乳房抄

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68@ピラールの乳房(1):01/11/18 17:12
この娘の乳房、これに手をふれ、これを愛撫したのは、
僕が最初だった。ひとり前の女たちの乳房に触る時同
様の激しさで僕はそれを始めたが、すぐに気づいて自
制した。理由は、歯の生えかけの乳児の歯ぐきさなが
ら、彼女が痛がるからだ。
69@ピラールの乳房(2):01/11/18 17:12
愛撫をつづける手の下でこの乳房が、次第に育ってゆ
くのが感じられた。「青いうちから摘み取って、せっ
かくの明日の実りを、わけもなく無駄にしているので
はないだろうか?」と、何度自問したことか。
70@ピラールの乳房(3):01/11/18 17:16
乳房たちは、ベッドの中のあか児さながら、不安そう
にもがいたり、食を求めてくちばしを尖らせたりした。
乳房たちが、接吻や愛撫以上に望んだのは、一日も早
く大きくなって飛び立つことだった。
71@ピラールの乳房(3):01/11/18 17:16
彼女はこの乳房を僕に差出すのだった、メダルや鍵の
ついた首飾り(ネックレス)と一緒に。鍵は内側が小
さな鏡になっていて、婚約ずみの娘たちなら、手紙を、
女中たちなら櫛をしまって置くような手箱の鍵だった。
72@ピラールの乳房(5):01/11/18 17:18
僕はいつまでも忘れないだろうと思う、彼女がそれを
僕に、差出した日、食べずにはすませなかったあの乳
房、初恋のいとも気軽な無慾さで、自分が所有する最
上の二つのボンボンのようにして差出したあの乳房を。
エロイーズの乳房ゆえに、フランソアとマルタンのふたりは、不倶
戴天の敵(かたき)になってしまった。各自(てんで)に一個づつ、
仲よく分け合うことも出来たはずなのに、彼らには、ついにこの考
えは浮かばなかった。彼女の方も、古着屋なみの頑固さで、乳房の
分売は望まなかった。
ばかげた論議の結果、男たちは、決局決闘で始末をつ
けようということになった。
決闘は厳粛に準備され、勝者がエロイーズの所有者に
なることに決った。
ぼやけた木立が、未明のうすやみの地上に浮びでる早
朝、ふたりの敵手は、邸外の、とある路上に辿りつき、
早速闘った。
「彼女の乳房のために!」いよいよ戦闘開始という矢
先き、昔の騎士が忠誠を誓った貴婦人に命を捧げたあ
のやりかたで、フランソアが高らかに叫んで言った。
戦闘は短兵急だった。そしてフランソアが地面に倒れ
た。するとひとりの女が茂みの奥から、風につまづき
ながら飛びだして来た。
立会人と招待客の群をかきわけ、負傷した男のそばへ
辿りつくや、彼女は上から屈みこんだ。
「息をひきとる寸前だ。」人たちのつぶやきが聞えて
いた。
「僕は死にます。」力のない声で彼が彼女の耳もとで
言った。ところが、ここで大事なロマンチックなあの
きまり文句、「あなたのためだと思えば、嬉しく死ん
で行かれます」を、うっかり言い忘れてしまった。理
由は彼が、心から彼女のために死んでゆく男だったの
で。
哀れになって、彼女が訊ねた。
「こうしてわたくしの乳房のために?」
「そうです、あなたの乳房のために。」
彼女は胸衣のホックを外すと、救急箱から起死回生の
妙薬でも取り出すように、片乳を彼に含くませた。彼
は暫くそれを愛撫していたが、次第に生気をとり戻し、
行く末長いエロイーズとの結婚生活の第一歩を踏み出
した。
86@童話の乳房(1):01/11/18 17:48
太陽お下髪(さげ)の十五歳のこの少女は、乳房を失
くして泣いていた。泣くわけは、まだ役にたってはい
なかったが、何か乳房には不思議な効力がひそんでい
ると気づいていたのと、自分が指針をあるものに期待
していたがためだった。乳房は女性を指南する梶棒だ
もの、泣いたとて無理もなかった。
87@童話の乳房(2):01/11/18 17:49
「あたしの乳房! あたしの乳房! どこで、あたし
ったら、乳房を失くしたのでしょう?」少女は気もそ
ぞろに泣き続けた。泣きながら、彼女は、森の奥へ奥
へと乳房をさがして深入りした。
88@童話の乳房(3):01/11/18 17:50
「あたしの乳房! あたしの乳房!」と、繰りかえし
ている間にも、彼女の両手は自分の胸あたりに、乳房
のふくらみを探し続けた。
89@童話の乳房(4):01/11/18 17:50
少女はひとりの老婆に行きあったが、どうしたのかと
その老婆が尋ねた。
90@童話の乳房(5):01/11/18 17:53
「あたしの乳房を失くしましたの。」盗難にでもかか
った女の大袈裟な身ぶりで少女が答えた。
91@童話の乳房(6):01/11/18 17:54
「ああ、そうなの! かわいそうに、鳥が来てあなた
の乳房を取りあげて行ったのね……。その大きな鳥に
は、自分に他の高等動物並みの乳房がないことだけが
なやみだったのね。うっとりするほど立派な乳房があ
る鳥は、天使の住居(すまい)のドアもノック出来れ
ば、自分の身についた地上の乳房のおかげで天国へも
行けるんだから。」
92@童話の乳房(7):01/11/18 17:55
乳房を失くしたその少女は、それが永久に失われたも
のときっぱりあきらめることにした、そして一生の間、
両手をあらぬ乳房のありどころに、乳房恋しい思いを
こめて、押し当て続けたものだった。
それは黒人女神像の最高を現わすとされている。もと
もと黒人というのは、あらゆる種類の乳房のイメージ
を満喫しつくしていて、巨大なのも、長くてしゃんと
立ったのも、こぶだらけで臍下までたれ下がったのも、
珍らしがらない連中だ。多分そのためらしいが、彼ら
が珍重するのは、専ら超自然の乳房に限る。
無数に乳房のある女神像には、神々を籠絡し、引きつ
け、慾情させる力があるとされている。
彼女はどんな風にも吸わせておく、彼女には不滅の女
性の勢力が備わる。女たちは驚いて彼女を眺め、長い
のや、生き生きしたのや、横柄な腕みたいな恰好に張
りきって、神々を抱きよせ自分の周囲に平伏させる無
数の乳房を羨望する。
この女神像の前に立たされる人間の手は、どの乳房を
握ったものかと戸惑うことになり、全部を束にして握
りしめることになるので、まんなかに置かれた乳房は、
劇場の入口の人ごみや、行列行進にまきこまれた子供
みたいに圧しつぶされることになる。
97@乳房の香気(1):01/11/18 18:07
そのペルシャの王様は、乳房の香気について実験され
たというわけだ。もともとペルシャの王様連というの
は、すべて感覚上の快美感の偉大な発見者なのだ。彼
らは自分たちの実験室に、女を飼育しており、これに
あらゆることを試み、あらゆる極端な成果を体験する
わけだ。
98@乳房の香気(2):01/11/18 18:07
モゴール三世と名乗るこの王様も、或る日の夕、サロ
ンの高い天井近い片すみに退屈の蜘蛛の巣を視線で織
りなしていられた時、ふと気づかれた、絶美の乳房の
乳首にマッチの棒で点火してごらんになりたいと。
99@乳房の香気(3):01/11/18 18:13
新しい香気を立てる香炉もがなとのおこころから、モ
ゴール三世王は、白磁の香炉に焚く小麦いろの煉り香
というお見立てで、作ゆき見事な乳房を選び終った。
100@乳房の香気(4):01/11/18 18:14
何とも馥郁たる香気だった! それは宮殿の隅々まで
満ちわたったが、但しそれを味わったのは、想像力豊
な男たちに限られた。他の人たちが、かいだのは、し
きりに回転させながら藁火と燠火で豚を焼いている最
中の屠殺場から流れでるあのこげ臭い匂いだけだった。
タッソー夫人の歴史博物館に置いてあるあの生き人形
の乳房ほど、興味のある乳房は、どこにもまたとなさ
そうだ。あの博物館内のおびただしい死んだ女たちの
蝋細工の乳房の大群にとりまかれていても、僕は実は
平気でいられたものだった。理由はそれらの乳房が問
題外に置かれていて、もはや敵意もなければ欺瞞もな
いという気がしていたからだ。ところが、その時ふと、
僕はショーケースの奥まったところに眠っているひと
りに女の双の乳房が、瞼をとざして眠っている乳房に
いかにもふさわしい平静なリズムで鼓動していると、
気づいたものだ。
カタローグの説明によると、この人形はヘチュイルリー
宮殿夜襲の際に戦死したルイ十六世王の新衛隊長陸軍
中佐の未亡人、二十二歳で断頭台上の露と消えた、サ
ン−タマラント夫人の在りし日の姿だとある。
ここで初めて僕は、注意して彼女の乳房に見入ったも
のだ、なぜかというに、断頭台の露と消えられたとは
言うものの、彼女の乳房が今になお鼓動しつづけてい
るからだ、言わばこれは元気一ぱいな健康体で、全身
の血液の循環も完全な状態で死亡した女の余生のよう
なものなのだ。
博物館の奥にある或る仕掛が眠るこの美女の乳房を生
動させているわけだった。彼女はと見るに、ダンテル
のうず高いゆりかごの中に横たわり、両の乳房はむき
だしに近く、肌いろはやや黄ばみ、そのためかえって
肉感ゆたかだ。
この乳房見たさに、もう一度見たさに、僕はロンドン
に戻ったが、まだこの上、一度や二度は、これからも
戻って来そうだ。あの乳房、あれこそは実に、乳房の
象徴、ありとあらゆる乳房の中で、最高に生気のある
乳房、あの世に於けるありとあらゆる乳房の意外な姿
態、陶然と宮殿のひとりぐらしにひたりきり、二度と
目覚めるあてどなしに、永遠に眠ってしまわれたプリ
ンセスの乳房との出会いだからだ。目の前の乳房とシ
ュミーズのダンテルは、世にも純粋な生命の中にあっ
て息づいているのだった。そこにあるその乳房こそ、
正しく沈黙の乳房であり、独り居の乳房だった。乳房
の概念の最も純粋なものだった。
106目次:01/11/18 18:39
>>1
>>2-13 窓の乳房
>>14-29 近東の乳房商人
>>30-32 世捨人
>>33-35 ばらばらな思いつき三
>>36-47 告白
>>48-51 宗教裁判官の妻の乳房
>>52-64 階段での乳房狩り
>>65-67 花乳房
>>68-72 ピラールの乳房
>>73-85 乳房のための決闘
>>86-92 童話の乳房
>>93-96 無数に乳房のある偶像
>>97-100 乳房の香気
>>101-105 サン−タラマント夫人の乳房
107吾輩は名無しである:01/11/18 19:08
以上ですか?
2ちゃんねるでこんなことをやってしまって済みません。
でもおかげでずいぶんタイピングが早くなりました。
http://thibusa.tripod.com/ に今回の成果をまとめました。
最初はホームページで公開するつもりはなかったのですが。

皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びします。
109吾輩は名無しである:01/11/29 16:37
わざわざ垢取ったんだ(笑
110吾輩は名無しである:02/01/09 23:27
赤毛のアンも豊満でふくよかな乳房してたんだね。
http://mentai.2ch.net/test/read.cgi/book/993795369/l50
111それにしても:02/01/13 17:30
なかなかdat落ちしないものですね。
112名無しさん:02/01/13 17:35
age
113吾輩は名無しである:02/01/13 17:42
>112
ここはsageで書くのが伝統のスレなんだけど、
なんであげるのかな? 別スレと関係でもあり?
114吾輩は名無しである:02/01/13 23:32
>>112
dat落ちがまた遠くなる・・・
115吾輩は名無しである:02/01/14 13:03
本スレとは直接関係ないけど、
「チャタレイ夫人の恋人」のヒロイン、コニイの乳房も魅力的だった。
出版当初、「わいせつ」とさんざんに批判されてきたけど、
でも、健全な恋愛行為は性交渉って不可欠なんだよね。
その点タブーとされてきた性について
作品で堂々と取り上げたロレンスは偉大な作家だと思った。
今では、完全版まで出版されているし。

性交渉を伴わないプラトニックな男女関係は、単なる「友情」であって
「恋愛」とは言えないのである。
でも多くの作家は「わいせつ」という壁を打ち破れず
プラトニックな範囲での著述にとどめているあたりは、実に残念なことだ。
116 :02/01/22 21:24
age
117吾輩は名無しである
sageててもカキコミがあれば、ナカナカdat落ちはしないよ。