職人さん募集
kusosure
リレーでやってみたいのですが、やりたい人はいますか?
4 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/12/20(火) 20:39:54 ID:1uhOuuvJ0
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⊂コ二Lフ^´ ノ, /⌒) | ,,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| リーチ
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5 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/12/20(火) 21:13:15 ID:fFLVL7DEO
寿司職人ですが、なにか?
プロローグ
2005年。11月某日。
西武鉄道代表取締役・後藤高志は、前西武グループ会長・西武ライオンズオーナー堤義明に呼び出された。
堤が有価証券報告書虚偽報告の発覚から前職を辞任し、一年。
その後の逮捕、裁判、西武鉄道の株式上場廃止と西武グループ全体が揺れ続けた。
当然、所有するプロ野球球団西武ライオンズの売却話も幾度となく浮上した。
そのたびに後藤はこれを否定し、「ライオンズは西武グループの再生のシンボル」であることを強調してきた。
それでも絶えずこの話題が繰り返される原因は、堤がプロ野球界に多大な影響を与えうる人物たちと頻繁に接触しているためであることを後藤はつきとめていた。
表舞台から身を引き、実質的な権限をもたない堤のあくまで「私的な交流」とはいっても、昨年の球界再編問題の中心人物であっただけに、その影響力は無視できるものではない。
火のないところに煙はたたない。
ライオンズのみならずグループ全体にも関わってくることである。
ひとこと釘をささねばなるまい。
そう決意し呼び出しに応じた後藤は、堤に打ち明けられた「計画」に絶句することになった。
「ライオンズはいらない――そうは思いませんか?」
そう切り出した前オーナーの顔には好々爺然とした笑みが浮かんでいた。
眼鏡の向こうの目は底の見えない穴のように暗い。
「赤字、でしょう?相変わらず」
球団の収支がしるされた紙片を差し出してくる。
「グループ全体が厳しい時です。シンボルなどと甘いことを言っていてはいけないですな。彼らもつけ上がりますよ。今シーズンの成績だってひどいものじゃないですか」
「……売却をお考えですか?」
「いや、消滅させてしまいましょうよ。グループのためにも、プロ野球界のためにも必要なことですよ」
――球団を減らすだけでは既得利益にしがみつこうとする輩が騒ぎ立てる。
――ならば物理的に球団やリーグが成り立たないようにすれば話は簡単だ。
――ライオンズは消滅することで、1リーグ制への嚆矢となれる。
得々とつづける堤の笑みが深くなる。暗い目はまるで地獄の入り口のようだ。
つられるように後藤の背筋を冷たいものが伝う。
『消滅』という言葉が理解できない。いや、理解などしたくはない……。
「最後の一人になるまで殺し合う――バトルロワイヤル――というのをやってみようと思うんですよ」
無人島、武器、禁止エリア、爆発、首輪……。
おぞましい計画を語る口調は楽しい遊びを説明するそれだ。
こんな計画は赦されない。
止めなくてはならない。
だが、堤が口を開くたびに部屋の空気が粘り気をおび、重さを増し、後藤の口をふさぐ。
「心配しなくても準備はすべて整っていますよ。盟友たちが協力してくれていますからね。後藤くんは彼らに協力するよう声をかけてください」
球団幹部、首脳陣の名前が書かれた紙が差し出された。
「あとこれは余興ですよ」
続いて差し出された紙には、後藤もよく知るプロ野球界を動かしうる
人々の名前と数字が記されていた。
「最後の一人を当てた人に西武グループのすべてをゆずることにしました。協力してもらうほんのお礼です」
「君も賭けてみますか?」
長文を書き込むのは初めてだ。
改行がおかしくてすいません。
乙です!猫バトは密かにあったらいいのにと思っていたので嬉しい。
1.出発
2005年のシーズン、西武ライオンズは、なんとか3位となりプレーオフ進出を果たしたものの、上位チームとのゲーム差は大きく開き、勝率は5割に届かないという結果に終わった。
FA宣言をしていた守護神・豊田清の読売巨人軍入り、セットアッパー・森慎二のポスティングによるメジャー挑戦につづいて、選手会長・小関竜也の自由契約が発表された翌日。
この日はかねてより、来シーズンからより一層の地域密着を打ち出すために球団、選手会、地元・所沢市が協力していくプロジェクトをアピールするイベントが企画されていた。
が、それを選手会の代表として進めていた小関が前日になってチームを離れるという事態に、インボイス西武ドームに集合した選手達は一様に不安と困惑の表情を浮かべていた。
朝6時に集合し、ユニフォーム着用でバスに乗るようにとの指示しか伝わっていないこともそれに拍車をかけていた。
そんな選手達を取りまとめながら、高木浩之(背番号4)が和田一浩(背番号5)に声をかけてきた。
「ベン、タツから何か連絡ってあった?」
「ああ、二日前に電話があったけど、なんかすぐに切れちゃって。かけ直したけど繋がらなかったよ」
「……そうか。俺もこれの治療があって、あいつにまかせっきりにしちゃってたからさ」
シーズン後半に傷めた膝を軽く動かしてみせる。
「ちゃんとフォローしてやれなくて……」
責任感の強い選手会副会長の心配顔に、かえって和田は安心感を覚えた。
「大丈夫だよ。あっちもバタバタしているだろうけど、今日のイベントが終わったらまた連絡いれてみよう。あんまり心配していると抜けるぞ」
「……まったくもって、そうだな」
二人が中心になって、選手達を二台のバスに振り分けインボイス西武ドームをあとにした。
「なんでユニフォームかな?」
「どこでやるの?」
「くすのきホール?」
「こんな朝っぱらから?」
朝のドタバタの疲れも手伝い、車内のあちこちから聞こえてくる疑問符だらけの会話を聞くこともなしに聞いているうちに眠っていたらしい。
バスが停車した気配に和田が目を覚ますと、斜め前の席で通路に身体をはみ出させて座席の下に転がっている後藤武敏(背番号6)の背中が見えた。
(寝るにしたって、おまっ……)
腰を浮かしかけると、後藤武以外の選手達も席に着いてはいるが、ただ眠っているにしては不自然なほど崩れた姿勢でいるのが見えた。
異常を感じ慌てて後の座席を振り返るとこちらも同様だった。
「おい、起きろ!」
近くにいた貝塚政秀(背番号39)の肩を掴んでゆするが、グラグラと身体全体が大きく前後にゆれ、和田が手を離せば、倒れこんでしまいそうだ。
「!」
突然、後頭部に重い衝撃をうけた和田の身体が、意思のない人形のようにバスの床に転がった。
「悪いな、ベン―――」
意識が遠のくなか、くぐもった声が耳に届く。
(……この声……?)
バスの床を踏みしめる足音を聞いたのを最後に意識が途切れた。
出だしの部分を書いてみました。
ルール説明な部分を書いてもいいですかね?
もう少し掛かりますけど。
他に書きたい方はいますか?
>>13 いいんじゃないでしょうか?
あと、トリはつけた方が良いかと。
15 :
関連スレ:2005/12/20(火) 22:14:38 ID:MqEQVE+hO
がんばれー
2.ゲーム開始(1/3)
名前を呼ばれた気がした。
浮上する意識は最初に聴覚を覚醒させる。
同時に耳に残る声の記憶を探りはじめる。
(あの声は……)
掴まえきれない記憶の断片に少しいらだつ。
「大丈夫かな?こんなデカイよ」
「ぜんぜん、起きないですよ」
「息はしているよな」
自分を囲む複数の声と、複数の手が頭をなでている感触に、和田の意識は一気に引き戻された。声の記憶は掴み損ねたままだったが……。
「和田さん、大丈夫ですか?」
視界に心配そうな表情の後藤武の顔が飛び込んでくる。
返事をしようとした途端に後頭部に痛みが走った。そして、頭に触れている手の感触。
「いつまで触ってんだよ」
パッと和田の頭から手を離したのは貝塚と平尾博嗣(背番号8)だった。
「いや、だってタンコブが…」
「すごいでかいし…。触っていると落ち着くし?」
最後の台詞に少しひっかかったが、ゆっくりと身を起こし、自分でも触れてみると確かに大きく腫れている。床に転がっていたせいなのか身体もあちこち痛い。
(こんなのいつの間に…?バスの中でこいつらが寝ていて…。なんか呼ばれた……?なんで床に…?)
記憶を辿る作業は後藤武の声にさえぎられた。
「和田さん、おかしいんですよ。俺達みんな寝ていて。ここもどこだかわからないし」
言われて周囲に目を向ける。
広い部屋だ。緋色の絨毯がしきつめられ、前方に一段高くなったステージらしきものがあり、その中央に演台とスピーカーが置かれている。その後に金屏風。ホテルの大広間か結婚式場をおもわせる。
ユニフォーム姿のチームメイトたちが、一様に困惑の表情で、あるものは座り込み、あるものは歩き回っている。
「ドアが開かないんです。閉じ込められちゃってるんです」
後藤武の視線の先をたどる。ステージの反対側に観音開きの扉、左右の壁にも二つづつドアがあり、ノブを動かし、扉をたたく仲間の姿が見えた。
「あと、これ」
のばしてみせた後藤武の首元に銀色の――首輪?みると貝塚、平尾の首にも同じ物が巻きついている。和田の自分の首元に伸ばした指先にも金属の冷たさが伝わってくる。
「全員に着いているんです」
和田が口を開きかけたその時、大きな音をたてて扉が開かれた。
底の厚い編上げ靴が床を踏み鳴らす荒々しい音は緋色の絨毯でも吸い込みきれない。
カーキ色の戦闘服に身につけ、アサルトライフルをかかえた兵士達が、二列で部屋に入ってくると左右にわかれ壁沿いに立ち、選手達に銃口をむけてくる。カーキ色帽子の下、目と口だけが出ている黒い覆面が不気味さに輪をかけている。
無言の銃口に促され、選手達は部屋の中央に集められ座らされた。
ざわつく室内に続いて入ってきたのは選手達のよく知る人物――ユニフォームをまとい、ダグアウトジャケットの襟を立て、帽子を目深にかぶり、その表情はうかがえない――伊東勤監督(背番号83)だった。
大股で選手達と兵士達の間を抜け、ステージの前にどっかりと胡座をかく。
「監督――」
目の前に座り込んだ83の数字にかけた和田の声は、場違いなまでに明るい声にさえぎられた。
(3/3)
「やあ、皆さんそろっていますか?」
笑顔を浮かべた黒岩彰球団代表――黒のジャージ姿はまるで体育教師だ――が入ってきてステージに上がり、マイクを握った。
『えー、皆さんにこうして集まっていただいたのは、ほかでもありません。
我が西武グループがどういう状態であるかは、よくわかっていることと思います。そこに赤字経営で、しかも負け越すような球団を持っていても仕方がありません。
西武ライオンズは、いらなくなりましたので消滅させます。
と、言いましても、昨シーズンは日本一ですし、球界を代表する優秀な選手もそろっています。そんな皆さんを全部なくしてしまうのは、まあ、なんなので、6人は残そうと思います。
その6人を決めていただきますので……』
言葉を切り、選手達を見回す。誰も言葉を差し挟まない。何を言っているのか理解できないのだ。
『今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいます』
3.ルール(1/3)
『これはゲームです。進行役は、私、黒岩です。本当は伊東くんにやってもらう予定でしたが、どうしても皆さんとゲームに参加したいそうなので、よろしく。では、ルールを説明しますね』
和田は微動だにしない伊東の背中に目をやる。なにか言って欲しかった。
黒岩はマイクを持った手でごそごそとメモを取り出し、部屋中に騒音をまきちらした。が、続いて読みあげられたルールとやらに比べればたいして不快ではなかった。
『皆さんが、今、いるのは無人島です。遠慮せず殺しあってください。
その首輪で皆さんの位置と生死がわかるようになっています。
24時間、死人が出ない時は、全員の首輪が爆発します。
島はエリアごとに分かれています。そこに禁止エリアを設けます。禁止エリアに立ち入ると、首輪が爆発します。
朝夕の6時、12時に禁止エリアと死亡者を発表する放送をします。ちゃんとチェックしてください。
水、食料、地図、武器とかはこちらで用意しています。この部屋を出るときに持っていってください。
ま、こんなところですかね』
読み終わったメモをたたみながら、付け加えた。
『ああ、そうそう、生き残った6人は好きな球団に行けます。日本じゃなくてもいいですよ。では、さっさと殺し合って、早く家に帰りましょう!』
「ふざけるなっ!チームなくすから、殺し合え?頭おかしいだろ!」
怒りで顔を赤くした張誌家(背番号99)が立ち上がり、ステージを降りかける黒岩をにらみつける。
張の近くの兵士が銃口をむける。
「うーん、そうだねぇ……。ニホン語むずかしかったかなぁ……。おーい、アレ、頼むよ」
(2/3)
黒岩が合図を送ると、担架をさげた清水雅治コーチと笘篠誠治コーチが入ってきた。
コーチ達も関わっているのか……?ステージ上の二人は無表情で、帽子を目深にかぶり、こちらを見ないようにしているようだ。
担架の上にはビニールシートに包まれた何かが乗っている。担架はステージの中央に置かれ、二人の手でシートが取り払われた。
息を呑む気配、押し殺したうめき声が室内に満ちる。
「ああぁ……」
和田の口からも知らずに声がもれた。
シートの下から現れたのは、土井正博コーチの変わり果てた姿だった。
胸から腹にかけて真っ赤に染まり、ぴくりとも動かない。
「土井さんもねぇ、そう言って、暴れたから」
いつのまにか黒岩の手に拳銃が握られ、二度、三度と引き金が絞られた。轟音に合わせて土井コーチの身体が大きく飛び跳ね、担架から投げ出され、ねじれた腕がステージを叩いた。
薄く煙が立ち昇る銃口を軽く振ってみせ、張に笑顔をむける。
こんな笑い方をする人だったろうか?
(3/3)
怒りと同時に湧き上がる戦慄に、和田のにぎりしめた拳が震えた。
「あんた、何やってるのか、わかってんのか!」
向けられた銃口にも構わず黒岩に飛びかかっていこうとする張を押しとどめようと、松坂大輔(背番号18)、長田秀一郎(背番号19)がその身体にすがりついた。
――ピッ。
微かな電子音。
――ピッ。ピッ。
もみ合う三人の動きが止まった。
音の発信源を探して視線が動く。
――ピピピピピピ。
音の間隔が狭まり、爆発音。
「首輪の実演ね」
首から血をふきだし、長田の身体が床に転がる。引きずられるように、張、松坂も床に座り込む。三人の白いユニフォームが赤く染まっていく。
――何故?
二度と動くことのない長田の目に浮かぶもの。
それを見つめる張、松坂――いや、全員の頭に浮かぶもの。
今朝、集合してから、今、この時、そしてこの先、吐き気がするほど繰り返されることになる言葉。
それはむせ返るような血の匂いとともに撒き散らされた。
4.
いくつものカバンが積まれたワゴンが運び込まれ、ふたたび黒岩がマイクを握った。
『ハイ、では背番号順に出発してもらいます。
名前を呼ばれたら、カバンをひとつ選んで部屋を出てください。
この建物の出口は3つあります。どこから出るかはこちらがランダムに決めますね。
飛び入り参加の伊東くんは、最後ね。
伊東くんが出て30分後には、この建物の周りが最初の禁止エリアになりますから、そのつもりで』
ゴンと音をたててマイクを演台に置くと、土井コーチの遺体をまたいでステージを降り部屋を出て行った。
『背番号0、高波文一』
代わってマイクを握った荒木大輔コーチが選手の名前を呼び始める。
目の前の伊東の背中は相変わらず微動だにしない。
傍らでは後藤武が、うつろな目でステージ上の土井の遺体と松坂たちが整えてやっている長田の遺体を交互に眺めている。
関節が白く浮き出るほど固く握った拳を床に押し付け、何かに耐えていた。
『背番号2、柴田博之』
間もなく和田の名前も呼ばれる。
出口は3ヶ所をランダムに振り分けると言っていた。
続き番号の和田と後藤武が、同じ出口から出られる確率は低いだろう。
それでも――今シーズン序盤、千葉マリンでサードに入り立て続けにエラーをした時のレフトから見た後藤武の背中、ダグアウトでの強張った表情――
あきらかにその比ではない状態の後藤武を一人で、何が起こるかわからないこの「ゲーム」とやらに放り込むのは危険なことに思えた。
和田も自分が似たり寄ったりの状態なのは自覚していたが……。
「おい」
後藤武の前腕部を強く掴む。――ひどく冷たい。
「……」
顔をこちらに向けるが、視線をつかまえられない。その目をのぞきこむ。
「外に出てすぐに俺がいなかったら、この建物に沿って右手にまわるんだ」
「……」
掴んだ手に力をこめ、もう一度ゆっくりと繰り返すと、かすかに頷いた。
和田も頷き返して、冷たい腕から手を離した。
『背番号5、和田一浩』
帽子をかぶり、立ち上がる。
和田が掴んでいた前腕部を握りしめ、うつむく背中の青い6の字を強めに叩く。思ったよりも大きな音がして、いくつもの視線と銃口がこちらを向いた。
胸の悪くなるような「ゲーム」とやらに放り込まれ、怯え、嘆き、戸惑い、諦め、怒り……激しすぎる感情に翻弄されている仲間の顔。
和田の胸にも同じ物が渦巻いている。簡単には静まりそうにもない。だからせめて、この部屋に満ちる血の匂いを振り払いたかったのかもしれない。
――土井さん、長田……。
帽子をはずし、一礼をする。
「殺し合いなんてしないよ。絶対に」
後藤武に、仲間達に、もう動くことのない二人に、何より和田自身に向けた言葉。口に出すことで決まる覚悟もある。誓いかもしれない。それでも「殺し合い」なんて言葉を口にするのに抵抗があった。
甘い、と思う。でも間違いなく本心だ。胸に渦巻くものたちにも流されない。
顔を上げ、仲間達の顔と二人の無残な遺体を目に焼きつける。
左腕のリストバンドで額をぬぐい、再びかぶり直した帽子のつばに軽く手をやり、歩き出す。
ここはダグアウトではないし、向かう先はグランドではないけれど、いつものように出て行けば、この異常な状況を出て行ける……。そんなささやかな希望では太刀打ちできない現実は、もうすぐそこに口を開けていることをまだ知らなかった。
>>14 ありがとうございます。
最初、トリがなんだかわからなかった……。
職人さん乙です。一読み手ですが楽しみにしています。
くすのきホールとか、いいね。地元密着w
>>17 割り込みすいません↓あの画像@時間以内に貼れなかったんですがどうしたらいいですか!本当に死ぬんですか!!
>「最後の一人を当てた人に西武グループのすべてをゆずることにしました。
これと
>6人は残そうと思います。
>その6人を決めていただきますので……
これが矛盾してるんだが、どっちにするんだ?
>>29 ご指摘ありがとうございます。
いずれ、ご指摘の部分がわかる話を書く予定だったのですが…。
確かに、最初の段階で書かないと、矛盾にしか見えないですよね。
早めにそこの話を書いてみます。
これ、メンバーはどうするんですか?
普通に二軍選手・外人選手も含めて全員?
5.
(1/2)
「さっきの6人ってなんですか?」
名前を呼ばれ、あの部屋を出たはずの高木浩之は出口に向かわず、まだスタート地点の建物内にいた。
目の前では、黒岩が一仕事を終えてソファに身体を投げ出し、くつろいでいる。
「一度にたくさんしゃべると疲れるちゃうよね」
茶をすすり、高木浩に向き直る。
「あれ?言ってなかったっけ?賭けのことは知っているよね?」
「ええ、最後に生き残る一人を当てるんですよね」
「そう、そこなんだけど。賭けている方達は6人いるわけよ。賭けられている奴らも6人。
でも、せっかく賭けていただいているのに、この6人以外が残っちゃったり、早々に消えてしまったりしては、ほら、なんじゃないか?なので、進行役としては、じっくり楽しんで頂けるようにしないとね。
最後に直接対決にでもなれば、言うことないんじゃないかな?
つまり、演出だよ」
実に楽しそうに語ると、残っていた茶をぐっと飲み干した。
「それに、賭けている方の中には、賭けた奴を生き残らせるために細工をしたいと考えている方もいてね。
例えば、護衛役をつける、といったことみたいだけど――結局、最後は一人しか残れない、となればそれは成り立たないだろう?」
「賭けられている奴に、直接教えて山ほど武器でも持たせたらどうです?」
「それでは、ゲームとしての均衡が崩れすぎてしまうよ。
賭けはあくまで余興――まあ、こっちが主になっている方もいるわけだけどね。
そこで、賭けられた奴は勿論だが、選手達には賭けの存在自体を知らせない事っていうのが、最低限のルールらしいよ。まあ、君と伊東くんは知っちゃってるけど……。
あと、お互いに誰が誰に賭けたかは知らないんだ。
ま、その辺も含めて、進行役としては一工夫したってわけだよ。
出口を3ヶ所に分けたのもね。部屋を出た後、こちら側の人間が接触しても他の奴らにはわからないだろ?」
――また、いっぱいしゃべっちゃったよ。と、ぼやきながら、自ら茶を注ぐと一息に飲み干した。
「細工が過ぎるのもどうかと思いますけどね」
「見事な采配と言って欲しいな。伊東くんじゃ、こうはいかないよ」
ソファにふんぞりかえると、今度は煎餅をかじりだした。
(2/2)
「これが賭けられている選手ですか?」
煎餅を食べ終えた黒岩が取り出した紙片には、高木浩のよく知る6人の名前が記されている。
「そう、間違えて殺しちゃわないでね。ついでに、この6人が生き残るように、計らってもらえるとありがたいな」
「そこまでは無理ですよ。最初の約束の通りでいいでしょう?」
「ま、君には期待していますからね……。
そうそう、伊東くんは殺しちゃってもいいよ。
後藤社長が賭けているんだけどさ、あの人あんまり乗り気じゃないし、他の方々が誰に賭けているかも知っちゃってるんだよね。
監視役を一人付けるから、一緒にやっちゃえば一石二鳥」
嬉々として、二枚目の煎餅をかじり始めた。
「なるようにしかなりませんよ。この島だって結構広いんだし、何が起こるかわかりませんから」
「高木くんは冷めてるねぇ……。楽しくない?」
「――どうですかね。早く終わらせたいだけですよ」
「ふーん……。そうだ、武器は何が当たったの?」
高木浩が白いボール――硬球を取り出してみせる。
「ありゃ、ハズレだね。ま、隣の部屋にいろいろ用意してあるから、好きに持っていっていいよ」
煎餅に飽きたのか、今度は一口羊羹を食べ始めた黒岩を残し、高木浩は部屋を出た。
>>32 シーズンオフに日本国内にいるであろう選手を想定していたのですが、
他に案があれば、それでいいと思います。
選手会の企画のようなことを書いておきながら、
張がいるのは、おかしかった……。
解雇・退団した選手はどうするんだ?
とりあえず選手一覧
0 高波 文一
1 フェルナンデス
2 柴田 博之
3 中島 裕之
4 高木 浩之
5 和田 一浩
6 後藤 武敏
7 片岡 易之
8 平尾 博嗣
9 赤田 将吾
10 高木 大成
11 森 慎二
12 河原 純一
13 西口 文也
14 小野寺 力
15 大沼 幸二
16 涌井 秀章
17 山崎 敏
18 松坂 大輔
19 長田 秀一郎
38 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/12/22(木) 18:18:13 ID:TPep6EEI0
20 豊田 清
21 石井 貴
22 野田 浩輔
23 許 銘傑
24 眞山 龍
25 正津 英志
26 星野 智樹
28 岡本 篤志
29 三井 浩二
30 佐藤 友亮
31 小関 竜也
32 石井 義人
34 帆足 和幸
35 田崎 昌弘
36 山岸 穣
38 トモキ
39 貝塚 政秀
41 鳥谷部 健一
42 カブレラ
43 宮崎 一彰
44 高山 久
ageてしまった……スマソ
45 水田 圭介
46 G.G.佐藤
47 細川 亨
48 松川 誉弘
49 上本 達之
51 大島 裕行
52 栗山 巧
53 青木 勇人
54 芝崎 和広
55 椎木 匠
56 黒瀬 春樹
57 上田 浩明
58 松坂 健太
59 富岡 久貴
60 中村 剛也
61 星 秀和
62 杉山 春樹
63 藤原 虹気
64 犬伏 稔昌
66 宮越 徹
67 小野 剛
68 田原 晃司
69 東 和政
83 伊東 勤
99 張 誌家
選手65人+監督 計66人
40 :
本スレより引用:2005/12/22(木) 18:20:40 ID:TPep6EEI0
○今期限りで退団する選手(12人)
ホセ・フェルナンデス内野手・・・自由契約、楽天移籍
木大成内野手・・・現役引退、営業担当としてフロント入り
森慎二投手・・・ポスティングでメジャー挑戦、デビルレイズと交渉へ
豊田清投手・・・FA権を行使し巨人移籍
眞山龍投手・・・現役引退、2軍サブマネジャーへ
小関竜也外野手・・・自由契約、米球界挑戦を希望
トモキ(佐藤友紀)投手・・・戦力外通告
鳥谷部健一投手・・・戦力外通告、トライアウトを経て中日移籍
芝崎和広投手・・・現役引退、打撃投手に
上田浩明内野手・・・現役引退、1軍守備・走塁コーチ補佐に就任
富岡久貴投手・・・金銭トレードで楽天入り
犬伏稔昌捕手・・・現役引退、ブルペン捕手に
ゲーム参加者(開始時)は、
>>37-39 の66人から
>>40 の12人とカブレラを抜いて、
後藤光貴(背番号50)を足した54人で、どうでしょうか?
背番号は2005年シーズン開始時。
40の12人やカブレラといった、外国人、退団、移籍、OBなどのライオンズ関係者は書き手次第で(ゲームへの参加含む)。
>>41 いいと思います。
中途参加や外部の動きなんかも作れた方が
書き手の選択の幅が広がりそうですし。
メンバーも決まりましたし、リレー参加希望者随時募集中という事で、
進めてもいいでしょうか?
いいですよー
期待してます。
捕手
6.
カバンをひとつ取り、部屋を出る。
「こっちだ」
廊下に立つ立花義家コーチが、差し出してくるダグアウトジャケットを受け取り、指差した方向へ進む。
前後を銃を構えた兵士に挟まれ案内された出口には、カウンター、ロビーがあり、大きなガラス戸が開け放たれ、車寄せがある――まさにホテルだ。
しかし、外に出てみると、建物は薄汚れ、植え込みは荒れ放題、地面の舗装もひび割れ雑草が伸びている。長く使われていなかったのは明白だ。
ぐるりと見渡してみるが、和田より先に部屋を出た仲間の姿はなかった。
まずは地図を確認しようと、カバンを開ける。
途端に目に付いたのは「当たり!」と赤字で書かれた紙だった。
紙の下には、緑色のボールのようなもの――手榴弾が5個。
「当たり!」の紙の裏には、使用方法がこまごまと書いてあるようだが、読む気にはならない。
(本物――なんだろうな……)
「殺し合いなんてしない」――そう決めた自分に殺傷力の高い武器が与えられる。思わずため息が出る。
(こういうのを皮肉っていうんだろうな)
これを使う――誰かに……仲間に向かって投げる?俺が?――つもりはないが、その辺に捨てていくわけにもいかない。
気持ちをきりかえ、手榴弾をかきわけて地図とコンパスを取り出し、このホテルを探す。
島の中央からやや西寄り。
そこまで確認して、出口を振り返る。
和田が出てから3分は経っている。
選手達は、1,2分間隔で名前を呼ばれている。
もし、同じ出口ならもう出てきてもよい頃だったが、やはりすぐ次というわけにはいかなかったようだ。
地図をたたみ、ホテルに沿って左手に歩き出す。角を曲がり少し進んだところで和田の足が止まる。
車の一台もない駐車場があり、その先は崖と呼べるほどの急斜面――覗き込んで降りられそうな所を探してみるが、生い茂った草木で見通しがきかない。
(迂回するしかないか……?)
再び地図を広げる。――地図にはホテルの出口までは記されていないが――和田が出てきたのはホテルの東側。
西側にはゴルフ場があるようだ。もう一つの出口はおそらくそこに向かうものだろう。
そうするともう一箇所は、和田のいるここの反対側――南側と予測される。
そして、このホテルはどうやら山の中腹に建てられていて、東側が山頂、西側が麓になっており高低差がある。
ホテルの東側から西側へはホテル内を通ればすぐだが、外から回ろうとすれば、一度北もしくは南に向かい、大きく迂回しながらこの山を下る道を行くことになる。
(参ったな)
もう一度、斜面を覗き込む。ここを後藤武がよじ登ってくる可能性もある。
もしくは、南側にあるであろう出口からなら、和田と同じように立ち往生しているはずだから、引き返せばすぐに会えるだろう。
(どうする?)
西側――和田の勘がそう告げる――勿論、根拠はない。
ズボンのポケットに地図を押し込み、西側への迂回路を目指して走り出した。
下り坂も手伝い、足の回転が速くなる。
数分後、前方に肩からカバンをさげ、坂道を登ってくる白い人影が見えた。
人影はこちらの足音にきづいたのか、顔を上げた。
坂を登ってくるのは人影の顔は帽子の陰で、分かりにくかったが、胸番号の8が見えた。
近づくと軽く手を挙げ「お疲れです」と言う平尾は全くの普段通りに見えた。
「和田さんって、遠くからでも走り方でわかるよ」
「そうか?」
腕のリストバンドで汗を拭いながら、後藤武を見なかったかを尋ねる。
「和田さんの言ってること聞こえたから、俺も右に回ってきてみたんですけど、あそこ出てから人に会うの和田さんが最初」
地図を広げ確認すると、平尾が出たのはゴルフ場に面した――西側の出口であったようだ。
「そうか――こうなると南側だったかな?」
道の先を見ながら呟く。立ち往生して困り果てている後藤武の姿が思い浮かんだ。
「頭、大丈夫ですか?」
「?――ああ……忘れてたよ」
ちょい、ちょい、と手招きされ、頭を差し出す。
「ご利益、ご利益」
和田のタンコブに触れてくるその手は、後藤武の腕と同じように冷たかった。
「ちょっとは、警戒したほうがいいですよ。俺がその気だったらどうするんです?」
平尾の言葉に、肩から下げたカバンの重みが急に増したように感じた。
和田の頭から離した手が、所在なげに帽子を触っている。
「一緒に行くか?」
顎をひき、首をかしげ、視線を落とした。
「――少し、一人でいます」
いつも陽気に振舞うチームのムードメーカーの沈んだ声が、あの部屋での出来事を思い起こさせる。
「本当に、長田と土井さん、死んじゃったんですよね……」
ポツリと呟かれた平尾の言葉の語尾が、掠れ、震えていたのには気づかない振りをする。
「タケ、すっごい、顔色してたでしょ?きっと、頭、真っ白ですよ。……長田とタケは同期でしょ。歳も同じだし――」
平尾自身もあまり表には出さない心の内が、表に出てしまったことに戸惑うように、矢継ぎ早に言葉を続けようとするが、普段通りのようにはいかないようだった。
「やべっ、ちょっと、駄目かな……。和田さんがさっき、あんまりに仏様みたいなんだもの……。
――ちゃんと、会えるといいですね」
間を嫌うように、勢いのままに言葉を続け、無理矢理に完結させる。
「ああ。――気をつけてな。無理するなよ」
もう一度、「一緒に行こう」と言いたくなる気持ちを抑えこむ。
「和田さんも」
平尾が突き出してくる拳に、和田も拳を当てる。
「また会おうな」
平尾と別れ、再び走り出す。
職人さん乙です。
ところで遅まきながら私も書き手で参加したいのですが問題ないでしょうか?
>51
ありがとうございます、よろしくお願いします。
職人さん少なくて手伝いたい気もするが、何しろバトロワも読んだ
ことないし、まだ猫ファン歴浅いもんで人間関係とかよくわからんorz
しかも文章も学校の宿題の作文くらいしか書いたことないんで。
読むことしかできませんが・・・気長にがんがれ。応援してます。
54 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/12/27(火) 13:08:17 ID:UGL+Yl5DO
サガリスギ
柴田博之(2)、彼が名前を呼ばれ、立花コーチからバッグとダグアウトジャケットを受け取り玄関を
出たのは2人目だった。目の前で演じられた先ほどの惨劇の衝撃で未だ足取りはおぼつかなく、いつも
なら優男然としたその面も今は固くこわばっている。玄関ホールを出ると太陽光が燦燦と降り注ぎ、そ
の明るさに彼は顔に手をかざした。
「なんて…」
独り言が口をつく。
「こんなことになるんなら、叔父さんのような騎手を目指したほうが良かったのかな。」
憂鬱さはいや増し、ただただ明るい太陽の下、泣き崩れる訳にもいかず、ただただひとり北を目指して
歩を進める。ひび割れた黒いアスファルトに覆われた駐車場には車の影も無く、彼の姿だけが足元に影
を落とす。肩に担いだバッグが重い。柴田は利き手の左腕を庇って右肩にバッグを担ぎなおした。壊し
た左肘もようやくここまで回復してきたのだ、また壊すわけにはいかない。
こんなことになって、それでもまた野球ができるようになるんだろうか?疑問がわきあがるが、答えを
見つけるまえに、駐車場の端が崖になっていることを視認した。降りようとすれば降りられなくも
無さそうだが、無理せず迂回したほうがいいだろう。バッグの中に地図が入っていることを思い出し、
ファスナーを開け中を覗き込んだ柴田の目に止まったのは伸縮式の警棒だった。
護身用具にはなるだろう、そう思って腰に下げてから改めて地図を広げ行き先を考える。しばし考えた
後、西側のゴルフ場を突っ切って降りるコースを選択した。ゴルフコースには遮蔽物になりそうな物は
多くない、この先に行くなら今のうちだろうという考えだった。
改行がおかしい・・・すまんorz
貼りなおしたほうがいいでしょうか?
7.
柴田博之(2)、彼が名前を呼ばれ、立花コーチからバッグとダグアウトジャケットを受け取り玄関を
出たのは2人目だった。目の前で演じられた先ほどの惨劇の衝撃で未だ足取りはおぼつかなく、いつも
なら優男然としたその面も今は固くこわばっている。玄関ホールを出ると太陽光が燦燦と降り注ぎ、そ
の明るさに彼は顔に手をかざした。
「なんて…」
独り言が口をつく。
「こんなことになるんなら、叔父さんのような騎手を目指したほうが良かったのかな。」
憂鬱さはいや増し、ただただ明るい太陽の下、泣き崩れる訳にもいかず、ただただひとり北を目指して
歩を進める。ひび割れた黒いアスファルトに覆われた駐車場には車の影も無く、彼の姿だけが足元に影
を落とす。肩に担いだバッグが重い。柴田は利き手の左腕を庇って右肩にバッグを担ぎなおした。壊し
た左肘もようやくここまで回復してきたのだ、また壊すわけにはいかない。
こんなことになって、それでもまた野球ができるようになるんだろうか?疑問がわきあがるが、答えを
見つけるまえに、駐車場の端が崖になっていることを視認した。降りようとすれば降りられなくも無さ
そうだが、無理せず迂回したほうがいいだろう。バッグの中に地図が入っていることを思い出し、ファ
スナーを開け中を覗き込んだ柴田の目に止まったのは伸縮式の警棒だった。
護身用具にはなるだろう、そう思って腰に下げてから改めて地図を広げ行き先を考える。しばし考えた
後、西側のゴルフ場を突っ切って降りるコースを選択した。ゴルフコースには遮蔽物になりそうな物は
多くない、この先に行くなら今のうちだろうという考えだった。
(後になれば人が増える。そうなればここを突っ切ることは難しい状況になっているだろう。皆ごめん
よ。俺は皆を信じられそうに無いんだ。)
心の中で柴田は謝った。彼はひとりだった。
番号も打ち忘れていたので貼りなおしました。
ついでに多少手直ししましたので、前のはなかったことにしてください。
手際悪くてすみません。
8.
建物を出た小野寺力(背番号14)が最初に目にしたのは、塗装がはげ、錆が浮き、文字のかすれた案内板だった。
その案内板によると、この先はゴルフ場になっているようだ。
少し歩いて行くと、たしかにティーグランドやバンカー、グリーンであったらしい場所が点在する起伏にとんだ地形があらわれた。
何年も放置されているらしく、丈の高い草が生い茂り、どこがフェアウエイなのかもすぐにはわからない。
(まずは、どこか物陰でカバンの中身を確認して、それから――殺し合い?)
暗示にかけようとするように、何度も繰り返された言葉――そして、首から血を吹き出して、動かなくなった長田の姿が思い出される。
まだ鼻の奥に残る血の匂いがよみがえる。
同期で、同じ歳で、同じ投手――お互い、怪我もあり、まだまだフルシーズン一軍定着とはならないが、信頼される投手になろうと切磋琢磨してきた仲だった。
(なんで――あんな風に殺されなければならない?)
悲しいのか、怒っているのか、やり場のない感情が涙を呼ぶ。
何もできなかったことが悔しいのだと気づき、涙は溢れ出した。
(泣いている場合じゃないのに……)
この気持ちを落ち着かせるためにも、当初の目的を果たそうと、物陰を求めて辺りを見回す。
(!?)
木々の間に白いものが見える。
目を凝らすと、確かに白いもの――間違いなくユニフォームの白が見える。
(どうしよう……。誰かいる)
鼓動が早まるのがわかる。
まだ向こうは小野寺に気づいてはいないようだ。
声を掛けるべきか?
逃げるか?
なんで仲間に近づくことをこんなにも、ためらうのだろう?
武器をもっているから?
俺を殺すかもしれないから?
自分の考えに、自己嫌悪を覚えて眉をしかめる。
泣いたりしているから、悪い方に考えが向かうのだろう。
涙を拭い、深呼吸を繰り返す。
悪い方に考えるにしても、自分の頭では大したことを思いつきはしない。不安になるだけ損というものだ。
(――男は度胸)
早まる鼓動をなだめながら、ゆっくりと近づいていく。
「おつかれ」
近づいてくる小野寺に気づいて、河原純一(背番号12)は軽く手をあげる。
気に背を預け、足を投げ出した河原の耳から細い紐が垂れ下がり、手の中に繋がっている。
「お疲れ様です。――って、なにしてるんですか?」
「馬――そろそろ最終レースなんだけどさ、携帯も駄目だし……」
言いながらイヤホンを外し、コードを巻き取る。
「やっぱ、電波、入らないな」
河原の前にしゃがみこみ、握りしめていた手ににじんだ汗をズボンにこすりつける。
あまりにも普段どおりの河原に一気に緊張の糸がゆるんだ。
投げ出された河原の足が目に入る。
「河原さん……、膝」
「ああ、リハビリ中」
河原は今シーズン最後の登板となった試合で、靭帯を傷めた。手術をするか、しないかの重傷だったときいていた。
「こんなんじゃ、動き回れないしさ。せめてレースの結果ぐらい知りたかったんだけどね」
苦笑を浮かべる。
(――まさか……死ぬ気なのかな?河原さん……)
黙り込んでしまった小野寺の方にカバンを差し出してきた。
「これ、やるよ。水とか食料はあっても困らないだろう?武器は――開けてみな」
言われるままにカバンを受け取り、開けてみる。
『超速!!15分マスター!!誰でもできる!!簡単!!催眠術!!』なる本が出てきた。
「…………これが、武器?」
「みたいだね。試す気にもならないだろ?そっちは?」
まだ開けてもいなかった小野寺のカバンを開けてみる――何の変哲もないフライパンが出てきた。
「これですかね?」
顔を見合わせ、つい笑ってしまう。殺し合いは本当のことなのだろうか?
不意に小野寺の背後から乾いた破裂音が起り、二人の頭上の枝がゆれ、数枚の葉が落ちてきた。
音が銃声で、二人に向かって発砲されたのだと理解できたのは、残響が完全に消えた頃だった。
慌てて身体を低くし、耳をすます。
二発目はなかなか起こらない。だが、発砲した何者かが成果を確認しに来るかもしれない――銃を持って。
次にとるべき行動に迷っていると、背を預けていた木に寄りかかるようにして河原が立ち上がり、音のした方へと歩き出そうとしていた。
「逃げろ」
――囮になろうとしている。
短く告げられる言葉に、河原の意図を悟り、小野寺は立ち上がった。
「駄目です!」
腕を伸ばし、河原の行く手をふさぐ。
「立ったら、危ないだろう?」
「河原さんこそ、危ないですよ!」
小野寺の腕をどけてまで行く気はないようだが、不思議そうな顔でじっと見つめられ、つい睨むように河原を見返してしまった。
たいした時間ではなかったが、沈黙に居心地が悪くなった頃。
「行っちゃったみたいだな」
言われて耳を澄ましてみる。少しずつ遠ざかっていく、落ち葉や草を踏む音が聞こえてきた。
やがて、完全に聞こえなくなったことがわかり、小野寺は大きく息を吐き出した。自分が知らずに、息を止めていたことに気づく。河原はまた元のように座り込もうとしていた。
「ここに、ずっといるつもりなんですか?」
「まあ、行くあてがあるわけじゃないしね」
「それは――俺もないですけど……。この辺は、禁止エリアってやつになるんでしょう?」
「そんな事も言ってたね。でも、まだ先の話だろ?」
「まだ先って――動かなかったら、同じじゃないですか!死んじゃうんですよ!」
抑えていたはずの声が、大きくなっていく。
「ユニフォームにフライパンって、おかしいな」
言われてみれば、小野寺はフライパンを握りしめたままだった。確かにおかしな姿だ。
「……とりあえず、ここにいるのはやめましょう」
冷静というか、どこかのんきな河原の態度が、少し羨ましい。だが、それは河原が先のことを諦めてしまっているがゆえのものに思えた。
フライパンを構えて言葉を続ける。
「これがあれば、大丈夫ですから」
苦笑を浮かべ、首を振る河原に畳み掛ける。
「催眠術よりはマシでしょう?――これで、ぶん殴ってでも連れて行きますよ」
「足手まといだろ?」
「担いででも、連れて行きます!」
小野寺自身も自分がムキになっていることが分かってはいたが、ここは引けなかった。
満足に歩けない河原を連れて、何が起こるかわからないこの場所で、自分に何が出来るというのか?――頼りになるものなど、ないに等しい。
それでも――悔しかった。
長田に、河原に、この状況に――何も出来ないままでいたくはない。自分でも何かが出来るはずだ。先刻の涙の名残が、鼻の奥をつまらせてくる。
「……一緒に行きましょう」
「……分かった。移動しよう」
地図を確認し、ここから最も近くで、民家が集まっているらしい場所――南を目指すことにした。
後になってこの時のことを「あれは泣き落としだった」と河原にぼやかれる事になる。
職人様方乙です!話が動いてきましたね〜
あとこれ、14番まで出発しちゃいましたけど、時間さかのぼって書いたらまずいですか?
期待sage
誤字発見。
>>60 誤)気に背を預け…
正)木に背を預け…
です。
すいませんでした。
>>63 大丈夫だと思います。
こちらもさかのぼる予定だったりします。
>63
大丈夫ですよ
私もさかのぼることはあると思いますし
バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
リアルタイム書き投下のデメリット
1.推敲ができない
⇒表現・構成・演出を練れない(読み手への責任)
⇒誤字・誤用をする可能性がかなり上がる(読み手への責任)
⇒上記による矛盾した内容や低質な作品の発生(他書き手への責任)
2.複数レスの場合時間がかかる
⇒その間に他の書き手が投下できない(他書き手への責任)
⇒投下に遭遇した場合待つ事によってだれたり盛り上がらない危険がある。(読み手への責任)
3.バックアップがない
⇒鯖障害・ミスなどで書いた分が消えたとき全てご破算(読み手・他書き手への責任)
4.上記のデメリットに気づいていない
⇒思いついたままに書き込みするのは、考える力が弱いと取られる事も。
文章を見直す(推敲)事は考える事につながる。過去の作品を読み込まず、自分が書ければ
それでいいという人はリレー小説には向かないということを理解して欲しい。
期待sage
期待sage
柴田・・・・・
泡様YGBRとは違うっぽくて面白そうw
9.
和田がふらふらと無防備に歩く後藤武敏を見つけたのは、平尾と別れて南側に向かってから5分ほど
経った後のことだった。
「タケ、こっちだ。」
和田はそんな後藤武の肩をつかんで振り向かせる。
「大丈夫か?」
「え、ええ。はい。」
生返事を返す後藤武を連れてまずは人目につかないよう隠れよう、そう考えてから、襲われることを前
提に行動している自分に内心舌打ちした。チームメイトなんだ、信じないと。
俺は大丈夫なんだろうか?大丈夫かと問われ、はいと返事はしたものの、大丈夫という言葉が後藤武の
脳内でぐるぐると回る。
大丈夫って、何が?
血の臭いがする。土井コーチと長田の血の臭いだ。未だに鼻腔にこびりついて離れない。長田と六大学
リーグで神宮球場で対戦したころが懐かしい。あのころ長田は慶応のエースだった。素直なフォームか
ら投げ込まれるノビのあるストレートが美しかった。何もかもが懐かしいのは流れた年月のせいだけで
はないだろう。
血は流された。
確かめないと。人が死ぬことは当たり前のことだと、この手で確かめないと。それが出来れば、初めて
大丈夫だと胸を張っていえるはずだ。
「和田さんごめんなさい!」
叫んでから、背負っていたバッグで殴りかかった。
「和田さんごめんなさい!」
そう後藤が叫ぶのを聞いて、そしてほぼ同時に頭部に衝撃ががつんと走る。たまらず和田は片膝を
つく。その背中に間髪いれずに後藤武の蹴りが入る。蹴りを喰らって地面に転がった和田に馬乗り
になって後藤武は殴りかかる。和田は反射的に両腕で頭を庇うが、その上にお構いなしにパンチ
が来る。ガードに阻まれ余りダメージを与えられていないことを見て取ったか、後藤武は大きく
右拳を振りかぶって和田の側頭部を狙ってパンチを放ったが、和田はその腕を捕まえた。
「や、めるんだ、ごと、う」
殴りかかろうとする後藤と、その腕を捕らえて離さない和田の力比べだ。
「はは、は、みんな、しぬ、んだ、」
後藤が笑っている。ぞっとして思わず力が緩む。その隙を逃さず、後藤は和田の腕を振り解き、
もう一度拳を振りかぶった。その後藤の背後に人影が見えた。
「あ。」
ゴンッ
金盥が後藤の頭に命中した。その鈍い音とともに後藤武が失神して崩れ落ちる。
「和田さん、大丈夫ですかあ?」
金盥をもって心配そうな顔をしているのは中島裕之(背番号3)だった。
「もうひどいんですよ。殺し合いをやれって言われて、精一杯エミネムの歌とか思い出してせっかく
凶暴な気分にしたっちゅーのに、出てきよった武器これっすよ?お笑いせえって言われてるとしか
思えませんよ。」
金盥を指差しながら中島は無邪気に笑う。
「タケは大丈夫なのか?」
失神している後藤武の体を横にどかせ、とりあえず横臥の姿勢を取らせる。
「平気平気、これくらいやったら死なしませんよ。じきに起きるんちゃいますかね?」
ぺちぺち後藤の頬を叩きながら、後藤さん起きてください、出番ですよ?ノーアウト満塁、代打後藤
ですよ、と後藤武の耳元で声を掛ける中島を見ながら、俺も気負いすぎていたのかな、と和田は思う。
「監督任せてください、きっちりサヨナラしてきます!」
叫んで飛び起きた後藤をみて中島が笑った。
「ほら、すぐ起きました。言ったとおりでしょ?和田さん。」
中島がいることに後藤武は怪訝な顔をして訊いた。
「あの、俺、何をしたんですか?おまけに頭は痛いし、すごい気持ち悪いんですけど…。」
「えーと、和田さんをどつきよったんですよね?」
中島があっさり答えると、後藤武はぎょっとして和田の顔をみる。和田は頷いて後頭部をさすり
ながら言った。
「このへん痛いなー。」
「和田さんごめんなさい!よく覚えてないんですけどごめんなさい!」
「謝らなくてもいいし、思い出さなくてもいい。でもタケ、もう人に暴力振るうなよ。こんなゲーム
に付き合うな、慣れるな。」
後藤武の手を強く握り目を見て話す。ようやく後藤武の目に生気と正気が戻り始める。そう、慣れて
はいけないんだ。もっと怒り嘆いていいんだ。
「とりあえず、ここ離れません?さっきごたついたから目立ちますし。」
そう言ってふと、中島は建物を振り返った。その目が怒りに燃えている。そうだ、土井正博コーチ
があんな死に方をして愛弟子だった彼が怒らない筈がないんだ。後藤武はようやくそれに気がついた。
皆怒り嘆いている、全てはこのゲームのせいだ。
「このゲーム、ぶっこわすぞ。」
和田が言った。
「ええですね、やりましょ。奴らの思惑通りにやるのも癪ですもんね。」
中島が怒りを心にしまい込み、答える。
「俺もやります。こんなの早く終わりにしましょう。」
後藤武も和田の言葉に頷いた。
「よし、南側に下りるぞ。集落があるようだから、そこで何か情報でも得られるといいんだがな。」
そう和田が言って3人は南へ向けて動き始めた。中島がもう一度建物を振り返る。土井コーチ、
俺はこのゲーム壊してみせます。だから見守ってください。言葉にすると何となく安っぽく
なりそうで、誓いは声に出さずに心に深く刻んだ。
「ところでナカジ。」
真剣な顔をしている中島を見て後藤武が声をかける。
「あ、はい。何でしょうか?」
「別に持ってていいんだけど、いつまで盥を持ってるのかなと。」
未だに右手に持ったままだった金盥に気がついて中島は赤面した。
リレーというものを良く知らないが、別の人が動かしている選手をいきなり使うのって、いいのか?
後藤武としなければいけないところが後藤になっている部分が多いので訂正します。
73
5行目 そう後藤が
11行目 殴りかかろうとする後藤
13行目 後藤が笑っている
同じく13行目 隙を逃さず、後藤は
14行目 拳をふりかぶった、その後藤
17行目 金盥が後藤の
74
2行目 ぺちぺち後藤の
5行目 叫んで飛び起きた後藤
失礼しました。
>76さん
自分としては大いに問題ありとは感じていなかったのですが、
スレ住民や他の職人さんが困るということでしたらこの稿は取り下げます。
乙です。ゴトタケ正気に戻ってよかった・・・
まだ出てきてないけど、西口だけはどうなるのか想像がつかないw
>>63 新しい職人さん?がんがれ
10.?????????
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10.ファーストチョイス(1)
「背番号7ー片岡、、カタオカ、、エキ、、エキユキ?」
黒岩代表のおぼつかない、それでいて傲岸な声に被せるように、
「ヤスユキです」
小さいながらもはっきりと良く通る声で片岡易之(背番号7)はそう答え、
立ち上がってカバンを自らひったくるようにして受け取った。そして、
「石毛さんなら、ヒロノリ。松井さんなら、、きっと読めなかったんでしょうね、黒岩代表は」
と揶揄してみたい衝動に駆られたが、リアリストの片岡は、状況を良く理解していた。
ミスターライオンズの系譜、そしてそれを受け継ぐべき序列の一番先頭に自分がいたことなど、
今このときこの場所で主張しても全く意味のないことだと、長田の死を見た後ではよく分かっていた。
(2)
死んだ長田は六大学で名を馳せた希望入団枠の選手なのだ。
一軍での実績もそれなりにある。そんな選手ですら、命が塵のように扱われる。
それがこのくそやくたいもない「現実」だ。受け入れるしかない。
ましてや自分はルーキーなのだ。いつ、黒岩の気紛れで首と胴体がバラバラになってもおかしくない。
そうであるならば、黒岩を下手に刺激しないほうがいい。土井コーチ、
そして長田の死を見て混乱する選手達の中で、片岡はそこまで静かに考えていた。
それでも部屋を出るときにはほんの少しだけ、肩をすくめてみせた。
それが片岡なりの、精一杯の抵抗だった。
(3)
片岡が(比較的)冷静でいられたのには理由がある。高校卒業後、東京ガスで3年間社会人野球の舞台に身を置いた片岡には、
「赤字経営で、しかも負け越すような球団を持っていても仕方がありません」
という黒岩の言葉に、ピンとくるものがあった。東京ガス時代の3年間に、数々の名門社会人野球チームが、
会社の経営上の理由で廃部になってきたのを片岡は見てきたのだ。
アマチュア野球界ではしきりに「野球の危機」が叫ばれていた。当然、プロ野球も無縁では無いと思っていた。
しかし、いざドラフトで指名されてプロ入りをしてみると、2004年の「球界再編」騒動が嘘のように、
当事者であるはずの選手、監督、コーチ、スタッフから危機感が感じられないのを片岡は感じていた。
「結局は、これまで通り12球団2リーグで安泰だよ」
そんな声が先輩やスタッフから聴こえてくる度に、片岡はインボイスSEIBUドームのガラガラの観客席を見ながら、
「おかしい。。そんなはずはない。。」
と自問自答をする。そんなプロ一年目だった。
(4)
「市場の論理に、プロ野球球団といえど抗えるはずがない。」
そう考えていた片岡にとっては、黒岩の提唱する
「球団を消滅させるためのゲーム」も、可能性としては受け入れられるものだった。あくまで、可能性としては、だが。
そうだといっても、チームの仲間同士で殺し合いをするなんて、ばかげている。
しかし、、実際に死者は出ているのだ、、これは間違いなく「現実」だ。
そう、ライオンズの守備がどうしようもなく球際に弱いくらいに、明白で、ウンザリする「現実」だ。。
だとすればどうする?どうするのだ?自分も死ぬのか?
それとも、、チームメイトを殺して、生き残るのか?
(5)
ぼんやりと下を向きながら、片岡はまとまらない考えを必死にまとめようとしながら歩いていた。
突然、潮の香りに気付いた片岡が目を上げると、そこには海が広がっていた。
「本当に、、ここは島なんだな。。」
一瞬呆然としたが、黒岩の言っていたことがまぎれもない「現実」だということを改めて思い知らされ、
と同時に、自分が見通しの良い砂浜に一人で棒立ちになっている危険に気付くや否や、
慌てて近くの茂みに潜り込んだ。
「なにやってんだ俺は。。ありえないポジショニングだったぞ、今のは。。」
そう自嘲気味に呟いた片岡は、黒岩の言葉をゆっくりと反芻しながら、あることに気が付いた。
(5)
「なんで、、なんで6人なんだ?
野球は9人で、いや、パ・リーグだったらDHを入れて10人でやるものだろう?
球団を消滅させるだけなら、全員を抹殺してしまえば、それでおしまい。簡単なことだ。
なんでこんなしちめんどくさい『ゲーム』とやらで、6人をふるいにかけるような真似をする?」
「もしかして、、生き残る6人っていうのは、もうあらかじめ決まってるんじゃないか?
ライオンズが消滅しても、きっとその6人だけは他の球団からも必要とされているんだ、、
そう考えればこのオフ大量に主力選手が流出したこととも辻褄が合う。
そして豊田さんは一足先に巨人に、森さんはアメリカに行ったってわけだ。
・・・あ、でも小関さんは?・・・
そうか!小関さんは選手会長だったから、俺たちより先にこの事実を知って
上手いこと逃亡したんだ。
うん、辻褄が合うぞ。」
(6)
片岡は、自分のその推理に基づき、自分自身がその「6人」
に含まれているかどうかを考えてみた。
「正直、ビミョーだよなぁー。」
そう一人ごちながら、支給されたバッグを開けると、
片岡はバッグの中に、乾パンやミネラルウォーター、島の地図と共に、
手のひらにすっぽり隠れるくらいのガラス瓶が収納されているのに気が付いた。
透明なガラス瓶の中には無色の粉末が入っており、そして瓶の外側には、
ドクロマークと共に、「青酸カリだよーん。取り扱いちゅ・う・い(はあと)」
と書かれたシールが貼ってあった。
「うわ、これまたビミョー。。」
(7)
はたして自分が選ばれた「6人」の一人なのかどうか、
確信がもてないまま、もし自分が他球団のオーナーだったら、
集められたメンバーの中で誰を必要とするだろうか、
片岡が努めて客観的に考えはじめた丁度その時、
片岡がつい先ほどまで無防備な姿を晒していた砂浜に、
ふらりと一人の人間が姿を現した。
(8)
もし、その男が「彼」でなかったのならば、片岡はそのまま茂みに身を潜めて、
その男の行動をつぶさに観察したであろう。
しかし、片岡は迷わずその男に声をかけていた。なぜなら、
(片岡の推理によれば)彼は間違いなく「あらかじめ決められている勝者」の1人であり、
「決められている勝者」の中では、最も他人に危害を加える可能性の少ない人間だった。
であれば、彼の側にいて、彼と行動を共にすることが、
このゲームを生き残る最善の方法だ。もし自分が「選ばれた6人」の1人でないとしても、
彼と共に行動して、最終的に生き残り6つの席に割って入ればいい。
そうだ。それがベスト・ソリューションだ。
「西口さん!!!!」
10.ファーストチョイス・了
89 :
79-88:2005/12/29(木) 05:54:26 ID:aanbIN/S0
長文失礼しました。なにしろ、初めて書き込んだもので、
改行が変で読みにくくてしかたがありませんね。。
あと、マカーなので、もしかしたら
>>79以外も
文字化けしてしまっているかもです。
読むに堪えないものだったら削除してくださいませ。
乙です。
ただ、名前を呼んでいる人は荒木コーチなんじゃないかな?
細かい事、スマソ
期待sage
期待sage
93 :
◆NRzjVMYad2 :2005/12/29(木) 21:46:06 ID:tYXxxVIfO
>>76 こちらもリレーは初めてなのですが、問題はないと思います。
乙です。
>>80-88の職人さんは次回からトリをつけた方がよいのでは?
でも職人さん増えてきたみたいでヨカタ・・・。
これからどうなるか楽しみです。
11.
高波文一(背番号0)は、ひたすらに道とも呼べない山道を登っていた。姿は見えないが、この道の100mほど先を行く平尾博嗣を追っていた。
『背番号0、高波文一』
最も背番号が若いという理由だけで、心の準備もないうちに名前を呼ばれ、最初に部屋を出ることになった高波は、スタート地点の建物の一室に通されていた。
(外に行くんじゃなかったのか?)
部屋の中にはここまで高波を連れてきた兵士達と、見知らぬスーツ姿の男。
「君にやってもらいたいことがあります」
(この人は誰なんだ?)
「平尾博嗣がこのゲームに生き残れるように協力してもらいたいのです」
イヤホンが繋がった小さな薄い箱――携帯ラジオのような物が手渡された。
「これでまずは、彼の位置を伝えます。合流してください。その後は、君達に近づく選手がいたら伝えますので、接触を避けてください。ま、逃げるのが最も安全でしょう。
悪い話ではないでしょう?君も安全に生き残れますよ?」
「なんで――」
言葉遣いは丁寧なようだが、有無を言わせない口調に圧倒される。やっとの思いで、疑問を差し挟もうとした高波の言葉は、あっさりと遮られた。
「君の家族の安全は保障しましょう」
「!」
「ただし、彼が死亡したり、君達が他の選手に接触したら、その限りではありません。協力していただけますね?」
うなずくことも、首を振ることも出来ずにいる高波を尻目に、スーツの男が傍らの兵士に合図を送る。兵士は高波が足元に置いていたカバンを取り上げ、ファスナーを開けた。中から出てきたのは一丁の拳銃。
「まあ、いいでしょう。さて、そろそろ彼が出発した頃ですね。一人でいてくれるといいですがね」
じっくりと考える時間も与えられないまま、高波は平尾を追わなければならなかった。
『10m先を右方向へ』
左耳に差し込んだイヤホンからのナビに従い進む。
平尾は休むことなく、この山――スタート地点の建物がある――を登り続けている。
(どこまで行く気なんだ?)
平尾を追い始めて1時間以上経っていた。
『彼が止まりました。山頂の物見櫓付近です』
歩調を速め、距離をつめる。さすがに息が上がっている。草木の間に白い人影が見えはじめた。こちらに向けられた背中には青い8。
草木を掻き分ける音に平尾が振り返る。
「――フミフミ?」
「……あ」
どう切り出せばいいのだろう?
ここにきて思い当たる。もしかしたら、平尾に殺される可能性もあるのだということに……。そして、自分に殺意がないことをわかってもらえるのだろうか?
高波は掛けるべき言葉を探して、いいよどむ。
「少しは警戒しないと駄目だろ?そんなガサガサと近づいて……」
平尾は両手を広げ、何も持っていないことを示してくる。
「できれば、そのまま引き返してよ。じゃなきゃ、俺の方が、どこかに行くから」
ね?というように首をかしげる。
「頼みがあるんだ。話をきいてくれ」
「一緒に行こうっていうのは、ナシね」
「……」
いつもの誰彼の区別なく、人にちょっかいを掛けている彼とは少し違うようだ。
なんと言えばいいのだろう?再び、言葉を探す。口の達者さでは到底かなわない。
「理由があるなら、聞くだけ聞くよ?」
何かを察してくれたのか、譲歩してくれるらしい。ほっとして話し始める。
「実は――」
「なんじゃ、そりゃ」
高波に事情を説明され、平尾は目を丸くする。
「何で、俺?」
「それは、俺もだよ」
ただでさえ奇妙な――それだけではすまないが――事態に、さらに奇妙な役割を振られた。
「わけわかんないだろ?」
「――でもさ、これって」
このふざけたゲームをどうにかできる鍵になるかもしれない。
「じっくり考えましょう?」
期待sage
乙!
ついでに平尾誕生日おめ
ほしゅ
期待sage
期待sage
103 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/01/01(日) 16:56:21 ID:pbEWaPzvO
ほしゅあげ
12.
ステージの上では荒木コーチが淡々と選手の名前を呼び出し、死地に送り出している。今
は背番号10番台の選手が一人また一人、扉の向こうへ送り出されている。10番台の選
手は全員投手だ。投手コーチである荒木大輔にとっては馴染みのある選手が多いはずだが、
その表情も、心の内も知ることはできない。
「おい、どうすんの?お前。」
小声で近くにいた佐藤友亮(背番号30)を石井義人(背番号32)がつついた。
「知るか。」
佐藤の答えはにべもない。石井がかなり苛立ったような表情をみせ、なんだよそれ、と言
ったが佐藤はそれを無視して立ち上がった。いきなり立ち上がった佐藤に兵士たちはアサ
ルトライフルの銃口を一斉に向けた。両手をあげて敵意がないことを示してながら言う。
「出発する前に、後輩を悼ませてもらえませんか?」
兵士たちの指揮官らしい兵士が荒木のほうを見る。少し考えた後、首を縦に振り承諾の意
を示した。行け、と銃口を振って兵士が合図する。
「ご配慮、いたみいります。」
慇懃に一礼してから長田の遺体に歩み寄る。遺体の周りには出発を待つ投手達が集まって
いる。皆、固い表情をしていた。
「大学の後輩でしたっけ。」
佐藤とは同じドラフトで指名された帆足和幸(背番号34)が、兵士を刺激しないようそ
っと話しかける。
「そう。寮では同室でね。いい加減な奴で、休みの日には門限ぎりぎりまで遊んでて、や
っと帰ってきたと思ったら、すみません先輩、部屋の掃除できませんでしたぁって。」
その光景がなんとなく目に浮かんで、帆足はひどく悲しくなった。その片方がこんな形で
喪われることなど、誰も予想してはいなかったから。
「でも、いい奴だったよ。」
少なくとも、こんな死に方をしなければいけないような人間ではなかった。むしろ今、ス
テージの上にいる奴らのほうがそのような無残な死にふさわしいだろう。お前らみんな死
ね、心の中で佐藤は呪う。
「仲良かったんですよ、長田と。」
帆足の声が掠れて震えている。涙をこらえているのだろう。
「すぐ人と仲良くなれる奴だったからね・・・」
もらい泣きしそうになり、佐藤は目を伏せてこらえる。
「神に愛される者は夭折する。」
今にも震えそうな声を抑えて、佐藤は後輩に捧げる祈りの言葉を呟く。そんな彼らの会話
を田崎昌弘(背番号35)は聞くともなしに聞いていた。彼の脳裏では何度も長田の首輪
が爆発するシーンが再生されていた。忘れてはいけない、どんなに忘れたくとも俺はそれ
を忘れてはいけない。その爆発と破片の飛散する速度および角度、それら全てこの首輪を
ほどく方法につながる手がかりになるかもしれないのだ。だからよく考えろ、よく考えれ
ばとける筈だ。
田崎は己の自信と自負の全てをかけて、この首輪をとく方法を頭の中で考え始めていた。
石井義は、そんなチームメイトの様子を冷めた目で見ていた。ある者は動揺から冷め、決
意を表すかのように前を見つめているし、ある者は未だ目の前の惨劇に動揺し怯えている。
さて、俺はどうしたものか。石井義は考える。早く家に帰るにはこのゲームを壊すのが早
いのか、逃げ回るのが早いのか、積極的に殺しに参加するのが早いのか。考えるが答えは
出ない。俺みたいな野球バカに野球以外のことをやらせるなよ。内心の不機嫌さを隠そう
ともせず石井義は顔を顰め、いけすかないぜと小さく吐き捨てた。
貝塚政秀(背番号39)は石井義が冷めた目でチームメイトを見渡し、不機嫌そうな顔を
したのに不安になった。彼が動揺していないのは彼の中でチームメイトを殺す決心がつい
たからなのではないのか?もしそうだとしたら…俺はどうする?説得するのか?それと
も・・・殺して生き延びるのか?そして、殺して生き延びるという選択肢が現実味を帯びた考
えとして浮かんだことに貝塚はぞっとした。
2006一発目キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
乙です。職人様方今年もよろしくお願いします
捕手
保守とかしてる奴馬鹿だろ、そんなすぐ落ちるわけないだろ
ダイオードと義人キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
☆ファソですが期待してます。
ほ
13.
傍から見れば携帯ゲーム機を夢中になって、覗き込んでいるように見えるだろう。
そこにはめ込まれた液晶画面に映し出されるものは、ゲームのフィールドと登場人物達――ただし、フィールドは黒い画面に素っ気無い白い線で、登場人物達も青い光点と白い数字のみで表現されている。
最近の子供達が手にするそれに比べれば、実にシンプルだ。操作も見たい部分を選び、拡大と縮小をすることのみ。登場人物を思いのままに動かす事も出来ない。
ゲームとは呼べない代物だろう。だが確かに「ゲーム」を映し出している――馬鹿馬鹿しいほど悪趣味で、残酷なまでにリアルなゲームを――。
一塊になった青い光点が画面の中央あり、そこから一つ、また一つと光点が離れていく。
一つの光点に向かって近づく光点が一つ、やがて重なり合う。つい、息を詰める。
しばらくして、二つの光点は共に動き出す。吐き出された息は安堵のものか、あるいは――。
見つめ続けていた小さな画面から離した目を窓に向ける。画面上の出来事は、この窓の外側で実際に起きている。
再び画面に視線を落とす。
フィールドを動いている光点は十数個。今、青い塊からまた一つ光点が離れようとしている。
この窓から見下ろせば、やがてその光点が人間である事を確かめられるだろう。
いつまでもここにいる訳にもいかない。
高木浩は窓を細く開き、外に向かってサイレンサーの取り付けられた銃身を突き出した。
眼下に現われたのは、見慣れた白いユニフォーム。その背中の1と7の間に狙いを定める。
振り向けば、いいのにな――。
薄汚れた案内板の前に立ち止まった――その瞬間を逃さず、引き金を絞る。
圧縮されたガスが噴き出す音と同時に、誰かに押されでもしたかのように山崎敏(背番号17)の身体が揺らぎ、押した相手を確かめようとするように、身体をひねろうとする。
反動を押さえ込み、立て続けに二発目、三発目をその背に送り込む。
山崎の両膝がひび割れたアスファルトに落ちるのを見届けると、高木浩は窓を閉め、部屋を出た。
すごく、苦しい……。死ぬのかな…?
走馬灯のように――よく聞く表現は自分にも当てはまるみたいだ……。まずいな……。
プロ初先発の宮崎サンマリンスタジアム。試合中にマウンドの上から客席を見渡した。宮崎まで自分のプロ初勝利を見るために来てくれた、客席にあるはずのよく知る顔を探した。実際に投げているのはこっちなのに、自分以上に緊張しているその顔に、思わず頬がゆるんだ……。
ルーキーなのに余裕があるって、度胸があるって言われた……。
大学四年の時のノーヒットノーラン。あの時も周りのほうが緊張していて、ちょっとだけ、可笑しかった……。
「山崎……」
それにしても野球の場面ばっかりなのって、なんだよ……。
野球が好きなんだ……当たり前だけど……プロになりたくて……本当になるぐらいに……。
小、中、高、大学――ずっと投手だった。マウンドの上こそが自分の居場所だと思う。
走馬灯って一瞬なんじゃないのかな……?結構、長い気がする……。
このチームは左の先発が足りないんだから、自分が投げないと――ああ、そうだチームはなくなるんだって……だから、死ななきゃならない……?いやだな……おかしいよ……。
「山崎っ!」
誰かが呼んでいる……。お迎え……?声、でかいよ……。ああ、返事しないと……。
建物を出た野田浩輔(背番号22)が、真っ先に目にすることになったのは、血溜まりに横たわる仲間の姿だった。ほんの数メートル先にある身体は、とても生きているようには見えない。
「……嘘だろ」
つい先程までそれが充満した部屋に押し込められ、すっかり麻痺していると思っていたのに、近づくほどに血の匂いが強くなるのがわかる。
白い部分のほうが少ないほど、赤く染まったユニフォームの背中に17の数字が読み取れた。
(山崎……)
すでに山崎の身体を浸すほどに流れ出してしまっているというのに、背番号に空いているいくつかの穴から、まだ、ぬめぬめと血が溢れ出ている。
(誰かに銃で撃たれたんだ)
その身体が少し捻れているのは、山崎を襲った苦悶の名残りなのか、それともきき腕が身体の下にならないようにする投手の習慣なのか。
「……山崎?」
無駄なことは百も承知で、呼びかけてみる。
土気色に変わっている山崎の瞼がわずかに動いたように見えた。動かしてしまうと、余計に血液が流れ出しそうで、恐る恐る肩に手を触れ、耳元でさっきよりも大きな声で名前を呼ぶ。何度も繰り返しているうちに、紫色の唇が動いた。
だが、それだけだった。
その後はいくら呼びかけても、なんの反応も返ってはこなかった。
「なんで……」
耐えられず、肩をゆさぶり、血が粘りついてくるのも構わずに、山崎を抱え起こそうと手を伸ばした。
「――野田?」
「!」
いつの間にか、野田の後に正津英志(背番号25)が立っていた。
「山崎――なのか?」
野田の横にしゃがみ込み、山崎の首元にそっと指を押し当て、首を横に振る。
「そんな……だって、さっき、動いて――」
分かってはいても、認めることは難しかった。受け入れてしまったら、そこで何かが終わる――それが恐かった。
「移動したほうがいい。山崎を殺した奴がまだ近くにいるかもしれない」
殺した奴――山崎は誰かに殺された。殺したのは……。
考えることを避けたくて、首を振った。
「山崎をここに置いていけません」
正津はほんの一瞬、痛みをやり過ごすような表情で野田を見ると、周囲にその目を移した。
「……そうだな。あの木の所にしようか――手伝うよ」
二人は山崎の遺体と三人分の荷物を運び、木の根元に横たえた山崎の身体に彼のダグアウトジャケットを掛け、手を合わせた。
山崎が穏やかな顔をしていることが、せめてもの救いだと思えた。
(ごめんな。こんな事しか出来ないよ)
先に動き出したのは正津だった。野田と山崎のカバンを野田の前に置いた。
「形見にすればいい。山崎の物というのとは、ちょっと違うが」
「……」
「どうして、これを持って行かなかったのかな?山崎を殺した奴は――」
なんのために?と思うのは無駄な事なのかもしれない。山崎を殺した相手は、野田より先に出発した選手の中にいる。ただそれだけが、受け入れなければならないことに思えた。
「それと、傷口を見て思ったんだが、背中を上の方から撃たれているな」
指を上から下へ斜めに動かしてみせる。
「こう、弾が抜けているように見えるんだ」
「上から……?」
山崎の倒れていた場所――あの辺りで高い所は、あの建物ぐらいだ。
「……選手じゃない?」
「可能性はあると思う。あそこから出た途端に死体があれば誰だって動揺する。殺し合いを煽り立てるために、撃たれたのかもしれない」
「そんなことのために……」
山崎だけではない、長田も、土井コーチも。彼らが死ななければならなかった理由なんてない。それでも、彼らは殺された。
ここにいる限り、殺し合いなど、してもしなくても、遅かれ早かれ殺されるのだろう。
「人の死に原因はあっても、理由なんてないよ」
「だから……だからって殺されていいんですかっ!よく、気がつきますよね。カバンだの、傷口だの……。仲間が殺されているんですよ!」
落ち着いた正津の言葉が癇に障った。八つ当たりだとわかってはいたが、自分の動揺や、目の前の現実を受け入れることを避けようとする気持ちが見透かされたように思えた。
悲しみよりも、怒りよりも、今やらなくてはいけない事を考えなくてはならない。そんなことは――。
「悪かった。確かに俺の方が付き合いは短いよ。だから、そういうことに目がいったのかもしれない」
落ち着けとも言わず、誤魔化すこともなく、野田の苛立ちを受け止めてくれた。それでも「すいませんでした」の一言がうまく出てこなかった。山崎の遺体を運んだ時についたのだろう。正津の肩や胸の血の痕を徒に見つめ、自分の手に残る乾いたそれにも目をやり、ただうつむく。
「いつまでもここにいる訳にもいかないな。五分したら移動しようか。――ちゃんと泣いたほうがいい。山崎とも、長田ともバッテリーだったんだろ?」
「……正津さんともです」
117 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/01/05(木) 11:24:00 ID:T6TAM+sg0
乙!
いよいよ始まったか・・・
山崎は自分の中ではマーダーだったのでちょっと意外
スマソ ageてしまった
江藤の中途参加は設定的に無理ですかね?
ほとんど交流のなかった江藤がどうなるか見ていたい気もするんだけど
江藤はいくらなんでも無理だろ、設定時期的に。
カプロワに出るみたいだからそっちに期待。
久々に来てみたら猫ロワスレがあって驚いた。
職人さんの文章にマターリ感が漂っているのがいかにも猫チームらしくて気にいった。
保守
期待sage
みなさん文章うまいなぁ
楽しみにしてます
一投稿ごとに泣いてしまう…
俺も涙脆いなあ
14.
ホテルの建つ山のさらに東側にも、ちょっとした谷を挟んで山がある。
ホテルを出た高木浩は、そこに向かう道のひとつを進んでいた。
以前はハイキングコースにでもなっていたのだろうか、所々に古ぼけた道案内の標識が立っている。それによると、この先には谷を渡るための吊り橋が掛けられているらしい。
(ちょうどいいんじゃないか?)
高木浩が追っている選手も、こちらとは違うコースを辿ってはいるが、このまま行けば同じ吊り橋に辿り着くだろう。彼が誰とも接触しないうちに会わなければならない。そして――。
(逃げ場、ないしな……?)
実際にどんな吊り橋なのか、あらかじめ見ておいた方がいいだろう。慣れない山道ではあるが、少し無理をすれば先に吊り橋に到着する事が出来そうだ。
シーズン後半に傷めた膝――まだ万全ではないが、大丈夫だろう。怪我とのつき合い方には慣れている。
今朝、バスに乗る前に和田と話したことを思い出す。嘘ばかりの会話。ついでに、この膝の事も嘘ならよかったのに……いや、逆か――。
自分自身の思考に、目を見張る。
(この期に及んで――)
掌から肘、肩、背中にまで残る痺れ――銃を撃った。その衝撃。意識しなければ感じられない程度になってきているそれが、疼く。
ようやく見えてきた吊り橋は、思っていたよりも大きなもので、長さも2、30メートルはあるだろうか?何本もの太いワイヤーで支えられている。
近づくと、文字の消えかけた「立入禁止」の札が進入を阻んでいた。それを取り去り、谷に向かって投げ捨てると、慎重に渡ってみる。所々踏み板が傷んでいるようだが、それほど危険は感じられない。渡り切り、反対側の札も取り去る。
少し進んだ先の茂みの陰で、モニタを覗く。
吊り橋に近づいている一つを除いて、周囲に青い光点が存在しないことを確認し、動き出すタイミングを計る。
「シュウ!」
吊り橋の中心で、許銘傑(背番号23)の足が止まり、滑らかな動きで手にしていたアサルトライフルが構えられる。
詳しく聞いたことはないが、二年間の軍役は伊達ではないらしい。
照準の先で、高木浩は驚いた表情で慌てて両手を挙げる。
「ヒロユキさん……」
許の口が自分の名前の形に小さく動いたのを見て、距離を詰める。
「会えてよかったよ」
「それ以上、近づかないで下さい」
普段ともマウンドの上とも全く違う空気を纏った許の声に、高木浩の――正確には黒岩の――予想は確信に変わる。
――許はこの「ゲーム」を知っている。
高木浩は吊り橋に一歩足をかけた所で止まる。
「シュウとチャンには、謝らなければならないと、思っていたんだ」
こちらに向けられた銃口は、微動だにしない。
「せっかく、手伝いをしてくれるって、来てくれたのに……。まさか、こんな事に巻き込んでしまうなんて……」
台湾出身の二人は、日本に居を構えていることもあり、外国人選手とはいえ他の日本人選手と変わりなく、キャンプにも参加するし、先日行われた「ファン感謝の集い」にも参加していた。
今回のイベント――選手達を集合させる口実にすぎなかったわけだが――にも、自分達から協力したいと申し出てくれたのだ。
断る事もできたが、つまらない横槍が入る事になっては困るし、結局は同じ事とそのままにしていた。
しかし、出発の直前になって黒岩が聞きつけてきた話――。
許と張の母国・台湾プロ野球の歴史――現在でこそ落ち着いた運営がなされるようになってきているとはいえ、1990年に発足して以来、球団、リーグの増減、そして八百長事件――数々の問題が起きてきたのだ。
そんな台湾プロ野球界でかつて行われたという「ゲーム」――チームメイト同士で殺し合い、生き残ったものが新チームで、野球を続けることができる。それはより強いチームを作るために、行われたのだという。
そしてそれには、チームメイト同士の殺し合い、爆発する首輪、閉ざされた場所――類似する部分があった。
許がライオンズでプレーするようになって、6年。張は4年が過ぎている。まさか、参加していた事はないであろうが、何かしらの形で知っている可能性がある。
それを確かめ、ゲームの進行に支障がでるようならば、それなりの処置を――それも高木浩に課せられた役割だった。
あの部屋での張の振る舞いを見る限り、知らない可能性は高い。だが、許は――。
「ヒロユキさんのせいでは、ありません」
「それ、下ろしてくれよ」
「こんなことをして、ごめんなさい。――僕はこのまま後ろに下がります。ヒロユキさんは、動かないで下さい」
普段の許は、もっと流暢に日本語を話せる。ことさら慎重に言葉を選んでいるようだ。
「ちょっと、待ってよ。……チャンにも会えるといいんだけど……心配だよな?」
「きっと、大丈夫です」
張の名前を出しても、固く張り詰めた口調は変わらない。
(さて、どうしたもんかな……)
背中のベルトに差し込んである拳銃を意識する。
許にもこうして会話をするぐらいの余裕はある。その余裕を油断に変えさせ、つけこむ隙を誘うことは出来るだろう。
「楽しくない?」――黒岩の言葉を思い出す。
生き残りの人数を偽ったり、小細工を考えたり――楽しいのだろう。ただ、楽しいのは黒岩だけだ。人数の事も、許と張の件にしても、現場はいつも後回しだ。振り回されて、楽しむ暇もありはしない。
今シーズンに限らず何度となく耳にしたライオンズの売却問題にしても、選手や首脳陣は取材にきた記者から話を聞き、慌てて球団幹部に確認をとる――その繰り返しだった。
ライオンズを消滅させようという事態になってもそれは変わらないらしい。
(こちらはこちらで、楽しませてもらっても構わないよな?)
台湾で行われたものと、現在行われているゲームでは違う部分も多いはずだ。
それに、許が単独で動くつもりでいるなら、大したことは出来ないだろう。そう、せいぜい湖に投げ込んだ小石の起こす波紋程度のゆらぎだ。だが、何かが起こるかもしれない――。期待、なんてものをしてみるのも悪くない。
「わかった。動かないでいるよ……。でも、会えて良かったよ。謝れないままでいるのは、いやだったから」
アサルトライフルを構えたままゆっくりと後退を続ける許に告げる。
「また、会えるといいな」
許の姿が吊り橋の向こう側に完全に見えなくなった。
挙げっぱなしだった両腕を回し、高木浩もまた吊り橋をあとにした。
支援sage
15.
涌井秀章(背番号16)が木立の間の白い人影に向かって発砲したのは、別に殺すつもりで撃っ
たものではなかった。
「ふうん、拳銃って結構射程距離短いんだねえ。」
手の中に玩具のように小さい拳銃がおさまっている。ハイスタンダード・デリンジャーという名
前は確認したが説明書きは読む気になれなかったのでそのままかばんの底に埋もれている。説明
書きを読むより使ってみればいいじゃない?そう思っての試し撃ちだったが、おかげでまともに
命中して致命傷を与えられそうなのは10m程度、1秒程度で詰められる距離ということがわか
った。おまけにこの銃は2発しか装填数がない。やるなら確実に仕留められる距離に近づかない
とダメだ。
「あーもう。拳銃でも人を殺すのって大変だよ、やだなあ。」
疲れたと言わんばかりに地面に大の字になって転がる。空は嫌味なほどに青く晴れわたり、雲が
のんびりと空を横切っている。流れる雲を大の字になったまましばし見つめ、大きくあくびをする。
「眠くなりそう。でも寝ちゃだめだろうなあ。」
独り言を言った端からまたもうひとつ大きなあくびをする。
「とりあえず誰か強そうで優しそうで頼もしそうな人の後ろに隠れておいて、後ろから撃つ機会
を待つのがいいね。」
そう言って起き上がる。涌井の頭には高校の先輩である松坂大輔(背番号18)と投手陣のリー
ダー格であるところの石井貴(背番号21)の名前が浮かんでいた。再び建物の方角に戻りなが
ら涌井は思う。あの人達なら強くて優しくて頼もしいように見えるかな?うん、多分大丈夫。2
人とも順番が近いし一緒に行動していてくれたら楽なんだけどなあ。
松坂が石井と合流したのは建物の南側だった。
「まさか、東尾さんから教わったイカサマのやり方がこんなところで役に立つとは思いませんで
した。」
「勝負事になると大人げない人だったよなあ。ともかく気付いてくれて助かったよ。」
麻雀におけるイカサマに共謀した相手と暗号をきめておいて、指定した牌を切らせるというもの
がある。この暗号が通じることを願って、松坂に石井貴は南の牌を待っていると言ったのだ。南
側で待って欲しいということだろうかと、その暗号を受けて松坂は自分の出てきた東側の出口か
ら南側に回り、3分ほど待ったところで南側から出てきた石井貴と合流したのだった。
「ところでどうするつもりなんですか?貴さん。」
「なんとかやめさせたいと思っているのさ。」
石井貴は言い切った。松坂は不安げに石井貴を見る。
「自分が生き残るために皆必死になっているだろう、この状況さ、どこで誰が殺されていてもお
かしくねえ。人はいつか死ぬ、それが早いか遅いかの差があるだけさってニヒリズムもここでは
正しいのかもしれないが、俺はそれでも、人がこんなやり方で殺されるのは許せない。俺はもう
少し、皆を信じてみようと思う。全員に防災無線か何か、何かあるだろう、それで呼びかけたい
わけよ。全員集まって皆無事に生き残る方法考えようぜって。」
石井の言葉に松坂は絶句する。
「無茶だ…」
松坂が言葉を絞り出す。松坂の動揺を見ても石井貴は動じず続ける。
「無茶は承知よ。だけど誰かがこのチームメイト全員を無条件に信じてやらないといかんだろう。
全員死にますよっていうならともかく、最悪6人は生き残れるんだろ?じゃあその6人を核とし
て、いつかはライオンズを再建することもできるだろう。それなら生き残れた奴に、このチーム
は本当にいいチームだったんだって思えるような行動のひとつでも残してやらないといかんだろ
う。それは俺の役目だよ、ダイスケ。まあ先輩の顔を立てて、恰好つけさせてくれよ。俺はそれ
で死ぬかもしれんが、そのときはすまんが後のことはよろしく頼む。」
石井貴の決意を見て取って松坂は引き止める言葉が思いつかない。
「どうしてもやるんですか?ひとりで?」
「ああ。」
この人を翻意させたいのだ、松坂は思う。この無茶な計画をやめさせたいのだ、だが引き止める
言葉が、この人の覚悟に負けて思いつかないのだ。石井貴に挑むように松坂は睨む。だが石井貴
は相変わらず動じる様子を見せない。それは死を覚悟した人間の決意だった。
「わかりました、お手伝いします。」
ついに松坂は折れた。折れるしかなかった。
「ありがとよ、ダイスケ。先に遺言だ。歯ァ食いしばって耐えれば光のさす明日は来る。止まな
い雨はないんだぜ、本当だよ。俺の34年間の人生がそうだったからさ。だからダイスケ、希望
を捨てるな。」
「わかりました。」
兄貴分として若いピッチャー達を引っ張っていた人だった。敬愛する先輩だった。死ぬ覚悟を見
て、ただ頷くしかできない自分が無性に悔しかった。松坂は唇を噛む。
「できればベンちゃん、オツ、ヒロさん、監督にも会いたいね。最後に少しばかり話がしたい。」
遺言を伝えたいのだろうと松坂は察した。
「会えるといいですね。」
「ああ。」
ほんの10数分前に、石井貴が会いたがっていた高木浩が建物の西側に出た山崎を撃ち殺したこ
となど彼らは知らない。
長い話をしているようだ、出て行くタイミングを見失ってじっと話を聞いてしまった。涌井は少
し考える。彼らはチームメイトを信じ、このゲームを壊すほうに賭けたらしい。その分の悪い賭
けにのるかそるか、それを見届けるのも悪くない。
じゃあそれまで君はおとなしくしていてね、涌井は口に出さずに心の中でダグアウトジャケット
の下に隠したデリンジャーに語りかける。上からそっと触れた鋼の固まりは静かにそこに収まっ
ていた。そして涌井は普段どおりに2人に話しかけた。
「松坂さん、貴さんも、よかったあー。」
2人はルーキーを見てひどくほっとした表情を浮かべた。
「涌井、無事で良かった。」
「お前ぼけっとしてるから大丈夫かと心配したんだぞ。」
「ん、平気です。」
眠そうな顔に心なしか笑いを浮かべて涌井は2人に答えた。胸にデリンジャーを隠して。
期待sage
職人さん乙です!
涌井がこんな風になるとは思っていなかったので今後の展開に期待。
いっぱいキテル━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
乙です!乙です!姉貴カッコヨス
おもしろいです!
16.
「山崎、嘘だろ…。」
建物の南側から出てきた岡本篤志(背番号28)、彼が西側のゴルフコース方向に向かったのに深
い意味はなかったのだが、結局それは虫の知らせのようなものだったのかもしれない。西側に向
かった岡本は木陰に隠すように安置されていた山崎の遺体を見つけ、その傍でただ呆然と膝をつ
いた。同い年、同じ年に入団、不動の一軍選手になるため、お互い頑張ろうと競いあい励ましあ
う仲だった、それが。
「どうして。」
放心状態のままぺたんと地面に座り込む。何故、何故こんなことになってしまったのか。山崎の
死に顔は安らかで、岡本の問いに今にも答えてくれそうにも見える。けれど、そこにあるのは鼓
動を止めたひとつの魂の抜け殻だった。
「答えてくれよぉ…」
山崎の遺体に縋って岡本は泣いた。
三井浩二(背番号29)が出たのは建物の西側にあたる出口だった。足取りはひどく重い。故郷
では雪が降る頃だというのに、ここはそんな世界とはまったく無縁だと言わんばかりの快晴だ。
ずっとライオンズというチームのファンだったのに。三井は恨みがましく建物を振り返る。ライ
オンズが好きで、ホークスのドラフト指名も蹴ってライオンズの指名を待っていたのに。それか
ら9年、ようやく指名され2002年、2003年と2年連続で二桁勝利も挙げ、ここ数年は不調
だったけれど来年こそは心機一転、さあもう一回信頼を取り返すぞ、そう思っていたのに。
三井の重い足取りが止まる。待っていた仕打ちがこれか、三井は肩を落とす。俺が好きだったラ
イオンズというチームはもうないんだな、三井はそう思って鞄を右肩に担ぎなおす。鞄の中の支
給武器は刃渡り15センチはあろうかというアーミーナイフだった。抜きやすいように左太もも
に巻いた鞘にそれは収まっている。左手でナイフの柄に触れ、その感触を確かめる。
もう俺の愛したライオンズがないのなら、もういいだろう好きにさせてくれよ。
今までの自分の思いをこんな形で否定され、その悔しさに三井の目頭が熱くなる。まぶたの裏に
妻子の顔が思い浮かぶ。俺は今から人間であることをやめようと思う。そうしたらお前達の元に
戻れるらしい。今から人を殺そうと思うこの俺、頼むから俺を必要としてください。頼むから、
俺を責めないで下さい。足を止め、左手で涙の滲む目元を押さえる。
喉の奥で嗚咽をひとしきり堪えた後、涙で腫れて充血した目を空けて前を見る。やや遠くにこち
らに背中を向けて木陰に座り込む人影が見えた。背番号28、岡本だ。
すまない、岡本。許してくれとは言わない、ただ俺は帰りたいんだ。詫びの言葉を思い、左手で
そっとナイフを抜き、順手に握る。足音を忍ばせて近づき、後数歩。
「おおおおああっ」
奇声をあげて体あたりするようにナイフを突き立てる。奇声に驚き振り返り、立ち上がりかけの
中腰の姿勢のまま固まった岡本の左肩にナイフが突き刺さり、突進する勢いで地面に叩きつけた。
「ぐあっ…ああああッ」
痛みに濁った悲鳴をあげ、左肩を押さえて岡本が地面に転がる。転がった岡本の心臓を狙って三
井はもう一度ナイフを振り上げ振り下ろす。だが狙いは逸れ、腹部を深く抉った。
「がはっ」
内臓を傷つけたのだろう、喉の奥からせりあがってきた血を吐いて岡本はうめいた。痛みに意識
が遠くなる。死にたくない、まだ死にたくないと思いながら見上げた三井の顔は、涙で歪んで見
えた。
「どうして、どうして俺は止めがさせないんだよぉ!」
三井は吠えた。殺すつもりでこんなことをしているのだ、それなのにどうして俺はこのナイフで
人を刺し殺すことをためらっているんだ?
三井がナイフを引き抜いた。傷口が広がり血がさらに吹き出る。悲鳴の替わりに血の固まりが岡
本の口から吐き出される。赤く血に塗れたナイフが三度振り上げられる。
「やめて…死にたくない…」
「俺も生きたいんだ、すまん!」
岡本のか細い命乞いを三井は聞いた。振り上げたナイフを振り下ろすのを一瞬ためらった後、叫
びでためらいを振り払う。もう一度、心臓を狙ってナイフをかかげる。
その時銃声が響いた。
石井義が南側の出口から出た後、何か考えがあって西に向かった訳ではない。今後の行動を決め
かねて、さあどうしようかと思い悩むうちに右方向に曲がっていただけだった。ここで彼がその
まま真っ直ぐ南に向かったか、あるいは左方向に曲がって東に向かっていれば、この後の運命も
大きく変わっていたのだろう。だが、彼は右に曲がった。
歩きながら鞄を開いて支給武器を確認する。拳銃のようだ。中吉と書いた紙にはワルサーP5と
書いてあり、撃ち方やらその他いろいろ書いてあった。図解されてある撃ち方だけ確認し紙は鞄
にしまう。そして、銃って意外と小さいものなんだな、と初めて玩具を与えられた子供のように、
与えられた銃を物珍しそうに眺めてから腰に吊るす。
さて、どうしようか。今後どうするのかまったく決めていなかったがここはやはり一番最初に出
会った人間の対応を見て考えるのがいいんじゃないだろうか。石井義はそう考えて西のほうへか
なり無警戒にずんずん進んでいく。そんな石井義の耳に風に乗って奇声が届く。誰かが戦ってい
るのだ、場所はそこまで遠くない、少しばかり急いでいくか。腰に下げたワルサーP5に触れて
から石井義は声の方角に走り出した。
「俺も生きたいんだ、すまん!」
血で赤く染まったナイフを振り上げ叫ぶ三井と、その下で息も絶え絶えの岡本を見つけたのは石
井義が走り出してから2分もしたころだろうか。
「ふうん、そういうことか。」
最初に会った人間は人を殺してでも生き残りたいと願う者だった。やっぱりそういう選択もある
よな、石井義は頷いて拳銃を構える。撃ち方通りに照準を三井の背中にあわせ、引き金を引く。
背中を向けている相手を撃つのは簡単だった。ぱあんと甲高い発射音がして、肩に撃った反動が
くる。照準よりやや右よりに着弾、誤差修正、やや左よりに照準を合わせ、もう一発。向こうで
白いユニフォームが倒れる。もう1人いるけど、さてそっちはどうしようか?そう思いながら石
井義はゆっくり近づいた。
銃声に三井の鼓膜が震え、振り返るより先に2射目が放たれる。同時に激痛が背中を抉った。俺
は撃たれたのか?誰に?今まで殺すしかないと躍起になって切り刻んでいた相手、岡本の上に倒
れ伏す。誰に撃たれた?必死に首だけ上を見ようとして、晴れた青空と、遠く緑の丘が三井の目
に映った。ああ、綺麗だ、そう思って目を閉じた。すすに汚れた新日鉄の黒い高炉、グラブに吸
い込まれる白球とミットにおさまるバシッという乾いた音、ナイスボールとキャッチャーの声、
北海道の軽い雪、冬の底冷えする寒さ、短い夏、そして妻子の心配そうな顔がまぶたの裏に浮か
んだ。俺は今、死につつある。帰りたい、三井は呟く。お前達のもとに帰りたくて俺は人殺しに
なり、そして誰かは分からないが人殺しに殺される。それでも俺は帰りたかったんだ、だから頼
むから俺を責めないでください。帰りたいんだ、三井はもう一度呟いた。
痛みと出血で朦朧としている岡本の意識を銃声が呼び起こした。と、同時に三井の手からナイフ
が滑り落ち、岡本の脇に転がった。そしてやや遅れて三井の体が岡本の上に倒れ伏した。
「み、つい、さん…?」
「…かえり…たい…」
銃弾は三井の骨を砕き、心臓を抉ったようだった。背中から大量の血を流しながら三井はうわご
とを呟く。帰りたい、もう一度呟いたように聞こえて、そして三井の体から力が抜けた。
三井さんは死んだんだな、岡本はぼんやりとした意識の中、自分にかかる体重の重さと自分のユ
ニフォームを濡らす温かい液体を通じてそれを知った。痛みと出血で意識ははっきりせず、視界
も随分暗くなっている。指先が冷え、血圧は下がり、血管はまるで冷水を流されているかのよう
に感じる。誰かがこちらに歩みよるのが見える。背番号…32?かなり薄暗くなった視界のなか、
背番号32の選手が拳銃を手にしたまま、自分と三井を覗き込むのを岡本は見た。
佐藤友が東側の出口を出たのは三井が西側の出口を出た1分後のことである。外に出て左右を見
回し、右手の、剪定を怠って見通しの悪い藪になっている植え込みと立ち木の陰にもぐりこみ、
寝転がって姿を隠す。隠れて荷物を確認する。中吉と書かれた紙とオートマチック・ピストルが
一丁。ワルサーP99。説明書を読みながら動作を一通り確認し覚えさせていく。やや複雑な造
りに難儀しながらも基本的な動作を数回繰り返したところで耳が異音を拾った。銃声か?行くべ
きか、行かざるべきか。
「ああもう、ちくしょー!」
短くいらだちを示して、藪の中から立ち上がる。危険とわかっていて危険に飛び込むなんてバカ
のやる事だと、そう分かっていても放っておけない自分のお人よしさ加減に苛々しながら銃声の
した西側に急ぐ。急いで行って、どれくらいで着く?確認済みの地図を脳裏に描きながら佐藤友
はおよそ5分、無警戒に急ぐことは出来ないことを考えるとあともう少しかかるか、そう推測す
る。間に合ってくれ、これ以上誰かが死ぬなんてうんざりだ。
アーミーナイフと食料と水を三井から奪い、石井義はそれを鞄にしまう。もはや虫の息の岡本の
鞄にも手を伸ばすが、鞄の重さを考えて諦める。ふと、苦しげに浅い呼吸を繰り返す岡本を見や
る。腹の傷はかなり深くおそらくこのまま失血死するだろう。岡本の、焦点を定めることも難し
くなりつつある目と目が合った。
「いたい…たすけて…」
「運が悪かったな、岡本。天国行って達者に暮らせよ。」
誰かと鉢合わせはしたくない、人が来る前に退散しよう。石井義は錆びかけた案内板を一瞥し、
このまま西へ向かい、どこかで一度休もうと考える。そして重くなった荷物を担ぎなおすと足早
にその場を去った。
5分以上かかって西側にまわりこんだ佐藤友は目の前の惨状に吐気を覚えた。そこには山崎と岡
本と三井の死体が3つ、折り重なるように倒れていたからだ。間に合わなかったか、後悔がぎり
ぎりと佐藤友の心を締め付ける。
「……けて…」
細い声を耳が捉える。まだ生きている、岡本か?
「おい、しっかりしろ。」
血の海に沈んでいる岡本を抱き起こす。抱き起こすと血がユニフォームを濡らした。腹からは
どくどくと弱弱しく脈動するように血が流れ出す。腹部の大動脈を傷付けたのだろう、これは
助かりそうも無い。無言で歯を食いしばった。
「…みんな生きたいのに、なんで、…死ななきゃ……」
「しゃべらないでいい。」
人に抱き起こされているのに気付いたのか、岡本が弱弱しく喋る。吐息まじりの疑問は佐藤友の
耳に途切れ途切れに届く。
「三井さんに刺され…三井さん…義人さん、撃たれ……みんなそうやって、死ぬのかな…」
「もういい、しゃべるな…」
苦しげに岡本は呟く。目はあらぬ方を向いている、もう何も見えていないのだろう。目を閉じる。
唇が小さく動く。母さん、そう呟いたようだった。そして呼吸が止まり全身から力が抜ける。そ
の一部始終を看取って佐藤友はさらにきつく歯がみした。やり切れなさに右拳で地面を叩くとガッ
と乾いた音がした。
岡本の体を地面に下ろし、胸の上で手を組ませる。そして、うつぶせの姿勢のまま、首だけ横を
向いている三井の遺体も仰向けにして手を組ませた。表情は苦しそうだった。山崎の遺体はすで
に整えられた形跡がある。もっと前に殺されたのだろう。
「―ちくしょう、こんな。」
義人が撃ったと言っていたことを思い出す。彼に会うことがあれば事情をもっと詳しく知ること
ができるだろうか?あまり気はすすまないが、会うことがあれば聞かねばなるまい。そして場合
によっては。決してそれほど重い銃ではないのに腰にさげたワルサーP99がやたら重く感じる。
いつまでもここに留まっていても仕方ない、佐藤友は立ち上がり3人の為に祈る。よくある言葉
だが天国で幸せに暮らしてください、そう言おうとしたのだ、しかし。
「天国なんてあるのかな。」
口をついたのは疑問符だった。
三井・゚・(ノД`)・゚・。。岡本・゚・(ノД`)・゚・。。安らかに眠れよ…
>「天国なんてあるのかな。」
某アニメの台詞が由来かな。
職人さんGJ!
期待sage
期待sage
17.
建物の南にある出口から外に出た帆足和幸(背番号34)は、まずは、建物を右手に回り、その先が行き止まりになっていたため、左手に回り、玄関ホールらしい出口を覗き込んだが、誰も出て来る様子はなかった。
さらに建物の北側に向かったが、その先が行き止まりになっていたため、引き返したところで、玄関ホールを出てきたばかりの山岸穣(背番号36)を見つけることが出来た。
帆足の前後に名前を呼ばれる佐藤友、石井義、田崎昌弘(背番号35)は年上なのだしきっと大丈夫だろう。
だが、山岸はまだルーキーだ。あの部屋にいる間も、ずっとうつむいていた。
外に出たら建物の周囲を探してなんとか合流しよう。そう、心に決めていた。何よりも、
――後輩のことを思いやる佐藤友の毅然とした態度。
――つい先日チームを離れた先輩投手の掛けてくれた「これからはお前が若い投手陣を引っ張っていくんだぞ」という言葉。
――そして、立花コーチからダグアウトジャケットを受け取った瞬間に外から聞こえた二度の銃声。思わず顔を見合わせた立花コーチが、奥歯を噛み締めたのが分かった。
そういったものが帆足の背中を押してくれた。
「すぐに会えてよかったぁ」
「帆足さん……俺のこと待ってたん、ですか……?」
駆け寄る帆足をぼんやりとした表情で迎える。
「そうだよ。かわいい後輩を置いていけないだろう?」
外に出るまで、ずっと緊張していたのだろう。青い顔をして今にも倒れそうに見えた。
「少し、休もうか?な?」
近くの伸び放題の植え込みの陰に連れて行こうと、肩に手を伸ばすと、びくっと、過剰なまでに肩を震わせた。帆足も驚いたが、山岸自身も驚いたらしく、慌てたよにうつむいた。
「もう、なんだよ。俺がお前のこと殺すとでも思ったの?」
つとめて明るく冗談めかして言いながら、山岸の顔を覗き込み、改めて肩に手を置く。今度は掴むことができた。
「ち、違います……。でも、俺……中にいる時も銃声みたいなの聞こえてくるし……」
一度は合わせた目が、逸らされていく。
「……殺し合い――始まってるんですよ……ね?」
「……あそこで少し休もう」
銃声が聞こえた直後、部屋に残る選手達の間に、ざわめきが広がったことを憶えている。「そんなことないよ」とは言えなかった。
座り込んでしばらくは、どちらも何も言わず、帆足は耳を澄ませてみた。
銃声は勿論、人が争いあうような荒々しい音など聞こえない。
ぐるりと見渡せば、ここは山の中らしい。色が変わり、風が吹くたびにその葉を落とす木々と、冬に向かって、その緑をくすませている木々が連なっている。
すでに半数の選手がここを動き回っているはずだ。後の建物では、残りの半数が、自分の名前を呼ばれるのを待っている。それでも、この場所では、生きているものの気配を感じられない気がした。
うつむいたまま上下する山岸の肩と、少し苦しそうな呼吸――それだけが生きていることに思えた。
(なんとかしたいよな……)
具体的な方法は、まだ分からない。それでも人のやることなら、人の手でどうにか出来るはずだ。あきらめなければ――。
もう一度、つい先日チームを離れた先輩投手のことを思い出してみる。いつも言葉だけではなく、その姿勢でも投手陣を引っ張ってくれた。二人のことも可愛がってくれた。あの人ならどうしただろう?いや、こんなことに巻き込まれなくて良かったよな……。
つい、物思いに耽っていた帆足の耳に、山岸の声が届いた。
「お、長田さんも死んでいるし……。みんな死んじゃうんでしょう……?殺し合って……?」
「落ち着けって」
「なんで、そんな、平気そうなんです……?……こんなの、いやです。……6人とか……無理……俺も……死んじゃうんですか……?」
俯いた帽子の陰から流れてくる、泣いているようにも、笑っているようにも聴こえる声が止まらない。
「どうすればいいんです……?……こんなの、いやだ。いや……」
山岸の胸倉を掴み、低い声で告げる。
「――だったら、今のうちに俺が殺してやろうか?」
「エッ――?!」
弾かれたように顔が上がり、涙を滲ませた目が帆足を見つめる。帆足の吊り上っていた目元が緩んだ。
「深呼吸してみな。落ち着くから」
瞬きを繰り返す山岸の腕を取って、上下させる。
「ほら、吸ってぇ、吐いてぇ」
大げさに表情を作って促すと、山岸は神妙な顔で深呼吸をはじめた。
腕から手を離し、笑いかける。
「びっくりした?ごめんな。でも、落ち着いたろう?」
「……ハイ……ありがとうございました」
声はまだ弱々しかったが、少し笑ったようだった。
「そうだ。荷物みてみようか?水、入ってるらしいし」
「ハイ」
頷いてカバンの口を開けた山岸の顔が、強張った。
「帆足さん……」
山岸の手には、「当たり!」と書かれた紙切れと、拳銃――紙の裏に書かれた説明によるとコルトガバメントという名前らしい。
つい、眉間に皺が寄る。多少落ち着こうとも、現実とやらは待ったなしだ。
「俺のは――」
サラシが巻かれた出刃包丁――は、横に置いて水を探す。
「ああっ!これって、ひどくないか?」
確かに水の入ったペットボトルが二本あったのだが、その水は『ライオンズミネラルウオーター・越後の名水』だった。
山岸も水を手に取り、顔をしかめた。
「でも、何にも書いてないよりマシな気がしませんか?」
「……そうかなぁ?」
二人は水を飲み、一息つくと、お互いの武器とやらを手に取った。
南側にある出口から外に出た宮崎一彰(背番号43)は、周囲にひと気がない事を確認すると、さっそくカバンを開けてみた。
「当たり!」の紙の下に現われたのはサブマシンガンとその弾薬。紙の裏の説明だと、ウージーという名前らしい。
「おお、すげぇ」
物騒なものだとは分かっていても、つい好奇心が先にたつ。
手に取り、図解入りの馬鹿丁寧な説明にしたがって装填してみる――。
「こうしてっと……あとは――『グリップの後の安全装置ごと、しっかりと握り、引き金を引きます』か……へぇ、安全装置ってこんななんだ……」
故意にそこを省いた説明のままに、もうひとつの安全装置をすでに外してしまっているのだが、宮崎にはそこまでは分からない。
ものの1、2分でそれは鉄の塊から武器に変わった。
ちょっと、構えてみる。確かにずっしりとしているが、扱いきれないことはなさそうだ。
この瞬間まで、宮崎はこれからどうするべきかを考えてはいなかった。
正確には考えないようにしていた。支給されるという武器。それを見てから自分のやるべきことを決めようと思っていた。
武器というからには、銃や刃物だとは思うが、それにしたって色々な物があるだろう。
(あんまり、しょぼいヤツだったら何にも出来ない。けど、これなら……)
とりあえず、自分の身は守れるだろう。と、なれば――。
(逃げ回って、最後の6人になってみせる)
同じ逃げ回るにしても、心のゆとりが違う。びくびくとせずに落ち着いて行動できれば、生存の確率も上がる。
まだ半数以上の選手が建物の中だ。首輪が爆発する禁止エリアとやらもまだない。今のうちに出来るだけ距離を稼ぐべきだろう。
「よし」
歩き始めようとした宮崎の耳に、微かに人の声が届いた。
声のした方――左手に見える建物の角の向こう側だ。多分……。
角まで進み、そっと覗いて見る。
玄関らしい造りの出入り口が見え、その近くの藪に誰かがいるようだ。目を凝らせば、誰かまでは分からないが、二人いるように見えた。
耳を澄ますと二人の話し声が切れ切れに、耳に届く。
――死んじゃう……。
――いや……。
――殺してやろうか……。
「!」
心臓が跳ね上がった。よく見ると二人は掴み合っているようだ。
(どうしよう……?)
止めにはいるべきなのだろう。だが、あの二人も武器を持っているのだ。下手に割って入るような真似は、こちらにとっても命取りにつながる。
反対側に進んでみるが、行き止まりだった。林を突っ切ることも出来そうだが、敷き詰められた落ち葉で、足音が立つだろう。
足には自信がある。だが、もし、あの二人が協力して追いかけてきたら――。
「よし」
小さく呟き、ウージーを引き寄せる。
(出来るだけこっそりと、充分に距離を取って、二人の様子を見ながら、向こうの道まで行こう。もしかしたら、ただの喧嘩かもしれないし……。本当の本当にヤバそうだったら……。その時はその時だ)
腰をかがめ、そろそろと進み始める。見れば、二人はもう掴み合いをやめていた。
(やっぱり、なんでもなかったんだ)
ほっと胸をなでおろした山崎ではあったが、次の瞬間、二人の手に何かが握られた――ギラリと光を反射したのは……?あの形は……?
「やめろっ!」
気が付いたときには、ウージーを構え、二人に向かって走り出していた。
そして、次の瞬間、激しく後悔した。
一人の持つ銃。その銃口がこちらに向けられたのだ。
「やめろっ!」
突然、聴こえてきた大声に、帆足は手にしていた出刃包丁を取り落としそうになった。
「えっ?なっ……宮さん?」
走り寄ってくる小柄な身体。抱えている黒っぽいあれはなんだろう?
山岸もコルトガバメントを手にしたまま、山崎の方を向いた。
乾いた音が、連なり、弾けた。
音を音と認識する前に、頭をぶん殴られたような衝撃が襲ってきた。反射的に頭を抱え、身体を丸めたが、ぶつかってきた何かに地面に叩きつけられる。
「うわああああぁぁっっ!」
遠のきかけた意識が、誰かの絶叫で引き戻された。走って遠ざかる足音が背中越しの地面から伝わる。
ぐらぐらと揺れる視界が最初に捉えたものは、赤。
自分の頭から流れた血が目に入ったためだ。そう気づくと同時に、全身の感覚が戻ってきた。何かが身体の上に乗っている。
帆足の身体の上にあるもの――首元から胸にかけてが、真っ赤に染まった山岸の身体。
赤い視界の中にあっても、それが赤いと分かるのが不思議だった。
「おい……」
自分自身の声がひどく遠い。
山岸の身体を支えながら、その下から自分の身体を引き抜く。動かされた弾みで、山岸の首が大きく傾く。銀色の首輪の少し下に空いた穴から止めどなく流れ出る血液。
押さえて、止血を……そんな言葉が頭の片隅に浮かんだ。残りの全てが、手遅れだと叫んでいた。それでも山岸の首元に手を伸ばし、傷口を押さえた。
水滴が地面を叩く音に首を傾げる。雨なんて降ってないのに……?
帆足の指を伝う山岸の血が、帆足の顎を伝う血が、それを押し流すように流れるものが、滴り、地面を叩いていた。
出血のせいだろうか?その音も遠くなってきた。
「これは、一体……」
微かに聞こえてきた人の声に、顔を上げる。
暗くなり始めた視界が、ハリセンを手にしたG・G・佐藤(背番号46、本名・佐藤隆彦、以下G・G・)の姿を捉えた。その直後、帆足の意識は闇に飲まれた。
おぉ新作が!
いつも楽しみにしてます
帆足…山岸…成仏してくれよ
ハリセン持ったGG…気になるぅ〜
帆足死ぬのは早すぎだろ
帆足、死んでないと思えたが・・・?
どうだろ?
どっちにしろ早く読みたい
ミヤさんはウージーか〜。
ジェノサイダーになるのかな
なんだかどんどん死んでいくわあ〜
R.I.P
義人はやはりワルサーかwww
遅レス、すいません。
17、は続きます。ご迷惑おかけします。
>162
いつも乙です。
ところでいくつかお伺いしてよろしいでしょうか。
地図なんですが、大体の配置として
東に山、吊り橋でつながっている。
中央がやや小高い丘になっていて丘の中腹にホテル。
北側は崖。西側もしくは東側から回りこまないと下には降りられない。
西側はゴルフ場
南側に集落
それから10話で砂浜が出てきているのですが、
南側に置いてしまっても問題ないでしょうか?
時間が現在、競馬の最終レース頃ってことなんで4時〜5時頃くらいですか?
以上です。
こちら初挑戦ゆえ、ご迷惑おかけする段もあるかと思いますが今後ともよろしくお願いします。
>>163 地図の配置はそれで大丈夫だと思います。
ホテルのある山と、その東にある山は、同じくらいの大きさになります。
南の集落はホテルのある山と、東側の山の麓にあるイメージです。
時間帯も17、の時点で4〜5時で大丈夫です。
こちらも初めての事な為、色々とご迷惑おかけすると思います。
よろしくお願いします。
職人様方いつも乙です。楽しく読ませていただいてます。
思いのほか選手の死ぬペースが速く、驚いてもいますがw
よろしければ次回から【○○死亡 残り○名】 みたいなことを
書いていただきたいのですが・・・。
とりあえず死んだのは
17山崎、19長田、28岡本、29三井、36山岸
5人かな?
土井さんは参加した訳じゃないから入らないの?
猫ロワは保管庫ってありますか?
18.
星野智樹(背番号26)は困っている。目の前には緑をくすませ冬支度を始めている山が見える。
「なんだかなあ。」
ため息。
プリンスホテルからドラフトされた左腕です、球は速いけどノーコンです、マウンド度胸なんてありません、
打者15人に対して被安打9、与四球2なんて惨憺たる成績を残した年もありました、そろそろ首がさむく
なってきた去年、腕を下げてサイドスローにしてみました、そしたらそれが大当たり、なくてはならない
ワンポイント左腕になりました、ようやく結婚もしました、今年も左打者は確実に抑えようと思いましたし、
実際押さえました、チームは負け越しましたがそれでもなんとかAクラスを確保、結果は2タテでしたが
プレーオフにも出ました、あと1ヶ月で待望の第一子も生まれます、それなのにさあ。
「ちょっとこいつはひどいんじゃないんですかい?って誰だ!」
左前方の藪がゴソゴソと動き、反射的に星野は左手の銃を向ける。
「うわあああ、見てません何も見てませんだから撃たないで家には腹を空かせた妻と子供がっ」
「なんだ大沼か、こんなところで何やっとるの?」
藪の中で頭を抱え、震えているのは大沼幸二(背番号15)だった。
「星野さん?うわああん、良かった、星野さん助けてくださああい。」
相手が星野と気付くと、大沼は恐怖と緊張に固まった表情を緩ませて星野に泣きついた。
「ちょっと待て、何がなんだかわからんぞ、落ち着いて説明してくれ。」
「あ、はい実はこんなことがありまして。」
そして大沼は数十分ほど前、彼が見たその一部始終を話し始めた。
大沼は困っている。目の前には青すぎるほどに青い空が広がっている。
「りりちゃん、パパは早く家に帰りたいです。」
それは確かに本心だが声に出せばよけいに情けなさが増す。
出口を出てから恐怖に背中を追われるように走って、やや小高く土が盛ってあるその頂の陰に隠
れて息を整えて、ようやく鞄の中身を確認する。
「微妙な武器が当たりました、おめでとう。使い方は簡単、人に向けて投げるだけ!」
紙に書いてある言葉を読み上げる。火炎瓶が5個だ。ピッチャーである自分に投擲武器が来たこ
とは当たりと言えるのかもしれないが使い切ればそれまでだし、それに何よりこの状況で投げて、
果たして狙い通り投げられるのか。間違って自分の足元に投げつけてしまったら…自分が火達磨
になる格好を想像してぶるぶると震える。大沼炎上、これじゃあまるでスポーツ紙の見出しじゃ
ないか。
「りりちゃん、パパまた頑張ってます。でも帰れなかったらごめんね。」
隠れていた盛り土の頂の陰からやや身を乗り出して、恨めしげに建物のほうを眺める。ああ、な
んでこんなところに連れてこられて、こんな目にあわなきゃならないんだ。その時目線の先、建
物の窓辺で何かが光る。あれ、と思い見回すと下のほうで誰かが倒れるのが見える。ええ?と思
いもう一度建物のほうを見る。さっき光るものが見えた窓からライオンズブルーの背中が離れて
いくのが見えた。背番号は見えないが一桁台のようだ。
「だ、だれだよ…あれ。」
裏切り者がいるのか、それとも混乱させようとして選手を装った殺し屋なのか。
「それで、怖くなって夢中で反対側に走ってきたんです。だって、目撃者は消せって殺し屋が迫
ってきたらって思うと。」
がくがくぶるぶると震える。本気で怯えているようだ。ぽんっと大沼の両肩を叩き、右手の親指
を立てて星野はにやりと笑う。
「大沼、悪いが俺も助けてやれる自信はないんだ。なにせ武器がこれだからな。東京マルイ社製、
AK47のトイガンだ。引き金引いてもでてくるのはプラスチック弾だぜウェーハハハ、ほんと
こいつあ地獄だぜえええ。」
自棄くそ気味にイィヤッフォオォォォウと叫び右拳を突き上げ、藪の中から勢いよく立ち上がる。
ひっ、と大沼が喉の奥で呻き、あわてて星野の口をおさえ、しゃがませる。
「せ、先輩落ち着いてください、頼むから騒がないでー!」
大沼自身は知らないことだが、彼は幸運なほうだった。山崎が撃たれるのを見てすぐにその場を
離れたためその後の惨劇を見ずに済んだし、東側に逃げたその後、薮の中で隠れて動かなかった
から許に会おうとしている高木浩の注意をひかずに済んだ。もし動きがあれば、自分の行動を悟
られないために高木浩は大沼を撃つしかなかっただろう。
そんな和やかな空気を引き裂くように、微かな銃声が2人の耳朶をうった。ぱらららという連続
音はマシンガンによるものか。大沼と星野はお互いに青ざめた顔を見合わせる。
「星野さん、出発したの何分くらい前ですか?」
「えーと、15分くらい前かな?」
「じゃあ今、30番台の選手が出発しているくらいの時間ですね。」
不安げに建物がある方向を見つめる。木々に遮られ建物はもうここからは窺えない。
「帆足、無事でいるかな。」
同い年の同僚を心配して大沼が不安そうに眉をよせた。
>164
回答ありがとうございます。よろしくお願いします。
>165
了解しました。
>166
自分の書いた物で死亡確定なのは、28岡本と29三井です。
17山崎と19長田も確定でよいと思います。
沼者wwww炎上で吹いたw
沼者ワロスw
星者&沼者w
流石俺達wwwwww
ハリセン持ったGGはまだですか?w
>>168 今作ってみようかと思ってるノシ
他にやるという方がいなければやりますが如何でしょう?
>>177 自分も作ろうかと思って、作ってる人がいるかどうか聞こうと思ってた所だったのでよろしくお願いします。
保管庫大変だと思いますが、がんがって下さい!
俺達wwwwwww
火炎瓶に『まったくここは戦場だぜー!』に腹をすかせたってwwwwwwwwwww
お前らそろいも揃ってテラバロスwwwwwww
ほしゅしてときますね。
181 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/01/15(日) 14:56:36 ID:DAqQL718O
江藤どう使うのかな?
182 :
代打名無し@実況は実況版で:2006/01/15(日) 14:57:50 ID:utcuiS9M0
2軍の4番!
19.
二人の兵士に導かれ、玄関ホールから外に送り出されようとしていた松川誉弘(背番号48)は、決死の形相で迫ってくるハリセンを握った大男と鉢合わせる羽目になった。
「なっ、なっ、な……」
大男の正体をG・G・と認識し、何の用かと訊ねようとしたが、口がうまく回らない。あたふたとしているうちに、肩を叩かれた。
「頼む。あっちをみててくれ」
「へっ?」
G・G・が指差した先の藪の陰には、誰かが横になっているようだ。
「あの……」
事情を聞こうとしたが、すでにG・G・は松川についてきた兵士達に、プロ野球選手である事を加味しても、人並み以上に分厚い胸板と、太い腕と、ハリセンを誇示しながら詰め寄っていた。
「あっ、そこのヘータイさん!すいません!ケガ人なんです!」
兵士達は覆面をしているため、その表情は窺い知れないが、あきらかにうろたえ、後退していく。
「縫合用の針と糸と、滅菌ガーゼと、ハサミ、消毒薬、包帯、化膿止め、鎮痛剤……とにかく、そういうヤツ下さい!えっ、救急箱?そうとも言いますよね?ああ、いいんですよ!どこにあります?俺、自分で取りにいきますから!」
大声で矢継ぎ早に捲くし立てながらG・G・は、どんどんと奥に入っていく。
騒ぎに気付いて、人が増えてきたようだ。黒岩の怒鳴り声も混じり始めた。
「何やってんだ!」
「えへ、きちゃった!ああ、それも下さい!冷やすものもあるといいな!あと、できればプロ――」
G・G・の姿が見えなくなり、喧騒が遠くなって、松川は我に返った。
(なんなんや?)
訳が分からないままに指差された藪に向かった松川が目にしたのは、散らばった帽子、カバン、出刃包丁、拳銃と、血塗れで横たわるの二人の選手だった。
「帆足さん……?」
カバンを枕に、頭をタオルとサラシでぐるぐる巻きにしている。どうやら気を失っているらしい。その隣は――。
「みのさん……?」
帆足以上に血の気の失せた顔色をした年上の後輩――首の傷を見るまでも無く、すでに山岸は、松川の呼びかけに永遠に答えられないのだと分かった。
ここで一体何があったのだろう?
あの部屋にいる間に、何度か銃声が聞こえてきた。殺し合いはすでに始まっている。
これはその結果なのか?自分もいずれこうなるのか?それとも誰かを――。
問い掛けに答えてくれる人のいない状況が、抑え付けておいたはずの恐怖を呼び起こす。恐怖は混乱を呼び、走ってこの場を逃げ出したくなる。
(……あかん。ケガ人、頼まれたんやから)
その思いが松川をこの場に止まらせる。奥歯を噛み締め、力を入れた。
G・G・は、どうしたのだろう?
(ハリセンって……)
ハリセンの出す小気味良い音を思い浮かべてみる。少しだけ恐怖に克てる気がした。
やがて、大量の医薬品らしき物を抱えたG・G・が、黒岩と数人の兵士に追い立てられながら建物を出てきた。
「なんなんだよ!お前は!それ、置いていけ!」
「いやです。もう貰っちゃった」
「……もう、いいから早く行けよ!」
「ケガ人がいるって、言っているじゃないですか。手当てが終わってからでも、いいですよね?」
「駄目だ!」
「……ケチ」
G・G・本人は小声で呟いたつもりらしいが、その場にいる全員の耳に届いた。
すでに真っ赤だった黒岩の顔が、さらに赤くなった。
その時、黒岩達の後ろから一人の選手が出てきた。
「あっ、後藤さん!お疲れ様です!」
G・G・がハリセンを振るその先では、後藤光貴(背番号50)がきょとんとした顔で手を振り返していた。どうやら、出発しようとしているようだ。
「ええいっ!今、こっちから出るな!反対側に行け!」
黒岩に怒鳴られ、兵士達に回れ右をさせられ、後藤光は連れて行かれてしまった。
(なんか……気の毒やな……)
後藤光の背中を見送っていると、黒岩と目が合った。
松川の隣で、この騒ぎで意識を回復したらしい帆足が、ふらつきながらも身体を起こした。
「何人いるんだよ!お前ら、さっさとここから離れないと、首輪を爆発させるぞ!」
そろそろ黒岩の限界が近いらしい。顔色がどす黒くなってきた。
「しょうがないな。行こうか」
荷物をまとめ、G・G・は山岸の遺体と全員分のカバンを担いだ。
「そっち、支えてあげて」
松川は帆足に肩を貸して歩き始めた。
G・G・は黒岩に向かって、笑顔で手を振る。
「じゃあ、いってきます」
「ハイ、イッテラッシャイ」
黒岩は野良猫を追い払うような手つきで、見送ってくれた。
「ここにしようか?」
建物が見えなくなるまで、東に山道を移動すると、G・G・が木の根元に山岸の遺体をそっと横たえた。
「頼んでもいいかな?」
頷き、松川は山岸の遺体を整え、その顔を見つめた。
こんなにも無表情な山岸の顔は見たことが無かった。
寮で、ファームのブルペンで、練習場で――よく笑っていた。
年下の自分に「みのさん」と呼ばれても、笑っているような人だった。
(もう、そんな事もないんだ……)
どうしようもない喪失感が襲ってくる。
これ以上この場にいると、泣いてしまいそうだった。だがそれを山岸は望んでいないように思え、一度、大きく頭を振ってから、松川は少し離れた場所で治療をしている二人のもとに向かった。
ちょうど治療が終わったところだったらしく、頭部に包帯を巻いた帆足にG・G・が、水、菓子パンと共にいくつかの薬を渡していた。
「血がたくさん出た時には、こういうのがいいらしいから。あと、これも飲んで」
ひとつ頷いてそれらを受け取った帆足は、山岸の元に向かって行った。
「パンなんて、どうしたんです?」
「黒岩さんの所にあったんだ――いる?」
差し出されたのは、『メープルチョコチップクリームメロンパン』なる代物だった。
「……やめときます」
「そう?」
菓子パンを引っ込め、散らばった血の着いた布や針を片付け始めた。
「縫ったんですか?」
「うん。ここんとこに、これぐらい、パックリといっていたからね」
右側頭部に10cmほどの裂傷があったと、身振りし、出血と弾が掠めた時の衝撃で脳震盪を起こして倒れたのだろうと付け加えた。
「そんなん、よう出来ますね?」
「貰ってきたこれを見ながら、なんとかね」
『ザ・応急処置(定価105円・本体100円)』なる薄い本を差し出すその手が、震え始め、本は地面に落とされた。
「ああああぁぁ、恐かったあぁぁ!」
「へっ?」
いきなり大声を出すと、両手で顔を覆い、G・G・はその場にひっくり返ってしまった。
「ほら、手が震えてきた……あ、膝も笑うぞ……まずい、腰抜けたかも?」
驚く松川をよそに、G・G・は勝手にしゃべり続ける。
「ハリセンだよ?ハリセン……ありえないよなぁぁ。あっちは銃だよ?一撃だよ?……俺、血なんて、もう、絶対にダメ……頭、縫うなんて、ありえない――」
ひとしきり、ぶつぶつと呟き、ようやく顔から離した震える両手を見つめ、「ああ、まだダメだ……」などと言っている。
「……何があったんです?」
G・G・の言葉は無視して、帆足がいるはずの木の陰に目をやり、尋ねる。
「分かんないよ」
南側の出口を出た途端に、銃声と叫び声が聞こえ、「もんのスゴク恐かったが」様子を見に行ったら、帆足と山岸が倒れており、山岸は「多分、即死だったと思う」が、帆足は頭部の傷以外は無事だったらしい。
「とにかく、あのケガなんとかしないとダメだと思ってね――松川がいてくれて、助かったよ。一人じゃ、絶対無理だったよ」
「……俺、なんもしてないですよ?」
「いや、俺がダメだったりしても、松川ならなんとかしてくれそうかなって――出て来るところが見えたから、つい、突っ込んじゃった」
「は?なんで?――そうですよ。薬とか、なにもあそこに戻らなくたって、島中を探せば、病院とか薬屋とかあるかもしれないのに――ムチャクチャやないですか!」
怒りだした松川に、困ったように苦笑する。
「いやぁ、焦っちゃって……そうだよな、松川の言うとおりだよなぁ……ほら、松川がいれば大丈夫だろ?」
「なに、後輩に頼ってるんですか!いくら同期ったって、いくつ違うと思っとるんです!しっかりして下さいよ!」
ようやく起き上がって座り直したG・G・が、情けなさそうに頭を掻く。
「すいませんでした。二度としません」
「当たり前です。腰抜かすほど恐いんやったら、死んでもいいみたいなこと言わんで下さい……勝手に、任せるとか……腹立つわ」
怒り続けていないと、山岸の前では堪えられた涙が出てきそうだった。恐いのは松川だって負けてはいなかったと思う。
「人の気も少しは考えてください」
「……ハイ。でも、本当に助かったんだよ。ありがとう」
大きな手で、松川の頭をぽんぽんと叩いてくる。松川の強がりなど、本当は分かっているのかもしれない。それでも、頼ってもいいと、思ってもらえているのは嘘ではないようだった。
(変な人やな……)
常日頃もそう思うことの多い人だが、改めてそう思った。
(ケガ人と、こんな人を放っとけんな)
「まあ、任されたってもいいですけどね」
怒った口調が変わらないように言ってみたが、顔は少しだけ笑ってしまった。
しばらくして、二人の元に戻ってきた帆足は、手当てをしたとはいえ、まだ辛そうだった。きっとそれはケガのためだけではないのだろう。
一体、何があったのか?
聞きたいことはたくさんあったが、少しでも落ち着いて休める所に行く事が先決だった。東に進んだ所にある川――近くにキャンプ場があるらしい――に移動する事にした。
>>165 了解しました。
>>166 こちらの書いたものでは死亡確定なのは、19長田、17山崎、36山岸です。
職人さん方お疲れさまです!
ハリセンGGどうなるのかと思ってたら「きちゃった」じゃねぇだろw
GGいいよGG
G.Gワロスww
帆足は助かって良かった…
山岸は可哀相だけど
>>190 カッコイイですね!
神が続々降臨している。
俺達、GG、激ワローシュ。
帆足死ぬの早すぎたんじゃね?
いや、帆足タソはとりあえず助かっただろ?
保守
20.
赤田将吾(背番号9)が海岸の砂浜に来たのは、彼の生まれが海に程近い町だったせいかもしれない。地図を見てなんとなく足がむいたのがこの砂浜だった。重そうに鞄を砂浜にどさりと投げ出してから、ざっと浜を眺め流木を集めだす。
ペットボトルや空き瓶といった流れ着いている手近なゴミが目に付いて、いくつか拾い上げたところで放り出す。ゴミを集めたところで捨てるゴミ箱なんてないのだ。あえて言うならこの島自体が巨大なゴミ箱のようなものか。
赤田はそう思って嫌な気分になる。じゃあ俺たちはゴミ箱に生きたまま放り込まれた虫のようなものかよ、そう思ったのだ。
頭を左右に振り厭な連想を振り払うと、軽くストレッチで体をほぐす。体を動かすのは好きだ、少なくともその間くらいは何も考えずにいられる。ひととおり終わった後、動くことをやめるのを恐れるかのように砂浜でダッシュを始める。
「うわっ!」
なぜか砂浜に落とし穴が空いていて、赤田はそれに見事にはまる。
「誰だよ、こんなの掘ったのは。」
叫んでから気がつく。これはピンチじゃないのか?はっと気がつき上を見ると覗きこむ顔が2つ。
「うわぁ、助けて!ぐ、ゴホゴホ、」
狭い落とし穴のなかで暴れ、おかげでさらに砂に埋もれる。
「落ち着いてくださいよ、赤田さん。別に取って食いやしませんから。」
そういって手をのばす。片岡だ。
「ヤスかあ、おどかさないでよ。」
手をとって穴から脱出する。
「でもなんでこんなところに落とし穴を?」
「いや、西口さんが。」
指をさす片岡の先には目を細めて笑う西口がいた。
「何か捕まるかなあって思て掘ってみたん。ショーゴが捕まるとは思わんかったけど。」
「……」
「ほら、武器がこんなシャベルやったしさ。やっぱり穴掘るもんなんやから、ちょっと掘ってみよかなあって。」
まさかはまる人間がいるとは思わんかったけど、と楽しそうに言う。掘った落とし穴に落ちた人間がいたことで、かなり上機嫌なようだ。
「武器は?」
「これ。」
「うわ、なんだかいっぱいありますね。」
「よくわからないものの詰め合わせだよ。」
武器を訊いた片岡に赤田は配布武器一式を見せる。オイルライター3本セット、タバコ1カートン、鎮痛用モルヒネのアンプル5本、そしてウィスキーの瓶だ。
「タバコ、こんなにあってもね。ヤスは吸わないよな。」
10ケ入りの包みは破られて1つだけ別にしまってあった。吸いたくなるようなことを今後、多く見聞きするだろうと思った赤田が1つだけ抜いたのだった。
「はい、西口さんも。」
「今、吸うのやめてるから。」
「あーもう、使えねー。」
「人にあげるといいんじゃないですか?スモーカーには堪らない支給品だと思いますよ。」
緊張がとけたのか、赤田は砂浜にひっくり返る。
片岡は横になっている赤田をちらりと見てから赤田の鞄に武器と同封だった説明書を見る。戦場の兵士につきもの、タバコ、酒、麻薬をプレゼント。これで君もリラックスしましょう。
赤田も西口もこちらを見ていないのを確認してから、片岡はモルヒネのアンプルを1つ抜き取りポケットにしまう。注射器に入れたほうが懐の青酸カリも少しは使い易くなるかもしれないと思ってのことだ。
「でも、これ毒になりますね。」
「?」
引っくり返っていた赤田が片岡の言葉にひょこっと、上体を起こす。
「ニコチンって猛毒なんですよ。水に溶けるから溶かして液状にすれば。」
そういってから片岡は思う、また毒か、と。彼の懐では青酸カリの瓶が揺れている。
「あんまり毒とかそういうこと考えたくない。」
赤田がひどく落ち込んだような顔をして、こめかみをおさえる。
「この期に及んでも俺さ、まだ全員生きて帰れるんじゃないかって、そんな夢を見ているんだ。」
そりゃ無理だ、と片岡は言いたかったが、黙っていた。
「そりゃ無理やね。」
西口が言う。え、と思って2人が西口を振り返る。
「もう長田が逝ってもたし。それに、生きて帰りたいのは皆やまやまやけど、全員生きて帰るのは無理やね。だって。」
首輪を示す。
「これ、外せんかったらどないもならんもん。逆に言えば、これ外せたらどうにでもなるってことやけど。じゃあこれ外そかあってことやけど、多分、外す方法は俺らの手の届くとこには置いてないやろね。」
それに、と西口はいう。
「このゲーム、やる気になってる奴いるんちゃうかな?」
西口が背後の砂浜の頂きを振り向く。上から降りてくる人影は高山久(背番号44)だった。
「キュー、無事か?」
一挙動で跳ね起きて、赤田が駆け寄ろうとする。
「く、来るな!」
高山は持っているショットガンをかざした。驚いた赤田が足を止める。
「やめろよ、そんな物騒な物向けるの。」
「いやだ、俺は怖いんだ。あんたらがうらやましいよ、出発が早かったからあんたらは何も見ず、聞かずに済んだんだ。人が死んでるんだぞ、山崎も、岡本も、三井さんも、銃声だって聞こえた。
さっきだって連続した銃音がして、あれは多分サブマシンガンさ。
ひとつ銃が歌うたび誰かがこの島で死んでるんだ、安心できる場所なんてどこにもないんだよ!」
「落ち着け、ここには誰もお前を殺せる武器もった奴はいないんだ」
高山の声は完全に裏返っていて平静を失っているのは明らかだ。赤田はそんな興奮状態の高山を宥めようと必死に語りかける。
一応、この毒を飲ませることに成功しさえすれば殺すことはできるが、と片岡は思う。ショットガンで穴だらけにされるのは御免なのでもちろん口には出さないが。
「やめてくれよ、俺はまだ、1人でも多くの仲間が生きて帰れるのを望んでるんだ。だから、頼むからおろしてくれないか。」
赤田はなおも高山を説得する。それはまぎれもなく赤田の本心であり、切実な願いだった。赤田の必死の説得を聞きながら空しさが高山の心に湧き上がる。俺だってそうなればいいって思うさ、でも信じられる者がいったい何人いるっていうんだよ。
「俺だって、生きて帰りたいですよ。でも生きて帰るためには殺さなきゃいけないんですよ、ここじゃそれがルールなんですよ、赤田さん。」
やや落ち着きを取り戻したが高山の言葉は刺刺しい。その刺刺しさに赤田は唇を噛む。僅かな逡巡の間に赤田と高山の視線が交錯する。詰めていた息をはいて赤田は反論する。
「キュー、それでも俺はルールより仲間を信じたいんだよ。」
なんて人の良いことを言っているのやら、高山は赤田の言葉に呆れながらも何となくほっとするものを感じる。それはきっと、全く敵意がない人間もいることがわかったからだろう。
「渡しはしませんが銃は下ろしましょう。これでいいですか?」
銃口をおろして高山は言う。
「ああ、ありがとう。」
赤田が嬉しそうな顔をした。
「ところで落ち着いたところでこれと引き換えに情報交換せえへん?」
傍観していた西口が赤田のタバコをとりあげて高山に見せるように軽く振ってみせる。
「悪くない取引やと思うけど。どう?」
「山崎さん、岡本さん、三井さんも。長田さんも合わせてもう4人も…。」
高山の話を聞いて、砂浜の端、木の陰で車座になって座っている4人の表情は暗い。この面子のなかでは一番リアリストだと自負している片岡でさえも、既に4人も死亡者が出ているという事実に言葉を失う。
「俺が出てすぐにマシンガンの銃声も聞こえました。そっちは確認していないからわかりませんが、もう少し増えているかもしれません。」
高山が補足する。山岸の死を彼は知らない。
「誰がそんなことを…。」
赤田が、手の平に食い込む爪の鈍い痛みも構わず、右拳をきつく握り締める。
「一般的に考えるなら、出発順がその前後の選手が怪しいでしょう。前後となると、大沼さん、ワク、松坂さん、石井貴さん、正津さん、星野さん、友亮さん、義人さん、ですね。」
片岡が考えを纏めるためか、砂地に文字を書きながら言う。
「銃声が2発聞こえてきたのは帆足さんが広間出てからすぐでしたから、その銃の持ち主は正津さん以下4名が怪しいかなと。マシンガンは俺の前だから貝塚さんか宮崎さんが持っていそうですね。」
片岡の言葉を受けて、高山が見当をつける。赤田が浮かない顔をする。状況から考えて彼らの見当は正しいのだろう、それでもそれを受け入れるのを忌まわしく思った。
「山崎と岡本、ちょっと間があるね。山崎、どんなやった?死因みたいなことやけど。」
西口が高山に尋ねる。いつもどこか飄々とした西口の顔が真剣である。マウンド上でピンチになっている時の顔だと片岡は思う。
「撃たれていたかと思います。しっかり確認した訳じゃないので自信はないですが。」
「銃声は2発だけしか聞こえんかった?」
「はい。」
「うーん、山崎撃ったんは三井や岡本をやったのと別人かもね。3人もやる気なんかなあ?めんどくさいなあ、もう。ああそうだ、ショーゴこれ借りるよ。」
返事を聞かずに西口は赤田の雑多な荷物の中からウィスキーの瓶を取る。そして瓶の底で砂地を軽く2回ノックする。
「さようなら、長田、山崎、岡本、三井。また会おう。願わくば当分先に。」
今はもう亡きチームメイトに別れを告げ、そして瓶の蓋をあけウィスキーを一口、そのまま喉の奥に流し込む。アルコール度数40度のきつい酒が喉を通る感覚を楽しむ。
悲しんでやれる余裕があるのも今のうちか、後味の苦さを感じながら西口はそう思った。
「キュー、お前も。」
「いただきます。」
喉を通るアルコールの熱を感じて高山はようやく自分がまだ生きていることを実感する。そう、今はまだ生きている。先のことはわからないけれど。
俺は誰も殺さずにこの島で生きていくなんてこと、できないと思います。でも、できればこの銃、撃たずにすめばいいと思います。そう言って高山は砂浜を離れていった。赤田はその背中を見送る。引きとめはしたのだ、だが彼はそれを断った。一人で行く、と。
「西口さん…」
小さくなっていく高山を見つめていた赤田を西口が励ますように軽く肩を叩く。
「ショーゴ、自分の面倒見るのが精一杯なんやから無理せんほうがええ。できんことやろうとしたら、ケガする。とりあえずタバコは渡した?」
「はい、残り全部。」
「じゃあそれでええと思うよ。それなりに喜んでくれてるやろ。さて。そろそろ、俺もやらなあかんことがあるのんよ。ヒロに会わなあかん。」
「高木浩之さんですか?」
きっぱりと言い切る西口に当惑したように片岡が聞き返す。危険な島内をできればあまり動き回りたくないというのが片岡の本音だ。
「嘘ついてる感じがする。多分あいつ何か知ってるんちゃうかな。予感が正しければ、どえらいこと知ってるよ。さて、会えるかなあ?」
西口が目を細めて笑った。
(残り49名)
204 :
190:2006/01/19(木) 00:52:17 ID:CyFYtuUZ0
職人様GJです!!
オツカッコイイヨオツ
どこまでもBKDなショーゴも(・∀・)イイ!!
>>191 ありがとうございます!!
正直こんなものうpしてよいものかと思ってたんで
>>192 保管庫さんGJです!!
色々大変だとは思いますが頑張って下さいね
自分もあんな加工技術でよければ細々とうpしますんで
期待sage
職人様乙です!
西口も赤田も人がいいなぁ…
保管庫様も乙です!
これから色々大変だとおもうけど頑張ってください!
21.
――南西と、北北東。
そこまで確認し、その目的地を見据えるように、地図から顔を上げる。
上本達之(背番号49)は南側の出口――ホテルの従業員用の裏口にあたるため、G・G・佐藤が起こした騒動に巻き込まれ無かった――をそのまま真っ直ぐに南に進んだ林の中で、あの広間で考え続けていた事を確認していた。
50人以上もの意識のない選手達をどうやって、ここまで運んできたのか?
上本自身の記憶を辿ってみても、インボイス西武ドームに集合し、バスに乗り、ぼんやりと窓の外を眺めていた――その辺りで、一度記憶は途切れ、気付けば、あの広間だった。
そして、あの惨劇――長田とは同期で、年齢も同じだ。今シーズン上本は、初めて一軍でマスクを被り、同じく同期の小野寺ともバッテリーを組む事が出来た。
この経験を生かして来シーズンこそは、もっと一軍で。そして長田とも……それなのに――思い起こすと、地図を持つ手が震え出しそうになる。
次々と名前を呼ばれ、広間を後にする仲間達を見送るうちに、戸惑い、混乱していた感情もどうにか宥めることができ、この状況について考えを巡らせる事が出来るようになった。
それは、辛うじてではあったが、考えつづける事で、恐怖を押し殺していた。考える事をやめてしまったら、それに飲み込まれてしまいそうだった。縋る思いで、その思いつきを考えつづけた。
黒岩は、ここは無人島だと説明していた。島というからには、周囲は海だ。交通の手段は限られる。
飛行機か、ヘリという手段もあるかもしれない。だが、この人数だ。フェリーのような船でバスごと運んでしまう事が出来れば、人目にも付き難いし、手間も少ない。だが、それなりの規模の港が必要なはずだ。少なくとも地図に記載されるような規模の港が。
支給されるという地図。外に出たならば、それを真っ先に確認して、そこに向かい調べてみようと思った。
港に行けば脱出のための手段が確実に分かると云うものではないだろう。だが、何か手がかりがあるかもしれない。わずかな可能性であっても、それがあれば殺し合いを止められるかもしれない。
それしか助かる手段が無いと思い込まされてしまうから、武器なんて物を握らされてしまうから、殺し合いは起きてしまうのだろう。
そして、広げた地図に空港は無く、ぐるりと島の外周を目で辿れば、二箇所の港を見つけることが出来た。
どちらの方が、その可能性が高いのだろう?
北北東にある港のほうが――地図で見た限りではあるが――規模が大きいようだ。
もう一度、地図を確認し、そこまでの道程を頭に叩き込み、地図を畳む。いやでも目に入ってくるのは、地図とともに手にしていた鉈。その分厚い金属の刃を見つめる。
広間にいる間に何度か聞こえた銃声――連なったそれはマシンガンのものなのだろう。すでにそんな武器を手にし、しかもその引き金を引くような仲間がこの島を歩き回っている。出会ってしまうのだろうか?自分にそれをどうにか出来るだろうか?
正直に言って、全く自信が無い。
少なくともこうして鉈を手にしていれば、警戒して近づいてはこないかもしれない。
ちょっと、情けないが……。
それでも、自分には殺し合いなんて出来ない。
鉈から目を離し、寄りかかっていた木から背を離す。
日が落ちてきている。この時期の夕暮れは早い。支給品のひとつに懐中電灯があったが、日のある内に港に着きたい。
それにもし重要な場所であれば、早い時期に禁止エリアになってしまう可能性は高いだろう。
(急いごう)
カバンを肩に掛け、歩き出そうとした上本の耳が、落ち葉を踏み締める足音をとらえた。音のした方向に目をやれば、カバンを肩から下げた水田圭介(背番号45)が、小さく手を振っていた。
「ケースケ!」
「声、デカイ」
近づいてきた水田が、いつになく険しい顔で、囁くように、たしなめてくる。
「デカかった?」
つられて、声をひそめる。ひとつ頷き、ため息をついてから尋ねてくる。
「何、しとったん?」
水田に自分の考えを伝える。と、感心したように、ちょっと眉を上げてみせる。
「すごいやん――やったら、俺がその南西の港、見に行ったるわ。情報交換、出来るように、待ち合わせ場所決めよか?」
「いいのか?」
「別にやることないし。エエよ」
人殺しするよりましやろ。そう続けて、自分の言葉に顔を顰めている。
こんな時であっても変わらない。少しせっかちな物事の進め方が水田らしくて、つい顔が緩む。
「ホラ、はよ、地図、出し――なに、笑ろうとるの?」
ホテルのある山の東側の山。その東側の麓にある寺。
そこで落ち合うことを決め、二人はそれぞれの目的地に向かって歩き出した。
「……甘いんよ」
数メートルも歩かないうちに振り返り、小さくなる上本の背中を見つめながら、そうポツリと呟いた水田が、南西の港に向かうことは無かった。
【残り49名】
職人様乙です!
水田何を考えてるんだ水田〜
そして上本ガンガレ上本!
誤字です。
>>208 誤 (急いごう)
正 (急ごう)
です。
すいませんでした。
うわーっ!いいとこでおhるorz
22.
貝塚が建物から外へ放逐されてからまず目に入ったのは、遠くの緑の丘陵地、青い空、やや錆びかけた案内板、そして3名の遺体だった。
「ひっ…」
息を呑み、誰なのか確認しようとしても足が動かず、その場に立ち尽くす。強い風が吹き、草木が揺れ、ざわざわと音をたてた。
「ちょっと待てよおい。」
立ちくらみのような感覚に襲われる。ふらつく足で、よろよろとその場を離れて木陰に入る。頭がぐらぐらする。
落ち着け、落ち着くんだ貝塚政秀。何度も自分に落ち着けと言い聞かせ、深呼吸して肺に新しい空気を送り込む。血が全身に回る感覚とともに、ようやく立ちくらみが治まる。ごまかしきれない血の臭いに震える手で鞄の中身を確認する。
中身は防弾ジャケットだった。生き残りたいあなたに最適、防弾性能は9mmパラベラム、357マグナム程度まで防ぎます。使い方はこれを着るだけ。説明書きはこれだけだった。
遺体のある木のたもと、その方角を見て心の中ですまないと呟く。そして防弾ジャケットを上に羽織り、ただ真っ直ぐに走りその場を離れた。
「あ、貝塚さんお疲れ様です。」
周囲の物音に怯えつつ、ようやくゴルフ場のバンカーの陰に隠れた貝塚だったが、そこには先客がいた。その先客は手の中の物の汚れを拭いている最中のようで、作業を止め顔を上げて貝塚を見ると嬉しそうにニッと笑う。石井義だ。
建物のなかで機嫌悪そうな顔をしていた石井義を思い出す。あのときはあんなに機嫌が悪そうだったのに、今はひどく上機嫌に見える。何故?普段なら、かわいらしく見えなくもない草食獣のような笑顔が、今は肉食獣の舌なめずりに見える。
感情の起伏が激しく、キレると何をしでかすかわからないところのある彼と、できればこの状況
で会いたくはなかった。どうして俺はここに来てしまったのか。貝塚は後悔する。
「ジャッキ、それ…。」
「ワルサーP5っていうらしいですよ。マイナーですよね、始めて聞きました。どうせならワルサーP38のほうがルパンみたいでいいなあって思うんですよ。」
作業の手を休めず石井義は答え、ルパン・ザ・サード、と鼻歌を歌いはじめる。呆気にとられて鼻歌を歌う石井義をまじまじと見つめ、いやそうじゃないと気をとりなおして貝塚は石井義の手の中の、分解されている銃を見る。
「いや、そうじゃなくて、なんで分解して部品を拭いているのかってことなんだけど。」
「オートマチック・ピストルは撃った後ちゃんと掃除しないと弾詰まりを起こす危険があると説明書に書いてありました。だから掃除です。」
「撃ったのか、あの銃声はお前が?!」
銃声、血の臭い、土井コーチを、長田を、躊躇いなく殺した黒岩代表の晴れやかな笑顔、様々な光景が脳内でぐるぐると回る。何故、湧き上がる疑問と怒りにまかせ石井義の肩を掴む。
「離してくださいよ、貝塚さん。痛いじゃないですか。」
石井義が腕を振り払うといつの間に抜いたのか、右手にナイフが握られている。貝塚の鼻先に突きつけられたナイフが滑る。貝塚の左頬を撫で、うっすらと赤い線を描く。うずまく疑問と怒りが、頬を薄く切られた痛みによって醒めていく。
刃渡り15センチくらいはありそうな、切れ味鋭そうなナイフが目の前できらりと銀色に輝く。血抜きの溝に流れた血の跡が残っているのが見える。やはり、お前はもう仲間を殺したのか?
「俺、今は誰とも争う気ないんですよ。だから貝塚さん、落ち着いて俺の話聞いてくださいよ?」
ナイフを左右に振りながら、面倒そうに喋る。
「確かに撃ちましたけどあれは事故ですって。たまたま争う物音が聞こえたから見に行ってみたら三井さんが暴れてて。かわいそうに、岡本刺されて死んじゃいましたよ。
で、まあいいやって思ったんですよ。あそこで振り返られたら俺刺されちゃいますからねえ。正当防衛、正当防衛ですって。」
「正当防衛って、お前。」
わからない。確かに正当防衛だったのかもしれないが仲間を撃ち殺しておいて、どうしてこんなに陽気にしていられるんだ?湧き上がる疑問と恐れに被せるように石井義が話し始める。
「そんなことより先のことですよ。貝塚さん生き残りたいですよね?拳銃の射程って結構短いんです。そう、確実に当てて大人しくなってもらう距離だとまあ20メートルってとこです。正面からだと2,3秒で詰められる距離なわけですよ。」
指示棒か何かのようにナイフを振り振り、石井義が拳銃の射程の話をしている。
そういえば野田が言っていた。ジャッキが野田さん、と呼ぶときは何か面倒なことをお願いするときだと。普段なら浩輔とか浩輔さんとかなのに、まったく調子のいい奴。そう言って野田は笑っていた。
「1発外したらもう一発撃てるかどうか微妙だと思いません?それに2射目は反動もあって撃ちにくいですし。そうそう、反動大きいんですよね、こいつ。」
これは、何かお願いが来る。それもとんでもないお願いだ。
「貝塚さん、それ防弾ジャケットですよね。それ着て正面から相手の気を引いてもらえません?その隙に俺が後ろから撃ちます。相手が怒って貝塚さんを撃つなり斬るなりしようとしても、その防弾ジャケット着ていれば命に関わるようなことにはならないでしょ。」
ほらきた、とんでもないお願いだ。
「名案でしょ?貝塚さんは手を汚さずに敵を減らせますし、俺は安全に敵を減らせます。あとは貝塚さんが、はいと返事してくれればいいんです。」
何か面白い遊びを思いついたかのような子供の笑顔で石井義は目を輝かせる。僕って賢いでしょ、とでも言わんばかりだ。彼はこの状況を理解しているのか?それとも理解しているからこそ、こんなに楽しそうなのか?
わからない。貝塚の心の中で怒りを押しのけて恐怖が増していく。このゲームに夢中になって楽しんでいるのは、もう既に人を殺したことで起きた余裕なのか?それとも、元から殺人者としての素質があったということなのか?
「チームメイトを、売れと。」
断らなければならないと理性の声が叫ぶ。だがこれを断ったら、かんしゃくを起こした子供が玩具
を踏みつけて壊すように、右手のナイフを何の躊躇いもなく俺に突き刺すのだろう。仲間を売りたくない、でも自分も死にたくない。葛藤が貝塚の心を蝕む。
「何言ってるんですか、これはそういう仕事なんですよ。なにしろ、球団代表の黒岩彰さんがやれって言ってるんですよ。代表の命令ってことは仕事ですよ。これがもし悪いことなら、取らなきゃならない責任は彼にあります。俺らが悪いわけじゃないですよ。」
空気が重い。馬鹿をいうなと叫ぶ意識と、その通りだ命令した黒岩代表が悪いんだ、俺が悪いわけじゃないと叫ぶ意識の狭間で、口を塞がれたように声がでない。
手の平、脇の下に気持ち悪い汗が流れるのを感じる。打席に立つときの緊張感など比べ物にならない程の緊張感が貝塚の行動を抑えつける。
「何故、俺を誘うんだ?」
ようやく声を絞り出す。自分の声と思えないほど、その声は小さく震えていた。そんな貝塚の疑問に石井義は無邪気に答えた。
「だって、ひとりじゃ寂しいじゃないですか。どうせなら他の人と一緒にやるほうが楽しいですよ。そうだ、浩輔さんも誘っていいですよね?」
そう言ってはしゃぐ石井義を見て貝塚はおびえる。理解できない者を見た恐怖が心を掴み締め上げ、正気を砕いていく音が聞こえた気がした。
「風、出てきましたね。日暮れが近いみたいですよ、貝塚さん。行きましょう?」
作業が終わったのか石井義が立ち上がり風をみる。そして屈託なく笑いながら石井義は貝塚に手を差し出した。貝塚はその手をとる。俺はこれで悪魔に魂を売ったのだ。貝塚は苦しげな顔をした。そんな貝塚の表情を見て石井義は心配そうに言った。
「大丈夫ですか?どこか具合悪いなら病院探しに行きましょう。集落に出ればあるかもしれませんよ。」
【残り49名】
書き忘れました、すみません。
義人・・・・やっぱりDQNだ・・w
219 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/01/22(日) 15:20:23 ID:e+96dz160
age
職人さん乙です!
貝塚…
職人様方乙です!
貝塚カワイソス(´・ω・`)
保管庫正式公開しました。
http://web-box.jp/lions_br/ 保管の際に、明らかなミスと思われるものは直しておきましたが、
もし何かありましたら掲示板の方にてお願いします。
それと、サブタイトルはどうしましょう?
今ついているものはつけてうpしてありますが、どちらかのスタイルに統一した方がいいような気もします。
職人様含め、皆さんの意見を伺いたいです。
保管庫様乙です。
ありがとうございます。
サブタイトルは他の方の意見で、有る方がいいようなら付けます。
少し来なかった間に保管庫までできてる!!
皆様乙です。
サブタイトルはあったほうがうれしいです。
224 :
oosaka:2006/01/23(月) 20:20:15 ID:J+5piQXm0
保管庫様、乙です!
ありがとうございます。
サブタイトルは、有る方が良いのでしょうか?
一覧を見ると、有ると見やすいのかな?と思うのですが。
>>225 ありゃ…w
何だったらトリ変更してもいいんじゃない?
捕手
サブタイトルですが、どうしましょうね。
保管庫さんの手間の問題もありますけど、付けて欲しいという意見がありましたし、付ける方向でいきますか?
>>228 こちらの手間はほとんどないので大丈夫です。むしろ
考えていただくことになるので職人様に悪いかと……
特につけない方がいいという意見もないようですし、付ける方向で大丈夫そうですが。
だいぶさがってるのでage
私はサブタイトル付けるのは余り手間とは感じないので大丈夫です
下書きするとき仮タイトル打って書いてますし
NRzjVMYad2さんが問題ないようでしたら付ける方向でいくということで
23.冷たい方程式
田崎が今、可能ならば話がしたいと思っていた相手は向こうのほうに突っ立っていた。気配を感じてか、振り向く彼のユニフォームは血に濡れていて、その赤に田崎はたじろぐ。やる気になっているならそれまでよ、腹を括ってから手をあげて声をかける。
「おはよう。」
「おはようございます。」
おはようという時間でもないが、思いついた挨拶がそれだった。
「この状況でよく声をかけられますね。」
「振り向きざまに撃たれたらそれまで、俺の見込み違いだったということだと思ってね。生きて帰ることができたら相当タフになっているような気がするよ。」
振り向きざまに撃たれなかったことで、田崎はかなりほっとした。
「目立つし移動しようかと思うんだが。」
「かまいませんよ。」
可能なら話がしたかった相手、佐藤友は鞄を2つ抱えこちらにやってくる。1つは斃れた誰かのものだろう。
「山崎と岡本と三井さんです。ねえ、田崎さん。死んだらそれまでだなあって思いません?」
「そうか…。」
田崎が3名分の遺体を遠目に眺めたのを認めてか、どこかに感情を置き忘れたような声で佐藤友は田崎に告げる。皆ピッチャーで、田崎にとっては知らない仲ではないゆえに、現実の残酷さにただ言葉を失う。
「で、何か用ですか?」
近くで見ると、いつもなら愛嬌のある丸顔がかなりけわしい表情になっているのに気がついた。もしこの表情をファンの女性達が見れば、驚きで凍りつくだろうな、どうでもいいことをふと思いつく。
「首輪の解き方を考えているんだ。仮説をひとつひとつ検証するときは、相手がいるほうがいいからね。それで声を掛けてみた。」
「専門外ですよ。」
「俺も専門外みたいなものだよ。専門は物質工学だからね。電波工学や爆発物は高校生レベルの知識と、そう大差ないさ。それでも何か考えているほうがマシだからね。」
南に出た森の中、周囲から窪んで少しばかり人目につきづらい場所に腰を下ろす。
「方程式物と言われるSFがあってね。話としては、燃料、食料、酸素が、人員と目的地までかかる日数から逆算したギリギリの量しか積んでない宇宙船、あるいはそれに類似の密閉空間がある。そこにイレギュラーの密航者がのりこんで、燃料等がたりなくなる事態になる。
密航者を外に放り出して解決するか、それともそれ以外の方法を模索するか、あるいはもっと悲劇的な結末、放り出すこともできず、それ以外の方法も見つけられず、全員死亡というような結末を迎えるのか、その葛藤の過程を楽しむSFの一形式。
最初にこの形式をたてた短編、冷たい方程式では主人公は苦しみながらも密航者をエアロックの外に放り出した。」
「緊急避難は成立しますね。」
緊急避難――人あるいは物によって生じた現在の危機から、自己や他者の生命や財産を守るため、他者の権利を侵害することも、他にとる手段もなく、また侵害された権利より守られた権利のほうが大きければ、罪にならないという刑法の条文――
田崎は知らなかったが、おそらく自分を守るためなら場合によっては他人を犠牲にしてもいいという意味だろうと推察する。
「まあそうだね。この状況もそれに近いかなって思って。このケースの冷たい方程式はこの首輪によって定められている。これがある限り方程式はやぶれない。だから首輪を無力化することを考える必要があるわけだ。方程式を否定するならね。」
「首輪を無力化するための仮説はいくつか立てたんですか?」
「可能か不可能かは別として、方針は浮かんでいる。ひとつ、遠隔操作による爆破を不可能にする、ふたつ、爆発しても死なない方法を探す、みっつ、爆弾を解体する。」
指折りながら田崎は方針を挙げる。
「爆発しても死なない方法と爆弾の解体は難しそうですね。」
「俺もそう思うよ。設計図でもあれば考えるけれど、やはり集中的に考えるのは遠隔操作による爆破を不可能にすることだろう。
おそらく遠隔操作で発火装置を点火して爆発、だと思う。なら電波を受けなければ爆発はしない。電波を受けない方法となると、電波の受信部を壊す。電波のアンテナを壊す。電波が届かないようにする、ジャミングだね。」
爆破を阻止する方法として今考えていることを田崎は話す。
「それらの方法の問題点を指摘して欲しいってことですね。電波の受信部はこの、くそいまいましい首輪についている訳ですから、受信部がどこにあるかが正確にわからないと受信部だけを壊すことは難しそうですね。間違って爆発させる危険が高そうです。
電波のアンテナの所在ですが、真っ先に禁止エリアになるホテルの屋上あたりに敷設されていそうですね。
ただ、今からホテルに侵入しても兵士達に返り討ちに遭うでしょう。兵士とその携帯武器が全て本物かどうか、疑いはありますがチーム50数人が全員で抵抗しても鎮圧できる程度の戦力は確保しているでしょうから。
屋内への侵入が無理なら屋外からの攻撃ですが、屋上のアンテナを建物の外から攻撃するとなると、爆発物を飛ばして届かせる、そんな方法くらいしか思いつきません。それにアンテナを壊せる量の爆発物は今のところ手元にはないですね。
ジャミングは、まず電波の周波数が分かりませんし、ジャミングを発生させるための装置もないですね。現実味は薄いと思います。建物の電気を切るのはどうですかね?アンテナも電気で動いてるんでしょう?送電を止めることが出来たらアンテナを無力化できませんか?」
「おそらくホテルは自家発電機で稼動していると思うが、電気が止まればもちろん無力化できる。発電システムを発見できればそれでもいけるな。ただ、発電機もおそらくホテルの地下だろう。でも、面白い案だと思う。」
どれも不可能な案に思えるが、不可能を可能にしない限り、仲間と殺し合いをするしかないのだ。田崎はその道のりの遠さを思ってため息をつく。
「とりあえず爆破が全て手動なのか自動なのか、それだけでも確認したいな。たとえば死者の首輪が爆発するかどうか。死者でも爆発すれば爆破は自動ということになる。
死者なら爆発しないなら爆破は手動か、あるいは死者としてカウントされると自動爆破の対象外になっているといえる。死者なら爆発しないなら、死んだと騙すことができればかなり自由に動ける
ということになる。
生死もこの首輪で確認しているらしいが、おそらく体温と脈拍を管理しているんだろうな。どこで感知しているかはわからないが、普通に考えるならこの、頚動脈のあたりかな?」
田崎が頚動脈の辺りを触る。嫌でも首輪の冷たい触感が指先に伝わる。佐藤友はそれを見て思い出す。その部分を、首輪の破片と爆風によって深々と切り裂かれて長田は死んだ。噴きあがる血の赤の滑稽なほどのリアルさが、脳裏にまざまざとよみがえる。
「禁止エリアができるとのことですが、海は禁止エリアなんでしょうかね?もし禁止エリアでないなら筏でも組んで海から脱出できますね、理論上は。実際やったら、波に呑まれて溺れ死ぬか、海で迷子になったまま渇き死ぬかの2択でしょうけど。」
「まあ、仲間に殺されるよりは溺れ死ぬか、渇き死ぬほうがマシ、という気分になったら海からの脱出も試してみることにするよ。」
自嘲的な笑いが佐藤友の口元に浮かぶ。自殺のほうがマシ、と思えたら海に出るのもいいかもしれないと田崎は本当に思った。脳裏には遠目に眺めた遺体と、そろそろ出発かという時間に聞こえた銃声が蘇る。
「とにかく、どんな仮説も実証の段階を踏む必要がある。実証のためには、おそらく死体の首輪を使うことになるだろう。
首輪だけ外せればいいんだが、そのためには首を胴体から切断して外すしかない。その為の道具は探せば見つかるかもしれんが、あったとしてもそれが出来るかどうか。想像しなくても、それがどんなに嫌な話かわかるよな。
まあそんな訳で、実証のための首輪を確保するために死体を運ぶのを手伝って欲しいってのがあってね。ひとりで80キロ近い荷物を運ぶのはさすがに骨が折れるし、時間がかかりすぎる。全員が出て行くのを待ってから、一体だけでもって思っているんだ。」
息をつく。考えを説明しようとして長く喋ったせいか、それとも緊張のせいか口が渇いているのに気がつく。鞄の中の水を取り出そうとして目線を下にやったときに、佐藤友の右側に下げられている銃が田崎の目に付いた。
おそらく本物だろう。銃の所持が禁止されているこの日本で、まさか本物の銃をこんな近くで見ることになるとは思わなかった。想像以上の速さで現実というやつが押し寄せていることを、改めて感じさせられる。
「しかし、銃が本当に配布されているとはね。よほど大物がバックについているんだろうが、少々大掛かりすぎだな。チームを潰すだけなら何もこんなことをせずとも、もっと簡単に虐殺できようものを。」
「殺し合いをするという、この課程において、かかっている経費以上に儲かるからくりがあるんでしょうね。賭博でもやってるんでしょうか?で、胴元に儲けがでるようにとなると…イカサマ仕組まれてるんでしょうかね。それなら合点がいきます。」
どこかの誰かが他人の命を賭けの種に、悪趣味なゲームを開催して儲けようとしているのだろう、そのふざけた残酷さに二人とも押し黙った。
「俺も、どうでもいい話をしてもいいですか?」
「どうぞ。」
佐藤友は沈黙している。言うか言うまいか迷っているのだろう。田崎は黙ったまま様子を見守る。
「義人が三井さんを撃ち殺したらしいです。」
しばらく黙り込んだ後に佐藤友が発した言葉に、驚いた田崎が頭をあげて聞き返す。
「本当に?」
「撃つところを見たわけじゃないですが、岡本はそう言って息を引き取りました。」
岡本を抱えていた腕を佐藤友は眺める。赤い血は染み付いたまま酸化して赤黒い色に変化していた。
「いい加減でバカな奴だなあと思っていて、まあ正直、あまりいい印象があるわけじゃない。同い年ってどうしても相手の嫌な面についつい目がいくってありますよね。年上ならアイツってバカだよなあって笑い話にできるような面が鼻につくと言えばいいですかね。
俺もそういう風に、変り種と同年代の奴らに隔意を持たれているかもしれないと不安になることは時にありますが、でもまあ俺のことはいいです。」
口を閉ざす。話したいならまた話し始めるだろうと思って田崎は口を挟まなかった。佐藤友がまた話し始める。
「浦和学院って聞いて思い出したんですよ。高校生のとき、春の関東大会だったかな。浦和学院にあたって。そう、義人がいてね。ホームラン打たれたから覚えてる。
強かったですよ。延長をなんとか制して。もう嬉しかったですね。必死に野球ばっかりやってる奴らに負けてられないよ、両立させてこそカッコいいだろ?いつもそう思って練習してましたから。
そのころから、プロに指名されるんだろうなって雰囲気がしてましたね。確か高校選抜でアメリカ行って、向こうで活躍してメジャーのスカウトの目にも止まったらしいですけど。
そういうの知っているから、余計苛立つんですよね。どうしてこんな回り道してるのかって。才能の無駄遣いだと思って。もっと必死に取り組めば、もっと上をとれるだろうって思って。俺は努力しても、あんなバットコントロール真似できません。」
「努力も才能のうちさ。」
あまり励ましにはなっていないだろうとは思うが、田崎は思ったままのことを言ってみる。
「そうかもしれません。でも、そういうところがどうにも苛立って。」
「まあ努力してないように見えるかもしれんが、彼も彼なりに頑張っていると思うがね。正直、追浜時代をまったく知らないわけじゃない俺から見て、今は野球に必死になっていると思うよ。追浜のころはくさってたからなあ。」
人は自分にないものを求めるものだけれど、田崎は佐藤友の話を聞いてそう思う。おそらく石井義に佐藤友の話をさせたなら、なんで世の中ってこんなに不公平なんでしょうね、野球もできて頭も良くてって絶対ふざけてるよ、などとのたまうだろう。
「俺は、プロに入れるとは正直思ってなかったんです。野球は好きだから続けていたいとは思ってて、社会人のチームがあるところと思ってJRに内定もらって就職するつもりでした。なんかね、好きなことで食っていけるっていうのに勿体無いなと思うんですよ。」
さらりと言ってのける一言一言は人生に対して卑屈になっている人間に対しては嫌味にしか聞こえないだろうな、と田崎は思う。やや、そういう無神経さは石井義に通じるものがあるような気もしないでもない。
「まあ正直なことを言わせてもらえば、監督に離脱がこたえたと言ってもらえるだけの存在感があるっていうのは、二軍から抜け出せない俺にとってはすごくうらやましいんだよなあ。うん、まあ俺の努力が足りんのかもしれんな。
ただ、投手は野手以上にセンスと才能が物を言うポジションと、最近よくそう思うよ。」
佐藤友が黙る。自分の発言が嫌味に聞こえただろうか?と少し心配になったとき、遠くでぱららら、と連続した銃声が響いた。銃声に頭を一瞬上げた佐藤友が、またうなだれて口を開く。
「なにが今一番怖いかっていうと、そんなささいな嫌悪感が殺意にあっさり変化しそうな事です。
殺人事件の大方は顔見知りの間に起こります。この50人いるチーム、なんとなく苦手、馬が合わないと感じている相手もいると思います。この状況ならそれが殺意に変化するのも時間の問題かなって。俺もそうなるかもしれない、それが怖いんです。
人を殺すのに必要なのは凶器ではありません、殺意です。殺意があれば凶器はなんとかなります。たとえばこの二本の腕、これでも人を殺すことは可能です。殺意と殺人可能なポジションを取ること、この2つが殺人に必要な条件です。
もちろんいい凶器があれば、殺人の難易度は下がりますけどね。心情的にも、物理的にも。でもそれは最優先事項ではありません。」
怖いと言いつつも、その表情にも、その声にもあまり動揺は感じさせず、淡々と殺人とは何かを語る。惨事ストレスの一反応だろうか?田崎は佐藤友のどこか冷めた表情を窺う。
「父よ母よ、私は生きる。せめて二十のその日まで。かつて死刑に処された連続殺人犯が残した言葉です。生きるために他人の命を必要とする人間がいて、そして今、俺たちが無理矢理そういう状況に置かれているって訳です。嫌になりますね。」
皮肉屋めいた冷笑が佐藤友の口元に浮かぶ。田崎も、佐藤友本人もそれに気付かなかった。
「今は、この首輪の解き方を考えるのが実は、不謹慎だと思うだろうけど楽しいんだ。難儀なものでね。世界で誰も知らないことを今、俺だけが知っている、その快感を求めるものなのさ、研究者ってやつは。それをもう一度味わえそうな気がしてね。
もちろんその実証のために死体に付けた首輪が必要で、誰かが死んでいるって状況は嫌なんだ。でもそれとまた別のところで楽しみだと感じているわけだ。因果なものだな。」
田崎はため息をついた。ただ純粋に悲しんでやれるほうがまともな人間なんじゃないのかという気がしないわけでもないのだ。
「さっきの音、マシンガンかな。」
気をとりなおして田崎は先ほどの銃声の話をふった。
「おそらくはそうでしょうね。」
佐藤友はあまり興味なさそうに答える。
「行くか?」
「やめておきましょう、どうせ間に合いません。なら危険は避けるべきです。」
正しい意見だが、冷たすぎやしないか?田崎はそう思わなくもなかったが、それはつまり、人の死に立ち会ったことの有無の差なのかもしれないと思い直し、何も言わなかった。
がさがさと物音を立てて鞄の中身を佐藤友が確認している。中から出てきたものを見て、佐藤友はにやりと笑う。
「田崎さん向きのアイテムですね。本来は岡本の物ですが、持っていってください。」
中からでてきたのは11,1型のノートパソコンだった。そういえば、俺の配布武器は何なんだろう?田崎はまだ開けていなかった自分の鞄の中身を探る。
「鎖骨くらいなら叩き折れるかな。」
中に入っていたものを見て苦笑いして言った。中にはスパナが入っていた。
【残り49名】
職人様乙です!
二人とも頭いいなぁ
友亮心配だよ友亮…
職人様すげーなぁ…
この二人の会話難しくて脳みそショートしそうだ…
乙です。
難しくて何回か読み返したよw
これ書いた職人様スゴス
職人様乙です。
読んでて『こっち見んな』並みな顔になってしまった・・・・。アタマノカイテンハヤスギダヨ
245 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/01/29(日) 22:58:43 ID:LbBGN1wkO
保守
24.裏切るものは
夕暮れが近いせいだろうか?それとも、これから何処にどう自分が向かっていくのかが、わからない不安のせいなのか?建物の外は薄暗く、目に入る全ての物の輪郭が、ぼんやりとしか感じられない。
――怖い。
名前を呼ばれるまでの間、何度か外から銃声のようなものが聴こえた。ざわつく室内を見渡せば、自分のように怯えた様子をみせる者もいれば、怒りや苛立ちをみせる者、そして――自分の思い込みかもしれないが――どこか羨ましそうな表情を浮かべている者……。
――恐い。
自分にはまだ何をどうすればいいのかわからない。
「殺し合いなんてしないよ。絶対に」――和田の言葉が思い出される。
同じチームメイトといっても、まだ、一軍の経験のない入団2年目の自分にとっては、雲の上の存在である和田の言葉は、理解は出来てもどこか遠い。テレビの中でタレントが口にした言葉のように……。
それでも自分は歩いていたらしい。肩から下げたカバンが茂みに当たった音で、それに気づく。茂みにカバンを掴まれたかのような錯覚に引きずられ、その場にしゃがみこんだ。
「誰かいるんか?」
(この声は――)
足音が近づき、止まる。
「どうした?今、出てきたんか?」
「ケースケさん……」
声のする方を見上げると、ファームで二遊間を組む機会の多い先輩――水田圭介が立っていた。
「気分でも悪いんか?」
心配そうな声に、頭を振る。
「そこ、水、入っとるよ」
傍らに転がるカバンを指差され、口を開けようとファスナーに手を掛けた。
音。
重く、鈍く、ひどく近い。
何の音?
確かめようと、耳を澄ませる。
その音は遠のきながら繰り返される。
黒瀬春樹(背番号56)の呼吸が止まるまで。
「隙、見せちゃだめやろ」
うつ伏せのまま動かなくなった黒瀬のユニフォームで、手にしたハンマーに付いた血を拭う。帽子越しに殴ったせいか、飛び散った血の量は少なかった。
「さてと」
黒瀬のカバンを取り上げ、最初にいた木の陰に戻って開けてみる。
(なんや、たいしてかわらんな)
出てきた麺棒を横に置くと、カバンの中身を移し変え、一つにまとめる作業に移った。
「!」
足音が聞こえた。
黒瀬の時と同じように、足音のみから様子をうかがう。
一瞬、立ち止まり、ゆっくりとした歩調に変わる。
「あぁ……く――」
小さな声とカバンが地面に落とされる音。
そこまで確かめると、水田は足音を忍ばせ歩き始めた。
自分に突きつけられた銃口に顔がひきつっている事を自覚しつつ、青木勇人(背番号53)は、その最年長捕手の名前を口にした。その声もひきつり、震える。4、5メートル先の銃口の向こう側から、聞き慣れた声が、今までに耳にした事のない重さで問うてきた。
「青木、か?お前は、やる気なのか?」
「む、無理です」
目で動いてもいいかと尋ね、椎木匠(背番号55)が頷くのを待って、ズボンのポケットに差し込んでおいたスリッパを引っ張り出し、掲げてみせた。
「それが、武器……なのか?こういうのとか、刃物じゃないのか?」
構えられた長さが1メートルはある銃を軽く振ってみせる。
「多分……俺もそう思っていましたけど、他にそれらしい物は入っていませんでしたから……誰かと一緒に行動できればと思って……」
「何、考えているんだろうな。あいつら」
ため息のように呟かれた声とともに、椎木の銃は下ろされ、普通に話せる距離まで近
づいてきた。
ここはあのホテルの東側と西側を結ぶ南側の迂回路の中間辺りだ。青木は東側の出口から西、椎木は西側から東を目指していたところだった。
いくら殺し合いだの暴力沙汰は御免だと言ってはみても、支給された武器がスリッパだと分かり、いくらなんでもこれはマズイんじゃないかと、頼りになる仲間を求めてホテルの周辺を歩いてみる事にした。
50番台の選手には青木よりも若い選手が多い。
誰かと一緒に行動できたらと思った時、自分の次に名前を呼ばれる椎木となら心強いのではないかと期待していた。
いきなり銃口を向けられるとは思わなかったが、スリッパのお陰なのか椎木の警戒心を解く事が出来たようだ。
「それ、凄いですね」
「……ああ」
無造作に右手に握られたそれを一瞥する椎木の目は冷ややかだ。そこに沈痛の色が加わり視線は青木に向けなおされる。
「向こうで三人死んでいた……三井、山崎、岡本だった……まだまだ、これからだったのにな」
「俺も、お前さんもだけどな」そう付け加えて、少し笑う。
あの広間で聞こえた銃声や、外に出てすぐに見つけた乾きかけの血溜まりから、どこかで予想はしていた。それでも過去形で聞くことになるとは思わなかった仲間の消息に、青木は言葉を失う。
「あんなのはもう見たくないな」
椎木の目は青木の背後の山に移され、黙り込む。
マウンドからは時にその体格以上に大きく見えることもある椎木の身体が、この時はひどく小さく見えて、青木は目を逸らせた。握られた銃器の重さにさえ耐えられないかのように傾いた椎木の右肩の向こう側を見つめる。
風に揺れる木々の音がやけに耳につく。
二人の間の沈黙は、誰かの悲鳴に破られた。
近い――悲鳴の出所はホテルの屋根が垣間見えるすぐ横の林の中だ。続けて落ち葉を踏み締めて走る音、争いあう物音が聞こえてきた。
傍らを動いた空気に振り向けば、椎木が林に向かって走り出していた。
「椎木さんっ!」
慌てて青木も後を追って走り出した。
「島の南端で」
あの部屋で近くにいた、同じ高卒ルーキーの藤原虹気(背番号63)と取り決めた簡単な待ち合わせだった。
外に出てすぐにカバンを開けてみる。
(これが、武器?)
あまり役立ちそうには思えなかったが、とりあえず身に付け、帽子を被り直す。
コンパスで南を探し、歩き始めて5分も経たないうちに、茂みの陰に白いものをみつけ、足を止めた。
だいぶ日が落ちてきている林の中にあっても、それはユニフォームを着た誰かが倒れているのだと分かる。
恐る恐る近づいてみると、真っ先に目に飛び込んだのは、うつ伏せの背中と56の数字だった。
帽子――頭の形が不自然だ。何よりも青い帽子ににじむあの赤黒い色はなんだ?
その人の名前を呼んだのだと、思う。返事がないことを確信しながら――。
傍らにしゃがみこんで、その身体に触れてみる。冷たいのか、暖かいのか分からなかった。ただ、もう二度と動かないことだけは確かだった。
「星――」
星秀和(背番号61)は驚いて顔を上げた。
「ケースケさん……」
名前を呼ばれるまで、水田が近くにいることが分からなかった。水田はじっと黒瀬の死体を見下ろしている。
「それ――お前が……?」
「ち、違――」
「だよなあ」
思いのほかに明るい声と同時に、何かが空を切る音を星の耳が捉えた。
その音に反応したのか、別の何か――勘のようなものだったのかはよくわからない。
星は腰を引いていた。
同時に金属同士がぶつかり合う音と、額を襲った衝撃に目の前が暗くなる。それでも星の身体は無意識のうちに、後に転がった勢いのままに立ち上がっていた。
はっきりとしない視界に、ハンマーを構えた水田が距離を詰めてくる姿が映る。
「わああぁ」
悲鳴を上げ、水田に背を向け走り出す。数歩も進まないうちに、何か――水田が足元に投げつけた麺棒――に足をとられ、地面に転がった。
立ち上がろうともがく星に、再び水田のハンマーが振り下ろされた。
必死に身をひねり、仰向けになると、両手でハンマーを振り払う。それでも執拗に振り下ろされるハンマーは、いつまでも避けきれる物ではない。なんとか頭部を庇うものの、ハンマーは腕を、肩を殴り、耳もとを掠めて地面を抉る。
(――いやだ!)
痛みさえ分からなくなってきている。どう動いているのかも分からない。
それでもあきらめて、死ぬ事を、殺される事を受け入れることは出来なかった。
「何してるっ!やめろっ!」
グラウンドで幾度となく耳にした。守備の指示を出してくるキャッチャーの声。腹の底まで響いてくる。
声のした方を向くと、棒のような銃を抱えた椎木が走り寄って来る。その後にもう一人。
「チッ」
ハンマーでは分が悪い。
星への最初の一撃で、利き腕に走った痺れはまだ残っているうえに、黒瀬の時と違って抵抗してくる星に、水田も消耗していた。
椎木が銃を構えるのを視界の端に捉えながら、その場を逃げ出す。倒れている星に気を取られて、水田を追ってはこないようだ。
歩調をゆるめ、息を整える。
(ええなぁ……あんなん)
人を――チームメイトを殺し、傷つけた行為よりも、ハンマー以上の強力な武器を手に入れられなかった事の方が、現在の水田には重大な事だった。
殺される前に殺す。そして必ず生き残る。
そう決めた自分には、身を守り、仲間を確実に殺していくための武器が必要なのだ。
出口の近くで、まだ支給品の確認をしていない仲間の隙をついて殺し、武器を手に入れる。
西側の出口を出た水田が見た三つの死体と、中身を物色された形跡のあるカバン。そして自分の武器がハンマーとわかった時に決めた方針。
だが、ランダムで決められるという出口のせいか、水田が木の陰に潜んでから、南側の出口から出てくる選手は少なかった。
(やっと殺せた黒瀬は麺棒やし)
その麺棒も星に投げつけて、置いてきてしまった。
次の手を考えなくてはならない。荷物を背負い直し歩き出す。
(人がいすぎてもやりにくいしなぁ……)
星まで外に出てきているということは、全員が出発するのはもう間もなくだ。他の出口に回っても遅いかもしれない。
上本と落ち合う約束をした寺に行くのもまだ早いだろう。
(……つうか、あいつ、これるんかな?)
あの調子では既に誰かに殺されているかもしれない。
最も待ち伏せに適した場所を探して、この南側の出口近くの林に足を踏み入れた水田が見つけたのは、地図に集中している上本だった。
足音を殺して近づいたが、地図の陰から鉈が出てきたのを見て、声を掛けて隙を窺う事にした。実際に隙だらけではあった。だが、鉈を手にし、体格で勝る上本をハンマーで確実に殺す事は難しいと判断し、その場は話を合わせた。
ここで待てばまだまだ、水田より年下で与し易い連中が、これから出てくる可能性は高いのだから。
(ま、行かんでもエエし……さて、どこ行こ?)
赤みを増した太陽にひき付けられるように、その足は西に向かっていた。
「大丈夫か?」
まだ起き上がれず、両腕で顔を覆って荒い息を繰り返す星は、椎木の言葉に震えながらも頷く。
助け起こすと、星の額に金属片を縫い込んだ鉢巻――鉢金というらしい――が着いているのがわかった。これが致命傷を避けさせたのだろうか?
椎木に追いついた青木が、水田の走り去った方を覗っている。
「やめとけ、スリッパでどうするんだ」
「そうでした」
握りしめたままだったスリッパをポケットに差し込んで、座り込む。
「……水田でしたね」
青木も先程見た光景を思い返しているのだろう。口元を覆った震える手の中で「どうしちゃったんだよ、あいつ……」と呟く。
「ほら、これ」
椎木は自分の荷物から取り出した水の入ったペットボトルを手渡そうとして、星の手が震え、その爪が割れているのに気づいた。蓋を外してから、伸ばされたその手にしっかりと握らせる。
「……ありがとうございます」
落ち着き始めた呼吸の合間に押し出された声は小さく、ひどく掠れていた。
怪我の具合を確認すると、ハンマーが掠めたらしい切り傷が頬や耳に、そして額と両腕に無数の赤黒い痣が浮き出ていた。骨に異常はなさそうではあったが、頭部を殴られているのも気がかりだ。きちんと冷やさないと今夜あたり熱を出すかもしれない。
カバンの中にあったタオルに、水を含ませ土や血を拭う。こうしていると、幼さの残る顔立ちや、身体の細さが目についた。捕手というポジションのせいなのか、時折、19歳のわりには、しっかりとした面を見せる星だが、まだまだ少年の面影が強い。
星の頭部に繰り返し振り下ろされるハンマー。椎木に向けられた感情の汲み取れない水田の顔。先程目にした光景を思い出し、背筋が寒くなる。
「……あの……向こうで――」
ためらいがちに切り出されたのは、黒瀬の死。
星が指し示す茂みの陰で冷たくなっている黒瀬の遺体。首から上は酷い有様で、黒瀬のダグアウトジャケットで覆った。
すでに仲間の遺体を前にする事が初めてではなくなっているとは言うものの、あの部屋で目覚めてからまだほんの2、3時間だ。こんな短時間で慣れる――慣れたくも無い事だが――はずもなく、ただ打ちのめされる。
「黒瀬も水田ですね」
隣で手を合わせていた青木が話し掛けてくる。星の話と黒瀬の遺体の様子からしてそれは疑いようの無いことだった。
「こんなの事するなんて、信じられませんよ……」
ファームで自分のバックを守る黒瀬と水田。球を受ける椎木や星。そこからは余りにもかけ離れた光景。青木はそれを噛み締めているのだろう。もう二度と動かない黒田を見つめる目は、そこを見てはいないようだった。
一度強く目を閉じ、立ち上がる。
「水田を止めましょう」
そう言い残すと、少し離れたところで休ませてある星の元に向かい、話し掛け、スリッパを見せている。元気付けようとしているのだろうか。
青木と出会い、この場に駆けつける直前、椎木は死ぬつもりでいた。
最初から殺し合いなどする気はなかった。だからといって、こんな馬鹿げたゲームとやらで死ぬつもりもなかった。
だが、あの広間で見せられた二人の死。そして外に出されて早々に見た三人の死。そして支給された武器が散弾銃――ふざけた説明書によるとレミントン870という名前らしい――だと分かった時、そうしようと思った。
こんな物は、我が身を守る道具でもなければ、誰かを救う力でもない。ただの凶器。命を奪い、傷つけるためだけに存在するもの。
手に取るとその事がもっとはっきりと伝わってくる。
この道具も、状況も自分の手には負えない。
それならせめて人目につかない山の中でと、紙の箱にぎっしりと詰まった弾薬を一つだけ取り出し、ポケットに入れ、残りを捨てて、東を目指した。
自分がこんなにも諦めのいい人間だったとは知らなかった。人一倍、粘り強く、しぶとい人間だと思っていた。そうでなくてはプロ野球の世界で、16年も生き抜いてはこれなかっただろう。
自分自身に裏切られる。水田もそうなのかもしれない。
椎木は自分自身を水田は仲間を殺す事で、ここに連れて来られる前までは、当たり前と思っていた自分というものを受け入れる。
魔が差した。そう言ってしまうのは簡単だ。
辛いのは自分だけでは無いのだと、成す術もなく殺されたであろう黒瀬の無念に比べれば、我儘にすぎない。
そう思ってはみても、この気持ちは変わりそうもない。
(困ったもんだな……)
持て余す自分の感情を突き放し、立ち上がる。
椎木が動き出すのを待っていたかのように、星も立ち上がった。
心配そうに声を掛ける青木に「もう、平気です」と答える星に、落ちていた麺棒と帽子とカバンを渡す。
藤原と約束があるのだという星の言葉を青木が驚いたように復唱する。
「島の南端っ!?」
「分かりやすいかなと……」
黒岩の説明だけでは島の大きさなど解り様もなかったのだから、仕方が無いのかもしれない。合流の約束をしただけでも大したものだろう。
「行きましょう。急げば、途中で会えるかもしれない」
「そうだな。行くか」
もう少し二人の知っている自分でいられるように、動き出す。
それに動いていれば、星の悲鳴に思わずここに駆けつけた自分でいられるかもしれない。
考え込んで動けない野球選手では話にならない。
【黒瀬春樹× 残り48名】
リアルタイム投下に初めて出会った━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
スマソ 途中で書き込んでしまったorz
職人様乙です。
水田怖いよ水田
しかし☆君は大丈夫なんだろうか・・・心配だお(´・ω・`)
椎木…かっこいいな
黒瀬(-人-)ナムナム
それにしても死ぬペースが早い気がするのは猫らしいといえばそうなのか
職人様乙です!
早速やっちゃってるよ水田…
ところで一箇所(だと思うのですが
>>252)、黒瀬が『黒田』になっちゃってますよ。
職人様方乙です!
24.裏切るものは までうpしました。
>>257についても訂正しました。ありがとうございます
259 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/01/30(月) 17:54:22 ID:tiHjTFZ/0
今年はこの選手に注目
小野剛投手
桐蔭学園高−武蔵大−巨人−セリエA・サンマリノ(イタリアプロ野球)
>>257 ご指摘ありがとうございます。そして、すみませんでした。
>>258 保管庫様、乙です。
訂正までしていただいて、いつもありがとうございます。
サブタイトルの件ですが、今までついていなかった所にもつけた方がよいでしょうか?
>>260 揃える意味でも、あれば嬉しいですが、ご負担では無いでしょうか?
期待sage
期待sage
264 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/02/04(土) 12:29:46 ID:Q4LmVSZf0
age
職人さん、期待してます。
25.ご利益
大島裕行(背番号51)が古びた案内板の前に広がっている乾きかけた血だまりに目を奪われていると、大島より先にあの広間を出たはずの後藤光が、後から声を掛けてきた。どうやら、今、建物を出てきたようだ。
「……あれ?……ど、どうしたんですか?」
「いや、なにがなんだか……最初は反対側――」
困惑を浮かべた顔で事情を説明しようとする声が、不自然に途切れた。
後藤光も血だまりに気が付いたのだろう。その目が血だまりから続くいくつかの血の足跡を辿っている。
――行きたくない。
――行かせたくない。
何かに引き寄せられるように、ふらりと一歩を踏み出した後藤光の腕を掴もうとした。が、その腕は大島の伸ばした手をすり抜けていく。
大島もまた後藤光の背中に引き寄せられるようにその後を追ってしまった。
立ち止まった二人の足元には、三人の遺体――。
三井さん……山崎……岡本?
誰かの手で整えられてはいたが、三人の身体は血塗れで、よく知る三人の顔と、今、目の前に並ぶ顔は余りにも違いすぎていた。
どのくらい三人の前にいたのだろうか?
どちらが先に「行こう」と言ったのだろうか?
離れがたかったのか?逃げ出したかったのか?
二人でいたから動けたのだろうか?
「……ゴメン……悪いけど、一人で行くよ」
どこかでそんな声を聞いたような気がする。
自分は引き止めたのだろうか?黙って頷いたのだろうか?
いつのまにか、建物のある山の麓に沿うように北に進んでいた。
歩き続けているうちに、麻痺したようになっていた思考が、少しずつ動き始めた。
殺し合いなんだ……殺されたんだ……。
(星野さんは知っているのかな……?)
同郷の後輩である岡本を可愛がっていた。
岡本、星野、平尾の四人で自主トレをしたのは、ついこの前だ。
(なんで……こんな……)
星野や平尾はどうしているのだろう?無事なのだろうか?他の仲間は?
(一人はいやだな……)
心細さが募る。今からでも一緒に行動してくれる仲間を見つけられるだろうか?
(戻ってみようかな?)
迷いながらも歩きつづけていた大島は、人の声に続けて起きた異常な音を聞いた。
日が暮れてきたため、高波と平尾の二人はホテルのある山を北西に下った中腹にある小さな神社に移動していた。
一時間以上、山を歩き回り、頂上でこれからの事をしばらく相談し、頂上からここまで約30分。まもなく全員があの建物を出る頃だろうか?
高波はようやく落ち着いて地図を広げる事ができた。
平尾は落ち着かない様子で賽銭箱を覗いたり、落ちていた大きな鈴を振ってみたりしている。
平尾が一人でいようとした理由は、「まあ、もういいよ」と、はぐらかされた。頂上にいたのは「高い所からみれば、何か分かるかもしれない」との事であった。
どうにも腐れ縁な仲だが、平尾らしい行動なのかどうかよく分からない。考えるだけ無駄な気がして、地図に集中する。
島の形はどことなくライオンズのペットマークであるレオの横顔が俯いているようにみえる。
鼻先とタテガミの先端で約4.5km。北と南が約3.5km。
北から西にかけての海岸線は崖。
南西――レオの開いた口にあたる部分が湾になっており港がある。漁港と漁村といった印象だ。
南側が砂浜。南東部分が岩場で灯台がある。
北北東の港から東にかけて島内で最も栄えた市街地があり、様々な店や病院、学校などが集中しているようだ。
内陸部では北西から南東にかけて丘陵地帯が走り、島をほぼ二分している。島の三分の一は起伏に富んだ地形となっており、島の大きさ以上に島内の移動には時間が掛かりそうだ。
先程まで二人のいたホテルのある山の頂上が島のほぼ中心と言える。東側に同じくらいの大きさの山。西側の中腹にあのホテルと約1km四方のゴルフ場。
二つの山の間には川が流れており、南側の集落を抜けて南の海岸から海に注がれている。
丘陵地帯に沿うようにいくつか集落がある。
最も大きい集落が二つの山の南側の麓に。ついで東の山の東側にある寺周辺に。あとは集落というより民家らしきものが点在している感じだ。
そして、地図を格子状に区切るライン。
西から東に向かってA〜L、北から南に1〜8の400m四方に区切られている。
全く陸地にかかっていないエリアもある為、80箇所ぐらいだろうか。
これが一区画ずつ、ホテル周辺を皮切りに、禁止エリアとなっていくのだろう。
黒岩の言っていた最初の6時の放送も間もなくだ。死亡者も発表するという話だったが、本当に殺し合いが起きているのだろうか?
大まかに確認したところで、境内の端から麓に向かっている石段を覗き込んでいる平尾に近づき声を掛ける。
「なあ、どうする?ここで夜を過すのは無理そうだ」
予想していたよりも小さな神社で、これでは野宿と変わらない。贅沢は言えない状況だが、この季節に野宿などしては確実に体調を崩しそうだ。
「ああ、うん。でも人が集まりそうなところには行けないんだよな……」
高波も石段を覗く。見れば石段はかなり急で百段以上はあるだろう。
「心臓破りって感じだな――あっ」
「何?」
イヤホンを指差す。
平尾と合流してからずっと山の中にいたためか、近づいてくる選手の情報が入ってくるのは、これが最初だった。
「二人、近づいているって……」
「誰?」
「……誰かまでは言ってくれないみたいだ――ここを、こう、来ているって」
手にしていた地図を広げ、指で辿る。二人は麓に沿う道を進んでいる。
「石段の下を通りそうだな。登ってこなければ――」
やり過せそうだと、続けようとした高波の言葉は野球選手らしからぬ言葉に遮られた。
「いっけぇぇ!ドライブシューーートッッ」
平尾はいきなり手にしていた鈴を石段に向かって蹴り落とした。
「…………まっすぐだが?」
鈴は盛大な音を立てながら石段を転がり落ちていく。
「細かい事を気にしない」
言いながらカバンから取り出した紙――選手の名前が書かれたリスト――に何かを書いている。
石段の下に白い人影が現われ、石段を登り始めた。
「おい!登ってくるぞ!」
紙を小石で抑え、賽銭箱の上に置く。
「よし、逃げよ!」
カバンを掴み、高波の背を押し、また頂上を目指して走り始める。
「また、山登りかよっ!」
「ゴメン!」
「バチが当たるからな!」
「その時はその時」
大島が山の上からこちらに向かってくるけたたましい金属音に足をすくませていると、目の前の道を金色っぽい丸い物が横切っていった。
プロ野球選手の動体視力はそれを確かに捉えてはいたが、この場で目の前を通り過ぎるはずのない物を認識する事は出来なかった。
「な、なんだ!?」
謎の物体が出てきた辺りに近づくと、山に向かう石段があった。
石段の上には、白い人影。どうやら二人いるようだ。
無我夢中で石段を駆け登る。
いくら野球選手とはいえ、突然の激しい運動に身体が抗議してくる。
息が切れ、肺が痛い。それでも足は止めない。
登りきった時には、心臓も足も悲鳴を上げていた。
苦しくて涙が滲む。
(……誰もいない)
霞む視界に入るのは狭い境内と小さな社。賽銭箱の上に何かが乗っている。
がくがくする膝でそこに向かい、それを手に取る。
小さな紙に文字が走り書きされていた。
『会えないけど、みんなで帰ろうな』
「……意味、わかんないし……字、汚いよ……名前ぐらい書いてよ」
だが、見覚えのある字だった。
「なんで……平尾さん……俺、一人だよ。助けてよ……」
苦しいのは乱れた呼吸のせいばかりではないようだった。これまで自分のものでありながらも、どこか遠いところにあった感情が一気に押し寄せる。耐え切れず、手の中の紙片を握りしめ、その場にしゃがみこんだ。
呼吸が落ち着いてくるにしたがって、急激に汗が冷え始め、大島は大きく身震いした。
「急に……走らないでよ……」
「えっ!?」
突然の背後からの声に振り返ると両膝に手をつき、荒い息を繰り返す後藤光がいた。
「一人で行くって……」
「やっぱり、やめたんだ。心細いし……なんか、さっきは俺も分けわかんなくなっちゃってね……。置いていっちゃたみたな気がして、後ろめたくてさ……」
聞けば別れの言葉を告げて五分もしないうちから、大島の後ろをずっと付いてきていたらしい。全く気が付かなかった。
「……早く、声掛けてくださいよ」
「ゴメン。なんか、言い出し難くて……。一緒に行こうよ。あのさ、俺、結構、運いい方だし。俺といれば、また野球が続けられる気がしない?」
「……」
大島の記憶が確かならば、特に野球に関してはとんでもない事への巻き込まれ度合いが、只事ではない人であったはずだ。
今回のこの事態などは、極みの域だろう。
それでも後藤光は笑ってみせる。
「ほら、折角だしお参りしていこうよ。俺も含めて、きっとご利益あるよ?」
【残り48名】
今までの分のサブタイトルはrZmes0SmeEさんがよろしければ、つけたいと思います。
乙!
大島…ノд`)
乙です!
平尾のメモに感動。
>270
乙であります。
今までの分のサブタイトル、あるほうが良さそうですし、つけましょう。
自分の分は以下です。
7.二人目
9.決意
12.波紋
15.雨の降り止む日
16.天国の在り処
18.元ホテルマンは見た
20.また会う日まで
22.悪魔の提言
保管庫さんにはお手数ですがよろしくお願いします。そしていつもありがとうございます。
>>273 了解です。
こちらの分は以下のものになります。
保管庫さま、よろしくお願いします。
4.冷たい腕
5.6人
6.出口
8.誘い球
11.配役
13.a red light
14.小石
17.呼吸
19.後戻り
21.目的地
26.海
「…ばがけ、何しちゅんずや。」
出発を待つ間に何度か聞こえた銃声から覚悟はしていたはずだった。しかし、実際にこうして仲間が死んでいるのをこの目で見て、細川亨(背番号47)はどうしても平静でいられなかった。心中に広がった苦い思いを一緒に、早口の津軽弁で吐き捨てる。
しかし、一体どうしたらいいのか。憂鬱な気分のまま、細川はその場を離れ歩き始める。思考がふらふらと目の前の風景から遊離し始める。
(負け越すようなチームはいらないって、そりゃプロだから結果が全てだとわかってる。そして、投手達の調子が上がらなかった責任の一端は捕手である俺にあることも、そして正捕手と胸張って言えるほどの力が俺にはまだないこともわかってる。でも。)
あてもなく彷徨っていた足が止まる。足元の石を蹴り上げるとまた、左右の足を交互に繰り出し再び歩みだす。
(でもさ、皆必死だったんだぜ。岡本も山崎も三井さんも、俺だってそうさ。それを。)
それを、その先の言葉がうまくまとまらない。このもやもやした感覚、この感覚は知っている。大学選手権の結果に満足いかなくて、もう野球なんてやめてやると思ってしばらく遊び呆けていたときの、そう、あのやさぐれた感じだ。
(海が見たい。)
唐突に細川はそう思う。この身を切り裂くようなきつい潮風が欲しい。
(北か、南か。)
空を仰ぐと風に乗って雲が北に流れる。北に向かおう。歩け、歩け、日が暮れる前に。歩け、歩け、歩き疲れて死んでしまうまで。
地図を広げ北北東の港を目的地に定めると、やや勾配のきつい、山肌にまきつくように刻まれた舗装された山道をすさんだ気持ちで細川は歩き続ける。どれくらい歩き続けたのか、視界の左側が突然広がる。遠目に港が広がっているのが見えた。。
足を止めて観察する。山と海の間が狭い、水深の深そうな港だった。桟橋にはさすがに船影はないが遥か沖合いに船らしい影が見えた。足を止めてはじめて細川は疲れが出ているのを感じたが、ひとつ呼吸を整えて再び港を目指して山道を下り始めた。
港を目指して歩き始めてから一時間くらい経っただろうか、ようやく着いた港は、ここが小さな離島であることを考慮に入れれば充実していた。しかし最近は使われていなかったのだろう、コンクリートにはひびが入っていたりと、廃墟の気配が忍び寄っていた。
フェリー乗り場を示す案内板は塗装が錆びていて、島の名前も港の名前も知ることはできない。コンテナがいくつか放置されていて、どれも例外なく赤茶けた錆が浮いていた。荷物の上げ下ろしに使われていたらしいクレーンも同様に錆び付いている。
動くのかどうか気になって細川はクレーンをよく見たが、使ったことのないものゆえに分からなかった。コンテナ置き場の隣には倉庫が2つ建っている。中には何もないだろうが後で調べようと思う。
吹き付ける風は強い、やはり外海だろうか?待合室及び運行会社の事務所に使われていたと思しき低層のビルがあり、今日のところはここで雨露をしのぐことができそうだった。ここが禁止エリアにならなければの話だが。
突堤の先でみゃあみゃあとウミネコが鳴く。数十羽ほどがこの島を越冬地にしているようだ。つられるように突堤の先にいき、消波ブロックの上を渡る。釣竿があれば釣りができそうだなと思う。下げ7分、釣りにはいい時間なんだが釣竿がなければどうにもならない。
夕日が揺れる水面で乱反射し、赤い光がぐにゃぐにゃとした模様を描く。船も人影もなく、ただウミネコがみゃあみゃあと群れる光景はわびしく、今の気分には悪くないと細川は思う。
野球は好きか?水面で揺れる赤光に、細川は自問自答する。今はもうわからない。もう好きではないのかもしれない。もしも運良くこの島から出られたとしても、もう二度とキャッチャーミットを手にすることはない気がする。
思考を断ち切り左右に二回、かぶりを振る。桟橋に引き返し鞄の中身を取り出す。S&W、M19の4インチモデル、であるらしい。とりあえず弾は入れずに西部劇よろしくクイック・ドロウの真似事をしてみる。
引き抜きつつ回転させて構えようとして、当たり前のように取り落とす。意地になってその動作を何度か繰り返し、同じ数だけ失敗した後、ユニフォームの白がこちらに動いてくるのが見えた。
丁度いい。どうせ撃つ気もなかった、この気詰まりなリボルバーを、ここに来たやつに押し付けてしまおう。遠くて顔はよく見えないが来訪者に細川は手を振った。
【残り48名】
職人様乙です。
続きが気になるな…
職人様乙です!
サブタイトルもつけてくれてthx!
早く続きが読みたい…(´・ω・`)
職人様方乙です。
遅くなりましたが「26.海」までうp、サブタイトルもつけました。ありがとうございます。
27. みんなきっと分かってる、責任をなすりつけあう自分のこと
人の姿をした死神が死者のリストを読み上げている。壇上の荒木コーチを一瞥してから栗山巧(背番号52)は心に浮かぶ諸々の記憶と思考の断章を拾い上げる。
人が死ぬのに理由はいらないことを知った日。炎を映して不気味に赤く燃えている南の空、稲光が行きかい、余震に怯える。風にのって届く煤と煙の臭い。あの山の向こうで街は燃え尽き、人は理不尽に死んでいる。ラジオはすまし顔で増え続ける死者の数を読み上げる。
ありえないことなんてないんだ。死神は思いつきで人々の命を刈り取り、地に生きる人々は日々を生きるごとに死神の気紛れなど忘れて、ここは安全だと信じてしまう。その足元で奈落の蓋が開き、誰かがまた黄泉に落ちる。でも誰かが落ちたことなんて誰も気がつかないのだ。
生き延びられる奴だけが生き残るだろう、10年前にそれを知った。どうして今まで忘れていたのだろう?きっと忘れたいからね、自分を騙すことは案外たやすいことなのかもしれないよ。
そんな自問自答を繰り返す栗山のユニフォームが引っ張られて、ようやく我に返る。振り返ると中村剛也(背番号60)の丸顔がじっとこちらを見つめていた。
「これ終わったら何したい?」
中村の細い瞳が真っ直ぐ栗山を見つめている。笑うでもなく、怒るでもなく、普段通りの表情だった。
「せやな、旅に出たい。」
誰も僕を知らず僕も誰も知らない、そんな辺境に自分自身を置いてけぼりにしてしまいたい、という言葉を栗山は飲み込む。
「旅か、悪うないね。」
「珍しいやん、外に出たいなんて言うの。」
悪くない、と真面目な顔で中村が肯くのを見て、栗山はやや表情を崩す。
「うん。」
いったん崩れた栗山の表情がまた、どこか思いつめたような顔に戻る。中村は栗山の横顔を心配そうに眺めた。もっと暢気に構えないと。何でもひたむきに、がむしゃらになってしまうのは悪い癖だ。
「皆、生きて帰れるよ。大丈夫。」
「さんぺー、そんなの気休めにもならへんって。」
なんとか栗山の気分を変えさせたいと思って中村は声を掛けるが、あっさり否定される。何か言おうとして中村が口を開きかけたとき、荒木コーチの、ハンドマイク越しの割れた声が響いた。
「背番号52、栗山巧」
急いで小声で栗山に話しかける。
「また今度。」
「ないんちゃうかな。」
やや悲しそうな顔をして中村に短く答え、栗山は胸を張って前に出て行った。
西に傾きかけた太陽光が目に入る。冬の日は短く、弱い。夏ならば赤すぎるほどの残照が空を照らすのだろうが、今は弱弱しいオレンジ色だ。空から地上に視線を移すと遠目に誰かが倒れているのが見えた。
死んでいるのだろうか?だが近寄って名前を確認する気にはなれず、栗山はその場に留まる。いずれ後で嫌でも知ることになるだろう。死ねばおしまいだ。たとえ友達だったとしても、死んでしまえばそれはもう炭素と水でできている物質だろう。
(ほんまにそう思うてる?)
(わからへんよ、でも、そう割り切ったほうがええ。下手に同情心を起こす余裕なんて、あらへん。いつかて、そっち側にいけるんやから。)
思案に暮れてそのまま貼り付きそうになる足を無理やり動かし建物の北側の人目につかなさそうな壁の影に腰を下ろす。
物陰で荷物を確認する。銃が一丁。Vz83スコーピオンと説明書きが入っている。
チェコ製の短機関銃、制御性に優れ正確な射撃に向く。軽くて小さいので携帯に便利。.380ACP弾の射程はいささか頼りないので近距離戦に持ち込もう。連射性もよいので、ターゲットが動かなく
なるまでフルオートで叩き込め!
ターゲットが動かなくなるまで、そのターゲットという言葉がチームメイト達をさしているのは明らかで、栗山は忌まわしげに武器を鞄に乱暴に放り込む。
かつかつと兵士達の立てる編み上げの軍靴の響きが壁越しに伝わる。新たに選手が出発するのだろう。さあ今また一人死地に赴こうとしている。それを感じて栗山は何故か目を閉じる。周囲の物音が遠くなり、自分の心音が大きく響く。どくん、どくん。
俺は殺したいのか?ノー、できれば殺したくはない。そして、多分皆そう思っている。
では、殺さずに生きていくことはできる?ノー、生きるために他の生命を食う、それが生きることの本質の1つ。生きることは何かを、知らないうちに殺すことだ。
どうして、こんなことになった?金がないからだ。このチームを維持する金がない。
どうして金がない?このチームを維持するのに必要な金を支払う価値がないと、親会社が、そしてファンが思っているから?
つまり、赤字を俺たちの血で贖えってことか。
誰もが責任を取ろうとしなかった。ファンも、会社も、選手会も。そして選手も。溜まった歪みが地震のように俺たちの日常を壊した。日々は壊れ、俺たちは助けも期待できずにこの島に取り残される。
目を開けて、鞄に放り込んだ支給武器を取り上げる。
誰も手を汚すことはしたくないと思うだろう。だが、そうやって逃げ隠れしていても誰かを救うことなんて出来ない。
誰かを救うために誰かを撃たなきゃいけないってのは間違っているのかもしれない、でも、何かを捨てずして何かを得ることなんて出来ない。
死ぬものがあって、生きるものがある。
「俺に刈り取る役、振ったんやな。」
嘆息とともに呟きが漏れる。支給されたマシンガンを構える。サソリの名に違わず小さく軽いそのマシンガンは取り回しが良さそうで、確かに近距離なら恐ろしい威力を発揮しそうだ。
グリップを握り、その感触を確かめる。マガジンをセットし、コッキングレバーを引いて初弾を薬室内に送り込む。引き金を引けばこれで弾が出る。
清算する時が来た。責任の押し付け合い、そのしわ寄せを清算して生き残る6人を選びとりそして、最期に俺が手を汚した分の恨みも呪いも責任もって引き受けて死ね、そうしろってことなんだな。そう言いたいんだろう?スコーピオン。
静かに周りを眺める。潮騒と風の鳴る低い音が聞こえた。どれほどそうしていただろうか、やがてゆっくりと疲れた様子で立ち上がり、表へ歩き出す。遺体の安置してある茂み、その向こうに白い影が見える。
「手を上げて、ゆっくりこちらを向いて頂けますか?」
銃を構えて声をかけた。思ったより自分が落ち着いているのに気がついて、栗山は自分が変わってしまったことを自覚せざるをえなかった。影が立ち上がり、手を上げてこちらを向いた。
【残り48名】
栗キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
誰なんだ!
クリ、威圧感ありそう…
マーダーにはならないで(∩□`)
28.予感
かつては豪奢なリゾートホテルだったらしい、この建物のエントランスから外へ放り出された中村は、荒れた植え込みやらひび割れたコンクリートやら、その他諸々の荒廃の気配に眉をひそめる。
思いつめた様子の栗山が心配だった。10分程前に出発してしまった彼になんとか追いつきたいのだがどこにいるのか見当もつかなかった。外は思ったより広く、そして見通しが利かない。今更ながら大まかな待ち合わせ場所くらい決めればよかったと後悔する。
きょろきょろと辺りを見回しながら進む中村の目に地面にたっぷりと染み込んだ血の赤が見えた。そして、また眉をひそめた。不吉な予感がする。予感を振り払うように中村は駆け出した。早く、一刻でも早く探し出さないと。
死の予感なのだろうか?胸騒ぎがして宮越徹(背番号66)は両腕で庇うように身をすくませた。最初は50人以上いた広間も、殆どの選手が外へ導かれさみしいくらい閑散としている。ひきかえに壇上の兵士とその銃がやおら目立って見えた。
「背番号66、宮越徹」
荒木コーチが名前を読み上げる。ちゃんとアキラと呼んだということは、特殊メイクか何かで化けている偽者なのではなく本物の荒木大輔ピッチングコーチなのだろう。俺が出て行けば残り5人か。振り返って全員の顔を眺める。
「また今度。」
別れの言葉として妥当かどうかはわからないが、何か言い残したいと思った宮越はありきたりな別れと再会を期するせりふを言う。
「またな。」
返事は期待していなかったが、田原晃司(背番号68)が手をあげて挨拶を返してくれた。振り返ると監督を除く全員がこちらを見ていた。東和政(背番号69)が泣きそうな顔をしているのを見て、引き返してその頭をポンと叩いて声をかけた。
「お前はもう少しタフにならないとね。」
東はさらに泣きそうな顔をして宮越を見上げた。東が何かを言おうとしたとき荒木コーチの声がそれを遮った。
「宮越、早く来なさい。」
「今行きます。」
もう一度、今度は振り返ることなく前方に歩き出す。言いそびれた東の言葉は呼気に紛れて誰に届くことなく消えた。呼び出しに応じて前に進む宮越は、ステージの前でどっかと胡坐をかいている伊東監督の隣を通るときにその厳しい横顔をのぞき見た。
彼に使ってもらえたからこそ、プロ入り初の一軍での1勝を挙げられたのだ。今となっては中日ドラゴンズ所属のまま戦力外になったほうがよかったような気もするが、できれば礼のひとつくらい言っておきたかった。
いままで微動だにしなかった伊東が振り向く。ゆっくりと口が動くが言葉はでない。立ち止まってその口の動きをじっと見つめる。
「宮越。」
焦れているのか、もう一度声がかかる。銃を構えた兵士が数人、引き立てるように宮越を奥へ連れて行く。抵抗のしようもなく、宮越はそのまま広間から連れ出された。
(監督…あれは生きろとおっしゃったのですか?)
読唇術の心得はないが、おそらく生きろと伝えたかったのだろう。このメッセージを1人でも多くの人間に伝えたい、宮越はその思いを胸に前を向く。前後を兵士に挟まれながら、なお昂然と胸を張り。
俺って運悪いんかな?ああ、こんな状況に巻き込まれてるんやから運がええわけないよなあ。目の前で銃を構える栗山を見て、水田は内心舌打ちする。
一難去ってまた一難、今まで会った隙だらけの奴らとは違い、どうも覚悟を決めたらしい栗山の表情は落ち着き払っている。さてどう切り抜けよう?
「水田さん、血を流す覚悟、あります?」
栗山の言葉は少々予想外だった。正直に答えるか、あるいは誤魔化すか。生殺与奪権は栗山が握っている。さあよく考えろ水田圭介、どちらが正しい答えなのか。
「…あるよ。」
これは賭けだった。栗山はゲームにのったんじゃないのか?そちらに賭けたのだった。
「一緒にいきません?手を汚す覚悟のある人、探してたんです。」
「へえ、クリが悪役やるんや?予想外やった。」
できれば、栗山の銃だけ頂きたかった。水田は栗山をからかってみる。これで隙が出来るなら儲けものだ。だが、栗山の様子に変化はあまりない。聞いてないって感じやなあ、水田は思う。
「生き残れるのは6人です。7人でチーム組んで、他の。」
栗山は一瞬口ごもる。息継ぎをする音がして、もう一度言い直す。
「他の人を殺していくのが一番効率いいやり方やと思うんです。そやから、あと5人増やします。いまから遭った人間を集めていこうかと思てます。」
ただのお人よしではないけれど実際に殺したことはまだないようだ。殺すという言葉にやや動揺を見せた栗山の様子から、水田はそう推量する。悪役志望の初心者か、後々銃だけ頂くチャンスはありそうだ。
「戦う集団にしたいなら、やる気のある人間選別したほうがええんちゃう?」
「あと5人は考えを理解してくれさえすれば充分です。誰もが果たそうとしなかった責任、そのしわ寄せを清算する時が来たんやってね。それを見届けてもらうのが残り5人。実際に殺すのは俺がやります。水田さんにも手伝ってもらえるとありがたいですけど。」
「生き残れるの、6人やで?7人やと1人多いんちゃう?」
「他人を殺そうっていうんですから、俺の命かて差し出せないとあかんでしょ。だから7人です。」
前言撤回、やっぱりお人よし。それも、ただのお人よしではなく超ど級のお人よし。人のために人殺しになろうなんてなあ。水田はくすっと笑う。
「おかしい、ですか?」
「ちょっとね。まあ俺はそれでかまへん、手伝うたるよ。」
優しい先輩が不器用な後輩を気遣うように、その優美な面差しに笑みを浮かべて水田は栗山に答えた。
西側に面した、一番近い出口がざわつき出す。誰かがまた出発するのだろう。二人で出口のほうを振り返る。
「きたよ。仲間増やすんやね?」
無言で栗山は肯いた。
東側をあらかた探し終えたが栗山は見つけられなかった。中村は焦る。
(早まるなよ、クリ。)
南側の迂回路を取って返す。途中で杉山春樹(背番号62)とすれ違う。
「さんぺー?」
「今忙しいんで後にしてください、すみません。」
「あ、うん。」
丸い背中が忙しそうに西側めざして走り去ろうとして、いきなり振り返る。どきっとして杉山は身構える。
「すみません、栗山見ませんでした?」
「いや、見てないよ。一緒に探そうか?」
一瞬、攻撃されるのかと冷や冷やしたが、そうではなかった。杉山はほっと胸をなでおろす。もう少し強気にならないと一軍には上がれそうにないな。杉山はこの場では全く関係ない、そんなことを考えた。
「じゃあすみません、このあたりお願いします。俺、西のほう見てきます。」
「ああ、うんわかった。気をつけろよ。見つかるといいな。」
「ありがとうございます。」
丸っこい姿が小さくなっていく。栗山か、10分くらい前に出て行ったはずだがどこにいるのやら。中村の焦った様子を思い出して、こんな状況でも友達ってやっぱり気になるんだなと杉山は思い、目元をやや和ませた。
大丈夫、皆で生きて帰ろう。俺たちは信じあって生きていける。小さな希望が杉山の心に灯る。
頭蓋骨を砕かれ息絶えた黒瀬の骸が後背の薮に隠されていることを、幸せなことに彼は気付いていない。
予感はしていた。マウンド上で、打者が何を狙っているのか、打つ気があるのか、そういったものを感じる勝負勘が鋭くなったのは感じていたが、まさか自分の死を予感してしまうとは思いもしなかった。宮越はため息をつく。目の前には水田と栗山がいる。
水田はハンマーを右肩に担ぐように持ち、栗山は銃―おそらくマシンガンの類―を腰だめに構えている。栗山の表情は悲痛なほどの決意に満ちているが、水田の表情には余裕があり、斜に構えてこちらを見物しているようだ。
「宮越さん、どうしてもわかってもらえませんか?」
「人の生き死には、人がどうこうするもんやないよ。人は生きようとするもの、それがどうして駄目なもんか。」
「人の生き死には人がどうこうするもんやないかもしれません。でもこのまま共倒れになるわけにもいきません。時間は限られてます。」
「栗山、苦しんで答えだしたのは分かるし、それもまた正しいのかもしれん。でも、それでも生きろと監督はおっしゃった。死ねとも、殺せとも言うておられんかった。」
生きろ、という監督の言葉を伝えると栗山は苦しげに一瞬俯いた。しかし、首を一振りしてからこちらに向き直る。
水田は暇そうにハンマーを担いだまま、こちらの話を聞くともなしに聞いているようだ。何か動きがあれば、容赦なくそのハンマーが脳天を叩くのだろう。
殺しに荷担してでも生きるのか、それとも昂然と胸を張り死を受け入れるのか。さあよく考えろ宮越徹。どちらが正しい答えなのか。
「なあ、そんなに生き急ぐなよ。感情をもっと、大事にしてもいいだろう?」
「それで、誰が助かりますか?」
「殺して、誰が助かるか?」
「最悪6人は助かります。」
「信用できるかな、それ。」
「ですが、信じるしか手はありません。」
声には悲痛さがある。栗山の頼みがただひとつ、殺しの片棒を担ぐことでなければ、いくらでも手伝ってあげられたものを。
「誰もがこのチームを抱えるコストを支払おうとしなかった。それを清算するときが来てしまったんです。」
栗山の言葉に確かに一理はあるのだ。誰もがコストを払おうとしなかった、それを清算する時がきたのだから、大人しく言うことを聞いて殺し合え。だが、人の命に最低限の尊厳はあるべきだ。なら、こんなことを受け入れてはいけない筈だ。
尊厳ある死か、宮越は自分の融通の利かなさをわらった。人の、生きようとする意志を大事にしろと言いながら、俺は死のうとしている。なんという矛盾だろう。
心をよぎる恩師と両親の面影に宮越は謝る。すみません、俺はここで死ぬことになりそうです。
「君が誠実で真剣なのはよく分かったよ。でも理解することと、受け入れることは違う。俺は人殺しの片棒は担げん、それなら死んだほうがマシだ。俺を撃て、そして血でこの地獄を切り開け。お前達の苦闘を、俺は彼岸でのんびり見学させてもらう。」
宮越が最後に見たものは、今にも泣き出しそうに顔を歪ませている栗山と、悲鳴のような彼の雄叫びだった。
.380ACP弾は正確に宮越の上半身に吸い込まれ、白いユニフォームに真紅が咲く。銃弾が宮越のやや浅黒い肌を引き裂く。鉛の弾頭はつぶれて肺を、心臓を、大脳を、腸を、脊髄を食い破り、ぐちゃぐちゃに傷つけた。
引き裂かれた傷から筋肉が支えていた内臓が支えを失いずるりとはみだす。それは宮越徹という人間をただの水と炭素の合成物に変えていくプロセスだった。
重力にしたがって、宮越の遺骸が地面に転がる。流れる血が辺りを赤く染め、割れた頭蓋骨から流れた脳髄の灰色がそれに混じり、赤と灰色の斑模様が地面を彩る。部分的に残る生前の姿と、完全に崩れてしまった部分との対比が酷くグロテスクだ。
返り血が栗山のユニフォームに点々と飛ぶ。それでも、引き金に指が張り付いてしまったかのよう
に、フルオートで弾を乱射し続けた。
「やめ、もう死んでる。」
水田が栗山の手を押さえ銃撃をやめさせる。荒い呼吸を繰り返し、そして地面に崩れ落ちる。30発のマガジンの半ば以上を撃ち尽くし、撃たれた宮越はもう、人間の原型を留めていないくらいに傷つけられていた。こらえ切れぬ嘔気に栗山は左手で口を押さえる。
「気持ち悪いんなら吐き。」
水田は靴の先で地面を掘り、くぼみをつくる。栗山は苦しげに胃の内容物を吐き出した。ペットボトルの蓋を開けて水を差し出す。差し出された水を含み、口と喉をゆすぐ。こんな状態で、大丈夫なんかな?水田は未だに荒い呼吸をしている栗山を眺める。
「今ならやめられるよ?人生。その頭、割ったげるから。」
「まだ、俺はまだやらなあかんこと、あります。」
左手の甲で口元を拭い、右手をついて立ち上がる。ついた右手の爪先に、血を含んだ泥が入り込む。栗山はじっと爪先を見つめる。血に染まった赤黒い泥、隠し切れぬ罪の証がその手に纏わりついていた。予感がする。いつか罪に耐え切れず死ぬ、それもそう遠くない未来に。
「ふうん?嫌になったら言いや、俺が楽にしたるから。」
首を振る。人を殺したのだ、もう後戻りはできない。
栗山を探して西側へと向かっていた中村はマシンガンの激しい泣き声を聞いた。
「クリ?」
友達が泣いている。でも、もう手遅れのような気がする。どうしてもっと早くこちらに来れなかったのか、後悔を胸に、音源をめざして中村は急いだ。
杉山は南側でマシンガンの高らかな凱歌を聞いた。皆で生きて帰る、そんな小さな希望が光を失った気がする。
(どうしよう、やっぱり見に行ったほうが?―でも怖い。)
杉山は動けずそのまま立ち尽くすが、やがておっかなびっくり斜面を下りはじめた。
(武器がこれじゃ、どうしようもない。)
狭山不動尊の無病息災のお守りと交通安全のお守りを握り締め、銃声のしたほうを見て合掌する。助けに行けなくてごめんなさい。そう心の中で謝りながら、ずっとこうやって逃げ回って、誰も助けられずにいるんだろうかと、そんな予感に肩を落とした。
「喧しくしたから、人が来る思うけど移動する?」
栗山の状態が少し落ち着くのを見計らって水田は声を掛ける。消耗して壁にもたれかかり、上体を支えていた栗山はその言葉に壁から背を離す。
「人には来てもらわないかんから、しばらくここで張ります。」
「ふむ、まあそれもありやねえ。あの遺体並べてるとこに隠れよ。あそこ人が寄ってきそうや。」
栗山は水田の指差す方向を眺めて、そして背後の宮越の遺体を悲しげに振り返る。
「出来れば宮越さん、埋めたい。ひどいことになってもうてますから。」
あんなにバラしたの、自分やないか。と水田はツッコミたい気分になる。ごほん、と軽く咳払いして気を取り直す。
「…まあ時間あればね。」
迂回路を急ぐ中村の目の前が広がる。ゴルフ場のある西側に来たのだろう、遠くに緑のフェアウェーが見える。注意深く辺りを見回す。塗装が剥げて錆びかけている島の案内板が目に付く。そして、奥の木々の袂に違うものがある。
近寄りたくない思いを抑えて近づくと、はたしてそれは3名の遺体だった。
(クリ、じゃないよな?)
名前を確認しようとして隣に膝をつく。死相が浮かんでいて生前の姿からかなり変わってしまっているが、山崎と岡本と三井だった。
(よかった違う。ああ、でも、よくないやん。)
脱力してその場にへたり込む。がさりと茂みが動いた。銃を構えている、その見慣れた端整な顔立ちの青年は、普段よりやや青ざめた顔をした栗山巧、彼だった。
「さんぺー、話、聞いてくれる?」
「…殺すほうにしたんやな。」
わかってしまった。中村は生真面目すぎるきらいのある友達の青ざめた顔を、構えられた銃を、見つめた。遅すぎたのだ。
「うん。それしかないと思う。」
「止めても聞いてくれへん?」
「無駄や。」
栗山の答えには迷いはない。苦痛はある。
「そか、じゃあ一緒にいくよ。」
「何も聞かへんの?」
「ええよ。止めてもあかんなら、ついていく。」
最後まで見守ろう、それしかもう出来ない。殺しなんてそんなこと、させたくなかったけど。遅すぎたのだ。中村は唇を噛む。切れた唇から血が滲み、鉄の味がした。
2人のやり取りを冷めた目で水田は見守る。
(うるわしい友情ってとこか。)
宮越の鞄の中身は確認済だ。注意して見ないと見えないくらい細いワイヤーの両端に取っ手の取り付けられた器具。絞首具だった。
(銃と違て歌わへんのはええけど、また使いにくい武器やなあ。まあ小さいから隠し持っとくにはええけどなあ。いずれ隙みて締めて、あの銃頂きましょか。)
「決まったならこれ持って。水と食料。自分らが使い。」
宮越の鞄から失敬した水と食料を栗山と中村に渡した。絞首具は誰にも見咎められることなく水田の袖に隠された。予感がした。夕日を反射して鈍く光るVz83スコーピオン。遠からず、あれは俺のものになる。禍々しい笑みが一瞬、水田の口元を彩りそして消えた。
【宮越徹× 残り47名】
297 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/02/12(日) 00:03:12 ID:66FqxVDVO
保守
職人さん大変乙です
うあぁぁんー宮越。・゜・(ノД`)・゜・。
栗山超心配だよ
俺の宮越が…orz
乙です!
宮越生き返って宮越orz
職人様お疲れ様です
水田怖ぇよ水田
宮様…マジでショックだ…
その後、宮越応援HPで何故か宮様の安全を確認して安心してしまうorz
29.協力者
吊り橋で許銘傑と別れてから約一時間。
高木浩之は山を下り、北北東にある港に通じる道のひとつをゆっくりと移動していた。
間もなく丘陵地帯を抜けようかとする地点で、立ち止まり、斜面の下に目を凝らす。この山道と合流する舗装された道が見える。
間もなくその道を通る、高木浩とは別ルートで同じ港を目指しているらしい一人の選手を待つ。
やがて木々の間に垣間見られる白い人影をしばらく観察し、その手に大振りな刃物が握られていることを見て取る。が、とくに周囲に警戒を払う様子も無く、早足で進むその選手に向かって声を掛ける。
足を止め、声の出所を探していたその選手がこちらに気付いて、刃物を握った手を振ってくる。
「誰ですか?俺は、上本です!こんなの持っていますが、なんにもしません!良かったら何もしないでください!」
キャッチャーらしいよく通る声が、非常にわかりやすく敵意の無い事を伝えてくる。
「……高木だ!俺もなにもしないよ!そっちに行ってもいいかな?」
「ヒロユキさん!」
声に喜色と安堵が混じる。相変わらず刃物――鉈のようだ――を握っているが、特に構えるでもなく、むしろ手にしている事を忘れているかのようだ。
念のために、取り出しやすいようにカバンの口から少し出しておいた銃把をそっと押し込み、空の両手を振ってみせながら近付く。
「おまえなぁ……それ、恐いよ。声、デカイし」
「ああ、スイマセン!」
腰に着けていた革のケースに鉈を入れ、その手をズボンで拭いながら、「ああ、緊張した……」と呟き、照れたように笑う。
「こんなことした事、無いですから……」
「そうだな……ところで、何処に行くんだ?」
「スイマセン。急いでいるんで、歩きながらでもいいですか?」
空の色を窺い、道の先の海を見つめ、返事も待たずに歩き出す。
急ぎ足で進みながら、上本は港を目指している事とその理由、水田との約束を説明する。
港を目指していることは予想通りであったが、高木浩は内心、首を傾げる。
上本の動きを見るために先程まで見ていたモニタでは、45の光点はホテル付近にあったはずだ。そしてその周囲では――。
なかなか興味深い動きであった為、よく憶えている。が、そんなことはおくびにも出さない。
そして、これから向かおうとしている北北東の港にすでに存在する光点の事も――。
「ヒロユキさんは?」
「とにかく恐くてさ……山の中をウロウロしていたんだ……武器もこれだったからね」
ズボンのポケットからボールを取り出す。
「えっ?」
もっとどうしようもない武器がいくつも支給されている事を知っている――黒岩は「遊び心だよ」などと説明していたが、そこは高木浩には理解し難い部分ではある――が、驚く上本に困ったような苦笑をむける。
「参るようなぁ。で、暗くなってきたし、とりあえず山をおりようかなって……情けないよな、そっちはなんとかしようって、色々と考えて動いているのに――今からでも手伝わせて貰えると、うれしいんだけど」
「いいんですか?」
「足手まといにはならないようにするよ」
「そんな。すっごい心強いですよ。俺だと気付かない事があるかもしれないですしね」
よほど嬉しかったのか、上本の歩く速度が上がる。これまでもかなり速いペースで進んでいたため、本心からぼやいてしまう。
「ちょっとは、先輩を労わってくれよ。そっちの方がデカイんだしさ」
ほどなくして到着した港は、高木浩にとっては初めて見るものではないが、傷みの目立つ案内板を確認しながら、話し掛ける。
「結構、広いな……二手に分かれよう。まずは外を見て、ここの桟橋で合流しよう。それから、建物の中を見ていこうか?」
「そうですね。じゃあ、俺はむこうから回ります」
何か気になるものでもあるのか、上本は高木浩が向かわせたかった方向とは逆に歩き出す。
(まあ、いいか)
モニタを取り出し、目的の光点の位置を確認する。
上本と合流する前に見た時とは状況が変化している。
(これはこれで、いいかな?)
高木浩もまた、案内板の前を離れ歩き出した。
細川が振る手に応じて、白い人影が手を振り返してくる。
お互いにを確認できる距離まで近付くと、細川の手にしたリボルバーに気付いたのか、ぎょっとしたように足を止める。
驚かせてしまったことが気まずくて、笑いかけようと思ったが、これまでの気鬱を引きずり、我ながら変な顔で彼を出迎えてしまった。
そんな細川の表情から何かを察したのか、ことさらに両手を挙げながら再び距離をつめてくる。
「誰?こちらは高木です!なにもしませんよ!」
「……?なんなんですか?それ?」
「上本の真似。あいつ、歩くの速くてさ。参ったよ」
ちょっと笑ってから、二人でこの港を調べに来たのだと続ける。
「夕暮れの桟橋にユニフォームって似合わないな。あと、それもな」
「弾は入っていないんですけどね」
もやもやとした気詰まりな気分を纏め上げたようなこの見た目以上にずっしりと感じられる金属の塊が、細川の手の中で体温を移し取っていく。
こんなモノこの人には似合わない。似合うヤツがいるわけではないが。
「……ごめんな。そんな物を持たせてしまって」
努めて平静のままの口調を保とうとしている事がわかる声だった。
「取ろうと思って、どうなるものでもないんだけど……こんなことになった責任を少しでも取りたいんだ。もう、遅いのかもしれないし、自己満足かもしれないけどね」
早いうちにあの建物から出た高木浩は、三人の死を知らないのだろう。あの無残な、仲間の手に掛かった哀れな姿を。だが、それを告げる事はためらわれた。
もうしばらくすれば、死亡者の名前が呼ばれる放送があるはずだ。何も自分が言う事はない。その時になれば、いやでも分かってしまう。
それでも、自分の口から伝えるべきだと思った。
責任は自分にもあると感じている事を知って欲しかった。
この人も今シーズンはケガで思うようにプレーできず、チームに貢献出来なかった事を悔やんでいた。
それでも、彼が守備につく事で内野の雰囲気が締まったものに変わる。プレーのみならず、彼に声を掛けられて、ピンチを迎えた投手の表情が変わるのを何度見ただろう。
高木浩ならこの気持ちを解って貰えるかもしれない。
聞いて貰えるだけでもこの気分を変えられるかもしれない。
だが、それにともなう余りにも残酷な報告をどう切り出すべきか、迷い、俯く。
「顔、上げろよ。とにかく今は動いてみよう。話は後で聞くからさ」
気を取り直すように出された明るい声であったが、力強かった。
「俺も、あの倉庫とか調べてみようとは思っていたんですよ」
先延ばしにしたところで、仕方がないことではあっても、少しほっとした。
何か手がかりが掴めたなら、それとともに言えばいい。
「じゃあ、頼むよ。暗くなる前にもう少し外を見たいし。上本が来たら、そっちを手伝うからさ」
腰を軽く叩かれ、細川は倉庫に向かって歩き出した。
空は色を移ろわせ、薄闇に変じはじめている。
目に煩いほど、赤くぎらついていた波も徐々に夜の色に染め変えられていく。
辛うじてここにフェリー乗り場があることを教えてくれた案内板。そして舗装されていた山道は、バスが通れるほどの幅員があった。
自分達はここを通ったのだろうか。
港の縁に立ち、山から見えた船影を探す。大きな船だったと思う。が、ここからではよく見えない。桟橋からの方がいいだろうか。
沖合いに目をやりながら桟橋に向かう。
広い港だ。だがひどく寂れ、目に映るあらゆるものが赤茶けている。潮の香りよりも鉄錆の臭いのほうがきつい気がする。
血の匂いに似ている――ふいに浮かんだ不吉な連想に頭を振る。
水田と別れてから、一時間あまり。
水田は無事に南西の港に着いただろうか?
自分のように協力し合える仲間と会えただろうか?
(そういえば、武器、なんだったんだろう?)
高木浩のボールのように、とても武器とは呼べない物が支給されている可能性がある。
(聞いておけばよかったな)
上本が通ってきた山なら、木の枝でも拾えば武器にできた。鉈を渡しても良かったかもしれない。
夕暮れに長く伸びていた影法師が薄くなり、周囲に溶け込み、不意に胸騒ぎに襲われる。鳴き交わされる海鳥の声が、それに拍車を掛ける。
潮騒を切り裂き、大気を弾く破裂音――銃声。
残響を冷たさの混じる潮風が押し流す。
新たな波の音が上本の耳に届くよりも早く、二度目、三度目の銃声がそれをかき消す。
積み重ねられたコンテナの向こう側――高木浩が向かった方向からだ。
赤に変わる白――二度と目にしたくない光景が脳裏をちらつく。
恐怖と不安に竦む足を無理矢理に動かし、上本は銃声のした場所を目指す。
【残り47名】
リアルタイム投下に遭遇した……! 職人様乙です!
細川どうなったんだ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
乙です!
乙です!
水田を信じてる上本が気の毒でならない
☆
312 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/02/17(金) 23:48:28 ID:wadEgudcO
★
☆
30.この世に未練は残さないつもりだ
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、
規則正しい呼吸と確かな足取り。だが彼は決まった目的地に向かっているわけではない。やがて青年の足取りが、腹にさしこみの気配を感じて止まる。左右をきょろきょろと不安げに見る。そして、もう走れないと言うようにその場に座り込んだ。
青年、松坂健太(背番号58)は地図も見ずに走り出してしまったこと、そして結果、道に迷ってしまったことを、そろそろ後悔し始めていた。
日は西に傾き風は冷たさを増してきた。今夜、夜露を凌ぐ場所がいる。どこか、どこでもいい、明るいうちにどこかの家に上がらせてもらわなければ。彼は立ち上がり、とりあえず元来た道を引き返し始めた。
カセットコンロの上でやかんのお湯が沸騰するゴボゴボという音がする。それを見て中島が麦茶のティーバックを入れた。炒られた麦の香ばしい匂いと共に3分ほど煮出してから欠けた湯飲み、ブリキのコップ、取っ手のとれたマグカップにやかんからお茶が注がれる。
「和田さんも、後藤さんも、お茶入りましたよ。」
温かい麦茶が3人の手に渡り、男3人で温かい麦茶を啜る。しばらく茶を啜る音と、配布の食料をかじる音だけが響く。
「しかし、ここってどこなんでしょね?」
配布の食料の中にあったマーブルチョコレートをいくつか噛み砕いて飲み込むと中島が口を開く。
「いろいろ探したけど、結局この場所に関わることはわからなかったな。全く、うまく隠したもんだ。」
和田が内心の失望を見せながら答える。
南側の集落を手分けして見て回り分かったことは、一年前くらいに住人が引っ越したらしいこと、電気はブレーカーさえ入れれば使えるらしいこと、ガスと水は元栓が閉じられているのか使えないこと、当然だが、電話は繋がっていないことだった。
集落には金目の物こそないけれど、消耗品やあまり値が張るとは言えないような物、ひどくかさばる物、ゴミ同然の物は残されていて、いま3人がひざ掛けに使っている、毛玉が出ている古い毛布もこの家に残されていた物だった。
「北東のほうにも色々あるみたいですし、明日になったらそっちに調べに出ませんか。」
机に広げられた地図を太い指で叩きながら後藤武が提案する。
「行くなら少しでも早いほうがええんちゃいます?」
「ナカジ、気持ちは分かるが夜は足元が悪い。そんな中移動するのは危険じゃないか?」
「この島にいる限り、危険は隣り合わせですよ。」
焦りを見せる中島を和田は危惧するが、中島は苦笑で返す。
「放送を聴いてから考えてもいいんじゃないですか?もうじき一回目の放送時間なんでしょう?禁止エリア聞いてからどうするか考えても遅くないんじゃないでしょうか。」
二人の会話を聞いて、後藤武は折衷案を出す。ひとつ頷いてから中島は話題を変えた。
「しかし武器になりそうなもの見つかりませんでしたね。」
もうちょい、ましなものにしたかったんですがねえ、そう中島は困ったように言う。
「あればあったで困るもんさ。でも今のところ、役に立っているからいいんじゃないか?」
そういったそばから、玄関で物の落ちるけたたましい音がした。3人で顔を見合わせ、そして玄関に向かった。
集落に下りたい、その方針で南に下りることを意識しながら引き返していた松坂健は徐々に傾斜が緩やかになっていく山道にそろそろかな、と予想していた。そして山道は舗装された道路に行き当たる。左を見るとハイキングコースを示す看板が立っていた。
舗装路に行き当たったとはいえ、山の麓に張り付くような集落だ、かなりきつい坂道である。坂の下遠くに暗さを増しつつある海が見えた。とりあえず手近な家に上がらせてもらおう。辺りを見回し、坂の上の一番大きな家に入る。
「ごめんくださぁい。」
小さな声で訪れを告げ、そっとドアを開ける。すると、ガコーンとやかましい音がした。何かが落ちてきたらしい。ここにあることがいまいち納得しがたいもの、金盥だ。呆然とそれを見守る。何故玄関にこんなものがあって、それが上から落ちてくるのか。
誰かが仕掛けていたのか?なら誰かがここに潜んでいる?気付いて身を翻し逃げようとする松坂健。同時に襖がさっと開く音がしてまろび出る人影が3つ。
1人はビニール傘をかまえる禿頭の大男。1人は大男の右隣でファイティングポーズをとる眼鏡に五分刈りの、これまた体格のいい男。その2人の後ろで、竹箒を構えているのは前の2人に比べれば細身、そして幼く見える茶色に髪を染めた男。
4人で3秒固まり、そして松坂健がぷっ、とふきだす。
「笑うなや、これでも大真面目なんやから。」
笑う松坂健に中島が抗議した。
「熱いから気をつけて。」
和田はそう言いながら松坂健に温かい麦茶を差し出す。喉を通る熱いお茶に生き返ったような心地で松坂健はほっと息をついた。
「外、どうなってるんだ?」
「…撃ちあい、しとる奴がいてたり、もう、亡くならはってる人もおって…怖いんです、すごく。」
外の様子を聞いた和田の言葉に、途端に表情を強張らせる。断片的な言葉は要領を得ない。かなりショックが大きいようだ。
「落ち着いて、大丈夫やから。ここは大丈夫やから。せやから、見たもんを最初から、出来る限り話してくれへんか?」
中島があやすように松坂健に声をかけて肩を叩くが彼はおびえたように首を振って俯く。中島は松坂健が話し始めるのを、そのままの姿勢で待ち続ける。やがて松坂健が話し始めた。
「よくわからへんうちにこの島に運ばれて、よくわからへんうちに長田さんがあんなことになって、よくわからへんうちに外に放り出されて、わかってるんはもう、亡くならはってる人がいること、銃を撃っとる奴が何人もいてることです。」
「誰、やられたかわかる?」
松坂健は中島の問いに左右に首を振った。
「俺、怖くて見にいけへんかったんです。そんなんやあかんって思うのに、でも怖くて。近寄ったら同じように死んでまうんちゃうかって、そんな気いして。」
「ええんよ、怖いもんは怖いんやから。ええねん、それで。」
やや取り乱した松坂健を中島が宥める。
「すんません、ほんま役に立てへんで。俺、よお覚えてへんのです、なんか記憶がすごいあいまいなんです。」
松坂健が両手で顔を覆う。くぐもった低い声はおそらく泣いているのだろう。隣に座り松坂健の震える右肩に左手をのせて落ち着くのを待つ。
「す…ません、俺、…ひぃっく。」
しゃくりあげる声が混ざる。
「ええよ、気にせんで。つらかったやろ、向こうで一休みしてき。見ててあげるから。」
「すみま、せん、…ひっく。」
続きの和室に毛布を持たせて寝かせる。胎児のように体を丸めて横になる松坂健の呼吸が、やがて規則正しい寝息に変わるのを見届けてから、後藤武に後を任せようと思い振り返る。
「後藤さん、すみません。見ていてもらえます?」
「オッケー、任せて。」
後藤武は快諾する。松坂健を後藤武に任せて中島は襖を閉じる。いままで使っていた、15畳あろうかという広い部屋が、襖で区切られたせいで4畳半ほどの狭い部屋に変わる。
「聞かないほうがよかったんじゃないのか?」
和田の言葉はやや非難の色を帯びている。
「かわいそうなことしたなあって思うんですけど、時間が限られてますから、しゃあないです。」
中島はやや悲しそうに言う。そして襖の向こうを窺うように振り返る。大きな物音はしない。
「和田さん、俺、やっぱり1人で行こうと思うんです。」
「無茶な、どうしてそうしたいんだ?」
「時間は限られてますから。このゲームを潰すんやったらちょっとでも多くの手がかりが必要ですし、それなら手分けしてやったほうがええでしょう。確かに危険です。何もせんほうがええんかもしれません。でもやらずに後悔するよりやって後悔するほうがええです。
1人で行くのが正しいかどうかなんてわかりません。でも次の瞬間死んでも後悔せんようにしよう、今すごいそう思うんです。いつ死んでもおかしくないんやったら、生きてるうちに精一杯生きたい、それだけです、理由は。」
「とはいえ、危険すぎる。もう死人だって出ているんだ。なあ、そんなに生き急ぐなよ。」
説得力のなさを感じながら和田は引きとめようと言葉を発する。
「誰も予想していなかった事態って起きるときには起きてしまいよります。そんで、そういう事態そのものに対して人は無力かもしれへんのですが、それでも人は何も出来んわけじゃあらへんのですよと。いや、何か出来ることを見せてやりたいんかな。」
中島がうーん、と首をひねる。
「なんだかよくわからへんこと言うてるような気ぃしますけど、とにかくこの世に未練を残さへんつもりで今できることをやりたいんですよ。」
襖の向こうで後藤武はその会話を盗み聞きしている。
(盗み聞きなんて悪趣味、だけど丸聞こえだしなあ)
よく眠っている松坂健を起こさないよう注意しながら、端のほうに固めておいてある4つの鞄に近寄る。そのうちの自分の鞄から自分の配布武器である銃と説明書を取り出す。
(おっと、弾も移しておかないと。)
後藤武の武器、コルトSAAピースメーカーとその弾45LCが中島の鞄に押し込まれる。そしてこの家から拝借したボールペンで説明書に走り書きする。
『ちゃんと自分の手で返しに来いよな』
それを鞄に押し込んでファスナーを閉めた。襖の向こうでは深刻な話し合いはまだ続いている。
「筆記具が手に入ったから色々情報集めて回って、それを皆に伝えるのは出来ると思うんですよ。だから次の放送が終わったら俺、出ます。」
「これから夜になる。せめて明るくなってからでも遅くないと思うぞ。」
「もうバタバタ死によるみたいですし、急いだほうがええと思います。暗いからこっちも闇に紛れて動きやすいかもしれませんし。」
「危険とわかっていて、それでも行くのか?」
「どのみち、この島にいる限り安全な場所なんてどこにもあらへんのですから、やるだけやってみます。心配してもろてるのにすみません。」
「わかった。なら今のうちに仮眠をとっておけ。1人で行くなら休みが取れる場所も限られるからな。後で起こすからゆっくり休め。」
「すみません、お願いします。お先に失礼します。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
話が終わってこちらに来るようだ。後藤武は毛布を被り寝たふりをする。襖が開いて中島が入ってくる。
「後藤さん、寝てます?」
「ん、ああすまん、少し寝てた。」
「ああ、ええですよ。マツケンもよう寝てるみたいで良かった。俺も寝ます、お先に失礼します。」
「お休み。」
そういって中島は横になり、すぐに寝入ったようだった。それを見て後藤武は腰をあげて部屋の外に出る。
「お茶もらっていいですかね?」
「ああ構わんよ。」
まだやかんに残っている麦茶をコップに注ぐ。時間が経ってやや冷めて飲みやすい温度になっていた。居心地のあまりよくない沈黙がしばらくその場を支配していたが、和田がその沈黙を破った。
「聞いていたか?」
「すみません、聞こえました。」
「そうか。」
後藤武は正直に答える。和田はそうか、と2度呟いた。そしてまた居心地のあまりよくない沈黙がその場を支配する。今度その沈黙を破ったのは、遠慮がちに玄関の扉が開かれる音だった。2人で顔を見合わせ、そして傘と竹箒で武装して玄関に向かった。
玄関にいるのは馴染み深い3人だった。
「おお、ベンちゃんか、元気そうで何よりだな。」
「タケ、和田さんの足引っ張ってないか?」
「和田さん、武敏さん、こんばんは。」
石井貴と松坂と涌井だった。
【残り47名】
乙です!
ナカジかこいい…
職人様、乙です。
わ…涌井が来た…((((((゚д゚;))))))
職人様、乙でした。
お前ら…どうか生き残ってくれよ
ほしゅ
☆
31、指針
(――夕方、なのかなぁ……)
あの広間には窓が無かったため、時間の感覚が曖昧だ。まさか丸一日寝ていた訳では無いと思いたい。
視界を埋める暗いオレンジ色に染まる山の木々に目を細めながら、出てきたばかりのホテルの玄関とおぼしき出口の前で、小野剛(背番号67)は深々とした呼吸を三度繰り返し、新鮮な冷えた大気を肺に送り込んだ。
何よりも血の匂いが混ざらない空気で肺を満たせた事が――このひと時しかない事になるだろうが――嬉しかった。
だが、三度目の呼気がため息になり、そのまま下を向いてしまう。
(殺し合い――か……)
西武ライオンズの入団テストに合格して二年。今年は一軍での登板も無く解雇も覚悟していた。こんな事態になるならそのほうがよかったのだろう。
息は吐ききってしまえば、自動的に吸ってしまう。その力を借りて顔を上げる。
可能な限り遠くを眺めやり、あの広間で堂堂巡りになっていた自問自答をもう一度繰り返してみる。
外に出られたところで状況の本質になんの変わりも無いが、少なくとも血生臭い空気を吸いながら考えていた時よりはマシな答えを出せるかもしれない。
雨の日は憂鬱。腫れの日は気分がいいように、ちょっとした環境の違いが左右する程度の変化であっても、この場から動くためにはそれが必要だった。
ここから帰るためには選手が6人になるまで殺し合い、生き残らなければならないらしい。だからといって、人――チームメイトを殺すなんて出来ない。殺されるのもいやだ。逃げ回ることもきっと難しいだろう。あの何度か聴こえた銃声。既に殺し合いを始めている仲間がいる。
自分にも着けられている長田の命を奪った首輪。どこなのか分からないこの場所――。
どうにかしなければならない問題が山積みだ。そしてそれを解決することが自分にできるとは思えない。
(あんまり、変わらないな……)
結局、目新しい答えは出せなかった。
(そんなもんだよな……でも)
読売ジャイアンツを解雇されイタリアに渡った時や入団テストを受けた時のように、野球を続けたかったし、何より環境が変われば自分も変われると思えた。
得がたい体験であったし、成長できたこともたくさんあった。
そして変わらないものがある。帰るべき場所がある。自分を支え続けてくれた人達の元に。野球に。グランドに。マウンドに――。
目指すべき場所はそこだろう。
しかし、そこへの道は絶望的なまでに閉ざされている。だがその方向だけは見失わないようにしよう。そこに背を向けてはいないか、その場所に立つことを許せるか、常に自分に問えるように、定める――指針。
そしてそれは、ここでは何が起きるか分からないが、人を殺すための自分勝手な言い訳や逃げ道にしてはならない。それくらいの意地はあるはずだ。
(なんか、開き直っちゃたなぁ……外で考えてみてよかったな)
もう一度、深呼吸をしてから、地図を見てみようかと、カバンを開きかける。
すると、右側のホテルの角から白い人影がキョロキョロと辺りを窺いながら出てきた。誰だろうかと目を凝らすと、あちらも小野に気がついたらしく、小走りに駆け寄ってきた。不安げな顔をした東だった。
「なんだ、小野さんかぁ……」
「……『なんだ、小野さんか』はないだろ」
「ああ、スイマセン……。あの、宮越さんを見ませんでしたか?」
こちらを確認するなり、あからさまに残念そうな声を出す東をたしなめる。慌てて謝罪の言葉を口にはするが、心ここにあらずといった様子だ。
宮越は引きずり出されるようにあの広間を後にした。それからいくらも経たない内に、一際派手に鳴り響いた銃声。これまでに何度か聴こえたものとは比較にならないものだった。
出て行く前に東に声を掛けていたし、宮越の身を案じる気持ちは当然だろう。
「残念だけど、見てないよ――探そうか?まだ、そんなに遠くには行っていないだろ」
「そうですよね。お願いします」
二人で東側を探したが、宮越の姿は見つけられなかった。ホテル周辺を回ってみようということになり、小野は南から、東は北からホテルの西側へ向かう事にした。
ホテルの西側で横たわる三つの人影――ただ寝ているだけではないよな。やっぱり――を見つけてしまい、宮越ではない事――他の誰であってもよくはないが――を願いながらおっかなびっくり近づいた。
三井、山崎、岡本――動揺を押さえ込み、かろうじて名前と顔を一致させたところで、今は宮越を探さなければ、と、その場を離れかけた小野を呼び止める声があった。
振り返れば、栗山がいた。
「小野さん、話を聞いてもらえますか?」
「あとでいいかな?」
言ってから、栗山の手に銃が握られている事に気付いた。しかも銃口がこちらを向いている。
「あっ?」
宮越を見つけられないまま坂を下りホテルの西側にたどり着いた東は、ホテルの壁際に倒れている選手を見つけてしまった。
腰から上が原型を留めていない――遠目にもそれが分かる。だが、誰なのか確かめたい。
(でも、恐い……そうだ、小野さんに見てもらおう)
自分か小野が宮越を見つけてしまえば確かめなくても済むのだから、無理をする必要はない。
(早く見つけないと)
遺体から目を離し、ゴルフ場の敷地に目をやる。
木々の陰に人がいる。背番号52の数字が読み取れた。
(クリ?まだこの辺にいたんだ。宮越さんのことを知っているかも)
声を掛けてみる事にした。
栗山は仲間を集めているのだと説明した。いつの間にか小野の横にはハンマーを手にした水田が立っていた。
「わかってもらえませんか?」
「それ以前の話だろ。人にそんな物を突きつけて、話をしようって根性が気に入らない。脅迫でしょうが。殺し合いさせようって連中と同じだよ。第一、亡くなっている人の前でする話か?」
二人は――水田はどうでもよさそうな態度ではあるが――小野がイエスかノーかで答える事を求めている。この状況でこんなことを言うなんて、殺して下さいと言っているも同然だとは思ったが、結局はノーとしか答えようがないのだから、言いたい事を言ってしまえと思った。
宮越と会えたかは分からないが、東がこちらに来るはずだ。二人の注意をひきつけておけば、逃げるなり、助けるなり――こっちはあまり期待できないが――してくれるだろう。時間を稼がなくてはならない。
「まあ、それは置いておくとしてもだ。クリ達と行けば絶対に助かるというわけではないでしょう?だったら自分でやりたいよ。責任を取るって、そういうことだと思うよ」
「説得でもするつもりですか?」
「そんなの俺には無理だよ。よく考えて決めたんだろ?まあ、話の重大さは違うけど、俺の経験でもそれは分かるよ。イタリアに行ったり、ここの入団テスト受けたり。そういう節目のたびに、応援してくれた人もいたけど、反対されたりもしたよ。
でも、最後に決めてそれをやるのは自分だからね」
淡々とした口調が変わらないように、途切れないように、油断なく話しつづける。
栗山は今はこんな事をしているが、根が生真面目だ。人の目を見てじっと話を聞く態度は小野のよく知る栗山のものだ。時々、周りが見えていないようで心配になるぐらいに、集中してしまう。
水田はこちらのやり取りに口を挟もうともしないが、じっと動きを窺っている。
バッター栗山、ピッチャーに集中しすぎ。ランナー水田、隙あらば盗塁を狙っています。だが、連係はとれているだろうか?
「そうは言ってもこんな事うまくいくとは思えないよ。意見の合わない人を殺して、自分に都合のいい6人を選ぶの?そんな事が誰に出来る?クリ、かなり無理してるだろ?
顔色悪いよ。まあ、この状況で元気一杯なのは有り得ないけど。なんだか説得してるみたいになってきたね」
「もう、後戻りはできません」
銃を構える栗山の腕に力がこもる。
「結局そうなるんだ――まあ、言いたい事を言えたからいいや。聞いてくれてありがとうな。結構、喋ってたよね。ここ、そろそろ禁止エリアってやつになるでしょ?」
ハッタリだったが、栗山の目が泳いだ。なおかつ律儀に答えようとする。
「……走れば、五分もかか――!」
東が近づいていくと、突然、栗山が体勢を崩し、その脇から小野が飛び出してきた。東がいる事に驚いたような顔をしたと思ったら、腕を引っ張られた。
「走れ!」
「小野さん!宮越さんは?」
「黙って、走る!」
何を焦っているのか分からないままに、林を目指して走る小野と共に走り出した。
【残り47名】
あずまー!
死体死体!!
あずまっくすテラカワイソス。。
宮越を探し続ける姿に思わず。
誰かせめて宮様を埋葬してやってくれ…
32、監督出発
『背番号99、張誌家』
荒木に名前を呼ばれ、長田の遺体の傍らで、じっと目を閉じていた張が立ち上がる。
長田の血で赤く染まったユニフォーム――対比のように青ざめた顔で、固く引き結ばれた唇がわずかに震えていた。表情を隠すように、帽子を目深にかぶり、部屋を出て行く。
張の出て行く気配に、伊東は立ち上がり、ステージに近づいた。
近くにいた兵士が制止の素振りをみせたが、構わず進む伊東に対してそれ以上の動きをみせようとはしなかった。
立ち止まったのは土井の遺体の前。血塗れの土井の身体を整え、着ていたジャケットを脱ぎ、そっと動かない身体にかける。帽子をその胸に乗せると、じっと瞑目した。
(土井さん――)
あの時、あの場で、あなたは俺を庇った。
託したかった望みはきっと――。
床に転がり、大量の血液とともに力と体温を失っていく身体から――
「こんな事を許してはいけない。選手達を守れ、助けろ」
声にならないその望みを確かに聴いた。
それでも――。
この部屋に入ってからずっと、伊東を気にする選手達の気配を感じていた。
訳の分からない状況に放り込まれ、戸惑い、怯え、混乱していることを――そしてこうなることを知っていた。
これまでに、何度か外から銃声のような音が聞こえてきていた。
この忌まわしい「ゲーム」は、これを企んだ者達の思うとおりに転がりはじめている。
土井の望みを叶える手段があるとは思えなかった。もし、あるとするならば、それは――。
頑なに背を丸め、目を、耳を閉ざし続けた。
目を開き、土井の死に顔を見つめる。
(すみません。俺はあなたの望みを裏切ります)
「背番号83、伊東勤」
マイクを通さない荒木の声が耳に届いた。
もう一度、目を閉じる。
(何を捨てることになっても、あなたの仇を討ちたいです)
最後に一つ残されたカバンを取り、部屋を出る。
立花が自らが身に付けていたジャケットと帽子を差し出してきた。
その顔を見ることさえ出来ずに立ちすくむ伊東の手に、それらは強引に押し付けられ、握りらされた。
ホテルの玄関を出ると、終わりかけの夕暮れが、かろうじて辺りの景色を浮かび上がらせている。
「監督……」
建物の陰から現われた田原が、固い表情で頭を下げてくる。
「……」
監視役が付くのだと、黒岩が言っていたことを思い出す。
「監督から離れると、首輪が爆発すると言われました」
真っ直ぐに伊東の目をみつめ、事も無げに告げる。
「よろしくお願いします」
【残り47名】
職人さん乙です!
田原が監視役…。なんかこえー
33. バッテリー
振り仰いだ太陽は西にその位置を変えていた。
(あっちが西ってことは、南はこっちやんな?)
地図をざっと一瞥してから、カバンの外側の一番取り出しやすそうなポケットにしまう。
太陽を右手に見ながら、藤原虹気(背番号63)は地図も見ずに早足で、周囲を警戒しているつもりで歩く。もっともその上背では目立たないようにするのは難しいのだが。
支給武器がこれだったのは結構ラッキーだったのかもしれない。ほんまはもうちょい長いほうがええんやけど、とぶつくさ文句を言いながらも仕込み杖をつきながら膝に悪そうな山道を南に下っていく。
ふと後ろをふりかえる。誰かの視線を感じた気がしたのだ。だが、そこには誰もいないようだ。気のせいか?疲れているのかもしれない。疑心暗鬼になっているのかもしれない。こめかみを人差し指で押さえてから、もう一度地図を広げ、自分の位置を見た。
おそらく、もうすぐ麓の集落につきそうだった。地図をたたむと再び杖をつきながら歩き出す。
(急ごう、急げば星に追いつけるかもしれんし。)
声をかけようかどうしようか、彼は迷ったまま後をつけている。希望――皆で生きて帰る――に縋りたいとも思う。でも誰が敵になるのかわからないのだ。銃声がまだ耳の奥で反響している。それは幻聴だとわかっているが、まるで警鐘のように意識に響く。誰も信じるな、と。
やがて山道を下りきり、集落に通じる舗装路に行き当たる。藤原はどんどん南に向かっているようだ。やや長めに距離を取り直し、再び藤原の後をつけていく。
何となく気配がする。
(誰かつけてきとるんかな?尾行やとしたらめっちゃバレバレやんけ。)
足を止めて左右を見る振りをして、そしてまた一歩足を踏み出す、そして。
(だーるまさんが…ころんだ!)
1,2,3でタイミングを合わせて振り返る。
「杉山さん?」
「あわわ。」
「ずっとついてきてたんですか?声くらい掛けてくださいよ。」
藤原はいきなり振り返り、隠れ損ねた杉山は道端で固まっている。困っているのか、いらだっているのか判別のつかない表情で藤原は杉山を見る。杉山はそう感じた。
「う、すまん。」
「俺、なんもしませんよ。こんなん持ってますけど。」
杖を振ってみせる。武器がお守りだった杉山には、それは大層いい武器に見えてしょうがなかった。
「何だかよくわかんねーことなっちゃったな。」
杉山の表情は冴えない。
「そうですねえ。」
相槌を打つ藤原の表情も冴えない。杉山もそのような表情をしているのに藤原は内心落胆しないでもなかった。
(俺より6つも年上なんやから、もっとしっかりしてくれたら楽できるのにな。)
「何か、隠してます?」
杉山の様子を窺って、疑問を藤原は口にする。
「別に何もないよ。言うほどのことは何もね。」
急ぎ足で南に向かう藤原と、成り行きで一緒に行動しながら杉山はため息をつく。不可解な出来事のなかでは、この程度の不可解くらいどうでもいいのかもしれないが。杉山は数分前の出来事を思い出す。
中村が行った方角から激しい銃声がして足を止めた。ひどい恐怖と絶望感が湧き上がってくるが、栗山を探してと頼まれたこともあり、そのまま一目散に逃げるわけにもいかず杉山はその場を消極的にうろうろしていた。そうしている間にもう一度中村に会ったのだ。
中村は杉山を見つけるとぺこりと行儀よく頭を下げた。
「会えた?」
こんな状況でも、やはり人と会うとほっとする。
「会えました。」
だが、そういう中村はひどく辛そうな顔をしている。
「良かったな、これからどうするんだ?」
「杉山さん、逃げてください。ここは危険です。」
「え?」
「いいから、早く、走って逃げてください。お願いですから。ここに居られるとまずいんです。」
「どういうこと?」
「後で説明できるようなら説明します。ですから逃げてください。なるべく遠くに!」
疑問符は浮かぶ。しかし、その剣幕に首を縦に振るしかなかった。そして走るうちに、ひょろっとした、背の高い青年を見かけたのだった。
「杉山さん?」
「あ、すまん。その、何だっけ?」
上の空だった杉山に藤原はもう一度説明する。ちゃんと聞いててくださいよ、と口には出さないが、やや態度に出ているような気がする。
「星が待ってるはずなんで、俺は港に行くつもりなんですよ。途中で追いつくかなあって思ったんですけど、あいつ、足速いでしょ?ここまで会わんってことは多分先にいっちゃってるんでしょうね。港で合流できればそれでいいんですけど。
杉山さんはこれから、どうするんですか?」
「正直、何も決まってなくてさ、武器ってこんなお守りだったし。ああ、そうだ、2つあるし、こっちはあげる。」
交通安全のお守りを藤原の手に握らせる。複雑な表情で藤原はそれをつまんだ。交通事故で重傷を負った経験が彼にはある。お守りを胡散臭げに見つめる。感触があまりお守りっぽくないのは気のせいだろうか?
「お守りにしちゃ、かたくてかさばりません?もっとこう、薄いものと思うんですけど。」
「それは思ったけど、そういうものなのかなと思ってた。」
紫色のお守りの袋をしげしげとながめる。後で開けてみよう。バチ当たりと怒られるかもしれないが、この状況が既にまともな神様に見放されているようなものだから構わないだろう。藤原はそのお守りをカバンに押し込んだ。
南西の港は小さな漁港のようだった。岸壁に船の影はない。それは主の居ない空き家のようでひどく寂しい気がする。風がきつくなっている。日は傾き山の稜線に引っ掛かり、最後の光でこの島を照らしている。
「誰もいないね。」
「星とすれ違いもしなかったですよね?大丈夫なんでしょうか。」
藤原の表情が険しい。
「もう、やる気満々な人、結構いるみたいでしたし。」
首を振り、風の寒さに体を丸める。
「そうだなあ。」
向こうから人が歩いてくるのが見える。藤原が杖を構える。
「藤原、杉山もか。無事でなによりだった。星のことなんだが。」
椎木だ。両手は空だが、星に何かあったというのだろうか?藤原は杖を強く握りなおし、いつでも即応できる体勢をとる。
「星は、どうしたんです?」
「こちらに来るときに水田に襲われてな。命に別状ないようだが、具合を悪くしているので、途中で休ませた。案内するから付いてきてくれないか?」
星を襲ったのが椎木ならこれは罠だろう。さて、信じるか、信じないか。
「わかりました、信じましょう。」
若く未熟なピッチャーが年嵩で経験豊富なキャッチャーを信じられないようではゲームにならない。即答する藤原と椎木を交互に見ながら杉山は戸惑う。
(怖くないのかな?)
「杉山、どうする?」
警鐘が鳴っている。耳の奥で銃声が何度も何度も鳴り響く。それは多分、チームの誰かが殺人者になった時の音だ。
だが立ち止まり、耳をふさぎ、自分を欺き、全てを諦めてしまうことが出来たなら、今ここでこんなことにはなっていなかっただろう。野球を続けること、それに拘ってきたからこそ、今の自分がいる。
警鐘が鳴っている。予感は頭の隅でじりじりと猜疑心を煽る。それでも何かを選び取らなければいけないのだろう。
「俺も一緒に行ってもいいですか?」
「構わんよ。」
【残り47名】
341 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/02/28(火) 20:25:12 ID:q1ETES1q0
乙であります!
乙です
杉山は危なかったんだな
職人さん乙です。
ゴーヤがセツナス(´・ω・`)
星
ほしゅ
ほそかわ
347 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/03/09(木) 00:02:32 ID:2xkvn8xqO
★
職人様方いつも乙です。
遅くなりましたが 33.バッテリー まで保管しました。
☆
>>350 GJ!
GGにあーと思い、栗山にぞくっとして、浩之さんとか思ってたら、オチが・・・
オチワロスww
GJです!
34、選択と抵抗の余地
倉庫に向かいかけた細川の足が、ふと止まり、離れてゆく背中の青い4の数字に目をやる。
ごく僅かな違和感。
言葉にして吐き出してしまいたいなにか――うまくまとまらず、右手の中の重量に凝り固まる。
あの人はこのまま何も知らないうちに、ここから消えてしまう方がいいのではないか?
簡単な事だ。今から、弾をこめて、あの背中に――。
不可解なマイナスの力が、正常な意思の働きを拒み、作り上げた空白に入り込んだ何かが飛躍した思考を押し付けてくる。
頭の芯が熱くなる。吹き付ける潮風の冷たさが、もやもやとしたそれを言葉にまとめる。
(本当になんとかしようと思っていますか?あきらめているんじゃないですか?)
不意打ちのように浮かんだ言葉に体が強張り、掌にいやな汗が滲む。
否定を求めて、歩きつづけている高木浩の後ろ姿を凝視する。
振り返ってもらえないだろうか?
今の自分はきっと情けない顔をしているんだろうなと思う。
あっけないほど簡単に高木浩は肩越しに見返り、左手が振られる。その表情は帽子の陰になってよく見えないが、無言のその仕草は「しっかりな」と、言っている気がした。
(まさか……な)
こんな馬鹿な事を思いつくとは、相当、参っているらしい。
(こんなもの持っているから……)
ぎこちなくかぶりを振り、リボルバーをカバンに放り込み、改めて倉庫に向かって歩き出した。
再び倉庫に向かっていく細川を横目で確認すると、高木浩は左手を下ろした。
桟橋にいた細川に近づく前に物陰から様子を窺うと、手にした拳銃を持て余し、力の入りすぎた動きでクイック・ドロウを繰り返していた。その姿からやる気はないようだと、判断した。
しかし、力が入りすぎていたのは、こちらも同様だったのだろう。細川にもなにか引っ掛かるものがあったようだ。
(まったく、いきなり働きすぎだよな)
微かに浮かんだ自嘲の笑みと共に、取り出しかけていた拳銃から右手を離した。
二つ並んだ倉庫。細川はとりあえず向かって右側から見ていく事にした。
重そうな両引き戸の鉄扉に近づき、取っ手に手を掛けようとして、足元に鉄錆の破片が落ちているのが目についた。つい最近、剥がれ落ちたもののようだ。
よく見れば、取っ手も誰かが触れたようで、錆で浮き上がった塗装がこそげている。
高木浩への言葉に詰まり、倉庫を調べてみようと思っていたと告げはしたが、あまり期待は出来ないと思っていた。
(もしかしたら、本当に何か分かるかもしれない)
取っ手に手を掛け、何度か揺すってみるが、開きそうにもない。錆び付いている事もあるだろうが、どうやら鍵が掛かっているような手応えだ。
鉄扉の隅にあるくぐり戸――こちらも人の手が触れた痕跡がみてとれた。
(ここは開くかな?)
ドアノブに手を掛けようとした瞬間――扉は内側から押し開かれ、暗闇から突き出されたのは、人の腕。
見慣れたライオンズブルーのアンダーシャツに包まれたその先で、先程まで細川が手にしていたものとよく似た金属の光が揺れた。
驚く間もなく、轟音が鼓膜を叩き、受身をとることさえも許されない獰猛な力で突き飛ばされ、背中から倒れ込む。
夜の色に濁りはじめた赤黒い夕焼けが視界を埋める。
反射的な動作で直撃を免れたものの、左脇腹を抉り取られた。傷口を押さえた指がそれを感じ取り、溢れ出した鮮血の生暖かさがかき消そうとする。
傷口を庇い、身をねじる。どうにか膝を立て、地面から身体を引き剥がそうと、全身の力を振り絞る。
痛みは灼熱感と共に数瞬の時差があり、他人事のように来た。脳髄を灼かれたような痛みに、細川はうめいた。声にならない声と共に振り絞った力が抜けていく。
(撃たれた……?誰に……?)
それだけは知りたい。うつ伏せの格好から首をねじって顔を上げるが、暗く霞む目が捉えたのは接近してくる銃口だった。
立ち上がらなければ――地面に爪を立てたが、起き上がれない。
立て続けに襲ってくる暴虐な音と衝撃に、あらゆる抵抗の余地を奪われ、潰され、地面に縫い付けられる。もう、うめく事もできなかった。
(頑丈な身体なのは……こんな時は、損だな……。こんなに撃たれているのに……まだ生きているなんて……)
痛みに混濁してゆく意識に誰かの声が滑り込んできた。
「あの――もう……」
耳の横で地面を擦る靴底が、ざりっと鳴り、冷たい指が首筋に触れてくる。顔を覗き込まれている気配があるが、暗い視界には何も映らない。
「まだ、息がある。苦しませないほうがいい」
(ああ……この……声は……)
「……俺が、やります」
「そうか――無理はしないほうがいいと思うが?」
指が離れ、傍らにあった人の気配も離れていく。
「いえ、やらせて下さい」
降り注いだマシンガンの咆哮によって、生命を停止させる事でしか免れない苦痛が、閉ざされた。
コンテナ置き場が近づき、上本の歩調は一瞬の判断に少し鈍る。回り込むか、コンテナの隙間を抜けるか。どちらが速いだろうか。身を隠せるほうがいいかもしれない。
上本の体格にとってはやや狭いその隙間に足を踏み入れた。
再びの銃声。先程のものとは違う連続した音。そして、近い。自分が撃たれたのかと錯覚するほどに――。
足は止まり、コンテナに身をはりつけ、息を殺す。心臓の音が耳障りなほどに大きく響く。鼓動の合間を縫うように、話し声が耳に届いた。
「大丈夫か?」
「……はい――慣れないと」
「馴らされる――のかもしれないけどな」
「一人じゃないかもしれないかもしれませんね。探しますか?」
「いや、慎重にいこう。暗くなる前に移動したほうがいいだろう」
「そうですね。これは貰っていきましょう」
(この声は……)
慌しく走り去っていく足音が遠のき、凍りついたようになっていた足を動かす。
両脇のコンテナが無かったら、歩けなかったかもしれない。掌で錆を拭うように身体を支えながら進む。
最悪の光景を目にする覚悟をかためながら。
隙間を抜けた先もまた鉄錆に覆われた景色が広がり、倉庫とおぼしき建物の前に、転がる何か――白と赤に塗り分けられた。人?
近づくにしたがって、鉄錆と潮との匂いに血臭がまじり、その割合を増していく。吐き気を覚えたが、確かめたい欲求が勝った。
飛び散った肉片と夥しい血液に囲まれた爆ぜたような頭部と背中。その背番号は読み取れない。だが、二桁なことがかろうじて分かる。そして大柄な身体つき。
高木浩ではないようだ。そのことに安堵しかけるが、彼の無事に繋がるわけではない。探さなければ、だが――。
(落ち着かないと、駄目だ……)
強く瞼を閉じ、頭を振る。動揺と混乱を追い払ってしまいたかった。無事であるなら高木浩もここに来るかもしれない。下手に動かない方がいいだろう。一度に色々と考えようとしてはいけない。だが、次々と浮かぶ疑問符を押し留める事は出来なかった。
この選手は誰なのだろう?そして殺した相手は?おそらく、いや、確実にこの選手を殺したのは、先程ここを立ち去った二人だ。当然のように、馴染みのある声だった。
(どうして……?)
理由を求めるのは、無駄な事なのだろう。「殺し合い」をしているのだ。それ以外のことはここでは許されてはいない。
あってはならない現実。
そこから逃げるように走りつづけ、強引な力で立ち止まらされて、気付けば方向を見失っていた。そんな空疎な気分が押し付けられる。
上本は知らないことだが、いまだにその名前を確かめられない、目の前に横たわる選手の願い。その一部は誰にとっても不本意な形で叶えられた。
ビルの陰から、細川を殺し荷物を奪い、走り去る野田と正津を見送りながら、高木浩は自らが手に掛けた山崎のことを思い返していた。
山崎があの時、あの場で死ななければならなかった理由を――。
賭けられた選手の内の一人である野田を足留めし、護衛役を振られた正津と合流させる為だった。
22番に賭けた者の作為と、それに手を貸した自分。折角、お膳立てをしたのだから、その結果を知りたかった。
そしてまた、押し付けられた役割を演じざるを得ない二人の選択と、彼らの持つ武器を確認しておくことも、後々、動く上で必要であった。
そのために倉庫に潜んでいた二人のもとに細川を向かわせた。
どうやら二人は協力して、他の選手を殺していく事にしたようだ。もっとも選択の余地など与えられなかったのだと思われるが――。
そして武器は、正津が拳銃、野田がマシンガン――もう一つある筈だが、それは分からなかった。そして細川の持っていたリボルバーが加わったことになる。
今後、この二人には近づかないほうがよさそうだ。
(それに、俺も楽ができそうだな)
山道で上本を待つ間にモニタで確認した北北東の港では、二人が動き回り、細川が近づいていた。二人と細川がやりあうのならそれでも構わなかったが、そうならない可能性もある。
確実性を増すために、上本と合流し、二人の元に誘導する事にした。上本はいわば保険のようなものだった。
港に到着してみれば、二人は細川の存在に気付いているのかいないのか、倉庫に隠れてしまっていたが、細川もまた港に留まっていたため、これを利用する事にした。
当初の目的は達せられたが――上本はどうしよう?
あの銃声に驚いて逃げ出すか、もしくは二人に殺されるかと思っていたが、上本がコンテナの陰から姿を現した。
(度胸があるのか、無謀なのか。運がいいのか、悪いのか――面白いよな)
殺してしまうのは簡単だ。だが、少し付き合ってみてもいいかもしれない。振り回されそうな予感もするが、それならそれで構わない。結局は同じ事だ。
(もう、暗くなってきたしな……)
眠らされて連れて来られた他の選手達と違って、朝から動きっぱなしだ。いい加減、休みたいところだ。
モニタで二人が港の敷地から出て行いった事を確認すると、高木浩は細川の遺体の前に呆然と佇む上本のもとに向かった。
名前を呼ばれ、顔を上げるとこちらに向かってくる高木浩の姿があった。その無事な姿に安堵する。
「無事でよかった」
上本に向かってそう告げる声にも安堵が滲むが、その表情は険しく、すぐにその視線は足元に横たわる遺体に注がれ、押し出すようにその名を呟く。続けて、ここで細川と出会った事、細川もまた港を調べる事に協力してくれていた事を話した。
「ここに誰か――このゲームをやる気になっている奴が、いたんだな……」
「声が聞こえました……二人……」
仲間を殺した二人の名前を口にする事に躊躇いがあった。殺し合いの現実がまた一歩近づいてくる。すでに渦中にいると言うのに、まだ逃げようとしている。
自覚した弱さを振り払うように告げる。
「……野田さんと正津さん、でした。」
「……そうか」
そう呟く高木浩と共に遺体を見つめる。
破壊されたと表現できるほどに生前の姿から程遠い遺体は、その名を告げられてもまだその人なのだと実感できず、上本は戸惑った。損傷が大きくてその保証はないが、顔を見れば――。
引き寄せられるように腰を落とし、目の前の無残な遺体に手を伸ばしかけた上本は、その途端、不意に覆い被さってきた抗いようのない無力感に襲われ、その場に膝をつきそうになった。
たとえここで何か脱出のための手掛かりが掴めたとしても、既に殺す事を選んでしまった仲間が、殺されてしまった仲間がいるという重い現実。波のように押し寄せてきた喪失感と併せて、恐怖や不安から逃げるように、ここまで休みなく動いてきた疲れが、体をぐらつかせた。
ここで絶望に呑まれれば、きっと二度と立ち上がれない。
(違う――)
遺体から目をそらさず、今の自分にあるものを頭の中に列挙してみる。まだ動ける体と体力。協力し合える仲間。あまり嬉しくはないが、武器である鉈。殺し合いを止めたいという望み。
だが、その望みはあまりにも果敢ないものだと、突きつけられる現実――それでも、望みを絶たれることは、あきらめる理由にはならない。
(まだ、動ける)
声に出すと嘘になってしまう気がして、心の内でその言葉を噛み締め、折れ掛けた膝に力を込める。
「少し休もうか?疲れているだろう?」
ふらついた上本に心配そうな声が掛かる。
「でも――」
細川の遺体をこのままにはしたくはない。早く港も調べたい。水田との約束――次々と浮かぶ選択肢の多さに気持ちばかりが焦り、体を動かそうとする。
「気持ちはわかるけど、焦ってもいい結果にはならないよ。今は休もう。俺も疲れたしね」
薄暗くて気付かなかったが、よく見れば高木浩の顔色はすぐれないようだ。ついさっき細川と言葉を交わしたという彼の方が自分よりもその死が辛いはずだ。
「わかりました。ヒロユキさんは休んでいてください。俺は平気ですから。とりあえず、なにか細川さんを覆えるもの、探してきます」
引き止める間もなく上本は動き出す。
今は誰もいないと分かってはいるが、なんの躊躇もなく、二人が潜んでいた倉庫に足を踏み入れ、「ああ、真っ暗だ」と大きな声を出している。
「頼むから、もうちょっと慎重に動いてくれよ……選択を間違えたかな?」
高木浩のぼやきは潮風に流され、上本の耳に届く事はなかった。
【細川亨× 残り46名】
リアルタイム投下キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!
職人様乙です!
細川ぁ。・゚・(ノД`)・゚・。 職人様乙です。
>>350 GJ!前にも画像作ってくれた方ですか?
ただ、栗山の背番号は52ではなかったでしょうか……
363 :
350:2006/03/11(土) 01:37:07 ID:pD9sCplC0
35.それぞれの行方
松坂と涌井を見て、明らかに後藤武はほっとした顔をした。
「良かった、本当に無事で…。」
目頭が熱くなるのを感じる。ほっとして涙が出たなんてバレたらダイスケに笑われる、あわてて後藤武は目元を拭った。
「ぐっさん、相変わらずわかりやすい反応するね。」
目ざとく後藤武の挙動をみて、松坂はからかう。
「うう、だってしょうがないじゃんか。それに、ぐっさんって、似てないから!」
「まあまあ。そうムキにならない。」
とあるお笑い芸人の愛称『ぐっさん』、彼に似ていると誰かが言い出したため、後藤武のニックネームのひとつになったが、似ていないと後藤武はいつも否定する。ほほえましいその光景を見ていた石井貴は後輩たちが一息ついたのを見計らって、さて、と口を開く。
「じゃ、私はべんちゃんと話をしたい。席をはずしてもらえるかい?」
「はい、行こう、ワク。」
涌井の方を振り返り、松坂は声をかける。そして後藤武を指差す。
「それにぐっさん。」
「…いや、だから似てないからさ。」
「はは、いいじゃん似てなくても。」
顔の前で手を横に振って否定する後藤武を松坂は楽しそうに笑い飛ばした。そして涌井はそんなやり取りを不思議そうに眺めていた。
若者たちのざわめきが二階に去り、石井貴と和田は居間の畳の上に座る。カセットコンロに火をつけ、上にかかっていたやかんの麦茶を温める。
「どうぞ。ただの麦茶ですが。」
「よく水があったもんだね。」
「ここの住人の忘れ物ですよ。消費期限内ですから安心してください。」
ずずい、と啜ってから石井貴は口を開く。
「今、ここに何人いるんだい?」
「7人ですね。俺、タケ、ナカジ、マツケン、貴さん、ダイスケそしてワク、ですね。」
和田が斜め上を見、誰がいるかを読み上げる。石井貴はそれを腕組みに胡坐をかいて聞く。
「随分、大所帯になってるな。」
「ナカジは1人で行くと決めたようです。マツケンと一緒に今、続きで休ませてます。」
腕組みし眉を寄せて難しい顔をしていた石井貴は、それを聞いて流石に驚いたのか腕組みを解き、左手で自分の左膝を叩く。
「危ねえことを、ベンちゃん止めなかったのか?」
「止めましたよ。止めたんですが聞かないんですよ。」
ムッとして和田は右手で畳を叩き石井貴に言い返す。和田の剣幕に石井貴は驚いた顔をし、それを見て和田は大人気ないことをしたと思う。気をとりなおしてもう一度言い直す。
「止めましたし、そんな危ないことやめさせたいんですよ。でも、どうすれば安全だ、というのが俺にもわからないんですよ。だから止めようにも止められないんです。」
「そうだな、悪かったよ。」
「いえ、こちらこそ取り、取り乱してしまったようですみませんでした。」
お互いに軽く謝罪してから、石井貴が口を開く。
「ところでベンちゃん、今噛んだね?」
「貴さんがいると緊張して噛むんですよ。」
苦笑して和田が答えた。
「相変わらずプレッシャーに弱いねえ。」
「放っといてくださいよ。」
「まあベンちゃんが主役ではないということだ。やはり主役はこの私が頂こう。今、全員にこんなことはやめろって呼びかけようと考えているのさ。何もせず見ているだけじゃこの状況は覆せないだろうからね。」
「貴さん、それは無茶です。ナカジのこと笑えませんよ。」
軽口を叩いていた石井貴がそれに紛らわせるように自身の決意を告げる。本気かどうか図りかねた和田はやや中途半端な態度になった。
「まあね。だがリーダーを名乗るなら、有事の際には真っ先に未来のために死ぬべきだと思うのさ。」
本気でこの人は死ぬ気だ。和田は石井貴の決意を悟った。無駄と知りつつも反論する。
「生きて、皆を導くのもリーダーのあり方ではないでしょうか?」
「見せてやらなきゃいけないものがあると思うんだよ。人を信じるということが難しいこの島で、ライオンズは本当にいいチームだったということを、生き残る者達の為に誰かが証明しなきゃいけないよ。その為だったら命を賭けてもいいと思っているのさ。」
石井貴の揺るぎない決意が和田には羨ましかった。ぽつりと本音が口をつく。
「怖くないんですか?」
「怖いな。」
石井貴の即答に、弱気が顔を出す。
「生きて帰りたいんですよ。でも、殺したくないんです。マツケンの話ではもう4人も死んでいるらしいです。誰が殺し合いなんてことをするかと、出発前は思っていたんですよ。ですが違いました。このゲームに乗った奴がいます。このチームに。
貴さんも、俺も、このチームとチームメイトを信じていました。ですが今、それが揺らいでいます。それでも俺は、人を殺したくないと思っているんです。人を殺さずに生きて帰りたいんです。」
和田の表情には悲痛なものがある。
「生きて帰りたいんですよ。だから貴さんやナカジのように、危険を顧みず動くことも出来ないんです。そう、まだ子供は小さくてね。せめて、父親がどんな人間であったのか、それが分かる年まで生きたいんですよ。」
「ああ。」
父親か。石井貴は自らの幼い頃を思い出す。物心ついた頃に既に父は亡く、幼い自分の面倒をよく見てくれたのは自分の兄であった。
この34年間の人生で、いかに多くの人々に支えられてきたか、そしてその恩義に報いることができたのか、思い巡らせ石井貴は目を伏せる。
「方策なんて何もないのに。現実逃避だろうかとさえ、思います。居心地悪げな希望に縋っているのは。」
「ベンちゃん、違うよ。希望を捨てちゃおしまいよ。」
理解は出来るがその弱気を認めるわけにはいかない、和田の自嘲めいた言葉に石井貴は鋭く反駁する。
「たとえ居心地悪げで小さな希望でも、それに縋ってずっと信じていられりゃ、奇跡だって起きるさ。」
「そう、でしょうか。」
「そうさ。雨はいつか止む。確かに雨が止むのをこの目で見ることはないかもしれない。だが、雨が止むのに何かが出来たとしたら、それだけで素晴らしい事だと私には思えるよ。」
強くなりたい、石井貴の言葉に和田が痛切にそう思ったとき、襖が開いて中島がいかにも寝起きの目つきで現れた。
ひとり暗闇に佇む。この風景は知っている。そう、この次は揺れ。揺れ、というか衝撃。物が落ち、棚が倒れる音。ガラスの割れる甲高い音。見回せど己を包む深く、濃い暗闇。夜明け前の闇が一番深く、空気が一番冷たいとき。見覚えがあるのかないのかわからない街角。
映画のセットのようにひしゃげた建物と頼りなげに残っている建物。そしてどこかでまた、建物が崩落する激しい地響きが聞こえる。コンクリートの柱がねじ切れ潰れる。埃をあげて崩れ去る。振り返ると炎。埃っぽい空気に混じるガスの臭い。
逃げないと。ここは危険だ。そう思うのに足が動かない。ああ、これは夢だ。
夢だと気がついて中島の意識が覚醒する。悲鳴を上げるように口を大きく開き、浅く速い呼吸に鼓動が早鐘を打っている。右手の甲で前髪をかきあげ、呼吸を整える。夢の残滓が消えていき、ようやく中島は起き上がる。
振り返ると松坂健が後ろで眠っている。魘されたりはしていないようだ。
嫌な夢を見た。今がこんなにろくでもない状況だから、きっとこんな夢をみたのだろう。左手首の脈を探り、とくん、とくんと脈動する動脈の動きをとらえて、乾いた唇を舐める。
大丈夫、生きている。まだ生きている。右手で顔を覆いこめかみを押さえる。もう一度眠る気になれず部屋から出ると、そこでは石井貴と和田が話しているところだった。
「おはよう。」
「すみません、邪魔しました。」
邪魔をしたかなと思い、回れ右をしようとした中島を石井貴は呼び止めた。
「いいさ、そこ座れよ。話したいことがあるんだ。」
「あ、はい。」
「本当に1人で行くつもりなのか?」
「はい、そうするつもりです。寝付けないし、もう出ようかと思っています。」
石井貴の目の前に座らされ、やや居心地悪そうにしながらも、中島の返答にはためらいがない。
「そうか、決意は固そうだな。ナカジ、お前も必要な人間だ。絶対に無駄死にするなよ。ところで、外に出るなら頼まれてくれないだろうか?オツに渡して欲しいものがあるんだよ。」
「会えるかどうかわかりませんよ。」
「会えなかったら仕方ないさ、会えたらでいい。ベンちゃん、書くものくれ。」
「紙とボールペンでいいんですね?」
「ああ、これで十分だ。ありがとう。」
メモ帳にボールペンでさらさらと何かを書いている。すぐに書きおわると、その紙を折りたたみもう一枚、メモ帳から紙を剥ぎ取りそれで包む。
「恥ずかしいから中身はできれば見ないでくれ。こいつをオツに会うことがあれば渡して欲しい。」
「わかりました。」
「ありがとう、頼むよ。で、ベンちゃん。何の話をしていたんだったかな?」
「希望を捨てるなと叱咤されていました。」
「そうそう、そうだった。」
ちゃぶ台を軽く叩いて石井貴は笑う。
「ナカジ、私は皆で集まって解決策を考えようと呼びかけるつもりなんだ。もう既にゲームに乗っている奴もいるし、おそらくそういう連中に私は殺されると思うが、私はそれでも、全員を信じてやりたいのさ。だから、ナカジもベンちゃんも希望を捨てないようにしてくれよ。
ここじゃ、現実に適応しちゃ負けだ。特にベンちゃん。そんな調子じゃ、安心して私が死ねないじゃないか。」
これは石井貴の遺言なのだろう。遺志を受け取るべく中島はただ黙って石井貴の言葉に耳を傾ける。和田は自分に向けられた激励に苦笑する。
「本当は、ベンちゃんみたいに生きるほうが辛いんだけどねえ。まあ先輩からのイビリだと思ってしっかりやってくれよ。ベンちゃんは生きて皆を守ってくれ。私は死んで、皆を導きたいんだ。
そしてナカジ、命を粗末にするな。私が死ぬのは未来のためだ。その未来を担う者に、君も入っているんだ。」
石井貴は穏やかな表情で中島を見つめた。未来を頼んだよ、その思いを込めた視線を受け取り中島は首を縦に振る。それを見て石井貴もまた頷いた。
「かつて、オツと私、豊田さん、そしてダイスケ、4人のエースがいた。豊田さんはいなくなったが、ワクは未来のライオンズを背負うエースになれる。後嗣がいるというだけで、こうも落ち着いていられるものさ。ベンちゃんだって、託したい相手はいるだろう?」
自分の野球選手としての後嗣なら彼であろうか?和田は、大きい体を小さくして、いつも奇声を上げて、目一杯野球を楽しんでいる、日本人離れした青年のことを思い出した。あいつ、元気にしているだろうか?
「しかし豊田さんが居なくて良かった。居たら真っ先に黒岩代表に掴みかかって撃たれていたに違いない。あの人、気が短いから。」
かつての同僚を思い出し、石井貴は愉快そうに笑い出した。
「ここにいるのはこのゲームを何とかして潰したい人だけなんだ。仲間が多いと安心するよ。」
「そうだね。」
かばんの中の武器を知っている松坂は後藤武の、その何気ない言葉におののく。かばんの中身は首輪探知機だった。
説明書には『アキラからダイスケへの特別プレゼントだよ。これで最後まで逃げ延びてね。武器は他に渡してあげられないから、他の誰かから殺すなり欺くなりして奪い取ってね。』とあった。
(本当に欲しいものはこんなものじゃないんだ。ただ、皆の仲間でありたいだけなんだ。)
「ダイスケもワクも一緒にやろうぜ。一泡ふかせてやろう。」
「そうだな。」
(この文面にこの道具、知られたら運営側のスパイだって言われるんだろうな。)
心ここにあらずという体で生返事を返す松坂を怪訝そうに後藤武は見つめる。
「どうしたんだ?ダイスケ。」
「あ、いや。貴さんが心配で。」
「え?どうして。」
後藤武が疑いの眼差しで自分を見たような気がして、松坂は石井貴の話を出して誤魔化した。
(せめて、タケとワクには信じてもらいたいんだよ。俺は皆と共に戦いたいんだと。)
むしろ内心を全て吐露してしまおうかという思いが松坂の頭に浮かんだが、しかし実際にしたことは内心を悟られないよう表情を整えることだった。そしてそれは、常にマスコミの注目を集めてきた松坂にとって造作もないことだった。
貴さんが心配という松坂の言葉に好奇心を刺激されたのか、涌井が石井貴の様子を見にいこうと立ち上がり、階下に下りようとする。
「やめろって。大人の話をしているんだから。」
立ち上がった涌井を松坂と後藤武が制止する。涌井はやや不満げに口をとがらせた。
「ワク、何があっても生き残るんだよ。未来のエースなんだから。」
後藤武は涌井が黙っているのを、怯えているのかと思い、元気付けようと声を掛ける。
「エース、ですか?成れるんでしょうか。」
「成れるさ。常に更に上を目指す姿勢さえ忘れなければね。ワクは才能があるんだから。」
「あー、頑張ります。」
涌井の自信なさげな言葉に松坂は元気付けてやりたいと思い、励ましの言葉を掛ける。やや気の抜けた返事を返しながらも、涌井の心の中に潜んだ思いはそれとはまったく違ったものだった。
(あなたのようにはなれないんだ。)
羨望の眼差しを涌井は松坂に向ける。
(あなたのようには、なれない。)
無性に苛々した。強豪横浜高校、伝説の怪物、春夏連覇の偉業を成し遂げた、その黄金時代のメンバー二人。主砲とエース。談笑する二人を涌井は冷めた目で見つめる。どうしてこんなに差を感じさせられるのだろう?
(他のチームのほうがよかった?そうかもしれないな。)
「で、貴さんは何をする気なんだ?」
「このゲームを潰そうと皆に呼びかけるつもりらしい。ああ、死ぬ気みたいで俺には止められなかった。」
「皆さん聞く耳持ってるんでしょうか?」
「わからない、だが、決意は固い。誰にも翻意させることはできないだろう。」
話を合わせながらも、涌井の心の中に進行する思いは全く別のものだ。
(松坂さんはいつもそれとなく気をつかってくれている。教わったことも助けてもらったことも多い。だから苦しい。かすかな憎しみと羨望を感じてしまうから。心の狭さを感じるから。
何も感じないふりはできる。でも自分自身を欺くことができるほど、完璧な嘘が付ける訳じゃないんだ。そこまで賢くなれないんだ。)
「貴さんらしいんだけど、でも、生きていて欲しいって思うよ。よくかわいがってもらった先輩だからさ。」
「そうだな。みんな生き返って、それで何もなかったように元に戻れたらいいのにな。」
「それはマンガだなあ。」
「でも、マンガみたいな奇跡が欲しいですよね。」
「そうだな、都合のいい奇跡でもなけりゃ俺、生きて帰れるかどうかわからないよなあ。」
奇跡を欲しがる涌井に後藤武は不安げに溜め息をついた。
(でも、これで生きて帰ることができたら、怪物の伝説も払拭できるかもしれないね。)
涌井の心に、生きて帰ることに対する強い執着が生まれたのはこの瞬間だった。
「ぐっさんはそうやって考え込んでドツボにはまるのがお約束だから、何も考えないほうがいいんじゃない?」
「だから、似てないってば。」
(いなくなった人間のことなんて、皆すぐに忘れるんだから。そうすれば松坂の後輩ではなく、僕自身の名前を手に入れることができるだろうか?)
松坂と後藤武のやりとりを涌井はただ無言で見つめた。
「ワク、大丈夫だって。元気出せよ。超マイペースなお前らしくないよ。」
「はい、大丈夫です。ちょっと疲れただけです。心配かけてすみません。」
松坂は涌井を労わる。内心の懊悩を誰にも見破られたくないと思いながら。その言葉に涌井はやや強張った面持ちで礼を返した。内心の羨望を誰にも見破られたくないと思いながら。
【残り46名】
涌井・・・・((((;゚Д゚))))
(;゚Д゚ )
涌井まじでこんなこと考えてそうでテラコワス・・・
天才・松坂はいつもかわいそうだ。
新作乙です
涌井怖いな・・・・・・・
うわぁぁぁぁぁ…((((;゚д゚)))ガクガクブルブル
鳥肌立った…涌井コワス…
職人様大変乙です
怪物・天才の類いの後継者扱いされると事実キツいだろうね。
どんなに頑張っても松坂二世と言われる、涌井として見ない奴がいるのは事実かもしんない。でも自分はもちろん期待してますよ。
職人様乙です。
涌井怖いな…(((゚д゚;)))
あと石井貴の言葉にホロリときた。かっこいいなぁ
職人様乙です。
涌井・松坂のこの先が気になってしょうがない……
>>363 いつもありがとうございます。
ですが、ちょっと間に合わず画像が消えてしまいました……よければ
再うpお願いしたいのですが……
今日一日は荒れそうなので捕手
保守
ほしゅほっしゅ
☆
ほしゅ
ほーっしゅ
40万部のベストセラー『嫌韓流』の第2弾
『嫌韓流2』発売中
意外とおもしれーぞ
389 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/03/17(金) 00:25:56 ID:p6GTueRC0
炭谷
保守
☆
392 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/03/18(土) 17:24:24 ID:AeIH6J1TO
age
保守
wktk
36. 水音
海と山の間の、猫の額ほどの狭い土地に広がる集落を行く2人連れがあった。1人は今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらい足取りは軽く視線は前を向いている。もう1人は遅れること数歩、前を行く同行者とは対照的に足取りは重く視線はうつむき加減である。
前を行く者、石井義が後ろを行く者、貝塚を振り返って、照れ笑いを浮かべながら話しかけた。
「あーあ、なんで方向間違っちゃったんでしょう。つい、道が広いほうを選んだせいですかねえ。」
「お前、自信たっぷりに先に行くからてっきりこっちで合っているんだと思っていたぞ。」
貝塚の呆れたような声を受けて、快活そうに石井義は笑う。
「ん、成り行き任せですよ。」
石井義は喋ることをやめない。さっき見せた凶暴性などどこかに消えてしまったのか、普段のバカでやや自信過剰気味で気分屋な、そんないつもの彼だ。でも、人に会うことがあったら?そう貝塚が懸念したとき、二人の耳に人の声が届いた。口を閉じて周囲を窺う。
一区画向こうに数人の選手がいるようだった。見つからないようそっと角から様子を窺う。3人連れのようだったが、1人はやや遅れがちに歩いている。そして、遅れがちだった1人ともう1人が道端に座り込み、もう1人が近くの民家のドアを開け中に消えた。
そしてすぐに、消えた1人が戻ってきて2人を中に招き入れた。
「怪我人ですかねえ?」
「どうだろうな。」
「背番号は55と53と61でしたけど椎木さんと青木さんと星ですかね?」
「まあ、そうなんじゃないか。ジャッキ、やる気なのか?人数はあっちのほうが多い、止めておいたほうが。」
3人が入っていった家の様子を窺いながら石井義と貝塚は色々詮索する。そしてしばらくすると中から椎木が1人出て行った。
「いや、やりましょ。今ならやれます。作戦の打ち合わせしますよ。」
義人が言う。その、どこか嬉しそうな様子に貝塚はまた背筋を寒くした。
「星、大丈夫か?」
「はい、頭が痛くて気分が悪いだけです。まだ動けますから急ぎましょう。」
青木の心配に星は気丈に答える。やはり星は軽い脳震盪でも起こしていたのかもしれない。足元の悪い山道を南に急いだのもまずかったかもしれない。どうする、と椎木と青木は目で会話する。青木が首を振り、椎木は肯いた。
「いや、休んだほうがいいだろう。頭を殴られているから心配だ。」
「でも、藤原を待たせたくないんです。」
「俺が行って連れてくる。その間、星は大人しく待っていてくれ。青木、星を頼むぞ。」
「はい。」
近くの民家に椎木は上がりこむ。不法侵入になるだろうが、今は非常時だということで勘弁してもらおう。顔の前で御免と謝るように右手で拝み、家の中をざっと捜索する。
平屋建ての屋内には人の気配はない。廊下には埃が溜まっていて主の不在を告げている。人が住まなくなってどれくらい経っているのかよくわからないが、ここ数年のことのようだった。部屋の間取りは3LDK、おそらく親子の核家族が住んでいたのだろう。
一部屋は物置に使われていたのか、雑然として何があるのかよくわからない。その部屋の柱やら箪笥やらに色褪せたキャラクター物のシールがいくつか貼ってあった。子供が巣立った後の老夫婦でも住んでいたのだろうか?
居間であったらしい南向きの8畳ほどの大部屋に古いソファが放置されてあった。足は入らないだろうが、とりあえず星を休ませることはできるだろう。椎木は表に戻って待たせている2人を呼んだ。
ソファに星を寝かせる。
「足まで入らないが、とりあえずこれで我慢してくれ。後でまともに寝られそうな場所探してやるからな。」
「すみません、椎木さん。藤原のこと頼みます。」
「ああ、任せろ。だから星は休んでなさい。青木。」
ソファの上で横になった星を見やってから青木に声をかける。
「はい。」
「星の面倒を見てやってくれ。それと、これも持っていけ。」
「椎木さんは大丈夫なんですか?」
渡されたレミントン870の3525gの重量を両腕で感じて、青木は今から外に出ようとする椎木の身を案じる。
「どうだろうな。正直分からないが星のお守りをするお前が持っていたほうがいいと思ってな。」
「わかりました。帰ってきたら返しますんでそれまでお預かりします。」
「そうしてくれ。じゃあ急いで行ってくる。2人とも気をつけてな。」
「はい、椎木さんも気をつけて。」
右手を振って別れの挨拶を交わしてから椎木は外に出て行った。扉の閉まる音を聞いて星はひどく不安になる。
「大丈夫でしょうか?」
「待つほうは結構不安になるもんさ。大丈夫だと言えないけど信じよう。寒くないか?毛布か何か、掛けるもの探してくるから大人しく寝てろよ。」
そう言い残して青木は居間を出て行った。扉の閉まる音を聞いて、星は小さく欠伸をして目を閉じた。
隣の部屋の押入れの中からかび臭い気がしなくもない毛布を引っ張り出し、それを抱えて居間に戻ったとき、星は既に寝息を立てていた。起こさないよう気を付けつつ、そっと毛布を肩に掛ける。その時、玄関のほうから控えめに2回、ノックする音が聞こえた。
来訪者を確かめに、右手に椎木から託されたショットガンを抱えて玄関に向かう。撃つ気はないが、これは構えておこう。内側から掛けていた鍵を開けて扉を押し開ける。扉の向こうには貝塚が立っていた。貝塚は青木の抱えているショットガンに怯えたような顔をした。
「すみません、撃ちたくはないんですが、あなたが敵意のある人かどうかわからないんで、下ろすことはできないんですよ。」
「あ、ああ。」
貝塚の表情はやや青ざめ、緊張して引きつっているように見えた。こんなの突きつけられちゃ無理ないよな、青木は貝塚に同情するが、今は星の命も預かっているのだからそう簡単に信用する訳にはいかなかった。
「ところで、どうしたんですか。何か用ですか?」
「あ、いや。そういう訳じゃなかったんだけど。」
貝塚の様子を怪訝そうな目で青木は見た。貝塚は疑われていると直感する。ばらばらにおびき出し始末するという大雑把な作戦だったが、やっぱり無理だ引き返そうと貝塚は決心する。
「どうしたんですか、貝塚さん。顔、引きつってますよ?」
「なんでもない、なんでもないんだよ青木。すまん、邪魔して悪かったな。」
回れ右して去っていく貝塚の背中を見送り、もしかして、自分がそうだったように1人で行くのが心細いんじゃないだろうかという考えに思い至る。
「貝塚さん、待ってください。」
貝塚を追って表に出ようと、青木は玄関から数歩外に出た。そこで足が止まる。
(星の面倒、見なきゃいけないんだよな。貝塚さんも気になるけど、もう見えないし。)
やはり屋内に戻ろうと踵を返す。そのとき背後からどん、と誰かがぶつかってきた。
「――かはっ…」
腰のあたりに熱を感じる。それが刺された激痛だと感じるより早く、足がもつれる。悲鳴をあげることも出来ずに空気の塊と血の泡が口から吐き出された。左の脇の下から腕が差し入れられ崩れかけた上体を引き上げられる。顎を掴む手が銀色の首輪を嵌められた首を晒した。
自分の血で赤く染まったナイフを青木は見た。そして首の左側に痛みがねじ込まれる。噴き上がる血を青木は他人事のように見て思った、せめて星だけでも――。
「逃げろ!」
最期の一息で叫ぶ。地面に崩れ落ちたとき、青木はもう息をしていなかった。
いつの間にか眠っていた星は、誰かの声で目が覚めた。誰も居ないかのようにしんと静まり返った屋内は不気味だ。遠くで水滴が落ちる音がする。未だ治まらない頭痛と吐気をこらえてソファから体を起こすと、いつの間にか掛けてあった毛布が足元に落ちた。
「青木さん?」
さっきまで居た筈の青木の名前を呼んでみるが返事はない。居間を出て廊下を左右見回してみるが人影はない。後ろ手に閉めたドアの音がやけに大きく響いた。
「居たら返事してください。青木さん。」
ぽた、ぽた。ぴちゃん、ぴちゃん。
水の音がする。何故?玄関のほうだ。
(嫌だ。)
静まり返った家に雫の垂れる音だけが響く。見ないふりをしながら、気付かないふりをしながら、本当は気付いていたのかもしれない。その水音は。
行きたくない、そう思いながらも足はその水音のする玄関へ向かう。ドアは開けっ放しで外が見えている。倒れている誰かが見える。見たくない、そう思ったけれどそれは視界にはっきりと映る。
玄関で青木が植木鉢を並べていたらしい棚に不自然な姿勢で突っ伏している。辺りが赤い。棚から流れ落ちた赤がタイルで覆われた地面に溜まり、赤い水溜りを作っている。そしてそこに棚から未だ流れ落ちる赤が、水面を叩き、ぽたり、ぽたりと音を立てた。
「あおき、さん…」
震える声でうつ伏せに倒れ伏している、その男の名前を呼ぶが、答えないことは理解していた。それでもその傍らに、ふらつく足で呆然と立ち尽くす。
(赤い…赤い…)
見回し、振り仰ぐとそしてその赤が玄関の軒先をも染め上げていた。軒先の高さにまではね、べっとりと染め上げている赤い雫、その雫が星の頬に落ちた。雫を震える人差し指で拭うと人差し指が赤に染まった。
「ああ、あ、…ああああああああ!」
悲鳴をあげてその場に座り込む。這うように後退り屋内に戻ろうとした星の視界に影がさした。頭を上げると瞳に、人影が映った。逆光でよく見えない。右手に光るものを持っている。
必死に棚に掴まり立とうとしたが、それが血で濡れていて滑る。がしゃんと音を立てて棚が倒れる。しまったと振り返る星。不安定な姿勢でその上に乗っていた青木の遺体が倒れ、星の目の前に転がった。
力なく投げ出された青木の右腕が星の左脛を叩く。その感覚に反射的に下を見ると、開いた真っ黒な瞳孔と目が合った。吹き上がった血が青木の顔の左側を赤くペイントしていた。
首の頚動脈をぱっくりと深く切り裂かれ、半ば切断された首から、そこだけ白い頚骨がのぞいていた。そして青木の黒い虚ろな目に己の姿が映っているのを星は見つけた。
「わあああああ、ひ、ああああああ!」
逃げないと、混乱した頭で必死に逃げようとして、血溜まりに足をとられて滑り尻餅をつく。見上げると目の前に立っていた殺人者と目があった。
「義人さん…」
歯の根が合わない。泣き出しそうな表情で首を小さく左右に振る。
「やあ。よく寝ていたようなのに、騒がしくしてすまないね。ところで起きたばかりのところを悪いんだけど、また眠って欲しいんだ。」
にこにこと笑っている。楽しくて仕方がないというような笑顔だ。もてあそんでいたナイフを放り出すとゆっくりとその返り血に染まった両手をのばし首を絞める。圧迫されて止められた血で頬は上気する。締め上げられた気道が、ヒューと笛を鳴らすような音を立てる。
目は涙で潤み、息は止められ、意識は混濁し始める。
苦しさを通り越し茫漠とした意識の中、脳裏に青木の虚ろな黒い瞳孔、石井義の血に濡れた手、自分の人差し指についた赤い血、黒瀬の頭部を砕かれた無残な姿、水田のやけに明るい声、長田の首から噴きあがる鮮血、黒岩代表の笑顔、土井コーチのだらりと垂れた四肢、
この島にきてからの悪夢のピースの数々がフラッシュバックする。
(もういやだ…もうなにもみたくない…なにも、なにも)
「ころ…し……てよ……」
唇を動かし聞き取れないくらいか細い声を残して星の意識は途絶えた。
惨劇の場を足早に後にしながら、貝塚は石井義に疑問を投げかける。
「どうして、止めを刺さなかったんだ?」
「殺したほうが良かったですか?」
「いや、そういうわけじゃないが。中途半端に残すのは…」
貝塚は口ごもる。生きていて欲しいのだが、こういう形で残すのは後で命を狙われかねないと不安になったのだ。左腕に巻きつけた鞘にしまったナイフを落ちつかなげに触りながら石井義は言葉を濁した貝塚の真意を悟って答えた。
「ああ、そういうことですか。そのときはそのときですよ。」
確かに今ここに自分がいるのは自分の命惜しさの為だ。だからやるなら徹底的にという考えは正しいのだが。己の卑怯さに嫌気がさして貝塚は黙る。
「貝塚さん、プロ入りした頃のこと覚えてます?」
「ん、ああ、まあ。」
唐突に石井義が話題を変えた。
「俺も覚えてるんですよ。一年目、消化試合で一軍の試合に出させてもらって、打てなくはなかったんですよね。それで、俺はプロでやっていけるなって思って、でも。」
一旦言葉を切り、両手をお手上げという風に耳のあたりに上げる。
「怪我だったり病気だったり、燻っているうちに監督が変わって、うるさい人だったから反りがあわなくて、トレード。」
上げた手をぷらぷらと小さく振ってから下ろす。
「ま、こっちきても、やかましく言われはしますけど、去年、今年と結構使ってもらって。そういう意味ではこのチームには感謝してるんですよ。」
石井義の話はプロ入りした頃の話から大きくずれてしまっている。昔を懐かしんでいるらしい穏やかな目で、遠くを見つめている。まだ平和だったころの石井義はこういう穏やかさも持っていた。
「ああそうだ、プロ入りしたころの話でしたね。懐かしいなと思ったんですよ。潮風ってこんなにきついんだ、プロの打球ってこんなに早いんだ。そんな些細なことが毎日、面白かったんですよ。」
何故、今そんな話をするのだろうか?あるいは石井義もこんなことを本当はやりたくないのだろうか、貝塚は疑問に思う。
「星を助けたくなったのか?」
「それは別です。ただ、飽きただけですよ。」
石井義が不機嫌そうに声を荒げて反論した。怒りが石井義の目に閃き、そして消える。ごほんと咳払いをしてから笑顔を作り直す。
「星、気絶してますから、次に会うのが悪い人なら死にますし、良い人なら生き残れるでしょう。どちらに会うか、神のみぞ知るってのも面白いんじゃないですか?どうせ面白いこともないこの島で、ちょっとでも楽しみが多いほうがいいでしょう?」
貝塚にはやはり石井義が何を考えているのかよくわからなかった。あるいは本当に何も考えていないのかもしれない。
「早く北にでましょう。ちょっと回り道になりましたけど、急げば日が落ちるより前に着けるでしょう。」
かなり西に傾いた太陽を眺めて、さばさばした調子で石井義は言った。
【青木勇人(53)× 残り45名】
職人乙です
義人コワス…
職人様いつも乙です!!
青木…。・゜・(ノД`)・゜・。
星よ…良い人に会ってくれ
乙です!
義人の真意が気になるな…
マジで何も考えてないだけかも知らんがw
職人様いつも乙です!
36.水音 までうpしました。
それと、350等にありました画像を
保管させていただきました。ありがとうございます。
問題あったらすぐに仰ってくださいませ。
念のため保守
☆
保守あげ
37.火に油
南にある集落を目指し、河原と共にゴルフ場を後にした小野寺は、何度目かの休憩を取りながら地図を確認していた。
これまで河原の膝の状態を考え、遠回りになるが、出来るだけ舗装された傾斜の緩やかな道を選び、ゆっくりと移動していた。しかし、日が暮れてきたため、ここは少し無理をしてでもと、林を突っ切る事にした結果――。
「道、間違えているよな?」
「……ええっとですね……ちょっと、東に行きすぎたみたいです。でも、こっちに行けば、方角は大丈夫だと……」
「道ですらなくなってきているようだが?」
「……確かに、そうですね」
膝をさすりながら小野寺の持つ地図を覗き込み、何かを言おうとした河原が、ふとそれを中断し、顔を上げ周囲をぐるりと見渡した。やがて一点――小野寺の背後――を見つめ、口元に指を当てた。
何事かと、目で訊ねると耳に手を当てる仕草をしてみせる。それに倣って小野寺も耳を欹てみた。
――誰かが泣いている。
嗚咽まじりに何かぶつぶつと呟いている。
声の出所を探して、小野寺は目を凝らしてみた。十数メートルほど離れた木の陰に人がいる。
茂みを背にし、こちらに右半身をさらす格好で、背を丸めて俯いるその選手は薄暗さも手伝い、顔は勿論、体格や背番号も判りにくい。
(誰だろう?)
もっとよく見ようと体を伸ばしかけると、河原が立ち上がり、そちらに向かって歩きだそうとしていた。
「行くんですか?」
「うん。声、掛けてみようかと思って」
「でも……危ないかもしれませんよ?」
河原とゴルフ場で話をしていた時に聴いた銃声を思い出す。あの時は何事もなかったが、河原はケガ人でゆっくりと歩く事がやっとの状態だ。しかも、こちらの武器は、フライパンと怪しげな催眠術の本である。
勿論、こんな状況下で仲間と出会えることは嬉しいが、どんな武器を持っているのか、まして殺意が――仲間を疑いたくはないが――ないとは限らないのだ。
幸い、向こうはまだこちらには気付いていないようだ。なにやら尋常な様子ではないようであるし、ここは遣り過してもよいのではないかと、河原を引き止めるが、考え直すつもりはないようだ。
「泣いている奴を放っておけないだろう?そうだな……じゃあ、俺が前から行くから、お前は後ろからそーっと回ってくれよ。で、もしもの時は、それで、ガンッて」
小野寺が握るフライパンを指差し、なんでもない事のように言うが、ガンッとやるのはこちらである。もしものことを考えると躊躇わざるをえない。
「フライパンで人を殴ったことなんてないんですよ。加減が……」
「それは俺もないな。そうだな、こう抜いた感じで、強くもなく弱くもなく」
それが出来れば苦労はしない。だが、ここは経験豊富な先輩投手のアドバイスをありがたく受けとめる。
「――善処します」
こちらに向けられた銃口。乾いた連続音。反動。手の中で跳ねたウージー。瞬時にして倒れ、朱に染まった二人――。
喉が裂けるかと思うほど叫んだ名残が、いまだに喉を焼いている。
どこをどうやって走ってきたのか、方向感覚が狂ったまま薄暗い林を彷徨い、ついにへたりこんだ。走っていても、今こうして膝を抱えて座り込んでいても、何も変わらない。
人を――仲間を殺した。その逃げられない現実が突き刺さる。目に焼きついて離れない光景の数々に追い込まれていく。
罪悪感とあれは正当防衛だったのだと思い込みたい気持ちが鬩ぎ合い、感情を掻き乱す。
いやだ、もう、「死ぬ」とか「殺す」という言葉を思考にのぼらせる事が、いや、口にしているのか?わからない。ただ、息が詰まる。苦しく辛い。
正気か?
狂気か?
早く選べ、決めてしまえば楽になれると胸に抱いた金属が囁く。どうせ「殺し合い」しかここでは出来ないのだから、自分といれば「生き残れる」と誘う。
いやだ、選びたくない。でも、このまま恐いのは、怯えているのはもっと、いやだ――。
咽喉が勝手に引き攣り、押し殺しきれず、痛みになる。
泣いているのか?何に?自分に?殺した二人に?
もう、疲れたな――どのくらいここでこうしているのか?それすらも、もうよくわからなくなってきた。
倦み爛れた感情に倦怠し、深まっていく周囲の闇とともに、全てを閉ざしてしまいたくなる。それでも塞ぎきれない聴覚が、何者かが近づく物音を拾い上げた。
「宮崎――か?」
確かめるような声音で名前を呼ばれ、顔を上げる。前方からゆっくりと近づいてくる白い人影が、涙で霞む視界に映る。急いでウージーを引き寄せるが、あの光景が脳裏に広がる。
その銃口を向ける事が苦痛となり、躊躇わせる。手ぶらの両手を振りながら、無防備に近づくその人の顔を見る事は、人を殺した身には許されない気がして、胸の12の数字で誰かを確かめた。
「……河原さん……?」
「どうした?ケガでもしているのか?」
自分でも驚くほど苦しげに掠れた声に、心配そうな声が返る。それがなお、苦しい。
抱え込んだウージーに気付いたのか、話をするには遠い位置で河原の足が止まった。
その事にほっとする。そんな自分がひどく惨めだ。
なんで俺はこれを手放せないのだろう?これがあるから――。再び泥沼の思考に沈みかける。それが恐くて、もう一度、彼の名を呼ぶ。縋りたい。助けて欲しい。だが、俺は人殺しだ。その資格はあるのか?
「座ると立つの大変だからさ、立ったまま話してもいいかな?」
軽く膝を動かしてみせるその仕草で、河原が怪我をしていた事を思い出す。距離を取る事の言い訳のようでもあったが、今の宮崎にはありがたかった。
顔を合わせて話せる自信がない。だが、聞いてもらいたかった。話している間だけは、まともな呼吸を紡げる気がした。
「何かあったのか?」
促す声に、あの建物を出てからこれまでにあった事を話した。自分でも、もどかしいほどに、たどたどしい口調だったが、河原は時々、相槌を打ちながら辛抱強く聞いてくれた。
人を殺したと告げた時も、責めもせず、ただ先を促す。だが、殺した二人の名前を出した時には、「そうか」という彼の声が、強張ったようだった。
トレードでこのチームに来たのが、パ・リーグの開幕二日後だったとはいえ、彼らは同じ投手だ。思うところがあるのだろう。
「俺達は殺し合いをしているんだから、それはしょうがないよ。あんまり自分を責めるなよ」
「でも、辛くて……死んでしまいたいぐらいなんです……でもそれも恐くて……どうしたらいいのかわからないんです」
「うーん、そうだな……。俺が決めちゃうのはどうかな?ほら、宮崎は、他の人達よりよく知っていると思うけど、俺っていろいろとツイてないし――しかも、今度は殺し合いだよ。ここまで来たけど、歩くのも辛くなってきたところだったしさ」
一呼吸置いて、続ける。
「――俺を撃ってもいいよ。そうすれば、宮崎も吹っ切れるんじゃないかな?」
意外なようでいて、しっくりとするその言葉につられて、河原の顔をまともに見た。目が合うと、「ほら」と言うように少し笑って、プロ野球選手としては薄いその胸を指差す。
「――いいんですね?」
「うん。また同じチームになったのも何かの縁だし、宮崎ならいいかなって思うんだ」
誘われるようにウージーのグリップを握り、ゆっくりとその銃口を――。
「煽ってどうするんですかっ!」
宮崎の人を殺したという告白に衝撃を受け、潜んだ茂みの中で固まっていた小野寺であったが、二人のやりとりにだんだん腹が立ってきて、思わず立ち上がった。
足元で宮崎が「ヒッ」と小さな悲鳴を上げ、手にしていた物を取り落とし、その体を縮こませた。
「出てきたら、駄目だろう?――それに、声、大きいよ。宮崎が怯えているじゃないか」
言われて、声量を抑えるが、あまり成功しなかった。
「黙って聞いていれば、なんなんですか!二人ともおかしいですよ!」
「こういう時は聞き役になって、言いたい事を言って貰ってだな。落ち着いてもらおうかと――ほら、当たっているバッターにも打ち疲れがあるとかって、言うだろう?」
最初はそうだったかもしれないが、途中からは絶対に違う。本気で撃たれようとしていたし、撃とうとしていた。なんなんだこの人達は?
「泣き落としの方が、よかったかな?」
河原は自分と来た事を何か根に持っているのだろうか?
「葉っぱ、ついてるぞ」
のんきな河原の言葉に、「それどころじゃないでしょう」と、小野寺が唸った。
こちらは座っている上に、立っている長身の二人に挟まれている状況は、ただでさえ圧迫感がある。
ましてやその二人に頭越しに喧嘩――正確には小野寺が一方的に河原に噛みついているし、河原は河原で火に油を注いでいるとしか思えない――をされ、しばし呆然となっていたが、いい加減に居心地が悪くなり、宮崎は口を開いた。
「俺のことで喧嘩しないで下さい……どうせ俺は人殺しなんですから。生きていたってしょうがないんです。もう、放って置いて下さいよ。死んで、二人に詫びにいきますから」
投げ遣りな言葉に、背後から沈黙が返った。言葉よりも雄弁な怒りと厳しさをはらんだ沈黙だった。宮崎の発言の何かが小野寺の心の琴線に触れたようだ。
彼はどちらかといえば、喜怒哀楽の判りやすい、調子のよすぎるところもある気のいい奴だ。
そんな小野寺が、身じろぎもせず、深く静かに怒っている。その気配がひしひしと背中に伝わってくる。こんな感情の現し方をするとは思わなかった。
河原も黙り込んで、じっと小野寺を見つめている。
恐る恐る振り返り、小野寺を見上げた。目が据わっている。そして、なんでフライパンを持っているんだ?身の危険を感じて、取り落としたウージーを掴もうと、腰を浮かしかけた――。
「今だ」
「ミヤさん、スイマセン」
二人の投手の声と同時に実によい音がした。
小野寺は横倒しになった宮崎の上に屈み込んで、彼が失神しているだけであることを確認した。ほっと安堵の息をつく。後でタンコブぐらいはできるかもしれないが。
「やればできるもんですね」
「俺もいい演技だったろう?集中してうまく力が抜けただろう?」
どこか楽しそうな口調だが、あれは本当に河原の演技だったのだろうか。なんだか本気くさかった。
「手荒な事して、スイマセン。でも今は少し休んだ方がいいと思うんです」
簡単に詫びて、宮崎と三人分の荷物を担ぎ上げる。
「カバンは俺が持とうか?」
「平気です――それに、もう少しで着く筈です。日がある内に行きましょう。河原さんはそれでも持って下さい。捨てていくわけにもいきませんから」
河原や宮崎本人というよりも、彼らにこんな真似をさせるこの状況に、それを強いる連中に、なにかしないではおかない。誓いは知らずに言葉になって溢れ出した。
「根性、叩き直してやる」
返事も待たずに歩き出した小野寺の誰にともなく呟かれたらしい小さな声が、河原の耳に届いた。
「やれやれ、だな」
抑え切れない苦笑を浮かべ、その場に残されたウージーを拾い上げ、プロ野球選手としては小柄な部類とはいえ大の大人と荷物を背負い、さすがに少々ふらつきながら進む小野寺の後を追った。
しばらくしてようやく民家らしい建物が、木々の合間から見え始めた。
【残り45名】
職人様乙です!
うはwwwwwwww泡様と力者テラカッコヨスwwwwwwwww
宮崎…
超乙であります!
火に油を注ぐ泡様が笑えなくて笑える…
力者は宮崎も背負い込んで大変だなwガンガレ
ほっしゅ
38.伐り開かれた森の中
吊り橋に差し掛かるハイキングコースで、谷底から吹き上げてくる風の強さに顔を見合わせ立ち往生している二人組みがいる。
「これ、渡るんですか?」
大沼は嫌そうに言う。
「…どうするよ?」
答える星野の声は震えている。谷底までおよそ3階建てのビルくらいの高さがありそうで、頭から落ちれば致命傷になるだろうが、足から落ちれば骨折程度で済みそうではある。だがこの島で足を折って動けないなどということになれば、かなり死が近づくのは間違いない。
ワイヤで吊ってある橋は細く、一度に渡れる人数は一人だろう。踏み板には傷みが見えるがワイヤ自体は切れたり弛んだりしている様子はない。とはいえ、この島の設備が放棄されてどれだけ経っているか、それを考えるとやはり渡るのは恐ろしい。
「星野さんからどうぞ。」
「いえ、後からいくほうが危険だから、お先にどうぞ。」
「いえいえ、危険な役目は後輩の僕が。」
「いえいえいえ。」
かくて、吊り橋を前にして譲り合いを始めているのだった。
谷間を風が渡る度に、ワイヤがギィギィと耳障りな心臓に悪い金属音を奏でている。しばらくあまり美しくない譲り合いを続けた後、二人で顔を見合わせて異口同音に言う。
「向こうに行くの、やめましょう。」
意見の一致をみて、思わず二人で握手を交わす。
「じゃあ改めてどこに行きます?」
「地図。」
星野が手を出し、その上に大沼はカバンから出した地図を載せる。
「はい。」
大沼から渡された地図を広げる。よく考えてみたら地図も見ずに歩いて来たことを星野は思い出す。
「今俺達がいるのはここ、だなあ。」
地図の一点を指で叩く。
「吊り橋がありますから、ここでしょうね。」
「迂回して向こう側に行けないかな?」
吊り橋の方向を振り返る。渡るのを諦めてからは、何故かワイヤの鳴る音も全く気にならない。
「ありそうな気はしますね。山を下りて川下に出れば、もう少し渡り易い橋が、そう、集落の中とかにありそうですね。」
「下りて迂回する?」
二人で顔を見合わせる。今から集落へ下りて、あるかないか分からない橋を探して歩くのも、少々面倒な気がする。今から下山するとなると、どれくらい時間が掛かるだろうと思い、もう一度地図に目を落とした星野の目にキャンプ場を示す文字が目に止まる。
星野の脳裏に閃くものがあった。
「ここにキャンプ場があるが、そこ行ってみるか?キャンプファイアーでも焚けば、沖合いを通る船が気付いて助けにきてくれるかもしれないし。」
「あ、それ名案ですね。さすが星野さん。でも火を付けるものがないんじゃないですか?」
うーん、と星野と大沼、2人で数秒考えたあと、星野がいいことを思いついたとばかりに手を叩く。
「その火炎瓶があれば盛大に火を焚けるだろう、多分。」
「あ、そうですね。さすが星野さん。」
ハイキングコースをはずれ、キャンプ場へ向かう山道を下りる。今までの道より幅は狭く、草が生え放題の獣道に還りつつある。そんな足元の悪さに苦戦しつつ、キャンプ場を目指して黙々と下る二人の目に、やがてロッジ風の建物が4軒見えてくる。
「今日はここで風雨を凌げそうだな。」
「なんだか、安普請っぽいですね。」
「キャンプ場のロッジだからなあ、そりゃそこまで頑丈にはできてないだろうけど今日のところはこれで充分だろう。」
丸太を組んだような外壁に床が高い造りで玄関にステップがついている。風雨にさらされた外壁は黒ずみ周りは丈の高い雑草に囲まれ、幽霊でも出そうなくらいに荒れている。大沼はそんな外観を嫌っているようだ。
「早く先に行きましょう、今日の宿はまた後で考えればいいじゃないですか。」
大沼はそう言って先に立って歩き出す。ロッジが建っている場所付近から先程まで難儀してきた獣道が両手を広げて歩いてもまだ余裕がある、3人並んでも余裕がある位の幅になる。そして、雑草こそ生えているが、階段状に整備された道になり随分歩き易くなった。
そこからまた数分道を下ると、やがて河岸からやや離れた森の中にぽっかりと伐り開かれた広場とキャンプ場の管理棟が見えてきた。
ブロックを組んだだけの簡素な炉がいくつかあり、ここがキャンプ場であることを教えている。木材で組んだ柱と屋根の下に丸太を切って作ったらしい簡素なベンチと長机がある。端のほうには水場があり、蛇口がいくつか並んでいた。
キャンプ場から幾分離れた場所にコンクリート製の味気ない小さな建物があり、おそらくそれが管理棟だろう。
キャンプ場を横切り河岸に下りると、雨が降り始めたら岸から離れてすぐ上にあがるようにと注意書きの建て看板が残っていた。
「今はあまり水量がない時期だけど、雨でも降ればすぐに増水するだろうな。」
「ですねえ。雨降ってなくて助かりましたよ。これで雨まで降ってたらもう、歩くのだって大変でしたよ。」
河岸の大小不揃いな石に足をとられないよう慎重に歩きながら、星野は川べりまで足を進める。冬の川は水量がなく、幅もなく水底も見えそうだった。雨という星野の単語に大沼は今まで歩いてきた獣道を思い出す。天気が晴れだったのは不幸中の幸いだった。
「星野さん、それより火を焚くなら薪とか燃やすものを探さないといけないんじゃないですか?」
「ああ、そうだな。あっちの管理棟っぽい建物に置いてないか?」
川を振り返ったあと、河岸を離れキャンプ場に戻り管理棟を捜索する。表から見たときは気がつかなかったが、裏手に小屋が併設してあった。
「駄目だ、入り口、鍵掛かってる。大沼、そっちはどうだ?」
管理棟のドアをガタガタと揺らしてみるが、鍵が掛かっているようで開かなかった。別れて小屋を見に行った大沼に星野は叫ぶ。
「こっちは開いてます。でも中身、ちょっとだけですね。これじゃ人に気付いてもらえるほどの火は焚けそうにないですね。」
懐中電灯を携え小屋のドアを開けて中を見た大沼だったが、中は殆ど空で隅のほうに僅かに燃料になりそうな枯れ枝の束が置いてあった。触った感じでは湿気ていないようだったが、これだけではいかにも足りない。
星野が遅れて現れて、小屋の中身を見てこれでは足りないと溜め息をついた。
「仕方ない、周りの枯れ枝や枯葉を集めて何とかやってみよう。」
とりあえずある分だけでも、と枯れ枝の束を運び出し広場の中央に固めて置く。
「何しよるんですか?その枝、火でも焚くんですか?」
上から声がして声のする方角を二人で振り返る。こちらを見て手を振る、ずけずけした物言いの、未だ線の細さが目に付くその青年の声と姿から察するに松川だろう。星野は手を振り返して答えた。
「松川か?火でも焚けば誰か気がついて助けに来てくれるんじゃないかと思ってね。」
松川の後ろからも二人来ていた。目を細めて誰なのかを確認しようとする。大きいのが一人、一回り小さいのが一人。さらに近づいてからそれがようやくG.G.佐藤と帆足だと分かる。帆足の頭に包帯が巻かれてあり、血が滲んでいるのを見て大沼は青ざめる。
「帆足、頭、どうしたんだよ。」
「別にどうも。かすっただけさ。」
帆足の表情はひどく硬い。大沼は身震いする。その表情があまりにも雄弁に、同い年の同僚の身の上にふりかかった災いを語っているような気がして。
【残り45名】
職人様方乙です。俺達ワロス
38.伐り開かれた森の中 まで保管しました。
職人様、保管庫様、乙です。
なあ…おまいらが燃えるものを探してるだけでガクブルなんだよ……でもワロス
乙です!
火なんてお前らにとっちゃ簡(ry
保守炭谷
☆
俺達テラワロスw
大沼…星野……お前らは……orz
大沼…星野…
炭谷あげ。
431 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/03/29(水) 21:38:58 ID:oVXsOtEkO
何年か前に辞めた内薗って今何してるかしらない?
保守
433 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/03/30(木) 20:58:23 ID:jCzAMDuG0
平尾ウザい
マジウザくね?
大事な場面で三振しやがって
434 :
鷹ファン:2006/03/30(木) 21:00:04 ID:qsvCDzuV0
皆さんこんばんわ
435 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/03/30(木) 21:00:05 ID:jCzAMDuG0
ってか石井がいたじゃん
なんで代打じゃないんだ?
伊東もここまでアホだとはな
39.夜への前奏曲
西日に照らされた影が3つ、砂浜に長く伸びている。
「西口さん、歩けますか?」
「そこまで大げさやあらへんよ。ただ、ちょっと喉がおかしい気がする。なんかさ、腰も痛いし。」
「早朝、バスに乗せられてここに着いたのが夕方くらいです。ずいぶん長いことバスに乗せられてた訳ですから具合悪くしてもおかしくないですね。」
病人によくやるように、片岡が西口の額に手をやる。熱は、あるのかないのかよくわからない。だが、つらそうにしているのでおそらく微熱が出ているのだろう。
「熱出てますよ?」
「うん、平熱。」
適当な診断に、どこかずれた返答がきた。
長い間することもなく潮風にさらされていたことで西口が体調不良を訴えたのだった。とりあえず休めるところに、という3人の意見が一致したところで、砂浜を上がり風防林を越えたところにあまりやる気のなさそうな土産物屋らしき建物が1軒あるのを、片岡は覚えていた。
ともかくそこで休めるかどうか確かめようと砂浜を離れ、記憶にあった建物を探す。風防林の先に見つかった建物の外観は風雨にさらされたボロ屋だが、この際どうでもいい。
荒れ放題の花壇を横目に、戸板で囲われた表口を壊して中に入る。埃っぽい空気が肺を満たし、赤田はゴホンと咳をした。懐中電灯で辺りを照らすと、壁の隅の高いところに予想通り電気のブレーカーがある。
「ちょっとシャベルを。」
シャベルの柄でブレーカーを押し上げる。出発地点のホテルには電気がきているようだった。この島全体で使えるかどうかはわからないが、試してみればわかるだろう。
「ブレーカー上げました。灯りのスイッチ、探してください。」
暗い壁際を懐中電灯の明かりを頼りにスイッチのありそうな場所を探ると、奥の壁際、胸の高さくらいに白いスイッチが見えた。スイッチを入れると蛍光灯の白い灯りが暗闇を照らした。
一階は商店だったらしいが、商品らしき物は残っておらず、がらんとしたコンクリート打ちっ放しの汚れた床に、かなり古くなった机と椅子が端のほうに寄せられている。端に大きな段ボール箱がひとつ置いてある。中身はおそらく売れ残りの商品か何かだろう。
奥の扉の向こうが住人の居住スペースのようだった。扉を開けて中に入ると台所と家族の食卓だったらしいテーブルと椅子が残されていた。台所の奥に扉がもう一枚ある。扉には節水と書かれた張り紙がある。中を覗くと風呂とトイレがそこにあった。
台所の右側に狭い階段がある。2階に上がると、なんとか3つにしました、という風な狭い部屋が3つ。両親と子供のそれぞれの部屋のようであるらしかった。子供部屋に古い2段ベッドが残されている。引越しの際、必要ないものとして捨て置かれたのだろう。
「西口さん、これ入ります?」
「んー、なんとか寝られそうよ。」
ベッドに転がる。
「あんまり快適やないけどねえ。」
暇そうにごろごろと転がる。
「何か薬でも探してきましょうか?」
「ん、解熱鎮痛剤たのむ。」
「俺、病院まで行ってみる。」
片岡と西口のやり取りを見ていた赤田が提案する。
「遠くないですか?」
「自転車が表にあったから、それで行けば少しは時間短縮出来ると思う。」
「1人で?危険じゃないですか?」
「西口さん放っておくわけにもいかないし、俺1人ならなんとか逃げ回れるかなって。自信はないけど。」
この廃屋を探してもアスピリン程度の薬でさえ見つかる保証はない。なら確かに島の北側にあるらしい診療所を探したいところではある。赤田の人間性は信用に足るが能力は、結構抜けてるところもないわけじゃない。さてどうしたものか。
1人で行かせても大丈夫だろうかと迷った片岡は、助言を求めて背後の西口を振り返る。片岡の視線を受けて、ベッドでゴロ寝していた西口が起き上がる。
「ショーゴはさ、今後どうしたいん?」
「正直わかりません。でも1人でも多く生きて帰ることができたら、と思います。だから人を助けるためにも薬が欲しいと思うんです。」
「なるほどねえ。まああんまり頑張りすぎへんようにね。行くんやったら気い付けや。ショーゴはどこか間の悪いとこあるから、特にね。」
「そうですか?でも、ハイ、気をつけます。」
どこか納得しかねているような赤田の態度であったが、西口はそれで満足したのか、また大儀そうに横になった。赤田と片岡は立ち上がり階下へ下りていった。それを横になったまま西口は見送る。
足元に放り出したままのカバンから雑音がする。西口は面倒くさそうに中身を探り、ようやく小さな通信機を探し当てる。雑音の中に人の声が混じり、どうやら凄い剣幕でまくし立てているようである。
「まあまあ落ち着いてくださいよ。ともかく守らないかんのは片岡君でしょう?それなら今のとこ問題ありませんよ。先のことは分かりませんけど。あまり目立ちたくないんでもうええですよね、切りますよ。」
煩そうに一方的に通話を切るとカバンの中に入っていたタオルで通信機をぐるぐる巻きにしてから、カバンの奥底にそのパッケージを押し込む。そして小さくぼやいた。
「気分悪いなあもう。」
「禁止エリアの放送がありますから、ここが禁止エリアになったら、こちらに来てください。」
「火を点ける必要があるときとか、あると便利かもしれないからライターひとつ置いていく。役にたたない気もするけど。」
「では気をつけてください。1人で西口さんの面倒見るのも心細いんで早めに戻ってきてくださいよ。」
「わかった、じゃあ後は任せた。」
短い打ち合わせの後、笑顔でハイタッチを交わす。そして自転車の車輪をきしませながら赤田は北へ向かっていった。小さくなる姿を見送ってから片岡は屋内に戻る。
(ライターか。スプレー缶とか残ってないか?)
使い捨てライターを睨む片岡に閃くものがあった。洗面所からスプレー缶を探し出す。そして今度は台所の引き出しを漁りガムテープを見つけ出すと、スプレー噴射口付近にもらったライターをガムテープで固定する。
(自分の指を焼きそうだな。使いたくないけどないよりマシか。)
さらに棚の引き出しを探り、画鋲を探し出すと一階の窓枠にばら撒く。
(こんな映画あったよな。1人で留守番してる子供が泥棒をとっ捕まえようとして罠を張る話。)
昔のコメディ映画を思い出す。現実はもっと深刻だが、そうやって罠になりそうなものを考えているのは意外と面白く、片岡はついにやにやしてしまう。
「じゃなくて、真面目に考えるの!今、ピンチなんだからね。」
緩んだ頬を締めなおす。それから数分新たな侵入者対策を考えて、いくつか簡単なものを設置し終わってから階上に戻る。
階上に戻ると西口が1人起き上がって別の部屋を捜索しているようだ。調子が悪いなら大人しくしていればいいのに、それはそれで暇なのだろうか?やがて、奥の部屋からかなり雑音混じりの管弦楽が聞こえてきた。雑音が耳障りだが、一応聞けないこともない。
ずっと基調音として単純にして不調和なフレーズが楽器を変えながら流れている。その上に色々な楽器が出たり入ったり、時に基調音をはさみで断つようにソロパートで断ち切り、全体的に不安と緊張感を感じさせる、どこか不吉な音色だった。
「西口さん?」
「暇やったし、なんかないかなあって思って漁ってたら、レコード見つかって。懐かしいなあって思ってかけてみたんよ。保管、良おなかったから不安やったけど、かかるもんやねえ。」
二人で黙ってそのノイジィな音色を聞く。
「なんだか、RPGで船を手に入れて海にでましたよ、って音楽っぽいですね。」
中盤の切なくなるような美しいメロディを聞いて正直な感想を言う。西口にはその喩えはよく分からなかったらしく、首をひねるような仕草をみせた。
「これ、何ですか?」
「ん。ラヴェル、スペイン狂詩曲、第一曲、夜への前奏曲って書いてあるね。他のにする?まだ10枚くらい置いてあったよ。」
「いや、そのままにしておいてください。」
夜への前奏曲か。今の心境には相応しいタイトルかもしれない。片岡はその音を聞きながら思う。そしてスピーカーは第二曲、マラゲーニャを奏で始めた。
【残り45名】
職人様大変乙でした。日付がwww
キャプテン様…心配だよ…
オツ…なんかショックだorz
442 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/03/32(土) 22:23:46 ID:YYd2IfZQO
ほしゅします
職人様乙であります。
に、西口…!?
片岡・・
守られるべき人とは以外ww
職人さん、乙です!
hosyu
☆
保守
hosyu
40、見えない物を見ようとする誤解
夜が始まろうとしている。
冬のはじめの澄んだ夜空。黄昏時を過ぎてしまえば、細い月と無数の星に照らされ、街灯の無い道であってもかえって歩き回る事に支障はなくなる。
方角を指し示す星を探して仰ぎ見る。
そうしたところで見える筈もない行く末を見極めたいと願う。
自分はこの「ゲーム」を知っている。正確には人から聞いたことがある。
チームメイト同士の殺し合い、爆発する首輪、閉ざされた空間――。
その話と現在、許が身を置くこの状況には符号する部分がいくつもあった。
それは母国・台湾プロ野球の隠された歴史。
公に語り継がれる事のない、しかし、決して忘れてはならない歴史――許にこの話をしてくれた人は元投手だった。
絶対の信頼を置き、長年組んできたバッテリーを、捕手を、その手に掛けたのだと語った――二度と自分達のような思いをする者が現われてはならない事を願い、その人は話してくれた。
とても信じられる話ではなかった。悪い冗談だと思い、すぐに忘れてしまった。
だが、あの広間で目覚め、首に巻きつく金属の感触に戸惑い、繰り広げられた惨劇に慄き、忘れていたこの話を思い出した。
許の聞いたあまりにも無残な「ゲーム」の結末――そして、それを避ける方法。だが、万全の方法ではないうえに、実行は極めて困難だ。
果たして、それが自分には可能なのであろうか?
それでも、やらなくてはならない。自分のために、仲間のために。
言葉でなく、今日これまでに積み上げてきた全てをかけて、やらなくてはならない。
二年間の軍役経験も役立てることが出来るかもしれない。
ふたつの「ゲーム」が、全く同じということもないだろう。そこも見極めなければならない。
ライオンズでプレーするようになって6年が過ぎた。日本語も日常でも野球でも、ほとんど支障はない。しかし、この状況下では、些細な行き違いが疑念を生み、取り返しのつかない事態を招きかねないのだ。
そして、何よりも忘れてはならない事。この異常な状況下で、人は変わるのだと言う事――自分も変わるのかもしれない――いや、すでに変わっているのか?
ふと、そんな思いが胸をよぎった。
だからこそ、慎重に、見極めなければならない。仲間を。自分自身を。
畏れも迷いも何もないといえば、嘘になる。
心の奥に潜んだ躊躇をあらわすように、緩い坂道の途中で許の足は止まる。
見極めなければならない――心を決めたはずだった。答えはすでに出ているのだ。
自分がどこかで迷っている事を知っているからこそ、あの時――吊り橋で高木浩と出会った時、一人でいる事を選んだ。
彼に銃まで向けて、彼の告げる謝罪の言葉――彼にその咎があるものではない――を、同じ台湾出身の後輩を案じてくれる言葉を振り払い、ここまで来た。
ほんの僅かでも躊躇えば、こうして立ち止まってしまう事が分かっていたから。
だが――。
「やらなくては、ならない」
低くもれた声は、白い息と共に夜気に滲み溶けた。
いったん足元にその視線を落とし、許はまた行く手を見た。
許の足を鈍らせるもうひとつの迷い。あの広間で怒りに任せて、黒岩に飛び掛ろうとしていた後輩。
張はきっとあの陰惨な歴史を知らない。もし、彼に出会ったら、何をどう伝えればいいのだろう。だが、次に出会う時、彼も変わってしまっているかもしれない。そして、自分も。
(知りたい)
そう。許は――知りたかった。
見極める術を、自分に何が出来るのかを。
ゆっくりと足を踏み出す。だが、その足はやけに力強い音楽に止められた。
♪チャララ チャッチャッチャー チャララ チャッチャッチャー
聞き覚えのありすぎるイントロに引き続き、松崎しげるが熱く高らかに歌い始める。
♪陽っは昇―り 風熱―く 空燃えーてー 地平を駆ける獅子を見たー
最初のフレーズが終わると、曲のボリュームが絞られ、やけに陽気な男の声が話し始めた。
『ハイ、6時になりました。進行役の黒岩がお送りする最初の放送です。皆さん、よく聞いてくださいね』
「ゲーム」の進行を伝える定時放送――話の中にも出てきた。
『まずは、これまでの死亡者を発表しますね。えーと、19番長田秀一郎、17番山崎敏、29番三井浩二、28番岡本篤志、36番山岸穣、56番黒瀬春樹、66番宮越徹、53番青木勇人、47番細川亨――以上9名です。
ちょっと、少ないかな?これではいつまでたっても帰れませんよ?』
楽しそうに、やや不満そうな声を作り、黒岩は死者の背番号と名前を読み上げる。
24時間、死亡者が出なければ全員の首輪が爆発するという忌々しい時間切れが少し遠のいた。その事を歓迎するべきかもしれない。
取り返しのつかない犠牲の上に成り立つ時間。一秒も無駄には出来ない。
それでも――。
最後に呼ばれた名前に、気を抜けば溢れそうになる感傷が、揺り動かされた。それはきっと微かに聴こえる潮騒が揺り動かしたのかもしれない。
自分も彼も釣りが好きだった。そしてバッテリーだった。
話をしてくれた元投手の事を思い出す。
バッテリーをその手に掛けたその投手は、野球を捨てた。捨てざるを得なかった。「ゲーム」で負った傷――身体にも、精神にも――がそれを許さなかった。
自分はどうだろう?
例えこの島から無事に帰ることが出来ても、もうマウンドには上がれない気がする。いや、ボールさえ握らないかもしれない。
『では、続いて禁止エリアです。入ると首輪が爆発しちゃいますから、しっかりと地図を出してチェックしましょうね。えーと、スタート地点のあるE−4は既に禁止エリアです。
次は……どうしましょうかね……?最初ですし、ポンポンといっちゃいましょうか。』
禁止エリア――これもまた聞いた通りだ。どこまで同じなのだろう。
『今から1時間後、19時にE−5』
スタート地点の南側。
『20時にF−1』
島の北端やや西寄り。ほとんど崖しかないエリアだ。
『21時にJ−6』
東側の山の南側の麓に当たる斜面。
『22時にG−2』
北北東にある港に程近い丘陵地帯の一角。
『23時にB−2』
島の北西岸。ここも崖しかない。
『24時にI−3――と、とりあえずこんなもんですかね』
東側の山の北側の麓。
当座、許がいるC−3――ゴルフ場の北西付近に広がる林――は禁止エリアとはならなかった。
『では、次の放送は夜の12時です。寝ててもいいけど、聞き逃すと大変なことになるかもしれませんよ。じゃあ、ガンバってどんどん殺し合ってくださいね』
乱雑なノイズとともに唐突に放送は終了した。島中の大気を掻き乱した大音量の余韻を一刻も早く消し去ろうと、夜風は一段と鋭さを増したようだ。
あおられる地図を押さえ、禁止エリアを書き込む。そして、これから向かうべき場所を検討する。
島の東側や南側には街や集落が多い。夜を過す場所を探すならそちらに向かうべきだろう。他の選手達も集まっているかもしれない。
ふと、地図から目を離す。
(何だ……?)
冷たく澄んでいた夜気が、その色を変えた。血の臭いを嗅いだような気がした。
弾かれたように振り返り、束の間、宙に視線を彷徨わせる。やがてその目よりも先に、耳が捉えたものは、遠くから聴こえる人の声――悲鳴とも怒号ともとれる――誰かが争っている。
肩に掛けていたアサルトライフル――FA−MAS――を使う事になるかもしれない。
肌寒さばかりではなく、肌が粟立つ。
ここからでは見えないその殺し合いの現場を探して歩き始めた。
わけがわからないままにゴルフ場から、小野に引っ張られるようにして林の中へと駆け込み、乱れた息が整った後もずっと歩き続けている。
ホテル周辺で宮越を探していた時は、まだ少し明るかったが、林の中を歩いているうちに、とっぷりと日が暮れてしまった。
そんな周囲の暗さと共に、先程、ホテルの西側で見つけてしまった酷い有様の死体を思い出し、東は不安を覚える。広間で聴いた銃声から予想はしていたが、この島には既に殺された誰かがいる。そして殺した誰かがいる。
その先の藪の陰で、また誰かが冷たくなっているかもしれない。木の後から突然、殺人者となった誰かが襲ってくるかもしれない。
星明りにぼんやりと浮かび上がる周囲の光景に不安は掻き立てられる。
数歩前を進む小野はなにやら考え込みながら、黙々と歩く。何度か呼びかけるが、生返事しか返ってこない。あてがあって歩いているわけでもないようだ。
小野の態度はおかしい。
東と共に宮越を探していた筈なのに、急に走り出して、ホテルから離れてしまった。探す気があるのだろうか。
ホテルの西側には栗山もいた。自分達よりも先に出発した彼が宮越を見掛けている可能性は高い。小野もそう思ったから、あそこにいたのではないのか。例え見ていなくても、彼なら声を掛ければ一緒に探してくれたかもしれない。
栗山との間に何かあったに違いない。
思い返せば、あのホテルを出て最初に会った時からおかしい。何故、小野はあんな所に立っていたのだろう?
何かを隠しているとしか思えない。
(確かめないと)
何度目ともしれない呼び掛けに、力を込めた。
小野は歩きながら、ホテルを出てから起きた出来事を止め処もなく思い返していた。ものすごく恐かった。寿命が縮まるような出来事だった。
「小野さん!寒いし、暗くなってきたよ。宮越さん、見つからないし――どうするんですか?」
東に言われて小野は辺りの様子がろくに目に入っていなかった事に気付いた。
太陽は沈み、確かに暗いが、これまでも見るともなしに見えていた程度には、光がある。
見上げれば、葉を落とした樹木の枝の間で、雲のない夜空に星が輝き始めている。寒さも増してきた。吐く息が白い。
「ああ、そうだな――休める場所を探すか」
このままあてもなく宮越を探すわけにもいかない。
そういえば地図もまだ見ていなかった。
「うわっ」
カバンを開けた途端に目に飛び込んできた惨状に思わず声が出る。
「なんか、割れたような音がしたんだよな……」
あの時――突き飛ばした栗山の脇を抜けようとした時――水田がハンマーを振るったのが視界の端に映った。ハンマーは肩から下げていたカバンに当たった。
手を突っ込むわけにもいかず、カバンを逆さに振り、中身を足元に全て出す事にした。水の入ったペットボトルや地図、筆記具などとともに、茶色いガラス片が散らばった。
「これが武器、だったのかなぁ……?」
破片の中から、原型の分かる細長い円筒状のガラス片をつまむ。
「ビール瓶ですよね?」
東が怪訝そうな顔で確かめてくる。
「まあ、空き瓶でまだ良かったのかなぁ」
中身が入っていたら、荷物のほとんどは使い物にならなかっただろう。それにしても、ビール瓶が武器とは、どういうことなのだろう。これで人を殴れとでもいう事だったのだろうか。
そんな武器もこうして壊れてしまった。
(なお一層、開き直るしかないな)
破片を除けてカバンに荷物を詰め直し、落ち葉の上に座り込み、地図を広げる。
さすがに地図が読めるほどには明るくはない。懐中電灯で手元を照らした。
まずは自分達のいる場所を探しながら、向き合って座る東に尋ねる。
「そっちはなんだった?」
東が取り出した武器は、長さが3、40cmほどの鍔のない短刀で、鞘も柄も木で出来ている。匕首というらしい。
手にした匕首の鞘に一度抜いた刃を元に戻し、東が何かを言おうとした時、驚くほどの大音量で聴こえてきた球団歌「地平を駆ける獅子を見た」のメロディと歌声が、それを遮った。
「悪趣味だな」
地図と懐中電灯を手にし、放送に耳を傾ける小野が呟く。
曲をバックに黒岩が死亡した選手の名前を読み上げる。もう9人も死んでいる。その中に探し人の名前が含まれていた。
「宮越さん――死んでいる……」
更に続く黒岩の声はもう耳に入らなかった。
不安で堪らなかった自分に声をかけてくれた。思い出すと涙が出そうになって、顔を上げた。
(なんで……?誰に……?)
宮越の言葉に応えたいと思った。自分は強くならなければならない。
小野は顔を顰めながら、地図を見つめている。
自分ほどには宮越をはじめとする仲間の死に、ショックを受けているようには見えない。
やはり小野は何か知っているに違いない。そして、もしかしたら――。
(どんな事をしても聞き出すんだ)
掌に馴染み始めた匕首の感触が、力を与えてくれる気がした。
決意を込めて呼び掛けた。
もう、9人も死んでいる。
嘘だと思いたいが、名前を呼ばれたうちの3人――長田を含めれば4人だ――はその死に顔をこの目で見ている。そして、3人の遺体の元にいたあの二人――栗山と水田。そのただならぬ様子と、栗山との会話を思い出す。
彼らは9人のうちの誰かを殺したのか?この先、誰かを殺すのか?
確かめるべきだったのだろう。そして、なんとしても止めるべきだった。だが、自分に何かが出来たとも思えない。殺されなかった事が不思議なぐらいなのだ。自分にはあの時はあれが精一杯だったとのだと思う。
宮越の名前を聞いた途端に、東は泣きそうな顔で、響き渡り消えていく黒岩の声をその目で捉えようとするかのように、見えない物を見ようとするように空中に視線を彷徨わせている。
その姿を見ていることが辛くなり、地図に視線を移し、続く禁止エリアの発表に集中する。
地図に禁止エリアを書き込みはしたが、これはどういう基準で決めているのだろうか。意図が見えてこない。もっと数が増えれば何か分かるだろうか。
だが、放送の印象では黒岩の思いつくままのような気がする。
「小野さん」
東に呼ばれ、地図から顔を上げる。
「本当のことを話してください」
匕首の鞘がゆっくりと取り払われ、軽い音を立てて落ち葉の上を転がった。
「あっ?」
「宮越さんのこと、何か知っているんじゃないですか?」
「えっ?」
小野の視線が、東の顔と匕首の刃とを行き来する。
「俺のことを待っていた宮越さんを殺したんじゃないですか?そうでないなら、なんであんな出口にいたんですか?次に出て来る人を殺そうと待っていたんじゃないですか?俺のことも殺そうと思っているんでしょう?」
「何を言っているんだ?――よく考えてみろよ。俺が外に出てから、東が出てくるまで五分も掛かってないだろ。どんな早業だよ。それに、だったら、俺はとっくに東のことも殺しているんじゃない?」
「じゃあ、誰が殺したっていうんですか」
「わかるわけないだろ」
刃物を向けられているというのに、どうして小野は平然としているのだろう。
優位に立っているのは自分のはずなのに。
強くなろうと決めた。それでも匕首を握る手が震え出す事を抑えるには、全身の力を振り絞ってもまだ足りないぐらいなのに。
この感じはマウンドの上でも時々感じる。身体と精神のバランスが崩れて、うまくコントロール出来なくなる。
落ち着けと繰り返し念じて、相手をよく見る。宮越が話していた。落ち着いて打者をよく観察すれば狙いが分かると。
小野の態度は仲間を殺す事を決め、そして既に殺した者の余裕に感じられた。
「クリに何をしたんです?あんなに慌てて逃げるなんて、おかしい」
「突き飛ばしただけだよ――てか、何かされそうだったのは、こっちだったんだけどなぁ……」
突然、何を思ったのか東が匕首を構えて、問い質してくる。
栗山達といい、東といい、どうして人に武器を向けてくるのか。とんでもない事態なのだと痛感させられる。
(それにしても……)
どこをどうしたら、小野が仲間を殺したり、殺そうと思っているなどという発想が出て来るのだろう。よく分からない。
宮越が東を評して「こいつ、絡みにくいよね」と言っていたことを思い出す。
小野が「似たもの同士だと思うよ」と言えば、二人ともに「そんなことはない」と顔を顰めたのが、おかしかった。
確かに絡みにくい。溜め息のひとつもつきたいところだ。
東が本気な事は分かる。納得するかは分からないが、ここは彼の問いに答えるべきだろう。この状態では次の行動にも移れない。
「俺はただ本当の事が知りたいんです」
「本当、ね――俺は外に出てから宮越を見ていないし、殺していない。宮越を探していたら、栗山と水田が声を掛けてきたんだ。仲間にならないかって、ね。で、まあ、色々あって、俺はそれを断った」
「なんで断ったんです?」
「殺すって言うからさ……その、生き残る6人を決めるために……」
栗山の話を思い出すと、気が重くなり、歯切れが悪くなる。
「そんな事するはずがない」
「俺だって、そう思いたいよ――でも……」
三人の遺体、水田の態度、栗山の表情、ユニフォームに付いていた血痕、構えられた銃――悪い想像しか浮かばない数々の光景が脳裏をよぎる。
「でも、なんです?何を知っているんです?」
「確証の無いことは言いたくない」
本当の事を知りたいのに、聞き出せない。よく見ても分からない。
(恐いよ――宮越さん)
強くなれない。震えが止まらない。
「どうしたらいいんです……」
小野の話は信じられない。誤魔化そうとしているとしか思えない。それなのに自分は何も出来ない。
(そうだ……)
分からないものなら、消えてしまえばいい。
俯いて、肩を震わせる東にこれ以上何を言えばいいのか分からない。
いじめたみたいで気分が悪い。
「南に行けば集落があるみたいだからさ。そこに行こう」
言葉では伝わらない。それならば行動で示すしかない。
「ほら、いつまでもここにいたら風邪ひくぞ」
こちらが動き出してしまえば、着いて来るかもしれない。
カバンを取り上げ、立ち上がりかける。
東もつられるように立ち上がろうとしている――ように見えた。だが、違った。見えたものは、横なぎに走った青白い金属の光芒。
数瞬遅れて、左の肩口に痛みが走った。続けざまに前腕部に。
右腕は庇わないと――咄嗟に思い浮かんだ。だが、左腕が思うように動かない。避けようにも体勢が悪い。更に振り回される匕首が、次々と身体を切り裂く。
何度も刃は小野に当たっている。腹が、胸が、腕が、赤い。
だが、まだ動く。
小野が怒鳴るように何度も名を呼び、「やめろ!」と繰り返す。さっきまでいくら呼んでもまともに答えなかったくせに。
斬るだけじゃダメだ。刺さないと――深く傷つけないと死なない。心臓とか首とか血の沢山出る所を。
胸を狙って突き出した匕首を握る手首が掴まれた。
なんとか東の右手首を掴んだ。だが、刃にも触れたのだろう。掌に溢れ出す血液を感じる。案の定、掴んでいた手首が血で滑った。
(やばっ)
その隙に小野の手を振り解こうとする東の力に逆らわず、身体をねじり、右脇に東の右腕を抱え込む。そのまま背中から体重を預け、仰向けに押さえ込んだ。首筋に荒い息が触れ、「離せ!」と喚く声が鼓膜を叩く。
匕首を取り上げようと、右手の指をその柄から引き剥がしにかかる。整えられた爪が目に入った。そんな場合ではないというのに、傷つけてはいけないという意識が働いた。
小野の身体の下から抜け出そうともがき、肩を掴んできた東の左手の爪が傷口を抉った。
弾けるように沸き起こった灼熱感に力を奪われる。
小野の力が緩んだ瞬間を逃さず、その背を蹴り剥がし、右腕を取り戻す。
血がぬるつく感触が纏わり着いて離れない。むせ返るような血の臭いが、恐怖感を麻痺させるように研ぎ澄ます。それは酩酊感に似て――気分が悪い。
起き上がろうとしている小野を引きずり倒し、その身体に馬乗りになる。
抵抗に苛立つ。仲間を殺したくせに。今、自分が止めないと、他の人も、自分も殺される。
(早く、死んでよ)
頭を押さえ、渾身の叫びと共に、仰け反らせた首めがけて切っ先を叩きつける。
地面に後頭部が沈み込むかと思える力で頭を押さえつけられる。東の手が視界を塞ぐ。首元を狙われている気配を感じ、必死に首をねじる。
汗か血で滑ったのかもしれない。僅かに動けた。だが、額から耳元にかけて切っ先が滑り、左目が斬り裂かれた。
見えないはずの左目が見たものは激痛。それは何故か真白に見えた。
痛みに耐え切れず、動ける限り動こうと身をよじる。それを許さない無情な力が押さえ込みにかかり、もみ合いになる。
出血と痛みに削られた体力と、見境をなくした馬鹿力では、分が悪過ぎる。
半減した視界に、両手で握った匕首を頭上に高々と振りかぶる東が映る。
(ダメ、か――?)
獣じみた東の叫び声が、冷たい鋼の塊を伴ない胸に突き刺さった。
引き抜こうとする力が伝わる。何かを叩きつけるような音がして、その力が唐突に失われた。
(……何が?)
ぼんやりと、今の音は銃声かもしれないなと、思った。
落ち葉を踏みしめる足音が近づいてくる。
独特のなまりがある日本語が耳に届く。想起される声の持ち主の名を呼びたかったが、耳障りな呼気となって、音として響かなかった。
声は淡々と、東を撃ち殺した事、小野が助からない事を伝えているようだ。何度も「ごめんなさい」を繰り返しながら。彼の声は小野の耳元で聴こえるが、何故か遠のいていく。遠くなり、もう、聴こえない。
事切れた二人にどんな経緯があったのだろう。
もっと早く駆けつけていれば、何かが違っていたのだろうか。
叫びながら刃物を振るっていた東――その時は誰かまでは分からなかったが――を自分は撃ち殺した。だがそれは果たして、襲われている小野を助けようとした行動だったのだろうか。
(違う……)
見たくない物をただ消し去りたくて――。
「!」
許は息を止めた。ひどく離れた場所から落ち葉を踏む音がした。それはゆっくりと、何かを探すように、だが、確実にここに近づいてくる。
迷いを呼ぶ思考を閉ざし、ライフルを構え、待つ。じりじりと時間が過ぎる。やがて星明りに浮かび上がる白い人影が見えはじめた。
お互いの目が合い、それぞれがその名を口にした。
「あんたまで……」
ライフルなど見えていないようだ。ただ、許の周りに広がる無残な光景を見つめながら距離を詰め、立ち止まる。
「あんたまで……、人を殺すのか」
強い憤りに震える母国の言葉が、長い夜の始まりを告げた。
【東和政、小野剛× 残り43名】
初めてリアルタイム投下に遭遇した・・・職人様乙です
小野も東も個人的に応援してるだけにつらい(ノД`)
職人様乙であります。
お、小野ぉ……(ノД`)゚・。
そして許もいろいろ悩んでたんだな…
職人様乙でございます
小野も東も悲しいな…
許さんは何をするつもりなんだろう
463 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/04/10(月) 15:17:37 ID:cYYdQra8O
死んじゃダメ!
464 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/04/10(月) 20:51:05 ID:cYYdQra8O
立ち上がれ!
41.役者は揃った
「ここでお別れですね。」
「そうだな、ありがとう。」
北側に向かう山道と南側の集落へ向かう山道との分かれ道で佐藤友と田崎は別れた。
「これからどうするつもりなんだ?」
「診療所が地図に載っていましたから見ていこうかと思っています。田崎さんはどうするんですか?」
「とりあえず集落に下りて、雨風を凌げる場所でゆっくりこいつの解除方法でも考えようかと思っているよ。少なくとも、死者の分は自動的には爆発しないことが分かったしね。」
「うまく隠れていられることを祈ります。命は大事にしてくださいよ。」
「君もね。」
別れの挨拶に握手を交わした。その手はごつごつしていたが、血の通った人間の体温の温かさがあって佐藤友はほっとした。
「今でも、ジャッキを追うつもりなのか?」
ずっと気がかりだったことを、田崎は佐藤友に尋ねた。
「正直よく分かりません。分からないことが多すぎます。だから何かしていないと…落ち着かないんですよ。」
田崎の目に、それは不安げな表情に映った。同行するほうがよかっただろうかと思ったが、武器がスパナではどう考えても足手まといになるだけだろうし、それに同行するには目的があまりに違いすぎていた。
「信用できる仲間が見つかることを祈っているよ。」
「田崎さんも。」
南へ去っていった田崎を佐藤友はその場で見送ってから、じりじりとした痛覚に顔をしかめた。春に折った左踵が痛む。傷は治っても敏感になった痛覚は誤魔化せないようだった。
「ボルタレンか、ロキソニン。あればいいけどな。」
鎮痛剤の名前を記憶から拾い上げる。ともかくいつでも動けるように、よく効く鎮痛剤が必要だった。もう一度地図を取り出し診療所に向かう道を確認する。
大音響で、力強い声で歌われる球団歌が流れ、そして黒岩のふざけた声――少なくとも佐藤友にはそう感じられた――が死亡者の名前と禁止エリアを読み上げた。
抑えられぬ不愉快さを感じながらも、禁止エリアと犠牲者を書き留める。現在いるのはE−5、一時間後には禁止エリアになるようだ。足早に隣のエリアに移動しながらも、耳の奥で岡本の最期の呟きが木霊していた。
「貴様ごときにわかるものかよ。」
わかるものか。それはただ1人の死、それはこうやって黒岩に記号として呼ばれる名前、だが、この腕に抱えた重量と、いまだに残る悲しみは、記号ではない。わかるものか、人の死はもっと悲しいものだ。岡本の死はそんなちっぽけな記号ではない。そうだろう?
強い悲しみと怒りに、歯を噛みしめ表情を歪ませ、そんな持て余す強い感情を叩きつけるように足早に山道を進む佐藤友の耳に、軋む車輪の音がかすかに聞こえた。
(風邪薬って、結構種類あるよな。それに人によって好みがあるし。聞いてくるの忘れたなあ。解熱鎮痛剤って言っていたし、とりあえずアスピリンがあればいいのかな。)
どじったかな、そう小さく呟きながらも快調に自転車を飛ばす赤田の耳に大音量の『地平を駆ける獅子を見た』が聞こえる。足を止めると黒岩の声が聞こえてきた。
『まずは、これまでの死亡者を発表しますね。えーと、19番長田秀一郎、17番山崎敏、29番三井浩二、28番岡本篤志、36番山岸穣、56番黒瀬春樹、66番宮越徹、53番青木勇人、47番細川亨――以上9名です。』
もう、そんなに死んでしまったのか。ルールより仲間を信じたいのだと高山に言った気持ちは変わっていない。だけどくじけそうになる。受け入れてしまえよと自分の中の誰かが囁いた。
「嫌だ。まだ諦めない。みんなで帰るんだ。」
くじけそうになる心を必死に奮い立たせ、流れる涙を左手でぐいっとぬぐう。
『では続いて禁止エリアです。――』
悲しむ暇も与えてくれやしないのか、続けて流された禁止エリアの放送に地図を広げ禁止エリアを書きとめた。そして唐突にふざけた放送は終わり、静寂が戻る。
「絶対、諦めたりなんかするもんか。」
声に出すとまだ少し頑張れそうな気がした。自転車にまたがり、さっきよりきつくペダルを踏み込んだ。しかし進めば進むほどに道はどんどん急勾配になり、とうとう自転車を乗り捨てると道端に引っくり返る。
「きっつー、もう無理ぃー…。」
呼吸を乱して引っくり返っている赤田の顔を懐中電灯の強い光が照らした。
「ひゃっ!」
「こんなところで、なにやってんの。」
驚いて悲鳴をあげて縮こまる赤田を誰かが上から覗き込む。聞き慣れた、よく通るバリトンの響きはどこか面白がっているように赤田には聞こえる。
「友亮さん?」
「こんなところで寝てると風邪ひくぞ。」
「寝てません、ちょっと休んでただけです。」
笑いの気配を感じて、赤田は口を尖らせる。
「そう、風邪っぴきなんですよ。」
風邪という言葉に自分のやろうとしていた事を思い起こし、休んでいられないとばかりに起き上がる。
「バカでも風邪ひくんだ。」
「具合悪くしたのは俺じゃないです、西口さんです。それから!確かに風邪ひいてませんが俺はバカじゃないです。」
からかう佐藤友に赤田は律儀に反論した。
「ああ、こんなところで油売ってる場合じゃないんです。早く薬探しに行かないといけないんで、すみません失礼します。」
「そう?」
起き上がり早足で診療所へ向かおうとする赤田を見送りかけて佐藤友は声をかける。方向は同じだ、同行者がいるほうが気も晴れるかもしれない。
「俺もそっちなんだけど、一緒に行くか?」
「え、本当ですか?」
「嘘ついてどうする。」
「一緒に行きます。」
「じゃあ、それで決まり。」
躊躇いなく差し出された右手を取った。温かい手は生命あるもののそれだった。無意識のうちに安堵の声が漏れる。
「よかった。」
「え?」
「無事で何よりってことさ。」
(どうして俺は止めを刺すのを躊躇ったんだろう?)
脳裏で青木を背後から刺し殺したシーンを思い出す。そう、あれは完璧な仕事だった。会心の出来栄えだった。最期の一息で声を上げられてしまったが、あれはあの状態でも声を上げられた青木の根性が素晴らしかったと褒めるべきだろう。
問題はその後だ。星がふらふらになりながら出てきて、血でぬめるナイフで刺すのが何となく気が進まなくて首を絞めた。途中までは上手くいっていたのに、何故あの時そのまま止めを刺すまで絞め続けられなかったのか。
(かすれた声で星、何ていったっけ?そう、殺してよって言って失神したんだよな。それで、何だか嫌になったんだ。何でだ?)
両手を見る。何か恐ろしくなって首を振る。何故なのか、それをわかってしまうと何も出来なくなりそうだった。
(何も考えない、行動あるのみ。もう一度、別ので試してみるんだ。きっと上手くやれる。そう、俺はやれば出来る筈。)
心が決まると気も楽になった。さあもうちょっと頑張るか、と後ろから来ている貝塚を振り返ると相変わらずうつむき加減で元気がなさそうに見える。やっぱり具合が良くないのだろうかと石井義が声をかけたとき、突如鳴り響いた大音量がそれをかき消した。
6時の定時放送だった。こんな状況でさえなければ元気の出そうなエネルギッシュな前奏とボーカルの後、黒岩が面白そうに死者の名前を読み上げた。青木の名前が読み上げられた時、貝塚は苦しそうな顔をし、左手で口を押さえた。手の下ですまん、と唇を動かす。
「命令するだけの人って気楽でいいですね。命令に従わなきゃいけない俺達の苦労も考えて欲しいもんです。そう思いません?貝塚さん。」
だが石井義はそんな自責の念に苦しげな貝塚の様子に気がつかず暢気に話しかける。その間も放送は途切れることなく続いている。
『――これではいつまでたっても帰れませんよ?』
死亡者が9人という人数に黒岩はいつまでたっても帰れませんよと付け足した。その言葉に石井義は柔らかな寝床を思い出した。そう、家に帰る。そして夢も見ないでぐっすり眠る。そして目覚めたら昼下がりの柔らかな陽射しに輝くテーブルの上に昼食が用意されている。
その隣には、ちゃんと温めて食べるように、そして干してある洗濯物を取り込むようにと妻のメモ書きが残されているのだ。そう、戻りたいのはそんな日常。温かく柔らかい寝床。洗い立ての下着と血でごわつかない上着。快適な温度に保たれたエアコンの風。
そんな平和な日常への追憶は続けて流れる禁止エリアの放送で断ち切られる。慌てて地図を引っ張り出し、禁止エリアを書き込んだ。
「面倒なことは早く終わらせて帰りたいですね。やっぱり疲れたときは自分の家で二度寝するのが一番ですから。そう思いません?」
「ああ、そうだな。」
貝塚の生返事に少しムッとするものも感じなくもなかったが、すぐに忘れて自分が喋ったことに注意が向いた。眠り。今日は夢見が悪そうだから夢のない眠りがいい、それは睡眠薬があれば手に入るだろうか。
「ハルシオン、探しにいきましょう。夢なんて見たくないでしょう。睡眠薬があれば夢のない眠りが手に入るんじゃないですか?」
「ああ、うん。」
貝塚は石井義の背中を見ている。自責の念は薄れ、徐々にこの島のルールに慣れ始めているのを感じ、そして石井義の迷いのない態度にすがり、あやかりたいと思いはじめている己の一部分を見出した。それは思考停止というべき事態だった。
それは認めてはいけない狂気だ。だが、正気なんてどこにある?正気。狂った世界で狂っているのは狂っているのではない、正常なのだ。狂った世界で正気を保っているほうがむしろ、狂っているのだ。
狂うがいいさ、何もかも忘れて。血に酔うのだ、何もかもを捨てて。それがこの島では正気の沙汰なんだ。意識の声が貝塚を狂気の側へと引き寄せる。
しかし、別の意識の声が狂気に引き寄せられつつある貝塚を呼び戻す。でも、本当にそれでいいのか?
「貝塚さん、どうかしましたか?」
生返事しか返さず、ただ黙々と後をついてくる貝塚を振り返り石井義は心配そうな顔をした。
「正気を探している。どこにそいつはあるのかな。」
「難しい質問ですね。そこら辺に落ちてるといいんですが、ないでしょうね。」
貝塚流のジョークかと思い、石井義は笑って答えた。
「大丈夫ですよ。俺達はきっと上手くやれますよ。」
「野田、残弾はどれだけある?」
「いや、数えていません。予備のマガジンはあと2つあります。」
「そのマシンガン、P90は5.7×28mmという変わった形状の弾を使う。俺のファイブ・セブン・ピストルと共通だが、手持ちの分を撃ちきったらおしまいだ。他にこんな弾を使っている奴はいないだろうからな。だから大事に使う必要がある。
半透明のマガジンを使っているから外からでも残弾数をある程度確認できるはずだ。」
正津の言っている内容は分かるものの、野田はその言葉を耳を右から左に抜ける音のように聞いていた。だがそれでものろのろと自分に与えられたP90の残弾を確認する余裕はあった。バレル上部の半透明のマガジンを見ると、50発のマガジンの5分の1程度が無くなっていた。
「あとどれくらいでしょうか。40発くらいは残っていると思います。」
「ともかく、弾は大切にな。基本はセミオートで使うといい。セレクターは引き金の後ろにある筈だ。」
そう言われて、不思議な形状をしたマシンガンの引き金の後ろを見ると、確かに回転式のセレクターがあった。安全位置から自分でフルオートに操作した筈なのによく覚えていない。まるで他人が自分の体を操っているようだった。
セレクターを操作する野田を観察する。心ここにあらずという体の野田の表情は平坦で、相当ショックを受けているように見える。抗鬱剤の類が必要かもしれない、正津はそう判断した。
「薬が要りそうだな。」
「平気です。」
「平気なものか。」
野田のやや小さな、平気と返す声に被せるようにきりかえす。明らかにおかしいのに更に無理をさせたら本当に精神を壊してしまう。心配しての正津の言葉だったが野田は黙りこくってしまった。しかしややあって野田は口を開いた。
「トレドミンを。」
「効くのか?」
「はい。」
慣れないと、そう言って細川をP90で蜂の巣にしたことが、不安定さが否めない野田の精神を削ったのはおそらく事実だろう。苦痛を喋らせることが治療になるのはわかっているが、どう話をふれば傷つけずにできるか、さすがにこればかりはわからなかった。
悩む正津の耳にやたら力強い男声ボーカルの球団歌が届き、思考を無理やり中断させた。大音響に驚いた野田が頭を上げる。参加者の憂鬱など知らぬふりではしゃぐ黒岩の嬉しそうな声が死者の名前を読み上げていった。
「こんな馬鹿げた状況で、俺もお前も、よくやっているよ。」
読み上げられる死者の名を聞き、その哀れな魂達の名を名簿に几帳面に書き込む。死んだほうがまし、名前を書き取りながらそう思う。強いられて殺人者になるくらいなら、殺されるほうがまだしも、そう思うのは生者の傲慢だろうか。
野田は細川の名前を聞いたときに、恐ろしいものを見たかのようにびくりと体を震わせた。
続いて読み上げられる禁止エリアの放送を聴き、それを地図に書き込む。放送は流れ始めた時と同じように唐突に終わった。
「死ぬ必要のない人間から死ぬもんだな。」
地図と名簿をしまい、嘆息とともに言葉を吐き出した。ややあって、それを聞いた野田が口を開く。
「俺は、殺したくなんてなかったんです。」
「そうだな。」
「殺さずに済むなら、殺したくなんてなかった。」
「そうだな。」
それは殺された者に言わせるなら体のいい言い訳だろう。だが時には、撃たれた者と同じくらい撃った者だって痛いこともあると言って欲しいこともある。ましてやこんな時は尚更に。
「お前が悪いわけじゃない。誰のせいでもない。運が悪かったんだ。そう思うことにするんだ。」
「あいつさ、強気なんだか弱気なんだかよくわからない奴で、いや、多分本質的には弱気なんだろうなって思うんですが、その割に、妙に自信があって、ああ、うん。人間ってこう一言で言い表せないものですけど。」
「人間は複雑なものだからね。自分自身でさえ、よく分かっているとは言い難い。」
少なくとも、こんな状況で落ち着いていられる自分というものを発見するとは思っていなかった。野田の護衛役として、このポリマーフレームの軍用拳銃を渡されるまでは。自嘲気味の笑みが正津の口元に浮かんだ。
「あいつ、捕手には向いてないんだよ。捕手ってのはもっと、ずるくて気が強い奴じゃないと務まらない。」
「泣いていい。誰も責めないよ。」
込み上げる嗚咽に野田の声がうわずっていた。泣かせておこう、泣くことはストレスの解消に役に立つと誰かが言っていた。野田の嗚咽が大きくなる。泣かせておこう。
空に月はない。闇夜だ。明日、新しく生まれために今夜はその輝きを見せることはない。金星は西の空低く輝く。太陽がいては存在を認められない堕天使の長の金色の光が、太陽に対抗するのか、あるいは太陽を追いかけるのか、きらりと瞬いた。
そして戦いを告げる火星が東の空に赤く爛爛と輝き、生贄を差し招いた。
【残り43名】
職人様乙です!
佐藤友と赤田が合流してくれてなんとなくほっとしたのも束の間、なんか皆して続々と診療所に…!?
(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
職人様乙です!
あー続きが気になる・・・
職人様乙です!!
サトエリ‥将吾‥出会えて良かった。皆どうなるのか?これからの展開も楽しみです。
野田・・の涙に、涙。
42.神意はいずこ
水田と栗山の元に戻ってきた中村が見たのは、なんとも微妙な顔で右手を動かしている水田と、恐縮しているような表情の栗山だった。試合でエラーしたとき、よくああいう本当に申し訳なさそうな顔をするよな、と中村は思う。
「すみません、手、大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと痛むけど問題ない思う。でも取り逃がしてもたなぁ。」
「…すみません、油断しました。」
「ま、ええでしょ。別の奴が始末してくれるかもしれへんし。お、帰ってきたな。」
中村が帰ってくるのを見て、水田は笑って手を上げた。
「ところでもう殆ど出てもたみたいやし、どうする?」
「移動するのも悪くない思いますけど。さすがに疲れません?」
「そうやなあ、俺たちもいっぺん休みとりたいもんなあ。ああ、そう。次は俺、やってええかな?」
水田と栗山の会話を眺めながら絵になる二人組みだよな、という場違いな感想が中村に浮かぶ。
あまりに非現実的な状況もあいまって、よくできたフィクションなんじゃないかと思いたくなる。しかし膝をついた足元の地面にたっぷり吸いこまれた血の赤はフィクションではなかった。どうせならフィクションなら良かったのに。中村は憮然とした。
傍らには3人の遺骸がある。両手をあわせて祈る。何の罪滅ぼしにもならないのは分かっているが、そうしたくなるものがあった。山崎の遺骸は顎のあたりから死後硬直が始まっていて、不気味に笑うように唇が引きつっていた。
背後では栗山と水田が今後の方針を相談している。水田が話をリードしているようだ。
「やりたい、ですか?」
「うん、見てるだけやと暇やし。人をビビらすんにはこうやれってお手本見せたろっかなって思っただけ。まあ、俺もたまには働けやってね。」
「でもどこに移動しましょうか?一番近い集落なら南側になりますけど。」
地図を見ながら栗山は水田に言う。水田はその地図を覗き込んで東の集落を指差す。そこには寺を示す卍の記号が記されていた。
「それはそうやけど、ヤボ用があるんや。東の寺。そっちまで足伸ばしてええかな?無視してもかまへんのやけど。」
「ヤボ用、ですか?」
「そう。おるかどうかわからへんけど、真面目な子をね、ちょっとからかってみたくなった。」
いい悪戯を思いついた子供のような笑顔で水田は鼻にかかった笑い声を上げた。なにか企んでるときの顔だな、と中村は水田の笑顔を見て思った。
東側の山へと向かう山道を3人は急いでいる。日が沈んだら全くの暗闇になる。その中で山道を行くのは危険が多い以上、明るいうちに少しでも距離を稼ぐ必要があった。
途中に吊り橋があり、少なくともここまでは明るいうちに進んでおかねばならなかった。どのような吊り橋かわからない以上、明るいうちに渡っておきたかった。もし明るいうちにここまで着けなかったら引き返す、というのが3人の共通見解だった。
「もしかして、わざと誰か逃がしたりせんかった?」
中村の態度になんとなく引っ掛かりを感じていた栗山は小声で訊いてみる。建物の傍で出会ってすぐ、思い出したことがあると言い、来たほうに戻っていったのは、すれ違った誰かを逃がそうとしたのではと思ったからだ。だが中村は聞こえないふりをした。
「もしそうやったとしても、そんな気つかわんでええからね。」
答えは得られなかったが、どちらでも良かった。今後の対応が問題なだけだ。
「…わざわざ嫌なことやらんでええやん。」
ややむくれたように、中村がぼそっと答えた。
「誰かがやらなきゃ、誰かがやるんだよ。誰かが引き受けなきゃいけないよ。」
「何か、あるさ。」
「ないよ。どうしようもない事態が起きました。それに対応しているだけ。殺したりせずに帰る、そんな性質の悪い希望にすがる時間はない。いらん気ぃ使わんでええよ。大丈夫だ。俺はやれる。」
強張った表情でまくし立てる栗山に中村は、この分からず屋と毒づいてやりたくなる。ただそれを言ってしまってよいものかどうか悩む。悩むうちに毒づく機会を逸し、結局それは言われることなく終わった。また黙ったままの行進になった3人の前に吊り橋が見えてきた。
「お、間に合ったね。」
あたりはかなり暗く、谷底から吹きつける風も強い。真っ暗なら怖くて渡れなかったろうな。水田は谷底からの風と川の音を聞いて思った。
「ともかく、完全に真っ暗になる前にここまで来れて良かったわぁ。一番最初にさんぺーね。自分が渡れたら大丈夫やろ。」
水田の言葉に中村は水田をじっと見つめた。
「こらこら、ああもうわかったわかった、悪かったって。」
中村はそれを聞いて最初に渡り始める。
「クリ最後お願い。橋渡ってる間に後ろから襲われたくないから。」
「あ、はい。」
水田が指示を出す。後ろから襲われる危険に気がついていなかった栗山はそれを指摘した水田の機転に思う。やはり自分ひとりではこれだけ落ち着いて考えて行動できなかっただろう。
「水田さん、あの、ありがとうございます。」
吊り橋を渡り始める水田に礼を言う。手伝ってくれていることに感謝を示したくなったのだ。
「ええよ。それくらい。」
水田は照れくさそうにした。
日没後の山道は暗い。懐中電灯の明かりだけが頼りだ。遭難したら笑い話にもならないな、先頭を歩く水田は慎重に道を照らす。やっぱり無理するんじゃなかったかな、と後悔しなくもない。
「これ終わったら、どこ行きたい?」
「唐突やなあ。」
後ろで中村が栗山に話しかけている。普段は栗山のほうが中村に話しかけているんだが、どうも今日は立場が逆のようだった。
「最初、聞いたから。思い出した。」
「そっか。そうだな。アフリカ…いや、ラサか。」
「ラサ?」
「チベット。神の地って意味らしい。もし本当にそこに神がいるっていうなら聞いてみたいんだ、どうして俺たちにこんな運命をもたらしたのかと。もし、さんぺーが帰ることができたら、俺の代わりに聞いてくれないか?そして祈ってやってくれないか。」
「自分でやり。」
生きて帰る気など全くない自殺志願者のような物言いに中村は苛立って切り口上で言い返す。その強い調子に栗山は傷ついたように元気なく俯く。同期で同い年なだけあって仲のいいことだなと水田は思い、ふと、ドラフトにかかり、若獅子寮に引っ越した日のことを思い出した。
(人使いの荒い大沼さんと、態度のでかい俺と、挟まれて小さくなってた福井の3人で引っ越しして。福井、今はプロ辞めてもたけどそれが正解やったな。こんなアホな話に巻き込まれずに済んだんやから。もう何年前の話になるんやろ、5年前か。早いなあ。)
「わかったよ、生きて帰れたらね。」
傷ついたような栗山の態度に折れた中村の返事に、栗山は嬉しそうな顔をする。
(でも、プロいうても、このまま二軍におってもなあ。一軍に上がれるのは内野手の数が足りへん時くらいで、どないもならん。給料上がらへんし。でも、ここでうまくやればライバル蹴落として万々歳。そう考えればそこまで悪うないか。)
暗闇は水田の思考を目の前の現実から少し離れたところへ誘導する。考え込む水田の耳に大音量の『地平を駆ける獅子を見た』が届く。6時の放送だ。現実に引き戻され、足を止めて後ろから来ている栗山と中村を振り返った。
黒岩が役者めいた声色で死んだ9名の名前と、禁止エリアを読み上げた。死者の名前を名簿に書きとりながら栗山と中村は辛そうな顔をする。
(かなり残酷で、かつ意地の悪い神様の思召しやけど、これ切り抜けたら、このどないもならん人生もちょっとはましになりそうやな。そのためにはまず生き残らんとね。)
名簿に×印をいれた死者の列。彼らのようにはならない、余りにも小さな水田の呟きは誰の耳にも届かなかった。
「残り45人です。39人は死ぬ勘定ですね。行きましょう、手を汚すのは武器をもらった俺の役目ですから。」
地図に禁止エリアを書き込み終わって、宣言するように栗山が立ち上がって言った。先程の放送に辛そうな顔をしていたが、心は折れていないようだった。水田も無言で立ち上がり、栗山の横顔を見つめた。
情がうつりつつあると感じる。栗山と中村、彼らの苦悩をこの至近で眺めてきた。多分、そのせいだろう。
(同情してる場合やないんやけどなあ。つか、ほんまは谷底に落とすつもりやったんやけどなあ。やりにくいなあ、もう。まあええか、まだ大人しく見物してる時間はあるやろ。)
手の平を右拳で軽く叩き水田は気分を切り替える。そう、獲物はまだまだ45人も残っている。武器を手に入れるチャンスも。できることはまだたくさんあった。
「急いでいこか。足元暗いから気ぃつけて。」
目的地はあと少しだ。
【残り43名】
職人様乙です
水田も栗山も中村も早まるなよ・・・(;゜Д゜)
職人様大変乙です
この3人これからどうなるんだろう…
ほしゅあげ
職人様乙です。
上本があの3人に会ったら…(((゚д゚;)))
☆
捕手上本
捕手野田
489 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/04/21(金) 11:08:34 ID:9zPHvuX3O
保守
hosyu
保守
ほ
あ
し
43.群青の海と金の鳩
抱えたベネリM3スーパー90の重さがそろそろ気になってきた。高山は肩に担いだショットガンを担ぎなおす。帽子を深く被り、ただ黙々と左右の足を動かし同じペースで前進する。
砂浜で赤田らと別れた後だった。考え方の違いがありすぎた。一緒にはいられないだろう。寂しさはあるが、そういう考え方の違いはここでは致命的なすれ違いになるだろう。それは危険なことだと言えた。
地図を広げ、そこから東の集落を目指した。日が沈む前に今日の宿を見つけておきたかった。味気ない現代建築のコンクリート製の橋を渡る。川はこの世とあの世の境、それをつなぐのが橋、橋は異界の出入り口なのだ、そんな言い伝えがふと心をよぎった。
荒磯に砕ける波を横目に、山裾の道路を進む。ここ数年は整備も行き届いていなかったらしく、路面のあちこちがひび割れ、割れ目から雑草が顔をのぞかせている。道幅は狭く、車が2台すれ違うのも難儀しそうだ。
押し寄せる潮騒の低い呻きと自分の鼓動の規則正しい音を道連れに、荒れた島を地図に記された東の集落を目指して進む。
(俺は、生きたい。でも殺したくもない。誰かが殺してくれることを祈るのは、卑怯だろうか?)
憂鬱な思考が頭を離れてくれない。ルールより仲間を信じる、そう言い切ってしまえればどんなにか楽だろう?何故か高山は笑い出したくなる。
「はは、は、ふ…くくっ……」
乾いた笑いが小さくこだまする。それは笑った本人の耳にだけ届いた。岩礁に砕ける波の音は規則的なリズムで辺りの空気を震わせる。
眼下の海に半島状に突き出した岩礁が見え、その先端に灯台が立っていた。暗くなりつつある周囲を、くるくると照らしている。
心は闇だ、高山は痛感する。少なくともこの島に来るまではよもや、このチームの誰かが殺人者になるとは露ほども思っていなかった。それがどうだ。いまや殺人者となることを選んだ奴が2,3人いて、そして運悪く殺された者がもう4人もいるのだ。
心は闇だ、高山は痛感する。あの灯台の灯りのように、頼りなく照らされた部分が、今まで信じてきた自分自身の正気という奴なのだ。そして、大部分は闇に沈んでいる。闇に沈んでいることも知らぬままに。
ため息をついてから、また前を向いて高山は歩き出した。
細い道がいつしか広く歩き易い道になり、やがてぽつぽつと人家が見えてきた。山の南東側に出てきたのだろう。放棄された耕地は雑草が生え放題の荒れ野と変わっていた。この耕地を蘇らせるには数年はかかるだろう。荒れるには1、2年もあれば充分なのに。
まばらな人家が徐々に集まり集落の体をなしていく。人は群れずに生きていくことは出来ないのかもしれない、高山はふとそんなことを考えた。中心には地図に記されている通り、寺があった。廃寺の裏には荒れ果てた墓地が広がっていた。この島の住人たちの墓標だろう。
寺の中に入る。懐中電灯で照らした、だだっ広い畳敷きの本堂には本尊も何もなかった。おそらく古美術商にでも全て売り払ったのだろう。あるいは引越し先に持って行ったのか。縁側の向こうの閉め切ってある雨戸を開けるとがらがらと重々しい音がした。
雨戸の向こうには庭が広がっている。隅には茶室らしき阿屋がある。かつては手入れを怠らなかっただろう庭も、手入れする人がいなくなり、雑草が花壇を占拠していた。
廊下の向こうには住職が住んでいたらしい小さな家が併設されている。がらんとした応接間、がらんとした台所、がらんとした書斎、何もなかった。ここを離れるときに全て片付けていったのだろう。几帳面な性格が窺えた。
忘れ物のひとつくらいあってもおかしくないようなものなんだが、そう思いながら家屋を探索する高山の目に、ようやく忘れ物らしいものが映った。書斎の棚の隅に経文を書いた聖典がひとつ、そして一枚の紙が聖典にはさまっていた。
「厭離穢土欣求浄土…」
声に出して読んでみた。穢れたこの現世より来世を求めよう、そういう意味だろう。
「おんりえど、ごんぐじょうど、か。」
聖典をとり、ぱらぱらと中身を見る。般若経に振り仮名が振ってある。読めるなと思い、何となくその場で半跏の姿勢をとり、般若経を読み上げる。
経を読もうと思ったのは何かに救いを求めたかったのかもしれない。朗々と低い読経の声を響かせる。短い経はすぐに読み終わったが、少しばかり心の靄は晴れたように感じる。
半跏の姿勢を解き、立ち上がろうとしたその瞬間、大音量が轟く。『地平を駆ける獅子をみた』だ。どうやら最初に言われていた放送の時間らしい。もう一度腰を下ろし、情報を確認する。死者の名前が読み上げられる。その中には高山自身が確認した者と、未確認の者があった。
名簿に×印を9つ入れる。この×はどんどん増えていき、減ることはないのだ。高山は無表情に自分の書いた×印を見た。
そして続いて発表された禁止エリアを地図に書き込んだ。黒岩のふざけた声を最後に唐突に放送は止み、辺りにはまた静寂が戻ってくる。
(だから言ったじゃないですか、赤田さん。この島はこの残酷なルールに支配されているんだって。)
どこまでも誠実で人の良い先輩を思い出し、その彼にもらった煙草の封を切る。濃紺の地に金で描かれたオリーブの枝を咥えた鳩のデザインに英語でPEACEと綴られている。
平和など欠片もないこの島でこの銘柄名は皮肉な話だ。フィルターを切り、葉を巻紙の中に押し込むと、巻紙を濡らさないよう軽くくわえて火をつける。肺に深く吸い込まれた煙は苛立っていた精神をなだめ、感覚を鈍くしてくれる。
煙草の香りと甘味をゆっくりと吐き出す。煙が目の前をゆらりと上空へ立ち昇り失せた。この煙草はノンフィルターで吸うべきだ。たっぷり煙を楽しんでから、心地よい脱力感に任せ横になると目を閉じた。この島に来てからの種々の悪夢の断片が脳裏に浮かび消えた。
(行こう、ここは寒い。)
背中から伝わる寒さに耐え切れず起き上がり、集落内を探索することにした。もう一本ゆっくり煙草を吸い、足元に投げ捨てた吸殻の火を靴の裏で踏み消す。玄関に向かおうとした高山の耳に、その方向から物音がする。
(誰か来る?)
表に出ようか出まいか2秒迷った後、結局いざというとき勝手口から逃げられる台所に隠れることにした。
【残り43名】
銘柄名に訂正ありです。
(誤)英語でPEACEと綴られている〜
(正)英語でPeaceと綴られている〜
お目汚し失礼しました。
乙です!
高山は誰と遭遇したんだ?
気になる〜
>495-498
職人様乙です。
誰が来たんだろう…?
予想はあの人(・∀・)ニヤニヤ
予想とか書くと職人さんがやりづらくなりますよね、すいません。脳内で楽しみます。
44.獅子身中の虫
「チェックをお願いします」
一回目の放送を終え、一息つく間もなく、次の仕事だ。大小のディスプレイに埋め尽くされた部屋から顔を出したスタッフに呼び止められ、黒岩は一つの画面の前に設えられた椅子に腰を下ろした。
「ハイ、ハイっと」
画面に映し出されるのは、島内の様々な場所に設置された隠しカメラが捕らえた「ゲーム」の映像を編集したものだ。
見知らぬ場所で目覚め、困惑する選手達。ステージ上に晒される土井の死体とそれを撃つ黒岩。首輪を爆破され血を噴き出しながら床に転がる長田――。
所々、早送りをしながら次々と現われるこの島で起こった出来事を観ていく。
山崎の死体の前に座り込む岡本に背後から襲い掛かり、切り刻む三井。それをまた背後から銃撃する石井義――。なかなかよく撮れている。
「ここはカットね」
ハリセンを振りかざしたG・G・佐藤がバタバタとホテルを出入りする場面を指差し、スタッフに声を掛ける。ついでに緑茶と茶菓子を頼むと、「飲食禁止」の張り紙を指差され、黒岩は肩をすくめた。
更に続くいくつもの場面をチェックしていると、首輪に内蔵されたマイクの音声を記録しているスタッフから報告書が届けられた。
「ふーむ……田崎くん、上本くんはちょっとマズイねぇ……ああ、でも高木くんも一緒なのか……」
高木浩は、今のところこちらの指示から外れた行動はとっていないが、素直に言われた事だけをするような選手でもない。だからこそ運営側に引き込むことにしたが、果たしてこれでよかったのだろうかという思いがある。
(まあ、もしもの時はそれなりに対応できるしね)
別の気がかりを思い出し、スタッフに声を掛け、全員が広間を出た直後の録画されていた映像を出させた。
清水、笘篠、植田が土井、長田の死体を片付けている姿があり、広間のステージで、ぐったりと演台にもたれかかっている荒木を介抱しながら、立花がカメラを睨んだ。
元々は彼らに映像や音声のチェックといった仕事をさせるつもりであったが、
土井が殺され、伊東がゲームに参加した事で、こちらへの敵意が強まったようだ。お陰で忙しいことこの上もないが、彼らの役目としては、コーチ達が運営側についていると選手達に思わせるだけでも充分といったところだ。
頃合いをみて、彼らも始末してしまう方がいいかもしれない。
「ここは大丈夫でしょうか?」
「おそらくな」
注意深く点検したが、ここ――ロビーにあるトイレだ――に隠しカメラやマイクの類はないようだが、念のために、水を流しながら小声で会話する。
「とにかく少しでも情報を集めよう。放送の前後は黒岩達も忙しいようだ。次は12時に、ここで」
「……はい。ですがそんな悠長な事でいいんですか?」
つい先程流れた最初の放送は、ホテル内の立花達にもよく聴こえた。彼らが送り出した選手達が殺し合って、何人も死んでいる。一刻も早くこんな馬鹿げた事を止めなくてはならない。
「奴らはこちらの事を疑っている。チャンスは少ないと思う。慎重に動くしかないよ」
「そうですね。焦っては駄目ですよね」
口ではそう言うものの、荒木の表情には焦燥がありありと浮かぶ。
「ひとつ思いついた作戦があるんだ。その準備もしたい。それに隠し球もいる。彼ともうまく連絡を取れるといいんだが……」
「監督も心配です……」
「ああ、そうだな」
無茶な真似をしたものだと思う。だが、選手達を悪趣味なゲームの駒として扱い殺すと言われた上に、目の前で信頼を寄せる土井が、自分を庇って殺されたのだ。しかも追い討ちをかけるように、その土井の遺体を傷つけられた。
ジャケットと帽子を渡した時のひどく思いつめた表情が思い浮かぶ。あの時、立花や他の皆も同じ気持ちでいる事を自分は伝えられただろうか。
「先に戻るよ」
頷く荒木の口から噛み殺しきれずにもれ出した嗚咽に、気付かない振りをして立花はその場を後にした。
「そうか……あのシーンはつけられないのか……惜しいな」
あらかたのチェックを終えた黒岩が、残念そうにひとりごつ。
あのシーン――選手達がインボイス西武ドームに集合する前日。後藤社長とともに、伊東をはじめとする首脳陣に「ゲーム」への協力を要請した時の顛末。
ライオンズは他のチームと比べると、三十代前半の選手がベテランと呼ばれてしまうほどに、飛び抜けて若い選手が中心となっているチームだ。
投手陣の中心である豊田や石井貴、選手会長である小関、副会長である高木浩
といったリーダー格の主要な選手を欠いておけば、選手達がまとまってゲームの進行を妨げる危険も減る。
「ゲーム」が行われる事が分かってからは、より積極的にフロント側と首脳陣との溝を深めるように、ドラフト、守護神・豊田の流出、石井貴のトレード――これは不調となったが――、選手会長・小関竜也の自由契約と、ゴタゴタを演出するように動いてきた。
それらの事も含め、春季キャンプや今後の事を色々と話し合いたいと、彼らを呼び出した。
そういった経緯や伊東の性格を考えれば、どんな条件をだそうとも彼が進行役を引き受けるとは思えない。もしくは引き受けた振りをして、内部から「ゲーム」を止めようとする可能性も高い。ここはうまくたきつけて殺してしまおうと計画していた。
後藤社長と共に、彼らに「ゲーム」のことを告げれば、案の定、口々に反対や非難をはじめた。
そこで、既に準備は万端で、明日には選手達が会場の無人島に向かう事、コーチ達や選手達の家族がこちらの監視下にある事を伝え、あらかじめ控えさせておいた兵士達にご登場願った。
銃口を向けられても――本物とは思わなかったのかもしれないが――彼らの態度に変化はなかった。
むしろ、伊東や年配の土井、立花は、内心は彼らと大差ないであったろうが、表面上は冷静に話を聞き、話し合いで事を解決しようとしていた。
だが、流石に賭けの話を出すと、我慢の限界だったのだろう、黒岩に掴みかかろうとした。
計算通りと、兵士に合図を送り、その銃声を至近距離で聴いた。声も上げず床に転がったのは伊東ではなかった。その遺体を抱え、何を思ったか後藤に自分に賭けないかと持ち掛けた。
顔面蒼白となった後藤が返事を躊躇ううちに、この遣り取りを隠しカメラで観ていた堤から電話が入り、「やりたければ、どうぞ」となり、伊東はゲームの参加者となってしまった。
自暴自棄の行動とも取れるが、あの時の様子からして、おそらくは、堤や黒岩やゲームを企て、土井の命を奪った者達への報復でもしようと考えているのだろう。
堤が許可してしまったからには、伊東の参加を認めないわけにはいかないが、賭けや隠しカメラ、首輪に仕込まれたマイクなど、選手達に知られては進行に支障をきたす事柄を知っている。
余計な事をしないように、実際には必要ないが、監視役を付けると言っておいた。今頃はきっと、田原の事を運営側についた選手と疑っているかもしれない。
監視役の選手は、賭けの対象になっていない選手ならば誰でもよかった。偶々、黒岩の手のあいている時に広間を出た田原にした。
田原としても疑われているとなれば、行動を制限する伊東の存在は邪魔なだけだろう。早々に殺し合ってもらえれば、それに越した事は無い。
「じゃあ、コレとこの報告もあげといてね」
指示を出し終えた黒岩は椅子から立ち上がり、「うーん」と声を出しながら身体を伸ばし、壁の時計を見上げた。
そろそろ時間だ。
島の地図の上を動き回る青い光点が映し出されたモニタを顎で指し示し、付け加える。
「コレの配信も始めていいよ」
ふと気になって83の数字と光点を探すと、68の数字とともに卍の地図記号に近づいていた。
一目で惜しみなく金が掛けられていると分かる調度品が配置された、ゆったりとした空間。その部屋の主はひとりの客と共に、部屋の調和を乱すほどに、いくつも並べられたモニタを前にして、配信されてきた画像に見入っていた。
「しかし、これはアレだね。好きなように観たいものだね」
「ちょっと、それは問題がありましてね」
「ああ、例の賭けの件かね」
「ええ、皆さんには各自、賭けた選手の動向がわかるように手配はさせてあるのですがね。あまりに際限なく介入されては、ゲームが成り立たなくなってしまいますからね」
「フン。だが、まあ、君も人が悪いよ。西武グループを賞品に加えたのは、賭けが出揃ってからなんだろ?」
「皆さん、それまでは余興は余興として、8は末広がりで縁起がいいだの、身内の誕生日などといった理由で、適当に選んでいたようなんですがね――」
「で、いまや目の色を変えて、小細工に必死というわけか。いやはや、無粋な真似をするものだ。所詮は余興……純粋に楽しみたいものだよ」
「あなたは3番でしたね」
「ふふん……やはり3番、サード、ナガシマだろ?確か名前も似ていたね。ポジションはどこかね?」
「さあ、どこでしたかね?私は野球には、あまり興味がありませんからね――そんなことより……」
堤はいくつもの数字が並ぶ画面を渡辺恒雄に見せ、映像の販売。6人の賭けとはまた別の大規模な終了時間や、一定時間内での死亡者数を予想するなどの賭博が盛大に行われている事を説明した。
「収益の試算が出ましてね。今までの赤字が最後に取り戻せそうですよ」
「ほう、それはスゴイね。最後の贈り物といったところじゃないかね?」
まともな人間が見たら、胸の悪くなるような笑いを浮かべた二人の老人の間を葉巻の甘い煙が流れた。
現役を引退し、来シーズンからはブルペン捕手としてライオンズに残ることになっている犬伏俊昌(元・背番号64)は、何故、こんな物がここにあるのかと、首を傾げていた。
「確かこれは……ヒロのだったような……?」
ロッカールームから引き上げてきた荷物を整理していた犬伏は、紛れ込んでいた携帯電話を手に取り、心当たりのあるその持ち主の名前を呟いた。
【残り43名】
一日に二話も読めて幸せやー!!!
ってナベツネに堤が・・・
sage
保守
ほ
ほしゅ
☆彡
513 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/04/30(日) 08:13:43 ID:pCRRrsDB0
結局、強い阪急も人気の阪神の壁で
黄金時代を不人気ですごした
強い西武も巨人と客層がかぶるのが最大の原因
選手に問題があるわけではない
むしろ巨人より潜在的スターは遥かに多い
やはり首都圏に複数球団で、事実上フランチャイズがかぶってるのが
最大の元凶だろう
もちろん堤が私腹を肥やすことに主眼を置いて
地元埼玉でのファン開拓を舐めてきたツケが大きいとは思うが
結論、
@首都圏にいちゃ今更、人気は出ない
A西武が運営しているうちは人気は出ない
よって
∴「身売りして、地方に行け!人気球団に変貌できる可能性はそれのみ」
ほ
あ
し
ズンドコ
518 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/02(火) 13:26:00 ID:WJ5Q7sx6O
age
☆
銀
行
捕手
45.散会
「んがぁーちくしょーおのれえええぇー」
「やっぱりカバンも持つか?」
「怪我人に持たせられませんよ。」
体重71kgの意識のない大人と配布の荷物3人分を背負って、必死の形相で前進する小野寺と、4kgのウージーを抱えて、後輩の悪戦苦闘を見守っている河原が、山の斜面を注意深く下っている。
「あとちょっとだ、頑張れ俺。負けるな俺。」
自分で自分を励ます小野寺を面白そうに河原は眺める。ふと斜面の下の舗装路を見ると誰かが手を振っている。目を細めてみるが、暗くて誰だかよくわからない。声に聞き覚えはあるが、本当に彼であっているのかどうか自信がない。
「中島君かな?」
「間違いないっすよ。」
小野寺は肯いて、いそいで斜面を下りきる。
「誰か、やかましい人がいるなあって思ったら小野寺さんでした?」
「ナカジもこれだけ荷物引き摺ってみろよ、気合の声も上げたくなるから。」
「罰ゲームみたいな荷物ですね。河原さんこんばんは。撃つのは勘弁してくださいね。」
「こんばんは。撃たないよ。」
やや寂しげにも見える笑みが口元を彩る。表情が豊かとはいえない古い石像が、口元をやや曲げてアルカイックスマイルを浮かべている、そんな様を連想する。そういえば、表情を変えないから鉄仮面って言われているんだっけ、中島はそんなことを思い出した。
「言っとくが罰ゲームじゃないぞ。」
「うそぉ?ちゃうんですかー?」
「放っといてくれよ。」
むくれ気味に横を向く、拗ねたような小野寺の仕草を見ながらやけにのんびりと中島が言う。
「罰ゲームって訳じゃないんでしたら、いくつか持ちましょかって思ったんですけど、放っておいてほしいんなら、やめときますね。」
「持て。つべこべ言わず持って。お願い。」
「はーい。」
せっかちな小野寺のお願いに、見る者を安心させる笑顔で中島は応えた。
「どこに行きます?」
「どこでもいいから休めるところ、知らないか?」
「じゃあ、今までいたとこ案内しますねって、すぐそこですけど。」
カバンを4つ抱えた中島は坂の上の大きな家を指差した。
数分後、丸めた『超速!!15分マスター!!誰でもできる!!簡単!!催眠術!!』を右手に、石井貴、中島、河原、宮崎を目の前にして、仁王立ちの小野寺がいた。
「命はたったひとつだってのに、揃いも揃って。」
怒り心頭の小野寺を眺める
「でも小野寺さん、生きてるだけじゃ意味なくないですか?あいた!」
「殴るぞ、ナカジ。」
「殴ってから言わないでくださいよ、もう。」
右手の丸めた本で中島の頭を叩く。大げさに中島は叩かれた頭をさすった。
「やれやれ、小野寺にバレたのは失敗だったかな。」
肩をすくめて石井貴がぼやく。
「貴さんも!責任だの何だの、勝手に背負って勝手に死なれちゃ、残される俺達はたまんないですよ。」
「追い腹斬れば、残されは…いや、冗談だ。」
「あなたが言うと、冗談に聞こえません。」
河原の本気か冗談か分からない言葉に、本を突きつけ厳しい口調で小野寺は切りかえした。
「俺は…生きる資格はもう。」
「宮崎さん、自殺なんて許しませんよ。」
伏目がちに思いつめた様子の宮崎の肩を左手で掴んでゆする。
やれやれ、小野寺らしい。最後の最後まで、彼は生きることを諦めないだろう。それが彼の流儀だ。小野寺の剣幕を傍観しながら、和田は少し肩をすくめるような仕草をした。石井貴が和田の方を振り返る。やや、意味ありげに首を傾げて見せた。
「とにかく、死んで何かしようなんて甘えたことを俺の前で抜かしたら、こいつで容赦なく殴りますからね。」
丸めた本で左手をぽんぽんと叩いた。
「よう、リッキー。気は済んだ?」
にこにこしながら階段の手すりから身を乗り出すように階下のざわめきを眺めていた松坂と涌井と後藤武が下りてきた。
「言いたいことは全部言ったぞ。ダイスケも、死んだらあの世まで連れ戻しに行くからな、覚悟しとけよ。」
「はは、そいつはいいね。是非ともそうして欲しいよ。」
松坂が表情を緩める。談笑する松坂と小野寺と涌井と後藤武を一瞬眺めてから石井貴は和田に小声で話しかける。
「宮崎、どうする?」
宮崎が帆足と山岸を誤って撃ち殺したらしいという話を打ち明けられたときはどうしたものかと二人で唸ったものだった。
帆足も山岸も石井貴にとってはかわいい後輩だった。しかし、宮崎もまた、気のいい男なのだ。罪を憎んで人を憎まずと言うのは簡単だが、しかしそう簡単に割り切れるものでもなく、石井貴は苦慮していた。
「うーん。正直参りますね。許せないと思う気持ちもないわけじゃないので。ですが、そうですね。小野寺に任そうと思っています。」
苦慮しているのは和田もそう大差はない。事態はどんどん悪化している、何とかしようと気は焦るのだが、どこから手をつければいいのか皆目見当がつかない。
「河原はどう思う?」
このことを知っている河原に話をふってみた。
「悲しいですね。ただそれだけです。ただ、多分、小野寺は宮崎を見捨てないでしょう。俺のことも放っておこうとしませんし。」
放っておけばいいのに、と真顔で言う。どこまで本気か図りかねる。小野寺も大変だなと石井貴は思った。
「迷子を拾ったのなら、最後まで面倒を見てあげなさい、ということになりそうだね。」
比喩をまじえて石井貴が言う。
「まあ、そういうことですね。冷たいでしょうか。」
「いや、仕方ないだろう。人間、抱え込める案件は限られているからね。」
石井貴は深刻な顔で中空に視線を彷徨わせる。答えを探すかのように。そんな一同の様子を、やや離れた場所で中島は眺めていた。何か、まずいことが起こったんだなと石井貴と和田の表情を読んだ。小野寺には悪いが、もう時間はないのかもしれない。
そして空気を震わせる大音量の球団歌が流れ、人々の声をかき消した。
「6時の放送だ。」
厳しい声で石井貴が天井をにらんだ。
隣の喧騒に松坂健は目覚める。暗闇の中、目を閉じる。この島に来てからの数々の悪夢の断片がまぶたの裏で再生される。木陰に横たえられた人の形。あれが。血を噴き上げて斃れる。あれが。重力とともに不器用なダンスを舞って、崩れる。あれが。
(あれが、死。)
過不足なく、ただ残酷で容赦ない抗いようのない死に、怯え縮こまり震える。
「死にたくない…」
小さく呟く。
大音量の放送が流れ出す。6時の放送だった。死者の名前が楽しげな黒岩の声で読み上げられる。その中には同期で同い年の黒瀬の名前もあった。
(クロも?クロが、死んだ…)
歯の根が合わない。寒気を感じるのは冬の寒さのせいだけではないだろう。後に続く禁止エリアの放送も、松坂健の耳には届かない。
(死にたくない、死にたくないんだ、どうしたら生き残れる?)
カバンの中の武器を見ていなかったことを思い出し、そっと中を開けてみる。中からは銃らしいものが出てきた。松坂健は震える手で銃を掴んだ。藁にすがるように。
放送が止んだ後も、誰も言葉を発せずにいた。死者が出ているのは知っていたが、もう9名も死んでいるとは誰も予想していなかった。
「すみません、ちょっと席外します。」
涌井が呻く。松坂と後藤武が目礼して、涌井に付き添って居間を離れ、奥に消えた。気分が悪くなったのか、泣きたいのかはわからないが、二人がうまくやってくれるだろう。涌井が下がったほうを眺めて和田はため息をつく。
放送を聞き終えて宮崎は改めて頭を抱えた。山岸の名前が呼ばれた。自分が殺した、その罪の重さに耐え切れなくなりそうだった。しかし、読み上げられた名前の中に帆足の名前はなかった。
(帆足は生きているのか?だとしたら、なんとしても探し出して謝ろう。許してもらえなくても、殺されても、それでもせめてそれくらいはしなきゃいけないよな。)
「リッキー、心配かけてすまんが、やはり私は私のやりたいことをやるよ。思った以上に事態は深刻だ。」
石井貴がようやく声を絞り出した。小野寺はうつむいて拳をきつく握っている。深い怒りと悲しみをこらえているようだった。
生きるも地獄、死ぬも地獄、そんな言葉が脳裏をよぎったが言葉に出すには憚られ、河原はいつものポーカーフェイスにやや悲嘆の色を重ねた。
襖がするすると音をたてて開き、寝ていた松坂健が起き出した。表情はひどく硬かった。
「マツケン大丈夫?」
中島が声をかける。しかしそれに呼応しない問いが向けられる。
「クロ、死んだんですね。」
皆の間に沈黙が下りる。同い年で同期の間柄の二人だった。ショックは大きいだろう。
「ああ、そうらしい。」
誤魔化すことはできない。さっきの放送を松坂健が聞いていないことはまずありえないだろう。石井貴は努めて平静に答えた。中島は労わるように松坂健を見た。後ろ手に何かを持っているのにその時気がついた。
「殺さな、死ぬんですね。」
後ろ手に隠し持っていたピストル――中国54式拳銃、通称中国製トカレフ――を皆に突きつけた。
「よせ、マツケン。」
「やめたら、いいことありますか?」
嘲る口調で松坂健は石井貴の制止に答えた。
「違う!違う!」
宮崎が叫ぶ。
「違わない!まだこんなところで死にたくない、クロみたいに、なりたくないんだ。」
その悲鳴のような叫び声に皆、口を噤む。しかし、宮崎は黙らなかった。
「殺して生き延びても、苦しいだけだ!下ろせ、マツケン。」
それは切実な思いだった。しかし、その切実さは松坂健には伝わらない。
「奇麗事を!」
切りつけるように鋭く松坂健が言い返す。
「何が起こっているんですか、貴さん!」
奥の台所に引っ込んでいた3人が、騒ぎを聞きつけて慌てて出てくる。
「動くな、動くとどうなっても知りませんよ!」
松坂健の脅しに3人の足が止まる。
「落ち着け、話せばわかる。」
「どうせやるなら俺から頼む。」
「人を殺せるような奴じゃないだろ?もうやめようマツケン。」
「あああもう、やかましい!」
口々に発せられる引止めを振り払うように顔を背けて引き金を引いた。庇うように射線上に宮崎が転び出る。それを見て小野寺が叫ぶ。
「宮さん!」
「あれ?」
かちん、という小さな金属音と、すかすかの手ごたえが松坂健の手に残る。右手の銃をまじまじと見つめる。その場の全員も呆気にとられて、松坂健の手の中の拳銃を見つめた。
「取り押さえろ!」
我に返った石井貴が叫ぶ。慌てて逃げようとした松坂健に和田と宮崎が飛びつく。バランスを崩して倒された松坂健を取り押さえる。転がった銃を恐る恐る小野寺が拾い上げた。
「貴さん、これ不良品なんですかね?」
「そんなことは、どうだろうな。説明書ついてないか?」
石井貴が手渡された拳銃をじっと見るが、初めて触るものであるがゆえに操作がちっともわからない。
小野寺が松坂健のカバンごと運んできて、中の説明書を石井貴に渡した。説明書とにらめっこしながら、マガジンキャッチを押し、マガジンを外す。そしてスライドを後ろまで引いてホールドオープンさせる。薬室内に弾はない。
「装弾してなかったんだな。そりゃそうだよなあ、いきなりこんな物渡されても、説明書でも読まない限り使い方なんぞわからんよな。」
脇に拳銃を置いて、石井貴は吐き捨てる。
「正直助かりましたけどね。マツケン、どうしましょう。」
「はは、いまさらどうするんですか?」
和田の言葉をさえぎって、自棄気味の言葉が地面に組み伏せられた松坂健の口から漏れる。
「もうこれだけ良くないことが起こって、誰が信じられるんですか?」
「信じてくれるかもしれない、その可能性がある限り、私はそれを実践するだけさ。マツケン、お前だっていつかわかるよ。」
厳しい目つきで石井貴は松坂健に答えた。
(目の前で銃を振り回されることになるとはね。注意深くならないと、まずいな。)
松坂はため息をつく。疑心暗鬼は仲間だった者達の間でどんどん膨らんでいる。カバンの中身は絶対に見せちゃいけないなと改めて思う。
「なんてこった、まったく。」
後藤武が青ざめた顔で呟く。全く同じ気持ちで松坂は頷いた。
「ケンタさんが、まさかこんな…」
涌井が絶句している。松坂健によくなついていたし、無理もないと後藤武は思った。
「こんな武器があるから。こいつのせいだ。」
忌々しげに松坂は脇に置いてある拳銃を見た。
(今、持ってるやつよりは使い易いのかな?まあ使ってみなきゃわからないけど。しかし、演技力が上がるなあ。役者になるのも悪くないかもね。)
松坂の視線の先の拳銃を眺める。古めかしい物だが、デリンジャーよりは使い易いかもしれない。
「小野寺さん、やっぱ俺出ます。心配してくれて有難うございます。でも時間ないですから。」
強張った表情できっぱりと言い切る中島を止める言葉は小野寺にはもうなかった。
「馬鹿野郎。どいつもこいつも。」
怒りや悲しみや無力感やらが混ざった強い感情に、握り拳を震わせる。
「マツケンはどうする?」
「俺が面倒みます。」
「いや、俺が見よう。手が回るかどうかわからないが、リッキーの手には余るだろう。宮崎と一緒に帆足を探すんだろう?」
松坂健の面倒も見ようとした小野寺を制して和田が言った。小野寺の手に余るだろうと思ったこともあるが、それよりもこの島で何か自分にできることをやりたかった。傷ついた後輩を助けてやりたかった。
「俺は足引っ張るからここで…」
「連れて行きます。」
「連れて行かれるらしいです。健闘を祈りますよ。」
河原が苦笑して言った。
「では私と一緒に来るのはダイスケ、ワク、ぐっさん、ベンちゃん、マツケン。リッキーと一緒に行くのは宮さんと河原、そしてナカジが単独で行くということで決まりかな。」
全員が石井貴の言葉に肯いた。
「よし、では各自健闘を祈る。早死にするなよ。」
「ハイッ!」
全員声をそろえる。松坂健がその様子をやや不思議そうに見ていた。
【残り43名】
職人様、乙です
松健…殺さないでよかった
みんな頑張れよ
職人様、大変乙です!!
この3日間頑張って仕事した甲斐ありました…
ホント皆生き残ってくれよぉ。
533 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/06(土) 00:08:17 ID:HoZaY8MZ0
保守
職人さま超乙です!みんな頑張って生きてくれ…。
ワクが相変わらず怖ぇ…((((;゚Д゚))))
ifだけど、銀ちゃんが居たらどうなっていたんだろうか。
535 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/07(日) 08:41:57 ID:HcrqpAWPO
ほ
さげ
職人様方乙です。
なんか書き込みできなかったんですが、7日に45.散会 まで保管しました。アクキンデモクラッタカナ……
保管庫さま、いつもありがとうございます。
あげます
捕手といえば
細川
捕手なのだ
うわあ、ビリオネアバトも落ちたか…orz
保守保守。
544 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/12(金) 16:57:09 ID:aq5Rr5P/O
ほす
必死に保守
銀ちゃんsage。・゜・(ノд`)・゜・。
547 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/13(土) 13:29:36 ID:0D1pcVdWO
きたいあげ
銀ちゃん3ラン保守
ほす
阪神だが西武頑張って!!我々も頑張ります。
保守保守
中島といい許といい、なぜ最近西武選手陣にピンクが流行してる?誰か知らない?
僕は野田なのだ
46.主よ永遠の安息を彼らに与えたまえ
二人とも言葉はない。話すべきことを見つけられず、ただ黙ったままレコードを聴いていた。チェロの響きは不安と恐怖が巣食う神経に障らない。悪くないと片岡は思う。だがクラシカルなチェロの奏でる旋律は突然の大音量に遮られた。
「放送の時間ですね。」
外から割れた音の球団歌が流れてくる。西口はレコードを止めて片付ける。片岡は名簿と地図を引き寄せる。
「長田さん、山崎さん、三井さん、岡本さん、山岸さんに、クロに、宮越さん、青木さんに細川さん。ちょっと少ないかなって、これだけ死ねば充分でしょうが。」
片岡は毒づく。死んでいった9人のなかには、同期入団の山岸も含まれていた。
(山岸さん、最期に見たものは何でした?最期に感じたものは何でした?俺はそれが気になってしまいます。人を殺すこと自体を拒めずにいる俺は、既に死んでしまったあなたから見れば、あなたを殺した誰かと同じような存在でしょうか。)
上の空だが禁止エリアを書き込む手は休めない。
「西口さん、起きてて大丈夫なんですか。」
西口を気遣ったのは自身の感傷を誤魔化したいが為だったかもしれない。
「すまん、少しだるい。寝かせて。」
「いいですよ。病人は大人しくしていてください。赤田さんもじきに戻ってくるでしょう。」
放送はすでに止み、二人の話し声だけが音として辺りの空気を震わせている。
「レコード、使っていいですか?」
「かまへんよ、使い方わかる?」
「…なんとか。」
「わからんかったら聞いて。じゃあ、おやすみ。」
西口が横になるのを眺めてからレコードをざっと見て一枚を選び出す。見よう見まねでプレイヤーを操作する。
合唱が重々しく、聞き取れない異国の言葉で祈りを捧げる。静謐さと神聖さに満ちたそのレクイエムは死者の魂の安らかならんことを祈り歌い上げているのだろう。旋律は今の気分にはあまりに美しすぎた。けれど、少なくとも片岡の感情を逆撫ではしなかった。
(死者を悼むのは死者のためですか?それとも喪われたことを悲しみたい生者のためですか?山岸さん、救いは死の内にありますか?それでもせめて、救いがあることを祈りたいのです。それは俺が、誰かを殺すかもしれないからでしょうか。)
やがてレコードが止まり、レクイエムの余韻が部屋を満たしていた。振り返り西口の様子を確かめるが寝入っているようだった。起こさないよう足音を忍ばせて階下に下りた。
台所の小さな明かりの下、片岡は渡された茶色の遮光瓶に詰められた白い粉を見つめる。
(致死量0.2gか。ほんの爪の先くらいで死ぬんだ。)
茶色の瓶をじっと眺める片岡。それはまるで逡巡しているようにみえた。
(いずれにせよ、これだけじゃ身を守るなんて出来ない。)
トラップとして仕掛けてみた数々のものを見つめる。配置された剣山や蛍光灯、撒いた洗剤の上に敷いたラップ、散らばる画鋲や釘、どれにしても時間は稼げても、それだけだ。本当に殺すつもりでここにやってきた人間に対して有効とはいえないだろう。
(殺すつもりの奴はもう既に存在する。自分自身と西口さんを守るために必要なことだ。)
無理に自分を納得させ、赤田からくすねた注射器を取り出す。少し悩んだ後、中身のモルヒネを捨てる。強い鎮痛・鎮静効果は魅力的だが仕方ない。
ガラスの小皿が残っていた。その小皿に配布の水を少し注ぐ。蒸留水が望ましい気がするが、細かいことは気にしないことにする。そこに瓶の中の粉を耳掻き一杯程度でいいところを、耳掻き三杯程度と大目に入れる。
(効いてもらわなきゃいけないし。)
やや迷った後、注射針の先からその液体を吸い上げる。中身が満たされたのを確認してそれを脇に置く。小皿の液体はもう殆どない。
(捨てていいかな。)
小皿を睨む。殺されるとあのように、名前を読み上げられる。殺す者と殺される者が同時に存在するその場所で何が交錯するのか、死者は教えてくれない。
(死の瞬間、あなたは何を思って死んでいったのですか?何故あなたが死ななければいけなかったんですか?)
命の重さを青酸カリで量るなら、それは0,2gだ。小皿を睨む。死の瞬間の苦痛を想像させられる。銃殺、刺殺、絞殺、撲殺、毒殺…生まれ方は1つなのに、死に方は様々だ。
睨んでいた小皿を取る。外に埋めてしまおう、そして外の空気を吸って気分を変えよう。今の自分は妙に感傷的になりすぎている。注意深く小皿を掴んで、片岡は外に出た。
『背番号13番、西口文也、今年の成績は17勝5敗、ノーヒットノーラン未遂に、完全試合未遂、いい成績じゃないか。』
『96年から7年連続で二桁勝利、2003年は不調だったが2004年2005年とまた二桁勝利。エース西口未だ死なず、だな。…自分の能力、惜しいと思わないか?』
『君は惜しいと思っているはずだ。』
『娘さんは5歳だったかな?かわいい盛りじゃないか。』
『武器を取れ。そして、背番号7番片岡易之、彼と接触し、そして彼を守り生き残らせるんだ。』
『生き残るチャンスなんだよ。君にとってもね。君は運がいい。』
「よくもぬけぬけと…あれ?」
自分の寝言で目覚める。体を起こしてペットボトルの水を口に含み呼吸を整えると、やや早くなっていた鼓動は徐々に落ち着いていく。
「気分悪いなあもう。」
小さく呟いて自分の間合いを取り戻そうとする。ベッドの上で伸びをし、体をほぐすと関節が軽く鳴る音が聞こえた。そうして振り払いたかった夢の残滓がそれでもまだ、身の回りに漂っているような気がして西口は困り顔になる。
夢に見たのは、建物を出発する際に有無を言わせない強い調子で課せられた、奇妙な条件と恩着せがましい言辞の数々だった。家族の名前を出したのは、おそらく脅しなのだろう。
何故このような役割を振られたのかはわからない。だが少なくともこれだけは間違いない。このゲーム、俺達には知らされていない裏がある。だからこそ気になったのかもしれない。閉じていた目を薄く開いて暗闇を見つめる。
(ヒロさん、多分なんか知ってる。ショーゴが帰ってきたら、無理してでも探しに出たほうがええかもね。)
暗闇の向こうに普段よりどこか悲しげに見えた友人がいるわけではないのだが、まばたきもせずに暗闇を見つめ続けるうちに目が慣れてくる。人の気配はない。階下に物音もしない。
「片岡?」
きょろきょろと辺りを見回すが、片岡の姿はない。外の空気でも吸いに出たのだろうか?
「そんなに心配せんでもじきに帰ってくるやろ。」
もう一度横になり目を閉じる。それでも声に出したのは、自身の不安を振り払いたかったからかもしれない。しばし横になっていたが、不安に背中を押されるように、片岡を探しにおぼつかない足取りで階下へ下りていった。
冬の夜空は透明感がある。まして月もなく、地上に灯りもないここでは、満天の星という言葉が似合う程に、星が夜空を飾っていた。
(これだけあると、どれがどの星だかわからないな。)
見上げた夜空に有名な星を探そうとしたが、あまりの星の数に戸惑う。諦めて地上に思考を戻す。表から横にまわると花壇があるのを覚えていた。花壇の土なら多少固くなっていたとしても、手で掘るのはそう難しくないだろう。
花壇の土を手で掘り起こす。土は簡単に手で掘ることが出来た。
(おかしい、柔らか過ぎる。誰かが掘った後みたいだ。)
誰かが掘った後、片岡自身の思いつきに脳裏に閃くものがあった。手で掘れるところまで掘り始める。やがて硬い物の感触が左手に伝わる。土をのけていくと、その硬い物の全体が星明かりの下、ぼんやりと浮かび上がる。
「なんでこんなものが?」
暗い色の長い筒、それはまぎれもない銃の形だった。
(西口さん、シャベル持ってた。…可能だわ。いや、でもその推理は飛躍しすぎじゃないか?大体、いつ埋めたんだ?ああ、俺と会う前ならそれくらいの時間はある。いや、だが出来すぎた話じゃないか。…でもこの島に来ている誰かが最近埋めたのは、間違いない。)
沸き起こる疑念に片岡はその場に立ち尽くす。それでもその銃を埋め戻すだけの判断力は残っていた。誰かに操られるように銃を埋め戻し、表の戸板の前で地面に座り込み、空を見上げた。
相変わらず満天の星が空を飾っていた。強い風に身を竦ませる。それでも中に戻る気になれず、夜風にその身を晒していた。ひたひたと迫る不安に独り言が口をつく。
「赤田さん、早く帰ってきてくれないかな。」
吐息が白く空に消えていく。海から吹く冷たい夜風の中、ただどうすることもできず星を眺める。背後で戸板がガタガタと音を立てて西口が顔を出す。
「寒いとこいると風邪ひくよ。」
「すいません、ちょっと気分変えたかっただけです。ほら星が綺麗ですよ。」
不安に強張る表情は闇に隠れ、お互いの内心は計り知れぬままに、片岡に勧められるままに空を見上げた西口は言う。
「星から生まれ、星に還る。」
「?」
「宇宙の始まりはビッグバンと言われ、そこからすべてが始まった。なら、人もまた、星から生まれたといえるんちゃう?俺達もいつかはわからないが死ぬ、その所産のすべては、やがて死を迎える太陽に飲み込まれて消える。」
「…??」
唐突な西口の口上に片岡の周囲に疑問符が飛び交う。
「太陽に飲み込まれた俺達の所産、最後は星間ガスに変わり、またそこからいずれ、新しい星が生まれるだろう。よって、人は星から生まれ、星に還る。そして、今のところ宇宙にそんなことを仮説立てて考えている生命体は多分俺達だけ。面白くない?」
西口の表情は窺えないが、おそらくいつもの人を食ったような笑いを浮かべているのだろうと片岡は確信していた。
「まあね、死んだらハイそれまでよ、って考えるよりは救いがあってええんちゃう?」
茶目っ気を見せて西口が笑う。そんな気配を感じて、つられて片岡も笑う。くしゅん、と西口がくしゃみをした。
「寒いんじゃないですか?中、入りましょう。」
「うー、誰か噂してるんかな?」
鼻の頭を触って西口がぼやいた。
【残り43名】
職人様乙です
そういえば山岸と片岡って同い年じゃなかったっけ?
山岸・・・1982年8月生、片岡・・・1983年2月生
学年は一緒だね。生まれ年が一緒でも学年が違うと敬語使うらしいけど、
生まれ年が違って学年が一緒の場合はどうなんだろ?
>559さん
レスありがとうございます。
生年では山岸が82年、片岡が83年ですが、片岡は早生まれのため、
年度換算では同い年になりますね。
で、敬称を付けるべきか否かわからなかったのですが、とりあえず敬称付きにしております。
☆
野田
他のバトロワスレがけっこう落ちてるな…保守
連続保守
銀ちゃーん
キヨシ
568 :
ナナシマさん:2006/05/19(金) 04:27:13 ID:SSPRIa0A0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ うるせーバーカw
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/ _ ` ー一'´ ̄ / _{ ヽ;;_ \ ヽ ノ
(___) / .| ゝ〉 〉 〉ノ_ \_ 今帰ったぞコラ!!
| | | __|;、・∵:: ;
また発生したのか、この変質者(31)め、書き込むな馬鹿! キモメガヲタクがぁ!!うはっはっは!!
もっとか!!もっとかぁ!!!うはっはっはっは!!!
またお前以外にキチガイがいるみたいな工作してんのか!!??
ほんと懲りねーな、この八尾のキモヲタニートが!!がははは!!
うはははは!!キチガイキモメガヲタクは消えてなくなれ!!がはははは!!
汚い虫けらよ!!ここで遺伝子を絶やすのだ!!消えてなくなれ!!
糞キモ遺伝子!!!暗い部屋でオナって氏んで行け!!!!!!wwwwwwwwwww!!
消えろ!糞が!汚いメガネが!!ほらどうした!!気持ち悪いうぉえ!!ww!!
弱虫め!!氏にさらせ!!低脳キモヲタメガネが!! 気持ち悪いわ
気持ち悪岩♪ キモ岩♪ ほんとキモ岩♪ wwwwwwwwwwww!!!!!!!!!!!
これでもか!!がはは!下向いて生きてすぐさま氏ねさっそく氏ね!!!wwww!!!!!
569 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/19(金) 18:01:27 ID:aR4fjR3tO
あげあげ
捕手
うふふ
必死に捕手
銀
ほしゅ
575 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/21(日) 18:38:57 ID:wNvkdV3t0
ワクイはケガでもしたの?
今日出てなかったけども
田原2安打保守
銀ちゃん
俺は細川が好き捕手
579 :
ナナシマさん:2006/05/22(月) 14:19:13 ID:vrq7wsxq0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ うるせーバーカw
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/ _ ` ー一'´ ̄ / _{ ヽ;;_ \ ヽ ノ
(___) / .| ゝ〉 〉 〉ノ_ \_ 今帰ったぞコラ!!
| | | __|;、・∵:: ;
また発生したのか、この変質者(31)め、書き込むな馬鹿! キモメガヲタクがぁ!!うはっはっは!!
もっとか!!もっとかぁ!!!うはっはっはっは!!!
またお前以外にキチガイがいるみたいな工作してんのか!!??
ほんと懲りねーな、この八尾のキモヲタニートが!!がははは!!
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汚い虫けらよ!!ここで遺伝子を絶やすのだ!!消えてなくなれ!!
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消えろ!糞が!汚いメガネが!!ほらどうした!!気持ち悪いうぉえ!!ww!!
弱虫め!!氏にさらせ!!低脳キモヲタメガネが!! 気持ち悪いわ
気持ち悪岩♪ キモ岩♪ ほんとキモ岩♪ wwwwwwwwwwww!!!!!!!!!!!
これでもか!!がはは!下向いて生きてすぐさま氏ねさっそく氏ね!!!wwww!!!!!
そこで上本捕手
捕手
582 :
ナナシマさん:2006/05/23(火) 16:40:21 ID:3IdxmbPO0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ うるせーバーカw
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(___) / .| ゝ〉 〉 〉ノ_ \_ 今帰ったぞコラ!!
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また発生したのか、この変質者(31)め、書き込むな馬鹿! キモメガヲタクがぁ!!うはっはっは!!
もっとか!!もっとかぁ!!!うはっはっはっは!!!
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弱虫め!!氏にさらせ!!低脳キモヲタメガネが!! 気持ち悪いわ
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これでもか!!がはは!下向いて生きてすぐさま氏ねさっそく氏ね!!!wwww!!!!!
細川
捕手は俺なのだ
銀ちゃん帰ってこい〜
47.英雄の条件
「星、しっかりしろ、星。」
椎木の語りかける声に血溜まりに倒れ込んでいる星の瞼がぴくりと動き、睫毛が揺れる。二度のまばたきの後、焦点のあわない目が上から心配げに覗き込む椎木と藤原を映した。もう一度まばたきをしてようやく焦点が合う。
「どうして、生きてるんだろう。」
低い呻きが星の口から漏れる。誰に聞かせるつもりでもない呻きだったのだろうが、静かな夕闇の中、見つめる椎木と藤原、そして杉山の耳にはっきりと聞こえた。
「青木さんが…」
星は語尾を濁した。見てしまったんだな、椎木は星の様子に悟る。
「死んだほうが良かった。」
目を閉じて、唇をやや曲げて酷く傷ついた様子で吐き捨てる。
「違う!」
聞き捨てならぬとばかりに藤原は星にかみつく。
「そりゃ誰かが死ぬのは寂しい、それを目の前で見たら辛いだろうさ、でもそんなこと言うな。」
感情的に早口でまくし立てる、その勢いに押されて星が呆けたようにこちらを見ているのに気がつき、やや恥ずかしげにした。
「俺は、それでも星が生きていてくれて嬉しい。やからそんなこと言うな。」
「ごめん、藤原。でも疲れたんだ。」
目元をぐいっと右手で拭う。うわずった声で星が叫んだ。
「どうして僕の目の前でこんなに人が死ななきゃならないんだ?」
6時の放送が流れる。杉山は読み上げられる名前を聞き、それを名簿に書き込んだ。落ち着いているつもりだったが手が震えていた。頭を一振りしてからもう一度筆記具を握りなおし、名簿の書き込みの次に地図に禁止エリアを書き込んだ。
線で消された9名の名前を見る。56番、黒瀬春樹の名前も黒線で消した。状況、凶器、星の証言から考えて水田に殺されたのは間違いないだろうと椎木は言った。
殺さなければ生き残れないのだろうか?水田は殺して生き延びる方を選んでしまったのだろうと椎木は言った。俺は?杉山は自問する。水田のように誰かを殺して生き残ろうと思い切るだけの強さはあるのだろうか。結局、迷いのうちに…殺されるのかもしれない。
酷い状態だった青木の遺体を思い出す。血溜まりに倒れ込んでいる二人、青木と星を見たときに杉山は足が動かなかったのだ。藤原がぎりっと歯を噛む音をさせて、大股で傍に寄り確認したのだ。
「星は生きてます。青木さんは…駄目です、もう。」
あれから藤原は、元々ゲームに苛立っているようだったが更に怒りっぽくなっている。おそらく悲しみより怒りが先に来るタイプなのだろう。先輩だろうが容赦なく噛み付いてくる。椎木はそれを受け流す。今もそうだ。
椎木と藤原の言い争い、一方的に藤原が噛み付いていると言ったほうが正しいけれど、それを杉山は眺める。
「これから、どうするんですか?」
「水田を追う。」
刺々しさを隠さない藤原によく通る声で椎木は落ち着いて答える。
「青木さんは、義人さんが殺したんですよ。」
それは報復をあおるような藤原の言葉だった。
「復讐なんて、馬鹿な話だ。」
椎木はそれを一蹴する。
「じゃあ聞きますけど、どうして水田さんにこだわるんですか?黒瀬さんの敵討ちって思い、まったくないとでも言うんですか?」
「落ち着けよ、藤原。」
杉山は見かねて藤原に声を掛ける。元はひょうきんな面の目立つ奴だった筈なのだが、今は完全に頭に来ているようだ。
「落ち着いてますよ。」
むくれてそっぽを向きながら言うから説得力は皆無だ。
「叫ばないでよ…さっきからうるさいよ。」
弱弱しい声が後ろからした。寝かされていたソファから星が起き上がってこちらを見ていた。
「星、寝てろって。」
「起こしたの藤原。大丈夫だよ、平気だって。」
藤原が星の隣に寄ってもう一度寝かそうと腕を伸ばしたが、その腕を星は押さえる。目で藤原の言葉を制すると、椎木に向き直る。
「でも、椎木さん。僕は義人さんを追いかけたいんです。どうして僕を殺さなかったのか、どうして青木さんは死ななきゃならなかったのか、聞きたいんです。」
椎木が何か物言いたげな目で星を見る。その首にははっきりと絞められた痕跡である、青黒く丸い指先の形の痣が残っている。
「危ないとは思いますけど、水田さんも多分、同じくらい危ないと思います。」
先んじて星が椎木の言葉を封じる。その言葉に考え込んだ椎木はやがて口を開いた。
「星、今でも死にたいか?」
「実は、今は死にたくないです。どうしてでしょうね、あのときは本当に死にたいって思ったんですが、今は、生きたいです。そのために、どうして彼がそんなことをしたのか、それを解かなければいけないと思うんです。」
星の言葉には強い意志が見える。椎木はそんな星の態度に直感的に危うさを感じる。
「星、だが人はわからんぞ。解けないほうがましだった謎だってある。知らないほうがいいこともある。」
「椎木さんは、反対なんですか?」
「反対だな。何を考えて止めたのかは知らないが、次も見逃してくれるとは思えない。頭冷やして考え直せ。」
「…そうですね。もう少し考えます。」
星の身を案じる椎木のシリアスな表情や厳しい声は、確かに反論を封じるだけの力があった。一瞬の返事の遅れに、納得しがたい感情を含ませながらも星は椎木に肯いてみせた。
「どうしてケースケを、水田を追いたいんですか?」
明かりが漏れないよう、窓に目張りする作業をしながら杉山は椎木に問いかける。松坂世代ともてはやされ、事実、スカウトの眼鏡にかない晴れてプロ入りした人数も目立って多い世代でもあるが、脚光を常に浴びているのはその中でも一握り。
それでも、明日は自分が脚光を浴びてやると思うだけの気概はまだ残っているつもりだった。今は明日が来るのが怖い。
「どうして、か。」
そう言ったきり椎木は黙ってしまう。答えを待つ間、作業の手を進める。長い沈黙の後、答えが返ってくる。その沈黙の長さに椎木の懊悩を読み取って、杉山は何故か安堵した。
「不憫に思うからだろうな。」
「不憫…ですか。憐れに思うということですよね。どちらがそうなんですか?」
「殺された黒瀬も、殺した水田も両方だよ。水田、人を簡単に殺す奴だと思うか?違うだろう。そう、皆そんな奴ではなかった。それがどうしてこうもなってしまったのか。だから追わなきゃいけないなと思う。」
「俺は正直逃げたいです。」
「正直だな。」
率直な感想だった。嫌味でもなんでもないつもりの椎木の一言だったが、杉山にはあまりそう聞こえなかったようだ。恥ずかしそうに杉山は言った。
「まだ死にたくねー、って。ええ、臆病なんですね。」
そして何かを紛らわすように早口で続きを口にする。
「ヒーローに憧れたことないですか?悪者を倒して、もう悪者はいなくなった、安心しろ、と助けた人にそう格好つける、そんな漫画のような、ね。でも、ここにはヒーローはいない、正義もない、悪もない、ただ、人が死んでいくだけです。」
「俺はヒーローになろうとして、水田を追うと言っている訳じゃないけどな。」
「俺に言わせればそれはヒーローのような行為ですよ。」
「誰も、自分自身に期待しているほど、美しくも強くもない。もしも臆病さに嫌気が差しているなら、それは別に恥ずかしいことじゃない。普通の反応だよ。」
作業を終えて、ぽん、と軽く杉山の背中を叩いた。マウンド上で落ち着きがなくなっているピッチャーを励ますように。隣から話し声が聞こえる。
「藤原、何してるのさ。」
「見たら分かるやろ、素振り。」
「見たら分かるけどさ…。誰かを斬るつもりなの?」
「斬らなあかんことになるかもしれへんやんけ。」
「そんなんじゃ人参だって斬れないよ。後で基本教えてあげるから、今は少しでも寝てて。皆で交代で睡眠取るんだから。」
耳に入る話し声に、杉山が羨ましそうにぽつりと言った。
「同期か。」
長田は逝ってしまった。残る同期は松坂、赤田、後藤武、小野寺、上本、そして…水田だ。
【残り43名】
最後の一行がいいねぇ。
ぎんじろー
☆
594 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/27(土) 22:04:49 ID:fEUGgtMoO
あげ
ほしゅ
☆ズンドコ☆
キ・ヨ・シ
和田しく捕手
ホソカー
600 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/05/31(水) 10:39:42 ID:kjN0RhpTO
AGE
ほ
602 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/01(木) 18:14:27 ID:QdRbgAmMO
あ
603 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/01(木) 18:36:22 ID:Z3NAg21FO
ず
604 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/01(木) 21:02:30 ID:ZZrt0gMM0
ん
ど
606 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/01(木) 22:53:32 ID:RRK3NmxxO
う
607 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/02(金) 01:57:33 ID:I/ZD453MO
ほあしゅ
48.サヨナラの準備
港をあらかた調べ終えた頃には、夜の帳が落ち始め、あれほどいた海鳥達も姿を消し、変わって穏やかに打ち寄せる波の音が辺りを満たしている。海から吹き付ける風も冷たさを増した。
上本は高木浩と港のビルに設けられたフェリーの待合室らしき部屋で休憩も兼ねて、分かった事やこれからの事を話し合うことにした。
すぐにでも水田と落ち合う約束をした寺に向かいたかったが、無理するな、との言葉に従った。高木浩の顔色がすぐれない事も気にはなった。なにより上本自身も疲れていた。腰を下ろすと改めてその事に気付く。
古びたベンチソファに背を預け、手に付いた血の痕を見つめる。
細川の遺体。目を背けたくなるほどに変わり果てた姿。あのままにしておく事は出来ず埋葬――といっても、たいしたことも出来ず、高木浩と共に、倉庫から見つけて来たビニールシートで包んで倉庫の片隅に安置した。
その時に付いたものだ。手に残る感触がまだ生々しい。あれが人の体なのかと疑う程に、冷たくぬめり、ぐずぐずとした手応え――。そして、それは仲間の手によって為された。
押し潰そうと圧し掛かってくる現実。
時がたつ程に、自分の心身までが重みを増してゆくような疲労感と脱力感を味わいながら、ベンチソファに体を沈み込ませた。目を閉じ、自分の呼吸と波のリズムを近づける。
こんな事態であっても変わらないものを身近に感じる事で少しでも抗う力を得たいと思った。どのくらいそうしていたのか、高木浩に名前を呼ばれ、目を開けた。
「手、拭きなよ」
差し出された湿らされたタオルに、「きつかったな」の声が重なった。礼を言って受け取る。気を遣わせたのかと思うと申し訳ない気持ちになる。同時に一人ではない事に心強さを覚える。一人だったらきっと耐えられなかった。
返されたタオルで高木浩も手を拭い、その手をじっと見つめている。否、睨みつけているような翳りを帯びた表情にわけもなく胸を突かれた。
何か声を掛けたいと思うが、言葉を探しあぐねているうちに、波の音を掻き消す勢いで聞き覚えのあるメロディが響き渡った。
「これが放送ってやつか」
呟き、高木浩は向き合ったベンチソファに腰を下ろし、カバンからペンや地図を取り出す。上本もそれに倣った。
放送は内容もそれを喋る黒岩の口調も耳を覆いたくなるものだった。
放送が終了し、波の音が戻ってくる。
ご親切なことに選手の名前を記したリストが支給されていたが、そこから名前を消す行為に忌まわしさを覚え、カバンに戻した。
人の命をなんだと思っているのだろうか。悲しみ、憤り、痛み、不安、様々な強い感情が波のように押し寄せてくる。感情のままに泣いて叫んで、このまま身を任せて溺れてしまいたくなる。
(ダメだ)
動け、考え続けろ。自分を叱咤し、禁止エリアを書き込んだ地図に目を落とす。
早い段階で禁止エリアになるかもしれないと思っていたこの港――H-1からI-1にまたがっている――は含まれなかった。
重要な場所ではないのだろうか?それとも先回りできたと云うことなのか?
「9人か……覚悟なんてしきれるものではないな」
呟かれた声に、地図から顔を上げる。
倉庫のある方向を見つめる高木浩の横顔――風を凌げる場所で少し休めた為か、血色を取り戻してはいたが――は、痛みを押し殺しているかのようで、何故か目を逸らせなかった。
上本の視線に気付いたのか、こちらを向いた高木浩は「心配するな」というように、少し笑った。
「――さて、と」
気持ちを切り替えるように、ひとつ手を叩き「調べた事をまとめようか」の高木浩の言葉に上本は座り直し、頷いた。
「やっぱり、そう、すんなりとはいかないですね」
これだけの規模の港にあってしかるべき設備――外部や出入りする船舶と連絡を取り合うための無線の類をはじめ、この島の位置や名前が特定できそうな海図やフェリーの運行表といったものが、ひとつも無かった。
「故意に片付けられている感じがあるんだよな」
高木浩が抱いた印象も同じようだ。
このビルの上階にある事務所らしき部屋では、積もった埃につい最近誰かが触れ、あちこちを動かしたような形跡があった。
落胆よりもそこまで念入りに隠そうとするからには、きっと何かがあるという確信があった。
「海に出られるかもしれませんね」
思いついた可能性を検討していく。
「船がまったく停泊していないっていうのは、怪しいと思うんです」
「そうだけど、でも、どうかな。この港は長い間使われていなかったみたいだ。船は最初からなかったのかもしれないよな」
「でも、南西の港にも船が無いようなら、その可能性は高くなりますよね」
気持ちが逸り、身を乗り出した上本をたしなめるように、高木浩は冷静なままで、
「地図には無くても、二箇所の港以外にも船が発着できる場所があるかもしれない」
と指摘し、地図を広げる。上本もそれを覗き込んで島の輪郭を指でなぞる。
「そうですね。北側から西側にかけては崖になっているので除くとしても、海岸線を調べてみないとですね。この島に全く船が無いとなると――」
「可能性はあっても、手段がないってことになるな」
泳ぐか?と、冗談めかした声が続く。
「筏とか作れないですかね?」
「まだ、海に出られると決まったわけじゃないから、そこは追々考えていこう。それに、島の位置がわからないのは、大きいな。とにかく海に出て、運に任せて人のいる島とか、通りかかった船に助けを求めるっていうのは、いくらなんでも無謀だろ?」
「沖の方に船が見えたんです。もしかしたら、あいつらが俺達を運んだ船かもしれません。今もあるかは分かりませんけど、あそこまで行ければ――」
「焦るなよ。過剰な推論は判断を誤らせるよ。ひとつひとつやっていこう。まずは船の有無を調べていくとしても――二人や三人では時間が掛かる」
高木浩の言葉に頷く。
「手伝ってくれる人も探したいですね」
「あとさ、コレどうする?」
首輪を指し示す。
「機械は壊れるものと相場が決まっています」
当たり前のことを言ったつもりだったが、暫しの沈黙の後、「お前、スゴイな」と高木浩はかすかに溜め息をついたようだ。
一通りの話を終え、もしも寺で水田と会えなかった場合の準備をすると、寺を目指し港を後にした。歩き始めると、日が落ちて鋭さを増した冷気が頬を刺した。
なんとか歩くには不自由しない程度にぽつぽつと街灯が立ち、夜道を照らしている。舗装されてはいるが傷みの目立つ路面に注意を払いながら、上本は肩を並べて進む高木浩に声を掛けた。
水田と会い、これから動き出す前に解決しておきたい事があった。
――自覚した自分の弱さ。
そこから逃げてしまうのは、きっとそれをもやもやとした先の見通せない霧のように感じているからかもしれない。手探りしていても始まらない。
言葉にすれば向き合えるかもしれない。先が見通せないことに変わりが無くても、それが壁の形を取るなら、乗り越える方法がみつかるかもしれない。
「ヒロユキさん。弱音吐いてもいいですか?」
こんな時に弱音を吐くなんて甘えていると思うが、聞いて貰いたかった。
「――?」
少し唐突だったろうか。間が合ってから、ああ、いいよと応じてくれた。
「細川さんは、俺の考えが巻き込んだんですか?ヒロユキさんだって危なかったんですよね。水田ももしかしたら、今頃――そう思うと恐いんです」
「それは違うよ。俺も細川も自分で選んだことだ。きっと水田もね。上本が負い目を感じる必要は無いよ。それに危なかったのは上本も同じだろ」
「でも、俺、逃げていたんだなと思うんです」
ホテルの広間で考えていた時も、この港を目指していた時も、それに没頭している間は忘れていられた。あんなに銃声が聴こえていたのに、誰かの死と結びつけることを故意に避けていた。
殺し合いを止めたい気持ちは間違いなく本心だが、殺し合いという現実が恐かったから、まともに向き合おうとしていなかった。考える事、動く事に逃げていた。それは弱さだ。
「こんなことではダメですよね」
延々と続きそうな弱音を締め括り、口を閉ざす。
「なんていうか――前向きな逃げ方だな」
上本の述懐を聞き終えた高木浩が静かな声で言った。ややあって、言い足した。
「逃げたっていいんだよ。逃げるのは悪い事じゃないんだ。
ただ逃げるんじゃなくて、逃げながら準備すればいい。結局は逃げてばかりではいられないのだから、いつか立ち向かわなければならない時の準備期間にする――上本はそれが出来ているよ」
(なんだろう?)
声の響きにごく僅かな違和感を覚えた。確かに隣を歩いているのに、どこか遠くにいるような感じだ。いなくなってしまう。置いていかれる――あえて言葉にするならそんな感覚――どうかしている。考えすぎだ、と思い直す。
だが一度生じた懸念が薄まる気配は無く、その正体を捉えようと高木浩の横顔を見つめていると、視線に気付いたらしくこちらを見た。
「変な事、言ってるなあとか思ってる?褒めているんだけどな。俺が言ったんじゃ嬉しくないか?」
気楽な口調で問われた。意表を突かれた形で言葉を返し損ね、瞬きを繰り返す上本を面白そうに見返し、笑みを含んだ声が続ける。
「逃げていると言えば……聞いた事、無いかな?オツ――西口は東京ドームのマウンドが苦手でさ、避けているんだよ。あれほどのピッチャーなのに、笑っちゃうだろ?」
はぐらかされていると感じた時には、今度は真顔で高木浩は言葉を続けていて、上本は間を外された格好になり、捉え損ねた違和感はそのままになる。
「それに、逃げていたのは俺も同じだよ。上本と会わなかったら今頃も逃げ回っていたと思う。会えてよかったよ」
「いえ、あの……変な話してスイマセンでした――急ぎましょう」
妙に照れ臭くて、歩調を速めた。
ほどなくして前方に集落が見えてきた。このままこの道を進めば集落の中を通り、寺に着く。
一刻も早く目的地に辿り着こうと急ぐ上本は、闇に沈む民家の陰から出てきた何者かが街灯の下に立ち止まるの見て、足を止めた。
目を凝らし、その背番号を確認すると、名を呼びながら手を振った。
【残り43名】
朝っぱらから職人さん乙!
ヒロユキ頑張れ!
職人様乙です!
ひろゆき…お前は何を考えてるんだ?
タイトルが意味深だ…
職人様乙です!
職人様方いつも乙です。
48.サヨナラの準備 まで保管しました。
メニュー・画像ページが少し見づらかったのを修正……コレデ ミヤスク ナッタカナ
職人の皆様、乙です。
ここまで一気に読んで、あまりの面白さに猫夢中です。
平尾…GG…お前らはどうするんだ、どうしたいんだ。
618 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/03(土) 22:10:39 ID:WXDSvdGGO
松
保守
620 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/04(日) 23:49:00 ID:yD6LWkZOO
☆
職人の皆様、乙です。
今後の帆足と中島が気になります……
622 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/06(火) 17:24:42 ID:qCZbm/d7O
炭谷銀仁朗のポジション
銀ちゃん明日も頑張れ
保守
625 :
プロ野球人気&西武ライオンズ人気上昇中!:2006/06/08(木) 13:19:10 ID:MSoMCYCD0
■西武ライオンズ人気上昇中!!
WBC野球は王監督率いる日本代表が世界一を達成したことや、
そのWBC日本代表にも所属していた松坂大輔投手、そして和田一浩選手2人が西武ライオンズに所属していることと、
更に堤オーナーの影響力がなくなり、地元埼玉に地域密着しようとファンサービスを充実させたことにより、
西武ライオンズ人気が現在上昇中です。西武ドームは少し立地条件が悪い中でインボイス西武ドームの観客数2万人越えが増えています。
そして更に観客数が3万人を超えるゲームも何試合か記録しています。
埼玉県民や所沢市民の皆さん、インボイス西武ドームへ行き西武ライオンズを応援しに行きませんか?
球場の雰囲気もとても好感が持てますので、是非球場に行きましょう!!
■主なインボイス西武ドームの観客2万人越え試合
3月25日 西武VSオリックス(30028人)
4月15日 西武VSロッテ(23237人)
5月5日 西武VSソフトバンク(38480人)
5月6日 西武VSソフトバンク(25655人)
5月13日 西武VS巨人(31078人)
5月27日 西武VS阪神(33049人)
5月28日 西武VS阪神(36324人)
626 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/09(金) 02:07:56 ID:v4pqVpEJO
ホッシャ
ほ
し
の
あ
631 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/10(土) 22:09:35 ID:Zf3tgOOm0
き
帆足復活記念保守
49.ネメシスを信じてはならない
懐中電灯の灯りが暗闇に頼りなく浮かぶ。その灯りの輪に電源ボックスのようなものがようやく映しだされた。蓋をあけてとにかくその中のスイッチを入れてみる。天井に蛍光灯の冷たい光があたりを照らし、ようやく闇が追い払われた。
「電気きてるな。」
「そりゃ、ホテルでも照明ついてましたし、きててもおかしくないんじゃないですか?」
暗闇は人を怯えさせる。薄ら寒い人工の光ではあるが、明かりの元でようやく緊張が解けたのは赤田も佐藤友も同じだった。
「まあ、そうだけどね。位置もわかるんだよな、この首輪。」
「らしいですね。」
「生死も判別できる、と。」
「…そう言ってましたね。」
「ふーむ。」
待合室のソファに座り込み考え事を始めてしまう佐藤友を放置して、赤田は薬やら包帯やらガーゼやらを集め始める。ああなったらなかなか動かない、自分の用事を済ませようと思ったのだ。診察室の隣に調剤室があり、棚に薬がならんでいる。
「うわあ、なにこれ親切すぎ気持ち悪っ」
薬にはそれぞれ、何に効く薬なのか棚に分類されて置いてある。正直助かるのは事実だが、あまりの親切さが反対に空恐ろしい。いったい何を考えているのか、その薄気味悪さを感じたままに言葉に出す。
「まあいいや、気にしない気にしない、抗生物質にアスピリン、はさみとガーゼと包帯と、テーピング用テープ、胃薬、下痢止め、嘔気止め、まだまだあるぜ!よーし張り切って色々持って帰っちゃうぞー。」
待合室のソファに座り込んで思案に暮れていた佐藤友は調剤室のほうで赤田が何やら声を出しているのを聞いてふと顔をあげた。
「カラ元気だな、あれは。」
無理するなと言ってやりたいが、今は無理をしないとどうにもならない。気休めを言うのはやめておこう。正面をみると日めくりカレンダーが目にとまった。日付は二ヶ月前で止まっている。裏は白い。筆記具を取り出し、カレンダーの裏にメモ書きしながら考える。
・位置情報はやはりGPS?
・GPSと仮定するなら誤差は?
・米軍が押さえているコードを使っているなら誤差はない。この火器の群れから米軍の協力があることを考えるべきか。
・思考がずれている。今考えることは黒幕の存在ではなく、なんとかして首輪の位置情報を誤魔化す方法を考えることだ。誤魔化すことができれば、行動できる範囲が大幅に増える。
・情報を誤魔化す。おそらく首輪から送信された情報は最終的に全てメインサーバーで処理されているのだろうが、ハッキング、は道具も技術もないから今のところ無理。
・そういえば発電施設はどこにあるんだろう?近隣の島だとか。
・ともかく方針としては、首輪からの情報を誤魔化して主催者連中に行動を悟られないようにする、その後、情報を管理するシステムを破壊、この順番だろうか。
「友亮さん、薬、何がいるんですか?」
声をかけられて顔を上げると、赤田が目の前で鎮痛剤のシートをいくつか持って立っていた。
「あ、すまん。ロキソニン。」
「これですか?」
「見せて…ああ、これだ。」
薄いピンク色の錠剤のシートをひとつ受け取ると、佐藤友はまた考え事を始めてしまう。何を考えているのかと気にならない訳ではないが、話してくれそうもないので放っておくしかない。目を壁にやると、診療所の案内図が目に止まった。
L字に折れ曲がった建物の図が書いてある。縦の棒の一番先が表の出入り口で、裏の通用門がL字の右上、空白の部分にあるようだ。その右上の空白部分に、小さい建物が渡り廊下でつながっていて、安置室と書いてある。
二階も病室のようだ。一基設置してあるエレベーターに乗ってみると、ややガタつきながらも、まともに動いて二階へ赤田を運んだ。二階には病室が3つあり、それぞれベッドは1つだった。一階はベッドが6床の大部屋だったが、二階は個室のようだ。
昼間なら日当たりの良さそうな大きな窓の外にベランダがあるが、窓には南京錠がかかっていて外に出られそうに無かった。床に大の字に転がるとひどい疲労感がおそってきた。
「なんで、こんなことになっちゃったんだろうなあ。」
「ショーゴ、上?」
佐藤友の声と同時に階段を上がってくる人の足音が聞こえた。赤田は起き上がると声に応える。
「そうです。」
「二階にも何かあった?」
「いや、別に何も変わったものはなかったですね。友亮さんは何考えてたんですか?」
「色々。まあ見通し立たないから秘密ってことで。ショーゴの探し物は大体済んだ?忘れ物はないね?」
「わりとあっさり済んじゃいました。忘れ物は…えーと、ないと思います。」
不安な返答に一抹の不安を覚えなくも無い。念を押して聞いてみる。
「薬類はあったんだな?」
「はい。そりゃもう、何の薬なのかってことまで、ご丁寧に書いて棚に分けて置いてありましたよ。おかげで楽させてもらいました。」
赤田はおどけたように両手を広げる。つられるように佐藤友も苦笑いで返す。
「あからさまに、作為的だなこりゃ。」
「主催者からのプレゼントですかねえ。」
「奪い合いになることを期待してのことだろうよ。まったく。」
佐藤友は床を爪先で軽く蹴りとばす。赤田は口元をほころばせて暗い窓の外を見ると、人らしい白っぽい影が見えた。
「あ、また誰か来ましたよ。」
「バカっ!」
無警戒に来訪者に対して飛び跳ねて手を振る赤田の背中を掴み、床に伏せさせる。赤田の挨拶に凶暴な銃の唸り声が乱暴に応答した。
「いてっ!ってうわあ、撃たれた!?」
「当たってねえよ、落ち着け!」
発砲音が、がんがん、ががんがん、と連続する。どこかの壁に弾が命中する音がした。慌てる赤田を叱り飛ばす。
(明かりのせいで外からは丸見え、これじゃ隠れようにも…明かりか!)
ひらめきと同時に佐藤友が銃を抜き、天井の蛍光灯を撃ち抜く。蛍光灯の割れる音と銃声が5回響く。割れたガラス片が降り注ぐ。赤田が至近での銃声に耳を塞ぐ。灯りを失って暗闇に戻った部屋を急いで外に出ると、同じように廊下の蛍光灯も撃ち壊す。
(どうしてこんなにあっさりと、疑うことにも、撃つことにも慣れているんだろう?)
廊下を暗闇に変えた2年先輩の男の背中を赤田は訝しげに眺めながらも、その後をついて廊下に出る。暗闇に戻った廊下に一階から声が響く。
「二階にいるぞ、そっち見張っててくれ。」
足音がゆっくりと階段を叩く。佐藤友が逃げ場を求めて廊下を左右に首をふり見る。このままでは追い詰められる。顔をしかめ、困ったなといわんばかりに髪をくしゃっと掻き毟る。赤田がついてきているのを振り返り確認する。
前に視線を戻すと、廊下の奥の非常口を示す緑の光と、二階に止まっているエレベーターが目に付いた。
「男と心中する趣味はあるか?」
「ありません。」
「俺もない。」
引っ掛かってくれよと佐藤友は祈りながら思いつくままにエレベーターを一階に下りるよう操作し、空のエレベーターを一階に下ろす。低い唸りと共に下がるエレベーターが一階に着く音と同時に激しい銃声が、階下でオオンオオオンと吼え猛る。
「走れ!」
奥の非常階段を駆け下りる。階段を下りる高い足音は銃声に紛れ聞こえない。裏口から出られるだろうという読みがあったが、裏口の門は閉ざされていた。目に付いた離れのような小部屋、赤田はそれが安置室だと知っていたが、そこに隠れる。
「裏の鉄扉は閉じられたままか。」
「あれ開けたら出られますね。」
声は近づいてくる。他に逃げられそうな場所は無い以上、ここにいても見つかるのは時間の問題だろう。逃げるのなら、やはり裏口を開けるしかない。隣で息を潜めている赤田に小声で話しかける。
「あの鉄扉、開けられるか?」
「鍵かかってませんかね?」
「掛かってたら諦めて死んでくれ。化けて出るなよ。」
「いや、諦めきれませんって、普通。」
「一人が銃を撃って気をひく。もう一人は扉を開ける。どっちも危険だ。どちらでも好きな方を選べ。」
「わかりました、扉を開けるほうにします。」
赤田は即答した。信頼されているのかもしれない。あんまり頼られてもなあ、とぼやきたくなる。手の中の拳銃を眺める。残弾数は7発。なんとかなるだろうか?判断ミスじゃないのか?このまま留まっていたほうが生還可能性が高いんじゃないのか?
(迷うな。迷えば一歩目が遅くなる。)
右手の拳銃を握りなおすと、手の平にじっとり汗をかいていることに気がつく。手の平の汗をズボンで乱暴に拭ってから銃把を正しく握りトリガーに指をかける。行くか。
「俺が先に動く。ディレイドスチールの要領で飛び出せ。」
「了解。」
作戦ともいえない作戦を実行しようと、佐藤友は一歩目を踏んだ。
「こ……さ…。」
一歩目を踏んだとき、風に乗って誰かの叫びが佐藤友の耳に入る。誰の声だ?気になって足が止まる。その様子を見て、赤田が飛び出すタイミングを計りかねて佐藤友の横顔を見つめる。
「待て、様子を見よう。」
よくわからないが、診療所のほうで何かアクシデントが起こったようだ。赤田がその言葉に肯く。
「う、あ、ああああ――――!」
様子を見よう、そう言ってすぐに、診療所から言い争いと悲鳴にサブマシンガンの咆哮が重なった音が響いた。
「今のうちに逃げるぞ。」
「でも、これって誰か…」
「いいから!」
誰かが襲われているんでは、そう心配する赤田に、他人の心配してる場合かと怒鳴りつけたくなるがこらえる。裏口に走る。鉄扉には幸運なことに鍵はかかっていなかった。
振り返らずに鉄扉を押し開け走り抜ける。土産に鉛玉をくらうこともなく、無事に敷地を抜け、角をひとつ曲がったところで座り込む。呼吸を整える間も、発砲音はやまない。
「友亮さん、戻りましょう。」
響く銃声に深刻な顔をしていた赤田は言った。
「無茶言うな。」
提案は佐藤友にあっさりと却下される。
「でも。」
「向こうはマシンガン。こっちはこれひとつ。やめとけ、自殺行為だ。」
諦めきれず食い下がる赤田に、佐藤友は再びノーを突きつける。
「わかりました、一人で行きます。」
「バカ!」
「だからって、見殺しにするんですか!」
「傍にいれば助けられるなんて思ってるんじゃないだろうな、それこそ思い上がりだ。」
「やる気ないならほっといてくださいよ、行って来る!」
「待てよ、死ぬ気か!」
「止めても無駄です!」
赤田は逆上している。佐藤友はとうとうその勢いに折れた。
「負けた、負けたよ、一緒に心中してやろうじゃねーか、ちくしょーこれで死んだら化けて出てやるから覚悟しとけよ。」
戻った診療所は、今までの銃撃戦が嘘のように静まり返っていた。
「誰も、いない?」
「油断するな。待ち伏せかもしれん。」
足音を極力忍ばせながら建物内にもう一度足を踏み入れる。やや足早に前を行く赤田の目に、誰かが廊下に倒れているのが見えた。
「貝塚さん、しっかりしてください。」
赤田が気付いて駆け寄る。ぐったりしていた貝塚はその声に薄く目を開けた。
「誰、だ。すまないがもう目が見えない。」
「赤田です。」
「すまん…痛くて死にそうなんだ、何とかならないか。」
無言で赤田はカバンを探り、モルヒネのアンプルを取り出した。それが何かの解決になればいいと思いながら。貝塚の左腕をとると、肘の内側に浮かび上がっている青い静脈に針を刺す。1度の失敗の後、針が血管をとらえて薬液が静脈内に送り出される。
「少し、楽になったかな。」
注射の後、深く息を吐く音に混じって貝塚が声帯を震わせた。目を閉じた後、小さい声で赤田に話しかける。
「これで良かったんだよ。これ以上俺は卑怯者にならないで済む…正直ほっとしているよ。ただ、できたら、家族にはありがとうと伝えてやってくれれば。」
「気をしっかり持って。生きてください、そして自分で伝えるんです。」
「無理だな。でも嬉しいよ。…生きてくださいだなんてこと、ここで聞けると思わなかったから。」
今まで真っ当でないものしか見てこなかった貝塚にとって、赤田の至極真っ当な言葉は心底嬉しかった。だが、赤田にとっては貝塚の死を喜ぶような言動も、貝塚が今まさに死のうとしていることも認めたくなかった。
「そうだ、ジャッキを、見つけたら、助けてやってくれないか。あいつ、何が正しくて正しくないのかわかってないんだよ、多分。」
「無知も、罪ではないですか?」
やや離れたところで拳銃をかまえ、周囲を見張っていた佐藤友が、聞き捨てならぬとばかりに反駁する。
「手厳しいな。でも俺はあいつのこと、心から嫌いにはなれそうにないんだよ。」
その穏やかな貝塚の口調に佐藤友は折れた。
「あなたは優しすぎます。約束できませんが、努力はします。」
佐藤友の言葉にほっとしたように貝塚は表情を緩めると寒気に体を震わせた。それを見て赤田は病室から毛布を取りにその場を離れる。赤田がその場を外した隙に佐藤友は貝塚に尋ねた。
「誰が、こんなことを。」
「野田と、正津。気をつけろ…正津は覚悟を決めた。」
貝塚はその疑問に短く答えた。記憶に引っ掛かっていた声の主と、その名前は確かに一致した。すぐに赤田が毛布を抱えて戻ってくると、貝塚の肩まで毛布を被せる。
「しかし、寒いな。こればっかりはこたえる…。」
肩まで毛布にくるまりながら失血からの寒気に震えていた貝塚の、それが最期の言葉だった。赤田は隣でずっと手を握っていた。手に鼓動が伝わらなくなったのを感じ取って、それでもまだその手を離せずにその場に座っていた。
佐藤友が、そんな赤田の肩を軽く叩いた。赤田が振り向くと首を左右に振り、もう諦めろとジェスチャーする。もう一度貝塚の死に顔に目をやり、そしてその手を離した。遺体を毛布で覆う。
「どうするんですか?」
「義人を追う。そのつもりだった。」
「どうしてですか?」
「…言いたくない。ショーゴは?」
「山崎と岡本と三井さん、出口のとこで殺されていたと、高山から聞いたんです。順番から言って、正津さん、星野さん、友亮さん、義人さんが怪しいだろうとも。一体、何を見てしまったんですか?」
佐藤友は黙る。赤田は貝塚の遺体を見つめている。佐藤友は壁を見つめている。視線は交錯することなく、それぞれの思いを眺めていた。深海の静寂と孤独がその場を支配していた。
「義人が三井さんを撃った。岡本はそう言っていた。」
溜息のあと、佐藤友は見てしまったものを語った。それっきりまた黙り込んでしまう。赤田もまた言葉を失っている。諦めない、そんな態度の底に隠してきた弱気が顔を出す。
「仲間を疑わなきゃならない、疑ってしまうのが苦しいんです。一体誰を、何を信じればいいのか、よくわからないのが辛いんです。」
「そうだな。岡本は死んだ。証言を裏付けるものは何もない。」
そういうつもりではなかった赤田の言葉は、佐藤友の態度を硬化させたかもしれない。
「俺が犯人と思われてもおかしくはないか。」
「俺の知っている友亮さんは、そういう人じゃありません。」
「俺の知っている黒岩だって、そういう人だと思ってなかったさ。」
あまりにも気まずい沈黙がこの場の空気を凍らせる。普段にもまして佐藤友の態度に強情さが垣間見える。おそらくこれ以上何も言ってくれないだろう。
「義さんに会って、どうするんです?」
「関係ない。」
「撃つつもりですか?」
無性に苛々した。何も話そうとしない佐藤友の頑なさに対してかもしれない。責められないとわかっていたのに、そんな態度を責める言葉が溢れ出す。
「罪を裁いているつもりですか?誰かを守っているつもりですか?」
「自分で思うところの最善を尽くしているだけだ。それとも大人しく指くわえて見守って、そして悪い奴らに神罰が下るのを待てとでも?」
冷たく頑なな態度が剥がれて、抑えつけていた怒りが表層に浮かぶ。
「俺は1人でも多く生きて帰って欲しいだけです。殺しなんて止めてください!」
「人殺しでも?大体、危険な奴を野放しにしておいたら、犠牲が増えるばかりだろ。」
「だからって、人殺しに人殺しで対抗するんですか?」
「時にはそれが正しいこともある。だから死刑が有るんだよ。今はわからないかもしれないけど、お前だっていつか分かるさ。」
食い下がる赤田に対して、先に冷静さを取り戻したのは佐藤友だった。話はおしまいとばかりに立ち上がる。
「待って下さい。」
「西口さんに薬届けに行くんだろ?もう方向は違うだろう。達者でな。」
肩から振り返り、もう話は終わっただろうと言わんばかりの気のない態度で応じる。
「また、会えますね?」
「生きていればまた会うこともあるかもな。」
困ったような顔をして、そのまま背中を向けて左手をひらひらと挙げ、そして振り返ることなく裏口へ出て行った。赤田はひとり取り残されて俯く。
「1人で外野守ってるつもりかよ、ライトフィールダー。センターフィールダーだって、レフトフィールダーだっているっていうのに…」
危険な奴を野放しにしてはおけない、おそらくその佐藤友の判断は正しいのだろう。でもさ、赤田は呟く。
「でもさ、そんな簡単に割り切れるもんじゃ無いだろ。」
それでもやがて立ち上がり、カバンにひとつ残していた煙草をその場に置き、それを区切りに裏口から出て行った。重い足取りで、赤田は帰りを待つ二人の元へ向かう。そこに戻れば、また仲間を信じることを取り戻せそうな気がして。
【×貝塚政秀 残り42名】
新作キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
職人様、超GJです!!
友亮と将吾のやりとりがリアル、また生きて会えるといいな…
貝塚生きてて欲しかったよ。・゜・(ノД`)・゜・。
しいて言えば正津は貝塚より年上だから「さん」付けでも良かったのでは
訂正です
>639 最終行
誤 「野田と正津。気をつけろ…正津は覚悟を決めた。」
正 「野田と正津さんだよ・・・気をつけろ、正津さんは覚悟を決めた。」
以上のように訂正します。ご迷惑おかけしました。
>643さん
コメントありがとうございます。
見落としておりました、申し訳ありません。
職人さん乙です。
義人の行方が気になります。友亮も心配です。
50.よく切れる鋏
「あっちの建物、明かりがついてるな。」
前方の建物を見て、正津が言った。
「診療所の方向ですね。先に来ている人間がいるということなんでしょう。」
先客がいるかもしれない、その可能性も頭の片隅に入っていた正津だったが、現実に先客がいることを知り、果たして行くべきかどうか足を止めて迷う。暗い街灯の元、空を見上げると満天の星が見えた。
「見つかったら倒す。だが、薬を探すことが第一目的だ。」
「それでいいんですか?」
無言で正津は首を縦に振った。出会った人間は残らず殺すように言われているが、ある程度、臨機応変に対処するくらいの余裕は持たせてもらえる筈、というか持たせろ、と心の中で悪態をつく。
「行くか。見つからないよう端っこ歩いていくぞ。」
「すごい気休めですね、それ。」
「言うな、気休めだってことくらいわかっている。」
悪態をつきたい対象はそれこそ星の数ほどにあったが、正津はもう何も考えないことにした。目の前の事態に集中する。なるべく建物から死角になるように壁際をすすむ。野田は建物を注視しながら、正津は周囲を警戒しながら建物に近づく。
診療所を囲む壁に隠れながら行く彼らにとって不幸だったのは、その建物の二階に人がいたことだろう。二階で人影が揺れ、暢気にぴょんぴょん跳ねながら、こちらに大きく手を振る。
「見つかった…」
先に気がついたのは野田だった。P90を構え、誰かはわからないが二階の人影に銃口を向けて何度も引き金を引く。当たったのか外したのか、ここからではよくわからない。応戦するのか、建物から銃声が何発か応答し、そして明かりが消えた。
「仕方ない、踏み込んで制圧する。」
「は、はい。」
正津に引き摺られるように野田も続く。中に誰がいるんだろうと、そんな疑問が野田の頭に浮かんだ。正津さんは、それが気にならないのだろうか?移籍して間もない人は楽だよな、忘れようとしていた不平が心で小さく音をたてた。正津はためらわず建物に踏み込む。
「二階にいるぞ、そっち見張っててくれ。」
「はい。」
正津は階段を用心深く登っていく。踊り場の向こうに消えたとき、エレベーターの唸りが聞こえた。
見ると、エレベーターが作動し二階から一階へと降りてくるようだ。P90を構える。さっきみたいにタタタン、タタタンとやればいいんだよなと復習する。カーゴが下りてくる数秒がやたら長く感じる。そしてカーゴがおりてくる。
目を閉じ、顔を背けて引き金をひく。硝煙の臭いと、重い反動が銃を支えている肩にかかる。破壊音と発砲音の不協和音に野田は耳を塞ぎたくなった。銃弾を受けて、ガラスは割れ扉にも無残な穴がいくつも空いた。
おそるおそる顔を正面に向けると、カーゴの中は無人で、ただ哀れに撃ち壊されたエレベーターがあるだけだった。
「はめられた…?」
開いた扉の中に誰もいなかったことに、野田はほっとしたような気もした。額の汗を拭い、壁にもたれかかり呼吸を整えると階段の上から声が掛かった。正津だ。その瞬間、自分のやらかしたへまに、申し訳ない気持ちになった。
「非常階段から逃げたようだ。」
「すいません、つい。」
「気にするな、それより追い詰めるぞ。まだ遠くには行ってないだろう。」
正津が率先して前に出る。安全を確認した正津がついて来いと手を挙げる。野田がそれに続こうと非常口を跨いだときにまた別の人間の声が響く。
「浩輔さん!」
この声は…野田は青ざめる。
「やっぱり、浩輔さんだ。俺です、義人です。今そっち行きます。」
「来るな、来てはいけない。」
叫んだつもりだったが、まったく声が出ていなかった。それに気付きさえしなかった。
「あ、ああああ、」
悲鳴をあげていた。悲鳴と一緒にP90が死の詩を高らかに吟じる。聞きたくない、見たくない、何も、何も。
「やめてくれ、もうやめてくれ!」
叫びながら引き金を引き続ける。引き金がカチンと軽い金属音をたてて弾切れを知らせる。それでも引き金を引き続けた。
「浩輔さん、どうして!」
石井義が叫ぶ。悲痛な響きが木霊する。
「どうして俺を撃つんだよ!」
「そこ!」
「あぶねっ…」
後方での銃声に引き返した正津が野田の弾切れを見て取って拳銃でバックアップする。貝塚が棒立ちになっている石井義を引き倒すのとほぼ同時だった。さっきまで石井義が居た空間を鉛の弾が通過し、そのまま壁にめり込んだ。
「弾込めろ、早く!」
正津が野田に怒鳴った。だが、野田は完全に放心状態だった。正津は舌打ちする。これは駄目だ、俺1人で仕留めないと。
裏口で鉄扉を押し開ける、錆びた金属音がした。一瞬振り返るが諦めて目の前の石井義と貝塚を片付けることを優先する。野田が働いてくれれば両方仕留められたかもしれないが、贅沢は言わないことにする。
「逃がすわけにはいかないんだ。」
正津が鬼の形相で叫ぶ。姿勢を低くして逃げようとしている貝塚と石井義を撃つ。貝塚の脇腹に命中し倒れる。それを見て一瞬逃げるのを躊躇い、石井義は戻ろうとして動きが止まる。狙って撃ったが、貝塚が体で庇い、さらに背中に二発の銃弾が吸い込まれる。
「あと1人!」
もう一度逃げようとする石井義を狙うが、動く標的に狙いは逸れて床に当てた。すぐにその背中は見えなくなる。追いかけようと数歩走ったが、気力も体力も限界だった。床に片膝をつき、石井義が消えていった出口の方角を眺めて悪態をつく。
「足自体は遅くないんだよな、判断力が足りないだけで。」
野田の状態を心配になり振り返ると、野田は放心状態で正津と同じように石井義が逃げて行ったほうを見つめたまま突っ立っていた。
(これが普通の反応だろうな。だが、家族だけは守りたい、なんとしても。その為に、その為に俺はライオンズの仲間を撃つ。今日も、明日も。俺の命がある限り。)
無力な自分と卑怯な主催者への逃げ場の無い憤りに、振り仰いだ色気のない天井と蛍光灯は少し歪んで見える。目を閉じて鼻から勢いよく空気を吸い込むと血と硝煙の匂いが鼻腔を満たした。ふう、と大きく息を吐き、その戦場の匂いを追い出した。
「野田、撃てないか?」
「すみません…ジャッキに会うとは思っていませんでした。」
「わかった、次に会う事があれば俺がやろう。どうしても撃てない相手はいるだろう。」
「すみません。」
よくも落ち着いていられる。正津の態度に野田の心にはっきりと苛立ちが湧き上がる。少しばかり皮肉さと棘を感じさせる言葉が野田の舌を動かした。
「正津さんは、平気なんですね。」
「平気ではないよ。だが、お前がジャッキを撃てないように、俺も宮越だけは撃てなかったろうな。だから少しだけ、お前よりは楽かもしれないな。」
「付き合い長そうですからね。」
野田の言葉に隠された棘に正津は気がつかない。今は自身の憤りを抑えるのに精一杯でそこまで注意を払っていないからだったが。
「まあ、ここ数年はファームで一緒だったからね。性格の良い奴だった。温和で控えめな気性、およそ荒事には向かない男だった。だから…」
いい奴は早死にすると言うけれど、彼はまさしくそうだった。喉の奥が痛い。俺は泣きたいのだろう。だが、今はまだ泣けない。泣く前にしなければならないことが山ほどある。何のはなむけにもならないけれど、正津はもう死んでしまった後輩に別れの言葉を寄せた。
「だから、ある意味、早く死んだことは彼にとってむしろ幸せだったんじゃないかと思う。この島で生き延びるには、彼は優しすぎた。」
撃たれてリノリュームの床に這いつくばっている貝塚の傍に近寄る。うつ伏せの体から無理やり防弾ジャケットを剥ぎ取る。痛みに呻く声が聞こえたが聞かなかったふりをする。
「野田、着られるか?」
血に汚れたその防弾ジャケットは、野田をひるませるのに充分だった。
「無理です。」
「落ち着いたら着るんだ。無いよりマシだ。」
背中に5.7×28mmの弾が貫通した痕が残っている。防弾ジャケットでも撃ち抜けるように開発された弾と、それを運用する為の短機関銃とそれと対の拳銃であることを、彼らは既に知らされている。
目当ての調剤室に、抗鬱剤、抗不安剤、どれが良いかははっきりわからないが、とりあえず今の野田に効きそうな名前をつけられているのを集める。おそらく作為的に置いておかれているのだろう。
(いいさ。意図を探る必要はない。俺達は殺しのための道具だ。道具は何も苦しまない。良く切れるはさみ、それと同様の存在、それでいいんだ。)
無理やり自分を納得させるための言い訳は、正津の自尊心と引き換えに、自責の念を軽くしたかもしれない。
「表から出よう。ここにもう用はない。」
ここは血の匂いがきつい。野田は精神的に参っているようだし、正津自身も今すぐここに座り込みたい程の疲労感に立っているのがやっと、という状態だった。
それに、取り逃がした連中――誰だったのかとうとうわからなかったが――が戻ってくる可能性もあり危険だった。相手は丸腰ではなかったし、生き残ることを優先させても問題ないだろう。方針が決まり、痛みに再び意識を失い倒れている貝塚を一瞥する。
「仕方ないんだ、わかってくれ。」
呻きは正津自身に言い聞かせるためのものだったのだろうか。
【残り42名】
51.報い
石井義と貝塚が診療所についたときには、中から既に派手な音が聞こえていた。
「入るのか?」
「うーん、どうしましょうねえ。」
首を捻り、ほんの5秒ほど考えたあと、すたすた歩き出しながら振り向くと軽い調子で貝塚に告げる。
「ちょっと覗いてみましょう。大丈夫ですよ、多分。」
その根拠のない自信は一体どこから湧いているのか、余裕があれば問い詰めたいところだが、貝塚のそんな思惑など露知らず、石井義はかなり無警戒に中に入る。銃を振り回しているのはどうやら奥のほうらしい。誰が撃ち合っているのだろうか?
「おい、ちょっと待て、せめて足音を忍ばせるとか、隠れながら進むくらい気をつけても…」
貝塚の、ごく常識的な危惧は石井義に聞こえていなかった。奥の扉から外に出ようとしているそのがっしりした男の姿をとらえて、とても嬉しそうな顔をして叫んだ。
「浩輔さん!」
野田は振り向いた。その、怯えたような様子に貝塚は嫌な予感がした。
「やっぱり、浩輔さんだ。俺です、義人です。今そっち行きます。」
そんな野田の様子にまったく気付かす、石井義は野田に近付こうと歩き始める。野田の動きを注視していた貝塚だけが、野田が口を動かし何かを呟き、そして右手に抱えられた奇妙な形の銃を向けるのを見た。
「伏せろ!」
貝塚は叫んで石井義の後ろから体当たりする勢いで地面に伏せさせる。体当たりを食らってバランスを崩して石井義は倒れる。野田が、狙いもつけずに放った銃弾は付近の壁にめり込んだ。
フルオート射撃で弾はすぐに撃ち尽くし、空になった弾倉を交換する様子はなく、ただ引き金をカチカチと引いている。撃たれた怒りと驚きで、石井義は貝塚を振り払うように立ち上がる。
「浩輔さん、どうして!」
怒りによってか、驚きによってか、感情のままに野田に詰め寄ろうとする。
「どうして俺を撃つんだよ!」
「そこ!」
「あぶねっ…」
非常口の向こうから現れた正津が、パニック状態に陥っている野田を柱の陰に引き込み、そして拳銃で応戦する。再び貝塚が棒立ちになっている石井義を引き倒す。銃弾が空間を通過し、付近の壁にめり込んだ。
「弾込めろ、早く!」
正津が野田に怒鳴る。
「逃げるぞ!」
貝塚が石井義に怒鳴る。
「浩輔さんが。」
「今は無理だ、先に行け。」
貝塚の剣幕に圧され、石井義は踵を反し出口へ走る。
「逃がすわけにはいかないんだ。」
正津が叫び、銃声が空間を満たす。
「ぐっ…おおおお…」
「貝塚さん!」
呻いて貝塚がリノリュームの床に両膝と左手をつく。右手で撃たれた脇腹を押さえる。傷を押さえた右手に血がにじみ、指の間から一筋赤い線が流れた。撃たれたんだ。石井義は手を差し伸べて、倒れた貝塚を起こそうとする。
「しっかりしてください、逃げましょう。」
「無理だ、1人で行け。」
さらに後ろから止めとばかりに撃ってくる。貝塚は自分の体を盾に射線を塞ぐ。今度は二発、広い背中に命中する。生暖かい血の飛沫が一滴、石井義の頬に飛んだ。
「どうして。」
「いいから、さっさと行けよ。」
「ごめん…!ごめんなさい貝塚さん。」
泣きながら踵を返し走る。
「あと1人!」
正津の叫びが後ろから聞こえ、貝塚を殺した音がそれに唱和する。石井義は独り、振り返ることなく走った。いいからさっさと行け、その言葉だけが彼を動かしていた。
どこをどう走ったのかよく覚えていない。気がつくと肩で息をし、いずことも知れぬ場所で壁にもたれて呼吸を整えていた。左腕がじくじくと痛む。見ると、上腕部を銃弾が掠めたのか薄く肉が抉られていた。
「かすり傷だけど…痛え。」
右手の銃を置くとその場に座り、簡単に手当てをする。不器用にまいたタオルに薄く血の色が滲む。嫌なものを見たように眉をひそめ顔をそむけると、丁度、電柱に掲げた広告の看板が目に入る。広告は診療所の方向を示していた。思い出させる。
「戻ろう。」
広告を睨んでかなり躊躇ったあと、それでも様子を見に、石井義は広告の示す矢印の方角へと進む。やがて診療所の明かりが見えてきた。
(見たくない。俺がいかに失敗したかなんて、見たくない。)
明かりが来訪者を差し招く玄関で、恐れに立ち止まり固まってしまう。
「行こう、貝塚さんが待ってる。」
独り言を残して診療所の中に戻る。銃撃戦が行われた痕跡がありありと残る廊下の端で、無言で貝塚は待っていた。膝をついて死に顔を確認する。穏やかな表情をしているのがせめてもの慰めだった。銃で撃たれた痕が背中に残っている。それが、致命傷だったのだろう。
「防弾ジャケットって、ちっとも効いてないじゃんか。いい加減な物渡しやがって…」
貝塚の遺体の傍に煙草がひとつ置いてあった。これを置いていった誰かが看取ったということなのだろう。隣に座る。うつむいた、その両目からぽたぽたと涙がこぼれ、貝塚の死に顔の上で撥ねた。
「ごめん、ごめんなさい、貝塚さん。俺が、悪かったんだ。俺があの時油断したから。」
貝塚の遺体の隣で、膝を抱えて座り込みうなだれたまま、一体どれだけの時間座っていたのだろう。だがやがて立ち上がり呟く。明らかな怒りと殺意が石井義の目に宿っている。
「あいつら許さねえ。殺す。」
【残り42名】
連続投稿乙です。
それぞれの目線から見た診療所戦は、なんだかより残酷ですね。
誰も彼も悪意の一撃じゃないだけに、貝塚の死が居た堪れない気持ちにさせる。
野田……お前は心が優しすぎるんだよ。もちっと我が強きゃ十分一軍でやってけるのに。
職人様方いつも乙です。
51.報い まで保管しました。
この診療所戦といい、皆完全に非情になりきれてないのが
猫の選手らしくていいですね。
なんとかゲームを打破して少しでも多くの選手が生き残ってくれたらいい…・゚・(つД`)・゚・
スレが450KBを超えていますね……残り容量に気をつけつつ保守しなければ。
656 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/13(火) 11:01:10 ID:hHsa1KbdO
職人の方、お疲れさまです。
あぁ義人はどうなるんだろ?
ところで保管庫見るにはどうすればいいんですか?携帯の為、見つからなくて。お願いします!
職人様、乙です。
それぞれの目線からの話は新鮮でしたね
でもそれゆえに彼等の錯綜する想いが辛いです
一体何が正しいのか…
658
すみません!やっぱり見られないみたいです。
お忙しい中、手間をかけて頂き有難うございました。
>>659 保管庫さんを差し置いて説明するものどうかと思うんですが
携帯からだとフレームページは見れないので保管庫さんが書いたアドレスに
『menu.html』を足せばメニューページが見れますよ
保管庫さんごめんなさい
職人様連投乙でした、超GJです!!
揚げ足を取るような事を言ってしまってすみませんでした(
>>644)
野田と義人が出会ったら((((;゚д゚)))ガクガクブルブル
52.殺意の理解
「ごめんください」
玄関の引き戸を開ける音に続いて、念のために言ってみたといった風情の小さな声がした。「お邪魔します」と続けられた声が屋内に踏み込んでくる。
声も足音も一つだ。
(どうする?)
足音は玄関から廊下、応接間へと移動している。特に見る物もない部屋だ。この台所に来るのは時間の問題だ。
隠れてしまった事を高山は後悔した。訪問を告げる声に応えればよかった。出て行くタイミングを失い、ただ足音の位置を探る事に集中する。
「あれ……煙草臭い?」
書斎に入った足音が呟く。
高まる鼓動を宥めようとゆっくりと息を吐き出し、耳を澄ませた。
誰の声だろうか?記憶を探るが顰められた声のためか、いまいちピンとこない。
先刻の放送では死者は9人。当たり前に考えても殺人者となった仲間も2,3人では済まない。赤田らと砂浜で怪しいと名前を挙げた仲間の顔や声を思い浮かべてみる。誰もが疑わしく思えた。この足音の主はそのうちの誰かだろうか。
ルールより仲間を信じる、そう言い切ってしまえればどんなにか楽だろう。
――そして信じた仲間に殺されるのか?
(俺は生きたい)
だから殺さなくてはならない。
ショットガンを引き寄せ、操作手順を思い起こす。そう複雑な事ではない。二本の腕に、その指先に実行を命じようとして高山は大きく身震いした。寒さのせいにしたかったが、違うことは自分が一番良く分かる。これは武者震いだと自分に言い聞かせる。
相手がどんな武器を持っているのか分からない。台所の入り口に姿を現したなら、即座に撃ってしまえばいい。だが、できれば撃ちたくない。まして赤田のように敵意も殺意も無く、武器も持たない相手だったとしたら?
それでも自分は撃てるだろうか?だが、確認している余裕があるとは限らない。相手が問答無用で攻撃してきたら手遅れだ。
仲間を殺して生き残る――それがこの島のルール。そう言い切ってしまえればどんなにか楽だろう。
どれほど残酷で理不尽なルールであっても、ここで生きるためには従うしかない。
(撃つんだ)
更に強く自分自身に命じる。それでも震えは止まらない。ショットガンを握る掌に汗が滲みはじめた。背中にも額にもそれを感じる。自身の呼吸音がたいして広くも無い台所を満たし、耳を聾するように圧迫する。
(……駄目だ)
ルールだからという理由では到底、払拭しえない、人を殺す事への抵抗を自覚する。
固くショットガンを握りしめていた手を片方づつ解きほぐし、掌の汗をズボンに擦りつけた。
殺人者は確実に増えている。自分が何もしなくても勝手に殺し合ってくれる。
出来る限り仲間との接触は避け、名簿に増えていく×印を数えていく。ここで生きるためには、卑怯であってもそれが最良の策――。それに銃声を聞きつけて誰かが来るかもしれない。危険は避けるべきだ。
そう思い直し、自分に言い聞かせれば耳障りだった鼓動も呼吸音も気にならなくなってきた。
目を閉じ、ひとつゆっくりと大きく息を吐き出す。
割り切れない後ろめたいような思いが吐き出しきれず胸にわだかまったままだが、仕方がない。
足音はまだ書斎の中を歩き回っている。
今ならまだ気付かれずにここを出て行ける。
目を開けると、音を立てないようにそっと勝手口のドアを開ける。
慎重に動いたつもりだったが、気が急いていたのだろう。ドアの縁に当たった銃身が硬い音を立てた。
「誰かおるんか?」
しまったと、思った時には足音が誰何の声を投げ掛け、こちらに近づいて来る。
慌てて勝手口を通り抜けようとした時、本堂の陰からのっそりと姿を現した誰かと目が合った。ドアを開けかけた姿勢のまま動けない。
「監督……」
呼び掛けた訳ではなかったが、伊東はこちらに近づいて来る。右手にぶら下げているバットが、冗談のような形状をしている事が、ひどく気になった。ねじくれた釘が無数に打ち込まれ、その頭や先端が飛び出している。
身体が勝手に後退った。
「キュー?煙草吸ったのお前か?」
背後から掛けられる声の主が田原だと認識した時には、伊東はもう目の前にいた。煙草という単語に反応した伊東の視線が突き刺さるように鋭く、単純に恐い。山道で気の立った熊と対峙している自分がイメージされるのは何故だろう。
関心を惹く物を置いて、その隙に逃げる?それとも死んだ振り?いくつかの対処法が一瞬にして頭を過ぎる。次の瞬間、高山は一も二もなく煙草とライターを差し出していた。
「ひと休みしましょうか?」
硬直してしまった高山をみかねたらしい田原の声がした。
早くも勝手口で一服つけ始めた伊東に「向こうで高山と話してきます」と告げた田原に促され、本堂の前に移動した。
「こんばんは。驚かせて、悪かったね」
「……こんばんは」
ごく当たり前の挨拶は今更なタイミングだったが、交わしてみると少しだが落ち着きを取り戻す効果があった。
それでも逃げ損ねた気まずさと、未だに収まらない動悸を誤魔化そうと、口調がぶっきらぼうになったが、田原は気にした風も無く、一人なのかと尋ねてきた。
黙って頷いた高山をしばらく見つめ、どう扱ったものかと、思案しているようだったが、やがてぎこちなく「もう、行きなよ」と促してきた。
話をすると言ったにも関わらず、それきり口を閉ざした田原の表情には、星明りがあるとはいえ暗闇に溶け込み分かり難くはあったが、憔悴と緊張が滲んでいるようだ。
言われるままに立ち去っても良かったが、敵意のない仲間と出会える機会がこの先も訪れるとは限らない。情報交換をするだけでもお互い損にはならない筈だ。
何よりも田原が伊東と行動を共にしているらしい事が気になったが、余裕の感じられない田原に単刀直入に訊くことは憚られ、とりあえず煙草を勧めてみた。
「吸いますか?」
「火、あるのか?」
「うっ……」
赤田から譲って貰ったライターは一つきりで、それを伊東に渡してしまっていた。後で返して貰おうかと、尋ねる田原に「いいです」と首を振った。
「煙草なんてどうした?」
先程の高山の狼狽振りを思い出したのか、田原は微かに表情を緩めた。
手に入れた経緯を含め、ホテルを出てからのことを高山は語った。
三人の死体を見たと話すと痛ましげに目を伏せ、赤田達と出会いそして別れてきた経緯を聞くと表情を曇らせ、何か言いたそうな眼差しで高山を見据えた。
それは理解し共感しつつも、決してそれを認めて共にうなずく事が出来ないような、同じ場所にいながらひどく遠く離れた位置にそれぞれ立っているような、哀しい眼差しだった。
「そうか……大変だったな」
一度、帽子を被り直して視線を外し、ただそれだけを呟くと、しげしげと高山が持つショットガンを眺めていたが、「ああ、そうだ」と自分のカバンに手を入れた。
「寒いから助かるけど。武器じゃないよなぁ、コレ――十個もあるから、半分持っていくか?火は点けられんけどね」
取り出した使い捨てカイロを高山に手渡すと「じゃあ、またな」と伊東のいる方に向かおうとする田原を呼び止めた。まだ肝心な事を訊いていない。
「どうして監督と一緒なんですか?」
行きかけた足を止めた田原が答えるまでには考え込むような間があった。しかし、その間が何を意味しているかまではわからない。
「成り行き――かな?ついてくるなとも言われんしね。あとは勘みたいなものだけど、監督をひとりにせんほうがエエような気がするから、かな?」
その納得のいく理屈が見当たらない返答を聞いて、高山はわずかに顔を顰め、問いを重ねる。
「監督を信じているんですか?」
田原の目が意外そうに高山に向けられて、ゆっくりと微笑しながら、いきなりだな、と言った。
「ここでは大事な事でしょう?」
そうか?と呟き、田原は首を傾げた。
答えを考えているようにも、予想外の事を訊かれて戸惑っているようにも取れるような表情だった。事実、田原はゆっくりと言ったのである。
「どちらかというと……俺のことを信じてもらえているのかどうか、よく分からんくてな」
高山は相手に気付かれないようにそっと息を吐き、まじまじとその顔を見つめた。人が良いを通り越して、物好きとしか言いようがない。
「そんな曖昧なことで、よく一緒にいられますね」
非難めいた口調になる。
「監督なら殺さないとでも思っているんですか?ここでは――仲間を殺して……生き残らないといけないんですよ……。さっきの放送を聴いたでしょう?もう殺された人だって沢山いる。殺した人も……俺は――」
言いながらも、心の乱れを痛いほど意識してしまい、強引に口を閉ざし、荒らげかけた声を封じる。反動で乱れた呼吸を整えようと意識しながら、この島のルールを肯定することも否定することも出来ない不甲斐無さを自覚する。
これ以上、口を開けば泣き言になる。そしてきっとそれを誤魔化そうと罵倒や悪態をつくことになるになる。それをしたら、自分自身を貶めてしまう気がする。
それでも態度に隠し切れない刺々しさが滲む高山を咎めるでもなく、独り言のように田原が伊東のいる筈の方向に視線を向け、呟く。
「困ったな。なんだか心配になってきた」
今頃、何を言い出すんだ。田原の認識の甘さを笑ってしまいたい。意見の相違では済まない隔たりを感じた。
「――もう、いきます」
貰ったカイロをカバンに押し込み、ショットガンを担ぎ、踵を返しかける。
「高山」
今度は田原が呼び止め、問いを発する。
「こうしたいって思うことあるだろ?これはしたくないでもいいけど……こうしなくてはいけないじゃなくて」
その真摯な口調を無視できず、肩に担いだショットガンを下ろしながら答えた。
「それは……生きて帰りたい。殺したくない――。コレだって、出来れば撃ちたくはないです」
一呼吸置き、田原に向き直る。
「でも、いざその時がきたら――」
「撃たなならんよね」
高山の言葉尻を引き継いだ田原に肯こうとして、呆気に取られた。ただ驚愕を持ってそれを見つめる。
「玩具みたいやろ」
田原の手には小さな銃が握りこまれていた。そして銃口は高山の胸部を狙い、動かない。動かないまま、距離を詰められた。
「そんな……だって、武器は――」
混乱と恐怖に声が上擦る。
「いろいろあってね」
不自然なほどに落ち着いた声音は、決意を感じさせる。これが殺意というものなのだろうか。急に氷塊が背中を滑り落ちた気がした。
ショットガンの銃身を握る手に力を込めるが、気圧され動けない。それにきっと、どう動いても田原が銃爪をひく方がはやい。
「そんなん持っとっても、お前は撃てない。殺せない」
断定に近い田原の指摘に、図星をさされる。
動揺を隠そうと、顎が震えるほど奥歯を噛み締め、田原を睨みつける。
「そんなことは……」
「先刻やて、待ち伏せ、出来たやろ?」
無表情に語尾をさらい、続ける。
「必要に迫られたからといっても、やれん奴はやれん――そういう処を大切にしてもいいと思うよ。信じるべきは仲間でもルールでもなく、自分自身や。自分をあきらめたらあかんよ」
困惑しながら、田原の意図を汲み取ろうと観察したが、言葉以上のものは引き出せそうにない。田原――いや、薄闇の中に立っているのは田原ではなく、高山を殺そうとするものだ。それが痛いほどに伝わってくる。しかしながら、それがどうしてなのかは皆目見当がつかなかった。
わけのわからない田原の言動をはねのけようと、食いしばった歯の間から、すり潰すように言葉を押し出す。
「……綺麗事です」
「言っておいてなんだが、俺もそう思うよ」
高山の返答を見越していたのか、さも当然のように言う。
「俺かて、こんなん持つのは初めてやからね。その気になって抵抗すればエエ勝負かもよ?負けるのイヤやろ?」
言葉の内容は挑発そのものだが、何の凄みも感じられない、威圧するわけでもない、単なる事実を伝える口調だった。それが逆に不気味で、恐ろしくて、高山は声を失う。
追い詰められた思考が勘を働かせる。求められているのは、なにがしかの答え――それは……。
「でもこの距離やから、俺の勝ちやな」
続けられた言葉が時間切れを告げる。
(殺される)
高山は観念して固く目を閉じ、その時を待った。
「いきや」
突然、肩を掴まれ、回れ右させられる。
「……なんで殺さないんです」
「出来れば、撃ちたくない、殺したくない――それは俺も同じだよ」
振り向こうとする高山の背中に固い感触が押し付けられた。
「撃たさんといてくれるよな?」
なんども頭を上下させる高山に「出口、あっちな」と声が掛かる。
「ルールなんてクソ喰らえ、そう思うとき」
困惑も安堵もする暇もなく、似合わぬ科白と捕手らしい大きな掌に背中を叩かれ、走り出した。
【残り42名】
職人さん乙です。
撃ち合いにならなくて良かった…
携帯で見れないのか……残念…
669 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/15(木) 10:54:19 ID:XVa6dLwuO
職人の方、お疲れさまです!毎回楽しみににしてます!
660
有難うございます!見られました。
保管庫の方、待ち受けなど充実していて驚きました!
>>669 嬉しいのはわかったが
まあもちつけ。
とりあえずsageようや。
…すみません。
ずんどこ
きよし………
ほ
あ
職人様方乙です。
52.殺意の理解 まで保管しました。
http://web-box.jp/lions_br/m/ それと、前から考えてはいた携帯用保管庫をようやく作りました。
>>668>>669 のような方もこれで少しは見やすくなったかと思われます。
ただ、名簿がまだPC版と同じ(SS使っていないので余計見づらい)です…モウシワケナイ
携帯用保管庫について、何かありましたらメールや掲示板等でご自由に仰ってください。
自分は携帯でネットをしないので、実際に見る方の意見があれば助かります。
スレ立て乙です。ありがとうございました。
職人の皆様
保管庫さん
毎度乙です m(__)m
保管庫さん、携帯で見られるようにして頂いて汲ナす。
職人様、高山の動向が非常に気になります。。
仙台、12月1日午後4時
これは俺、福井強の25年の人生での仙台の一度目の冬。吐く息の白さを眺めると、実際以上に寒く感じちゃって、コートの襟を立てて、丸くなった頬を埋めてる。引退してからやっぱり太ったなあって鏡を見ると思うんだ。このぷよぷよ感あふれるほっぺたとか特に。
仙台の寒さ、これがまた所沢とは違った寒さなんだ。仙台は風が冷たい。所沢は、空気が冷たかった。どう違うのって言われるとちょっと困るんだけど、底冷えするってこういうことか、って寒さ。もしかしたら、こっちのほうが住みよいかと思うくらい。
まあそんなこんなで俺は去年、とうとうライオンズを自由契約、まあぶっちゃけて言えば解雇されちゃって、結局二軍で俺の4年間のプロ生活は終了、そんでもって新しい球団に打撃投手で雇われて、一応野球の周辺で生きている俺。まあ、それなりに幸せなのかも。寒いけど。
なお今年の東北楽天ゴールデンイーグルス、しかし長いね、この正式名称。そう、イーグルスの成績は、予想済みとはいえ、ぶっちぎりの最下位。打てない、守れないじゃ勝てないやね。
ところが傍から見てる分には気楽なもんで、俺のほうがもっといい球投げてやるぜ、なんて大それたことを思ったりもする。
チャンスがあったら、プロに戻りたいのかなあ?もしかしたらちょっとだけ、ちょっとだけ未練があるのかもしれない。
アホやなあ、もう。そう思うけど、まあええやん、それくらい自惚れたって。
正月は実家に戻るつもり。大阪はここよりは随分暖かいはずだから。今年は記録的に寒いって言ってるけど、まあかわいいもんでしょ?仙台に比べれば。
ああそうだ、年賀状出さないと。ライオンズ時代に仲良くしてた奴の分もあるから、今年は多くなりそうだね。皆元気にしてるんかなあ?付き合い長い奴もいたけど、ま、元気に決まってるよな。
新スレ立ちましたのでオマケってことでひとつ書いてみました。
オマケなんで章番号等々はつけておりません。
682 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/06/18(日) 20:11:05 ID:m4Y7bSBn0
test
保守
ほ
しゅ
上本
捕手しとく
hosyu
あ
a
スレ2個も保守るの大変だなあ保守
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