバーで、わたしは上着を脱いだ男女の輪の中、ざわめきにまぎれて一人静かにカクテルを口に運んでいた。
「ね。紅緒ちゃんの好物ってなんなの?」
ふとそうきいたのはいつだったろう。紅緒が、いつもの屈託ない笑顔で、
「え? そうだな。りんごかな」って答えたのを鮮明に覚えてる。
わたしが隆と出会ったのも、今日と同じように人事課の仲間で企画した合コンでだった。
あの日も、今日と同じようにわたしは紅緒に誘われて出席した。
ほろ酔い加減の帰り道、隆に貰った名刺を見せると紅緒は「いいんじゃない?」と微笑んだ。
あれからちょうど二年たつ。
思えばいつも紅緒が側にいて、煮え切らないわたしの相談に乗ってくれた。
退社間際に急に隆から電話がかかってきたときには、「髪の毛はねてるよ」ってそっと櫛を手渡してくれた。
そして再来月、わたしと隆は入籍する。
中指のエンゲージリングをそっと眺め、カクテルに口をつけた瞬間、紅緒への感謝の気持ちが沸き起こってなぜか涙がこぼれそうになった。
わたしはめぐまれている。
わたしのカクテルグラスに挟み込んであった姫りんごをそっと指で摘んで紅緒に渡すと、彼女はまたにっこり微笑んだ。
「ありがとう」
わたしは誰にも聞こえないようにそう囁いた。
誰もがこんないい友達と出会えるってワケじゃないんだ。
491490:04/02/21 17:15
次は、
「短調」「モノトーン」「鬱」
で。
彼女が白い歯をむきだしにして微笑みかける。
僕はこの笑顔を知っている。唐突に誰かが耳元で囁いた。
その途端に渦が頭に激しく流れ込み、次から次へと知らない光景が浮かび上がってくる。
彼女と光で真っ白な朝の公園を散歩する。次の場面では食事でもしているのだろうか。
ランプの明かりに二人の影が壁に黒く浮き出ている。
今初めて会ったはずなのに、僕らがこれから何をしてそしてどのような結末を迎えるのか。
まるで不出来なラッシュでも見ているように、継ぎ接ぎだらけで見えてくる。
僕は酷く狼狽して軽い鬱にすらなりかけるけれど、止めるわけにはいかないから
白い日差しの中、彼女と笑顔で会話を続ける。
どうせ昨日の事すら殆ど覚えていないのだから、落ち込むだけ無駄なのだけれども
澱が日に日に積もって、心の中でうずたかくなっていくのだけは不思議とわかる。
そんな気分を打ち払って彼女の手を取ろうとしたとき、再び何かが聞こえてきた。
その瞬間にフラッシュバックの如く、一つの記憶が脳裏に蘇る。
夜の場末の映画館、たった一人で僕はスクリーンを眺めている。
映っているのはモノトーンの綺麗な、外国の恋愛映画だったはずだ。
たしか最初の出会いのシーンでこの短調のメロディが聞こえていたような――
493492:04/02/21 18:59
次は「桜」「白髪」「忘れ物」でお願いします。
494名無し物書き@推敲中?:04/02/21 20:42
「毎度毎度思うが、なんてケバイ色してんだ、桜って」
眉間に皺を寄せた部長が僕に語りかける。
「まるで昨今の若者みたいじゃないか。桜ってよ、すぐそこに破滅が待ち構えてるってのに『いまさえ良けりゃいい』と思ってる若者の象徴だと思わないか?」
なんで僕が部長の小言聞かなきゃいけないんだ。まぁ概ね賛成できるけど。
今日は、会社の人達と親睦を深める為の花見だ。場所取りは僕がやった。座りっぱなしだったので腰が少し痛む。
いざ花見が始まり、僕は部長に呼ばれた。皆から少し離れたところで部長が手招きする。僕はてっきり場所取りを労ってもらえるもんだと思ってたのに、まさか桜と若者を結びつける突飛な話が聞けるとは思わなかった。
それを見かねてか、密かに思いを寄せてる先輩が僕に対して笑顔で手招きする。さっきの部長の手招きとは引力が段違いだ。
「部長、ちょっと行ってきますね」
僕がそう言うと部長は、絶対に見つからない忘れ物を探すような悲しい顔になった。「ブルータス、お前もか」と言い出さん表情にも見える。
「部長もいきましょうよ」
そう誘うと、白髪交じりの頭を掻きながら気恥ずかしそうに僕の後ろをついてきた。
口癖が「最近の若い者は」の部長は、実は「最近の若い者」と楽しみたいのだ。
部長のそんな強がりが少し微笑ましい。
「男同士で何話してたの〜? ん?」
皆の所に到着するやいなや、早速先輩に冷やかされた。すでに酒が入ってる。頬がほんのり赤みががった先輩。色っぽいなぁ。
「こいつを労ってたんだ」
部長はさらりと嘘を吐いた。
今宵は楽しくなりそうだ。

ちょっと長くなったかな。
次は「モラトリアム」「パラドックス」「メランコリック」でお願いします。
 モラトリアムで、パラドックスで、メランコリック。すべて今の僕のこと。中学生の状況としてはハードだよな。
 モラトリアム。保護者だった母さんが死んだ。父さんだった人からは連絡がない。だから、シセツに行くことになる
んだろうけど、ヤケドの治療が終わるまでは執行猶予期間で、病院にいてもいいみたいだ。
 パラドックス。母さんといっしょに死ねば良かった。あんなバカ女といっしょに死なずに良かった。母さんに死んで
ほしくなかった。あんなバカ女は死んで当然だ。心が二つあるジョーキョー。
 両親が三年前にリコンした。僕は母さんに引き取られた。これから二人でガンバロウネと言っていたくせに。人が寝
ている間に親子心中にチャレンジしたようだ。ガムテープで家中のドアや窓にめばりをして、ガス中毒を狙ったらしい
が、途中で何かが引火してドッカーン。母さんの計画は失敗した。以上、僕がメラリンコックになった理由。
「健太!」突風のように病室のドアをあけて、髪の毛がぼさぼさの父さんがやってきた。いつもは上から下までキチッ
ビシッとしていたのに「遅くなってすまなかった。海外出張だったんだ」
 包帯を巻いていない左手を、父さんは痛いぐらい握った。
「こんなことなら、お前を絶対に手放さなかったのに。あのバカ女。百辺殺しても気がすまない。なんて性悪なんだ」
「母さんの悪口は言うなっ!!」
 反射的に叫んでいた。
 あ〜あ。モラトリアムは終わりそうだけど、僕の一生はパラドックスでメランコリックなのかなぁ。


次のお題は「交通事故」「桜」「ペペロンチーネ」でお願いします。
(あぁ、なんだ…この世界はこんなにも簡単なモノなのか…)
ちょっと能力を使って、空間を捻じ曲げてみる。
するとそこを通過しようとした車が歪な形に潰れ、対向車線へ弾き飛ばされる。
ガン!という大きな金属音。タイヤがスリップする音。クラクションの持続音。
そして、けたたましい人の叫び声。大惨事の交通事故だ。
車がぶつかると爆発すると思ったが、どうもそうは中々ならないらしい。
仕方ないので意図的に爆発させる。ガソリンタンクやエンジン内部あたりを狙って
ピンポイントでスパークを発生させて見る。
すると望んでいたような爆発炎上が起きた。爆発は予想以上に周囲に影響を与え
上にあった電線を切断させた。至る所でバリバリという火花が降り注ぐ光景は
まるで桜のようだった。
(結構楽しいな…)
しばらくすると余計な連中が辺りを仕切りだしていた。
祭りの舞台から人間を遠ざけようとしている。この俺も例外ではなかったようだ。
だんだん人間が密集して来る上、舞台が見づらくなってくる。
(邪魔だな…こいつら)
力を使う。水風船が割れるようなイメージで。
ぱん!ぱんぱんぱん!という連続音がした。そして、びちゃびちゃ!という水音
ピンク色の色んな臓物が当たり一面に散乱する。思ったより腸って長いものだな、と思った。
(何かに似てるな…えっとペペロンチーネだっけ?あ、ちがったかカルボナーラ?
 あれ?アラビアータ…だったかな…)
どうでもいいことだ、と途中で思考をやめた。
(あぁ…なんか、何もかもどうでもよくなってきたな…)
神のごとき力を手に入れた少年は、とぼとぼと無気力に歩き出し
やがて路地裏の闇へと消えた…

『交通事故』 『桜』 『ペペロンチーネ』
↓next themes
『携帯電話』 『幻惑』 『ambivalence』
 僕はソファに座り込むと左手で器用に煙草を一本取り出し火をつけた。
 のたりとした紫煙が部屋の中を這い上がっていく。
 不意に幻覚を見たような気がした。
 
 まだ小学校にあがったばかりの僕と一緒に、父が公園でキャッチボールをしている。
 将来はプロ野球選手になりたいといいながら投げた僕の球は
 「そうか」
 と一言だけ呟いて笑みを浮かべた父のミットに綺麗に吸い込まれていった。
 不意に場面が切り替わる。中学三年生の秋頃だろうか。
 受験生ということで、僕らの多くは自分の進路というものを生まれて初めて
真剣に考えなければならなくなった。
 けれど当時反抗期真っ盛りの僕はやりたいことなど特に無かったので、
思いっきり冷淡に高校には行かないことを父に告げた。
 「そうか」
 父はまたそれだけ言って自嘲めいた笑みを浮かべるだけだった。
 結局通信制の高校に決めたときも、その後母が倒れたときも、僕が恋人を家に連れてきたときも。
 口元に笑みを浮かべて頷くだけだった。何の手応えも無い、全てを諦めた表情で。

 だから僕は父のことを好きだったのか嫌いだったのかあまり良くわからない。
 これが倫理で習った『ambivalence』の結果なのかどうかも興味が無い。
 やらなくてはいけないことは一つだけだ。僕は考えるをそこで中断すると
 横たわる父のズボンのポケットから、真っ赤な右手で携帯電話を取り出し「110」と静かに押した。

 
次は「過半数」「国家」「嫉妬」でお願いします。
498ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/22 14:23
 H国の国家元首は、絶世の美女だった。
 彼女がにっこり微笑むと、過半数どころか満場一致で議題は通過
した。男性議員のみならず、女性議員もその艶やかな微笑みには抗
えなかった。普通、同性の嫉妬があるようなもんだけども、本当の
美しさは男女問わず魅了するんですね。
 国営放送で一日中、彼女のプロモーションビデオを流す法令が国
会を通過した。国民は諸手を上げて賛成した。美術の教科書の、モ
ナリザの微笑みが、彼女の微笑みに差し替えられた。
 彼女の警護のための武装親衛隊が結成された。彼女の写真入りは
っぴと鉢巻きがもらえるとあって、志願者が殺到した。鉢巻きには、
『彼女の名前』命、と書いてあった。軍事費はGNPの過半数を占
めようとしていた。
 彼女の美しさを称える記念館が建設されることになった。沢山の
国民が自ら無償で建設を手伝いたいと申し出た。整理券が配布され
るほどだった。人夫の数が余りにも多いので、記念館の規模はどん
どん、大きくなって、今ではまるで巨大な神殿のようだった。国中
の音楽家が、彼女の美しさを称える歌を争って作り出した。女達は
こぞって彼女のメイク、服装、仕草を真似をした。しかし、あの微
笑だけはどうしても真似することができなかった。
 独裁ではないのか――。その頃、国連では活発な討論が行われて
いた。A国などは、強行に派兵を主張した。しかし、常と違ってど
んなに恫喝しても常任理事国の賛成が取れなかった。理事たちはう
ちわで顔を扇いでいた。うちわには、彼女の微笑みがあった。
 単独で攻撃しようにも、A国の世論が中々思ったようにはいかな
かった。そこで、A国首脳はH国の国家元首――独裁者を暗殺する
事にした。強靭な意志をもつ憂国の志士を指そうして、誕生日を祝
うパレード中の彼女を襲わせた。暗殺者は至近距離で微笑みを浴び
て、骨抜きになってくずおれた。全世界に放映されたその光景をA
国首脳は、うっかりみてしまった。あの微笑を。
 微笑みによる世界の統一は、近い。
499ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/22 14:29
「過半数」「国家」「嫉妬」でした。

次は「かりんとう」「マウスピース」「テディベア」でお願いします。
午後4時。小腹が空いた。
私は戸棚の奥にしまっておいたかりんとうの袋を取り出して
テレビを見ながらおやつを食べる事にした。
袋を破くと、中にはなぜかマウスピースがぎっしりと。

「それ、自分のっス」
背後から突然かけられた声に、私はびくっと肩を揺らした。
「スンマセン。それ、自分のっス」
振り返るとソファの影に赤いパンツのボクサーがいた。
マウスピースを1つ取り出して投げると、
別の場所から現れた違うパンツの色のボクサーが、サッとマウスピースを横取りした。
「それ自分のっス!」
ふたりのボクサーがマウスピースを奪い合って暴れるので
ピアノの上に飾ってあるデディベアが衝撃を受けてグラグラと揺れる。
これ以上家の中で暴れられるとかなわない。
私は残りのマウスピースを袋ごと庭にばらまいた。

暴れていたボクサー二人が先を争うように庭へと躍り出た。
「それ自分のっス!」「それ自分のっス!」「それ自分のっス!」
外でひなたぼっしていた野良ボクサー達も加わり、余計に大騒ぎになってしまった。
ああ。



次は「ヘアピン」「カップ」「犬」で。
>>500
訂正

外でひなたぼっしていた→外でひなたぼっこしていた

脱字すみません。
 俺は引き篭もりなので鳩は欠かせない。
欲しいものがある時は鳩の足にヘアピンで「欲しいものリスト」を留めて指示を出す。
ミスはまずない。なぜなら俺の鳩は鳥の能力コンテスト『ことりさんカップ』の優勝鳥だ。
そりゃあ、ここまで偉大な鳥にするには苦労はあった。親に指導方法を覚えさせて、血の滲むような訓練をさせたものだ。
中でも、低空ギリギリを飛ばないように(天敵の犬に喰われる恐れがある)させることを特に重要視して育てた。
今日の欲しいものは「ツムラ 日本の名湯 5包セット」だ。よし、いけ。

 親は日中仕事でいない。だが欲しいものはいつでも手に入れたい。そこで鳩なのだ。
しかし、ここでイレギュラーが生じた。突然巨大な鳥が俺の家を銜えて飛び上がってしまったのだ。
これは大変だ、鳩が帰る場所が分からずに混乱してしまう。そうすると日本の名湯が手に入らず、非常に困る。
だが大鳥は、そんなことはお構いなしとばかりに自由気ままに空を舞っている。家を振り回しながら――。
日本の名湯の、特に『登別カルルス』に浸かりたいんだがなあ……。

「プレス」「大穴」「社員」
503「プレス」「大穴」「社員」:04/02/23 02:05
汚いプレス工場で働いていた。油と汗だらけになり必死になって働いても大した金にならない。男なら競馬で稼がなきゃいけねえ、そう思っていた。
俺は酒もタバコも女もやらないがギャンブルだけは死ぬほどやる。だが下手の横好きとはよく言ったもので全く当たらないのだ。
俺のギャンブル仲間に三船というオッサンがいる。オッサンの勘は死ぬほど当たる。だがオッサンは最終レースだけは必ず外すのだ。
そして最終レースに儲けた金全部つぎ込む、もちろんパーだ。その後必ず言う。
「人生と同じさ、いい大学出ていい会社に入っても、最後にヘマをすれば全てがパー。それでお終いさ」
オッサンは外資系大会社の社員だった。ようやくこぎ付けたデカイ取引で大コケ、責任とって辞めたらしい。
「お前、もうギャンブルやめろよ。向いてねえよ、このレース最後にして真面目に学校行って働け、コツコツな」
「ならオッサンだって最終レースに全額つぎ込むの辞めろよ、諦め切れねんだろ?俺だって同じだ。好きなギャンブルやって好きに生きたいんだよ」
ここまではいつものやり取りだった。
「最終レース、かけようぜ」
オッサンがいきなりマジな顔して言ったんだ。
「俺が勝ったら、お前ギャンブル辞めて学校行け。負けたら、200万やるよ」
そう言ってオッサンは俺の返事も聞かずに諭吉で超大穴の万馬券を買った。当たる分けない、そう思っていた。
第一コーナーを廻る、第二、第三、最終コーナー。そこからは奇跡みたいだった。
後方の馬軍に埋もれていた一頭の馬が抜け出し、その空いた隙間からもう一頭16番人気が飛び出してきたのだ。
先行集団が嘘の様に後退して行き、二頭の馬が飛び出した。オッサンが賭けた二頭だった。

今俺は大学に通っている。オッサンが当てた万馬券200万を入学資金にして……。

「ニュース」「野菜」「女の子」
「あれっ」 女の子は道端の草むらに小さなビー玉を見つけた。「うわっきれい」
そう言いながら、屈み込みゴルフポール位の大きさの黒いガラス玉を手に取った。
吸い込まれそうな暗黒色の中に蒼い点やオレンジの点が渦を巻いている。
「うわっ すごい〜動いてる」 女の子はその玉をポケットに入れ家路を急いだ。

「絵美、ちゃんと野菜も食べなきゃダメでしょう」 「は〜い」 平和な朝の食卓。
絵美は昨晩の残りのクリームシチュウをスプーンで掬いニンジンだけ、うまく除けていた。
あっそうだ。昨日拾ったきれいな玉、あれを学校に持っていこっと。
絵美は自分の部屋に行きベットサイドに置いた玉を掴み、ランドセルを背負う。
廊下を走るように台所へと戻る。「ママっ行ってくるね」「絵美、ごめん冷凍庫からアイスノン
持ってきてくれる」「えっー」「パパが熱だしちゃったのよ、お願い早く」
絵美は食卓の椅子を冷蔵庫の前まで引きずり椅子の上に乗り冷凍庫のドアを開ける。
右手に握っていた玉が邪魔になり 「ちょっとここに置いておこっと」 「ママないよー」
「奥の方にあるはずだからー良く見てーー」 「あったあった」 そのまま玉は冷凍庫の中に
置かれドアは閉められた。

数時間後、全世界のニュース番組が臨時ニュースを流していた。アナウンサーが原稿を
読み上げる。「世界的な異常気象が今朝から観測されております…… 地球全体が……
まるで冷凍庫に入ったみたいに…… 」

次は「台風」「ケーキ」「綿棒」でお願いします。
アナウンサーの甲高い声がテレビの中から聞こえてくる。
どうやらまた何か重大な事件があったらしい。
どうせ、牛が死のうが、鳥が死のうが、菜食主義者の俺には大して関係の無い事だ。
野菜さえ、あればいいんだ。現に、俺は肉類を食わなくても丈夫だし……。
だが、その俺の緩慢な思考は突如遮られた。
今、俺の目に何が写った?画面を食い入るように見つめ何度も何度も確認した。
だが、俺の目に写っているのは少女の形をした人参が走り回っている姿だ。
何度も何度も何度も何度も確認したが人参と少女は同じ物のようだ。
こんな馬鹿な話はあるはずがない。俺は、すぐにリモコンを探しチャンネルを変えた。
しかし、どの局でも同じニュースだった。いや、同じニュースではない。
人参だけでなく、大根、牛蒡等の根菜が、軒並み同じ様な目にあっているという。
根菜だけじゃない。他の野菜も動き回りはしないものの似た様な異変が現われているらしい。
一体、何があったんだ。ロリコン野郎ならば少女野菜の大量発生に喜ぶかもしれないが
俺はそうじゃない。明日から俺は、一体何を食っていけば良いんだ……。

「迂回」「天使の」「道草」
506505:04/02/23 03:14
被ったのでお題は504の「台風」「ケーキ」「綿棒」で。
507「台風」「ケーキ」「綿棒」:04/02/23 14:34
「もう、たくさんだ!」
アキラは突然、目の前にあったケーキを皿ごと床に叩きつけた。
それまで口論をしていた父と母が、我に返ったようにアキラの方を見る。
アキラはわけも分からず、手当たり次第に周りに置いてあった物を投げた。
「アキラ!」
父親の声が響いた。右手に持った電話帳と左手に持った綿棒の箱が、ケーキの傍に落ちた。
アキラの肩は震えていた。
「喧嘩なら、明日でも明後日でも、好きなときにすればいいだろ」
アキラは居間のドアを乱暴に開けると、何事か叫びながら階段を駆け上がっていった。
女子アナが傾いたテレビから床に向かって台風情報を伝えていた。


次は「ツクシ(土筆)」「ブラシ」「ボール」で
508ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/23 17:45
 春の陽気に誘われるように、二人で川べりの土手へ散歩に出た。
俺と美和子はもうすぐ、いわゆる出来ちゃった結婚、である。
 美和子は、エチケットブラシを取り出して、甲斐甲斐しく俺の肩
を払ってくれた。きっと、いい女房になるだろうなあ。ふふふ。
「あ、ツクシ」
 美和子が指差した先に、ツクシが二本、生えていた。
「ツクシってね、ツクシどこの子スギナの子って童謡があるぐらい
で、一般に、ツクシのほうが子だって思われてるけど」
 俺はここぞとばかりに博学なところを披露する。
「そうねえ。というか、スギナとツクシって関係あったのね」
「油断がならないよね、ツクシってやつはスギナの胞子茎でね。ス
ギナはツクシの胞子で繁殖するんだ。ツクシの方が親、とも言える。
まあ、鶏が先か卵か先かみたいなもんで、どっちとも言えることな
んだけどね」
「へえ。進さん、物知りね。そういうところも好き」
 俺は、鼻高々だった。キャッチボールをしている親子のほうを見
やった。
「ほんと、世の中って油断がならないよ。あの親子だって実は小さ
い子のほうが親だったりしてね。ははは」
 親子はぎくり、と肩を震わせた。バツが悪そうに去って行った。
「……?」
 足元を見た。そこに生えていたはずのツクシが、いつのまにかど
こかへ消えていた。
「……」
 急に不安になった。微風すらない春の陽気が、腕に、ぬるっとま
とわりついている。。
「……お腹の子は、本当に、僕の子……なんだろうね?」
 搾り出すようにして、ようやく声を出した。
「……やあね、何を言うのよ。決まってるじゃないの」
 なぜか、美和子まで消えてしまうような気がした。
509ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/23 17:53
「ツクシ(土筆)」「ブラシ」「ボール」でした。

次は「アヒル」「入学」「一輪挿し」でお願いします。

ようやく春の兆しが感じられるようになった、ある日の夜更けに
私は母の一輪挿しを机の上に両手を重ね、暖めるようにして握っていた
昨夜、私の進路を巡って言い争ったあの時に、母が見せたアヒルの様に尖った
口元を歯がゆく思い、僅かに掌を握る力が増した
地元の私立高校へ入学する事はすでに決まっている。私の決めた事は正しかったと思いたい
溜め息をつくと、一輪挿しに付いてしまった汗をそっとふき取った
今日はもう寝る事にしよう・・・・・・目を閉じて、そのまま夜が明けるのを待った
母はもう帰ってこないのだから

次は「理不尽」「綺麗」「寂しさ」
「この泥棒猫!!」
美代子の右手が私の腕を強く掴んだ。
ホテルから出てきた私と彼女の恋人である武彦を待ち伏せしていたのだろう。
こんな遅くまで雨の中、よくも待っていられたものだと思う。
自分の恋人を友人に寝取られて、悲劇のヒロインにでもなったつもりなのだろうか。
「……綺麗な顔して、なんでも許されると思ったら大間違いよ!」
ホテル街の一角とはいえ、こんな渋谷の往来で、美代子は私に向かって大声で叫ぶと同時に
掴みかかってきた。
「悔しいなら取り返してみなさいよ。私がこの人を奪ったと思うなら、あなたも奪い返せば良いんだわ」
白く柔らかく、締まりのないその腕を私がひねり返すと、美代子は大仰に痛がり、
泣き叫んで武彦へと助けを求めた。
武彦はおろおろとするばかりで、「もうその辺でやめてやってくれ」などと腑抜けたことを口にした。
美代子が泣きながら武彦にすがる。
「あなたしかいないの。私を捨てないで」
プライドのない言動で男を引き止める。すがりつくことが女のカードだと思っている。美代子はそんな女だ。
涙でぐちゃぐちゃになった顔で、美代子は武彦の足にすがり付いて離れない。
何も努力しない、あなた見たいな人には決して手に入れられないものを確かに私は持っている。
この顔で生きてきた。この顔で生きていく。私は自分の顔にも体にも誇りを持っている。
けれど、心の赴くままに泣き叫び、暴れて見せた美代子を見ていると、
あんな風に生きられたら気持ちは楽かもしれない、などと思ったりもする。
自分のプライドは曲げられない。地に這いずり回るような女にはなるものか。
しかし、武彦の腕の中で勝ち誇ったように泣きじゃくる美代子を見ると、なぜかしら理不尽な寂しさが私を襲った。
512511:04/02/23 21:37
次は「再生」「時間」「人間」で。
 苺状血管腫。イチゴなんてかわいらしい言葉が使われているが、先天的奇形のことだ。血管内皮細胞が自分勝手に増殖
して、勝手に死んでいく腫瘍のこと。
 一般人にはなじみのないが、私には一生つきまとってくる言葉。何の因果か、私の顔に苺状血管腫がある。
 テレビで雛人形のコマーシャルが流れる時期は憂鬱になる。
 人形は顔が命です、というお決まりのフレーズ。これが「人間は顔が命です」に聞こえてしまう。綺麗な人形の顔がテ
レビに映ると、リモコンを持つ。頭では分かっている。顔が命なのは人形であって、人間じゃない。けれど、理不尽な怒
りと、人間の仲間にいれてもらえない寂しさを感じ、チャンネルを回す。
 時々、思う。もしも神さまが私の目の前に表れて、願い事を一つ叶えてやろうと言ったら、自分は何を頼むだろうかと。
 時間を戻して、苺状血管腫のない自分にしてくださいと、願うだろうか。
 でも、そうやって再生された自分は、果たして、今ここにいる私なのだろうか?
 苺状血管腫で悩んだり悲しんだり、それをバネに頑張ったりしてきた私の心がなくなっても、それでも私だと言い切れ
るのだろうか。
 今、目の前に神様がやってきて、なにを祈願するかは分からない。
 ただし、二つ以上の願い事を叶えてくれるなら、そのうち一つは決まっている。次に生まれ変わる時は、苺状血管腫の
ない、五体満足の普通の人間に生まれさせてください、だ。


 次のお題は「ふきのとう」「海水浴」「ユビキタス」

幼い日の思い出は、春のふきのとう、夏の蝉、秋のドングリ、冬のかまくら。
木の上の秘密基地、透明ランナー、寺の床下の子猫。
山間の小さな町で、いつもと同じ顔ぶれで、毎日毎日飽きもせず日が暮れるまで遊んだ。
都会での生活に憧れを抱いてはいたが、そのころの私には、この町が世界の全てだった。
明日も明後日も、ここでこうして遊ぶことが当たり前で、それ以外の日常はテレビの中の絵空事だった。
子供から少女へ移るころ、町の外で生活を始めた。外での生活は全てが新鮮で、楽しかった。
初めて電車に乗った。海水浴をした。映画館で映画を見た。カラオケボックスで歌った。
沢山の娯楽と沢山の経験をして、私はだんだん都会での生活を当たり前にしていった。
大人になって、また別の都会で働き始めた。今度は何の新鮮味も感じなかった。
都会は何処にあっても当たり前の都会で、都会という箱庭に乗った私がただ地面を移動しているだけのようだった。
何処にいても全く同じ、変わることのない日常。まるでユビキタス・コンピューティング。
いつもと同じ顔ぶれで、明日も明後日もここでこうして働いていくのだなあ、と思った。
幼い日に感じたのと同じ、永遠に続いていくかのような日々。けれど今度はそれがひどく寂しかった。

次のお題は「本」「医者」「砂漠」でお願いします。
515「ふきのとう」「海水浴」「ユビキタス」 :04/02/24 01:20
寒風吹きすさぶ海水浴場脇の堤防。
両肩に釣り具を抱えた賢治はコートで風をよけながら、スタイラスでぽちぽち液晶をたたいていた。
「潮風は精密機器に悪いんだよね……うわっ、ここFOMA通ってない。田舎」
だったらやらなきゃいいのにと思う。
今日だってあたし置いてくればっていったのに、そんなのユビキタスじゃないだの何だの……
「ちょっと待ってね。今ぐぐってるとこだからもうすぐ絶好のポイントが」
「いつもはあの先で釣ってるの。それにここ、そんな有名なとこじゃないし」
「でも結構探せば……ほら、ほら! あった。ね? あのあたりの右側。あそこがいいみたいだよ」
賢治はあたしが行こうとしていた堤防の先を指さした。
「うん。じゃあいこうか」
あたしは怒る気力もなくしてため息をついた。
「これ結構役に立つだろ。昨日ふきのとう取りに行ったときもさ、どの山が一番とれるか」
あたしは賢治を振り返った。
「ねえ、昨日のふきのとう、苦かったよね」
「え?」
賢治はきょとんとして答えた。
「あたしさ、くちに入れた瞬間ウエーってなっちゃってビールがぶ飲みしちゃった」
「実は俺も。由香ががぶがぶ食ってるからさ、まずいって言うのもなんか……なんだ、由香もだったんだ」
[ん。すっごいまずかった」
あたしは舌を出しながら賢治に笑いかけた。

次は「こだわり」「はすかい」「マラソン」
516515:04/02/24 01:21
すいません、本、砂漠、医者で
中国西部・最奥地、タクラマカン砂漠。
「生きて帰れない砂漠」という意味を持つこの砂漠で、男はまさにそれを体現する状況にあった。
学術調査のためにジープで研究隊とともにこの砂漠に入り、
途中、砂嵐に巻かれたところで記憶が途絶えていた。
カギっ鼻の現地人が言っていた、嵐に巻き込まれたら一旦その場に留まる、
という言葉を今さら思い出す。
ともかく男は砂漠のど真ん中で途方に暮れていた。
壊れて動かないジープの中で体を動かさずに目だけで時計を見て、
自分の時間感覚が狂っていることに気付かされる。
今なら医者から即入院の太鼓判を押してもらえる状態にあることは自覚していた。
いや、葬儀屋の審査を通るのではないか。
後部座席に積まれた計測機器や本と資料の束が、水と食料ならどれだけよかったか。
そんなものは今さら何の役にも立たない。
男はゆっくりと目を閉じると、乾いた唇を舐めた。

次は「小遣い」「狸」「ビール」で
518「小遣い」「狸」「ビール」:04/02/24 03:13
「それでな、カミさんが俺に言うわけだよ。娘の教育には口を出すな、ってな」
鹿野は手の内から一枚牌を取り出すと、場に投げた。
「あ、それポンです」
対面に座っていた森が卓上を指差して薄笑いを浮かべる。
「鳴いてばかりだと安くなるぞ」
「その言葉そっくり返してあげますよ」
肩をすくめる鹿野に、森は薄笑いを顔に貼り付けたままツマミを口に運ぶ。
「カミさんのことでしょっちゅう泣いてるじゃないですか。
 この前は小遣いのことで泣いてましたよね。いっそのこと別れたらどうですか?」
鹿野が改めて自分の手の内を見て渋い顔をした。
「おいおい、俺に首でも吊れって言うのか?」
「そこまでぞっこんなら、どこまでも追いかけていくこった。ひょっとすると化けるかもしれんぞ」
井原は牌を捨ててあごひげをさすりながら、同じく苦そうな顔をしていた。
笑っている森を横目に、一番の年長者である赤田が汗をぬぐいながらビールを飲み干す。
「ウチはもう化けてるね。狸だったことを考えると、化けの皮が剥がれたと言うべきか」
少し乱暴にビールジョッキを横に置いた。
「まったく、僕の立場ってものがないよ」
「次は俺の番ですかね」
森は山から新しい牌をつかみあげ、そのまま場に投げた。再びツマミを頬張る。
「そうそう勝っていられると思わないことだよ」
続けて赤田が空のビールジョッキを片手に、手の内から牌を切り出した。
「お、ロンですよ、と」
森は満を持したかのように、全ての牌をきれいに倒した。
「またお前か」
ため息交じりの三人の声が揃う。夜が更けていく。
519518:04/02/24 03:16
えーと、次は「ダンス」「空」「時間」でお願いします。
父の腹が最近狸のごとく出っ張ってきているのが気になっています。
あれこれ理由を考えたが、運動は適度にゴルフに行っているようだし
ご飯を食べ過ぎている様子も無い。と、すればやはり夕飯時のビールだろうか。
だが、いくら腹が出ていることと、飲みすぎを理由に諌めてもいっこうに量が減る様子無い。
そんなことを考えていたある日、父がゴルフのスコアが良かったとかで機嫌が良く、珍しくお小遣いをくれた。
使い道に、思いをめぐらせていたがふと父の狸腹を思い出し、洋品店に買い物に行く事に決めた。
洋品店に行き、目当ての物を購入した後本屋などによってふらふらしてから帰るとちょうど夕飯の時間だった。
ただいまを言いに、食堂に行くと父がいつものようにビールを飲んでいたので、買ってきたものを手渡した。
父は怪訝そうな顔で私を見た。
「お父さんのその様子だとパジャマのズボンすらきつくなってるんじゃないかと思って」
私はニヤニヤ笑いながらそう答え、荷物を置いて着替えるために部屋に戻った。
私が、父にプレゼントしたのは『パジャマのズボン用のゴム』。
あれから、父の酒量はほんのすこしだけ減りました。……ほんの500ml程ですが変わらないよりはましでしょう。
良い事をすると気分が良いです。
(一部実話)
「毛糸玉」「禿頭」「六角形」
ダブったので次は「ダンス」「空」「時間」で。
昔の人は空に散る星々が動くのを時間の目安としていました。
そして、朝になり太陽が昇ると太陽の位置が時計代わりです。
頭の真上に太陽が来たらお昼ご飯の時間です。
さて、この時計を見てください。今は10時45分ですね。
今、みんなは、運動会のダンスの練習を、グラウンドでします。
太陽が、頭の上に来たら給食の時間ですよ。これで、時計が無くても大丈夫でしょ?
納得した?じゃ、帽子はかぶりましたね?準備は良いね?
他の学年の教室は授業中なので静かに行って下さいね。
そう言って、彼女は教室の扉を開けてやり、1年2組の最後の生徒をグラウンドへ送り出した。

「現実的」「プロセス」「法治国家」


 砂のお城。コップやバケツで型抜きして出来た町並み。湿っているだけの川。お約束の山とトンネル。
中心に座っているのは王様であるツトム君。しかしもうお昼寝の時間だ。「ツトム君、手を洗って中に入り
なさい」ツトム君はこちらを見て「そんな法律はないです」という。ツトム君は砂場を指差し「法治国家なん
ですここは」と小鼻をふくらませた。わたしはため息をついて腰に手をあてた。「いいからこっちに来なさい」
「いやです。ハンケツはショウソですから」もう頭にきた。「超現実的な存在の前に、法なんて無意味なのよ!」
ゴジラと化した私は、ツトム君の王国を無残に蹴散らした。かつての尊大な王様は、いまや泣きじゃくるただの
園児である。わたしはチョコッとだけ罪悪感に襲われて、「王様、これでご機嫌をなおしてもらえませんか」と
プロセスチーズをうやうやしく差し出した。

「断片」 「なまこ」 「ビル火災」
遠くから…… 声が聞こえる。 お・き・て……
しだいにハッキリしてくる声。バシッ 耳元で音がする。
鈍い痛みが遠くの方から頬へと伝わる。 「起きて」
看護婦のやわらかな指が僕の肩を揺らしていた。「・・・さん聞こえる?」

「はぁ…… ここ何処ですか?」「病院ですよ、分かりますか」「病院……」
僕は記憶の糸を手繰る。そうだ、僕はいつものように仕事をしていて
けたたましい火災報知器のベルの音が鳴り響き……あぁ思い出せない。
「思い出せないんです」「無理しなくていいんですよ、そのうち記憶が断片的に
戻ってきますから」看護婦は僕にそう言いながら点滴の針を腕に刺していた。

後日、退院間際に聞かされた話によると僕の仕事場である事務所が入っている
建物がビル火災をおこし、僕は煙の中に倒れていたらしい。幸いにも煙を大して
吸わず一命を取り留めた。それ以来、僕は記憶を失くしてしまった。

先日、秋葉原の裏通りを歩いていたら二坪くらいの小さな店先におもしろい
張り紙があった “記憶売ります” 店の奥には、なまこ目の親父が座っていた。
「すいません」 僕の靴底は躊躇なくその店の床を踏んでいた。

次、「ボールペン」「電池」「ペンキ」でお願いします
「ボールペン」「電池」「ペンキ」

ついてないって日は誰にでもある。わたしの場合、今日がそれ。

待ち合わせ場所にめずらしく余裕を持って着いたと思ったら、相手からちょっと遅れるとのメール。
たまたま花屋の前にベンチが置いてあったので、そこで待たせてもらうことにした。
わたしも物書きの端くれ。暇つぶしは割と得意なほう。
バックからネタ帳を取り出し、イヤホンを装着。MDを再生させるが、音が出ない。電池切れ。
それだけじゃない。ボールペンもインク切れ。しかも持ち合わせの二本とも。ふぁっく。
ふと気づくのは、己が身を預けるこの木製ベンチが、いやにつややかな発色をしていること。
そして、嫌な予感を煽り立てるのは、足元に落ちている一枚の紙切れ。まさか、そんなベタな。
祈るような気持ちでグリーンのペンキで色づけされた板を指でこすってみる。ツルツル。
よかった。完璧に乾いてる。落ちていた紙切れを拾い上げると、パート募集の張り紙だった。
ほっと胸をなでおろしたところへ、友人がやってきた。わたしを探してきょろきょろしてる。
さっと立ち上がると、ビリリっと布を裂くような音がした。
もし、仮に、釘の頭が少し飛び出ていて、それにスカートが引っ掛かったら、
こんな音がして破れるんだろうな、そのときわたしが思ったのはこんなこと。

ついてないって日は誰にでもある。わたしの場合、今日がそれ。

お次は「カミソリ」「イケメン」「お姉さん」
525-399=126   ……14日から今日までの作品数
126-10-2=114  ……自分の書いた分と747の書いた分を取り除く
(10+2)÷2=6   
114÷6=19
19+2=21

約二十一人居る(大嘘
 「カミソリ」 「イケメン」 「お姉さん」


 「イケメンですよねえ、彼」ワイドショーのお姉さんがうれしそうにはしゃぐ。
  コウキはなんだか腹が立って、TVのスイッチを切った。
  ひさしぶりのオフなのだが、外出するのが面倒くさい。
  ソファに沈み込んでいると、インターホンが鳴った。
  モニターに映っているのは、おどおどした様子のマネージャーだ。なんの用だ、とドアを開ける。
  最初に感じたのは、水しぶきだった。
  いや、赤い。
  目の前に赤い女が立っている。なぜ赤い。
  カミソリが目に入った。
 

 「腸捻転」 「ボーイング747型機」 「ちくわ」
 ……いたっ。……いたいってば。何がちくちくするんだ?あたし
は目を覚ました。ここは彼の家、彼のベッド。イケメン、スポーツ
マン、お金持ちの3拍子揃った完璧な彼と念願の初エッチを済ませ
て、幸せな目覚め、の筈なのに、このちくちくでだいなしだよ、も
う!
 あたしは緩慢な動作で身体を起こした。彼はまだ眠っているよう
だ。ふふ、寝ぼけたブスな顔みられないように、昨晩ハッスルしと
いてよかったわ。うふ、彼ったらXXXで○○なんだもん。あたし
は思い出して、にやにやした。おっと、そうだわ。寝顔を拝んでや
るか。きっと可愛い寝顔なんだろうなあ。えへへへへ。
 ドカーン。低血圧が吹っ飛んだ。あたしは、きのう食べたお刺身
の、お頭付きの鯛のように、口をパクパクさせた。
「なっなっなっ! なあによこれえええ〜っ!?」
 彼の顔から、30センチ程はあろうかというヒゲが、一直線に伸
びていた。まるでハリセンボンのように。しかも顔中。
 バターン。その時、扉を開けて、彼のお姉さんが踊り込んで来た。
「とうとう見たわねっ」
「お姉さんっ!? いや、つかあんたタイミング計ってたのっ!?」
「だまらっしゃい!」
 お姉さんはものすごい剣幕であたしの口を封じた。こ、こわい。
「いい、桃の木さん。大金餅財閥の跡取である、修一郎の秘密を知
ってしまったからには、二つに一つよ。マリッジ、オア、ダ〜イ!」
 な、なんだそりゃああああ!
「ちょっ、ちょっとまってください!」
「さあ、死にたくなければ、飛騨の匠に作らせたこのカミソリ、名
刀貞光で修一郎が目を覚ます前にヒゲを剃りなさい! それが大金
餅財閥の女の勤めっ! 彼にも悟られてはいけないのっ!」
 お姉さんの目が爛々と輝いている。本気だ。本気と書いてマジだ。
あたしは、ゴクリ、と唾を飲み込むと、震える手で、カミソリを手
に取った。あ、あたし、これからどうなるの〜っ!?
529528:04/02/24 15:06
お題は>>527でお願いします。
530ddt ◆OK6jfumzas :04/02/24 16:40
「腸捻転」 「ボーイング747型機」 「ちくわ」


 日差しがしたたかに打ち付けるので、しかたなく手で覆いを作った。
 眼前に広がる銀色の海原からは、潮の匂いが絶え間なく流れてきて鼻腔にこびりつく。
 その上を今空港から飛び立ったばかりのボーイング747型機が、巨大な飛び魚のように
羽を広げて舞っていた。
 あのちくわのような内部をくりぬかれた胴体には、一体どれだけの人が詰め込まれて
いるのだろう。自然とため息が一つ漏れる。
 飛び魚はこちらに尻を向けたまま天めがけて舞い上がっていた。それを一瞥すると、
左手に仕込んだスイッチに手をかける。
 ゆっくりとボタンを押すと、飛び魚の両の羽の付け根から綺麗な花火が舞い散った。
 翼をもがれた胴体は、痛みでぐらんぐらんとのたうち回る。ちくわの内部も腸捻転に
匹敵するほどの大騒ぎになっているに違いない。
 その姿があまりに滑稽で急に笑いがこみ上げてくる。腹がよじれるほど痛い、痛い。
知らなかった。腸捻転は伝染する病気だったのか。
 ひとしきり笑い転げたあと、再び視線を上げると、巨大なちくわの胴体は、魚で
あったころを懐かしむかのように、大海原へと飛び込んでいくところだった。


次は「ゲーム」「新聞」「初任給」でお願いします。
531sage:04/02/24 18:53
「ねえ、この新聞に面白いことが書いてあるよ。
『新社会人の8割、女性との交際費を削ってでも初任給でゲームを購入』だって」
「うん」
「嫌な時代ね。でもあなたは違う。女の子にはとても優しいものね」
「うん」
「プレゼントは欠かさないし、待ち合わせは時間通りだし、
 会いたいって言えばすぐに会ってくれるし。ホント、男の中の男よね」
「うん」
「……ゲームの中だけではね!」
「うん」
 男は女に背を向けてギャルゲーに没頭していた。

お次は「プリンタ」「からし」「オルゴール」で。
今日も娘と言葉を交わす事無く、食事が終わった。
無言で席を立つ娘の背中と、自分の手の中を見ながらため息をついた。
誕生日。娘の特別な日は、すでに彼女にとってそうではないらしい。
手の中には父親の片思いの欠片が、出番の無いまま残っていた。
二日前、家政婦に言われて物置のダンボールを開けた。
中には、ぬいぐるみやオルゴール、子供用の時計など今まで娘の誕生日に
贈った物がすべて入っていた。どうやら全てが片思いに終わっていたようだ。
遠い親子関係。しかし、遠ざけたのは私なのだからしかたが無い。
今からでも歩み寄れたのだろうか。
私はすでに、未来の仮定も後悔の起因となる状況に身を置いていた。
医者の診断で余命3ヶ月。5年前に先立たれた妻と同じ病名だった。
伝染する物では無いので偶然の結果だと言われたが、妻の意思を感じた。
娘には伝えない事にした。私は明日、仕事と偽っていつもの様に長く家をあける。
私の死後の事は問題ないように手配もすんでいる。最後に、私は娘がPCで
書いた自分の絵を私の部屋のプリンタで印刷している事を知っている。
仕事用の大容量の給紙トレイの一番底に、最後の片思いの場所を書いたメモを残した。


「甘栗」「うに」「皿」
 私の恋人は、子供のような人だった。

 初めてのデートは回転寿司屋だった。
次々に回ってくる皿を目の前に、目を輝かせながら「何でも好きなもの食べてよ。」と嬉しそうに言った。
もういい年なんだから、普通のすし屋のカウンターでしっぽりしたいな・・・・・・と思ったけれど、
あまりに嬉しそうな彼の顔に何も言えなくなった。
「シメはメロンだよなぁ」とか言いながら、幸せそうにプラスチックのスプーンを破り開ける彼を見て、
私も子供に戻ったような気分になって、プリンなんか取ってみたりした。
彼はお約束のように、私のプリンに醤油をかけて、「うにの味になるから!」と喜んでいた。
もう大人になってしまっているのを分かっているのに、子供の自分を演じているような、そんな彼が大好きだった。
 だから祭りの日に、彼から別れを告げられた時も、そんなに驚かなかった。
「おまえは一人でも生きていけるから」なんて、そんなくさい台詞を真顔で話す彼に少し笑ったりもした。
彼は、正義を信じ、悪を下し、弱きを助け、お姫様と幸せになる。私が子供の頃に憧れた、正義のヒーローを演じる自分が何より好きな人。
子供のような好奇心で、次々にお姫様を求め、それを強引に守ろうとする人。
硬い殻を破って、甘栗ゴリゴリ食べてるような逞しいお姫様は、きっと彼の眼中に入らない。

次のお題は「洗濯機」「肉」「糸」でお願いします。
534「甘栗」「うに」「皿」 :04/02/25 01:01
どう見ても甘栗だった。
ひからびたうにの軍艦巻きに混じって、甘栗の乗せられた軍艦巻きが百円の皿にのっていた。
「……へー。おもしろいじゃないの」
自称まずいもの評論家の富田は不敵に口の端をゆるめるとレールからその皿を取った。
「な、嘘じゃなかったろ?」
回るレールの真ん中で黙ったままやけに気むずかしい顔をしてハマチの寿司を量産している男に聞こえないように、
俺は小声でささやいた。
まあ、どうせ聞こえているに違いない。
昼時だってのにこの店には俺と富田以外に客はいなかった。
富田は小皿に醤油を注ぎ、やけにまじめくさった顔で甘栗寿司の端に醤油を浸した。
そして一気にほおばる。
「んー」
ボリ、ゴリと堅い何かが崩れるような音が俺の耳にも聞こえてきた。
「甘栗だな。期待していたほどまずくない」
富田はつまらなそうな顔でアガリを飲んだ。

それから1週間後、俺はその寿司屋の前を通った。
店には”新登場! 甘栗のせちゃいました”とへたくそな字で書かれた張り紙がしてあった。
そして相変わらず流行っていなかった。

次は「新製品」「会館」「メール」で
535534:04/02/25 01:02
すいません、次は「洗濯機」「肉」「糸」で
「洗濯機」「肉」「糸」

ひまなので洗濯機に釣り糸を垂らす。すぐにくつ下が釣れた。穴のあいたしょぼいヤツだ。
すぐにリリースしてやる。次にかかったのは、ブリーフだ。きっとウンコつきだ。お前は沈んでろ。
Fish! 入れ食いだ。今度はデカイ。大物だ。ぐにゃりとコンパクト・ロッドがしなる。
だいだい色の魚影が泡の下にチラリと見える。ヤツだ。トレーナーだ。
いい引きだ。まるで疲れ知らずの雄牛のごとき暴れっぷりじゃないか。
糸と同様にビンビンと腕の筋肉が緊張する。そうこなくっちゃ。
いつ果てることもなく続くと思われたバトルだったが、終わりは不意に来た。
ビーというブザー音とともに、我が強敵は抵抗をやめてしまったのだ。……時間切れか。
部屋には必要以上の静寂が訪れている。
「いいファイトだったぜ」
俺は手向けの言葉を贈り、トレーナーを静かに脱水層へ移した。

この戦いを終えての感想は「いいかげん全自動洗濯機を買わないとな」です。

次は534さんの「新製品」「会館」「メール」で。
「新製品」「会館」「メール」

ロビンソン将軍は満足げに胸像を眺めた。軍服にヒゲ、右手を高く掲げたその胸像は
ロビンソン会館の玄関前に設置される。
「将軍閣下!マクダネルが来ておりますが」
 めずらしくニコニコしていた将軍の顔がにわかに険しくなる。
「マクダネル?戦闘機の企画でも売り込みに来たか。今日はいそがしい。追い返せ」
「は、しかしおそれながら閣下、追い返した場合、後でまた例のメール攻撃が……」
将軍は頭をかかえた。以前マクダネルは新型ミサイルのコンペに破れたはらいせに、
5千通をこえる迷惑メールを送ってきたことがあった。
「あのときは苦労したな……」
「は、事務処理が大幅に遅れました」
「仕方ない、通せ」

マクダネルはにやにやしながら、ジュラルミンケースを開けた。
「コイツが今度の新製品ってやつさ、兄貴」
将軍はじろりとマクダネルを見て
「ここでは将軍とよべ」
マクダネルは肩をおおげさにすくめ「はいはい、閣下。ではこれをご覧いただけますか?」
と書類を差し出した。
「こ、これは……ロボット?こんなもの採用できるわけが」
将軍の顔色が変わる。
「おいマクダネル。この図面にひかれた顔……」
「そうさ兄貴」
ロビンソン会館のほうから大騒ぎが聞こえる。
「一号機は納入済みだ」

「油ネンド」 「スペクタクルロマン」 「おでん」
 店中に食欲をそそる鰹出汁の匂いと、安いアルコールの匂いが充満している。ここは、
おでん屋、赤ちょうちん。
「聞ーとんのかい!」
 おっさんは、俺の耳を引っ張った。
「いってえなあ〜。やめろやおっさん。聞いとるって。ほれ、大声出すから一見さんがび
っくりしとるがな」
「ええか! 油ネンドは芸術なんや!」
 ええ感じに酔っ払っとるこのおっさんは、自称、芸術家。おっさん風に発音するとゲエ
ジツカ。日頃何しとるかさっぱりわからんおっさんには、まさに、芸術家よりゲエジツカ
のほうがふさわしい。
「わかっとんのか? 芸術やねんど! 油ネンドは! 芸術やねんど!」
「ねんどねんどうるさいっちゅうねん。もうおんなじ話、何回も聞いとるがな」
 俺は、コップになみなみと注がれた安酒をあおった。んもーおっさんには困ったもんや
な、ほんまに。わるいひとではないんやが。
「宇宙や! 油ネンドには宇宙がある。スペクタルロマンなんや!」
「あー唾飛ばすなって」
 俺はコップを手のひらで覆った。スペク『タ』クルロマンやっちゅうねん。
「ほら、おっさん、おでんきたで」
「おっ。わしすじ肉だい好きやねん。ちょっと待っとれ。これ食うたらスペクタルロマン、
みせたるさかい」
 いらんがな、そんなん。ゆうたらまたうるさいんで、俺はまたコップ酒をぐびりとやる。
「いくで! みとれ!」
 おっさんは、口の端に蛸足をを引っ掛けたまますっくと立ち上がると、どこからか油ネ
ンドを取り出して、こねまわした。おっさんの手は手元が見えなくなる程どんどん早くな
り、油ネンドは高速で回転して、まばゆい光を放つと、ぱーんと弾けるように拡散した。
「どや! 宇宙やあああああ!」
 一見さんは、度肝を抜かれて大口を開けている。おっさんは、ぶったおれた。
「あー、いつものことやから、ほっといてええよ。女将、もいっぱい」
「あいよ。新しい突き出しでけたんやけど、試してみてくれる?」
「を! そりゃ楽しみやな! 女将の突き出し、うまいからな〜」
539ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/25 14:05
「油ネンド」「スペクタクルロマン」「おでん」
でした。

次は「ときめき」「ラブレター」「千枚漬け」でお願いします。
540ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/25 14:12
×スペク『タ』クルロマン
○スペクタ『ク』ルロマン

です。すいません。orz
大好き。大好き大好き。もう他に何にもいらない。このときめきは永遠なの!
そんな事を思っていた頃もあった。
出会ったころは本気でそう思っていた覚えもあるけれど、……今ではカラカラに乾いた心があるばかり。
「おい、飯」
だらしなくパジャマがわりのスエットを着崩した夫が、目やにのついた目をショボショボさせて居間へとやってきた。
「もう。子供達は皆さっさと食べて出かけてしまったわよ。片付かないんだから、早く食べちゃってくださいな」
食卓のおかずのラップをはずし、ご飯を盛り、味噌汁をよそう。
さめてしまった味噌漬の鮭、ミズナのおひたし、里芋の煮物、そして千枚漬け。
新聞を広げてお茶をすすり、無造作に箸で鮭を崩し、里芋に箸を突き刺して、私の顔も見ないであなたは食事してる。
「おいしい?」
「……ん? あぁ」
「もう、ちゃんと味わってもいないくせに」
「……」
もう何度同じ会話をしたことか。美味しいともまずいともいってもらえない食事を、私は毎日毎日作りつづけている。
ねぇ、あなた気が付いてる? 私、必ずあなたの好きなものおかずに入れてるの。
目を見つめあって恋を囁いたのはもう随分昔だけれど、私は今でもあなたに囁いているのよ。
あなたが気が付かなくても、これは私からのラブレター。毎日、送りつづける、長く続く恋文なのよ。
542カシキ:04/02/25 20:38
ついお題を入れ忘れる。イカン。

次は 「ちょうちょ」「お茶」「プロフェッショナル」にて。
543「ちょうちょ」「お茶」「プロフェッショナル」:04/02/26 01:01
春、強い風の吹いた翌朝のことだった。
「お母さん、ちょうちょ」
リビングのカーテンを開けると窓の桟にモンロチョウが止まっていた。
あたしの後ろをちょこちょこついてきた虫好きの樹利亜がめざとく見つけて指さす。
「本当だね。ちょうちょさん風に吹き飛ばされてきたのかな」
あたしの住むマンションは9階にあるから、虫がくるのは結構珍しい。
「全然動かないねー」
「そうねえ。あんまり高いからびっくりしてるのかもね」
とたんに樹利亜の顔がくもっていった。
「お母さん、ちょうちょさん帰しに行こう」
「んー」あたしは時計を見た。樹利亜を幼稚園に連れて行くまでにはまだ時間がある。
あたしはいつものように一息入れることにした。「お茶飲んだらね」
お茶を飲み終えた後、モンシロチョウはどこかに消えていた。
「お母さんが、ううっひくっ、うーっちょうちょさん死んじゃった」
あたしは泣いてぐずる樹利亜にごめんってあやまったり
ちょうちょさんは空を飛ぶプロフェッショナルだから死んだりしてないよって言い訳したりしたけど、
全然許してもらえなかった。

次は「一番」「玉」「だんだん」
この中にVSさんいるのかな?
出てきてよ!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
照れてないで、出ておいでよ!
VSさ〜〜〜〜ん!
どれなの? VSさんの作品はどれなの?
ねぇ、教えてよ!
 俺だって20年近く生きてきたんだ。だんだん分かってきたこともある。
生まれたばかりのときは、ほとんどの赤ん坊が可愛がられるものだ。例外もないことはないだろうが、それは極稀なことだろう。
俺もご多分に漏れず、周囲の人間の愛に包まれながら生まれてきた。
生まれたての赤ん坊は、玉のような子供といわれるけれど、俺は玉どころか岩石だった。
5400g――まあ、よく出てこれたモンだ。母を尊敬するよ。
病院歴代屈指のビッグベイビーはそのまますくすくと育つ。景気もよく、家がそこそこに裕福だったこともあってすくすくと――。
何故、あの頃、追い込まれる前に気付くことが出来なかったんだろう。
何故、あんなに甘ったれだったのだろう。
何故、何もしてこなかったんだろう。
いつの頃からか――恐らく、バブルが弾けた頃――親父の仕事は行き詰まり、それにつれて夫婦仲は悪化し、母は家を飛び出した。
それからしばらくして親父の会社は潰れた。親父は俺を養うことは出来ないと言い、家から追い出した。親父は家と自分を焼いた。
道は見えない。どうしたらいいのか、どうしたらいいんだろう。俺にはさっぱり分からなかった。満ち足りていたから――。
何故、気付くことが出来なかったんだろう。人の人生はあくまで自分の意思で形作るものであり、人に依存するものではないということに。
一番大事なものは、自分の意思だと、俺は気付いた。
そう、気付いたんだ。頚動脈からとめどなく血を流しながら。遅かっただろうか。でも――それだけでも分かって、よかったと思ってるよ。

「現世利益」「おまる」「重厚」
「痛っ」 あぁ痛てて…… おいおい、五円玉だって頭に当たれば痛いんじゃがのぉ。
なになに、事業がうまくいきますように…ムニャムニャ 何言ってるか分からん。
入れ歯が浮いてるのか? ハッキリ言えハッキリと、お前も歳取ったのぉ、
毎年、毎年、わしの頭に五円玉をぶつけよる。「よっしゃ、お前の願いを叶えてやろう」
「しかし、お前の寿命はあと半年なんだがのぉ」
お前はもういい歳じゃ、お前が死んでも富だけは子供、孫に残るから、ええじゃろう。
わしは後頭部をさすりながら、賽銭箱の中で槌を振った。

「どうか、お店が繁盛しますように」 
チャリン! 五百円玉が投げられた。「おぉっ、久しく見てない高額硬貨、こんなのが
頭直撃したら気ぃ失うがね」 わしゃぶるっと体が震えたね。どんな人間が来たんかのぉ
わしゃ賽銭箱の重厚な枠木に両手を掛け顔をちょいと出してみた。「うわっべっぴんさんや」
歳の頃、二十二〜三、色香が彼女の身体を包み込むように漂い周囲の景色がかすんで
見えるほどじゃのぉ。わしは一見さんである彼女の願いを叶える事にした。
若くして富を背負うと逆に不幸になるんじゃがのぉ……  わしゃ槌を振った。
「それが人間どもの言う 現世利益なんだろ?」
人間どもは揺り篭を経て、おまるを使う年頃までが一番欲が無いのぉ〜 
「痛いっ、誰じゃーーーーーーーパチスロのメダル投げたのは」

次は「登山靴」「五つ星レストラン」「夢」
「登山靴」「五つ星レストラン」「夢」

母さん、今ここにカラシニコフ銃があれば、僕はこの男を撃ち殺すでしょう。
僕を無理矢理こんな所まで連れてきた、このウザイ男を。
僕は腹が減っているのです。あまりに腹が減っていて、空腹であるという認識以外できないでいます。
履きなれない登山靴で一日歩かされたせいで、ひどい靴づれをしていますが、その痛みすら感じません。
ああ、ようやく男が食事を運んできました。
「五つ星レストランへようこそ。当店自慢のボンカレー山小屋風でございます」
キレそうです。トカレフはどこですか、母さん。

母さん、僕は今、星空の下で二つ目のカップヌードルをすすっています。ものすごい星の数です。
「空腹が何よりの調味料ってのは、本当だな」
調子に乗った男がなれなれしく同意を求めてきます。夢なら醒めて欲しいです。
「この満点の星空を眺めていると、下界の嫌なことも忘れるだろ?」
「ただの現実逃避ですね。ここに一生いるわけにはいかないし、下界の問題は何一つとして解決しない」
「ん、そうかも。でも、この星空は下界に持って帰れるんだぜ。そして、案外役に立つんだ。俺の場合な。
だから、君も、持って帰るといい。心の片隅にでもしまってさ」
母さん、やっぱり僕はこのクサイ男を父さんと呼ぶべきなんでしょうか?

次は「ごぼう」「積み木」「渡り鳥」で。
551ddt ◆OK6jfumzas :04/02/26 13:28
「ごぼう」「積み木」「渡り鳥」

 積み木は大きく震えると、そのまま綺麗に崩れた。
 床に散らばった四角や三角の塊を、細い腕で寄せ集める。
 また始めから。一番大きくて長いやつを土台にして、もう一度積み上げていく。
 小さな悲鳴が体から漏れる。お腹が空いた。背中とお腹がくっつくだけではすまない。手足が縮んでごぼうになりそうだ。
 積み木はどんどん高くなる。十分気をつけて、そろそろと円い柱を載せる。
 父さんはまだ帰ってこない。いつもならお土産を一杯抱えて、笑顔で戻ってきてくれるのに。
 太陽の落ちた冬の部屋はとても暗くて寒かった。
 叔母さんは父さんのことを渡り鳥なんて呼んでいたっけ。いつもあっちこっちに飛び回っている。
 僕も一緒に連れられて何度も小学校も替わったけれど、ちっとも寂しくなんてなかった。
 父さんはいつも出かけていたけれど、週末にはきちんと帰ってきて二人で色々なことをして遊んだ。
 だから今日もきっと遅くなっているだけで、今にも玄関のチャイムがなるはずだ。
 小さく手が震える。最後に積もうとした三角の積み木がこぼれて、またバラバラに崩れてしまう。
 でも、一つだけいつも心配だったことがある。
 渡り鳥は帰り道を忘れないのだろうか。もし迷ってしまったらどうするのだろう。
 広い海の向こうで、迷子になった渡り鳥は一体どうなってしまうのだろう。
 「父さん」
 僕は知らずに呟いて、暗い玄関のドアを見つめた。硬い鉄の扉はじっと黙ったままだった。

 冬が終わり春が過ぎる。結局父さんは帰ってこなかった。

 叔母さんに行ってきますを言って、玄関を出ると軒下にいつもの奴が待っていた。
 去年までは居なかった燕の家族だった。
 巣の中で大騒ぎをする雛たちに、親が一生懸命に餌を与えている。
 春が過ぎ、海の向こうから渡ってきた渡り鳥。
 その姿を見ていると、何故か泣きたいような、笑いたいような気分になった。


次は「井戸」「雀」「夕焼け」でお願いします。
 買い物から帰ってきたら、家の前に向かい三軒両隣の奥さん連中が集っていた。
恒例の井戸端会議だ。いつも決まって、家の前でやっている。
「あら、ちょっと久保さん、アレ聞いたー?」
 お向かいさんが聞いてきた。何にでも首を突っ込む、自称事情通である。
「田中さんとこのお隣さん、白井さんの家の旦那さんがリストラされたんですって」
 田中さん宅は家の斜向かいで、その隣というと、要するに私の家からは遠い。
「そうなんですか。大変ですねぇ」
「そうなのよ、でね、その原因が上司を麻雀で……」
 と、井出さんは声を潜めながら話を続ける。田中さんを始め取り巻きも身を乗り出して、
興味津々のようだ。私は一歩引いて、冷凍品がありますから、と玄関へ向かった。
「そういえば久保さんのお家って良く見るとね……」
 ドアを閉める直前、そんな言葉が耳に入る。だが、反応する間もなくドアは閉まった。
 冷蔵庫の前で買ったものを取り出し、野菜室に白菜と大根を放り込む。引き出しを
足蹴にして閉めると、ドンと大きな音がした。
 灯のついていない部屋を夕焼けが紅く照らす中、冷蔵庫の唸る音だけが耳に障った。

次「箱」「ツボ」「皮」
553岸和田:04/02/26 20:42
「箱」「ツボ」「皮」
 僕はいつも通り7時――正確な時間を言えば7時4分である―――に起きると
朝刊とたまっているダイレクト・メール6通を取り、台所のテーブルにそれを置くと、
コーヒーをいれ、TVをつけると、コーヒーを飲みながら新聞を読んだ。
しかし、社会面まで読んだところで、ぴーんぽーん、とほととぎす(僕はこのチャイムをそう呼んでいる)
がなり、僕はドアまで歩いていった。
しかし、ドアを開けてみると、そこには大きい箱があった。冷蔵庫でも入りそうだ。
なんとなく不思議な気分になりながらも、その箱をリビングに運んだ。
そしてガムテープをひきはがし、その巨大なダンボール箱を開けた。
するとなかには大きいツボが入っていた。取っ手やら何やら、装飾がやたらに施されている。
いったい誰がこんなものを送ってきたんだ?いや、そもそも、これは僕に送られたものなのだろうか。
僕は今ごろになって開けたことを少し後悔した。しかし思考は途中で中断された。
なにかもうひとつ、下のほうに入っているのだ。なんだか薄いものだ。
僕は手を伸ばし、その薄いものをつかんだ。なにかずるりとして気持ちが悪い。
引っ張って見てみると、それは何かの皮だった。
とても綺麗に剥がれた皮だったので、僕は何なのか一瞬分からなかった。
しかし、乳首がついているその皮は人間の皮、だったのだ。
僕はすぐに吐き気を覚えた。吐く場所がないので、さっきのツボに吐いた。
―なるほど、こういうことなのか。
僕は吐きながら、不思議なことなのだが、そう思った。

次「ピンボール」「ショットガン」「涙」
 小さなグラスにテキーラを半分。ソーダをもう半分。
手のひらでグラスに蓋をして、思い切りテーブルに叩きつけ、一気にあおる。
これを「ショットガン」とはまさに言いえて妙。
炭酸が口の中で弾け、テキーラのアルコールが体中に染み渡っていくようだ。
散弾銃を咥えてぶっ放したらこんな感じだろうか。

 貴方は針のように、私の心を小さな穴だらけにしてしまった。
致命傷には至らないけれど、そこから涙が染み出して、傷はじくじくと癒える事が無い。
いっそ貴方自身の手で、私の心を完璧に消して欲しかった。
なまじ心が残っているせいで、傷が痛んで貴方を忘れきれないでいる。

 私の心のピンホールを覗いたら、貴方の背中が潤んで見えた。
その背中に向かって一発かましてやりたいけれど、今は酔っ払っているからきっと中てられない。


次は「ベタな展開」「カレンダー」「阿波踊り」でお願いします。
 さて、今日僕は彼女とともにこの都内有数の高級レストランにやって来た訳だが。
今日は彼女の23回目のバースデイだ。この店でプレゼントの『ロベルト・カルロスカレンダー』を渡す。
昨日の夜考えた。その後、どういった展開に持っていくか。
A:彼女と普通に食事をこなし、夜の街へ。
B:茶目っ気を見せるために店内で特技の阿波踊りを披露する。
C:振られる前に振る。
Aは非常にベタな展開になりそうだ。漫画やドラマで腐るほど見た、あんな感じの展開に。今のところこれで行こうと思っている。
Bも、まあ悪くない。僕の新たな一面を覗いた彼女は今まで以上に僕に夢中になるに違いない。
Cは……スクランブルだな。まあ、カレンダーを渡した時点で彼女の心は僕のものなのは明々白々だし、問題はなさそうだ。
いずれにせよ、これほどまでに綿密な展開を考えているのだ。これでオチない女がいるほうが不思議である。
そんなとき、彼女が僕の服を引っ張って言った。
「あたし、和食が好みなの。ここフランス料理でしょ? そんなことも分からないのね」
彼女は去って行った。現実は非常である。

「サッカー」「豆腐」「こんにゃく」
556岸和田:04/02/27 21:05
「サッカー」「豆腐」「こんにゃく」 
 僕が天井を見ながらぼんやりしていると、カーテンを開けて誰かが入ってきた。
先輩だった。
「よう、大変だな。全くお前ってやつはさ。」
僕が首を少し傾けると、先輩はにっこり笑って、手にさげたスーパーの袋を見せた。
「お前、俺らがチュ−ガクのサッカー部引退したばっかなのによぉ、さっそくケガかよお」
僕はまた天井に視線を戻した。
「いやー、オメ−が練習試合中にケガして入院って聞いたときビビったわ」 そして思い出したように
スーパーの袋の中身をベッドの隣の棚にばらばらと出した。
「こんにゃくとか豆腐とかゼリーとか、なるべく柔らかいもん買ってきたんだけど・・」
先輩が歯のない僕の顔を見た。
 
 「廃墟」「終焉」「絶滅」


 絶滅を迎える種はそれぞれ、様々な表現で彼を楽しませてくれた
ものだが、今回の終焉は、さほど彼の興をそそってくれるものでは
なかった。
 廃墟が塵に埋もれていくのを、彼は無感動に眺めた。
 ――次は、楽しませてくれるだろうか――
 彼の頭の中は、それだけでいっぱいだった。どうしてもここから
動けないので、手元にあるものだけで退屈を紛らわせなければなら
なかった。

 彼には確か、何か重大な使命があった筈なのだが、思い出せなか
った。いつからここにいたのか、わからなかった。いつまでここに
いなければならないのか、わからなかった。この退屈がいつまで続
くのか、わからなかった。そのうち、それらについて考えることを
やめた。
 彼は楽しいことだけ考えるようになった。

 荒地に次の種を植えつけ、繁殖しやすい環境を整えた。次の種は
人間と名付けた。彼は、期待した。
 ――人間は、きっと楽しませてくれるに違いない――
 しかし、人間の終焉も、彼の無聊を慰めてくれるものではなかっ
た。
 彼は、恐ろしい考えに至った。
 ――もはや、楽しいことなど何もなくなったのではないか――
 恐ろしさの余り、彼は考えることをやめてしまった。

 ひとつの終焉と、絶滅が訪れた。

 あとには廃墟が、あるばかり。
558557:04/02/27 23:21
「廃墟」「終焉」「絶滅」でした。

次、「正攻法」「ニラレバ」「羞恥プレイ」でお願いします。
仕事帰りに花を買う。奮発して、とにかくインパクトのあるやつを。
小夜子に浮気がばれた。
ばれた分だけで3回目の浮気になるから、今ごろはものすごい剣幕で怒っているに違いない。
今回の相手は取引先の受付の女の子。営業で鍛えた話術と、自前の笑顔には自信がある。
しかし、そうもいってはいられない。家庭を持たない男の社会的信頼度はなぜか低いものだ。
ここで、妻を失うのは得策ではない。
頭の中で何回か謝る練習をし、深呼吸をして家のドアを叩く。
「ごめんなさい。もうしませんから、許してください」
台所にいる小夜子に頭を下げ、花を差し出しながら練習したセリフを口にした。
「前回と全然変わってないじゃないのよ!」
ちっ、正攻法じゃダメか。
エプロンを投げつけて部屋を出た小夜子と同じ部屋に寝る勇気はなく、俺は今のコタツで夜を明かした。

「はい、あなたお弁当。残さないでちゃんと食べてね」
翌日の小夜子の笑顔を見て、私は内心ほっと胸をなでおろした。
からりと明るいその笑顔に、小夜子が私を許してくれたのだと、安心していた。
しかしそれは私の勝手な思い込みだった。
昼時、開けた弁当箱には、レバニラ、キムチ、奈良漬、くさやの干物、にんにくたっぷりのチャーハンがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
臭いの羞恥プレイのような昼食。私のデスク周りには誰も寄り付かず、私は一人、ただ黙々とその弁当を食べつづけた。
昨日の今日だからな、嫌がらせも仕方ないか。そう心に言い聞かせながら……。

毎朝彼女は私に弁当を渡す。
彼女はにっこり笑ってはいたけれど、その怒りはこれまでよりずっと大きいものだったのだ。
毎日品物は変わっていたが、必ず臭いのきついものばかりが入っていた。
滋養強壮になるものが多いとはいえ、臭いぷんぷんでは浮気もままならない。
小夜子の怒りは、いまだ収まらない。

*****
次は 「キャンディ」「パソコン」「風呂」にて。
ひのさんの後が続いちゃった。たまたまなので、勘弁してくださいね。
 人とはわからないものだ。
何でもうまくこなし神童と呼ばれていた彼が、今ではとても儲かりそうにない路上キャンディ屋さんだ。
最近では、少しでも子供の目を惹きつけようとでも考えたのか、素人丸出しの人形劇とか始めてた。ズレてるよな。
人の能力というのは、必ずしも伸びていくわけじゃない。むしろ衰えていく場合も多い。老け込む年でもないのに、だ。
才能だとか、センスだとか言うやつは、とても脆くて崩れやすいものなんだ。
ちょっとしたきっかけで全く使い物にならなくなったりすることがしょっちゅうある。
俺は人様に誇れるようなズバ抜けた才覚とか持っているわけじゃない。それでも、衰えを自覚することもある。
今は仕事をしていなくて、毎日パソコンと睨めっこ。鈍ってゆく。それなりに鋭敏だと自負していた俺が……。
「俺」という存在そのものが、虚ろになってゆく――。
 
 これはきっと気のせいだろう。そうとしか思えん。風呂の鏡に、俺が映らない。
一度目を擦ってもう一度見る。当然、今度はちゃんと見えた。
張り詰めた生活が終わりを迎え、俺は外界に解き放たれた。存在意義を見出せない。
鏡に映らなかったのも、強ち偶然ではなかったのかも知れぬ。

「自然」「マニア」「究極」
561ひの ◆W2Z6LpgaXA :04/02/28 00:56
いえ、お気になさらず。最近書く人が少ないから。
自粛ムードなのかな^^;
562♀ ◆8k0qigwfMc :04/02/28 05:52
一人ぐらい居ても良さそうなのにまだ出てこない……。
563562:04/02/28 05:52
ゴメソ誤爆
564岸和田:04/02/28 09:10
「自然」「マニア」「究極」
 僕はその一部始終を驚きながら見ていた。
彼はベッドの下にあるスイッチを押し、テレビの裏にあるコードをクローゼットの裏のコードとつなぎ、
ラジコンの隣にあるリモコンを操作し、壁から突如現れたコンピューター・パネルにパスワードを打ち込み、
机の2番目の引出しのなかにあるスイッチを押した。
その行動はとても手際よく、てきぱきと行なわれた。僕は呆然としつつ彼の行動を見ていた。
―なんで普通の中学生の部屋に、こんな装置があるんだ?一体彼は何をしてるんだ?
そんなことを考えているあいだに、部屋の壁の一部がぐるりと回転し、何かが現れた―
「おい、この装置スゲ―だろ。自然に、かつばれずエロ本を隠す究極の装置」
エロ本。まさにマニアックだな、と僕は唸った。

 「アルマジロ」「スーパーカー」「崖」
後ろから奴らが追ってくる。
この先は……、解っている。もうすぐだ。ほら。崖がもう目の前だ。
だがここに来ればそうなる事はわかっていた。
俺は、慌てずに助手席の相棒に目配せをした。彼女は、心得ていて
すぐにダッシュボードを開きその中のボタンを押した。
その瞬間、俺らの愛車は唸りを上げ、前転しつつ自動車すべてが硬い皮に覆われた。
そして、崖の端で向こう岸に向かい、飛んだ。いや、正しくは跳ねた。
新しく付けられた変形機能の一つ、C-アルマジロだ。
蛇足だが他にはA-ドルフィン、B-グリフォンがある
そうして俺と彼女は、唖然とする奴らを嘲笑いながら悠々と逃げ去った。

「子守唄」「紅茶」「送迎」
すみません、一部消してしまいました。
下から3行目の前に『俺たちの誇るこのスーパーカーに、』が入ります。
VSさん出てきてよ!
VSさん、逃げないでよ!
バキスレはこの板はレベル高いって言ってたけど、
少なくともこのスレはそうでもなさそうだ

だって、VSさんがいるんだもん!
VSさんいないのかな?
出ておいでよ!
歓迎するよ!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
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573真・うんこ:04/02/28 17:37
お題が面白そうなのあったら何か書いてみよっと
574岸和田:04/02/28 18:45
「子守唄」「紅茶」「送迎」
 7月6日 水曜日  
僕はいま、テーブルに大学ノートを広げ、この日記を書いている。
この行動は意味のあるものだろうか、とふと思う。あるのかもしれないし、ないのかもしれない。
あれから1年が経つ。僕の近くで妻が洗いものをしているが、彼女の手は止まっている。
ぴたり、と静止し全く動かない。水は皿にあたったところで止まっている。水しぶきも空中で止まっている。
二階の子ども部屋では息子が勉強している。紅茶のカップをつかんだ手は止まっている。
右手のシャープ・ペンシルは漢字を半分ほど書いて止まっている。まばたきひとつしない。
外に出ても、誰も動かないし、まばたきしない。状況は1年前と変わっていない。
いや、1年前ではない。時間は止まったままだ。状況は現在と変わっていない、とでも言うべきであろうか。
ある日突然、何もかもが止まった。僕を残して。僕が新聞を読んでいるとき、ふと目をやると皆止まっていた。
テレビをつけても、映像は流れるくせに、どこの局も止まっている。
あるニュースは「ベン・アフニ―来日!豪華送迎」とテロップを表示して止まっている。
ある番組は「これで子守唄いらず?簡単子どもあやしワザ」とテロップを表示して止まっている。
その日から何もかもが止まったのだった。
僕は未だ腹も減っていないし、喉の渇きも感じないし、尿意すらない。あれから全ては止まってしまったのだ。

 「海」「牛」「自然発火」
575「海」「牛」「自然発火」:04/02/28 22:01
気づいたら誰かを燃やすようになった。最初は僕の仕業だとは到底思えなかったが「燃えろ」と
念じると誰だって燃えた。僕に燃やされた人達は皆、無言でのた打ち回り死んでいった。
超常現象、自然発火、プラズマ。非現実的な語句で僕の行為は片付けられた。
家族と友達を失った。誰かを憎いと思うと、その対象は僕の意志とは無関係に燃えてしまった。
全身火達磨で。
恐ろしかった。自分の能力が恐ろしかった。
でも、どうやら僕はこの能力を使わないと死んでしまうらしい。誰にも会わず、誰とも接点を持たない
ようにしていたらどんどん衰弱してしまう。生きた屍のようになってしまう。
僕は生きる為に誰かを燃やし続けた。死なない為に誰かを燃し続けた。
その罪悪感に苛まれて、僕は今、浜辺に一人佇んでいる。
自らの命を絶つ為に。

一ヶ月間、誰も燃やさなかった。辛かった。でも、その辛さからもうすぐ解放される。
牛歩のごとくゆったりと海の中に向かって歩き出す。
海中なら僕の能力が誰にも届かないだろうことを祈って。


次のお題は
「自己犠牲」「ハンカチ」「体育館」
でお願いします。
「自己犠牲」「ハンカチ」「体育館」
自己犠牲。二十歳を過ぎた大人からしてみれば、様々な状況を思い描かせてくれる言葉である。
戦争から、裁判まで。様々な連想が出来る。
だが、小学三年生がこの言葉から連想する事柄は一つしかない。
日本一有名なRPGゲーム。ドラゴンクエスト。その中の数ある呪文の一つ。
そう、「メガンテ」である。
とある晴れた日のこと。私は友人の宅に呼ばれ、その友人と共にドラゴンクエスト5をプレイしていた。
プレイ開始から数時間後、友人はトイレに行くといい席を後にする。
そこから数分間、ゲームの中の主人公達の運命は、私の手にゆだねられた。
突然、ピンチが訪れる。仲間は壊滅状態。馬車から、爆弾岩のロッキーが飛び出す。
あの呪文を使うしかない。そう思った私は、ロッキー出現のターンで即メガンテを唱えさせる。
ピロピロピロ。モンスター軍団はくだけ散った。ロッキーは力尽き、息絶えた。
あれ・・・?そう、私は忘れていたのだ。メガンテを唱えたキャラは死ぬということを。
ドラクエのルールでは、全滅後主人公だけが生き返り全滅時の所持金額が半額になった状態でプレイ再開となる。
しばしあぜんとする私。急ぎ友人に連絡しようと、私は今のゲームの状態をセーブして友人を探しに行った。
そのことが、私の運命の分かれ道だった。友人がその後私と絶交したのは言うまでもない。
所持金半分の状態でセーブをしてしまった私。そのことを数日間悔やんだ。
数日後、私はその友人と他数人に体育館の裏に呼び出される。いじめのはじまりだった。
小学生は、知能が未発達な分、いじめの理由も単純なのだ。
この時の理由は当然、私が勝手にセーブをしたから。
その後一年間、私はクラスの影となった。給食の後の昼休み。
教室の片隅で一人で泣いた。母親に買ってもらったハンカチを噛みながら。
次のお題

「うんこ」「マラソン」「川原」
>>573
おぉ、うんこ氏!
先日はお世話になりました。
大したスレではありませんが、御くつろぎ下さいませ。
 うんこです。
道路でそれとなく佇んでいると、向こうから有名マラソンランナーの藤多選手が。
踏まれた。足の裏には、粘り気のある僕がベットリと(しかも、気付いてないみたい)。こんにちは、新しい僕。さようなら、昔の僕。
藤多選手の足が前に進む度、最初の僕とどんどん離れていく。それと同時に、新しい僕が地面にどんどん増殖していく。
やがて、粘り気が落ち、地面に接着して増殖することはなくなった。

 僕は、川原に来た(ちなみにここからの僕は、「藤多選手のシューズの裏にこびり付いた」僕だ)。
他の「僕」たちの想いが入ってくる。(いいな。二号はいいな)(いいな。二号は移動出来るんだもんな)(いいな。僕らは暇だもんな)
どうやら、僕は二号らしい。ちなみに、今は14号くらいまでいるみたい。
他の「僕」は僕を羨むけど、僕の旅もとうとう終わりを告げるときがやってきたみたいだ。
偶然、マッチ箱くらいの大きさの石に擦りつけられて、藤多選手のシューズからうんこが一片もなくなってしまった。
あーあ、ついに僕も他の「僕」の仲間入りか。15号目くらいかなあ。そう思っていた。
しかし、その時奇跡が起きたのである。藤多選手が蹴り上げた石は、なんと川の中に落ち、ぷかぷかと漂い始めたのだ。
しかも、僕のくっついている面は川に接していない。ということは、まだ旅が続くってことだ。
ごめんよ他の「僕」。一杯、色んなモノを見てくるよ。そして、僕が消えゆくまでそれを伝え続けるから――。

「セーバー」「オーバー」「闘志」
580名無し物書き@推敲中?:04/02/29 07:45
オーバーなセーバで闘志をむきだしにしてたたかったよ。

次は
「憂い」「冷徹」「同情」
581名無し物書き@推敲中?
彼の表情には憂いさえ刻まれていない。
度重なる虐待と極度の飢えが、彼の顔から表情を削り取った。
峠を越したと言えど冬夜は未だ冷え冷えと、
工事現場にあるようなブルーシート一枚で寒さをしのげる筈もない。
今、横たわる彼は、身を切るような寒さとともに、激しい背中の痛みを感じていた。
風呂に入るために少年の横を通りすがった父親が、
気まぐれに彼を殴りつけたとき、体勢を崩した少年は背中を強く床に打ち付けたのだ。
殺さぬよう障害を残さぬよう、冷徹な配慮を伴った暴力の加減がその時たまたま狂ったのか。
もし、少年が明日目覚めることがないのなら、それは少年に同情した神様の慈悲なのか。
暗闇の中、少年は目を閉じる。
凍えるような寒さに包まれながら。

「表情」「痛み」「包」