よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3

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1この名無しがすごい!
お約束
・前の投稿者が決めたお題で文章を書き、最後の行に次の投稿者のためにお題を示す。
・お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
・感想・批評・雑談は感想スレでどうぞ。

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よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ2
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1213581632/

関連スレ
よくわからんお題で次の人がSS書くスレ 感想メモ
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1179045857/
2この名無しがすごい!:2010/09/11(土) 21:53:47 ID:RnUsoU5B
次「不器用と偏差値」
3この名無しがすごい!:2010/09/12(日) 10:44:47 ID:8n+CZsmJ
「不器用と偏差値」

「自分、不器用ですから」
ある俳優のセリフらしい
その言葉がやたら頭から離れずにずっと居座っている
「自分、不器用ですから」
なぜか、この短いセリフに癒される自分
このセリフで何もかも許されてしまうような気がするのだ
僕は何かトラブルに直面するたびに、このセリフを口にした
大抵の相手はあきらめ顔でしょうがないねといい、僕のミスを水に流してくれた
そんな、誰かの考えたたった一つのセリフを糧に僕は生きてきた
しかし、どうにもこの不器用だけで言い逃れられない人物と出会ってしまったのだ
「人生は!偏差値!全てが偏差値で決まる!」
彼は常にこう叫びながら、僕の側に寄ってくるのだ
そして、僕はいつも自信なく
「自分、不器用ですから」
と、小声で返し、黙って俯くのだった
「それも悪くはない!だが!人間はまず偏差値で選別され、偏差値でその先人生を決められるのだ!」
僕の声を二倍、いや三倍くらい大きくした声で叫ぶように話す彼
彼はいつも目が血走り、興奮してるのか顔はいつも真っ赤だ
何をそんなに興奮してるのかさっぱりだが、不器用なので適当にながしておく

次「不器用な僕とどじっ子女教師」
4この名無しがすごい!:2010/09/12(日) 12:41:43 ID:R5Mm+Ecr
「不器用な僕とどじっ子女教師」

「いや〜ん、また遅刻しちゃった。てへっ」
 舌を出しながら、クラス担任の橘乙女先生が全速力で教室に駆け込んできた。
 なんと驚いたことに彼女はパジャマを着たままで、口には食パンと歯ブラシが一緒に詰め込まれていた。
 顔には白いパックが貼られ、その上に乗っているキュウリとレモンの輪切りが清々しい香りをそえている。
 長い髪には櫛やらドライヤーやらが絡み付いており、まるで江戸時代の花魁か、ブルボン王朝の貴族みたいな独特な頭を形作っている。
 更に彼女は教壇に足を引っ掛けたかと思うと(何故かスリッパ)、勢いよく右足をぶつけ、顔面から床に激突した。
 バキボキグワラゴシャッ!
「ふにゅ〜」
 明らかに全ての四肢の関節が曲がってはいけない方向に曲がり、大量の血流がリノリウムの床に殺人現場もかくやと思われるほどの広大な赤い海を出現させようとしていた。
 口からは入れ歯が飛び出し、パンやジャムや歯ブラシや歯磨き粉やキュウリやレモンや黄色い胃の内容物が前衛絵画のようにカラフルにぶちまけられた。
「おーい、誰かとっとと保健室に連れて行けよ」
「ていうか救急車が先じゃないの?ま〜た整形外科に入院ね、こりゃ」
「いや、精神科じゃねえの?最近アルツ進行してきたみたいだったしな。いつも存在しない奴当ててたし・・・」
 僕はクラスメイト達が騒ぐのを尻目に、何もせずただ倒れ付す老婆を眺めるだけだった。
 橘乙女、70歳女性教師。独身。すさまじい若作りをして、再々々任用で現役教師を今も続けている。しかし最近どんどん認知症が進行してきたようで、そのどじっ子・・・もとい注意欠陥およびまとまりない行動は半端ではない。そろそろ介護レベルなんじゃないだろうか?
「おい、お前も手伝えよ!うわ、便まで漏らしてるぞ、このババア!」
「自分、不器用ですから」
 そういうと僕は地獄絵図と化した教室を出て行った。

次「不器用な僕と女子更衣室」
5この名無しがすごい!:2010/09/13(月) 20:29:51 ID:6wEeaO8V
俺はどちらかといえば器用だ。
細かい作業もある程度はこなせる。
しかしどうも対象が人となると不器用になる。
励ますつもりが逆に怒らせてしまったり、良いことを言ったつもりなのに腹を抱えて笑われたこともある。要は少し普通ではないのだ
まあそんな自己紹介はどうでもいいか、とにかく今俺がいるのは女子更衣室である。
…いやそんな冷たい目で見ないでくれ。
実際体育の授業中に体調が悪いと嘘をついてここまで来たのは十分いけないことなのだが、これにはこれなりのわけがあるわけだ。
突然だが、ラブレターというものはいつ渡すべきだろう。
下駄箱でも机の中でも構わない。しかし他人が何かで間違えた場合俺の青春時代は一瞬で黒歴史となるだろう。
もうわかったかもしれないが。相手のポケットに誰にもばれず手紙が入っていれば取りあえずOKだろう。
ん?更衣室に行ったのがばれるだって?その時はその時だ。彼女になってくれれば過去なんて気にしないに決まっている。
…とはいえ、こんな紙切れに想いを込めたって何も伝えられないだろう。ああ、自分は本当に不器用だ。
コンコン
「あの…ここ女子更衣室だよ」
ノック音が聞こえたことに気付いたときにはもう彼女は部屋の中にいた。
そう彼女こそ俺の初恋の相手だ。終わった。もう何もかもだ。さあ嫌え!いくらでも嫌うがいいさ!
「も〜保健委員である私を置いてっちゃうなんてひどいよ。道を間違えちゃうくらいツラいなら早退する?」
「…」
そういえば彼女って天然なんだっけ。一番のチャームポイントを忘れるとは我ながら情けない。
とはいえこれはチャンスなのかもしれない。
俺は一度深呼吸をしてただ一言だけ言った。
「好きです!俺と付き合ってください!」
不器用なりの精一杯の告白だった。ロマンチックとは遠くかけ離れている。
それでも彼女は一瞬驚きはしたが確かに頷いた。
俺は頭が混乱して何一つ動作というものができなかった。
「私、誰かから告白してくれるなんて考えもしなかった」
「そんなことない。何でそんなこと言うんだよ」
すると彼女はいつもみたいに優しい笑顔でこう言った。
「だって私、不器用ですから」



「告白と幼なじみ」
6この名無しがすごい!:2010/09/14(火) 07:18:50 ID:gKLOtd3u
「告白と幼なじみ」

僕は自他共に認めるほどの不器用だ
何をやっても成功したという記憶がまったくないほどに不器用だ
道を歩けば、壁にぶつかり、交差点に立っていればそこに車が突っ込み
コンビニにいけば万引きと間違われる、駅にいけば宗教勧誘話しかけられ電車に乗り遅れる
そう不器用を通り越して一部では不幸男と呼ばれている
そんな俺も恋をした
いや、正確にはずっと昔からなんとなくは気付いていたのだ
隣りに住む幼なじみの女の子のことが好きだということに
そんなわけで不器用な僕は告白することにした
相手の気持ちなど汲み取れるほど僕は器用じゃないので、即告白だ
毎朝、一緒に登校することになっているので、そこで告白すると決めた
明日から始まる夢のような生活を夢見つつ床についた、おやすみ
「おはよう」と僕は彼女に声をかけた
彼女がちらと僕のほうを見てコクリとうなずく
彼女が挨拶をしないというのは周りの目があって恥ずかしいからだ
と、僕は不器用なりに彼女の気持ちをくんだ
「あのさ、ちょっといいかな」
僕はいつもより少しだけ大きな声で彼女にいった
彼女は黙って立ち止まる
立ち止まった彼女の背中を見ているだけで僕の胸が貼りそう消そうになる
深く深呼吸し、口を開く
「好きだ。今までずっと好きだった、そろそろ幼なじみから恋人に・・・」
「キモい。あんたのことなんてこれっぽちも想ってないから、もう付きまとわないで」
「え?」予想外の彼女の返事に僕は驚いた
「誰がストーカーと付き合うお人好しがいんのよ、もう毎朝話しかけないで」
彼女はそうきっぱり言い切って、ダッシュで走っていってしまった
取り残された僕は、空を見上げて思った
「やっぱり不幸だ」

「隣りのストーカーの行く末」
7この名無しがすごい!:2010/09/16(木) 03:27:11 ID:nwBUrrze
「隣のストーカーの行く末」

私の家はファミリー向け用マンションの4階にある
階段、エレベーターからもっとも遠い端にある
そんな自宅を出て学校に向かうのは午前7時30分
毎朝、日焼けしたうるさい爺さんの番組を横目で見ながら朝食を食べ
洗顔をしトイレに入り、寝間着から制服に着替え家を出る
ここまではいい、実に幸せな日常生活だ、両親と弟との会話もそれなりに弾む
時間が来て玄関で靴を履き、ドアを開ける
ある男がそこに立っている、学校が休み意外の毎日だ
隣りに住んでいる男で、小中高とずっと一緒、教室も一緒
偏った見方をすれば運命の一言で片づいてしまうような関係
引いた見方をすればたんなる偶然、すべてがたまたまで終わらせることが出来る関係
そんなどうでも取れる関係にある男が、毎朝、私を待っているのだ
「おはよう」と男が私に声をかける、毎朝だ、毎朝、毎朝うざいったらありゃしない
親に相談しても隣りだから、先生に相談しても小中高一緒だから、友達に相談しても運命なんじゃない
相談結果がまるで私が我慢すればすべて収まるかのような答えばかりだった
しかし、私は私に付きまとうこの男が嫌いなのだ、厳密に言えば
まったく生理的に受け付けることができない男なのだ
よって、私は毎朝、無視をして男の目の前を通り過ぎ、階段をダッシュで降りていく
エレベータには乗らない、男と二人きりになるなんて虫酸が走るというものだ
男と十分距離を引き離し、学校へと歩き出すが・・・・
もうこんな生活耐えられない、そう私の中にある何かが切れた
学校へは行かずと、ある場所を目指すことにした、私からだいぶ離れた場所に男が笑顔で立っている
私は地元の警察署に飛び込み、受付の婦警さんに目一杯の演技で変な男に終われると告げた
涙ながらの演技をしてる私の背後で、ガラスドアが開き男が入ってきた

「温泉宿」
8この名無しがすごい!:2010/09/18(土) 01:17:21 ID:zZ3R1Z+Q
立て直した感想スレです。感想・批評等はこちらに。

よくわからんお題で次の人がSS書くスレ 感想メモ
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1284739688/
9この名無しがすごい!:2010/09/19(日) 17:09:47 ID:/QQKivdt
「温泉宿」

三日連休を利用して山奥にある温泉宿に来てみた、俺
もちろん一人旅だ、かなしくなんかないやい
他の客からはすこしばかり哀れみを感じるが気にしない
大広間での食事も一人で余裕だ、お櫃を空にしてやったほどだ
飯も食い終わって、ちょっと一っ風呂浴びて、部屋でビールを飲んでいる最中だ
窓の外には少しばかり赤くなった木々の葉が見える
窓を開け山の新鮮な空気を部屋に入れ、火照ったからだを冷やす
なんて優雅な休日、これこそが日頃頑張ってる俺自信のご褒美
携帯の着信ランプが点滅しているではないか
俺は慌てて携帯を手に取り画面を見た
着信履歴がすごいことになっていた

「いつか見た夢」
10この名無しがすごい!:2010/09/19(日) 21:29:19 ID:P1V2hdJm
「いつか見た夢」

「俺は海岸に近いところに住んでてなあ…ほら、あそこに見える貸し舟屋の建て物が見えるだろう?
子供ん時よく遊んだ場所だったんだ。これぐらいの細い竹の先に釣り糸結んで、浮きには代わりに割箸を使
ったんだ。まあ、そんな簡単な竿でさあ。エサは安い豚肉さ。そこの波打ち際で糸を垂らすんだけど、そこ
では河豚しか釣れねえ。大きさは違えど、河豚、河豚、河豚。タライはあっという間に河豚だらけさ。…釣
った河豚は逃がしたさ。しかしなあ、俺も餓鬼だったから針が上手く外れなくて取ったときには死にかけて
た奴もいた。そういうのは逃がしたところで別の何かの餌になったんだろうけどな。それでもまあ休みにな
ると飽きもせず河豚釣りに通った。それが、いまでも懐かしくてなあ」
友人は機嫌よく俺の隣で話していた。船のエンジン音と波の音が邪魔してそいつの声を遠くした。
俺は一度手に持った竿のリールを巻くことにした。
「草河豚か」
「釣り人にゃ嫌われ者だがな…そりゃ今だってよく餌横取らちまう」
「そうだな」
「餓鬼ん時俺はさ、ただ可愛いあいつらを家に連れて帰りたかったんだ」
「そういえばお前の家に海水水槽があるな?まさか…」
「河豚だよ、俺の夢だったからな」

次は「地下室の理由」
11この名無しがすごい!:2010/09/21(火) 00:39:21 ID:fGGDk/dd
「地下室の理由」

そりゃおまえ、まちなかでやっちまったらヤバイだろ


『便所のシミ地蔵が泣いてる』
12この名無しがすごい!:2010/09/21(火) 02:52:49 ID:ocQjBx9L
便所のシミ地蔵が泣いてる

と、ある公衆便所の壁にお地蔵様みたいな染みが浮かび上がっている
神のお告げだといいはる人
ただの汚れだといいはる人
呪いだといいはる人
染みに対する感じ方は人それぞれだった
そして、ある少女が地蔵染みを見て言った

「公衆便所から始まる奇跡」
13この名無しがすごい!:2010/09/21(火) 10:51:04 ID:qaCKj8CG
「公衆便所から始まる奇跡」

神は今、ここに誕生した。この広さ一畳にも満たないこの男子トイレの密室で――そんなフレーズが頭をよぎった。
何も並々ならぬ事情を持った妊婦が人目を避けて男子トイレの個室に入り、そこで秘かに子供を産んで、それが後光をこれでもかと発散する赤子だった……とかそういうことを言いたいのではない。
きっかけは単純かつ間が抜けたものだった。
突如として下腹部を襲った火急の用事に切迫していたわたくし(三十二歳男性)は、電車を途中で下車をして、駅のトイレへと直行した。
間が悪く清掃中ではあったが、掃除のおばさんは私の切迫した様子を見ると快く通路を譲ってくれた。
若干潔癖症のきらいがあるわたくしが和式便所へ足を踏み入れる。瞬転、濡れたタイルで見事に足を滑らせた……問題はそこからだった。
著しく重心を崩したわたくしは倒れまいと必死にもがいた。
時間にして一秒にも満たない猶予時間ではあったが、それなりに効果はあったらしくなんとか両腕で壁を掴み、スーツ姿を便所の床に横たえることだけは避けることができた。
崩れたバランスのままではあったが、ほっと安堵のため息をついた瞬間、わたくしの目に飛び込んできた光景はまさに便意も吹っ飛ぶものであった。
足である。
右足である。
わたくしの右足である。
便器に突っ込まれたわたくしの右足である。
いや、それだけでは言葉が足りない。
正確では無い。
神々しいほどまでに。
便器には突っ込まれているわたくしの足は一滴たりとも汚水にまみれてはいなかった――さながら『奇跡の人』がそうであったように、わたくしは水の上に立っていたのだった。


「こんなところで!」
14この名無しがすごい!:2010/09/22(水) 00:02:28 ID:b6oO2SoL
「こんなところで!」

「こんなところで……だめよ……」
 僕が突然の便意に襲われ、近くの公園のトイレで格闘している最中、二つしかない部屋の隣りに男女(声から判断するに)と思われる二人が入ってきた。しかも事もあろうに情事(やりとりや息遣いから判断するに)を始めたのだ。
 僕は不幸中の幸いとばかりに腹痛を忘れ一心に耳をそばだてた。
「じゃあ、何処ならいいんだい?」
 よしよしいいぞ、僕はもう便意よりも胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。しかしその次の女の妙な言葉。
「スタジアムでなら……」
 すたじあむ?今女はスタジアムと言ったのか?いや、聞き間違いだろう。
「スタジアムじゃぁ足りないよ……」
 何だと?スタジアムで正解だったのか?じゃあ今隣りでやろうとしていることは一体?いや、拡大解釈すればそういう趣味だととれない事もない。それに男のほうは我慢出来なさそうだ。
「じゃあ、ペンタゴンなら……」
 ペンタゴン?今ペンタゴンって言った?ペンタゴンってあのペンタゴン?え?え?何で?
「僕だってペンタゴンがいいけどペンタゴンじゃ間に合わないよ」
 え、やっぱりペンタゴンなんだ!え、何?これってあれじゃないの?え、オレの勘違い? いや、まあ、でもまだ多少強引ではあるが説明はつく。彼等はスパイかなんかでもうペンタゴンでしか欲情しないみたいな、うん。辻褄はあった。
「じゃあ☆*□○※♯でならいいわ……」
「分かった。じゃあ☆*□○※♯に行こう」
 ドアを開く音と二人の足音。僕も急いで尻を拭きベルトを締める。もう情事なんてどうでもいい、彼等が何者なのかがしりたかった。急いでドアを開け、外に駆け出したが既に遅かった。辺りは真っ暗で人っ子一人歩いてはいなかった。
 ずり落ちたズボン姿で立ち尽くす。僕はからかわれたのだろうか?しかし僕がベルトを締めるのに手間取っていたあの時、外から聞こえたジェット機のような轟音は間違いなく現実のものとして僕の耳に反響していた。

「マクガフィン伯爵婦人の憂鬱」
15この名無しがすごい!:2010/09/22(水) 01:07:31 ID:Q5gt03/m
マクガフィン伯爵婦人の憂鬱

彼女はただ一言だけ口にした
「もう、私のことはお忘れになって」
僕の長年の恋は唐突に終わりを迎えた

「特攻野郎ナイトウルフ」
16この名無しがすごい!:2010/09/23(木) 09:46:13 ID:uIo3dDkV
「特攻野郎ナイトウルフ」

 奴は突然やってくる。静寂を突き破る、けたたましい爆音とともに……。

「そこのバイク止まりなさい」
「Why?」
「50kmオーバーです」
「Oh! My God!」



「至上の愛」
17この名無しがすごい!:2010/09/23(木) 10:12:44 ID:cehr68Mp
「至上の愛」

東京都内、某高級料亭に和装した男達が数人集まって密談していた
男達は初老の域に達していて、貫禄を感じさせられた
リーダー格の初老の男が手を叩いた
障子が開き、正座した女将が姿を現した
「えーーーーーーーい、女将をよべぇぇぇぇぇい!」
女将を目の前にし男は言い放った

「究極の恋」
18この名無しがすごい!:2010/09/24(金) 00:03:16 ID:JA52UV3z
「究極の恋」

俺の名は天使。人呼んで恋の狩人。ラヴ・ハンターだ。よろしくな。
生まれてこの方二千年間、俺は恋にまみれて生きてきた。神の命令で、他人様の恋を
こねくり回しておまんま食ってきんだ。要するに恋のプロってわけ。
そんな俺がいいことを教えてやろう、恋は無価値だ。神が死んだ今だからこそ言えるけどな。

おっと、怒らないでくれよ。信じたくないのはわかる。でも事実なんだ。
恋ってのは、愛と肉欲を繋ぐ、ただの架け橋に過ぎない。
”やりたい!”って言えない奴が、”好きだ!”って言ってごまかす。そんだけ。
あほらしいだろ? あほらしすぎて、俺は他人の仲をとりもつのをやめた。
逆に、人から恋を奪ってやろうと思ったのさ。

俺は人から恋を奪って、みんなが素直になれるようにした。恋のゴミ収集車だ。
集めた恋は山に捨てた。そんなこんなで百年たった。そしてある日、溜まった恋を
捨てに山に登ってみたら、なんとそこに、究極の恋が落ちていたんだ。

ビビったね。究極の恋は輝いていた。恋は無価値だと思ってたけど、何千と集めれば、
それなりの力が生まれるんだ。で、俺はその究極の恋を見て、どうしたと思う?
拾って、食った。食っちまった。食っちまいたいくらい、素敵だったからだ。

するとどうだ。みんなが俺に恋するようになった。会う人会う人、俺が好きになるんだ。
金もくれる。飯もくれる。若い娘を差し出してくれる。サイコーだよ。そのうち俺を巡って、
みんな殺し合いするようになった。マジかよと思ったけど、まあ別に愛してないし、
いいかなって思った。連中の勝手だしね。

ただ、この状態で天使を名乗るのはどうかと思うんだ。そろそろ神を名乗っても
いいんじゃないかと思うんだが、どうよ?

次「たんこぶ美人」
19この名無しがすごい!:2010/09/24(金) 04:21:48 ID:I9KI/uix
「たんこぶ美人」

私がご近所からたんこぶ美人だと噂されたのはある夏のこと
その夏は夏とはいえない冷夏で、街ゆく人のほとんどが長袖を着ていたという異常気象だった
私も寒さに耐えきれずに春用のカーデガンを羽織りながら買い物に家を出た
途中で、犬の散歩中の隣り三件先の自称幼妻さんに会い、立ち話をしたり
商店街のお肉屋さんでコロッケを買い、立ち食いをしたり
今にも潰れそうな商店街の本屋さんで今日発売の女性誌を立ち読みしたり
行きつけの薬局で使用品の化粧品をもらったりしながら、有意義な犬の散歩をしていた
いつもは大人しいペット犬の正太郎がいきなり吠えだし走りだした
リードに引っ張られ私も走り出す、商店街を
人混みを器用にくぐり抜けながら走り続ける正太郎
その後を息を切らしながら後を追う私
いったいどっちがペットなのか分からくなりそうだ
ちなみに正太郎は雌犬2歳、正しく育ってほしいと私の祖父が付けたのだった
何も雌犬につけなくてもいいではないかと祖父に文句をつけたら
なぜか祖父の妹がよいではないかーよいではないかーと言い張り仕方なしに雌犬なのに正太郎となった
そんなことはどうでもよく、私の数歩先を全速力で走り続ける正太郎
私がいくら止まれと叫んでも、いっこうに止まる気配はない
いつしか商店街を抜け、ただの住宅街までやってきてしまった私と正太郎
私の体力が限界を迎えフラフラと歩いていると、そこに・・・・

「失楽園」
20この名無しがすごい!:2010/09/24(金) 13:37:46 ID:tLMkNCQF
「失楽園」

楽園が崩れたのは俺がこの地にきて三年目のことだった。
それまでの俺はこの地で平和に暮らし、何の不満もなく
それはそれは自由に楽しく暮らしていた。
命を狙われる心配もなければ、食べることに困ることもない。
まさにここは『楽園』だった。

しかしその状況は一変した。この地に新たな来訪者が現れたのだ。
そう、外の世界からの侵入者だ。
実をいうと俺は外の世界へは数回しか行ったことがない。
この楽園に来る前の俺はまだ子供だったが、外の世界は怖いところだった。
親元から離され、たった一人で冷たい檻に入れられた俺は、
外に向かって必死になって来る日も来る日も鳴いていたのを覚えている。
その時のことを思えば今の生活は奇跡だ。
絶望と孤独に満ちた地獄からこの楽園へ来れたのは、まさに神の導きあってのことだろう。
神に感謝しなくてはならない。
だが、それは悲劇というほかない。
皮肉なことに外の世界から侵入を許したのも、また神の仕業だったのだ。

この地を総べる神は、あろうことかその侵入者を手厚く歓迎した。
俺はその様子を物陰から隠れ、神の乱心に怒りを覚えた。
見てみると。そいつは奇妙な奴だった。
見た目は俺に似ているが、俺より一回り小さく、潤んだ瞳でプルプルと震えていた。
「なんだこいつは」と思いながら、俺は毅然とした態度でそいつに威嚇の姿勢を見せた。
しかしその姿を見た神は、満面の笑みで俺にこう言ってのけた。

「みいちゃん! 今日からこの家にチワワを飼うことになったから仲良くしてね!」

とりあえず俺は借りてきた猫のようにきょとんとし、「にゃー」とだけ言ってやった。


「もふもふ行進曲」
21この名無しがすごい!:2010/09/24(金) 22:52:23 ID:JA52UV3z
「もふもふ行進曲」

20xx年、名古屋駅桜通口で発生したあんかけは、またたくまに街を覆い尽くた。
政府は即座に自衛隊の派遣を決定。だが、圧倒的なあんかけの前になすすべもなく、
もりもりとろける粘液は、またたくまに庄内川に迫った……
だが。
事件発生から3日後、突如としてあんかけが蒸発しはじめた。家々の屋根が現れ、
やがて地面が見えようとしたとき、人々は目を背けるような惨事を予測して、
固唾を呑んだ。
だが、名古屋人は生きていた!
名古屋人は、あんかけの下で、普段通りの生活をしていたのである。しかし、
彼らの姿は一変していた。ファービーのような大量の毛に覆われ、もう服を着る
必要などなくなっていたのである。そして、彼らの言語も変化していた。すべてが、
『もふもふ』という発音と、イントネーションだけで済まされるようになっていたのだ。
彼らは3日ものあいだ街を閉鎖していた市に講義すべく、もふもふいいながら
市役所目指して歩き出した。歴史に残る、もふもふ行進曲である。
事件のあと、名古屋がどうなったのか誰も知らない。だが、噂によると、先日
名古屋駅前ビッグカメラあたりの路面からきしめんが吹き出して、通行人を
襲ったということだ。

『ジェントルマン触手』
22この名無しがすごい!:2010/09/25(土) 08:35:48 ID:cOpKe3tF
『ジェントルマン触手』

彼がタコやイカまみれになったのは去年の冬
凍てつく極寒の地でタコやイカと交流関係を結ぼうとしたのだった
周りの人間はなぜタコとイカ?と首を傾げたものだった
しかし、彼は己の信念のために一人で最果ての地へ乗り込み、漁船に乗った
同行した漁師たちも一応に協力的であったが、タコとイカはなかなか捕らえられなかった
男が漁船に乗って二週間目の朝
船長の息子が誤って海に落ちてしまった
男は彼を救うために海へと飛び込もうとしたが、船長に止められた
この海域で海に入ったら生きて帰ってこられないといわれ
船長の顔には息子を失った悲しみが浮かんでいた
静まりかえる漁船、誰も口を開こうとしない、ただ波が漁船にぶつかる音だけが聞こえてくる
朝日が完全に空に登り切ったころ、漁船のまわりに怪しい霧が覆い尽くした
慌てる漁師たちと男
船長は的確に漁師たちに命令を出す
船の前に一筋の光が浮かび上がった
光の中にタコとイカのシルエットが見えた
「!$%〜#%”65”$&”」
人間には理解出来ない言語で語りかけてくるタコ
「@*+#”%”&#$’#$%’%#”#%!%”!&」
やはり理解出来ない言語でイカが語りかけてくる
もっとも言語といえるのかどうかも怪しいノイズだった
男は目的を思い出し、タコとイカに近づいていく
両手を広げ、敵意がないことを現し、笑顔を振りまく
イカの触手が伸び、男の体に巻き付いた
漁師の一人がこういった
「おージェントルマーンの触手プレー」

「夢のオチ」
23この名無しがすごい!:2010/09/25(土) 15:04:03 ID:+bQ9UmO1
「夢のオチ」

「まぁ初めに言っとくけどさ、あんたが見てるこれ夢なんだよね」
 おいしそうに杏子飴をぺろぺろ舐めながら、目の前の少女はそっけなく僕にそう言った。
 黒髪ストレートがきれいで、紫陽花柄の浴衣がよく似合ってる。
 彼女がクラスのアイドル、夢宮小春であることは一目でわかった。
「はあ……、夢?」
 いぶかしげに尋ねた僕に向かって彼女は「そう、夢。周りを見てみなよ」と、辺りを指す。
 見渡すとはそこは、どこかで見たことのある祭りの風景で、人も賑わい屋台も出ている。
 しかしなぜだろう。その風景にどこか違和感を覚えた。
「ほら、痛くないでしょ?」
「うわ!」 
 不意に彼女に頬をつねられた。
 だが不思議と痛くない。そこで僕はこれが夢なのだと理解した。
「でもさぁ君も薄情だよね。この夢を望んだのはあなたでしょ?」
「え?」
「あんたもずいぶん大人になっちゃってさ、いいかげん現実見ないとだめだよ?」
「え、いや、いったい何を……」

 その時、頭の中でけたたましいアラームが鳴り響いた。
『そろそろ眠りが覚めます。お望みの夢はご覧になれましたか?』
 気が付くと僕は、カプセル状のベットに横になっていた。
 頭がふらふらしたまま身を起こすと、しだいに僕は状況を思い出した。

 ああ、そうだ。今は2037年。
 あれから30年もの月日が流れ、今では僕はオジサンだ。
 建物を出ると、派手に装飾された看板に
『初恋の人との淡い夢が見られるドリームサービス、あなたもいい夢見ませんか?』
 と書かれて、僕は自嘲気味に笑った。


「今世紀最大の笑える話」
24この名無しがすごい!:2010/09/25(土) 21:39:28 ID:VrtHnCIm
『今世紀最大の笑える話』

公開と同時に世界中を笑いと感動に包んだ超大作が遂に上陸――
「ウラー!」(13歳、学生、モスクワ)
「21世紀のチャップリンの誕生だ」(40歳、郵便配達、ロンドン)
「最上のコメディはいつも最高の感動をあたえてくれる」(ニューヨークタイムズ)
「しんしゅんしゃんしょんしょー」(72歳、落語家、パリ)
「おすぎです! いいから黙って笑いなさい!」(65歳、おかま、東京)
――笑いながら泣くか、泣きながら笑うか、あなたならどっち?



「神の見えざる手ぬぐい」
25この名無しがすごい!:2010/09/26(日) 03:18:31 ID:Pqx8U8Bi
「神の見えざる手ぬぐい」

 『神は全知全能』とは誰が言ったのだろうか。
 おそらく神を知らないどこぞの宗教家が、なんでもかんでも神の力のせいにして
 気がつけば神を全知全能の「何でもできるキャラ」に仕立て上げてしまったのだろう。
 しかし、事実とは小説より奇なり、だ。
「ねぇーねぇー、あたしの手ぬぐい知らない? 超お気に入りのやつなんだけどさぁ〜」
「いえ、存じ上げません。お風呂場に忘れてきたのではございませんか?」
「えー? そんなことないよ。さっき千里眼で見たけど脱衣所にはなかったもん」
「そうですか、では一体どこにあるのか……」
 悩んだふりをしながら、目の前で涙目になりながらあたふたする少女の姿を見る。
 果たして件の宗教家たちは、神の外見が幼いただの少女の姿だと知ったら
 どんな反応を見せるのだろうか、 
 
「神様、そろそろお仕事に戻られる時間ですが」
「いやああああー! 手ぬぐい見つけるまでいやあああ」
「ですが……」
 彼女は駄々をこねるように、ぶんぶん頭を振った。
 その拍子に頭に乗ってるブタのかわいいイラストがプリントされた
 神お気に入りの手ぬぐいが落ちそうになったが
 どうやら彼女はその事実に気付いていなかった。 
「神様、頭に手ぬぐい乗ってますよ」と教えてやろうか。
 いや、いいか。
 いつものことだし面白いから黙っておこう。 


 数分後、手ぬぐいの在り処に気付いた彼女が恥ずかしそうに
「こ……これこそまさに、神の見えざる手ぬぐいだべ!」
 と噛み気味に言ってきたのは、ここだけの秘密だ。


「湯けむり温泉殺人事件、ただし容疑者は256人!!」
26この名無しがすごい!:2010/09/26(日) 03:36:46 ID:mytJVUi9
湯けむり温泉殺人事件、ただし容疑者は256人!!

「犯人はこの中にいます」
シルクハットを深くかぶった小柄な少年がそう告げた
温泉宿の大会議室に集められた総勢256人に向かって告げたのだ
256人からどよめきが起きる
しかし、少年は引き下がることなく胸を張りもう一度いった
「犯人はこのなかにいます」
少年の背後にスクリーンが降りてきて、大会議室の電気が消え暗くなった
パチン!少年が指を鳴らすと同時にスクリーンに映像が映し出された
一人の全裸の若い女性が大浴場の御影石の上にうつぶせに倒れている
口からは血が流れていた
再び256人がどよめいた
少年の鋭い瞳が輝く、ある人物の反応を見逃さなかったのだ
少年は大勢の人垣が左右二つに割れ、その中を歩いて行く
行き着く先は髪の長いスーツ姿の女性のところだった
「ママ!お腹空いたよ」

『世界の果てで愛を歌う中年女性」
27この名無しがすごい!:2010/09/26(日) 05:36:29 ID:vG0mibQP
『世界の果てで愛を歌う中年女性』

あの人は今何をやっているだろう?
果てしない海の向こうを見つめながら、彼女は最愛の夫に思いを馳せる。
私がいなくてもご飯はちゃんと食べているだろうか。
それとも私のことなんて忘れてしまっているだろうか。
見飽きたはずの夫の顔が、今ではとても恋しいものになっていた。
どうか神様、死ぬ前にもう一度だけあの人に逢わせてほしい。
そう願いながら、彼女は力なく目を閉じた。

いつしか彼女は、夢を見ていた。
二人で住むには少し広い部屋で、夫と二人きりで食事をしていた。
彼女と夫は、テーブルの上にあるものを無言で平らげている。
会話がなく、ただ食器の音だけがかちゃかちゃとなる空間で、不意に彼女が声を発した。
「ねえ、それおいしい?」
「……ああ、おいしいよ」
「本当?」
「もちろん。お前の作るハンバーグは世界一おいしいって思っているさ」
「!」
ずっと待っていた言葉だった。結婚したときから、いや初めて彼に料理を作った時からずっと望んでいた言葉だった。
何かが壊れるように、彼女は思いのたけをぶちまけ始めた。
一生懸命料理を作っているのに何も感想を言ってくれないこと。結婚した日のこと。初めて出会った日のこと。
遠慮も偽りもなく交わす、子どものような会話。
それは本当に、夢のように楽しい会話だった。

次『さすらいのカレー屋さん』
28この名無しがすごい!:2010/09/26(日) 19:17:28 ID:MYQ8Xr3z

「それじゃあもう行ってしまうのね」
「ああ、これ以上ここに長居したら僕はこの香辛料の効いたココナッツ仕立てのカレーを最高だ、究極のカレーだなどと言い出しかねない」
「いいじゃない!それで、そんな選択肢もあっていいんじゃないの?」
「いや、僕は僕のこの味を守りたいんだよ。誰にも影響されない、何も取り入れないし何も削らない。要するにこのカレーはアイデンティティ。僕自身なんだ。それを変えるって事はもうそれは僕じゃ無くなるって事だ」
「そんな、それじゃああなたは………」 「ああ、このカレーを、つまり自分を愛している。最低だろ?だから君ももう僕の事なんか忘れて誰かいい人見つけて下さい」
「…………そんな事出来ない」
「君の為なんだ」
「……ついてく」
「……簡単な事じゃない、昼夜問わずスパイスラクタ(カレー吸引域)に気を張りながら生活するんだぞ」
「…………」
「それじゃ……」
「待って!」

 そうして彼は去っていった。来たときと同じ軽さで。だけど彼は私に二つのものを残していった。初恋の傷跡と味の全くしない、茶色の絵の具を水に溶かしたような、確かに他のどんなカレーにも似ていないカレーを。

次題 「ウィークエンドブレイン」
29この名無しがすごい!:2010/09/26(日) 22:45:03 ID:CoUg+A3/
ある創作料理屋に酔いつぶれた男がいた。
男は言った。「何でもいいから珍しいモノ出せ!」
板前は子羊の脳みその天ぷらを出してきた。
男は料理を一口だけ食ったが、即座に吐いた。
「うぃー、食えんど、ブレイン」

「すっぽんヌーディスト」
30この名無しがすごい!:2010/09/27(月) 03:13:17 ID:2LSfSGuA
「すっぽんヌーディスト」

市場競争が激化するアイドル業界。
より強いインパクトを、とつけられた名前は「すっぽんヌーディスト」
「いくらなんでもそりゃないですよ」とプロデューサーに食って掛かるも、聞く耳持たず。
露出度の高い衣装に、無駄に多い14人ユニット。
その内5人がおバカキャラで
1人はすっぽん知識に明るい最強インテリアイドル(顔は微妙)
3人が受け口の三つ子で
4人は電波系キャラを確立すべくイカれた設定を目下考え中。
リーダーある私は「恋はすっぽん」という曲を作詞作曲をした体で歌うが、パクリ疑惑でリーダー交代。
熱愛報道と「枕営業やってます」発言で業界から干され、行きつく先はAV女優。
より強いインパクトを、とつけられたタイトルは「すっぽん、すっぽんぽん」
「いくらなんでもそりゃないですよ」とメーカーに食って掛かるも、当然聞く耳は持たず。


「あるあるネタシリーズその26〜水溶き片栗粉あるある〜」

31この名無しがすごい!:2010/09/27(月) 21:55:57 ID:RmjoJ/dL
「あるあるネタシリーズその26〜水溶き片栗粉あるある〜」

水溶き片栗粉を作ったら玉になって料理につかえなかった
そんな悲しい経験をした僕はお湯で溶くようになったがあまり効果がなかった
それでもあんかけチャーハンが好きなので、幾度となく挑戦し続けた
その間、大量の片栗粉とチャーハンたちが犠牲になったことはいうまでもない

「僕の恋は無線LAN」
32この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 09:34:29 ID:+hPeC9dI
「僕の恋は無線LAN」

僕は無線LANに恋をした。
あの娘は見えないけれどそこにいる。いつも笑って僕を出迎えてくれる。
電波が送られてくるたびに彼女を感じた。
その美しさに絶頂を覚えた僕は今日もパソコンを開く。開かずにはいられない。
僕の棒はすでにあの状態だ。
2次元の薄っぺらい存在を嫁とか言っている奴は随分と浪費をしている。
彼女こそ、4次元こそが至高なのだから。
ふぅ……


「姉のブラを探していたら、ラブプラスが現れた件について」

33この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 11:30:56 ID:CjK/6uaM
「姉のブラを探していたら、ラブプラスが現れた件について」

 どう返信したものか分からない。
 しかしその友人からのメールには、俺に答えを急がせる切実さがあった。

 件名:「姉のブラを探していたら、ラブプラスが現れた件について」
 本文:「助けて」

 ……意味が分からない。
 とりあえず、落ち着けと返信しておく。
 友人からの返信はすぐにあった。

 本文:「姉のラブ+をやめられない。見つかったときの言い訳を考えてくれ。とりあえずブラはつけたままだ。」

 メール打つ前にやることあるだろう、と返す。
 今度は電話が掛かってきた。
「やばいやばい! 興奮を抑えられねぇ! 今? うん、姉ちゃんの部屋だ。見つかったら殺される。だがそれを思うと余計に……」
 突然電話の向こうが静寂に包まれる。
 どうした、と、嫌な予感をしつつ問うた。
「やばい、ほんとにやばいかも……。俺、なんでこんなことしてたんだろう……」
 まだ遅くない、とりあえずブラを外せ、話はそれからだ。
「……もう遅い」
 俺は友人の名前を叫んだ。
 しかし、帰ってきたのはツー、ツー、という無機質な音のみ。
 くやしさに唇をかみ締める、俺はまた友人を救えなかった。
 あいつが姉に半殺しの目に遭うのは、これで何度目になるだろう。


「多分はじめまして」
34この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 12:29:32 ID:pMP8HCV9
「多分はじめまして」

 大学の講義が早めに終わったので、学食で少し早い昼飯を食べていたら、後ろから「久しぶり〜! 元気にしてた〜?」と声をかけられた。
 何事かと振り向くと、見たことのない綺麗な女性が笑顔で俺に手を振っていた。
 なんということだ。こんな美人が同じ大学に通っていたのか。
 しかし俺は彼女のことは知らない。
「ええと……失礼ですけど、どちら様ですか?」
「えー? うっそ! 私のこと覚えてないの?」
「はあ。多分はじめまし……でえ!!」
 襟を思いっきり引っ張られた。
「私のことを忘れたなんてありえない! 多分記憶を消されたんだわ!」
 そう言って彼女は俺の手首を掴み、強引にどこかへ連れて行こうとした。
「あだだだだ!! ちょ! どこ連れてく気っすか?」
「司令部に決まってるでしょ!!」
「司令部ぅ?」
「そうよ! 『対エメラウス星人撃退対策司令部』!」
「なにそれ!」
 すると、突如地面が競り上がり、簡易トイレのようなシェルターが現れた。
 中に連れて行かれると「司令部」と汚い字で書かれた小スペースがあり、真ん中に見知らぬおっさんが座っている。    
「おー! よく来たな、武田隊員! 元気にしてたか」
 もう、なにがなにやらわからない。
 二人の視線を感じる中、俺は「多分、はじめまして」とひねり出すのがやっとだった。



「最後の三分間」

35この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 12:37:44 ID:W/VteBob
「多分はじめまして」

多分…多分というだけまだやんわりとしていると言えるだろう。
前世系というのは一歩間違うと本気でこちらを転生者とか呼び始める。

今目の前にいる女の子もいわゆるソッチ系、なのだろうか?
絵チャットで知り合い話題が盛り上がり、ジャンルオフ会に参加したら
目印をつけようなどという所までは一応笑い話のラインだ。
だがそれ以上は、やばい。間違いなく。

「覚えてませんか?ほら」

「!?」
彼女は俺の黒歴史本を取り出した。高校の時の忘れたい何かが詰まったそれを…

「私、これを読んでから絵を始めたんですよ」
「そ…そう。それは、うん、よ、よかった」
どう考えても覚えがない。誰だ!?

「ほら、私あの時の親子連れの」
ふと思い出した。そういえば、そんな事もあったような気がした。
初めての販売、女の二人組、初めてのお買い上げ。買ってくれた方だけ覚えていた。
面影がある。そうだ、彼女は…

「今年のライダーってちょっと冒頭うしおととらに似てますよね」
「あー。確かに蘇って知識吸収したり対立してたりねえ」

20代の子とする会話か?と思いつつ、思い出が今と昔を繋いでいく。
彼女の手元には、俺の描いた下手糞な太陽の王子。
なんなんだこの光景は。まあ、いいか。面白いし。

「少女、ただし巨大。どっちも」
36この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 12:49:30 ID:W/VteBob
しまったリロ忘れすまん

>>34
「最後の三分間」

「なあ・・・俺は、あと何分待てばいい?」
「五分って言ったでしょ」

昼飯の調達を忘れた母は「カップ麺にしちゃった」とメールしてきた。
正直不満はないと言わないが、三分待てば食べられると思った。
俺は硬い麺派なので二分で食える。

俺は歓喜した。
直後に絶望した。

-熱湯5分-

それが、リミットだった。最近のカップ麺は即食べられるのもあるというのに…

「何で5分のやつ買ってきたの?」
「悪かったと思って美味しい方にしたの」

いらない心遣いだった・・・つくづく。
俺の胃が溶けて無くなるような気がする。これが、最後の三分…最悪の三分。

「あーっ!駄目!まだ硬いでしょ!」
「うるせぇ!もう限界だ!食うね!」
ちと硬すぎるが、もうどうでもいい…腹へった。
母親に何と言われようが、男にはやらねばならん時がある。
というわけで俺はとっととラーメンを啜る事にした。
空腹こそが最高のソースだと昔の人も言ったしな。

「最後の人は?」
37この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 13:31:27 ID:VQrHXLEI
「最後の人は?」

修学旅行一週間前
班分けすることになった
当然、僕はあまる側の人間なのでいつものごとく先生のご慈悲を待っていた
十分、二十分。三十分、次第に班が決まっていき、先生が学級委員長に確認を取った
委員長が名簿を確認していく上から下へと視線が動いていく
そして、途中で止まった、そう場所的にいって僕だろう
委員長が先生に小声で何かを告げている
先生が僕のほうを見て、小さな溜息をついた
「班が決まってるないのは君だけだぞ」
「は、はい・・・」
「最後の人はどうするんだ?」
僕は担任にすら名前を覚えていてもらっていなかったのだった

「はじめての海外旅行」
38この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 14:28:39 ID:pMP8HCV9
>>36
 お気になさらず

「少女、ただし巨大。どっちも」
 
 三年ぶりに親戚の女の子(姉妹)に会うことになった。確か姉は今7才で、妹は5才。
 二十歳の僕とは年齢が離れすぎている。困った。どう接すればいいのだろう。
 そんなことを考えながら駅で待ってると、二人は現れた。
「あー!! お兄ぃだぁ!」
「ちょっとまってよ美香ぁ!!」
 改札のほうから声がしたので見てみると、楽しそうに巨人が二人僕に駆け寄ってきた。
 僕はそれを石のように硬直しながら見る。
 でかい。
 3メートルは超えようかというような巨体だ。駅の天井はなかなか高いのが、姉は明らかに天井を破壊しながら走っている。
 おいおい。一体この三年間に何があった。
「えーい!!!」
 二人は、無邪気に僕の体へ飛び込んだ。
「ぐほおおおおおおおおお!!!」
 彼女たちに悪気はない。しかし、僕はその日、虫けらのように天を舞った。
39この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 14:32:46 ID:pMP8HCV9

>>37
 
「はじめての海外旅行」 

「海外旅行いこうぜ!」
 夏休み前にどこか行こうかと話してると、目を輝かせ俊哉はそう提案した。
「えー海外? あたし海外行くのはじめてなんだけど」
 飲み干したバニラシェイクをいじりながら、不安そうに真理は言う。
 真理と俊也は付き合ってもうすぐ一か月、バイトで出会った関係だ。
「お〜! 海外初か! だったら俺がいいとこ知ってるよ」
「で、でもさあ、怖くない? 海外。言葉わかんないしさぁ」
「あはは、んなこと全然ないって。価値観変わるよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。な、行こうぜ海外。俺と真理が付き合った記念にさ」
『記念』という言葉に真理は弱い。
 依然として不安ではあったが、どうやら彼は海外に慣れているらしいし、真理は思い切って海外旅行する決心をした。
 パスポートの申請をすませ、旅行鞄に荷物を詰める。
 その頃にはもう、不安より期待のほうが勝っていた。
「海外……どんな所なんだろう。俊也は教えてくれないけど」


 海外に着いた。
 暗かった。
 人はいなかったが、代わりに鬼がいた。
 鬼は真理を囲んで涎を垂らす。
「そんな……! なんで俊也……?」
 俊也は、にやりと笑って、本来の姿へその身を変えた。

 海外。
 確かに価値観は変わる。
 薄れゆく意識の中、真理はそう思った。


「パパとママと僕とネアンデルタール人」
40この名無しがすごい!:2010/09/28(火) 21:07:33 ID:bvYJIBnP
「パパとママと僕とネアンデルタール人」

「絶対におかしいよ」
僕の甲高い声にママが笑う。
「おかしくないわよ」
「絶対におかしいってば!」
僕は納得がいかなくて地団駄を踏むのに、パパもママも顔を見合わせて、しょうがないわね、
なんて肩をすくめる。
「どこがおかしいんだ? パパは素敵だと思うよ」

「どうして猫の名前がネアンデルタール人なのさ!
そんな可愛くない名前絶対にイヤだよっ」
「可愛いわよね?」
「素敵だよな?」

僕はどうしてこの二人の息子なんだろう。
拾った子猫を抱きしめながら僕は自分の名前も思い出したくない。

「どら焼きのあんなし」
41換気寸 ◆3kUkphbfBE :2010/09/29(水) 02:20:41 ID:TPqgEiAK
「どら焼きのあんなし」


「どら焼きのあんなし?」
「そうだ。このお題でSS、まあ短い話を書いてもらう」
「早速説明セリフ、じゃなかったスレ案内なんですね」
「あんが無いらしいしな」
「ははは」
「はははは」


「それよりも何故、どら焼きにあんが無いのですかね」
「それは……あの青い猫型ロボが」
「ありがちすぎますよ」
「じゃあアンガールズが」
「それはあんがあるんですか無いんですか」
「私にはなんとも……なんせ中味の無い話ですからね」
「ははは」
「はははは」



「おでんと電子タバコの意外な関係」
42この名無しがすごい!:2010/09/29(水) 09:10:50 ID:6p0UTDVR
「おでんと電子タバコの意外な関係」


「おう! 祐ちゃん、タバコやめたの?」
 残業でクタクタになった夜中の11時。一人で行きつけのおでん屋に通うのが、社会人となった僕の日課だ。
「そうなんですよ。社内でも禁煙の声が強くなりましてね。酷いもんです。上司が禁煙したから僕も道連れですよ」
「がはは! 喫煙者には辛い世の中になっちまったな」
「まったくですよ。まだ初めて一週間ですけどね。これがなかなかきつい。ところで親父さん、タバコの銘柄変えたんですか?」
「おおこれか? 娘に勧められたんだが、これがなかなかよくてな。ほい、いつもの」
 カウンターに出されたのは、とろけそうな大根二つに熱燗。
 この屋台に通って二年半、変わらぬ定番メニュー。
「そういや、禁煙っていえば、アレ試したらどうだ?」
「アレ?」
 芯まで出汁を吸った大根を一口頬張り、辛口の熱燗をくいっと一気に飲む。。
 大根の風味が口いっぱい広がり、熱燗がそれを引き立てる。
 うん。やっぱりこの店はおいしい。
「ほら、ニュースとかで話題になってたろ、機械のタバコだか……」
「あー電子タバコですか?」
「おう、そうそれ。禁煙すんならそれ試したらどうだ」
 妙にうれしそうな親父さん。僕はそれを尻目に「だめだめ」と大げさに手を横に振った。
「あんなの気休めですよ。ああいうので止められる人ってのは、よっぽど意志の強い人か、タバコのなんたるかをわかっていない人ですね。
 アレただの水蒸気ですから。子供のおもちゃです。アレを吸う唯一の利点は、周りに自分が禁煙していることを意思表示できることくらいですよ。
 あはは、それにしても今日の大根は一段とうまいな……」

 その瞬間殴られた。
 なぜか知らんが、殴られた。
 僕はカウンターから吹っ飛び、道路に突っ伏す。

「祐ちゃん。俺はアンタを息子のように思っていた。だがそれは間違いだったようだな」
「え? え?」
 見てみると親父さんが吸ってるのは電子タバコだった。
 どうやら遠回りに電子タバコを勧めた親父さんの好意を僕はバカにしたようである。
 それ以降、僕は行きつけの店を失った。
 まさか、おでんと電子タバコにこんな関係があろうとは。


「キスから始まるライトノベル」 
 
43この名無しがすごい!:2010/09/29(水) 11:08:26 ID:udPL3fHC
「キスから始まるライトノベル」

 先に断っておくが、僕はなんのとりえもない、どこにでもいるような存在だと自負している。
 そんな僕が、妹といつものように朝食を取っている時に事件は起こった。
「ねぇおにーちゃん、今日はどこに遊びに行く?」
「んー、そうだな。久しぶりに白吾のところにでもいくか」
「白吾クンのところかー」
「ん、妹は白吾のこと苦手か?」
「ううん。おにーちゃんが行くところについていくよ!」
 他愛のない日常。今日も僕は『普通』を謳歌できるはずだった。
「・・・・・・?」
「ん? おにーちゃん、どうしたの? 具合悪いの?」
「なんだ・・・・・・これは・・・・・・!」
 突然、得体の知れない力が働き、僕の体が言うことを聞かなくなる。
 否、それだけではない。いつの間にか僕の体は地面から3メートル程離れたところにあった。
「おにーちゃん!? おにーちゃん!!」
 妹が叫んでいる。その間にも僕の体には天へ吸い込まれるような力が働いていた。
 たった一人の家族である僕がいなくなったら妹は一人だ。僕は必死に突然襲ってきた力に必死で抗う。
 しかし、抵抗も虚しく、とうとう妹の姿は見えなくなってしまう。
 そして、力に導かれるようにたどりついた先は、僕の見たことのない世界だった。
 光にあふれ、色にあふれ、開放感にあふれた、見ているだけまぶしい世界だった。
 いつか、妹にこの景色を見せてやりたいなぁ、そう思ったところで僕は力尽きて瞳を閉じた。

 海岸で、青年が釣り糸を垂らしている。そこに大学生程の娘が近づいて話しかけた。
「よっ。釣れてる?」
「ん、キスが一匹だけ。しかも釣っただけで死んじまった」
「ふーん。弱ってたのかな?」
「いや、サイズのわりに手ごたえはすごかったんだけどなぁ」
「なんかちょっとだけ可愛そうだね」
「ま、ありがたく昼ごはんにさせてもらうよ」
「そっか」
 今日も波は寄せては引いて、太陽はゆっくりと廻る。
 娘は青年の隣に座って、その変わり映えしない景色を何の感傷もなく眺めていた。


「結果的にファインプレー」
44この名無しがすごい!:2010/09/30(木) 08:44:07 ID:SUY904F5
「結果的にファインプレー」

夏の高校野球決勝戦がTVで流れている
それを中華屋で見てる男女
二人は一応服装を決めてるつもりだか、全身から幼さを漂わせていた
いきすぎたおしゃれは滑稽に見えるものだ
本人達はそれに気付いていていない
中華屋の店長が注文は?と二人に聞く
「ビールと餃子ね、先にビールを持ってきて」
と、男が無愛想に注文する
「私もビールとつまみ三点セット」
と、女が舌を噛み噛み注文
店長が訝しげに二人を見つめる
男がその視線に気付き、ちょっと威嚇気味に「早くしろよ」
店長が中華用お玉を握りしめバットみたいにスイングする
その様子を見た二人が苦笑する
「ぷっ、ここって中華屋だよねー?振り回してないで注文した物だしてよ」
女が店長をバカにするように言った
店長がおもいっきりスイングする
店長のスイングと合わせるようにTVから大歓声が店内に響き渡った
「ホーーーーームラーーーーーーーン!!!大逆転!!!でーーーーす」
実況アナウンサーが大絶叫している
「悪いな、ガキに飲ますビールはねえんだ。チャーハン作ってやるから食って帰んな」
中華用お玉を鼻先に突きつけながら女はゴクリとつばを飲み込み男を見た
「・・・チャーハン二つ」
小さな声で注文しなおした
店長がお玉をおろし、満面の笑顔で「あいよ」と言った
TVには優勝校の選手たちが満面の笑みで涙をながしていた
店長はその映像を見て、かつての自分を思い出して鼻を啜った
45この名無しがすごい!:2010/09/30(木) 08:45:17 ID:SUY904F5
お題忘れたので
「忘れた頃に大爆発」
46この名無しがすごい!:2010/09/30(木) 16:17:02 ID:mlfo2p5Y
「忘れられた頃に大爆発」

「だから! 僕のミケのことをネアンデルタール人って呼ばないでよ!」
「でもミケなんてありきたりすぎて」
「つまらないよな?」

ぼくのネーミングセンスを馬鹿にする資格は両親には絶対にない。

「デデキントの切断とキントト」
47この名無しがすごい!:2010/09/30(木) 21:43:01 ID:pTEH6aiq
お祭りの帰り、浴衣で県道を歩いてたら、

「でーんでんむーしむしきーんとうんー」

なーんて変な歌を歌う男の子が向こうからやってきたの。
手には金魚すくいの袋を持ってて、何かぐるぐる振り回してる。
金魚汁でも飛んできたらやだなぁなんて思って、
ちょっと避けるそぶりをしたら、あたしに気を使ったのね、その子、
ぴょいって車道に飛び出たのよ。

キキーッドグワシャァアロロロッローーン

あっという間の出来事。軽トラが男の子を轢いて、そのまま逃げてった。
男の子は胴切りになって、辺り一面血の海。うわっ大変!
救急車呼ぼうと持ったんだけど、どだい無理っぽいのでやめたわ。エコだし。

「デ・・・デ・・・キント・・・」切断された男の子が呟いてた。

あたし可哀想になって、

「安心して! あなたの端点は上半身側にあるわ! きっと助かる!」

なんて言ってみたけど、コーシー列はコンパクトよね。
血の海の中で、金魚が跳ねてた。

次「オニヤンマらめぇええええ」
48この名無しがすごい!:2010/10/01(金) 01:34:27 ID:S6Uhd8Uz
「オニヤンマらめぇええええ」

うちの妹は虫が平気、というか何故か好きだった。
田舎育ちのせいかもしれない。
生まれたときから見慣れていたのもあるし、ビビっていられないのもある。
むしろ虫は捕りに行くくらいでないといけない。

そこである日虫を捕らえに行ったのだが…
その時、俺は虫の力を体験した。

「やった!」
目を輝かせて妹が捕らえたのは、小さな緑のバッタ。
そこら中の草むらに幾らでもいる程度のものだが、半月型のそれは
まあまあ可愛らしく、手始めに捉えるにはちょうどいい。

「ばったー ばったー ふーんふーん♪」
妹は上機嫌でバッタを振り回していた。潰すような力の入れ方はしないが
足を捉えてもはやバッタは妹のオモチャだった。

しかし数秒後、妹の手からはフッとバッタが消えた。
黒い影が通りすぎると、妹も気づくような力強さでそれはバッタを奪ったらしい。

妹の目線の先を見ると、そこにはバッタを掴んだ巨大な黒と緑の影。
オニヤンマだ…

「オニヤンマらめぇええええ」

妹の叫びもむなしく、昆虫捕りは昆虫捕られになってしまった。
オニヤンマはオニの名の通り大きく力も強い。
幼い妹が振り回した手からバッタを奪い去るくらいは平気で出来るのだ。
これは妹がうかつだったのだが、それにしても見事だとも思う。

「なあ、泣くなよ。ヤンマくらいあとで兄ちゃんが取ってやる」
びっくりしたのか悔しかったのか、妹はまだ「らめぇ」と舌っ足らずに泣いていた。
この約束が分かっているのかは微妙なところだが、あのヤンマをこの手にできるか
虫とのかけひきは俺にとっても面白いところだ。

「昆布ダシで作る魔界クッキング」
49この名無しがすごい!:2010/10/01(金) 12:12:06 ID:ZBqdGvIB
「昆布ダシで作る魔界クッキング」

我々が住む世界で「料理」と言えば、食事を楽しむためのものでございますが、
魔界での「料理」はそんな生易しいものじゃあございません。

『殺人貝のムニエル』『四つ首大鷲のソテー』『狂野菜のてんぷら』etc.

魔界に存在するすべてのレシピは、敵を殺すために考案されたものでございまして
「殺したけれれば、料理を作れ」なんていう諺もあるくらいです。
よく「食事に毒を盛る」などという言葉がございますが
魔界ではそんな回りくどいことは致しません。
なぜなら「料理」自体が「毒」ですから(笑)

え?

そんなもん誰も喰いはしないって?
あっはっは。いえいえ、そいつは違います。
我々は普段からいいものを喰ってますから舌が肥えてますがね、
魔界に住む野人どもはそうじゃあない。
頭は悪く、獣もみたいに食い荒らすもんだから、「おいしい」なんて感じたことがない。
そりゃあ喰いつきますよ。魔界の料理は味だけは絶品ですから。

“一口喰えば味に酔い、二口喰えば腸(わた)が裂け、三口喰えば天へと昇る――”


そぅら、どうです? あなたも食べてみたくなったでしょう?

今なら
『人食い昆布のミネストローネ』がおすすめですよ。


「13行のミステリー」
50この名無しがすごい!:2010/10/01(金) 20:04:24 ID:FXiUCH8j
「13行のミステリー」

かつて、たった13行で完璧なミステリーを書き上げた作家がいた
あまりにも完璧すぎるので、誰もが意外な犯人に驚きの声を上げたという
しかし、いくら完璧といえたった13行の文章
一度読めば誰もが内容を記憶し、口述だけですむようになってしまった
もうこうなれば、本など無用の長物になりさがり、誰も本を手にしなくなった
それが完璧なる13行のミステリーの顛末である
そして、その本、今現在絶本になってしまった本が私の目の前にある
偶然、散歩途中に立ち寄った古書屋で見つけたのだ
13行のミステリーの値段は私が持ち合わせてる現金なら簡単に買えてしまう額だった
私はこのミステリー買うかどうか悩んでいる
なぜなら、立ち読みで内容を覚えてしまったのだ、もう読む必要がないのだ
私は本に格段な愛着を持つ人種ではないので、読み終わった本になんの愛着もわかないのだ
よってコレクターアイテムとして買い、高値で転売してやろうかとか
本当にコレクションにしてしまおうかと悩んだりしているのだ
一度悩み出すと、なかなか答えが出ないのが私らしいといえばらしい
ま、昼食代一回分程度の値段なので買うこと決めレジへと向かい金を払う
本を受け取り、そのまま店を出る、日差しで軽い目眩がした
ああ、もう夏なのだなと私は思い、そのまま隣りの古本屋に入り、手にしていた本を売り払った

「コーンスープの熱き想い」
51この名無しがすごい!:2010/10/02(土) 03:14:43 ID:mQONRIZD
「コーンスープの熱き想い」

さて、こまった。
眼前の状況は仕事であるとはいえ、やはり辛いものがある
そりゃあスープ業界でも1,2を争う人気職種のコーンスープである
女性客のリピーターが得られたときの満足感なんて言葉にも出来ない
出来高ではあるが俺ほどの売れっ子になれば毎月の給料袋のズッシリ感だけで昇天出来そうな勢いだ
そんなコーンスープだからこそ毎日の出勤にも気合いが入るってモンよ
ビシッとアイロンをかけたスーツを着込み背中にとってを差し込む
これだって我が社独自のデザインでお客様方からも「可愛らしい」と好評なのだ
もちろん女性客(なるべく若い子意識)だ
だのによぅ
だってのによぅ
「なぁぼうや。早くしてくんないかなぁ。じゃないと俺から始めちまうぜ?」
どうして時々こんな風に男客まで注文を引き受けちまうんだよ!

「ほうきを亀甲縛り」
52この名無しがすごい!:2010/10/02(土) 10:42:53 ID:KOajeE57
「ほうきを亀甲縛り」


 むかしむかし、あるところに「とんち坊主」と呼ばれるとんち好きの坊主がいました。
 彼の手にかかればどんな難題も朝飯前。
 とんちで解決できない問題などありません。。
 そんな噂を聞きつけ、とあるお城のお殿様が彼を呼び出しました。
「これとんち坊主、今からそなたにとんちを出す。華麗に答えてみせよ」
「はい、お殿様!」
 そう言ってお殿様が出したのは、一本のほうき。
「よいか。今からこのほうきを亀甲縛りするのじゃ!」
「……え?」
 き……亀甲縛り?
 とんち坊主が驚いたのも無理ありません。
 お題が卑猥だったのは言うまでもなく、そのほうきは細くて亀甲縛りなどできっこなかったからです。
 とんち坊主は頭を抱えました。
 しかし、直ぐに坊主は何か閃いたのか顔をあげました。
「フフフ。どうじゃ、できんか?」
「いえいえお殿様。ぼくに解けないものはございません」 
 坊主は自信満々に言いました。
「では、やってみよ!」
「ですがお殿様……」そう言ってとんち坊主は、驚くほど冷たい目でにやりと笑いました。
「ですがぼくには、『亀甲縛り』というのがなんなのかわからないんです」
 坊主のSっ気たっぷりの視線に、M気質のお殿様はたまらず「じゃあこの体で教えてあげるよ!!」と叫びました。

 そうです。
 これが「とんち坊主」のとんちなのです。


「時給4億円のお仕事」

53この名無しがすごい!:2010/10/02(土) 18:00:08 ID:2oOlapU/
「時給4億円のお仕事」

金に困って仕事を探していたら
「時給4億円のお仕事」 と書かれた貼り紙を見つけた
場所は人の往来が激しい駅前の電柱だ
中高生がこの貼り紙を見て笑っていた
私は中高生に混じって貼り紙を見ていた
書かれた番号を頭に記憶した
その場を離れ、携帯を取りだし記憶した番号に電話をかけた
3コール後に男の声でもしもしと応答があった
私は平静を装いながら貼り紙のことを尋ねた
男は電話口に、あなたみたいな人が多いんですよねーといった
続けて、世の中、そんな甘い話があるわけないでしょ
男が得意げにさらに続ける、楽することばかり考えないでちゃんとした仕事探しなさい
携帯を持つ手が震える、私が困っているのに、この男ときたら、何暢気に説教くれているのだ
とりあえず私は深呼吸して、てめぇーに説教される覚えはねえ!
ありったけの声で叫んでやった
ついでに携帯を道路に叩き付けてやった、液晶が割れるのが見えた
そう、私はこんな性格だからどこへいってもうまくいかずに終わってしまうのだ
せめてこの血の気の多いところだけでも直せないかと思う
それでも、今回は私が悪いわけではない、私に説教したバカ男が悪いのだ
コンビニで立ち読みして弁当とお茶買って家に帰ろう、あとコンビニに置いてあるフリーの求人誌をもらっていこう
そう考えるだけで私の足取りは軽くなった

「消費税25%、公務員給料大幅引き上げ」
54この名無しがすごい!:2010/10/03(日) 00:40:23 ID:+l0vaxKk
「消費税25%、公務員給料大幅引き上げ」

 Sが家へ帰ろうと鞄片手に靴箱を開くと、そんなことを筆ででかでかと書いたA4紙が入れられてあった。素人目に見てもなかなかの達筆だ。
「なんなんだいったい」
 ぼやきながら、そのまま丸めて捨ててやろうとしたところで手が止まる。
「消費税25%って、イギリスだったかな」
 デンマーク、ハンガリーなどであり、イギリスがそこまは高くないのだが授業で習ってもいない様なことは知っているはずもない。
「ま、どうでもいいか」
 そういって隅に設置されているゴミ箱に向かって投げる。
 ナイスシュート
 吸い込まれるように紙くずが入っていくところを確認すると、Sは何事もなかったかのようにそのまま帰路へと向かった。


「三枚のパンツ」
 
55この名無しがすごい!:2010/10/03(日) 10:08:32 ID:N9xDcPw7
「三枚のパンツ」


 殺害現場に残されていたのは、三枚のパンツだった。
 ひとつは、青と白の縞々模様が特徴的な女児用パンツ。
 ひとつは、紫色が刺激的な勝負用スケスケパンツ。
 そして最後は、先っぽに黄色い染みの付いた何とも汚い男性用ブリーフ。
 三枚とも被害者の近くに脱ぎ捨てるように置かれており、床にはピンク色の錠剤と飲みかけの缶ビールが数個転がっていた。
 事件が起きたのは、さびれたホテルの一室。出勤してきたオーナーの通報で事件が発覚。
 その後の捜査で、現場に残された下着の一枚が被害者のものと判明した。
 検視の結果、死因は『腹上死』
 ――つまり「精力増強剤と酒を服用したまま、事に及んだことによる心筋梗塞」
 警察は残りの下着の所有者が、事件に何らかの関与があるとみて捜査を続けた。
 しかし、犯人はあっさり捕まった。
  
「いいですか? あなたの体液が、このブリーフの先っちょから検出されたんです」
 薄暗い取り調べ室には、おびえた顔の男がいた。
「す、すみません、殺すつもりはなかったんです。ただ、彼女が強い刺激を求めていたので……あ、あと、縞パンは僕の自前です、へへ」
 そう話すオーナーの股間は、勃ってもないのに、その場にいた誰よりも大きく膨らんでいた。
 皆の顔は呆れている。 
 とはいえ、そんなもので突かれたらそりゃ死んでしまうなと、見ていた誰もが被害者の女性に同情した。


「末期、少女病」
56この名無しがすごい!:2010/10/03(日) 10:57:32 ID:+l0vaxKk
「末期、少女病」

「末期ですね」
 医者から宣告された言葉は心へと突き刺さることすらなく通り抜けていった
「やはり、ですか」
「ええ、特徴的な病気ですからね。しかしこうなる前にも自覚症状はあったんじゃないのですか? 初期であればまだ対処法もあったものを……」
 頭を掻きながらカルテを見つめ、医者はぼやくように言った
 確かに、自覚はあった
 気付いたのは半年ほどまえ。ちょうど夏物の服を買いに大手衣料メーカーまで足を運んだときだった
 男物のTシャツ売り場へと足を運んでいたはずなのに、ふと気付くとそこは児童服売り場
 大の男が、一人で、児童服売り場だなんて
 周囲の目も気になったので急いでその場は立ち去った
 不思議なこともあるものかと思いながらもその後は何事もなく……一ヶ月ほど
 休日ということもあり、特に用事もなかったわたしは公園でのんびりと時間を過ごしていた。今思うと、その行動すらも少女病の一環ではなかったかと疑ってしまう
 まあとにかく公園で時間をつぶしていたときだ
 たまたま近くのブランコで無邪気に遊んでいた小学校低学年程度の女児達を目にしたとき、己の中の何か薄暗いものが鎌首をもたげたのだ
 『あの子達の輪の中に加わりたい』と
 そんなことを考えていた自分に気付いた瞬間、そんな自分のことが信じられなくなってしまった
 そして暗転、気がついたときには自室のベッドにくるまっている自分がいた
 そんなことが月に二、三度ありながらも三ヶ月ほどは何とか平静を保っていられた
 単に現実から目をそらしていただけなのかも知れない
 そんなカバーガラスのような薄い均衡が保たれていた日常は勤務中、唐突に音を立てて崩れた
「○○さん、最近なんだか声が高くないっすか?」
 部下の冗談ともつかないたわいもないひとことがわたしのすべてを崩した

 やはり、なのか。と

 そんな小事のような大事が起こって以来、わたしは家に引きこもることにした
 大人しくしていれば自然治癒してくれるのではないのかという泡沫のような期待、そして日に日に変わってゆく自分の姿を他人に見られたくなかったが故である
 そんな生活をしていた昨日。見る気もなかった鏡。見たくもなかった鏡。恐れていた自分の姿が唐突に気になりだした
 一体どうなっているのだろう
 一度湧いた好奇心は収まることなくわたしの中を浸食してゆく
 ああ、見るべきなのか
 もしかすると直っているかも知れない
 そんな、ありもしない期待がわたしを蝕んでゆく
57この名無しがすごい!:2010/10/03(日) 10:59:22 ID:+l0vaxKk
「末期、少女病」(続)

そして
 
 洗面台に設置された鏡の前
 気がつけばわたしはすべてを失っていた
 クリッとした幼い瞳
 キメの細かな桃色の肌
 そこにあごひげの一本もあろうはずがない
 背丈も半年前の半分以下にまで縮んでしまっている
 目の前にはここ数年で急速に社会現象にまで発展した奇病の発病者がいた
 『少女病』
 三十代をすぎた男性を中心に発症しその姿を、その心をあどけない幼女へと変えていってしまう恐ろしい病だ
「……う、うそだ!」
 とっさに飛び出した声すら自身が聞いたこともないような高音に変わってしまっている
「う・・う、うわぁああああああああああああああああああ!!」

「さてとりあえず」
 医者は淡々と今後の予測を話し始める
「未だにこれといった治療法も見つかっていないためにここまでの症例となると回復は絶望的です」
 そんなことはわかっている。今後は一体どうなるのだ
「ええ、後一ヶ月もすればあなたは心も身体も完全に幼女へと変わってしまっているでしょう。もちろん、そのときのあなたには今の人格も
記憶も綺麗さっぱりと消え去っているというのが今までの例ですし、あなたのような典型的な少女病の方がその例から漏れることは期待できないでしょう」
「そう……ですか」
 わかっていたことだが気を落とさずにはいられない。わたしは深く俯いた


「ほう、あの男が例の患者か」
 長方形の巨大な窓の向こう側を興味深げに眺めながら白衣の初老といってもいい男が言う
「ええ、何でも少女病などという奇病にかかっているのだとか」
 額の汗をぬぐいながら、こちらも白衣の若い男が説明をする
「少女病、か……」
 初老の男はそう呟き、手にしていた論文に目を戻す
『ネット社会の暗部、少女病の急増について』
「さて、どうしたものかな」 
 初老の男はガラスの向こう側へと目をやる
 そこには精神科医を相手に泣きつくもう若いとは言えない大柄の男の姿があった

「ティッシュ、イカ」
58この名無しがすごい!:2010/10/03(日) 11:32:10 ID:CeKv5SJK
「ティッシュ、イカ」

わからない、わからない、わからない、わからないか
いやちがう
わからない、わからない、わからない、わからないゲソ
これもちがう
わからない、わからない、わからない、わからないティッシュ
まったくちがう
なぜ、あの時、私はティッシュ、イカなどいってしまったのだろうか
まったくもってわからない、人体の神秘!

「縞パンの見る夢」
59この名無しがすごい!:2010/10/03(日) 22:48:12 ID:RnYiQd7h

 私は夢を見ます。

 あなたが窓辺の椅子に座って、鼻歌を歌っています。その歌は私が好きな歌で、私はそれを聴きながらコーヒーを淹れます。
 窓の外には大きな木があって鳥達が休みに来ます。私は入れたコーヒーを運んであなたと一緒に椅子に座って鳥達の歌声に耳を澄ませます。

 青い空と白い雲。君みたいだねってあなたは言います。
 白い小さな花を揺らす優しい風。あなたみたいと私は思います。

 手を握って。眼を閉じて。瞼を透き通る柔らかい光に永遠を思います。木々のざわめきが聞こえます。ずっと一緒だよ。ずっと、ずっと一緒だよってあなたが囁いているみたいで私はにやにやしてしまいます。
 私は出来るだけあなたにくっついて、強く手を握り、もう一生目を開かないでおこうと思いました。そうすればもう二度とあなたと離れる事はないから、この椅子に一人で座る事はないから、そう考えたのです。

 額を雨粒が濡らしました。部屋の中に雨が降るなんておかしい。私はとても不安になりました。気付くと握った手の感触が無くなっています。「待って!」たまらず目を開けてしまいました。

 そこは見慣れた部屋でした。猫が心配そうにじっと見つめていました。雫が頬を伝いました。外は雨でした。私は一人でした。


次題「ジャスミン・ジャスミン」
60この名無しがすごい!:2010/10/04(月) 08:10:19 ID:PgL8RKsA
「ジャスミン・ジャスミン」

アメリカ西部にある寂れた街に奇妙な怪盗が登場したのは、いつ頃だろうか
オレンジ色のスーツ姿の女二人組の怪盗
ジャスミン・ジャスミン
街の人たちは彼女たちをそう呼んだ
何もない小さな街だからすぐに有名になった
別に義賊でも、凶悪犯でもなくただの小悪党レベルの盗人なのにだ
それほど街は新しい何かを求めていたのだ
小さな街の小さな新聞が二人を取り上げる度に発売部数が伸び、発行部数の記録を塗り替えていったほどだ
街の子供たちはジャスミン・ジャスミンの格好を好んでし
中高生はジャスミン・ジャスミンの髪型を真似たりし
大人たちは俺の嫁論争に花を咲かせていた
そんな、大人気の彼女らが芸能界が放っておくわけもなく、遠くハリウッドからスカウトがやってきた
大金を摘まれ彼女ら二人はサインをし芸能界デビューすることになった
デビューはすぐだった全米に放送網を持つ大手TVのバラエティー番組出演だった
ジャスミン・ジャスミンはいつもより高価なオレンジ色のスーツとハリウッドのメイクアーティストを呼び着飾った
それは放送開始30秒前にやってきた
スーツ姿の男達が数名スタジオに入ってきてジャスミン・ジャスミンを囲ったのだ
二人は男達の手で逮捕され連行されていかれた
なんてことはない、犯罪者はどこへいってもどんだけ人気者になろうが犯罪者だったのだ

「朝風呂、朝酒、朝寝」
61この名無しがすごい!:2010/10/06(水) 18:13:18 ID:iDCgvEGo
「朝風呂、朝酒、朝寝」

「やるならば朝風呂かな」
 そんな壁の落書きを消し、首に巻いたタオルで顔の汗を拭きながらJがつぶやく
 なんてことはない。町内会のボランティアだ
「朝風呂とか何様やねん。気色悪い」
「うっさいわ。じゃあアンタはこの中ならどれを選ぶんですか?」
 あごひげの濃いいかにも工場のおっちゃんといった風体のFはしばし壁を眺めてから
「やっぱ朝酒やね、へへへへへ」
 と、いたずら小僧のように笑って応えた。
「えー、朝からお酒ですかぁ? 健康に悪そうですねぇ」
 タルーンとした口調で三人の中ではもっとも若いKが横やりを入れる
「じゃあお前はなんだってんだい」
「そりゃあ朝寝ですかねぇ。仕事柄そういった時間帯になっちゃいますしぃ」
「お前の方がよっぽど不健康なんじゃねえのか!?」
 あははははと笑ってごまかすK。どうやら自身もわかってのことだったらしい
「でもホント、朝寝はイイモンですよぅ?」
「それをいったら朝風呂だって悪くはありません」
「どいつもこいつも馬鹿野郎だな、朝酒がなきゃ一日が始まらんだろうが」
 三人とも一歩も譲らず
 なんだか微妙な空気の中、黙々と壁の落書きを消したり、道路にこびりついたガムなどをはがしていたとき、
Jが思いついたようにこういった
「そうだ! 朝風呂に入りながら寝酒を飲めばいいじゃないですか!」
 その言葉を聞いて、残りの二人もなるほどと思った。確かにそれならそれぞれの方法を試しても見られるし角も立たない

 翌日、ほとんど同じ時間帯に三人の男が死んだことがニュースでも話題になった
 死因はすべて急性アルコール中毒だったらしい


「狂気! アルバトロスでにゃんにゃん」
62この名無しがすごい!:2010/10/06(水) 21:15:17 ID:huSom/65
「狂気! アルバトロスでにゃんにゃん」

教えてほしい、この世界の真理を・・・・

「しゃっちょうさん、やすいよやすよ」
63この名無しがすごい!:2010/10/07(木) 01:40:34 ID:GT/7V9n3
「しゃっちょうさん、やすいよやすよ」

 夜も遅く、会社帰り。疲れたわたしの耳にそんなカタコトの日本語が入ってきた。はて、こんな場所に風俗の店なんて開いて
いただろうか? なんてことはない興味本位で声のした方へ振り向く。
「いやあ、しゃっちょうさん、やっすいよやすいよ。こちきてきて」
 向いた先には明らかに日本人のものではない浅黒い肌の女の子がサイズも合わないピチピチの浴衣を着て手招きをしていた。
背後には屋台が一つ。目がチカチカするような色とりどりの豆球で装飾されたそれには大きくこう書かれていた。
『派遣掬い』
 何かの見間違えだろうか。じっくりと文字を確認するが、書いている文字が変化したりなんてしない。
「なあネーちゃん。これってなんのお店やの?」
「おー、なんのみせ? しゃちょうさんふしぎなこというね。これ、はけんすくいだよ」
 こっちこっちと屋台の奥へ手招きする店員。『派遣掬い』なるものへの興味もあったが、この店員が美人で断り切れなかった
ことの方がかなり大きかったのかも知れない。私は誘われるがままにフラフラと屋台の中へ首を突っ込んだ。
 ざわざわざわ……
 なんだろう、少し騒がしい。強いて言うなれば人並みでごった返した歩行者天国を身体一つ上から眺めているような感覚。後
々その感覚があながち間違いではなかったことに気付かされるのだが。
「これすくうね」
 店員は金魚すくいでよく使われるようなポイを一回り大きくしたものを渡してきた。貼ってある紙は障子紙のように分厚い。
「一体こんな大きなポイで何をすくうってんだい?」
 とっさに尋ねてしまった。店員ははて? といった表情を見せたかと思うとクスリと笑い、
「しゃちょうさんはせっかちだね。これではけんすくうだよ」
 と、私の後ろを指さした。言われるがままに身体をねじりそちらを向くと、水色をした大きな浅い入れ物があった。深さは私
の膝くらいだろうか? 小学生くらいなら平気で大の字をかけるような広さを持った入れ物の中には黒々とした小さな生き物が
無数にうごめいていた。小さな生き物はひたすらキィキィと喚いたり、つかみ合いの喧嘩をしている。
 入れ物の中に詰められた生き物たちを見ているとなぜだか心中穏やかではいられなくなった。
 なぜだろう? 私はこの光景をよく知っている気がする。日常の一コマのような既視感だ。
「な、……まっ、これは何なんだよ!?」
「しゃちょうさんものしらないね。これ、はけんだよ」
 見ててみなとという風にぞんざいに大きなポイを箱の中に突っ込んだかと思うと、あっという間に片手の桶の中に一匹の『は
けん』を入れて見せた。
「……………………」
「おかいあげしたらにるなりやくなりすきにするだよ」
「………………」
「あれ? しゃちょうさん?」
 生き物の入った桶を私の顔に近づけてくる店員。桶の中を縦横無尽に走り回っていた生き物はふ、と動きを止め、ジッとこち
らを見つめる。
「うわ、うわわわっ、わぁああああああああああああああああああああ!!」
 目の前の桶を払い落とし死にものぐるいで屋台から飛び出す。背中に抗議の言葉が投げつけられるが知ったことではない。
 さっき見たものを兎に角忘れようと私はどこを走っているのかもわからずひたすら待ちを駆けめぐった。
 まさか生き物が自分の顔をしているなんてことがあるはずがない。

「ウルトラマン、股間の神秘」
64この名無しがすごい!:2010/10/08(金) 08:53:57 ID:9ujJN/He
「ウルトラマン、股間の秘密」

かつて母なる惑星地球を宇宙からの侵略者から幾度なく救ったという伝説の巨人がいた
彼の者は全身を赤と灰色を基本色とし、胸にはカラータイマーとなる物を付けていた
両手を十の字にすると、今で言うレーザー光線らしきものが発せられ侵略者を爆発させたという
その勇者には父母兄弟がいるらしいことが分かっている
彼らも人間同様に性的行動をし、子をなすのだ
しかし、私たちが性的行為を行う時に必要な箇所には、人間の男性が本来あるべきものがないのである
何度か観測されている母親らしき巨人にはちゃんと胸があるという記録も残っているのに
なぜ男性シンボルだけは見あたらないのか、体内に出し入れ自由なのかと議論を呼んだが今だ議論の決着は付いていない
そこで我々ウルトラマン生体調査隊は再び地球を危機に陥れ彼らを呼ぶことにしたのだ
その結果、地球の人口の半分が死に、残った人間達は生きるために争いを続けているという悲しい結果になってしまった
いつになったらウルトラマンと呼ばれる巨人はやってくるのだろうか
今日も私たちが作った怪獣と呼ばれる人工生命体が暴れている

「孤独のB級グルメ」
65この名無しがすごい!:2010/10/09(土) 15:02:40 ID:f+AkT+0w
『孤独のB級グルメ』

テレビで鳥モツが見事優勝したとき、私は蕎麦屋で鳥モツをつついていた。
ひょっとして、人気が出たら、こんなものでも値段が上がってしまうのだろうか


財布に余裕がなく、ご飯を作ってくれる恋人もいない私にとって、唯一のおかずなのに。
じろりと恨みがましい目でテレビを見つめ、最後のタマゴを口の中に入れた



『パクリ疑惑』
66この名無しがすごい!:2010/10/09(土) 15:44:53 ID:cZ74bxId
『パクリ疑惑』 

テレビでフォアグラが見事優勝したとき、私はフランス料理店で肥大した鳥モツをつついていた。 
ひょっとして、人気が出たら、こんなものでも市井で食べられるようになるのだろうか。 

近所に定食屋もなく、ご飯を作ってくれる恋人もいない私にとって、唯一のおかずなのだ。 
まさかねという目でテレビを見つめ、最後にポーチドエッグを口の中に入れた。

『タラコを焼くと死刑』
67この名無しがすごい!:2010/10/10(日) 12:55:09 ID:LX0zrZ7T
『タラコを焼くと死刑』

いかにも、それはふっくらぷりぷりとしたタラコだった。嘉助はゴクリと息をのんだ。
めったに食べられないタラコが目の前にある。折しも新米の出る季節で、古米の安売りがここそこで始まっていた。米を手に入れるのは難しくない。
あのタラコを焼いて白いご飯で食べる……往来で立ち止まったまま妄想した嘉助の口から涎が出てくる。
いかん。慌ててそれを拭い、気持ちを引き締め目の前のタラコに意識を戻した。
とりあえず、あれを捕まえて焼くとするか


「ちょいと! 誰か来ておくれ!! 火付けだ!」女の声に人が集まってきた。女が指している火付け男を数人が取り囲みひっとらえた。
「何があったってぇんだ、おきぬさん」
「いきなりあの男が火を持って襲いかかってきたんだ。ありゃ火付けをするつもりだったんだよ。見なよ、あの気の触れた顔」
「ありゃあ……深川の方の嘉助じゃねぇか」
「お前さん、知り合いかい。付き合いは考えた方がいいよ。この江戸で火付けなんざ恐ろしい。死罪になっちまえ」
女はふっくらとしたタラコのような唇から辛辣な言葉を吐き捨てた。



「ダンボールの中から……現る」
68この名無しがすごい!:2010/10/10(日) 13:15:13 ID:9+vrxJzo
「ダンボールの中から……現る」

「あいつが犯人です!」
「な、ちげーよー、俺じゃねえーよ!あいつだよ」
「ふざけんな!俺じゃねえよ、あいつだよ!」
「アンタたちなにいってんのよ!私のわけないじゃない!アイツに決まってるわ!」
「ち、ちがいますよー私はなにもしてませんよ、ほ、ほんとうですって、きっとあの方に決まってますわ」
「おいおい、冗談はよしてくれよ、僕がそんなことするわけないじゃないか、そこの貧乏人だろ」
「て、てめー金持ちだからっていっていいことと悪いことがあるぞ、犯人はそいつに決まってる」
「フッ、僕が犯人だって?困った人だね、僕が自分の手を汚すわけないじゃないか、犯人は君だろ」
「へい!おまちチャーシュー麺大盛!」
「「「「……」」」」
ラーメン屋の壁際に置いてあるみかんと書かれたダンボール
その箱が突如やぶけ人が飛び出してきた
超絶美少女がいきおいよく飛び出し、テーブルに置かれたチャーシュー麺大盛が入った丼を掴み
そして店の外へ向かって走り出す
その姿を呆然と見るしか出来ない客たちと店主
そして厨房から一つのお玉が美少女目がけて飛んでいく
くるくるーバッコ!勢いよく美少女の後頭部にぶつかった
美少女が何ごとかと後ろを振り向いた
そうダンボールの中に美少女が潜んでいたのだった

「雨の日はお休み」
69この名無しがすごい!:2010/10/10(日) 13:33:44 ID:u8g+QmRx

「タラコを焼くと死刑ですか?」
「いや、正確には祭司職ではない一般の方がタラコを焼くと死刑になると言った方がいいですね」
「祭司職……」
「この星でタラコを焼くとい行為は神に民の忠誠や愛を表す神聖な儀式なんです。ですから当然選ばれた祭司にしか許されていないのです」
「そうですか……」

 知らない土地。ましてや異なる星では、些細と思える事でももっと慎重にやるべきだった。トンネルを抜けると、色鮮やかなガラスのような素材で作られた建物が見えてきた。あれがこの星の裁判所らしい。


次題 「失恋効果α」
70この名無しがすごい!:2010/10/10(日) 13:35:55 ID:u8g+QmRx
すみません。リロしてなかった。
そのまま>>68のお題で続けて下さい。
71この名無しがすごい!:2010/10/10(日) 16:28:03 ID:KtgL+c7i
『雨の日はお休み』『失恋効果α』

「まいどぉ〜おなじみの〜縁切り〜寺でぇ〜ございますぅ〜♪
 いらなくなった、妻ぁ〜、夫ぉ〜、恋人〜、ストーカァ〜♪
 無料にてぇ〜縁切り〜いたしますぅ〜♪」

今日も今日とてルート営業。軽トラのマイクでがなりたてる。
荷台には寺をそのまま乗っけてある。ミニサイズだが、
消費者センターの計測した失恋効果αは、全寺社平均のなんと5倍だ。
おっと、路地から娘さんが走り出してきたぞ?

「ちょっとあなた、何で昨日は来てくれなかったの? もう遅いわ、
親が縁談まとめちゃったじゃない!」
「すいませんねえ、雨の日はお休みなんです。もう籍は入れてしまった?
あれまあ。じゃ、これをお使いなさい」
「なによこれ」
「心中セット。意中の人と心中して、嫌いな男とは縁を切るんです」
「心中するような人なんていないわ。単にあの男と結婚するのが嫌なの!
そうだ、あなた、わたしと心中して!」

そう言うとこの娘、心中セットからダイナマイトを取り出すと、胸の谷間に
差し込んで火をつけた。やばい! 離れろ! 車検出したばっかなのに!

ドカーン。俺たちは死んだ。スイーツ(笑

『明治はブルガリアになりにけり』
72この名無しがすごい!:2010/10/12(火) 16:05:48 ID:ojochCyj
『明治はブルガリアになりにけり』


とあるビルの一室で、就職面接が行われていた。面接官三人に対して学生は五人。皆、真新しいリクルートスーツに身を包んでいる。
「では、我が社のヨーグルト製品について忌憚のない意見をお願いします」
俺の逆端から順に答えていく。
「はい、酸っぱさと甘さの折り合いが素晴らしいと思います」
「あの大きさであの安さは他社製品に対して大きな魅力を消費者に訴えます」
「ヨーグルトといえば、の代名詞です」
「ヨーグルト用のジャムをヨーグルト売り場の横に設置するのはどうでしょうか?」
俺の番だ。心臓がばくばく言っているのが自分でも判る。深呼吸をしたそのとき、面接官が口を挟んだ。
「CMをご存知ですか?」「は、はいっ」
少し声が裏返った。
「歌えますか?」
「は、はいっ」
とっさに答えたものの、頭が混乱している。ヨーグルト、ブルガリアって単語が入ったよな……
俺はみんなの見守る中、口を開いた。


「ブッルガリア、ブッルガリア、ブルガリアはMEIJI♪」



次の週、採用通知は届いた。
73この名無しがすごい!:2010/10/12(火) 16:06:42 ID:ojochCyj
お題忘れました。


「4時10分前と俺の死」
74この名無しがすごい!:2010/10/12(火) 22:16:51 ID:3VKZcYse
「4時10分前と俺の死」

早朝4時
まだ夜も明けきれない中途半端な時間帯
俺はマンションのベランダで一人タバコを吹かしていた
夜空に浮かぶタバコの火
なんともロマンチックではないだろうか
あと二時間もすれば街全体が動き出し、街は喧噪に包まれていくのだ
俺はそれまでの時間をこうして過ごすのがこの頃の日課になりつつあった
タバコを一本すい終え、向かいのマンションをぼけと見ていた
カーテン越しに若い女性の姿が見える
どうやら下着姿で支度をしている風にも見えた
おっといけない、のぞきなんてことはこの俺のプライドが許さない
俺はそっと空を見上げ、次のタバコを取り出し口で加え火を付ける
時間は午前4時10分・・・
こんな時間に携帯が鳴った
携帯からは聞き覚えのある男の声が聞こえてくる
俺は適当に相づちをうちながら、男の話を聞く
聞き終わり、俺は電話を切り、タバコを口にし、そして再び女の部屋に視線を移した
最後くらい、見知らぬ女の下着姿を見ても文句はいわれまい
そう俺はこれから死ぬのだ
自殺とは違う、ある相手を助けにいく
おそらく、そこで俺は死ぬことになる、それが運命なのだ
携帯で男が告げた俺の運命は死ぬ
俺のスケジュールを考えると、人助けで埋まっているのだ
そうか・・・俺は死ぬのか、そう思うと胸の溜飲がさがりスッキリした気分になる
吸い終わったタバコの吸い殻をベランダから投げ捨て、部屋に入ろうと歩きだす
そうベランダの床に昨日、一晩中飲んでいたビールの空き缶がいくつも転がっていた
俺はその一つに足を取られ、窓へ頭から突っ込んでいったのだった
最後に見たのはヘルメット姿の男たちだった

「君であるために」
75この名無しがすごい!:2010/10/14(木) 12:20:21 ID:UF++PBSc
「君であるために」


「僕が僕であるためには、どうしたらいいのかなあ」
目の前の男がすっとぼけた顔でそう言った。
中山龍成。名前はすごいが容姿、性格すべてが人並みの凡人。
そいつが塾をこのあとに控えたぼくにもったいつけるように話かけてきた。
「君が君であるために? えーと、一体君は何を言ってるんだ」
鞄に教科書をつめながらそう訊ねると、中山はあわてて答えた。
「ああ、いきなりでゴメン! 実は村上君、ちょっと君に相談があるんだ」
「相談?」
「うん。君学級委員だろ? いつもみんなの悩みに答えているじゃないか。僕ほかに相談できる友達がいなくて……」
「ああわかったよ。それで悩みってのはなんだ」
ああ、めんどうなやつにつかまった。
ぼくが他人の相談に乗るのはほどよい人間関係を築くためだ。
つまり相手を選んでいる。無論こいつはそれに含まれていない。
さっさと聞いて終わりにしよう、こいつは馬鹿だから適当なアドバイスでもすれば納得するはずだ。
そんなことを考えると、中山は顔を赤くしてぼくの手を握りはじめた。
「な!? なっなにするんだよ」
「……」
中山は無言のまま、その手を自分の胸へと持っていく。
「村上君ゴメン。でもこうしたほうが一番わかりやすいと思うから……」
そして、ぼくの手は中山の胸へと導かれた。
しばらくの間のあと、ぼくは中山の“相談”が何なのかを理解した。

「中山……お前……」
「うん、今朝目を覚ましたらついてたんだ。今も動揺している」
中山の胸は膨らんでいた。
「僕、どうやら女の子になっちゃたみたいなんだ。ねえ村上君、僕自分が何ものかわからなくなったよ。僕が僕であるためにはどうすればいいかなあ?」
そう聞く中山にほくは何のアドバイスもかけることができなかつた。



「かまぼこ大統領の愉快な日々」
76この名無しがすごい!:2010/10/14(木) 20:47:51 ID:R6N3cFJ1
「かまぼこ大統領の愉快な日々」


「私はかまぼこ大統領だー!」
叫んだところでN氏はベッドで目を覚ました。寝ぼけながらも、枕元に置いたノートとペンをとる。かまぼこ大統領、親友のナルト宰相、想い人のちーちゃん……夢日記である。
N氏は作家だった。某誌の締切が迫っているが、まだプロットすらできていない。面白い夢を見れますように、と神に祈って寝たのであるが
「これじゃ児童書だな」
呟きノートを閉じた。まだ外は暗い。
「前はネタになる夢が多かったんだけど、最近質が落ちてきてるなぁ」
布団に戻りN氏は今度こそ面白い夢を見られますように、と強く神に訴えた。



「やれやれ」
神は手にした絵本を『済』と書かれたボックスに放り込んだ。
「私だって無から有を作れる訳じゃないんだぞ」
今まで神はN氏から祈られる度に、彼が昔作ったまま忘れてしまっていた物語を夢を通じて語ってきた。しかしN氏が小学一年の際に作った今回の『かまぼこ大統領の愉快な日々』でそれも尽きてしまった。
「仕方ない、面白い話を探しに行くか」
神はため息をつきながら、N氏面白い夢を見せるため、本屋へと向かった。



『自己紹介』
77この名無しがすごい!:2010/10/14(木) 22:07:04 ID:6vCxqI/d
「自己紹介」

こんな不況でもなんとか転職に成功した俺
以前の会社はそこそこ名の通った会社だったが
上司の小さな失敗を覆いかぶるような形で会社を追い出された
クビなのだが、世間体の手前、自己退職になった
一応、退職金が既定より多く出たし、あまっていた有給も買い取ってくれた
金銭的にはそれほど心配せずにすんだ
独身だし、派手な性格ではないのでゆっくり仕事探しが出来た
今日が終われば月が変わる、仕事始めの日だ
はじめての会社、はじめて合うこれから同僚となる人たち
それを考えただけでも、子供のように胸が弾む
なにより、自分のことを簡単に説明し、舐められないようにする
簡単なようでいて難しい自己紹介
これを考えてるだけで夜が明けそうである

「督促状」
78この名無しがすごい!:2010/10/15(金) 03:04:59 ID:n+3X3VLQ
「督促状」

私の大好きな本は、今日も返却されてはいなかった。
図書委員は無理やり押し付けられただけだけど、
カウンターの中、静かに一人で座ってられる時間は心地よく感じる。
今日もまた、督促状に同じ名前を書きながら思いを馳せる。
私の好きな本を借りたまま返さない、男の子の姿を。
ページをめくる音だけが響く部屋の中、特別丁寧に鉛筆を走らせる。
書く必要なんかないのだけれど……私の名前を、こっそりと書き添えて。
別に、何の期待もしていない。
同じ本を愛する気持ちが、すごく幸せなものなんだって、知って欲しいんだ。
ちょっとだけ特別な督促状を、君に送ろう。
私もこの本、大好きだよ。
そんなメッセージを添えて。

「石鹸」
79この名無しがすごい!:2010/10/15(金) 09:12:29 ID:J9kSbHvv
「石鹸」


くちゃくちゃ、ねっちゃねっちゃ
擬音で表すと正にそんな感じで弟は楽しそうにそれを混ぜていた。ワークショップの本日のお題は『君だけのマーブル模様の石鹸を作ろう!』である。
日曜日なので参加者は皆親子で、兄弟のみなのは僕たちだけだ。うちは両親共にサービス業って奴なので、日曜は二人とも仕事だからだ。
「ほら、また顔になんか着いてるぞ」
言いながら僕は弟にタオルを渡す。へへっと照れくさそうに弟は受け取った。だからみんなに「しっかりもののお兄ちゃん」なんて言われるんだ。こないだのバター作りのときだって……と思い出して僕は叫んだ。
「今日は食うなよ!? 似てるけどバターじゃないからな?」
「やだな、兄ちゃん。僕だってそれくらい判るよぉ」
ほっとした僕に答えてふんふん鼻歌を歌いながら弟は作業に戻った。
出来上がった石鹸は地味で暗い色が主張してなんか気味が悪い感じだったが、弟はご満悦だった。
「あーあ、毎回毎回あっちこっちぐちゃぐちゃじゃないか。帰ったらまず風呂で綺麗にしろよ」
呆れながら言った僕に、弟はきょとんとした顔をした。
「でも、僕汚くないよ。だって、これは汚いものを落とす石鹸だもの」
言ってにこりと無邪気に笑う弟を見て、さてどうやって風呂に放り込むか考え天井を仰いだ。




『あとがき』
80この名無しがすごい!:2010/10/15(金) 20:02:10 ID:f17EqyiG
「あとがき」






・・・違った、これは縦書きだった

「ぼくの夢、きみの夢」
81この名無しがすごい!:2010/10/17(日) 14:05:22 ID:rdyR8F+Y
「ぼくの夢、きみの夢」

私の名前は利留瀬永子、高校三年生。将来の夢である報道関係への就職に向かって奮闘の毎日だ。
今日は、新聞部の記事のためにサッカー部のエースストライカーである河嶋くんの練習を見学している。

「関口パス寄越せー」河嶋くんがゴールに走りながら叫ぶ。
「あちゃー」河嶋くんががっくり肩を落とす。シュートが上手くいかなかったようだ。
「ギュンギュンいけー!!」通りすがりのバスケ部の女の子2人が絶叫する河嶋くんを見てクスクス笑う。
「ドンマイギュンギューン」私はサッカーに疎いので詳しくは分からないが
もしかしてギュンギュンという渾名の選手がいるのだろうか?
「ケイスケナイスシュート!!」河嶋くんがガッツポーズを決める。
河嶋くん、ここで一度給水をする。
夜の7時過ぎとはいえ、ずっと叫んで走り回っていたら喉が乾いたようだ。
そしてトレーニング再開。
「カミタぁナイスセーブ!!!」好プレーをしたチームメイトを称える。
「乾、右だ右!!…あれ?」どうやら交代の指示が出たらしい。
ゴールを決められず悔しい表情をしながら、入っていく選手に対するハイタッチの動作をした。

「お疲れ。」出てきた河嶋くんにタオルを渡す。「今日のイメージトレーニングはどういう内容だったの?」
汗を拭きながら河嶋くんは応える。「2018年のW杯の最終予選って設定。」
「その頃までには俺の人生設計においては海外リーグで活躍してる予定で
期待されるプレッシャーもかなり大きいだろうなってとこ」
「…なるほど、その頃わたしはどうなってるのかな?まだフリーで独立は厳しいかな?」
夜の8時前の学校でお互いの将来の夢を確認したのだった。


次のお題「ハイパーキャンドルクリエーター」
82この名無しがすごい!:2010/10/19(火) 02:58:38 ID:pu/xBqva
「ハイパーキャンドルクリエーター」


N氏は悩んでいた。雑誌企画のSSリレー、今レーベルで一番人気の作家からバトンを受け取ったところ。
N氏の小説を買ったことはなくとも、彼からのお題『ハイパーキャンドルクリエーター』がどう料理されるのか覗く読者も出るに違いない。
SSで読みやすいのも吉だ。
ここで興味を持らわねば……と意気込むのだが原稿は真っ白である。
以前、夢で見たままを書いたら、既存作品に似ていると言いがかりを付けられた。
N氏はもう、夢に頼る気はさらさらない。
しかし今やN氏は平時にネタを思いついても、既読作品のストーリーを自身で思いついたと勘違いしているのでは、とまで思い詰めるようになってしまった。
盗作疑惑はN氏の心に、そこまでの強い衝撃を与えたのだ。
「いや……これもどこかで見たような気がしなくもない」
何十回目かになる台詞を呟き、N氏は原稿用紙を丸めて捨てた。
「蝋燭人間……ドルドルの実……」
N氏の夜は、長い。




『立ちバックは不倫じゃない』
83この名無しがすごい!:2010/10/20(水) 19:18:39 ID:sae+Wevp
『立ちバックは不倫じゃない』


ふ‐りん【不倫】
[名・形動]道徳にはずれること。特に、男女関係で、人の道に背くこと。また、そのさま。


「以前聞いたことあるんだけどアダムの最初の妻であるリリスは
正常位以外の体位は認めないアダムに嫌気さして出てったみたいな話で
だからキリスト教的には正常位以外は認めないとかなんとか」
「それは聖書を曲解した中世の文献に出てくるリリスの話を
に現代のカルト団体がさらに曲解して教義としたってだけのことだよ。
聖書にはアダムにイブ以外の妻がいた記述はないしリリスのリの字も出てこない。」
「まあなんだ、公衆の面前で全裸で本番したりしたら人間としてアレだけど
立ちバックでセックスするくらいで人の道に外れてる、不倫だというのはどうかと思うよ」




「北九州は九州の北半分じゃない」
84この名無しがすごい!:2010/10/21(木) 02:02:05 ID:iStQEacH
「北九州は九州の北半分じゃない」

 相手の間違いがあまりに酷いので訂正してやると彼は「またかよ」とうんざりした表情でこちらを見る。
「じゃあお前はどうなんだ? 島根と鳥取、形だけ見てどっちがどっちか判るのか?」
「島根と鳥取? っていったら中国地方の細長いアレだろ? えーと……」
 ……わかんないや

 所詮こんなものである

「マルクス・400枚(200組)」
85この名無しがすごい!:2010/10/21(木) 02:02:26 ID:m9M9LEV3
「北九州は九州の北半分じゃない」

以前、読んだことがある本によれば、北九州には魔法国がある
本州人の私にとっては、にわかに信じられないことだが、真実みたいだ
北九州に魔法の国があるなんて、お伽噺みたいでいいと思う人もいるみたいだが
その魔法国は日常的に魔法による大勢の人への理不尽な虐待が行われているとのことだ
我々が想像する魔法の使い方とは大きな隔たりを感じられずにいられない
そして、魔法国の人々、つまり魔法使い、とりわけすぐれた魔法の技巧を持つ人たちは
海を渡れないというのだ、私がこの魔法国のことを知った後にあるルートで調べた結果高い信憑性があった
それでも中には、偶然によって海を渡り本州に来てしまう魔法使いもいるみたいだ

「沖縄ソバに見た夢」
86この名無しがすごい!:2010/10/21(木) 21:41:59 ID:vFyZlJDo
「マルクス・400枚(200組)」

日系ブラジル人三世のマルクス・ヨンヒャクマイニヒャクミ・リュージ・ムルザニ・タナカは
16歳の時に祖父母の故郷である日本に来日して、数年に日本国籍を取得した。
『田中マルクス400枚(200組)』
それが彼の日本人としての名前だった。

「リュージとムルザニはどこいったんだよ?」
「田中リュージじゃ駄目なんですか!!」
「名前の中にカッコ()があるとか斬新過ぎなんですが(笑)」
「四百とか二百ならともかくなんでアラビア数字なんだよ」
「400枚(200組)ってティッシュじゃないんだからさぁ…」
「全体的にお笑い芸人のセンスだね!」
「どうせなら闘とか王とかカッコいい漢字使いまくればいいのに。」

賛否両論だった。



次のお題。
>>85の「沖縄ソバに見た夢」
87この名無しがすごい!:2010/10/22(金) 20:18:57 ID:H0MP3nrP
「沖縄ソバの見た夢」


「やっぱり僕は醜いの?」
僕はおじさんを見上げながら言った。
「醜いなんてことあるもんか、坊。何でそんなこと言い出したんだい?」
「だって……みんなと違うんだもの。みんなはもっと健康そうな肌の色してるし」
たどたどしく言葉を紡ぎながら、僕は恥ずかしさのあまり、顔から火が出るかと思った。
実際、そこまでは行かないまでも湯気は出ていたと思う。
「それに、僕はみんなより太ってるし」
「気にするな、お前の肌はそれはそれは真珠のように綺麗な肌じゃないか」
でも、と僕は一生懸命訴える。
「いつも持ち歩いてるものが高価で、嫌みだとか言われたり」
「もっと高いもの見せびらかしてる奴もいるだろう?」
おじさんはにっこり僕に笑いかけ、慈しむような目をした。
「坊、誰がなんと言おうと、お前はお前だよ。俺は素直な味のお前が大好きさ」
僕は、僕。誰がなんと言おうとそれだけは変わらない。
おじさんはこのままの僕が好きだと言ってくれた。僕は、その言葉を信じていいのだろうか?
「……おじさん……」
そこに、お姉ちゃんが僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ほら、自信を持って行っておいで」
僕は大きく頷いて、お姉ちゃんの方へ一歩踏み出した。



「おまちどおさまでぇす」
お姉ちゃんが僕をテーブルに置いた。
「ええ? これがソバ?」
「ソバちゃうやん、こんな白い麺、うどんやないか」
いつもの台詞が僕に襲いかかる。でも今日はいつもと違う。
ってゆうか、注文するならメニューくらいちゃんと読めよな!


沖縄ソバ……麺はソバ粉ではなく、小麦粉です。鰹だしの汁に三枚肉を載せて。是非、ご賞味ください。




「チロと千尋の神隠し〜アシタカ編〜」
88この名無しがすごい!:2010/10/22(金) 20:22:45 ID:H0MP3nrP
ごめんなさい、お題微妙に間違ってました……
89この名無しがすごい!:2010/10/23(土) 08:39:46 ID:FYLuQV4x
「チロと千尋の神隠し〜アシタカ編〜」


私の名前はチロ。ふとしたことから千尋と二人で神隠しにあってしまい
ボロい旅館で変な婆さんにこき使われる日々を送っている。
この旅館から脱出して、元の世界に帰る方法はただ一つ、
変な婆さんに取られた名前を取り返s…ボカッ!
「痛っ…!何するのよ千尋ぉ〜」
「なんでてめえが宮崎アニメのキャラであるこのアタシをさしおいて主人公ぶってるんだオイ」
千尋が投げつけてきたカオナシを適当にあしらいながら私は反論する。
「だってあなたは元の千尋とは明らかにキャラ違い過ぎて主人公に相応しくないじゃないのぉ〜」
「うるせえ!宮崎アニメにあるまじきコテコテの萌えキャラ口調の奴に言われたくない!!
だいたいテメエがハクのおにぎり勝手に食べたからこちとら腹が減ってイラついてるんだよ!!」
「おにぎりがないならパンを食べればいいじゃないのぉ〜」
「この純和風の建物のどこにパンがあるっていうんだ!次は王蟲投げ…」

突然、私と千尋の足元に銃弾が数発撃ち込まれた。
私と千尋が思わず銃弾の発射元とおぼしき庭を眺めると、
上空から中世日本風の衣装を纏ったイケメンと鹿モドキの巨大3D映像が降りてきた。
「静粛に!アシタカ王の御前だぞゴミのような人たち!!」



つぎのお題「銀紙英雄伝説」
90この名無しがすごい!:2010/10/23(土) 10:44:52 ID:aKMSE46Q
「銀河英雄伝説」

かつて銀河を縦横無尽に駆け巡っていた神の右手を持つ少年がいた
その少年は銀河紛争地域にいっては、俺はふこーだーと叫びながらトラブルを起こした少女を救い恋に落としていた
やがてその少年は恋に落ちた少女たちに、英雄と呼ばれるようになった
それが銀河英雄伝説の始まりであった
伝説が語り継がれて数百年
銀河の片隅にある青き惑星に一人の少年が生まれた
少年は多感な幼少時代を送り、15の時に宇宙海賊と名乗る少女と宇宙に旅だった
少年は少女とともに、各惑星で不幸なトラブルにあっている少女たちを助けてまわった
やがて銀河水戸黄門伝説と語り継がれることを知らずに

「銀河遠山の金さん伝説」
91この名無しがすごい!:2010/10/23(土) 19:27:29 ID:9LtviTh+
「銀河遠山の金さん伝説」

銀河遠山は甘いマスクと卓越した歌唱力を併せ持つ歌手であり
「ごはんは主食」や「残酷な店主のテーゼ」などのヒット曲で知られていると同時に
天然ボケなキャラとしてもお茶の間で人気を博している。

これは彼が、とあるクイズ番組に出演したときのことである。
「水戸黄門がお供に連れている男性二人は助さんと誰でしょう?」
ピンポン!「金さん!!!」
銀河遠山の回答の直後、不正解のブー音をかき消さんばかりの爆笑がスタジオ全体に沸き起こった。

銀河遠山の「金さん伝説」としてファンの間で有名な逸話である。



「厨二病殲滅部隊」
92この名無しがすごい!:2010/10/23(土) 20:57:07 ID:dqh27hiM
「厨二病殲滅部隊」

厨二病、それは忌まれしものにして聖なるものである。
それは十代の少年少女に発病する精神の奇病。
たまに大きなお友達も発病する。

何が原因か、何かどうなってそうなるのか、いっさいを厨二の闇に秘したまま、
彼らはときに奇跡を起こし、あるいは歴史すら変えるほどの力をふるうのだ。
だが、一般社会人たる我らにとって、一個人の力で社会を激変されては困るのだ。
そこで一般人は、厨二病患者を保護……と称して処分する、準戦略特務部隊を結成した。
厨二病殲滅部隊。

通称「現実送還部隊」。

我ら送還部隊の今日の獲物は、物質を破壊できる線が見えるとか言う厨二異能を発言させた高校生だ。
高校生にもなって厨二病とはどういうことだ。まあ、三十路を越えてなお限界を知らず、
厨二病を発病する剛の者もいるというから、高校生くらいならまだマシだろう。
厨二病患者は主人公補正によって銃弾があたりにくい。命中率は0.002%、なおこれは環境によって左右され、
ドラマチックな音楽がかかっていたり、鳩が乱舞していれば命中率は上がる。

我々は、現実の象徴たる教科書や、内申書などで覆われた盾を持ち、
「テストまであと○○日」と書かれたプラカードでもって少年を追い込んでいた。
厨二病患者は、これらの文書文言には目をそらさずにはいられない。背を向けて走り出さずにいられない。
その習性を利用して、我らは着々と袋小路に追い詰めつつあった。

だがそのとき!



「合体変形巨大サラリーマン」
93この名無しがすごい!:2010/10/24(日) 23:13:50 ID:BgAOHiSs
「合体変形巨大サラリーマン」

合体変形巨大サラリーマンのテーマ

♪(前奏)
紺のスーツ 一着二万円〜
日本の経済守るため 俺たち5人は今日も働く
サラリーレッドは部長さん サラリーブルーはクールなイケメン
サラリーグリーンはIT担当 サラリーイエローは営業マン
サラリーピンクは紅一点
日本を侵略する中〇の圧力 俺たち5人は今日も戦う
♪(間奏)

銀色の腕時計 一個二万円〜
家族の生活守るため 俺たち5人は今日も働く
サラリーレッドは東大卒 サラリーブルーはTOEIC900点
サラリーグリーンにメカは任せろ サラリーイエローの話術にみんなイチコロ
サラリーピンクはキャリアウーマン
日本を侵略する韓〇のパクり 俺たち5人は今日も戦う



「モテカワ殺人事件(最終回)」
94この名無しがすごい!:2010/10/26(火) 14:49:26 ID:urLwcKVD
「モテカワ殺人事件(最終回)」

 ぜんかいまでのあらすじ。

「モテてモテて仕方ないほどカワイイ、略してモテカワ」でおなじみのモテ川トシ子(23)が殺されたのは三日前、彼女が主催したパーティーの最中だった。
 舞台は断崖絶壁の孤島に建てられた洋館。容疑者は招待された総勢45人のセレブ達。
 鍵が三重にかけられた密室で殺されたトシ子の脇には「殺人犯したなう」という謎のメッセージが。
 なんだかんだあって45人のセレブの内41人が華麗なトリックで殺され、残ったのはたった4人。
 そして前回その4人が実は共犯だったことが発覚したので、事件は解決に向かい始めていた。
 そして……
 
 夕日の中で犯人たちは笑っていた。

 犯人A「いやー思いのほかうまくいったなぁ」
 犯人B「ほんとほんとww」
 犯人C「これが小説だったらあまりにグダグダで誰も読まないよねー」
 犯人D「俺だったら破り捨てて壁に投げつけるね」
 全員「あっはっはっはっは、おれもおれもwwwwww」
 
 彼らの笑い声はいつまでも明るく響いていた。
 そう、こうして「モテカワ殺人事件」は静かに幕を閉じたのだった。 
 
 完
  
 ご愛読ありがとうございました! 次回作はありません!

 
「目覚めたらゴキブリになっていたクワガタの話」  
 
95この名無しがすごい!:2010/10/29(金) 21:29:37 ID:0e/k5Dfv
「目覚めたらゴキブリになっていたクワガタの話」 

クワガタ刑事は銀行強盗との銃撃戦のさなか、子供を凶弾から庇い命を落とした………はずだった。
しかし病院で目覚めた彼の体は強靭な生命力を持つゴキブリになっていたのだった!!!
法の網をかいくぐる犯罪者を処刑するゴキブリコップ。
クワガタの妻子を物陰から見つめるゴキブリコップ。
街を支配する巨大企業バルサンカンパニーとの決戦!!!
カミングスーン!!!!!




「愛の新居浜市」
96この名無しがすごい!:2010/10/31(日) 01:54:45 ID:OCcxAmXL
「愛の新居浜市」

とある田舎町。
若者の数は減り、市の平均年齢は高まってくる。
町おこしをして活気をもたらし、子供も増やしたい。市長は考えた。
「きみ、昨今の未婚率ってのは高いらしいじゃないか」
「そうですね、市長。出会いの場でも作り、若者を呼びましょうか」
「いや……それでは市民にはなってくれないだろう」
「確かに。では、確実に市民でないと参加できないとか……ああ、でもうちには若者がいないので成立しません」
「そうだ。ぎりぎり通勤圏内なのだし、そこをうまく使った策を取りたい」
「と、申しますと?」
「新婚夫婦支援策だ。結婚資金は莫大で、お金は足りないだろう。新婚夫婦の場合、家を安く借りれる地域を作ってはどうか」
「なるほど、新しい発想です。大々的にアピールしましょう!」


〜半年後
「どうだね、新居浜区域の入居状態は」
「はい、対象マンションほぼ満室です。うちはもはや新居浜市と呼ばれるくらいですからね」
「やはり婚約中もOKという案がより一層拍車をかけたようだな」
「ええ、これで各夫婦に子供ができれば、幼馴染などといった、最近絶滅しかけているあこがれの関係を手にした子供たちが増えますね」
「保育所の支援も増やした方がいいかもしれないな」


〜一年後
「どうだね、新居浜区域の状態は」
「絶望的です。ほぼ空室です」
「なんだって? 何があったというんだ」
「まず、婚約中のカップルですが、マリッジブルーになった多数のカップルが互いに悩み相談をする会を作りました」
「いいことじゃないか、自分だけが悩んでいるのではないと知ることができる」
「悩みを打ち明けあっているうちに、ただならぬ関係になる男女が増え、婚約破棄が多発しここを出て行きました」
「なんということだ。しかし婚約中よりも、新婚の方が多かったはずだ」
「はい、新婚夫婦で初めて共に暮らし、相手の嫌なところも見えてくるようになったそうです」
「仕方ない、それが結婚だ。そこを乗り越えて真のの夫婦になれるのだ」
「やはり隣近所で悩み相談をしているうちに、マンション内浮気が多発し、離婚していきました」
「とんでもない話だ。ほいほい離婚するだなんて、最近の若者はこらえ性がない」
「いえ、とはいえそんなカップルも二割くらいです」
「よかった、まだ日本もそこまで落ちていないな。ということは七割くらいは残っている計算になるぞ」
「はあ、ですがその中で転勤者がかなりの数いました。結婚すると異動があるというのはあちこちの企業でよくあることらしいのです」
「その企業をリストアップしたまえ。訴えてやろう」
「そして残った幸せそうな五割のカップルですが」
「おお、居たんじゃないか」
「いえ、半分も結婚生活が破たんしているようなマンションは縁起が悪いと言って、結局出て行ったのです」


市長はもう何も言うことができなかった。



次のお題「シクラメンのメンはメンズのメン」
97この名無しがすごい!:2010/10/31(日) 03:12:44 ID:zu5tIczD
「シクラメンのメンはメンズのメン」

 ここは裏路地繁華街。孤独な男女が愛を求めてさまよう場所。
 路地の片隅にあるビルの地下、クラブ『シクラメン』に一人の男が迷い込ん
だ。

 木製のドアが、鈍い音を立てて開く。同時に重い鐘の音が鳴り、男の空の頭
に響いた。
 店の中は湿った酒と香水の匂いがした。談笑する声と、店を横切るドレスの
女に、男はすでに酔わされていた。
 入り口でたたずむ男に、すぐさまボーイが声をかけた。
「いらっしゃいませ」
「かわいい子を頼む」
「かしこまりました」

 銀色のみがかれたテーブルには、赤いバラの入った花瓶が。そして、大量の空
きボトルが転がっていた。
 男の両隣りには、濃い化粧をした赤いドレスの女が二人。大きな目と、真っ
赤な唇が魅力的だった。話も上手く、男の気分を良くさせる。さりげなく尻に
回した手も拒まず、逆にすり寄ってくる。胸が小さいのだけは難点だが、男は
おおむね満足していた。
 そろそろ帰ろうという段になって、男は気が付いた。
 金が足りない。
「お客さん?」
 女が怪訝な顔つきで尋ねる。
「まさか、お金がないなんてことは」
「こんな法外な値段を取るほうが悪いんだ。話をするだけでこんなに金をとる
とはなにごとだ」
「飲み逃げはいけませんよ、お客さん」
「うるさい!」
 男は花瓶を手に取ると、女に向かって中身を当てた。女は頭から水をかぶり、
バラの花びらにまみれる。湿った髪を垂らして、女は悲しげにうつむいた。
「売女が金をとれると思うな」
「お客さん、どうやらこの店がどういうところかわかっていないようですね」
「なんだと?」
 男が睨んだ女の顔は、水で化粧が崩れ始めていた。丸みのある頬は骨ばり、
魅力的な瞳は眉と合わせて力強く、男らしい。
 女は自らの手でドレスを脱ぐと、胸筋に膨らんだ胸をさらけ出した。
「『シクラメン』は女装した兄貴たちの集う店。飲み逃げなんて許されない。
体で払ってもらうぞ」
 女だったものは、胸筋を震わせながらそう言った。そして、さらに見せつけ
るように肩をいからせ、体中の筋肉を盛り上げる。
「や ら な い か」
「アッー!」

 男の空の心に、新しい何かが満ちた。



次のお題「ゴジラ対犬のおまわりさん」
98この名無しがすごい!:2010/10/31(日) 10:37:00 ID:4kkLrexq
「ゴジラ対犬のおまわりさん」

ゴジラとはうちで飼っている子羊
犬のおまわりさんとは隣りで飼っている子海亀
そんな我が家と隣家のかわいいかわいいペットを賭けの対象にされたのは先週末のこと
町内会でぼんくら爺どもの宴会でのことだった
しょぼくれた町内を盛り上げようじゃないか、どこの爺がいったか分からないがこの一言で決まった
B級グルメならぬB級賭け、いやB級すらなっていないP級賭け
それを聞いたうちの両親は激昂し、町内会会長を殴り飛ばしたほどだった
書記の爺がなんとかその場をおさめ、もう決まったことだから取り消しは無理だと告げた
隣家でも同じように町内会会長が殴られ書記の爺が強引に話を取り付けた
無理矢理に参加が決まった家は町内でざっと12軒
町内会を盛り上げるどころか、殺伐とした雰囲気を作り出したP級賭けだった

「男性用幼女パンツ大売れ」
99この名無しがすごい!:2010/10/31(日) 23:20:08 ID:H4bg3zb1
「男性用幼女パンツ大売れ」

男性用幼女パンツが人気と聞いた我々は早速、M県にある男性用幼女パンツを
製造・販売しているという会社へ取材に向かい、実物を見せてもらった。

それは何の特徴もない紺や黒の小さなパンツだった。
一般的に女性の下着というと、可愛らしい模様やリボンやフリルをあしらったものが多いが
そういったものが一切ない、中学校のジャージのような野暮ったさがある。

疑問に思った我々は会社の社長に取材をする。
「これは昔、小学校の体育の時間に女子生徒が履いていたパンツのレプリカで
当時は一般的に『ブルマー』と呼ばれていました。」
学校内で教師が生徒に対し、下着姿で授業を受けさせていたという
衝撃的事実に私は呆然とする。
「と、当時の、PTAなどは学校で行われていたこのような虐待を把握していなかったのでしょうか!?」
「むしろPTAは推奨していました。地方によってはこのブルマーのことを
PTA教育パンツ、略してPパンと呼んでいたという説もあります。」
しかしその後で色々な問題が発生し、ブルマーは教育の現場から姿を消すことになったが
失われた時代に思いを馳せる男性達にブルマーは根強い人気があるのだそうだ。




次のお題「虹色髭伯爵」
100この名無しがすごい!:2010/11/02(火) 12:41:34 ID:Y/3Hqzia
「虹色髭伯爵」

名前の通り虹色の髭を持つ伯爵は、使用人にすら、
「眩しい!」
と避けられねばならなかった。
けれど伯爵としての威厳の為に髭を伸ばし続けた。
髭がないと貧弱な顔が目立ってしまうのである。
けれど孤独感は募る。
誰かの声をまともに聞いて見たかった。誰かと見つめ合ってみたかった。
それだけでよかったのだ。
そんな伯爵がある日、一人くつろいでいたところ。聞くともなしに耳に入っていた会話でテレビに釘付けになった。
虹色のゲロを可愛い女の子が吐いていたのである。
以来、虹色髭伯爵は、二次元髭伯爵と呼ばれるようになった。


お題
「赤裸々きらきら」
101この名無しがすごい!:2010/11/02(火) 17:33:40 ID:KfGyM5tF
会社から帰って、まっさきに私がするのはブログの更新だ。
きららというHNを使い、今日は何を食べた、何を買ったといった日常報告と、
時には下着か、全裸すれすれといった自撮りの写真を載せ、性生活の内容も事細かに記載する。
露悪趣味というのだろう。赤裸々に自分のすべてを晒し出すのが快感なのだ。

とはいえこの時代、自分の個人情報が流出したら最後、どうなるかわかったものではない。
自分の顔はもちろん、名前、住まいが特定できるような内容の文章は書かないし
写真も外で撮ったものは絶対に載せない。セキュリティーソフトも常に最新の状態だ。
馬鹿な趣味だと自覚があるからこそ、細心の注意を払っているのだ。

ブログのコメントには閲覧者からの私へ向けたえげつない言葉が並ぶ。それを見るのも私の楽しみの一つだ。
コメントを見た後はメールチェック。
ファンと称するメールも多く、いそいそとチェックしていると、キラと名乗る人物からのメールがきていた。
最近よくブログにコメントを残している一人で、HNは私からとったと書いていた気がする。
開くと、いかにも疲れた中年といった風情の男性の写真。
ぎょっとして文面を見ると、自己紹介と称し、本名、住所、電話番号、来歴、両親の名前や好物、睡眠時間まで
ここまで、と思うほど微に入り細をうがち書かれていた。

――他人の赤裸々な文章を読んでいるうちに、自分に向けたメッセージだと勘違い。
仲間意識だか連帯感を持ち始め、自分のことも全部知ってくださいなどと言い始める、まあ、よくある手合いだ。
どこかに流してやろうかとニヤつく頬を抑えつつ、やたら長い文章をくるくるとスクロールしていく。

「…… 一日に四回はきららさんを想像しながら自家発電に勤しんでいます
 住所は上記の通りで 一軒家に両親 祖父母と同居しており
 この口うるさい同居人に 僕は常日頃から 聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせられております
 あなたは実際の僕を知らないですが きっとこれから僕のすることで――」

あまりの長さにだんだん飽きてきた。一旦気分転換しようとテレビの電源を入れる。
この時間はちょうど夕方のニュースだろう。ぷつんと小気味いい音をたててテレビがついた。
 
ニュースは緊急生中継の文字と共に、どこかのよくある住宅街が映しだされている。
画面の中でごったがえす人ごみ、警察官らしき人物の怒号とサイレンの音が飛び交う。
映像が切り替わり、女性アナウンサーが手元の小さなメモらしきものを読み上げ始めた。

「先ほど、同居していた家族を刃物で切りつけ殺害するという凶行におよんだ犯人が逮捕されました。
 犯行現場である自宅のすぐ前で、凶器である血がついたままの包丁を振り回しながら
 僕がやった きらだよ ここにいる 僕のこと全部知ってくれるだろう
 などと叫んでいるところを近所の住民が目撃し通報にいたったと……」

お題「湯たんぽ猫」
102この名無しがすごい!:2010/11/02(火) 20:05:41 ID:2gO1gOvc
「湯たんぽ猫」

一年で一番空が透き通ってる季節、冬
高台から見る街は、煙突から浮かぶ白い煙が見える
少年は鳩小屋の戸を開け、鳩を大空へと誘い、持っていたラッパを吹き始めた
ラッパの音色が眼下に見える街に響いていく、朝日と共に
少年はラッパを吹き終わると、パンをかじりながら山羊乳を一気飲みし、家を飛び出す
急坂をいきおいよく駆け下り、職場の鉱山へと向かった
「ちーーーーーーーーーーーーーーーす!」
少年は大声で挨拶をし、持ってきた弁当を休憩所へと放り込み持ち場へと走り込んだ
少年の担当は地底奥底で掘られる鉄鉱石を引き上げるエレベータ管理
三十分ごとにブザーが鳴り、ボタンを押すと鉄鉱石を乗せたエレベーターが上昇してくる
ブザーが鳴るまで少年は空を見上げるのが日課だった
いつものように空を見上げていると、雲の合間から何かが落ちてくるのが見えた

五分後、少年のはアルミ製の猫の形をしたものを抱きかかえていた
そう後に湯たんぽの原型となるものだった、猫形の・・・・
空からの落とし物は少年の知的好奇心を奮い立たせるに十分のものだった


「物産展へいく」
103この名無しがすごい!:2010/11/06(土) 00:45:45 ID:2MhwvOyX
「物産展に行く」

 そういい残して家を出て行った父さんが二十年ぶりに帰ってきた。

「……大きくなったな」
「……」
「母さんは……」
「死んだよ」
「そうか、間に合わなかったか……」
「……」
「薬、ようやく手に入れたんだあの物産展の話は本当だったんだ……でも遅かったか……」
「母さんはただ父さんにそばにいてほしかったんだ」
「……すまんどうしても助けたかったんだ、助けられると思ったんだ……」
「……もういいよ……」
「……すまん」

 長い沈黙。どちらも次の言葉が出てこない。と言うよりもう話す言葉なんて無いのかもしれない。もう母さんはいないんだから。ああ母さん。母さん……。

 ……そうだ、そういえば、母さんが最後に残した手紙。父さんが帰ってきたら渡すように言われていた手紙。せめてそれだけは。急いで箪笥の引き出しの奥にあったそれを父に渡す。

「これ、母さんが」
「あいつが……」

 父さんはしばらく読むと最後の一枚を僕に渡した。

「これはお前にだ」
「おれに?」

――お父さんを許してあげて。あなたの、私の大切な家族を大事にして。私の分まで二人は幸せになって――

 涙が溢れた。父さんが僕の肩に手をおいた。

「明日お墓参りに行こう」
「……うん」

 父さんが出て行ったあの日。あの日から止まっていた時計が再びゆっくりと動きだした。
104この名無しがすごい!:2010/11/06(土) 00:47:46 ID:2MhwvOyX
次題 「エピクロスの蝶」
105この名無しがすごい!:2010/11/08(月) 20:46:57 ID:IX0a+Zpb
「エピクロスの蝶」

ある少年が図書館で一冊の本を借りた
少年が借りた本はかなり古い本で、ここ数年誰も借りることがない本だった
表紙のタイトルさえかすんで見えなくなるほど、痛んでいる
なぜ少年がその本を選んだのか、答えは単純だった
たまたまその本を発見し、なんとなく手にとり、そして気になり、貸し出しカウンターへ持って行き借りただけだった
内容は一切見ていなかったし、かすんだタイトルを気にもとめなかった
本を借りた少年はそのまま自転車に乗り近所の公園に行き、ベンチに腰掛け本を開いた
本から漂うかすかなカビの臭い
少年は鼻を抓みながら中表紙に書かれたタイトルを読む
「エピクロスの蝶」と、書かれていた
少年は不思議そうなな顔をして中表紙をめくり、本文を読み始めた
最初のページは難しい漢字がびっしり埋まっていて、少年は八割理解出来ないまま読み進めページをめくった
次のページはひらがなだけで埋まっており、やはり少年は理解出来ないままページをめくった
さらに次のページはカタカナだけで書かれており、少年はこめかみを押さえながらページをめくった
そのページは象形文字らしきもので埋まっており、少年にはまったく理解できなかった
少年は溜息をつき、本をパタンと閉じ、自転車のカゴに入れ、空を見上げて一言呟いた
「意味わかんねー」

「川面に映る景色」
106この名無しがすごい!:2010/11/13(土) 19:50:45 ID:rtYa2bNz
あげ。
107このみたしけ:2010/11/13(土) 23:39:29 ID:IM4QFlNv
「川面に映る景色」

ザバッ!!僕は思いっきり川に飛び込んだ
沈んでいく別世界に沈んでいく

空がどんどん遠のいていく 意識がなくなっていく
まるで僕の人生のようだ 空白で透明で何もない
目の前を虫が流れていく まるで僕のようだ 亡骸が静けさを通り過ぎていく
僕の命はそろそろ終る 僕は僕の心臓の音が止まるのを感じていた

ふと街が見えた入っていくと どこかで見たことのある景色だ 
好きだったあの子 一緒に学校に通った友達 大嫌いなテスト
全ての僕の記憶が眼前に広がる

ふと昔僕が好きだったあの子が現れた 彼女と一緒に手をつないで歩いた記憶が蘇る
全て消し去りたかった記憶 今のつらい現状に支配され記憶の底に眠った記憶
空白ではなかった 僕の人生は確かにここにあった

僕は水面で思い切り息を吐いた
帰り道川面には今のこの世界の景色を映す水面が僕の眼に映った

「ホワイトマヨネーズ」
108この名無しがすごい!:2010/11/14(日) 08:24:25 ID:urqqCjvn
「ホワイトマヨネーズ」

マヨネーズがおかずだと認識されたのはいつの頃からだろうか
どこの飲食店にいってもしょう油よりマヨネーズを置くようになり
どこの家庭の食卓にもマヨネーズがあった
以前だとマヨネーズを好んで食べる人間をマヨラーといい、かなり偏見を持った目で見られていた
しかし、現在ではマヨネーズを付けずに食べる人が変わり者といわれる
そんな時代、マヨネーズの代表格である商品があった
ホワイトマヨネーズ
日本国内シェア率80%という恐るべしシェア率を持つこの商品
町を歩けばホワイトマヨネーズに当たるといわれるほど巷に溢れかえっている
元は某歌番組で新人アイドルが自作マヨネーズの話題がきっかけだった
その歌番組で新人アイドルが自作マヨネーズの作り方を紹介した、TVを見ていた人が試しに作ってみた
意外とおいしいと話題になり、瞬く間に作り方が広まった
マヨネーズに目を付けた某食品会社が新人アイドルと独占契約を結び新製品として発売し
日本中にこのマヨネーズが広まった
商品名はホワイトマヨネーズ
新人アイドルがホワイトシスターという活躍していたアイドルユニット名が由来だ
ホワイトマヨネーズが売れれば売れるほどアイドルユニットの仲は険悪のものとなり
昨年末に解散し、マヨネーズ発案者のアイドルはアイドルを続けながらフリーの食品プロデューサーとして活躍している
推定年収10億とも言われるほどの売れっ子だという
さて、話はこのアイドルが行方不明になったところから始まる

「消えたアイドルを追え、事件の鍵はマヨネーズ」
109この名無しがすごい!:2010/11/14(日) 10:03:22 ID:m2JEoTHo
「消えたアイドルを追え、事件の鍵はマヨネーズ」


「究極にして至高のマヨネーズを探す旅に出ます。」という言葉を残して
アイドルが消えたのは半年前のことである。

その間、北海道のチョコレート工場で働いている、仙台のずんだ餅にマヨネーズを混ぜて食していた、
横須賀の海軍カレーにマヨネーズをかけていた、大阪のたこ焼き屋で修行している、
讃岐うどんの麺つゆにマヨネーズが合うか研究している、
博多でマヨネーズラーメンを発売しようと目論んでいるなど
様々な噂が流れたがどれも確証に欠けていた。

そんな中、我々は新潟へ向かった。
新潟を実効支配しているハッピーターン教団はマヨネーズを嫌悪しており
マヨネーズ一気飲みという行為を炭酸一気飲み以上の過酷な拷問と認識している。
我々は、まず腹を満たすために駅前のレストランに入る。
座席に置かれている調味料は醤油でもマヨネーズでもなくハッピーターン粉であり
壁に張られているアルビレックス新潟ポスターの選手ユニフォームにも亀田製菓の広告が入っている。
我々の近くに座っていた観光客らしき男性が鞄からこっそりマヨネーズを取り出し
新潟名物イタリアンに掛けようとしていたその時だった。
大きな警告音とともにハッピーターンの着ぐるみ集団が現れて男性を取り囲み、
「離せこのカルト信者、ジーク・マヨネーズ!!」と叫ぶ男性を連行していった。


同行のカメラマンが小さな声で呟く。「よりによってここには例のアイドルは来ないでしょう…」
しかしこの時はまだ、このアイドル失踪事件が日本全土を巻き込む大事件の序曲になるとは
思いもよらなかったのだった…



次のお題「逆襲の白鳥」
110この名無しがすごい!:2010/11/15(月) 23:12:13 ID:dd9IY05F
「逆襲の白鳥」

昔々あるところに、醜いアヒルの子がいました。
その子はそれはそれは醜かったため、ほかの子にいつも虐められていました。
醜いアヒルの子は大変悔しい思いをしていましたが、事実醜いのでグウの音も出ません。

あるとき、醜いアヒルの子は奇妙な噂を聞きました。
かつて、醜いアヒルの子と思われていた雛が、実は白鳥の子だったということが
あったらしいのです。
醜いアヒルの子は興奮しました。
「俺の名はスワン……400円になったらスワンのスワン……」
意味不明なことを口走りながら、ほかの雛たちに逆襲するようになったのです。
みんな、醜いアヒルの子のことをバカにしなくなりました。

やがて、時が経ち、みな成鳥となりました。

醜いアヒルの子は、極端に醜いアヒルとなりました。
かつて彼の醜い両親がそうだったようにです。
おわり。

「逆鱗の雪国まいたけ」
111この名無しがすごい!:2010/11/19(金) 01:50:00 ID:5e8UOIZC
「逆鱗の雪国まいたけ」



「雪国まいたけを雪に巻いとけ〜」
あまりのつまらなさに歌○さんの逆鱗に触れた。



次のお題「笑い男飯」
112この名無しがすごい!:2010/11/19(金) 15:46:58 ID:g1CBwX1d
「笑い男飯」

深夜、とある坂道で茶碗にご飯を盛った男が走り抜けるという奇っ怪な事件があった
男は上半身裸でスエットのズボンだけを穿き左手に茶碗、右手に箸を握りしめていたと目撃情報もあった
男の顔は半笑い状態で大笑いしたいのを我慢してるようにも見えたらしいが真相は分からない
あくまでも笑い男が茶碗を持って走っていったという噂レベルでの話なのである
噂は75日というように、次第に噂は聞かなくなり、誰もが忘れていった
年の瀬が迫った12月27日の深夜、茶碗を持った人影が目撃された
今度は大爆笑しながら坂道を走り抜けていったという
全開と違って今回は目撃者がちゃんと証拠を残していたのだ
携帯を使い、男を撮影していたのだ
男は満面の笑みを浮かべ、左手にはご飯を盛った茶碗、左手には箸を握りしめていた
まるで一人幸せを享受するかのような画像だった
この画像は幸福の笑い男飯として、子供たちの間で広まっていった
画像が送られてくると、幸せになれる、好きだった相手と両想いになれるなどの尾びれがつき広まっていったのだった

「妹との関係」
113この名無しがすごい!:2010/11/20(土) 10:36:32 ID:xXWVp3Ij
「妹との関係」

ヤツは俺を見ると細く整えた眉をひそめて言った。
「キモ……ださいし」
「お前ね、兄に向かってその台詞はどうなのよ?」
「しかもオタクだし」
「オタクは海外でも人気なんだから莫迦にしちゃいけない」
俺はメガネを外してトレーナーの端で拭いた。……やらなきゃよかった。視界がよりクリアになってしまった。
「お前だってその格好どうかと思うけど」
「どこが悪いのよ?可愛いでしょ」
「いや、ケバいし。そのミニスカートもできれば長くして、中身が間違っても見えないようにしていただきたい」
「二次元のパンチラには喜ぶくせに」
「お前のを見て喜ぶ程墜ちてない!てか、公害だ」
茶髪のツインテールをぴょんぴょんとさせながら、ヤツは首を左右に振りため息をついた。
「つーかこんな兄じゃ間違っても友達に紹介とかできないし」
「紹介されるいわれないし」
「みんな聞いてくるんだもん、兄ちゃんもお前みたいなの?って」
「一緒にするな!」
「こっちの台詞よ!」
俺たちは叫んで互いに睨み合った。
「お前の友達ってどうせ男だろ。紹介されても嬉しくないし」
「こっちもアンタみたいなダサキモオタクと血がつながってるとかバレーるのイヤだし」
てかてか光る唇からキツい台詞がポンポン出てくる。
もう、いい加減にしろ。可愛い妹に言われるなら納得もしよう。でも、こいつは駄目だ。さすがに見るに耐えない。
「妹がこんなに嫌がってるのに、なんでアンタはいつまでもキモイわけ?」
「だからいい加減にして目を覚ませよ!」
「はあ?」
「お前、男だろうがっ」俺は目の前にいる女装の弟の頭を盛大に叩いた。


「只今待ち合わせ中」
114この名無しがすごい!:2010/11/20(土) 10:47:03 ID:hUoFwvb0
「ただいままちあわせちゅう」

久しぶりのデートである!
どのくらい久しぶりかというと!
かれこれ三年ぶりである!
前は目に入ったかわいい子をかったぱしから遊びに誘ったものであるが!
前の仕事をリストラされてからまったく女の子と縁がなくなってしまったのである!
一時期はほんとーーーーーーーーにただの引きこもり生活を送っていた
家を出るのはバイトに行くときだけというきわめて不健康な生活だった
朝起きて、支度してバイトに行き、終わればコンビニで食料品と暇つぶしの雑誌を買って帰宅
そんな単調な生活が2年くらい続いたかな
単調な生活を変える激変的な出会いが一昨日起きた
偶然出来た新しいコンビニに立ち寄った時、そこのオープニングスタッフとしてレジに立っていた彼女
そう!彼女こそ俺にとって運命の女神だったのである!
初対面にもかかわらず、俺たちはまるで運命に導かれるように出会い声を掛け合った
後ろに客がいるにもかかわらず、俺と彼女は話し、そして約束をした
今度の日曜日にねずみランドに行こうと・・・・・・
日曜日、約束の時間である、約束の待ち合わせ場所である、彼女の気配は・・・ない
俺は只今待ち合わせ中なのである
彼女が来ると信じて・・・


「初恋の人」
115この名無しがすごい!:2010/11/24(水) 02:33:58 ID:F6QC/g52
「初恋の人」

思い出に取って置くべきものはそのままにしておくべきだ。
しかしある日、私は当時の小学校のアルバムを開き、彼の
手がかりを見つけようとした。何度も当時の友人に連絡を
取ったが、誰をも教えてはくれなかった。
私の心に重く圧し掛かった錘が、未だに疼いたままであった。
まるで遠い国の住人の様な気がしてしまったのである。
私は携帯電話を床の絨毯に落とし、ただ泣き崩れた。
しかしコールが2回鳴り、私は震えた手で携帯を持った。
その彼だった。
「誰?」
「美里だよ」
「知らないんだけど、ってか覚えてない」
今の彼は昔の彼ではないのであった。
私はただ携帯を握り締めたまま、
髪を掻き揚げ大声で泣いた。絨毯の上で当時の彼が思い出される。
もう二度と戻っては来ない彼を探して、足踏み状態のままでいる。
彼を忘れようと。
思い出は良い記憶のまましまっておくべきだ。
再び繰り返される悲しみを忘れるためにも。


「本物の家族」
116この名無しがすごい!:2010/11/25(木) 19:58:19 ID:yJNmr0SI
「本物の家族」

僕は知っている。
母さんは、死んだのだということを。
父さんも、死んだのだということを。
姉さんも、兄さんも、飼い猫のミケも、みんな。
誰もかも、死んでしまっているのだ。
僕だけを、残して。

伯母は言う、今日から私たちが家族よ。
僕は答える、遠慮します。
伯父は言う、今日から私が君のお父さんだ。
僕は答える、結構です。

ああ、お星さま。どうして僕には家族がいないのでしょう。
どうして? どうして? どうして?
皆が口をそろえて言う。「かわいそうだね、若いのに」
僕はそれを拒絶する。「余計なお世話です、黙ってください」
お願いします。もう僕は、悲しみを思い出したくない。

月も星もない夜の森。
僕は静かに首を吊る。
暗闇はびこる夜の森。
さよならを言う相手はいないけれど。

母さん、父さん、姉さん、兄さん、ミケ――みんな。
今、逢いに逝きます。

「虹色のコップ」
117この名無しがすごい!:2010/11/25(木) 20:23:39 ID:/26jGG4y
「虹色のコップ」

年の暮れの夕方、あるしなびた温泉地
そこを歩く若い恋人が一組
二人は仲睦まじく腕を組んでお土産屋を見て回っている
女が珍しい物を見つけるたびに、男がおーとかほーとか心がこもらない返事を返す
そんな恋人たちが土産街のはじに到達し、さて、引き返そうと振り返った時だった
試食した漬け物屋の二階にガラス土産屋を見つけた
男はもう宿屋に帰ろうと主張したが、女が男の手をとり強制的に連行した
ガラス土産屋の戸を開ける女、その後を男がつまらなそうに追う
二人が中に入ると、そこは一面、ガラスの王国だった
女の瞳は輝き驚きの声を上げ
男の瞳もまた驚きの声を上げ、女のことを忘れてガラス製品に釘付けになった
男は何かに取り憑かれたようにガラス製品を物色し続け、ある一品を見つけた
それは、虹色に輝くガラス製のコップだった
男はこの世の宝物を見つけたような表情で値札を見たと同時にがっくりと項垂れた
そう手持ちの金では買える金額ではなかったのだ
男は店主に安くしてくれないかと持ちかけるが店主は首を縦に振らない
男が諦めて虹色のコップを元の棚に置こうとした時だった
彼女がなぜか裸になり、店主を真剣な眼差しで見ていた
私の体と引き替えでいいから、このコップをください!!
しかし、店主は首を横にふり、君の体じゃ無理だねと冷たい一言を放った


「涙の温泉地」
118この名無しがすごい!:2010/11/26(金) 19:59:25 ID:ThhBi6EH
「涙の温泉地」

 癌にかかり、後3か月の命と医師に宣告された私は、ある晩こっそり病院を抜け出し、とある温泉に向かった。
 長期間の入院生活のため、最後にどうしても大好きな温泉に行きたかったのだ。
 その温泉にどうやって着いたのか、無我夢中でよく覚えていないが、一風変わったところだった。
 夜の川沿いを車で進むと上流に宿の明かりが見え、とりあえずチェックインした。
 古びた日本家屋を改装したのだろうか、藁ぶきの古風な造りで、雅趣に富んだ良い建物だ。
「疲れたでしょう。さっそくおつかり下さい。お召物を預かりましょうか」とフロントの婆さんが手際よく案内をし、服まで脱がせてくれる。
 昨今のサービスはどこもいいが、ここは格別だ。私は部屋に行く前にさっそく風呂場に向かった。
 風呂場には先客がいるが、やけにひっそりとしている。
 彼らの会話を聞くともなしに聞いていると、「肺の影を指摘されて・・・」だの「ご飯がつかえてバリウム検査をしたら、食道のあたりに・・・」だの、どうやら病気の話ばかり聞こえてくる。
 病気の湯治にいい温泉なのだろう。名湯とは意外に近場にあるものだと思った。
「おや、お久しぶりですね」急に聞き覚えのある声が湯けむりの向こうから響いた。
「あ、あなたは・・・」よく目を凝らすと、以前同室だったAさんだった。
 以前はいつも痛みを訴えていたが、今はやや落ち着いた顔である。
「おたくもようやくここに来られましたか」
「ようやくって・・・どういうことです?まるで私が来るのが分っていたような・・・」
「まだ分かりません?ここがどこだか。あの岩にここの温泉の名前が彫ってありますよ」彼は傍の岩を指差した。
 そこには「地獄温泉」と彫られていた。
 その瞬間、私は全てを思い出し、涙を流した。

「母乳スープ」
119この名無しがすごい!:2010/11/26(金) 21:11:54 ID:6NOllmTn
「母乳スープ」

両親が死んで数年がたった
残されれた俺の身内は年の離れた妹だけ
その妹さえ疎遠でほとんど連絡すらしない
そんな冷め切った関係の妹から久しぶりに電話があった
今付き合ってる男と会ってほしい、子供が出来たから結婚する
デキ婚である、女と男、出合って付き合っていけば自然の流れだといえる
それにしてもいきなりで驚いたが、俺はわかったと答え、来週の日曜に二人に会うことになった
妹の婚約者と会うまで少々時間があるので、せめて妹が恥をかかない程度にと髪の毛を切ったり、新しい服を買ったりとした
知り合いの女にアドバイスをもらったり、問答想定集を作り事前訓練をしした
兄として本当に情けないと思うが、ただ一人の身内に恥をかかせることが出来ないのだ
そして二人と会う当日
指定場所である、某駅前の某有名ホテル内の喫茶店にいった
二人はすでに到着し、優雅に談話をしながら俺が到着するのを待っていた
俺はそこそこの態度で席に近づき、男に挨拶をした
妹が射止めた男である、見た目、雰囲気、言葉遣いいうことない
俺が女だったらやはりこの男に惚れていただろうとさえ思う
とりあえず三人とも席に座り、各々頼んだ飲み物を飲み気分を落ち着かせた
妹が男を紹介し、その後に、俺を紹介した
楽しい時はすぐにすぎさり、散会の時間になった
俺は妹にこの男ならおまえを幸せにしてくれるだろうといった
その時の妹の顔、今まで見たこともないような幸せそうな顔だった
そして、妹の旦那になる男に、妹をよろしく頼むなと深々と頭を下げ俺は出口へと向かった
その足で近場の風俗街へと行き、前から調べていた若妻専門店にいった
受付の金髪の兄ちゃんにある条件の嬢を指定し、金を渡した
十数分後、金髪の兄ちゃんに呼ばれ、個室へと足を運び中へ入る
そこには黒髪の大人しそうな女が待っていた
女の乳はぱんぱんに腫れ上がり、少しでも触ると母乳が吹き出しそうだった
そう俺は妹の妊娠姿に興奮してしまい、母乳プレイ出来る風俗店にきてしまったのだった

「ヘブンズゲード」
120この名無しがすごい!:2010/11/26(金) 22:10:10 ID:NrIasPiu
「ヘブンズゲート」

 妄想ドラッグ「ヘブンズゲート」強烈な幻想で使用者の脳髄を壊す威力を秘めたドラッグだ
某大学に通う女(仮名ゆい)はこの薬を服用している、ある罪を消すために。
 ゆいは大学でフランス語Tを選考していた。
授業を担当していたのは河村という新任教師。
ゆいはこの河村の妻を殺害した。
ゆいは走った早くこの地獄から抜け出したかった。
自殺未遂を何度もしたあげく結局ここに辿りついた。
ユイは今この現実から解き放たれようとしている。
 バタン扉の音と共にに一人の男の声が部屋に漏れた。
大声で「死んじゃだめだ」という声が響く。
ユイはあの頃の記憶を思い出す、殺めたあの人の奥さんのことを、あの人を愛してしまったばっかりに
男がドアをこじあけ部屋に入ってくる。
ユイはそっと息を吐き薬を置いた、そして言った。
「もういいよ」
その時銃弾が。男の頭を貫いた。
外から迷彩の服をした西欧風の外人が入ってくる。
ご苦労だったな、その手には殺された何人の写真と男の指名手配書。
ゆいはほっと息を吐き、軍服のジャケットをその西欧風の軍人からもらいそれを肩に掛ける。
そして床に倒れた男のスーツのポケットから銃を抜き取り部屋から立ち去っていった。
 ここは罪人を天国へ導く国『ヘブンズゲート』
全ての軍人は国民を天国をへ導くために活動している。

「仏の性癖」

121この名無しがすごい!:2010/11/27(土) 10:14:09 ID:REqnqWzu
「仏の性癖」
 昔々のその昔、お釈迦様が腐ったキノコスープ食って食あたりして、いよいよ亡くなる寸前の時のお話や。
 世界中のありとあらゆる生き物が、お釈迦様のところにお見舞いに来よった。
 皆常日頃からお釈迦様の説教をありがたく聞いて、生きる道しるべにしとったんや。
 死ぬ前にいろいろ聞いておこうと思ったんやろうなあ。
 そのうち皆、どうも遠慮がなくなったようで、アッチ系の質問が多くなったんや。
 アッチっていったら、そりゃあんたアッチやで。皆好きなアレや。
 お釈迦様も若い頃はモテモテの白馬の王子様で、王宮ではそりゃ激しかったそうや。
 いろんなプレイや性癖のぷろふぇっしょなるやで。皆教えを受けたがった。
 例えばお釈迦様となじみの深いゾウさんがこう聞いてきたんや。
「シッダルダーさんや、わしは嫁とどのくらいの頻度でお勤めしたらええもんでしゃっろ?最近疲れてますのんや」
「あんたは身体がでかいし、奥さんとは5年に一回ぐらいでええわ。
ちゃんと自慢の鼻で、ワイフのアレをクリクリッとしてやれよ。
拙僧がリア厨の頃、遠足で近くの動物園に行ったときなんぞ、婆さんゾウが、鼻でずっと自分の長い乳首を引っ張って遊んでおったもんや。
ガキの拙僧はそれをかぶりつきで見とったんやで」
「へー、さすがは悟りを開いた御方はなんでも知ってはるんやなあ。えろう参考になるわ」
 こんな調子で皆お釈迦様がチアノーゼが出ているにもかかわらず、次から次へと質問しに来たんや。
 お釈迦様はまた律儀にも、それに一つ一つ答えてやった。
 しかしそろそろ心肺停止状態が近づき、さすがに大儀になってきたとき、ようやく人間代表が来て、こんな質問をしおった。
「で、結局私たちはどれくらいの頻度で、どんなプレイでやるのがいいんでしょうか?いろいろありすぎてわからないんです」
 その時はさすがのお釈迦様も疲れておって、どうでもよくなっておった。それでつい阿修羅のような形相で答えてしまった。
「勝手にせいや!」
それ以来人間は勝手にするようになったとさ。どんとはらい。

「はいだら」
122この名無しがすごい!:2010/11/27(土) 10:39:16 ID:OUf1xmdQ
「はいだら」

私にはお兄ちゃんがいる
優しくて妹想いのとてもかっこいいお兄ちゃんだ
しかし、と、あることがきっかけで私とお兄ちゃんとの仲は破かれた
家庭内離婚ならぬ、家庭内別居、兄妹だから別居じゃないか
とにかく同じ家に住みながら、相手のことが視界に入らない、いれない、あえて無視する
そんな生活が続いている
私としてはお兄ちゃんと仲直りして、お兄ちゃんと遊びにいったり、友達に自慢したいのだが
お兄ちゃんが私を見ると、そそくさと自分の部屋へ戻っていってしまって話しかけるタイミングないのだ
それでも何度か話しかけようとしたが、お兄ちゃんは私を避けてしまうのだ
そんなこんなで私が中学校を卒業する年のお正月
両親は偶然引いた町内会くじで見事一等の温泉旅行を楽しむべく遠く離れた温泉郷へといってしまい
家に残されたのは私とお兄ちゃんの二人だけだった
年末、物音一つしない家
いごこちが悪く、私は意味もないのに歩いたりTVを付けたりしたりした
お兄ちゃんはというと部屋にこもって一歩も出てこない
死んじゃったのか?と思いドアに耳を押しつけ中の音を聞くとかすかに音がする
どうやらお兄ちゃんは生きてるらしい、トイレとか食事はどうしてるんだろうと心配になる
そんなことを考えていると部屋からお兄ちゃんの声が聞こえた、はっきりと聞こえた
「はいだらぼっちさま、わたしのこのみをもってせかいをおおいつくすやみをたいじしてくださいませ」
どうやらお兄ちゃんは私たちとは次元の違う人と仲良くやっているみたい
私はお兄ちゃんとの仲はしばらくこのままでもいいかなと思い、こないだ告白してきた男の子に電話した
初詣と初日の出デートの約束をし、私は浮かれながらお昼の用意をすることにした

「寝酒朝酒風呂酒」
123この名無しがすごい!:2010/11/28(日) 21:49:53 ID:ObX+fxNO
「寝酒朝酒風呂酒」


この国では、国家から許可を受けた合法バーで提供される以外のアルコール類は
消毒薬やアルコールランプ用などとして飲用に適さないよう調整されたものを除き
一般国民の所持は禁じられている。
また、アルコールバーでの服用に関しても年齢制限、血液検査、
メンタルチェックなどの項目をクリアしたことを証明するライセンスが必要である。
…とはいったものの、ライセンスを持たない子供や中毒者にアルコールを提供する非合法バーの登場や、
合法バーでも法律の基準を逸脱したアルコール飲料を提供したり
また自宅でアルコールを密造して個人で消費したり闇で販売するといった例が後を絶たず
ついにアルコール事件専門の部署、通称「エリオット」が警察に誕生することとなった。


今回「エリオット」が向かったのはとある温泉街の一見、普通の旅館である。
旅館自体は合法アルコールバーとしての認可を持っているが
その旅館内でアルコール中毒が疑われる不審死が発生したため
アルコール飲料の違法使用の疑いがかかりガサ入れが行われることとなった。


「このベッドの横にある瓶はなんだね?睡眠前のアルコール服用は固く禁止されている!」
「アルコール法の時間外である朝に服用した形跡があるが」
「アルコールバー施設外である風呂場でのアルコール摂取の疑いで逮捕する!」

股間をタオルで隠した姿で警察に連行される男を横目に見ながら捜査員が呟く。
「これで今日も生命の危険につながる危険なアルコール摂取から国民を守れた」




次のお題「かぼちゃ戦争」
124この名無しがすごい!:2010/11/29(月) 15:48:25 ID:XUc51xni
「かぼちゃ戦争」

 かぼちゃが不作になった、というニュースが流れた。最初は誰も気づいていなかった。
それが全世界的な食糧作物の不作の前触れだったとは。
 年を跨ぐ前に、食糧先物価格は高騰した。各国は備蓄米や備蓄小麦を放出したが、
焼け石に水だった。スーパーマーケットには品切れが相次ぎ、かぼちゃが入荷されると
いう風説に惑わされた人々が列を作っていた。その姿は、かつてのソ連のようだった。
 かぼちゃはもはや宝石と同じだった。多くの国がかぼちゃの人工培養を試み、
悉く失敗していた。かぼちゃに漏れなく付着していたウイルスが原因だった。抽出された
ウイルスのDNA解析の結果、それは地球上のどんなウイルスとも似ても似つかないもの
であることが判明した。敵は宇宙にあり。ニュースが踊り、NASAは対宇宙人侵略部隊を
発足させた。それに対応したように、土星に漂う二機の巨大UFOが動きだした。
 人類はそこから始まる宇宙戦争のことを――「かぼちゃ戦争」と呼んだ。

「鈍色の荷馬車」
125この名無しがすごい!:2010/11/29(月) 17:11:56 ID:Dr/JdGec
「鈍色の荷馬車」

うま娘が私の店にきたのはいつ頃だっただろうか
いきなり店にやってきて「ここは気に入ったウマ」と叫んだんだ
私はいきなりのことで大変驚き、イスから転げ落ちておしりを思いっきり痛めつけたものだった
最初はウマウマいってどうしてくれようと思ったが時が経つにつれ、いい奴なのかもなと思うようになったんだ
そんな彼女が明日・・・
生まれ故郷のサンタールチアエバラヤキニクノタレに帰ってしまう
故郷を出るとき母親と約束
一年経ったら必ず帰る
そのたった一年という短い時間を担保にウマ娘は私の店にやってきた
いや迷い混んできたのだ
人間生活に不慣れなウマ娘、いろいろトラブルを起こしながらも少しずつ人間の生活を覚えていった
私との溝も埋まって、昔からの友達、いや妹のように思えてきた矢先だったのに
とにかく母親との約束だから、私は笑顔で送り出してやろうと思う
いつかまた、彼女が私の元に戻って来られるように・・・・

「チューハイと生中」
126この名無しがすごい!:2010/11/30(火) 16:21:43 ID:1lhOdXO6
「チューハイと生中」

 にぎやかな店内は、少しぐらい騒いでも誰も気に留めない寛容さと
 大人しい人間なら気後れするような勢いをもっていて、それは【ひと足お先に忘年会】と名付けられた
 この席でも同じようなものだった。
 飲み物たのんでね〜、という軽い幹事の一声で、おのおのメニューを開いて覗き込む。

「男さんは何にします?」
 女が言った。茶色に染まった長い髪をかき上げる仕草に、ゆたかな胸がゆさゆさ揺れる。
 やっぱこの席で正解だったな、おかしくない程度に視線を向けつつ、男はネクタイをゆるめて差し出されたメニューをながめた。
「とりあえずビールかな」
「えっと、瓶と生とノンアルコールとあるみたいですけど」
「生だよ。生中。普通そうでしょ」
 呆れて目を向ければ、つやつや光る唇が突き出されて胸が遠のいた。
「あたし普段チューハイしか飲まなくて」
「ああ、女の子は甘いの好きだよね」
「ビールが苦いんですよぉ!」
 また胸が揺れる。Eか。いやFかもしれない。谷間の具合から見て、寄せて上げている気配もない。
「ビールベースのカクテルもあるよ」
「え、ほんとですか?」
「うん、ほんと。この店にもあるんじゃないかな」
 カラフルなメニュー票。近づくおっぱい。ビールが苦くてほんとによかった。
「あ、やっぱりあたし、コラーゲン入りのチューハイにしよっと」
 遠のくメニュー票。遠のくおっぱい。……おのれ酎ハイめ……


「カマキリの悲哀」
127この名無しがすごい!:2010/12/05(日) 14:57:26 ID:rE1d9wE6
「カマキリの悲哀」

悲哀とは悲しく哀れなこと
この言葉から想像するに
カマキリの短く儚い人生を思い浮かべてしまう
雌は交尾した直後に雄を共食いしてしまう
食われた雄はこれから生まれ孵化するであろう子供達の栄養分となる
卵を産んだ雌はどうなるのかはここでは語るまい
こうしてカマキリは長い歴史を築き上げてきたのだ
子をなすと全世代は死んでいなくなってしまう
これを悲哀と呼ばずになんと呼べばいいのだろうか

「今年もサンタがやってくる」
128この名無しがすごい!:2010/12/05(日) 21:09:35 ID:i/uBxmsN
「今年もサンタがやってくる」

 僕の家はサンタに呪われている。祖父が「サンタクロースなどいない」との
信念の下実行した余りに冒涜的な儀式は成功し、遂に古の伝承であるはずの
サンタクロースがこの世界に召喚されてしまったのだ。
 それからというもの、毎年12月25日はサンタとの対決の日となった。
頼みもしない「プレゼント」を届けに来るサンタと、僕の父親セガール、そして
僕セガール=タロウ。ショットガンの弾は込めた。後は奴のどてっ腹を抉り
取るだけだ。鈴の音が聞こえる。奴が近い証拠だ。
「メリークリスマース!!」
「くたばれFuckinデブ!!」
 散弾銃を開かれた玄関のドアに向けて発射する。奴は弾丸を全て指と指の間で
受け止め、余った2発を歯で噛んで止めていた。にやり。奴は笑う。神話の前には
銃など無力だと。
 再装填したショットガンを向ける前に、サンタクロースは僕の銃をひねり上げた。
僕は父さんから習ったセガール流柔術で応戦すべく距離を取る。そこで、父さんの
狙撃がサンタの頭を打ち抜いた。続けざまに何発もの銃弾が頭部を直撃する。
 サンタクロースは倒れた。プレゼントは最新型ゲーム機だったようだ。
くだらない。僕はプレゼントを踏み潰すと、サンタクロースの死体を父さんと
一緒に屋外へと引っ張って行った。あとは、雪が全てを白く染めてくれることだろう。

「クリスマス売ります」
129この名無しがすごい!:2010/12/07(火) 02:34:22 ID:tFd97gEj
「クリスマス売ります」

「クリスマス売るよ」
 黒っぽいおっさんが俺の近くに寄ってきてそう声を張り上げた。
 よくいる風俗店らしきクリスマスと書かれたでかい看板を持って、おっさんは俺の横に立った。
 おっさんは汚れた顔の中の、うろんな目を遠くにすえて立っている。
 酔っ払っていた俺は、いくらだよおっさん、と声をかけた。
 おっさんは振り向かずに、手だけを捧げるように持ち上げた。
 チップでもねだっているつもりなのだろうか生意気だ。
 そう思いつつ、コートのポケットでぬくまった10円玉があったので、それをおっさんの手に落とした。
「メリーィクリースマース」
 看板の裏から小さなちゃちいベルを取り出し、おっさんは叫んだ。
 それだけで終わった。
 チラシを渡すでも、案内するでもない。
 なんだったんだ10円損した。俺は舌打ちして横断歩道を歩き出す。
 目の前をちらりと白い雪の破片が横切った。
 驚いて空を見上げると、満天の星空なのにちらちらと小さな雪が降り出した。
 後ろで
「10円ぽっちかよ、こんなもんだな」
 とおっさんが呟く声がした。


 「聖なる夜」
130この名無しがすごい!:2010/12/07(火) 08:57:54 ID:h8v30BbX
「聖なる夜」

皆さんこんばんわ。
私の名前は聖なる夜(ひじりなるよ)です。


「ミスターフェラチオと同居」
131この名無しがすごい!:2010/12/08(水) 20:36:00 ID:ZqP+qKlD
「ミスターフェラチオと同居」

インカ帝国初代皇帝マンコ・カパックの末裔がエロマンガ島に築いたエロマンガ帝国。
偶然発見された遺跡群によりこの帝国の存在が明らかとなったのはつい最近のことで、
最後の皇帝ドピューン・フェラチオ六十九世についても
その生涯は未だ謎に包まれている…はずであった。

そのドピューン・フェラチオ六十九世が日本のK県Y市のとある一軒家に住んでるなど
誰が信じるであろうか。
「大橋のぞみは俺の第二王妃」
「……のぞみちゃんはまだ子供だっつーの」
「何を言うユーイチ、我の母はわずか9歳で父の妻になったぞ。」
考古学者の父親がエロマンガ島に行った際持ち帰った王冠に
わずか13歳で暗殺された最後の皇帝の霊が宿っており、色々あって
最後の皇帝は現世に復活したのであった。
現代文明の利器であるパソコンを操りながら悲劇の少年皇帝は言った。
「この世界に生まれ変わったからには現在の人間らしい言葉を覚えるのはテラメンドクサスだが
努力するのシャキーン」





次のお題「らららラズベリー」
132この名無しがすごい!:2010/12/10(金) 08:34:38 ID:m2LqFH7w
「らららラズベリー」

寝ぼけ眼のままイスに座った
テーブルにはいつもどおり代わり映えのしない朝食が並んでいる
顔を上げると姉が食パンを頬張り
姉の隣りでは父親が渋い顔で納豆をかき混ぜ
俺の隣りでは妹が携帯を一心不乱に叩いている、彼氏にでもメールしているのであろう
俺はとりあえず水を飲み一息つき、視線をTVに移す
画面には平日朝にはまったく合わない幼女向け魔法少女ものアニメが流れていた
ちなみにうちの妹はすでにアニメを卒業してしまっているし
姉、父はアニメなどはなから興味ない
そう俺の母親が朝食の支度をしながらちら見をして楽しんでいるのだ
たまに、魔法少女に合わせてポーズを決めたりして
母さんの今朝の服は魔法少女の戦闘コスチュームっぽい感じのを着ている
膝より上のパステルブルーのスカートを穿き
上は臍丸出しのやはりパステルブルーのスクール水着っぽい何かを着ている
俺の母さんは俺の姉妹より童顔で、近所では奇跡の四十代と呼ばれ
商店街を歩いていると、年に数回中学生から告白され、半年に一回高校生からデートに誘われるほどだ
俺は毎朝、年相応に落ち着いてくれよ母さんと突っ込みを入れている、心の中で
そんな母さんが俺のために用意してくれた朝食は・・・・
『らららラズベリー!私たちみんな食べてるよ!あなたたちも毎日食べて仲間になろう!』
静まりかえる食卓に魔法少女の声が響いた
そう俺の目の前に置かれたのは「らららラズベリー」だった
どんなものかというと、よくアニメで不器用な女の子が料理に挑戦して失敗して出来た料理をゼリーで表現した物だ
見た目、臭い、食感ともに最悪だ、間違っても朝から食べる物ではない
母さんがジーッと俺を見ている、どうやら食べて喜ぶところを見たいようだ
俺は母親の期待に応えるべく、らららラズベリーを口に運んだ

「帰りたくないの」
133この名無しがすごい!:2010/12/12(日) 16:08:02 ID:t98CWTIN
「帰りたくないの」

「帰りたくないの」と俺の右足が言った。
「うるせえヴォケ、俺は帰りたいんだ!」と俺の胃袋が言った。
「鞄が重いから帰りたい」と俺の右手が言った。

「帰りたくないの」と俺の右足はくりかえした。
「あ〜あ、早く帰りたい」と俺の左手が言った。
「どっちかというと帰りたくない」と俺の左足がボソッと言った

「満場一致で帰宅だな」俺はあっさり決めた。

 そのとたん、俺の両足は勝手に動き出し、駅のホームから線路へと華麗にジャンプした。
 急行電車が通過する、数秒前だった。

次のお題「おかげさまで25周年」
134この名無しがすごい!:2010/12/27(月) 22:27:34 ID:fHLw14q3
「おかげさまで25周年」

「後三カ月であなたは死にます」医師に宣告された。

私にとってそれは絶望的だった。
街中で倒れ、入院。
最初はただの貧血だと思っていたのに……。
まさかこんなことになるなんて……。

身寄りもなく、私が死んでも悲しむ人間は誰も居ない。
振り返ってみるとつまらない人生だった。
二十代前半はスリをした。
二十代後半は泥棒。
体力が落ちた最近はオレオレ詐欺で老人を騙し、騙された老人をさらに騙す。
本当につまらない人生だ。

私は外の景色を眺めていた。
「庭にある木が枯れるころ、私は死んでいるだろう」

後で知った話だが、庭の木は常緑樹だった。
死亡宣告を受けてから

おかげさまで25周年

たった

次のお題「驚くべき歯」


135この名無しがすごい!:2010/12/29(水) 09:59:07 ID:UIxrggFm
「驚くべき歯」

「あと半年であなたは歯槽膿漏になります」歯科医に宣告された

まだ二十歳の僕にとっては絶望的だった
二郎で歯痛、通院
最初はただの虫歯だと思っていたのに・・・
まさか歯槽膿漏になるなんて・・・

両親は健在、僕が歯槽膿漏になったら口臭で家族が迷惑するな
振り返ってみるとここ半年歯を磨いたことがなかった
小学校の検診で虫歯が見つかった
中学校の検診で歯を磨きましょうと注意された
食欲が無限にある最近の僕は二郎という楽園を見つけ、通い詰めた
両親は僕が満足してるのを笑顔で見守ってくれていた、楽しい人生だ

僕は看護師のおっぱいの膨らみを眺めていた
「このおっぱい、俺のものにならねえかな、ペロペロしてえな」

後で知った話だが、偽おっぱいだった
歯槽膿漏宣告を受けてから半年

歯が全部抜け落ちました
今や総入れ歯です

次「お雑煮」
136この名無しがすごい!:2010/12/29(水) 14:40:57 ID:RGEOEViT
「お雑煮」

 私の知人Nの邸宅において、お雑煮とは神聖なものである。どれくらい神聖かというと、
お雑煮の餅をいくつ食えたかでその年の幸運度が決まるという家訓があるほどである。
 喉に餅を詰まらせたNの祖父は、掃除機で餅を吸い出してもらった直後に、おかわりを
求めたことで私を驚かせた。真面目なNから聞いた話である。信憑性は高いといえる。
 昨年の知人Nは、浮かない顔をしていた。理由を問いただすと、正月に風邪を引いていて
お粥しか口にできなかったのだという。カウントゼロである。おみくじで言えば凶を引いて
しまったに等しい。まじないだ迷信だとなだめても、子供の頃からの風習はNに影を落として
いた。付き合っていた彼女の親に嫌われるなど、散々だったと愚痴るのである。
 さて、今年の知人Nは、やけに上機嫌であった。なんでも餅を七つも食べたという。
今年こそは婚約に漕ぎ着けてみせると大見栄を切って見せた。今年の見物である。
 かくいう私は、餅を三つほど食べたところで箸が止まった。その話を馴染みの茶屋で
したところ、まだまだ精進が足りないと、Nに笑われた。今年も楽しい年になりそうである。

「おせち料理と彼女」
137この名無しがすごい!:2010/12/29(水) 16:51:11 ID:0l95PAbJ
「おせち料理と彼女」

「おせち料理を作ってみたの」
 何の前触れもなく、彼女がそんな事を言い出した。
 正直言って彼女は料理が得意ではない。よって僕が彼女お手製の料理に抱く期待など、たかだか知れた物である事は想像に難くないだろう。
「味見してみてよ」
 彼女が笑顔で差し出す小皿を受け取って、見た目はそれなりに煮上がった黒豆を一粒摘んでみる。
「……うん。美味しいよ」
「どうして嘘を吐くの?」
 彼女は最初っから分かっていたように僕に問い掛ける。
「嘘じゃないさ」
「いいえ、嘘よ。だって美味しくないのも」
 彼女はそう断言する。
 確かに僕は嘘を吐いた。明らかに味のしない煮豆が美味いなんて事ある筈がない。けれどもその嘘は必要悪。言うならば『優しい嘘』だとインテリ枠で売っていた熟女タレントも、そんな事を言っていたではないか。
 だから僕は嘘の理由を告げた。
「おせち料理だけにお世辞料理。なんちゃって」
 彼女は呆れたように僕を見て。けれどもその後、口元を弛めると。
「薄ら寒いギャグセンスだけど、まあ稼がせて貰ったから文句は言えないわよね」
 そう言って絢香は笑った。

「大晦日」
138この名無しがすごい!:2010/12/30(木) 15:44:37 ID:rSoMisQr
「大晦日」

 雪が舞い散る空を無感動に眺めていたら後ろからなーなーとバカっぽい声がした。
 振り向くとバカっぽそうな男がひらひらと手を振っていた。

「知ってるかー今日はなー大晦日なんやでー」
「年末スペシャル特番とかダイナマイトとか色々見らなあかんやろー?」
「でもなーうちテレビ一個しか無いねん」
「ほんでなーカウントダウンで盛り上がっててもなーいっつも最後はおとんに『行く年来る年』にチャンネル変えられるんやわー」
「こっちがめっちゃテンション上がってんのに最後は鐘が『ゴーン…』やでー?あんまりやわー」
「ほんまに理不尽がまかり通る世の中やなあ思わん?」
「せやからなー俺もいっちょ理不尽なこと言うたるわー」

 手すりの向こう側であいつは笑った。

「お前そっから飛び降りるんはやめときや」
「……なんで? あんたには関係ないだろ」
 俺が死のうが死ぬまいが。
「関係は無いけどなー理由はあるでー?」
「………なに?」
 バカっぽいしゃべり方をするバカっぽそうな男は、何かの決めゼリフを言うように自信満々に言った。


「今日が大晦日やからや!」



「屋上」
139この名無しがすごい!:2010/12/30(木) 16:49:26 ID:Y//uwza6
「屋上」

都市部といわれる街で誰もいない場所に辿り着くのは至難の技だった。
しかし俺は成功した。
深夜ならば人気もないだろうと徘徊した甲斐があったというものだ。
もっとも、夜景が眺められるような高層ビルには入れなかったが、クラスメイトの加藤の家は俺ん家とは違って新築の三階建てで、やや希望にはそぐわないが贅沢は言えない。
「さすがは三階建て!風が気持ちいいな!」
都会で誰もいない完全な孤独は、風を感じる余裕さえ持たせてくれる。
素晴らしい!
「これが孤独か!全くもって開放的で自由で一人きりだ」
独り言と気付いていても声に出さずにはいられないほどに感動的だ。
「……こら」
はて?孤独なはずなのに誰かが話し掛けてくる。
「人ん家の屋上で何してやがる!」
…………。
「加藤の声みたいだが、幻聴か。今俺は誰もいない屋上で孤独を満喫しているんだからな」
「おい、増谷!人はいるっちゅーに。聞け、話を!」
「さて、始めるか」
「こらこらこら!何で服を脱ぐ!?」
俺は負けないぞ。幻聴なんかにまけるものか。
「お前なんかに負けるものか!」
「何の話だ!」
そうこうしているうちに準備は整った。
「新世紀に降り立った高校生ヒーロー!増谷ぃぃ〜レッド!」
腕を振り上げ蹴りなど入れながら決めポーズをつける。
「うむ。満足だ!」
これだ!この快感!
屋上でなければこの達成感は演出できない!
「……戦隊コスプレ?」
「ふふふ、完全オリジナルのヒーローさ!おっと、幻聴に返事しちまったぜ」
「いや、さっきから俺はいるぞ。てか、変身前から全部見て見てたってば。増谷よ」
俺は一人ぼっちなはずなのに恥ずかしさで紅潮した頬をぶった。
「明日はビデオ持ってこよっと」
「……お前、もう友達じゃねーわ」

こうして俺は大都会で一人ぼっちになることが出来た。


「ベランダにうずら卵」

140この名無しがすごい!:2010/12/30(木) 19:45:40 ID:Ox1CpnIU
「ベランダにうずら卵」

 学生の俺がうずらを飼育していることがバレたら、寮を追い出されるのは確実だった。
だが俺はうずらを飼い始めた。事の経緯はこうだ。
 ある夜のことだ。いつのまにか、ベランダに小さな段ボール箱が置いてあった。
中を見ると、発泡スチロールと衝撃吸収剤の山。それを掻き分けた先に、うずらの卵が
六個、置いてあった。「大切に育ててください」というラブリーなメモ用紙も発見された。
そう書かれているからには、きっと有精卵なのだろう。
 偶然だが、俺は生物部に属しており、学校の備品の中から水槽とひよこ電球が
組み合わさった孵卵器を拝借できる立場にあった。六個の卵の行く末は、生死は、
俺の胸先三寸に委ねられていたのだ。1.茹でて食う 2.捨てる 3.孵化させる
「こんな選択肢、反則じゃねえかよ……」
 生物部に入った理由は、純粋に生き物を見たり育てたりするのが好きだったからだ。
 先天性の犬猫アレルギーを抱えた俺は、家でペットが飼えなかった。せいぜい
グッピーを育てることくらいしかできなかった。だが、魚類では俺のペット欲は到底
満足できなかった。そんなとき、学校の鶏は、俺を慰めてくれる唯一の存在だった。

 俺は寮長に黙って、うずらを孵化させることに決めた。一度決めたあとは簡単だった。
中学時代にチャレンジした鶏の孵化と要領は同じだったからだ。大切なのは、ちゃんと
孵卵器をセットすること、手順と時期を決して間違えないこと。それだけだ。
 結果的に、俺は孵化に成功した。四羽のうずらの雛が、餌を求めて口を開ける。俺は
練り餌を水で溶いたものをスポイトでうずらの雛に与える。至福の時だった。

 後日、生物部から孵卵器の件を部長に問い詰められた俺は、立派に育った雛を
生物部に供出させられた。これからは部が交代で面倒を見ることになる。
 だが、実際に孵化に立ち会った俺にいちばんなついてくれているのは、言うまでもない。

「甘酒三連発」
141この名無しがすごい!:2010/12/31(金) 10:46:00 ID:Gu0OrkBX
「甘酒三連発」

甘酒が好きだった母親が渡米して1年が経った
渡米した理由はオバマ大統領の妹だからというかなり変わったものだった
前々からおかしなことをいう母親だったが、ま世間の母親とはそういうものだと思っていた
そんな母親が甘酒を捨て渡米したのだ
母親がどんだけ甘酒が好きかというと、いつも口から甘酒の臭いがしてくるほどだった
寝起きから甘酒、朝食の合間に甘酒、掃除しながら冷やの甘酒、昼飯を食わずに甘酒
・・・とにかく日頃から甘酒漬けなのだ
そこまで好きだった甘酒を捨てアメリカ行きを決めたのは、俺の彼女が原因だったようだ
俺の彼女はアメリカでポルノ女優をしていて、常に陰毛を剃っていた
胸も元来の柔らかさがなく豊胸特有の堅さがあった、僕はそんなかちかちやどーのおっぱいが好きだったのだ
特に全身甘酒プレイがいい感じで二人を興奮させ、すでに子供が15人いるほどだ
こないだどこかの代理店がやってきて是非大家族特集番組を作りたいと打診された
しかし、娘の一人が大五郎好きで、これまた朝から晩まで酒漬けの生活を送っていた
その娘が某少年週刊誌でデビューすることが決まり我が家ではデビューパーティーを開くことになった
そのパーティに参加するため母親はサウジアラビアから来襲するという
戦々恐々の我が家では第一次戦線の兵力を倍増し、我が家の池には全艦隊を待機させた
そんな折り、支持率低下に苦しむ我が家の首相である父親が電撃辞任するニュースが流れた
辞任する父親、政権交代を叫ぶ次男、平和のために全武力放棄を打ってる末娘花子
大混乱する我が家に迫る新年!

「初夢」
142この名無しがすごい!:2011/01/01(土) 02:28:46 ID:6PXcrKYw
底冷えのする寒さに少しばかりの別れを告げて、仄温かな共寝を味わう。
御来光を布で線引き、鴉を殺した惰眠を手にして。
いつもの寝床の広さを捨てて、狭く柔らかな共寝を味わう。
酔いどれ気分で吐かれた言葉、もう今日ここで寝ちゃっていーかなぁ?の気軽さに乗って。

接した体の表面に、罰ゲームで腫れた尻の火照りに似た熱が湧きあがっている事に、眠るキミはきっと気付かない。
貴き寝息は、連勝に高笑いした白組の余韻でリズムを奏でているのだから。

富士鷹茄子の並ばぬ夢見は、新年早々吉凶をつける事はない。
気付かぬ欲が流れる映像、「やっぱり恋人、欲しいんだろうか?」なんて疑問は、目覚めてから捕らわれればよい妄執だ。
今年一年、指針とするかは、本人次第、判断次第。

「お年玉」
143この名無しがすごい!:2011/01/01(土) 02:32:31 ID:6PXcrKYw
↑あ、最後、『本人次第、夢次第。』の方がよかったかも
144明けましておめでとうございます:2011/01/01(土) 08:57:08 ID:hwBdtLza
「お年玉」

お年玉とは、目上の者が目下の者に与えるプレゼントである。
あげたいからといって、上司や恩師に与えるべきではない。
目下といっても犬や猫に与える話も聞いたことはない。
なぜなら、「たま」とは本来「魂」のことであり、精神がある者限定でやったり
もらったりするからである。

ちなみに「たま」というと、君は金玉(睾丸)を連想するだろう。

胎児の頃、睾丸は男性器ではなく、横隔膜のあたりに存在する。
それが生まれるまでの間、数ヶ月をかけて体の中を縦断し、最終的に(上手い具合に)一個ずつ
金玉袋の中におさまって誕生を迎えるのである。
もしうっかり途中でとまってしまって、金玉袋に至らないことを「停留睾丸」という。
この場合でも金玉の旅は続く。

ぎりぎりの位置で止まってしまった場合は、お風呂などで温まると降りてきて、
冷めるとまた体内のもどってしまうケースもあるという。

外科的手術がなかった時代、停留睾丸の者は女性と間違われることもあった。
18世紀のフランスには「ヒゲのマリー」と呼ばれる若者がいた。
親は女だと思って育てたのだが、ある時期からヒゲが生え始めたのである。
ある時マリーがぴょんと跳ねると、体内に留まっていた金玉がストーンと金玉袋の
中に収まったので、やっと男として生活できるようになったという。

そんなわけで、金玉は「落ちてくる玉」として、お年玉を連想させるのである。

「ニート、ついに就職する」
145この名無しがすごい!:2011/01/02(日) 09:42:42 ID:ZxVZNgry
「ニート、ついに就職する」

親戚中で問題になっていた我が家の兄がついに就職が決まった
学校を卒業して、早三年、ついに就職する
親戚のおじさんのコネを最大限に利用して決まった
当面は金を貯めて家を出るのが目標だと兄が語っていた

そんなことがものすごく懐かしい
兄は半日で退社してきたのだ
仕事を紹介してくれたおじさんは激怒し、両親は土下座して謝った
兄はそんなことをよそ吹く風といわんばかりにゲーム屋にいった
母から奪い取った金を握りしめて

「アンゴラの奇跡」
146計算機 ◆0dHzUh337A :2011/01/08(土) 11:52:53 ID:YlThnY7Q
「アンゴラの奇跡」
アンゴラの奇跡というゲームをすることにした
「究極のパソコン作ってその中で神になる」
147この名無しがすごい!:2011/01/08(土) 13:34:45 ID:JaXI9aW+
「究極のパソコン作ってその中で神になる」

僕がパソコンを知ったのはいつの頃だったろうか
たしか、まだ小さい頃だった記憶がある
まだ時代が昭和と呼ばれていた時代
まだ今のパソコンみたいに洗礼されていない時代
まだモニターがグリーンモニターと呼ばれていた時代
まだ記憶媒体がテープだった時代
そうパソコンといわずにマイコンと呼ばれていた時代
その頃、父の書斎で始めてマイコンを見たのだった
そして、いつしか僕の夢は究極とよばれる物を作り、その分野で神になることを夢見た
大学を卒業し、ある半導体メーカーに就職したが、一研究員のままだと神になれないと考えアメリカに留学した
留学中に今の嫁と知り合い、嫁の父親のコネでと、ある企業に就職した
そこで僕は才能を開花させ、思う存分仕事をし、歴史に名を刻んでいった
家庭を顧みずに・・・
そう、嫁が浮気をしているという真実に気付かまま僕は荷馬車のごとく働き続けた
家庭は崩壊し、嫁は他の男のところを渡り歩き、街では歩くセックスマシーンと呼ばれるようになっていた
僕は始めて絶望を知り、辞表を提出し日本に帰った
そう全てを捨て、新しい人生を作り出すために

「旅路の果て」
148この名無しがすごい!:2011/01/08(土) 19:00:04 ID:MEzsdtky
「旅路の果て」

きっかけは有りがちなものだった。
不景気なご時世にリストラの波が押し寄せ、他人事のようにニュースで流れていた「希望退職者募集」が私の会社でも行われた。
戸惑う周囲とは裏腹に私は先頭きって退職を希望した。

それから三年。
会社都合退職の五割増しの退職金で様々な土地に赴いた。
人間とは浅はかだとつくづく感じる。
目的地は自分の趣味趣向が反映されるために著しく偏り、観光地や名所に足を向けずにマニアックな局所を観ては独り納得して次へと移る。
そんな旅の仕方は早々にネタ切れを招き、すぐに目的地を定めることすら困難になる。
そして愚かなことと自覚しつつ、旧友や親戚や恩師を訪ねて「心の旅」と洒落込んだ挙げ句にそのネタも尽きる。
最終的に「人生の旅」だの「魂のナンチャラ」だの、目的を探す旅へと移行していく。
私が差し掛かっているのはその「次」。

明日とは何か?
生きるとは何か?
人とは何か?
未来とは何か?
家庭とは? 愛とは? 死とは?

自分とは何者なのか……。

そんなことは既に考え尽くした。

「金が底ついてきたから、いい加減に働かなくちゃ!」
私の旅はこの繰り返しなのだろう。

「2011年 府中の旅」
149この名無しがすごい!:2011/01/21(金) 13:55:32 ID:yVEj1ZI2
「2011年府中の旅」

偶然入った古本屋にその本はあった
ぷぷる府中編
そう、旅行ガイドブックだ
もう数年前に発行され、既に時代遅れとなっているガイドブックを手に取りぱらぱらとめとページをめくる
どれもこれも古い情報ばかりだった
当然と言えば当然
裏表紙に貼ってある値札を見た
315円
これの倍出せば今年出た最新ガイドブックが買えるんじゃないかと思い、私はガイドブックを本棚に戻し店を出た
その足で旅行代理店にいき府中へ行きたいと申し出た
カウンターの女性社員が丁寧に対応してくれ、そこの旅行代理店おすすめの日帰りバスツアーを申し込んだ
出発は今度の日曜日午前9時だ
私は胸躍らせながら家路についた
ネットで府中のことを調べ始めた
やはり今時の情報検索はネットに限ると実感し、寝た

で、日曜19時
日帰りツアーを終え出発地点である某駅バスターミナルに到着しバスを降りた
結論からいうと、なかなか過酷な旅だったといえた、2011年府中の旅

「さよならはいわないで」
150この名無しがすごい!:2011/01/21(金) 17:22:46 ID:k9oap51m
「さよならはいわないで」

 僕の彼女が光速宇宙飛行士になったと知ったのは、僕たちが二十四歳の時だった。
 言うまでも無く、ウラシマ効果のおかげで、彼女の船内時間は遅くなる。彼女が三十
歳になるとき、僕は五十年の年月を過ごし、七十四歳になっているだろう。
 彼女は僕を捨てたのか? 否。捨ててなどいなかった。彼女は、自分が人類初の
光速フライトから帰還する五十年後まで、僕が待っていてくれると確信していたのだ。
そうでなければ「さよならはいわないで」などというメールを送ってくるはずがない。
 彼女がそうであるように、僕もまた、再会の時を待った。
 僕は自分の健康を保つために、ジムに通い始めた。ベンチプレスを数セットこなし、
縄跳びで三重跳びをし、そしてヘルシーな食生活を続けた。五十年。長い年月だ。
だが、僕には待っている彼女がいるのだ。生きなければならない。
 そして五十年後が経った。だいぶ老けた顔を鏡に映し、僕は正装をして彼女を
宇宙空港にまで迎えに行く。今では、超光速飛行技術は普通のことだ。彼女たちの
無数の船内実験によって、人類の光速科学は発展を遂げた。彼女たちの偉業は
教科書に載った。
 そして僕のことも、人々の話題に上るようになってきた。「五十年待った恋人」
というのが、僕に付けられたアダ名だった。今では顔なじみとなったテレビ局の
クルーが、彼女の到着を告げる。
 開口一番、「ただいま」と、彼女は言った。「おかえり」僕はかすれた声を精一杯
ふりしぼって彼女に声を掛けた。彼女は優しく微笑んでくれた。記憶にある通りの
素敵な笑い顔だった。
 そのためだけに、僕は五十年待ったのだ。

「NEET撲滅法」
151この名無しがすごい!:2011/01/22(土) 12:46:57 ID:vvlCb1X2
「NEET撲滅法」

NEET……それはもはや社会現象となっていた。
働いたら負けを地でいく社会保障制度、生まれた時から歴然と存在する学歴格差。
覆そうと考えるものすらいない、そんな真綿で首を締めるような状況……

あるとき、ひとりの男が立ち上がった。
男は考えた。
必死で働きたくなるよう、駆り立てるものが必要だ。自給自足、自立、無限の可能性。
甘んじるのではなく、みずから生き延びようとする、そんな世界にしなければ
何かがあったときにこの国の人間たちはあっさりとその身を投げ出してしまうだろう。

生まれた時から高学歴を約束されていた男は、ついに首相となり、成し遂げた。

<<NEET撲滅法>>
・心身の健康な者は必ず働くこと
・国は生命及び娯楽、経済の一切を保障しない
・自宅にいられる時間は12時間のみとする

5年後、峻厳の独裁者と呼ばれた男は国民の手により処刑された。
セキュリティを破り必死に声を荒げる国民を見たとき、彼は涙した。「ああ、ようやく彼らも目が覚めたのだ!」


「メロンとスイカ」
152この名無しがすごい!:2011/01/23(日) 06:37:48 ID:Oxl2rlFt
「メロンとスイカ」

「あんた……耳ついてるの? さっきからメロンとスイカはどっちが好きかって聞いてるでしょ!?」
そう言いながら無邪気に顔を寄せてくるのはやめてくれ!
こっちがドキドキしてるのがバレそうで、思わず視線を逸らしてしまう。

ここは地元の果物屋、その軒先で売っている串に刺さったメロンと薄切りのスイカ、二〇〇円均一の価格設定。
部活帰りのおなかを空かした俺らの足を止めるには十分過ぎる品物だった。

「ス、スイカかな……どっちかって言うと……」
「へぇ、高級なイメージのメロンよりもスイカの方が好きなんて、あんたらしいわ。何か理由あるの?」

理由と聞かれて素直に答えるべきか……一瞬悩んだものの、嘘をついても仕方がない。
小学生の頃の古い記憶を辿り、天を仰いで思いを馳せながら口を開く。

「昔さ、俺のばあさん……スイカが好きで毎年、夏になると一玉買ってきては半分に割って一緒に食べたんだ。
二人してスイカで腹一杯にして、『もう喰えん』とか言って笑ってさ……。
まぁ、そのばあさんも去年亡くなっちまったんだけど……」

少しだけ感じた寂しさと恥ずかしさをごまかすために、親指の腹で鼻の横を二、三回引っ掻く。
彼女は申し訳なさそうな困惑した表情を浮かべた。

「ごめんなさい。悪い事、聞いちゃった……」

『いや、別に』と否定しようと思ったとき、彼女の表情が和らいで口元がちょこっとだけ微笑む。
次の瞬間、聞き取れるか聞き取れないかの小さな声が聞こえた。

「でも、あんたのそう言うところ……『けっこう好き』よ」

心臓が飛び上がって思考が停止する。
「えっ? 今、最後のところ、なんて言ったの?」と聞き返したら、
今度は顔を真っ赤にした彼女が大げさに否定した。

「何も言ってないわよ! 耳がついてないかと思えば余計なところはしっかり……
もう、どうでもいいから、そこのカットフルーツ奢りなさいよね」

しっかり聞き取れなかったことを後悔しつつ、「へいへい。奢らせていただきますよ」と財布を取り出す。
バリバリと開いて「……で、メロンとスイカどっち喰うの?」と尋ねたら、とびっきりの笑顔を返された。

「もちろん、大好きな『スイカ』に決まってるでしょ!」


「ツンデレな彼女」
153この名無しがすごい!:2011/01/23(日) 09:58:48 ID:BhW3D33a
「ツンデレな彼女」

「あんたなんか好きでもなんでもないんだからね!」
「あんたのために毎朝起こしにきてあげてるんじゃないんだからね」
「あんたのためにお弁当作ってるわけじゃないんだからね」
「あんたのために一緒に下校してるんじゃないんだからね」
「あんたのために背中流してるあげてるんじゃないんだからね」
「ああああああああああああああんいいいいいいいいいいいい」
こうして僕は高校生にして一児の父親になりました
ツンデレといいながらなにか策略的な強引さを感じずにいられませんでしたが
子供が出来てしまった&親同士がもうこの二人は結婚させようぜと飲み席で約束してしまったこと
いろいろと外堀がうまりすぎてしまったこと、もう逃げられないと悟った僕は十代にして結婚することになったのでした
恐るべしツインデレな彼女・・・いや策士彼女

「天下無敵母さん」
154この名無しがすごい!:2011/01/23(日) 12:00:04 ID:ypQFFE1f
「天下無敵母さん」

うちの母の話をしよう。
負けない。
関西という場で商売人をしているというのに「ねぇもうちょっと負けてよ」というおばちゃんの言葉ににっこりと、
「まかんない」と言い切るその度胸。
そんなだからうちの商品は売れないような気がするんだけど、でも不思議と商品はうれている。
何故って、客が母との「負けろ」「負けない」に熱中して、結局最後には、
「あんたには負けるわ」と商品を買って帰るからだ。
母さんは負けない。

「鳥駅長失踪事件」
155この名無しがすごい!:2011/01/23(日) 20:15:19 ID:Jf6cfSyG
「鳥駅長失踪事件」

「へー、鳥駅長失踪ってニュースでやってるよー。ところで鳥駅ってどこー?」
「ぐぐっても出てこないな。鳥取駅のことじゃないか?」
「鳥取ってどこだっけ?島根といつもごっちゃになって分からないんだよー」
「お前、失礼なやつだな・・・・・・まあ俺もよく分からんけど。
なんでも鳥取県宛に来る手紙は、宛先が『島鳥県』になってることが多いというぞ」
「それどっちの県宛てか分かんないねー」
「まあ殺し屋さんが、人口低下を防ぐため、唯一依頼を受けない県だしな・・・・・・」
「?」
「気にすんな、独り言だ。しかしあの県って確か殆どが無人駅だったが・・・・・・」
「凄いねー。人がいる駅が5本の指以下だよー」
「ゲゲゲの女房効果なんてほとんどないしな。そうか・・・・・・分かったぞ!」
「え、何がー?」
「これはたぶん鳥取駅の誤植だと思うが、こうでもしないと人が興味を持ってくれないニュースなんだ・・・・・・」
「心底せつないねー」
その日も島鳥駅は普通に営業していたという。え?

「独身術」
156この名無しがすごい!:2011/01/24(月) 00:24:32 ID:zx4pBDDZ
#「独身術」

「先生そんな!ひどすぎますよ!」
ぼろぼろの道着をまとった若者が、岩の上にすわる仙人風の老人に食ってかかった。

若者は三十歳くらいだろうか。伸び放題の髪やひげ、そして肉の落ちた手足。
その顔のしわは苦労をしたものに特有で、きっともう何年もの厳しい修行によるものだろう。

「そうですよ先生!こんなの困ります!」
すると、同じような年恰好の若者がもう一人、岩陰から現れて、同じように老人に訴えた。
この出てきた若者も、長く修行生活にあったのだろう。
絡まりながら伸びた髪の様子といい、着ているものの破れといい、初めの男といい勝負である。
彼らは村にいれば男盛りの年ごろだろうに、人里離れたこの岩山で何年暮らしているのだろうか。

「そうですよ!どうにかしてください!」
「先生お願いしますよ!」
見ると、声を聞いて集まってきたようだ。同じような男たちが、口々に岩の上の老人を責め立てる。
彼らのそのみすぼらしい風采といい、人相といい、初めの男と瓜二つ…。

瓜二つ?

「先生、分身術だけ教えてくれても困ります!」
「元に戻る方法は別に修行が必要なんて聞いてなかった」
「早く独身術のほうも教えてください」

#次は「枯れ井戸スコープ」で。
157この名無しがすごい!:2011/01/25(火) 20:48:42 ID:vPxCvAI/
「枯れ井戸スコープ」

我が家の裏庭に枯れ井戸がある
もう何十年も水が干上がってしまっていると、爺ちゃんがいっていた
昔は夏になると井戸水でスイカを冷やしてみんなで食べたと懐かしそうに語っていた
そんな枯れ井戸でも井戸を壊さず保存してる我が家
井戸にまつわる迷信というのは昔から全国各地にあるもので
簡単にいってしまえば井戸を壊してしまうことで発生するかもしれない怪奇現象が怖い
たったそれだけのことだった
確かに何にか物の怪がいるような雰囲気ではある
そんな古井戸と共に生きてきて早二十年!
こんな僕も今年成人式に出席し、帰り際、中学時代同級生だった英子ちゃんと仲良くなれました
英子ちゃんはむっちんプリンプリンな体をしていて、見るだけで前屈みになってしまいます
顔もグラビアアイドルみたいにエッチそうでもうそばにいるだけでお願いしますと頼みたくなってしまうほどです
ある日、英子ちゃんが僕に枯れ井戸を見せてほしいのと頼んできました
僕は二つ返事でOKし、家族が誰もいない日を選んで家に呼びました
当日、彼女は信じられないくらいのミニスカとキャミソール姿でやってきて、僕を誘惑しました
・・・・なんだかんだいろいろありましたが、僕は英子との間に生まれた娘と井戸のまわりを掃除しています
まさか、一発でヒットするとは思いませんでした

「オチが思いつかなくてすみません」
158この名無しがすごい!:2011/01/27(木) 00:07:15 ID:NyrvMIyg
「オチが思いつかなくてすみません」
「待っていたよ」と一人の老人が言った。
彼が誰だかは、知らない。老人は、私が眉根を寄せて渋面を作っているのに構わず、勝手にベラベラと話し始める。
「少し君に意見を聞きたくてね、待っていたんだよ。いや、君でなくてもよかったんだがね、
次にここに現れた者に聞こうと思っていたんだ。で、現れたのが君だったってわけだ。
とりあえず聞くけどね、君の様な、人間には一つの人生があって、それは小説に興す事ができるというのは承知の事実だがね、
いやいや、もしもだよ、地球にも人間と同じように人生があるとするなら、どんな小説になると思うかね?
わしは地球が腹に抱えている生命と言う細胞が、ガンとなり、自信を蝕んでいくという所までは書いたんだが、
先が思いつかないんだ。そのまま殺してやるべきか、それとも、ガンを直すべきか、直すにしても、どうやったらいいものか……」
「ガンなら、その細胞を殺さないと」私は面倒くさ気に言った。
「悪い物ですからね。で、取っ払ったガンの代わりに新しい健康な細胞を移植すればいいのです。
例えば、宇宙人とか。新しい生命が体にマッチしたなら、地球も健康を取り戻す事でしょう」
老人は難しい顔をして、低く唸った。だが、次の瞬間には頻りに頷いていた。
「よし、それでいこう!」
彼は、満足してそう言うと、私に背を向け、どこかへ行ってしまおうとするので、私は急に不安になり、慌てて彼を引き止めていた。
「待って下さい。他人の意見で作った小説が、自分の小説と言えるでしょうか? 私のアイディアをパクらない頂きたいのです。その話は私だけが、作っていい話なのですから。なぜなら私が生んだのですから」
「だが、わしは自分でオチがつけられないんだよ。君のアイディアを是非採用したいのだが……」
「いや、それが貴方のオチなのではないですか。それ以上思いつかないのなら、オチがないのが、貴方の考える、地球の小説のオチなのです」
興奮した私が捲し立てると、老人は引き攣った笑みを顔に浮かべた。「ワナビめ……」

「香り立つ竜彦」
159この名無しがすごい!:2011/01/29(土) 11:28:18 ID:6qGqcvze
「香り立つ竜彦」

職場から歩いて数分の距離に、とある定食屋がある
そこは全定食500円でごはん大盛、おかわりいくらでも、納豆、生卵、お新香取り放題という店だ
そんなわけで昼時はいつも混み合っている
俺の昼の主戦場でもある
安月給の俺はほぼ毎日ここの店で定食を食べる
胃にご飯が入らなくなるまで掻き込み、味噌汁をすする
納豆臭さで上司に怒られるくらい納豆を食べ
主な栄養素は生卵ですと胸を張っていえるくらいに生卵を食べ
お新香は野菜ですと真顔で答えられるくらいにお新香を食う
昼休み一時間を全部使い切って値段以上に満喫して店を出る
俺の一日の食費は500円
俺がいくと店のおばちゃん達の顔が引きつるのはもはやしょうがないだろ
俺が腹一杯で午後仕事にならなくて上司や同僚が呆れるのもしょうがない
二つ名が食べ物の香りで香り立つ達彦なのもしょうがない

「…………」
160この名無しがすごい!:2011/01/31(月) 02:34:05 ID:yyZL9hHD
「…………」

とある居酒屋で俺が聞いた話さな。

「俺はさ、お前以外の女はぶっちゃけモブなんだよ。お前だけしか見てないからよ」
「…………」
「いやほんと、合コンのときの姫ちゃんとか、うん可愛いけどあれだ、人形的な可愛さでさ、化粧美人? お前のにじみ出る素の可愛さの真似は出来んよな」
「…………」
「……な、なあほんと悪かったって。機嫌直してくれよ、な? もう開き直ってどんな言うことでも聞いちゃうからさ?」
「…………」
「なあ、せめてどこに怒ってるのかだけは教えてくれねえか? 俺はほんとどうしていいのか判らねえよ?」
「…………」

男は気づいていなかった。
女が男の口説き文句にうたた寝しているのを。

男は匂い立つほどの美男子で、女は哀愁が漂うほどの醜女だった。
俺はどうにも、何にも感想すら考えられなかった。お前はどう思う? なあうたた寝していた女に口説き続けたお前さんよ。

「喫茶店の屋根で僕は逆立ちをする」
161この名無しがすごい!:2011/01/31(月) 09:56:01 ID:ODqPlj3W
「喫茶店の屋根で僕は逆立ちをする」

「名古屋城だよ」
はっ、今なんとおっしゃられた
「だから、名古屋城なんだってば」
すまない、もう一度言ってくれないか
「だーかーら、名古屋城のまねだよ」
……
どうやら彼はシャチホコの真似をしているらしい。
何からつっこめばいいのか分からないが、このシュールな光景をどうにかしてほしい。
なぜ私の店の上でなのか、どうして魚のオブジェの真似をしているのか、といたいことは沢山あった。
とりあえず、顎を屋根の上に乗せてえびぞりにしろと言ったら、体が硬くて無理だとのたまった。
こんな寒い日に外に出てくだらないことをするなとか、人が集まって来ただとか営業妨害だとか言いたいことは沢山あったが、
その後私がしたことといえば、無視して店の中に入っただけだ。

俺を見ろだとか突っ込み無しは厳しいだとか叫んでるような気がしたが、そんなことはどうでもいい。
些細なことだ。くだらない。
バイトの店員に店を任せ、私は自室にひっこむ。
早まったかなと思いつつ、私は結婚式の案内状をプリンタで印刷する。


「青汁ストレートMヒトミ」
162この名無しがすごい!:2011/02/05(土) 12:27:29 ID:Nn8mEe4v
「青汁ストレートMヒトミ」

ヒトミがコンビニで青汁を買った
ただそれだけだった
彼女はMだから余裕で青汁ストレートを一気飲みできるのだった

「白いスク水に青汁をかけてみたい」
163この名無しがすごい!:2011/02/05(土) 17:44:47 ID:0wHogkvZ
「白いスク水に青汁をかけてみたい」

清い物を「清い」と受容するのは素直な人だと思う。
「清い」と口にすることで、「清いと感じる自分も清い」と見栄を張るのは寂しい人であり、自らの汚れも認めている人であろう。
では、清いものを汚してみたくなる欲求はどんな趣向がそうさせるのだろう?

だがそんな追求は実は不必要で、考えるだけハゲか白髪を生むだけだ。

白いスク水とそれを纏う彼女に青汁をぶっかける。
その衝動と欲求の果てに彼女が表すリアクション――そこまでの妄想とシミュレーションだけで一日の糧となる。

「汚れを汚れとするだかまり」もまた素直な人なのかもしれない。

「だがマズイものをオカワリなんかするものか!」

164この名無しがすごい!:2011/02/06(日) 13:41:34 ID:08cZ68jW
「だがマズイものをオカワリなんかするものか!」

分かる。普段料理など一切しないお前が、想像もつかないほどの努力をして作ったことは、痛いほど分かる。
俺だって出来れば「美味い」と言ってやりたいさ。でも、お前には悪いが、これは美味という感覚からほど遠い代物だ。
正直に不味いと言ってしまおうか。いや、しかし俺の中に眠っている良心ってやつが、それを必死に止めてくる。
とは言っても毎日こんな感じのを食わされるというのは・・・。くそう。

「悪いが、お前とはやっていけそうにない」
165この名無しがすごい!:2011/02/06(日) 16:38:32 ID:pX+u0Gbt
「悪いが、お前とはやっていけそうにない」

寝食を共にし仕事でも常に一緒の相棒から三行半を突きつけられた
いきなりだったのでひどく驚いた
このままずっと今のまま契約が終わるまでやっていくものばかりだと思っていた
しかし、相棒のストレスMAXになったらしい
朝起きていきなり衝撃の三行半に俺は驚き
思わず壁を殴ってしまった
そんなわけで俺は今非常に凹んでいるのである

「昼飯はあの店のラーメンにしよう」
166この名無しがすごい!:2011/02/08(火) 12:50:23 ID:omGcyDCW
「昼飯はあの店のラーメンにしよう」

「今日は休日だし、昼飯はあの店のラーメンにしよう」と親父が言った。
「えーっ、凄い混んでるんじゃない? 止めとこうよ」と俺。あんなところ昼は戦場だ。
「まかせとけって。父さんこう見えてもある格闘家から師匠って言われるくらい、有名なんだぞ。
あんな店、いくら人気店でも楽勝よ」
「んなわけないと思うけどなー。まあ美味しいから行きたいけどね。豚骨がこってりしてるし」
「決まりだな、行くぞ」
 というわけで、親父と出かけたその店は、黒山の人だかりだった。
「いいか、俺について来い。見失うなよ」と親父は言うと、いきなりすばやい動きでカウンターの上に飛び乗り、
全力で他の客の前の、出来立てのラーメンに飛びついた。
「さすが親父! 格闘家の師匠っていうだけあるよな!」俺は思わず興奮して叫んだ。
 しかしどうやら勢いが付きすぎたのか、親父はバランスを崩すと、そのまま横転し、白い豚骨の海に沈んでしまった。 
「親父ぃぃぃぃぃ!」俺の絶叫も空しく、親父はそのまま息を引き取った。
「おい、この店はゴキブリ入りラーメンを出すんかよ!」
 ようやく箸を割ってラーメンを食べようとしていた客が、親父の死体に気付き、店主に食って掛かる。
 仕方がないので俺は、隣の人気のないうどん屋に出直すことにした。

「八百長仮面」
167この名無しがすごい!:2011/02/09(水) 15:33:38 ID:RwZ7tqzX
「八百長仮面」

 今日、ナンパで引っ掛けた女は物をハッキリと言い過ぎる女だ。見た目から
して意思が強そうな感じだとは思った。大方、そういう女には断られるのだが
だからこそ落としてみたくなる、というのも男の本能だ。
 そうして、なんやかんやと笑わせたりおだてたりして居酒屋に連れて入ることには成功した。
何だ、俺に掛かれば一見難しそうな女でも思いのままだとあぐらをかいては見たが、女の態度は
決していいとは思えなかった。
 俺以上に、ワタシイイオンナデショウ、といった尊大な態度で、仕事の話に及ぶとそれがまあ、
上昇志向、デキル女感、自身満々さを全身から溢れさせていた。俺は負けたくなかった。
こういう女を屈服させなければならないとある種の使命感のようなものを胸にたぎらせた。
俺は俺の仕事の話をしようと思ったが、ナンパした女と激論を交わすのは野暮でもあると考えたし、
本気を出すのも大人げないと、考えていたところ女が
「こんなことしなくたって十分もてるでしょうに、どうして?」と言った。
俺は「君だって、モテそうなのに結局は俺についてきたよな」と返した。
女は暇だったから……と気だるそうに二つ折りの携帯を開いた。
168この名無しがすごい!:2011/02/09(水) 15:34:21 ID:RwZ7tqzX
そして、画面をみつめると、俺には絶対向けない関心をたたえた目を携帯の画面に落としていた。
俺はそれが悔しかった。その悔しさから女が携帯を閉じると俺はこともあろうに過去の武勇伝らしき
ものを口にしはじめていた。らしきものというのは、俺は全くモテない。
ナンパも本当に必死だ。モテナイ俺は中学時代、学年のマドンナを後輩にしつこく絡ませ、
そこへ俺がかっこ良く登場し学年のマドンナを最終的には落とすというバカバカしいことをする程にだ。
それを俺に都合良く話を編集して、女に話した。
すると女は「話、八百長くさい」と鋭く指摘するとほろ酔いで
「今会ったばかりで何だけど、かなり今も慣れた男気取っているわよね?仮面?……
って感じよね、その雰囲気が面白くて実は着いて来てやったのよ」と嘲笑った。
「……何だあ?」と図星を突かれてカチンときた俺だが気持ち的にはもう縮んでいた。
「ウフフ……!この八百長仮面!」と言ってさらにからかい挑発してきた。そして女はさらに
「八百長仮面さん、この後どうするの?今ねえ、友達呼んだから一緒に行きましょうよ」と言ってきた。
数分後に現れた友達とは数年前に相撲界で八百長疑惑にて解雇された元力士だった。
俺は、その女と元力士に暴利バーに連れて行かれた。女はそこの店長だった。
酔って、俺の事をずっと八百長仮面と呼んでいたが、その時にはヤクザ化した元力士も気まずそうにしていた。


「消える2月」
169この名無しがすごい!:2011/02/10(木) 11:16:04 ID:AGhVtm+a
「消える2月」

今夜も月が出ている
夜風が俺の体から体温を奪っていく
待ちの光りが俺の肉体をさらけ出す
女のつんざく声音が俺の大事な部分を刺激する
やばい、マジでヤバい、いじってもいなにのにイキそうだ
ああ、もう無理だ、目の前にあった壁に先っぽをこすりつける
ぐりぐり、痛きいい、マジでヤバい、予想以上の快楽だ
女が角オナニーがくせになるのも分かる、自虐的な快感
うおおおおお、ぐりぐりしちゃう、大事な部分と壁が擦れていたい、けど気持ち胃
はぁはぁ、もうもげそてもいい、思いっきり擦る、壁にこすりつける
こうして俺の二月が去っていった
三月に入り俺は病院に入院した
壁に擦りすぎて傷口が化膿し壊疽し始めていたからだ
それでも俺は病室の壁に擦り続けている
やばい、マジでやばい気持ちよすぎるのだ

「神秘の撥水加工」
170この名無しがすごい!:2011/03/08(火) 21:08:09.28 ID:uma89oT5
「神秘の撥水加工」

雨具。
雨や雪などから衣類と体が濡れることを防ぐ撥水性をもった用具である。
古くから傘や雨合羽や長靴の類いは創造され使用されてきたが、二十一世紀を迎えた近代に至っても、完全な物は存在していない。

「あっめあっめ、ふっれふっれ、かあさんがぁ〜〜」
梅雨時の鬱陶しい空模様の中を楽しげに歌い歩く少女がいた。
「ふぁ〜ふぁでおっきがっえうれしぃな〜〜」
ん?
雨の歩道を僕の方に向かって来る少女の歌声に違和感を感じた。
「ねぇ、お歌間違ってるよ」
目の前まで近付いた少女に思わず話し掛けてしまった。
「いいの。うちのお洋服はふぁーふぁだから、お着替えが楽しみなん」
ふぁーふぁ?
「そうなんか」
なんと答えればいいのか困惑し、相槌をうつことしかできなかった。
「すいません」
ふと背後から女性の声が控えめに割り込んできた。
「その子の母です。実は柔軟剤のことを言いたいみたいなんですけど、そうじゃないんです」
そこまで言われて、ああ、と理解したが真相は違うらしい。
「ファーファなんすか。でも違うって?」
「はい。実は離婚してまして。この子が父親と住んでいた頃は、父親が柔軟剤にこだわりがあって洋服もタオルもファーファでいつもふっくら柔らかだったんです。ですが離婚してからはその習慣もなくなって……」
「そのころのふっくら柔らかが忘れられなくて間違った歌詞を?」
「いいえ」
母親はかぶりを振ってキッパリと言い放った。
「私に復縁を考えさせるため、父親があの頃を思い出させるようにとこの子に教え込んだのです!
雨に濡れたこの子をふっくら柔らかなタオルで吹いてあげた日々。ふっくら乾きたての洋服に着替えさせた日々。この子を囲んで笑いあっていた小さく幸せだった日々……。
そんな手段で復縁を迫るあの人が、私は大嫌いなんです」
涙さえ浮かべて切々と語る母親に、僕がかける言葉はなかった。
「そうっすか」
それだけ答えて親子の前を立ち去った。
数年経ち、子供を持つ身になってみて思うことがある。
雨に濡れた時でも家族の待つ団欒で、着替えにさえ幸せを感じるーーそれが心の撥水効果ではなかろうか。
雨に濡れた子供を叱ったり急かしては分からないことだ。

「驚異の上水道」
171この名無しがすごい!:2011/03/08(火) 21:28:48.19 ID:l1dJ2PBl
「驚異の上水道」

 愛媛では蛇口をひねるとみかんジュースが出ることは良く知られている。
 また、香川では蛇口をひねるとうどんだし汁が出てくる。これもまたよく
知られている。だが、この世にはさらなる上水道が存在しているのである。
「マジ情報なんでしょうね?」
 テレビ局のクルーが何度も確認してくる。まあ信じられないのも無理は無い。
南東北、栃木などという秘境に来たことのある東京都民はほぼいないのだから。
「ここです。この水道です」
 公園に設置された無骨なコンクリートの水道。そこから、信じられないものが
出てくると言う。俺は蛇口をひねった。
「うげえ」「ぐぼあ」「けーー」
 テレビクルーたちはその尋常ではない排出物を見ると、全員が膝をついて
崩れ落ちた。だが、まだ排出は止まらない。どんぶりの中に大量のそれが
満たされる。周囲は吐瀉物に溢れていた。
 そう。吐瀉物。どんぶりに山盛りになっているのは、別名吐瀉物、しもつかれ
である。栃木県民の半数が憎悪するその吐瀉物然とした外見。
 さっそく味見をさせようとクルーの口にしもつかれを流し込む。白目を剥いている
軟弱なクルーもいる。痙攣しているクルーもいる。だが、ここは栃木だ。
 しもつかれを食べねば無病息災は祈れない。食べさせる。胃に流し込む。
それを繰り返すこと三十分。ついにテレビクルーが白旗を上げた。
 残念ながら、この取材の放送はなされず、お蔵入りになった。
 しかしこの世界には、まだまだ驚異の上水道が存在しているに違いない!
負けるなテレビクルー! 都民の知らないおぞましい現実が、上水道で
君たちを待っている! さあ次の取材は沖縄だ。ゴーヤがクルーを呼んでいる!

「5時の夕日」
172この名無しがすごい!:2011/03/09(水) 03:28:01.62 ID:+iHL2GuM
「5時の夕日」

 彼女はぼくの隣の席に座っていた。
 ぼくの席は窓際の一番後ろ。その隣が彼女の席。
 めんどくさがり屋で内向的なぼくと対照的に、彼女は明るくて社交的だった。
 そんな性格なもんだから、授業中にたまにぼくに会話を振ってくる。
「ねえ、ここの解き方教えて!」
「あ、そのストラップ『ウサビッチ』じゃん! あたしも見てる」
「知ってる? 現国の武田って3組の吉田と付き合ってるらしいよ」
 大抵は彼女から一方的に話しかけてきて、ぼくは「へぇ」とか「そうなんだ」
と気の利かない返事をして、会話が早々に終了する。
 めんどくさがり屋で周囲に頓着のないぼくは、彼女の世間話に付いていけない。
 それでももう少し気の利いた返事が出来なのではないか、とその後一人で反省するのが常だった。

 それからしばらくして席替えがあった。
 彼女とは離れ、自然と会話する機会を失った。妙な喪失感を覚え、それからというもの気づかぬうちに彼女の姿を目で追うようになった。
 誰かと話している姿を見ると嫌悪した。
 これが嫉妬だと気づくのに時間はかからなかった。


 いつものように学校から一人で帰っていると、彼女が公園の前で泣いていた。
 そのそばには彼女といつも一緒にいる女子がいる。どうやら泣いている彼女を慰めているらしい。
「気にすることないよ、美香にはもっといい男がいるから」
 そんな声が聞こえた途端、ぼくの中でなにかがはじけた。
 ああ、そうか。ぼくの知ってる彼女はほんの一部に過ぎなかったのだ。
 そして、ぼくの抱いていた感情は実に陳腐であった。

 逃げるように別の道から帰ろうとした時、彼女と目が合った。
 彼女は少し驚いた顔をしていた。それに対して、果たしてぼくはどんな表情で返すことができたのだろうか。

 公園の時計は五時を指していた。
 ぼくと彼女の影は、夕日に照らされどこまでも伸びていた。


「不幸という名の幸福」
173この名無しがすごい!:2011/03/10(木) 00:40:21.99 ID:IhJnh5rK
「不幸という名の幸福」

「暑い。暑過ぎる。ここまで来るともう地球温暖化とかやめて、地球熱体化とかのほうがいいんじゃないか?」
 俺は暑さのせいなのか、元からそういう顔なのか、とにかく顔色の悪い友人に聞いた。
「なんだよ熱体化って……。つーかこれもう罰ゲームだよ! ふざけんなよ、俺が何したんだよ!」
 知るかそんなこと、そう言い返したかったがそんな気力もない。
 俺達が何故こんな何故つらい思いをしているのかというと、それは教室のエアコンが壊れたからだ。
 しかし、何故壊れているのだろう。あながち何かの罰ゲームなのかもしれない。が、俺には何か悪いことをしたつもりはない。
 何もしていないのに罰を与えるとは、なんということだろうか。おそらくそれは罪だ。そして罪には罰だ。
 もしこれが本当に罰だったら俺は与えた人物に天誅を下そう。

 こんな下らないことを考えている内に友人が俺に声をかけた。
「なぁ、このまま文句言ってもしょうがないからこの地獄の中から楽しみを見出そうぜ」
「なるほど、それは名案だ。だけどこの地獄からというと至難の業というか、多分無理だ」
 そう、答えると友人は卑猥な笑みを浮かべた。うわ、気持ち悪い。この笑顔のせいで更に暑くなりそうだ、くたばれ。
 友人は目線をあるところに向けた。そう、女子だ。正確には女子の背中。つまり汗で制服が濡れて下着が透けているということだ。
「素晴らしい」
 俺は思わず声を出してしまっていた。しかし、素晴らしい。黒の下着のようだ。一瞬だけだが、俺のはここが楽園に感じられた。
 一瞬だけ。もう終わった。地獄が舞い戻る。「はーい、戻ってきたよー」と。死ね。
 
 こうして女子の下着を覗いてる内になんだか頭の中がもやもやとしてきた。なんだか頭が軽い。
「ねぇねぇ!もうちょっと下着をしっかりと見してよ!」
 バカな。暑さでとうとう頭がおかしくなったのか。俺は驚きながら友人の方に顔向けた。
 しかし、友人も驚いた顔で俺の方を向いている。
 見るな、バケモノ。頭が悪くなるわ。いや、違う。何故俺の方を向いている。
 まさか、さっきのは俺言ったのか!?
 どうやら、そうらしい。クラスメイトの目線が氷点下だ。
 わぁー涼しいー、ってそれどころではない。
 俺はとっさに「これは罰ゲームだ」
 そう言ったが目線が冷たくなるだけ。
 もう忘れよう。そう思い俺は机に伏せて寝ることにした。起きたときは汗をかいて地獄だろうが、この空気よりましだ。

 
174この名無しがすごい!:2011/03/10(木) 00:41:23.98 ID:IhJnh5rK
お題忘れたスマヌ

「夜空の星の代わりになるもの」
175この名無しがすごい!:2011/03/10(木) 19:16:35.70 ID:yeiL1cYi
「夜空の星の代わりになるもの」

「星空ってどんなものなの?」
盲目の少女は思いきった様子で尋ねてきた。
問われた家庭教師は困惑してしまった。
手近な物や他の感覚で代替して教える事が叶わない夜空。特に星の瞬きや輝きや空の広がりを伝えきれないためだ。
「空に宝石が散らばっている、という想像はできるかい?」
「空が広いことは知っているわ。丘に連れていってもらった時に、頭の上に風が渡って手を伸ばしても天井を感じないくらい高いんでしょ」
漠然としすぎた取っ掛かりは見事に空振りだった。
彼女の好奇心は常に湧き出てくる。
そのため、地球を抱く宇宙や地球同様に存在する太陽や恒星・惑星・月や衛星や人口衛星も一般常識以上に理解はしている。
だからこそその光景を知りたがったのだ。
家庭教師は悩みに悩んだ。
ふすまに穴を開けて簡易プラネタリウムを作っても彼女には不十分な説明だろう。
一ヶ月近く回答を保留し、一つの形にまとめてみた。
「いいかい? 今、北側の夜空を見上げているよ」
食卓に段ボールの板を立て、彼女を食卓の淵に鼻が付くように座らせて家庭教師は説明を始めた。
「北の夜空は北極星を中心に星達が円を描くように動くことは教えたよね? だからまず北極星を見つけてみよう」
言いつつ彼女の右手を段ボールの底辺へ誘う。
「ここがこの辺りの真北。背の高い山が連なる辺りだ」
「地図で教えてもらった山脈のあたりね」
「そう。そこから目線を上げていくと……」
ツツツっと底辺から垂直に立つ段ボールの手前面をはい上がらせる。
途中にあるデコボコに少女は怪訝な顔を表すが、家庭教師は目的地まで止まらずに彼女の指を這わせていく。
「ここに大きな玉があるのが分かるかい? これが北極星だ」
「ああ! 今までのデコボコや粒々は星だったのね。北極星は他のより大きくてよく分かる!」
「そうだ。大きくて光が強いから北の空を見るとすぐに見つかるんだ」
家庭教師は続いて北斗七星・大熊座・カシオペア座……と説明を続けていく。
「これが、北の星空なのね」
少女は説明をなぞるように北極星から他の星座を何度も何度もなぞる。
「これが空に広がっていて、輝いていて、地球から見上げているなんて、きっと素敵なんでしょうね!」
ビニールを貼った段ボールに埋め込んだ砂やビーズやビー玉。見た目はガラクタかゴミにしか見えないが、彼女には満点の星空となった。

「夜明けのパントマイマー」
176この名無しがすごい!:2011/03/23(水) 16:27:23.27 ID:TicwhsVX
「夜明けのパントマイマー」

 うちの学校の新聞部は、広報機関であると同時に、ある種の諜報機関でもある。
たとえばXファイルみたいな、超常現象を解明する組織があると思ってくれれば、
あまり見当違いではない。
 そして新聞部は、超常現象を単にP2(ピーツー)と呼ぶ。Paranormal Phenomena
(超常現象)には、Pが二つあるからね。
 僕は、そのP2を探す役目を持っている。オカルト部と科学部も兼部していると言え
ば、意味が分かるかな? 要するに僕は、面白いことに、ゴーストバスターズみたい
な組織に「所属」しているんだ。
 そして素晴らしいことに、ありがたいことに、僕らの仕事が無くなることは決して
無いだろう。この学校の周辺にある都市は、何故か不自然に歪み、軋み、いまも
「異常」に満ち溢れているのだから。

 夜明けにP2が現れる。それは、唐突に流れた噂だった。
 噂の流布にはいくつかのパターンがあるが、「どんな」P2なのかではなく、
「どこに」でもなく、「いつ」だけが噂になるというのは珍しい。推察するに、
その出現は場所を転々とし、見る者によっても感じ方が変わるのだろう。だが、
実際に見てみるまでは、予断は許されない。
 コードネーム、夜明け。僕らは、毎晩、張り込みを続けた。

 待つこと一週間。ビルの屋上にそいつは現れた。仲間に報告するも、距離が遠い。
 そいつは人の形をしていた。そして、何も無い空間を撫で回していた。と、そこに
そいつが飛び乗る。その行為はまるきり自殺に見えた。だが、そこにはブロックが予め
置いてあったかのように、不可視の足場が存在している。そして、また、そいつは何も
無いところを「パントマイム」し、そこに移動した。間違いなく、そいつはビルの屋上
から別の屋上へと、道路の上空を横断しようとしていた。

 僕はカメラのシャッターを切った。うまく写っていればいいのだが。
 そして僕は、ビルの屋上に向かって走り出した。エレベーターを待っていたのでは
間に合わない。階段を駆け上り、扉の取っ手についた鍵を銃で破壊し、ついにぼくは
屋上に到達した。
 
「動くな」僕はもうすぐこちら側のビルに渡り切ろうとする、そいつに銃口を向けた。
「お前はP2、『夜明けのパントマイマー』と命名された。これ以上の行動は我々との
敵対を意味する。降伏しろ」ほとんど無意味な定型文を口に出す。と、思いがけず、
そいつは言葉を返してきた。

「そう。私はパントマイマー。私の故郷では、誰もがこの力を持っている。それを
あなたがたに伝えたかった」
「お前の故郷に興味は無い。とっとと消え去れ」言うまでも無く、そいつの姿は朝の
日の光に包まれ、消え失せようとしていた。
「そう。<あなた>も、この力を、持っている」消える間際に、そいつはそんな台詞を
漏らした。「なんだと?」僕は問い返したが、もうそこには、夜明けのパントマイマーは居なかった。

「可能性の麦束」
177この名無しがすごい!:2011/03/26(土) 15:45:01.71 ID:0QGl2rLo
「可能性の麦束」

 一枚の絵になりそうなのどかな風景の中を、私達は車で走っていた。
 見渡す限り一面の麦畑が初夏の風に優しく揺れ、金色の海を連想させた。
 周りに人家はまったくといっていいほどなかった。どこまでも続く、麦、麦、麦。
 どこか遠くで鳥の鳴き声が聞こえた。
「とても30年程前あんな悲惨な大事故があった場所とは思えませんね。凄い豊作じゃないですか」
 私は案内をしてくれている、運転席の農夫に話しかけた。
「お前さん、何も分かってねえな。この麦は作っても一切食えねえ。国が買い上げて、処分するために作っているんだ」
「えっ・・・何でそんな無駄なことをしているんですか?」私は衝撃を受けた。
「いいか、一度放射能で汚染された土地は、ちょっとやそっとじゃきれいにならねえ。
しかしこの特殊開発された麦は、土壌の放射性物質を取り込み、土地を浄化してくれるんだ」
「へえ・・・そうだったんですか。でもそれって延々と続くんでしょう?空しくなることってありませんか?」
「俺も農夫だ。作って捨てるだけのものを育てるなんて、最初は空しい作業をしていると思ったが、今じゃ未来のためにしている、最も意義のある仕事だと考えるようになったね」
「なるほど、これらの麦は皆、未来への可能性の麦束なんですね」
「ははっ、そういうことだ。お前さんも分かってきたじゃねえか」
 年老いた農夫は日に焼けた顔に笑みを浮かべた。北国の日は初夏といえどもう沈み始め、麦畑は鮮やかな朱金色に輝いていた。

「桜の樹の下には」
178この名無しがすごい!:2011/03/29(火) 13:01:17.48 ID:MwYsbpRn
「桜の樹の下には」

 横島ツカサ、あるいは通称、邪(よこしま)は、学校最大の部活動、平安部(ほとん
ど何もしない部活)を束ねる、現代の陰陽師である。薙刀高校の学園七不思議を語らせ
るのに、これほどの適役はいまい。邪は、制服が良く似合う背の高い美少年である。
 風が、吹く。入学式も終わり、花を散らしたあとの緑色の桜並木。葉と葉が互いを
打ちならし、ざあざあと雨のような音を響かせる。
「校内に植えられた桜の中で、特に最も古いこの桜の樹は、犬桜と呼ばれているので
おじゃる」
「はあ……」とりあえず頷いておく。
 いままさに入部試験――学園七不思議のレポート提出――を受けている、何の装備も
無い新聞部員としては、頷くくらいしかできることはない。
「江戸の太平の世に、ある剣豪が愛した犬がここで死んだのでおじゃる」
 邪は、歌うように言葉を紡ぐ。扇子を取り出し、流れるように開き、その顔を隠す。
そして、ほほほ、と笑う。
「剣豪は己の刀を質に入れ、愛犬を失った悲しみを紛らわそうと、その場所に桜の樹を
植えたのでおじゃる。それゆえに、この桜の樹は犬桜と呼ばれているのでおじゃる」
 いちいち語尾がうっとおしいが、その薙刀高校の伝承についての知識には舌を巻く。
口伝で現代まで語り継がれた犬桜の他にも、平安部は多くの伝承を伝え持っているに違
いない。
 しかしながら新聞部の入部試験を受ける身としては、過去の七不思議のレポート以上
のことを引き出さねばならない。七不思議とて、永劫普遍のものではない。噂は風化し
たり、新しく追加されたりするものだ。この入部試験はその点を試しているのではなか
ろうか。
「それで、犬桜が学園七不思議である理由とは?」
 そう尋ねたところで、桜の樹の影に隠れた、一匹の犬が目に入った。不自然なほどに
白い犬だった。その犬は邪の足元に走り寄り、おすわりした。
 気を取り直して、僕は質問する。
「それで、犬桜が学園七不思議である理由とは?」
 犬は、邪と僕にしばし見つめられると、嬉しそうに一度くぅんと鳴き、桜の樹をぴょ
んぴょんと駆け上がり、そして消えた。僕は自分の目をこすった。
「それは、諸君ら新聞部がP2と呼ぶものが、時と場所さえ選べば、誰の目にも見える形
で顕現するからでおじゃろう」
 また風が吹き、桜の樹がざあざあと揺れる。扇子を構えて、邪はほほほと笑う。僕は
必死で記憶に集中し、メモ帳に今起きた体験を記述する。
 己の目を信じるならば、この桜の樹の下には――確かに犬が埋まっているのだ。

「最終バスが行ったあと」
179この名無しがすごい!:2011/03/29(火) 18:46:05.20 ID:l9gn58Em
「最終バスが行ったあと」

深夜午前零時十五分
駅から最終バスが発車した
俺はそのバスを見送る
バスの中にはさっきまで一緒にいた彼女が乗っている
さっきまで、黙ったまま見つめ合い別れた彼女
バスがロータリーから出て最初の交差点で右折した
と、同時に耳をつんざくような音がした
さっき右折したバスから黒煙が上がっていた
バスがガス爆発したのだ、違った
とにかく黒煙がもくもくと上がっている
俺は急いでバスへと走り出した
まわりの人たちも走り出す
バスの正面に大型トラックが突っ込んでいた
バスの中ほどまでトラックは食い込み、トラックの後部から炎が上がっている
隣りに鋳たおっさんが携帯を取りだし、電話している
おそらく消防か警察
俺はバスの側により、大声で彼女の名前を叫んだ

「始発バスが発車するまでに、出来ること」
180この名無しがすごい!:2011/04/03(日) 15:05:40.23 ID:8JZXQ4m9
「始発バスが発車するまでに、出来ること」

 4月4日。僕は初めて高校に登校する。今日は入学式がある。遅刻は許されない。
 親の車に乗り、最寄りのバス停ではなく、バスの停留所に向かう。到着。
 そこには、既にエンジンをスタートさせ、暖房を効かせたバスが停車している。
まだ運転手の姿は無い。発車前に、短い休憩を取っているのだろう。
 バスの扉を押し開け、中に入る。中は暖かい。扉を閉める。最後尾まで歩き、
誰も乗っていないことを確かめる。僕が一番乗りだ。
 最後尾の一つ手前、扉の側の向かいに、僕は陣取る。誰が入ってきたとしても
こっそり目視できる位置だ。そして、僕は待つ。
 ドアが開き、誰かが入ってくる。ショートカット。女子の制服。僕と同じ学校だ。
「おはよう」
 僕は一言声をかける。予想外の挨拶に、彼女は吃驚したようだった。ある意味で、
僕はこの反応を楽しむために、早めにバスに乗りこんだのだった。
「おはよう。同じ学校なんだね」
「うん。よろしく」
 互いに名乗りこそしないが、また何度か会う機会もあるだろう。入学初日として
は、悪くない。
 それからぽつぽつと乗客が増え始め、僕たちは学生や社会人の中に埋もれて
いく。発車の5分前に、バスの運転手がやってきて、バスの料金表示パネルの
電源を入れる。僕はガムを取り出し、口に放り込んで、噛み始める。噛んでいる
うちに、バスの発車時刻になる。
「始発バス、出発します」
 運転手が無線機に向けて呟き、バスがゆるゆると動き始める。僕は横目で
さきほど挨拶した彼女を見やる。彼女は、携帯プレイヤーのイヤホンから
流れ出る音楽に、目を閉じて聴き入っているようだった。
 僕はガムを噛みながら、彼女がどんな曲を聴いているのだろうかと想像した。
もしまた早朝のバスの中で出会ったら、それを質問してみることにしよう。

「早期覚醒」
181この名無しがすごい!:2011/04/06(水) 22:56:44.53 ID:ZrjM0BgM
「早期覚醒」

気が付くと両親がいなかった
気が付くと友人たいなかった
気が付くと・・・僕を守ってくれる人が誰もいなかった
気が付くと・・・・・・・・僕の周りから人がいなかった

牧人新が自分の変調を気付いたのは小学校6年の頃だったと思う
夏休み直前の教室で、僕はキレたのだ
隣り席に座っていた、仲のいい友達に・・・キレた
キレたきっかけは今に思えば幼い
ただ、親友が僕の大切な消しゴムを折ったから
そう真ん中からぽきりと消しゴムを折った
それを見た瞬間、僕は席から立ち上がり親友を殴っていた
僕の拳は彼の頬に当たり、口の中で何かが折れる音がした
倒れる彼にまたがり僕は彼の顔を殴った、何度も何度も殴った
教室は静まりかえり、先生が僕を羽交い締めにし僕の暴走を止めた
僕が殴った親友・・・華が変な方向にまがり、口からは血の泡を吐き出していた
目からは大粒の涙をだし、目の周りには青紫のクマが出来ていた

僕は先生に連れられて校長室にいった
校長室には校長と教頭、学年主任、そして僕を止めた先生が僕を睨んでいた
校長たちの説教は数時間続き、眠くなってきたころ母親が校長室にやってきた
先生が読んだのだろうか、母親は目に涙を溜めながら何度も何度も頭をさげいた

学校からの帰り道、僕は母親とラーメン屋に入った
普通の赤暖簾がかかているラーメン屋
間違ってもネットで評判にならないタイプの店
僕と母さんはラーメンを頼んだ
母さんの目はまだ赤く腫れていた
僕は悲しくなり素直に謝り、言い訳をした

「続きはまた明日」
182この名無しがすごい!:2011/04/07(木) 01:50:18.18 ID:MR5d4b/7
「続きはまた明日」

駅舎のあかりを消した私は、社員寮へ歩いていた
私が車掌として乗っていた電車は、一日の疲れを駅でほぐしているようだ
朝から呻らせていたインバータも、今は眠りについている
「はぁ……」
今日もよく、働いた。自分で自分をほめてやりたいくらいだ



そういえば、私が大学の仲間とキャンプしたとき、深夜に列車がはしる音を聞いた記憶がある
規則正しく、しかしながらどこか人間臭いように感じる足音だった
あれももう、二昔も前になってしまった
「光陰矢のごとし、か……」
こうやって車掌として鉄道業務に関わると、あの列車の運転士がどれだけ辛いかがわかる
いまや主流になりつつあるワンハンドルではなく、加速・減速と二つのハンドルをうまく使って動かしているのだ

自分には、できない仕事だ


しかしながら、こうやって車掌をしていると自分もなかなかすごいことをやっているのだな、と思う
田舎の駅にいけば、子どもからは羨望と尊敬が混じった瞳でみつめられ、街の駅ではよく質問をされる
これも、立派なことなんだろうか

遠くで規則正しい足音が聞こえた
私は目をほそめて夜間停泊している電車をみる

――走りたいか、明日も
――ああ、そうだな
電車がそう、答えた気がした


「そうだな……でも」
「続きはまた明日だ」
じゃあな。いつかまた、会おうじゃないか

「仲直り」
183この名無しがすごい!:2011/04/09(土) 22:21:01.48 ID:xIa4E5JY
「仲直り」

 人類とフォーリナーが戦闘を開始してから、200年が経つ。
 人類とは異なる価値観を持つフォーリナーたちは、宇宙に進出した人類を見つけ次第、
片端から駆逐していった。人類はこれに対抗するために<大同盟>を結成。人類全体は、
いやおうなしに宇宙戦争へと駆り立てられた。
 フォーリナーテクノロジーの解析によって、技術力の差を徐々に埋めた人類は、宇宙
艦隊を創設。建造された宇宙船の数は、大小合わせておよそ10万隻。配備されたのは
100万発の核ミサイル。人類は、種が滅びる前に、かろうじてフォーリナーに戦力的
に追いついたかに見えた。
 だが、それを倍するフォーリナーの船団がワープアウトしてきたことで、人類は絶望
的な戦いを強いられることになった。相次ぐ破滅的な会戦の後、フォーリナーと人類は
互いに消耗し合った。宙域は核の放射能によってほぼ永久に汚染され、戦線に近いコロ
ニーは生物の住めない廃墟と化した。
 戦争は人心をも荒廃させた。一生を不毛な戦争の中に生きるという苦痛は、人類とい
う種をも蝕み始めていた。子供は生まれながらに兵士となることを期待された。人類を
人類たらしめていた独自の文化の数々は、あまりにもか細く弱っていた。
 そんな中、突如、講和への道が開かれた。
 フォーリナーの言語解析研究がついに実を結び、完全とまではいえないものの、会話
を行える翻訳機――ほとんど人工知能に近い――が完成したのだ。
 それまでにも、人類は何度も説得を試みていた。フォーリナーが知的生命体ならば、
何らかの講和の道があるはずだと信じて。
 時にわざと捕虜になり、フォーリナーの生体を観察することもあった。だが、フォー
リナーたちは捕虜の前に姿を見せず、また、正確には、捕虜を一切取らなかった。捕虜
は皆、隔離され、20時間以内に殺されるのだs。
 だが、今回は言葉という武器がある。フォーリナーの言葉で、講和の道を訴えること
ができる。誰もが、戦争が終わることを期待した。
 全宙域に、全帯域に、最強度で響き渡る電磁波。それが乗せるのは、変調された、フ
ォーリナーを真似た疑似音声だった。
 「仲直りをしましょう。仲直りをしましょう。仲直りをしましょう……」
 そして、ついに200年間の沈黙を破って、フォーリナーは人類に答えた。
 「仲直りをしましょう」
 その一言の後に、全ての戦線に沈黙が訪れた。どこにも核ミサイルを撃つ船はいな
かった。どこにも陽電子砲を放つ船はいなかった。どこにもレーザーを放つ船はいな
かった。本当に一切の砲声が止んだのだと、後に人類側の提督は語っている。
 人類はその日、戦争に、フォーリナーに、否、不毛なる闘争の時代に勝利したのだった。

「猫と雷鳴」
184この名無しがすごい!:2011/04/10(日) 14:54:53.39 ID:fRElr38b
「猫と雷鳴」

春、深夜
にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー
猫が鳴いている
発情きだろうか、かなりしつこく鳴き続けている
にゃーにゃーにゃーにゃごーにゃぎょー
別の猫が返事を返す
ぶしゅーーーーーにゃ!
どうやらケンカが始まったようだ
ざーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ
唐突だが雨が降り出した
まさかの雨だ
春の長雨ともいうし、明日一日雨かもしれない
雨が降り始めても猫たちのケンカは継続中
発情で交尾相手を探してたんじゃないのかい!と突っ込みたくなる
ゴロゴロゴロゴロ、ガッーーーーーーーーーー!
街が一瞬で暗くなった、どうやらどこかの送電線に雷が落ちたのだろうか
それと合わせるように、サイレンの音が聞こえ始めた、警察かはたまた消防車、救急車か
俺は夜空を見上げる
どんよりとした厚い雲が空を覆ってい、雨粒が落ちてくる
「はぁ、帰ってねよう」
俺は家に向かって歩き出した

「目玉焼きには醤油、ラーメンは魚介醤油味」
185この名無しがすごい!:2011/04/11(月) 20:29:37.11 ID:Ihvdz8kT
私の友人には意味不明なこだわりがある。
先日、朝食の話題になり、私が「目玉焼きは塩胡椒に限る」と言えば、「目玉焼きには醤油だ!」とキレられた。
今日の昼にはラーメンを食べに行ったが、味噌ラーメンが売りの店で醤油ラーメンを頼んだ。アホか。
「鶏ガラじゃねえか!」と彼は怒り、ほとんどを器の中に残して行った。
店を出てから聞くとラーメンは魚介醤油味一筋らしい。
同じようなものばかり食べていて飽きないのだろうか。
今日を振り返り気付いたことがある。彼は醤油信者だ!
そう気付いた時には時すでに遅し。私は濃口醤油のように真っ黒な服を着た集団に真っ黒な車に乗せられて、どこかに運ばれてしまった。
この数週間後、日本で醤油の消費量が跳ね上がるとは経済ジャーナリストも予測出来なかった事態である。




「まるでマレーシア」
186この名無しがすごい!:2011/04/12(火) 10:20:36.40 ID:VYcyAM9B
「まるでマレーシア」

「こんにーちは、おげんきーでーかー? わたしはーぺんでーす」
目の前にいる自称マレーシア人が俺に挨拶をくれた
満面の笑みってやつで
俺はそのまま奴の横を素通りして、ポケットからタバコを取り出し火を付ける
「のーーーーーーぅ! スモークはヘルスにバッドね、ベリーベリーバッドね」
男が大げさに手と首をふりながら俺からタバコを奪う
奪ったタバコはすぐに地面に投げ捨てられる
男はタバコを踏みつけ、何度も何度も踏みにじる
「おい! 人のタバコに何しやがる」
「なぜ怒るのでーすか? ここはパブリックスペースね。みんなの共有空間、スモークよくないね」
いつもこんな調子なのだ、話にならない
俺は話すことを諦め歩き出す
そうここはマレーシアンスパ
まるでマレーシアにいるようなリゾートスパ
なぜマレーシアなのか、よく分からないが、値段が安いので俺はよく利用している
そしてさっき俺のタバコを取り上げたのは、高校から友達でここでバイトしている男
生粋の日本人だ
バイトの規則でたどたどしい日本語を使わなければならない
かわいそうにあんなへんてこな日本語だと余計なトラブルも発生するだろうに
俺は手を振りながら歩いて行く

「ユーロビートは彼女の青春」
187この名無しがすごい!:2011/04/12(火) 15:56:04.19 ID:c5ocApLs
「ユーロビートは彼女の青春」

 ユーロビートのCDを全部焼いたのは、彼女が僕の元を去ってからちょうど六ヶ月が
経ってからだった。
 三年間の遠距離恋愛。現実には数カ月に一回しか会えない彼女と、僕は必至でコミュ
ニケーションした。mixiでの交換日記のような行為、Skypeでのチャットと通話。
 僕はその時々の服装で写メを送り、彼女に評価を求めたりした。それはおおむね
不評だった。もっとかっこよくならないと捨てちゃうぞ、と彼女は言った。
 彼女がユーロビート好きだと分かってから、僕はユーロビートのCDを集め始めた。
 そして、音楽プレイヤーを使ってmp3形式のファイルを抽出して、彼女にSkypeのファ
イル転送機能で贈った。違法だと分かっていたが、なかなか会えない彼女への、僕なり
のプレゼントだった。彼女を繋ぎとめておくために、僕は新しいCDを買い続けた。
 彼女が別れを切り出してきたとき、僕は恐れてきた日がついに来たことを悟った。
遠距離恋愛は、大抵いつかは破局するものだ。僕にはそれを止めるための手段も、
金も、地位も、持ち合わせていなかった。
 オーケー。いいだろう。僕は失恋した。これは予定調和だ。有り得るべき事態が起
こっただけだ。それでも、僕の涙は止まらなかった。
 もう一度言おう。ユーロビートのCDを全部焼いたのは、彼女が僕の元を去ってから
ちょうど六ヶ月が経ってからだった。
 もう一度やり直したいと彼女から連絡が入ったのは、その三日後だった。
「もうCDは無いけど、それでもいい?」と僕は聞いた。
「当たり前でしょ」彼女は即答した。
 僕には少し意外なことに、彼女が好きだったのは、音楽ではなく、僕自身のほう
だったのだ。

「ジェット☆コースター」
188この名無しがすごい!:2011/04/14(木) 08:32:19.23 ID:IMECQCPo
「ジェット☆コースター」

「ジェット☆コースターなんです」
 彼女がにこやかに言うと、僕の手を取って引っ張る。確かに、目の前にそれが
ある。僕らは、順番待ちの列の後ろにつく。
 でも、発音に違和感があったな。
「ジェットコースターだよね?」
「だから、ジェット☆コースター、なんです」
 そう言う彼女は、無邪気な笑みを見せる。頬が少し赤らんでいるのは、春の
日差しが案外強いせいか。わずかに汗ばんだ額に、後れ毛が何本か、張り付いて
いる。彼女はそれをハンカチで拭くと、もう一度僕を見上げる。
 彼女の言葉は、今ひとつわからない。でも、そのほほえみを見ると、それ以上
尋ねるのもはばかられた。
「ほら、来ましたよ」
 確かに、目の前に期待が来ている。僕らは隣り合った席に腰を下ろし、バーが
膝に降りるのをじっと見守る。期待が、ごとりと一つ、大きめの音を立て、
それからゴンゴンと唸りながら動きだし、やがて滑り始める。
 終点について、僕らは再び地上に降りる。足元がふらふらだ。彼女は意外と
平気なようで、僕の腕を引っ張って、ベンチまで連れて行ってくれた。
「待ってて下さいね。ジュース買ってきます」
 彼女の後ろ姿を見て、ふと、笑い出しそうになった。そうか、これが僕らの
「初☆デート」なんだものな。

次、「カエルにバックドロップ」
189この名無しがすごい!:2011/04/14(木) 08:44:59.41 ID:IMECQCPo
>>188だけど、ごめん
×期待 → ○機体
190この名無しがすごい!:2011/04/14(木) 19:13:25.59 ID:7Tcsvj0Y
「カエルにバックドロップ」

「カエルにバックドロップをかましたいんです!」
TVに写るアイドルいった、笑顔でいった、真面目だった
司会者はぽかーんとした顔をしていた
司会者の隣りに座っている局アナの笑顔が引きつっていた
アイドルは笑顔で「カエルにバックドロップって素敵じゃありません?」
外野の観客達はざわめき始めた
アイドルの笑顔だけが眩しかった
後に世界的哲学問題に発展していくとは、この時、誰も知るよしがなかった

と、ある哲学者が「カエルにバックドロップ」の意味するところ書いた本が出版された
世界的大ヒットになり、なぜか映画化され世界的ヒットになった
世界に命題を投げつけた張本人のアイドルは、その後共演した俳優と結婚した
二人子供を産み、子供が成人する前に離婚した
離婚理由は私はアイドル、一生アイドルなのだから家庭にいちゃいけないの
離婚した彼女は再びアイドルの階段を登り始め、CDが年間売り上げ1位になった
そして彼女はインタビューでこう聞かれた
「カエルにバックドロップ」とはいったいなんだったんですか?
聞かれた彼女は不思議そうな顔で答えた
「そんなこと知りませんよ、大体何なんですかー?カエルにバックドロップって」
彼女は自分の発言が世界的な難問になったのも知らずに結婚し子供を産み離婚しアイドルに返り咲いたのだった
そして彼女は笑顔でいった
「焼き芋には男爵いも」

「焼き芋には男爵いも」
191この名無しがすごい!:2011/04/15(金) 13:24:12.69 ID:H+RQGG3U
「焼き芋には男爵いも」

 ある秋の日曜日。俺達は真昼間から公園の落ち葉をかき集めて、焚き火を
しようとしていた。本当はルール違反だが、この公園にルールを強制する輩はいない。
 そうこうしているうちに、友人がアルミホイルと芋を買って戻ってきた。
「おい。俺は焼き芋をするといったんだぞ」俺はうめき声を出した。
「だから芋を買ってきたじゃないか」
「これはジャガイモだろう?普通は焼き芋といったらサツマイモじゃないか」
「はあ?焼き芋といったらジャガイモだろう?」
 俺は考える。友人がおかしいのだろうか。それとも俺がおかしいのだろうか。
それとも村上春樹の最新作1Q84のように、この世界のほうが変わってしまったの
だろうか。はは。まさか。そんなはずは。
 俺が空を見上げると、月が二つ見えた。
 いや、そんなはずはない。俺が村上春樹ワールドの住人になる必然性などは
ないはずだ。
「おい。地球を回る衛星の数はいくつだった?」
「何言ってるんだ。二つに決まっているだろ」
「惑星に二つの衛星が存在する確率は天文学的に見るとレアケースだよな」
「そうだよ。でも存在するんだからしょうがないだろ。そんな話は置いといて、
さっさと芋を焼こうぜ」
 ジャガイモの焼き芋は、ほくほくしていておいしかった。俺はどうやら
この世界に溶け込むことができそうだった。

「白い鴉」
192この名無しがすごい!:2011/04/16(土) 13:54:18.48 ID:Dg0ameDM
「白い鴉」

物の本によるとかつての日本には白い鴉がそこら中にいたらしい
スズメと並びよく見かけたと書かれている
スズメを串刺しにして炭火で焼く料理が焼き鳥屋にあるが
それと同じく白い鴉を串刺しにして焼いて食べていたそうだ
なかなかさっぱりしていて美味だと書いてある
そこら中にいるから、みんな競うように採り食べた
その結果、白い鴉は絶滅したと思われそうだが
実は進化し、普段我々がよく目にする黒い鴉になったそうな
そんな話を授業の合間に先生がしてくださった
話を聞いた生徒たちはみな一様に驚いたそうな
その日、私は風邪で寝込み家にいたので先生から直接そのお話は聞けなかった
学校帰りに寄ってくれた親友が教えてくれたのだ
私は大層その話に興味を持ち、家中の百科事典をひっくり返し読みあさった
百科事典には白い鴉の記述はなく、私は祖父の代から本棚のすみっこに置いてあるある本を開いた
知識の泉という本のタイトル
タイトルにある通り謎を持った人間がその本を開けば、たちどころに謎が解決すると死んだ祖父から聞かされた
なぜそんな便利な本があるのか家人の誰も知らない
とりあえず本を開き白い鴉の記述を探した、すぐに見つかった
そう上記通り、日本中にいたと書いてあった
私は顔を本から上げ、窓の外を見た
何か白い物体が数体、庭の木々の枝に留まりこちらを見ていた

「最終決戦、運命の日彼女は僕に告白した」
193この名無しがすごい!:2011/04/16(土) 15:03:44.73 ID:7nkp+Sfq
「最終決戦、運命の日彼女は僕に告白した」

 人類とフォーリナーの劇的な「仲直り」事件のあと、フォーリナーとの間に結ばれた
和平条約。その条約に基づき、人類とフォーリナーとの戦闘は、ヴァーチャル空間にそ
の場を移していた。
 ゲーム。そう一言で呼ばれるある種の遊戯が、銀河の所有権を決める。理不尽なよう
だが、人が死なない次世代の戦争として、現在ではこれが一般的になっている。
 僕は十二歳でそのゲームを極めた。隠された相手の手の内も、手に取るように読めて
しまう。だが、退屈だと思ったことは無い。ゲームの勝敗を決めるのは、技術もさるこ
とながら、運が大部分を占めていることに変わりはなかったからだ。
 人類のランキングのトップを走る僕は、通算成績では圧倒的に勝ちこしてはいたが、
やはり常勝不敗という訳ではなかった。実際、今日も敗北を味わった。いつものよう
に、ゲームのヘッドセットを外す前に、自分のプレイングをリプレイし、負けたゲーム
の反省点を洗いだす作業を行う。
 明日。フォーリナーとの一連のゲームが始まる。人類のネットワークでのシミュレー
ションではない、フォーリナーとの直の対戦が。そんな時、一通のメールが届いた。
 簡素なメールだった。ただ、好きです。付き合ってください。と書いてあるだけの
メール。僕あてに大量に届くファンレターの中で、なぜかそのメールだけが目を引いた。
 リョウコ=ヒラサワ。日系人だ。確か、自分は一度も通ったことはないが、一応の
籍を置いている小学校の同じクラスにそんな名前の子がいたと記憶している。僕は
一考した。
「僕が明日のゲームに勝ったら、君と付き合うことにしよう」
 なぜフォーリナーとの最終決戦の前日に、そんな軽率なメールを返したのか、今でも
よく分からない。僕の手紙を極秘に検閲している政治家たちの顔は、青ざめていること
だろう。明日、僕は銀河を賭けて戦うのだ。私情は一切許されるものではない。
 確かに、僕はそのくだらないメールを無視すべきだった。だが、手が勝手に動いた。
 僕は一瞬、その無意識の流れに身を任せた。気分は、悪くない。

 一夜明け、決戦の日。そこには一つだけはっきりしていることがあった。
「ツモ!!国士無双(ライジングサン)!!役満!!」
 僕は運命の日、この長い宇宙の歴史の中で、最高のツキに恵まれていた。

「格安ツアーに騙されて」
194この名無しがすごい!:2011/04/17(日) 00:15:50.96 ID:QQrafLT8
「格安ツアーに騙されて」

「格、これはどういう事なんだ?」
「そんな事言われても、なあ? 俺に振るなよ。先に返事したのはお前だろう、安」
 二人がいるのは南の島。白い砂浜と椰子の木。椰子の葉で屋根を葺いたコッテージ。
典型的な南国の観光地の風景だった。ただし、見かけだけは、だ。
「南の島のバカンス、やってみない?」
 そんな風に誘ったのは、二人の共通の女の友人である津和子、通称ツアーだった。彼女は、
知り合いの伝手で定員が割れたので、南の島のバカンスコースにただで補充があると二人に
言った。彼らは大喜びで参加を希望したのだ。
 で、行った先は、何と国内。しかもバカンスではなく、バカンスを演出する仕事だったのだ。
文句を言う暇も与えられず、あっという間に分担を説明され、気がつけば働かされていた。
 もっとも、出費はないし、三食も宿舎もついている。その上、南国を演出する手前、パイナッ
プルやらパパイヤなどの余り物も味見させて貰えた。その意味では、南国のバカンス気分の片鱗
はあったかも知れない。
 一週間後、戻ってきた二人を迎えたツアーは、にこやかな顔で言った。
「楽しかった?」
 二人は、何かを言いかけて、それから顔を見合わせ、目と目で話をして、ため息をついた。そし
て返事したのだ。
「ああ」「まあな」

次、「片栗粉に出来る事」
195この名無しがすごい!:2011/04/17(日) 00:23:57.28 ID:QQrafLT8
ごめん、2つ前のお題で書いたので、これもさらさせて。
ルール違反かも知れないけど、ごめん。

「焼き芋には男爵いも」

「そうかあ? 焼き芋はサツマイモだし、男爵ってジャガイモだろう?」
「焼き芋がサツマイモだって、そんな事、一体誰が決めたんだ?」
 彼女はそんな風に言い返してくる。腕組みをして、顎を上げて、威張って僕を
見上げる。議論好きの虫が暴れ始めたらしい。なら、受けて立たざるを得まい。
「じゃあ、そのあたりの人間に聞いてみなよ、サツマイモ以外を挙げる奴はいない
だろう。断言していいね」
「そうだろうね」
 彼女は涼しい顔だ。
「しかしだ。ジャガイモを焼いて食べるとする。その時、それを何と呼ぶのか?」
「え? えー。焼きジャガイモ、かな?」
「では聞くが、そんな料理の名を聞いた事があるのか?」
 いや、それは聞いた事がないが。と言うより、ジャガイモは焼いて食べないだろう。
「そもそもジャガイモは皮を剥いて水でさらして食べるじゃないか。焼いて食わない
んだ。その設定がおかしい」
「そうだな。ジャガイモにはソラニンという毒性成分があるからだ」
 あいかわらず、無駄に博識だ。この小さな身体のどこに、それだけのものが詰まって
いるのだろう?
「だから、仮にだ、ジャガイモの中でソラニンの含有量が少ないのが男爵であるなら、
ジャガイモを焼いて食うなら男爵がいい。そうはならないか?」
「……うむ。確かにな」
 これはいけない、言いくるめられてしまいそうだ。だが、何か、大きな間違いがある
ような……そうだ。
「ちょっと待て。その仮定が事実かどうか、全然わからないじゃないか」
「そうだ。だから、今日、私の家で試してみないか?」
「え、それは……」
 彼女は、急に横を向いて、早口になった。その頬が紅い。
「何度も言わせるな。うちに来ないか?」
 僕の心臓が急に暴れ始める。もしかすると、少し声が震えるかも知れない。
「ああ、行くよ」
 翌日、僕たちは、二人とも腹痛で学校を休んだ。
196この名無しがすごい!:2011/04/17(日) 23:17:17.77 ID:WF3rNcaz
「片栗粉に出来る事」

ウチの大黒柱の冴えない親父がリストラに遭った
来月末には会社を追い出される
このままでいくと再来月には無収入一家のできあがりである
ちなみにウチは標準的四人家族
父、母、俺、妹
父はこの不況でなければ定年退職までつとめられたはずの普通の人
母はパートに出るも、同僚と揉めてすぐに辞めてしまう困った人、よくいえば専業主婦にぴったりな人
俺は高校卒業後、浪人しながら親が進める大学にいくために予備校通い、おそらく来年もダメ
妹、この両親になぜ生まれたのかと考えてしまうほどかわいく頭がよく回転する子、ちなみに俺には懐いていない
こんなどこにでもある家庭の大黒柱の親父が職を失った
親父は青ざめ、お袋は泣いた、しかしこれは現実なのよね、しゃーない
俺はいやがる妹を部屋に呼んでこれからどうなるか分からないから覚悟するようにと告げた
妹はそんなこと分かってるわよとぷいとそっぽをむいた
それから半月後
親父は会社に出勤しなくなった、リストラにあったわけだし行きたくない気持ちも分かるけど
まーなんだ辛気くさい顔で家にいられても困る
俺は妹の手を取り、家を出て駅前のファストフード店にいった
知ってるか?少し前まではファーストだったんだぜ、ファストなんていってる奴はいなかった
そんなことはどうでもいい、俺は妹に先日発売になったばかりのセットメニューを頼み、俺はコーヒーSを頼んだ
客席の端っこに俺たち兄妹は陣取った
互いに頬を紅くしながら見つめ合う
そう、俺がいやがる妹を部屋に呼んだ夜……妹と結ばれたのだ
妹に家の状況を説明してるはずだったが、気が付くと妹が濡れた瞳で俺を見つめ
自分の唇を怪しくなめ回していた、俺はそれに答えるようにキスをし……
俺たち兄妹はただならぬ関係になった
この後、妹は自分の貯金通帳を広げ、俺にいくら用意出来るとと聞いた
ファストフード店を出ると駅に向かいそのまま隣り県の主要都市に電車で向かった
電車から降りると俺たちは駅前の不動産屋に向かった
そう、二人の新しい家を探すために
妹のお腹には新しい生命が宿っていたのだった

「彼女は生徒会長」

197この名無しがすごい!:2011/04/20(水) 09:54:24.18 ID:DhfzxdV7
「彼女は生徒会長」

「実はよ、俺の彼女、生徒会長なんだぜ」
 そう言ってにやりと笑ったのは、古い友人だった男だ。小学校低学年まで家が
近くて仲がよかったのだが、家の事情で転校して疎遠になった。それですっかり
忘れていたのだが、高校二年の今年、ふとした弾みで、それが彼である事がわ
かったのだ。俺は懐かしさに手を握り、彼も握り返してくれ、それからの事を
あれこれと語ったあげく、彼が言ったのがこの言葉だった。
 俺はそいつの顔を見直して、首を捻った。ミンミンゼミがあくびをしたような
顔だちで、それに、成績が俺以上に低空飛行なのも知っている。性格がいいとの
評価も聞いた事がない。生徒会長は美人でスタイル抜群、その上に常に冷静な
切れ者との評判だ。どう考えても釣り合わない。
「嘘だろ? 信じられないぞ。それに、本当なら、俺だって聞いた事がありそう
なものだぞ」
 すると、奴は眉をひそめて、それから納得顔で頷いた。
「ああ、ああ、違うよ。この学校の会長じゃない。あれは恐ろしい女だからな」
 それならわからないでもない。でも、うらやましい話ではある。
「それじゃ、どこの高校だ?」
「いや、それがな」
 高校じゃないのか? 中学校か? 中学生が相手とは、たちが悪い。
「どこの中学校だ?」
「ああ、いや」

 彼はそう言って、それから声を潜めた。
「○○小学校だ」
 あとで警察に連絡を入れようと、心に決めた瞬間だった。

次、「カラスが勝手でしょ」
198この名無しがすごい!:2011/04/20(水) 18:50:50.40 ID:IGQyu6vM
「カラスが勝手でしょ」

毎朝鴉の鳴き声で起こされる
いつの頃からだろうか、街中にカラスがあふれかえりだしたのは
いつの頃からだろうか、街中からスズメの姿を見なくなったのは
私は真っ白な天井を見ながらそう思った
ベッドで横になったまま私は今日のスケジュールを考える
何か約束はなかったか、どこかいく予定はなかったか、何か食べたい物はないか
大事なことからたわいもないことまで一通り思い出したりする
約束がある場合は時間にその予定を入れ、なければ効率よくスケジュール消化出来るように組み立てる
と、いっても適当に割り当てるだけなのでほんの数分で終わる
スケジュールが出来ると、起きて、下着を着ける
睡眠の時は何も付けない、束縛されるのが大っ嫌いだから
下着を着け、室内着を着てカーテンを開け窓を全開にし空気を入れ換える
室内の淀んだ空気を入れ替えないままだと一日気分が悪い
そのまま冷蔵庫の元まで行き、ミネラルウォーターを飲みTVを付ける
かーかーかーかー
カラスが鳴いている
一羽ではない
何話も何話も鳴いている
まるで昔あった巨匠の映画のようだ
「カラスが勝手に鳴いている、カラスの勝手でしょかーかー」
呟き、私は身震いしてみた
何の意味はない、さて仕事行く支度をしよう

「私の彼はアル厨」


199この名無しがすごい!:2011/04/20(水) 21:27:32.55 ID:aAjgfobm
「私の彼はアル厨」

「見て御覧。素敵な黄金の王冠だろう」と、彼は言った。
 わざわざヨーロッパの職人に依頼して作ってもらった特注品の王冠なのだ。美しくな
いわけがあるだろうか。それはもともとは、神殿に奉納するために作られたものだ。
 私は興味の無さそうな顔をして、バッグから別の黄金の品物を取り出した。こちらは
純金の塊である。それが必要だからだが――わざわざ通し穴まで空けてある。
 重さはどちらも同じだ。
 彼は大きな水槽も用意している。天秤に王冠と純金の塊とを縛り付け――同じ重さだ
から釣り合っている――そのまま水槽の中へと浸す。
 ゆっくりと、バランスが崩れる。僅かだが、王冠のほうが軽い。それを見て、彼は
大歓声を上げた。
「ほら!王冠には銀の混ぜ物があったんだよ!アルキメデスの原理だ!この王冠には
銀が少し混じっているんだ!」
 分かっているとは思うが、そういうふうに王冠を作ってくれと特注したのは、彼自身
なのである。彼はこのような実証実験のために、先祖代々の資産を食い潰してきたのだ。
 今回実証されたのは、アルキメデスの原理。
 私の彼は、この21世紀を迎えても、未だにアルキメデスの虜なのだ。これをアル厨
と言わずしてなんといおう。
 まあ一番の謎は、私がなぜこんな男と付き合うことになったかだ。
 大学の講義で歴史を教えている彼に、少し興味を持ったのが始まりだった。しかし
これほどまでのアル厨だったとは。私はため息をついて、彼の黄金の王冠を拝借した。
「似合ってるよ」彼はおせじが上手い。
「とてお、すごく、似合ってる。美しい」そう言われて、今回の散財を許してしまう。
 いつもそうなのだ。彼はアル厨だが、コミュニケーションが取れないわけではなかった。
「次のパーティーに、これをつけていってもいいかしら」彼は直ぐに肯いた。
 結局、私は彼が好きなのだろう。そのバカっぽいところも、科学者っぽいところも、
金持ちなところも、全部含めて。私は彼が好きなのだ。
 私はパーティーに思いを馳せ、彼の隣で踊る自分を想像した。うん、悪くない。

「200」
200この名無しがすごい!:2011/04/21(木) 09:43:02.26 ID:rmnW5/Z2
「200」

「二〇〇だよ」
 そう言ったのは、俺の妹だ。何が嬉しいのか、目をきらきらさせている。
「だから、何なんだよ」
「だから、二〇〇なのよ。二〇〇になったら、ベスト三出してくれるんだって」
 何だか、両手をぱたぱたさせながら主張する。ペンギンを彷彿させる姿に、
こちらの顔がゆるむ。
「もう、なにがおかしいのよおっ」
 要するに、学校で本を読むたびに読書カードを出していて、クラス全員分の
総数が二〇〇になると、個人別の読書数ベスト三が発表される、と言うのだ。
「私、絶対自信あるんだ。二〇冊くらいは読んでるもん。クラスの人数が三五人、
つまり平均すると一人六冊足らずだから、私、絶対に一位だよね」
「さあ、どうかなあ」
 そうはいかないものだ。俺にはわかる。

 翌日、妹が学校から帰ってきた時、すっかりしょげていた。
「どうだった?」
「信じられない」
 彼女は三位だったそうだ。なら、喜べばいいのだが、その上が凄かったらしい。
二位が四〇冊、一位は何と七〇冊も読んでいたそうなのだ。
 そうなる事はわかっていた。本など読まない子も多いはずだし、読む子は無茶
苦茶に読む。それに、一位は知っていたから。
「こんにちは。兄さん、いますか?」
「あれ、ちーちゃん? そうだよ、お兄ちゃん、あの子がトップだったの」
 やがて入ってきた子は、俺の横にやってきた。
「よう、ちー。トップだったって?」
「はい、兄さんのおかげです」
 俺は、俺の隣にちょこんと腰を下ろしてくる子の頭を撫でてやる。その子も、
嬉しそうに目を閉じて、俺の腕に頭を擂り擂りしている。その様子を、妹は目を
丸くして見ている。
「お兄ちゃん、ちーちゃん、どうして……」
「いや、まあな。なあ?」
「///(はあと)」
 妹は急に立ち上がり、わなわなと震えだした。
「いいもん、五〇〇の時には見返してやるんだから!」


次、「天ぷら粉と唐揚げ粉」
201この名無しがすごい!:2011/04/21(木) 13:28:52.45 ID:q0YI1ljl
「天ぷら粉と唐揚げ粉」

謎の新人類登場により、かつて地球を支配していた旧人類は全滅しようとしていた
旧人類、そう私たち人類である
新人類登場は誰にも予想できなかったし、考えもしなかった
なぜいきなり姿を現したのか、どこからきたのか、彼らは我々と何が違うのか
姿形は我々と旧人類と瓜二つ、つまり手足があり胴がありその上に頭があり、二足歩行し道具を使う
なのに、旧人類には彼ら新人類のことがまったく分からなかった
いつ旧人類に取って代わったのかさえ分からない
気が付いたら隣りの人が新人類になっていた
新人類は旧人類を見ると周到に追いかけて殺す
どうやら無意識のうちに旧人類を追いかけ殺していくようにプログラムされているかのようだった
一人殺され二人殺され、百人殺され、千人殺され、万人殺され…
日を追う毎に新人類は旧人類を殺していく、今日はあの国がなくなった、明日はあそこだと噂が流れる
ニュースでは天気予報の変わりに新人類分布図を解説し始めた
私の家族はなんとか新人類から逃れ、山奥の別荘に逃げてきた
食料も水も豊富にあるから、見つからなければ生きていけるだろう
「ねーパパー、これどっちが天ぷら粉?こっちは唐揚げ粉でいいのかな?」
「ラベルを見てごらん、ちゃんと書いてあるだろ?」
「・・・ラベル?ラベルってなーに?ねえ、パパ、パパをあげたら・・・」
娘の言動がいつもと違った、私は娘の言葉に戦慄を感じた。
そうこの時、娘を突き飛ばしてでも別荘から逃げ出すべきだったのだ
「あげ、あげ・・・パパフリッターにしたらおいしいかな?脂肪分ばかりでまずい?」
娘が背後に隠していた大鉈が見えた、瞬間、私の脳から鮮血が勢いよく飛び散った
娘はいつの間にか新人類になっていたのだ・・・

「あの日見た空の色は」
202この名無しがすごい!:2011/04/23(土) 21:30:58.32 ID:6hHfKJxO

「あの日見た空の色は」

「もう、どうしようもないのか?」
「当たり前よ。別れるほかに、選択肢なんてないわ」
 彼女の声は、冷たかった。
 どうしてこうなったんだろう。春に出会い、すぐに互いに強く惹かれた。夏になる前に、彼が
告白し、彼女は涙を流して、それを受け入れた。
 それから、二人はずっと一緒だった。互いの一言一言が、それは嬉しくて、その度に心躍った。
生活のあらゆる瞬間に、互いを求め合った。
 でも、それが、少しずつずれ始めたのは、夏の終わる頃だった。同じようなやり取りのはずなのに、
いつの間にかなじり合いになり、次第に口論に発展した。求め合いながらも、反発する瞬間が多く
なった。やがて、顔を見合わせるだけで、それが苦痛になった。
 でも、彼は思うのだ。今、目の前の彼女は、あの時と同じ姿だ。それを見て、心の、どこか深い
ところで、あの時の気持ちがうずくように思い出される。自分は、今でもこの女を愛している、
それが感じられるのだ。しかし、二人の関係は、このままでは終わってしまう。何とかならないか?
 ふと、空を見た。今、赤く染まった太陽が、川の向こうに沈もうとしていた。それを見て、彼は
思い出した。彼が告白したのは春、今は秋、だけど、空の様子は驚くほど似ている。
「なあ」
「何よ?」
 女の声は、あいかわらず冷たい。だが、彼はかまわずに続けた。
「あの日見た空の色は、ちょうどこんなじゃなかったか?」
 彼女も、夕日に目をやる。その表情が、何かを思い出すように、少しゆるむ。
 しばらくそうしていて、彼女は再び彼に顔を向けた。
「そう。懐かしいわね。別れにはふさわしいのかも。じゃあ、さよなら」

次、「コスモフリーザー」
203この名無しがすごい!:2011/04/23(土) 22:42:24.99 ID:OsXpnM+b
「コスモフリーザー」

近い将来、日本のある家電メーカーが究極の冷凍庫を作ると予言した小学生がいた
小学生はその冷凍庫を「コスモフリーザー」と名付けた
十数年後、小学生は高校を卒業し、アメリカへ旅だった
留学ではない、アメリカ東部にあるといわれる謎の家電組織に呼ばれたのだ
年収は200万ドル、業績に応じてボーナスあり
彼はアメリカ側が提示した条件をそのまま受け入れ渡米した
両親と彼女や友人は当然大反対をしたが、彼はおかまいなしに契約書にサインをしパスポートを申請し、ビザを取得し航空券を受け取り渡米した
故郷に未練がないといえば嘘になるが、離れるなら早いほうがいいだろうという彼の判断だった
渡米一ヶ月、いまだに両親と彼女から日本に帰ってこいとメールが来る
最初のうちは丁寧に返事をしていたが、だんだん面倒になり放置するようになった
アメリカに渡り、二週間、フランスから来た女の子と仲よくなった
彼女とはよく食事したり、休日を一緒に過ごしたりするようになった
気が付くと一緒に暮らすようになっていたので、日本の彼女にごめんとメールした
返信は三日三晩続いたが、すべて無視した
渡米した月の中旬、始めて学校に行き、学力テスト、一般常識テストを受けた
ほぼ満点を取った彼は、ひとまず実習課に配属され、そこで年齢相応の勉学と、好きな研究をする権利を与えられた
彼はフランス人の彼女をほっぽりひたすら研究に励んだ
論文をいくつも書き、世界的な科学雑誌に投稿したり、学界で発表したりした
やがて世界はコスモフリーザーの重要性を認識し始めた
そうこれがコスモフリーザー歴元年とも夜明けをもたらした少年の日常だった
204この名無しがすごい!:2011/04/23(土) 22:43:47.11 ID:OsXpnM+b
次「未来からやってきた娘」
205この名無しがすごい!:2011/04/24(日) 09:35:20.89 ID:dZUWWm7z
「未来からやってきた娘」

 今日家を訪ねてきた少女が言うには、自分は俺の娘で、つまり俺はこいつのお父さん
なのだという。
 未来から来た証拠として見せられた独立情報端末には、あと10年は開発されないであ
ろう次世代の3Dビジョン機能が搭載されていた。複数のウィンドウに表示された写真は、
俺と彼女のラブラブなツーショットばかり。その中には、いつか行こうと決めただけで、
まだ行っていない場所の写真まで存在していた。
「お母さんが癌で死んだあと、画期的な抗癌剤が発明されたんだ。ベクターウイルスを
媒介に、人工たんぱくから成る癌抑制剤生成装置を生体にインプラントして、一生癌に
ならなくするタイプのやつが」
 注射器一式を使って、その少女は歴史を書き換えるつもりでいるらしい。
「お母さんが死ななきゃいけない理由なんてないんだよ。たった一年、薬の認可が
遅かっただけで、死んじゃうなんて……」
「だから、お父さんが、お母さんを説得してこの注射を打ってよ。ううん、寝ている
ときでもかまわない。歴史を書き換えられれば、お母さんさえ生きていれば、私は
どうなってもいいの。ねえ、お願い。お父さん!」
 俺は娘の言うことがよく分かった。俺だって、彼女を失って生きていける自信は無い。
生き残るのは彼女であるべきだ。だが、現実は違っていた。
「お前は知らないだろうが、実は俺も、末期癌なんだ」
「そんな……」少女はよろめいた。その聡明な頭で、状況を理解する。
 注射器は一式しかない。今ここで俺にその注射を使わなければ、娘である自分が
生まれてくることもない――娘が存在する以上、俺が結婚前に癌で死ぬことはありえない
――俺に注射を打って癌から救うという未来は確定していて、娘を主体に、円環状の
構造を描いている。
「お父さんは、知ってたんだね。お母さんが癌で死ぬことを。知ってて、私を行かせた
んだね……過去の自分を救いに……ひどいよ。あんまりだよ」
 少女は泣き崩れた。俺は少女を強く抱きかかえた。
「彼女は、俺が一生をかけて愛してやる。何の悔いも無く死ねるように。いずれ生まれて
くるお前のために、大量の記録を残す。約束する」
「それでも、私は、お父さんを許さない!」
「許してくれなくてもいい。それでも、お前は俺の娘で、お母さんの子だ」
 俺は抗癌剤の注射を受けた。未来に帰る間際に、娘は言った。
「お母さんのこと、幸せにしてね!絶対絶対、幸せにしないと許さないんだからね!」
 その夜、彼女から一通のメールが届いた。
「私のこと、好き?」「誰よりも愛してるよ。俺は癌なんかじゃ死なない。生き延びて、
お前を絶対に幸せにしてみせる」

「タロットカード犬」
206この名無しがすごい!:2011/04/24(日) 12:53:42.16 ID:E5SoAd97
「タロットカード犬」

「よろしくお願いします」
新宿駅西口付近。
会社帰りで疲れた頭が、テキトーに占い師を冷やかしてもしてやろうという思考を方針づけたのは、そんな摩可不思議なことでもないだろう。
「好きなカードをお選びください」
場に何芒だかわからないタロットが配置されている。俺はなんとなく目にとまったそのカードをめ
「俺ターンドロー!犬のカード!」
くろうと思ったのに、前方の占い師がなにやらそう叫びながら、俺から取り上げるようにめくり、場へたたきつけた。
「……」
「………」
「…………」
「…………あなたのターンですy」
「いや仕事しろよ?」


「帰ってきたガリガリちゃん(擬人化)」
207この名無しがすごい!:2011/04/24(日) 14:04:06.40 ID:kWpfsHL1
「帰ってきたガリガリちゃん(擬人化)」

西暦2213年夏
人類の大半が死滅して約二百年
かつて人類が築き上げた高度文明は消え去り、高層ビル群などもほぼ消え去った
太陽からは容赦ない日差しが降り注ぎ、日中平均気温50度、夜になると-30度になった
そんな状況でも生き残った人類は過酷な環境に適応し生きていた
ある者たちは洞窟深くに潜り、地底人と名乗り
またある者たちは海に出て行き、海洋人と名乗った
そして、過酷な平野に留まった者たちもいた
平野に留まった人間達は昼間は崩壊した建物の中で日差しから身を隠し
夜になれば防寒具を着込み平野に現れ行動する
彼らの目の前に現れたのは人型だった
「私ガリガリです!よろしくお願いします、あんパン!てへへ」
丸坊主の少年が女の子の声でいった、声はどこか癒される声だった
人型はガリガリと名乗り、手を差しのばす
「握手は嫌いですか?私は好きです、アイスは溶けて変わらずにいられませんけど、それでも好きです」
彼らは人型が何を言っているのか理解出来ずにお互いに顔を見合わした
「アイスは人を愛し、人はアイスを愛する、アカギカンパニーはそうやって人をはぐくみ」
バスン!人型の顔が吹っ飛び首から黒煙が上がる
彼らの一人がランチャーで人型を撃ったのだ
人型が停止するのを確認すると、彼らは来た道を戻り出す
日の出前に戻らなければ高温で死んでしまうのだ

「魔法少女ほむほむパルプンテ」
208この名無しがすごい!:2011/04/24(日) 22:09:13.90 ID:x0JX38mk
「魔法少女ほむほむパルプンテ」

「お待ちなさい」
 男たちはまさに、少女を袋小路の路地に追いつめたところだ。壁にその体を押し詰めると、一人が
彼女の両手を頭の上に押さえ、もう一人が服の襟元にかけようとしていた。そこに、背後から声が聞
こえたのだ。
 慌てて振り向くと、そこに、黒髪の少女がたたずんでいた。美少女だが、その顔には愛嬌のかけら
もない。
 男は、最初こそ驚いたが、相手が少女である事に気がつくと、すぐに表情を緩めた。
「何だ、お嬢ちゃん。今はこの子一人で手一杯なんだ」
「それとも、お前も遊んで欲しいのか?」
 押さえつけられた少女は、救いを求める。
「助けて、お願い、助けて!」
 彼女は、そんな声のすべてを無視して、斬りつけるような鋭さで言い放つ。
「私は魔法少女ほむほむ。悪を許さない」
 そう言うなり、右手を挙げる。どこから現れたのかわからぬバトンがその手にあった。それを一振り
すると、彼女は叫んだ。
「ピピルマピピルマ・パルプンテ!」
 瞬間、その姿が消失した。彼女は、時間跳躍を行ったのだ。次に、どこに出現するのか、それは、
彼女にもわからないのだった。
 男たちは、顔を見合わせた。
「何だったんだ?」
「わからん。ともかく、邪魔はなくなったらしいな」
「いやー、何なの!」
 路地に少女の悲鳴が一声響き、すぐにそれも男の手に押さえ込まれた。

次、「モヒカン刈り=ライオン」
209この名無しがすごい!:2011/04/25(月) 19:32:04.72 ID:ej4JdeVP
「モヒカン刈り=ライオン」

『バーバー・ライオン ☆モヒカン刈ります!☆』

いつもの帰り道、ちょっと気分転換をと、横路地へわがおみ足を流れさせたさきには、そう電
光掲示板をループするオレンジ色の点文字群がとらえられた。
「これは、モヒカン型に刈ってくれるのか、それともモヒカンそのものを刈るのかわからなく
ないか?」
常識的に考えれば無論前者なのだろう。
しかし、電光のほうでなく、出入扉に書かれた『バーバー・ライオン』の文字が、微妙にホラー
映画のタイトルじみたようにただれていて、そんな突拍子もない想起を誘う。
「ま、ちょうど髪伸びてきたとこだし、入ってくか…」
カランカラン!
「すいませーん。散髪お願いしま」
「でるるrrらあ!」
突然、そんな野太い叫声をともなって突きを放たれた日本刀の切っ先だが、俺の首の皮一枚の
ところで制止した。
「……」
「…ちっ。モヒカンじゃなかったか」
「モヒカン『狩り』かよ!」


「ほっぷすてっぷ○○○」
210この名無しがすごい!:2011/04/25(月) 19:44:27.97 ID:v+AmvLqd
「ほっぷすてっぷ○○○」

世界の果てで愛を歌う少女がいるという
果たして愛とは歌えるものなのだろうかという素朴な疑問
私は愛の歌を確かめるべく彼女に会いに行くことにした
図書館やネットで彼女の情報収集した
情報収集の結果、彼女がいると思われる場所は全世界で256箇所
それもほとんどが信じるに足りない情報ばかりだった
私は落胆し、偶然入った喫茶店で新聞を読んだ
そこに目に止まる一文

ほっぷすてっぷ○○○

一瞬、理解不能になった私は手にしていたコーヒーカップを落とすところだった
もう一度、紙面を見る
やはり意味不明な一文が紙面にでかでかと印刷してあった
私はこれは一体何なのだと思い考え込んだ、しかし、やはりというべきか答えが出ない
コーヒーを一気に飲み干し、ウェートレスを呼び、こう告げた

「僕と結婚してください」
211この名無しがすごい!:2011/04/26(火) 01:24:38.75 ID:hLoQC4f+
「僕と結婚してください」

その記念すべき言葉を贈ってくれたのは、自分自身の父だった。
私はため息をつきながら仏壇を眺める。そこには母の遺影。
両親を襲った交通事故さえ無ければ父は今も正常だったろう。
それまでの平和で暖かい生活が脳裏を蘇ったが、形になる前に消えた。

父は正常とは言えない意識の中で、私に母を見ている。
私は正常かもしれない意識の中で、父に答える。

「これなんの音?ベッドの下から聞こえるけど」



212この名無しがすごい!:2011/04/26(火) 12:40:53.33 ID:woA8Gwir
「これなんの音?ベッドの下から聞こえるけど」

かしゃりかしゃり。
そんな金属様の音に、少女は気になってベッドの下を覗いた。
スパン!
「ッ――――――」
あとには、体から脱出を果たした少女の顔が、ごろり、と、
床一面をキャンパスに見たて幼稚な朱絵を描いただけだった。


「夢野久作によろしく」
213この名無しがすごい!:2011/04/26(火) 14:28:23.52 ID:zyrn+dVb
「夢野久作によろしく」

お隣に塀が出来たってねへー
隣の客は牡蠣食う客だ
まんじゅうこわい
僕がそんな歌を歌っていると彼女がいった
「へい!ボーイ!ユアナイスガイ!」
カタカナ英語だった
彼女はこんなんでも帰国子女
アメリカに十年暮らしていた
「あーサンクス!サークルケーサンクスイズフェーマスコメディアン」
とりあえず返事をする
「オーーー!マイグランパーパーゴットファーザー!」
そう意味なんて無い言葉のやり取り、これが彼女流のコミュニケーション
それは置いといて、俺は鞄から一冊の本を取り出した
タイトルは「夢野久作によろしく」
表紙を見るにどうやらハードボイルドみたいだ
本を開き読み始める
隣りで彼女が着替え始めた、いつもの癖だから気にしない
気にしない俺、ハードボイルドに決めてみた

「朝食は牛乳とトマト」
214この名無しがすごい!:2011/04/26(火) 19:12:10.82 ID:+/lIK0cP
 その日は凛吏が家へ泊まりに来ていた。理事長の娘でお嬢様な彼女も
たまには庶民的な生活を味わってみたいとか何とか。
 当然、俺と同じ部屋に寝るわけにもいかないので俺だけ別室で凛吏に
はミディアと一緒に寝てもらっていた。
 〜ミディアの部屋にて〜
「どうして優神さんは、私に振り向いてくれないのでしょう。こんなに
魅惑的なプロポーションをしていて、なおかつエロチックな発言も沢山
しているというのに。どうにか優神さんをエロ好きに」
「ほんっとアイツ鈍いわよね。あたしだっていつもはツンツンしてるけ
ど、たまにはちょーっとデレたりもしてるのよ? やっぱり胸が小さい
のがいけないのかしら」
 二人の美少女は別室の鈍チン野郎へぐちぐち文句を垂れていた。
 いくら主人公は恋愛に鈍いのが鉄則だからといって、彼女らもいい加
減待ちきれなくなっていた。
 ミディアは思う。どうにか優神をエロ好きに。
 凛吏は思う。どうにか自分の貧相なバストを豊満に。
 ふと、思い出したようにミディアが口を開いた。
「そういえば、胸を大きくするには牛乳だとよく聞きますね」
 続いて凛吏も口を開く。
「そういえば、トマトを沢山食べるとエッチなことが好きになるらしい
わね」
 明かりの消えた部屋の中、二人の瞳がキラリと光った。
 〜翌日〜
「なあ、今日の朝飯は何がいい?」
「「朝食は牛乳とトマト」」


「そ、その……自動販売機の下とか?」
215この名無しがすごい!:2011/04/26(火) 19:18:01.72 ID:+/lIK0cP
上のはミス

 その日は凛吏が家へ泊まりに来ていた。理事長の娘でお嬢様な彼女も
たまには庶民的な生活を味わってみたいとか何とか。
 当然、俺と同じ部屋に寝るわけにもいかないので俺だけ別室で凛吏に
はミディアと一緒に寝てもらっていた。
 〜ミディアの部屋にて〜
「どうして優神さんは、私に振り向いてくれないのでしょう。こんなに
魅惑的なプロポーションをしていて、なおかつエロチックな発言も沢山
しているというのに。どうにか優神さんをエロ好きに」
「ほんっとアイツ鈍いわよね。あたしだっていつもはツンツンしてるけ
ど、たまにはちょーっとデレたりもしてるのよ? やっぱり胸が小さい
のがいけないのかしら」
 二人の美少女は別室の鈍チン野郎へぐちぐち文句を垂れていた。
 いくら主人公は恋愛に鈍いのが鉄則だからといって、彼女らもいい加
減待ちきれなくなっていた。
 ミディアは思う。どうにか優神をエロ好きに。
 凛吏は思う。どうにか自分の貧相なバストを豊満に。
 ふと、思い出したようにミディアが口を開いた。
「そういえば、胸を大きくするには牛乳だとよく聞きますね」
 続いて凛吏も口を開く。
「そういえば、トマトを沢山食べるとエッチなことが好きになるらしい
わね」
 明かりの消えた部屋の中、二人の瞳がキラリと光った。
 〜翌日〜
「なあ、今日の朝飯は何がいい?」
「「朝食は牛乳とトマト」」


「ああ、そういや今日は安売りだったな」
216この名無しがすごい!:2011/04/27(水) 08:44:07.13 ID:fLIJx6Fk
「そ、その……自動販売機の下とか?」
「ああ、そういや今日は安売りだったな」
 彼は、我が意を得たりとばかりに、うなずく。
「そうだよ、五台くらい回れば、二〇〇円くらいなら手に入る。二人分のジュースが買えて
おつりが来るぞ」
 そういうと、俺の手を引いて、手近な自販機に向かう。まず、彼が見本とばかりに膝を
ついて、その下をのぞき込む。そっと手を伸ばして、地面との隙間を探った。
「あれ?」
 彼が怪訝な表情を浮かべる。
「どうした?」
「いや、何か……あれ、あ、わあああああ!」
 彼の体が、絶対に入れないはずの、自販機と地面との間のわずかな隙間に、みるみる
吸い込まれていったのだ。慌てて俺は彼の足を引っ張る。しかし、俺自身も、彼に引っ張
られて、目の前が真っ暗になった。
 気がついたとき、そこは異世界だった。それが俺と彼との英雄への道の始まりだった。

「RPGがなんぼのんもんじゃ」
217この名無しがすごい!:2011/04/27(水) 09:03:36.10 ID:ZZZcnbO/
「RPGがなんぼのもんじゃい」

勇者。
俺は勇者だ。
そうだろう。
魔王?なんのことだ。
魔物?なんのハナシだ。
ここはそんなファンタジー世界じゃない。
現実だ。
「っ!対戦車ライフル(RPG)だ!全員散れーっ!」
ドーン!
突然の強襲で俺の所属する一個小隊が散り散りにはじかれる。
「くそっ!トニー!ジャック!スペツナズ!」
ダメだ!みんなLPが0だ!
仕方ない、俺も一度落ちたほうがいいだろう。
―――――――某マンションの一室にて。
「ぐへへへ。RPGがなんぼのもんじゃい。FPS楽しいお」


「ざっくばらばら」
218この名無しがすごい!:2011/04/27(水) 16:14:13.41 ID:2di+C6Qs
「ざっくばらばら」

 ざっくばらんに話せば、僕は死体遺棄事件の共犯者だ。
 彼女から「人を殺してしまった」と電話を受けて、冗談だろうと思いつつ駆け付ける
と、そこにはダンボールに詰められた死体があった。
「マンションの前でこの金髪の人と残りの二人がナンパしてきてね。あんまりしつこい
から、思いっきりぶん殴ったのよ。そしたら、動かなくなっちゃって。しょうがないから
引っ越しの時に使ったダンボールを持っていって、中に詰めて、ここまで運んできたの」
 そのとき僕は彼女の部屋から逃げ出し、警察に助けを呼ぶべきだったのだろう。
 だが、そのステップは大きく省略され、僕らは別の考えに憑りつかれてしまった。
どうやって処分するか。このサイズでは怪しすぎる。小さくしよう。そうしよう。
 そして僕は言われるままに青いビニールシートと肉切り包丁と手袋を遠くのホーム
センターで買ってきて、彼女に手渡した。
 彼女は部屋の床にビニールシートを広げ、死後硬直した遺体をごろんと取り出すと、
ざくざくと肉切り包丁で遺体を切断し始めた。まず腕を肩から切り落とし、次に脚を
膝と鼠径部の二個所で切り落とした。腹部を切開し、臓物をビニール袋に詰めた。
胸部と腹部を切り離す。最後に首を切り落として、遺体は九つの部位に分断された。
 彼女はそれらを生ゴミとして出すことを提案した。もちろんこのマンションではない、
別のマンションのゴミとして、だ。
 彼女のマンション周辺のゴミ曜日は、おおむね統一されている。禁止されている黒い
ビニール袋でも、表面に「生ゴミ」と大きく書いておけば、業者は放置していったりは
しないだろう。
 僕はサングラスをかけて――こんな使い方をするとは思わなかったが――ゴミ出しに
出掛けた。ゴミ置き場を監視するカメラがあるかもしれないが、解像度はたかが知れて
いる。その間、彼女はビニールシートを片付けるのに忙しい。僕が帰って来た時には、
折り畳まれたビニールシートと、風呂に入っている彼女の姿があった。
 僕は、そういった内容を、一か月後に警察に洗いざらいぶちまけた。事件の証拠は
未だに見つかっていない。新聞の一面を飾ることも無い。ただ、僕は罪の意識に耐え
きれなくなったのだった。だが、警察官の反応はいまいちだった。
「ざっくばらばら殺人事件ねえ……」
 君、作家にでもなったほうがいいよ。そう言われて、僕は丁重に警察署から追い
払われた。

「リサイクルサイクル」
219この名無しがすごい!:2011/04/27(水) 19:17:04.83 ID:PgJZwkrd
「リサイクルリサイクル」

仕事がない
ハロワークから紹介を受け応募した数60社
無料求人誌を見て応募した数、もう覚えてない
ネットで求人見て応募した数、やはり覚えてない
もう一年以上働いていない、親に泣きついて生活費だけは仕送りしてもらっている
もういい年なのになさけない
そんな落ち込んでる俺に声を掛けてくれる人がいた
軽トラで街中を走って中古品回収してるリサイクル回収業のおっちゃんだ
余程俺の顔から生気がなくなっていたんだろう
おっちゃんはよく分からねえけど人生捨てたもんじゃねえよ
がんばらなくていい、ただ小さな楽しみでいいから見つけなといってくれた
仕事がないなら、おっちゃんが社長に頼んでやるけどどう?やる?ともいってくれた
俺はおっちゃんの優しさに触れ、泣いた、何年ぶりの涙だろうか
おっちゃんに頭を下げ社長を紹介してもらうことにした
後日携帯に連絡がいくだろうからとおっちゃんは笑顔でいってくれた
おっちゃんありがとう、こんなどうしょうもない俺に救いの手をさしのべてくれて
・・・その時はマジで感動し感謝した

あれから半年
俺はおっちゃんが紹介してくれたリサイクル屋で働いている
いや搾取されている
リサイクル回収に使う軽トラは会社からレンタル月10万、ガソリンなど消耗品は俺持ち
回収してきた商品は分別して社長が値踏みする、思いっきり買いたたかれる
簡単にいってしまえば、社長の軽トラをレンタルして社長が転売するブツを集めてくるだけだ
そこにはエコなどというきれい事はまったくなく
ひたすらにどん欲な金儲けしかなかった
働けば働くほど赤字になっていくシステムによって、俺は社長から借金をしていることになっている
半年でざっと50万近い、なぜって軽トラレンタル料を上回る利益を出せないからだ
もはや俺はこの社長の奴隷といってもいいだろう、近いうちに社長とおっちゃんをどうにかしようと画策している
我が自由のために
ちなみに会社名はリサイクルリサイクルだ、この名前を見かけたら石でもぶつけてやってくれ

「図書館日和」

220この名無しがすごい!:2011/04/28(木) 00:51:59.99 ID:puCqFOVx
「図書館日和」


「にゃにゃにゃ、チェルシーちゃん参上っ。待った?」
街中にある、待ち合わせ場所として有名な時計台の前に佇んでいた
僕の背中をそんな声が陽気に叩いた。
「ううん。全然待ってない。僕も今きたとこだよ」
僕は微笑みながら振り返る。
そこには待ち合わせの相手、チェルシーちゃんが
向日葵のような笑顔をたたえて立っていた。
本当に、いつ見てもチェルシーちゃんは可愛い。そんな
彼女と僕が今日デートだなんて今でも信じられない。
「なーんだにゃ? やけににゃにゃしちゃて」
チェルシーちゃんが怪訝そうに僕の顔を覗きこんできた。
「な、なんでもないよ」
僕は咄嗟に手を振って誤魔化す。
「ふーん。まあいいけどっ。それじゃいこっ?」
「うん」
ぱあっと向日葵すら超える笑顔を見せたチェルシーちゃんに
手を引かれ、僕は絶好のデート日和の中を歩き出す。
繋がれた手を見ながら、僕は確信にも似た期待の感情を膨らませていた。
きっと、今日は最高の思い出がつくれる――。


という話を一人、図書館で執筆する俺。
ふと手を休めて外を見ると、今日の天気は今書いていた
小説と同じでとても清々しい天気だった。
ぼんやりと青い空を見つめ、俺はぽつりと呟く。
「今日は図書館日和だな」


「こういうのって、やっぱ何となく辛いよね」

221この名無しがすごい!:2011/04/28(木) 16:46:33.23 ID:1F20Li3B
「こういうのって、やっぱ何となく辛いよね」

 近頃、昔付き合っていた彼女から電話が掛かってくる。
 彼女はもう結婚していて、今年で二歳になる子供もいる。旦那さんも真面目な人で、
彼女の状況は客観的に言って幸福だと、誰もが認めるだろう。
 それに比べて、俺は大学を卒業したものの就職活動に失敗し、今では実家に戻って
ニートをしている。
 彼女が電話をしてくる理由は、単なる暇つぶしだ。俺がニートをしていることを
知ってから、彼女はスカイプ――無料で電話ができるアプリケーションだ――で俺と
よく話すようになった。
 だいたいの場合、文字によるチャットから始まり、通話に移行する。チャットでも
通話でも、彼女のとりとめのない愚痴を――旦那が返ってくるのが遅いとか、家事を
手伝ってくれないとか、最近天気が悪くて困るだの――俺が聞き流すだけだ。
 そんなことで彼女が満足するというなら、僕は何時間でも彼女の言葉に耳を傾け
続けるだろう。
 今日の天気は晴れていた。めしおち。そうタイプして、マイク付きのヘッドホンを
外し、昼食を取る。そしてスカイプに戻る。ちょっと図書館行ってくるので落ちます。
そうタイプする。
「もしかして、私のこと嫌い?」
「なんでそうなるの?」俺は聞いた。
「だって私、元カノなのに未練たらしく電話しまくってるし、まーくんが新しい彼女
作らないのも、私がまーくんの時間をたくさん奪っちゃってるせいだし、みんな私が
悪いんだよ……」
 彼女はうつ傾向がある。ネガティブな考えに憑りつかれると、視野が狭窄するのだ。
「こういうのって、やっぱ何となく辛いよね」
「そんなことはない」
 僕は自分の声の大きさに吃驚した。
「そんなことはない」
 もう一度、僕は確かめるように繰り返す。
「ありがと」
 そう呟いて、彼女は電話を切った。

「セーブデータは消えました」
222この名無しがすごい!:2011/04/28(木) 18:21:24.99 ID:Pg4QhCTj
「セーブデータは消えました」

セーブデータというのは外的な記憶媒体の一つ。
当たりまえのことだけれど、例えば、だ。
私の暮らしているこの現実(みらい)のように、VR技術を駆使したゲームが隆盛したとしら、
どうだろう?
そう。頭にヘッドギアをはめ込むアレ。
その場合、人間の脳はゲーム世界と直接リンクすることになる。
これも当然。
でもだから、記憶とセーブデータもリンク、というより、セーブデータが記憶領域を拡張して
いる、といったほうが正しいかもしれない。
つまり、VRゲームでのセーブデータというものは、人間の記憶とほとんど同じ。
だから。
だから今回のように。
『セーブデータが破損してしまった』人間。
…私のような人間は。
ほとんど記憶喪失と変わらない。
「――――――――またここに戻ったか…」


「セーブデータが消えました2(↑の続き)」
223この名無しがすごい!:2011/04/28(木) 18:54:31.79 ID:nYkQkek6
「セーブデータが消えました2(↑の続き)」

「私、難しいこと嫌いなのよね、よく分からないしさ」
彼女はそう呟きながらタバコに火をつけた
「おっと、俺の前でタバコは止めてくれよ」
俺は火がついたタバコを握りつぶした
かなり熱いが我慢する
「ちょっと、なにすんのさーあんたタバコを握りつぶしたんだよー?わかってんの?」
「ああ。分かってるよ、俺の手は昔から鍛えてるから少々の熱さなら平気なんだぜ?」
「・・・嘘。あんた嘘付いてる、なんで熱くないなんていうの?もう!」
彼女は俺の手をいとおしそうに握ると涙を流しながら「バカ」といった
俺は彼女のことを愛している、彼女も俺のことを愛してるはずだ
ぐさり
「なんてね。てへ!私があんたのこと心配するとでも思った?ばーかー」
俺は自分の背中を触る、深々と刺さるナイフがあった
「どうせ、死んでもセーブしたところからやり直すんでしょ」
彼女は俺の腹に蹴りを入れた
なんてことだ、彼女は最初から俺を殺すことが目的だったんだ
と、いいたいところだが、彼女はさっき俺がナンパした女だった

「奇跡はあるよ」
224この名無しがすごい!:2011/04/28(木) 19:23:40.53 ID:/omwLka3
「奇跡はあるよ」


「あたし、奇跡って信じてるの」
唐突な告白だった。
「具体的に言うと恋愛とか。30億ずつの男と女が一人を見つけて、愛し合うの。コレって奇跡みたいなもんだよね?」
彼女は恋愛に幻想を抱いているようだ。
打算も濁りも無い純粋な恋愛を信じる。彼女はそのような類の人間らしい。
「ねぇ、アンタはどう? 奇跡とかって信じてる?」
「うん、信じてるよ」
俺もまた、その類の人間だった。
「俺と君の間に、奇跡はあるよ」


「卵かけフランスパン」
225この名無しがすごい!:2011/04/28(木) 22:51:37.00 ID:1F20Li3B
「卵かけフランスパン」

 さて、今日の料理の時間です。テレビの前の皆さん、準備はいいですか。
 まず、フランスパンを包丁で切ります。このときなるべく薄く切るのがコツです。
 次に、スクランブルエッグを付くります。卵は前もって撹拌しておいてください。
 フライパンに少量の油を敷き卵を流し込みます。そして、長い箸でぐちゃぐちゃに
かき混ぜま。塩を少々入れてもいいかもしれません。
 スクランブルエッグができたら、先ほどのスライスフランスパンンの上に乗せます。
 これで完成です。
 好みでサンドイッチにしてもいいでしょう。キャベツ、シーチキン、ベーコン、
チーズなどを挟むのも美味しいですね。
 では、これで料理の時間は終わりです。テレビの前の皆さん、ぜひお試しあれ。

「ネクタイの柄はくまの○ーさん」
226この名無しがすごい!:2011/04/29(金) 13:53:40.51 ID:QuUSxFUy
「ネクタイの柄はくまの○ーさん」

世界史教師の蓮池直哉(26歳)が自宅で殺害されたのは3月△日(水)の午前9時から11時ごろだった。

蓮池直哉はモデル顔負けの甘いマスクに加え、
高学歴で文武両道、実家は裕福…とにかく女性にモテる男であり
大学時代から付き合ってる有名局アナ、父親を通じて知り合った女性ライター、
勤めていた高校の複数の生徒など、さまざまな女性と性的な仲であった。
警察は被害者の交友関係から犯人特定に繋がる情報を得ようとしたものの、
殺害の動機を持つものが多すぎること、加えてそのほぼ全員にアリバイがあったことから難航していた。
(註:局アナは全国ネットの生放送番組に出演していた。
女性ライターは前日夜からドイツに滞在していた。
高校の生徒はほとんど卒業式の予行演習で体育館に集められていた。
欠席した生徒についても現在まで不審な点は見当たらない)

事件発生から一週間後、我々は蓮池直哉殺害現場となった部屋にふたたび足を踏み入れた。
部屋の中でも血だまりが色濃い一帯には人の形をした印が付けられている。
今は鑑識に運ばれている遺体は数十ヶ所の刺傷切傷があり使用された凶器は複数、
性器は切り取られたうえでナイフで串刺しにされていた。
そして今でも壁には蓮池直哉の血液で
『汝の罪は苦痛の果ての死を以てのみ償われる』『惨めに死ね』
『正義の神に代わり高貴なる断罪を執行する』などの文面に混じり
ひときわ大きな血文字で『ネクタイの柄はくまのプーさん』と描かれている。

「なんでプーさんなんですかね?捜査の手がかりにもならないしなんなんだか」
同僚が溜め息混じりに呟いた。



次のお題
「レイチェル(笑)」
227この名無しがすごい!:2011/04/29(金) 13:57:59.75 ID:2ZbwJ5rN
「レイチェル(笑)」

学園都市とは名ばかりの荒くれ都市レイチェル
今日も荒くれ者が青春を謳歌する
電撃姫こと四坂琴音は街に出て弱い物いじめ
白馬に乗った王子様が琴音をお仕置きしてくれるまで街を彷徨い歩くのさ
ちょっとばかり弱いものを炒めるのも私へのご褒美

「ガストの宅配」
228この名無しがすごい!:2011/04/30(土) 03:16:23.67 ID:l1dF+E5x
「ガストの宅配」

港町の上空を鳥に乗った少女が飛んでいる。
彼女の名前はガスト、遠い町から修行にやってきた見習い魔女であり
住み込みで働いているレストランの食事を暖かいうちにお客さんに配達するのが仕事である。

「…今日の宅配はこれで終わりっと♪…あっなたっのたーめにチャイニーズスープ♪……んぬぅ?」
お気に入りの歌を歌いながら月夜を飛行するガストの前に
モップに跨がる少女が立ち塞がった。
彼女の名前はミスド、ドーナツ屋の配達を生業としている修行中の魔女であり、
「ガスト!魔女のくせ白い鳥に乗るなんて外道だわ!
 魔女といったら箒!!メーヴェに乗る魔女とか!!ありえない!!!」
「…この鳥の名前はメーなんとかじゃなくてスカイラークだと何度言えば
 というかそっちこそ箒じゃなくてモップ…」
「うるさい!私の可愛いダスキンをモップ呼ばわりするとは何事!!
 今日こそ決着をつけてやる!!!やーいやーい貧乳女」
「…黙れピザデブ」

こうして今宵も港町の上空で壮絶な戦いが始まったのであった。



「ももものこ」
229この名無しがすごい!:2011/04/30(土) 10:39:57.71 ID:ay2qtIP8
「ももものこ」

 百々(ももも)、という名前の子と知り合ったのは、私が四国、徳島県の学校に初めて
赴任したときのことだ。
 小学六年生の彼女は、かわいくて元気な女の子だった。成績も優秀で、特に家庭科の
授業では料理の才能をいかんなく発揮した。女子のリーダー格であり、いじめを許さな
い正義感を持っていた。彼女のおかげで、クラスはいつもいい雰囲気に保たれていた。
 しかし彼女にはひとつだけ問題があった。将来の夢を書くというレクリエーションで、
彼女は何のためらいも無く、先生のお嫁さんになりたい、と言い放ったのだ。僕は困惑
した。数年間の四国での勤めを終えたら、転属願を出して本州の地元に戻るつもりだっ
たのだ。
 だが、彼女の熱心なアプローチは、とどまる事を知らなかった。毎月ラブレターを
貰い、バレンタインデーにはハート型の手作りチョコを貰った。僕は内心呆れながらも、
彼女の情熱がいつか覚めるだろうことを期待した。それに、初恋は実らないというでは
ないか。僕はそれでも、彼女が送ってくれたラブレターを時折読み返した。
 それから七年が経ち、僕は彼女と結婚した。とっくに彼女の担当教諭ではなくなって
いたが、教室を超えた、学年を超えた、そして学校を超えた恋のアプローチに、ついに
根負けしたというのが正しいところだ。
 僕らはやるべきことをやり、彼女は妊娠した。
「名前は百々子。ももものこ、で決まりね」
 彼女は自分の子供の名前まで、既に決めていたらしい。僕は遠大な計画の一部に過ぎ
なかったのだ。
「二人目はあなたが名前を決めてね」
 語尾にハートマークをつけて、百々は言った。

「チェルノブイリ生物圏保護区」
230この名無しがすごい!:2011/04/30(土) 15:28:02.83 ID:Adfp5reh
「チェルノブイリ生物圏保護区」

『Biosphere Reserves of Chernobyl』
略称ブロック(BRoC)。日本では、“領域"と書いてブロックと読む場合が多いみたい。
1986年4月、あの大規模原発事故は、人々に直接的な死をもたらしはしなかった。
“直接的な”悪影響を引き起こしはしなかった。
その代わり。
その代わり起こったのは。
新生物(ネオクリーチャー)の誕生、そしてその大繁殖。
事故により放出された放射能は、人もなにもかも含めた生き物すべてを、手当たり次第に化け物へと変えていった。
ヤツらは獰猛だった。狂暴だった。強靭だった。
近くにある街や村落からつぎつぎと、文字通り人間を食い潰し、今や、ユーラシア大陸のほぼ
すべてはヤツら新生物の巣と化している。

「今日はずいぶんと獲物が少なかった」
そして私は、そんな新生物のメス。
思考能力があるということは、元は人間だったのだろう。
しかし、生前(?)の名は忘れてしまったし、なにより、名などどうでもよい。
「まずそうな人間のコドモが二匹…か」
ずる…ずる…と、引きずるのもなかなか楽ではない。
「……か…た……す…」
「ん?あら、まだ息があったの?でももう一匹は…死んでるわね。ま、生きてたほうが美味し
いからかまわないけれど」
「ひっ…!ひ……ぃゃ…」
なにやらか細い声でうめいている。もうだいぶ原型はとどめてないが、狩る前の記憶からする
と、人間の女児だったはず。10歳前後かな。
「お…ゃめ……ぁさん」
かすかに、「お母さん」という単語が聞こえた。
どうやらあまりの激痛と恐怖で発狂しかけているみたい。
…それとも。
それとももしかして、本当に私がこの子の母親だと、そんなこともあるのかもしれない。
なにせ、私には「こう」なる前の記憶がないのだもの。
でもまあ、どうでもいいことでしょう。
とにかく今夜は、踊り食いが楽しめそうでなによりだ。


「ゲーム」
231この名無しがすごい!:2011/04/30(土) 16:57:12.53 ID:aDZXoMEB
「ゲーム」

運命の輪ともいうべきなんだろうか
私の一族はみな共通のルールに従い死んでいった者ばかりだ
祖父、祖母、父、母、兄もルール通りに死んだ
私に残された身内は妹だけになってしまった
妹だけはルールに縛られることなく生きてほしい
これが私の願いでもあり希望であった
我が一族を縛るルール
それは至極簡単なことだった
ある年齢に達するまでに先祖が掛けた呪いを解かなければ、呪いにより死んでしまう
たったそれだけのこと
こんな科学万能な世界で何をと思ってしまうほど、馬鹿げている
馬鹿げているからこそ、呪いは呪いとして発動しつづけ我が一族を呪い続けたのだ
妹を守るために私はこの呪いに終止符という楔を打つつもりだ
兄は死ぬ直前にこれはゲームだ、簡単に見えて実はやはり簡単だ
仕掛けさえしってしまえば誰にでも解くことが出来るといっていた
それと兄はもう一つ付け加えた、爺様の生まれ故郷に行けと
私は妹の手を引き切符を買い電車に乗り込んだ

「ゴールデンウィーク」
232この名無しがすごい!:2011/04/30(土) 18:42:37.10 ID:Adfp5reh
「ゴールデンウィーク」

「がっ……」
どさっ。
倒れこんだ。
「なにうずくまってんのよクソ虫?」
「……ぉまえが、俺のゴールデンウィークポイント(弱点)を…」
「アンタがあたしに触れるからよ」
「触ってきたのはお前からだが!?」
「そのほうが蹴りやすいじゃない」
「だからなんで?」
本日、某高校の入学式。
席が隣同士になったよしみで握手をこわれたのはいいのだけれど、なぜかその直後こういうこ
とに。
「いや、俺これ、暴行罪で訴えていいレベルだと思うんだけど?」
「今日はエイプリルフールにゃんっ♪」
「全国の入学式はたいてい一日にはありませんー!残念でしたー!」
「仕方ないじゃん。なんかスレの流れが暗黒面化してたんだもん」
「だからって無理矢理すぎだ馬鹿野郎」


「ビーナッツとは何か」
233この名無しがすごい!:2011/05/01(日) 06:55:28.74 ID:9K8Z1PTk
「ピーナッツとは何か」

チャーリー・ブラウンは、積年の疑問を持っていた。
この漫画のタイトル、ピーナッツとは何か、という疑問である。その疑問が解ければ、
自分がなぜチャーリーブラウンなのか、なぜ自分が率いる野球チームが勝てないのか
という難問にも、答えが見出せそうに思えたのである。
妹のサリー・ブラウンに訊いたところ、「知らないわよ」と言われた。
ルーシーに訊いたところ、「何で私がそんあ質問に答えなきゃなんないのよ!」と言
われた。
ライナスに訊いたところ、「僕よくわかんないや」と言われた。
シュローダーに訊いたところ、「それは難しい質問だね」と言われた。
先生に訊いたところ、「勉強すればいつか分かるわよ」と言われた。
そうか。結局、誰も満足な答えを持っちゃいないんだ。
チャーリー・ブラウンは家に戻ると、スヌーピーに尋ねた。
「ねえ、君はどう思う?」
スヌーピーは犬語で答えた。
「タイトルはユナイテッドがシュルツに相談せず、勝手に決めたのさ」
しかしチャーリー・ブラウンは犬語を理解できなかった。
「君に訊くなんて、僕はどうかしているんだろうね」
チャーリー・ブラウンは少し笑うと、家の中に入って行った。

「皇帝の椅子」
234この名無しがすごい!:2011/05/01(日) 08:25:02.43 ID:aZtl+3Cy
「皇帝の椅子」

ここに、皇帝の椅子がある。私は彼女に皇帝の椅子に座るよう促した。
彼女は、頭にハテナマークを浮かべた様子ながらも、私の指示にしたがってくれた。
よし、チャンスだ。と私は彼女に告白した。
「結婚してください! 一生幸せにします!」
彼女は答えた。
「ごめんなさい!」

 ちくしょう……肯定の椅子じゃなかったのかよ……。

「猫舌ソーセージ」
235この名無しがすごい!:2011/05/01(日) 10:23:24.47 ID:qfajAQ2p
「猫舌ソーセージ」

「何だよ、それって?」
 ハ○ーの質問に、ロ○が自慢げに答える。
「だから、猫舌ソーセージ。兄貴が開発したんだ」
 ○ーマイオ○ーが、あきれ顔で聞く。
「だから、それ、何の役に立つの? 誰得?」
「まあ見ててよ」
 ○ンはそう言うと、斜め向かいにいたネビ○・○ングボトムに声をかける。
「これやるよ。うまいんだぜ」
「いいの? ありがとう」
 3人が見つめる中、彼は嬉しそうにそれを食べた。
「変わった味だけど、おいしかったよ」
 彼はそう言って、カボチャスープを一口。その途端に、それを吐き出した。
「うわっち。熱いよ、何だよ、これ。こんなの飲めないよ」
「わあ、きたない」
 向かいの席のパー○ティたち数人の女の子が悲鳴を上げてよける。もちろん、
すぐにネ○ルへの総攻撃が始まる。
「ははは、こんな風になるんだ」
 ○ンはそれを指さして笑う。○リーも笑ったが、ふと見ると、ハー○○オニー
が皮肉な表情を浮かべてごそごそしていた。よく見ると、ソーセージらしきものを、
皿の上で細かく切り分け、ロ○の前のカボチャスープの器に入れていた。それらは、
スープに沈んで、外見では見えなくなる。
「馬鹿馬鹿しい。ハリ○、もう行きましょ」
 彼女はそう言うと、ついと席を立つ。スープを取り上げる○ンをちらりと見て、
ハ○ーもその後に付いた。
「ロ○、気を付けてね」
「ああ、じゃあね」
 二人の背後で、直後に派手な悲鳴が聞こえた。

「うっかり関取」
236この名無しがすごい!:2011/05/01(日) 11:32:03.69 ID:9K8Z1PTk
「うっかり関取」

――では愚霊(ぐれい)さん。関取に昇進したご感想をどうぞ。

ついにやった、という感じですね。感無量です。

――相撲取りになろうとした経緯を教えてください。

元々、日本のゲームに興味がありました。

――相撲に興味があったという意味ですか?

いえ、セキトリゲームというのがあるでしょう。

――関取ゲーム、ですか?

いや、席取りゲームです。椅子を取り合うやつです。

――それが相撲と何か関係が?

はい。子供の頃、セキトリをやりたい!と親に言ったら、
日本の相撲部屋に連れていかれました。

――うっかり間違ってしまったと?

そうですね。子供だったので、良く分からずに、これが
日本の席取りゲームなんだと納得して、猛特訓しました。

――気付いたのはいつごろですか。

ごく最近です。
席取りという割に、席が無いので変だなとは思っていたのですが。

――えー、インタビューの途中ですが、日本相撲協会から
  ストップが入ったため、ここでインタビューを中断致します。
  放送が再開されるまでしばらくお待ちください。

「狼のダンス」
237この名無しがすごい!:2011/05/01(日) 13:15:19.95 ID:qfajAQ2p
「狼のダンス」
 昨日、我が家の犬が脱走した。
 夕方に姿を消し、翌朝には戻っていた。普段は大人しい日本犬なのだが。そう
言えば、去年も今頃そんな事があった。数日間、毎晩姿を消したのだ。
 夕方、物陰に隠れて、私は犬を見張った。すると、彼は急にそわそわと辺りを
見回し、鎖を限界まで引っ張り、首を捻るようにして、首輪を脱した。そのまま、
小走りに裏山に駆け出した。
 そっとあとをつけると、彼は山道を駈け、尾根筋に出ると。林の中の空き地に
出た。そっと覗くと、何匹もの犬が集まっていた。近所の飼い犬や、見慣れた野
良犬もいた。
 彼らは、声も出さずに互いを見合うようにたたずみ、それから、彼方に見える
奥山に、揃って頭を向けた。
 そうして、やはり揃って頭を下げ、立ち上がり、また腹這い、それから立ち上
がって、輪になってぐるぐる回った。
 いつまでも続く不思議な動きを見ていると、不意に、その意味が理解出来た。
 それは、「狼のダンス」だったのだ。彼らの神であったニホンオオカミを悼ん
で、犬たちが捧げる踊りだった。
 これは人間の触れるべきものではない。踊り続ける犬たちに背を向けて、私は
家に帰った。

「鯨が地面に埋まっています」
238この名無しがすごい!:2011/05/02(月) 01:43:03.45 ID:nmqN1jk2
「鯨が地面に埋まっています」

「………うまそうだな………」
最近くじらなんてスーパーとかにはないもんなー。
捕鯨なんたら…だったっけ?
しかしこれ、これはどうなんだろうか?
密漁になるんだろうか?
海の見える丘なんてまったくない、変哲のないフツーの公園。
そのど真ん中にグサッ!!!……っと、体の半身を地面に突き刺したザトウクジラが屹立?して
いる。
…しかし俺も冷静なものだな。
むしろあまりの状況に発狂しかけているのか?
「いや、大学生にとって食費は文字通り死活問題だし…」
これはもらっていっていいよな?
全部は無理だけど、今日の晩飯用に100gくらいなら。
そう言い訳でなぐさめ、俺は包丁がわりのカッターを、近くコンビニまでいって買うことにした。


「uNkNowN」
239この名無しがすごい!:2011/05/02(月) 09:09:39.36 ID:6f6Ifwk8
「uNkNowN」

「ふふふ……やったぞ、うまく入った」
 俺は、多分天才ハッカーだ。たった今、最近大人気の少女アイドルのツィターに、
彼女になりすまして入り込んだところだ。そんなことして何をするかって? もち
ろん、嫌がらせだ。悪戯だ。
 これから、ここに彼女のつぶやきを偽造する。何と書くか。もちろん、思い切り
嫌がらせでなければならない。何が一番の嫌がらせか? 当然、排泄行為だ。何しろ、
アイドルといえば『○○ちゃんは、絶対にうんこなんかしない!』の世界だからな。
とすれば、書くことは決まっている。
「うんこナウ」
 そんな風にタイプして、はり付ける。しかし、何だ? いよいよ実行段階で、どうし
てこんなに手が震えるんだ? いや、怖くない。犯人が俺だと言うことを調べ上げられ
る奴もいるわけない。だから……くそ、落ち着け。ここまで来たら、やるしかないんだ。
「えい! ははは、やってやったぞ」
 改めてディスプレイを見る。
「あれ?」
 手が震えた上、日本語変換を忘れていたらしい。そこには、こんな文字列が。
「uNkNowN」
「なんでだよー」


「夫テレポーター」
240この名無しがすごい!:2011/05/03(火) 01:54:59.99 ID:00WiIkM2
「夫テレポーター」

ふむ。下品―ていうかエロネタしか思い付かないな。
Sch(えすちゃん)の、「よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ」、というスレッド
に投稿するのが僕の日課だ。といっても、やり始めたのは最近なんだが。
…しかし困った。
「ナニナニをテレポートさせて云々だとか、どこどこにテレポートしてあれこれだとか、
成人向けのエロ漫画によくありそうな展開しか思い浮かばない」
だがここはピンク板ではないし、露骨なのは控えたほうがいいだろう。
「…個人的な趣味趣向としては嫌いじゃないが…」
ちなみに、時間帯的にそういうあれにお世話になったのかと勘繰るかもしれないが、そう
でもない。
今日は禁欲デーなのだ。
「……ってもうこんな時間か、仕方ない…」
そううそぶき、僕は次の人のためにお題を考えた。


「forbidden404error」
241この名無しがすごい!:2011/05/03(火) 12:33:29.79 ID:FE7iTKVx
「forbidden404error」

 今日からゴールデンウィークだ。しかし俺は特にやることもなく、
自宅に引きこもってオナニーに明け暮れているというのが現状だ。
 ダウンロードツールを使って、同人漫画サイトと動画サイトから
オナニーのおかずを並行ダウンロードしていたときのことだ。
 いきなり全ての進捗バーが真っ赤に染まり、エラーの嵐が表示
される。forbidden404error。forbidden404error。forbidden404error。
 クソッ!俺はアクセス禁止を食らってしまったらしい。今まで
ずっと同じことを繰り返してきたというのに、なぜ今日アク禁を食ら
わなくちゃいけないんだ。俺はプロキシサーバを次々と設定して
試してみたが、どの鯖でも同じエラーが出てダウンロードができな
かった。俺の愛用するロリコンサイトには串対策機能まで組み込
まれたらしい。
「クソッ」
 俺は諦めて幼女を見るために近くの公園でも散歩しようかと思い、
着替えを始めた。
 外出用の服を着終えたとき、玄関からピンポーンと音が聞こえた。
「警察です。児童ポルノ所持容疑であなたを逮捕しに来ました。
いるのは分かっています。今すぐ開けてください。開けないと公務
執行妨害も追加されますよ」
 俺は3TBのハードディスクを埋めたロリコン画像の隠し場所を
探したが、そんな都合のよい場所は存在しなかった。
 クソッ。Winnyが廃れたときに収集を止めていればこんなことには……。
 俺は観念してドアを開けた。手錠を手に持った警察官二人が
ニタニタと笑ってこちらを見ていた。

「ばあちゃんの草餅」
242この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 09:25:07.11 ID:qW1c/O4z
「おばあちゃんの草餅」

桃太郎は、鬼退治の旅に出ました。おばあちゃんは、草餅を持たせてくれました。
「おばあちゃんのは誰にもまね出来ないくらいおいしいんだから、きっと役に立つよ」
 桃太郎が道を急いでおりますと、道ばたに、犬耳少女が座り込んでおりました。
「お腹がすいて動けません。何か下さい」
 桃太郎は、草餅を出してやりました。犬耳少女は一口食べて、びっくりしました。
こんなおいしいもの、食べたことがなかったのです。
「これは何ですか?」
「おばあちゃんの草餅だ」
 では、彼のそばにいると、これが何度も食べられる、犬耳少女はそう思いました。
「お願いです、私をペットにして下さい。素敵なサービスもしますから」
 桃太郎は喜んで、彼女に首輪をして、紐でつないで再び歩き始めました。
 しばらくすると、今度はお猿の尻尾の少女がいました。
「お腹がすいて(以下略)」
 桃太郎から草餅を貰い、その由来を聞いた少女も、ペットになることを望みました。
桃太郎は首輪を(以下略)。
 さらに行くと、記事の翼を持つ少女が(以下略)
 彼女もペットに(wy
 桃太郎はそれに満足すると、家に帰り、3人の少女に色々サービスさせて、天国の
ような毎日を送りました。そんな素敵な日々は、おばあさんが死ぬまで続いたと言う
ことです。

「カエル・コミュニケーション」
243この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 12:26:15.91 ID:EUvszhyQ
「カエル・コミュニケーション」

グローバル化した世界で問題が発生した
言葉
今までは英語で意思疎通をしてきたが、近年新興国台頭によりもっと扱い安い言語をという世界の流れになってきた
英語圏の人たちは英語こそが一番簡単で一番意思疎通がしやすい言語と主張し
非英語圏、特にアジア圏の人たちは自国語こそがすばらしいと主張した
世界を二分する議論になり、非英語圏で英語を使うだけで差別されうという事件も起きた
国連は新しい国際言語を作ることを発表しそれに伴い言語学者が言語策定作業に入った
しかし、やはり新しい言語というのはなかなか難しく作業が進まなかった
そんな事態の中である言語が注目される
カエル語
言語学者さえ知らない言語が注目されたのだ
発見は当時18歳の少年だった、少年がなぜこの言語を発見したのかは謎だ
言語学者はカエル語の文法の単純さ発音しやすさに驚いた
一旦、教えてもらえば誰でもしゃべれるようになり
大人が一時間程度文法の勉強をすればすらすらと文章が書けるようになった
学者達はこれをカエル・コミュニケーションと呼ぶことにした
国連を通じて世界中にカエル・コミュニケーションの伝えられ、各国で教育が始まった
そして半年が過ぎ人類のほぼ全てといっていいほど言語がなくなった
代わりに人類はげこげーこげこたーげーことカエルそっくりの鳴き声を操るようになっていた

「電波時計が止まった日」
244この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 14:44:01.63 ID:TylT3vyu
「電波時計が止まった日」

 2020年。あらゆる時計の電波時計化は、着々と進行し、約9割が電波時計になっていた。
 機械時計はクラシック時計と呼ばれるようになり、時計職人は死滅するかに思えた。
 だが、時計職人たちは座して死を待つような男達ではなかった。彼らはテロを行ったのだ。
それも完全に合法なテロを。
 ある日、共振現象により通常ではありえない超高周波を出すTV広告が流れた。
 全ての電波時計は止まった。狂わなかったのはクラシック時計だけだった。時計職人たちは
待ち構えた。クラシック時計を求める客を。しかし、混乱が続いたのはたったの5分と19秒の間だけだった。
 基地局から定期的に発せられる信号が、全ての電波時計の時刻を再設定し、駆動させた。

「作曲家だった男」
245この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 15:05:23.38 ID:YYghixvf
「作曲家だった男」

 男は若いときから天才のピアノ弾きだった。
 曲を奏でれば絶賛されるほどの腕前だったが、しかし、それは他人の、との前置きが必要だった。
男が作った曲を奏で始めると、決まって客足は遠のいたのだ。
 ある日、長年付き添ってくれた愛する妻に、昔貴方が創った曲が聴きたい、と言われたが、
男はアレの何処がいいんだよ、と一蹴して、家から飛び出た。
 男は悔しかった。有名な曲を聴いても、自分の創った曲と比べて何が劣っているのかわからなかった。
それに、自分が奏でれば、曲はさらに良くなっているというのに、なぜ、自分の曲だけが有名にならないのか、と。
 男は酒におぼれ、金もつきたときに一件の汚い居酒屋を見つけた。そして、その居酒屋にあったメニューを馬鹿にしながらたのんだ。
 メニューには、タイムマシン、と書いてあった。
 半信半疑だった男を乗せて、居酒屋型タイムマシンは過去へ飛んだ。
 男は、そこでこれから発表されるだろう、他人の曲を自らの曲として発表することにした。
 男の曲は有名になった。しかし、愛する妻は、これは貴方の曲ではない、と去っていった。
 男は大切な者を失って、名声を得た。しかし、この瞬間から、作曲家ではなくなってしましまった。

「インド人とカリー戦記」
246この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 17:59:53.82 ID:Mf0VXF9S
「インド人とカリー戦記」
「インド人だからってすぐカレーと結びつけんじゃねーよ!」
「は?いきなりなんですか?ていうかおじさん誰?」
「そもそもカリーってのは『食事』って意味なんですぅー!」
「はあ…」
「だいたいインドってどこやねん!国か?国のことゆーてんのか?本来はインドゆー
たらネパールとかパキスタンもさすねんで!?」
「いや知りませんよ…」
「ターバン巻いてカレー作ってばっかおもたら大間違いや!ターバン巻いてんのなん
かほとんどおらんわ!つーかネパールとかにもカレーあるっちゅうねん!」
「なんでエセ関西弁なんですか?」
「ちょっ!おまっ!俺がほんまもんのインドみせたる!」
ガシッ。
「あ…おまわりさーん!小児誘拐でーす!たすけてー」
「………え?」


「ライジングサン」
247この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 18:30:43.53 ID:HPS3nQRC
「ライジングサン」

「おい兄ちゃん。面子が一人足りねえんだ。混ざって打っていかえねか?」
 雀荘で声をかけられたひょろりとしたその男は、申し訳なさそうに卓に座った。
 あの三人がコンビ打ちをして初心者をカモにしているということは、この雀荘
ではもはや常識になっている。だが、あの男に警告をしてやる義理は無い。
 俺は休憩所に立って煙草を吸いながら、横目でその男がハコにされるのを
見届けることにした。だが、その時。
「あ、あのう……和了りです。天和と、あと、国士無双です」
「ダ、ダブル役満!?」「ふざけんじゃねーぞ!?」「てめえサマったな!?」
「そう言われましても……和了りは和了りですし……」
 俺はその男のほうに歩いて行くと、大声で啖呵を切った。
「おう!!負けは負けじゃろが!!払うもん払って出て行きやがれ!!」
「あ、兄貴……」「兄貴がそう言うんじゃ……」「仕方がねえ……」
 俺は事を治めると、そのひょろりとした男に訊いた。
「で、どうやった?」
「ま、まぐれですよ。まぐれ。ビギナーズラックってやつです」
 俺はそいつの手を捻り上げた。右手の中指に、麻雀ダコがあった。
「なあ、嘘は良くねえぜ、確かその名は……Mr.ライジングサン」
「ば、ばれてしまいましたか。はは……」
 男は残された左手でハンカチを取り出して、額の汗を拭いた。

「湿度百パーセント」
248この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 18:36:57.39 ID:EUvszhyQ
「湿度百パーセント」

湿気で世界が滅びた日
世界から生き物という生き物が全滅した
何の前触れもなく湿度が上がり続けた
なぜ上がり続けたのかは不明
原因を解明する人間が既に死に絶えてしまっているのだから
おそるべき湿度地獄
それでも空には雲が浮いていた

「今月号の付録は縞パン」
249この名無しがすごい!:2011/05/04(水) 23:23:04.14 ID:qW1c/O4z
「今月号の付録は縞パン」

 目の前に、母さんが座っています。六畳一間、畳み張りの客間。
 ここにいるのは僕と母さんのふたりだけです。ふたりとも、対と正座です。
「これは、なんなのかしら?」
 母さんは、僕との間に、それはそれは丁寧に整えられた代物を指さし尋ねます。僕は応えられるはずもなく、見つめていた畳みがさらにハッキリしたように感じました。
 母さんは、もう一度、尋ねてきました。「これは、なんなのかしら?」と。
 結果の見えている真実をこれでなんど僕は繰り返したことでしょうか。ですがこの場合、相手の望んでいる答えが見えていないのでは、どうしようもないことでしょう。
「ふ、ふろ……」
「嘘おっしゃいっ!」
 同じ繰り返しを想定していたのでしょう。母さんは僕の言葉を途中で遮ってしまいました。とりつく島もありません。あったとしても、それはきっと、ランゲルハンス島ほどに違いありません。
 母さんは、ひざにのせた右手のひとさし指をしきりに上下させています。きっと心の中では今晩あたり、自身の息子を青い制服のおじさん達に引き渡す算段でもしていることでしょう。だてに一緒に暮らしているワケじゃありません。見ればわかります。だれか助けて。
「さあ、さっさといいなさい。あなたの机の引き出しに入っていたこれは。いったいどこから盗んできたんだい!」
 青いストライプをあしらった小さな布が微かに動いたように見えました。おそらく目の錯覚ではないことでしょう。
「母さん、どうか信じてください」
 口に出したところで激高されるであろう言葉をどうにかこうにか飲み込みます。だって言っても信じてもらえないじゃないですか。
「毎月購読している雑誌の付録だったのですよ」
 だなんて。

「水虫薬/鍵盤ハーモニカ」
250この名無しがすごい!:2011/05/05(木) 00:43:45.53 ID:7zPcQrfc
「水虫薬/鍵盤ハーモニカ」

「水虫薬÷鍵盤ハーモニカ」という式によっていかなる=が結ばれるのか、このレポートはその
ことについて考察するものである。
まず「÷、すなわち『割る』」という営為の定義づけをおこなう。
ここでいう「割る」とは数学的、あるいはわり算的な「÷」であり、すなわちそれは「分ける
」ことに他ならない。
そのように定義する。
これにより問題となるのは、「鍵盤ハーモニカ(以下A)」というもの、はたして、いかにし
て、他の事物を「割る」ことができうるのか。
また「水虫薬(以下B)」というものが、いかにして、他の事物から「割られる」ことができうるのか。
さらに、Aの「割る」、そしてBの「割られる」という二つの文脈が同一面上に存在しうるの
か(つまり、二つの「割る」が文脈上で同じニュアンスをもっていられるのか、ということで
ある)。
この三つのことがらが明瞭となってはじめて、「BはAに割られる」つまり「B/A」とはど
ういった答え(=)を結ぶこととなるのか、と問うことができるのである。
では一つずつ見ていこう。
まずは、


「もしブツ(もしも野球部のマネージャーが手塚治虫の『ブッダ』を読んだら)」
251この名無しがすごい!:2011/05/05(木) 16:08:47.51 ID:rUaU+5PR
「もしブツ(もしも野球部のマネージャーが手塚治虫の『ブッダ』を読んだら)」

野球部マネージャーの十文字霧絵が友人から借りた『ブッダ』に嵌まったことがきっかけで
野球部内でブッダが人気を集め部室には文庫版のブッダが常備されるようになった。

野球部が甲子園に出場を決め、優勝こそしなかったが4番エースの草薙大和は
実力もさることながら可愛らしい顔立ちもありマスコミのちょっとした注目を浴びた。

インタビューで愛読書について聞かれた草薙は緊張もあり答えに詰まったため
「手塚治虫のブッダが好きです」と答えた。
そのときからマスコミの間で草薙大和は『ブッダ王子』と呼ばれるようになった。



次のお題「もしドラ(もしも野球部のマネージャーが『映画ドラえもん のびたの鉄人兵団』を観たら)」
252この名無しがすごい!:2011/05/05(木) 17:54:57.72 ID:NsxtYowY
「もしドラ(もしも野球部のマネージャーが『映画ドラえもん のびたの鉄人兵団』を観たら)」

どんな組織もドラえもんで分析できる。
静にはそう思っていた時期がありました。
4番は出来杉君、キャッチャーはジャイアン、スポンサーはスネオ。
のび太?
まぁ、ベンチに入れておけばいい。
でも、それはレギュラー放送だけの教訓。
いざ、甲子園になると出来杉はスランプで役立たず。
スポンサーのスネオのプレッシャーに負けそうになってしまった。
やけっぱちで、のび太を4番、ピッチャーにしたら、これが大活躍。
でも、一回戦で敗退。
ドラえもんの力で上位に入っては他チームに失礼だと言う事でわざと負けました。
本当にのび太に実力があったのに気づいたのは、卒業してから。

次のお題「生ユッケ」
253この名無しがすごい!:2011/05/05(木) 18:46:29.63 ID:YImK26e5
『生ユッケ』

夢を見たよ
焼肉屋で生ユッケを食べる夢を
一緒に食べていたのは君かな
君は笑顔でおいしいおいしいいいながら口いっぱいに生ユッケを放り込んでいたね
僕は生肉はあまり関心しないなといったよね
でも、君はおいしいは正義と店内に響き渡る声で答えたね
ニュースで生ユッケ関連の報道を見る度に君は青ざめるね
そう、僕と君がいった店はあの社長の店だよね
とぅっとるー
目覚ましがなって僕は勢いよく上半身を起こした
寝汗で寝間着がびっしょりだ
なんて夢を見たんだろう、最近よく見る夢だ
彼女と格安の焼肉屋にいって彼女が生ユッケをおいしいおいしいって食べる夢
本当にたわいもない夢なのに・・・
夢の中の僕はとても冷たい人で彼女は現実では考えられないほど食欲旺盛で
夢は現実を投影すると本で読んだことがあるけど
僕はそんなに冷たい人間じゃないと自信を持って言える
さて、洗顔して支度して待ち合わせ場所に行こうかな
彼女とのデート
彼女が前々から行きたがっていた焼肉屋に連れて行ってやるつもりだ
格安で有名な店だから、彼女が喜ぶこと請け合い
なにせ彼女は無類の肉好きだからね
腹一杯食べさせてやるんだ
254この名無しがすごい!:2011/05/05(木) 20:10:45.98 ID:NsxtYowY
>>253
次のお題を…
255この名無しがすごい!:2011/05/05(木) 21:26:51.82 ID:YImK26e5
思いでの駅舎
256この名無しがすごい!:2011/05/05(木) 21:59:17.83 ID:WiISX3bU
思いでの駅舎

「ああ、ありますよ。それはもう、とっておきです」
 ほほう、聞かせて貰えるかな?
「ええ、是非聞いて下さい。それは僕が高校2年の時のことです。僕は、夏休みを
田舎の普通列車の旅に費やしたんですが、あれは、その4日目だった。ちょうど、
海岸沿いを通る鉄道の普通列車で、終点についた時は、すでに夜遅くだったんです」
 ふん、それで?
「仕方がないから、その駅舎で一晩を過ごすことにしたんです。それは、地方の中心
都市ではあったんですが、駅前にはろくに商店街もない、寂れたところでした」
 食事はどうしたんだ?
「ああ、それは、駅前に『200円ラーメン』というのがあったんで、でも、その後
ですよ」
 何が?
「いや、そこなんです。ラーメンを食べて、店を出たら、目の前に、暗闇の中に、ほわっ
と駅舎が浮かんで見えて、それが印象的でね」
 ふふん、それで?
「その時なんです。横から声がかかりました」
 ん?
「その声は、『君、頑張れば、大作家になれるよ』そう聞こえたんです。見ると、
それは白いひげの占い師で。だから、僕がいまだにワナビやってるのは、その易
者のせいなんです。だから、こんな文でも、感想は欲しいんです。よろしくお願
いします!」
 ああ、やっぱり。「思い出の易者」だったんだ。

「乾燥機の大活躍」
257この名無しがすごい!:2011/05/06(金) 02:32:54.29 ID:zpRjdiN6
「乾燥機の大活躍」

「先生、最近、筆がノっていますね」
「おぉ、やっぱりそうか」
「読者の気持ちをつかんでいる感じがします。彼女でもできたのですか?」
「まぁ、彼女のおかげもある。……。これで、完成と」
「では、データを…」
「いや、ちょっと待ってくれ」
 彼はそう言うと、原稿をプリントアウトして洗面所へ向かった。ぶーんと乾燥機の音が聴こえる。
 しばらくすると、彼は戻ってきた。
「こんな時間に洗濯ですか?」
「いや、まぁ……。じゃあ、これ」
 そういい、データが入ったUSBメモリを編集者へ渡した。
「ありがとうございます。では、来月もお願いします」
 編集者は帰って行った。
 彼は洗面所へ戻り。原稿を乾燥機の中に入れて、スイッチを押した。
 ロボットみたいな声がする。
「この作品はよくできています。今回はベストセラーにランクインするでしょう」
 そうだ、乾燥機ならぬ感想を言う機械、感想機だったのだ。

次のお題「カレーライスと拳銃」
258この名無しがすごい!:2011/05/06(金) 02:58:38.22 ID:udiLnFL+
「カレーライスと拳銃」

今手にしている拳銃
これは祖父が高校入学の記念に買ってくれた物だ
どうしても許せない奴がいたら一回だけ撃てと
その一発は絶対に外すなと言われ、拳銃を受け取った
カレーライス
今、テーブルの上にあるカレーライス
これは祖母が昨日の晩に作ってくれたものだ
一晩おくと味が染みこんでおいしくなるんですよ
明日の昼に食べましょうね、と笑顔でいわれた
ちなみに平日の昼なので家族はみんな出払って家にいない
婆ちゃん一人で食べたみたいだ
俺は学校帰りに幼なじみの文子を連れて駅前のケーキ屋にいた
文子が妊娠した記念にケーキを買って二人でお祝いするために
高校生夫婦がいたっていいじゃないか
高校生が子育てしたっていいじゃないか
二人はそう誓い合って親に内緒で借りたマンスリーマンションでケーキを食べる
彼女の笑顔は今までにないほどの笑顔だった
僕は父親として祖父から受け取った拳銃で文子と子供を護り
祖母から教わったカレーライスレシピで二人を喜ばせたい
「なぁ、文子」
「なあに?」
「カレーライス好きか?婆ちゃんから教わったカレーがめっちゃうまいんだ」
「ぷっ!カレーライスレシピだって昭和の人みたーい」
プッツン
俺は祖父からもらった拳銃で彼女の頭を撃ち抜いた
祖母のカレーライスをバカにする奴は何ぴたりとも許せね!

「もう一つの世界」
259この名無しがすごい!:2011/05/06(金) 09:31:28.15 ID:tM/OmP6y
「もう一つの世界」

「ありがとう、私の初めてを貰ってくれて」
 かすかに涙ぐむ彼女の頭を、僕は胸に抱える。鼻先を軽くこすりつけてくる彼女の
髪に唇を落としていると、彼女は顔を上げ、目を閉じて、キスをせがんできた。顔を
寄せると、情熱的に吸い付いてくる。舌を絡ませると、彼女の手が、僕の首に回り、
まとわりつく。
 しばらくそうして、それから、顔を離した。互いの唇の間を、粘液の橋がつなげて
いる。
「じゃあ、教えてよ。『初めての後、一つ願いを聞いて欲しい』と言ってたよね?」
「うん。でも、いいの?」
「もちろんさ。愛する君のためならね」
 彼女は頬を赤らめて、それでも嬉しそうだ。
「じゃあ、ちょっと待って、先に飲み物用意するから」
 そう言うと、コップにジュースを二人分、運んできた。僕も緊張していたし、身体を
動かした後だ。ジュースはとてもおいしかった。だが、なぜか急に眠気を覚えて、目の
前が暗くなった。
 気がついた時、目の前はやはり真っ暗だった。が、それは目隠しだとわかった時、
慌てて起きあがろうとして、両手両足を拘束されているのがわかった。どうやら、
うつ伏せで、お尻を上げた形になっているらしい。顔に触れる感触から、ベッドの
上らしかった。
「おい、一体どうしたんだ、何なんだ?」
「ごめんね。私、本で読んで、一度、試してみたかったの」
 次の瞬間、僕の尻に何かぬるぬるしたものが塗られて、それから何か太いものが
押し付けられる。それは、無理矢理に中に入ろうとするようだ。
「駄目だよ! 駄目だって、痛い、痛い!」
「大丈夫、私も、始めは痛かったけど、すぐに気持ちよくなったもの」
「いや、それとは……わあ、わああああああ!」
 僕らがもう一つの世界に目覚めた瞬間だった。

「クリック・クロック・クラック」
260この名無しがすごい!:2011/05/06(金) 16:35:41.72 ID:6ItERUTu
「クリック・クロック・クラック」

 近未来、クリック・クロック・クラック、通称3Cと呼ばれるハッキングソフトが、
インターネットのアンダーグラウンド、ピア・ツー・ピア−ネットワークに出回って
いた。
 それは、陥落させたいシステムをマウスで選択(クリック)し、ある程度の時間
放置する(クロック)ことで、ハッキング(クラック)を成功させるという強力な
ツールだった。
 何らかの理由で、OSやブラウザ、無料電話ツールなどの主要ソフトウェアのアップ
デートを怠った管理者は、このツールによって常に痛い目を見てきていた。
 俺は、そんな状況をどうにかするために、3Cの逆コンパイルを行った。自動逆解析
プログラムによって生成された人間には理解不能なソースコードが、俺の手元にあった。
理屈はどうあれ、このソースコードは、コンパイルして、動かすことができる。
その点が重要だった。
 俺は各関数の呼び出し回数と、幾度かのテストから、3Cの起動シーケンス部分をどう
にか解読すると、そこにマーカープログラムを追加した。このマーカープログラムは、
3CをインストールしたPCに消えない痕跡を残し、犯人逮捕を容易にする。
 3Cのインストールは、法律上は、器物損壊未遂に当たる。だが、警察が踏み込ん
でも、既にその証拠となる3C自体が見つからないケースが相次いだ。3Cのアンインス
トールは他のアプリケーションとは違って徹底的で、ゴミすら残らないのだ。
 それで俺のような天才プログラマに、出番が回ってきたのだ。本来なら、むしろ
3Cの開発に協力してやりたいくらいだが――天才ハッカーとしてはそちらのほうが
やりがいがある――サイバーポリスからの多額の報酬に目が眩んだ。
 ピア・ツー・ピア−ネットワークに、偽の署名をした3Cを放流する。このソフトは
本物と同じように働き、そして消えない証拠を残す。ハッカー気どりのクラッカーたち
が異常に気付いたときには、完全に手遅れになるという寸法だ。
 俺はサイバーポリスから報酬を貰うと、指定の銀行の貸金庫に紙に包まれた札束を
放り込んだ。マーカープログラムは、間抜け野郎(ハッカー気どり)のネットワークを
あぶり出すだろう。俺はそれを読みとるプログラムを、サイバーポリスに内緒で既に
作成し終えていた。間もなく世界中の間抜け野郎のマシンが全て俺の手に落ちる。
 それを使って何をやってやろうか――俺は自身のハッカーとしての血が滾るのを感じた。

「遺伝子プリンター」
261この名無しがすごい!:2011/05/06(金) 20:24:21.76 ID:kf9xbDqW
「遺伝子プリンター」

「えーと、性別は…女の子がいいわよね?あなた?」
「は?男がいいに気まってんだろ?」
「じゃあ男の子と女の子の双子にしちゃいましょう!」
「えっ、男女の双子って一番高いだろ…」
「いいじゃない、大きくなったらお返ししてくれるわ♪」
「それもそうか…じゃあ『双子』に、性別は『男女』っと」
「体型や性格はどうしようかしら?」
「そう?じゃあ体型はーっ……性格はーっ、と、こんな感じかしら」
「おいおいそれじゃケンカしちまうんじゃないか?」
「そうやっていい大人に育っていくのよー?」
「そんなもんか?」
「いいからお金!」
「はいはい、えーと、うげっ、800円かよ。たけーな…」
ちゃりりんっ。
「はいじゃあスイッチオンッ!」
ピーガー、ガコンガコンガコガコカカカカカカカ。
――――。
ガコン!
「あ"―――――!」
「ほら!産まれたわ!かわいー!名前なににしようかしら!」
「そうだなあ…」


「名無しのQB」
262この名無しがすごい!:2011/05/06(金) 20:26:10.77 ID:kf9xbDqW
あ、訂正
「体型は―」

「そう?―」
の間に
「おまえが決めていいよ」
てセリフが抜けてます
263この名無しがすごい!:2011/05/07(土) 12:21:17.16 ID:klNmf9/Q
「名無しのQB」

「おはようございます、先生」
紅い服を着た女性が部屋に入ってきていった
「やあ、おはよんば!」
白衣を着た中年親父が女性に向かっていった
「雨止みませんね、先生。夕方から会合だってのに」
「なに。雨が降っていようが関係ないよ」
「先生、雨降ると子供みたいに外出たがらないじゃないですか」
「な、そんなことはないよ。僕は大人だからね傘一つあればどこにだってはせ参じるつもりだよ」
「こないだの雨の時だって、前に仕事したQBさんから相談があるから会いたいっていわれた時だって」
バッ!先生と呼ばれている男が急に女の口を押さえた
「おっと気味の悪い癖だ。いちいち過去を振り返っていたら進歩しないよ」
チッチッと指を振った
「もごもごっがご」
「おっとなんだね、言いたいことがあるなら言いたまえ」
先生は女性の口を離した
「QBさん先生が相談に乗ってくれなかったから大変な目にあったらしいですよ」
「ふふん。それが彼の運命なんだよ、僕がいくら有益なアドバイスを持ってきたとしても運命は変えられない」
「そ、それでもQBさんは」
「おっと、ストップだ助手くん。君の仕事は私に文句言うことかね?違うだろ、君の仕事はなんだね」
「名無しのQB確保及びサンプル個体の経過報告です」
「分かってるじゃないか、だったら早急に街に行き名無しのQBを探して着たまえ」
「はっ!」

「君への贈り物」
264この名無しがすごい!:2011/05/07(土) 14:56:17.61 ID:yI0oVJxZ
「君への贈り物」

「やるよ」
「え、私に…?」
「ああ、まあ、クリスマスだしな」
「あ、ありがとう。…見ていい?」
「ああ」
ゴソゴソ…
「わあー!綺麗なチョコレートケーキ」
「チョコレートじゃない、ミソだ」
「…へ?」
「ミソケーキだ」
「…」
「なんだその顔は。まさか一口も食ってもみないで捨てるつもりじゃないだろうな?」
「そ、そうだよね!美味しいかもしれないもんね!」
あーん。
ぱk
「ちなみにミソはミソでも、パンツ的なミソだがな」
「………」
「いやー、今朝下痢でさー。そのくせあんまり臭わなかったからお前に検便させてやろうと思
って?」
「…………」
「おらおら、泣くほど嬉しいならもっと喰えよメスブタァ」


「リアルラック」
265この名無しがすごい!:2011/05/08(日) 00:01:20.20 ID:WmXxOHfi
「リアルラック」

「そんなはずない、俺はもっと飛べるはずだ」
 青年は、担架で運ばれながら、かすかにそうつぶやいた。
「こいつ、3階の窓から急に飛び降りまして。ただ、自殺でもなさそうで」
「多分、リアルラックじゃないかな」
「ああ、最近よく聞く奴か」
 数年前から注目されるようになった症状だ。本当は、現実感覚欠如症候群という。
ゲームにのめり込みすぎたことから、現実感覚がなくなるのだという。一昔前の、
ゲーム脳とかの話に似ているが、問題はもう少しやっかいだ。
 違いは、コンピュータ内部の疑似世界が、その性能の向上と共に、現実に近い感覚
をもたらすまでに至ったことで、ゲーム内の体験が、本当の体験として身体に受け入
れられるようになったことだ。そのため、本当にゲーム内の動きを身体が覚えてしま
う。でも、実際の身体はそんなことが出来ない。だから、彼のように危険なことでも、
不安無しにやらかしてしまい、大けがをすることになるのだ。
「ま、そこまでゲームにのめり込める気持ちがわかんないですけどね。じゃあ、俺は
署に戻ります」
「ああ、俺は直帰だ。じゃあな」
 俺は、アパートのドアを開ける。
「あら、お帰りなさい。食事出来てるわ。それとも、お風呂にします? それとも、
わ・た・し?」
「それもいいな。お前もエッチだな」
「やあん。早く準備なさって」
 俺は、さっそくディスプレイの前に陣取り、体感装置に接続する。すぐに、腕の中
に新妻の身体の柔らかさが感じられる。
「やあだ、もう、すぐ手を出すんだから」
「お前だって待ってるんじゃないか。ほら」
「あん、もう、だめえ」
 そう、これは新婚体験ゲーム。何しろ実際の結婚に関わるリスクはないから、新婚気分の
いいとこ取りだ。それに、アクションゲームと違って、無理な運動などしないから、リアル
ラックも起きない。
 と思っていたら、3日後、いつもの感じで受付嬢の身体に手を伸ばして、セクハラで訴え
られたのだった。


「奇想農場」
266この名無しがすごい!:2011/05/08(日) 07:40:49.38 ID:z8CwuEEj
「奇想農場」

 こんにちは、アナウンサーの堀井です。今日は、小説家なら一生に一度は行ってみた
いと噂される、奇想農場にお邪魔してみました。
 こちらは農場主の奇想英彦さんです。この農場を作ったきっかけはなんだったので
しょうか。さっそくお話を伺ってみたいと思います。
「誰でも、アイデアが枯渇することってあるでしょう。そういう人たちに、現実は小説
より奇なり、ということを思い出して欲しかった。その思いが契機になりました」
 なるほど、それでこの動物園と遊園地と水族館と映画館と図書館と野菜農場が一緒に
なったような施設ができた、と。
「娯楽施設なんか、全部まとめてしまえ、と思ったんです。感覚入力が一定値を超えると、
人は何かしらアイデアを思いつくものです。それを第一に考えて施設を配置しました」
 しかし、こうして見ると東京ディズニーランドが霞んで見えますね。
「最初から子供向けじゃないですからね。そこのところを思い知らせてやろうという
考えがあります。小説家をターゲットにしたのもそのためです」
 実際、小説家の方が来てどのような感じになるのでしょうか。
「エウレカ!という感じになるそうですね。熱心なリピーターもいて、ノートパソコン
などを使ってここで書いていく方もおられます」
 最後に、莫大な運営費をどうまかなっているかお伺いしたいと思います。
「主に、入園代と、小説家や学校、有志からの寄付ですね。驚くほどの寄付が集まって
います。これからも奇想農場がアイデアの源泉であるように、努めたいと思います」
 本日はどうもありがとうございました。

「縦書きクロニクル」
267この名無しがすごい!:2011/05/08(日) 23:52:03.24 ID:0EYSPmt/
「縦書きクロニクル」

「また難解なお題をだしやがって…」
今日も今日とて、Schの某スレッドをよく利用していたのだが、これまたなんというかハードルさんが激昂…とい
うより、すげー面倒臭いことを考えるヤツだなあ。
「縦書きのうえに年代記(クロニクル)かよ……いやただの歴史年表だろ!」
しかし、どうしたものかな。
PCですらない僕に縦書きなんて面倒なことは不可能に近い。
かといって横書きに甘んじるのはお題設定したヤツになんか負けた気がする。
…こいつ性格悪いんじゃないのか?
まあいい。
なら、僕が、こうすればいいだけのことだ。


>>266の恋愛遍歴」
268この名無しがすごい!:2011/05/09(月) 08:34:37.57 ID:GkIHUG4B
>>266の恋愛遍歴」

 彼女と付き合ったことに、特に理由は無い。強いて言えば、恋愛というもの全般に興味
があったからだろうか。
 僕ははじめの頃、人生の中で恋愛というものを経験することは、執筆の役に立つことだ
と考えていた。愛情や嫉妬というものは、昼ドラのメインテーマになっている。小説を書
くにも、何かしらの貢献があるだろうという意識があった。僕はまるで大学の退屈な講義
を受講するような気分で、彼女と付き合い始めた。
 彼女は一言で言えば、自意識過剰だった。僕はすぐに幻滅した。彼女には、自分のこと
しか見えていなかった。別段可愛い顔をしているというわけでもないのに、やたらと自分
のことや、彼氏にしたい理想の男性のことを語った。お菓子の何々が好きだとか、芸能人
の誰々が好きだとか。そういうことを一方的に、延々と喋り続けた。
 これもまた、大学の講義を受けるように、僕は頭の中に記憶し、必要に応じてノートに
メモしていった。彼女は知らないだろうが、僕は記憶すること、メモすることにかけては
人より抜きん出ていたので、自然と彼女の第一の理解者になった。
 理解者。そう。彼女はそれを求めていた。彼女が求めていたのは、それ以上のものでは
なかった。人生のパートナーという感覚は、彼女にも、僕にも無かった。その点で、二人
の関係は事実上の終末が約束されていた。
 しかし、恋愛というものについてネットで調べるうちに、興味深い記述を発見した。そ
れは、エーリッヒ・フロムという心理学者が書いた本の要約だった。
「愛するということ」と僕は呟いた。
 愛とは技術、テクニックだと、フロムは論じていた。それも一朝一夕に成るテクニック
ではない。生涯を通じて高めていくテクニックなのだと。
 僕はその本をネットで注文し、頭からお尻まで全部読んだ。愛されるのではなく、愛し
なさい。それがその本のテーマだった。いかにして愛するか。いかにして与えるか。無償
の愛。恋人に「愛されている」という錯覚を与える無数のテクニックを磨けと、その本は
語っていた。それは僕にとって、晴天の霹靂だった。
 僕は無性に彼女に電話したくなって、生まれて初めて愛しているよと囁いた。彼女は僕
の幼稚な告白を笑った。それでも僕は満足していた。まだ僕には、学ぶべきことが多く残
っているのだから。

「ひどい誤解」
269この名無しがすごい!:2011/05/09(月) 09:33:41.22 ID:GkIHUG4B
age、と僕は書きこんだ。
間違えてsageてしまった時には、誰かがageねばならないものなのだ。
やれやれ。
270この名無しがすごい!:2011/05/09(月) 09:34:18.87 ID:GkIHUG4B
……やれやれ。
271446:2011/05/09(月) 09:53:44.24 ID:y8JucV2Q
……やれやれ。

やっていいの?
ああ。やれやれ。
じゃあ、やってみるね。
ああ。
できたよ。責任とってね。
……ああ? あ、ああ。
でも、大丈夫? いろんなこととか。
ああ……何とかなるだろう。
ありがとう。……だから、好き。
ああ。


「『あああ』から始まります」
272この名無しがすごい!:2011/05/09(月) 10:22:10.61 ID:fp6Ebjn7
あああ・・・

「そんな・・」

彼は驚愕に目を見開き、手から流れ落ちる自らの血を凝視した

「・・違う、こんな結末は違う・・・」

そう呟いた彼は命の灯火が消えようとしている中で気を失うその一瞬

走馬灯を見た

ってなわけで「走馬灯」
273この名無しがすごい!:2011/05/09(月) 22:52:00.87 ID:ZbANYS/J
「走馬灯」

私の名は走馬 灯(そうま あかり)。
もしかしてこういう名前のキャラクターなんてすでにいたりするのかしら。
こうも思うほどしっくりくる我が尊名。
「灯、部活は?」
それを呼ぶ、線の細い容姿を連想させる、かぼそいながらもハスキー地味た声。
それは美声といってもいいだろう。少なくとも、心地がいいのだから。
「行かないわ」
「いい加減、幽霊部員のレッテルを貼られるんじゃない?」
「もとから似たようなものよ」
「そんなことないでしょ?」
「さあ。もう、よくわからない」
「なにが?」
「私が。そしてあなたが」
「私?」
「そう私」
「あなた?」
「そうあなた」
「そうね」
「ええ、そう」
「ところで」
「ところであなたは誰なのかしら」
「もう思いだせない?」
「誰が話しているのかしら」
「もう思いだせない?」
「誰が声を発しているのかしら」
「もう認識できない?」
「わからない。眠いわ」
「そう。じゃあ、気をつけて」
「なにを?」
「さあ?」

―――×日未明。
女子高生の轢死体が発見された。


「ブラックホールの向こうまで」
274この名無しがすごい!:2011/05/09(月) 23:34:56.27 ID:7yEuooxc
「ブラックホールの向こうまで」

暗闇の研究室
明かりは小さな電球一個
ぼわーんと照らされる二つの顔
一つは初老の男性
もう一つは二十歳前後の女性
「いいかね、ブラックホールとは莫大なエネルギーを生み出すんだ」
初老の男性が自慢げに語る
女性ははいはいと苦笑しながら頷き返した
「宇宙は常に膨張していってる。最近までは膨張はいつか収まりそしてゼロに収束されるものだと信じられていた」
「違うのですか?」
「最近の研究だと、膨張はさらなる膨張を呼び、加速をまして膨張し続けている」
「それじゃ最後はどうなってしまうのですか?」
「薄れてしまうんだよ。膨張することによって時間の先端によって最後尾が引っ張られるからね」
「それじゃ私たちはいつか・・・」
「心配に及ばない、その時には既に地球なんてありゃせんだろ」
初老の男性が手をぱたぱたと振る
「そうならないように私たちはブラックホールから莫大なエネルギーを取り込む必要があるのだ」
「そのエネルギーで、他の銀河に逃げるんですね」
「そうだよ。ブラックホールには全世界の原発なんて目じゃないほどのエネルギーがあるのだから」
「私たちの未来はブラックホールに掛かっていると言っても過言じゃないんですね!」
「そうじゃよ、これこそまさに超自然エネルギーじゃ」
「なんだかわくわくしますね!博士!」

「総理の決断」
275この名無しがすごい!:2011/05/11(水) 14:16:28.90 ID:HJL8fElD
「総理の決断」

とある国にたいへんアニメが好きな総理大臣おりました。
総理は国の一大事を前にして、いつでも笑って素早く決断を下す優秀な人でありました。
国民の評判も、いつもすぐに動いてくれるし笑顔を絶やさない余裕のある素晴らしい総理だと、上々だったのです。
しかし、国民は知りませんでした。
総理の笑顔は素晴らしいアニメを見て満足していることの表れであることを。
その素早さは、少しでも多くアニメを見る時間を得るためのものであることを。

ところが此度、国を襲いました大事変におきましては、総理はたいへん悩んでおりました。
たいへん難しい決断を迫られていたのです。
総理は部屋に籠もって悩んで悩んで、それでも決断をすることができませんでした。
やがて焦った側近達は、いつもは黙って見ているだけなのですが、今度ばかりは総理に、まだですかご決断はまだですか、と急き立てます。
総理もしだいに焦って参りまして、なかなか決断出来ないことと、アニメを見る時間が削られていくことに頭を抱えてうんうん唸りだし、
しまいにアアともガアとも聞こえる叫び声を上げました。
その声を聞いた側近達は居ても立ってもいられずに、総理の籠もる部屋に飛び込んで大丈夫ですか、と声を上げました。
「総理! 大丈夫です……か……?」
側近達はそのときの総理の様子に、まさに顎が外れるような表情になりました。
総理は部屋に備え付けのテレビにかぶりつくようにして、アニメを見ていたのでした。
「総理……何をなさってるんですか。アニメなんて見ているときではないでしょう!」
総理を前に一同は、彼がおかしくなってしまったのではないかと疑いつつも、口々に怒りの言葉を捲し立てました。
しかし、総理はテレビにかぶりついたままピクリともしません。部屋に響くアニメの音が虚しく響くだけでした。
「総理、総理……難しいのは分かります。しかし、そろそろご決断いただかないと困るのです。どうか、どうか! ご決断を!」
側近が皆、固唾をのんで総理を見つめる中、彼はとうとう動きました。
総理は顔をアニメから側近達に向け、険しい目つきでじろりと眺め回した後、バッと勢いよく仁王立ちのポーズを決めて、
「ジャッジメントですの!」
大声で叫んだのでした。

「……総理、総理。……決断は、ディシジョンです」

「電気羊のウール」
276この名無しがすごい!:2011/05/12(木) 01:43:41.16 ID:zT2Z3Q4y
愛玩用のロボットペットが普及してもう何年になるのか。
いまや犬をはじめ猫、鳥、魚、はては昆虫にいたるまで様々な愛玩用動物が機械化されている。ある人に言わせれば
死なないから良いのだそうで、またある人に言わせれば必要なときには音声をオフにすることができるから良いのだそうだ。
今回の取引は電気羊のウールである。
この商売が長い私も、かつて巡った町でいくつかの噂を仕入れている。
愛玩用機械動物は、最新の機能として放牧や搾乳など家畜としての機能もある程度満たしつつあるというのだ。
無機物から有機物を発生させるメカニズムは既に一般化されている。その上での応用なのかもしれないが、いかにも
怠惰で飽き性の我々が好みそうな家畜である。今なら高値で売れるだろう。
「今日は何をお探しで」
店のオヤジが言う。
「ウールだ」
私は行商カードを提示した。これさえあればこの世界のどこでだって、仕入れを行うことができる。
「ウール……」
「そうだ。電気羊のウールだ。まだ残ってるかい?」
ありますとも。売り物じゃないんですがね、とオヤジは笑って一度奥に引っ込もうとした。が、そのまま振り返って言った。
「猫のドンブリ、なんてのもありますけど……」
「ド……機械猫かい?」
なんというどうでもいい機能だ。いやしかし好事家というものは何でも欲しがるものだ。悪くはない。
「いいえ、こりゃ生身です」
「おいおい」
それは多少悪趣味ではあった。
「ひとまずウールを見ようか」
私は言った。オヤジはゆっくりと奥に引っ込むと、ごく普通の機械羊を持って戻ってきた。シルバーのボディにいくつかの
継ぎ目が見える。両手で抱えられるほどの家庭用電気羊である。今では駅前で変える程度のものだ。
「毛なんて生えてないじゃないか」
「生えませんよ。そりゃ機械ですから」
オヤジは言う。
「ウールを買おうと言ってるんだ。売り物じゃないと言ってたが、貴重なのはわかる。言い値でもいい」
買い手が付けば値段などどうにでもなる。
「ですから、お客さんの目の前にあるのがウールですよ」
お客さん、騙されたんですよ。とオヤジは言った。
「その羊ね。ウールってんです。なぁ、ウール」
ピピピ、と名前を呼ばれた羊のセンサーアイが明滅した。
やられた。ポケットをまさぐり、タバコを取り出そうとする私にオヤジがマグカップをさし出してきた。中には薫り高いコーヒーが入っている。
「シャレにならねぇ……。オヤジ、俺みたいなのは今日で何人目だ」
タバコに火を付け、カップを持ちながら問うた。
「お客さんで15人目です」
ひひ、と笑う。
「お客さん、猫のドンブリも見ますか?」
見ると、奥の部屋から生身の三毛猫がこちらを見ていた。


次「富士の湧き水殺人事件」
277この名無しがすごい!:2011/05/12(木) 11:57:52.84 ID:UmwFf//k
「富士の湧き水殺人事件」

「課長!殺人事件です!」
「なに!」
「害者は朝田昼夫23歳!殺害場所は○×自然記念公園わき水付近!」
「よし!おまえとおまえいって調査してこい」
「「あいあいさっさ!」」

ぴーぽぴーぽー
キーッ!がちゃがちゃバンバン
「お疲れ様です!」
「ご苦労さま。で、害者はどこに?」
「はっ!あちらです!ご案内いたします、どうぞ」
「それにしても、人気のない公園ですね」
「そうだな、夏にならないと来ようって気にもならんな」
「だからここで殺人が・・・」
「ここです、この池の中に」
「うむ。本当だ、男が沈んでる・・・」
「何が手掛かりになるような物ありましたか?」
「いえ、まだ発見していません。争った形跡もなく自殺かと」
「いや。これは他殺だな」
「また何か掴んだんですね」
「ああ。見たまえ男の首に痣らしきものが見える」
「!!本当だ」
「君、ここの班長にいって早く男を引き上げさせてくれ」
「了解いたしました」
「これぞまさに「富士の湧き水殺人事件」」

「オチもなけりゃ希望もねえ」
278この名無しがすごい!:2011/05/12(木) 12:26:10.00 ID:4Oad8LEo
「オチもなけりゃ希望もねえ」

「もうだめだ。もうおしまいだ。死ぬしかない」 A氏は絶望していた。
「ちょっと待って!早まらないでください!」 B氏が引き止めた。
「でも『物語の初めに死体を転がせ』って偉い人も言ってますし」 C氏が煽った。
「そんなセオリーがこの作者に通じると思ってんのか?」 D氏が不満を述べた。
「そう。重要なのはこのSSのタイトルからして、オチも希望も無いことなんだ」 E氏が見解を語った。
「だけどよう。俺達の努力で未来を変えられるんじゃねえのかよう」 F氏は勇敢だった。
「そうかもしれない。物語の登場人物が独り歩きするという説もある」 G氏は仮説を立てた。
「俺達が独り歩きすれば、作者もオチを考える気になるかもしれない」 H氏は希望を言った。
ターン。発砲音が聞こえ、H氏は床に倒れた。額を撃ち抜かれている。即死だった。
「KI BO Uというキーワードはタイトルで禁止されている」 I氏は冷静だった。
「つまり言ったら死ぬというわけか」 J氏は冷淡とも言える態度で言った。
「俺達はみんな死ぬんだ……」 K氏は絶望した。
「いや、そんなオチらしいオチがあるとは思えないな」 L氏は推理した。
「じゃあどうなるんだ?」 M氏は訊ねた。
「何も起こらないかもしれないな」 N氏は答えた。
「それこそ我々が最も恐れていることじゃないか?」 O氏は動揺した。
「もしかして、このままアルファベットを使いきるというオチなのでは?」 P氏は大胆にも発言した。
「作者がそんなオチらしいオチを考えているわけがない」 Q氏は失望した。
「だとするとそろそろ終わりが見えてきたかもしれないな」 R氏は予想した。
「ああ、もうそろそろだろうな」 S氏は嘆息した。
「突然ですが、皆さんには殺し合いをしてもらいます」 T氏がパクった。
「著作権に訴えても無駄だよ。我々には武器も何もない」 U氏は落ち着き払っていた。
「作者を殺そうじゃないか」 V氏は無駄な提案をした。
「作中人物がどうやって作者を殺すんだよ」 W氏は現実主義者だった。
「もうすぐZ氏が登場するぞ」 X氏が期待を込めた目で辺りを見回す。
「Z氏ならいませんよ。さっき僕が殺しておきましたから」 Y氏は血走った眼でフヒヒと笑った。
全員がオチを求めて天を仰いだ。ツバメが一羽、青空を横切って行った。

「レイニーレイ」
279この名無しがすごい!:2011/05/12(木) 17:45:18.84 ID:zXkrYp1M
「レイニーレイ」

 陽光は透き通った水を通り抜けて底に光を与える。だがそれは決して温かみを帯びておらず、ただ冴え冴えとした冷たい光であった。
 太陽を見上げる少女は、直に触れればきっと愛しいであろう温度を思い浮かべる。
 最初は暖かで幸せな物だと考えていたが、実は熱すぎて触れた瞬間溶けてしまうかもしれないと思い直す。
 いや、本当は今足元にある光のように温度は無いのかもしれない。
 少女は表情を曇らせる。しかし一層降り注ぐ光が増すと暗い気分は消えて再び陽光への憧れが頭をもたげた。
 何時だったか、と少女は光の中に腰を下ろして回想を始める。
 祖母は言っていた。あの太陽に触った女性がいた。そして死んだのだと。
 憧れを抱き続ける少女への警告だったのか、真実だったのか。分からないがそのときの祖母はとても悲しそうだった。
 しかし少女は首を傾げる。陽に触れて消えていけるのならば本望ではないか。自分ならば本望だ。
 それから数年。上にある太陽が奇妙な揺れ方をしていたある日。
 大人になったあのときの少女は意を決して光の底を蹴った。予感があったのだ。今なら太陽に触れる事が出来るだろうという強い予感が。
 浮いた身体は真っ直ぐと朧気に揺れる太陽を目指す。近付くにつれて五感がじんわりと温度を感じ始める。
 指先に今まで感じた事のない暖かな温度を感じ――少女は海面から腕を、頭を、そして身体を突き出した。そして目に映る光景に歓喜する。
 予感通り陽光が降り注ぐ日だったのだ。晴れの空から降る滴のなかに陽光が宿っている。それは海底に注ぐ光とは違い酷く温かい。
 感極まった少女がしばらく空を見上げていると海を巻き上げる聞き慣れない音がした。少女はその方向に目を向け、驚いて顔半分出して海に引っ込む。
 海に浮く見慣れない白の物体の上。そこに自分とは違った二本の足を持つ青年が目を丸くして少女を見つめていた。

「得体の知れない物」
280この名無しがすごい!:2011/05/14(土) 08:55:55.38 ID:zfoW2oOp
「得体の知れない物」

それから、わたしはおかしくなってしまいました。
なんだか胸がつっかえるようで、チクチクするような感じがあったり、ちょっと息苦しかったりするんです。
学校でも家に帰ってもそのことを考えると、胸のドキドキが誰かに聞こえるんじゃないかというくらい大きくなって、顔がカーッと熱くなりました。
何かがわたしの中にいるようで、もう何が何だか分からなくなって泣きそうでした。
友達や家族と話しているときに何かの拍子にそうなって、誰かに気付かれやしないかと不安にもなりました。
それでもみんなには出来るだけ心配をかけたくないし、変な風に思われたくなかったから、出来る限り普段通りに過ごすように努力しました。
何か言ってくる人なんていなかったから、きっと誰にもばれていない。
けれど、安心していられたのはつかの間でした。二日目から胸のつかえがちょっと重くなったように感じて、三日目になると大きく膨らんだような感じがしました。
ちょっとしたことでそれが頭に浮かび、胸がバクバクして顔が熱くなります。とうとう周りの友達も心配しだして、わたしはそのたびに大丈夫だからと返しました。
四日目、起きたときわたしの中の何かは驚くくらい透明でした。昨日寝る前は枕を抱きしめてのたうち回らずにはいられないほどだったのに。
わたしは明るい気分で学校に行って、午前はいつも通りに授業を受けて、午後にいつも通りにその教室移動のため席を立ちました。
わたしは移動先の教室のことを考えて、ふと思い出してしまいまったんです。あの時のことを。
とたんに動悸が始まって息が切れて、わたしはしゃがみ込んで動けなくなってしまいました。
みんながわたしを取り囲んで、保健室に連れて行ってくれました。
保健室の先生はみんなを返した後わたしをベッドに寝かせて、何があったの、話してちょうだいと言いました。
わたしはこの四日間、自分がどんな状態だったかを正直に話しました。
「先生、わたしどうしちゃったんでしょうか? わたしの中にあるこの得体の知れない物は何なんでしょうか?」
すると先生は、なぜかにやりと笑みを浮かべて言いました。
「ふふーん、分かったわ。あなたは恋をしちゃったのね。それは恋の病の症状よ!」
わたしはハッとして先生を見ました。
そうか、そうだったのか。これが、恋という物なんだ。
「で、一体誰に恋しちゃったわけよ?」
にやけた顔で先生は聞きました。
わたしは胸が苦しくなって言葉に詰まったけれど、思いきって四日前の放課後のことを、全て先生に話しました。
「わたし……、他のクラスでなんですが、噂になってるのを聞いちゃったんです。
 それで、放課後に家庭科室にいるって聞いて……行ったんです」
「うんうん。それで?」
「放課後の家庭科室で……、午後四時四十四分にふたつある姿見で合わせ鏡を作ってその十三番目に見たんです、それを」

「えっ」


「伊達マスク」
281この名無しがすごい!:2011/05/14(土) 23:41:19.45 ID:rZK2cyRE
「伊達マスク」
 この歳になるとジャケットがどうとか、ズボンの着こなしがどうとか、そういった話題について行く気が起きない。
 コンビニで見かける若者向けの雑誌を見て私は溜息をついた。もう字すら読めない。
 ギャル語、とテレビは言っていたか。それは最早難解な見知らぬ土地の言語のように私には思えた。
 流行が移り変わるたびに私は歳を自覚していく。
 そして今回「伊達マスク」という商品が流行り出したときも自分の老いを感じ、
正直なところうんざりして「またか」などと斜めに見ながらブームが過ぎていくのを眺めていようと思っていた。
「おはよう。早いな」
「お互いにね。時間厳守を謳うくせに十分前行動なんて、何とも矛盾した社訓だよ」
 ある朝、同僚と雑談して無駄な時間を潰し、出社時間丁度にタイムカードを押していると見慣れない男性が
私を追い越して行った。
 私の勤める会社は機密が多い。部外者などもってのほかだ。
「立ち入り禁止ですよ」
 するとその人は振り返り怪訝な顔をした、と思ったら次の瞬間には破顔して「言っていなかったね」
と聞きなれた声を発する。
「あれ、その声は」
「私だよ。伊達マスクを買ってみたんだ。どうだい? 若返っただろう?」
 べり、と剥がれた肌色の皮の下から上司の顔が出てくる。
 上司を嫌っている同僚は心底驚いて固まっている私を置いてさっさと行ってしまった。
「なんだ、知らないのかね」
 上司は説明を始める。伊達マスク。所謂、伊達メガネと同じお洒落道具。
 ナノマシンに自分の若い頃の顔や化粧をした顔を記憶させ張り付けるのだという。
「私のコレは結構ランクが上のヤツでね。着脱が手軽にできるんだよ」
「安い物は剥がれないのですか?」
「いや、勿論剥げるとも。しかし大変らしい」
「それ、他の人がつけたらどうなるんです?」
「キミも反対派の様な事を言うんだなぁ」
 上司は呆れたように肩を竦めて、持ち主の声紋認証をしなければ張る事ができないのだと幼子に
聞かせるように教えてくれる。
 他にも自分以外の顔は作れない事、本人証明の専用のカードがある事など数々の犯罪防止策を乞いも
していないのに喋っていた。
 私はやや気分を害しながらも機嫌を損ねては出世に関わるので頷き、しかし内心では唾を吐いていた。
 それから数日後。定時間近、オフィスに不在だった上司が飛び込んできた。
「おや、ずいぶんと……」
 老けましたな、という言葉を飲み込む。
「伊達マスクはどうしましたか?」
「無くしてしまったんだ!キミ、見ていないか?」
「さあ……でも大丈夫なんでしょう?」
「テレビくらい見たまえ!」
 上司は怒鳴ってから行ってしまう。上司命令だと解釈して携帯でニュースを見る。
「世界で三億人以上の使用者がいる伊達マスクの不具合についてです。
製作会社は引き続きマスクの盗難に気を付けるよう使用者に呼びかけています。
これまでの盗難報告は二千件を越え偽装殺人も発生しており――」
 状況を把握した私は笑いを堪えながら携帯を閉じる。そして同僚に話しかけた。
「知ってたか?」
「ああ、知っていたよ。何ともいい気味だ」
 同僚はニヤニヤ笑いながらデスクの引き出しに手を入れた。
「何をしてる?」
 私が尋ねると同僚は一層笑みを深めて引き出しから肌色の皮を一瞬見せる。
 目を丸くすると同僚は悪戯っぽく人差し指を口に当てる。
「明日から俺が上司だ。言っとくが内緒だぞ」
「俺が上司だ、って……本物はどうする?」
 私は彼の目に浮かぶ暗い光を見てそれ以上は何も言わない事にした。
 カチリ、と仕事の終わりを告げる時計の長針に従い私は席を立つ。
「それじゃあ。いい人生を」
「ありがとう。良い上司に恵まれるといいな」
 街路を歩いて帰宅していると風に乗って肌色のマスクが足元に落ちる。
 私はそれを拾い上げてから――流行物は嫌いなので近くのゴミ箱に投げ入れた。

「夢オチ」
282この名無しがすごい!:2011/05/14(土) 23:43:53.24 ID:CGuyO7hT
「夢オチ」

・・・そう、僕は気が付いたのだ
このスレ
そうこのスレに書かれたこと
全てが・・・
全て僕が見た夢だってことに


「さよならマリアンヌ」
283この名無しがすごい!:2011/05/16(月) 04:11:25.50 ID:PgLF96vy
「さよならマリアンヌ」

「今日はさようならを言いに来たんだ」
驚きと戸惑いの表情を見せる彼女に、ぼくは意を決してそう告げた。
いきなりの告白に困惑したのか、いつもは気丈な彼女も言葉を失っている。
「何度も考えたんだけどさ、やっぱりこのままじゃだめだと思うんだ」
張り裂けそうな想いを抑え、必死に乾いた笑みを捻り出す。
「付き合いだしてもう四年……出会った時は大学生だった俺らも今じゃあ立派な社会人だ。
お互い別々の仕事に就いて、徐々に忙しくなって、会うのだってこうして仕事の終わった夜中だけ……。
もう限界なんだよ、いろいろ」
付き合おうと言い出したのは、ぼくの方からだった。
新入生歓迎会でほろ酔いながら九州訛りで自己紹介する彼女に一目ぼれし、それから一年越しで彼女を口説き落とした。
『マリアンヌ』――それが彼女のあだ名だった。本名の真理とかけてあるのだが、どうも本人は気に入ってないらしい。
聡明で優しい彼女と一本気でどこか抜けてるぼくとは相性が良かったらしく、なんやかんやで四年も付き合うことができた。
歪みが生じたのは今にしてみれば仕方のないことだったのだ。
年齢も二十代半ばに差し掛かり、周りで結婚すり人もちらほらあらわれ、ぼくも彼女と結婚するのかなと頭に描いていた。
そんな漠然としたビジョンをそれとなく彼女に話したら鼻で笑われた。
どうやら彼女は結婚願望がないらしい。
結局のところそれが別れを切り出した一番の理由だった。

五月の夜風は湿気を含んでいる。
押し黙っていた彼女はようやくその口を開いた。
「さよならって……どういうこと?」
彼女の声は心なしか震えている。
「ごめん……。自分から付き合おうって言っといて勝手だとは思う。だけどこのままじゃ俺たちはダメだと思うんだ。
だから別れよう」
「……ッ!」
彼女のハンドバックが何やらきらりと光っている。
「ふざけないでよ!! なによ、さんざん今まで振り回しといてどの口がそんなこと」
「しょうがないだろ? きみは俺と結婚したくないって言ったじゃないか。だったらそれぞれ別の道を歩んだ方が……」
「結婚!? はッ! 当たり前でしょ!? アンタと結婚するくらいなら死んだほうがマシよ!」
「なっ、マリアンヌ!! いくら何でもそれは」
「――――!」

つづく
284この名無しがすごい!:2011/05/16(月) 04:12:11.73 ID:PgLF96vy
次の瞬間、ぼくの腹には包丁が刺さっていた。
刺しているのが彼女だと気づいたのは、彼女の香りがぼくの鼻をくすぐったからだ。
鈍い痛みと血が抜ける感覚が体を襲う。

「なにが『別れよう』よ……いつもしつこく付きまとってきたのはあなたの方でしょ?」
…………え?
「大学の時から事あるごとに声をかけてきて、適当にあしらったら勝手に付き合ってることになってて」
…………。
「卒業してようやく解放されたかと思ったら会社帰りについてきて」
…………。
「私をなにかのキャラクターと重ねていたみたいだけど、今度会ったらこうしてやろうと思ってた」
…ああ、そうか。そういうことか。
これこそが『魔法少女マリアンヌ』の真の姿なのか。やはり別れて正解だ。
薄れゆく意識の中で、ぼくは言った。
「さよならマリアンヌ」と――

「奇妙で不毛な観察日記」
285この名無しがすごい!:2011/05/17(火) 01:18:12.38 ID:/+m8EXlp
「奇妙で不毛な観察日記」

最近よく新聞などで目にするゾンビシティーと呼ばれる街がある
世界的製薬会社の実験失敗の結果街全体がゾンビに化したという伝聞だ
誰もがそんな噂は信じてなかった、いくら新聞が写真入りで報道しようが、いくらテレビで映像を流そうが
みんながみんな笑ってマスコミが考えたジョークだと思っていた
もちろん俺もマスコミの考えた冗談だと信じていた・・・あの日まで

全世界的大不況
きっかけはただ一つの事件
あるEU国の国王が一人の若者によって銃撃された
ただそれでかえだった
その事件がきっかけで世界は二分割された
経済主義を中心とした国と福祉を中心とした国と
なぜ国王一人で世界が二分割したのか、話は簡単だ
殺された王は穏健派として有名で経済主義のいいところを利用し福祉政策を活発にしていこうとしていた
しかし、互いの陣営は己の成長は己によってもたされるもの
相手の力を利用して繁栄などしたくはないといいきっていたのだ
そのもっともカヤの外にいて、もっとも動向を注目しされ中心だった王が殺された
結果、EUからアジア、アフリカ、アメリカ、中東へと不況のドミノ倒しは始まり
一年もしないうちに全世界大不況になっていた

食うにも困る貧困生活で俺は、職安で一つの仕事を見つけた
ある生物の観察
時給は最低賃金より少しだけ上で、交通全支給につられ俺は応募し採用となった

仕事は簡単だった、ある街にいきそこで半年間、ある物体たちの観察日記をつける
ただそれだけだった

指定されたバスに乗って、就業場所である街に連れて行かれた
いって驚いたのは誰もいないのである、人っ子一人いない街、音といえば風の音だけ
俺はそんな街でただ一人で半年間観察日記をつけなければならない
不毛だ

なぜって、昼間には姿を見せないが夕暮れから街を闊歩する連中がいるから
奴らは日が昇るまでひたすら街中を動きまくり、生き物を殺し続けるのだ
こんな連中を観察して記録してなんの意味があるんだ
俺は今すぐこの街から出たい、出てひたすら遠くの孤島にでも逃げたい
奴らの能力を目のあたりにして人類が奴らに勝つことなど不可能なのだから
こんな不毛な観察日記など捨てて今すぐにでも逃げるべきなのだ
あああああああああああああ、小屋の外にはゾンビたちの群れが・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・しにたくなければぜんりょくでにげろ・・・

「夏休みと蛍と白ワンピース」
286この名無しがすごい!:2011/05/19(木) 08:05:24.43 ID:MPch8TPd
「夏休みと蛍と白ワンピース」

 蛍を採取すること。それが、僕に課せられた夏休みの自由研究だった。
 自由。僕はその言葉が大嫌いだ。
 言っておくが、僕は学校の成績はいいほうである。しかし、僕はとにかく夏休みの自由
研究というのが苦手なのだ。自由自由と言うのは容易いが、小学生にできることには限り
がある。しかも、ありきたりで結果の見えているテーマほどやる気を削ぐものはない。要
するに、僕は研究テーマを誰かに決めてもらわないと、延々テーマで悩み続けて自由研究
に取り掛かれない病気なのだ。
 小学生にしてそのことを悟った僕は――けっこう早いほうだと思う――、先生に電話で
相談して、毎回、研究テーマを何にすればよいかを勝手に決めてもらっていた。
「蛍の研究」
 小学四年生の僕にとって、そのテーマは魅力的だった。僕は昆虫について詳しくない。
だから、それ相応の発見があるだろう。また、田舎の親戚の家に行く予定がある僕にとっ
ては、うってつけの研究テーマでもあった。
 両親と相談した結果、夜の渓流という危険な場所に出向くことに対して、念のため懐中
電灯二つを準備、ということでゴーサインが出た。それで、僕は従妹と毎日夜の渓流に出
掛け、草葉の陰に身を隠す蛍を、観察、捕獲することになった。
「なかなか見つからないね」
 従妹のカオリが白いワンピース姿で僕に声を掛ける。白は光をよく反射するからと、親
が準備したものだ。僕たちはときどき懐中電灯を切って、星明かりを頼りに、蛍の光を探
す。よーく目を凝らして……いた。
「こっちにいるよ」僕はカオリに声を掛ける。
 蛍は葉っぱの上で、お尻をぼんやりと明滅させている。カオリが僕の顔の横から蛍を覗
き込む。網を構え、蛍を捕まえるのがカオリの役目だ。虫かごに移すのが僕の役目だが、
まず捕まえなければ意味が無い。
 ばさっ。網が振り下ろされる。蛍は網から逃れ、宙を舞う。逃がしたことは残念だった
が、その光の筋は幻想的だった。
「ちぇ。逃げられちゃった」
 顔の下から懐中電灯で照らし、顔だけを浮かび上がらせてカオリは言った。僕を怖がら
せるつもりらしい。小学二年生だけあって、発想が子供じみている。まあ僕も子供なのだ
が。やれやれ。
「ほら、次の蛍を探そうぜ」
 僕はそう言ってカオルの手を引いた。足元を流れる水は冷たかったが、カオルの手は、
僕が思っていたよりずいぶんと柔らかく、暖かかった。

「自爆命令」
287この名無しがすごい!:2011/05/19(木) 16:49:49.81 ID:q6f0IPok
「自爆命令」

 「自爆命令」が出た。
 仲間内のくだらないゲームに負けたための「罰ゲーム」である。お題は「クラス一の
美人こと委員長に教室のど真ん中でコクること」だ。これは厳しい。爆死間違いなし。
その上、密かに想っていた相手だ。正真正銘の自爆命令なのだった。
 仲間たちの視線が痛い。今は昼休みが始まったばかり。タイミングとしては、今しか
ない。委員長は弁当箱を持って立ち上がったところだ。急いでその前に立つ。
 不審な目を向けられるが、ここまで来たら後には引けない。
「俺、君のことが好きだ。付き合ってくれ」
 委員長は目を見開いて、固まってしまった。それはそうだろう。でも、そこからが予想外
だった。
「ありがとう。お受けします」
 彼女との交際は三日続いて、その後に断られた。噂では、彼女も同様な「自爆命令」を受
けていたらしい。それならわかる。
 わかってしまう自分が、若干だが悔しかった。

「さかなを探して三千里」
288この名無しがすごい!:2011/05/20(金) 12:59:13.54 ID:9t4NiAWJ
さかなを探して三千里」

 弟から国際郵便が届いた。根っからの自由人である奴は、このところしばらく日本を離れて諸国を
巡っている。その道中、目についた名物を面白がってかたっぱしから私に送りつけてくるのである。
 はっきり言っていい迷惑だった。名物とは言い様で、碌なものが送られてきた試しがなかったのだ。
民芸品らしき、ひたすらに場所を取る人間大の彫刻を送ってきたかと思えば、何に使うともわからな
い儀式道具を説明もなしに送りつけてきたこともあった。
 こんな贈り物はもう要らないと伝えられたらどんなによかったことだろう。ついには部屋を一つ占
領するに至った名物の数々を思うたびに、私はため息をこらえ切れなくなる。
 困ったことに、弟には私から連絡を取る手段がないのだ。奴は何故か携帯を持ちたがらないし、
頻繁に移動を繰り返している。お陰で詳細な現在地がつかめない。こうして名物を送ってくるのだか
ら生きていることだけは確かなのだが、なんとも歯がゆい話だった。
 どれだけ要らないと思っていても意味が無い。せめて説明だけは加えてくれと願ってみても伝わら
ない。伝えられない。
 最近では中身も確認しないで部屋に仕舞うことも多くなっていた。よっぽど捨ててしまおうかとも
思っている。
邪魔で邪魔で仕方が無いのだ。使い道もない無用な物どものせいで生活空間が圧迫されているなんて
馬鹿馬鹿しすぎる。
 とかく言いながら、今回の贈り物を私は期待しながら待っていた。珍しく、前もって手紙が送られ
てきていたのだ。誕生日おめでとう。そんな簡素なバースデイメッセージに添えて、プレゼントを送
るとの追記がしてあった。遠く見知らぬ土地にありながらも届けてくれた温かな祝福に、私の気持ち
はとろんと緩んでしまっていた。
 そんなわけで私は、多少なりとも期待に胸踊らせながら包装紙を破いた。中身を確認する。 出て
きたのはガラスのビンだった。中になにかがどす黒いもの詰め込まれている。
 なんだろう。不思議に思いしばらくビンをいろんな角度から見つめてみた。どす黒い瓶の中身は蛍
光灯の光を通さない。なにやら禍々しさをも内包したその黒さは、宇宙のそれというよりは退廃した
廃屋に沈む闇に似ていた。どろりとした粘着性を持っているのも興味深い。
 本当になんだろう。しばらくしてからピンと閃いた。
 手紙には、大好物を送りますと書いてあったのだ。

つづく
289この名無しがすごい!:2011/05/20(金) 13:00:00.90 ID:9t4NiAWJ
 卓越ながら私の趣味は酒である。呑兵衛、というわけではないが、様々な種類の酒をゆっくりとち
びちび愉しむのは大好きだった。このことは周知の事実である。思い返せば、成人してからというも
の、友人家族から頂いたプレゼントはいつも酒絡みのものだった。
 そうとなれば。自ずと瓶の中身は限られてくる。どうやら液体ではないようなので、酒そのもので
はないみたいだが。
 私は意を決して瓶の蓋を開けてみた。匂いを嗅いで、予想が当たったことを確信する。間違いない。
これは酒盗の一種だ。
 俄然興味が湧いてきた。この酒盗はどんな味なんだろう。肴としてどれほど酒を引き立ててくれる
のだろう。一度火のついた好奇心は留まるところを知らず、私はほとんど無意識のうちに流しの下に
隠した日本酒を持ち出してきていた。
 外国のつまみに日本の酒とはいかにも不釣合だが、生憎といまは手持ちがこれしかない。しっくり
こないが、まあ仕方がない。諦めるしかない。そんなことよりもなのだ。いまは目の前にある酒盗の
味を確かめてみなければならない。
 私は手にした箸を瓶詰めの中に突き刺してみた。海産物の肝だとは思うのだが、原材料がよくわか
らない何かを口に運ぶ。舌に乗せ、歯で噛み切り、五味で味わい尽くし、鼻腔の奥まで風味を広げて、
じっくりと堪能してからようやく喉に運ぶ。
 私は眼を閉じていた。そのまま固まって、口腔を通り抜けた酒盗の余韻に浸っていた。
 そして一言、
「まずい」
 立ち上がると、全速力で流しに急いだ。水をガブガブ飲んで、口に残ったおぞましい味覚を洗い流す。
 とんでもない代物だった。一瞬意識が吹っ飛びかけた。しばらく休んで息を整えてから、持ち出した
日本酒をすごすごと元の場所に戻す。蓋を閉めた殺人的な何かを封じていた瓶は、もう二度と開けない
よう心に決めた。
 破り捨てた包装紙を片付けて、部屋の中に何事もなかったかのような慎ましさが戻ってくると途端に
脱力感が襲ってきた。消耗した頭でふと考えてみる。秘境のグルメライターなんぞを名乗っているがた
めに、我が弟は常軌を逸した味覚を身につけてしまったのではないだろうか。
「ゲテモノ食い、か」
 今更になって弟が遠くに行ってしまったことを実感した。

「鉛筆大進化」
290この名無しがすごい!:2011/05/21(土) 11:32:59.62 ID:3otfqBx/
「鉛筆大進化」

ことの始まりは至極単純だった
鉛筆工場に勤務するヤマダ電介さん63歳があるひらめきをしたのだ
今、オレが作っている鉛筆をもっと便利な物にならないかと
そうだ、どうせだったらこの鉛筆一つで電話できたりメール出来たり、写真が送れたら
考えるだけで胸がトキメク63歳
迷ってる暇はないとヤマダさんはその日から研究に勤しんだ
失敗をしてはやり直し、やり直しては失敗し、ヤマダさんの研究のために会社が傾きかけ始めた
それでもヤマダさんは研究を続け、研究開始から1年後ついに完成した
究極の鉛筆「YAMADA」が
ヤマダさんは研究結果を知ってもらうために近くにいたバイトのサトウ御飯さん23歳スリーサイズ内緒を捕まえた
「やーサトウさん。私の作った鉛筆を見てくれんかね」
「あーヤマダさん。ついに完成したんですか、どれ見て差し上げましょう」
ヤマダさんはサトウさんに鉛筆を渡した
サトウさんは鉛筆を丹念に見たり、紙に丸やら三角、四角を描いた
「これ普通の鉛筆ですよね?」
「ふ、ふふふふふふ!その鉛筆の隠された機能を見つけられないとは所詮女よ!」
「はいはい。いちいち大声ださなくていいですから、その隠された機能を見せてください」
「うむ」
ヤマダさんは鉛筆を返してもらうと、鉛筆の芯に向かって話しかけた
「あーもしもし、ヤマダだ。そうだいつもの定食を私の作業場へ持ってきてくれ」
ヤマダさんは言い終わると鉛筆を軽く振った
「まずは電話機能だよ電話。鉛筆で通話が出来るのだよ!」
続いてヤマダさんはさっきサトウさんが描いたらくがきの上で鉛筆を転がす
「今の行動が分かるかね?今のはメール機能だよ、メール。君のPCにメールとして送られているから後で見るといい」
さらに鉛筆のおしりをサトウさんに向けた
「これは写真機能だよ。取り終わったら紙の上に芯を向けると自動で画像を写しだすのだ」
ヤマダさんは胸を張った
「それって携帯で事足りません?」
ヤマダさんはその日のうちに辞表を提出し会社を辞めていった
己の研究の無意味さを知ったのだった

「A定食の男」
291この名無しがすごい!:2011/05/21(土) 22:15:18.24 ID:uRIzPqOl
「A定食の男」

 ここはうちの大学の食堂。バイトを初めてしばらく、ようやく慣れてきた気
がする。
「あれが、最近話題のA定食の男なんだ」
 先輩が指さす方を見ると、なにやらのんきな感じの青年がやってくるところ
だった。見ているうちに、その男はカウンターにやってきて、食券を置いた。
「B定食一つ。ご飯大盛りで頼むわ」
 それを受け取って、おばちゃんに注文を伝える。ついでに先輩に小声で言った。
「違ったじゃないすか」
「いや、そうじゃないんだ。すぐにわかる」
 そう言っているうちに、その男は食べ終わったようだ。食器を積み重ねて、トレイ
を運んでくる。カウンターの片隅、食器回収の棚にそれを置くと、中に向かって声を
かけるのだった。
「ご馳走さん。ええ定食やったで。ほな」
 先輩は、こちらにウインクして、にやっと笑った。
「な」
「しょうもないっすね。でも、何かいいっす」
「まあな」


「クラゲにくらくら」
292この名無しがすごい!:2011/05/24(火) 19:51:07.76 ID:ykSaeZIw
 その小部屋に入ると、種々様々なクラゲが不健康な色彩で点灯していた。
 柔らかく蠕動する体をゆらゆらと蠢かせる彼らは、名称と簡易な説明の貼
り付けられた水槽の中でたゆたっている。若々しい女性の声で、キレー、と
か、キモチワルーとか、個性の少ない甲高い声が聞こえる。彼女達はどうや
ら、友人や恋人と一緒にこの水族館に来ているらしい。私は一人だ。寂しい。
 その寂しさを共有してもらおうと、私は再びクラゲに目を向けた。屈み込
んで、顔が水槽に触れるか触れないか。そのくらいの距離で覗き込む。ゆら
ん、ゆらん、と揺れて、狭い空間を泳ぐそのクラゲは、電気的な点滅を繰り
返していた。
 そのクラゲに、別のクラゲが寄ってきた。寄り添うように、癒し合うよう
に互いに触れながら漂い、水槽の底に沈んでいく。沈みきった後も、彼らは
寄り添っていた。ヘヘヘ、と僕の口から声が漏れた。一人だ。寂しい。
 キャーと声が聞こえた。ヤダキレイ、クラゲッテキレイナンダネ。クラゲ
は仲良く手を取り合っている。クラゲですら一人じゃない。一人は私だけ。
えへへへ、と私の口から声が漏れた。限界、寂しい、一人はイヤ。
 私は座り込んだ。誰かがこちらを見た。悲鳴が聞こえた。クラクラする。
顔も体も、下半身もべちゃべちゃに濡れているような気がする。頭がくらく
らする。誰かが腕を掴んだ。私の視界から、クラゲが遠のいていった。


次は「水族館で号泣」
293この名無しがすごい!:2011/05/24(火) 21:35:05.51 ID:V8EfKA7h
水族館に来るのなんて何年ぶりだろう、と思う。
最近仕事がうまく行っていない。この間もまた上司に怒鳴られた。
自分の悪いところは分かっている。しかし、分かっていても治らない物は治らないのだ。
無気力のまま、人の波につられて気がつけばイルカショーまで来ていた。
最初はなんの変哲もないイルカショーだった。しかし、最近は水族館も競争化が激しいのか、イルカ達は次第に見たこともない技に挑戦しだしていた。
見たこともない技。思いつきもしなかったような技。次第に激しさを増すそのショーに、いつしかのめり込んでいた。
気がつけば、自分はショーに夢中になっていた。そしてそれに気づいた時、頬を涙が伝った。自分にもこのイルカ達のように他人が出来なくても出来ることがきっとある筈だ。また明日から頑張ろう。
とても静かに、だが激しく、イルカショーがおわろうとも、いつまでも泣いていた。
次は「水族館でバイト
294この名無しがすごい!:2011/05/24(火) 22:01:41.04 ID:IZEWQwn8
「水族館でバイト」

時には一人で出掛けたくなることがある
仕事に行き詰まりを感じたとき
家族関係がうまくいかないとき
恋人とケンカしたとき
理由は人それぞれだ
私はこれといった理由があるわけでもなしに家を出た
財布と携帯だけを手にしてだ
とりあえず駅に向かい、切符を買い電車に乗る
ここはあえて非日常感を出すためにスイカなど電子マネーは使わない
改札を通りそのままホームへと向かう
偶然来た電車に乗り、空いてる座席へ座りしばらくすると電車が動き出した
行き先も確認せずに乗ってしまった電車
上りと下りしかない駅なので運に任せて乗ってしまってもだいたいの行き先の見当は付く
しかし、ここはあえて心を無にしそっと車内を見回す
時間は昼過ぎ、客はほとんどいない、貸し切り車両といってもいいほどの乗車率
私はそっと向かい席の窓の外を見た
流れていく車窓を楽しんだ
いつのまにか眠ってしまったのだろうか、終点に到着していた
私は急いで電車から降りた
予想はしていたけど予想通りの場所だった
過去に何度か来たことがある駅
駅を出て、真っ直ぐに伸びる道を道なりに歩いて行けば海に着く
海までの途中にあるのは寂れた商店街だけ
あとは民家と駐車場と空き地
私はそんな海まで伸びる道をゆっくりゆっくりと歩く、嫌なことを忘れるために
海に到着した、浜辺には降りずにそのまま海沿いの道を歩く
先に水族館が見えてきた
幼い頃に両親に連れられて来た記憶がある場所
私の足は自然とその水族館に向かっていた
チケットを買い水族館へ
記憶通りの水族館、幼い頃から何一つ変わっていなかった
壁に一枚の貼り紙があった
「バイト募集中!」
水族館でバイトが私の胸に去来するものがあった
そのまま私は近くの館員にバイトしたいと申し出た
私は会社つとめということを忘れバイトをすることにした

「こんにちは夏空」
295この名無しがすごい!:2011/05/30(月) 17:03:03.09 ID:AOTErEXa
「こんにちは夏空」

「はっぴばーすでー、梅ー雨ー(つーゆー)」
 僕の誕生日には、毎回このダジャレを聞かされてきた。覚えているだけで、一六回は
ある。もちろん、犯人は親父である。ギャグはまさに親父ギャグレベル。
 僕の誕生日は、六月三〇日。まさに梅雨のまっただ中なのだ。生まれてこの方、晴れ
た日に祝って貰った記憶がない。朝から雨に打たれて、傘をさしても足元が濡れる中で
家に帰って、それからのお誕生日なのだった。毎年のこととは言え、ひどく湿っぽい話
だ。あまり友達がいなかったためでもあるが。
 そして今年、僕は大学一年生。大学の位置は、何と南西諸島のど真ん中だ。南の島。
戦争の爪痕。基地問題。色々なことが渦巻くところだが、そういうのとは関係なく、
何とか入れるところ、ということで選んだ学校だった。
 入ってみると、町は何だか居心地が悪かった。どこか日本とは違う景色。どこか
変わった食事。人々も、少し違い顔かたちで、会話には困らないのに、聞き取れない
言葉があちこちから聞こえる。
 大学も、だだっ広くて、どこに何があるかもわからない。都会からは遠くて、しか
もバスは予定時刻がないと来ている。移動も大変だ。
 しかも、梅雨が早い。五月半ばには、すでに梅雨だ。一体どうなっているんだ?
 雨の中、何となくだるい体を引きずるように、教室に向かう。一般教養科目なんて、
聞き流すしかない。気がついたら、眠っていたらしい。
 目が覚めると、隣に見たことのない女の子がいた。小柄で、眉が濃くて、肌の色が
浅黒い。まん丸い目がくるくる光っている。
「君、よく寝たみたいね」
「あ、ああ、もう一限終わったんだ?」
「んー違うさね。二限が終わったのよ。君、前の時間から眠りっぱなしだったの。疲れ
てるの? 顔色も悪いみたいね」
 何となく、こんな風に他人と話したのは久しぶりだった。彼女は、全く別の学部の一年
生、地元出身だそうだ。あんまりよく寝ていた僕に、興味を持ったそうだ。
 お昼だったので、二人で学食に行った。彼女の声は明るくて、言葉にはなまりがあった
けれど、朴訥な感じが耳に心地よかった。僕は色々話して、気がついたら、沢山の愚痴を
こぼしていた。何だか違和感があること、色々慣れないこと、それに雨は嫌いだ、ということ。
「もう梅雨が始まるなんて、信じられないよ」
 いつの間にか、例の「はっぴバースデー梅雨」のことまで話していた。
 彼女は不思議そうに、面白そうに、時にはおかしそうに話を聞いていたが、この下りに
来ると、けらけら笑い出したのだ。彼女は、しばらく笑って、それから僕に言った。
「ラッキーよ、君。梅雨は、もうすぐ開けるわよ、ここじゃ」
 ああ、そうか。全然思ってもいなかった。早く始まるなら、早く終わるのか。
 僕は多分、間の抜けた顔をしたのだろう。彼女は、また笑った。それから彼女は、
まじめな顔で教えてくれた。
「来週くらいには、梅雨明け。そしたら、本当に真っ青な、底が抜けたみたいな夏空
になるわ。今年の誕生日は、絶対に晴れるわよ」
 それから、ちょっと頬を赤らめて言ったのだ。
「よかったら、その時、私にお祝いさせてくれない?」
 その直後に僕が見た笑顔は、僕の知ってる一番の夏空を思わせた。そして、その約束
の日、彼女の言う通りの夏空を、僕たちは一緒に見ることが出来た。
 この土地が、好きになれそうな気がした。


「鰹節コンクール」
296この名無しがすごい!:2011/06/02(木) 20:55:12.33 ID:EQeRFXx7
ハンバねえ
297この名無しがすごい!:2011/06/06(月) 23:10:29.18 ID:jHhMQub9
「鰹節コンクール」

「さあ、いよいよ『鰹節コンクール』も最終戦となりました。実況は私、多々木で
お送りします。楽しみですね。解説の磯野さん」
「ええ、予選参加が三百,その中から選りすぐりの十本の鰹の中から、いよいよ最高
の一本が選ばれるのですからね」
「大変なものですね。それで、最終戦は、どのような形で?」
「ええ、ここまでは専門家や料理人の判定だったのですが、最後は出来るだけ多くの人
に決めて貰おうというのが目的で、名付けて『飲み倒れ勝負』です」
「すると、早くなくなったら勝ちと?」
「ええ。それぞれのブースで大鍋一杯のみそ汁を作りまして、紙コップに少しずつ注ぎ、
この会場のお客様方に飲み干すまで振る舞う、ということですね」
「しかし、それでは調理次第で味が変わるのでは?」
「その点は大丈夫。味噌も具も大会から支給されるものですし、調理は大会側の係が立ち
会います。出汁がすべての味を決める、ということですね」
「なるほど、あ、いよいよ始まりました。お客さんたちが一斉に動き始めました」
「そろそろ変化が見られる頃合いですがね……ほら、流れが変わってきましたよ」
「ああ、どうやら、お客が集まるブースがはっきりしてきましたか。あれは……綾重水産
ですか」
「はい、ダークホースですね。でも、あの調子では、勝負はすぐ、おや、どうしたんだろう?」
「今、綾重のブースから、女性が一人、何か叫びながら飛び出し、あいや、さらに何人かが飛び
出して女性を取り押さえます。何でしょう? 磯野さん、内紛でしょうか?」
「わかりませんね。ああ、大会運営に連絡が行ったようです。どうしたんでしょうね。おや、大会
の中断が告げられました」
「何か不正でもあったのかな?」
「ああ、今報告がありました。綾重失格で、やり直しです。さっきの女性の内部告白で、綾重はこれ
を使ったのだそうなんです。磯野さん、どういうことなんでしょう?」
「ああ、なるほど、一般客が相手と言うことで、うまい味より馴染んだ味ごまかそうとしたわけだ」
 そこにはこう書いてあった。「○風味の本○し」


「あっさりの酒蒸し」
298この名無しがすごい!:2011/06/14(火) 23:33:48.14 ID:7utSMgnF
ちょっとした小話でございますがね
日本橋界隈で貧乏人相手に築地じゃ誰も買わねえような、 魚のアラ
それも鯛や平目なんてぇ素性が宜しいのでなく猫も食わねぇような
下魚のアラを使って酒蒸しを作る、魚助なんて屋台があったんでさ。
ちょっと考えれば、酒蒸しなんて詰まらないもん流行らねぇのは解りそうなもんでしょう? 
あたしらもね、そのうち潰れて消えるだろうと高ぁくくって眺めてたんですよ

そしたら魚助の野郎、潰れるどころか日に日に客を増やして行きやがるんでさ。
しかも、客ときたら屋台を出ると吉原で太夫と遊んだみてぇに幸せそうに帰って行きやがるんでね
こりゃあ何かおかしい、俺が確かめてきてやると、つれが言い出したんですよ。
そりゃあたしもね、気にはなってましたから、おう行って来い、骨は拾ってやるぜ。なんて言って離れたところで見物してたわけです。
しばらくして、ふらふら〜とつれが出てきまして。黙ってるとニヤニヤと気色が悪いし、しかたがねぇから聞いたんで。
なんでぇだらしねえ、そんなに美味かったのか? 
そしたらつれの野郎、こう言いやがった。全く貧乏人ってのは情けねえもんですよ。
「ありゃあいい店だ、安いのに湯気であっさり酔える」だと。 
   
お題がむずかしいよ!

「ぱんつが消えた!」
299この名無しがすごい!:2011/06/18(土) 15:32:21.84 ID:icTrgv+A
「ぱんつが消えた!」

 それは私が銭湯に行った時のことだ。風呂に入り、身体を乾かしていると、
ふと、私はロッカーの鍵を掛け忘れていたことに気がついた。
「やだ……もしかして……」
 私の懸念は当たっていた。ロッカーは開け放たれ、中に入れてあった大切な
ものが消えていた。財布は無事だった。服も無事だった。大切なもの。それは
パンツだった。
「ど、どうしよう……」私は困った。文明化された世界で、パンツ無しで生きていく
ということは、私には難しいことだった。
 しかし、私は恥ずかしさから、パンツを無くなってしまったことを誰かに言いだ
すこともできず、途方に暮れていた。私はパンツ無しで着替えを終え、十五分
ほど椅子に座っていた。誰かに気付かれるのではないかと、気が気ではな
かったが、それが新鮮な刺激となり、股間が熱く火照っていたのも確かだった。
 私は、覚悟を決めると、銭湯を後にした。どうせバレることはない。パンツが
無い程度でうろたえるなんて、自意識過剰だと思うしかなかった。
 しかし、私の悪い予感は、的中してしまうことになる。
「ウホッ……いいマラしてるじゃないの……」阿部さんが近づいてきた。イチモツを
そそり立たせ、先走りに濡れた私は、彼に抗う術を持たなかった。

「ありきたりなトリック」
300この名無しがすごい!:2011/06/19(日) 02:19:39.58 ID:954vrK62
>>299
ウホッ……いい叙述トリック
301この名無しがすごい!:2011/06/19(日) 12:55:47.69 ID:KhHvOQvZ
「ありきたりなトリック」

「なるほど、コンクリートの床に全身を強打、か」
「ま、見たところ、この階段のどこかで足を踏み外して墜落死。事故でいいんじゃないすか?」
「馬鹿野郎、サスペンスだったら、これは必ず転落死に見せかけた殺人だろうが。ありきたりだ
ぞ。どこかにそのためのトリックがあるはずだ」
「はいはい。じゃあ、この様子だと、問題は上の方かな? あ、何だろう……」
「お、何かあったのか? ああ? これは……アリだな」
「ええ。随分集まってますねえ。ああ、他の虫も来てたみたいですよ。ほら、これ」
「ああ。これはチョウバエにショウジョウバエ、それに、チャバネゴキブリの幼虫も張り付いて
いるな。多分蜂蜜か何かだろう。これは鑑識に回せ」
「で、先輩。あれは?」
「うん。このガイシャ、かなりの潔癖性だったようじゃないか」
「ええ。そうらしいですね。それが?」
「つまりな、あれは犯人があそこにわざとこぼしたんだ。虫も多少は貼り付けたん
だろう。それにアリが集まったところで、ガイシャを興奮させた上で、ここに誘導
する。で、あれを見る」
「ああ、なーる……」
「当然踏むのを嫌がって、踏み外したわけだな」
「なるほどね。アリが来たりでありきたりですか」
「いや、これは違うぞ。第一、成功率低すぎるだろ、こんなトリック」
「サスペンスなんて、そんなものなんじゃないんですか」

「パンダのパンだった」

あと、>>296>>300
お前ら、感想だったら感想スレへ池。
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1284739688/l50
302この名無しがすごい!:2011/06/30(木) 12:55:41.16 ID:ImOZUtT0
「パンダのパンだった」

「くだらない」
俺は辰弘の話を聞き終えて大した間をおかずにそう罵った。
「そうかなぁ」
同意を得られなかったことがさも意外だったようで、辰弘はつまらなさそうに俺を見る。
「当たり前だ。蒸しパンを動物の形にしてチョコで色付けてパンダパンとか、お前の思考回路は小学生か」
俺は辰弘の新商品のアイデアを全否定し鉛筆を机に転がす。
「有りそうで無いと思うんだけどなぁ」
「はあ? 在り来りどころか、誰でも思いつくありふれたアイデアな上に、捻りもない。第一うちの系統から外れすぎだ。そういうのは安価で大衆的な、オッサンが家族とやってる様な町のパン屋でやってくれ」
俺は辰弘に指を突き付けながら言いきった。
辰弘と二人で店を開いて五年になるが、パティシエとしての彼を頼りにしていたし、ここまで店を続けてこれたのも二人でアイデアを出し合って努力してきたからだ。
しかし今回のコイツは最低だ。
変な薬でもキメてきたんじゃないかと疑ってしまう。
「ぶっちゃけて言うと……」
「なんだよ?」
「僕はそっちの路線の方がやりたいんだ」
おいおい、五年も働いてきて今そのカミングアウトをされて俺にどうしろと?
「この店を町のパン屋におとしめると?」
「そうじゃなくて、安価でありふれた商品を独自に展開して層を広げるのも有りじゃないかと思うんだ。いつまでもスイーツスイーツって持て囃されない気がする。保険とは言えないけど、一本槍で似通った味や見栄えでは行き詰まるだけじゃないかな」
「……それ、今考えたろ?」
「あ、ばれた?」
理由をこじつけるまでやりたいならば彼を信じてみてもいいかもしれない。辰弘がこだわって推したものは大ヒットはないが根強い支持を得てきた。
「仕方ない。一ヶ月だけやってみよう。ただし、改良は必要だぞ。それと本筋の新商品もちゃんと考えて来いよ」
俺のゴーサインに辰弘は満面の笑みで頷いた。

それから一年。
パンダパンは地味に売れ、サイズの小さい子パンダ、黒糖を加えた黒い生地のレッサーパンダ、期間限定の苺味のピンクパンダ、色合いを逆転させた逆パンダまで派生した。

「人生ってホント気まぐれだよね」
303この名無しがすごい!:2011/06/30(木) 17:05:12.20 ID:glgl/nqs
【源氏物語】光源氏と紫の上(8才)との初夜を描いた「幻の第55巻」が発見される(画像有)
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1306046832/
304この名無しがすごい!:2011/07/01(金) 12:18:28.91 ID:/jQpI04S
娘が三島由紀夫を読んでいるのだが

http://twitpic.com/5dnf51
305この名無しがすごい!:2011/07/02(土) 01:38:28.24 ID:9rMwTz9D
「人生ってホント気まぐれだよね」

 男はひとり、画面を見つめながらに考えていた
 客足少なき見せ物小屋のことである
 見せ物小屋は、常人には理解もできぬ頭を持ち、その頭からさらに想像も絶するような奇特な体躯を持ち得た暗愚を連ねているとの触れ込みであった
 小屋に入ればなるほど、客席の前を横切っていくのは思考の枠を超えた奇妙奇天烈摩訶不思議、奇想天外な生物もいた
 生物の枠すらも超えたそれらは悠々とその定めることも叶わぬ体躯で客席を魅了してゆく
 だが、真にそのような、この小屋に相応しい奇っ怪な輩がごく僅かしかいなかったと言うだけ
 たいていがネズミの着ぐるみや、私は悪魔ですと表記された看板片手にとぼとぼ歩みを進める老人、ユニコーンの失敗作みたくあごの下から作り物の角をぶら下げたロバのように客の期待を大きく裏切るものばかり
 それだけが、しかしそのことこそが客足を疎遠にさせてしまっているのではなかろうかと
 そう彼は考えた
 ラヴクラフトをしても目に出来ぬような奇怪をはないものだろうか
 そう思っていたのは彼だけではなかったらしい
「フザケンナー!」「カネカエセッ」「マッタクドレモコレモガムダノカタマリダナ」
 さすがにそれは言い過ぎだろうと彼は思ったが、その言葉を否定することもなかった
「人生ってホント気まぐれだよね」
 後方の席で誰かが呟いた
 それはいったい何の人生に対しての言葉なのだろうか
 この見せ物小屋に対しての言葉なのだろうか
 それとも呟いた誰か自身のことを指していたのだろうか
 そうでない別の何かにしてもである
 男はポップコーンをほおばりながら思った
 人生を気まぐれと感じるのならば───それは人生が気まぐれなどではない。人生の主人公こそが気まぐれなのだと
 その人生が如何に面白く回るかなんてものは、それこそ主人公の立ち回り一つなのだと
 だからこそ、己の人生が気まぐれだなんて感じるのならば、それは大きなはき違えなのだと───
 ツッコみたい気持ちを抑え、男は空になったポップコーンの容器を片手に見せ物小屋を出て行った

「障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式」
306この名無しがすごい!:2011/07/08(金) 16:51:03.62 ID:Oz4KuPdc
「障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式」


ゴミ捨て場付近に何の処置なく投棄された旧式のエアコンが、夜闇の中その電源を入れた。
もちろん電気がこの場に存在するはずもないし、長きに渡って雨ざらしになっていたこの家電が何の問題もなく通電するはずはない。
ただ普通でない、それだけの話だ。
エアコンはその噴射口をむやみに開閉させて己の仲間を探す。誰かいないのか。
私はここに。
誰か――何かの声が微かにエアコンに届いた。
骨組みばかりが残る照明の残骸が、折れた軸を震わせ手を挙げた。
私はここにいるわ、エアーコンディショナー。
微かな声。身を守る外装も失われ、内部を露出したそれに、エアコンは声をかけた。
照明の類いか。
彼の記憶にはない形だった。古式めいた型と、それを裏切る内部。
外装はどうしたんだい。
骨組みに微かにこびりついている紙らしきものの粕を見ながらエアコンは問い掛ける。
障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式。
照明は答える。
雰囲気と実際の使い勝手を両立させた彼女は、個人経営の飲食店のために用意され、店と共に終わった。
雨は嫌ね。彼女は言う。
エアコンは照明に向かい合った。
もう一雨来る前に、さっさとここから出ないか。
そうね。
二人は頷き、そっと立ち上がると、人気のない道をゆっくりと跳ねて行った。



「犬がいぬいぬ犬が犬」
307この名無しがすごい!:2011/07/10(日) 12:38:33.32 ID:s+Q7q+DE
「犬がいぬいぬ犬が犬」

 ようこは小学生に入ったお祝いに、と一匹の子犬をもらいました。
犬なんかいらない。犬の世話なんか面倒くさいし、どうせなら小さくてかわいいハムスターがいい。
ようこの頭のなかは不満でいっぱいでしたが、わざわざ秋田からきてくれたおじいちゃんとおばあちゃんに申し訳ないと、
子どもなりに気を遣い、笑顔でありがとうと言いました。
 夜になり、おじいちゃんとおばあちゃんが帰ってしまうと態度は一変します。
「こんな犬いらない。ハムスターと交換して」
ぶすくれた顔で犬をにらみつけ、お父さんとお母さんを困らせてしまいます。
なんとかなだめようとしますが、ようこは犬に触れようともしません。
「なあ、ようこ。名前なににしようか」
お父さんが犬を膝の上にので、指先であやします。ようこはその光景が気に入らないらしく、またぶすくれてしいました。
「……犬。そんな犬、名前なんかなくていい。ようこ、犬って呼ぶから」
ようこはそう言うと、自分の部屋へ行き、布団をかぶるとそのまま眠りました。
 目を覚ますともう朝で、お父さんとお母さんのいる部屋へいくと、やっぱり犬はそこにます。
「ようこ、あいさつは?」
「おはよう」
お母さんがいつものように朝ご飯の支度をしています。しかし、お父さんの姿が見あたりません。
お父さんは、隣の部屋で犬にえさをあげていました。ようこはそれを、じっと見ています。
ようこの視線に気づいたお父さん。お父さんは笑顔で言います。
「おはよう、ようこ」
「おはよう」
「ようこ、やっぱり名前が犬だなんてかわいそうだよ。だからお父さん、新しい名前にしたんだ」
ほら、とお父さんは犬を抱っこして、ようこに見せました。その首には、かわいらしいリボンが結ばれています。
リボンをよーく見ると、そこには「いぬいぬ」と書かれています。
「ようこも、名前よんでごらん?」
ようこはお父さんの顔を見ると、無言でお母さんがいる部屋へ戻りました。
 ようこといぬいぬの生活は、こうして始まったのでした。

「新しい靴」
308この名無しがすごい!:2011/07/14(木) 20:41:55.94 ID:4LewuThS
「新しい靴」

ある日、運動不足解消にと靴を買いに行った。
いや別段ジョギングやランニングやウォーキングにこだわったわけではない。
単純にジョギング愛好者やウォーキング人口が増えたと聞いたからとっつきやすかっただけだ。
あとは手軽で揃える道具も少なく、体力と気分で行えるからだ。
以前はスケートボードだの、スノーボードだの、BMXだのと足を運んでいたスポーツショップへ久々に向かった。
さすがに数年も経つと店員は入れ代わっていて、知った顔はない。
僕に付いてくれたのは二十歳そこそこのバイトバイトした姉ちゃん。
用向きを伝えるとシューズコーナーへ導かれ、大まかな説明をしてくれた。
しかしそこはたかが靴。
コンマ一秒を争うアスリートなどではない僕は感性に従いデザインとブランドであっさりと決める。
姉ちゃんも心得たもので、雑談しながらサイズを合わせたり紐の具合をみたりしながら、ソックスやウェアを奨める営業トークも混ぜて来る。
姉ちゃんの笑顔にやられたのか、ポロシャツからチラチラ見える谷間にやられたのか、しっかりウェアとソックスも包んでもらってお買い上げ。
さあ走るぞ! と意気込んで一時間。
靴ずれでヒョコヒョコ歩きながら自宅を目指していると、追い抜いていった女が振り返って一言。
「あれ、昨日のお客さん?」
「あ、店員さん」
スポーティなランニングウェアに存在感のある胸、ランニングスカートから伸びる細い足、僕の返事に答えた笑顔。
間違いない。
「どうしたんですか?」
「バッチリ靴ずれで」
「いきなり何キロも走ったんでしょ?とりあえずそこに座ってください」
姉ちゃんは僕の靴とソックスを取り去ると、ポーチから薬やらティッシュやら取り出して処置をはじめた。
「これでゆっくり歩くくらいは大丈夫ですよ」
「すいません。靴選びから手当まで」
「いいんですよ。私、このあたりを毎晩走ってますから、困ったことがあればお店か道でも声かけてくださいね」
「ありがとう」
それじゃ、と去りかけた姉ちゃんだが、「忘れるところだった」と戻ってきて一言。
「新しい靴を買った儀式」
と抱き着くように近づいて靴を踏んできた。

「君とビーチでアイス食べたい」
309この名無しがすごい!:2011/07/14(木) 23:21:04.10 ID:cF4WYJ9v
「君とビーチでアイス食べたい」

 ベッドの上、呼吸を補助するマスクを付け、点滴で生きながらえている少女が居た。
 その少女の名は浜岸アユミという。
 長かった髪の毛は抜け落ち、身体は細く折れそう。痛み止めを常用して、なんとか意識
を保ち、たまに喋れるといった状況だった。俺は悔やんだ。もう少し早く病院に連れて行っ
てやれば、助かったかもしれないのに。
 末期ガンだった。本人が異常に気付いて病院を受診した時には、もう全てが手遅れだっ
たのだという。皮膚には黄疸が浮かび、かつての微笑みは二度と帰らない。それでも、俺
は彼女の恋人なのだった。

「最期の願いはあるか?」俺は、なんとか言葉を絞り出した。
「君とビーチでアイスを食べたかったな。海の家のボッタクリのアイスを、二人で分け合っ
てさ。そういうのが夢だったんだ……」
「アイスならいくらでも買ってきてやる! だから、生きてくれ。お願いだ……」
「人間には寿命があるものだよ。私の場合、それが少し早かっただけの話さ」

 俺は帰りにコンビニでアイスクリームを買い、クーラーボックスに入れた。
 次の日、アイスクリームを持って、俺はアユミの病室を訪れた。珍しく医者と看護婦が
集まっている。
 
「残念ですが……」後は聞かなくても分かっていた。アユミは死んだのだ。約束は守れな
かった。俺はバイクに乗って、海に向けて走った。海の家に辿りつくと、俺はクーラーボ
ックスを開けた。日光の下で、味のしないアイスを食べていると、周囲で子供たちが遊ん
でいるのが見えた。
 
「おーいおまえら。このアイスをやるよ。ホントは別の人が食べる予定だったんだけど、
その人は事情があって来れなくなっちゃってね」
 
 子供たちはめいめいにアイスを取り分け、それを食べた。
 
「なあおまえら。今日、アイスを食べられなかった人の、幸せを祈ってくれないか」
「なんて名前の人?」
「浜岸……浜岸アユミだ」
「アユミお姉ちゃんがどうかしたの?」「お兄ちゃんアユミお姉ちゃんに振られた?」
「アユミを知っているのか?」
「うん。夏のバイトで、アイスクリーム売ってたお姉ちゃんだよ。恋人ができたら、きっ
とここに連れてくるんだからって、自慢してた」

 俺は、そうか、とだけ言った。寄せては返す海の音に、俺の小さな嗚咽は、静かに吸い
込まれていった。

「ラノベ専門図書館」
310この名無しがすごい!:2011/07/18(月) 12:49:20.10 ID:nhvvP/mM
日本にもこんな時代がありました。
データバンクガイドのお姉さんはそういいながら一冊の本を棚から抜き取り
最初の三行を見て失笑します。
加えて、人を小馬鹿にする時のように細顎をしゃくりました。
自分より美人のどや顔ほど残念かつグーで殴りたくなるものは中々ありませんね。
私は首を捻りながらもガイドさんに秒間8発のマシンガンジャブを放ち
跪かせまた上で靴を舐めさせました。
もちろん精神世界での話です。

そもそもラノベとは何か。
帝国データバンクで検索したところによると
軽いノリで読めると嘯きながらもその大半がブックカバーの着用なしには読めぬ
萌え絵なるものが添付されている小説だということです。
ガイドさんが手にしているものも、やたら布地の少ない服を着た女の子が
前屈みになって目を潤ませているという、明らかに狙っているとしか思えない類のもの。
私から見ても赤面ものです。
電車でこんなものを堂々と読んでいる方がいれば力一杯軽蔑するはずです。
逆に、内容が気になりながらも表紙が原因で
手に取ることが出来ずに涙を飲んだ方も数多くいたことでしょう。

まさに禁書とも言うべきこの書物たちですが
緩慢なる腐敗といわしめた平成の世を知る上で貴重な資料となっているとのこと。
一世を風靡し、過渡期においては純文学を上回る勢力を誇っていたラノベ。
文学は時代を反映するという名言もありますし
おそらくは平成の男子たちも「この歪んだシステムをぶち壊す!」
女子であれば「アンタ、今日から私のペットだから」
などと吠えまくっていたと推測されます。
人間の思考が鈍化してきたと言われているこの時代において
先人たちの揺るぎない思考を掘り起こす意義は量り知れません。

今日から夏休み。
謎多き平成の価値観を読み解くべく
私はここで禁書たちと睨めっこする決意を固くするのでした。

「見えなそうで見える」
311この名無しがすごい!:2011/07/19(火) 23:59:24.69 ID:Y8YJP5Gi
見えなそうで見える。

 友人のAに誘われて連れてこられたのは駅の近くのベンチだった。
「あれをみてみな」
 Aの指指す方をみると陸橋だった。
「ここは絶妙な位置にあって向こうからこっちは見えない、逆にこっちからはあのように通行人の腰から下がギリギリ見えるんだ、このギリギリってのが重要でチラリズム主義の俺にとっては最高の角度なのさ」
 そう言ってA はだらしない顔で晒しながら見上げている。
「言ってるそばから早速お出ましだ。ほうほうあの娘は白か、あの娘は黒。お、次の娘は真っ赤かよすげーな」
 Aはもう周りのことなどお構い無しに大声で興奮している。
「どうだすげーだろ、ところで今の三人のなかでお前どの娘が一番タイプ?」

 僕は返答に困った。決して恥ずかしがっていたのではない、答えられなかったのは今陸橋を通った人たちのなかに女性は一人もいなかったからだ。A はそういうものが見えない人だと思っていたのだが……。




次題 「パラドックス・リボン」
312この名無しがすごい!:2011/07/31(日) 12:53:47.94 ID:gM+k7aB5
「パラドックス・リボン」

「君だというのは、そのリボンでわかったんだ」
 男は、ひどく懐かしそうに、しかし、いまだに信じられない再会を喜んでくれる。
私にはしっかりとした記憶はない。でも、彼の醸し出す雰囲気には、何か心が温かく
なるような、頼ってしまいたくなるものを感じていた。
「じゃあ、あなたが私を助けてくれた人? 確か、時間救助隊とか言っていた……」
「そうだよ、いやあ、すっかり美人になったね」
 時間航行が可能になって数年、様々な制約はあるが、天災の被害者は時間を遡って
救助が可能になっていた。十年ばかり前、大洪水で流されかかった私は、それによって
助けられたのだ。あの時、幼い私には頼もしい大人と映った彼は、今や少し年の離れた、
暖かな男性に見えた。
 当然のように私は彼に惹かれてゆき、また、彼も何度も私の勤める喫茶店に会いに来
てくれた。その年のうちに、私は結婚を決意した。
 でも、それは必ずしも幸せを意味しなかった。いつの世も、人命救助には命の危険が
つきまとう。まして、彼の仕事はその時代に助けられなかった人を対象にしているのだ。
彼に出動があるたびに、私は不安に震えながら待つしかなかった。だから、結婚して初め
ての出動の時、彼にあのリボンを託したのだ。
「これ、亡くなった母から貰ったんです。『あんたの守り神だ』って」
「わかった。必ず持って帰る。約束する」
 彼はそう言って出かけた。そして、必ず戻ってくれた。
 でも、その日は違った。家にやって来たのは、彼の同僚だったのだ。
「奥さん、申し訳ない」
 とうとうその日が来たのだ。私は、全身の血が引くのを感じたが、何とか意識
を保ち、彼の最以後の様子を聞いた。
 彼は、私の故郷の、私が助けられた時よりさらに前の洪水の救助に向かい、そこ
で身重の女性を助けたという。でも、さらに残った人を助けようとして、結局は戻
れなかったそうだ。
 ああ、彼は最後まで彼らしく闘って死んだのだ。涙が勝手に溢れ、顎を伝って床
に水たまりを作った。
「ああ、それから、彼、その女性にあのリボンを」
 彼の同僚は、何度もあのリボンの話を聞かされたという。だから、それを不安に
震えている女性に手渡したのが印象的だったそうだ。
 瞬時に理解した。その女性は、私の母だ。彼は、母を、そしてそのお腹の私を助
けてくれた。私は、二度も彼に助けられていたのだ。あのリボンは、私の『守り神』
だったのだ。

 さて、問題です。このリボン、一体どこから来たのでしょう?

「珊瑚の木」
313この名無しがすごい!:2011/08/02(火) 10:38:20.77 ID:6clOdXNa
「珊瑚の木」

 むかしむかし。あるところに素潜りが得意な漁師がおったそうな。その男は、毎日漁に出て
は、帰る度に同じ話を自慢しておった。
「この海の底には、珊瑚の御殿が建っておる。なかでも珊瑚の木の見事なことといったら、殿様
だって手に入れられまいて」
 その噂が殿様の耳に入ったからさあ大変。殿様はすっかりご立腹のご様子で、男に、その
珊瑚の木とやらを取ってこなければ、打ち首に致すとのお達しが出てしもうた。
 男はたいそう困って、なんとかならぬものかと、町一番の知恵者に相談しに行ったんじゃと。
 するとその知恵者は、すぐに答えをくれたわけじゃ。噂がお城に届けば、いずれこうなると
いうことが、とっくの昔に分かっておったんじゃな。
 そこで男は知恵者の言う通りに殿様の前で答えたそうな。
「珊瑚は海の林と申しまする。これは竜宮の生き物でありますゆえ、刈り取ればたちまち死に絶え、
その輝きは失われてしまいまする。もし殿様が、死体が見たいとご所望なら、喜んで刈り取り、
ここまでお運びいたしましょう。しかし、もし生きている姿がご覧になりたいと申されれば、
殿様のほうから竜宮まで出向くが道理でございましょうぞ」

その後、その漁師がどうなったかは、残念ながら伝わってはおりませぬ。
されど、その海には今でも珊瑚の木が茂り、スキューバダイビングの名所となっていることだけは、
嘘偽りなきまことの話にございまする。

「mから始まる話」
314この名無しがすごい!:2011/08/05(金) 10:48:54.35 ID:LdcAhSMm
「mから始まる話」

その日わたしのケータイに知らないアドレスから奇妙なメールが届いた。
「mmm」とだけ書かれた文面に『jgk.si.net』という見慣れぬドメイン。
迷惑メールでも来たのかと思ったが、期末テストも終わり家でゴロゴロしていたわたしは興味本位と暇つぶしにこの不思議なメールを送った主に返信した。
『あのぉ??まちがいメールですか??』
絵文字を散りばめ画面をデコレーションした、まさに現役女子高生の若さとバカさの権化ともいえる文章を送りつけた。
ふふふ、これを見た相手はさぞ驚くだろう。
小さないたずらをかまし、さて昼ごはんでも食べるかとベッドから身を起こしたところでケータイのランプが光った。
……おどろいた。
まさか向こうから返事が来ようとは。
『すみません さっきのめーるうちまちがえちゃったみたいです ぼくめーるなれてなくて』
なるほど、メール初心者か。いやしかし解せない。
『えーと、あなたどこのどなたですか?なんでわたしにメールを?いたずらですか?』
少し待つと返事が来た。
『いたずらじゃあありません ぼくはあなたにつたえることがあるのです』
『つたえること??っていうか誰ですかふざけてると警察突き出しますよ』
いかんいかん、どんどんメール上のキャラが崩れてきた。
数秒後に懲りずに返事がきたもんだから、どんな内容かと見てみればそこには意外なことが書かれていた。

『ぼくはあくまです。あなたきょう しにます』

は? 何言ってんだこいつは。
いいかげんに気持ちが悪くなってきた。反射的にメールを削除し、アドレスをシャットアウトしたがどうやら遅かった。
五秒後、わたしは心臓発作で死んだ。
――「666」という数字が不吉な数字であることを思い出しながら。

「オレとおまえとあいつと田中と吉田と鈴木」
315この名無しがすごい!:2011/08/08(月) 18:22:02.17 ID:hsjOmIar
「オレとおまえとあいつと田中と吉田と鈴木」

「田中は?」
「急にバイトが入ったんだって」
「吉田は親戚の法事を思い出したってメールが入ってたぞ。後はヨロシクがんばれよ、だってよ」
「そ、そう」
「で、言い出しっぺの鈴木は?」
「え? ええと……じ、持病の癪で行けません、って」
「お前の友達のポニーテール娘は?」
 スミレが目を伏せ、すねるように唇をとがらせた。目のふちがわずかに赤い。
「美希も来れないって。……き、今日来れるのは、あたしとあんた、二人だけだって」
「どーすんだよ! オレとおまえとあいつと田中と吉田と鈴木、計六人でバーベキューするっていうから持ってきたのに!」
 俺は両手にひとつずつスイカをぶらさげたまま叫んだ。一人あたり三分の一で分配する予定が、丸のまま一個に大増量だ。どう消費すればいいんだ、このスイカを!
「み、みんな用事があるって言うんだからしょうがないじゃない。それでその……ど、どうする?」
 スミレは落ち着かない様子で髪の毛をいじる。柔らかくウェーブのかかった、いつもと違う髪型だ。
 よく見れば、服も普段と違う。キャンプ場で走り回っている時のTシャツにジーンズの姿ではない。ふわっふわでスケスケのワンピース(シースルー、というらしい)なんぞを着ている。そういう恰好をしていると、そのへんの女の子よりもずっと女の子っぽい。
 ……なんて口に出そうものなら『あたしは生まれてこのかたずーっと女だばかやろう!』と激怒されそうなので黙っておく。
「せっかく集まっちゃったし、その……ふ、二人で、このまま映画でも見てく?」
「スイカ持ってか?」
「じゃ、じゃあ、水族館とか?」
「スイカ持ってか?」
「な、なんでそんな大きなスイカ持ってくるのよ!準備はこっちでするから手ぶらで来てって、鈴木くんが言ってたでしょ!?どうしてあんたはいっつも人の話を聞かないのよ!」
 スミレが突然にキレた。
 どうして怒っているんだろう。万年幹事のスミレをねぎらうために、朝から畑に行って、ばあちゃんちのスイカを持ってきてやったのに。超うまいんだぞ、超!
「あんたはいっつもそーよ!遊びに行こうって言ったら大人数の方がいいとか言うし!アウトドアじゃないと来もしないし!あ、あたしがどんな気持ちでいるかなんて考えたこともないんでしょ!?」
 スミレが泣きそうな顔をする。俺はふいに全てを理解した。
 みんながドタキャンした理由。
 面倒な幹事をスミレが毎回引き受けている理由。
 彼女が思いつめた表情をしている、その理由。
「スミレ……ごめんな、ずっと気づかなくて。オレ、そういうの鈍感でさ」
「え? え、えええっ!?」
 オレはスイカを持ちかえ、彼女の肩にそっと手を置いた。びくり、と硬直する感触がダイレクトに伝わってくる。
「おまえ、みんなからハブにされてるんだな?だから、いじめとは関係ないオレを毎回誘ってるんだろ?」
 スミレは顔を激怒色に染めて叫んだ。
「死ね、朴念仁!」

「東京駅で吉田以外」
316この名無しがすごい!:2011/08/14(日) 00:23:46.07 ID:3jTnf80N
こち東京来るの10年ぶりだぶ、前は修学旅行んちゃはっけぇ
こばやんっつぁあ佐藤っつぁあ友してきん、懐かしぽぅ。
んが良くない思い出ありし。東京駅ぶ山手線乗るしき、
出席番号順並ばぜぇ先生言うもんっつあ、こち吉田けもん、
一番あとし。村さが汽車ならわ乗るまで待っつああ、チンチロ
鳴り出ししてこち乗ってなは、乗れなは、ぎゅうぎゅう押すもの
プシュー閉まりぶ、挟まろ、いてえいってえふざけんがし
騒いだぶ、駅員きて次の電車にお乗りくださーいっつぁあ
ひぺがるるてこち一人乗れなは、置いたたかしき、
あそ皆こち見る目おどろっこしおかさししこち悔しいのぶ、
なんのぶ、忘れられなは。

卒業アルバム、「東京駅で吉田以外乗った」写真とりし誰っつあ。

つぎ「地下室のヒマワリ」
317この名無しがすごい!:2011/08/27(土) 00:42:11.40 ID:y5nGElXl
 僕の周りではある噂が広がっていた。
噂は地下に黄金色の世界があるというものだった。

 徳川埋蔵金だという人もいれば、旧日本軍の隠し資金だとか、
黄金の国ジパングだとか、もう本当に訳が分からない。
 訳が分からないけど、にわか探検隊がたくさん生まれTVでも放送されたから遠くからも人が来た。
僕もご多分に漏れず友達同士で探検隊を作っていた。

 ある日、心霊スポットとして知る人ぞ知る廃ビル探検をすることした。

 侵入者を防止するために窓や入り口をふさがれていたのは昔。
多くの侵入者に壊され続けた柵は、応急処置をしても心もとなく
僕たちは何もしなくても、すんなりと入ることが出来た。

 廃ビルの1階は窓がふさがれており薄暗く隙間から差し込む光を埃が形作っていた。
それはそれで面白くしばらくみんなでわいわい眺めていた。

 だんだん目が慣れてくると僅かな光でも十分に周囲を見渡せ、
壁にはたくさんの落書き、床にはゴミやBB弾が散乱していた。
そのまま1階を探検しH本等戦利品を手に入れてた。

 そして僕らは……今にして思えば見つけてはいけないもの……地下への階段を見つけた。
薄暗いはずの地下の部屋から明かりが漏れているのがここからでも分かる。
1階でも暗いのに光差す地下室、それだけで僕たちの体は震えた。武者震いじゃなく恐怖から。
帰りたかった。行きたくなかった。そう思ったのは僕だけじゃなかったはずだ。
だけど誰もそれを言い出せなかった。恐怖へのチキンレース

 階段を下りるにしたがい聞こえてくるうめき声、遅くなる歩調
嫌だ逃げたい。でも一人では逃げれない、怖いから。
 恐る恐るみんなで中を覗くと意外にも天窓から十分な光が差し込み、
何故か床に土が撒かれ、天井からさす一筋の光に向けて仰ぎ咲くヒマワリがあった。
見とれてしまう何かがあり、恐怖から張り詰めた気がそがれた瞬間

 「地下室のヒマワリ〜〜〜」しゃがれた、おどろおどろしい声が響いた。
声のほうを見ると、全身タイツでヒマワリの格好をしたおっさんがいた。
ヒマワリの花に埋もれた顔は恐ろしく、それがいきなり走り出した
「地下室のヒマワリ〜〜〜」そういいながら迫ってくる。
僕たちは逃げ出した。多分体育の授業なら新記録間違い無しだ。
声はもうかすかにしか聞こえない、聞こえないって決めたんだ。

 その日のことは、僕たちの間だけの話となった。言っても誰も信じてくれないから。
ほかの友達が探検に言ったらヒマワリどころか、地下室すらみつから無いらしい。
僕たちが見たものが何だったかは分からないけど、多分訳がわからないものだろう。

そして今日も探検に出かける。

次「潜行した閃光」
318この名無しがすごい!:2011/08/27(土) 10:21:09.77 ID:AX8p2tCQ
都会の子は「イカが光る」なんて知らないさ。でも、田舎の子だって、
「禿げは本当は光らない」なんて言ったら驚くだろう。そんなものだよ。
そう言った自分の声に、驕る気持ちがなかったか。年相応に物を知ってるなんて、
勝手に思っていた俺が甘かった。富山には、光る禿が本当にいたのだ――。
朝4時に宿を出て、フィッシャーマンズワーフの隣から観光漁船に乗る。
猟師は皆禿げていた。が、どれも光っていなかった。「叔父さん、氷見にきなよ。
本当に光る禿がいるよ」とぼけた甥っ子の顔が目に浮かぶ。半信半疑、
いや零信全疑だった。それみろ、誰も光ってないじゃないか。
観光客を乗せた船が海に出ると、沖には集魚灯を点した漁船が点在して、
残り少ない夜を働いている。あの光が、もしかして禿なのか? だが、近づいてみると、
それはやはり人工の光だ。
そのときだった。
真っ暗な海面の下で、蛍光色に点滅する何かがまたたいた。蛍烏賊だ。
無数の蛍烏賊の群れが、点から帯に、やがて絨毯になって、漁船の周りを
取り巻いていく。
「来たぞ! それ!」猟師の掛け声がかかった。と、網を持った猟師が
次々に海に飛び込んだ。あっちの船からもこっちの船からも飛び込んだ。
光る衣をまとった猟師たちは海上の一点に集合すると、編隊を組み、
海に潜る。絨毯みたいだった烏賊が次第に凝集して、いくつかの光球に
まとまっていく。あっ! 禿だ! 誰かが叫んだ。息継ぎに浮上した猟師がひとり、
高く水面から飛び上がる。「大漁ーっ!」空中で叫んだ猟師の頭は、
パールホワイトに点滅していた。そして飛沫をあげて海に落ちた。その周りには、
もう他の猟師が集まっている。固唾を呑む観衆の前で、点滅するいくつもの禿が、
徐々に、徐々にタイミングを合わせていった。
そして、光った。光ったんだよ。海全体が閃光を発して、真っ白に光ったんだ。
潜行する猟師の禿が、漁具を、船を、あらゆるものを下から照らして、
俺たちは空中に――白い光の上に、浮かんだみたいに見えた。
感動に泣き出す客がいた。俺も体の震えが止まらなかった。やっと落ち着いて
きたころには、興奮して海面を飛び跳ねる猟師を、他の猟師が銛で打っていた。
帰ろう。人間の土地に。ここはだめだ。
無性に塩辛が食べたかった。

つぎ「天丼の呪い」
319この名無しがすごい!:2011/09/01(木) 10:11:00.04 ID:2K1W6w62
天丼の呪い」

「はいアウト!現時点をもってあなたは呪われましたー」
 昼休みに学食で天丼を食べてると、どこからともなくそんな声がした。
 ふと机に目をやると水の入ったコップの脇から五センチほどの小っさいおっさんがこっちを見ていた。
 エビの着ぐるみを身にまとったおっさんは、どこぞのセールスマンを彷彿とさせるポーズで僕に向かっ

て指をつきだしている。
 あまりの衝撃に口から天丼を吹き出すと、向かいに座った友達に「お前大丈夫か?」と心配された。
 なるほど……。彼の様子から察するにこいつは僕にしか見えないわけだな。
 下手に騒ぐと危ないやつだと疑われるため、僕はそのおっさんのことを完全に無視した。
 
 教室に戻ってもおっさんは僕の後をついてきた。小さいくせにぴーぴー騒ぐもんだからうるさい教室の

中でも嫌でも声が耳に届く。
「おいお前さっき天丼喰っただろ!喰ってないなんて言わせねぇぞ!いいか天丼喰ったら呪われるんだ!

なぜかって!?ふふふ…それはな」
 おっさんのくせに元気な奴だ。授業が始まってもまだ喚いてやがる。
「つーか聞け! さっきから無視しすぎだよ、おじさん泣いちゃうぞ」
 どうせこんな展開になるならおっさんじゃなくてかわいい女の子だったらよかったのに。
「おーい、聞いてますかー?お願いだから返事をしてくださーい」
 うるせいな、耳に引っ付くな。
「ねーねー返事してよー。おじさんにかまってよねーね……」
「っっるっせええええええええええんだよボケが!エビぶつけんぞ」
 突然の大声に教室は静まりかえった。クラスメイトの視線が痛い。
 あまりの空気に行き場をなくした僕は、苦し紛れにエビぞりをした。

「人生でもっともムダな一日」
320この名無しがすごい!:2011/09/01(木) 16:42:36.10 ID:1koxERET
人生で最も無駄な一日


 散歩の途中綺麗な指輪を見つける。とても綺麗だったので持ち帰って宝物にしようとくわえて歩いていると、向こうから女の人がやって来て一言。

「まあ、何てことなの信じられない、ずっとこれを探していたの、本当にありがとう」

 そらから僕を抱きかかえて頬擦りをし、何度も何度もありがとうと言った。僕はちゃんと口の中に隠せばよかったと後悔した。

 昼になり、毎日餌をくれるおばあさんの家に向かう。おばあさんは縁側で寝ていた。僕はいつものようにミャアと鳴き、餌を催促した。しかしおばあさんは全く起きない。しばらく鳴き続けていると、隣の主婦がやって来た。主婦はおばあさんを見て一言。

「あら大変」

 それからすぐ赤いランプの車が来ておばあさんを乗せて走っていった。主婦は「本当に賢いわねえ、あなたのおかげでお婆ちゃん助かったわ」と、またも僕に頬擦りをした。僕は、そんな事より餌をくれよとこぼした。

 餌を貰い損ねた僕はふらふら通りを歩いていた。すると道路を挟んで向こうからお菓子を持った女の子の姿が見えた。お腹が空いていた僕はそのお菓子をねだろうと少女のもとに駆け出した。

 次の瞬間強い衝撃が襲った。トラックから降りてくるおっさん、泣きながら駆け寄ってくる少女。ようやく何が起こったか理解する。意識が朦朧としてきた僕に少女が一言。

「私を守ってくれたんだね」

 そして例に漏れず、少女も力一杯僕を抱きしめ頬擦りをした。

 はあ、何て無駄な一日だったんだ。こんな事ならもっと縁側でゴロゴロしたり雲を眺めたり有意義に過ごせばよかった。




次題 「マネキンの彼女」
321マネキンの彼女:2011/09/02(金) 01:02:04.35 ID:IXYD6yyh
もう10年前になるかな、俺、バイトでゴミ回収やってたんだ。
ある日、粗大ごみの回収に行ったら、マネキンが置いてあってさ、
社員さんもこれ産廃だよなーって言ったんだけど、
普通のマンションだし、プラスチックだからまあいいかってなって
収集車の後ろに放り込んだんだ。横向きにしてさ。
で、ボタン押したの。潰すのにね。そしたら、上半身が先に
飲み込まれてったんだけど、腰のところまで入ったところで、
そこから先にいかなくなった。
あれって思って、もっかい近づいて、ボタン押したんだよ。
そのときさ。急にマネキンの股が開いて、俺の首に脚を
巻きつけやがったんだ。何言ったか覚えてないけど、ぎゃーとかあーとか
なんか叫んだような気がする。脚は生き物みたいにしなやかで、
ワイヤーを巻きつけたみたいに俺の上半身に食い込むんだ。
で、そのままゴリゴリ奥へ入っていくんだよ。
俺は死に物狂いで停止ボタン探したん。けど、手が届かない。マジでパニクった。
そしたら、気づいた社員さんが運転席からモーター止めてくれたんだ。
社員さんマジびびって、オイ、大丈夫かとか言ってたけど、
大丈夫なわけねえよ。絶対狂ってるって思った。そりゃそうだろ?
だって、俺ももう腰まで潰されてたんだからさ。

次「金の梅、銀の桜」
322この名無しがすごい!:2011/09/02(金) 12:51:48.82 ID:4SGg9jLU
貴方が金の梅の実を私に捧げてくれるというならば、
私は貴方を愛したいと思います。
貴方が銀の桜の花弁を私の目の前で吹かせてくれるというならば、
私は貴方を信じ続けようと思います。
見栄を張り、虚勢をあげて、嘘を吐きつづける、
遠くから見ても弱く脆い貴方を見るのも好きだけど、
偶には本当の事も言って下さい。
私の出した二つの条件を嘘では無く本当にしてくれるならば、
私は貴方を永遠に信じ、愛します。
だから、
そう。
金箔を貼り付けただけの梅の実も、
銀箔を風の強い日に私の前で吹かせてくれたことも。
嘘を吐き続ける貴方にはお似合いの虚勢の塊のようなものです。
でも・・・・、
「僕と結婚してください!!」
その本当の言葉をくれるだけで、私は十分です。
「はい」

次「魚は木の上で」
323この名無しがすごい!:2011/09/03(土) 13:02:11.94 ID:RLbYOgYV
「魚は木の上で」

「本当に困ったものですよ」と、その坊さんは言った。
住職ではない。修行僧か何かだろう。
見上げた梅の木には立派な瘤ができていた。
梅は剪定をすると切り落とした枝の付け根がぶくぶくと太る。
少し上を切って癒合剤を塗ってやれば、ここまでの瘤にはならないと思うが…。
昨年の春に梅が咲かず。病気かと思っているうちに、この瘤が少しずつ膨れてきたというのだ。
今年も咲かなかった為不思議に思っていると、瘤がまた徐々に膨れたのだという。
「病気か何かですかね?」と問われたが、樹木医ではなくただの庭師にはこれだけで何か分かろうはずもない。
瘤の上に穴があり、そこから雨がしみて腐ったのなら樹は交換して庭を配し直した方が良いですよ。と、言っておく。
長い脚立を使って梅の瘤を見にゆくと、瘤の上はやはり鉢の様になっていた。
そして不思議な事に水が溜まっている。覗き込むと随分と深い。
今朝がた雨が降ったっけ?いや、それでも腐っていたら水は抜けるはずだ。
坊さんがどうかと尋ねるので、「水が溜まってますね」と答える。
造園には幾ら掛かるかな。と小声で呟く坊さんに、心の中で毎度ありがとうございます。と言いつつも、やはりこの水溜りは気になる。
上手く腐らずにあるウロだとしてもここまで溜まる物なのか?
ホースとバケツを持って来て汲み出してみる。
するすると吸い上げられる水にウロの水位はどんどんと減っていくと、
ぴしゃりと何かが跳ねた。
「…魚ぁ!?」
あきらかに魚。銀に跳ねる…鯵。
「その梅は伐っておくれや」
その時後ろから坊さんに似た坊さんよりは年嵩の声がした。
振り返ると豪華な袈裟を着た見るからに住職な坊様がいた。
「もう海気に当てられておる」
住職いわく、海気に当てられた土地には海の物が生まれるという。
住職に従い伐採道具を持って戻った時、好奇心からもう一度ウロを覗いてみると水嵩が増していた。
その後、木を切り倒すのには難儀した。
最終的にトロ箱3っつ分ほどの鯵が獲れ、住職にお土産と渡された。
…口止め料かもしれない。


次は「待合室にて」
324この名無しがすごい!:2011/09/05(月) 07:57:30.87 ID:O+3Ojj+N
「待合室にて」

「三年ですか?」
「三年です」
「あらら、そりゃあさぞ苦しかったでしょうねェ」
「ええ、毎日が地獄のようでしたよ」
「はは…そいつはなんとも」
「…最初のほうなんかとくにひどかった。苦しくて苦しくて。自分が自分じゃあない気がするんです」
「わかりますその気持ち。私もさまよった口ですからね」
「…! あなたもですか?」
「はは、ここに来る人は多かれ少なかれそんな人ばかりでしょう」
「…そういやそうですね」
「私は一年ちょっとくらいでしたが症状が悪かった。とにかく目に映るすべてが憎くってね。やっとまともになれたのはここ最近。あるときフッと自分のしていることが虚しくなってね。気づいたらここに来てました」
「なるほど。目が覚めたんですね」
「ええ、ばっちりと」
「自分はずっと閉じこもってました。毎日毎日自分を責め続け、自分がどこにいるのかもわからなくなりまして…だけど顔をあげたら空がとてもきれいでして」
「ほほー、そこで目が覚めたと」
「許された気がしたんでしょうね」
「ふふ、いやその感覚は間違っていない」
「はは、だといいんですが…」

ピンポーン

「あ、呼ばれたみたいですよ」
「お、ほんとだ」
「それじゃあがんばってくださいね」
「…がんばるもなにも裁くのはあちらさんだからなぁ」
「いやいや、弱気でどうするんですか。死んだ気になればなんだって…」
「ん?んふふふふ。死んだき気ねぇ…」
「あ。…すいません」
「まあよ、そいじゃあ天国で会いましょうぜ」
「はは、ですね」

つぎ「最後の三択」
325この名無しがすごい!:2011/09/06(火) 16:24:19.64 ID:nZhMSMQG
「最後の三択」

 狭い室内には、ビールの空き缶が散乱している。
 俺も飲んでいるから気にならないが、部屋中が酒臭いに違いない。
 夕方頃に集まって、さんざん呑んで遊びに出掛け、帰って来てまた呑んでいる。
 そんな楽しい一日の締めくくり、賭けババ抜きは佳境に差し掛かっていた。
 俺は残すところ二枚となった手札を、安藤に向けて構える。
 左にはクラブのジャック。右にはスペードのエース。
 ブラックジャックならブラックジャックだ。
 そんな考えが頭に浮かんだと同時に、左のジャックが抜き去られた。
 理由はまったくないが、直感的にまずい、と思った。
 案の定、安藤はニヤリと笑って二枚のジャックを場に捨てる。クラブとハート。文句なし。
 安藤の手札は残り一枚。
 俺の手札も一枚だ。
 だが、取る一枚と取られる一枚では、意味合いが天と地ほど異なる。
「うふふふふふふ……」安藤が笑っている。
 俺が次の一手で逃げ切らなければ、安藤の逆転勝ちだ。おのれ。

 俺は左の三塚に向き直る。
 三塚の手札は三枚。もはや一位は絶望的だというのに、ニヨニヨと笑っていやがる。
 顔が真っ赤だ。アルコールが完全に頭をヤッてしまったに違いない。
 目の焦点がまるで合っていないし、さっきからぶつぶつと不明瞭な呟きを繰り返している。
 耳を澄ますと「ロリリカル」「冷蔵庫」とか聞こえてきた。意味が分からない。
 もういい。俺が引導を渡す。
 俺は三塚の手札を睨みつけた。これが正真正銘、最後の三択。
 勝率は三分の一以下。分の悪い賭けだ。
 だが、何か無いのか。
 確実に勝利を手元に引き寄せる、何か無いのか!

つづく
326この名無しがすごい!:2011/09/06(火) 16:25:02.41 ID:nZhMSMQG
 酔った頭が高速回転する。脳内に過去数分の映像が再構築される。
 俺はその再現映像を入念に分析し、勝利への手掛かりを探す。
 そして、見つけた。
 俺の勝利を確かなものとする、抜け道!
 鍵はほんの一手前にあった。
 酒で判断力を失った三塚が、安藤から引いた札を手札に加える、その瞬間だ。
 三塚の手札は二枚から三枚に増えた。
 そして三塚は手札を捨てなかった。元の手札に合致しなかったのだ。
 その札は元は安藤の手札にあった。つまり、安藤の他の手札にも合致しなかった。
 そして、俺達は三人だ。
 つまり!
 その札は俺のもの! エースに他ならないということ!
 三塚は俺の当たり札を持っている!
 しかもそれだけではない。
 酒にヤられた三塚は、そのハズレ札を無造作に手札の左側に加えた。俺はそれを見ている。
 そして、安藤が俺からジャックを抜き取る間も、三塚は視界の端で微動だにしなかった!
 そうだ! エースは左にある!

 俺は勝利を確信し、満面の笑みで三塚から左の札を抜き取った。
 優雅な所作でひっくり返す。

 次の瞬間、俺はその札を床に叩きつけていた。
「ハートの3だと! ふざけるな!」
 俺は自分でも驚くほどの剣幕で三塚を怒鳴りつけていた。
 安藤も三塚も、驚いた顔をしている。
「その札はエースのはずだ! クラブ? スペード? ハート?
 そんなの知るか! だがその札は絶対にエースのはずなんだ!」
 俺は目をぱちくりさせている三塚にむかって、
 俺が三塚の手札から当たり札を探し出せた理由を矢継ぎ早にまくし立てた。
「卑怯だぞ! 酔っ払った振りをして! これは絶対にイカサマだ!
 言え! どんな手を使った! この卑怯者!」
 三塚は突然怒鳴られたショックで、深い酩酊から浮き上がってきたらしく(たいした演技だ)、
 両目をごしごしと擦ると、自分の二枚の手札と、目の前に叩きつけられたハートの3を交互に見比べていた。
「あー」
 三塚は気まずそうに口を開く。
 遠慮がちにハートの3を拾い上げる。

 そしてダイヤの3と合わせて捨てた。

 あ然とする俺に、三塚の最後の札が突き出された。
「すまん。揃ってたみたいだ」
 俺は震える手でその札を裏返した。
 JOKERのいやらしい顔と目が合った。

つぎ「たんぼにグリフィン」
327この名無しがすごい!:2011/09/06(火) 16:36:29.45 ID:nZhMSMQG
勢いで書いちゃったけど、これ、
『俺』の手札に元からジョーカーが含まれていないと、100%確実ではないですね。
いずれにしてもハートの3というのはあり得ないので『俺』が切れるのは不自然ではないんだけど、
やっぱり恥ずかしい。申し訳ない。
328この名無しがすごい!:2011/09/06(火) 22:29:11.69 ID:KiDl8lD8
「たんぼにグリフィン」

アタシは必死だったの

センパイの赤ちゃんが出来たって言ったら

たぶん「堕ろせ」っていうよね

だから黙ってた。

今アタシ、田んぼにいる。田んぼで産んだ。

どおしよおって思った。やっぱり産まない方がヨカッタのカナ……

そしたら、空からすごい勢いでグリフィンが飛んできて

すごいつかみ方して飛んでいった。

怖かった。ちなみにグリフィンって上が鷲で下がライオン的な動物。

ヨカッタ。アタシみたいなのは育てない方がいいよ。

アタシは泥だらけでそう思った。



「過ぎ行く投資家の夏」


329この名無しがすごい!:2011/09/07(水) 23:32:17.60 ID:NQLaYGt7
夏。
そう、夏だ。
気になるあの子を祭りに誘ったり、プールに誘ったりするあの夏だ。
夏にあやかり、高校時代の夏の思い出作りのために貯めた10万。
それを使い、あの子を落とそう。
まずは定番通り夏休み開始を祝うクラス内の祝賀会で少なくとも俺よりは顔が劣る連中とあの子のグループを誘ったカラオケ。
あのが食べたいと言ったのでピザを二枚。俺が出した。
よく食べる子だがそこが可愛い。
次に男面子を変えて皆で祭に。
あらかじめ口裏を合わせて俺とあの子で二人きり。
しかし良く食べる。
やきそばに始まりりんご飴等10品目。それぞれ三つずつ。
どうやら俺に気があるらしい。デートに誘われた。
告白はまだ早いが、先に婚約指輪だろうか?
シルバーアクセを2つ買って欲しいとねだられ買ってあげた。
最後に手でも繋ごうとして指をあの子の手に近付けたら、当たった瞬間に跳ねるように手を遠ざけ、そのまま帰っていった。
なんだ照れているのか?
既に9万使ってしまい残り1万。
映画にでも誘おうと電話したら、番号が変わっていた。
どういうことかわからなかったが、しばらく待つ事に。
そのまま夏休みが終わってしまった。
夏休み明けクラスに行くとあの子に彼氏が出来て居たそうな。
その日、数名と居酒屋に雪崩れ込んで、暴れたら警察に補導された。
壊した椅子や皿の弁償代。
割り勘で10000円也。
卒業式で叫びたくなるほど思い出に残った夏だった。
この夏は100000円也。

次『ビールに蝉』
330この名無しがすごい!:2011/09/08(木) 23:33:46.39 ID:6cFaHwNk
『ビールに蝉』
 [人物]
 冴えない男、若い母親、若い母親の息子
 [舞台]
 大規模な同窓会が催されている、野外バーベキュー場の片隅。真新しい切り株のそば。
 
(切り株の上には手つかずのビアジョッキが取り残されている)
(つい先程、冴えない男が置き去りにしたものだ)

若い母親「見なさい! 坊や」
息子「なあに?」
若い母親「切り株の上よ。グラスの把手に蝉の幼虫がしがみついているわ。
 坊や。蝉はね。何年も何年も土の中で暮らすの。暗くて寂しい土の中で、ずっと一人で」
(若い母親は、蝉の一生について息子に語って聞かせる)
若い母親「パパに買ってもらった図鑑で見たことない? 蝉の幼虫が古い殻を脱ぎ捨て大空へと飛び立つまでの真っ白な姿を!」
息子「見たことあるー!」
若い母親「もうすぐそれが自分の目で見られるわよ」

(冴えない男が戻ってくる。肩を落とし、ひどく憔悴している)
(男は携帯電話を握り締めている。嫌な電話を受け取ったばかりのようだ)

冴えない男「ああ……。なんてこった。なんてこった……。俺はなんてミスを。
 呑まなきゃ。やってられない」

冴えない男「なんだこれ?」
若い母親「ちょっと! グラスに触らないでもらえます?
 蝉の幼虫が今まさに羽化しようとしているのですよ。
 子供に命の尊さを教えるのがどれだけ大切か、いささかもご理解頂けませんか?」
冴えない男「いや、それ、私の」
息子「ねえ、このおじさんは」
若い母親「見ちゃいけません!」
冴えない男「! あなたね!」
若い母親「見て! 坊や。背中がぱっくりと割れているわ。もうすぐ出てくるわよ」
息子「わあい」

(猫の鳴き声)
(ビアジョッキは倒れ、切り株から落ちて割れてしまう)
(猫は羽化直前の蝉をくわえて走り去る)

息子「ああ! ママ! ママ! セミさんが! 食べられちゃったよう!」
若い母親「悲しいこと……でもね。聞きなさい、坊や。
 自然の世界ではね。時々こういうことが起きるの。
 猫さんだってきっとお腹を空かせていたのよ。
 猫さんを責めちゃ駄目。誰も悪くなんか無いの。誰も悪くなんか無いのよ」
冴えない男「ビール……」
若い母親「だから命は大切にしなきゃいけないの。分かった?」
息子「……うん。ママ」
若い母親「泣かないで。いい子ね。さ、パパのところに戻りましょう」
(若い母親は子どもの手を引いて、喧騒の中心へと歩き出す)

次『しゃべらないダンボール』
331この名無しがすごい!:2011/09/10(土) 10:26:09.54 ID:o02zpNMQ
「しゃべらないダンボール」


スーパーに設置された無料で持ち帰れる場所がある。
 そこから白いダンボール箱を手にした。

 本来は野菜が入っていたらしい生産地と絵柄のロゴが印刷されている。
 それを手にしたのは丁度、欲しかった大きさであった事と綺麗さにある。

 車に乗せて持ち帰ったそれを綺麗に拭うと、元通りに組み立てた。
 手洗いを済ませ早速、透明な新品のゴミ袋を中に敷き詰めて、今までの思い出を挟んだアルバム写真を中へと片付けていく。

 思った通り程良い具合に収まり、袋の口を閉じるとダンボール箱の蓋も閉めてガムテープで止めた。
 押し入れの片隅にしまい込む時、黒い油性マジックで今日の日付を記入した。


 今度はいつ開けるのかわからない。


 詰め込んだ思い出は全て過去のモノだ。


 嬉しかった事や悲しかった事、好きだった人の事も……。


 私の代わりに開けるまで、きっと何もしゃべらないでいてくれる。


 そんな秘密のダンボール箱。



次のお題は「ファンレターの返事」
332この名無しがすごい!:2011/09/15(木) 20:31:15.95 ID:oghPfjt+
その封筒をポストの中に見つけた時には一瞬思考が止まった。
 「え?なんで?私宛て?」
それからようやく思い出す。確かに半年ぐらい前に出したよ、ファンレター。

友達にライブ誘われて行った先は結構大きな会場で、舞台の中央で歌うイケメンはステージライトの効果かキラキラ光って見えた。
予備知識は軽くしか入れてなかったけど、なんとかファンから怒られることもなく切り抜けて、友達と一緒に「かっこいーねー」って盛り上がった。
ライブ盤CDも買って付いた帰路で、友達がなんやかやと追加知識をくれる。
曰く、
今人気上昇中ですでにメジャーに声掛けられてるって噂
まだ公式ファンクラブ設立前だからファンレター送った方が後々お得な事
他。

それで出しといたんだよ。ファンレター。


部屋に戻って封を開ける。
中には手書き風の簡単なファンレターへのお礼、
一緒にライブイベントのお知らせとブログURLのフライヤー。

それを纏めてゴミ箱に捨てる。

あの後、ギターが抜けたとかでメジャーはお流れ、活動も一時休止。


ケータイが鳴る。さっきのバンドを教えてくれた友達。
 『ねー来週ライブ行かない?フォーク系のユニットなんだけど』
 「え〜。フォークはなぁ…」
 『それがーすっごいイケメンなんだって!』
 「なら行く!」


バイタリティ女子に過去は無いのです。




次「南京と南京豆」

感想板に感想書いてみたッス
良し悪し分かんないので好き嫌いで書いてるッス

1と場所変わってたので貼っ付け
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1284739688/l50
333この名無しがすごい!:2011/09/23(金) 05:10:09.35 ID:SLQ7VEnU
「南京と南京豆」

「wikipediaで調べたけど南京豆ってラッカセイのことなのな」
「んだよおまえ、んなことも知らなかったのかよ」
深夜3時のファミレスは客も少なく店内のBGMがいやに大きく聴こえる。
かれこれ10時間もフリードリンクだけで居座る彼らの存在を店側はどう思うのだろう。
「はい、ご注文はなんでしょう?」
「あ、すみませんぼくコーヒーお代わりで」
「えーと、じゃあおれはアイスティーね」
「か……かしこまりましたぁ」
ましてやセルフサービスではなく店員に直接注文する方式をとるこの店にとっては目の上のたんこぶなのかもしれない。
それはそれとして。
「んーそれにしてもこのネーミングはないよ。『南京と南京豆』って」
「ばっか、こーいうのはインパクト勝負なんだって」
「にしては地味だしうちらだとおかしくない?」
「うるせーな。じゃあお前なんか代案あんのかよ」
「ないけど」
「だろ? 名前ってのはインスピレーションが大事なんだ。ここにきてからずーと考えてきたがさっきついに閃いたんだよ! これしかないってな」
入店してからもう何十本目かになるタバコに火をつけ、そのひょろ長な男はまくし立てた。
「とはいえ『南京』ってのはこじつけだ。語感がいいからつけただけ。まあ、していうなら俺の名字が南条だからとでも言おうか」
「うわ、じゃあ南京豆っていうのは?」
「そりゃあおまえがラッカセイに似てるからだよ」
「そんなぁ」
「俺とおまえで『南京と南京豆』――どうだ、いいだろ」
そう言ってひょろ長の男は満足げに灰皿にタバコを押し付けた。
「おまたせしましたぁ、こちらコーヒーとアイスティーでーす」
「お、ありがとうございます」
「そこ置いといてー」
――かくして、ここに『南京と南京豆』というお笑いコンビが誕生した。

「あ、ところでもう一人の方はおかわりよろしいですか?」
「はい大丈夫っす。こいつタバコしか吸わないんで」
ただし三人組だったが。

「靴のにおいを嗅いだら人生変わった男の話」
334この名無しがすごい!:2011/09/24(土) 21:15:51.43 ID:+8m0ps+q
「靴の臭いを嗅いだら人生変わった男の話」

「さて、この人のは……うぷ! 少々きついが、これはこれで」
「何を使います? 活性炭ですか?」
「そうだな、それに吸水効果におがくずを少々、それも桜材のだ」
「はいはい」
 彼に言われた素材を手渡す。
「でも、いちいち嗅がなくても、靴の脱臭材なんか作れるでしょうに」
 途端に、彼の怒り声が返ってくる。
「馬鹿野郎、俺が作るのは脱臭材じゃない。香り調節だって言ってるだろう」
「いや、でもほら」
「いいか、どうして世間の人が靴の臭いを嗅ぐかわかるか?」
「それは、におわないか心配だからじゃないですか?」
「確かにな」
 彼は頷いては見せるが、言いたいのはここから、という顔だ。
「でもな、俺はそれだけじゃないと思ってる。人はな、靴の臭い、
足の蒸れた臭いが好きなんだ。地面を踏みしめ、時には泥をかぶ
り、しかも汗が出て、風通しが悪くて蒸れやすい、あの足指の間
にたまる臭い。一日の活動の中で、ずっと下積みに徹して働き抜
いた結果のあの臭いが、本能で好きなんだ。もちろん、悪臭なん
だが。だったら、それをより人の好むものにする、好かれるもの
にするのは、大事なことじゃないか? 俺は靴の臭いを嗅いでい
て、それがわかった、今の俺にとっては、靴の臭いを嗅いでから、
それからが本当の人生なんだぜ」
そう言って彼はにやりと笑い、靴底シートに素材を手際よく詰めて
ゆく。手作り靴底シート作りを仕事とする男、弟子入りしている身
で言うのも何だが、変わった男だと思う。

「去るのわくせい」
335この名無しがすごい!:2011/09/27(火) 00:46:08.90 ID:258jDhq8
去るのわくせい

「猿の惑星ってどこにあるんだろうね」
彼女がいきなりそんな事を言い出して、僕は不意を突かれて盛大に吹きだしてしまった。
僕の反応が意外だったのか、自分から妙な事を言い出したはずの彼女が怪訝そうな顔を見せた。
二人しかいない天文部の活動中。望遠鏡を覗きながらそんな事を言ったのだから、吹き出しもするだろう。
「もう完全に夏が終わっちゃったね。結構寂しいな」
今の台詞は思いつきで言っただけらしく、彼女はすぐに話題を変えた。
確かにもう空気には鉄のような冷たさがある。日中にすら夏の面影は殆ど残っていない。
夜になれば尚更だ。
「星は良く見えるようになるけど、見る暇はなくなっちゃうかな」
乾燥してきた空気に埃をたてるように、周囲は慌ただしくなっている。彼女の周りもそうなのだろう。
「……また暇になったら来よっか。猿の惑星探しに」
彼女は微笑んで、言った。

僕はその時なんと言っただろうか。

それからまた、僕と彼女のそれぞれ日常が始まり、
僕が彼女に関わる事は結局無くなった。
日常はただ淡々と進んで行き、僕は星を見る事をしなくなった。
あの日から、何度も夏をただこなして、秋の冷たさにも寂しさを感じなくなった
336この名無しがすごい!:2011/09/27(火) 00:48:23.05 ID:258jDhq8
僕はその時なんと言っただろうかあの制された枠の中で見ていた日常は、今ではまるで望遠鏡で星を覗くような輝きだった。
それももう、いつかの季節のように去ってしまったのだ。
彼女と一緒に。

「タタミガール」
337この名無しがすごい!:2011/09/27(火) 00:49:16.80 ID:258jDhq8
あの制された枠の中で見ていた日常は、今ではまるで望遠鏡で星を覗くような輝きだった。
それももう、いつかの季節のように去ってしまったのだ。
彼女と一緒に。

「タタミガール」
338この名無しがすごい!:2011/10/01(土) 23:09:00.33 ID:cbOrz77H
幕末に夥しい日本の文物が欧州へと渡ったが、その中に、いま大英博物館の
倉庫に眠る、黒い畳というものがある。
この品は英国領事ハリスの帰国に際し、便船の船長が小銃と交換で手に入れたと
記録にある。が、これは当時の法に抵触し、船長はマカオで入牢の上客死している。
売ったのは駿府の浪人斉藤二三衛門。脱藩ししばし神奈川に潜伏したが、そのおり
夷狄の武器を手に入れるため、珍奇な品と交換に最新式の小銃を購ったとされる。
その品が、髪畳だ。
二三衛門には愛人がおり、髪は彼女「ら」のものだった。
愛人とは神奈川の商家の娘志ノと、伊豆の貧農の娘さち。加えてさちの妹ひわの髪を
なかば騙して刈取ったというから凶悪である。志ノは出家したが、あとの2人は
程なく死んでいる。二三衛門は武器を手に入れたものの使いこなせず、質に入れて
豪遊したが改心し、のち彰義隊に投じて死んだらしい。

私が倉庫を訪れたとき、博物員に言われたことがある。畳の前で日本語を話すなと
いうのだ。いわく、畳表は英語を解さないが、日本語はわかる。あなたが何か言えば、
畳はあなたに興味を持つでしょうと。気持ちのよくない冗談だ。
畳はぼろぼろだった。髪は油気が失せて、灰色がかった綿埃のようになっていた。
「ひどいですね」わたしが言うと、博物館員は怯えたように笑った。「150年もたてば、
無理もありませんが」相手は答えなかった。つまらない演出だと思った。
だが、その夜――。
ホテルに帰りベッドに横たわると、私はウィスキーを舐めながらテレビを見ていた。
そのとき、不意にカーテンがふわりと動いて、その合わせ目から、縦に並ぶ3つの目が
覗いたのだ。私はぞっとした。
ベッドの上をあとじさると、背中が壁に当たった。すると、何か細い糸のようなものが
天井から落ちてきて、私の顔にかかった。髪の毛だ。私は何か叫んだ。口を開けると、
蛇のようにのたうつ髪が舌にからみついた。私は吐こうとした。だが、唾液に混ぜて
吐き出せるような量ではない。口に指を突っ込んで掻き出そうとする。しかし、
そのそばから、指と唇の間を縫って、髪が、髪の毛が、私の口に入り込んだのだ――。

タタミガールの呪いですね。医者の優しい微笑みは、狂人を見る人のそれだ。
舌を切ってください。頼んだが、拒否された。舌を切ってください。舌の上に、いつまでも、
いつまでも髪の毛の感触があるんです。ああ、英国人はダメだ、俺の舌を切ってくれない。
日本へ帰ろう。日本に帰れば、きっといい医者が俺の舌を切ってくれる。はやく日本に帰りたい。
早く、早く帰りたいんだ。頼む、俺を日本へ帰してくれ。いますぐ。はやく、はやく!
あたしたちを、日本へ帰して。

次「ダンスはウィンカーを点けてから」
339「ダンスはウィンカーを点けてから」:2011/10/10(月) 14:32:10.51 ID:8jDrl1g3
 私と彼女の出会いはダンス教室。
別にダンスに興味があったわけじゃないけど、
仕事以外は特に出かけることなく家にいる私を心配した親に無理やり連れてこられ、
そこで、私は彼女と出会ってしまった。
 周りの人たちの姿は全て背景になり意味を成さなくなり霞んで行き
目に飛び込むものは彼女の姿であり、耳に聞こえるのは彼女の声だった。
彼女も同じような気持ちを持ってくれたらしく、付き合い始めるまでに時間はかからなかった。

 しかし彼女は人妻だった。

 私たちの逢瀬は電灯もない山の中。
手を繋いでいるはずなのに隣にいる彼女の顔が見えない闇が息づく世界
そこでは星ですら私たちを祝福する輝きだった。 
街では意味を成さない月の明かりがこんなにも世界を照らしているのを知った。

 ある日彼女がウィンカーが点滅する音ってタンゴだねと笑いながらいった。
その日以来、ウィンカーのリズムでダンスを踊りはじめた。

 曇りの日だとウィンカーの付いたときにしか周りが見えない
それでも私たちの位置は変わらない、必要なとき必要なところに君がいる

 いつかは君のとなりにいつでも並ぶことが出来るのだろうか?
ウィンカーのように現実と夢が切り替わっていく。
このままでいたい、いられない
君を放したくない、それは許されない
ダンスも気持ちもウィンカーに揺れている。

じゃあ帰ろう、今日のウィンカーは消える時間になっていた。

次は「カメムシと雪」でおねがいします
340この名無しがすごい!:2011/10/11(火) 08:55:34.56 ID:YMI6XjJm
「カメムシと雪」

空を見てカメムシは呟いた。
「早く雪が降ればいい」と。

桜が散ってカメムシは思うのだ。
「生まれてきたけど、ただ死ぬのが怖い」と。

朝焼けの中カメムシは考える。
鉄の味はどんなのだろう。

夕焼けに染まりカメムシは黙り込む。

雪を見てカメムシは悟るのだ。
「そろそろ死期が近いな」と。

冬が全身を優しく包み、銀色の雪に埋れた虫は何も言わない。

何も言えない。

つぎは「閉じない閉鎖空間」でお願いします。
341「閉じない閉鎖空間」:2011/10/11(火) 21:37:16.40 ID:cJIKNQNS
 閉鎖空間という言葉がある。
数学的な閉鎖空間は確かにあるかもしれないけれど
現実にそんな世界を見たことがない。

 例えば生命球は太陽の光が不可欠である。
例えば引きこもりの部屋、食事は差し入れられるし他者の思索をたどることも出来る
アニメの世界の閉鎖空間もなんだかんだと出入りしている奴らがいる。
もしかしたら死の世界は閉鎖しているかもしれないが試したくもない。
2次元で閉鎖していても3次元に拡張すれば閉鎖していないし3次元も同じだ
ひも理論で言われるらしい10次元も同じだろう。

 完全なる閉鎖系があるとして、その中身がどうなのかはシュレディンガーの猫どころの話ではない。中身を測定する方法すらないのだから生死もない。何もわからない。
結局、自分が閉鎖している場所にいると理解できた時点で終わっているのだ。

 しかし本当に閉じているのだろうか?
何も見えないが風も水も流れているのだ、見当たらないのは光だけだ
だからこそ今僕がいる空間は閉じていない・・・閉じないと信じている。
閉じていないと思えば閉鎖空間は開くのだ。

 足元もおぼつかないけれども、少しづつ風上に進んでいく
たぶん体が動く限り・・・


 次は「穏やかな猛火」でお願いします。
342この名無しがすごい!:2011/10/17(月) 10:49:15.37 ID:Ojg+W0HV
 化学製品企業の工場が燃え始めて18時間が経過した今も猛火はその姿を変えながらもその場に居座り続け、
新型消化剤をUS-1やヘリが投下した結果はでているものの現状を維持するだけだった。
その為ニュースでは相変わらずトップを飾っているが一進も一退も無い状況に良くわからない知識人が上っ面なコメントを垂れ流していた。

「こんな大災害なのに穏やかなものですね」
「現場はかなり大変みたいだが、今は消えるのを待つだけだからな。
 さて私たちの戦場に行こうか?」

二人は定例記者会見に向かっていった。


次は「山の子供たち」
343この名無しがすごい!:2011/10/19(水) 08:25:43.21 ID:7J10/cWH
山の子供達

「俺のほうが背が高いぞ、やっちゃん」
「馬鹿言えたてやん、こっちのほうが絶対に高い」
「何言ってるのさ。ぼくが一番高いぞ」
「やかましいぞふーやん、お前なんかぽっと出の癖に。じきにてっぺんから崩れちまうのさ」

「ああやかましい。これだから、山の子供達は困る。まだひよっ子の癖に、気位だけは高くて、
背比べをやたらにしたがるんだから。お前が俺たちみたいになるには1億年早いってえものだ」

 八ヶ岳、立山、富士山の口げんかを遠く眺めて、ヒマラヤの峰はそうおっしゃいました。

次「通勤かい足」
344この名無しがすごい!:2011/10/26(水) 00:00:39.36 ID:Zt6sqAqE
保守
345この名無しがすごい!:2011/10/27(木) 15:27:41.84 ID:WOhRZh7i
「通勤かい速」

 ○月×日。僕は日記を書くことにする。こうやって真面目に日記に書こうと
思うことは珍しい。僕は朝の漠然とした思考を打ち消し、一方向にまとめ上げ、
日記を書こうと念じる。インプラント・コンピュータが、自動的に日記アプリを
立ち上げる。
 僕は今日も、いつもどおりに、通勤かい速に乗って出社する途中である。
大手出版社勤務とはいえ、帰っては寝るだけの生活。昼食は慌しく、帰りは
遅い。そういった意味では、早朝のこの時間帯だけが、自分に与えられた
自由時間だと言っても過言ではない。
 ふと、垂れ幕が目に入る。言語改正法10周年記念。そういえば、「かい」
の字がひらがな表記になってから、ずいぶん経つ。快不快。好き嫌い。
喜怒哀楽。学生時代に使っていた感情を表す漢字は、全てひらがなになって
しまった。初めのうちは言論の自由を盾にこの政策に強硬に反発していた
小説家や言語学者も、言語改正派の正当な主張には抗えなかった。法律が
施行され、出版社で検閲が始まり、現実に逮捕者が出始めると、ペンは脆くも
世論に屈したのだ。
 そこまで書いたところで、僕は日記を保存した。と、その瞬間に脳内に文法
エラーの音が鳴り響いた。その文法エラーは電車内の装置と連動し、途端に
警告灯が回り始める。電車の中は一時騒然となった。車掌が手錠を持って、
僕のいる車両へと乗り込んでくる。
 脳内で起動された日記アプリへの書き込みは、当然のように当局の検閲の
対象となる。僕はうっかり、そのことを忘れ、使用を禁止されている表現を
使ってしまったのだ。そして仮にも、僕は大手出版社の社員なのだ。トップ
ニュースになることは間違いない。
 僕は自分の取り返しのつかないミスに真っ青になってしまって、それからの
ことはよく覚えていない。

「本が読めない男」
346この名無しがすごい!:2011/10/29(土) 15:20:09.27 ID:whG7IqYv
『本が読めない男』

 俺自身はしごく平凡な男だ。だが俺の友人の中には世界を股にかけ、冒険に満ちた波乱万丈
の人生を送ってきた男もいる。これから俺が語るのもその友人の物語だ。父親が不明であるた
めに幸福ならざる幼少期を過ごした彼は、義務教育を終えると同時に国を飛び出し、あまたの
成功を引き連れて帰ってきた。友人の人生は大昔にこぞって書かれた冒険物語さながらであっ
て、友人本人もまた、振りかかる危険をくぐり抜けるだけの主人公たる天分を備えていた。
 だから彼が本(※紙で綴じた書物のこと)を読んだこともなければ触れたこともないと言っ
たとき、俺は意外なような、それでいて腑に落ちるようなどっちつかずの印象を受けたものだ
った。
 彼がそう口にしたのは、彼のかつての生家の二階でのことだった。そのとき俺と友人は木製
のテーブルを挟んで相対していた。テーブルの上には錠で厳重に封じられた一冊の本が置かれ
ていた。
「小説みたいな人生を送ってきた奴が一度も本に触れたことがないってのは、驚いたよ。俺の
祖父さんあたりが聞いたら間違いなく目を剥くな。まさに新世代の人間だ。実用書やコミック
も、紙媒体のものは一切?」
「ああ。学校の教科書なんかも、俺が入学したときにはすべて電子化されていたから」
「たしかにそうだ。しかし紙の本が今やアンティークだとしても、親の世代はいくらか抱え込
んでたりするものだがな。この家だって建てられてから結構経つだろうに。他には一冊ぐらい
残ってたりしなかったのか」
「知らんよ……いや、実を言うとな」彼は声のトーンを少しだけ落とした。
「紙の本を読むことは禁じられていた」
「そりゃまた、どうして?」
「さあな」彼はぶっきらぼうに言った。
「……それは、その、亡くなった親御さんから?」友人は半年前に母親を亡くしていた。
「そうだ。思い返せば、母の教えで、今も破らずにいるのはこれぐらいだ……」
 彼はしばし昔を思い出すような顔つきをしていた。
「で、屋根裏を整理していたらこれが出てきた」
 そう言って、彼は本に巻きつけられた太い鎖に手を掛けた。
「どうだい? 手持ちの道具で開けられそうかい?」
「できるだろうよ。この錠、古いが特別なものには見えないからな」
 俺は快諾した。彼が俺を呼んだ理由というのが、つまりはそういうことだった。
「しかしいいのかね。紙の本を読むなってことは、この本を読むなってことでは?」
「そうだろうな。鍵も見つからなかったし……。
 ま、死人に口なしと言うだろう? 気兼ねしないでやっちまえ」
 本人がそこまで言うなら構うまい。俺は「了解」と告げると鍵を開けるための作業に取り掛
かった。

つづく
347この名無しがすごい!:2011/10/29(土) 15:20:43.88 ID:whG7IqYv
 十分程度で鍵は開いた。かちゃりと音を立てて難なく。何重にも巻きつけられた鎖を解いて
ゆくと、最後には形の歪んだハードカバーが残された。それは臙脂色の小さく分厚い本で、表
紙には何も書かれていなかった。
「さて読んでみようじゃないか」彼は待ちきれないというように本の表紙に手を伸ばした。
「俺も見てもいいのか」
「かまわんよ。報酬代わりとでも思ってくれれば幸いだ」
 そう言って、彼は本を開いた。

「なんだ」思わず落胆の声が洩れた。
 内容を検めるまでもなかった。表紙が無地だったものだから手書きの日記かなにかだと期待
したが、それどころではない。本の中身はすべてが白紙だったのだ。
「こりゃまた手の込んだジョークだな。母上殿は茶目っ気のある人だったのかい?」
 俺は苦笑い混じりにそう友人に呼びかけた。彼もまた俺と同じ反応をするか、腹を抱えて笑
い出すかのどちらかだと思った。
 ただ沈黙だけが返された。
 顔を上げると、友人の姿はなかった。
 友人は消えてしまった。
「……おい?」
 部屋を見渡しても誰もいない。テーブルの下を覗いても誰もいない。
 死角はもうない。
 窓は閉まっている。扉は閉まっている。開閉音など聞こえなかった。
 ついさっきまで俺の目の前に立っていたはずの彼は、忽然とその場から消えていた。
「おいおい……」
 俺の視線は部屋の中をぐるぐると何周もした挙句、途方に暮れたようにテーブルの上の本へ
と落とされた。

 驚きで声も出なかった。
 だが、納得はさせられた。
 非常識極まりないことだが、目の前の光景は非現実を説明できるくらいには不条理だった。
 俺は、もはや一ページたりとも白紙ではない本を前にして、
 父親のいない彼が一体何から生まれたのかを理解した。
 
 彼は故郷へと帰ったのだ。

次『天井の高い部屋』
348この名無しがすごい!:2011/10/29(土) 22:43:15.12 ID:wp5gGPgA
 目覚めると天井が高かった。
 冷たいフローリングの上にのろのろと立ち上がり、体を上に上にと大きく伸ばしてみても、しかしその指先は天井に届く気配すらない。

 七分かけて洗顔を済ませた。

 十五分かけて朝食を済ませた。胃はおろか喉にまで白米が詰まっているように感じる。最近の僕はついつい食事を多く盛りつけてしまう。自分の体というものを考えなければならない。

 スーツを着込むと、なんだか自分がとんでもなく間抜けな格好をしている気がして、その途端に全身を脱力感に支配されてしまったので、そのままフローリングに横たわることにした。

 天井が高い。
 僕は想像する。
 いつか、僕の姿が誰からも見つけられなくなる日のことを。

 どんどん天井が高くなっていく。



次は「たわしの調理法」
349この名無しがすごい!:2011/10/31(月) 02:47:43.12 ID:kOSuWOBB
私には妻がいる。
とても愛らしい妻で、私には勿体無いぐらいの愛しい我が妻だ。

「今日は随分遅かったのね」

私は彼女が居なくては、生きていけないだろう。

「私、今晩の夕飯の買い物の帰りに見ちゃったのよね。知らない女と歩いてるあなたを」

会社の得意先と偶然すれ違ったので、荷物を運んだ。だが、彼女にとってそれはどうでもいい事だ。

「私、あなたを愛してるわ。だから信じる。でも、それでも怖いのよね」

気持ちはとてもよく分かる。私が逆の立場に立たされれば、きっと私は自殺してしまう。

「だから、今日の夜ご飯は絶対に食べ切ってほしいの」

彼女が無造作に机の上に置いたのは、一つのたわし。

「食べてくれるわよね」

迷いは無い。彼女からそれで信頼を勝ち取れるのなら、それは幸福な事なのだから。

「わかったわ」

彼女は台所へと消えていった。たわしを持って。

それを見送る私はただ一言、「愛しているよ」と呟いた。
350この名無しがすごい!:2011/10/31(月) 02:49:00.01 ID:kOSuWOBB
sage忘れた…

次は「ヘッドフォン」で
351ヘッドフォン:2011/11/02(水) 22:54:15.08 ID:DRDPbbFo
令嬢の傍らには、いつも本物の音楽があった。
生まれて17年間屋敷を出たことのない令嬢は、朝起きると
精妙なヴァイオリンの演奏を聴きながら朝食をとり、
遠くマンドリンの調べを聞きながら読書をし、洒脱なアコーディオンの
リズムを聞きながら昼食を食べ、葉から落ちる雨滴のような
オルゴールの音を背にしながら編み物をし、父のお気に入りの
声楽隊を招いて賞賛の微笑を投げ、夕食時には屋敷中に
散らばっていた音楽家を集めてその日のアレンジを楽しみ、
夜は離れで歌う若いソリストの声を感じながら客に応対する。
Music is her life..........
そして令嬢の一日が終わる。鉄格子の嵌った石の部屋に
戻り、乳母が扉に錠を下ろすと、彼女は化粧台の下から
ヘッドフォンを取り出し、目を瞑って耳に掛ける。
「環境音シリーズ07 工事現場 基礎・溶接・舗装」
これが令嬢のオアシスだった。生活(life)ほど鬱陶しいものはない。

次「海から飛び出すホームラン」
352この名無しがすごい!:2011/11/04(金) 05:48:36.17 ID:2Ojhc7R3
フロリダで個人タクシーなんて職業をやっていると、時たま変な客が乗り込む場合がある。
今回もそうだった。
名前の部分に「ホームラン」と書かれた猫用のケージを抱えた、何故かチップを多く渡す黒いコートの男。
日本から移住した俺の醤油顔という奴を見て、彼は「港まで」と一言だけ呟いた。
しかし男がケージを座席に置くと、衝撃に驚いたらしい『中身』はうぞうぞと動き始め、吸盤の付いた足を一本外へと出した。
「ホームラン君は海から飛び出してきちまったのかい」笑いながらそう俺が言うと、男はおもむろになんと100ドル札を握らせてきた。
「家出してしまいましてね。一緒に帰る所です」
「…お客さん、ツいてるぜ。面倒臭い仕事が終わったら凄い物が見られる。今日はなんとその港から行ける島で、シャトルの打ち上げがあるんだと」
「知っています」

港で無事に男を下ろした俺は、一服しながら車に寄りかかっていた。
海洋研究でもしていたのかな。遠くで白い煙を上げながら上昇していくシャトルを見ながら男について空想を走らせていたが、車載ラジオから聞こえた言葉に俺はタバコをポロリと落としてしまった。
『緊急ニュースです。フロリダ州メリット島で今日打ち上げられたシャトルですが、それに黒いコートを着た侵入者が乗り込んで行ったとの情報が警察から入りました。男はシャトルをジャックし、『船が壊れた。家へ帰るだけだ』等と意味不明の発言をしており……』
「まさかな」
個人タクシーなんてやっていると、空想癖が付いてしまうらしい。

次は「扇風機男子」
353この名無しがすごい!:2011/11/06(日) 10:13:56.03 ID:NWE6Md0y
暑い。僕の何もかもが溶けてしまいそうだった。
いっそのこと溶けてしまったら楽なのかもしれない。
扇風機からは熱風しかこなかった。

今日僕は彼女にふられた。
彼女に僕より好きな人ができたのは知っていた。
それでも僕は彼女の気持ちが変わることを信じて、気付かないふりをした。
いや、結局のところ信じていたかっただけなのかもしれない。
たぶん、わかっていたのだろう。でもそれを僕は無かったことにした。
今日ふられてわかったことはただ一つ。

扇風機からは熱風しかこない。
つけていても無駄だ。
そんな扇風機と僕がなんとなく似ている気がして、僕はよけいみじめに感じた。
僕の無駄だった毎日を嘲笑うように太陽は輝く。

次は「今週の終末」
354この名無しがすごい!:2011/11/07(月) 21:18:08.23 ID:jtTIyzFD
日曜日、彼と来週の日曜に映画を行く約束をした。
月曜から木曜は出張で彼とは会えない。
金曜日、久しぶりのデート。映画のチケットを彼から渡される。
土曜日、原因不明の心臓発作で彼が亡くなった。
一夜明けた日曜日、彼とのデート。
そしてまた、来週日曜に映画を観る約束をする。
月曜から木曜は彼の出張で会えない。
その間に私は彼の命を守るためにあらゆる手立てを考える。
先週は心臓発作、その一つ前の今週は自動車事故、
二つ前の今週は歩道橋の階段から転がり落ち、三つ前は・・・
運命はどうにかして私から彼を奪おうとしている。
もしかすると、私が彼を手放せば彼は救われるのかもしれない。
でもそれだけはどうしても嫌だ。
そのくらいならこのループの中に永遠にいた方がいい。
いつかこの週末を終わらせ、私は彼と約束した映画を観る。きっと。

次は「幽霊かばん」
355この名無しがすごい!:2011/11/08(火) 11:30:49.03 ID:+UNcx/nl

 幽霊かばんというものがある。

 幽霊が持ち歩く幽霊用のかばんだ。「死んだものが今さら何を持ち歩く必要があるのか」と思う人がいるかもしれない。実際その通りで、需要は少ないらしい。

 しかし未練というものは人や場所だけでなく物にも込められるのは当然で、それを持ち歩きたいと思う霊もいる。そういう者にとって幽霊かばんは必要なのである。
サッカー大会の優勝カップとかトランジスターラジオとかビーズの首飾りとか、ボロボロのぬいぐるみ等々。幽霊だからこそそういった生きていた頃の思い出に執着してしまうのだ。

 私のかばんにもそのような大切な過去の宝物が詰まっている。

 私は目を上げトンネルを抜けて右方に広がった海を眺めた。冬の海は黒髪のように冷えて見えたが、時折雲間から差す陽が優しさを与えていた。
私はかばんから白い馬と黒い馬の人形を取り窓際に置いた。そしてその人形と景色を交互に見ながら微笑み、それからゆっくりと遠い記憶の日だまりに溶けていった。きらきらと霧散していった。



次題 「マイ・プライベート・ターヘル・アナトミア」
356この名無しがすごい!:2011/11/14(月) 16:43:26.27 ID:OZkkTTuw
「マイ・プライベート・ターヘル・アナトミア」

「『解体新書』と言えば、聞いた事があると思う。
中学ぐらいだったかに習ったろう?杉田玄白の」
男はそう言いながら古臭い一冊の書物を取りだした。
「『タブライ・アナトミカイ』。これがそう。
これは当時の蘭方医の内の誰かが所有していたものだそうだけど」
本当にそうだとしたらえらい骨董品なその書物を、男は大事そうにガラスケースにしまう。博物館にあるような傾斜のついた展示用ケース。
「当時は高価だったらしいから、藩の蔵書かもね」
蓋をしないまま、男はガラスケースの中でページをめくっていく。
解剖図を一枚一枚確認しながら、
「まあ。私はオランダ語は読めないんだけれど」
そう言って苦笑した。確かに先ほどのラテン語も日本語発音だった。
「杉田玄白の得た解剖学書の一冊。彼はこれを『ターヘル・アナトミア』と記録している。
彼ら蘭方医はこれを片手に腑分けを見に行った。日本での西洋医学の始まり。それがこの一冊」
男は1ページに目を止め、うっとりと眺めた。
「そうだな。今日はこのページだ」
そこで蓋を下ろして、俺にガラス越しのそのページを見せた。
「綺麗だろう?」
男の後ろにはいくつもの解剖図が並ぶ。
「君にピッタリだ」
違う。
あれは―
解剖された死体だ。

薬で麻痺した頭がようやく認識した。
ぼんやりとした頭に危機感はない。むしろ現実味も無い。
「私オリジナルの『解剖学書』。完成まではまだ遠いねぇ」
俺はアレに加わるのか。


次は「君が居なくなってからこの部屋は狭くなった。」
357この名無しがすごい!:2011/11/14(月) 19:04:13.02 ID:dfPCqu5E
「君が居なくなってからこの部屋は狭くなった。」

 前略 君へ。
 最近、やたらと君と住んでいた頃のことを思い出す。君は僕の所有物を見ると、
見境なく捨てる癖があったね。あれはゴミだの、これはクズだの、そっちは不要
だのと、自分勝手な理由をつけて、思い出も何もかもを捨ててしまったね。
 君は僕が熱中しているところを見て嫉妬したのだろうか? ゲーム機でさえも
捨ててしまった。売れば幾らかの足しにでもなったかもしれないのに。
 君の判断は誤っていると僕はいつも思っていた。それというのも、僕はいまでは
ひとかどの作家なんだ。驚いたかな? 驚いただろうね。今では現代ミステリだけ
でなく、ファンタジーや時代モノにも挑戦しようとしている。そうするとどんな
ガラクタでも、いつか使うかもしれないだろう。だから、なおさらモノを捨てる
ことができなくなってしまってね。
 結局何が言いたいかというと、今では僕の座る椅子のところだけが空きスペース
になっていて、他は全部ゴミの最終埋立地みたいな状態になっているということ。
そしてそれが今にも崩れそうで、このままだと僕はその下敷きになって遠からず
死んでしまうだろう、ということなんだ。
 今の僕は、君を必要としている。そう、割と切実にね。おかしいだろう。「君を
必要としている」たったこれだけのことを書くために、こんな長い前振りが必要に
なるなんてね。
 君の心が僕の元を離れてしまったことは疑う余地が無い。けれども、どうか僕に
憐憫の情を抱いてくれるようなことがあるならば、このガラクタの山を捨てに、
この部屋に戻ってきてくれないだろうか。たった一度でいい。僕にチャンスを。
 草々

「どちらかが彼女を醸(かも)した」
358この名無しがすごい!:2011/11/14(月) 19:05:11.86 ID:lSxbFM7l
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世
10. Dies irae

SS予定は無いのでしょうか?
359この名無しがすごい!:2011/11/14(月) 22:31:24.25 ID:dfPCqu5E
>>358
スレ間違ってませんか?
360この名無しがすごい!:2011/11/16(水) 01:08:03.48 ID:9nTVY0fQ
「どちらかが彼女を醸(かも)した」

「全く、笑わせてくれるわよね」
真っ赤なルージュがくっきりと引かれた唇を歪めながら、彼女は呟いた。
派手なワンピース。大きめのピアス。
彼女は二人の男と同時に別れたそうだ。いや、二人の男と同時に付き合う彼女もどうかと思うが。
とにかく僕は彼女に呼び出され、愚痴を聞いている。薄暗いバーの片隅で。
僕が知っている彼女はジーンズに白いシャツが似合う、笑顔のかわいい女の子だった。
たった二年でこんなに変わってしまうとは。大人の女になっていたとは。
二人の男に醸されて、いや、どちらかの男の好みなのだろうか。いったい、どっちの。
そんなことを考えながら、僕は彼女を眺めていた。
「あなたと離ればなれになったのは、確か二年前だったわよね」
けだるそうに彼女はタバコの煙を吐いた。
「そうだね。雰囲気がすっかり変わってしまったなって、思っていたところだよ」
「そうね。あのころの私は全然飾り気がなくって」
「そう。僕たちに、いつも真直ぐな笑顔を見せていたよね」
「それは、あなたがそう望んでいたから」
「え? 僕?」
「あなた、白いシャツとブルージーンズの組み合わせ、好きでしょ?」
驚いた事にそれは僕の記憶の中の彼女のイメージそのままだった。
「なんで、突然私たちから離れていったのよ。私がどんな気持ちで……」
僕は言葉を失った。僕が去った理由は、彼女から嫌われたと思ったからで……。
胸に、何かがこみ上げてくるのを感じた。二年前にも感じた何かを。
そして、僕は沈黙のまま、彼女の肩を抱いた。僕が勇気を出せば、また朗らかな表情を見る事ができるのだろうか。彼女の。

「冬の種」
361この名無しがすごい!:2011/11/19(土) 22:52:35.76 ID:OHYB0BvP
セーターの匂い。アスファルトを舞う落ち葉。人いきれ。曇ったガラス。
私はアイポッドをポケットに入れて好きな音楽をかけて渋谷の街を歩く。
本当はアイポッドをじゃなく別のメーカーにしようと思った。
だって何となくみんなが買ってるから買ってるみたいで流行かぶれみたいだから。

でも深くは考えないようにしよう。だってきっとどうでも良いことだから。
実際買ってみて、気に入ったのは事実。だから問題ない。

クリスマスが近づいている。クリスマス。今年はまた由美と過ごすだろう。
由美も彼氏がいない、私も彼氏がいない。由美に彼氏が出来たら
私はきっと何食わぬ顔をして言うだろう。「良かったジャン」って。
でも私は動揺して取り残された気分がするに違いない。孤独を感じるに違いない。

私はビルの間に切り取られた空を見上げ雨が降りそうだなと思う。
雪にはまだ早い。晩秋の雨。

私は毛糸の手袋をクリスマスイルミネーションに重ねる。
色とりどりの光たちは生まれたての芽のように生き生きと伸びていく。
私は手袋の上の見えない冬の種をそっと包み込んだ。


「朝に飛び込んで」


362この名無しがすごい!:2011/11/20(日) 12:19:52.40 ID:ZFLbkZab

水面に影が映っている。ボクの影だ。ボクは橋の上から川の流れを見つめていた。
森から蝉の声が聞こえて来る。頬に当たる風は、まだ早朝の涼しさを残している。爽やかな風。
ボクがいる橋の上から水面までは、ちょっと恐怖感を感じるくらいの高さがある。少しだけ足の震えを感じた。
ぼんやりと水面を眺めながら、一学期最後の日に担任が話していた言葉を思い出していた。

「最後に君たちにひとつだけ言っておきたいことがある。君たちも知っていると思うが、この学校には『度胸試し』という風習がある。
役場前にある川の橋から飛び降りるやつだ。昔から中学二年の夏休みに、この学校の男子のあいだで行われて来た風習なんだけれど、危険なのでこのクラスの男子は絶対に行わない事。
やった者は二学期最初に親を呼び出すからな。覚えておく様に」

朝の日差しが肌に突き刺さる。蝉の声は青空を切り裂く様に響き続けている。
昔はこの『度胸試し』の儀式を行って初めて一人前の男として認められて来たわけなんだけれど、ここ数年は危険だからということで学校からは禁止されている。
けれど、ボクはひとつの区切りとして『度胸試し』をこの夏に行う事を決めていた。
「おーい。薫、本当にやるのかよ」
親友の純也がやってきた。ボクは頷く。
「お前なんかにできるわけないだろ? 情けない所を見届けてやるよ」
智彦。クラスで一番嫌なやつだ。こいつにボクが飛び降りところを見せつけてやりたかった。
「二人にはボクの『度胸試し』を見届けて欲しい。この儀式の後、ボクは変わってしまうと思うけれど、今のボクを覚えていて欲しい」
ボクは橋の手すりに立ち、大きく深呼吸をした。そして、青空に大きく弧を描いて、水面へと落下していった。

川を泳いで岸に到着したボクは、大きな岩の上で一息ついていた。
「よくやったな。見届けたよ」
純也はボクにタオルを渡してくれた。
「本当にやるとは思わなかったよ。がんばったな」
智彦もボクを認めてくれたようだ。
ボクは嬉しくなり、胸に手を当てた。最近少し膨らみかけて来た胸に。
これで思い残す事はなにもない。今日を境に髪を伸ばそうと思った。自分のことも『わたし』と呼ぼうと。
変われる気がする。ボクはやりとげたのだから。朝に飛び込んで。

「水晶の中にあるもの」
363この名無しがすごい!:2011/11/21(月) 01:55:46.70 ID:katO5czG
雨が降ってきた。
私は電車のドアに顔をそっと近づけ空を見上げる。水滴のついたガラス越しの風景。
鉛色の街。色あせた風景。それは心の傷を隠してくれるような気がする。

私は買ったばかりのハンズの袋に左手から右手に移し変える。
中には水晶が入っている。インテリアのコーナーにあったもので
そこには手書きのラベルに「運気UP」と書いてあった。
私は手袋を取り汗ばんだ手の平でそれをそっとなでる。

(水晶の中にあるものよ。私の心を写し給え)
私はそっと呟く。奇跡が起きて何かが浮かんでくることを半ば期待して。
そして本当に見えたら嫌だなと思いつつ。

雨の街。私は雨が好き。
この乾いた心を癒してくれる気がするから。

そう彼女が思ったとき買い物袋の中の小さな箱が輝き始めたのを
若い女に抱かれた赤ちゃんが可笑しそうに眺めた。




第三の足



364この名無しがすごい!:2011/11/22(火) 04:14:26.66 ID:qIB8IAFi
博士が「これからは安定感が求められる時代」
とか言って、僕の息子を足に変えてしまった。
昨日やったUFOキャッチャーのアームのつかみが弱かったのを、結構気にしていたみたい。
服が特注って事以外は特に不都合は無いけれど……
やはり足の裏からおしっこがでるのはくすぐったいので、貰ったお金を使い切ったら元に戻してもらうことにする。

次 雨の日のポリシー
365この名無しがすごい!:2011/11/22(火) 23:39:02.44 ID:ep2kq4VE
改札口に向かいながら胸がドキドキするのが抑えられない。
これは中学一年生のときバスケ部の先輩にバレンタインのチョコを
あげようと先輩の前に立ったときの感じにも似てるし、屋根の雪かきを
した時に、滑り落ちそうになったときの感じにもしてるような気がする。
でも正確に言えば、こんな気持ちは味わったことが無い。
言葉が頭から滑り落ちてしまった気がしてうまく言い表せない。
ただ未知の感覚だけが渦巻いてる。

 さっき電車に乗っているときに赤ちゃんが笑い声を出したような気がして
そんな声を聞くのは珍しいと思って、ふと振り向いて赤ちゃんの目線の先にあるものを
見たら私が持っている東急ハンズの袋だった。何の変哲も無い
買い物袋で白地に「東急ハンズ」と書いてあって指を刺したようなマークが
印刷されている。その袋が提灯のようにボンヤリ明かりを発していた。

急に外の世界の音が電車がレールを走るごとごとという音、乗客たちの話し声
――女子高生がテストの結果についてしゃべっていた。が急に遠のいて
自分の中に酸素を取り込む呼吸音しか聞こえなくなったような気がした。

――そんなことあるわけない
私は思った。そんなこと。考えるのも怖かったがそんなこととは水晶が
光を発してるということ。私は何気ない振りをして袋を振ってみる。

私は自分にしっかりしろと言い聞かせて現実的に考えるべきだと言う。
ただ何かが反射したか……もしくはそう、初めから光る水晶だったのでは?
そう理性的に考えようとしたが、どう考えてもそんな構造になってるなんて思えない。
そんなんだったら気がついているはず。それにあの透明な玉のどこに電池が入るというのだろう?
366この名無しがすごい!:2011/11/22(火) 23:53:43.75 ID:ep2kq4VE
 私は吉祥寺駅で降りるとすぐにトイレに向かった。
ハンズの袋をあけるゴソゴソという音が個室に響いて自分が
馬鹿みたいだと思う。買ったばかりの10cm×15cmの箱。その箱を
接着テープの包装ももどかしく開けた。
そこには、ハンズの棚にあった時と同じ透明な直径5cmほどの球体が
あった。

――確かに光ったんだ。間違いない。
買う前に私は神様のことを考えた。神様って言うか
運命とか巡り合わせとか占とかそんな深刻じゃなく、神様、いいことありますようにって
神社でお祈りするような軽い気持ちで神様のことを考えた。
だけどそれだからって、まさか、こんな非現実的なことが起こりえるのだろうか?

ガタンと音がして隣に人が入った。いつまでもこんなところに突っ立てるわけにも行かない。
まさかチカンとは間違えられないだろうが個室をひとつ使えないのは、こういう場所では
迷惑極まりない。それで私は考えた。
とりあえず考えるのは保留にしようと。また同じことが起こったらまた考えればいい。
私の錯覚かもしれないし。

――さて雨が降ってるけど自転車で帰るのどうしよう?
私は雨の日はレインコートを着て自転車に乗る。これはポリシーというか哲学みたいなもの。
実際、傘を差すのは危ないし私は雨の匂いがする駅の広場を歩きながら思った。




夜の扉
367この名無しがすごい!:2011/11/24(木) 23:39:23.09 ID:Tu4DdfY+
「夜の扉」
目を開けると天井が見えた。俺の家の天井だ。窓からの日差しが眩しい。
俺は寝ていた布団の中で、昨晩の出来事を回想した。
友人と行った居酒屋で、会計を済ませた所までは思い出せた。しかし、あとの記憶が全くなかった。
我ながらよく家まで辿り着いたものだなぁと思った。
頭が痛いので頭痛薬を取りに行こうと起き上がると、足下に女が微笑みながら突っ立っていた。
「私は夜の妖精」
黒くて薄いワンピースを着た、その20代前半と思われる女は、なぜかスローモーション風に髪をたなびかせながら、そう言った。背中の羽はコスプレのつもりなのだろうか。
「何が妖精だよ。どこから入ったんだよ」
「いえ、私は夜の妖精、そしてこれは夜の扉」
女は片手に持った、木製のちいさな扉を指差した。
「夜じゃねえよ、もう朝だよ」
「いえ、そういう話では……それに、今の時間を言うなら、もうお昼近くになりますが」
「そっか……昨日は遅くまで飲んだからな」
「いえ、私が言いたいのはそういう話ではなくて……」
「何だよ、分かったよ言いがかりだな。俺はあんたには何もしてないはずだぞ。ほら、昨日着ていたスーツのまま布団に入ってたんだから」
「スーツがしわしわですね。クリーニングが必要かと」
「そうじゃなくって、俺は服を脱いでないって事。あんたに変な事はしていないよな?」
「はい」
「そっか……まぁ、あんたみたいなかわいい娘、普段は放っておく事はないんだけどな。で、何なんだ?」
「私は夜の妖精、そしてこれは夜の扉」
「それはさっき聞いたって。あ、二軒目の店か。夜の扉かぁ、名前からすると高そうな店だな。お勘定まだだった?」
「いえ。夜の扉というのは、飲み屋の名前ではありません。それに私は妖精。取り立てはしません」
「よく分かんねえな。あんた、何なんだよ」
「それを今から話そうと……。お願いします、続きを話させてください」
「おう、話していいぞ」
「ありがとうございます。私は夜の妖精。そして、これは夜の扉。望んだ場所と時間のあなた自身をこの扉の向こうにお見せします。但し、お見せする時間は夜に限ります」
「わかった。いくら? まさかタダってことはないだろ?」
「いえ、私は妖精なので、お金をいただいても……」
「そうか、金額を聞いて追い返そうと思ったんだけど、タダなら覗くだけ覗いてもいいかな」
「いつ、どこの貴方をごらんになります?」
俺は考えた。けれども見たい場面なんて思いつかなかった。
「見たい場面はない」
「それじゃあ、私、帰れません」
始終笑顔だった自称妖精は、初めて困った顔を見せた。
「そうか、悪かったよ。じゃぁ、夕べの帰りの記憶が無いんだ。ベロンベロンだったからな。夕べの帰宅途中の俺を見せてくれ」
「了解いたしました」
女は、扉にまじないをかける動作をした。
「どうぞ」
俺は扉を覗き込んだ。あんな顔で街を歩いていたのか……俺は見た事を後悔した。


『真夜中の太陽』
368この名無しがすごい!:2011/11/25(金) 23:45:37.49 ID:sqB4fSXS
雨の予報を見ようと携帯を取り出そうとした時、水晶が袋から落ちて生き物のように転がった。
――あっまずい
きっと急いでいて、箱のテープをきちんと止めていなかったせいだろう。
私は恥ずかしさと苛立ちの中、転がる水晶を追いかけながら、駅の広場にいる人たちの視線を感じていた。
きっとおかしな人だと思われているだろう。

まずいことにすぐ先には外へと下る階段があった。あそこから水晶が落ちたら
きっと大変なことになるだろう。
私が手を伸ばし雨に濡れた床が顔に近づき水晶に手が触れそうになった瞬間、水晶は階段へと消えていった。

消える瞬間、誰かの顔が見えたような気がした。それは水晶を拾ってくれる人だ。
その人は傘を持つ手と反対の手に水晶を持っている。私にはそれが男か女かさえも分からない。
年齢さえも。

 私が目を覚ましたとき、電車が終点が近づいたアナウンスがしていた。
雨はまだ降っている。
――変な夢を見たなあ
私は思う。水晶を買った夢だ。東急ハンズで水晶を買った夢。
大切なものを暗示している夢だったような気がするが、夢の細部はもう霞み始めていた。
足元にはハンズで買った袋に入ったクリスマスツリーがある。これを私はアパートの
窓際に置こうと思う。あそこなら外からでも見えるし、通行人もちょっと綺麗だなって思ってくれるかもしれない。

水晶が階段を落ちる夢の場面がふいに思い出される。あの水晶を拾ってくれる人は
誰だったのだろう? 
夢はその答えを教えてくれたような気もするし教えてくれなかったような気もする。
私はもう一度、この座席で寝たら夢の続きが見れるかもしれないと思う。
この折り返して渋谷に戻る電車に乗り続けたら、答えが分かるかもしれないと思う。
日食の太陽が、昼を夜に変えてしまったように私の心は揺れ動く。
私は窓に指を乗せ雨をたどる。
――わからないよ。何もかも。どうしたらいいの?
私は雨が好きだ。孤独を隠してくれるから。



忘れられた森
369この名無しがすごい!:2011/11/27(日) 23:11:53.36 ID:t9u++RlS
「忘れられた森」

「部長、この道路計画なんですが、予算が不足しています!」
キーボードの音が冷たく鳴り響く、ここはオフィス。途中からプロジェクト責任者を命じたうちのエースが血相を変えてやってきた。
「予算が不足しているってどういうことだ?」
「私、昨日は夜中まで残業して、このプロジェクトを再度見直してみたんです」
「それはご苦労だったね」
「ええ。今日は肩が凝って……いや、そんな事ではなく、この地図の丸印を見てください」
「ここは、森だね」
「そうです。ここは伐採が必要となる森林なんですが、以前の計画では伐採業者の予算が組み込まれていないんです」
「そうなのか、それは大変なミスだな。以前の担当から話を聞かないと。結果次第では現地に見に行かないとな。君は資料をそろえて席で待機していてくれ。」
仕事を命じて一日でミスをみつけるとは。エースの仕事の速さに感心しながらも、俺は内線で以前の担当者である山田を呼び出した。
「いま、後任がこの地図を持って来たんだが」
「はい」
「この丸印の箇所、伐採の業者から見積もりはもらっているのか?」
「いえ……そこは希少生物の保護から反対運動がありまして、見積もりを含めて後回しになっていました」
「で、もらっているのか?」
「申し訳ありません。見積もりをとる事を失念していました」
「まぁ、今ならなんとかなる。君は早急に業者を選定し、現地に同行する了解を得るんだ。できればこれからすぐに視察だ」
トラブルは早めに解決した方が怪我は軽い。これは俺の持論だ。
俺は部下を待っている間に今日の仕事を終わらせてしまおうと思った。実は俺も仕事が早い。
「部長。業者と連絡がつきました。これから向かうそうです」
前任者の山田だ。こいつもミスはあったものの中々やる男だ。
「それでは現地に行くぞ。車を回してくれ。それから、総務の担当も現地に行ける様手配してくれ」
「わかりました」
さっき新担当をうちのエースと呼んだが、こいつも悪くない。いつか抜擢してやるべきだろう。

道の両側から樹木の枝がトンネルの様に覆い被さっている、昼なお薄暗くて細い山道。俺たちの乗る車は伐採予定地へと進んでゆく。運転者は前任の担当、山田だ。
「総務課はどうした?」
「仕事の切りが悪いので少し遅れて向かうそうです」
「そうか」
目の前が開けた場所で車は止まった。頂上付近は樹木もまばらで、空き地の様になっている。この分ならそれほど伐採は必要ないかな……と俺は思った。追加予算もそれほど必要なさそうだ。
軽トラックが止まっていた。旧担当の山田は、車を降りると運転手に頭を下げている。おそらく依頼した業者なのだろう。
俺は車を降りて、業者に名刺を渡した。
「部長の渡辺です。旧担当の山田がお世話になりました」
「担当、変わったんですか。で、新担当の方は?」
「新担当は森といいます」
「どちらに?」
しまった。待機している様に命じたままだった。森を忘れていた。


次のお題は「彼は誰時の少女」で!



370この名無しがすごい!:2011/11/28(月) 23:58:57.12 ID:NcZSn/eK
『彼は誰時の少女』


朝日の登る前の時間。
白んだ空に目は冴えて、物を見ることはできるけれど、
それは輪郭だけのようなあいまいな世界で、
まるで深海に居る気持ちになる。

起床時間の早い僕は、出社前に近所の自然公園を駆ける。
顔見知りのランナーはいる。
けれどもカワタレ時の時間は近付かなければ見分けられない。
「おはようございます」
「おや。おはようございます」
声で判別する僕らはイルカやクジラの様だ。

雑談をしながら並走していると、違うコースを誰かが走っているのが見えた。
背は低く手足は華奢で、すらりと伸びた脚の付け根にはひらひらとしたスカートかキュロットをはいているのが見える。
髪はやや長く、ヘアバンドでもしているのか頭の後ろだけが揺れていた。
音楽でも聞いているのか、走りに合わせて細いコードが胸の前で跳ねている。
そして、フォームが見事に整っていて凄く綺麗だ。

「あの人…」
思わずこぼれた僕のつぶやきに、
「見ない人ですね。新しい方でしょうか」
反応を返された。
「声かけてみますか?」
そう問われたけれど、
走っているのは僕たちよりも短いコース。
「お邪魔になりそうです。やめておきましょう」


彼は誰?と問いたいけれど、
僕の中で彼の人はすでに麗しい美少女に描かれてしまっていて、
あの綺麗なフォームとともに心の中に美しいまま仕舞って置きたかった。



次のお題は「人生チュートリアル」で。
371この名無しがすごい!:2011/11/30(水) 22:09:49.73 ID:xalklOKH
『人生チュートリアル』

ある男を神は哀れんだ。
男の親は自分勝手な人間であり、彼は生まれてすぐ捨て子となった。
孤児院ではいじめられ、一生物の心の傷を負い、また学校にも彼の居場所はない。
大人になってからも現状は変化せず、遂には借金を押しつけられて、自殺をしてしまった。
神は男に仰った。
「お前はあまりにも哀れだ。そこでお前が来世では成功出来るよう、来世の出来事を繰り返し体験させてやろう。先に起こる事がわかっていれば、失敗することもなかろう」
男は神様に大層感謝し、来世を体験した。

しばらく後、何十回と来世を体験した男は、再び神の前に現れた。
男は疲れた顔でこう言った。
「成功の約束など結構です。体験しなかった、未知の来世を頂けませんか」
神は驚いて、男に理由を尋ねた。
「何故そのように思うのかね、未来が分かっていた方が良いであろう」
「どうしたもこうしたも有りませんよ。どうも貴方様と私達人間の間の成功の定義には、埋めがたい溝が有るようだ。私は聖人として億万の信者に崇められるのも、磔にされて業火の中で死んでいくのも、真っ平ごめんなのですよ」


次のお題
「虹の上の目玉」
372この名無しがすごい!:2011/12/01(木) 06:54:06.37 ID:GTdplyeH
『虹と目』

雨が止み光が差せば虹ができる。
いつごろからだろうか、虹の上に目が見えるようになったのは・・・

最初はその不気味さに悲鳴を上げて周りの人に助けを求めた。

他の人には見えないのか助けを求めた人につまらなそうな顔を向けられる
それでも必死に
「虹の上に目が見えるんです、助けてください」
と訴えてみるも
仕舞いには内心面倒そうな顔をしながら
「何を言ってるんだい?そんなもの見えないじゃないか」
と言われ、再度恐る恐る虹のほうを振り向いたのだけれど
目はまだ虹の上にあった・・・

「まだいるよ、怖いよ」と体を震わせつつ抗議するも
少しまってるんだぞといい携帯電話を取り出され救急車を呼ばれてしまい
その後は精神に異常だのと色々調べられた。

そんな事があった。

雨の後、虹が見える度に見える目は怖いものの
とりわけ何が起こるわけでも何をしてくるでもなく
虹が出来た時のみに現れ消えていった。

見え初めてから半年ぐらいしたころだったろうか、生活は慣れ始め
虹の出る日以外は見えないことも幸いだったためか慣れ始めていた。

今日も雨が上がり目が現れるだろう。
けれど、コノ半年の間に何も起きていないし何もしてきていない。
あの目はなんなのだろうと思うが、触らない神に祟りなしというし
何も起きていないので無視する。

虹と目が見える空を水溜りが映しているので出来るだけ水溜りを踏まないように避けて家路を急ぐ

空を見る、今日も雨の上った空には虹と目が浮かんでいる・・・・・
そう思った時だった。
体が浮遊するかのような感覚に襲われる。
体が地面に寝そべったような感触がしてきた
痛いと思い始めると同時に眠くないのにまぶたが落ちてくる感覚がする
目の前がまぶたに覆われ真っ暗闇となった・・・・

まぶたの閉じる前に見えた空には目のない虹が見えた。



次のお題
「夢の扉」
373この名無しがすごい!:2011/12/02(金) 00:21:19.17 ID:76oFQolL
クリスマスツリーのスイッチを入れ部屋の明かりを消すと部屋の雰囲気が一変してしまった。
魔法のようだと私は思う。
電球が点滅するたびに、窓際の縫ぐるみやトロール人形が姿を現す。
私はツリーに雪が降る情景を想像する。雪は縫ぐるみや人形にも降り積もる。
縫ぐるみたちは迷惑そうに、だけどやがてはうれしそうに動き出す。

「雪が降ってるよ。雪だよ!」「あんたは北の生まれだけど僕はアフリカなんだよ。ああ寒い」
「キリマンジャロにも雪は降るんですよ。ライオンさん」「ああ、ずっと前、おもちゃ売り場でドラエモン
が言ってたような気がする」
私はベッドに寝転んで空想の世界に浸る。どこか遠くへ。車でも飛行機でもいけない場所へ私は
行く。そこには子供や、痛みを持った大人がいっぱいいる。

「あなたは誰?」
私は水晶を持っている人にそう言う。でもその人の腰の辺りしか見えない。何故なら私は子供だからだ。
記憶に無い時代、まだ私が意識と言うものを感じることが出来ない時代。
「私は君が知っている人だよ」
大人の男の人の声。誰だろう?
「知っている人? 分からないよ」
きっと体は子供でも頭は大人の私なのだろう。難しい言葉も理解できたし、その人が言葉に
込めた感情も感じることが出来る。この人は私に重要なことを問いかけている。
「そうかな? あなたも知ってる人なんだ。どこかで会った事がある」

ベッドで目が覚めると真夜中だった。どうやら外着のまま寝てしまったらしい。
――あの男の人は誰なんだろう? 
私は何気なくトロール人形の目をじっと見る。人形が答えてくれるとでも言うように。
想像の中でははしゃいでいたのに今は窓際でじっとしている。大人の姿が見えなくなったら
走り出す子供のように。



「解毒虫」」
374この名無しがすごい!:2011/12/02(金) 21:39:16.16 ID:66G4L49K
僕が子どもだったころ祖父の書斎でみつけた一つの言葉。
『解毒虫』
スクラップブックに挟まれていた見出しらしい古い新聞の切り抜きだった。
当時子どもだった僕には読めなかったが、ずいぶん後になってからでもその三文字は思い出せた。
いま僕はひどい腹痛に苦しめられている。今朝の牛乳か、昼食の牡蠣フライか、それとも何かに感染したか。
そこでふと思い出したのが「解毒虫」というあの言葉だ。
解毒虫・・・何をどうやって解毒してくれるのだろうか。
いやいや。いるかどうかもわからない虫に頼ってどうする。今は文明の利器、ネットというものがある。
『腹がいたいです。食中毒かも知れません。1人暮らしです。救急車呼びたくないです。誰か助けて〜』
『ご冥福を祈ります』『笑いすぎにはご注意』『痛いのは片腹ですか』『長文不可』『シネ』
だめだこりゃ・・・
とはいえ、気がまぎれたせいか少し腹の痛みが治まった気がする。
医療系のサイトでも行って相談してみるか。
お、最新記事に『食中毒解明』というのがある。見てみよう。
あれ? またあの虫が頭をよぎったぞ。何でこのタイミングで?

次は「奇跡のアナログ」
375この名無しがすごい!:2011/12/05(月) 09:09:53.90 ID:5AmHuwKR
<奇跡のアナログ>

日本人だもの。
新しいものが好きだ。
流行りに流されて使い難いスマートフォンに代えるし、目についた
新商品は何となく買ってしまう。

そんな一般的ゆとり世代の着けている腕時計は、銀盤ネジ巻き式。
僕が中学生の頃、祖父から譲り受けた物だ。
爺曰く、「奇跡の時計」
その時は「なんだこのじじい」と思ったけれど、最近、じいさんは本気だったということがわかった。

先月、祖父は亡くなった。
ご飯を食べ終え、祖母とテレビを見ている時に眠りに落ちそのまま…だったらしい。
葬式であったじいさんの友人から、時計の話を聞いた。
なんでもこの時計のおかげで祖母と結婚できたり、親の死に目に会えたり、電車事故を回避できたらしい。
「大ちゃん、孫が心配だっていってたよ息子はしっかり者だから大丈夫だけど、孫はどっかでドジ踏んだら践むんじゃないかって…時計かあ、大事にしなよ」
そう言って祖父の友人は銀盤を磨いてくれた。

新しいものが好きだ。
期間限定に飛びつくし、新しい店は何となく入る。
でも僕は今日も、よく時間が狂うアナログを腕につける。
銀盤が鈍く光り、黒ずんだ長針が時を刻む。
「いってきまーす」

古い物も悪くない。
日本人だけど。

携帯で時間を確認して、
僕は家を出た。

次は パレードの最後尾
376この名無しがすごい!:2011/12/08(木) 23:55:58.13 ID:hvD/OxcS
向かっておる。向かっておる。
何やら外が騒がしいと思うて寝床から這い出したおれは人の群れがゆっくりと流れておるのを見た。
何やら北へ向かっておる。
皆楽しそうな顔をしておる。
行列の先頭はここから見ることはできない。
「皆何を楽しそうにしておるのですか?」
「いやあ、めでたい、めでたいなあ」
ハゲ頭のきたない親父に聞いてもまともな返事は返ってこない。
若い女にも聞いた。
「めでたいことだわ、本当にめでたいこと」
やはりまともな返事は返ってこぬ。どうなってしまったのだ、この街の者は。
不思議なことに先頭は見えないほど遠くにあるのに、行列はこれ以上後ろには増えないようである。
ここがこの謎のパレードの最後尾なのだな。ならば先頭まで行って何があるのか見てやろうぞ。
おれは走り出した。
途中見知った顔の男に会った。古くからの友人、武田である。
「おい、おい。そこにいるのは武田ではないか?」
「君か、君か、どうしたね?」
「どうしたではない。これは何の行列なのだ。この先には何があるのだ」
武田はにやにや笑っておる。
「本当にめでたいよ、君。めでたいよ」
こいつもどうやら駄目なようだ。先へ進む。
走りながら周りを観察して見ると、皆おれを見てもにやにや笑っておるだけである。
これが行列ならば、抜かされれば怒るやつがいて然るべきだ。
それに行列にしては進むスピードが速い。先頭も移動しているならおれも速度をあげた方がよい。
既に息は切れ、足が重い。だがしかしこの先にあるものを見たい。
何がめでたいのか。なぜ教えてくれぬのか。
やがて先頭が見えてきた。先頭にいるのは10歳ぐらいの少年である。
「君、ここが先頭か。この行列は何なのだ」
少年はにやにや笑っておる。
眼だけがひん曲がった笑みで気味が悪い。
「めでたいね、おじさん、めでたいね」
「何がめでたいというのだ!」
声を荒げてしまう。
「おじさん、おめでとう」
何と、この行列はおれを祝うための行列だったのか。
皆おれを見てにやにやしていたのも、何も教えてくれなかったことも、これで納得がゆく。
「おお、ありがとう、ありがとう」
37歳になった今日と言う日は、今までで最高の誕生日になった。
少年はにこりと笑って、
「おじさん、パレードの最後尾おめでとう」
くるりと向きを変えた行列は、今までとは逆の方へと向かっていった。

次は、とかげの匂い
377この名無しがすごい!:2011/12/13(火) 00:26:03.50 ID:TSoTswtG
「とかげの匂い」

純白のテーブルクロス。飲み頃に冷えたワインとホールケーキ。良く煮込んだビーフシチュー。
今日は彼女の誕生日だ。
先日、僕はバイト先で知り合った彼女に二人きりの誕生パーティーを提案した。
彼女は、僕の誘いに笑顔でうなづいた。
そして、今日はその当日。彼女は僕の家にやって来る。
時計を見る。もうすぐ約束の時間だ。僕は待ちきれずにナイフとフォークをセッテイングする。
もういちど部屋の時計を見上げた時、インターフォンから彼女の声が聞こえた。
「こんばんわ。私。本当に来ちゃったけど、良かったかなぁ」
「もちろんだよ。お待ちしてました。206号室ね」
僕はインターフィンを操作して、マンションの入り口を開けた。

夢にまで見た彼女が、テーブルの向こう側に座っている。
蝋燭の明かりが彼女の笑顔を黄金色に照らし出す。セミロングの髪。黒目がちな瞳。
僕はサラダを彼女にサービスする。
「僕の得意なトスドサラダだよ」
しかし、なぜか彼女は食べようとしない。
「野菜は苦手で」
相変わらずの笑顔で彼女はそう言った。
「ごめん。知らなかったから。じゃぁ、スープはどう?」
「鳥のダシが良く出ていておいしい。私、鳥は好きなの」
「そうなんだ。もっと食べてよ」
「ありがとう」
彼女は笑顔で僕の作った料理を口に運んでいる。
「この魚料理はおいしい。私の好きな味」
「ビーフは少し苦手なんだけど、味が濃くて意外といけるわね」
そう、彼女は食べている。野菜以外は、おいしそうに笑顔を浮かべながら。
「ちょっと、化粧を直してくるわ」
彼女が部屋から出ていった。
その間に彼女の使った食器を下げようと思い、僕は彼女の席に回った。
ふと彼女の椅子の上に、キラキラと輝く小さな物をみつけて、僕は思わず手に取った。
鱗だ。しかも、かなり大きな。
僕はその鱗をそっと嗅いでみた。とかげの匂いがした。
そうか。彼女はとかげだったのか。
腕によりをかけたケーキは彼女の好物ではないな……と思い、僕は少し寂しい気がした。


次は『遅れて来た楽園』でよろしく!
378遅れてきた楽園:2011/12/14(水) 22:44:47.90 ID:iXtj0e7h
僕の名前? そうだな、「楽園」かな……。
そう仰ったあなたの笑顔は、私にはよく見えませんでした。
花やしきの肝試しに弟とはぐれて、暗やみに呆然としていた私を
連れ出してくだすったあなた、子供じみた私は、今にも泣きだしそうでしたか。
夏の夕べに背広を着たあなたは、そう、楽園に舞い降りた孔雀のよう。
背が高く、身なりがよろしくて、ご立派で……。
札場に預けた日傘をわざわざ受け取ってきてくださいましたね。
男の子なら大丈夫と仰るあなたを信じずに、お馬鹿な弟を探そうとした私は、
そうですね、きっと気後れして、あなたを怖がっていたのかもしれません。
次の日からひとりであなたとお会いするようになって、この夏は、
とても楽しゅうございました。川風に吹かれながら頂いた水菓子、
昼でも真っ暗な飾り屋で見たほおずきみたいな提灯、見世物、噺、
それまで父母か弟としか歩いたことのなかったこの界隈を、あなたと歩くと、
とても新しく感じたものです。笑ってしまうでしょう、弟は寂しがりで、
いつも私と出かけたがっているんですよ。ほんとに、子供で……。
「でも、ぼくには、君の運命を変えることができない」
そうおっしゃったのは、なぜでしたか。
横須賀に珍しい幻燈師がきて、海軍の叔父に泊りがけで見にゆかないかと
誘われましたが、弟だけ行かせることにしました。だって、わたしは
東京にいたかったのですもの。思い出を映すとか言う幻燈師さんも
素敵ですが、私がゆけない分、幸吉には弟子入りするくらい
よく見てくるように言いくるめておきました。帰ってきたら、たくさん話を
聞かせてくれるでしょう。あの子の思い出ですか? ふふ、あるんでしょうか、
まだ9つなのに。
前のお手紙、読んでくださいましたか。大事なお話をしたいのです。
浅草十二階の一番上で、あす、ふたりだけにお話をしたいのです。
きっと来てくださいましね。わたくし、あそこなら、今まで言えなかったことも、
言えるように思うのです……。
                      葉月参拾壱日 蔵前にて
あなたの

次「狼たちの洗濯日和」
379この名無しがすごい!:2011/12/18(日) 21:29:09.47 ID:NBwz26aN
「狼たちの洗濯日和」

 俺たちはこの街のギャングの中でも一二を争うチーム「狼」だ。だが、表向きは
ストリートの五番街に住む二人組のピッピーということで通している。
 太陽は晴れ。雲一つ無い快晴である。ギャングの制服とでもいうべき、
黒いスーツは直射日光を浴びて、徐々に渇き始めている。
 突然、家の前にベンツが2台止まった。中からわらわらと底辺ギャングが沸いてくる。
 ギャングは、何か失敗があれば、あっさりと消される運命だ。俺たちは二階の
洗濯ものを取り込み、スーツに着替える。
 ギャングたちは俺たちのセーフハウスを取り囲み、誰かが出てくるのをじっと
待っているようだった。待ち伏せである。
「こんな御大層なことしなくても、出頭してほしいと言えば出頭するのにねえ」
「おおかた誰かに焚き付けられたんだろうが、礼儀を知らない下っ端ギャングは困るよ」
 銃にカートリッジを差し込み、俺たちは窓の外の様子を伺う。
「三、五、八。八人はいるな」「じゃあ全員撃ち殺すか」「ああ」
 俺は上空に向けて弾をばらまいた。それらは重力に従って落下し、八人の脳を貫いた。
 血の臭いのする道路に、俺は生乾きのスーツを再び干した。天気は予報通り、まだ快晴だった。

「猫たちの会議」
380がんばって書いたので晒させてください…:2011/12/19(月) 01:37:13.66 ID:aIpZXTmU
「狼たちの洗濯日和」

空から大粒の雨が降り注ぐ。今日だけではない。この三日間ずっとこんな状態だ。
雨水を吸い尽くした地面は、一面が柔らかな泥沼と化している。
頭上には、大蛇の様な蔓が複雑に絡み合っている。幾重にも張った、異様な雰囲気を持つ木々の根に足をとられそうになる。
ここは密林。そして、敵地でもある。いつ敵の襲撃があるか分からない。
そんな悪条件をものともせずに、俺たちの部隊は泥まみれになって、あるときは俊敏に、あるときは慎重に匍匐前進で目的地を目指す。
俺たちは、前線に取り残された部隊を救い出しつつ敵を殲滅する、通称『狼』と呼ばれている少数精鋭の特殊部隊だ。
「あとどれくらいで目的地だ?」
俺は副隊長に確認する。
「西に5キロくらいです。隊長」
地図も出さずに副隊長は答えた。こいつの頭の中にはこの迷宮の様なジャングルの正確な地図が入っているらしい。
今回の目的地は中規模のベースだ。食料も豊富で兵舎もある。取り残された仲間も数十名と聞く。
辿り着けば一息つける。敵を蹴散らす作戦を練る時間もあるというわけだ。今回のミッションは俺たちにとっては容易いものだった。
「もう少しだ。と、言う事は敵も近いという事だ。どこから攻撃を受けるか分からない。身を屈めて慎重にすすむんだ」
容易いミッションでも気を抜くと重大事に発展する。なので、俺は部隊全体に注意を喚起する。できれば一人として隊員を失う事無く帰還したい。
俺は双眼鏡で目的地周辺を覗いた。敵は見当たらなかった。目的地のベースは外壁に損傷も無く、俺たちを迎える様にひっそりと佇んでいた。
気づくと、雨が小降りになっていた。雲の切れ間から青空が顔をのぞかせている。ベースまでの距離はあと4キロといったところか。
俺たちは慎重にベースへと向かう。

「よく来てくれた。さすが『狼』だ」
取り残された部隊の隊長が迎えてくれた。笑顔だが、皺が深く刻まれ顔には、はっきりと疲れが見えた。
「もう駄目かと思っていた。敵の数を見誤ってしまってな。数で押せると思って部隊を出したんだが、逆に約半数の犠牲を出してしまって」
隊長は遠くを眺めながら俺に語った。
「侮っていた。ここはやつらのテリトリーだったんだ。地の利は相手にあることを忘れていたんだな」
悔しそうに隊長は言葉を吐き捨てた。
「俺は、そういう部隊をいままでたくさん見て来た」
俺が口を開くと、隊長は驚いた様な顔で俺を覗き込んだ。
「圧倒的な戦力の差がある時に陥りやすい罠だ。俺たちは、どんな時も油断だけはしてはいけないと言う事だな」
隊長は大きく頷いた。
「ついて来てくれる部下の為にもな。そして、その部下の帰りを待つ家族のためにも」
こいつとは気が合いそうだと俺は思った。
「とにかくだ。『狼』の隊長、そんな濡れ鼠じゃ攻撃はできないぞ。まずはその野戦服を洗濯してスッキリしてくれ。作戦はその後でよかろう」
「助かります。洗濯機と部屋を借ります」
「すでに部下に用意する様に言ってある。夜までゆっくり休んでくれ」
俺は隊長の好意に甘える事にした。空を見上げると、さっきまでの豪雨が嘘の様に、空は青く晴れ上がっていた。この調子なら夜までに洗濯物も乾くだろう。
俺は洗濯を部下に任せると、用意されていた部屋で下着姿のままくつろぐ事にした。ベースには攻撃された跡もない。敵は警戒しているのだろう、ここならば安心だ。

どれだけ経ったのだろう。俺はついベッドでうとうとしてしまっていた。疲れが溜まっているのだなと思った。
窓の外を見ると、まだ空は青かった。敷地の向こう側には、洗濯された俺たちの野戦服が風に揺れていた。絶好の洗濯日和だなと俺は思った。
と、俺たちの野戦服が大きく揺れた。その向こう側から泥だらけの兵士が銃を抱えたまま入って来た。敵だと俺は思った。
泥だらけの兵士は、俺たちの野戦服を払いのけて進んで来る。俺は反射的に反応した。
「それは洗濯したばかりなんだ。汚い手で触るんじゃない!」
俺に気づいた兵士は、銃口をこちらに向けた。しまったと思った。俺は下着姿だ。銃もない。
次の瞬間、胸に熱い衝撃を感じた。俺の頭にはさっき自分で言った言葉が浮かんだ。
『俺たちは、どんな時も油断だけはしてはいけないと言う事だな』
呼吸が苦しくなってゆく。目の前が暗くなってゆく。遠のく意識の中で、俺は思った。
「洗濯日和のせいだ。洗濯さえしていなければ……。『狼』と呼ばれた部隊の隊長である俺が、こんな所で……」

お題は >>379で!
381猫たちの会議:2011/12/23(金) 22:05:44.17 ID:NQsOjJ+5
サラリーマンが、歩いている……。
8月の午後2時のことだ。照りつける日差しに汗を拭いていた若い男は、
ある公園の脇に差し掛かると、時計に目をやってその中に入った。
緑の梢が濃い影を作っている。ベンチがあった。男は水色の板に座ると、
ネクタイを緩めて一息ついた。蝉の声が激しい。
公園には、男のほかに誰もいなかった。だが男は視線を感じた。
いや、気のせいか……?
と、ベンチの下で何かが動いた。乾いた地面に染みのようなものが広がって、
急に泥化したそこから木の根のようなものが飛び出してくる。男は気づかない。
根は蛇のように男の脚に絡みついた。男は叫び声を……、あげたか?
蝉だ。蝉の声が、男の声を完全に飲み込んでいた。根は床屋の看板のような
一定の、それでいて容赦ない速度で男の体に巻きついて、そこから広がった
無数の細根が、網のように背広姿を多い尽くす。
「……!!」
あっという間に土色の塊となった若い男は、捕食者ごとその場に倒れた。
と、ベンチの下、根と土が繋がっていたところがぷっつりと切れ、男は
藁で巻いた納豆のような姿になる。そのまま苦しむように2,3度転がり、動かなくなった。
数分後……。塊が徐々に縮み始めた。ありえないことだが、土色のそれは徐々に
質量を失って、乾くように縮んでいく。やがて、ラグビーボールくらいの大きさになった。
「にゃーん」
ボールが鳴いた。いや、子猫だ。土色の塊がくるりと回転すると、いつのまにか
頭と四肢ができていた。尻尾もある。くりくりした黒い目が、怯えたようにあたりを
見回した。何かの気配がする。
植え込みやゴミ箱の陰から、数匹の猫たちが現れた。猫らは新しい仲間に向かって
集まってくると、その顔をまじまじと覗き込んだ。
「にゃーん」
そのまま、そこに座る。子猫も座った。どの猫もときおり辺りを見回すが、小さく
鳴くだけで、どこへ行く風でもない。
「あらあ、また増えたのね。猫って集会好きねえ」
声がして、中年の女が現れた。手には煮干臭い袋を持っている。「にゃーん」
何匹かが答えた。子猫は女をまじまじと見る。まじまじと、見る。まじまじと……。
「猫は気楽でいいわね。あたしも猫になりたいわ。みんな、何、話してたの?」
煮干を拾う猫たちは答えなかった。魚を喰らう口だけが、もぐもぐと動いていた。
そして、どの猫もじっと地面を見つめていた……。まばたきもせずに。

次「鳩時計殺人事件」
382この名無しがすごい!:2011/12/25(日) 11:28:17.26 ID:PcOezBUV
「鳩時計殺人事件」
探偵とか言う男が屋敷で起きた殺人事件を調査し始め 俺たちは大広間で待機する事になった たまたま屋敷に居たってだけでこうなるとは…ついてねぇぜ
「皆さんお待たせしました 今から謎解きをしようと思います」
戻って来た探偵が言った いい加減に解放してくれ
「ガラスの破片と一段低い場所にある寝室 そしてこの鳩時計がこの事件の鍵です」
探偵は被害者の部屋にあった小さな鳩時計を掲げ勝ち誇ったように言った
「犯人はこの鳩時計から鳩を取り出し 小さな隙間を作りました そこに小さな瓶を忍ばせる…中身はもちろん毒ガスを発生させるための物です あとは時計が鳴るのを待つだけ」
「瓶の容積は小さく発生するガスは多くはないでしょう しかし空気より重いガスならば 被害者の寝ているスペースにだけガスを満たすことは十分可能なのです」
おい…たまたまここにいたってだけで全員にトラウマ植え付ける気かよ…本当ついてねぇなあ
「この時計は三時間に一度しか鳩が飛び出しません つまり被害者が死亡する前の三時間に被害者の部屋に入った方…つまりあなたが犯人です」
そう言った探偵が指を差したのは…俺だった
「本当に今日はついてねぇや」
俺は認める代わりに 残っていた毒ガスの大瓶を踏みつけて割った
とたんに呼吸が苦しくなって体が動かなくなる 俺は崩れるように地面に倒れた
あっという間に目も見えなくなり 悲鳴があちこちから聞こえるだけになった あの探偵も死んだかな

※犯人を刺激する時は返り討ちにあわないよう細心の注意を払ってからにしましょう

次「一粒2tだって」
383この名無しがすごい!:2011/12/26(月) 13:49:03.55 ID:yeb9zyly
「一粒2tだって」

 民主党の瓦解と共に現れた新新国家社会主義(ネオネオ・ナチズム)政党。
 ネトウヨに熱狂的に支持されたこの政党は、老害の抹殺をマニュフェストに掲げ、
大量に議席を獲得。直後に一党独裁体制に移行した。
 それから、たった二年。たった二年で日本という国は崩壊した。
 立て続けに施行された老人への憎悪に満ちた法律。これにより、資産税が課され、
まず海外資本の引き揚げ(キャピタルフライト)を招いた。これにより株価は暴落
したが、ネオネオは責任を全て老人たちになすりつけた。日本の社会保障制度、
すなわち年金制度、生活保護制度、医療保険制度も、相次いで崩壊した。
 ネオネオの連中は年金と生活保護を物資の配給制に切り替えた。これにより当然の
ように物価は高騰。当初はデフレ脱却を喜んでいた民集も、ネオネオが紙幣を刷って
国債償還に当てると声高に叫んだときから、大きな危機感を抱いていた。そんなこと
をして、本当に日本の得になるのだろうか?
 だが、その政策は断行された。赤字国債は消滅したが、インフレは止まらず、
ハイパーインフレーションに突入。千円も五千円も一万円も、紙幣は無価値になった。
結果、庶民が白米さえ食えなくなる状況となっても、ネオネオ・ナチズムは支持を
獲得し続けた。若者の若者による若者のための政治。それに代わる政策を打ち出す
政党が出てこなかった、あるいは出てくる前に潰されていたためである。
 早期の報道指導により、若者たちの憎悪は、ネオネオではなく常に老人たちに
向けられていた。
「最近じゃ、ぶどう一粒2tだって」「ぶどうなんて老人の食べ物だよねー」
「老人引退法で、日本の老人は全滅するんだってー」「キャハハハ汚物は消毒だー」
 もはや、お金の価値は、重さで量られるものでしかなかった。

「タナトスが死んだ日」
384タナトスが死んだ日:2011/12/31(土) 00:47:19.17 ID:mGeNXBRg
「たなとすさん、何で死んじまったべや〜!」
道端に倒れた老爺のもとに、これまた年食った婆がへたりこんでいる。
その脇には別な二人の老人がうなだれていた。
「婆っさ、仕方ねえべ。ここさ姥捨て山……わしら、若いのに
捨てられたんだっぺ」
「たなとすさぁ〜ん」
「泣くでね。お前さんも弱っちまうべ。なあ鳩巣爺さんや」
「んだ。干支助の言うとおりだぱ。えろす婆、もう種年は戻ってこねえ。
わしらだけでも生きるんじゃ。まったく、若い奴らは酷いことしおる」
ぱとす爺とえとす爺は、えろす婆を抱えるようにして、死んだ
種年から引き離した。
「年金もわしら20年で打ち切り。医療費もあがっだ。交通費も実費。
病院の待合で海外旅行談義するんがわしら唯一の楽しみだったに、
あいつら、年寄り邪魔にしくさって、こんなとこに……」
「えぐっ、えぐっ」
「さあ、山小屋さ戻るべ。周十幾と江酢漬が待っとる」
「すといっく爺とえぴくろす婆か、んだな。あと、織平笥もな」
「みんな、死んでしまうのかのう……」
冬の山道を、老人達はとぼとぼと上っていく。その背中には、
すでに死の影が降りていた。ああ無情。実に無常である。
このような山が本当に存在するのだろうか。していいのだろうか。
ともあれ、存在するのだ。そして地図の上には、
「DQNネーム捨て山」と書かれているのだ……。

次「大味噌Carは止まらない」
385この名無しがすごい!:2011/12/31(土) 08:16:42.65 ID:LdJvu73d
(あかん死んでもうた。息して無い。あーえらいこっちゃ。
そもそもこいつがいけないや。台本どおりのことしないで
アドリブが面白いとおもってるさかい「大味噌Carは止まらない」なんて
訳の分からないこと言うからや。何がおもろいねん。聞いて見たいわ。
こいつがおもろいって言うてんの、こいつのおかんだけやん。
こいつのおかん関東出身でおもろいこと何も分かってないと違うか。
コンビ組んだのが間違いやったな。養成所でこいつが人気者だったのは
おもろいからじゃなく馬鹿だったからや。ただ笑われていただけや。

そんなことよりどうしよ。死体どうしよか。パソコン買ったときの大きい
ダンボールあるからあれに入れたろか。車はどうするねん。俺、車持ってないで。
アパートからダンボール入れて引きずっていくんか? まてまて
今は冬やからそんなに死体は腐らん。隣だって旅行しとりやないか。
あっ! バラバラしたらどうでっしゃろ。バラバラにして運んだらよろしいん
ちゃうん? 包丁買ってこなきゃいあかんな。いやのこぎりのほうが良いか?
何時や? 6時か。もう暗いなあ。何で大晦日にこんなことしなきゃあかんねん。
こいつのせいや。こいつがつまらないせいや。あー慰謝料ほしいくらいやわ)

386この名無しがすごい!:2011/12/31(土) 08:20:22.83 ID:LdJvu73d
「痛いわ! 死んでまうわ! ってか死んでたやん俺」
「生きてたんか。一緒にのこぎり買いにいかへか? 帰りにコンビニ
寄ろうや腹減ったやん」」
「何でのこぎり買うねん」
「だってのこぎりいるやろ」
「だからなんでや」
「なんでやろ? あっお前が死んだからや」
「生きとるわ!」
「良かったなあ」
「殺したろかほんま」
「良かったなあ」




つぎ 初夜の鐘

387この名無しがすごい!:2011/12/31(土) 09:02:09.38 ID:LdJvu73d
強く突っ込みすぎたわ

って入れるの忘れてももうたわ。はは。ははははは。はあ。
388この名無しがすごい!:2012/01/10(火) 11:00:09.29 ID:ccsU1Mhu
初夜の鐘

王子様とお姫様はめでたくご夫婦になられました。
ところが、いつまでたってもお子様が生まれる気配がありません。
王様が心配なさって、神父に相談しました。神父は王子様を子供の頃より教育して
きたのです。
神父が探りを入れてみてわかったのは、驚いたことに、王子様は子供の作り方を
ご存じなかったのです。
(しまった。確かにそれはカリキュラムに入れてなかったわい)
おそらくお姫様もそうなのでしょう。だいたい、高貴な女性はそれに関しては
『男の方のいうとおりにしなさい』ですませるものです。
仕方なく、神父は改めて王子様にそれについて詳しく説明なさいました。
聡明な王子様は、すぐに飲み込んでくれたのですが、出し入れというのがよく
わからないとおっしゃいます。
神父は考えて、アイデアを思いつきました。
「それでは王子様、こうなさいませ」

その晩、神父様は頃合いを見計らって、教会の鐘を突き始めました。
王子様には、鐘の音に合わせて腰を突き出すように言ってありました。
りーんごーん、りーんごーん、
教会の鐘がゆっくりと王宮に響きます。
しばらくして、王子の侍従が神父の所へやってきました。
「何かご用ですか、このような時間に」
侍従は恭しい態度でこう言いました。
「王子より、火急の使者として参りました。鐘の音を、もう少し早めて
ほしいとのことでございます」

(パクリで失礼)

次、「鯨が泳ぐ空」
389この名無しがすごい!:2012/01/10(火) 14:21:06.89 ID:/WUQiBVB
「鯨が泳ぐ空」

「いつだったかなあ」「何が」
「いや、昔、絵本で読んだ気がするんだよ。鯨が飛ぶ話を。いや、あれはクジラ雲だった
かな。男の子が授業中に居眠りしているときに見た、夢の話だったか……」
「絵本か……しかし鯨は飛ばないだろう。そうだな、確かいつだかのエイプリルフールで
ペンギンが空を飛ぶニュース動画があったが」
「2008年4月1日だ。イギリスのBBCで流れた」
「詳しいな」
「当時、見事に騙されたからな」
「ははは」
「しかしクマバチは飛ぶぞ。航空力学的には飛ばないはずのあの身体と羽で」
「昆虫は飛行の原理が別だ。あのサイズだと、空気にも粘性が発生するんだそうだ。要す
るにあの昆虫が飛ぶからくりは、水の中を泳いでいるようなもんなんだとさ」
「じゃあ昆虫サイズの鯨なら飛べるんだな?」
「お前もこだわるなあ。そうだな……例えばトビウオってのがいるだろう。あれは滑空時
の高さは3m、1回の飛距離は300mにも及ぶそうだ。羽をこう……グライダーみたいにして
飛ぶんだな。だから空中から浮上はできない。ゆっくり落ちて、また海面を叩いて、ゆっ
くり落ちて……その繰り返しだ。それでもすごいもんだろうが? 人間が飛行機を発明す
るずっと前から、その魚は空を飛ぼうとしてきたんだぞ」
「じゃあ、やっぱり鯨は飛ばないんだな」
「そうだ。鯨は飛ばない。飛行機的な意味でも、クマバチ的な意味でも、トビウオ的な意
味でも」
「しかし泳ぐことはありえる、と。大気の粘性が十分高くて、液体と等価だと見なし得る
なら、魚が海を泳ぐように、鯨が空を泳ぐことはありえるんだろう」
「そりゃありえるが……お前一体何が言いたいんだ? 資源調査のために木星くんだりに
まで出向いてきているわりには、口を開けば鯨くじらと騒ぎ立てる。ホームシックにでも
かかったか? それとも鯨の缶詰が食いたいのか?」
「いや……そうじゃないんだ。もし鯨じゃないのなら、この惑星調査船のレーダーに映っ
ている移動物体は、一体何なんだろうと思ってね」
 そこには体長20mを超える生物の群れが、惑星調査船を追尾している様子が、はっきり
と映し出されていた。

「それは天狗の仕業じゃ」
390この名無しがすごい!:2012/01/14(土) 05:51:01.52 ID:9yC+R9cS
「それは天狗の仕業じゃ」
 朝餉の席での祖父の言葉だ。
 一昨日の朝、神前に供えておいた餅が、器を残して消えた。12年前に祖母を病で亡くして以来、この家にはお盆の今の時期を除いて、爺さんしか住んでいないハズだ。
 更に晩、庭に散り果てて難儀していた大量の落ち葉が忽然と消え、庭の隅の木の根元にうず高く積まれていた。掃除をする必要がなくなったので、確かに助かりはしたのだが、里帰りして同じ屋根の下に居る我々の誰もが、庭掃きなどした覚えはないという。
 昨日に至っては、家の誰が摘んで来た訳でもない山の花が、こんもりと乱雑に和室の花器に突っ込まれていた。
 摩訶不思議な出来事が次々に起こる。妙なこともあるものだ、と朝餉を食べながら話題に載せた時に、祖父が重々しく告げた言葉が、先のそれだった。
 普段は冗談のひとつも言わない祖父が、茶漬けを啜りながら真面目くさってそんなことを言い出すものだから、かくしゃくとしていたこの男にも遂に呆けが来たのか、などと、卓を囲んでいた我々は困惑して顔を見合わせたものだ。
 驚くべきことに、結論からいうと、祖父は間違ってはいなかった。
 ……その昼に、畳の上で、我が物顔で大の字になって寝ている「奴」を私が見付けてしまったからだ。
 朝餉の後、居間と続きの部屋でしばしゴロゴロした後、ふと思い立って神前の榊を換えようと和室の襖を開け、最初に目に入ったのが、それだった。
 憤怒を隠しきれぬかのような真っ赤な顔、隆々と天を衝く無骨な長い鼻、嘴を持ち、頭には小さな黒い箱のような帽子。伝承通りの、見るものに威圧感を与える恐ろしい形相。
 ……そんな天狗の顔を模したお面を被った、幼い女の子だった。
 それが、神棚の前ですやすやと眠っていたのだ。
 何のごっこ遊びか、御丁寧にもその寝姿は小さくしつらえられた山伏のような装いをしており、傍には大きなヤツデの葉が投げ出されている。
 思わずぎょっとして数歩下がり、足元に榊立ての水をこぼしてしまった。
 見渡してみると縁側には、その子のものだろう小さな草履が揃えて並べてある。が、肝心の天狗のお面は、顔から完全にずれており面の用を為さず、可愛らしい幼子の寝顔が露わになってしまっていた。
 驚きが私の口から音として出てしまっていたらしく、畳の痕の付いた寝顔が、くしゃみの出る寸前のように歪み、寝姿が身じろぎした。
 呆気にとられている内に、その子は目元をこすりながら上体を起こした。二、三度まばたきした焦点の合わない寝ぼけ眼がようやく私を捉えたかと思うと、次の瞬間、慌てたように大きく見開かれる。
「ど、どうしよう、お母さんに叱られちゃうよう」
 私と目を合わせた小さな天狗の第一声は、それだった。上体を起こし足を投げ出した姿勢のまま、尻で後ろに後ずさろうとする。逃げ出そうにも、未だに寝惚けている体は思うように動かせぬらしい。あたかも、部屋の隅に追い詰められた小さなネズミか何かのようだ。
 途方に暮れかけていたそのとき、
「その子はの、天狗と人とのあいのこじゃ。」
 音もなく背後に立っていた、絣を着た祖父の声が唐突に背中に掛かった。
「半分は人、半分は天狗じゃが、どうも父親である人間の形質の方が色濃く出ておる。鼻も伸びてはおらんが、もう多少なら風術なども使える歳での。」
 そう続けた祖父に、ちょっと待て。何で唐突にそんな戯言を言い始めるのだ。いやそもそもこの状況になぜ驚かない、この子を知っているのか、などと矢継ぎ早に問いをぶつけようとして、
「……お父さんっ!!」
 信じがたい単語を発した女の子に先を越された。
 言葉を絶している私の横をすり抜けて、女の子は祖父の胸に飛び込み、祖父も抱擁で答えた。寝癖の付いた彼女の頭を不器用に掻きまわすと、
「悪戯ばかりしていてはならんぞ。私に会いに来るのなら、照れて隠れるでない」などと少女に応じている。その表情は、普段の頑固な祖父からは想像も出来ないほどの恵比須顔であった。
 茫然として自失し、いつの間にか私の手を離れていた榊立てが畳に落ち、カランカラン、と大きな音を立てた。



次「信号機と扉」
391この名無しがすごい!:2012/01/14(土) 23:32:43.68 ID:maIMuCWq

 気付くと私は寝巻き姿で何処かの横断歩道の前に立っていた。時間帯は分からないが周りが明るいので夜ではなさそうだ。
辺りには霧というか靄が立ち込め、数メートル先も見えない。ただ、道路を挟んで向こうにある歩行者用信号機だけははっきりとした輪郭で立っているのだった。
ふと思い出す。ずいぶん前から私はこの信号が青に変わるのを待っていたのだ。つまり向こう側に渡りたいのだ。

 何故今まで気づかなかったのだろう。信号機の斜め下、私の直線上に扉があるのだ。空間に不自然に存在する扉。そしてその扉は何かただならぬ異様な圧力で道路を隔てた私に迫ってくる。
そうだ、私はあの扉の向こう側にいきたいのだった。私にとって重大な何かがあの扉の向こうにあるのだ。
開かなければならない。分かっている、分かっているのだがあの信号。あの信号が依然として赤のままなのだ。扉に強い力があるのと同様にあの信号機にも逆らえない力があった。

 しかし思い返せばこの道路は今まで一度も車の往来がなかった。危険のない場所に信号機は必要だろうか?それに今は非常事態なのだ。私はあの扉を一刻も早く開かなければならないのだ。
私は駆け出していた。少し怖かったがなんの事はない、僅か数歩で渡りきる事ができた。あまりのあっけなさにホッとしたのもつかの間。今度は扉が開かない、鍵がかかっているのだ。
だが信号機を無視した私にもう怖いものはなかった。少し後ろに下がり助走をつけ、思い切り体当たりを食らわせてやった。一発で上手くいき、鍵が壊れ扉が開く。やった。ようやく、ようやくたどり着いた。私が求めていた向こう側の世界……。



 被害者の女性が心の広い方でよかった。結局平手打ちと少しの示談金ですんだのだから。ただこれからは男女別のトイレがある居酒屋で呑もうと私は強く心に誓ったのだった。

次 「走馬灯を越えて」
392走馬灯を越えて:2012/01/19(木) 23:21:28.16 ID:LEuDd1Zw
女がひとり、暗い部屋で目を覚ました。
そのまましずかに耳を澄ます。何も聞こえなかった。頬を刺す冷たい夜気に、
女はふたたび目を瞑った。まだだ。まだ何事もない……。
が、そろそろ眠ったかと思う頃に、女はがばと身を起こして体を強張らせた。
だが、あくまでも、あくまでも静かな夜だ……。
あたりは暗黒ではなかった。晩秋の月明かりが障子紙を青々と照らし、
虫の絶えた背の高い草が、おぼろな影をその上に揺らせている。
女は怯えたように背を丸めた。傍らの火鉢を掻きまわして消し炭を掘り起こすと、
そこから附木に熱を移す。たちまち小さな炎が閃いた。
踊る小火の照り返しに、女は姫か太夫かという美しさだ。、まだ若く、身なりもよい。
女はそっと傍らの行灯に火を入れ、燃え残りを火鉢に捨てる。
行灯の火は弱かった。だが、五角形の紙が熱を貯めると、それは音もなく回転を始めた。
そう、これは行灯ではない。唐の国から来た走馬灯なのだ。
女は紙の上に関羽の影を見る。馬を駆る曹操を見る。列を成す女官の影を、
遠く江南に戦う兵たちの影を見た。いつしか走馬灯は四囲の障子を真っ赤に染め上げ、
上古の幻をその上に躍らせている。もはや枯れ草の恐怖はなかった。
「おう!」もののふの声が響く。女は放心している。「囲め!」具足の触れ合う音。
と、木の裂ける凄まじい音が起こって、、一枚の障子が内側に倒れた。
はや外は戦火に明るい。野中の寺は蹂躙されて、古い軒先は火の粉を吹いている。
踏み込んだ武士は女を見ると、板を踏んで床に近づく。幻は消えていた。
障子に蠢く黒々とした影は、いつしか本物の兵に変わっていた。
武士は走馬灯を蹴って女に掴みかかる。堂屋の内に悲鳴があがった。
兵が駆ける。怒号が上がる。白刃が閃く。その片隅で横倒しの関羽に炎が移り、
一千年の物語は、溶けるように空中に散じてしまった。
その、武勇とともに。

次「パイナップル活人事件」
393この名無しがすごい!:2012/01/21(土) 22:55:02.42 ID:TVtfHka2
甲「うち今度、結婚するんや」
乙「また、はじまった」
甲「ほんまや」
乙「信じられんわ。誰とや」
甲「誰やと思う」
乙「哲夫か?」
甲「違う。アツ君や」
乙「アツか。あんたブサイク言うてたやん」
甲「ええんや。パイナップル活人やから」
乙「…すまん。パイナップルなんや」
甲「パイナップル活人。活人事件や」
乙「…わかった。パイナップルやな」
甲「そうや。ええやろ」
乙「ええな。よかったな。なんか良く分からんけど」
甲「うち結婚するんや。うれしいわ。あー幸せや」



次 我が名は在日
394この名無しがすごい!:2012/01/22(日) 21:14:02.64 ID:CqrsrEf6
我が名は在日

「おお、急に目の前が明るく! しかも、あそこ、あのように神々しいお姿で
光臨なされた」
「修行僧よ、そなた、なかなかよく努めておるな」
「あ、ありがとうございます」
「だが、そちの修行は間違っておる」
「何をもってそのような? わたくし、これでも唐にて修行を収めて参りました
ものを」
「それがいかん。その方、半島を素通りしたであろう。あそこにこそ、真の修行
がある」
「それはまことでございますか?」
「もちろんである。半島からはほとんどの文化が産まれたのだ」
「あ……あの」
「何であるか」
「お名前を伺ってもおよろしゅうございますか」
「我が名はざいにちである」
「え……ええ、大日如来様でしょうか?」
「いや、在日如来である。ちゃんと日本を住まいとしておるだけ、有難いであろう」
「ああ、ええ、もう一つ伺ってもよろしゅうございますか?」
「何か?」
「我が国はこれからどのようになるのでしょう?」
「ふむ、我がいる限り、大いに発展することであろうよ。将来は在日本帝国という
 名を持つに至るであろう」
「おお、素晴らしい。ありがとうございます」

こういう題はやっかいだから勘弁。

で、次は「苔ティッシュ」
395この名無しがすごい!:2012/01/22(日) 23:12:05.63 ID:4uH6tAIV
『苔ティッシュ』

―理系女子はダメって言うけど、あれは嘘だな。
彼はそう思いながら彼女を見た。
女性としては普通だろうが男から見ればやはり小さい彼女は、
綺麗な宝石を見る女性たちと同じ輝きを放つ瞳でその柔らかな緑を愛でている。
柔らかそうな淡いピンクの唇はたえず動き小鳥の囀りの様な声を紡いで、
白く細い指がその柔らかな緑を撫でる。
少しだらしない表情になった彼を、彼女は首を少し傾けながら見上げて注意する。
「○○さん。聞いてますか!?」
自然のまま緩やかなカーブを描く眉の端を少し釣り上げて怒る姿も、
彼から見れば可愛い過ぎる仕草だ。
「ごめんごめん。聞いてはいるけど、専門的すぎて…
苔って、あの日陰の地面にある苔だよね?」
「日本の苔は地衣類とか他の植物も混ざりますが、おおよそは。
っと。専門の話はやめないと」
わざわざ指を揃えて口を塞ぐような仕草に彼の顔はさらに溶け出す。
「で、その苔で…」
「はい!その苔類の中のこの苔の養殖と」
彼女は大事そうに柔らかな緑の入った大きなシャーレを片手に取り、
「出来る限り低コストで紙にする技術を開発したんです!」
横にあるひらひらとした弱弱しい透けた紙を取り上げた。
「うちの研究室にご支援願えませんか?」
―少し潤んだ瞳でおねだりなんて反則だ。
彼はそう思いながら、にやけた顔ととろけた脳に残り少ない理性で活を入れ、
「しかし、この状態の紙では…」
そう言いながら取り上げた透けた紙はフワフワと風に揺れている。
「ティッシュぐらいしか作れなくないか?」
「『苔のティッシュー!』売れませんか?」
可愛く言われても無理は無理。…と言える理性は、
彼の蕩けた脳にあとどれだけ残っているだろう。



次のお題は「コマドリの憂鬱」

1と場所変わっている感想板のURLまた流れたので貼っ付け
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1284739688/l50
396コマドリの憂鬱:2012/01/23(月) 00:47:00.31 ID:c2c7x+Da
むかしむかしあるところに、イヌ、サル、キジと一人の男が住んでいました。
ある日男が川へ釣りに出かけると、上流のほうからドンブラコ、ドンブラコと
大きな将棋の駒が流れてきました。男は駒を持ち帰り、それを売って
金に換えると、鳥屋へ行って鳩を一羽買いました。男は言いました。
「俺は桃某と言って鬼退治を生業としている。実は鬼ヶ島というところに
鬼がいると聞くが、舟を仕立てるのに金がかかる。行って鬼がいなければ
丸損だ。そこでお前、ひとつ島へ行って鬼がいるか見てこい。キジでは島まで
飛べんのだ」
「いやです、いやです」鳩は言いました。
「いやだじゃない。行かぬなら焼き鳥にして食ってやるぞ」
「私は鬼を見たことがありません。鬼がわかりません」困った鳩は言いました。
「俺もない。だが聞くところによると、噂では鬼には角があり、赤ら顔をしているらしい。
そんな奴がいれば、それが鬼だろう」
「わかりました。いってきます」
鳩が飛び立つと、男が言いました。
「もしあの鳩が帰ってこなければ、島へいくのはやめておこう」
島へつくと、鳩は鬼を探しました。でも、島には体の大きな青い目の男がひとり、
焚き火にあたっているだけです。鳩は男に尋ねました。
「もしもし、このあたりで鬼を見かけませんでしたか」
男は答えました。「さあ、どうかな」そして、聞き返します。「君は誰?」
「私は、」鳩はちょっと考えました。名前がありません。ふと、自分が将棋の駒を
売った金で買われたらしいことを思い出しました。「駒鳥と呼んでください」
男はふうんというと、鳩に頼みごとをしました。
「僕は船が難破してこの島に流れつき、もう10年になる。その間、話し相手もなくて
大層暇をしていたんだ。もし君が鳥かごに入って、私と三日間話してくれるなら、
鬼について僕の知っていることを教えるよ」
鳩は困りました。鬼のことを知りたいですが、籠に入るのは嫌です。でも、話を
聞かずに帰ったら、桃某は鳩を焼き鳥にしてしまうかもしれません。
「わかりました」鳩は籠に入りました。男は満足そうです。
「では、僕の故郷のわらべ歌を聞いてくれ。そしたら、鬼がどこにいるか、わかるさ」
「はあ、」鳩は怪訝そうな顔をします。「どんな歌です?」
「クックロビンについての歌だ」男はにこりと笑い、いそいそと焚き火を掻き回し
はじめました。「だーれが殺した、クックロビン……」

次「蟹歩き世界3位の男」
397この名無しがすごい!:2012/01/23(月) 12:14:13.37 ID:uqpHnZdy
「蟹歩き世界3位の男」

 その大会は、いかにも奇妙なものだった。
 大の男達が、みんな体を横にして、両足を左右にばたばたと動かしながらその速度を
競っているのだ。それは「世界蟹歩き大会」なのだった。
 蟹歩きといっても、多くの人は知らないだろうが、要するに蟹のように横に歩くのだ。
それも蟹のようにという制約がある。具体的には、腰を落としてがに股で、そして左右の
足は決して交差してはならない。他にも幾つか条件はあるが、割愛させていただく。
 馬鹿馬鹿しいと思われるかも知れないが、そもそもスポーツなど、批判的に見ればすべて
馬鹿馬鹿しいものだ。たとえば槍投げ。槍じゃないし、的を狙わなくてどうする? 全然
役に立たないじゃないか。
 それはともかく、蟹歩きもそれに熱中する男達には、やはり真剣勝負なのだった。予選を
勝ち進む男達には素人を感動させるだけの熱気があった。
 そして決勝戦。優勝した男は歓喜の雄叫びを上げ、2位、あるいはそれ以下のものはそれ
なりの喜び、あるいは悔しさを口にする。
 ところが、3位の男は何やらつまらなさそうだった。それが妙に気を引いたのだ。私は
彼にインタビューを申し込んだ。
「え、俺? 俺に聞いても面白いことなんて聞けないよ」
 彼はやはり気のない声だ。そこで、単刀直入に残念そうでない理由を聞いた。
「いや、ただ、どうでもいいだけなんで」
 変なことを言う。じゃあ、なぜ、この種目に出て、ここまで勝ち進んだのか?
「俺が目指すものは蟹歩きじゃないんです」
 へえ?
「実は、俺、ヤドカリ歩きが専門なんですよ。ヤドカリ歩きって言うのはですね、
蟹歩きに似ているところも多いんですけど、違うところも多々ありまして、こんな
風に体を前に傾けまして、それでですね……」
 うってかわって熱を入れて語り始めた彼は、優勝者達と同じ目をしていた。


次、「懐中から怪虫」
398この名無しがすごい!:2012/01/25(水) 23:18:23.80 ID:exW8Ds5c
今日も、とある町のとある裏通りにも日が落ちました。
子供は家に帰り、遠くに見える新興住宅地にも明かりがともり始めました。
そんな場所を肩をすくめ冬の風を避けるように歩いてくる男がいます。
いえいえ男かどうかは分かりません。顔にはマスク頭には帽子をかぶって
サングラスをかけてさえいるのですから。
ただ時折、つぶやく独り言が男のそれに似ているというだけです。
問題はその人物の性別ではありません。仮にMとしましょう。
Mは薄汚れたジャケットに手を突っ込み、その膨らんだポケットから
何か出そうとしています。その様子はまるで、うらぶれた手品師が
栄光をもう一度と在りし日の自分をなぞっているようにも見えます。
でもやがて首を振りました。
ポケットには目当てのものは無いようです。
そしてついに立ち止まりズボンを脱ぎ始めました。
Mはあたりをきょろきょろし誰も自分を見ていないのに安心したのか
ついにはパンツ一枚になりました。
399この名無しがすごい!:2012/01/25(水) 23:18:40.03 ID:exW8Ds5c
「あっそうだ! 今日、薬もらってくるの忘れたんだ」
Mはパンツの中からしわくちゃになった一枚の処方箋を取り出しました。
Mはきっとギョウチュウがお腹にいるのでしょう。先週
お尻をモゾモゾさせていましたから。
「そうだ、薬もらってくるの忘れちゃっただけなんだ」
Mはそう風に消えるような声でつぶやくと、ふいに寒さを思い出しました。
そうです、この冬の寒空の下、ズボンを履いていないのですから。
「ハックション、、、と」
そしてMは大急ぎでズボンを履いてしまうと、また元のように歩き出し
男さえ知らない行き先を歩いていくのでした。でもきっと薬局には
行くでしょう。この分ではカゼ薬も貰わないといけないようですから。
400この名無しがすごい!:2012/01/25(水) 23:20:49.19 ID:exW8Ds5c
次 三代目、初めての軍事演習をする
401この名無しがすごい!:2012/01/26(木) 21:38:03.50 ID:DoX4KcAZ
『三代目、初めての軍事演習をする』

「あ来た来た。三代目〜」
「その呼び方はやめてくれ」
世界に軍を持つ国は数あれど、「自衛」しか認めない珍しい国がある。
専守防衛の為の防衛組織・自衛隊と呼ばれる彼らは、給料をもらう志願型の働く軍人だ。
「三代目は三代目ッス」
「俺は家を継ぎたくないから自衛隊に入ったんだ!三代目になんかなるか!」
そんな自衛隊のある駐屯地で、迷彩の服を着込んだ2人の青年が何やら言い合いながら歩いている。
「今日は訓練検閲ッス。早く行かないと怒られますよ。三代目」
「分かってるよ!三代目って呼ぶな!」
訓練検閲とはいわゆる軍事演習だ。
実践型の訓練は様々な規模がある。専守防衛の自衛隊であれ本格的なものだ。
進む2人の先には広い演習場がある。特殊車両が並び物々しい雰囲気が漂っていた。


「三代目〜。生きてるッスか?」
「お〜…おぅ」
あれから三日後。くだんの2人は演習を終えていた。
「訓練中は行けなくてすんませんっした」
「お前もれっきとした自衛官だろが…くんな…」
三代目と呼ばれていた青年は頬がこけた青い顔で布団にもぐっていた。
「うす。スポーツドリンク持ってきたス。初訓練で腹下しとか災難ッスね」
「くそっ」
さすがにダジャレではないだろう。
「三代目以外にも何人か寝込んでますよ。やっぱあれですかね『地雷施設』」
呼び名は様々あるようだが、「地雷施設」とは自力で穴を掘って用をたす排泄作業だ。
衛生状態は宜しくないが、野外訓練に衛生的なトイレなどはない。
「三代目昔っからお腹弱めでしたもんね」
「…向いてねぇかも…」
「店にお戻り下さいますか!三代目!」
「誰がっ!お前だけ帰れ!!」


次のお題は「過労死寸前の悪魔」
402この名無しがすごい!:2012/01/27(金) 11:24:45.84 ID:kW/VI6nK
「過労死寸前の悪魔」

 俺は今夜も呼び出しを受け、職場に急行する。優雅に夕食を食べている時間も無い。も
っとも毎日食う必要など無いのだが、やはり長年染みついた習慣を打ち消すのは難しい。
 俺がドアをノックすると、依頼主がドアを開ける。驚いた顔をした依頼主に向けて、俺
は慇懃無礼に自己紹介を始める。この時点で、大抵の依頼主は怯え錯乱しており、まとも
な応対は期待できない。だったらなぜ俺を呼んだりしたのだろう。呪いか、復讐か、興味
本位か、はたまた自殺の代わりにでもしようとしたのか。
 なにより、依頼主はまず俺の姿に怯えるらしい。とはいえ、完璧に着替えてから出向く
など、不精な俺には無理な話だ。せいぜい似合わない洋服が俺の姿を半分隠し、恐怖を二
分の一にしてくれることを願うしかない。
 俺は依頼主をなんとかなだめすかし、次の言葉を待つ。長い沈黙が落ちる。「帰ってく
れ」嗚呼、その言葉は聞き飽きた。深夜に呼び出しておいてこれだ。泣きたくもなる。
もっと何か無いのか。不老不死とか、世界征服とか、新世界の神になるとか、あるいは―
―俺のように悪魔になるとか?
 くだらない考えが頭をよぎり、そのにやりとした笑みが依頼者を凍りつかせる。俺の外
見はそれほどまでに恐ろしいのだ。それほどまでに醜いのだ。そして、帰ってくれと言わ
れた以上、俺は帰るしかない。そこで、次の依頼が入ったことを上司から知らされる。一
日に二件も回らねばならないとは、今日はついていない。
 自力で契約を取って来れるようになるまでが、悪魔修行の第一歩である。それまでは、
下働きに徹しなければならない。つまり俺の仕事は、上司の出番があるかどうかの調査。
依頼主に、本当に魂を差し出してまで悪魔と契約をする気があるかどうかを、事前に調べ
る仕事である。
 悪魔に人権は無い。ストの権利も、労働基準局も無い。口にしてしまえば当たり前だが、
俺は当時、そんな単純な事実にさえ気付いていなかった。俺が悪魔を前にして願ったの
は、もちろん、悪魔になること。
 だが悪魔は万能では無かったし、上司もいるし、そして俺の予想以上に忙しかった。年
中無休。夜な夜な人間に呼び出され、行って、聞いて、帰るだけの単調な仕事。飛び込み
営業よりも裁量が少ない。掘っては埋め戻す土方作業。積み上げては崩す賽の河原。
ああ、あれは鬼の仕事だったか。
 夜のビル街をひゅうひゅうと飛びながら俺は思う。これなら人間のままサラリーマンを
していたほうがマシだったかもしれない、と。さて、これから悪魔になろうという方はいる
だろうか。俺はその願いを喜んで叶えよう。それで俺の仕事が少しでも減るなら、そりゃあ
大歓迎ってもんさ。

「死滅回遊」
403この名無しがすごい!:2012/01/27(金) 12:04:17.33 ID:MfXq3nCY
「死滅回遊」

 私はここに子供達を残した。
 残した、というのは、連れては行けないからだ。私はさらに先に進まなければならない。
 何故か?
 理由などはない。ただ、未知への期待が私を駆り立てる。それに、風が私の後押しをして
くれる。子供達も、独り立ちできるようになれば、その気持ちを分かってくれるだろう。
 目の前には遙かに続く野山、それにひときわ高い山並み。さらにその向こうには広大な海が
あるかも知れない。そのすべてが、とても美しい。
 その先は? 分からないけれど、美しい世界はどこまでも続いているような気がする。それ
を、私はどこまでも追いかける。どこまで行けるのかは分からない。
 でも、私には先に進める力がある。それがある限り、私は進む。進むことを希望する。その
先には、常に美しい世界がある。私は、それを見たい。それは、憧れといってもいいかも知れ
ない。
 さあ、今日も夜までは時間がある。もう少し進もう。あの丘は越えられるだろう。あの向こう
にあるのは稲刈りの終わった水田だろうか、それとも牧場だろうか。意外に工場が並んでいるか
も知れない。それが何であれ、私はそれをこのの目で見たいと切望する。
 さあ、もう一息、進もう。

「先生、あれは?」
「ああ、ウスバキトンボと言ってね、東南アジアから日本まで飛んでくるんだよ」
「すごーい」
「でも、日本では越冬できないから、全部死んでしまうんだ。そういうのを死滅回遊と
言うんだ」
「何だかかわいそうね」
「仕方がない、本能行動だからね」
「ふーん? でも、意外に冒険家だったりして」
「いやいや、昆虫にはそんな知能はないんだよ」 

次、「世界統一王者の憂鬱」
404この名無しがすごい!:2012/01/27(金) 21:45:27.02 ID:EMwHXgJW
テスト
405この名無しがすごい!:2012/01/29(日) 16:17:01.10 ID:5Qa/xIvR
次スレを立てました
よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ4
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1327821199/
406この名無しがすごい!