多少なりとも表現欲がある人ならば、自分の著書が世に出ることは究極の夢かもしれない。
「自分史」ブーム、ブログの流行も影響してか、お金を出してでも自分の本を作りたい
という自費出版の世界は今、急速に拡大している。しかし、出版社側は著者のその熱い思いを
どれほど受け止めているのだろうか。ある自費出版専門会社の倒産劇から、実態を探った。
「もう貯金もないが、足りなければ退職金もつぎ込むし、どうしても困ったら自殺して
保険金で出版費用を出す。とにかく、今ここで本を出さなければ自分の生きてきた意味がない」
関東地方の公務員(58)はこう熱弁を振るう。
昨年末、二百万円を支払って初の自著を出版した。出版元は碧天舎(東京都千代田区)。
同社は以前、別の業態の出版社だったが、約四年前、“共創出版”という自費出版の一種が
主な事業の会社として再スタートしていた。二〇〇五年九月決算期には約六億円を
売り上げていたが先月末、負債総額約八億五千万円を抱え、破産宣告を受けた。
(中略)
「作品を出すのに二十五年間かけた」(八十歳代の男性)「まだ費用をローンで支払っている。
本が出ないと知り不眠症になっている」(女性)「躁(そう)うつ病にかかりそのことを書いた。
ここに立っているのもいっぱいいっぱい」(若い男性)−と悲痛な声が相次いだ。
(中略)
月刊「創」編集長の篠田博之氏は「通常の出版とはプロの編集者がいい書き手を見つけて
本を一般に売って商売とする。しかし自費出版は著者イコール客というビジネス。根本的に仕組みが
違うが、著者の方に『もしかしたら売れるかも』という幻想があるし、出版社側はその幻想を
利用している」と指摘。その上でこう警鐘を鳴らす。
「文章をブログなどで公表する人が増えてきた。今や一億総表現者という時代。そこに目を付けて
拡大した分野だが、過当競争になって利益が落ちたり、社会的信用がなくなれば急速にしぼむだろう。
著者も自著を出したいという情熱は分かるが、本来、出版という事業にはリスクがあることを
よく考えた方がいい」
(後略)
>> 東京新聞 2006/04/09[13:50] <<
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060409/mng_____tokuho__000.shtml