大型台風6号が上陸して暴風雨が吹き荒れ、次第に遠のいた20日、県内の公共交通機関にはダイヤの乱れが残り、
運行を再開しようとしたJR高徳線の踏切で不具合が発生した。
JR四国広報室によると、午後0時頃から約1時間、池谷(いけのたに)(鳴門市)―勝瑞(しょうずい)(藍住町)の
4か所で遮断機が下りて鳴り続け、約1時間後に復旧した。その取材に対して同室は「お客様にご迷惑はおかけしていません」と答えた。
その言葉が、どうしても心に引っかかった。
広報室によると、鳴りっぱなしは遮断機が下りていたためで、安全上問題はなく、乗客に不便もかけなかったという。
確かに、JRにとっての「お客様」は列車の乗客で、問題なく踏切を通過しただろう。
しかし、遮断機が上がらず、足止めされた通行人やドライバーは困ったのではないか。
広報室は、この不具合によって踏切周辺で交通渋滞や混乱が起きたかどうかは、把握していないという。
「池谷―勝瑞間の4踏切で不具合」ということはわかっても、具体的にどの踏切なのか、運行管理のデータを
直接扱わない広報室では特定が難しく、周辺状況はわからないという。
藍住町の勝瑞駅近くの大坪踏切に行ってみた。板野署や近所の人によると当時、男性がミニバイクに乗って通りがかり、
踏切周辺で交通整理をしていた署員が、遮断機が下りて通れないため、迂回(うかい)するよう指示。
男性は「踏切のすぐ向こうの郵便局に行きたいだけなのに」と嘆いた。結局、署員が安全を確認しながら手で
遮断機のバーを持ち上げ、男性に踏切を渡らせたという。
バスはどうだったか。徳島バス(徳島市)に聞くと、4か所中最も道幅が広い鳴門市大麻町の市場踏切では、
路線バスが踏切を通過できず、約20分間足止めされたという。同社徳島営業所の男性社員は当時、
運転手から携帯電話で「踏切を通れません」と連絡を受けた。困った様子だったという。
社員は「バスのダイヤが決まっているのに、いつになったら通れるのかわからず、不安だった」と話す。
当時は幸い乗客がいなかったが、「先のバス停でバスを待っているお客さんがいた可能性はある」という。
この踏切は普段、通行量が多い。近所の男性によると、10台以上が足止めされ、次々Uターンしていった。
男性は「5分以上遮断機が下りっぱなしなんてありえない」と不審に思い、徳島、勝瑞両駅に電話をかけたが、
いずれもつながらなかったという。
お客様第一なのは、民間企業として当然だ。しかし、踏切を挟んで「お客様」と「それ以外」の人を簡単に分けていいのだろうか。
JR四国は今年3月期の連結決算で、過去最大の赤字だった。景気低迷や高速道路の料金割引の影響を受けたが、
公共交通機関の一つという役割の重さは揺るがない。
だからこそ、「踏切の外」にも気を配ってほしい。今回の台風は、そんな課題も残したような気がする。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokushima/news/20110723-OYT8T00889.htm