【コラム】TPPで大騒ぎは日本だけ! アメリカの意向を気にせず国益だけを考えて議論せよ--田村耕太郎(前参議院議員) [02/15]
1 :
ライトスタッフ◎φ ★:
■誰も知らないTPP
ネットで日本のメディアをみると毎日のように“TPP”という言葉が出てくる。
いつのまにか首相の公約になっていて、混迷極める政権の命運がかかった政策の
一つになっているようだ。私が知る限りにおいてだが、アメリカでは経済番組でも
一般ニュースでも“TPP”という言葉に出会ったことがない。私が在籍する
エール大学はじめニューヨークやボストンのアメリカ東海岸の知識人層の間でも
TPPの意味がわかる人に出会ったことがない。
結論から言うと、TPPの参加の議論について、アメリカの意向を過剰に気にする
必要はないと思う。TPPをどうしようが、アメリカにとって日本の相対的な
重要度は損なわれることはない。日本の重要性は増す一方だろう。“日本の国益に
とってどうなのか”に集中した議論をするべきだ。その上で参加の可否を問えばいい。
先日、私の所属するエール大学マクミランセンターでロバート・ゼーリック世界銀行
総裁の講演があった。エール大学のグローバライゼーション研究所所長のエルネスト
・ゼディージョ教授との対談形式だ。旧知の二人の対談を、シニアフェローとして
最前列で聞かせていただいた。
余談だが、ゼディージョ教授は2000年までメキシコ大統領を務めていた人物だ。
TPPの先行事例でもあるNAFTAの実情を知る人物である。ゼディージョ氏は
元大統領だからエールの教授をしているのではない。彼は博士号をエール大学で
取得しており、その実績も考慮されてエール大学で教鞭をとっている。各分野の
ノーベル賞受賞者にも学校行事でよくお会いするが、元大統領とかCIA元長官の
教授がゴロゴロいるところがアメリカの名門大学のすごさだ。
■世銀総裁とメキシコ元大統領の激論
一方のゼーリック氏の経歴は、米大統領補佐官、USTR(米通商代表部)、国務
副長官を経て第11代の世銀総裁に就任。WTOドーハラウンドの生みの親といわれる
人物だ。その間にハーバード大学ケネディスクールで研究員をつとめ、ゴールドマン
・サックスのアドバイザーも歴任。政府・ビジネス・学界を行き来する“回転ドア”
の成功例の典型だ。
もう一つ余談になるが、講演の冒頭、ゼーリック世銀総裁はアメリカの回転ドア
システムの有用性を説いた。「政策の現場、ビジネスの実務、学問的追求の場、
これらを経験していないと今の国際問題に貢献できない」と熱く語っていた。
その通りだと思う。ビジネスをやったこともない政治家や官僚たちが考える成長
戦略が全く機能しない日本がいい例だ。回転ドアシステムについては、弊害も
議論されるが、私はメリットの方が大きいと思う。これについていつかこのコラム
でページを割いて持論を述べたい。
“机上の空論”とは程遠い、実務家同士の対談形式の講演だったので、全く退屈
しなかった。話題は金融規制、欧州財政危機、WTO、FTA、NAFTA、
そしてG20誕生秘話まで面白すぎた。ゼーリック総裁はG7でもG20においても、
中央銀行・蔵相会議のメンバーだから「世界経済金融問題について本格的な議論の
場が、G7からG20に移る過程の舞台裏」の生情報も披露してくれた。ゼディー
ジョ教授も最近までWTOのアドバイザーだったので、WTO、FTA、NAFTA、
APECの場での各国の駆け引きの様子を教えてくれた。(※続く)
◎
http://diamond.jp/articles/-/11141
2 :
ライトスタッフ◎φ ★:2011/02/15(火) 19:59:20 ID:???
>>1の続き
前述のTPPはやはり話題にならない。世界貿易体制の実務家である二人の激しい
応酬の中でさえTPPのTの字も出ない。一番前の二人の目に入る席に、日本人で
ある私が座っていることに二人は気づいていたはずであるが、TPPは所詮その程度
の、存在感がない政策なのだ。
無理もない。アメリカは忙しい。アメリカしかみていない日本とは違う。エジプトを
はじめ、中東、北アフリカ情勢、欧州財政危機、アフガニスタン、対中国戦略、
世界的インフレ傾向、そして自国経済対応等で忙殺されている。
■日米関係は心配なし!
日本におけるアメリカ謀略論者は、「これをしなければアメリカに嫌われる」とか
「アメリカは黙っていない」などと論じているようだが、かなり怪しい。彼らが言う
アメリカって誰のことだろう?そういう人たちに限って、“アメリカは日本を常に
注視していて意識している”ようにいうが、アメリカだけ気にしていればいい日本と
違ってアメリカは世界中の騒動に関与して忙しい。
ワシントンの日本への信頼性は他国に比べたらかなり高い。日本を信頼しているから
こそ、対日本のために割く資源(時間的、人的)そして関心は、他国に比して限られ
ている。日本が政策判断をするとき、アメリカを過剰に意識することは政策判断を
誤ることにつながると思う。
国民も日本政府もメディアも、かつてないほどのグローバルな時代に入り、外から
日本をみる視点をさらに養う必要がある。
TPPに関しても、対米外交を過剰に意識しない方がいいと思う。東京やワシントン
の対日チームの意見がオバマ政権の意見と完全に一致しているかも疑問だ。前述の
ごとく日本を信頼しているからこそ、日本専門チームの影はホワイトハウスで薄く
なっている。
何とか目立ちたい対日チームが論功行賞を焦って大統領の名を借りて日本にプレッ
シャーをかけている面もあるかもしれない。日本専門チームは、中東や中国問題で
忙しい大統領への報告時間もなかなか取れないだろうから、大統領周りの注目を
集めるために、センセーショナルな報告を上げているかもしれない。何事も、駐日
アメリカ大使館経由のパイプではなく、ホワイトハウスと直接のパイプも構築し、
政権の本意もうまく確認しながら交渉すべきだろう。
政府も国会も日米関係を危惧しているようだが、日米関係は全然悪くない。それは
二国間関係というのはすべて相対的であるからだ。日米がよいか悪いかは、他の
二国間関係と比べて判断すべきことだ。米中、米欧、米中東、米南米、米ロ、米印等
と比較して、“日米”は断然ましである。
「開国」につながるか?
アメリカが、これだけ覇権国家としての力が凋落し、中国やインドそしてブラジル等
の新興国に追い上げられている中で、日本というこんな美味しい同盟国を手放すわけ
はない。欧州は財政破たん寸前で外交どころではない。力をつけつつある南米諸国は、
存在感を示すためイランやロシアと交流したりして、アメリカのいうことを聞かない。
新興国はアメリカに対抗する主張を強める。(※続く)
3 :
ライトスタッフ◎φ ★:2011/02/15(火) 19:59:32 ID:???
>>2の続き
アメリカ政府関係者と話すと、TPPという戦略がアメリカで浮上してきた背景には、
オバマ大統領の意向があるようだ。FTAで一国づつ各個撃破するより、枠組みを
作って一網打尽戦略に打って出ることを、オバマ大統領が好んでいるようだ。ワシン
トンでも対日関係者の間では鼻息が荒いが、全体的にはTPPはそうプレゼンスが
高くはない政策だ。
アメリカに限らず、国際貿易の枠組みでの提案は、常に提案者の土俵に有利になって
いるのは当たり前だ。「アメリカの罠にはまる」という議論も拙速だ。TPPに参加
を決めるかどうかは、自国の国益を特定の産業に絞って考えるのではなく、できる
だけ広く捉えて、TPPというものを日本経済にどう活かすかを検討してからだ。
日米外交まで過剰に持ち出す必要はない。
TPPは欧州ではさらに誰も知らないので、TPPが首相の言う「開国」のイメージ
を世界に与えるかは定かではない。ただ、ダボスで首相が発信した「開国」のメッ
セージは世界に衝撃を与えている。意外なほど世界の期待を集めているようだ。
本当は、仲間を作って自国に有利で「開国」のイメージにつながる大胆な貿易政策を、
自ら説得力をもって国際舞台で提案できるのがベストなのだが、そこまで今の日本
政府に要求するのは酷だろう。
対米外交のためではなく、日本の幅広い国益のために、国民全体でしっかり議論して
決断することを期待したい。
◎執筆者/田村耕太郎
米エール大学マクミラン国際関係研究センターシニアフェロー。前参議院議員
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