1 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :
03/01/25 15:05
2 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/25 15:07
3 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/25 15:11
前スレの最後のお題 「ざぶとん」「ガスボンベ」「充電器」
「パチンコ」「皿」「桜」 「ざぶとん」「ガスボンベ」「充電器」 どちらでもお好きな方で。。
6 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/25 15:15
7 :
しぽご祝儀参加〜 ◆sVcmOmcGj6 :03/01/25 15:37
ものすごく久しぶりの参加です〜 「ざぶとん」「ガスボンベ」「充電器」 家に来たばかりのセントバーナードの門次郎をお座敷犬にしようといったのは、 姉ちゃんの頓狂な提案だった。 「そんな家なんてなかなかないよ、面白いじゃん」 という、世にも乱暴な理屈だ。 だいたい、うちは姉ちゃん中心に家が回っている。 母さんの使っているハローキティのざぶとんは、姉ちゃんが小学校6年で 「みんな持ってるし、超子供っぽくてイヤ。お母さんにあげるわ」 と押し付けたものだ。因みにそれから四年も経っていて、使い続ける 母さんも母さんなのだが。父さんは父さんで、姉ちゃんのために秋葉原まで 壊れた携帯の充電器の替えを買いに行って、その時自分用に買ったデジカメは 姉ちゃんに取り上げられている。 「てゆうか、今時デジカメ持ってないなんてダサいじゃん」 と、自称アーティストの姉ちゃんはあっけらかんと答えたのだった。 今回の門次郎は、まだ子供だから抱き上げる事はできるけれど、 どれくらいでかくなるかはすぐ想像がつく。今小型犬の大きさのこいつが、 やがて廊下や階段を一方通行にして、こたつの一辺を陣取るんだ。 力だって普通の犬とは違うだろう。しつけは命がけ、散歩は常時二人がかりで 七立方メートルガスボンベ程の重さのこいつを、転がすように動かさなきゃいけない。 気が遠くなる。 でもこういう時も姉ちゃんは言うんだろうな。 「そういう家族の姿ってさあ、絵になるんだよね。そう、ずばり、絵」 とかって。 長いなw 次回お題は「アセロラドリンク」「チェック」「天山山脈」で。
あ、これはついで投稿ですので、続けお題は
>>7 のものをご利用下さい。
「パチンコ」「皿」「桜」
太一が粘土を弄りだして、一年が経過しようとしていた。
最初に牧村に逢ったのは新宿の片隅だった。ホームレスに囲まれて生きるのも
悪い事じゃないか、と、パチンコ屋のバイトを首になった時に思い込み、
新宿駅南口に座り込んだ瞬間だったことを記憶している。
尻の下で紙のくぐもった音に紛れ、ぱりん、と、乾いた音がした。
暫く、「……あれ」としか、声が出なかった。隣には既に男が座っていて、
太一の尻の下の紙袋と、太一の顔を交互に睨みつけていた。
男はごく普通の紺のスーツと地味なネクタイといういでたちで、頭髪も
乱れがなかった。しかし、問題は顔だった。
ぎょろりと飛び出しかけた目。巾が広く、唇の異様に薄い口。平べたくつぶれた、
大きな鼻。爬虫類の顔、そのものだった。
一刻も早く逃げ出したくなって、すみません、と腰を浮かせた太一に、
男はおもむろに紙袋を取り上げ、無残な中身を取り出した。
見事に三つに割れた陶器の大皿が恨めしそうに太一を見つめる。メジロとウグイスが
満開の桜の花の下で戯れる、のどかな風景を描いたものだった。
しかし、それは量産されるものではないのが、男の目つきからわかる。
――牧村と名乗ったその男は、業界でも有名な奇人のろくろ回しだった。自分の作品を
尻で割った若い男を面白がり弟子にした話は、半年ばかり陶芸家の間で面白がられたのだった。
>>8 見たけど、「クトゥルー」「深層」「遺跡」だったみたいだよ。
・「『セツナクトゥルーラブヲカタリ、
・半ば滅びつつある遺跡
深層、は落としてるみたいだけど。
>>10 イメージとして残ってればそれでいいのかな?
良く分からん。
12 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/25 17:27
「アセロラドリンク」「チェック」「天山山脈」 先日、近所の住宅展示場が取り壊されると聞き、早速工事現場の水道から出る水で赤カルピスをつくろうと思いスーパーに行くと、 美容と健康に効くとかいうアセロラドリンクが私をなじってきました。 「わったっしっはっビタミンCの〜宝庫でっす〜♪ お洒落なOLさんや女子高生の美容と健康とお肌を守るのはこの私。気になるお年頃なら要チェックね。 ・・・あ〜そこの君〜、そうそう君、つうかお前。天山山脈のふもとの村からはるばる日本に来ましたって感じのお前。 最後に風呂入ったのが前世紀なお前。 お前が飲んでいいのはこの不況の辛酸だけだ!」 宣戦布告!!!!!! 我々は、全てのアセロラドリンク缶を回収して東南アジアに輸送し、 川の上流から全て流して原住民をびびらせる「血のメコン河作戦」を決行する!!! 次のお題「従軍慰安婦」「挺身隊」「三光作戦」
−三光作戦、成功。 俺は頭蓋骨に仕込まれた骨振動式通信機から、挺身隊の報告を受けた。 雨四光作戦や五光作戦は挺身隊、すなわちアンダーカバーの身を危険にさらすのだ。三光作戦はギリギリの選択だった。 あわよくば杯を引き、月見花見で追いつき、逆転を狙う。 「現在、差は八文!挑戦者山田八路軍、チャンピオン大村機甲師団の牙城を切り崩せるのか!?第四回対戦、スタートですっ!」 ひかるちゃんの声が会場一杯に響き渡る。従軍慰安婦などと大仰な名前をつけられているがただのバニーガールのひかるちゃん、 彼女も俺を支援してくれる挺身隊の一人だ。俺が遙か頭上のグラスボックスに目を向けると、ひかるちゃんは遙か地上の 俺に向け、親指を立ててみせた。 スタート! 地が割れ、巨大なブロックが八枚、轟音と振動を伴って躍り出た。 鶴、桜、月、赤松、蝶、桐、桐、そして杯! イケる!挺身隊は予想以上の働きをしてくれたようだ。 俺はダッシュし、巨大な杯に跳び蹴りをくれ、地に叩きつけた。 これでまず、花見月見を確定だ! 思惑には乗ってやんねー(w 次のお題は「灰皿」「緋色」「申込書」で。
14 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/26 21:28
>「灰皿」「緋色」「申込書」 細く紫煙を吐き出してから、彼女はボールペンを握り直した。 申込書には、既に写真を添付してある。用紙は一枚きり。 慎重に書かねばなるまい。肩にやや力を込めた時、髪に挿した 椿が頬に垂れかかり、慌てて左手を添えた。その色が視界に入り・・・ 「君には緋色がよく似合うね」男の言葉が、ふと蘇った。 彼は、赤ではなく、緋色、と言ったものだった。 それが、彼女よりニ十は年長である事の、証明であるかの様に 思えた時期もあった。男の、妻子の存在よりも。 彼女は、再び申込書の記入へ集中し始めた。 一ヵ月後に東京で行われる、映画の主演を決定する為のオーディションの。 彼女が群舞の一人として、舞台へ上がる第三幕までは、まだ時間がある。 化繊のドレスの裾を絡げてから、彼女は煙草を灰皿に押し付けた。 灰皿。「君の様に愛らしいね」男が笑いながら手渡した、熊のぬいぐるみ。 子供じゃあ、あるまいし。そんな言葉を、彼女は飲み込み、やはり笑顔で 受け取ったのだった。その薄茶の顔には、点々と灰が散っていた。 ガラス玉の瞳は、緋色のドレスの女を、無機質にみつめている・・・。 お次「遠雷」「アサツキ」「鳥カゴ」で!
15 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/01/27 00:30
「遠雷」「アサツキ」「鳥カゴ」 私がインコを初めて飼ったのは、5歳の時だった。 春芽のような羽のそれは鳥カゴの中で、じっとしていてはくれなかった。 えさをやるためにカゴの入り口を開けると、いつも私の小さな手をすり抜けて逃亡し、やっきになって追い回したものだ。 「サツキ」と言う名のインコは、名前を与えられた10日後庭のアサツキと共に朝露に濡れ、冷たくなっていた。 遠雷の鳴る不吉な雲が空を覆う朝に。カゴは入り口の錠は、前の晩掛け忘れていたのか、外れていた。 サツキが死んだ朝の事はあまり覚えていない。 きっと大泣きしたには違いないが、あいまいな記憶の糸を手繰り寄せることはできなかった。 その後の30年、私は鳥も含めて、動物は一切飼わなかった。 多分、普段は寝たきりの梅干のような顔をした曾祖母に、 「生き物は閉じ込めておいたらいけんよ。自然におるのが常じゃきに」 と面と向かって言われたのが怖かったのだろう。 一ヶ月前、上司に2匹目のインコを買って貰った。 鳥カゴの中のインコは、サツキのように必死に暴れまわったが、あのときのように逃げ出すこともなかったし、錠をかけ忘れることもなかった。 もう庭のアサツキの上で死なせたりしない。もう、放さない。 カゴに入る インコ眺むる 文月の庭 紫に咲く アサツキの花 ☆復線はったはいいけど、落ちがわかりにくいかも(自分で読んでも) 次は「蜜柑」「朝顔」「検算」でお願いします。
16 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/27 01:38
>「蜜柑」「朝顔」「検算」 唇に紅をさし、絹江は顔を上げた。鏡台の鏡に映る自分の顔を凝視し、 目元の皺を指先で伸ばしてみる。ふと・・・庭先で花をつけている、 薄紫の朝顔を鏡のなかにみつけ、そっと目頭を押さえた。 朝顔は、恭二が三歳に達した夏に、種を蒔いたものだった。 暫く後、絹江は背筋を伸ばすと、音も無く立ち上がった。 薄暗い日本間を通り抜け、台所へ立ち寄ると、籐の果物籠の中の蜜柑を ひとつ手に取った。そして低い潜り戸を抜け、よく磨き込まれた廊下を 歩んで行き、その突き当たりの襖を開けた。やはり、音も無く。 小奇麗な日本間には、布団が敷かれており、若い男が生気無く横たわっている。 男は、絹江の姿を認めると、哀願をするかの様に口をぱくつかせた。 しかし、その唇からは、ぜいぜいと息が洩れるだけだ。 ・・・体温計の水銀て、本当に効くものなのねえ。 絹江は、着物の袂を口元へ引き寄せ、そっと微笑んだ。 半年前、この楚々とした未亡人の求婚に浮かれた男からは、生気と自信が満ち 溢れていた。結婚後、自由に出来る財産を検算し、悦に入っていたものだった。 絹江は、袂から蜜柑を取り出すと、男の目前に突きつけた。 そして、男が骨ばった腕を伸ばすのを易々と払いのけると、渾身の力を込めて、 蜜柑を握り潰した。真新しい畳へ、果汁がしたたり落ちる。男は、首を伸ばし それを舐め廻し始めた。その様子を能面の様に白々とした表情で眺めながら・・ 絹江は、枕元の象牙のステッキを手に取った。そして・・・ 六年前、一人息子の恭二をひき殺した男の肩へと、力任せに振り下ろした。 お次「藍色」「足跡」「笛の音」で!
響く笛の音、太鼓の響き。これは鎮守の祭りの囃子。 久々に帰省した俺を待っていたのは従兄弟の恵理と、鎮守の祭りだった。 「ね〜、行こ〜よぉ、お祭り〜」 浴衣の裾をひらめかせ、ぴょんぴょん跳ね回る恵理に、俺は疲れたとも言えず、こうして祭りに繰り出していた。 「へっへ〜。ね、健兄。キレイ?キレイ?」 「あ〜あ〜。綺麗綺麗」 俺の投げやりな答えにも、恵理は文字通り躍り上がって喜び、藍色地に薄紅の朝顔の裾を風になびかせた。 「お〜い、あんまり暴れると……」 言った端から、 どん。ばしゃあ。 恵理は祭りの人並みに突き飛ばされ、金魚すくいの堀に、頭から落っこちた。 「えうぅ〜」 鳴き声は止まない。そしてぽたぽた滴る雫の音、ぺったらぺったら響く、足跡がつく音。 「もう泣くな。おんぶしてやっから」 俺は恵理の前で膝を折り、両腕を後ろ手に開いた。 「……ん」 のし、と重みがかかる。 「あったかい…ね」 俺は何も答えず、恵理を背負って帰った。囃子の音が、ずっと俺の背中を追いかけていた。 次のお題は「スクラムジェット」「人工心臓」「鱧(はも)」で。
けたたましい音響の目覚ましに起こされて、また一日が始まる。どうやら今朝も雨が降っているらしい。昨日も、その前も雨だった。たぶんもう水は充分だろう。しばらくしたら雨は止むはずだ。 案の定、5分ほどで雨は止んだ。水槽の中の鱧はダラダラと餌を食べ始めた。 この時代人間は地球上のほとんどを支配していた。天候もそのひとつだ。水が必要なら雨を降らせ、野球のある日は雨を降らせない。おかげでここ何年も天気予報は間違ったことがない。 人間だって様変わりだ。足が遅ければ義足、心臓が悪ければ人工心臓。どんなパーツだって簡単に変えられる。しかも元々付いていたものより性能がいい。今や完全オリジナルの人間なんて、余程の昔気質で頑固者くらいだ。 飛行機だって今や完全にスクラムジェットエンジンの時代なのに、まだ「ジェットエンジンの方がいい」なんて言っている。懐古主義というらしい。まったくおかしな人もいるもんだ。新しいもののほうがいいに決まっているのに。 そんなことを考えながら、いい加減に支度をして出掛ける準備をした。家を出る前に水槽の照明を消す。ゆるゆると泳いでいた鱧は、ゆっくりと底へ沈んでいった。 こりゃダメだ… 次は「梨」「ロウソク」「杖」でお願いします。
「梨」「ロウソク」「杖」 「ていっ!」 「痛っ」 見上げるとお爺ちゃんの杖。 「こぉらっ! 仏様のお供えに手を出すとはけしからん子じゃな」 私の右手にはしっかりと一切れの梨が握られている。 「だってぇ……」涙目になりながら口篭った。 育ち盛りの子は食欲旺盛なんだから。仏壇に置いといたのが悪いんじゃん。 心の内での口答え。これがけっこう心地よい。 「ちょっとお爺ちゃん、いいかしら」 突如現れた母の形相に、お叱りの言葉は途切れた。 「本を読むのに雰囲気を大切にするのはいいけれど、大概にしてくれます?」 母の手にはロウソクの燃え止しが握られている。 「はわわっわ…」伏し目がちの目はしょぼくれていた。 ……ん? 窓越しにこちらを見る、飼い犬のジョンが目についた。 ニヤニヤとこちらの様子を窺っている。私のお仕置きは今始まる。 「三割引」「薪」「しかめっ面」
「大変、大変! 今日スーパーで3時から薪が三割引なのよ!」 近所のおばさんのけたたましい声がした。 俺は思わずしかめっ面を浮かべた。せっかく静かな場所を求めて実家へ帰ってきたのに……これでは意味が無い。 ド田舎ド田舎と、昔は馬鹿にしていて、高校出るなり都会へと飛び出したのだが、5年ぶりに帰ってくるとすっかりココの様子は変わっていた。 まず近所にでかいスーパーが建った。次に駐車場。マンションもできた。 始めはついにココも開発がはじまったのか、と驚きと嬉しさが混じった感情でいれたのだが、2日3日と暮らすうちにその異質なものに気付いてしまった。 何もかもが田舎専用都会必須アイテムなのだ。 スーパーののぼりには『薪、火打石各種取り揃えてます』、駐車場といっても牛車&馬車オンリー。マンションときたら超高層の馬小屋などという風に……。 次は「子沢山」「あらまぁ大変ね」「鉋」
「子沢山」「あらまぁ大変ね」「鉋」 年月って残酷だわ……。久方ぶりに旧友に会った率直な感想がそれだ。 右手には今抜いたと言わんばかりの土にまみれた青首大根。左手には錆びれた鉋。 割烹着はくたびれて、生活臭が滲み出ている。 私はいかにも農家ですって宣言しているようなものじゃない、呆れた。 そんなことはおくびにも出さず、再会に歓喜する体を装ってみる。 「順子が退社して以来じゃない!? すっかり主婦してるじゃない!」 はにかむ順子の目尻にくっきり浮かぶ皺を認めて、私は悦に浸った。 あの頃もたいして見られる女じゃなかったけど、ここまで落ちるものかしら。 他愛無い話に相槌を打ちながら、ふと順子の背中越しにいる子供達に気がついた。 「あら、こんにちは。順子の子供?」「ええそうよ。子沢山で困っちゃってねぇ、6人もよ」 「あらまぁ大変ね」心にもないことを言ってのける。 夫は婿入りしたって聞いたけど、順子に魅力を感じたなんて甚だ疑問だわ。 「おや、来客中かい?」奥から夫らしき男が出てきた。 「ええ、紹介するわ。N社で同僚だった佐伯美香さん」 その男は、私の前夫だった。 次は「紫水晶」「粗野」「離宮」
「紫水晶」「粗野」「離宮」 屋敷には、閉ざされたままの離宮がございます。 その昔、前の帝に縁の方が非業の死を遂げられたのだそうで その御方がお隠れになったその日から、何人たりとも立ち入ることを許されないのでございます。 口さがない噂では、前の帝が募る想いのあまり、離宮へ閉じ込めてしまった 紫水晶という名の美しい姫が、夜毎啜り泣いていらっしゃるのだとか……。 ある日、ふとしたことからその噂が近衛大将殿のお耳に入ってしまったのでございます。 彼の方は、自らを剛の者だと公言して憚らない、血の気の逸る粗野な方でございました。 それほど美しい姫ならば、たとえこの身が獲って喰われようとも本望だなどとおっしゃられ、 周りの者が制止するのも聞かず、離宮へ入ってしまったのです。 わたくしどもは近衛大将殿の御身が心配なれど、離宮へ入ることはできず、 ただ遠巻きに中の様子を窺っておりました。 嫌な予感は当たるもので、一時も置かず、御簾の間から 近衛大将殿の骸が耳障りな音を立て、崩れ落ちて出たのでございます。 悲鳴を上げる間もなく目に飛び込んだ近衛大将殿の御顔には、 この上もないほどの恍惚の表情が浮かんでおりました。 そしてその衣の裾には、妖しくも眩い光を放つ、大きな紫水晶が横たわっていたのでございます。 次は「娼婦」「小説」「妊娠」でお願いします。
やはり、小説家たる者、娼婦の一人や二人妊娠させるぐらいのことは、 しておかなければなるまい。 ふと、そう考えるに至り、私は早速、宵の花街に繰り出したのである。 いささか不純な動機ではあるが、ここまで来たら、もう後戻りは許されぬ。 騎虎の勢いで事を成し遂げ、速やかに退散するのが得策であろう。 さて、第一に為すべきは、獲物の選抜である。辺りを見回すと、あるわ あるわ、何処も彼処も悪趣味な売春宿の軒並みと、派手な遊女が色目を使い こちらを見ては、手招きをしている。私は、その遊女の中の一人、色白小柄 の大人しそうな女に目を付けた。妊娠させてやろう、と思った。私は、財布 から万円札を数枚取り出すと、それを女に見せびらかすようにしながら、声を掛けた。 「ククッ……姉さん、これで足りるかい?」 「あら……いいわ。じゃあ、入って」 簡単なものである。私は門口をくぐり、奥の部屋に通された。それから後の ことは、ここでは書かないでおく。とにかく、私は手早く済ませたのである。 目的は行為ではない。あくまで、妊娠させることなのである。私は中で出して、 女が何か、私に罵声を浴びせるのを背中に聞きながら、颯爽と戸外に飛び出し、 よし、よし、などと呟いては、通りがかったタクシーに乗り込んで、そのまま 帰宅したのである。 その後、あの娼婦が妊娠したかどうか、私は知らない。後で友人に聞いた話によると 娼婦は普通、自分で避妊をしているらしく、殆ど妊娠しないようなのである。 しかし、今考えてみると、妊娠させたからといって、それがどうだと言うのであろう。 私は自分のやったことを鑑みては、首を捻り、部屋の明かりを消して、寝た。 次は「城」「帝王」「すごい科学」で。
24 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/28 19:22
「城」「帝王」「すごい科学」 中学3年生のころ・・・ すでに男子校という特殊な空気にれて早3年、いいかげん気の合う仲間もできてきました。 しかし、男子校だからこそ、 「あいつ、スケベ帝王らしいぜ」 という風評は一瞬にして全生徒215人すべての耳に入るのです・・・ 事の起こりは、僕が「すごい科学」と英語の教科書って厚み似てるよな、と思ったことでした。 はい、入れ替えましたよ、自分の英語の教科書をの表紙を破って、この際なんで僕が「すごい科学」を持っていたとかそういうことは触れないでいただきたいですが。 まぁそこで、僕はその手の物が大好きそうな城君の机に入れておき、城君の教科書は、彼のロッカーに入れておきました。 しかし、ここで僕は大きなミスを犯していたのです、僕が入れ替え作業を行ったのは、朝、そして、その日には英語の授業がある日なのでした。 おそらく、僕は、授業中に教科書がすごい科学であることに気づいて、おろおろする城君が見たかったのかもしれません、しかし、先生に当てられ、起立したまま、固まって、先生に 「おい城!!この本はなんだ!!」と、問い詰められる城君を見たかったわけではないのです。 幸いなことに・・・城君はお咎めなしですみました・・・(うちの中学は、停、退学も辞さない中学でした) ごめんなさい、城君、あのあと、クラス中の人間すべてを舌先三寸で言いくるめて、犯人の容疑をかけられないようにした僕だけど、 本当はF君の予想通り、犯人は、僕でした・・・
25 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/28 19:26
次は「親父」「ホモ息子」「風俗嬢」
26 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/28 22:56
親父」「ホモ息子」「風俗嬢」 三十九歳の母親が、五十九歳の男と先月再婚した。 母親は元風俗嬢で、現在は墓石屋を経営している。 新しい親父は工務店の社長だ。 今度の親父は俺の顔を見るたびに「おまえ、もてねえだろ?」と言う。 確かにその通りだ。 俺はオタクで、不細工だから、二十二歳の今日まで「女」を知らない。 でも「男」は知っている。 初恋の相手が「男」だった。 どうして俺が「男」好きになったのか、その理由は簡単だ。 母親のようなフシダラな女と長く暮らしているうちに、 「女」に幻滅してしまったのだ。 といえば格好いいかもしれないが、本当は違う。 本当は、酔っ払った母親に押し倒されて、童貞を奪われそうになった時、 勃たなくて、母親に「このホモ息子が!」嘲笑されたからだ。 以来、「俺はホモなのか?」と自問自答するようになり、 高二の時、電車の中で男の人に痴漢をされて覚醒してしまった。 今では立派な「ホモ」だ。 だから親父に「おまえ、もてねえだろ?」と言われても俺は、 「ああ、もてねえよ」と胸を張ってこたえることができる。 女なんて、俺は眼中にないのだ。 次は「絵葉書」「ルーズソックス」「首輪」で。
27 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/28 23:19
「絵葉書」「ルーズソックス」「首輪」 水戸に用事で出かけ、駅前で人待ちをしていたら今時天然記念物のような ガングロにルーズソックスのコギャルを発見。なんと5人連れだった。 驚いてその集団を観察していると、一人だけ首輪をしている。つながれている 鎖の先には、どうやらその集団のリーダーらしいひときわケバイ女子高生の 手があった。首輪をしている女はひたすら俯いてトボトボ歩いている。 新手のSMプレイか? とさらにじっと見ていたのだが待ち人が来てあえなく 観察を止めた。最後にチラっと見ると、商店街の奥に消えたようだった。 あの集団はいったい、何だったのだろうか? とりあえず用事が終わると、忘れないうちに家へ水戸で買った絵葉書を出した。 ここには何日か滞在する予定だったからだ。 家に帰って、そいつを見るのが楽しみだ。
次の御題は「キャラメル」「ヨーデル」「ホノルル」の語尾「ル」つながりで。
「・・・いる、いるいる、なんかいruuuuuuuuuuuuueeeeeeeee!!!!!!」 みのるがヨーデルじみた奇声を上げて、穴から這い出てきたのを見て、僕らはいよいよ震撼した。 勉強も運動もクラスで一番、上級生相手のケンカも負け無し、 おまけに夏休みには家族でホノルルに行ってしまう、あのみのるがここまで恐怖するなんて。 と、 隣にいるふとしが金切り声をあげて僕を突き飛ばした。 脱兎のごとく走り去る2人の背を潤んだ視界に収めるのと、「何か」が僕の肩に触れるのはほぼ同時だった。 はじめに言い出したのはふとしだった。 ニュータウンの造成で偶然見つかった洞穴は多分にもれず立ち入り禁止になっている。 しかし、幾重にも張り巡らされた「立ち入り禁止」のロープは夏休みに入った僕らには何の効力もなかった。 一歩踏み入れるとそこは別世界だった。焼けるような地面と蝉の声は遠退き、かわりに土臭い、ひんやりとした空気が辺りを支配した。 僕らは入り口付近のくもの巣や、カマドウマの群れで既にノックアウト気味だったのに、みのるは 声一つ上げることなく、僕らに気遣いさえしてくれた。そんな彼のおかげで僕らはどうにかここまで正気を保っていたのだ。 しかし、もはやこの暗い闇には彼も、ふとしも、いない。 猛烈な尿意と肌寒さにふるえる手を「何か」は、あたたかく握り返してきた。 放り投げられた懐中電灯に照らされたそのシルエットがつぶやいた。「泣くな坊主、見つかっちまうだろ?」 僕は誰にも言わない、と男と男の約束をして、洞穴を後にした。あの後何日か雨が降り続き、洞穴は消えてしまった。 今頃彼はどうしているのだろうか? 約束の証にもらったキャラメルの包みだけが、いまでも大切に残っている。 ネクストお題は「カーテン」「にんにく」「割烹着」でよろしくお願いします。
30 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/29 18:47
「おーい、まだかい?」 「もうすぐできますから待っててくださいな」 寝床から起き出して時計を見ると午前6時。リビングに降りると、妻は既に割烹着を 着て朝食の準備にかかっていた。あたりに、にんにくの匂いが漂ってくる。 「しかし、朝からこの匂いってのはなんだかなあ」 「あなたが元気になればと思って作っているのよ。朝からじゃ胃には重いかもしれな いけど、健康のためなんだから」 妻は台所に向かいながら言葉を投げる。うつむき加減に料理している細身の後姿が、先 程の台詞とも相まってなんともいじらしく見えた。 一ヶ月ほど前から体調はすぐれなかった。このご時世、人もいない中で溜まっている 仕事を一人でやっつけなければならなくなり、そのまま一年、二年と無理を重ねてい るうち、疲れが抜けなくなっていたのだ。妻は私の顔色がすぐれないのを見抜き、そ れから健康食とやらを作るようになったというわけだ。 やがて朝食の準備が終わると、箸を動かしはじめる。 「こんなに、作っちゃったけど……」 最近料理が楽しいらしく、つい勢いで二人では食べきれないくらいの量を作ってしまう のだそうだ。 「いいよ、残せばいいんだから。それよりお前、この残り全部食ってるんだろ? その うち相撲取りみたいに太ってしまうんじゃないか? 成人病になっちまうぞ」 「いいのよ、太れないんだから。あなたこそ、あまり無理しないでね」 「ああわかったよ。しかし、ケアしているとはいっても、にんにくってのは口臭が 気になるよな」 「体のためだから、しょうがないわよ」 気を使ってくれるようになってから、こうしたとりとめのない会話が増えた。これ も毎日無理をおして仕事をしてきた功徳なのかもしれない、と、ふと思った。 カーテンから朝日が漏れ差し、テーブルを照らす。元気になりそうな予感が、した。 次も「アイドル」「ホテル」「パステル」の語尾「ル」つながりで。
「アイドル」「ホテル」「パステル」 降り出した雪に気がついたのは、仄暗い外套が、斑に光を反射するから。 吐き出す息は一瞬暖く、そして必要以上に、濡れた頬から熱を奪ってゆく。 耳鳴りに混じって聞こえるのは、遠い最終電車の音と、寄りかかった軽自動車のアイドル音だけ。 ずっとパステルピンクだった私の耳は、今頃もっと赤くなっているだろう。 サラサラと音を立て、銀色の軽乗用車の屋根を雪が舞う。 居心地の悪そうな彼が二度咳払いをした。 風に流されてゆく彼の吐息も、またいつかは誰かの吐息になるのだろうか。 「・・・で、あなた。もっと気の利いたことは言えないの?」 「やっぱり露骨かな、『ホテル行こう』って」 ギラついた瞳を伏せる彼は、柄にも無くまじめな顔だった。 吐き出す息は一瞬暖く、そして必要以上に、彼は暖かかった。 降り出した雪はみぞれとなって、仄暗い街灯は、斑に光を反射する。 「ル」繋がりでどこまでも。お題は継続でお願いします。
「アイドル」「ホテル」「パステル」 パステルルージュ。 それは十数年前、アイドルとしてデビューしたわたしに与えられた歌のタイトルだった。 芸能界で生き残れなかったわたしはやがて、歌唱力を頼みに ホテルで行われるディナーショーに出演するようになった。 その依頼も時が経つにつれて一つ、また一つと減り、 そんな生活に疲れ切ったわたしは、デビュー当時からずっと 目をかけてくれていた事務所の社長と結婚した。 優しい夫と可愛い娘がいる幸せな家庭と、何一つ不自由のない 豊かな暮らしの中ですっかり変わってしまったわたし。 鏡の中には、誰もが注目したあの頃とは似ても似つかぬ疲れきったおばさんの顔。 「あらやだ、そろそろまりなを迎えに行かなくっちゃ!」 一人の部屋では、小さな独り言もやけに大きく響いてしまう。 脂肪が付いて重くなった体を引きずるようにして、わたしは外へ出る支度をする。 「ママ、きょうはね、ふるいおうたにあわせてみんなでおどったんだよ」 自転車の後ろから無邪気にそう言った後、小さな娘が舌足らずに口ずさんだのは 今も体の奥深くに染み付いて離れない、あの歌だった。 #お題は継続で、お願いします。
33 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/30 00:45
「アイドル」「ホテル」「パステル」 わたしはアイドル時代にテレビ局のプロデューサーやら、政治家のおじいさんやら、 裏社会を牛耳る実力者のおじさんやらに、散々ホテルに呼ばれて体を弄ばれたけれど、 そのとき思ったのは、世の中には本当に変態が多いな、ということだった。 わたしは十三歳で某アイドルグループのオーディションに父親のコネで合格し、 晴れてその一員となった。そして去年、有名作詞家と結婚して引退するまでの間に、 軽く百人は関係を持った。 わたしは今二十三歳だが、普通の人の十倍くらいは男と寝ていると思う。 主人は、芸能界に長いので、アイドルがスポットライトの陰でどんなことをさせられているか、 もちろん熟知している。わたしたちは、そのうえで結婚した。 結婚を決めた理由はお金が一番だけれども、主人の変態ぶりがかなり笑えたからでもある。 主人はわたしを呼ぶとき、決まってあるリクエストをした。 「セーラー服の下はパステルカラーの木綿のパンツで来てね」 いつも電話口でそう言っていて、わたしがそのリクエストに応えると、 まるで幼稚園児のようにはしゃいで喜んでくれた。 たぶんわたしはそんな彼にたまらなく母性を刺激されたのだと思う。 主人が寝室からわたしを呼んでいる。 わたしはセーラー服のリボンを結びながら「待ってて」と色っぽい声でこたえる。 もちろんスカートの中は今でもパステルカラーの木綿のパンツだ。 お題は「軍艦」「リゾート」「昆布」で。
「アイドル」「ホテル」「パステル」 パステルカラーの傘はもう似合わない。 それはわかっていた。 けれど決して捨てられない、それは母からの贈り物。 かつてはアイドルだった母の面影がある、と言われる私。 無残な体と過去の栄光を引きずるように生きる母。 そんな母から逃れるように男とホテルに入る。 無意識に口ずさむあの歌。淡いルージュの口元が震える。 「ごめんねママ・・・」 まりな16歳。人生を捨てた夜。 お題継続で
35 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/30 03:38
「アイドル」「ホテル」「パステル」 十二時過ぎに彼女は帰宅した。酒でも飲んでいたのだろうか、頬が赤い。 彼女は背中を向けると、白いワンピースのファスナーを下ろす。 薄いパステルブルーのブラが覗く。 贅肉の欠片もない、透けるほど白い背中。 僕の分身はすでに怒張している。ズボンから分身を引き出し、弄る。 彼女は、こちらを振り向き微笑む。 艶やかな黒髪が揺れる。 薄くて小さな唇が微かに動く。 鳶色の瞳が輝く。 僕は、仕事で宿泊したビジネスホテルの一室で、偶然、彼女と出会った。 その日から、彼女は僕のアイドルになり、ここは常宿になった。 サイドテーブルの上に双眼鏡を置き、ナイフを上着の内ポケットにしまう。 彼女を僕だけのものにする為に。 この部屋の向かいのマンションに彼女は住んでいる。 次のお題は「猫柳」「矢印」「北風」でお願い致します。
「猫柳」「矢印」「北風」 畦道にあるバス停はただひっそりと迎え入れてくれた。 夜闇に浮かぶ灯に包まれながら、安堵の一息は白くやがて掻き消える。 宵の黙にぽつんとひとり。 見上げると、あまねく散らばる星の海。 地上は負けじと輝く銀の浪。 たゆたう刻は悴む心をささやかさせる。 現の夢と知りつつも、生きてみよう。 現の闇と知り得ても、生きてみよう。 矢印の示すがままを捨て、抗いつつ、もがきつつ。 瞼を閉じてまた息ひとつ。絆された私がひとり解き放たれた。 北風に、猫柳は右にゆらり左にゆらり。 風に吹かれて、待ちくたびれたバスがやって来る。 次は「水仙」「朦朧」「白粉」でし
水仙を花屋で買って帰ろうとしたら電車がやってきたYO! ごおおおおおおおおおお! ぎゃあぁあぁ! こっちに向かってきたあ! きゃいんきゃいん! にげろあああああああ! どっかあああああああん! 電車が駅ビルにぶつかって止まった! ついでに爆発して燃え出したYO! ごおおおおおおおおおぱちぱちぱち! ズキューンドキューン! ギャル系のお兄さんも、白粉を塗った36歳ボイラーマンのお嬢さんも驚いて 電車から飛び出してきたAA! あたりはもう火の海だ! 僕は頭が朦朧としてきた! マリリンモーロー・ノーリターン! お題は「監督」「幼児」「野坂昭如」でお願い!
39 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/30 23:56
「監督」「幼児」「野坂昭如」 野坂昭如は十八歳の夏、甲子園最後のマウンドに立っていた。 決勝。九回の裏、スコアボードは2対1。サードに同点のランナーが出ている。 カウントはツーアウト、ツーストライク、スリーボール。 降り注ぐ灼熱の太陽光線は眩しく、グラウンドの土の匂いがマウンドの周囲に立ち込めている。 スタンドから大歓声が聞こえる。 野坂昭如は血豆が出来た手でボールをぎゅっと握り締めた。 次の一球で決まる。野坂昭如はそう思った。 野球は、もう辞める。肩や肘がもうボロボロで、とてもではないがプロにはなれない。 卒業後の進路はもう決めている。東京の映画の専門学校へ行くのだ。 そして将来は一流のAV監督を目指す。 しかし、幼児虐待やスカトロは絶対に撮るつもりはない。 あくまでも王道のAVを作るつもりだ。世の男達が喜ぶ最高のAVを撮る。 歓声が最高潮に達している。 野坂昭如は額の汗をユニホームの袖で拭ってから、ゆっくりと振りかぶった。 一瞬静寂がスタンドを支配する。 野坂昭如は、渾身の力を込めて最後のボールをキャッチャーミットに投げ込んだ。 次は「ムカデ」「ロックンロール」「夜具」で。
40 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/01/31 02:33
「ムカデ」「ロックンロール」「夜具」 「貴方の趣味の音楽は…」と面接官が訊く。 これまでで大きなミスもない、超優良企業への合格は目前に思えた。 つらい数年間だった。数々の想定質問。礼儀、受け答えの練習。 「はい。私はロックンロールのあの息吹が」と、若さをアピールする。 そこに突然ムカデが現れた!その刹那、彼の脳裏に以下の連想が閃いた。 ムカデ→怖い!→叫ぶべきか?→抑止が正解→受け流そう 「いいね。実は、このムカデは君の緊急時対応能力を見るためのものでね」 と、面接官はゴム製のムカデを回収した。模範的な態度を見せる彼の前で。 しかしその夜、彼は恐ろしい事に気付いた。 以前はあれほど怖かったムカデを見ても、自分は怖くない。 実は最近、音楽を聞いても楽しくない。 もしや、セルフコントロールの訓練の連続で、感情が壊死してしまった!? 「もしそうなら」、と彼は夜具の中で思う。これは「悲しい事」だぞと。 面接は合格だろう。 しかし、それを「嬉しい」と感じる能力が、まだ自分に残っているのか。 彼は自信がなかった。 ※お題の難易度、高い^^; 次のお題は:「廃校」「フラッシュバック」「夏草」でお願いします。
はじめての参加です。よろしくおねがいします。 「廃校」「フラッシュバック」「夏草」 果たして、私がここに赴任してきたのは何年前のことだっただろう? すっかり廃校となってしまったこの学び舎に、当時の面影はもうどこにもなく 秋の寂しい気配だけが辺りを支配していた。 ともすれば崩れそうになる体を教壇にあずけながら、私は虫の声を聞いていた。 フラッシュバックのように思い出すのは、輝く太陽とむせ返るような夏草の匂い、 元気に走り回る子供達の喧噪。すべてがあり満ち足りていたあの頃の事ばかりだ。 一体何が起こったのか、私にはわからなかった。ある日を境にすべては失われ、 私はここに取り残されたのだ。 半永久に稼動する動力のせいで、私は死ぬ事も眠る事も許されず、ただここで こうして過去を夢みている。おそらく、明日も明後日も……
このシリーズは第十壱層 41スレめをもって終了致しますた。
間違えた 41レスめです。
続きは「ガンダム」「ザビエル鈴木」「
>>1 」で書け。
「廃校」「フラッシュバック」「夏草」 ケンジとユウスケと僕は、まみちゃんを肝試しに誘った。 まみちゃんは、くりっとした二重の目が印象的な、六年二組のアイドル。 僕達は、三人揃ってまみちゃんにぞっこんだった。 男らしいところを見せて、気を引きたかったのだ。 向かうは物見山の中腹にある廃校になった分校。夜になると、人魂が浮かぶとの噂がある。 分校に向かう道は荒れ果てて、背丈ほどもある夏草をかき分けて進まなければならなかった。 雨の様に降り注ぐ虫の音に、鬱陶しいまでの蚊の羽音が混じる。 蔓と苔に覆われて半分朽ちかけた木造校舎。入り口から覗く廊下は、夜の闇と相俟って、底無し沼の様相。 僕達は、入り口を目の前にして躊躇っていた。 誰かが、「帰ろうぜ」言い出すのを皆が待っていた。お互い何度も顔を見合わせた。まみちゃんは、半分泣きべそだ。 僕は息を飲んだ。青白い女の顔。 思わず叫び声をあげて駆け出していた。見た、確かに見た。廊下の奥に浮かんだ女の顔。 その日から、僕は何年も、ケンジとユウスケとまみちゃんと会っていない。あの三人だけじゃなく、誰にも会っていない。 自分がどこにいるのかさえも分からない。今でも、フラッシュバックの様に女の顔を思い出す。闇に浮かぶ青白い顔を。 ――ある年、新聞にこんな記事が載った『廃校の井戸から不明男児の白骨化した遺体発見』 次のお題は「梅」「扇子」「アウトドア」でお願い致します。
前スレが容量オーバーで止まってるのに気づかず「ざぶとん」「ガスボンベ」「充電器」で書いてしまいました。ガ━━━━(゚Д゚;)━━━━ン! 消すのも勿体無いので「梅」「扇子」「アウトドア」を追加して新スレにて再投稿w 戸棚の上に立てかけてあった扇子が落ちてきた。ドアを閉じた衝撃で倒れたらしい。京子の声がする。 入学祝いに学者だった祖父が送ってくれた扇子だったが、祖父と同様の頑固さは昨年頻発した群発地震でも落ちたことがなかった。 「お野菜買ってきたの。今日は寒いからおなべにしよ。」 入るなり京子は袋からネギを1束つかんで見せた。 「い、いいね。携帯用のガスボンベが下の戸棚に入ってると思う。アウトドア用のやつ。」 智也はいつもより散らかった部屋を片付け始めた。 京子は以前みんなで集まった時、電気鍋を使ったような気がしたが、それ以上考えることも無く食事の支度を始めた。給湯器の無い冬の台所は、野菜を洗うだけでも手が凍りつく。 「寒いだろ。俺のざぶとんかしてやる。」 智也の優しい声が背中に温かく伝わるのを感じた。自他ともに認める父親っ子だった京子は、智也に優しかった父の面影を重ねふるさとを思い出した。冬が嫌いだった父は庭の梅が咲くのを縁側から毎日の ように覗いて楽しみにしていた。―智也にもいつかあの大きな梅の木を見せよう― 京子はそう思った。 切り終えた野菜を皿に乗せてこたつまでやってくると,智也は携帯電話を使ってメールを打っていた。 「ちょっと手伝ってよぉ」と甘えた声を出しながら腰を下ろそうとした京子に、部屋の隅にあるコンセントが目に入った。1本のコードがテレビに向かうそれとは別に伸びている。 「どうしたの?」 「ううん。何でもない。お肉ばっかり食べないでよぉ。」 「大丈夫だって。まかしとけ。」 「まかしとけじゃないわよー。この前みんなと食べた時だって・・・」 「うるせー、あれは清人がだな…」 智也の大きな身体に隠れたその先には主人を伴った携帯電話の充電器があった。
次の御題は「節分」「涙」「父」
49 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/31 15:44
>47 と言う事は、ダブルお題か!ご苦労さまでした。
50 :
戦場の街参加者 :03/01/31 16:00
2月3日、今日しかない。 種子島は2月でも、本州と違って雪が降ったりする事はない。 しかしこの時期は、中国大陸南部に発達する揚子江気団によって気候が不安定になり、打ち上げ延期になる事がたびたびあった。 発射台に固定された新型H−IIロケットは、いくつもの燃料供給用のホースがつながれ、青空にその舳先を向けていた。 燃料供給用のホースは、メインロケットエンジンの点火と同時に火薬の圧力で分離するようにできている。 これは発射ぎりぎりまで燃料を補充するためだった。 H−IIが燃料としているのは、液体酸素と水素である。 両方とも爆発性の高い物質のため、発射が延期になったら、一度完全に抜き取らなくてはならない。 「荒れないでくれよ・・・」 私は少し風が強くなってきた空を見上げた。
51 :
戦場の街参加者 :03/01/31 16:11
「天候はどうだ?」 私は握り締めていた無線で、発射管制室と連絡を取った。 管制室には、島の北端にあるレーダー施設から送られた気象情報がリアルタイムで送信され、発射可能かどうかを見計らっている。 「西に少し雨雲の影が映り始めてますね。でも心配ないでしょう。おととしの1月なんかもっとひどかったんだから」 「そうか、ありがとう」 ヘルメットをかぶった発射場の現場スタッフが、コンクリートの地面を蹴りながらこちらに走ってきた。 「主任!大変です!切り離し装置に異常が見つかりました!」
52 :
戦場の街参加者 :03/01/31 16:26
「切り離し?」 思わず私はスタッフの方へ駆け出した。 「どっちの切り離しだ!!」 スタッフは走りながら、乱暴に丸めて持ってきた紙を広げた。 「衛星の方です!射出サスペンションの一つが全く動きません!」 私と彼は発射場の真中で落ち合った。 息も絶え絶えに、私は彼に向かって声を発した。 「図面を見せて見ろ」 今回の新型H-IIで打ち上げる予定なのは、衛星「みどり」で、モノクロの肉眼カメラの他に赤外線カメラを搭載した気象衛星だった。 衛星切り離し装置は、文字通り静止軌道に乗ったロケットが、先端部分に搭載した衛星をロケット本体から切り離し、軌道に乗せる重要な装置だ。 これが機能しないなら、打ち上げは失敗である。
53 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/31 16:33
アラシなのかマジなのか…
54 :
戦場の街参加者 :03/01/31 16:41
スタッフが持ってきた切り離し部分の緻密な図面に、赤いボールペンで一点、塗りつぶされている個所があった。 「A-6サスペンションか。この部分の作動試験の結果は?」 「今探してます。まさかこんな所に不具合が見つかるなんて・・・」 私は腕時計にかぶさっていた袖をずらし、時間を見た。 「発射予定時刻まであと2時間だ。それまでに動くようにしなければどうにもならないな」 射出部分のサスペンションが動かないというのは、潤滑油がうまく可動部分全体に浸透せずに、サスペンダーの摩擦抵抗が上がっている可能性があった。 「くそ・・・」
55 :
戦場の街参加者 :03/01/31 16:42
>>53 ジャンルは問わないと書いてありますけど・・・?
56 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/31 16:56
>戦場の街参加者くん お約束の3を読んでくれ。 ここで認められるのは十五行から二十行の作品だ。
>55 まあ別にいいですけど。。。 他の人のレスと比べて違和感を覚えませんか?
58 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/31 17:00
戦場の街参加者くんはきっと1レスが十五行程度ならいいと思っているのだろう。 確かに1レス完結とはどこにも書いてない(w
59 :
戦場の街参加者 :03/01/31 17:08
スタッフの口から悪態の言葉が漏れる。 私は図面をたたむと、赤と白の骨組みで支えられたH-IIロケットを見た。 「とにかく管制の方へ戻ろう。それにサスペンションは他の全部が可動すればきっと大丈夫だ」 それから私は、職員や現場スタッフとともに技術的な問題を話し合うため、管制室へと向かった。 * * * コンソールに座ったオペレーターが、マイクのスイッチを全スピーカーに切り替えた。 「秒読み30分前です」 この段階に入っても、いまだ射出サスペンションの不具合は解決していなかった。 「ロケットは衛星を打ち上げて初めて成功だよ。失敗したら、あれに積んである衛星も一連托生だろう?」 「賭けるしかない。他は全部動くんだから」 私はそう言って他の職員を説得した。 一度打ち上げを中止すれば、次に打ち上げるまでに莫大な費用がかかる。 たたでさえ宇宙開発にはお金がかかるのに、今回延期したら、このロケットは打ち上げに成功しても、さらに高度な技術に投資する資金が無くなってしまう可能性すらある。
60 :
戦場の街参加者 :03/01/31 17:30
「しかし万が一失敗したら、その方が損失だ。延期して、射出の方はきちんと整備しなおせばいいじゃないか」 「サスペンションは25個もあるんだ。一つ二つ作動しなくても切り離しには問題ない」 堅苦しい雰囲気で各主任と話し合っている時、じっと聞いていた打ち上げセンターの所長が口を開いた。 「皆さんまあいいじゃないですか、三谷君が大丈夫だと言ってるんだし」 「しかし・・・」 「春になると雷雲が出てきて、それが過ぎると次は秋になりますよ。衛星だって一旦下ろさなきゃならない」 オペレーターがまたスピーカーで管内に告げた。 「秒読み20分前です」 今まで反対していたエンジン部の主任は、ため息をついて持っていたファイルを置いた。 「判りました。所長がそうおっしゃるなら信用しましょう」 「ありがとうございます!」 私は頭を下げた。 * * * 「お父さん、ほら、そろそろだよ!」 台所で料理をしていた房恵は、階段の上の夫にある部屋に向かって声を掛けた。 「ああ」 ベッドの中で新聞を読んでいた満は、低い声でそう答えた。
61 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/31 17:39
・・・書き終わったのかな???
62 :
戦場の街参加者 :03/01/31 17:49
満はベッドからゆっくりと起き上がると、一階のへ続く階段をゆっくりと下り始めた。 冷たく寒い廊下を進んで茶の間の障子を開けると、房恵はコタツに座ってテレビを見ていた。 「母さん、お茶くれ」 「はいはい、ここにちゃんと用意してございますよ。いいから早く座って」 満はコタツに入ると、無言のままテレビに見入った。 報道番組の司会は淀みない口調でリポートをしている。 「今朝8時30分より種子島宇宙センターで、新型H-IIロケットの打ち上げが行われる予定です。現場と中継がつながっていますので、呼んでみたいと思います」 画面が青空をバックにした発射場の映像に切り替わった。
63 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/31 17:49
ルールを無視してとにかく突き進む戦場の街参加者はツワモノだ!
(・∀・)イイヨイイヨー
65 :
戦場の街参加者 :03/01/31 17:59
「はい、こたらはただいま打ち上げ完了しました!すごい轟音で耳が少し聞こえずらくなっております!」 房恵は満の方を叩いた。 「お父さんあの子がやりましたよ!あの子が!」 「あたりまえだ」 と、満は言った。 「わしの息子なんだから」 「なに言ってんですかこの人はもう!もっと嬉しそうな顔でもするのかと思ったら!でも、何にしろおめでたいじゃありませんか」
66 :
戦場の街参加者 :03/01/31 18:01
すみません、この父親は元理科の教師という設定を入れたかったのですが、スタミナ切れでもうだめぽです。 次は「団子」「携帯電話」「交差点」でよろしくですw
どうやって終るのか、ちょっと楽しみだったのだが……
父は涙を流していた。 もちろん嬉し涙ではない。 ただ無性に悲しかった。 もうすぐ節分。 あの頃、節分と言えば父は我が子の作った赤鬼の面をかぶり、両手を挙げて のっしのっしと歩いて見せればよかった。 家族の投げる炒り豆を身体に受け、ちょっと大げさに痛がって退散すればよかったのだ。 暖かい我が家に溢れるはしゃぎ声。 ああ、あの頃はよかった・・・・・・ 父は溢れる涙をこらえるすべを知らなかった。 思いがけず見てしまったのだ。 我が子が真っ暗い部屋に閉じこもり、オンラインで戦場の街に参加しているのを。 そこは3語スレなのに・・・・・・ 次は「団子」「携帯電話」「交差点」
でもそろそろルール通りに進行してね。
突如私のすぐ横で、爆音がとどろいた。いきなり吹き付けるガソリン臭い熱風に、私は足をよろめかせた。 乗用車が燃えていた。対向車線をはみ出し、向かいから来ていた軽トラックと正面衝突したようだった。 車は黒煙をもうもうと吐き出しながら弾き飛ばされ、後続を巻き込んだ。後続車両は次々に衝突を繰り返し、 ねじ曲がり、砕け、ひしゃげながらいびつに歪んだ列を産み出していった。 私は震える手で携帯電話を取りだした。こんな光景、めったに見られるものではない。最近の携帯電話は小型カメラが ついている。こうまでもショッキングな写真は、ちょっとした話のタネになるのは間違いなかった。 私は興奮していた。携帯電話を取り出そうとするのに夢中で、危険というものを正しく理解出来なくなっていた。 ようやく携帯電話を取り出した私の視界が暗く翳った。団子状態になって衝突を繰り返すうち、中程にいた車のエンジンが押しつぶされ、 圧縮されたガソリンに引火し、交差点から歩道に吹き飛ばされたのだ。 それもちょうど、私が焦りも露わに立ち尽くすその場所に。 半ば焼けこげた鉄塊に押しつぶされる瞬間、携帯電話の液晶画面が映し出したのは、無惨に骨格を粉砕される私自身の姿だった。 次のお題は「マウス」「タイガー」「マーク」で。
俺は重度のパソヲタだけど、よく2chで叩かれている様な、 「何も出来無い」デブサイクなヲタクとは違う。まぁ、頭がいいんだよ。 最近はもの凄い発明をしたんだ。「マウス」を改造して、「タイガー」というデバイスを作ったんだ。 既存のマウスは、名前の如く、ねずみのように融通が利かない。 思ったように行動をさせるためには、煩わしい作業をしなくてはならない。 動物園でねずみなんて、飼わないだろ?あんなバカ。 俺のタイガーは、動物園にいる従順な虎のように、以心伝心の如く、 触るだけで脳のシグナルを解析してくれる。 要するに、要求している動作を即座に実行してくれる、次世代入力機器だ。 これで俺は一山の財産持ちになれた。ゲイツも、俺の才能と将来性を見抜いたようで、 ウィンドウズは、完全タイガー対応OSになった。 マイクロソフトの幹部にと、オファーも来たけど、それは断った。 様々な制限が、俺の発想を傷つけるのだけは、避けたかったんだ。 俺は技術者ではなくて、芸術家だ。哲学的な発想を具現化する、マジシャンだ。 そしたら、ゲイツ、他の企業への入社を防ぐために、スパイを雇って、 俺をマークさせている。電話も盗聴されている。企業のあくどいやり方を知ったよ。 才能のある人間は人を傷つける。しかし、才能を羨む人間は、才能そのものに傷つけるんだ。 次は「らあめん」「牛乳」「葉巻」で。
73 :
名無し物書き@推敲中? :03/01/31 22:17
「らあめん」「牛乳」「葉巻」 わたしが通う女子高の担任教師Y村は、どうしようもないヲタだ。 四十代のくせに独身で、たぶん素人童貞で、伸びたらあめんのように締りのない顔をしているのだが、 不思議と憎めない性格をしている。というのも、生徒達にとても従順なのだ。 何でも言うことを聞く。 このまえも、生徒五人とY村の六人でカラオケに行ったのだが、とても楽しかった。 その時、Y村には一曲も歌わせず、ひたすら足のマッサージをさせたのだが、 結構喜んで三時間ずっと足を揉み続けていた。元来そういうことが好きな奴なのだ。 だけどさすがに疲れてきたのか、二時間くらい経った時、喉の渇きを訴えてきた。 仕方なくわたし達は牛乳を注文してやり、しかしそのままグラスから飲んでも面白くないので、 わたしが口移しで、といっても殆ど顔にぶっ掛けてやったのたが、 めちゃめちゃ喜んでいた。ほんとY村は最高の担任だ。 だけど、ひとつだけY村に関して気に入らないことがある。 それは貧相な顔をしているくせに葉巻を吸うことだ。 Y村は何故か煙草ではなく、葉巻を愛好している。 ヲタのくせに生意気だと思うのだが、それだけは絶対にやめようとしない。 どうしてだかはわからない。 だからわたし達は今、その葉巻を使って何か悪戯をしてやろうと考えているところだ。 次は「換気扇」「タンゴ」「花魁」で。
換気扇はクルクルと廻っていたが部屋の中の不快な空気は排出されていなかった。 部屋はとてもとても散らかっており、椅子は横倒し、机も同じく。 机の上に立ててあったであろう花瓶は床に破片をばら撒き水浸しにさせていた。 中央では一人の女がぐったりと力なくうなだれる男を抱きしめている。 その足元には血。真っ赤な粘性の高い液体が男の腹からとくとくと流れ出ていた。 要するに男は息絶えていた。ついさっきに。 そうして殺した女は男が死んでいるというのにひっしと抱きかかえていた。 不意に女は男の手を取りぎこちなくもダンスを始めた。 その動きは固かったもののタンゴのリズムを刻んでいた。 タン淡々と。 不器用なステップを刻むなか女はふと思った。 (別れ話を持ちかけられてついつい殺してしまったけれど……) (よくよく考えてみたらこれで良かったんだ。そう、わたしには新しい男が必要なんだわ。) (それにしても……) 女はステップを止める。 (……"花魁"ってどういう意味なのかしら?) オリエンタルに「ヨガ」「モンスーン」「巨像」
75 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/01 00:56
インド洋の小島には不思議な風習がある。 モンスーンの季節になると、島の人々は村の広場に集まり、夜な夜な踊るのだ。 踊りといっても、動きがエロチックだったり、激しかったりはしない。 音楽もなく、人々はただゆっくりと体をくねらせ、時々静止してポーズを作る。 それはヨガに似た動きだが、そのポーズにどういう意味があるのか、 はたまたその風習自体、どんな謂れがあるのか、島の人々にも、学者にもわかっていない。 古い文献によると、幻の大陸「ムー」に同じような風習があったらしいが、 真意の程は不明だ。 ただ、その文献によると、嘗てムーの人々は、神への畏怖と畏敬の念を込めて、 創造主の巨像の前に集い、その踊りを捧げたらしい。 このことは、人類最初の書物として名高い、ヘブライ語で書かれた世界最古の本、 「偉大なるムーの歴史」(大英博物館収蔵)の中にも、図解入りで紹介されている。 しかしムーとインド洋の小島がどこで繋がるのか、十九世紀の末から盛んに研究されているが、 依然として謎のままだ。 それでも、インド洋の小島で暮らす人々は、今年もまたモンスーンの季節がくれば、 夜な夜な広場に集い、踊り明かすだろう。 そして、その風習はおそらく永遠に続いていくに違いない。 次は「アヒル」「おでん」「プロレス」で。
「この街もすっかり綺麗になっちまったもんだ……」 男は、コートの襟を立てながら建物を見上げた。 吹いてくる風は昔と同じで冷たい。だが、それは昔のアルコール臭漂う風ではなかった。 この建物も、以前はこの道のシンボルの闇プロレス会場だったが今はもうただのスポーツセンターになってしまった。 回りを見回してみると、変化が余計目に付く。 賭場は公園になり、ご丁寧に池にはアヒルが泳いでいる。 喧騒の中にあった場末のおでん屋は、おしゃれなバーになってすっかり大人しい。 男は白い溜息を洩らした。 帰ってくるんじゃなかった、と心の中で呟く。 折角亡命する前に故郷に戻ってきたのに、そこは故郷ではなくなっていた。 男の故郷は汚れた都市だった。男はそのことを誇りに生きた。 男の故郷は健全な都市になった。男は現実に疲れ果てた。 男の故郷は幻想となった。男は故郷を夢見、生きていく。
次は「旅人」「接近戦」「狸」で。
「旅人」「接近戦」「狸」 男は旅人だった。 その前は闇プロの闘士だった。 接近戦では向かうところ敵なしの強者だった。 そして今、亡命者となる。 いや、むしろなり下がるのだ。 それはそれでいい。男は街に背を向けた。 この街にもう俺の居場所はない。 おそらく二度と山を降りはしないだろう。 最後の一戦でキツネの野郎に負けたのだ。 負け犬ならぬ負け狸は、変身を解いて 4つ足でとぼとぼ山へと去った。 次は「キツネ」「猫」「耐火パネル」
いつも繋がることだけを求めていた、哀れな小猫の首を絞めた時に、 ふと、とある情景が頭を過ぎった。昔見た風景かどうかは判らない。 古ぼけた農村の、名も無い寂れた畦道。目の前には、純和風の古い茶屋があった。 その中には、割烹着を着た店主がいた。 「私はね、時々、キツネになりたいと思うのよ。」 突然彼女は、妄想の中にいる俺に、意味深げな言葉を発した。 「何故?」 「キツネはね、人を化かすでしょ?あなたのようなカッコいい男なら、 きっと経験あると思うけど、恋愛は、化かしあいじゃない。」 「そうですね。おばさん、結構、経験豊富なんすか?」 「私はね、今も純潔を守っているわ。私は猫なのよ。恋に甘え過ぎていて、 愛を育てることを知らなかったの。」 えっ、と言おうと思った時、また、別の景色になった。 偶像は、灼熱の業火の中でもだえ苦しんでいた。私は、客観的に私自身を眺めていた。 目の前には、殺害したばかりの猫がいた。 彼女はクーラーの効いた耐火パネルの中にいて、涼しげな顔で私を見ていた。 あなたが私を殺した理由が判ったわ 「、、、何故?」 あなたはキツネなの。独断的で、賢くて、私を論理的に扱っていたわ 私は猫。盲目に、情熱的に恋をしていたかった。あなたと繋がることで、愛へと昇華したかった。 「だからどうした!早くここから出してくれ!熱い!」 私は今、キツネなのよ。論理的に、あなたを罪に処しているだけ ふと我に返った時に、私は自らの罪を実感した。 次は「回路」「命」「ときめき」
80 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/01 14:59
「回路」「命」「ときめき」 人も途絶えたバレエスタジオで、少女の踊りは30分は続いた。 回路が狂ったロボットの様な奇妙な、しかし真摯な踊りだった。 「もういい!」と義足のコーチが告げる。 「15歳ということだが…諦めた方がいい。この世界はそんなに甘くない」 「私には、名バレリーナだった父の血が流れています」平然と少女は言った。 「天才パレリーナと言われたコーチのお力と、父の資質があれば!」 あいつと同じだ、と彼は思う。 親友のあいつの資質と気性を、この娘はそのまま受け継いでいる。 「お父様の命であるバレエを、途絶えさせたくないんです…お願いします!」 心は決まった。 「よし、これから毎日だ。私のすべてを叩き込んでやるから覚悟しろ」 半年以上がが経過した。彼女はコーチの言いつけを毎日丹念に守ってきた。 オペラ座は今日もときめきながら、天才プリマの誕生を待ち焦がれている。 出産予定日まであと2ケ月! プリマである可能性は1/2だ。 ※すごく削ったー 次のお題は:「コート」「外套」「判決」でお願いします。
81 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/01 16:47
「コート」「外套」「判決」 裁判長は言った。 「被告人を懲役三年の実刑に処す」 傍聴席がどよめいた。想像以上に厳しい判決となったからだ。 大方の予想を裏切り、実刑とは…少なくとも執行猶予は勝ち取れると思ったのに。 弁護士はそう悔しがり、横目でちらりと依頼人を見た。 依頼人は放心したような表情で天井を仰いでいる。自分でも予想外の判決だったのだろう。 裁判長が判決理由を言う。 「被告人は、作家志望という本来なら極めて謙虚な行動を取らなければならない立場にありながら、 俺は純文作家だから、という誠に身勝手で安易な発想から、簡単に「コート」と記せばいいものを、 敢えて「外套」などという小難しい語句を使用し、いかにも俺は頭がいいんだとばかりに、 得意げになり、調子に乗っていた…これは、断じて許しがたい勘違いである。 よって当法廷は被告人に懲役三年の実刑を言い渡すものである。 以上、本日はこれまで。閉廷!」 木槌の音が響き渡る。被告人が、警察官に連れ添われて、項垂れながら退廷していく。 弁護人はその小さな背中をぼんやりと見送りながら、 これからはもっと謙虚になれよ、と胸の内で呟いた。 次は「不審船」「レオタード」「湿原」で。
82 :
「不審船」「レオタード」「湿原」 :03/02/01 16:58
ぬかるんだ泥が、トゥシューズにまとわりつく。 レオタードを着た少女は、湿原を疾走していた。 鉛色の空。 鉛色の海。 鉛色の――船。 『不審船』がこの海域で発見され、海上保安庁の捜査船に囲まれたものの見事に 行方をくらましたという5分程度の小さなニュースのことを、少女は知らない。 知らないが――。 「……! ……! ……」 「………………!」 「…………」 理解できない言葉を交わしながら追いすがってくる、鉛色の外套を着込んだ 男たちと、その船を結び付けることぐらいはできた。 掴まったらきっとあの船であの国に連れていかれるのだ。 頼りない細い葦の影。ずぶずぶと沈む泥。発見されるのは時間の問題だった。 次は「増員」「石鹸」「崩壊」で。
「増員」「石鹸」「崩壊」 船員たちの交わした言葉はおおむねこんな内容だった。 「人手が足りない! 拉致してでも増員しろ! この際女子供でも構わん」 「急げ。運べるだけ運ぶんだ。祖国崩壊の危機が迫っている。積み込み次第出発するぞ!」 「解ってるな。○王の石鹸だぞ。なんとしても祖国を異臭から救うんだ。」 鉛色の空。 鉛色の海。 鉛色の――買い物カゴ。 ・・・・・・よほどせっぱ詰っているらしい。 次は「スケート」「暴発」「マタ〜リ」
84 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/01 21:46
スケート」「暴発」「マタ〜リ」 どこかでマタ〜リしたいな、と友達が言ったので俺は瞬間的に怒りを爆発させてしまった。 「おまえ、『マタ〜リ』なんておかしな言葉を使うな、バカ! それでも日本人か? まともな日本人なら『まったり』と『のんびり』とか、 普通の日本語を使えよ!」 「そんなに怒ることないじゃないか」 「何だと? 日本語の乱れがこの国の乱れにも繋がっているんだぞ」 「あんまり堅いこと言うなよ。笑われるぜ」 「笑われる? あのおまえがいつも真夜中にひとりで見ている匿名掲示板みたいな場所でか? ふん、上等じゃねえか。だいたい匿名で何を偉そうなことを言っても説得力なんか全然ないんだよ」 「まあそうかもしれないけどさ…」 「とにかくさ、おまえも毎晩毎晩パソコンに齧りついていないでさ、たまには外で遊ぼうぜ。 そうだ、今度の日曜日にスケートでも行こうか」 「なんかあんまり気が進まないな」 「じゃあ勝手にしろ!」 俺はそう言い捨てて友達の家を飛び出すと、自分のアパートへ帰った。 そして早速パソコンを立ち上げて某掲示板にアクセスし、友達との遣り取りの鬱憤を晴らすために、 いろんなスレに出入りして罵詈雑言を撒き散らした。 次は「北方領土」「遊郭」「アワビ」で。
>>84 ちょ〜っと違うんだな、ボーハツとバクハツは。
某掲示板にアクセスして罵詈雑言を撒き散らす前に
気をつけたがいいぜ。
>>85 ほんとだ、間違えちまったな。
頭の中では「暴発」のつもりだったのだが。。。
まあ言い訳はともかく、罵詈雑言を撒き散らす前に教えてもらえてよかったよ。
「北方領土の早期返還だと? やつらには経済という単語が分かっているのか?」 車の中でひとりごちた。その声には紛れもなく自嘲の色合いが込められている。 くだらない政治的な議論の後には、銀座の一角に通いつめるのが習慣となっていた。 料亭で極上のアワビを肴に酒に溺れ、遊郭にてまだ幼い春を買う。 どうしてこんなことを続けるのか男にも実は分かっていなかった。 「鮑」ではなく「アワビ」を、「風俗で女を買う」のではなく「遊郭で春を買う」のだ。 文章は使う言葉の選択によって決まる、とはユリウス・カエサルの言であるが、 このくだらなさを一体何と表現すればよいのか。 (俺が手に入れたかったのは、こんなものではなかったはずなのに) そろそろと襖が開き、そこには和服の少女が三つ指をついて控えていた。 その少女にはどこか奇妙な場違いさがあった。商売女特有の媚びが微塵もない。 この不況の最中だ。親に売られてきたのだろうか。 そして同時にどこか懐かしいものが感じられた。それは男が失っていた何かである。 「姫由里と申します。以後、お見知り置きを。 甲斐原様にはご指導いただくよう女将より言いつかってきております」 ――つまり、好きに扱えということか。女将も酷なことをする。 その立ち振る舞いは完璧な礼儀に適っていたが、 瞳の奥には、決して消えさることのない篝火が灯されている。 男に対する怒りだろうか? 違う。これは世の中の不条理さ全てに対する怒りである。 「待っていたぞ」 男は遠い昔、自分が初めてバイクを盗んだ日のことを、 初めて校舎の窓ガラスを割ってまわった日のことを思い出していた。
お次は「象牙の塔」「崩壊」「天地」で。
89 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/02 01:50
象牙の塔」「崩壊」「天地」 宣教師ミハイルは誰もいない教会でひとり、十字架の前に跪き祈った。 「神よ…」 もう百日間も激しい雨が降り続いていた。 空には雷鳴が轟き、閃光が天地を割る。 教会の外では夜の嵐が暴れているが、礼拝堂の内部は深海のように静かだった。 白い稲光が炸裂するたびに、鮮やかなステンドグラスが暗い光を落とし、 ミハイルの影が黒く浮かび上がる。 燭台の蝋燭の炎が揺れている。 たとえ文明が崩壊しようとも、信仰は滅びない。 祈りだけが愚かなる人間を救済してくれるのであろう。 「神よ…」 ミハイルは祈りを捧げながら神に問う。 「わたしたちはどこへ向かえばいいのでしょうか」 希望はまるで遥か彼方に霞む象牙の塔のようだ。 それは美しく、見る者を魅了してやまないが、あまりに遠く儚い。 しかしわたしは祈る、とミハイルは思う。 いつかきっと神の許へ辿り着くことを願って。 次は「人工衛星」「山寺」「魚河岸」
ダイコウジ・劾はやり手の魚河岸師である。 そしてただのやり手と言うわけではない。海千山千の経験を積んだ玄人なのだ。 経験を積んだ、と言う事はこの激動の社会を生き抜くことでもある。 社会の人々はあまり知らないだろうが、魚河岸もコンピューター化が進んでいる。 漁船で網に捕獲された魚達は、網についたコンピューターにより自動判定され、人工衛星を利用した通信で陸の中央コンピューターに登録される。 そしてその時、まだ陸に魚を揚げる前から『それ』は始まるのだ。 株よりもシビア、情けは非道と言われるオークション形式でセリは始まる。 匿名は許されない。IDは厳密に決められているので、相手を把握する事、それが重要となる。 ダイコウジ・劾はそんな中で新人達からは恐れられた存在なのだ。 ダイコウジ・劾は今日もコンピューターに向かい、魚河岸サイトへと跳ぶ。 いつもと同じく結果は上々。セリの終わったこのサイトでは、井戸端チャットと呼ばれる世間話が展開していた。 「いやぁ、劾さんにはかないませんなぁ」「本当です。どうやったらそんなに巧くできるんですか?」 ダイコウジ・劾は語らない。そんな大切な事を、誰が教えるかと心の中で思いながら、コンピューターの電源を切った。 大きな背伸びをして、床に寝転がる。長い歴史をダイコウジ一族とともに歩んできた山寺の床は、心地よい冷たさを伝える。 ダイコウジ・劾は呟く。 「間をおく事が重要なのさ……いくら通信が発達したSFのような世界でも、な」 次は「サイレン」「ファクトリー」「スター」で。
91 :
「サイレン」「ファクトリー」「スター」 :03/02/02 10:28
大手CDプレス会社『トイズ・ファクトリー』の最後のスターはサイレン―― 破滅の歌姫だった。 Ca+、それが彼女の名前だった。元々は、とても人気のあるアイドル・グルー プに所属しており、一、二を争う人気があった。そんな彼女が卒業してソロに転向 するのはごく自然の成り行きだったと言えよう。 ファーストシングルは30万枚限定プレスだった。初回特典にはミニ写真集が付く。 シングルは飛ぶように売れ、あっという間に完売した。彼女の歌声は、TVでもラ ジオでもカーステレオでもどこでも流れた。 ジャイアン並の破壊的電波が。 後の歴史学的研究によると、この流行で日本人の音感の95%が壊滅的に破壊され たという。日本人の音楽の流行は世界の本流から外れ、壊滅的に音程を外し、リズ ムがオーケストラとズレるものが好まれるようになった。プレス会社のヒット予測 は悉く外れ、売れ行き不振から大手が軒並み倒産していったことも、このサイレン のヒットが原因だったことが証明されている。 次は「食欲」「書籍」「洪水」で。
92 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/02 11:03
ジャンクフードは食文化を食い尽くす、と声高に主張するものがいる。 それはたしかに真実の一面を突いているのだと思う。 いつでもどこでも同じような食材を同じような味付けでもって、人の食欲を満たす。 そこにオリジナリティなどという概念は存在しない。 人々の舌は化学調味料の洪水に晒され、味覚が慣れ切らされてしまうのだ。 溢れかえるファストフードの前に、 競争に敗れた既存の飲食店は店を畳むしかないだろう。 所謂「文化人たち」が「嘆かわしい」と口にするのも無理からぬところがある。 だが同時にこうも思う。生存能力を失った文化にいかほどの価値があるのか? 文化とは文化それ自体がもつ力で生き残るべきなのだ。 それが文化というものが最初に形作られる由縁でもあり、 受け継がれる理由でもあるのではないか? 記者会見では、そういった思弁をおくびにも出さず、 問われた質問に真摯(少なくとも表面上は)に答えるのだ。 「失われていく日本の伝統文化というものを見つめ直すために、この本を書き記しました」 「先生! 日本の文化を守っていくためにはどうしたらよいと思いますか?」 「政府が補助金を出すなりして、手厚く保護するしかないと考えます」 ――出版された書籍が売れてくれさえすればいい。 そうでないと、ジャンクフードですら食えなくなるのだから。 #次は、「存在意義」「価値観」「多様性」
94 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/02 16:18
「食欲」「書籍」「洪水」 テレビの画面いっぱいに、礼文島のウニ丼が映し出された。 女性レポーターは、「この職業で本当によかった」と心から思った。 「はい。それでは、さっそく、いっただきまーす!」 ウニ丼をほおばるレポーターと共に、幾百万の視聴者も口をあんぐりと開け 思う存分に空気を咀嚼した。 「おいしいっ」と、いちはやく叫んだのはレポーターではない、視聴者だ。 味覚放送。 従来のテレビ映像にあわせ、味覚と嗅覚を直接脳jに伝えるシステム。 世界からの集められた最高の味覚の洪水が、幾億の人間の食欲を満たす。 まずい料理にも、「うまい」と言わされる芸能人に騙される事はない。 物は、食べれば、なくなる。 しかし放送は、書籍同様のソフトウエアだから、幾人で味わってもなくならない。 夜が更ければ、放送も終わる。 「さあ寝ようか」と一視聴者は、ビタミン剤と食欲抑制剤を飲んで寝床につく。 何も心配する事はない。ダイエットにもなっていいじゃないか。 第一、配給の国民標準食のあの味ときたら… ※いかにもよくある展開だけど…大丈夫? 次のお題は:「ビル」「ピル」「ヒル」でお願いします。
95 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/02 16:21
ごめんなさい。久々にかぶってしまいました(^^; 次のお題は、Caさんの、「意義」「価値観」「多様性」でお願いします。
「19世紀的な文化進化論は、あくまで西欧文明中心のダーウィニズムに基づいたものであって、それに準拠しない文明、 たとえばトロブリアンド諸島の文明などはその準拠枠で判断することはできない。いきおい感情的な、<未開>などという言葉で くくられ、最終的に西欧文明に到達する以外の結論も見いだせないことから、存在意義についても軽視され……」 長広舌が続く。今日も教授は絶好調だ。 「……20世紀になって、ソシュールの記号論を応用した構造主義がレヴィ=ストロースらによって提唱される。また、 文化の発展がおのおの一元的な進化をするものではないという文化相対論に基づいた価値観の再構築が行われ、 いわゆる<未開文化>の研究が加速していくこととなる」 そこで教授は話を止め、講義ノートを閉じた。 「ここまでの講義を通じ、諸君に伝えておかなかればならないことがある。文化は独自のものであり、決して他の文化によって 解釈されたり、決定されてはならないものだ。異文化交流により変容する面は少なからずある。しかしだからといって、 異文化の価値基準を勝手に適用したり、様式を押しつけたりすることは、文化の多様性を否定し、結果全文化の衰退を招くことにも なりかねない。これらを踏まえ、私は諸君らにこのことを伝えよう」 教授は胸を張り、誇らしげに宣言した。 「ジオン・ズム・ダイクンの思想は掲げられ続けなければならない。地球連邦のそれは、異文化抑圧以外の何物でもないのだ」 やはり、教授は今日もノリノリだった。 本文は概ね文化人類学史に沿っていますが、R・エルツを削ったり、内容の置換をしています。そこへのツッコミは勘弁。 お題は継続で。
97 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/02 22:54
「存在意義」「価値観」「多様性」 もうちょっとウチの寺にも参拝客があってもいいんじゃないか、 と俺は憮然としながら、缶ビールを呷った。 まだ真昼間だったが、そんなことはどうでもいい。 最近は檀家も少なくなってきて、台所が苦しい。 ウチの寺は親父が住職で俺が副住職なのだが、親父はゴルフばっかり出掛けていて、 葬式や法事などは殆ど俺がやっている。お陰でなかなか忙しい。 しかし田舎なので、檀家連中もあまり金を持っていないから、 いや持っているのかもしれないがケチだから、俺は貧乏暇なしだ。 そこで、俺は檀家をあてにせず、観光客を拾おうと、いくつかの寺のHPを見たり、 パンフレットを集めて、宗派にこだわらず景気の良さそうな寺を選び出し、 集客のコツを研究してみた。 しかし、どこも涙ぐましい経営努力をしているようだ。 厄除開運、商売繁盛など、お参りの効能も多様性に富んでいるし、 金の臭いをしっかり消して、現代における仏教の存在意義を崇高にうたっている。 寺の内情を知っているものからしたら噴飯物だ。 ある大きな寺の住職なんか愛人を囲っていて年に数回は海外へ行っているし、 俺の友達連中なんかひとりの例外もなく、肉は食う、酒は飲む、女も買う。 やはりこれだけ経済が低迷し、価値観が複雑になってくると、つい神だの仏だのに頼みたくなるのだろう。 だから儲かっていそうな寺は、そこの部分をうまく衝いている。 見習わなければならない、と思った俺は一念発起した。 まずは手始めにホームページ作成ソフトを買ってきて、ウチの寺のホームページを作ろう。 俺はビールを飲み干し、そう思った。 次は「浮世絵」「ケチャップ」「駆逐艦」で。
98 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/02/03 01:16
「浮世絵」「ケチャップ」「駆逐艦」 「お姫様がそんなもの見てはいけないよ」 唇の端を吊り上げ、和服の男は妖しく笑う。 「戦艦を調べていたところですの」 薄桃色の着物をきた少女は少し怯えた表情を見せ、膝の上の本を白く形のよい手で握り締めた。 男はゆっくりと赤い洋椅子に腰掛けている少女の後ろに回りこむ。 少女の少しうつむく姿は、有名な浮世絵「見返り美人」の女性よりも美しい、と男は目を細めて眺めた。 「そんなもの調べてどうするんだい?お姫様はね、そんな俗物知る必要などないのだよ」 男の手が少女の手と重なり、少女は身を硬くした。 「お姫様はね、ただ旦那のことだけを考えていればよいのだよ」 少女がこの男のもとへ嫁いで日はまだ浅い。 愛する者は、今、駆逐艦の上にいた。もう一生会えない、愛しい者。 これもすべて父親とこの男のせいだということも少女にはわかっていた。 「女だって今のご時世、こういうものに詳しくなくてはいけませんのよ」 少女は弱弱しく微笑む。引き攣った唇の上に男はそっと自分の唇を重ねた。 「君は僕のものなんだよ」 男は少女の手から本を取り上げ、駆逐艦のページを切り裂いた。赤いケチャップ色の船体が真っ二つになる。 「どうせ、あいつもこのようになるのだよ」 無抵抗に倒れこむ少女。涙の光る切れ長の二重瞼は、虚無という名の未来を泳いでいた。 ――夜は、長い。 ☆修学旅行に行っている間、PCができないのが辛かったです。 今日、レスをチェックするのが大変でした……。 次は「ミシン」「スキー」「マリモ」でお願いします。
99 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/03 14:21
高校の修学旅行でぼくは北海道へ行った。 二泊三日のスキー旅行だ。 どうして修学旅行なのに「スキー」なのかよくわからなかったけれど、 それなりに楽しかったから良しとしよう。 実は、ぼくは今回の旅行で、あるひとつの決心をしていた。 それは同じクラスの葛西桜子に告白しようと思っていたのだ。 しかし結果は、最悪だった。無残にもフラれた。 まあそれも仕方なかったかもしれない。 なぜならぼくは桜子の前でひどい恥をかいてしまったのだ。 なんと、ぼくは二日目のスキーで派手に転倒して、防護柵に激突し、 ウエアをビリビリに引き裂いてしまった。 ぼくはみんなの笑い声を背中で聞きながら宿へ戻ると、ミシンを借りて、 自分で応急処置をしながら、みんなが帰ってくるのを待った。 やがて桜子がひとりで帰ってきた。 ぼくはチャンスだと思い、密かに土産物店で買っておいた可愛いマリモを差し出しながら、 好きだ、と彼女に告白した。すると桜子は、ダサーイと顔を顰め、 だいたいあんな恥ずかしいことをみんなの前でしておいて、よく告白なんかできるわね、 と鼻で笑いながら、軽蔑の眼差しでぼくを見た。 ぼくはたまらなく恥ずかしさを覚えてその場から逃げ出した。 そしてプレゼントのマリモを部屋のゴミ箱に捨てた。 苦い思い出だ。でもスキー自体は楽しかったから、これも青春の思い出だ、 と今のぼくはもう開き直っている。 次は「泥酔」「アプリケーション」「南極」で。
100 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/03 18:42
「泥酔」「アプリケーション」「南極」 「………冗談でしょう?室長?」 乾いた笑い声をあげながら、俺はようやく言葉を発した。 室長はすまなそうに手を合わせると、デスクを漁り、その中から一枚の書類を取り出し、俺に手渡した。 その書類には簡単に短い文章が書かれていた。 『次の調査部隊は033部隊から211部隊へと変更する』 「な、何で!?しかもよりによって211が!?」 「………211の室長は上に顔が利くからね」 それまで沈黙を守っていた女がボソリと呟く。 「オマエはそれでいいのかよ、エルフィナ!!」 女―エルフィナはゆっくりと顔をあげると、 「別に?私はこの子に新しいアプリケーション作ってたところだし、そっちのほうに時間かけたいから」 そう言ってエルフィナは自分のデスクの上にいるロボットペットに手をやる。 「あんたこそ何でそんなに悔しがるの?南極の調査なんて寒いだけじゃない」 「な!?おまえ、南極だぞ!?氷の大地だぞ、ペンギンだぞ、白熊だぞ!?」 「白熊は北極」 「うるさい!!とにかくロマンがあるんだよ!!ロ・マ・ン!!」 そう言い残すと俺は部屋を出て行く。 「室長!!飲みに行きますよ!!」 室長はヤレヤレといった感じで先に行っててくれと言うと帰り支度を始めた。 彼が部屋から出ると、私はロボットペットをじゃらしながら室長に話し掛けた。 「室長、アイツにあまり飲ませないでくださいね。泥酔したアイツの世話するのは私なんですから」 室長は私の言葉に笑って応えるとそのまま部屋を後にした。 ………まったく、わかっているのだろうか? とりあえず、今日はアイツが帰ってきてもほっておこう、水をせがまれたって入れてやるものか。 私はそう決意すると、帰り支度を始めた。 次は「思い出」「時計」「白い息」でお願いします。
101 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/03 22:11
「思い出」「時計」「白い息」 秋の午後。老警察署長は家でぼんやりと古時計を眺めていた。 子供の頃、結婚した時、息子が生まれた時。 自分の人生の「春」と言える時代を見つめてきた、大きな古時計を。 そこへ、息子がいきなりやってきた。「お父さん!俺、新しい商売を考えたよ。」 「おっほっほ。突然なんだ、その…新商売というのは」 息子はにっこり笑って、古時計に聴診器の様なものをつけた。 「この機械は、時計に残っている記憶を音声に変換するんだ」 「はっはっは、面白い息子じゃ。そんなばかなことが…」 と、耳に当てると、歯車のきしむ音に混じって今はなき妻の声が! 「あのね。今日はね。お父さん、帰りが、遅いの」 「やんちゃな赤ん坊ねえ、大人になったら…」「ご飯ですよぅー」 ああ、この世の春の、あの呼び声が。思わず目を潤ませる父に息子は言った。 「はい、100マルクでーす」 「むむむ」あまりに打算的な息子に、思わず彼はこう叫んだ。 「売春容疑で逮捕する!」 ※むむむだった^^; 次のお題は:「富士」「微小」「七」でお願いしまふ。
>>94 電波ジャックでウンコとか流す奴がいるだろうね
103 :
「富士」「微小」「七」 :03/02/03 23:32
東京の高層マンションの一室で私は彼を殺した。 窓から無制限に広がる青い空は薄く富士山を映す。 口論のすえもみあいになって突き飛ばしたら、熱帯魚の水槽に彼の頭をぶつけたのだ。 熱帯所の水槽は割れ、床に微小のガラス片が散った。 程なく七匹の熱帯魚は死んでしまった。 私は呆然と七匹の熱帯魚と一人の男の死体をしばらく見つづけていた。 それでも私は気を取り直し、立ち上がっては掃除機とゴミ袋を用意し、弱い魚と水槽の痕を処理した。 それらをごみステーションに置いてきてから、彼をベランダへと引っ張りそこから突き落とした。 すぐに彼は微小の塵となり、吸い込まれるようにアスファルトへと消えてしまった。 そのとき私は自分の正当性を反芻するばかりで、死者に祈る気持ちは消えていた。 今でも私は普通に会社勤めをし、ストレスを煙草で紛らす日々がつづいている。 それでももう黒い服は着ないようにしている。 なにかの歌ではないけれど、私には着る資格がないのだ。 宇多田ヒカルの新曲を聴きながら書いてみました。 つぎは「コンタクト・レンズ」「恋人」「闘牛士」でどうぞ。
104 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/04 00:41
闘牛といえばスペインが本場だが、 スペインの闘牛士にはライセンスが必要であるということは、あまり知られていない。 その試験はかなりの難関で、毎年千人近くが応募して、書類選考の時点で九割が脱落する。 というのも、身長、体重などに厳しい制限があるし、視力や聴力まで規定があるからだ。 たとえば視力の場合、眼鏡は論外で、コンタクト・レンズの使用も認められない。 こういった厳格な基準が定められているため、殆どの受験者は一次選考の書類審査でふるい落とされる。 そして二次である筆記、三次である実技、と順に絞られていき、 最終試験である現役闘牛士との問答を突破して、晴れてライセンスを支給されるのは、 毎年せいぜい一人か二人である。 そうして闘牛士になると、国王から直々にライセンス証が授与されるのだが、 その記念式典の模様はテレビやラジオで全国中継される。 ちなみに、闘牛士は現役の間、結婚はおろか異性との交際すら認められない。 恋人がいると判明した時点でライセンスは剥奪される。 なぜなら闘牛士という職業は国王から直々に任命される神聖な仕事であり、 穢れは許されないからである。 次は「寸劇」「大陸弾道ミサイル」「落葉」で。
105 :
「寸劇」「大陸弾道ミサイル」「落葉」 :03/02/04 09:25
俺は毎日、早朝ランニングを欠かさない。六時には布団から出て、三十分で朝の支度を済ます。 そして、朝食前に、一時間、全身全霊、疾風怒濤、Strum und Drang。 目的も無く、ただ、走るという行為に没頭しながら、俺は近所の公園を駆け抜ける。 今日は天気がとても良く、いつにも増して、風景が綺麗に見える。落ち葉に、朝の鋭い木漏れ日が射している。 風を切る音がどんどん、大編成のクラシック音楽に聞こえてくる。秋らしくない、、 軽やかなダンスが似合うであろう、春の祭典のような音楽。自身の鼓動を、叙々に高めてくれるような音楽。 目的が、少しずつ定まってくる。走ることで得られる快楽は、ランナーズ・ハイだけではなく、 視覚と聴覚が生み出すドラッグ感をも得られる。世界で最も健全で、健康的なドラッグ。 お陰でここ15年、一度も風邪を引いたことが無い。朝飯のスタミナ焼肉定食弁当まで、もう少し。 大陸弾道ミサイルのように、俺はどんどん突き進む。 目の前にいる、老夫婦と散歩をしている犬は、そんな俺を見て、キャンキャン叫ぶ。その叫び声が、 俺には歓声のように聞こえてくる。あと少し!あと少し!俺の後ろで、同じように走っているランナーは その声がロック音楽に聞こえているのか、恍惚とした目をしながら手と足を振り回す。まるで人気バンドのファンのように。 あと一分で、一時間走ったことになる。ラストスパートだ。 最後の一分は、とても貴重な時間だ。寸劇を一度に沢山見ているかの如く、感覚の変化が著しい。 虹色のように変わる風景、クラブにいるかのように変わる音像。そして、体中から滲み出てくる満足感。 猛スピードで俺は、広大無辺な俺の生きる道を、また一歩、駆け上がった。 次は「エステサロン」「フェイク」「ポルトガル」で。
俺の同僚M。ポルトガルと日本のハーフで、彫りの深い端整な顔立ちをしている。 スポーツマンで体格がよく、よく日に焼けた肌とあいまって女性社員への受けは極上だ。 「エステサロン行って焼いてるんですよー」などとおちゃらけるように言うが、それはこの際問題にならない。 俺に分かるのは、こいつはいい奴だということだ。明るくて気風もいい。2時ごろについつい居眠りをしてしまうのはラテンの血の なせる業かもしれないが、普段のバリバリ仕事振りから、上司も見て見ぬ振りをしてしまう。 俺は、いや俺たち社員皆が、Mと同じ職場で働いていること、友人であることを嬉しく、誇らしく思っていた。 そんなある日、俺は見てしまった。 出勤してロッカーで着替えている時、Mの背にファスナーがついているのを。 この筋肉と小麦色の肌は、どうやらフェイクだったらしい。 そんなことを明るみに出したところで、Mという人間の価値が下がるとは毛頭思っていない。しかしそれを 指摘してしまうことで、Mとの友情を壊すのではないか。俺はそれが怖かった。 M自身のために指摘してやるべきか、それともまたM自身のために黙っていてやるべきか。 俺は今でも悩んでいる。 次のお題は「脊髄」「灰皿」「箪笥」で。
107 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/04 18:17
脊髄というのは人体の大切な部分の一つだ、と、灰皿を被った頭で僕は考えた。 脊髄は、中枢神経と抹消神経の集まっているところで、傷つくと鞭打ちと似た症状が出る。 似ているだけで、骨髄損傷と鞭打ちとは別のものだ。日常生活に支障をきたす、大変な損傷である。 さて、いまの僕の状況を説明しよう。 目の前には開きっぱなしで閉まらなくなった箪笥がある。 無理に閉めようとした僕に、 箪笥の上に置いてあった灰皿や時計やティッシュの箱などが降ってきたのだった。 僕は灰皿を被っている。 やはり大事な部分が壊れると上手く機能しなくなるらしい、と、箪笥を見ながら考えた。 では、箪笥の上から落ちてきたものについてはどうか。 僕は、今度は人体の四肢の動きとその連動性について考え始めた。 ========================= 次のお題は「クリームシチュー」「乗務員」「突風」で。
クリームシチューの乗務員にならないかと言われた。 やれやれ俺も落ちたものよ。雷雨にも突風にも負けなかったこの俺が。 いつだって俺らは地面を這って生きてきた。 大体、熱い海は苦手なんだよ。デンプンが死んじまうじゃねえか。 次のお題は「マスターベーション」「吉永さゆり」「パイパン」で。
「お前は何事につけてもそうだ。よく言えば独創的、悪く言えばマスターベーションを繰り返しているだけだろが」 吉井の目は本気だった。本気で俺を問いつめるつもりらしかった。 「俺らがモー娘。の話をしている横で吉永さゆり萌え〜とか、ティアリングサーガの話してる途中からハイブリッドフロント 最高〜とか。お前は自分の趣味を他人に押しつけすぎだ」 「そうか?」 俺は柳に風と受け流した。 「俺はただ、俺なりのアイロニーを垂れ流しているだけだ。気に入れば受容すればいい、気に入らなければ流せばいい。 何をそんなにいきり立つんだ?」 「いきり立たいでか!」 吉井が膝を打った。 「ワケわかんねーんだよ、お前のアイロニーは!麻雀の時もそうだ。白をパイパンと呼ぶのはいい。發をグリーンドラゴンと 呼ぶのも、まあ許そう。でもなんだありゃ!どこにどうアイロニーを絡めりゃ、中がラーメンになるんだ!?」 「だって書いてあるだろ。ラーメンな人のデコに」 「こ、こ、このド阿呆ゥ!」 吉井が怒りを爆発させた。 最近こんな三題多いな… 次のお題は「炭酸飲料」「便座」「アンドーナツ」で。
110 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/04 21:11
貿易の仕事をしている俺は先日会社の出張で、 成田から平壌までノースコリア・エアラインズの定期便に搭乗したのだが、 そのときの夕食が牛乳とアンドーナツだけだった。 俺はその機内食を運んできた歓び組OBと思しき美人スチュワーデスに思わず、 これだけ? と訊いてしまったのだが、彼女は申し訳無さそうに肩を竦めてみせただけだった。 俺は体質的に牛乳が一切駄目なので、「牛乳の他に何か飲み物はないの?」と訊くと、 彼女は、すいません、と謝った後、こう続けた。 「わたしたちの国は今とても貧しいので、他のものはありません。 金体制が崩壊して以来、国の状態は以前よりももっと酷くなりました。 ですから、ビールもウイスキーも、コーラやスプライトといった炭酸飲料すら、 お出しすることができないのです」 仕方ないので俺は持参してきたミネラルウォーターでアンドーナツを食べ、 それからトイレに行った。急にお腹が緩くなってしまったのだ。 トイレの扉を開け、パンツを下ろして便座に坐る。そしてふとドアの上部を見上げると、 金親子の肖像画がまだ掲げられたままになっていた。 俺は感慨深く金親子の顔を眺めながら、腹に力を込めた。 次は「乙女」「超大国」「宿場町」で。
私は仕事で、週に一度は関西に出向く。今日もまた、東海道新幹線に乗り込んだ。 日本が技術超大国であることを見せ付ける新幹線。そのお陰で関西は近くなったが、 同時にそこにいたる路も短く、狭くなったのはやや寂しい心持がする。 江戸から大阪なら、やはり新幹線の名の通り、東海道を行くのだろうか。 東海道五十三次など、私は浮世絵をお茶漬けの付録で見た事があるだけだが、 かつては宿場町として賑わっていたのだろう。だが、今ではそれも全て 新幹線の窓の外を音も無く流れるだけとなっている。 近代的な旅情も無いとは言えぬ車内から目を逸らし、窓の外を向く。そして 窓ガラスと景色との間に、空想を弄んでみる。 旅人の私は、賑わいある宿場町で宿を取る。旅すがら、旅慣れぬ乙女の世話を焼いて みたり。下心も無く……。ふと思い当たったのは伊豆の踊り子の世界である。旅は道連れ、 世は情け。いい言葉だ。何度も関西……上方と行き来している私は、道中の船渡しとも 顔見知りだから、あれやこれやと世間話に花が咲く。そうして人の情に触れる。 「あの」話しかけられて、私の空想は景色と一緒に流れて去った。 話しかけてきたのは、隣の座席に座る見知らぬ女性だった。いや、なんだか見覚えが。 思い出せずにいる私に、女性のほうから言葉を続ける。 「よく、この新幹線で一緒になりますね。お暇なら、少し話し相手になって貰えませんか?」 ……旅は道連れ、世は情け。やはり、いい言葉である。 次は「善」「悪」「罪」で。字が入ってれば読みは何でも可ということで。
大昔、『悪・即・斬』という言葉を掲げた組織があった。 意味は『悪い奴を見たら速攻で斬れ!』って事だと思う。……確かめた事無いからわかんないよ? それが良い事なのか、悪い事なのか……それは僕には分からない。 だけど、ぐだぐだ言うだけで何もしない大人を見て育った僕にはその言葉が……とても、カッコ良く聞こえた。 その言葉を知って、十日ぐらいたったのかな? ヤクザを包丁で刺して、逃げて……悪か、善かを考えたのにやっぱり僕の頭で結論は出なかった。 ぐるぐるとまとまらない頭でそんな事を考えてると、次第に恐怖が僕の頭を占めていった。 ……ヤクザを刺しちゃったから、今度は僕が悪なんだ。罪人なんだ……今度は……僕が殺される番。 今、これを書いているけど、やっぱりとても怖い。誰かに殺されるというのは怖い。 だから、死ぬ事にしました。皆さん、ごめんなさい。 ――『××川で3月5日に発見された遺書より』 次は「際どい」「嘘」「でんでら」で。
「際どい」「嘘」「でんでら」 『でんでらりゅうがでてくるばってん でんでられんけん でーてこんけん こんけられんけん こられられんけんこーんこん』 天井裏から歌声が聞こえるんだ。歌は必ず『でんでら』。 お国言葉が懐かしい。小さい頃、祖母から何度も聞かされた歌だけど、意味は分からない。 そもそも『でんでら』なのか『でんでら龍』なのか……。 ある夜、歌声の主を確かめる為に天井裏を覗いてみた。 埃と湿気で空気が濁っていた。懐中電灯の明りの中、蜘蛛の巣が光を反射して輝いていた。 『でんでらりゅうがでてくるばってん』突然耳元で声がしたんだ。 思わず懐中電灯を落としたよ。心臓が飛び出さんばかりに鼓動が高まったね。 『でんでらりゅうがでてくるばってん』正体を確かめる為に天井板をはずしたものの、 すぐ側にいるかと思うと、恐ろしさで身体が硬直して動けなかった。 「ひっ」いきなり耳朶を摘まれ、腰を抜かして梯子から転げ落ちたんだ。ひんやりとした感触だったな。 彼女は真剣に話を聞いている。俺はロックグラスを傾けて、一息入れると切り出した。 いい大人がこんな事を言うのは恥ずかしいんだけど、一人で家に帰るのが怖いんだ。 一緒に家に来てくれないか? 「口説き文句としては際どい嘘ね」彼女は口許に柔らかい微笑みを浮かべた。 次のお題は『平均値』『斜陽』『マスカラ』でお願い致します。
114 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/06 17:04
僕は最近あの人のことがすごく気になる。それこそ心臓に悪いくらいに気に している。というのも均君は尿酸値が日本人男性の平均値を大きく超えて、 9mg/dlの状態でここ半年過ごしているのだ。痛風なんて贅沢病にかかり やがって、お前本当に学生かよ、といっても彼は三浪してるから僕から見れば かなり年なんだけれども。その上家に金がないのに三浪一留もしてこないだま でやってた妙な機械を組み立てる内職にも勤しんでもいないから、贅沢なんて できるはずない。 この間は太宰にはまってるとか何とか言って、なんだっけ確か斜陽って 本を読んでいた気がする。 そうか、わかったぞ。彼は本の紙を食っているのか。最近のペーパにはプリン体が 多く含まれているからなぁ。致し方ないよ。紙食えば足の指痛し。 ほんでもって見舞いにいってやったら、病床に一輪のマスカラ。僕は困った。 次は「モリブデン」と「O-157」と「阿片チンキ」でお願いします。
かつて、病原性大腸菌O−157と呼ばれる細菌が流行したことがあった。 赤痢菌と同じベロ毒素を発することで、寄生した個体を中毒させるのだ。 細菌が死滅する際、内部に蓄えたベロ毒素を放出するため、直接細菌を攻撃出来ず、生体の抵抗力を高める以外の 治療法を確立出来ない、厄介な細菌であった。 しかし、ついにO−157を直接死滅させる治療法が厚生労働省の認可を受け、臨床実験に持ち込まれることとなった。 まず、患者に酸化モリブデンを経口投与する。体重によって投与量は異なり、体重六十五キログラムの標準的成人男性で、 約二十ミリグラム程度である。重金属中毒を一時的に起こさせるものであるが、過剰投与は患者の死に直結する 可能性があるため、細心の注意が必要である。 次いで、阿片溶液を直腸投与する。酸化モリブデン中毒により消化器系が一時的麻痺を起こしている間に阿片で腸を 洗浄するのであるが、溶媒に水を用いてはならない。残留した酸化モリブデンを溶解し、過剰投与と同様の事態を招来する恐れがある。 阿片チンキ、もしくはグリセリンが適当である。 阿片投与後約二時間でO−157は九十九パーセントが死滅する。消化器系の麻痺は約三時間で覚醒するため、浣腸と 胃洗浄を速やかに行う。 以上が術式の全容である。 チンパンジーによる動物実験では、検体の九十六パーセントがこの術式により全快している。人類がO−157の脅威を 克服できるよう、医療関係者各位の努力と協力を、伏して乞う次第である。 次のお題は「ブラウン管」「ピロシキ」「ヘリウム」で。
116 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/08 07:47
>>115 ブラウン管にヘリウムを入れてくれ、ピロシキあげるから。
愛してるよ、シグマ・ゴッドハンド。
次のお題は「ヘルムートラング」「ナルシソロドリゲス」「クシャビエデルクール」で
117 :
つづくよん :03/02/08 13:47
「ヘルムートラング」「ナルシソロドリゲス」「クシャビエデルクール」
お題に固有名詞禁止、というルールを、
>>116 はあえて無視した。
その方が面白いかと思ったからだ。
とりあえず自分のセンスの良さを示すためにブランド名を入れてみようと、
「ヘルムートラング」「ナルシソロドリゲス」「クシャビエデルクール」
と入れてみた。
しかしこの板にファッション通信を見ているような人間がいるだろうか?
というわけで、このお題は無視されてしまうのだった。
次のお題は「ブラウン管」「ピロシキ」「ヘリウム」で。
118 :
「ブラウン管」「ピロシキ」「ヘリウム」 :03/02/08 13:48
>>117 ブラウン管を通して食べ物を見ると、やけにおいしく見えてしまう。
「先生、あとは揚げれば終わりですね」
「そうです。中は煮えてますから、あまり揚げすぎないように」
料理番組は見てて好きだ。
「まあ、カラっと揚がりましたね」
そしてじゅうじゅうという一口サイズの揚げたてのピロシキ。
あたしは揚げたてのピロシキにほっと息を付いて、チャンネルをかえようとした。
「では、仕上にヘリウムを入れましょう」
ヘリウム? あたしはびっくりしてワイドショーに替えたリモコンを元に戻した。
巨大なガスボンベは料理番組のセットからあきらかに浮いていた。
「ヘリウムのボンベはご家庭にあるもので結構ですからね」
先生、はピロシキにガスボンベから突き出た針のようなものを刺して、コックを捻った。
「先生、どのくらいまで膨らませばいいんでしょうか?」
「そうですね、通常のピロシキ程度まで膨らませてください」
しゅうしゅうと音を立てて、ピロシキが膨れていく。
ピロシキは張ち切れもせず、まるで風船のように膨らんでいった。
「さて、出来上がりです」
「声が変って楽しいものですから、お子様に是非作ってあげてくださいね」
「今日は変わりピロシキの作り方でした」
次は「クリーナー」「名札」「湯飲み」で
「クリーナー」「名札」「湯のみ」 まだ名札を服に縫い付けている小さな、小学校4.5年生の男の子が湯飲みで茶を啜る姿は、 あまり似合ったものではなかった。 名札には、「小林 順」と書かれている。 その子の母親は、クリーナーで掃除をしている。 母親は、順の前に座り、話し掛けた。 「おかわりはいりますか?」 「いや、結構だ」 順はうざったそうにそういって、母親を追い払った。 はたから見れば、おままごとかなにかをしているようにも見えただろう。 だが、本当はそうではない。 母親は、自分の父を殺した。つまり順の祖父にあたる男を。 順を寝かしつけ、居間にいた父を後ろから思いっきり砂を入れた焼酎瓶で殴ったのだ。 後は処分をすれば、その最低な男のことは全て忘れられると思っていた。 だが、その男の魂は、死んだ後に自分の息子・・順に乗移ったのだ。 順が、その男を埋めた次の日に、自分にこういったのだ。 「わしはお前のことをずっと恨んでやる。順の体に乗り移っているのじゃ。 わしに、順を殺されたくなかったら、警察に突き出されたくなかったら、 わしの言うことを聞け」 そして今度は自分の命が危うくなってしまったのだ。 いつこの男が警察にこのことを喋るか判らない。 殺そうにも、愛する息子の体が人質ではどうしようもない。 母親はそれに従うしかなかった。 順は、頭の中でこんな事を思っていた。 「こんなにうまくいくとは思ってなかったなぁ。 おじいちゃんに取り憑かれてなんかいない。あのとき、僕は本当は起きていたんだよ」
120 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/08 17:40
お題をくれ。
お題は継承
122 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/09 05:13
「クリーナー」「名札」「湯のみ」 テレビの画面いっぱいに、礼文島のウニ丼が映し出された。 チャンネルをかえようとした。 あたしはびっくりしてワイドショーに替えた名札を元に戻した。 先生は湯のみにクリーナーから突き出た針のようなものを刺して、コックを捻った。 熱帯所の水槽は割れ、床に微小のガラス片が散った。 それなりに楽しかったから良しとしよう。 夜が更ければ、放送も終わる。 それが文化というものが最初に形作られる由縁でもあり、プリマである可能性は1/2だ。 次のお題は「關所」「盜聽」「大禮」
123 :
「關所」「盜聽」「大禮」 :03/02/09 11:18
私は只独りで泣いてゐました。 關所の側の宿屋の部屋で。 壁に寄り添い、髪を乱して。 盜み聽きする気などは御座ゐません。 只聽こえるのです。 隣から男達の喘ぎが。 其の中には旦那もゐます。 大禮に置いて私が惡いので御座ゐます。 私に子が出来無ひから。 だからこそ旦那は男に快楽を求めてしまふのです。 私はしつかりしなければゐけません。 旅は長いので御座ゐます。 ただこうして零さずにはゐられなかつたのです。 御許し下さいませ。 初めて歴史的仮名遣いで書いてみました。 合ってない気がする。 なんだか気持ち悪い。 次は「青」「1999」「飛行機」で。
124 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/09 16:06
「青」「1999」「飛行機」 初秋の青空、若者達が浜辺をランニングしている。 早起きをして見る海は、何もないかの様に静かだった。 彼等は知っているのだろうか、今日がどんな日なのかを。 小学校時代一緒だった彼女は、わざわざ飛行機でこの海にきてくれた。 とこかの村役場から、ラジオ体操の音楽が流れてくる… 「もうすぐだ」「うん」 こんな素晴らしい瞬間を、彼女と過ごせる自分は幸せだと思った。 1999年9月9日9時9分。 やがてくる偉大な瞬間を前に、九十九里浜は嘘の様に静かだった。 しかしその翌年、彼等は悲嘆のうちに自らの命を絶った。 その時になって、彼等は気付いてしまったのだ。 自分達が見過ごしていた、遥かに重要な事を。 平成11年11月11日11時11分を。 ※自分も見逃してた 次のお題は:「電話」「妖怪」「南仏」でお願いします。
125 :
「電話」「妖怪」「南仏」 :03/02/09 21:21
電話から妖怪が出てきた驚きようったらない。 「淋しくってさ」 ここは南仏プロヴァンス。新婚旅行のいい雰囲気に、受話器から突然アカ舐めが出てきてごらん? そういうことに慣れてるあたしも、どうしていいのかわからなくなる。 「淋しくってって、あのね、あたしの都合も考えてよ」 「またかよ……」 彼、芳樹君はうんざりした様子でため息をついた。 「淋しい淋しい淋しい! みんな淋しがってる。早く帰ってきてよ」 あたし別に黙って出きたわけじゃないし、アカ舐めから非難されることなんてやってないんだけど、 でも彼は(っで、いいと思うけれど)怨みがましい目であたしを見つめていた。 「はいはい。帰るから。あたしのプライベートも大事にしてよ」 「本当だよ? 絶対に帰ってきてよ? このまま放っておかれたら化けて出るよ?」 「オバケに化けて出るっていわれても……はいはい。帰るから。だから邪魔しないで」 アカ舐めは黙って芳樹に一瞥くれると、受話器の中に帰っていった。 「いつも思うけどさ。なんだってあんなに好かれるわけ?」 「わかんないけど。そういう体質なんだよ」 「だったら放っておきなよ。オレさ、なんか……」 そして今度は芳樹が淋しがってる。 「大丈夫だって。芳樹、あたしの大事な人なんだから」 「……放っておかれたら化けて出るよ」 あたしはちょっと吹き出してしまった。 「はいはい。化けて出てきても、大事にするよ」 あたしはすがりつく芳樹の頭を撫でた。 次は「転送」「返信」「スナック」で。
126 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/02/10 02:11
「転送」「返信」「スナック」 目を覚ますと、窓の外は賑やかな繁華街だった。 私は慌てて席を立ったが、降りる駅を通り過ぎてしまったのは明白だ。 小さくため息をつきながら、小豆色の車体をした電車の緑色のシートに腰を下ろす。 携帯を開くと――本当は車内では使用禁止だが――やはり彼女からのメールが入っていた。 まずいことになったぞと途方に暮れつつも、事務的に返信を打つ。 「ごめん。電車で寝ちゃった。乗り過ごしたので少し遅れます」 転送ボタンを押したながらも、もう彼女は約束場所にはいないだろうという予感みたいなものがあった。 なぜなら、今日は彼女と別れ話をするために会うことになっていたんだから。 携帯を胸ポケットにしまい、意味もなく窓の外を眺める。 この繁華街は彼女と付き合う前によく一緒に来た場所だった。 結局、彼女も私にとって行きずりの人だったようだ。 今まで付き合った女性の中で一番気に入っていたのに……。 感傷的な気分に浸っていたのもつかの間、突然膝の辺りでぐしゃりといういやな音が立つ。 驚いて我に返ると、スナックを手に持った女の子が私に衝突してきたのだった。 「ごめんなさい」 不思議と私は、涙目で素直に謝る女の子に怒りを感じなかった。 後に私は知ることになる。 出会いというものは得てして突然にやって来るということを。 ☆とりあえず明日はテストがあってやばいのですが……。 最近どうもスランプ気味のルゥでした。 次は「カステラ」「バレー」「節分」でお願いします。
時は節分、二月三日。世界人民は新たなる危機に直面した。 想像上の怪物<鬼>が、現実のものとなって出現したのだ。その数、百万余。 所を選ばず、世界各地に出現した鬼は文字通り乱暴狼藉の限りを尽くした。 かくて、壮大な祭りは始まった。 軍隊は自動小銃や機関砲、はたまた衛星レーザーをも担ぎ出し、鬼を撃った。 おもちゃ屋は爆竹とロケット花火で鬼を射撃した。 スポーツ用品店はバレーボールやゴルフボール、果てはピッチングマシーンで鬼を責め立てた。 サラリーマンは鬼の本拠地と思われる日本に敵対的買収を仕掛け、インサイダー取引をも駆使して 株価下落に走った。 ケーキ屋はケーキとパイを投げつづけ、タネが切れるとカステラやクッキーを投げつけた。 しかし、これら必死の攻撃にもかかわらず、鬼を撃滅することは全くの不可能だった。不死身だったのだ。 鬼を撃退出来たのは、僅かに魚屋、豆腐屋、生花店だけだった。 この事実が知れ渡るや、人々は争うように大豆と柊、鰯を買いあさった。 二月三日の節分は、それぞれの原産国である米国と中国、そしてロシアに特需をもたらし、世界中に 破壊の爪痕を残して終わった。 年に一度の特需は、その後何年も続くこととなった。 次のお題は「単行本」「お香」「ネコ缶」で。
128 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/10 07:10
「単行本」「お香」「ネコ缶」です。 京都駅は初めてだから、どこに何があるかなんて知らなかったんだけど、 とにかくまだ新幹線に時間があるからって、駅ビルの中をぶらぶら、 終わったばかりの入学試験のことなんて考えながら歩いていたら、急に 知ってるお香のにおいがして、私は、はっとして、足を止めた。 そう、私は先輩のことを考えてたんです、きっと。 文芸部の2コ上の、田中先輩。なんていうお香なのかは知らないけど、 このにおいは先輩のにおい。ずっと前2冊買っちゃったからって言って 私にくれた村上春樹の単行本も、同じにおいがする。先輩は京都の大学に 進学して、最近はだんだん連絡も遠くなって来ちゃったけど、北向きの寒い 部室で過ごした時間が全部――入稿日の夜九時まで貼ってたノンブルとか、 収拾がつかなくなったリレー小説とか、はいってきた野良のために切った ネコ缶とか、そう全部、今でも私の、たからものです。 受かるといいな。 次は「微熱」「桜」「タイムマシーン」で。
「微熱」「桜」「タイムマシーン」 「うおっ」 突然目の前に現れた風景に俺は叫び声を上げた。体がだるい、頭が重い。 手を額に当ててみる、微熱でも有るのだろうか。頭を振りつつも何度も何度も 周囲を見まわす。間違いない、ここは俺の卒業した高校だ。5年前に廃校になり すでに取り壊されたはずの俺の母校だ。正門に”第84回鰯山高等学校卒業式”とある。 「はは、あのじいさんの言ってたことは本当だったんだな..」 昨日の夜商店街の片隅で風変わりな老人に出会った。自分はタイムマシンを 発明したのだが誰も相手にしてくれない、学会もマスコミも馬鹿にするだけで 検証もしない、と得体の知れない安酒を呷りながら愚痴っていた彼に 俺は自分に試させてほしいと頼み込んだのだった。 「急がなければ」 俺は校舎裏の桜山に向かって走りだした。100本近くあるであろう桜の木々の間を俺は走った。 だるい体と都会暮らしでなまった足は一面に散らばる桜の花びらを踏み何度も転びそうになる。 だからといって速度を落とすわけにはいかない、俺の一生がかかっているのだ。 「いた、いたぞ。あいつらだ」 その女と付き合ってはいけない、そいつは結婚すると変わるのだ、夫を平気で殴るようになる。 13年前の俺に伝えなければ。 Next Theme 「チョコレート」「英会話」「ずる休み」
「チョコレート」 「No,No,No.『チョコ<レー>ト』じゃなくて。『<チョ>コレイト。』Try again?」 「Chocolate」 「OKOKOKOK,Goooood」 三ヶ月前、僕は親に連れられて渡米した。仕事の都合とは言え、慣れない外国での生活は辛かった。 本場の英語を学ばせたい。父は簡単にそう言って僕を普通のジュニアハイに入学させたが、英会話の 出来ないマイノリティの東洋人は、クラスの中でも浮いた存在になった。 親しげに話しかけてくれたのも、最初のうちだけ。言葉の通じない僕は次第に相手にされなくなり、 僕は学校をずる休みするようになった。 日本に帰りたいと泣きわめく僕を、父は現地の英会話スクールに入れた。僕独りを日本に帰すことは 出来ないが、譲歩はしてくれたのだ。 僕は今、この英会話スクールで頑張っている。先生は優しいし、僕の他に英語を話せない子がいる。 日本人、フランス人、フィンランド人。彼等とカタコトの英語で話すのはとても楽しかった。お互いに話せな いということが、逆に気負わずに済ませてくれる。 僕はもうしばらくすればこの英会話スクールを卒業し、休学したジュニアハイに戻る。クラスメートが僕 を受け入れてくれるか少し心配だけど、同時にわくわくする気持ちもあった。 次のお題は「兄貴」「鳳凰」「傲岸不遜」で。
131 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/10 19:33
「兄貴」「鳳凰」「傲岸不遜」 「お前はただ黙ってみてりゃいいんだ。心配すんな。」 隣の男は、自信に満ち溢れた声で僕にそう語りかけた。 さすがに足取り重くも、一歩一歩階段を上っていく。 そもそも事の始まりは、俺達兄弟の軽い小遣い稼ぎがこのあたりを 仕切っている奴らの気に触ったらしいという噂だった。 その噂が本当だとわかったときから、組に呼び出しを受けるまではそう長くはなかった。 隣の男、俺の実の兄貴なのだが、の肝っ玉にはつくづく頭が下がる。 この男はいつもこうなのだ。どこまでも自信満々な顔、傲岸不遜な行動言動は、 血のつながりを感じさせないほどの劣等感を俺に味わせてくれる。 階段を登りきり、重いドアを開き、おそらくは一番上に位置するらしい人の部屋に案内された。 いざ対面した、椅子に座ったその一見紳士の鋭い眼が、突き刺さるように痛い。 後ろには達筆の水墨画や、鳳凰をかたどった杯が並んでいる。豊かな財力が見てとれる。 ふと横を見た。俺の血縁の男は見たことがないほど緊張しているのが分かった。 とたんに、自分の心拍数が飛躍的に伸びるのを感じた。 俺の平静は兄貴の自信によって支えられていたことを知った。 あの兄貴がこんなに引きつった顔をしている・・・。 不安と恐怖に引き裂かれそうな僕はこのとき全く気付いていなかった。 兄貴の緊張の理由が、何があっても弟だけは守るという覚悟によるものだったことを・・。 初投稿ですが、なんか字数をまとめるのに四苦八苦って感じでした。 これ読んでくれた人、ダメなところとかビシッと指摘してもらえると嬉しいです。 感想でも何でもいいんで。 じゃあ次は 「自転車」「亀裂」「ピーターパン」で。
「自転車」「亀裂」「ピーターパン」 両親に誕生日プレゼントは何がいいと聞かれたので、 空を飛べる道具と言ったら笑われた。 その前日、ピーターパンのビデオを見たときに、 二人も空を飛びたい、という私の言葉に同意してくれたのにだ。 両親に拒絶された気がして、涙がこぼれだした途端、 二人はおろついて、何か変わりの物を買うからと慰めだしたが、 私は両親との間にいつまでも消えない、小さな亀裂が出来たのを 感じながら、ずっと泣いていた。 初めての子にどう接すればいいのか、とうとう分からずじまいだった、 と聞かされたのは後の話だ。 プレゼントされた自転車を、私はあまり乗ることもなく、 家を出る前日、捨ててしまった。 次は「爆弾」「紀元前」「チョコレート」でお願いします。
133 :
「爆弾」「紀元前」「チョコレート」 :03/02/10 23:24
手の中のラッピングをそっと握り締める。 いつもと変わらない風景なのに、ここは非日常の真っ只中だった。 青い路線バス、進行に合わせてゆれる古ぼけた吊革。 緑のシートに深く腰を下ろす着物を着たおばあさん。その背を流れていく街の背景。 懐かしさと柔らかな空気と静寂の支配するバスの中。 運転手の堅い背が半分だけ覗く。 そこに突きつけられた、黒光りのするマシンガン。 隣に立っているのは、普通のサラリーマンのような男だ。 そしてさっきから同じ言葉を馬鹿みたいに繰り返している。 「いいかぁーこれはなぁああ仕方ないことなんだぁあ!! モラク神サマが紀元前からお決めになっていたことなんだぁああ!!! おれはぁーその使命をここに果たす決まりになっているぅう!!! だからぁーこのバスをー俺の爆弾で爆破するぅーー!! 心配しないでくれぇえええおれもいっしょなのだあー!!!」 いらいらいらいらいらいらする。 あたしは今日中にこのチョコレートを渡さなくてはならないのだ。 一晩かかって作ってきたチョコレートなのだ。あたしはチョコを渡すのだ。 そして告白する。それをずっと夢見てた。 今日のために一昨日から一睡もできなかったんだ。それなのにそれなのに 「なんであんたに邪魔されなきゃなんないのぉおお!!!!!!!」 走った。面食らう男のマシンガンをつかみ取った。 なんて細い体なのだ。男の革ジャンの下はしぼんだ葱みたいな体だった。 「なんあんななななあおまえはああああ!!」 他にも何か言ってるようだったが、構わず手にしたマシンガンで頭部に打ち込んだ。 使うのは初めてだった。すごい衝撃がかかって指が離れなくなりしばらく打ち込み続けた。 男の体が魚のように痙攣しとたんに血の水溜りができ、うるさいリピートが終わった。 ふう、良かった。これでチョコが渡せるよ…。 「き、きみ……」運転手のおじさんが立ち上がって私の手を掴んだ。 その時めちょ、と音がした。 いつの間にか落ちていたチョコを、運転手の革靴が見事に踏み潰していた。 ブチん、と私の中の何かが切れた。
134 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/10 23:33
136 :
「爆弾」「紀元前」「チョコレート」 :03/02/10 23:47
スマソ。 じゃぁ「モグラ」「杏仁豆腐」「ブックカバー」で
137 :
「モグラ」「杏仁豆腐」「ブックカバー」 :03/02/11 00:06
今自分が?日本で?どれだけ知られている?か知らないけど・・・・有名になる・・ ・・・・・・・で?っていうw そしてモグラは杏仁豆腐の中でブックカバーを食った
おお、書いちゃったので上げさせてください… 「爆弾」「紀元前」「チョコレート」 僕たちは崩れかけたビルのそばに休めそうな場所を見つけて、坐り込んだ。 朝から歩きつづけてもう40キロくらいは来たろうか。ほとんど倒れこむように して石の壁にもたれかかる。すっかりきたなくなったTシャツの肩と肩が触れる と、まだちょっとどきっとする。でも、いまさら、ごめんっ、とか言って大げさに 飛びのいたりするほど元気でも、呑気でもない。 かばんから明治のチョコレートを出して、割り目の2列分だけ取って残りは仕舞う。 それを半分に割って渡すと彼女は受け取って、無表情に口に含んだ。 そしてチョコレートをくわえたまま、わたしたちどうなるんだろ、とつぶやいた。 僕はなにか言おうとして、なにも言えなかった。わからないのだ。家やビルや工場を一瞬 で廃墟にしてしまった兵器についてラジオは、敵国の開発した特殊爆弾だとしか言わない。 僕たちはとにかく歩いているけど、どこまで行けば瓦礫が無くなるのか見当もつかない。 そして彼女のまぶちに透明な涙が溜まるのを見た気がしたとき、僕はこれから何があっ てもこの大切な人のそばにいるんだと心のなかで宣言した。そうするとなんだか自分 が強くなったような、まだこれからも生きていけるんだっていうような気持ちになった。 僕たちはいつのまにか抱きしめあっていた。町が廃墟になっても、そんなことはどう でもいい気がしていた。二人だけで何でもやっていける。ずっと昔、紀元前から、 人はみんなそうやって生きてきたんだ。 彼女の唇はチョコレートの味がした。 お題は「モグラ」他で
139 :
「モグラ」「杏仁豆腐」「ブックカバー」 :03/02/11 01:52
「あっ」 と思ったときには、ブックカバーは本もろとも杏仁豆腐の中だった。 結構高いやつ。子牛の革のだ。 べったりとしみついたシロップが、いくら拭いても取れなかった。 本はもう無理だ。ひどくシロップが染みていて、古本屋に売っても100円にもならないだろう。 そんな行儀の悪いことをするな、と言われるかもしれない。 だが俺も、一度ぐらいは食欲(杏仁豆腐)と知識欲(本)と物欲(ブックカバー)を満たしてみたかったんだ。 ……まあ、本当はこれまでにも、何度かしたわけなんだが。 俺はとりあえず、サービスの冷水とおしぼりで何度も革拭いていった。 だから俺の前にモグラがいるなんてしばらく気付きもしなかったわけだ。 「……なんだ?」 そいつは齧歯類特有の長い歯と潰れた目となんでも引き裂くような爪を、杏仁豆腐の中につっこんでいた。 モグラの頭が動く度、ちゃぷちゃぷと、シロップが波打っていた。 次に見たときは皿はからっぽだった。つまり食い尽してしまったということだろう。 所詮畜生だ。食欲だけで生きている。知識も何も必要じゃない。 俺はせせら笑って、とりあえず匂いのしなくなったブックカバーを丁寧にハンカチで包んだ。 「その本、もう読まんのか?」 目の前には、薄汚ない老人が独り立っていた。 「ええ、汚れてしまったのでね」 老人はにっと俺に笑いかけた。 「なら、その本を儂にくれんか? ゴミにしてしまうのも勿体ない話だろう?」 「……いいですよ」 正直、汚れてしまった本など興味がなかった。 「そうか。すまんな……ああ、これは読んだことのない本だ」 老人は尻が丸見えのズボンを指で持ち上げながらにこにことしていた。 浮浪者か。時間だけはあるんだろうな。まあいいさ。 俺はハンカチで包んだブックカバーを大事に鞄の中にしまいこんで、二度とくることのない半地下の喫茶店を出た。 次は「伊勢海老」「焼蛤」「チラシ」で。
ある朝、新聞と共に一枚のチラシが舞い込んだ。 「海鮮流通最大手、浦島商店がついにY市進出!本日朝5時特別セ……って今日かいっ!」 何とはなしに見ていた俺は、思わず紙っぺらにツッコんだ。今日、しかも朝5時かよ!魚市場直送かよ! 俺はツッコむ俺の声で目を開けた半寝ボケの妻にチラシを見せた。ウケを取れると思ったのだ。しかし チラシを見た途端妻の瞳は爛々と輝き、もの凄い勢いで着替え始めた。 「なにしてんのあんたッ!着替えてエンジンかけなさいよッ!」 握りしめたチラシの端っこで、<焼蛤100g115円>の文字が皺になっていた。 そして、俺たちは突撃を敢行した。恐るべし主婦の嗅覚。今朝来たはずのチラシに惹かれ、既に浦島商 店は主婦、主婦、主婦の洪水だった。海鮮品2に主婦8だった。 「焼き蛤ィィィィ」 奇声を上げ、妻は主婦の塊に突撃した。ほっそりした、普段はたおやかな肢体が鬼神の膂力で突撃点 を穿ち、妻はあっという間に見えなくなった。俺は為す術もなく、車の側でタバコをくゆらせていた。似たよう な境遇のおっさんが周囲にいくらでもいるのに気付き、俺は苦笑いを浮かべた。 妻が帰還したのは、それから1時間後のことだった。妻は焼蛤だけでなく、伊勢海老をひと箱抱えていた。 「あは、隣のおばさんがいてね。見栄の張り合いになっちゃった」 恥ずかしそうに舌を出す妻。そのすぐ後ろを、タラバガニをたらふく抱えたおばさんが通り過ぎていった。 買い物は魔物だ。俺たちは大量の海産物を抱え、帰途についた。今朝は蛤汁になるのだろう。 ちと長め…次のお題は「万年筆」「千枚通し」「帝国」で。
141 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/11 11:11
「万年筆」「千枚通し」「帝国」 A 1000-sheet through modifier change of the myth time of the morning of the dream of Japanese radish baking of the analog of the point of the penis with me huge for a clay figure forgets, and it is a gay empire. 私がカスミンでオナニーしていると魔法の知らせが届いた。 万年筆のような字のイメージが脳髄に聞こえる。 英語じゃん・・・ 誰か翻訳してくれ。 じゃあな。 次のテーマは「ファッションモデル」「準星」「六畳一間で鮟鱇吊し切り」
142 :
「ファッションモデル」「準星」「六畳一間で鮟鱇吊し切り」 :03/02/11 17:06
僕は海を見たことが無い。 テレビの中で、それは青く青く澄んだ水を湛え、時に黒く口を開いたままのブラックホールのように見える。 しかし本物を見たことが無いのでそれを本当に海だとは言い切れない。 そんな僕の彼女は今、はるか海の向こうにいる。 ファンションモデルを仕事とする彼女は一つの場所に長く留まることは少ない。 僕でさえ彼女を留める杭になることはできない。 実際、何度セックスを重ねようと彼女を知り尽くすことはなかった。 だから彼女を確かに抱きしめているその瞬間さえ、 彼女はどこか遥か彼方の準星のように、感じるのだ。 その遠くから発せられたエネルギーが僕にとどく頃には、彼女はもう僕のそばにいないのだ。 僕らは永遠にすれ違うのだろうか。 もうずっと分からなくなっていた。 彼女の望みも、どうして彼女がこんなさえない男を愛していると言うのかも。 僕は何をすべきなのだろうか、どうしてあげなければいけないのだろうか。 離れていても傍にいても、僕には分からなかった。 今日、海の向こうの彼女から直送で一匹の魚が届いた。 それは巨大な鮟鱇だった。 そして僕はその日、多分彼女の望んでいるだろうことに、その道具を買いに行き、 自分の安アパートの一室で、それを捌いた。 鮟鱇は滑って捌きにくいので、下あごに鈎を刺し、天井から吊るした。 血がボタボタと一定のリズムで畳に滴りぼんやりとした染みを広げる。 彼女はこんな六畳一間で鮟鱇吊し切りする男を想像して微笑んでいることだろう。 解体されてゆく鮟鱇の薄ピンクの生白い肌に包丁を刺しこみながら、 僕は彼女の楽しそうな笑い声だけを想像した。 次第にその声しか聞こえなくなっていった。
つーぎーのおっだいは〜♪ 「13」「トレモロ」「手紙」
144 :
「13」「トレモロ」「手紙」 :03/02/12 01:01
マンドリンギターを習い出したのは私の希望じゃない。 物心ついた時から私の手には楽器があった。 13回目の誕生日を迎える頃にはすでに、プロだった母の勝手なエゴを憎んでいた。 手に怪我を負ってはいけないと外で遊ぶことも許されず、 熱を出しても練習は休ませてもらえる事なく続いた。 私は幼くして、泣きじゃくりながらギターを弾く自分の人生の不条理さに途方に暮れた。 先日、日本から母の手術の日を知らせる手紙が届いた。 難易度の高い手術になると言う。成功しても恐らく長らえる事は無理だろう。 今、私は手術室の前ではなく、ステージの上にいる。 情の薄い娘だと人はそしるだろう。母親よりもオーディションが大切なのかと。 これが、母ではなく教師としてしか接してこなかった親への復讐なのかと。 私は息を吸い込んで一礼し、ライトに照らされた椅子に座る。 マンドリンギターを始めたのは私の希望じゃない。 泣きじゃくりながらギターを弾いた辛い思い出。 だけど、それでも私が楽器を辞めなかったのは、辞めたくなかったからです。 お母さん、あなたの娘は、どうしようもなくマンドリンギターが好きだったんです。 あなたの元にこの音色は届くでしょうか。 私の指が、静かにトレモロを奏で始める。 次のお題は「オレンジジュース」「サイキック」「スポットライト」
145 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/12 23:22
「オレンジジュース」「サイキック」「スポットライト」 「どんなお家に住んでるの?」と訊かれて少年は困った。 「再々、きっく、ようだっ、けれどもー」 彼女は耳に口を近づけて、しつこく食い下がる。 これでは、いつまで隠しおおせる訳もない。 「オレンジジュース…って?」 「い、いや、違うんだ」 彼女は長い山道を、ほとんど無理やりついてきた。 冬になると、すぐ暗くなる。 「ほいよ!」少年は彼女にライトを渡した。 やがて家に着くと、彼女はあまりの驚きにスポッとライトを落とした。 巨大な水槽に、泡立つ黄色い液体!その中で泳ぐ様に生活する家族。 「こ、これって?」 「酸素を含んだジュースだよ。温度も体温と同じに調整されてる」 観念した様に少年は言った。 「おれんち、ジュースなんだ」 ※すごい強引^^; 次のお題は:「猛暑」「キャミソール」「スイカ」でお願いします。
146 :
「猛暑」「キャミソール」「スイカ」 :03/02/13 01:41
まあ、猛暑の中川遊びにきているわけなんだが……。 僕は川の中で、流れないようにキャミソールを着せられているスイカを拾い上げた。 「……里佳子さん」 「あ、スイカもう冷えてる?」 好きになってはみたものの、時々里佳子さんのデリカシーのなさにはあきれてしまう時がある。 「ちょいと里佳子さん、こっちに来て座って」 「やーよ。なんだって石の上に」 ぶっきらぼうなそんな喋り方はとても僕好みなんだけれど、だからといってこれはちょっと許しておけなかった。人として。 「いいから。里佳子さん、これは一体何?」 「え? スイカ……」 「じゃなくて。これ里佳子さんのキャミソールだよね? どこから」 「え? 今まで着てたやつだよ。ほら」 里佳子さんはそう言うと、胸のところをぺろっとめくって見せた。 「はあ。いい若いものが。まったく情けない」 「いいじゃない。スイカ流れちゃったら大変でしょ? せっかく食べようって思ってたのに流れちゃったら哀しいよ?」 「じゃあ、この濡れちゃったキャミソールはどうすんの?」 「よく絞って着て帰るよ。暑いし」 僕は夕暮れ時、濡れたキャミソールを着た里佳子さんをちょっと想像して、それ以上何も言わないことにした。 次は「極北」「コート」「みかん」で
147 :
「極北」「コート」「みかん」 :03/02/13 02:14
探検家・島祐介が、極北の地で消息不明になってから一年が過ぎた。 「あれから一年、月日の流れは早いと言いますが、本当ですね」 島の高校時代からの友人である私は、アメリカへの出張から帰国してすぐに、彼の家へ足を運んだ。 半年ぶりに会った島の奥さんは、私の記憶にあったよりも痩せていたが、まとっていた悲しみの影は薄れていた。 その姿に、島がいなくなってからの苦労とその事実を受け入れたことを感じ、私は胸を衝かれた。 ふと奥さんが私の後ろの壁に目をやる。私が振り向いた。そこには見覚えがあるコートが掛かっていた。 彼が愛用していたコート。私がプレゼントしたものだった。 「彼が入ってきて、そのコートを着て、ちょっと出てくると言って散歩に出る。そんな日常がずっと続くと思いこんでました」 目を伏せ、ガラステーブルの上のみかんが盛られた籐カゴの横に置かれた右手。 私は思わずその手を取っていた。こんな時に卑怯だとは思ったが、口は開いていた。 「私はずっとあなたのことが……」
「冷凍みかんが食べたい」 何でも言うことを聞いてやる、という賭けに勝利した彼女が提案した罰ゲームがそれだった。 「但し!」 彼女は俺を指さして、言葉を継いだ。 「すべて天然素材で出来たやつじゃないと、ダメ!」 そして俺は、ここにいるのだ。 「ざびい」 成田からハワイへ。ハワイからシアトルへ。シアトルからアンカレジへ。 飛行機を乗り継ぎ、丸一日の時間を費やし、俺はこの極北の地、アラスカにいた。 アンカレジみたいな都会では駄目だ。もっと離れなければ、綺麗な氷原がない。 俺はコートの裾をはためかせ、橇を駆った。鼻水どころか、眼球の表面で涙が凍るのが分かった。 およそ十キロも氷原を走り回った俺は、半ば凍えながら、みかんを氷原に埋め、出来上がりを待った。 「まだぜだな」 すっかり鼻声になった俺はようようにして帰り着くと、発泡スチロールの箱を彼女に渡した。 「……何でオレンジなの?」 「うんしゅうみがんなんか売っでながっだんだよ、アメリガで!」 「Try Again」 次のお題は「魔女」「秒針」「接着剤」で。
私の部屋の壁に掛かっている時計は、デザインに特徴がある。 暗い森の中を、地球の断面図のように描いた文字盤の上を走る針たちには皆、 童話調なマスコットがあしらえてある。短針が黒猫、長針が杖を構えた老婆の魔女、 そして、珍しい仕組みで短針、長針の下を這い進むようになっている秒針は、 丁度魔女の杖から放たれたように見える、雷になっていた。 猫が最も怠惰だ。一日の間に森を二週しかしない。魔女はもう少し活発だ。 毎分一発の雷を放ちながら、森の中を日に二十四週も駆け回る。こう言葉にしてみると、 孤独な老婆は狂気をきたしているらしい。彼女の傍にいられるのは、雷よりやや低い所に 身を置いて、緩慢な生活を送る猫だけだ。猫は頭の上を過ぎ去る魔法の雷を見送る。 その雷は魔女から放たれたものだが、森の中を一周して老婆自身に狙いを定める。老婆は 懸命に走っているが、雷を放って六十秒と一秒の後に、自ら雷を背に受ける。しかしその次の 瞬間には、また魔法の雷を放っている。それが自らに帰ることを知っているのか、それとも 狂気の老婆はそれにも気づかず、自分を狙い打つ、姿の見えぬ相手を狙っているのか。 私は接着剤を持っていた。そのチューブからはみ出た粘液を、老婆の放った雷に さりげなく置いておく。数十秒の後、雷は老婆と重なり、それきりもう、誰も動かなくなった。 次は「十五行」「失敗」「成功」でお願いします。
五行から十五行で、三題を用いて文章を書く。エロネタは萎えるので駄目。それがこのスレッドの掟。 ショートショートよりも短いこの領域で秀逸なネタを競う。厄介だが、やりがいがある。俺はこのスレッ ドにすっかり魅了され、いつしか住み着くようになっていた。 俺はインスピレーションで文を書く。三題を見た途端、脳内の混沌から一瞬でイメージが湧出するの だ。完全に神頼みで、鮮度は急速に劣化する。最終レスを見てから実質十分が俺の戦闘可能時間だった。 今日のお題は、俺に合った。一瞬、文字通り一瞬で混沌とした言葉の羅列が連結し、イメージとして 結実する。傷む前に、腐臭を放つ前に。俺はキーボードに指を滑らせる。 文章は完成した。実質所要時間、五分。ざっと見直す。レトリックとしての失敗はないか、誤字脱字はな いか。くだらない書き間違いなどがあっては、綺羅星のごとき文字書きの方々に面目が立たない。 よろしい!俺は二度読み直し、そう判断した。下読みをしてくれる人間はいない。現状のチェックで、漏れ はなかった。 俺は文を書く間、放置されていたマウスを握った。残された仕事はただ一つ、「送信」をクリックするだけ。 送信−失敗!cookie取得だ。専用ブラウザの宿命を俺は忘れていた。再度送信−成功!送信した新レ スを加え、更新スレッドが表示された。 「…………カブったぁぁぁぁ!!」 なんともいえんネタでスマソ(w お題は継続で。
151 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/14 08:41
「失敗をおそれていては、なにも手に入らない」 高志叔父さんには何か大事なことを語る前に必ず人差し指を立てるという癖があった。叔父さんは いつも人差し指を、凍傷で失くしてからは親指を、立てて小さな私に、そう言った。 まだ早い朝の昇降口はあわただしい様子もなくて一人、また一人知ってる顔が通ってく。 叔父さんは私が小5の冬、「またとない天候。予定通り明日頂上を目指す。僕は失敗をおそれない」 という日記を最後にカンチェンジュンガで死んだ。 二百グラムのチョコレートや十五行の手紙になんて思いのすべてをこめられないけど。 叔父さんは失敗をおそれず、でも失敗して、だけど何かを手に入れたんでしょう? 「失敗をおそれてはいけない。失敗をおそれず踏み出せば、きっと何か見えるものがある。 成功か失敗かなんて重要じゃないんだ。失敗をおそれないこと、それだけだ」 私は失敗するつもりなんてないけど、 あっ、来た…… 次は「論理」「集合」「位相」なんてどうでしょうか。
152 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/14 22:40
「論理」「集合」「位相」 「それにしても、遅いな…」 午前11時30分。たしかに集合場所はここであっているはずだ。 昨日もらったメールによれば、たしかに集合時間は11時。それは携帯をチェックすれば誰にでも分かることだ。 その時間もすでに30分が過ぎている。これは誰がどう見ても立派な遅刻だ。 「あいつは…。今日が学会だっていうことが分かっているのか?」 今日は、あいつと二人で学会に出席することになっている。俺たちが発表するテーマは「年齢層と位相語の関係について」 こんなわけの分からないテーマになったのは、しきりにあいつが「位相語、位相語!」と楽しそうに言っていたのが原因だ。 まぁ、俺は学者の端くれとしてどんなことでも論理的に解明する気概はあるつもりだ。 しかし…今回は疲れた。 どうも、俺はなんと言うか若者の言葉には弱いようだ。聞いているだけで頭痛がしてくる。 「だからーあたしとしてはさー」 聞きなれた声が近づいてくる。また頭痛がした… 一番の悩みは、当の彼女が年など気にせずにその言葉を使っていることだ… お次のお題。「シンパシー」「胡椒」「苦笑」で
153 :
「シンパシー」「胡椒」「苦笑」 :03/02/15 03:42
僕がはじめてあの子のことを気にするようになったのは一年生のときの六月、 昼休みの教室で、目玉焼きに塩と胡椒をかけて食べると言ったのが僕とあの子と 二人しかいなかった時のことだったはず。ねっ、ねっ、ぜったい塩と胡椒だもんね、 と言ってちょっと大げさにはしゃぐあの子の目、いつも伏せてしゃべる癖があるけど 人を見るときにはじっと見つめて離さない黒目がちの二重の目を真っ正面から はじめて見たとき、僕ははっきりと恋が生まれているのを感じたのを憶えてる。 そして次の席替えで通路をはさんだ隣と隣の席になったのをさいわいに僕はあの子に 折にふれて何かを話しかけるようにしたし、あの子も僕に心をひらいてくれて、 お互い人付き合いが苦手で僕には男の子の、あの子には女の子の友達が少ない同士、 たぶん何かシンパシーみたいなものがあって、いつのまにか一番の仲良しになって、 でも恋人だっていうんじゃなくって、誰よりも信じれる何よりも大切な人だって思って 夏から秋を越えて一緒に初もうでにも行ってそれでも不文律みたいに好きだとか 恋だとか口に出すことはなくて微妙な関係を続けて。 だからこのチョコレートケーキはただ普通にありがとうって受け取っていれば それでいいのに僕はいったいなにをおそれてるんだろうと苦笑して、いつもの列車が あの子を乗せて去ったあとの二月の駅のホームに立ってる。 次は「目玉焼き」「席替え」「不文律」で。
154 :
「目玉焼き」「席替え」「不文律」 :03/02/15 09:45
AB:はいどーも、フブンリツです!よろしくおねがいしまーす。 A:あの、最近ね、僕、目玉焼きにはまってましてー。 B:はいはい。 A:君は目玉焼きに何かける?調味料っていろいろあるじゃないですか? B:ご・ま! A:はいっ、全然おいしくなさそー。っていうか香りしか楽しめないー。 B:黒ご・ま! A:いや、どっちでもええですよ、そんなの。 B:じゃ、君は何をかけるんですか? A:そうやねー、マヨネーズとか結構かけますねー。 B:マヨネーズ!? A:いや、わりと普通でしょ。 B:いや、何が普通なんですか。いいですか?マヨネーズって何で出来きてるか知ってますか? A:サラダ油と酢とたまご… B:そう、たまごですよねー。ここでおかしいと思いませんか? A:いや、別におかしいとは思わないですけど。 B:何を言ってるんですか、玉子に玉子をかけるんですよ? A:まぁ、そうなるかな B:それって、海に塩を撒くようなものじゃないですか!絶対おかしいです。 A:おかしいのはお前や!なんやねんその例え。いやー、そういえば、夫婦とかで他の趣味が合わなくても 味覚の嗜好が合えばうまくいったりするらしいですね B:へぇ、そうなんですか A:結婚してみて味覚の嗜好が合わなかったら、あなたならどうします? B:席替えするなー。 A:えっ? B:席替えするっていうてるんや。 A:どういう意味なんですか、ちゃんと説明して下さいよ。 B:離婚して籍を変えるって意味やないか。 A:もうええわ!ありがとうございましたー。 スレ汚しスマソ…。お題は継続でお願いします。
「目玉焼き」「席替え」「不文律」 両面焼きがふつうだと彼女はいうのだ。 「ふつうってなに?」と僕はいうのだけれど、 彼女は眼に涙を溜めてまで主張する。僕の 「ふつう」は片面焼きであり、それは白身の 内側に丸い黄身をこしらえるのである。 それぞれの「ふつう」がまかり通る世の中 なら不文律も糞もあるかとフライパンを振ると、 宙に舞った目玉と眼が合った。 「いいのか、それで?」 奴は目玉焼きの分際でそう訊いてきた。 いや、わかっている。その声は僕の中から聞こ えてくる声だと、わかってはいる。だが、しかし、 片面焼きを彼女に食(しょく)させるには、僕は 彼女を愛しすぎていた。 「席替えだ」 と、彼女の脇に手を入れて椅子から立たせ、 僕はぬくもりの残る椅子に腰をおろした。そして、 彼女に片面焼きの目玉焼きをつくれと命じた。 彼女は「イジワル!」といったけど、眼に涙は滲 んでいなかった。 自分の文章を見るのが恥ずかしくて、嫌で、しばらく書かなかったけど、 客観的な意見が聞きたくて、また書いてしまいました。 次の御題は「スイート・リベンジ」「ナイス・エイジ」「東風」
悠太はその洒落た洋菓子店の前でつい立ち止まった。 真っ白な壁に目に鮮やかな青の看板。『東風來』と読むのだろうか。 甘いものって人を幸せにするんだよ 悠太の頭の中をあの声が通り過ぎた。いやいやもう忘れろ。 あいつは俺を裏切ったんじゃないか。その声はもう俺のものじゃない。 振り切るようにして我知らず頭を振る。その時、戸が開いて、中からテレビに出てくるシェフのような格好をした男が現れた。 「お客さまですか?どうぞ?」 「え、あ…はい」 あれ?とっさにうなずいてしまった。しぶしぶ中に入る。男は嬉しそうに笑いながら、メニューを開いてくれた。 「良かった。ちょうど新作ができたので、誰かに食べていただきたかったのです」 そういって男は悠太に美しく盛り付けられた皿を差し出した。 「良かったら感想いただけませんか。お礼に料金はただにしますので」 「はぁ…」 「スィート・リベンジというんです。白桃の中にアイスを詰めてテューネソースをかけて焼くと、外は焼けるよ うなのに、中は冷たい。どうでしょう?熱い熱いと思って食べていると、ひんやりと舌に仕返しされるみたいじゃないですかね?」 ああ、本当だ。焼けるような外側なのに内側は冷たい。 悠太は湯気の立つ狐色の外側と、薄ピンク色の白桃に包まれたアイスをみた。 そうだ、ずっとずっと暖かいと思って食べ続けていても、中はずっと冷たいことがある。 そう思って、何をしんみりしているのかと悠太は頭をふった。あの声がまた、胸の中で残響のようにひびきはじめた。 「もうひとつはナイス・エイジというんです。こちらはアプリコットの形のお菓子で飴を綿のようにしたものを敷き詰めて、 チョコソースをかけ金箔をのせる。古き良き時代を懐かしむ味という意味で、ナイス・エイジと……お客様?」 ぽたぽたと皿の上に自分の涙が落ちていた。それがアイスクリームのソースと混じっていく。 「あ…は、すいませ……。うまいっす。そうですよね、熱いって思ってても、…俺が思ってても中は」 涙はぬぐってもぬぐっても落ちてきた。 目の奥は涙で焼けるように熱かった。でも胸の奥にあいた穴はずっとずっと冷たかった。 あの声だけ思い出すたびに、身体は冷たく冷えてゆくのだ。 アイスクリームは口の中で甘く甘く溶けてゆく。
お題 「ハサミ」「木綿」「堕落」
「東風吹かば匂ひ起こせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ」 菅原道真が太宰府に流刑になるとき、詠んだ歌だ。ただ別れの寂しさを詠んだ、悟りきった歌だ。 俺は菅原道真のようにはなれない。そこまで達観は出来ない。 復讐だ。報復だ。多くを奪われ捨てられた俺は、対立者への攻撃によってしか満たされない。 俺はもう四十になろうとしている。妻と二人の子、そしてささやかながら我が家を持ち、穏やかな生活を送っていた。素晴らしき時間。 そう、私がいたのはまさにナイス・エイジだったのだ。 あの女、私の幸福を不当に奪い去ったあの女が現れるまで。 あの女は言った、あんたが気にくわないと。ただそれだけの理由で、私の人生を理不尽にも破砕し尽くした。 現代社会で、セクシャル・ハラスメントは大きな問題だ。その提起された問題そのものだけでなく、それに対向すべき制度も、 社会的位置づけも、何もかも。 俺は女と、そしてセクシャル・ハラスメントという制度そのものに打ち倒された。例え偽りであっても、セクハラの指弾は 男一人を社会的に抹殺するには十分な威力を持っていたのだ。 俺の復讐は、今ここに幕を開ける。幸福な結婚?許すものか。俺の結婚生活を破壊した者に、幸福など許さない。 タキシードに身を包んだ俺は、タクシーを降りた。荘厳なチャペルの鐘の音は、俺の報復を言祝ぐかのように響いた。 純白のドレスに身を包む、麗しき花嫁よ。スイート・リベンジが、お前への餞だ。 次のお題は「胡蝶蘭」「酔っぱらい」「革手袋」で。
くあ、カブるか… >157の方を優先で願いたく。
160 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/16 15:04
「ハサミ」「木綿」「堕落」 「ねえ、ほんとに真っ暗になっちゃうよ… 村なんてぜんぜん見えてこないじゃない」 連れに言われるまでもなく昼間通った村にいた老人の話は間違いか、多めに見ても誇張のたぐいで あったようで、僕らはまた山の中で野宿をするはめになった。しかたがないから本当に何も 見えなくなってはしまわない内にそのへんに適当な場所を見つけて、連れのシーフは革手袋を、 サムライの僕は木綿の軍手を出して枯れ木を集めたり、簡易テントを設営したり、暗いから 大して作業もできないけれどとりあえず準備をして、ここで一夜を明かすことにした。 そして今僕は先に寝た連れの髪が、この前切ってまだハサミの目も新しい癖の無い短髪が 小さくでも明るく燃える火に照らされてるのを見ながらいろんなことを考えているのだけど、 たとえば剣の道を極めるって都に出てきたのに結局裏町の怪しい酒場で酔っぱらいを相手に 小使い稼ぎみたいなことばっかりしていた頃の堕落した生活とか、そんな時この胡蝶蘭って 綽名の女の子に出会って一緒に冒険者の道に進もうって言われてそれからのこととか。 風が吹いてきたからもう一つ、ちょっと大きめの焚き木を火に入れた。ぱちっと何かがはぜる 音がしてシーフはうーんと言って寝返りを打った。 次は「そばかす」「クラシック」「モットー」で。
161 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/16 18:14
そばかす」「クラシック」「モットー」 目が覚めると、記憶が途切れていた。 頭の中に 「モットー、モットー」 と叫ぶ女の声が響いている。昨日の記憶だろうか。 頭ががんがんする、酒を飲み過ぎたのだろう。 昨日の夜メールで知り合ったそばかすのある女と新宿で待ち合わせをした。 出会い系サイトで知り合った四十五点ほどの女だ。 メールではもう少し可愛いと感じたが、お互い様である。俺だってすこしの嘘はついた。身長、学歴、収入。どれも色をつけてある。 それにしてもこの女、俺に文句を言いやがる。四十五点のくせに。 「わたしクラシックは好きじゃないの」 俺の見つけたレストランではクラシック音楽が流れていた。高級店である。 頭に血が上る。無理やりやってしまうことにした。予定を切り上げホテルにむかう。シャワーも浴びずに服をぬがせる。相当好き者のようだ。いい声で泣いてくれる。 そこから記憶がない。酒はほとんど飲んでいないのに。 まくらを見ると、血がついていた。頭に手を当てると、ごわついた感触がある。 「やられた」 もちろん、財布も奪われている。ここのホテル代を銅やって払おうか。 つぎのお題は「カエル」「Tシャツ」「携帯電話」で。
162 :
「カエル」「Tシャツ」「携帯電話」 :03/02/16 19:35
まだ村に携帯電話の電波塔が無かった頃、Aは少女で、僕は少年だった。 月食を見ようよと言ってAを呼び出した夜は夏の初めにしては暑い夜で、Aが穿いて いたジャージの裾を捲き上げて風を通すようにしていたのがやけに色っぽかった。 僕らは中学の校庭のフェンスにもたれて何も言わず月を見た。僕はオナニーを憶えた ばかりのまだ何も知らない子供で、其処はゲーゲーというカエルの声が絶えない 田圃の真ん中だった。ロマンチックな会話なんてあるはずも無かった。ただ訳もなく どきどきして、手を取ることさえもできなかった。 長い月食が終わって普段どおりの満月に戻ると僕らは田圃の中を歩いて帰った。Aの 家まで十分ばかりの所にある分かれ道で、おやすみ、と言って別れた。 やがて携帯電話が使えるようになると、新しい物好きのAは親を口説き落としてクラスの 誰より早く自分の電話を持った。休みにはバスで一時間かけて町まで遊びに行って、 プリクラとかマニキュアとか村には無いようなものをつけるようになり、Tシャツ一枚に ジャージだなんて格好はもう、次の夏にはしなくなった。 Aは携帯電話の番号を教えてくれたが、僕がそれにかけることは無かった。 それから2年が経って僕も携帯を持つようになった。Aの番号はメモリにあるが、かけた ことも、かかってきたことも無い。Aは僕の電話の番号を知らない。 あれから僕は月食を見ていない。
しまった。次は「カール」「Uターン」「ピッチ」で。
164 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/02/17 00:18
「カール」「Uターン」「ピッチ」 時雨で濡れた街は、灰色の影を落としている。 私は黒い長方形のカバンを胸の前で抱きかかえ、三十分に一本だけのバスを待っていた。 肩の辺りでカールした赤茶色の髪が、頬に張り付いている。 いつもなら、身だしなみの一つ一つに最新の注意を払っていたが、今はそんな事を言ってられなかった。 「Uターンラッシュに引っかかったのが問題だったんだ……」 ローズピンクの口紅を塗った唇を少しだけ噛みながら、予定より遅れているバスをひたすら待った。 真っ赤なポルシェが、突然目の前で止まった。 ゆっくりと窓が開き、そこにある笑顔を見て、私は目を見開いた。 しかし、私に残されている時間は残りわずか。 助手席に飛び乗り、運転者に行き先を継げた。 「タクシーじゃないんだけどな……。まぁ、いいけどさ。そのつもりで来たんだから。」 呆れる運転者を尻目に黒いカバンを開く。 「会場じゃ、ピッチを合わせる時間がないから、ここでさせてもらうね。でも、あなた自ら迎えに来ると思わなかったわ」 「何、バスが事故った、って聞いてね。開場まで一時間も無かったし、皆、忙しそうだったから」 「あなただって忙しいでしょう。何たって、演奏会の指揮者なんだから」 「別に。俺が忙しいのは演奏が始まってからさ。ところで、君いいのかい?」 指揮者に促され、私はゆっくりとクラリネットに息を吹き込んだ。 ☆次は「胡蝶」「バゲット」「日仏辞典」でお願いします。
165 :
「15行」「成功」「失敗」 :03/02/17 02:12
「この15行は蛇足なのか……」 私の目の前にあるパソコンの液晶画面には、一ヶ月前に書き終え、推敲に推敲を重ねた小説の終わり部分が映し出されている。 サラリーマンから小説家に転身して、はや10年。30作品を世に送り出し、3点がベストセラーになったというのは、この世界では十分に成功者の部類に入るだろう。 今回書き終えたのは、アメリカのイラク攻撃を舞台に、己の生の希薄に苦しんで傭兵となった青年を主人公にした冒険小説兼成長物語。 これは私のこれまでの作家人生の集大成になる作品との予感があった。が、それが成功となるか失敗となるかが、この15行にかかっているとも私は感じていた。 私が下読みをたのむ友人達も、この15行を入れるかどうかについては、ほぼ真っ二つに意見が割れている。 デビューしたときの担当だが、今は退職した元編集者の大谷さんは入れない方が良いと言った。大学時代の文芸サークル依頼の友人だった吉田は、入れるべきと言っている。 私自身は、入れるべきと思っていた。 さんざん悩んだ末、私は15行を入れた。 この15行を入れたことがどう評価されるのか、それは10年先でないと分からないだろう。そして、その時には私は生きてはいない。 だが、それはもうどうでもいいことだ。 医者にあと一年と宣告された期間内に、己の全てを込めた作品を世に送り出した満足感に浸り、私はパソコンの電源を落とした。 次のお題「病院」「猫」「油絵」
166 :
「胡蝶」「バゲット」「日仏辞典」「病院」「猫」「油絵」 :03/02/17 03:43
「お前、何になりたいの?」「あたし? 猫になりたい」「ね、猫って… なりたくてなれる もんじゃないだろ」「そう? でも、猫になって毎日ごろにゃーんってしてたいんだもん」 「そんなの、今でもいつもごろにゃーんって丸まって昼寝してるじゃないか」「あっ、でも そういう時ってたいてい、猫になった夢を見てるとき」「夢の中ではなれても、現実には猫には なれないの」「わかんないよ、こっちが夢であっちが現実かもしれないじゃん」「まるで胡蝶 の夢の故事だな」「なにそれ?」「俺もよく知らんが何かちょうちょになりたいって思ってた 人の話だ」「ふーん。なにそれ、仏教用語?」「違うんじゃないかな? 多分…」「調べて みるね。こ、こ、こ、こちょうの…」「ん… っておい! それは日仏辞典じゃないか」 「にちぶつ辞典って違うの?」「日仏の仏はフランスの略だろ」「なんだあ、あたしフランス語 なんてわかんないや」「キャビアとかアンケートなら知ってるだろ」「パリは?」「そりゃあ フランス語だ」「カンパリは?」「それはイタリア語」「あ、それとかフランスパン、フランス マド、フランスベッド」「フランスとベッドは英語だよ。パンはポルトガル語、それにマドは 日本語じゃないか。しっかりしろ」「フランスパンのことバゲットとも言うよね」「まあその 一種だな。あれはフランス語だ」「他には?」「えーと、イーゼルとかテンペラとかデカダンス とか」「わかんないよ」「悪い、俺の専門だからな」「たかしは油絵を描く人になるんだよね」 「まあな」「家を継がなくていいの?」「家って病院だぞ、継ぐならはじめから医科大に行ってる だろ」「あたしが猫になったらモデルにしてね」「ああ、猫になったらな」「何それ」「お前の 裸を見て冷静でいられる自信が無いからだ」「 …着衣の絵も描くんでしょ?」「ああそうか」
-─ヽ ` v '⌒ ゝ / \ / ∧. ヽ i , ,イ/ ヽト、! N │r‐、 ノレ'-ニ」 Lニ-'W |.| r、|| ===。= =。==:! 「病院」「猫」「油絵」 │!.ゝ||. `ー- 1 lー-‐' ! 継続すれば /|. `ー|! r L__亅 ヽ| ええんちゃう……? / | /:l ヾ三三三三ゝ| ‐''7 | ./ `‐、, , , ,ー, , ,/ヽ_ 7 ./K. ` ー-‐ 1 ヽ- / / | \ /|ヽ ヽ
失礼しました。「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」で。
継続のほうがいいのかも。適当にしてください
170 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/17 07:27
判決を申し渡す。
>>165 超遅レスにもかかわらず次のお題を書くとは、死ね。
>>165 =
>>167 だろ?調子に乗るな、死ね。
謝罪文を載せたら(10行以上)四肢切断に減刑してもいい。
次のお題は。「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」が正しい。
165の香具師遅レスやん!
>>170 見て分ったわ。言葉荒いねんけど、そら170の発言ももっともや。
ほなら「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」でええんちゃう?
>>170 バカ。氏ね。クズ。俺と166の見分けもつかんとは(プ
四肢切断?謝罪文?言うてろよアホ。二度と来んなや。どーせ読専とかぬかすんやろ?自分(ワラ
判決を申し渡す?ダッセ
172 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/17 09:48
あ、荒れてる・・・
173 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/17 09:58
>>171 朝から香ばしいですね。
死んでいいよ。
174 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/17 10:05
165の香具師遅レスやん!
>>174 見て分ったわ。言葉荒いねんけど、そら174の発言ももっともや。
ほなら「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」でええんちゃう?
>>174 バカ。氏ね。クズ。俺と166の見分けもつかんとは(プ
四肢切断?謝罪文?言うてろよアホ。二度と来んなや。どーせ読専とかぬかすんやろ?自分(ワラ
判決を申し渡す?ダッセ
いわゆる仲良し四人組とでも言うような面子が喫茶店の一角で駄弁っていると、 一人が突然しりとりの開始を提案してきた。他の三人は投げやりに可決した。 まず、一人目。手元の雑誌を眺めつつ、最初の一語を口にする。 「し〜り〜と〜り」 後に続くのは、ある種のコモン・センスに導かれた言葉の連鎖。 「りんご」「ごりら」「ラッコ」 場の空気が一瞬で変調した。この突然の異常事態に、思い思いに散っていた 視線が「ラッコ」と口にした少女へと集まる。しかし、当の少女は この事態に気づかず、平素の様子で「コだよ、コー」と次の語を促している。 他の三人は慎重に互いの表情を伺いあった。やがて五つ目の語が、深い躊躇いと、 それを上回る決心を以って発せられた。 「コアラ」 場の緊張はまだ解けない。次は六つ目である。その少女は一度唾を飲み込んだ。 そうしてから、大きく息を吸い込んだ。吸い込んだ息を止めて、周りの三人の表情を 順番に眺めると、その視線を自分の手前の何も無い空間に定め、ようやく口を開いた。 「ラッパ」 事態を把握していなかった一人を除く三人の少女が、安堵の息を吐いた。 次は「荒れずに」「マターリ」「行きましょう」で。
177 :
「荒れずに」「マターリ」「行きましょう」 :03/02/17 16:04
「あついっ!」「バカ、声がでかいっ、教師どもに気づかれるだろ」「うぅ、ごめん… ぁっぃ」「ひどいなあ、少しは気遣ってあげてくださいよ… ああミキ先輩、冷やした方が いいですよ、一緒に水飲み場まで行きましょう」「ありがとう。でもだいじょぶ、一人で 行けるわ」「見つかるなよ… 部室にコンロの持ち込みだなんて、バレたらひどいからな」 「ふんだっ。べえー」「ばたん」「そおっと閉めろよっ、バカっ」 「ねえ、焼きドーフそろそろいいんじゃない?」「おっ、どれどれ」「それあたしの取り皿。 まあいーけど」「んー、なんか汁が濃くなってないか?」「ちょっと水入れたほうがいいかも」 「僕はこのくらいマターリしてるほうが好きですけど」「じょぼじょぼ」「こんなもん?」 「どれどれ、ああいい感じだ」「ミキちゃん大丈夫かな」「大したことねーと思うんだ けどな。あー、言ってる内に帰ってきたよ」 「がちゃ」「先輩、どうですか?」「うん、もう痛みは引いたわ。でも冷たくて、手がざら ざらになりそう」「荒れずにおかせたかったらそこのワセリン塗っとけ」「そうする」 「部長、なんでそんなものが…?」「理科室からパクってきたんだよ」「はあ… でもなんで ワセリンなんか。しかもかなり減ってますよ」「…」「まあ、部長とミキちゃんは、放課後の 誰もいない時にね(笑)」「バ…バカっ、何を…」 次は「水飲み場」「コンロ」「痛み」で行きましょう。
>>175 174だけど、なんで私に?
スレ汚しは謝ります。だけど納得いかないよ
次は「水飲み場」「コンロ」「痛み」
179 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/17 23:06
>>178 面白がってからかっただけダーヨきっと
それか単なるコピペ厨。
深く考えることないと思われ
『痛みに堪えること』
僕には自分で決めたルールがある。
それは人生を生き抜く上で僕を鈍感にし、より巧く世を渡らせてくれるのだ。
『自分からは目を合わせないこと』
畳一畳の部屋に増える茶色いシミを目で追う。
それは日増しに多くなる腕のアザと比例している。
母親が鋏を手に取り何か喚き始めた。
強く打たれた耳では、何を言っているのか分からない。
まるで耳に綿が詰め込まれているように。
『声をあげて泣かないこと』
僕は自分の中に自動的に思い出を作り替える習慣がついた。
一昨日僕は母親と公園に行った。
空は高く雲があちこちに浮かび、太陽がきらきら宝石のように光る。
水飲み場の蛇口に手が届かない僕を見て、母親が笑いながら蛇口をひねる。
光を受けてキラキラとガラスみたいな水が湧き上がる。
『傷の手当ては夜にすること』
コンロにかかっているのはクリームシチューだ。
どんな味なのか知らなかった。
きっと食べたらそれだけで幸せになれるような味なのかもしれない。
オマエガオマエガオマエガアタシヲメチャメチャニシタオマエノチチオヤガオマエガアタシヲカエセヨォオオオカエセエエエ!!!
母親が歌っている。
目に見えたのは想い出を否定するように生々しく残る火傷の跡と、
腕を振り下ろす母親の、痩せた細い腕だった。
なが! 次は「祝」「竹」「武」で。
ある日、城下に高札が立った。数日を経ぬうちに、高札は江戸の各地に立てられた。 「目出度き日を祝う為城内に竹を持ち寄られたく候」 竹?江戸はにわかに騒然となった。様々な噂が流れた。高札には「竹持ち寄られたく候」としか書いていなかったのだ。 何が一体、目出度いというのか? ある者は、竹ではなく筍であろうと読んだ。 ある者は、唐の国から贈られた大熊猫の餌であろうと踏んだ。 ある者は、戦で矢を作るのだと思った。 祭り好きの江戸っ子は四方手を尽くし、竹をわんさとかき集め、納めた。粋で鳴らすとある火消しは京から孟宗竹を しこたま取り寄せ、やんやの喝采を浴びた。 して、高札がまた立った。 「汝等の働きに依り本日此の目出度き日を竹以て祝いたく候」 祝いの場は隅田川、とあった。果たして、江戸じゅうの騒ぎ好きが隅田川の川縁に集まった。暮れ六つの鐘が鳴る頃には、 隅田川は鼠も通れぬ有様となった。 既に河原には、数千人の武家が竹を片手に揃い踏みしていた。暮れ六つの鐘が鳴り終わるや、武家は整斉と竹を肩に抱えた。 号砲一発、天に咲く絢爛たる光。 「玉屋〜」 江戸の祭りを恙なく迎えるは、誠に目出度き事にて候。 次のお題は「インターネット」「リモコン」「雀卓」で。
182 :
「インターネット」「リモコン」「雀卓」 :03/02/18 01:45
いつかの明け方、新宿のインターネット喫茶でDVDを見ていた時のことだよ。俺はどういう 経緯だったかは忘れたが、何か不自然な体勢で再生だか一時停止だかの操作をしようと して、リモコンを取り落としてしまい、とっさに拾おうとして身体が反応したところをちょうど 後ろを通った女の子にぶつかって、勢いあまって押し倒され、顔面にコーラのグラスを ぶちまけられたんだ。俺は一瞬、謝っていいのか文句をつけたらいいのか判断に迷ったん だけど、ちょっと俺のほうが悪かったような気がしたのと、その子が俺より三つか四つ くらいは下めの好みの感じの女の子だったのと、それと汚されたのは俺のだけじゃなくて その子の着てるものももうこぼれたコーラでべたべたになっちまって可哀相だったっていうのが あって、結局俺はすいませんと言い、あの子もゴメンナサイと言ってその場は、おさまったさ。 それで店員に洗面所の場所を聞いたら手洗い所に案内されて、確かに立派な洗面台が あるんだけど会ったばかりの子と二人でトイレに入るわけにも行かないだろって思ってたら その子が別にこれを洗うだけなんだから一緒にやりましょう、ほっとくと取れなくなりますよ、 とか言うんでそれじゃあってまあ中へはいったわけだ。その子の着てたのはなんて言うの かな、そう雀卓の上張りを白くしたみたいな生地のちょっと高そうなワンピースで、落とすの 大変そうだなとか思って見てたらその俺の前でいきなりそれを脱ぎだしたわけよ、その子は。 結局タンクトップとオーバーパンツになったその子と、トランクス一枚になった俺は仲良く 並んで着るものを洗って、店から仮眠用の毛布を借りてそれにくるまって乾くのを待ったり したんだけれども、まあ今でもそんな生地を見ると思い出してしまうって、それだけの話よ。 次は「再生」「コーラ」「毛布」で…。
178だけど。
>>179 サンクスコ
あんなことされると胸が痛いよ
すごく嫌な気持
川の辺に、テントやダンボールハウスが連なっている。通行人は皆そこに 境界線を見出し、彼我に干渉が起きぬよう、距離をとって歩んでいた。 今コーラを手にそこを歩く青年は、他の者より少しだけ、 境界線の近くを歩んでいた。決して近づきはしなかったが、 薄汚れた路上生活者の一人一人に注意深い視線を向けていた。 やがて彼は、毛布に包まって眠りに着く男の前を通りかかった。その瞬間、 彼の足が凝結した。視線も、その不潔な男の顔に食いついて微動だにしない。 ふいに男が目を覚ました。それでも彼は視線を動かさない。 二人はじっと見詰め合った。男は青年に訝しげな視線を浴びせ、青年は 男の瞳の内に再生の意気を探した。互いにあと一歩でなにかが分かりそうに なった一瞬、青年が視線を外した。 「これを」 一言だけ呟いて、青年は手にしたコーラを地面に置いた。 その瞬間男が何か言おうとしたが、一言目が発せられる前に青年は走り去った。 青年をここへ連れてきた男が、車の脇に待っていた。 「お父さんには会えましたか」 「……わかりません」 青年は俯いたまま、独り言のような調子で答えた。 青年の父親は、コーラの好きな男だった。 次は「初めに」「次に」「終わりに」でお願いします。
185 :
「初めに」「次に」「終わりに」 :03/02/18 19:30
もう終わりにしようよ、と言い出したのは彼女のほうだ。今まで世話になったわ、 あたしもうここへは戻らない、と。僕にももう引き止める言葉は無くてただ彼女が 荷物を作るのを手伝ったりして、それで僕らは終わりになった、はずだった。 ところがいざ出て行くという段階になって彼女は、次に住む場所が見つかるまで ここに居させて、とか言い出して、僕も特に断る理由が無いからこれまで幾夜も 抱き合っていたベッドに背中合わせになって今でも寝ているのだけど。 居てもいいけど月末までな、とか来月までな、とか初めに決めておけばよかったん だろうね、今思えば。放っといたらなんだかこのままずるずると一緒に居そうで、 まったく僕はこんなつもりじゃなかったんだ… ろうか? 知らないけど。 次は「水泳」「三つ星」「笛」で。
今日は先輩に、普段はいけないような高級三つ星レストランへ連れて行ってもらった。 「ここは深海魚が美味いんだよ」 先輩は僕にそう言いながら、現れたウェイターに「いつもの」と注文する。 するとウェイターは、胸元から笛を取り出した。 ウェイターが息を吹き込む。それは競技用のホイッスルのようだった。 僕が肝を抜かしていると、店の置くからダイバースーツに身を包んだ人が現れ、 店の一角に設置してある水槽に飛び込んだ。水槽の底は見えないが、かなり深いように 見える。ダイバースーツの人は、水泳選手なのか料理人なのか知らないが、見事な泳ぎで すぐに見えなくなった。 「今、新鮮な深海魚をお持ちしますので」 ウェイターの冷静な言葉を聴きながら、僕は平気な顔を作るのに苦心した。 次は「兄はトランシーバー」「弟は携帯電話」「二人は仲良し」で。
僕達はいわゆる人間じゃない、生物じゃない、モノだ。 これはたとえば自殺志願者などが、自分はゴミだ、屑だ、産業廃棄物だ、などというのとは違う。 純粋な、廃棄物として、僕は生きている。擬人的に言わせてもらうと。 物に魂があるわけない、と人間のあなた方は思うかもしれないが、世の中そんなに甘くない。 科学的なことじゃ説明できないこともきちんと存在する。きちんと。 兄はトランシーバー、弟は携帯電話という家族構成だ。 親は当たり前だけど、人間。もちろん生みの親だ。構成している物質をいえば僕達の親は沢山だといえる。 兄と弟は、知らない人には二人は仲良しだと映るかも知れない。 同じ通信系の機械だし、会話が合うような気もするのだろう。 しかし実は二人はそんなに仲良くない。 兄は弟を軟弱だと軽蔑し、弟は兄のことを時代遅れだと嘲笑う。 悲しいけれど、これが現実だ。 ちなみにPHSの僕は、今は弟の側に立っているが、いずれは兄の側に立つのだろう。 そう思うと、少し憂鬱になる。 次は 「機械」「カメレオン」「ビートルズ」で
愛は世界を救うという。ならば分からず屋のカワイコちゃん。 キミに降りかかる困難すべてを僕の愛で救ってあげたい。 カメレオンのようにきまぐれな君はホラ、せっかくの休日、 部屋に僕と二人っきり、ミディアムテンポのビートルズなんか流して こんなに甘いムードだっていうのに、さっきから眉間にシワを寄せて 味も素っ気もない小さなゲームの機械なんかいじってる。なにそれ?ゲームボーイ? 「ワンダースワン」 キミの声は月の欠片で作ったオルゴールみたいだね! 文明の利器なんて大嫌いだ。 確固たる意志を持って洞窟を探検している彼女は、全く僕のことなど忘れたふうで 僕は仕方無しに彼女の横に寝転がって彼女の横顔をただ見ているしかない。 「あ、死んだ」 唐突に彼女は低い声で呟くと、やがていかにも悲しそうな顔でこちらを見た。 ほらほら、そんな顔しないでよ。僕は君の笑顔を取り戻したくて提案する。 「どっか何か食べにいこうよ。何がいい?」 「お寿司か、ステーキ」 僕は黙り込む。君を守るには愛のほかに、色んなものが必要そうだ。 いつだって僕は探している、君を守るちから、カッコたる信念を持ったカッコいい僕。 次は「スーツ」「水」「笑顔」
あ、タッチの差。お題は「スーツ」他で。 店長を殴り飛ばして出てきた時の興奮が冷めると、俺はちょっと後悔していた。せめて 給料が入ってから辞めてやればよかった、と。なにしろ、金が無い。ビートルズの歌では ないが先週の水曜からは新聞が来なくなった。そりゃあ田舎の親父に頭を下げればまた 幾らか送ってくれるんだろうけど、これが最後だぞ、という台詞をもう言わせたくないし、 聞きたくもない。そして二言目の、お前の兄さんはなあ、という台詞もだ。 そりゃあ兄貴は立派さ。学生時代から教授にへつらい、面接官におもねり、上司や先輩に 言われれば足の裏でも舐めて保険会社のエリート社員だよ。自分の色なんか無いカメレオンの ように、あなた様のおっしゃる通りですばかり言って生きてる、昨日まではテレビの部品 でも明日からは冷蔵庫の部品になれる、いくらでも外して付け替えることのできるパーツさ。 だけど俺は違う。俺が何をやってもひと月続かないのは怠惰だからとか、社会不適応だ からとかいうんじゃない。そりゃあ機械の歯車になることは出来ないさ。でもそれは なぜならば、俺は社会の一部になるのではなくて、この社会を変える側に廻るべき人間だ からなんだ。事実、俺には世間をあっと言わせる文章を書くという才能がある。今はまだ それは開花していないけれど、近い将来、俺には兄貴なんか屁にもならないような高い 社会的地位と収入とが約束されている。ここ何年も小説が完成したことが無いのは、今 俺が衝撃のデビュー作への充電期にあることの顕著な証拠ではないか? 次作が日の目を 見るときには、俺は必ず成功者になっている。それまでの辛抱だ、ごめんよ、親父。 ガチャ、ツーツーツー… (…畜生、電話まで止められたか…)
190 :
「スーツ」「水」「笑顔」 :03/02/18 23:51
今日はジャスコの紳士服売り場で、卒業式に着るスーツを買った。試着室のカーテンを 閉めて一人になったときに思ったのだけど、母さんと服を買いに来るのなんてすごく 久しぶりのことだった。 ずっと前は、いつも母さんの買ってきたものを着ていた。でも一年生の時に、朝教室で コートを脱いでたら、「その服、かっこいいね」って野田さんに言われて、それからは、 それや、他にもかっこいい感じの服をよく着るようになった。母さんは、悪気がないん だけど、あんまりかっこいい服を買ってきてくれないから、その頃から僕は、自分で服 を選んで買うようになった。 服を選ぶとき、野田さんのことを考えてしまう。野田さんの笑顔を想像すると、もらった お金に自分で小遣いからたりない分を足して、高い服を買ってしまうこともある。もち ろん、スーツみたいにすごく高い服は、一人では買えない。 試着室の鏡で見たら、けっこうかっこいい感じだった。でも、もしこの服を野田さんが かっこいいって言ってくれても、もう次の日からは会えないし、着て見せることもでき ないんだって思ってたら、涙が出て、スーツの袖で拭いてしまった。 あとで母さんに、店の売り物なんだから水で濡らしたりしちゃだめじゃないの、と 叱られたけど、それが涙だっていうことが気づかれなくてよかった。
191 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/19 08:12
「スーツ」「水」「笑顔」 披露宴が終わると、外は嵐だった。 花で飾られた教会も、いまや水浸しだった。 不意に轟く雷鳴!。 思わず花嫁は、スーツの背にしがみつく。 「この子の抱き癖は、父親のせいですのよ」 花嫁の母が答えた。 「幼稚園に行っても、学校に行く様になっても、毎日毎日・・・」 「いやあ」と赤面する父親の笑顔が、その性格を物語っていた。 雨の中を、車で去ってゆく家族たち。 「またね」「楽しかったわ」「お幸せに」 神父さんも後片付けをはじめている。 裾を濡らした花嫁は、車の窓から花婿に言った。 「じゃあ、またね」 「うん、またね」と花婿は、父親の背を抱いたままの花嫁を見送った。 ※冒頭某作家のをパクってます。ごめんなさい^^; 次のお題は:「帰還」「大気圏」「キセル」でお願いしまふ。
友人の高木は先日の交通事故で臨死体験をしたのだそうだ。 本人曰く、自転車もろとも大型トラックに跳ね飛ばされたその瞬間、 彼の魂はフワフワと大気圏を突き破って宇宙までのぼり やっぱり地球は青かったのだと実感、やがて地上まで降りてきたはいいが 見当を間違えて仙台に着陸、そこからキセル乗車で東京までの帰還を 果たしたのだという。 俺がそうか、と言ってうなずくと高木は俺の部屋の窓に腰かけたまま、 オイオイお前、今のキセル乗車ってとこは 臨死体験中なんだから関係ないだろって突っ込むところだべ!と豪快に笑った。 うーん、俺はここで、お前は臨死体験をしたんじゃない、 トラックに跳ねられてそのまま即死したんだよって、 突っ込むべきだろうか。 次は「ブランコ」「鍵」「携帯電話」で
193 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/19 20:15
┌─┴─┐ │===│ └─┬─┘ ノ φヾ も う ね __,,,,,,___ る (⌒ヽ:::::::::::'''''-,, <´・\ ::::::::::::::::::ヽ l 3 ハ::::::::::::::::::::::ヽ, ∫ .<、・_ ( ) 旦 (⌒ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒)
お姉ちゃんが死んじゃったって。 私は、その事実から目を背けた。 お姉ちゃんは霊安室で意外ときれいな顔で眠っていたけれど、 何故だか私にはそれが耐えられなくって、そこから逃げ出してしまった。 スパゲティみたいに、頭の中はぐちゃぐちゃだった。 だから、走っていた道のりを線で表したら、きっとそんな感じになるだろう。 パスタの切れ端で顔を持ち上げると、そこには公園のブランコがあった。 ぺたんと腰掛けて、申し訳程度に音を出しながら漕いだ。 子供のころ、お姉ちゃんと一緒にブランコを漕いで遊んだっけ。 涙は止まらなかったけれど、そんな事を思い出していたら、 昔みたいに、後ろでお姉ちゃんが漕いでくれたみたいな気がして、 少しだけ、私の心の空は晴れていった。 携帯電話が鳴った。 電話に出ると、お母さんは、家の鍵をあんたに預けてるんだから、 早く帰ってきて頂戴って言った。 もう、お姉ちゃんを見て泣きはしない。 もちろん、笑ってお別れなんてできやしないけれど。 お姉ちゃんの大切な記憶は、私の傍にあるのだから。 ブランコから降りて、一つ背伸びをすると、 絡んだパスタをゆっくりとほどくように、私は元来た道を歩き出した。 次回、「時」×「マリア様」×「吸血鬼」
中学時代クラスに必ず一組はいたような女子グループ、 みんな眼鏡かけて髪型はダサくてノートに漫画とか小説とか書いて 見せあいっこなんかしちゃってんの。 あいつもその中の一人で、一度あいつの書いた漫画を見せてもらったけど、 吸血鬼とマリア様とバンパイアハンターが出てくるその漫画は 絵も下手くそでつまんなかった。 バレンタインにもらったチョコレートは、友達が冷やかすから恥ずかしくて捨てた。 当時はまだダイオキシンとか無かったから焼却炉もちゃんと使われてて その中にそのまま放り込んで、後であいつが泣いてたって聞いたけど、仕方無いじゃんって思った。 時が経って十年ぶりに再会したあいつは茶髪で化粧なんかして随分綺麗で 煙草なんか吸いながらさりげに男に甘えたり出来るようになってて 俺が、お前まだオタクくせえ話描いてんのかよって言ったら もーっいじわる、とか言って、やめてー思い出したくない、とか言って 笑いながら新しい煙草に火をつけてて、 なんでかな、俺、あの時チョコレート捨てた事、すげえごめんて思った。 今のあいつにじゃないよ、あの時の、中学生だったあいつに 本当にごめんなって、思ったんだ。 次は「ペンキ」「お茶」「代金」
べしゃあ。 「すすすすいませ〜んっ!」 水打ち浴びせてすいませんっはたまにあるシチュエーションだが、ペンキ浴びせてすいませんっはまずないはずだ。 とりあえず俺はペンキかぶせた相手を見た。水玉の作業服を着た、むさ苦しいおっさんだった。 これがせめておねーさんであれば、俺のこの莫寥とした気分も救われるのだが。 すいませんすいませんどうぞこちらへと、やたら恐縮するおっさんに導かれ、俺が入ったのは、現場事務所だった。 飯場かよ。喫茶店じゃねえのか。 しかも出てきたお茶はヤカン入りの麦茶だった。予想していたとはいえ、あまりにむごい。 さあさこちらに着替えて下さいとおっさんが差し出したのは、作務衣に脚絆。俺に働けと言うのか。さすがにそこまではなかったが。 まあ、おっさんたちは気持ちのいい男たちだった。自分の弁当から握り飯を分けてくれたり、なんとかもてなそうとする 気概は伝わった。 「どうもすいませんでした…その服は着ていって貰って構いませんので」 いや、服はどうでもいいからクリーニングの代金よこせって。 俺は赤ペンキでひたひたになった服を抱え、土方ルックで家路についた。出かける予定があったような気がしたが、もうどうでもよかった。 次のお題は「グラインダー」「ジャンパー」「猫目石」で。
久しぶりに訪ねた彼のアトリエは、まるで廃墟みたいだった。 彼がいなくなってまだ数ヶ月しか経っていないのに、 もうあの頃の面影はどこにもない。 私は思い出す。冷たいコンクリートに座って、グラインダーを動かす 彼の背中をじっと見てるのが何よりも好きだったあの頃を。 知り合ったときからずっと着てた、擦り切れた皮のジャンパー。 私の視線に気づいて振り返ったときの、彼の汗ばんだ素顔。 彼はきっと世間で言う「売れない芸術家」って奴だったんだろう。 でもそんな世間の評価は私にはどうでも良かった。関係なかった。 けど、彼はきっと絶えられなかったんだ。 思い出は色褪せ、アトリエにもう彼の姿は見えない。 ふと見ると埃を被ったテーブルの上、夕日の光が何かを照らしている。 近寄って手に取る。 彼が好きだった石、猫目石が一つ、誰かが置き忘れたように残されていた。 次のお題は「砂」「女」「工房」で。
「砂」「女」「工房」 「海の中にはお母さんがいるんだよ」 「海とお空が遠くでくっついてる。どっちも海で、どっちもお空・・・ お空になったお母さんはお空にも海にもいるんだね。」 体をよじって海と空を逆さまに見ようとしている。 初めて見るどこまでも続く海に娘は興奮気味だ。果てなく広い空の下、砂浜の上を、この寒さの中ずっと キャッキャ、キャッキャと走り回っている。いつまでも砂を追いかけている。 これだけ走り回れば、きっともう暑い位なのだろう、ほっぺたが淡く赤く染まっている。 寒いと言って動かない私は水平線を見ても、どこまでも続く砂浜を見ても、 世の中の多くの事柄に感動することができなくなってしまった。これが大人というものなのだろうか。 私も昔は見るものすべてに感動し、想像しうるすべての事柄は現実のものと変わるのだと信じていた。 しかし、職人である父の工房で育った私は鋭い刃物のように突き立てられた現実に従うばかりで、 夢は非常に脆く儚いものでしかなかった。現実に、妻はこの世界から消えてしまった。現実に。 できることならば、娘にはどこまでも続く想像力で、果てなく広い心の中に描く夢をいつまでも追いかけて欲しい。 私の愛した女性のように。この子を生んだ母のように。 ※いやぁ、久しぶりです。 次は「仲間うち」「秘密裏」「池」で、直木賞を。
199 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/20 08:24
「仲間うち」「秘密裏」「池」 「なんという、悲しいことでしょう」聖徳太子は嘆いた。 「同じミカドに仕える者が、仲間うちで無益な争い事を」 圧倒的な勢力で迫る敵兵を前に、太子は国を嘆いていた。 「どうしたのです、他の皆様はとうに逃げました。もう貴方一人ですよ」 「私は、私は最後まで太子様を…」 従者の目には死を超えた一種の驚きがあった。この状況で、なぜこの人は。 部族争いに明け暮れる時代に、最高の地位に、至高の人が生まれたのは何故? 太子の慈悲深い瞳に、哀しい色が浮かんだ。もう時間がない。 「仕方がありません…死ねぇぇぇ!」 ズダダダダ!玉虫の厨子から取り出された機関銃が火を噴いた。 物部一族も機銃掃射にはかなわない。一瞬で戦地は血の池となった。 「あわっ、あわわ」驚きに立てない従者に、太子が向かい合う。 「この事は秘密裏に進めねばならないのです。貴方は気付き始めていました、すみません」 ズキューン!最後の銃弾が放たれた。 さらにこれから何十年、未来から来た歴史修復官・聖徳大使の任務はなおも続くのだ。 ※ぎりぎりで15行・・・ 次のお題は:「超特急」「領収書」「ウニ」で御願いします。
「超特急」「領収書」「ウニ」 40代になって、友人の紹介で夢を買った。 次世代超特急「癒し系208」は磁石の力でスムースに移動することが可能だ。 そのスムースさを支えているのが、磁石と列車の間に存在する数mmの空間。 「ドリーム・マルチ・コネクション(ドリマコ)」それがその空間の名称らしい。 ウニのトゲ、0.7個分の厚みということが、独自の調査で判明している。 たった数mmの空間に、今まで稼いだ金を全てつぎ込んだ。合計3億。 1平方メートルのドリマコを、合計100人の新しい友人に紹介するのが、新しい仕事だ。 そして私は努力した。新しい友人を見つけては、格安の値段で紹介していく。 そして、残り100平方センチメートル。 最後の友人を見つけた。 私は領収書にある\2,99900000という数字を見つめた。 大丈夫、彼なら買ってくれるさ。 そう、彼も私と同じ眼をしているからだ。 ※13行、もうちょい書いてもよかったかも。 次のお題は:「パチンコ」「博士号」「蕎麦湯」でお願いします。
(゚∀゚)ノワーイ,200ゲトーもデキター
ねえ沙穂、あなたは女に抱かれたいと思った事はある? あたしは誰でもいいの、それが女でも男でも抱く方でも抱かれる方でも この世でたった一人、大切に大切に思える人が出来て その人もあたしのことを大事に大事に思ってくれるなら それは素晴らしいことなのだろう、夢のような幸せだろう、 あたしが深海に転がるウニのようにトゲで隠した心の柔らかいところを その人は苦もなく解きほぐし、あたしは両手一杯の花束を抱えたような顔で笑う。 この世でたった一人の大切な人に出会えたあたしは 何にだって領収書を切らせる事務のハイミスみたいなしかめっ面も どこかに吹き飛ばして、いつだって愛する人の元へ超特急で駆けつけるの。 心も身体も一つになれる日々、それはなんて幸せな日々なのだろう。 なのに駄目なの、こんなに憧れているのに、誰に抱かれても誰を抱いても あたしは誰のことも皆同じに見えるの、皆同じ顔に見えるの、 この世にはたくさんの恋人達が溢れかえっていて、あたしはただその中の 一組になりたいだけなのに、駄目なの、色んな人と試したのに 中にはあたしのこと愛してくれる人もいたのに いつだってその人じゃないの、見つからないの、ねえなんで、 どうしてだろう、どうしてあたしは見つからない方の人種なんだろう。 ねえ、あたしの大切な大切なたった一人の親友の沙穂、ちょっと試させてくれるかな。 あたしはあなたでも駄目なのかなあ?
あまり行数にコダワラナクテモいいんでない?字数が決まってるわけじゃないし
>>202 、かぶっていたので消そうとして、間違えて送信してしまいました。
もちろん次の方は「パチンコ」〜のお題で。
申し訳ありません。
お前はきっと怒っているだろう。そして深く傷付いている事だろう、 俺が博士号を取得した今回の論文はお前の研究を盗作したものだった。 俺はこんな酷いことをしたわけだけれども、優しいお前はひょっとしたら それでもまだ俺を憎めないで、どうして俺がこんな事をしたのか 傷つきながらも必死に考えて、俺をまだ信じようとしてくれているかもしれない。 金が無い生活の中で一杯の掛け蕎麦どころか、蕎麦湯まで仲良く分け合った その俺がこんな事をするなんて、お前はただただ悲しんでいるだけかもしれない。 お前は破天荒な生活をしながらも成績の良い俺に心酔し、尊敬し、信頼しきっていた。 だけど、だけどな、俺は天才じゃなかったんだ。地道な努力を続けてこなかった俺に 限界は人より早く訪れた。もう俺は自分の限界を知ってしまった。 俺が一番怖かった事が何だか分かるか。それは、お前に、お前にも 俺の限界を悟られることだったんだ。お前が俺よりずっと上に行ってしまって それでもお前は優しいから可哀想な俺との付き合いを続けてくれて、 そんな未来を想像すると、俺は気が狂ってしまいそうだった。 だから俺はこんな方法でしか俺をお前から隠すことが出来なかった。 非凡な天才が、平凡な努力家を手の上で転がして遊ぶようなふりで お前の目を誤魔化そうとしたんだ。ごめんな、俺、お前に負けたことを 他の誰でもないお前にだけは気付かれたくなかった。 次のお題は「アイロン」「鳥肌」「カーテン」
>>205 文章はともかく、「パチンコ」が入ってないよ。
>>206 あっ本当だ! すみません、お題を出した方に失礼なことをしてしまいました。
何度もお目汚しすみません。こっちでお願いします。
「パチンコ」「博士号」「蕎麦湯」
お前はきっと怒っているだろう。そして深く傷付いている事だろう、
俺が博士号を取得した今回の論文はお前の研究を盗作したものだった。
俺はこんな酷いことをしたわけだけれども、優しいお前はひょっとしたら
それでもまだ俺を憎めないで、どうして俺がこんな事をしたのか
傷つきながらも必死に考えて、俺をまだ信じようとしてくれているかもしれない。
金が無い生活の中で一杯の掛け蕎麦どころか、蕎麦湯まで仲良く分け合った
その俺がこんな事をするなんて、お前はただただ悲しんでいるだけかもしれない。
お前は、授業を無視してパチンコに行くような破天荒な生活をしながらも
常に成績の良い俺に心酔し、尊敬し、信頼しきっていた。
だけど、だけどな、俺は天才じゃなかったんだ。地道な努力を続けてこなかった俺に
限界は人より早く訪れた。もう俺は自分の限界を知ってしまった。
俺が一番怖かった事が何だか分かるか。それは、お前に、お前にも
俺の限界を悟られることだったんだ。お前が俺よりずっと上に行ってしまって
それでもお前は優しいから可哀想な俺との付き合いを続けてくれて、
そんな未来を想像すると、俺は気が狂ってしまいそうだった。
だから俺はこんな方法でしか俺をお前から隠すことが出来なかった。
非凡な天才が、平凡な努力家を手の上で転がして遊ぶようなふりで
お前の目を誤魔化そうとしたんだ。ごめんな、俺、お前に負けたことを
他の誰でもないお前にだけは気付かれたくなかった。
次は「アイロン」「鳥肌」「カーテン」で。
「アイロン」「鳥肌」「カーテン」 数週間前から連続放火の記事が新聞の三面を飾っていた。 俺は、『火』と言う文字を目にする度に押さえきれない興奮に包まれる。 きっかけは、二浪が決定した冬の夜だった。ムシの居所でも悪いのか、隣の家の飼い犬が吼え続けていた。 隣は留守なのか、誰も犬の様子をうかがわない。 俺は苛々していた。二浪だ、二浪なんだぞ。犬は吼えて続けている。 畜生、あんなに頑張ったのに。鳴き声は止まない。 友達に何て言おう。遠吠え。ああ、くそっ。 気付くと、目の前で犬小屋が燃えていた。部屋を出た事も、火を放った事さえも覚えていない。 けたたましい程の犬の叫びを聞いた時、全身に鳥肌がたった。俺は辺りを見回すと、慌てて逃げ出した。 部屋に駆け込み、窓から犬小屋をうかがった。犬は断末魔の叫びを上げ炎に包まれていた。 俺は何時の間にか射精していた。 その時から、火をつけずにはいられなくなった。もっと燃やしたい。それだけしか考えられなくなった。 サイレン、サイレン、サイレン。今日も目の前を何台もの消防車が走り去って行く。 家が燃えている。燃えろ、燃えろ、もっと燃えろ。心の中で、叫び、手を叩き、小躍りした。天を焦がすほどの火勢は、止まる事を知らずに、家を飲み込む。 ――その火事は放火では無かった。消し忘れたアイロンにカーテンが接触して出火したのだ。 俺は、丸焦げになった自分のアパートを見詰めながら火元として取り調べを受けた。 次のお題は「ペットボトル」「柱時計」「ワイシャツ」でお願い致します。
209 :
「ペットボトル」「柱時計」「ワイシャツ」 :03/02/20 17:22
「また同じ薬を出しておくけど、それが終わったらもう来なくていいよ」 喜ばしそうに告げる医者に礼を言って僕は、上げていたワイシャツの袖を下ろし、カフスを止めた。 待合室の長椅子に戻ると隣の席には、見慣れた鞄とペットボトルのペプシコーラ。 先月草刈り鎌が滑って作った腕の傷は、さわってもこすっても、引っ掻いてももう痛くない。 知らない誰かが放送で呼ばれる。僕の番はまだ、もう少しあとみたいだ、よかった。 柱時計が四時を告げてまもなく処置室のドアが開き、いつものように十分間のレーザ照射を 済ませたあの子が出てきて、僕の隣に腰掛けた。 「今日で終わりなんだって? 聞いてたよ。おめでとう」 反射のように僕はありがとう、と言って、それからでも本当は嬉しくなんかないんだって いう言葉を続けていいのか分からなくて、そんな僕に知らん顔でコーラを飲んでる同い年の 手元を見つめていた。 「ん? これ欲しいの? いいよ」 ボトルを差し出す少女の向こうでスピーカが僕を呼ぶ。 「ううん、そうじゃなくて」 手みじかに言って薬をもらうための窓口に向かう。 せめてこの傷の跡くらいは、消えないでくれたらいいなとか思った。 次は「巨人」「ハム」「ツバメ」で。
俺っていつもそうなの、悪気はないの、まじで。ほんと。 皆の前では無神経でがさつなボクだけど、玄関口に出来たツバメの巣を 壊さないで見守ったりする優しさもあるんだぜ! だから許して下さい。 ごめんなさい。あー、俺って本当に駄目人間。好きな女の子に 嫌われてしまいました。原因は簡単。さっきの体育の授業、男女混合のソフトボール、 ハーフパンツから伸びる彼女の白い柔らかな曲線を俺は愛情を込めて 「ボンレスハム」と形容してしまったのです。 ああ、これはかつて「あたしって有名人だと誰に似てるかなあ」と 尋ねられて、思わず巨人のタカハシヨシノブに似ている、と 答えた時以上の失態だ。別にぽっちゃりしてるって意味じゃなかった、 今時ヒロスエ似だと言うのは逆に微妙だと思ったのだ俺は。 まだ怒ってるかなあ、怒ってるよなあ、鬼みたいな顔してたもんなあ、 そんな事を考えながら下校時間を迎え、俺が何と言って謝ろうか悶々と していると、なんとアチラさんから俺のところにやってきた。 「前から言おうと思ってたんだけど、あたしの事デブって言うのやめてよね」 ごめんなさいごめんなさいもうしません、平謝りの顔を上げてみると なんとびっくり、彼女は泣いている。 「あたし頑張って痩せるから、そしたら付き合ってくれる?」 そ、そんな! 願ってもない、いや、これは願っていたことなわけで、 嬉しくて腰が抜けそうな俺の前で彼女の瞳は まさに恋する乙女のように涙で潤んでいるわけで、 そして恋する乙女のように瞳を潤ませているのは俺も同じなわけで! こ、こら、君から告ってきたくせにキモいとか言ってわわ笑うんじゃない。 長くなりすぎました。 次は「桃缶」「廊下」「せっけん」
211 :
「桃缶」「廊下」「せっけん :03/02/20 19:23
お先にどうぞと勧められて、缶を八分まで満たしたシロップに指を入れる。切り口で怪我をし ないようにそっと指を浸けて、甘く冷たい液からやわらかいハーフカットの白桃をつまむ。 ドアの向こうの廊下の喧騒を逃れた二人きりの部室の床、打ちっぱなしのコンクリートに、 ぽたぽたと滴が落ちて跡を作る。 スカートを汚さないように彼女も缶から桃を出して、白い歯を見せてかじりつく。濡れた指 を伝う桃の汁が、窓からの淡い光に輝く。 その缶にもう一度指を入れて、二切れ目の桃を取り出す。手を洗うのはいいけどせっけんは 使っちゃだめだよ、匂いがつくから、と彼女は言って、それだから僕らは水だけで洗ったんだ。 その指を交互に缶の中へ入れながら二人、どこまでも甘いばかりの桃を一つ、また一つつまみ 出して、最後に残った半端の一個は半分こにして食べた。唇を切らないように気をつけながら、 シロップも代わりばんこに飲んだ。 「桃缶の最後の一個はなんで上を向いてるか知ってる?」 べたべたになった指を舐める彼女に知らない、と答えると彼女はそのままの姿勢で、他の誰が そっぽを向いても、あたしだけは君を見てるよ、と言った。 「そのかわり最後の一個が無くなったらもうその次は無いんだからね」 空き缶が授業のチャイムに共鳴した。僕は濡れたほうの手で濡れたほうの手を取って彼女を 立たせながら、無くさないよ、とつぶやいた。 次は「ジャム」「楽園」「球根」で。
この世に楽園なんかない。どこを見ても戦場だらけだ。きっと天国でも、そうだろうさ。 命からがら頭から塹壕に飛び込んだ俺は、しっかり小脇に抱えた自動小銃に唸るような毒舌を投げつけた。 こいつがイイ所でジャムっちまったおかげで、俺は死刑執行人から死刑囚に早変わりって訳だ。 射点の散らばり具合から見て、ざっと一個分隊、8人ってところか。手許にあるのは鉄棒同然の自動小銃、 豆鉄砲でしかない拳銃、最後のひとつになった予備弾倉、あとはお情け程度の銃剣か。くそ! 塹壕はやたらと鉄くさく、上部がいびつに削れていた。迫撃砲を雨あられと喰らったんだろう。正直とっとと 脱出しないと先客同様ミンチにされかねないが、出たらその場で蜂の巣だ。 俺はジャムった弾を排出し、最後の弾倉を装填した。この威嚇射撃で突破口を開けないと、まず間違いなく天国行きだ。 俺は小銃を構え、塹壕から飛び出した。そしたらいやがった、不注意に突出するバカが。そのバカは一瞬で 銃弾に身を切り刻まれ、肉塊に変わった。 俺は小銃を肩に担ぎ、バカだった肉を盾代わりに抱えた。対人兵器には人間こそが最高の盾だ。俺は抱えた ソイツの腰にいい物を見つけ、引きちぎった。 俺たちはそのいい物を「球根」と呼んでいる。球根型の焼夷手榴弾で、水平方向に数千度のテルミットを撒き散らす。 俺は安全ピンがひっこ抜けていることを確認すると、力一杯投げつけた。とたんに真っ白い花火が炸裂し、辺り一面を焼き尽くした。 俺はまた、何とか生き残った。この世も戦場、あの世も戦場なら、どこで戦争やっても同じような気もするが、とにかく俺は生き残った。 次のお題は「いちじく」「ジプシー」「スローガン」で。
213 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/21 02:21
よくわからない夢の途中で目が覚めた。不満製造器の開発会社に面接する夢だった。 もう3時すぎだ。親には悪いが、大学はほとんど行ってない。とりあえずお湯をわか して、まずいコーヒーを飲む。 【彼女】は死んだ。俺より年上だが、気が弱くでんわの音とチャイムの音をたいそう 怖がっていた。酒がおいしいわけでもないのにハマるように飲みつづける【彼女】に俺 は一度だけ言った。 「そんな癖、暗すぎるよ」 「暗いといけないの? 性交だって暗すぎるわ」 俺はなにもいえずに、【彼女】のほそい肩に頭をもたれた。 腹が減ったので、外へ出てみる。 "喫茶店ジプシー" に入り、ナポリタンをつくってもら った。正面の壁際には "ボーイズ ビー アンビシャス"のパンクなフリしたスローガンポス ターが貼ってある。このひとことで大志がいだけたら苦労はない。 お次は、「新聞」「ねずみ色の空」「マッチ(近藤です)」でおながいします。
スマソ! いちじくがはいってない。。書き直しです。 よくわからない夢の途中で目が覚めた。不満製造器の開発会社に面接する夢だった。 もう3時すぎだ。親には悪いが、大学はほとんど行ってない。とりあえずお湯をわか して、まずいコーヒーを飲む。 【彼女】は死んだ。俺より年上だが、気が弱くでんわの音とチャイムの音をたいそう 怖がっていた。酒がおいしいわけでもないのにハマるように飲みつづける【彼女】に俺 は一度だけ言った。 「そんな癖、暗すぎるよ」 「暗いといけないの? 性交だって暗すぎるわ」 俺はなにもいえずに、【彼女】のほそい肩に頭をもたれた。 腹が減ったので、外へ出てみる。 東口の角の果物屋でいちじくを買ってから"喫茶店ジプシー" に入り、ナポリタンをつくってもら った。正面の壁際には "ボーイズ ビー アンビシャス"のパンクなフリしたスローガンポス ターが貼ってある。このひとことで大志がいだけたら苦労はない。 お次は、「新聞」「ねずみ色の空」「マッチ(近藤です)」でおながいします。
215 :
「新聞」「ねずみ色の空」「マッチ(近藤です)」 :03/02/21 03:26
「じゃ形式的にサイコロ振ります。はい、OK。それでどうするの?」「中に入るよ」「入るん だね? OK。一行が岩屋の中に入ると、どーーん! という音とともに入り口が閉ざされて、 あたりは真っ暗になった」「うわ、罠かよ、ひどいなあ」「さっきのサイコロはそれのチェック だったんだな」「そのとおり。さあどうする?」「とりあえず明かりをつける」「俺、カンテラ 持ってるぜ」「カンテラはあっても火をつけるものが無いよ」「え、俺マッチも持ってるはず だけど…」「持ち物リストには『マッチ(近藤です)』と書いてある」「バカ、この野郎… 素直 にマッチって書いとけばいろいろに使えたのに、近藤マッチなんてどうするつもりだよ」「もし かしてパーティ同行NPCということになるのかな?」「まあ、そういうことでいいだろう。 同行しているのに忘れられていた存在感の無い近藤マッチであった。さて、どうしますか?」 「俺が、手探りであたりの様子を調べる」「じゃあ100面サイコロを振ってください」「58」 「はい。入り口のあったところから向かって左側の目の高さあたりに、平らなパネル状の物を 見つけた」「大きさは?」「えーと、新聞を広げたくらいの長方形をしている」「詳しく調べる ことはできる?」「できますよ。100面サイコロを振って」「78」「OK。慎重に表面の様子 を調べていたら、パネルの横に小さな梃子のようなものがあるのを見つけた。どうする?」「梃子 といわれると引いてみたくなるな」「引くの?」「引く」「梃子を引くと、パネルにふっと映像が 浮かび上がった。ねずみ色の空を背に聳え立つ塔である。参謀役、サイコロを振って」「80」 「参謀役はこの塔に見おぼえがあった。今回の冒険の依頼者である王弟殿下と親しくしている悪魔 術師の居城である」 次は「雑誌」「海」「マッチ」で。
三十回ほど読んだ雑誌に、マッチで火をつけ海に放り投げた。 本よ、ダイオキシンを発せず海に還れ。と命令したから有害物質はでないだろう。 ……まだ、右ほおは痛かった。ついでに心。 俺は今し方ふられたばっかりだった。彼女とのデートだというのに、本ばかり読んでたせいだった。 仕方ないだろ! 好きな作家のなんだから少しでも早く読みたいんだよ! のせりふを言い終わらぬうちに、俺は殴られていた。 せめてビンタで殴られたならまだよかった。コークスクリューで殴られたというのは痛い。 これも本好きの性か、と海の果てを見つめた。人よりもインクのシミの方が大切……それで生きるのもいいさ……。 ぷるぷると、ケータイがふるえた。 耳に当てると、なんだか懐かしい声がする。 割り切ったはずなのに、うれしかった。 「山寺」「高一」「ランプの政令」
>エヴァっ子さん 「ランプの政令」?「ランプの精霊」?
「山寺」「高一」「ランプの政令(精霊?)」 高一の時から付き合って、やっと結婚した女が昨日出て行った. 15年間の俺達の生活は簡単に崩れ落ちた。あっけないもんだ。 不思議なランプが海辺に転がっているのを発見したのは、それから3週間後。 ランプを擦ると、ランプの精霊がスルスルと出てきた。まぁ俺には関係ないがな。 今更、逃げた女とよりを戻しても、元の木阿弥。こっちが惨めなだけだ。 なら金か? 豪邸か? そんな風に、様々な欲望が浮んでは消えた。そして、そんな自分が許せなかった。 だから俺は、山奥にひっそりと建つ山寺にやってきた。精神を統一して煩悩を消したかったからだ。 目の前にランプを置き、ランプを擦ってみた。精霊が澄ました顔で出てきやがった。 俺は袈裟を着て、精神を研ぎ澄ませて正座した。 …………………………。 足が痛いな…、それに寒い…、あ、いけない。いつも見てるドラマ、録画し忘れた…。 あぁ、なんとかできないもんか…。なんとかしてくれ…。なんとか…。なんとか…。 ん? そういやなんだか暖かくなってきたな…。足も…。 やっと、煩悩を捨てることができた。俺は自分に満足し、颯爽と山を降りた。 次のお題は:「ウイスキー」「けんだま」「料理人」 あ、「ランプの政令」を勝手に「ランプの精霊」にしてしまいますた。 もしも、政令の方が正しければ、漏れのお題は無視してくださいな。
219 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/21 11:43
「ああ、久しぶりだな。兄貴」弟はそう言って昔みたいに笑った。 親父が死んでからずっとひとりで家を守っていたお袋が去年死んで、 こうやって兄弟で会うのも久しぶりだった。 「久しぶりに二人で酒でも飲まないか、家でさ。」 先週の弟からの電話で、俺はいま空家になっていた実家へ帰ってきていた。 弟は若いときに家を出て、今は自分で興した有名なレストランの料理人をやっている。 聞けば結構借金もあるらしいが、まぁ順風満帆らしい。 久方ぶりの再会で、昔話に花が咲いた。 兄弟で遊んだけんだま遊びから親父・お袋の思い出。楽しかった子供の頃のこと。 もう二人とも、ウィスキーでも飲むのが似合う年になっちまったなと笑う。 いつのまにか、時間は夜中の3時を優に回っていた。 タクシーでも呼ぶか。 ふと、体が全く動かなくなっている自分に気づいた。 ゴメンな兄貴。遠くから弟の声が聞こえる。周りも薄暗くなってきた。あれ、停電かな? この家を売ればどうにかなるんだ。兄貴が死ねば相続人は俺だけになる・・・・ かすかに響く弟の声を聞くうちに、やがて俺の意識は闇に飲まれた。 次のお題は「坊ちゃん」「棗」「僧籍」
「ウィスキー」「けんだま」「料理人」(お題被りでごめんなさい) 早食い選手権のエンディングのテロップに目を奪われた。 『マラカス早い鳴らし選手権参加者募集』なんだそりゃ? 近頃は、テレビで『選手権モノ』が流行っている。 『手先が器用選手権』なんて番組まで登場するに至っては、何でもありの様相だ。 それにしても『マラカス早鳴らし選手権』って、一体誰が観るんだ。 小首を傾げながらも、オレは応募要綱をメモしていた。オレはラテンバンドのマラカス奏者なのだ。 優勝への決意を込めて、グラスのウイスキーをぐいと飲み干した。 予選は簡単に通過出来た。マラカスを目にもとまらぬ早さで振りながら、如何に美しい音色を出すかがポイントだ。 手首だけでなく、身体全体の微妙なバイブレーションを伝える事が出来た時、途切れる事が無い寄せては返す細波の様な音色が奏でられる。 自称マラカスの卓こと、オレ。シェイカーの鬼、バータンダーのヒロさん。けんだまワールドカップチャンピオンの西田君。 柳包丁の魔術師、料理人の高山さんで決勝を争う事になった。いずれも劣らぬ手首使い達だ。 ゴングが鳴った。スタジオにマラカスの音が響く。 「あっ」あろうことか、汗で手が滑った。マラカスがオレの頭上高く飛ぶ。照明の眩しさに目を瞑った。 気付くと、オレはテレビ局の医務室で寝ていた。付き添っていたADがオレにトロフィーを渡す。何故オレが優勝なんだ? 「いやあ、あの技凄かったですよ。マラカスが頭にぶつかった時の音色と言ったら……」 うっかり手が滑っただけだなんて言えないな。オレは苦笑した。 お題は219さんの継続で。
僕は祖父が大好きだった。ただ、僕に寺の跡を継がせようとすることだけは勘弁してほしかった。 縁側で、棗を干したのをつまみながら、僕を僧籍に入れたい、自分の手で得度を施してやりたい、と言うたび、 当時の僕は幼さ故の残酷さからか、祖父の禿頭に酷いことを言っていた。そうすると祖父は苦笑いを浮かべ、 「こんな頭じゃあ、な」 と、つるつるの頭を撫でるように打ったものだった。 その祖父も、僕が高校生の時に亡くなった。もう動かない祖父の禿頭を撫でると、不思議とあの頃の思い出が甦った。 僕はお寺の坊ちゃんではなくなった。後継者のなくなった寺は本山から来た新しい住職が管理している。 一家は寺を離れて街暮らしを始め、僕は大学に合格してさらにその街から離れた。 僕は今大学で、東洋文学を専攻している。中国の仏教教典について、達磨大師から密教まで。 卒業論文の主題は、<中国仏教における入滅観の変遷と類型>と決めた。 祖父は僕を僧籍に入れることはできなかったが、僕の心に得度を施してくれたのだろう。 次のお題は「亜鉛」「マグカップ」「福音」で。
僕と恋人は、生活に関する好みがあんまり合わない。 「亜鉛が足りないのね、きっと」 たしか亜鉛が足りないと味覚がおかしくなるんだって。みのもんたがそう言ってたわ。でも亜鉛って何に入ってたかな… 隣に座る彼女がぶつぶつとごちた。 味覚がおかしいと言われた僕は、単にフリーズドライに湯を注いだ卵スープに口を付けようとしてただけなんだけど。 「だって最近の食品加工はすごいよ?」 けれども彼女にそれを薦めてみることは許されない。 「何言ってんの。今も昔も加工食品なんて添加物90%に決まってるじゃない」 ついには持っていたマグカップを取り上げられてしまった。 「添加物ゼロだって書いてあったから買ったんだけど…やっぱだめか」 「そそ、買わないほうが正解よ。あー…ねぇお腹空いちゃった」 「ん?パスタで良い?」 「亜鉛がはいってる食品使ってね」 「はいはい」 僕にとって彼女の言葉は福音に等しい。 声色、口調、言うことすべてが僕を蕩かせて、結局僕をひざまずかせてしまう。 形ばかりの抵抗はしてみても、最後に勝つのは神である彼女なのである。 亜鉛がはいってる食品て何だろと呟きつつ冷蔵庫をあさる。 とりあえず、冷蔵庫掃除のつもりで色々野菜を放りこんだパスタが出来た。 「キャベツにチンゲンサイ人参ピーマン玉葱、ささみ…まあこれなら亜鉛くらい摂れそうね」 言うこととは裏腹に満面の笑みで食べる様子が微笑ましい。 まあ、彼女にとっての僕の料理も、言うなれば福音に等しいということだ。 そんなわけで、でこぼこながら僕らは似合いのカップルなのだ。 福音の意味履き違えてるかも。長いのに読んでくださった方ありがとう。 次は「カーテン」「やかん」「ドライフラワー」で。
223 :
「亜鉛」「マグカップ」「福音」 :03/02/22 10:12
マグカップの中から、白い湯気が昇っていく。 この世界は、今日も寒い。いつしか、マグカップの中から昇っていた湯気は消えていた。 外に出ると、あるのは亜鉛のような色をした空と、廃墟だけ。 そんな中で、場違いなほど白い雪が、今日もいつものように降り積もっていく。 どこからか、銃声が鳴り響く。少し遅れて、見知らぬ誰かの断末魔。 関係ない。俺の命に関係ないものを考えている余裕はない。 良心。いつの間にか、そんなものはこの白い雪に覆い隠されてしまった。 この世界で、そんなものは持つだけ無駄なものだった。 今日も自分が生きるために人を殺す。奪わなければ、奪われる。弱肉強食という言葉がよく似合う世界。 いつしか狂ってしまった世界。神様などいやしない。信じられるのは自分だけ。 決して太陽など顔を覗かせようとしない空。降り積もる雪。 あの雪は、全てを覆う。人も、死も、何もかも。 そんな世界の中で、唯一つ残った礼拝堂。その中に入って手を握り、目を瞑った。 神様なんていないけど、願わずにはいられない。 どうか。このくそったれな世界に福音を。 次のお題。「閃光」「抜海」「メディア」で。
↑かぶってますね。スマソ お題は「カーテン」「やかん」「ドライフラワー」でお願いします。
別にあいつは僕にとってただの後輩で、いや、あいつが僕のことを すいたらしく思ってくれている事は知っているが だからといって彼女の誕生日に花をプレゼントしたのに深い意味はない。 ただ、偶然あいつんちのカーテンの柄によく似た花を見つけたというだけの話さ。 「嬉しいです先輩! どうしよう! わたし、この花一生大切にします。 押し花にしてポプリにしてドライフラワーにして、えーと、あとは、あとは」 いや、それ1本しか無いから。 「あっどうぞ、上がってって下さい! お茶入れます。やかんどこだやかん。 あ、べ、別に下心とかありませんから、ってななな何言ってるんだろう私!」 顔を真っ赤にしてバタバタと玄関口で騒いでいる彼女を見ながら これから先、この馬鹿で純真な娘が悪い男に引っ掛からなければ良いが、と嘆息する。 やがて僕は長い時間をかけて、馬鹿で純真なこの娘の魅力に 見事に引っ掛かっていくのだが それはまた時間のあるときにゆっくり話すよ。 次のお題は「閃光」「抜海」「メディア」で。
226 :
「閃光」「抜海」「メディア」 :03/02/23 05:44
ディーゼル機関がふたたび轟音を上げて動き出し、抜海駅の駅名標が遠くなった。リュック サックから時刻表を取り出して宗谷線のページを開いた時、車内放送が鳴った。 「本日もJR北海道をご利用いただいて…… …終点稚内には18時53分の到着です」 武雄は窓の外を見た。このあたりには利尻島と礼文島があるはずなのだが今日はもう暗くなって いてただ海の色のほかなんの見えるものも無い。 ふと尻の肉が痺れているのに気づいて武雄は姿勢を変えた。名寄から五時間近くも同じ座席に 坐っていればそうもなる、あるいは、二週間以上も昼夜、鉄道旅行を続けていれば。 四月からは社会人、それも多忙を極めるというメディア業界に入るのだから、ことによるとこんな 長旅をすることができるのは次は退職後かもしれないと、武雄は、学生時代に乗り切れなかった JRの路線の残りを全部この春休みに走破しようと決めたのだ。そして今この列車が稚内に着い たら、武雄の旅程は、休暇のたびに東へ西へと駆け回ってきた武雄の鉄道趣味は、終わるのだ、 あと二駅で、あと十分ばかりで。 まもなく、南稚内、と車掌が言った。そして、南稚内の次は終点稚内です、と続けた。 やがて見えてきた南稚内駅では久々に旗を持ってホームに立っている駅員がいる。その駅員が ベルを鳴らし、出発の合図を上げようとするのを見た時、何かが閃光のように走って、武雄は いつしかリュックサックを持ってホームにいた。 次は「望み」「光」「こだま」で。
227 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/23 22:02
正月に実家に帰った。 こだまに乗って。 実家に帰るときは日本を横断する気分になる。 そのくらい、遠い。 実家に到着し、くつろいだ時間をすごす。 あるとき、親父の書斎に入る用事があった。 親父の愛機はマック 私はマックはぜんぜんわからない。 その隣には本棚。 ずらりと並ぶ「インターネット悪のマニュアル」「ハピーハッカー」などなど。 そして光回線・・・何考えてる? マックは起動したまま放置されてたのでつい出来心でデスクトップを見た。 なにかをダウンロードしてる途中らしい。 そしてデスクトップにはそのファイルの保存先らしいフォルダが、 ・・・割れ厨? そして発見してしまった。 (゚Д゚)【18禁ゲーム】君が望む永遠 disk 1.GCA 次「オウム真理教」「弱アルカリ性」「業務用界面活性剤」
「僕の中で名を呼び続けるこだまを止めてくれないか」 「おかしい本を読みすぎたんじゃないの」 「暗闇の人生に一筋の光を与えてくれた。これからもずっと光でいてくれ」 「表現としてはありふれていて、陳腐ね」 「もし俺の望みを叶えてくれないのなら、この世の万物など無いも同じだ」 「自暴自棄は嫌いだから」 「何だ、何を言っても取り合ってくれないじゃないか。どういうつもりだ」 「素直に結婚してくれと言わないからよ。で、結婚してくれませんか?」 「します」 投稿前にリロードしたら間に合ってませんでした。 次は227氏の指定通り「オウム真理教」「弱アルカリ性」「業務用界面活性剤」
お約束 1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。 2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。 3:文章は5行以上15行以下を目安に。 4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。 5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。 6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。 >4:ただし、固有名詞は避けること。 >4:ただし、固有名詞は避けること。 >4:ただし、固有名詞は避けること。
「望み」「光」「こだま」でGO!
「オウム真理教か…何もかも皆懐かしい」 俺は呟き、床に追加の業務用界面活性剤を流した。どぽどぽと脈打ち流れ落ちる強アルカリ性の液体が撒布された 酸に反応し、弱アルカリ性のゲル状半流動体となってリノリウムを這いずる。 世界はすっかり、テロルと仲良しになってしまった。 ウサマ・ビン=ラディンは西洋文明vsイスラム文明の構図を築くことに成功し、目標の特定に失敗したアメリカは世界に 散った反米イスラム分子、そしてそれを内包する世界そのものを敵に回し、そして敗れ去った。 今やアメリカ合衆国は存在しない。48に分割された州が凄惨な内戦を繰り広げる、小国の塊になってしまった。 それに比べれば、日本はまだマシかも知れない。アメリカからの食料輸入は止めを刺されたとはいえ、アジア諸国からの 輸入で何とか息をつけるし、米の国内自給率もほぼ100%に届いている。休耕地を小麦や大豆に振り向け、多くの収入を 得ている農家もある。 そしてBC兵器テロの横行する都心では、化学物質を洗浄するバイトの口に事欠かない。国民全員がガスマスクを携帯する このご時世、誰も死にやしない。 そんな中でもテロが後を絶たないのは、俺たちみたいな奴らに飯を食わせてやろうという、テロリストのありがたい思し召し なんだろうか。 つまらん話だな。まあ、お題流しということで。 次は「交番」「黒電話」「メガホン」で。
次回予告 「ほがらか交番に投げ込まれた一通の怪文書。それはほがらか本官さんの秘められた 思いを引き裂く、忘れたい過去からの招待状であった。封印したはずの黒電話が再びベルを 鳴らす時、眠っていたほがらか本官さんの獣が牙を鳴らす。過去がほがらか本官さんの 愛する者さえも奪い取った時、ほがらか本官さんはかつての殺人刑事(キリングデカ)へと変貌する」 次回、ほがらか交番は今日も大変・第十九話「戦慄のヒュドラゲージ!」 「本官のメガホンが、次回も凶悪犯を説得するだす!」 ごめんなさい。ほんっとごめんなさい。 次のお題は「ピッケル」「プロレスラー」「直訴状」
というか、こんな書き方してたらどんなお題出されても関係ないですね。 ごめんなさい。
234 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/24 00:50
>かしわぶ 俺が誘ってみたんだ。別のスレでね。 来てくれてサンクス。ふだん文章を書かない人は、こういうふうになるのね・・・。 気が向いたらこのスレの他の作品を読んで、参考にして、 その気になったらまた挑戦してみてよ。カブリと固有名詞には気をつけて。 次の御題は「ピッケル」「プロレスラー」「直訴状」
っていうかお題決められて一から十まで考えてオチつけるのキツいですよ。 飛び道具に頼ってしまいました。 あー、怖かった。考えて書いた文章を人目に晒すのスゲー怖い。
237 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/02/24 19:57
「ピッケル」「プロレスラー」「直訴状」 頂上まであと1000m。ピッケルを持つ手が極寒の中で感覚を失う。 夜になって、零下30度…日本海など比にならぬ寒さの中をピバーグした。 携帯テレビを見ると、プロレスをやっている。懸命応援する子供たち。 しかし…単独エベレストに挑戦する自分のニュースはどこにもなかった。 エベレスト登山。たしかにテレビ局にとっては、金にならない題材だ。 5日後、薄い空気で意識も曇る。相変わらずテレビはプロレス中継だ。 最後にニュース。「山にゴミを捨てるのはやめましょう」 10日後、熱狂のプロレス中継の最中に、字幕が流れる。 「無謀な登山はやめましょう。遭難後の捜索が大変です」 平地の1/3の酸素の中で、男の中の何かが崩れた。 ここまできたのは何のためか。たしかに自分のためではあるが。 何度にもわたる登山申請の直訴状は、何のため!? 男は雪の中を裸になって、一人でプロレスごっこを始めた。 「プ、プ、プロレスラー。かっこいいね、かっこいいねー!」 その姿を人工衛星が全世界に放送し、高価な設備投資を回収した。 ※冬に寒い描写はきついー^^; 次のお題は:「観察日記」「朝顔」「エプロン」でお願いします。
238 :
名無し物書き@推敲中? :03/02/25 01:22
母を見た。 もちろん夢の中での話だ。 真夏、汗をかきながら台所に立つ母。 幼い私は縁側に座り、庭に置かれた朝顔の鉢植えを眺めていた。 宿題だった観察日記はもうつけていない。 単純な理由だ、私はこの夏を最後に街を離れる。もう大嫌いだった宿題をする理由はない。 今日は一日朝顔を見ていた。水もやっていない、萎れてしまった朝顔。 もう、朝が来ても、花を開くことはない。 「………………」 何事か母に呼ばれ私はようやく振り返った。 シミだらけのエプロンをつけた母が、焼きそばを載せた皿を二つ持って隣に座る。 母は私にそれを差し出すと、何も言わず焼きそばを食べ始めた。 お腹の空いていた私は同じように焼きそばを食べる。 「おいしい」 母は泣いていた。 それ以来、私は母に会っていない。 今朝の目覚めは良いほうだった。 私は真夏の陽光が降り注ぐベランダに出る。 朝顔は綺麗に咲いていた。 「今日は焼きそばを食べよう」 NEXT:「携帯電話」「タバコ」「タクシー」
239 :
「携帯電話」「タバコ」「タクシー」 :03/02/25 21:43
今度こそ、と僕は思って、大きく車道に踏み出て手を上げた。眼鏡をかけた運転手が気づいて、 止まってくれた。僕は生まれて初めて自分でタクシーというものに乗って、行き先を告げた。 そして大急ぎで、と付け足した。運転手はハイ解りましたと言い、アクセルを踏んだ。 僕はもう一度携帯電話を出して彼女の番号をコールした。やっぱり圏外だった。もう列車に乗ってて いてくれるといいのだが、とあらためて願った。参考書を広げる気にもならなくて、心の中で ずっとタクシーを急かしていた。やけによく今日は信号に引っかかる気がした。 やがて駅に着いて、僕は運賃を払った。道行く人を掻き分けるようにして階段を駆け降り、地下 コンコースへと急いだ。 約束の改札口に、彼女は待っていなかった。もう行っちゃったみたいだな、とか思いながら あたりを見回していると、後ろから僕を呼び止める声があって、それは売店でタバコを売っている 小母さんだった。 「さっきまで其処で待ってた赤いコートのお嬢さんなら、たった今出て行ったところよ」 そう言って、あれに乗るつもりなのね、でも今ならまだ間に合うわ、と発車時刻の案内板を指差す。 僕はそれを待つまでもなく小母さんに礼を言って、改札を通ってホームへ走った。警笛とともに 列車はちょうど入線するところで、見慣れたコートが待ち行列の最後尾にあった。僕は列車を 下りた人の群れを逆走しながら彼女の名を呼んだ。いつもの仕種で彼女の長髪が振り向き、僕らは 発車ベルの中をしばし見つめあって、それから一緒に列車に乗った。 受かるといいな。春からは二人で。
しまった、次は「仮面」「浪人」「決定」で。
「浪人か?」 目の前に面妖な仮面をつけた男が立ちふさがった。 男は俺の問いかけに答えることもなく、太刀を抜く。 もはや、手の震えを隠すことはできなかった。 浪人――それは俺のことだ。 主を失った。俺はもう武士ではいられない。 いや、人を斬ったこともない俺が、はたして武士と呼べるものか。 息を深く吸い込むと、ひと思いに太刀を抜く。もう、俺は決心をしたのだ。 恩情にて武士に取り立ててくれた殿に義を。 刹那、仮面の男の太刀が眼前をかすめる。 足が竦んだ。だが決心は揺るがない。 「俺は腹を切るのだ!」 この夜盗を斬り、己の腹を切る。俺は武士として死ぬのだ。 迷いなどなく、一の太刀を振るう。 切っ先が男の仮面をとらえた。 「決定し得たり」 どこか懐かしい声のような気がした。 ああ……殿の声だ。 俺は遠のく意識の中で、仮面の男を見た。 その男こそ殿だった。 翌日の城下では清かに噂が飛びかった。 藩主が可愛がっていた家来に殺されたと。 または藩取りつぶしを前に……心中ではないのかと。 なぜだか二人は健やかな笑顔で死んでいたと……。 次は:「花束」「口紅」「野良犬」
242 :
「花束」「口紅」「野良犬」冶 :03/02/26 16:53
僕は次に歌う曲を探している振りをして、向かいの席の先輩のことをずっと見ていた。先輩は グレーのタイトスーツに卒業生受付で配ってた蘭の花の造花をつけっぱなしにして、今日は 結わずに肩まで下ろした髪を時々かき上げながら、カラオケ屋の歌集をめくっている。行を追う 先輩の目が左に右に動くのを眺めていたらふと僕のほうに視線を上げて、どうしたの? という 顔をするので、いえ何でもないです、と表情で答えて、手元の本を、そしてテレビ画面を見た。 でもまたいつのまにか先輩の方を見ていた。一年生の頃、僕がクラスにも前いた部活にも全然 溶け込めなくて、落ち着く場所の無い野良犬みたいにさまよっていた時、ふと知り合った僕を この部に拾ってくれて、そのあとも途中から入った僕がなじめるように何かとよくしてくれた 先輩、先輩の一つ一つの言葉、忘れていたような出来事が、なぜか次から次へと思い出されて、 そして今日の卒業式、先輩はちょっとだけど眉墨を引いて口紅を塗って、僕らの用意した花束を 花粉でスーツを汚さないようにってそっと抱えて、ありがとう、と言って笑った、その時の仕種 が一度だけ会ったことのある先輩のお母さんに良く似ている気がして、先輩がこうやって僕らと 一緒にわいわい騒いだりはしゃいだりすることなんてもう無いのかなって思って、僕は先輩卒業 おめでとうございますっていう言葉が口から出なくて、代わりに何やってんだよって思いながらも 涙が溜まってきたそのたったさっきの事が、明日はもう遠い過去になるんだよって、僕はそんな ことにも気づかなかった。 次は「代表」「掃除」「湯治」で。
243 :
「代表」「掃除」「湯治」 :03/02/26 18:41
毎朝、代表して敷居を掃除するのは僕の役目だ。朝5時に起きて学校に行くまで、 掃除からお客さんの朝食作りの手伝いまで、仲居さんたちと一緒になって働く。 それが毎日の日課。物心ついた時からずっと続いている僕の習慣。 だけど、昔から僕はそんな毎日が大嫌いだった。 この山奥の湯治場で300年前から綿々と続く老舗旅館の長男に生まれて、仲居さんや湯治客に混じって過ごす一生。 まるで決められたレールの上を走るだけの人生じゃないか。 いつか逃げ出してやる、ずっとそう思っていた。あのときまでは。 きっかけは物置で見つけた親父の日記だった。僕と同じだった頃の親父の気持ちが綴られた日記帳。 「逃げ出したい」「自由に自分の人生を生きたい」 まるで自分の日記を読んでるみたいだった。僕は夢中になって親父の思い出を読み耽った。 いつしか親父の気持ちが変わっていくのが分かった。 「親父のようになりたい」「旅館に来る人たちの喜ぶ顔が見たい」 300年間延々と続く僕の家系。ご先祖様たちもみな同じような気持ちだったんだろうか? 目を閉じれば、僕の中にその思いが感じられるような気がした。 少しだけ本気で仕事してみようか。そう思った。 次は「獄門」「本陣」「犬神」で。
馬に曳かれた手鎖の男が、市中を歩く。 市中引き回しの上、打ち首獄門。北町奉行は彼にそう言い渡した。 彼は山伏だった。金剛山で修練を積み、退魔の業を身につけた。 彼は江戸で、多くの禍物憑きを祓った。狐狸妖怪、精霊に水子。 彼は多くの禍物憑きを祓った。或る者は魔の手より逃れ、或る者は魔に牽かれて冥府に墜ちた。 とある商家の娘が、彼の退魔法で命を落とした。憑いた犬神は輪廻の輪より消し去ったが、娘もまた魔道に堕ちた。 娘の親が奉行所に届け出た。邪法を以て、娘を死なしめたと。彼は縄を打たれ、白洲に引き出された。 北町奉行は彼に死を命じた。寺社奉行の専横を牽制する含みを持たせた御沙汰であったが、死を命じられた彼には 意義など何の関係もなかった。 彼は半ば馬に引きずられるように、畦道を、茶屋町を、本陣前を、力ない足取りで歩いた。 江戸じゅうをめぐり、小伝馬町より鈴ヶ森へ。生より死へ。彼は歩く、死ぬために。 鈴ヶ森で、彼は顔を上げた。娘が立っていた。彼が死に至らしめた、商家の娘だった。 娘は微笑んでいた。 彼は自らの死と、娘ひとりの魂を救いえたことを知り、やつれた頬に微かな笑みを浮かべた。 次のお題は「百円ライター」「トイレットペーパー」「エンジンキー」で。
子供の頃から見栄をはりたがる方だった。例えばレアなスニーカー。 大人気のゲーム。最新の携帯電話。みんなにすごいと言われることが快感だった。 今もそうだ。 今、俺は新車を購入した。車関係の雑誌だけでなくテレビにも取り上げられるくらい 注目度がある新型だ。発売されたばかりで、当然値も高い。 「この度はありがとうございました。何かありましたらまた当店の方へ……」 まだ皮の匂いのするシートへ座り、満面の笑みを浮かべて挨拶する男から エンジンキーを受け取る。エンジンを始動させると、その音で店にいた全員がこの車に 注目した。客や、店員、道を通りすがる家族連れまで。いい気分だった。 ありがとう、と礼を言うと、俺は車を発進させた。 駐車場に車を止め、外に出た。車はここでもやはり注目されている。親子連れや カップルたちが俺の車を見て会話をしているのがわかる。 ビルの入り口で足を止めて、ポケットから煙草と紙を取り出した。煙草をくわえて ライターに火をつけながら紙を見る。散りばめられた写真のところどころに、妻が大きく 赤丸をつけていた。 ――醤油に卵、ドッグフード……トイレットペーパーは一人2つまでか…… 買ったものが全て車の後部座席に乗るのかと思うとがっかりもするが、それが妻との 約束だ。煙草もしばらくはおあずけになる。愛用の百円ライターの出番は今日で終わり かもしれない。だが、それでこの車を手に入れた。羨望の眼が自分に向けられるのだ。 スーパーのチラシをポケットに戻すと、俺はゆっくりと最後の一服を楽しんだ。 次のお題「内線電話」「ベンチ」「こんぺいとう」でお願いします。
たった一本の内線電話が、俺の人生を真っ暗闇に叩き落とした。 『明日から来なくていいから』 部長め、電話なんかで言いやがって。せめて目の前で宣告してみろってんだ小心者が。そしたら、一発ぶん殴ってやるくらいの ことはできたのに。 気がつけば、俺はオフィス街の緑地帯でベンチに深く腰を下ろし、うなだれていた。朝礼前にクビを告げられてから、どこをどう歩 いたのか、まったく覚えていない。俺の表層意識はまだ実感として捉え切れていないんだろうが、心の奥底では相当参っているん だろう。 俺はビニール袋を持っていた。どこで買ったのかもはっきりしないバターロールと、なんで買ったのか皆目見当がつかない こんぺいとう。到底食事の気分になれず、俺はそこいらにいた鳩の群に、バターロールをちぎって投げた。たちまち群がる鳩ども。 いいよな、お前らは。悩みなんざなくて。そう思うと無性に腹立たしくなり、俺はバターロールの残り半分にこんぺいとうを混ぜて 投げた。バターロールを貪る鳩と、飲み込めないままこんぺいとうを銜えてうろうろする鳩。不公平か?不公平だろ。それが人の 悩みってやつだよ。実感したか? カツッ! 鋭い音を立てて、一羽の鳩がこんぺいとうを噛み割った。かけらを飲み込んだ鳩は、満足そうに首を振った。カツッ!カリッ!パ キッ!次々に鳩どもが、こんぺいとうを砕いて食い散らかした。 鳩どもが不公平を乗り越えていく。俺を置き去りにして。 俺はいつしかすすり泣きながら、残ったこんぺいとうを口いっぱいに頬張り、がりがりと音を立てて噛み砕いていた。 少々行数オーバー… 次のお題は「弾丸」「安全ピン」「物干し竿」で。
247 :
「弾丸」「安全ピン」「物干し竿」 :03/03/01 03:32
乗るなり倒れるように寝てしまった下段の男の子たちに同じく僕だってスキーや観光でかなり 疲れているはずなのだけどなぜか眠くなくて、がたんがたん鳴って寝台車の天井が軋むのをぼんやり 眺めていたら、不意に向かいの寝台からMが僕を呼ぶので、ん、寝てないよ、と答えて急いで起き 上がると、Mは二段式B寝台の上段のカーテンを半分まで開けたその縁に掛けていて、ねえ、もう 一回だけ時刻表を見せて、と言った。枕元の明かりをつけると、旧式の蛍光灯は闇に慣れた目には ひどく眩しくて、その光の中でMは昼間は結っていた髪を時々耳の裏へ掻き上げながら、Mには 少し大きいJRの浴衣の膝に置いた僕の分厚い時刻表を一ページ一ページめくった。僕はそれを 一緒にのぞき込んで見ている振りをしながら、Mが浴衣の襟をはだかないように止めているらしい 安全ピンはあまり役に立っていないようだよという事を伝えたほうがいいのかななんて思案して いた。寝台列車って少ないんだね、と言うMに、今は新幹線があるからね、とか鉄道雑誌の受け 売りをして、成長期には旅客輸送の主役だった寝台特急もこの弾丸列車の時代には、役目を終えた んだ、そんなもんだよ、と言った時、ふとこの旅行が卒業旅行で、これから僕ら四人別れ別れに なって、Mとも会えなくなるんだなっていうことを思い出して、もう長いことこの気持ちがはだけ ないようにしてた僕の心の安全ピンを外す時があるとしたら今なんじゃないかって思って、でも その針を見たらちょっと怖気づいて、考える時間が欲しくて、トイレに行くといって僕は物干し竿 みたいな折畳みの梯子を開いて、Mの前から座をはずした。 廊下を歩くと窓の外では野原の中に立つ通過駅がすごい速さで後ろへ流れていた。
またやった… ゴメソです。 えと、次は「さくら」「はやぶさ」「銀河」で。
このあいだ終わった高校の卒業式では泣いてばかりだった。 三年間一緒だった大切な友人達と別れるということ以上の理由で。 「あんまり・・・・気ィ落とさないでね。またみんなで遊ぼう?次は、コレだね」 そう言ってクイッと猪口を傾けるフリをする友達に曖昧な笑いを向けた。 「東京のオミヤゲたくさん買って来てよね」 「遊びにも来てね?」 「うん、もちろん行く。案内してよ」 三月三十一日。今日友達と夕飯を食べに行ったのは高校近くの定食屋「はやぶさ」。三年間、行きに帰りに見てた店を最後の記念にした。 明日からもうあたしは高校生でなくなる。それは友達も同様。 けれどそれと入れ代わりにつく新しい肩書きは正反対のもので、あたし一人だけ、新しい春をちっとも喜べない。 一緒に勉強していたのに、何が違うのかグループの中であたし一人だけ、四月からは浪人。 浪人だって。浪人っていったらオタクとかヒキコモリとか半纏とかハチマキとかビン底メガネとか。 なんてことになっちゃったんだろうあたし。 家への暗い道を一人でとぼとぼ歩いていても、今更涙さえ出やしない。 「あ」ぼうっと歩いていた足を、散った桜の花びらに気付いて止めた。家の近くの小学校だ。 「もう咲いてる・・・・今年の春はいっそ咲いて欲しくなかったのに」 ここは毎年大好きなお花見スポットなのに、今年は憎々しいばかりなのだ。 そして、そう思ってしまう自分がまた悲しい。 それでも、例年のように視界のすべてを桜の薄いピンク色で埋めようとして桜の大木の根元に立ち、ちょうど首を90度上向けた格好になった。 「あ、星も綺麗」 桜をいったん諦めて夜空を見上げると、銀河と言えるかもしれない星のみちが見えた。 友人達はあの、みんなと同じ道を着々と歩む中心部分。 あたしは、はぐれて拗ねてくすんだ光を出してるあの星だ。 ひとしきり拗ねると、また涙が溢れてくる。枯らしたと思っていたのに。 涙で滲んで、桜がもう見られない。しかたなくまた歩き出した。 「来年は、笑って桜を見たいなぁー・・・・早く咲かないかな、来年の桜・・・・」 長くてゴメンナサイ。つか一年前の自分です。今年の桜は素直に楽しめそう。 次は「デビュー」「スーツ」「眼鏡」
250 :
「デビュー」「スーツ」「眼鏡」 :03/03/01 17:00
二十年ぶりの同窓会の帰り路、ふと立ち寄った屋台で伊島と会った。 学生よくつるんで遊び回っていた悪友で幹事の話じゃ「連絡が付かずに欠席だ」と言われ がっかりしていたから、俺はこの偶然を素直に感謝した。 煮崩れたおでんを突付きながら、とりとめのない思い出話を語り合う。 「デビュー当時のタモリ、覚えてるか?」とか「就職して初めて買ったスーツは何か」とか 「その眼鏡は老眼鏡だろ」とか、本当にくだらない話ばかりだったが妙に楽しいものだ。 したたか飲んで別れ際に「綺麗な奥さんは元気なのか?」と茶化すと奴は 「随分苦労かけたが、ようやく楽になったよ」と寂しげに言い残し路地へと消えていった。 それっきり、未だに奴とは連絡が付かないままだ。 次は「集落」「列石」「色彩」で一つヨロシコ
251 :
名無し物書き@修行中 :03/03/01 22:22
集落」「列石」「色彩」 私が訪れた村々の中の一つに険しい山に囲まれた集落があった。 山間に不意に開けたそこは、暮らしを営むにはあまりにも狭い場所だった。だが、彼らは その外界との交流を拒絶するかのような土地で神話の時代の頃から猟を生業にして生きてきた のだとという。それにも増して奇妙な事は村の大部分の土地は幾何学的に配された列石とそれに 付属する広場に占められており、人々は山肌にへばりつく様に暮らしていたことだった。山間の 村において貴重な耕作可能地をなぜそのように放置しているのか。不思議に思った私はムラオサ と呼ばれる老人に尋ねた。 「私たちは天から降り来たる神々の為にこの地を守っているのです」 ムラオサの言葉は多分のオカルト的色彩を帯びてはいたが、その眼には信用するに足る程の 真摯さが宿っていた。 彼らはモリビトであった。モリビトにはそうしておく理由があったのだ。
252 :
名無し物書き@修行中 :03/03/01 22:23
お題は継続でお願いしますね。
フランスのブルターニュ地方に、ストーン・ヘンジと並ぶ巨大石群がある。 一度私は友人と、その遺跡「カルナックの列石」を見に行ったことがある。 いくつかの集落に分かれた4キロにも及ぶ長い石の列は圧巻であった。 友人の娘が描く絵は、個性的な色彩感覚と圧倒的なセンスに溢れていた。 様々な専門家は娘の絵を、子供とは思えない天才的なものだと絶賛した。 「この手のお子さんには、往々にして芸術の飛びぬけた才能が見られるのです」 友人は妻を亡くして以来、好奇心の目の中、男手一つで病気の娘を育てていた。 私はそんな彼に同情していた。 だから、人に彼の娘について尋ねられるたびにこう答えていたのだ。 「でも、あの子は天才なんです」 青い空の下、何処までも続く巨大な石の列。一体誰が何のために作ったのか ただ石はここに並んでいるだけである。しかし、その光景は美しい。 友人はそのような事を私に言ったあと、まぶしそうに青い空を見上げて笑った。 「天才じゃなくてもいいんだよ」 俺はあの子が絵が上手くても下手でも、病気でも健康でも、愛おしくてたまらないんだ。 「だからお前が言ってた雑誌の取材の話は、悪いけど断るよ」 私は顔を赤らめて、うなずいた。 次は「シーチキン」「一人」「小指」で。
「シーチキン」「一人」「小指」 コンビニで買うのは高いと思うのだが、食べたいときに 食べるのがささやかな楽しみでなのであった。 彼女と暮らしていた頃には気付かなかったささいなアレ やコレを発見する度に、一人暮らしの侘しさを忘れていくよ うな気がする。 シーチキンに手をのばしたとき、名前を呼ばれた。その 声を忘れるほど別れてから時間は経っていなかったから、 うれしいやら悲しいやら、そしてすこし、腹立たしいやらで、 聞こえないフリをしていたら、 「大根おろしに混ぜてゴハンにかけると美味しいんだっけ?」 と、彼女は続けるのだ。 時代遅れの仕草だとは思ったが、小指を立てて、新しい コレと食べるんだと言ってやった。すると彼女は笑いながら、 手に持ったカゴの中からシーチキンを取り、元の場所に戻して、 なにも買わずに店を出て行った。 レジで代金を払うと案の定高い。それでも彼女を追ってヨリを戻し、 そしていっしょに食べることができたなら、ある意味安い買い物ではある。 シーチキン缶のプルリングを婚約指輪にしますた、なんてね、w。 次は「プレッシャー」「風」「涙」でお願いします。
255 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/03/02 01:43
「プレッシャー」「風」「涙」 さくらが注文しておいてくれた大好物のデラックス・キャラメル&チョコレートパフェをはさんだ向かい側に、華奢なさくらは肩をすくめて座っていた。 目の前のコップが少しだけ汗ばんだアイス・ミルクティーを向日葵色のストローで少しだけ飲み、また所在なさげに肩をすくめ、窓の外を眺めたりしている。 何につけてもプレッシャーに弱いさくらだったので、肩をすくめる姿というのは見慣れているが、今日は何となく僕も調子が狂っていた。 喫茶店〈プラム〉。ここは僕たちのお気に入りの場所で、今日もここをデートの場にチョイスしていた。 本来ならここは、イチゴクリームが添えられたワッフルが店の目玉で、さくらも必ずというほどオーダーしている。 しかし今日は、――ベタな表現だが――目玉焼きが道路で焼けそうなくらい暑い日で、さくらの目の前にもそれは置かれていなかった。 ――全部暑さのせいにしてしまおう。 汗ばんだ体に、クーラーから吹き付ける風が心地よかった。 今日のデートでさくらは一言もしゃべらない。 僕がいつもより遅れてこの店に入ってきた時も、小さく顔を上げただけで、すぐにうつむいてしまった。 時々、僕の方から話しかけても言葉を返してはくれなかった。 遅刻してきたことを怒っているのかもしれない。 「あの……さ、」 何度目かの謝罪の言葉を述べようと口を開いたその時、さくらの携帯の着メロが鳴った。 曲名は彼女の好きな〈子犬のワルツ〉。 「もしもし。……ええ……ええ……それは……、本当ですか……!?」 さくらの頬を涙が伝う。微かに嗚咽を漏らしながら。 ひたすら、泣いているさくら。慰めようとさくらの肩においた僕の手は、虚しく通り抜けた。 ――泣カナイデ、さくら。僕ハココニイルンダヨ。さくらノソバニイルンダヨ。 ☆久々です。このところ資料集めに忙しい日々です。 あっ、それとテスト……勉強も……かな……?(本来ならばw) 明日(月曜)から期末だよ……。げふん、げふん。 ということで、次のお題は「期末テスト」「恐怖」「複素数平面」でお願いします。
256 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/03/02 01:51
すみません。訂正です。 ×肩においた ○肩におこうとした 雰囲気ぶち壊しですね。 その前に雰囲気があったのかという問題も(w
「今期の期末テスト、範囲は超空間天測からフェイズシフト理論まで……」 西暦四四五二年、人類が数学的欺瞞によって光速の壁を超え、銀河系全般に版図を広げるようになった今も、 試験はある。それは超空間航法士養成学校であるここでも変わりはなかった。だるそうに学生が範囲を書きとめる。 「あ、それと実技やります。複素数平面構成式の入力から実際の突入までやってもらいます」 教師がそう言った途端、死んだ魚のような目をしていた学生たちの瞳に、炎が燃え上がった。 「マジっすか!超空間突入やらせてくれるんスか!?」 「本当です。学科主任には許可貰ってますんで、教頭先生がダメって言わない限りオーケーです」 「複素数平面の入力やるってことは、フェイズする空間はどこいってもいいんですか!?」 「どこでもいいって言ってあげたいんですが、n13からμ68空間はダメです。空間航路の、躍空船がうじゃうじゃいる 所にフェイズされたら、恐怖どころじゃ済みませんから。万一ビッグバンフロー起きたら、私のクビくらいじゃ済みませんし」 チャイムが鳴った。退屈だったはずの空間航法の授業は、終了五分前で激しく沸騰した。挨拶もそっちのけで、熱く喋り だす学生たち。彼らの瞳には、時空の果てにフロンティアを求めた男たちの瞳に燃えた炎があった。 教師は少しだけにこりとして、教室を出ていった。 次のお題は「雛人形」「ストーブ」「真空管ラジオ」で。
「お母さん、お雛さまは持って行かないの?」 「持って行かないわよ。これからどこへ行くと思っているの?空襲を避けて疎開するのよ。荷物は最低限にしなくちゃ。大丈夫、お雛さまは待っていてくれるわ」 そう言い聞かされつつ、遠い遠い親戚という田舎の夫妻の元へ弟と三人で身を寄せて数ヶ月で、旧式の真空管ラジオから終戦の言葉を聞いた。 疎開先のおじさんとおばさんは泣いていたけれど、幼い私たち姉弟と若い母は泣かなかった。ただほっとしたのだろう。 戻ってきた家は空襲に遭っていなかったし、父もなんとか五体満足で引き揚げて来た。 けれど、残しておいた金目の家財道具はあらかた盗られていて、雛人形もそこにはなかったのだ。 「あのお雛さまはあなたのだもの。いつか帰ってくるわ、きっと」 泣きじゃくる私に、母の慰めは無責任に思えて仕方なかった。 それ以来私自身の雛祭りは行われなかったし、結婚しても私には息子しか出来なかった。 けれども月日は平和に流れていって。 冬のストーブが片付けられる頃になると、今年も雛祭りの日がやってくる。 「お義母さん…本当にいいんですか?」 乳飲み子をあやす嫁が心配そうに訊ねてきた。 「ええ、むしろこっちから頼みたいくらいなの。ごめんなさいね我が侭言って」 ぷくぷくとした赤ん坊にピンクの服が可愛らしい。この娘が私の初孫。 この娘の為にどうしてもと頼みこんで、雛人形一式を買い揃えさせてもらったのだ。 たしか雛人形は嫁方が用意するものだったと思うが、これだけは譲れなかった。 不景気の中であまり買われなくなったと言う八段飾りを一番嬉しく思っているのは私かもしれない。 畳に座して眺めると、きちんと並ぶ穏やかな顔がどことなく懐かしい。 おぼろげだった白黒の雛人形の記憶が書き換えられて、紅い毛氈も鮮やかな新しい記憶が刻まれる。 にじむ涙は白酒に酔ったせい。 「また、会えましたね…」 ギリギリ雛祭りで。 次は「雨」「飛行機」「地酒」で。
259 :
「雨」「飛行機」「地酒」 :03/03/03 21:51
真摯に降りつづく雨はやまずに、ちいさな窓を打ちつけていた。 僕はしばらく窓から外を覗いていたが、暗い地上に注ぐ雨はただ気分を暗くさせるだけだった。 僕はおもむろに目をそむけて機内誌に目を移した。 古い飛行機はプロペラ音を豪快に鳴らしながら地方の大地を飛び続けていた。 その爆音はまるで疲労が身に染みこんでいるようで、僕と同じように惰性だけで仕事をしているような印象を受けた。 機内誌では紀州の地酒を特集していた。 写真に写る深い森は見慣れた懐かしさを僕に抱かせた。 鮮やかに動く風景が脳裏に浮かんだ。 ふとまた外を覗けば、暗く冷たい雨が景色を染めていた。 いったい今自分はどこにいるのかと、一瞬分からなくなってしまった。 仕事って疲れますよね。 次は「言葉」「電話」「左利き」で。
「今の世界は左利きに優しくないと思うんだよ。電話ひとつ取ってもそうだ。右利きの奴が左手を伸ばして、プッシュする。 当然のようにやってるが、左利きの奴が右手を伸ばして受話器を取るには、半身をひねって右手を伸ばさないと届かない。 だから俺は、左利きグッズをもっと開発して、世に広めたいんだ」 南郷の熱弁を、白井はほけーっと見つめていた。顔には、『あーそうかいそうかい』と書いてある。南郷の妄想事業は今に始まっ たことではない。そしてそのどれもが、蛇に靴を売りつけるようなものだった。しかも蛇革の。 「その最たるものは急須だ。見てみろ、左利きの奴は湯呑みを持ったまま茶を注ぐことが出来ないんだぞ。どういうことだこれは。 世界にこのような不公平が許されていいのか、否!断じて否!」 南郷はだんだん、自分の言葉に酔い始めていた。それと反比例するように冷めていく白井。感情エネルギー保存則というのは あるんだろうか、などと白井はとりとめもないことを考えるようになっていた。 「なあ」 白井が声を上げた。いい加減、つきあうのが馬鹿馬鹿しくなったのだ。 「いっそのこと左利き共和国をでっち上げて独立させた方がよくないか?右利きも左利きも、自分に向いた世界で暮らせばいい」 皮肉のつもりだった。だが、南郷は皮肉を感じるような人間ではなかった。 「それだ!」 南郷は瞳を輝かせ、叫んだ。 白井はめまいを覚えた。 次のお題は「パスケース」「張り紙」「暴風雨」で。
261 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/03/04 22:21
「パスケース」「張り紙」「暴風雨」 暴風の中、不意に現れた氷山。あるはずのない事故…「なぜ、こんな事が?」 沈みゆく巨大客船の中で、乗客は狼狽しかない。 「なぜ私が後なのよ!あの娘は先に乗ってるじゃないの!」 バウホールの女が喚く。 「御婦人の中でも、胸が小さく…もとい、発育途上の方が優先です!」 船員は女を突き返し、傍らの張り紙を指差した。 「同じ大きさの船でも、凹凸が少ない方がたくさん乗れますから」 張り紙には「グラマーは後回し」とあった。 女は、自分のサイズが書き込まれたパスケースを見て、唇を噛んだ。 灯台の高性能望遠鏡は、この惨状を余すことなく捉えていた。 若者は灯台守に、息せき切って尋ねた。「スレンダーは?」 灯台守は、にやりと笑って答えた。「脱出しました!」 若者の唇に、歪んだ微笑が浮かぶ。「残ったのはグラマーだけだな」 闇の中で辛い記憶が蘇る。若気の過ちとしか言えない情けない経験が。 「うっふっふ、これでいい。グラマーなんて、グラマーなんて…」 ※こんなんだったかなー? 次のお題は:「空気」「悠久」「CPU」でお願いします。
今日この日この時この場所で、世界を変えるような大発明が発表される。 そう、類まれなる天才である私の力とこの愛玩用アンドロイド“ミナミナ”によって科学史は書き換えられるのだ。 思わず頬が緩む。 人類は感謝しなければいけないだろう。神が私ほどの人物を世に創造されたことを。 今回、私が発明したこの超CPUは人間の直感的思考まで再現できる。人造物を神造物へ、つまり我ら人の思考レベルまで到達させたのである。 そして、ミナミナのHDには悠久より培われた賢者達の言葉を記憶させた。 これによりミナミナはベビーシッターから秘書まで何でもこなす万能ロボになる。 人類の良きパートナーになることは確実だ。 さあ、はやく彼女を起こしてあげよう。 私の輝く未来を約束する、起動スイッチをゆっくりと、今までの苦労を噛み締めるように、ゆっくりと、押した。 …………結果から言えば、失敗である。 起動したミナミナはそのつぶらなひとみで私を見て、にこりと微笑んだ。そして 「コマ〇チ!」 と叫んだ。 はたして何を間違えたのか。 ユーモアを取り入れようとしたのがそもそもの失敗だったのだろうか。 涙が止まらない。こんなアホなロボを作るのに私は自らの半生をささげたのか。 今だ稼動しているミナミナはうなだれる私の裾を微かに掴んだ。その表情に私は思わず胸が痛む。 それはまるで、人間の悲しみの感情と違いはない。 まさか本当に私は、心を作ってしまったのか。彼女は、人の心を持った彼女は私に何を伝えようと言うのか。 「博士、…………空気読めよ」 私はミナミナを壊す事を決意した。 大失敗…………。 次のテーマは「朝」「未来」「夕焼け」でお願いします
263 :
「朝」「未来」「夕焼け」 ◆RKBmdiI95o :03/03/06 03:01
アホや・・・。 朝、起きたら屋根があらへん。 昨日のニュース、たしかに強風や言うてたけど、なんやねん、 屋根吹き飛ばすほど強いなんて聞いてへん。 お先真っ暗、未来のことなど考えられん。 ワイ、どないしたらええねん? 家賃滞納しとるし、とっくに電気は止められておま。 そんでも人生、ええことおまっせ。こんな美しい夕焼け見たんは ごっつ久しぶりや。ああ?なんやて?さっき朝起きたら言うたやと? アホ。わかっとるわ。寝ぼけとるだけや。ほっといてんか! 次は「威嚇」「肝」「陽動」でどや?
264 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/06 04:51
「ねえじいちゃ。この字なんて読むんだ?」 「ん?ああこれかこれはな威嚇って読むんじゃ」 「え?」 「威嚇じゃよ威嚇」 「じいちゃわかんないよ」 「これは威嚇じゃ。たけしにはまだわからんじゃろ」 「ばあちゃ分かる?」 「いかくでしょ。いかく」 「いかくって読むのか! ばあちゃありがとう! いかく、いかく、わーい!」 「ははは、たけしはかわいいの」 「おや、じいさん。砂肝ができたみたいですよ。このまま縁側でいただきますか?」 「おお、出来たか! はやくくれ。腹がへってしょうがないわい」 「じいちゃ! 太陽動いてら!」 「一日働いたから、お日様もお休みするんじゃろ」 「月もか?」 「月はお日様のお母さんじゃ。太陽のお守りをしなきゃならん」 「鉛筆」「デザイン」「150`」
265 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/06 05:35
>>264 ひゃ、150何ですか‥‥?(文字ぼけして見えないんです‥‥。)
「まあ座れ」 「どこにも座るとこないんだが。カンバス踏み抜いていいなら座るぞ」 久しぶりに南郷のアパートに来ると、奴は絵描きになりきっていた。つくづく移り気な奴であると白井は承知していた はずなのだが、先週まで小説書きを自称している様を知っている白井としてはそろそろいい加減にしてほしい所だった。 「コイツを見てくれ」 イーゼルの向こうに上半身を隠した南郷が放ってよこしたのは1枚のルーズリーフだった。宙を巻いて落ちるそれを、 白井は右手で受け止め、ちらと目を走らせた。鉛筆で殴り書きした、なんとも評価に困るシロモノだった。 「なんだこりゃ」 「新たなデザインの境地だと、俺は思ってる。何に見える?」 もう一度白井はその絵をじっと見た。なにやら細かい人物がびっしりと描かれている。しかしそれ以上は理解できない。 敢えて、本当に敢えて言うならば、アンディ・ウォーホルの模倣と言えるだろうか。 「何描いてるのかさっぱりだ。解説しろ」 「よく見ろ。小林旭以外に何かに見えるか?それが1000体描いてある」 「それで…?」 「題して、『ダイナマイトが150キロトン』」 白井は頭を抱えた。 次のお題は「チップ」「ししおどし」「井戸水」で。
「日本ではチップは払わなくてもいいんだぜ」 日本に来るのがはじめてのジョンは旅館の女将にチップを渡そうとした。 彼女はジョンに少し微笑んで、部屋から出ていった。 大都会に住んでいるジョンには、この自然に囲まれた場所がとても気に入ったらしい。 「ニホンはソウゾウしていたよりキレイなトコです」 僕とジョンは今日初めて会った。 今のハイテク時代では珍しく、手紙という形でのペンフレンドなのだ。 畳や松の木、遠くには川のせせらぎも聞こえてくる純和風の風景。 ジョンはなにもかも初めて見るらしく無邪気にはしゃいでいる。 障子に穴を開けたり、ししおどしを見ながら同じように首をふっている。 はじめてのモノの前では皆子供になってしまうのだろう。 ジョンは頭はいいのだが日本に関しての知識は全くない。 2100年の日本がどんなものか知らないのだ。 第三次世界大戦で爆撃を受けた日本が生物の育たぬ土地になり、 仕方なくハイテク技術を駆使し、バーチャルな世界を作り出しているということを。 「お野菜はいかがですか?井戸水でキンキンに冷えてますよ」 女将が野菜を持って入ってきた。ジョンは嬉しそうにかぶりつく。 ジョン以外の全てのものがCGで出来ているものだと知らずに。 そぉ、僕も含めて。 次回のお題は『博士』『発明』『泥棒』でお願いします。
「それでは博士でも無理ですか?」 刑事は溜息をついた。 刑事が博士の研究所を訪れたのは、ここ数ヶ月で数十件の盗みを重ねている 泥棒を捕まえる装置の発明を依頼するためだった。神出鬼没のこの泥棒の手口が 壁を抜ける特殊装置を使うことまでは警察の捜査で判明していたが、それを防ぐ 方法を編み出すのは警察のテクノロジー課でも無理だった。 そのためセキュリティシステム開発の分野では世界最高峰の実績を持っている 博士が頼みだったのだが……。 「ううむ、無理だねえ」腕組みしたまま博士は首を捻る。刑事が訪ねてくるまで弄って いた煙草のパックくらいの金属性の装置がデスクの上で分解されたままだ。「体を分 子レベルまで分解して、壁の分子との間を抜けるまではわかるんじゃが。……その装 置の実物でも手に入れば作動を阻害することも不可能ではないがね。残念ながら、今 の情報だけでは無理じゃよ」 刑事は肩を落としながら博士の研究所を後にした。 その姿を窓際で見送ってから博士はデスクの上の装置を組み立て始めた。 「まさか、これがその装置だとは思うまいて。わしがセキュリティシステムを開発してきた のは、商売敵の泥棒を捕まえさせるためだ。獲物を横取りされるのはまっぴらじゃから な。だが特許料も稼げるようになったし、このまま泥棒を続けるより開発に没頭した方が よいかもしれんのう」 だが忍び込むスリルを味わうのを、博士はやめられそうにない。 次のお題は「人形」「コカコーラ」「妖怪」で。
271 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/07 06:27
「人形」「コカコーラ」「妖怪」 あなた達は馬鹿よ、そう彼女は言いました。 学校へ行かせてもらい、仕送りをもらい、不自由なことなんてないじゃない、 あなた達は平日にセックスをして日曜は警官に石を投げてるのよ、 いつか軍警察の車がそこの、ほら、そこの角に停まるわ、そしたら私はあなたを待たないわよ、 それとも道でやられるかも知れない、奴らは死体を隠すらしいの、 あなたは路上に血で描いた人形しか残らないのよ、 そうなったらじきに誰かが水を撒くわ、あなたはそうやって死ぬのよ。 一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している、と私はつぶやきました。君という名の妖怪が。 冗談はよしてよ、あなたに何が解るもんですか、私にしてみればその妖怪の名はマルクスよ、 人はできることからやらなくちゃいけないの、あなた達は急ぎすぎる、見てて怖いの、 時々あなた達と青服の奴らとの区別がつかなくなるの、おい、どういうことだ、僕は、 いいえ、あなた達も一緒よ、どっちも盲なんだわ、ただ奴らのほうが強いだけ。 僕はできることからやるさ、私は彼女を見据えました。そこの空き瓶をもらうよ、 空き瓶はいくらあっても足りないんだ、僕らはコカコーラを使ってマルクスを賛美してやる、 もう行くよ、そこをどいて、どいてって言ってるだろ。 次回お題は「球」「促進」「ポリエステル」
272 :
「球」「促進」「ポリエステル」 :03/03/07 17:26
「アウト!」良く響く主審の力強い声が、スタンドにこだまする。 試合は終盤に差し掛かっていた。今年のプロ野球の優勝を決める運命の一戦。スタンドは勝負の行方を見守る無数の観客で埋め尽されている。拓也もその一人だ。 貰ったチケットがこの試合のものだったのは運が良かった。先日新聞販促員が、半年契約の見返りに持ってきたのがこの試合のペアチケットだったのだ。 迷わず拓也は由紀を誘った。ゼミで知り合って半年、デートに誘うきっかけが欲しかった時だった。彼の誘いを快諾してくれた彼女はいま彼の隣りに座っている。それを横目で見て、脈があるかもしれないと拓也は思う。 「頑張れ〜!」前のベンチに座っている、40過ぎぐらいのくたびれたスーツ姿の会社員が、 黄色いポリエステルのメガホン片手に絶叫した。その声で拓也は我に帰った。 そうだ、見ないともったいない。せっかくの試合だしデートじゃないか。 気がつけばカウントはツースリー、最後のバッターとなっていた。 ここで一発が出ればサヨナラだ。 ピッチャーがゆっくりしたモーションとともに振りかぶる。この1年の総決算ともなるボールだ。ピッチャーの額に光る汗を、そのとき拓也は確かに見た。 やがて渾身の力とともに、最後の一球はミットへ向けて放たれる。その瞬間、打席に立つ打者の、グリップを握る手に力がこもった。 拓也は絶叫した。 次のお題は、「富士山」「鷹」「なすび」でお願いします。
しまった!「促進」が上手く入っていない。 以下訂正。 ――――――――――――――――――――――――――――――― 「アウト!」良く響く主審の力強い声が、スタンドにこだまする。 試合は終盤に差し掛かっていた。今年のプロ野球の優勝を決める運命の一戦。スタンドは勝負の行方を見守る無数の観客で埋め尽されている。拓也もその一人だ。 貰ったチケットがこの試合のものだったのは運が良かった。先日新聞の販売促進員が、半年契約の見返りに持ってきたのがこの試合のペアチケットだったのだ。 迷わず拓也は由紀を誘った。ゼミで知り合って半年、デートに誘うきっかけが欲しかった時だった。彼の誘いを快諾してくれた彼女はいま彼の隣りに座っている。それを横目で見て、脈があるかもしれないと拓也は思う。 「頑張れ〜!」前のベンチに座っている、40過ぎぐらいのくたびれたスーツ姿の会社員が、 黄色いポリエステルのメガホン片手に絶叫した。その声で拓也は我に帰った。 そうだ、見ないともったいない。せっかくの試合だしデートじゃないか。 気がつけばカウントはツースリー、最後のバッターとなっていた。 ここで一発が出ればサヨナラだ。 ピッチャーがゆっくりしたモーションとともに振りかぶる。この1年の総決算ともなるボールだ。ピッチャーの額に光る汗を、そのとき拓也は確かに見た。 やがて渾身の力とともに、最後の一球はミットへ向けて放たれる。その瞬間、打席に立つ打者の、グリップを握る手に力がこもった。 拓也は絶叫した。 次のお題は、「富士山」「鷹」「なすび」でお願いします。
274 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/07 19:16
読みにくい
銭湯に行こう。 小銭を持って、洗面器を小脇に抱えて、暖簾をくぐろう。 番台で小銭を払い、脱衣籠に衣服を放り込み、ガラスの扉を開けよう。 するとその奥、湯気の向こうに、富士山が見える。アルプスが見える。 世界の名勝を彩る湯を浴びよう。温泉ではないけれど、心地よい湯を頭からかぶろう。 熱い湯、ぬるい湯、水風呂にジャグジー、今の銭湯はなんでもある。 蜜柑に橙、よもぎにどくだみ、なすび人参鷹の爪。ぷかりと浮いた、香りと温もりの源を楽しもう。 アヒルに白鳥、潜水艦。子供はタイルを駆ける、鳥と兵器を従えて。大人の叱責、何するものか。 石鹸の泡が素肌を滑ると、火照った肌がより朱くなる。飛び散らないよう、しかし力強く、泡と垢擦りで身体を磨こう。 湯船に沈み、手ぬぐいを頭へ。熱いもぬるいもさじ加減。蛇口をひねり、水音を奏でよう。 銭湯に行こう。銭湯に行こう。 バスタオルを肩に掛け、コーヒー牛乳をぐっと呷ろう。 暖簾をくぐり、星空を仰ぎ見よう。 次のお題は「ダッシュボード」「充電器」「木綿」で。
277 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/08 23:08
「富士山」「鷹」「なすび」 富士山というのは本当に奇妙な山ですね。 私の故郷では、山というのは地平線上にゆるやかに連なっているもので、 このように美しくも怖ろしい姿をしているものではないのです。 以前にお話しいたしましたかね、故郷の村やオリーブ畑のことを。 ちょうど今時分、村を挙げてオリーブ摘みの真っ最中で、 私などよく騾馬を駆って隣村まで加勢を呼びにやらされたのものです。 隣村には鷹匠の娘が住んでおりましてね、しなやかな体つきと父親似の鷹の眼をもった娘でした。 私はまるで入城する騎士のように威風堂々と村の泥路を進んだものですが、 それというのも私はその娘の事を好いておりましたから、村の使節として任務を果たす晴れ姿を見て欲しい、 それがかなわずともその噂を伝え聞いてほしい、とひそかに願っておったからなのです。 えらく滑稽な様子だったに違いありません、野良着の男の子がすまし顔、 背筋をぴんと伸ばしきって騾馬に揺られておるのですから。 それで隣村の悪童どもが私を冷やかして、熟れすぎたポモドロなどを投げ当て囃し立てたとしても 不思議はありますまい、ああ、ポモドロというのはいわゆる赤なすびのことですよ、 丸い形をしておってなすびよりも汁気が多く酸いのです、こちらに来てからはとんと見かけませんがね。 まあ、そんなことももう随分昔の話です、あの娘ももう十人からの孫がおることでしょう。 あのまま私が故郷に留まっておれば、きっとあの娘に求婚したことでしょうがね、 いずれにせよ随分昔の話です…… 「惑乱」「蒸留」「見解」
(゚∀゚)カブッタ アヒャ
279 :
名無し物書き@修行中 :03/03/08 23:42
「ダッシュボード」「充電器」「木綿」
もう3月だというのに、外は冷たい雨が降っていた。こういう日の外回りは憂鬱だ。
ワイパー越しに見える外界はなんとなく重い。俺の前は仮免練習中の札を掲げた車
が制限速度の2割引程度で走っている。多分卒業を控えた高校生だろう。しきりに
周囲を見回して落ち着きが無い。
カーラジオからは『木綿のハンカチーフ』が流れていた。
卒業シーズンともなるとこの曲と『送る言葉』にリクエストが集中するようだ。
そして、俺はどちらも好きではない。都会に行った男は故郷の彼女をなし崩し的に
振る。女に振られた男は自分が一番愛しているんだとのたまう。どうも好きになれ
ない。どうにも嫌になった俺は、ダッシュボードの小物入れからタバコのパッケージ
を取るとその一本をくわえて左手でシガレットライターを探った。
「?」
奇妙な感覚に視線をはずす。そこには携帯電話用の充電器が突き刺さっていた。
前に車を使ったやつがそのままにしていたのだろう。見当たるところにはシガレット
ライターは無かった。ライターは……上着のポケットだ。そして上着は事務所の椅子に
掛かっている筈だった。どうでもよくなった俺は殻の灰皿に吸っていないタバコを
ねじり込んだ。
横断歩道で、教習車が停まる。車両が途切れるのを待っていた女子中学生が軽くお辞儀を
しながら小走りに渡っていく。まぁ、そうだね。俺は両手でハンドルを握りなおした。
18行。お題は
>>277 氏の
「惑乱」「蒸留」「見解」
でお願いします。
280 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/09 02:30
「惑乱」「蒸留」「見解」 ジン。穀類を糖化・発酵させた原液を蒸留し、杜松の実など草根 木皮をつけ込んで香りづけをして作る。アルコールは35度から45 度。強い酒だ。小さなカップで、嘗めるように飲んでいく。 もう何杯目だろう。突き放すような強い刺激が喉を通り過ぎ、胸 が中から焼けるように熱くなる度、まだ正気の自分が恨めしく思う。 性格の不一致? 見解の相違? 言葉とはずいぶん便利なものだと、今更ながらに思い知った。酒 を飲むのも、煙草を吸うのも最初からわかっていたことじゃないか? 家庭人としての責務もそれなりに努力したつもりだ。与えるだけ与 えたつもりでも、まだ何かが足りなかったのか? まだ酔えない。酒の惑乱など、この馬鹿げた事態に比べれば大し たことがない。暗い沼の底で目が覚めたままでいるようだ。次の一 杯で、出来るなら溺れさせて欲しい。 次のお題は「三冠王」「標的」「だまし絵」で。
281 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/09 02:40
身のほど知らず、糞コテのシュガーは「三冠王」を目指し文芸板への入団テストを受けました。 ちなみに三冠とは、1、文章 2、ネタ 3、落ち です。 しかし、これまで「だまし絵」しか描いてこなかった シュガーにテストを突破できる能力などあるわけがありません。 そもそも、シュガーは誰でもいいから「標的」を見つけ、 次元の低い煽り言葉で「だまし絵」を描こうとしているだけなのです。
282 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/09 05:05
だまし絵がつかえない・・・断念
285 :
初参加です。 :03/03/09 07:55
「三冠王」「標的」「だまし絵」 そうして彼はバッターボックスに立った。 最終回、二死満塁。彼は四番で、三冠王だ。試合は彼の一振りにかかっている。誰もが固唾をのん で、迫る未来に思いを巡らす。期待。不安。興奮。 しかし、未来を既に知っている者もいた。彼だ。 バッターボックスの彼は、彼が次の球をライトスタンドにたたき込むことを知っている。投手は「自分の次の投球がすっぽ抜けてど真ん中に行ってしまう」ということを知っているに過ぎない。 投手は金と引き替えに、未来へ干渉する意志を受け入れたのだ。彼はそれを知っている。だが彼に未来を確信させるのはそうした知識ではなく、彼の実力だった。 彼は狙撃手だ。無数の不確定な未来を射止めてきた狙撃手が「与えられた」標的を逃すことはない。 球は放られ、未来はすべて彼に委ねられる。彼は思う。このボールの行く先はどこなのか。左か。右か。上か。下か。 自身は上に昇っているつもりだった。そして上に昇っているのだろう。でも同時に自分は地下への階段を下っているのかも知れないと思うことがある。 彼は自分がどちらに動いているのか知りたい、と思う。過ぎゆく景色はあてにはならない。巧妙な騙し絵のようなこの人の群れが、方向感覚を麻痺させる。 体で確かめるしかないのだ。筋肉はどちらにきしんでいる? 内臓はどちらに揺れている? 感じるのだ。そう、目を閉じて。 目を開けたとき、未来はどうなっているだろう。わくわくしてきた。しかしもう恐ろしくはない。彼は三冠王なのだから。 ――――― 長くて恐縮です。次は「雑音」「連続」「歓喜」でお願いします。
黙れ。 お前ら、黙れ。黙ってくれ。 『皆様聞こえますでしょうか、この歓喜の声が!観衆全てが、藤堂選手の跳躍に魅了されております!連続七回目の成功、 藤堂選手はこの前人未到の記録をどこまで伸ばすのでしょうか!?』 うるさい、黙れ。興奮のあまり躁になったのだろう、アナウンサーの叫び。俺には聞こえないが、こいつのせいで観衆共の 雑音が増すんだ。俺の邪魔をするな。俺の集中を妨げるな。 ホイッスルが鳴る。俺の出番だ。だというのにこいつらはしゃべくりを止めない。 『藤堂選手が跳躍します!今、藤堂選手が世界記録の新たな伝説を打ち立てようとしております!!』 歓声がさらに高まる。さっきの跳躍の時、いい加減歓喜の感情は頂点に達したと思ったが、まだこいつらは騒ぎ足りないのか。 二度目のホイッスルが鳴る。耳を聾するばかりの歓声が、頂点に達した。 俺は走り、跳躍し、長く前に伸ばした足でバーを蹴り落とした。 俺は着地すると審判席に駆け寄り、マイクを奪い取り、スイッチを入れて叫んだ。 「やかましいだまれっ!!」 ―うおおおおおおお!!! さらに歓声は高まった。 俺は頭を抱えた。 次のお題は「吸殻」「蟹」「メガネ」で。
めがねをかけている吸い殻は蟹を食べていた。
「吸殻」「蟹」「メガネ」 タバコを道端に捨てるのはマナー違反。 だからやらないと言うのなら、この世に悪人はいなくなる。 例えば俺のような悪人は。 タバコを道端に投げ捨て、火を足で踏み消す。慣れた動作だが、 ぐしゃ。 と不自然な音と同時に、足の裏に不自然な感触。 足を上げてみると、そこには吸殻と共に潰れて味噌のはみ出た蟹が。 それだけでも十分おぞましい姿なのに、あろうことかその屍からは 無数のちっちゃな子蟹がうじゃうじゃ、うじゃうじゃと。 それを見て、俺は考えた。この子蟹達は今、ニコチンに汚染されている。 高校の生物の授業でやったなー、ニコチンで遺伝子壊す実験。 というわけで。この子蟹達はゴジラ並の怪獣となって俺に復讐をしに 来るかもしれない。 ので。俺は地面に捨ててあった古臭いメガネのレンズで太陽光を集め、 子蟹を焼き殺した。 命は大切に。無益な殺生はやめましょう。 そんな言葉を皆が実行すると言うのなら、この世に悪人はいなくなるわけで。 次の御題は「二人きりで」「自ら飛び降り」「穏やかに微笑んで」でお願いします。
289 :
「二人きりで」「自ら飛び降り」「穏やかに微笑んで」 :03/03/10 01:14
「そーれ!」 自ら飛び降りたにしては、妙ににこやかだった。まあなんていうか、逸美はバンジージャンプが好きなんだ。 「あけっけけけ!」 狂鳥のような妙な笑い声が辺りに響く。下で見ている僕も結構恥かしい。 思うんだけど、なんだって逸美はあんな変な笑い声を立てるんだろう? それでも嫌いにならない僕は結構健気なのかもしれない。 「あー面白かった」 興奮気味に、逸美は僕に微笑んだ。 それを僕は、まるで菩薩のように穏かに微笑んで迎えた。 「面白かった?」 それ以外に言うべき言葉が見つからない。 「うん!」 でも逸美は、僕の内面の葛藤なんか構いもしないで答えた。 「そう。じゃあそろそろ帰ろうか」 「何言ってんの。私が飛んだら一緒に飛ぶって約束でしょ?」 まったくもう。僕がこういうの嫌いなの知ってて言うんだ、この子は。 「そうだっけ?」 「うん。次は2人バンジー。そういう約束だよね」 逸美は僕をバンジーの行列へと引っ張っていく。 「切れたらどうすんだよ」 「そういう心配はしないの。人生ケセラよ」 「そんな、え、え、わ、わ、うわぁー!」 二人きりで飛び降りたとき、思わず僕は逸美に抱きついていた。 「お客さん、それは危ないって言ってるでしょう?」 そして怒られるのは結局僕だ。 大体逸美は上手くこういうのから逃れてしまう。 「はあ。今度から気をつけます。すいません」 次は「文節」「題」「違う」で。
一枚の紙が風に飛ばされていた。 作文用紙だろうか、中には事細かに何かが書かれていた。 何か、と言ったのは読めなかったからだ。みみずのような線で書かれていたそれは 書いた本人にすら読めないのではないだろうか。 かろうじて、"題"という文字を読みとれた。しかし、それを読みとった所で何の意味もない。 彼は、どうしてもその"文節"が知りたかった。文章ではなく文節だ。全てを読むほど時間をかけている余裕はなかった。 薄く湿ったその紙を拾い上げ、凝視する。その姿には奇妙なものがあった。 どのくらい時間がたっただろうその時に、彼はあることに気がついた。 ("違う"、違う、こんなことに時間をかけている場合じゃなかった。) 彼はその紙を放り投げ、みずたまりのできた道を歩いていった。 次、「魂」「根気」「柔道」
291 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/03/10 02:14
「二人きりで」「自ら飛び降り」「穏やかに微笑んで」 久々に帰ってきたと思えば、明るい内に帰るという夫に、濃姫は渋い顔をした。 「若い頃の殿は、餓鬼の様なお姿でも覇気というものがありましたのに」 「言うな」 「今では何かと言うと天下、天下と評定ばかり。別人の様に冷たくって…」 出立の仕度をしながらも、濃姫は、手を休め休めぐずる。 「天下人」と呼ばれても、いつ殺されても不思議がない夫だった。 とても、穏やかに微笑んで送り出す気になれないのが当然だ。 閨房を無理に出ようとする彼の前に、下女達が無言で立ちふさがる。 彼は観念した。これ以上、自分の想いを押し殺す事はできない。 たしかに天下獲りは重要な任務だ。でも、正妻と二人きりでは別だった。 夜も明ける頃、彼は寝顔の濃姫を残して部屋を出た。 後ろ髪をひかれる思いで、必死に馬を駆る。 急がねばならない。昼には、約束の陣につかねば…彼は自分を責めていた。 一時の感傷で、全てを危険に晒してしまった。 苦労してのぼりつめた高い場所から、自ら飛び降りるところだった。 「俺は失格だ!」彼は心の中でこう叫んだ。 俺は影武者失格だと。 ※ああ、もう2時・・・ 次のお題は:「向上」「月」「杯」でお願いします。
・・・すみません、寝ぼけて遅れてます。 次のお題は290さんの、「魂」「根気」「柔道」で御願いします(^^;
293 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/03/10 02:42
「魂」「根気」「柔道」 朝から道場では、柔道部員達の掛け声が聞こえる。 それは、夕方暗くなるまで続く。 倒れて動けない者に容赦ない罵声が飛ぶ。「どうしたどうした。根気がないぞ!」 夜は、部長宅で食事だ。 九龍虫がうごめく食パンを食べさせられ、半泣きの部員… そんな具合を一分始終録画し走り去るスポーツカーの男に、彼等は気付かない。 「フッフッフ、相変わらず能率の悪いトレーニングだな」 スポーツカーの男は、鼻歌混じりに執事を呼び出す。 「パソコンでこの動画を分析し、彼等の弱点を洗い出すシステムを即時発注したまえ」 執事がうやうやしくビデオテープを受け取る。男はワイングラス片手にこう呟く。 「これでいい。魂だの、汗と根性だの、そんな時代はとうの昔の話だ」 一面ガラスで覆われた、超近代的なビルで「柔道システム」は開発された。 ネットワークで結ばれた、冷たいコンピュータ室に、声が聞こえる。 「どうしたどうした、まだ11時だぞ。明日までにシステム納入だぞー」 「起きろ、起きろ。バグは直ったか!まだか、どうした。根性みせろぉぉぉ!」 ※つじつまあわせに書いてみました;;; お題は継続の「魂」「根気」「柔道」で御願いしまふ。
294 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/10 13:03
「魂」「根気」「柔道」 ケクスヘルミ編、塩井西造訳『北辺夜話』p128~p129 馴鹿月之七日 曇天湿り雪」待ち侘びた使者来たる。曰く、王の容態思わしからず騎射競技取り止めとの事、 さては早速術の効き目が現れたるものか。余は努めて心中の歓びを隠し王の幕屋に伺候の是非を問うも要領を得ず、 委細構わず伺候し反魂師の傍ら王の緑がかった顔を嘲り眺め、肩震える后を言葉優しく慰めて大いに楽しむ。 馴鹿月之八日 曇天」昨夜余の枕元に奴が現れ我ら共に術の成功を祝う。されど反魂師の呼び戻しは鋭く呼び戻しに抗すべく 奴はさらなる術を意図しつつあり。三日晒しの黒苔と鹿の凝液を要する術なり。先の術のごとく供物に人身を要さぬのか、 と問うたところ要らぬとの応え。黒苔が王の根気を吸い出し凝液が根気を粘り固めるのだと言う。手筈算段全て奴が行い 余には代価を要求せぬ、余は王が身罷るを待てばよいその美しい后を娶り柔肉を楽しむがよい、と言って笑みながら消えた。 奴の温柔道理に合わぬがさりとて否と言うべき理もなし。 馴鹿月之九日 曇天風」王は未だ持ち堪えて、余は落ち着きもなく陣中を歩み兵卒に声を掛けいたり。奴からの知らせは無い。 馴鹿月之十日 曇天大風」遂に王身罷り、余が王として選出さる。騎乗の者等、槍卒射手鹿飼の類いを閲したのち王の幕屋に入る。 薄絹を纏った后に無言にて閨に迎えられ夜半まで過ごす。后の寝静まった頃奴が現れ無礼を詫びつつ、代価を要求しにやって来たと言う そのような約束はしておらぬと激して返すと余にではない后にであると言う、これからのち三月に渡って后の心を蝕み乗取るから その積もりでおるようにいかなる反魂師も奴には適わぬのは余も見た通り余はその美しい后の柔肉を楽しむがよい今の内に楽しむがよい 奴は奴でその美しい后の魂を楽しむのであるからと言って嗤いながら消えた。 次回お題は「灌漑」「連合」「通過」
295 :
「灌漑」「連合」「通過」 :03/03/10 13:54
あの向こう側に行きたかった。 彼女が父親と共に向こう側に渡ってしまったあの時僕は、寝たふりをしてごまかした。 「今さらなんだ」なんて言わないでくれ。 風呂場の蛇口からこぼれ落ちる水滴を伝いながら僕は灌漑用水を通過する。 雫と連合を組み何処迄も流れ続ける。 彼女に追い付いたら、改めて「君が好きだ」と告白しよう。 ああ、落ちて行く快楽に打ちのめされてもこの流れに逆らえない。 そうなんだ戦争には反対なんだ、それだけなんだ。 「りんご」「ギター」「坂」
浩平は静かに一枚の写真を見つめていた。 大切だった幼馴染が突然姿を消してから2年が経つ。 2年前のその日から浩平は、毎日を、疲れた中年のように 幸せを思い出すことでなんとか過ごしてきた。 毎日の登校風景を、「心臓破り」と言われた校門前の坂を、 二人で走って登って、りんごのように赤くなった彼女の頬を、 浩平は胸が締め付けられて苦しくても、それを手放せないでいた。 いつしか悲しみは薄らぎ、浩平は彼女を 穏やかな気持ちで思い出すことができるようになった。 そうしてある日見つけた日記には、 見覚えの無い風景と、東北の地名を示す駅、 そして、幼馴染とともに消えた唯一のものであるアコギと、 それを奏でる彼女が写っていた。 一瞬思案し、浩平は卓上カレンダーの次の土日に赤丸を付けると、 明日早朝の講義の準備を済ませ、早めに床に就く。 思い出のギターの音色を子守唄に、浩平は静かに眠りに落ちた。 次は「徹夜」「空気」「友人」でおながいします
298 :
「徹夜」「空気」「友人」 :03/03/10 16:56
冷たい朝の空気を吸い込んだ胸が、焼けつくように痛む。 数日前からの雪はようやく降り止み、東京は車道歩道の区別なく 見渡す限り一面が眩いばかりの白銀色に染め上げられていた。 まだ出勤時間には遥かに早い時間ゆえか、雪はほとんど汚されず僅かな純潔を保っている。 その純潔を散らしながら、私は歩道を駅に向かって歩いている。 綺麗なものを壊すことにはやはり僅かな罪悪感が心に滲んだ。あるいは喪失感が。 もっともいま感じている喪失感は別の原因からかも知れなかった。 昨夜は徹夜だった。これからどうするかを考え、眠れずに一夜を過ごした。 そして夜が白ばむ頃、どうするべきかを決めたのだ。 やがて、白く化粧された駅前の交番が目に入ってきた。私の目的地だ。 私は何故親しい友人を殺さなければならなかったのか。 結婚を考えていた彼を取られたから?それとも彼女の容姿にコンプレックスを持っていたから? 答えは出なかった。分かるのは自首しなければならないということだけだ。 交番の戸を叩くとき、私のコートから流れた親友の血が一滴、純白の中に僅かなシミを作った。 次は「鏡」「剣」「玉」でお願いします。
299 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/10 19:29
彼女はその病室で眠っていた。 僕は、彼女の浅黒かった肌がこの病院のそれこそ病的な白に染まっていくのが 堪らなく惜しかった。 彼女は太陽を愛し、また太陽も彼女を愛でていた。 そして太陽は親愛の証として彼女に小麦色の美しい光を纏わせた。 僕は月に愛された子だったのか、青白い肌を着させられたのにも関わらず、だ。 しかし、窓からすら遠いこの部屋は、ただ彼女を無色に染めていくだけだ。 透明ではない。しかし色もない。 少し大きめの鏡がテーブルにある。 彼女は死んでいるから、花も添えられているが、それは僕にすればあまり関係のない事だった。 ちょうど鏡を遠目ながら覗き込むと、僕と彼女がもう一組見える。 その2人は、色以外にも何から何まで違う2人だ。 死んでなお優しさの曲線を失わない彼女;玉 そして、彼女が死に、全ての感情が消え去った青白く無機質に尖った僕;剣 この場には3種の神器が揃ったわけだ。ひどく奇妙な配置で。 ははは。何も起こる気配のないこの部屋に、ひどく場違いな物が揃った物だ。 次は「マイルドセブンライト」「ローリング・ストーンズ」「約束」でお願いします。
固有名詞は禁止されてまつですよ・・・
301 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/10 20:14
では、 「オレンジ」「洗面所」「指輪」
本スレ298さんへ。好みだけど(そしてあくまで個人的な感想だけれど)以下: >あるいは喪失感が。 →あるいは喪失感だろうか。 >原因からかも知れ →原因によるものかもしれ >昨夜は徹夜だった。これからどうするかを考え、眠れずに一夜を過ごした。 →「これから」のことを考えると眠れなかった。 *徹夜=一夜を過ごした。(書いていてご自身、リズムに違和感を感じませんでしたか?) >そして夜が →そして朝が *一夜を過ごしたのだから、すでに空は白ばんでいるので、 例:白ばんだ空を眺めながら、どうするべきかを決めた。 >やがて〜 「白く化粧」という表現はマズゥです。ニュース原稿ならOKですが小説なら、 298さん独自の比喩で描写してほしいところ。「親しい友人」も、親しくないなら友人でないので、 ただの「友人」でいいかと思われ。また「私の目的地だ」と読者に告げてしまっては、 意外性が20パーセントダウン。削除奨励。 >答えは〜だけだ。 *いらないと思われ。というのも、すでに交番に向かっているのだから。 >流れた親友の血が僅かな →流れ「落ちた」*前半でも「僅かな」を使っている。意識的ならOK。そうでないなら、 重複グセの危険性アリ。類似症例:「その」「あるいは」の多用。 あくまで感想なので、怒らないでね。 というか495-496に簡素書いたのに、反応ナシとは……。激しくショボーソ(´・ω・‘) (プ to me ── 撃堕死脳。w
うわおっ! 激しく誤爆っ!! ごめんなさい。 「オレンジ」「洗面所」「指輪」でお願いします。
「はぁ風邪をひいたようで、熱が出しまして...。いえ、そんなに大した ことはないんですけど。すいません、今日一日休ませてください。」嘘、会社に行きたくないだけ。 勤続5年、これまで一度も欠勤はしなかった。少々の熱でも我慢した。 本当馬鹿だなァと思う。小学校じゃあるまいし、無欠勤なんて何も自慢にはならない。 先月同期の知子はお見合いで知り合った区役所勤めの彼と無事ゴールインし、ちんけなOL 生活に終止符を打った。私現在28歳、我が総務部女性陣の中で一番の年寄り。しかも昨日 3年付き合った彼と破局した。理由はあまりにも陳腐だが、彼が同じ営業部の美代(23歳) に心変わりしたのである。洗面所で顔を洗おうと鏡を見るとおでこにニキビが。 あぁでもとっくに十代は通り過ぎたのでこの場合吹き出物と呼ぶのか。30目前、私はもう若くない。 ファミレスで事実を告げられ、私は人目をはばからず彼を罵った。そして怒りに身をまかした私は アイスティ−を彼にぶっかけた。彼はじっとたえていたが、私を憐れんでいるように見つめた。 私はいたたまれなくなって、それまで宝物だったティファニ−のリングを投げ捨て店を飛び出した。 今時三流の脚本家でも書かないであろう修羅場だった。せめて力を付けようと冷蔵庫をみると オレンジが一つ。それは今の私にはあまりにも新鮮すぎた。 次「ラブホテル」「時計」「ラ−メン」
好物のデラックス・キャラメル&チョコレートパフェはサクラが注文してくれていた。 サクラは華奢な肩をすくめながら、向日葵色のストローを口にくわえてアイス・ミルクティーを さして味わいもせずに咽喉に流し込んだり、窓の外を眺めたりしていた。 彼女が肩をすくめるのを見るのは初めてではないから、何かしらのプレッシャーを感じて いるのだろうと思うと、僕もなんとなく身構える。彼女が、僕らお気に入りの喫茶「プラム」を選んだ のにはなにか理由(ワケ)があるのだろうか?──いつも注文するイチゴクリームワッフルが、 なぜ、今日に限って、サクラは注文していないのか? あいにく道路で目玉焼きがつくれそうなほどの気温だし、そうだ、すべては暑さのせいだ。そう 思わなければ、ヒトコトもしゃべらない彼女に納得がいかない。だって、遅れて店にやってきた僕に、 彼女は顔をすこし傾けただけだったし、なにか僕が話しかけても返事が遅れる……。 「怒ってる?」 と僕が謝ったそのとき、サクラの携帯が鳴った。聴き覚えのあるメロディだ。これは『子犬のワルツ』だ。 彼女と出会って間もない頃、僕が教えた曲だったっけ……。 「そ、それは本当ですか!?」 という彼女の声で、僕は我にかえった。サクラの頬を涙がつたっている。 慰めようと彼女の肩に 手を置くと、虚しく通り抜けた。僕は、ああ、そうか、死んでいたんだ。なのにサクラはまだこの着メロを……。 ──泣カナイデ、サクラ。僕ハ ココニ イル。ソウ、イツマデモ イッショニ……。 >ルゥ ◆1twshhDf4c さん。 なんか上で話題にあがってたから、リライトしてみた。 簡素キボンヌ、w。
次は 「ラブホテル」 「時計」 「ラ−メン」 でお願いします。 うう、また誤爆。 簡素スレと本スレと見分けられないと(三語スレを利用するのは)難しすぃ……。 ごめんなさい。 m(_ _)m
307 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/11 02:41
毎度毎度よくもまぁ、ここにはくだらない人間ばかり集まっているものだ。 こんなにいい天気の昼下がり、1人前280円のドリンクバーでこんなに多くの人間が粘り倒してるのを見ると、 案外こいつら一人一人が不況の原因なのかもしれないななどと思えてくる。 「夜中に好きな子に電話してさ、ラーメン食いに行こうよ?っての?ベタだけどいいよねー」 隣の席のクソガキグループの一人がしまりのない顔で語っている。 窓際の席ではカルチャースクール帰りか何かであろう主婦達が世間話に華を咲かせ、 奥の席のカップルなどはもはやここがラブホテルだと勘違いしているかのようだ。 そしてそんな客達の有様に少しの疑問ももたないかのように店員が黙々と働いている。 全く持って、いつも通りだ。 こいつらは、おそらく一生ここにいるのだろう。 譲れないものだとか守りたいものだとか何かを賭けてだとか、 そういうもの一切を外の世界に追いやって、時が流れるのをここで眺め続けるのだ。 ふと時計に目をやると、店に入ってから既に3時間近く経過していた。 無論今日の外回りも成果無しだ。 上司の呆れ顔をぼんやりと想像しながら、伝票を持ってレジに向かった 「お会計、294円になります」 次は、「BOX」「引っ越し」「瓶ビール」でお願いします
308 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/11 07:17
>>307 留学でアメリカに行った際の出来事。
引っ越しを終え、アパートのロビーで運送屋にサインしていると、気の良さそうな2人組のお兄さんが近づいてきた。
BOXXXと描かれたキャップを被ったほうの男が「おまえは 日本人か?」と気さくに聞いてきた。
「そうだ」と答えると「漢字のタトゥー(刺青)を彫ったんだけど、どういう意味か教えろよ」
と言われ、差し出された腕を見ると『武蔵』と彫ってあった。
「日本で最も有名な剣豪だよ」と教えてやると彼は満面の笑みを浮かべていました。
続いてもう一人の、ジャックダニエルの瓶を抱えた男が腕を差し出すとそこには『朝鮮』と大きく彫ってあった。
「KOREAだよ」と教えてあげた後の
彼の悲しそうな顔が忘れられない。
次は「内閣法制局」「分析技術」「アヌス」
>>308 他の板で見たことあるが、それ嫌韓コピペじゃん。
お題もクリアしていない(瓶ビールが入っていない)し、
次のお題にアヌスなんて入れてるけど、下ネタ・エロは禁止なんだよ。
一番上に
>>307 なんてつけてるの見るとこのスレは初めてか?
つーことで308はスルーして、307のお題から続けるのが良かろうかと思う。
310 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/11 20:17
「おい、セブンスター買ってきてくれや。ソフトじゃなくてボックスだぜ、メンソール入り買ってくんなよ」 その2m近くある親方は下っ端の青年に言った。 親方はここで瓶ビールの空き瓶で4階建てのビルを建てようとしてるQさんの手伝いをしている。 家に帰ればアットホームパパだけどホームレスな親方はそのビルに無償で住まわせてもらう約束で、 わざわざカルカッタからこの川越に引っ越してきて、40年ぶりに現場監督に復帰したのだった。 下っ端の青年は東工大院博士課程修了の若き建築学の権威だけど、親方を慕っている。 親方はここをホームレス達の天国にしたいんだ、とQさんに告げた。 Qさんは資本主義者であると同時に共産主義者でもありたいとも願っている人なので、 親方に向かって「この土方が…」と呟きながら快諾してくれた。 僕の仕事はこのビルができたら壊す事だ。それは僕がメカキングギドラだからしょうがない。 まったく因果な商売だ。 次のお題「鉄鉱山」「ジャスミンティー」「ブルドッグ」
311 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/11 21:08
「ジャスミンティーにソースを入れて飲んだことあるか?」 おれが尋ねると、すぐに返事が返ってきた。 「ソースは、ブルドッグソースでつか?」 開発中の人工知能ロボット『二茶根羅阿』のディスプレイに、 軽快に文字が打たれていく。 「当然だ」 「厨脳と頓活は、どちらが好きでつか?」 「おれは、飲んだことがない」 「ソースキボンヌ」 ジャスミンティーにソースを入れた液体が、いかにまずそうに見えるか、 おれは詳細なデータを入力してやった。 「鉄鉱山に逝ってくる」 こうディスプレイに打ち出されたかと思うと、そのまま沈黙してしまった。 まだまだ長い開発競争が続く……。 次は「雨」「HAL」「地底人」
しのつく雨の寝苦しさに何度寝返りを打ったろうか。PCからのメール着信音が、俺を完全に覚醒させた。 見れば、夜中の三時。こんな時間にメールを送りつけるとは、どういう性根の人間か。俺は悪態をつきながらディスプレイに 灯を入れ、着信メールをクリックした。 『!!HALLEY’S COMET STRIKES BACK!!』 ハレー彗星の逆襲?なんだこりゃ− と、カーテンの向こうが不意に仄明るんだ。 光芒は威力を増し、カーテンを突き通した青白い光が陽光より明るく室内を照らし出した。 「ハレー彗星、って」 俺はメールの本文に目を走らせた。光はぎらぎらと輝き、液晶ディスプレイを塗りつぶさんばかりになっていた。 『Halley’s Comet is a weapon of alien for instinct the underground−dweller!!』 「ハレー彗星は地底人を滅ぼす為の、宇宙人の武器だったのだ…って、まさか」 俺は窓に駆け寄り、目眩くような光をものともせず、カーテンをかき開いた。 巨大な、あまりに巨大な氷と泥の塊が雨雲を突き抜け、地平線の彼方へゆっくりと消えていった。 全てはこの夜から始まった。宇宙人と地底人、そして人類の、地球の覇権をかけた凄惨な戦いは、この夜から始まったのだ。 次のお題は「希望」「ジプシー」「北斗七星」で。
「希望」「ジプシー」「北斗七星」 酒場で逢ったジプシーの女は結婚したいと言った。こんな暮らしもね、 なかなかしんどいんだよ、と。 わたしは旅に憧れ、しかし旅暮らしに踏み切るには失うものが多すぎ た。女は黒い髪に浅黒い肌をしていた。酔った虚ろな目をわたしへ向 けて、今はこんな暮らしだけど、結婚なんてしてみたいんだよね、と 言った。そうだ、瞳も黒かった。 惚れられたな、と思った。もてるほうではないと自覚していたが、そ ういう経験がないわけでもない。ジプシー女にしてみれば、わたしは いずれ善き夫になりそうな、平凡だが堅固で温和な男に見えたのか。 どこかへ行きたい。クリスマスにテレビゲームを希望する子供のよう な心で、仕事終わりに着替える毎に、臭い靴下にそう願うのだ。すべ てを投げ出して、うろ覚えの北斗七星で方角を知り、コインを投げて 分かれ道を決めたいのだと。 わたしが無茶をしたいと思うのは、自分がそうはできないと知ってい るからだろう。そして、女が安定を望むのも同じ理由だ。 ジプシーは彷徨うけれど、星の見方は知っている。女よ、お前が夜空 から北を知れなければ、わたしはお前と旅立ったのかも知れない。 次は、「隊長」「中学生」「偽者」で。
315 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/12 01:45
中学生になったばかりの姪から、こんな手紙が来た。 『隊長! ウチ、お正月なのに今日も一歩も外に出ないでビデオに録っておいた、 つぶやきシローの逆ギレ発狂漫談とか見てグータラしてたっちゃ! きっと今年は第二次つぶやきブームくるっちゃよ隊長! あの了見の狭さたっぷりの恨めしい一重瞼は天下とるに違いないっちゃね! ぷ〜ん……ギャッ!なんか去年の生ゴミが部屋のあちこちに散在して異臭騒ぎだっちゃ! ニセホットヌードルの汁は半年以内に捨てて換気しないと死期が早まるっちゃよ隊長! ウチ、タラコの食べ過ぎでγ−GTP800以上あるっちゃ! 今年も死なない程度によろしくだっちゃ隊〜長〜!』 これは本当に姪の文章なのだろうか・・・ 教えて下さい。 NEXT「戦闘」「倭人」「体から体」
316 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/12 20:52
「戦闘」「倭人」「体から体」 君に来てもうたんはほかでもない、ちょっとええモンみしたろと思てな、 いま奈文研から来とんのや。はあ、ええモンですかあ、で、なんですか教授。 スカルや。頭蓋骨でわかりますよ。ええとこに気ぃ付いたね、即ち頭のフタ、 戦闘に倒れた勇敢な御先祖さんのスカルや、こっちこっち、ちょっとだけやで、すぐ閉めるぞ。 うっわ、ほんまにスカルや……、ちゅうか矢尻刺さったままですやん。 このおっさん微妙に斜め向いて埋まっとったらしいで、ひねくれもんやな。 アレですか、倭人同士いがみあって麻のように乱れていた倭国、そこへ卑弥呼が、とかそういう奴ですか。 そらちょっと古すぎるわ、八世紀のホトケや、けどな、脳味噌がちびっと残っとんのや。 うわ。アレや、川沿いの質の悪い田んぼに埋まっとったさかい、泥で保存されたんやな。 残るもんですか。残る残る、千年前にドイツの湿地に落ちたおばはんなんか、 脳味噌どころか目ん玉のガラス体から体毛までびっちり残っとる。 堪忍してください、ラーメン食ったばっかしなんです。 それでこのスカルの裏側には頭皮もこびりついとってな、まあアレや、 豚足のぶよぶよした皮みたいなもんやね。…………。さてこれらを空気から遮断したまま エポキシで固める作業を君に観察してもらうわけやが、おい、大丈夫か。 食事中の方スマソ 次回お題は「概観」「無視」「匈奴」
「なあ、匈奴が中国侵入に成功しとったら、どうなるやろな」 「そらアレやろ、テキトーに国内踏み荒らされて終わりや。あんま変わらへんと思うで」 「いや、そんなんおもんないやん。概観でええからおもろいこと言えや」 「まず、万里の長城はでけへんな。ほんで、中国が外貨稼ぐタネがいっこ減る」 「甘いな。無視しとる要素、なんぼもあるやんけ」 「なんや」 「南宋がでけへん。長城ないから、一気にガーッて攻めてきよるしな」 「ほんで?」 「マ・クベの壷がのうなるんや」 「そんなオチかい!」 次のお題は「ダム」「一斗缶」「窓ガラス」で。
318 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/12 23:20
ダムが破損したようにまんこからあふれていた無色透明のマン汁が 窓ガラスに向かって飛び散ったのはオメガが出たときだった。 マン汁はとどまることを知らずで続け床下浸水をおこした。五郎がマン汁を飲んだが一向に減らず 一斗缶に組み入れることを余儀なくされた。まさかこんなに出るとは思っていなかった。 五郎は自分の舌技を封印することを誓った。惨事を繰り返してはならなかった。 五郎が机にもたれ掛かりどうしていいかわからずにいると、ラッパのようなオメガの音が数回なった。 そしてまたマン汁が放水車から放たれたかのように勢いよくプシュッーと、窓ガラスを 破壊し、このままでは家が崩れると五郎が思ったのもつかの間、女はオメコを五郎の方に向けようとしていた。 くるならこい、五郎は走り、オメコにこぶしを打ち込んだ。マン汁がとまった。 オメコは激しく縮小し、小さな点になった。もう何も入れられないだろう。
319 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/12 23:26
過去スレはいいんだなw
>>1-317 の総意としては
馬 鹿 は お 前 だ !!
ということでよろしいか?
>>320-321 駄目だよ反応しちゃw
美しくあぼーんできないじゃないか。
荒らしは放置よろ
323 :
「ダム」「一斗缶」「窓ガラス」 :03/03/13 03:02
一郎はダムが好きだった。それも直線的で三角形の重力式のダムだ。まさに男のダムだ。 黒部のような流麗なアーチ式は、彼に言わせれば邪道だった。 その重力式のダムが放水する最中、三角形の一辺をどおどおと流れ落ちていく様子なんてものは、一郎にとって射精寸前の快感だった。 「ああああっ!」 そう。 激しく擦り上げる一郎のペニスの音よりも怒涛の音の方が大きいのだ。 流れ落ちる白濁した泡は尽きる事なく溢れ出して、人間ではどうやっても勝てないという敗北感が逆に彼の快感を増していくのだった。 「あ、あ、あああっつ、あー、あー!」 一郎は道路脇に車を止め、そこから暫く沢に下ったところにあるいつもの場所で放置された一斗缶に腰を掛け、ペニスを擦っていた。 丁度木が切れて、ダムの放水を見渡せるベストスポットだ。 一郎の真正面は栄養状態がいいらしく、草がもっこり生い茂っていたが。 「ああー、ああー……ああ」 さすがに3回目ともなると、勢いも失せてしまう。 それでもダムの放水は止まらない。 特に今回は長雨が続いた跡の放水だ。一郎は朝起きて窓ガラスが雨で濡れているのを確認する度、ずっと楽しみにそわそわしていたのだった。 「ふぅ」 一郎は下半身を丸裸にしたまま一服入れていた。 この解放感。やはりダムはいい。 彼女が出来たらダムを見ながらするのがいいな。 その想像はむくむくと、彼のペニスを再びいきり勃たせていった。 次は「肥料」「ローション」「栄養」で
「先輩。おはようございます。どうしたんですか?ずいぶんとお急ぎみたいですけど」 「でも、ちょうどよかった。桜子も先輩に報告があるんです」 「きっとびっくりしますよ!」 「先輩、慌てないで。先輩のお話は後でお聞きしますから。少し落ち着いて…」 「ふふ、コレを見たら先輩きっと、桜子のことがもっと好きになります」 「では、3,2,1、じゃーん、はいこれです!」 「えーとですね、研究所の裏山って敷地が有り余ってるんです。ここ田舎ですもんね」 「そこで作ったんです、この大根。…え?ええ大根ですよ、これ」 「確かに桜みたいに真っ赤な色してますけど、あ、花もなぜか赤かったっけ」 「先輩、前に言ってましたよね。おでんと言えば大根だって。桜子覚えてます」 「でですね、この大根の秘密は肥料なんです」 「この赤いローションみたいなドロドロが肥料です。あと土にも秘密があるんですけど」 「コレを使って、苗から育て始めたのが、なななんと、一週間前!」 「そのうえ栄養価も甘さも、どんな野菜より上です!すごいでしょ?」 「先輩、食べてみてください。今切りますんで…」ガキッ 「あれ?大根に何か固いものが…。これは、指輪、ですね。harukaって彫ってある」 「遙香、嫌な名前だなぁもう!思い出すだけで…あれ先輩どうしたんですか、凄い汗」 「そういえば先輩の話って何でしたっけ?」 次は「高校生」「アルバム」「手紙」でお願いします。
届くとも思わず出した手紙が、やはり届かず帰ってきた。 『拝啓、春まだ寒いこのごろいかがお過ごしでしょうか。 突然のお手紙に驚かれるかもしれませんが、これには特に 意味はありません。先日引越しの準備をしていた際に、高校時代の アルバムを見つけ、懐かしくなり筆を取った次第です。 手紙だと不思議に丁寧な言葉遣いになりますね。 今更ですが、面倒ならこの手紙、読まなくても構いません。 現在、私は働いています。当然ですね。でも、結婚はしてないということです。 恋人も、いません。あの頃のあなたとの恋愛が懐かしいです。高校生ながら、 真剣に付き合っていました。なんでいなくなったの? 卒業以来、友人の誰とも音信不通だそうですね。なぜですか? 私はあなたと別れた気がしません。あなたもそうじゃないの? 卒業式の日に 校舎裏の木の下で と言ってくれたじゃないああそう言えば、 先日あの木の下から遺体が発見されたそうです。 学校の制服を着た、身元不明の男性遺体だそうです。怖いですね。 次は「勝」「負」「最初はグーって言っただろ」でお願いします。
326 :
「勝」「負」「最初はグーって言っただろ」 :03/03/13 21:41
あたしにとってあのひとが、生まれて初めてのほんとの恋なのでした。 彼はあたしの目を一瞬見てもふいと瞳をそらしてしまうので、あたしはいつも 悲しくなりました。どうして目をそらすの、と聞けば、僕は君に負い目がある ような気がして、と答えるのです。あたしは彼のそんな思い込みが力を持たな いように、なるたけ優しく繰り返すのでした。あたしはあなたのものよ。あた しはあなたのものよ。あたしはあなたのものよ。 あたしの目が勝ち気だから、じっと覗きこむのがこわいんだ、なんて言ったこ ともありました。あたしはあのひとのものになりたくて、そうなるためならな んだってしたいと思っているのに、彼は不機嫌になるとことさらに、あたしを 気の強い荒っぽい女のように、まるで彼なんか必要ない高慢な女のように言う のです。あたしはそう言われるとそのように振舞ってしまうのでした。彼が見 る通りの女になりたいばかりでした。 彼は革製の目隠しをあたしに持たせ、それを彼に掛けるように言うのでした。 あたしは彼の望むことなら何でもしたいのでした。それから彼を床に突き飛ば して殴れと教えました。ある日あたしはふいに悲しくなって、床に転がった彼 に馬乗りになってその頬を平手で打ちました。ぱあんという音があたしには、 自分の言葉のように聞こえました。彼にはけれど、その言葉がわからなかった。 彼は下着姿に目隠しのままぐっと体を起こし、最初はグーって言っただろ、と いつになく冷たい棘のある口調で言ったのでした。 ふっと、涙がでました。あのひとの白い腹に馬乗りになったまま、あたしはつ いに言ったのでした。どうしてわからないの、あたしを殴ってほしいのに。 次のお題は「バスラ」「酒場」「薄情」でお願いします。
俺なんざ、酒場で酔っぱらってくだ巻くのが身分相応のクズなんだよ。 乗っていたマシンがブチ壊れ、砂漠に不時着したのが一週間前。 文字通り死ぬ寸前で、基地まで歩いて辿り着いたのが五日前。 残った貯金を残さずはたいて、機体を回収したのが昨日。 マニューバスラスターに技術的欠陥が発見され、エンジニアを半殺しにしたのが今日だ。 エンジニアの財産を残さず巻き上げたのはいいが、マニューバスラスターどころかスタビライザースラスターも 買えやしない。 戦友の何のと言っても、貧乏人には薄情なもんさ。お陰で陸に上がった河童、戦えない傭兵に落ちぶれ果てた。 これが飲まずにいられますか、ってんだ。 チクショウ酒だ!酒もってこい! 次のお題は「ガス管」「ヘリポート」「象」で。
328 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/15 01:50
へへっ、今年もやってきたぜ、この時期が。 年度末ってなぁほんとにいい響きだよ。 なんたって、世の馬鹿どもは俺たちの仕事を「予算調整」なんて理由で黙認してくれちゃってるからな。 ま、だからこそ俺たちもお前らなんかにペコペコしてやってるんだけどよ。 いやでもホント、この仕事の事を知ったときには耳を疑ったね。 おまえら大方オレらのこと、馬鹿にしてんだろ? 水道管だかガス管だかなんだかしんねーけどどこもかしこも掘り返してんじゃねー、 とか思ってんだろ? あはは、たまんねーよ。 おまえら、俺たちが掘った地面の中がどーなってるのかしらねーもんな? 自分達が普段暮らしてる足元に、何が埋まってるのかしらねーもんな!? オレらが掘った土、トラックに載せてどこに運んでると思ってんの? その土の中に、どれだけのお宝が埋まってると思ってんのよ!? 考えた事もねーだろ!! 全く、傑作だね。 あー、4月になるのが待ち遠しいぜ。 今年は、別荘の改築が終わったインドかな。 つっても、ヘリを新しく3台ばかし買っちまったからヘリポートだけは又新しくしなきゃいけねぇな。 たいした問題じゃないけどな。 あ、そうそう、おまえらに一つだけいいこと教えてやるよ。 象の背中ってのは、意外と乗り心地がいいんだぜ? 次は「トマト」「ジップアップ」「海賊」です
見渡す限り海。ここはボートの上。 暑い。だが、彼は日除けのために、長袖のジップアップトレーナーと 足首まであるチノパンを身に着けていた。 潮風のせいか日差しのせいか、喉が痛む。 彼は広げていた襟を閉じようとして、ジッパーを上げた。 その時彼は、トレーナーの下に肌着を着ていなかったので、 ぷちっ、と音がして、ジッパーが彼の胸元の肉を破った。つぅと一筋、血が垂れる。 ボートに乗る他の男たちが、その赤い筋を眺めていた。 その瞳の輝きを、彼は正しく理解した。 喰欲。 炎天下のボートの上。なのにそこは寒かった。なのに彼らは汗をかき始めた。 なのに彼らは寒かった。 船を海賊に襲われ、装備も無く海に捨てられて一週間。つまり、絶食を始めて一週間。 彼らの生命は喰欲の源で、彼らの精神はまるで喰欲だった。 彼は自分の胸元に垂れる血をすくい上げ、口元を濡らす。そして吠えた。 「これは俺のだ!」 彼はその時、自分たちの船の積荷がトマトであることを思い出した。 ちょい長か。次は「造語」「意味は『求愛」「まさにこんな状況」でお願いします。
330 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/03/15 21:28
「造語」「意味は『求愛」「まさにこんな状況」 彼は、ローマ帝国の皇帝だった。 独裁的な権力をもった彼が憧れたのは、かつてのギリシャだった。 「ローマも、是非、あの様な国にしたいものだ」 それは『憧憬』といったレベルではない、その意味は『求愛』に近かった。 ギリシャ語を模した様々な造語が作られ、様々なものが模倣された。 白亜の建造物、大劇場、朗読詩・・・ 模倣も様になってきた頃、彼は一人のギリシャ学者に謁見する。 「一度聞いてみたかった。ギリシャの皇帝の名を知りたい」 衛兵の剣を気にしながら、おそるおそる学者が答える。 皇帝は、即座に学者を退けた。「下がれ。もうよい。帰って…寝ろ!」 いままでにない乱暴な言葉だった。 でも、事実は不動だ。 かつてのギリシャは、独裁者といった類は極度に嫌った。皇帝なんぞは論外だ。 彼は愕然として、自分が築いたローマの街を見下ろした。 まさにこんな状況で、彼は根本から拒絶されてしまったのだ。 ※なれないはなしはつらい・・・ 次のお題は:「湖畔」「沐浴」「牛丼」でお願いします。
「湖畔」「沐浴」「牛丼」 最近旅行に出かけていた友達が帰ってきた。 思考が精神世界しちゃってる彼は、新宿界隈でターンテーブルを回 すのにも飽きて、インドの山奥で修行してきたらしい。 インドの自然は、日が高いときは緑と言うよりは薄茶けているのだ が、日の沈む頃には全面が黄金に輝いて別の宇宙を感じさせるとか、 湖畔の石畳の上で座って瞑想していると暑さでおかしくなるので沐浴 するのだが、その後必ず下痢をするので、体重がどんどん減って健康 に良いだとか、僧院で規則正しい生活をしていると、だんだんヒンズ ーの神が降りてきて、朝起きると踊り出したくなるだとか、色々と話 を聞かせてくれた。 最後に彼は、自分は完全にヒンズーの宇宙を感得し、宇宙の真実を 間近に感じられるようになったので、この経験を「サトリ」というア ルバムにまとめるのだと言った。 そう云いながら牛丼特盛りを物凄い勢いでかっこむ彼を見ると、僕 は何か重要なことを忘れていないか、と突っ込みたくなるのだった。 #次のお題は「小僧」「構造」「楮」で。
和紙の優位性についてごくごく一部にしか知られていないのは、誠に残念なことである。 楮と三椏の繊維を漉いて製紙される和紙の強度は、木材チップのパルプから製紙される洋紙に比べ、遙かに高い。 本研究所のシミュレーション上では、一ミリ厚の和紙をハニカム構造に配置した建材を用い、三千トン級のトラフ橋を建造で きることが証明されている。まだシミュレーション実行中ではあるが、防雨及び腐食対策として柿渋を塗布した場合、耐荷強度 は四千トンを超える見込みである。 耐腐食性に関しても極めて高い。最近夢殿の奥から発見された、七世紀中盤の写経が記憶に新しいところである。樹皮で 保護された経典に目を向けられがちであるが、書き損じの裏を使って小僧が写経の練習をした紙がほぼ当時のまま現存して いることはあまり知られていない。素材工学の観点からして、これは十分に驚異的なことである。 元来紙は自然素材であり、環境への影響、また廃棄処分にしても全く問題はない。 石油樹脂素材の危険性が指摘されている現在、和紙は立方晶窒化炭素製造技術確立までの<つなぎ>を十分に果たし得る、 実用化された素材の中でも最高のものである。 次のお題は「秒針」「洗面器」「発破」で。
大学時代の友人に「発破」という渾名の奴がいる。由来はこうだ。 新歓コンパで飲みすぎた「発破」が先輩どもにささえられながら戻ってきた。 真夜中、午前三時は回っていたと思う。俺はそいつと同室だったせいで、洗面器と 古新聞の束を渡され、夜通し介抱する破目になったわけだ。 泥酔した男の扱いなど初めてだったから最初は往生したが、そのうち慣れてくると 「発破」が寝ながら、規則的に洗面器へ戻すのに気付いて観察してみた。 薄暗い部屋の中で、泥酔した男と腕時計を見比べな計ってみると、ちょうど 五分十五秒ごとに吐瀉しているようだった。 それさえ分かれば後は、時間に合わせて布団を汚さぬ様に洗面器と古新聞をあてがい 背中をさする機械作業みたいなものだ。 五分を過ぎると秒針を睨む。三、二、一、吐瀉、古新聞を変え、五分待つの繰り返し。 明け方、ふいにトンネル工事のダイナマイトが頭に浮かんで、笑いを噛み殺した。 そんなわけで、今でも奴は「発破」と呼ばれている。 次のお題は「妹」「宿命」「後輩」でよろしこ。
私の妹はすこしだけ「おかしい」 彼女は私たちの見ないものを見て、聞かないものを聞く。 けれどそれはしかたない。これは私たちの血の宿命であるのだから。 私が高校三年生だった秋、遊びに来ていた後輩の一人がふと窓の外を見て、妙な声をあげた。 「あ」 腰をあげる彼を不思議に思った。 「どうしたの」 「今ヘンな…子供みたいなのが見えて」 私はぎくりと固くなる。ああ、それは。 「何それ、幽霊?」 「もう見えない……着物っぽいの着てた」 「あはは、止めてよもう、こわーい」 私には分かる。妹は私を見ていた。私はここからいなくなる、この家を出る。 大学へ行って、そう、行って、私は逃げるのだ。この家から。 妹の視線を感じる、憎しみを感じる。私にも幾ばくかその血は流れている。 お願い許して、もう許して。私はもう見たくない。あなたのその姿……。 「先輩?」 後輩が私に声をかける。よほど青ざめてでもいたのだろう。 「あんたが変な話するから」 「すいません」 私は笑っていた。引きつるように笑った。 「いいのよ」 いいの、もうこれで最後だから。彼女には私を憎む権利がある。 彼女がより濃く血をついだおかげで、私は助かったのだから。 「いいの…」 知らず、私の頬を涙が流れた。 次のお題、「カップ」「MD」「破壊」でお願いします。
家中至る所に破壊の痕跡が見て取れた。それで、私は理解した。 妹は結局、三連覇達成を果たせなかったのだ、と。 破壊音は今も、二階で鳴り響き続けている。彼女は今、自暴自棄な自罰の為、自らの宝を葬り去ろうとしているのだろう。 ふてくされ、ひねくれた兄だが、妹にまで自分と同じ道を辿らせることはない。その思いが、私の足に階段を踏ませた。 ノックしてドアを開けると、枕が飛んできた。咄嗟に左手で受け止めたそれはずたずたに引き裂かれていた。鋏やカッター で滅多刺しにすると、こんな風に中身がこぼれ出すような裂け目が出来る。私は過去の経験から、それを知っていた。 私は枕を手にしたまま、机の上に飾られた小物を掃き散らそうとする妹の肩をそっと押さえた。 妹がぎくりと肩を震わせ、そしてその動きを止めた。私は妹の右手に掴まれたMDを優しく抜き取った。 これは―― 私はそのMDをミニコンポにセットし、再生ボタンを押した。懐かしい局が流れ出す。 エリック・サティの<ジムノペディ>。かつて私がコンクール優勝を目指し、奏でた曲。結局優勝カップは私の手から逃げ去 り、自暴自棄になって自壊した私はすべてを捨て去り、そして全てから排斥された。 私のようになってはいけない。お前にはまだ、未来がある。確定していない、未だ来らざる未来が。すでに行末の定まった、 私のものとは違う未来が。だから、 「今は、泣いてもいい」 妹は低くうつむき、声を殺すようにしてすすり泣いていた。 次のお題は「カルメラ」「知恵」「鉄」で。
家の前に赤ん坊が捨てられていた。もうね、アホかと。馬鹿かと。 張り紙に『拾ってください』って、会社をクビになって帰宅した男の前に捨てられてて、 お前は本当に拾って欲しいのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。 ……こんなんだから会社クビになんだな。2ちゃんねるやめよう。俺は心に誓った。 しかしあれだね。子供が可愛いのはやっぱり、生き残る為の知恵なのかね。可愛いね、子供。 俺の退職金がオムツとミルクに変わっていく。この無駄飯ぐらいめ。太ったら食っちまうぞ。 子供の寝顔に牙を剥く。がー。んじゃ、俺はバイト行って来る。寝てろよ。ごめんな。 俺は理系の学生だったから、得意料理にはカルメラ焼きが挙げられる。自由実験の時間に カルメラ焼き量産して一個二十円で叩き売ったくらいだ。ハイハイをするようになった子供が 熱くなった鉄の部分に触れないように気をつけながら、オタマを引っ繰り返し、皿に上げる。 スプーンで細かく砕いて口元に運んでやると、舐めるようにして、あーあー涎だらだら垂らしやがって。 同じスプーンで俺も一口。ん、甘い。 子供の本当の親が迎えに来たりなんかして。はぁ、あんた何言ってくれちゃってんのよとか思ってたら、 子供が歩いてその女に寄ってったりして。あれお前歩けたっけーってその時初めて歩いたんだけどね。あっはっは はぁ。もう本当、アホかと。馬鹿かと。あーあーあー、久々に2ちゃんねるにネタでも書くかな。 次は「殺し屋」「助けてくれたら」「銃声」でお願いします。
暗い夜道を歩いていると、いろいろな目に遭う。 昨日も俺は深夜の道を歩いていて、若い女とぶつかった。 女は俺にぶつかったことを謝りもせず、俺をおびえるような目で見、縋り付いてきた。 「た、助けて!」 ほとんど悲鳴に近く、聞き取りにくい声。 女の話を聞くと、どうやらヤバイ組織の情報を扱う商売をやってたらしいんだが、それが組織にばれて、殺し屋がやってきたのだという。 「で、お前は今殺し屋に追われているのにこんなにのんびり立ち話してるのか?」 聞いてやると、女ははっとした表情を浮かべ俺の腕を握ったまま走り出す。 仕方がないので俺も、女について走っていった。 「助けてくれたら、それなりの報酬は出す。だからお願い、殺し屋をまくのに協力して」 報酬なんて別にどうでもよかったが、女があまりに哀れだったので女が考えた逃亡作戦に協力してやった。 俺が囮になって女は逃げる……あんまりな作戦だが、仕方がない。これも女を助けるためだ。 女が無事に逃げられたであれば、三日後、四国の山寺で落ち合い報酬の受け渡しを……。それがこの逃亡作戦の締めくくり。 俺が山寺に行くとどうやら生き残った女は先に着いていて、 「ありがとうあのときは助かったわ危うく死んじゃうところだったのああそうそうこれがあのときの報酬」 要約したが、こんな事を言って俺に分厚い封筒を手渡した。 俺は封筒を受け取って、懐にしまった。そして代わりにポケットからナイフを取り出して女の心臓をグサリと刺してやった。 女は何も知らぬうちに死んだ。うれしそうな顔のまま、胸を真っ赤に染めて。 「銃声がするのは嫌いでな、ナイフを使うんだ。お前も聞いたことがあるだろう? 組織お抱えの殺し屋の話を」 別れの言葉はそれだけで十分、誰かが来ないうちにさっさと逃げよう。 今回の仕事は少しばかり骨が折れた。三日もかかったから、組織に何か言われるかもしれない。ああ、嫌になるなぁ。 NEXT[田中星人][9999][KIDS]
田中星人は固有名詞なんじゃないの? ついでにkidsもぁゃιぃ
KIDSはしんないけど、田中星人は固有名詞ともとれるね。 御題替えしたいのであれば「殺し屋」「助けてくれたら」「銃声」続行でどうぞ。
ひとつ、昔話をしてやろう。 昔、俺は殺し屋のなりそこないだった。そもそもは孤児でな。俺を買ったのが、殺人を業務にしているセクションだった。 俺の一番古い記憶は、頸動脈から血を噴水のように吹き上げて痙攣する豚に、何度もナイフを突き立てているところだ。 殺戮という行為に対する禁忌を取り除く。麻薬を使う組織もある。俺の場合は、豚や猿を屠殺し続けて真性の抹殺者に 仕立て上げられようとした。 だが、俺はなりきれなかった。貧弱なのか、ひ弱なのか。何年かして、俺はそんな状況に耐え切れなくなった。俺は組織 の養成所を脱走したんだ。 銃声や犬どもが迫りくる中、俺は走りながら祈りつづけた。誰か助けてください、助けてくれたらその人のいうことを何でも 聞きます、ってな。 俺の願いはかなえられた。結果だけ言うと、俺は死んだ。俺を殺したのは、やつらじゃない。死という概念そのものが、俺 の生を奪い去った。それによって、俺は「やつらの手からは」助けられた。 俺が死神になった理由は、これで全部だ。俺は殺し屋でなくなる代わりに死神になった。違いはただ一つ。 今度は絶対に逃げられない、ということだ。 だからお前は、俺の手によって殺されなければならない。 最初のお題「田中星児」の誤植かと思った。あれでは書けん。 次のお題は「ピンゾロ」「超人」「崩御」で。
341 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/03/19 01:32
「ピンゾロ」「超人」「崩御」と[田中星人][9999][KIDS] 増えすぎた人口を厄介払いするため、宇宙都市が続々と建造された。 あいうえお順に分けられた国民たちが、9999個の宇宙都市に配属される。 「あ」のあたりは問題なかったが、「た」や「す」のあたりは大変だ。 山ほどいる「田中氏」や「鈴木さん」が、一つの宇宙都市に詰め込まれる。 同姓同名の「田中IDS」の判別に、教師は超人的な努力を強いられ、 教育レベルも低下する・・・これが星間いじめの温床になった。 もはや「田中星人」は固有名詞ではなく、差別用語だった。 「やーい、田中星人!」 この一言は、「宇宙都市−た」の幼児体験に、共通の暗い影を落とした。 そして宇宙帝国皇帝崩御の時、その不満は一気に爆発した。 「最多数派の我々より次期皇帝を!」と、元老院に訴える。 「まあ、鈴木・小林・佐藤の立場もあるでの、ここはサイコロじゃて」 二つの賽の目にかけられた、次期皇帝の座・・・結果を見て田中星人は驚いた。 「1と1、ピンゾロです!」 よりによって、他の1/2の確率しかないゾロ目が、ここででるなんて。 「いかさまだー」「楡崎議長、轟長老、錦小路委員、これは一体・・・」 彼等は、希少名の者達による陰謀を、いまここに確信したのであった。 ※希少名がなかなか思いつかない・・・ 次のお題は:「CD」「E電」「エフ」でお願いします。
「あぁ、これってE電っていうんだ」 今度の仕事の相棒の女が駅の電光掲示板を見てポツリと言った。 その言葉は聞き取れたが、俺は相手にせず電車に乗り込んだ。 「ねーねー、あんた結構長い間殺し屋やってんでしょ? あたしは去年からやっててさぁ……」 電車の席に座るなり、女は早口でしゃべり出した。 隣同士座っているので、端から見るとアベックにしか見えないだろうが……なんと不用心な女だ。 「でさ、あたしの武器はガンだけど、あんたの武器は何? やっぱガン?」 「……自分の武器を他人に教えるバカがいるか?」 「いる」 キッパリと、女は言った。そりゃそうだ。こいつがいた。 「銃声のしないもの、とだけ言っておこうか……」 「何よそれぇ、あたしのガンだって高性能サイレンサーつけてるから銃声なんてしないシィ」 また長々とおしゃべりが始まった。まったく、これだけしゃべるには相当エネルギーを必要とするだろうに。 ……もしかしたらこいつはスピーカーで、体内にCDが仕込まれているのかもしれないな……。 「……あたしさ、借金の方にこーゆー仕事屋ってんだよね……エフ……あんたは何で?」 唐突に、女は暗い声で語り始めた。俺にとっては関係ない、女の個人情報の話なのに。 答える必要はない、とだけ答えると女は急に大声で笑い出した。 「さっすがだねーっ、エフ! 組織お抱えの殺し屋ってだけはある! 大抵の男はこれで騙されるんだけどねぇ!」 俺は女の顔を見た。整った端正な顔。口は微かに笑みを浮かべている。 ……だが、瞳をみればすぐに分かった。こいつの話は本当だと。 「先日お前に似た女を助けたばかりでな。助けてくれたら金をやる、と言っていたが……お前もその口か?」 「あはは、いいね! それ! あたしはお金ないけど愛の逃避行でもする!? このまんま組織から逃げてさぁ!」 プァン、と音を立てて電車が動き出した。 これから俺たちは人を殺しに行く。そして、生き延びる。 女はこんな現実でも、明るさを失わずに生きていけるのだろう。 ……俺は、少し羨ましかった。 #長いッスね。スミマセン。 NEXT「大海原」「銀河の果て」「君さえいれば他に何もいらない!」
訂正(〜098 097 098は、〜096 097 098) 二次通過作品は以下『29』作品 013 014 015 016 018 019 021 022 023 030 031 032 033 034 036 037 038 039 040 041 046 047 050 071 075 080 081 093
↑大誤爆すいません…
「大海原」「銀河の果て」「君さえいれば他に何もいらない!」 雨上がりの午後、空を見上げると雲の切れだした合間に特大の虹がかかっている。 そういえば、私の昔の恋人はこんな人だった。 「君さえいれば他に何もいらない!さぁ、いっしょに銀河の果てまでも行こうじゃないかっ!!」 原文どおりそのまま。そう、エクスクラメーションマークでさえも。 どこかずれた感覚の持ち主だった彼。 いつぞやの台風の時なんかは、近所の野良犬や野良猫たちがかわいそうだと東奔西走し、家に集めてしまったこともあった。 一時、彼の家は動物愛護センターのような状態になり、騒然としたっけ……。 きっと、あの彼ならこの虹も、「空という大海原の奇跡」とか何とかにされてしまうのだろう。 それでも、私は彼が好きだった。束縛のない奔放な彼が好きだった。 ――だから結婚したのに。 結婚は人を変えてしまうというのは事実らしい。 今の彼――いや、あの人は仕事に束縛されたごく平凡なサラリーマンになってしまった。 いつも忙しいという言葉を口にし、帰りも遅く、休みもなかなか取ってくれない。 あの人と最後に出かけたのはいつのことかもう忘れてしまった。 彼が《彼》を捨ててしまったときから、私の心の中で恋人と名のつく人はもう存在していない。 ☆このスレからかなりご無沙汰してました。 久しぶりに書けてうれしかったけど、難しかったです……。 ということで次は書き易いのを投げておきます。 次のお題は「空き缶」「柴犬」「レンタル」で。
346 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/03/20 06:31
「空き缶」「柴犬」「レンタル」 技術が進歩して、ロボットが蔓延しても、「秘書」はいまだ人間の仕事だった。 もちろん、秘書だってロボットを持っている。理由は色々だ。 多忙なせいもあるが、なにより仕事上のストレス発散が大きな目的だった。 或る美人社長秘書は、自分の美形ロボットに運転手をやらせていた。 これも理由がある。レンタルだと、「ロボット虐待」ができないからだ。 「何よ、掃除もマトモにできないの!」と空き缶を投げつける。 「このグズ!」と蹴飛ばす、わざわざ痛みを感じる様に作られたロボットに・・・ そんな女主人にロボットは、「はい、お嬢様」とにこやかに答えるのだ。 今夜も運転手ロボットは、その廃屋の様な家に帰ってきた。 「今日もロボット虐待されたよ」と、奥の部屋に呼びかける。 もはや、昼間の営業スマイルはなかった。ストレスを感じる機能すらあるのだ。 「すまないが今夜も頼む。人として・・・じゃない、ロボットとして情けない事だが」 電気ムチを持ったロボットの前に、メイド型ロボットが現れる。 「はい、喜んで」 と、微笑んで見せたその背中は、毎晩の折檻で傷だらけだった。 「そんなに自分を責めないで・・・どうぞ」と、彼女は言った。 彼の女主人そっくりのその顔に、柴犬の様な表情を浮かべて。 ※朝からこんな話・・・(w 次のお題は:「朝」「無防備」「停戦」でお願いします。
「ねぇねぇ停戦しよーよ、テーセン」 「……」 昨日から思ってたんだが、この女の脳みそにゃ弾丸が入ってンじゃねぇのか? 何が停戦だ。いくら絶体絶命の状況でも、そんなことをすりゃ組織にバラされると決まってる。 「こう、さぁ。無防備な状態ででて、私武器持ってなぁい! とかって訴えンのよ。私は可愛いいから多分助かる」 「……蜂の巣になるのがオチだ」 「何よそれー」 「どうせなら俺の盾になって死ね。そうすればこの状況を打破できる」 「あっ、いいかも主人公を守るヒロイン。『なぜこんな事をしたんだ! バカ野郎!』『貴方のためなら、こんな事何でもないわよ。私の屍を超えていって、私のために! エフ!』」 ………女はそのまま脳内芝居の中にトリップした。 クソッ、もうすぐ朝がくる。 組織に増援を頼もうにも連絡機は壊れた。 こうやってドラム缶の陰に隠れて膠着状態、というのもうすぐ終わるだろう。 さて……どうしたものか……。 「さぁさぁ、殺し屋エフ、このジョーキョーをどうやってくぐり抜ける! 次回、『まさかの大脱出!』お楽しみにぃ♪」 ……殺し屋になって初めて、殺意がわいた瞬間だった。 #主人公が軽薄になってくなぁ。ハードボイルドに書きてぇ。 次の御題は「冥土」「銭湯」「停船」
348 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/20 18:39
男は語る。 「否は、決して我々にはない。 幾度にも及ぶ我々の勧告を無視し続けた、その態度を彼らは改めることはしなかったのだから。 彼らの所有する兵器は、我々人類の平和なひと時を脅かす可能性が小さくない。 我々も、平和的解決を進めようという大きな流れに乗って行動したいというのが本音だが、 彼らは停船命令に耳を傾ける事は、ついにしなかったのだ。 最後の、過ちだった。 我々はもはや、彼らに一切の慈悲を与えるつもりはない。 冥土の土産すら与えず、我々の名のもとに我々の方法で彼らを裁こう。 さぁ、今こそ正義の鉄槌を彼らの脳天に打ち込むのだ!!」 こうして、男はポカリとこぶしを振るった。 間もなく、先ほどまで回りに迷惑をかけながら湯船に船を浮かべて遊んでいた子供の泣き声が、銭湯中に響き渡った。 男は一人満足げな表情を浮かべて子供の泣き顔を見ているが、 暴力に訴えたその男の横暴さに周りの人々は非難の目を向けている。 次は「協調」「取り下げ」「48時間」です
1週間の採択延期など受け入れられない、と報道官は断じた。 中間派の示した大幅延長は認められない、妥協しても数日、48時間程度だ、と。 世界の何人かは悟った。もはや戦争は避けられない、国際協調路線に基づく査察はありえない。 そして、攻撃が始まった。 昨夜ロケット花火が飛んだ、72発。銅と硫黄のかわりにナパームとC4を積み、人の命を紅に散らす花火が。 かの国は強硬姿勢を取り下げ、国連査察を全面的に受け入れる態度を表明した。鉄火の力は、再び協調路線の 萌芽を導いた。 砲火はとまらない。攻撃をやめろ、誰かが叫んだ。もうこれで十分だ。かの国は屈した、闘争の目的は成ったはずだ。 これ以上は、無用の殺戮だ。 砲火はとまらない。なぜならば、彼は戦争をやりたくてやりたくて仕方がなかったので、戦争をはじめたからだ。 センソーハンタイ。我々はこんなやつの票を稼ぐために駆り出されるのか。プラトンが今ごろ、涙を流して笑っていることだろう。 次のお題は「アルバム」「粒子加速器」「扇子」で。
350 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/21 13:47
「アルバム」「粒子加速器」「扇子」 もう永いこと押入れの隅に仕舞ってあった旧いアルバムを、 那須は意を決して引っ張り出した。 ページを繰る毎に蘇るあの頃の思い出。 超原子物理学の研究員として開発に携わった、充実した日々。 研究施設から程近い砂浜によく連れ添って行った彼女。 長い黒髪の、十二単のよく似合う女人だった。 あの日、沖へ漕ぎ出でた一艘の小船。 波間に漂いきらめく光の中、立ち上がって優雅な仕草で扇子を開く彼女。 「射抜いてみやれ」 那須は開いた扇子に狙いを定め、粒子加速器を放つ。 一条の光の矢は見事扇子の真中を射抜き、彼女もろとも吹き飛ばした。 「よう射たりや・・・」 聞こえるはずのない彼女の声が耳から離れなかった。 未だ癒えぬ悲しみに、那須はそっとアルバムを閉じた。 お題継続で
351 :
?u???v?u???v?u?A°???I´?O?[?A´?A¨?3/4?A´?1/2?3/4?e¨?v :03/03/22 17:52
いやよ、あんたの好きなようにはさせないんだから。 お腹の子の名前は、女の子なら素子がいいなと、何気なく言っただけだった。 妊娠以来妻の明子は日に日に苛立ちを募らせていた。風呂上がりのビールの プルタブを半分引いたところで山田は、呆然と立ち尽くす。わけがわからない。 なぜ明子は毎日、こんなにも機嫌が悪いのか。 山田は造船所の研究員として、粒子加速器の開発に携わっている。七年前に 上司の紹介で明子と結婚したのとほぼ同時に始まったプロジェクトだった。 仕事は順調で、七年の間に山田はいくつかの重要な開発技術を編み出した。 良いときに子供を授かった、と初めは素直に嬉しかったのだ。 妊娠について、当の本人である明子は非常にそっけなかった。そうしてどんどん 機嫌が悪くなっている。山田は妻をどうすることもできない。何しろ仕事も忙しい。 開けきらないビールの缶を手に持ったまま、一人、寝室に上がる。 赤い表紙に金の扇子をかたどったアルバムが、ベッドの上に無造作に投げ出されていた。 明子が見ていたのに違いない。以前はいやにぴかぴかしていた寿という金文字が いつの間にか擦れてはげかかっていた。 仕事も忙しいのだ。順調にすすんでいて、やりがいがある。良いときに子供を授かったのだ。 けれどもふと内から突き動かされて、立ったままくらくらと山田は目を閉じた。 これまでは重要な何かが人生に欠けていたと思った。今までなかったくらいに 大きな覚醒がまもなくやって来るような気がした。
お題が化けてしまった。スマソ。「アルバム」「粒子加速器」「扇子」でした。 次のお題は「キャンディ」「木馬」「ルーブル」でお願いします。
モニターを睨みつづけて、はや三時間。ついに手持ちのキャンディが底をついた。 まずいな―― 高脂血糖を抱える俺にとって、ブドウ糖の枯渇は大問題だ。特に今日のように、大仕手戦が予想される日には。 俺は内ポケットから注射器を取り出し、先を折ったアンプルからインシュリンを吸い上げた。分量は通常の半分。 本来ならまだ注射するべき時ではない。しかし本番になってから、低血糖性貧血で倒れるわけにはいかない。俺は モニターを睨んだまま、左腕の静脈に針を突き立てた。 ゆっくりとピストンを押すと、血管に冷たい感覚が流れる。俺はモニターを眺めつづける。 動いた!俺は注射器を放り出し、つないだままの受話器を引っつかんだ。 「俺だ!売り始めろ、ドルを全部売り払え!買うのは仏フラン、ルーブル、そしてユーロだ!三千万ドル分、買いまくれ!」 俺は受話器を肩にはさみ、転がっている携帯電話の一つに叫んだ。 「俺だ、三分五秒後にトロイの木馬を流せ!そうだ、ワームは流さなくていい!トラップで足をすくうだけで十分だ!」 携帯を放り出し、肩にはさんだ受話器へ叫ぶ。 「俺だ!六時半きっかりにユーロを売れ!それでドルを買え!あ?お前の現地時間で六時半だ!もたもたするなよ!」 二時間にわたり怒鳴りつづけた俺はすっかり疲労困憊し、椅子にもたれて貧血のもたらすだるい暗闇に安らいでいた。 うまくいった。俺たちにはざっと七千万ドルの儲けが転がり込み、トリード・ファーマコムの連中は事業計画の建て直しを 余儀なくされる。万々歳だ。 俺は首の力を抜き、ヘッドレストに頭を預けて、泥沼のような眠りに落ちていった。 つぎのお題は「フライパン」「弾幕」「かぎかっこ」で。
「お星様って美味しいのかな?」 小学一年生の娘が、無邪気な瞳で訊いてきた。 俺は自分の教育方針通り、正直に答えた。 「お父さんも食べた事無いからわかんないな」 娘は俺の答えにも失望せずに、瞳に星を映しながら自由な想像を創造していた。 「そっかぁ。どんな味なんだろうなあ。今度流れ星が落ちてきたら、一緒に食べようね」 「ああ、楽しみだな」 そんなやりとりがあったことを覚えている。 七夕の朝に、娘の短冊を見せてもらった。 『フライパン』いっぱいの「おホシさま」がほしい 覚えたてのかぎかっこが飛び跳ねている短冊だった。 娘の願いを読む限り、どうも「おホシさま」は炒めると美味しいらしい。 そんなことを考えただけだった。 七月七日の夜、空からフライパンが降ってきた。まるで弾幕のように、いっぱい。 月に照らされた夜空に映し出される、黒いフラインパンのシルエット。星のように無数に。 フライパンでいっぱいの星空。 「微妙に間違った日本語で願いを叶えるんじゃねぇ!!」 俺は夜空に向かってそう吠えた。 次は「幸せ」「意外」「私は隠していた」でお願いします。
ひとかけらの幸せを求めて,机の引き出しへと手を伸ばした。 ゴソゴソ・・・ 私は隠していたアーモンドチョコレートを取り出した。 口に一粒ほおばる。 カリッコリコリコリ・・・ 美味しい。チョコレートの甘さに,私の体が少しやすらぐ。 私は事務の仕事をしている。 勤務中はほとんどパソコンの前なので,肩が凝ったり腰も痛くなる。 そんな私を慰めてくれるのがチョコレートだ。 1箱一度に食べたりせず,2・3粒ずつ大事に食べている。 ああ,美味しい。もう一粒っ! ・・・あれ? もうないや。もう一箱あったはず。 私は机の引き出しの中をのぞき込んだ。 すると・・・ 見慣れない箱が・・・ !! これはもしかしてホワイトデーのお返し? きっと,気恥ずかしくて手渡しできなかったTさんがくれたんだ。 それにしても意外だなぁ・・・ あのTさんがお返しのプレゼントくれるなんて・・・。 Tさんはなんとなく近寄り難くて,ほとんど喋ったことがないのだ。 ま,いっか。さっそく開けてみよう。 私は,そのピンク色の包装紙で包まれた小さな箱に手を伸ばした。 これから起こる事など全く予想だにせず・・・ *「サイ」「フッ素コート」「レモネード」でお願いします。
356 :
「サイ」「フッ素コート」「レモネード」 :03/03/24 01:35
フッ素コート用の塗布剤を買ってから、明美はサルのように水回りにフッ素を塗りたくっている。 「だって水を弾くのよ」 それが明美の言いぐさだった。 水を弾くからなんだっていうのが私の意見なのだが、実際手入れが楽になっているようだし、それ以上強くは言えない。 しかし……いずれにしろ、私は何か釈然としないものが残る。 「ほら、何だ……いくら水を弾くからって体によくないだろ」 すると明美はサイのツノのように鼻を高くしするのだ。 「あなた何も知らないのね……フッ素なんかフライパンにも使われてるし、歯磨き粉にも入ってるのよ。フッ素は体にいいんだから」 実際調べてみると普段使っている歯磨き粉にも”フッ素コート!”と書いてあって私は何も言えなくなる。 しかしどう言われても、私には居心地の悪さが残る。 「体にいいわけないだろ?」 すると明美はテレビで勧められたというレモネードがを飲みながら、ふっと鼻で笑うのだ。 「あなた……自分はリベラルだなんて言ってるわりに意外と保守なのね」 「はあ? 政治信条とこれとは関係ないだろ? 体にいいわけはない」 「いいえ保守よ。あなた、リベラルだなんだって結局そんなの格好だけなんでしょ」 「……馬鹿。フッ素なんてものが体にいいわけないんだ。軽薄に過ぎる」 そして私は新聞に顔を埋ずめる。 次は「爪切り」「ゴミ袋」「眼鏡ふき」で。
357 :
「爪切り」「ゴミ袋」「眼鏡ふき」 :03/03/24 17:31
「お父さんのだよ」母はそう言うと、僕の手に小さなゴミ袋を納めた。 僕は、それを見ながら父を思い出していた―― 父は去年の暮れに会社を早期依願退職した。 早期依願退職と言えば聞こえはいいが、 実態は会社のリストラだと母は言っていた。 父は高校卒業以来、生産管理長として地元の繊維工場で働いた。 幼い頃に両親を失くし、身寄りが無かった父は 会社の為に、四十年、働いて、働いて、働いた。 しかし親請けの代替わりに伴う経営見直しの煽りが、父を襲った。 父は、次の職を探さずに、ここ半年は家で静かに過ごしていたらしい。 そして父は突然、多量の睡眠導入剤を飲み――自殺した。 ゴミ袋には、爪切りと、眼鏡ふきが入っていた。 「お父さん、死んだ時、それをぎゅっと強く抱いててね…」 母は優しく微笑んで、僕に言った。少しだけ寂しそうに見えた。 父がなぜそうしたのかわからなかったが、 僕は、父は看取られながら旅立ったのだという気がしていた。 次は「ジャングルジム」「ウオノメ」「みそ汁」で。
358 :
「ジャングルジム」「ウオノメ」「みそ汁」 :03/03/24 22:07
ジャングルジムに上がったのは何十年ぶりだろう? 年相応にガタのきた体を無理に動かし、てっぺんまで登ると夜空にそびえ立ってみる。 都会を夢見て故郷を飛び出し云十年、うだつはあがらないが、それなりに家庭も持った。 気の遠くなるローンを組んで、マイホームも手にいれた。 それが、あの若造が。すかした面して何を抜かしやがる。 「馬鹿野郎、年下のクセしやがって何が『単身赴任しちゃってよ』だ」 どうにも出来ないのは分かっちゃいるのに、叫ばずにはいられなかった。 人気無い公園で、ひとしきり騒いだら少し気分が楽になった。 住宅街の路地を抜け、袋小路に足を向けると、見慣れた我が家がそのにある。 皆、寝てしまったのであろう。窓に灯りは無かった。 ソロリと鍵を開け、物音を立てぬように居間へ進み、外着を脱ぎ捨てると 既に寝息を立てている家内の横に潜り込む。 翌朝、ウオノメがズキズキ痛んだが、朝飯の味噌汁がやけに上手かった。 次は「部長」「殺人」「台風」で
「ぶちょぉぉぉぉぅうぅぅぅ!! すっげぇあらしっすねぇぇぇ!!」 平社員上野は、嵐の中、雨にずぶ濡れになりながらプレハブをロープで縛り付けていた。 「いいからさっさとプレハブを縛れ! 地面の杭にも縛り付けとけよ!」 部長高山も、嵐の風に負けぬように叫び、地面に強く杭を打ち込んでいた。 「いやー、部長! こりゃ我らがセキュリティオフィス創立以来じゃないッスかぁ!? 戦う相手が嵐だなんて!」 「はっ、普段テロリストばっかり相手にしてる若造にゃあな! 俺の若い頃はハリケーンと……ぐぉ!」 突然吹く突風。地面から高山は引きはがされた。 部長! という上野の叫びもむなしく、嵐は高山を風に乗せてさらっていった。 「気にするなぁ!! 上野!! お前は仕事を続けろ!! 俺は必ず生きて帰ってくる!!」 風に吹き飛ばされながら、高山は笑っていた。高々と突き上げた拳は、上野に対する信頼を込めて。 上野は突風に飛ばされないように必死でロープにしがみついた。 頬を伝うはずの涙は、風に流され雨と混ざり、消え去っていく……。 だが、上野は諦めなかった。高山の……あの笑顔に報いるために……諦めるわけには、いかない。 「きやがれ! 嵐ども! 俺は絶対に負けないぜ! このセキュリティオフィスの名にかけて!」 そこで画面はブラックアウト。 表示される『どんなことからも、守って見せますガードマン派遣会社セキュリティオフィス』の文字。 会議室に明かりが灯り、スクリーンの横に立っていた高山部長が、口を開いた。 「……というCMをつくったのですが、どうですか? 社長」 NEXT「乱打」「卵だ」「オランダ」
世界中いたるところに、危険な祭りはある。スペインの牛追い祭、日本は諏訪の御柱祭がその代表格だ。 死人が出ることすら珍しくない。しかし人々は祭りに熱狂し、犠牲者を出しながらも、祭を継承しつづけてきた。 だが、世界にただ一つ、危険性を理由に闇へと葬り去られた祭がある。 それがオランダ・ネイメーヘンの卵祭だ。 起源は十三世紀に遡る。ワールシュタットを滅ぼしたタタールの軍勢を、硫黄泉で茹でた卵を雨あられとぶつけ、 追い払ったという故事にちなみ、この祭は行われていた。乱打するタタールの太鼓の音に乗って騎馬姿のタタール 軍が現れると、ネイメーヘン市民が卵という卵を投げつけ、町から追い払う。 タタールが去ったあと、老若男女が街道に出て、踊りまわる。その中にはタタールを演じた、卵まみれの若者もいる。 ネイメーヘンが救われ、キリスト教世界が救われたことを喜んで踊りまわる。 そういう祭だった。 それが二十世紀、一気に過激化をはじめたのだ。 最初は一九二〇年。手投げ一辺倒だった卵投げ。そこに、機関砲を持ち込んだ輩がいたのだ。逃げる間もなく、タタール 騎馬軍団は壊滅。多数の重軽傷者を出した。これにより、以降の卵祭は泥沼の塹壕戦と化した。タタールは馬の代わりに 張りぼての戦車を駆り、塹壕突破を繰り返した。タタール役は危険と伝統性を理由に復旧を要請したが、市当局は「ネタ」 として取り合わなかった。これ以降、祭は過激化の一途をたどる。 そして祭に決定的な止めを刺したのが、一九七〇年の、ダチョウの卵だ。電子レンジで半茹でにされたダチョウの卵が梯 団を組んだ急降下爆撃機により、タタール陣地へ投下された。卵は随所で大爆発を起こし、死傷者は膨大な数に上った。 ここに至ってオランダ政府はついに行政介入し、卵祭を全面的に禁止した。 世界にあまた、危険な祭はある。しかし危険を理由に、政府から禁止された祭は、ただ一つしかない。 ちょい長い……な。 次のお題は「ねこ缶」「カード」「大ピンチ」で。
361 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/25 21:16
たけちゃんから携帯に電話が来た。 「今ねこ缶食ってるんだけど、俺のカード激弱で大ピンチ! ……あ〜……もし……も……し……?」 電話がそこでプツッと切れた。もし友情ごっこレベルの友達しかいない奴は、 こいつラリってんのか?って感じで、この電話を気にも留めないだろうが、 僕とたけちゃんの友情は琥珀のように光り輝く本物だ。 たけちゃんが僕に何を伝えようとしたのか、親友の僕は突き止めなければならない。 まず「ねこ缶を食っている」 これは恐らく、たけちゃんはあまりに金欠になり、 飼い猫のエサを食わねばならない程に食料事情が逼迫した結果だろうと思われる。 水くさいぞたけちゃん。親友の僕に言ってくれれば、ピスタチオくらいは持っていくのに。 さらに「俺のカード激弱」 これはたぶん、たけちゃんが最近ハマっているという 遊戯王デュエルモンスターズのカードが弱いという事だろう。がんばれたけちゃん。 戦略次第ではウハウハになれるはずだ。 最後に「大ピンチ」 言うまでもなく、カードが弱いから危機に瀕しているのだろう。 頭をひねるんだたけちゃん。軍人将棋は強かったじゃないか。 これらの推理から導き出される結論としては「たけちゃんは大丈夫」だ。 僕はまた何事もなかったように、兄ちゃんのベッドの下のブツを探索する作業に戻った。 翌日、たけちゃんは自宅で変死体となって発見された。口の周りには ねこ缶の食いカスがついていて、手には遊戯王カードを握り締めていたという。 僕の心にはたけちゃんが何者かに殺された悲しみではなく、 たけちゃんが伝言下手だという事に対する苛立ちが沸き起こっていた。 次のお題は「3丁目」「仮面ライダー」「駅前留学」
362 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/25 21:16
×もし友情ごっこレベルの友達しかいない奴は ○友情ごっこレベルの友達しかいない奴は
「ねえねえ,駅前留学NOVAのウサギ。可愛いよねー」 「うんうん。私もすき! 3丁目のおもちゃ屋に,NOVAウサギの ぬいぐるみあったから買っちゃった。 仮面ライダーフィギュアの隣に置いてあったよー」 「えーッ! マジで? 私も買おっと」 えーッ! マジで? 俺も買おっと。 退屈な通勤電車の車内から,ふと聞こえてきた女子高生の会話。 聞き耳を立てていたら素敵な情報をキャッチできた。 俺もNOVAウサギの大ファンなんだ♪ * 次のお題は「保証書」「金魚」「濁点」でお願いします。
↑お題の欄が・・・・・すみませんでした。・゚・(ノД`)・゚・。 ×「幸せ」「意外」「私は隠していた」 〇「3丁目」「仮面ライダー」「駅前留学」です。
「保証書」「金魚」「濁点」 命に保証書はないのよ? よく覚えておいて……。 女は俺にそう言ってドラム缶の影から飛び出て、蜂の巣になった。 自分の体を盾、もしくは囮にして他人を生かす……なんて古い切り抜け方だ。馬鹿女郎。 一瞬の思考の後、俺は女の体の影へ転がり入って敵に向かってナイフを投げた。 空気を切り裂く音。ナイフが、人の骨を砕く濁点混じりの音。そして……人が倒れる音。 悲鳴すらも上げぬうちに敵の男は死んだ。 ぐらりと女の体が、バランスを失って俺に倒れかかってくる。 俺はそれを抱き留めたが、女の体は大量の血で金魚のように赤く染まっていた。 「なぜこんな事をしたんだ?」 「貴方のためなら、こんな事何でもないわよ。私の……屍を、超えていって、私のために……エフ」 フフ、と笑って女は静かに目を閉じた。 薄汚れた白いコンクリートの上にぽたり、ぽたりと水滴が落ちる。 それが俺の涙だったのか、女の血だったのか、見たものはいない。 NEXT「死人」「太陽」「ドイツ」
366 :
「死人」「太陽」「ドイツ」 :03/03/26 01:30
なぞなぞブックには『墓場から蘇り夜歩く死人が弱い物ってな〜に』と書いてある。 それは、俺がまだ小学生だった時に読んでいた、コ□コ□コミックの付録だった。 「太陽に弱いのよ」 それは違う、それはルーマニアの吸血鬼。 しかし、まみ子は思い込みが激しく言い出したら後には引かない性格だ。 「そうそう、ドイツのモンスターの代表格だよね」 俺は喉まで出掛かったその言葉を寸前で引っ込め、話をあわせたる。 「どう? わたしの知識は無限に広がる大宇宙なのよ」 よっぽど何か言ってやろうかと思ったが、言った後の不毛な時間のことを考えて沈黙で通す。 それで少しは機嫌が直ったのだろう、その日は朝まで愛し合うことが出来たのだ。 彼女らしい存在が出来て、初めて自分の実家に連れていった時の話である。 次は「暗号」「高校生」「真犯人」
暗闇の中、大勢の人間が一ヶ所に集まっていた。 号令、という野太い男の声と共に、その叫んだ男の前に集まった人間達の中から、一、二と番号を数える声が聞こえてくる。 高圧的な態度を取る男が大声で叫ぶ。「声が小さい!」 校舎内にもう一度、先程よりも大きな声で番号を数える声が響きわたる。 先生と生徒、彼等の関係を一言で表すならこの言葉が相応しい、先生であろう男が彼等を見渡すと、その視線がある一点で止まった。 真ん中に立つ生徒を指差して叫ぶ。「貴様ぁ、声が小さい! この俺のナニで犯されたいのか、前に出ろ!」 犯される、直々に氏名された生徒はそんな事を考えながら渋々と前に出てきた。 人としての尊厳が失われる場所、学校とは得てしてそのような物なのである。 反則かもしれません、もしそうならスルーして下さい、ちなみにヒントは縦。 反則じゃなかった場合の次のお題です。 「いちご」「考察」「本気」でお願いします。
世の中に俺ほど真剣にいちごについて考えた人間が居るか? いや、いねぇ。 そんなわけで今日は俺のいちごについての考察を並べてみた。 一、可愛らしい形。小振りが良いんだ。でかいのなんて邪道だぜ? 一、愛くるしい色。てれたような、この深紅。たまらねぇよ! 一、本気で掴めば崩れてしまう、この繊細さ。良いね、すっごくイイ。 一、味、匂い……これは語るまでもないだろう。この高貴さときたら……。 なぁ刑事さん、あんたも思うだろう? いちごこそが最高だって。 いちごのいない人生なんて無い方がましだって……なぁ? ヒヒヒ。 『<いちご>の名を持つ女性を対象とした、シリアルキラーの供述より』
「ふと、俺は疑問に思ったのだが」 またか。白井はペンを走らせる手を止めた。南郷が「思った」とき、ろくな話が聞けたためしがない。今回もまた、どんな 馬鹿話を聞かされるのやら。 「いちごの種は、なんで表面にびっしりついてるんだろう」 やはり馬鹿話だった。白井はため息をついた。わざわざ図書館に出向いても、結局は時間の無駄に終わるわけか。 「それは」 「いや待て。先の俺の仮説を述べさせろ。考察するに、あれは飛散効果を狙ったものなのだろう」 「飛散効果だぁ?」 白井は南郷の目をじっと見つめた。本気の目だった。しかし真実を知る白井にとって、それは馬鹿丸出しに過ぎなかった。 「いちごは知ってのとおり、丈が短い。ホウセンカのようにただ弾けるだけで適当に飛ぶ、というだけでは伝播も難しかろう。 そこで弾体である種を小型軽量化し、表面に配置することで、果肉の爆圧を最大限の効率で受けられるように――」 「鳥や虫が喰ってばら撒くのに都合がいいからだろ」 正直付き合っていられないので、白井はさっさと正答を口にした。 「貴様真理を知っているならなんでさっさと教えん!」 南郷が椅子を蹴立てて立ち上がり、憤懣に満ちた咆哮をあげた。途端に集中する非難の視線。白井もセットで対象になっ ていた。 白井は頭を抱えた。 お題は継続で。
「お前って、いちごみたいな女だよな」 そう言われたのが二週間前。で、一方的に別れ話をされたのが今日。 いちごって何。 その時はなんとなく、誉めてくれてるのかなーとか思ってたけど、今になると分からない。 あれって誉め言葉? それとも、暗に不満を漏らしてたの? 目を瞑ると、聞こえてくるのは時計の音だけ。上半身を投げ出したテーブルの、冷たい面に体温が移るのを感じながら。 いちごについて考察してみる。 いちごのいい所ってなんだろ。甘くて美味しい。水気たっぷり。赤いとか? 甘くて美味しくて水気たっぷりの赤い女って何だ。 いちごの悪い所は。ヘタが邪魔。時々すっぱい。赤いとか。 ヘタが邪魔で時々すっぱい赤い女って何だ。それは、頭でっかちで時々口うるさい赤い女ってことか? あー、やっぱ文句言われてたのかなー。凹むなー、本気で凹むなー。 なんてテーブルの上に垂れていると、ぶううううっ、と携帯が震えた。こんな時にも電源切ってないとは、現代人って奴は。 やれやれーと思いながら携帯を覗くと、別れた彼からのメール着信。 おいおい、自分で振った女にその日のうちにメールですか。連絡あるのはわかるけど、もっとデリカーシはないのですか。 まったくしょうの無い社会人ですね。なんて、呆れ顔でピッ。 …………ふむ。 誉め言葉だったらしい。 次は「まさか」「殺すつもりはなかった」「生きてたのか!」
371 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/26 22:15
「お前なんて生きてたってしょうがないじゃん」 博之は少し目を細めて、今まさに自分が握っている命を見つめていた。 ちっぽけで、何の役にも立たない、ありふれた命。 「お前が死んで誰か困る?誰も困らないよな。何事もなかったかのように 続いていくんだよな」 今すぐ息の根を止めてやることもできる。しかしまだ、そうはしない。 ふとよぎったのは、母親の言葉。 ――何やってんの、ほんとにノロマな子だわ 店に出ている時とは全く違った声で。 ――嫌な子。何ジロジロ見てるの?さっさとあっち行きな、役立たず ――ほんと、あんたの目って父親そっくりね。意地汚い目で見ないで! 穢れたものを見る目で。あるいは恐れを含んだ目で。 寒さでかじかんでくる手は、それでもきつく先の尖った傘を握り締める。 「お前はさ、いらないんだよ。誰にも必要とされてない…くそ」 言葉尻が震え、衝動的に傘を振り上げた。ためらいもなく力任せに振り下ろす。 がつんと嫌な衝撃が手から肩にかけて伝わった。 動悸が激しい。顔をあげる事ができない。怒りをぶつけた後に残ったのは やけに酸っぱい後悔だけだった。 「…殺す、つもりはなかったんだ…ごめんな」
372 :
続き(長すぎたごめん) :03/03/26 22:16
のろのろと視線を移す。自分のやってしまった事を見るために。 一匹の爬虫類がピクピクと痙攣していた。凶器により体が二つに引き裂かれて 聴こえない断末魔の悲鳴をあげながら。 嘔吐がふいに喉まで突き上げてきた。目を瞑って耐える。 ゆっくりと傘を引き抜いた。途端。 「生きてたのか!」 まさに瀕死に見えた爬虫類が、するすると動いて草叢の中に逃げていった。 足元に目をくれると、裂かれた体はまだ半分残っており痙攣している。 「は、は…そんなんで逃げたってどうせ死ぬのに…」 傘を固く握り締めていた博之の手から力が抜けた。 あんなちっぽけな、役に立たない、無駄な命。それでも、あんな状態に なりながらも必死に生きようともがいている。馬鹿だ、大馬鹿だ… 「家に、帰ろう」 もう夕日が落ちかけている。母親はいつものように心配もしていないだろう。 それでも、帰る家はあそこだけなんだから。博之は傘を拾って歩き始めた。 小学生の博之にとって、まさか尻尾を切り離して逃げることが通常の 爬虫類がいるなど、考えも及ばぬのだった… 次は「春」「たんぽぽ」「旅立ち」でよろしく〜
373 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/27 11:01
花開き始めたたんぽぽを次々とむしる。すでに折り取られたたんぽぽの茎は、私の両手いっぱいになっていた。 それでも私は、たんぽぽをむしる。これでもまだ足りない。 私の復讐を成し遂げるためには、まだまだ足りない。 春の到来とともに、私の暗黒時代は終わりを告げた。私は東京の大学へ進学する。いじめたやつら、何もしてくれ ない教師、見てみぬ振りをする社会を振り捨て、私は自由へと旅立つのだ。 私はたんぽぽをむしる。心の奥底に凝り固まる闇色の想念を晴らし、完全な旅立ちをなすために。 私はたんぽぽを絞る。茎からしたたる乳白色の液体を小瓶で受け、集める。 数百のたんぽぽから搾り取った、ほんの僅かな液体には、毒がひそんでいる。 アルカイロイド化合物。神経毒。非力な私の、報復の刃。 私はネットを、当てもなくさまよっていた。適当なリンクの果てに、ひとつのサイトを見つけた。 『イチジクとタンポポの樹液には、アルカロイドは含有されていません』 私はそれを見て、涙を流しながら笑い転げた。 その夜、私は小瓶を窓から投げ捨てた。 私は復讐をやめた。泣きながら笑いつづけたら、凝り固まった何かが溶けて流れていった。 私は明日、ここを旅立つ。この町と、今までの自分から旅立つ。 次のお題は「駐車場」「蚊取り線香」「デーモン」で。
375 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/27 22:32
「デーモン、降臨……」 近くのスーパーの駐車場に突如現れた黒い影。 一人の子供がまず気付き、促されて母親が足を止め、やがて人が集まってきた。 俺がつぶやいたのは、先ほど買った蚊取り線香を手に、やはりアースマットに変えてもらおうと 家から徒歩してきた矢先のことだった。 大きな人影のようなものが、車20台ほどのスペースを持つ駐車場全体を覆っている。 「蜃気楼か何かじゃないのか?」 そう言って、さっさと車を出してしまう人もいる。 「蜃気楼なんかじゃない」 俺は思った。何かの『力』が降りてきたのだ。神とか悪魔という言葉を使いたくはない。 見る者によっては、ただの模様にしか見えないかもしれないのだ。 しかし、俺には見える。強い意志のようなものを感じてしまう。 「でも、なんでこんなところに?」 何の特徴もないスーパーの駐車場。日本中、世界中のどこにでもありそうな空間。 この黒い影に、もしもメッセージのようなものがあるとしたら、もっと特別な場所に 現れた方がいいんじゃないか、などと思ってしまう。 「俺は何をしたらいい……?」 次のお題は「オー人事」「乾電池」「マンガ」で。
376 :
弧高の鬼才 ◆W7fyJoqOQ. :03/03/27 23:19
悠作は乾電池を太陽の光にかざしていた。 春爛漫のこの公園のやけに錆びついたベンチに座って なにやら珍しいものでも発見したかのように。 「つかえねぇ電池だぜ。しかも今時電池かよ……」 悠作がしみじみ独り言。 「たった1週間しか持たないんだもんな」 悠作は電池を頭上の太陽めがけて投げつけた。 そして、新しい乾電池(単一型2個)を自らの背中に埋めこむ。 シャツを捲し上げちょうど背骨の線を中心に左右1個ずつ電池をはめるのだ。 「やっぱ、彼女ぐらいほしいぜ……」 「やさしく、思いやりで電池を挿入してほしいぜ」 悠作はさんざんブツブツと卑下すると、午後からのコンビニでのバイトを思い出して だるそうに歩いて行く。 「(そういえば、今日、人事異動だかなんかで、新しい店長がやってくるんだった)」 悠作は、そういう環境の変化に対してはとても敏感で、常に3本アンテナ立っている。 「(なんかいきたくねーな…)」 「(でも、電池のためだ。生きてくには電池が必要なんだもんな)」 悠作は目を見開いて何か根拠のない自信で満たされる自分を感じていた。 「(いつか、出世して、無線型の人間になってやる)」 「(電池なんかはめなくてもいいんだ!)」 悠作がバイト先のコンビニの前に立つ。 店内に見知らぬ影を見つける。 「(あいつが、新しい店長か)」 バイト仲間の白石が悠作のことを見つけて外に出てきた。 「よお! 来てるよ店長」 白石はいつものように溌剌と言う。 「どんな感じ? 普通っぽい?」 悠作が不安を隠しつつクソ真面目に聞く。 「いや、なんか漫画っぽい。 漫画のキャラっぽい」
377 :
弧高の鬼才@>>376の続き ◆W7fyJoqOQ. :03/03/27 23:22
「漫画のキャラ?」 「そそ。腕が3本あるんだってさ」 「まじ??」 「うん、そんぐらいの手腕の人なんだってさ」 「んだよ! くだらねえ」 悠作は、緊張から解放されて笑った。 そして、いつものように、半分だるくて半分威勢のいい甲高い声で 「こんにちわ〜〜 おつかれさまっす」と調子よく店内に入っていった。 コンビニが春の新鮮な碧を吸いこむように。 次のお題は 「神」「悪魔」「芸術」で
「オー人事」「乾電池」「マンガ」 「君、メールを開くところまではいったのだが、次はどうすればいいのかね」 裕美子はちらっと手首の時計に目配せする。課長は全く気づかない。 「ですから課長、まず添付ファイルをウィルスチェッカーに通して下さい」 「何? ウィルス付きなのかね? さわったら伝染ったりしないのかね」 「大丈夫です課長。念のためにチェックするだけですから。そこを…そうです」 ダイアログが浮かんできた。タイムゲージがすーっと伸びていく。 「ハイ、OKです。じゃあ、次はそこの乾電池のアイコンを……」 乾電池? とすっとぼけた顔で課長は倉庫に向かって飛んでいってしまった。 裕美子は顔を手で覆う。デートの遅刻は確実だ。彼氏にまた怒られる。 「ハイハイ、持ってきましたよ。乾電池ね」 「違います課長。乾電池というのはこのアイコンのことです」 「あ、そうか、そうか。イヤ、恥ずかしいね。あっはっは」 怒りを抑えて、画面を指で示す。あっという間に問題のファイルは解凍された。 ♪ 燃え上が〜れ 燃え上が〜れ 燃え上が〜れ ガンダム! いい年こいて漫画かよ! 上司に恵まれなかったらオー人事、オー人事。 #偶にはお題なりに書いてみる。 #かぶったのでお題継続「神」「悪魔」「芸術」で。
379 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/28 00:09
「見っろっよ。この俺様の芸術!」 「見たよ。これは何だ?」 「神の絵だ」 「……戦車と戦闘機に見えるんだが」 「この力強さ! 洗練されたフォルム! これぞまさに現代の神だとは思わんか!」 「思わん」 「そうかそうか。で、次はこっちの絵だ。さっきの神の絵と対になってる、悪魔の絵だ」 「……同じ絵に見えるんだがな」 「違う違う。ほれ見ろここを! 部隊の所属を表すエンブレムが違ってるではないかよ!」 「…………」 彼は、なんだか急に悲しくなってきた。思わず相手の肩を掴んだ。 やがてこらえきれずに泣き出してしまった。 面食らっていた彼も、やがて貰い泣きをし始めてしまった。 途端に、さっきまで名画に思えていた自分の作品が、とんでもない駄作になってしまった。 代わりに、慈愛に満ちた聖母のような女を描きたいと、彼は考えていた。 次のお題は「恋人が出来た」「唖然とした」「春だなぁ」でお願いします。
(原意) いいか、貴様!そのぬるく溶けた脳みそに、俺の言葉をしっかり刻んでおけ、このクソ虫! ああ、そうだ。春だ。春だなぁ。繁殖の季節だな。年中発情期とはいえ、人間様も動物だ。 春の陽気でおめでたくなった連中同士、くっついたところで別におかしくなんかない。 しかし、貴様が「恋人が出来た!」なんぞと嬉々として報告に来たところで、祝福してくれるやつなんか、ここには 一人たりとも存在しない! 全くもって、場違いもいいところだ。みろ、この唖然とした顔、顔、顔!これで馬鹿にされているのが分からないよう なら、貴様は愚者の極限だ!脳みそ掘り出して、代わりにオカラでも詰めておけ! とっとと帰れ!貴様のようなやつがいていい所ではない! (翻訳) フラグスレ逝け春厨! 以上某板住人より、魂の叫びをお伝えいたしました。 次のお題は「望まない帰還」「ネット予約」「雑巾」で。
望まない帰還……そう、望まない帰還だ。 私は目の前にある雑巾を手にとって悩んでいた。 先日と変わらぬ長年使われたような、しっかりと布に吸い込まれた汚れ。 ものがものなので、あまりイイとはいえないが、手にしっくりと来る。 実はこの雑巾、私がネット通販で買ったものである。 今時ネットで買い物なんてだれでもできる……友人にそういわれたのが始まりだった。 早速HPにアクセスするとあるわあるわ商品の山。 たいして買いたいものもなかった私は、しょうがないので100円台の安いものを買おうと思ったのだ。 そして目にとまった三枚一組高級雑巾……。60人以上がネット予約しているその人気商品に、私は惹かれた。 そう、そしてそれが先日私の家に届いたのだ。 しかし、一目見て私は驚いた……。汚れているじゃないか。なんという商品だ、と。 私は急いで返品した。そして今日、それがまた帰ってきた。 ……仕方がないので、メールで文句を言おう。貴方の所は汚れた布を商品として売り出すのか? と。 翌日。 メールが帰ってきた。 『綺麗な布だったら、雑巾じゃなくって高級布です』 御題は継続。ドラマはケイゾク。
松本の家でいつものようにくだらない話を繰り広げていた時のことだ。 ふと彼の後ろの黄色い物体が目に映った。立ち上がりそれを手に取る。 「望まれた帰還」というタイトルの本だった。 「お、それいいだろ。時間限定のネット予約でようやく手にいれたんだぜ」 パラパラと中身を拾い読みしてみる。つい先日話題になっていた、 カルト宗教の本部のある島に拉致され救われた男の手記だった。 男はそこで幹部になり裕福な暮らしをしていたようだが、やはり家族が 恋しく帰りたかったと記している。「お前もこんなの読むんだな」 「おー、いやな、実は衝撃告白とか宣伝してて話題になってたから プレミアつくかと買っただけなんだ。でもたいして衝撃内容じゃなかったな〜」 松本はそういいながら立ち上がろうとして、体勢を崩した。ぶつかられた俺は 手元のビール缶に引っ掛かる。 「あ〜!何してくれんだこのばか!はよ雑巾でふけ!」 見事にビールが降りかかり、松本のプレミア予定の本はびしょ濡れになっていた。 慌てて彼の脱ぎっぱなしのシャツを雑巾代わりに本を拭く。と、本のタイトルが… 「松本、これ…」「ああ…」 表紙が濡れて「望まない帰還」という赤い文字の別のタイトルが浮かび上がってきていた。 テレビの画像を思い出す。救い出されたにも関わらず憔悴しきった顔を していた、拉致時40才の無職の男。彼にとっては現実と違う世界でも また天国だったのかもしれない。 あくまでフィクションsage 次のお題は「天国と地獄」「煙草」「純白」
天国と地獄は、昔から運動会の定番だ。曲を聴くだけで、アドレナリンが全身に満ち渡る感触が走る。 それは四十に近づいた今でも、変わらない。 父兄参加の借り物競争。この齢になって運動会もないものだが、娘の期待には応えてやりたい、というのは 男親の意地でもある。 スタート!私は必死に走った。すぐ隣を、新藤さんのお父さんが親の敵でも見つけたような顔で追いすがる。パパ頑張って! という声が私たちの背を、これ以上ないくらいの強さで押すのだ。 私は封筒の一つをすくい取った。今のところ、トップらしい。私は走りながら封筒を開けた。 『純白のものを何か』 純白!?何だそれは。私は周囲を見渡した。日傘。駄目だ、ベージュだった。ワンピース!脱がせというのか、論外。 そこで私は、胸に収めたそれに思い当たった。これしかない。私は観客席に寄ることなく、力の限りゴールを目指した。 ゴール!私は胸でテープを切った。他を大きく引き離しての一位だった。 「あの、何も持ってらっしゃらないようなんですが……」 審判の先生に封筒の中身を渡した私は胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけた。立ち上る白い煙。 「これでどうです?」 次のお題は「ビール」「生死」「ベルト」で。
俺が喫煙者だったなら、ここで煙草に火を点けモニタに煙を吹き掛けている所だ。
俺は1年半ぶりに小説のようなものが書きたくなり、久しぶりにこのスレ……いや板に来た。
3語スレや、その感想スレがしっかりと継続している事を喜ぶと同時に、
最後に残されていたお題から物語を作り出せない自分に腹が立った。
しかし白状すると、「天国と地獄」、ちょっと上を見りゃ「望まない帰還」……。
ここって3語スレだよなぁ。それってさ、それで1語なのかよ、
もっとシンプルに逝こうぜベイベ、固有名詞とかも無くなってねぇし。
……そんな事を少々思って脱力したのも事実である。
本来感想スレ、あるいは裏スレ等でぼやけば良い事なのだろうが、
久々にエディタの純白の画面を文字で埋める等という作業をしたくなった為
本スレに書いてみたという訳であり、独り言である。さらっと流して頂きたい。
#お題は
>>383 で継続してください。
「一輝、一旗、一騎、イッキィィィィ!!」 ステージを包む異常なほどの熱気の中、俺は天を仰いだ。 「イッケ、イッケ、イィィッケェ!」 声にならない咆哮。喉は潤いを求めている。 全てを、我が身体の中に押し込めろ。 何処かで本能がうずく。胸を伝う僅かな悪寒。 俺は幾度も喉を鳴らし、それを貪り飲んだ。 それが全て無くなると、あたりの空気を振り払う咆哮あげる。 「いやぁー、部長の一気飲みって本当に凄いッスよね。豪快っつーか、野性味というか……」 宴会場で、平の男が手を叩きつつ、尊敬のまなざしで部長を見た。 「これでも大変なんだぞ? ビール腹のせいでベルトはきついし、この間なんて飲み過ぎて生死の境をさまよい続けたし……」 次の御題は「ヤカン」「野蛮」「トタン」
(368) なるほどと頷けるオチと伏線。上手い。 (369) 自然な流れで馬鹿話が出来ている。どうせならもっとそれらしくて難解な理屈を作り出して欲しかった。 (370)■あいやお恥ずかしい。拙作。いまいちオチが弱い。書き方次第だったと思うんだけどなー。 (371) 博之という名前に目が行く……いやいや。よくある話に蜥蜴だったというオチで一味加えられている。あそこで「帰る家はあそこだけなんだから」という考えに至るのは、ちょっと飛躍があるんじゃないかとは思うが大体の雰囲気は伝わってくる。 (374) いい話だと思うが、前半は「〜る。」なのに、途中から「〜た。」に切り替わって、一瞬時間の切り替わりについていけなかった。まあ読み難いほどではない。 (375) 何を書こうとしているのか読み取れなかった。 (376) 全体的に文章が粗い。『卑下』や『クソ真面目』というのが、台詞と一致していないように感じる。世界観は妙に好かった。 (378) 違うなぁ、あの会社の初期CMはシュールさが良かったんだよ。最近は勢いが衰えたように感じるが。 (379)■拙作。下手すりゃシュールどころか電波ですね。所々表現の使いまわしが陳腐。地の文の結びが「〜た。」のみなのは意識してやってます。 (380) ……深いなぁ……。 (381) いまいちオチに納得できない。雑巾の概念はその用途にあるはずだ! なんて。 (382) ぞっとするものがある。 (383) 借り物じゃないわな。絶対反則だと思うから、オチになってるようでなってないような…… (384) 一応リアルネタだと思って返信。このスレのテンプレは一応「3つの語(句)を示す」となっているので、「(句)」の部分が普及してきたようです。と言うか、常に一つは句を入れてるのは俺ですw 固有名詞は俺も避けるべきだと思ってますけどね。 (385) 勢いの伝わってくる文章。これで最後の部長の台詞がもっと決まったものだったら綺麗に纏まったかと。
ぎゃーーーー! 画面に二つスレ並べてたら誤爆……すみません
容赦のないひと蹴りで、老婆は土間に転げ落ちた。 「どうか、どうか、後生です。そのヤカンだけは。鍋も包丁も軍隊に差し出しました。そのヤカンがなければ、煮炊き もかないません」 老婆に非情な蹴りをくれた男は見たところ十五、六。溜まった鬱憤を他人の正義にかこつけてぶつける、町内でも 指折りの野蛮人だった。 「ふざけるな婆ぁ!南方では兵隊さんがお国のために戦っているというのに、その武器を作らせんとは何事だ!」 ヤカンをしっかとつかむ男はぐい、とおのれの顎をしゃくった。頷いたならず者が何人か、平屋の屋根に登り始めた。 「おう、よく見ればまだ材料があるではないか。軟鉄は大砲の弾にもってこいだ、お国のために差し出せ」 屋根がみりり、と軋んだ。トタン葺きの屋根板を、登った男たちがはがし始めたのだ。 煙のように舞い散る漆喰の雨にまみれ、涙を流すことも忘れた老婆はただ跪き、繰り返し繰り返しつぶやくことしか 出来なかった。 「鬼じゃ、お前様方は鬼じゃ……」 「そうとも、俺らは護国の鬼よ!」 嘯いた男は、もうひと蹴りを老婆にくれた。 次のお題は「重金属」「呪詛」「交響楽」で。
389 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/03/29 23:15
「重金属」「呪詛」「交響楽」 戦車は、夜を徹して砂漠の中を進み続けた。 重金属特有の軋みのその中に、参謀長と長官の声が聞こえる。 「問題が一つある。敵国の一体誰が、降伏を宣言するのか?」 苛立つ長官に比べ、参謀長は余裕綽綽だった。 「君。敵はまさに戦前のニッポンそっくりじゃ。今度もきっとうまくいく」 長官は折れなかった。 「日本には、天皇がいて、玉音放送というものがあった。敵にはそれがない! どうするのだ?敵の独裁者も、引き際がなく困っている・・・」 「そう、今度の敵にはテンノーにあたるものがない」 長官の呪詛を受け流し、参謀はにんまりと笑った。 「心配はいらない、手はうってある」 翌朝。いつもの聖典朗読が流れ、国民は地に伏して祈りを捧げた。 スピーカーから流れる聖典は、国民には交響楽同様の至高のものだった。 「神は偉大なり、神は偉大なり、神は偉大なり」 いつもの祈りの後、参謀の秘策の放送介入が始まった。 「我は神なり。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、ここに我が国は・・・」 ※ほんの冗談ですので・・・(^^; 次のお題は:「紙」「水」「大丈夫」でお願いします。
390 :
まげ ◆aSKeZg2Qb. :03/03/30 00:32
やぁよく来たね其の冷えた水でも飲んでイスにで座っててくれ。 で、今日はどうしたのかい。君の事だから勉強の話か何かの類だろうとはおもうが。 なになに『最近他人の視線が気になって仕方ない』だって、何か後ろめたい事でもしてるのかい まさかとは思うが法に触れる事をしてるなんて……冗談だよまぁそう怒った顔をしなさんな。 視線ねぇ、服装もキチンとしているし顔だって可笑しげな物でも無いからさほど気にする事も無いと 思うがなぁ……『それでも気になる』って言われもこれまた困ったもんだ。 それじゃぁこうしよう、今から私が紙に絵を描くから君は何が描かれているか答えてくれ。 そら出来たぞ、何に見えるかい深く考えないで答えてみなさい。 『点ですか』だって?君には点に見えるかいこの黒ゴマが、あぁ私の傑作黒ゴマが単なる点と同様なのか。 小さいから判断出来ないなんて言っても無駄だぞ私の中ではこれは完全な黒ゴマだ。 何だって『それは先生の勝手』だと……その通り、其の通りなのだよ。 視覚のみのデータなぞあてにならないのだよ、其のかってきままな物に振り回されてちゃ大変だろ。 かと言ってだらしない格好をしても良いとは言わんがな。 大丈夫君は十分他人を不快にさせない格好をしてるよ、さぁ自信を持っていきたまえ。 それと最後に、君の心中の女性と上手く行くといいな。 何で解ったのかって?そりゃ私が君の顔色を見て勝手きままに判断しただけさ。 次の御題は「金」「風」「石」でお願いします。
何かに掴まっていなければ吹き飛ばされそうな、強い風が辺りの岩肌に吹き付けビョウと不気味な音を立てる。 切り通しの両脇に居並ぶ朽ちかけた石柱も、迫り来る暴風雨に怯えギシギシと軋み身を捩っているようだ。 「いっぺん、麓まじ戻った方がよかじゃなかですか?」 嵐の中、私の声がこの老人に届いたのかどうか分からない。件の人はというと手に持つ合鍵に懐中電灯をあて、 我々と漆黒に覆われた空虚の向こうとを隔てる頑丈な鉄格子を必死に開けようともがいていた。 「警部どん、こん嵐ん中を戻っとは自殺行為じゃ。心配なさらんでも、穴ん中は安全じゃど。 なんせ大戦の時な、米軍の爆撃でも耐えよったとですけ」 私には、この何年も前に廃坑となった金採掘坑が、老人の言う程に安全であるとは思えなかった。 しかし同時に、老人の言うように麓に戻るのが自殺行為であることも分かっている。 選択の余地は無い。 「そんげするしか無かでしょなあ」 私はそう返し、老人の後に続いてじめとした廃坑へと飛び込んだ。 次は「模倣」「情熱」「ドッペルゲンガー」
私は模倣師だ。名前なんて無い。 小さな頃親と一緒に見た、ダリの名画。それが私の一番古い記憶。 どこで見たのか、どうして見たのかはいっさい覚えてないくせにその絵はくっきりと記憶に残っていた。 幼いときから、私は他人の絵をひたすら描き続けた。 女手一つで私を育ててくれた母は、私が毎日何の絵を描いているかに特に興味を示さず、そのまま私が大人になる頃死んだ。 父は私が幼かった頃から、刑務所に入っていて、私は父の顔を覚えていない。 母が死んで、私の模倣は趣味から職業となった。ただひたすら描いて描いて、人生の情熱という情熱を、全て模倣に注ぎ込んだ。 そんな私の手に、手錠がかかる日が来た。 今まで散々人の絵を真似して金を稼いだ。特に罪の意識を感じた訳ではないが、刑務所に入ることに不満はなかった。 そして……私は裁判の前夜、留置所の堅いベッドの上に寝そべっていたとき全てを思い出した。 私の父も模倣師だったと。私が見たダリの名画は、父が仕事場に持ち込んでいたものだったのだ。 私は気が付くと泣いていた。私が絵を描いていた理由はこれだったのか。顔もしらない父にすがりついていたのか。 無様で、情けなくって、涙が止めどなく流れた。 どうやら私は気が付かぬうちに、自分まで模倣画にしていたらしい。 それも顔も知らない父の、影絵のようなドッペルゲンガーとして……。 うまくかけないなぁ。次は「多重人格」「トキシン」「デトロイト」
「もうあいつには我慢できない」 「そんなこと言うもんじゃない。どうせ奴とは腐れ縁なんだ」 「いいや、今日こそ終わりにしてやる。これをみろ」 彼は机の引き出しからナイフを出してさやから引き抜いた。 毒でも焼きこんだのか、その刀身の色は元の金属とは明らかに異なっている。 「パリトキシンだ。これで奴を殺してやる」 たずねると彼は片頬をつり上げて答えた。ひどく興奮しているらしく、全身が震えている。 手製の凶刃は窓越しに見えるデトロイトの灯を反射してちらちらと光った。 私は、なおもなにか呟いている彼を止めようとしたが、逆効果だったようだ。 奴が来ると思ったのか、彼は奇声をあげて自分の喉を突いた。 彼のあげた甲高い嘲笑はすぐに途切れ、倒れこむ私は思考する。 多重人格者の一人格が他の人格を殺す事は自殺にあたるのだろうかと。 次は「喫茶」、「ベルト」、「水たまり」でお願いします。
「喫茶」「ベルト」「水たまり」 また死に損ねた。失敗したのはこれで何度目だ?鴨居に掛けたベルトが切れた。 今頃は部屋の中でぶら下がっている筈だった。両手をだらんと伸ばして、白目を剥いて、 だらしない半開きの口から舌と涎を垂らして、畳みにクソとションベンが染み込んで。 煌煌と明りが灯った部屋の中でぶらんぶらんとしている筈だった。 ぶらんぶらんとしながらあいつ等を笑ってやる筈だった。 あいつ等から逃げるにはこれしかないんだ。 寝れない、眠れない。睡眠薬を何錠飲んでも目が冴える。あいつ等がぶんぶん飛び回るんだ。きゃっきゃっと笑うんだ。 俺の項を撫で、耳の穴に人差し指を突っ込むんだ。必死に瞼を閉じても、あいつ等は俺の瞼をこじ開ける。僅かに開いた俺の目を覗き込んで指をさして笑うんだ。 窓の外は今にも降り出しそうな空模様だ。二時間前に入った喫茶店。手付かずのコーヒーは冷め切っている。 ぽつりぽつりと降り出した。雨粒が窓に当たる。あっと言う間に雨脚が強まり水溜りが出来る。 ぴちょん、ぴちょん。ぴちょん。ああ、あいつ等だ。水溜りに跳ねている。 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん。窓の雨滴もあいつ等だ。街はあいつ等で一杯だ。 歯を剥き出し、真っ赤な舌をびらびらさせながら、虚ろな瞳で俺を見ている。 店を飛び出した。あいつ等が、髪に、肩に、背中に貼り付き飛び跳ねる。 あいつ等の笑い声の後に聞こえたのは、けたたましいトラックのクラクションだった。 次のお題は「夜桜」「ぺんぎん」「麦焼酎」でお願い致します。
395 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/31 20:10
今日もスナック「ぺんぎん」は人が賑わっている。寂れた場所で、馬鹿高い値の 酒を出すにも関わらずだ。なけなしの万札を握り締めて、今夜もやって来る私が 人の事を言えた義理ではないが。安い麦焼酎しか、頼めないというのに。 私がまだ教師として私立の高校に勤務していた頃のこと。 「松本さくら」は変わった生徒だった。成績も良く問題も起こさない。我々 教師にとって扱いやすい分類に属するはずが、なぜか彼女は多くの教師から 避けられる存在だった。経験の浅い私には、友人が少ないが美しくもの静かな 生徒というイメージしかなかったのだが。だから彼女の担当から進路指導を 半ば押し付けられた形になった時も、特に異議は唱えなかった。 しかしいざ進路指導室で二人きりになると、耐えがたい沈黙がなだれ込んできた。 いくら質問しても、彼女はわからないと通した。茫洋と窓の外を眺めて、私はまるで この場にいないかのように。私も次第に言葉に窮してきた。ふと彼女の視線を 追ってみると、咲き始めた桜が誇らしげに窓の向こうに映っていた。「もう春か。綺麗だな」 同じ名を持つ彼女に、そのとき私はおべっかを使うような卑屈な気持で話しかけてみた。 「わかってないのね、先生」反応は予想外だった。先程の曖昧な返事ではなく、鮮明に 通るアルトの声が響いた。彼女はゆっくりこちらを振り向く。淫靡な微笑みが口元に刻まれている。 「桜は、夜が一番綺麗なのよ」 ざあっと桜の花びらが吹き込んできた。瞬間、彼女の背後に 夜桜が見える。暗闇で咲き誇る鮮やかなさくら。さくら。さくらの…… カウンターの向こうでさくらは、あの時と同じ妖しげな微笑を私に投げかけている。 無理矢理すぎた。反省。てことで、お題は継続でお願いします。m(_ _)m
396 :
ホルマリン漬けで解剖を待ちわびる死体 :03/03/31 21:55
ぼくはいつもひとりぼっち。友達もいなければ、することもない。お金は遺産がいくらか あるので働く必要もないのだ。毎日の生活は気が遠くなるほど退屈で、このぼろい4畳ア パートの家賃を払い続けることでしか自分の存在を確認できない。時々隣の部屋から聞こ えてくる明るい笑い声さえ、孤独なぼくの胸に突き刺さるような劣等感を刻み込む。 それは先週末のことだ。とても寒い夜で、安い麦焼酎を飲んだぼくはいつもより早く床に ついた。そしてその日、珍しく夢を見たのだ。あどけなく無邪気に笑う少女と並んで歩く ぼく。彼女はぼくが付き合ったことがあるたったひとりの女の子だ。彼女もまたぼくと一 緒で孤独だった。学校では虐められ、両親は離婚し親戚中をたらいまわしにされていた。 その日は暖かい春風が吹いていて、ぼくたちは遠回りをして帰っていたんだ。時計の針は もう9時を指していた。お互い何も話すことなくしばらく歩いていると夜桜が咲き乱れて いる坂道へとたどり着いた。坂道を彩る夜桜は眩しくライトアップされていて、なぜか気 分が高まるのを感じた。電話ボックスの近くのベンチに腰掛けたぼくたち。ぼくは彼女に 聞いてみた。「将来の夢、とかある?」、この唐突な僕の質問に彼女は精一杯の笑顔で答 えたのだ、「ペンギンと握手すること」。 ここで夢は覚めた。驚くほどリアルな夢だ。ぼくの幼い記憶を正確に再現しているのだか ら。そしてこの夢の続きをぼくは知っている。半年後、彼女は死ぬんだ。あの桜が咲いて いた公園の見渡せる学校の屋上から飛び降りて。死ぬ直前の君はあの公園を見たんだよね。 フェンスに手をかけてよじ登りながらでも見たんだよね。結局ぼくは君に何もしてあげれ なかったんだ。君がぼくをどうすることもできなかったように。今にして思えばあの頃の ぼくたちがつかみかけた全ての幸せと呼べるものがかりそめの幻想にすぎなかったんだね。 散らかったこの狭苦しい部屋で腐れきっているぼく。君がダメになったぼくを見たら笑う だろうね。そしてその後、優しく抱きしめてくれるよね。 君はどうして死んじゃったの・・・ 次の御題は「アルバム」「制服」「プロペラ」でお願いします。
397 :
名無し物書き@推敲中? :03/03/31 22:24
「ママ、お代わり頂戴。麦焼酎をロックで。」 俺は何10杯目かの酒をあおった。 完全な敗北だった。俺は派閥争いに敗れたのだ。 これから定年を迎える日まで、哀れな負け組みとしての道を歩むのだ。 「くぅ〜ん。」 突然耳元に息を感じ、俺は顔をあげた。 きらきらとした大きな瞳がふたつ、俺を見上げている。 「私の新しい彼氏よ。クゥっていうの。頭もいいのよ。誰かが落ち込んでると、こうして慰めてくれるの。」 ママはいとおしそうに、そいつの頭をなぜた。 最近流行りの愛玩動物だ。元々は1メートル以上もある大型動物だったのだが、 品種改良で、20センチほどの大きさにする事に成功したらしい。 俺は切なそうに俺に鼻を寄せてきたクゥの頭をなでてやった。 暖かい。 他者とのふれあいなどまったく望まずに生きてきた。 夢を叶えるのに恋人や友人など邪魔なだけだと、多くの者たちを傷付けてきた。 そんな俺でも、クゥは、こうして慰めようとしてくれている。 不意に涙が流れた。 「そろそろお店閉めるわ。帰りに夜桜でも見ていかない?」 ママはハンカチを取り出すと、俺の涙を静かにぬぐってくれた。 「これからは、ゆっくり生きていけばいいじゃない。」 俺は子供に戻ったかのように、しゃくりあげていた。 かつてあれだけの繁栄を誇った人間種でさえ、いまや俺達ぺんぎんの愛玩動物なのだ。 これからは俺も他のぺんぎん達を癒せる存在になろう、クゥの頭を撫ぜながら、俺はそう考えていた。 う〜、やっぱり先をこされてましたか・・・。 今回初めて文章を書く事に挑戦したんですが、難しいですね〜。 これだけの文章を書くのに、2時間近くかかってしまいました。 大変ずうずうしいのですが、発表だけさせて頂ければ・・・と思い、書き込んでしまいました。 ルール違反、ゴメンナサイ。
398 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/01 00:01
「写真に心が乗り移るなんてことあるかなあ?」 「さあ……」 卒業式を間近に控えた高校三年生の春、久しぶりに会った友人に聞いてみた。 「優実はいいよね。進路決まってるし。こういう写真のことにも夢中になれて。 私なんか、浪人だよ」 私はデパートに就職することが決まっている。恵子の言うように、とりあえずは 安心できる環境にいるから、写真に気を取られていられるのかもしれない。だけど、 ずっと探してきた人なのだ。 中学二年生の春、帰り道のごみ捨て場に捨てられていた卒業アルバム。制服がきれいな 高校というぐらいにしか思っていなかったのが、このときから憧れの高校となった。 文化祭を撮った写真の片隅に写る人。ひと目で心を打たれた。この人に会ってみたくて、 入学した。 「写真に写っているのが高一のころで、私達が入学した時点では高三だったんでしょ。 だったら、会えたと思うんだけどなあ」 「うん」 彼はどこにもいなかった。一年間、探し続けて見つからなくて、部活の先輩に聞いても 見たけれど、わからなかった。もしかしたら、年数を間違えていて、もう卒業しているの かもしれないとも思ったけれど、やはりはっきりしなかった。 「優実は、この高校に入ってよかった?」 「え、うん……」 恵子が突然聞いてきた。 「私は、まあまあかな。一生懸命になれるものが、あまりなかったしね」 私が大事そうにこの卒業アルバムを抱えているのを見て恵子が言う。 「女は結婚しちゃえば、みんな同じなのかなあ。だったら、大学なんて行っても、 意味がないのかなあ」 「そんなことはないよ……」 「いつか、その彼が見つかるといいね」 結局、彼は見つからなかった。 今も大事に、この卒業アルバムと私達の卒業アルバムが、プロペラのように 重ねてしまってある。 次のお題は「青」「点」「生活」
399 :
「青」「点」「生活」 :03/04/01 03:03
まだ僕が恋という気持ちを知っていた頃、空色の空なんかじゃない文字どおりの 青空、鉱物標本の瑠璃よりアクリル絵の具の青より何より青い空を僕は一度だけ 見て、そしてその景色を誰によりも見せたいと思ったから抱えていた段ボール箱を 全部その場に置いて文芸部の部室に駆け戻り、今日の朝イチで印刷屋に持って 行くことになっている原稿に最後の修正を入れているところだった部長にいいから ちょっとだけ見に来てごらんと言って段ボールを残したままの非常階段の踊り場に 戻ると、最後まで残っていた星がもう見えなくなってしまった東の山ぎわが青くて、 部長が小さな声ですごいと言ったのを僕は聞いた。そして僕らは太陽の光が一つの 小さな点から大きな日輪になって四方の地平と朝の風に揺れる僕の隣で手すりに もたれる女の子の髪とを明るく照らすまでずっと二人空を見ていた。僕は上着の ポケットで幾月も見せられないでいるラブレターを手ずさみながら何か夜明けと ともに消えていくこの青が惜しいねとかそんなことを喋っていた気がする。 卒業してから僕は新しい生活に紛れて部長のことなんて忘れてしまったけれど、 あの時の空の青さは地平線の山を見るたびに思い出されて止まらない。 今急に、もしあの日ずっと昼まで空を見てたら何が見えたのかな、とか思った。 次は「鉱物標本」「段ボール」「非常階段」で。
「鉱物標本」「段ボール」「非常階段」 「何だ、また標本を眺めてるのか」シゲさんは小さな穴を穿った様な目をしばしばさせる。 標本は僕の宝物だ。これだけは手放せない。高校を卒業する時、地学部の後輩が鉱物標本をくれた。 彼女が山河で集めて作ったお手製の標本。ずっと片思いだった。 「今日も寒いなあ」シゲさんは身体を縮こまらせてぶるっと震える。 僕はあかぎれだらけの両手を擦り合わせると、鼻を啜りシゲさんの顔をじっと見詰める。 今年の冬は、ここ数年の暖冬が嘘の様に毎日吹雪きだ。 僕達が吐き出す息は、視界が曇るほど真っ白だ。身体は垢と土埃で真っ黒。通り過ぎる人々が顔を顰めるすえた臭い。 皮肉にもこんな僕達でさえ、吐く息だけは真っ白だ。 新都心に聳えるインテリジェンスビルの非常階段の下に段ボールハウスはある。 冬が来る度に仲間が数人凍死する。それでも不況のせいか頭数だけは減る事がない。 「ああ、酒が飲みてえなあ」シゲさんはごわごわに固まった白髪だらけの髪をかき上げようとした。 でも、固まった髪はぴくりとも動かない。 シゲさんの呼吸が段々弱くなって行く。目脂がこびり付いた目尻から涙がこぼれる。 今朝、気付いた時には既にシゲさんは虫の息だった。 「……酒が飲みてえ」シゲさんは呟いた。僕は標本を見ると、決心して駆け出した。僕等相手の酒屋を目指す。 「みっちゃんゴメンね。シゲさんのためなんだ」心の中で思い出の中の彼女に侘びる。 僕の手には、標本から取り出したオパールがしっかりと握られていた。 次のお題は『蛍光灯』『秒針』『湿布』でお願い致します。
401 :
「蛍光灯」「秒針」「湿布」 :03/04/01 13:38
朝から頭が痛くてさぁ。窓のカーテンも開けないで、蛍光灯付けっ放しなのよ。 んでよう。こんな日は部屋の掃除だって思って、本棚とかはたいたら埃がモウモウ、もう大変。 これはイカンって窓開けてさ。ほこりだそうと思って。そしたら前のネーちゃんも 休みだったみてぇで。目が合っちゃって。都会の住宅街って狭めぇわな。 こっちはスパイダーマンのTシャツに、幸いにもトランクスだったけど、 脛毛丸出しでナマッチロイ肌晒して、埃掃き出したいから、昔買って持ってる 川崎ヴェルディのバスタオル、11番のヤツ、向こうに向かってオイデオイデみたいに バタつかせて、何処の国の呪術師だって。ネーちゃん睨んでやがんの。閉めねーの、窓。 向かいの窓から見りゃマイルドに変質者だな。 首に湿布してさぁ。肩こりもひでー。 あ、昼の一時だよ、もう。33分。秒針が、15,16,17,18,19、・・ {このスレがまだ続いていた事を発見。コレ、好きだったんだよね。記念カキコ。} 次のお題は『祝賀』『追憶』『陽光』でお願い致します。
402 :
祝賀・追憶・陽光 :03/04/01 20:28
父の経営する喫茶店で、所属先決定の祝賀会は開催された。勿論大人以外 アルコール類は禁止だったけれど、みんなは彼の前途に希望を見出し、喜びに酔いしれて 騒ぎ続けていた。白々とした朝日が差し込んできた頃、まだ元気にはしゃぐ集団を 抜け出し私はここまでやってきた。 河原に聳え立つ石橋のおおきな麓。ここであの日、私は大声をあげて泣いた。 始発もまだの時間のため、今はとても静か。そっと冷たい石に手を触れてみる。 目を閉じる。いつでも思い出すことができる、彼の姿。こんなに穏やかな気持で 彼を追憶できるようになるなんて、あの時は思わなかった。 いつのまにか、彼が横まで来ていた。あの日いなくなった彼と、同じ血を 分け同じ顔をした彼。私達は見つめあう。彼の表情からは何も窺い知ること はできない。ゆっくりと差し出された手に、私はそっと手を繋いだ。 その手は降り注ぐ陽光のように暖かくて、私は思わず微笑んで言った。 「帰ろう、たっちゃん……」 次のお題は『掲示板』『クリーム』『羽毛』でお願い島。
俺は郊外型量販店を飛び出した。ここじゃ駄目だ。ここのじゃ、眠れない。 俺は木綿布団を探していた。しかしどこを探しても、羽毛、羽毛、羽毛。木綿の布団なんか、影も形もなかった。 俺は羽毛布団では眠れない。ずっしりとした質感、包み込んでくれるという実在感、掛け布団から敷布団へ、 そして座布団にまでなる重宝さ。特に羽毛布団の、首元がすうすうする感覚が、俺には耐えられないのだ。 量販店という量販店を回った。 市役所の掲示板で、『譲ります』の張り紙を、穴が開くほど見つめた。 数々の無駄足を踏み、俺はついに、その店を見つけた。 そこは木造の、地震一つで倒壊してしまいそうな古びた店舗だった。 俺はその光景を忘れないだろう。 純白の木綿が、陽光を浴びてクリーム色に輝くさまを。 俺の頬を、涙が伝っていた。 「三万二千円になります」 「高っ!!」 次のお題は「ピーナッツ」「空き缶」「ファンヒーター」で。
404 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/02 21:47
四畳半の俺の部屋の中央に、武田は大の字でぶっ倒れている。 まだ夜明けには遠いが、ようやく酔っ払いから解放された安心感からか 無性に煙草が吸いたくなった。転がっているビールの空き缶から潰れていない ものを選んで足元に立て煙草に火をつける。煙を吸い込んで、一息に吐き出すと 落ち着いた気分になってきた。そういや、酒どころか飯も食ってねえや。 転がっているピーナッツをつまんで口に含む。武田は柿ピーが好きと言いつつ いつも必ずピーナッツを残す。わがままな奴なのだ。 武田が泣きながら訪ねて来たのはもう10時間も前のことだ。恋人に振られたらしい。 それくらいで大の男がみっともない、とからかったのがいけなかった。 泣くわ喚くわの大騒ぎを繰り広げたあげく、彼女を殺して俺も死ぬと言い出した。 それはさすがになあ……俺は溜息をついた。宥めようとしたが言うことを きかない。我が家唯一の暖房器具のガスファンヒーターを振り上げて、 まるで駄々っ子だのようだった。しょうがないよなあ。 そりゃあ、お前に秘密で彼女と会ってたのは悪かったさ。でもな、彼女がお前と別れる とか言い出した時、一応止めたんだよ?このままでいいじゃないかって。 本気じゃなかったし。でもお前と同じで聞き分けの悪い奴なんだよなあ、彼女。 まあそんなことはいいさ。どうでもいいことだ。俺がどうしても許せなかったのは、 お前の振り上げたファンヒータの先に俺の命より大事な美紀ちゃんがいたことだ。 シャツの裾で手を擦ってから、丁重に箪笥の上の女性フィギュアの頭をなでる。 「なあ、美紀ちゃん。しょうがないよな」 美紀ちゃんが、頭から血を流して横たわっている武田の方を見ているように 感じて、俺は少し妬けた。 次のお題は『エイプリルフール』『小雨』『時計』でお願いします。
405 :
「ピーナッツ」「空き缶」「ファンヒーター」 :03/04/02 22:03
高校時代、学校のストーブを使ってボンカレーを温めている女子を見たことがある。 いや、ククレカレーだったかもしれないが、昼休みにポップコーンを作っているところも目撃した。 男子陣がウォークマンの充電を隠れて行い、その度胸に賞賛を送っていた自分も含めて、彼女の行為は 斬新過ぎるものだった。 学校の昼食で、パンにピーナッツバターを塗って食べる姿が注目されるようなことが過去には あったかもしれない。金持ち君が捨てた空き缶を拾って持ち帰るクラスメートがいた時代があった かもしれない。 だから、現在では、彼女のような姿も日常的に見かけるのだろうか、とも思う。 そんな彼女に、ぼくは惚れてしまった。 対抗して、寒い日にはファンヒーターを持ち込んで暖まっていようか、と考えた こともある。 男子よりも女子たちの方が輝いていた高校時代だった。
406 :
『エイプリルフール』『小雨』『時計』 :03/04/02 23:05
ほとんど時計代わりにしか使っていない携帯電話のスケジュール表を開くと、 4月1日の予定は「うそをつく」となっている。暇なものだ。 小雨のぱらつく通勤途上で、どんなうそをつこうかと考えた。 「今日で会社を辞めます」 などと言って、スルーされたら目も当てられない。 好きな女子社員に告白してみようか。自分は冗談を言うんだ、という気持ちが あると、すごく楽に言えそうな気がする。 デスクに着き、メールのチェックをしていると、隣の席のA嬢が出勤してきた。 「おはようございます」 「今日もきれいだね」 「ありがとうございまーす」 と軽くかわされる。 「Aさん、今日は何の日か知ってる?」 「え、ああ」 「今日は、エーベルト……、はドイツの政治家か……。エイプリルフールだね」 「Kさんは、もう誰かにうそをつきました?」 「ついていい?」 「私にですか?」 もしもこの部屋にいるのが、自分と彼女だけだったなら、きっと言っただろう。 しかし、同期のDは、なぜ風邪を引いて休むとかしないのだろう。 「Aちゃん、君のことが好きだよ」 向かいの席に座るDが言った。 「うれしいー」 A嬢がはしゃいでいる。 Dの方を向くと目が合って、おれを見てニヤニヤしている。 首を絞めてやろうかと、半ば本気で思った。 「おれ、帰ろうかな」 「え、ああ。今日も一日、仕事がんばってくださいね!」 ちょっと天然のA嬢が、やはり好きだ。 次のお題は『桜』『超能力』『秀才』
407 :
ホルマリン :03/04/03 00:43
ぼくは最近、卒業アルバムをめくることが多くなった。 忙しく流れていく現実に神経をすり減らすより、「過去の出来事」としていつまでも輝きを 失うことのない思い出に浸っている方が、明るい気分でいられるのだ。 もしかしたら思い出とは理科室の隅に並べられているホルマリン漬けの実験動物みたいなも のなのかもしれない。カエルが庭先でゲコゲコ声を張り上げているうちは注目されないのに、 ビン詰めにされたとたん生徒達が群がってくるのがそのいい例だろう。 正直に言えば、あのころは何とも思わなかった青春の日々が、後々、これほどまでにいとお しく思える日が来るとはぼく自身一度たりとも考えたことがなかった。 超能力と言いスプーンまげはもちろん「オレにはUFOが見える」と真顔で語っていた友達。 定期考査前に猛勉強してテスト直前に余裕を装い、秀才ではなく「おまえ天才やなかと?」と 言われることを夢みていたぼく。 今にして思えば全てが純粋だった。ひとつの目標を目指して、何も考えずがむしゃらになれた のだから。だけどいつからかぼくはその純粋さを失いだしていた。いや、ぼくだけじゃなく、 一緒に青春を謳歌してきたみんなもだ。どうしてかは分からないけど、それが「大人になる」 ということなのだろう。 そして高校の時のアルバムを開いた時、ぼくは懐かしい感覚に襲われた。クラスの集合写真 に、密かに想いを馳せていた女の子を見つけたのだ。おさげ髪が似合うあどけない顔と透き とおった瞳。あの頃の気持ちはこれだけの長い歳月を経ても、朽ちることなく続いていたの だ。ぼくは改めて、もう戻ることのない青春時代の日々に胸が熱くなった。窓の外に咲き乱 れている桜のように、青春とは力強い情熱と気がつかない謙虚さでずっとぼくを見守ってく れていたのだ。 2度目の投稿、だいぶ慣れてきました。 次の御題は「動物園」「風船」「キーホルダー」でお願いします。
「動物園」「風船」「キーホルダー」 「別のを買ってあげる」ママの言葉に見上げると、溢れんばかりの微笑みがアタシを包んだ。 手を離れた風船は、どんどん空にのぼって行く。手を伸ばしても届かない位に高く。 日曜日の動物園は家族の笑顔でいっぱい。でも、一番素敵なのはママの笑顔。 そして一番幸せなのはアタシ。パパがいなくてもアタシはとても幸せ。 ―― 数年後、ママは再婚した。何時の間にか知らないおじちゃんが家にいた。 おじちゃんは、ママと同じ全てを包み込む優しい笑顔をいつも浮かべている。ママが家にいない時以外は。 ママがどこかに出掛けると、おじちゃんは怖い位に引き攣った笑顔になる。 「みいちゃんおいで」おじちゃんがアタシを呼ぶ。甘えた様な子供みたいな声で。 アタシはおじちゃんの言葉に従わざるを得ない。だって酷く打たれるから。 ママはアタシの身体の痣を見ても、悲しそうな顔をしてぎゅって抱き締めるだけ。どうして味方になってくれないの? ああ、おじちゃんが呼んでいる、行かなきゃ。おじちゃんはアタシを裸にすると身体中を舐め回す。 おっぱいや股の間やお尻を舐める。おじちゃんのアレを舐めさせる。ママ、助けてって心の中で叫んでも無駄なのは分かっている。 ――アタシは家を出た。キーホルダーから外した家の合鍵を川に投げ込んだ。 行くあては無いけど、二度と家には戻らない。ふと、あの日の風船を思い出した。 空を見上げると、見えないはずの風船がどんどん空にのぼって行く気がして、何時の間にか涙がこぼれていた。 次のお題は「流れ星」「携帯電話」「ウィスキー」でお願い致します。
409 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/03 14:17
お金が欲しい。お金が欲しい。お金が欲しい。 のりこはそれしか考えられなかった。 酒はやめられない。日々の生活を送るだけで精一杯の毎日。 ウィスキーを水で割らずに飲むのはもう癖になっていた。 携帯電話の引き落としに給料は間に合わなかった。 それでも酒を買わずにいられないのだ。 のりこが流れ星に祈るのはただただ「お金が欲しい」だった。 緊張感 細胞 都会
410 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/03 14:24
歩いても歩いてもその感じはなくならなかった。 つけられている。緊張感が細胞の隅々まで行き渡る。 絶対に悟られてはいけない。彼女に会うまでは絶対に。 まさかこのひとごみで発砲はしないだろうが。 いや、ちがう。あいつらなら逆に都会の 人波に紛れてなにをやらかすか分かったものではない。 とにかくいまはただ歩くしかない。たちどまらないことだ。
411 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/03 16:10
まだ3月だというのに、歩いているだけで汗が出る。 他の街とは違う喧騒。明らかに自分より年下の、キャッチの男の子が 近寄ってくるだけで、毛穴が、細胞が、全身がざわざわする。 他の街では感じない緊張感。 「新宿」。東京という都会の中で、ここはどうしてこうも特殊なんだろう。 癒し 甘味 アイライン
412 :
癒し 甘味 アイライン :03/04/03 22:23
アイラインを深く引くのは好きじゃ無かった。 最初はそんな、ほんの当て付けのつもりで始めたことだった。 なのに、まるで癒しを求めているかのように私はソレにのめり込み、 いつしか身動きが取れなくなっていた。 どんなに上手く立ち回り、屋上屋を積み重ねるようにもがいても、 やがて終幕は訪れる。 最後の時、なぜだか死んだ婆ちゃんの言葉を思い出した。 「甘味ばかりじゃあ餡子は出来ねぇ、塩っけが大事じゃけんの」 大事な事は、いつも終わったあとに気づくものだ。 次は「無邪気」「不眠症」「自己顕示欲」で
413 :
「無邪気」「不眠症」「自己顕示欲」 :03/04/04 00:16
現代社会の経済効率をさらに高めようとするならば、眠らなくても 平気な薬、または、一時間寝ただけで十時間分の睡眠効果がある カプセルベッドのようなものの発明が待たれるだろうか。 眠らなくても済むならば、すなわち不眠症もなくなる。人間の能力を 極限まで追求した場合、無邪気さや自己顕示欲は不必要なものとなるだろうか。 人は何のために生きるのか? 自己の能力を高め、それをよりよく生かせる環境にいられることは、 一つの幸せだと私は思う。 この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。しかし、何かの道に 秀でた人には、ただそれが好きだから、という人が多い。 経済優先社会は、個人個人の想いを相殺する。 人は何のために生きるのか? できれば、いつまでも夢を見ていたい。 次は「闇」「地図」「火」
息を吸い込み、それと比例して目を見開く。 なんてことだろう。 なんてものだろう。 子供の頃から夢みていた。 信じていた。 いつか、こんな日がくると。 いつからかは知らない。 世界は暗くて、いつも灯火を必要としていた。 毎日毎日、油の匂いと蝋の垂れる時を見ていた。 海は黒くて、ソラは灰色で。 雨はいつも、闇を垂らすだけだった。 手に入れたものを、蝋燭の火の上にかざした。 地図が燃えないように気遣いながら、その紙面を見つめる。 暗闇の中炎の上、浮かび上がる地図。 ミズイロが、やっと見れるかもしれないと、思った。 次は「水」「空」「人」
415 :
「闇」「地図」「火」 :03/04/04 00:52
のしかかるような闇の中で眺める地図は、ジッポの炎の揺らめきもあいまってより不吉に見えた。 嵌められた。 それだけが事実だ。この地図には大事な物は何も載ってない。載ってないだけならまだマシだ。嘘だらけだなのだ。 「全く・・・」 男は呟いた。 「全く俺らしいじゃないか。薄っぺらな嘘だらけで生きてきた。自分自身さえ騙せるほどにな。そして最期も嘘ってわけだ・・・。全く・・・」 俺らしいよな、という言葉を男は飲み込んだ。 誰に見られているわけではないが、そっちの方が絵になると思ったからだ。或いは、最期まで偽りの仮面をかぶりたかったのかもしれない。皮肉な気分を演出することで、心の不安を隠したかったのだ。 古びたシガーケースから、ニッポンという東洋の国で作られた煙草を取り出す男は昔見た映画の俳優を意識しながら火を付けた。 いかにも不味そうに、ゆっくりと吸い込み、ついでに地図にも火を付ける。 燃え上がる地図と共に不運も燃え去ってしまえばいい。 嘘でもいい。 嘘でもいいから、男は助かりたかった。 次は「ローテーブル」「七輪」「地球儀」
416 :
「水」「空」「人」 :03/04/04 01:18
不安な夢を見て目が覚めた。どんな夢かは覚えていない。Tシャツがじっとりと濡れて肌に張り付いていた。不快だった。 乱雑に物が置かれた机の上から、白く曇ったグラスを取り上げ水を注いで飲み干した。ぬるい水が喉の奥に落ち込む感触は不快だった。 隣の部屋から人の話し声がする。昼間、人が少ないこのアパートではそれはやけに響いた。テレビを見ているらしい。突然、男の笑い声が響いた。爆発的でしかも甲高い笑い声は、最悪に不快だった。 室内の淀んだ空気は、どこか懐かしい、しかし不健康な匂いがした。俺は窓を開けた。湿気た、べとついた風が入ってきた。不快だった。 空には灰色の雲がたれ込め、いつ雨が降ってもおかしくなかったが、多分どっちつかずのままダラダラといくだろう。そして夜半、気温が下がれば雨が降るだろう。 それは快適に違いない。 それは快適に違いない。 今度こそ「ローテーブル」「七輪」「地球儀」
417 :
ホルマリン :03/04/04 01:27
ルール違反ですが公開します、ごめんなさい。
>>416 を引き継いで御題は「ローテーブル」「七輪」「地球儀」でお願いします。
ぼくの部屋の押入れには、古い望遠鏡がある。今はもうほこりをかぶっているが、
昔はそれで毎日のように星を眺めていた。ぼくの育った街は、見渡す限りが田園風景
という想像を絶するような田舎だったので空気も澄んでおり、天体観測にはもって
こいの環境だった。
あれは確か、中学2年のころだったと記憶している。友達数人と一緒に天体観測会を
したのだ。名目上は天体観測だが、実際はただ夜の街に出たかっただけ。あの頃は
夜の街を友達と一緒に歩きさ迷うことが、凄く新鮮に感じられた。自分達が新しい
世界に踏み込む勇者であるかのような錯覚を、闇夜はぼくらに与えてくれたのだ。
望遠鏡を家から持ち出し、友達と交代で運びながら学校へと向かった。そしてプール
そばのグラウンドに望遠鏡を組み立てたのだ。レンズにはぁーと息をしてハンカチで
ふく時には、胸が高鳴った。ドキドキという鼓動が指先にまで響き渡っている気さ
えした。
最初に望遠鏡を覗いたのはタカボーだった。タカボーは理科の時間に作った星座地図
と照らし合わせながら、まもなく東の空に“ふたご座”を見つけ出した。「うわぁー、
ほんて見えとる」タカボーが漏らした声に、みんな「ほんて?」「おいにも見せてさ」
とひとつの望遠鏡を囲みはしゃぎだした。ぼくも必死になってポルックスという一等星
を目印に、肉眼で“ふたご座”を探しつづけた。
あの日、ぼくたちは学校のグランドに浮かぶ星座だった。それぞれの光の強さは違うけ
ど、誰が欠けてもカタチを成す事ができない、そう、まさにぼくたちは星座だったのだ。
だけど今はみんなここにはいない。それぞれの道を目指して歩き始めたのだから。
ストーブの火を消して、カーテンを開けてみる。すると“ふたご座”はあの頃と変わる
ことなく、今でも真冬の空に輝いている。
418 :
名無し物書き@推敲中 :03/04/04 02:25
まとめると
>>417 は「闇」「地図」「火」
今のお題は「ローテーブル」「七輪」「地球儀」ってことでよね?
419 :
ローテーブル 七輪 地球儀 :03/04/04 02:34
職務経歴書を書くのも難しいもので。 二十歳。高校を卒業して二年も経っているのに、パートを三箇所転々としたのみ。 どれも半年以上続いてないってどうよ? そして、空白の時間をつっこまれそうでついつい職務期間を延ばして書いてしまおうかとも思う。 まず、どれも退職理由がだめ。 一つ目は金銭のあらぬ疑いをかけられたため。 二つ目はサボリがばれてクビ。 三つ目は給料安くて辞めた。 ……どうする。 とりあえず書けるものからと、職安からもらった書類に目を通す。 ある職場から送られたもので、職場に対する希望とか自分の性格とかの質問表。 基本的に○×形式なので取り掛かってみると、所々つまづいたものの簡単だった。 最期のページは、自分の性格に当てはまるものに○をつけよ、というものだった。 78、思いついたらすぐ行動に移すほうだ 答えは、中古屋で衝動買いしたローテーブルに置かれている七輪と地球儀が教えてくれる。 万年金欠病の答えもそこにあるのかも。 あたしは迷わず、○をつけた。 次は「魚」「玉」「タオル」で。
すまん、書いてしまったから次は魚玉タオルでよろしくです;
421 :
「魚」「玉」「タオル」 gr ◆iicafiaxus :03/04/04 04:02
「おはよー」「おはよー… ってミキちゃん、その子は?」「あたしの弟、文芸部に興味があるって 言うから連れてきちゃったよ」「おっ、新入生か、狭い部室だが上がってくれ」「し、失礼します…」 「まあコートは脱いで、そのへんに掛けとけばいい」「あたしがやるわ。貸して」「すみません」 「四月と言ってもまだ寒いからな。ほらコタツに入りな」「コタツって言ってもローテーブルに毛布 を掛けただけだけどね」「この部室は毛布や蒲団はたくさんあるからな。で、俺が部長の竹下だけども」 「あ、僕は一年二組の山本コータです」「コータ君。本を読むのは好きかな」「はい… 結構読ん でるほうだと思います」「この子は変なものを読む子でさ」「姉さんっ」「この子はお菓子の原材料名 とか切符の裏の文句とかを用も無いのに熱心に読んだり」「……」「それとか寿司屋の茶碗に書いてある 鮓鮒鮎鮗鮟鮪鮭鮹みたいな魚の名前を読んでたり、果ては七輪の横っちょに貼ってある訳わかんない 文章とか」「ははは、おまえと姉弟だなあ」「あっあたしはそこまで…」「このあいだこのおもちゃの 地球儀を一時間くらい眺めてただろ」「あれはただ、…」「金魚鉢のポンプの玉から泡が出るのを観察 しているかと思ったら、手を突っ込んでいじり始めたこともあったな」「…姉さんは学校でもちょっと 飛んでたんですね…」「いや、俺の前ではかな。 …まあ、これから仲良くやろうぜ」「はい! でも 先輩、このコタツ電気がついてない気がするんですが…」「そうだよ」「はあ、体熱で暖めあう仕組み ですか…」「… コータ君、うちの部では暖めあうはシャレにならないから…」「?」「この辺にある 毛布や蒲団や怪しいタオルやワセリンは全部、部長とミキちゃんがねえ」「…」「バ、バカッ…」
失礼しました。次は「老い」「悔い」「報い」で。
「老い」「悔い」「報い」 「フッ……俺も老いちまったもんだぜ……」 高山は血が流れ出る脇腹を押さえながら、呻くように呟いた。 「ぶ、部長、大丈夫ッスよ。だって部長は強いじゃないですか、死にませんよ。ええ、絶対」 「馬鹿言え、どんな人間だって必ず死ぬ。俺も、お前も、敵も……な」 そう言って懐から片手で取り出したものは、一本の赤い筒。 セキュリティオフィス社員の持つ、自爆用のダイナマイトだった。 「ぶ、部長!? やめてくださいよ、そんな、敵と心中なんて……!!」 「けっ、相変わらず尻の青い野郎だ。いちいちビクビクするな」 悔いの残らないように、木っ端微塵に敵もろとも……。高山の漏らした言葉は、聞き取りにくかったが上野にはしっかりと聞こえた。 取り出されたライター。ジリジリと音を立てて燃える導火線。 「行けよ、上野。ここは俺が片付ける。お前の言ってた、悪人に報いをもたらす正義のヒーロー……俺がなってやるよ」 「高山部長……」 嗚咽混じりの声。上野は涙で滲む視界の中、走り出した。そして高山も、走り出した。 「上野! 生き延びてお前の言う正義を守ってみろ!」 響く爆音、押し寄せる爆炎。上野は爆風に煽られ、床を転がった。だが、その目には確かな意志が宿っている。 「分かりました! 部長! 俺の正義、見ていてください!」 そこで画面はブラックアウト。 表示される『どんなことからも、守って見せますガードマン派遣会社セキュリティオフィス』の文字。 会議室に明かりが灯り、スクリーンの横に立っていた高山部長が、口を開いた。 「……というCMをつくったのですが、どうですか? 社長」 NEXT[三語][タンゴ][頑固]でgo!
「三語」「タンゴ」「頑固」 「ねえ、好きな言葉を三語言ってみて」彼女は僕を見詰めながら小首を傾げた。 ショートボブの髪が柔らかに揺れる。 僕はちょっと考え込んだ。と、言うよりも、きらきらと輝く彼女の鳶色の瞳に見惚れていたのだ。 答えを促す様に、彼女はほんの少しだけテーブルに身を乗り出す。 「先ず一つは'君'」僕はテーブルの上の彼女の手に自分の手を重ねた。カフェの中には軽やかなタンゴが流れている。 彼女は口許に微笑みを浮かべて次の言葉を待っている。 「次は'誰よりも'」出会った頃から、彼女の目を見詰める度に胸が高鳴るのは変わらない。 「'愛してる'?」彼女は悪戯っ子の様に目をくりっと見開くと言った。 僕はくすりと笑い、彼女のおでこを人差し指で軽く突付いた。 二人の間にほんのちょっと沈黙が流れる。 「'頑固者'」僕は自分で言いながら思わず噴出した。彼女は不満そうに唇を尖らせている。 「だって、そんなに綺麗なのに何で……」笑いが止まらなくなった。 「ニューハーフになるよりもオカマのままがいいだなんて」僕は笑いながら、ちらっと彼女を見た。 彼女は青々とした髭剃り跡を撫でながら僕を睨んでいた。 次のお題は「羅針盤」「カフェ」「道路工事」でお願い致します。
425 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/04 13:08
ある日仕事でいつもとは違う街にきた。 午後までに戻ればよかったので正志は少しぶらぶらすることにした。 その街は各駅停車しかとまらない、どちらかというと田舎臭いところだったが、 どこか落ち着く雰囲気をもっていた。正志の会社のあたりの四六時中 道路工事でうるさく誇りっぽいところとは大違いだ。 古いカフェというよりは、喫茶店という名がふさわしい建物。 茶色の木でできた船のハッチをモチーフにしたようなドア。 そのカフェ全体が船をモデルにしたようだった。ウィンドウからは大きな 羅針盤の飾りが見えた。正志は入ってみたくなった。 シマウマ レモン 羽
426 :
「羅針盤」「カフェ」「道路工事」 :03/04/04 16:03
突然ですが、今朝『人生の羅針盤』なるアイテムを手に入れました。 人生という道に迷ったときに語りかけると、正しい方角を優しく指し示してくれるとのことです。 早速、ぼくは、「家を出るときに、右足と左足のどちらから踏み出せばいいか?」 と問い掛けました。 「右足から出るべし」 とのお告げを授かり、その通りに実行すると、友人との待ち合わせをしている カフェへと急ぎました。 言い忘れましたが、この羅針盤を使用し始めてからの人生においては、 うそをついてはいけないそうです。説明書に書いてありました。 「やっと来たな」 十分ほど遅刻してしまいました。一息つくと、友人と同じくアイスコーヒーを注文しました。 「今日は家を出るときに、どっちの足から踏み出した?」 友人がぼくに聞きました。 その問いに一瞬、躊躇した後、 「左足から」 と答えました。 「おれは右足から出て欲しかった」 友人が言います。わけがわかりません。 彼とは昔からの親友です。そもそもこんな問いを発する奴ではありません。 「今日はいい天気だな」 と、話をそらすために言って、窓の外を見ました。 雨が降っていました。 『うそをついてはいけない』 との説明書の一文が頭に浮かびました。 最初の友人への返答はともかくとして、これは不可抗力なのではないでしょうか。 何だか恐ろしくなってきました。彼は羅針盤のことを知っているのでしょうか。 そんなはずはないと思いますが、この世界の仕組みがわからなくなりかけました。 もしかして神? ここで、ふと思いました。
427 :
「羅針盤」「カフェ」「道路工事」つづき :03/04/04 16:04
もしも羅針盤を手に入れるような出来事がなくて彼と会っていたら、 彼は同じようなことを言っただろうか? そして、自分はどう思っただろう? 雨が降る中、道路工事をしている作業員たちがいました。 あの人たちと自分との違いは何だろう。自分はここに座ってコーヒーを飲み、 あの人たちは工事をしているのはなぜだろう? 「ごめん、気分が優れない」 そう言って、店を出ました。 雨の中を足早に駆け抜け、家に着いたら聞いてみるつもりです。 「これからも羅針盤を使用するべきかどうか?」 ぼくは廃棄するつもりですが、どういうお告げがあるか心配です。 シマウマ レモン 羽 でお願いします。
428 :
「シマウマ」「レモン」「羽」 gr ◆iicafiaxus :03/04/04 18:38
「シマウマの模様は、白地に黒の縞々だと思ってるでしょう」 そういえば、いつかあの子が言ってた。いつものように放課後の部室で、薄暗い 蛍光灯に電気ポットのお湯で溶いた徳用の粉末レモンティーの湯気がこもって。 いつも熱いものが苦手なあの子は、僕が飲み終わる頃にならないとコップに手を つけなかった。僕や仲間はいつもそれをからかっては、すねられたものだ。 「黒のほうが目立つからそう見えちゃうけど、ほんとうは黒地に白の縞々なんだって」 時代が変わって新しい生活が始まり、僕は東京へ出て来たけどあの子は地元に 残って、ほかの仲間もそれぞれに遠くの町へ引っ越していって、いつのまにか 電話もしなくなり、メールも来なくなり、気づいたらあの子に会えないことが あたりまえになっていて。昔はたまに会えないんだと思っていたけど、ほんとうは たまたま会えてただけなんだっていうことに気づいて、羽の無い身があまりにも 悔しくて、今でも即席レモンティーの匂いを感じるともう後輩たちのものになった 部室の光景が目に浮かんでしまって、だから僕にとって恋はレモンの味なんかじゃ なくて無果汁の安い即席レモンティーの味だって一人笑ってみたりして。 次は「ペリカン」「フットワーク」「黒猫」で。
429 :
「ペリカン」「フットワーク」「黒猫」 :03/04/05 02:17
「ペリカンって奴らは幸せなのかねぇ?」 えらく古風な口調でタカシは言った。私はなんと答えればいいかわからなかったので 「さぁ」 と返事をしておいた。タカシはそんな気の抜けた返事にはお構いなしに話を続けた。 「あいつらの日々の生活の目的ってさ食うことだろ?来る日も来る日もその日の食事を気にする毎日ってのはどうなのかねぇ?」 タカシは突然変なことを言い出す。目に映る物から連想ゲームのように、自分の頭の中だけで辻褄を合わせて話し出す。だから私はこの話が始まった原因を捜した。それはすぐに見つかった。通りの向こうに有名な宅急便の車が止まっていた。 「例えばさ、俺の家に黒猫がいるわけよ。そいつなんかさ、幸せそうだぜ?飯はにゃんにゃん言えば出てくるだろ?トイレの始末もしなくていい。ゴロゴロ言えば、みんなに撫でてもらえてそれはそれは幸せそうだぜ?でもよ、ペリカンってどうなのかね?」 わかるようでわからないことをタカシは熱っぽく語っている。 「でもさ、それは飼い猫だからでしょう?野良は大変なんじゃないかなぁ・・・」 私は話にのってあげることにした。 「それこそ、人生向かい風だと思うよ?ペリカンはペリカンって理由で保護してもらえそうだし、無事に生かしてもらえそうじゃない?でも、野良猫はねぇ・・・。大変そうだよ。それこそ柔軟で華麗なフットワークがないと、生き残れそうにないもんね」 そうかぁ・・・、とタカシはうなるように言った。それから僅かの時間、腕組みをして考え込み 「その通りだよなぁ。食うことだけ考えてりゃいい状態ってのはある意味幸せなのかもな」 と言ったのだった。 通りの向こうの車はいつの間にか消えていた。 次は「梨」「Tシャツ」「チョコミント」で。
「そりゃ無しだよ……」 「そう、梨よ」 彼女は得意満面の笑みを浮かべて僕にガラスの器を差し出す。 季節は夏。蝉が鳴く、汗が流れる。そんな中で彼女は自分の創作料理を誇らしげに掲げていた。 透明なガラスの器に盛られたその料理は、梨とアイスとチョコミントと……あと朝鮮人参みたいなのをトッピングしたものだった。 そりゃ無いぜ、ハニィ。と心の中で呟いても事態は好転しない。 彼女は料理が下手なのだ。そして好きなのだ。創作料理が。更に信じて疑わない、僕の彼女の料理に対するお世辞を。 今までは漢の意地で平らげた。だが、今は……? 今度の料理こそダイイングポイントかもしれない。僕はそうタカをくくった。 一気に胃袋へと料理を掻きこむ。彼女はそんな僕を、嬉しそうに見つめている。 痛むこめかみ。キリリと冷える喉、そして腹。 全て食い終わったとき、僕は前のめりに倒れた。 最後の視界は彼女の白いTシャツで一杯だった。僕の頭の中は真っ白だった。 作風チェンジ。 次は「夏」「みかん」「案山子」で逝ってみよう。
431 :
「夏」「みかん」「案山子」 gr ◆iicafiaxus :03/04/05 06:09
休暇に入ってまだ十日も経たない、みんみん蝉がうるさく啼いてる朝から暑い 日だったと思う。僕は彼女を誘って海を見ようぜって、町から自転車を一時間は 漕いで、それから山道を三十分は歩いてこの僕のおじいさんがやってた農園、 農園と言っても海に向かって急傾斜で落ち込む斜面にほんの十アールばかりの みかん畑があっただけで、それもおじいさんが死んでからは誰に引き取られるでも なくみかんの木もみんな切ってしまってただ古い物置小屋と縁台と朽ちかけた 案山子の残骸とあとは草が伸び放題になった更地があるだけのつまらない土地 なのだけれど、その踏み外したら海まで落ちてしまいそうな崖ぎわに縁台を出して 二人で坐って、三百六十度を埋めるみかん畑のはるか足下を通る東海道新幹線とか その先に広がる青い海の水平線の丸さとかそれを越えて湧き立つ白い雲が時と ともに膨らんだり形を変えたりするさまとか、そんなすべてがみかんの木の繁り きった葉に照る陽射しの中で眩しいくらいに輝いて二人きり僕らは崩れそうな 縁台を気にしながら汗に湿ったTシャツの肩と肩を寄せてそっと抱きしめあって そしてそれまで知ったことの無いほど長い間唇を合わせて動きもせず。 蝉の声はまだ止む気配すら見えなくて。風の無い夏の太陽が首筋にひりひりと 痛くて、彼女の頬は少し日焼けしてそこを大きな汗の滴が流れ落ちていて、だけど 時が止まってなんかいない証拠に時々おもちゃのような新幹線が眼下を走って東京 だか大阪だかどこかの町へ向かって大急ぎで消えていった、去年の夏。 次は「田舎」「教師」「蒲団」で。
432 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/05 07:44
干した蒲団からは太陽のにおいがした。 しばらく顔をうずめてそのにおいをたのしんだ。 ふと田舎の風景が浮かんだ。思い出して高校時代のアルバムを開いてみた。 小さいとき兄と二人で干した蒲団にのって遊んだことを思い出した。 夏休みだった、あれは。 青いソーダのアイスの味、ふかふかの蒲団のすわり心地、足の裏の畳の感触。 驚くほど鮮明に思い出されてすこし戸惑ってしまった。 大学を出て教師になって一人暮らしをするようになって3年がすぎていた。 都会の高校生とのぶつかり合い、同僚の教師との付き合い、楽なものではなかった。 毎日をきちんと終われせよう、と思うだけで精一杯だった。 懐かしい子供時代。もうあのころには戻れないのだと思うとやりきれないくらい 切ない気持ちになってしまった。 失態 貪欲 ポテトサラダ
ポテトサラダを作ることにする。フルーツたっぷりで。たまの朝飯当番で作るにしては、凝った方だ。 まずジャガイモの皮を剥き、芽をえぐる。芽はしっかりえぐろう。アルカロイド性の毒がある。昔アイルランドで 飢饉があった時、芽ごと食べてたくさんの人が死んだ。こんなところで貪欲になっても仕方がない。 剥いたジャガイモは水にさらす。なぜなら変色するから。蒸し器の用意が出来るまでこのままだ。 次は蒸し器の用意だ。鍋に水を張り、コンロにかける。プレートの下に足をかませておかないと煮芋になるという 失態を犯してしまうので、これだけは先に。沸騰した頃プレートにジャガイモを載せ、鍋に入れて蓋。あとは ほこほこのジャガイモが蒸しあがるまで、我慢我慢。 芋が蒸しあがると、マッシュだ。このままじゃがバターにしても至福の美味だが、朝からそれは太る。ボウルに網を敷き、 すりこぎでひたすらマッシュマッシュマッシュ!しっかりマッシュしないと、ざらついた食感がのこるのでしっかりと。 網をどけ、塩コショウを利かせる。利かせながら、しっかりとまぜる。フルーツの甘味に負けないよう、普通より塩コショ ウは多めにしよう。 フルーツ缶を開け、シロップを抜く。好み次第だが、今回は桃とミカン。豊かな甘味と、爽やかな酸味。ポテトと合わせる のにもってこいだ。 ガラスボウルにレタスを敷き、ポテトを盛って、フルーツをトッピング。今回のポテトは冷やさないで、ほこほこと湯気の上 がるサラダだ。熱くて甘くてスパイシーで。仕上げにニンジンとキュウリをスティックに刻み、完成! ……あ、パンがない。 次のお題は「マイク」「メガネ」「カフェオレ」で。
届いたばかりの熱いカフェオレを一口飲んで、友美はため息をついた。 ゆっくりと立ち上る湯気が、香ばしく彼女の鼻をくすぐる。 なんで、喧嘩しちゃうんだろう……。 今日は楽しいデートの日の筈だった。いや実際、途中まではそうだった。 彼が映画のチケットを家に忘れてきたこと、そんな下らないことから、何故だか喧嘩になって、そして気が付けばお互いのことを罵り合っていた。 ……私だって、忘れ物をすることは多いのに。 彼と同じように、私だってトロくさいのに。似たもの同士なのに。 店内に掛かっている洋楽が途切れて、DJがマイクに向かって早口でしゃべっている。 自分が馬鹿らしくなって、彼女は俯いていた。 ちょうどその時だった。 喫茶店のドアに掛かった鈴をうるさく鳴らして、男が飛び込んできた。 「ともみ! 見つけた……」 そう言って、眼鏡もずれたまま、ぜぇぜぇと肩で息をしながら彼女のところに歩み寄ってくる。 「ごめん」 そう言ったのは、2人同時だった。 「取り敢えずちょっと落ち着いて」 そう言って、友美は飲みかけのカフェオレを彼に差し出した。 さっきよりはちょっと冷めかけたカフェオレは、それでもまだ湯気が昇っていた。 彼の眼鏡が、湯気で白く曇る。 その曇ったレンズの向こうで、彼の眼が微笑んだ。 次、「ドロップ」「時計」「海」で。
「ひぃ〜……」 乾いた音が喉からもれる。 俺たちはただ機械的に、水をかき続ける。もう時間の感覚もない。数時間が経過したのか、それともほんの十分程度しか 過ぎていないのか。 防大名物、十マイル遠泳。腕時計なんてつけて泳げるほど、甘っちょろいものではない。 俺たちはいくつか、制約を課せられている。例えば、陣形を維持したまま泳がなければならない。例えば、海水に頭をつけ てはならない。これらはボートで随行する教官が、遭難者を判別するために守らなければならないルールなのだ。 たかがこれだけ、などとは言わないでほしい。頭を水面上に出しつづけるために、どれだけの苦労をして浮力を維持してい るか。十時間以上に及ぶ遠泳でこの負担は、決して馬鹿にできるものではない。 俺たちはひたすら、水をかき続ける。ときおり教官が投げてよこす角砂糖やドロップを頼りに、延々と泳ぎつづけるのだ。 次のお題は「サイダー」「財布」「幻」で。
436 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/05 21:06
セイラは白い道を歩いていました。 道の先は霧がかってよく見えませんでした。 とても静かでした。いい匂いがしました。 赤い財布が落ちていました。見ると中には一枚の紙幣が入っていました。 霧の中から白い服を着た老人がワゴンを引いて現れました。 老人はワゴンの中にサイダーを入れて売っていました。 苦しいほどのどが渇いていたセイラは赤い財布の中の紙幣を使って サイダーを買ってしまいました。飲むととても気分がよくなりました。 またいい匂いがしました。夢を見ているようです。セイラは自分が どこに向かって歩いているのか思い出そうとしました。 どうしても行かなければならないところがあった気がします。 セイラは歩きながら考えました。これは現実でしょうか、幻でしょうか。 目がさめないなら夢じゃないのかもしれません。 セイラは歩きつづけました。大事なところに向かっているのです。 来客 縮小 巣立ち
437 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/04/06 01:07
「来客」「縮小」「巣立ち」 文明がどんどん高度化する。学校の勉強内容も、また同じだった。 「本日、桜満開のこの学園で、君達の新たなる巣立ちを・・・」 徹夜明けの老体に鞭打ち、校長は卒業式の口火を切った。 「卒業証書、授与!」 連日の激務に言葉もかすれる。 今夜も、終電ぎりぎりまで、来客の対応と会議。体力がもつだろうか。 文明がどんどん高度化する。教える分量も増える、当然だ。 でも、人間が高度化するわけじゃない。 子供の学習スピードは、今も昔も、そんなに変わらない。 基礎からきっちり学ぼうとすれば、卒業だって延びるのだ。 卒業が延びれば、定年までの年月もそれだけ縮小される。 国家の生産性を維持するため、教師も必死なのだ。 「以上で卒業式を終わります、礼!」 校長は息を切らしながら、校門を旅立つ卒業生を見送る。 不断の勉学の末に全カリキュラムを見事消化した、45歳の卒業生たちを。 ※先生って大変なんですね!? 次のお題は:「海」「貝」「量子」でお願いします。
来客」「縮小」「巣立ち」 珊瑚色の果実に小さなスプーンを入れると、半透明の雫が弾ける。 器用に実をすくう麻理奈の小さな手をぼんやりと眺めながら、来客を待っていた。 机の上には様々な「空」が写っている写真集がだらしなく乗っている。 「おじいちゃん、ママはまだ?」 グレープフルーツを夢中で食べていた麻理奈は、もうそれに満足したのか、顔を上げて純粋な瞳で私の顔を覗き込む。 「もうちょっとだよ」 あいまいに微笑み、私はまた写真集に目を落とした。 サーモンピンクの夕暮れ。薄墨色の雲が浮かぶ雨空。雲ひとつないスカイブルー。ダイヤのかけらのような朝日。 そして最後のページには縮小された三十路すぎの女性の満面の笑みが写っている。 麻理奈と――そして二十五年前、大丈夫よ、とそう一言残し、ヒマラヤの山々から二度と帰ることのなかった妻の笑顔に。 娘がこの家から出て行ったときの笑顔を思い描きながら、あの巣立ちは運命のいたずらだったに違いないと淋しくなった。 「おじいちゃん、どうしたの?怖い顔しちゃいやよ」 膝によじ登ってくる麻理奈をそっと抱きしめ、私は写真集を閉じた。 門の軋む音。 娘、麻理亜が長い旅から帰ってきた音だ。 ――亡骸となった、麻理亜が。 ☆感想もこちらもだいぶご無沙汰してました。 簡素はあいすさまががんばってくれているようで……。 ここで、やめようかなとも思いましたが、簡素は多い方がいいと思うので、 途中からになりますが、向こうも書いてきます。 次のお題は「クリスタル」「月」「ハープ」で。
ひどいかぶりだ……。 うはうさんすみません。 ということで、お題はうはうさんの「海」「貝」「量子」で。
すみません。ぼけっとしててきがつかなかったんですが…… >麻理奈と――そして二十五年前、大丈夫よ、とそう一言残し、ヒマラヤの山々から二度と帰ることのなかった妻の笑顔に。 ――に、どうしたの?って感じですね。 この文の前に 〈そっくりだった。〉 が入ります。 たびたびドジをすみません。
441 :
海・貝・量子 :03/04/06 03:56
ある日、実家から、オヤジの訃報がとどいた。 俺の故郷は海辺の小さな町で、取り柄と言えば、ほたて貝の漁獲高が国内上位にランキ ングされている、ということぐらい。そんな田舎の漁港だ。オヤジは猟師で、理系の大学 を出て、若い頃はエンジニアをやっていたらしいが、会社で上司と喧嘩してクビになって、 俺が物心ついたころにはもう、地元で船に乗っていた。潮で真っ赤に焼けた海の男で、 髪の毛もばさばさで白髪が目立った。頑固で現実的で、俺とは全然そりが合わなくて、 顔をあわせれば喧嘩ばかりだった。 実家に帰って、葬式をすませて、遺品の整理しようと、生前親父が何でもかんでも放り 込んでいた物置部屋を母親と一緒に片付けていた時、量子力学云々などという大学時代の 教科書のなかに紛れて、古いアルバムがあった。大学時代の親父のアルバムだった。 開けてみると、今の俺より若い頃の親父が、俺には見せたことがないような無邪気な笑顔で 写っている。西部劇みたいなベルボトムジーンズをはいて、飯盒炊爨を囲んでいたから、 登山のときの写真なのだろう。 そういえば、親父は登山が趣味だと言ってたな。生きてる間は山に登ってるところなんか、 見たことなかったけど。 そう思ったとき、はじめて目に涙が溢れてきた。 ナガカタ。次は、責任転嫁、身のほど知らず、甘え、で。
「甘えるな!」 私は頬を強く叩かれ、そのまま壁に頭をぶつけた。 責任転嫁してるのは貴方の方、と言えない言葉が脳裏をよぎる。 涙でにじんだ目で男を睨んだら、また殴られた。 口が切れ、身体のあちこちが痛んでも、男は殴るのをやめない。 私はただただ殴られるのを我慢し、からだをこわばらせるだけだった。 こんな生活はもうやめたいと思う。 しかし、私のような人間が幸せな生活を望むなんて、身の程知らずなのかもしれない……。 そして私は何処かでこの生活を喜んでいるのだろう。 男は私を殴るが、それによって男は私を認識する。 他の優しい人では……多分、とろくさい私なんて認識してくれないだろう。 私涙が滲む目で、男を見た。 男は殴るのを止めて、肩で息をしている。 思えばこの男は私と一緒だ。誰にも認識してもらえない、だから私を殴って憂さ晴らしをする。 ……可哀想に。 そして私は思った。 この男を認識してあげよう、と。 台所にあった包丁を握りながら……。 駄文だ。長いし……。 次は「一撃必殺」「破壊光線」「他界光線」でよろしく。
443 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/06 16:05
「破壊光線!」ババババババッ 最初の数行が消えた。 「一撃必殺!」ガリガリガリッ まん中の数行が消えた。 一撃ではまだ必殺とはいかなかったらしい。 「他界光線!」バチバチバチッ 作者が逝った。 オチは残った。 次「昼間っから」「省略されました・・・・・・」「押してください」
444 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/06 16:16
小さな四角い部屋。白い部屋。ドアも何も無いエレベーターのような。 そこに俺はいた。俺は清潔な服装で立っていた。 目の前にボタンがある。赤くて丸い、レトロなボタン。 『押してください』そう書いてあった。 押すか、押すまいか。三秒迷ってから、押すことにした。ぽちっとな。 すると記憶が巡り出す。走馬灯。走馬灯のようだ。 その瞬間に理解した。ああ、俺、死んだんだ。 がくーんと胸に穴が穿たれたような衝撃。小便を漏らしそうになった。 けど、悲しくは無かった。全然、悲しくは無かった。 そして走馬灯のように。生まれてからの記憶が流れ、巡る。 子供の頃の自分。その空気が目と鼻の奥に。ああ。たまらなく切なくなる。 中学。高校。俺はつまらない人間だった。諦めを認めていた。自分を卑下して。 そして……そして? 俺の走馬灯が途切れる。なんだ、なんだっけ。答えとは違うものが、瞼の裏に浮かぶ。 『省略されました……』 ああ……あの頃の俺は、昼間っから部屋に引きこもり、人にも会わず自分とも会話せず…… 悲しくなった。たまらなく悲しくなった。倒れそうなほど。哀しい。悲しい……ああ、と呟きが震える。アア、と声が裏返る。ああ、アア……!! そういう夢を、たった今見た。しばらく起き上がれなかった。でも、やがて俺は、起き上がった。世界には、清らかで、凛とした空気が満ちていた。 長かったですね。次は「右には」「左には」「結局」でお願いします。
446 :
「右には」「左には」「結局」 :03/04/06 23:09
右には、美人系のお姉さんタイプ。左には、癒し系の子猫ちゃんタイプ。 結局、ぼくは子猫ちゃんを選ぶことにした。 なぜならば、それは、ぼくが左利きだから。 左右に同じものが並んでいて、どちらを選んでもいいと言われたとき、 人は無意識のうちに利き手の方を取ってしまうらしい。もちろん、この話を 知っていれば、わざと逆の手の方を選択することもあるだろう。 本当のところ、友達感覚の同級生タイプが望ましかった。それ以外は、 どうでもいい。だから、利き手に従ったのかもしれない。 放課後の『一緒に帰宅』モードに入り、校門を出たところで、 本命の女の子に出くわした。クラスメートの佳代だ。 こちらをちらりと見ると、ムッとして行ってしまった。 もしかして、おれを待っていたの? 今度は、左に子猫ちゃん、右に好きな女の子。明らかに、右へ行くべきだと思う。 しかし、こういうシチュエーションに遭遇したとき、的確な選択を成し得た男性は 約半数に満たない、という統計がある。かどうか、ぼくは知らない。 結局、ぼくは子猫ちゃんと下校して、本命を逃してしまった。 どういう判断が成されて、ぼくは追いかけなかったのだろう……。
447 :
「右には」「左には」「結局」 :03/04/06 23:20
次のお題は「モニター」「シンフォニー」「ドルフィン」でお願いします。
448 :
「モニター」「シンフォニー」「ドルフィン」 :03/04/07 16:04
素早いステップから打ち込まれた打撃を星牙は肩でブロックし、その衝撃を受け流すように後ろに飛びすさった。が、それはニッシュの予想の範囲内だった。ニッシュはそこからさらに深く踏み込み、体重をのせた回し蹴りを放つ。 それは星牙の予想を遙かに超えたスピードだった。 意表をつかれた星牙はバランスを崩した。 「危ない!星牙!!」 二人の戦いを見つめていた舜が叫ぶ。 −とらえた! ニッシュはそう思ったかもしれない。 しかし− 星牙は空気を踏んでいた右足の裏でニッシュの蹴りを受けた。バランスを崩していたことが幸いしたのだ。それは、完全な偶然だった。 −ふっ。それでどうするつもりだ? ニッシュは星牙の行動を嘲笑った。このまま、蹴りを振り切ればお前はバランスを完全に失い倒れるではないか!そうなればとどめは思いのままだ! 「星牙!」 「星牙!」「星牙!」 舜、氷川、紅龍が同時に叫ぶ。それは悲鳴にも似た叫びだった。 「うおおおぉぉぉぉぉおおお!!」 星牙は吼えた。「これでどうだぁぁぁああ!!」 星牙はニッシュの脚を踏み台にして、そのまま高く飛び上がった。それはニッシュの強烈な蹴りの反動も加わり高いジャンプになった。 「喰らえぇぇぇ!!!」 星牙は空中で叫んだ。 「まさか!!」 「このタイミングで!?」「信じられん!!」 星牙が何をするかを悟った舜、氷川、紅龍が驚愕する。 「そうよ!!ここでいくぜ!!喰らえ!!モニター・ドルフィン・シンフォニー!!」 星牙の音速を超えた拳から衝撃波が放たれる!!それは無数のドルフィンを形作りニッシュに襲いかかった! 「なに!?!?」 ぐしゃあぁぁああ!!! ニッシュが弾け飛び宙を舞い地に落ちる。 「ふっ・・・、まさか・・・、ここまでやるとはな・・・」 そう呟いたニッシュは二度と立ち上がることはなかった・・・・・・。 こんなんでごめんなさい。 次も「モニター」「シンフォニー」「ドルフィン」で。
「モニター」「シンフォニー」「ドルフィン」 宅配便が届いた。頼んだ覚えは全くない。 差出人は「日本セラピスト協会」。聞いたことがあるような無いような。まあありそうな名前だ。 どうせ暇だし中身ぐらいみてやろうと開けると、中には『ドルフィン・シンフォニー』という冊子とCD。それにヘッドフォン。 説明書によると、これはいわゆるイルカ・セラピーを音だけで再現したもので、ストレス解消や心身症にも劇的な効果がある、 と医学博士の絶賛の御言葉もお約束のようについている。 現在はセットを無料で配布するかわりに、使用してみた人はモニターになってくれ、というわけだ。 ちょっとやってみようか。別に心が病んでるつもりはないけど。使った途端に金を請求されるってわけでもなさそうだ。 まずは予想通り静かな波の音。でもヘッドフォンがいいのか心地よく頭に響いてこれだけでも休まる気がする。 そして甲高い音が重なってくる。テレビ番組で聞いたことがあるイルカの鳴き声だ。イルカの声と波の音が次第に入り交じって 頭の中に響き渡り・・・。 ふと気付くと波打ち際に立っていた。イルカの声が、波の音が、目の前の海が妙に懐かしく恋しい。 思わずヘッドフォンを投げ捨て沖へ向かって走り出していた。 脱ぎ捨てられた衣服の先には一頭のイルカ。一声鳴くと勢いよく海へ消えていった。 救いのない話。難しいですこの三つ。 次は「桜餅」「メモ用紙」「にわか雨」でお願いします。
演目の最後は三曲たてつづけの滝廉太郎だった。内山は深々とお辞儀をして、それに満場の 観客がいつまでも拍手を浴びせてやまなかった。やがて市章の縫取りのある見慣れた幕が下がり、 俺は喝采を続ける人々の間を抜けてロビーへ出ると、タバコに火をつけてその煙を吸った。 大型モニターには幕が下りたままの舞台の様子が映っていた。こんな物もあの頃は無かっ たな、と俺は心の中で呟いて、逆にあの頃から有る物を探した。市章を書いた幕のほかには、 何もかもが新しくなってしまっていた。俺はポケットの中の入場券を再度確かめてしまった。 此処がまだ市民会館音楽堂という名前だった頃俺は合唱部の部員で、内山はそのエースだった。 ドルフィン泳法をする平泳ぎの選手のように内山はいつも群れの中で歴然とぬきんでていた。 内山は先生について声楽の勉強を続け難関の音楽大学に合格して、卒業後は日本の芸術歌曲を 主にする歌手になって独立した。今日はこの間取ったという何とか賞の凱旋公演だと言って、 内山は俺たちに招待券をくれたのだ。内山には歌の才能があるんだと俺も思う。それは三年生の 夏に最優秀賞を取ってこの同じロビーでソリスト内山を胴上げしたときから同じだ。 しかし音楽堂はシンフォニーホールに変わり内山は世界のウチヤマになって今では歌を歌いなど しない俺は内山の昔の友達と名乗るようになった。アンコールであの頃の合唱曲を歌って いるらしい内山の声を背に俺は、そうだ誰かとカラオケ屋にでも行こうかとケータイの電話帳 を繰りながら、もう懐かしい音楽堂ではなくなってしまった奇麗なシンフォニーホールを去った。 お題は「桜餅」他で。
451 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/07 22:50
「桜餅」他 にわか雨が降らなかった。 俺は書き留めようと思いポケットから 桜餅を取り出して口にひとつ放り込み、 卓上のメモ用紙に桜餅の皮を置いた。 鞄からノートと鉛筆を取り出そうとしてやめ、 手にもっていた手帳に挟まっていたペンを 耳に挿し、反対の耳に挿していた赤鉛筆で 隣の椅子に置いてあった新聞の切れ端を たぐりよせた。 新聞の切れ端で指と赤鉛筆の汚れを拭いて 残った余白を丸めて投げ捨て、赤鉛筆を 耳に挿して反対の耳に挿していたペンを 手に取り、手にもっていた手帳を開いて ページを切り取り、手帳とペンと指と耳を拭いた。 何を書くか説明するには行数が足りない。 「いや、いいんだ、忘れてくれ」「そんな・・・それじゃまるで」「しだれ桜山桜」
452 :
「桜餅」「メモ用紙」「にわか雨」 :03/04/07 23:09
「お腹が空いた」 と言ったら、母が桜餅をくれた。 にわか雨の降る砂利道を母と二人で手をつないで歩きつづけた。 「もう少しだからね」 幼心にも、里子に出されるということがどういうことか、 何となくわかっていた。 行きたくないという気持ちよりも、今ここで私の手を引く母を 困らせてはいけないと、必死になって歩きつづけた。 大きなお屋敷のような家が見えてきて、そのとき母が私の手を 強く握ったのを覚えている。 「これをかばんの中にしまっておいてね」 そう言って、母はメモ用紙をくれた。 おじとおばに紹介され、私はこの家の子になった。 十数年がたち、母と私の名が書かれたこのメモ用紙は、 今も大事にかばんの底にしまってある。 「いや、いいんだ、忘れてくれ」「そんな・・・それじゃまるで」「しだれ桜山桜」で。
453 :
「桜餅」「メモ用紙」「にわか雨」 :03/04/07 23:18
『・・・ちょっと待って』 受話器から、騒がしい職場の雰囲気と煩わしそうな祐司の声が聞こえた。 由紀子は空いた手で桜餅を掴んだ手を拭い、 メモ用紙に意味も無く円を書き続けていた。 受話器の向こうから、ドアを閉める金属音が微かに聞こえた。 『メール見てくれた?』 由紀子は、それから先の会話をよく覚えていなかった。 祐司にフラれた。 それは、上から三枚目まで円の跡がついたメモ帳が物語っている。 メールだけで婚約を解消しようとした祐司に腹は立たない。 重たい喪失感という矛盾したものだけが残った。 にわか雨に遭ったと思えばいい---母が言った。 乾くかどうか分からない、にわか雨だった。
すいません、遅れすぎで。 452さんのお題で。
455 :
週休二日 ◆7UgIeewWy6 :03/04/08 01:45
「いや、いいんだ、忘れてくれ」「そんな…それじゃまるで」「しだれ桜山桜」 正午になれば、俺は解放される約束だった。道端で、女は煙草を吹かしていた。 「この辺りじゃ、何が見られるの?」 と女が訊いた。態度はまるで、そっけない。 「しだれ桜山桜、あとは八重桜、…」 律儀に説明する俺の横で、女は煙草を投げ捨てた。 桜の並木道に差し掛かったところで、俺はカメラを取り出してみせた。 写真なんか要らないわと女が言った。視線は上品に咲いた桜の枝々をなぞっているらしかった。 「桜って、綺麗ね」 と女は呟いた。 うっとりとした顔で、満開の桜に囲まれた彼女を、愛しいと思った。 「君には桜が似合うよ。いまの君の画を、描きたかったな――」 言葉が心から溢れ出た。 「そんな、…それじゃ、まるで」 「――いや、いいんだ、忘れてくれ」 俺はしだれ桜を振り返った。空はよく晴れていた。正午まで、もう時間がなかった。 この桜も、来月には散ってしまうに違いない。…
次のお題は 「昨夜」「盗まれた」「鏡の中に」 で。
昨夜、鍵が盗まれた。 いや、正確に言うとすり替えられたのだ。俺の知らない間に、鍵はそっくりだが左右対称の物と取り替えられた。 そして……今気が付いたのだが、俺は右利きだったはずなのに左手でシャーペンを持っている。 ……もしや、俺は鏡の中にある世界に入り込んだのか!? 以前そんな映画を見たことがある。 主人公は何かの拍子で、鏡の中に入り込んで、左右対称だが、現実とそっくりなところで暮らす……。 まさに俺がその状況だ! なんてことだ……!! 「だからぁ、何度言えば分かるかなぁ? 鏡の世界じゃなくって、あんたが鏡写しなの!」 「部長、まだやってんスか?」 「いや、こいつがいつまでたっても自分のことを信じないからさぁ。なぁ、あんた。あんたの持ってる鍵は左右対称、だけど家の鍵口はもとのままだったろ? あんたは俺から作られた鏡人間だから、もってるものとあんた自身だけが左右対称になったんだよ!」 「いや、ここは鏡の中なんだ! 俺は、俺だけどお前らがコピーなんだ!」 「部長、やっぱりこの鏡クローン製造機使えないッスよ。俺の鏡人間も発狂しちゃいましたし……」 「うぅむ、セキュリティオフィス人件費削減に役立つと思ったんだがなぁ」 「あれ、部長って左利きでしたっけ?」 「お前こそ……?」 後半セリフだけで表現しようと思ったが、難しいな。 次は「かみ」「たな」「てき」で。
やべっ、エヴァっ子さんに先を越された・・・。 「昨夜」「盗まれた」「鏡に中に」 昨夜以来、世の中には不思議な出来事が溢れている。 テレビの中では、フセインと米兵が涙を流して抱き合っている。朝鮮人民と韓国国民が 三十八度線上で熱い抱擁をしている。携帯電話の向こうでは、数日前に喧嘩した彼女が「愛している」を繰り返す。 夢でも見ているかの様だ。 ……夢と言えば、昨夜、変な夢を見た。 「鏡を見ろ」地の底から沸き上がる様な声で目覚めた。頭の中の無視しろと言う自分の声に反して、無意識に身体が姿見に向かって行く。 姿見に映った自分の姿に腰を抜かした。 こめかみを目指して吊り上がった真っ赤に充血した目。耳元まで裂けたぬらぬらと卑しく紅色に輝く唇。 三枚に割れた舌が鼻の頭を舐める。 「鏡の中に」しゅうしゅうと言う呼吸音に混ざって、黒板を爪で引っ掻く様な、神経に障る掠れ声が頭の中に響く。 思わず耳を両手で覆ってしゃがみ込んだ。 ……ただ、それだけの夢だった。 サダムと米兵の言葉に耳を疑った。 「鏡の中の魔物に、憎しみの心を盗まれた」彼等は歓喜に満ちた笑顔で言った。 「だから今、心の中は愛で満ち溢れている」と。 突然叫びたくなった。俺は窓を開けると、外に向かって身を乗り出した。 「みんな、愛してるよ!」地球の裏側まで届けとばかりに叫んだ。 次のお題はエヴァっ子さんのお題にて・・・。
459 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/08 11:32
サダムネタを続けてしまいますた。しかも読みづらい。 「かみ」「たな」「てき」 このせかいには、いろいろなかみさまをしんじるひとたちがいます。 かみさまをしんじるひとたちは、おなじかみさまをしんじるひとにはとてもやさしいのですが、 ちがうかみさまをしんじるひとたちには「せかいのてきだ」と、ひどいことばでののしり、 ときには、なにもわるいことをしていない、ふつうのひとまでころしてしまいます。 いま、さばくのくにでは、ちがうかみさまをしんじるひとどうしが、ころしあっています。 「あのかみさまをしんじるくにのひとは、あくにんをそだてている」 「じぶんのしんじるかみさまだけが、ただしいとおもっているようだ。おろかなやつ」 「みろ! あのくには、つみもないひとびとをくるしめて、たのしんでいる!」 「やつらは、いうことをきかないくにをほろぼすために、じぶんたちを『かみさまのへいたい』だ、となのった」 「「せかいのひとたちよ、みてくれ! あいつらは、くるっている!!」」 それぞれのくにのえらいひとたちは、じぶんのことをたなあげにして、まいにちまいにち、 かみさまのなのもとに、あいすべきりんじんをののしりつづけています。 次は「街路樹」「最後」「改札」で。
460 :
かみ たな てき :03/04/08 12:06
「私、学習塾の講師をやっていたことがあります。学習塾といっても、まあ近所の子供たちを 預かって、授業らしきことをしながら、共働きのお母さんが帰宅するまで面倒を見ると言う、 そういう私塾です。 もう十年以上も前になりますか、当時ドラゴンクエストが子供たちの間で非常に流行って おりました。なかでもとくに熱中している子供がいて、その子は日常会話も全部ドラクエ風の 言い回しをするんですね。授業中に寝ている子供がいると、その横で『ああ ぜんのうの かみよ ○×にふたたび いのちを あたえたまえ』。いたずらをしているところを見つけて、 叱ろうとすると『てきが あらわれた! たなは いしをなげつけた!』といいながら、 本当に石を投げつけてくる…。 そう、いい忘れましたが、その子のあだ名は『たな』でした」 私は新郎新婦のほうに向き直った。 「その『たな』、こと田中君がこんなに立派になって、こんなに素敵なお嫁さんを貰う ことになって、私は感無量であります。どうか両名が、末永く恙無く幸せに 暮らせますように。では、みなさん、乾杯!」 かさなった ゴメソン お題は前の方のんで
ものすごく痛い。本当に、体中が余すことなく痛い。 それに息が苦しい。空気を吸って吐くだけの事ができない。 僕は、渾身の力で状況を確認しようとする。 信号無視のスポーツカーはどうやら街路樹に激突したようだ。 あの女の子は僕を遠巻きに見ている。怪我は無いらしい。良かった。 けれど、未だに信じられない。 この臆病な僕が、身を挺して誰かを助けようとしたなんて。 そんな勇気や、行動力があっただなんて・・・。 僕は、自分の胸がかつてないほど熱くなっているのを感じていた。 それは決して、怪我をした体ゆえの事なんかじゃなかったと思う。 ふと、突然に、急速に世界が光を失っていった。 僕が最後に見たのは、20分遅刻した彼女が、改札口を抜けて走ってくる姿だった。 彼女は僕が消えたら悲しんでくれるだろうか。少し心配だ。 しかし、悲しまれないと言うことは、僕の死に責任を感じないということだ。 それならば、忘れられるのも悪くはないかもしれないな。 けれど、もしも助かったなら・・・そのときは・・・ 次は「運命」「家」「名前」でお願いします。
462 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/08 18:18
そのネコにはまだ名前がついていなかった。 どこかで聞いたような話だがその話とは全く関係ない。 白いネコだった。3歳になるたかしが足にケガをしていたのを 散歩中に見つけて治療をしてやってから いつも夕食どきに私の家の庭にやってきては 食べ物をねだる。 3歳になったばかりのたかしは夕食前必ず庭を見に行ってそのネコの姿を 探した。見つけると「ネコちゃん来たよ」とママに報告にいき、ネコがもらった 餌を食べるのをじっと見つめているのだった。 白いネコはやがて「メメ」と名づけられた。メメが来るようになってから 不思議なことに父のつぶれかけた会社は復興し、母の病気もよくなっていた。 家族は幸せのメメと呼んでかわいがった。 しかし不思議なことにどんなに家族が愛着をもっても、 夕食どき以外にメメが我が家を訪れることはなかった。 ある日からネコが来なくなった。またどこかでケガをしているのではないか、 と家族は思った。たかしは夕食どきになるとやはり庭を見つめてメメの姿を探す。 たかしは通勤途中の道で白いネコを見つけて小さいときにうちに来ていた ネコのことを思い出した。名前はなんというのだったか。あのネコが うちに来ていたのは考えると一ヶ月もなかったように思えるが 暗い影がさしかかっていた我が家を救ってくれたような気がする。 今思うとあのネコがうちにきたのはなにかの運命だったのだろうか。
463 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/08 18:19
あ、わりい。 損失 奥さん トゲ、で。 いつも完結していないといわれたので完結してるかな、これは。
464 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/08 19:21
オイラのさあ!奥さんにはさあ! トゲが生えてるのよーん。 乳首じゃないよ。親知らずじゃないよ。つまりね、トゲガこう、大地に向かって 放射状に突き刺さってるのよーんっと! 今はさあ! 季節は春だよなっ。普通はさあ、めでたく解放された煩悩チックな 欲望の虜になって外界へとルンルン(死語 で触れ合いたいよな? でもうちの奥様はよ! 色黒のぽっちゃり奥方はよっ! こたつにはいってワイドショー貪ってるんだわ。 B級タレントの痴話話やら、中途半端にわかりやすくした洗脳マジックな 時事ニュースなんかを、おはぎかなんか食いながらカーペットに根を下ろしてるわけよん! このトゲの突き刺さり方からして相当の、ひきこもりレベルなわけ。 おいらがそれなりに汗水垂らしたところで、こやつはルーティンスマイルにて フォローするだけの人形なのよん。いつの間にやらふくよかな人形ちゃ〜〜〜んにさあ! 生まれ変わっていたのよっっ。 おいらにとっては、人生始まっていらい、そう! 始まっていらい歴史的事実として そして、個人的事実として、損失なんだわさ。 かけがえのないしあわせってやつからよぉ、遠く引き離された、どよーんとした ルーティンライフの受け付け嬢みたく、うちの奥様がっっっっ 笑っているのよん。 「あなたのしあわせ浪費してしまいました」 って感じでねっ!! 次は、「浪費」「法律」「戦争」で!
465 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/08 22:12
「浪費」「法律」「戦争」 浪費遺伝子というものがあるらしい。 人間は静かにしていても筋肉が熱を発生させる。この機構はUCPなるタン パク質によるものであるが、それを作る遺伝子をそう呼ぶらしい。これが多い といわゆる「やせの大食い」になるという。 そして、うちの妻が典型的にそうなのだ。さらに困ったことに、子供達にま でその性質は遺伝しており、食事時はしばしば戦争状態になる。体温高めでエ ネルギッシュなのは結構なことだが、静かに休みをとりたいときもある。 と言うことで、妻からは再三再四生活費の増額を要求されている。この前な ど、法律に訴えると言いだした。冗談ではない。この前上げたばかりじゃない か。これ以上払ったら、仕事のつきあいで飲みに行ったり、友達とゴルフへ行 ったり、仲間と旅行に行ったり、パソコンや家電のバージョンアップに合わせ て買い換えたり、最低限の文化的生活が営めないじゃあないか。生活費一万二 千からは譲れない。 だいたい、外に対して気前良く流行りものに目がないのは、先祖代々のうち の家系の伝統なのだ。 #次のお題は「応用」「鷹揚」「追うよう」で。
466 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/04/08 23:39
「応用」「鷹揚」「追うよう」 「ふっふっふ。いかに天才打者の君でも、この必殺魔球にはかなうまい。」 「そうかな?さあ、早く投げ給え。その必殺魔球とやらを!」 「ならいこう。が、いいのかな。この球に塗ってあるのは猛毒だぞ」 投手の手を離れた球は、ゆっくりと捕手のミットに納まった。 終始球を追うようにしていた打者の眼は、拍子抜けの表情を映していた。 鷹揚な勝利感に酔う捕手は、球を打者に見せた。 「どんなもんじゃい」「・・・え?」 「コブラの毒を応用した、とっておきの魔球じゃ」「だ、だから!?」 釈然としないがらも、球を少しだけ舐めてみる天才打者であった。 なるほどちょっとピリピリする・・・けど大丈夫、なんとか。 「生きてるぞ」打者は言った。 「必殺魔球、敗れたり!」 「だけだめー。ちゃんと舐めてみなくちゃ、毒が効かないじゃないか」 「こうか?ペロペロ・・・ううっ苦しい!」 打者は死んだ。即死だった。まさしく、文字通りの必殺魔球だったのだ。 「バッター・アウト!」 審判の声と天才打者の魂が、夏の青空天高く舞い上がった。 ※三球でスリーアウト(^^;L 次のお題は:「ネットカフェ」「湖」「水瓶」でお願いしまふ。
占いだ!占い!占い!占い!! 俺は必死になっていた。精神的に、かなり参っていた。そんな俺に止めを刺したのが、朝のニュースでやっている、 占いだった。 『今日の最悪運勢は……ごめんなさい、水瓶座です』 その声が耳にこびりついて離れない。それを思い出すたび、俺は足元が不気味な軋みとともに瓦解する、異様な感 触を味わっていた。 駄目だ!駄目だ!駄目だ! 俺は二十四時間営業のネットカフェに駆け込んでいた。占いだ。占いサイトを探すのだ。ここで水瓶座が幸運である ことを確認しないと、俺はもう生きていけない。 クリック!クリック!クリック!! 『水瓶座のあなたは……ヤバいです、今日は最悪です』 『神に見放されたのが水瓶座』 『水瓶座逝ってよし』 俺は検索しつづけた。大洋を凌ぐがごとき検索数が、湖になり、池になり、ついには水溜りも残らないほどに。 そしてその全てに、どん底の宣告が待っていた。 俺は叫び声をあげた。恐怖の絶叫だ。俺はもう、死ぬしかない。 俺は叫びつづけながらネットカフェを飛び出し、走りつづけた。 俺は死ぬのだ。 次のお題は「印籠」「土管」「アルゴン」で。
468 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/09 01:28
いつもの空き地で友達と野球をしていた時の出来事だった。 敵のバッターが打ったボールは大きく孤を描き、内野を見下ろすように飛んでいった。 外野を守っていた僕はヨタヨタしながら必死になってボールの落下地点を予想していた。 「丁度土管の手前辺りだな・・・」 やがてボールは僕を目掛けて飛んできたかのように僕に向かってきた。 「よし、いい位置だ・・・」 油断大敵とはよく言ったものだ。次の瞬間、ボールは僕の左手を通過して僕の顔面に衝突した。 不測の事態による動揺と打ち所が悪かったのが重なり、僕は倒れこんだ。 遠のく意識のなかで駆け寄る友達の声が鳴り響いていた。 そこへ現れた謎の老人が印籠から怪しげな粉の入った紙袋をとりだした。 「我が母星、アルゴン製のクスリだ。よく効くぞ」と言って僕の頭に粉をかけ始めた。 粉をかけられた事により、噎せ返る僕。それを唖然としながら見つめる友達。 しかし、次の瞬間に僕も唖然とすることになる。頭が痛くない、血も止まってる。 僕は驚いて老人を見つめる。老人は毅然とした態度で口を開いた。 アルゴン、ネオン、ヘリウム。思えば僕たちがそれぞれの国家の争いに巻き込まれたのはここが始点だったのかもしれない。 無理があり過ぎますた(´д`; 次のお題は「青春」「試験」「プレステ2」で
469 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/09 01:40
ここのルールは駄文でいいってこと? それとも面白いものに限るの?
>>469 読みゃわかるだろ。
全部クソだ。それでいいのだ。ばーかぼんぼん
471 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/09 01:49
そーか。クソだもんな。このレベルで作家志望はおこがましいもんな。
「有象無象って言う言葉知ってる?」 厚化粧はそっと言った。僕は厚化粧が何故そんな事を言い出したのか疑問だ った。僕が試験を控え、夢中になっているプレステ2を封印しているのを知っ てわざとからかっているのだろうか。 「どういう意味ですか?」 「あらアンタ受験生のくせに知らないの?」 厚化粧は鼻先で笑った。 「有象無象っていうのはね、青春って言葉を知らない可愛そうな人のことよ」 「じゃあ、姐さんはどうなんですか?」 いつまでも僕を小ばかにしている口調の厚化粧に、僕はいささか憤りを感じて 語気を荒らげた。 だが、すぐに冷静になってしまう。厚化粧の手にプレステ2のコントローラー が握られていたからだ。それで何をしようと言うのだろうか。 「ボク、ゲーム好きみたいね」 「からかってるんですか?」 「あなたは有象無象になりたいの?」 僕は厚化粧の指先をじっと見つめていた。 「青春っていう言葉の意味を知りたくないの?」 厚化粧の手からはもうプレステ2のコントローラーは離れていた。 「ゲームじゃないのよ、青春っていうのは」 厚化粧の声が僕の蝸牛に滑り込む。 アンモニアのような香水が僕の鼻腔を汚していく。 「有象無象になりたくなければ、悪いインターネットもやめることね」 壺が象徴のサイトのことだろうか、厚化粧はどこまで僕の生活に侵食してく るのか。 まるで蚤だ。 心の中のつぶやきに、僕は突如違和感を覚えた。いや、蚤は僕なのか。 ↑意味不明です。 次のお題は「耽美」「薔薇」「蕾」です。
473 :
「耽美」「薔薇」「蕾」 :03/04/09 22:34
美しいものに心を奪われたことがある人間は美を否定しない。 ぼくの信条です。 そこに言葉はいりません。見ればわかるのです。 残念ながら、薔薇を見て美しいと感じたことは、まだありません。 蕾を見て感じたこともありません。ただ一つ、心を奪われてどうしようもないのが、人の顔です。 恋をしました。一目ぼれです。 よく言われるような「優しさ」や「性格」に惚れたのではありません。「顔」に惚れました。 わざわざ美点探しをする労力はいりません。「顔」に惚れたのです。 ただその人がそばにいてくれれば幸せです。「お人形さん」で構いません。 こういう精神を耽美主義と言うならば、全く否定しません。 次は「命」「真実」「性格」
474 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/09 22:47
「耽美」「薔薇」「蕾」 数年前、漏れが吉原で体験したこと。 入店して待合室に通されると、オバサンが数人の客と話をしていた。 スポーツ新聞を読みつつ聞き耳をたてていると、全盲の息子が筆下ろしをしたいと言うので 付き添いで来たらしい。 オバサン(以下母)は色々心配事を口にしていたが、話し相手の客数人は「大丈夫」「心配しなくていいよ」 となだめていた。 暫くたって奥から白杖持った青年と姫が待合室にやってきた。 革靴はピカピカで結構いい服をきている。この日のために揃えてあげたのだろう。 母はソファから飛び出して姫と軽く会釈したあと、「どうだった?いいこと出来た?」 青年「うん。よかったよ。耽美な一時だった。このお姉さんのおかげで。」 実は姫を指差すつもりが別の方向だったので、姫が素早く指した方向に移動。 母は顔をくしゃくしゃにして泣きながら「あんたよかったね〜!!」と背中を何度もさすっていた。 客も拍手したり「よかったなあ」と激励していて、今まで無口だった893風の客まで立ち上がって 青年の肩をポンポン叩きながら「あんたも一人前の男になったぞ」と祝福していた。 姫も感動して泣いていた。実に素晴らしい光景。 涙腺の弱い漏れは新聞で顔を隠しながら泣いた。 と同時に、彼が姫の濡れそぼった蕾を恐る恐る開きその薔薇にも似た形状を確認していた事を想像し、一人勃っていた。 次「`b」「マカー」「排除」
475 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/09 23:08
ああっ耽美!耽美! 蕾が、蕾が、つぼってぴゅううん!あふう! TYCK薔薇ローズ!ジョルジュ・ド・サンドだっちゃ! 耽美だからっていけないわあああん。北から来たのさベイビラビーン。 乳首に花の、首飾り 乳首に花の、首飾り 乳首に花の、首飾り 死刑。 次の命題は「機動」「戦艦」「ナデシコ」
「誰か僕の命を救って・・・・・・」 小柄な体格の男は一人呟いていた。 彼の周りは暗闇だけが支配し、他には何もない。人も家具も何もなかった。 四方を石壁に囲まれている部屋の丁度中心で彼はうずくまっている。 真実、彼はもう死ぬことが決まっている存在だった。死罪を言い渡され、それでここに監禁されているのだ。 性格が悪い、と言われたのが始まりだった。 男はそれを理由に毎日のように虐められ、殴られた。 両親も彼を助けようとはせずに傍観だけをしていた。 それが一年も続いた頃に彼は両親を倒した。 虐めていた人物よりも両親の方が憎かった。 両親を倒した後に自分も死のうと思ったが出来なかった。 そうして、自首し今はここにいる。 「きっと、僕は生まれてはいけない子供だったんだ・・・・・・」 彼はぼそっと呟き、そうして深い眠りについていった。 次は 「夏休み」「冬休み」「紅葉」
ぐわ、遅かった・・・・・・。 次は「機動」「戦艦」「ナデシコ」 でお願いします。
478 :
gr ◆iicafiaxus :03/04/09 23:35
「命」「真実」「性格」「キロメートル」「マカー」「排除」 最近では野球界の認識も変わっているが、以前は選手を極限まで酷使したもので あった。権藤・権藤・雨・権藤といわれた権藤博投手の連日の登板など、今なら 考えられもしないだろうが、かつてはそれが一流選手というものだったのである。 野球選手にも労働組合が出来るなど、昭和時代とはもうプロ野球という物の性格 自体が変化してしまっている今日では、既にそのような選手起用の考え方は排除 されているけれども、昔は選手は死ぬまで野球を究めて当然とされていたのである。 それは毎日毎日の試合に出場してチームに貢献するという事でもあるし、或いは 新しい球種や打撃法などを研究するという事でもある。その方面で名を残している 選手としては、球速160キロメートル近い速球のカーブを編み出して大リーグに 「ヒューマカーブ」旋風を巻き起こした、巨人軍の星飛雄馬選手が有名であろう。 命を削るようにして鍛錬に取り組む星選手の姿は、劇画などにも描かれ国民的な 英雄になったものである。勿論、スポーツは単なる根性論では無いという意見に 私もまったく同感ではあるのだが、身体の限界を精神力によって乗り越えようと した往年の名選手たちの思想にも一面の真実が潜んでいるように思われてならない。 # 正統的なお題は 476 のようだけど、誰か12語やる?
479 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/04/09 23:50
「命」「真実」「性格」 土曜の午後。それはピアノのお稽古の、いつもの帰り道で起こった。 「この車に乗れ!さもなくば、命は別としても、服を真っ赤に汚してやる。」 男の手には、赤インキを一杯に満たした水鉄砲が握られていた。 「そ、そんなっ。お父様に叱られます・・・お願いですから」 そういう性格が災いした。黒いベンツは娘を乗せて、何処ともなく去ってゆく。 間も無くベンツは、東京ディズニーランドに着いた。 「さあ、腕を組んで入るのだ。おかしな真似をすれば、服は台無しだぞ!」 「こ、こう・・・ですか?」と慣れぬ手つきで、男の手首に手を添える娘。 「違う!第二関節部を、深く抱え込む様に・・・そう、きっとそれで大丈夫だ」 右手に水鉄砲、左手に彼女。二人は足がもつれない様に、ゆっくり歩いた。 「さあ!何に乗るか決めろ。決めなければどうなるか、わかってるな」 「許してっ、それだけは・・・『ピーターパン』というのはどうがでしょう?」 夕方になって、娘はようやく開放された。腕を解くのに少し戸惑う。 「フッフッフ、災難だったな。まあ、狂犬に噛まれたと思って諦める事だ。 恨むなら、カップル・家族連れしか受け入れなくなった、この遊園地を恨め」 娘は夕暮れの駅に立ち尽くす。本当にそれだけの為に?真実は分からない。 彼女はまた今日も、あの日と同じ道を辿って家に帰るのだ。 ※そういえば、ここ十年ほど行ってないなー 次のお題は:「坂」「靴」「早足」でお願いします。
480 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/04/09 23:55
あわわ、遅れてしまってすみません。 混線ですが、次のお題は「夏休み」「冬休み」「紅葉」で・・・
「夏休み」「冬休み」「紅葉」 ……百十八、十九、二十。 体重計の針がぴたりと止まる。 百二十キロ。春より十キロも増えている。 腹の肉が邪魔をして自分のつま先が見えない。 夏休みの真っ最中だと思って油断し過ぎた。 アイスクリームとビールのせいだ。いまさら真夏の太陽を恨んでも仕方ない。 秋までになんとしても百キロを切らないと資格を失ってしまう。 冬休みに子供達の笑顔を見れないなんて遣る瀬無い。 紅葉が始まる頃に身体測定がある。規定の体重は百キロ未満。 私達の仕事にとって体重オーバーは大問題だ。 私達の体重に加えて大荷物がある。乗り物自体もかなりの重量だ。常日頃トレーニングを欠かさないあいつらでも、 力の限界はある。私と荷物を乗せた乗り物を一晩中引っ張り続けるのは並大抵の体力ではない。 ポケットから免許証を取り出し、まじまじと眺め溜め息をつく。 サンタクロース免許証第2350号。 サウナスーツを着込んでジョギングに出掛ける事にした。 次のお題は、うはうさんの「坂」「靴」「早足」でお願い致します
482 :
gr ◆iicafiaxus :03/04/10 14:38
「坂」「靴」「早足」 通勤の車が繋がる大通りの喧騒を背にいくつもの 制服が群れながら丘の方へ坂道を上る。 僕の新しい学校は昇ったばかりの太陽を背に時計塔の 文字盤がきらきらと輝いて眩しく。 呼ばわれて顧みれば自転車で抜け駆けていったこの 少女とまた同じ校舎に学べる嬉しさをおはよーという 四字に感じて、いつのまにか、履き慣れない靴が 早足になった。僕の目は立ち乗りの背中が右左に人を 避けて小さくなるのを追っていた。 次は「垢」「鯖」「串」で。
483 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/10 14:58
484 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/10 19:13
「垢」「鯖」「串」 人の群れを離れ、俺は家へと辿りつく。この都会で、唯一気の置けない場所だ。 一日の間に溜まった疲れを、風呂場で垢と共に洗い流す。 ふと時計を見る。7時だ。いつもと全く同じ時間。 毎日が、同じ事の繰り返し。仕事も、人生さえも。 これから俺は、テレビを見ながらコンビニの弁当を食べたあと、 明日に備え、12時には寝る事になるだろう。そんな事すら予想できた。 その時、携帯が軽快なメロディーを奏でた。この街での、数少ない有人からの着信音。 ピッ。着信ボタンを押す。高校時代の同級生からだった。 「今日暇だったら、久しぶりに飲まないか?」そう奴は尋ねる。 俺はそのまま奴の待っている近所の居酒屋へと向かう事にした。 席に着き、御通しを出される。俺はビールと、そして夕食代わりに鯖の味噌煮込みと豚串を注文する。 「で、今日は突然どうしたんだ?」久しぶり、と言う軽い挨拶のあと、俺は尋ねた。 「いや、実は俺結婚する事になってさ…」恥ずかしそうにそう答える、奴。 俺は、嬉しさと嫉妬のないまぜになった感情を覚えていた。 次は「雫」「痕」「黄昏」で
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あぼーん
ウィスキーがなくなった。軽く振り、最後の雫2、3滴をデカンタに落とす。ぽたりとも落ちなくなったところで、私は ビンを静かに置き、デカンタを取りあげた。これが正真正銘、最後の一杯だ。 デカンタ半ばまでを満たす琥珀色の液体を口許に運ぶ。肘を曲げると今でも古い傷痕がうずき、腕がびくりと引き 攣る。いつもは零してしまうウィスキーだが、僅かとなったそれは零れようもなかった。 私は一息にそれを呷った。最後だからといって、ちびりちびりと味わうようなことはしない。灼けつくような感覚が、 喉から胃の腑まで一気に滑り落ちるのを味わい、私は深い溜め息をついた。 ここにはもう、誰もいない。腕利きたちにはみな暇を出し、あるいは知り合いの醸造所を紹介した。樽や蒸留器も、 払い下げるか廃棄するかした。ここにいるのは、疲れて酔っ払った老いぼれ独りだけだ。 私はデカンタをテーブルに置いた。底にはまだ、黄昏の夕陽に似た液体がわだかまっている。私はそれをすする気 にはなれなかった。本当の最後は、ここで私と朽ちてゆくのだろう。 私はロッキングチェアに深く背をもたせた。私と同じようにくたびれたチェアは、揺らすたびに軋みをあげた。 と、軋みが二重奏になった。開ける者などいないと思っていた戸を開けて現れた、一匹の猫の仕業だった。 ダーザ、醸造所で一番の腕利きだった。私同様老いた猫だが、鼠を獲る腕では若い猫に一歩も引けを取らなかった。 私はデカンタを逆さに振り、私を見上げるダーザの前に数滴を零した。 こいつには、本当の最後ってやつを味わう資格がある。 次のお題は「スリッパ」「蟹」「夜桜」で。
490 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/10 23:45
蟹を食べた。夜桜を倒した。スリッパをなくした。 これじゃ話にならないな。時間を遡る。 月夜に白い夜桜。 パジャマにスリッパの僕。 今時珍しい沢蟹。 桜の花越しに見る月の光。冬の名残をもう感じない風。 昼間の喧騒の中では気づくことのなかった川のせせらぎ。 こんな姿で慌てふためいて家を飛び出した僕。飛び出させた携帯。 もう届かない君の後姿。かすかに感じる君の残り香。 幻の君にスリッパを飛ばした。頭から川に飛び込んだ。 不運な蟹ごと歯軋りした。目の前の桜を引っこ抜いた。 それでも足りずに僕は月を睨み上げた。 満月は微笑むでもなく不平を言うでもなくそこにあった。 僕はまだここにいて、君はもうどこにもいなかった。 なくしたスリッパは見つからなかった。 携帯はもう鳴らない。 お題は「パン」「耳」「できゃ」
「パン」「耳」「できゃ」 夏に入る頃、親父が倒れたと電話があった。朝から電車を乗り継いで駆け付けた。 久し振りに海の町を見た。見覚えのある坂道に、新築の家が幾つか建っていて、 見るからに古い色をした一角に俺の実家があった。 親父は、報せで聞いたよりは元気そうだった。昔だったら、こんな事くらいで騒ぐな、などと怒鳴ったが、 会ってみると、低い声で、ありがとう、まだ平気だよと俺に言った。歳を取ったな、と思った。 母は若いくせに野暮な格好をしていて、親父の部屋を離れると、俺に幾らか金を寄越そうとした。 そういう心遣いが煩わしくて、会う度いつも受け取らないでいたが、その時はおとなしく受け取った。 ――お父さん、近頃耳が遠いのよと母は付け加えて言った。――海で遊ぶ人の声が聴こえないらしいの。 近所の雑貨屋で菓子パンを買って、それを齧りながら浜辺に行ってみた。 パラソルがあちこちに開いていた。浮き輪やビーチボールが転がっていた。 かすれた字で「ゴミは持ち帰りましょう」と書かれた看板に残っていた。 波のあいだで、若い女の子が遊んでいて、大波が浜辺を染めるたび、波打ち際できゃーきゃー騒いだ。 親子が幼い子供を連れて、足跡をつけて散歩していた。波に取られたサンダルを、父親が拾ってやった。 時間がゆっくり過ぎていた。砂で作った城も水路も、波が静かに崩していった。 俺はまだはしゃいでいる海水浴の客たちを後にして、堤防の手すりに腕を置いた。 潮の空気に、久し振りに泣いた。 次は「汚れた」「酒」「算盤」で。
「汚れた」「酒」「算盤」 「浮船、はよう酒を各務様に持って行きや」と、女将の声が聞こえた。 「は、はい」 口ではそう答えるが、すぐに動けない。浮船の体は、ある男の手の中にいる。 男の手は、浮船そのものを確かめるように、唇や首筋、手の甲を 順々と伝う。浮船は、その手が 嫌でなく、されるがままになっていた。 男は陰を含んだ暗い瞳を浮船に向ける。 その目を見た時 浮船は、体が一瞬燃える様に熱くなり、 男の腕の中で もがいた。 一刻も早くこの腕から逃れたかった。 動悸が激しく高鳴り、体中が 熱く高揚する。 「私はな、綺麗な花を見ると引きちぎりたい衝動に駆られるんだ。お前のような女が いろんな男 どもの手の中を渡り歩き、汚れていく様を とくと長い目で見物 しようか」 と言いながら、男は やっと浮船の体を離す。 「お前の源氏名である浮船の名のとおりの道を行かねば良いがな」 男は含みある笑いを静かに口元に浮かべる。 その場を立ち去ろうとすると男は私の手を強く握った。 「また来る」 浮船は振り落とすように手を薙ぎ払い、逃げ出すように番台の部屋へ足早に向かった。 初老の番台は、枯れ木のような指で算盤を懸命に弾いている。 「浮船、各務様が先ほどから首を長くしてお待ちや! お得意様は神様のように 扱わねばならへんのや。そこのところ、よく覚えておきや」 「へえ、気をつけますよって」 浮船は急いで客間に足を運んだ。 先ほどの男とのやりとりで心が強く揺れ、平常心を保てない。 ・・・・・・・私、今日はちゃんと舞えるやろうか・・・・・。 一抹の不安を抱えながら、浮船は客間の前に正座して戸を開けた。 次は「紙」「本」「水」で。
>>492 >汚れていく様を とくと長い目で見物 しようか
汚れた様を見たいものだな
に訂正。
「なんて書こうか……うーん……」 紙と睨みあってもうすでに三十分以上。なかなかいい文章が出てこない。紙に書いてあるのは一言だけ。 「だめだぁ、でてこねぇや」 やっぱり慣れないことはするもんじゃない。大体、高校でもまともに国語の授業を聞いてないのに、何か手紙を書こうなんて最初から無理だったんだ。 やっぱり趣向を凝らして手紙で、っていうのが無理あったのか? 「……」 何気なく机の上においてある本に目をやった。不思議とそれだけでやる気が出る。 「さて、なんて書くか……」 そうだ、俺はこの手紙を書ききらなければならない。そんな使命感とともに、コップに注いだ水を一気に飲み干した。 彼女が欲しいといっていた本。それにこの手紙を添えて誕生日に渡すんだ。なら、こんなところで迷ってる場合じゃない。 「俺は……君のことが……」 少しずつ、紙の中に言葉が書き込まれていく。そして、4時間後にようやく書きあがった。とても幼稚な文章だけど、書き上げた達成感は格別だった。 後は渡すだけ。大切にその手紙を本の中にしまいこんで、俺は布団の中に入った。 明日、その結果が出る。多分、どんな結果になっても後悔だけはしないと思う。気持ちのよい疲労感とともに、俺は目を閉じた。 次は「嘲笑」「あさり」「葬式」で
495 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/11 21:32
「嘲笑」「あさり」「葬式」 あるところに、娘おりたり。 あさりの殻に絵かきて、貝合わせの具として売りたり。 貧なりて、身なり乏しきに、嘲笑いたりける。 その領の主、没したるに大きな葬式になりける。 娘姿あらはして、みな道をあけず。 娘、ひときは大きな貝を掲げていいぬ。 これはお屋形様の貝なり、合はせてみよ。 儂はお屋形様の娘なり。 主の貝と合わせしが、娘の云うとほりなり。 娘の貝、かかれたるはキリスト様なり。 主の貝、かかれたるはマリア様なり。 みな娘に道をあけ、声の一つもなかりけり。 #テキトー(;´Д`) #次のお題は「宇宙の旅」「異常な愛情」「突撃」
う、間違ってる。恥を忍んで訂正。 貧なりて、身なり乏しきに、嘲笑いたりける。 ↓ 貧なりて、身なり乏しきに、みな嘲笑いたりける。
497 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/11 22:36
俺は今あぐらをかき、右膝に拳を、左膝には左肘をついてふてくされている。 これからどうするかを考えあぐねているのだ。 幸い、なんでこうなったのかを考える必要はない。 あまりにも単純明快、わかりきったことだからだ。 俺は宇宙の旅人だ。 宇宙の旅人がこのいまいましい砂漠でふてくされる理由といったらひとつしかない。 宇宙船が墜落したのだ。 それもこれもこのおチビちゃんがメロンパンに異常な愛情をもっていたからにほかならない。 23時間のワープを終えて腹が減った時、目の前に置いてあったメロンパンがたまたま 最後の1個だった、それだけなのだ。なのにこのおチビときたら、重戦艦の突撃を受けても 沈まなかった俺の船をいともたやすく操舵不能にしやがった。 当の本人はそんなことケロッと忘れて、初めて見る砂の世界にすっかりご機嫌だ。 とにかく、カラカラに干上がらないうちにこんなところとおさらばしよう。 「いくぞ、チビ」 いずれ宇宙船の修理に戻ってくるだろう。そのときのために発信機をセットして、 半分砂にめり込んだ宇宙船を光学迷彩シートで覆った。 昨日3丁目の公園に隕石が落ちたという噂を聞いて見に行ったけど、何も見つからなかった。
498 :
「宇宙の旅」「異常な愛情」「突撃」 :03/04/11 23:06
2001年を過ぎても宇宙の旅はままならない。 核シェルターが使用される状況には至っていないが、 個人の判断ミスによって世界の危機が訪れるようなことはごめんだ。 マッドサイエンティストは好きだが、異常な愛情までは持たない。 人の命は地球よりも重い、と言いつつ、その「人」が何億人もいて、 どちらの事実も人はよくわかっている。一度死んでもまた生き返ることが できるならば、突撃してもいいんだけれども。 人工知能は、成長する仕組みさえ開発できれば、後は自動で 人を追い抜いていくと思う。 モノリスをトンカチでたたいてみたい。
あのう、お次の三語はないのですか?
お題継続で行くしかないんじゃない? そういうルールだし。
497さんのがなかったもので。 出してよいならば、「リモコン」「光年」「AI」でよろしく。
次は 「たかぶる」「なんちゃって」「ごひゃく」 でよろしく。
いーよいーよ 498=501のでいってくれ。 元気のあるやつは6語に挑戦するもよし。
私はAI、ここは宇宙船の中。 私と、私のマスターが住んでいた星から、46光年ほど離れた宇宙空間を、飛んでいる。 私のメタルボディーは足が取れ、塗料がはげてしまい、マスターがみたらきっと悲鳴を上げてレストアするだろう。 しかしマスターはもういない。 この宇宙船が星から飛び立つとき、マスターは私だけを宇宙船に入れた。 「俺はもう長くない。どうせ保たないなら土の上で死にたいんだ。おまえは船に乗って、地球の皆にこの事を伝えてくれ」 マスターは笑顔でそう言い、宇宙船のハッチを閉めた。 現地住民に斬られた傷が相当痛んだろうに、何故マスターは笑ったのだろうか? 私には分からなかったが、宇宙船はマスターに問う暇も与えず飛んでしまった。 ……それから長い間、私はずっとここにいる。 飛び立つときにシートにマスターが乗せてくれたのだが、宇宙ゴミにぶつかったショックでシートからおちてしまった。 それ以来私は腕の中に内蔵されてるリモコンで宇宙船を操作している。 シートから落ちたこの状態ではセンサーがよく見えないので、あとどれだけ飛べば地球に辿り着けるのかも分からない。 そして、たった今腕の中に内蔵されたリモコンが壊れた。 長期間使用によるオーヴァーヒートだ。 このままではマスターの命令を守れなくなる。 まいったな。どうしようか? 問いかけても答えてくれる事は無い。 私に涙を流す機能があればいいのに。 私のメタルボディー……。動かなくなった腕だけが、いやに熱かった。 つぎは「たかぶる」「なんちゃって」「ごひゃく」 でよろしく。
505 :
「たかぶる」「なんちゃって」「ごひゃく」 :03/04/12 01:04
「女がヒステリーを起こしたら、甘いものを食べさせるといいそうです」 「すぐそうやって知ったかぶる」 「本当です。治先生が言っていました」 「誰?」 「太宰治先生です。ラブレターで湯を沸かして風呂に入ったことがあるそうです」 「マジ?」 「もちです。女をごひゃく人ほど、振ったそうです」 「もしかしてイケメン?」 「いやな言葉です」 「今で言ったら、誰に似てる?」 「ベッカム様」 「本当?」 「なんちゃって」 彼女は激怒した。 498です。497さんのお題で考えていました。 次は「芸術」「心」「失格」で。
「おう。しかし、こっちのほうが怖いぞ。人間心理の襞をつく、恐るべき物語だ」 と、南郷は声を潜めた。 「……玉川上水で太宰が入水自殺したことは知ってるな?」 「おう、知らいでか」 「それ以来芸術家気取りが通りがかると、太宰の霊が『失格!』と言ってくるらしい」 「……まあ、な」 白井は首をひねり、それから首肯した。なにか、いぶかるべきなにかが喉の奥に引っかかっていた。 「なんつーか、な。怖いっつったら怖いんだが、太宰なら言いそうだし……言うほどの怖さじゃないっつーか」 「そうだろうな。これはまあ置いといてだ。俺も先日、酒飲んで歩いてたんだよ、自殺現場」 「で?」 「…………突然背後から、『合格!』って聞こえたんだ」 「こっわーっ!!」 次のお題は「みかん」「煩悩」「つっかけ」で。
「みかん」「煩悩」「つっかけ」 庭で散歩の途中、書生の格好した友人が、しきりに呟いているのに出くわした。 どうしたのと僕が聞くと、彼は「くたばってしまえ」と吐き捨てて、夜叉のような形相で去って行った。 家に帰ると、ドイツから、イギリスから、それぞれ注文した洋書が届いていた。 それから、痩せて河童じみた顔の居候を呼んで、裏の機械の歯車が外れてしまったと言い、 彼はもう一人の居候である、頭と腹が大きな男を連れて、みかん片手に突っ走っていった。 暇になった僕は、屋根の上に鳥を見つけて、それを僕と同様に凝視している若者に出会った。 彼は、自分の煩悩が恐ろしいと言い出し、ときに女生徒の口調になってしまうこともあると訴えた。 君は訛りがひどいね、と僕が言うと、あいつもなかなか訛りがひどいんです、連れてきますと彼は応え、 気の好さそうな青年を従えて戻って来た。挨拶もそこそこに、彼の大阪生まれを訛りで知った。 しばらく彼らと会話をしていて、大阪弁の青年は改まった口調で 「一流気取りの書生はいますか」。 知らない、と一応、そう答えておいて、僕は帽子を脱いでその場を後にした。世相の話は苦手だった。 下駄をつっかけた子供が飛び出してきた。 次々に子供たちは躍り出た。僕は彼らを見送った。そのうち、段々と子供の列は乱れてきた。 嫌気が差したので、裏通りに回ってみた。子供はそこにいなかった。ただし、赤ん坊が寝転がっていた。 おびただしいほどの赤ん坊は雑魚寝をしていて、しきりにこう泣いた。 「知ってる! 知ってる!」 お題は継続で。
508 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/12 23:42
「みかん」「煩悩」「つっかけ」 ゼイゼイと荒い息を背中に感じる。左にステップを一つ切る。フェイク。ウ イングがサイドを上がってくるのが視界にはいる。右斜めに下がってボールに 寄っていく。 球出しが遅い。鼻息が近づいてくる。もう二歩転がってくるボールに近寄り、 右足を振り回して、サイドに開く。どうやら鼻息は間に合わなかったようだ。 ウイングがサイドで敵につっかける。きびすを返してゴール前へ駆け込もう とすると、もう味方が走り込んでいる。パンパンと地団駄踏むようにステップ を切ってから、ファーに流れる。ボールを折り返そうとするウイングの姿が、 アクション映画のスローモーションのように回転しながら遠ざかる。 しかしボールは視界の中で全く動かないまま、ゆっくりと大きくなっていく。 逆方向に流れる身体を背筋で押さえ込み、視界を全部ふさぐほど大きくなった 黒影に側頭部をぶっつける。ばさっと音がしてゴールネットが大きく膨らむ。 アドレナリンがわき上がる。ゴールの瞬間は最高だ。108の煩悩全部足して もまだ足りない。敵のゴール裏から投げ入れられたみかんを一口がぶりと齧っ て投げ捨てる。投げた奴が真っ赤な顔でわめいてる。これ以上ないほど愉快だ。 #次のお題は「相場」「勘定」「打算的」で。
カフェテリアという店舗形式は、どうにもよろしくない。 好きなものを自由に選ぶ、という形式がそもそもよろしくない。栄養バランスを考えず、好みにばかり走る子供を 叱りつけ、まんべんなく選ばせるだけで一苦労だ。定食ならば、残さず食べなさいの一言で片付くものを。 また、各々に値札がついているのも考えものだ。これは総菜屋の相場に比べてどうのこうの、とついつい打算的 になってしまう。セット価格でひと束いくら、の方が楽でよい。 そしてもっともよろしくないのが、いざ勘定となったときに想像していたより高かった、という事態を招来することだ。 いい年をした大人として、足が出るのでこれ返します、とは恥ずかしくてとても口にできたものではない。齢を重ねる と暗算能力は格段に落ちる。その辺が、人の足下を見ているように感じられるのだ。 これはネタです。私はカフェテリア好きです。その辺お察しください。 次のお題は「ミニカー」「ストロー」「引き出し」で。
ミニカーとストローは引き出しの中に入っていますよ。 母親の声が響いた。 そうして、世界は終演を迎える。 〜風の章〜 糸冬 了 次のお題「カフェテリア」「私は」「お察しください」
高校を卒業して一年半。 地元でバイトして、お金を貯めた。上京仲間を見つけて部屋もシェアした。 家賃折半って素敵。カフェって素敵。 念願かなってオープンカフェテリアに勤めることとなった私だ。 可愛い制服、可愛らしい仲間。可愛いお店。ファッショナブル!!スウィート!! そんなカフェ仕事人となって早半年が経つが、そうすると常連さんというものがわかってくる。 開店前から待ってる人、毎回コーヒーと新聞を持って入店する人、窓際に必ず座る人…… あの人は、そんな常連の内の一人。 いつからかは憶えていないが、月末になると仕事帰りからここへ直帰し閉店間際までコーヒーを飲み、 仕事をしている。彼の姿を見つけた途端、カレンダーを探した。 あぁ、今月はまだ十日もあるじゃないか。 珍しいな……。 彼は、その後30日まで通い続けた。 「ちょっと……!!あの人、いつもスーツ同じじゃない?なんだか怖いんだけど」 こちらも常連、昼間から夕方までご近所さんやらクラブのおばちゃんがたといつもいらっしゃるお方。 彼のスーツは30日にはすでにちょっと……よれよれになっていた。 「二十日締めの月末払いなんだそうですよ。」 「はい?」 「お察しください。」 今日は一日。 彼の部屋の電気が久々に灯っているだろう。 次のお題「帰せない」「しなやか」「背中」
自分の手も見えない暗闇の中、腕を伸ばす。空間。そこにだけは壁が無い。 穴なのだ。そこにだけ、穴が開いている。狭い穴だが、通れないわけではない。 少女が手を穴の縁にかけ、身体を中へ潜り込ませようとした瞬間、後ろから腰を掴まれた。男。暗闇の中、見ることは出来ないが、そのごつごつした手はまぎれもない男の手。気付かれたのだ。少女は歯噛みした。 男は、手の内に感じる少女のしなやかさに、力を加えた。逃げられないように。穴に入られないように。 「もういい加減に帰してよ!」少女が高い声で喚く。「この穴、あたしなら通れるの! そしたら助けを呼んできてあげるから! 帰してよ!」 「帰せない」男は声音は陰鬱としている。「君が行ったら、僕は死ぬ」 男は腕に力を込めた。少女を完全に穴から引き剥がすと、回り込んで、自分の背中で穴を塞いだ。暗闇に、少女の嗚咽が響く。 「死んでよ……勝手に死んでよ……あたしを巻き添えにしないでよぉ……」 経つのもわからぬ時が経つ。とうに泣き止んでいた少女が、動き出した。男は寝ているはずだ。不確かだが、確かめようとは思わない。 穴。穴。そこから出られる。ここから出られる。こんな男は勝手に死ねばいい……。少女はそっと、穴に潜り込んだ。動きづらい。這うようにして進む。男は気づかない。一メートル進む。……前に進めない。「あれ?」壁がある。 おかしい。横を確認する。「おかしい」壁しかない。おかしい。あれ? おかしい。 「ああ……!!」いつの間に目覚めたのか、後ろで男の嘆く声がする。「せめて……君にはせめて、希望を持たせておこうと思ったのに……!」 少女は穴の中で、存在しない出口を探している。 次は「掃除機の音」「うるさい」「和」でお願いします。
寝ている私の鼻先で、蠅が飛び回っている。手で追ってもなかなか離れていかない。 夜中に虫の飛ぶ音というのはどうしてこんなにうるさいのだろうか。 腹が立った私は部屋の隅に手を伸ばし、卓上掃除機を掴んだ。 スイッチを強にして、蠅を吸い取ってやろうと掃除機を振り回す内に、蠅の羽音と 掃除機の音がシンクロしているような気がした。どちらかが大きくなればもう一方が小さくなる。 掃除機のモーター音と蠅の羽音の奇妙な和音。私は目を閉じて、一心にその電動式の楽器を振り続けた。 ふいにぱったりと蠅の羽音が止んだ。おいどうした蠅よ。私の演奏が気に入らなかったか? いきなり強にしたのがよくなかったのかもなあ。私は掃除機を止め、いまや静かな床についた。 次は「剣」「草原」「途方もない」でお願いします。
絶滅危惧種の金魚草、原種の群生を確認 十五日ロイター発・共同通信配信 二〇四三年に絶滅危惧種に指定されていた金魚草の原種が、このたびチベットの高山地帯で発見された。 この金魚草原種はカンチュンジュンガ山南壁四合目付近に大量に群生しているのを、シェルパの若者が発見 したものである。 在来種と違い原種の葉は剣状をしており、肉厚である。また生命力も旺盛であり、現在サンプルを調査している 北京大学生物学部では自家受粉も可能ではないか、との見解を示している。すでに在来種との交配が行われて おり、金魚草のレッドブック解除はほぼ確実と見られている。 昨今絶滅危惧種が闇マーケットで途方もない値で取引されている。特に金魚草は途方もない値がつけられている が、今回の原種確認でこうした闇マーケットにも打撃を与えてくれるのではないか、と関係者は見ている。 次のお題は「あんぱん」「帆船」「黒」で。
515 :
「あんぱん」「帆船」「黒」 gr ◆iicafiaxus :03/04/13 21:33
海の夜風が春といってもまだ薄寒い臨港公園の野外音楽堂の空に大音声のパンクロックが 響いて、教育大附中三年の僕は今までに感じたことの無い気持ちの昂ぶりを抑えようとも せずに声が嗄れるまで群衆とともに叫んだ。演目が全部終わって人々はぞろぞろと駅に 向かいスタッフはゴミを集めロープを外し機材をトラックの荷台に載せだしても、僕は 列車に乗って家に帰る気になどなれずに撤収の邪魔にならない緩い土手になった木陰の 暗い場所に坐り込んで出入りする船も無い夜の港に繋留されたフェリーや貨物船や大きな 帆船の影を見ていた。 不意に誰かが僕の脚に躓いて倒れた。謝りながら助け起こすとそれは僕と同じくらいの 齢の少女で、薄汚れたTシャツの白が夜の闇の黒に浮かぶ天使の羽衣のようだと思った。 へらへらと笑いながら隣に坐ったその子はあんぱんのビニール袋だけを大事に握っていて、 僕が空を指してあれが北斗星、あれが獅子の鎌とか言ってみても歯のすいた口はおざなりな 返事しか返さなかった。僕の肩に体重を預ける少女の体を腕を出して抱える勇気が今日は 僕にもあって、熟れ過ぎた果実のような匂いのする唇を恐る恐る奪うと、乱れた歯列を 舐め、吸って、幹を背に長坐したまま僕は小さな声で喘ぐ少女を自分の胸に凭れさせた。 シャツの裾で拭いた手をTシャツの中へ入れると少女は肌に何もつけていなくて、意外に 温かいその体に本で読んだ通りに指や舌を動かしながら、僕は度胸を決めて少女のGパンの ホックに手をかけた。どこか頼りなくて壊れそうな少女の小さい体、薄汚いあんぱん中毒の 体を抱き止めながら、僕は乱暴な仕方に怯えと戸惑いを隠して、初めて一人の少女を知った。 次は「トマト」「仕返し」「新聞紙」で。
『お題:「トマト」「仕返し」「新聞紙」』 ----- ちょっとした旅先の、ひなびた無人駅。 電車が来るまでの時間つぶしのために始めたしりとりだったのだが。 「獅子」 「新聞紙」 「忍び足」 「島流し」 「精霊流し」 「新橋」 「志布志」 ・・・ 「獅子」が発端だった。つい「仕返し」になんとしても「し」で 終わる言葉を言ってやろうと二人はすっかりムキになっていた。 と言ってもそうは続かない。「鹿おどし」と言ったところで男が折れた。 「なあ、そんなにムキになるなよ、遊びなんだからさあ」 「ムキになってるのはそっちじゃない。いいわよ貴方がやめたいなら」 「そんなんじゃないって。今度は君が好きな言葉を言ってくれよ。最初の言葉を変えて仕切直しだ」 男の「仕切直し」に女の眉がつり上がった。 「ええ・・・いいわ。じゃあ『トマト』」 電車が来るまでには暫し時間がかかりそうだ。 ------ こんなんですみません。 次も「トマト」「仕返し」「新聞紙」を継続してください。
友人のトマト君はいつも赤い。とってもシャイなプリティー・ボーイだ。 何を聞かれても赤くなって黙ったまんま。 そんなある日彼が口を開いたのさ。 よく晴れた日曜の午後だった。公園のベンチでお年寄りがのんきに新聞紙を広げているのどかな光景さ。 「仕返ししてやる」 うつむきながらそういった。ひときわ低い声ではじめはネタかとおもったよ。 僕たちを笑わせるためにいったのかと思ったよ。でもしつこいんだ。胸元から光るものをとりだして振り回しはじめた。 おいおいプリティー・ボーイよ何がそんなに悲しいんだい?おじいさんもびっくりして新聞紙をひっくり返しちまったよ。 ああ、こっちがトマトにされちまった。頭から血を流した真っ赤なトマトさ。 次のお題は「金閣寺」「フィアンセ」「チョコボール」で
お題:「トマト」「仕返し」「新聞紙」 今日は休日、なのに私は一人で部屋に居た。 憧れていた都会での一人暮し。 最初は束縛からの開放感に包まれていた。 私の故郷は、この街から遠く離れた、村中が知り合いのような、そんな所。 テレビから流れる人生を愉しんでいる都会の人達の姿。羨ましかった。 私は半ば家出のように故郷を離れた。 今思えば、それは自分の生きてきた人生への仕返しだったのだ。 ただ、都会で待っていたのは、華やかな生活では無かった。 仕事と家の往復。毎日がそれの繰り返し。 擦れ違っても声も掛け合えない、そんな人達。 故郷での暮しが懐かしく思い出された。何て我侭なんだろう、自分を嘲笑う。 キンコーン・・・ チャイムが鳴らされた。 宅急便が届けてくれたのは、実家からの小包だった。 何を送ってきたのだろう、そう思いながらダンボールを開ける。 土の匂いがする故郷の空気が優しく私を包んだ。 中に入っていたのは、新聞紙に包まれた実家で作った真っ赤なトマト。そして母からの手紙だった。 最近あった事、そして私がどうしてるかを心配している事、 手紙には、そんな文章が懐かしい文字で綴られていた。 自然と涙が溢れた。 わー・・・なんだかバカの一つ覚えな展開だ・・・鬱 次のお題は「コスモス」「夢」「喧騒」で
次のお題は「コスモス」「夢」「喧騒」で
お題は「コスモス」「夢」「喧騒」 都会の喧騒のなか僕と女は一線を越えた。 出会い系サイトで買った3万円の女子高生だ。 ホテルから出てきたときはまだ、夜の8時過ぎだった。彼女の門限までにはまだ時間がある。二人で夜の街を散歩した。 そろそろ冬に差し掛かるころで、年末にむけて慌ただしく街はうごいていた。気の早い商店街ではもう、クリスマス・イルミネーションの準備を始めている。 帰り道、二人で花屋の軒先きに売られている花を眺めていた。 赤いコスモスがバケツのなかいっぱいにいれられている。花言葉は乙女の愛情。 彼女が甘えた声で花言葉を尋ねてくる。 夢を無くしてしまった彼女に、僕は答えることができなかった。 次のお題は「金閣寺」「フィアンセ」「チョコレート」で
「バレンタインの本当の起源を知っているか?」 白井はあきらめきった視線を南郷に向けた。南郷のバカ話はいつどこで起こるか分からない、天災のようなものだ。 「聖ヴァレンティヌスが恋人だかフィアンセだかのために殉教したってのが通説だな」 「おう。他にも進駐軍のバレンタイン少佐がギブミーチョコレートな子供に菓子をばら撒いたとかいうのがあるが、ありゃ 全部間違いだ。真実は、まったく別のところにあった」 今日も南郷は、自分のたわごとを完全に信じ切っていた。こんな調子で、厳しい社会の荒波を渡っていけるのだろうか。 「時は大正時代。チョコレートがまだまだ珍しい時代だ。とある積極的な女が大枚はたいてウィスキーボンボンを輸入して 男に食わせ、酔わせたところで頂戴する。早い話が、バーでカルーアミルク飲ませる野郎と同じ戦略だったわけだ」 まただ。どこでそんな与太話を仕入れたのか。いいかげん諦めてはいたが、つい反論してしまうのが白井の若さだった。 「嘘つけ。そんな話聞いたこともないぞ」 「それはお前のアンテナが、まだまだ低感度だからだ」 南郷はふんぞり返った。自身満々だ。 「元ネタは三島だ。『美徳のよろめき』と『金閣寺』に書いてあるらしい。この間文学部のコンパで、日文のおねえちゃんが 言っていた。『金閣寺』はすごいぞ、それでおいしくいただかれた主人公が金閣寺に火をつけるのだ」 白井は頭を抱えた。 「お前絶対バカにされてるって」 次のお題は「ガスバーナー」「紐」「ワイパー」で。
522 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/15 16:16
age
523 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/04/16 22:28
「ガスバーナー」「紐」「ワイパー」 <バナーを押すとブラクラにいかされる場合があります> ・・と、せっかく本がいってるのに、敢えてそれに挑む男がいた。 「うーむ、やはりこれは、一度押してみなければ」 意を決してガスバーナーのスイッチを押す。 ぐぉぉぉ! もらい物のパソコンが、一瞬にして灰となった。 さっそくサービスに電話する。 「もしもし、インターネットが不調なのだがね」 「えーと、ライン繋がってますか?」 パソコンを吊るしていた紐を引いてみる。大丈夫のようだ。 「わかった、自分で探す。もう君には頼まない」 本の題名の様な台詞を吐いて、男は嵐の中を車で出かける。 ワイパーをかけても前が見えない、雷雨の中を。 「ブラクラはどこなのだ!」 嵐の夜。彼はあてどもなくブラジャー・クラブを捜し求めるのだ。 ※意外と本当にそう思ってる人も多いぞー 次のお題は:「忘却」「宇宙」「工作」でお願いします。
524 :
「忘却」「宇宙」「工作」 :03/04/16 23:37
宇宙の大きさを考えていると、人の一生などほんの一瞬の出来事だと本当に思ってしまう。 だから、ちっぽけなことにとらわれずに大きく生きてみたい。友達が会社で昇進しようと 結婚しようと、フリーターは経済成長を制約すると言われようと気にしない。もっと大きな 社会貢献をしてやろうと、ぼくは思っている。歯車のような人生を歩むのは、 自ら歯車になることを望んでいるからなのだ。 この日本に生きていて、いつからこういう考えを持つようになったのかはわからない。不思議だ。 平等教育を施されているはずなのに、周りの人間と同じことはしたくない。 人間一人一人が、ただ一人の存在であるならば、自分にしかできないことがあるはずだ。 それが達成できたときには、満足のいく人生だったと思えるものに出会ってみたい。 子供のころの工作を思い出すと、なぜあんなに夢中になれたのかと不思議に思う。 「夢中になる」ということが、どういうことかは知っている。わざわざ忘れてしまうことはない。 宇宙の大きさを考えていると、自分自身を含めて、人間なんてほこりのような存在だと思えてしまう。 失敗したら、すべてのことは忘却してくれ。 次は「流れ」「歯車」「生き様」で
私が石神家の家事手伝いとして勤めだした時から、すでに歯車は狂ってい たのでしょう。 身寄りのない私を親戚の人たちは、やっかい払いだと言わんばかりに高校 を卒業したら、住み込みの仕事を勝手に決めてしまいました。 私は生きるために働く事を決意しました。 石神家は代々巫女の家系の家柄で、大抵生まれる子供は不思議な能力を 宿して生まれるそうで、私がおつかえした綾子様も例外なく、不思議な力 をお持ちでした。年は50歳を越えているのに容貌は20代という姿をされ ていました。 綾子様はとてもお優しい方で、彼女の能力は、人の心奥底を見透かせるも のでした。よく世間では「人の心が分かればいいのに」とおっしゃいます が、私は綾子様の苦しみを眼前で見ていましたから そうは思えません。 人の心の表裏全て視えてしまうと言うのは、想像を絶する事なのでしょう。 綾子様は極端の人嫌いで、よく一人でお部屋にお過ごしになる事が多く ありました。でもなぜか私を気に入ってくださり、よく話相手になりまし た。そんなひと時を私は、とても幸せに感じていました。 でも幸せとは長く続かぬものなのでしょうか? ほどなくして綾子様はご病気になり、お亡くなりになりました。亡くなる 直前、綾子様は私を部屋に呼び、私の手を握りました。 「お前には すまないと思うけど、これも運命だと思って受け入れておく れ。私の中には石神家の巫女たちの生き様の記憶の全てがある。それを お前に引き継いでもらいたい。おろかだと思うけれど、必死に生きてきた 先代達の思いを無にはしたくないのです」 そう言うと目を瞑り、その後再び口を開く事はありませんでした。私と いえば、綾子様の能力を全部受け継いだようで、44代目の石神家の巫女 の地位にとどまる事となりました。あれから数年時が流れ、私もようやく この運命を受け入れようと思うようになりました。でも人の心を見通せ る辛さ・悲しさは耐えようがありませんが、尊敬していた綾子様がいかに 孤独であったのか、一瞬ではありますが、綾子様の心と重なるようで それが自分の心の慰めでもあるのです。 次は「夕闇」「とまどう」「心」で。
これ長すぎましたね。 525は無しで、524のお題目「流れ」「歯車」「生き様」で続きお願いします。
一つ、古い大きな時計がある。今は決して動くことのない時計。 この時計はとある男とまったく同じ日に生まれた。その男の親が誕生祝にと特別に作らせたものだった。 以来、同じ日に生まれた男と時計は同じ時をすごしていく。彼の傍らには、ひっそりと影のようにその時計があった。 男はどこまでも自由と正義を愛した。そんな彼が重税に苦しむ民衆のために立ち上がったのは、わずか22のときだった。その革命は最初は小さな火だったが、いつしか国全土を包み込む大きな炎となっていった。 彼が若き指導者として迎い入れられ、23となったとき。一発の銃弾が彼の左腕の自由を奪った。それに呼応するかのように時計も一つ歯車を失った。自慢の大きく響く音が鳴らなくなった。 それでも彼は戦い続けた。そして、五年後、遂にその革命は政府を打ち倒し、新たなる秩序を作り上げる。それ以来、その国に平穏な時間が流れていった。 革命がなったその後も、男には課題が山積みだった。自由を愛し、革命を起こした青年は、いまや国を指導していくべき立場にたっていた。 左腕の不自由な指導者のもと、新しい国作りが成されていく。その傍らに、もう大きな音を鳴らすことのない時計があった。 そして時は流れ、年老いた彼は指導者という立場から去っていった。一緒の時をすごした時計とともに彼は静かな余生を送る。結婚することのなかった彼は、時計に見取られひっそりとこの世を去った。半身を失った時計も、いつしか動かなくなっていった。 しかし、百年以上経った今も、その時計は立ち続けている。その男の誇り高い生き様を体現するかのように、時計はずっとそこにあり続ける。その姿が人々の心を打ち、今でもその国には平和な時が流れている。 次のお題は「苦難」「サバンナ」「自分自身」で
(^^)
自分自身はサバンナで苦難を乗り越えた。 次「人間」「理性」「秋刀魚」
530 :
gr ◆iicafiaxus :03/04/17 18:02
「人間」「理性」「秋刀魚」 人間の理性を網で焼く秋刀魚に譬えたのは、夏も終わりに近い日の高柳浩子であったか。 それは半袖に吹く川風が涼しい学校裏の土手に坐って、二人できそこないのいわし雲を 飽きることなく眺めていた昼下がりであったか。 だいぶ低くなった太陽のまぶしさに眉をひそめながら高柳は空に向かって、呟くように いつもの庄内訛りの消えないアルトで言った。あたしの理性が秋刀魚なら、なんで秋口 だけしかもてはやさないんだろう、と。苦いはらわたを食べる人は滋養にいいからとか 言ってるけど、ほんとうはあの味が好きだから食べてるだけなんだよね、と。 一度だけ高柳と三本一皿の秋刀魚を買って焼いて食べたことがある。一本は僕が取って 一本は高柳が取った残りの一本は二つに分けて、頭を取れば尻尾が取れず、尻尾を取れ ば頭を譲ることになるのだった。 その時ふと、秋刀魚が旨いというのもそれはたとえば高柳と七輪を囲む楽しさのために ならいくらでも喜んでなげうてる、その程度の事だと思った。 次は「エスケープ」「シフト」「コントロール」で。
「いるんだろ? 貸したモンはいい加減返しやがれッ!」 鉄の扉一枚を隔て、私を殺した死神の声が怒鳴り散らされている。 光を遮られたアパートの一室。この部屋とその声の中で、私は 金と自分の愚かさの因果関係を呪いつつ、 今まさに、この世界から離脱(エスケープ)しようとしている。 どこまでが良かったのだろう、どこで失敗したのだろう、 どうして、こんな事になったのだろう。 どれほど頭を切り替え(シフト)ても答えは見つからない。 でも、そんな事を考えるのもここまで……。 もうすぐ、こっちの世界の私とはお別れするの。 何者かに取付かれ(コントロール)たかのように キッチンに向かい、赤色のコックを静かに左に回す。 「……さようなら、次は違う私に生まれてきますように」 ヘタレすぎてゴメン、次は「死神」「天使」「動機」で
532 :
「死神」「天使」「動機」 :03/04/18 02:02
※長いので2つに分けてます。 何が起こったか理解できないままルシウは床にはいつくばった。次の瞬間、腹部に食い込んだのが男のつま先であることは何となく想像できた。 息が詰まった。次いで口の中に胃液の味が広がる。右の頬が腫れているのがわかる。 見知らぬ男だった。だが、とんでもない男だということはわかる。暴力の専門家、そういう類の男だった。 やばいヤマに拘わってしまったらしい。幾つかの候補が頭の中を駆けめぐる。殺される・・・!それは夢でも何でもなく、今、ルシウに迫ってくる現実だった。 「さて、私は誰でしょう?」 身を起こしつつ血が混じった胃液を吐き出したルシウに向かって、男は陽気な声で言った。サングラスの奥の瞳が見えない。それが不気味だった。 「さぁ?サンタクロースには見えないな」 男を睨みながらルシウは返事をした。 男は「くっくっく・・・」と含み笑いをし「けっこう、けっこう」とサングラスを右手の中指で押し上げながら呟いた。 そのポーズを見てルシウはキザなヤツだと思った。「まったくキザな野郎だ。“気に障る”ことこの上ない」という言葉は胸の内にしまい込むことにしたのだが・・・。 「これから不景気な話をしないといけないからね、陽気なのは大いに結構」 男はそういうと続けて言った。 「で、質問の答えだが、ご指摘の通りサンタクロースじゃないんだな、これが。取り敢えず、天使って事にしておこうじゃないか」 「天使?堕ちてるんだろ?少なくとも質の良い天使とは思えないな」 ルシウは吐き出すように言った。 「面白いことをいうな、君は。じゃあ、気の良い悪魔だと言えば納得してくれるか?」 「そうだな・・・、でも、やることが一緒だと困るな。職務怠慢な死神ってのはどうだ?ついでに、たった今怠慢になってくれれば重畳この上ないけどな」 「それも良いかもしれないな」 男の答えは意外なものだった。「じゃあ今日は職務怠慢な死神でいこうじゃないか。ただし、君が言うことをちゃんと聞いてくれたらの話だけどね」
533 :
「死神」「天使」「動機」 :03/04/18 02:04
「話?」 訝しげにルシウが聞き返した。 「そう」 男は鷹揚に頷いた。 「条件によるな。サインを済ますのは契約書を読んでからにしろと連邦通商局も言ってるしな」 「きっと君にとっても悪くない条件だと思うんだがな。ご承知の通り、私は君を殺しに来たわけだ。しかし、君はそうなることを望んでない。 ここで私と君はある一点において同意しているということを確認しておかなければならない。それはこういうことだ。君は私に殺されたくない。そして私は君のような面白い男を殺すのは忍びない。そこで・・・」 男はここで一端言葉を切った。手許にティーカップでもあれば一息つくタイミングなのだろう。だが、ここにティーカップはなかった。なかったので男は唇をペロリと舐めた。 ルシウは男の言葉を待った。この男は何を言うのだろう・・・? 「・・・そこで、君、自殺してくれたまえ」 あっさりとした口調で男は言った。卵はスクランブルで、と注文するような口ぶりだった。「そうすれば、私の希望も君の希望も同時に満たすことが出来る。君は私に殺されない。私は君を殺さない。 しかも、私は目的を達することが出来る。なに、動機なんて何でも良いさ。家族なり恋人なり、そういう人間関係のもつれって事にすればいいさ。よくあることだろう?ええとそうだな・・・」 男はなおも口を動かしている。 ルシウは黙っている。 唇を噛み締めている。 「何がいるかな。紙とペン。無論、遺書を書いてもらうためだ。自殺の方法も考えなきゃな。楽に死ねる方がいいよな?例えば・・・」 男は陽気にしゃべり続ける。 ルシウはそれでも黙っている。 固く、強く、唇を噛み締めている。 次は「カルシウム」「コンテスト」「シナモンスティック」で
「死神」「天使」「動機」
グラジオラスが枯れた。雑に「ばさっ」と捨てられた茶色い束の傍らで、ガラスの花瓶が寂しく見えた。
不愉快な朝に、僕は彼女の愚痴を聞かなければならなかった。
――花が枯れてたのよ。あんたが買ったんでしょ? 勿体ないな。
カサブランカでも何でも、大きな花びらのを買ってきてよ。生けとくからさ。
彼女は皓い花が好きらしい。白という色は純潔だとか、清潔だとか、そんなイメージ。
でも、彼女は白を連想させない。僕の脳裏には、彼女が手渡してくれた黄色い薔薇が浮かび、
初めましてと挨拶を交わす代わりに彼女が見せた微笑が、やはりイメージとして先行した。
死は甘美な響きを潜ませていた。僕は密かに彼女を愛した。彼女と、彼女の背後に立つ死神に憧れた。
いま死神は生活に溶け込んで、僕にはありふれた美の天使だった。
昨夜の雨のせいか、外の空気は蒼ざめていた。家々の窓には赤いカーテンがのぞいていた。
安いカフェの入り口に、ロートレック風のポスターが一枚、貼りついていた。
何か閑寂とした僻地に僕はいた。黄色い薔薇と夜会を懐かしく思った。習慣的なノスタルジーで。
午後になって、僕は造花を手にして家にいた。彼女は相変わらず無邪気で無感動だった。
――それ買ったの。手入れはあたしがするから、面倒がらなくていいのに。どうしたの?
アマリリスの造花を手にして、動機なんかないよと僕は言った。
お題は
>>533 さんの。
「カルシウム」「コンテスト」「シナモンスティック」 「貧乏揺すり」眉間に皺を寄せて、呆れた様に妻が言う。 ここ数日の俺は苛立ち続けている。 『全日本がまん比べTVコンテスト』苛々の原因はこれだ。短気な俺に業を煮やした妻がこっそり応募したのだ。 「あなたも少しは『我慢』って言葉を覚えなさいよ」口元に微笑みを浮かべながら妻が言った瞬間、思わず食卓をひっくり返しそうになった。 「優勝賞金は一千万」妻の言葉に、動きかけた身体が止まった。車検を目前にして、車を買い換えようか悩んでいた矢先だ。 兎にも角にもチャレンジする事にした。これで俺もベンツオーナーになれるかも知れない。 一日に何回となくカルシムのタブレットを齧る。煙草の本数と酒の量がうなぎ上りに増える。 「何だか目付きが悪くなったわねえ」のんびり屋の妻は食後のコーヒーを炒れている。妻の動きは俺の心を落ち着かせるのには一テンポ遅い。 早く作ってくれよと思いながら、文句と貧乏揺すりをぐっと我慢する。たっぷりの生クーリムとシナモン。 「はい」妻はシナモンスティックをカップに添えてテーブルに置く。猫舌の俺はスティックを齧りながら湯気が消えるのを苛々しながらじっと待つ。 妻は、そんな俺の様子を微笑みながら見ている。 「人肌に冷ましておいたわよ」妻の言葉にコーヒーを啜った。 「がっ」余りの熱さに思わず吹き出した。立ち上がり、妻を睨む。 「お、お、おまえ……」怒りに拳を握り締めた。 「テストよテスト。ちょっと試したの。今の態度じゃ予選落ちね」妻は声をあげてころころと笑った。 頭の中で、走り去るベンツのテールランプがどんどん小さくなって行った。 次のお題は「熱帯」「初恋」「散歩道」でお願い致します。
536 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/18 16:36
「あぢぃ…」 人気もまばらとなった夜の学校。生徒会室で夏休み明けに開催される球技大会の計画立案を行って いた僕は、倒れこむようにして机に突っ伏した。仕事の期限は目前に迫っていたが、意欲は致命的に 低下している。全ては気温のせいだ。窓を全開にしてもなお僕を苦しめる熱気が任務の遂行を妨げて いる。そう言えば天気予報では熱帯夜を予報していた気がする。ますます覇気が失せてしまった。 「誰か、今すぐ何とかしてくれ」 「文句言わないで。ほら、口を動かす元気があったら手を動かしなさい」 向かいの机から女の声が聞こえた。内容は随分と手厳しい。しかし彼女もこの熱さには少々滅入っ ているものと見え、声に含まれた疲労の色は隠し切れていなかった。 「空気整調機の導入を要求する」 「すぐに取り付けられるものでもないでしょう」 「僕は夏場の悲惨な状況を危惧してだなあ」 「さっきと言ってる事が違うって」 などと、馬鹿話で気を紛らわしてみたりする。もっとも、その試みは完全に失敗したのだが。依然変 わらぬ熱地獄に対し、僕は次なる作戦を打ち立てる。 「なあ、外に出ないか? 少しは涼しいはずだ」 彼女を残して一人涼みに行くのも気が引けたから、一応誘いの言葉を掛けておいた。仕事熱心な彼 女の事だから、一人で行けば、くらいの言葉は覚悟している。 彼女は手を止め、シャープペンシルを置いて僕へ視線を向けた。 「少しだけならいいかも」 僕の予想はあっさりと裏切られてしまう。見た目以上に彼女もこの熱さに参っていたようだった。 二人は校舎を後にした。向かったのは川沿いに伸びている遊歩道だ。等間隔に桜が植えられてい て、春には花見で賑わう事になるこの道は、その他の季節にも散歩道として親しまれている。 彼女が小走りに駆けて行った。いい気分転換になったようで、気持ちよさそうな様子に見える。少し 先まで走って、そこで立ち止まると、 「ほら、早くおいでよ」 と僕を振り返った。彼女の黒く長い髪の毛が遠心力に従って宙に舞う。こちらへ向けられた笑顔と相 まって、僕は素直に綺麗だな、と思う。 それが初恋の始まりであったとは、その時の僕は気配すら感じていなかった。
537 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/18 16:36
次のお題は「洗濯物」「空」「木」でお願いします。
538 :
「洗濯物」「空」「木」 :03/04/18 23:10
春の日差しが強く射すマンションの一室に、いつも決まった時間に洗濯物を干す 主婦がいました。このマンションの中でも一、二位を争う美人妻だそうで、ママさん たちがよくうわさをしています。 たまたま井戸端会議に出くわしてしまったぼくは、公園の一角から木陰に隠れて、 その時間ぴったりに、美人妻が出るというベランダをのぞいてみました。 うわさは本当でした。 パンパンと洗濯物をはたき、小さいお子さんもいるのでしょう、園服などを干しています。 そして、ぼくは恋をしました。 天気のいい日はもちろん、雨の日も毎日公園に通い続けました。しかし、土・日と雨の日は、 ベランダに出てくることもあるけれど、いない日の方が多いのです。雨の日は寂しい。 そのうち、ぼくのことが公園でうわさされるようになりました。 怪しい人物がいる。 ちらちらと視線を感じるようになり、美人妻の彼女の耳にも入ったのでしょうか。 ついに、彼女と視線が合いました。三階のベランダから、見下ろすような冷たい視線で ぼくを見ました。耐えられずに、すぐに視線をそらしました。 やはり怪しい人物だと思われているのでしょうか。彼女はぼくのことなど何も知らない。 いつの間にか、ぼくは彼女のすべてを知っているかのような気持ちになっていました。 勇気を出して、もう一度だけ彼女の姿を見て、その場を立ち去りました。 空を見上げてみました。動機が不純だと思われるかもしれませんが、恋をした心は本当なのです。 次は「不純」「ヴァルハラ」「伝説」で。
539 :
名無し物書き@推敲中? :03/04/18 23:15
540 :
「不純」「ヴァルハラ」「伝説」 :03/04/19 05:14
昼過ぎから出始めた雲は、今や空全体を覆う分厚い雷雲になっていた。 時折、胃の奥の方まで揺らすような重低音の響きは、遠雷のものか、それとも友軍の防御砲火のものか。 何とも頼りない掩体壕で身を伏し、支給された自動小銃の照準越しに丘の下を覗いていた私には判らなかった。 隣の戦友――肩章は、私の部隊より前に居るはずの歩兵大隊のものだ――は、ろくに前方警戒もせずに、 仰向けに寝転がったまま30分を過ごしている。大した度胸だ、数キロ先には敵の部隊が接近しているというのに。 「……なあ、あんた」 私は独り、押し黙っているのに耐え切れずに口を開いた。緊張で喉が渇いていて、ひっくり返った声だった。 「なんだい戦友。前方警戒しなくていいのか」 「それはあんたの方だよ。 ……なあ、あんたは何で、軍隊なんかに? いまどき、徴兵でもないだろう?」 「まあね。 ――『伝説の英雄』になりたくて、じゃあダメかい?」 「ガキじゃあるまいに。ずいぶんな話だ」 「不純な理由じゃないだろう?『略奪・強姦・皆殺しが好きだから』よりマシだ」 私は思わず口の端を歪めた。彼が言ったのは、前大戦での功績が認められ、国では英雄扱いされていて、 今も後方で踏ん反り返っているであろう優しいクソッタレの准将殿に贈られた、敵国の『賛辞』だったのだから。 「はッ、そいつはいい! あんた面白いな、名前は?」 「俺は―― おっと、悪い。名乗ってる場合じゃなさそうだ」 私が理由を問うより早く飛び起きると、彼は枕代わりのフリッツを引っ被って穴倉に伏せた。 「いきなりどうし」 突然の轟音。横殴りの衝撃と、掘り返されたばかりの黒土が私の頬を打つ。敵の準備砲撃が始まったのだ。 「ほら来た、お客さんだ! これが終わって、あんたがヴァルハラに召されてかったら、俺の名前を教えてやるよ!」 酷い耳鳴りと、遅れて響いた軽機関砲の大合唱で、最後の方はよく聞こえなかったが、彼は確かにそう言った。 あれから20年経つが、彼の名前は、未だに膨大な戦没者名簿の中のひとつだ。 次は「ガムテープ」「時計」「かばん」で。
「あったぞぉ!」 捜査員の一人が大声をあげた。途端にトラロープの外側で遠巻きに眺めていた野次馬が、蜘蛛の子を散らすように 逃げ去った。 厳重に隔離された区画の中心、開け放たれた駅前コインロッカーの内側に、旅行用かばんが鎮座していた。 本庁に爆破予告の電話が入った。犯行声明やプロパガンダをがなりたてる訳でもなく、ただ爆破する事実のみを伝える、 なんとも不気味な爆破予告だった。本庁はただちに緊急体制に移行し、予告で指定された駅を封鎖、爆弾をしらみつぶしに探した。 そして今、捜査員の手によってそれは発見された。 「……だめだ」 俺は歯噛みした。構造は単純だ、時計の時針と分針を使った電気接触式爆弾。しかしかばんの内側にはミリ単位で格子 状に配線が張り巡らされていた。一本でもショートさせると作動する。解体はおろか、かばんを開けることすらできない。 「大至急自衛隊に連絡して、チョバムアーマーの耐爆シェルターを……」 言いかけて、俺は絶句した。 X線透過写真。映し出された時計。時針と分針。角度が三十度。作動まで……残り五分! 「これを使え!」 駅真横に直接車を横付けした男がドアを蹴り開けるなり俺に投げてよこしたのは、ひと巻きのガムテープだった。 「何だお前は……!?」 言いかけて、俺は気づいた。 「時間がないんだろう!急げ!」 叫ぶ男の胸には、警察庁の技官であることを示すバッヂがきらめいていた。 爆弾は爆発しなかった。 いや、正確にはした。 爆弾はロッカーの扉一枚吹き飛ばすこともなく、かばんとガムテープとロッカーの内側を少々焦がして、沈黙した。 「今の今開発されたばかりの、耐爆ガムテープだ。間に合ってよかった」 満足げに微笑む技官が、親指をびっ、と立ててみせた。 バカ長い、スマソ。 次は「プラズマ」「観音」「瓜」で。
観音って固有名詞じゃないの?
「あんたはアレよね」 年若い彼女が傲慢とも思える態度で決めつける。 男は何も言わずいつも通り次の言葉を愚鈍に待つ。 「幽霊とか出たらさぁ。まあお茶でもとか言って水出す奴よね。」 「その場合、やはり蒸留水でないとだめかな。しかし壊す腹もない人に高い水だすのも…ねぇ?」 彼女は埃をかぶった木彫りの観音象らしきものに手を延ばし品定めの目をむける。 「この埃だらけの神様にでも聞いてみたら?」 そう言ってずいと彼の面前に突き出す。薄暗い廃墟はどこもかしこも埃が積もって埃臭かったがそれは一段と白く臭かった。彼はしばし見つめた後かぶりを振って出口へ歩き始めた。 「余所の神様に聞くなら、幽霊でもプラズマでも飲む方に聞くさ。」 一人残された彼女は素早く値打ちのありそうなものを袋に詰め込んだ。最後に観音象に手をのばしたが、その手がなにかをつかむことはなかった。 手をのばしても、爪を研いでも彼の女神には届きはしない。彼も彼女も、それを知っていた。 次は「限りある」「惜しみない」「あなた」で。
「あんたはアレよね」 年若い彼女が傲慢とも思える態度で決めつける。 男は何も言わずいつも通り次の言葉を愚鈍に待つ。 「幽霊とか出たらさぁ。まあお茶でもとか言って水出す奴よね。」 「その場合、やはり蒸留水でないとだめかな。しかし壊す腹もない人に高い水だすのも…ねぇ?」 彼女は埃をかぶった木彫りの観音象らしきものに手を延ばし品定めの目をむける。 「この埃だらけの神様にでも聞いてみたら?」 そう言ってずいと彼の面前に突き出す。 薄暗い廃墟はどこもかしこも埃が積もって埃臭かったがそれは一段と白く臭かった。 彼はしばし見つめた後かぶりを振って出口へ歩き始めた。 「余所の神様に聞くなら、幽霊でもプラズマでも飲む方に聞くさ。」 一人残された彼女は素早く値打ちのありそうなものを袋に詰め込んだ。最後に観音象に手をのばしたが、その手がなにかをつかむことはなかった。 手をのばしても、爪を研いでも彼の女神には届きはしない。彼も彼女も、それを知っていた。 次は「限りある」「惜しみない」「あなた」で。
スマソ 二重投稿してもうた(。・/д`゚・)ゥワァン
「限りある資源を大切に使いましょう」 偉そうにテレビの中でコメンテーターがしゃべっている。 俺はそれを横目で見ながら、隣の雪子を抱き締めた。 「石油があと数十年でなくなるってホントかなぁ」 あまり本気で心配して無さそうな口調で言う雪子。 「どうでもいいだろ」 そう言って、黙って唇を合わせる。 数瞬の後俺が顔を離すと、雪子は黙って抱きついてきた。 「あなたがいればいい」 冷静に考えれば歯の浮くような台詞を平然と言う。だから俺も同じように返してやる。 「惜しみない愛を雪子に」 そう言って、そっと服を脱がせる。 雪子が帰った後に、アドレス帳を見ながらつぶやく。 「アイツもそろそろ飽きてきたな……」 そろそろ捨てようか、そう考えてから考え直す。……最近ちょっと切り捨てすぎて、人数が減ってきた。 このまま減らし過ぎると、欲しいときに誰もいないという事態が発生してしまう。 やっぱりもうしばらくはキープしておこう。 ――限りある資源はタイセツニ。 変なの書いてしまったなぁ。 次、「さけ」「とうじ」「かす」で。
∧_∧ ( ^^ )< ぬるぽ(^^)
「またしばらく会えなくなっちゃうんだね」 とある駅の構内。列車のガラス窓ごしに発車を伝えるベルの中に、 ぽつりと彼女残した言葉が耳に響き渡る。 上手く言葉が返せない。数年ぶりに再開した彼女との時間は、 俺の人生の中で最も短く感じたのだが、この瞬間は それとは逆に、俺の人生の中で最も長く感じただろう。 表面上は泣きそうな彼女だったが、かすほどの涙も見せない。 当然、それは俺も例外では無い……何故なら、 二人とも分かっていたから。 今は少しのお別れで、今度会える日がまたあると分かっていたから。 「いや、また会えるでしょ」 考えていた事を、やっと言葉にするように 「一回別れて、それでまた再開できたんだから」と、続ける。 彼女が、うんと軽くうなづいたのを確認したと 同時に、列車が動き始める。俺は、手も振らず 胸に手を当てただ走り去る列車を見送る彼女が 視界から消えるまでただ見つ続けていた。 ――また戻ってくるから。 あの時、お互いに手を振らなかった理由が分かったのは、3年後に 再開した時であった。
次の人。「眼差し」「スイカ」「流線形」
川辺に、花が咲いていた。赤い赤い、赤い彼岸花。 毎年この時期になると、赤い花が咲いていた。何かを包み込むような花は、綺麗だったけれどどこか禍々しかった。 けれど、今年は違っていた。青系の、様々な花の描かれたノースリーブタートルから綺麗な流線型のなだらかな肩のライン。 背には脱色でもしたのか、色素の薄いサラサラとした髪が流れていた。 白いロングスカートの裾が汚れるのも構わずに、しゃがみこんでいる彼女の眼差しを一身に受けて赤い花は咲き誇っていた。 一体、彼女は誰なのか。どこから来たのだろう?なにをしているんだろう? 今日も彼女は川辺にいた。今日も白い軟らかそうな二の腕を惜しみなく出している。 寒くないんだろうか、とは思わなかった。ただ、綺麗だと思った。桜色の爪がタバコを持った指先を飾っている。 薄ピンクの唇が動いていた。初めて僕は、彼女がヒトだと気づく。 そして、彼女は僕に気づいた。 「あのさ、そこの道行く少年。ちょっと聞いていいかな?」 「あ、はい。」 きっと、今の自分は随分と無表情だろう。 まったく顔の筋肉が動かない。 「このあたりにコンビニかスーパーある?」 「は……?」 日本人どころか、ヒトということすらやっと認識した僕に、そういうこと聞きますか? 「スイカバーってまだ売ってるかなぁ……売ってるとこ、しらない?」 赤い赤い、美しい花。美しく咲く花をこよなく愛する彼女に、道案内をした僕は 花が散った後、一緒にタバコなんて吸っている。 「ね、バナナゼリー食べたくない?」 付け足すならば、パシリにされているとも言う……。 次。「1セット」「give」「黒」
なんでこんなに意味不明なお題ばっかりなんだよ・・・・・・。
552 :
名無し物書き@修行中 :03/04/20 17:32
「1セット」「give」「黒」 つけっ放しのTVでは往年のスターとアシスタントが無駄にさわやかな笑顔を振りまいていた。 「今ならもう1セットついてこのお値段!」 大写しになった工具セットはどう考えても一家にひとつあれば事足りるようなものだった。 その映像を見て私は、笑いをこらえることが出来なかった。あぁ、なるほど。世の中どこに 転機があるのかわからない。私は妻の亡骸に目を落とした。ちょっとしたはずみだった。私は ヒステリックに叫ぶ彼女のほほを張っただけだった。だが、彼女は死んでしまった。体制を崩 し、後頭部をテーブルに打ち付けて。きっと世間は私が殺したと思うに違いないのだ。だが、 まだgive upするには早すぎる。いずれ見つかるだろうがこれをバラバラにして撒いてしまえば 多少なりとも時間は稼げるはずだ。なんとなく彼女に悪い気もしたが殺してしまった以上の罪悪 感を感じることもないだろう。私は早速彼女をバラバラにすべくノコギリを探し始めた。 何処に仕舞ったのか、部屋中を引っ掻き回した挙句、途方に暮れているとドアが不意に叩か れた。時計の針は午前3時を指している。多分となりの学生だ。彼は以前にも何度かうるさい と怒鳴り込んできた事があった。私は思い切り愛想良く接する事に決めた。ドアを開けるとそ こには仏頂面の彼が立っていた。あからさまに怒っている。私は精一杯の笑顔を作って彼に侘 びを述べようとした瞬間、彼が振りかぶったものに気がついた。黒光りする鉄鎚。彼はそれを 無言のまま私へと振り下ろした。突然視界が真っ赤になり、意識が遠のく。まあ、これで、追 われる事は無いわけだ。まったく、転機はどこにあるのかわからない。 17行。次は「葉桜」「雨」「日曜日」でお願いします。
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いつからだろう、4月始めの雨が嫌いになったのは。 昔はこんなに憂鬱にはならなかったのに。 日曜日の雨の街はいつもよりも静かで、それが更に憂鬱を倍増させている。 一人になってからはそれが嫌で大きな音で音楽を聴いている。でも、それも耳障りで。 昔はうざったくて、いつも衝突していた。何かがあるといつも小言、こっちも言い返して口げんかになって、 そして、いつの間にか忘れて、笑って、また衝突して、それの繰り返しを幸せだと気が付いたのは、 いなくなってから。 ココに居たんだと思って嘆くのも悲しむのもやめたのに、こういう隙間の時間に思い出してしまう。 ひょっとしたらひょっこりと帰ってくるのかも知れない。あのころみたいな日々がまた戻ってくるとは 思えないけど、期待していることも嫌になってくる。 桜が葉桜になって始めての日曜日には外に出よう。無理やりにでも外に出よう。空元気を振り絞れば 一人でも何とかなるかもしれない。 今年も恒例になってしまった事を考えた。 まだ寂しさはあるけど、思い出の引き出しにしまっておけないけど、いつかは閉まってあげる。 だから、もう少しこの寂しさを感じていてもいいよね。 次は「寂しさ」「空元気」「SEX」
あいつは全くSEXだけしか能のない女だ。 別に頭が悪いと言う訳ではない。その証拠にそれなりの大学を出ている。 しかし人間、社会で生きて行く上で肝要なのは才能と言う奴だ。 知識や学歴など何の価値もない。 女は自分でもそれを劣等感にしていて、 休日などに馬鹿な女子高生のようにはしゃいで見せるのも全ては演技、 空元気にしか過ぎない。 本当は静かな図書館で独り本を読む方がずっと好きな癖に。 だが俺もまた何の才能も持たずに社会に放り出された頭でっかちのモラトリアムだけに、 あいつの焦りや苦しみや寂しさはよく分かる。 そしてやっぱり俺もSEXだけにしか能がないのだ。 次は「空想」「ジュース」「ラジオ」でお願いします。
ごめん、「社会に放り出された頭でっかちのモラトリアム」って何か矛盾してました。
刑務所で出会った男は、変な奴だった。ジュースというのは空想上の飲み物だと思っているらしい。 んなもんムショの中でも買えるぜ、と教えてやったが半信半疑。 しょうがないので奢ってやると、愕然としていた。酒以外に甘い飲み物があったのか、って。 アホか。そうも思ったが、目の前でオレンジジュースのちっちゃいパックを持って、幼稚園児のように はしゃいでいる奴を見て、俺は不覚にも目頭が熱くなった。ただし、泣くのだけは断固として堪えた。 娑婆に出たらジュース屋になろう。奴がそう言い出して、いつの間にか俺も巻き込まれていた。 暴行恐喝で捕まった男が、まるで少年のように夢を語っていた。 出所は俺のが半年だけ早い。最後に奴と、ジュースの差し入れの約束をして、娑婆に帰ってきた。 早速走り回って、ジュース屋、と呼べるかどうかはわからないが、ジュース工場のアルバイト面接を受けた。 いつの間にか熱くジュースへの情熱を語っている俺がいて、内心苦笑した。結果は合格だった。 奴が出てきたら、この仕事を紹介してやろう。大量のジュースがベルトコンベアの上を流れるこの光景を見たら、 奴は失神するかもしれない。その姿がリアルに想像できて、ついつい顔がにやけてしまう。 工場で作ったジュースを、安く買って、荷物にして。最初の休みに奴に会いに行こうと考えた。 出かける予定の日の前夜。ラジオから流れるニュースを聞いた。奴のニュースだった。 刑務所で、喧嘩して、死んだらしい。喧嘩の原因は、飲み物を奪われたから。 何年も経って、正式に社員になって、ジュース屋も板について。色んなジュースも味見した。 それでも未だに、奴と飲んだ小さなパックのオレンジジュースの味だけが、どうしても忘れられないのだ。 次は「泣い」「笑っ」「幸福」でお願いします。
「泣い」「笑っ」「幸福」 夜の町は死んでいて、酒場も屋台もからっぽだった。私はひとりで薄汚い椅子から窓を眺めてた。 携帯電話に着信があった。番号には見覚えがある、ストーカーまがいの男に違いなかった。 グラスを空けて、客の来ない店内をじろじろ見回すと、やっぱり表のポスターが気になった。 ドア脇にある、ロートレック風のポスター。私は個人的には気に入っている。知人が描いたものだ。 今夜、客はほとんどなかったけれど、いつもの客は、あのポスターが不愉快らしい。 女がひとり正面を向いている。 顔の半分は泣いたばかりの表情で、あとの半分は笑っている、風変わりな画。 鏡を覗いた。顔が疲れていて、思わず眼を背けた。いま何のために私は生きてるんだろう、とか、 そんな抽象的な憂いに沈んでみた。馬鹿みたいに物静かな夜だった。 無口な道路に光が差して、警官の自転車は過ぎ去った。窓ガラスに反射を残した。 電車は、まだあったっけ、と、何となく考えた。この時刻、終電より少し早い頃、でも動く気力がなかった。 着信があった。またあの男だった。死んじゃえ、と呟いて履歴を削除する。オレンジの蛆。 果物ナイフでリンゴの皮を剥いた。別に食欲はなかった。手持ち無沙汰だったから。 深夜に壁は溶け込んで、影が隅を占拠した。ラジオをつけてみた。 『――そう思うと、生きてるだけで幸福ですよねー』 ……幸福なんて死語だよ。錯覚ですよ。 次は「謙虚」「殺意」「街角」で。
559 :
うはう ◆8eErA24CiY :
03/04/20 22:28 「泣い」「笑っ」「幸福」 病名不明で面会謝絶。同病のため、同室入院で観察されてる。 誰も知らない自分の死期を、私と彼女だけは知っていた。 その理由は誰にも言わないでおこう。 号泣、いつわりの慰め・・・旅出の気を重くするだけだ。 16才で彼女と二人、幸福にも同じ日・・・今夜死を迎えるのだ。 痛みがない事を祈ろう。笑って逝こう。 「いよいよ今日だなあ。隣に座っていい?」 と聞かれると、彼女は笑ってベッドを半分あけてくれた。 「ごめんな、僕のせいで」「まあまあ、お互い様よ」 死の床に並んで二人。薄れゆく意識の中で、7年前の記憶が蘇る。 あれは忘れもしない、小学校の放課後の新緑の日々だった・・・ 「ゆくぞー!」「ひゃぁぁ、痛いー」 痛みに耐えながら人差し指を組み、体勢を立て直す彼女。 「ひどいっ、仕返しよ!」「ぎょえぇぇぇ!」 直腸・肛門を突き破った二人の手には、夥しい血が滲んでいた。 「秘技・七年殺し」・・・まさか本当だったとは。 ※ あれはひどい漫画だったなあ。30台限定ネタでスマソ(^^;L 次のお題は:「平面」「立体」「時間」でお願いします。