1 :
名無し物書き@推敲中?:
2 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 02:03
>1
乙〜
3 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 02:04
前スレからお題を継続して「温泉」「かき氷」「しおせんべい」で。
ママが台所でお酒を飲んで泣いている。
あたしはお腹がすいたので、茶の間に置いてあるお茶請けのおせんべいを
持ってきて食べた。
夕飯の代わりにはとてもならなそうだけど、それくらいしか見つからなかった。
パパは昨日大阪に出張に行くと言って出ていったので、今夜は戻らない。
だけどあたしもママも、パパが優子さんと温泉に行った事を知っている。
去年の夏休みママが入院していた時、あたしがプールから帰ってくると
隣の家の優子さんがうちにいて、会社にいるはずのパパもうちにいて、
パパは「ママには内緒にしておいてくれよ」と言って
いつもは体に悪いから食べさせてくれない、着色料たっぷりの真っ赤なかき氷を
あたしに買ってくれた。
優子さんが塗っているマニキュアと同じ、赤い赤いシロップ。
だから、あたしはイチゴのかき氷は一生食べない。
廊下にぺたりと座り込んで、台所から聞こえてくるお母さんの泣き声を聞きながら、
おせんべいをぽりぽりかじり続けていると、鼻の奥がつんとしてきた。
今ごろパパは温泉につかって楽しくしてるのかな。
…おもしろいな、これ、しょうゆせんべいなのにしおせんべいの味がする。
次のお題は「前夜祭」「ジャージ」「体育館」でお願いします。
「前夜祭」「ジャージ」「体育館」
田んぼが続く畦道を、俺はゆっくりと歩いていた。
風がザァァァと吹くたび、黄金がさざ波のように踊っている。
久しぶりの郷里に、俺は胸一杯、懐かしさが込み上げていた。
懐かしさをかみ締めるようにゆっくり歩いていると、やがて高校の前にたどり着いた。
今日は体育大会の前日らしく、何人かの生徒がジャージを着て、明日の準備をしていた。
ふと足を止め、目を細めて変わらない校舎や体育館を眺める。
何もかも変わっていなかった。
……変わっているのは、俺があそこにいないというだけ。
感傷的になりすぎか、と自分を自嘲しつつ、俺の心は高校生へ返っていった。
文化祭の記憶が俺の中に鮮明に残っている。
実行委員をしていた俺は、前夜祭のキャンプファイヤーを焚く役目だった。
闇夜の中、ぱちぱちと散る火花がうっとりするほどきれいだった。
委員はフォークダンスに参加するのを禁じられていたが、一度だけ、恋人と踊るために輪の中に入ったっけ。
そこで俺は、一緒にフォークダンスを踊った恋人を見かけ、我に返った。
名前を呼ぼうとしたその時、俺は自分の立場を思い出す。
……そっか、俺死んだんだっけ。
淋しい笑みを浮かべ、俺は最後の故郷を目に焼き付けながら静かに歩きだした。
次は「お手玉」「ハンカチーフ」「石化柳」でお願いします。
5 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 03:27
母校のたたずまいは、あのころの想い出を喚起させる。
そんな青春の記憶を思い出しながら、おれは黙って校門をくぐった。彼女は今も、この学校にいるのだ。
制服の生徒ではなく一人の教師として母校にかえってきた彼女は、今もあのころの面影をどこかに宿しているのだろうか。
かつて二人で座ったロビーのテーブルも、まだここにある。おれは学校祭前夜祭とかいた垂れ幕をくぐって職員室へと入った。
職員室の中はあのころと似たチョークとタバコの匂いがした。いくつかの先生がはなればなれの席で仕事をしていた。
職員室のドアをしめると、あのころと少しもかわっていない辻山教頭先生がおれに気づいてやってきた。
「どうしたの?遠山くん、久しぶりねえ」辻山先生は笑った。
「学園祭に来たの?だったら担任だったの植松先生にも...」
「米村さんを探してるんだ」と俺は言った。辻山先生は意外だというような表情をしていたが、やがてため息をついて笑みをこぼした。
「あいかわらずよね、遠山くん。...彼女なら今体育館よ」先生は懐かしそうな表情で言った。
体育館の中にはいると、そこでは大勢の学生がかざりつけや看板づくりに奔走していた。私はしばらくあたりをみまわしていたが、
やがて彼女のほうがこちらに気づいてやってきた。
「...健三くん?どうして?」ユミコは目を丸くして言った。
「やあ、きみに会いにきたよ。」そういって俺は笑った。ユミコはジャージのそでで額の汗をぬぐって、生徒たちの方をみつめながら黙った。
「もう会えないんだって、自分にいいきかせてた」ユミコはうつむいて鼻をすすった。
おれはポケットから小さい箱をとりだしてユミコにみせた。「君のために買っておいた。受け取ってほしいんだ」
体育館をでて、廊下の影でユミコは泣き続けた。何人かの生徒が作業をとめてこちらに注目していた。
「ありがとう」ユミコの表情がゆるんだとき、ちかくで見ていた生徒達から拍手があがった。
「お手玉」「ハンカチーフ」「石化柳」
「ひとーつ、ふたーつ」私は由布子ちゃんと庭でお手玉をしていた。
その時、門の外で車の急ブレーキとドスンと言う音がした。
私と由布子ちゃんは顔を見合わせると門の外に飛び出した。
私は呆然とその場に立ち尽くした。
一番上の清美姉さんが道路に倒れていた。
白い乗用車が停まっていた。男がうろたえた様に右往左往していた。
華道教室の帰りだったのだろう、清美姉さんの周りには石化柳が散らばっていた。
清美姉さんはぴくりとも動かなかった。
彫刻家が丹精込めて作り上げた様な繊細な輪郭、切れ長でほんの少し吊り上がった一重の目、
すっと通った鼻筋、小さくて薄い唇。普段から透き通る様に白い肌がより一層白く感じられた。
清美姉さんの口からすうっと血が一筋流れた。白い肌に残酷な程はえる赤色だった。
私はポケットからハンカチーフを取り出すとその血を丁寧に拭いた。
不意に私の目から涙が溢れた。
清美姉さんの死を悟って嗚咽した。
次のお題は「月下美人」「下着」「浮浪者」でお願いします。
7 :
「月下美人」「下着」「浮浪者」:02/10/31 11:28
月下美人が咲くのだと言う。見にこいといわれる。私はいきたくはないと
言えないでもぞもぞと仕度を始める。そもそも月下美人とは何ぞや。
不意とカーテンを持ち上げて夜空に浮かぶ月でも見るが、どうもこれと関係が
あるのかないのか、いまいちよくわからない。月下美人とは何ぞや。それにしても、
友人も風流なことをする。このような夜更けに人を呼びつけ、その理由が
「月下美人」とは。実は私の頭の中には見返り美人画しかないのだが。
私は部屋着を脱いで、風呂上りに換えたばかりの下着姿になる。すっきり清潔、
気持ちいい。体を点検してから外出用に着替える。化粧などもしてみたり、また
土産の酒なんかも準備したりして、私は意気揚揚と外に出た。
友人の家までは電車に乗って駅から5分。私は駅へと向かう。三日月、三日月。
満月こそがふさわしい、何二?何か良くわからないけど月下美人というものに。
私はふわふわと駅に向かう。駅は夜の街頭にぼんやり浮かび上がっている
幻想的なり。私はご機嫌だ。「月下美人」「月下美人」。口ずさむ。
とそこへ、浮浪者の人が立っている。私を見てニヤニヤ笑っている。
「お嬢さん、月下美人が咲くのかな。これは一番眠れンなア」
そんなことを親しげにいうのだ。私は月下美人というものが何かしらない。
次のお題は「ビデオテープ」「ハイウェイ」「歴史城の人物」でお願いします。
ごめんなさい、一番→一晩です。。。
9 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 11:33
>7さん
「歴史城」→「歴史上」?
あっ。。。かえすがえすもごめんなさい。
その通りです。訂正ありがとうございます。
11 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 12:02
>10さん
「何二?」→「何に」?
12 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 12:06
>7=8=10さん
こいつう、おっちょこちょいだなア(おでこを突付く)。
>12さん
(その威力でふっとぶ→)
いえ、ありがとうございます、11,12さん。
たびたび、お邪魔しました。
「ビデオテープ」「ハイウェイ」「歴史城の人物」
目もくらむようなライトが照りつける。焼けたオイルのにおい。
真夜中のハイウェイには今夜も、走り屋たちの戦場だ。
道路脇の駐車場に、ばらばらに止まってる改造者のまわりで、何人かの走り屋が言葉を交わし会う。
そこへ一台の80式スープラがうなりながら姿を現す。
ここいら一帯を仕切る、ハイビームスのエース。通称ジェットだ。
駐車場にスープラがとまると、むこうからすかさず男たちがあつまってきた。
モヒカン、スキンヘッド、丸苅りのどこかイカれた連中たちだった。
「交渉に入りたい」モヒカン頭が言う。
ジェットは眉をしかめてモヒカンを睨んだ。
「本当に相手はおまえたちでいいのか」ジェットはウンザリしてみせた。
タバコを無げ捨てたジェットは、自分の車に乗り込んで言った。
「来いよ、勝負だ。話なんかそのあとだぜ」
ジェットはその試合で死んだ。相手をコーナーでアウトから強引に抜き去ろうとして、
アンダーを出した相手とガードレールにはさまれ、谷底へと消えた。
おれはビデオテープをそこで止める。おれたちの歴史上の人物、最速の走り屋ジェットが消えたあの日の記録。
それはおれの兄貴でもあった。
「せん抜き」「タバコ」「はらまき」
改造者じゃなくて改造車
「女房に追い出された」
しょぼくれた顔で、ボストンバックを抱えて彼がやって来た。私との関係が奥さんにばれたらしい。
彼と私は職場では上司と部下の関係だが、半年前からこうして私の部屋で密会を繰り返している。
20も年の離れた彼は、スマートな紳士で親父くさい所がひとつもない。お洒落で優しく女子
社員に人気だった。こうなるずっと前から私は彼のことが好きだった。奥さんに沢山嫉妬もした。
これからはずっと彼と一緒にいられるのだと思うと、胸が高鳴った。
「ビール飲む?」
家で飲むビールは缶よりビンと決めている彼のために、私は冷蔵庫から冷えたビンビールを取り出
す。おっと、その前に・・・。彼はおもむろに服を脱ぎ出した。半袖の下着とステテコ姿になると、
ボストンバックから取り出したはらまきを装着した。せん抜き片手に、私はぽっかり口を開けて
彼の行動を見ていた。
「家ではいつもこうなんだ。落ち着くね、このほうが」
あっけらかんとタバコに火をつけて彼は笑う。
私はビールのせんを抜きながら、彼を妻のもとへと贈り返すことを決心していた。
次は「田んぼ」「薄力粉」「飛行機」で
「せん抜き」「タバコ」「はらまき」
依頼主である女が席につくのを待って、興信所の男は胸元から
一枚の写真を取り出すとテーブルの上に置いた。
女は馴れた手つきでビールの栓を抜くと、栓抜きを置いて写真を手に取った。
「これは、もしかして……?」
「そう、探して欲しいと依頼のあった、あなたのお父さんです。」
女は写真をまじまじと見つめ、そして訝るようにこう言った。
「この、ハゲヅラをかぶってちょび髭を生やした男がですか?」
男は何も言わず頷く。
「この、白い肌着とももひきに、はらまきを着た男が?」
「そうですよ。」
「ふざけないでください。」
女はグラスにビールを注ぐと喉を鳴らして飲み始めた。
「コメディアンだったそうです。」
それを聞いた瞬間、女はぶっと大きな音を立ててビールを吹き出した。
すいません、すいませんと言いながら飛び散ったビールを拭いている女を見ながら、
男はかねてから考えていた台詞を口にした。
「だめだこりゃ。」
遅れてしまった。さぁ次いってみよー。
お題は「田んぼ」「薄力粉」「飛行機」ですね。
あータバコ吸う部分入れるの忘れてしまった……
すいません。
田辺さんは納屋から麻袋を担ぎ出した。袋の中身は真っ白い粉でいっぱいだった。
「これは薄力粉です。これを撒いておけば、おいしいお米が育つんですよ」
田辺さんは麻袋を背負い込んで、得体の知れない白い粉を
小さな田んぼにばらばら撒きはじめたのだった。田辺さんは目が充血しきっていて、
とてもまともとは思えない挙動で本当に小さな田んぼの周りをぐるぐる回り始めた。
それは何か特別な儀式のようなものだと思った。その儀式は後々までおれの
目に焼きついたまま離れず、気が滅入った。「田辺さんもうやめにしたほうがいいですよそれ」
おれは田辺さんの両肩をきつく掴んで落ち着かせようとしたが、田辺さんは暴れ出してしまった。
おれは困惑した。どうしていいか分からなくなって、おれは田辺さんを
おもいきり殴りつけてしまった。田辺さんは吹っ飛んで粉まみれになった。動かなくなった
田辺さんを見て罪悪感を感じた。そして、おれが儀式を続行せねばならないのではないかという
責任感を感じた。
空を見上げると、爽やかな青空を飛行機雲が横切った。おれは、田辺さんを担ぎ上げて、
とりあえず家に運んだほうが良さそうだと思った。
次は、「カセットテープ」「便所」「アフリカ」で。
ウメが私に「パン」をこしらえてあげると言った。
何でも、田んぼの端の畑で少しだけ育ててあった小麦が最近実ったそうだ。
私の家にあるオーブンを使うため、来ると連絡をよこしたままウメは、未だ来ない。
心配になり道先に出かけた私は、血塗れのウメを見つけた。
ウメは死んでいた。手元には、薄力粉の白い粉が、赤い血に濡れていた。
米国の黄色い飛行機が、気まぐれに罪も無いウメを殺したのだろうか。
私は、その粉をこねた。血で濡れたしろい薄力粉が、
ピンクのウメ色になりのを見ながら、声を押し殺し涙を流した。
●次のお題は「梅」「パン」「血」です●
どっちのお題で書くの?
23 :
お題は上の奴で書いた:02/10/31 15:34
「ここはアフリカだ」
男は自らを洗脳するために録音した「ここはアフリカだ」と繰り返すだけのカセットテープを
ウォークマンに入れ、イヤホーンで聞いていた。
男の両足は和式便所の両サイドに爪先立ちで、耐えていた。ケツが斜め四十五度の傾斜にまで
揚げられると、男の両足が悲鳴を上げた。
左足の小指をつった男は、「俺はサバンナの王、百獣の王」と一人つぶやき、くじけそうになる己の
弱き心を叱咤しつづけた。
便所内に、ジャングルの匂いが満たされてくるのを男は感じた。それは自らの体から出ている獣の臭気で
あるとともに、男の意識が変わり始めているという兆候でもあった。その変化しつつある
男のアイデンティティがジャングルの匂い、そして、自分が百獣の王であるという幻想を男に植え付け始めていたのだった。
男は叫び声をあげた。野生の雄たけび咆哮である。その声は近隣の住民の耳に達し、男が生まれ変わったことを
もうわたしたちの仲間ではなくなったのだという思いを住民たちに抱かせた。
男は失われつつある理性の最後の一滴を持って己の穢れた肛門をトイレットペーパーでぬぐうと、
強烈にジャングルの匂いを発散しているトイレットペーパーに鼻を近づけ、死に絶えた。
次は、「孔雀」「ガソリンスタンド」「もう来なくていいよ」
次は「梅」「パン」「血」
その次は、「孔雀」「ガソリンスタンド」「もう来なくていいよ」
>>1に規則があるのでよろしく。
「孔雀」「ガソリンスタンド」「もう来なくていいよ」
おれがこんな風になっちまったきっかけの話をしよう。こうなる以前まで、おれはガソリンスタンドのバイトだった。
ある日の閉店間際、最後の客が出ていった店内で俺は窓の水拭きをしていた。
そばで店長がレジの中の現金を数えている。「なあ店長、おれ...」
店長はおれをちらりとも見ずに言った。「ああわかってるよ、お前の選んだ道だろう。もう来なくていいよ」
俺は黙って窓を拭きつづけた。国道沿いにあるこのひっそりとしたスタンドの窓からは、いき交う車のヘッドライトの群が
よく見える。それらは闇のなかで交差しあい、そしてそれぞれの方向へと離れ離れになっていった。
水拭きを終えたおれは、店内をかたずけていつものように黙って店をでようとした。
「おい」呼び止めた店長はこっちをみていた。店長はいつもと同じ、孤独な目をしていた。
「もっていきな」
白い封筒をうけとるとおれは、店のうらにとめてある青いフルエアロのRX-8に乗り込んだ。
今日からはもうこいつとふたりっきりだ。
キーをひねってエンジンをふかす。改造の効いたマフラーがあげる、低音のうなり声。
おれはその声に自分の決意をかさねていた。
車内のデジタル時計に目をやる。峠ではもうギャラリーがあつまりはじめている時間だ。
ゆっくりとアクセルを踏み込み、表の国道へと入った。2年の思い出がつまったスタンドと、
そこに立つ店長の背中がバックミラーに消えいてく。
スカイブルーのRX-8が、峠にむかって力強く加速した。
「にんにく」「にぼし」「青年団」
孔雀がはいってなかったな...
青いフルエアロのRX-8には孔雀のチームステッカーが入ってたということにしといて
24の言うように次は
「梅」「パン」「血」
28 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 18:15
青ざめた顔をして、石段の中程に男が倒れこんでいた。男の額に乾いた血がこびり付いている。
男の着ている皮のジャンパーの肩に梅のステッカーが貼られていた。
数十分前、男はかつての仲間を神社の境内に呼び集め、
「俺は、もうお前らとは付き合わない」と告げたのだった。
チーム・梅のメンバーたちはその言葉を聞いて、怒り狂った。
男はメンバーたちに梅の木の下に連れて行かれ、考え直すようにと説得された。
だが、男の意志は固かった。チームを抜けることは数週間前から悩んだ末の決意だったのだ。
「ヤス」男はそう呼ばれていた。「よく考えろ。チーム・梅の象徴である梅の木の下で、お前は
あくまで俺たちの仲間から抜けると言うのか?」
「ああ。俺はもうお前たちの仲間じゃないぜ」男は覚悟が出来ていた。
男へのリンチは数時間に及んだ、男の意識が薄れていき、男は梅の木の下に倒れこんだ。
チーム・梅のメンバーは男をそのまま放置し去っていった。男はそのまま眠り込んだ。
男は目覚めると、よろめきながら長く続く階段を降りていった。
が、男は力尽き、倒れた。男の全身に激しい痛みが襲いかかった。男はしばらく身動きがとれなかった。
やがて男は空腹になった。バターのついたパンを一口でも齧りたい。男は苦痛の中そう願った。
一年後。健康センターの浴場に梅の刺青をした男が現れた。
「チーム・梅って知ってるかい?」男は隣にいた青年に語りかけた。「いや、知らないんならいいんだ」
風呂をあがった男は脱衣室で青年にあるものを見せた。それは孔雀のチームステッカーだった。
「これをなお前の車に張っとけ」男はそういった。
「ぼく、車、持ってません」
「じゃあ俺たちの仲間には入れないな。残念だったな」
「孔雀がチームステッカーなんですか?」
「ああ、孔雀さ」男は低い声でつぶやいた。「むかしは梅だったけどな」
男は健康センターを出ると青いフルエアロのRX-8で、アルバイト先のガソリンスタンドに向かった。
お題は「梅」「パン」「血」でした。次は、「にんにく」「にぼし」「青年団」。
29 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 21:37
私は大学時代に、菜食主義青年団という、サークルに入っていた。
活動内容は、名前が示す通り菜食主義を斡旋するというものであった。
植物以外は食べないのであるが、みそ汁も煮干しで出しを採ったものは
食べてはいけない。にんにくも植物ではあるが、薬効成分が多く含まれ、
効き過ぎるので慎むべきものとされる。
私は興味だけで入ったのであるが、活動に参加していく内に
菜食主義の不思議な魅力にとりつかれた。毎日の食事も植物のものばかり
になり、スーパーの肉屋の前を通るだけでも、生臭い臭いに思わず
鼻と口を手で塞いだ。
サークルに入ってしばらく、私は自分の嗅覚を疑った。いや、それには驚いた。
ある日を境に、だんだん人間の体から発せられる臭いに敏感になった。
一般の人の言う体臭とは比べものにならない、生ゴミのような臭いであった。
まさしく生き地獄というものである。私はそれでも菜食主義をやめられなかった。
ある日、彼女と出かけた帰り、彼女の部屋へ寄ることにした。もちろん、
彼女もすさまじい体臭を放っている。彼女の美しい顔立ちとは、対照的である
その臭いは私を官能的な世界へ連れて行った。
若い二人が同じ部屋にいればと、そういうことだった。お互い生身で
触れ合ったが、彼女の放つ臭いはだんだん異常なものになった。私は
彼女の腕に抱かれたまま、失神してしまった。
それからはもう肉も魚も、どんどん食べるようになった。
次のお題「自転車」「ホットコーヒー」「少年団」
30 :
、「にんにく」「にぼし」「青年団」:02/10/31 21:45
熱烈な拍手と共に、世田谷区公民館の壇上に世田谷青年団団長が現れた。
彼は台座に備え付けられたマイクロフォンに顔を近付けると、声高々に演説を始めた。
「諸君! 最近の我々の戦況は確かに望ましいものとは呼べないが、
我々はいま一度意を決して戦わなければならない。敵は確かに優れた
平気を多数――いや無限といっていいほどに所有しているが、
我々は断じてそれに屈服してはならない!
あの夥しい数の諧謔的なネーミングと、凡庸をかたどった兵器に
服従するということは、それ自体として我々青年処士の活路である、輝かしくも
可能性に富んだ、成人という未来を廃棄することである」――(一同拍手)――
「そこで私は先日の作戦を踏まえた上――今回は新たな作戦を用いて敵に制裁を
加えようとと思う。尚、以前の作戦で用いたにんにくは敵の弱点ではないことが
判明したのは言うまでもないことだが、今回は敵の内通者の新たな情報により
、敵は猫であるということが判明した。
そこで今回は煮干し誘導という大胆な戦術を用いることで私は一同に勝利を導こうと思う。
詳細は現地にて指示するが、我々の勝利はすぐそこに迫っている!
諸君、いざいかん! 青年の自立を邪魔するものに制裁を!」
こうして、彼らは憎むべき彼らの敵であるドラえもんの拠点、のび太青年の家に向かったのだった。
次回「ピックアップトラック」「唯物論」「ファミマ」
すいませんだぶりました
お題は29さんの
「自転車」「ホットコーヒー」「少年団」 でお願いします。
32 :
「自転車」「ホットコーヒー」「少年団」:02/10/31 22:29
俺ら埼玉極悪少年団!
俺らにかかれば、どんなものでも破壊するぞ!でも自動販売機は勘弁な。
喫茶のオーダーは一言で決める!「冷たいホットコーヒーくれ」
今日も、自転車ふかして、いなせな美女をブイブイいわせてやる!
へへ、大人達の目線が熱いぜ!
ところでブイブイって何。
●「ピックアップトラック」「唯物論」「ファミマ」●
清々しい冷気を吸い込み、青年は猛スピードで自転車を走らせていた。
河川敷では地元の少年団が練習試合をしている。
東から射す陽光を浴び、アグレッシブに野球をする彼等に、青年は数年前の我が身を重ねた。
無邪気に駆け回る少年は、少しひねくれたニキビ面の青年に成長した。
青年の操るペダルは漫画の誇張された描写のように、激しく回転した。
自動販売機が視野に入ると、そのいくらか手前で自転車を止めた。
青年はポケットの中のコインを弄びながら自動販売機に向かった。
――さて、買うか…。
お目当てのものを買うためにわざわざ日曜日の早朝、隣町まで馳せ参じたのだ。
後戻りはできない。
人の気配がないことを確認し、自販機に硬貨を投入しようとしたその刹那、
青年の目に人影が飛びこんできた。
主婦だ!しかも、若い!
青年はたじろんだ。
今回のミッションは他人とはいえ女性の前で遂行する行動ではない。青年は観念した。
仕方なく、隣の販売機で望まないホットコーヒーを購入した。
エロ本の中の女性が青年の後ろ髪を引いた。
しかし、大人の階段を一歩、確実に一歩上ったんだと云う、
なんだかわからない充実感が青年の心を満たしていた。
大人の自販機は元のままひっそりと佇んでいた。
次は●「ピックアップトラック」「唯物論」「ファミマ」●
34 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 22:59
ピックアップトラックって何ですか?
ファミマって何ですか?
35 :
名無し物書き@推敲中?:02/10/31 23:01
32さんが気を使って継続してくれたお題変えます
書いてた人がいたらそのかたの出したお題でいってください
「バター」「薬缶」「木炭」
>>34 荷台がついてる乗用車です
昔のハイラックスとか……
冷蔵庫の奥に唯一残ったバターを舐めながら、俺はキャンバスに向かう。
ここ一週間ほど、バターだけで持ちこたえている体には、
溜まった疲労で力が入らない。
習作はもう二十ほどたまったが、いまだに気に入る作品がない。
もっと良い作品を描かねばと思うと、焦ってさらに筆が進まない
木炭を買おう。これじゃあ良いデッサンが描けない。
机の上の小さな欠片を見て、俺はそう思った。
しかしもう一つの考えが頭に浮かぶ。
いや、腹が減っては戦ができない。何か食べ物を買おう。
そうすれば気力も湧いて、良い作品が描けるはずだ。
俺は二つの欲望に頭を悩ませながら、じっと財布を眺めた。
「よし。あれを買おう」
俺は急いでパン屋に向かうと、硬いフランスパンを買ってきた。
絵を描く時は、消しゴム代わりに使うもよし。
腹が減ったら、バターをつけて食べるもよし。
俺は自分の買い物に満足をして、また絵を描き始めた。
お題を忘れた。
次ぎは、
眼鏡 気球 泥棒
でお願いします。
39 :
37 心で来ます:02/11/01 00:40
たびたびすいません。お題が一つ入ってなかった。
冷蔵庫の奥に唯一残ったバターを舐めながら、俺はキャンバスに向かう。
ここ一週間ほど、バターだけで持ちこたえている体には、
溜まった疲労で力が入らない。やかんのお茶を飲みながら、
俺は来週に迫ったコンクールの締め切りを思い出した。
習作はもう二十ほどたまったが、いまだに気に入る作品がない。
もっと良い作品を描かねばと思うと、焦ってさらに筆が進まない
木炭を買おう。これじゃあ良いデッサンが描けない。
机の上の小さな欠片を見て、俺はそう思った。
しかしもう一つの考えが頭に浮かぶ。
いや、腹が減っては戦ができない。何か食べ物を買おう。
そうすれば気力も湧いて、良い作品が描けるはずだ。
俺は二つの欲望に頭を悩ませながら、じっと財布を眺めた。
「よし。あれを買おう」
俺は急いでパン屋に向かうと、硬いフランスパンを買ってきた。
絵を描く時は、消しゴム代わりに使うもよし。
腹が減ったら、バターをつけて食べるもよし。
俺は自分の買い物に満足をして、また絵を描き始めた。
眼鏡 気球 泥棒
40 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/01 00:57
眼鏡 気球 泥棒
俺は変装用に使っていた眼鏡を捨てながら、眼下に広がる町並みを眺めた。
逃亡用に気球を使ってしまう時、自分は祖父の血を引いてるんじゃないのかと、
長く伸びたもみ上げの端っこをかきながら感じる。
祖父も自分と同じように泥棒を生業としていた。
爺さんも同じように、女には弱かったのかな?
そう思いながら、盗んだばかりの宝石箱に入ってる手紙を読んでいた。
「ルパン。せっかく盗んだみたいだけど、先にいただいといたわよ。あなたの陽動作戦のおかげで、先にいただけたわ。
不二子(キスマーク)」
俺はその手紙をポケットにしまい、同じよう内容の手紙が、隠れ家に千通以上あることを思い出した。
次のお題は、「盗み」「裏切り」「ねたみ」
それと、
>>39何度もウザイよ。
41 :
「盗み」「裏切り」「ねたみ」 :02/11/01 03:40
俺は、伝説にまで謳われたあの悪徳の都――ルシフェルに辿り着いた。
この街では今まで常識が全く通用しない。
放火、強姦、殺人さえも、ありとあらゆる犯罪が美徳とみなされるのだ。
弱きものはただ強きものに一方的に虐げられるだけなのだ。
だからこそと夢にまで描いていた。
平等とかいう理不尽な概念に足を引っ張られる必要のない、実力だけの世界を。
つまらないねたみも裏切りも存在しない。
他人を信じなければ裏切られる必要もない。
そもそも、この街では弱者が強者をねたむ資格なぞないのだ。
王者はただ君臨するのみ。――だが、ちくしょう!よりによって俺の眼前にだ。
「この街で『犯罪』などが起ころうとは何十年ぶりだろうのう?若いの、礼をいうぞ」
笑うしかない。食うものに困った俺はつまらない盗みで捕まってしまったのだ。
ここは人間の住む街ではなかった。落とし穴はどこにだってある。
何てことはない。ここは獣の街なのだ。そして獣の世界は恐ろしいほどに機能的だった。
獣気がはじける。北極熊のような古傷だらけの大男が巨体を揺らして向かってきたのだ。
「さあ、わしを愉しませるがよい」
この場で殺人などという犯罪は起こりようがない。
ただそこに群れのリーダを廻る戦いが存在するだけなのだ。
この世界では、つまらない政治理念などに拘泥される必要はない。
政治的空白なぞ即座に『解決』される理想的すぎる縦の世界。
だからこそ悪徳などという人間性こそが最上の美徳とみなされるのかもしれない。
俺が最期に見たのものは、頭蓋が潰される瞬間の血の赤だったような気がする。
---
「たたきあげ」「放射線」「茶道」
「たたきあげ」「放射線」「茶道」
文化財的価値がありそうだと言う事でその茶道具はこの研究所に持ち込まれた。
僕は茶道をした事がないから茶道具の知識はまるで無い。
僕はたたきあげのX線技術者だ。X線はレントゲン等で使われている放射線の一種で、
物の中身、例えば人間の身体の中身を調べたりする事に使われる。
でもここでは持ち込まれる品物の年代や真贋を調べる事に使われている。
僕は文化財用のCTスキャンで茶道具について調べる事にした。
表面に文様があるようだが錆びに覆われていて何が書かれているのか全く分からない。
丸い形態をしている。上についているのは蓋だろうか。
CTを操作してX線を照射した。
僕は我が目を疑った。手が震えた。
文化財どころではない、これは国宝級だ。僕は興奮した。
「ぶんぶく茶釜」僕は呟いた。
スキャンした画面にタヌキが映っていたのだ。
次のお題は「疫病」「洗濯機」「地下鉄」でお願いします。
43 :
「疫病」「洗濯機」「地下鉄」:02/11/01 15:29
「疫病神」。ポツリと呟いた。この頃全くついていない。俺はよれよれ
のシャツにくさくなったジーンズで地下鉄に乗っている。
それというのも、こいつのせいだ。この、小さな悪魔、もとい、神様。
俺はため息をつく。車両に乗った人々は、俺の肩に止まったこの小さな
悪魔に気がつかない。ちっさい頭蓋骨、ちっさい鎌、黒い頭巾つきのマント。
最初は死神かと思った。「死神か」と尋ねたら奴はふるふると首を振った。
じゃあ何だ、続けてそう尋ねたが、それ以来奴は何の意思表示もしない。
でも、こいつがきてからだ。数日のうちに洗濯機が壊れた。彼女に振られた。
痴漢に間違えられて危うく警察沙汰になるところだった。死神でなければ
疫病神だ。俺は今ではそう確信している。と、突然車体がかしいだ。先ほど
まで無関心に新聞を見ていたサラリーマンが座った姿勢のまま投げ出される、
つり革がゆれる、視界が不自然にかしぐ、光が光線を描いて上部にぶれる、
叫び声、重力の崩壊、金属音、研ぎ澄まされる六感…。俺自身も投げ出される。
ああ…。最後に聞いた言葉。
「ほんとのことなんていうわけないだろ」
「ワイン」「脱出」「セイウチ」でお願いします。
44 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」1/10:02/11/01 17:50
友之が電気が止められる以前は冷蔵庫だった箱を開けると、中には干からびた
にんにくと一袋のにぼし、あとは半年前に賞味期限の切れた練りわさびしか
入っていなかった。
プラスチックのドアを閉め、いつものように流しの下の扉を開ける。
中にはあのロマネ・コンティDRC85年物が、白いラベルをこちらに向けて
ひっそりと佇んでいた。友之はボトルを手に取ると、ラベルを指で撫でながら
ゆっくりと手の中で回した。
会社の犬から脱出し、作家を目指して上京した時に勢いで買った物だった。デ
ビューできたらこれを開け、明美と祝おうと。
しかし時間は音もなく過ぎ、明美はもう戻らない。貯金も底を突き明日喰う米
もない。なのに腹だけは出て、まるでセイウチのようだ。
友之はじっとラベルを見つめていた。
固くボトルを握りしめていた手が、不意に封を引きちぎった。
コルクを奥へ押し込み、ラッパ飲みで一気に喉に流し込む。
噎せ返りながら澱まで胃袋に押し込んだ。
不意に猛烈な吐き気を催し、トイレに駆け込んで吐いた。
空っぽの胃からワインが胃液と共にトイレに流れ込んでいく。
苦しさに目を開けると、右手に空になったボトルを握りしめていた。
白いラベルが赤く斑に染まっていた。それは未来のようだった。
友之は泣きながら「書こう」と思った。
----------
●評価が気になります。よろしく。
御題は継続です。
この御題、10本くらい続けませんか?どんな物語が出てくるか見たいです。
ご賛同いただける方は、名前欄の1/10を2/10,3/10と続けていってください。
もちろん今まで通り御題を出してもいいです。飽きたら変えて下さい。
46 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」2/10/病:02/11/01 19:09
今にして思えば、私はただの「都会にあこがれる田舎娘」だった。
こんな魅力の無い、僻地の寂れた村で一生を終えるのは嫌だ。こんな田舎からは早く脱出して、
都会へ行こう。もっと夢のある暮らしができるに違いない……そう思い、私は周囲の反対を押し
切り、夢にまで見た都会・東京へとやって来た。
だが、私のような田舎娘が暮らしていける程、都会は甘いところではなかったのだ。
まず立ちはだかったのは、衣服の問題だ。当時着ていたコートは、私が初めて自分で仕留めた
セイウチの皮で作ったものだ。私にとっては記念すべきものだが、容赦無く向けられる奇異の
視線は耐えがたいものだった。
そして何より、この暑さ。比較的涼しい季節だというこの時期も、氷点下が当たり前のアラスカで
暮らしてきた私にとっては灼熱地獄に等しかった。
結局、私は体を壊してしまい、半年も持たずしてこの街を去ることになった。
土産のつもりで買ってきたワインは、故郷に辿り着く頃にはガチガチに凍り付いてしまった。
田舎者の私が都会で生きられないように、都会者のこのワインもまた、田舎では存在し得ない。
物事には分相応というものがあるのだな、などと思いながら、私は懐かしい我が家の戸を叩いた。
一応、新しいお題はふっておきます。「雪隠」「ギロチン」「電車賃」でどうぞ。
47 :
:「ワイン」「脱出」「セイウチ」:02/11/01 20:00
どこかは、はっきりしないが、彼は牢屋に閉じこめられていた。
壁は煉瓦で出来ていて、下は地面がむき出しだった。明かりは廊下の天井から
下げたランプだけであった。
道を歩いていたとき急に、誰かに後頭部を殴られて、意識を失った。それからそこに
運ばれて、ずっと眠っていた。そして、起きてしばらく脱出方法を考えていたとき、
「目を覚ましたのか」
と、低い声が廊下に響いた。そこは地下にあるらしい。
彼は廊下の方に、陰が近づいてくるのを見た。外に現れたのはマントを着た男だった。
顔は青白く、口を開けるとセイウチのように二本の歯を見せた。手には真っ赤な
ワインの入ったグラス。彼の第一印象はドラキュラだった。
「お前は誰だ。どうして私はここにいるんだ」
彼は不安を隠しきれない様子でその男に問うた。
「いや、ここは刑務所ですよ」
よく見るとその男は警察官のようだった。
48 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」4/10:02/11/01 22:10
やつのあだ名は「セイウチ」だった。なぜなら、見た目がセイウチの様だからだ。
「セイウチ」はよくおれの部屋に遊びに来た。「セイウチ」はお菓子が好きだったので仕方なしに
食わせてやったら、物凄く汚い食い方をするので参った。部屋中がお菓子のカスだらけになって、
おれは「セイウチ」を何度も怒鳴りつけたのだが、やつは聞く耳をもたなかった。
おれは本当に嫌で嫌で仕方が無かったのだが、「セイウチ」の部屋へおれを含めた数人で乗り込むことになった。
みんな酔っ払っていた。まともなのはおれだけだったから、何度も反対したが、結局行くことになった。
実際、おれも少しだけ興味があったのは確かだ。しかし、おれは興味を持ってしまったことを心底後悔した。
一番酔っ払っていた山口が「セイウチ」の部屋のドアをいきなり蹴破った。そして「セイウチー!」と絶叫した。
全員いっせいに「セイウチ」の部屋へ走り込んだ。俺も後に続いたが、部屋に入ってから愕然とした。
物凄い悪臭と、ブーンという虫の羽音。それはゴキブリだった。床中をカサカサ這いまわり、何匹もが
飛びまわっていた。突然の侵入者達に驚いたのだろう。おれはもう何も考えられないほどの衝撃を受けた。
「やあみなさんこんばんは」、「セイウチ」がそう言うのと同時に、おれは床に転がっていたワインのビンを
拾い上げて「セイウチ」に向かって突進した。そしてそのワインのビンで「セイウチ」の頭を殴りつけた。
おれはそのまま「セイウチ」の部屋を脱出した。後のことはもう覚えていない。
49 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」5/10:02/11/01 23:24
だいたい誰のせいで北極まで来たというのだ。
男はまるでエスキモーみたいに辛抱強く雪原を歩いていた。
頬と鼻は赤く痺れ、吐く息はたちまち凍りつく。
とめどない洟をすすっては、ときどき蜜のようなウイスキーをなめる。
まだワインをがぶ飲みしたほうがましというものだ。
だいたい社長も気まぐれなのだ。
本物のセイウチの毛皮のコートがほしいだなんて。
胸くそが悪くなってつばを吐く。
奇想天外な発想がいいということで会社の株は騰がるし。
どうせ戻ってもすぐカルムイキアでチェスをしてこいとかなんとか言われるに決まっている。
だからといって会社を辞めてもこの不況。
途方にくれて男は雪原に立ちつくす。
どこへも行けないのだ。
この社会からの脱出を試みようと思ってもうまくいくことなんてあまりない。
パチンコで負けつづけるほど運と才能はないし。
周りを見わたせば、ただ白いだけのなにもない世界が広がっていた。
50 :
一応「ワイン」「脱出」「セイウチ」5/10:02/11/01 23:27
「お前には奇妙な友情さえ感じるよハニィイイ。君の事を夢で見たんだ。
思わず攫ってしまったよ。お前は見知らぬ他人だったが、そんなことはどうでもいい」
瀟洒な室内を気分でも悪そうに歩き回る犯罪者に、一見して一切の自由を束縛されていない青年が
冷ややかな視線を送っていた。
「ハニィ、知ってるか? 北極ではシロクマとセイウチは殺しあっているらしい。
氷上ではクマに有利だが、水に落ちればセイウチの領域だ、脱出は難しい。
では今俺たちがいるのはどっちかな、ハニィ」
不安でもあるようにせわしなく歩き回っていた犯罪者は、卓上のワインクーラーに手を伸ばした。
「赤ワインを冷やすのはマナー違反らしい。なので、優雅に冷やしておいた」
犯罪者は赤ワインを一瞥してワインクーラーに戻すと、眉をしかめながら青年の下へと歩み寄った。
「ハニィ、一生君を愛し続けよう。なぜってお前が俺の夢に現れたからさ、ハニィ、ハニィ!」
犯罪者は、『さっきから一人で奇妙に語り続ける青年』に、初めて言葉を返した。
「私をどうするつもりだ」
「くつろげよハニィ。ここには警察はいない。一生僕が守ってあげるよハニィ」
なにやら電波系になってしまいました。
>>46のお題も有効だと思いますんで、今は平行して二種のお題があるってことですよね。
うわ、初めて被った。
5/10は6/10ですね。
52 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」7/10:02/11/02 00:02
セイウチは動物園を脱出した。
真夜中の、星の隠れる夜に。
飼育係が出入りする扉の鍵穴にひげを入れてひねると、硬い音をたてて開いた。
細い通路を抜けるのには苦労したが、抜けてしまえば自由な空間が目下に広がっていた。
セイウチは生ぬるい空気を深く吸う。
この季節から海を渡れば、休みながらでも夏には北極に着くだろう。
深い夜を味わうようにセイウチは地下のバーに向かう。
自らの門出に祝杯を挙げたい気分なのだ。
「いらっしゃい」とマスターは営業的な微笑を浮かべてセイウチを迎える。
カウンターに腰を下ろしたセイウチは、訊かれもしないのに経緯をマスターに語る。
「そんなわけで」セイウチは効果的に咳払いをして話を区切ってからつづける。
「僕はふるさとに帰るってわけさ」
「でも北極にはワインなんてないんでしょ、凍っちゃうから」
一度憶えた味はなかなか忘れられない。
とても残念なことに、セイウチはワインが大好きだったのだ。
すこし具合悪く会話をつづけたあと、セイウチはまっすぐ動物園に戻った。
「雪隠」「ギロチン」「電車賃」
「ねぇ、知ってる?ギロチンはギロチン博士が開発したってことになってるけど、原型はルイ16世が作ったのよ」
ベッドに横たわり、本を読んでいた瑠実果が突然身を起こした。
石榴のように紅く、形のいい唇が少しだけ吊り上っている。
「初耳だね。でもそれがどうしたの?」
どうせ本で得た知識だろうと思いながらも、俺は微笑んで答えた。
「特に意味があるわけじゃないけど……何となく皮肉だなぁ、ってね」
学生時代は、地理選択者の俺だったが、それくらいの常識は知っていた。
「ルイ16世って最期、ギロチンで処刑されたんだろ。確かに皮肉だよな。」
「そう。自分が創ったもので、自分が殺されたの」
彼女は意味深の笑みを浮かべながら、俺の瞳を見据えた。
「幸人、玄関の棚の引き出しが開いてて、私が置いてった財布の中身が少しだけ無くなってたわ。あなた、鍵を絶対に開けないって言ったのに」
肩が少しだけピクリと動くのが、自分でも分かった。
「ちょっと……、急に友達に呼び出されてたんだけど、財布も小銭入れも手元になくてね。電車賃が必要だったものだから合鍵で開けて失敬したんだよ。悪かったね」
瑠実果は、すっと笑うのをやめ、目を静かに閉じた。
「うそつき。幸人この間、私にくれたもののもう片方の鍵、小銭入れに入れてたじゃない。小銭入れに小銭がなかったって言えばよかったのにね。……それに気づいてた?あの中、微かにラベンダーの香水の香りがすること」
「別に……、ほら、瑠実果に香水をプレゼントしようと……」
「何?雪隠の火事のつもり?私が香水嫌いって、幸人が一番良く知ってるでしょ。はっきり言いなさいよ、他に女がいるって」
あぁ……と知らない間に口からうめき声が漏れていた。
きっと瑠実果は試していたんだ……、俺を試すために……。
「幸人があの扉の鍵を閉めなかったら……、ばれなかったかも知れないのにね」
一瞬だけ、自分の首がギロチンで刎ねられる幻覚が、俺の中を巡っていった。
……長くてすみません。
次は「憧憬」「潜行」「景勝」でお願いします。
あっ、もちろん
「ワイン」「脱出」「セイウチ」
も続けて下さい。
私のお題はそれに参加しない人で。
……さて、私も参加しようかな。
55 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」7/10:02/11/02 00:28
ちょっとしゃれたホテルのバーで僕はそこで知りあった女の子とワインを飲む。
うらびれた通りに面したちいさなホテルだったが、なかなか綺麗に装っていた。
僕は作家のぐちを聴きに出張でやってきて、彼女は友達の結婚式でやってきたのだ。
それぞれにすこしいやな想いをしては、うまく場から脱出することに成功した。
そして寝る前に一杯飲み直そうとしたらたまたま知りあったのだ。
彼女は酔いの廻った顔で僕に訊く。
「男の人の性欲っていったいどういうものなの?」
「とても暴力的なものなんだ。感情はそのあとについてくる」と僕はすこし考えてから答えた。
「それはセイウチの牙のように?」彼女は潤んだ瞳で確かめる。
「そう、セイウチの牙のように」僕は反芻するように繰りかえす。
「私はね、離婚したの」彼女は左の薬指の指輪を弄りながらつぶやく。
そしてためらうように指輪を指先まで運んでから、おもむろに抜いてカウンターに置いた。
僕はその仕草をながめながら、北極に住むセイウチの牙を想像していた。
8/10だったね
「ワイン」「脱出」「セイウチ」 9/10
アパートの改築工事のため、家を出た。一度取り壊して、建て直すという。
一時的な退去とはいえ、持ち物はすべて持ち出さなくてはならない。
僕は友人の家を泊まり歩いていたが、そんな暮らしがつづくはずもなく、
ついに、そもそも三日の約束だろ、と追い出されてしまった。そもそもと
友人がいったのは、すでに六日もおじゃましていたからで、僕は僕で、
「せめて三日だけでも作戦」をとっていた。
さて、今夜は野宿かという夜に、元カノから携帯に連絡があった。僕の噂を聞いて、
救いの手をさしのべてやるのだという。ていよく因りを戻されそうな気がしたけど、
ぜいたくはいってられない。ふたつ返事でころがりこむ。
出荷されたばかりのボジョレーを手土産に持っていくと、彼女はニコリともせずに受け取った。
態度も体型もおおきくなっていた。せいうちかと思った。それから数時間、付き合って
いたころの愚痴を聞かされた。居候の身としては反論もままならない。しかも、彼女が
年齢を若く偽っていたことが発覚する。俺は、野宿でもいいからこの部屋から脱出したいと思った。
話題を変えるためにワインをあけると、コルクに1998とあった。
最後から2行目の「俺」は「僕」に訂正。みなさまもお気をつけを。え?
おまえにいわれんでもわかっとるわい!? 失礼いたしました。
59 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」10/10:02/11/02 00:51
朝の新聞の片隅にちいさな記事が載っていた。
動物園のセイウチ舎のドアが牙でこじ開けられたという。
ワインを飲む中年の女はその記事を見ては感嘆のため息をもらす。
野性的な強さにしばし酔ってみては、机の隅に置かれた電話を手に取る。
簡潔な口調で呼び出してはすぐ電話を切る。
数分後折り目正しい男が慇懃な態度で部屋を訪れる。
「あなた、北極行ってセイウチの毛皮を取ってくるという企画はどう?」
男は慎重な表情で考える。よくあることなのだ。
「その毛皮をどうするおつもりで?」
「コートにするの。今の時代癒しが流行っているけれど、強い力に憧れる気持ちもあると思うの。ブッシュ大統領みたいに」
「そしてそれを番組で紹介して販売するのですね」
「そう。国際法に触れない程度にね」
「かしこまりました」
男は蛇が隙間から脱出するように滑らかに音を立てず部屋から出ていった。
そしてその企画はあっさり通ってしまう。
不可思議なことほど世の中うまくいくものなのだ。
60 :
「ワイン」「脱出」「セイウチ」10/10:02/11/02 01:04
「おばあちゃん、今年もそろそろ梅ワイン、作る頃やろ?今年はあれ、たくさん作ってな。好物やから」
私は大学から帰ってくるなり、台所の流しに立っている祖母にそう言った。
「えっちゃんはあれが好きなの?」
祖母は少しウエストが太めの体――伯母は容赦なくセイウチみたいと言っているが――をゆっくりこちらに向けて、柔らかく微笑む。
しかし、その瞳に少しだけ不安の影が宿るのを私は見逃さなかった。
「もう、おばあちゃんたらまだ心配してるん?ほんまにもう大丈夫やって」
私が東京の大学に進学したのは母からの脱出だった。
母は私を自分の人生の駒としか考えていなかった。
自分の世間体のために私を「いい子」に育て、「いい学校」に行かせようとした。
私も「いい子」になろうと……、母の気を引こうと必死に努力したが、結局母の目に映っていたのは弟だけ。
それに気がついたのは、大学受験の一週間前、私が胃潰瘍で入院したときだった。
……母は、ただ、その年大学に入学できなくなった私をひたすらなじった。
最初、愛情を忘れた私に、祖母は小さな子にするように優しく抱きしめて、撫でるだけだった。
祖母の目がきらりと光った時、初めて私は人の前で涙を零した。
あまりにも祖母が温かかったから……。
「そうかい、それならいいけど……。でもお酒はあまりよくないんだろう?」
「我慢してるほうが余計にあかんわ」
私がおどけてみせると、祖母はやっと安心したらしく、「それじゃあ、作ってあげるわね」と優しく私の頭を撫でた。
大学生にもなって、小さな子のように撫でられるのは、少し恥ずかしかったけれど、祖母の温かさに私は、心地よさを感じていた。
かぶってたのか……。
すみません。
>>61 オーバーしたら10/10を11/20にして継続してください。
飽きるまでやってもいいと思うけど、12時間書き込みがなかったら次へ行こう。
簡素人がストップ掛けてもいーよー。
また、なんか良い御題があったらまた「10本続けよう」コールして下さい。
よろしく〜
63 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/02 02:12
しかし99/100までやるってのも、ちょっとな。
ほかのお題でシリーズもん、やりたい参加者もいるやろうし。
やっぱり多くても10までがいいんじゃない?
で、10書いた人がシリーズもんの「お題」だせばいいやん。
平行お題?の「憧憬」「潜行」「景勝」もあるよってに。
「憧憬」 「景勝」 「潜行」
僕は沖縄のアザミ珊瑚。のんびりと育って来たら、いつのまにか世界最大
級になっちゃった、らしい。そんなことはどうでも良いんだけど、ギネス
に載ったり、環境庁が国宝?やらにしてくれちゃったから、妙なことに。
奴らがやってきたのだ、自然への憧憬とかには無縁そうな奴ら、景勝地に
出没し、荒し回ることで有名な奴らが。
人目を避けて潜行して来たのはカメラマンを従えた朝日記者だった。そして
何を思ったか、僕の体にストロボの柄でK.Yの刻印をガリガリガリと刻み
込んだ。痛い。と思ったのも束の間。さらに何度も、繰り返し、執拗に気の
遠くなる時間をかけて刻み込んでいったのだ。
後で、ダイバーの人たちが語っていた話によると朝日新聞社は自作自演記事
「『K・Y』のイニシャルを見つけたとき、しばし言葉を失った」とかで
ダイバーの人たちに冤罪を被せていたらしいから酷い話だ。
僕を痛めつけるのが目的では無かったのか?
にしても、一体「K・Y」ってだれだ。
「憧憬」「潜行」「景勝」〜あるいは見立て殺人〜
……あの日あなたの乗っていた船が難破し、かつては景勝地だった岩ばかりの無人島へ
流された。そこには水も食糧もなく、流れ着いた十人は生き残るために籤をひいた。外れ
籤をひいた者が、他の者の食糧となる。そして半年後、あなただけが生き残った。
しかし最後に亡くなったのは男性でした。抵抗すればあなたに勝ち目はない。なぜ彼は
そのまま死を選んだのですか。そしてあなたが島で書いていた手記は、死体を食べつくし
たという記述を最後に途切れている。その後、どうやって命をつないだのですか。
あなたは手記でこの出来事を『そして誰もいなくなった』のようだと書いていました。
その小説は、十人のインディアンという憧憬の対象であるはずの童謡通りに、人が殺され
るという内容でした。しかし小説では最後のインディアンは首吊り自殺で消えるのですが、
本来の歌では結婚によって消えるのだと知ってましたか。最後の一人は生き残り、ある意
味、結婚によって増えるのです。私はそこから答に気づきました。
名探偵の推理はどんなに残酷な物であっても、人々を安心させるためにあります。その
対象には犯人も含まれます。そうでなければ名探偵の言葉に犯人が耳をかたむけるはずが
ありません。あの島の周囲を潜行して見つけました。島であなたが産み、あなたが食べた
子供のかけらを。 皇 太郎より
フルネームだったんですな。次なるは「故郷」「幽霊」「天使」
>>63 そっすね。10話前後くらいにしときますか。
んじゃ
>>59、シリーズの御題出してくで。明日昼12時までに出なければ
私が出します。
ちなみに別スレにした方がいい?何なら立てるけど。意見ないならこのまま。
単品物は現在「故郷」「幽霊」「天使」ね。
67 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/02 06:36
コニチハー、ワターシよ♥ マタマタ来たのよ! キャハ!
このまえ、仕事ミツケタ。タイヘンだたーよ。この不況、困ったチャンです。
アハ、アハ、故郷に帰るオカネ、もうアリマセーン。それでやね、住み込み、見つけたの。
デーモネー、そこ、GHOSTがお見えになるの。幽霊さま、イラッシャーイではアリマセーン。
天使なら、ウェルカム。
どう?
ワターシのニポン語、ちょっとうまくなったでしょ?
Thank you for readin' ,love from ME!
OH!! お題、これ書け! 「憂鬱」「カタカナ」「おやつ」
68 :
「故郷」「幽霊」「天使」:02/11/02 07:49
車の窓ガラスを叩く音で、目が覚めた。腰の痛みを騙そうと、背中を伸ばし
て外を見る。髪の長い女が、ガラス越しに覗いていた。腕時計に目をやると、
朝の四時だった。そろそろ夏が近い。外は暗いが、あと一時間もしない内に日
が昇る頃だ。後部座席のドアを開けると、女はさっと入って来た。室内灯のオ
レンジの光が、うつむいた女の顔がぼんやりと照らす。まだ若い。少し団子鼻
な所に愛嬌があった。 「お客さん、どこまで?」
「話を聞いてください。メーター回していいから。」
タクシーの運転手を何年もやっていると、こういう人間に良く会う。大体
は女だった。どうぞ、と言って話を促す。女はうつむいたまま早口で話した。
「幽霊なんです、私。もう死んだのに死神も天使も迎えに来ない。どうし
たらいいと思います?随分色んなところを歩き回ってみたりしたんです。
でも、誰も私に話し掛けたりしないんです。死んだら天国か地獄か、どこ
か別の所に行くと思ってたのに。」
変なのに当たってしまった。この仕事をしていると、夜、客を乗せていて
気が付くと客は消え、座っていたはずのシートが濡れている。そんな話を嫌
と言うほど同業者から聞かされる。それを知っていて、いたずらにタクシー
の運転手を怖がらせようとする人間がいるのも知っていた。寝ていたところ
を起こされて機嫌が悪かった。けれど、俺とは随分歳の離れたこの女がこの
後、どうするつもりなのかに興味があった。少し可愛いとも思った。子供の
悪戯電話の相手をして、遊んでやるような気持ちだ。やや寝ぼけた頭を起こ
して、色々話しを聞いた。
「お寺か神社かに行くのは?」「親は?」「あんたが育った場所に行くのは?」
「それもいいかもしれません。お寺って何時に入れるんでしょう。」「もう、
死んでしまいました。」「故郷はないんです。」「…信じてくれないのね。」
ふと外を見て、気づいた。もうとっくに、日が昇る時間の筈だ。けれど、
外はまだ暗い。また、腰が痛み出した。嫌な気分がした。
「お客さん、どこか適当に走っても、いいですか。」
女は初めて俺の目を見て、そして少し笑って頷いた。えくぼが右の頬だけに
浮かんだ。
俺はサイドブレーキを戻し、視線をミラーに向けた。
被った。すんません。
70 :
「憂鬱」「カタカナ」「おやつ」:02/11/02 08:52
バナナの黄色い皮に張られているシールは紛れもなく安物だった。
カタカナでビューティフル・バナナと記されている。
確かに美しく彎曲してもいるし、黒く潰れた痕もない。
しかしそれは人工的な美しさなのだ。決してそれは自然が作り上げた大地からの贈り物ではないのだ。
チンパンジーが喜んで飛びつきそうなオーラがまるでない。
「おやつにバナナか」
横溝慶介は苦笑した。彼の妻は結婚以来慶介を子ども扱いし続けていたのだ。
「たまの休日なのにおやつにバナナか」
最近購入したテーブルに肩肘を突き、慶介はタバコをふかした。襲いくる憂鬱。
襲いくる憂鬱と戦う慶介。襲いくる憂鬱と格闘する慶介。襲い繰る憂鬱と和解する慶介。なだめる慶介。
とりこになる慶介。あてどなくトイレと応接間を行き来する慶介。
慶介はバナナに張られていたシールをはがすと額に張り付けた。ビューティフル・慶介。
慶介の夏は終わった。
次は、「カナブン」「雪崩」「亜熱帯植物」
71 :
「カナブン」「雪崩」「亜熱帯植物」 :02/11/02 11:06
「電気、止められるまで、あと十分くらいかな。」
男がせわしなく部屋を歩き回っている。女はそれを見て諦めたように笑った。
部屋は暖房が効いていて暖かい。機械の振動が壁に伝わって、油蝉の泣き声
が篭もったような、小さな音が部屋に響いている。
「私達、間違えたかな。他の方法を選んだ人も多かったのに。」
それまで黙っていた男が、かすれた声で咳き込みながら口を開いた。
「でも、空が見えるところにいたい。」
「わかってる。ごめん。ね、亜熱帯植物の種を寒帯に撒いたら、芽は出る
と思う?棚の奥に、メランポジウムの種があるの。小さいタンポポみた
いな花が、沢山咲く。」
断末魔のカナブンのぶ厚い羽音のような、乾いた低い断続的な音を立てて、
空調が止まった。
「思ってたより、早いね。映さん、お願いね。」男は女に顔を向け、安心さ
せるように笑った。乾いた破裂音が部屋に響いた。
まだ硝煙の匂いがする銃を握り締めた右手の指を、一本一本剥がして、左手
に持ち替えて銃を床に置く。女が視界に入らないよう顔を背け、男は言われ
た場所に在った紙袋を、そっと胸のポケットに入れた。
ドアに歩みより、重い扉を体重をかけて開くと、眉と睫毛が凍って砂糖細工
のようになった。それにかまわず、男は外へ出て行く。
遠くで、地下鉄の音を地上から聞くような音が響いていた。段段、近づい
て来る。銃声で起こった雪崩の音だった。男は、太陽があるはずの場所を見
上げた。闇だった。ドアの隙間から漏れる明かりは、残った僅かな電力を使
い果たし、真白な雪を踏みしめていた男の視界から、最後の色を奪った。
地球に氷河期が来て、五年が経っていた。多くの人々は、地下のシェルタ
―で暮らしている。地上で暮らす事を選んだ人々の集落のひとつが、最後の
時を迎えていた。
長くなりました。次は「数」「杖」「ペットボトル」で。
今日のご飯は、やけに酸っぱい。多分、何日もまえのヤツなのだろう。
僕は、酸っぱいご飯をコーラで無理やり流し込んだ。
黙々と食べる。コーラーで騙しながら黙々と…
おかずの数は3種類ある。「から揚げ」、「ハンバーグ」、「ポテトサラダ」
そのどれもが酸っぱい。酸っぱい事を除けばコンビニ弁当にしては、豪華な方だろう。
弁当の蓋には「DXからあげ弁当」と銘打ってある。金額は430円だ。
あらかた食べ終わり、コーラーのペットボトルを置いたところで、
僕は、目を見開いてうっと唸った。
僕は一点を見つめたまま、数分間動けなくなった。
霞んでいく目で確認する。良く確認する。しばし確認する。
「キテレツの杖」をゲットした。画面には確かにそうある。
僕は、震える手でペットボトルを取り。残りのご飯を片付けた。
73 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/02 12:02
最近、ペットボトルが持ち歩く人間が多い。事実上のペットボトル依存症患者
ではないのか。手元にあると、つい飲んでしまうのでは無かろうか。
自戒をこめつつそう思う。良心的市民はペットボトルを見て核爆弾を思い
出してしまうのでは無かろうか。なぜなら、手元にあると使用したくなるという
属性が共通しているから。かくいう私は杖にすがりながら、反戦市民の団結を
祈念しつつ残り少ない人生を核廃絶巡礼で過している。コラム子を引退してから
同行二人で行脚しておる。強く訴えかけておきたいのは、例え日本に北の方角
から人工衛星に載った核兵器が飛んで来ても一発なら誤射ではないかと、こう
思ってくだされば嬉しい。沢山飛んで来たら、「数は問題ではない」と思って
我慢すべきだ。
と言う訳で、僭越ながら連作お題発表。
「地平線」「かけら」「響」1/10
1/10から進めて10/10になった人が次の連作御題を出してください。
かぶったら早い人のを採用と云う事で。
単品ものは73が御題を出してないので継続の
「数」「杖」「ペットボトル」ですな。
この大地を踏みしめるのはこれで2回目か…。
雄一は知らなかった。日本でも地平線が見えると云うことを。
初めてその地を訪れたのは雄一が19の時だった。
内向的で引き篭もりがちな性格の改善、その一助となることを願って北海道への旅を思い立った。
道内の古ぼけたライダーズハウスで宿泊をしているとき、
一回りほど年配のライダーから地平線が見える場所を教えられた。
胸が高鳴った。遠足を待ち侘びる少年のように、その夜は眠れなかった。
まだ、日も昇らない頃合に雄一は宿を後にした。
目的地までの500キロあまりを制限速度お構いなしに驀進した。
地平線を拝めば、何かが変わると願っていた。希望のかけらを掴めると。
長時間のツーリングで疲労もピークに達した頃、果てしなく続く道の先に地平線が顔を出した…。
ポンっと男が雄一の肩を叩いた。
「どうです、懐かしいですか?」
「ええ。時間があの日で止まっているみたいです…」雄一はかみ締めるように答えた。
「……。あまり長居するのは規則違反ですから、そろそろ…」
男が促すと、雄一は軽く頷き――ゆっくりと宙に向かって浮かび上がった。
「このように景色に変化が無い道だと、注意力が低下してよく事故が起こるんですよ。
こう云うのはあなたで最後となるといいんですがね…」
男の台詞が雄一の胸に虚しく響き渡った。
それは、絶え間なく投げ込まれ続けた。カツーン、カツーン、と硬い
音が僕のすぐそばでもうずっと鳴り響いている。狭い岩壁の中で、
その響きはまるで秒針のように規則正しく、暗闇の中で見えない時計
代わりを果たすかのようだ。
しかし、それを数え続けることも、そこから実際の時間を知ることも
できない。僕は痛みと暗闇、押しよせる絶望から逃れられない。
音は絶え間ない。すぐそばで投げ込まれたものが撥ね、僕の肩にあたった。
痛い。小粒の石ほどもあろうものが、上部の穴から降ってきている。
僕はたまたまお腹に転がり落ちたらしいそれを、手探りで掴んで口に
運んだ。毒でもいいと思った。枯れ井戸の底に落ちた男。このまま…。
「甘い…」
それは、鋭角的に砕けたキャンディーのかけらだった。疲労と、緊張が
溶けていく。口の中で、それは溶け続けた。僕は理性を取り戻した。
「助けてくれー!!!」
声は井戸の中を反響した。上部に覗く青いそら、そこに女の子が顔を出した。
僕は、閉じた世界を逃れる。地平線を見られる。この暗くて狭い井戸を抜け出す。
77 :
::「地平線」「かけら」「響」3/10 :02/11/02 19:14
彼の友達は金持ちばかりである。なぜなら、彼は無理してお坊ちゃん学校へ
入ったからだ。彼の家は貧乏であった。
ある日、友達と食事へ出かけた。その友達は金持ちらしく、彼の三倍ほどの
体であった。そして、彼の驚いたことには食べる量も半端ではなかった。これも
彼の三倍程で、次から次へと注文は地平線のように途絶えることはない。彼の方は
芋のかけらを揚げたようなものだけだった。
また、ある日も食事へ出かけた。金持ちの友達は、また、たくさん食べた。
そして、彼の方はさらに小さい芋のかけらだけだった。彼にとって、友達の食事は
見てるだけでも原の響きを促した。
数ヶ月後彼はこの飽食の時代にもかかわらず、餓死した。一方、友達の方は
糖尿病を悪くして、死んでしまった。
78 :
「数」「杖」「ペットボトル」:02/11/02 20:47
老人はベンチに深く腰掛け、杖に顎を乗せたまま大きく欠伸をした。
眼鏡を取って涙を拭く。二、三回目を瞬かせると、また公園に目を戻した。
ペットボトルロケットがまた一本、青空へ吸い込まれていく。吹き出された
水で作られた小さな虹の向こうで孫達がはしゃいでいる。
「みんな元気ですねぇ」
隣を見ると、妻が水筒から茶を汲んでいた。差し出されたカップから湯気が
たなびく。カップを受け取って茶を啜った。ほうじ茶だった。
「コーヒーにしてくれと言ったのに」
身体の事を気遣ってくれたのだろう、香ばしい茶の香りを好ましく思いながら
も、子供のように妻を咎めてみる。妻はにっこりと微笑みながら「ごめんなさい
ねぇ」と答えた。
その答えに満足すると、老人の視線はまた公園に戻る。
公園では数十本のペットボトルロケットが、カウントダウン0の号令と共に
一斉に放たれていた。青空を彩る極彩色のペットボトルロケット。その下で
騒ぐ八十八人の孫達と、側で見守る六十二人の代理妻達。
宇宙での受精実験は大成功だったが、成功にもほどがあると老人は思った。
----------
●次は「猫」「石炭」「凪」で。
79 :
「猫」「石炭」「凪」:02/11/02 23:37
夜の海辺で男はひとり火を焚く。
漆黒に染められた海は凪いで、赤く滲んだ石炭はかすかに音を立てて燃える。
男の表情の消えた瞳は火に照らされる。
気づくと足元に猫が寄ってきたので、おもむろに男はのどをなぜる。
軽くのどを鳴らしてから猫は男に語りかける。
「あんた死のうとしてんだろ」
口を半分開く男の口腔は乾ききってしまう。
なんとかつばを飲み込んだ男はとりあえず猫に訊く。
「何でしゃべれんの?」
「俺は何でも知ってんだよ」
猫は得意げに肉球を嘗める。
「でもな、あんたは今ここでは死なない。これは予告みたいなものだ」
「なんで?」
「これからなんやかんやと邪魔が入るからさ。それよりもあんたが死ぬときは飛行機の墜落事故だ」
「なんで?」
「そういう狭い考え方しているから、さえない人生を送るんだ」
猫はすこし軽蔑気味に鼻を軽く鳴らす。
「まあ、あんたも大変だろうけれどがんばりな」
猫はおもむろに立ち上がると、防波堤に向かって歩いていく。
男は呆然と猫の尻尾を見送っていたが、やがてつぶやく。
「そういうものかな」
軽く燃える石炭の山を棒で掻き混ぜてから立ちあがり、猫と同じ方向へ歩きだす。
次のお題は「時計」「CD」「携帯電話」
80 :
「地平線」「かけら」「響」10/4:02/11/02 23:51
ただ果てしない草原が目下に広がる。
地平線がナイフで引いたように直線に延びている。
僕はおんぼろバスに乗ってモンゴルまで来てしまった。
そんなつもりじゃなかったのに。
逝ってしまった友達の唯一残した本をバッグから取りだす。
遺言どおりに僕はその場で朗読する。
言葉がその場で響かずに揮発しては昇っていく。
なぜか素直に言葉は僕の胸に沁みてくる。
彼の想いを共有しては理解していく。
なぜか自然に涙が出てきた。
本を読み終えて閉じたとき、彼はかけらも残さず消えてしまったことが実感できた。
いなくなった人を偲ぶのは思うよりもとても哀しい。
4/10でした。間違い。
82 :
ルゥ:「地平線」「かけら」「響」5/10:02/11/03 00:36
旅は道連れ……とは、昔の人はうまくいったものだと思う。
僕、召使ロボットの路望は、紫乃お嬢様と行く当てのない旅を2年ほど続けていた。
当時16歳だったお嬢様が、旦那様が計画した結婚を破棄し、逃亡した事件から早2年も経過したとは驚きだ。
そして何より驚きなのは、この生活がまだ続いているということだった。
僕は、気まぐれなお嬢様のことだから、「旅をしたい」と言っていたものの、2,3日で諦めてしまうと思っていた。
それほどまでに、大きな音一つ響かない、静かな……そして幽閉同然のお屋敷生活に嫌気が指していたのだろう。
それに加え、もともとお嬢様は少々アクティブな性格だから、冒険家というのは性に合っていたのかもしれない。
「路望、何、ボーっとしてるの?ほら、もう出発するわよ。夕暮れまでに村に着かないじゃない」
豊かな漆黒の髪がフワリと風に舞い、きりりとした切れ長の二重まぶたが、こちらに振り向いた。
胸元には、天然石のかけらで作られたペンダント――旅先で出来た友人にもらったものだが――が優しく揺れている。
「はい、お嬢様。もう僕はとっくに仕度ができていますよ。お嬢様が例によって例のごとく遅かったんじゃないですか」
僕が意地悪く微笑むと、一瞬、お嬢様はばつの悪そうな顔をしたが、すぐに目を輝かせてにっこり微笑んだ。
「次はどんな出会いが待っているのかしらね」
地平線には一日の始まりを告げる朝日がゆっくりと顔を見せる。
僕は朝日の映る紫乃お嬢様の笑顔を見つめながら、知らず知らずのうちに優しく微笑んでいた。
――やっぱりこの人にはかなわないや。
俺の親友は新進気鋭の物理学者として、将来を嘱望されていた男だった。
そんな彼が突如、アラビア半島にある某国の研究所へと転出すると言い出した。
彼のような優秀な人間が、海外に流出するのは国家的な損失だ。
俺たちを含め彼を知るものは、なんとか慰留しようとあの手この手で説得した。
しかし、彼の決心はかけらも揺らぐことはなかった。
結局彼は、日本に留まることを拒み、アラビアへと旅立った。
「俺は最近この狭い日本が心底嫌になったんだ。日本には地平線が無いだろう?。
しかし、アラビアの砂漠には地平線がいっぱいある。俺は開放されたいんだ」
出発の数日前、彼は俺にこう話してくれた。
それから数年して、俺は彼から電子メールを受け取った。
「俺が日本を見捨てたと思っているだろうが、そんなことは無い
俺は日本という国が好きだ。でも、俺は相変わらずゴミゴミした日本が嫌いだ。
そこで、俺は日本を住み易くするよう、こちらで研究を続けている」
そこまでメールに眼を通したとき、大きな地響きが聞こえた。東京の方角からだ。
「俺は考えた、日本にも風通しが良くなれば、俺も少しはガマンできるんじゃないかと。
お前がこのメールを見る頃は、ミサイルが着弾している頃だろう。
関東平野にも、俺の好きな地平線が出来ているんじゃないかな」
84 :
さすらいの宇宙人:02/11/03 11:41
『地平線』『かけら』『響き』
俺はずっとこの世をさまよい続けている。かれこれもう20年ほどは自分の名前すら呼ばれず、
こうしてずっと放浪しているのに、心配してくれる人もいない。あの、仲の良かった彼女、ゆかりでさえ、
何も連絡などをしてこない。まあ、とっくの昔に携帯電話も壊れてしまっているようだけど。
なんで、俺はこうなったんだろう。たしか・・・
『俺、やっぱ、音楽が好きなんだ。自分だけの響き・・音楽を見つけ出せたら戻ってくるよ』
『貴方がそこまで言うなら・・でも、絶対、絶対にもどってきてね』
・・確かその後、俺は『約束する』なんてお決まりの台詞を言って外国に旅立った。それから・・?
後はずっとただ、その目的のかけらすら見つけることもできなくて、結局ふらふらと此処がどこかも判らず歩き続けているわけか。
・・ゆかり!!俺はゆかりを支えに生きてきた。なのに当の本人は何にもしてないじゃないか!!可愛さ余って憎さ百倍というが、本当にその言葉どおりだった。
畜生、畜生ッ!!俺はゆかりを恨んだ。それが俺の勝手な思い込みだと知っていながらも。地平線が輝いていた。ああ、何度目の朝だろう。自分が1人きりになってから。
その頃のゆかりは、あるところにいた。
「此処にくれば、何とかしてくださると訊いてやって来たのですが・・」
「何かお困りのことでも?」
「最近からだがとても痛いんです。夜寝ていると急に体が動かなくなったり・・でも、医者に行っても異常はないんです」
「そうかそうか・・・どれどれ?おお、おぬしには、生霊がついておるぞ。しかし、凄く強い思い。たぶん昔の
しつこいおとこなんじゃないのかえ?」
85 :
「地平線」「かけら」「響」8/10:02/11/03 17:15
俺の学校に、勘違い熱血教師がやってきた。
「さあ、みんな!!あの地平線に向かってダッシュだ!!」
なんて、今時マンガの熱血教師でも言わないだろう。
恥ずかしくてこちらが赤面してしまう。
しかし、彼は俺たちがウザく思っているとはかけらも感じていないらしく。
今日も自己陶酔たっぷりの戯言をのたまってくれる。
「いいかお前ら!響という漢字があるだろう。これは故郷の音と覚えておけ!!
先生は鹿児島の出身だ。だから俺はこの字に桜島の響き、懐かしい友、
いつでも優しく迎え入れてくれる故郷がこの文字から感じられる!!」
死ねよタコ。お前は今すぐ鹿児島に帰って桜島大根でも作ってろ。
86 :
「時計」「CD」「携帯電話」:02/11/03 17:56
俺は大学受験の日に時計を忘れてきてしまった。
日ごろ、携帯電話を時計がわりにしているため、
腕時計をする習慣は俺には無い。
しかし、試験官は当たり前のように俺たちに言い放った。
「携帯電話を持っている人は電源を切ってください。以後、
携帯電話を操作する人は不正を行っているとみなします」
俺は焦った。残り時間がわからない。俺は思考を巡らして
なんとか今の時間を知る方法を考えようとした。
日時計・・・いや、これは大雑把すぎる。しかもこの教室は日陰だ。
腹時計・・・一時間ちょっとをどうやって計るんだよ!
どんなに考えても妙案は思いつかなかった。
そこで、俺はひとつ光明を見出した。この教室から、大学内に設置された
キャッシュディスペンサーがいくつか見える。今はその周辺に誰もいないが、
昼休みとなれば、このCDコーナーに学生が集まってくる。
この試験終了の10分ほど前に、この大学は昼休みに入るはずだ。
あそこに人が集まってくる、それを残り時間が少ないという合図としていいだろう。
結局、俺は受験に失敗した。
余計なことをいろいろ考えていたせいで、問題に対応する時間が足らなかったのだ。
次の単発お題は、「天気予報」「軍師」「収納」でお願いします。
87 :
「天気予報」「軍師」「収納」:02/11/03 19:55
「ごきげんよう諸君、私だ。平戸軍師だ。これより軍隊天気予報を始める。」
新発売のカゼ薬や甘みを抑えたチョコレート、なんでも収納できる便利ボックス
などのTVCMを聞き流しているところに、突如威厳の篭もったいかつい声が部屋に
響いてきたので、小心者のわたしはうっかり驚いて紅茶を絨毯にこぼしてしまった。
「大変な事態になった。私は東京に住む諸君らに通告する。今すぐそこから逃げ出す事を。
私の予報によると、東京は明日にも千年に一度の大嵐に襲われ、雷鳴は轟き、街は壊滅の
憂き目を見るだろう。もし逃げなければ、まず命が助かる見込みは無いと言って良い」
初めこそ、(なんだ、この天気予報士は頭がおかしいのか?)と、この天気予報を冷めた目で
見ていた私だったが、彼の演説が延々数十分にわたって続くにつれ、段々とこの東京にいるのが
恐ろしくなってきた。外を見てみてわたしは驚いた。向かいの家は家族総出で家具を外に運び出し、
トラックに詰めてここを逃げ出そうとしていたのだ。なんと、警察官をしている隣人一家までもが。
こういった事態になってもまだ平然と居間に居座っていられるほどわたしは大人物ではなかった。
他の誰もがそうするように、さっさと家族で田舎へ押しかけ、あの予報を聞いておいてよかったと
安堵して眠りに就いた。そして翌日、そのニュースを聞いた。
「緊急事態です。昨夜、テレビを巧みに使った平戸軍師の策謀によって無人となった東京が、彼率いる軍隊
によって完全に占拠されました。あろう事か、警官隊の大半も彼の煽動にかかってしまい……」
次のお題(単発)は、「喜劇」「青汁」「肉骨粉」で。
88 :
「地平線」「かけら」「響」9/10:02/11/03 20:16
誰にもわからないように僕らはそっと抜けだす。
静まり返った病室のそばを静かに通り抜ける。
詰所のなかで看護士がカルテの記入を行っている。
テラスに抜けると夜風が冷たい。
輝く東京の街は洗練された光を放ち、高層ビルが広がっていて地平線は覆い隠されている。
僕らはポケットに忍ばせていた煙草を取りだして、かけらのような火をつける。
「退院はいつ?」僕はひとくち煙を吸ったあと彼に訊く。
「来週の水曜」柵にもたれた彼はそっけなく答える。
どこからかやってきた救急車の音があたりに響く。
「ここにもいたくないけど、学校にも戻りたくないな」
僕はつぶやいてから煙を吸うと、彼は僕の顔を興味深そうにのぞく。
「楽器はなんかできるんだっけ」
僕の顔は赤くなる。音楽の話題になると僕は誰に対しても赤くなるのだ。
「ピアノを少々」
「もしよければ俺とバンドを組まない? 君とならうまくやれる気がする」
僕はためらいがちに視線をそらす。
僕は彼も好きだしロックン・ロールも好きだけれど、ロバという生物とともにバンドを組むのはなんだか気が進まない。
まあ、これは好みの問題なのだ。
「考えとくよ」
僕は愛想良く答えてから、煙草を吸う。
彼は残念そうに大きな耳をぱたぱた動かしては、気だるそうに街をながめる。
「地平線」「かけら」「響」10/10
「・・・我を消滅せしむか?」
もはや全ての力を失った神『純粋な闇』は呻いた。
闇を滅ぼす。そう、少なくとも旅のきっかけはオルディヌスの巫女との約束だった。
「世界を闇の魔の手から救って下さい!」
僕に『光のかけら』を託した時の、まだあどけなさの残る少女の真剣な眼差しを思い出した。でも・・・
「それは僕の望みじゃない!」
永く険しい旅の過程で僕は知ったのだ。光は必ずしも正義でなく、闇もまた世界の一部だと。
「僕が望むのは世界の調和だ。お前をここに封印する!」
僕は剣の柄にはめていた『光のかけら』を頭上に掲げた。
突如『かけら』がまばゆい光を発し、ひとつに収束して『純粋な闇』を射抜いた。光と闇が溶け合う。
「───────」
音にも似た不思議な響。それは地平線の彼方、故郷の村を越え世界の果てまで広がった。
垂れ込めた暗雲は霧散し、全ての生き物は世界が平和を取り戻したことを知った。
僕の手元には光と闇の揺らめく『世界のかけら』が残った。
そして世界は新しい朝を迎える。
90 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/03 22:45
「粒」「深遠」「再興」
92 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/03 23:13
91のは連作用ってことだよね。単品物はもうほかにあるから。
>>91は10人用ということで。
もれなくオレの感想付き(笑
いや、要らなきゃ付けないけど。
ということで単品と並行でどうぞ。
94 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/03 23:44
別スレキボーン。単品のお題がどこにあるかすぐにワカラン。連作用の簡素スレもつくってくり。
「粒」「深遠」「再興」
家の再興を果たすべく8つの玉は国々に散った。
ある朝、若者が目覚めるとその懐に一つの玉があるではないか。
「こ、これは!?」
蒼い光を放つ玉を覗くと、そこには一つの文字が書いてあった。
それは、若者がお家再興の為の一粒の種である事を示していた。
「これは…すごい!」
若者は、玉を持ってを暗い場所に来た
「うわあ、暗いところだともっと綺麗だぞー!」
その時!若者の脳裏にある深遠な考えが閃いた。
若者は、玉に紐を通すと、円弧を描いてそれを振り回した。
「わぁぁぁ、玉の残像が明るくてたまんないぞぉぉぉー!」
同じ頃、他に7人の者が、感激していた。
「すごいなあ」「きれい…」「明るいぞー!」「はうう」「わーい」
すごかった、よかった。めでたしめでたし。完。
※馴れないキャップですが使ってみました。なんか無粋…
次のお題は:「カモ」「白鳥」「湖」でお願いします。
>>95 >次のお題は:「カモ」「白鳥」「湖」でお願いします。
うはう様は連作用のお題で書かれてますので↑は却下。
単発用お題は別にあります。
あるいは誰か救ってやってください。
(カモ)(白鳥)(湖)
カモやって家柄っちゅーもんがあるねん。
そら白鳥ほど真っ白くないし湖に居てもあんまり目立たへんけどな。
その上猟師に鉄砲でお家断絶の危機や。わてが頑張って再興せなあかん。
わても由緒あるカモ家の一粒種として、しっかり種蒔きせんならん。
そらもう深慮遠謀や。繁殖のためにめっちゃ深遠な考え持っとんで。
こーゆー訳でプリティー路線に走ったのがカルガモの始まりや。
人間もコロっと騙されよったやろ?
98 :
:「カモ」「白鳥」「湖」:02/11/04 01:56
「今日は趣向を変えてみたい」私はそう考えながら用意をする。
湖に着くと腰まで水に浸かり其処で一呼吸置き水中へと潜る。
体を翻し水中から空を眺める、小波が太陽を揺らし目の前には銀面の世界。
しばらくそのままでいると真っ白な腹が見える、おそらく白鳥であろう
その鳥はぐるぐる回りながら水を蹴り飛んでいった。「─────ははは」
私の息が玉になり空へ登っては消えていくのを眺めていると大きな水掻きを2つ見付けた。
奴が来たのである、息を殺し近づく・・・・ゆっくり、ゆっくりと・・・・。
一つ、二つ、三つ─────今だ。
私は水掻きをひっ捕まえ暴れる体を懐に抱え込む。
「やったぞ、今日はカモ鍋だ」
こいつも下から繰るとは思わなかっただろう。
次は「時計」「足」「目線」でお願いします
99 :
「粒」「深遠」「再興」2/10:02/11/04 01:58
『気をつけろ。深遠を見つめる者は、深遠もこちらを見ているということに』
失われた文明の時代との境界ができてから5年。人々は記憶さえも過去へ戻
ることは許されない。
「文明なんてのは、結局、物質的にいい生活をしていたってだけのことだろ。
人間が違っていたわけじゃない」
タッソーがつぶやいた。古代への過剰なロマンもよく抑制されている。
「おれにとってはうらやましい。環境が違えば人間も変わるだろう。こんな仕
事やってられるか!」
トルクヮートが愚痴った。危険分子だ。
廃坑現場で作業に従事しながら過ぎ去っていく日々。失われた文明の再興が
求められながらも、「滅んでしまったものを再興しても行く末は同じ」との認
識から、前時代との境界が作られた。物理的には焚書が行われ、人の記憶も「
思い出」の類になるとロックがかかってしまう。
「じゃあ、何をするのさ?」
タッソーの問いに、トルクヮートは詰まってしまう。
新しいものを作り出すには、アイデアが必要だ。しかし、抑えつけるだけで
は、維持はできても進歩はしない。いつの間にか、何も答えられなくなってい
る。
二人が作業を再開しようとしたとき、空一面にきらきらと光る粒が降ってき
た。
「……なあ、逃げてみようか」
タッソーがつぶやいた。
いつの間にか、人は進歩していないことを忘れてしまっている。
三日月が闇夜の中、静かに淡い光を放っている。
立葵姫と呼ばれる没落貴族の娘は、冷ややかな眼差しで三日月を眺めていた。
粒子のようにか細く光る星々は、その漆黒の目には映っていない。
「戌君、戌君、そこに居るのじゃろう」
「何でございましょう、立葵姫様」
紅くつややかな唇がゆっくりと一つの名を口にし、やがて、若い青年が草むらの影から現れた。
「戌君、あの計画は進んでおるのか?」
立葵姫は、三日月を深遠な思想が潜む瞳で見つめたまま、妖艶に微笑む。
戌君は、立葵姫の妖艶さに少しひるでいたが、恐る恐る言葉を綴った。
「はい、着々と。しかし、本当にいいのですか?あなたの父上様と母上様……」
「お家再興のためじゃ、少しの犠牲は致し方あるまい」
立葵姫は静かにしかし鋭く戌君の言葉を遮る。
「あの月を見よ、戌君。もうすぐわらわのお家もあの月のように満ちていくのじゃ」
詫びも、恐れの色もないその自信に満ち溢れた表情が闇夜の中、淡い光でかすかに浮かび上がっていた。
立葵の花言葉は「荘厳」、そして……「野望」。
全然関係ないけど、「野望」のつく花言葉を調べたら……自分の誕生花だった。
何か複雑な心境……。
今回からトリップをつけてみました。
あっ、前の人が3/10で、私が4/10みたいですね……。
すみません、そういうことで次の方、お願いします。
(「喜劇」「青汁」「肉骨粉」「時計」「足」「目線」)
「ジイ、いつものヤツを」
執事はうやうやしく青汁の粒と粉薬を差し出す。
俺は極上のワインで一息にのどへと流し込んだ。
ん?今日の薬はいつもと味が違うような・・・
おもわず席を立とうとするが、足がふらつく。
こっちを見つめる執事と目線が合って初めて気づいた。
「ジイ、俺に何を飲ませた・・・」
「肉骨紛、にございます。」
なぜだ!俺には訳が解らなかった。
「これも全て先王家の再興のためでございますゆえ」
なに?ジイは俺の味方だと思っていたのに!
ジイはちらりと時計を確認していった。
「そろそろ肉骨紛の効果が現れますな」
そんなバカな。いくら肉骨紛でも効くのがそんなに早いわけがない。
こんなの醜悪な喜劇だ──深遠の闇に沈みゆく意識の中で俺はジイにつっこんだ。
103 :
「粒」「深遠」「再興」6/10:02/11/04 07:04
額に、小豆ほどのできものが出来た。
ここ数日、仕事で失敗が続き、生活が乱れ心身ともに荒んでいたのが影響したのだろうか。
できものが出来て、普段生活する分に不便は無いが、いつも気にして、つい手が行ってしまう。
いつも触っていると、ふと気が付き、触っていてはいけない、と意味もなく自戒しているのだが、どうもいけない。
そしてついにある日、仕事中無意識に小粒なそれを触り、つまむなどしていると、とうとう「プチ」と言う音とともに、できものは額を離れ、
ぽとりと机に落ちてきたのだ。
その物体を見て私は戦慄した。薄紫の肉腫のようなそれが、自分の身体を離れ別の物体として存在するのが不思議な一方、不気味でならなかった。
見た感じはニキビを潰した程度のものが大きくなり、色が濃くなっただけのようなものが、ころりと転がって組織液と血液を机の上に撒き散らしている。
それに深遠な理由があるのか知らないが、僕はただ眺めているのも不快でならなかった。
肉腫をティッシュで包むと、急いで傍らのゴミ箱に放り込んだ。
「これで一安心か…」と胸を撫で下ろす。肉腫の中から、今にも何かが飛び出て来そうな錯覚がしたのだ。
それから数日。何事もなく過ごしているが、額に手がゆくのは半ば癖化され、何をしていても、つい額に触れてしまう。
皮膚が再興されつつある額には、肉腫の変わりに白い骨のようなものが覗いていた。
柱時計の音だけが響き続けていた。
医療器具らしきものが皆無のその医院で、男と対峙した女は終始、足元を見詰めていた。
沈鬱な空気を打破するように、男は鼻から一息の呼気を吐き出す。
「諒解しました。あなたの艱難辛苦は十二分に伝わりました。が、ご存知のように私は無認可医です。
ですから保険は効きませんので、手術代は高額となりますよ?」
「存じております。しかし、この目を治すことができるのは先生しかいない、と思っております。
今まで何度と無く、整形手術を受けてまいりましたが……どれもこれも失敗致しました。
どんな高名な医師も私のこの鋭く人を睨む眼を治してはくれませんでした」
女は男を凝視した。いや、睨みつけた。睥睨した。
「先生、怖いでしょ、この眼。この目線。直してください、これを。お願いします」
女の眼は専門家が一見すれば、整形した痕が見受けられるものだった。
だが、生来の女の性根からくるものなのか、はたまた運命なのか、
目頭を切開しようとも、二重にしようとも、目を垂らそうとも――女の瞳は外界を睨みつけるものだった。
先生と呼ばれた男は納得したように微笑むと、女をオペ室へいざなった。
「それでは、包帯をとりましょう」
男は女の顔に幾重にも巻かれた包帯を丁寧に外した。
「どうです、満足しましたか?」
「はい。これで、長年の苦悩を拭い去ることができます」
女は満腔の感謝を表した――暗黒の眼窩が二つ露見した顔で。
代償として光を失った女は幼子のように微笑んだ。
次は「外国」「コメディー」「調味料」でおねがい。
105 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/04 18:12
「だめだな。君のは笑えない外国のコメディーのようだ」
料理長は私の料理を食べて顔をしかめた。
「何とかしようと思わないと、このままじゃこの世界では生きていけないよ」
私は首を垂れて、野菜の破片が散らばった床を見ていた。
「それじゃ。試験は不合格と言うことで。また、皿洗いからね」
「はい。おつかれさまです」
料理長は店を出ていったあと、私は一度味見した自分の料理を、
再び食べてみた。言うまでもなく、旨味のないものだった。
数ヶ月後の試験の日。ある日、道で拾った調味料を料理に入れた。
その調味料は天にも昇る味である。これはいけると思い、大事にとって置いた。
料理長は私の料理を食べてしばらく黙っていたが、
「旨すぎる。何だこれは。君何を入れたんだ」
とただ事ではない様子。
「はい、これを入れました」
とその調味料を見せた。
料理長はさっき旨いと言った私の料理をはき出した。
次は「包帯」「海」「木の板」
106 :
「包帯」「海」「木の板」:02/11/04 18:40
「『包帯』『海』『木の板』、この三語を使って文章を書いてみたまえ」
先生はそうおっしゃられたが、正直僕にはどうして良いか判らない。
「海」「木の板」と聞けば、すぐ溺れて木の板に掴まっている人の姿が
想像できるが、そんな安直な真似なんてとても恥ずかしくて出来やしない。
同級生の大半はきっと、溺れた人間について同じ話を同じ構成で書き散らすに違いない。
違うものといえば、小道具としての「包帯」の処理の仕方くらいの些末な物となるのだろう。
包帯が巻きつけられた怪しい木の板の話にまつわる因縁話なんてどうだろう?
などと色々まとまらない考えを,巡らすが、とても面白いアイデアは浮かばない。
「これは宿題ではない。やる気のある人間だけが出しなさい」
これだ。小学校教師みたいな陰険で陳腐なやり口。この先生のこういった
所には全く激しい嫌悪感を覚える。「やる気のある人間だけが出せ」。そう
告げられた時の宿題提出率は、必ずといって良いほど100%だ。
この宿題についてグダグダと考える事の不毛さもあって、僕の先生に対する
憎しみは段々に強まってきた。これは何か一つ、軽いジャブでも食らわせてやりたい。
そうして、こんな小説・文章の学習塾なんていうのもキッパリやめてしまうのも
良いかもしれない。そう思いつつ、僕は最初の一行を書き始めた。
「『包帯』『海』『木の板』、この三語を使って文章を書いてみたまえ」
15行超えスマソ。次のお題は「誘拐」「煙」「占星術」
107 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/05 04:28
108 :
「誘拐」「煙」「占星術」 :02/11/05 17:40
「計画は完璧なものでないといけません」男はそう言った。
「もちろんだ」僕は応える。
煙が立ち昇る工場の前に停められた、風景に不似合いな車。
その中にいる先生と僕は、この日のために何日も無駄にしてきたのだった。
そして今日、たった今、目の前にその誘拐のターゲットを発見した。掌が汗で不快に濡れる。
そして僕は…車のドアを開けた。
「止まれ!!」
そう叫んで銃を突きつける。ターゲットは身体を震わせ立ち止まる。
「な…なんですか…」声も震えていた。
「いいからこっちへ来い」抑え気味の僕の声も、こころなしか震えている。
そして僕の車にターゲットを押し込むと、ターゲットは男を見て素っ頓狂な声をあげた。
「なぜ――私の弟子のあなたが!?」僕はその問いには答えずに、厚い札束を差し出した。
「これをやる。その代わり、僕を占え――僕が幸せを得るための手段を。そのためなら、金などいらん」
一瞬目を伏せたターゲットは、「わかりました」とつぶやき、占星術で僕を占いだした。
そして占いが終わった瞬間、ターゲットの占星術師はその結果を告げた。
「占ったものより能力の高い占星術師に占ってもらえ――と」
「くそっ」僕はうめいた。「それじゃ前と同じじゃないか。まただ」それから僕は男を見て、
「おまえはもう帰れ」と追い出した。そしてターゲットにまた札束を渡す。
「お前より能力の高い占星術師は、今どこにいる?」
15行大幅越え。鬱志。
次は「ハンガー」「漫画喫茶」「ピザ」でおながい。
あ、4行目の「先生」は「男」の誤り。
110 :
「ハンガー」「漫画喫茶」「ピザ」:02/11/05 19:48
だいぶ寒い。
とりあえず、漫画喫茶に飛び込んでみるが、しくじってドリンクバーをアイスで頼んでしまった。
しかし、せっかく金を払うのに、飲まないのもシャクだ。しっかりと氷を入れて、コーラを注ぐ。紅茶用のレモンの輪切りも放り込んだ。
何となくで入ったので、特に読みたい漫画もなく、適当に週刊誌を読む。知らない女優のグラビアなんかを、コーラなんか読みながら眺めるというのも、相当哀愁が漂っている光景だろう。
結局、客が少ないのを良いことに、こっそりと洗面台にコーラをすて、店員にばれないように、コップにポットのお湯を注いだ。
と、気づくとコートのすそにホコリがついている。
ハンガーがないから、座っているときに床に引きずってしまったのだ。
「んなろー」
漫画喫茶に、ハンガーなんかあるはずもない。椅子の背にコートをかけたって、かわりゃしない。
少々腹立たしい、と言うよりも、心中穏やかではない。何故かと問われても困ってしまうが、寒いやら、冷たいものを飲むやら、それでいて、手のコップは熱いやらで、理由もなく腹立たしい。
言ってしまえば、自分が惨めな気がするのだ。こんな日は、ハードボイルドにタバコを重いのに変えてみようと思いつつ、早いながらも店を出た。
そして、今度は気のせいではなく、本当に惨めだった。カウンターで金を払うが、見れば財布には千円札一枚だけ。足りないことはないが、これでタバコを買えば空っけつだ。
まぁ、そう言う時は、悪いほうに運ぶもので、宅配ピザの原付きに跳ねられそうになる。もう何というか…
「はぁ…」
次は「癇癪持ち」「極めつけ」「自宅」でお願いします。
112 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/11/05 21:35
「癇癪持ち」「極めつけ」「自宅」
急性白血病。入院から半年が経った。
17歳の若さで死期を悟った彼女は、突如自宅に帰りたいと言い出した。
癇癪持ちの様に「お家に帰る、お家に帰る」と繰り返す。
今まで、どんな苦痛にもじっと耐えてきた彼女が…
死を覚悟し、身支度を急いでいるのだろうか。
無理を承知で家に帰った彼女は、妙な行動を開始した。
部屋に鍵をかけ2日間、誰とも会わなかった。
その後の彼女の、極めつけの奇行がこれだった。
「お父様、お母様、最後のお願いです。1日だけ、私をこの家に一人にして」
家にたった一人。
一夜を明かした彼女の顔には、憑き物がとれた様な柔和な表情が浮かんでいた。
秋の庭には、自らの送り火の様な焚き火の跡が、うっすらと残っていた。
彼女が死を迎える、僅か3日前の事だった。
そしてその翌月、一枚の手紙が、今は亡き彼女に届く。
「請求書。耽美漫画傑作選<兄貴と僕と>代金千五百円。至急御支払いを…」
※実際にありそう
次のお題は:「梯子」「除去」「軌道エレベーター」で御願いしまふ。
113 :
「癇癪持ち」「極めつけ」「自宅」:02/11/05 21:52
自宅そばのスタジオでマスター・テープを起こしているときだ。
もう夜の4時で、壁の外は暗く冷たい空気に満ちているはずだが、彼には何の関係もなかった。
時間の経過から外れた灯りの元で黙々と作業を続けていたのだ。
なぜこんな時間まで仕事をしているか。
それはプロモーションの関係上ミックスの一部を今月末に仕上げなくてはいけないことに気づいてしまったのだ。
眠いうえに疲れているせいなのかもしれないが、彼にはスピーカーそばでありを探すありくいがいるように見えた。幻覚だと思い見ないように彼は心がけていたが、それでも気になって仕方がなかった。
いらだつようにありくいは必死になって床を見ていたが、残念なことに密室のスタジオには一匹たりともありは存在しなかった。
「どういうことだ、一匹たりともありがいないなんて!」
癇癪もちのありくいは地団駄を踏みながらこう叫びたいに違いないが、長い舌が邪魔をして彼に言語を喋らせることは不可能だった。
気づけば彼はありくいから目を離せずじっと見つめていた。
背中をなでるとしなやかではないが柔らかい毛並みの感覚が彼の掌から伝うが、ありくいは鬱陶しそうに身を捻るばかり。邪険に尾を振るし、極めつけは舌で彼の手を叩く始末。
勝手に人の部屋に上がりこんでいるのだから、もうちょっと愛想良くできればありくいも出世できるというものだ。しかしありくい世界に出世という概念は存在しない。
彼はため息をついて作業に戻る。
不思議なほど集中すれば、驚くほどスムーズに作業がひと段落した。時計をみれは6時半。気づけばありくいはそっと息を呑む密やかさで消えていた。
次のお題は「ハードボイルド」「ピザ」「ありくい」で。
かぶっちゃいました。お題は112ので。
115 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/06 03:51
軌道エレベーターの最上階近くで、僕は地球を見下ろした。想像と違って、我々の母星はまるで遠くはなく未だ僕達は地面に立っていた。
「これじゃ、ただ梯子に登ったのとおんなじだね。足が長くなったようなものだ」
僕は彼女に言った。
「そうね」
彼女はそう言って、退屈そうに欠伸をすると自分の部屋へ戻って行った。
僕がしばらく外を眺めていると、やがて地平線に太陽が昇ってきた。
なんだ、やっぱり大した事ない。地平線がちょっと丸いだけじゃないか。
僕はどす黒い色の地球をもう一度見つめて、移民船のIDカードをちょっと弄った。
いつになったら地球上の汚染物質はなくなるのだろう。
人間の足が、いかに長くなろうと、人間の手は、短くなるばかりだ。
そう僕はキャビンに戻りながら思った。
#次回は113のお題で。
(あ、「除去」忘れちゃった。。。)
「ハードボイルド」「ピザ」「ありくい」
俺はピザ屋のバイトだ。
ジャイロと呼ばれるブルーの三輪バイクが愛車だ。
デリバリー中の俺はハードボイルド小説の主人公さ。
ジャイロはV8エンジン載せたアメ車になる。他のバイトみたいに路肩を狭苦しそうに走ったりしない。
道の真ん中を堂々と走る。延々と続く砂漠の中の一本道を太陽に焼かれながら突っ走るのさ。
時にクラクションが鳴らされる。油断してバックミラーを見ていないとこうなる。
組織の連中に見付かっちまったようだ。今頃連中は俺の後ろで薄ら笑いを浮かべているに違いない。
窓から45口径が突き出される前に連中をまかなきゃヤバイ。
今はブツを運ぶのが最優先だ。ブツを傷付けるわけにはいかない。
俺はハンドルを切ると群生するサボテンの間を突っ走った。
この仕事が夢を叶える早道なのか、夢を削っているだけのか俺には分からない。
ふと夢を食べるモンスターの事を思い出した。象と豚のあいの子みたいな奴だ。
ありくいの巣に投げ込まれちまったみたいな人生だな。俺は苦笑した。
ん?確かそうだよな。あのモンスターはありくいだよな?
ありくいでいいんだよな?
次のお題は「造成地」「吸血鬼」「ロリコン」でお願いします。
※夢を食べるモンスターは「ありくい」ではなく「ばく」です。見た目は似てるんですけどね。
「造成地」「吸血鬼」「ロリコン」
蜘蛛を食べてしまった。
小学生の頃よく遊んだ原っぱを歩いていて、ふいに、くちのなかに舞い込んできたのだ。
はじめは粉雪のようでもあった。いくら寒くなってきたとはいえ、血まよった蚊が吸血鬼を
倣ったとは思えない。くちびるに妙なひきつりを覚えたので、髪を噛んだのかと指で引くと、
それは透明であった。白髪ではない。舌のうえに動きを感じ、てのひらに違和感を吐き出す。
そいつは気丈にも糸を切らなかった。くちびるとてのひらをつなぐ糸につばの玉が雨粒の
ように光り、つらなり、風に揺れる。かすかに味がある。この透明で細い一糸を舌に感じながら、
てのひらの蜘蛛を見つめる。ああ、そうだ。この味は知っている。小学生の頃、まだ造成地となる
まえのこの地で味わった、陵辱の味だ。
声が聞こえた。私は振り向いた。吐き気を腹からつめこまれ、さらに咽喉から吸われる。顔の
よこでコオロギが鳴いていた。とっさに動かされる私のからだに驚くのか、鳴き声がつづかない。
そのとき涙を流したのを覚えている。まさか私が泣いていたから、鳴かなかったというわけではあるまい。
病院に運ばれて最初に聞いた言葉はロリコンだった。意味もわからず覚えていたが、おもちゃの
ような響きが可愛かったのだろう。母に意味を尋ねると母は黙ったままであった。そのとき母が
味わったであろう思いを知ることは無駄のようには思えず、私は蜘蛛を飲み込んだ。
つぎは「ようかん」「現像」「予備」でお願いします。
「ようかん」「現像」「予備」
「予備のフィルムあったでしょ。出して」
僕はウェストポシェットの中から新しいフィルムを取り出して姉に渡すと、入れ違いに返ってきた
フィルムをケースに丁寧に詰めた。
僕の姉はカメラが好きだ。
そして、僕は姉が好きだ。
そんな訳で僕は休日になると姉について周り、姉と一緒に色々な物をカメラに収めている。
ひとしきりマンホールの蓋を取ると、姉はこちらを向いて、とても満足そうな笑顔で言った。
「現像、できてるかな」
分からないけど、でもそろそろ時間だね、と僕は言った。
僕のウェストポシェットからようかんを取り出して、二人で仲良く分ける。
両親がいなくなったって、何も変わらないよ。
姉はカメラが好きで、僕は姉が好きで・・・。
#次は「マスターベーション」「空き瓶」「フリース」でお願いします。
120 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/07 08:19
「マスターベーション」「空き瓶」「フリース」
もう何年になるだろうか。
幼馴染の彼女に、この気持ちを打ち明けられないまま毎日マスターベーションを繰り返すのは。
彼女は今でも僕の事を幼稚園の時と何も変わらないような接し方をするけれど、僕は女として彼女を意識し始めたのはもうずっと昔の事のように思える。
高校3年生になった今でも僕たちは互いの部屋をよく訪れたり、二人で買い物に出かけたりというのはしょっちゅうである。
だから少なくとも彼女は僕の事を好きであるのは確実だと思う。
しかし、それが愛かどうかは全くわからない。だから思い切って告白する勇気が無いのだ。
腕をつかまれたときの胸の感触や、部屋で遊んでいた時に偶然彼女のスカートの中の下着が見えたこと、彼女がふざけて僕の股間を思いっきりつかんだこと、
僕の五感の記憶は彼女に関する事は全て鮮明に思い出せる。
今日もまた、彼女がうちで飲んでいったコーラの空き瓶の飲み口を舐めながら、あるいは部屋に忘れていったフリースのにおいをかぎながらマスターベーションに明け暮れていた。
こんな姿を見られたら絶対軽蔑される。そう思い何度もやめようと思ったが、それでもやめられない。
行為の真最中、部屋のドアが突如開いた。・・・彼女だった。僕は心臓が凍りついたようだった。
しかし僕の同様とは裏腹に、彼女は別段軽蔑したような様子もなくクスクス笑いながら
「やっぱあんたも男だったんだ」
といっただけだった。僕は何も言えずにいたが先に彼女が言った。
「正直ちょとだけびっくりしたけど、あんたがあたしをちゃんと女として見てくれてるってわかって嬉しいよ。・・・ちゃんとつきあおっか?ただし、えっちは当分おあずけだけど。」
こうして僕の片思いは終わった。しかし、実際には何が変わったわけでもなくこの生活もまだ当分続きそうだった。
「官能系はしらけるので自粛」の中、マスターベーションがお題というのはきつい(苦笑)
次のお題は「臨時ニュース」「幼馴染」「ヴァイオリン」でどうぞ。
「臨時ニュース」「幼馴染」「ヴァイオリン」
僕の人生はどちらかと言うとついていない。
ようやく入った会社が倒産、次の仕事をいつまでたっても見付けられない僕に妻は愛想をつかし出て行った。
僕なりに一生懸命就職活動をしていたのに。
そんな或る日、僕は気分転換に出掛けた銀座で偶然初恋の相手を見掛けた。彼女とは幼馴染だった。
彼女が引越をして会わなくなってから二十年以上経っていた。
何故だか分からないが、僕には一目で彼女だと分かった。
僕と彼女は同じヴァイオリン教室に通っていた。彼女がすっと背筋を伸ばしてヴァイオリンを構えると、僕は息をするのも忘れて見とれたものだ。
風の噂で彼女は今では世界的なヴァイオリニストになったと聞いていた。
僕は彼女に声をかけようと思ったが、自分の風采を見て躊躇った。妻に逃げられた事を言い訳にしたくは無いが、不精髭を生やしよれよれのジャケットを着ていた。
結局、彼女に声をかけずに終わったが、僕はあの頃の夢と希望に溢れた気持を思い出したくてもう一度ヴァイオリンを習ってみる事にした。
失業保険とバイトで暮らす身には贅沢だったが、僕はまだ人生に躓き始める前のあの頃に戻りたかったのかも知れない。
だが、飛行機墜落のテレビの臨時ニュースが僕の希望を砕いた。
映し出された死亡者名簿に彼女の名前を見付け、僕はがっくりと肩を落とした。
次のお題は「鳥居」「プリンター」「百科事典」でお願いします。
ふつうの日だった。個人的な記念日でさえない。
名前は忘れてしまったが、顔は覚えている。バスにたまたま乗り合わせた彼女とは、
たしかに以前知り合っている。僕は、彼女の正体に辿り着くまで適当な話題で間を埋めながら、
はじめて歩く道を彼女と並んで進んでいた。
「あだ名が百科事典だったよね?」
「え? ああ、そうだったかな」
と、相槌を打つ。思い出すかぎり、百科事典と呼ばれた記憶はない。
彼女は職場へ向かっていた。忘れ物を取りに行くのだという。僕は、家が近いから、と
嘘をついていた。実際は家路とは逆の方向へ歩いていたのだが、彼女が僕を知っていて、僕が
彼女を知らないというのは、なんとも気持ちが悪い。
彼女がいった。
「いまね、同人誌づくりに参加しようかどうか迷ってるんだ。でもね、はじめての経験だし、
『2ちゃんねる』ってサイトが発端だから、ちょっと怖くて……。あ、いちおう打ち合わせの
ときの写真があるんだけど、見る?」
彼女は鞄から写真を取り出した。いや、正確には写真ではなく、プリンターで印刷したのだという。
その紙には、居酒屋に集う若者たちと中年の男、そして彼女が写っている。それぞれ秋物の服を着て、未来へ
向けて微笑んでいる。ただ彼女だけは、憂いを帯びた表情を見せている。唇の左端を、斜めに引きあげている。
「あ!」と僕はいった。その唇で思い出した。「もしかして鳥居さん?」
「ええ! なに? いま気づいたの」と彼女は笑った。
コオロギの鳴き声が聞こえる。はじめて歩く道なのに、どこか懐かしい。僕はさして興味のない同人誌への
参加を口実にし、彼女と過ごす時間を増やしていくのだった。
お互いの素性も知らずにこのスレを通して関わる人生の「妙」を肴に一杯やりながら、書きました。
同時代に生きているって、素晴らしいね。って、馴れ合い禁止だゴルァ! だったね。ゴメソ。
つぎのお題は「葛藤」「きっかけ」「絶望」でお願いします。
123 :
「葛藤」「きっかけ」「絶望」:02/11/08 02:04
坂口は絶望していた。彼を理解してくれない、友人、家族、そして世の中にだ。
もはや、彼に残された手段は、自らその命を絶つことだけだ。
そうに違いない、と坂口は考えていた。
ある日彼は、高いビルの屋上から下界を眺めていた。
ほんの些細なきっかけで、彼はここから身を投げ出す。
そう思えるほど、彼の顔には余裕が感じられなかった。
しかし、彼の心の中にある種の葛藤があった。
この葛藤が、彼に、投身自殺を決行させるのを留まらせていた。
「飛び降りたら、痛いだろうな。痛いのは嫌だな。
虫歯の治療の10倍は痛いだろうな。
痛くなかったらすぐに飛び降りるのにな」
数十分、このような事を考えた後、坂口は家へと引き返した。
次は「バイオハザード」「ハーブ」「昼間から」でお願いします
「バイオハザード」「ハーブ」「昼間から」
「ちょっと、そんな所に突っ立ていたら邪魔でしょ」彼女は声を荒げ、目を吊り上げながら
僕を突き飛ばす勢いで机の間を行き来した。
「本当に愚図なんだから」彼女は吐き捨てる様に言うと机の上の試験管を掴んだ。
桐子は確かに優秀だと思う。でも、僕はあのキツイ性格は非常に苦手だった。
僕達はとある製薬会社の新薬開発の研究員だ。今、僕達はバイオハザード室でハーブの遺伝子組替え実験を繰り返していた。
『心に愛と安らぎを与える薬』を開発していた。人が安らぎを失い愛に飢えた時の心のサプリメントになる筈だ。
ハーブは広く知られている様に種類によって鎮静や強壮やホルモンの調整と言った作用がある。
そうしたハーブの遺伝子を組替える事でより強力な作用を持った新種のハーブを作り出そうとしていた。
「蓮見クン、この前植えたX3ハーブを温室から採って来て」彼女はパソコンの画面を睨んでいた。X3は開発中の新薬に使用される予定の新種のハーブだった。
僕はX3を煎じてハーブティを作った。桐子は新種が育つと必ずハーブティにして飲んだ。有無を言わさずに僕も飲まされるのだが。
僕等はX3を飲んだ。微かな甘味の中に癖になりそうな苦味があった。突然身体が熱くなり胸がどきんとした。
気付くと僕は桐子を床に押し倒し唇を奪っていた。「昼間から」彼女は潤んだ瞳で吐息を漏らした。
どうやらX3の効能は、愛は愛でも性愛の方らしかった。これでは新薬には使えない。
僕はX3をこっそりプライベートで使おうと思った。
次のお題は「ダイエット」「古典芸能」「子持ちししゃも」でお願いします。
125 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/08 15:15
「ダイエット」「古典芸能」「子持ちししゃも」
いきなりの足払いに、額からつんのめった。
「なんだ?お前の足は?」
めくれた着物の裾を踏み付けたまま、
怒鳴る師匠。
「子持ちししゃもか?あ?」
脹ら脛を思いきり蹴られた。
「そんな足で、老女モノが仕舞えるか?」
能から離れていた3年。
私は太った。
結婚、出産、そして離婚。
「ダイエットしてこい。古典芸能嘗めるなよ。」
師匠の怒号。
たまりかね、つい弱音を吐いてしまった。
「とぉさん、、、。」
もう一度、蹴りが飛ぶ。
「馬鹿やろう。稽古中だ。それに、、、。」
父の、師匠の絞り出すような声が響く。
「一度家を出たら、もう娘じゃねぇ。」
次のお題は「ビジュアル系」「ファンタジスタ」「国連決議」でお願いします。
「ビジュアル系」「ファンタジスタ」「国連決議」
「熱狂だよ。それも純度100%の完全な質料からなるやつだよ。
わかんないだろうな。ジュン、おまえには。
そうだよ。そこいらのちゃちなエンタメなんかじゃない。
俺達が俺達の中で踊り狂って、全員が全員そのなかにいて、
そのなかでしか見出されないんだ。まさにファンタジスタだよ。
完全なんだ。それ自体で完結してるんだ。わかんないだろうな。」
そこまで言うとケンタは黙ってしまった。室内にはビジュアル系バンドの
数年前流行した曲が大音響で響き渡り、付けっ放しになっているテレビ画
面には国連決議が映されている。黒人の禿げあがった頭が室内灯の光を受
けている。音楽の振動でその頭が上下に揺れているように思える。黒人の
声を聞き取ることが出来ない。なんなんだ。何を言っているんだ。こいつ
は何を言ってるんだ。くゆらせていた煙草の灰がその先端から力なく床に
落下していく。不意に煙が目に入り痛みと涙が眼球の表面に広がる。僕は
うつむいて回復を待った。
次のお題は「清算」「焦燥」「自決」でお願いします。
「清算」「焦燥」「自決」
暗い路地を歩きながら、私はひどく焦燥していた。背後の足音は、まだついてくる。
足を止める。向こうも止まる。歩き出す。しばらくしてからまた足音がついてくる。
振り向きたくても振り向けなかった。先ほどまで居酒屋で仲間と飲んでいたことが遠い昔のことのように思えた。
――お前の使う路地な、自決した侍の幽霊がな、出るらしいぞ。
代金の精算をしながら、仲間は言っていた。思い出して、背筋どころか全身が寒くなる。
派手に壊れた電灯の下で、再度足を止めた。足音も止まった。私は空を見上げる。建設中のビルに切り落とされた空は薄曇りで、
霞んだ月がまた不気味であった。
振り向けばいい、と思う。振り向けば背後のものが幽霊にしろ人間にしろ、なんらかの形で決着はつくのだ。
覚悟は決めた。
勢いよく私は振り向いた。振り向いた先には、女がいた。OLのようだ。私は安堵した。この世に幽霊などいるわけがないのだ。
刹那、女の顔から血の気が引いた。真っ青を通り越して土気色になり、声もなくその場に倒れた。
何が起きたのか。私の背後に、何かいるのか。再度振り向こうとした時、雲間から月が姿を現した。
電灯に取り付けられたミラーが、月明かりに照らされた私の姿を移した。顔が無かった。ぶった切られた肉塊の如き断面から、じ
くじくと血があふれていた。
全て思い出した。私は、仲間と飲んだ遠い日、このビルから落ちてきた鉄板に顔を削がれたのだ。
月は厚い雲に隠れ、周囲は闇に呑まれた。
次「ゴミ」「小説」「セロハンテープ」で
128 :
「ゴミ」「小説」「セロハンテープ」:02/11/08 22:53
ゴミだらけの四畳間で、異国の小説を読み、想いを馳せる。
築二十五年、トイレと炊事場共同のこの「きぼう荘」に住み始めたのは去年の秋だった。
家賃は二ヶ月滞納、あまつさえ親父は失踪、お袋は病院、頼みの綱の兄貴は外国…。
バイト先から帰ってくると、やたら軋むドアにセロハンテープで貼られた催促の手紙。
何が「きぼう」だ、誰にともなく罵って、ザラ紙をドアから剥がし、破り捨てた。
次は「ギター」「腕時計」「目つきの悪い男」で。
129 :
「ゴミ」「小説」「セロハンテープ」:02/11/08 22:56
ふざけて、両手の親指をそろえ、セロハンテープでグルグル巻きにしてやったら、自力では外れなくなったようだ。
参ったなぁ、と言う感じの表情が良くうかがえる。面白いので、しばらくは助けてやらずにおいた。
まったく、馬鹿な奴もいたものだ。もう数分も歯で噛み切ろうと頑張りつづけているのだが、唾液がダラダラと汚く垂れるだけで、一向にとれそうもない。
少々うるさい鼻息を聞きながら、私は文庫本を開いた。
「な、何の本読んでるの? 小説?」
「知るか馬鹿。お前の頭じゃ理解できねぇよ」
「それは言い過ぎだろー」
「脳みそ、うじわいてんじゃねぇの?」
「なに? 最近、有名な奴? 海辺のケフカ?」
流石に、一人で頑張り続けるのはさびしくなってきたのか、少々しつこい。しかしながらケフカって誰だっけ?
「お前さぁ、ゴミ増やさないでくれる? ただでさえ、お前みたいな粗大ゴミがいて困ってるんだからさぁ」
「ほんっと、お前って思いやりとか、やさしさってものが足りないよな」
こいつこそ、ゴミを減らそうなどと言う、地球に対しての思いやりや優しさを持ち合わせる気がないのだろうか?
別段、腹を立てたり、どうこうしようなどと言う気もなかったが、とりあえず私は、何となくでこいつに、古スイングで文庫本を投げつけた。
131 :
「ギター」「腕時計」「目つきの悪い男」:02/11/08 23:56
俺は子供の頃から目つきが悪い。ちょっと目を向けただけで、子供は泣き出し
大人は眉をひそめる。
しかし半年くらい前から、俺の目つきの悪さはさらに強力になってきた。
まずそれの被害にあったのは蚊だ。うるさいうるさいと思いながら睨むと、ポトリと
落ちる。最初は何かと思ったが慣れれば便利なものだった。
調子に乗ってポトリポトリと蚊を落としていると、部屋の中にあった観葉植物が枯
れた。次はギターの弦が劣化してちぎれた。睨んだ猫がパタリと倒れて動かなくなっ
た。眺めた空にたまたま飛んでいた鳥がいきなり落ちた。アパートの中のものは残
らず動かなくなるか劣化してボロボロになった。
それからも俺の目つきの悪さはどんどん進行している。
先月からは、腕時計など眺めただけでプツリと針が止まるのだ。おかげで何十と
安物の時計を持ち歩かなければならなくなってしまった。
そして今。私は常に真っ黒なサングラスをしている。
どうか冬場に真っ黒いサングラスをした人を見かけても興味本位で近づかないで
欲しい。俺はいつも、ちらりと見た先にいた人を「止めて」しまうかビクビクしている
のだから。
次は「星」「ネクタイ」「ハロゲンヒーター」で。
132 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/11/09 08:41
「星」「ネクタイ」「ハロゲンヒーター」
九州南部・都城の閑村に小さな診療所がある。
「ハロゲンヒーターはあるんだがの」
と、診療所の主は呟く。ここは田舎で電気もこないのだ。
「私も、冬になると手の傷が病んで、はぁ」
もう一人の男が、腱を傷めた腕をさすりながら答える。
彼は、このハンディにもめげず50歳で看護士の資格をとった。
金もある、望めばネクタイを締めて都会に勤める生活もできたろう。
しかし…
彼は、神棚に飾られた一人の看護婦の写真を見て思い出す。
残り少なき生命をこの診療所に捧げた恋人の、慎ましくも力強い生き様を。
「おおおおおぉぉぉ…」
今は亡き彼女の白衣に顔を埋めて涙するのが、彼の哀しい日課だった。
彼も、かつては野球界に輝く眩い星と呼ばれる存在だった。
今やそんな事、問題ではない、問題はこの閑村というか廃村だ。
今月は患者はくるのだろうか。
※久々でよくわかんない
次のお題は:「形」「流」「変貌」でお願いします
133 :
さすらいの宇宙人:02/11/09 11:35
「形」「流」「変貌」
「これが・・・その品川流の舞いなのですか・・?」
私は、師匠から受け取ったその巻物の図を見て直感した。
「さよう。もうそろそろお前に継いでもいいとおもうてな。お前は天才がある。」
品川流ー・・・
女体ならではのしなやかな動きと素早さ。プラス威力が備わっているという、武術の
形のことだ。男性にはまねできない女ならではの筋肉を使うもの。その姿は、まるで舞を踊っているようだったという。
「でも・・・師匠様」
「わかっとる。お前は出来ないと思っているが、わたしにはわかる。絶対にお前は品川流を
継いでいける。」
こうして私は品川流を覚える事になった。修行は思っていたよりもはるかに厳しく、いつ倒れても
おかしくないほど苦しかった。そして、ついにそれを覚える事が出来た。
だが、それを覚える頃には、私はすっかり変貌していた。
そう。人間以外のものに。
「師匠様・・・」
「わたしはお前の師匠ではない。お前の師匠は・・もうとっくの昔にいなくなった。
お前と同じように、わたしにだまされてな!!」
「!!」
「私は、お前らが宇宙とよんでいるところからきた、ここでいう侵略者だ。こうやって、
お前らの体をわたしたちとおなじように改造していったんだよ、この『品川流』というもので
カモフラージュしてな!」
「・・・本当に!?私のこと・・・覚えている?」
「お前は・・暫く昔に行方不明になった、マキなのか?」
「やっぱり、ヒロシなのね!?私、この星に連れてこられて、改造されて、この星の
人間のように改造されたの。あぁ、またこのすがたにもどれるなんて!!」
こうして私達は宇宙に旅立った。
134 :
「形」「流」「変貌」:02/11/09 13:23
若者はある民族を出て都会に働きに来た。民族の長が都会に
繋がりを持っていたのだ。ある料理店である。
「よろしくお願いします」
若者が店長に軽く頭突きをかました。
「何をするんだ。それが君達流の挨拶かね」
と店長は頭を押さえて、彼を睨んだ。
若者は店長が怒っていると思い、たじろんだが
すぐに謝らなければとさらに強く頭突きをかました。
ゆっくりと顔を上げてみると、店長の顔は形が違っていて、
顔色もだんだん血の色に変貌した。彼はぎょっとしたがが、
次の瞬間店長は怒りのままに若者を殴った。若者は吹っ飛ばされ
床に倒れたが、
「ありがとうございます」
と目を輝かせた。
彼の民族では、相手に手を挙げるということは、
愛情表現として捉えられる。
彼は店長を殴り返した。もちろん愛情表現として。
「愛情表現」「宇宙」「死傷」
「愛情表現」「宇宙」「死傷」
表示盤の赤いランプが明滅する。宇宙の侵略者がまたも現われたのだ。
1ミリ秒で用意をすませ、現場に向かう正義の味方。
「グッフッフ、来たな!」「地球を侵略されてなるものかぁー!」
だが、今日は様子が少しおかしい。
いつもは早々にやられる悪の戦闘員たちが、やけに張り切る。
一人一人ポーズをつけて名乗るのだ。雑魚なのは相変らずだが。
「アルファ隊所属戦闘員018号だ。ゆくぞ!」
「ガンマ隊。戦闘員047号。見参…」
「シータ隊の戦闘員119号です。覚悟しなさい。」
何万光年と離れた、悪の本拠地の惑星。モニタの前は子供で一杯だった。
「がんばれ、パパ!」「お父様、死なないで」「おとうさん…」
父達も、今日だけは張り切る。
いつもみたいに「キー!」と叫んで倒れるわけにはいかない。
せめて格好良くやられる事。
例え死傷者リストに載っても、我が子に無様な姿は晒せないのだ。
それが、単身赴任の父にできるたった一つの愛嬢表現なのだから。
※「愛嬢表現」で連想するあの番組を、懸命に抑え…(^^;
次のお題は:「彩り」「草原」「春」で御願いします。
なんだ、この誤変換は。どういうわけだー。失礼しました(^^;
修正して再UPするとかえって迷惑だろうし、このまま続けて下さい…utsu
「彩り」「草原」「春」
老人は部屋の中央の円椅子に腰掛け、両腕を膝のうえにのせ、
腕の肘に互いの手をはべらせていた。前かがみになって、
まるで縮こまるようにしてじっとカンバスに見入っていた。
部屋は老人が昔からアトリエとして使用してきた空間だった。
ここ50年だれひとりそれ以外のものとして、この空間を見たものはなかった。
老人は沈黙のなかにいた。そのなかで唯一のものは老人であり、
老人以外のものはなかった。彼のしわは、ぴくりとも動くことなく、
老人自身彫刻のようだった。
彼はカンバスに彩りを見ていた。
老人の眼は、つねにそこに向けられ、まばたきというものを知らなかった。
カンバスは空虚だった。
以前、老人は風景画を描いた。彼は、春には夏の太陽を、夏には秋の風雨を、
秋には冬の静寂を、冬には春の憂鬱を描きだした。いま、老人の頭のなかには
白い草原があった。草原はカンバスだった。カンバスは老人だった。
老人の白髪が彼の眼前にたれかかった。
彼は目を閉じた。
次のお題は:「道徳」「貧困」「イデオロギー」で御願いします。
138 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/11/09 21:01
「道徳」「貧困」「イデオロギー」
「願いは何だ!」魔王は言いました。
「魂だけは取らずにおいてやる。早く三つの願いを言え」
「はい。金と女と愛です」
「…怖いほど分かりやすい願いだな。わかった」
男は石油を掘り当てて大富豪。砂漠にハーレムを築きました。
ある日、魔王が彼の許を訪れます。
「た、魂はだめだぞー」
「勿論!それどころか、お前から悪徳を取り除き、美徳を与えてやろう」
その通りでした。
魔王は、物欲と性欲と利己心を取り去りました。それこそ最後の一滴まで。
そして代わりに、道徳心と、資本家を悪とするイデオロギーを与えたのです。
今や大資本家の彼は、ハーレムで、苦しんで、苦しんで、苦しみぬきました。
かといって、当然、貧困な生活に戻る気にもなれません。
彼は最高の人格者と称えられ、国中の誰からも愛されたという事です。
苦しかったんですけどね。
※なんか非効率な話…
次のお題は:「避暑地」「液体窒素」「ワンピース」でお願いします。
139 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/09 21:49
避暑地の恋。
それは少女時代からのあこがれだった。
麻のワンピースを着て愛しい人を待つ、白樺の木陰。
カフェテラスでミルクティーを飲みながら、愛を語る昼下がり。
そんな夢の世界は、まるで花を液体窒素で凍らせるような
何気ない彼の一言で終わりを告げた。
「僕って実はさぁ、水虫だったりするんだよね」
凍った花をハンマーで叩いたのは、私の何気ない一言だった。
「水虫つらいわよね・・・何かいい薬ないかしら」
そして西の空に夜のとばりが降りる頃まで、私達は
最新の治療法について討論した。
果たして水虫に悩む男女に避暑地の恋は成立するのであろうか。
次「ブリキ」「棺」「髭剃り」
「ブリキ」「棺」「髭剃り」
頬をそぎおとし、目を血走らせた友人が俺の家に駆け込んできた。
「助けてくれ!俺は、奴らに、く、薬を、組織の奴らに妙な薬を飲まされたんだ!」
身だしなみは荒く、動悸も不安定だ。尋常な事態ではないのだろう。
本来ならこいつはイギリス紳士のような落ち着いた佇まいなのだから。
「妙な薬?」
「自分でもこんな馬鹿げた話はないと思うのだが、頼む、どうか信じてくれ!」
俺は黙って頷く。だが、友人は想像を超える衝撃の言葉を放った。
「いつもより髭が伸びるんだ」
ドアが閉められた。いや、正確に言うと俺がドアを閉めた。
当然のように激しくドアが叩かれる。
「こっちは真剣なんだ。尋常な伸び具合じゃないんだ。羊だってこんなに伸びやしない
一時間あたり十センチだぞ!一日にすると二メートル四十センチだぞ!」
押し問答の末にドアを解放すると、そこにはその言葉を裏付けるかのように髭面の男がいた。
「……体の養分が全て髭に集中しているようなんだ。このままではいずれ衰弱死してしまう」
「え、永久脱毛したらどうだ?」
「そんなのとっくに試したさ…でも無駄だったよ」
奇天烈な事件は糸口すら見つけられないまま、幕を閉じた。衰弱死だった。
死ぬ間際の友人は、何というか、見れたものではなかった。
肉体より先に精神が参ってしまったようだった。
ブリキのロボットのように挙動が怪しいし、何より真っ白に髪が変わった髪が痛々しい。
「身だしなみだけはしっかりして棺に入りたい」
友人の願いを叶えるため、俺は髭を剃り続ける。そこだけが黒々とした髭を。
だが、いい加減、髭剃りを持つ手も疲れてきた。
――心臓が止まってもしばらく髭は伸び続ける。
#長くてすいません
「おっとり刀」「小田原評定」「意趣返し」
141 :
見つけました:02/11/10 03:22
142 :
見つけました:02/11/10 05:41
凄い駄文見つけました
17 :「雪」「道路」「落ち葉」2/10 :02/11/07 23:11
道路に舞い散る落ち葉のうえに、朝の雪が淡く積もる。
彼は憂鬱そうにうつむきながら情けない足どりで歩いていた。
入学試験当日なのに腹は痛いし滑って転ぶし、気分はなぜか冴えないのだ。
手に取るように答えが知りたいと彼は望んだ。
すると電信柱から薄い紙を振る手が伸びているのに彼は気づいた。
不審がりながらも彼は受け取ると、なんと問いに対する答えがそこに印字されてあったのだ。
そして実際入学試験を受けてみると、その試験の解答だということを彼は理解した。
彼の人生は安泰とはいえなかったが、なにかの節目ごとにその手はどこからか伸びてきて、なんらかの回答を示した手紙を提示してくれた。
彼はそのたび安堵の息を漏らし、苦渋に満ちたうねりをなんとか乗り越えてこれた。
人生の後半にさしかかったある夜彼がベッドで眠りかけたころ、そばで人影が立ちつくしていることに彼は気づいた。
幻影はしだいに輪郭を満たし、やがて彼とだいたい似たような男の姿が現れた。
そしてその男の手は彼の人生を救った見覚えのある手だった。
「おい、俺のことを知っているだろうな」
「もちろんです。なんとお礼をいったらいいか」
「そうだろ、けっこう危険な目にもあってきたんだぜ」
「でもなんで今まで私のことを助けてきてくれたのですか?」
「それは俺も同じ目に遭ってきたからさ。人生はプラスばかりで終わらない。そうだろ?」
「はあ」彼は曖昧に答えた。
「世界を平衡に保つためにはどこかで埋めあわせをしなければいけない。俺は充分補った。今度はおまえの番だ」
男がようやく責任や負担から逃れられたというような解放感に満ちた表情を浮かべて成仏したと同時に、彼は息を引き取った。
143 :
「おっとり刀」「小田原評定」「意趣返し」:02/11/10 09:57
「情けは人のためならず、ってどういう意味かわかる?」
「……情けをかけることはその人のためにならない、って言うと思ってるな?」
俺がそう言うと彼女は案の定口惜しそうな顔をした。
「他人に情けをかける事は、巡り巡って結局は自分のためになるって事だろ」
「じゃあ、おっとり刀ってどういう意味だか知ってる?」
俺は言葉につまる。
「……のほほんとした、攻撃性の無い奴のこと」
途端に彼女は世にも嬉しそうな顔でにやにやと笑った。つまり俺は間違えたのね。
「残念でした。おっとりは押し取る、つまり、刀を刀掛けから押し取るようにして
飛び出すような、大急ぎで駆けつける様子を差すんでーす。
じゃ次ね、意趣返しとは他人の意表をつくような行動のことである。マルかバツか」
「好きなんだけど」
俺がそう言うと、彼女は得意げな顔のまま固まった。
「何が」
「お前が。お前の、その、馬鹿っぽいところとかすぐ調子にのるところとか
案外本読んでるところとか、わりと、かなり、好きなんだけど」
「わりととかなりは一緒に使うような言葉じゃありません」
「な、付き合おう」
「……ていうか、あたし彼氏いるじゃんよ」
「知ってるよ。だからそっちと別れて俺と付き合わないってこと。
それが無理ならもう俺、言っちゃった以上、友達としても付き合えない」
俺と完全に縁を切るか、恋人として付き合うか、どうする?
俺がそう言うと、彼女は黙り込んだ。
長い長い沈黙のあと、それを打ち破るように俺はおどけて尋ねた。
「な、小田原評定ってこういう状態を指すのか?」
「さあ、わたしその言葉知らない」
そう答えた彼女は、完全に途方にくれていて、とても小さかった。
次は「スケッチブック」「食堂」「小鳥」
144 :
◆EGXkmNtow6 :02/11/10 14:56
「スケッチブック」「食堂」「小鳥」
まるで一枚の絵画のようだった。
草原を見渡す丘の上、少女の膝の上にはスケッチブック。
春の木洩れ日の下、鳥のさえずりが耳に優しい。
そしてスケッチブックの中でも、完璧な調和が実現されていた。
自己紹介が遅れた。といっても私自身はしがない美術商でしかない。
覚えるべきは少女の名前。テルトゥラ・ピウス
テルトゥラの描く絵は、いつだって牧歌的な田園風景である。
はっきり言ってしまうと面白みに欠ける。
だがそれでいて、どこか不思議な魔力を感じるのだ。
私はその正体が分からずにいた。
「こら、邪魔するんじゃないの」
コンテを握るテルトゥラの腕に小鳥がじゃれついていたのだ。
だが、私の気配を察して鳥たちが一斉に飛び立った。
「食堂で一緒にお昼でもどうかな?」
「残念ね、お弁当は確保しているのよ」
そういって、少女はパンの耳の詰まった袋を見せる。
「ちょっと火で焙ればおいしく食べられるものよ」
どこまでも微笑ましい。
しかし、それも少女の手に捕らえられた小鳥を見るまでの話だった。
「餌付けしないと寄ってくるわけないじゃない」
――ようやく謎が解けたような気がした。
「蹉跌」「銀の匙」「睥睨」
145 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/10 20:48
現実逃避の魔法リレー小説を主催した男がいた。
「魔法」なる胡散臭気な言葉に魑魅魍魎がゾロゾロと引き寄せられ、男は
当然のこと、蹉跌の悲しみを味わった。小説中の重要アイテム「銀の杖」はSM
の小道具として重宝され、ウリナラ半万年の歴史アイテム「銀の匙」は出せず
仕舞い。荒らし共を睥睨せんが為の呪、「おまえらは小鳥なんだ」とつぶやくも空し。
146 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/10 21:15
昼休みに学食でカレーを食べていると、
隣で本を読んでいたコータ(彼は最近読書がお気に入りらしい、生意気にも!)が
「これなんて読むか知ってる?」と訊いてきた。
実は私は、こう見えても読書家で、
周りのみんなは知らないだろうけど太宰とか、三島とか、結構読んでいるのだ。
だから、彼の質問にも答えられる自信があった。
ところが。
「えーっと、なになに…『睥睨』?」
私の自信はがらがらと崩れ落ちた。
「あ、えーっと、…」
「わからない?」
「…うん、わかんないや。ゴメン」
「答えは、『へいげい』でしたー!」
悔しかった。私が知らないことをコータが知っているなんて。
私は銀の匙でカレーを口に詰め込むと、そそくさと席を立った。
…こうして、私の作家になるという夢は蹉跌したのだった。
「バーボン」「カセットテープ」「チェーンソー」
147 :
「バーボン」「カセットテープ」「チェーンソー」:02/11/10 23:14
そろそろ彼女が意識を取り戻す頃だ。
手の震えを止めるためにバーボンを一杯。
目を開いた彼女は鏡に映った自分を姿を見てどんな顔をするだろう。
椅子にワイヤーで縛り付けられた自分の姿から目をそむけるだろうか?
それとも新しい趣向だとニヤッとするだろうか?
どっちだっていい。
肝心なのは、このカセットテープにどんな囀りを残してくれるか、だ。
人里離れたこの廃屋で、また僕は使い慣れたチェーンソーを電源を入れた。
次のお題は「かもめ」「ポスト」「金太郎飴」で
148 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/11 08:59
かもめがポストをつついている。
『何じゃコリャ?』
斉木が頓狂な声をあげた。
『これじゃまるで啄木鳥じゃんか?』
『そーだよなー、なんでだろー。なんでかもめのクセにポストを叩いてんだ?』
『う〜んさっぱり分からん』
かもめはポストを叩いていた、しかも一羽や二羽ではなく、
一つのポストに何十羽というかもめが集まって次々と嘴を打ち付けている。
『なんか俺、怖くなってきたよ』
『さっさと、帰ろう』
俺と斉木は足早にその場を離れた。
家に帰ったら母が声をかけてきた
『きょうのおやつはとっておきよぉ・・・』
台所に行くと、テーブルの上には金太郎飴が一本、ワイングラスに立っていた。
『いあただきまぁ〜す』
腹が減っていた俺は、しゃにむにアメにかじりつこうとした。
『えっ、嘘だろ・・・』
金太郎飴の絵模様は、かもめがポストを叩いている絵だった。
どこから切ってもかもめ。どこから切ってもポストだった。
『何だよ、これ?』
俺の頭の中で何かがひらめいた。
すぐにさっきいた海辺に戻った。
<あとがき>
あぁ、疲れたプ〜 辞めプ〜 熱が39度あるプ〜 みんな風邪には気を付けろプ〜
次の御題は、『風邪』『花』『雪化粧』で
ダメダメ
150 :
放浪の名無し ◆YffIGX9Bno :02/11/11 21:52
よくあるテーマで(文章の練習させていただきます)
真っ白な雪化粧をした四角に区切られたガラスごしに冬の訪れを見た一月
病床で一人ただ天井を見る毎日
「今日はやけに外が明るいな、今日は雪が降ってるのか?」
「ええ、初雪ですよ。昨日の夜中から降り出したみたい。先生がそのせいで今日は
遅れるですって。」
私の愛した女が最大の優しさ演出しようとほほえんで言った。女は病床に横たわっ
ている男をもう愛すべき対象と見ずにお荷物と見ているに違いない。
「昨日夢を見た小さい小狐が人間のようにコホンコホンと咳をしていた私が風邪を
ひいたのかい?と聞くと小狐はうなずいて走り去ってしまった。」
「まぁそれはそれはだから今日雪が降ったのかもしれませんね。」
「俺と同じように風邪をひいて一人苦しんでいる。誰にもわからない辛さ」
雪が降り始めた。
花が見たい、春が来るというのにまだ私の体はくすぶっているのか。おかげで
こんなにも私はひねくれてしまった。
次は「うんこ」「虫」「嘔吐」で
151 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/11 22:14
娘が道ばたに落ちている、ものに興味を持ち立ち止まった。
「ママ。これ何?」
「ああ。それな、うんこさんや」
「うんこさん?何でさんづけなん?」
「偉いからや。でもさわったらあかんで」
「じゃあこの回りの虫は何?」
「それははえや」
「はえは呼び捨てでいいの?」
母親は眉をひそめ、
「もうええからいこう」
と娘の手を引く。
家に帰ると何やら臭いがする。ふと娘の手を見て
母親は嘔吐した。
153 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/12 01:40
>>152 じゃあ「ドーナツ」「銀河」「君が悪いんだよ」でおながいします。
「うんこ」「虫」「嘔吐」
「おまえさんを見つけた時はちょこっと晴れてたが、また吹雪いてきたよ」
体が熱い。 この山小屋に入ってからずっとだ。
男が虫を目の前に差し出してきた。ぶよぶよと白い、何かの幼虫。
「朽ち木の中にいた。食えよ。いいから」
眠いのに。光がまぶしい。そこの焚き火を消してほしい。
男は無理矢理私の口に虫をねじ込んだ。なんとか喉までは呑み込んだが、すぐに嘔吐
してしまう。虫の残骸と透明な液体がぼたぼたと地面に落ちた。
「ああ、もったいない。クワガタの幼虫は俺の生国では大事な食いもんだってのに」
男はにやりと笑うと、一瞬ためらってから私の吐いた虫を飲み込んだ。そして自分の
着ていた蓑を私にかける。
「側の川でうんこしてくる。のぞくなよ」
背中を見ながら、変な男だと思う。なぜ白装束で雪山にいたのか一言も聞かなかった。
天候が急変したあの時、私は着の身着のままで倒れていた。そこへやってきた男。ずっと
私の体を暖めた男。ふとなぜか、男を助けてみようと思った。私は焚き火に手をかざす。
戻ってきた男が見たのは、床に広がる水たまりだけだった。外はにわかに快晴である。
次は「ドーナツ」「銀河」「君が悪いんだよ」
「ドーナツ」「銀河」「君が悪いんだよ」
「君が悪いんだよ」兄貴が目を細めてオレを睨んだ。
「ざけんなよ、兄貴がオレを突き飛ばしたからだろ」オレは水溜りの様に足元に広がった宇宙を呆然と見詰めた。
数日前、突然オヤジが死んだ。で、この数日間オレと兄貴はオヤジが大事に育てていた宇宙なるものの取扱で悩んでいた。
「ほら、これが宇宙だ。中できらきらと輝いているのが銀河だ。どうだ、綺麗だろ」オヤジはいつもオレ達に自慢していた。
でも、オレ達は宇宙をどうやって育てればいいか全く分からなかったし、そもそも宇宙が一体何なのかさっぱり分からなかった。
オレも兄貴も面倒な事が嫌いだったから、当然の様に宇宙を譲り合った。挙句、喧嘩になった。
オレは兄貴に突き飛ばされた勢いで宇宙が入ったケースにぶつかった。ケースは壊れて宇宙がこぼれた。きらきらと銀河が飛び散った。
「僕は造物主なんて厄介なものを継ぐ気は無いよ」兄貴は足元に広がった宇宙を蹴散らした。
……突然目の前がぱっと明るくなり意識が途絶えた。オレ達は一瞬の内に消滅していた。
「パパ、また失敗しちゃった。宇宙を作るのって難しいね」息子は私を見上げた。
「真の造物主になるのは大変だろ?」私はドーナツを齧りながら微笑んだ。
息子の手の平には握り潰された宇宙があった。
次のお題は「消火器」「湖」「カンガルー」でお願いします。
156 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/12 12:23
「消火器」「湖」「カンガルー」
とある湖の辺で猟奇殺人事件が起きた。
私の友人もその犠牲になった。
警察の捜査も虚しく20年の時が過ぎた。
時が事件を風化させた。
世間から忘れ去られた私の友人の死。
「猟だからってカンガルーを撃つなよ」
私はカンガルー。
消火器の使い方なんて知らない。
次のお題は「電気」「危険物」「オタク」でお願いします
157 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/12 20:14
「電気」「危険物」「オタク」
オタクが集まる町。そんな風にこの町の代名詞が変わってから、
どのくらいの時がたったのか。秋葉原。僕はその町に今立っている。
もちろん、外国からの観光客には、今でも電気の町、デジタルシティーの秋葉原と言う名称で親しまれてる。
しかし最近では、知り合った女の子に「秋葉原」という名称を言っただけで、
「え?ていうかオタク?」
と言われてしまう。そして、まるで危険物、否、汚物を見るような目をされてしまう。
困ったものだ。
僕が音楽を初めて、それに関連する工作を始めてから、もう二十年以上の付き合いのこの町。
電気の町、秋葉原、そう呼ばれる日はもう来ないのだろうか。
そう思うと、少しだけ目の前を歩くオタクを殺したくなった。
お題は、「秋葉原」「音楽」「工作」
秋葉原でオタク狩りが始まったと聞いた。
何処かの国の工作員よろしくオタクを拉致してボコボコにしてしまうらしい。
僕はいつかこの日が来ると恐れていたんだ。
秋葉原が僕らの代名詞になってからもう何年も経つ。
今では一部の音楽やドラマにしか興味のない、いわゆる一般的な女の子たちは
街の名前を聞いただけで冷たい眼差しを向ける。
曰く、「やっだー、キモーイ」
昔からの住人は僕等に敵意を剥き出しにした。
僕は思う。彼等の怒りは逆切れに等しいと。
何より本来糾弾されるべきは、何も理解せずに一律秋葉原を否定する女の子達の筈だ。
なのに彼等は僕等を否定する。のみならず排斥しようと行動した。
僕だって反撃したかった。でも僕にはそんな力も根性もない。
だから今日も道の角をひっそり歩こう。
目立たぬように、道端の石ころのように……
おだい継続、で
159 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/12 21:14
「秋葉原」「音楽」「工作」
駅を降りると、大きな看板に「好きです、秋葉原」とあった。
辺りにはアニメ音楽(通称アニソン)が鳴り響き、行き交う人々の九割は、この寒空の下で何故か汗を掻いている小太りの男、もしくは痩せギスの眼鏡。
いわゆる“おたく”と呼ばれる人々である。
私は失意と憂鬱のつまった溜息をついた。
昔の秋葉原はこうではなかった。
いつからだろう? 秋葉原が電気の街からおたくの街になってしまったのは。
きっとどこかのおたくが秋葉原をおたくの街にする為に工作員でも送りこんだに違いない。
『この豚どもを排除しなければ』
俺は愛する秋葉原を元の姿に戻すために、身につけたダイナマイトに火を着けて駅前の雑踏に飛びこんだ。
次は「ドーナツ」「魂の飛翔」「少年愛の美学」です。
>>159 五行目、私、じゃなくて俺ダターヨ・・・(鬱
「ドーナツ」「魂の飛翔」「少年愛の美学」
私は画家の志していた。どうして過去形なのかには訳がある。
転機は三年前、ある小説のカバーイラストを担当したことだった。
本のタイトルは、魂の飛翔だの輝きだの、とにかくそんな名前だった気がする。
覚えていないはずがないって?やめてくれ。努めて忘れたいのだ。
手渡された原稿は数枚読んだだけで壁に投げつけた。一瞬で判断できた。
著者と私との間には修正不可能なほど人生観に大きな相違が見受けられる。
だが、だが、仕事は仕事だ。それにどんなにちっぽけでもチャンスは逃すべきでない。
ビジネスライクに出版社から必要とされる『要求仕様』を聞き出し、
ルーチンワークとして一気に仕上げた。
そして、今に至る。私の個展は毎日のように盛況だった。
他人が羨むほどの富と、一部の熱狂的な名声を獲得したにも関わらず私は絶望している。
人は言う。――処女作には芸術家の全てが秘められている、と。
だが、それはあまり残酷すぎないか?
元々私は、レオナルド・ダヴィンチのような時代の象徴ともいうべき絵が描きたくて画家を始めたのだ。
初めてモナリザを見たときの衝撃は今でも忘れない。
想うのだ。自身を省みて。私は現代にいかほどの影響を与えることができたのか。
くぐもった異様な熱気の中、客の一人が感極まったように喝采をあげる。
「はあ、たまらないわ!あのドーナツのように甘い魅惑の微笑み……」
ここから、『あの』おきまりのフレーズが流れる。
「これぞ少年愛の美学よね」
#お題消化難い。
「俊英」「矜持」「孵卵」
162 :
「俊英」「矜持」「孵卵」:02/11/13 12:17
俺に親友は俊英という字が服を着て歩いているような万能の天才だ。しかし、
「天才と何やらは紙一重」という言葉通り、親友の奇行ぶりは、実の両親でさえ
匙を投げてしまうほど、ある意味、徹底したものだった。
中でも極めつけなのは「鶏と卵の命題」についてだろう。
鶏が先か、卵が先か。
誰もが知るこの命題に、親友は、親友なりの実証主義的な観点から検証を試
みたのだ。具体的には、様々な条件下で鶏に卵を産ませ、これを孵卵させた上
で、個々の雛が、どのように成長するか観察したのである。
もっとも、こんなことで何が証明されるのかは、誰一人理解していない。凡人
にすぎない俺も同様だ。それでも親友は、検証を続けた。
「よぉ。今日の様子はどうだ?」
久しぶりに親友の屋敷を訪れた俺は、庭先に作られた鶏小屋の中に足を踏み
入れた。中にいるのは畜産業者ではない。髪がポマードで後ろに流し、細い眼鏡
に白衣姿という、呆れるほど「天才」を演出している俺の親友ただ一人だ。
「うむ。それなりに成果が出ている」
「成果? どんな成果だ?」
「差異が見られない」
「……はぁ?」
「いかなる条件付けに対しても、有為の差異は見受けられない」
親友は慣れた手つきで雛をつかみあげると、ルーペを使い、臀部をのぞき込んだ。
「うむ、やはりそうだな」
「……なにが『やはり』なんだ?」
「鶏が先か、卵が先か――この命題は立証不可能だ」
親友は満足そうに微笑んだ。子供が浮かべる、無邪気そのものの笑顔だ。
やれやれ――この笑顔と、こいつが生物学的に雌であるという事実さえ無ければ、
俺はとうの昔に、親友であることを辞めていただろう。
「満足したか?」俺は投げやりに尋ねた。
「もちろん」再び彼女は、無邪気に笑った。
#次のお題は「屋敷」「卵」「UFO」。
しくじった! 矜持が抜けてた!
6行目から8行目を以下に書き換え。スマソ。
誰もが知るこの命題に、親友は天才としての矜持が刺激されたのか、実証主義
的な観点から検証を試 みたのだ。具体的には、様々な条件下で鶏に卵を産ませ、
これを孵卵させた上 で、個々の雛が、どのように成長するか観察したのである。
164 :
「屋敷」「卵」「UFO」:02/11/14 01:02
え、あのばんのことをききたいの?
じゃあ、あのとき、お屋敷をのぞいていたの、おじさんだったのね。
だれにもいわないって、やくそくしてくれる?
あのばんね、ねむれなくってまどからおそとをみてたの。
そしたらね、だんだんおつきさまがおおきくなってね、
UFO見たんじゃないかって?わからない、あたし。
びっくりしてさけんだんだけど、ママもパパもおきてこなかったの。
なんだかぼうっとしちゃって、おうちを出てあのおやしきのほうにあるいていっちゃったの。
そしてね、へんなかっこうをしたうちゅうじんがあたしのおようふくをぬがせてね
あたしのおなかに卵をいっぱいうみつけたの。
そしたらね、きのう生まれたの、かわいいでしょ?あたしがうんだの!
そう言って、差し出した少女の両手いっぱいに怪獣消しゴムがのっていた
次は「乳房」「ウクレレ」「運動会」で
166 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/11/14 02:08
「乳房」「ウクレレ」「運動会」
それは、生殖機能を奪う伝染病だった。
人口は静かに収束し、0に近づいていった。
最後の一握りの人々は、子供の代わりに1人の人形を可愛がった。
それは、かつて運動会があった頃の、チームの応援人形だった。
幾多もの玩具やお菓子が、人形の前に並べられた。
「ああ、なんて幸せな人形なのだろうね」と一人の女が抱きかかえる。
いくら乳房を近づけても無駄。だって人形なのだから。
そして、最後の一人。
誰も幸せにする人間がいない彼は、人形にウクレレを弾きながら死んだ。
最後に人形が残った。
この世で一番幸福な人形が。
ただ残念な事には、幸福という概念が人間と共に消えてしまっていた。
※寒いもんでネタまで寒くなるー(^^;
次のお題は:「蕎麦屋」「デジタル時計」「数学崩壊」でお願いします。
167 :
Ca ◆rVxO13uOq. :02/11/14 04:06
「蕎麦屋」「デジタル時計」「数学崩壊」
「十秒待ってやるから好きな神に祈りな」
死神は山吹色に光る弾丸をきっちり二発装填して、ニヒルにそう告げた。
シリンダーが回され、かちりと撃鉄が起こされる。
その瞬間から無慈悲な時の刻みが開始される。
――デット・オア・アライブ、デジタル時計によるカウントダウンだ。
0か1か、そんなものがアナログであっていいはずがない。
俺の心臓が凄まじい勢いでビートを刻む。等比級数的にテンポアップする。
そして数学崩壊。もう自分が何分の一の確率で死ぬかすら理解できない。
計算はできても理解ができないのだ。
喉が渇く。歯の裏を舐める舌のざらざらする感覚がする。
だが、心はなぜか銀灰色の銃身の奥に潜む虚空に引き寄せられた。
ここから銃弾が線状痕を刻みながら回転して押し出されるのだろう。
彼岸と此岸をむすぶ境目だ。これはまるで産道ではないか!?
「牧師でも呼びたいか?」
「引っ越しだ!蕎麦屋を呼んでくれ!」
死神が困惑した瞬間、銃身に指を突っ込んだ。向こう側に行きたい。ただそれだけだった。
ゼロが刻まれたその瞬間に色彩が爆発した。俺はたしかに通過したのだ。確信できる。
後日、救出部隊から聞かされた話だが、俺は気絶しても銃を離さなかったようだ。
直接の生存理由は銃身のシリンダーまで握りこんでいたこと、らしい。
だが、そんなことはちっぽけなことだ。だって最高にクールだと思わないかい?
デジタルのカウントダウンでもう一度生まれてくるなんてさ。
「満天」「符号」「晩秋」
「満天」「符号」「晩秋」
エンジンをかけるまえに、車体が揺れた。バックミラーにぶらさがる交通安全のお守りが、
月明かりに反射している。僕は車を降り、彼女の家へと戻った。晩秋の雪が音をたててつぶれ、
足跡となっていく。
「いま地震あったでしょ?」
「そう? 気づかなかったけど」
コタツにはいったまま彼女が答えた。テレビをつけ、速報を待つ。
「気のせいでしょ?」
「いや、感じる波長というか符号というか、僕にはわかるんだ」
「符号?」
「お守りの揺れ方が地震のそれだった」
「ソレ、ときましたか。それはそれは、たいした自信で」
「……」
彼女はリモコンのボタンを押して、チャンネルを変えていった。画面がせわしなく
変わるたびにブラウン管の光が眼を射し、僕は軽いめまいを覚える。コタツ台に手をつき、
ヒザから床に落ちた。視界が暗くなり、意識の彼方から速報が飛び込んでくる。サキホド
震度3カラ4ノ、オオキナ……。
ふたたび目をあけたとき、満天の星空が見えた。天井に輝く、夜光塗料の星たち。
僕はコタツで丸くなる彼女の寝息を聞きながら、今度は家内安全のお守りを買おうと決めた。
ポケモンのアレといえば、アレなんだけどね……。
つぎは「ラウンド」「ミッドナイト」「文句」でお願いします。
169 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/14 08:20
「ラウンド」「ミッドナイト」「文句」
「しかし、何でこうも簡単にいくのかね」
双眼鏡で獲物の最後を確認しながら、俺は思わず呟いてしまった。
激しく女性を罵倒する男の姿が見える。たしかに俺は、文句のないシチュエーションを用意した。
それはそうだろう。他の男の下でよがり狂う妻の写真を見て、怒らない男はいない。
ただ、いつも自分の仕事の結果を見ながら思うことがある。なんでこいつらバカ男は、
俺に抱かれた女を罵倒する前に、女を繋ぎとめておけなかった己を恥じないのか。
そんな事を考えながら、逆切れを始めた女の顔を見て、最後にもう1ラウンドくらい楽しんでも良かったと思った。
俺にしては、獲物に未練を感じる事は珍しいことだったが、それもすぐに忘れるはずだ。
そして、行きつけの店「ミッドナイトシアター」のドアをくぐる頃には、酒のことしか頭に無かった。
お題は「朝焼け」「二日酔い」「指輪」
170 :
bloom:02/11/14 08:50
171 :
「朝焼け」「二日酔い」「指輪」:02/11/14 09:35
わたしは激しい頭痛によって叩き起こされた。整理かな?――と思った
けれど、耳うるさい潮騒が聞こえて、
「そっか……」
と一人、つぶやいてしまった。
ここは砂浜。国道を挟んで、実家のすぐ目の前にある砂浜だ。
戻るつもりなんてなかった。故郷なんて言葉、TVでしか聞かないような
毎日を過ごしていた。でも、わたしは戻ってきた。ううん、逃げてきたのだ。
頭がいたい。体を起こすと、空っぽの缶ビールに手があたった。
飲み過ぎたようだ。考えてみれば、二日酔いも久しぶりかもしれない。
わたしは膝を抱え、海を眺めてみた。
見慣れた海だ。これが映画なら、指輪のひとつでも海に投げ込むところ
だけど――別に婚約したわけじゃないし、プレゼントらしいプレゼントも貰っ
たことが無い。それに、今のわたしは二日酔いだ。二日酔いのヒロインな
んて、どんな映画にも出てこない。
「かっこわるぅ」
わたしはクスクスと笑い出した。
次第に海の上が赤紫色に染まり出す。次第に海も赤みを帯び始めた。
朝日は見えない。でも、大きな入道雲まで染め上げる美しい朝焼けが、
わたしの目の前に姿を現しだした。
「……よしっ」
泣けるだけ泣いた。逃げるだけ逃げた。あとは、立ち上がるだけだ。
(そういえば……明日、残業になるとか言ってたっけ……)
わたしは仕事のことを思い出しながら、家へと戻った。
朝焼けの空に、朝日が昇るより、先に。
次は「リンゴ」「ゴリラ」「ライオン」で。
172 :
「リンゴ」「ゴリラ」「ライオン」:02/11/14 09:50
しりとりをしている。
「りんご」
「ゴリラ」
「ライオン」
「ん?」
言葉に詰まった。どうやら勝負が着いたらしい。
敗者には罰ゲームが与えられる。
牙を剥き出しにしたライオンが敗者に襲いかかった。
お題は「砂」「針」「カレンダー」
173 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/14 15:24
「砂」「針」「カレンダー」
ここは私とあの人の部屋。
でもあの人はいない。
砂時計をあと何度ひっくり返せばあの人は帰ってくるのだろう?
カレンダーをあと何枚めくればあの人は帰ってくるのだろう?
私はいつまでもいつまでも待ちつづける。
次は「あなたはなにも分かってない」「そういうところが嫌いなのよ」「馬鹿」です。
ああああ〜
>>173はなかったことにしてください(号泣
175 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/14 16:13
「砂」「針」「カレンダー」
砂時計には針はない。
砂時計をあと何度ひっくり返せばあの人は帰ってくるのだろう?
カレンダーをあと何枚めくればあの人は帰ってくるのだろう?
私はいつまでもいつまでも待ちつづける。
次は「あなたはなにも分かってない」「そういうところが嫌いなのよ」「馬鹿」です。
>>175 ああああ〜ありがとうございます〜。
たいした文章でもないのに訂正(加筆?)してもらった上にお題も使っていただけるなんて〜(号泣
「あなたはなにも分かってない」「そういうところが嫌いなのよ」「馬鹿」
「つきあってあげなよ、あいつ結構いい奴だし」
それが僕の出した幼馴染への答え。
「本気で……言ってるの?」
彼女の問いかけに僕は答えなかった。
本気と言えば嘘になってしまうから……。
「どうして……」
彼女は泣いていた……。
「どうしてあんたはいつもいつもそうなのよ! あんたのそういうところが嫌いなのよ、もう知らない!この馬鹿!」
堰を切ったように泣きながら僕を罵り彼女は僕の前から走り去った。
広い公園には僕だけが一人残された。
『あなたはなにも分かってない』
心の中の自分にそう言われた気がして僕は笑った。
だけど……
どうしても彼女に自分の気持ちを伝えたい、僕の本当の気持ちを……
そして気がつけば僕は公園をとびだし幼馴染の彼女の後を追っていた
なんか完全な駄文……、次は「喫煙制限」「結婚」「幸せ」です。
178 :
◆vJx6.a40iw :02/11/14 20:22
「喫煙制限」「結婚」「幸せ」
「明日かぁ」
「そう・・・」と娘は私を見て微笑んだ。
「お前が生まれた時にゃぁ」
「でた、お父さんの喫煙制限、あはは」
「ふふ、あん時は母さんに喫煙宣言したつもりだったんだがなぁ」
「お父さんはさ、お母さんと結婚して幸せだった?」
娘の言葉に一瞬詰まるも、私は娘の顔を見ずに言う。
「今でも、幸せだ・・・母さんと一緒の思い出があるから幸せだ」
「そう・・・」
「そうだとも」と言おうとした私は娘の顔を見て、戸惑う。
結婚前夜の妻は、この様な顔をしていたのだろうか。
悲しそうな、そして、何よりも嬉しそうな思いを瞳に秘めて。
「お母さんもそうだと私は思うよ」
私は「ありがとう」と言った、娘と妻に。
次は「テスト」「牡蠣フライ」「火星人」で。
子供の頃。食卓には私の大好きな牡蠣フライ。
しかし、その時は食べる気がしなかった。
私は火星人に連れ去られて、何やらテストを
受けさせられていた。まずは身体能力を測り、
次は知能の検査、そして食べ物。何に役立つのであろうか。
私の周りには研究員らしい白衣を着た火星人が何人かいた。
畳にちゃぶ台の部屋だが、私は落ち着くことが出来ず
今にも泣きそうだった。
「俺の作った牡蠣フライが食べられないっていうのか」
一人の火星人が怒鳴ったが、私はちゃぶ台の上の
牡蠣フライの皿をじっと見て、涙をこらえていた。
「食え。こん畜生」
その叱責に私はついに泣き出した。こらえていた涙は
周りをぼやかし、喉から滲む声は自分の耳にもうるさかった。
「今日は牡蠣フライよ」
と何処からか懐かしい声が聞こえる。死んだ母の声だ。
いつか周りの火星人は涙の向こうに母の顔を映していた。
私は泣き笑い牡蠣フライを食べた。
「思う」「はとこ」「死ぬんじゃない」
たらちゃんといくらちゃんの関係は何だと思う?
はとこだよ。
獣医のおじさん、死ぬんじゃないぞ。
お題はもちろん継続
181 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/14 23:46
「思う」「はとこ」「死ぬんじゃない」
こいつの口癖なんだっけな?
俺は、ガラス一枚隔てた病室で、全身に管を通されてる、
生きてるのか死んでるのか分からないようなツレの姿を見ながら、そんな事を考えていた。
しばらくはそれについて考えていたが、目の前のそれを、はっきりと頭の中で、
俺のツレだったやつだと認識するうちに、こいつとの思い出が浮かんできた。
どのくらいの時間がたったのか、よくわからない。見舞いに来た俺が戻ってこないのを心配した、
違うな。見舞いに来た俺の容貌をいぶかしんで、患者を心配した看護婦が俺の視界の端に映ったところを見ると、
結構時間がたってる感じだ。
そうだ。「なになにだと思う」それがこいつの口癖だった。
俺のオヤジのいとこだった女の子供、それがこいつだ。つまり、はとこってやつだ。
オヤジのいとこの女の旦那、つまり俺とは血のつながりの無いおっさんが、
「死ぬんじゃない」って叫んでいたのを思い出した。
よう、俺の愛すべきツレよ。お前はそんな姿になっても生きたいのか?
むしろ逝きたいだろ?
そんな洒落にもならないことを考えて、俺はやつにまた来ると言って、その場を後にした。
ひとまず、俺の大事な女をこんな姿にしたバカどもを探して、生まれてきたことを後悔させてやるつもりだ。
お題は、「ガラス」「管」「後悔」
182 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/15 03:03
二重国籍を持つ留学生の
ガラスは
紙に管と書いたが、
後悔しそうだったので、
二重線を引いた。
実は、
かわりに鳩と書こうとしたが、
漢字がわからなかったので、
無理矢理、
田中邦衛と書いて、初めての選挙を終えた。
お題「あっさり」「こってり」「まわし」はこれで。
183 :
「ガラス」「管」「後悔」:02/11/15 03:09
今、空と地面の間に自分をおきながら後悔の念にかられていた。
そんな時、ふと昔の事を思い出した。
今思えば後悔が俺の人生を狂わせたのだ。
小さな時から親に勧められたものをだけを手にとって
勧められた道だけを進んで、気づいたら分けのわからない大学に入っていた。
自分の今までの人生の後悔し大学をやめてみれば、仕事はなく最初に行き着いた先は配管工事の仕事だった。
とてもきつかった、結局、大学をやめた事を後悔していた。
嫌になってやめて、次はガラス拭きの仕事だ。
これはかなり気に入った。
高い場所から町を見下ろすのは気持ちがいい
こんな人生を歩んできた…
その時、俺の体は地面へと激突し、苦痛も感じぬまま意識は遠のいていった。
なるほど、これが走馬灯というものか。
…こんな仕事しなけりゃよかった。
結局、死ぬ間際まで後悔している。
by茶人
「砂漠」「猫」「友人」で
>>182 すみません、かぶりました。
お題は「あっさり」「こってり」「まわし」はこれでお願いします。
185 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/15 05:14
♪〜
おいら〜のチャンコは〜、
ひとーつ、あっさり!
ふたーつ、こってり!
まわし〜を、し〜めて〜!
ごっつぁんです!!
ごっつぁんです!!
ごっつぁ〜ああ〜あ〜〜ん、で〜す!!
2ちゃん部屋公式ソング now on sale
お題は「ねっとり」「ここにいるぜぃ」「内臓」
186 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/15 11:30
「ねっとり」「ここにいるぜぃ」「内臓」
納豆に大根おろしを混ぜろと命じたのに聞き入れられなかった。擦り下ろされた山薯が盛大に納豆と掻き混ぜられ、姫様の病にはこれが効きますと勧められる。
江戸が終わって暫く。姫も零落れたものである。細い躯を垢じみた蒲団から起こし、諦めて薯納豆をかっこむ。
からりと襖が開いて、白衣の木村直円がすかさず聴診器と虫眼鏡をもって登場する。この医者崩れの科学者もどきを信用したのが間違いだった。
御免、と木村は全く御免とは感じていないような顔で、喜々として姫の胸をはだける。
ぷるんと揺れ落ちる乳房。しかしそれよりも恥ずかしいのは……
胴の肌に変るのは透明な硝子である。硝子の向こう側に、咽から降りてきた薯納豆がねっとりとへばりつき、ここにいるぜぃと主張する。硝子を通して桃色の内臓が、ぐっちょんぐっぎょんとあからさまに蠕動し、粘った白いものを包み離す。
ねばねばを硝子を通してつぶさに観察し、よし姫様の胃は今日も元気に動いています、と木村はにこやかに断言してくれる。他に痛むところはないですか? どこでも改造してあげますよ。
次「猫の鬚」「山間」「社」
187 :
ヨコタダイキ ◆EEwxzaMYVU :02/11/15 11:34
スランプの蟻地獄に陥った私は、自分の中の存在に声をかけた。「俺はここにいるぜえ!!」
俺の中の存在が声をかけてくる。俺はこいつと酒を飲む事にした。
どうやら、こいつは、酒の飲みすぎで、内蔵が弱いらしい、ゲロをはいたがねっとりしている。
奴は言う、君の中に居るっていうことは、俺の存在は架空だってことだ。架空のキャラクターには、内臓なんか
「ないぞう」
おあとがよろしいようで・・・。
次、「階段」「さっぱり」「電球」
188 :
ヨコタダイキ ◆EEwxzaMYVU :02/11/15 11:41
あ、かぶった。ねっとり ここにいるぜえ、内臓 でした↑。
189 :
五十歩千歩:02/11/15 22:25
「階段」「さっぱり」「電球」
電球を踏んだ。幸い、足の裏は無傷のようで、痛みはない。。
とりあえず、叫ぶ。
「誰だー! こんな所に電球おいたのー!!」
しかしまぁ、誰もいない理科室では何のリアクションもあるはずがない。一通り逆上し、激昂してから、落ち着いて足の裏を眺める。
先日彼女に言われた、
「最近は素足が流行なの」
の言葉を信じ、靴下もはかず、上履きも焼却炉に投げ込んだ素足の裏は、自分で言うのもなんだが、ちょっとなまめかしい。
馬鹿な事を考えているなぁ、と我ながら反省し、くっついたガラスの破片を払った。
理科室に立ち入ってから、3回ほど試してみた『我に返る』と言う奴を、もう一回やってみたが、やはり効果は上がらない。何か面白いものはないかと、忍び込んでみたものの、学校の理科室なんかにはさっぱりめぼしい物はない。
理科室を出て、ペタペタと足を音を鳴らし、昇降口に向かう。
「ほかに何かありそうなところって、金工室とかか?」
独りごちて、立ち止まると、叫び声が聞こえた。
「私は電球なんかおかないわよ!」
声の所在を探して見ると、階段の踊り場に、彼女が笑っていた。
190 :
五十歩千歩:02/11/15 22:25
また忘れた。次のお題。
「江戸村」「佃煮」「お代」
ここは江戸村。彼は現代の五右衛門。彼の標的は佃煮屋。
「いらっしゃい」
鴉のような声が薄暗い店の中に響く。彼以外に客はいない。
「じゃあこれ下さい」
と彼はイナゴの佃煮を指さし、レジの前の皺だらけの老婆に一瞥。
「はい。これね」
老婆は徐にイナゴの佃煮を取り出す。一方彼は今が機会かと
老婆の薄い白髪を睨む。
「お代は五百円ね」
と目を細めた。
彼は硬貨を一枚出し、
「長生きしろよ」
と店を出た。
お題は継続
一応。目を細めたの前に「老婆は」と入るということで。
194 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/15 23:16
読みにくいですが、勢いが有って宜しいんじゃ御座いません?
しかし毎日毎日、鬱憤が貯まってらっしゃる御様子。日記な
ど愚痴の羅列にしかならないもの。それを意識してやっていらっしゃる
なら大したものですが。
「江戸村様ッ、江戸村様ッ」
佃煮屋が、息を切らして追いついてきた。しぶしぶ足を留めると、
「あのぅ、まだお代を頂戴致しておりませんが……」
もみ手をしながら言う。この俺にそんなことを抜かすとはいい度胸だ。
「すまんな、今日はあいにく持ち合わせがない」
からっけつの一文無しの浪人者、いつものことである。
「代わりに腰の物を預けておくが、良いか?」
ほっとしたように差し出した諸手が目の隅に入った。
「では、おそれなが……ッ」
最後まで言わせない。振り向きざまに一閃。ざまぁみやがれ。
次のお題は「漢」「花束」「股引」
196 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/11/16 09:47
「漢」「花束」「股引」
漢帝国を興して何十年。
帝王たる彼の前に、様々な国からの貢物・花束が贈られてくる。
一見悠長に見える彼は、その地位に見合う様、細心の注意をしてきた。
「王らしいかな、大丈夫かな、俺も板についてきたかな」
若い頃、彼は町で評判のろくでなしだった。
股引姿で飲んだくれの鼻つまみ者…
中国統一を成し遂げた今、そんな事を言う者が一人でもいるだろうか。
その日、彼は腹心の部下を集め、白馬の血の杯を前にこう言った。
「我が亡き後も…絶対に、私の一族以外は王にしない事を誓ってくれぇ!」
どこかで「ガクッ」という音がした、様な気がした。
もちろん、そんなこと、誰も口にしない。
当然じゃないか。
自分の一族を後継者にしたい、誰でももつ当たり前の望みじゃないか。
帝王という立場が、その当然の欲望を「ガクッ」にしていた。
等身大の人間としての彼は、敵国の無数の敵国同様、既に粛清されていた。
※なんか地味ー^^;
次のお代は:「赤信号」「青空」「黄金」でお願いします。
あら最後の行に消し忘れ…(^^;;;
「赤信号」「青空」「黄金」
彼は公園のベンチでアンパンと牛乳という質素な昼食をとっていた。
彼は昔、仲間と三人でコント赤信号というお笑いトリオを結成していた。
漫才ブームのときはどこに行ってもキャーキャ騒がれ、お金にも仕事にも女にも不自由することはなかった。
ところが、漫才ブームの終息と共に彼の黄金時代も終わった。
仲間の二人は司会をやったり、クイズ番組の解答者をやったり、今でもTVで現役で活躍している。
それに比べて自分は仕事もろくになく、こんなところで暇を持て余している。
彼はアンパンの最後のひとかけらを牛乳で流し込み、空を眺めた。
抜けるような青空。
白い雲の輪郭が、徐々に涙でぼやけていった。
次は「わかりあえる」「胸が痛い」「泪」です。
「人がこんなにもわかりあえるとは」
男は泪を流しながら夕映えのアスファルトに影を伸ばしている。
男は空を仰ぎ、ずっと口元に微笑を漏らしていた。
「胸が痛い。胸が痛すぎるぞぉぉぉぉお」
と嗄れた喉を震わせている。
通り過ぎた自転車の少年は男を白い目で見ていた。
お題継続。
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヘ/;;;;;/ i;;;;;;;/ ヽ;;;;i ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ.
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/ /;;;;;へ、 i;;;;;/ ヽ;;i ヽ;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/ ,,,..r.こニニヘ、;/ ヽi ,,,>;;;ナ;;;;;;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/ /;"/;;;;;;;;;;;ヽ.`\〃ノ .レ,r'こヘ、,ヽ;i.ヽ;;;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i / / ;;;;;;;;;;; i "''./ ;;;;;;;;;.\i. ヽ;;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i .| i ;;;;;;;;;; .i. i .;;;;;;;; .i ヽ ヽ;;;;;;;;i ウチの体は奪えても・・・
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i ! ! ;;;; i i ;;;;;;;; i | i;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i 。∞ .ゝ....... ノ ! ''''' / | .i;;;;;;;;;;;i 200までは奪えへんねんで!!!
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i ////////// ゝ... .ノ 。.' .i;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i. o / /////o// i;;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i.O -ー‐ .. o .i;;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i. / " ''ー-- , i;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i / :::::i O.i;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ト、 / ::::! ./;;;;;;;;;;;i
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!:::ヽ. .i ::/ ./;;;;;;;;;;;;;;;i
「わかりあえる」「胸が痛い」「泪」
現状を見かねた資本家は言った。
「経済を立て直すために戦争をしよう」
戦争が勃発し、やがて世界は屍で溢れた。
――世界中の泪が一粒零れる。
現状を見かねた平等主義者は言った。
「資本原理はおかしい。富を平等に分配しよう」
資本家は殺され、やがて世界は貧困で溢れた。
――世界中の泪が一粒零れる。
現状を見かねた科学者は言った。
「愚かしい人類には進化が必要だ」
平等主義者は殺され、やがて世界は淘汰される人間で溢れた。
――世界中の泪が一粒零れる。
現状を見かねた自然主義者は言った。
「文明を捨てて自然に回帰しよう」
科学者は殺され、やがて世界は疫病で溢れた。
――世界中の泪が一粒零れる。
最後に残された理想主義者と現実主義者が語り合った。
「人とは必ずわかりあえる生き物だ」
「あんたとは価値観を分かちあえんのだよ」
――零れる泪はもうどこにもなかった。
「金科玉条」「発展的解消」「曖昧模糊」
あ、校正している最中に、「胸が痛い」を消してしまいました。
201は無しということでお願いします。お題は198氏のままです。
「わかりあえる」「胸が痛い」「泪」
「ねぇ、これからドライブに行かない?」
空は、もうすっかり無造作に筆で引いたような薄墨色に染まっていた。
あまり気が進まなかったが、柔和な笑顔の瑞樹には逆らえない。
俺は、泪よりも笑顔のほうが女の最大の武器だと思う。
「今から、俺、車を出してくるから、マンションの前で待ってて」
マンションの前までの道のり、瑞樹のことを考えると、俺は胸が痛かった。
いや、むしろ気が重かっただけなのかもしれない。
「実は他に付き合ってる女がいるんだ」
こういったら瑞樹は何と言うんだろうか。
優しい瑞樹が、怒って俺をひっぱたくということはまずあるまい。
多分、何も言わずにさめざめと泪を流すだけだろう。
その方がひっぱたかれるよりも数千倍も辛い。
マンションの前まで行くと、瑞樹は新しい雪のように白いセーターに着替え直していた。
「よく似合うね」と声をかけると瑞樹はうれしそうに、「よかったわ」と微笑んだ。
俺たちは本当にドライブを楽しんだ。
ドライブからの帰り道、丁度、国道171号線の交差点に差し掛かったときだった。
突然、俺は今まで楽しそうだった瑞樹の表情が妖しく翳っているのに気がついた。
「今まで、あなたとはわかりあえると信じてたのに、私の儚い夢だったのね」
瑞樹が無理矢理、俺から車のハンドルを奪う。
「もう、私の人生は終わったの……。私が頼れるのはあなただけだったんだから……」
大型トラックが俺たちの目の前に現れた。
最期の瞬間、俺が目にしたのは、白いセーターの上に零れ落ちる瑞樹の……優しかった瑞樹の泪だった。
☆やっと復活しました、PCが。
べたべたなもの書いてしまいました……。
次は「南天」「将校」「兆稿」でお願いします。
「兆稿」?兆候じゃなくて?
205 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/17 03:08
どっちでも可
206 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/17 23:12
「南天」「将校」「兆候」
南天に輝く六つの星。
対極に位置する七つの星を見据え、その地位を脅かす存在。
「おれには、死兆星が見える」
男がつぶやいた。
「一年か……」
その星が見えた者は、あと一年の命という。死の兆候。
「どうする?」
人は自らの寿命が見えたとき、何を思うのだろう。
彼には、宿敵を倒すという使命があった。
「胸に七つの傷がある男。おれはそいつを倒さなければならん!」
南斗六星の長として、また、一人の将校としてのプライド。
「だが、その前に、やつだけは許せん!」
彼を陥れた男。裏切りの星。
「ユダ! 死して償ってもらおう!」
南天に輝く六つの星。荒れ果てた大地を一人の男が去っていく。
「女」「差別」「平等」
207 :
「女」「差別」「平等」:02/11/18 13:01
「うまい蕎麦、食いに行かねえ?」
頷いた一時間後には、見ごろの紅葉の山道をドライブしているなんて最高だ。
彼にはどこかあてがあるらしい。迷わずにウインカーを出し、幹線から細い道へ入る。下調べして誘ってくれるなんて、なかなか上出来な彼だ。
道は次第に細くなり、小さな家の前で行き止まりになった。どう見ても民家にしか見えないそこに看板が出ている。
「平等と差別」
店の名にしてはなんだか変だと私は思ったが、彼は膝の上に広げた「るるべ」にちらりと視線を走らせ、
「ここ、でいいはず」
と車を降りた。彼もちょっと不安を感じているらしい。
「家のくつろぎそのままのおもてなし、頑固内儀が守るこだわり蕎麦の隠れ家料亭、らしいんだけど」
玄関を開けると、まさに普通の家そのままというかんじに靴箱や刺繍の額絵がある。醤油の匂いに防虫剤の匂いが混じっていて、私はここやめようよと言いたかったが、すぐに人が出てきて中に案内されてしまった。靴を脱ぎ、畳の間に通される。
古びたちゃぶ台。ぬれ縁の乱れ薄。お品書きがないのは、もり蕎麦一種類しかないからだそうだ。他に客はいない。
「もちろん、人が来てから、茹でてるから」
彼のほうが気を使って、弁明するように言う。
三十分ほどたって、さっき座敷へ案内してくれた女性が蕎麦を持ってきてくれた。まだ若いが、これが名物頑固内儀なのだろうか。どうぞ、とちゃぶ台に置く蕎麦は、彼のほうが山盛り、私のほうはほんの平らな数十本。
「差別なようでいて、これで平等ですわね。男のかたのほうが、よう食べはるでしょ」
おっとりと、しかし芯のある声で説明する内儀は、細身の美人だ。
蕎麦は歯を弾き返すほど固く、つゆは濃く辛い。
「ここ、いい店?」
聞くと彼はむっとした顔で、どこが不満、と返した。
「竜の鬚」「穂」「一」
上沼湖畔の一帯を見張らせる台地からは、午後の黄色い太陽のもと、
一帯の水田がきらめく様子が見張らせた。水田には一人の老婆が腰を折る格好で
稲いじりをしている。
米嶋一は台地の上から、老婆の様子を見守っていた。
老婆は稲の一つを刈り取ると、こちらを振り返って歩いてくる。
「婆ちゃん、農作業から手を引いて長いのに無理すんなよ」
米嶋は台地を駆け下りると祖母から一本の稲を受けとった。
「なあに、可愛い孫さ婿入りするっちゅうときになーんもせんと寝て居られねえさ」
祖母は頭巾を取るとそれで顔を拭った。「天気も悪うないし、今日はほんまにええ日和じゃ」
祖母は皺くちゃな顔をまるめて空を仰ぎ見た。その様子をみて、米嶋は申し訳ない気持ちになった。
「婆ちゃん、こんな俺のためにすまねえ。曾孫つれてくる日まで元気でいてな」
「・・・おお、幸せに暮らすがええ」
俺は、幸子と二人で山の上の寺への石段をあがった。
そこには親戚一同が拍手をしながら待っていた。住職は俺から一本の稲を受け取るとそれを
寺の奥にささげ、お経を読み始めた。祝杯を上げる席で、俺は親戚一同に挨拶した。
これからは僕は相模家の一員になる。
幸子が神社の境内で一輪の竜の鬚を摘んできた。
「綺麗でしょう?」花嫁衣裳の幸子が言った。
「ああ、とても綺麗さ」俺は幸子の目を見つめた。幸子は顔をかしげて微笑んだ。
「脱ぎすてる」「はちきれそうな」「社会の窓」
「竜の髭」「穂」「一」
「真由美、ごめんね」無意識の底にある罪悪感がそうさせるのか、アタシは真由美の顔からどうしても目を逸らす事が出来なかった。身体はぴくりとも動かなかった。
今日のハイキングは先月からの約束だった。真由美は風邪を理由に直前で行くのを止めると言い出した。
でも、アタシは無理を言って真由美を引っ張り出した。
他の中学の男子から何度も告られた事がある可愛い真由美の顔は今では見る影も無かった。
頭の大きさが三分の二位しか無かった。眉から上が無かった。ぐしゃぐしゃになった肉の塊の様なものが周囲に飛び散っていた。
艶々とした軽やかなセミロングの髪はべったりと血で覆われ、外れかかったカツラの様に顔の右半分に貼りついていた。
竜の髭の実に似た青紫の髪留めが鮮やかだった。形の良さと高さが自慢の鼻はぐしゃぐしゃに潰れ、骨が露出していた。
正確には潰れた鼻なのか、肉が削れて露出した頬の骨なのか分からなかった。顎が外れているのか笑っている様な口許だった。
急にガスが出てアタシ達は道に迷い崖から落ちた。不幸中の幸いかアタシは助かった。何が生死を分けたのか分からない。
真由美は生き残ったアタシを恨めしそうに左目だけでじっと見ていた。かろうじて筋でぶら下がっている右目が風にそよぐ稲の穂の様に揺れていた。その時、突風が吹いた。
「ひいいっ」大きな岩の上に乗っていた真由美がごろんと一回転してアタシの上に落ちて来た。落ちる時の衝撃で右目が無くなっていた。
真由美はアタシの顔の真上で歪な笑いを浮かべていた。
アタシはつられて笑い出した。どんどん笑い声は大きくなった。笑っている内に頭の中が真っ白になって行くのが自分でも分かった。
お題は208さんの継続で。
210 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/18 15:45
「脱ぎすてる」「はちきれそうな」「社会の窓」
頬を流れる涙を由紀は手の甲で乱暴にぬぐった。
窓辺に座る花井が、それを優しく見守っているのが見えた。
その傍らに、そっと身を寄せる。
窓から見える景色。ミカン色の夕日があたりを染めていた。
「もう甘えは脱ぎ捨てていかなきゃ。子供じゃないもの」
物憂げに呟く由紀に、花井は答える。
「そうだね。君は社会へ出て行くんだ。もう僕に甘えてられないね」
「意地悪言わないでよ。…でも、正直怖いのも本当なの」
「君はこんなふうに社会の窓辺にたっているだけだ。景色は眺めるより、味わうほうがいい」
「…うん、そうね。私、ここで足踏みするより進むことにする。目が覚めたみたい。きっと明日から違う私でいられそうな気がする」
まだ幾分赤い目をしている由紀の表情は、それでもさっきよりも毅然としていた。
その様子をみて優しく微笑むと、花井も由紀の視線の先の夕日を眺めた。
由紀はただ、赤い夕日の沈んでゆくのをじっと見つめていた。
はちきれそうな明日への期待を胸に。
さわやかに…
「風水」「アゲハ」「きのこ」
「よお栄作、金貸してくれ」
突然、正芳が現れた。今まで連絡もよこさず失踪したっきりどこでどうしている
のだろうと心配していた俺たちをよそに、正芳は真っ黒に日焼けした
逞しい体格の男になって帰ってきたのだ。
「なあ、貸してくれよ。ああそうだ、俺は風水を教わったんだ。この家を見てやろうか」
俺は無下に断った。しかし正芳は眉をひそめて俺を見下ろすと、
俺の目を見据えてけたたましく笑った。
「冗談だろ?おい、みてやるって。ああ、ダメだダメだ。ここもダメだ」
そういいながら正芳は部屋に勝手に押し入ってきて、改築しろしたほうがいい、
そうでなければ俺がお払いをしてやるからと言った。
断ろうとすると、正芳は指の間接を鳴らしたり、食卓のテーブルを叩いたりした。
叩かれたテーブルの上で食器がガタガタなっている。
「分かったよお払いをたのむよ」
俺は正芳に札を握らせると正芳は機嫌を直して白い歯を見せた。恐ろしかった。
「ダメだな、このうちの名義を変えたほうがいいぜ」
そういって俺は、言われるまま家の名義を彼の名義に変えた。
今では私のものだったはずの土地は、雑草が身の丈ほどまで茂り、植木は腐ってキノコが
わいている。妻の良恵はそこを舞うアゲハチョウを見つめながらつぶやいた。
「もういいわよ、行きましょうよ・・・仕方ないんでしょう」
「ストッキング」「はにわ」「マッサージ機」
二十代後半の女。未だ独身で親と一緒に暮らしている。
彼女は仕事から帰ると足をマッサージ機に載せてテレビを見ていた。
「結婚しんのか」
「相手がおらんじゃけん」
「でももう年じゃけ、見合いでもせんか」
父親は接ぎ穂が無くなるといつも結婚の話をした。
「もうええのじゃ」
彼女は足下に脱ぎ捨てたストッキングを拾って広げてみた。踵の所が
ずたずたに引き裂かれていた。
「ほら。もうお前の踵ははにわのようじゃけん」
父親は目を伏せて溜息を吐いた。
お代は継続。
「ふざけんじゃないわよ、フニャチンの癖して・・・!」
女はいきり立って、料金も受け取らずに部屋を去っていった。バタンというドアの閉まる音の余韻
のあと、部屋には静寂がやってきた。
俺は嘆息を漏らすと、女がおいていったストッキングを返すために
駅前の裏通りにある風俗店へいくことにした。途中、捨ててしまおうという気にもなった。
しかしあの女に謝っておかなければならないとも思う。
店のとば口を抜けると、店内はまっくらだった。
「橋口清美はどちらですか」俺はカウンターの男に聞いた。背の高い、陰険な顔つきの男で、
なんだかハニワを思わせる佇まいだ。
「なんのようだ?家は法律に触れてないよ、帰って下さい」
男は俺を睨んだ。やれやれ。仕方なく俺は金を支払って店内に入ると、
そこで彼女の姿を探した。彼女はマッサージ機のようなイスに座って眠り惚けていた。
ストッキングはしてあった。なぜだ。
よく考えてみるとこれは俺が隣のベランダから先月盗んだストッキングだった。
「拳銃」「いわし」「梅ジュース」
「ふふふのふ」
辰夫は笑いながら俺のこめかみの辺りに拳銃を突きつけた。
「食べろ。うまそうにいわしを食べるんだ」
俺は言われた通りいわしの骨を箸をつかって丁寧に取り分けると、
身を口に運ぼうとした。
「ちょいとまったーっっっっッ」辰夫がティッシュ箱に飛びついた。拳銃はまだ
俺の頭に向けられたままだ。「さあ食えよ」辰夫はティッシュを使って何かをしながら
興奮して息を荒げているようだ。俺は拳銃をつきつけられているために後ろを振り返れなかった。
「ハアハアハア、興奮するぜえもっとくってくれえ、うまそうに、そううまそうにだ・・・」
絶えかねて俺は振り返りざまに言った。
「いくらお前だからって、俺の部屋でひとが魚を食うのをみて感じてそんな変体っぽいことをするのは・・・」
よく見ると辰夫は俺が食べ散らかした魚のカスが床に散らばっているのをティッシュで拭いていた。
「もっと、もっとおお」
哲夫は言った。
俺は哲夫の拳銃を奪い取り、哲夫に向かって引き金を引いた。
「パッポー」銃口から色とりどりの国旗とアヒルが飛び出して哲夫に当たった。
「天の川」「ストーカー」「エアガン」
雲の無い夜空に天の川が見渡せるような日には、慶介は決まって窓を開けて
ベランダの外に出る。いつからだろう、こんな気持ちになったのは。
幸代との同棲もはや7年目になる。俺は幸代の手足に手錠をはめて、
毎晩エアガンで撃っていた。はじめのうちは幸代は泣き叫んでいたが、
次第に無感情になり、撃たれている間も瞬きもしないで畳の床をジッと見下ろしたままで
黙るようになってきた。俺はアーミーナイフで彼女の脚に軽く切りつけた。
しかし彼女は、曇った目で俺の目を覗き込むだけだった。
「おまえ、となりの渡辺さんとこの旦那と俺の知らないところで会ってるな!」
俺は怒鳴った。「返事しろ!そうだと言え!じゃないと刺し殺すぞ!」
幸代は首をカックンと折るようにしてうなずいた。
「くそ、渡辺・・・やはり俺の幸代に手を出したんだな・・・」
俺は部屋を飛び出した。今日は天の川がよく見える。俺の勝ちだ。だから俺の勝ちなんだ。
「おい渡辺!でてこいこのスケベ野郎!!」俺は渡辺の部屋の玄関のドアを叩いた。しかし出てこないので、
今度はそのとなりの吉崎の部屋のドアの前にタイヤをならべて出られないようにした。
「幸代!やっつけたよ!お前の嫌いなストーカーたちをやっつけたよ!!」
吉崎の部屋のドアの前にタイヤをならべているとき、自分の部屋のドアから幸代が飛び出していくのが見えた。
「どうして!!幸代!こんなにお前のこと愛してやったのに!!」慶介は空を見上げた。天の川は垂れ込めた雲に隠れ、もうどこにも見つからなかった。
「にんにく料理」「大食い」「店主」
217 :
「にんにく料理」「大食い」「店主」 :02/11/18 20:29
にんにく料理屋の店主は大食いだけどガリガリのやせっぽいちで
精力の方はといえば絶倫極まり無くいつもアルバイトの若い女の子を
とっかえひっかえツマミ食いをしているらしい。しかも、店の顔ぶれは
いつも一緒で店主の執拗な誘惑に耐えかねて辞めてしまうということも
ないようだ。それは中年の店主が若者の飽く無き欲求に十分答えている
という事の証明でもあろうしまた狭い厨坊の中においてその全員と並行
して関係を持ちしかも営業中の店内で修羅場に出くわす事が常連である
私でさえもついぞ経験しなかった事にその手練手管の程を窺うことが出来る。
しかし通い続けて三年目の今日、私の側頭部ににんにくのカタマリが鈍い
音を立てて衝突したことを発端に、ついに主の努力も空しく、その平穏は
破られた。厨房の方から頭の痛みも忘れる程の強烈な金切り声が響く。薄い
窓ガラスは微震をはじめ、細かなひびが縦横に走る。あわや粉砕、と思った
ところでピタリとその怪音波は途切れた。グラスに入った水がまだ波打っている。
218 :
「にんにく料理」「大食い」「店主」 :02/11/18 20:30
打って変わった静寂、それでも怪音波の第二波を怖れてか、店内の
客の大半は耳を塞いだままでいた。私をはじめ客達は厨房の方へこわ
ごわと視線を移す。ガタリ、ガタリと、ひきずるような物音。情けないこと
だがそんな些細な音に、ビクリと身がすくんだ。店の事情を知るだけに、
何が起こったのか想像するだにおっかない。店員用の通用口から、青い
顔をした店主が這い出してきた。事情を知らぬ一見の客は何事かと気色ばむ。
「申し訳ありません、お代は結構ですので、どうかお引取り下さい・・・」
言うが早いか、店主は床に顔を突っ伏した。
面倒ごとは御免だと、これ幸いに、客達は店を後にする。顔なじみの客でさえ
猛獣の巣穴を横切るように、厨坊を遠回りして出入り口に去って行く。私も、
そんな情けのない人間の一人であった。痴情の縺れに自ら入り込もうなんて
気骨は持ち合わせていないのだ。
後日、店主への同情もあって、件のにんにく料理屋に立ち寄った。レジでは
いつもの女の子が、ニコニコしながらいらっしゃいませと言った。接客はバイト
まかせで、ほとんど厨房から出てこない店主がその日はお冷を伴って注文を
取りにきた。私を認めると、照れ臭そうに苦笑する。
「いや、この前は情けないところを・・・」
「大体察しはつくけど、ご愁傷さん」
「ハァ、まあ身から出た錆ですが・・・」
「それで、あのすごい声の女の子は・・・、辞めちゃったのかい?」
「んん、レジに立ってるあの子ですわ・・・」
219 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/18 20:32
「閨房」「仔猫」「ムツゴロウ」
テレビをつけると、ムツゴロウ王国の番組を放送していた。
例によってムツゴロウさんは子猫と戯れて母猫の乳首をいじったり
していた。
妻は動物モノの番組は欠かさず録画して保存するような動物マニアだから、
この番組ももちろん食い入るように見入る。
こんな生活が始まって2年。妻がテレビ番組でみるだけで、ペットを買ったりしないことが
せめてもの救いだと思う。部屋に脱ぎ捨てられた下着や、まき散らかしてある週刊誌の山。
こんな彼女に動物の世話は無理だ。そんなことになったら動物のほうがかわいそうだ。
気まぐれにエサを与えられ、体の汚れもホッタラカシで、すぐ違うペットに情が移り、死体の山になった庭に
ひとり心細げに遠吠えする野良犬まがいの不健康なワンちゃんの姿が目に浮かんだ。
思い切って俺は、「どうしてペットを飼わなかったんだい」妻に聞いてみた。
下着姿で閨房に横になっている妻は、「何言ってるのよ」と言った。
「こんなに大きな子猫ちゃんが一匹いるんだからもういいのよ」
そう言って妻は私を閨房に誘った。そうか、それもそうだった。
俺はゴロニャーんと言って、妻の胸に飛びついていった。
「ハイテク」「宇宙人」「化石」
テレビをつけると宇宙人の番組を放送していた。
宇宙人は存在するのかしないのか、どこかの教授やらジャーナリストやら
大の大人が討論を繰り広げていた。
妻は宇宙人や化石などミステリアスなものが大好きで、
瞬きもせずテレビを見ていた。
「おいおい。まだこんなの信じているのか」
「そうよ。悪いの」
コマーシャルに入り、やっと妻は私の方に瞳を向けた。
「あなたみたいなハイテクマニアよりましよ」
とつんつんしている。
「ハイテクマニアとはどういうことだ」
コマーシャルが開け妻はその質問には答えなかった。
「宇宙人に会ったことはあるのか」
「ええ。よく会っているわ」
と大きな瞳をこちらに向けた。
「下着」「泥棒」「大好き」
222 :
「下着」「泥棒」「大好き」 :02/11/18 21:31
ぼく下着泥棒。下着大好き。
どうしてみんな、軒先にぶらさがってる下着を見て平気な顔をして
通り過ぎることができるのかな? 不思議、不思議、とっても不思議。
ぼくだったら無視して通り過ぎることなんてできないな。
そよ風に乗って洗いたてのパンティの匂いが鼻腔をくすぐればもう
大変! 前傾姿勢で下着へダイブ!! ベランダでお姉さんに鉢合わ
せたって全然平気、だってぼくはコロ助のお面を被っているんだもん。
それに、足だってとっても速いんだ。下着を持ってひとっ飛び、サツに
なんか捕まらないよ、なんたってパパはえらい代議士なのさ。
今日もいっぱい下着が獲れた、ほくほく顔でお家に帰ろう。ママに隠れ
てこっそりお部屋へ、そこはカラフルなぼくの天国、足の踏み場のない
下着のお花畑さ。
だけどまだまだ全然足りない、ぼくは下着が大大大好き!
明日もやっぱり下着をとろう、明後日もやっぱり下着をゲット!
だけどある日、パパとママが下着を全部捨てちゃった。
ルルランルルランぶっ殺す。
パパのお部屋で猟銃ゲット、ママのお顔に真っ赤なお花を飾ってあげる。
パパはびっくり仰天、おしっこ漏らして逃げ回る。
「ぼくのパンツ返せ!」
ドッキュンバンバン大輪の華。
223 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/18 21:35
「バイキンマン」「オスマントルコ」「修羅場」
「ここは停戦協定といかないか?」
バイキンマンは押し寄せるオスマントルコ軍を見やる。
「俺もそれを考えていたところだ。争ってる場合ではないな」
アンパンマンは武空術を解き、地上に降り立つ。
「ふん。あいつらを血祭りにした後は、アンパンマン覚悟して置けよ」
「おう。いつでもかかってこい」
壮絶な戦いを繰り広げてきた両者が始めて手を結んだ瞬間だった。
地球最強タッグの完成だ。
「やなせたかし村の平和はおらが守る!」
アンパンマンは気合の声をあげ、オスマントルコ軍の中央へ切り込もうとした。
その瞬間。
グサ!!
バイキンマンのバイキンスピアがアンパンマンの胴体を貫く。
「謀ったなバイキンマン……」
アンパンマンは腹からでろりとでかかった贓物を抑え、苦しそうな声をあげた。
「信じる方が悪いのだ。ハヒーフヘホー」
バイキンマンは、やなせたかし村のピンチなど素知らぬ顔で勝利の雄たけびをあげた
************************************************************
「……あの、やなせ先生。これ子供みたらトラウマになりますよ」
「うるさいボケ!!お前がやんややんやせっつくからだろうが!」
やなせたかしプロは修羅場だった。
やなせは再放送のドラゴンボールZをみながら
やっつけ仕事でプロットを立てたのだが……
……このアンパンマンが連載されたか定かではない。
「こうのとり」「五月雨」「静寂」
225 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/18 23:21
「バイキンマン」「オスマントルコ」「修羅場」
彼は修羅場をむかえていた。
彼の手は今しがた撃ちはなったばかりの鉄砲が握られている。
目の前に倒れている男に泣きすがる彼女の姿を、見つめるしかない。
「最低よ!残酷だわ、こんなこと!」
泣きはらした目の彼女が、怒り狂って彼を怒鳴りつけた。
彼はその剣幕におびえ、しどろもどろに答える。
「ざ、残酷だと君はいうが……中世ヨーロッパにおける、かのオスマントルコ軍の侵略の残虐さはだね、」
彼は豊富な知識を駆使し弁解をしたが、彼女はきかない。
「そんなのどうだっていいのよ!!…あなた天才科学者でしょ?彼を助けてみなさいよ。治してよ、彼を!!」
そういってまた目の前の男を呼びながら、泣き崩れた。
途方にくれたのは彼だ。
目の前の男は、彼の憎むべき宿敵の同胞だった。彼は敵に当然のことをした。
しかし、彼女はきかない。愛してしまったというのだ。
偉大な科学者であり、医者であり、工学にも長けている彼には作れないものなどない。
だがいくら彼でも目の前の男を蘇らせることなどできない。
「……くっ」
彼は目の前の男のふやけてしまった頭部をにらみつけた。
手から水鉄砲が落ち、床にあたって乾いた音をたてる。
不可能、という言葉が誇り高い彼を傷つけた。
たかがしゃべる食パンを作る、それだけなのに……彼には無理だった。
バイキンマンは唇をかみしめるほかなかった。
アソパソマソ…
「海苔」「牙」「てのひら」
226 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/18 23:23
「ちゃんとあたしの話し聞いてる?!」
彼女はそう言って、僕の書きかけのレポート、「オスマントルコの繁栄と
滅亡」を鷲づかみにした。確かに僕は彼女の話しを聞いていなかった。
来週末に行くUSJだって、最初からあまり乗り気じゃなかったし、まあ行く
は良いとしても、乗り物の順番だとか、Eパスの取り方なんかを、こと細か
に決める気になんて、とてもじゃないけどなれなかったのだ。
テレビでは丁度、アンパンマンの再放送が流れていた。
「アンパンマンとバイキンマンどっちが好き?」
出し抜けの質問に、彼女はちょっと毒気を抜かれたけれど、すぐに答える。
「バイキンマンね。アンパンマンは嫌い。いつもただ自由に生きようと
しているバイキンマンの邪魔をするから」
「やっぱりね」
僕の口調に何かを感じ取った彼女の眼がますます険しくなる。
「何が言いたいの?」
彼女の手の中で、僕のレポートはくしゃくしゃになる。
これから繰り広げられるだろう修羅場を思って、僕はため息をついた。
227 :
「海苔」「牙」「てのひら」:02/11/19 03:37
大した話じゃないが……クロと出会ったのは、今のアパートに引っ越
した直後のこと。つまり、何もかもが最悪だった頃のことだ。
工場の倒産、受験失敗、失恋――夜逃げ同然に引っ越した後も、
茶の間は常に沈んでいた。それどころか、俺がいない時は、近所迷惑
をかえりみず、見苦しい夫婦喧嘩を演じているようだ。そんな、ギスギス
した空気が嫌で、俺は何かと都合をつけてはコンビニに出かけ、夜の
町をさまよい歩くようになった。
クロと出会ったのは、そんな夜の時間つぶしの最中だ。
路上にヒョイッと現れた黒い仔猫――それが「クロ」だ。野良猫なのか、
飼い猫なのかはわからない。「クロ」という味も素っ気も無い名前は、俺が
適当につけたものだ。
ただ、プライドだけは人一倍――もとい、猫一倍、強いらしい。
最初に出会った時、俺は特に理由もなく、てのひらを差し出しながらクロ
に声をかけてみた。
無視された。
近づいてみると、「シャア!」と総毛を逆立てながら威嚇してきた。いっちょ
まえに、牙を剥いてみせている。腹でも空いているのだろうか?
俺はコンビニで買った鮭のオニギリを分けてやることにした。ちゃんと海苔
を巻いてから半分に分け、差し出してみる。クロはしばらく「シャア!」と威嚇
していたが、空腹には勝てなかったらしく、道路においたオニギリの半分をく
わえて駆け去っていった。
そして、翌日――予備校に向かう道の途中で、俺はクロと再会した。
クロは「ナァ」と鳴いた。変な鳴き声だった。
俺は「ニャア」と鳴き返した。クロは「妙な声だな」と言いそうな顔つきをした。
以後、俺とクロは、顔をあわせる度に「ナァ」「ニャア」と挨拶を交わしている。
だからどうしたというわけじゃない。
まぁ……世の中、捨てたもんじゃないって、そう思っただけだ。
次は「黒猫」「レポート」「秋」で。
「黒猫」「レポート」「秋」
レポートの提出期限は明日だ。提出してしまえば心置きなく冬休みを迎えられる。
バイトが終わったらさっさと書上げないと。
でも、何も考えが浮かばない。いや、そうじゃない。正確には僕の頭の中はあいつ等で一杯だった。
一日中アイツらの目が僕を睨んでいる。早くこのバイトを辞めなきゃ駄目だ。ああ、今年の秋にあんな事さえなければ。
キキーッ。僕は思い切りブレーキを踏み込んだ。何かが目の前に飛び出して来たのだ。
ごんごんと何かが車体の底に当たった。なんとも言えない嫌な音と感触だった。
僕は車をおりると目を凝らした。車の数十メートル後ろに黒い塊が見えた。僕はやれやれと言う様に頭を振ると、黒い塊に歩み寄った。
黒猫だった。下半身がぺちゃんこに潰れていた。迫り来る死から逃れたい一心か、必死に前足で地面をがりがりと掻いていた。
でも、潰れた下半身が地面に貼り付いているのか一向に前に進まなかった。僕は急に吐き気が込み上げ路肩に思いきり吐いた。
僕は振り返って猫を見た。猫と目が合った。かっと目を見開き、口から血を垂らしながら必死にこちらに這って来ようとしていた。
僕は恐ろしくなって車まで走った。断末魔の恐怖に耐える様な必死なあの目が僕の頭から離れなくなった。
僕はトラックターミナルで配送伝票の整理をしていた。僕の職場は宅配便のターミナルだ。
トラックの車体にも伝票にも壁に貼られたポスターにもアイツ等はいた。
アイツ等はいつでも僕をじっと見詰めている。恨みがましい目で僕をじっと見詰めている。
次のお題は「雪崩」「カナリヤ」「消火器」でお願いします。
229 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/19 14:37
「雪崩」「カナリヤ」「消火器」
うるさいな・・ここは鳥小屋か?さっきからカナリヤが鳴いている。
私はどうなったんだ。皆とスキーに来ていて、突然雪崩が・・・記憶が飛んでいてどうも思い出せない。
気がついたらいつの間にか床の上で寝かされていた。かぶせられているのは毛布か。
周りを見渡すと小さな小屋のようだ。誰もいないのか。。
「お、気がついたか。」バタンとドアの音がしたかと思ったら、低いがなり声が飛んできた。
ぶ厚いフードを着込んだ大男が立っていた。外は雪らしい。
何か言おうと思ったが声が出ない。何故か喉がおかしい。
わけがわからないでいる私を見て、大男はそばの椅子に腰掛けて言った。
「ここは俺の小屋だ。カナリヤがうるさかったろう。こいつは俺の相棒でな。人を見るとよく鳴く。」
よくわからないがこの男が助けてくれたのだろう。
「ほら、暖かいもんでも飲みな。」
男はテーブルの上にあった飲み物を私に渡した。
「このあたり、よく人が遭難してな。お前さんのようなのを何度も見かけた。」
何故か私の声の出ないのを知っているようだった。
「おい。」
大男がそう言うとカナリヤは私の肩に飛んできた。その時のカナリヤは私の目に何か大きく見えた。
「悪いな、俺達もちゃんと食いモン食って生きて行かなきゃならんのだ。」
そう言うと大男はライターの火をつけた。何が何だかさっぱりだ。
ああ、何だか眠い。ただ肩に少しの痛みがある。何なんだろう。
私は深い眠りについた。今、彼等の消火器の中。
お題継続。
鳥籠でカナリヤが鳴いているのがとても煩いので物心ついたときから部屋の
片隅で埃を被っていた消火器を持ち上げ、鳥篭に向って消化剤を噴射した。
ピンクがかった消化剤が一瞬の内にカナリヤの姿を泡で包み、姿もろともその
鳴声をかき消した。
「なんだって鳥なんて飼おうと思ったんだろう。自分で自分が分からないな」
そうひとりごち、寝室で仮眠をとった。明日はスキーだ。
夢を見た。
水爆戦の夢、世界が終わる夢。
ただ1人、カナリヤの突然の死によって空気の汚染を知った私はアストロ
スーツを着込んで被爆を逃れた。周りの人々は喉をかきむしりながらバタ
バタと倒れ、死んでいく。その中を悠々と闊歩する私。愉快ではあるが少し
悲しい。周りの人々は私が好意をよせていた人ばかりで、私が嫌いな人たち
は鳥篭を持ち、私と同じようにアストロスーツに身を固めていたからだ。鳥篭
の中にはもちろん死んだカナリヤが入っている。
目が覚めると窓から強烈な閃光が雪崩込み、私の体はその光に焼かれて
いた。皮膚は失われ、筋肉組織が剥き出しになる。失明し、視界は真っ白に
なる。毛髪がごっそりと抜け落ちていく。足は体重を支えきれなくなる。カナリ
ヤはどこだ。
「不良少年」「バッケンレコード」「メリーゴーランド」
「ついに田中、バッケンレコード更新!!田中世界一です!!」
私が幼稚園児の頃。オリンピックが開催されていたのだが、日本人が世界記録を
更新したというニュースが盛んに報じられ日本国民皆が彼を讃えた。
私は彼のジャンプのシーンが放送されるといつも
出来ないことは分かっていながらも、だだをこねていた。
「僕もあれやりたい」
「遊園地に連れて行ってあげるから我が儘はよしてくれ」
母は私を大人しくさせるためにこんな事を言ってその場を済ませた。しかし、
その時は私はしつこく母に迫った。
「いつになったら連れて行ってくれるの」
母は眉を歪めかけたが、
「もう、明日連れて行くから静かになさい」
と口元は優しかった。
遊園地へ行ったが幼稚園児の私の乗れるものといったら、
メリーゴーランドやお化け屋敷などで飽きっぽい私は幾らか乗り物に乗ると
退屈し始めた。
「もう帰ろう」
私はふくれ気味に母を見上げた。
「あら、もう飽きちゃったの。どうしましょうかね。そうだもう一度メリーゴーランドに
のったらどうかね。スキーの選手のように飛んだ気になったらいいじゃないか」
母のいい加減な言葉に乗せられて、嫌々メリーゴーランドに乗った。
ずっと同じ所を回る。もういいから早く終わってくれと思いながら馬の背中に
揺られていた。
家に帰りるとすっかり夜で、疲れた私はうとうととしていた。が、眠りに就こうと
するとき、夜の冷たい空気をつんざく音がした。暴走族。不良少年達がバイクにまたがり、
やかましい音を立てている。私は彼等にメリーゴーランドの楽しさを教えて欲しいと思いながら
スキーの選手になる夢を見た。
233 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/11/20 00:16
「不良少年」「バッケンレコード」「メリーゴーランド」
天空に浮かぶ都市に、選民達が住んでいた。
脳さえも管理され、均一化された者達の世界…そんな所にもトラブルはある。
所長は巨大コンピューターに土下座していた。
一人の若いオペレーターが、都市の規律を乱したのだ。
成績最優秀の、虫も殺せない顔をした眼鏡の少女が。
「同じジャンプ台で、皆がバッケンレコードを取得するためには…」
コンピューターがお説教を始めた。「皆が全く同じ距離を飛ばねばなりません!」
所長は、胸の中で舌打ちをした。
成績最優秀という事は、平均値から離れているという事だ。
平均から離れる事が問題なら、優等生イコール不良少年・不良少女だ。
第一、全員がメリーゴーランドの馬の様に同じ成績なんて事が可能なのだろうか。
脳をCPUチップに置き換えでもしない限り、不可能じゃないだろうか?
その通り…実は、その通りだった。
CPUチップにも、歩留りというか不良品はあるのだ。
もちろん、巨大コンピューターの部品にも。
※いくらなんでも某漫画のパクりか(^^;
次のお題は:「エリマキトカゲ」「優駿」「たまごっち」でお願いします。
「不良少年」「バッケンレコード」「メリーゴーランド」
俺があの時から、「不良少年」と呼ばれるまで、そう長くはかからなかった。
気は弱いくせに酒飲みで仕事をしないクソ親父は、玄関の戸に手をかけるお袋の背中を、ただ何も言わずにじっと凝視しているだけだった。
「出て行かないでっ」
お袋は去り、玄関には、俺の悲痛の叫び声だけが虚しく空に響いていた。
もう誰も信じられない、これがあの時から俺の根底にあるものだ。
出て行ったお袋も、何もしない親父も、冷たい風が吹いている世間も、そして何より無力な自分自身を信じられなかった。
淋しいのかな……俺。
そんな考えがふと頭の中をよぎり、自嘲の笑みを浮かべる。
あほらしい。俺は、バイクをフルスピードで飛ばして、このもやもやした気持ちを発散させようとしたが、頭の中にはセピア色の映像が現れ、俺の心を放そうとはしなかった。
あれは、確かまだ親父が現役バリバリのジャンプの選手で、バッケンレコードを更新したばかりの時のことだ。
あの頃は、まだ親父はしっかりしていたし、お袋も鈴のようなちりんちりんと鳴る声でよく笑っていたっけ。
あの日は、家族三人で遊園地に出かけ、俺はおおはしゃぎで色んな乗り物に乗りまくった。
特に、メリーゴーランドが一番のお気に入りで、世界がくるくると目まぐるしく廻るのが楽しくて仕方がなかった。
そして、時々手を振ってくれる寄り添いあった親父とお袋。
あの頃は決して淋しいなんて感じることはなかったのに……。
あの頃から、俺の周りはメリーゴーランドに乗ったときのように、くるくると目まぐるしく廻ってしまった。
……俺の思わぬ方向に。
しかし、メリーゴーランドとは違う。
もうあの頃が一回りしてもう一度やって来ることは、決してない。
ちくしょう。知らない間に目頭が熱くなっていて、俺は動揺した。
もう……、どうにでもなれ……。
静かな月のない暗い夜、バイクの騒音だけが町に虚しく響いていた。
次は「釜揚げうどん」「にきび」「ノミ取り」で。
かぶってしまいました。
うはうさんすみません。
次のお題は、うはうさんの「エリマキトカゲ」「優駿」「たまごっち」でお願いします。
「エリマキトカゲ」「優駿」「たまごっち」
営業部長がネクタイを緩めた。ああ、これは何かあるなという勘がして、私はお茶
をいれてきますと席を立ち、給湯室へ向った。取引先からいただいたお中元の茶葉が切
れていたので、この際コーヒーでもいいかと彼のカップへと手をのばした。ところが、
いつもの場所にカップがない。かわりに、エリマキトカゲの人形が置いてあった。
専務がやってきて、手に持った人形を見つめる私に「懐かしいね」といった。
「むかしテレビCMで流行りましたよね」
「そんなこというと、歳がばれるよ」
専務には優駿というあだ名がついている。私が入社した頃は、駒田とか鮎川誠とか
呼ばれていたのだけれど、やがて優駿に落ち着いた。同名の映画が流行ったというのが
理由らしい。私は給湯室を出、営業部長の机にコーヒーを置いた。カップは来客用のを
使った。
「うっかり割っちゃってね。代わりのを買うまで置いておこうと思って」
と、営業部長はいった。彼には子供らしいところがあり、捨てられないたまごっち
が引出しにはいっていることを私は知っている。どうして捨てないのか訊いてみたこと
がある。そのとき彼は、君がくれたから、とつぶやいた。私は「奥さんにいいつけます
よ」と誤魔化したのを覚えている。彼はコーヒーをひとくち飲むと、突然、「結婚を前
提に付き合ってくれないか」といった。勘があたった。会社の人間には話さなかったが、
半年前に離婚していたのだという。
数日後、返事の代わりに新しい湯のみを買って、給湯室に置いた。彼なら長く使っ
てくれそうだ。エリマキトカゲの人形は、いま私の家にある。
お題は「マイ」「フーリッシュ」「ハート」でお願いします。
「マイ」「フーリッシュ」「ハート」
私はシャンパングラスに手を伸ばすとボランジェを口に含んだ。彼女は人差し指で私の唇をそっとなぞった。
透ける程に白く、繊細なガラス細工の様な指だった。彼女は口許だけの微笑みを浮かべるとそっと唇を寄せた。
彼女は口移しでボランジェを飲みながら潤んだ瞳に切なげな光を宿した。
見詰め合ったまま舌を絡めた。彼女の舌に残ったボランジェの仄かな甘味が、日常の全てを忘却の彼方に置き去った。
舌を絡めながら唾液を交換し合った。
彼女は重ねた唇をすっと離すと私の下唇を噛んだ。段々と噛む力を強めて行った。
唇に血が滲み、口の中に血の味が広がった。彼女は私の唇に滲んだ血を舐めた。舐めながら舌先を口の中に差し込んで来た。
彼女はいきなり私を突き飛ばすとシャワールームへ消えた。
口移しのボランジェが妖しい夜へのプレリュードだった。シャワーの音に混じって彼女の鼻歌が聞こえて来た。
「マイ」……「フーリッシュ」……「ハート」…… 一語一語区切る様に、そして言葉の間に気だるいスキャットをはさんだ。
ちくしょー、俺だってこんなキスしてみてーよ。
俺は白いブリーフに右手を突っ込んだまま左手に持った恋愛小説を床に投げ出した。どーせ、俺はでぶオタだよ。ちくしょー。
どうせ猫耳好きだよ、くそー。クリスマスが近付くとこんな俺でも『ひょっとして素敵な彼女が出来るかも』と思って恋愛の予習がしたくなるんだよ。ちくしょう。
俺は鏡にうつった自分の姿を見て急に冷静になった。「やっぱり猫耳だよな」俺は呟いた。
次のお題は「コーンフレーク」「仏像」「暴走」でお願いします。
238 :
難解いちじくの左近:02/11/20 19:36
「コーンフレーク」だ。
営業部長がネクタイを緩めた。仏像が近づいてくるのはなぜだ。
この際コーヒーでもいいかと彼のカップへと手をのばした。ところが、
いつもの場所にカップがない。ちなみに俺の今の尻ポケットにはOヘンリ短編集2が入ってます。
まーまー面白いね、これ。それじゃよろしく。ポケットに入れたらズボンが裂けました
「俺もそういうのを書きたかった。書けたのに。だから、誉める」
っていう心理が読めてしまうんだが。
拳闘家やるくらいなら秋風の方がいいと思うけど、
上で言われてるような「議論の土台」にはならないんじゃないかな。
アラがありすぎて。同じ理由で振り子もどうかと。「暴走」
「生セラ」「悪臭」「小説家志望の勘違い女」
239 :
「生セラ」「悪臭」「小説家志望の勘違い女」 :02/11/20 19:42
さて、わたくしの打倒!2ちゃんえるに関しましては、スタートしたばかりでございます、
どうか暖かく見守っていて下さいね。
生セラ大好評の時、キッペイは言った。「悪臭だ!」
ちょっとした隙でも見逃さずに叩こうとする。
ご覧頂ければ振り子もどうかと。嬉しゅうございます。
つうか白い鯨では絶対無いでつ
営業部長はいった。彼には子供らしいところがあり、捨てられないたまごっち
が引出しにはいっているアラがありすぎて私は知っている。
そのとき、隣の部屋で小説家志望の勘違い女が
自分のありきたりな文章に陶酔してメールで頂きありがとうございました。
240 :
「生セラ」「悪臭」「小説家志望の勘違い女」:02/11/20 19:43
「酒場」「体毛」「エレキギターの破壊者」
241 :
「コーンフレーク」「仏像」「暴走」:02/11/20 20:14
バイクが倒れて何メートルもずっと滑ってゆく音や生臭い血の匂いや死に絶えてゆく人の顔を
ふと思い出したくなることがあった時、俺はいつだってそれを簡単に思い出すことが出来る。
そこにコーンフレークさえあるならば。
コーンフレークを左手でつまんで口に運んでボリボリボリボリ噛みながら俺は思い出す。三年前の
今日、当時軽く暴走をたしなんでいた若手ヤンキーの俺は、爆走しながら右手でハンドルを持って
今と同じように左手を使ってコーンフレークをボリボリやっていた。そしてあの事件は起きる。
赤信号をトコトコ出てきたオバサンの、仏像みたいなパーマ頭をカチ割る事はスイカ割りの十倍
くらいは簡単だった。飛び散るコーンフレークを徐々に流れる血が浸してゆく。俺を睨むオバサン。
事切れる寸前のオバサンの目! 吐き出される俺のコーンフレーク。血の匂い。薄れてゆく俺の意識。
バイクが倒れる音。血の匂い。コーンフレーク……
歩きながらあの事故現場に着く。何故かいつもより遥かに鮮明に思い起こされる記憶。バイクの走る
音が聞こえる。まるで現実のようにはっきりと。そして倒れる音。音と同時に俺を貫く激痛。痛い!
続いてバイクが俺を吹っ飛ばして横転し滑る音。血の匂い。痛み。そして飛び散るコーンフレーク。
そっちの方へ徐々に流れる血。コーンフレークを次々と浸してゆく血! 一枚、二枚、三枚……
そして吐き出される俺のコーンフレーク。吐き出されたコーンフレークもまた血に染まっている。
おかしい。こんな記憶は俺には無い。あってたまるか! いつもならこのへんで、死に絶えてゆく
オバサンを見下ろした記憶が沸いて出てくるはずだ。しかし今日はオバサンのが見えない。何故?
俺は首をひねる。そしてオバサンの顔を見つける。その顔は、俺を見下ろしていた。
死に絶えゆく俺の顔をジッと睨むオバサン。あの時のままの、恐ろしいオバサンの目!
しかしその目はどうした事か、笑いに崩れてくる。顔全体が歪み、とうとう声を上げて笑い出すオバサン。
そのオバサンの笑い声を聞きながら、俺の意識は薄くなってゆく。まもなく消えようとしている。
口の中に残ったコーンフレークの味も、そろそろ血に染まって消えようとしている。
長くなりすぎました。次のお題は「熊」「子供」「まどろみ」で。
すんません。お題は無視してください。それでは。
243 :
「酒場」「体毛」「エレキギターの破壊者」 :02/11/20 20:37
こすれあう肉体と肉体。滴る汗が湯気を発しながらわりと本音で語りましょう。
俺たちの明日を左右するもの、それは実力マスターが揃ってるのですから。
赤信号をトコトコ出てきたオバサンの、「議論の土台」にはならないんじゃないかな。
専務には優駿というあだ名がついている。わりと本音で語りましょう。
優等生イコール不良少年・不良少女だ。
その店に入り、50がらみの店長らしき男に「コーンフレークありますか?」と聞くと、店長は男をしたたかににらみつけ、
「どのくらいだい?」と聞いてきた「いや1箱」と続けざまに言うと、突然店長は立ち上がり奥に入り、男を手招きした。
ポケットに入れたらズボンが裂けました
「さつまいも」「伝説」「勘違いに気づかないお前」
>>243は何?「酒場」「体毛」「エレキギターの破壊者」
この星にはギターを弾く男が一人いた。いつも私と一緒だ。
私は時々男に異星の酒場に連れ込まれ、無理矢理かかえこまれる。と言っても抵抗などしようがないのだが。
異様なフェロモンを発するその体毛は、私の音色を狂わせでもするかのように苦しめる。
この男、私の扱い方だけはわかっているようで、私の弦の限界なるまでの音を出す。
どうもこのあたりでは有名なギター引きになっているようだ。
しかし反面私としてはもう少しきれいに引いてもらいたい所存であった。
手入れもされず、毎日が壊れそうに痛い。苦しむ声が聞こえないのか。
私はこの男を、この音色の破壊者めといつも忌み嫌っている。
この男、一つの星の所有者なのであるが、誰にもその地を貸さず、売らずに、
私と共にただ時を過ごしている。この男に私以外何があるのだろうか。
ある時、彼は私を何らかの機械を使って改造するなどとぬかしだした。
私をエレキにすると言うのだ。進んだ技術、大抵の無理は可能なこの世でも、いくら何でも無茶がある。
だが男はその方が盛り上がるだとか何とか言いやがる。。
だが仕方が無い。私はいやおうなしに従う事になった。言ったように反論ができんのだ。
次の日、彼はまたいつものように、いや、誇ったように私を高々と自慢し、
位置に立ち演奏を始めた。その時既に私は壊れていた。
無茶があったのだ。汚された私からはもはや不憫な音しか出ず、
酒場の客から攻め立てられ、頭にきた彼は私を振り回して暴れ回った。もちろん私の姿はボロボロだ。
その後、彼は誰にも相手にされる事無く、星に引きこもった。
ただ、エレキギターの破壊者。そんな名前が残ったぐらいだ。
>>244 が次の3語を出していない。かといって
>>243の3語を継続採用するのは、
い か が な も の か ?
よって、
>>242の3語を次のお題とする。異議不可。
おまいらっ!! これで書けやっ!!
「熊」 「子供」 「まどろみ」
「熊」「子供」「まどろみ」
おまえら何か勘違いしてねえか。オレは熊なんだよ、熊。分かるか?
オレは雑食だけどよ、基本的には肉食なんだよ。
毎日毎日はちみつをぺろぺろ舐めて生きていると思っているワケか?へっ、おめでてーな。
物事にはよ、表と裏、実像と虚像ってのがあるんだよ。可愛いアイドルだって飯を食えばクソもするんだよ。
虫も殺せないお人よしで気が優しい姿は演技なんだよ、ボケ。
あー、マジで腹減ったぜ。最近はちみつしか腹に入れてねえからなあ。畜生、腹が減ってイライラするぜ。久しぶりに肉が食いてえ、肉が。
おっと、スマイル、スマイル。油断するとイライラがすぐ表情に出ちまう。
……、うとうとしてやがる。この子供、もうすぐ寝そうだな。よし、よし、早く寝ちまいな。
おっ、瞼が閉じるぞ。へへっ、まどろみの中だな。さーて、行くぞお。
「ガオーッ!」ガツガツ、ムシャムシャ、ガリッ、モグモグ、ガリガリッ。ペッ。
「ひろし、おやつよ」母親は子供部屋のドアを開けた。部屋には誰もいなかった。
テレビの画面にはレンタルビデオ屋から借りたばかりの『熊のぷーさん』が映し出されていた。
次のお題は「流氷」「沸騰」「チューリップ」でお願いします。
「流氷」「沸騰」「チューリップ」
ああ、腹減ったなぁ・・・。
そもそもなんで俺はこんな所にいるんだ??
畜生、こんなことならアイツと流氷なんて見に行くんじゃあなかった。
流氷見にきて漂流かよ!!おめでてーな。って、シャレになんねぇよ!!
まぁ、どうにかこうにか無人島にいるわけだが、ここはどこなんだよ。
どこ見ようとチューリップしか咲いてねぇ。ここはどっかの楽園かっつーの!!
クソッ、深く考えてもしょうがねぇ。まずは生きることを最優先しなくては・・・。
先程からチューリップを燃やして焼いていた石を、これまた作っていた
かなり小規模な堤防に投げ入れる。
バシュュュ!!と煙をあげながら海水が沸騰する。
そこにさっきとっておいたチューリップの球根を入れる。
チューリップの球根が食えるかなんてわからないが食うしかない!!
見事に茹で上がった球根を覚悟を決めて食う!!
・・・・ああ、こりゃ明日には死ぬな。無理。食えねぇ。
次のお題は「夢」「拳」「さんま」でお願いします。
「ねぇねぇ、まー君はさ。夢ってあるの?」
「夢? あるよそりゃ」
「なになに。教えてよ」
「カオリの手料理を食べること」
「もー! あたしが料理できないこと知ってて言うんだから」
「ごめんごめん。冗談だよ。ジョーダン」
「今度、洒落にならないこと言ったらグーで殴るからね!」
「そいつはおっかないな。なにしろ、女ガッツと呼ばれるカオリの拳だから」
「こんどこそ、ホントに殴る!」
「イテテテテ、やったな!」
「んもう! そうやってキスしてごまかすんだから」
「そう言っておきながら、舌を絡ませてきたのはだぁれだ」
「知らないよーだ。それで結局夢ってなによ」
「ん? そーだね。さんまかな」
「へ、さんま? 魚になって何するつもりなのよ」
「魚になって、カオリの海を泳ぎたいってのはどう?」
「毎晩、飽きるまで泳いでるじゃないの。ホントの所なんなの?」
「あれだよ。出っ歯の芸能人の」
「いつの間に芸能人目指してたのよ?どうせそれも違うんでしょ」
「まぁ、そうだね。それ以外のさんまかな」
「それ以外の何よ」
「僕と、カオリと未来の息子の三人で麻雀やるの。さんまやりたいよ」
「……わたし麻雀できないんだけど。誰かと勘違いしてない? もしかして浮気してるんじゃ!」
「気のせい気のせい。今日から、麻雀手取り足取り教えてやるからさ。いつか親子でさんまやろうよ」
「麻雀だけじゃなくて、あっちのほうも教えるつもりのくせに」
「あははは。ばれたか」
次のお題は「息子」「晩酌」「演説」でお願いします。
「いいかAD!TVという物はだなー、視聴者に夢を与えないといけないだぞー」
ディレクターは程よく酔って上機嫌だ。居酒屋とはいえ、最近少なくなった
ただ酒である。おごってもらえるのなら名前で呼ばれない事ぐらい許せる。
俺も酒が回ってきて、メニュー表片手にたわいの無い事をいいだす。
「まだがさんま旬だとか書いてありますよ。もう11月も終わりなのに」
「ははは、脂がのって旨いのは10ぐらいまでだよな」
「そうそう9月の料理ショーのさんまはめちゃくちゃ美味しかったですよ」
これに嘘はない。ゲスト達も前置きと匂いにさんざん焦らされ、スタジオに
私を食べてと言いながら最高級天然さんまがスタジオに現れた時は歓声が挙がった。
そして絶賛したのだ。私も放送後一口分けてもらったが言葉に現せないほど旨かった。
「やっぱ天然物はちがいますねー、養殖が食べれなくなりますよ」
「しかし矛盾していると思わないか?普段”天然物”の謳い文句は実が引締まってる、だろ?
なのにトロやサンマは脂が乗ってるほうが喜ばれる、その点は養殖が上だ
世間は暗示にかかっているだけではないのだろうか。」
「いやいや、天然物には養殖似ないものが在りますよ。だから、問題になってる
天然と称して養殖を売る奴は詐欺師だ。死んじゃえですよ、ははは」
するとどうだろう、ディレクターの顔から笑みが消ていく。しばし不吉な沈黙が
流れた後ディレクターが口を開いた。
「実はあの時のさんま手配のミスで養殖物を使ったんだ。まあ高級なやつだが」
「いっいや…演出が本物以上のものにさせたんですっ。視聴者に夢を…」
すくなくとも、いま吹き始めた木枯らしのような視線は天然物に違いない。
次のお題は「徒花」「筒」「哀れみ」 製作時間35分
スレのルールみたいなので先に出された
>>248のお題でいきまつ。
お題 「息子」「晩酌」「演説」
『彼ら』
夕闇に包まれるあの時間。きっと彼らは空を見るのだろう。
何者にも咎められたくない、そんな気持ちを胸に抱いて。
訴えたい。
世界に何かに伝えたい。演説なんて言葉じゃない。
それは悶えに近い気持ち。
癒される期待を微塵も見せず、
壊される期待に躊躇を見せて。
それは白紙の答案を出した生徒の試験結果。
それは晩酌に付き合わされた息子。
全てが全て、既知の思い。
嘆いても。嘆いても。
訴えたい。
だから彼らは叫ぶのだろう。
ジークジオン、と。
次のお題は「喫茶店」「人間」「夏」でおながいしまつ(*´Д`)
夏も終わりの残暑の頃。子供達はある喫茶店の二階の部屋で人間が
暑さにどれだけ耐えれるかといわゆる我慢大会をしていた。始めて
一時間。まだ誰も降参していない。彼等は真冬の格好でこたつに入り
さらにストーブを二つに暖房をかけた。そしてこたつの上にはキムチ鍋。
部屋には鍋の湯気か汗が蒸発しているのか何やら霞んでいる。この分だと
においも相当だろうが彼等の鼻は働いていないらしかった。
「全然平気やな。もっと熱くしようや」
「でもどうやってこれ以上熱くするんや」
「さあ。どうするかな。酒でも飲むか。俺正月に飲んだとき顔が火照って
しゃあなかったぞ」
彼等は賛成し、この家に住む子供が親の目を盗んで一升瓶をふらふらと持ってきた。
彼等はコップに酒をなみなみと注ぎ、乾杯をした。
一人が得意げに一気飲みをすると皆、負けじと飲み干した。
「まだまだいけるよ」
一番早く飲んだ子供が一升瓶を手に取りコップに注いだ。それに続く他の者。
彼等の飲みっぷりは小学生とは到底思えないものだ。次から次へと飲んでいった。
「なんやもう終わりかい。大したこと無いな。酒ぐらい小学生でも飲めるわ」
「ほんまや。全然平気やわ」
彼等の顔はいっこうに赤くならず、寧ろ熱を引いたように思える。
「お前顔青いぞ」
「なんでやねん。お前も青いぞ」
その後この喫茶店で働く彼等の内の一人の親が二階に上がってくるまで
彼等は変なにおいの充満した部屋で青い顔をして寝転がっていた。
お題「夕映え」「雪解け」「国宝」
私が最後にその老人と話をしたのは、もう随分と前のことになるのだけど、彼とどんな話を
したのか、朧げに記憶しています。これはね、彼と初めて話をしたときの事なんですけれども。
そのおじいさんはね、自傷癖がおありになって。
「可笑しいでしょう? いい歳をして、こんなに子供みたいなことをして。ほら、見て下さい。ひどいものですよ」
そう言って袖をまくるんです。そうするとね、もう、凄いんですよ、傷がね。左手首が、なにかこう、
肉の塊のようになっているわけです。血の赤と皮膚の黄が、混ざってしまっていて、おぞましい気持ちになって、
それから、いたたまれないという風な気分になるんです。それを見せながら、おじいさんはこう言うんです。
「どうしてこんな風にしてしまうのだろうねえ。いや、理由はもうわかりきっているんです。ほんとうに、日常的な
出来事の延長線上なんですよ、こういうのはね。めずらしいでしょう私のようなものは。人間国宝級じゃないかって、
時々ね、自分で考えたりしているんですけれども……」
その後ですか? 本当にどこへ行ってしまったんでしょうね? どこか、病院かで生活してらたという話も
ちらほらありましたが。でもね、彼と最後に話したときのことは、自分でも驚いてしまうくらいに鮮明なんです。
雪解け水のさらさらと流れる音や、夕映えのした空がほんとうに綺麗だったことも。そして、彼はね、そのときに……
次は「アルバム」「林檎」「エレクトロニクス」で。
255 :
よこた ◆EEwxzaMYVU :02/11/21 23:40
椎名林檎のアルバムを手にとって、考え込む。そういえば彼女、結婚したんだよな。
エンタテイメントを志す。家庭が貧困だったから、お金に困らない生活がしたい。これが本音だった。
一番欲しかったのは、恋人。コンプレックスを消すために、何かしていたかった。周りの人間が、夢を見ることを、馬鹿にする。
「おまえなんかに、できるわけねーだろ。不細工なんだから」
毎日のように言われた。歌も下手糞な癖に、音楽なんかできるわけないだろ。
父にこう言われた。今は、「中途半端でやめるんじゃねえ」こんなことも言われた。
父は関西エレクトロニクスという会社員だ。
何一つ、理解されない。人から認められたい。ただそれだけで、ここまで走ってきた。
でも、走ろうとした目的が、逃げていった。普通の人は、普通に恋人ができるらしい。
異性とつきあうことは、「普通」のことらしい。
では、何故、あのときやつらは笑ったのだろうか。「おまえに彼女なんかできるわけないじゃないか」
こんなことまで言われた。普通の事ができない。くちゃくちゃ物を食べることで、また笑われる。
好きだった音楽も、ダメだった。歌う事が最近怖いんだ。何か冷たい事を言われるかと思うと、
死にたくなる。
俺は今日も下手糞な歌を歌う。
256 :
よこた ◆EEwxzaMYVU :02/11/21 23:42
お題
「味噌」「銀杏」「ヨイショ」
「味噌」「銀杏」「ヨイショ」
さてしばらくぶりに訪れたのだが。
銀杏拾いに忙しくて、というのは冗談だが最後に訪れたのはたしか銀杏の季節だった。
いずれにせよこの数週間、書き手のレヴェルはさほどかわってないらしい。
せっかくなので何かしらヨイショしようにも文才の片鱗もうかがえない。
せめて才能の欠片でも落ちていれば銀杏よろしく拾おうものを。
「味噌糞」ということばがある。糞はともかく、なぜ味噌なのかは知らない。
次「メトロ」「珈琲」「台無し」
↑は久しぶりにこのスレに書き込んだような口ぶりである。
どんな人だろうか?
メトロポリスの未来を幻想的に描いたデビュー作で喝采を浴びたあの人だろうか?
そして、今はコーヒー片手に編集者に薀蓄を垂れているのだろうか?
そんなはずはないことは百も承知だ。
見ろよ、そのクールな態度を気取っても
最後の一行で台無しになってるじゃないか。
次は「喝采」「人生劇場」「墓場」
着ぐるみを着た小柄な男が人通りの多い通りをゆっくり歩いていく。
それは僕の父親で、着ぐるみはひどく不愉快な匂いがした。彼は少し
ずつ遠ざかっていったけれど、僕は追いかけようとしなかった。着ぐる
みの匂いが我慢できなかったからでも、人々が彼に向かって喝采して
いるのが恥ずかしかったからでもなくて、僕が追いかけたら全てが駄目
になってしまうような気がしたからだ。
父親は舞台の上を歩いているのではなかったし、僕も周りの人たち
も客席から彼のことを眺めているのではなかった。それでも、人々は彼
を見て喝采していた。まるで人生劇場だった。
ずっと遠くのほうで、父親が薄暗い墓場の中に入っていくのが小さく
見えた。少しずつ見えなくなっていく彼を、僕はずっと眺めていた。
僕は泣いていた。
お題「不安」「価値」「マネキン」
後頭部に鈍い痛みがしたわけで。いや、ほんとに。
振り向こうにも振り向けないのよ、「動くな」とか言われっちゃって。
押し付けるようにぐりぐり、ぐりぐりと。やたらに堅いなにかしらをね。
不安が無いとは言えないけれど、それでも僕は落ちついている。
たぶん、ね。きっと。おそらく。そこそこに。
気付けば辺りに人だかり。一体どこから出てきたんだい?
あいも変わらず頭には圧迫感。困ったもんだ。
空ろな目をした女の人が僕の前に現れる。表情が乏しいご様子で。
それでもちょいと美人さん。マネキンなんかじゃ比較にならないね。
がんばれば惚れることが出来そうかな。若いって素敵。
「足りないの。薬。まだあるんでしょ?」
ちょいと美人なその女性。やれやれ目当てはそれだけかい?
周りの皆もそれが欲しいのね。さっき沢山あげたでしょうに。
「死にたくないでしょ?」
ちょいと美人なその女性。やっと出てきたその表情がそんな微笑じゃ悲しいね。
ぐりぐりぐり。
はいはい、後のあなたも欲しくてたまらないんだ。
ここまでくればもういいか。価値の基準が飛んじゃってるし。
笑い出したいよ。大声でね。予想よりも早いんだもの。
さぁ、始めよう。今日が君達の門出だよ。
―――「撃てるものなら撃ってごらん」
次のお題「後悔」「喜怒哀楽」「凪」
マネキンは物言わぬ存在だ。
人は喋ってこそいるが、大半の内容に価値などないだろう。
マネキンと人との違いを考えると、不安になった。
何も働かず、ただただ日頃一日寝て過ごす自分。
いや、むしろ無駄飯を反芻している。
マネキンは何もせずとも、目の輝きを失わない。
下手をすれば、自分の価値はマネキン以下かもしれない。
決心すべきかもしれない。
今日こそ、自分が生きていることに決着をつけるべきなのだ。
腕の傷が増えるのは今日で最後にしよう。
明日からは心地よい眠りが待っている。
「約束」「安易」「肝っ玉」
「約束」「安易」「肝っ玉」
「あれは、雪女、じゃないかな」
僕は日本酒を舐めるように呑んで、そう言った。長年のつき合いである友人たちも、その時ばかりは『おい、大丈夫かコイツ』
という顔で僕を見ていた。
「だって、あいつらは吹雪の中コテージで会ったんだろう? お約束じゃないか」
「あのな、そりゃそうだろうが、雪女っていうのは、もっとこう――」
彼らの言いたいことはよくわかった。
僕らの話していることは、共通の友人と、その妻となった女のことだ。
つい数時間前、僕らは友人の結婚式に出向いた。馴れ初めは聴いていた――ただし、笑い話としてだったのだが。
僕は祝福半分、好奇心半分で式に参列した。
予想以上にキた。
曰く「男」の肝っ玉母さん。曰く神の失敗作。曰く顔面核弾頭。そのどれもが言葉足らずであることを知った。
そう。友人の妻は、唖然とするほど不細工だったのだ。
美的感覚も普通だった友人が、どうしてそんな女を安易にめとったのか。しかも、プロポーズは彼からだったという。三次会の
話題はそれで持ちきりだった。
「やっぱりあれだ、あいつも式の最中はずっと呆然としてたから、できちゃった婚とか」
「いやいや保証書を盾に」
「そんなことよりも――」
侃々諤々喧々囂々。酒も入って騒がしく言い合う彼らを眺めつつ、僕はまた舐めるように日本酒を味わった。
そしてそっと呟いた。
「好きも嫌いも美意識も――心が凍れば関係ないものさ」
次、「イヤホン」「古本」「針千本」
263 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/22 14:03
「イヤホン」「古本」「針千本」
「嘘ついたら針千本の〜ます。指切った」
イヤホン越しに聞こえたその声に驚き、思わず声のした方向に振り向いた。
しかしそこには誰もいなかった。もし例えそこに誰かがいたとしても、
彼の思う誰かがいるはずは無い。何故なら、その誰かはもう死んでいるからだ。
彼は何かを振り切るように、少しだけ早足で歩き出した。
彼の今進むこの街は、俗に言う古本街だった。店の前には、
店からあふれ出したような本がうず高く詰まれて、それがいつしか普通の街を迷路のように変えてしまっている。
彼はその迷路のような古本の山を進みながら、その誰か、死んでしまった妹思い出した。
そういえばもうすぐ、妹の三回目の命日だと思い出し、心の中で呟いた。
「残りは十二年」
お題は「妹」「命日」「ウソ」
彼女の瞳に吸い込まれそうだった。いつも私の頬を突き刺していた。
私が向くと恥ずかしそうによそ見をする。私は不可解に思わされた。
彼女は校内妹にしたい第一位。先輩達からも目をつけられている。
男女ともに。しかし、私は彼女の瞳を独占していた。
ある日。彼女が話しかけてきた。
「今日。父の命日なの」
「え。そうなんだ」
私は急なことに驚いた。
「ウソ」
「は?」
「あなた。いつも思っていたんだけど、やっぱり額が狭いわ」
私は思わず生え際掻きむしった。顔を赤らめて。
ウツだ。
今日は妹の結婚式。
十も年下の妹に先を越されるとはな。
旦那は銀行員だって?見る目があるじゃない。
「それに比べてお前は・・・」
誰もが気を使って言わないけど、聞こえる。
私の周りにだけ、冷蔵庫を開けた時の冷気が漂ってる。
「ウソ。寒いからだもんね、実際」
だって窓がくもってるもん。外はもっと寒いんだよ。
つつーっと窓ガラスに指を走らせる。け・つ・こ・ん。つつー。
って、これじゃ血痕みたいじゃないか。ダイイング・メッセージか。
誰の命日だ。いかん、これだからいかんのよ。
顔洗おう! 気合い入れてメイクしよう!!
「おねえちゃあーん、そろそろ支度してー」ばたばたと、母が幸福に動く音がし始めた。
お題は「猫」「たくあん」「座椅子」
266 :
「猫」「たくあん」「座椅子」:02/11/23 00:52
座椅子に座る男が今年のボジョレ・ヌーヴォを飲んでいる。
猫がストーブのそばで包まって眠っている。
ただ牧歌的に平和な夜のさなか、とつぜん電話が鳴りだす。
酔いどれた男はおぼろげな意識で受話器をとる。
「もしもし」
沈黙があたりをただよう。無言を装う相手の対応で、予想だにしない空気に男は戸惑う。しばしの沈黙のあと相手の人物は言葉を発する。
「いくつかのたくあんのために、あなたはどのくらいの言葉を選びますか?」
速攻男は電話を切る。静けさはあいも変わらず滞っている。
背後にひっそりと潜む不可思議な世界を想い、男はすこし冷たい汗を垂らす。
酔いどれで思いつくまま書いたらこうなったわけで。
たぶん簡素は酷評だろうな。なんて。
次は「いつのまに」「不可解」「緑」で。
267 :
「いつのまに」「不可解」「緑」:02/11/23 05:48
いつのまに、大気圏外に出ていたのだろう。
ムーンシティ行き定期便のエコノミーシートの中で、私の頭はまだぼんやりしている。
目覚めるにつれ、自分の体の重さを感じない違和感が迫ってくる。
「あぁ・・・、これだけはいつまでたっても慣れない・・・」
無重力への苛立たしさのせいで、目がさえてきた。
「もう、月があんなに近くだ。小一時間ばかり眠ったようだな」
窓の向こうには、ムーン・シティのシンボル、全長3000メートルの
ムーンタワーが、遠く小さく見え始めている。
「ホント、いつ見ても馬鹿でかい。まるで不自然だ、不可解だよ。
東京シティーから見える富士山じゃあるまいし」
ふと船内に目を移すと、緑の制服が良く似合う、美しい女性船員がほほに触れながら
声をかけてくる。
「もうすぐ、ムーンシティに到着です。着陸時には、シートベルトを
お締め下さいね」
ほほに触れるのは、無重力状態の違和感を和らげるための
触覚刺激のためらしい。
無重力には慣れない私も、これにはすぐ慣れたものだ。
268 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/23 05:50
次の御題は、「カウンセラー」「日陰」「三輪車」で。
269 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/23 17:03
アパートの廊下に出しっ放された三輪車を避けて、一番奥の自分の部屋まで
たどり着く。向かいのビルの日陰になっているこの部屋は、夏は涼しいが、
冬は寒い。震える手で鍵を回す。
彼と、私から彼を奪ったあの女と、それに協力した奴らは相変わらず
仲良く笑っている。カウンセラーはそんな職場からは離れなさいと言ったが
この不況の時代、そう簡単に仕事を辞められるわけもない。
誰もいない真っ暗な部屋に、手探りで明りをつける。
本当はこの部屋からも離れたい。彼との思い出がしみついたこの部屋。
ベッドに倒れ込んで声を上げて泣いた。
今だけ、今だけだよ。今は辛くても、いつか笑い話にできる日がくる。
泣いても泣いても楽になんかならない。けれど私は涙とマスカラで
どろどろになった目をこすって号泣し続けた。
もういやだ、もうやだよ。誰か助けてよ。
ああ、次は未来ある愛し方を知っている人と出会うんだ。そして日の当たる
部屋で幸せになる。きっと、なれる。
270 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/23 17:04
次のお題は「コンパクト」「パソコン」「猫」でお願いします。
271 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/23 18:03
男はコンパクトなパソコンを見つめていた。
いや、正確にはそのパソコンにうつる小学生が微笑みながら
パンツを差し出している映像をみつめていたのだ。
そのとき、背後で何かがきらめいた。
うおっ、カッケー!
振り向きざまに男がみたのは、乳首の黒いサングラスの男だ。
男はどうやら油性マジックで自分の乳首を黒く塗りつぶしたらしい。
苦しみもだえながら、息を荒げながら自分の乳首の何かを
黒く塗りつぶして隠蔽せねばならない・・・。
そのような願望が果たして一体何にゆらいするのか。
「おい、ワイルド・ビル、ちょっと待て!」
男は甲高い声で叫んだ。
一匹の猫が通行人Bを殺した。
272 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/23 18:05
「黒く歪んだ一人のモンモホ人」「ださいニンジン」「巻き上げる旋風を思わせる山盛りのかつお節」
モンモホのことを書くのは実は気が引ける。
なぜなら彼等はもやは存在せず、全ては伝承に過ぎないからだ。
なぜ滅んだかは諸説あるが、どれも今となっては憶測の域を出ない。
その中で最も有力な説は諸君も知っての通りだが、今夜はモンモホの
知られざる秘話に迫ろうと思う。
モンモホが栄えた最後の時代、黒く歪んだ一人のモンモホ人がいた。
彼の何が黒く、また歪んでいたのか、すでに現代には伝わっていない。
彼は当時でさえ流行遅れな、ださいニンジンの何かを売るのが商売だった。
ある日、彼は隣国の神殿に参拝した。その日は何か重要な儀式が行われていた。
神像の前に供えられていたのは、巻き上げる旋風を思わせる山盛りのかつお節だった。
ところが、あろうことか彼は自分の黒く歪んだ何かをその中に突っ込んだのだ。
それ以来モンモホ人は周辺諸国から迫害され、伝承の中にのみ生きる存在となってしまった。
黒く歪んだものが何だったのか、伝承は黙して語らない。
お題は「コンパクト」「パソコン」「猫」継続
274 :
「コンパクト」「パソコン」「猫」:02/11/23 21:49
彼は携帯を持っていない。昔は持っていたが今は持っていない。
なぜなら携帯にはいやな思い出があるからだ。
最近コンパクトさからか携帯でメールを打ちながら歩く人をよく見かけるが、その日の彼も
そういう一人だった。大抵の人は周りに気を付けることなく、気持ちは飛んでいる。
酷いときには笑っている人もある。彼も浮かれ気味でメールを打っていた。が、突然
足に変な感触。何だろうと目を移すと、毛を逆立てた猫が鋭く睨み上げている。
猫は彼の足を電光石火に駆け上がり、彼の顔面を引っ掻き回した。思わず携帯を投げ飛ばし、
やっとの事で猫を追い払った。そうして携帯の行方を見ると、どぶ川が静かに流れている。
覗き込むと藻に絡まって元気を失った携帯。彼も元気を失った。
それ以来彼はパソコンでメールを打つようになり、野良猫に会うのを怖がって引き籠もってしまった。
お題「地図」「メール」「ビキニ」
275 :
ルゥ:「地図」「メール」「ビキニ」 ◆1twshhDf4c :02/11/24 04:56
「夏は山が一番だよ」
これが私の彼、伸行の返答だった。
確かに、もともとハイキングやアウトドアが趣味で、中学・高校と登山部、そして大学でも山岳関係のサークルに入っている伸行に尋ねた私が馬鹿だったのかもしれない。
せっかく今年は新しいみかん色のビキニを買ったのに……、とがっかりしつつ、海行きを誘ってくれた有希に断りのメールを入れる。
「たまには海もいいと思うのに」
私はぽつりと不満の声を漏らしたが、聞こえていないのか、それとも単に無頓着なだけなのか、伸行は気持ちよさそうに鼻歌を歌っているだけだった。
276 :
ルゥ:「地図」「メール」「ビキニ」 ◆1twshhDf4c :02/11/24 04:56
夏も盛りの頃、今年は……というよりも今年も私たちは4泊5日で長野に旅行へ出掛けた。勿論、山に登るためである。
しかし、私は旅行の数日前から夏風邪を引いたらしく体調があまり優れなかった。
伸行は私をいたわってくれたのか、いつもの様にきつい槍ヶ岳などでは無く、今年は立山にしようと提案した。
「あそこなら、途中までトロリーバスとかロープウェイがあって楽だからね。それに何だかんだ言って、亜理紗とはまだ一回も一緒に行ったことなかったし」
伸行の言った通り、今までの槍ヶ岳などに比べて今回は楽だし、黒部ダムの放水やロープウェイからの景色は最高だった。
一応、室堂周辺の地図もリュックに用意してきたが、道案内の看板も親切で、どうやら用なしのようだ。
途中までは実に気分良く山登りを続けていた。
だが、もともと風邪気味なのが良くなかったのだろう。しばらくしてから、ものすごく気分が悪くなってしまった。
伸行は心配そうに私の顔を覗き込んで「少し休むか?」と声を掛けてくれたが、私は首を横に振り、引き返そうと入ってくれないの、と少し苛立ちながら山頂を目指した。
山頂に到着し、お茶を飲みながら一息入れると、大分気分がよくなった。
「亜理紗、こっちに来て見てごらん」
少し離れたところで、満面の笑みの伸行が手招きをしている。
私はまだ伸行に対するわだかまりが残っていたが、ゆっくりと伸行に歩み寄った。
「亜理紗、海に行きたいって言ってただろう。こんな『海』はどうだい?」
私は、今までの気分の悪さや苛立ちを忘れ、はっと息を飲む。『海』って、こういう意味ではなかったんだけど……。
「すごい……。こんなすごい雲海、初めて見た」
それは見事なまでの雲海だった。私は微笑みながら、伸行の耳元にそっと囁いた。
「伸行……、ありがと」
277 :
ルゥ:「地図」「メール」「ビキニ」 ◆1twshhDf4c :02/11/24 04:59
2レスすみません……。
これはなるべくしないように気をつけてたのに。
次のお題は「釜揚げうどん」「小槌」「放棄」でお願いします。
釜揚げウドン、小槌、放棄
「問題は、誰に何を渡すかだ」
うまそうに汁をすすった長男が食卓を見渡す。次男は穏やかに首を傾げ、うどんを飲み込んだ三男は神妙な顔で頷いた。
上座の父親は何も言わずに、うどんを掬い上げていた。
「俺は小槌でいい。あとは皆で分けていいから」
抜け目のない長男が掴んだのは富を引き寄せる小槌だった。
「シッカリ跡を継ぐよ、父さん」
懐に小槌をしまい退出した長男の次に、口を開いたのは次男だった。静かな物腰の次男は、万人に慈悲を垂れるべしという強い信仰を持っていた。
次男は、心なしか肩を落とした父親に言った。
「俺は何も要らない。遺産は放棄します、父さん」
父親から答えはない。次男が出て行った部屋で、うどんを啜る音だけが響いた。父親と三男は、ひたすら食べ続けた。
釜のうどんがあらかたなくなった頃、やっと三男が顔を上げた。
「親父の釜揚げうどんが好きだ。俺に作り方を教えてくれ」
うん、と小さな答えが返ってきた。釜を抱えた三男に父親が言う。
「なんも無くなっちまったな」
「後は増えるだけさ」
不思議そうに見上げた老人の肩を、若い手が叩く。
その後、三男の興したうどん屋は界隈の評判を取り、栄えることになった。寒波が襲来した冬には門戸を回り、温かな一汁を配したという。
次のお題は、「コオロギ」「長靴」「土管」でお願いします。
279 :
五十歩千歩:02/11/24 13:49
「コオロギ」「長靴」「土管」
「ライオンは寝ている」って歌は、誰が歌ったのか?
トーケンズだったと思う。
5人くらいのオッサン達だ。
元は南アに伝わる民謡だとか。
僕の耳には、裏声としか聞こえなかった。
けれど、兄貴が喜んで聞いていた気がする。
たしか、歌詞ではライオンはジャングルの中で寝ている。
ならば、目の前で、この僕の寝袋の中で寝ているコイツは誰なんだ?
寝ながら手にしっかりと握られているカップには、僕が大切に取っておいた、インスタントコーンポタージュのカスが見える。そう、底とカスがある分だけ、土管よりマシと言う感じだ。
仕方なく、夜気にあたろうと思ったら、僕の長靴に黒い影が入っていくのが見えた。
「ああ、きっとコオロギだな。うん、季節はずれだけど絶対コオロギだ。コオロギコオロギ」
余談だが、僕はゴキブリなんて生物の存在自体、認めてはいないのだ。
次のお題は「猫」「TVゲーム」「神田川」でお願いします。
「あなたはもう……」
TVゲームに飽きてチャンネルを回すと、こんな歌が聞こえてきた。
なんていう歌か思い出せずに、いらいらしたのでまたチャンネルを回した。
すると出てきたのは料理人。
「料理は心や!」
神田川俊郎。その時閃いたのはさっきの歌の題名。気分が晴れて、
もう一度チャンネルを戻したが南こうせつはギターを下ろすところだった。
そしてトークに入ったが面白くないのでまたチャンネルを回した。画面に現れたのは
油っぽそうな肉の塊だった。すると開けっ放しの窓から猫がまっしぐらに飛びついた。
「そのままかよ」
何気なく猫の入ってきた窓の外を見ると夕日が懐かしく赤く、
子供の頃に飼っていた猫を思い出した。
「お前も一人か」
と抱き上げようとすると、猫は振り返りもせずに窓の外へ飛び出していった。
お題「リンゴ」「ジャージ」「太陽」で。
281 :
「リンゴ」「ジャージ」「太陽」:02/11/24 23:12
上下ジャージを着たお婆さんというものを見たのは生まれてこの方初めて
だし、またリンゴに話しかけるお婆さんというものを見たのも生まれてこの方
初めてだった。好奇心も手伝ってか、僕はお婆さんに話しかける。
「お婆さん、リンゴは今日の天気の事なんかに興味ありませんよ」
「おやおや、太陽が出ているとリンゴだって喜ぶんじゃないかえ」
お婆さんの、いかにも戦前の人の台詞らしい答えに一瞬言葉を詰まらせた
僕だが、すぐに反撃の言葉を吐く。この婆さんボケちゃいないみたいだ。
「でもお婆さん、リンゴは返事をしないんだから、聞いてみたって無駄ですよ」
「ああ、寂しくてねえ。ついついこんな事をしてしまうんだよ。悪い人だねあたしは」
寂しい、か。やはり人間、この年になれば誰しも孤独になってしまうものなのか。
「別に悪いことでは無いですけど……返事もしないリンゴに話しかけたって、
余計に寂しくなるだけでしょう?」
僕がそういうとお婆さんの顔が突然笑いに崩れた。何だ? と訝しがる僕に
お婆さんは言う。
「いやね、こうしてリンゴに話しかけていると、あなたみたいな人が必ずやって来て、
話し相手になってくれるのよ。でも、これを言うとみんな怒って帰っちゃうんだけどね……」
何が孤独だよ。僕よりよっぽど人生を楽しんでいるんじゃないか? そう考えて、
僕はため息をついた。
次のお題は
「挨拶」「呪縛」「親友」で。
渋谷駅の東横線改札を出たとき、ニ年ぶりに母を見た。
石焼イモの声がやけに響く団地の一角に住んでいた頃、
私は母と弟との三人暮らしを送っていた。弟は一日でも早
く家を出たがっており、母は父親の代わりになれぬことを
悩むでもなく、日々の家事をこなしていた。私は就職でき
ずに四年もアルバイトを続けていて、正直いつ辞めようか
とばかり考えていた。そして五年目の春、母は姿を消した。
JRの乗換口へと階段をのぼる。さて挨拶したものか
弟に電話したものか考えつつも、山の手線ホームへと降り
る。片思いしている女の子に相談を持ちかけて、親友の関
係から抜け出したりして、なんて思いながら、母の背を横
目で見る。背筋が真っ直ぐのびている。老けてはいるが、
元気そうだ。
このまま住家まであとをつける間、ニ年分の呪縛を
楽しもうと思う。何度も何度も再開のシーンを考え直したりして……。
「背筋がのびている。〜元気そうだ」だけではキツイけれど、
どうして母が消えたのかは書きません。ありがちな理由が想像できるしね。
次は「いけない」「ルージュ」「マジック」で、ベイベー。
283 :
いけない☆ルージュマジック:02/11/25 03:35
よろしくない、と男がポスターを見上げた。化粧会社の口紅宣伝で、人気俳優を使ったものだ。男らしさを売りにした俳優が唇に紅を挿すと、女性に通ずる艶かしさがある。
「奥様にいかがですか?」
歯ブラシをナイロンの袋に詰め込みながら、赤い唇を光らせた店員が笑顔を貼り付ける。口裂け女とは恐らくこのような姿をしているのだろう、と男は店員に頷いた。
「見せてもらえるかね」
「あら、はいはいルージュですね。少々お待ちくださいませ」
棚にかがみこんだ店員が振り返ると、小さな紙箱が握られている。ろくに色も確かめず男は財布を取り出した。
家に帰って箱を出すと、妻は驚いたような顔で男を見た。
どうしましたの、と首を傾げる妻を食卓に座らせて、正面に腰を下ろす。
「……見られていると居心地悪いわ」
そういいながらも、ルージュを塗る妻は嬉しそうだった。身を乗り出すように見詰めていると、妻が笑い出した。
「あなたも塗ってみますか?」
「嫌だよ、そんなマジックみたいなもの」
手を振った男にかまわず、テーブルを回りこんだ妻がルージュを寄せる。
「……動かないでくださいね」
ぬるぬるとした感触が唇に当たるのを感じながら、男は妻の胸元を見ていた。ずいぶん温かそうなセーターじゃないか、と思ったところで妻が離れる。
「はい、どうぞ」
忍び笑いとともに渡された鏡に映っていたのは、奇妙な老婆だった。
「婆さんになっちまったぞ」
「意外に似合うかも」
ためしに、ポスターのように貌を斜めに向けてみる。
悪くないじゃないか、と言った男に、もういちど妻は吹き出した。
タイトルがアフォすぎました。
次は「もぐら」「めがね」「モテモテ」でお願いしまふ。
毎年この時期になると、もぐらの世界ではドテラ賞の発表に、
皆興味をそそられる。ドテラ賞とは人間界でいうノーベル賞に近い物で、
各分野で活躍したもぐらに送られるもぐら界最高の名誉なのだ。先日ドテラ文学賞をとった
第三縦穴地方に住むマティーは、今日のドテラ科学賞の発表をもって
もぐら史上初のダブル受賞をする事になっていた。マティーは不可能だとされていた太陽光線下
での生活を、このあいだ開発したばかりのめがねをかける事で可能にしたのだ。
「モテモテですねマティーさん」「そりゃそうだよ」マティーは両手に女もぐら
をはべらかしホテルの部屋に記者を呼び、受賞の発表を待っていた。
テレビの画面がもぐら王室の会見席を映し、部屋の全員がテレビの中の
もぐらに注目した。「今年のドテラ科学賞受賞者は……第二縦穴のガリクソンさんです」
マティーは耳を疑った。確実とされた受賞が他人の物になったのだ。
唖然とする部屋の中で女もぐらはテレビの奥に映る、ドテラ委員長を見つけて
無邪気に言った。「あっお父さんだ」
次のお題は「銃殺」「裏切り」「金」でおねがいします。
285 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/25 13:00
「銃殺」「裏切り」「金」
「とにかく金が必要だったんだよ」
椅子に縛り付けられた男は、何かを哀願するようにそう叫んだ。
頭の悪い男だ。自分の状況を十二分に理解してるくせに、助かろうとしてない。
「じゃあてめぇは、金ごときのために老板を裏切ったんだな」
「・・・・・・」俺の言葉に葉のヤツは黙りこくった。いくら馬鹿でも理解できるらしい。
金のためとはいえ、俺たちの親代わりだった毛先生を殺しちまったのがどんな事だか。
「春生、許してくれ」許せるわけが無い。だからこんな状況になってるんだ。なのにこのバカは・・・・・・
「毛先生は、俺の頼みを聞いてくれなかったんだ。俺のケツに火がついてるのに、自分でケツを拭けって言うんだ。
火のついたケツを拭くなんてできるわけないだろ」
「だから?」
「・・・・・・。そうだよ、黒星で頭をぶっ飛ばしてやったんだ」
「じゃあ、苦しんでないんだな?」
俺の言葉に少しだけ不思議そうな顔して、何かを思いついたように捲くし立てるようにしゃべりだした。
「当たり前だろ。じゃなきゃ銃殺なんてしねぇよ。もし毛先生を恨んでたら、そんな殺し方はしねぇ。
恨んでなかったから楽な殺し方をしたんだ。だって春生、俺たちは毛先生の息子だろ」
このバカな男は、苦しまずに殺したって事を強調すれば、助かれるとでも思ってるのだろうか?
「そうか。そいつは良かった」俺は葉に笑いかけた。それを見て葉も俺に笑いかけた。
「でも殺したことには変わりは無い。お前は楽に死ねると思うなよ」
そう俺は呟いて、以前にモンゴル人の友人にもらった、羊の皮を剥ぐためのナイフを手に取った。
題は、「瞬殺」「牛切り」「髪」
「瞬殺」「牛切り」「髪」
「そう言えば張さんの噂知ってる?」小学五年生の妹が言った。
僕は妹と同じ小学校に通っていたけど、噂を全く知らなかった。
「中華料理屋の張さんが、間違って牛切り包丁で自分の腕を切り落として出血多量で死んじゃったんだって。
でね、自分の腕を探して張さんの亡霊が現れるんだって。出会った人は牛切り包丁で腕を切り落とされて瞬殺されちゃうんだって。
逃げても髪を振り乱して追い駆けて来るんだって。雨の日に出るらしいよ。」妹は眉間に皺を寄せた。
「牛切り包丁ってどんな包丁だろうね」妹は真剣な顔で尋ねた。僕も知らなかった。
「けんくん、ちょっといいかしら」僕は母親から買い物を頼まれて近所の肉屋に出掛けた。今にも降り出しそうな空だった。張さんの噂を思い出して背筋が寒くなった。
いつものおじさんでは無かった。おじさんがメンチカツとコロッケを揚げている時、ぽつぽつと雨が降り出した。僕は店を出ると一目散に駆け出した。
「おーい、ボウズ、忘れ物だぞ」おじさんが追い掛けて来た。僕は立ち止まった。
「オレの為に腕を置いていくのを忘れただろ?」おじさんはニヤッと笑った。振り上げられた包丁を見て僕は妹の誤解を恨んだ。
『ばかやろー、中華料理屋じゃなくて肉屋じゃん……』こんな場面なのに僕は妙に冷静だった。
次のお題は「竜宮城」「ダンプカー」「特売日」でお願い致します。
287 :
ドン・チッコリーノ ◆AgfZIdI10. :02/11/25 17:22
[竜宮城」「ダンプカー」「特売日]
俺は苛立っていた。いやむしろ激怒していた。
先日和歌山の砂浜で亀を助け、噂の竜宮城までは簡単にたどり着く事は
できた。だが乙姫のやつが俺の顔をみるなり、俺を運ぶ亀に砂浜に俺を
一度帰すよう指示したのだ。なぜ宴会の前に砂浜に俺を帰す必要があるのだ?
亀は砂浜に着くなり俺にこう言い放った、「乙姫様はとても面食いですので……」
俺は亀が最後の言葉を言い終わる前に、その鬼頭を両方の拳でこなごなにしてやった。
顔が気に入らないからって、約束の宴会を開かないなんていい度胸だ。
俺は殺した亀を引きづり、すぐそばにあった魚屋に亀を売りに行った。
「すまんねだんな、亀は買い取れねえよ。それより今日は特売日だ、
何か買ってくれよ」竜宮城でただで飲み食いできるはずが、こんな所で
魚を買う必要があると思うと、腹がたってきた。「ご主人、外のダンプカー
はいくらだい?」「あれは売り物……グぉ」俺は主人をみぞおちをおもいっきり
蹴りあげ、店の壁にかかったダンプカーのキーを取り出し、運転席に飛び乗り
車を走らせた。行き先はもちろん竜宮城、地図はもう頭の中にある。
──乙姫の野郎、ぶっころしてやる。俺は時速140キロで海底を飛ばした。
目の前に竜宮城が近付いたが、俺はアクセルをゆるめず、ダンプカーごと
つっこんだ。次に気が付いたとき、俺は薄れる意識の中で心底後悔した。血まみれの乙姫の
の上にかぶさるように揺れる横断幕。──歓迎21世紀の浦島太郎殿。
次のおだいは「マフィア」「抗争」「スーツケース」でお願いします。
288 :
「マフィア」「抗争」「スーツケース」:02/11/25 19:22
『平凡な毎日に飽き飽きな方!今なら無料で入れます!!
必ず平凡な毎日を変えて見せます!さぁ!貴方もマフィアに入会!!。詳しくはこちらの電話番号へ──』
さっきからずっと受話器を手放せずにいる。
馬鹿らしいとは思う。もしかしたら悪戯かも、なんて何度も思った。しかし、しかし私はこの平凡すぎる毎日から脱皮したいのだ。
昼間からスーツケースを持って取引先を回り続ける。駆けずり回っても商談は成立しない。
今私の人生を変えるのはこの「チラシ」だけ。この薄っぺらな紙一枚だけ・・・。
さぁ脱皮するのだ!!。そう思った時、不意にテレビの音が耳に入った。
「新宿で香港系マフィアが暴力団と抗争。警察により一斉検挙されました。」
暴力団と抗争!?そんな事もやるのか?・・・そうか。マフィアになると色々大変なんだな・・・。
逮捕は嫌だ、抗争も嫌だ、刑務所はいやだ、囚人生活なんて嫌だ。いろんな事が頭の中を回る。その刹那、携帯電話が鳴った。
営業部長からの電話。恐らく商談をまとめられなかった事への説教だろう。私は迷った。
この電話を取れば私は「日常」へ戻る、取らなければ「非日常」へ・・・。
私は・・・、私は・・・・・・・・。私はチラシを破り、ごみ箱へ捨て、電話に出た。
「もしもし・・・、あっ、すいません!ちょっとトイレに行ってたもので。えっ?あっ、ハイ──」
私は日常へ戻る。一人の会社員として。一人の人間として。一人のマフィアとして・・・。
次は「チャンネル」「コップ」「定規」でお願いします。
289 :
チャンネル・コップ・定規:02/11/25 22:37
通販で買ったという座椅子にふんぞり返った先輩は、気持ち良さそうに焼酎を空けていた。
「座ってればなんでも揃う。動くのが馬鹿らしくなってくるのよね」
無駄を嫌うと豪語している先輩は、日常においても無駄な動きがない。動く前に計算しつくすのよ、が口癖だった。
「家電はリモコン、買い物は通販、情報はネット──」
「そのうち太りますよ」
見回す部屋に置いてあるものは、どれも一昔前のものだ。古い機材を、先輩の先輩から譲り受けたらしい。節約好きの先輩は、伝統を大事にしているのだと言う。
「クイズは見飽きた。なんか面白い番組ない?」
「犬番組が……リモコンなんか、ないじゃないですか」
先輩が得意げに取り出したのは、定規だった。何をするのかと見守っていると、テレビに腕を伸ばす。番組が変わった。
「──近代的っすね」
「人類は道具を得たのよ。ゆくゆくは座りながらにして晩酌の用意が整うわけよ」
「ただの駄目人間じゃないですか」
「うっさい。お酒!」
先輩がコップを突き出す。溜息をついて焼酎を注いだ俺に、舌を出した。
「裕太君は、未来を先取りしているのよ」
リモコンか晩酌マシン扱いだ。
こんな小憎らしい仕草も可愛いと思ってしまうのが情けなかった。
ラノベ風味。次は「奇跡」「自転車」「鮭」でお願いします(゚Д゚)ゴルァ!
290 :
チャンネル・コップ・定規:02/11/25 22:39
すみません、番組>チャンネル に変換してください……
291 :
「奇蹟」「自転車」「鮭」:02/11/26 01:41
「勝てるわけねぇだろ、俺に。無理だね、絶対。奇蹟でも起こらない限りな」
兄と同級とはいえ、大柄な真一とでは、まるで大熊と子犬の喧嘩であった。
玄関先に立った、顔中、体中傷だらけの僕を見て、母は怒ることを忘れて、しばらく目を丸くしたまま立ち尽くしていた。
その夜、同じ部屋に寝ている兄とは一度も目を合わせなかった。兄のほうでも意識しているらしく、向うを向いたまま、蒲団にくるまっていた。
翌朝早く、僕は独りで学校に行った。体中の痛みは昨日よりも増したように思えたけれど、ここで休んだら、また真一達に馬鹿にされると思うと、悔しくて、文字通り歯を食いしばりながら歩いていった。
ふと、気配を感じ、振り返ると、自転車に跨った兄がすぐ後ろにいた。
「乗れ。のっけってってやる」
「いいよ。学校に自転車なんか乗ってったら、怒られるだろ」
「いいから乗れ」いつにない兄の強い口調に、僕はいわれるまま荷台に跨った。
ぐいぐいと自転車をこぐ兄の後ろで、僕は何だか照れくさいような気持ちだった。
そして、今更ながらに歯の間に挟まった焼き鮭が気になりだしてきた。
次は「漱石」「のぞみ」「観覧車」で。
292 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/26 02:16
お台場パレットタウンに突如として出現した、世界最大級という
うたい文句で有名な観覧車を目の前にした俺の口から、
当たり前の如く出てきた言葉は、「でっか」であった。
噂には聞いていたが、なんというでっかさか。
文学少年と自負、日々様々な物事を心のなかで描写しては、
嗚呼完璧美しい俺すごい。なんつって一人悦に浸る事を趣味としていた
俺は、とりあえず、描写の基本である比喩を使って、なんとか
このばかでかいぐるぐるをやっつけてやろうと、思考をめぐらせる
のだが、どーしても出てこない。とにかく、でかすぎて、
こいつを例えるにふさわしいモノが存在しない。が、
ココで諦めたら、今の自分を支える、文学少年としての自信が
すべて崩壊してしまうし、せっかく山の中から、電車を乗り継いで
このような埋め立ての僻地まで遠征してきた甲斐がない。
なんとしても、こいつをやっつけてやる。
と、決意してから三時間後、俺は新幹線「のぞみ」に乗っていた。
お台場。すごいところだなあ。とかと思いながら、文学少年としての
死を実感、ついでに世界は広い事を実感し、自分も新たなレベルに
進まねばと、ちょっと決意し、出掛けにバッグ突っ込んできた
文庫「我輩はネコである」を取り出し、一拍置いて俺は、
「そおおおおおおおおおかああああああ!!!!!!」と、叫んだ。
我輩はネコである!!!!すばらしい!
自分がねこになることで、ネコを描写してしまうとは!!
迂闊!俺迂闊!俺も観覧車になるべきだったああああ!って興奮して
しまったが、その手法こそ、すでに数十年前に他でもない我輩ネコの著者
である、夏目漱石によってすでに開拓されており、おはは。
まだまだだなあ俺。なんてって俺、センチメンタルに車窓からの夕暮れを
眺めて轟沈したのである。ガタゴト。
次は「ぬかみそ」「土間」「母」で、おねがいす。
「ぬかみそ」「土間」「母」
今の俺はどん底だ。出口を示す微かな明かりすら見えない。事業に失敗して不渡りを出した。
何とか金の目途がついたと思った途端、共同経営者の持ち逃げ。
連日の借金取りに神経を削り尽くした女房は、五つになる娘を連れて実家に戻った。
俺は家を出る女房の背中に「ごめん」と言うのが精一杯だった。松涛のマンションもポルシェも手放した。何よりも娘と女房を失った事が辛い。
ターキーをボトルで煽った。毛穴と言う毛穴からアルコールの臭いが染み出しているに違いない。この三日間で俺の喉を通ったのはターキーだけだ。
突然吐き気が込み上げ、洗面所に駆け込んだ。吐く物なんて何も無いくせにと心の中で舌打ちをする。鏡を見た。
ここ数ヶ月で頬はすっかりこけ、不精髭に覆われていた。目は眼窩の形が分かる程落ち窪み、目ヤニがこびり付いていた。
キッチンから漂う腐臭に目を顰めた。ダイニングテーブルの上に干からびた蕪のぬかみそ漬けが転がっていた。俺は突然一昨年他界した母親を思い出した。
土間にしゃがんで毎日毎日飽きもせずぬか床を掻き回す後ろ姿。農作業で汚れた白いゴム長に市松模様の割烹着。あかぎれでひび割れた指先に吹きかけられた白い息。
「ぬか床はな、毎日掻き回して空気を入れてやらねえと腐っちまうだ」母親は皺だらけの顔に笑みを浮かべながら言ったものだ。
「人生と同じだ。人生もな、たまには掻き回して空気を入れてやらねえと腐っちまう」
ああ、そうだ。お袋の言う通りだ。俺は天井を仰いで涙をこぼした。もう一頑張りしようと思った。
次のお題は「屁理屈」「実証主義」「ろうそく」でお願いします。
294 :
「屁理屈」「実証主義」「ろうそく」:02/11/27 04:22
それはある日の学校帰りの出来事であった。
「おい武、エロ本が捨てとるぞ、コッチきてみ」
「本当じゃぁ、久しぶりやのぉ」
当時小学生の僕らにとってエロ本は道端やゴミ捨て場にひっそりと眠る未知の世界が詰まった宝物であった。
武が少し湿った紙を丁寧にめくり二人で覗き込む、僕らはチョット背伸びしたの世界を楽しんでいた。其の時
其処に今だ目にせぬ言葉と画像が飛び込んできた、それは『SM』
「SMってなんや、知っとるか武?」
「ようわからんけど何かこのオッサン気持ちよさそうな顔しとるのぉ」
「ローソク垂らされるのが気持ちええんかのぉ……なぁ、やってみんか?」
今思えば何と実証主義と言うか行動的と言うか、とにかく僕らは帰宅後直ぐに秘密基地に行く約束をした。
秘密基地に着くと健太はマッチ箱とローソクを僕に渡してその後ジャンケンをしようと提案し僕もそれに従った
「よーし、武の負けじゃ上着ぬげ、負けたんやから屁理屈こくなよ」
「俺も男じゃ腹くくったわい、はよせい」
僕は上着を脱いで四つんばいになり身構えた
「よし、垂らすぞ」
ボド──。
「アッ、熱いわボケ」
「どうじゃ武、熱い異常に気持ちええか?」
「全然気持ちようない、熱い……だけじゃ」
その後僕らは直ぐに帰ろうとはしなかった、ただ夕日を眺めながら大人って難しいのだなと言葉少なめに語り合っていた。
次の御題は
「髪」「天気」「散歩」
でおねがいします
・・・きみの髪、あいかわらずキレイだ・・・
・・・・・・・・ふふ、タイプだよ、モロ・・・
そそるよ〜、その登場の仕方・・・・
・・でも、今日は天気がいいから、君らしくないね・・・・
・・・・そうだ! 散歩にでも行こうか?・・・・
・・・実体があって無いようなものだし・・・・・
・・・アメリカなんてすぐだろ?・・・・・
・・・・・・え? なんでイヤなんだよ!?・・・・・・
・・気ぃ損ねたなら、謝るよ・・・・・・・
・・・わかったよ。この部屋でいいよ・・・・・・・・・
・・・・・おまえの出入り口は俺の家にしかないしな・・・・・
・・しかも2ちゃんねるだったな・・・・
・・・・・俺のテレビは「どこでもドア」かよ!・・・
・・・え? いや、独り言さ・・・・・・
トリプ間違えた。
次は「一卵性双生児」「忍者」「逆ザヤ」
「髪」「天気」「散歩」
日曜日の午前中の天気が晴れもしくは曇りなら、僕はマルチーズのチャビーを連れて散歩に出かける。
チャビーと暮らすようになってのここ3年間、二日酔いにでもならない限り、
こうして近くの公園を目指してる。公園につくなり、僕はチャビーの赤い首輪に繋いだリードを
はずす。チャビーは白い毛を揺らし、100先の公園の柵となる、大きな木の後ろまで走っていった。
僕はその小さな白い野獣を視界から逃さないように、心地よい感触の芝生に影を作る大きな木を眺めた。
暫くすると、チャビーは何かをくわえて僕の足下めがけて駆けてきた。チャビーは
何食わぬ顔をして、人間の黒髪を口いっぱいにくわえてきた。僕は急いで可愛い牙に絡まった、
髪の毛を取り、チャビーが行った大きな木へ向かいあるいた。木の向こうにはいったい
何があるというのだ? もしかしたら、誰かが死んでいて……。チャビーは僕が遊んでくれて
いるものだと勘違いして、小走りする僕の周りをくるくる回っている。僕は木へと急いだ。
その大きな木の後ろにはおじさんが居た。はさみを持って、おばさんの髪の毛を切っていた。
──なんだ散髪屋か。ふと、おじさんの傍を観ると看板が椅子にたてかけられている。
”犬の新健康食、延命神(バター味)2万円”僕はくるくる回るチャビーを置いて、
公園の外向かって駆け出した。次は「エアメール」「絶望」「穴」でお願いします。
遅かったか、お題は当然、
「297 名前:シック ◆MSh.cBTzhE :02/11/27 05:09
トリプ間違えた。
次は「一卵性双生児」「忍者」「逆ザヤ」」
で。
300 :
シック ◆MSh.cBTzhE :02/11/27 05:23
>>298 初カブリでつか? ショックでつか?
コッポラ監督が友人なら、きっと、エアメールで励ましますって。
「君には未来がある」ってね。
そんなに絶望するこたないって。カブリなんて珍しくないって。
ありの穴に投稿して叩かれるより、はるかにマシだって!
次は「カブリ」「リロード」「確認」
301 :
シック ◆MSh.cBTzhE :02/11/27 05:25
「一卵性双生児」「忍者」「逆ザヤ」」 または「カブリ」「リロード」「確認」。
どっち選んでも自由だで!! きばってや!!
「一卵性双生児」「忍者」「逆ザヤ」「カブリ」「リロード」「確認」
今日も私はいつものようにパソコンを立ち上げて、2ちゃんねるに来ていた。
「あー、もう中間テスト一週間前切ってて、こんなことしてる場合とちゃうんやけどな……。
大体2学期制って、テスト少ない分範囲広すぎるねん。あー、確かにそないな学校選んだのは他ならぬうちやけどさぁ」
独り言をぶつぶつ言いつつも、一日一回、2ちゃんねるに来ない事には気がすまない私。
「あきらめも肝心やんな、うん」
そう自分に言い聞かせる。……ちょっとだけむなしい。
いくつかの板を回った後、ようやく私は創作文芸版の三語スレを開いた。
お題は……「朝霧」「秋の花」「夜の蝉」。うっ、このお題出した人、絶対北村さんファンだ。
私はさっそく、お題を使って文章を練る。
「なんか純和風っぽいなぁ。そんなら、忍者とかの話がいいかもしれへん。
あっ、でも侍も捨てがたいわ……。こう武蔵と小次郎みたいな決闘の話とか。でもありきたりか……。
うーん、やったらほんまはめちゃめちゃ強い主人公が普段は逆ザヤの刀持ってて、弱い振りしてるいうんはどないやろう?あー、でもそれもめっちゃべたな話やなぁ……。何で、うちってこないなべたな話しか思いつかんのやろう……」
四苦八苦しながらも、何とか一本書きあがった。リロードして先客がいないのを確認する。
よし。私は、書き込みをしてから、しばらくはミステリ版のスレを回っていた。
一時間後、私がもう一度三語スレに行くと……。
私のすぐ後に同じお題で書き込んでいる人がいた。
ざっと読むと、一卵性双生児が主人公の話で、なかなかおもしろい。……少なくとも私よりは。
無性に悔しくなった私は「カブリすまそ」と書き込んであるすぐ下に、こう書き込みをした。
「書き込む前はちゃんとリロードして確認しる!!」
私は少しだけ満足しながら、パソコンの電源を切り、ようやく英語のテキストを開いた。
「うーん、今日は3時までには寝れたらええなぁ」
☆決して私小説ではありません。そう決して。
次のお題は「朝霧」「秋の花」「夜の蝉」でお願いします。
すみません。ミスがあります……。
「創作文芸板」や「ミステリ板」の「板」の字が、「版」の字になっていました。
すごく焦りました……。
304 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :02/11/28 00:59
あっ、age忘れ。
305 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/28 09:28
この板はなんだかキモい
「朝霧」「秋の花」「夜の蝉」
今の僕には、四角く切り取られた、この小さな白い空間だけが全てだ。
クリーム色のカーテンを透かして晩夏の日差しを感じる。
窓を閉め切っていても、蝉時雨が鬱陶しいほど耳に絡みつく。
夏の終わりを予感した蝉達は短い人生を精一杯謳歌していた。その力強い生命感が鬱陶しかった。
僕は不治の病におかされていた。
いつ果てるとも知れない人生を、天井を眺めながら過ごす日々。
頻繁に見舞いに訪れていた会社の同僚や友人達は、日を追う毎に憔悴する僕の姿を見るのが辛いのか、
面会謝絶の日が多くなったからか、いつしか姿を見せなくなった。
僕は夢を見た。乳白色の朝霧に包まれていた。足元に延々と赤い彼岸花が広がってた。
「秋の花にはまだ早いのに」物音一つしない静寂の中、僕の呟きだけが響き渡った。
どこまで歩いても霧と彼岸花だった。
……ジジジ、……ミーン、ジジジ、ジジジ…ミーン、ミーン、ジジジ、ジジジ、ミーン。
どこからとも無く蝉の鳴き声が聞こえて来た。僕はまた鬱陶しくなり目覚めた。
「一哉、ああ、良かった」母が泣いていた。先生や看護婦さんが僕の顔を覗いた。病室の雰囲気が慌しかった。
どうやら僕はあの世をさ迷いかけたらしい。
ジジジ、ジジジ、ミーン、ミーン。今まで聞いた事が無い程の蝉時雨だった。
僕は胸を撫で下ろすと夜の蝉達に感謝した。
次のお題は「愛撫」「パチンコ」「小数点」でお願いします。
とうとう、名古屋まで辿り着いた。
パチンコ収益だけで日本を縦断する。パチプロとして認められたい強い意志が
男をここまで動かした。数年前からパチンコ業界にもデジタル革命が訪れ、
大当たりを確実に引ける方法なんて小数点以下の確率でしか無い。
その少ない確率に体感機や集中力の全てをかけて台と格闘するプロが多い中、
この男、マサだけは全く違う方法で今日も満員のホールで、大当たりを連発していた。
マサはパチンコ台を愛撫するのだ。誠意をもって全身全霊で愛撫する。周囲から好奇の目を向けられ様が
何しようが、それがマサの哲学なのだ。大当たりがでると、お礼にジュースを
お供えし、また愛撫を始める。ハンドル部分をやさしく揉みほぐし、スタート
ホールを周辺を舌先でなめまわす。この旅始まって初の14連チャンにマサは
声を荒げて、パチンコ台に尽くした。「あーはぁ、はぁ、どう? 逝きそう? えっ、何
が欲しい?」マサが言葉攻めをしていると、背の高い男がマサの肩を叩いた。
「名古屋市迷惑条例違反の為、貴方を逮捕します」
次は、「酒」「地下」「密輸」でお願いします。
酒は人生を潤すのか?それは分からない。
しかし雨を奪った役人に人々が乾きを訴える声が聞こえる。
今ではみなが天に見切りを付け、井戸を掘って酒を得る。
そしてわれらが地下組織との一大ビジネスが始まったのだ。
1917年、合衆国連邦政府がピューリタリズムの昂揚に屈しある法案が通った。
酒類製造・販売・運搬等禁止法禁酒法いわゆる禁酒法だ。
しかし、この法案は酒を飲む事事体は禁止してない。だから私たちが少し手を汚せば
善良なる市民が笑顔で金を渡してくる。金持ちにはカナダからの密輸品を、
貧乏人には危なっかしい密造酒を。文句を言うのは例の捜査官だけだ。
その日いつものように暗がりの密造所で化学実験めいた調合を指揮していた。
当たりには刺激臭が立ち込め劇薬を作っているといっても過言ではない。
親が子供が手を出さない様、本物の酒を持たせるほどの代物だが欲しがる人間はいる。
突然が部下が耳打ちをした。役人の犬がここを嗅ぎつけ挨拶をしたいと言っていると。
私は入り口に出向き、捜査員の顔を見るとウンザリとした。肉でなつかない方の犬だ。
「だんな。いい加減金を受け取っていい暮らしをされたほうがよろしいんじゃ?」
「寝言はよしてくれ。このとおり薄給でも葉巻は吸える」
奴は葉巻をくわえライターを取り出した。
「チョット、火はまずいのでよしてくださいませんか?」
奴は意に介さず、ぷかぷかしながらほくそえんだ。
「何だ?アルコールでもあるのかね。確かにこの匂いは密造用のメチルアルコール
のきが。まあ今回はないという事をでよろしいか?そろそろ失礼する」
奴が出て行くのを、いささか拍子抜けし手見てた。奴の右手が不意に動く。
何かを店の奥に投げ捨てた捨てた。近寄ってみてみると葉巻だった、
傍らにはアルコール樽の山・・・・「お前ら、逃げろ!、爆発するぞ!」
私の密造所は存在しない事になっている酒により爆発し、組織と資金と信用に傷が付いた。
「顔に泥を塗りおってあの犬ころ、必ずおごり返してやる。
小洒落たウイスキーじゃなく喉が焼け付き頭を冒す密造酒をな!」
まだ冗長の謗りはまぬがれないな・・・製作時間1時間40分
次のお題は「小銃」「帽子」「手のひら」若しくは継続で
私はプラットフォームにある待合室で煙草をふかしていた。
冬空のしかつめらしい陰鬱な表情と、この国特有の寒さによって
自然と列車を待つ者はその場所に集まってきていた。
そこにいるある者は私のように煙草をふかし、ある者は本を読みふけり
ある者は目を瞑って考え事をしたり、あるものは冷たくなった手のひらを
息で暖め、ある者は時間を持て余して靴で地面をこつこつとならしたりして、
めいめいが列車がくるのを待っていた。寒さのせいか、
だれも口をきこうとはしなかった。そこは沈黙が支配していた。
ただ靴の音が響き渡っていただけだ。小銃の音ならなお良いだろう。
列車は2分遅れて5時15分に到着した。そこにいた人々は、それぞれ待合室を出て、
列車に向った。私は一人残った待合室で、短くなった煙草と、
その煙を相手にした。しばらくして、列車の発車音がした。
私は脱いでいた帽子をかぶり、吸殻を灰皿に捨て、待合室を後にした。
次のお題は「科学」「相克」「約束」でおながいします。
311 :
「科学」「相克」「約束」:02/11/29 22:40
私は妻といつもけんかをしていた。
理由はさまざまだが、同じように争いをつづけていた。
些細なこともあるし、深刻なこともあった。
結婚期間も長くなり、なぜ妻を選んだのかも忘れてしまうほどに。
そしてよくあることだが、私は離婚した。
相克する相手がいなくなったことに私は安堵の息を漏らし、空を見上げた。
そして数年が過ぎ、私は妻の死を人伝に聞いた。
想像するほどの衝撃は私にもたらされず、ただ情報として受け取っただけだった。
どちらも年老いていたし、死はすでに身近で日常のなかに埋めこまれたデータでしかなかったのだ。
そして私も死んだ。
最新鋭の科学技術によるカプセルのなかで私は妻と再会した。
沈黙する死のなかで私は妻と言葉を交わす。
「どうしてた?」
「どうってことなく過ごしていたわ」
冷ややかな水の底を漂うようにふたりの言葉は淀む。
「私はあなたと約束を交わしていたのを憶えている?」
私は途方もなく想いを巡らすが、はっきりとした回答は得られない。
「結婚当初の死んでも仲よくいようという言葉。私たちはけっしていい夫婦ではなかったけれど、せめて死んでからはうまくやっていきたいの」
「そうだね」
私は静かに言葉を返す。
こうしてしがらみのない世界のなかで、私たちはやっと穏やかに過ごすことを選択できた。
自分はまだ若いけれど、書いていたらこんな老後の話になってしまいました。
老後すぎるかな。
次は「青空」「猫」「1999」でどうぞ。
1999。七月。私は家族で海に出かけていた。その日は地平線から入道雲が覗く外には、
青空が広がっていたが田舎ということもあってか私たち親子だけだった。青空を横切る
飛行機が細く筋を残しているのが、手に掴めそうな程深い白色をしていた。息子は浮き輪
を回して浅瀬で波に揺られて、時々しょっぱそうな顔をして笑っている。私はパラソルの下、
そんな景色を眺めていた。
椅子にもたれていると、パラソルの端から伸びている飛行機雲の初めの方がぼんやりして
見えてきた。息子はふやけ疲れたのか、波の途切れる数歩手前で砂の山を作っていた。
唯のんびりした時間が流れていた。その時、息子の作っていた砂山の上にざくりと何かが落ちてきた。
「お父さん。猫が降ってきた」
息子の声が聞こえたので起きあがって行くと、柔らかい砂山に埋もれる子猫がいた。
「なんだ空から降ってきたのか」
抱きかかえてみるとまだ目の開かない、親の元から離れてそんなに経っていないであろう
子猫だった。
「かわいそうに」
と見上げたが在るのはさっきの飛行機雲のみ。
「この猫が大王だね」
息子の結論はこうだった。
お題継続
1999年滅びの年、全ての人類はそれまでに犯した数々の罪によりて粛清された。
僕は目を醒ました。 窓からは朝日がこぼれ、小鳥達が囀っているそれはそういつもと変らぬ朝だった。
当らない、そんな予言なんて当るわけない、そうクラスメートと話してはいた
しかし内心、ノストラダムスの予言にちょっと期待していたのだが、7月に入って既に
20日が経っているのに世界は相変わらず、平坦に流れている。
「ちえっ! つまんねぇーの!」僕はベットから降りた、しかし何かがいつもと明らかに違う
そう視線がいつもよりもかなり低い位置にあり、ちらりと視線に入った掌は……
「うわうわうわ! なんだこれ!」背中を見ると三毛模様、顔を撫でるとピンと髭の感触がした。
鏡をのぞくとそこには一匹の三毛猫がいた。
大変だ、慌てて台所に行って「お母さん、僕、僕、猫になってる!」
「何そんなに慌てているの?」と母さんも白い毛並みの美しい、白猫になっていた。
凛と耳を立たせた姿は人間であった時と変らぬ美しさだ。
「僕達、どどどどうしちゃったんだろ!?」
「なに騒いでいるんだ、英治」椅子に座っていた栗毛の猫が落ち着いた声音で、僕に言った。
「父さん?」僕は、恐る恐る尋ねた。
「ああそうだよ。」父は器用にコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいる。
時折、あちちっと言っているのは猫舌になったからであろう。
「父さん、僕達……猫になっちゃったね。」髭を情けなくたらしながら、僕は言った。
「別に良いんじゃない」そう応えたのは、父の斜め向かいに座っていたアメリカンショートヘアーだった。
「姉さん?」
「そうよ、ふああ」そういうと姉は背伸びをした。
「なんでお姉ちゃんだけ外国種なの?」僕は首を傾げて尋ねた。
「フー」そういって、威嚇のポーズをとった父が母に言った
「おい、母さん、そういえば20前程前に英会話スクールに足繁く通っていた
時期があったね。」
「あら、そんな昔の話は覚えてないわ。」母は相変わらず凛としつつ、忙しげに朝餉を作っている。
「しかしお前!」父は威嚇のポーズを崩そうとしない。
それを見ていた、ニャーっと姉が泣き出した。
僕はたまらず「学校、行ってきます」と外へ出た。
外にはいつもと変らぬ、青空が広がっていた。
お題継続で
「青空」「猫」「1999」
地平線に出くわすのである。
彼女の家の近まであと2キロメートルというあぜ道で立ち止まると、
坂の頂上に出るらしく、見事に大地が直線を描くのだ。その日は珍しく
残業があったので、電話した。今日はやっぱり行けないと断るつもり
で受話器を取ったが、すぐに彼女の誕生日であったと思い出し、「遅く
なるけれど待ってて」と言いなおした。同僚が背後で「妬けるねえ」と笑う。
あぜ道まで来た。電灯が、ない。ややもすると、田んぼに足を落とし
そうになる。それでも、暗くなったらなったで月が道を照らしたり、都合
よく車が通ったり、なんだかんだとあかりに導かれ、彼女の家にたどりつく。
初めてひとりでこの道を歩いていたときのこと、一匹の猫が僕の前に飛び出した。
黒猫だった。不吉な、と思ったが、青空に鳥を見つけ、相殺した。いつだったか
彼女にこの話をしたら、私の地方では鳥ではなく霊柩車だよといった。
僕はプレゼントに、絵本『空色のたね』を渡した。
翌朝、玄関で、プレゼントのお返しをもらった。CDだという。
何だろうと我慢できず、あぜ道で包装紙を破ると、プリンスのアルバム
『1999』だった。僕らが初めて出会った年だ。振り返ると、地平線が見えた。
次は「パラダイス」「カフェ」「ポーキュパイン(英ヤマアラシ)」で。
2行目、「彼女の家の近まであと」 ではなく、「彼女の家まで」です。ミスです。
それと、「ヤマアラシ」は、動物として扱っていただくなら、「山嵐」でも可です。
316 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 02:21
「パラダイス」「カフェ」「ポーキュパイン(英ヤマアラシ)」
その日、俺が行きつけのクラブ「パラダイスカフェ」の重たいドアを開けたのは、
日付が変わってから、きっかり五分が過ぎた頃だった。
重たい一枚目のドアに反して、二枚目のドアは見た目は幾分軽そうに作られていた。
ドアを一定のリズムで叩くと、覗き窓から二つの目が見えた。
浅黒い肌。とても日本人とはいえない肌の男は俺の姿を確認すると、ドアを横に引いた。
一見、押したり引いたりするドアに見えるが、横に引かなければ開かないドアだった。
覗き窓を開けた瞬間に響いてた音が、さらに大きな音に鳴り響きだした。
俺がフロアに姿を見せると、何人かの奴等が俺を待ってましたと言うように見つめた。
どいつもこいつも不健康そうに見えるが、目だけは何を求めてるような顔をしてた。
一人目の客が、カウンターで座ってテキーラを飲んでる俺の場所に来たのが、俺が店に入ってから、
きっかり七分の時間が過ぎた頃だった。「あるか?」話しかけて来た男はそう聞いた。
俺が黙ったまま一気にテキーラを煽ると「ポ−キュパインはるかって聞いてんだ?」
日本語でヤマアラシ。飛び切りの麻薬で、飲んだ瞬間に肌が敏感になり、ヤマアラシのように毛が立つことから、
いつしかそう呼ばれてる。上等すぎて、エクスタシーなんか目じゃない。
もちろん、能の溶かし方もエクスタシーなんか比じゃない。俺が五粒取り出すと、五万の金を払い、
男はそのままトイレに消えた。客の顔は覚えてないつもりだが、あの男は今日あたりを境に、もう見れない気がした。
また一人日本人を壊してやった。俺の父親を追い込んだ日本人を。
俺はまた、テキーラを注文した。
317 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 02:22
お題を忘れてしまったです。
「クラブ」「日本人」「麻薬」で。
318 :
Simon:02/11/30 02:48
パインと出会ったときのことを、僕はまるで覚えていない。
まだイギリスに住んでいた頃、山登りに行った父がその途中崖から
落ちて気絶しているヤマアラシを介抱しそのまま家に連れ帰ったオスの
ヤマアラシが彼だった、というのだが、どうしてもその時の映像が頭に浮かばない。
だから僕にとって彼の存在は空気のように自然で、生まれたときから離れたことの
ない体の一部のような感じだった。
ちなみにパインという名前はヤマアラシの英語読み<ポーキュパイン>からとった
ものだ、と父は言っていた。
イギリスにいるときも日本に帰ってきてからも、パインは当分の間僕の唯一の
友達だった。カフェ「パラダイス」のマスターが僕の2番目の友達になって
からは、僕はパインをそこへ連れていったりした。最初は怒られるかな、と
思ったりしたけど、マスターは微笑しながら彼の喉をくすぐる、という行為で
受けいれてくれた。それ以来、彼は「パラダイス」の常連客となった。
僕がコーラを飲んでいる間、パインはマスターが皿に注いでくれたコーヒーを
なめていた。僕はまだコーヒーが飲めなかったので、少しだけ彼に嫉妬した。
ある日、「パラダイス」のドアに<閉店>の掛札がかかり、マスターもどこか
知らない場所へ去ってしまった。ちょうどパインがあまり動かなくなった頃だった。
その晩、泣きつかれて眠った僕は不思議な夢をみた。
僕とパインが他の客がいない「パラダイス」のテーブルに
座っていると、突然テーブルが一点の
回りを旋回するメリーゴーランドのように動きだしたのだ。
よく見ると周りの机も同心円上に回っている。その光景に色
とりどりのスポットライトが無数にあてられ、僕たちには回りの
景色が完全なる闇に見える。その闇の向こうでマスターがこちらをみて
笑っている・・・・
目を覚ますと朝だった。僕はパインに目を向けてハッとした。
彼は動かなかった。その目は堅く閉ざされ、もう2度と開くことはなかった。
微動だにしない彼の抜け殻を持ち上げたとき、僕は自分に降りかかる暖かな
時間が途絶えたことを知った。
次は「樽」「汗まみれのシャツ」「いちご」でどうぞ
320 :
Simon:02/11/30 02:51
>318
「パラダイス」「カフェ」「ポーキュパイン(英ヤマアラシ)」
の御題で書いたものです。
書くのが遅くてスマソです
ニヤニヤ(・∀・)
322 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 02:59
ブルネイのクラブで麻薬買いますた!!
いんやぁ〜外国とは思えないずら。
日本人ばっか。ギャル男にルーズソックス女までいるずら。
こんな香具師らは、テロ爆弾でぶっ飛ぶがいいべ。
あう、駄目だべ〜〜〜〜!!!!!
おいらが逃げてからだべさ〜〜〜!!!
或怪駄け? 待てず〜〜!!!
うぐぅぅぅ、爆破ずら〜〜。
DQN日本人、まとめてアボーンずら〜!!グベボベベ、うひぃ
御題 継続
323 :
Simon:02/11/30 03:15
「クラブ」「日本人」「麻薬」
クラブにいる日本人は私だけだった。
みんながちらちら私に目を向けてきた。或いは蔑みの、或いは敵意の視線だった。
正直あまりいい気はしなかったが、そこだけが私が存在できる唯一の場だった。
クラブの中では様々なことがなされていた。一方で男同士の殴り合いが
あると、他方で人目も憚らず乱交パーティーじみた光景が繰り広げ
られている。その中の半数くらいの人間は麻薬の常習者にみえた。
あるとき突然怖くなった私は、思い切って外への扉を開けた。
光がなだれ込み、都会の雑然たる風景が視界に飛び込んでくる。その
無機質さが私に一種異様な恐怖を与えた。
私はドアを閉める。やはり私の居場所はそこしかなかった。
御題は318のでお願いします
324 :
318の「パラダイス」「カフェ」「ポーキュパイン」で:02/11/30 03:20
「ポーキュパイン?」
秋を感じさせる十月の昼下がり。
故姿三四郎の子孫が経営するカフェショップで彼女は訝しそうに首をかしげた。
僕はハミルトンの「ロストパラダイス」の3巻にでてくる羊飼いの詩を思い出そうとしていた。
ポーキュパインとロストパラダイスの羊飼いは似ているのだ。
思ったことを順序構わず口にしてしまうのが僕の悪い癖だ。
僕と付き合ってから彼女は怒りっぽくなった。
今も僕の次の言葉を待っている。彼女と初めて出会ったときもこんな感じだった。
ただその時は彼女はほんの数秒間待たされることが後にどれほどの苛立ちを覚えるかなんて知
らなかったし、もちろん僕も彼女がおとなしそうな外見と違って酷く捻じれた癇癪持ちだとは
しらなかった。
目の前の彼女はもう一呼吸する間も許さないだろうということが眉毛の力加減で窺える。
彼女があと息を吸い込むまでに僕は筋の通った説明をしなければならない緊迫した状況なのだ。
「おいしそうじゃない?」
「やしの仲間」「バタフライ」「人面犬のジャンプ力」
「日本人の方ですか?」「何? 聞こえない」
俺はアムステルダムにあるクラブ"rege"で今夜の生け贄を探していた。
ダウンタウンno.1プッシャーピカソのコークの犠牲者を。ピカソのコークは
あらゆる麻薬を常時入れている俺でも、ハイになっちまう。大麻とコークを
まぜたジョイントを吸ってするセックスは、どんな物よりも最高で、一度味わえば
二度とわすれる事はできないだろう。「そうだよ。日本人だけど、飲む?」
短気留学か友達を訊ねてきたのか、日本の匂いをプンプンさせて、もっとも
危険な俺に声をかけるなんて、なんて不幸な女だ。酒でものませて、いつもの
コースといくか。女は俺がさしだしたジンライムに口をつけ、上目づかいで俺を見上げてる。
あと2時間もすれば、女は俺の部屋で股を開き、ピカソのコークにとろけるだろう。
そして女がアムスにいる間中、ピカソの手下である俺からそのコークを買う事になるだろう。
さて、そろそろ女にも酒がまわってきた頃だろうし、トリップの誘いでもするか。
「ねーハイにならない?」女はそういってピカソの印がはいったパッキンを、
俺に見えるように袖の下から覗かせた。どうやらピカソは日本人が好きなようだ。 了
次のお題は「お好み焼き」「ロシア」「パンティー」でお願いします。
326 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 03:22
>>323そこってドッチ?ドアの外?内?
それと318の御題ってんなら律儀にコピペしる!
「樽」「汗まみれのシャツ」「いちご」
327 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 03:24
同時ぃ!!
>>1のルールにより、
「やしの仲間」「バタフライ」「人面犬のジャンプ力」だぁ!!
おっとカブリ。
お題は324さんの
「やしの仲間」「バタフライ」「人面犬のジャンプ力」で。
329 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 03:29
うわあぁぁぁおおぉ!!!!!
こりゃ〜連作モンの様相を呈してキタ──────────!!!!!!!
簡 素 人 の 腕 の 見 せ 所 だぁ ────────!!!!!!!
330 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 03:35
Å
/ \
( )
ノ( * )=3 おまいらオチケツ
ノ ωヽボン
このスレは作者以外観覧者は一人もいません。
誰も自分の作品しか読まないオナニースレなので、
簡素ももちろんつきません。読む人が居るとしても、この広い日本で
たった一人か二人です。この事実を認識し、頑張って三語で時間を使って
いこう。
332 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 03:48
>>331 感涙っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
眠れない2ちゃんねらがウロウロしてるようだね。
3語スレは、創文板の良心です。荒らさないで!
荒らすつもりはありませんが、本当にオチもないような素人の駄文
を誰が読むのだろうと思っているのだろうか?
自分の事を考えてください。他人の作品を読んでも苛立つだけでしょう。
よってここに投稿した作品を読む人は運がよくても前後の二人と簡素人一人。
合計三人。多くの場合が0人です。その事実を認識して、楽しい時間つぶし
をしましょう。
335 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 04:05
>>334オチがないって、何番でつか???言いヅラけえば裏スレでどーぞー!!!!!!
336 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 04:10
>>334しっかしよー、遠慮のねー香具師だねえ、おたく。素人に決まってるやろがー、
こんなんとこ書く香具師はー。
>>334は感想スレでケテつけられたのが気に食わなかったんですよ
ケチ、ね。一応。
339 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 04:19
んあ? ちと考慮さしてくりい。334は、簡素で低評価された???
だから荒れてんのけ????
340 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 04:39
337さーん、アナタが334でつねーーーーーー!!!!WWWWWW
違うってばw
342 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 04:55
お! では、>337
駄文って、どれでつかーーーーーー!!!!!!
だから違うんだってばw
344 :
名無し物書き@推敲中?:02/11/30 05:01
ふがああ
裏に逝こう!!!!!!本刷れでこの糞レス連打はイカーーーン!!!!!
創作文芸板もそろそろ終りかなぁ。
347 :
Simon:02/11/30 13:06
>326
コピペサンクス!!でもわかりにくかったみたいだから
御題は324さんの
「やしの仲間」「バタフライ」「人面犬のジャンプ力」
でお願いします。スマソ
そこってのはドアの内のことを言ったつもりでした。
分かりにくくて再びスマソ
348 :
名無し物書き@推敲中?:02/12/01 00:38
その刹那、高島正は白銀の眩い稲妻を見た。
その白い閃光が抽象的な平面を描きながら視界を遮る。
無論、高島正とて、何かしらの不吉というものを予感していなかったわけでもなかった。
ただ、そこへ露わになった顔……。
そこへ高島正は注視せずにはいられない。
なぜならこれはまるで
――確かに、真紅に血走るその瞳は正気の沙汰とは思われぬのが
その像は鏡のように、今の自分の本性を捉え、透かし出していたかに感ぜられたのだ。
不意に、高島正は首筋を凍りつかせて辺りを振り返った。
――何者かが吼えている。狂気の綱渡りを繰り広げる気狂いの声だ。
「何者だ!」
その時、高島正が眼にしたのは、
――幾分不穏に揺らいでみえないでもないが
いつも目にしてきたのと寸分違わぬいつもどおりの自らの自室の、埃くささも否めないただの日常の気配に過ぎない。
にもかかわらず、狂気の絶叫がその日常をずたずたに切り裂いて何かが生まれ始めているのを感じさせずにはいないこの焦燥感。
マンネリズムのうねりの中に目に捉えられぬ特異なる何かが、隙間風のごとく噴出している。
――それは冷たく、また同時に黒い、一種異様ともつかぬ、何か別な現実があるときふと垣間見せるような、マンネリズムの外から偶然その姿を捉えられ、混入してくる何だ……。
ふと、高島正はそのようなことを呟いている自分に気がついた。
くわえタバコの吸い殻を灰皿にねじ込むと、彼は目の前の一組の男女に視線を浴びせる。
それはペニスのような逞しい鼻を持つ天狗と、
ヴァギナを思わせる縦に裂けた唇を持つ情婦であった。
二人はまるで口づけでも交わすかのように抱き合い、
互いの鼻と口を一心不乱に擦り付け合う行為に耽っている。
高島正はその様子を冷めた目つきで観察した。
二人が熱く火照った互いの顔に、熱く乱れる吐息を吐きかける様子は、先日目にした尿道に針を刺す芸人の見せた芸ほどまでとまでは行かぬまでも、ある程度彼の心を慰めるに足るものであった。
――果たしてこれは、この奇形児たちの交尾なのであろうか。
正はそのことを確かめてみたい誘惑にかられ、どうしてもその誘惑を禁じえない。
「ちょっとキミ」
高島正は天狗男を呼びつけると、おもむろに自分のズボンのベルトに手をかけた。
すれ立てたの誰よ。
また層になっててゲイがない。
350 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/12/01 00:49
「やしの仲間」「バタフライ」「人面犬のジャンプ力」
彼は娘を溺愛した。望むものは何でも作ってやった。
彼は優秀なロボット技術者だった。
家は、まず、娘の好みの動く人形であふれ返った。
「帰ってきた、帰ってきた」と彼と娘を迎える人形達。
人形の次には、おびただしい量の洋服と着物が部屋を満たした。
そんな娘も、嫁入りを明日に控える。
「あれも、これも、みーんな箪笥のこやしになってゆくんだねえ」
「ごめんなさい、お父様」
「何をいうんだ、ははは」「くぅーん、くぅーん」
別れを惜しむ人面犬のジャンプ力が、彼女を驚かせる。
一体の人形が彼にそっと囁いた。椿姫…マダム・バタフライの人形だ。
「心配要りませんわ。あの娘と花婿は住む世界が違う。きっと戻ってきますよ」
「うん」と彼は答える、人形に。
「娘には悪いが、どうしてもそう思ってしまうねえ…」
とは言いながら、初夜に向けての「娘」の最終調整に余念のない彼だった。
※久々で銚子がでないねえ…
次のお題は:「樽」「汗まみれのシャツ」「いちご」でお願いしまふ。
ああ遅れてる。「箪笥のこやしの仲間」も消えている。失礼しました。
>>350 人面犬のジャンプ力は笑った
あと星新一の文章に似てると友達がいってた
353 :
屠所の羊制作委員会B:02/12/02 10:05
354 :
「樽」「汗まみれのシャツ」「いちご」:02/12/02 21:14
ウィスキー職人が今年のモルトを詰め終えて樽を軽く叩く。
汗まみれのシャツが風で冷やされる。
この樽を開けて飲めるのは何年後のことになるやら。
「俺は飲めねえな」
唇の右端を軽くあげて男はつぶやく。
おもむろに男は廻りを見渡して確認すると、ポケットからペンを取りだしてすばやく樽の横にサインをする。
男はきょうで定年なのだ。
ちょっとくらい自分の足跡を残しておきたくなったのだろう。
少し満足そうに男はペンのふたを閉め、踵を返して倉庫をあとにする。
100年後また別のウィスキー職人が潰れる会社の倉庫から最後の樽を運びだす。
そして男は樽の横に自分の筆跡でのサインを見つけてしまう。
思い当たるふしもなく、ただ頭を悩ませるが答えがあまりにもありえない予測にしか向かないため混乱を深めるばかり。
それでもその樽に男は運命を感じてしまう。
何かを語りかけているような。
仕事の合間にロッカーに戻った男は、かばんから辞表を取りだす。
しばらく見つめつづけるが、意を決して握りつぶす。
実家のいちご農園を継ぐはずなのだが。
誰にも知られることなく紙屑をゴミ箱に捨てて、男はまた仕事に戻る。
ウィスキーが飲みたくなってきたな。
次は「左手」「海」「ピーナッツ」でどうぞ。
「左手」「海」「ピーナッツ」
ドクターズンドコは左手を高々と掲げた。一粒のピーナッツが親指と人差し指に挟まれていた。
「諸君、ついに完成した。これで人類は私のものだ」ドクターズンドコは居並ぶ手下達を見渡すとガハハハと高笑いした。
ドクターズンドコはピーナッツに仕込んだ超マイクロチップで人類を意のままに操ろうと目論んでいた。
彼はそれをズンドコナッツと名付けた。
ドクターズンドコは地図にも載っていない南海の孤島に悪の帝国を築いていた。
「さあ、このピーナッツを船に積み込むのだ」前身黒タイツの屈強な手下達は
木箱に詰められたズンドコナッツを船に運んだ。
「目標は日本。先ずは千葉県だ」ドクターズンドコは日本のピーナッツ生産地千葉県を目指した。
千葉県産のピーナッツにズンドコナッツを混入させる作戦だった。
途中、嵐に遭遇し、海は荒れに荒れた。船は木の葉の様に波に弄ばれた。ズンドコナッツを詰めた木箱は何度も波を被った。
「ズンドコナッツを守るのだ」ドクターズンドコは叫んだ。
……嵐は去った。晴天の下、甲板には水を吸ってふやけたズンドコナッツが山と積まれていた。
ドクターズンドコは臍を噛んだ。これでは売り物に混入出来ない。
「くそーヤケ食いだ」ドクターズンドコはナッツの山にダイブした。手下達も一斉にそれにならった。
数日後、海上保安庁の巡視船が不審船を発見した。船内捜査の結果、乗組員全員の死亡を確認した。
死因はピーナッツを喉につまらせた窒息だった。
次のお題は「日記」「刺身」「遊園地」でお願い致します。
356 :
Simon:02/12/03 14:44
「日記」「刺身」「遊園地」
死に行く少年があった。彼は生まれたときから病弱で、それまでの人生の大半を
病院と自宅の往復で過ごした。どちらかというと入院している時間が家で過ごす
時間よりも長かった。だから自分の死が宣告されたとき、両親がせめて自分の家で
最後を迎えさせてやりたい、と主張して彼を自宅に引き取ったことに、彼は奇妙な
違和感を憶えていた。彼にとっては両親のいる家よりも白い病棟の方が見慣れた、
自然なもので、「自分の家」といった感じだったからだ。
彼はほとんど外の世界を知らなかった。病院へ向かう車の中で窓越しに見る決まった
景色が、彼の知る外の世界の全てだった。
常に外界に憧れていた。いつか青空の下両の脚で大地を駆け抜け、様々なところへ
行き、様々な景色を見て、様々な人と触れ合いたい、と思っていた。
だがそれも、もはや叶わぬ夢となってしまっていた・・・
自宅のベッドに最後の帰宅を果たした日から、彼は日記を書き始めた。その
中に真実は一つも記されてなく、全てが彼の空想、夢想に埋まっていた。
あるときは彼は猟師として大海原に進出し、クジラよりも巨大な魚を捕獲し、それを
刺身にして仲間達とたらふく食べた。
あるときは緑溢れる草原で、親友となった馬の背に乗って大地を駆けていた。
馬はどこまでも走り、ついには地平線すらも越えて、空の蒼を蹴るに至っていた。
またあるときはまだ見ぬ彼の恋人と共に遊園地にきていた。地上を見下ろす観覧車
の中で、2人は最初で最後の口付けを交わす・・
これらのことが記された白いノートは、他の人間にはどうあれ、彼にとってはまぎれも
なく日記であった。
そしてある日、彼は日記の中で自らの死を描いた。そして最後に自分の大切な
者達―猟師仲間たち、草原の馬、口付けを交わした恋人、そして病院の先生や両親
など―に対して、黒い文字で別れを告げた。書き終えたあと、彼の目からとめどなく
涙が溢れ出ていった・・・
その翌日、彼は短い生涯を終えた。死したその顔に浮かんでいたのは、悔恨ではなく、
悲しい安らぎだった。
次の御題は「牛乳パック」「螺子」「文庫本」でお願いします
会社の昼休み、私は公園で文庫本を読みながら昼食をとっていた。
朝、頭の螺子が一本抜けた上司に理不尽な叱責を食らったからか、
今ひとつ読書に集中できなかった。それは今日に限った事ではなかった。
日々重なる上司の嫌味に私は不満を内に刻々と募らせつつあった。
いらつきは絶頂を向かえ、私は読んでいた文庫本をグシャっと折り曲げ、立ち上がった。
「こんな会社、止めてやる!」
私が力んだその時、すぐ近くをその上司が歩いているのが目に入った。
隣には社内で指折りの人気OLを連れていた。私はほくそえんだ。
どうせ会社を止めるのだ。せめてもの仕返しにと、私は飲んでいた牛乳パックを手に取り、
その上司に向かって憎悪を込めて全力で投げつけた。
上司に当るはずの牛乳パックは、孤を描きながらカーブし
牛乳が飛沫を撒き散らし、そのままゴミかごの中へホールインしてしまった。
すぐ側で見ていたホームレスの男がわあ!とばかりに拍手をあげた。
上司は気付くことなく立ち去り、会社を止めると決めた私の決心も萎えていった。
実に面白くない一日であった。
次のお題は●「虎」「ゴミ箱」「用務員」●でよろしくお願いします。
とーとつですが、ここでキングゲイナーをどうぞ。
ミヾ_ヾ__
彡 / ヽ
"/ __《_》_|
ヽ(____>
| i iハル)))〉 キン キン
ヽiリ゚ ヮ゚ノijへつ キングゲイナー♪
√ ヽ_ .|
/│ ヽ丿 ))
/ \ |つ
/ ヽ__ノ
く │
ヾ=====┘
し し
それではひきつづきスレをお楽しみください。
359 :
名無し物書き@推敲中?:02/12/04 21:32
●「虎」「ゴミ箱」「用務員」●
「捕らぬ狸の皮算用って知ってる?」
「虎がなんだって?」
「なんでもない」
「まだ結果も出てないのに、結果出た先のことを考えちゃうってことだろ」
「聞こえてんじゃん」
「一言でも聞こえてないって言ったか?」
「言ってないけど。ねぇゴミ箱とってよ」
「ほい」
「サンキュー。昔さぁ、知ってる?」
「いや知らない。ていうか分からない」
「・・・・・・」
「ごめん俺が悪かった。何?聞きたいな」
「ホントに?」
「マジで!未来の妻の名に誓って」
「・・・・・・」
「ウソウソ。マジでふざけないから」
「うん。昔ね私、用務員さんにいたづらされたの・・・・・・・」
「え?マジで?ていうかいつ?」
「昔」
「バカ、どれくらい昔かってことだよ。いつ?」
「えっと小学生の頃」
「なになに?なにされたの?ていうか、え?」
「いえないよ・・・・・・」
「なんで?ていうかそいつ殺していい?え?・・・・・・」
「ウソよ(笑)そんだけ心配してくれるんだ。少し安心したよ」
「なんだよ。まぁ何も無かったなら良いけど」
とある日曜日の昼下がりにあった実話なんだが、僕は恐くて聞けない。
本当にそれは無かったのか。僕の態度見て、彼女が嘘をついたんじゃないのかって。
お題は「熊」「鉄砲打ち」「商人」
僕はちょっと名の知れた鉄砲打ち。でも熊なんだ。
鉄砲打ちの熊なんて支離滅裂だって?
そんな事ない。他の熊より頭が良くて、ちょっと手先が器用なだけさ。
相棒に気の弱い狐がいるんだ。コイツ、全然使えないけどね。
今日もいい獲物がいないか森の中を探索したんだ。
そしたら交尾中の熊のつがいがいてさ。ラッキーと思ったよ。
相棒の狐が同族はヤバイって!って慌ててたけど、ンな事関係ない。
狙いを定めて、三発程、雄熊の頭に打ち込んだら、丁度イッてる最中だったらしく、
だらしの無い恍惚の顔しながらそのまま仰向けに倒れた。まだアソコから精液が流れてて、
僕は狐に、雄としての使命をまっとうして死ねたんだから幸せ者だね、と言ったら
狐は既に泡を吹いて気を失ってた。雌はいなくなってた。
よくしてもらってる密売人に毛皮を売ろうとしたら、高すぎる!って拒まれちゃってね。
そしたら、さっきの雌熊が復讐のつもりだろうか殺気立って襲い掛かって来たの。
三発打って、一割増でこれも付けるよっていったら、しぶしぶ買ってくれた。
相棒の狐が冷や汗をダラダラながして、ヘラヘラ半笑いでこう言った。
「君って商人だね」
次のお題は●「パソコン」「愛撫」「爆発」●です。
Oさんの通うパソコン教室は少人数制で、他の生徒は3人しかおらず、Oさんが愛撫された時には1人は風邪で
休み、Oさんの列には先生以外誰も座っていなかった。先生は後ろの他の生徒にばれないように
マウスのコロコロでOさんの乳首を刺激し、キーボードを使って卑猥な言葉を画面に
表示させて、Oさんを愛撫した。Oさんは気が強い方ではなかったが、画面に夫の一物を馬鹿に
するような言葉が出てきた所で、大声を張り上げた。「いいかげんにしろよ!」そう言い放つとOさんは鞄をとって教室を飛び出した。
「Oさん、Oさん」追ってきたのはテロリストとして活躍していた、生徒のミハエル・ソルガベリッチ君だった。「どうしたの?」
「いや、先生が私を愛撫するの」「そうか、それなら俺も暇だし、何か復讐しない?」「いいわね、でもどうやって?」
「モサド時代によくやったんだけど、パソコンにある言葉を打ち込むと爆発する爆弾をしかけるのさ」「ある言葉って?」
「なんでもいいんだよ、使いそうな言葉だったらね。一時間もあれば仕掛ける事ができるから、そこの喫茶店にでも入って待っててよ」
「うんわかった。でも気をつけてね」ミハエル君は最後にOさんの肩をぽんと叩くと軽快な足取りで教室に戻っていった。
「おまたせ」Oさんが喫茶店で読んでいた小説の世界にはいりかけた所で、ミハエル君は店に入ってきた。
「すいませーん、とりあえずホットで」「で、どうだったの?」「ばっちりさ。運が悪ければ今日にでも爆発するだろう」「で、キーワードは何にしたの?」
「逝ってよし」「そんなの2ちゃんねらーしかつかわないわよ」その時窓から見えるパソコン教室が入ったビルがふっ飛んだ。ミハエル君はOさんにウインクして、
「世の中全員2ちゃんねらーさ」次のおだいは「感覚」「監督」「観客」でおねがいします。
「パソコン」「愛撫」「爆発」
パソコンに嫌われているのかも……、そう思わざる得なかった。
我が家に新しいパソコンが届いたのは、わずか3分前だ。
「今度のは爆発とか起こさなきゃいいな」
弟はパソコンを大きな箱から取り出しながら苦笑する。
「あんなこと二度と起こらないと思うよ。……むしろまた同じだったら、訴えてやる。ねぇ、さくら」
愛撫され、膝の上で寛いでいた愛猫のさくらは、私の言葉を無視して膝から降り、ゆっくりとパソコンに歩み寄った。
普通の猫なら新しいものに警戒を示したりするが、さくらはそんなことお構いなしに、台の上に乗せられたばかりのパソコンのキーボードに座ってしまった。
気持ちよさそうに大きく伸びをしてから、小さな体をさらに小さく丸める。
……可愛くない猫め。
しかし、そう思ったのは私だけではないらしく、迷惑そうな顔をした弟はさくらを無理矢理キーボードから剥がし、部屋の外に出してしまった。
そこまでするのはちょっとかわいそうな気もしたが、今の私は、パソコンを早く起動させたいという気持ちの方が強かった。
前のパソコンの寿命はたった5秒足らずだった。
もともとが欠陥品だったらしく、スイッチを入れたとたん、パソコンは焦げ臭いにおいを発しながら、灰色の煙に包まれていった。
――ご臨終である。
メーカーの人はへこへこと面白い動きをして謝りながら、パソコンの交換を行ってくれたが、私たちの間にはトラウマが出来てしまった。
新しいパソコンのスイッチを入れようとしている弟の手が小刻みに震えている。
しかし、今度のパソコンは何の問題もなく立ち上がり、異常な点も見つからなかった。
私たちはほっと一息つきながら、どっちが先にパソコンを使うかで争っていた。
しばらくして……。
突然、パソコンが変な音を立てる。
驚いてパソコンの方を見ると、画面が真っ暗になっており、キーボードの上では、何とさくらが伸びをしている最中だった。
「にゃ〜」と世にも気持ちよさそうに鳴きながら……。
「――ご臨終です」
襖の外から侵入してくる風は、9月らしからぬひんやりとした風だった。
☆ここまでひどくは無いが、買って三ヶ月目にPCを壊し、修理から帰ってきて3週間後再び壊れた経験が……。
次のお題は「三毛猫」「教科書」「父上」でお願いします。
363 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :02/12/05 02:23
トリップ入れ忘れた……。
かぶってしまいました……すみません。
次のお題は『感覚』『監督』『観客』でお願いします。
……4時間レス無くて、1分差でかぶるというのは(w
深夜、僕は紙袋から、丹精込めたお手製の「玩具」を取り出すと、
ガムテープでグルグル捲きにされた先からヒョロンと伸びる紐に火を付けた。
コンビニのガラス扉を押し開け、それを店内に投げ込む。
「玩具」はレジを飛び越え、壁にワンバウンドして床に転がった。
一瞬驚いたレジのアルバイトが呆気にとられる。
僕はすぐさま踵を返し、コンビニを出た。
後ろでボンと、爆音が一つ、カウンターは辺り白い煙で覆われていた。
続いて沸き起こった切り裂くような悲鳴。
僕はその様を横目で見、唇の端に笑みを浮かべ、夜の暗がりにまぎれた。
僕の作った「玩具」の出来の程は、翌日のニュースが一日中トップ項目として取り上げていた。
結果から言うと、店員一人が死亡、他はかすり傷程度だったそうだ。
とにかく自分のした事が、一日中世間で取り上げられているのに小気味良かった。
まさか僕みたいな大学生にも、本当にあんな物が作れるとは。
パソコンのディスプレイを眺め、そう一人ごちていた。
そんな僕が次に目を付けたのは、もっと高度な、携帯電話で遠隔操作し爆破するタイプ。
初心者の僕にはレベルの高い作業であったが、最初の成功が自信を後押したのだろう。
サイトの解説通り作業を進める。
ああ、僕のした事を中心にマスコミが、世間が大きく反応する。
今度の「玩具」は、一体どんなニュースを作り出すというのか?
恍惚としながら、優しく、優しく、さらさらした火薬の粉を愛撫した。
さあ、後もう一頑張り。
「はい、こちらリポーターの大原です。
爆発のあった部屋から見つかった遺体は、この部屋に住む19才の大学生と判明。
現場からは火薬の材料やメモなどが見つかっており、
今週起きましたコンビニの事件との関連が注目されています―――」
『監督』『感覚』『観客』
「あと三十分」私は腕時計から顔を上げると、教室の奥まで聞こえる様に大声を出した。
一般教養『哲学概論』の後期試験。この試験の結果如何に進級がかかっている生徒もいる事だろう。
水を打った様な教室には、解答用紙に書き込む、カリカリと言うペンの音だけが響いていた。
私は品川大学文学部哲学科の助手になってから、何回こうして試験監督をやっただろうか。
助教授への道は中々開かなかった。
「うん?」私は教室の雰囲気に突然違和感を覚えた。
「カンニングか」長年試験監督を務めた私の感覚がそう訴えていた。
振り返ると、舞台の上の俳優を熱心に見詰める観客の様な眼差しの生徒が何人かいた。
しかし、私に向ける眼差し以外不審な所は見受けられない。
時間が経つにつれ、私に向けられる視線の数は明らかに増えて行った。
「どう言う事だ」私は落着かなかった。
「片山さんって、やっぱりぬけてる」私の方を見て、クスクスと笑いながら呟いた学生がいた。
私は、自分の背中に解答用紙が貼られていた事など知る由も無かった。
次のお題は『王子様』『粉雪』『迷子』でお願い致します。
バスから降りると、ガラスのように冷たい空気が僕を包こんだ。
スノーボード雑誌の取材の為、新宿から5時間の長旅だった。
まだシーズンが始まったばかりと事もあってか、僕の他には綺麗な金色の髪を
した白人の青年と、二組のカップルしか乗客はいなかった。
「お客さん、荷物は? 駄目だ通じないか」バスの運転手が、必死になって
白人の青年に説明しようとしていたが、すぐに諦めてまたバスに戻っていった。青年は荷物を持って
いなかった。現地で働くプロライダーなのだろうか、僕は運転手からバッグを
受け取り、一人自動販売機の光に照らされた休憩所に向かった。休憩所といっても、六畳くらい
の広さの小屋にテレビとストーブが置いてあるだけで、朝が来てホテルがあくまでの
時間を潰す場でしかなかった。僕はストーブに火を点け、タバコを吸った。しばらくすると二組の
カップルも部屋に入ってきた。彼等は僕に軽く会釈し、僕はタバコを消して、木わくの窓の外に
目をやった。青い目をした青年はいったい何処にいったのだろうか? と暗闇を
見ていると、青年は積もった粉雪の上で横になり、空に瞬く星をながめているではないか。
僕は、青年の所に行って、部屋に連れてこようか考えたが、結局放っておく事にした。
おとなしそうなカップルの女が、テレビをつけると、静かだった部屋が一気に賑やかになった。
「今日未明、スウェーデンの王子、リチャード・エリクソン氏が宿泊していた、ロイヤルホテルから
姿を消しました」ブラウン管にはさっきの青年の顔が映っている。「あっ、この人、さっきバスにいた人じゃん。
王子様だったの」うるさいほうのカップルの女が言った。僕は王子がいた窓の外に目を戻したが、そこに青年の姿は
無かった。迷子にならなければいいが……。次のお題は「クリスマス」「赤」「黒」でお願いします。
「クリスマス」「赤」「黒」
凍ったような深い暗青色の空気の中に、赤や黄色やオレンジの明かりが浮かび上がている。
小さいけれど暖かな光は、時々点滅しながら、夜空の星々とはまた違った美しさを見せていた。
師走の雑踏の中、町の中心にすえられたそのツリーの光を一人の少年が恍惚とした表情で眺めていた。
「きれいだなぁ・・・・・・」
微かに漏れた少年の感嘆の吐息は、雪のように白く立ち上る。
日は一歩ずつクリスマスへと近づいていたが、少年の周りにはこのツリー以外クリスマスらしいことは一つもなかった。
それは煙突の煤で黒くすすけたシャツと少年の背よりも大きなブラシが物語っている。
少年はクリスマスにプレゼントというものを一度ももらったことがなかったし、ほしいと願うことはあまりにも高望み過ぎることもわかっていた。
それでも――少年は、唯一つだけ、プレゼントにほしいと想うものがあった。
それはツリーの頂上で金色に輝いている大きな星だった。
「サンタクロースさん、どうかあの星を僕に下さい」
何度そう心の中で願ったか・・・・・・。
少年の生活は暗く苦しいものだったが、その金色に輝く星が少年の心を少しだけでも温かなものにしてくれると信じていた。
数十年の月日が流れ、今年も再びクリスマスが訪れた。
あの時の少年の願いが叶ったのかは、今となってはもうわからない。
しかし、真紅の衣装を身にまとった老人が家々に飾られたツリーの光を見る時の表情は、あの時の少年の恍惚とした表情とまったく同じものだった。
☆私も小さい頃、広場なんかに飾ってあるツリーの頂上の星がほしかったなぁ……。
いや、今でもほしいなと思う時はありますけどね。
お題は継続でお願いします。
フサフサの白髭を夜風になびかせ、男は寝静まった住宅街の屋根を歩く。
その肩に大きく膨れた袋を背負って。
と、一筋のスポットライトが、彼の赤服をくっきりと照らし出した。
その光は突如現れた黒塗りのヘリから伸びていた。
「おい、そこのサンタ止まれ!」
拡声マイクから男の声が響く。
「なんですかぁ〜?」
足を止め、振り向いたサンタは大きな声で聞いた。
「今日、覚えの無いプレゼントが届く怪事件が相次いでる。あんた心当たり無いか?」
よく見ると、ヘリの側面にはP.D(ポリス・デパーメント)の文字が。
「たぶんそれは私かも知れませんねぇ。それが何か〜?」
「ちょっと署まで来ていただけませか」
「なぜです?今日はせっかくのクリスマスですよ?プレゼントを配らなくては」
サンタがたじろぎながら答える。
「プレゼントだからって、薬中患者に覚せい剤はないだろ」
サンタは沈黙した。
「ああ、そういえば」
拡声マイクの男が続ける。
「トナカイはどうしました?」
少し間を置いて、サンタは照れたように答えた。
「リストラしました。不況ですから。」
次のお題は「囚人」「花束」「感染病」でお願いします。
「囚人」「花束」「感染病」
370号がその花束に気付いたのは、どさっという音を聞いたからだった。
格子の向こう、視界の端に、薔薇の花びらが見える。一瞬、血かと思った。
370号は、なぜ床に手があるのか、なぜその手が薔薇の花束を握っているのか、
わからなかった。背を、冷たいコンクリートの壁にもたれつつ、想像をめぐら
したが、わからない。立ち上がり、格子に近づくと、かすかな声が耳にはいった。
囚人……、370、号……。
と、声は繰り返している。花束を持っているのは看守だった。
「どうした! 何があった?」と370号は大声で訊くが、倒れた看守は答えない。
370号は他の囚人にも声をかける。が、反応はない。格子から手をのばし、看守の
手をつかみ、引っ張る。すると突然、肘から先がもげ、花束ごと牢の内側へ倒れこんで
しまった。そのとき、一枚のメッセージカードが床に落ちたのを、370号は見逃さなかった。
──父さん、この国はもう終りです。化学兵器による感染病で……。
370号は思う。花束がここにあるということは、息子が……。そして、絶叫する。
格子をつかみ、息子の名、妻の名、母そして父の名を呼ぶ。膝をつき、うなだれると、
すでに息絶えた看守と目が合った。いままで散々痛めつけてくれた看守が最期に、この
薔薇を届けてくれたのだ。370号は、そっと、千切れた看守の肘から先を元の位置に戻してやった。
そして、一本の薔薇を彼に供えると同時に、家族のことを思いながら、倒れた。
と、ここまで書いた370号は、あのブッシュが読むわきゃねえかと吐き捨て、紙を
便器に放った。ほれよ、ホワイトハウスまで流れていきな、と、水を流して、寝た。
たぶんパープルヘイズの仕業、です。漏れにも感染したようで、文体が、変……、ゲフゥ。
次は、「みんな」「街角の」「ペシミスト」でお願いします。ヒで゙ブッ。
371 :
「みんな」「街角の」「ペシミスト」:02/12/07 23:23
ペシミストは天へと昇る。
決して飛び立った先に天国が約束されているわけでもない。
かといって、世界が彼にとって暮らしにくいわけでもない。
それでもペシミストは天へと昇る。
彼がこの世を嫌がる程、みんなは彼に冷たくした覚えはない。
しかし、ペシミストである彼にとって、
まわりの全ては、彼を認めないように映るのかもしれない。
今日もどこかの街角の、どうでもいい会話の中で、
彼のことが噂にのぼる。
「風船おじさんってどうなったんだろうね?」っと。
次は、「キャンドルサービス」「クソゲー」「電話するな」でお願いします。
372 :
「キャンドルサービス」「クソゲー」「電話するな」:02/12/09 01:12
「よう、電話してやったぜ」
「なんだよ、今忙しいんだよ」
「電話するなったって、お前だって自分の都合でしてくるくせによ、ま、聞いてくれよ、この間買ったのがさ、すげークソゲーでさ…」
「おい、ちょっと待てよ。そんなくだらねぇことで電話してきたのかよ」
「いいじゃんかよ、どうせ暇なんだしよ」
「俺は忙しいんだよ」
「あ、そうだ、そういえば、お前今度結婚するんだってな、で、誰とよ」
「お前の知らねぇ奴だよ」
「おいおい。まさかキャンドルサービスなんて下らねぇことすんじゃねぇだろうな」
「うるせぇな、しょうがねぇだろ、式場のプログラムでそうなってんだからよ。俺だってやりたかねぇよ、あんなの」
「じゃ止めろよ。気取ってんじゃねぇよ、そんな柄じゃねぇだろ。アニオタならアニオタらしくコスプレかなんかで披露宴決めろよな、ビシッとよ」
「馬鹿野郎、お前みてぇなロリコンに、アニオタとか言われたかねぇよ」
「だってアニオタじゃねぇかよ、お前。違うのかよ」
「うっせぇな、そうだよ、俺はアニオタだよ、悪いのかよ、アニオタで!俺ァ、アニオタだけどアニオタなりに誇りってものを持ってんだよ!お前みてぇになァ…」
「えー、今は式の最中です。新郎は、式の最中ぐらい携帯の電源を切りなさい」
※次は「ハム」「シャガール」「新聞紙」で。
「夏休みの思い出」 ○○小学校6年 竹○ゆいか
私は、夏休みに大阪のおばさんの家に遊びに行きました。
一人で行きました。
一人で乗る新幹線は、はじめは心細かったけれど、
だんだん楽しくなりました。
大阪の駅に着くと、おばさんが迎えに来てくれていました。
それから電車に乗り、梅田という駅でたこやきを食べました。
たこがとても大きくて美味しかったです。
おばさんは美術館で行われている「シャガール展」に
連れて行ってくれました。おばさんはシャガールの絵が好きだそうです。
なぜかというと、馬が描かれている絵が多いからだそうです。
よく見ると、たしかに馬の絵が描いてありました。
馬の絵を探しながら見るのはおもしろかったです。
帰りに電車に乗っていると、新聞紙をばさっと広げて座っていたおじさんが
私に気づいて席をゆずってくれました。
私はお礼を言ってすわりました。
大阪の人は親切だなあと思いました。
言葉づかいもおもしろかったです。
また大阪に行きたいな。
※次は「たけのこ」「風邪薬」「ボーリング」で。
+<<373
大阪のおみやげに
ハムと菊○堂のクッキーを
買って帰りました。
本当はたこやきをおみやげに
買って帰りたかったです。
ちょっと疲れたけれど、とても
楽しい旅行でした。
※「たけのこ」「風邪薬」「ボーリング」
友人の家で登山の支度に余念が無い。
にしても、なんとも妙な事になってしまった。
そもそもの始まりはボーリング場。そこで出会った婆さんとの、1万円を賭けたボーリング試合だった。
俺はボーリングの腕に自信もあったし、年寄り相手なら、と、たかをくくっていた。
なのに……
俺が財布の諭吉と別れを惜しんでいると、婆さんはお金など要らないから
代わりに山へ薬草を取ってきて欲しいと持ちかけてきた。
なんでも、代々家に伝わる「風邪薬」を作るのに必要なんだそうな。
俺はその話を了承する事にした。理由は二つ。
第一に、俺の懐が寂しい事。
第二に、一緒にいた友人が、これに付き合ってくれると言ってくれた事だ。
こうして俺たちは、これから山へ繰り出す準備をしている、という訳だ。
「おい、そんなでかいリュックどうすんだよ?」
「俺は薬草取りに行くんじゃないの。たけのこ堀りに行くんだよ。だってほら、季節だろ?」
「あ、そー。」
この時は予想だにしなかった。
後に山中で、一億円入りのバッグを拾う事になるなんて。
次のお題は「独裁者」「晩餐会」「トイレ」でお願いします。
「独裁者」「晩餐会」「トイレ」
――皇位継承式の前夜、晩餐会が行われる前に侍従長はトイレで指輪を拾った。
「ご臨終です」侍医は鎮痛な面持ちで言った。民から独裁者と呼ばれた男は、玉座についたまま事切れていたのだ。
晩餐会の最中だった。
「お父上。嘆かわしや。私が必ずやお父上の意思を継ぎましょうぞ」長男は声高に言った。
「お待ちなさい。お父上に毒を盛ったのは兄上、あなたではないですか」次男は剣を抜いた。
「兄様、何故その事を今まで黙っていたのですか」三男は剣を構え、長男と次男を睨んだ。
「兄上はお父上より、お前は皇帝の器では無いと言われ逆恨みしていたのだ」次男と長男は睨み合った。
「黙っていた兄様も兄上と同罪だ」三男は叫ぶと剣を滅法に振りまわした。長男は怒りで顔を真っ赤にして三男に切りかかった。
次男は三男を庇い長男に切られた。三男は次男の恨みとばかりに長男に剣を振り下ろした。長男は咄嗟に剣を突いた。
侍従達が止めに入る暇も無かった。父親の亡骸の前に三人の息子の亡骸が転がっていた。
「ああ、何たる事か、かくなる上は私が皇帝の御意志を守るしかございません」満面の笑みの侍従長が高々と右手を掲げた。
人差し指に、皇位継承の証である指輪がはまっていた。
『皇位継承の指輪を餌に長男を騙して皇帝を毒殺させる。長男に不穏な動きがあると次男に密告する。父親思いの三男は怒りに燃える。
根が単純な息子達は殺し合う。オレの皇位継承はこの指輪を拾った段階で決まっていた様なもんだ』侍従長は心の中で高笑いした。
次のお題は「靴下」「そり」「電波塔」でお願い致します。
376の作中に誤字ハケーン。
四行目『意思』(誤)
十一行目『意志』(誤)
いずれも『遺志』(正)です。
成田から帰る電車の中で。
五歳になる息子が靴を脱いで外の景色を見ていた。
こういう子供は手間が掛からないので大いに助かる。
「ねえねえ」。息子が僕の袖を引っ張った。
「あの大きなやつをクリスマスツリーにしたらスゴイだろうね」
「クリスマスツリー?」息子が指した、遠い山の合間に電波塔が立っていた。
「あれは木じゃないぞ」と僕は言う。
「?」。息子が首をかしげた。
ああ、そうか。息子は作り物のクリスマスツリーしか見たことがないんだ。
「そうだ。こんど、雪国へ行こう」「雪国?」「雪がいっぱいあるぞ」
「やったぁ。ぼく、ソリに乗りたかったんだ」
息子は飛び跳ねたので、周りの人の迷惑にならないように肩を抑える。
車内では騒いではいけないと常々言い聞かせてきた甲斐もあってか
息子はすぐに騒ぐのをやめた。そして、僕に耳打ちした。
「…サンタさん、靴下に入らない大きなものでもプレゼントしてくれるかな?」
次のお題は「洗濯機」「お姫さま」「ハラキリ」でお願いします。
379 :
「洗濯機」「お姫さま」「ハラキリ」:02/12/10 21:59
お姫様が死んだ。お姫様といっても只のお姫様ではない。
容姿端麗、頭脳明晰、王様というものもいたことにはいたが、実権を握っているのは
この十五六の少女であった。所謂アイドルで国の男どもは皆、彼女に思いを寄せていた。
洗濯機から彼女の下着を盗むものもあれば、盗撮まがいのことをするものもあった。
しかし、寛容な姫はそういう無礼を許した。
朝である。国民は皆朝食の椅子に着いている頃、
「お姫様は崩御なさいました」
テレビのアナウンサー。
男どもはそのニュースを聞くと皆お姫様のポスターの前でハラキリ。
迷惑なのは残された妻子だった。後始末も大変で。
お題継続か「耳」「タイ」「川」
昔と比べ、この街もずいぶんと国際化した。
繁華街で外人とすれ違うことなど日常化しつつある。
年を経て変わったのは私も同じだ。
小さな頃はお姫さまに憧れ、サリーちゃんごっこにいそしんでいた私も、
今は慣れ親しんだこの地で主婦をやっている。
洗濯機のスイッチを入れる。日々追われる家事の一環だ。
後ろで私を刀で小突いているのは、今年5歳になる息子のケンタ。
当然ながら、小突く刀はプラスティックで出来たおもちゃである。
「妖怪オババ!かかって来い」
「なんだとぉ」
ケンタがアハアハ笑いながらマンションのベランダに逃げ込む。
続く私もベランダに踊り出た。
三階のベランダから覗く通りを、金髪の異国の男が歩いている。さすが国際都市。
ふっ、と、何気なく顔をこちらに上げた男の目が輝き、私を指さし、何やら叫んでいる。
「オー!ハラキリ…ハラキリ!」
はぁ?ハラキリ?…腹切り!?
既に室内へと消えているケンタから取り上げた刀を握る自分に「はっ」と気付く。
「ノーサンキュー・ハラキリ!」
叫んで窓をピシャッと閉めた。
次のお題は、「ゴーストタウン」「感謝状」「計算」でお願いします。
382 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :02/12/11 00:25
「耳」「タイ」「川」
母上が台所で、鼻歌を歌いながらパンの耳を揚げている。
僕はパンの耳の香ばしいにおいに鼻をひくつかせながら、今日の晩御飯はサンドイッチかなと推測した。
まめな母上は何から何まで手作りが大好きな人だった。
「だって、ほら温かい感じがするじゃない?」
そう言いながら柔和に微笑む母上は、いかにも「お母さん」という感じがして、僕は大好きだ。
だからそれ以上、その言葉の裏に隠された意味を感じ取ることなんてちっともなかった。
あの日は突然やってきた。
その日は家族三人、川原でバーべキュウを楽しんでいた。
肉も野菜もほとんどなくなり、父とキャッチボールをしようとしていた時、土手に一台の黒塗りの車が止まった。
車のドアが開く。
中からは東南アジア系の偉そうな人物が二、三人出てきた。
その人たちを見るなり、母上が恐怖で身をすくめるのが分かった。
「お嬢様、国王様がお亡くなりになりました。これはまだ極秘事項です。さぁ、タイに帰りましょう。
お嬢様が次の皇太子なんですから。いくら前国王が貴女様を勘当したとしても、もう血縁者が……」
母上はそれを聞きながら、ぽろぽろと涙を零していた。
いったい何に対して泣いているんだろうか。
僕の麻痺した頭は、それ以上の思考を許してくれなかった。
僕たちの平和だった日常はこうして終わりを告げた。
☆「た」の連続の上、読みにくい文章すみません。
次のお題は380さんの「ゴーストタウン」「感謝状」「計算」でいかかでしょう。
『ゴーストタウン』『感謝状』『計算』
丘の上から街を見下ろした。
人々の喧騒も息遣いも、およそ『生』と呼ばれるものから縁遠いゴーストタウンだ。
陸軍生物化学兵器研究所の計算ミスと噂されている。
細菌兵器の実験は、街とは程遠い砂漠で行われた。街は安全な筈だった。
だが、恐怖の種は誰も気付かぬ内に街に忍び寄った。
人々はあっと言う間に感染し、必死の手当てのかいも無く次々と息絶えた。
オレは街の消防署に勤務する救急救命士だった。
事故や病気で瀕死の人々を救い、市長から何度も感謝状をもらった事がある。
だが、今回ばかりはオレに出来る事は何も無かった。ただ、指を咥えて苦しむ人々を見詰める事しか出来なかった。
何の為に今まで幾多の命を救ったのか?
「ありがとうございます」と言いながら、涙を流した数々の笑顔の下に、こんな結末が隠されていたと言うのか。
やり切れなさに身を裂かれる思いだった。
溢れる涙を必死に堪えて、背中の羽でそっと我が身を包んだ。
次のお題は『遊園地』『プレゼント』『とんこつラーメン』でお願い致します。
384 :
名無し物書き@推敲中?:02/12/11 12:39
その遊園地には、とんこつラーメンを食べさせる店があった。食べたく
なった。金があるか不安になったので、確かめようと財布を取り出した。
それは、涼子がプレゼントしてくれた財布だった。
今日は悪友の誕生日。誕生日記念ということで俺は彼を遊園地に連れて行った。
…本当は、彼女と別れて無駄になったチケットを有効利用したいだけなのだが。
男二人での遊園地は想像以上につらかった。入って三分、回りの目線に耐えられず
俺たちはアトラクションに乗らず、飯を食べて帰ることにした。
遊園地の出店で豚骨ラーメンを頼んだら
悪友がいつものように悪口を言い始めた。
「はぁ? 遊園地で豚骨ラーメン? お前、最悪〜」
なんだなんだと尋ねたら彼はいつものように御託を並べてくれた。
「こんな、いい加減な店舗でなんて…。しょせん、モドキよ、モドキ」
まあ、彼の言ってることは尤もなのだが、人を小馬鹿にした言い方に小腹が立った。
「お前だって、よくマックで59円バーガー食ってるだろ?」
「美味いものばかり食べると舌が飽きるからな」
この一言で、奴への誕生日プレゼントは熱い拳に決まった。
俺たちは小学校以来、こんなことばかりしている。
次は「海賊」「柳腰」「体育教師」。
384氏が次のお題を挙げなかったので383氏のお題でやってみました。
388 :
名無し物書き@推敲中?:02/12/12 21:31
「次っ!」
十数回も吹いているので、流石にだれていたホィッスルにも、心なしか
気合が入る。ニシナリカナンは、いとも簡単に、女子にはちょっと難し
い側方倒立回転をやってのける。
「よしっ、次」
見とれていたのがバレないように笛を吹きながら、小柄なニシナリカナンの
体操服姿を盗み見る。
もし、今度生まれかわったなら、海賊になりたい。
ニシナリカナンみたいな女の子を、いや、ニシナリカナンをさらって、
あの柳腰をひきよせて。ちゃんと、イカせてあげよう。
「先生?」
訝しげな生徒の声に、はっと現実に引き戻される。いかん、仕事中だ。
「おっ、悪い」
そう言って、また笛をふく。
生まれ変わるなら、海賊がいい。
こんなしがない体育教師じゃなくさ。
次のお題は、プール、ほくろ、唇、でお願いします
390 :
プール・ほくろ・唇:02/12/14 23:10
すぅ、と横手を窺うと女が一人酒を飲んでいる。
婀娜っぽい眼はスカイブルーのカクテルに注がれ、その肉厚の唇は私をいざなう妖気を放っている。
艶やかな黒髪はインテイリジェンスを漂わす。
街ですれ違うだけで健全なる男子の注目を集め、
プールサイドを闊歩する事なんぞあったら、その肢体をして全てのオスを虜にすること必死である。
マリリンモンローの生まれ変わり、と大袈裟に形容してもあなた方は納得するだろう。
そんな麗人である。
私はこんな千載一遇の好機を逃す愚か者ではない。
が、しかし、彼女にも欠点のあることが長時間による観察によって判明した。
声をかけることを躊躇わせる、甚大にして避ける事のできぬ欠点。
それに目を瞑って声をかけるべきか――否、私のプライドが許さない。
さればとて、これほどの美女とのお近づきのチャンスを逸するのか――駄目だ。
駄目だ。駄目だ。そんなことをしたら一生臍を噛む事になる。
ここは欠点を忠告したのち、懇ろになるとしよう。
私は何気なく声をかけた。
「ちょっといいですか? あなたの首筋のほくろ。そこから一本、毛が出てますよ」
結果は火を見るより明かだった。私は最悪の選択肢を選んでしまったようだ……。
#次は「羊」「国威」「投手」で。
391 :
羊、国威、投手:02/12/15 06:58
迷える羊で終わるくらいなら、いっそ狂犬にでもなってやれ。
カードをめくる俺の手が震える。既に四枚めくって、合計は十九。後一枚で、二十一にならなければ、負け。随分、ムチャな話だよな、これは。
「どうした、さっきまでの勢いはどこいった?」
対戦相手である、カイゼル髭のオーナーが、俺の顔色を見てせせら笑った。それもそのはず、ヤツのカードは絵札二枚で二十。
チクショウ。俺は、負けない。負けられない!
「どうだい、降りるって手もあるんだぞ」
カイゼル髭が口を動かすたびに動いて、気色悪い。ヤツが着ている、この店の制服であるエプロンには、アメリカの星条旗が、実に頭の悪そうな感じでプリントされている。
「今なら少し金額をまけてやるよ。悪くないだろう? 今の君は、野球で言うなら、ノーアウト満塁で四番バッターを迎えた悲しい投手といったところか。勝ち目はないよ」
そう言って、オーナーは椅子の背に身を預けてのけぞった。星条旗が、まるでアメリカの国威をちらつかせるかのように、偉そうに前に突き出してくる。
「勝負はまだついちゃいない! 乾坤一擲、南無三!」
俺は、立ち上がり、カードをめくった。
果たして、そこにあったものは……。
「オーウ、これは」
オーナーはカイゼル髭を指で撫ぜた。俺は、ふにゃふにゃと椅子に腰を落とした。
出てきたのは、スペードのエース。これは、つまり、どういうことになるんだ?
「ドローだから、親の私の勝ち、かな」
「いや、引いた枚数が多いから、俺の勝ちだろう!」
俺は必死だった。
「親の私がルールだ。このゲーム、私の勝ちだよ」
「そんなバカな!」
「認めたくないのかね。しかたないな。君に、もう一回、チャンスをあげるとするか」
オーナーは、俺の前に山札を置いた。
「今なら、降りるか、引くかの選択もアリだがね」
迷える羊になるなら、いっそ狂犬にでも……
俺の手は、再び震えながらカードをめくった。
392 :
名無し物書き@推敲中?:02/12/15 16:49
お題が出ていないので通りすがりに一つ。
「みそ汁」「サンマ」「六法全書」
「みそ汁」「さんま」「六法全書」
課題:下記の事例に基づき、責任故意と構成要件的故意を説明せよ。
事例:A夫とB妻は朝食をとっていた。
Aはさんまの骨を喉に詰まらせた為、みそ汁を飲んで骨を取り除こうとした。
Bはしゃっくりに対する対処法と勘違いし、Aを驚かす事により、
Aの喉に詰まった骨を取り除こうと考えた。
Bはいきなり大声を発し、Aを驚かせた。
Aはみそ汁を飲んでいたが、Bの行為に驚き、みそ汁の具である揚げを気管部に
詰まらせ、窒息により死亡した。
柳田教授は黒板に書き終えると、教卓の上の六法全書に肘をのせ憂鬱そうに頬杖をつく。
「それにしてもふざけた課題ですね」僕は、隣の啓介先輩に言った。
先輩は眉を八の字にすると、僕に顔を近付けて、ここだけの話だぜ、と前置きをする。
「あれさ、本当の話なんだ。死んだのは奥さんの方だけど。夫が死んだ事にするのは、自分を責める気持のあらわれなんだろうな。
奥さんの命日には、必ずあの課題を出すんだよ」先輩は僕の耳元で呟いた。
次のお題は「クリスマス」「恋人」「ハッピーエンド」でお願いします。(ベタだなあ……)
394 :
エヴァっ子:02/12/20 19:14
「クリスマス」「恋人」「ハッピーエンド」
ふぅ、と吹いた息は風に揺られる雪に紛れ、すぐに分からなくなってしまった。
クリスマスというのは、日本のイベントの中でも中々珍しいものだ、と俺は思う。
恋人と一緒にいなければいけないような感じがするし、何故か学校はそんな日に限って冬期開校をする。
宗教など無関心である日本人を象徴するものだとも思えるし、童心に返れる数少ないイベントだとも思う。
――ええぃ、何をごちゃごちゃ言うとるのだ、俺は。
苛立つ自分の頭を振ると、積もった雪が振り落とされる。
今日は久しぶりに恋人に会う……つもり、だ。一昨日までは幼馴染だった、新米の恋人だ。
今年になってようやく高校も冬期開校の時期をずらし、俺達はクリスマスに開放された。
『クリスマスに、会おうね』そう言って顔を真っ赤に染めた後、走り去った彼女を一昨日の俺はあの時呆然としてみていた。
夢じゃねぇのか、と頬つねってみたりもした。痛かったので、とりあえず夢ではない。
そうだ、浮かれた気分でココに着てから、2時間。
熱っぽかった頭はすっかり冷え、浮かれた気分もひとかけらしか残っていない。
――やっぱり、夢だったんだろうか。
ふぅ、と息を吐いてから回りを見回す。
……アベックはやはり多く、未だ昼の2時だというのに、何をべたべたしとるのだ! なんて呟いたりするが、自分もそうしたくてココにきたのだ。
――やっぱり夢だったんだろうか……?
辺りを見回しても、俺の恋人の姿は無い。
空から雪が降り散るクリスマス。ラブコメのハッピーエンドが訪れるには、未だ早かった。
――――――――――
うりさんに続け! ちゅーことで、お題は継続。機会があったら続編書きます。
頭に乗ったポリバケツが帽子。
突き出したにんじんが鼻。石ころが目。
ずんぐりした体から伸びた木切れに青い手袋をはいている。これが俺。
この公園に何日も一人で突っ立ってた。けど、最近こんな俺にも恋人が出来た。
ほら俺のとなりにいるだろ?
まん丸い石の目が愛らしい、赤い手袋をはいた、俺そっくりの恋人が。
見た目こそ寒そうな似た者同士のカップルだけど当の俺たちはとってもアツアツ。
昨日のクリスマスだってこうして二人で夜空を眺めていた。
ただ残念な事に、俺たちは春の頃にもなれば溶けてしまうだろう。
それでもいいか…
俺たちの溶け流れた体は混ざり合って一つになれるだろうから。
それをハッピーエンドなんだと信じられる気がする。
お題は継続でお願いします。
396 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :02/12/21 00:19
雪が静かにきれいな円を描いて舞う美しいホワイトクリスマス……というのが私のクリスマスのイメージだ。
しかし、現実は冷たい空っ風が頬をたたき、手足の感覚をジワジワ奪っていくだけのグリーンクリスマスだった。
いや、このグリーンクリスマスというのにだって語弊があると思う。
こんな煤けた灰色の季節を「グリーン」だなんて……。
私は、一週間前にバーゲンで手に入れたばかりのキャラメル色のコートの襟を立てながら、手持ち無沙汰に街を歩いていた。
街はクリスマス色に包まれており、どこに行っても「恋人はサンタクロース」という歌詞の定番の曲が耳を駆け抜けて行く(目の前もだが)。
サンタクロースは子供たちに風船を配っていたし、大きなプレゼントを抱える父親らしき人の姿もちらほら見かけた。
クリスマス一色に包まれた街を歩くのは楽しいことだったが、同時に何か物足りない気持ちにさせるものでもあった。
「――そっか」
ウィンドーのガラスに額をくっつけて、中の大きなティディーベアのぬいぐるみを眺めている女の子を見かけた私は小さく呟く。
考えてみれば今まで私はクリスマスを一人で過ごしたことはなかった。
もうこの世のどこにもいないが、ああやっていれば、それを夜、枕元に届けてくれるサンタクロースもいたし、ケーキを作って待っていてくれる人もいた。
プレゼントを交換する親友もいたし……まぁ、ハッピーエンドを迎えて恋人という代物を手に入れることはなかったが、物足りないクリスマスなんて一度も……。
案外寂しいのかもね、私。
都会生活初めてのクリスマス、サンタクロースは私に寂しさともう一つ、大切なことをプレゼントしてくれたようだ。
――早く恋人を……、その前に欲を出さずに友達作りから始めよう。
小さな決心を胸に、私はさっきより明るい気分で街を歩みだした。
☆久々です。
うーん、師走は忙しい……。
次は「耽美」「封筒」「シュークリーム」でお願いします。
397 :
うはう ◆8eErA24CiY :02/12/22 23:55
「耽美」「封筒」「シュークリーム」
テロリストからの「怪しげな白い粉末の封筒」は届き続けていた。
その正体は、ほとんどが単なる小麦粉や砂糖だったりする。
ある日、テロリストから1個の玉子と共に粉末の処理法が届く…
厳重なシールドルーム。
厚いアクリル板の向こうで、怪しげな粉末が混合され、玉子が加えられ
一つの姿をなしてゆく…それは耽美的といってもいい、妙な光景だった。
そしてそれは完成した。
幾百の封筒の「白い粉」からできたもの。それは1個のシュークリームだった。
どうするか? 捜査は完璧を期せねばならない…
決死の捜査員が、震える手で、シュークリームを一口ほおばる。
…謎は解けた。捜査本部は、テロリストからのメッセージを確かに受け取った。
捜査員は、ううんと唸ってこう言った。
「甘い!」
※こっちも久々で^^;
次のお題は:「傘」「雪」「椰子の実」でお願いします。
398 :
名無し物書き@推敲中?:02/12/24 01:53
「傘」「雪」「椰子の実」
「雪」
彼女が隣でそう呟いた。僕が彼女のほうを振り向くと、
彼女は空を見上げていた。僕も彼女と同じように空を見上げて見たが、
そこに見えるのは椰子の実が見え、青空が広がる南国特有の空だけが見えた。
「またか・・・・・・」
僕は彼女に聞こえないように1人嘆息した。彼女は時々、普通の人には見えないものが見えてしまう。
はじめに兆候があったのはいつだろう?確か、ある晴れた日のデートに、
彼女が傘を持って現れた時だったはずだ。僕がその時傘について彼女に尋ねると、
「音がね」「音?」「そう音。音が振ってくるの」
僕はその言葉を聞きながら、「不思議な女性だな」とだけ思った。
そしてその傘の事件を境に、彼女の見えないものを見るという病気、病気といっておかしくない、
が日常に入り込んできた。それは初めは彼女の日常だったのだが、気づけば僕の日常になっていた。
つまり、僕は彼女に恋をしてしまったのだ。
そして今、僕は彼女の隣に立ち、彼女にだけ見る何かを、いつか僕も見えるようになれたらな。
そう思っていた。
「空」「音」「見えないもの」
「空」「音」「見えないもの」
「ねえ、空の音って聞こえる?」友里恵は小首を傾げて微笑むと、空を見上げた。
僕もつられて顔を上げる。どこまでも、どこまでも蒼。ずっとずっと蒼。
天に向かって手を差し伸べれば、指先が吸い込まれそうな蒼の深さ。ぽっかりと浮いた白い月に届いてしまいそうな気になる。
蒼に鮮やかなまでの輝きを与える、天球を埋めた星々さえつかめそうな気になる。
クリスマスイブの今夜、僕等は高原に流れ星を探しに来た。
流れ星をサンタに例えて、願い事をかなえてもらうんだ。
静けさに包まれて星空を眺めていると、友里恵が言うように、本当に空の音が聞こえる気になる。
小さな小さな鈴の音。繊細なガラス細工の鈴の音。耳をすまして微かに聞こえる可憐な音。
満天の星空から届く音はそんな感じだろうか。
屋根を開けた車のシートを倒して目を閉じていると、鈴の音がどんどんはっきり聞こえてくる。
僕は余りにはっきりと聞こえる鈴の音に目を開けた。友里恵は空をじっと見ている。
鈴の音のリズムに合わせる様に、一粒の星がゆっくりと光の尾をひいている。
僕等は見詰め合うと、頷いた。
「サンタクロースだ」僕は呟いた。
「天体望遠鏡を持って来ればよかった。遠すぎて見えないもの」空を見ながら友里恵が微笑んだ。
次のお題は「クリスマスツリー」「キャンドル」「初恋」でお願いします。
400 :
エヴァっ子:02/12/25 00:48
「クリスマスツリー」「キャンドル」「初恋」
――後ろのクリスマスツリーに背中でもたれかかった。
駅の出口から少し離れたところに植えられたこの木は、毎年この季節になるとクリスマスの装飾で飾られる。
……まぁ、大した物じゃあなく、ちゃちな物なんだが。
雪とアベックはいよいよ数を増し、太陽も随分傾き始めた。
俺の初恋もこれで終わりかよ、と心の中で毒づいた時――俺は一つの事に気がついた。
……待ち合わせの時間って……聞いてねぇや……。
少し離れたデパートで、ケータイが鳴った。
待ち合わせの時間も話さなかった少女の恋人からの電話。
腕に抱えた紙袋に入ったキャンドルと、少女の耳の色は同じくらいに紅かった。
――――――――――――――
ちょっときついかな? 一応これがオチです。半端な終わりですみません。
次は「灰神楽」「粉雪」「マフラー」でどうぞ。
401 :
SHOT CALLER ◆wxZnFKjdnU :02/12/25 13:12
ここ三四年、毎年この時期になると一週間は風邪で寝込むが、
今年はそれ程寒くないように思え、まだその兆しすらない。
確かに肉付きは良くなったが、それも僅かなものである。
また、洋服は五年も買っていないので、厚着になった訳でもない。
と、ここで一本のマフラーを思い出した。
二月程前の粉雪の舞う朝、家内が新聞を取りに行こうと玄関の戸を開けると、
私の名が書かれた箱が置いてあり、その中にこのマフラーが入っていたという。
差出人も分からないので、家内は気味悪がって捨てようとしたが、
私は面白がって使わせてもらうことにした。
それからだ、私の体が丈夫にな---
止める家内、マフラー、笑う私、灰神楽、叫び声、人の顔、口の中
次のお題は『料理』『暖房』『消費者金融』でどうぞ!
「なんもねえ部屋だな」
南郷は畳と布団しかない部屋の中心で、どっかとあぐらをかいていた。
「おう。裁判所に差し押さえられた。執行吏ってそこらの消費者金融と変わらんくらいえげつないぞ」
「銀行の借金無理矢理負けさせる方がえげつないわ」
「そうか?がはははっ」
「笑ってる場合かよ…」
俺は室内を見渡した。
「お前、暖房器具も差し押さえられのか?冬死ぬぞ」
「ああ、そりゃ心配いらん」
どっこいしょ、と腰を上げる南郷。
「ガスコンロはそのままだ。大家の持ち物だからな。料理するときついでにあったまれば問題なし」
俺は頭を抱えた。
「お前、ガス料金も滞納してたろ。止まるぞ」
「あ…」
次のお題は「みかん」「ロケット」「七転八倒」でどうぞ。
403 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :02/12/26 01:08
「みかん」「ロケット」「七転八倒」
「――寒い」
私は一人で騒いでいる目覚まし時計を放置したまま、羽毛布団を頭まで被る。
柔らかい布団を頬擦りすると、ほんのり温くて気持ちがいい。
「春眠暁を覚えず」という孟浩然の漢詩のように、春は眠気に負けて布団から出られないことも多いが、冬は寒すぎて布団を出るのが苦痛だった。
特に夏が大好きで、人一倍寒がりの私にとっては。
しかし、時計は時を刻むのをやめない。
いったんは静かになった目覚まし君だったが、二度寝防止のベルが無常にも通学の時刻を告げた。
待ち合わせをしている彼の怒った顔が頭の中をよぎる。
観念した私は、発射したロケットのように一直線にこたつまでとんで行った。
こたつの上にはみかんジュース――決してオレンジではなく――と少しだけ食パンがぱさぱさしている卵サンドが乗っている。
こたつに潜り込んだまま台所を覗いてみたが、どうやら母親はもう仕事に出かけたらしい。
かぎっ子歴十六年、さすがに一人で朝食を食べるのは慣れてしまったが、もさもさしたサンドウィッチを飲み込みながら、少しだけ切なくなった。
朝食後、私はいつものようにリモコンでテレビをつけ、いつものように「めざましテレビ」を見る……はずだった。
ところが驚いたことに、「とくダネ!」をやっているではないか!
慌てて自室に飛んでいき、目覚まし時計を手に取ると短針は確かに八を指していた。
じっと時計盤を凝視すると、設定時間を間違っている……。
頭を抱え込みたい衝動に駆られたが、そんなことをしている暇は残されていない。
通学カバンを掴み、居間を出ようとした。
その時、鋭い痛みが足の指先から全身を駆け抜ける。
「――っ」
七転八倒という言葉が似合うだろうか。
私は右足の小指を握り、床を転げまわるのを必死でこらえながら、形容しがたい痛みを堪えていた。
「……遅刻する」
まだ目の端に少しだけ涙を浮かべたまま、何とか玄関にたどり着いた。
今日は最悪な朝だったなぁ……。
☆次は「急須」「五千円札」「蟹鍋」でお願いします。
朝、急須のふたが落っこちて欠けた。漠然とした不安を感じたが、だからと言って外出を止める気はさらさらなかった。
今日はツレ二人と蟹鍋を食いに行く約束になっているのだ。
カニ!蟹ですよお客さん。占いで死ぬと言われても出かけたろう。それが漢の心意気というものだ。
ツレ二人は十分も前から、待ち合わせ場所で寒風にさらされていた。二十四時間物食ってません、そんな顔をしていた。
それは俺も同じだ。お一人様三千円で三十分間無制限の蟹鍋バイキング、存分に味わわなくては蟹に失礼。
三人が揃った途端、俺たちは突撃を敢行した。武田の騎馬軍団もかくやという勢いで。
そして、食って食って食いまくった。カニを食うときは無口になると言うが、今日はそれにもまして無口だった。言葉なんぞなしで、
テレパスのような阿吽の呼吸で、俺たちはカニをキチン質の外殻に変えていった。
そして、悲劇は起こった。
「あ〜…お客さん、十二分の超過ですね。超過料金込みで、一万八千九百円頂きます」
判決、死刑。そう言われたも同然だった。一人あたま六千円。貧乏学生にはかなり厳しい数字だった。
ツレその一が財布をはたいた。五千円。ツレその二が財布をはたく。やはり五千円。
すがるような視線二つと鋭く咎めるような視線一つを浴びつつ、俺はそっと財布を開けた。
千円札、二枚。五千円札、一枚。そして、
「オウ、シット」
それだけだった。
俺たちは皿を洗った。
次のお題は「卒塔婆」「梅酒」「人口密度」で。
「卒塔婆の消費量は、人口密度に比例する」
水割りのグラスを片手に明弘は言った。
「何でだ」
「墓石の材料が不足して割高になるからさ。地価も上がるから、一家族の墓地の面積も少なくなる」
「それはそうかもしれないが、比例はしないだろう」
おれはビスタチオの皮を剥いた。
「人口密度の単位は何だ。おれは、そういういい加減な経済論が嫌いでね」
「悪いな、葬儀屋も不景気でね。何かに責任転嫁したいのさ」
明弘はマルボロに火をつけた。
「会社の経営なんてどうでもいい。お前が道楽を慎めばいいことだ。それより、奥さんのぐあいはどうだ」
「あいかわらずだ。狭心症の発作もだいたい二月ごと。死なない程度に酒におぼれてるよ」
「まるで死んだほうがいいみたいだな」
「そんなことはない。……いや、そうかもしれない」
明弘はゆっくりと煙を吐いた。
「和美とはもう別れたのか」
「ああ、女房のことを話してから、一度もメールが来ない」
「いい女だったな」
「全く、おれなんかが付き合えたのが奇跡みたいなもんだ」
おれが振り向くと、ボックスの若いカップルの女のほうが、いい具合に梅酒に酔っ払っていた。
次は、「プルトップ」「老眼鏡」「キックボード」にしてください。
406 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/01/03 01:31
「プルトップ」「老眼鏡」「キックボード」
「プルトップを採用すべきではなかった」老司令官は、思わず叫んだ。
とはいえ、<水鳥を保護するためにプルトップを>などという悠長な
時代を知っているのは、部隊ではもはや彼だけだった。
前方に、無数の武装水鳥が映し出される。
大進化を遂げた水鳥に、絶滅寸前の人類…彼は老眼鏡を外し、涙を拭う。
「世界的規格化」という本音を隠すため、「水鳥の保護」などという世論
をでっちあげ、強者生存という自然の掟を破った結果がこれだった。
不純な動機のバランスを欠いた「保護」は、冷徹な結果を導き出した。
「そうだ…」彼はぼんやり呟いた。
「かつて超好景気に沸いた某国が<働くのは悪だ>と手を緩めた時があったっけ」
彼は、その某国がその後どうなったかを思い出していた。
経済拠点における足がかり、キックボードを失い、再建に苦しんだあの時代を。
某国はなんとか立ち直った。しかし人類はどうだろうか。
彼は自信がなかった。
彼は水鳥が好きだった。
※キックボードが…くるしいよー(^^;
次のお題は:「リボン」「ジュース」「遅刻」でお願いします。
407 :
「リボン」「ジュース」「遅刻」:03/01/03 02:14
デートの待ち合わせの時間に20分遅刻した場合、相手に対するお詫びは何が妥当であるか?
非常に難しい命題であるかとは思うが、僕の頭が出した結論は『ジュース一本で十分』であった。
「ケチな貴方らしい答えだわ」
遅刻した理由と、簡単なお詫びの言葉。
それと僕が差し出した缶ジュースを受け取った彼女は、淡々とそう言った。
「まるで『誠意が足りない』とでも言いたげだね」
「まさしくその通りよ」
これが、駅から待ち合わせ場所まで全力疾走した恋人に対して言う言葉であろうか。
「その缶ジュースにリボンでも付けてたら、満足してくれた?」
「絶対しない」
金属音と一緒にプルタブが起こされ、むくれっ放しの顔がジュースを飲み干していく。
「……ひょっとして、ただの缶ジュースじゃなくて、1.5リットルのペットボトルだったら許してくれた?」
「許すどころか、そのペットボトルで貴方を撲殺してやるわ」
── はやり、少なくとも缶ジュースを選んだ僕の判断は賢明だったようだ。
次は、「コピー用紙」・「ガム」・「空」でお願いします。
日記
午前。
6時半に起きた。7時5分に家を出た。駅まで歩いていったが、なんてことだ、いつも通る道が工事中だった。
道の真ん中にドデカイ穴が開いてやがった。もうね、阿呆かと、馬鹿かと(ry回り道をして、電車に乗り遅れ
た。一本どころか二本遅れた。電車を待ちながら、駅のホームから空を見上げた。冬晴れの空だ。俺は何を
やっているんだろうと、ふと思った。
午後(前半)。
遅刻した。今日は係長が欠勤してやがった。おかげで課長に怒られた。あのオッサンは実に実に几帳面な男だ。
怒り方まで几帳面である。きっちり、ばっちり、ねっちり怒る。課長の口からはミントの匂いがした。大変不愉快
であった。鬱。
4時ごろに見積もりが終わった。喫煙室で『晩年』を読む。『葉』は何回読んでもおもしろい。課長に
見つかって怒られる。やることを探す。女の子に「コーヒーをいれてくれますか」と頼まれ、請合う。
塩と砂糖をまちがえてみる。彼女はコーヒーをふきだした。机上のコピー用紙10枚が無駄になった。
午後(後半)
5時になったので帰る。駅のホームから空を見上げた。夕焼けが沈みかけていた。俺は何をやってい
るんだろうと、また思った。電車は満員だった。帰り際に尻を触られた。恥女かと思ったら、後ろか
らはミントの香りが漂ってきた。課長だった。「いや、私は何もやってないよ」と聞いてもいないの
に言われた。激しく狼狽していた。趣味なのだろう。
「そういう趣味なんですか?」と聞いた。
俺が下車するときに、課長は1万円を渡してきた。
明日まで生きていようと思った。
次は「男」「女」「賭博」で
409 :
「男」「女」「賭博」:03/01/03 11:02
『賭博場で出会った男女の仲は長続きしない』
これが俺の長いヤクザ生活を経て得た教訓の一つだ。
しかし、男という奴は良い女を前にすれば、そんな教訓なんぞ何の意味も成さない。
今俺が付き合っている恵子もそうだ。どこからどう見てもカタギの女だが、
何故かヤクザ連中が集まる賭場で出会った。しかも、競馬やパチンコ好きとかならともかく、
丁半賭博が一番好きだと言うのだから、世の中よく分からない。
こっちには結婚する気なんぞ毛頭ないが、それでも甲斐甲斐しく毎日メシなんぞ作って、
俺の世話を焼いてくれる。
「ねぇダーリン、今日は右と左どっちが良い?」
ガスレンジの上には二つの鍋。
「……えっと、右」
「きゃっ、凄いダーリン! 正解よ!! 今日の夕食はポトフです」
── 右が『正解』と言うのなら、鍋蓋の隙間から白い煙が出ている左の鍋の中身は何だったのだろうか?
「ねぇ、ダーリン」
恵子の博打好きはベッドの上でも続く。
「今日はゴム無しでしても良いよ」
「そうか」
簡単にそう答えるが、やはり男はセックスにコンドームなんぞ使いたくない。
「さて、問題。今日の私は、危険日でしょうか? それとも大丈夫な日でしょうか?」
── どうも、賭博場で出会った男女の仲は長続きしないという俺の教訓は、やはり間違っていないようだ。
官能系はダメですけど、この位なら良いですよね?(;´Д`)
次のお題は、「プロジェクト」・「用語」・「ドライヤー」でお願いします。
410 :
「プロジェクト」・「用語」・「ドライヤー」:03/01/03 19:02
プロジェクト自体、どこかおかしかった。あたしは回りをよおく、観察した。
寝袋はザラだ。ドライヤーを持ち込んでいるものもいた。
その横には洗面器と、それに掛けられているのはタオル。まだ湿っている。いわゆる、修羅場、という状態らしい。
「もう一週間帰ってないよ」
そう言う不精髭の顔に、どこか自慢気な笑いがあった。
「お風呂に入ったらどうですか? 空気に味がしますよ?」
それですら、彼にとっては得意なことらしい。
「そう? もうね、ツラくてさー」
そう。このプロジェクトはどこか、おかしい。私には何がとどこおっているのか、それすらわからなかった。
「弓削さん、ちょっといい?」
あたしはプロジェクトリーダーに呼ばれて、会議室に入った。
「内のプロジェクトに入って、どう? もう慣れた?」
ニヤニヤと、プロジェクトリーダーは私に尋ねた。
「慣れたっていうか。説明書の用語集を作るだけのプロジェクトでしょ? 完璧主義なのはわかりますけど、でもあたし、何も進んでない気がするんですよ」
プロジェクトリーダーは、まだにやにやしていた。
「リストラ組がさ、会社に復讐する方法って、どういうのか、わかる?」
プロジェクトリーダーの目は完全に、仲間を見る目つきだった。
次は「路地」「カルシウム」「ローション」で。
411 :
「路地」「カルシウム」「ローション」:03/01/03 22:18
夜のことである。夜といってもまだ商店街は、照明がついていた。
彼はその商店街から、幾つも横に伸びている路地の中から、一番細く、
暗い道に入っていった。
黒い帽子に、黒いコートの中には黒いスーツ、夜にも関わらずサングラスを
掛けている。
電灯はない小路に入った彼は、唯一の灯りといえる自動販売機の前に立ち、
何やら腕を組んで考えているらしい。サングラスの奥には悩ましげな目がある。
自販機に照らされた彼の顔に浮かぶのは迷いであった。眉間に皺を寄せ、下唇を
忙しく噛んでいる。乾燥しているのだろうか。
自動販売機に売っているものを知らせておこう。一つは、北海道直送の新鮮な牛乳で、
もう一つは、これまたほっかいどうの牛乳を原料にしたローションだった。
そのどちらにするのかで彼は悩んでいたのだ。
寒風に吹かれながら悩み通した末、選んだのは牛乳だった。後で聞いてみると、
「俺、乾燥肌でローションも捨てがたかったんだけど、やっぱり骨粗鬆症が心配で、
カルシウムを取るために牛乳にしたんだ。しかし、あの寒い夜に、冷たい牛乳はきついね」
と何故か自慢げに、眉毛を動かしながら話していた。
「正月」「もち」「カルビ」
412 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/01/03 23:14
「正月」「もち」「カルビ」
「フッフッフ、お目覚めかね?」
怪しい声に目を醒ますと、そこは巨大な手術室だった。
「気の毒だが、君ら兄妹がお屠蘇で眠っている間、改造手術を施させてもらった」
「えっ!」と起き上がり、鏡を見て彼は初めて気がついた。
背中に装備された「門松ランチャー」。紅白にペイントされた人工皮膚…
「これで君は栄誉ある<正月連盟>の一員だ!」首領らしき老人が言った。
「ひ…ひどいわっ!」
「振袖型人造皮膚」を導入された妹が半泣きで叫んだが、後の祭りである。
正月マンとしての生活は、実際苦しいものだった。
2月になれば来年まで用無し…もちエネルギーの確保も、夏になると面倒だろう。
そんな時だ、首領がカルビをたらふく食べているのを見つけたのは。
「裏切り首領め。正月連盟は、一月以外は外出禁止と定められているはず!」
しかし首領は不敵な笑顔を浮かべ、こう言った。
「人違いではないかね?」彼は続けた。
「ここは韓国料理店で今は2月…そう、我々は<旧正月連盟>だ!」
※正月にカルビを食べてる人はどうなる!?
次のお題は:「門松」「メイド」「フィラメント」でお願いします。
413 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/03 23:45
俺様の脳内フィラメント線がブチギレしたときは、常にTをいじめる
ことにしている。正月だというのに受験を控えていて俺様もついにブチギレ。
早速Tの家に電話した
「やい、T!」
「は、はい。あけましておめでとうございますです」
「お前、今から高円寺の駅へ来い!いじめてやるからよ。」
「で、でも、今日は親戚の家へいくことになっています。」
「バカ野郎!こないと殺してやるぞ!」
Tは俺様のメイドのようなもの。チンポに精液がたまった時は
ケツの穴に俺のモノをぶち込む。俺様は玄関の門松を見ながら、今日は
Tのチンポを日であぶろうと考えた。
お題は継承。
「正月連盟出動せよ…正月連盟、出動せよ…」
なんだよ、三が日はもう過ぎたってのに。鏡開きまでまったりするつもりだった俺は、
早々にしまい込んだ紋付きアーマーを引っぱり出す羽目になった。隣の妹は衣紋掛け
に振り袖アーマーを掛けっぱなしにしていたので、俺ほどぶつぶつは言っていない。
アーマーをまとい、正月兵器を装着する。俺は門松ランチャー、妹はヒート注連縄ロッド。
「正月マン、ここに見参…したのにキサマは何をやってる」
首領はこたつに電気七輪を乗っけて、餅を焼いていた。
「うむ諸君、ご苦労。正月が開けたばかりだというのに、メイド連合の侵攻が開始された」
「…はあ」
「彼奴らはエプロンスカートで世界を洗脳し、美しき民族衣装を絶滅せんとする悪の集団だ。
来月韓国でチマチョゴリ相手の一大決戦を行うと聞くが、我々も和服の守護者。前哨戦と舐
められるつもりは毛頭ない。完膚無きまでに根絶せよ」
アホか。
「ま、いっすよ、なんでも。ぶちのめしゃいいんでしょ」
「そのとおりだ。では正月連盟、出動…の前に」
「なんすか?」
「七輪のフィラメントが切れた。急いで替えを持ってきてくれ。速くしないと冷えて固まる」
「餅喉に詰めて死んでしまえ」
次のお題は「ニッケル」「プロペラ」「ビニール袋」で。
一昔前、いやもう随分昔かもしれないが、風船に花の種と手紙を添えて
飛ばすというのが流行った時期があった。
割れた風船がもたらす害などが論じられやがてその流行は消えて
いったが、いま自分のいるこの部屋ではそんな害を無視して
その風船飛ばしの準備が着々と進められていた。
ただ、添えられているのは花の種などという洒落たものではない。
小さなビニール袋にはちきれんばかりに詰め込まれているのは、ニッケルのペレットである。
角が無いとはいえ金属であるから、破れないようにビニール袋は二重だ。
「仕事仲間」が箱一杯のプラスチックのプロペラを持ってきた。
幾らヘリウム風船に結わえ付けるといっても、機械の推進力抜きでは
この重さは飛ばせない。自分とそいつは小さなモーター付きのプロペラを
風船の結び目に取り付け始めた。
ちなみにこのニッケル、何のためにどこに送るかというと、
偽造硬貨の原料として某国に送るらしい。
馬鹿か。モーター付き風船が海なんか越えるかよ。
自分は心の中でいつもこう呟いていて、でも、結局次の日も仕事に来てしまうのだ。
次は「ゲーセン」「ココア」「仕事始め」でお願いします。
416 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/06 14:18
まあ正月も4日を過ぎたので仕事始めなわけだが、はっきり言ってだるい。
別にはっきり言わなくても俺の物腰からはダルサがにじみ出ていると思う。
出勤するとき銀行のエントランスのガラスに映った俺は今にも自殺しそうな中年に見えた。
とはいえ正月からそんなに仕事があるわけではないのが唯一の救い。
俺のような落ちこぼれは得意先への年始周りも連れて行ってもらえないしな。
なんか4時くらいに「おまえもう帰っていいよ」とか言われて帰った。
駅前のゲーセンで少し遊んだ後、その向いの喫茶店でコーヒーを飲んだ。
ビルの2階にある喫茶店で壁はガラス張り、道を見下ろせる席に座っていた。
後ろの席に座っている女に声をかけてみた。年上、30くらいで主婦らしい。
茶髪で化粧が濃かったが、ココアのカップを両手で飲んでいたのが可愛らしかった。
軽くしゃべって、お互いが退屈していること、性格がにていることがわかった。
彼女は、恋をしなければ退屈でやってられない、と言った。
俺は、まったくです、と言った。彼女は魅力的だった。
どうでもいい退屈とどうでもいい興奮の間をさまよえるくらいには。
興奮だけとか退屈だけとか、純粋なものの味を欲してもいいくらいには。
それで「これから暇ですか?」と聞いてみた。
すると彼女はクスクス笑いながら、「さあ」と首をかしげて、足を組みなおした。
少し背を伸ばし、胸を張った。私はきれいでしょう、と言わんばかりに。
尻切れトンボだけど。次は「雪」「植木鉢」「一番乗り」で。
七十五階の窓枠に手を掛けたところで、俺はそれに気付いた。
「ち、雪か」
つい毒づく。へたに降りだせば手が滑るどころではすまない。とっととこのクライムを終了させないと−
ひゅんっ!
俺の右肩からわずか十数センチのところを、何かが落下していった。
「植っ…!?」
俺は肩越しに下界を見下ろした。確認は一瞬だが間違いない。あれは植木鉢だ。ゴムの木が植わった。
なんで植木鉢が!?俺は天上界に目をやった。
ここからおよそ十階ほど上にそいつがいた。
そいつはベゴニアらしき鉢植えを両手で頭上に抱え上げ、哄笑していた。
『このビル、このビルだけは一番乗りを阻止してやるぜぇ!』
聞こえた声にぴんとくるものがあった。
アイツはこの間負かした、三流クライマー!
『ウンコの借りは返させて貰うぜぇ〜、モナム〜ゥ?』
野郎、ナメやがって。A級クライマーの本領、見せてやろうじゃないか。
「てめえすぐぶん殴ってやるからそこで待ってろ!」
吹雪き始めた天候も、もう俺を阻めない。俺は猛然とクライムを再開した。
次のお題は「目薬」「カレンダー」「西遊記」で。
(^^)
「目薬」「カレンダー」「西遊記」
去年のカレンダーを片付けようとして延ばした指が、
29日のところで止まった。なにか書いてある。親指の
隅から、「桜木町駅3時」と文字がのぞいている。
──いいんだ、もう。
指の裏には彼女の名前が書いてある。その日3時
に来るはずだった、そのひとの名前が。ふと零れた涙
が悔しくて、(これは、目薬だ)と強がる。
「恋に疲れると、天使が差してくれます……なんてね」
と独り言をいって、新しいカレンダーを手に取った。
日付欄を切り取れば、西遊記で三蔵を演じた女優のポスターにもなる。
新年明けて7日も経つというのに、僕の心は去年で止まったままだ。
なんにも考えずに軽く わたせ せいぞう っぽく書いてみますた。
次は「紫」「桐」「地平線」でお願いします。
420 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/07 18:12
あげ
421 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/01/07 22:44
「紫」「桐」「地平線」
丁重に渡された桐箱には一本の書が入っていた。
一行目に、摂政の達筆でこうあった。「官位十二階」
「これは!?」読んで馬子は驚愕した。
人が素性に拠らず実力で十二段階に評価され、冠の色に表される制度…
それは当時の常識と比べ、余りにも大胆なものだった。
「昨年から実施されている制度です、いかがでしょうか?」聖徳太子は訊いた。
「こ、これは…」馬子は言葉を飲み込んだ。「まことに素晴らしいこと」
が、馬子はこの素晴らしい制度を、どうしても受け入れられない。
結局は、権力者が「能力の評価」を行うのではないか?
地平線の向こうには、今と変わらぬ利権社会があるだけではないか?
どす黒い疑惑ばかりが、頭の中をグルグル回っていた。
「この世で最も賢明で、正しい者だけに」太子は続けた。
「冠位十二階の頂点の、紫色の冠が許されます」
そう言われても、どうしても楽観的になれない馬子だった。
太子の頭には、紫色の冠が載っていた。
※昔読んだ学習マンガを連想してしまったー
次のお題は:「草原」「溶鉱炉」「ワンピース」でお願いします。
422 :
「草原」「溶鉱炉」「ワンピース」:03/01/08 00:36
こんな夢を見た。
夕方の草原に少年が立っていた。
だが、夕方という言葉で連想される柔らかな情景ではなかった。
溶鉱炉で液体状になるまで熱せられた鉄が帯びるような、白みがかった赤色。そんな色の空の下、少年は背を伸ばして前を見つめていた。汚れた野球帽
赤と黒の縞模様の野球帽に、袖無しの白いシャツと半ズボンの小学3年生くらいの男の子。その子が待っているのは、白いワンピースを着た、同じ歳の女の子。
「あの子はこないんじゃないかな」
男の子の隣に立って、私は言った。
「かもしれない。でも、僕は待っていなくちゃいけないんだ」
「どうしてだい」
「だって、僕がいなかったら、あの子が悲しむから」
「こんなところで一人でいて、寂しくないかい?」
「寂しいよ。でも、僕がいなかったら、あの子はもっともっと寂しくなるから」
「じゃあ、私も一緒に待っていてあげるよ」
「だめだよ、おじさんは待っている人がいるんだから」
少年は微笑んだ。その邪気のない表情につられ、私も笑みを浮かべた。
「君が待っている女の子、はやく来るといいね」
私はそう呟いて、少年から離れていった。
草原から岩場へと続く境目にたどり着き、少年が私の視界から外れる瞬間、少年の隣に髪の長い人影が見えた。
その瞬間に目が覚めた。
次のお題「保健医」「化学実験」「胡蝶」でお願いします。
僕はよく、夢を見る。胡蝶になる夢、橋から吊されるところで縄が切れて必死の脱出行を試みる夢、
石造りの神殿からイカの触腕がのたくる夢なんかを昔から見てきた。
今日も僕は夢を見る。今日の夢は変哲のない学生生活の夢だった。
「せんせー、おなかが痛いんです」
枕詞を口にしながら、僕は保健室のドアを開けた。造りが古いせいか、がらがらと音がうるさい扉だ。
「せんせー?」
僕は保健医を探した。いつも優しい、じいちゃん先生。今でこそよいよいの挙措が垣間見えるけど、
昔は小児科の名医だったというじいちゃん先生。
「はいよ。お、たあくんか」
ベッドの陰から先生が顔を出した。
「今日はどうしたね?」
「おなかが痛いんです」
「お、そうかそうか。じゃ、この薬を飲んでみなさい。化学実験の手伝いをしたとき作ったスルファミルアミド
という薬なんだが、よく効くぞ」
僕はパラフィン紙に包まれた頓服を、差し出されたコップの水で流し込んだ。
「……ほんとだ。治った」
ものの十分もしないうちに、僕の腹痛は消え失せていた。
「ありがと、せんせー」
先生はにっこり微笑んだ。
「はい。元気が一番だよ、たあくん。お大事に」
僕は目を覚ました。朝日が窓から差し込んでいた。
傍らに置かれた体温計を腋に挟み、一分。電子音と共に表示された値は、平熱を示していた。
「ありがと、せんせー」
僕は呟く。病に伏せったとき、夢で僕を治してくれる、実在しない名医に。
じいちゃん先生の笑顔は、昔に死んだじいちゃんに似ていた。
次のお題は「そうめん」「蜘蛛の巣」「マイナスドライバー」で。
424 :
「そうめん」「蜘蛛の巣」「マイナスドライバー」:03/01/08 22:36
「ねぇ」「ねぇ…」「ねぇってば!」
私は何度目か分からないかけ声を彼に掛けた。
その度に彼は「あー」とか「んー」とか、気のない返事を繰り返す。
「そうめん、伸びちゃうよ」
「悪ぃ、そこのマイナスドライバー取って」
私の話なんて全然聞いていない。やっと言葉らしい言葉を発したと思ったら、これ。
私は渋々と彼にドライバーを渡した。
「サンキュ……ってこれプラスじゃねぇか!」
「早く食べないと、蜘蛛の巣張っちゃうよ。ボウフラ湧いちゃうよ」
既に昼食のそうめんは茹で上がっており、あとは食べられるのを待つだけになっている。
彼が趣味の機械いじりを終わらせるのを待っているといつまで経っても食べられないだろう。
「分かったよ……食えばいいんだろ、食えば」
彼は漸く顔を上げて、機械いじりを一時中断した。
次のお題は「オルゴール」「親子丼」「ピアス」で。
425 :
「オルゴール」「親子丼」「ピアス」:03/01/09 01:11
4年間住んだこの家とも今日でお別れ、来月からは会社の寮に入ることになっている。
電気もガスも既に止めているので、夕食は買ってきた親子丼で済ませる。
ふと横を見ると、ダンボール箱に半分埋まっていたオルゴールと目が合った。
大学に入り、上京するときに母がくれたものだ。懐かしくなって、蓋を開けてみた。
久し振りだったが、メロディはまだ覚えていた。
大学1年生のときは家が恋しくなることもしばしばあり、その度に私はオルゴールを
開いていた。休みの度に帰省していた。
いつからだろう、母の許に帰らなくなったのは。どれ位振りだろう、オルゴールを開いたのは。
去年の冬、耳にピアスを開けたことはまだ知らせていない。
・・・怒るだろうな。
今更ながら悪いことをしたと思った。自然と涙がこぼれ、空になった親子丼の
容器に吸い込まれていった。
オルゴールは止まっても、涙は、止まらなかった。
我ながら捻りが無いな・・・。
次は「テレビ」「宅急便」「コンタクトレンズ」
426 :
「テレビ」「宅急便」「コンタクトレンズ」:03/01/09 01:52
取り引き先からの書類はいつも宅急便で届くようになっていた。それを開けるのはいつも、事務のあたしだ。
その日もあたしは書類の入った封筒を受け取って、差出人と担当者を確認した。
うちのアドレス、うちの部署あて。つまり、いつもの決まりきった定期便。
今はもう、振った時の音と判の大きさで中に何が入っているかわかる。
あたしは耳を澄ませた。かさかさという紙の擦れあう音と一緒になにか、小さくて固いものが入っている音がした。
「ん?」
あたしは気になって、注意深く中を開けた。
中はいつもの納品書と、そして透明なコンタクトレンズが入っていた。
ハードタイプのそれはあたしの指先を申し訳なさそうにちょん、と覆っていた。
「だれのだろ……」
多分、向こうの担当の人のなんだと思う。何かがあって、紛れこんでしまったんだろう。
「よく壊れなかったね」
そのコンタクトレンズは傷一つなく、透明さを維持していた。
多分、レンズくん本人にとってはどうにかこうにか、一生懸命だったのかもしれない。
がんばってがんばって、やっとあたしの元に辿りついた。
そんな風に思うと、なんだかそのレンズくんが愛おしくなってくる。
「よく頑張ったね」
でももう、帰る時間だよ。
あたしは受話器を取って、先方に電話を入れた。いつもムスっとしたその人の声は話が進むにつれてだんだん柔らかくなっていった。
「……道理で無いと思いました」
先方の間抜けな声に、あたしはなんとか笑いを噛み殺した。
「でも凄いですよね。レンズくん、全然無事なんですよ」
「レンズくん、って?」
間抜け声はさらに間抜けさを増した。
「テレビの主人公に、そういうのがいるんですよ。知りませんでした?」
あたしはすこし、いたずらっぽい気持ちだった。
「ええ。すいません。僕、そういうのに疎いんですよね」
それはとても、可愛いらしい声だった。
お題は継続で。
宅急便の兄ちゃんが持ってきたのはコンタクトレンズだった。発送先はいきつけの眼鏡屋。新製品の試供品らしかった。
街の眼鏡屋、特に馴染みのちっちゃな店はこういう気の利いたことをしてくれるのでありがたい。
兄ちゃんがエンジン音を響かせて去った頃、俺は座椅子にもたれ、包装をひっちゃぶいていた。
「特殊3D……?」
何でもリアルに、とあるが意味を少々はかりかねた。コンタクトに、リアルも何もあるのか?視覚矯正具なんだからリアルは当然じゃないのか?
ものは試しと俺はそれを装着し、テレビ鑑賞を再開した。CMの時間帯で、宅急便のCMが流れていた。
「わあっ!?」
思わず俺は叫んでいた。2トン有蓋トラックが、俺の眼前でスピンターンしていた。後にはタイヤの焦げた臭いとガソリン臭があった。
そんなばかな。リアルに見えるのはいいけど、なんで臭いまで?
俺はチャンネルを変えた。
ドラマをやっていた。別れのシーンらしく、仏頂面で立ち尽くす男の前で女が泣いていた。
『ばかぁー!』
女が男に平手打ちをくれ、そのまま走り去った。
俺は頬を抑えた。熱を持って、ひりひりしていた。
俺はこのコンタクトにすっかりハマっていた。仕組みも何も分からないが、そんなものはどうでもよかった。
人を殴ると、拳に衝撃が伝わった。
料理番組を見るだけで、満腹になった。
深夜になっても眠気は全く訪れなかった。それどころか、目は冴えていく一方だった。深夜ローカルのエロ番組。俺の期待ははち切れんばかりになっていた。
番組が始まり、撫でさする感覚に陶然としている俺の手に、何かが触れた。
テレビのリモコンだった。
チャンネルが切り替わり、スーツ姿の男を映し出した。
男は興奮を隠しきれない様子で、口早にまくしたてた。
「突然ですが臨時ニュースをお伝えいたします。米軍がイラク空爆に踏み切りました。最後通牒より4時間を…」
俺は爆破された。
次のお題は「鉄骨」「家族」「革ジャン」で。
428 :
「鉄骨」「家族」「革ジャン」:03/01/09 15:18
鉄骨のようにピクリともしない無表情を貫く妻に、私は五臓が煮えたぎっていた。
家族や、妻に目を向けようとせず、行き付けのキャバレーで知り合った由梨と性愛を重ねた結果、彼女は身ごもってしまった。
「私と逃げてください」と円らな瞳で訴えかける由梨を愛している一方で、私は妻を忘れることが出来なかった。
ただ、若い由梨の体は、私の理性を踏みにじり、行動を強制してしまうのだ。
「離婚届けに判を押してくれ。」
と私が一言口を開いた途端、彼女は鉄仮面を被り、口を閉ざすようになった。
それからひと月が経とうとした今でも彼女は口を開かない。
私はついつい焦ってしまう。妻への執着心が、由梨の若さを破壊してしまう。
「いい加減に、納得してくれないか。私はもう、お前とは生活できない。」
「……。」
「一方的ですまないのは判っている。しかし、反論さえしないお前にはもう愛想尽きた。押せ!」
妻は私が焦っているのを悟ったのか、ゆっくりと体を動かして貴重品を入れてある箱をあけ、印鑑を手に取った。
「私はね、、、何もあなたを責めているわけではないのよ、、、。ただ、あなたの顔を、もう少しだけ、見ていたかっただけ、、、。」
私は居間にかけてある革ジャンを手にとって、彼女と家を出て、昔彼女と出合った縁の喫茶店に行った。
次のお題は「魚肉ソーセージ」「ヒーロー」「缶バッチ」でお願いします。
429 :
機甲自転車wallet20:03/01/09 19:03
箱を開けると魚肉ソーセージの小箱が出てきた。
高級な緩衝材に浮かぶ安っぽいパッケージには子供向けのキャラクター
が描かれている。
これだ、子供頃スーパーに行くたびに買ってもらっていた物だよ。間違いない。
私の目当ては同封されていた環境戦隊エコレンジャーのカンバッジだった。
毎日学校に付けていって、渾名はバッジだったっけ。
エコレンジャーごっこもよくやったもんだ。
あれは・・・飽きる事無く歌った、あのテーマ曲はどんなだったっけ。
♪僕らの・・・地球を守る為〜・・・・・・・わるーい奴等をやっつけろ〜
環境戦隊エコレンジャー
懐かしいなぁ、今年が2060年だから今から50年・・・55年前になるのかぁ。
パッケージを開封して、赤いビニールで密封された小さめのソーセージと
もっと小さいカンバッチを取り出した。大きくなってから見たのは始めてなのでことさら小さく見える。まあソーセージに大きくしてもらったようなものだが。そしてカンバッジを手に取る。赤レンジャーが勇姿を誇示している、私は青レンジャー役が多かったな。
私は古き友と再開し追懐の念に胸を噛まれていた。
カンバッチを机に戻すと少し涙ぐみながらソーセージを開封して口に運んだ。
とても懐かしい味だ。このころ魚肉ソーセージは安くて庶民の味方のような
存在だったのだ。パッケージの材料表示には表示にははっきりとスケトウダ
ラやホッケの名がある。
この頃魚が牛肉より高くなるなんて言われても信じなかっただろう。魚を餌
にする歯鯨がここまで増えるとも思わなかった。まあ実際は当時から増えて
いたのだが例の環境保護団体は絶滅機具種だと言い張っていたし、譲る気も無かった。
だから当時鯨肉は庶民が口にできない高級品。何せ鯨を食べる事は殺人行為に等しいと主張する連中が捕鯨を妨害していたのだから。
430 :
機甲自転車wallet20:03/01/09 19:07
>「魚肉ソーセージ」「ヒーロー」「カンバッジ」の続き
実は私もエコレンジャーの影響を受けて捕鯨反対派を気取っていたりしていた。
僕らのヒーローが呼びかける正義に共鳴したんだ。それは純粋で疑問すら抱か
なかった、エコレンジャーソーセージが無くなった時までは。ソーセージを製造
販売していた水産会社は鯨肉加工も手がけていた。そのためエコレンジャーの
スポンサーの環境保護団体から圧力がかかりこの商品は販売中止に追い込まる。
日本の世論は水産会社を擁護したが欧米はそうは思わなかった。私はTVや新聞で
取り上げられるのをみて正義という物が一様でない事を知ったのだ。僕らの正義、
彼らの正義、正義は人間の数だけあるんだなって。
近年危機的水準にたっした漁獲資源保護の為、歯クジラ類の捕鯨規制が大幅に
緩和され再び鯨肉が出回り始めた。あまり私は食べないが自然な事だと思う。
保護団体は資源問題を超越した精神的文化的な問題として相変わらず譲らない姿勢
をしている。これもある意味自然な姿なのかもしれない。
ある種の魚は絶滅され危ぶまれ、魚肉ソーセージをあの頃と同じ材料で作れば鯨肉
ソーセージの十倍という高級品になってしまう。
我が古き友にはあえて彼を復刻した水産会社からの強烈な皮肉が込められている。
次のお題は「テロ」「親友」「家」もしくは継続で
431 :
「テロ」「親友」「家」:03/01/09 19:42
アメリカはテロリストだ!と叫んでいた若き日の彼は、よく僕と同じ外国人学校のアメリカ人生徒を
酷く虐めていた。そんな彼が今では世界を股にかける映画監督として活躍しているもんだから、人間、
幼少期の性質で将来の判断なんて出来ない物だ。
彼の新作がフランスを中心にもっぱらの評判で、ゴダールに続く新世紀の天才、とのキャッチフレーズで
日本でも封切された。もともとフランス映画好きの僕は、我先ぞ、と早速劇場へと足を運んだ。
ストーリーは親友を裏切り上へ上へと上り詰めた男が、仕事のパートナーに裏切られて地位、名誉共に
底に落ちてしまい、今までの行いを反省する、というストーリーだ。暴虐無尽な主人公の暴力と、主人公を取り巻く
人間の心理が物凄く生々しく描かれていて、素晴らしい作品であった。
鑑賞後、ふっ、と僕の頭を過ぎった。この作品は彼の心理そのものではないのか、と。
以前電話した時は、相変わらずアメリカ嫌いで、スタッフにアメリカ人を入れない徹底振りであった。
何かの切欠で、彼に肝要と共存の意思が産まれてきたのかもしれない。
数ヵ月後、都合よく彼が撮影のために来日する、との連絡を受けたので、彼が和食で一番好きなてんぷらを用意する、と会う約束を
つけ、久しぶりの再開に僕達二人は、何の壁も気遣いも無く、握手を交わし、家に招き入れた。
妻が用意している美味しそうなてんぷらの香りに彼は我慢ならない、と言った目をしていて、それはアメリカンスクール時代の彼の目であった。
彼の目で思い出したかのように、私は例の作品から受けた印象を彼に話した。
「今でもアメ公は嫌いだね!映画は映画である、なんつってな」
彼のセリフはいかにもゴダールに続く、映画監督らしかった。
次のお題は「テレビ」「平和」「バファリン」で
432 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/09 21:26
テレビでジョンレノンの歌が流れていた
お馴染み、イマジン
あの九月十一日以来、平和の歌とされている
けれども、歌詞は結構、無茶苦茶だ
バファリンの半分は、優しさでできている
有名な文句だ。昔CMで見た
半分優しさで、後は何なんだろうか
次のお題は、「思い出」「ぽろぽろ」「インド人」
433 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/01/10 01:48
「思い出」「ぽろぽろ」「インド人」
桜がちかちかと点滅する街の街灯に照らされながら静かに、しかし絶え間なく舞い続けていた。
上弦の月は滑らかで美しい弧を描き、街灯の光よりもはやや弱かったが、銀色の光で桜の花びらを包み込んでいる。
「春は出会いと別れの季節……か」
俺はマンションのベランダで月夜の花見と洒落込んで、一人、ビールを飲んでいた。
『春は出会いと別れの季節』
そう口にしたものの、いつも自宅で黙々とパソコンに向かって仕事をしている俺には実感がわいてこない。
俺にとって、出会いと別れの思い出はいつでも夏だった。
親父の仕事の都合で夏休み中に転校なんていうのはざらだったし、大学もアメリカの大学を出た。
高校時代の親友は、初デートで海水浴に行ったとき、波にさらわれて仏になってしまったし、……そして、恋人が俺の部屋から永遠に去ったのも、蝉がようやく鳴き始めるさわやかな初夏の朝だった。
巷のうわさで、あいつは貿易商のインド人と結婚して、今は幸せにやっているらしい。
別れる直前、俺はあいつの切れ長の二重まぶたからぽろぽろと零れる雫の記憶しかないので、幸せになったのなら、別れて正解だったのだろう。
ハート型をした花びらが風向きによって、時々、ベランダに流れ込み、珍しく酔いが回り始めた俺の周りに小さな渦を作った。
「桜ってやつはどうして、人を感傷的にさせるんだろうな。……春は……関係ないのに」
少しだけ力を込めると、空になったビール缶はあっけなく潰れた。
俺はあいつと別れて以来、恋人と名のつくものは持たなかった。
単に仕事がらなのか、それとも未だあいつに未練があるのか。
今の俺にはわからない。
やがて音もなく街灯の光は力尽きたように輝くのをやめる。
半分だけの月が銀色に輝く、桜の舞う美しい夜だった。
☆冬休みの宿題から開放されて久々の書き込みです。
次は「空」「ウーロン茶」「新聞」でお願いします。
434 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/10 10:34
機甲たん、復帰おめでとう!
「東京地方は晴れ、ところによりウーロン茶」
全ては深夜アニメの後のウェザーブレイクから始まった。
深夜アニメを見終わった社会の底辺共がいつも聞く、「うぇざーぶれいっ」の声。
その極めて機械的な発音は、彼らが週末必ず通い詰めているJR秋葉原駅のチャイム、
確実に車を買えるほどの金をつぎ込んでいる格闘ゲームの必殺技のSEのように、
まるで世の主婦達が眼の敵にしている「しつこい油汚れ」の如く彼らの発達した一次聴覚野にこびりついていたので、
日本全国のテレビの前に等しく居並んだ死んだ魚のような目は、その声を聞いても何の反応も示さなかったのだ。
その後に発表された、全くもって完全無欠に前代未聞の天気予報を彼らの脳がワンテンポ送れて認識するまでは。
「何よあれ?」「テレ東大丈夫か?」「lainの再放送だったん?」
まずは実況チャンネルが沸騰した。その空気は加熱され体積を増し、ピストンを押して系の外に影響を及ぼし始めた。
ニュー速に貼られ、24時間更新の大手ニュースサイトに掲載され、テンプレがニュートリノの速さで作られ、コピペ厨が跳梁跋扈した。
そもそも何故ウーロン茶なのか?化学板では酸性雨の諸成分がウーロン茶に化学変化する可能性が議論され、
気象板では中国福建省周辺の天候データを過去十年間に亘り調査するプロジェクトが推定数十人の名無しさんにより敢行された。
そして驚異のウェザーブレイクから約一時間後の事、各新聞社のサイトや大手ポータルの天気予報ページにも
全く同じ文面が掲載されているのが発見され、この大騒動はいよいよもって熱狂の様相を深めていった。
ウーロン茶!ウーロン茶!ウーロン茶!ウーロン茶!
かくしてその夜のネットは須らくウーロン茶により埋め尽くされ、ネットに住まう祭りを愛するものどもは全て夜を徹し、日が明るむのを待っていった。
そして、
夜が明け、
彼らが目にしたものは、
436 :
「空」「ウーロン茶」「新聞」(2/3) :03/01/10 12:27
空から降ってくる、巨大なウーロン茶の缶型のUFOだった。
それは全く疑いようもなくUFOであった。
なにしろそれはどこからどう見ても完全無欠に、巨大なサントリーの鳥龍茶の缶以外の何物もでもなく、
当然推進装置にあたるようなものはどこにも見当たらなかったのだ。これがUFOでなくてなんであろう?
空に浮かぶ烏龍茶に、東京の人々は驚き呆れた。当然呆れる比重の方が高かった。
そもそもなんで宇宙人がサントリーの烏龍茶なのだという突っ込みすら入らなかった。
それがあまりにもストレート過ぎて、突っ込みを入れる隙が全くなかったからだ。
そして次の衝撃は、電波によりやってきた。東京中のすべてのテレビがジャックされたのだ。
お茶の間のテレビも、最早誰も見ていない笑っていいともを映していた新宿アルタの巨大モニターも、
我関せずといった風に人形のタップダンスを流していた秋葉原のサトームセンもだ。
そして、一つの映像が流された。
「チン ウェン、ニィ ヂーブヂィダォ、ジン スェ ディ チャー!
チン ウェン、ニィ ヂーブヂィダォ、ホゥアン ジン グイ?
メイ ウェィ ジン シャン、メイ ウェィ ジン シャン、
メイ ウェィ ジン シャン、ウロンツァー!」
軽妙な中国語のラップと共に、チャイナ服と思しき布を体にくくり付けた、スライム状の物体が画面を乱舞していた。
これによって、人々は完全に言葉を失った。
437 :
「空」「ウーロン茶」「新聞」(3/3):03/01/10 12:28
きっかり15秒間、この奇怪極まる映像が流された後、今度はスライムのアップが画面に映し出され、
流暢な日本語により語りかけられた。
「地球のみなさん、こんばんは。
私どもは遠くメチャヌチャドゲング星の者です。
先日予告させていただきました通り、我が星の特産品、ゥロゥゥンタィの営業にやってまいりました。
しかし何分我が星は田舎も田舎でありまして当世の礼儀にとんと疎く、
これまで五つの星にて営業をさせていただいておりますが、当方の不徳によりまして、
全ての星においてにべもなく断られてしまいました。
そこでこの度皆様方の地球にやって参るにおきまして、今までの轍を踏むを良しとせず、
地球の文化を研究し、皆様方のご機嫌を損ねぬよう礼の限りを尽くさせていただきましたが、いかがでありましたでしょうか?
さて我がメチャヌチャドゲング星のゥロゥゥンタィは、一口飲めば五体満足家内安全、天にも上る気持ちになれること請け合い、
ちょいとそこの兄さん寄ってきな、一枚が二枚、二枚が四枚、こんな太い大根もスッパリと…
お題は継続
438 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/10 12:40
>「空」「ウーロン茶」「新聞」
「お待たせしました」
頭上から降り落ちて来た涼しい声に、
N所長は、読みふけっていた新聞紙を
あやうく取り落としそうになってしまった。
「あ・ありがとう・・」
鼻までずり落ちていたメガネを 指先で引き上げてから、
所長は、心持ち背筋を伸ばした。
その様子に、ウエイトレスのS子は、柔らかい笑みを浮かべた。
「いつも、お茶を召し上がるんですね」
「ああ・・珈琲とかね、カフェインは医者に止められているんでね・・」
「そうなんですか。余計なこと聞いちゃったみたい」
「あ・いや、そんなことは・・ないから・・・」
「失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
S子は再び微笑み、ゆっくりときびすを返した。
そのすらりとした後姿を眺めながら、
N所長は ウーロン茶がなみなみと注がれたグラスを、
不器用な手つきで引き寄せた。
ー今日こそ、誘ってみるかなあー
ぼんやりと思案しながら、大ぶりなパキラに遮られた
アーチ型の窓へと、視線を移動させる。
臨める空は、ヨーグルトのように濁っている。
ー午後から降りそうだしなあ。止めておくか・・−
肩を落としながら、所長はストローを唇へ当てた。
次のお題 「カフスボタン」「写真」「置き時計」で!
440 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/10 15:40
>>439 俺は継続と提示したから無問題す、多分シンクロニシティが働いたんでしょうw
次の方は
>>438のお題でどうぞ
僕が妻を亡くして、三ヶ月が過ぎた。新婚生活、僅か半年。世界の認証を全て絶望に彩るには、十分すぎる衝撃だった。
今でも僕の生活は、陰鬱と悲哀から始まっている。
目覚まし時計がドヴォルザークを奏でると、僕は目を覚ます。目元が濡れていた。また、彼女を夢に見たようだ。
夢に見なくとも、僕は涙にくれたことだろう。目覚ましに耐える僕を覚醒に導く、柔らかなキスの感触を求めて。
ドヴォルザークは流れ続ける。顔を覆った指の間から、流れ落ちる雫のように。
写真立てはあの日以来サイドボードに伏せてある。今なお生き生きとした写し身が、僕を涙の海で溺れさせてしまうだろうから。
三月。
あれから三月。
彼女はいなくとも時間は流れ、僕は生き続ける。半ば抜け殻となっていても、僕はここに生きている。
シャツを着、ネクタイを締め、タイピンで留め、カフスを合わせる。それは僕がこの世に生きていることを確認する儀式だ。
カフスボタンとタイピンのセット。初めての、彼女からの贈り物だった品々。これらを目にするたび悲嘆に暮れた僕は、二ヶ月前に置いてきた。
僕は上着を羽織り、鞄を持った。
部屋を出るとき、伏せられたままの写真立てに目をやった。いつか、再び彼女の微笑みを受け止める日は来るのだろうか。
「いってきます」
その日が来るまで、彼女は永遠に微笑んでいてくれるのだろう。
次のお題は「凧糸」「ライター」「朱肉」で。
>441 シンクロでしょうか(w
>442 お上手ですね。私は始めたばかりなので、下手で恥ずかしい。
>「凧糸」「ライター」「朱肉」
(2−1)
「うっあひゃあぁ」
たてつけの悪い納戸の扉を開けてから、M枝は素っ頓狂な悲鳴をあげた。
M枝の足元で、愛猫のリンが、虎縞の手足を凧糸で
ぐるぐる巻きにされ、仰向けに寝っ転がっていた。
思わず手にした掃除機を、ばたりとその場に取り落とす。
運悪くも、管の部分がM枝の脛を直撃し、更に悲鳴を上げさせた。
リンはそんな飼い主を見上ると、にゃおんと一声、弱々しく鳴いた。
T雄は、無理やりに正座させられた足をもぞもぞ動かしながら、
畳のへりを指先で弄んだ。
M枝は、そんな次男坊の手を、ぴしゃりと叩いて止めさせた。
「T、アンタはなんで、怒られるようなことばっかりするの!!」
先月9歳になったばかりの少年は、バツが悪そうに、上目使いで
母親の顔を盗み見た。しかし、唇は固く結ばれたままだ。
M枝は、怒りの余り、視界がぐらりと傾くのを感じた。
>「凧糸」「ライター」「朱肉」
(2−2)
咄嗟に、畳の上へ放置されている、
灰皿の脇にあったライターを、利き手で掴み取った。
M枝はライターの火を点けると、左手を伸ばして、T雄の腕を掴んだ。
これには、強情な少年も、びっくりして泣き声を洩らした。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・」
「アンタは、何回ごめんなさいって言うの!!」
「もうしません!もうしません!もうしません!」
畳の上でばたばたともつれ合う親子の姿を、
リンだけが障子の影からみつめていた。
再び正座をさせられ、くすん、くすんと嗚咽を洩らしている息子の親指を、
M枝は朱肉に押し付けた。「次はないと思いなさい」
確認をするように低く囁き、「ママとのおやくそく」と、
クレヨンで書かれた紙片に、少年の小さな指紋で捺印がされた。
隣に「きょうのしょうにん」という文字。
その下には、同じく赤い猫の足型。
次のお題は「包帯」「歩道橋」「鏡」で!
445 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/10 22:02
「凧糸とライターと朱肉」
「愛の表現は惜しみなく与えるだろう。しかし、愛の本体は惜しみなく奪うものだ」有島武郎
「好きな人ができたの」
彼女はたった一言で説明を終わらせた。
ガラステーブルの上には朱肉と印鑑が置いてある。妻が用意したものだ。
どうやら私はまたふられてしまったらしい。離婚届を見るのは初めてじゃない。
目の前に黙って座っている女とは一昨年再婚した。結局二年もたなかった。
彼女は静かに私が捺印するのを待っているが私は押したくなかった。
私は一体何を間違ったのだろう。この女の何を知っていたのだろう。
「少し待ってくれ」
私は少しよろけながら立ち上がり、書斎へと向かった。引出しの中をかき回す。
無い。無い。あった。取り出したのは凧糸だった。それを持ってリヴィングへ戻った。
先ほどとまったく変わらない姿勢で彼女がいる。こちらに視線すら送らない。
「コーヒーを入れるよ」
キッチンは彼女が背を向けている方向にある。私は彼女に気づかれないように凧糸を伸ばす
後ろから細い首に巻きつける。
私はライターオイルを部屋に撒き終えると、既に物言わぬ女を抱きしめた。
それから私は火を点けたジッポライターを床に放った。
「レコード」「不倫」「鯖」
かぶったので次のお題は
>>444の「包帯」「歩道橋」「鏡」で
ライターを執筆者にすると思ってましたが……。
美奈さんお上手ですね。激しく関係ないのでsage
>443 お褒めに与り恐悦至極。
三度占って、三度同じ結果が出た。
明日の夜十二時、梅田の立体歩道橋に立ち、合わせ鏡の無限連鎖からただ一つの回廊を探し出すこと。
それさえできれば、愛しいあの人とこの世で再び暮らせるようになる。
天のグランドクロスと地のグランドクロスの狭間で、私は今夜、死んでしまったあの人を甦らせる。
そのためになら、世界を敵に回しても構わない。
神に呪われても構わない。
深夜とはいえ、梅田の中心街はいまだ人通りがある。私は腐臭を放ち始めたあの人の亡骸を欄干と花壇の間に落とし込んだ。
包帯がほどけ、経帷子がまくれ上がった。その下から覗くのは、赤黒くうじゃじゃけた肉の裂け目。 醜くなんかない。だって、これは私をかばってあの人が負った傷だから。
私が、私の力で清め、塞いで、癒してあげる。
私は視界に残る最後の酔っぱらいが歩み去ったのを後ろ目に歩道橋のちょうど中心に立ち、二枚の鏡を完全平行に並べた。
鏡が鏡を映す。
鏡を映す鏡が鏡に映った鏡を映し、鏡の中で鏡を反射した。
無限回廊は完成した。
私は出来る限り目線を寄せた。無限回廊を見通すのは有限の視線でしかない。出来る限り多くの回廊を覗き込まなければならない。あの人の魂がさまよう回廊を見いださなければならない。
回廊の奥で、あの人が包帯を引きずり、風に揺れる案山子のように佇んでいた。
私は合わせ鏡に手を伸ばした。
途端、突き飛ばされた。
無限回廊に落ち込む寸前、私の手は相手の裾をしっかりと握りしめていた。
経帷子は裂けることなく、私もろとも無限回廊へと転落した。
鏡の悪魔は私を騙せたと思っているのだろう。
私は、そうは思わない。
ここには、あの人がいる。一言も喋ってはくれないけれど、微妙にこわばった腕で私を抱きしめてくれる。
無限に陥落し続ける世界で、私は永遠の願いを手に入れた。
次のお題は「シナモン」「成仏」「電光石火」で。
449 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/11 00:38
>>445さん、せっかくなので、
「レコード」「不倫」「鯖」を頂いて作ってみますた。
(2−1)
夏。
義妹の娘の水着の蒼が、白い波しぶきの合間をぬっていく様を、
K人は、強い日差しに目を細めながら、見送っていた。
南国育ちの少女は、水棲の生き物の如く、器用に波をかきわけていく。
その姿は、水着の蒼い色のせいもあって、彼に、鯖のような
青い魚を連想させた。あの様子であれば心配はないと判断をした
K人は、可愛らしい栗鼠が笑っている柄のビニール・シートへ、腰を降ろした。
数メートル離れた売店に設置されたスピーカーから、K人が学生の頃に聴いた
覚えがある、ビーチボーイズのヒットナンバーが低く響いてくる。
あの当時はレコードだったんだよな、と、口の中で呟く。
(俺も歳を取ったわけだよ・・)まぶたを閉じると、
少し以前まで、ほんの子供だと思っていた姪っ子の
N実の、程よく陽に焼けた、しなやかな肢体が蘇ってきた。
450 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/11 00:41
(2−2)
照りつける日差しの中で、うとうとしかけていた時、「疲れちゃったあ」
冷たい飛沫をはねかけながら、N実が、K人の左脇にどさっと身を投げた。
「ああ・・びっくりしたなぁ・・・。Nちゃん、よく泳いでいたね」
「うん。喉、渇いちゃったよ」K人は右手を伸ばし、指先で弾くようにして、
クーラーボックスの蓋を開けた。「コーラ買ってあるよ。飲むだろ?」「ありがと!」
N実は両腕を伸ばし、叔父の手から缶コーラを受け取った。
K人は、少女の濡れて頬に張り付いた髪と、細い喉の動きを、
動悸が高鳴るのを抑えるすべもなく、みつめていた。
不意に「叔父ちゃんも欲しい?」N実は愛らしい瞳を、叔父へと向けた。
「そうだね、少し貰おうかな」N実は缶を傾け、口にコーラを含むと、
両腕をK人の首へとからませた。K人の口の中に、甘く生暖かい液体が広がった。
声も出ない様子の叔父から、少女はゆっくりと唇を離すと、
「これって、不倫になっちゃうのかなあ?」
心持ち首を傾げ、薄茶色の瞳を細めて、妖艶な笑みを浮かべた。
>>448さん、勉強になります。
君ら、おもろい。
でもね、
>>1なんか読んじゃったりすると、
15行程度って書いてあったりするのね、これがまた。
でもさ、今だ〜れも来ないから、しばらく遊んでってよ。
燃料としてガンガッテくれい。
たまに、こういう、変化も、いいよね。
まあ、そのうち、元のふうに戻るでしょう。
人が、いないよりは、じぇんじぇんマシだしね〜〜〜〜。
452 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/11 18:06
「シナモン」「成仏」「電光石火」
腹が減って仕方がなかった。仕方がなかったのだ
俺は一週間何も食べずに水だけで過ごしていた
そんな時に、偶然に通りかかった君が悪い
自業自得だ。電光石火に脳裏をよぎった
俺はそのまま道の端で餓死してしまうと考えていた
そのときシナモンの香りが鼻をかすめた
君の手にはミスタードーナツの袋があった
俺は人気のない夜の道を一人で歩く君の
不用心さにつけ込むことを思いついた
良心を決してなくした訳ではない。ただ自然なことだったのだ
今では悪いとは思っている
頼むから成仏してくれ
お題「燃料」「コーラ」「缶蹴り」
453 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/11 19:42
>「燃料」「コーラ」「缶蹴り」
攻撃は、一週間前から継続していた。以来サイトは騒然とし、様々な憶測が飛び交っている。
アクセスを止めてしまった者も、少なからずいる。午後のけだるい雰囲気が漂うオフィスで、
L女史は、朝に作成した文書を本社へと送信しながら、チャットルームの小窓を開いた。
今日は上司は半日、ミーティングから戻らない。L女史は、隣席の若い男の様子に
チラと目線を送ってから、慎重に文字を打ち込んだ。・・・祭りを、継続するための燃料。
Lが大嫌いな、Jという固定ハンドルが勤務する企業名。半ば口紅が剥げ落ちたLの唇が、
満足そうな笑みで歪んだ。暫くして・・「Lだよ、犯人」チャットのピンク色の画面に、
信じがたい文字が打ち出された。「Lって誰よ?」「Bの実名。Dって会社の局。汚いハイミスさ」
途端に、Lは声にならない悲鳴をあげ、弾かれたように立ち上がった。
そして、隣席の同僚の机に乗っていた、コーラの缶を掴むと、中身をパソコンの画面へとぶちまけた。
驚いて立ち尽くす同僚達の視線を一身に浴びながら、L女史は、茶色い液体が、液晶の画面を
伝っていくのを眺めていた。彼女の脳裏に浮かんだのは、何故か、少女時代の缶けり鬼だった。
一瞬「Lちゃん、みぃつけたあ」幼馴染の少女の笑顔が視界をよぎり、消えた。
お題「日本刀」「鳥の羽根」「アスファルト」で!
454 :
「日本刀」「鳥の羽根」「アスファルト」:03/01/11 22:14
私の師匠は、刀の命に拘りを持った職人で、切れ味さえも犠牲にした、芸術としての刀作りを
続けている。それは、必ずしも曲線が命を持つという訳では無く、だからといって西欧の刀のように、
シンメトリックで、殺傷を念頭に置いたような刀がそうだとも言えない。
名刀、雪篠は切れ味は勿論のことだが、沢山の戦を潜り抜けた故の誇りと、そして独特の煌きに満ちている。
しかし、姿形は凡庸で、古の刀であったとしても、命が込められきれていない、と師匠はこれを嫌う。
「師匠、失礼を承知でお聞きしますが、村雨や雪篠を超える刀を作ったことが在りますか?」
「一度だけ、、、作ったことがある」
「是非、見せては頂けないでしょうか?」
「君は、私の一番弟子だ。本来であれば、魅せたくはないのだが、、、まぁ、よい。ついてきなさい。」
師匠と私は刀蔵へと向かい、数ある刀棚の奥深くに眠る、師匠の名刀が入った箱を取り出した。
「これが私の、最高傑作、哀舞だ」
と見せてくれたのは、美しくスラっと伸びた、一本の日本刀がベースとなっている刀であった。
「この作品は、鳥の羽をイメージして作った物だ。ほれ、持って見なさい。途轍もなく軽い印象を受けるであろう」
と師匠は私に刀を手渡してくれた。刀を握った瞬間、私は私の概念思想、全てを破壊してくれた。
恐ろしいほど重い刀なのに、とても軽い。
まるで刀自らが飛んでいるかのような、反重力的な刀。怪しく煌く様は、まるで命を持っているかのようだ。
ふっ、と私の体が軽くなった気がした。
横を見てみると、私の体がある。
「また、起こってしまった、、、。この刀には、命を込めすぎた。刀の意思、それは切ること。
私はこの逆説に立ち向かえるだろうか、、、」と師匠の声がした。
アスファルトのように、柔らかく、硬い刀。アスファルトのようなのに、哀舞は人間の様であった。
次のお題は「携帯電話」「チベット」「太平洋」で
携帯電話業界は、ついにIridiumの後継を業として成り立たせる地点に到達した。
すなわち、世界共通規格としての完全衛星中継である。
端末の強度、耐久性、電波到達性能を図る実験は、至る所で行われている。
−例えば太平洋に浮かぶ、名もなき小島で。
「もしもし本社?食い物はいいです、しばらく。それより水!水下さい!」
−例えばチベット、神々の峰で。
「もしもし、GPSで座標を確認しました。あと500mほど西でビバークしてます。雪洞はちと電波が遠いようなので救助隊員には注意するようにと……マジ寒いっす……」
−例えばアマゾンのジャングルで。
「いだだだだだ!肉噛んでる肉噛んでるって!ペニシリンないと死ぬって!!」
−例えば紛争絶えぬ中東で。
「アッラーフ・アクバル!諸君らの協力のお陰で、米帝の動きが手に取るように分かるぞ!ムハンマドもお喜びであろう!」
戦え電話業界、頑張れサラリーマン。世界を電波の網で覆い尽くす、その日まで。
次のお題は「荷電粒子」「火打ち石」「アスピリン」で。
「敵影3つ!」
私はアスピリンを口に放り込み、音をたてて噛み砕いた。
最近特に頭痛がひどい。頭の中に響くあの人の声のせいか。
アスピリンを飲み込む間もなく味方機が爆散した。
「させるかっ!」
敵のザコには目もくれず、私は隊長機に照準を合わせた。
が、敵もさるもの、火線を巧みにかわし私の機体に体当たりする。
凄まじい衝撃。だが白いこの機体はたいした損傷を受けない。
私は即座に旋回し敵機に向けトリガーを絞った。
ところが
「カチッ」
乾いた音をたてるばかりで砲が作動しない。
しまった。さっきの衝撃で火打ち石が欠けたか。
火薬の爆発で荷電粒子を飛ばすのだ、点火できないのでは何の役にも立たない。
私は荷電粒子砲を投げ捨て肩のビームサーベルを引き抜いた。
再び迫り来るヤツの機体はいつもより更に赤く見えた。
次は「テロリスト」「クローン人間」「拉致問題」
458 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/01/12 15:56
「テロリスト」「クローン人間」「拉致問題」
次々と発生する拉致問題。
高校1年生の彼女は、今から頭を悩ましている。
例えば、重要な政治家の拉致、という場合を考える。
クローン人間のすり替えという事すらあり得る。
様々な可能性を考慮し、対応を考える。
凶悪な独裁体制は、相変わらず続いている。
独裁者の気分一つで、人間が虫けらの様に扱われる社会だ。
彼女は、大学受験を2年後に控えている。
自分に、そして家族にも大切な、絶対クリアしなければならない関門だ。
午前1時…彼女は夜を徹して受験に備える。
彼女にとって、受験は「道徳性」「基本的人権」といった概念を超えていた。
家族ぐるみの「優秀市民待遇」か「収容所生活」か…それが全てだった。
今夜も彼女は、ぶ厚い「よくできる・チャート式拉致問題集」と格闘している。
「国立テロリスト養成大学」受験まであと2年しかないのだ。
※う、暗い^^;
次のお題は:「はきだめ」「珊瑚礁」「青空」でお願いします。
「はきだめ」「珊瑚礁」「青空」
何がしたかったかと聞かれれば漠然としすぎていて、言葉が詰まる。
自分が動くわけでもなく、ただ愚痴ばかりを募らせる人々のはきだめから、逃げたかった。
財布の中に残された残金で沖縄行きのチケットを買い、二時間後には綺麗な青空の中を飛行機で進む。
窓から眺める雲海は綺麗で、心を洗う光景。でも、実際には暗鬱なままの胸。
それは現地空港について、ただぶらぶらと歩いた先で広がった美しい海を見ても変らなかった。
けれど耳を澄ますことだけは避けた。きっとアクセントの違う言葉で愚痴が聞けただろう。
金も無い、空いた腹を抱えて道を歩いた。歩道、その壁にはポスターが貼られていた。
「常夏の空、珊瑚礁に遭いに行こう」
何も現地にまで出張ってこなくても良いのに、航空会社のポスターは明るい沖縄を見せ付ける。
胸の雲は、その瞬間初めて消えた。
お邪魔しました。
次のお題は
「位牌」「ネックレス」「始発電車」でお願いします。
460 :
「位牌」「ネックレス」「始発電車」:03/01/13 01:21
位牌を持つ手は冷たかった。私は始発電車を待っていた。
冬の夜の静かなホーム。雲に隠れて星は一つも見えない。
誰の位牌かはいえない。別に秘密というわけではない。
いっても意味がないからいわないのだ。ご了承願う。
そして、パールのネックレス。通販でありそうなものだった。
おそらくいイアリングもセットだろう。
寂しい奴だ。けちな装飾を身につけることはなかった。
自然なままで十分だった。
私はネックレスをポケットに入れていたのだが、
いつからかなくなっていた。
もっとも、もう無価値の代物だったが。
沈んだ空気を押し出す光が、重たい音ともにやってきた。
黒く見えた車体は、黒くはなかった。
お題は継続でお願いします。
461 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/13 02:24
>「位牌」「ネックレス」「始発電車」
薄いもやに包まれた早朝の無人駅。少年は白く息を吐き出しながら、
緑色のナイキのスニーカーをせわしなく上下させて、始発電車を待ちわびていた。
かじかんだ手には、黄色いリボンのついた紙袋がひとつ。
別れ際に、恋人である少女から、押し付けられたものだ。
暫くして、オレンジ色の鈍行電車が、古びた車体の上部を照からせ、
のろのろとホームへ滑り込んで来た。ドアが開くのと同時に、少年は
車中へと駆け込み、紙袋を脇へ挟むと、両の掌に息を吐きかけた。
・・ふと、視線を感じて、少年は顔を上げた。
はす向かいの座席で、黒衣の中年女性が、薄い笑みを浮かべて、
彼を凝視していた。女の首が朝日を反射して、銀色の光を放っている。
少年は、後じさりをした。
女性の首には、太い鎖状のネックレスが、幾重にも巻き付いていたからだ。
彼女は上目使いで少年をみつめ、裂けたように大きな口で、
ニッと笑ってみせた。その時・・・・電車が急停車をした。
少年は、床に手をついて倒れ込んだ。紙袋は、前方にすっ飛んだ。
激しく息をついてから、少年が目を上げると、そこに女の姿はなかった。
代わりに、不吉に黒い位牌がひとつ。座席の上で倒れていた。
少年は、たった今、誰かが死んだという事を確信した。
その誰かが、首を無くしている事も。
ウッ(; ゚Д゚)4行オーバー。
お次「自動販売機」「松葉杖」「からす」で!
462 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/01/13 02:25
「位牌」「ネックレス」「始発電車」
位牌に名が刻まれている「涼」という女。
名前どおり、どんな時でもクールな顔をしている腹が立つ奴だった。
初めて夜をともにした時でさえ、涼の乱れた表情の中に潜むクールさは決して失われることがなかった。
しかし、そんな涼の表情はかえって俺の心を掴んで離さなかった。
今更になって思う、そうやって涼は俺を操っていたのだと。
別にネックレスやカバンのようなものを貢いだと言うわけではないが、
涼のクールな表情が俺のすべてを奪っていった。
愛情も過去も、そして未来さえも。
俺は涼からたくさんのものを得たが、肝心のものを得ることができなかった。
涼の愛情は、全て俺の親友の――そして涼の兄の「光」のもとにあった。
涼のクールな表情を作った元凶の光に。
何であんな女を愛して……結婚してしまったんだろう。
今更後悔してもどうしようもないが、それでも考えずにはいられない。
始発列車の前に飛び込んで自殺した兄妹の知らせを聞いたのは、俺が起きてまもなくのことだった。
それからの日常はまさに夢のようだ。
くだらない週刊誌の記事。冷たい近所の視線。高額の賠償金。
それなのに……愛する女の位牌を前に涙して思う。
最期くらい作られたクールな顔なんかではなく愛する男の前で素顔に戻れたのだろうか、と。
☆久々に人がいっぱいな日が続いてうれしかったり。
あとは簡素人さんが戻ってくるor降臨して下さればもっとよいのですが。
次は「梨」「カーテン」「豹柄」でお願いします。
463 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/01/13 02:27
久しぶりのかぶりだ……。
すみません。
次は葛の葉さんの「自動販売機」「松葉杖」「からす」でお願いします。
>>463 いや、「梨」「カーテン」「豹柄」って面白そうですよ。
私は苦し紛れに考えただけなので・・・・ (;´Д`)
次の方は、お好きな方でやられたら
(* ̄▽ ̄)y-~~~~ 宜しいんじゃないでしょうか?
465 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/01/13 02:52
私も割と考えなしでお題出しましたよ(ぉ
葛の葉さんがそれでよいとおっしゃってくれるならば、
次は「自動販売機」「松葉杖」「からす」
もしくは「梨」「カーテン」「豹柄」のお好みのほうでどうぞ。
「自動販売機」「松葉杖」「からす」
145円という半端な値段に惹かれた。
缶のデザインだけでは、何のジュースであるか、わからない。というのも、
豹柄なのだ。文字はない。名前のない飲み物なんてぞっとしないが、かえって
買ってみたい衝動にかられたのだ。ガコンと音がした。屈んで、自動販売機の
取り出し口に手を突っ込むとき、まさか噛まれはしないだろうと思いながらも、
ローマの休日に出てきた「真実の口」を思い出した。
プルリングに指をかけ、開ける。すぐには飲まず、匂いを嗅ぐ。梨を思わせる
香りがしたので、果汁モノだなと侮ったのがいけなかった。ひとくち、ふたくち、
咽喉に流し込んでいると、通りの向かいに立っている老人を見つけた。松葉杖をついて、
こちらを窺っている。よく見ると、唇の端を歪めてニヤついているのがわかる。さらには、
老人の向こうの家の窓に、子供の顔が見える。目が合うなり、カーテンを閉めやがるので、
嫌な予感がしたのだ。
果たして俺は吐き気をもよおし、地面にヒザをついて、仰向けに転がった。背中が熱い。
体中の骨が変形していくのがわかる。気が遠くなるほどの激痛が神経を走る。あまりの頭痛に声が漏れた。
「カッ、カァァァァァ」
すこし宙に浮いた。袖から出た指先は、両手とも黒い毛で覆われている。俺は……、俺はカラスになったようだ。
ワケ・ワカ・ラン♪
次は「部屋」「Yシャツ」「私」でお願いします。
467 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/13 07:34
部屋・Yシャツ・私
お題の3語を見て、妙に気になった。
なぜ、YシャツはYシャツと言うのだろう。
Tシャツなら分かる。広げると、T字形をしている。
部屋の中を漁り、Yシャツを出してきて広げてみたが、Y字形じゃない。
腕の部分をV字形にすればYの字に見えるが、これは反則だろう。
気になると、とことん調べなければ気がすまない性格のわたしは、インターネットで検索することにした。
結果、Yシャツの語源は「ホワイトシャツ」だと分かった。
「ホワイト」ならWシャツではないかと思うが、「ホ」の発音は弱く、「ワイ」と聞こえるのでYシャツになったらしい。
でも、なんか納得できない。というより、おもしろくない。
語源を調べて損をした気分だ。
誰か、おもしろい語源を考えて欲しい。
窓の外は暑そうだ
部屋のYシャツを着て私は外に出た
469 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/13 10:21
私の部屋はYシャツだ。
by ぴょん吉
大阪訳
→「わいのシャツや!」
470 :
部屋・ワイシャツ・私:03/01/13 13:28
国連人類歴史博物館収蔵物第1189427174442号。形態・文書、日記
「 日本人民共和国2003年1月1日.本日も晴天なり。
私の部屋は、殺風景なコンクリート作りの、20階建てのいわゆる「共和国スタンダード
マンション」の最上階にあります。窓から外をみれば、まったく同じ形をしたマンションが、地平線の
彼方まで続いています。いつもの見慣れた風景。しかし、今日はいつもと違うことがあります。
街のあちこちから、白い煙が上がっています。埃っぽい風が、火薬の匂いと銃声を運んで
きます。1945年、ソビエト軍に占領されて以来何も変わらなかったこの国で、何かが変わろうと
しているようです。このマンションも、もう下のほうが燃え始めています。
私は今年40歳になります。共和国工業施設管理事務官である私は、大学を卒業してから
20年、いつも同じスタイルで出勤してきました。無地のワイシャツ、紺のスーツ、
紺のネクタイに革の靴。遺伝子が優秀ではなかったので、配偶者は与えられませんでしたが、
自分の能力の範囲で、自らの務めを果してきました。この部屋はささやかではありますが、私の城です。
若い人たちは変化を望んでいますが、私には新しい時代に飛び込む気力がもはやありません。
この部屋と一緒に人生を終えるつもりです。さようなら」
半年振りの投稿だにゃ。次の御代は、アーメン・ソーメン・イケメンで。
471 :
◆0GKoHE9SBM :03/01/13 16:51
>>466 なるほど、中々考えましたね。
中々流れが良い。短い文章の中からでも大きく世界が広がっている。
>>470 面白く読めました。造語が多いのが少し気に掛かりますが、それもまた魅力の一つとなりえますね。
これなら長編のプロローグ・エピローグどちらにでも持っていけそうです。
472 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/13 17:16
473 :
◆0GKoHE9SBM :03/01/13 17:17
>>472 すみません、次からこっちでやりますね。
474 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/13 23:59
公衆電話の受話器ごしに伝わる無機質なベルの音を聞きながら、
俺は今すぐ床に跪いてアーメンをしたい気分になった。
繋がれ。繋がれ。繋がれ。心の中で必死に祈る。
今この瞬間だけ俺はどんなクリスチャンよりも強い信仰心を持てたと思う。
「はい、もしもし。こちら○○ですが…」
繋がった! 俺は心の中でイエスキリストに感謝の言葉を捧げると、彼女に言った。
「もしもし、△△だけど…、君に言いたいことがあるんだ」
さっきから俺の心臓は悲鳴を上げてる。冷や汗で湿った手を握り締める。
言うんだ。ここで言わなきゃいつ言うんだ。言うんだ!
「君のことが…その…好きだ…。 今から、会えるかな…?」
……。 一度言うと一気に気が楽になったけど、まだ返事が来ない。
ここでOKが貰えるなら、この真冬の寒空の下ソーメンを食べることだって厭わないのに…!
「ごめんなさい…」
ガチャ、ツー、ツー、ツー。彼女の声は無機質な電子音に変わった。
俺は力無く受話器を落とす。元の位置に戻す気力も無かった。
俺がトム・クルーズ並のイケメンだったら彼女の反応は変わっただろうか。
街を歩く幸せそうなカップルを見ると、自然に涙が溢れてきた。
イエスキリストの馬鹿野郎。クリスマスなんて糞食らえだ。
ちょっとソーメンが強引かも。次のお題は「メトロノーム」「CD」「家」でお願いします。
475 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/14 00:05
しまった。ラーメンが入っていなかった。
回線切って首吊ってきます。
上の書き込みはスルーしといてください。
アーメン、ソーメンと絶叫してハルヒコは死んだ。
悪い奴ではなかった。死の一週間前に発狂した後でも、俺の事を覚えていてくれた。
世界中はタルノン星人に侵略されても、お前は俺の味方だよな、とハルヒコは言って、カラカラに干からびた指で俺に掴まった。
俺はどうしていいか分からず、ハルヒコを曖昧に布団に寝かせ、飯を食わせ、風呂に入れ、トイレに連れて行った。
タルノン星人がやってくる、タルノン星人がやってくる、神様助けて、アーメン、ソーメン、と叫ばなければまともな人間にも見えた。
ハルヒコは、死ぬ寸前まで怯え、俺を頼ったのだろう。
それでも俺は何もしてやれなかった。逃げていた。
だが、もう逃げはしない。怖くなんか無い。あるのは、ハルヒコの信頼に対する無念だけだ。
――待ってろよ、ハルヒコ。タルノン星人の空飛ぶ円盤がよく見えるこの丘の墓から、見守ってくれ。
次は「天才」「濃霧」「田中」
「天才」「濃霧」「田中」で書きます
======
手を伸ばすと肘から先が見えなくなるような濃霧の中に僕はいる。
足を踏み出して歩かくっちゃならない。
だけど足を出すとその先は底なしの崖かもしれない。
踏み出した先に土の感触はなく、僕は土の抵抗を感じなかったその足と共に、谷底に落ちていくのかも知れない。
足をズリズリと動かしてみる。腿から下がスウスウして薄気味悪い。
その時、僕の頭にふっと田中のことが浮かんだ。あいつは天才だ。
どう天才なのかって、大学で授業が気に食わなかったからって教授を殴るほどの天才ぶりだ。
僕は別に冗談で言ってるんじゃない。
思ったことをそのまま行動に出せる田中は、僕にとっては天才だ。
僕は、いつも思っていることを行動にするのを躊躇ってしまう。そして大抵、頭で考えただけで終わってしまう。
僕は今、どうすればいいのか考えた。
……あいつならどうするだろう。
「走れ!」
僕は田中の声が聞こえたような気がして後ろを振り返った。
「走れ! 走れ! 息苦しくなるくらい走れ! こんな状況俺は嫌いだ!!」
僕は周りの霧を見まわした。霧は白く濃く、僕にまとわりつくようにそこにあった。
霧は動かない。水の粒子が、だんだんと僕に重くのしかかって来るようだ。僕には、霧の小さい粒子の一粒一粒に悪意が宿っているように思えた。
僕は田中の言葉の魅力に取りつかれ、たまらなくなって、ついに自分の思いのままに、走った。
======
次は「熱い」「おくさん」「電車」
478 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/14 23:12
↑「おくさん」は、漢字に直してもらってもいいです。
479 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/15 00:29
>「熱い」「おくさん」「電車」
レコードの針を落とすと、緩やかなピアノ曲が流れ出し、孝之は、安堵の吐息を洩らした。
夕暮れの陽光のなかで、きらきらと輝いてみえる埃の向こう側に、蘭の笑顔がある。
曲は、ショパンのノクターン。 二人が初めて出会った早朝の電車のなかで、音大生の蘭が
足元へ落としてしまった楽譜が、この曲だった。ほぼ満員状態の車内で、通勤途中
の人達の迷惑そうな視線を浴び、汗をかきながら「すいません」と小さく呟き、
一枚一枚拾い集め立ち上がった孝之に、蘭はぎこちない笑顔で、ハンカチを差し出し
たのだった。「ウエディングドレスは無いけれど・・」そう呟いた蘭に、孝之は笑いかけ、
ワイシャツの首元へ人差し指をつっ込んだ。・・・熱い。額から頬へと、ひっきりなしに
汗が伝う。緩くウエーブがかかった髪の毛は、ビッショリと濡れて、頭皮へ貼り付いている。
しかし・・「綺麗だよ。素敵な花嫁だ」孝之は、囁き返した。鈴蘭が散っている、
白い木綿のワンピースを着た欄は、花嫁というよりは年若い奥さんという風情だったけれど、
心から満足をしているように見えた。荒し尽くされた無人の商店のショーケースの奥から、
孝之が、どれだけ苦心をしてこれを探し出して来たのかを、よく理解しているのだろう。
孝之は、無言で白い手袋をはめた右手を差し出した。蘭のきゃしゃな右手が、その上に
重ねられる。窓の外では、まもなく地球を呑み込もうとする凶悪な太陽が、容赦のない
熱気を放っていたけれど ・・・ふたつの生命は、このうえなく幸福だった。
一行(;´Д`)オーバー
お次「オイルランプ」「街路樹」「スケッチブック」
480 :
「熱い」「おくさん」「電車」:03/01/15 00:38
「奥さん、時々思うのですが、何故そんなに濃い化粧をするんですか?
熱い時に、そんな厚い化粧しちゃって。ますます熱くなってしまいますよ。」
「まぁ、失礼ね。美人がさらに美しくなるんだから、別にいいじゃない。」
「確かに、奥さんはとても美人でいらっしゃいます。しかしですね、厚化粧は
あなたの皮膚にとっても毒ですよ。皮膚を老化させる原因にもなるんです。」
「え、そうなの?でもねぇ、薄い化粧だと、どうも映えないでしょ?」
「そんなあなたに、この化粧があります
道を歩けば、いつもこのような売り文句に出会う。
或る者はキャッチセールスの常套句で客を丸めこむ。或る者は自らの悪職に異論を唱えながらも、
自らの明確な道を見出せず、表情暗く、俯いている。
魑魅魍魎としたこの世界では、日常茶飯、当たり前のように横行している。
もし、こう問うたら、彼らはどう答えるだろうか。
「君があと半年後に死ぬのであれば、どう生きるのか?」
きっと、何も答えることはないであろう。そして、私も何も答えられない。
そして俯きながら、今日も電車に乗って、カオスの世界へと繰り出していくのだ。
お題を忘れ、更には被りましたので、479さんのお題でお願いします。
同じ題なのに、ここまで話が変わるとはw
482 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/15 02:27
1行オーバーって・・・。
プラス4行マイナス3行くらいならセーフじゃない?内容よければ行数アバウトでも大目に見るよ。
ぶつかっていこうよ!きっと結果でるにょ!
483 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/15 03:15
今日も街中で僕はスケッチブックを開く。変な奴と思われたって構うもんか。
街中に落ちる色んな光を捕らえないのは勿体なさすぎる。
デカいビルにぶち当たって影となって死んでいくのや、
街路樹の枝と葉の隙間を縫って美しい色を見せるのや、
道行く人の人生を照らすのや……そんな光は待ってはくれない、
いつもそこにあるわけじゃない。太陽の光はいつだって違う顔を見せる、
チャンスは一瞬しかない、僕はそいつを捕まえるんだ、今ならきっとできる。
破り捨てられたスケッチブックの1枚が暗い部屋の中でゆっくりと燃える。
オイルランプの火ですら紙を燃やすには十分すぎる。そして彼は気付いていないのだ、
街中を彩っていたあの時の光が今この燃え逝く紙となっていることを、
彼が捕らえようとする物全ては捕らえる仕度の出来ていない時に今まで幾度と無く訪れてきていたことを。
彼が眠りに落ちてしばらく経った後に、オイルランプの火も落ちた。残ったのは燃え殻だけ。
次のお題は「一戸建て」「傑作」「シェルター」
「一戸建て」「傑作」「シェルター」
郊外に一戸建てを買った。親の遺産で、共に住む者などいやしないのに。
けれど独り身はむしろ望むところだ。金に目が眩んだような連中の顔を見るのはもう飽きた。
携えるのは傑作の本、幾冊か手元にあれば、しばらくは退屈もせずに済むだろう。
最後のダンボールに封をして、引っ越し準備もこれで全て。
さて明日からは、専用シェルターで、新生活の始まりだ。
ログもよく読まずに発作的飛び入り参加……。
次のお題「秒針」「乾燥」「酸っぱい」
その瞬間はすべてが止まったようだった。
いや、マンガなら時計の秒針が「カッ、カッ、カッ」と鳴る効果音で演出するところか。
実際俺も全身が脈打って、まるで心臓になった気分だった。
これは大事な地区大会。俺が目の前の奴から一本取れば、後輩達の士気も格段に上がるだろう。
間合いを取りながら奴の隙を第六感で伺う。空気がすごく重く感じられた。
乾燥しきった空気を随分吸い込んだらしく、喉がへばりついて気持ち悪い。
まだ取っ組み合ってもいないのに奴の顔にも、俺の顔にも汗がにじんでいた。
テレビ中継で見ればほんの一瞬の出来事だろう。
しかし俺には気が遠くなるほどの時間だ。おそらく奴にとっても。
柔道はただの肉体のぶつけあいだけじゃない。武道一般はおそらくみなそうだが、
相手の気迫というものは目に見えないが一種殴られるよりもたまらない。
あっ、と思った次の瞬間、俺の身体は宙を舞っていた。
「一本!」
やられた。ほんの一瞬だった。俺は軽いショック状態で呆然としながら立ち上がった。
乾いた口中をなめようとしたら、叩きつけられたショックで酸っぱいものがこみあがっていた。
初めて書いてみますた・・。
次のお題「砂上の楼閣」「電球」「廊下」
「砂上の楼閣」「電球」「廊下」
「ケンジ、バリケード作れ」ヒロシは学習机を指差す。
オレは机を引き摺ると、外からドアが開かない様にバリケードの代わりにした。
「君達は完全に包囲されている。武器を捨てて大人しく投降しなさい」窓の外で警察の拡声器がわめいている。
オレ達は完全に袋のネズミだった。銀行を襲って金を奪ったまではよかったが、
カーチェイスの挙句、取り壊し寸前のぼろアパートに追い込まれた。
ヒロシは篭城を決め込んで、要塞さながらバリケード作りに励んでいる。
「そんなコトしても砂上の楼閣を作るだけじゃねえか」窓から外をうかがいながら言う。
「縁起でもねえ。何とか逃げる方法を考えようぜ」ヒロシの額から汗が垂れる。
夜になり、部屋は闇に包まれた。
「あの電球つかねえかな」ヒロシは天井からぶら下がる裸電球を指差した。
夕方、すでにオレは電球のスイッチを捻って確認済みだった。明かりは点らない。
そりゃそうだ、こんな取り壊し寸前のアパートだ、ライフラインは止まっているに違いない。
「廊下の奥にブレーカーあったろ。あれ、上げて来いよ」オレがバイトの後輩だからか、人づかいが荒い。
バリケード代わりの机をどけると、そっとドアを開け、廊下をうかがう。人気は無い。足音を忍ばせて暗い廊下を手探りで進む。
あった、ブレーカーだ。手を伸ばす。一瞬火花が散る。
耳を聾する大音響とともにオレの意識が途絶えた。
すっかりライフラインは止まっているかと思ったぜ。しかもガス漏れのオマケつきかよ。
オレはあの世への階段を昇りながら、鼻炎を治しておくべきだったと後悔した。
487 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/15 13:01
>>482 (´∀`)ノオ言葉ニ甘エテ。
>「砂上の楼閣」「電球」「廊下」
男は、いかにも健康そうな白い歯で、3ツ目のそれを噛み砕いた。パリン、と、
小気味よい音を放ち、それは砕けた。生温かさと薄い塩味が、口の中へと広がった。
深夜の社屋。ひっそりと静まり返った廊下で。しゃらしゃらと、衣擦れの音。
それは、社長室の革張りの椅子に、机上へ足を投げ出して腰掛けている男の耳にも、
はっきりと聞こえてくる。男は、ウオッカの瓶を唇に押し当てた。・・・真帆子。
長い長い廊下を、真帆子が赤ワインの色のドレスの裾を引き摺り、ゆっくりと近づいて来る。
胸元に百合のコサージュがついた、シルクサテンのドレス。4年目の結婚記念日に、特注をしたドレス。
あの頃はまだ、俺があいつと結婚した真意を、真帆子は見抜けないでいたよなあ。
そう男は呟き、卑屈な笑みで顔を歪ませた。ヒヒヒヒヒヒ。
・・生前、真帆子が、最も気に入っていたドレス。
化けて出るにも、装おうとするのが女というものらしい。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。
男は、酒で濡れた手を震わせながら、三段目の引き出しを開けた。
明日、二度目の不渡りが出る。世間知らずな老嬢をたぶらかして、
積年の夢を果たし、興した会社は、砂上の楼閣に過ぎなかったというわけだ。
震える手が、黒光りする拳銃を掴む。冷たい金属の感触。
一度こめかみに当ててから・・・男は、だらりと腕を降ろした。
夜明けまで、時間はある。この社屋の地中深くに埋められている、妻の言い分を、
聞いてやるだけの時間は。男は、4ツ目の電球を口に含み、噛み砕き始めた・・・・。
お次「氷」「新月」「信号の黄色」で!
488 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/15 15:16
「お前、また太ったんじゃないのか?」という眞二の一言で、吉子はたちまち不機嫌になった。
これが久しぶりに会う恋人への言葉か?それもこんな場所で。
吉子はこの日のために、お呼ばれドレスを新調した。化粧もいろいろ研究した。
おいしいものでも食べよう、とディナークルーズを予約したのは眞二の方なのに。
ちょっと小綺麗にして褒めてもらおうと思っていた吉子の努力は台なしになりそうだ。
さらに眞二は「よし、お前今日からダイエットしろ!」などど言い出した。
「えー!?なんで!?」と、吉子はありったけの不機嫌さを乗せて返した。
確かにそうだ。自分の体重は明らかに黄信号。もうすぐ赤に変わる信号の黄色だ。
でも、会っていきなり言うことはないじゃない!?と吉子の不機嫌さは怒りに変わろうとしていた。
「新月は新しく何かを始めるのには絶好の日らしいぞ。ダイエットもモチロン」
眞二は吉子の態度など気にも止めず、らしくない雑学を披露して夜空を見上げた。今日は新月。星も都市
の照明でくすみがちだ。一息吸うと、彼は飾りとして机に置かいてある、小さな花氷を指さした。
吉子が怪訝そうに中をのぞき込むと、花の中に混じって指輪が凍っていた。
「痩せなきゃサイズ、合わないんだよ。俺も今日からもっと頑張って、幸せにするからさ、結婚してくれ」
吉子のゆがんだ顔がみるみるうちに明るくなった。
ちゃんと文字列範囲内におさまっているのか・・((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
書いてたらいろいろ広がりすぎて収まりつかなくなった・・・。
次は「永遠」「太陽」「林檎」でおながいします。
林檎という果物は、良きにつけ悪しきにつけ、神話の舞台に上り続けてきた。
曰く、アダムの林檎。曰く、ヘスペリデスの黄金の林檎。北欧の神々に永遠をもたらした、生命の林檎。
今日、ついに我々は生命の林檎を自ら作り出した。
永遠の命の源を手に入れたのだ。
我々の人工太陽が変調をきたしたのは、数日前のことだった。燃料のヘリウムに不純物が混入したのか、正体不明の光波が放射されるようになったのだ。
耐熱耐波動耐放射能の完全防護服に身を固めた技師が二人、人工太陽に接近して調査に当たった。
しかしその光波−我々はそれを<デファレータ光線>と名付けた−は、防護服を貫通し、技師の全身を洗った。現場指揮官はそれを知るや直ちに技師を呼び戻し、精密検査にかけた。
結果は驚くべきものだった。光波の影響により、遺伝子構造が完全に変化していた。最も我々を驚かせたのはそうであるにもかかわらず、変化した組織が変化前の組織と親和性をもち、肉体を再構成していることだった。
技師たちの姿は見る見るうちに変化していった。角質が変化し、赤と銀に輝く皮膚へと変容を遂げた。まぶたがなくなり、淡い光芒を放つようになった。
すっかり変貌を遂げた技師はなんらの問題もないかのように立ち上がり、高らかに叫んだ。
「デュワッ!!」
以上ウルトラネタでした。次のお題は「神戸」「コート」「実印」で。
お題「神戸」「コート」「実印」
バッグから実印を取り出す嫁に溜息。かれこれ十年は見た事もない、嫁の恋する娘のような顔に溜息。
自分の懐にスーツの上から手を置いて溜息。コートにぶら下がった値札に溜息。
今日は妻の誕生日だった。四十を過ぎてもこういうものに胸をときめかす性質は変わらないらしい。
変わった事と言えば分割払いを覚えた事くらいだろう。化粧の腕前も、服の趣味さえ変わっていない。
金遣いの荒さは言わずもがな。それでいて彼が使う分については吝嗇の極みなのだからやっていられない。
ボーナスの四割はローンで飛んだ。さらに四割はどこに流用されるかも知れたものではない貯金。そして
残りの二割のうち一割が、こうして妻のおおっぴらな浪費に回される。最後の一割については「みんなで
分けて使いましょうね」という妻の一言で空に消え散った。社会人ラグビーの神戸製鋼戦を見に行こうと
思って少しだけ袖に忍ばせてみたのだが、ものの五秒で見破られた。冗談じゃないぞ。この女の目には何か
自分には見えないものが見えるのではないか。そう思うし思い知らされた事も一度や二度ではない。息子に
威厳のある父親の姿を一度でも見せたいと思った昔が懐かしくすらある。やめろ、ズボンで洟をかまないで
くれ。
「あらあらあら! これも素敵だったかしらね!」
買ったコートを袋に詰めるなり新しい獲物に飛びつく。妻の病気を疑いつつもこれが人生と悟りつつある
自分にねじれた満足感を抱きながら、彼は昼食を理由に妻を止めに入った。
書いてて切なくなりました。次のお題は「マント」「飛び入り」「はにかみ笑い」でどうぞ。
491 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/16 02:17
>「マント」「飛び入り」「はにかみ笑い」
「フレデゴンドとブリュヌオー」。世界史通の部長、綾音が持ち込んだ、学園祭のための
とんでもない演目に、演劇部の部員全員が、困惑の色を隠せなかった。
「王女様と愛妾が、王様を取り合う話でしょ?王様は、誰がやるの?男子、全然いないのに・・」
2年生の美也子がぼそりと呟くと、一同の視線は、一週間前に転校して来たばかりの1年生、
水内へと向けられた。彼は、そんな女子部員たちには目もくれずに、文庫本を読みふけっている。
野のものとも山のものとも知れぬ1年坊が、この演劇部唯一の男子部員なのだった。綾音は、
彼には目もくれず、「あたしがやるわ。それで良い?」きっぱりと言い放った。そして、いきなり
窓枠へ片足を掛けたかと思うと、その上で立ち上がり、うっすらと黄ばんだカーテンを、レールから
器用に取り外した。カーテンをマントの様に纏い、得意のアルトを振るって、「我が名はクロテール二世!
戦より戻ったぞ!」勇ましい立ち振る舞いで、王様を演じ始めた。女子部員たちは、一斉に立ち上り、
歓声を上げた。水内は、そんな女子たちを、暫く面倒臭そうに眺めていたが「・・・飛び入り参加は
オッケーかい?」ぼそりと呟くと、立ち上がった。「お戻りですの?我が君」しなやかな美声に、
皆は驚いて振り、彼をみつめた。妖艶な愛妾・フレデゴンドに扮した水内は、艶っぽい仕草と、
銀鈴の美声で演技を始め、「ああ、血の匂いが致します。わたくしが拭いて差し上げましょう」
綾音へと、寄り添った。「戦いを止めてはなりません。我が君」水内の指先が、綾音の頬へ触れる。
「ゴートの勇はどちらであるのか、決さなくてはなりません」綾音は、呆然と水内を見つめ返した。
「クロテール。あなたであるのか、弟君であるのかを・・」そして、水内の両腕が綾音の肩へかかり、
抱きすくめるのと同時に、二人の唇が触れ合った。次の瞬間、軽い悲鳴をあげて水内を突き飛ばした
綾音は、頭上に両腕を掲げ、彼に殴りかかった。水内はそれを易々と交わすと、夕闇の迫る廊下へ
逃げ出して行った。わっと泣き伏した綾音へ、女子部員はおろおろと慰めの言葉をかける。
綾音は、なかなか顔を上げることが出来なかった。
偽りの涙の下で、こみ上げてくるはにかみ笑いを、噛み殺すことが出来そうにはなかったから。
・・・完全に文字数オーバーでした。。
次のお題「金星」「針」「長靴」で!
493 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 02:40
↑かぎかっこが繋がってて読みにくい
金星の地表はとても熱い。まるでそれは真夏のフロリダの砂浜の上のようだ。
だが、この星にはビーチパラソルの下に寝そべる水着の美女など居ない。人々は厚い厚い底の長靴を履いて、
真っ黒に炭化した道路の上を歩く。
僕は乞食だ。
僕はいつものように黒い地面に硫化ダンボールを敷いて、靴のせいで背の高い人々を見上げながら物乞いを
していた。
真っ白に輝く太陽をバイザー越しに眺めていると、僕は突然、何かの声を聞いた気がした。それは、とても高貴で、
とても上の方から聞こえてきたような気がした。
そして、その声はとても小さかった。
僕は躊躇なくヘルメットを取り、気が付くと十万本の針が刺すような痛みに耐えながらひたすら上を見上げていた。
周りの人々の叫び声が小さく聞こえた。
脳細胞を完全に放射線に焼き切られるまで、僕は上から聞こえる声に耳を澄ませていた。
よくわからないけど、その声を聞いていると、とても安心したから。
次は「コカコーラ」「マフラー」「山形県」で。
495 :
ひとことといわずものもうす。:03/01/16 03:01
496 :
「コカコーラ」「マフラー」「山形県」:03/01/16 03:04
英語では、マフラーのことをスカーフと呼ぶ。
彼の誕生日に、学校が冬休みの間中かかって、手編みのマフラーを仕上げた。
私にとっては、手編みのマフラーはマフラーであって、スカーフと呼ぶのは
ピンとこない。マフラーで通した。彼も,マイマフラーと呼ぶようになった。
ある寒い日、私たちは川に面した公園のベンチでソーダの缶を手に座ってた。
喧嘩した後の気まずい雰囲気で、どちらも無言だった。私はコカコーラ。
彼はチェリーコークの缶を持て余してた。チェリーといえば、山形県産の
可憐なやつが私は好きだ。チェリーコークは好きじゃない。
彼はついに立ち上がった。私を振り返らずに。マフラーが肩から滑り落ちた。
「あんたのマフラー!」私は後ろから呼びかけた。向こうからやってきた
犬を連れたおばさんが「スカーフが落ちたわよ」と大声で言った。
彼は初めてそれで初めて気が付いた。
数カ月後、私たちは別れた。原因は、カルチャーギャップと言うやつだと思う。
お題忘れました。すいません。
「ひなぎく」「王室」「ガラス玉」
でお願いします。
498 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 12:31
ココって感想とかレビューとか書かないの?
それとも専用ウォッチすれがある?
499 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 12:39
500 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 12:43
>>499 良く探せばわかる事だった・・・。ありがとう。
501 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 14:13
「ひなぎく」「王室」「ガラス玉」
「私に花を例えるなら、あなた何になさる?」
ユキは、ガラス玉のように透き通った目をまじまじと僕に向けて問うた。
「そうだな・・・」僕は言いしれない寂しさを隠すために考えるふりをして俯く。
「タカシ君やヒロ君は薔薇って言ってくれたの・・・あなたは?」
ユキの細い指先が、商売慣れした女のように膝を揺った。
確かに彼女は都会に働きに出て見違えるほど美しくなった。
洋服も身のこなしも、地元の女にはない色香を醸し出していた。
彼女がいるだけで、商店街のしみったれたスナックが高級クラブに思えるくらいに。
そもそも僕がこの高校の同窓会に出席したのだって、8割方は彼女に逢いたいが為だった。
だが、今目の前にいる彼女にあの頃の『ユキ』は微塵も残っていなかった。
「ねぇちゃんと考えてくれてる?」鼻にかかった甘い声が妙に耳にまとわりつく。
「そうだな、今のユキは薔薇って感じだ・・近寄りがたくて棘があって値段の高いヤツ」
「なによそれ」ユキの指先にふいに力が入る。
「昔は、ひなぎくみたいだと思ってたよ。可愛らしくて優しくて素朴で・・・ね」
彼女の長いまつげが頬に影を落とし震える。僕の胸にも罪悪感が重たくのしかかっていた。
「ユ〜キちゃ〜ん」
その沈黙を破るように、奥の方で盛り上がっていた同級生が大きな声で彼女を呼んだ。
「ありがとう・・・本当に。あなただけよ、そんなふうに言ってくれたのは」
彼女はすっと立ち上がり、王室に敷かれたような真っ赤な絨毯を踏みしめて奥に消えていく。
その後ろ姿は優しく美しく儚く、雪解けを待つひなぎくの蕾のように見えた。
502 :
The プー:03/01/16 14:29
「あーもう!!ちきしょう!」
橋の上から水面に広がる波紋を鼻息荒く睨みつめて、一人で半分泣く様に男がさけんでいた。
男は騙されやすい人間だった。
名前は義晴。普段から愉快で少しそそっかしくお人良しだった。少しそそっかしくお人よしなので、そんな所が人から良く好かれた。
そしてその分人からよく騙されるのだった。
その日も義晴は、宝石商に水晶のネックレスだと騙され、ガラス玉の偽者を掴まされていた。
今はそのガラス玉でできた「水晶」を橋から川へ投げ捨たところだった。
「何が"私は東南はアジアにあります、ナモエマオ王国の王室御用達の宝石商でして..."だ!!
第一世界地図で探してもナモエマオ王国なんてないじゃないか!!」
普段なら多少騙され損をしても、笑って「まぁいいか・・・」で済ましていたが、今回はそうはいかなかった。
義晴には時間が無かった。彼には付き合っている女性がいて、名前は緑といった。
ショートカットでたんぽぽみたいに明るく、その笑顔を見ているだけで、義晴はもう洗車の日の雨も、
気の抜けたビールも、全てが許せてしまえた。そんな緑が冬になってから体調を崩し、ずっと入院していた。
そして昨日も、いつものように週一回の見舞いに来た義晴に、いつものようにニコニコと笑っている彼女が、
ニコニコした顔のままで「私、もう半年も生きていられないんだってさ。」と明るく言った。
見舞いに来た義晴はつられてニコニコした顔のままで、もう何も言葉が出ず、その場に立ち尽くしていた。
もう冬を通り越し、季節は春を迎えていた。
503 :
The プー:03/01/16 14:29
家に帰ってから義晴は真っ白になってしまった頭の中で、必死に考えた。もう残りの半年間は、自分の生活の全てを彼女に捧げよう。
あんなにニコニコしていたって、一番辛いのは彼女だ。自分が彼女を支えてあげなければ。一日でも無駄にする事は出来ない。
まずは彼女が前々から欲しがっていた水晶のネックレスでもプレゼントして、「何も心配要らないよ。」と男の優しさを見せ付けてやるんだ。
橋の上で絶望していた義晴は、自分の今の有り金を考えた。あらかた"王室御用達"の宝石商にもっていかれてしまい、気の効くプレゼントの一つも買えそうになかった。
あぁ・・・とにかく今日は彼女に会おう。彼女とはこれから毎日会おう。一日でも無駄にはできないのだ。と腹をくくり、彼女の入院先に向かった。
とはいうものの、やはり手ぶらでは格好がつかないな、と考えながら、ふと道の隅を見ると一輪の花が咲いていた。
その決して派手で鮮やかではないが、ひっそりと綺麗に咲くその花にが気になり、義晴はそれを摘み取り、本屋に寄って何の花か調べた。
「あ、今日も来てくれたんだ。」
緑は嬉しそうに笑った。義晴は黙って彼女の側まで行き、行く途中で摘んだその花を彼女に渡した。
「ありがとう。綺麗ね。気が利くじゃない。何ていう花?」
彼女はホックリと微笑みながら言った。
「雛菊だってさ。菊なんて縁起が悪いなんていうかも知れないけど・・・・・。その花、延命菊とも言うらしいんだ。これから毎日持ってくるよ。」
緑はそこで口を開いて思い出したように何かを言おうとしたが、義晴がそこでまた話はじめたので黙って聞いた。
「この部屋がさ、この花でいっぱいに埋まるまで持ってくるよ。そりゃぁもう溢れ返るぐらい。君が一日でも長く生きていられるように。僕が君と一日でも長く過ごせるように。それしかできないんだ。でも、たとえそれだけでも、僕にさせてくれないかな。」
身振り手振りで大袈裟に話て行くうちに、義晴はいつのまにか泣いていた。泣きながら、格好悪いな。と思った。緑はこんなにニコニコ笑っているのに。辛いのは彼女なのに。何で僕だけこんなに泣いているんだ。と思った。
504 :
The プー:03/01/16 14:29
そこで緑は、ニコニコと優しい目をしたままゆっくり口を開いてこう言った。
「今日、何月何日かわかる?」
義晴は彼女の言ってる意味がわからず、少し何もいえなかった。そして病室の壁にかかっているカレンダーを見た。四月二日だった。
「ごめんなさい。あなた昨日私があんな事言っても笑ったまんまなんだもの。すっかり私の言ってる事信じてないんだと思ってた。
ほら、入院生活って退屈じゃない?だから、少しいたずらしてみたくなって・・・。」
緑は笑いながらも少しちょっとバツが悪そうにしていた。義晴はまだ彼女が何を言ってるのかわからないでいるようで、カレンダーと彼女の顔を何度も見ていた。
「だーかーら。今日は四月二日でしょう?昨日は何の日だ?」
緑はニコニコしながらそう尋ねた。
男は騙されやすい人間だった。
長すぎた上に被ったスマソ。
「ギター」「せんべい」「牛乳ビン」でよろしく!!
505 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 18:32
路上で歌っていたゆずがメジャーデビューを果たしてから、二番煎じというか路上でギターをかき鳴らす
奴が増えた、ように思う。かくいう僕もその一人だった。歩道橋のたもとが僕のステージだ。
僕はバイトを終え、駅前へ急ぐ。夕食のパンをほおばり、ジャージー牛乳のビンを傾け流し込めば、戦闘開始。
最初の頃は緊張して、人が僕の前を通りかかると声も伴奏も自然に小さくなっていたものだが、慣れる
のに時間はかからなかった。僕の曲がみんなの耳に入っていく。誰かを感動させられるかもしれない、
僕の歌で誰かが悲しい気持ちをぬぐえるかもしれない。まるで誰かを救ってるようなおめでたい気持ちま
であった。ともかく歌うのが楽しくて仕方なかった。でも、その滑り出しの不思議な高揚感は長続きしなかった。
醒めてくると同時に、今まで夢中で気に止めなかった周囲の声が僕の耳に入って来始めた。
珍獣を見るような視線、あるいは冷ややかな視線。「ヘタ」「ヤメロ」という悪口。僕は特に悪口を気にし始めた。
すっかりできあがって、からんできたオヤジがトドメだった。オヤジは僕のことを「定職にも就かずにガナっ
てる社会の役立たず。さしずめ産廃」と罵った。普通ならいなしてるはずだった。でも僕の劣等感を刺激した。
その日から僕は歌わなくなった。歩道橋の所まではいく、でも周囲が気になってギターを出せなくなった。
また今日もギターを出せずにいた。夕食のパンをもそもそとほおばっていると、老婆が僕の前で立ち止まった。
いつもこの時間帯に、花柄の手押し車を押して僕の前を通り過ぎる老婆が、今日は僕の前に立っている。
「歌わないのかい?」
僕が歯切れ悪くはい、と答えると、老婆は折角楽器を持ってきてるのに歌えばいいじゃないかと言って笑うと
花柄の手押し車の蓋から何やら取り出し、僕に差し出した。
それは二枚合わせのせんべいだった。「雪の宿」と袋に印刷してある。実家の戸棚でもよく見かけた物だ。
「これで一曲流してくれないかい?」
僕にせんべいを握らせると、老婆は再び笑った。
オーバーした・・・。でもこれ以上削ったらワケワカラナイよぅヽ(`Д´)ノ
次は「ゴミ」「ビーズ」「猫」で。
507 :
葛の葉 ◆Leaf.p8Qac :03/01/16 19:41
>「ゴミ」「ビーズ」「猫」
午後2時に
惰性は忍び寄る
街頭のあちらこちらで
勤勉な者達の
眠気をいざない
大切な仕事を
台無しにしてしまうだろう
黒絹の波にまぎれたビーズのような
切れ味鋭いナイフの切っ先のような
比類なき輝きを奪ってしまうだろう
言葉から
宝石がイミテーションに
書類が紙ゴミに
諫言がお追従に
惰性は
午後2時に訪れる
猫のような忍び足で
詩なんて何年ぶりかに書いてみました。
お目汚し失礼。2chの馴れ合いを風刺してみますた。
お次「ガチャガチャ」「銀の糸」「子犬」で!
508 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 20:54
>> 506が何言いたいのかイマイチ分からないのは漏れだけですか?
子供というやつは、よく突拍子もないことをするものだ。
私が見かけた、とある子供の話をしよう。まさにこの見本みたいな子だった。
子供がガチャガチャをしきりに揺すっていた。僅かな小遣いを使い果たしたのであろう、その子の周囲には空カプセルが散乱していた。
ガチャガチャという機械はその機構上、揺すったりしても中身は出てこない。子供も幾度かトライして、それに気付いたようだった。
子供が取り出したのは釣り針だった。4号テグスが結わえ付けられたそれを、子供は手持ちの釣り竿からむしり取ったのだ。子供は釣り針を取り出し口から押し込んだ。
少年の指は細く、奥の奥まで力任せに押し込むと、カプセルを収めたケージの奥で、銀の針と銀の糸が陽光にきらめいた。
カプセルの底には空気抜き用に小さな穴が開いている。幾度かテグスを出し入れしてそこに引っかけた子供は、架台に足をかけ、力任せに引っ張った。
無論ラチェットに阻まれて出てくるはずはない。しかし子供は、自分の非力が原因だと考えたようだった。
少年は乗っていたのであろう自転車から組み紐を解いた。手持ちぶたさに少年を見ていた子犬が、遊んでくれるのかと勘違いして少年にじゃれついた。
しかし少年はテグスの先を組み紐に結び、それを思い切り引っ張った。子犬もそれが遊びだと思ったのか、少年が引っ張る方向に駆け始めた。
そうして、踏ん張って、踏ん張って、踏ん張った結果。
ガチャガチャは架台ごと倒れ、少年と子犬は見るも無様にひっくり返った。
そこでつい、私は声を出して笑ってしまった。子供とはなんとすっとんきょうなことを考えるのか、なんと愉快なことをしでかすのか、と。
次のお題は「雪」「曹操」「押入」で。
511 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 21:47
「あついな〜」
知的エリート学生が集う文京区の一角にある
5流私大、拓殖大学に通う3年生、英一は大学を後にした。
通学路は山手線でそこから新宿へ向かう・・・。
自宅は小田急線沿線の梅ヶ丘駅である。
英一はあまりの暑さに新宿でぶらり途中下車。
とりあえずアイスコーヒーで喉を潤わそうと喫茶店を探した。
今流行りの「スタバ」にはあまりに場違いな気がした英一は
迷わず「ドトールコーヒー」に足が向いた。
「アイスコーヒーのL」と注文するとあどけない顔をした
お姉さんが80円のおつりを手渡してきた。
「あ〜、こんな子がうちの大学にいて俺の彼女ならな〜」
などと淡い妄想を抱きつつ
「友達に紹介する時は『俺のモーニング娘』って紹介しよう」なんて
英一の妄想はアイスコーヒーの氷を急激に溶かした・・・。
新宿の街を歩いているとヨドバシカメラが目に入った
「携帯電話でも見てくか・・・。」とふと思った英一
「N503、いいな〜29500円・・・。」ユニクロで買ったチノパン
のポケットに突っ込んでおいたPHSを握り締めて2Fのパソコン
コーナーへ向かった・・・。
「ノートパソコンもいいよな・・・。」とふとVAIOが目に飛び込んだ
「でもな〜2chしかやらないしな〜」英一はPLINCOのCD−R
(10枚398円)を以前、親父に頼まれて買った電子レンジのポイントで
支払うと店を後にした・・・。
512 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/16 21:48
駅のホームに向かうといつもどおり人がごった返していた・・・。
今日も席取合戦のスタンバイでサラリーマンが急行のドアが開くのを
待っている・・・。
「あいつらそんなに座りたいのかよ・・・。何処住んでんだ?
鶴巻温泉辺りか?愛甲石田か?新松田かも・・・。」なんて
世田谷区民である英一は熱さのせいもあり
見下した目でそのまま各駅停車のホームへ降りていった
「各駅停車向ヶ丘遊園」行きの電車が発車寸前であった。
英一はそそくさと乗り込むと棚の上に捨ててあった
「週刊少年ジャンプ」が目に入った、
「超〜、ほしい〜」英一は棚に手を伸ばしたくて仕方なかった・・・。
しかし、下北沢に着くや頭の悪そうな高校生が2人乗ってきた
池ノ上の駒場学園の高校生である。
「おっ!ジャンプあるぜ」その背の高い方の高校生に感づかれてしまった・・・。
英一は「くそ〜、梅ヶ丘に着いたら採ろうと思ったのによ〜」
「駒場鹿の野郎超ムカツクぜ〜」
英一はめざましテレビの占いが11位だったのを思い出し正当化したのであった。
梅ヶ丘の駅に着くと商店街の一角にある「セブンーイレブン」に入った。
英一はこち亀を立ち読みして「雪印コーヒー牛乳」を1本買って自宅に着いた
部屋に着くなりSOTECから昔出た「Imac」のパチ物に電源を入れた
お気に入りをみると「カウパー君の大冒険」が目に入った・・・。
そういや閉鎖したな・・・。
英一はカウパー君をお気に入りから削除すると
「2chBBS」にアクセスした・・・。
>>511-512 ノ;;;;;;)〜〜 プゥ〜ンかまってかまってかまって
(;;;;;;;;;;;;;;;)〜〜〜〜 プゥ〜ンかまってかまってかまって
(;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ〜〜〜〜 プゥ〜ンかまってかまってかまって
/:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 〜〜〜〜 プゥ〜ンかまってかまってかまって
人;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;)クサイ クサイ
。 川|川/゚∴゚\ b〜 プゥ〜ン
。‖|‖.゚◎---◎゚|〜 ゚プゥ〜ン / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
川川‖∵∴゚。3∵゚ヽ〜。゚ 。 。 <漏れの小説、(・∀・)カコイイ!
川川∴゚∵∴)д(∴)〜゚ 〆⌒\。 \______________
。川川∵∴゚∵o〜・%〜。 (c人゚∴3
川川‖o∴゚〜∵。/。 ゚|゜#。゚。゚b。カユイ カユイ
川川川川∴∵∴‰U d゚。o∵。|゚ プゥ〜ン
U 〆∵゚‥。 ゚o゚ o\_ 。(・∀・。)プゥ〜ン
。 / \゚。∵@゚∴o∴つ (c‥∵゚)゚
o |∴\ '''''゚''''''''''''つ U d;∵|:∴|゚。
%。゚。。‰∴
>>1゚∴o゚ o (::c(∴゚)。o。。
|o∵o。。| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
514 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/01/17 01:43
「雪」「曹操」「押入」
真っ白い綿飴のような息が目の前にぽっかり浮かぶ。
さむい、と俺は今更ながらに思った。
ストーブも炊かない部屋でどうやら5時間もゲームに没頭していたらしい。
部屋に掛っているペンギンの形をした温度計をのぞくとたった5℃しかない。
あまりに熱中しすぎていた自分に少しあきれながらも、顔には微笑を浮かべていた。
テレビ画面では、曹操率いる魏軍が軍の勝利を祝った宴を楽しむエンディングが流れている。
俺はその場面を見やりながら、少ししびれた足でゆっくりとストーブに近づき、点火する。
暖かい空気が、部屋をゆっくりと包み込んだ。
俺が半年間、押入の中でほこりをかぶり続けていたゲーム機をひっぱり出したのは、つい5時間半前のこと。
ずっとクリアしたくて、我慢していたゲームは本当に楽しかった。
なんだかとても満ち足りた気分だ。
何気なく、窓の外に目をやると静かに雪が舞っていた。
きっとこれが今年最後の雪だ、と純白の雪を眺めながら微笑む。
その雪は、ゲームの美しいエンディングのソプラノととてもマッチしていた。
もうすぐ春が来る、新しいスタートが。
もう一度これが夢でないのか確かめるために、俺は机の上に乗っている一枚の紙切れをみようと立ち上がった。
――サクラサク。
☆作中のゲーム、好きなんですよ(w
女の子はあまりやらない部類のゲームかもしれませんが。
次は「マラソン」「湖」「年賀状」でお願いします。
515 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 02:03
>>508,509,513
1 :名無し物書き@推敲中? :02/10/31 02:01
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。
お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。
516 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 02:48
マラソン、湖、年賀状
「どうだった?」
私を見つけるとすぐに彼が聞いてきた。私は唇を口の中に隠すようにして噛み唇を濡らした。口紅の味はなかった。
「わからない」
さらに言葉を続けようとしたけれど、声がマラソンのあとみたいに掠れていたので黙る。
なにか飲もうかと勧められたけれど私は首を振った。あまり人の顔を見たくない。できれば彼にもいなくなって欲しいのに。
駅から歩いて五分。湖のある公園を私達は歩いた。灰色の切り裂く風が話題を限定してくれたので、私は彼の存在を気にしなくてすんだ。
「きっとだめなんだと思う、そんな気がする」
「どうして?」
「わかるよ、友達としてしか見られていないって、あまり驚いていなかったから気づいていたかもしれない、でも知らんぷりしていたんだと思う、友達だから」
「たしかに気がついていたかもね」
やっぱり?そう思う?私は乾いた枯葉を探して踏んだ。耳にあたる風で葉が割れる音が聞こえない。
「だって、みんなでやる誕生会とかクリスマスのプレゼントも書中見舞いも年賀状も、気合の入り方が違ったもん」
彼はひかえめに笑いながらタバコを口にくわえて、湖からの強い風に少し手間どいながらライターで火をつける。吐く煙がひきちぎられる。
ここで泣いたらたぶん彼は私を慰めるだろう。そうしたら私は彼と寝るんだろうなと思った。でも明日は朝から授業があるから、私は泣かなかった。
初めてなんで行数がいまいちわかりませんでした。少し長かったかもしれません。
お題は「蛇」「コーラ」「花」でお願いします。
「中に出しちゃってもコーラで洗えば大丈夫だから」
彼女は迷信を信じている。僕は信じていない。だから僕は女の一生形式での避妊を心がけているのに、
彼女はそれを嫌がる。そんなに子供が欲しいのという僕の問いかけも否定する。彼女の真意が掴みきれないままに、
子供ができてしまってからでは遅いという判断の元、周期を計算の上で、してきたつもりだった。
終わった後に、こみ上げる虚しさを煙草の煙として天井に向かって吐いていると、彼女が囁いた。
「もう1回、できる?」
僕が勝手に2回戦に突入してしまうことはあっても、彼女がせがむのは初めてだった。
何かあるなとは思ったものの、そして体力的にも少し不安を感じたものの、僕はそれに応じた。
少し経った時に、突然視界がぼやけ、彼女の声がブラーがかりながら脳の中で反響した、
「お花畑へようこそ」
激しく揺れているのは運動のせいか? 花畑の中で戸惑う一匹の蛇。獲物は……いない。
空腹に捕らわれ動けない、冷める身体を震えさせるのが精一杯だ。変温動物め。
そして突如として喉の奥から意志に反して込み上げる熱い液体。吐き出した瞬間に広がる異様な芳香。
「血に染まることこそ薔薇の快楽」
10ヶ月後に産まれるのはきっとかわいい女の子。
次のお題は「一直線」・「序文」・「くちばし」で。
519 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 04:57
>>515 いやだから最初と最後のやつのは許容範囲だろと。
三人分まとめて言うことじゃないだろうと。
520 :
「一直線」・「序文」・「くちばし」:03/01/17 05:20
「僕を苛めてくれたK君、I君、S君への恨み言」序文
この本は僕が自殺する元凶であるK君、I君、S君に宛てた遺書の形をとった僕の最後の抵抗です。
小学校に入って以来、5年間〜日数にして1625日間、よくぞ苛め抜いてくれましたね。
僕が君たちに嫌な思いを受け、日記を書いてきたことが、今回の遺書本を書く際に役に立ちました。
そういう意味では君たちに感謝しなければなりませんね。君たちでも役に立つんだと、僕は感銘すら受けましたよ。
本当に長い年月でした。これ以上、生きていたら僕は君たちと同じになってしまいます。心が曲がってしまいます。
からだの方は君たちの仕打ちで本当に背骨が曲がってしまいましたけどね。もう一直線には立てません。でも、心だけは保ちたいのです。
おそらく、この本は膨大なページ数になると思います。君たちがこの本を読んで自らの行いを反省することを願い、これから書いていきたいと思います。
くちばしが黄色い君たちへ
今年もクラス担任になったAは第一章を書き始めた。
521 :
「一直線」・「序文」・「くちばし」:03/01/17 05:23
次の御題は
金太郎飴、輪ゴム、電卓
です。
522 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 05:27
523 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 06:12
電卓を叩く音は慣れた手つきを思わせたが、時折止む代わりに生まれる爪音は神経質だった。
端を整え輪ゴムで束ねると、ふうと一息漏らす。
次の束を取り出して再びキーを叩こうとしたが思いとどまったように手を止め、今しがた束ねた紙の上部を親指でゆっくり軽くなでる。
めくられるは用紙は判で押したように赤かった。
「金太郎飴だな、こりゃ・・・。」
ゆっくり軽く→ゆっくりと
次の御題は
地震 蛍光灯 アパート
525 :
マターリ推進委員会 ◆09v.3VfYM6 :03/01/17 06:31
その日、僕はもう終電近いがら空きの電車の中で、一人ため息をついていた。
いい加減に繰り返しばかりのサラリーマン人生に嫌気が差していた。向かいには新聞を
読んでいる男が座っている。この車両は僕とその男の二人きりだった。
あぁ・・この男も僕ときっと同じで、社会の歯車で一生を終えるのだろう。そうぼんやり考え、
煙草を吸おうとした。その時、隣の車両から5、6人の男達が次々とこの車両に入ってきた。
皆、トレンチコートに深々と帽子を被り、手には━━━拳銃が。そしてその男達はおもむろに、
新聞紙の男に向かって発砲した。新聞紙が紙ふぶきのように鮮やかに散る。その瞬間に、突然その男達は
四方に吹き飛び壁に叩き付けられ、グッタリとした。「ふぅ・・あぶなかった。」
なぜか僕の真上の網棚の上に新聞紙の男がいて、手首には沢山の輪ゴムが束ねられていた。
「君、怪我はないか?」そう新聞紙の男は僕に話し掛けているようだが、
僕はただただ口をあけて突っ立っている事しか出来なかった。
「ここはいささか危険だ。すぐさまこの列車を離れる必要がありそうだ。君、コレを持ちたまえ。話はあとだ!」
そういって網棚から降りてきた新聞紙の男は僕に金太郎飴を差し出した。コレで何をしろと。というかあなたは誰なんだ。
「それの扱いには注意したまえ。それ一本で家一軒木っ端微塵にできるぞ。」フフ・・と男は妖しく笑った。
隣の車両からは、先ほどの男達と同じ格好をしたやつらが次々とやってきた。新聞紙の男はすばやく手首のゴムを弾いた。
それは弾丸のようにはじけ飛び、男達に炸裂していた。
「さぁ、この窓から一緒に飛び降りるぞ。その棒は離さず持ってろよ。君の命綱だ!!」
こうして僕のサラリーマン人生は終わりを告げ、平凡という言葉を懐かしむ暇もない日々が僕を待っていた。
526 :
マターリ推進委員会 ◆09v.3VfYM6 :03/01/17 06:31
ああぁ・・・。被った。
忘れてください(つД`)
527 :
マターリ推進委員会 ◆09v.3VfYM6 :03/01/17 06:32
しかも電車じゃなくて電卓か。
忘れてください(つД`)
>>526-527 いや、味があっておもしろかったよ
アリスの笑い猫のように網棚の上にいる男ってのに惚れた
物語のなかに彼がもっと活きかせていたら良かったね
次も頑張ってください
529 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 10:15
8年前あの日まで、私は普通の大学二回生だった。実家が田舎だったため、東京とまではいかないが、大都市
に住んでみたいという大学を目指すにはちょっと不純な動機で神戸の地にやってきたが、田舎者の私を神戸は
十分満足させてくれていた。夜の9時になっても眠らない街、喧噪。ここでは欲しい物はすぐに手に入った。また
物欲だけでなく、精神面も申し分なかった。気の置けない学友、先輩、恋人サークル活動の満足感・・・遊びほう
けて成績は散々だったが、毎日が楽しかった。神戸は私にとってすべてを満載してキラキラ光る宝船だった。入
学当初はそれなりのマンションに住んでいたが、その時は木造の二階建てボロアパートに引っ越していた。遊びすぎ
でピーピーだった私に、先に住んでいたサークルの先輩が紹介してくれたのだ。先輩は同回生連中の中で私を
一番かわいがってくれていたし、私もこの先輩に一番なついていたものだから、安さもあって即座に飛びついた。
私の朝はいつも7時くらいに起きて、ズームイン朝を見ながらご飯を食べ、8時半も過ぎると、階段を下りて低血
圧気味の先輩が眠る一階の部屋を訪ね起こし行くというパターンだった。
全てはいつもと同じよう流れるはずだった。私にとって明日や明後日は「レポート作成にヒィヒィする日」であって、
自分で予想可能な今日の、ほんのちょっとした延長に過ぎなかった。
しかし、その日は違った。私のまわりの物は・・私でさえすべて翻弄され、飛び散った。私の部屋さえも。
気が付いたら真っ暗闇。私はテレビやら本やらビデオやらにまみれて動けなくなっていた。
蛍光灯はスイッチひとつで明るく点り、コンロをひねれば火がつき、ラーメンが作れる。冷蔵庫のジュースは常に冷
えている。全て昨日まで当たり前だったこと。それがこの瞬間当たり前ではなくなっていた。
私のアパートはあの日、崩壊して二階部分が一階になっていた。
そして私が起こすはずだった先輩は下敷きになり、安置所で何度声をかけても目を覚ますことはなかった。
長いよぅ・・・しかし書きたかったんだよ・・・。
次は「金平糖」「路地」「消しゴム」
>>529は
>>524のお題「地震」「蛍光灯」「アパート」で書いたものです。
抜けてましたスマソ。
>>528 ここのスレの感想は専用スレが立っていますので、移動おねがいします
531 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 14:42
「金平糖」「路地」「消しゴム」
昼下がりの公園にキラキラと子供の笑い声が響く。
私は日溜まりのベンチにもたれて、愛娘の作る砂山を眺めていた。
どこにでもある幸せ。 でも、私にとってこの幸せはとてもかけがえのない物だ。
幼い頃はこんな毎日が来るなんて夢にも思えなかった。
私が生まれ育ったのは路地裏の汚い長屋。
四畳半一間の狭い部屋に、寝たきりの祖父と父、母、私と兄と弟が肩を寄せ合って生きていた。
祖父の治療費は日を重ねるごとに増えていき、共働きの両親を苦しめ、私達の食べるものすら事欠いた。
弟の面倒を見る、祖父のおしめを変える、我慢すれば食べられる野草を摘みに行く、これが私の日課。
銭湯にも行けないので爪の間には土がびっしりで、一週間も洗えない服は夏ともなれば異臭を放ち、
お情けで通っていた小学校でも、私は格好のイジメの標的だった。
鉛筆一本、消しゴム一つ消えただけで、みんなが私を疑った。
「貧乏人!」「盗人!」「バイキン!」みんなの罵りは止む事を知らず、私は毎日泣き腫らした顔をしていた。
続く
532 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 14:43
そんなある日、いつもの通り学校から帰ると祖父の姿が布団になかった。
私は焦ってそこら中を泣きながら走り、大声で探し回った。「おじいちゃん!どこに行ったの?おじいちゃん・・・」
祖父に何かあったら父母に怒られる! そればかりが頭をよぎって耐えきれないほどの恐怖となって押し寄せてくる。
やがてとっぷりと日が暮れ、帰るに帰れない私は電信柱に寄りかかってしゃがみ込んだ。目の前には絶望しかなかった。
その時ふと、私の頭を撫でる手があった。ビクッと体を震わせ顔を上げる。そこには父の姿があった。
「おじいちゃん・・・病院連れてったけど、もう・・・ごめんな。心配かけたな」
父は上着のポケットに手を突っ込み、ちょっと埃のからまった金平糖を私の口に入れた。
「さあ、帰ろう。おじいちゃんを見送ってやってくれ」父の背中におんぶされ、私は大声で泣いた。「
後にも先にも、あんなに泣いたことはない。泣いた理由もわからない。ただ涙がとめどなく出たのだ。
・・・それからしばらくして暮らし向きも良くなり、最初に働いた会社で出会った人と結ばれた。
どこにでもある幸せは、やがて私の元にも訪れた。父の背中も小さくなり、母もほんの少し太った。
あの日食べた金平糖の味は、家族の優しさの味だったと今に思う。
533 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 14:46
531,532
ああ、長すぎた〜しかもあんまりおもしろくなかった。
次のお題は
「自動販売機」「ネギ」「夢」でどうぞ〜
534 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/17 16:31
「自動販売機」「ネギ」「夢」
==========
アタシは運動した後だったから、喉が乾いていて何か飲みたくなった。
自動販売機の前に立った。
自動販売機は汗をかいていた。そしてなんだか柔らかい。
変な自動販売機ね。まぁいいわ。何を買おうかしら。
選ぼうとするが、飲み物が展示してあるところのガラスも汗をかいていてよく見えない。
喉が乾いてるのよ。うっとおしいわね。なんでもいいわ。
アタシはボタンを押した。ガコン、と飲み物が出てくる。
飲み物を取るとネギだった。
冗談じゃないわ。喉が乾いてるって言ってるでしょ!
アタシは怒りに任せてネギを折ろうとした。
「うっ」
アタシは誰かのうめき声で目を覚ました。なんだ。今のは夢だったのね。
でも、アタシは夢だったはずのネギの感触が手にあることに驚いた。
隣を見ると、1ヶ月前から付き合い出したアキヒロが裸で寝ている。
待って。これ、ネギじゃないわ。なんだか柔らかいし、ネギよりも短いし。
==========
下品でスマソ。
次は「春子」「ツメ切り」「ライオン」
春子はその日本的な名前に似合わず、茶髪にピアス、出かけるときには何層も重ねたア
イメイクとオードトワレが手放せない、テレビが言う「今時の」女子高生だった。
その春子が今、自分の自慢のツメを切っている。
別に彼氏と別れたばかりでヤケになっているわけでもないし、ましてや服装の乱れは心の
乱れなどと言う学校側の指導があったわけでもない。
春子は看護師になろうとしていた。もうすぐ看護学校の試験の日である。
一年前看護師になりたいという春子の希望に進路指導の教師は嘲笑を浴びせた。
しかし、それまで担任教師が敬遠するほどの生徒だったのがウソのように春子は猛勉強し、
成績は一年で跳ね上がった。それでも合格には厳しいラインだったので、無難な大学を受
験しろと両親は言ったが、春子は聞かなかった。そんな春子に教師も味方してくれた。
窓の外に花が咲いている。ダンディライオンと呼ばれる外来種のタンポポ。
見た目が派手で、日本の花に比べてけばけばしい印象の花だが、とても強い生命力がある。
タンポポがあちこちで綿毛を飛ばすころ、看護学校の門をくぐる初々しい春子の姿があった。
>「春子」「ツメ切り」「ライオン」
紺色のスカートの裾を絡げて、少女は足の爪を切っていた。
足先から伝わる、微妙な振動で、ほの白い腿が顕わになった。
少女の傍には。凛々しい面差しの青年が、腹ばいに寝そべっていた。
青年は、指先に落ちた半月型の結晶を摘み上げると、己の唇に挟んだ。
その喉の奥で。忍び笑い。黒曜石を思わせる少女の瞳も、微笑を返す。
しばしの刻、青年は少女のかけらを舌先で弄んでいたが、
吐き出すと、足指そのものに唇をつけ始めた。
やがて・・唾液の糸を引きながら、眩しげに、黒曜石の瞳を見上げた
青年の顔は―多くの国民が、メディアを通し幾度となく目にして来た
―ライオン宰相と呼ばれる、若き政治家の顔。
半年前、宰相が慰問へ訪れた孤島の、施設の薄闇のなかで。
金銀。青橙。手作りの小箱へ張られた、目も彩な和紙のどの色よりも、
この黒曜石の瞳は、異彩を放っていたのだった。
孤島へ置き去られた子供たちは、その施設で与えられていた手仕事から、
「貼る子」・・・「春子」と呼ばれていた。
少女の指先が、青年の髪を掻き分け・・・ゆっくりと撫で廻し始める。
微笑。彼女を捨て去った、父母たちの命運を握る男へ手を乗せて。
いかにも満足げに。宝石の瞳の下は、本来、有るべき唇を欠いていたが、
それも聖痕というべきものだった。
少なくとも・・・少女の手の元の、青年宰相にとっては。
ハンセン氏病の人達だけの島があったという史実を念頭に
作ったのですが、巧くまとまらず・・・・・・困。
お次「レンタルビデオ」「幸福の木」「木彫りの熊」
お題「レンタルビデオ」「幸福の木」「木彫りの熊」
「あなた、あなたの背中に悪霊が取り憑いています」
「おめでとう」
突然声を掛けられて、僕は反射的に祝福の言葉を返した。返してから、せいぜいの
作り笑いを浮かべて振り向く。
二十二、三歳くらいの女だった。化粧っけのない顔、ラフなシャツとジーパン、左
肩にはショルダーバッグ。その第一印象をさばけた格好だと僕が評価できたのは、
細かいところにこだわりを感じたからだ。髪も服の皺も靴も、彼女に清潔な印象を
与える事に成功している。もっとも肝心の顔は僕の不意打ちに驚いているが。
「……ええと」
「僕急ぎますから失礼」
「ああっ、待って!」
「ぐげ」
バッグの肩ひもを首に引っかけられた。思わずうずくまる僕の前にひもを解いた
女は立ちふさがり、バッグから木彫りの熊を引っ張り出す。
「駅前の幸福の木から掘り出した魔除けの熊です。今ならマニュアルのビデオも
含めて一万円でお譲りいたします。これを持っていないとあなたは一両日中に……
ああ恐ろしくて言えない詳しくはレンタルビデオ屋さんのグロビデオ参照」
僕は取り敢えず、友人に今日はすこし遅くなることを伝えようと携帯を取った。
長くてすまん。ライトノベル風味。次は「水際」「教科書」「月の裏側」でどうぞ。
538 :
「水際」「教科書」「月の裏側」:03/01/17 20:59
高校の頃。私は教科書を忘れてしまった。誰かに見せてもらいたい。
どうしようと考えていた。
隣の水際さん、教科書を見せてくれるのだろうか。かなり
性格がきつそうだ。あの細い眉毛、筆で真っ直ぐ横に引いたような目は
睫毛が黒々としている。その黒いのが目立つのは、不健康そうな、
白い肌のせいだ。むしろ病弱そうな色だが、彼女の性格がそう見せない。
私はなぜか彼女に好意を寄せていた。何でだろう、未だにわからない。
ただ動物的に好きだったのかも知れない。今でもときどき思い出しては、
胸をどきどきさせている。
私はついに何も言い出せずに、その授業を終えた。そして卒業した。
せめて教科書くらい見せてもらえば良かった。
何も行動を起こさずに、月の裏側など見えるはずがなかった。
お題継続で
「地球から月の裏側を見ることは可能か?」
突如、講義中の教授が発問した。これはこの教授がよくやる手だ。「自然科学の基本的知識もなしに大学で学ぼうなどちゃんちゃらおかしい」と言うのが持論で、
「冬はなぜ寒いか」「なぜ低気圧だと天候が悪化するのか」等々の口頭試問をふっかけてくるのだ。口頭だけでなく試験問題にも似たような問題を出し、
ノートコピーに頼ったちゃらんぽらん大学生の単位取得を水際で阻止することに長けた教授だ。
「無論教科書は見ても無駄だ。こんなものは中学校、いや小学校でも学ぶはずだ。いやしくも学府の末席を汚す者として、答えられるだろうな、ん?」
俺はにやりと笑った。こんな問題、問題と呼ぶのもおこがましい。
「そこで笑っているキミ、答えてみなさい」
教授は俺を指した。当然だ。最前列でにやにや笑っていれば嫌でも指すだろう。俺はゆったりと、自信満々の体を全身で現しながら立ち上がり、口を開いた。
「可能ですとも」
教授を始め、皆が失笑した。
「まさか、本当にそう思っているのかね?」
「もちろんです」俺はバカにしたように言った。「肉体が精神の玩具に過ぎないのは既に自明であり、レティクル座より伝えられた技術を用いれば……」
「分かった」
教授は真面目な顔になり、重々しく宣告した。
「出ていきなさい」
次のお題は「造船所」「タオルケット」「丑三つ時」で。
いやな夢を見た。月を見ているといきなりそれが180度回転し、でてきた裏側に
濃いアメリカ人の顔があって、ニィっと笑うのだ。
きっと、昨日見た古い映画のせいだ。
やっぱキモイ。
なんとも煩わしいことながら、今日ボクの頭はその夢にずっと囚われている。
授業中、いつの間にかボクは教科書の端にその月の裏の絵を描いていた。
「なにそれ、まじキモいやん。」
あまりにも一心不乱に書いているせいか、隣の奴がボクの教科書を覗きこんきていた。
ボクは慌てて、弁解の変わりに月のよこに「キモイ」と書き加える。こんなもの、
好んで描いていると思われてはたまらない。
一度文字をかくとさらに装飾を加えたくなって、輝きマークやネクタイを書き添えた。
隣はクスクスと笑い始めている。
ネクタイの絵柄は・・・・・・、眼前に止まる足音にふと顔をあげる。
「もちろん水際の鴨だよなぁ、坂下!」
目の前にはアメリカ人顔の、鴨の絵のネクタイをつけた先生がニィと笑ってたっていた。
継続なので何となく同じ教室風景を借景とでも。失礼をば。
お題「3(三)」「曲がったパイプ」「寒」
なかなか書き込みがないと思って余裕をこいてたら思いっきり被り。
スループリーズ!
542 :
「造船所」「タオルケット」「丑三つ時」:03/01/18 02:06
丑三つ時。
とりあえず藁人形の素材がなかったので、
夏に捨てようと思っていたタオルケットで代用することにする。
うん。OK。ちょっとカラフルだけど、形としてはこんなもの。
「えーとつぎは場所、場所ねえ……神社……近くにあったっけ?」
ふと、思いついた。
あたしが今、事務員をしている造船所。そこには船神さまのほこらがある。
あたしは出来たばっかりのタオルケット人形と五寸釘を持ってミニに乗った。
誰もいない造船所はなんだか廃工場のようで、どこか物哀しい。
と、あたしの背程もあるハンマーが立てかけられているのを見つけて、あたしは嬉しくなった。
これよこれ。あたしは持っていた100円ショップで買ったトンカチを投げ捨てた。
「うん!」
さすがに重い。本当は船神さまを祭ってある場所まで行く予定だったけれど、予定変更。もうここでいいや。
あたしはタオルケット人形を地面に置いて、釘をぶっ刺し、そしてハンマーを持ち上げた。
「この浮気もの!」
がん! と盛大な音がして、5寸釘はくにゃっと曲がった。
「浮気もの! 浮気もの!」
がん! がん! と音がする度、釘はぺしゃんこになっていく。
あたしは疲れてハンマーを置いた。
「はあ……はあ……うわ。ぐにゃぐにゃ」
釘は押し潰されてねじれたまま平べったくなっていた。
明日も朝早い。あたしは気が済んだので帰ることにした。
と、なんだか胸の少し潰れたタオルケット人形は淋しそうにあたしを見ていた。
「……置いてきぼりは可哀想だよね」
あたしはその子を連れて帰ることにした。
次は「テッシュ」「鍵」「割箸」で
543 :
「テッシュ」「鍵」「割箸」:03/01/18 17:46
今思いついたのですが、ティッシュや割り箸は資源の無駄遣いではありませんか。
ティッシュは鼻水を吸って捨てられ、割り箸は食事が終わると用なしでございます。
資源の無駄遣いだということはもちろん、これらのものはもうゴミの他に
何者でもありません。それらを再利用をしようという提案を、みなさまのお耳にかけて
頂きたいと存じております。
そこでみなさまに協力して頂きたいのですが、今日から、いや今から使ったティッシュは
広げて天日の下で乾燥させてもう一度使って頂きたいと存じております。割り箸もきれいに洗って
再利用してください。こうすることにより、また高い象牙やら桐材の箸を買わないで済むのでございます。
みなさま一人一人の節約の気持ちが鍵となり、新しい未来が開けるのでございます。
ご協力お願い致します。
お題「トイレットペーパー」「マスターキー」「スプーン」
最近本校は、盗難事件に悩まされている。最初のうちは便所のトイレットペーパーが異常に減りやすいというだけだったのだが、
用務員室から来客用のティーカップとソーサー、ティースプーンが根こそぎ消え失せ、女生徒の体操服が消え失せるという事態に及んだため、
本職員会議はこれを犯罪と断定し、警戒態勢に入ることとなった。
私はこのくだらない決定を導き出すだけの会議に費やした時間を考え、暗澹とした気分になった。
警戒態勢?馬鹿馬鹿しい!やるだけ無駄だ。
私の考えでは内部の犯行、しかもマスターキーにアクセス出来る人間−すなわち教職員−が犯人であると睨んでいた。
どの件を見ても証拠が一切ない。鍵をこじ開けようとした形跡すらない。これは正規の方法で鍵を開けられる人間がやったとしか思えまい。
七時半から三十分もかけて警戒強化を謳ったところで、絶対に見つからない間隙を犯人に教えてやる以外に効能なんかない。
会議の間、私は一言も発言しなかった。お偉いセンセイ方は教職二年生の若造に意見具申されるのがお好きでないことは、骨身に沁みて分かっていた。
私は出席簿を持ち、職員室を出た。少なくとも生徒に被害が出ないようにする、その方策だけを頭の中で練りながら。
次のお題は「夜行バス」「屋台」「自転車」で。
夜行バスが凄まじい擦過音をまき散らしながらドリフトをかます。後を追うのは二十代
後半の男二人組の乗った自転車だ。その勢いに住民が顔をしかめながら何事か怒鳴り
散らすが、騒音に紛れてはかなく消えた。
過負荷にサスとタイヤが悲鳴をあげ、きわどい操作は時に車体に擦過傷をつける。
そのたびにまた起こる騒音に、見ているものはまた叫ぶのだ。
夜間バスのドライバーは、もみくちゃになった客席には目もくれずに内蔵テレビに
視線をやる。車体後部のカメラはバスの後部三メートルに食らいつく二人乗り自転車の
影を捉えていた。しぶとい。次の直線で差を付ける。運転手は慣れた手つきでギアを
上げた。
直後、頭上から凄まじい音が響いてきた。驚いて思わず見上げると、バスの天井が
一部、いびつに凹んでいる。何かと思う前に正面に何かが「落ちて」くる。
ラーメンの屋台。
「ここで昇竜軒一気にショートカット! 瞬く間に二百メートルを稼いでトップに
踊り出た! 最後の最後の大逆転劇、それとももう一つどんでん返しがあるのか!?」
公道コース一杯の声援を受け、レポーターは「車輪レース」最後のデッドヒートを
控えて唇を湿らせた。
544さん折角のお題汚してスミマセン……ちなみに客とか二人乗りはルールですw。
次のお題は「ストーブ」「ジャングルジム」「楓」でお願いします。
垣根の垣根の曲がり角。
俺は竹箒でかき集めた落ち葉を小山に盛り上げ、火をつけた。中にはホイルにくるんださつまいも。
秋の風物詩は、こうでなくっちゃな。
小枝や楓の落ち葉が爆ぜる音を聞きながら、俺はたばこをくゆらせた。
「ねね、なにやってんの?」
見れば近所の子供たちが、興味津々の目つきで寄り集まっていた。さっきまでジャングルジムを駆け回っていたのだが、さすがは小学校低学年。興味の移り変わりも行動力も、天下一品だ。
「焼きいも」
おおー、と声を上げる子供たち。
「すげー、ストーブよりあったかい」
「おう、なんたって火力が違う」
俺は火かき棒で山を少し崩した。子供が側にいる状態で、腰まで届くような火勢は少々危ない。
「ほれ」
頃合いを見て、俺は黒ずんだアルミの塊を掘り出した。軍手をはめた手でホイルと皮を剥くと、立ち上る湯気、ただよう甘い香り、そして黄金。
「これやるから持って帰って食え」
子供たちが歓声を上げた。
お題は「電話ボックス」「ベンチ」「洗剤で。
547 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/18 23:28
「電話ボックス」「ベンチ」「洗剤」
夕日が傾くころ、俺はいつもこの場所にくる。
繁華街の外れにあるビジネスホテル街、といえば聞こえはよいが、有体に言えば高級ラブホテル街。
その周辺の電話ボックス全てにピンクチラシを貼るのが、俺の仕事だ。しかし、今日は勝手が違った。
そう、4つ目の電話ボックスで仕事をしていた時だろうか、目つきの悪い背広姿の男が、まっすぐに
こちらを見ながら歩いてくる。このあたりのシマでの話はついているはず。ということは、警察だ。
俺は咄嗟にそう判断し、チラシを放り捨てて逃げ出した。ところが、逃げた方向にも同じように目つ
きの悪いダークスーツの男たちが、しかも2人もいる。
あとはもう夢中だった。路地に入って2人組の男を間一髪で避け、ゴミの入っているバケツやら立て
かけられている看板やらを倒しながら、服の汚れも気にせず、警官の警告と罵倒を背に息が切れるまで
走りつづけた。
あとはどう逃げたか覚えていない。気が付くと、川岸の公園のベンチに座っていた。
酸素が足りない頭で周囲を見渡すと、そこいらには青いシートの塊と焚き火のオレンジ。目の前はホ
ームレスのテント村になっていた。よれた服を着た生気の無い表情の男たちが焚き火を囲んでいる。
単に洗濯の頻度が少ないのか、服を洗濯するにも体を洗うにも洗剤を使わないためか、彼らが前の道
を通るたびに鼻を突くような異臭がする。
そして、向こうの川辺には先ほどまでいたビジネスホテル街。そこで悦楽に耽る者たちは対岸の風景
をどう見ているのだろう。
結局、俺は生きていくために何でもやるしかない。結局どちらの側の人間にもなれないのだから。
タバコで一服し、気分を落ち着かせると、俺はまた繁華街へ向かった。
少しオーバーした。スマソ。次は「煙」「望郷」「霞」で
549 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/01/19 01:53
「煙」「望郷」「霞」
インフルエンザが治らない。熱で意識も朦朧と霞がかかっている。
博士は言った「この薬はどうかな。革命的な新薬だ、命は保証しないよ」
そして新薬は効いた。くしゃみも、鼻水にも、一生無縁の身体になったのだ。
3年が経過して、また冬がきた。
今、彼はパンツ一丁で、ぼうっと箪笥の上の壷を眺めている。
「ふぁぁぁあ」と欠伸をした。もう数時間はこうしているのだ。
どこからか、煙の様に一人の少女が現れて言った。
「今日もだめみたい?」
「うん」と少年はうなだれる。
少年と少女は二人、部屋の隅で箪笥の壷を眺めていた。いつまでも。
少年は一向に風邪をひかない。
風邪でくしゃみをしていたあの頃に、彼は望郷の念すら感じた。
彼は寂しかった。くしゃみをしたかった。
そして少年は大人になり、くしゃみに無縁のままその一生を終えた。
大魔王は最後まで壷の中で、彼の「ハクション!」だけを待っていた。
※ワクチンの方が…
次のお題は:「もう走れません」「自動車」「サイボーグ」でお願いしまふ。
(^^)
551 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/19 05:04
「はぁはぁはぁ・・・監督、もう走れません。」
「何を言うんだ。あと少しじゃないか。さあ、立つんだ!」
「僕にはやっぱり無理です・・・。」
「そんなことはない。おまえはサイボーグだ!疲れたりはしないんだ!さぁ立て、そして走れ!」
「なあ・・・あのオッサン、自動車に向かって何しゃべってんだ?」
「さあ・・・? ガス欠じゃない?」
552 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/19 05:05
次の御題は
「日曜日」「花粉症」「ヒーロー」
553 :
サキ ◆EJhfwjLu2E :03/01/19 05:45
「日曜日」「花粉症」「ヒーロー」
すこし気が多い、わたしなりに、黙ったり笑ったり、
ダイジョウブ、と言い聞かせて、花粉症の鼻、真っ赤にしながら、
出かけた、日曜日。
だってアナタはヒーロー。わたしの王子様。
だから勝負、かけるわ。
最後に会ったとき、キス、求めてきたよね。
でも、わたし、拒んだ。
「キスくらい」って、アナタ、言ったけど、
わたしには「くらい」じゃなかった。
だって、あなたはヒーロー。そんな軽い男じゃ嫌。
ねえ、よく考えて。わかるはずよ。ファースト・キスが女の子にとって
どんなに大事か・・・。
次の御題は「光学迷彩」「神経過敏」「RNA」。
554 :
The プー:03/01/19 05:57
体の丈夫な男がいた。彼は生まれてこの方風邪一つ引いたことが無い。小中高と
すべて皆勤賞を獲得し、健康的な毎日をガシガシとひたすら歩いていた。
しかし天は二物を与えずとは良く言ったもので頭の方はお世辞にも強いとは言え
なかった。
だが、男の悩みはそんなちっぽけな事ではない。彼には一つ憧れるものがあった。
それは「花粉症」春頃になると、マスクを被り、鼻はぐずぐず、悲しい事がある
わけでもなく常に涙を滝のように流し、機関銃のようなくしゃみの連発。
彼にはそんな花粉症の人々がヒーローに見えてしかたなかった。彼は「是非あの
ような能力を獲得したいものだ」と日々思っていた。
男は馬鹿だったが、花粉症というのは杉の花粉が人体に入る事により起こされる
アレルギー症状だという事は知っていた。
そして、男にはその憧れの能力を得るべくある秘策を考えついた。決行は日曜日。
「ようし。みてろよ。俺ももうじきあの英雄達の仲間入りだぜ。」
"日本の東北地方の山林地帯で、次々と木に登り、枝葉を全身にこすりつけては枝
折っている男性(住所不定無職)が地元の森林保護団体の職員の通報により、身柄
を拘束された。事情聴取にあたり男は「俺はヒーローの仲間入りをする」と意味不
明な事を繰り返しており、地元警察では精神鑑定を含め、詳しく男の身元などを調
べる方針だ。【日本 19日 ロイター】"
「みみかき」「黄金」「アイススケート」で。
555 :
The プー:03/01/19 05:58
被った。・゚・(ノД`)・゚・。
床板をはがして地面を掘ると、たしかに黄金の仏像が出てきた。
一尺ほどの仏像で、手は胸の前であわされ、静かに目を閉じている。
男は地面を掘るのに使っていたアイススケート靴を床におき、仏像を丁寧に磨き始めた。
「まるで生きておられるようだ」
そうつぶやいて大事そうにその仏像を床の上に置いた。
四畳半ほどのその和室にはろうそくが一本灯っているだけだった。
男が小さな茶筒を開けると、中には青い色の粉が入っている。
みみかき使って一さじすくうと、その粉をろうそくにふりかけた。
たちまち仏像は身の丈五尺ほどになり、ゆっくりと目を開けた。
「幹事」 「政治家」 「ドッグフード」
557 :
ルゥ ◆1twshhDf4c :03/01/19 16:31
「幹事」 「政治家」 「ドッグフード」
とにかく頭が痛かった。記憶も定かではない。
二日酔いでふらふらする頭を支えながら、私はゆっくりとベッドから起き上がった。
今朝、私は見知らぬ部屋で目が覚めた。
昨夜のことも……覚えていない。
唯一わかるのは、隣で寝ている男のことだけ。
男は起きている時には決して見せないような安らかな顔で、小さな寝息を立てている。
私はくちゃくちゃになったシャツのボタンをゆっくり留めながら、必死に昨日のことを思い出そうとした。
そう、昨日は高校の同窓会だった。
愛犬にドッグフードやっていた時に届いた幹事である元クラス委員長からの葉書に、初めて出席に丸をつけ返信したのだ。
そして、旧友たちと酒を飲み交わし、近況報告をし、二次会でもう一軒店に入って……、その後のことはどうしても思い出せない。
なぜ、この男と一緒にこんなホテルにいるのかも。
泣き出しそうになるのを必死で堪えつつ、私は満足そうに寝入っている男を睨む。
高校の頃、大嫌いだった男。政治家の息子でいつも偉そうな奴だった。
そして、女には不自由しないと言ううわさが囁かれていた高校時代の私の彼氏……。
十年間、私はこの男のことを忘れることができなかった。
結婚して、かわいい息子ができても、昨日、会場でこの男を目にした時、どうしようもなく胸が騒いだ。
なぜ、忘れることができなかったんだろう。
なぜ、あの時のように一緒に寝てしまったのだろう。
今更後悔しても取り返しがつかない。
「武明、昨日はちゃんと眠れたかしら……」
あの男と同じ名の息子を心配しながら、気持ちよさそうに眠っている男を一人残し、私は静かにホテルを出た。
☆長ーい(泣)
次は「チョコレート」「スキー」「カーネーション」でお願いします。
「チョコレート」「スキー」「カーネーション」
家に帰るとテーブルの上にカーネーションが置いてあった。
「ママへ」
と書かれたカードに紅いリボンがかけられている。
それを見た私は溢れる涙を抑えることができなかった。
そう、あの時も紅いリボンだった。
初めてみんなとスキーに行ったあの日。
思い切って武明にバレンタインチョコを渡したのだった。
紅いリボンをかけたチョコレート。
するとその夜、私は武明の部屋に呼ばれて・・・・・・
私はあの時の武明の冷笑を、決して忘れることはないだろう。
「ママ、おはよう」
気が付くとパジャマ姿の息子が立っていた。
「おはよう武明。よく寝られた?」
私はそっと涙を拭い、朝食の支度を始めた。
次は「ペンキ」「唐辛子」「ミニディスク」
559 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/20 00:48
「ペンキ」「唐辛子」「ミニディスク」
TVからカウントダウンが始まり、インスタントのそばに湯を注ぎ、父を思い出した。
ペンキ職人だった父が、突然消えたのは丁度去年の今頃。
父が居るまでは、まるでブラウン管越しの風景のような劣悪な環境だった。
意味も無く、叫び散らす父。
暇さえあれば、酒を食らい、湯水のごとく金を使う父。
その全てが嫌いでしょうがなかった。
消えてくれて嬉しい。それはもう、本当に…心の其処から嬉しいと感じた。
母も笑っていた。弟も笑っていた。祖母も、祖父も、親戚も。
ひょっとしたらペットのハムスターだって笑っていたかもしれない。
カウントダウンが残り5に為り、私はTVを消すと、MDデッキにミニディスクを入れスウィッチを入れる。
何かが壊れていく音と、複数の笑い声がひたすら流れるその音楽をバックに、そばを啜った。
そばを見ると思い出す…唐辛子色のあいつの血液を…。
「金」「ヒーロー」「オレンジ」
560 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/20 00:48
561 :
「金」「ヒーロー」「オレンジ」:03/01/20 01:06
「お金さえあれば、何でも出来る」
彼女が言ったこの台詞に、俺はどうしても反論したかったけど、すぐには出来なかった。
俺の人生は、金だった。
小さい頃には、友達とどれだけ多くお年玉をもらえるか、競っていた俺。
小さくてまずい割には高かったヒーローカード入りのポテトチップスを買えるだけ買った。
中学の時の夢はアメリカに行くことだった。親に金を出してもらって短期留学した。
高校の時の夢は憧れのギターを買うことだった。バイトして一括で買った。
そして、今大学生だ。童貞の頃はソープに行って、脱童貞気分を味わえた。
欲しい物も大体買える。割のいいバイトをしてるしな。
でも、物が増えれば増えるほど、切ない気分になる。
三日三晩考えを膨らませていた時、一瞬、昔の風景が脳裏を過ぎった。
ちっちゃい頃の家族旅行。部屋から見たオレンジ色の空。鏡のような湖。
これはお金で買えるだろうか?と俺は彼女に聞いた。
「旅行すれば、見ることが出来るわ」
俺は彼女よりも浅はかだ。だけど、人間的だと思う。
次のお題は「バナナ」「ライター」「エアコン」
562 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/20 01:06
「バナナ」「ライター」「エアコン」
夕闇に沈む部屋に足を踏み入れると、果して男の予想は当たった。
乱雑な部屋の片隅にあるベッドの上。彼女の亡骸がそこにはあった。
「………ごめんね」
そんな言葉で途切れた電話から1時間。形振り構わず駆けつけた。
いつもの笑みに出迎えられることを信じながら。
どれほど経過しただろうか。闇の黙にエアコンの駆動音だけが低い唸りを上げている。
月光に映える白蝋染みた頬には、口唇から赤い糸が一筋垂れていた。
枕元には抗欝剤や抗不安剤などに混じって、手付かずの洋菓子やらバナナが置いてあった。
食欲が戻るようにと、彼女の好物を昨日の帰りがけに買ってやったものだった。
ふと手元に目をやると、掌に一片の紙切れが握られている。俺は何気なしに
広げてみると文字らしきものが見て取れる。電灯を点けるのももどかしく、懐にあった
ライターで文字を拾う。
「誕生日おめでとう」
小さな貧弱な字で、ただ一行書いてあった。
俺は嗚咽とも咆哮ともとれる声で泣いた。初めて彼女が死んだと分かった。
次は「兜」「鉛筆」「国」でし。
「兜」「鉛筆」「国」
僕が小学生の頃、筆箱の中身と言えば、先ずは鉛筆だった。今でこそ、この国では誰でもが持っているが、当時、シャープペンシルは羨望の的だった。
その日、学校に行くと、クラスのみんながヒロシの机に集まっていた……。
何事かと覗き込むと、ヒロシの右手に見なれないペンが握られている。
「ケンジ、シャープペンシルだぜ」ヒロシが僕に向かって右手を突き出す。
ヒロシは、クラスの誰よりもいち早く話題の新製品を手に入れて自慢する鼻持ちならないヤツだ。僕は、またかとウンザリした。でも、いちいちナイフで削らなくてもいいシャープペンシルは魅力的だ。
実は、母親におねだりしたのだが、あえなく却下された。『シャープペンシルを使うと指先が不器用になる。綺麗にナイフで鉛筆を削る事によって指先が器用になる』と言うのが理由だ。
だから余計ヒロシの態度にカチンときた。
「シャープペンシルなんて使うと指先が不器用になるんだぜ」僕はヒロシを見下ろした。
「不器用なお前に言われたく無いよ」ヒロシは僕を睨んだ。
そうして僕とヒロシの鉛筆削り競走が始まった。
真新しい鉛筆を削る、削る。ナイフの動きに合わせシャッシャッと削りカスが飛ぶ。
「痛っ」僕の指先から血が滲んだ。ナイフで切ってしまった。顔を上げると、ヒロシが馬鹿にした様に口許だけで笑っている。
……僕の負けだ。
「不器用になると困るから鉛筆も使うけどね。ほら、勝って兜の緒を締めろって諺あるじゃん」ヒロシはふんっと鼻をならした。
「うっ」ヒロシが顔を顰める。ナイフをしまう時に指を切ったらしい。
「引き分けにする?」僕はヒロシに言った。僕の目許はきっと緩んでいたに違いない。
次のお題は「柳腰」「速度計」「ミラーボール」でお願いします。
お題「柳腰」「速度計」「ミラーボール」
「君ゃ存外綺麗な体してるな。柳腰ってのか」
抱え上げられた事に文句を言う彼女を無視して、俺は落下の勢いで完膚無きまでに粉砕された
ミラーボールを蹴散らかしそのままバーを出た。幸いここには顔も利く。もっとも利くも利かな
いも、ほとぼりが冷めるまでは顔を出せまいが。
飛び出した背後で、また声。どうやら二、三人のし切れなかった奴等がいたらしい。やれやれ、
手加減しすぎたか。俺も甘いね。
「離せ! はなせー!」
脳味噌の天辺に突き刺さる声で女がわめき散らす。助けてやったのに何て態度……いや、俺が
さらったようにしか思えないか。
「おまたせだ、相棒さん」
先に彼女を放り込んでから、相棒との間に挟む形で俺が乗り込む。凄い形相で飛び出そうとす
るのを慌ててなだめながら――
「おいおいどっち行くんだよ!」
「点数がやばくてね、速度計避けて行くんでそこんとこよろしく」
背後から車が三台。逃げ切れるか、いやその前にこのじゃじゃ馬が窓から逃げ出さないか――
聞いていたよりも楽しい展開じゃないか、と俺は口の端に笑みを浮かべた。
……正直すまんかった。次のお題は「お茶請け」「山道」「致命的」でお願いします。
「お茶請け」「山道」「致命的」
険しい砂利道を、荒い息を吐きながら良次は歩いて行った。昔取った杵柄も三十を
過ぎると形無しだ。自分の日頃の運動不足を呪いつつ、大まかな目的地までの距離を
計る。身を切るような寒風も、今の良次には心地よい涼風だ。汗が額から流れ落ちて
瞼を伝う段になり、ようやくその山荘が姿を現した。
玄関のドアノッカーを叩くと、扉を開けたのは恩師の奥さんの美智代だった。
「あら、ずいぶん早かったのね。午後に着くって言ってたのに」
暖かい室内に通されてまず良次がしたのは、恩師の前で手を合わせることだった。
手に携えた包みを奥さんに渡すと、小さな仏壇の前で線香を上げた。
美智代はそれを仏壇の脇のテーブルに置いた。ふと目にした、壁に貼られたスナップ
写真の中で、恩師と美智代と青年時代の良次が山道を背景に微笑んでいる。
美智代は良次を素朴な木のテーブルに着かせ、奥に引っ込んだ。
「どうぞおかまいなく」良次はキッチンに向かって言った。
ほどなく美智代はお盆を手に戻ってくる。お茶請けの皿を差し出すその手には、
見覚えのある結婚指輪が光っていた。
「もう十年になるのね」奥さんは言った。
「はい」良次は答えた。
良次が山を離れてから十年の歳月が流れていた。恩師の矢沢が裂けたクレバスから
転落してゆく悪夢のような瞬間を抱えて生きながらえて、もうそれだけの年月が経過
しているのだ……良次は自分の致命的な判断ミスを忘れることができずにいる。
奥さんは、三好さんのせいじゃないわ、と慰めてくれた。だが彼はいまだに自責の
念を禁じえない。
良次はあらためて奥さんに頭を下げた。
次は「FM」「青臭い」「たんぽぽ」で。
「FM」「青臭い」「たんぽぽ」
春の麗らかな陽気に、僕はひとつ大きな欠伸をした。
病室の窓際にある僕のベッドは、正午頃から日溜りの中になる。
梢の合間から差し込む光に目を細めながら、勢いよく芽吹く外の世界に思いを馳せた。
「純ちゃんと結婚するんだっ」
栗色の大きな目を輝かせながらそう宣言した美鈴。
「うん、僕も美鈴ちゃんと結婚する」
道端に生えていたタンポポを器用に丸めて、ちっちゃな指にはめた。
園児だった頃の青臭い記憶を思い出した。ちょうど今頃の季節だったな。
「純君、今日もいいお天気ね」
声と同時に開け放たれた窓から、心地よい微風が火照り気味の頬を撫でる。
淡い思いに浸る僕を現実に呼び覚まさせた看護士さんは、そう言うと病室から出ていった。
再び訪れた静寂。
日課となっていたFMラジオをつけると、目当ての美鈴の歌声が流れていた。
………美鈴、キミはあの約束覚えているかい?
微風に乗って、ふわりとタンポポの綿毛が僕の掌に舞い降りた。
次は「納屋」「深窓」「肉迫」にて。
俺は稀代のスケコマシだ。これは自他共に認めるところだが、まだそれを信じない奴もいる。
そんな奴らに俺という人間を見せつけるのが、今回の目的というわけだ。
召使いには金を掴ませ、がんじがらめに縛ってある。勝手門を開けさせ、納屋に脚立を用意させるくらいはお茶の子さいさいだ。
今だ社交界はおろか、社会に顔も出したことがないという深窓の令嬢。彼女を、俺の魅力でメロメロにしてやるのさ。
俺は難なく屋敷の敷地にもぐりこみ、納屋の屋根から母屋に渡り移った。ベランダからベランダへ飛び移り、
目指すは令嬢の過ごす、豪華な牢獄。
テラスのすぐ向こう、というところまで肉薄した俺は、最後のスタイルチェックを手早く済ませた。完璧。俺に惚れない女はいない。
俺は夜風になびくカーテンと共に室内へ滑り込み、はっとして振り向こうとする彼女の両肩を優しく抑え、そっと振り向かせた。
秘密兵器って知ってるか?恐るべき威力を知られないようにした兵器だ。
だが、「秘密にしておかないと恥ずかしい兵器」ってのも、なかにはあるんだよ……
俺はその恐るべき生き物を放り出し、悲鳴を上げて逃げ出した。
俺は稀代のスケコマシ。しかし最近、その自信も揺らぎつつある。
次のお題は「電卓」「正門」「修理」で。
569 :
「電卓」「正門」「修理」:03/01/20 22:27
私は確かに正門から入っていった。誰の目にも付く桜の木が
春の色に染まっていた。それは夢などではないはずだ。しかし、
あいつはこういった。
「この電卓、修理しといてくれ」
まったく意味がわからない。何で私が、電卓の修理をしなければ
ならないのだ。壊したのはあいつだろう。それを人に修理しろとは、
なんと非常識な奴だ。親の顔が見てみたいとはこのことだ。
「無からは何も生れぬ。もう一度言ってみよ。」
私はあいつを睨んで、こういってみた。すると、あいつと来たら、
「何だそれ。意味不明だなお前って奴は。何もいわずに修理すればいいんだよ」
といって、裏門から出ていった。
次のお題は「パソコン」「羅生門」「修理費」
「パソコン」「羅生門」「修理費」
「ジジッ…近畿…震は…多数の死…」頼みの携帯ラジオからは、断片的な言葉しか聞き取れなかった。
「…クソッ!」修理費をケチった報いか…。
呆然と立ち尽くす俺の眼前には、一瞬で廃墟と化した京都の姿があった。
剥き出しになった高層ビルの鉄管は、俺を覆い隠さんばかりに迫り出している。
………もしも余震があったら。
咄嗟にその場を離れようとした刹那、それは聞こえた。
「…無駄じゃて…鉄塊に屠られるのも一興じゃて…キヒヒ」脳裏に直接語りかけるような濁声。
瓦礫の虚からそれは聞こえてくる。好奇心に駆られて近づいてみると、パソコンと思しきひび割れた画面に映し出された老人が声の主であった。黒い外套を纏ったその姿に男は愕然とした。
糜爛状の皮膚には白く蠢くモノが隙間なく付着し、爆ぜた腹腔からは緑色の粘液が滴り落ちている。人外の者であることは明らかだった。下卑た嗤いの度に蠢くモノがポトリと落ちる。
「キヒッ、羅生門に棲みし我が眷属は甦った…お前を喰らいたいが、惜しいかな」
蒼穹を思わせる双眸は、心の内を抉るように俺に突き刺さる。
「千里眼は言うとるぞ…ほれ」差し向けられた指先、その天空を仰ぎ見ると、斜陽に鈍く光る鉄柱が直上に迫っていた。
「ジジッ…平安…エ…リアン……」
次は「媒体」「火線」「空論」でし。
571 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/21 14:37
「媒体」「火線」「空論」
A「博士、『火線』っていう言葉がわからなくて調べてみたんですけどね。
『かせん 【火線】 直接敵と射撃を交える最前線。 』という意味なんですね」
B「ほほー、そうか。で、どの媒体で調べたんだ?」
A「へっ、今度は『媒体』ですか。普段使わないからよくわかんないけど調べてみます」
A「博士、調べました。
『ばいたい 【媒体】(1)なかだちをするもの。媒介するもの。
(2)情報伝達の媒介手段となるもの。新聞・ラジオ・テレビなど。メディア。「宣伝―」
ってことですよね。だったら、おじいちゃんに聞きました」
B「なんで、自分で調べないんだ。誰かの言う論理をそのまま信じるのか。
そんなことでは研究者失格だぞ」
A「だっておじいちゃんもの知りだし、いつもいいことを言うんですよ」
B「いったい誰なんだ。そのおじいちゃんと言うのは」
A「わたしのおじいちゃんで、柳田空っていう名前なんです」
B「そうか、それはきっと『空論』だな」
「ポケットティッシュ」「ふんわり」「北風」
572 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/21 20:37
自慰をした。片手には精液のついたポケットティッシュ。
開いていた窓から北風が吹き込んできて手にあった精液まみれの
ティッシュがふんわり流れて床にポトンと落ちた。
573 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/21 21:32
次のお題
「診療所」「夜遊び」「戯言」
「いや〜はっはっは、夜遊びも大変だねぇ」
でかい声で武勇伝をがなり立てる成田。はっきり言って、気に入らない奴だ。
「昨日は久しぶりにソープへ行ったんだよ。生はやっぱいいねえ」
<夜遊び>と言う言葉を取り違えて使うような馬鹿でも、上司は上司だ。あまり無碍に扱うと手痛いしっぺ返しを食う。
「今度キミも行くか?安いところならおごってやるぞ、がはははは」
俺は曖昧な笑みを返しながら、心の奥底から湧き上がる害意を抑え込もうとしていた。
下品なブタめ。そのうち、天罰でも喰らうがいいさ。
天罰の日は、案外すぐにやってきた。
その日成田は鼠渓部に激しい疼痛を訴え、そのまま近所の診療所に駆け込んだのだ。
「ヘルペスが侵入して、尿道炎を起こしてます」
帰ってきた成田は土気色の顔に脂汗を滲ませていた。
俺が心の中で快哉を叫んだのは言うまでもない。
次のお題は「カップ焼きそば」「アルマイト」「こだま」で。
「戯言」が抜けた…スマソ。
「取り違えて使うような」→「取り違え、戯言を吐くような」に改訂致したく。
576 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/01/22 02:18
「カップ焼きそば」「アルマイト」「こだま」
彼女の家庭教師は、粗末な六畳のアパートに住んでいた。
軽い風邪の見舞のつもりが、もう夕方になっていた。
ブラウスのボタンをかけて、ぼんやりとカップ焼きそばを作る彼女。
馴れぬせいか、湯を切ると麺が一緒に流しに落ちた。
しばしぼんやりと、落ちた麺を眺める彼女に、家庭教師はこう言った。
「今、君の心中に浮かんだ格言をあててあげよう。
覆水盆に帰らず。こぼれた乳を嘆いても無駄だ。
君は今、こんな事になってしまった自分を、こぼれた麺に投影している。
この麺が元に戻るなら、ここに来る前の自分に戻れるかもしれないと。」
彼の声が、彼女の意識下にまでもこだました。
「戻すのだ!こぼれた麺を。そして食べるのだ、何もなかった様な顔で!」
アルマイトの流しが、湯の熱でバコンと音をたてた。
まるで何かに憑しつかれた様に、彼女はこぼれた麺を拾いはじめた。
そして、その翌日。
彼女は激しく下痢をした。
※すごく長いセリフだー
次のお題は:「誕生日」「逆回転」「生徒手帳」でお願いします。
「カップ焼きそば」「アルマイト」「こだま」
…じゃれつくんじゃねぇよ…ったく。
「あ? 何か言ったか?」「ああ、悪ぃ、何でもねぇ…」
コイツは相当な電話好きらしい。呼出音と同時に足元に駆け寄ってきやがる。
俺は食いかけのカップ焼きそばを少し摘むと、奴の小さな皿へと放ってやった。
鞠のように弾む姿を横目に見ながら、暫しの談笑を楽しんだ。
鬱陶しい。愛玩動物の類はどうも好きにはなれなかった。ガキも同じだ。
まぁ、最近のクソガキは可愛らしさの欠片もねぇからな、例外か。
見上げるふたつの目に俺はいつも思う。
…そんな目で俺を見るんじゃねぇよ。無垢すぎるんだ。もっと汚れろよ…。
我ながらその理不尽さに辟易しながらも、汚れきった心は拒否反応を起こしてしまう。
そんな一週間前の情景がふと頭に浮かんだ。
短くなった吸殻を味気ないアルマイトの灰皿に押し付ける。鈍色に光るそれは奴の皿だったやつだ。
ひとつ深呼吸をするようにゆっくりと煙を吐き出す。体のラインに沿って消えゆく煙を掻き立てる奴
はいない。
カチカチと秒針が支配する静寂を呼出音が遮った。所在無げな両足に自然と視線が落ちる。
「おお悪いな先週は。犬嫌いのお前に預かってもらって…。実はさぁ、また明日から…」
俺の右手はコートにのびていた。受話器口の奴の鳴声が脳裏にこだましていた。
※某CMの影響でふ。あの目が〜〜〜!!
お題は、うはうさんの「誕生日」「逆回転」「生徒手帳」でふ。
578 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/22 15:05
「誕生日」「逆回転」「生徒手帳」
今まではシステムノートを使っていたけど、とうとう生徒手帳を使う年代になってしまったか。
システムノートの前は電子手帳、そしてその前は音声記述手帳だったな。
ずいぶんと、ゆったりとした時代になってしまったものだ。
ボクもとうとう18歳。あっ、知らず知らずのうちに自分のことをボクと呼ぶようになっちゃったな。
今度の誕生日が来たら、ボクは17歳になる。
そして2年たったら、今の親友とは他人同士になる。
人生が逆回転を始めてからもうどれぐらいたったのだろう。
ボクがこの世の中から消滅するまであと18年…
「ルーペ」「ストラップ」「人形」
579 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/22 19:27
>>578 クレイジー!
ポォォォウ!ルーペッッッッ!
ヒュウー!ヒュッヒューウ!
COOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOL!!!!!!!!!!
HAHAHA!
クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッゥゥゥゥゥルッ!!!
ファイ!ファイ!ファイ!ファイ! ストラ!ップ!!
イイイイイイイヤッホウ!!
シュッパシュッパミラクォル!!!!
クールクールクールクールクール!
トマホォォォォォォォォォォウク人形!!!!!!!
次のお題は何ですか?
581 :
The プー:03/01/22 20:32
>「ルーペ」「ストラップ」「人形」
では?
582 :
The プー:03/01/22 20:32
「ついに当製鉄所では完全無人化に成功致しました」
テレビカメラの向こうにいる製鉄所の工場長が、得意満面の笑みを浮かべていた。
「ほほう、それはすごいですね。どのレベルまで無人化できたんですか?」
「完全、です」
工場長は繰り返した。
「当工場では炭素鋼のストラップ、いえ失礼。ストリップ(圧延鋼板)を製造しているのですが、
その製造過程を全てロボットとセンサー、コンピュータが行っております。人の手が入るのは
輸送のみになりますが、それは外注にしておりますので、完全な無人化です」
「しかし、ロボットが故障した場合には?」
「問題ありません。ご覧下さい」
工場長が一角を指し示すと、そこには不格好な鋼鉄製の人形が転がっていた。
「コンピュータ制御のマルチプル・メンテナー(万能修繕機)です。当工場における、
ありとあらゆる故障に対応可能です」
「しかし、そのロボットが故障した場合には?」
工場長は掌とルーペを差し出した。ルーペの中で、豆粒ほどの大きさの人形がうごめいていた。
「当工場の無人化は完璧です」
次の日、製鉄所の工場長が解雇を苦に自殺したというニュースが流れた。
次のお題は「銭湯」「戦闘」「先頭」で。
585 :
The プー:03/01/22 20:56
ところで、私は常々電車の中等で携帯電話をいじくらかす女子高生などを目にする機会がある。
彼女らは、ストラップがジャンガラジャンガラと監獄の監守が持ち歩く鍵の束のようにぶらさがって
いる携帯を振り回し、車内でも何の躊躇もなく「えーうっそ。まじー。ぎゃはは。」などと破滅的壊滅的
絶望的な日本語を駆使し、神聖で静寂な午後三時のまどろみの総武線等の空気を一気にヘドロの
沼へと引きずり込んでいくのである。
そこで私はこう思うの。「うぬ・・・こいつら・・・」と。「うぬ・・・こいつら・・・そのバカみたいに赤茶に染
めた髪の毛を灼熱太陽光線ループ攻撃でチリッチリにしてやろうか・・・」と思うわけなのである。
まぁ実際は何も出来ずに私は黙って席に座り込んで、たぬき寝入りを決め込み、その内心では、
丑三つ時の神社で「女子高生」と書かれた藁人形を激しくご神木に打ち付けているのである。
全国の女子高生よ!!せめて、せめて車内でぐらいは静かにしてくれないか。どうせ学校でもその
調子でバカ騒ぎしているのであろうから、せめて平和なる電車内でぐらい我々にも安息の時という物
を供給させてくれないか。
586 :
The プー:03/01/22 20:56
漏れが書くと必ず被る罠(・ω・`)
銭湯、戦闘、先頭
戦闘の先頭の尖塔に立ち、銭湯を思う船頭。
遷都は成るのか?
お題は
ピラミッド、個展、印鑑でよろしく。
589 :
ピラミッド、個展、印鑑:03/01/22 23:10
私の町にある画家がやってきた。国道沿いのピラミッドで個展を開きに来たのだ。
私も友達と一緒に見に行った。当時子供だった私は、画家の個展など行ったことはなかったし、
ピラミッドなど存在すら知らなかった。なので行く前の日はなかなか寝付けずに、
ピラミッドの様子などを空想していた。私の知るピラミッドとは図鑑で見るエジプトのものだ。
そんなものが内の近所にあったこと自体驚きだった。
その日は晴れていた。私は友達を誘いに行って印鑑が必要なことを思い出し、家に駆け足で帰った。
そのついでにカメラも携えた。そのカメラは父親の宝物であった。
私たちは地図を見ながら見慣れぬ道を歩いた。自分の町とそんなに違わない住宅街でも
どこかに的が潜んでいる気がして、言い知れぬ動揺を感じた。普通のスーパー帰りのおばちゃんも
得体の知れないビニール袋を持った不審者だ。特に恐かったのが、昼間から酔っぱらっている
おっさんだ。舌がもつれて何を言っているのかわからない。かといって、無視するわけにもいかず
適当に相づちして逃げた。
ピラミッドはガラス張りだった。埃が積もっていたのか、白く汚れていた。
「垂らす」「カラス」「ガラス」で
590 :
「垂らす」「カラス」「ガラス」:03/01/23 02:24
犬が舌を垂らす姿は、見苦しいと思う。
飼い主への親愛の情を示すため、健康な犬が舌を垂らしてじゃれつくのはまだ許せるが、痩せた野良犬が惨めな様子で舌を出しているのは最悪だ。
早朝、そんな犬がゴミバケツをあさっているのを2階の窓ガラス越しに見て、俺は最悪を通り越して「わびさび」の世界にまで到達した。
「野良犬や、バケツ顔入れ、あさる音」
くだらない俳句をひねり出し、あまりのバカバカしさに自分で自嘲する。
ガランと音がして犬があさっていたゴミバケツが倒れた。と、いきなりカラスが舞い降り、ぶちまけられた残飯を嘴でつつき始めた。
妻に逃げられた男が、ぼんやりと外を眺めているときに見るものとしてあまりに似合いすぎるわびしい情景だった。
次は「国会」「地下鉄」「ブラジャー」で。
「国会」「地下鉄」「ブラジャー」
……どういうセンスしているのかしら。
赤地に青のストライプ。これでもかというほど自己主張するブラジャーだった。
……よくもまぁ、こんなもの見つけてきたものだわ。
ひとつ嘆息を漏らすと、しぶしぶ身に付けてみた。
私的にはちょうどいいと思っている形いいバストにそれはぴったりとフィットする。
「エロオヤジ……」
鏡台に写る、悪趣味な私に私は毒づいた。
国会に巣食うタヌキ共の相手をするようになってからすでに半年。
部屋にある調度品も随分と豪奢なものになった。交友関係も幾分派手さを増した。
私自身もまあ、精神的には鍛えられたかな……。
鏡台にできた小さなキズをそっとなぞる。半年前、別れ際に彼がつけたキズ。
今ではいい発奮材になっているけれど。
感傷的になっている鏡の私にふっと気付いて、私は立ち上がった。
「よぅしっ! 今日も一稼ぎといきますか!」
ブラをくれたタヌキをカモりに、私は軽い足取りで地下鉄の駅に急いだ。
次は「子狐」「盲目」「嬌声」にて。
592 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/23 21:56
……どういうセンスしているのかしら。
赤地に青のストライプ。これでもかというほど自己主張するブラジャーだった。
……よくもまぁ、こんなもの見つけてきたものだわ。
ひとつ嘆息を漏らすと、しぶしぶ身に付けてみた。
私的にはちょうどいいと思っている形いいバストにそれはぴったりとフィットする。
「盲目……」
鏡台に写る、悪趣味な私に私は毒づいた。
国会に巣食う子狐共の相手をするようになってからすでに半年。
部屋にある調度品も随分と豪奢なものになった。嬌声関係も幾分派手さを増した。
私自身もまあ、精神的には鍛えられたかな……。
鏡台にできた小さなキズをそっとなぞる。半年前、別れ際に彼がつけたキズ。
今ではいい発奮材になっているけれど。
感傷的になっている鏡の私にふっと気付いて、私は立ち上がった。
「よぅしっ! 今日も一稼ぎといきますか!」
ブラをくれた子狐をカモりに、私は軽い足取りで地下鉄の駅に急いだ。
NEXT 「黒ミサ」「食用石油」「安達祐実汁」
司祭の声が厳かに響き渡る。
「暗黒神に捧げる三つの供物を今高らかに宣言せん」
黒づくめの参列者の喉が一斉にごくりと音を立てる。
黒ミサのフィナーレに際し、神託により次回の供物が三品所望されるのだ。
彼らにとっては、どれほど困難でもどれほど理不尽であっても、
喜んで身を捧げることが邪神への何よりの忠誠の証となるのだ。
事実、古来には自ら腹を裂き赤子を捧げた女もいるらしい。
求められる供物は時代の流れに応じて変化していった。
――今回既に捧げられた供物は、
超高級ワイン(銘柄が指定された)に
デンマーク製の安眠枕(型番が指定された)、
そして女子高生(容姿が事細かく規定された)の処女膜。
三つの供物とは時代が要請する三大欲求を象徴しているらしい。
そして今、司祭の声が朗々と響き渡る。
食用石油――そして、安達祐実汁――そして、……――。
最後の供物は信者の苦悶の響きによって掻き消された。
「我ら邪神に心をささげし者ども、
食用石油も安達祐実汁もたやすく手に入れてみせましょう!
ですが、どうか、どうか、最後の……だけは不可能です! ご容赦ください!」
しかし、司祭の返答は簡潔にして苛烈を極めた。「お題継続」
自慰をした。
片手には食用石油と安達祐実汁のミックス液。
潤滑と興奮、一石二鳥だ。
搾り出した精液は…
今宵の黒ミサに捧げよう。
「小雪」「蜜柑」「郵便」
「小雪」「蜜柑」「郵便」
四月には珍しく小雪が舞うなか、私はバスターミナルで
彼女を待った。手袋をしてくればよかったと思う程度には寒
かった。コンビニで懐炉を買おうかとも思ったが、やめた。
右のポケットには、懐炉よりも温かい一枚の手紙が入っていた。
その便りは一年も前に、雪の積もる郵便受けで見つけた。
たった一行、「あの日あの時、あなたと出会った場所で」
とだけ書いてあった。そしていま私はその場所にいる。行けば、
彼女が突然姿を消した理由(わけ)を訊けると思ったのだ。
どんな言葉をかければいい……?
私は再会に相応しい言葉を見つけられずにいた。いや、言葉は
いらないのかもしれない。左のポケットに入っている蜜柑を、ただ、
渡せばいい。そんな気がして顔を上げると、彼女が立っていた。
彼女が「男と」立っていた、にしようかと思いますたが、やめといた。w
「太った彼女が立っていた」にしようかとも考えたけど、やめた。www
覆面簡素人様ならやはり、「覆面を被った彼女が……」でしょうか!? w
お題忘れてしまった。
もし「継続」で書いてられる方がいたら、それで。
まだでしたら、「海を」「見ていた」「午後」でお願いします。
「見ている」ではなく、「見ていた」キボンヌ。
僕が彼女と出会ったのは、一昨年の初秋であった。
大学を休学して寄る辺のない旅の途中そこに立ち寄ったのだ。
海が見たかったのだと思う。夏も終わり人々の関心から解放された孤独な海が。
もう海水浴には遅すぎるし、その日は格段に寒かったせいか訪れるサーファーもいなかった。
(後で知ったことだが、この付近はあるサーファーグループの縄張りになっていたようだ)
午後の灰色の雲の下に広がる暗紫色の海は、人々との僅かな接触すら拒絶するかのようだった。
だが、彼女独りそこにいたのだ。波に攫われてしまいそうなほど頼りなげに佇んでいた。
季節はずれの白いのワンピースの上のこれまた真っ白な帽子が、冴えない景色の中で不思議に映えた。
ただぽつねんと海を見ていた。蜻蛉のような人だと思った。その儚さに心が奪われた。
そのとき、蜻蛉が羽ばたいた。帽子が吹き荒ぶ海風に攫われたのだ。
海に落っこちそうになりながら、なんとか僕が帽子を掴むと、
一瞬彼女は呆けた顔をし、それから柳眉を歪ませてくすくすと笑った。
「ちょうど人に会いたいような気分だったの」
こんな人気もないところでおかしな言いぐさだったが、彼女が言うと自分もそんな気持ちがしたのだ。
そうして、僕達は場末のホテルに入り、一緒に寝た。
どうしてそうしたのかは分からない。そうしないと彼女が消えてしまう気がしたのだ。無性に刹那の女の肌が恋しかった。
抱きしめれば折れてしまいそうなのに、抱けば抱くほどそこに実在するという肉感が増していった。
行為が終わった後でようやくにして気がついた。おそらく彼女は自殺しようとしていたのだと思う。
朝起きると彼女はやはりの蜻蛉のように消えていた。シーツには僅かにその残滓が残るだけ。
お互い名前すら聞かなかった。自分がしたことがどういう行為だったのか未だに分からない。
良かったのか悪かったのか。それが誰にとってなのか。
今言葉にできるほど分かっていることは、おそらくその後、彼女は自殺していないだろうし、
僕が心を奪われた蜻蛉の女性は蜃気楼の彼方に消え去った。
>「見ている」ではなく、「見ていた」キボンヌ。
一応違いを意識して書いてみたのだが、要求は満たせたであろうか……
お次は、
「改悛」「ポップアート」「世代」
599 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/24 03:47
ピラミッド辺りから読んだけどこのスレ面白いね
こんなんが2chにあったとは
「改悛」「ポップアート」「世代」
「爺ちゃん! 出来たよっ」
まどろみの中にいた儂を、孫の草太が呼び覚ます。
少々億劫ではあったが、しょぼついた目は何とか玄関先にいる少年を捉えた。
機械油と埃で真っ黒な手を、これまた薄汚れたワイシャツで拭いながら嬉々とした声で続ける。
「爺ちゃん、また寝てるん? それよか来て来てっ」
返事を待たず、草太の姿は戸口から消えた。
……やれやれ、またかと思い苦笑に面を皺める。
機械いじりの癖がどうやら草太にもうつったようだ。庭にある鉄屑を組み立てては儂に見せに来る。
まあそこは子供がするところ。手の平サイズの怪獣を誇らしげに見せる姿に微笑ましさを覚えるというものだ。
苦言は挟むまい。未だ眠気の取れぬ目を瞬かせながら、庭先から急かす孫のもとへ向かった。
そこには天を衝かんばかりの黒く巨大な建造物があった。現代建築の粋を結集させたような、いや遥かに凌駕
したそれは空狭しとその異様な姿を誇示している。禍々しいその形は男根を想像させた。
「そ、草太、この建物は」
「建物ぉ? ポップアートと言えよ! この戦後世代が!」老人を背にして、高みを見つめながら少年は言う。
「改悛するのは貴様のほうだったなぁ、どうよこの傑作!」振り返ると、老人はすでに絶命していた。
ポップアートは瞬時に墓標と化した。
※ごめんなさい、お爺ちゃん。
次は「鼓動」「怪事」「ドレス」
この怪事に、僕は鼓動がマシンガンのようにガンガン響くのを感じた。
「ごめんなさい、お爺ちゃん」
そんなつもりじゃなかったんだ。
僕は決心した。もう二度と機械いじりはしないよ!
そして式の日。
「婆ちゃん! 出来たよっ」
孫の草太に急かされて庭先へ出たお婆ちゃん。
そこには天を衝かんばかりの黒く巨大なドレスがあった。
そしてお婆ちゃんは・・・・・・
次は「草冠」「シナジィ」「夢物語」
「ナクナ…ソウタ」
優しいお爺ちゃんとお婆ちゃんを亡くして泣きじゃくる僕にかかる慰めの声。
振り向けばそこにはお爺ちゃんの傑作「T-01」が立っていた。
「シナジィ、ヨネバァ、トモニマンゾクソウダタヨ。ジブンセメル、イクナイ」
「そうよ草太。お爺ちゃんはねぇ…」T-01の後ろから現れた、叔母の幸子は語った。
「草太の名前はお爺ちゃんが考えてくれたの。雑草のように力強く生きて欲しいって。
草太の草の字には草冠がついているでしょう? お婆ちゃんは、楽にという意味も兼ねて
薬という字を使いたかったらしいけど、お爺ちゃんは草がいいって聞かなくてね…。
いつまでも泣いていては駄目よ。お爺ちゃんお婆ちゃんのためにもね」
涙が止まらなかった。お爺ちゃん! お婆ちゃん!! なんで僕はこんな、こんな……。
悔やんでも悔やみきれない過ちを犯してしまった。罪の意識は小柄な身体に重く圧し掛かってゆく。
「うう……ううううううう!!」慙愧の念が口からこぼれだす。
お爺ちゃんお婆ちゃんと過ごした楽しい日々は夢物語だったのっ!?
黒く巨大な建造物とドレスは、異様さを増すばかりに怪しくその姿を晒している。
ふたつの墓標は瞬時に草太の枷と化した。
次は「湖底」「蛍光色」「銭湯」
603 :
「湖底」「蛍光色」「銭湯」:03/01/25 04:37
私は今、非常にさわやかな気分だ。
なぜかって?聞くまでもないだろう。
世の中に必要ない人間というのは必ず存在する。それは必然だ。生きているだけで他者を貶め、
誰からも必要とされず、己のために周囲を蝕んでいくゴミのような人間。死んで当然のやつだ!
私の人生にとって邪魔でしかない最悪にして最低の害悪!クズ!寄生虫だ!
・・少し落ち着こうか。私の苦しみの元凶であったアイツ、は既にこの世の者では無くなった。湖底に沈んだ泥のように濁んでいた
私の心が、今では嘘のように晴れやかだ。とても清清しい。多忙な仕事を終えたあとに、くつろぎなら妻と
飲むビールを飲むひと時、それすらも今の心地よさには及ぶまい。
・・解せない面持ちだな?これからの私について心配してくれているのかな?ははは、心配後無用だよ。私は
刑務所に入るつもりなんてこれぽっちもない。
彼は「殺された」んじゃない、「死んだ」んだから。
警察をそう思わせる仕掛けは既に整っている。あとは彼に飲ませたこの薬を処分するだけさ。さて・・余韻に
ひたっていたいところだが、さっさと済ませて帰宅するとするか。せっかくの妻の料理が冷めてしまうからな。
次は「コーラ」「肌」「蛍光色」
「どうだい?今回のにはなかなか自信があるんだが。僕も文がうまくなっただろう」
「んー・・・まあ前よりはましなんじゃない?というかそれよりさ・・・」
「ん?なんだい?」
「前の人に指定された「銭湯」がどこにも入ってないじゃん」
終
次は「ホタル」「母」「トラック」で。
604 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/25 07:14
「ホタル」「母」「トラック」
R県Y村にあるという謎の建造物の噂を聞いたのは、一週間ほど前のことだった。
興味を持った私は、何とか忙しいスケジュールの中都合をつけ、取材を行うことにした。
当日、愛車アコードワゴンに機材とカメラマンの山口君を乗せて出発したのが午前5時。「Y村まであと50km」の標識を確認した頃には、日は暮れかかっていた。
街灯もない道をひたすら進むと、いつしかアスファルトから林道の砂利道に変わっていた。
砂利を踏む不規則な騒音にうんざりしてきたころ、「まだ日本にこんなところがあったのか…」 思わず口に出してしまった。
「失礼ですよ」と山口君に咎められるも、彼も薄ら笑いを浮かべている。
しばらくして、道が二手に分かれているところに辿り着いた。
標識や看板は何処にも無い。路肩に車を停め、暗がりの中手がかりを捜していると、一台の白い軽トラックがやってきた。
「おめえらさ何やってんだ?」
訳を話すと、軽トラックの男は村まで用事があるのでついでだから案内してやろうと言う。助かりますぅ、とわざとらしく返事をしてその後を付いて行った。
10分ほど走ると、林道を抜け田園地帯が広がっていた。辺りで優雅に舞うホタルの揺らめきをカメラマンの山口君がシャッターに納める。
既に集落に入っていたはずだが、夜の農村は穏やかな眠りについていたためか、気づくまで時間がかかった。
やがて、一軒の西洋風の邸宅の前に辿り着くと、軽トラックの男はドアに向かって先生、先生と呼びかけた。
中から現れたのは中年の女性だった。男は小包を手渡し、話を始めた。
しばらくして男は我々を呼び、中にはいるように勧めた。居間のソファに腰掛け、女性に謎の建造物の取材に来た事を説明すると、女性は意外な事を口にした。
つくったのは甥の少年ひとりで、その建造物はこの家の敷地内にあるという。敷地内とは言っても裏の山の頂上付近の広場で、今から行くのは危険なのだとか。
「取材は明日にして今日は泊まっていって下さい。部屋も空いてますし。」
ありがとうございます、とお礼を言うと、彼女は階段の上の方からこちらを覗く顔に気づいた。
605 :
名無し物書き@推敲中?:03/01/25 07:57
「草太!こっちいらっしゃい。わざわざ新聞社の方々があれの取材に来てくれたのよ!」
少年は草太です、と名乗るとぺこりと頭を下げた。息子さんですか?と聞くと女性はあわてて否定した。
「この子が甥ですの」
ではこの女性は母親ではないのか。
「父も母も死んでしまったので母の実家に来ました。祖父母も死んでしまったので、今は幸子おばさんと二人で住んでます」
少年は丁寧な口調で、質問する前に答えてくれた。
・・・時計は午後十時を回っている。
翌日、私は驚愕した。裏山の頂上の広場にあるというその建造物、山よりも大きい!その形は塔・・・否、男根を想像しても無理はない!
黒い塊が黒光りする姿は異様であり怖じ気づいても仕方ない迫力がある。
昨日は日が暮れていたためか気付かなかったが、あんな物のほぼ真下で我々は眠っていたのかと思うと激しく萎える。
よく見ると、黒いブツには黒い布状の物が巻き付いている。草太は、
「あれはドレス。風で流されないように巻き付けています。」
と説明した。山口君は夢中でシャッターをきり続ける。
黒い物体の根本には石板が置いてあった。草太が表面を拭き取ると文字が現れた。
『田中支那虎、よね。この地に眠る』
「二人とも僕が殺したんですよ」
嬉々として語る草太の顔が、一瞬爬虫類のように変化したのを私は見逃さなかった。
次は「クトゥルー」「深層」「遺跡」で
数千年前に滅びたとされる、第三惑星先住生物。我々トリースの民がこの惑星を発見したとき、
これら先住生物は既に亡く、半ば滅びつつある遺跡だけがあった。
トリースを除けば、唯一と目される知的生命の文化・文明を探るため、我々第三惑星先住生物
文化文明調査団は組織され、今日まで探索を行ってきた。
「センセイ、見つけましたぞ!」
助手のプロスメーデが四本の腕を振り回しながら駆け寄ってくる。
「やはりあの、植物繊維でできたブロックの山が当たりでした。その向こうから出るわ出るわ!」
私はすぐに持ち場を放り出し、プロスメーデと件の場所に急いだ。
「ブロックは積んであるだけでした。高分子化合物でコートされていたお陰で、損壊は最小限です」
私は震える手で、現場作業員の差し出すブロックを受け取った。数千年を閲してなお、ブロックに
描かれた色彩は鮮やかに色づいていた。
「どのブロックにも先住生物の文字が表記されています。一大発見ですよこれは!」
私はプロスメーデが差し出したメモを受け取った。現在あるデータで解読された、先住生物の文章だという。
「『セツナクトゥルーラブヲカタリ、ナオエロマンサイノビショウジョゲーム』?なんだこれは」
「はあ。なんでも先住生物の間で、<エロゲー>と言われる文化らしいのですが。私にもさっぱり」
私はブロックに描かれた絵画に目をやった。先住生物とおぼしき物体は、申し分け程度の着衣を
まとい、不思議なポーズで構えていた。
次のお題は「ざぶとん」「ガスボンベ」「充電器」で。