千葉マリーンズバトルロワイアル第11章

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1代打名無し@実況は実況板で
2代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 20:51:26 ID:MuPr7xqF0
立てれてしまった。
テンプレ解らないが適当に

各球団バトロワ保管庫

讀賣巨人軍バトルロワイアル
ttp://www.geocities.co.jp/Athlete-Crete/5499/
横浜ベイスターズバトルロワイアル
ttp://www003.upp.so-net.ne.jp/takonori/
広島東洋カープバトルロワイアル
ttp://brm64.s12.xrea.com/
中日ドラゴンズバトルロワイアル
ttp://dra-btr.hoops.jp/ (2001年版保管サイト)
ttp://dragons-br.hoops.ne.jp/ (2001年版・2002年版保管サイト)
ttp://mypage.naver.co.jp/drabr2/ (2002年版保管サイト)
ttp://cdbr2.at.infoseek.co.jp/ (中日ドラゴンズバトルロワイアル2 第三保管庫)
ttp://cdbr2004.hp.infoseek.co.jp/ (2004年版)
阪神タイガースバトルロワイアル
ttp://kobe.cool.ne.jp/htbr/
ttp://homepage2.nifty.com/sorasouyo/ (旧虎バト保管庫・若虎BR紅白戦進行中)
千葉マリーンズ・バトルロワイアル
ttp://www.age.cx/~marines/cmbr/
ヤクルトスワローズバトルロワイアル
ttp://f56.aaa.livedoor.jp/~swbr/
3代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 20:51:47 ID:bmbNF3YY0
らくらく2get。
4代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 20:52:28 ID:MuPr7xqF0
プロ野球12球団オールスターバトルロワイヤル
ttp://www.geocities.jp/allstar12br/
福岡ダイエーホークスバトルロワイアル
ttp://www3.to/fdh-br/ (s氏作)
ソフトバンクホークスバトルロワイアル
ttp://sbh.kill.jp/
アテネ五輪日本代表バトルロワイアル
ttp://athensbr.fc2web.com/
東北楽天ゴールデンイーグルスバトルロワイアル
ttp://www.geocities.jp/trgebr/
5代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 20:55:48 ID:nm2zFPuV0
薬物野球崩壊だな。
6代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 21:16:43 ID:dnKEGB/vO
マリーンズキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
そんな漏れは阪神ファン。
これの初芝テワラロス
続き、続き!!とっとと(ry)
7代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 21:27:11 ID:RlF7Xy4S0
>>1
乙!保守しますよ。
8風を巻いて(1/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/01(火) 21:45:11 ID:y/ayCY0V0
 ヘリは風を巻いてマウンドの上に降り立った。
薮田安彦はその様子を呆然と見つめている。
今、目の前で展開された光景が現実のことのように思えなかった。
いや、むしろ夢であればいいと思った。最初から最後まで、人生で一番怖かった悪夢であれば。

ヘリのプロペラの動きがゆっくりと停止していき、最後にピタリと止まる。
「HAHAHAHAHAHA!」
変わりに耳をつんざくような笑い声。それはいつもと変わらない、甲高い陽気なあの声で。
ボビー・バレンタインが満面の笑みを浮かべて、ヘリからグラウンドへと降り立った。
困惑する薮田や愛甲、それに兵士達。ただ一人、落ち着いた様子で筒井良紀が切り出す。
「お待ちしておりました」
「サンキュー」
礼をする筒井を制して、バレンタインは両手を腰に当て胸を張った。
目線の先には薮田がいる。鳩が豆鉄砲を食らったような顔を見て、軽くウィンクをする。
薮田の表情がハッとなった。
「なんや、ボビー。なんで、こんなとこに……」
暗闇の中、手探りで何かを探すような顔の薮田。心が定まらないようだった。
「HAHAHAHAMANA! カントクデース。Chiba marines battle royaleノ、カントクデース」
「新しい監督て……あんたまで、あんたまでこんな……っ!?」
薮田の叫びがかすれて消えた。
ニコニコと表情を変えないバレンタイン、彼の日本語のヒアリングは完璧なはずだ。
「その通り、彼が新しい千葉マリーンズ・バトルロワイアル監督、ボビー・バレンタインだ。
 そして合併後の新チームの監督でもある」
横から筒井が口を挟んだ。
「新チーム……ホークスとウチの合併。そんなことを本気で考えてはるんですか?
 今の、このマリーンズで優勝できるって言うたのはボビー、あんたやないか!
 なんでや! なんでそないな酷い計画にみんな乗れるんや!?」
薮田が問い詰める。怒りと悲しみと、色んな感情が渦巻いてわけがわからなかった。
ただ止められない衝動が彼を突き抜けていく。その声はスタジアムに響き渡った。
やや下向き気味にその叫びを聞いていたバレンタインは、こだまが消えるのを待つかのように顔を上げた。
「ソノチームハ、イチバンデスネー……」
「は?」
9風を巻いて(2/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/01(火) 21:45:40 ID:y/ayCY0V0
「"ユウショウ"。 Winner,champion. カントクトシテノ、ワタシノユメデス。
 ソレニハ、ガペーイシタ、ツヨイチームガイイ。ソウ……ソノチームガッ、イチバンデース!
 HAHAHA! スバーラシーデースネー」
人差し指を立てた手をかざし、そう叫ぶその男の目の迫力に薮田は一瞬気圧された。
だが、すぐに気を持ち直す。
「ふざけんなや! あんたの都合で、思う通りにはさせん」
「マア、オチツイテ。ヤブタ、アー……」
バレンタインが言葉に詰まる。ヘリの中を見て誰かに来いと合図をした。
スラッとした背広姿の男がヘリから出てくる。大柄ではないが、体つきはしっかりしている。
「Shun,now speaking to Yabuta,so――」
英語で話し出したバレンタインの言葉を、一つ一つ噛み砕くようにうなずきながら耳を傾ける。
専属通訳の中曽根俊であった。バレンタインの言葉が終わると、彼は薮田の方を向く。
「薮田、落ち着きなさい。君が何も抵抗しないと言うなら、君の生命と新チームへの参加を約束しよう。
 どうだ? 素晴らしい条件だと思うが?」
「中曽根さん! あんたまで!」
「仕事だ」
中曽根は冷たく言い放った。表情を一つも変えないまま、バレンタインの後ろに回る。
「さあ、ボビーの質問に答えるんだ」
「……NOや。あんたら、みんな狂っとる」
それを聞いたバレンタインはまた薮田に向かって話し始める。それを傍らで中曽根が聞く。
バレンタインの言葉、意思を日本語で話し始める。いつも通りの信頼関係で。
「君は必要な戦力だ。だが、考え直してもらえないなら、仕方ないが残念な結果になるだろう」
バレンタインが筒井の方を向いて、薮田たちを指差す。
筒井が合図をして、兵士達が銃を一斉に構える。薮田と愛甲と山本に狙いを定めた。
「どうだ、これでも答えはNOか?」
バレンタインの向こうから中曽根の声が、バレンタイン自身の声となって薮田へ投げかけられる。
薮田が一瞬沈黙した。答えを逡巡している。
後ろには愛甲猛と山本功児がいた。

「遠慮してんじゃねぇ、薮田! 答えは……NOなんだろうが!」
薮田が何か言う前に、後ろで愛甲が叫ぶ。薮田がそちらを振り向いた。
「愛甲さん……」
10風を巻いて(3/5) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/01(火) 21:46:11 ID:y/ayCY0V0
「俺は気を使われるのは嫌いだ! ほら、言ってやれ!」
バレンタインが口笛を吹く。手を叩きながら。
「なんと美しい絆だろう。諸君、拍手しなさい」
筒井と中曽根が拍手をする。
「You,too!」
銃を構えた兵士たちを指差す。慌てて兵士達は銃を小脇に抱えると、弱々しく拍手をする。
それを見て薮田が銃を構えた。筒井やバレンタインの表情が変わる。
「なめんなや。そうや、答えはNOや。全員動くな」
一瞬にして緊張の面持ちになった兵士達。だが、バレンタインだけは余裕の表情を崩さない。

 ククク……。
英語でも日本語でもない、それは余裕と嘲りを含んだ笑い。
「Hey,Take!!」
呼び寄せられ、またヘリの中から人影が飛び出した。
見慣れたユニフォーム。ロッテのものだった。針金のように細身の体。
「お前は?」
背番号65、それは一年前に解雇されたときのまま。
うつむき加減で、ギラギラと光った目がなめるように薮田の方を一瞬見た。
「代田……?」
代田建紀。風の噂に聞いていた。もう一度プロ野球を目指して頑張っていると。
とにかく真面目な男で、とにかく足が速かった。薮田が覚えているのはそれぐらいだ。
痩せぎすだった体は更に細くなり、頬は更にこけていた。目がらんらんと輝いている。
違和感を感じた。以前見た彼と、何か違う雰囲気がある。
一言でいえば、まるで生気を感じないような。
 ふと、何かに気づいたように代田は薮田を見つめた。じぃっと、薮田を見続けている。
「銃を下ろしなさい。彼は私を守るようにできている」
バレンタインがニコニコしなが話し始める。
「できている?」
「その銃がもう少し私のほうを向けば、君の大事な右手が危ないぞ、薮田」
「何を言ってるんや。どっちが有利やと」
銃を持っているのは薮田一人。他の者は全て動けないでいるのだ。
何より代田は銃すら持っていないというのに、バレンタインは余裕を崩さなかった。
11風を巻いて(4/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/01(火) 21:47:37 ID:y/ayCY0V0
「はっ!どうやって守るって言うんだよ!」
後ろから愛甲が割って出る。彼の右手にも銃が構えられている。
その銃口の先は間違いなくバレンタインの額、ただ一点を捉えていた。

その瞬間、代田の姿は消えた。

薮田の目の前から代田が消え去り、いたはずの場所には一陣の風が巻いていた。
風が薮田のすぐ横を吹きぬけた気がした。何かが弾けるような高音。
反射的に振り返る。目の前で、銃を持ったままの愛甲の手首が地面に落ちていった。
「え?」
愛甲が小さく声を上げた。
手首から先は何もない。銃の引き金を人差し指にかけようとした感覚は残っているのに。
「え? え? ええあああっ!?」
やっと事態を把握して愛甲は更に悲鳴を上げた。しかし、まだその原因を把握し切れていないようだった。
血が噴き出る様を、愛甲は呆然と見つめ続ける。
薮田の目に映ったのは、恐怖の表情を浮かべる愛甲の顔と、その向こうに立つ代田の姿だった。
「代田!?」
その手には大きなサバイバルナイフ。しかし血はついていない。
代田が薮田の方を向く。そして再び消える。風が再び薮田の横を吹き抜けた。
「なっ!」
「Here's!」
バレンタインの声に振り向くと、彼の傍らには代田の姿。また一瞬で移動している。
「見たかい。彼の足は速いだろう」
バレンタインが嬉しそうに、戸惑いを隠せない薮田を見る。いたずらっ子のようだった。
「足が速いて、んな……人間の速さやない!」
「だが、愛甲をそんな目にあわせたのは現に代田なのだよ。彼は私の思い通りに動く。
 そしてある方法で、彼の持つポテンシャルを最大限に発揮させることができている」
依然として信じられないといった顔の薮田が立ち尽くしていた。
愛甲は右腕を抱えてうずくまっている。苦悶の表情を浮かべて。
「そうそう、代田がどうしても会いたい人がいるそうだ」
代田が歩き出す。ごく普通のスピードで。
足を止めたのは、さっきからずっと頭を抱えている山本功児の前だった。
12風を巻いて(5/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/01(火) 21:48:36 ID:y/ayCY0V0
「へ?」
呆けていた山本の前で、代田がナイフを振り上げる。
「お、お、お、待て待て待て!」
山本が四つん這いのまま逃げる。ナイフが振り下ろされたが、空振りだった。
「彼は試合中に足を骨折したのに解雇された。そのせいでトライアウトすら受けられなかった。
 ずいぶん君を恨んでいるようだよ」
「ちょっと待て!あれは俺のせいじゃない! お、俺だって、クビになったんだ」
「違う。クビにしたのは監督の君以外ありえない。彼はそう思っている」
代田が山本の方へ再び歩き出した。腰が抜けたようで、這ったままグラウンドを駆け回る。
それを見て代田は歩く方向を変える。
「勘違いだ! おい、代田! 聞いてるのか!」
代田はそれが聞こえていないのか、全く表情を変えない。目はらんらんと輝いて、そして瞬きをしない。
その顔を見て山本は思い出す。そう、手術後のサブローの表情とそっくりなことを。
「チップ……」
「気づいたか。そう、君と同じように、彼の脳にも少し細工をさせてもらったのだ。
 君への恨みを刷り込んだら、簡単に人を傷つけることも厭わなくなったよ」
「おい、代田。俺のせいじゃない、おい、代田」
「分かっているだろう、山本? 一度こうなったら元に戻らないことを」
山本が起き上がった。今度は二本足で走る。少しでも代田から離れるために。
ライト線上を走る山本、一塁ベースを越えたぐらいで代田の姿が再び消えた。
「そしてチップを埋め込まれた人間は、普段抑えつけられている身体能力をMAXまで発揮できる。
 そう、例えばそれは限界まで高められた瞬発力」

「ぁ……」
山本の首から、鮮やかな赤い血が噴出した。ライトアップされ、それは噴水のように。
ゆっくりと崩れ落ちる。
その向こうには代田が幽霊のように立っている。山本のその様子を無表情に見つめながら。
「そぶば、ばかばぁ……ふご!」
山本が口から血を噴出す。もはや声にならない声が、口から漏れてくる。
こんなはずではなかった。山本の脳内に思いがよぎる。
「ごぶば、ばブばぁ……」
地面に伏した山本、もはやうめき声は上がらなかった。その様子を、一番近くで代田が見つめていた。
13番外 愉快なカモメたち14(1/2) ◇vWptZvc5L. :2005/11/01(火) 21:49:11 ID:y/ayCY0V0
日没後のマリンスタジアムには海辺から冷たい潮風が吹き付けていた。
「秋も深まると冷えるよね…」
ズーちゃんはなにげなくパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
手の先に何かが当たった。
「ん? ゴミが入ってる……?」
ポケットの中からそれを取り出す。丸めた紙くずだった。
広げてみると、そこにはアルファベットが羅列されていた。
「あぁっ!」
それを見たとたん、すっかり忘れていた球団事務所での出来事を思い出した。
いきなり出された大声に、マー君が驚く。
「何だよ、突然!?」
「兄ちゃん、これ見てよ」
マー君に紙切れを差し出そうとすると、いっそう強い風が吹き付けて紙が飛ばされた。

「うぁ、こら待て!」
ズーちゃんが飛んでいく紙切れを追ってしばらく走ると、
ふと何者かの派手な黄色い足が突如、目の前に現れた。
その足の主が紙切れを拾い上げて、ズーちゃんに手渡す。
「どうぞ」
「あ、ありがとう…」
目線をあげると、そこにいたのはイワトビペンギンのマスコットだった。
どこかで見たことのあるレトロなユニフォームに、サングラスをかけていた。
「…ねぇ、この辺でロッテオリオンズ見なかった?」
「は? ロッテオリオンズ…? 見てませんけど…」
「そうか…わかったよ。ありがとう、アヒル君」
ペンギンはがっかりしたように言い残すと、踵を返した。
突然すぎて呆然と立ちすくんでいたズーちゃんだったが、
その『オリオンズ』という、今ではあまり聞かれなくなった響きにはっと思い当たった。
14番外 愉快なカモメたち14(2/2) ◇vWptZvc5L. :2005/11/01(火) 21:49:48 ID:y/ayCY0V0
「えっ? あの、ちょっと待って! ここはマリーンズの本拠地で、ロッテオリオンズは
 13年前に千葉ロッテマリーンズに……ってか、僕はカモメなんですけどね!
 おい、そこのペンギン! 話を聞けーーーっ!!」
ズーちゃんは後ろ姿に向かって叫んだが、振り返ろうとしない。
『ロッテオリオンズ応援団』と書かれた背中が遠ざかっていく。
そこへマ─君とリーンちゃんが駆け寄ってきた。
「ズー、どうしたんだ?」
「あのペンギンがオリオンズを探してるらしいんだけど…」
もうすっかり遠くなったイワトビペンギンの背中を指す。
「は? オリオンズって……一体いつの時代のペンギンだよ!」
「さぁ…? あ、そんなことより、これ見てよ」
マ─君に持っていた紙切れを差し出した。
「この紙、球団事務所の前で拾ったんだけど、僕には読めないんだよね。
でもmarinesって書いてあるし、何か関係あるのかなぁと思って」
マ─君は渡された紙をじっと見た。
「これ……マリーンズ公式サイトのアドレスじゃないか?」
「そうなの?」
リーンちゃんも横から覗き込む。
「そうか、その手があったんだ! 本社や電話がだめでも、インターネットなら
 何か情報がつかめるかもしれない。 とにかく、ここにアクセスしてみよう!」
3羽はうなずくと、マリンスタジアムの中へと駆けていく。

一方、そんな3羽の様子はつゆ知らず、イワトビペンギンのマスコット・クールは
今日もロッテオリオンズ探しの旅を続けるのであった。
15代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 21:50:35 ID:y/ayCY0V0
>>1乙。
避難所に投下されてた分を代理投下しました。
16代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 22:09:05 ID:o+e8XDoK0
>>1氏、職人さん、保管庫さん乙です
17代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 22:19:39 ID:MuPr7xqF0
保守ですんません
18代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 22:46:37 ID:4YhJW85C0
>>1&職人さん乙!!
19代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 22:55:47 ID:MuPr7xqF0
大塚や西岡、それに今江&福浦、そしてマサ
致命傷の堀に浅間・初芝どうなってるんだろう
20代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 23:06:19 ID:y2LkIe0d0
hoshu
21代打名無し@実況は実況板で:2005/11/01(火) 23:10:51 ID:Y+WUTkFtO
クールも出てきたかw
>>1乙!職人様乙!
22代打名無し@実況は実況板で:2005/11/02(水) 00:20:52 ID:4Ht2PhB+0
千葉マリーンズバトルロワイアル第11章
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1127569582/

このスレは実質、第12章らしい
23代打名無し@実況は実況板で:2005/11/02(水) 00:40:09 ID:XzVxI3qpO
>>1
乙です!オフで多少静かではあるが、
ちょっとのことで圧縮に巻き込まれるかもしれないので、
小まめに保守しないと…
24代打名無し@実況は実況板で:2005/11/02(水) 01:33:16 ID:oEqkCZHl0
hosyu
25代打名無し@実況は実況板で:2005/11/02(水) 11:10:54 ID:Yg7qtyuuO
虎ファンが華麗に捕手
26代打名無し@実況は実況板で:2005/11/02(水) 11:16:43 ID:i4v+2PzvO
橋崎
27代打名無し@実況は実況板で:2005/11/02(水) 20:15:13 ID:1H4d+8c/0
ロッテは韓国企業part5【在日球団】
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1130725294/



流通業界も「独島マーケティング」展開中
ロッテドットコム(www.lotte.com)は鬱陵(ウルルン)島と独島を周回するツアー(2泊3日・24万9000ウォン)をお目見えした。
ロッテ百貨店本店は今月18〜20日、小学生以下の子どもを伴った顧客の中から先着で20人に独島の写真入りタオルを無料で配る。
ロッテマートの全国21か店舗は昨年4月から「独島を愛するTシャツ」を販売している。
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/03/16/20050316000057.html


グループの親会社であるロッテ製菓が韓国内に設立され、食品産業の近代化と国民生活水準の向上に貢献。
1965年には韓国と日本の国交が正常化し、辛格浩会長が母国韓国で初の投資事業であるロッテ製菓は、荒廃した韓国の地に新鮮な活力を与え、韓国食品産業界の改革・推進化において先導的な役割を果たしました。
http://www.lottetown.com/japanese/intro/intro_4.jsp


そして、日本のロッテの「本社」と思っていたものは・・、
http://www.lotte.co.jp/cp_compa.html
韓国のロッテ製菓の「海外支社・東京事務所」だった。
http://www.lottetown.com/japanese/room/room1_1.jsp


さて、オーナーは誰なんでしょう?
http://www.lottetown.com/japanese/intro/
「辛格浩」さん。 
http://www.lotte.co.jp/cp_greet.html
これは日本のロッテのオーナー「重光武雄」さんそっくり…じゃなくて、辛格浩さんは重光武雄さんという日本名も持っている


ロッテファンはロッテジャイアンツでも応援したら?マスコットもシンボルマークもマリーンズとほぼ同じw
http://www.h6.dion.ne.jp/~k-bb/frame-lg.html
28代打名無し@実況は実況板で:2005/11/02(水) 23:07:00 ID:1Hfn/Tlg0
なんか虎ファン多いな・・・自分もだけど
マリバトでいろんな選手を覚えたから
その意味では日本シリーズも楽しめた
29代打名無し@実況は実況板で:2005/11/03(木) 03:52:21 ID:Qh+gv/Ir0
歌って踊れるほしゅ
30代打名無し@実況は実況板で:2005/11/03(木) 10:05:12 ID:YKGJTU0PO
古田捕手
31代打名無し@実況は実況板で:2005/11/03(木) 16:11:37 ID:K0knRFnM0
ほしゅ
32代打名無し@実況は実況板で:2005/11/03(木) 21:05:56 ID:h/oFLSSi0
ほす
33代打名無し@実況は実況板で:2005/11/03(木) 21:27:04 ID:Fe9om3No0
hoshu
34代打名無し@実況は実況板で:2005/11/04(金) 23:24:35 ID:wwWpDNLfO
とても続きが読みたいのです
35代打名無し@実況は実況板で:2005/11/05(土) 00:19:48 ID:wZ69oefm0
スンヨプが30本、82打点でチーム二冠王って意外だ。
松中46本、121打点でリーグ1位、ズレータ43本、99打点で2位。
36対峙 1  ◆prGJdss8WM :2005/11/05(土) 03:24:55 ID:Oa+u47wd0
「や、久しぶり、です」
「…だな」
「…大丈夫でしたか、そっちは」
「まあ、死んでねえよ」
「みたいすね」
笑おうとしても笑えない。頬の筋肉は異様なまでに強張っていた。
それは本能の鳴らす警鐘を、きっと受け止めていたからだ。
「雅さん」
呼んでも、動かない逆光の影。湿気た空気に混じるのを嫌うように、斜め後ろから突き刺さる視線に、福浦はまた耐えるように笑った。
「…福浦。心配したぞ」
「そりゃあ、どうも」
「死ぬんじゃないぞ」
「まだ、しぶとくやってますよ」
ぎ、ぎ、床が軋む。フローリングなんて大層なものではない、さらしの板の間の、床がたわむ。
「一人か?…俺と組まないか?」
「雅さん?」
「こんな時だぞ。信頼できる味方がいると思わないか?」
「…俺は信じられますか?」
その問いに雅英は答えず、福浦の向かいの椅子を引いてどっかと腰掛けた。重そうなリュックががたごといった。
半眼の福浦の目。笑っていない雅英の目。お互いの間の光はわずかで、影は濃い。

「…雅さん。俺は信じますよ」
福浦は目を閉じながら言った。闇が身体を包むことを厭わない。
それはもしかしたら、冷たい湿気よりずっと温かい手かもしれない。
ボロボロのユニフォームの、ところどころ千切れたシャツの部分を撫でるように、福浦は痛んだ指で自らを掻き抱く。
腕を組んだように見えた。
「組みますか?俺と」
「……。」
「組んで、誰を殺しましょうか」
「福浦」
37対峙 2  ◆prGJdss8WM :2005/11/05(土) 03:29:05 ID:Oa+u47wd0
誰を殺そう、その発想。言葉にすると恐ろしいほど呆気なかった。何だ大したことじゃないんじゃないかと錯覚しそうになる。
大きな雅英の目が、光を映さずきっと透かすようにこちらを見ている。声の気配が、数十センチ近くなっている。
「…今江とか、どうでしょうね」
やっと頬のひきつりが溶け始めた。声に笑みが乗った。
「あいつ、さっきまでここに居ましたよ。俺のこと馬鹿みたいに信じてる。だから殺せますよ」
多分簡単に。やんわり声に温かみが乗る。
「俺と雅さんが組んだら。俺が話してるときに、あんたが後ろから撃ってくれたら」
「…」
「あ、話上手すぎます?でもホントなんですよ。日頃の行いの差ですかね」
いい先輩面するのにもほとほと疲れましたよ、今度は苦笑いだ。こんな状況で、先輩も後輩もあるわけ無いって、思いません?
「それから、明も、俺が呼んだらすぐに出てくるよ。馬鹿だよ、あいつ」
蛇だ。
蛇に絡まれている。俺は呑まれる寸前の魂のように。
「でも小賢しいから、仕留めるなら一人より二人かな、雅さん」
福浦、また雅英がかすれた声で言う。意外と甲高い声だった。
がちゃり、確かに硬い音がして目を開く。そこに運命の銃口があるなんて、端から百も承知だった。

「…ダメかな、雅さん。こんだけ言っても」
「……。」
「俺、今かなり、全部差し出したつもりなんですけど。俺のこと信じてくれてる奴らのこと、全部差し出してまで、あんたに」
「それでお前はどうなる」
「俺?」
「そいつら裏切って、お前はまともで居られるかよ?」

殺人鬼なのに、案外まともなことを言う。福浦は今度は芝居でなく苦笑してしまった。
息のタイミングが少し乱れるたび、背から焼け付く痛みが走る。首すらももう動かしたくは無い。
薄闇の中の銃口はやけにリアルだった。ぽっかりとあいたその一点が近く、逆に構える雅英はやたら遠い。
38対峙 3  ◆prGJdss8WM :2005/11/05(土) 03:29:35 ID:Oa+u47wd0
「それだけ、俺もあんたを信じてるって、わかってもらいたかった」
「……。」
「あんたはまだ信じられてるって。何が理由かも聞かねっすよ」
「理由?」
「あんたの理由」
少し、その嫌な感触を強いて首を傾げてみた。雅英にというより、銃口に言う。
しんと静まり返って、生き物の気配がまるでしなかった。ここがどこか世界の中だという感覚も薄れがちだった。
二人で対峙していれば、死すらそんなに怖くは無かった。欠けるだけだ。

「裏切ったの?雅さん」
だからだろうか。諸々の言葉もあったろうに、解けるようにあっさり言えた。
泣くのは簡単だった。
「裏切ってるよ」
銃口から声がした。
「信じてもダメなんすかね」
福浦が言えば、言ったら、はっ、と息遣いが乱れた。銃が揺れた。
「俺たちじゃダメなのかな、雅さん」
追い詰めているのは自分だと福浦はわかっていた。
酷い奴だとそれもわかっていた。それでも繰り返してしまった。
「俺じゃ。俺たちじゃあ、ダメなんすかね。雅さん」
39 ◆prGJdss8WM :2005/11/05(土) 03:31:03 ID:Oa+u47wd0
新スレおめでとうございます
シーズンも終わりましたし本腰入れて…また投下させていってください
40代打名無し@実況は実況板で:2005/11/05(土) 14:06:52 ID:vNBfgQZ7O
★ゅ
まだ読み始めたばかりですが宜しくおながいします
41代打名無し@実況は実況板で:2005/11/05(土) 19:50:22 ID:ayuVQt6x0
>>36-38
職人さんGJ!
やばい、泣きそう・・・・・・・・。
42代打名無し@実況は実況板で:2005/11/05(土) 22:44:47 ID:sJL3I+fy0
>>39
乙です!
楽しみにしてます
43代打名無し@実況は実況板で:2005/11/06(日) 00:05:16 ID:sfLzX+yN0
ほしゅ
44代打名無し@実況は実況板で:2005/11/06(日) 16:00:30 ID:FIwtsceG0
hoshu
45代打名無し@実況は実況板で:2005/11/07(月) 04:00:28 ID:lA0CX/+a0
hoshu
46代打名無し@実況は実況板で:2005/11/07(月) 22:27:56 ID:pSTdSF3l0
定詰
47代打名無し@実況は実況板で:2005/11/07(月) 23:00:18 ID:Bmj4DMkm0
保管庫さんマジ大丈夫?
更新しない内にスレ2つぐらい変わってるし
48ガラスの島 (1/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/07(月) 23:59:08 ID:h8lij6vo0
「これは一体…!?」
3塁側ベンチに立ちすくむ井上祐二は、目の前の光景をまだ飲み込めないでいた。
さっきの出来事は忘れて、何もなかったふりをすればいいと監督室に戻ってみれば、
いきなり途絶えた放送、騒がしくなるスタジアム、ヘリコプターのプロペラ音、そして花火。
一体何事かと思って慌てて屋外に出てみればこの有様だ。
この場所から確認できるのは山本功児、薮田安彦、筒井良紀、兵士達、見慣れぬ男が一人。
そしてヘリコプターから現れてきたのはボビー・バレンタイン。
「なんであの人がここに……」
「やっと、役者が揃ったな」
突然横から声がした。見ればそこにいたのは、グランドを涼しげな表情で見ている佐々木信行。
その横顔に井上のような困惑は見られない。
「佐々木さん…」
「ずっと待っていたんだ。あの人が来るのをな」
「…待っていた?」
「ああ。リストを守れないうえにその場しのぎのお粗末な作戦。
 そんな無能に代わって、新たに有能な指揮官を迎える。当然のことだろ?
 万年Bクラスの監督がクビになるのと同じさ。山本はもう用済みって訳だ」
再びグランドに目を向けなおすと、その佐々木の言葉を証明するかのように、
兵士たちが山本に向かって銃口を向けていた。
「そんな…だって山本さんが最高責任者じゃないんですか!?」
「いや、今この瞬間から千葉マリーンズバトルロワイアルの監督はボビー・バレンタインだ。
 我々はこれから彼の下で働くことになる」
「……」
井上は言葉を失う。頭の中の混乱はまだ治まらない。
何でこの人はこんなことをすぐに受け入れられるのだろうか。
いやそれ以前に、なぜバレンタインが来ると言うことを知っていたのだろうか。
49ガラスの島 (2/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/07(月) 23:59:34 ID:h8lij6vo0
「まぁ、急に言われても理解できんか。ちょっとついて来い。
 詳しく説明してやるよ。見せたいものもあるんだ」
そういうと、佐々木はベンチから奥のほうへと戻っていく。
筒井はまだどうしていいかわからず、戸惑っていた。
佐々木が足を止めて、振り返る。
「どうした?山本の死に際を見物したいなら別に構わんが」
「いえ…」
筒井は佐々木に促されるままに、前に進んだ。

後をついていくと、案内されたのは廊下の端に設置された消火栓の前。
扉を開けると、本来ホースが入っているはずの場所には地下続く階段があった。
佐々木は慣れた様子で狭い入り口をくぐり、段を降りていく。筒井もそれに続いた。
「何だこれは…!?」
階段を下りきると、そこには井上をさらに驚愕される事態が待ち構えていた。
薄暗い地下室の中にあったのは無数のモニター、計器類といくつかのスイッチ。
その様子はさながら放送局のミキサールームのようだった。
「ここは島内に仕掛けられた隠しカメラの映像の監視室だ」
「いつの間に、こんなものが……」
「この部屋の存在を知ってるのは俺と筒井とボビーぐらいだな。
 もちろん山本も知らない。これで島内の出来事はだいたい把握できるようになっているんだ。
 ボビーも移動中のヘリの中では、この映像を堪能していたそうだよ」
積み上げられたモニタの数々を前に、佐々木は淡々と話す。
モニタ映像はスイッチひとつで切り替えられ、島内をガラス張りにする。
「なぜ、井上さんは筒井さんだけが?」
「それはな、俺と筒井がボビー直属の部下だからさ。
 上の方も山本の無能ぶりは予想してたんだろうな。
 案の定、山本は生存希望者リストを遵守できなかった。無能はいらなんだよ。
 俺と筒井はボビーがここに来るため準備をしてたってわけだ」
それは管理者側が山本側とバレンタイン側に二分されていたということなのか。
井上は驚きの色を隠せなかった。
50ガラスの島 (3/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/07(月) 23:59:59 ID:h8lij6vo0
「本部からの要請もあって、カメラの台数も開始当初より増やしたんだ。
 ここで得られる情報は山本が探知機や盗聴器から得ていたものの比じゃない。
 もちろんカメラの台数は有限だ。写せる範囲も限られているし、死角はある。
 薮田が一時期行方不明になって慌てたのもそのせいさ。
 でもな、目立つ行動をしているヤツはわかりやすいんだよ。
 例えば愛甲のように、本来ここに『いるはずのない人間』がウロついていたりとかな」
そう言いながら佐々木はチラリと井上を見やる。その視線にギクッとした。
井上自身、ついさっき『いるはずのない人間』に会ったばかりである。
何を知っているのか、何も知らないのか。この人は一体、何を言いたいのだろう。
その表情は薄暗い室内では捉えにくく、多くを語らない。
「このおかげで薮田がスタジアムへの侵入を企んでいることも想定していたよ。
 わかっていて、あえて侵入させたんだ。山本を消してもらうためにな。
 まぁ、一種の遊びだよ。望みを持たせておいて一気に突き落とす。…最高だろう?」
話を続ける佐々木を井上は戦慄しながら見ていた。
この人はこんな狂気の沙汰を楽しんでいるのだろうか。
管理側もみんな強制的に参加させられ、良心の呵責と戦いながら
行動していると思っていたのに、そうでない人もいるだろうか。
「そして、これは一種の探知機の役割も兼ねているんだ。
 発信機の故障で正しい位置を表示できなくなったり、生死を誤認してしまうこともある。
 そんな事態も、この監視システムで限りなく防ぐことが出来るというわけだ」
51ガラスの島 (4/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/08(火) 00:00:37 ID:h8lij6vo0
佐々木が言おうとしていることを、井上は薄々感づき始めていた。
動揺を表に出すまいとしても、全身からサッと血の気が引いていく。
佐々木は井上のそんな様子を楽しむような、ねっとりとした視線を送ってくる。
その口元には、心なしか薄い笑みが浮かんでいた。
「それでだ。この監視カメラはな、実はスタジアム内にも仕掛けられているんだよ。
 雇われ兵がしっかり働いているか把握しなきゃならんからな。ほら、ここがさっきまでいた廊下だ」
モニタには今しがた歩いてきた廊下が映し出されていた。
佐々木の遠まわしな言葉がじわりじわりと井上を責める。
真綿で首を絞められる感覚とでも呼ぶのだろうか。
この先に起りうる出来事を考えるのは脳が拒んだ。
「そして、この部屋。見覚えあるよな?」
切り替えられたモニタに映っているのはロッカールーム。
心臓が異常な速さで鼓動を打ち始めた。
「さっきVTRを見せてもらったよ。なかなかやるじゃないか。
 ここで管理に携わるより、殺し合いをする方が向いてたんじゃないのか?」
「どういう意味ですか…」
井上の声が裏返る。その動揺は明らかだった。
「殺したんだろ? 小林宏之を」 
「……」
否定したいのに、言葉が出ない。
「最初から全部わかってたんだよ。薮田が愛甲とともに行動していたことも、
 小林宏之が生きていたことも、奴らがここに忍び込んだことも。
 お前には十分説明してきたよな?リストを守れない無能がどんな結末を迎えるか…」
佐々木が話し終える前に、井上が身を翻して元来た階段へ逃げようとする。
佐々木は間髪をいれずにベルトに挟んでいた銃を井上の背中へ向けた。
銃声が地下に響くとともに、井上の背中に穴が空く。血しぶきを上げながら床の上に倒れ込む
身動きしないのを確認してから、調整卓の上に置いてあったトランシーバーを取り、スイッチを入れた。
「はい、こちら佐々木。井上の処刑、完了しました――」
52代打名無し@実況は実況板で:2005/11/08(火) 00:27:40 ID:uILC61Ms0
井上さんしんじまった
一体これからどうなってしまうんだ
53代打名無し@実況は実況板で:2005/11/08(火) 01:38:36 ID:4/u7K/9KO
俺の純が。゚(゚´Д`゚)゚。
54代打名無し@実況は実況板で:2005/11/08(火) 01:58:29 ID:Aoyp99eg0
いや純じゃないと思われ。
井上コーチだろう?
55代打名無し@実況は実況板で:2005/11/08(火) 02:37:56 ID:/i6itDjj0
純は相当な序盤で逝ってしまったような
56代打名無し@実況は実況板で:2005/11/08(火) 03:43:57 ID:rfRBc+bJO
新作乙です。しかし、2/4の所、なんか井上と筒井の名前が
入れ替わってごっちゃになってますよ。
57 ◆vWptZvc5L. :2005/11/08(火) 09:02:54 ID:besxMXED0
>>56 失礼しました。2/4を以下に修正します。

ガラスの島 (2/4)
「まぁ、急に言われても理解できんか。ちょっとついて来い。
 詳しく説明してやるよ。見せたいものもあるんだ」
そういうと、佐々木はベンチから奥のほうへと戻っていく。
井上はまだどうしていいかわからず、戸惑っていた。
佐々木が足を止めて、振り返る。
「どうした?山本の死に際を見物したいなら別に構わんが」
「いえ…」
井上は佐々木に促されるままに、前に進んだ。

後をついていくと、案内されたのは廊下の端に設置された消火栓の前。
扉を開けると、本来ホースが入っているはずの場所には地下続く階段があった。
佐々木は慣れた様子で狭い入り口をくぐり、段を降りていく。井上もそれに続いた。
「何だこれは…!?」
階段を下りきると、そこには井上をさらに驚愕される事態が待ち構えていた。
薄暗い地下室の中にあったのは無数のモニター、計器類といくつかのスイッチ。
その様子はさながら放送局のミキサールームのようだった。
「ここは島内に仕掛けられた隠しカメラの映像の監視室だ」
「いつのまに、こんなものが……」
「この部屋の存在を知ってるのは俺と筒井とボビーぐらいだな。
 もちろん山本も知らない。これで島内の出来事はだいたい把握できるようになっているんだ。
 ボビーも移動中のヘリの中では、この映像を堪能していたそうだよ」
積み上げられたモニタの数々を前に、佐々木は淡々と話す。
モニタ映像はスイッチひとつで切り替えられ、この島をガラス張りにする。
「なぜ、佐々木さんと筒井さんだけが…?」
「それはな……俺と筒井がボビー直属の部下だからさ。
 上の方も山本の無能ぶりは予想してたんだろ。
 案の定、山本は生存希望者リストを遵守できなかった。無能はいらないんだよ。
 俺と筒井はボビーがここに来るまでの準備をしてたってわけだ」
井上は驚きの色を隠せなかった。
58代打名無し@実況は実況板で:2005/11/08(火) 20:43:06 ID:uILC61Ms0
佐々木・・・・
59代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 18:34:38 ID:ITD+kNmU0
 
60代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 22:44:13 ID:r8FhUlzc0
>>59
愛甲さん、ほしゅ乙です
61代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 22:56:36 ID:fUOJOhkx0
今生きているであろう選手達は
大塚・西岡・堀・初芝・浅間・小林(雅)
里崎・小野・今江・成瀬?・金澤・薮田
サブロー・代田
それと李・ベニー・マティであってるか?

保管庫さんがUPしてないので自信が無いんだが
62代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:00:17 ID:3qgyu+rL0
>>61
福浦
63代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:01:46 ID:S894Tsw90
>>61
戸部、垣内、ジョニー、内、於保も
64代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:08:32 ID:fUOJOhkx0
>>62-63
結構居たんだな。
thanks
65代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:11:30 ID:S894Tsw90
そういや平下と小宮山もいたな…orz

大塚・西岡・今江
福浦・小林(雅)
戸部・垣内
黒木・内・於保
堀・初芝
浅間・里崎・成瀬
薮田
サブロー
小野
平下
小宮山
金澤

李・ベニー・マティ
代田

計21人(+4人)選手のみ換算
66代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:18:30 ID:UWPlUo3l0
【生存 21名】
3サブロー 5堀 6初芝 7西岡 9福浦
13浅間 14小宮山 20薮田 21内 22里崎
23大塚 24平下 25今江 29小野 30小林雅
38垣内 51於保 54黒木 60成瀬 62金澤
67戸部

【死亡 34名】
0諸積 1小坂 10澤井 11神田 12藤田
17長崎 18清水直 19田中良 27清水将 28加藤
31渡辺俊 33橋本 34川井 35三島 37前田
39田中雅 40渡辺正 41小林宏 44喜多 45辻
46山崎健 47井上 48高木 52塀内 53原井
55杉原 58青野 59富永 61寺本 64藤井
65曽我部 66ユウゴー 68早坂 93杉山

【管理(生存)】
バレンタイン 筒井良紀 佐々木信行 山下徳人

【管理(死亡)】
小野和幸 山本功児 井上祐二

【園川コーチと愉快な仲間たち】
園川一美 荘勝雄 吉鶴憲治 福澤洋一 大谷幸弘

【特別参加】
フランコ 李 セラフィニ ベニー 愛甲猛
マーくん リーンちゃん ズーちゃん 公式タソ 代田建紀
フィルダー(死亡)

【?】
重光武雄 重光昭夫 瀬戸山隆三
67代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:18:58 ID:Gs5ZBTkaO
サブローは終了してなかったったっけ?違ってたらゴメン
68代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:26:09 ID:S894Tsw90
>>67
サイボーグ(?)になって小坂を殺した後、
自分で自分の耳を削ぎ落としたところまで
描写されてた気がするけど…
まだ死んではないはず
69代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:27:05 ID:UWPlUo3l0
小坂を殺害したのは青野
70代打名無し@実況は実況板で:2005/11/09(水) 23:28:48 ID:S894Tsw90
>>69
書き込んでから気づいた、スイマセンorz
出しゃばって悪かった。回線切って逝ってくる。
71代打名無し@実況は実況板で:2005/11/10(木) 01:28:07 ID:U/+GwZ3v0
誰か臨時で過去ログ(保管庫に収録されてない分)保管してくれないか
72代打名無し@実況は実況板で:2005/11/10(木) 10:19:56 ID:SYsKq4Uy0

 今季、31年ぶりに日本一に輝いたロッテは → 27億円の赤字!

 パ最下位を独走した設立1年目楽天は → 5,000万円の黒字!
73代打名無し@実況は実況板で:2005/11/10(木) 21:39:24 ID:SyAlymVS0
>>72
まあ・・・なんといえばいいのかわからないけど


経営知らない人だね。
74代打名無し@実況は実況板で:2005/11/10(木) 21:43:20 ID:BZ4lOCws0
>>72
楽天は絶対黒字出すとか張り切ってたしな
順位と経営は別だろ?
75代打名無し@実況は実況板で:2005/11/11(金) 00:50:48 ID:tlxnciN20
>>71

ttp://p2.chbox.jp/read.php?host=ex13.2ch.net&bbs=base&key=1122561045&ls=all

これで抜けてる話を読んで待っててくれ
76代打名無し@実況は実況板で:2005/11/11(金) 10:16:47 ID:7YG5pdqc0
俺はロッテファンが心のそこから応援したい熱さゆえに、
凄いんだなと思っていたが。
ある日外野席に行ったら、他ファンの目線をやけに気にしている。
「みんな俺たちの応援にびびってるぜ」とあるやつがいい、周り
の奴ら相手外野のお客の目をきにしてばかり。
そこで思った。こいつらはただ目立ちたがり屋の集まりなんだなと。
たしかにプレーオフ以前はガラガラだったのを見るとたしかに
そうかもと思った。
77代打名無し@実況は実況板で:2005/11/11(金) 10:27:54 ID:Cs3V0h270
75さんの使って今まであがってたやつ今からあげてみる。
話が前に戻るが気にしないでくれ
78番外 李承■と愉快な同士たち20 ◇CpgsCDAZJ6:2005/11/11(金) 10:30:39 ID:Cs3V0h270
「彼はもう発ったのか?」
「はい、先ほど空港へ向かいました。ヘリでの移動含め数時間ほどかかるかと」
「ん……。6時の放送に間に合うだろうか」
「それは判りかねますが…。別に山本監督にやらせておけばいいのでは?」
忙しそうにパソコンに何やら打ち込んでいた男が手を止めた。
湯飲みを手に取り茶をすすると、少し曇った眼鏡を拭いて一息つく。
「…いつまでも山本を生かして働かせていると、また小言を言われそうだからな」

〔丶`J´〕ノ◆<オッス、ケジャン(蟹の醤油漬け)!李承■デス
あっという間にロッテ本社に着きまシタ。
「さあ、行こうぜ!」
ベニーが車を飛び出して声を上げましタ。
「シーッ、目立っちゃ駄目だよ。どこで誰が見てるか分からないんだから」
昂ぶるベニーを慌てて抑えマス。その横にフランコが立ちまシタ。
「オー、ヤリチン」(どうする?正面から入るか)
「堂々と行ったら怪しまれないか?私達は目立つ。
 やっぱり受付係に合言葉を言うなんて、ちょっと無理があるよ」
「オー、ヤリチン…」(うむ…しかし、ここで膠着しているわけには…)

79番外 李承■と愉快な同士たち20 ◇CpgsCDAZJ6:2005/11/11(金) 10:31:07 ID:Cs3V0h270
「李承■さん、マット・フランコさん、ベニー・アグバヤニさんですね?」
「え?」
振り向くと目の前に女性が立っていまス。格好から見ると女性社員のようデス。
空気が変化しましタ。フランコが体を緊張させたのが伝わってきまシタ。
「オー、ヤリチン?」(おや、レディ。何か御用で?)
「公式さんからの指示でご案内に参りました」
「おお!お前、案内役!早く、行くぜ!」
ベニーが更に血気に流行りまス。
「…ちょっと待って。なぜ我々が来るのを待たない?合言葉は?」
ふと心に浮かんだ疑問を私は口にしていましタ。
「予定は変わるものです。
 それに、あなた方は目立ちますから合言葉なんて要らないでしょう?」
そう言って女性は振り向くと、本社の入り口ではない方向へ歩いていきましタ。
80番外 李承■と愉快な同士たち21 ◇CpgsCDAZJ6 :2005/11/11(金) 10:32:11 ID:Cs3V0h270
「どこに行くんだ?」
「正面からでは目立ちますから、内部への裏口をご案内します」
私はフランコに目をやりまシタ。フランコもこちらを見ていましタ。
(オー、ヤリチン…)(行くしかないな。今は信じられなくても…)
彼の目はそう語っていましタ。頷いて、彼女の後に続くことにしましタ。

「何だと!?馬鹿な!!」
思わず立ち上がると、机が揺れた拍子に湯飲みからお茶がこぼれた。
ふき取ることすら忘れて、その男は部下を問い詰める。
その男とは瀬戸山隆三である。額の汗をぬぐう。
「…もう一度、経過を追って説明したまえ」
「正面玄関前の監視カメラに映っていました。先ほど李承■、フランコ、ベニーの3人が現われたようです」
「やつら…なるほど、道理で捕まらないわけだ。捕まえた男の協力者はそいつらか」
「そうと思われます。ですが…」
部下は少し言うのがはばかるようで、一呼吸置いた。
「彼らの前に女が現われました。女性社員の制服を着ていますが…
 外国人3人をどこかへ連れて行きました…」
「誰だ、その女は?社員か?」「調査中です」
「やつらはどこへ行った」「気づいた時には、既に消息は分かりませんでした…」
「その女、目的は何だ!?」「……不明です」
ガンと瀬戸山が机を叩く。湯のみが高く跳ね、バランスを崩して机のヘリから落ちた。
割れると同時に部下の肩がビクッと跳ねた。
「私の計画が…邪魔者を排除し、老の機嫌を取るための余興も実現するはずが…」
瀬戸山は額の汗を何度も何度も拭った。
81番外 李承■と愉快な同士たち21 ◇CpgsCDAZJ6:2005/11/11(金) 10:32:55 ID:Cs3V0h270
「ここが裏口です、李さん。ここから先はロッテ本社の裏の姿があると言う意味の、ですね」
彼女が案内したのは本社と全く関係なさそうな、小さいビルの裏口でシタ。
「私を信じるのはあなた達次第です。でも、私はあなたの味方ですから。ふふ」
私は漠然と感じていまたのかも知れまセン。彼女とはどこかで会ったのではないカ。
彼女の姿を見たことはないはずなのに、何故か彼女の声か仕草か、どこかに覚えがある気がしたのデス。
だから不思議と彼女を信じられたのかも知れまセン。
私と同士たちは、彼女に続きその裏口へと入っていったのでしタ。

【同士4名?  ※■は火へんに華】
82彼は知るもの(1/4) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 10:34:54 ID:Cs3V0h270
「…だといいけどな」

 佐々木信行の言葉が頭にこびりついて離れない。
あれは何か、危惧すべき確かなものを見据えたような面持ちだった気がする。
(まさか、な)
手洗いを済ませ、井上祐二はスタジアム内の曲がった廊下をてくてくと歩いていく。
スタジアムの警備は万全だ。武装し、訓練された兵士達。
もっとも本職の軍隊や傭兵と言うわけではないらしい。詳しいことは知らないが。
その上こちらには探知機がある。抵抗者はスタジアムに近づいた時点で知れるのだ。
「そうだ、佐々木さんは心配しすぎだ」
井上は気を取り直し、奥の監督室へ戻ろうと歩き始めた。そのとき。
――ガガガッ……
背後から何かを叩くような高い音。連続して素早く打ち込まれる。何が?
「銃声!?」
踵を返して走り出す。佐々木の深刻ぶった表情が浮かんだ。
 程なく正面入り口に到着すると、その光景を目の当たりにし井上は愕然とした。
倒れる4人の兵士達。力なく、声すらあげず横たわっている。
「おい!大丈夫か!」
「うッ……ぐあ……」
1人の兵士を抱え起こすが、苦悶の表情以外を浮かべない。
何度も揺り起こし声をかけるが、意識ははっきりしないようだった。
「侵入者か!? こりゃぁ……大変だ!」
飛び込むようにスタジアムの入り口をくぐる。
「早く山本さんに知らせ……、はっ!」
井上の足が止まる。そういえば、と思った。
「佐々木さんは……どこだ?」


「将も死んだか。俺の計画通り、次々と死んでいくな。
 雅英が福浦に近づいた時はどうなることかと思ったが……
 青野も良平とやり合って共倒れかなんかしたようだし、ここまでは順調だぜ」
モニターを前にけたけたと笑っている男、山本功児はイスの背もたれに寄りかかるように座っている。
83彼は知るもの(2/4) ◇QkRJTXcpFI ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:35:40 ID:Cs3V0h270
「もうすぐ6時の放送か。次の禁止エリアが連絡されてくる頃だな。
 いやぁ、しかしあと2日以上とは、先は長いぜふあぁあ……」
思わずあくびをすると、山本は目に浮かんだ涙をこする。
「おい!新しい死亡者をまとめとけ。俺はこのまま少し寝る」
と言うやいなや、あっという間に頭を垂れる。
「はぁ」
筒井良紀が返事をする前に、安らかな寝息が山本の方から聞こえてきた。
(気楽なもんだね……あーあ、よだれ垂らしちゃって。
 この歳でほとんど寝ずにやってりゃ疲れるか。俺も言えた義理じゃないけど)
腕を組んでモガモガと何やら寝言をつぶやく山本の横に立ち、パソコンをいじる。
死亡者とその死亡時間がザッとモニターの中に並べられる。
そそくさとメモを取り、山本の前に置いておいた。
「6時の放送か……間に合わないっぽいな、あの人は」
自分にだけ聞こえるぐらいの声で、ぼそりと呟く。
山本の方を見ると、何だか苦しそうな表情を浮かばせている。嫌な夢でも見ているのだろうか。
その前に置いてある死亡者のメモが、エアコンの風にひらひらと揺れていた。
「並びそうですけどね、あんたの名前も」
また小さく呟くと、ドアノブに手をかけた。
「大変です!」
勢いよくドアが開かれ、その前に立っていた筒井は額をガンと打つ。
よろけている筒井に気づかずに、井上祐二が駆け込んできた。
その大きな音に山本が慌てふためく。
「な、なななんだ!?どうした!?」
「入り口の見張りがやられました!誰か侵入したようです!」
「何ぃ!?」
山本がすぐにモニターに目をやる。マウスを操作すると、地図上のスタジアムが拡大されて表示される。
くまなく目を凝らすが、赤い点はスタジアム内に見当たらなかった。
「……ふぅ。誰もいねぇじゃねぇか!脅かすな!」
「しかし、入り口で見張り4人が全員気絶させられていたんです。
 そこまでして侵入しないなんて…」
「そんなこと俺に分かるか!」
山本と井上が声を張り上げ合う。二人の表情は、ひどく余裕を欠いていた。
84彼は知るもの(3/4) ◇QkRJTXcpFI ◇QkRJTXcpFI ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:36:44 ID:Cs3V0h270
(いかんなぁ。ああ、いかん)
混乱しつつ、ただ声を上げている二人を目の前に、筒井は思っていた。
(なんで、侵入してるけど発信機はついてないって発想ができんのかなぁ。
 頭の固い人達だ。大体あんな小さな発信機一つ、信用しないだろうに普通)
冷めた目線で二人を見つめる。
(まぁ、知らなければそう思わないんだろうな。
 宏之のことも、薮田のことも、島内のことを知る手段をこの人達は持たされていないんだから)

「おい、筒井!ボケっとしてねぇで、お前もなんか言え!」
山本が筒井に声を向けた。井上も彼に視線をやる。
(めんどくさいなぁ…)
85彼は知るもの(3/4) ◇QkRJTXcpFI ◇QkRJTXcpFI ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:37:06 ID:Cs3V0h270
血走った目の二人に対し、さもわけが分からないという振りをして言う。
「そ、そんなこと言われても……あ、スタジアムの周りには誰もいないんですか?」
「周り?」
そう聞くと、山本は地図の倍率を下げる。スタジアムとその周辺の森の一帯が映し出される。
「あ!」
その森の中、20と書かれた赤い点が光っていた。
止まったまま、じっと息を潜めている。
「近くに潜んでやがったか……そうか、少しずつこちらの戦力を削る気だな。そうはいかんぞ。
 おい!薮田を捕まえて来い。怪我はさせるなよ」
「そんな、あれをやったのが薮田だとしたら、銃を持ってることになりますよ!
 それを生きたまま捕まえろなんて!」
「口答えするのか!井上!」
山本が怒鳴る。井上が押し黙る。
「俺が行きましょう。何人か人員を借りますよ」
「おお、筒井!話が早いじゃねぇか。よし、行ってこい!」
山本が満足そうにニタニタ笑う。筒井の頭の中でソロバンが動く。
(だって、薮田と宏之はおそらく突入済みだし。外の赤い点もおそらく……
 中にいるほうがこれから危険になりそうだからな)
「任せてください。じゃぁ、早速行ってきます」
そそくさと部屋を出ようとする筒井。ふと、山本が首をひねった。
「……そういえば、佐々木はどうした?」
86彼は知るもの(4/4) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 10:38:01 ID:Cs3V0h270
筒井がピタリと足を止める。
「見張りのリーダーをやっていたはずなんですが……駆けつけたときには消えてたんです。
 まさか、薮田に捕まったとか?」
「はん、大方しっぽ巻いてどっかに逃げたんだろ。放っとけ」
山本が吐き捨てる。
筒井はため息をついた。
(頭の回らない人だな……ま、仕方ないか。
 佐々木さんは迎えに行ってるはずだよ、彼を。
 宏之と薮田・愛甲が突入寸前なのはわかってたから、その前にさっさと抜け出してね)
「とにかく、お前は入り口の見張りを補充しておけ。早く!」
そう井上に命じると、山本はイスにドサッと座り込んだ。
いそいそと筒井と井上の二人は部屋を出て行った。
「やれやれ……これで大丈夫だろ。人の眠りを邪魔しやがって……ふああ……」
監督室からは、再び静かな寝息が聞こえてきた。

「筒井さん、すいません。連れて行く人間は集めておきますから」
井上が手の空いている兵士を探しに、小走りで筒井を追い越していった。
対して筒井は、あまり急ぎでない足取りで廊下を歩いていく。
 ふと、何かに気づいたように立ち止まる。回りを見渡し、誰もいないのを確認する。
背負った四角いカバンを下ろし、中を探すと四角い物体が取り出される。
トランシーバーが振動し、赤いランプが点っていた。壁の陰に隠れると、イヤホンを耳につけスイッチを入れる。
「もしもし……こちら筒井です。」
周りを窺いながら小声でマイクに話しかける。耳を澄まして相手の声を聞く。
「え!51が地下通路を教えた?
 えぇ、彼が54を追っているのは把握していましたが……手が空きませんで」
少し声のトーンが大きくなる。汗が額にうっすらにじんだが、筒井はそれに気づかない。
「そうですか、やはり宏之と薮田はスタジアム内に侵入を、はい。どうも。
 山本さんが危険になりますが、どうしますか? わかりました、放っておきます。では」 
交信を終え、筒井は困ったように天井を見上げた。
「51め……こちらの指示を聞く気がいまいちないと思ってたが……なんのつもりだ?
 地下にいるってことは今から問いただすこともできん。ちっ」
舌打ちを一つ。筒井はトランシーバーをカバンにしまいこみ、歩き始めた。
87扉を隔てて(1/2) ◇vWptZvc5L. :2005/11/11(金) 10:38:43 ID:Cs3V0h270
外に気配がないのを確認して、錆び付いた扉を開く。
金澤岳はその中から身を這い出すと、手についた錆を払った。
辺りをを見れば墓石が倒されて銃弾が散乱し、かなり荒れている。
扉越しに聞こえた銃声や叫びから暗に予想はついたが、思ったとおりだ。
「…ったく、墓場で暴れんなよな。バチあたりめ」
そう悪態をついた後、自分が言えた立場かと鼻で笑った。
振り返って、自分が入っていた金属の箱を見る。
このボロい外見に救われたか。
開けられそうになったときは、扉を押さえる手も流石に汗ばんだが、
向こうには、錆び付いているようにしか見えなかったのだろう。
それとも、この扉の意味に気づいて開けるのをためらったのだろうか。

この焼却炉、ただの焼却炉じゃない。この立地に、人ひとりが入れるだけの大きさ。
墓場のそばで燃やして都合のいいものと言えばただひとつ。
これは火葬炉だ。つまりこの扉は彼岸と此岸との隔て、黄泉へ通じる扉。
今でも、こんな火葬炉付き墓地が残る地域があるという。
確かに人が住んでいたのなら、そういう設備もないと困るだろう。
もっともこの廃れ具合からして、今は使われていないようだが。
入っていて気分のいいものではなかったが、別に恐れることもない。
死んだ人間に一体何ができるというのか。
88扉を隔てて(2/2) ◇vWptZvc5L:2005/11/11(金) 10:39:19 ID:Cs3V0h270
「しかし、あの紺色は何モンだよ…。奴のせいで三人殺るどころか、
 あいつが死んだのかすら確認できなかったじゃないか、畜生」
左腕を見れば、鴎のエンブレムが焦げ付いて、薄く血がにじんでいる。
それでもかすった程度らしく、出血ももう止まっていた。
あれだけ感情的に乱射したら、当たるものも当たらないだろう。
いや、それを言うなら、自分だって感情的にならずに
マシンガンを持ってる奴から先に狙えばよかったのだ。
そうすれば反撃も防げたのに。
(しくじったな、あいつに固執しすぎたか…)
当たったのは見えた。問題は致命傷になっているかどうかだ。
どうする。またあそこへ戻るか? 手負いなら、そう遠くへは逃げられないはず。
でも、またあの紺色がいると厄介だ。こんな銃一丁でマシンガンと戦うのは無理がある。

この先の行動を考えあぐねて、金澤は頭を抱えた。
視界に入るのは彼岸花の群生。花の時期などとうに過ぎているが、
それでも枯れかけの花がぽつぽつと見える。その赤が血を思わせるようで妖しい。
そこへ夕日に照らされた自分の影が、長く地面に伸びていた。
(そうか、夕方の放送があるな…)
ふと思い出す。今はそれを待つしかない。
あいつの名前はあるのか、ないのか。
なければ、リスクを覚悟してもう一度。
そう、すべては18時に。
89友引(1/2) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 10:40:57 ID:Cs3V0h270
薄暗さを増す廊下に、蛍光灯のしらけた明かりが灯っている。
その中の一本は古くなったのだろう、チカチカと不規則な点滅を繰り返す。
辺りはしぃんと静まり返っている。敵はどこに潜んでいるかわからない。
言い様のない孤独を感じて、小林宏之は携帯電話を取り出す。
電源を入れれば、そこには彼女の笑顔。少しだけ心が安らぐ。
――大丈夫、後悔なんかしない。
画面の彼女に向かってうなずくと、足音が近づいてくるのを耳にする。
携帯をすぐにポケットにしまい、柱の陰に身を隠した。


――井上祐二が早足で廊下を駆けていく。
早く兵を集めて筒井の元に送り届けねばならない。
ある柱のそばを通り過ぎようとしたとき、背後から何者かに取り押さえられた。
上半身に腕を回されてがっちりと固められと、柱の陰に引きずりこまれる。
「何をする!? 離せ!」
その腕を解こうと井上はもがく。やはり侵入者がいたのか。
「騒がないでください」
背後の人物が囁く。聞き覚えのある声。
こめかみには金属の冷たい感触。銃口か。
井上は抗うのをやめる。


90友引(2/2) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 10:43:28 ID:Cs3V0h270
「だ、誰だ…?」
「わかりませんか? 投手コーチのあなたが。…悲しいですね。
 それじゃ、死んでも死にきれないじゃないですか」
紺のウインドブレーカーに包まれた長い腕、井上に劣らぬ長身、
そしてこの声。一つの人物像が思い浮ぶ。
「まさか…、ひろゆ…き…? そんな…だって宏之は…」
「ええ、死んだんですよ。一人で三途の川を渡るのは寂しいんでね、
 化けて出てきました。……山本さんはどこです?」
「知らん!」
井上はシラを切る。侵入者をやすやすと案内できるわけがない。
そんなことしたら、どんな制裁が待っているかわからない。

宏之は銃口を斜め上に向けると、軽く引き金を引く。
ぱらぱらという銃声と同時に、点滅していた蛍光灯が割れる。
飛び散る薬莢が井上の顔に当たった。
「ああなりたいなら構いませんよ。俺と一緒に渡りましょうか…三途の川」
割れた蛍光灯を目で示すと、宏之は言う。
井上の首筋を銃口で弄ぶようになぞりながら。
その緊張に耐えかねて、井上はつばを飲み込む。
額からつうと一筋の汗が流れ出た。
(ここで逆らっても従っても命の危機、か…)
しばらく考え込んだ後、口を開く。
「…わかった。ついて来い」
口では従うそぶりを見せながらも、井上は内心どうするのか決めかねていた。
91 ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 10:44:21 ID:Cs3V0h270
新しい相関図うpしてみました
(p)ttp://f19.aaa.livedoor.jp/~bokuzyo/clip/img/18.gif

若干、自分の主観が入ってます。
気づいてた方もいらっしゃるでしょうが、O型の集団がヤバイ。
92ランプ灯りて(1/4) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:45:14 ID:Cs3V0h270
 ひた、ひた、暗闇の中を歩いていく。凸凹した砂利混じりの荒れた道。
慎重に、静かに。自分の足音が響かぬように歩を進める。内竜也である。
その後ろをズケズケと、遠慮なしに足音を立てて於保浩巳が付いて来る。
咎める気にもならない、そんな内のため息は暗闇に消えた。

 中に入ってみると地下通路は思いのほか広かった。
背を曲げずに歩けるくらいの高さ、片手ぐらいは伸ばせる横幅。
右手を岩壁に当てながら、一歩一歩進んでいく。
内部に入るにつれ光が届かなくなる。薄暗い道はいつしかただの真っ黒な空間に変わった。
ただ右手に当たるゴツゴツした感触だけを頼りに進む。
時折、後ろから石の転がる音。於保が蹴飛ばしたのだろう。
(本当に黒木さんはこんなトコを進んでるんだろうか?)
フッ。
そう思った矢先、目の前にポツンと橙の点が現われる。
淡くゆらゆらと、その近くの岩に光と陰を与える。
「あっ」
小さな電球が、目の高さぐらいに点っていた。
岩壁を支えるように木の板が張りつけられ、それにコードごと電球とソケットが打ち付けられている。
数m先にもう一つ橙の点、更に先にぼんやりともう一つの点。行く先を示すように続いていた。
「スイッチでも見つけたのかな」
耳のすぐ後ろで於保が囁いた。その近さに驚いて内の肩が跳ねる。
振り向くと、けだるそうに立つ於保のシルエットがぼんやりと見えた。
電球の光がほとんど届かないその位置で、表情までは読み取ることができなかったが。
いや、どうせまた表情などないのだろう。内は踵を返し、前に進み始めた。
「スイッチを見つけたって」
「ん?ほら、この電灯の」
「分かってますよ。見つけて電気を点けたのが誰かってことです」
「他にいないだろう」
於保が坦々と、しかし妙に自信を感じさせる口調で話す。
93ランプ灯りて(2/4) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 10:45:56 ID:Cs3V0h270
「良かったじゃないか、この先にいるって分かって」
「後から別の人が来る場合もあるんじゃないですか?」
「あ、なるほど。お前頭いいな」
さっきより大きなため息が、光の届かない闇の方に消えていった。

 ずっと歩き続けて、どれくらいの時間が経ったのだろう。
点々と続く淡い光。少し歩くたびに暗闇からぼんやりと次の光が現われる。
それがひたすらに連続するだけ。一瞬、自分が前に進んでいないような錯覚さえ感じる。
あの54を追っていたときは研ぎ澄まされていた感覚が、今はどんどん削り取られていくようで。
(ん……!?)
それは白昼夢のようだった。
目の前の淡い闇をスクリーンにして、ぐるぐると記憶の一部分が次々と映し出されて消えていく。
何故か忘れてしまっていた、少し前までは確かに覚えていたはずの印象深い記憶の断片達。
キャッチボールで暴投してウチの窓を割った。そのあと怒られたっけ。
大事にしていたグラブを失くして探し回った。結局見つからなかったっけ。
部活帰り、自販機の前で友達とムダ話。あの時ポカリをおごらされたのは誰だったっけか。
誘われて自転車で出かけた、行き先は確か――
「確か、プロ野球の試合があるって誘われて……」
その先の映像が浮かぶ。
(え……54?)
「何をブツブツ呟いてるんだ?」
「ぅえっ!?」

 ッ――
目の前に一瞬、確かに浮かんだその番号は、あっという間にどこかに消え去った。
まるで最初から何もなかったかのように。後には暗闇とポツポツと橙の灯だけが残る。
「あっ」
思わず手を伸ばすが、当たり前のようにそこには何もない。ただの空気、ただの闇。
何か、彼が忘れていた大事なことがあったはずだった。
「おーい、内。大丈夫かい?」
後ろからカラカラとした軽い声が聞こえる。
内は数秒そこに呆然と突っ立って、振り向くこともなく歩き出した。
94ランプ灯りて(3/4) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:48:26 ID:Cs3V0h270
「どうした?」
「別に」
あからさまに不機嫌そうなその声を聞き、於保の声の調子が少し上がった。
「なんか邪魔したか?」
「別に、どうもしませんよ」
「黒木さんのことでも考えてたのかと思って」
「だから、別にそんなこと無――」
そんなこと無くはない。ふと内の中でそんな答えが返ってくる。
確信があるわけではない。だが可能性はかなり高い。
何かあったのは薄々思い出した。ただ細々とした思い出は頭のどこかに詰まってしまっているのだ。
自分にとって肝心なことが思い出せない。ちょっとしたきっかけで思い出せそうなのに。
だが、確かにその54に出会ったには違いない。そして、それは彼に違いないのだ。

「やっぱり、黒木さんのことでも考えてたのか」
於保がもう一度問いかけ、内はしばし無言になる。否定してやりたい気持ちがふつふつと沸いた。
だが内自身それについて、まだ決着がつかない。だから何も言えない。
そして於保に言う必要などない、と思った。
「どうしても黒木さんのことを考えさせたいんですね」
逆に聞き返す。後ろの男に関してずっと感じている疑問だ。
この男がなぜそれを気にする必要があるのか。ただ"見てるだけ"だった、この男が。
「そりゃ、お前の反応がちょっと違うからさ」
「違う?」
「ただ『一番になりたいから殺す』なんて言ってたときと比べてさ、なんか、こう違うんだよね」
「何が」
「お前の黒木さんを思い浮かべてる時の、目がな」
振り返り、於保に対峙する。シルエットの中にわずかに顔が見えるが、表情はやはり読み取れない。
内は精一杯於保を睨んでいた。それが於保に理解できたかすら分からなかったが。
「そりゃ、あの人は特別だからですよ。その辺の投手を殺すのとは違う。
 直行さんがいても、未だに一部の人にはエースなんて言われるんだから」
「殺せば、一番に近づけるのか?」
自分の話す事が、今どれだけ自分の本心の通りなのか。内にはそれが分からない。
だが目の前の男にそんなことを言っても、それは弱みになるとしか思えなかった。
95ランプ灯りて(4/4) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:50:14 ID:Cs3V0h270
「言うまでもないでしょ。エース、つまりチームで一番の投手ですから。
 殺して、みんな居なくなったあとで僕が一番になる。僕が新チームでエースになるんですよ。
 だから黒木さんみたいにエースなんて言われる人は、絶対に生きてここから出しません」
そういって内は身を翻す。逃げるように早歩きで前に進む。
後に残された於保の声が聞こえた。
「なるほど。じゃぁ見ていてやるよ、今までどおり」
その言葉に内は無言を返した。
 後ろをついて来る足音が聞こえる。聞きたくもないのに。
彼を納得、させたのだろうか。だが確かに『一番になりたい』という思いは強いのだ。
弱小ロッテで自分が一番の投手となり、ロッテを強いチームへ変えて行くエースになる。
ずっと抱いていた思いは変わらない。
どんな状況にあってもそれは変わらないのだ。
一番になりたい。エースになりたい。一番の投手になりたい。

「内、そういえば」
「なんです」
ぞんざいに答える。怒りをぶつけても効かないのは分かっていた。
「なんでお前、そんなに一番になりたいんだ?」
内はハッとして息を一瞬だけ止めた。
そういえば、自分はなぜ一番になりたいのだろうか。
「さあ? 気づいた時にはそう思ってましたから」
そう答えておく。それ以外の答えが見つからなかった。
本当にいつの間にか、一番の投手になりたいと思っていた。エースというものを目指していたのだ。
(いつから?)
ふと思う。思い出せない。すると、先ほど於保に打ち消された記憶の断片が浮かんだ。
誘われてプロ野球の試合を見に行った。あの日からだったはずだと自分に確かめる。
だがその日に起こったことは一切、どこかに詰め込まれたまま出てきそうもない。
必死に頭をひねり、内はそれを思い出せないかと悩んだ。
(あの日、僕は川崎球場で……)

内の答えに於保からの返答はないままだった。
無言のまま足音だけが二つ、暗い穴ぐらの奥へ吸い込まれていった。
96逆襲の薮田6〜忘れてはいけない〜(1/2) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 10:52:07 ID:Cs3V0h270
「やっぱり、屋外にはいないな」
「…ですね」
薮田安彦と愛甲毅がグラウンドを歩いていく。
愛甲には初めての場所でも、薮田には2度目。
ここはこの忌まわしいゲームの幕開けとなった場所だ。
「一番ありえそうなのは監督室か。あとは放送機材の揃ってそうなアナウンス室だな。
 あるいは、どこかに隠し部屋や地下室が……なんて可能性も」
「あっ…」
愛甲の話もよそに、薮田は何かを見つけて駆け寄った。
そこには地面に点々と黒っぽい染み広がっている。
それは昨日ついた血痕。明け方から降り続いていた雨でも、まだ洗い流せていない。
薮田はその場にしゃがみこむ。じっと地面に残る跡をみつめた。
忘れようとしても忘れられない、そして忘れてはいけない光景がよみがえる。
「澤井…」
もう帰ってこないチームメイトの名を呼ぶ。
恐れとも悲しさともつかない思いがこみ上げて、地につく手が震えた。
そう、すべてはここから始まった。そして今ここで終わらせる。
もうこれ以上、誰かを犠牲にするわけにはいかない。
97逆襲の薮田6〜忘れてはいけない〜(2/2) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 10:52:49 ID:Cs3V0h270
「うぁっ!?」
突然、背後から聞こえた声にぎょっとして薮田は振り向く。
「ズボンに穴空けちまったよ…」
愛甲は破けたポケットの裏地を引っ張り出しながら言う。
他愛もない出来事に胸をなでおろした。
「あぁ…どこかで引っ掛けたんですかね」
「参ったなぁ。これも長い間着てたから仕方ないか…って、あ」
愛甲が何かに気づく。
「?」
「あれ落とした」
「あれって?」
「ほら、お前に人工呼吸したときに……」
船上での会話を思い出して、薮田の顔が引きつる。
「……もうその話は勘弁してください」
「まぁ、どうせ大したもんじゃないよな。…ん? どうした薮田? どこか気分でも悪いか?」
「……」
「なぁ、薮田??」
「……急ぎましょう」
薮田は言葉少なに立ち上がり、先を急いだ。
98代打名無し@実況は実況板で:2005/11/11(金) 10:53:07 ID:owdlNThI0
99マウンドの記憶(1/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:54:18 ID:Cs3V0h270
 近くの木に背を預けて佐々木信行が休んでいる。
腕にはめた時計を見ながら、すぐ横に大口を開けている洞窟の中を見やった。
ふと、何かに気づいたように中に向かって話しかける。
「おう、ご苦労」
ザクザクと石ころと砂利混じりの道を進んでくる音がする。
夜へ向けて少しずつ薄まり始めた光が届くギリギリのところ、地面には無数の大きな石が転がっている。
その上に踏み入るように、洞窟の奥の陰の中からスッと靴が現われた。
ゆっくりと、しかし確かな足取りで靴の主は全身を現す。
洞窟の中から現われた男が、目の前の男を一瞥する。

「佐々木さんか」
黒木知宏はそのまま彼の前まで歩いていき、数歩ほどの間を空けて立つ。
何も語ることなく、何の表情も浮かべることなく、目の前の男を見つめる。
佐々木は木から背中を離し歩き出した。片手で黒木を促す。
黒木はその後をついていく。
「あのランプは、佐々木さんが?」
「便利だったろう」
「まあ」
さほど感心もなさそうに黒木が相づちを打つ。

100マウンドの記憶(1/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:54:44 ID:Cs3V0h270
周囲を見回す。森の中のようだった。佐々木が口を開く。
「福浦は元気だったか?」
「ええ」
「それは何より」
見える限り、辺りは木々が密に生い茂っている。
足元、わずかに土の露出した小さな道を歩く。脇の草が覆いかぶさるようにその道を隠していた。
二人の男は足早にそれをかき分けて進んで行く。
「スタジアムへ行って今の運営者を倒す手伝いをしろという命令でしたが」
黒木が口を開いた。
「うむ、そうだ」
「具体的に何をするか、聞かされていません」
「ん? 後で言う」
「ちょっと」
101マウンドの記憶(2/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:55:53 ID:Cs3V0h270
後ろから聞こえた足音が止まったことに気づき、佐々木は振り返る。
黒木が佐々木の顔を見据えながら、わずかに眉をしかめていた。
「ちょっと待ってくださいよ。こっちだって危ない橋を渡ってきたんだ」
「そうか?」
少し笑いを含んで佐々木は言う。それを見て黒木は語気を荒げた。トランシーバーを袋から取り出し掲げる。
「俺にこれを持たせてあんたらは言ったな。
 『福浦のそばにいて行動を観察しろ、ただし攻撃も協力もしてはいけない』って」
「ああ」
「もし福浦がやる気だったら、見ているだけなんて無理でしょう?
 こんなモデルガン一つで」
「福浦はやる気じゃなかった。なんとも幸運なことだ。
 そのモデルガン一つで巧みに仲間として取り入ったわけだし。さすがはジョニーだよ」
黒木が下唇を噛む。感情をなんとか抑えこもうとしているようで、一瞬言葉を詰まらせる。
「そんなことを聞いてるのとは違います。
 こんな危険を冒してまで、なぜそんなことをさせるのか聞きたいんですよ」
「さあ? 俺に聞かれても知らない。あの人からの命令に従っているだけだし、お前もそうだろう?」
「生き残りが必要なのに、俺にはこんなことをさせる。運営側の山本さんを、あの人は殺すと言っている。
 このゲームの主催者、一体何者で、何をさせたいのか分からない」
「詮索はその辺にしておけ。このゲームは奥が深いんだ。
 どうせお前に命令に背くという選択肢などない。背けば、チームメイト全員の命はない。なぁ、ジョニー」
低くドスを聞かせた声が佐々木から発せられる。
黒木が大きく息を呑む。だが、その目に怯んだ様子はなかった。
「他のやつらがどうなっても知らんですよ」
佐々木がピクリと眉を動かし、目を大きく開ける。
102マウンドの記憶(2/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:56:15 ID:Cs3V0h270
黒木は少しうつむき加減で下を見ている。佐々木にその表情を読み取ることはできない。
更に黒木は吐き捨てた。
「俺まで巻き添えを食って死ぬのはゴメンだ。だから命令を聞いているんだ」
「ほう、ジョニーがそんなことを言うとはな」
黒木が自分の頭に手をやる。髪を後ろにかき上げると同時に、顔を上げた。
さめざめと空を見つめる。
一つ、ため息を小さくついた。
「あのマウンドへ帰る。それだけを考えてきたんですよ」
103マウンドの記憶(3/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:57:25 ID:Cs3V0h270
佐々木は黒木をじっと見つめ、その言葉を聞いていた。
「俺はエースだった。エースとしてあのマウンドの上にいた。
 その記憶だけをずっと忘れずに生きてきたんだ。いくら後ろ指を差され、蔑まれても」
目に微かに別の風景を思い浮かべたように語る。そして再びその目は佐々木を向く。
「もう一度エースとしてマウンドに立つんだ。死ぬつもりはない」

「くくく」
佐々木が笑う。
「何がおかしいんです?」
「いや、これはお前を買いかぶっていた。
 お前一人の命を盾にしても、こちらに協力するぐらいなら死を選ぶと思っていた」
「俺は俺の命だけが惜しい。何か笑うところがありますか?」
その言葉とは裏腹に、少しもその口調に怒りはない。
表情に変化はない。ただ淡々と言葉をつむぎ、悠然とそこに立っている。
「極めて正常だ。ただジョニーに関しては、全員を人質にした方がいいとな。
 お前はそういう人間だと、あの人も俺も勘違いしていたようだ。それがおかしくてな」
「そうですね。全員を人質にするなんて無駄ですよ」
黒木がうっすらと笑いを浮かべ、視線を上や下にフラフラと向ける。もう佐々木を見ようとはしない。
佐々木が再び道を歩き出し、黒木に背中を向ける。
その背中を見て、黒木の表情が一変した。
堅く拳を握り締め、歯を食いしばり、体を震わせている。
何かを溜め込むようなその様子を佐々木が知ることはなかった。
104マウンドの記憶(3/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:57:47 ID:Cs3V0h270

「ま、誰が人質だろうと命令を聞くだけマシだがな。
 あいつときたら……」
「あいつ?」
佐々木のつぶやきに思わず黒木が反応する。沸き起こった疑問に、体の震えがどこかへ抜けた。
「本当は合流するつもりだった、お前と同じ役割の人間、オブザーバーがいる。
 もっとも観察する相手をまだ連れているから、会うわけには行かないが」
黒木は言葉が出ないようだった。
一人だけがその役割とは限らないという、当然の事に気づく。
だがそれは余計に、そのオブザーバーというものの意義に大きな疑問をなげかけた。
105マウンドの記憶(4/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:59:11 ID:Cs3V0h270
「それは誰です?」
「ん? それは――」

――ブチッ
「お? 壊れた?」
於保浩巳がトランシーバーを小突く。
スイッチを色々といじるが、トランシーバーからその会話が聞こえることは無かった。
「んー……ダメか」
内竜也は呆然とその様子を見つめていた。

 ここで少し時間は戻る。
内に続いて於保も洞窟を出た。入ったときより薄暗い空。
足元には僅かに靴の跡が残っている。
「黒木さんは、確かにここを出たみたいですね」
「ああ、そうか」
あなたがそう言って案内したんじゃないか。そんな言葉を飲み込み内は獣道を進もうとした。
106マウンドの記憶(4/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 10:59:29 ID:Cs3V0h270
どのみち黒木に会わなくてはならない。会ってどうするつもりなのかは自分でも分かっていないのだが。
背後には於保がつっ立っている。と、顎をゆっくりとなでる。
バックに手を入れて何か取り出す。件のトランシーバーである。
「なんだこれは?」
於保が驚いたような声で言ってみせた。
内が振り向くと、落ちていたトランシーバーを拾い上げるようにする於保がいた。
「トランシーバー?」
「そうだな。なんでこんなところに落ちてるんだろう。全く不思議だ」
そう言って、於保はスイッチやつまみを適当に合わせ始めた。
間もなく、ノイズに混じって誰かの声が聞こえ始めた。どうやら2人が会話しているようである。
「チャンネルが合ってるんだな。筒抜けだ」
拾ったばかりにしては、妙に手馴れた手つきでそれを扱う於保が気になりもしたが、すぐにクリアな声が飛び込んできた。
『……ば、選手全員の命はない。なぁ、ジョニー』
「黒木さん!?」
聞き覚えのある声が、聞き覚えのある名を読んだ。そして聞こえたのは、彼の声。
『他のやつらがどうなっても知らんですよ』
107マウンドの記憶(5/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:00:14 ID:Cs3V0h270
「え……」
声にならない声が漏れた。
『俺まで巻き添えを食って死ぬのはゴメンだ』
その声は間違いなく黒木のものであり、だがその言葉が黒木のものであると認識できなかった。
ちぐはぐに思考が積まれる。状況を整理しようとするほど、脳は益々ぎこちなく動いていく。
『もう一度エースとしてマウンドに立つんだ』
この言葉が当てはまる人を、内は一人しか知らない。
だが、その声の主は確かにさっきの声の主と同じなのだ。
彼がそのようなことを言う、ということは、どういうことなのか分からない。
「黒木さんも乗っちゃったのかな」
於保がいとも簡単にその結論を口にする。
「違う」
反射的に口をついて出た。なぜ? 自分でも分からない。
自分は他人を押しのけようと決めたくせに、何故黒木がそうであることを否定しているのか。
「何でそう思う? 内よ」
分からない。何故、彼がそうすることを受け入れられないのか。
内はただ黙っていることしかできない。たどたどしく思考が動く。
「お? 壊れた?」
於保が自らスイッチを切り、そう言葉を発したことを内は知らない。
108マウンドの記憶(5/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:00:38 ID:Cs3V0h270
 於保がそのトランシーバーを仕切りに直そうとするが、もはやそれは大きな問題ではなかった。
ふらふらと、細い道を内は歩き出す。
「内?」
於保の問いかけにも答えない。
ベルトに差し込んだ銃にそっと手を触れる。
ふと見上げると、木々の隙間に空とは違う色が見える。
大きな建物の壁、ほんの一日前に出て行ったあのスタジムがあった。
「黒木さんに会ったら、僕は」
その結論はまだ決まらない。
それ以前に彼に会いたいのかと、それすらも分からなかった。
109What Happened to You?(1/3) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:01:25 ID:Cs3V0h270
「手を上げて。そのまま頭の後ろで組んでください」
背後から銃口を突きつけられ、井上祐二は小林宏之に言われるままに従う。
このまますんなりと宏之を案内して、制裁を受けて死ぬか。
それとも宏之に抵抗して、銃弾の雨を浴びて死ぬか。
いや、これだけ銃声が鳴り響いてるんだ。
きっと誰か異変に気づいて、駆けつけてくれるはずだ。
とにかくそれを待つしかない。井上は時間を稼ごうとして、ひたすら口を動かした。
「なぁ、お前…山本さんに会ってどうするつもりだ?
 そんなことして、このゲームが止められるとでも思ってるのか?
 このゲームはな、お前一人じゃどうにもならない程大きな力が働いてるんだよ。
 悪あがきはやめとけ。無駄死にするだけだぞ。それに――」

――前にも同じようなことを言われた記憶がある。あれは確か、小野晋吾だ。
ぞれでも、もう後戻りは出来ない。今さら後に引けるか。
しがらみを打ち砕くように、宏之はマシンガンをぶっ放す。

「ひっ…」
井上の目線のすぐ横には煙立つ銃口があった。
硝煙の臭いが鼻につく。右耳は爆音のためにまだ聴覚が戻らず、耳鳴りが治まらない。
「井上さんがあんまりうるさいから、手が滑っちゃいましたよ。
 無駄口たたかずに、さっさと歩いてもらえます?」
抑えながらも脅迫じみた口調。井上の顔から血の気がひいた。
(何で誰も来ないんだ!? 銃声なんて日常茶飯事だから、
 いちいち反応してられないってか? それともまさか…)
考えたくない仮説がよぎる。
(分かっているのに、わざと来ない…? 俺は…見限られた?)
廊下を歩いていく筒井良紀の姿が思い浮かんだ。
あの人がまだこの廊下の先にいるとしたら、
銃声が聞こえてもおかしくないはず。なのに何故――
110What Happened to You?(2/3) ◇vWptZvc5L:2005/11/11(金) 11:02:01 ID:Cs3V0h270
井上がまだ呆然と立ち尽くしていると、銃口がぺしぺしと横っ面をはたいてくる。
早く歩けと言う脅しだ。その感触ではっと現実に引き戻される。
「分かったよ、分かったから!」
返す声が裏返る。仕方なくとぼとぼと歩き出した。
足の向かう先は監督室。それでも頭の中では必死に抜け道を探して。  
ゆっくりと歩みを進めながら、井上は宏之の様子にも考えを巡らす。
宏之を単身でここに乗り込ませたものは何なのだろうか。
単純に正義感だと言うには少し違う気がする。
宏之の言動には何かキレた迫力というか、凄みがある。
ただゲームをやめさせたいだけの平和主義者が、
こんなやたらめったらマシンガンを撃ちまくるだろうか。
「宏之、お前一体何がしたいんだ? ゲームの阻止だけじゃないよな…?」
井上の問いに宏之の眉がピクリと動く。
「……他に知りたいこともありますんでね」
何か含みを持った呟きが返ってくる。それ以上は答えない。

廊下を進んでいくと、ひとつのドアが目についた。
(あれだ…!)
ある考えがひらめく。賭けだった。
そのドアの前までたどり着くと、井上は足を止めた。
「手、下ろすぞ。いいか?」
宏之に確認してから、右手をノブにかけてドアを開ける。
すぐ脇の壁を探ってスイッチを付けると、明かりが点った。
目の前に現れたのは、細長い灰色のロッカーの群れ。
各ロッカーには二桁の番号が割り振られ、
部屋の奥へと向かって幾列の等差数列が続いている。
井上はすばやく目を動かして部屋全体を探った。
奥に野球用具が収納されていることを確認する。
111What Happened to You?(3/3) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:02:49 ID:Cs3V0h270
「ここはロッカールームだ。このロッカーのひとつが、隠し通路の入り口になっている。
 そこを通っていけば、お前の目的に適うはずだ」
口から出たでまかせだった。すべては宏之を陥れるため。
井上の意識は用具置き場に傾いている。狙いは金属バット。
頭の中で、自分がとるべき行動をさらう。
(まず宏之を部屋の奥まで誘い込む。バットを掴める位置まで来たら、
 ロッカーを開けるふりをして襲い掛かる。宏之が撃つのが早いか、俺が殴るのが早いか…)
その先は分からない。うまくいったとしても、たぶん無傷ではすまないだろう。
それでも井上にとって、これが思いつく限り最善の策だった。一か八かだ。
立ち並ぶロッカーの間をぬって、そろそろと奥へ進んでいく。

「ああぁぁぁあああ!!!」
突然、叫び声と銃声を聞いて井上は振りかえる。
そこには半狂乱になって一台のロッカーを撃ち続ける宏之がいた。
弾が尽きてもなお、マシンガンを振りかざしてロッカーを叩きつける。
ガンガンと響く金属音。62番ロッカーがボコボコにへこんでいく。井上はそこに狂気の片鱗を見た。
これか、宏之を突き動かしていたものは。自分が感じた凄みの正体は、この狂気だったのか。
井上は宏之の豹変に恐れをなして後ずさる。
数歩下がると体が棚にぶつかった。そこにはボールやミットが仕舞われている。
はっと目線を下へやれば、足元にはバットケース。
井上はそこに立ててある金属バットを抜き出し、両手でしっかりと握った。
112孤立無援(1/2) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:03:41 ID:Cs3V0h270
「……」
黙って後ろを振り返ること数秒、筒井良紀は再び歩き始めた。
ほどなく、廊下の向こうから兵士が一人駆けて来た。
筒井の姿を視界にとらえ一礼する。
「今、銃声らしき音が聞こえませんでしたか?」
彼が尋ねると、筒井は一呼吸間を置いて答える。
「ああ、聞こえた。スタジアムの外からな」
「外から? 侵入者ではないんですか?」
その兵士は少々の困惑を顔に浮かばせた。
「そうだ、正面玄関の警備が襲われたのは聞いているか?」
「はい。井上班長の指示で、負傷者の搬送と新たな人員の配置は完了しています」
「ふむ。実はその後分かったんだが……誰もスタジアム内には侵入していないのだ。
 薮田が正面玄関の警備を襲った後、近くの森へ潜伏しているらしい」
「そうなんですか! 了解です。しかし、つい今も銃声が聞こえてきませんでしたか?
 私はそれを聞いて慌てて来たのですが……」
「聞こえてきたのは窓の外からだ」
「窓?」
筒井が後ろの方に向かって手を持ち上げる。指し示した先には大きな窓があった。
窓は閉じており、厚いガラス越しに外の薄暗さが窺える。
「あの窓の外から銃声が聞こえてきたんだよ」
「はあ……」
そう言って兵士は窓の方へ近づいていった。と、不思議そうな顔をする。
「筒井班長、この窓……鍵がかかってますが」

ズダダ。
「え……?」
振り向いた兵士の顔は困惑で、体は赤い血で染まっていく。
拳銃を手に持った筒井が表情を変えず、彼の倒れる様を見守っている。
彼は床に倒れ、間もなく息を引き取った。
「うまい手だと思ったが、鍵がかかっているのを忘れていたとは」
そう言って、その窓の鍵を開ける。窓を開けると静かな森の風景が広がっていた。
113孤立無援(2/2) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:04:27 ID:Cs3V0h270
「まぁ、この事態を利用すればな」
そうつぶやくと同時に、廊下の奥から兵士が数人駆けて来た。
「筒井班長! 今の銃声は!?」
先頭の兵士が叫ぶ。
「今、侵入者はこの窓から出て行った!
 一人、コイツが撃たれちまった。もう息はない」
そう言って足元に倒れる兵士の亡骸を指差す。
「追うぞ、ついてこい!」
「イエッサー!」
筒井が窓から飛び出すのに続き、兵士達が外に飛び出して行く。
「相手は玄関の警備も一網打尽にしたやつだ。かなりの手練れだから心してかかれ」
走りながら兵士達に叫ぶと、それを聞き彼らは気勢を揚げた。
(ひぃ、ふぅ、みぃ……)
その様子を見ながら、彼に付き従ってきた兵士の数をかぞえる。
(5人か、正面玄関でやられたのが4人、俺がさっきやったのが1人。
 10人がこれで消えることになるか)
もう一度人員の配置を思い出す。正面玄関含めた複数の出入り口の警備に割かれる人員は10名以上。
当初いた兵士の数は20人強だったはずだ。と、いうことは。
「今、スタジアム内を巡回しているのは一人二人もいないことになるか。
 薮田と宏之め、感謝しろよ。これだけお膳立てしてやったんだからな」


「……zzz……バカヤロー、二日も休んでむにゃ……」
監督室に安らかな寝息が響く。
山本功児の眠りを妨げるものはいない。少なくとも今は。
監督室の前の廊下、その先すらも人っ子一人歩いていなかった。
彼を守るべき者はいない、ただそれを知らずに眠るだけであった。
114ふらふら(1/2) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:05:11 ID:Cs3V0h270
垣内哲也はふらふらと森の中をさまよい歩いていた。
誰かに会いたいのか、誰にも会いたくないのか、それすら自分でもわからない。
放って置いて欲しい。見捨てないで欲しい。
そんな相反する感情が同時に渦巻いて、押しつぶされそうだった。
それでも体を動かしていれば、少しはそんな苦しさも紛れる気がしたのだ。
生い茂る草を踏み分けようとしたとき、垣内は視界に入ったものに驚愕した。
垣内の足元には一升瓶を抱えた男が座り込んでいたのだった。
耳まで赤くなった顔。一目で素面ではないとわかる。
(何でこんなところに酔っ払いがいるんだ…?)
呆気に取られていると、酔っ払いがこちらの方に気づいた。
「お、垣内じゃねぇか! テメェ、しけた面してんじゃねーぞ、コラ」
大声で話しかけられたが、明らかに呂律が回っていない。
(…か、かきうちぃ?  おいおい、こんなヤツに呼び捨てされる筋合いないぞ。てか、こいつ誰だ?) 
確か浦和でよく見かけたような気がするが、名前が思い出せない。
素面ならすぐにわかったのだろうが、こんな泥酔した様子では判別がつかない。
「ま、おまえも飲め。飲んで、吐け!」
酔っ払いが一升瓶を差し出す。
「いいよ、俺は…」
「何だとぉ!? てめぇ、俺の酒が飲めねぇってのか? あぁん?」
そういいながら今度は、垣内の右足にしがみついてくる。
吐く言葉がすでに典型的な酔っ払いのセリフだ。
「何で俺がお前の酒を飲まなきゃならないんだよ!?」
しがみつく酔っ払いを振り払う。酔っ払いはそのまま地面にうつ伏せで倒れた。
そのとき見えた背番号と名前で、垣内はようやくその酔っ払いの名を思い出した。
(…戸部か!)
ふらつきながら戸部浩が起き上がる。
「垣内、貴様ロッテに来て何年だ?」
「は…? えーっと、2年…か?」
「だろぉ? 貴様、たかが2年ごときでガタガタ騒ぐんじゃねぇ。俺なんかなぁ、5年だぞ、5年。
 先輩の盃は受けるのが筋ってもんだろ。とにかく飲め! 飲めったら飲め。飲め、飲め、今ここで」
115ふらふら(2/2) ◇vWptZvc5L:2005/11/11(金) 11:05:47 ID:Cs3V0h270
言ってることが無茶苦茶だ。この球団での在籍年数はどうであれ、
年齢もプロとしての経歴も、戸部より垣内の方がはるかに上なのだ。
酔っ払いに道理は通用しない。よくわからないが、どうあっても飲ませたいらしい。
「飲めば気がすむのか…?」
垣内は戸惑いながらも差し出された瓶を受け取り、地面に腰を下ろした。
瓶には三分の一ほどの液体が入っている。夕暮れの空の下、目を凝らしてラベルを見た。
(何だこれ? 日本酒…? いや、泡盛か。沖縄の酒だな)
そうだ、本来なら今頃秋季キャンプで沖縄にいるはずだったのに、
何でこんな所でこんな目に、しかも酔っ払いの相手までしなけりゃならないのだろうか。
垣内自身、酒は嫌いではない。いや、むしろ好きだ。強い方だと自分でも思う。
西武にいたころには清原や鈴木健と一緒によく飲み歩いたものだった。
だが、今は別だ。練習後に労をねぎらって仲間と飲む酒ならばうまいだろうが、
とてもそんな気分ではなかった。瓶を受け取ってしまったものの、気が進まない。
どうしてもこれを飲まなければならないのだろうか。
垣内は請うように戸部の顔を見た。
「飲め! 飲め! 今ここで! かきうちてーつーやー かきうちてーつー……」
「ああ、もうわかったよ! 飲めばいいんだろっ! わかったから歌うな、バカ!」
フリまでつけて歌い出す戸部を制して、一気に酒をあおった。
瓶の口から生ぬるい液体をそのまま喉に押し流す。
数口飲んだところで、地面に瓶を置いた。
「…気がすんだか」
戸部はその様子を食い入るように見た後、手を叩いた。
「さっすが、おいやん! やっぱり、飲みっぷりが違うっ! じゃ、後は頼んだ」
そう言って垣内の背中をばしんと叩くと、戸部は地面に倒れ込む。
「おい、ちょっと…? 頼むって何がだよ!? おい、起きろ! なぁ、戸部?」
体を揺するが起きようとしない。完全に酔いつぶれてしまってる。
すぐにいびきまで聞こえ始め、垣内は起こすのを諦めた。
「何なんだ、一体? 飲まなきゃやってられなかったのか…?」
垣内は目の前で眠りこける酔っ払いをただ呆然と見つめていた。
116番外 李承■と愉快な同士たち21(1/4) ◇CpgsCDAZJ6 :2005/11/11(金) 11:06:29 ID:Cs3V0h270
〔丶`J´〕ノ◆<オッス、ケンニップ(えごまの葉のつけ物)!李承■デス
 小さなビルの裏口に入ると、そこには地下へ続く階段がありまシタ。
1階分降りると、踊り場にドアが一つ、そしてまた下へ続く階段。
小さな蛍光灯一つでは薄暗くて、コンクリートの壁がより黒ずんで見えまシタ。
そしてその女性に導かれ、私と同士達は地下へと降りていくのでしタ。
「どこまで降りる?」
「ここまで、ですよ」
そう言って彼女は踊り場のドアの前で立ち止まりましタ。
ノブを回すと、キィとさび付いた音を立ててドアがゆっくり開きましタ。

「これは……」
私達の前には長い長い廊下がありましタ。そこは何の案内もなく、ただただ壁が続いていまシタ。
「オー、ヤリチン……」(訳:都心の地下にこれだけの通路があるとは、これはもしや……)
「そうです。この通路はロッテ本社の地下まで、いえ、この一帯の地下に張り巡らされた秘密の施設につながっています」
「秘密の施設?」
「大企業らしく、色々と表に出せないことをするための施設のようです。
 私がこれからご案内するのはCMBRの中心と思われる所ですね」
彼女は廊下を歩き出しまシタ。
廊下はところどころ分かれ道になっており、ときたま何かのドアが現われマス。
「社員に見つからないような道を進んでいます。勝手な行動は取らないでくださいね」
そう言って、彼女は私達の行く手と違う方の道をのぞき見るベニーをたしなめましタ。
「オー、ヤリチン?」
フランコがそう尋ねました。彼女は一旦足を止め、フランコを向き直りまス。
「そういえば、まだ私についてお話していませんでしたね。お分かりになりませんか?
 ま、無理もありませんね。裏方ですから」
「やはり、あなたはマリーンズと関係のある方なんですね?
 そうなんです。覚えがないわけではないんですよ」
私もその会話に割って入り、先刻からの疑念を問いただしマス。
「ええ、私は……あれ? ベニーさんは?」
周囲を見渡すとベニーがいなくなっていましタ。
「誰だ!」
そして後方の曲がり角の先から、そんな叫び声が聞こえてきたのデス。
117番外 李承■と愉快な同士たち21(2/4) ◇CpgsCDAZJ6:2005/11/11(金) 11:07:09 ID:Cs3V0h270
「千葉マリーンズ・バトルロワイアル、早く、止めろ! 今すぐだ!」
「ぐああ……、侵入者だ! 侵入者だー!」
私達が駆けつけると、見知らぬ男の胸倉を掴んで持ち上げるベニーの姿がありまシタ。
男は既に泡を吹いて気を失っているようでス。
「ベニーさん、なんてことを!」
彼女が叫び、ベニーへを激しく責め立てまス。
「せっかく遠回りでも安全な道を進んでいたのに。すぐに警備が来てしまいますよ!」
「遠回り? しない! みんな、きっと苦しんでる。だから助ける、早く!
 ゼッタイ、遠回りなんて、しない!」
ベニーが大声で言い返しまシタ。私も驚くほどの大声デ。怒りで体を震わせながら、しかし目に涙がありまシタ。
「しかし……」
彼女はその後に続ける言葉が見つからないようでしシタ。

「オー、ヤリチン!?」(訳:おいでなすったぜ。さあ、どうする!?)
廊下の置くから大勢が駆け寄ってくる足音が響いてきましタ。
彼女の表情が険しくなりまス。
「警備が来たようです。ここは一旦逃げま……」
振り返る彼女を大きな腕が制止しまス。ベニーが仁王立ちしていましタ。
「バトルロワイアルの中心、どこだ? それ、教えろ」
「何言ってるの? あなたが騒ぎを起こしたせいで、その方向から警備が来てるのよ!
 どうやって行くって言うのかしら!?」
彼女も焦っているようでしタ。さっきまでの冷静な姿が嘘のようでス。
「わかった、アリガトウ」
そう言ってベニーが走り出しまシタ。向かう先は、まさにその中心へと向かう方向デシタ。
「オー、ヤリチン!」
「そうだ、フランコの言うとおり無茶だ! 止めろ!」
フランコと私の制止も聞かず、ベニーは全速力で走って行きまス。

「いたぞー!」
廊下の向こうから大勢の人間の影が現われましタ。
118番外 李承■と愉快な同士たち21(3/4) :2005/11/11(金) 11:07:52 ID:Cs3V0h270
「な、あれは……!?」
彼らは手に手に銃を持っていまス。ここは日本のはずで、日本は一般人には銃を持つことはできないはずナノニ!
「オー、ヤリチン!」
「今さら驚くことではありません。これがロッテ本社の裏の顔です。早く逃げましょう!」
彼女が訴えまス。
しかしベニーは、ベニーの足は止まることはありまセン。
それどころか加速がどんどん強まっていきマス。
「撃てえぇ!」
「ベニー、引き返せ! 危ない!」
「うおおおお!」

私は思わず目を閉じましタ。
ガガガガガ。ドン。
幾つもの銃声のあと、大きな衝突音が響きましタ。
「……?」
私は恐る恐る目を開けまス。
そこにはベニーが立っていましタ。その横には何人もの警備達が倒れていまス。
「オー、ヤリチン!?」
「大丈夫、俺、痛くない。こんな弾、効かない! 当たらない!」
さすがはベニーでス。彼はその屈強な体で、銃すらものともしなかったようデス。
「なんて人……」
彼女はただ驚いているようでしタ。
「さぁ、行こうぜ!」
ベニーが再び走り出しまス。誰も遮ることのない廊下を、私達も後に続きましタ。


「地下連絡通路で侵入者が確認されました。現在、本社の最下層部へと向かっているようです」
「よし、すぐに捕えろ!」
瀬戸山の指示を聞き、部下の一人が足早に部屋を出た。残った部下は更に報告を続ける。
「監視カメラで確認できました。外国人たちを手引きしているのはこの女です」
「んむ、これは!? なるほど……道理で内情に詳しいと思ったら」
119番外 李承■と愉快な同士たち21(4/4) ◇CpgsCDAZJ6:2005/11/11(金) 11:08:36 ID:Cs3V0h270
「ご存知で?」
「ん? まぁな、よしこの女も一緒に捕らえろ。確か暴動鎮圧用のアレがあったろう。
 余興の演出にピッタリな人材まで来るとはなんとも都合がいい。私には運があるぞぉ……ふふふ」
「一体、この女は誰なのですか?」
「この女はな、株式会社千葉ロッテマリーンズの人間であり、私の部下だ」


ベニーが先頭に立って廊下をぐんぐんと走って行きマス。
「そこ、右です……はあはあ」
「わかった!」
「オー、ヤリチン?」
「えぇ、急ぐのは結構ですが私にはこのペースは早すぎま……」
「オー、ヤリチン」
「え? あら、まあ」
ひょいとフランコが彼女を担いで肩に乗せましタ。
「すいません、フランコさん」
フランコが手を横に振って気にするなと合図しまシタ。私達はなおも走りまス。
「とにかく、もはや一刻も早くこのゲームを止めるしかありません。
 マリーンズが無くならないために。私の夢がなくならないために」
「貴女の夢?」
「オリオンズの時代から。このチームの誇りを声に乗せて球場に響かせるのが夢だった、そんな女です。
 千葉マリンでずっと貴方たちの名前を呼んでいた、それだけの女ですけど」
「オー、ヤリチン!」
「では、あなたは」
「谷保恵美、ただのウグイス嬢です。
 マリーンズの選手達は私の誇り、彼らの名前を呼ぶのが私の夢。だから絶対に壊させません」
そのとき、前を走っていたベニーが叫びましタ。

【同士4名  ※■は火へんに華】
120番外 李承■と愉快な同士たち22 ◇CpgsCDAZJ6:2005/11/11(金) 11:09:35 ID:Cs3V0h270
「Lの13隔壁、降下開始」
その合図と共に、ベニーの前に突然壁が降りてきた。
ベニーがそこに到着する頃には完全に通路を塞いでしまう。
慌てるベニーだが、じっとその壁を睨むと力いっぱいに拳を叩きつける。
わずかに壁から破片がこぼれ落ちたが、厚い壁にその小さな亀裂が広がることは無かった。
腕を抑える。武装した警備たちに体当たりし、多数の打撲を負った両腕。
後ろにいる仲間達にさとられてはいないが、負傷で弱まった力まではごまかせなかった。
駆けつけてきたフランコが立ち止まる。
振り向いた瞬間、ベニーがゆっくりと崩れ落ちる。フランコがハッとして上を見る。
「オー、ヤリチン!!」
天井の小さな穴から少し白く曇った気体がゆっくりと降りてきている。
まともにそれを吸ったベニーは既に深い眠りに落ちていた。
催眠ガス。フランコが後ろを見ると、後方でも通路を塞ぐように壁がゆっくりと降りてくるのが見えた。
既に彼の体にしなだれかかった谷保が彼の動きを鈍らせる。
後ろにいた李がベニーを助け起こそうと近づいてくるのを見て、フランコは渾身の力を込め彼の体を蹴り飛ばした。
地面を転げながら李の体は下りてくる壁をくぐり、その向こうまで達する。
「何てことをするんだ! フランコ、オイ、オイ!」
頭を抱えながら起き上がり、李が悲壮な面持ちで叫ぶ。
そこでフランコの膝がガクリと落ちる。クッと一息吐いて、もう一度立ち直す。
ニヤっと笑って右手の親指を上げると、全身から抜けていく力を振り絞って李に言い放った。
「オー、ヤリチン」

そして壁が完全に李と3人を分ける。
李は地面を拳で激しく叩き付けると、歯を食いしばってその場から逃げ去って行った。

【同士4名  ※■は火へんに華】
121番外 愉快なカモメたち13(1/2) ◇vWptZvc5L:2005/11/11(金) 11:10:19 ID:Cs3V0h270
「マー君、大丈夫かしら…」
リーンちゃんはマリンスタジアムの外でひたすらマー君とズーちゃんを待っていた。
ズーちゃんが「何とかしてくる」と言い残してスタジアムに消えてから数時間。
もうすっかり日も傾いて、暗くなりかけていた。
「ごめん。リーンちゃん、お待たせ!」
ようやくズーちゃんがマー君を引き連れて現れた。
「マー君!?」
リーンちゃんはその姿に驚いた。
ズーちゃんの横にいたのは確かにマー君ではあった。
が、それはマー君はマー君でも3代目マー君だった。
今のマー君は2002年にリニューアルされた4代目マー君である。
3代目マー君はしっぽや目など現マー君とは微妙に雰囲気が違っている。
そんな3代目マー君と今のズーちゃんが並んでいる光景は異様としか言えなかった。
「うわぁ、懐かしい…よく見つけてきたわねぇ」
「ほら、今の兄ちゃんは切っちゃったおでこの修理…じゃなくて治療に時間かかりそうだったし、
 治るまでの応急処置ってことで、ね。(それに、首の補強もしなきゃならないしさ…)
 中の人…じゃない、内面は変わってないから問題ないよ。なんか埃っぽいけど」
「…そうなの? よかったぁ」
ズーちゃんのたどたどしい説明にはかなり無理があったが、
リーンちゃんはそんなことを気にすることもなく、ただただ安堵した
122番外 愉快なカモメたち13(2/2) ◇vWptZvc5L:2005/11/11(金) 11:10:51 ID:Cs3V0h270
「…で、マー君。首は大丈夫なの?」
「へっ? 首?」
(うわあぁぁぁあああ! リーンちゃん、それ言っちゃダメだってば!!)
きょとんとしているマー君の横で、ズーちゃんがものすごくうろたえている。
リーンちゃんはそれに気づいて、慌てて両手で口を押さえた。
「首が…どうかした?」
「なんでもない、なんでもないっ! あー、ほら、追突した衝撃で
 ムチ打ち症になってたりしないかなー、なーんてね。ア、アハハハ…」
ズーちゃんはとにかく笑ってごまかす。
気絶してる間に首ポロリ、なんて本人に言えるはずがなかった。
リーンちゃんも内心苦笑いしながら、ハッとあることに気づく。
「ねぇ、ズーちゃん。これってまさか、マー君がまた怪我したら
 今度は2代目や初代のマー君が出てくるの…?」
「そだよ」
ズーちゃんはあっさりと答える。
リーンちゃんは頭の中で歴代のマー君の姿を思い浮かべた。
今でこそ12球団のマスコットの中でも有数の可愛らしさを誇るマー君だが、
初期のマー君といったらそれはもう、今の面影など微塵もなく、
どこがカモメなのかと問い詰めたくなるほどの出来であった。
「マー君、もう絶対に怪我しちゃダメだからね! 絶対だからねっ!!」
リーンちゃんはマー君に強く念を押した。
123逆襲の薮田7〜待ち合わせは6時〜(1/2) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:11:47 ID:Cs3V0h270
「アカン、これも違うわ」
今開けたばかりの部屋のドアをバタンと閉めて薮田安彦は横を見る。
そこには同じようにドアを開けて中を窺う愛甲猛の姿があった。
「そっちはどないですか?」
尋ねられ、愛甲が無言でドアをゆっくりと元に戻す。
「……山本さんがいっぱい、いる」
「は?」
薮田が慌てて駆け寄りその部屋の中を見ると、六畳ほどの小さな部屋の壁一面に山本功児の写真パネルが飾られていた。
その壁の中央にはサインの入ったバットやボールと共に「山本功児博物館」と書かれた板が掲げられている。
現役時代からつい最近と思われる各種の顔写真が、一様にこちらを見てニヤニヤと笑っている。
「……行きましょう、早く監督室を探さな」
「ああ、そうだな……」

 片っ端から目に付いたドアを開けていく。
会議室や倉庫に博物館、しかし目当ての部屋は見つからなかった。
このスタジアムの中で迷っている時間などないと、焦りだけが二人の心に募っていく。
廊下を小走りに駆け、曲がり角で一旦止まると薮田がその先をチラリと見やる。
「よし、誰もいないですわ。行きましょ」
「妙だな」
飛び出そうとした薮田の出鼻をくじくように、愛甲がつぶやく。
「何がですか?」
振り返って薮田が問う。
愛甲はしばらく黙ると、おもむろに口を開いた。
「おかしいと思わんか? スタジアムに入ってから、兵士と思しき奴に遭遇しない。
 一人もだぞ? お前の話だとかなりの数の兵士がいるんだろう?」
「そういえば」
ハッとしたような表情の後、薮田は再び角の先を窺ってみる。やはり誰もいなかった。
「確かに、静か過ぎですね」
「何かの罠か、あるいは何かアクシデントでも起きているのか……」
「しかし、ワイらはいずれにしろ」
「行くしかない、な」
124逆襲の薮田7〜待ち合わせは6時〜(2/2) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:12:20 ID:Cs3V0h270
互いの眼を見て頷き合うと、二人は再び廊下を駆け出した。
またいくつかのドアを開いてはため息をつく。
「やはり、表立ったところには無いのか」
愛甲の心に徒労感が浮かんだそのとき、すぐ向こうの薮田が叫んだ。
「ここや!」
そこにはマイクを始め放送機材らしきものが並んでいた。
そろそろと中に入り、大型の機器の上に乗ったマイクの所へ近づいていく。
「ん、これは?」
マイクの近くに散らばっていた小さな紙の一つを取る。
「12時放送分。11番藤田、31番渡辺俊……」
「定時放送のメモか! 決まりだな、ここがアナウンス室ってわけだ」
愛甲の瞳に再び活力が戻る。いよいよ来るべきその時を見据えた瞳だった。
パシンと右拳で左の掌を叩く。
「よーし、ここで待ち伏せすれば山本さんが直に来るってわけだ。
 そこをひっ捕まえて……ん? おい、薮田、聞いてるか?」

 薮田の背中が静かに震えている。
一枚、一枚、そこに置いてあったメモに目を落とす。じっくりと目を通して、静かにそれらを元の場所に置く。
「薮田……」
静かに漏れている声は、何かを押し殺しているようにも聞こえた。
悲しみ、怒り、あるいは別の何かなのか。強い感情が彼の背中にみなぎるのが愛甲には見えた。
何の感情なのかそれは薮田本人にすらわからないのかも知れないが。
「そこに大きいロッカーがある、中に隠れて山本さんを待とう」
「……分かりました」
そう言って薮田はロッカーに向かう。
「飛び出すタイミングはどうする? 俺が行くか?」
2・3度、薮田は胸に手を当て深呼吸をした。
「お気遣いありがとうございます。でもワイが行きます。行かせてください」
弱々しさや焦りは含まぬ、逞しさと優しさを併せたような声で薮田は言った。
愛甲は安堵のため息をつく。ポンと薮田の肩を叩き、頼むぞと言ってやった。
125◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:13:00 ID:Cs3V0h270
◆QkRJTXcpFIさんのイメージムービーと
薮田編第2部の予告を参考にしてフラッシュを作ってみました。

「怒涛の市街戦編」 1MB弱、300×400です。
(p)ttp://www.nigauri.sakura.ne.jp/src/up1245.swf.html


126スパイクの刻むもの(1/3) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:13:56 ID:Cs3V0h270
 エースは勝たなければいけない。だけど勝つだけではエースになれない。
あのマウンドに立つ。それは今の自分には届かない最低限の夢なだけで。
エースとしてあの場所に還る時、自分の左足が大地に刻み込むのはスパイクの跡だけではないのだ。
だからこそ自分はそうすべきなのだ。エースとしてあのマウンドに還るために。

 黒木知宏は森の中をかき分けて進んでいた。スタジアムはもうすぐそこにそびえ立っている。
それを囲う森の向こうに太陽が沈み、空は深い紅色から橙や紫を経て深い紺色に変わっていく。
もう日が暮れる。逸る気持ちを抑えて、一歩また一歩と黒木は進む。
前を行く佐々木信行の足取りは余裕すら見え、それが余計に黒木を苛立たせた。
焦るな。自分自身はいつでも味方であり、ときに最大の敵になるのだと心の中で言い聞かせた。
グッと右拳を強く握る。すぐに開くと手の平からじわっと痺れが広がった。
間もなく森を抜けてスタジアムの前へと出る。
「ジョニー、ここで待ってろ。色々と手続きが複雑でな」
「構いませんけど、スタジアムには入れるわけですよね?」
一刻も早く、それが本音だ。が、今はこの男についていくしかない。
口を突いて出そうな不平は全て飲み込んだ。
佐々木は彼の問いに頷くと、一人森を抜けていった。

127スパイクの刻むもの(1/3) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:14:15 ID:Cs3V0h270
「おーい、様子はどうだ」
「佐々木班長! どちらに居らしたんですか?」
スタジアムの裏口には2人の兵士が立っており、佐々木の姿を見てまず驚いたようだった。
適当に理由をつけて外出をごまかすと、正面入り口の襲撃を聞き佐々木はわざとらしく驚いた。
更に2人の兵士に伝令を頼む。少しいぶかしげな2人に適当にその理由を話す。もちろん嘘だ。
森の中から隠れて黒木がその様子を窺っていた。
じりじりと過ぎる時間をただひたすら待つ。
佐々木と兵士達のやり取りをただ見つめている。
そこから少し離れ、彼の様子を無言で見つめている影があることを知らずに。
 2人の兵士がスタジアムの中へ消えていった。しばらくして佐々木が合図をする。
それを見て黒木が小走りにスタジアムの裏口へ向かう。
佐々木と合流すると、二言三言会話を交わしてスタジアムの中へ入っていった。
その一部始終を見届けてから追いかける様に走ってきた人影が、がら空きになった裏口を通っていく。
128スパイクの刻むもの(2/3) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:15:16 ID:Cs3V0h270
「そういえば佐々木さんの声だったのな、さっきの通信」
「……」
「なんで運営側の人とつるんでるんだろうか? 黒木さんは」
「……」
「内?」
「少し、静かにしてください」
影は二つ、内竜也と於保浩巳である。


「どこへ行くんですか?」
佐々木の後に続き、黒木が廊下を歩いていく。
「時期が来るまでどこかで待機してもらうことになる」
「時期?」
「あの人が着くまで、ということになるな」
「いつ到着するんですかね?」
「そろそろ着いてもいい頃だが、まだ連絡はないな」
佐々木の背中の向こうで黒木が下唇を噛む。一つ、心を落ち着けるように息を吐いた。
129スパイクの刻むもの(2/3) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:16:09 ID:Cs3V0h270
「そんなズサンなことでいいんですか?」
「知らんよ。俺に聞かれても」
「俺は誰かに見つかったら危ないんですよ、ここにいると」
「俺だって立場が危ういよ。お前と一緒にいたら」
進渉のない会話。辟易したように黒木は周りを見渡した。
殺風景なコンクリートの壁、時折大きな窓が現われ外の様子が見える。
「?」
ふと後ろを振り返る。滑らかな曲線状の廊下は数十mほどで先が見えなくなる。
その見える限りで誰もいない。だた殺風景な廊下が伸びていく。
誰かいるような気配を感じたのは気のせいだったのかと、黒木は前に向き直った。

「この部屋で待機してもらう。ここなら間違いなく誰も入って来ないはずだ」
佐々木が足を止め、廊下に面した一室のドアを開けた。
「何です、その部屋は?」
「山本功児博物館」
130ススパイクの刻むもの(3/3) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:17:10 ID:Cs3V0h270
部屋の中を見て黒木が後ずさった。
「ここなら絶対に、絶っ対に誰も寄りつかないから安心だ。
 あ、山本さんは来るかも知れないが、そのときは丁度いいだろう。
 さあ、さあさあ」
黒木が入るのを必死でためらう。それを佐々木は無理矢理押し込める。
やることがあるからと逃げるように佐々木はそこを去っていった。

 一人になると、ため息をついて黒木はそこにあった椅子に腰掛けた。
背負っていた袋を開ける。
あるのはトランシーバーとモデルガン。
「やはり、武器が要るかも知れないな。
 投下場所で手に入れておくべきだったか」
つぶやく。手元のそれらの道具を見つめたまま、自らの決意を反芻する。
「いや、あそこにあった武器じゃ使えなかった」
道具をそそくさと袋にしまいこむ。
モデルガンはいつでも取り出せるように、持ち手だけ外に出して。
「本当に誰かを殺めかねない武器じゃないと。何の意味もない。
 そのために、俺は」
131ススパイクの刻むもの(3/3) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:17:26 ID:Cs3V0h270
右ヒジ、そして右肩に手を当てる。何かを聞くように、二度相づちを打った。
左足の踵で床を二度叩く。スパイクは履いていないが、マウンドをならす時を思い出して。
投げた数だけ踏み込んだスパイクが刻んできたそれは、何度大地をならしても残っていたっけ。
「あのマウンドへ還んだ、もう一度エースとして。それだけを思ってきたんだ」
故郷の訛りの消えない声。自分に聞かせる。
いつまでたっても消えないなと、思わず小さく笑う。
うん、これが最後と頷いた。そして顔を上げる。真っすぐに前を、ドアの方を見据えた。

ガチャリ。その瞬間、突然ドアが開いた。
虚を突かれ、黒木は入ってくる人間をただ見つめるだけしかできない。
「え?」
そこにいたのは佐々木でも、見回りの兵士の姿でも、山本功児でもなかった。
「黒木さん……そのまま動かないで、僕の質問に答えてください」
手に持った銃を黒木の額に向け、ひどく冷めた表情の内竜也がそこに立っていた。
132番外 園川一美と愉快なコーチたち22 ◇8iN1gl8XXM :2005/11/11(金) 11:18:05 ID:Cs3V0h270
「暇だ・・・」
吉鶴は暇を持てあましていた。
今後のことは決まったものの、福澤が帰ってこないことには動きようがない。
「福澤さん、どこまで追いかけていったんだよ・・・。」
吉鶴は時計を見た。
荘が電話をしてからせいぜい10分程度しか経っていないだろう。
しかし、福澤を待つ以外、他にすることがないのである。

「あ〜っ、もう!!」
吉鶴は大きく伸びをして、ごろんとソファで横になった。

「ねえねえ、吉鶴くん」
「はい?」
横になってすぐ起き上がるのも億劫だったが、吉鶴はとりあえず半身を起こして声のしたほうを向いた。
荘がうきうきした表情で話しかけてきた。
「お腹すいてない、お腹?」
「そういえば・・・」
思い出してみれば、プレナで昼食をとった後、これといった食事はとっていない。
それにたった3人でグラウンド整備をしたりと、それなりに体を動かしている。
「そりゃあ、そこそこ空きましたけど・・・。」
吉鶴はそこで言葉を切り、改めて時計を見た。
「あと1時間もすれば夕食の時間じゃないですか。」
もうすぐ夕食なのに、わざわざ何かを食べるというほど、吉鶴の食欲はなかった。
「そっか・・・。」
荘は少し表情を暗くした。
が、すぐに向き直り、
「まあ、良いや。おやつ食べようよ、おやつ!」
「はあ・・・。」
「よーし、おやつ無いかな、おやつ!」
うきうきしながら荘は食堂へ向かっていった。
そんなにお菓子が食べたいものなのかと少し呆れながら荘を見やり、また吉鶴はソファで横になった。
133番外 園川一美と愉快なコーチたち22 ◇8iN1gl8XXM:2005/11/11(金) 11:18:35 ID:Cs3V0h270
そこに
―ピンポーン
呼び鈴が鳴った。
(福澤さん、やっと帰ってきたよ・・・)
そんなことを考えながら、吉鶴は身体を起こした。

「はいはい、今あけますよ〜。」
独り言をしながら、吉鶴はドアノブに手をかけた。
「うわあああっ!?」
突然バランスを崩してつんのめってしまった。
「な・・・なんだよ一体?」
一瞬のことで何がなんだか分からなかったが、
どうやら手をかけた瞬間に、扉の向こう側からもドアを開けようとしたらしい。
そのため、扉の外側から引っ張られるような形となってしまい、バランスを崩してしまったようだ。

「まったく・・・。福澤さん、ちょっとくらい待っても・・・あれ?」
吉鶴は扉の前に立っていた人物に声をかけたが、それは吉鶴が想像していたのとはまったく異なっていた。
134Callin' Callin' (1/3) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:19:18 ID:Cs3V0h270
「またお前かぁぁあああっ! 62こいつ! いつもいつも!!」
小林宏之は叫びながら、ロッカーに向かってマシンガンを叩きつける。
激情のままに発する言葉は、もはや意味をなさない奇声と同じだったかもしれない。
宏之の思考をかき乱すのは62という数字。
一度ならず二度までも姿を現し、攻撃してきた輩を連想させる忌まわしい記号だ。
宏之にとってそれはただの数字ではなく、山崎を殺した人物そのものだった。
その数字を見るだけで神経が高ぶり、頭に血がのぼる。
もうその数字しか見えない。その数字があの後ろ姿に重なる。
自分のすぐ近くにいる人物のことなど、すっかり脳内から吹き飛んでいた。
マシンガンを振り下ろす腕は止まらない。その数字を破壊せずにはいられない。
こいつが殺したんだ。こいつが、62が、あの人を――

ガンッ。
突然、襲い掛かるブラックアウト。頭に強い衝撃が走る。
とっさに両手で頭を押さえた。持っていたマシンガンを取り落とす。
何が起きたのかわからない。足元がふらつく。立っていられない。
何かに掴まろうと伸ばした手は宙を掴む。
宏之の体はバランスを失い、床に崩れ落ちた。
135Callin' Callin' (2/3) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:20:17 ID:Cs3V0h270
「…悪いな、宏之。こっちも命がけなんでな」
倒れている宏之のそばには、金属バットを持った井上祐二がいた。
横たわる宏之を見下ろす。肩が動いているから息はあるのだろう。
これで逃げられる。あとは何もなかったフリをすればいい。
井上はバットを置いて、部屋を出て行こうとした。
ドアの前に立ったとき、はっとあることを思い出して振り返る。
山本功児が薮田に怪我はさせるなと言ったのだ。
その理由は当然薮田がリストに挙がっているからだ。
それは宏之においても同じこと。もう死んだことになっているとはいえ、
リストにあがっていた選手を傷つけたと知れれば、何らかの制裁は免れないだろう。
このまま宏之を生かしておくのは危険だ。
本人の口から、自分のしたことがバレてしまうかもしれない。
ならば宏之の口を封じるにはどうするべきか。宏之から完全に逃げきるためには。
しばらくの沈黙のあと、井上は再び金属バットを握り直した。

136Callin' Callin' (2/3) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:20:39 ID:Cs3V0h270
宏之は床に伏して目を閉じ、じっと衝撃に耐えている。
揺らぐ意識。うねる思考。動けない。
自分は何故ここにいるのだろう。何をしていたのだろう。
わからない。頭が働いてくれない。
目を開ければ、ぼんやりとした視界が広がる。
宏之はその中に、ポケットからこぼれ落ちた携帯電話をとらえた。
回転の鈍る頭に思い浮かんだのは、待ち受け画面に見た彼女の笑顔。
会いたい。彼女に会いたい。せめて写真だけでも。
重い腕を持ち上げ、携帯電話に向かってゆっくりと伸ばす。
「佳…世……」
おぼろげに口をつく彼女の名。すぐそこに彼女がいる。
思うように動かない体がもどかしい。もう少し、もう少しで手が届くのに――

ガンッ。
再び襲い掛かるブラックアウト。宏之の腕が床に落ちる。
今度は明けることのない永遠の闇へ引きずり込まれる。
頭部から額へと赤い筋が流れ出た。
137Callin' Callin' (3/3) ◇vWptZvc5L.:2005/11/11(金) 11:21:12 ID:Cs3V0h270
その様子を見届けると、井上は金属バットを床に置く。
しゃがみこんで宏之の首筋に手を当てる。脈はない。
この悪巧みに参加させられたときから覚悟はしていたが、とうとう一線を越えてしまった。
これまでも自分が間接的に皆を殺してきたも同然だったが、
直接手を下すのはもちろんこれが初めてだ。
ここまで来たらもう腹をくくるしかない。
まずは証拠隠滅だ。自分がやったとさえわからなければいい。
もともとこいつは死んだことになっているんだ。
とにかくしばらくの間、時間を稼げれば。
短い時間で頭の中を整理すると、井上はすぐそばのロッカーを開けた。
宏之の体を抱き起こし、無理やりロッカーの中へ押し込めて扉を閉める。
床にはわずかばかりの血痕が残っていた。部屋の中を見回す。
棚の中に雑巾が置いてあるのを見つけた。それを手に取り、床を拭く。
血痕を拭いていると、2時間ドラマの主人公にでもなったような気味の悪さを感じた。
拭き終えるとまた別のロッカーを開け、雑巾を中に放り込む。
金属バットとマシンガンもその中に投げ入れて、扉を閉める。
ロッカーを背にして、井上は気持ちを落ち着けるために大きく息を吐いた。
これでしばらくは隠し通せるだろう。
たとえ見つかったとしても、自分がやったとはわからない。
あとはここから出て行くのを誰にも見られなければいい。
ドアに耳を当て外に物音が聞こえないのを確認し、明かりを消して部屋を出る。

暗くなった部屋には携帯電話がひとつ、ぽつんと取り残されていた。

【41小林宏之× 残り21名】
138意識朦朧。:2005/11/11(金) 11:21:50 ID:Cs3V0h270
何も見えない…ここはどこだ…?
俺は…俺は死んだのか…?
何があったか思い出せない…いきなり衝撃がきて…それで…

衝撃…?

衝撃…62…62!

またあいつだ…いつも俺の周りにチラつきやがる…!
まだだ…俺はまだあいつを殺していない!!俺にはやらなきゃならないことが残ってるんだ!
畜生…こんなところで死んでたまるか…こんなところで…!!!!!

『殺してやる…ろくじゅうにぃぃ!!!!!』
139功児のグッド・イブニング(1/5) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:22:32 ID:Cs3V0h270
 ジリリリリン! 
「もう、わけわかんなむにゃ……うお、おお!?」
山本功児の太平の眠りを覚ましたのは傍らに置かれた電話のベルだった。
昔ながらの黒電話に模しただけの電子音がけたたましく鳴り響く。山本を責め立てるように。
「ふあ……もう、6時前、か?」
目をぱちぱちさせながら壁にかけた時計に目を凝らす。
次の瞬間気がついた。背筋がピッと伸びる。何度か深呼吸をすると受話器を取った。
「もしもし。はい、山本です!」
意気揚々と山本が受け答えする。電話の向こうはあの男の声が聞こえた。
『なんだ、まだいたのか』
「え? ああ、すいません。今すぐ放送室へ参る所存でございます。
 ところで死亡者はご覧になりましたか?」
『ん? 全員は把握していないが』
「市街地に武器を投下してリスト外のやつを10人以上死亡させることに成功いたしました。
 全て私の考案した作戦の成果です」
『……ああ』
おや?と山本は思った。リストの人間が死んだ時はあれほど自分を責め立てた電話口の男。
リスト以外の人間が死んだのなら評価されて然るべきと確信していたのだが。

『市街地に武器を投下して人を集め、殺し合いを促すか』
「ええ! ですから大量に、素晴らしいペースで死亡者を出すことに」
『……素晴らしいことだと思っているのか』
「え?」
『参加者の戦力の均衡、そして過剰なペースでの死亡者。
 それは即ち"偏り"を平坦にならし、次の"偏り"の起こる暇を与えないということ、だそうだ』
「は? え? "偏り"とは何ですか? 今の言葉はどういう意図で仰ったのですか?」
『お前が知る必要はない。次の禁止エリアは送られているな?』
「な……。いや、はい、今端末に表示されております」
『ならば早く放送をしろ。まだお前の仕事だろう』
プツッ。ツー、ツー。
「もしもし? 何なんだ、全くわけがわからん」
140功児のグッド・イブニング(2/5) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:23:09 ID:Cs3V0h270
 その男の真意など皆目見当がつかず。山本は小首をかしげる。
一つ唸ると、仕方なくアナウンス室に向かう準備を始めた。
筒井の置いていった死亡者の書かれたメモ用紙に、画面に表示されている禁止エリアを書き留める。
さて行くか、と監督室のドアノブに手をかけたとき、ふと彼の言葉が思い出された。
――まだお前の仕事だろう
「……まだ?」
更に首をひねって、しかし何も確信の持てないままに山本は廊下へ出た。
そして三歩も歩くとそんなことは忘れてしまった。

 アナウンス室のドアを開ける。
室内はもう薄暗くなっていた。山本はドア横のスイッチを点ける。
「そういえば、なんで俺一人しかいないんだ」
ぶつぶつと愚痴をのたまいながら、放送機材のマニュアルを取り出しにらめっこする。
「こういうのは苦手なんだ、ったく」
四苦八苦しながらボタンを押し、つまみを捻ったり押し上げたり。
最後に「ON AIR」と書かれた赤いランプが点った。
(これでいいはずだ、と)
時刻は丁度6時を指していた。
「グッド・イーブニンッ! 元気かー! それとも死んでるかー!
 6時間に一度のお楽しみ、山本功児監督の島内放送だぞー!!」
至福の時間であった。山本はまさに今、自身が一番の権力者であると自覚できると感じていた。
自分こそが舞台の中央に立って、それを選手達は固唾を飲んで眺めているのだと。

「それではお前らがよく頑張った死亡者の発表から。
 諸積0番、小坂1番、田中良平19番、橋本33番、川井34番、辻45番、
 山崎46番、原井53番、青野58番、曽我部65番、ユウゴー66番、杉山93番!
 以上12名だ。俺は大変満足しているぞー!
 では続いて禁止エリアの、あ、おっとっと」
照明と一緒にスイッチオンになった空調の風が、不意に山本の手からメモを奪う。
ひらひらとメモが宙を舞い、音も無く床に軟着陸した。
慌ててそれを拾おうとする。そうして焦って踏み出した足がものの見事に絡まった。
141功児のグッド・イブニング(3/5) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:23:52 ID:Cs3V0h270
「うおう、おう!?」
バランスを崩し前につんのめりながらメモ紙を飛び越える。
どこでもいいからとジタバタ振った手が、何かの引っかかりを掴んだ。
備え付けの大きなロッカーの開け口、手をかけるところである。
ほっと息をついたのも束の間、掴んだ拍子にロッカーがゆっくりと開かれた。

 ギィィ。
何気なく中身を見ると、目が合った。
それは動物の習性で、前に両眼のある生物がいれば自然とそうなるものである。
目が合ったのだ。いつの間に入ったのか、ロッカーの中に潜んでいた人間がいた。
「……お久しぶりです、山本さん」
目の前に居る人間に見覚えはある。ただこの場所に全く居るはずのない人間である。
そのために情報が山本の脳内で連結できないのか、名前が出てこない。
「お、おま、おまお前は」
「僭越ながら、俺はミスターロッテこと」
「ミスターロッテ? あ、あああ、ありと」
混乱の中浮かんだ単語はそのまま口をついで出る。突然、視界が揺れた。
山本の首根っこに後ろから手が回っていた。
「そこまでです、山本さん。ワイは薮田です。大人しくしていただけますか」
小さな声で薮田安彦が山本の耳に語りかける。
「ふがああっ!?」
首を後ろに回そうにも、回らない。
後ろにいるのが本当に薮田なのかわからない。
そして前の人間が誰かまだ浮かばない。前の男はロッカーを出て山本に銃を向ける。
「愛甲猛です。山本先輩、見損なったわ」
己に向けられた銃口を見るやいなや、山本の目が泳ぐ。
逃げたい。だが首はガッチリと固定されている。
暴れれば逃げられるか。目の前に銃がある。
「ふぐうううう!」
汗が一気に噴出し、ガタガタと全身が震え止められなくなった。
腰が抜けかける。それが愛甲には逃げ出そうとしているように見えたようだ。
142功児のグッド・イブニング(4/5) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:24:29 ID:Cs3V0h270
 愛甲が引き金を引くと、甲高い衝撃音が室内に響いた。
その声と共に、山本と薮田の後ろにあったマイクの先が無くなっていた。
コロコロと後から遅れて、飛んでいったそれが床を転がる音が聞こえる。
「脅しじゃありませんので」
愛甲がドスを聞かせた声で言う。
一瞬にして涙が滲む、溜まる間もなく頬を伝う。顔がひきつって呼吸が上手く行えない。
体は硬直したまま、ただ震えが止まらなかった。
声にならない声を上げて、山本功児の脳裏に死とか絶望とか言う文字が浮かんでいた。


 「これか」
茂みの間に銀色に輝く金属の塊を見つけると、筒井良紀はこっそりそれをポケットに隠す。
周りでは引き連れてきた兵士達が、居るはずのない敵を警戒し捜索している。
「筒井班長。もう一度探知機を見せていただけますか」
兵士の一人が筒井に話しかけてきた。
「おう」
そう言って探知機を取り出す。
自分のいる中央の点とピッタリ重なるように、20という数字と赤い光が点滅している。
「かなり近くに潜んでいるようですね」
「そうだな、我々がいるから動けないでいるんだろう。油断するなよ」
兵士が了解の合図をした瞬間、少し離れたところに立つスピーカーから高音が響いた。
『グッド・イーブニンッ!』
(6時か。やはり間に合わなかったな)
耳障りな声が大音量で聞こえる。これに耐えるのはなかなか難儀だなと筒井は思った。
放送は続く。
『では続いて禁止エリアの、あ、おっとっと……
 ………………、………………』
「ん? なんだ?」
スピーカーの向こうから、微かに何かの物音が聞こえてくる。筒井は耳を澄ます。
『……ふがああっ!?』
山本らしき男の叫び声。その場にいた兵士達の手が止まり、揃ってスピーカーの方を見た。
143功児のグッド・イブニング(5/5) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:25:03 ID:Cs3V0h270
「……」
困惑したまま、筒井は黙っていることしかできなかった。
なおもスピーカーからは何かの物音、そしてもう一度、今度はくぐもったような叫び声。
もっと良く聞こうと耳を傾ける。

キーーーーン!

その瞬間、尖った何かが耳を貫いた。
「ぐわ!」
耳に激痛が走る。超音波のような高音が大音量でスピーカーから放たれたのだ。
反射的に耳を塞いだが既に遅い。目まいを覚える。耳がキンキンと鳴り続け何も聞こえなくなった。
 しばらく時間が経つと、ようやく聴覚が取り戻され始める。
兵士達も同じように、徐々に目に光を取り戻し始めた。
同時に彼らは揃って筒井の方を見た。
次に来るだろう命令を確かめるような目線。
(薮田か? 宏之か? 雑な手を使いやがって)
イライラが募る。しかし彼の取らなければならない自然な行動は一つしかない。
「ここは後回しだ。すぐにスタジアムに帰投する」
そう叫ぶと兵士達は一目散に走り出す。
その後に続いて、最後尾で走りながら筒井は舌打ちをした。
144耳に残るは、君の。(1/4)  ◇Ph8X9eiRUw :2005/11/11(金) 11:25:41 ID:Cs3V0h270
一本の木に寄りかかり座っている彼は、もう死んでいるように見えただろう。
瞳はうつろにあらぬ方向を見つめたまま、瞬きもせずピクリとも動かない。
だらりと力なく伸ばされた手足にこびりついた赤黒い血は
彼のものなのかそれとも手にかけた誰かのものなのか
すっかり区別はつかなくなっていた。

それでも、彼は生きていた。
それを証明するように、瞳がなにかを捜し求めるようにぐるりと動く。
頭は一切動かさず、眼球だけが這うように落ち着きなく左右に揺れた。
サブローはまだゲームから降りてはいない。
輝きのない瞳だが、奥では血に飢えた炎を燃やし続けている。

しかし、それとは裏腹に身体は限界に近づきつつあった。
本来の致命傷、宏之に撃たれた銃痕は簡単に縫合されていたが
それはもうほどけて無意味なものとなり、たえまなく血が白のユニフォームを染めていく。
何気なくサブローはその傷口に手をやる。
少し凝固した自分の血は粘液のようにどろりと澱みきっていた。
それでも、動け、動けと自分に指示するものがある。
動け、動け。こめかみのあたり、金属片が埋められた部分が刺すように痛む。
促されるようにまずは頭を動かす。次に腕をもちあげ、幹を掴んで支えにする。
それからようやく膝が動き、腰を上げ、サブローはその場に立ち尽くした。
一度バランスを欠いてがくんと崩れ落ちそうになったが、まだ二本の足は
身体を支える力を失ってはいないようだった。
145耳に残るは、君の。(2/4)  ◇Ph8X9eiRUw :2005/11/11(金) 11:26:22 ID:Cs3V0h270
あれ以来、新たな命令は何もなかった。それでも金属片はサブローを駆り立てる。
お前のするべきことはひとつだとサブローに頭の鈍痛でそれを知らせる。
わかっている、自分がすべきことはわかっている。簡単なこと。
おそらく大半が自分のものであろう、血で汚れた手をぼんやり見つめ
与えられた命令を順に思い出していく。

リスト。リスト外の人間を。リスト外の人間たちを。
それから、それからあいつ、小坂を、小坂を優先的に、いや、これは先程終わった、

(ゴメンヨ、キミ・・・)

ばちん、と大きな電流にはじかれたように、サブローの身体が大きく跳ね上がった。
ちがう、これは命令では、

(ゴメンヨ、キミ・・・)
(キミ・・・)

サブローの思考をふさぐように小坂の声が響く。
「リスト、リスト以外の・・・」
打ち消すために、声を出すが、
(ゴメンヨ)
それは耳から入ってくるものではなく、脳内に直接響いていくので全く意味をなさない。
自分の中から聞こえる小坂の声。
「グアア・・・アア、ニンゲン、を・・・」
(ゴメンヨ)
意味が無いとわかっていても、汚れたままの手で耳をふさぐ。
自らの手でその器官を握りつぶすような勢いで爪をたて、かきむしる。
もともと赤く汚れた手がさらに赤く染まった。
146耳に残るは、君の。(3/4)  ◇Ph8X9eiRUw :2005/11/11(金) 11:26:55 ID:Cs3V0h270
「ミ・・・チヨ・・・」
しぼりだしたようなかすかな声。それだけを呟くと、なにかをおさえつけるかのように
ぐっと唇を噛んだ。強く強く噛み締め、こちらもまた唇の端から新たな血が流れていく。
「ミ・・・チ・・・」
脳の金属片が熱くなる。自分の中の何かがそれに歯向かおうとしている。
命令が薄れていく。先程までそれだけが自分の頭を支配していたのに
たった一つの愛しい名前がサブローの頭を新たに占拠しようとしている。
もう一度、その名を口にしようとした瞬間、
頭から射抜かれたように電流が一気に足先まで駆け巡り、サブローの身体がびくんと伸び上がった。
金属片がそれを許さない。それは生き物のように怒りの感情でもあるのか
明らかに先程より熱を持っていて、頭から自分の神経をじりじり燃やしていっているように思えた。

そうじゃないだろう?
金属片はそういいたいのか、今度は軽い電気をサブローに与える。
おまえのすべきことはひとつだろう?
ぱちん、もう一度。
そう、おまえのすべきことはたった、ひとつ。
ばちん。
最後に、強く。サブローの頭ががくん、と後ろにたれる。
そのままの姿勢でサブローは身体の奥から全てをしぼりだすように、吼えた。
長く、大きく、なにもかもをそこから放出するかのように、息の続く限り、吼える。
咆哮は獣のそれに近かった。
147耳に残るは、君の。(4/4)  ◇Ph8X9eiRUw:2005/11/11(金) 11:27:26 ID:Cs3V0h270
充血し、濁った眼が前を見据える。
新たな命令はない。それでも、やるべきことはただひとつ。
(・・・ゴメンヨ・・・キミ・・・)
またかすかに声がしたような気がする。これは小坂の声なんだろうか。
それとも、別の誰かの声なのか?
自分で多数の引っかき傷をつけた耳を、忌々しそうに握る。
もう一方の手にはゲーム開始当初からずっと持っている剃刀の刃。
「じゃまを・・・するな・・・」
やりやすいように耳を思い切り外に引っ張る。
そしてサブローは剃刀の刃を耳に押し当て、ぎりりとのこぎりを使うように動かした。
「ジャマ・・・スルナ・・・」
何度も、何度も剃刀を押し当てる。
ぼとん、と肉片がサブローの足元に落ちた。
耳からはおびただしい量の血があふれたが、そのどくどくという脈の振動が
邪魔な声を完全にかき消してくれそうで、サブローの口の端には少し笑みが浮かんだほどだった。

やるべきことはわかっている。ただひとつ。それ以外のことは必要ない。
定時放送のようなものが聞こえたが、それもサブローにとってはどうでもいいことで
音声は限りなく遠くで聞こえ、風のように自分の脇を通り過ぎていった。
ぐっと足を一歩踏み出す。

「・・・コロス」

サブローが、呟いた。

148もう決めてしまった(1/5):2005/11/11(金) 11:27:59 ID:Cs3V0h270
 本部を混乱に陥れるための作戦として、火事を起こすことを考えていた小宮山は、
そのための道具などを手に入れようと、禁止エリア以外のポイントにある民家を探すことにした。

 歩きながらも、杉山のことが頭から離れなかった。
 先ほど出会った、命の無いチームメイト。
 この『試合』序盤に民家で高木の死体を見たときよりも、とても重い気持ちになってしまっていた。
 理由は解っていた。
(俺が殺したからだ…)
 高木の場合は、自分以外の何者かに殺されたことが解っていた。
 しかし、杉山の場合は―――。

 小宮山は自分を責めていた。
 
 先ほどその感情を捨てた筈なのに、また湧き上がってくる。泉のように。
 
 「それでも、生きなくちゃいけない」
 「それでも…進まなきゃいけない」
149もう決めてしまった(2/5):2005/11/11(金) 11:28:31 ID:Cs3V0h270
『グッド・イーブニンッ! 元気かー! それとも死んでるかー!
 6時間に一度のお楽しみ、山本功児監督の島内放送だぞー!!』

 今となっては忌々しい感情の対象でしかない山本の声が聞こえてくる。
(6時か…)
 一度足を止め、辺りを警戒しつつ近くの木に凭れかかる。
 放送によって物音が遮断され、動くのは危険だと判断したからだ。
 木に凭れかかるときに、一瞬体全体から力が抜けた気がして小宮山は驚いた。
 自分が思っている以上に、肉体が悲鳴を上げている。それを感じたからだ。
(オッサンになったな、俺も)
 自嘲気味な考えが頭をよぎった。
 
 『それではお前らがよく頑張った死亡者の発表から。
 諸積0番、小坂1番、田中良平19番、橋本33番、川井34番、辻45番、
 山崎46番、原井53番、青野58番、曽我部65番、ユウゴー66番、杉山93番!
 以上12名だ。俺は大変満足しているぞー!
 では続いて禁止エリアの、あ、おっとっと』

 『……ふがああっ!?』
150もう決めてしまった(3/5):2005/11/11(金) 11:28:56 ID:Cs3V0h270
(何だ?!)

 異常を感じて、小宮山は反射的に立ち上がった。
 何かの物音がしたが、それが何なのかは解らなかった。
(まさか誰かが…?)
 さまざまな思考が頭をよぎる。
 自分と同じ考えの者が、既に本部へ突入しているのか。
 それとも、内部で反乱が起きたのか。
 
(ともかく、今なら隙があるかもしれない…!)
 どんな理由にせよ、山本に何らかの以上事態が起きたことは確かだ。
 小宮山はそう判断し、ついにコルトガバメントに銃弾をこめた。

 ―これで、誰かを傷つけてしまうかもしれない―

 一瞬、そんな考えが浮かぶが、慌てて取り消した。

(もう俺は杉山を追い詰めて、死なせてしまっている。もう汚れてしまったた俺の手を、
チームメイトのためにならもっと汚しても構わない)

 小宮山はスタジアムへ向かって走り出した。
 その瞬間、

 キ――――ン!!

 超音波のような高音が大音量でスピーカーから放たれた。
151もう決めてしまった(4/5):2005/11/11(金) 11:29:18 ID:Cs3V0h270
 「ウッ…!」

 弾かれたように、小宮山はその場に倒れた。
 眩暈のような感触。
 先ほどの雨でできたであろう水溜りの中に、顔が突っ込んでしまった。
 バシャリ、と派手な音が立ち、水飛沫が少しあがった。
 反射的に目を瞑っていたので顔は少し打っただけで済んだが、口に多少の泥水を
含んでしまった。
 小宮山はすぐに起きあがり、まだ抜けぬ眩暈のような感触と戦いながらも、咳き込んで
水を吐き出した。
 袖で顔を拭うと、小宮山は力をこめて立ちあがった。もう、そうでもしないと立ちあがれなかった。
 
 「どんなに汚れても…。他のやつだけは…」

 力を振り絞って、走り始めた。
152もう決めてしまった(5/5):2005/11/11(金) 11:30:07 ID:Cs3V0h270
 走りながら、先ほどの放送を思い出した。
 山本は死亡者を12名だと言った。
 
 諸積、小坂、田中良平、橋本、川井、辻、山崎、原井、青野、曽我部、ユウゴー、杉山。

(お前ら…、俺より若いのに…)
 彼らとの思い出が、小宮山の頭の中に甦る。
 この状況でそんなことを―そんなセンチメンタルなことを―考えている猶予は無いのに、
それでも小宮山は彼らのことを思い出していた。意識的にではなく、それはもう勝手に頭の中に
涌いてきたのだ。
 もう彼らは戻ってこない。
 それは解りすぎるほど解っていた。
 
(お前らの分まで生きると、俺は約束できない。でも…)

 脳裏の中に、生存しているチームメイトのことが浮かんだ。

(他のやつらに、そう約束させられるように力を尽くす。それだけは、約束する)

 息が切れる。
 鼓動が激しい。
 
 それでも、小宮山はスタジアムに向かって走り続けた。

 彼は贖罪のために差し出すものを、自分のいちばん大事なものに決めていた。
 いや、もしかしたら最初からそう決めていたのかもしれなかった。
目の前に現れた人物を見て、吉鶴は一人考え込んだ。

(ちょっと待てよ、昨日園川さんと電話したのに誰も出なかったよな・・・。)
「・・・おい。」
(昨日誰も出なかったのに、福沢さんといい、荘さんといい・・・。)
「・・・おーい。」
(次から次へと出てくるって事は、・・・ひょっとして新手のイジメ?)
「おーい、吉鶴、聞いてるか!?」

「はっ!?あっ、高沢さん!」
肩を揺さぶられて、吉鶴は我に帰った。
目の前にいたのは、高沢秀昭二軍打撃兼外野守備走塁コーチ(75)だった。
「す、すいません。」
吉鶴は思わず頭を下げた。
「まったく・・・。ところで福澤見なかったか?」
「福沢さん、ですか?」

なぜここで福澤の名が出てくるのか、と吉鶴は首を傾げた。
しかし、あまり深く考えずに思ったままを話した。
「さあ・・・。そのうち戻ってくるんじゃないですか?」
「つまり、ここにはいないのか?」
「ええ。」
「そうか・・・。ったく・・・!」
「ていうか、なんで高沢さごふうっ!?」
言うが早いか、高沢は乱暴に扉を閉めて、駆け出していった。
そのため、少し外に出ていた吉鶴の顔面と扉が激突してしまった。
154番外 園川一美と愉快なコーチたち23(2/2) :2005/11/11(金) 11:31:19 ID:Cs3V0h270
「ううう・・・。」
吉鶴はその場にうずくまっていた。
「あっ、こいつはおいしそうだ!!」
痛がっている吉鶴の向こうで、荘ののんきな声が聞こえた。
「吉鶴くん、もなか見つけたから食べようよ、もなか」
「あ、あの荘さふぎゃあっ!?」
「おい、忘れてたけど荘さん見なかったか!」
吉鶴は何かを言いかけた刹那、再びずかずかと入り込んできた高沢に踏み潰されてしまった。

(ああ・・・、今日はこんなんばかりだ・・・)
薄れ行く意識の中で、荘ののんきな声が頭に響いた。
「まあまあ落ち着いて高沢さん。とりあえずもなかでもどう?」
155エースへのクエスチョン(1/5) ◇QkRJTXcpFI :2005/11/11(金) 11:31:57 ID:Cs3V0h270
「質問は許さない。嘘をつくのも許さない。
 ただ、僕の言った事に答えてください」
右手に持った銃の引き金に手をかけ、銃口を真っすぐに黒木知宏に向けている。
内竜也は少しも表情を変えない。
どちらかというと細めの目が完全に据わって更に細くなっていた。
その瞼の奥の黒い瞳は微動だにせず、ただ黒木に焦点を合わせていた。
盛んに動いていたのはその唇ばかりである。

 銃口を向けられた黒木もまた微動だにしない。
椅子に座って両膝の上にそれぞれ肘を置いたままで、少し顔を見上げるような姿勢。
内の様子を窺っているのか、端から見た様子では彼の心中を知ることはできない。
 壁一面に飾られた山本功児の写真が彼らを静かに見つめていた。
黒木はじっと内の目を見据えていた。内は次の言葉を迷っているのか何も話さない。
内の構えた銃口だけが目に入るような、内の全身以上の視界の全ての範囲が見渡せるような。
そんな不思議な感覚を黒木が覚えた頃、何かが視界に入り、ふと目線だけを天井に移す。
「っ!?」
山本功児の巨大な顔があった。
天井いっぱいいっぱいに貼られた特大の写真が2人を生暖かい目で見守っていたのだ。
一瞬その顔に動揺を浮かばせた黒木を見て、ピクリと内の手が動いた。
「おっと、変なことは考えないでくださいよ」
「……別に、今のはそういうわけじゃないさ」
黒木が再び内の目を見た。

 強い目だ、と内は感じた。
怯えや畏れといった弱々しさも、疑いや迷いといった後ろ暗さも無い目だと。
この男が自分に向けている目は、自分の思っていたその男のするべき目線だ。
むしろ内自身が何かに射すくめられるような感覚さえ覚えた。
だから内は聞かねばならないことがあった。
「何故、ここにいるんですか?」
「山本さんを、現運営を倒すために」
黒木の目に少し影がさした。それを内は見逃さなかった。
156エースへのクエスチョン(2/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:32:32 ID:Cs3V0h270
「そのために、何故ここに座っているんですか? 山本さんの写真しかない」
「それは……ここなら山本さんが来るかと思ってさ」
「悠長ですね、こんな危ないところに入ってきたくせに」
「……」
黒木の強い目に影が一層濃くさしていくのが見えた。
何故こうも弱々しくなって、この質問に対して彼の目は雄弁に答えるのか。
銃身を握る内の手に力がこもった。

「誰かに会いましたか?」
「福浦、大塚、それに垣内とは少し一緒に行動してた」
「ふーん。それで、もう別れたんですか?」
「そうだ」
「殺したりはしてないんですか?」
キッと黒木が内を睨んだ。
「俺は、誰も殺しちゃないよ。あいつらも……そうだ」
目に失われかけていた強さが再び戻った。
同時に悲しさも浮かんでいた。まるで泣き顔を隠していた誰かを思い浮かべるように。
「でも別行動を取ったんでしょう? 見捨てたんですか?」
「見捨てちゃないさ。誰も見捨てない、絶対に」
より強い目をして。さっきまで浮かんでいた影は消えていた。
内はそれを見て静かに、大きく息を吐いた。
「他のやつらがどうなっても知らんですよ」
内の口から、そのセリフが棒読みで述べられた。

「な……っ!」
黒木の表情が一変した。浮かべていた強さは一瞬で跡形もなく消し飛ぶ。
変わりにその目に浮かんだのは大きな困惑だった。
「な……、なんだ……それは?」
明らかに狼狽している。どう取り繕うかばかりを思案するような表情。
内はそれを目前にしてまた一つ息を吐いた。今度のそれはため息だった。
「嘘はつかないでください」
157エースへのクエスチョン(3/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:33:07 ID:Cs3V0h270
「嘘って……嘘じゃないさ」
「では、何故ここにきたんです。わざわざ別行動を取って」
「それは、みんなを巻き込みたくないから」
焦りの色を隠せない黒木だったが、それでもなんとか言い分を通そうとする。
と、内の後ろからもう一人の男が入ってくる。
「お前は……!」
内の後ろで、於保浩巳がこれ見よがしにトランシーバーを掲げていた。
空いた手はトランシーバーを指差している。含み笑いでもしたげな表情で。
「誰かから命令でも受けましたか? 武器の投下場所に行けと」
部屋に入ってきた於保に気づいたか、気づいても無視しているのか。内は意に介さない様子だ。
黒木が唇を震わせていた。もはや視線は内ではなく、床の辺りに向いていた。
内は畳み掛けるように言葉をぶつける。
「誰か運営側の人間と会いましたか?」
「その人に案内されて、安全にここまで侵入できましたか?」
「そして言ったんだ。他のやつらがどうなっても知らない
 巻き添えは食いたくないんでしょう?」
立て続けにされる内の質問に黒木は答えられない。
「どうしました? 質問が多すぎて答えられないんですか?
 なんならもう一度言いましょうか? 一つずつ答えてくださいよ!」
内の手がカタカタと震えていた。
かたくなだった表情は眉間にしわが寄り、全体が紅潮し始めていた。
「……言えない。それは言えないんだ、俺の口からは」
黒木が於保の方を見る。内の背後で於保は両の眉毛を上げて、おどけた表情を返して見せた。
更に於保を睨む。ニコリと笑って於保は部屋を出て行った。
内の怒りはなおも続いていた。
「黒木さん。黒木さんは嘘をついている。
 あなたはみんなを見捨てた。みんなを裏切った。そうでしょう?」
「それは違う」
「なら、本当のことを話してくださいよ」
「それは……言えない」
「信じられると? それだけで信じられると思ってるんですか?」
158エースへのクエスチョン(4/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:33:40 ID:Cs3V0h270
「殺してくれてもいい。そのときはそれまでだ」
そう言って黒木は押し黙った。ただ下を向いて。
内の体がわなわなと震えている。間違えて銃の引き金を引きかねないぐらいに。
しばらく時間が経ちその震えが収まった頃、内はゆっくりと口を開いた。
「……黒木さん、エースって何ですか?」
その言葉に黒木の肩がピクリと反応する。
「僕はいつでもあなたを殺せる。だからその前に聞いておきます。
 エースってチームで一番実力のある投手でしょう?
 チームを勝ちに、優勝に導く投手がエースですか?」
黒木が顔を見上げた。おや?と、違和感を覚えた。
眉間にしわを寄せた内の表情が怒りでなく、ひどく哀しげに見える気がしたからだ。
「答えてください。もし今言った事が正解なら、僕は」
内の言葉が一瞬詰まった。
「僕は心置きなく、引き金を引ける。
 あなたに会ってから迷ってきたことの全部がムダだって分かって。
 僕の記憶の中で引っかかってることも全て気のせいだって分かって」
黒木には不思議でならなかった。内の顔がなぜか泣きそうに見えるからだ。
何か、本当に尋ねたいことを隠している。ふと黒木の心にそんなことが浮かんだ。
「あなたを殺すことで、僕はまたエースに近付けるんだ」
そう言って内は、もう何度目だろう、照準を黒木の顔へと合わせ直すのだった。

 黒木は迷った。
ここで延命のために『違う』と言うのは簡単だ。彼がそれをどう受け取るのか知らないが。
だが、どのみち黒木知宏の答えは一つしかない。
「不正解だ。エースはそれだけじゃなれない」
ハッと目が覚めたように内の表情が緩む。荒くなっていた息が静かなものに変わって行った。
それは端から見れば、安堵という言葉が当てはまりそうな様子で。
黒木が彼の真意をはかれず困惑しているのをよそに、内はまだ銃口を向けていた。
「じゃぁ、答えてくださいよ。エースって」
プツン。スピーカーからスイッチの入った音がした。
『グッド・イーブニンッ! 元気かー! それとも死んでるかー!』
159エースへのクエスチョン(5/5) ◇QkRJTXcpFI:2005/11/11(金) 11:34:13 ID:Cs3V0h270
大音量に声はかき消され、2人はしばし何も言葉を発さなかった。
 内はまんじりともせず放送を聴いていた。
放送が終わるのをやり過ごせば、答えが聞ける。
自分の心が分からない。分かっているのは、もしも黒木が正解と言ったときのこと。
自分はためらうことなく引き金を引いたはずだと。
しかしそれは、その仮定を自分は想像していたのだろうか?
なかったことの決意表明など、何の意味も持たないのだと自分に問いかける。
目の前の黒木は自分に視線を合わせようとしない。
この放送が終わったら、そしたら答えを聞こう。
 あの日、自分が見たものは。川崎球場で見たものはなんだったのか。
自分の人生にとって大事だったはずの何か。
黒木の答えを聞けば、堰が切られるように詰まっている記憶が流れ出す気がするのだ。
今の自分をここまでちぐはぐに動かしているのは、間違いなくその何かのはずだ。

『……ふがああっ!?』
突如スピーカーから奇妙な音が流れる。内が思わずスピーカーの方を向いた。
その隙を見逃さず黒木が椅子から跳ぶ。
内の横をすり抜けるのと一緒に銃身を掴んだ。
ハッと内が気づいたときには、腕の揺さぶりと共に銃がなくなっていた。
「ああ!」
振り向くと同時に黒木が部屋を抜け出していくのが見えた。
腕を伸ばしたが捕まえることは出来ない。ユニフォームをかすめただけだった。
 黒木が外に出ると、そこには於保が立っている。
全く身構える様子もなく、見下ろすような視線で於保は黒木を眺めていた。
一瞥してその脇をすり抜ける。そのまま黒木は廊下を駆けていく。
(今の放送は……チャンスが来たのかもしれない)
後を追うように内が部屋を出た瞬間、大きな高音が耳を貫いた。
ぐあっと身を一瞬ひるませる。頭を振りながら辺りを見回す。
54と書かれた背中が廊下の向こうへ消えていこうとしている。
「まだだ。まだ答えを聞いてないのに!」
追いすがる内の足音が、静けさを取り戻した廊下にこだました。
160負い目 1  ◇prGJdss8WM:2005/11/11(金) 11:35:36 ID:Cs3V0h270
頼りない先輩だと自嘲気味に笑っていた。その時に気付こうと思えば気付けたのに。どんな人かも知っていたのに。
今江があらかた、今までのことを話したときも、福浦は小さくうなずいただけだった。
それは見ようによっては落ち着きすぎていた。全く公平な運命でないことだけでも、普通なら我慢できないはずだ。
「…リストとか、裏切ってる人とか…俺、そういうの、ホンマムカつくんです」
「…だな」
きつく荒布を巻いた指を組んで、彼はまた頷いた。でも声も優しかった。
いつもの福浦だ。
「福浦さん?」
「どうした?」
「…どうしたらいいんでしょう。俺ら」
「そうだな」
「何とかしたくても、何したらええんか、俺…」

もう一度退却して、先ほどの廃屋(民家なのか)の薄暗がりの中で、今江は唇をかみ締めていた。
福浦はたまに息を乱しながらも、それを堪えるようにしながら指を、首をかばっている。裂いた布が何度も巻かれていた。
思ったよりも手こずった。背中はもう、シャツと皮膚がただれて一つになって、何度か触れた今江に福浦は黙って首を振っていた。
痛みは、相当なもののはずだ。治ってもこれは、ただではすまない。
ひとつ触れるのに、どれだけ慎重になったかわからない。
「…ごめんな」
なのに今江が差し出した布を受け取りながら、福浦は少ししゃがれた声で言った。爆風のあおりかもしれなかった。
「え」
「俺たちのせいだな」
「…そんな、さっき、福浦さん俺を庇って」
「…そうじゃない。こんなことに、お前達が巻き込まれたのも、元はといえば」
俺たちのせいだと、福浦は言って少しうつむいた。しゃがみ込んだまま、浅い息の気配だけは続いた。
痛みの背をあまり動かしたくないはずだ。
ここに来るのにも、一つ歩くごとに彼の額に脂汗が浮くから、今江の歩みも自然と遅くなった。
今は何時くらいになっただろうか。夕方にはまだ遠いはずだが。
161負い目 2  ◇prGJdss8WM:2005/11/11(金) 11:36:04 ID:Cs3V0h270
「俺らが、不甲斐なかったから。もっとちゃんと、俺らのチームが強かったら、こんなことならなかった」
「福浦さんやめて下さいよ!そんなんで…俺…」
「すまん。お前ら何も悪くないのに、未来もあるのに、こんなことさせられてる。何て言っていいのか…」
今江だって、そんな風に言われたらどうしたらいいのかわからない。
「でもわかってくれ」
ぐっとさらにこもった声で、顔を上げて福浦は言う。
「あの人もきっと、理由がある。何も無しに、こんなめちゃくちゃする人じゃない、そんな人じゃ」
その人、が小林のことだと気付くのに少しかかった。西岡がその場にいれば、きっと甘いと即切って捨てただろう。
元はもっと艶やかであったはずの畳は湿気て、音も声もこもらせていた。闇と相俟って鈍らせているようだった。
こじ開けた雨戸から、隙を見るように白い筋がたださっと射している。まだ昼と夕の間だと、また思った。

「雅さんだって、わかってる。こんなことありえないって」
「福浦さん…でも」
福浦には自分の知っている全てを話した。火傷の手当てをしてから、少しずつ、必死に。
元来喋りは達者な方ではなかったから、こんがらがって自分でも何を言っているのかわからなくなったこともある。
直行と正人のこと。西岡のこと。川井のこと。
モニタのこと。リストのこと。それからその、小林雅英だと、西岡が言ったから、そこから導き出せることも。
「福浦さん、でも、やっぱりヤバイと思います、その…雅英さんは」
「それもわかる。けど…俺はまだ、信じられないよ。お前を信用してないんじゃなくて」
「俺も、福浦さん、信じてないんじゃないですけど」
信じるとか信用とか、何回か繰り返したら穢れるような気がして黙る。そんな言葉でなくても、何となくわかる気がするからだ。
そう言えば、福浦も苦笑いしながら、さっき俺も思ったよと言った。
そんな笑みでも、ほっとした。そんな人だ。
162負い目 3  ◇prGJdss8WM:2005/11/11(金) 11:36:37 ID:Cs3V0h270
限りなく福浦らしいと思う。考えれば考えるほど、この状況で、そんな言葉が出てくること自体。
誰かを恨んだり、誰かを憎んだり、何とか現状を打破しようとしたり。それ以上に、この運命に対し後輩に謝るような人だ。
福浦なりの前進の仕方は、やもすれば女々しい。けれどそんな人だから、一も二もなく、信じられる。
西岡がいれば、また甘いよアンタとつっこまれるかもしれんなと思った。
「どうしようか、だな。今江」
壁に背を預けたくてもそこが痛むので、福浦は半分寄りかかったようにしながら額を壁にあてている。土壁の冷たさは心地良さそうだった。
「…どうやったら、見つけられるかな」
福浦がポツリと、また言った。姿勢は変えないまま。
ペットボトルの口を切って、ぐっと飲みかけていた今江は目だけで応える。
「雅さん」
荒い包帯の指が膝の上で組まれていた。

「…って、え。ええ?どうして…」
「聞きたいよ。逢って話したい」
「ちょ、待ってくださいよ福浦さん!そんな、ヤバイですよそんなん!?」
説得とかするつもりですか、と問えば、福浦は眼を細めた。それは否定ではなく肯定でもなかった。
「俺は頑固だよ」
今江が呆気に取られている気配を察してか先を読んでか、福浦はまたポツリと付け足した。
「無理です。無茶ですよ」
言いながら、どこかの誰かさんがそういえば同じようなことを言っていたなと思い出した。アイツの心境もわかる。
「福浦さん、だって…殺し合いって、本気な人は本気やねん。俺、ホンマに…」
「それは俺もわかってる。だから」
「止めたいんですか?」
今江の問いにはっきりは答えられず、少し首を傾がせた。我ながら情けない先輩だ。
頼りない。一人じゃ俺は、何も動かなかった。今まで何も動いてこなかった。
「…考えても、俺に出来るのはそれくらいだったよ」
殺すなと、攻撃すらするなよと大塚に釘を刺された。だけどそれを免罪符にしていたわけではない。
ただ読まれていたなと、今になって思う。俺は誰も殺したくなんかない。例えそれが、こんなことに俺たちを追い込んだ誰かだとしても。
163負い目 4  ◇prGJdss8WM:2005/11/11(金) 11:38:15 ID:Cs3V0h270
「いや、それでも、…でも、無理ですよ、別の意味で。だって俺ら、わかんないじゃないですか」
「…ああ、そうか」
「西岡はほら、その機械持ってますけど、もしかしたら雅さんも、…持ってはるかもしれませんけど」
もし雅英が持っているなら、西岡の言葉はビンゴになる。彼は裏切っている。認めたくないしフラットな言い方にしたかった。
「やから俺らは、探そうと思っても難しいですよ」
「そうだな。…ホントだ。無理な話なんだな」
福浦が苦笑いを、ほんの少し復活させた。
また今江がほっとしたのを福浦は知っていたのだろうか。

だったら西岡を探さなきゃと福浦が言って、それからのことに異論はあったが、まずそこには賛成だったから今江は頷いた。
もし西岡に相談したとしても、きっと彼は一刀両断に「無茶や」と言い放つであろうと思ったから、あえて反対しなかったとも言える。
「今江…悪い。俺の頼みきいてもらえるか?」
「頼み?」
「正直、キツイ。俺…動くの、結構…」
片眼をひねるように閉じて、福浦が言う。汗が止まっていない。壁にあてた額からも。
ああ、と合点して今江は頷く。
「福浦さん、ここに居てください。多分動かん方が安全やと思うし」
「悪い、な…」
「俺、戻ってきますから。死なんと帰ってきますからね」
「頼んだ」
福浦が何度目かの苦笑いをした。いなしていることに今江は気付かなかった。
164負い目 5  ◇prGJdss8WM:2005/11/11(金) 11:39:44 ID:Cs3V0h270
ごめんな、俺は本当に頑固なんだ。
福浦は重い身体を引きずる。壁に手を当て、ずるずる進む。
彼が居なくなったら途端に静かになった。風の音も、軋む床や雨戸の音も感じる。
台所らしきところの、これも微妙によどんだ空気の中に入る。ぐぃ、きしむ椅子を引く。
そろそろと痛む背を預けた。いてて、と目を閉じたまま、すうっと息をした。
どれくらいそうしていただろうか。

時計の音が欲しかった。コチコチいう秒針の音が聞こえれば、きっと待っている実感があったはずだ。

今江の話が本当に100パーセントだとしたら、きっとそれは叶う。
流れ星に願いを三回繰り返すよりももっと確実に、それは叶う。
がたん、と雨戸から音がした。風でもよかった。動物でもよかった。
福浦はすうっと息を呑む。
「…待ってましたよ」
腕組みをしたまま、目も閉じたまま呼んだ。見えない。
「雅さん」
眼を開けた。
小林は相変わらず半眼のまま、暗がりのそこに立っていた。
165代打名無し@実況は実況板で:2005/11/11(金) 11:40:57 ID:Cs3V0h270
第8章から全てあげてみた
もし、余計なお世話と思う奴が居たらすまん
ここに全てある方が保管庫さんも仕事がしやすいかと思って
166代打名無し@実況は実況板で:2005/11/11(金) 13:15:19 ID:UMB0wZGpO
乙でした!
読めなかった人もいるだろうしいいと思いますよ
167代打名無し@実況は実況板で:2005/11/11(金) 22:12:03 ID:nGHOGJMe0
乙です
168代打名無し@実況は実況板で:2005/11/12(土) 00:48:58 ID:42Vhj/Nl0
読み返してまた泣きそうになってるよ・・・
職人さんも上げてくれた人もGJ!
169代打名無し@実況は実況板で:2005/11/12(土) 14:06:36 ID:k6IFXurJ0
危ないからageとく
170代打名無し@実況は実況板で:2005/11/12(土) 21:51:24 ID:hdaA0Wa70
仮保管庫作ろうか?
そんなにたいしたものはできないと思うけど…
171代打名無し@実況は実況板で:2005/11/12(土) 21:56:49 ID:WD/8FGty0
>>170
仮保管庫みたいなやつが見守るスレに貼ってあったよ
ttp://sbh.kill.jp/m/
172代打名無し@実況は実況板で:2005/11/12(土) 22:00:27 ID:hdaA0Wa70
ごめん。見落としてたorz
逝ってくる
173スポットライト・トゥ・エカ(1/2) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/13(日) 03:48:23 ID:IQtMNC4g0
――こんなはずでは、なかった。こんなはずでは……。

赤いしぶきを首から噴き上げながら、山本功児は力なくグラウンドへと倒れこんだ。
代田建紀が振り向きかけた格好のまま、横目にその光景を見下ろしている。
まるで死人のような昏い瞳の中に微かに光が揺らいだような気がした。
言葉もなく、薮田安彦は立ち尽くすばかりで。愛甲猛は無くなった右手を抑え苦悶の表情でうずくまる。
ボビー・バレンタインはその全ての風景にニコニコと目を細めていた。

「……ぉぉぁ……ぅぇ」
山本功児の口から声にならない声が漏れる。
視線は虚ろなまま、その場の誰をも見つめることなく漂っている。
その山本の傍へ代田がゆっくりと、あの目にも止まらぬ疾走が嘘かのように歩み寄って来る。
山本の視線はそれを捉えることはない。
彼が見つめていたのは、代田の体よりずっとずっと向こうにある光。
スタジアムのまばゆいばかりの照明が、死にゆく山本を包むように見守っている。
それはまるでスポットライトのように、山本功児の眼に映っている――

――これはスポットライト? 眩しいな。どこの壇上だ。
まぁいいや。せっかくだから聞いてくれるかい。
俺にとっては滅多にないことなもんでな。
山本功児選手といえば栄光の巨人軍の一員よ。
知名度が無いとか言ってくれるな。
打撃は悪かなかったんだ。レギュラー獲りの競争相手が王さんじゃなけりゃぁ……
運が悪かったんだな。
結構有名なプレーだってあるんだぜ?
ショートフライを打っちまった、と思ったら宇野がデコに当てた。例のアレだ。
まぁ俺は引き立て役になっちまっただけだが。
運が悪かったんだな。
なんだかんだでロッテに行ったよ。そしたら俺の実力なら普通に活躍できるわけだよ。
ま、弱小ロッテじゃ注目なんてありゃあしない。
これも運が悪かったんだな。
174スポットライト・トゥ・エカ(2/2) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/13(日) 03:49:15 ID:IQtMNC4g0
だいたい同じ名前の人がミスター赤へルってなんだよ。間違われるわ、偽とか言われるわ。
やっぱり運が悪かったんだな。
ロッテでコーチだってやった。若いもんを育てるのは楽しかったな。
そしたらいつの間にか監督だ。弱い弱いロッテのな。
やると面白いもんで真面目にやってはみたけど、フロントはやる気なくて弱いままで負け続け。で、クビ。
まったくもって運が悪かったんだな。
今度は巨人のコーチさ。そう、今度こそ。今度こそだ。
運が悪いままの俺の人生、最後にチャンスが回ってきた
ここで成果を出せば、ゆくゆくは栄光の巨人軍監督に。
そうだ、俺の人生でようやく、俺にスポットライトが当たる日が来る。
丁度今こうして、光に包まれてるみたいにな。
俺は諦めてねぇぜ。だって、一度も満足な人生を送ったことがねぇんだからな。
野球選手としてよ、一度はスポットライトに包まれ……

……こんなはずではなかったんだ。
やっぱり俺は運が悪かったのかな?
このまま、野球人として目立つことも無く終わっていくのか俺は。
そんな人生なのか、俺は。
夢があったんだ。
巨人軍の不動のレギュラーとして光り輝くこと。
ロッテの選手としてロッテを優勝に導くこと。
ロッテの監督として大勢の観衆の前で胴上げされること。
全てが叶わなかった。

胴上げか……あのとき……
監督辞める時だ。カッコつけて「胴上げは次の監督にしてくれ」なんて言っちまったけど。
一度ぐらいはされてみるのも良かったか? ……ふん、俺は理想家なんだ。
スポットライトの中心に来るために必死でもがいてきたんだ。中途半端なケリは要らん。
ん? なんだ? 周りが暗く……ああ、このライトももう消えるのか……
なんだよ、もう少しこの中にいさせてくれたって……いいじゃないか…………。

【山本功児×】
175代田の世界(1/3) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/13(日) 03:53:42 ID:IQtMNC4g0
最後にもう一太刀。
代田建紀は山本功児の首にナイフを突き立てた。
360度からスタンドのライトが彼達を煌々と照らす。
一筋の影も伸ばすことなく。

「う……」
代田が小さくうめく。
「死んだ……」
死人のようだった目に、少し正気が戻った。
元から釣り上がった眉は中央で歪み、こけた頬は緊張からか一層ゴツゴツと角張っていた。
見下ろす山本の首から流れる赤い液体が、ライトに照らされてきらめいている。
代田にとって不思議だったのは、死にゆく山本の顔に全く苦しみがなかったことだ。
対価として、彼の受けた屈辱と悔しさの対価として山本は苦しむべきなのに、だ。
03年の彼の最後の試合、彼の黄金の足は悲鳴を上げた。彼はそのままクビになった。
野球を止める気はなかった。しかしその足でトライアウトを受けることなどできなかった。
その速度だけが何物にも代え難い売りの選手である。
その男が足を奪われ、野球を奪われ、チャンスすら奪われた。
この気持ちを雪がなくてはならない。
「これで一つ……」
指を折って一つ数える。
両手には足りない。あと幾つ果たせば、殺せばよいのだろう?
彼をクビにした者、クビの彼を尻目にのうのうと暮らしていた者。
全ては彼の敵だ。
「うぅ……?」
何かが頭の中で弾ける。警鐘が鳴る感覚。
心の奥底で誰かが語りかけてくる。泥が舞い上がるように、もやもやと気持ちが湧き立つ。
(お前は……本当に……恨んでいたか?)
「うあ……っ!」
その瞬間、真っ白な火花が見えた。脳内を何匹もの虫が這いずり回るような、激しい痛みを覚える。
それを思い出すことを警告するように。
鳴っていたはずの警鐘は、既に代田の頭の中から消えていた。
176代田の世界(2/3) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/13(日) 03:54:07 ID:IQtMNC4g0
「Take! Come back!」
高らかにボビー・バレンタインの声が響き渡り、それに反応するように代田はそこから跳んだ。
目に映る全ての物は横長く伸びて、彼は一瞬でヘリの全ての面を垣間見る。
人も何もかもおかしな形で、ただスタンドのライトだけが尾を引いているのでそれだと分かる。
手術を終えたとき、バレンタインは言っていた。代田だけに見える世界を知るだろう、と。
それこそが代田の世界。例えるなら、空を駆けるひとすじの流れ星を見るような。

一瞬でバレンタインの傍らに代田はいた。
バレンタインが中曽根を通して語りかけてくる。
「山本への恨みは晴らしたか」
「はい」
バレンタインは笑っている。代田はそれをただ見ているだけだ。
山本への恨み、それが今晴らされて爽快な気分だ。
「他にも恨んでいる奴がいる。そうだろう?」
バレンタインの目が彼に語りかけてくる。
その瞬間、思い出したように激しい感情が沸き起こる。
彼の欲しかったものを持っていた者達。野球をする幸せを噛み締めていた者達。
憎しみが、羨望が、哀しみが、それら全てが殺意となって沸き上がってきた。
その度に頭の中で何かが弾ける。まるでスイッチを押すように。
「はい」
代田は短く答え、ゆっくりと振り向く。
その先には薮田安彦と愛甲猛。
今年野球をする幸せを知った男、野球人生を全うした男だ。
また頭の中で何かが弾けた。
「殺す……」
そう呟くと、薮田が緊張の表情と共に身構えた。

「HAHAHA」
バレンタインの口から笑い声が漏れる。。
「さあ、ハンティングの始まりだ。まずは逃げてご覧。10分あればいいかい?」
余裕タップリの表情で、代田を制しながらバレンタインは笑っていた。
177代田の世界(3/3) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/13(日) 03:54:48 ID:IQtMNC4g0
「10分経ったら代田が君達を狩りに行く。それまでに距離を開けておきたまえ」
バレンタインの宣言を聞いた瞬間、薮田は愛甲を促してベンチへと向かう。
必死で手を抑えながら愛甲はついていく。
2人はすぐにベンチの奥へと消えた。
「Last 9 minutes...」
バレンタインが腕時計をチラリと見る。
「さて、代田。薮田を殺してはいけない」
それを聞き代田の頭がプルッと震えた。一瞬目の焦点が定まらなくなった。
今殺すターゲットとして見定めていたはずの人間だ。
「なぜ彼に猶予を与えたと思う? 彼に成長のチャンスを与えるためさ。
 ここを抜け出した彼はきっと更なる成長を遂げ、より素晴らしい選手へと変化するだろう。
 しかし彼以外の彼に近づく者は邪魔でしかない。リストの人間以外は全て殺しなさい」
刷り込まれた感情と新たな命令とのせめぎ合い。
代田の顔に混乱が浮かんだ。
「恨みはリスト以外の人間に晴らせ。それが任務だ」
「任務」
「君はもう一度野球がしたいのだ。だから私から与えられた仕事は果たすのだ」
「仕事」
「そうだ。仕事だ。OK?」
代田の眼から迷いが消える。最初からそう思っていたような気がする。
恨みはリスト以外の人間に。
それが波紋のように、彼の心の中で反響し続ける。
地面を二三度蹴る。彼の足は元通り、ケガなど無かったかのように万全である。
彼の何より大事な足。そして、それを生かす場面が正に今ここなのだ。このために……
(このために……? お前の足は……人を殺すために……?)
パチン。火花が頭の中で弾ける。その声はまたかき消された。
先ほども聞こえたような気がする。だがよく覚えていない。
誰かが語りかけている? としたら、一体誰が?
パチン。また小さく火花が弾ける。
代田の眼が完全に座る。バレンタインが腕時計を見る。
「3,2,1...GO!」
代田は跳び出した。もはや彼の心に語りかける者はいなかった。
178代打名無し@実況は実況板で:2005/11/13(日) 05:18:36 ID:rajg6nu8O
職人さん乙です!

エカ・・・
179代打名無し@実況は実況板で:2005/11/13(日) 11:36:07 ID:BbcG9liqO
。・゚・(ノД`)・゚・。
180代打名無し@実況は実況板で:2005/11/13(日) 16:13:22 ID:fNlNKwBU0
代田は、サブローより自我が残ってそうだ
181代打名無し@実況は実況板で:2005/11/13(日) 23:03:12 ID:trLfqvKl0
ほしゅ
182代打名無し@実況は実況板で:2005/11/14(月) 06:46:42 ID:GTwKmO3DO
捕手
183代打名無し@実況は実況板で:2005/11/14(月) 18:26:20 ID:xbmPK9x8O
エカ…
184追い風・向かい風(1/3) ◆vWptZvc5L. :2005/11/15(火) 03:24:13 ID:AwTIE9bR0
日も沈んで辺りは暗がりが広がっている。
この闇が浅間の焦りを誘うのだろう。
あれから数時間、探しても探しても誰にも会えないでいる。
事態は一刻を争うのに、時間だけが過ぎていくばかり。
6時の放送も訳のわからぬまま途絶えてしまった。新たな禁止エリアもわからない。
もし初芝と堀のいる場所が禁止エリアになったら、再び合流することは難しくなる。
告げられた死亡者の中に堀の名がなかったのが、不幸中の幸いだろうか。
死亡者の数は今まで一番多かった。そこに堀まで加えるわけには行かない。
とにかく早くO型の人を見つけ出さなければ。その思いはみんな同じはずだ。
そして、それを一番強く感じているのは浅間だろう。
里崎が「単独行動は危ない」と言っているのに、勝手にすたすたと歩いていってしまう。
里崎と浅間との距離は広がっては縮まるを繰り返し、再び大きな差がつく。
整備されていない野道を歩いてきたことで、足にかかる負担も大きく、
里崎の身体にも疲労がたまり始めていた。

「ったく、早く歩けばいいってもんじゃないだろ! 浅間、戻れっ!」
息を切らして里崎が立ち止まる。
一向に追いつかない里崎を見かねて、成瀬が引き返してきた。
「さとざきさん、すこしやせたほうがいいですよ」
「うるさいな、帰ったら絞るよ! それより浅間を…」
ふと、里崎の口が止まる。
「?」
「…誰かいる」
里崎が人差し指を立てて、静かにしろと言う仕草をする。
――ちゃぷん、ちゃぷん。
茂みの向こうから聞こえるのは不規則な水音。
「ほんとだぁ…」
「成瀬、俺は誰か確かめてくる。お前は浅間を連れ戻してきてくれ」
「わかりました!」
成瀬は浅間の元へと駆けていく。
里崎は茂みをかき分け、音のする方へと向かっていった。
185追い風・向かい風(2/3) ◆vWptZvc5L. :2005/11/15(火) 03:24:52 ID:AwTIE9bR0
その池に水がなみなみと湛えられているのは、昼間の雨のせいだろう。
深々と草木が生い茂るほとりに、小野晋吾はしゃがみこんでいた。
スパナと手に付いた血痕を水で洗い流して、月明かりにかざす。
地平線近くに浮かぶのは、昨日より遅れて出てきた十六夜の月。
さっきまでスパナについていた血と同じ色。
それは朝焼けと同じで珍しくもない現象なのだが、
それでも赤い月は不吉さを漂わせている。
あの放送からどれだけ経っただろうか。突然の中断。
自分の考えが正しければ、あれはきっと小林宏之の仕業だ。
それしか考えられない。罠かもしれないからやめろと言ったのに。
それでも、あいつは行ったのか。裏があると勘繰ったのは、ただの思い過ごしか。
嬉々として死亡者の名を読み上げた山本功児。
その中には当然、橋本将の名もあった。
あの声を思い出しただけで、全身の血がたぎる。

俺も将もあの人が育ててくれたんじゃなかったのか。
人はそんなに簡単に変わってしまうものなのか。
恩もある。親しみもある。
でも、そんなものを忘れてしまうだけの憎しみがここにはある。
許さない、絶対に。必ずあの人を殺してやる。
いや、もしかしたらあの人を先に殺すのは宏之だろうか。
それならそれでいい。あの人だけが敵じゃない。
自分が殺るべき奴らは他にいくらでもいる。この島の中にも、外にも。
そしてうまく10人の中に残ったならば、このゲームの黒幕を必ず根こそぎに。
186追い風・向かい風(3/3) ◆vWptZvc5L. :2005/11/15(火) 03:25:56 ID:AwTIE9bR0
――ガサガサッ。
不意に近くの茂みが揺れる。まずい、誰か来たか。
水の滴るスパナをポケットに差すと、チェーンソーを手に、
晋吾はすぐさまその場を離れようとした。
「待ってください、里崎です!」
聞こえてきた声に足を止める。チェーンソーの電源に指をかけて振り返った。
声のした方向を見れば、そこに現れたのは確かに里崎智也。
手には懐中電灯が握られている。
「晋吾さん、ひとり…ですか?」
「そうだ」
朴訥な物言いから感じられるのはむき出しの警戒心。
目深にかぶった帽子のせいでその表情は読み取れない。
晋吾の腕にはしっかりとチェーンソーが構えられている。
変な誤解を与えれば、争いになるかもしれない。
里崎は一挙一動に細心の注意を払いながら、ゆっくりと晋吾のもとに歩み寄っていく。
「あの、晋吾さん……血液型は…?」
「そんなこと聞いてどうする」
低い声。やっぱり警戒されている。
「堀さんが怪我してて…血が必要なんです!
 堀さんの血液型はわからないんですけど、O型なら何型にでも輸血できるんです。
 それで協力してくれるO型の人を探してるんですけど…」
「…俺はO型だ」
その答えに里崎の緊張が一瞬にして緩む。思わず手を叩いた。
俺に風が吹いてきたと、そう思った。
「本当ですか!? それじゃあ…っ」
「断る、って言ったら?」
「……へ?」
思いもよらない返答に、間の抜けた声が出る。
里崎に吹く風は、一瞬にして追い風から向かい風に変わっていた。
187代打名無し@実況は実況板で:2005/11/15(火) 10:22:25 ID:Zw/JnUYo0
晋吾は、将が死んでコーチを殺してしまって
冷静な判断が出来ないのかな・・・

堀を生かすために協力して欲しいな
188代打名無し@実況は実況板で:2005/11/15(火) 10:23:20 ID:Zw/JnUYo0
微妙に危ない位置だからageる予定だったのに
ミスッた
189代打名無し@実況は実況板で:2005/11/15(火) 10:49:35 ID:q7ph4guJ0
元GMの広岡よんでバレンタインの前で土下座させるのTV中継してくんないと気がすまないんですが!
190代打名無し@実況は実況板で:2005/11/15(火) 15:54:51 ID:igwpKnbV0
晋吾…
191代打名無し@実況は実況板で:2005/11/15(火) 17:58:20 ID:DVRe52KvO
このスレ、意味わからないからさっさと落とせ
192代打名無し@実況は実況板で:2005/11/15(火) 18:25:12 ID:dCA1WP8S0
書き込んだらその分圧縮で落ちづらくなるわけだが・・・
193代打名無し@実況は実況板で:2005/11/15(火) 20:58:43 ID:NFv86rfqO
全部きになる!!
194代打名無し@実況は実況板で:2005/11/16(水) 00:26:09 ID:4CSOjTVIO
俺の成瀬……テラモエスw
195代打名無し@実況は実況板で:2005/11/16(水) 21:48:12 ID:cB636lCG0
保守
196代打名無し@実況は実況板で:2005/11/16(水) 22:46:06 ID:/1CuHJq40
里にしてみたら、驚きだよな
晋吾なら助けてくれると思っただろうし
197代打名無し@実況は実況板で:2005/11/16(水) 23:15:17 ID:gs4AJh8Y0
仮保管庫が微パワーアップしてる件
http://sbh.kill.jp/m/
198代打名無し@実況は実況板で:2005/11/17(木) 01:24:43 ID:6AiQ3F8S0
>>197
すげ〜。仮保管庫っていうよりも本保管庫?に近くなってきた
しかし、保管庫さんはどうしたんだ。忙しくなってきてるなら
誰かに依頼すればと思ったりするのだが
199良い役者が良いドラマを(1/4) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/17(木) 01:50:47 ID:3u9gu80W0
 「クフフ…」
含み笑いが突いて出た。しばしの待ち時間には楽しいことを考えるのが彼のキャラクターである。
周囲で部下達が忙しく動き回るのを尻目に、ボビー・バレンタインは大きな椅子に背を預ける。
夜空を眺めつつ、膝の上で組んだ手の両人差し指はパタパタ動く。
「準備できました」
彼の前には十台ほどのTVモニター、そしてマイク。
モニターにはすぐにスイッチが入り、ゆっくりと画面が浮かび上がる。
そこにはスタジアムの廊下を駆けていく薮田安彦と愛甲猛の姿が映し出されていた。

「次はどっちでしたっけ?」
二またに分かれた道に差し掛かり、薮田と愛甲の足が一瞬止まる。
右手をアゴに軽く当て、記憶が確かなら左の道のはずだと薮田は思案する。
「わからん、よく覚えてない……」
愛甲の顔色は如実に悪くなりつつあった。
上着で右手全体をくるんでいるが、既にその服が赤く染まり始めている。
薮田が心配そうな表情を浮かべた。それを跳ね返すように愛甲の睨みを利かせた視線がさまよう。
気遣いの言葉をかけたら怒りを買いそうで、薮田は何も言えなかった。
「確か、右です」
「よし」
薮田がまた走り出した。その顔が苦悶に満ちているのを、後ろに続く愛甲は知らなかった。

「まだ追いつかない? ふむ」
モニターを見ながらバレンタインが首を揺らす。
いつの間にやらガムをクチャクチャと噛んでいた。と、プクゥと膨らます。
ガムは音も無く割れた。唇に張り付いたのをすぐに舌なめずりで口にしまいこむ。
またモムモムと噛み始める。指がカタカタと肘掛けを鳴らしていた。
(一見、イライラしているようだが)
筒井が無言でその様子を見つめていた。
バレンタインの目がつとめて冷静にモニターを凝視しているのに筒井は気づいていた。
態度と表情とのギャップに、違和感さえ覚えるぐらいに。
「まあいい。良いドラマとは最初の内はやきもきさせるものだ」
チャンネルを操作してモニターの画面を切り替える。
200良い役者が良いドラマを(2/4) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/17(木) 01:51:17 ID:3u9gu80W0
(ん?)
筒井が変化に気づいた。
あるチャンネルに映し出された映像を見て、バレンタインの口元が少し笑った気がした。

「ここは右ですわ」
薮田が周囲を確認しながら角を曲がる。
心なしか落ち着きを取り戻し、先ほどよりも確信を持って道筋を思い出せている。
「そしたらここを左に」
そう言って角を曲がったところで、薮田が素っ頓狂な声を上げた。
曲がった先は壁だった。
「おい、どうした?」
「んなアホな。確かに道があったはずや」
壁の中央には"防火扉"の文字。よく見ると、壁は天井の方から出て床まで降りてきている。
「奴らが道を塞ぎやがったのか?」
「ですかね。簡単に出す気はないみたいですわ」
元来た道を引き返す。再び記憶をたどり、出口への方向を考える。
あまり迷っている時間はない。急いで戻ると、とりあえずさっきの分岐が見えてきた。

「!」

そのとき、角から飛び出してくる影が見えた。
見慣れたユニフォーム。それはチームメイトの印。
身を隠す時間も隙間もない。瞬間的に薮田は身構えた。愛甲も左手に銃を構える。
同時に相手も銃を構えた。そこで気づく、背格好が細長い代田建紀のそれではないことに。
「薮田っ!?」
その影は反射的に目に映ったものの名前を呼んだ。
全くの予想外の人物に遭遇したからだ。思わず動きが止まる。
そしてそれは薮田も同じだった。
「ジョニー!?」
黒木知宏と顔を合わせ、喜ぶより先に薮田は息を呑んだ。
その鬼気迫る雰囲気が、黒木をいつもの彼とは違う存在たらしめていることを知らせていた。
その証拠に、薮田の顔を認識した途端に彼の表情が追い込まれた人間のそれに変わったからだ。
201良い役者が良いドラマを(3/4) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/17(木) 01:51:43 ID:3u9gu80W0
「薮田、ここで何を」
「お互い様やで、ジョニー」
「それも、そうか」
「ああ、そうや」
何かぎこちない、牽制するような会話。同い年で気さくに話す間柄だったはずだ。
彼は何か恐れているのだろうか。それとも自分が彼を恐れているのか。
少なくとも黒木は、最も信頼できる者の一人のはずである。
薮田はしかし銃を下ろせない。簡素な照明に照らされるのみの廊下はあまりに静かである。
「おおジョニーよ、久し振りじゃねぇか」
膠着を破るように薮田の後ろから声が上がる。
薮田の後ろにいたその人物を改めて確認し、黒木は更に驚いた。
「え、え?」
「そう、俺はミスターロッ……」
「愛甲さんじゃないですか! なんでここに?」
「ッテ、って。あ、ああ、そう。愛甲だよ」
一瞬痛みを忘れ、なんだか消化不良な表情を愛甲は浮かべた。
その場の雰囲気から緊張が消える。薮田とジョニーは目を合わせると、ほぼ同時に銃を下ろした。
「ワイらは運営を倒そうとしたけど失敗したんや。そんでボビーがきて、そんで……
 とにかく時間がない。追われてるんや。ジョニー、お前も逃げよう!」
薮田が黒木を促すようにする。
だが、黒木はその動きに応じず中心の方に行こうとする。
「運営はこっちでいいのか?」
「アホか。追われてる言うたやろ! 代田が……代田が速くなって狙って追ってきとるんや!」
「代田?」
「奴らの手先になっとる。とにかくそっちはアカン、殺されるで」

 薮田に対して背中を向けたまま、黒木は横目で二人を見ていた。
「行かなきゃいけない」
「よせ。あいつはバケモノだ……何を考えてるかしらんが太刀打ちできん」
愛甲が右手をくるんだ上着を解く。黒木が目を見開いた。
思い出したのだろう、愛甲の肩が震えている。
進むことを逡巡する様子の黒木に、業を煮やして薮田が腕を掴む。
202良い役者が良いドラマを(4/4) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/17(木) 01:52:06 ID:3u9gu80W0
「行かせへんぞ。さ、逃げるで」
黒木がまだ迷いを見せている。
今度は強引に黒木を引っ張る。黒木の姿勢が崩れたが、再び体の向きを元に戻す。
「何をしてんのや! なんでこっちに来ん!?」
「俺は」
黒木の言葉が止まる。何から話すべきか、いや話すべきではないのだろう。
彼が何故ここにいるか、これから何をしようとしているのか。
バレンタインが既に来ているというなら、既にその時は来ているということだ。
例え代田が追ってきているとしても、バレンタインの手先ならば安全である確率が高い。
ならば彼のするべきことは一つだ。
あとはどうにかして、薮田達だけが行くことを納得させるかしかないのだが。
「ジョニー、なぜ驚かない?」
その一部始終を見ていた愛甲が不意に問う。
黒木と薮田の視線が集まる。
「代田のことや、何よりボビーが来たと言ったのにお前は驚いてなかったな。
 俺らはロクに話しちゃいないんだが……。普通ならもっと聞きたがるはずじゃねぇか?」
「ジョニー」
無意識に出た薮田の声。黒木葉反射的に掴まれていた腕を振り払った。
再び空気が張り詰める。
ここで自身の経緯を話すことはできない。口止めを破れば全員の死に繋がりかねない。
だがこのまま留まれば、薮田達のみを危険に晒すことになる。
時間が経つのを待つことはできない。そして、もう一つ心配事がある。

「黒木さんは裏切ったんですよ、僕らを」
曲がり角の陰から声が響いた。懸念が現実のものとなる。
しまったという表情で黒木が声の主を見やる。
現われたのは内竜也。そしてその後ろに於保浩巳がついてきていた。

「ヒュー! 良い役者が揃ったね」
バレンタインが口笛を吹く。
モニターの中に5人が一堂に会した様子が映し出されていた。
「さあ、良いドラマを演じてもらおうじゃないか」
203代打名無し@実況は実況板で:2005/11/17(木) 02:37:02 ID:uVJdGx+C0
職人さま、乙でした!
急展開ですなぁ
続きが23しく気になる・・・
204代打名無し@実況は実況板で:2005/11/17(木) 07:02:14 ID:fkQjzLaQ0
俺の内君が出てきたああああ―…

書き手様、乙です。頑張ってください。
205代打名無し@実況は実況板で:2005/11/17(木) 11:03:17 ID:2K107suU0
うおおおおおおお書き手さん乙!
おもしれええええええええええええええええええ!
続き気になる!

内は俺のだっての
206代打名無し@実況は実況板で:2005/11/17(木) 11:18:54 ID:cW/aNquF0
>>198
保管庫さんに直接聞いてみた
忙しかったりPC壊れたりいろいろあったらしいのですが
最近はマリバトスレ自体ROMられてないらしいので
仮保管庫さんが本保管庫さんになっても問題ないかも…

何はともあれ職人様乙です!
207代打名無し@実況は実況板で:2005/11/17(木) 12:00:20 ID:EWEzgf1EO
於保が気になる…
208代打名無し@実況は実況板で:2005/11/17(木) 20:23:49 ID:KpRIpEXo0
やべー、面白すぎる。
仮保管庫さんも更新早いし、どちらもGJ!
209 ◆QkRJTXcpFI :2005/11/17(木) 23:21:14 ID:3u9gu80W0
感想アリガトウございます。しかし凡ミス発見

4/4の中段
×黒木葉反射的に掴まれていた腕を振り払った。
○黒木は反射的に掴まれていた腕を振り払った。

ですね。失礼しました。
210代打名無し@実況は実況板で:2005/11/18(金) 14:44:02 ID:+yj7LOcgO
☆ゅ
211代打名無し@実況は実況板で:2005/11/18(金) 18:30:47 ID:+cCFctg2O
青松捕手
212鳥籠から 1  ◆prGJdss8WM :2005/11/19(土) 01:44:59 ID:gArBKKvp0
もうすぐ冬やなあと今江はふと思った。秋季キャンプの日程は上手くいけば暖か、下手すればセーターのひとつも欲しい。
そんなささやかな日常のこともすっかり忘れていた。背負う荷物には固い感触しかない。配られた素っ気無いクソ荷物。
ペットボトルの中身はただの水だったし、食料らしきものと言えば普段見もしない乾パンの類で、温かみとやわらぎはまるで無かった。
きつい斜面を一気に登ろうとして、ずるっと足が滑りかけた。昼までの雨に濡れて、枯葉や枯れ草が土嚢のように積み重なって、足首に堪える。
西岡を探すと言うのは、実際は至難の業だとわかってきていた。あちらにはこちらの居場所はわかる、けれど逆はどうしたらいいものか。
道らしい道も無いから、すっかり迷ってしまった。思ったより手間取った、と今江はその厚い唇を噛んだ。右手は銃身の分厚い、自分の銃を握ったままだ。それはもう無意識に、今江はそれを握り締めたままだ。
やっと丘をさっきの爆撃点まで登りつめ、爆風が凪いだ草の流れに気付いた。はっ、と荒い息を吐きながら、ここからあいつはどこに消えたか考える。
きっと逆の斜面だ。
ふと振り向いたら、丘の上からは島の先の海さえ見えた。
そこに雲だらけの空からわずかながら、沈む寸前の夕日の幾らかが、光の筋となって射してきていた。
さっと。何かを呼んでいるように。

「ダメって、言うなよ」
呟く声に確かに苦しさはあった。苦笑いしながらも目は泣いているような、そんな顔が声になったような。
「お前らだって大事な仲間だ」
「でも天秤にかけたら、こっちの方が軽いのかも」
「…福浦」
「…すんません。キツいこと言いましたね」
銃口を構えながら、それに睨みつけられながら、そよとも空気も揺らがない廃屋の中で、二人の声だけが交差する。
二人とも、驚くほど冷静だ。淡々と、いつもの声がふたつ混じる。
「お前はそんなに野球が好きかよ。それより大事なもんは無いのか」
「わかりません」
でも多分、と福浦はまた眼を閉じながら言った。
「野球ナシの俺なんて、そんな大した男じゃないでしょう」
「…」
「それに野球ナシのチームメイトだったら、こんな本気で命預けてないです」
あんたみたいな、と指を指す。それが福浦の銃口だった。
雅英の息遣いが聞こえる。互角になったのはそれでわかった。
213鳥籠から 2  ◆prGJdss8WM :2005/11/19(土) 01:47:26 ID:gArBKKvp0
「俺たちはまだ何か出来るんじゃないですか」
「……」
「空を跳ぶとか、そんなこと以外は?」
「……」
「雅さん」

ふくうら、と心底苦々しげな声がした。
「お前はわかってない。全然わかってない。いいか…こんなもん、勝ち残っても負け組なんだぞ!?」
「…なんで、アンタがそんなこと」
「わかってないとでも思ってんのか。わかってる。俺だってわかってる」
それにムカついてる、と雅英は吐き捨てた。眼を閉じている福浦の顔すら強く見られず、視線は流した。
何にしろあまり見えない。古ぼけた気の床。その床を泥だらけにしたのは誰だ?ああ、土足で上がったのは俺か。
その木目はよろよろ続いて、闇に引きずり込まれて、やがて一緒になっていた。それが四方八方から絡み合って、ひとつの籠を作る。
それに囚われている、雅英は思った。この部屋は鳥籠。

「俺たちをボロ雑巾みたいに、最後まで馬鹿にしようとしてる奴らがいる」
「…うん」
「そんな奴ら、幾らかでも見返してやる、俺は」
だから死ねない。死んでたまるか。俺は君臨する。
いずれ奴らの頭上にだ。
けれどそんな野望は口に出さなかった。
「なあ、福浦。あっちは俺らを舐めてるぞ」
唇を舐めたら、猫なで声みたいになって、我ながら気持ち悪かった。かちゃん、と右手の銃のグリップを握りなおした。
この鳥籠から飛び立つのは俺だけだ。
「だから俺たちの誇り、見せてやる」
どこかでそんなこと、そういえば最近聞いたな。
そう思ったから、だから雅英の次の言葉は我慢できなかったのだ。
「俺たちの死に様、どこまでも見せてやるしかないだろう」
「…違う!」

珍しく福浦が激昂した。雅英の覚えている限り、それは最初で最後の福浦の怒声だった。
214鳥籠から 3  ◆prGJdss8WM :2005/11/19(土) 01:49:56 ID:gArBKKvp0
がっと真ん中のテーブルに手をついて、かみつかんばかりの勢いで。背の痛みは、と問われてもその時の福浦には聞こえなかっただろう。
がだだんっと派手な音を立てて、足のかみ合わせの悪い椅子が仰向けにひっくり返って、その辺の戸棚に引っかかった。
福浦、穏やかで朗らかで気のいい奴だった。どちらかと言えば引っ込み思案で、表舞台すら辞退する。半分困ったような目で、勘弁してよ雅さん、俺そういうの苦手なんスよと、色んなとき聞いた。
だから記憶の限り最初で最後の。
「違う!!」
「…福浦」
「死に様!?冗談じゃねえよ!!」
もしこの不条理な世界の中で、ひとつだけ言えるものがあるとしたらだ。
眺めて笑ってる奴らに見せつけるとしたらだ。それは死に様なんか真っ平だ。いくらカッコつけて死んでも、それは死でしかない。
死ですらない。無だ。

「見せつけるンだったら…っ」
「福浦」
「それは俺たちの生き様だ!!」

どっどっどっ、体の深くに何かが埋まる音がした。銃声はそれより、何故か後からやってきたのだ。
福浦の視線は一瞬揺らぐ。雅英を見据えた目がすうっと薄らいだ。
深い弾。重い弾。筋肉を突いたそれはためらい無く福浦の腹に撃ちこまれて、そこで重く啼いた。
痛みより先に、焼きついたような感触が昇ってきて福浦は吐いた。溢れたといった方が正しい。
ごぼぉ、と水音に近いものをかみ締めて、それでも福浦は仁王立ちになって、薄暗がりの中をにらみつけた。
怒りならいい。哀しみも許そう。
泣きそうになったのは、その血の味が、憎しみを連れてきそうだったからだ。だから立ちつくした。
雅英が揺れた。ぐにゃりと歪んだ。最後に体中の感覚が折れた。

冷たかった雨がやんで、白々としていたあちらこちらから、忘れかけられたような空の色が覗いていた。
あの重い雲がどこにいったのかと顔を上げた。差し込む夕日の黄金色はたったわずかだったのだが。
雲の隙間からまた、すうっと一筋差し込む。岡の上から見れば、水平線に映える。一瞬殺し合いの島に居ることは忘れた。
風が頬を撫でることを心地よいと思い出した。次の瞬間にはその冷たさに、濡れた身体をぶるっと震わせた。
215鳥籠から 4  ◆prGJdss8WM :2005/11/19(土) 01:51:06 ID:gArBKKvp0
あの生意気な後輩はどこに居るだろうか。まさかと思うが、強面のあの先輩と本気ファイトにはなっていないだろうか。
早く見つけて、連れて戻らないといけないとわかっていた。が、今江は開いているほうの手で少し佇んで斜面の木々のつめたい肌を撫で、もう一度日の光と水面を、まるで慈しむように見下ろした。
息が整い始めていた。目を細めてそして思った。皆助かればいいのにと。
三発の音はなのに、その夢を切り裂いた。

誰かが去る。それは飛び立つのか。
この部屋から通り過ぎていくのか、自分が落ち込んでゆくのか。
手は伸びた、その影に、気配に、背中に。行く先には淡い光だけがあった。
そんなぼんやりした光の中に彼が去る。やっぱり耳はおかしくて、なのにまるで無音のシーンのようにしか見えなかった。足音さえ。
行き場の無くなった手が不意にばたりと落ち、それから床を這う。そしてやっと震える。
声を、出せない。身体を、動かせない。重い。苦しい。息も、もう。
憎んでない、それでも。憎みたくはない。部屋が段々、その天上の闇の四隅が迫ってくる。
押しつぶされる。鳥籠の中の鳥のようだと思った。

雲が晴れてきたのは、きっといいことの予兆だと思っていた。希望の光だと思っていた。
見ようによっては、何かの階段に見えなくも無かったのに。呼び声すら聞こえそうだったのに。
「…くそぉっぉぉぉ!!」
腹のそこから、今江の体の奥底から、咆哮がほとばしった。気付くのが俺はいつでも遅すぎる。
俺が居なくなったらあの人はどうなる。雅さんの狙いはむしろあの人なのに、俺が居なくなったら。
運営側から俺は殺されない、だから俺は盾になれたのに。あちらにはこちらの居場所はわかる、けれど逆は。
「福浦さん!!」
逃げられない、しかも手負いだ。
他の誰かに見つかるかも、なんて考えられなかった。それはやっぱり今江の、気付けないという今江の悪いところだった。
転げ落ちるように坂を下る。何度も転んで手を擦り剥き、足を打った。いやな予感と涙と泥と、泣きじゃくるような声。

『グッド・イーブニンッ! 元気かー! それとも死んでるかー! 6時間に一度のお楽しみ、山本功児監督の島内放送だぞー!!』
216鳥籠から 5  ◆prGJdss8WM :2005/11/19(土) 01:52:38 ID:gArBKKvp0

大事なはずのその放送にすら神経が裂けない。さっき居た家、ああこの雨戸。
「福浦さん!?」
飛び込んだら、火薬の匂いも泥だらけの足跡にも血の気が引いた。
「福浦さん、今江です!!」
『それではお前らがよく頑張った死亡者の発表から。 諸積0番、小坂1番、田中良平19番、橋本33番、川井34番、辻45番…』
「ふ…っ」
足跡の先を追えば、そこには一番見たくない、その人の体があった。
姿と呼べなかった。体だけだった。
『山崎46番、原井53番、青野58番』
「福浦さん!!」
手の銃をかなぐり捨てる。やっとそれから手が離れた、そうでもしないと両手が開かなかったから。
彼の体を、その血の海らしき黒いみどろから掬い上げられなかったから。

『曽我部65番、ユウゴー66番、杉山93番! 以上12名だ。俺は大変満足しているぞー!では続いて禁止エリアの… 』

「ふく…浦さん、福浦さん、福浦さん!!」
膝をそこにつけばまだ温かかった。そして彼がまたごぶっと、抱き上げられた衝撃で血だまりを吐く。
手はだらりと落ちたが、福浦はそこでやっとはっきり眼を開けた。
「…だ…」
「今江です!!福浦さん、死ぬなっ」
「いま、え」
ごぼごぼ、声より先に残り少ない血が溢れて、今江の腕と手を滑らせる。揺さぶるように抱え起こして、今江は自分の手が震えていることを知った。
失っている。今俺は、また。
「誰や!!誰が…誰の仕業や!!??」
福浦のその腹の、闇が吹き出してくる孔に向かって今江は吼える。体にしがみついて、少しでも血を、命をとどめ繋ごうとする。
無駄なあがきだった。泣きじゃくって吼えた。
「殺す、殺す、殺す!!!!」
『……ふがああっ!?』

キーーーーン!
217鳥籠から 6  ◆prGJdss8WM :2005/11/19(土) 01:55:13 ID:gArBKKvp0
まるで時間を止めるような、透明なつららのような音が耳から突き刺さって、今江はやっと我に帰る。がん、と何かに殴られたような衝撃。
「福浦さん、福浦さん聞いて!!何かあった!!一緒に行こう!?」
冷たくなっていく指と言葉。
二度目だ。こんな目に逢うのは。
「福浦さん!!一緒にっ…」
「う…ら、むな」
低く、やっとのことでそう言って福浦はまた、ごふと咳き込んだ。血と何か混じったようなものが、肺の奥から溢れて胸をさらに汚した。
不吉などろり。
「…っ恨、むな、今江」
それに声が、かすれ声がさらに混じっていた。振り絞った力のようだった。
「聞いてない、そんなんやない、福浦さん…っ、そんなんやない!!」
もう言葉の意味なんてわからなかった。どうして皆俺を置いていくんですか。
どうして俺ばっかり、取り残されるんですか。
「生き、残れ」
なのに福浦の目はまるで澄み切っていた。じっと今江を見て、そう言って、また見ていた。
その目がふらと揺らいで、上を見た。空なんか見えないはずだった。部屋の四隅が闇に溶けた、そんな哀しい場所だった。
「先、に」
行ってる、誰に向かってかその声も澄んだ。
本当はまだ何かあるのかもしれなかったけれど。
血まみれ、傷だらけの体から抜け出したように、じっと。澄んでいた。

澄んでいく。痛みも、息苦しさも、力も身体も。
「…福浦さん」
彼が息をしていないことに気付いたのは、だから大分たってからだった。
それも二度目だった。
遺言すらも彼らしくて、失っていく大きさに、今江はただ身体から抜けていく力をどうすることも出来なかった。
こんな人を、俺たちは失った。また失っていく。
雲は、それでも晴れていったのだ。光が少しだけ、この人のために射すように。

【9 福浦和也× 残り20名】
218代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 02:07:00 ID:+E65PrQaO
職人さま乙です

福浦ぁ…
219代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 09:33:06 ID:ocJnsvfGO
乙です。
福浦…。゚(゚´Д`゚)゜。ウァァァン
220代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 13:21:27 ID:bSTDQZbsO
職人さん乙です
福浦ぁぁ…orz
221代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 13:46:16 ID:RdPlqitj0
職人様お疲れage
222代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 13:54:59 ID:wLzBz4gZ0
くだらねえ いいかげんにやめろ。
選手に対する冒涜だよこんなの
223代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 15:04:25 ID:kCiyhgNo0
福浦…嘘だろぉ…
224代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 20:34:19 ID:EYWVldnyO
>>222
禿同。こんな暴挙は俺たちマリサポが黙っていない。
225代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 20:52:04 ID:VF4wSjtZ0
ネタをネタと(ry
しかも俺たちかよ・・・
あげて書き込んだら落ちにくくなるのに
226代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 21:05:28 ID:kCiyhgNo0
>>225
『俺たちマリサポ』ってのはNGワードで
227代打名無し@実況は実況板で:2005/11/19(土) 22:16:56 ID:wLzBz4gZ0
>>225
まじめな話、選手に殺し合いをさせる[ネタ]とやらが不快でしょうがない。
なんで平気なんだ?ファンじゃないの?
228代打名無し@実況は実況板で:2005/11/20(日) 02:45:31 ID:e6zxQWtgO
見守るスレでやってもらえませんか
229代打名無し@実況は実況板で:2005/11/20(日) 10:18:38 ID:DGbA/g9k0
ちゃんと質問に答えてやれ
230代打名無し@実況は実況板で:2005/11/20(日) 15:16:18 ID:n9UXu93gO
>>227

不快ならば見ない、が基本ですよ。

上手く言えないけど、好きだからこそ書くんだと思う。
自分は見る側だけど……人が死ぬのが楽しいんじゃなくて、戦いの中にある選手同士の友情やら、葛藤やら、死を前にして何を思うか……そういうシーンが好き。

225氏じゃないけど、真面目に質問に答えてみました。ウザかったらスマソですよ
231代打名無し@実況は実況板で:2005/11/20(日) 18:31:53 ID:q742TBCS0
>>230
同感だね。
バトルロワイヤルってそういうところを描いた作品だと思うけどね。
232代打名無し@実況は実況板で:2005/11/20(日) 22:45:38 ID:j2XCrhB4O
保守
233代打名無し@実況は実況板で:2005/11/21(月) 00:14:54 ID:SXh3Pms9O
いつもなら可愛い今日のボビーの笑顔、

凶悪犯にみえますた…
234代打名無し@実況は実況板で:2005/11/21(月) 01:09:50 ID:Z0iRyk0I0
ボビーの笑顔見たら、もう「HAHAHAHAMANA!!」という
イメージしかもてなくなってきたw
235激情に身を焦がして(1/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/21(月) 02:11:41 ID:PZO50uCg0
重苦しい緊迫から解放されたと思ったのは、どうやら里崎だけらしい。
目の前の小野普吾は相変わらずチェーンソーを構えたまま、
態度を軟化させる気配がない。何かあればすぐにでも襲い掛かってきそうだった
この警戒を解いてもらわなければ、話になりそうもない。
「…輸血なんかできる設備と技術がどこにある」
「初芝さんができるって、そう言ってました。 道具もあります。
初芝さんはすごいんですよ、堀さんの傷口も縫い合わせちゃうし…だから大丈夫です!」
「血を抜けば、それだけ体力が落ちる。俺が負うリスクはどうなる」
「えっ、あ…それはもちろん、その分は俺らが補います!
 危険な目には遭わせません。お願いします、血を分けてください!」
やっと見つけたO型の人間。協力してもらわなければ困る。
里崎は全身全霊を尽くして説得するが、晋吾は首を縦には振らない。
医者でもない人間から血をくれと言われたら、これが自然な反応なのだろうか。
それでも人の命が懸かっているというのに、何をこんなに嫌がっているのだろう。
多少のことには目をつぶって、協力してくれてもいいじゃないか。
自分はそんなに信用されてないのだろうか。
「お願いします! 俺らじゃ駄目なんです。
 O型の人じゃないと、晋吾さんじゃないと堀さんは助けられないんです!
 頼みます、どうか堀さんを…堀さんを……!」
――カサッ。
「!」
草木のこすれあう音がした。何者かがだんだん近づいてくる。
晋吾の警戒する対象が里崎からその音へと変わる。
チェーンソーの刃先を音のした方向へ向けようとするのを、里崎が制する。
「大丈夫、たぶん俺の連れです」
茂みの中から現れてきたのは案の定、浅間と成瀬。
いきなり見た目の前の光景は、里崎と晋吾が争っているように見えたのだろう。
二人は不安そうな目で里崎を見ていた。
「大丈夫、大丈夫…」
里崎は振り返って浅間と成瀬に目配せする。
この状況を大丈夫と言っていいのかは疑問だったが、そうだと信じるしかない。
236激情に身を焦がして(2/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/21(月) 02:12:17 ID:PZO50uCg0
「素人が輸血なんかして、うまくいくはずないだろ。諦めろ」
「やってみる価値はあると思うんです。お願いします。堀さんを助けてください!!」
訴える声はエスカレートし、いつしか里崎は晋吾の腕にすがり付いていた
こんなに頼んでるのに、どうしてこの人には通じないんだろう。
「そんなことで助かるなら、俺だって助けたかったよ!!」
叫びながら里崎の腕を振り払った。その勢いで里崎は地面に尻餅をつく。
その体勢のまま晋吾を見上げた。
薄暗い中に、唇を噛み締めて何かに震えているのが見える。
その表情に、続く言葉が見つからなかった。
「とにかく、俺は断る。O型なんていくらでもいるだろ。他をあたれ」
背を向けて晋吾はその場を去ろうとする。
「ちょっと、待てよ!」
事の成り行きを把握した浅間が、震える声で切り出した。
「堀さんを見殺しにするんですか? そんなに自分だけ生き残りたいんですか?
 それじゃ人殺しと同じじゃないですか…! あんた、根性まで曲がってんのかよ!?」
「…何とでも言えよ。俺は人殺しさ」
振り向きもせずに浅間の訴えを軽く流した。捨て台詞でも吐くように。

何だ、この開き直りは。人殺しと罵ってやれば、
少しは動揺も見せるんじゃないかと思ったのに。
いや、もしやこれは開き直りなんかじゃなくて――
「じゃ、そのチェーンソーも誰か殺して奪ったのかよ…?」
深く考えるまでもなく、思ったことがそのまま口をついた。
晋吾が浅間の言葉に振り向く。その腕に抱えられたチェーンソー。
初めて見たときから気になっていた。浅間はそれに見覚えがある。
相手は今の言葉に明らかに反応した。
もしかして、この人はあいつを殺したんじゃ…
237激情に身を焦がして(3/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/21(月) 02:13:05 ID:PZO50uCg0
「それ、あんたのじゃないよな…?」
「何で知ってる」
「やっぱりそうか。殺したんじゃないのか、その持ち主を!?」
その一言でかっと頭に血がのぼる。
ずっと電源スイッチにかけていた指を、ためらいもなく押した。
チェーンソーがうなりをあげる。浅間を切りつけるべく、激情に流されるまま
晋吾はチェーンソーを振りかざす。
「ちょっと、待ったぁーーーっ! ストップ、ストップ!」
事の重大さに気づいて、里崎が間に割って入った。
晋吾のわき腹から飛び掛って、動きを止める。
里崎の後ろでは同じく、応戦しようとした浅間を成瀬が止めに入っていた。
「もー、たんきはそんきですよ!」
「そうそう、成瀬の言うとおり。短気はやめてください」
どさくさに紛れて、里崎が無理やり電源を切った。
それでも晋吾の激情は治まらない。里崎と揉み合ううちに、帽子がずれる。
ばっちり目が合った。互いの動きが止まる。
帽子のつばの下に隠れていたのは、ひどく泣いたのだとわかる腫れた目。
見てはいけないものを見た気がして、里崎は晋吾の身体から手を離した。
晋吾はすぐに目を背けて、無言で帽子をかぶり直す。
幾分落ち着きを取り戻すと、押し殺した声で呟いた。
「何で俺が将を殺さなきゃなんねぇんだよ…」
「えっ……橋本さん?」
自分の思っていたのとは違う名前が出てきて、浅間はきょとんとしている。
その表情を晋吾は見逃さない。
「…!? お前もしかして、これを他の奴が持ってるのを見たのか?
 教えろ、浅間。これは一体誰が持っていた? 誰が持ってたんだよ!?」
再び浅間に飛びかかろうとするのを、里崎がまた押さえる。
完全に冷静さを失っている晋吾を、一喝した。
「さっきから何をそんなに興奮してるんですか! 何かあったんですか?」
心配そうに話しかける里崎の顔を見る。チェーンソーを持つ手にぎゅっと力が入った。
重くて邪魔だと思うこともあった。それでも捨てられなかった。だってこれは…。
238激情に身を焦がして(4/4) ◆vWptZvc5L. :2005/11/21(月) 02:13:32 ID:PZO50uCg0
「これは、将が持ってたんだ。誰かから預かってたらしい。……詳しくは知らない。
 将は死んだ……、俺の目の前で。あいつの最期も、辞世も、頭に焼き付いて離れない。
 俺は知りたい。あいつに何があったのか、何故死ななきゃならなかったのか。
 これは唯一の手がかりなんだ。頼む、教えてくれ。誰が持っていた?」
今度は晋吾が頼みかける番だった。浅間はそれを強い目ではね返す。
「…ただじゃ教えられません。あなたが橋本さんのことを知りたいと思うのと同じで、
 俺らだって堀さんを助けたいんです。お願いします、堀さんを助けてください」
浅間が頭を下げる。皆の視線が晋吾に集まり、その返答を待っている。
その様子を見ながら、晋吾は急激に頭が冷めていくのを感じた。
さっきまで激情と感傷に溺れていたくせに。
堀がどうなろうと知ったことではない。ここで無駄にする時間も体力もないのだ。
余計な情は判断を狂わすだけ。捨ててしまった方がいい。
浅間が顔を上げる。じっと祈るような思いで返答を待っている。
その視線にふっとある考えが浮かんだ。
ここで、こいつらに従うのもひとつの手段ではないか。
堀を助けたいとか、頼りにされているからとか、そういうことではない。
そこにあるのは狡猾な打算。浅間は何かを知っている。
このまま彷徨っていても埒が明かない。何かを犠牲にしてでも糸口は欲しい。
そう、これは一種の売血。俺は血を売る、浅間は情報を売る。
無駄になるかもしれない。でも、これが近道なら……利用するしかない。
しばらく黙り込んだ後、晋吾はようやく口を開いた。
「サト…堀さんはどこにいる」
里崎はその問いの真意を理解できなくて、一瞬戸惑う。もしかしてこれは。
「あ、山の中の一軒家に…」
「遠いか」
「いえ、全然! すぐです、すぐっ!」
必死だった。この状況で正直に、遠いなどと答えてしまう奴はいない。
「…わかったよ、そこに連れていけ」
待ちわびた答えに、三人はほっとした様子で笑顔を取り戻す。
晋吾だけがそっと目を伏せる。
その目の奥に打算と憎しみが潜んでいることは、誰も知らない。
239代打名無し@実況は実況板で:2005/11/21(月) 04:56:37 ID:RlxyISDYO
職人様乙です
240Paranoia Method (1/3) ◆h9KcvsENgk :2005/11/21(月) 09:18:12 ID:B6pX10I20
鼻についた異臭、それをようやく不快に感じた時彼は目を覚ました。
椅子に腰掛けたまま、うつらうつら。そう長い時間は経っていないはずだ。
体が重い。それは一応の休息を取れたことへの代償だろうか。
頭が重い。それは一応の仮眠が取れたことへの代償だろうか。
右腕の傷は既に違和感もない。大丈夫、銃は撃てる。
頭を振る。起きろ、俺。
壁に掛かる時計。時間。指す針はその時まであと5分。

「・・・・畜生」

いや、別に何の問題もない。何に苛立つ必要もない。
多少寝すぎはしたがちゃんと目覚める事は出来た。
あとは、わずかな時間を潰して確認すればいいだけだ。

つん、と。
そこでもう一度自覚する、自分の目を覚ました臭い。
そうだ、さっきここへ帰ってきた時には特に気にしてなかった。
そうだよなと思い返して、寝室の扉を開ける。
そこに居る、いや、あるのは、自分が殺した人間の骸。
自分が二人目に殺した、そして初めて自覚的に殺意を持って殺した相手。
あの時のままの体勢でふたり。それは対峙ではなく。
彼の顔を覗き込む。銃弾は顔面を貫き、生前の見る影もない。
正視に堪えぬという表現に値するであろうそれの、しかし僅かに伺える
彼の最期に残した表情は決して苦痛でも恨みでも怒りでもないようで、

「・・・なんでそんな顔で死ねるんだよ」

何度も何度も俺の感情を逆撫でしてくれるような、表情。
落ち着け。俺が勝ったんだ。勝って、生き残ったんだ。
自分が生き残ることを選択しなかったヤツに、負けなんかしない。
大きく深呼吸、ひと息、ふた息。
241Paranoia Method (2/3) ◆h9KcvsENgk :2005/11/21(月) 09:20:21 ID:B6pX10I20

「よっ・・・・と」

意思のない人間は重い。それをどうにか担ぎ上げて、扉を開けて外へ出る。
ここへ最初に来たときも彼に意識はなく、やっぱり重かった。
その時よりも今の方が重く感じるのはなぜなのだろう。流れた血の分は軽いはずなのに。
灯台の裏手にまわり海へと切り立つ崖へと足を運ぶ。
波はまだ高い。好都合だ。それに安心して肩に回していた彼の手を解く。
崖の端から、自然落下。数秒して、波にぶつかる音。
骸が波にさらわれ完全に見えなくなったのを確認して彼はつぶやく。
「あんたにさせてもらった決心、もう一度思い出しましたよ」


『グッド・イーブニンッ! 元気かー! それとも死んでるかー!

不意に耳に入る、大音響。つい反射的に上を見上げた。
灯台に括り付けられたスピーカー。流れたのは彼の待っていた、6時の放送。
紺色に邪魔されはしたが初撃でも手ごたえはあったはずだ。
俺はあれ以来、あんたを殺すことだけ思ってきた。
俺はあれ以来、あんたに勝つことだけ思ってきた。
呼ばれるその中に、名前はあるのか、ないのか。
(なければ、もう一度リスクをおかしてでも…)
リスクをおかしてでも勝たなければいけない相手。

〜良平19番、橋本33番、川井〜

やった! 
反射的に出たその声の反面、しかし意外なほどに直に冷静に戻れた自分が居た。
そう、あいつの名前は到着点じゃない。さっきはそれで拘りすぎて失敗したんだ。
俺は俺のやり方であんたをちゃんと否定して見せた。
亡骸になったその身で俺を否定できる物ならやってみろ。
俺は……あんたを越えて行ったんだ。
242Paranoia Method (3/3) ◆h9KcvsENgk :2005/11/21(月) 09:22:20 ID:B6pX10I20

〜以上12名だ。俺は大変満足しているぞー!
 では続いて禁止エリアの、あ、おっとっと』


俺は殺して、殺して、生き残る。
そう、まだだ。あの男には勝ってまだそれで終わりじゃない。
最後まで勝ち残って、生き残らなければ意味がない。
今の死亡放送でさらに二人の捕手の名前も確認した。辻さんとそして
「それがあなたの言った奇麗事の答えですか、小宮山さん」
あの後何があったのかは知らないが、杉山さんも死んだ。
あとはもう一人、ぬるま湯のなかでやっとレギュラーを掴んだあの男。
「…〜は里崎さんじゃなくて俺がマスクをかぶるから俺らじゃなきゃマリーンズ引っ張っていけねぇよな」
ふとそんな、かつての会話が頭を掠めた。
そうだ。俺はあともう一人、越えなきゃいけない人が居る。


タスクさん。雅彦さん。俺は何をやってもでも勝ち残って見せますよ。
金澤岳は、つぶやいた。
243代打名無し@実況は実況板で:2005/11/21(月) 15:37:19 ID:VHZFEakLO
職人さん乙です!
クライマックスに近づいてきてワクワクエカエカです
244代打名無し@実況は実況板で:2005/11/22(火) 00:22:53 ID:WkRBzQ8b0
職人さん乙です
保守age
245代打名無し@実況は実況板で:2005/11/22(火) 07:50:25 ID:h0S67h4eO
職人さん乙です!!
246代打名無し@実況は実況板で:2005/11/22(火) 11:18:37 ID:bGE7uIl90
>>222
雰囲気に馴染めないから他所でやれってか?
あなたはいつも、そればっかりですねw
247代打名無し@実況は実況板で:2005/11/22(火) 17:51:44 ID:kn8KjQFy0
仮保管庫さんに掲示板まで出来てる。スゲー、感謝!!
248代打名無し@実況は実況板で:2005/11/23(水) 10:50:18 ID:mg2a2q1hO
ほすあげ
249代打名無し@実況は実況板で:2005/11/23(水) 22:06:44 ID:+hkOvCBuO
捕手
250代打名無し@実況は実況板で:2005/11/24(木) 18:28:13 ID:r6Q5KAvc0
地味な捕手
251代打名無し@実況は実況板で:2005/11/25(金) 02:49:41 ID:VZY2opX/O
保守
252代打名無し@実況は実況板で:2005/11/25(金) 14:10:28 ID:u+W75NxcO
ほす
253代打名無し@実況は実況板で:2005/11/26(土) 00:28:48 ID:LBz/IV1sO
保守あげ
254代打名無し@実況は実況板で:2005/11/26(土) 15:56:06 ID:FMSMKwEMO
捕手
255逆襲の薮田9〜信じろ〜(1/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 00:11:16 ID:+vS5U9AX0
 何より黒木知宏の表情が、彼にとっての事態の悪化を語っていた。
怯えのような光すら浮かぶ視線を、内竜也の冷たい眼差しが迎え撃つ。
「やっぱり黒木さんは僕らを裏切るんですね」
憎しみというよりは、哀しさと絶望をたたえた眼差しで。
薮田安彦の目に、それは信じていたものを踏みにじられた子供の顔に映った。
例えばある日、夢のヒーローがただの絵空事だったと知ったような。
銃を持っているのは黒木の方だった。内もその背後の於保浩巳も何も持っていない。
なのに、黒木はその銃を構えることもなく後ずさる。
その様子を見つめる薮田と、愛甲猛がそこにいる。

 無機質な塗装の壁に、薄暗い照明に照らされて5つの影がぼんやり映る。
「ジョニー、これはどういう」
「運営側の人と連絡を取り合って言われるがままに動いてたんですよ。
 他の誰がどうなっても構わないって、そんなこと言いながらね」
薮田の言葉を遮り、内はそのことを告げた。
「僕から銃を奪って」
指差す先には黒木の携えた銃がある。薮田がそれにつられて顔を向ける。
集まった視線に背くように、黒木は顔を横に向けた。
「ジョニー、本当にそうなんか?」
薮田の質問が終わるのを待たず、黒木は彼らに完全に背中を向けた。
54の文字が視界の中央に入り、それは揺れると一瞬で遠くなる。
廊下の向こうへ消え入ろうとするかのように、全速力で54の文字が遠ざかっていく。
全速力で黒木は駆け出していた。
「逃がさない」
内が後に続く。追いかけるその目は、既に54しか映っていなかった。
ワンテンポ送れて今度は於保が走り出す。横目に薮田と愛甲を見ると、微かに笑った気がした。
「待つんや! そっちは」
今、逃げてきたところだ。それはスタジアムの中心部へ続く廊下。
そういえば逃げ始めて何分経ったのだろうか。それに気づいて薮田の背中に寒気が走る。
(10分……もう、ヤバイ気がする)
あの男が追って来る。そしてそれを知らずに、3人は中心部へ向かって行くのだ。
「そっちはアカン! 引き返せえっ!」
256逆襲の薮田9〜信じろ〜(2/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 00:11:41 ID:+vS5U9AX0
薮田までが廊下を駆け出した。
数歩分移動してふと、あることに気づき後ろを向く。
愛甲がついてきていなかった。
足を前に踏み出そうとする。薮田の後に続こうとしているのだ。
しかし、大きな壁でもあるかのように愛甲の足が止まる。視線が中空をさまよう。
目の前に何もいないと言うのに、仰け反るように後ろに足が出ていく。
顔の筋肉を全てこわばらせ、ガタガタと肩を震わしている。
薮田と目が合った。
目を伏せ、頭を振る。
「すぐ戻ります。愛甲さんは早く逃げてください」
薮田はそう走りながらそう叫ぶと、更に走りのピッチを上げる。
取り残された愛甲はその背中を見つめていた。
「……すまん」
肩の震えは全身を広がる。寒気がする。
これはきっと出血多量から来るものなのだ、そう自分に言い聞かせる。
代田建紀の顔が浮かぶ。震えは一層酷くなって、体の力が全く入らなくなる。
廊下の角を曲がり消えた薮田の背中を、愛甲は唇を噛み締めて見送った。

「待てって!」
於保の背中が少しずつ近づいてきていた。その前に内。
黒木はだいぶ離れてその先を走る。
薮田は焦っていた。
もう、いつ廊下の先から代田が現われてもおかしくない。
今から引き返して果たして逃げ切れるのか。いや、そもそも自分たちはまだ逃げていない。
早く黒木を止めなくてはいけない。しかし黒木は角を左に曲がり、また視界から消え――
と、黒木の足がパタリと止まった。
突然の停止。驚いたのだろう、内の走るペースまで乱れてにわかに遅くなる。
黒木が身構えている。先ほどは構えもしなかった銃を上げ、引き金に手をかける。
(くそっ)
胸が締め付けられたような気がした。愛甲ほどではない、だが薮田にも確実に傷痕はあった。
「逃げろジョニー!」
近づくにつれ、黒木の構えた銃の向こうに見えてきたのは、間違いなく代田の姿だった。
257逆襲の薮田9〜信じろ〜(3/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 00:12:03 ID:+vS5U9AX0
あの刃渡りの長いサバイバルナイフを今度は両手に持っている。
右手では順手で、左手では逆手に構える。今にも飛び出しそうに腰を落とした体勢。
目は少しうつろなようで、だがその場にいる3人の様子を窺うようでもあった。
体は緊張する様子もなく、むしろ脱力したように首は垂れている。
上向き加減に薮田に視線を向ける。

 その瞬間、代田がその場から消えた。
「っ!」
来た、そう思った瞬間からコンマ何秒かを要して両手で体を隠す。
なんでこんなに自分の体は遅いのだろうと歯がゆくなった。
その間にも代田を視界に捉えることは出来ず。やられた、と思った。
両手を構え終わったときには、すぐ横を突風が駆け抜けていた。
薮田は一瞬、自分がなんともないことに気づかなかった。
しばらくしてやっと、自分の体が先程までと同じように動くことを確かめる。
喜びと言うよりも困惑だけが薮田を支配した。
「なんや?」
後ろを振り返る。代田の背中が一瞬映り、廊下の向こうに消えた。
やはり自分の体はなんともない。
「……今のは」
何が起こったかもわからず、内の口をそんな言葉が突いて出た。
なんや?と声のしたほうのを向けば、今そこにいたはずの代田が遠くを駆けている。
それは黒木も同じで、薮田以外の人間はしばらくそこに立ち尽くしていた。

「なんで素通りして入り口の方へ行くんや……なんで……あ!」
理由など考える暇はなかった。代田の行く先にはまだ人が残っているのだ。
「愛甲さん!」
薮田は急いで引き返す。とっくに代田の姿は見えていなかった。
廊下を駆ける。さっきより、今までで一番速く。
そしてさっきより、一層心臓が締め付けられた。
なぜ自分はあの人を置いてきてしまったのだろう?
追って来た目的はとっくに空振っている。
角が見える。ここを曲がれば愛甲がいるはずだ。
258逆襲の薮田9〜信じろ〜(4/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 00:12:21 ID:+vS5U9AX0
代田が同じように愛甲の傍らを通り過ぎるだけなら、無事なはずだ。
その可能性だけを願っていた。
角を曲がった。その瞬間、薮田にぶつかるように何かがぶつかってきた。
それは衝撃を受けて地面を転がる、力なく。
力なく、そう、それは人の体だった。
「薮田……! そうか」
下腹部を真っ赤に染め、愛甲はうつろな視線を薮田に向けた。
「愛甲さん! 愛甲さん!」
慌てて愛甲の体を抱き起こす。何度も名前を叫ぶ。
愛甲の眉が歪んだ。
「お前が無事なら……そうか……お前は生かすよう指示が出てるぜ。コイツには」
愛甲の視線が薮田と反対に流れる。その先にはシューズが見えた。
視線を上まで移していくと、細く長い脚を経て、2人を見つめる代田の姿があった。
「なんやお前は! 何をしたいんや!」
激昂する。しかしその薮田の怒りを代田は意に介す様子もない。
何も答えず、微動だにすらしない。
「ジョニーは……他の奴は無事か?」
愛甲がうめくように、か細い声で答える。
「愛甲さん! ええ、そうです。でも!」
「なら話は簡単だ。……こりゃ俺だけ殺すように決まってやがったのさ。
 バレンタインめ、いけしゃあしゃあと狩りだなんだと……」
愛甲の声は弱々しく、かぼそくなりつつあった。息が苦しそうなものに変わった。

(薮田の心配をする必要はねぇのか、安心していいやら……)
消えかかる意識の中で、愛甲はふと思った。
目には薮田の顔が映る。必死に顔をゆがめて叫んでいる。
(聞こえやしねぇ……)
薮田がゆっくりと自分の体を床に預けた。眼が座っているのに気づく。
(おいおい……)
銃身が腰の辺りから取り出されたと思うと、火花が散った。
悔しそうな表情に変わる。かわされたんだろう。
(待て待て、薮田。落ち着けっての)
259逆襲の薮田9〜信じろ〜(5/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 00:13:08 ID:+vS5U9AX0
「……や!」
微かに薮田の叫ぶ声が聞こえた。
もう一度銃口から火花が飛び出る。しかし薮田の表情はまたも悔しそうなものに変わる。
(当たらないだろうなぁ、あの速さじゃよ)
「……なんでや! なんでワイを狙わん……」
にわかに愛甲の聴力が戻り始めた。それは死ぬ前の、一瞬の波の揺り返しなのかも知れない。
薮田の視線が徐々に遠くを見つめる。気が抜けたようになると、薮田は愛甲の方を見た。
代田はどこかへ逃げたのだろう。
「すいません、ワイのせいや……ワイのせいで……ああああ!」
(……おい、何言ってんだ。またお前はそうやって自分を責めやがる。
 少しは開き直るってことを知らないのかね、この男は)
大の男が泣きじゃくっているのを見て、なんだか可笑しくなってしまった。
愛甲はそんな自分が不思議になって、その次になんだか腹が立ってきた。

 後悔の念などない。ただ己を責める薮田にイライラしてきてしまったのだ。
自分は最初から、薮田の力になれるなら死んでもいいと思ったのだから。
誰よりも優しくて、そのせいで誰よりも自分一人で背負いこんでいる。
でも逃げやしない。辛かろうと己から逃げるってことを知らない。
そんな男だから仲間の思いを背負ったときに真価を発揮できるのだろう。
それはリリーフエースと呼ばれる人の資質でもある。
もしかしたら、憧れかも知れないと愛甲は思った。己から逃げ続けてきた自分にとっての。
こんな歳下の男に命をかけられるのだ――
――行き着いたのは借金まみれの船の上、希望も無く、情けない男がだ。
人生の最期まで消えていたはずの命を、最後まで燃やすことができたのは薮田がいたからだ。
それなのに、この男は自分を責める。いや、この男だからこそなのだけど。
「すいません、ワイは、愛甲さんを巻き込んでしまっただけや。フィルダーさんも。
 最低の男や。アホや。何もできんで……すいません……」
薮田の眼から大粒の涙がこぼれる。愛甲は息をスッと吸い込む。。
(だから……だから……)
最後の力を振り絞る。薮田の頬を引っぱたいた、いや、力なく触れただけだったが。

「自分を、信じろ、薮田」
260逆襲の薮田9〜信じろ〜(6/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 00:16:11 ID:+vS5U9AX0
(いつもお前自身が言ってるだろ……
 お前ならできる……立ち止まるな……って、もう声が出ねぇや……)
ハッと驚く薮田を睨みつけたつもりだったが、その見開かれた目はすぐにゆっくりと閉じていった。
力が抜けていく。それは眠りにつくような心持ちで。
薮田のひざの上で、愛甲は最後に一つ息を吐いた。
笑いながら愛甲は逝く。それは不自然なぐらいの笑い顔に見えた。
誰のために笑ったのか。そこには一人の男しかいない。
薮田安彦は立ち上がった。
ゆっくりと周りを見回すと、腰についたホコリを払う。
「気、使わせてもうた」
そのとき、廊下の奥で物音がした。

 薄暗い廊下の向こうには、さきほどどこかに消えたはずの代田が佇んでいる。
「ずっと、そこにいたんか?」
何も答えない。銃を構えるが、動じない。
撃ったところで先ほどのように避けられるのだろう。
代田の動きはあまりにも正確で速い。それは移動だけでなく、反射の速度も人間ではない。
おそらく、それらが加算された速さこそが消えて見える原因なのだろうと薮田には思えた。
「許さへん、けど、お前がワイを狙わないなら今は構ってられん。
 ワイにはやらなあかんことがある」
代田は動かない。息をしているのか、肩すら動かさずに薮田を眺めている。
ナイフを構えてはいなかった。
薮田は廊下を走り出した。その後に続くように、ゆっくりと代田も駆け出した。

「やらなあかん。やれるはずや」

まぶたに残っていた涙がこぼれた。それを振り切って向かうのは、再びスタジアムの中心である。

【愛甲猛×】
261代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 00:20:23 ID:JMyGS9/VO
リアルタイムで遭遇!職人様乙です

愛甲さん(´;ω;`)
262代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 01:01:53 ID:8BoUY/qg0
新作乙です!
愛甲さんが…・゚゚・(つД`)・゚゚・
263 ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 02:18:31 ID:+vS5U9AX0
ああ、変な箇所発見

4/6上部
×角を曲がった。その瞬間、薮田にぶつかるように何かがぶつかってきた。
○角を曲がった。その瞬間、薮田に向かってくるように何かがぶつかってきた。

脳内修正お願いします。失礼しました。
264代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 03:09:43 ID:yO3zfB58O
職人さん乙です(´∀`)つ旦~~

愛甲さん…゚゚・(つД`)・゚゚・
265代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 03:39:16 ID:JMyGS9/VO
リストに入ってる選手って誰だっけ?
266代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 05:14:06 ID:r0DcgabS0
リスト1:直行、雅英、宏之、晋吾、薮田、藤田、西岡、今江、浅間
リスト2:雅英、晋吾、薮田、藤田、西岡、今江、浅間、 ……

追加の二人は不明
初芝神・小坂・川井・良平&青野・大塚・福浦 は、リスト外確定
ざっと調べただけなので、間違ってたらスマン
267代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 10:22:31 ID:kBP99/qZO
職人様乙です
268 ◆vWptZvc5L. :2005/11/27(日) 10:49:53 ID:c0YWR/Sf0
ttp://www.nigauri.sakura.ne.jp/src/up3351.gif.html
相関図更新しました。
追加の二人は結構ヒントが出てるので、気づいてる人もいると思います。
269代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 20:34:04 ID:Hs7HXrtBO
ホッシユ
270My favorite thing(1/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 22:37:18 ID:Trt6oi8N0
「誰だアイツ……?」
代田が一瞬で脇を駆け抜け、薮田安彦が去った直後、内竜也は呆然とそこに立ち尽くしていた。
その隙を突いて黒木知宏は再び走り出していた。
出遅れた内は慌てて追う、2人の間にはまた10mほどの差ができた。
「くそ」
曲がり角を何度も曲がる。道が次第に入り組んできた。
その度に黒木を見失いそうになるが、内はなんとか喰らいついていく。
突き当たりにあったドアを開けると、そこに黒木が飛び込んだ。
内もそれに続きドアを開ける。

思わずひるむ。目が痛い。
薄暗い廊下からいきなり放り出されたのは、強い光の中。
(なんだ……?)
次第に目が慣れると、そこには見慣れたようなベンチが並んでいる。
その向こうにはまばゆいばかりのライト、そして鮮やかな緑色の地面。
「グラウンド」
その芝の上を走る黒木の姿。
それを追おうと内もすぐさまベンチを飛び出した。
空はもう暗くなっている。そしてグラウンドに見える幾つもの人影とヘリコプター。
見慣れていたはずだ。ここには2日前来ていただのだから。
内の足が止まる。
遠くに見えているのは間違いなく運営の人間たち。安易に近づいてよいものか一瞬迷う。
しかし黒木はそれを気にすることなく走っていく。
「本当に、運営側に」
その言葉の続きが出てこない。
しかし目の前にいるのは、なんら逡巡することなく運営側の集団に近づく黒木である。
「本当に、まさか」
なぜ自分はその結論をまた言いたくないのだろう。また頭の片隅で何かが引っかかる感じがした。
頭に手を当て、その場に立ち尽くしてしまう。

「行かないのか?」
背中越しに彼が囁いた。久し振りに声を聞いた気がする。於保浩巳が珍しく、声高に内に語りかけた。
271My favorite thing(2/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 22:37:48 ID:Trt6oi8N0
「うるさい」
つっけんどんにあしらうと、内は意を決したように一歩ずつ前に踏み出す。
於保が口笛を吹いた。なんだか楽しそうに。
「いよいよだ……」
内には聞こえないぐらいの声。本当に小さな声で呟き、於保は笑いをかみ殺していた。

「コーヒーを一杯、うんと薄いやつに、うんと砂糖を入れてくれ。監督が所望だ」
通訳の中曽根俊が指示を伝えると、兵士の一人がそそくさと仮設テントを出て行った。
テントの下にはたくさんのモニターと高価そうな機器が並んでいる。
ゆったりとした椅子に体を預けながら、リモコンを手にボビー・バレンタインはメモを取る。
かなり崩した英字で、何を書いているのかは中曽根にもよく分からなかった。
「Humm」
一息つくと、両足をテーブルの下のクッションに預ける。
「やあご苦労様。疲れてないかい? ジョニー」
まずは労をねぎらう。目の前に今やってきた黒木に、バレンタインはニコリと笑った。
「山本さんは?」
「.... クビヲキル? HAHA!」
中曽根となにやら話していると、バレンタインは思わず声を上げて笑う。
なにやら喋ると、間を置かず中曽根がそれを伝える。
「日本語で言うところの文字通り、"首を切った"よ」
「そうですか」
少し疑問の表情をしながらも、別に詳しく聞きたくもないと黒木は思い直す。
バレンタインはやはり笑っている。かなり安楽な姿勢のまま。
両脇には兵士が銃を構え、警戒を怠らない。
机といくつかの機械を挟み、バレンタインと黒木は対峙していた。
「次は何をすれば良かですか? また福浦の監視でも?」
そう黒木が言ったところで、バレンタインの周りの空気が一変した。
くわと見開いた右目が黒木を捉え、右の眉が鋭く吊り上がった。
「それはもうしなくてよくなった」
空気が張り詰めていた。その場にいた筒井良紀や中曽根の表情が明らかにこわばっている。
バレンタインだけは表情をつとめて冷静に、いつも通りにしようとしているようだったが。
隠し切れないイライラの表れか、バレンタインの体がそわそわと揺れ始めた。
272My favorite thing(3/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 22:38:13 ID:Trt6oi8N0
「運命とは過酷なものだ。どんな才能溢れる人間でも、ある日事故で選手生命を失うこともある。
 例えばメジャーでドラフト1位指名をされても、怪我が原因でパッとしない選手生活を送る。
 誰のこととは言わないがね」
バレンタインがまた甲高い声で笑う。ひどく乾いた笑いだった。
目は笑っていない。黒木はずっとその眼差しを受けていた。
ピタリと、突然バレンタインの笑いが止まる。表情はその笑いが嘘だったかのように冷たい。
「何より豊かなセンスを持つこと。そして無事に生きていくこと、それも才能なのだ。
 本当に資質のある選手はこのようなゲームの中も生き残ることができる者だ。
 だからこそ」
バレンタインがふと横を見た。兵士が頼まれたコーヒーを持ってきていた。
礼を言ってそれを受け取ると、一気に飲み干す。
「One more cup」
空になったカップを差し出すと、兵士はまたどこかへ消えていった。
「だから見ているだけにしていたのだ。あえて手を出さずに見守っていた。
 リストから外れてしまっても、豊かな才能に溢れている"私のお気に入り"をね」
「リスト?」
「10人の生き残り希望選手を書いたリストが始めからあったのさ。
 スパイにそれ以外を殺すよう指示していたりね」
黒木がさほど驚いた様子を見せなかったのは、もはや不思議ではなかったからかもしれない。
奴らならそれぐらいのことはやってもおかしくない、そんな感慨が全身を満たす。
しかし何故か、目まいを覚えた気がした。
「そのリストに福浦は入っていなかったと?」
「ふむ。しかし状況は変わった。
 ある無能な人間が指揮を取ったおかげで、そんな圧力は意味の無いものになってしまった」
バレンタインが足元のクッションらしき大きな塊を蹴飛ばした。
鈍い大きな音が響く。
「2人がリストから外れた。だから私は新たに2人の人間を希望した。
 最初から秘密裏に監視をさせていた"私のお気に入り"を、そうして守ってあげようと」
「てことは、その2人のうち1人は」
「そう、君の見続けていた福浦さ。リストに入っていない方がおかしいと思わないかね? ところがだ」
また、今度は二度ほど足元のクッションを蹴飛ばすバレンタイン。
大きく鈍い、何か潰れた音がした。
273My favorite thing(4/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 22:38:42 ID:Trt6oi8N0
更にバレンタインが何度も足元のクッションを叩く。
潰れるような音に、グチャグチャと水音らしき音が混ざってきた。
「無能な指揮官とは恐ろしいもので、スパイに新しい人間の追加を知らせないままでいたわけさ。
 それがどういう結果を招いたか分かるかね?」
「ちょっと待て、まさか」
「福浦は死んだよ。スパイの小林雅英の手によってね」
体から力が抜けるような、さっき感じたよりも一層ひどい目まいが襲ってきた。
「ばかな」
終わらせるんじゃなかったのか。あれほど強く誓っていたじゃないかと心が叫んだ。
小林雅英という言葉がわからない。そんな名前の人物を黒木は一人しか知らない。
知らない。その人物がスパイとして福浦を手にかけるはずがない。
あれはあっけらかんとした性格だから、こんな場でも流されるような奴じゃないのに。
「全く、運命とは過酷なものだ」
そしてバレンタインが何か叫ぶと、足の下にあるものを思い切り踏みつけた。
響くような音ではない。柔らかい物にめり込むような、鈍い音がした。

「ついさっき知った。私が監督なら彼は殺させなかった。
 だから君が福浦を監視する必要はないのだよ、永遠に」
黒木は下を向き体を震わせている。二度、頭を振った。
手に持った銃を調べ直すように、右手の指が動く。ゆっくりと顔を上げる。
「では、俺はこれからどうする?」
二歩、三歩と黒木がバレンタインに近づく。
「そうだな。もう一人の"私のお気に入り"はまだ生きている。
 もっとも彼にもゲームの開始からオブザーバーがついているので必要はないが。
 ジョニー、汚い仕事はできるかい?」
「汚い仕事?」
「他のやつはどうなっても構わないという、あの言葉は真実かね?」
「ああ。だから裏切ったらみんなを殺すなんてのは、人質が無駄に多いだけだぜ」
気づくと、黒木はバレンタインと机をはさんだすぐ前まで来ていた。
瞬間、黒木の左手が動く。バレンタインの前で組んだ腕を掴むと、一気に引っ張り引き寄せる。
右手の銃をバレンタインの胸元に当てた。両手を挙げろとあごで合図する。
274My favorite thing(5/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 22:39:09 ID:Trt6oi8N0
兵士たちが色めき立つ。それは一瞬のことだった。
両手を上げたバレンタインの胸元に銃口を当て、今度は左手で首根っこを掴む。
「今すぐこのゲームを終わらせろ。俺は俺のためにあんたを人質に取らせてもらう」
バレンタインは何も言わない。うめき声すら上げない。
表情に怯えが全く宿らない。それが黒木にとてつもない不安を募らせた。
兵士たちに動く様子はない。ただ銃を構えている。触れれば弾けそうな空気。
「俺が撃たれようと、あんたを道連れにすることはできるぜ」
「...HAHAHA」
バレンタインの喉の奥から声が漏れた。まるでその銃がおもちゃかのように。
黒木の困惑が手に取るように現われた。この銃は間違いなく本物だ。
それなのになぜ恐れないのか。帽子の影に隠れ、バレンタインの目がよく見えない。
バレンタインは何か喋り続ける。額に汗を滲ませ、それでも中曽根はその言葉を伝えた。
「筒井。私が死んだら黒木以外の選手全員を殺しなさい」
「ぜ、全員ですか?」
「私を殺すことそれは即ちウィナーだからね。全権は私にある。従いなさい」
慌てる筒井にバレンタインは当然のように言い放つ。筒井は動揺しながらもコクリと頷いた。
黒木の手が震える。動かない。
「どうした? 早く殺しなさい。他の選手がどうなってもいいのだろう?」
「そ、そうだ」
「チャンスじゃないか。早くしなさい」
右手の銃口は胸元に当てられている。その引き金が引かれれば、このゲームは終了する。
黒木が生き残ることで、全ては終わるのだ。
バレンタインの眼が黒木を見据えている。その表情に喜びなど一切無い。
なぜか黒木の表情は、追いつめられた人間のそれだった。

 手の震えにカチャカチャと銃口の向きが定まらなくなり始める。
黒木の額や首から行く筋もの汗が垂れてきている。
バレンタインは表情を変えない。筒井は息を飲んだ。
鈍い音が机の下から響く。何かが机の下から飛び出して、黒木の足に当たる。
バレンタインがずっと机の下にあったそれを蹴り飛ばしたのだ。
黒木の目線がそれに移る。それが何か分かった瞬間、明らかに瞳孔が収縮した。
クッションのように見えた暗い机の下のそれは、グルグル巻きにされた山本功児の死体であった。
275My favorite thing(6/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/11/27(日) 22:41:13 ID:Trt6oi8N0
何度も踏みつけられ、ひどく傷ついたそれの目が丁度黒木を捉えていた。
黒木はそれから目を離せなくなる。その瞬間、顎に強い衝撃が走る。
夜空が映る。黒木は夜空を見ていて、それがどんどん遠ざかる。
右手にあったはずの銃がゆっくりと、流れ星のように下から上へ飛んでいく。
視界の片隅にバレンタインの姿が映った。
(銃、あそこに)
視界から消えようとする銃を掴もうとしたが、手は届かない。
ただ倒れたのが分かった瞬間、急いで起き上がろうとした。しかし起き上がれない。
「くそおおおおおっ!」
兵士に押さえつけられ。暴れる黒木の力は全て地面に消えた。
「私は選手の事を誰よりもよく知っているよ。君は悪人のフリが下手だ」
高らかにバレンタインが笑う。スタジアムに響き渡るほどの大声で。
黒木を殴った右手をブンブンと手首の上だけ振ると、軽くマッサージした。
「ジョニー、君は最後まで仲間を裏切りはしない。どんな状況でも。
 だからこそ枷をつけた。野放しにすれば君は誰よりも信望を集めるのだから」
猿のおもちゃのように、バレンタインが手を何度も叩いた。
試合に勝ったときにだけ見せる快心の笑顔である。
「もういいだろう。君はここでジ・エンドだ」
バレンタインの表情が一気に冷たい物へと変わる。
今の喜びの表情は嘘だったかのようなスピード。いつも彼の感情は目まぐるしく変わる。
まるで違う人間を見ているように、いつも周囲の人間は惑わされている。
絶望、その文字が黒木の脳裏をかすめた。歯を食いしばる福浦の顔が浮かんだ。
もう終わりなのか、目をつぶってしまうのだけはやめようと思った。
 そこに一つの足音が近づいてくる。走ってくる。落ち着かない足音。
「Oh!」
それは黒木が組み伏されたのを見て、いてもたってもいられずといった風情の足音。
武器も何も持たず、飛び出してきたのだろうか。
「ようこそ。もう一人の"私のお気に入り"、そして栄えあるリストの追加者よ」
自分に対して誰も警戒しないことに驚き、目の前の黒木には何をしたいのか分からない。
ただただ困惑の表情を浮かべ、バレンタインの前、地に伏す黒木を見下ろす内竜也の姿があった。
「そしてご苦労様。もう一人のオブザーバーよ」
ゆっくりとした足取りで、内のあとを追って来たのは於保浩巳であった。
276代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 22:46:41 ID:NPgFG1A60
>>270-275
職人様乙です!!
すげぇおもしろい…、どうなるんだー
277代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 22:51:59 ID:0PWlE17n0
職人様乙です!!
もうドキドキしっぱなしだ…
278代打名無し@実況は実況板で:2005/11/27(日) 22:54:15 ID:YEG/Tkpb0
乙です!
初めてリアルタイムで投下してるトコに遭遇しました…。
リロードするの、すんごいドキドキ…。
続きをお待ちしています。
279代打名無し@実況は実況板で:2005/11/28(月) 01:40:13 ID:x+EflUv1O
ボビーホントに悪者なんだね(T▽T)
もうすぐエンディング?楽しみにしてます。乙です。


あと、ちょっと一言言わせておくれ
>見慣れていたはずだ。ここには2日前来ていただのだから。
って変じゃないですか?見覚えがあるはずだ、ならともかく。
280流浪の民 1  ◆prGJdss8WM :2005/11/28(月) 02:00:24 ID:sbA0KGzK0
夜まで待てと彼が言うから、西岡はしぶしぶここに居る。背後には寝息をたてる背がある。
雨風を防げるだけでもめっけもんって言わなきゃな、なんて言って彼がごろりと横たわったのは随分前。
半分乾いた体では寒さも堪えるだろうに、土まじりのひやりとした木目の上で、彼はぴたりと眠ってしまった。
こういうときこれは便利やなあと西岡は思って、あぐらの上のそのモニタをまたいじった。何度目だろう。
二ツ星が、画面にはやっぱりたった二つだけ。周囲に危険の迫っていないことを、それはまた知らせていた。
「…あーあ」
所在無く、脇においてある自分の荷物を探る。さっき適当に突っ込んできたものを確認しようと思って手を突っ込んだ。
ペットボトルをついでにとって蓋を開ける。背を壁に預けるように姿勢を変えて、一気に数口飲み下す。
何分、何時間経っただろうと窓の外を見る。割れ窓の外の空はただ白一色から、まだらの模様に変わっていた。

色んな音を聞かないようにしていた。もしかしたら銃声ではと思う音も何度も聞いていたけれど。
ふと傍らを見る。痛めた脇腹を抱えるようにしている、アンダーシャツだけの黒の背中が見える。
今なら馬鹿みたいにあっさり殺せるな、と思った。そう思ったら一瞬でその絵が見えた。
無防備な首筋に、とナイフ。果物ナイフらしく鞘がついているそれを、刃渡りの全部を突き立てて。
もしくは眼を狙ってフォークか。柔らかい場所ならきっと貫くだろう。
マシンガンは彼が枕代わりにしているけれど、まるで寄り添うように横たわる火炎放射器(らしい、彼がそう言っていた)を見れば、油のボトルすら武器になると思う。全部を焼き殺す。
「…さむっ」
温度だけでなく身を震わせる。
その死が、なんだか近いような気がしてしまったので。寒くて。
281流浪の民 2  ◆prGJdss8WM :2005/11/28(月) 02:02:39 ID:sbA0KGzK0
夜まで待たなければならない理由なんてひとつしか思い浮かばなかったし、それを確認したら大塚も頷いていた。
「って、でもね、わかってます?そんなもん、騙そうって思っても無駄なんですよ?」
「わかってるよ」
うるさい奴だな、とでも言いたげにその細い目がさらに細められた。
「あっちもこれを持ってる、って俺も仮定してる」
「だったら意味無いって、わかるでしょ。見た目も違うんやし」
「いいんだよ、一瞬でも困らせられたら。ちょっとでもフェイク突っ込めたら」
だからよこせ、とその手が目の前に迫って、西岡はちょっとむかっとした。いくら年上だからって、この態度のでかさは何だ。
それでもその手に乗ったのは、やれるならやってみせろという挑発の心と、それから少しの期待のせい。

夜になれば何が変わるだろう、抽象的に思う。
昨日の今頃は、ああ俺は喜多さんを手にかけていたか。あんまり冷え切っていた心のことを思うと、また身がすくむ、あのときのこと。
生き残ろうと決意していたのが、まるで数年前のよう。
静かやからや、と膝を立てて顔を埋める。こんな弱気モードになる俺なんか誰に見せられる。
安心したい。誰かに守られて眠りたい。それも本音だ。
帰りたい。気楽な仲間と、気の合う先輩と、野球と日々に。
「…敬太。金沢」
心許せる、感情だけで唯一信じてもいいと思う、同期の名前を久しぶりに呼んでみた。無事で居て欲しい。
本当は怖い、寒い、情けない。泣きたい、帰りたい、そんな感情が。
一緒に帰るぞ、と思わず言った。

「同期か」
「!!」
気配も何も溶ける前にぼそっと呟かれて、西岡は思わず飛び起きるように顔を上げる。身構えて見れば、何時の間に寝返りをうったのか、大塚。
「…い、つ起きて…」
ふわあ、とわざとらしい位に欠伸をして、横たわったまま大塚が眼をこする。よく寝た、なんて呟く。
「お前の同期だろ」
「…そう、です」
「無事かな」
「無事や、きっと」
282流浪の民 3  ◆prGJdss8WM :2005/11/28(月) 02:04:06 ID:sbA0KGzK0
「きっとか」
何が言いたいのかまた大塚は眼を閉じる。彼はこの静寂が全く苦にならないらしい。
西岡のわずかに苦しげな息遣いと対照的に、痛みすら忘れてしまったのか、彼はまるでのんびりと見える。
「お前が言うなら無事だろうな」

まだらの空が、その薄いところからすっと差し込んだ日が、まるで奇跡のように一筋のまま二人の間に落ちる。
黄金から茜のいろが、曲がることなく割れ窓から届く。
「俺も無事でいるって信じてるよ。和也も、晋吾も」
「…ああ」
夢うつつのような言葉だったけれど、そのぽつりとした口調はやたら大人しかった。信じたいンやな、この人も、直感で思った。
「大塚サンら同期、今でも結構仲いいですよね」
「まあ、腐れ縁っつーか?」
「俺らもそんな風になれますかね」
「…だから腐れ縁だっつの。10年経ったらお前にもわかる」
よいしょっと身を起こした瞬間に眉をひそめる。腹?と指差して問えば、無言で首を振る。足も痛い、膝が結構ガクガクすると。
こんな足でどこまで行けるかな、とそして自嘲気味に言った。
「わかってんだよ、俺」
「何が」
「生き残ったって。結局もう何も残ってない。帰ったって、もう選手生命アウトに決まってる、こんなの」
「……」
「俺たちに明日は無いな」

真ん中の光の塊がだんだん薄らいでいく。差し込む角度も見る間に変わるようだ。
「けど一応言っとく。生きろよ」
つられて息がゆったり、たゆたうようになる。まほろの空気がそこにあった。
「誰を殺してもいいから」
何のことかと顔を上げれば、大塚がへらっと笑っていた。
その笑顔は本当にいつもどおり。ひょいっと警戒心を抱く間もなく伸びてくる手も、ちっとも殺気混じりでない。
「未来はお前のもんだって、なーんて」
「…え」
「お前が切り拓いたらいい。誰も否定しない、お前のもんだろ」
283流浪の民 4  ◆prGJdss8WM :2005/11/28(月) 02:07:01 ID:sbA0KGzK0
な、と大塚は笑っていた。ほれほれと頭を撫でられた。子供がされるみたいな手つきに西岡は首を振る。それから逃れる。
「何よあんた。何の権利があって、何言い出すん?こんな場合で…っ」
「権利?」
「そうや。死んだ人かてみんな、それぞれ人生があるやろ!?そやのにそれ、全部どうでもいいみたいに言うなや!」
「そりゃ悪かった」
きっと睨みつけると今度は、両手を挙げて肩をすくめて大塚は、大げさに驚いた仕草。
へらへらした笑顔はそのままだ。またそれに西岡はイライラした。もう一回ほとばしった。
「何なんや、あんた?何を知っとって偉そうに…、何が言いたいン、何様やねん!?」
思わず立ち上がって、精神的にも高度的にも優位に、西岡はそのまま睨み見下す。

「俺か。俺は基本的には、早く帰りたい。本当に、ついこの間みたいにな」
「…」
「こんなバカバカしいゲームなんかに乗せられたくない。でも叩きのめされるのはゴメンだな」
さらに大塚は能天気にうーんと唸って、前に向き直る。俺はな、と呟いた。
「俺は、いい加減で適当で、結構人の期待を裏切るタイプ」
「最悪」
「無鉄砲みたいなふりして、裏で計算高くて、厭味でしつこい。でも逃げ足は速い」
「…」
「それで昔はほんのちょっと、天才みたいなときもあったかな」
「何て?」
もう無いけど。全然。そう、ぼろぼろのズボンと泥だらけの顔と、こびりつく血まみれの身体から飄々と声が出る。
とりあえず洗っただけの片腹の銃痕も、多分同じリズムで動いている。
痛くないのだろうか。痛くないわけが無い。足も痛いと本人がさっき言っていた。
その膝、はもうボロボロらしい。もともと怪我していたところに、この雨に、山道、戦闘、悪条件が重なった。
「お前と違って、マジでほんのちょっとだったけど」
痛みを忘れたように半眼でへらり、笑いながら言う。
「迷うな」
迷うな、西岡と。
「迷ったら終わりだぞ。何事も」
彷徨うな、と。俺はそうだったから、と。
だから今、覚悟決めていられるんだと。
284流浪の民 5  ◆prGJdss8WM :2005/11/28(月) 02:07:29 ID:sbA0KGzK0
無言で、威圧的に見下す西岡の視線をものともしない。
猛禽類に狙われているようなシチュエーションでも、傷ついた動物の癖に、そんなのはどこ吹く風だ。
あげくひょいっと、無防備に手まで差し出してくる。
「…さて、行くか。天才、手ぇ貸してくれ。ついでに肩も」
「高いですよ、俺の手は。…現役の、天才の手ですからね」
「ツケにしといてくれ」
ぐっと左肩から体重が倍になって足にかかった。いででで、片足で立ち上がりながらひょこひょこ、大塚が数歩よろめき、腰が変な風によじれた。滑らないように踏みとどまる。
立ち上がるときが一番ヤバイな、と耳元で呟く声は、特に誰に言ったものでもなかった。
「大塚サンあんたねえ…人に迷惑かけてばっかりやん」
「まあそう言うな。あんまり気負うなよ」

また言う。ゆっくり壁に手をついて、自らの武器を拾い上げる。
「いい結果なんて力みすぎたら出ないもんだぞ。ほれ、チャンスで三振したりとか」
「さっすが、オッサンは説教くさい」
「…大人のいうことたまには聞け、ルーキーが」
「やから二年目やって言うてるでしょうが!」
「誰を殺してでも生きろ」
側でごしょごしょ言われたが、絶対に見るかと西岡は顔を背けて、わざと前を向いていた。への字口で。震えないように頑張って。
「そう思って、俺らは生きよう」
俺たちに明日は無い、んじゃない。逆だ。
俺たちには、明日しかない。もう昨日はどこにも無いんだから。無くなってしまったんだから。
たたたーん、と音がした。何の音かわからなくとも、思わず顔を見合わせて、三発、その音をかみしめた。
285流浪の民 6  ◆prGJdss8WM :2005/11/28(月) 02:08:02 ID:sbA0KGzK0
そして放送が聞こえて、空気が変わる。また眼を見合わせて、もう無意識に頷いた。現実に戻る時間だった。
「なんか、あったみたいすね」
「だな。…追い風か」
「向かい風かも」
大塚がユニフォームを羽織る。その背中には自分の背番号7番。
「…行くか」
それでも。
西岡も無言で、交換した彼の上着に腕を通した。23番が無意味に重い。
ぎい、と小屋の軋む戸を開けると、もう紫が木々と草を染め始めていた。夜闇が飲み込み始めていた。

「…え?」
一歩二歩、進みだしてしばらくして、大塚が不意にこちらを振り返る。
小屋を振り向いて佇むから、西岡も思わずそちらを見てしまった。
「…何?」
「お前、何か言ったか?」
「いーえ?」
訝しげに大塚はまた空を見上げる。もうどんな顔をしているのかよく見えない。
何か聞こえた気がした、っと呟く声も、夜の何かに飲まれはじめていた。
夜に生きる。俺たちは流浪の民には、ならない。
286代打名無し@実況は実況板で:2005/11/28(月) 02:24:36 ID:gTYrN6rW0
職人さん乙です!
大塚かっこええ……

遅レスですが>>268さんも乙です!
追加の二人、全然分からなかった……ヒントってどのへんにありました?
287代打名無し@実況は実況板で:2005/11/28(月) 07:32:05 ID:NFWUDjmiO
>>職人さん達
マジ超おもしれー!!続きが気になるよ。
特にジョニー&内・於保がドキドキする展開でいつも楽しみにしてます。

あと細かい事で申し訳ないが、俺だけの於保タンは
『浩巳』ではなくて『浩己』が正解なので、気が向いたら直してやってください
リアルでは活躍しなかったけど、BRで活躍できてよかったね、於保・・・
288代打名無し@実況は実況板で:2005/11/28(月) 08:26:28 ID:/ihe2abVO
職人様乙です!
あきら俺のあきらかっこいいよ(*´д`)
289代打名無し@実況は実況板で:2005/11/28(月) 13:03:37 ID:3HTA1oojO
職人さん達乙です!!
290代打名無し@実況は実況板で:2005/11/28(月) 13:09:33 ID:w74rlYs90
明が聞いたのって、もしかして23のあの…
そうだとしたらテラ切なス…
291 ◆vWptZvc5L. :2005/11/28(月) 17:11:01 ID:/vsUEQUR0
>>286
どうもです。
ヒントとして一番わかりやすいのは第286章ですね。
あとは第281章のエカのセリフ、「雅英が福浦に近づいた時はどうなることかと思ったが……」とか。
このあたりのエカやコーチ陣が出てくる話は、◆QkRJTXcpFIさんの伏線の張り方がメチャクチャうまくて、
裏事情を知る者からしても、かなり楽しませて頂きました。
292代打名無し@実況は実況板で:2005/11/29(火) 00:46:37 ID:cGf7Y04H0
職人さん方乙です!!
明と大物ペアキタコレ!!
ていうかユニ交換か…23番着てる大物がどこかで間違って狙撃されそうな悪寒orzアキラガウタレテモヤダケドネ…
293代打名無し@実況は実況板で:2005/11/29(火) 12:35:31 ID:vCYdQj1bO
保守
294代打名無し@実況は実況板で:2005/11/29(火) 22:39:01 ID:S6OGkBVGO
ホッシユシュ
295代打名無し@実況は実況板で:2005/11/30(水) 06:21:27 ID:2jqqx9000
俺の明カッコいいよ俺の明
296代打名無し@実況は実況板で:2005/11/30(水) 16:43:23 ID:S3wRSfoDO
こさか
297エースへのクエスチョン2(1/5) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/01(木) 01:46:47 ID:+5BglVCG0
グラウンドから影を奪おうとしているのだろうか。
ぐるりと360度を取り囲んだライトが煌々と青々とした人工芝を照らし続けている。
直にそれらを見つめればまばゆい。だから視線は常に下の方を向いている。
その先にはその人がいる。自由を奪われもがきながら、目の輝きだけは失わない。
そうだ、確か自分が知っていたのはこの目だったと。
ついさっき話した時には消えてしまっていたこの目の輝きこそ、宿る意志こそがその人だったと。
ずっと感じていた違和感、その正体に思い当たり一瞬だけ安堵する。
弱気や怯えや、昏い光を含んだ目をする人ではない。さっきまでのその人は偽者だったのか。
自分が知っていたはずのその人は、今やっとそこにいる。
そして何かが沸いてくる。スタジアムの風景と、その人の目に遠い記憶が呼び起こされる。

「黒木さん」
内竜也が名前を呼んだ。兵士達によって仰向けに組み伏された黒木知宏は、それでも激しく抵抗する。
その小さな呼びかけには誰も気づかず。
いや、一人だけ気づいたのは後ろにいた於保浩己だったが、黙ってその様子を見ている。
一歩、二歩と内が足を踏み出す。その先にいる黒木の様子を眺めながら。
端から見ればそれは夢遊病のように見えたかもしれない。
「離せええっ! 離、え?」
あと数歩と言う距離で黒木も、抑え付けている兵士たちも彼が近くに来ていたこと気づいた。
内には不思議でならなかった。
自分が何故ここで無事にいられるかということと、自分が何故黒木に近づいているのかである。
その内の様子に気づいたボビー・バレンタインが目を細めた。怪しい目配せをすると、口の端が上がる。
「ようこそ、タツヤ」
「え、あ、はい」
ハッと夢から覚めたように内はバレンタインの方を見た。何故か驚いているのが自分でも分かった。
バレンタインはとても陽気で優しげな表情で微笑んでいる。内のよく知る顔である。
思わずこの状況を忘れそうになるぐらいに、それはいつものボビースマイルだった。
「なぜ君を誰も捕まえようとしないかわかるかい?」
「え? あ、いや……」
「それは君が選ばれた人間だからさ。おめでとう」
「選ばれた?」
オウム返しで答えを返す。姿勢がなんだかバラバラになっているのを感じた。
298エースへのクエスチョン2(2/5) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/01(木) 01:47:15 ID:+5BglVCG0
目の前で笑う外国人には、自分が困惑している様が手に取るように分かるだろう。
「君は素晴らしい才能を持っている。君が生き残ることを我々は望んでいる。
 君の成長を楽しみにしている。そういうことさ」
「僕を?」
「そうさ。だからずっと君を見守っていた」
「見守る? え?」
相変らず要領を得ないといった表情で、内はバレンタインの言ったことを繰り返していた。
黒木も一瞬抵抗をやめ、その様子に見入っていた。
「ククッ」
耐え切れないと言った表情で誰かが噴き出した。内の後ろから笑い声が漏れてくる。
「ぼけっとした顔すんなよ」
ゆっくりとした足取りで内と黒木を追い抜き、バレンタインの机の前に立つ。
於保が口に手を当てながら、黒木を挟んで内に対峙した。
「こいつらお前を生き残らせたいんだよ。でもなんでか俺には"見てるだけ"にしろってんだ」
「色々と事情があるのさ」
於保に指差されたのを気に止める様子もなく、バレンタインはすました顔で答える。
「ま、命令なんか聞く気はなかったんだけどさ。見てるだけで良いってんだから楽だろ?
 だから引き受けてやったのさ」
「聞く気がないのは分かってるさ。そして君がこの仕事をしてくれることもね」

「ほう?」
於保の片眉が上がり、バレンタインの方を振り向く。
再びイスに腰掛けたバレンタインが、机を挟んで於保に微笑みかけた。
「あんたが俺を思い通りに動かしたみたいな言い方だな?
 俺は別にヒマだから協力してやっただけだし、自分のやりたいように動いてただけだぜ?」
「それでいいさ。君は君の思う通りに動くべきだ。
 私は邪魔をしないし、その過程で気が向いたら協力してくれればいい。
 それが結果として我々の利益になるならば最高じゃないか」
一見慈愛に満ち溢れているような、全てを包み込む笑顔。
だが何故かその笑い顔を見つめていると得体の知れない気持ち悪さを感じる。
「けっ、食えねぇな」
於保が舌打ちをしてこちらを振り返る。セリフの割りに顔にはうすら笑いが浮かんでいたが。
299エースへのクエスチョン2(3/5) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/01(木) 01:47:54 ID:+5BglVCG0
すぐ下の黒木に目線を移す。
その様子をマジマジと見下ろして観察すると、うすら笑いがもう少し分かりやすい笑いに変わった。
「黒木さん、気分はどうだい?」
黒木は何も答えない。代わりに於保をキッと睨みつけた。
「あんたは福浦だっけ?
 せっかくスパイみたいな事をやるんだ。テキトーに言う事聞いておきゃ、無事に出れるものをよ」
スパイ。於保の言葉を思い出す。自分を見ているだけの役割として於保はいた。
最初から、ただそれだけの目的で一緒に行動していたというのだ。
自分は生き残らせたい人間らしい。それで於保がそれを見守っていた。
黒木は福浦を見守っていたようだ。どちらもバレンタインの指示で。
秘密の通路も、黒木の行動も、於保が言っていたことも全てが理解できた。
(なんだ。黒木さんはやっぱりスパイだったのか)
気づいていた通りの結論だ。何も揺るがない。黒木の弱気は、何より後ろめたさの現われだったのだ。
だが理解できないことがある。黒木がこうして抑えつけられていることだ。
(黒木さんは裏切って)
違う。遠くから見ていた。黒木はバレンタインに掴みかかり、そして返り討ちに合ってこうなったのだ。
ならば黒木は裏切っていないはずだ。
しかし裏切っていないとしたら、なぜ――

「なんで黙ってたんです?」
不意に口を突いて出た言葉、黒木も於保も内の方を見た。
「別に聞かれなか」
「於保さんじゃない」
於保の答えを遮ってその目は黒木に向けられていた。
思わず口をつぐんだ於保を気にも留めず、戸惑う黒木の顔を見つめる。
「裏切ってないなら、なんで言ってくれないんですか」
黒木の眼線が泳いだ。その先にはバレンタインがいる。
バレンタインはにこやかな顔を崩さず、一つうなずいて見せた。
「簡単なことさ。誰かにばらせば参加者全員を殺すと言うだけでいい。
 真に仲間を思う者にだけ枷をつける魔法の言葉さ。イッツ、ボビーマジック!」
黒木が目を伏せる。悔しさからなのか、少し肩が震えていた。。
「本気だったか?」
300エースへのクエスチョン2(4/5) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/01(木) 01:51:53 ID:+5BglVCG0
「何のことだい? ジョニー」
「誰かに話したら本当にみんなを殺していたのかよ!?」
「HAHAHAHAMANA! AH-HAHAHA!!」
今まで聞いた中で一番大きく、甲高く、そして不愉快な声でバレンタインが笑い出す。
返答はただそれだけ。黒木は歯を食いしばったかと思うと、もう一度強く起き上がろうとする。
しかしすぐに兵士たちに抑えつけられ、持ち上がったのは首だけだった。
大声でバレンタインをなじる。しかし体が動かなくては、彼の悔しさはどこへも逃げられない。
喉をからし息が上がるまで叫んだ後、黒木はついに観念したか押し黙った。
「気は済んだかい?」
バレンタインがおもむろに立ち上がる。一人の兵士に合図をする。
その兵士は黒木が落とした銃を持っていた者である。
「それはヒロミが持っていなさい」
指示を受けた兵士が於保に銃を渡す。そして黒木のこめかみに自分の小銃の銃口を当てた。

 胸が締め付けられる感触を内は覚えた。黒木は今まさに死のうとしている。
黒木は裏切っていなかった。黒木は黒木のままで独り闘っていたのだ。
だから何をすればいいのか分からない。ほんの少し前に考えていたことなのに。
分かっていること、それは自分の身は守られているという事だけだ。
そして投手としてのライバルが一人減ろうとしている。邪魔しなければいいだけなのだ。
一番への道。内にとって気にかけることなど何もないはずなのだ。
「エースとしてマウンドに還りたいんだろう? ならば君は勝たなくてはいけなかった。
 どんな手を使っても、多少の犠牲を払ってでも勝ちにこなかった。それが敗因だったね」
バレンタインがわざとらしく頭を振る。急に変わった残念そうな顔も嘘なのだろうか。
黒木はしかし、少しも怯えた目をしていない。バレンタインを真っ向から見ていた。
バレンタインの言葉を聞いてからしばらくして、首を振った。
「違う、それは。エースじゃない」
その言葉を聞いた瞬間、内は思い出す。確かめなければいけないことがあった。
あの質問の答えをまだ聞いていなかった。
洞窟の中で垣間見えたあの日の記憶。確信があるが、確かではない。
それは今の自分があるための、大事なことなのは分かっている。
(黒木さんだ)
その記憶は、確かに黒木の姿と結びついている。
301エースへのクエスチョン2(5/5) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/01(木) 01:52:26 ID:+5BglVCG0
黒木を疑っているうちは、自分の記憶すら疑っていた。
裏切り者の姿とその記憶は重ならず、悪い夢の中にいるようで。
諸積に殺されかけ、於保の頭上に見えたもやはいつしか見えなくなっていた。
あれはきっと、自分の心に入り込んだのだ。
もう誰も信じられないのではないか。自分が考えていたようにみんながみんなを殺すつもりで。
澱みきった暗い暗いもやが、自分と外の世界との間にある窓を曇らせていた。
しかし黒木が紛れもなく黒木であると分かった今、全ては晴れていこうとしている。
答え合わせをしなければいけない。答えを聞かなければいけない。
銃を押し当てられても怯むことなく上を向く黒木。
死なせるわけにはいかない。
内は意を決して、兵士の方へ身を乗り出す。

「ちょい待ち」
それは於保の声だった。
まさに手を出そうとした内より先に、黒木に向けられた銃をのける。
周囲の人間は呆気にとられ、次の言葉を待った。
しかし於保は何も言わない。口をぱくつかせる内を見ている。
最初からその表情の変化を観察していたのだろう。鼻で笑って、どうぞのジェスチャー。
今度は内に注目が集まる。
内は黒木をじっと見つめたかと思うと、大きく深呼吸をした。
それはエースを目指す者の、エースへと向かうためのクエスチョン。

「黒木さん……、エースってなんですか?」
302 ◆QkRJTXcpFI :2005/12/01(木) 01:58:51 ID:+5BglVCG0
>>279
言われてみれば確かに。
修正依頼出しておきます。

>>287
あああ、すいません。
これは保管庫さんともどもずっと勘違いしていた模様。
今回から正しく書きますた。


ご指摘くださった方どうも。指摘などあったら構わず言ってください。
ここで言いにくければ仮保管庫さんが掲示板設置してくださってますし。
303代打名無し@実況は実況板で:2005/12/01(木) 04:34:59 ID:orOeD2xsO
HAMANA!
304代打名無し@実況は実況板で:2005/12/01(木) 07:54:41 ID:vvilqS98O
職人様乙です!
おおお於保かっこええ(*´Д`)
305代打名無し@実況は実況板で:2005/12/01(木) 11:23:41 ID:SGmtPU1PO
職人様乙です!!
続き気になるううう('A`)
306代打名無し@実況は実況板で:2005/12/01(木) 12:20:38 ID:La69geUrO
果たしてジョニーはボビーに消されてしまうのか。。
307代打名無し@実況は実況板で:2005/12/02(金) 00:22:30 ID:UkntUEEw0
スタッフ募集〜プロ野球球団のメンバーとして働く〜
http://www.rakuteneagles.jp/html/news/eagles/051110staff.html

308ドランク・モンキー(1/7)  ◆Ph8X9eiRUw :2005/12/02(金) 04:26:14 ID:auLeCNGs0
次の言葉を待つ。
地図を片手に、じっと、耳だけに神経を集中させ、
他の音、自分の血流の音でさえも邪魔と感じるほど、ただ、じっと待つ。
あの、いかにも内部で何かが起こりました、といわんばかしの放送。
あれからもうどれくらい経っただろうか。ずっと続く全くの無音状態。
それでも、垣内はじっと放送の続きを待ち続けていた。
なにが起こっているのかを少しでも感知できるように。
あいもかわらず戸部は起きない。
殺し合いが起こっていること、それすらも忘れてあまりに無防備に眠り続けている。
それでもこいつがとりあえず無事に進めるように、
これから何が起こるのか聞いておいてやらないといけない。
自分のことは、それからだ。
生きるのか、死ぬのか、それとも。

なにかが、起こっている。おそらく、ちょっとした予想外の出来事が。
このゲーム自体の存続を脅かすような大きなものかもしれない。
それとも、現状は何も変らないような小さな出来事かもしれない。
それでも、なにかが起こった。
少なくとも、山本功児の身に何か起こったことは確実だ。
もしかしたら、もしかしたらここから開放されるような、そんな変化につながるかもしれない。
まさか、なんでそんな夢みたいなことがこんな地獄で起こりうるのだろう。
そんな両極端な考えをずっと行ったり来たりしては、どちらも振り払うかのように耳を澄ます。
309ドランク・モンキー(2/7)  ◆Ph8X9eiRUw :2005/12/02(金) 04:28:41 ID:auLeCNGs0
しかし、それでも。
一度胸に小さな希望が芽生えると、それを摘み取ることは相当難しい。
そして、先ほどまでは自分のことですら理解できない状況にまで追い込まれていたのに
こうして少しでも光を見出そうとしている自分の心境の変化に垣内自身驚かされていた。
まさかとは思うが。
地図から眼を離し、もう一度ちらりと隣でいびきをかいている戸部に視線をやる。
完全に無防備で、ユニフォームは着崩れ、あげくにぼりぼり腹をかいている。
どこまで気を抜きまくっているんだ、と垣内は頭を抱えたくなった。
それでも何故だろう。
怒る気にはなれない。それどころか、もしかしてこいつのおかげで、
自分は心に余裕が出来ているのかもしれない。
うそみたいな話だが、気持ちよさそうな寝顔の戸部を見ていると
あれほどどろどろに混乱しきっていた頭の中が
少しずつ少しずつ、雨雲の隙間から漏れる光の筋のように
弱々しくはあるけれど、確実に晴天が見えてくる、そんな気持ちになれたのだ。
なんでこんなやつから平穏を感じなきゃいけないのだろう、と虚しくはなったが
こんなに心が穏やかになったのはどれくらいぶりだろうか。
こいつは、何も変らない。ここが殺し合いの島だなんてことをつかの間忘れさせてくれる。
そんな幸せそうな寝顔だった。
しかし、こいつ、よくこんな風で今まで生き残ってこれたな。
もし、ここに自分がいなくて、それから眼が覚めたら禁止エリアすらわからないじゃないか。
誰かがたまたま通りかかってやさしく禁止エリア教えてくれる、
そんな上手くいく出来事、あるはずがないんだから。
しかし、と、じっと戸部の寝顔を見る。
こいつならそんなこと起こっても不思議じゃないかもしれないな。
いや、でもまさか、な。垣内は馬鹿げた自分の考えを否定した。
310ドランク・モンキー(3/7)  ◆Ph8X9eiRUw :2005/12/02(金) 04:30:29 ID:auLeCNGs0
ふたたび、地図に目をやり、ぼんやり聞いていた先ほどの死亡者名を思い出す。
ひとり、外野手がいた。どうやって死んだんだろう。
まさか、まだ同じポジションを狙っているやつとかがいて、まさか、そいつに、
「そぉ・・・がべぇ・・・」
思いをはせていた名前を急に呼ばれ、垣内の身体がびくん、と一瞬飛び上がる。
寝言、にしてはタイミングよく、泥酔の戸部がかろうじて聞き取れるくらいの声で呟いた。
「曽我部がどうした?戸部?」
返事は無い。
「曽我部について、何か知ってるのか?」
ごろん、と寝返りを打ち、戸部が背を向けた。
「曽我部が、誰にやられたのか、知っているのか?」
やはり返事は無い。
ただの気のせいだったのか、とまた地図に目をやったとき
今度ははっきり聞こえる声で、戸部が名を呼んだ。
曽我部の、後に呼ばれた選手の名を。
「ユウゴー」と。
垣内は思わず力任せに戸部の肩をつかみ、無理矢理自分のほうを向かせた。
「戸部、お前、何を知ってるんだ?なにがあったんだ?ここで、ここで一体何があったんだ?」
爪が食い込みそうなほど指に力を入れ、そのまま相手の身体をゆさぶる。
酔いの完全に回っている戸部の身体は自分で制御するすべを忘れたようで
垣内の力に流されるまま、身体は前後にだらだらと揺れた。
「戸部、おい、戸部!」
ようやく、まだ真っ赤な顔をした戸部のまぶたがうっすらと開き、
おろおろ宙を彷徨った後、ゆっくりと気だるそうな瞳が垣内の顔を捉えた。
「戸部!」
「・・・もぉ・・・垣内さんまで・・・そんなことを云う・・・」
垣内の手にさらに力が加わる。そのドロンとした目が、はっきりと垣内を見据えた。
「だからなぁ・・・俺は戸部なんですけどね・・・」
「いや、戸部、俺が言ってるのはそうじゃなくて、」
「いやだからぁ、俺はぁ、戸部なんですけどね・・・」
会話が成り立たない。
311ドランク・モンキー(4/7)  ◆Ph8X9eiRUw :2005/12/02(金) 04:32:33 ID:auLeCNGs0
さっきの呟きも気のせいだったのか。垣内はそっと戸部から手を離した。
とたん、戸部の目がくわっと見開かれる。
そして先ほどまであれだけぐでんぐでんに酔っ払っていた身体が急に起き上がり、
しっかりと、2本の足を大地に張り巡らせ、垣内をじっと見下ろす形になった。
先ほどまで、酔っていたとは到底思えないほどの、真剣な眼差しに
垣内は思わずぎゅうっとつばを飲み込んだ。
「・・・戸部?」
返事のかわりに戸部は大きく、長いため息をひとつ吐いた。
酒の臭いが垣内の鼻をつく。
「戸部?」
もう一度、呼ぶ。その声に反応するかのように、戸部の身体からまた力が抜け、
右へ、左へよろよろとさ迷いだした。完全に千鳥足だ。
なんだ、やっぱりただの酔っ払いじゃないか、とその身体を支えようと
手を伸ばした刹那、ものすごい剣幕ではじかれる。
お前の助けなぞ要らない、といった風に。
戸部は倒れそうで倒れない絶妙なバランスをとりながら、
傍においてあった一升瓶を掴み取り、おもむろに蓋を開け、また酒を煽った。
「お前なぁ・・・いいかげんにしろよぉ・・・」
ぶひーっと、上品でない音を喉がたてる。
「おらぁなぁ、飲むんだぉ、吐くんだおぉ・・・」
こぷん、と瓶の中の酒が波打つ。
「お前なぁ・・・俺は戸部だっつってんだろ・・・。エースだっつってんだぉ・・・」
「はぁ?おい、戸部、お前もう飲むんじゃな・・・」
「だから!俺は戸部なんですけどね!」
どんっ!と瓶が地面に落とされる。そして、戸部はやはりよろよろと
地面に倒れこむ、かと思われた。
ぐらぐらと何度もバランスは崩すのだが、不思議と戸部は立ち続けていた。
さらにそんな状態で、器用に前屈をし、落ちていた石をぐっと掴んだ。
身体だけではない、頭もゆらゆら動き出す。石を握った手も居場所が完全に定まらず
ぶらり、ぶらりと上げられたり、力なくたらされたり、を繰り返す。
まるで、奇妙なダンスを踊るかのように。
312ドランク・モンキー(5/7)  ◆Ph8X9eiRUw :2005/12/02(金) 04:35:02 ID:auLeCNGs0
「俺はぁ、ロッテのエースなんですぉ・・・。あんな・・・地味ぃなエースとは
まっっっっっったく・・・違うん、ですよぉ!」
戸部の左足が、地面から離れた。投球フォームのように大きく振りかぶろうとするが、
身体の重心が後ろに行き過ぎていてそのまま倒れそうになる。
それでも、戸部の身体はやはり持ちこたえた。
後ろに大きく反らされた身体が鞭のようにしなり、前に戻ろうとする。
そして、戸部は腕を振った。大きく、腕を振った。
握られた石が、硬球のように、その先にキャッチャーミットがあるように飛んでいった。

と思う。少なくとも、垣内は飛んで行ったと思った。
戸部の球は、全く見えなかった。速い。信じられないほど、速い。
もし、今のが石じゃなく、ちゃんとしたボールだったとしたら。
それでも自分にはバットに当てることすら出来ないだろう。
おもむろに石が飛んでいった方向に近づき、目を凝らす。
戸部が投げた石は、地面には落ちていなかった。そこにあった木に、めり込んでいた。
「うそだろ・・・」
戸部は、あいもかわらずよろよろしている。完全な酔っ払い、なのに、今の球はなんだ?
もう一度、戸部が石を握る。今度は振りかぶらなかった。
どこかでみたことある特異なフォーム、12球団でもこんな投げ方をするのは一人しかいない。
「俺はぁエースなんですよー。唯一無二でもぉ、ないんですよぉ!」
アンダースロー。リリースポイントが地面すれすれの、アンダースロー。
あのフォームで投げられることにも驚いたが、もっと特筆すべきことは
アンダーでも戸部の球の球威は衰えなかった。スピードは先ほどのストレートとほぼかわらない。
「どぉだぁ・・・かきうちぃ」
戸部が、自分に向かってVサインをしている。
「俺は、エースの戸部なんですけどね・・・」
まだ目の前で起こったことが信じられず、開いた口がふさがらない状況で、
とりあえず垣内は大きくひとつ、こくんとうなづいた。
それを見て満足したのか、戸部は糸が切れた人形のようにがくんとたおれこみ、
そのまままた高いびきで眠りに落ちた。

313ドランク・モンキー(6/7)  ◆Ph8X9eiRUw :2005/12/02(金) 04:37:00 ID:auLeCNGs0
自分が今見たものは、一体なんだったのか。まぐれなのか、酔っ払ってたまたま出来たものなのか。
あ、と垣内が顔を上げる。戸部が口にした4人。
直行、俊介、そして、さきほどつぶやいた曽我部にユウゴー。
4人とも、もうすでに放送で名前が呼ばれた者たち。
心地よさそうな寝息を立てる戸部の顔をまじまじと見つめる。
こいつは、そうか、きっと。
「お前・・・辛かったんだな・・・。苦しかったんだな・・・」
こいつは、きっと酔っ払わないとやりきれなかったんだ。
名前を呼ばれたものを助けられなかったのかもしれない。
一人一人呼ばれるたびに、つぶれそうになったのかもしれない。
どうしていいのか、わからなくなったのかもしれない。
そう、先ほどの自分と同じように。
そして、酒に逃げたんだ。目をそらすために。
「戸部・・・お前も・・・辛かったんだな・・・」
返事なのか、むにゃむにゃとよくわからない言葉が漏れる。
「エース、か」
それでも、そんな状況でも、こいつはチームのことを考えている。
自分が生き残って、代わりにエースになってチームを立て直す。
きっと、そんな決意が、まだ死んではいないんだ。
こうやって逃げて逃げて、それでも、強い思いは、チームを思う気持ちは、逃げていない。
じゃあ自分は?自分はどうだ?
314ドランク・モンキー(7/7)  ◆Ph8X9eiRUw :2005/12/02(金) 04:38:39 ID:auLeCNGs0
空を見上げる。球場で、マリンで見たのと全く変らない、青空。
耳を澄ます。やはり放送の続きは聞こえてこない。
なにが起こったのかは知らないけれど、それがどっちに転ぶか解らないけれど。
「原井」
聞こえないくらいの小さな声で、垣内は呟いた。
「流れってやつは、かわると思うか?かえられると思うか?」
地面に置き去りにしていたサブマシンガンを握り締める。
「原井、もうちょっとだけ、生きていても、いいか?
もうちょっとだけ生きて、それから、答えを出しても、いいか?」
垣内はそっと戸部の横にしゃがみこんだ。
「わかった。戸部、お前をエースにしてやるよ。だから、」
ぎゅっと唇を噛み締める。きつく、その痛みを身体に染み込ませるかのように。
その痛みで、ふがいなかった自分を捨て去るように。
痛いのは、自分だけじゃない。まだここにいるやつも、もう、名前が呼ばれてしまったやつも、
俺も、こいつも。俺たちは、同じチームだったんだから。
「だから、お前は、殺させない」
原井、それから、答えを出しても遅くはないよな。
だから、もうすこし、俺が耐えられるように、もうすこしだけ。

しっかりと、サブマシンガンを構える。足元は、確かにちょっと頼りない。それでも。
「お前がエースになって、日本一になろうじゃないか」
戸部からの返事は、酒臭いげっぷのみだった。
なんとなく、一抹の不安が残る。
「もしかして、俺はこいつのことを買いかぶりすぎか?
もしかして、こいつ勝手に酒飲んでただ単に酔っ払ってるだけとか・・・」
えぇすー、と戸部が寝言で呟く。
そして、さっきより大きくなった戸部のいびきが響き渡るだけだった。

315代打名無し@実況は実況板で:2005/12/02(金) 07:36:04 ID:cAHfpqV5O
職人様乙です!

戸部(ノ∀`)
かっきーカコイイよかっきー
316代打名無し@実況は実況板で:2005/12/02(金) 08:08:02 ID:6dcopX1e0
やべー、切ないのに笑える…w
317代打名無し@実況は実況板で:2005/12/02(金) 08:26:18 ID:8/+NW0UUO
職人様乙です!
戸部スゴスwwww
318代打名無し@実況は実況板で:2005/12/02(金) 09:20:46 ID:zYxQgFoM0
シリアスとコミカルさのバランスが絶妙すぎる…!つД`)・゚・。・゚゚・*:.。
職人様すごいです!
319かつての時代が終わる日のこと(1/4) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:32:33 ID:GibE7i9Q0
 長い長い沈黙が辺りを包む。いや、長いと感じたのは質問をした当人だけだったかも知れない。
エースとはなんなのか。
かつて間違うことなきエースとして君臨していた人間に問う。
その答えを乞うのは初めてではない。待っていたのはこの一瞬ではなく、もっと長い間。
かつてのエースはゆっくりと口を開いた。
周囲の敵役までもが固唾を呑んで見守る中、彼は夜空を見上げていた。

「ある時まで思ってたんだ。
 エースってのはそのチームで一番凄い投手で、チームに勝ちをもたらす奴だって。
 でも……そういう奴になったぞ、なんて自信を持ててから初めて気づいたんだ。
 "俺は多分エースになれたことは一度もない"んだって」

 それは答えなのだろうか。かつてのエースは相変らず遠くを見ている。
夜空からグラウンドまでの全ての風景を見渡してるようだった。
自らの質問への答え。それを聞いて心の中で空回りしていた歯車が噛み合い出す。
確信は事実へと変化を遂げた。彼の記憶はそれを知らせるように頭の中を駆け巡る。
彼にとっての全ては、そこから始まった。
その全てを告げることで、彼にとっての答え合わせが終わろうとしていた。
「聞いてもらいたい話があります」


――2000年3月26日 神奈川県川崎市
少年は市内に住む中学2年生である。
「プロ野球の試合があるってよ」
野球部の友達からそんな誘いを受けたのは、ある春休みの朝である。
二つ返事でついていく。特に他にすることもない。
自転車で向かう先は地元にある古ぼけた球場。これでもプロの本拠地だったこともある。
かつてのロッテの本拠地、川崎球場である。

 兄の影響で小学校1年生から野球少年。
頭一つ抜けたセンスを発揮し、その頃から将来は野球選手になれると期待を受ける。
事実、少年は野球が好きだったし、いっぱしの野球少年らしくその夢を持っていた。
320かつての時代が終わる日のこと(2/4) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:32:54 ID:GibE7i9Q0
ところが中学生になり少年は周囲を驚かせる。
野球センスに溢れた彼が入った部活はバスケットボール部。
誰もがそのわけを尋ねたが、少年はあっけらかんとした様子で答えた。
「坊主になんのヤだから」
そのまま2年ほどが過ぎた。既に少年に野球を勧める者もいなくなった頃である。
野球への思い自体は消えたわけではなく、またなんとなく秋から野球部に入った。
しかし思ったほど面白くない。
周りの少年たち、上級生すらみな自分より野球が下手で、対等な相手などいなかった。
野球は好きだったはずなのに。少年にとってはつまらない日々ばかりが続く。
余りある才能を持つ人間が陥る落とし穴。
いつしか野球そのものに対する思い入れそのものが消え失せ始めた。
少年が川崎球場最終戦、ロッテ対横浜の試合に誘われたのは、そんな時であった。

 球状に着くと予想外に人手が多いのに少年は驚く。
よく見ればだいぶ年齢を重ねたような人が多く、少年と同世代の子はなかなか見当たらない。
やんややんやと賑やかなムードの中、友達のあとについていく。
ラーメンが有名だと言うので行ったら混んでいたので止めておいた。
友達いわく親がもらってきたというチケットを手に中に入る。壁も廊下も天井もボロい。
少年は三塁側ベンチ上方の一席に座った。どうやらロッテ側らしい。
辺りを見回すと年代もまばらなユニフォーム姿の人達、胸にはオリオンズと書かれている。
試合開始前の高揚した雰囲気の中、ときおり涙ぐむ人がいた。

 折しも98年マシンガン打線の余波が残る頃。
3年連続Aクラスの横浜の方が少年は好きだったので、一塁側でなくて残念だった。
伝説とまで言われた10.19、しかしその頃少年は幼稚園に通い出したぐらい。
ロッテ球団が川崎を去った当時、少年は小学校にもまだ上がっていない。
少し上の世代の人と違って、全く思い入れがなかった。
少年はボーッと試合を見始めた。
試合は序盤から大荒れの様相を呈す。特にロッテの先発投手は序盤にいきなりの4失点。
「うわ、ヘボいなあのピッチャー」
そう何気なく呟いた声が、予想外に大きかったことに少年自身が驚いたときである。
321かつての時代が終わる日のこと(3/4) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:33:12 ID:GibE7i9Q0
「こら、ボーズ。あいつはウチのエースなんだぞ」
前に座っていた野球帽をかぶった男性がこちらを振り向く。
(いきなり説教じみたことを言うオッサンだな)
少しイラついて、売り言葉に買い言葉。
「は? あれがエース? 点取られまくってんじゃん。
 あれがエースなんて、ロッテも大したことないね」
「オープン戦はいいんだよ、調整だから」
「いくら調整だからって、あそこまで打たれるなんて信じられないよ。
 マジメにやる気ないんじゃないの?」
「ちょっとキミ、言い過ぎよ。彼は調整だからって手を抜くような人じゃないわ」
いつの間にか横からオバサンが割り込んできた。
多勢に無勢。しかしこれが逆に少年に火をつけた。
「手を抜いてこれってことは大したことないじゃん、やっぱり。
 投げる時にあんな大声出しちゃって、チョーヤベェよあれ」
友達が止せと言うのを無視して、少年は更にその投手の悪口を並べ立てる。
「お前、ウチのファンじゃないな? 知りもしないやつがあいつを馬鹿にするな!」
「お前が何と言おうとあいつは凄いエースだよ。お前には分からないだろうけどな」
「彼のカッコよさが分からないなんて、可哀想な子だねぇ」
いつの間にか、彼を取り囲むようにロッテファンが集まっていた。
怒るだけならまだしも、憐れむような目をされる。それが少年の頭にきた。
頭にはきたがさすがにマズイ状況。逃げるように通路の階段を駆け降りる。
フェンス際まで来たとき、丁度その下をその先発投手が通りかかった。

「おい、ちょっと、あんた。あんただよ、先発の人!」
歓声の中で少年の声が届いたのか、その投手は彼のほうを向いた。
丁度ロッテの長い攻撃の最中、時折上がる歓声の中で彼はタオルを首にかけ汗を拭いていた。
「何?」
「打たれ過ぎだよ」
「ああ、ごめんな。せっかく見に来てくれたのに」
照れ笑いも混じり、すまなそうにその投手は頭をかく。
「ヘラヘラすんなよ。エースなんだろ?」
「こら、年上にはもっと丁寧に話しなさい」
322かつての時代が終わる日のこと(4/5) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:33:51 ID:GibE7i9Q0
今度はたしなめるような表情。厳しい顔のようだったが、それほど嫌な感じはしない。
少し距離があるせいで顔はハッキリ見えなかった。歓声の中、二人のやり取りは続く。
「あんなに点取られて笑っててさ。負けたらどうすんの?」
「大丈夫じゃないか? 今日はなんだか良く打ちそうだから」
その時一際大きな歓声が上がる。同点に追いついたのだ。
「ほら」
「なんだよ。上のオッサン達があんたのことエースだとか言ってたけどさ。
 やっぱり大したことないな。エースって」
「君は中学生? 野球やるのかい?」
「なんだよいきなり。そうだよ」
「君はその中で一番かい?」
「そうだよ。真面目にやってない僕にみんな全然敵わないんだ、へへ」
「それで満足してるようじゃ、君じゃ一生エースのことはわからないな」
「は?」
歓声とため息。攻撃が終わった。ベンチの周りがあわただしくなり始めた。
「プロの選手になって、そこで本当の一番になってみなさい。
 そしたらその時に初めてエースって何かわかるかもね。でも君じゃ無理かな」
「なんだよそれ! エースって一番凄いピッチャーのことじゃないのかよ!?」
「俺は自分が今一番凄い投手だと思ったことはあるけど、エースと思えたことはないよ。
 ヒントはそれだけだ。じゃあな!」
なおも呼び止める少年に背を向け、彼は歩いていく。
背中に書かれた番号が、おぼろげに見えるだけ。そして遠ざかっていく。
結局そのあと、少年とその投手が話す機会はなかった。

 少年にとってその会話は、大したことではないはずだった。
だが時折、無意識に少年は野球に感情をぶつけるようになる。
見返してやりたいと思った。初めて野球に関して劣等感を覚えたのだから。
あそこまで大勢のファンに信じてもらえる、そんな彼が羨ましかった。
ただそんな気持ちを抑えて、もっと少年は気になっていた。
『本当の一番になって、初めてわかる』
気にしない振りをしていても、その言葉だけはどこかに刻み込まれていてこだまする。
たくさんの人間が彼を認めているのに、彼はそうでないと言った。
323かつての時代が終わる日のこと(5/5) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:34:13 ID:GibE7i9Q0
その彼がそうすれば分かると言ったのだ。そしてそれは途方もない目標に思えた。
少年は、野球をする上で一つの道標を見つけたのだ。
いつの間にかその日のことは忘れても、その言葉だけはずっと心に残った。
一番になる。毎日一度は考える。そのために少年は野球をし続けた。
そして、少年はついにプロ野球選手になる。
目標まであと一歩。そこに起きたのが今回のゲームであった。

(そう、僕は一番になりたい。それは今も変わらない、けど。
 洞窟の中で思い出した。僕がそう思ったのはあの時からで……
 あの投手の背番号、遠かったから良く見えなかったけど)

 星がライトにかき消され、夜空は真っ暗に見えた。
スタジアムの中央に集まって、それぞれがそれぞれの動きを窺っている。
きっとその背番号の主にとっては、少年以上に昔の些細な話だ。
だから少年はその話を最初から最後まで聞かせた。
思い出してくれるように、そしてその時の答えが今も本当に変わらないのか。
(確か、背番号は54)
あのときの先発投手、黒木知宏は話を聞きながら徐々に何か思い出したような様子を見せる。
「お前は、あのときの生意気な中学生か」
目の前にいるのは、成長した少年、内竜也であった。
324ジョニーからの伝言(1/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:34:52 ID:GibE7i9Q0
「そうです。やっと確かめられました。
 僕はあなたに言われて、エースになるために一番を目指したんです。
 その答えを知りたくてここまで来ました」
内竜也の表情がにわかにほころんだ。ゲームの中に消えていた記憶はここにある。
何かを噛み締めるような表情の黒木知宏と目を合わせる。
「まだ、一番にもなれてません。でも僕はその答えが知りたくて。
 だって黒木さんがエースじゃないなら、一体エースってなんなんですか?」
「まあな」
黒木がかすかに笑い声を洩らした。
それは照れ隠しなのか、エースではなくなった自分が皮肉に見えたからか。
黒木を抑えつける兵士がボビー・バレンタインの方を見た。
バレンタインはそしらぬ顔。続けさせろという意味で。
それは計算でもあった。黒木が内にとってのキーパーソンならば、もう少しの時を与えよう。
内が更なる成長をするために、人生でもっとも必要な時間になるかもしれない。

 黒木を取り囲む状況は依然として厳しい。
複数の人間に完全に抑えつけられ、既に試みた抵抗は全て無駄になっていた。
それでも抵抗をすることはできる。何か隙さえあれば逃げることはできるかもしれない。
ただその隙は残念ながら現在見つからない。死への導火線は既に着火しているようだ。
これはきっと罰だと黒木は思った。結局、無力だった自分への。
マウンドへ還りたかった。できれば、エースとして。
それでも今のこの状況は、実は自分に主導権があるとも言える。
一旦は離れた銃口がいつ再び黒木を向くかわからない。少しでも時間を引き延ばせば。
そこまで考えてハッとする。目の前に立つ内の熱を帯びた眼差しに。
例え守られているとしても、彼の問いは真剣そのものだ。
答えなければいけない。精一杯の自分の答えを。
伝えなければいけない。彼が自分に言われて、それを目指してきたなら。
もしかすると彼が、それに値する選手になるのかも知れないのだから。
もしかすると受け継いでいくかも知れない。ここで自分が果てるとしたら。
「プロに入った頃はさ、」
その時だった。ガシャンという音と共に、球場を一瞬で暗闇が包んだ。
325ジョニーからの伝言(2/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:35:15 ID:GibE7i9Q0
「ふあー、モニタールームなんて暇だ。グラウンドは面白そうだってのに」
あくびとの終わりにため息を混ぜて、佐々木信行はたくさんのモニターの前にいた。
体全体で伸びをする。思いのほか気持ちが良くて、しばし解放感に酔いしれる。
そのとき、ほんの一瞬のうっかり。ライトのメインスイッチに手を触れてしまったのだ。
モニターの中は一瞬で暗闇。
「げえっ! しまった!」
急いでスイッチを入れ直す。
しかしスタジアムのライトというのは、スイッチを入れた後しばらくは点かないものである。
ボウッといくらか暗闇が薄れたような、変化はただそれだけ。
「まずいぞまずいぞ。 ボビーは役立たずはスパッと切っちまうから。
 これが知れたらどうなるか」
次第に照明が明るくなり始める。徐々にモニターの中の物は、輪郭を現してくる。
照明が消えるまでと同じような形でヘリやテント、そして人影。しかし佐々木は気づいた。
簡単な間違い探しのように、その変化は明らかだった。
「いない……」

 グラウンド上の全ての物に、平等に闇は訪れた。思わず漏れた声がざわめきを作る。
何も見えない状況で人というものは、自分の本性に向き合う。
それは訓練された兵士とて同じことで、ほんの一瞬完全に体は弛緩した。
全身がそれを感じ取った瞬間、黒木が体をぐるんと回転させた。
戒めが外れる。兵士たちは揃って異常を知らせる声を上げた。
もう遅い。頭の中にあったイメージを頼りにそこに突き進む。何かにぶつかる。
当たりだ。手を探れば機械の感触。その長さを確かめると、強引に奪い去る。
「逃げたぞ!」
走る。もう少しでそこに着く。残像が確かならばそこにそれはあるはずだ。
このアクシデントがどれぐらい続くかわからないが、続く限りは隠れおおせる。
ぼうっと自分の手が現われるのが見えた。もうライトが点き始めている。
そのまま飛び込む。バレンタインの乗ってきた、ヘリコプターの陰。
(よし……)
まずは胸を撫で下ろす。ひとまずの形になった。ここが最後の砦になるかもしれない。
そこにもう一つ、影が飛び込んでくる。手に持つマシンガンを反射的に構える。
ライトはまた少しだ、け先程より明るい。誰かがギリギリ判別できた。
326ジョニーからの伝言(2/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:35:28 ID:GibE7i9Q0
「内」
「ぼ、僕も」
夜明けの空のように、柔らかな光が辺りを包んでいた。
向こうの方がざわついている。奴らにも察しはついているだろう。
足音が向かってくるのを感じた。
ヘリの陰から体を半分出して、マシンガンの引き金を引く。
弾丸がどこに行くのか見当もつかない。だが、追ってきた兵士たちの足が止まる。
一旦下がれと合図が下る。奴らに急ぐ必要はないからだろう。
じっくりと、こちらの弾丸が尽きるのを待つ気だろう。
状況は好転していなかった。幾らかマシと言う程度。
それでも俺は戦える。まだ諦めなくていい。黒木はわずかに微笑んだ。
「わざわざこっちに来ることない。お前は守られてる」
内の両手は寂しげだ。怯えた顔で、それでも諦めの悪い顔をする。
「はっきり分かりました。
 僕は黒木さんを追いかけてここまで来たんです。
 ずっと聞きたかった答えを聞きたくて」
こんなときに、こんなときに嬉しいことを言ってくれる。
自分なりの答えを伝えてやろうと思う。
まだ二十歳になる前の坊主には早いかもしれないが、できれば分かってくれ。
ヘリの向こうを見ながら、ちらりと横目で内を見る。
ぎょっとする。内の後ろにもう一つ影が見えた。
「於保!? お前何してる」
「俺は別にどっちの味方でもないんでね」
すぐ横では銃弾がヘリの機体の一部で弾け、人工芝が鋭くえぐられる。
それでも於保はさっきまでと同じ、ひょうひょうとした様子でヘリに身を寄せている。
その意図は分からない。だが攻撃をする様子もない。足元を銃弾がまた跳ねた。

 ヘリコプターの陰と言っても、機底は地上から何十センチか上のところにあってがら空き。
しかも機体の輪郭は曲線で、顔を出して銃撃をすれば足の方が見えてしまう。
黒木は身を低くして、地上に近いところから再び銃撃を行う。まだ兵士は近づいていない。
「プロに入った頃はさ、エースになろうだなんて考えたこともなかったよ。
 ただがむしゃらに投げて。とにかく必死で必死で、それで何度も痛い目を見たさ」
327ジョニーからの伝言(3/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:35:47 ID:GibE7i9Q0
たった一つのマシンガンだけが頼りだ。残弾など知るよしもない。
自分を殺すためだけだったのなら、次の一弾で終わりかも知れない。
「でも努力は裏切らなかった。チームで一番勝てるようになって、タイトルも取れた。
 したら、たいていの投手は上に立って見られるようになったよ」
また身を乗り出して銃撃。まだ弾は残ってくれている。
相手もそう簡単には近寄れないようで、机や何かの機械の陰で頭を引っ込めたり出したり。
果敢な一人が銃口と腕を出す。乾いた音が響くが当たりはしない。すでに隠れている。
「いやな奴だろう?」
「え?」
「ちょっとな、天狗になってた時もあったよ」
「そんな」
予想通りの内の戸惑いが少し面白くて、黒木は笑いをこらえていた。
なんとも真剣な目で見ているから、聞き逃すまいとしているから。こんな状況でだ。
「でもな、みんなはそんな俺のことをエースと呼んでくれたよ。
 そう、本当にいつの間にか呼ばれ始めるんだ。すんごく嬉しかった。
 エースになったぞー、そう叫びたいぐらいな」
多くの人は魂のエースと呼んだ。別に魂なんて思ったこともない。
その時の自分を思い出しても、まだ子供だったから。
相応の実力を持てばそう呼ばれ始め、そのときから勘違いをする。
今この場に居る人間の全ては知らないだろう。エースはなるものじゃない。
「でもそれは、実はみんながそう呼んでくれるからエースって胸張れんだよ。
 仲間が居て、ファンがいて、支えてくれる大勢の人がいて、俺は初めてエースと言ってもらった。
 だから、エースにしてもらったってのが正しい」
「だからエースになれたと思ったことはないって?」
「それもある」

早い足音が聞こえた。
慌てて身を乗り出すと、あと数mのところに兵士が二人いる。
ためらう暇はない。引き金を引くと、彼らは小さく叫んでその場に倒れた。
命だけは助かっていてくれ。一瞬だけ祈る。
「それもある、って」
再び身を隠すと、内はさっきの言葉を繰り返す。少し意地悪な途切れ方だった。
328ジョニーからの伝言(4/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:42:37 ID:GibE7i9Q0
「エースと言われるようになって初めて分かった。
 みんなが言うエースって、みんながそれぞれ求めてるエースなんだ。
 絶対勝つこと、すごいピッチングをすること、カッコイイこと……それぞれだ」
人は人に思いを重ねる。どんなときでも、それは自然な心の動きだ。
自分にできないことを知った時、人は地に足を着けて歩くようになる。
それは強さかもしれない。でも人は諦めることを知らない。自分だって大抵はそうだ。
できないことは、それができそうな人に思いを重ねる。
それが期待と呼ばれる物だと分かった時、見えたものがある。
「ファンはさ、毎日のちょっとした楽しみから人生を賭けた夢をプロ野球に求めてる。
 何万人もがだ。それがプロ野球と他の野球の違いなんだ。
 でも無理だと思ってる。みんな、いつも上手くはいかないって分かってる」
マシンガンを抱える両手が滑るのを感じた。
汗を片方ずつ、様子を窺いながらユニフォームで拭う。
「だからエースって呼ぶ人間にだけはそれを求めてんだ。
 エースならきっとやってくれる。きっと自分の期待に応えてくれるってさ」
再び物音が、ヘリの向こうから聞こえた。
何かと思って顔を出す。不意に、ガンと殴られたような衝撃を受けてよろめく。
頭のすぐ横を熱の塊が通り過ぎた。耳には音というより風圧がねじ込まれる。
体が反射的に丸くなる。すぐに立て直さなければいけないが、上下がわからない。
329ジョニーからの伝言(4/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:42:49 ID:GibE7i9Q0
「黒木さん!」
その声は後ろの方か。ならば自分の警戒すべき方向はこちらだ。
目は覚めない、細かい方向もわからずマシンガンの弾幕を張る。
その振動で、また意識がはっきりしてきた。助けられたと、後ろの内をちらと見る。
「…エースになるってことは、その何万人もの思いを全て負って投げるってことなんだ。
 一球一球、その思いを背中に乗っけてマウンドにスパイクの跡を刻むんだ。
 それに気づいた時、俺は正直怖くなった」
銃声が飛び交う中、後ろで唾を飲む音が確かに聞こえた。
伝えられているだろうか。分からなくても、実感できなくてもそれは仕方ないが。
「たぶんそれを覚悟して全ての人を幸せにできるやつが本当のエースになんだよ。
 だとしたら俺なんかエースでもなんでもなかったさ。
 今まで一人もいないのかもしれない。だからなりたいと思ってる」
330ジョニーからの伝言(5/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:43:11 ID:GibE7i9Q0
それが答え。結局、明確な答えにはならない。分かっていたことだ。
もしかすると、正しいのかもすら分からない。
それができてから更に気づくことがあるかも知れない。
ただ現在の答えはそうに違いなかった。
「こんなんで済まんな」
「いえ」
内はポツリと呟いた。何かを考えているときのような生返事。
やはり分からないのか。無理もない。
「黒木さんは、ずっとそれを目指して?」
「ああ。エースと呼んでくれるみんなのために、真のエースになりたくて」
「途方もないです」
そうだ、仕方のないことだ。まだ浦和で暮らす選手なのだ。
例えドラ1だとしても、一番凄い投手になった先にそんな道があるなんて。
ややもすると、自分だけが小難しく考え過ぎているだけかも知れない。
それでも割り切ってしまえば、ただの凄い選手で終わってしまう。
「でも、黒木さんが絶対裏切らなかった理由は分かりました。
 違ってたんですね。一番に、エースになるには」
「そうだな」
「僕は間違ってたんですね。
 そんなことも知らないで、勘違いして。みんなを殺すって息巻いて」
今にも泣きそうな声で言う。でも情けないとは思わない。
痛い目を見て、それからなのだから。
もしも諦めの悪いやつなら、胸の奥底に熱い志を秘めているなら。
必ずもう一度立ち上がろうとするはずだ。新たに見つけたその道を歩くために。

「黒木さん」
しばし膠着が続いていた。黒木も、相手も銃弾を撃ち込むだけだ。
人工芝は荒れ果て、ヘリの機体も数え切れない凹みが見つかる。
「僕も、エースを目指せますかね? 僕もエースになりたいんです」
心が、沸き立つのが感じた。自分の目指す道を、後から追ってくる者が今ここに。
追い返すはずもない。彼が選んだ道だ。
「目指したらいい。お前なら、なれるかも知れない」
331ジョニーからの伝言(7/7) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/03(土) 01:44:24 ID:GibE7i9Q0
励ますための誇張ではなく、本心から思う。それは漠然とした勘だが。
才能があって強い心があればなれるわけでもない。
なれる者とは、人にそう感じさせるのかも知れない。
一つ、その証拠になりそうなことを思い出した。
「ボビーがさ、お前をずいぶん見込んでたろう」
「そうみたいですね」
「人間を見る目だけは抜群の人だよ、あの人は」
自分が思っていたより、周りの人間も感じているのかも知れない。
あるとしても、まだ先の話だが。
それに自分も諦めたわけではない。まだ、エースになることを諦めてない。
もう一度あのマウンドへ還る。本当のエースとして。それだけを思ってきたのだ。
「だから、ここを生きて抜け出さなくちゃいけないんだ」
自分に言い聞かせる。
「内、お前がそれを目指すなら、みんなのことを考えろ。
 他人に感謝しろ。そして、自分を諦めるな」
「はい、……え?」

 内の返事が気になった。真剣な調子の後に、何かおかしな物を見た声だ。
何かが弾けた。さっき頭のすぐ横を弾丸が通り過ぎた時に似ている。
だがあの時とは違って頭は痛くならない。
代わりに視界が大きく揺れた。なぜか、地面がせり上がって来る。
不思議でならない。風を切る音も、そのほかの雑音も全て聞こえない。
世界が90度回転したように、地面が上下を走って、そこにヘリがくっついている。
まるで自分が倒れたようだと思った。そんな感覚もないのに。
元の輝きを取り戻しつつあったはずのライトが、また消えようとしている。
今度はゆっくりと、まるで世界全体が暗くなるように。
そういえば、内の声の後に何か聞いた気がする。確かあれは、於保の声だった。
「俺は別にどっちの味方でもないんでね」
於保の手にする銃の先で硝煙がくゆる。内はあまりのことに呆然とするだけだった。
銃の先には、地面に転がる黒木。
その精悍なままの顔の背景で、人工芝が赤く染まり始めていた。
【黒木知宏× 残り19名】
332代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 02:06:46 ID:Ggwd5GWgO
ジョニーが…
333代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 02:22:35 ID:9IvWEe9S0
長文お疲れ様です。ジョニーまで…
それにしても垣内・戸部と内・黒木、両方ともエースの話をしてるのに、
すごい違いだ。この笑いと涙の共演こそマリバトの魅力。
334代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 02:30:46 ID:8eM1WFsbO
じょにぃぃぃい
335代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 02:32:39 ID:BPCquyjY0
ジョ、ジョニー…
336代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 08:53:31 ID:01a3U+02O
ヂョニー…
337代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 09:15:12 ID:nEY3MagLO
ジョニー…
338代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 11:56:09 ID:HSzQ1MOE0
あああジョニーが……
339代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 12:06:21 ID:CF7HQm6h0
うおあぁぁ、ジョニー…

これでいつぞや大塚が言ってた、
「生き残ってマリーンズの誇りを宣言してくれなきゃ困る人」
が、いなくなっちゃったわけですね…
340仮保管庫:2005/12/03(土) 13:26:43 ID:oevFNHea0
職人様乙です。
すいません、重箱の隅をつつくようで申し訳ないのですが◆QkRJTXcpFI 氏に質問です。
>>325最終行の
>>ライトはまた少しだ、け先程より明るい。誰かがギリギリ判別できた。
の”少しだ、け”は”少しだけ、”か句読点無しに直した方が良いでしょうか?それともそのままのほうが
良いでしょうか?とりあえず今のままで保管しておきました。
341私の声が聞こえますか(1/2) ◆vWptZvc5L. :2005/12/03(土) 16:14:31 ID:TloEcAHW0
「…うん、一応予備は持ち歩いてたんだよね。
 参っちゃうね、これで今年2回目だよ。昨日もそうだったしさ。
 シーズン中にサヨナラヒット打ったときにも1回壊されてるだろ。
 もうちょっと手加減して欲しいよなぁ……メガネって結構高いんだからさ」

ユニフォームの裾でメガネを拭きつつ、初芝は話しかける。
傍にいるのは相づちも返事も返ってこない相手。
血の気の失せた顔は、端から見れば眠っているのか死んでるのかわからない。
出血は治まってきているのに、はっきりと見て取れる衰弱。
それでも毛布の下の腕を触れば、弱くとも確かに脈打つ生命の証。
堀幸一は生きている。まだ望みは捨てていない。

人間の五感の中で最後まで残っているのは聴覚だという。
たとえ心臓が止まっても、聴覚だけは体の全細胞が死滅するまで働いているのだ。
目を閉じることはできても、耳を完全に塞ぐことは難しい。
耳に漏れてくる音は意識の奥底にまで入り込む。
花畑に迷い込みかけたが、自分の名前を呼ぶ声を聞いて引き返してきた、
なんていう臨死体験が語られるのも、あながち嘘ではないらしい。
それが本当に何かの助けになるのかはわからないが、
それでも初芝は堀に語りかける。話しているのは、取り留めのないことばかり。
342私の声が聞こえますか(2/2) ◆vWptZvc5L. :2005/12/03(土) 16:15:30 ID:TloEcAHW0
「あ、そういやお前も今年、サヨナラホームラン打ってたよな。近鉄戦だっけ?
 あれはかっこよかったなぁ。『決めてくるよ』の予告付きだもんな」
そう話しかければ、心なしか得意げに微笑んでるように見える。
さっき無死満塁のチャンスを2球で潰した話をしていたときには、
なんとなく嫌そうな顔をしているように見えたのに。

話すことは自然と昔のことが多くなる。
過ぎたことばかり話していると、考えが後ろ向きな気もしてくるが、
これから先のことなんて全く見えないし、それだけ互いの付き合いは長い。
重要なのは話の中身じゃない。まだ逝くなよ、と。
ここにお前を必要としている人間がいるんだから踏み止まれよ、と。
そんな想いが、せめて堀の意識の片隅にでも伝わってくれればという淡い期待。
こんなことを長時間続けていれば、全く反応がないことに挫けそうになる。
返事が返ってこないのが当然のダイレクトメールを一方的に送ってるみたいで。
自分は何をやっているのだろうと、虚しささえ感じる。
もうこのまま目を開けてくれないんじゃないかなんて不安に襲われる。
それでも、そんな雑念を振り払って、初芝はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
堀が目を覚ますときが来るのを信じて。
343代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 17:58:42 ID:8eM1WFsbO
堀様ガンバレ…
344代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 18:01:21 ID:CF7HQm6h0
職人様乙です!コーイチ目を覚まして。゚(゚´Д`゚)゜。
345代打名無し@実況は実況板で:2005/12/03(土) 18:01:58 ID:CF7HQm6h0
>>343
IDに(・ヘ・)
346代打名無し@実況は実況板で:2005/12/04(日) 01:13:12 ID:F4Uv6OWsO
347代打名無し@実況は実況板で:2005/12/04(日) 04:24:41 ID:9vvbxAxz0
職人様乙です。
堀様に関するいいnewsが来るといいなぁ。
348番外 園川一美と愉快なコーチたち24(1) ◆GDAA.BMJxc :2005/12/04(日) 10:20:55 ID:PYRQMxQf0
「はあ・・・。」
吉鶴は扉の前でため息をついた。
「こんなときにわざわざ呼び出されるなんて、どうせろくなことじゃないんだろうな・・・」
ここ数年、自分が残してきたものを考えたら、何のために呼び出されたかは大凡想像がつく。
そう思うと、中に入るのがためらわれた。
「仕方ない、か。」
最悪の事態も頭にいれ、吉鶴は扉をノックした。
「失礼します」

部屋の中では、男が一人机に向かって座っていた。
男は書類に目を通しながら吉鶴に一瞥をくれることも無く、声をかけた。
「まあ、座りたまえ。」
「はい。」
吉鶴は椅子に腰掛けた。
(あれ・・・?)
椅子に腰掛けて視線を上げると、吉鶴はなにか違和感を感じずにはいられなかった。
(ここ、どこだろう?)
知っているはずの部屋なのだが、どうも心当たりが無い。
(マリン・・・じゃないよなあ・・・)
ちらちらと周囲を見回しては首をかしげる吉鶴を尻目に、男は言葉を続けた。
「早速だが本題に入ろう。話というのは他でもない・・・。」
「はい・・・。」
吉鶴は姿勢を正し、放たれるであろう言葉に備えて、腹に力を入れた。
「君を園様会から除名することが正式に決まったんだ。」
「はい・・・って、ええっ!?」
予想と違う、というよりまったく予想していなかった発言に、吉鶴は思わず声を上げてしまった。
その返事を待っていたかのように、男は顔を上げた。
「残念だけど、決まったことなんだ。小宮山と前田も了承しているよ。」
目の前にいるその男は園川だった。

「はあ・・・。ってだからそうじゃなくて!!」
もはや何がなんだか分からなかった。


「・・・はっ!?」
吉鶴は我に返った。
顔を上げて辺りを見回すと、そこは見慣れたマリーンズ浦和寮だった。
「夢・・・か。」
吉鶴はほっと胸をなでおろした。
(俺はいったい何の夢を見ていたんだ・・・)
そんな疑問がふっと浮かんだが、深くは考えなかった。
そんな吉鶴の向こうでなにやら話し声が聞こえた。
「高沢さん、これおいしいよ!!あんこの甘味がしっかりしていて、それでいてくど過ぎない!!」
「いや・・・それはいいんだけど。」
(ああ、高沢さんか・・・。)
先ほど高沢が訪ねてきたことを思い出した。
吉鶴は何をするでもなく、なんとなく二人の会話を聞いていた。
「まだまだあるよ、食べる?」
高沢はうんざりした顔で答えた。
「・・・もういい。・・・それより、中身は見たのか・・・?」
(中身・・・?)
もなかのことじゃないよなあ、と吉鶴は小首をかしげた。
「うーんと、ちらっとね。」
「・・・やはりか。」
「ん、何か言った?」
「い、いや・・・。そうか、見たのか・・・。」
先ほどの表情と一変して、高沢は用心深く周囲をうかがうような顔をしているのだが、
吉鶴はそんなことには気づかなかった。
「やだなあ高沢さん。ひょっとしてそんなに見られちゃいけないものでもあるの?」
「・・・そうか、そこまで知っているのか・・・。それなら・・・。」
荘の一言に、高沢は何かを確信したような表情で、そっと自らの懐に手を忍ばせた。
そのとき―。
―ピピピピピ
携帯の着信音が室内に響いた。
高沢と荘はそろって音がした方を向いた。
「あ、電話だ。」
吉鶴はむくりと起き上がり、自らのポケットから携帯電話を取り出した。
「ちっ・・・。」
高沢は吉鶴をちらりと見ると、小さく舌打ちをし、忍ばせていた手を戻した。
「もしもし。ああ、園川さん。はい・・・。ええ・・・。ああ、もうそんな時間ですね。」
荘はすることが無いのか、残っているもなか中に手を伸ばした。
「そうそう、ちゃんと居ましたよ。何なら代わりましょうか?」

吉鶴の言葉に、突然高沢が立ち上がった。
「そうだ、用事を思い出した。それじゃ!」
高沢はテーブルの脇に置いてあったカバンをひったくるかのようにつかむと、そのまま出て行ってしまった。
「えっ、高沢さん!?」
不意のことだったので、吉鶴は高沢を引き止めることも出来ず、ただ呆然と見送るしかなかった。
荘は驚きのあまり、もなかをのどに詰まらせた。

「はい・・・、それではまた後で。」
吉鶴は電話を切ると、胸をたたきながら、もなかを何とか飲み込んだ荘に、お茶を出しつつ尋ねた。
「大丈夫ですか?」
荘はお茶を飲み干し、一呼吸おいてから答えた。
「ふう・・・。いやあ、突然のことで驚いちゃったよ。」
「そうですか。それにしてもいったいどうしたんですか、高沢さん?」
吉鶴は電話に出ていたので仔細は見てないし、そもそも気絶している間に何がおきていたのかは知らない。
「さあ・・・。あ、きっと・・・。」
「きっと?」
「人に見られちゃいけないを隠していたからだよ、きっと。」
荘の突然の発言に、吉鶴は荘の顔を覗き込んだ。
「え、それって・・・何です?」
「あのうろたえ方。あれはきっと・・・。」
荘はそこでいったん言葉を切った。
「えっちなDVDだね!!」
「はあ・・・。」
本気なのか冗談なのか計りかねる荘の返答に、吉鶴はがっくりと肩を落とした。
そんな吉鶴を無視するかのように、荘はうんうんと大きくうなずきながら続けた。
「ははは、高沢さんもいい年してすみに置けないなあ。」
「・・・さて、と。」

これ以上ついていけないと確信した吉鶴は、荘から視線をそらし時計を見やった。
すでに6時をいくらか過ぎている。
福澤はまだ戻ってこないが、そろそろ館山に帰らないと、夕飯が遅くなってしまう。
それに明日沖縄に行くなら、館山に戻るより園川をこちらに呼ばなければいけない。
「荘さん・・・。」
福澤さんが戻ってこないし、どうしますか?と続けようとしたところ―

「うぎゃああああ!」
突然外で大きな声がした。
二人は驚いて顔を見合わせた。
「荘さん、見に行きましょう!」
「うん!」
吉鶴は扉に向かって駆け出した。
そしてドアノブに手をかけたとき、吉鶴はふっと後ろを振り返った。
そこで、吉鶴は見てしまった。
荘が残りのもなかをポケットにしまっているところを。
(続く)
353 ◆GDAA.BMJxc :2005/12/04(日) 10:26:49 ID:PYRQMxQf0
最初sage忘れてしまいました。すみません
354代打名無し@実況は実況板で:2005/12/04(日) 10:59:03 ID:qp0w5XZt0
職人様乙です!
壮さんに笑ってしまったwwww
続きが気になる…
355代打名無し@実況は実況板で:2005/12/04(日) 11:02:33 ID:0Cb0Ld6F0
これはマリバト史上最高のクオリティですね
356代打名無し@実況は実況板で:2005/12/04(日) 11:29:45 ID:tRI1JUCrO
荘さんもなか食いすぎw
職人さま乙です!
357代打名無し@実況は実況板で:2005/12/04(日) 19:52:20 ID:bSM9kjb+O
保管庫復活おめ保守
358代打名無し@実況は実況板で:2005/12/04(日) 21:22:57 ID:WUCCV8zB0
園様会除名ってどんな夢見てるんだよw
荘さんものん気すぎ
「なんや?」
再び訪れたベンチの中で、目の前の光景に目を疑う。
銃声が幾重にもスタジアム内をこだまし、薮田安彦の耳まで届く。
ホームに対しほぼ横向きに立つヘリコプター。
そのバックスクリーン側の面に隠れるように寄り合う3人の影が見える。
一人が何度もヘリの向こうに体を出しては、遅れて響く乾いた連射音。
その先で、机や機械らしき物の陰から幾人かの頭がのぞくのが見えた。
「撃ち合うとるんや」
そう気づいた時にはベンチを飛び出している。
近づくにつれヘリの手前に隠れた3人の服装が見えてくる。見慣れたユニフォーム。
手にマシンガンのようなものを取り、矢面で応戦するのは黒木知宏であるとわかった。
その後ろには少し細い体の内竜也。
そしてその向こうにいる於保浩己が、ゆっくりと黒木に近づいていく。
薮田は見た。
於保が右手をすっと上げると、その手が黒木の頭に隠れた。
(なんや? 何か持って)
於保の手にチラリと見えた黒っぽい物。まさかと思う。その瞬間、銃声が響く。
その銃声だけがいやに耳に残ると思った。その後に、黒木が力なく地面に倒れこむ。
黒木はそのまま動かない。於保も、それを見つめる内も。
時間が止まったのかと錯覚する。自分までも足を止めてしまっていた。
「ジョニー!」
黒木は動かない。一斉に飛び出す兵士たちが、均衡が破れたことを伝えていた。

「はあぁ、つまらん。 内よ、結局お前もそうなるのか。
 俺はわくわくしてたんだぜ。他人を押しのけてでも奪い取りたい夢ってやつに。
 お前がどうやってそれを叶えていくのか特等席で見たかったのに」
於保がわざとらしいほど最大限のため息をついた。
その前にいる内はずっと空中を見つめている。
ついさっきまで黒木の頭が在ったところだ。今はもうその下方に移動している。
少し顎を下げて首の角度を調節すれば見つけられるのにと於保は思う。
しかし内は動くことができない。"呆然"これほどこの言葉が当てはまる状況は他にない。
「おーい、内? 内くーん? うっちゃーん? たっちゃーん? ありゃりゃ」
手を額に当てて天を仰ぐ。
内は何も答えない。少しやり過ぎたかと思ったが、それもいいかと後悔は感じなかった。
「於保、お前ってやつは!」
そこにドタドタと駆け込んできた兵士たちの中から、筒井良紀が叫ぶ。
一人の兵士が改めて黒木の首に手の平を当てる。筒井に向き直り首を振った。
「よくやった!」
満足げな表情の筒井。快心の笑みだ。
しかしそれに反比例して於保の顔は、急速に白けた様子が濃くなっていく。
「あんたらのためにやったんじゃねェ。勘違いすんな」
もうその目は筒井達を見ていない。
ふと、内が微かに動くのが見えた。
震える手、カタツムリが葉を伝うような速度で空中を進んでいく。
よく見れば唇も瞳も全てが微かに震えている。手が黒木の顔までたどりついた。
「あ、い」
顔に触れ、何かに驚いたように手を引いた。
また試みて、今度は強めに頭を押す。ゴロンと転がり、それだけだった。
「った、のに」
「ん?」
於保が片眉をあげ、耳を内へと近づけた。
「なるっ、いった、のに」
「何言ってんだ?」

腕を抱えて於保が頭をひねる。二三度ポリポリと頭を掻いて、うーむと唸る。
やれやれと小さく呟いたかと思うと、銃をゆっくり持ち上げる。
その先は内のこめかみ。筒井と他の兵士たちがざわめく。
内はその銃を全く気に留めず、ただ黒木に向かって何か呟いている。
「もう、だめになっちゃったなァ」
「止せ!」
慌てて筒井が腕を出す。銃の向きが少しそれ、人工芝の一部が跳ねた。
「お前、自分が何をしとるか分かっとるのか!?」
「別に俺はさ、これは何度でも言うけど、どっちの味方でもないんでね」
銃口が今度は筒井の方を向く。筒井がたじろぐ。
とっさのことに兵士たちも動けない。そのとき、後ろの方から声が飛んだ。
「内をここで殺してしまうとは、勿体ないと思わないかね?」
兵士たちの人垣が割れ、その向こうにいるのはボビー・バレンタイン。
中曽根を連れ立ち、その表情はいつもの悠然とした様そのものであった。
「彼はまだ立ち直ることができるよ」
「ホントか? こんなんなっちゃってるぜ?」
於保がぴしっと内の背中を蹴る。体がなすがままに揺れ、片手をついた。
それでも内は蹴られた方を確かめることもなく、今度は地面を見ている。
「私の観察眼を信じて欲しい。それに今すぐ殺す必要もないだろう?」
「必要? あんたに俺の"必要"がわかるってか?」
於保が少し挑戦的に、舐めつけるようにバレンタインを睨む。
それに対して臆することなく、HAHAHAと笑って彼は右手の人差し指を上げる。
「立ち直れば、君を恨んで狙ってくるかも知れない。それでどうだい?」
姿勢をそのままに、於保の表情が何かを考える様子に変わった。
その条件提示を呑むか、それとも突っぱねるか。束の間の損得勘定。
於保の表情が緩む。含み笑いを含みきれず、声が次々漏れ出した。
「クックッ……気に入らねぇオッサンだな。
 なるほど、いいだろう。あんたの眼とやら、信じてやるよ」
於保が銃を下ろす。場の空気が解け、筒井は安堵のため息を洩らした。
同時に於保とバレンタインに底知れぬ寒気を覚える。
足音が聞こえた気がした。そこに駆けて来る様な、しかし静かな足音を。
それに一番先に気づいたのはバレンタインの傍らにいた中曽根俊。
振り向いた時、既にそこには射程距離に銃を構えた薮田が立っている。

 瞬間、バレンタインの身を中曽根自身の体で隠す。
薮田がくっと悔しそうな顔をした。彼の様子に気づき、その場の全員が振り向いた。
再び動きが止まる。しかしバレンタインだけは、余裕の表情を崩さない。
「私を狙うには、人が多すぎないかね?」
中曽根の陰でチラチラと顔が出る。気づかれている。実は銃口すら向いていないことに。
後方で、じりじりと芝と靴のこすれる音が聞こえる。
照準を合わせるように、代田建紀が微妙に揺れるような動きを繰り返しているのだ。
悔しさだけが残る。
バレンタインの期待の通り、薮田は彼を命の危険にすら晒していない。
中曽根の陰に隠れながら、バレンタインは歩き出す。そこにそびえるヘリコプターへ。
バレンタインはニコッと笑うと、さっとヘリに乗り込んだ。
行くぞと指示を出すと、兵士たちまで動き出した。
「待てや!」
叫ぶ薮田を気にも留めず、後から兵士が幾人か乗り込んでいく。
ヘリの内部のマイクを持つと再び甲高い声と、中曽根の声が聞こえてきた。
「私はここで失礼するよ。ちょっと空中散歩としゃれ込みたいのでね。
 薮田、そこにいる内を頼むよ。ヘリが動くと危ないのでね」
内、さっきからずっと黒木の傍らでしゃがみこんでいる。
何度も確かめるように、確かめたくないかのように、黒木の顔に触れている。
ヘリのプロペラが回りだす。風が当たるのを感じた。
「於保、君も一緒に来ないか?
 ああ代田、君は走ってついてきなさい」
微笑を浮かべて於保はヘリに乗り込んでいく。代田は出口へ走り出した。
「ちくしょう!」
薮田が動き出す。強くなる旋風の中、ヘリのそばの内に駆け寄る。
話しかけても答えない内と黒木の死体、服を掴んで引っ張っていく。
ヘリのプロペラが完全に回りだし、巻いた風でユニフォームが体に張り付く。
安全な距離まで離れたのを待っていたかのように、ヘリは飛び立った。
ゆっくり上昇していくヘリを眺めていると、スピーカーからまた声が流れた。
「薮田! また会うのを楽しみにしているよ!
 そうそう、ここは7時から禁止エリアになるから早く逃げなさい」
「なんやと!」
バックスクリーンの時計は6:40ぐらいを指している。
ここからスタジアムを抜け出し、禁止エリアを抜けるまで間に合うだろうか。
「内、行くで!」
強引に内の体を引っつかむが、力が完全に抜けている。拳を作り、ぶん殴った。
ハッと、目が覚めたように内が薮田の顔を見る。顔がヒリヒリするのに気づいた。
そして、薮田が涙を流しているのも。
「生きなあかん! 今は考えんでいい、走れ!」
「監督。マイク音声を無線で下の放送機材につなぐ作業、完了しました」
通信を終えた兵士が、ボビー・バレンタインに合図を送る。
バレンタインはヘリの窓の下を見ている。
スタジアムにいる筒井達が忙しそうに機材を運んでいたのをずっと見下ろしていたのだ。
「では、臨時の放送を始めようか」

「もっと、はよ走らんかい!」
走り方を忘れたような内竜也の背中を、薮田安彦が何度も前に押し出した。
内は走ろうとしているが、足が上手に回転しないらしい。
一体何があったのだろう。ただおそらく、黒木が関わっているのは分かる。
また死んだ。無力感が体を襲う。丁度、それは今の内と同じなのだろう。
自分の頬を思い切り殴りつけた。自分を信じろ。その言葉が薮田の背中を押していた。
そして、だから自分は内の背中を押していられるのだ。
廊下を走る途中その人の横を通り抜ける。薮田は立ち止まらない。
ありがとうございますと呟いたら、また涙が出た。
 降りていた防火壁が上がっていたため、今度はすぐにスタジアムを出ることができた。
まだ逃げなければいけない。とにかく遠くへ。
うっそうと茂った森は暗闇に包まれとても入れず、出発の時と同じ道を行く。
 プツン。スピーカーのスイッチ音。きっとこの道沿いのどこかにあるのだろう。
耳を澄ましながら、足だけは動かすことを止めない。
「HAHAHAHAHAHA!!」
超音波のような甲高い声が耳をつんざく。一瞬転びそうになるが、なんとか持ち直した。
「ドーモー、ボビー・バレンタインデース!
 ヤマモトカラ、ワターシガカントクデース! ヨロシクネ!
 ソレデハ、キンシエリア、ハッピョシマース。
 19:00,E-5. 20:00,G-2. 21:00,G-8. 22:00,D-5. 23:00,F-4. 24:00,C-2.
 デハ、ガンバリマショー! HAHAHAHAHAMANAHAHA!!」
スピーカーの音が切れる。再び沈黙が訪れた。手持ちの地図を見て、行く先の方向を確かめる。
「必ずや。必ず終わらせたる」
奴らへの逆襲は塵になって消えた。そして今、新たな逆襲を始めるのだ。
 
【逆襲の薮田編 完】
364代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 00:05:48 ID:caktzr6n0
職人様乙です!内くん、薮田、頑張れ(´・ω・`)
365代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 00:29:46 ID:Kea4++Mk0
職人さん乙です。
禁止エリアどうなるかと思ったけど無線放送なんて出来たのか。
薮田も内もがんがれ
366代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 01:11:03 ID:xjG1T09wO
うぉお新作キテター!!!
職人様乙です!!
内も藪田もがんがってくれ(つД`)
367代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 01:11:57 ID:caktzr6n0
最近投下ペースが速くて嬉しいなぁ、職人様乙です
368代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 01:21:15 ID:9cd1aQq50
職人様乙です!
薮田も内もがんがれ!!!!
369代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 01:34:39 ID:LyTjcZbHO
最近クライマックスに向けて急展開ですね
ジョニーも居なくなったし、最後どうなるか読めない!!
毎日ワクテカしながら覗いてます。職人さん乙
370 ◆QkRJTXcpFI :2005/12/05(月) 01:53:39 ID:GuMUVwLL0
仮保管庫さん、しばらくの間ありがとうございました。
この場を借りてお礼申し上げます。
371代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 02:01:19 ID:WAzFfzR1O
◆QkRJTXcpFIさん乙です。
今日のIDは『ガムはロッテ』ちっくでなんか良いですね。
372代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 02:47:09 ID:eElg2agDO
おおー! 職人様乙です!
最近目が離せませんな。
373代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 08:04:32 ID:syYW/FNPO
職人様も仮保管庫様も乙です!
374代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 12:50:02 ID:mvjcU2j3O
薮田ってかっけーなー
でも黒木が於保に殺されていった
375代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 19:09:44 ID:qv7lk2MA0
久しぶりにのぞいたら、あはあぁああんヂョニーがあぁあ
ますますドキムネな展開になってきましたなー
ここの大塚もえれえ格好ええんだよな
なんにせよ職人様、仮保管庫様、乙です
376代打名無し@実況は実況板で:2005/12/05(月) 21:50:06 ID:ZdqwjBXh0
ロッテは韓国企業part5【在日球団】
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1130725294/




流通業界も「独島マーケティング」展開中
ロッテドットコム(www.lotte.com)は鬱陵(ウルルン)島と独島を周回するツアー(2泊3日・24万9000ウォン)をお目見えした。
ロッテ百貨店本店は今月18〜20日、小学生以下の子どもを伴った顧客の中から先着で20人に独島の写真入りタオルを無料で配る。
ロッテマートの全国21か店舗は昨年4月から「独島を愛するTシャツ」を販売している。
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/03/16/20050316000057.html

グループの親会社であるロッテ製菓が韓国内に設立され、食品産業の近代化と国民生活水準の向上に貢献。
1965年には韓国と日本の国交が正常化し、辛格浩会長が母国韓国で初の投資事業であるロッテ製菓は、荒廃した韓国の地に新鮮な活力を与え、韓国食品産業界の改革・推進化において先導的な役割を果たしました。
http://www.lottetown.com/japanese/intro/intro_4.jsp

そして、日本のロッテの「本社」と思っていたものは・・、
http://www.lotte.co.jp/cp_compa.html
韓国のロッテ製菓の「海外支社・東京事務所」だった。
http://www.lottetown.com/japanese/room/room1_1.jsp

さて、オーナーは誰なんでしょう?
http://www.lottetown.com/japanese/intro/
「辛格浩」さん。 
http://www.lotte.co.jp/cp_greet.html
これは日本のロッテのオーナー「重光武雄」さんそっくり…じゃなくて、辛格浩さんは重光武雄さんという日本名も持っている

ロッテがV納会で韓国・済州島入り
http://www.nikkansports.com/ns/baseball/f-bb-tp0-051124-0026.html

ロッテファンはロッテジャイアンツでも応援したら?マスコットもシンボルマークもマリーンズとほぼ同じw
http://www.h6.dion.ne.jp/~k-bb/frame-lg.html
377目を開けて最初に(1/7) ◆vWptZvc5L. :2005/12/06(火) 02:00:05 ID:/hrSj00z0
また一人、敵が増えた。
橋本の辞世、そしてさっきのバレンタインの声を
小野晋吾は頭の中で何度も繰り返す。
湧き上がる憤りと憎悪で胸が熱くなる。
許さない。橋本の味わった苦しみ、お前らにも必ず味わわせてやる、と。
うっかりすれば、そんな黒い感情が勝手に飛び出していきそうだった。
唇をかみ締め、手を固く握って、ぐっとそれを内にとどめる。
行き先を知らない晋吾は、ただ黙って後をついていくばかり。
誰も口を開こうとしない。足取りも重い。
それだけさっきの臨時放送はショックだったんだろう。
もう何を信じていいのかわからなくなる。
一体どれだけの人間がこんな悪巧みに関わっているというのか。
知らないだけであの人もこの人も、と思えてくる。誰もが疑わしい。
自分はあと何人殺せばいいのだろう。

獣道を辿り、山道を進んでいくと一軒の平屋建てが見えた。
最小限の明かりと人影が見える。
「はつしばさぁー─ん!」
その建物を確認するや否や、成瀬がダッシュで駆け出す。
縁側へと向かえば、横たわる堀幸一とその側に付き添う初芝がいた。
成瀬に気づくと、おかえりと声をかける。
「ほりさんは!?」
「大丈夫、無事だよ」
浅間が後からついて来た。堀の側に駆け寄ると、手を取る。
自分の頭を撫でてくれたときと同じ、温かい手。
その手を両手でしっかりと握り締め、ひたすら祈る。
早く目を覚ましてくれるように。
「見つけてきましたよ、O型の人!」
里崎が遅れて晋吾を連れてくる。
状況がよくわからず戸惑う晋吾を、家の中に連れ込んだ。
378目を開けて最初に(2/7) ◆vWptZvc5L. :2005/12/06(火) 02:00:29 ID:/hrSj00z0
「Oだな?」
「…そうです」
「腕だして」
アンダーシャツをめくって左腕を差し出す。
長年の癖なのか、無意識にかばっている商売道具。
また元通りに投げられるとでも思っているのかと、内心自分をあざ笑う。
「貧血とかアレルギーとかないよな?」
初芝がそう尋ねながら往診用バッグの中をあさり、必要な道具を取り出す。
晋吾の二の腕をゴムで締め付けると、青い筋が浮いた。
肘が曲がるあたり、その血管を押さえて脈を確かめる。
「よし、いい血管だ。あぁ、手が冷たいな。誰かお湯沸かして!」
わかりました、と里崎が奥のほうへ駆けていく。
初芝の指示や作業は手際よく、異議を唱える暇すら与えない。
いつのまにか流れ作業のベルトコンベアに乗せられている、そんな感じだった。
「…いるんだよね。血管が細い上に埋まってて、
針を刺してから中でぐりぐりやって探り当てなきゃいけないような奴が」
初芝がそう言いながら消毒液を塗る。その言葉が晋吾の不安を煽った。
「あの、…本当にできるんですよね?」
「だいじょうぶです、おのさん。ちゅうしゃはこわくありません」
初芝の動きをじっと食い入るように見ていた成瀬が話しかけてくる。
「いや、そうじゃなくて……まぁ、そうなんだけど……」
「任せろって。これだけ太くて分かりやすい血管なら僕でもできるよ」
そのあとに初芝がボソッと「たぶん」と付け加えたのを、晋吾は聞き逃さなかった。
サッと血の気が引く。面倒なことに関わるんじゃなかったと少し後悔した。
そんなことにはお構いなしに、初芝はチューブの先端に針をつけている。
チューブは凝固防止剤の入った血液バッグに続いていた。
そのまま針を刺す。指先までピリッと走る軽いしびれ。
チューブをテープで腕に固定した。
その中を赤い液体が伝わっていく。
「大丈夫か? 具合が悪くなったら言えよ」
晋吾が顔をしかめながら頷く。
379目を開けて最初に(3/7) ◆vWptZvc5L. :2005/12/06(火) 02:00:59 ID:/hrSj00z0
「じゃ、あとは水分をしっかりとって」
初芝が飲料水入りのペットボトルを差し出す。
言われたように片手でふたを開け、口をつける。
「この袋がいっぱいになったら、大体400mlなんだ。でもそれだけじゃきっと足りない。
 そこから先はお前がいける範囲で頼む。…な?」
初芝の哀願する眼差しに後ろめたさを感じた。
「お湯、沸きました」
里崎がお湯の入ったたらいを運んでくる。
そのお湯でタオルを濡らして絞る。
ほれ、と初芝がそのタオルで晋吾の腕をくるんだ。
冷えていた腕に温もりが広がる。
「あ、あ…」
礼を言おうとして口ごもる。ありがとう、の一言すらうまく言えない。
なんだか居心地が悪い。ここは自分に似つかわしくない場所だ。
今の自分は人からの恵みを恐れている。奪うことならたやすいのに。
憎しみに重心を置くことで正常を保ってきた精神が、
バランスを失って崩れてしまいそうな気がして。
いや、そんなものに頼らなければならないこと自体、すでに正常ではないのか。
早くここを出て行きたい。
自分はこんな優しさと温もりに満ちた空間にいるべき人間じゃない。
晋吾はそっと目を閉じる。余計なことを考えないように。
左手をゆっくり動かして血液を送り出す、それだけに集中する。
380目を開けて最初に(4/7) ◆vWptZvc5L. :2005/12/06(火) 02:01:44 ID:/hrSj00z0
十分もすれば、塩ビ製の袋は赤い液体で満たされた。
「もういいかな。じゃ、あとは堀の血管を探して…」
初芝が堀の側ににじり寄って左腕をつかむ。初芝の動きが止まる。
見つからない。
手首を、静脈を、再び探りなおす。
焦りで手が湿る。気のせいだと思って、今度は右腕をとる。
見つからない。
そんな。だって、さっきはあったじゃないか。
手だってこんなに温かいのに。さっきと今、何が違うって言うんだ。
「堀…?」
呼びかける。相変わらず反応はない。
何度も腕を触り直すが、やはり見つからない。
脈が見つからない。
里崎が初芝の異変に気づく。
「どうかしま…」
「サト、懐中電灯!」
初芝が怒鳴る。言われるままに手元の電灯を投げ渡した。
堀の左目をこじ開けて照らす。

開きっぱなしの瞳孔。

「初芝、さん…?」
里崎が不安げに聞く。おそらくは何が起きたのかを察した様子で。
初芝が顔を上げる。電灯を持つ手が、肩が、唇が、全身が震えている。
事実を告げようとしても、言葉が出てこない。
代わりに左右に首を振るのが精一杯だった。
381目を開けて最初に(5/7) ◆vWptZvc5L. :2005/12/06(火) 02:02:26 ID:/hrSj00z0
その一連の動きを浅間は空言のように見ていた。
初芝が堀の手首をつかみ直した時点で、すでに悟った。
初芝が首を振るのを見て、確信に変わった。
自分の手を見れば、爪先にまだ残る血の跡。
これは人殺しの手。洗っても消えない人殺しの証。
爪先に残るわずかな黒い血の塊が浅間に訴えかける。
お前は人殺しだと。お前が堀の一生を奪ったのだと。
指先が震えだす。やがてその震えは全身に広がる。涙は出てこない。
代わりにに何か大きな塊が喉元にこみ上げてきてつっかえる。
声にならない謝罪を口にすると、その塊は破裂した。
それと同時に堰を切ったように溢れ出す涙。漏れる嗚咽。

周りを取り巻く空気が変わったのを感じて、晋吾は目を開ける。
最初に目についたのは堀の側で慟哭する浅間。
その姿は橋本の側で泣いていた数時間前の自分に重なる。
何が起きたのかなんて、すぐにわかった。
そっと針を抜き、チューブの先をきゅっと縛る。
もうこれは必要なくなった。
ならば、ここで自分のすべきことはあと一つ。
あの泣きじゃくる浅間を問いただす。
382目を開けて最初に(6/7) ◆vWptZvc5L. :2005/12/06(火) 02:03:05 ID:/hrSj00z0

「浅間」
晋吾が浅間に近寄って、肩をつかむ。
「約束だ、教えろ。あのチェーンソーは誰が持っていた」
浅間が涙を浮かべ、怯えきった目で晋吾を見る。
まともな言葉なんかしゃべれなかった。
出てくるのは嗚咽ばかり。うつむいて首を振る。
「答えろ、浅間!」
つかんだ肩を激しく揺さぶってきつく浅間を責め立てる。
その様子を見かねて里崎が間に入る。
「やめてください!かわいそうじゃないですか」
里崎の目にもうっすら涙が浮かんでいる。
晋吾はそれに構わず浅間を責め続ける。
その目に涙はない。浮かんでいるのは別の情念。
「浅間!」
晋吾が怒鳴る。
「……か…」
しゃくりあげる音に紛れて、浅間がやっとの思いで声を絞り出す。
「…な…ざ……わ……」
浅間を揺さぶっていた晋吾の手が止まる。
それは今も耳について離れない、橋本の辞世と同じ忌まわしい名前。

何故。何で金澤なんだ。
あいつを殺したのが金澤なら、なんであいつは金澤の持ち物なんか持ってたんだ?
それはあいつと金澤が以前にどこかで会ったということか?
もしかしたら行動を共にしていたのかもしれない。
そして別れた。おそらく円満ではない理由で。
そして金澤はあいつを憎んだ。
あの時自分が無傷で、あいつは死ななければならなかったのは、
金澤が故意にあいつを狙ったから。
橋本が今際の際になって金澤の名の口にしたのは、
おそらく自分が狙われていることをわかっていたから。
383目を開けて最初に(7/7) ◆vWptZvc5L. :2005/12/06(火) 02:03:39 ID:/hrSj00z0
浅間の一言を礎にして、仮説と記憶の断片がひとつの像を作り上げていく。
「金澤、か? 金澤なんだな!? いつ、どこで見た!?」
「晋吾さんっ!」
なおも責め立てる晋吾を里崎が強引に引き離す。
「…もういい。それだけわかれば十分だ」
晋吾は里崎の手を振りほどくと、自分の荷物をさっさとまとめて立ち上がる。
「どこ行くんですか!?」
「関係ないだろ」
里崎の呼びかけも軽くあしらい、外へ向かって歩き出す。
縁側まで来ると、立ち止まって振り向いた。
「浅間、俺も一つ教えてやるよ。将を殺したのは金澤だ」
その一言を吐き捨てて、晋吾は表へ飛び出す。
「ちょっ、晋吾さん!」
駆け出す晋吾の背中に里崎が呼びかける。
同時に嫌な予感がよぎった。
橋本と晋吾がよくバッテリーを組んでいたのは知っている。
最初に見たときから、どことなく晋吾の様子がおかしいのも感じてた。
あの人は何をしたいのか。どこへ行こうとしているのか。
今の一言は何を意味するのか。
あてはまる答えはひとつしか浮かばない。
「俺…っ、連れ戻してきます!」
いてもたってもいられず、里崎は闇の中へ駆け出した。

【5堀幸一× 残り18名】
384代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 02:10:17 ID:2lS2w3PH0
職人様乙です!
堀が…ぁぁぁ。・゚・(ノД`)・゚・。
385代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 02:12:05 ID:OBKDdzY2O
職人様乙です

うわぁぁん!幸一ぃー!!!!!!。゚(ノД`)・゚。
386代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 02:57:45 ID:q6jxNVHF0
職人さん乙です。
初様に和んでたら堀が…orz
387代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 06:03:18 ID:1YFFZvLGO
堀さんカワイソス・・・
職人さん乙。正座して楽しみに続きをまってます
388代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 08:22:33 ID:dDbH1H+vO
職人さん乙です。
やっぱりこうなったか…堀様…(ノД`)・゚・。
浅間はこのあとどうするのかな、晋吾は大丈夫なのか、貧血で倒れたりしないだろうか…
389代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 13:09:29 ID:j+k+/3HU0
自分の心境は完全に>>386ですな
390代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 15:23:55 ID:CcluEuAvO
エカの最期の放送時に突撃を試みた小宮山はいかに。。
391代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 15:29:57 ID:j+k+/3HU0
ごめん389だけど、職人さん乙と言うのを忘れてた

職人さん乙
392代打名無し@実況は実況板で:2005/12/06(火) 23:11:00 ID:cnwRRwqo0
元ちとせの「語り継ぐこと」聴いてたら
地味様・正人→今江
福浦→今江
ジョニー→内
っていうくだりとやけにリンクして泣けてきた…。゚(ノД`)・゚。


消さないで あなたの中のともしびは 連なりいつしか 輝くから
今日の日の空を 受け継いで それを明日に手渡して
393代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 03:08:55 ID:ImQDEYnuO
わざとらしいお涙頂戴はいかんのう
394代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 11:01:10 ID:sfVxRE9I0
ロッテは韓国企業part5【在日球団】
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1130725294/




流通業界も「独島マーケティング」展開中
ロッテドットコム(www.lotte.com)は鬱陵(ウルルン)島と独島を周回するツアー(2泊3日・24万9000ウォン)をお目見えした。
ロッテ百貨店本店は今月18〜20日、小学生以下の子どもを伴った顧客の中から先着で20人に独島の写真入りタオルを無料で配る。
ロッテマートの全国21か店舗は昨年4月から「独島を愛するTシャツ」を販売している。
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/03/16/20050316000057.html

グループの親会社であるロッテ製菓が韓国内に設立され、食品産業の近代化と国民生活水準の向上に貢献。
1965年には韓国と日本の国交が正常化し、辛格浩会長が母国韓国で初の投資事業であるロッテ製菓は、荒廃した韓国の地に新鮮な活力を与え、韓国食品産業界の改革・推進化において先導的な役割を果たしました。
http://www.lottetown.com/japanese/intro/intro_4.jsp

そして、日本のロッテの「本社」と思っていたものは・・、
http://www.lotte.co.jp/cp_compa.html
韓国のロッテ製菓の「海外支社・東京事務所」だった。
http://www.lottetown.com/japanese/room/room1_1.jsp

さて、オーナーは誰なんでしょう?
http://www.lottetown.com/japanese/intro/
「辛格浩」さん。 
http://www.lotte.co.jp/cp_greet.html
これは日本のロッテのオーナー「重光武雄」さんそっくり…じゃなくて、辛格浩さんは重光武雄さんという日本名も持っている

ロッテがV納会で韓国・済州島入り
http://www.nikkansports.com/ns/baseball/f-bb-tp0-051124-0026.html

ロッテファンはロッテジャイアンツでも応援したら?マスコットもシンボルマークもマリーンズとほぼ同じw
http://www.h6.dion.ne.jp/~k-bb/frame-lg.html
395代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 12:02:54 ID:4Q4xrP3p0
ロッテは韓国企業part5【在日球団】
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1130725294/




流通業界も「独島マーケティング」展開中
ロッテドットコム(www.lotte.com)は鬱陵(ウルルン)島と独島を周回するツアー(2泊3日・24万9000ウォン)をお目見えした。
ロッテ百貨店本店は今月18〜20日、小学生以下の子どもを伴った顧客の中から先着で20人に独島の写真入りタオルを無料で配る。
ロッテマートの全国21か店舗は昨年4月から「独島を愛するTシャツ」を販売している。
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/03/16/20050316000057.html

グループの親会社であるロッテ製菓が韓国内に設立され、食品産業の近代化と国民生活水準の向上に貢献。
1965年には韓国と日本の国交が正常化し、辛格浩会長が母国韓国で初の投資事業であるロッテ製菓は、荒廃した韓国の地に新鮮な活力を与え、韓国食品産業界の改革・推進化において先導的な役割を果たしました。
http://www.lottetown.com/japanese/intro/intro_4.jsp

そして、日本のロッテの「本社」と思っていたものは・・、
http://www.lotte.co.jp/cp_compa.html
韓国のロッテ製菓の「海外支社・東京事務所」だった。
http://www.lottetown.com/japanese/room/room1_1.jsp

さて、オーナーは誰なんでしょう?
http://www.lottetown.com/japanese/intro/
「辛格浩」さん。 
http://www.lotte.co.jp/cp_greet.html
これは日本のロッテのオーナー「重光武雄」さんそっくり…じゃなくて、辛格浩さんは重光武雄さんという日本名も持っている

ロッテがV納会で韓国・済州島入り
http://www.nikkansports.com/ns/baseball/f-bb-tp0-051124-0026.html

ロッテファンはロッテジャイアンツでも応援したら?マスコットもシンボルマークもマリーンズとほぼ同じw
http://www.h6.dion.ne.jp/~k-bb/frame-lg.html
396代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 18:01:52 ID:CwZg0wqMO
保守
397太陽を落としたのは誰(1/6) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/07(水) 22:48:22 ID:u9+mMFNa0
(スタジアムはまだなのか…!)
 逸る気持ちを抑えきれず、小宮山は走りながら舌打ちをする。
 動かない体をむりやり動かしている。そんな感覚だった。
 それでも前に進まなければいけなかった。
 何かが―スタジアムで起こっている。
 チャンスかもしれない。
 もしかしたらこの手で何もできないかもしれない。
 それでも、行くのだ。

『せめて、この状況の中で足掻くんだ』

 雨の中、杉山に言った己の言葉を不意に思い出す。
 たった数時間前のことが、随分と遠いことのように思えた。
 あのとき彼は、自分の言葉を聞き、自分を見ていたのに。
 今はもう、すべての感覚を奪われてしまった。

 もうこれ以上犠牲を増やすわけにはいかない。
 こんな自分に何ができるのかと考えても、答えはきっと出てこない。
 ただ、走って、スタジアムに着いて、このばかげた行為を破壊する『何か』をするのだ。

 あきらめることすら、あきらめよう。
 俺はいつまで経ってもかっこ悪いままでいい。さっきのように、泥水を飲めばいい。
 足掻け。最後まで。―最期まで。
398太陽を落としたのは誰(2/6) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/07(水) 22:49:33 ID:u9+mMFNa0
 一心不乱に走っていた小宮山の視界に、花火のようなものが入った。
「何だ…?」
 一瞬、自分の錯覚かと思い小宮山は足を止め目を凝らす。
 しかしそれは疑いようのない光景だった。
 花火が上がっている。
 ヘリコプターの音もする。
「スタジアムはあそこか…!」
 花火がちょうど狼煙のような役割を果たし、小宮山はその方向へと急いだ。
 そして、ひとつの疑念が頭にのぼる。

「なんでこんなことを…?」

 先ほどの放送を聞いた限りでは、恐らく山本の身に何かあったような印象を受けた。
 だからこそ、小宮山はそこに隙を見付けようとスタジアムを目指していたのだ。
 しかし今の花火、ヘリコプターという『演出』は何なのだろうか?
 所謂「監督」がそのような目に遭っているときに、何故こんなことを?

 息を切らせながら、さまざまな可能性を考える。

「まさか――――」

 この島の外から、誰かが来たのではないか?
 そして小宮山には思い当たる人物がいた。
 派手な演出が好きな『彼』を。

 ふるふると首を振り、小宮山はスタジアムの方向へ駆けて行った。
399太陽を落としたのは誰(3/6) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/07(水) 22:50:55 ID:u9+mMFNa0
 ―1998年、7月7日。
 グリーンスタジアム神戸。
 あとひとりで、マリーンズ久々の勝利。
 祈るようなファンの姿。
 マウンドには、黒木知宏。
 
 彼は魂を込めて、投げた。

 しかし、プリアムの打球は、すべてを打ち砕いた。
 勝利の瞬間を。黒木の魂を込めたボールを。ファンの必死の祈りを。
 マウンド上で号泣する黒木の姿を、小宮山は今でもはっきりと覚えている。

 自分を師匠と慕ってくれた。
 責任感の強い男だ。
 皆から愛される、太陽のような存在。
 決して器用な男ではない。
 でも、そこが憎めないのだ。

(…なんであいつのことを急に思い出したりしてるんだ…?)

 先ほどの『彼』のことを思い出しているうちに、不意に小宮山は自分のチームメイト―
黒木知宏のことを思い出していた。
 彼と合流できればと思っていた。きっと彼なら、このばかげた戦いを終わらせてくれると
思っていた。
(何かの虫の知らせかもしれない。スタジアムに行けば、あいつがいるのかもしれない)
 小宮山はそう直感した。
 
 それはちょうどスタジアム内で於保の右腕が、すっと上がった瞬間と同時だった。  
 
400太陽を落としたのは誰(4/6) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/07(水) 22:52:44 ID:u9+mMFNa0
 走り続けている体には限界がある。喉の渇きが限界まで来たときに、小宮山はボトルを
取り出して水をガブリと飲んだ。走りながらの行動のため、乱暴な流れで喉に入っていく。
 彼は勢い良く喉に入っていく水の感覚を掴んでいた。
 
 ―どんなに精神的に追い込まれていても、本能っていうのはきちんと働くんだな

 自分一人が生に執着しているような気さえして、小宮山は悲しげに微笑んだ。
 
 いっそ、もう狂えてしまったら楽なのに。

 そんな考えさえよぎってしまう。

 しかし、それは許されなかった。
 彼自身が、それを許さなかった。

 贖罪。

 杉山を精神的に追い詰めてしまった、その責任の所在を彼は自身に認めた。
 彼を追い詰めておいて、自分一人狂えてしまったらと楽な方へ逃げることを、
小宮山は許すことができなかったのだ。

「見えた!」
 スタジアムが完全に視界に入った。
 コルトガバメントをぎゅっと握り締めた。
 それと同時に、耳が割れんばかりのヘリコプターの音が聞こえた。
「今度は何だ?!」
 空を見上げると、スタジアムからヘリコプターが飛び立っていくのが見えた。
 目を凝らしても、誰が乗っているかなんて解らない。歯痒い気持ちで、小宮山は
そのヘリコプターを見ていた。
 
401太陽を落としたのは誰(5/6) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/07(水) 22:54:39 ID:u9+mMFNa0
 もしかしたら何かの手がかりがあるかもしれないと一縷の望みを胸に、小宮山は
意識をヘリコプターからスタジアムの方へ戻した。
 足を一歩踏み出したとき、幻聴が聞こえた。

「HAHAHAHAHAHA!!」
「ドーモー、ボビー・バレンタインデース!
 ヤマモトカラ、ワターシガカントクデース! ヨロシクネ!
 ソレデハ、キンシエリア、ハッピョシマース。
 19:00,E-5. 20:00,G-2. 21:00,G-8. 22:00,D-5. 23:00,F-4. 24:00,C-2.
 デハ、ガンバリマショー! HAHAHAHAHAMANAHAHA!!」

 先ほど小宮山が思い浮かべた『彼』の声である。
 ボビー・バレンタイン。彼が山本に替わり新しい監督に…。
 禁止エリアは19:00,E-5. 20:00,G-2. 21:00,G-8. 22:00,D-5. 23:00,F-4. 24:00,C-2.…
 ………
「そんなバカな…!」
 今のは幻聴などではなかった。すべて現実だ。
 これで辻褄が合った。
 先ほどの放送で山本の身に何かがあったのだろう。
 そして万が一のために、ボビーがその代行を務めることになっていたのだろう。
 小宮山はそう考えた。
 しかし、それでも信じられずにいた。
 彼はこのチームを愛していた筈だ。それなのに、何故こんなことへ加担しているのだ?
 さまざまな疑念が渦巻く。
 そして小宮山はふっと気づく。
「E-5…。ここじゃないか!」
 もうここは用済みと判断されたのだろう。小宮山は唇を噛んだ。何も、何もできなかったと。
(ここを出ることを最優先にするんだ! ここで何もできなかったら、他のところに行くまでだ!)
 ここが禁止エリアになるまであと20分ほどだ。時間がない。
 余裕がなくなって、辺りを何故かキョロキョロと見回してしまった小宮山の視界に、
ユニフォームの白が目に入った。 
402太陽を落としたのは誰(6/6) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/07(水) 22:56:24 ID:u9+mMFNa0
 小宮山はじっとその人影を見つめる。
 先ほどの虫の知らせではないが、その人影が黒木ではないかという期待を込めて。
 
 先頭を歩いている―正確には走っているようだが、とてもそうは思えない状態だった―のは
恐らく今年のルーキー・内竜也だろう。幼い少年のようなあどけない笑顔が、なんとなく印象に
残っているが、今の彼は放心状態のような、既に魂の抜けた何かになってしまっているようだった。
 その背中を押しているのは―。

「薮田!」
 思わず声を出してしまう。無防備かと思ったが、彼はそんなことをする男ではないと思いなおした。
 声をかけられた薮田は驚き、素早く辺りを見回した。そして小宮山の姿を見つけると、いつもの
泣きそうな顔が一瞬だけもっと泣きそうな顔に変わった。
 そっと近づいていく。コルトガバメントは、後ろのポケットにしまいこんだ。
 小宮山は何か違和感を抱いていた。
 放心状態の内と、薮田。薮田は何かすまなさそうな表情すら浮かべている。
 一歩一歩近づくたびに、それは違和感から驚き、そして絶望に変わった。
 灰色から徐々にどす黒くなるような気味の悪いグラデーションのように。
 表情を失ったかのような内の背中に、薮田の腕が触れていた。
 
 そして―――。

「…おい…」

 薮田が必死に連れてきたのは、内だけではなかった。
 黒木もそこにいたのだ。
  
 ただもう、彼の魂はそこに宿ってはいなかったけれど。 
403代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 22:59:49 ID:2oEbVL8mO
はじめてリアルタイム投下に遭遇できました。

職人さん乙です。

ガンガレ、小宮山!
404代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 23:14:49 ID:NZuMvcf10
職人さん、乙です。
小宮山×薮田×内…これからどうなるんだろう…ドキドキ
405代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 23:27:13 ID:nfJpw2IW0
うおおおおリアルタイム投下ってすげードキドキするー!!
職人様ほんと乙です!

いまさらだけど小宮山と初芝が生き残ってるのがなんかすごい
406代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 23:37:02 ID:CwZg0wqMO
職人様乙です!
ドキドキの展開だ…。
407代打名無し@実況は実況板で:2005/12/07(水) 23:57:08 ID:VITmOGA00
>いつもの泣きそうな顔が一瞬だけもっと泣きそうな顔に変わった。
うわぁ、目に浮かぶようだ…。職人さん、乙です。
408代打名無し@実況は実況板で:2005/12/08(木) 00:13:33 ID:51AZBK2wO
職人様乙です!
ジョニーとコミさんの合流を楽しみにしてた者にとっては、
凄く切ない展開だ…。・゚・(ノД`)・゚・。
409代打名無し@実況は実況板で:2005/12/08(木) 00:51:30 ID:QN450NzYO
職人様待ってました!
>いつもの泣きそうな顔が一瞬だけもっと泣きそうな顔に変わった。

自分もここ好きだなぁ…乙です。
…でも時間とか場所が前の薮田の場面と合って無くないですか…?薮田はジョニー置いてスタジアムから出たと思ってたんですけど、自分の思い違い?自分が間違ってたらスミマセン…
読み直してくる。
書いてないくせに生意気言ってスミマセン。
410代打名無し@実況は実況板で:2005/12/08(木) 02:35:10 ID:jyZ/C+in0
時間と場所に関しては問題ないかと

ジョニーを置いていったかについては何も書かれてないみたいだね
411代打名無し@実況は実況板で:2005/12/08(木) 07:12:25 ID:IF+iIVXoO
ここワロスw
412代打名無し@実況は実況板で:2005/12/08(木) 17:16:31 ID:oiFYWgZb0
保守
413代打名無し@実況は実況板で:2005/12/08(木) 18:26:51 ID:k+Zy6Ddc0
>>409>>410
私もそれ思って読み直したんですが、描写ありましたよ。

「ちくしょう!」
薮田が動き出す。強くなる旋風の中、ヘリのそばの内に駆け寄る。
話しかけても答えない内と黒木の死体、服を掴んで引っ張っていく。

とあるので、多分連れて行ったんじゃないかと……
414代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 01:56:28 ID:+xkjwB+ZO
〈´・_・`〉
415代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 12:19:54 ID:dA0aUqMMO
>>414
出てない人キタコレw
416帰れない者たちへ(1/6) ◆vWptZvc5L. :2005/12/09(金) 20:27:59 ID:fUopOREu0
木の枝を振り払い、草を踏み分け小野晋吾は獣道を進む。
行くあてなんかない。ただ闇に導かれるまま。
しばらく行くと、視界の開けた場所に出る。そこから先は切り立つ崖。
下を見下ろす。暗くてはっきりしないが、とても飛び降りられそうな高さではない。
引き返そうとしたとき、立ちくらみがしてその場にうずくまった。
「クソッ、400mlくらいで情けない…」
血を抜いた代償は小さくはないらしい。
もう丸1日以上こんな野外をほっつき歩いてる。食事も睡眠も十分じゃない。
日常生活の中で献血をする、なんていうのより、当然体の負担も大きいのだろう。
とりあえず初芝に言われたことを思い出し、荷物の中から水を取り出す。
まだアンダーシャツをめくったままだった左腕を見てぎょっとした。
出血こそ止まっているものの、針跡には血がたまって膨れ上がり、
その周りは暗がりでも確認できるほど内出血が広がっている。
刺し方が悪かったのか、直後に動いたせいなのか。
そんなものを見ていたら余計にめまいがしそうで、すぐに袖を下ろした。
水をがぶ飲みしてから、身体を丸めてじっとめまいが治まるのを待つ。
飲んだ水がすぐ血に変わるわけでもないだろうが、こんなの一過性のはずだ。
(何やってんだよ、俺は…。適当なところで具合悪いふりでもすりゃよかったんだ。
 あんな素直に協力して、バカじゃないのか)
きっと、あれだけ気遣われたことで変な情を持ってしまったのだ。
血だけさっさとよこせと言わんばかりに、ぞんざいに扱われればそんなことも――

「晋吾さん」
頭上から声がして、顔を上げる。
いつの間に近寄ってきていたのか、気がつけばそばには里崎智也。
「…何しに来た」
「迎えに来ましたよ」
「帰れ」
「具合悪いんじゃないですか? しばらくは大人しくしてないと。一緒に帰…」
「ひとりで帰れ!」
手を差し延べてもかたくなに拒まれる。
里崎の嫌な予感が現実味を帯びていく。
417帰れない者たちへ(2/6) ◆vWptZvc5L. :2005/12/09(金) 20:28:22 ID:fUopOREu0
「…変なこと考えてませんよね?」
恐る恐る切り出す。どうしても確認しなければならないことがある。
「将の敵を討とうとか、考えてませんよね…?」
「……」
晋吾は否定も肯定もしない。里崎に無言で視線を送る。
だったら何だ、という開き直りさえ感じさせる目で。
「復讐なんて全く意味のないことなんですよ…?
 そんなことやってたら、向こうの思う壺ですよ!
あなたが金澤を殺せば、また誰かが金澤の敵を取りにあなたを殺す。
 それじゃ、いつまでたっても終わらないじゃないですか」
晋吾はまたうつむいて、頭を抱え込む。
里崎にうるさいと言わんばかりの態度。それともそれだけ具合が悪いのか。
これは長期戦になりそうだと踏んで、里崎も座り込む。
「聞いてんですか!?」
晋吾の腕を掴んで、強引に引き剥がす。
「おまえは…」
晋吾が口を開く。目線は下を向いたまま。
「見てないから、そういうことが言えるんだ。
 ……目の前で殺されてみろよ。そんな正論、全部吹っ飛ぶぞ」
足元の土をぎゅっと手でつかむ。手のひらに伝わってくる湿った土の感触。
この冷たさはあのときの橋本の血の通わぬ肌と同じ。
「将は熱出してて、フラフラで……なのに金澤はわざとあいつを狙った。
 同じ場所にいた俺が無傷だったのがいい証拠だ。
 俺はあいつが死んでいくのを、何にもせずにただ見てた。
 初芝さんみたいに怪我を手当てするでもなく、
 宏之みたいに金澤を追うでもなく、ただ…見てるだけしかできなかった」
強く握った拳からぱらぱらと土がこぼれ落ちる。
独り言でも呟くように、晋吾は心のうちを吐露していく。
418帰れない者たちへ(3/6) ◆vWptZvc5L. :2005/12/09(金) 20:28:44 ID:fUopOREu0
「俺、悔しいよ……なんで将が死ななきゃなんねぇんだよ…。
 あいつが何したって言うんだよ。絶対許せねぇ…。
 金澤も、山本さんも、コーチ陣も、ボビーも、こんなこと考えたヤツも。
 一人残らず殺してやりたい。みんな憎い。……憎いッ!」
握った土を地面に叩きつける。
再び身体を丸めなおす晋吾の肩が震えている。
痛々しいな、と里崎は思う。この人にはこの人の事情があるのだ。
けれども、それを認めてしまうわけにはいかない。
誓ったのだ、四郎に。死なせない、殺させないと。
「…許せないならなおさら、そんなことやめなきゃ。
 そんなことしたって将は帰ってこないんですよ?」
晋吾は相変わらず里崎と目を合わせず、うつむいている。
黙ったまま、土を掴んではこぼすを繰り返す。
「やめたら帰ってくるのか…?」
その手を止めて里崎に掴みかかった。
「やめて帰ってくるなら喜んでやめる。なぁ、帰ってくんのかよ…?
 帰ってくんのかよっ!? なら返せ…今すぐ返せ! 将を返せっ!!」
やり場のない怒り。里崎に当たり散らしたってどうなるわけでもない。
頭でわかっていても、ぶちまけずにはいられなかった。
掴み掛かる晋吾の両手首を、里崎がつかみ返して止める。
「なんでそんな過去にばっか縛られてるんですか!?
 人は『今』を生きなきゃ駄目なんです! 悲しくても、辛くても、今を生きなきゃ…っ!
 それが死んでいった人への、…今を生きられない人への、報いなんです。
目、覚ましてください。今のあなた見たら将が泣きます。
将はそんなこと望まない。…そうでしょう?」
晋吾の目を真っ正面から覗き込み、手首を強く握って叱り飛ばす。
里崎の強い口調と真っ直ぐな目に晋吾がおじけづく。
里崎のユニフォームから手を離すと、またうつむいて頭を抱え込んでしまった。
419帰れない者たちへ(4/6) ◆vWptZvc5L. :2005/12/09(金) 20:29:14 ID:fUopOREu0

「…わかってるよ。わかってても、どうしようもないんだよ!
憎い、悔しい、殺したい、…一旦そう思い出したら止まらない。他のことが見えなくなる。
俺はもう恨まなきゃ生きていけない、憎まなきゃ前に進めない。
それをやめたらもう俺は……死ぬしかなくなる」
他人に牙を向くことをやめたら、その牙はどこへ向かうのか。
そんなの自分しかあり得ない。きっと無力だった自分を責め続ける。
あんなところに留まらなけりゃ…とか、無理してあいつを連れまわさなけりゃ…とか。
ずっと責めて、責めて、最後は自分で自分を潰すのが目に見えている。

「…ほら、帰りましょう?」
うなだれている晋の背中をぽんぽんと叩く。
「邪魔すんな、さっさと帰れ」
動こうとしない晋吾。晋吾をじっと待つ里崎。
どこまで行っても交わらない平行線。
「晋吾さん…」
「死にたいか!」
里崎の腕を振り払らう。
「…殺すぞ」
低い声で呟く。
「邪魔すんなら、おまえも殺す」
里崎をキッと睨みつける。脅しか、それとも本気か。
それでも里崎は怯まず、その目をそらさない。
「そんなこと言っても無駄です。晋吾さんを連れ戻すまで、俺は帰りません」
その言葉を受けて、晋吾は黙る。
420帰れない者たちへ(5/6) ◆vWptZvc5L. :2005/12/09(金) 20:29:43 ID:fUopOREu0
しばらく考え込んだ後、口を開いた。
「…わかった」
晋吾がひざを抱えていた両手を解く。
ああ、やっとわかってくれた、と安堵した瞬間、里崎の背中が地面に叩きつけられる。
「っ!?」
一瞬、何が起きたかわからなかった。
晋吾は突き倒した里崎の身体の上に馬乗りになり、両手を首にかける。
「おまえ、死にたいんだろ…? 死にたいから邪魔するんだろ!?
 なら、殺してやる…ぶっ殺してやる!」
全体重を両手にかけて、里崎の首を締め上げる。食い込む爪が皮膚組織をえぐる。
里崎は晋吾の手を除けようとしてもがく。目の前が眩む。
酸素を失っていく頭の中で、支給品のことを思い出す。あのしびれ薬のついたダーツの矢。
あれを使えばと思いたち、右手をウエストポーチにかける。
ファスナーの音に気づいて、晋吾が里崎の右手を見る。その手にはダーツの矢。
毒針だととっさに思った。左手を首から離してその手を止める。
手を捻じ曲げて矢を奪い取ろうとするが、うまく力が入らない。
採血したばかりだからだろうか。里崎の力に負けて矢を足の近くまで持ってこられる。
ここで刺されたら何もかも終わる。今更、命なんか惜しくない。
けれど復讐を遂げるまで、この体には動いてもらわないと困るのだ。
耐え切れずに右手も首から離した。刺されまいと、左手に加勢する。
体が軽くなった瞬間、里崎は身を翻す。晋吾の上に覆いかぶさって、押さえ付ける。
この矢をどこかに刺せればいい。話しても通じないなら、力ずくで止めるしかない。
晋吾は抗おうとして暴れる。腕をばたつかせるうちに里崎の顎に肘鉄が入った。
「ぐぁっ…」
里崎の手が一瞬緩む。その隙を突いて、矢を地面に突き刺す。
同時に思いっきり足を蹴り上げた。里崎の体が跳ね上がる
虚をつかれた身体は勢いづいて転がっていく。その先は崖。
足から先に宙へ投げ出される。
(やばいっ!)
里崎はすぐさま何かにつかまろうと手を伸ばす。
崖っぷちに生えていた木に手がかかった。
421帰れない者たちへ(6/6) ◆vWptZvc5L. :2005/12/09(金) 20:30:05 ID:fUopOREu0
その枝にぶら下がる形になり、ほっとしたのも束の間、
枝はその体重を支えきれずに音を立てて折れる。
「うああああああああああっ!!!」
悲鳴とともに、里崎が崖から落ちる。どさっと言う落下音。

その音を聞くや否や、すぐに身を起こして晋吾は走り出す。
伸び放題の草を掻き分け、もとの獣道を舞い戻る。
思い出したかのように、また襲ってくるめまい。ふらつく足元。
そういえば熱を出してた橋本もこんな足取りだったよなぁ、とふと思う。
「あいつが俺の身体に乗り移って、やめろって言ってんのかな。ははは…」
出てくるのは乾いた笑い。些細なことなのに、思い出して泣けてくる。
空を見上げれば、少し位置の高くなった月。ひとり、影と泣く十六夜。
今、その崖を落ちていったのは確かに里崎。
でもこれから果てしない闇に落ちていくのは、きっと自分の方だ。
422代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 20:42:07 ID:moDEXTEbO
長編乙です。
里はどうなってるんでしょー(ノД`)・゚・。
423代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 20:42:24 ID:kUSFiwI00
乙です
里崎゚・(ノД`)・゚・
424代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 21:03:36 ID:dA0aUqMMO
職人様乙です!
サト…生きててくれ…。
425代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 21:14:13 ID:e9lZBAuM0
職人さん乙です
里崎も心配だけど晋吾も心配だ…。
426 ◆vWptZvc5L. :2005/12/09(金) 22:01:06 ID:J1AtuaT50
すいません、訂正です。

4/6の中盤
×うなだれている晋の背中をぽんぽんと叩く。
○うなだれている晋吾の背中をぽんぽんと叩く。
427代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 22:08:02 ID:9UyUnuAZ0
職人様乙です!
里崎ぃ…晋吾ぉ…
428代打名無し@実況は実況板で:2005/12/09(金) 22:18:18 ID:7KrLixnY0
ああん里〜っ!どうなるんだこの先、気になる…
429代打名無し@実況は実況板で:2005/12/10(土) 17:54:27 ID:A/8hyedl0
hoshu
430代打名無し@実況は実況板で:2005/12/10(土) 19:51:59 ID:bBnlFk4iO
431番外 李承■と愉快な同士たち23(1/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2005/12/11(日) 01:00:58 ID:B5ZZq9A60
 モニターの中には、力なく倒れる二人の外国人と一人の女。
「ふふふ……とうとう捕えたぞ! さあ、余興の準備を始めなさい!」
パンと手を打って、瀬戸山隆三は部下にテキパキと指示を出し始めた。
そんな中、事情を飲み込めていない一人の兵士が瀬戸山に寄った。
「あの、余興とは……何を始めるのですか?」
「なんだ、連絡不行き届きだな。なに……バレンタインの置き土産を使うのさ」


「オー、ヤリチン……?」
目を覚ましたマット・フランコが見たものは、夢かと見間違う光景だった。
三本の白いロープが前を横切る。それは両端の赤と青の柱に繋がって。
暗闇に浮かぶリング。試合後にWWEを見に行ったときぐらいしかお目にかからない。
目の焦点を手前に合わせると、何やら縦に目の前を通過する何本もの線。
あのガスのせいで、まだ体の感覚がハッキリしないようだ。
徐々にそれが何か分かってきた。鉄の棒だ。
その時彼は初めて自分が大きな檻の中に入れられている事に気づいたのだ。
柵に手をかけて揺らしてみるがビクともしない。
両脇に、同じような檻が2つ並んでいることに気づいた。
右にはベニー・アグバヤニ、左には谷保恵美がうずくまっている。
「オー、ヤリチン!」
彼が叫ぶと、二人は頭を抱えながら起き上がり始めた。
ここにいるのはこの3人だけらしい。
李はあのまま逃げおおせたのだろうかと彼の身を案じてみたが、すぐ考え直す。
どちらかと言えば今の自分の状況の方が不安ではないか。
そんなことを考えていると、カッという音と共に光が目に入る。
リング上が照らされ、どこかかからスピーカーを通した声が聞こえた。


 電話が鳴った。昔懐かしい黒電話にゴテゴテと金の装飾が貼り付けられている。
「もしもし、どちら様で。……なんだ、お前か」
三白眼の男は電話に出ると、相手が瀬戸山と分かり急に横柄な態度となった。
432番外 李承■と愉快な同士たち23(2/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2005/12/11(日) 01:01:22 ID:B5ZZq9A60
「バレンタインはもう着いたんだろう?
 もう少しカメラを増やすように指示は出してるだろうな」
『しかしあの島から大量に映像を送るような設備は……遠距離ですし、技術的にも』
「なんだと? お前、俺がどんな思いで今まで耐えて」
「ほほっ。どうした、息子よ」
ギクッと言う擬態が端から見て分かるほど息子の肩が跳ね上がった。
しきりに汗を拭く。
「な、なんでもありません父さん。業務連絡ですから」
「なら構わんがな。相変らずヒマで死にそうだ、ほっほ」
目の前の大きな画面、そこに映し出されているのはCMBRの地図。
赤い点が幾つか点滅しており、そして一つが消えた。
ソファに体を預ける老人の背中をガクガク震えながら男は見つめる。
 再び受話器に向かうと、男は声の音量を落として話し始めた。
(父さんの機嫌が悪い。息子の俺には分かる。限界だ。
 このままだとお前までとばっちりだぞ、分かってるのかお前は!)
『存じております。それで、ほら、仰っていた老のご機嫌取り。
 余興の準備が整いましたのでご報告をば』
(なんだと! でかした!)
九死に一生を得たような、そんな安堵の顔に一瞬で変わる。
男は胸を撫で下ろした。
「父さん! 実は……お暇でしょうから、父さんのために余興を用意いたしました」
「余興? ほう、お前がか」
リモコンを操っていた老人の手が止まる。
(どうすりゃいいんだ!?)
再び小声で受話器に向かうと、二・三度頷く。
「46chをご覧ください。お気に召していただけるのではないかと」
(本当に、大丈夫なんだろうな! もし余計に機嫌を損ねることがあれば)
『私をご信頼ください。オーナー代行殿もご一緒に楽しまれてはいかがです?』
千葉ロッテ・オーナー代行、重光昭夫は電話を切った。
彼の視線の先に居る老人こと重光武雄は、言われた通りチャンネルを合わせる。
そこに映し出されたのは暗闇に浮かぶリング。
待っていたかのように、その中央をライトが照らした。
433番外 李承■と愉快な同士たち23(3/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2005/12/11(日) 01:01:51 ID:B5ZZq9A60
 スピーカーから流れてきたのは瀬戸山の声であった。
フランコも何度か面識があったので覚えている。
「さあ、それでは楽しい余興の始まりと参りましょう!
 今からお見せするのはズバリ、外国人助っ人同士による激しい肉弾戦でございます!」
高らかな宣言と共に、どこかで聞いたような音楽が流れる。
「WE LOVE MARINES……こんなところで聞くなんて」
谷保は困惑の表情を隠せない様子だった。肉弾戦と聞いたが、正気だろうか。
余興とは何のために行われるのか、その意図すら読めずにいた。
それもそのはずである。一人の老人のご機嫌取りとは夢にも思わない。

 ベニーとフランコのために、瀬戸山の言葉の英語訳までご丁寧に流れている。
それを聞いた途端、二人は驚きと怒りの表情に変わった。
しかしそれに構わず瀬戸山の声は続く。
「ルールは簡単。こちらの用意した選手3人と、そちらとで闘っていただきます。
 勝負はどちらかが戦闘不能になるまで。
 一人でも負けれた時点で、あなたたち3人全員この場で死んでいただく!」
「そんな! 私まで」
そう叫んだのは谷保だった。3人に自分が入っているようだ。勝負になるわけがない。
「恨むなら、君たちを捨てて逃げた彼を恨みなさい」
「俺が、全部、戦う!」
「決めるのはこちらなのですよ」
ベニーの懇願も聞き届けられない。既に谷保の顔に絶望が漂っていた。
「オー、ヤリチン」
「え? フランコさん、なんて」
「オー、ヤリチン……」(訳:どうやら、奴らはスンヨプを捕まえていないらしい。
 彼を信じよう。我々は時間を稼ぐんだ)
フランコが親指を立てて笑って見せると、谷保はいくらか落ち着きを取り戻した。
「オー、ヤリチン!」
「ん、フランコ? ヤリチン? 何を言ってるんですか?」
「彼は、順番ぐらい決めさせてくれ。俺から行かせてくれないかと言っています」
谷保がフランコの言葉を代わりに伝える。
「裏切り者の谷保くん、君には今の言葉が分かると?」
434番外 李承■と愉快な同士たち23(4/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2005/12/11(日) 01:02:13 ID:B5ZZq9A60
「そちらこそ裏切り者の瀬戸山さん。
 あなたにマリーンズへの愛があれば分かるかも知れませんね」
「ふん、何を訳の分からない……。いいでしょう、では1試合目はマット・フランコ!」
フランコの入っている檻の格子がゆっくりと降りる。
檻から出た瞬間、フランコは気づく。周囲を銃を抱えた兵士らしき男達が囲んでいる。
用心深いことだな、と虚勢を張って笑いかけてやった。リングにゆっくり上がる。
「彼に対するのは、この選手でございます!」
リングの向こう側にスポットライトが集まる。フランコは息を飲んだ。
それは闘いなど好まないはずの、彼のチームメイト。
「ネイサン・ミンチー!
 バレンタインの見事な洗脳術で彼は思いのままなのです!」
大きな体を揺すって彼が近づいてくる。
うつろな目。明らかに正常なそれではない。
しかもその右手には猟銃が握られていた。
「武器、持ってる、卑怯!」
ベニーが叫ぶ。それごと引っこ抜かれそうなほど檻が揺れる。
しかし彼のために特別に頑丈に作られた檻は、それでも壊れる様子はなかった。
「ある偉い人は言いました。"私がルールブックです"と」
瀬戸山の声に谷保は膝から崩れ、祈るように顔の前で手を握った。
ミンチーがリングに上がる。猟銃を両手で構えた。
フランコは後ずさった。既に引き金にミンチーの指がかかっている。
額を汗が伝う。
息を細かく、整えるように吐いた。

「試合開始!」

ミンチーが一言、呟いた。
「Big game.(大物だな)」
「オー、ヤリチン!」
一発の銃声が、リングの上に響いた。
435番外 李承■と愉快な同士たち24(1/2) ◆CpgsCDAZJ6 :2005/12/11(日) 01:03:00 ID:B5ZZq9A60

〔丶`J´〕ノ◎<オッス、クルトック(ハチミツをかけた餅)!李承■デス

 悔しく思いまス。私は同士を見捨ててきたのデス。
それでも走らなくてはなりまセン。フランコの最後に言った言葉のためニ。
捕縛されるわけには行きまセン。例え今ここが敵のみの危険地帯としてモ。
「どこだ、どこにいけばいいんだ?」
出口がどこなのかも分かりまセン。灰色の廊下は殺風景で、全て同じ道に見えてしまいマス。
遠くから走ってくる足音が聞こえてきマス。危険デス。
もう駄目かも知れない、そう思った時でしタ。
(スンヨ、こっちじゃ)
囁くような小さな声が、確かにどこかから聞こえてきまシタ。それも英語デス。
慌てて周囲を見回しますが、そこに居るのは私だけでシタ。
(こっちじゃ、早く)
また英語で話しかけてくる声だけがしマス。私はその声のした気がする方向を見まシタ。
「誰?」
(逃げたいんじゃろう。こっちこっち)
その声は天井の近くから聞こえていたのデス。見上げると、そこには通気孔があったのでス。
人間が一人通れるかどうかのサイズ。とても高いところにあり、格子が嵌っていマス。
ガタガタとその格子が揺れたかと思うと、それは外れ大きな穴が空きました。
「勇敢な戦士よ。マリーンズを救いたいのならワシと共に来るんじゃ」
私は驚きました。顔を出した人物は、顔全体を黒い大きなマスクで覆っていたのですから。
「一体あなたは誰ですか?」
「言ってもお前じゃ知らんじゃろうよ。マリーンズと関わりのあった者とだけ言っとく」
足音が迫ってきていまシタ。選択の余地はありまセン。
私が通気孔から顔を出すその男に手を伸ばすと、手を掴んだ瞬間一気に引っ張りあげられましタ。
436番外 李承■と愉快な同士たち24(2/2) ◆CpgsCDAZJ6 :2005/12/11(日) 01:05:43 ID:B5ZZq9A60
凄い力でシタ。掴んだ彼の腕は褐色で、彼がやはり異国の人間であることを知らせていまシタ。
そして私は直感しまシタ、その手のマメはプロ野球の打者の手にできる物に違いありまセン。
あの力は現役の選手のものなのでショウ。
通気孔の入り口に頭を突っ込むと、更に男は私を引っ張り込みまシタ。
中は思ったよりは広く、なんとか私の体でも通れそうデス。
「その格子を戻せるか?」
そう言われて手をお尻の方に伸ばし、格子を元通りにはめマス。
覆面の男がフゥと一息つきましタ。
「騒ぎになってて、なかなか手を出せんでな。
 そうこうしてる内にお前さんだけになっちまった」
「みんなは?」
「どこかに連れて行かれた。どうなったかは知らん。
 ただワシはこれから親玉のところに向かうつもりじゃ。全てを止めるためにな」
私と向かい合わせで、後ろ向きにほふく前進、もとい後進をする彼。
目は覆面の上からでも分かるほど大きく、強い意志を感じマス。
「来るか?」
私は頷きましタ。
彼の肌には幾重にもしわが刻まれているのが見えまシタ。
何十年にも渡り、いくつもの経験を重ねてきた人間の肌でス。
「あなたはもしかして、マリーンズの選手だった方ですか?
 だから私を、みんなを助けようと……」
「ただの老いぼれじゃよ。ワシの名は」
後ろで誰かの声がして、そして通り過ぎていきまシタ。
かと思うと再び声が通り過ぎまス。
それからしばらく私達は沈黙し、向かい合ったまま通気孔の中を進んでいくのでシタ。

【同士5名  ※■は火へんに華】
437代打名無し@実況は実況板で:2005/12/11(日) 01:10:48 ID:JKACi/Uq0
職人様乙です!
初めてリアルタイムで投下に会いドキドキ…フランコどうなるのフランコ、スン様ガンガレ!
438代打名無し@実況は実況板で:2005/12/11(日) 01:32:07 ID:RbtTO4UzO
職人様乙です。
まさかスンちゃんを救った男は、褐色+現役+しわ=もう一人の…
すげー楽しみっす!
がんがれ職人様!
439代打名無し@実況は実況板で:2005/12/11(日) 03:35:53 ID:/4d8SjA/0
スンヨプ面白いなw
440代打名無し@実況は実況板で:2005/12/11(日) 03:55:25 ID:+k/DZpgvO
助っ人達の気になってたからすごく嬉しいです!職人さん乙!
残りの相手はもしかしてあの二人か…
441代打名無し@実況は実況板で:2005/12/11(日) 10:33:25 ID:U3oZjwBkO
職人様乙です
ミンチー…( っД`)
442代打名無し@実況は実況板で:2005/12/12(月) 00:27:37 ID:Kv+a6tOB0
保守
443代打名無し@実況は実況板で:2005/12/12(月) 17:01:27 ID:aBVxwR3iO
捕手
444代打名無し@実況は実況板で:2005/12/12(月) 17:52:31 ID:hgAYkfm80
倉さんとか巌とかまだ出てきてないんだね。ちと意外だった
445代打名無し@実況は実況板で:2005/12/12(月) 19:26:00 ID:Ahv1pyux0
今でも既に出すぎな感じだから
これ以上出て来ても収集つかなくなりそうだ
446代打名無し@実況は実況板で:2005/12/12(月) 22:40:35 ID:2E61ZJab0
まじめな話、選手に殺し合いをさせる[ネタ]とやらが不快でしょうがない。
なんで平気なんだ?ファンじゃないの?
447代打名無し@実況は実況板で:2005/12/13(火) 02:13:38 ID:W0bAJJ9O0
>>444
「倉さんと愉快な解説者たち」
う〜ん・・・。
448代打名無し@実況は実況板で:2005/12/13(火) 08:36:11 ID:FLzNMtJkO
>446
まじめな話、読まなきゃダイジョブ

捕手☆
449代打名無し@実況は実況板で:2005/12/13(火) 12:47:06 ID:3v22NZai0
>>446
同じ事を何度も言いに来るなよ。
ボケちゃったの?
450 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:2005/12/13(火) 13:50:36 ID:BmWHAW0a0
     ∧_∧
    ( `・ω・´)     ∧_∧
    /     \   (    )耐性ないよね〜wwwww
.__| |    .| |_ /      ヽ
||\  ̄ ̄ ̄ ̄   / .|   | |
||\..∧_∧    (⌒\|__./ ./
||.  (    )     ~\_____ノ|   ∧_∧
  /   ヽ だね〜      \|   (    ) 
  |     ヽ           \/     ヽ. ツボったんだけどwww
  |    |ヽ、二⌒)        / .|   | | 相変わらずねーwwwww
  .|    ヽ \∧_∧    (⌒\|__./ /


451代打名無し@実況は実況板で:2005/12/13(火) 13:59:51 ID:0WTkJ0+t0
まじめな話、選手に殺し合いをさせる[ネタ]とやらが不快でしょうがない。
なんで平気なんだ?ファンじゃないの?
452代打名無し@実況は実況板で:2005/12/13(火) 15:23:41 ID:psQ9A2KG0
 
453代打名無し@実況は実況板で:2005/12/14(水) 00:01:57 ID:k3iTirrx0
保守
454代打名無し@実況は実況板で:2005/12/14(水) 12:57:36 ID:nx0e6kWnO
捕手
455代打名無し@実況は実況板で:2005/12/14(水) 18:01:23 ID:rZbZ9t3TO
>まじめな話

保守乙
456代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 00:16:58 ID:wnwVRQXnO
捕手
457代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 02:31:42 ID:gVr9YI7XO
辻捕手
458蜘蛛の糸(1/3) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/15(木) 03:05:56 ID:wnwxsDQZ0
 夜の帳をわずかに開き、自分の前に灯っている薄明るい電灯。
初芝清が堀幸一の傍らに置いていた電池式のランタン。
手を照らす青白い光は冷たくて、浅間敬太にはそれが疎ましくて仕方ない。
ひた隠しにした左手の、しわと爪の隙間の赤黒いかす。こすっても消えやしない。
涙と鼻水とで喉はつかえ、飲み下すたびまた詰まりかける。
息が苦しい。叫び声はいつしかくぐもっていた。
実は全てが夢で嘘じゃないかと自分に説いてみたが、それは嘘だと自分が否定する。
現実は全て左手が教えている。
涙でピントがぼけて手の輪郭はハッキリしない。いつの間にか焦点はその先に移る。
その先に横たわるのは堀の亡骸だった。
(なぜ)
今できることは、それを見ないこと。
現実をそれでも認めるわけにはいかない。
成瀬のように、仲間を平気で裏切る人間を最も忌み嫌っていた。
仲間を殺してしまう人間を。殺めてしまう人間にだけはなりたくない。
それが自分にとって確かなことで。
(なぜ、こんなことに、なったんだ)
自分が悪くなかったその一端だけでも、せめて思い出せないかと記憶を巡らせる。
森の中で堀に再会した。全てはあのときが始まりだった。
堀が里崎を殺すと自分は思っていた。その理由がよく思い出せない。
いや、よく考えれば大した理由などなかったのか。
堀を信じていた。そのはずなのに信じていなかった。
仲間を殺すような人間、信じられるわけがない人間。
憎むべきはそういう人間なのだと分かっていながら、誰がそうなのかは分からず。
信じられる人間を誰一人知らずにいた。
(そうだ)
だから、結局自分は誰も信じていなかったのではないか。
全ての人間を敵としか見ていなかったのではないか。
(一番信じられない奴は、俺自身だったんじゃ)
頭をぐあんぐあんと振る。
「違う」
嗚咽にまみれた喉の奥から、誰にも聞こえない小さな叫びが漏れ出た。
459蜘蛛の糸(2/3) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/15(木) 03:06:25 ID:wnwxsDQZ0
「違うんだ、俺は違う」
自分がそうであるとすれば、全てに説明がついてしまう。それほど怖いことはなくて。
ふと、背中の方から何かが這いずり上がってくる感触を感じる。
砂浜を侵食する波のようで、分かるのはそれに浸ればもう流されるしかなさそうなことだ。
そしておそらくその先にあるのは、自分が最も忌み嫌っていた物。
だから浅間は振り払おうとした。
何度も体を揺らしては、必死で蜘蛛の糸を探す。
(俺にもいる。信じられる奴がいるはずだ)
誰一人として信じられないなんてことはないと手探りに。
ただ無償に信じられる、そんな人間が自分に居るはずだ。
自分はそんな孤独な人間ではないと期待して。
ずっと信じている。それは例えば親友だったり。
『敬太の無事を祈ってるよ』
天を見上げるとわずかにオレンジの残るだけのきれいな星空で。
浅間は目を見開いて、そいつのことを思い出した。
「金澤」
目の前に糸は垂らされた。そして浅間はそれを掴む。
もう離さない。必死で手繰り寄せるのだ。
(あいつは、そうだ)
目の前に浮かんだ金澤岳の姿は、浦和の風景を背に笑っている。
頬が赤いのをからかえば、いつも怒っていたっけ。
マウンドから打者に対峙しても、彼だけは自分に向かい合っていてくれる。
それは捕手として、そして信じられる仲間として。
(あのときも、あいつはいつもみたいに笑ってた)
自分を励ましてくれたことを思い出した。無事を祈ってくれた。
やっと信じられる人間を見つけた。そう思った。
(そうだ、金澤なら)

『浅間、俺も一つ教えてやるよ。将を殺したのは金澤だ』

(あ……)
460蜘蛛の糸(3/3) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/15(木) 03:06:55 ID:wnwxsDQZ0
小野晋吾が今さっき吐き捨てていった言葉が、そこに割り込んできた。
手繰り寄せていたはずの蜘蛛の糸が、今にも切れそうになっている。
必死でもう一度、大事に大事にそれを掴もうとする。
(そんなはずない)
自分は金澤のことを信じていると何度も言い聞かせる。
思い出す。小野は冷たい顔をしていた。誰も信じていない顔をしていた。
(そうだ、どっちを信じるかなんて)
背中にまた何かが這い上がってくる感触を覚える。
おぞましい感触だった。抑え込んでいたものが心に滲んでいく。
「違う、金澤だけは」
小野の言っていることを信じているわけではなかった。
だが、だとしても小野がそんな嘘を自分につく必要もないのだ。
また頭を振った。
「違う。あいつだけは違うはずなんだ。
 そうだ、きっとなにか事情があって、決して金澤が望んで橋本さんを……」

 浅間は走り出していた。
突然のことに驚いた初芝清が呼び止めても、耳には入っていなかった。
小野と里崎の去った道を突っ走っていく。
「違う、違う、違うんだ」
そう呟きながら舗装されない土の道を駆けていく。
暗いでこぼこした道に時折バランスを崩しながら、それでも必死に走った。
金澤がどこにいるかも分からない。
小野や里崎がどこに行ったのかも分からない。
それでも浅間は走らずに居られなかった。
あさまさあぁん――
ずいぶん後ろの方から成瀬善久らしき声。だが足は止まらない。ひたすら走り続ける。
ふと、何かが横を通り過ぎた気がした。彼の横に並ぶ森の中を入れ違いに何かが。
少し首を動かしたが、もう人らしき気配はしない。気を取り直しまた走っていく。
浅間は知らない。それは成瀬の叫び声に呼び寄せられた者。
そして浅間を見過ごした。リストに入れられた人間の幸運だった。
命の残りかすを燃やし続け、サブローは声のした方向だけを捉えていた。
461代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 03:17:20 ID:GeG2xMub0
おぉ、偶然にもリアルタイムに遭遇とは…
職人さん乙です!
462代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 03:54:19 ID:io3kCMzw0
お、新作来てた!職人様乙です。
サブロー、かなり出血してるだろうけど…いつまで動けるんだろう。
463代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 06:05:43 ID:fpnv285oO
職人様乙です!
続きが2323しく気になる…('A`)
464代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 09:33:00 ID:8N0gT9qOO
成瀬くん逃げて逃げてー!!
465代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 10:43:06 ID:j16FxlaC0
職人様乙です!
ま、まさかこの流れでいくとサブローVS初様に!?((((;゜Д゜))))
466代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 23:28:08 ID:U1vStiJC0
成瀬危ない!
467代打名無し@実況は実況板で:2005/12/15(木) 23:29:55 ID:1/tGg9wF0
468代打名無し@実況は実況板で:2005/12/16(金) 11:07:44 ID:yOOI1gCvO
吉鶴捕手
469代打名無し@実況は実況板で:2005/12/16(金) 20:18:49 ID:49READoNO
ディアズ捕手
470きらきら星(1/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/17(土) 02:18:00 ID:+9BWS7vL0
「あさまさあぁんっ! まってー!」
光といえば良い月と星が出ているぐらいだが、それなりに風景は明るい。
しかし森の中の道はそのわずかな光を遮り、足元にあるだろう石も木の根も凹凸も見えない。
膝から下の辺りから急に闇が覆い、まるで底なし沼に足を取られるようだった。
走りながら成瀬善久は前を行くはずの浅間敬太を呼び続けていた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃに潰れた顔の浅間、何かを呟きいきなり駆け出した。
制止する間もなく、気づけば樹の群れの中に消えていった。
そのぐらいで成瀬は気づいた。一人の身ではとても危ない。
初芝清が言っていたことだから間違いないと思っている。
すぐに浅間を追いかけた。すぐに捕まえて戻ってこようと。
使命感に燃え成瀬は駆ける。
足元はかなりおぼつかないが、大きなストライドを狭めてバランスを取りながら加速をつける。
道らしきものは一つしかない。この先には浅間が走っていると考えていた。
「あれ?」
成瀬は気づいた。とっさのことで初芝に指示を仰いでいなかった。
急に不安な気持ちが襲ってきたのを感じた。気づいたのは自分の状況だ。
「いま、ぼくひとり?」
どんどん怖くなってきた。周りには森が茂って、真横の視界は無いに等しい。
やっぱり引き返そうかと考える。
実際、初芝は成瀬に止まるよう声をかけていたが、彼の耳には届いていなかったのだ。
「でも、あさまさんもひとり」
辛い顔の浅間を思い出す。迷いながらも足を止める気にはなれなかった。
それでも葛藤の振り子は時間ごとにどちらかに振れ、引き返したくもなる。
そうこうしている内に少し道が開けてきた。
相変らず足元はほとんど見えないが。左右の茂みの幅がわずかに広くなった。
ゆるやかに曲がるような荒れ道。そこを駆けていく。
と、成瀬は一瞬風を感じた。
足が止まる。
「ん?」
風というより風圧か。何かが顔に張り付く感触がした。
頬を触ってみるが何もなく、それが気のせいであることはすぐ分かった。
ただ、何かを感じたのだけは確かだった。
471きらきら星(2/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/17(土) 02:18:33 ID:+9BWS7vL0
前に続くのは先ほどまでより直進気味の道。
見通しがよく、数十m先まで道が続いていた。その先に見える空、月明かりで星が隠れていた。
浅間の姿は見えない。動く人影すらも見えない。
「ん、ん、んん?」
たった今、自分が感じた風圧がとても気になった。
それが何なのか思い当たらない。初芝に会って以来、思考が上手く噛み合わない気がする。
心は凪いだ海のように穏やかで、満たされているのだが。
それはどこかで感じたような感覚。風圧というよりは、変化した空気そのものかもしれない。
今までいた空気と、それとは異なる質の空気とに境界線があるような。
その境界線を越えた瞬間に風圧のように感じたのではとなんとなく思った。
別の空気の中に入ったのではと感じた時、初めて実感が沸く。
それは寺本四郎に遭遇する直前とよく似ていたのだ。
しばらく忘れていた、周囲への張り詰めた感覚が甦る。
そこに誰かが息を潜めているような、あのとき感じた空気の中にいる。
「あさま……さん?」
成瀬は直感していた。
そこに誰かいる。
気配がどこからするかと言う確かなことではない。ただの勘に近い。
ただ成瀬の全身はそれを感じて、既に歩調はゆっくりとしたものに変わっていた。

「あさまさん、いる、んですか?」
そのとき背筋を走った冷たい感覚に自分自身驚いた。
ここが危ないと本能が告げていた。浅間を探せという意思と裏腹に。
左右の茂みは葉の一枚も落ちることなく、足元は相変らず暗闇に埋まっている。
「それとも、だれか」
問うが答えは返ってこない。誰かいる気配はやはりない。
成瀬はゆっくりとした足取りで、自分の周りに気を配りながら歩く。
辺りは静かだったが、呼吸音すら自分のものしか聞こえない。
それどころか自分の心臓が次第に大きな鼓動を鳴らすようになってきている。
「あ……」
成瀬の足が止まった。すぐ右横の茂みに何か違和感を感じる。
気配がするわけではない。違和感の正体をよくよく考える。
472きらきら星(3/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/17(土) 02:18:56 ID:+9BWS7vL0
「ここだけ」
熱が流れてくる。その茂みの向こうから。
薄寒くなってきた夜の気温の中で、そこだけ妙に空気が暖かい。
熱が茂みの向こう側から流れてくる。
例えばそこに生物がいるかのような。ただ成瀬はそこまで思わなかった。
違和感の正体が気になった。
じっと茂みを見つめる。何も分からない。
更に近寄る。肩ぐらいまでの高さの枝の隙間、暗闇や向こう側の風景で埋められている。
何も動く物はない。
しかし成瀬の腰当たりまでの高さから下は枝の密度が高くなり、完全に向こう側を隠している。
だがその死角まで考えは及ばない。
成瀬はただその違和感を気にする余り、そして浅間がいることを期待して近づく。
少し背を曲げて、覗き込むように茂みの向こうをよく見ようとした。
成瀬の顔がゆっくりと茂みに近づく。枝を分け入って頭が入る。
下の方に何かが見えた。
白い色、月の光に照らされて。その瞬間、成瀬は急いで頭を後ろに引き戻し始める。
目の前に輝く点、伸びて線になる。暗闇の中から月の光の当たるところへ現れた。
光るそれの軌道は半円を描き成瀬の顔を目指す。
成瀬は体重全てを後ろに預け、体を戻そうとしていた。
その瞬間的な判断は、何かを思ってのものというより反射に近い。
それが何なのか分かっていたわけではなく、瞬間的な反応だった。
成瀬はよく理解していた。その場を離れろという直感を与えた、空気を伝う強い意思。
白い何かを見つけた瞬間、その場に湧き上がった気がした。
それはおそらく、殺気。
 成瀬が顔を引き戻す間に、光る軌道が更に近づく。
ファールチップのような僅かに物がこすれる音がした。
視界が僅かに揺れ、鼻先をそれが掠めた感触。
「あうっ」
勢いのままに後ろにでんぐり返り、そのまま一回転する。
まず鼻先を押さえると液体が滑った。おそらく血だろう。
一瞬で今の映像を振り返る。スローモーションの中に見えたのは、茂みから出た何かの手。
自分の鼻をかすめたのは手に抱えられた剃刀だった。
473きらきら星(4/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/17(土) 02:19:53 ID:+9BWS7vL0
しゃがんだ状態から成瀬が顔を見上げる。
茂みの中から生えた腕は第一撃が外れたことを知ると躊躇なく本体を現した。
目の前の人影は月に照らされ、成瀬にその顔をよく見せた。
「さ、さぶろーさ」
サブローは右足を蹴った。一気呵成に成瀬との間合いを詰める。
右手はカミソリの刃を振り下ろさんと構える。
成瀬は腰を下ろした体勢から更に体を沈める。右横に体重を預け転がる。
空気を切る音がした。
成瀬の顔があった場所に、今はサブローの手。間髪入れず成瀬は両足で地面を蹴る。
一瞬で数歩分の間合いが開き、サブローは即座にその距離を詰めてくる。
「コロス」
サブローの姿が月明かりにはっきり照らされていて、その映像は成瀬の目に焼き付いた。
二三歩かけて立ち上がる。だがバランスを取っている暇はない事に気づく。
「ふあっ」
倒れこむように今度はすぐ横の茂みに飛び込む。サブローが潜んでいた所だ。
体に小さな枝が刺さり所々が痛い。だが我慢する。
低い姿勢のまま更に前の茂みを越えようと一気に跳ぶ。
振り向けば、再びサブローも茂みの中に侵入していた。
「あっ」
それに気を取られていた一瞬。成瀬の足は丈夫な枝にかかり体勢が崩れる。
地面に顔から落ち、夜なのに目の前は真っ白になった。
サブローが枝を折り近づく音が聞こえる。
視界がまだ復活しない。成瀬は焦った。じたばたと方向もわからず這う。
とにかく離れなくてはいけない。それだけを考えて四つん這いで進む。
ゴンと衝撃。
「いだい!」
不幸にもその頭は大きな木の幹に直撃していた。
すぐ後ろで枝を踏む音がした。成瀬は瞬間的に両腕で顔を隠し、体を固めた。
「……!
 ……!
 …………あれ?」
何も攻撃が来ず、成瀬はようやく目を開けた。サブローが腕を振り上げていた。
474きらきら星(5/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/17(土) 02:20:35 ID:+9BWS7vL0
 サブローは止まっていた。
まるで一時停止のように完全に固まっている。暗くてよく見えないが、全く動いてない。
目は成瀬の方を向いているのだが、まるで焦点は合っていないように見えた。
「さぶろー……さん?」
薄明かりの中に見えるサブローの姿。成瀬はそれをまじまじと見て寒気を覚える。
ボロボロで血に染まりきったユニフォーム。あの時見えた白い部分など、ほんの僅かだった。
耳はそぎ落とされ、血がぽたりぽたりと滴っている。
肌は既に人の色ではなく青黒さを帯びていて、光のなさで更にそれはどす黒く見えた。
 サブローの血液は既に大部分が失われ、通常の人間なら何時間も前に倒れていたはずである。
しかしチップは必死に生体活動を要求し、限界近くまで筋肉は動かされていた。
血が通わないまま細胞一つ一つはその活動力を失い、徐々に死滅しつつあった。
それは脳とて例外ではない。神経細胞の活動に必要な量の血液すら、もはや最低限しかなかった。
そしてその最低限は、サブローが腕を上げた瞬間に振り切った。
一瞬、全ての活動は停止した。
チップはそれを認識する。活動の停止、それはチップ自身の機能の停止も意味する。
死亡を判定し、チップは自動的に停止した。

「さぶろーさん、しんじゃったの」
成瀬がゆっくり起き上がり、固まったままのサブローを眺めた。
息すらもしていない。もはやそれは生きている状態には見えなかった。
だが、サブローの体は生きていた。心臓だけはまだ弱々しくも動いていたのだ。
血液を送り出す。その循環は、再びサブローの脳のスイッチを点けた。
サブローの目がぐるりと動いた。その目は成瀬に焦点を合わせる。
「うわああ!」
恐れおののき後ずさる。逃げ出す体制になった。
「……チ……ヨ」
「え?」
向かってくることもなくサブローは何か呟いている。
今、彼を支配していたそれは停止しているのだ。サブローの意思は甦り始めた。
「ミ……チ、ヨ。オレハ……」
急速にサブローの目に、輝きが取り戻されていく。
475きらきら星(6/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/17(土) 02:21:46 ID:+9BWS7vL0
浮かぶのは、たった一人の人。その向こうは、当たり前だった風景。
「オレは…カエる……おまえのトコ、グあっ!?」
しかし、それは束の間のことだった。
サブローの脳が復活したことを感知し、チップは再び起動した。
ばちん。火花が見えた。電流がサブローの脳内にまた送り込まれる。
「グぁあっ! グアアアア!」
頭を振り乱す。サブローは自分の真上を見上げた。星空が見える。
ばちばち。空にきらきらした星が増殖した。
ぷつぷつと白い点の星は、更にバチンと言う音と共に増える。
最後にはその光が星空を覆い、全ては真っ白になる。
ついさっきまで鮮明に浮かんでいた誰かの顔まで、光に包まれた。
全て消えていった。

「さぶろーさん! だいじょぶですか?」
成瀬が駆け寄ろうとした瞬間、右手が素早く振られた。
それは成瀬の頬をかすめ、鼻先と同様の傷を作る。
成瀬は再び倒れ込み、四つん這いで逃げていく。
数秒。サブローは動き出した。目の前の標的は、まだ見えるところにいる。

 成瀬は逃げる。とにかく遠くへ。
サブローは再び後を追ってきている。
振り切る方法を考えた。とりあえずこの森を抜け、足場の良いところへ逃げたい。
木々の切れ間が見えた。急いでそこへ向かう。
再び後ろを見る。サブローが距離を詰めている。急いで森を抜ける。
抜けた瞬間、成瀬は違和感を覚える。踏み出した足がなぜか下の方へ引っ張られた。
森を抜けて道に出たのではなく、単に木の生える地面がなかったのだ。
「がけだ」
叫び声を上げて成瀬は落ちていく。体のあちこちをしこたま打ち付ける。
もう天地が分からないほどに転がって、それでも重力だけは嫌と言うほど感じる。
完全に平らな面に着地した瞬間、成瀬は完全に気を失った。
「……成瀬か!?」
痛みの再発した右ひざを抑え座り込む里崎智也は、目の前に落ちてきた彼に唖然とした。
476代打名無し@実況は実況板で:2005/12/17(土) 02:31:58 ID:DH1KSyjh0
新作来てた!職人様乙です!
二人同じ崖に落ちたんだ…里さん無事でヨカタ、成瀬を頼むよ!んでサブローしぶといよサブロー
477代打名無し@実況は実況板で:2005/12/17(土) 02:47:14 ID:aXNITdOo0
職人さん乙です。
サブロー怖いよサブロー
でも里崎も成瀬も無事でよかった
478代打名無し@実況は実況板で:2005/12/17(土) 17:07:47 ID:b3Znc7FIO
すごく、どきどきしました
479代打名無し@実況は実況板で:2005/12/17(土) 18:20:34 ID:9xst57PNO
サブロー、自分の意思を取り戻すんだサブロー。・゚・(ノД`)・゚・。
480代打名無し@実況は実況板で:2005/12/17(土) 20:37:48 ID:V5pVWc3qO
成瀬テラモエスwwwwwwwwwwwwwwwwww
481代打名無し@実況は実況板で:2005/12/18(日) 20:03:05 ID:3NpKH6r30
捕手
482失われた体温と両手の存在理由(1/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:51:03 ID:JfHnr5ex0
 視界に入った時点で、もうそれは確信のようなものになっていた。
 それでも、信じたくなかった。
 しかし、現実は残酷なまでの正確さで小宮山に絶望を告げる。
 血に染まった彼の生存を、ここで望めという方が無理であった。
 きっと、薮田は彼のことを置いては来られずにいて、今こういう状態なのであろうとすぐに気づいた。

 それでも―それでも、現実を受け入れたくはなかった。
 先ほどまでの淡い期待のようなものが、一瞬にして崩れ去っていく音を小宮山は確かに聞いた。
(さっきの―神戸でのことを思い出したのは…こういうことを言いたかったのか…!)
 黒木のことを思い出したのは何かの虫の知らせだと思っていたが、こんなことを知るために
俺はここに来たんじゃない、と小宮山は思った。
 
 あまりの事態に、小宮山は声を失っていた。
 薮田はそんな彼の表情を見ながら胸を痛めていた。
 
 そして黒木が倒れる瞬間が急に思い出される。
 また、目の前で誰かが死ぬのを見るしかなかった。歯痒かった。
 於保の微笑やボビーの余裕の表情。無力な自分。
 さっきまでのことが薮田の脳裏に甦った。

 そしてはっと気づいたひとつのこと。
483失われた体温と両手の存在理由(2/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:52:08 ID:JfHnr5ex0
「―あかん! ここは禁止エリアになるんや!」
 スタジアムでのやりとりを思い出し、薮田は大きな声を出した。
 早くこのエリアを出なければ、奴らへの逆襲などと言っている場合ではなくなってしまう。
 ましてや、内がこの状態である。自分も怪我を負っている。
「コミさ…」
「禁止エリアだな。さっき聞いた。早く出るぞ」
 小宮山がいつもよりもやや早口で言った。
「黒木は俺がおぶっていく。お前は内をどうにかしてくれ」
「…はい」
 薮田は伸ばされた小宮山の腕に、黒木の体を預けた。
 動かない黒木の体を、小宮山が背負う。薮田も手を添えてそれを手伝った。
 その間、薮田はふと黒木が小宮山を師匠だと慕っていたことを思い出した。
 きっとふたりにしか解らない何かがあるのだろう。
 小宮山の背中にきちんと背負わせようとして触れた黒木の背中は、ぞっとするほど冷たくなっていた。

 悲しい。悔しい。そして奴らを許せない。そんな奴らに何もできない自分が、いちばん許せない。
 そんな気持ちが一気に薮田の心の中で混ざり合う。
 薮田はすべてを振り払うかのように首を振った。
 今までのことを後悔するのは、後でいくらでもしよう。今はそれどころではない。
 ここから脱出するのだ。それが、今自分にできることなのだ。
 ―自分を信じろ―
 その言葉が、薮田を突き動かす。
 彼の心が、その優しさが、黒木をここまで連れてきたのだ。

「行きましょう! こっちです!」
 内の手を掴み、ほとんど引っ張るような格好で走り出す。
 その後を、小宮山が追う。

 その背にいる黒木の体温は、まったく感じられなかった。
484失われた体温と両手の存在理由(3/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:53:19 ID:JfHnr5ex0
 ―何故だ? 何故、何も感じない?

 小宮山は黒木を背負っていた。
 しかし、まったくそのような感覚が奪われていた。
 成人男性を背負っているのだ。重いなどと思って当然だろう。
 
 それなのに、何故。

 魂の抜けた彼の体から奪われた熱。
 そこに黒木はいるのに、もう黒木はいないように思えた。
 
 この冷たい感覚を、小宮山は知っていた。
 杉山も、こうして冷たくなっていたのを先ほど知ってしまっていたからだ。
 
(俺はこうして若いやつらが死ぬのを見るだけなのか…!)
 あまりにも、あまりにもちっぽけな自分の存在。
 それを時間が過ぎていくたびに思い知らされる。

 この両手で俺は何ができる?
 今、生き残っているチームメイトに、俺は何をしてやれる?
 スタジアムに来たというのに、俺は何故黒木を救ってやれなかった?
 いや、そもそも、俺が黒木を『救う』なんて立場にあったのか?
 
 小宮山の中で、さまざまな思考がぐちゃぐちゃに混ざり合う。
  
 ―それでも、今は。

(今できることは…黒木を禁止エリアから出してやることだ…)
 それしかできない自分が、歯痒くて堪らなかった。
485失われた体温と両手の存在理由(4/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:54:25 ID:JfHnr5ex0
「この辺で禁止エリアを抜ける筈です!」
 自分の少し前を走る薮田の声に、小宮山はこくりと頷いた。
 内は薮田に引っ張られ、もたもたとしながらも走っていた。
 20と21の背中を見ながら、小宮山は思う。

 ふたりが一緒にいて、黒木を連れてきた(実際に連れてきたのは薮田ひとりでだったが)。
 恐らく、黒木の死の真相を少なからず知ってはいるだろう。
 それを尋ねて良いのものだろうか。
 内は放心状態のような印象を受けた。
 このばかげた戦いの初めからそうだったのか、それともスタジアムかどこかで何かショックな
出来事があったのだろうか。小宮山は思考を巡らせる。

 もし、また何か自分が発した言葉が『引き金』となってしまったら…?

 そんなことが一瞬頭をよぎり、小宮山は唇を噛む。
 足掻こう。泥水を飲もう。
 そう決意した自分を呑み込んでいくかのように、現実は非情なまでに『現実』を見せつける。

 小宮山は自分の無力さだけを、実感していた。
486失われた体温と両手の存在理由(5/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:55:25 ID:JfHnr5ex0
 禁止エリアを抜け、身を隠せそうな茂みへと移動する。
 全力で走って来たため、三人は激しい息遣いをしていた。
 小宮山はゆっくりと黒木の身体をそこへ横たえた。
 黒木の顔を見て、胸が痛む。ユニフォームの白と、血の赤の残酷なコントラスト。
 誰かに奪われた、命。夢。希望。体温。
 こんな彼を見るためにスタジアムに行ったのではないのに。
 小宮山の全身を、絶望感が襲い始める。

 黒木をじっと見ていた小宮山に向かって、息を整えた薮田が話しかける。引っ張って来た内を、
地面にそっと座らせてから。

「…あの中でのことですが」
「……聞いて大丈夫なのか」
 ぽつりと呟く小宮山の声に、薮田の瞳が一瞬だけ揺れた。
「コミさん、できればワイも話したくないです。でも…、それを乗り越えんと、すべて終わりに
できないんです」
「終わりに?」
 その言葉に、小宮山は鋭い反応を示す。
「ええ。こんなことを終わらせる、ということです」
「……」
 薮田の表情には、強い決意が込められていた。何か悲しいことを乗り越えたものだけが持つ、
強い目をしていた。マウンド上にいるとき以上の、熱い魂のようなものを、彼から感じた。
「まずは何から話せばいいですかね…。…ワイが脱出を考えたところからですかね…」
 目を伏せながら、薮田が話し始める。きっと、彼は辛いことをたくさん乗り越えてきたのだろうと
いうことが、話さなくても彼の表情からなんとなく小宮山には理解できた。

「ワイは島を脱出してどうにか助けを呼ぼうと、筏を作り始めました…」
487失われた体温と両手の存在理由(6/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:56:15 ID:JfHnr5ex0
 薮田の口から語られた今までの経験は、小宮山を驚かせていた。
 その事実に、小宮山は思うような言葉が出ない。
 優しい彼がそんな目に遭ってなおここまで強くいられることを、同じチームメイトとして誇りに思った。
 きっと自分は、同じ経験をしたら精神が持たないだろう、と小宮山は感じたからだ。

 薮田の話を思い出し、自分の中で気になったことを口にする。
「まさか、愛甲さんや…フィルダーまでもが」
「ワイが巻き込んでしまったんです…」
 悔しそうな表情をする薮田を、小宮山はなんともいえない表情で見つめた。
「…。…しかし今の話だと、お前は筏を作って海へ出ていけたということだよな?」
「はい。初めはノコギリで作業しとったんですが、なかなかできなかったんです。ちょうどそこに
金澤が通って…」
「金澤?!」
 その名前に、小宮山は反応する。明らかに『誰をも信じてない』ような目をした彼のことを思い出した。
「コミさんも会ったんですか?」
「―ああ。…やつは、やる気だったと思う」
「まさか!」
「スタンロッドを打ち込んできた。…まあ、無傷で済んだんだが」
「? ワイは金澤からチェーンソーを借りたんです。そのおかげで筏が早く作れました」
「チェーンソー? そうか…」
「……」
「……」
 お互い沈黙することにより、いまいち噛み合わない会話を続けることを諦めた。

 薮田が借りたそのチェーンソーが、遠くにいる小野晋吾と浅間敬太を混乱させている原因とは知らずに。 
488失われた体温と両手の存在理由(7/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:57:02 ID:JfHnr5ex0
「黒木は…、…於保が」
 殺したのか、と言うのがためらわれた。そこで言葉を切ってしまう。
 そんな小宮山の心中を察したのか、薮田は短く頷くだけの答えを出した。
「一瞬のことでした。近くにいたからジョニーと内と於保であっちとやりあっているのかと思ったら…」
「…そうか」
 ―於保。薮田は彼がこの状況自体を楽しんでいるような印象さえ受けたと言っていた。
 ボビーと一緒にヘリコプターに乗っていたというのだから、恐らく運営側の内通者だったのだろう。
 そうとは知らず、共に行動していた(らしい)内…。
 いちばん近くで、黒木の死を見てしまった者。
 先ほど見かけたとき、放心状態だったわけも薮田の話からようやく理解できた。
 不意に、小宮山も薮田も地面に座り込んでいる内へ視線を送った。
 彼は「ただそこにいるだけ」というような感じで、座っていた。
 その視線は、先ほど小宮山がゆっくりと横たえた黒木の方へ向いていた。
 痛々しいまでの姿に、小宮山も薮田もため息をついた。
「ワイもよく解らないんですが…。内はジョニーに執着していたみたいです。僕らを裏切ったとか
なんとか言ってましたけど…。でも、その後運営側のやつらとやりあってたときはジョニーが内を
守っていたみたいやったんですが」
 薮田の言葉を聞きながら、小宮山は内を見つめた。
 内は何をするわけでもなく、ただ黒木を見つめていた。
 もしかしたら、見つめていたというよりは、ただ視界に入っていただけかもしれなかったのだが。
 
 そんな彼の様子を見て、小宮山は胸が痛んだ。
489失われた体温と両手の存在理由(8/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/18(日) 22:58:14 ID:JfHnr5ex0
 何もしてやれない、と思った。
 目の前にいる少年に、自分は何もしてやれない、と思った。
 憧れの存在を、自分の目の前で奪われたのだ。それは死といういちばん絶望的な形で。
 何の言葉も、きっと気休めにも慰めにもならない。
 小宮山は両手を内の方へ伸ばした。
 子どもをあやすように、小宮山は内をやさしく抱きしめぽんぽんと背中を叩いた。
 よく自分の子ども達が悲しんでいたり、泣いていたりしたときに、こうして慰めたことがあった。
 すると皆安心して身を預けてくれたことを思い出した。
 自分を受けとめてくれる存在が必要なのだろうか、などと思ったことも、思い出した。
 こんなときにこんなことしかできない自分の両手が、ひどく頼りないものに思えた。
  
 しばらく背中を叩いてやっていると、内の肩が震えるのが解った。
「ううっ…。…うっ…」
 泣いているのだろうということは、すぐに解った。
 
 内の身体は温かかった。体温があった。
 ただそれだけのことが、小宮山にとってはもう奇跡に近いようなものにまで思えてしまった。

 小宮山の目から、一筋の涙が零れ落ちる。しかし、小宮山には何が悲しいのかもう解らなかった。
 
 ただ、側に横たわっている黒木はもうこの温かさがないこと、
 彼はもうマウンドに立てないということ、
 彼のあの雄叫びがマリンスタジアムで聞けないということ、
 自分を慕ってくれた彼の笑顔が見られないということ、
 
 それだけは解った。解りたくなくても、解ってしまっていた。
490代打名無し@実況は実況板で:2005/12/18(日) 23:06:33 ID:usfysRER0
初めてリアルタイムの投下を経験しました。職人様、乙です、GJです!
内とジョニーの体温の差がテラカナシシス
ジョニーファンじゃないけど(もちろん好きですけど)なんかジョニーが恋しくなってきたww
コミさんのこれからが気になる…そしてガンガレ内!薮田もガンカレ!
最初薮田はお笑い担当だと思ってたのになあw
491代打名無し@実況は実況板で:2005/12/18(日) 23:15:44 ID:TVr5g+Ea0
職人さん、大長編乙です!
これからのコミさん薮田さんのコンビがすごく楽しみです!
それにしても内どうなるんだ内…
492代打名無し@実況は実況板で:2005/12/18(日) 23:23:05 ID:mSLepCeTO
職人様乙です!
自分の涙腺も決壊しますた。・゚・(ノД`)・゚・。
493代打名無し@実況は実況板で:2005/12/19(月) 14:38:01 ID:P2jWCq1P0
494代打名無し@実況は実況板で:2005/12/19(月) 19:26:10 ID:vufK1undO
あげんなよ!期待しちまったよ。・゚・(ノД`)・゚・。orz
495代打名無し@実況は実況板で:2005/12/20(火) 15:39:25 ID:t5ngpWh/O
捕手
496代打名無し@実況は実況板で:2005/12/21(水) 00:49:51 ID:kW8j2NdwO
保守
497代打名無し@実況は実況板で:2005/12/21(水) 14:30:14 ID:KcuZx9w/0
保守
498代打名無し@実況は実況板で:2005/12/21(水) 23:08:11 ID:MYUdfJCL0
こさっち〜。異動
499代打名無し@実況は実況板で:2005/12/22(木) 15:34:25 ID:7tU4YHDjO
ほしゅ
500代打名無し@実況は実況板で:2005/12/22(木) 19:21:42 ID:QnxSEOWp0
第149章が泣ける…
501代打名無し@実況は実況板で:2005/12/22(木) 20:04:50 ID:mgRsJ+KS0
>>500
ううっ(´;ω;`)
いま読むと本当に切ないな…
502それでも(1/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/23(金) 02:38:15 ID:MScmgUKm0
 成瀬善久は気づくと暗闇の中にいた。
その闇を切り裂いて自分と格闘する誰かの影がある。
ついさっきまでのサブローの恐ろしい姿が浮かんできたが、それとは違うようだった。
顔は見えない。誰か分からず不安になる中、必死の攻撃を浴びせ返す。
不意に転がった音、それを聞いてそこに飛ぶ。
あったのはやはり拳銃だった。それを掴む。
次に気づいた時、目の前にはぐったりとした寺本四郎の姿があった。
成瀬はそれを前に、歓喜の叫びを上げている。

「成瀬! おい、大丈夫か」
ぼんやりと目を開けると、かすかな光が目に飛び込んでくる。
月の柔らかい光。それを遮って誰かの影が現れる。
ゆっくりと視力が戻ってくる。
頭の中がぼやりとして、うまく思考が結べない。
「成瀬、成瀬答えろ!」
「……さと……ざき、さん」
成瀬の首根っこを掴み何度も揺すっている。
そこにいた里崎智也の姿にやっと焦点が合い、成瀬は声を上げることができた。
その返事に安堵の表情。里崎はため息をついた。
ゆっくりと体を起こしてやる。
どうにも頭が痛いのか、成瀬は手の平を額に当てて首を左右に捻っている。
「何があった?」
いきなり崖を落ちてきてそのまま気を失った成瀬。
落ちた自分が言うのも情けないが、落ち着いていれば落下は避けられるはずだ。
例えば誰かに蹴飛ばされたり。しかし、晋吾はとうに立ち去ったはずだ。
ふと思った。
今の成瀬なら、もしかするとちょっとしたドジで落ちてしまうかもしれない。
「あうう、あたまくらくらします」
何故だろうと思う。堀幸一のことにかかりきりで聞けずじまいだった。
成瀬のしぐさ一つ一つに、いつも違和感を覚える。
言葉一つ一つがまるで言葉を覚えたての、そう、子供のようだと思った。たどたどしいのだ。
さほど親交があったわけではないが、少なくともこんな言動を取る人間ではなかったはずだ。
503それでも(2/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/23(金) 02:38:49 ID:MScmgUKm0
もう二十歳前である。
確かに悪い人間ではなさそうに見える。初芝の言う事をよく聞き、だからこそ信用できる。
だがこのあからさまな子供っぽさに気づいてしまうと、その違和感は拭えそうになかった。
「成瀬、ちょっと聞きた……」
「あ! そうだ!」
里崎の話を聞いていなかったのか、成瀬は突然大声を上げる。
開いた口が封じられた。成瀬はそれに全く気づいていない様子だったが。
「たいへんです。さぶろーさんが、たいへんなんです」
「サブローさん?」
予想もしない名前が耳に入り、思わず聞き返す。
それと同時に、土と石が崖を転がる音が響いてくる。
その音が徐々に大きくなってくるのが分かる。
成瀬が落ちてきた時と同じだ。何か落ちてくる。
「ひっ」
小さく声を上げ、成瀬が身を小さくする。少し怯えたような顔。
成瀬にはその正体が分かっている。そして恐怖を覚えている。
「サブローさんか?」
成瀬がこくりと頷くのを確認すると、里崎の額に汗が垂れた。
右ひざが痛む。
小野晋吾によって落下した際、今季炒めていた右ひざの痛みが再発していたのだ。
一時的なものか、選手生命に関わる物なのかは知るよしもない。
ただ現状として、それは立ち上がることすら困難なほどの大きな痛みである。
「ふおっ!」
それでも両膝に手を当て立ち上がる。
右ひざが笑う。大きな痛みのせいで、右ひざ一帯の感覚すら奪われている。
バランスの取り方もおぼつかない。それでも迎え撃たなければいけない。
「リスト外、フタリ」
半ば落ち気味に地面に降り立ったのは、成瀬の言った通りの人物だった。
目を背けたくなるはずの有様にぎょっとする。しかし驚いている暇はない。
少しは感覚が戻って来るかと、気合がてらに右ひざを平手で張る。
「ちくしょう、痛いな」
サブローが地面を蹴って突っ込んでくる。その右手に何か光った。
504それでも(3/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/23(金) 02:39:13 ID:MScmgUKm0
右手を振り上げると、サブローは里崎に近づいた瞬間それを振り下ろす。
しなった腕に乗せられ半円を描きながら、一瞬で里崎の首めがけて振り下ろされる。
風を切る感覚が、まだわずかにサブローの皮膚に残っていた。
強い衝撃が右手に走った。
「キャッチャーだぜ、俺は」
里崎がしっかりと左手でその腕を掴んでいる。
一瞬の速度の変化、考えるより先に反射的に手は動いていた。
更に右手でもその腕を掴もうとする。そのままサブローを倒そうと試みる。
だが、そのイメージは描かれない。
「ううっ」
サブローの力を支えきれず、里崎の右ひざが崩れ落ちていく。
ゆっくりと里崎の頭が下がっていき、サブローが見下ろす形になった。
サブローの腕を掴もうとした右手は、体を支える方に回る。
勢いよくサブローが腕を振り回す。里崎の左手が振り払われる。
「あ……」
サブローは里崎を完全に見下ろしていた。
右手が再び振り上げられる。里崎の手は宙をさ迷うだけだった。
防げるだろうか。右ひざの痛みが自分の感覚を鈍らせていくのをひしひしと感じる。
サブローが再び腕を振り下ろそうとする。
「だめーーっ!」
後ろから影が飛び出す。勢いよくサブローにぶつかった。
成瀬はそのままサブローを巻き込んで転がっていく。
二つの体が組み合ったまま二回転して、成瀬が馬乗りになったところで止まっていた。
「よし、成瀬! 抑えろ」
里崎は立ち上がろうとする。だが体が上がらない。
右ひざから下の感覚が消えている。ただ大きな痛みだけが頭をガンガン締め付ける。
里崎はその場に一瞬突っ伏す。それでも這うようにして二人のほうへ向かいだした。
 サブローの表情はずっと変わらない。
無表情に、しかし殺気だけをギラギラと発している。
右手が動く。瞬間的に成瀬はそれを掴む。もう片方の手が動き、それも掴む。
力比べになったが、差がつかない。膠着する。
サブローは成瀬を見つめている。成瀬にはそれが怖くて仕方なかった。
505それでも(4/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/23(金) 02:39:48 ID:MScmgUKm0
体中血だらけのサブローが、何故ここまで力を出せるのだろう。
怪我をしているとはいえ利き手の力が通じない。
両手が震えていた。ここで力を抜けばカミソリの刃は自分の喉を襲うだろう。
ありったけの力でバランスを取り、体重をかける。少し成瀬の方が押し気味になる。
サブローの手が地面の方へ近づく。同時に、サブローの首に。
カミソリを持った手が、サブローの首に触れんばかりの距離に近づいていく。
もう少しで、サブローの息の根が止まる。
(え?)
そこで成瀬は一瞬押すのを止めた。
妙に懐かしいような感覚が湧き上がるの感じた。
(ぼく、いま、なんて)
寺本四郎、そして藤田宗一。二人の顔がサブローにだぶつく。
成瀬が手にかけた二人。
覚えている。その時の感触を、生々しさを忘れることができない。
それを覚えているもう一人の自分がいる。
ずっと抑えていたのに、また表に出てこようとしている。
「やだ、やだ」
成瀬の力が弱くなり、逆にサブローが両腕を押し返す。
徐々にカミソリは離れ、今度は成瀬に近づいていった。
近づくたびに、成瀬は消しようのない恐怖を覚える。死が近づいてくる実感。
それだけは嫌だと思う。この殺し合いの中で、常に感じていた恐怖だ。
そしてそういう実感が強くなるほど、もう一人の自分はどんどん顔をのぞかせる。
 誰かの声が聞こえる。
海が見える。あの時言われたことなのに、もう遠い昔のように思い出せない。
「ぼくわ、なるせよしひさは」
再び両腕を押し返す。
もう遠慮や怯えは消えていた。もう一人の自分が徐々に主導権を握り始めている。
どんどんとカミソリはサブローの首に近づく。
どんな力も体重さえ思い切りかければ、恐れることもなかった。
恐れることはない。頭ははっきりしてきて、感覚は研ぎ澄まされる。
目の前の命を奪う、ただそれだけの意思とそれだけのための感覚だ。
「なるせよしひさは、さつ……」
506それでも(5/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/23(金) 02:40:13 ID:MScmgUKm0
成瀬が両腕を押し返す様子が里崎の目に映っていた。
まさかと思う。
しかし、成瀬の目がどこかおかしい。嫌な予感が走る。
「成瀬! 何するつもりだ!」
這いながら近づくが、まだ手は届かない。
サブローが例え殺し合いに乗った側としても、成瀬に殺させるわけにはいかない。
成瀬の手がサブローの首に近づく。サブローの手にはカミソリの刃が光っていた。
里崎は成瀬に向かって叫ぶ。
誰にも、誰も殺させない。
寺本四郎に誓ったのだ。もう死んでしまった。だから取り消せない約束なのだ。
拳を地面に振り下ろす。肝心な時に動かない自分の体が憎くなった。
声を張り上げることしかできない。
「成瀬! やめるんだ!」

 誰かの声が聞こえた。自分の名前を呼んでいるような。
ふいに港町が見えた。なぜかそこで自分は泣いているのだ。
誰かが呼んでいる。必死で自分を呼んでいる。
 サブローの両腕は完全に折り曲げられ、自らが持つカミソリの刃は首から数センチである。
それでもサブローはカミソリを離さない。
最後に振り絞る力さえ残していないのに、サブローはそれでも反抗している。
成瀬は腕を更に押す。あと少し、ほんのすこし力を込め続ければ。
元に戻ることができる。
寺本四郎を殺した、あのときに。『さつじんき』の自分に。
「初芝さんが待ってるんだぞ!」
里崎の声に成瀬の体がピクリと反応した。
サブローの首に紙一重でカミソリが近づいたまま、そこで手は止まっていた。
「それでも」
泣いている自分がいる。『さつじんき』の自分に負けじと泣きながら戦っている。
きっと『さつじんき』でいることの方が楽なのだと分かっている。
でもあの時の自分は一人ぼっちで、ずっと悲しさを生み出すだけだった。
『さつじんき』でなくなった自分は、罪の重さにもっと悲しくなった。
507それでも(6/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/23(金) 02:40:45 ID:MScmgUKm0
けれど同時に幸せな気分になれたのは、言ってもらえたから。
『さつじんき』にならずに、夢を目指していいと言ってもらえたから。

「それでも ぼくわ はつしばになりたい……」
成瀬は声を押し殺して呟いていた。
同時に全ての力が抜けた。
サブローの腕が一気に解き放たれ、成瀬の体が押しのけられる。
それを受け止めたのは里崎だった。
「成瀬……」
震えていた。怖いものを見た子供のように。
里崎は前を見る。既に立ち上がったサブローが、ゆっくりと近づいてくる。
「コロす」
そう言葉を発すると、まずは里崎に目の焦点を合わせた。
里崎は成瀬の体を傍らに寝かせる。
右ひざは相変らず言う事を聞かない。立ち上がれない。
それでも、里崎は下を向かない。
「見てろよ、四郎」
サブローが腕を振り上げる。里崎の全身が緊張する。

ヒュンと風を切る音がしたかと思うと、鈍い音と共にサブローの手が弾かれた。
ころっという音とともに、石つぶてが地面に弾む。
サブローが横を見る。つられて里崎が横を見る前に、サブローの体が飛んでいた。
地面を転がるサブロー。足音もなく、いつの間にか走り寄ってとび蹴りを食らわせたのだ。
その場に着地すると、わずかに砂煙が舞う。
それを見た成瀬の震えが止まる。顔がほころぶ。
「すまない、遅くなったね」
初芝清は軽やかに地面を叩くと、地面に伏しているサブローに対して身構えていた。
508代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 03:17:59 ID:Ut8LNsNU0
はつしば飛び蹴りキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
てマジかw想像してうっかりワロス
509代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 03:20:43 ID:oIvSe6lQ0
職人さん乙です!
は、初様テラカコヨス…
510代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 03:23:28 ID:hIroalA3O
続きキテター!職人様乙です
初様カコイイw
511代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 08:08:41 ID:TthtyOo3O
『はつしばになりたい』
に吹いたwwww
512代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 09:53:47 ID:LG6UY2dUO
職人様乙です!
うわほんとにサブローvs初様きちゃった!(((゚Д゚;)))
513番外 愉快なカモメたち15(1/3) ◇vWptZvc5L. :2005/12/23(金) 11:11:59 ID:MyQpyouA0
マリンスタジアムの1塁側第2ロッカールームでは、ズーちゃんから渡された紙切れを手に
マー君がパソコンに向かっていた。その様子をリーンちゃんとズーちゃんがじっと見守る。
「うおっ、何これ!」
「何、何!?」
声を上げたマー君に、他の2羽も身を乗り出す。
「瀬戸山さんからメールが来てる」
「…はぁ?」
「ほら、これ見てよ。『本日ロッテ関連会社対象の本社見学が行われる』だって。
 しかもこれ、送られてきたのが今日の昼過ぎだよ。遅いっつうの!
 僕ら、あんな苦労して本社に行ったのにさ。だいたい、こういうのはもっと早めに…」
「マー君、そんなのどうでもいいから、早くネット、ネット!」
見当違いのことをしゃべり出すマー君に業を煮やして、リーンちゃんが急かす。
気を取り直して、マー君はマリーンズ公式サイトにアクセスしてみた。
「うーん、特に変わった様子もないね。更新もされてないし。
 あ、でも会員ページならなにか情報が載ってるのかな?
 ここにIDとパスワードが載ってるから入力してみよっか」
マー君は紙に書かれていた通りにキーボードを打ち込む。
  ID:owners'conference
  password:battle-royal 
そう入力すると、画面が切り替わった。
「うわっ、何これ!?」
「何、何!?」
再び他の2羽も身を乗り出して、画面を食い入るように見つめる。
そこに現れたのは真っ黒な画面。縦横に走るマス目の中に、いびつな図形が描かれていた。
その中に散らばる赤い数字が動いている。画面の左上にも数字が並ぶ。
「数字はたぶん背番号だよね。この図形は何だろ? 陣取りゲーム?」
「地図っぽくない? どこかの島じゃないかしら?」
「むしろ湖だったりして」
「いや、それはないだろ…」
パソコン画面を取り囲んで、ああでもない、こうでもないと議論が始まる。
様々意見な飛び交うが、結論が出ない。
514番外 愉快なカモメたち15(2/3) ◇vWptZvc5L. :2005/12/23(金) 11:12:31 ID:MyQpyouA0
「あーもう、よくわかんないけど、みんなここにいるんだよ。
 それなら、地図でこの形の島を探し出せば早いじゃん!」
ズーちゃんが一向に進まない議論に痺れを切らす。
「ちょっと待てよ、ズー。この島国日本にどれだけの島があると思ってんだ!?」
「えっと、…47くらい?」
「それは都道府県の数だろ! 縮尺もわかんないのにこんなの見つかりっこないよ」
「これだけ特徴のある形してたら絶対見つかるって!」
「日本国内じゃなかったらどうするんだよ」
「……」
ズーちゃんが黙り込む。
「ったく、これだから3歳児のお子様は…」
マー君のその一言に、ズーちゃんはカチンときた。
「だって、そんな話し合ってばっかじゃ全然進まないじゃん。
 兄ちゃんはそうやって動こうとしないから、そんな太っちゃうんだよ!」
「何だよ! お前だって僕と似たようなデカイ頭してるくせに」
「フン! 頭はデカくても、僕は兄ちゃんみたいにお腹出てないもん!」
「ちょっと、マー君……、ズーちゃん……」
口論を始めた2羽を見かねて、リーンちゃんが止めに入る。
それでも2羽はリーンちゃんのことなどお構いなしに、ケンカを続ける。
全く聞く耳をもってくれない2羽に、どっと疲れが押し寄せてきた。
(はぁ…、兄弟ゲンカは始まっちゃうし、みんなの消息はわからないままだし…)
リーンちゃんは椅子に座わると、ため息をつく。
「私、もうこの仕事辞めたい」
リーンちゃんが思わず漏らした一言に、マー君とズーちゃんの動きがピタリと止まる。
2羽ともケンカをやめて、あわててリーンちゃんをなだめにかかった。
「リーンちゃん、負けないで! みんな頑張ってるんだから」
「そうそう、僕らも頑張ってまーす!」
とにかくリーンちゃんの機嫌を取ろうと、マー君はあるものを差し出した。
「ガムをどうぞ」
リーンちゃんは渋々それを受け取けとる。
その瞬間、リーンちゃんの周りの風景が切り替わった。
515番外 愉快なカモメたち15(3/3) ◆vWptZvc5L. :2005/12/23(金) 11:13:23 ID:MyQpyouA0
――光差すグラウンド、日差しに映える緑の人工芝、白く染まるライトスタンド。
それはいつもの見慣れた風景。休日のデーゲームの賑わい。
「ここは、マリンスタジアム…?」
リーンちゃんはいつのまにか、マリンスタジアムの1塁側ベンチに座っていた。
周りでは、ユニフォーム姿のマリーンズ選手たちがうろついている。
目の前の光景が信じられず、リーンちゃんは身を乗り出す。
そのすぐ後ろでは今江敏晃が素振りをしている。
そして切り替わるバックスクリーンの表示。同時に流れるウグイス嬢のアナウンス。

『4番 指名打者 リーン』

(ドンドンドン) リーン! (ドンドンドン) リーン! (ドンドンドン) リーン!

一斉に沸く客席。ライトスタンドの白い集団がリーンちゃんの名前をコールする。
「ガンバリマショー!」
戸惑う暇もなく、バレンタイン監督に声をかけられてグラウンドに送り出される。
リーンちゃんはすっかりその気で、守備位置につく選手の列に加わる。
ファールゾーンに出たところで、はたと小首をかしげた。
(あれ? 私、DHじゃなかったっけ??)


「――リーンちゃん…?」
呼び掛けられて、はっと我に返る。目の前にはマー君とズーちゃん。
グラウンドの風景はもう消えていた。今のは白昼夢だろうか。
自分の手のひらの中には、緑の包装紙に包まれたチューインガム。
リーンちゃんは無意識のうちに呟いていた。
「負けないかも」
516 ◆vWptZvc5L. :2005/12/23(金) 11:14:07 ID:MyQpyouA0
すいません、トリップキーをミスりました。
517代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 11:50:59 ID:flMd1cGW0
初芝キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
最後まで生き残って、なんかしてくれそうな初芝!!!
ゆっくり魅せてもらおうか、初芝
518代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 12:27:13 ID:LCHfv38K0
成瀬頑張れ成瀬(ノД`)
リーンちゃんガムをどうぞなごみすぎw
519代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 14:00:01 ID:rEJ/Pcj00
初様もリーンちゃんも最高スw
520代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 14:13:28 ID:oIvSe6lQ0
リーンちゃんカワイイヨリーンちゃんw
521代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 19:10:00 ID:HYDRIDhw0
スンスケ復活話とか駄目かな・・・?
スンスケは今最高潮だし、こういうのがあっても面白いと思うけど。
522代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 19:39:51 ID:HgCbcxIq0
>>521
いや、あの状況から復活は流石に無理だろう……
大分時間も経ってるしね……見てみたい気は確かにするけど、この話の中に組み込むのは流石に。

リレー版からの分岐みたいな感じで個人的に書くとかならいいかもしれないけど。
他の住人さんの意見を聞いてみないことにはなんとも
523代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 20:07:37 ID:QTgv/0lT0
>>521
もうここまで話纏まってんだから、そういうのは止めて欲しい…。

2005年verだったら見てみたいけどね。>>414の人のキャラとかも気になるw
524代打名無し@実況は実況板で:2005/12/23(金) 22:51:22 ID:brfFKvTT0
スンスケヲタだけど、復活とかそういうのは無理だしして欲しくないよ。
あれだけ劇的に最後迎えられたんだから・・・と思ってる。
今は殺した大塚を応援してる気分にもなってるから不思議。

別versionでマーダー化するスンスケはちょっと見てみたいけどw
525人形の糸は切れて(1/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/24(土) 03:25:11 ID:O6iVQCES0
ばちん。暗闇の中に火花が飛んだ。
「殺せ」
その意思が頭の中にこだまする。
いつも、それと同時に小さな囁きも遠くに聞こえる。
誰かへ謝っているのだ。誰に?しかし、そんな疑問もすぐに溶けてしまう。
ただその声が心に聞こえる時、サブローは懐かしくて温かい思いを覚えるのだ。
ばちん。それに浸る間もなく、また火花が飛んだ。
目を開ける。そこに広がるのは、暗く誰もいない森と地面だ。

「グ……」
うめき声を上げて、サブローが首を持ち上げた。
右手、左手、順番に地面につくと、のそりと体を起こす。
その動きはひどく緩慢で、もはや歩けるかどうかすら疑問を覚える。
しきりにバランスを崩しながら、それでもやっと立ち上がる。
その目は初芝清を捉えていた。
右手を見る。その手に在ったカミソリはすっ飛ばされた拍子にどこかへいってしまった。
空の右手をじっと見つめると、さして表情の変化も見せず初芝を再び向く。
足を踏み出す。
先ほどまでの跳ねるような飛び出しではない。
右足を引きずっていた。俊足と言われたスピードは見る影もない。
びっこを引きながら初芝の方へと向かう。
初芝が口を真一文字に結ぶ。その姿はあまりにも凄惨だった。
ユニフォームは血だらけで、耳はそがれて既になく、関節は自由な動きをしていない。
ゆっくりと自分に向かってくる。それがどれほど彼の体に無理を強いているか。
それなのにサブローの顔には何の苦痛も浮かばず、ただ殺意だけが発せられている。
彼の心情を想像することができず、初芝の眉間のしわは一層濃くなった。
「サブロー」
ゆっくりと、蝿が止まるようなスピードで拳が向かってくる。
右手は初芝の顔に向かい、その軌道は力なくおじぎしていった。
肩の辺り、初芝がその手を掴む。
「何があった。何でそこまでする。なあ、サブロー」
問い掛ける。サブローはずっと初芝を睨みつけている。今度は左手を上げる。
526人形の糸は切れて(2/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/24(土) 03:25:52 ID:O6iVQCES0
「リスト外、サンニン」
またゆっくりと初芝に向かってきた拳は、また簡単に受け止められた。
「リスト……?」
両腕を掴まれて、今度はそれを離そうとサブローは体を後ろに預ける。
しかし初芝はその手を離さない。
なにやら考え込むように、そのままサブローの手を掴んでいた。
引きずる右足を太ももから持ち上げる。弱々しくも、その足先は初芝へ向かった。
それが達するより先に初芝の左足が動く。
サブローの残った左足が飛ばされ、体が半回転する。
地面にしたたか打ち付けられ、サブローが口から血液の混じった唾が吐き出された。
空気の抜けるような喘ぎ声。
もはや満足に肺すら動かない。しかしその息の苦しさにすら気づかない。
サブローは動かなかった。サブローの体の組織全て、もはや動くことができないのだ。
「カハっ……」
息を吸い込んで、そしてサブローの心臓はゆっくり止まっていく。
成瀬を追っていたときに、生命としての必要最低限の血液は一度限界を超えていた。
あれからも少しずつ血液は流れ出ていたのだ。
脳だけでなく、サブローの体の細胞一つ一つがもはや生命力を失いつつあった。
もう体を動かすという指令は、あちこちで途切れてどこにも届かない。
目は見開かれたまま、サブローの脳は二度目の停止に陥る。
もう心臓は動く力を失っていた。

 初芝はその様子を見つめていたかと思うと、何を思い立ったかサブローの服をまくる。
息を飲む。腹から胸にかけて、縫われた傷が開いて縦横無尽に走っている。
その隙間からは湧き水のように血が染み出していた。
「サブローさんは」
後ろから里崎智也が尋ねる。成瀬善久も心配そうな様子で見つめていた。
「もうだめだろう。こんなに出血して、今まで動けたのが信じられんよ」
ユニフォームに染み付いた血の量。知る限り、それは致死量のはずである。
だが先ほどまでサブローは動いていた。
脈を取る、ついに心臓の動きは弱々しくなっていた。静寂が辺りを包む。
初芝はしばらく考え込む。すると、背負っていた袋を横に置き何かを探し始めた。
527人形の糸は切れて(3/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/24(土) 03:26:18 ID:O6iVQCES0
 脳の神経伝達が停止し、チップは再び動きを止めた。
数秒、やはり脳は動かない。
ばちん。電流を流すが、反応しない。
動くはずはない。動くためのエネルギーを脳細胞は既に使い果たしている。
ばちん。ばちん。何も反応しない。
もう一つ、一際大きな電流を流す。それはチップの残した最大限の電力で。
それは断末魔のようなものだったのか、サブローを操り続けたチップは自身の電力で破壊された。

――ゴメンヨ、キミ。
その言葉を何度聞いただろうか。また温かい中にサブローはいた。
それまでと違って、もうそれを邪魔する火花はやってこない。
その声を聞くたびに、何度も思い出してはすぐに打ち消された。
目の前には妻の顔が浮かぶ。光に包まれて。
サブローは海の真ん中を漂っていた。上には光、下は闇。
泳ぐ力もなくその中を沈んでいく。サブローはそれでも怖くはなかった。
目の前には、はっきりと彼女がいる。そして、幸せな風景がある。
それを見ながら沈んでいくのが不思議と彼を満ち足りた気分にさせていた。
だが、突然渦が起こる。渦がサブローの体を巻き込んで、彼を再び海面へと押し上げる。
妙な感覚が彼を包む。いや、ずっと忘れていただけだ。
操られていた時には無くなっていた体の感覚。
じゃり、と右手が砂を掴んだ。
「……おれ……は」
「サブロー、起きたか?」
初芝の顔が視界に飛び込む。
その後ろには里崎と成瀬が、やはり彼を覗いている。
後ろはさっきまで見ていた風景。夜空は月がきれいだった。
(まだ……生きてる? いや……それより……)
濁っていた意識が徐々にまとまり始めた。
意識がハッキリしている。あの時以来だ。
ずっと混ぜこぜの意識の中で、まるで映画を見るように自分の行動を見ていた。
小林宏之に撃たれ気を失った後から、ずっと。自分の体は操られていた。
それが、今こうしてハッキリと世界を掴んでいるのだ。
528人形の糸は切れて(4/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/24(土) 03:26:39 ID:O6iVQCES0
それと共に体中を苦痛が襲う。引きちぎられそうになる。
ずっと抑えていたのは意思だけではなかった。痛みまでもが戻ってきている。
そしてサブローの疑問がより深くなる。
(なんで……)
生きている。思い出せば、生きているはずのない怪我をしていたはずだ。
そして自分は死んだ。そのはずだった。
「サブロー、聞きたいことがある」
「初さん、俺は……生きて……」
「一か八かだったが、うまくいったみたいだ」
そう言って初芝が見せたのは手の平ほどの大きさの袋。中は濁っている。
そこから細長い物が伸びている。
たくさんの痛みの中で、右腕に針が刺すような痛みを感じる。
「貰ったのに使わないままの血液があったんでね。
 いつまでも保存しておけないしさ」
再びサブローの体の中を駆け巡った血液は、瀕死の彼の体から少しだけ命を掬い上げた。
ほとんどが死滅してしまった中の、ほんの一握りの砂ではある。
だが、サブローを操っていたチップは既に破壊されていた。
ほんの少しだけ、彼には時間が与えられたのだ。
サブローは苦痛に耐えて、体をゆっくりと起こした。

「なん……ですか……?」
振り絞るように声を出す。肺すら痛い。呼吸が苦しい。
初芝はそんな様子のサブローに顔を歪めて、彼の背中を支えてやった。
「聞きたいことと言うのは、君が言った『リスト外、三人』という言葉だ。
 スタジアムの中で断片的に聞いた記憶がある。誰かへの指示を出すような会話でね」
「ああ……」
よく気づくなと思う。
右腕には輸血の針。この人はこんなこともできて、そして自分を助けた。
声を出すのは苦痛でしかない。だが、少しは感謝していなくもない。
「殺すんだ……リスト外の、げほっ、人間は……」
「それは運営側の指示なのか?」
サブローが肯定の返事に、首を縦に振って見せた。
529人形の糸は切れて(5/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/24(土) 03:27:00 ID:O6iVQCES0
初芝が背中をさする。気休めにもならなかったが。
「リストには誰が入ってる?」
今度は首を横に振る。
操られていた時の記憶は全ておぼろげだ。何を考えていたのか、全てが断片的だった。
たぶん、ここにいる三人は入っていなかったのだろうが。
そういえば、見逃した人間がいた。改めて言葉をひねり出す。
「小野……浅間……あと、何人か……」
「そうか。もう一つ聞きたい。海は禁止エリアに入ってるのか?」
また首を振る。何も記憶がない。初芝が残念そうな顔をした。
申し訳なく思った。それがなんだか可笑しく思える。
元はと言えば最初から人を殺しまくっていた自分だ。罪の意識などない。
けれどこんな気持ちになるのは、少しは役に立ちたいと思っていたのだろう。
苦痛の海の中で、サブローはそんな自分がひどく滑稽に見えた。
ゆっくりとサブローが立ち上がる。
体はあちこちが言う事を聞かないが、まだ動く。
ゆっくりと足を踏み出した。
もう一度。あの忌々しい操りの時間から開放された今、生き残るのだ。
体を休めて、そして生き残る。この気持ちは最初から何も変わっていない。
「どこへ行くんだ?」
初芝が尋ねる。答えなど持ち合わせていなかった。
(あんただけは殺さないでおいてやるよ)
ふと、頭の中に記憶の断片が舞った。ずいぶん遅れて、それが口を突いて出る。
「薮田……」
「え?」
「……海……薮田、よくわからない……でも、浮かんだ」
「わかったよ」
そう言い残して、サブローはたどたどしく歩く。足を引きずり森の中へ消えていく。
「いいんですか?」
里崎が訪ねる。初芝が静かに首を振った。

 森の中はひどく暗い。
視力までもがずいぶんと落ちていることに気づく。
530人形の糸は切れて(6/6) ◆QkRJTXcpFI :2005/12/24(土) 03:28:17 ID:O6iVQCES0
バランスを崩しそうになりながらも、サブローは進んでいく。
手足の感覚は薄れ、あちこちが千切れるように痛む。

 それでも俺は生きている。
まだ天は見捨ててはいないのだ。
生き残る。生き残らなければいけない。
そのために誰を殺したとしても、後悔なんてしてなかった。
何人殺そうと同じだ。必ず帰る。
お前のところへ帰るんだ。
ここに来る少し前に聞かされた。また家族が増えるんだ。
一人目が生まれた時、お前は凄く喜んでたから。
来年の四月には、またお前が喜ぶ顔が見られる。それは俺にも嬉しい。
だから帰るんだ。お前の幸せは、俺が守るんだから。
俺にとってそれが一番大切なことなんだ。

 足が地面の凹みに引っかかる。サブローの膝が崩れた。
そのまましゃがみ込むようになると、呼吸が荒くなる。
「がはぁ……っぁ……」
立ち上がろうとする。まずは安全な場所に身を隠す必要がある。
そうやって今を凌げば、なんとか生きて帰れるかもしれないという希望。
操りの糸が全て切れ、やっと自分を取り戻したのだ。これからなのだ。
早く立ち上がろうとする。何度も体が揺れるが、しかし膝は伸びない。
腕も、脚も、もうサブローの体を支えることは出来ないようだった。
肩が何度も上下する。サブローは何度も地面を押す。砂が手を汚すだけだった。
(ミ…チ…ヨ……)
木々が明かりを隠し、彼の周りは真っ暗だった。サブローはもう一度体を揺する。
しゃがみ込んだまま、やはり立ち上がれなかった。
それはまさに糸の切れた人形そのものの姿で。
一つ大きく息を吸って吐き出す。背中から力が抜け、そして動きは止まった。
(ごめん……よ…………)

【サブロー× 残り17名】
531代打名無し@実況は実況板で:2005/12/24(土) 04:09:43 ID:DIjL2gnc0
職人さん乙です!
う゛あ゛ぁぁぁ。・゚・(ノД`)・゚・。
サブロー最後に自我を取り戻せて本当によかったよ
そんな体でも生に執着する姿に涙が止まらない
532代打名無し@実況は実況板で:2005/12/24(土) 04:43:22 ID:/e4ognUD0
・゚・(ノД`)・゚・。
職人さん乙!!
サブロー、あのまま終わらなくてよかったね・・・。
初芝、里崎、成瀬でなんとかしてくれ、サブローの分も頑張ってくれ・・・
533代打名無し@実況は実況板で:2005/12/24(土) 10:19:47 ID:urdfgURL0
・゚・(ノД`)・゚・。
サブロー・・・
でもあのままじゃなくてホント良かった
534代打名無し@実況は実況板で:2005/12/24(土) 12:08:03 ID:qwehfTdEO
。・゚・(ノД`)・゚・。千葉県で泣いた
535代打名無し@実況は実況板で:2005/12/24(土) 13:12:20 ID:KlC7BTbhO
うわぁぁぁぁ。・゚・(ノД`)・゚・。
サブ…
536代打名無し@実況は実況板で:2005/12/24(土) 23:31:50 ID:GeWlE9Go0
。・゚・(ノД`)・゚・。
うわぁぁぁぁぁ
サブロー自我が戻ってよかったね
同じ死でも全然違うし
537代打名無し@実況は実況板で:2005/12/24(土) 23:35:58 ID:vX/Y4Q+X0
ああ、初様が天使に見える…
538I BELIEVE(1/3) ◆vWptZvc5L. :2005/12/25(日) 02:05:37 ID:114Ta/ue0
まるで夢遊病患者みたいだと浅間敬太は思う。
宙ぶらりんになった意識だけが、この体を引きずってさまよっている。
ふわふわと雲の中にでもいるような頼りない足取り。
自分が進んでいるのかどうかさえわからない。
「…違う。違うよな、金澤」
さっきからうわごとのように何度も呟き続けている。
思い浮かぶのは浦和で自分の球を受けてくれた友。
自分の無事を祈ってくれた信頼できる仲間。
難しいことじゃない。その目の前に垂らされた蜘蛛の糸をしっかり掴めばいい。
それなのに、たった一言が邪魔をする。
――『将を殺したのは金澤だ』
「そんなはずない」と思うのに、どこかで「もしかして」と思っている自分。
信じる心と疑う心が互いに拮抗して、どちらも力尽きることがない。
いっそ、どちらかに完全に傾いてしまえれば楽になれるのに。
「誰か…誰か助けて……金澤…西岡…」 
また涙がこみ上げてきてしゃくりあげる。もう何もかもが嫌だった。
自分が堀幸一を殺めたと言う事実も。
金澤岳が本当に橋本将を殺したのかどうかという疑問も。
あんな一言で激しく揺さぶられている自分も。すべてが浅間に重くのしかかる。

救いを求めてさすらううちに、浅間は夜目にもわかる白い人影を見る。
地べたに座わって、木の幹にだるそうに背を預けている。
捜し求めている人物ではない。むしろ嫌悪する対象。
自分をここまで混乱に落とし入れている元凶、小野晋吾。
向こうも頭を押さえていた手を落として、こちらを見る。
無視すればよかったはずだ。なのに足はその方向へ向かっていた。
体のいいスケープゴートを見つけたとでも思ったのかもしれない。
「小野さん。あんた、何であんなでたらめを言った…」
「何が」
晋吾が疎ましそうに浅間を見上げる。
「金澤が橋本さんを殺したって、どういうこどだよ!?」
「事実を言ったまでさ」
539I BELIEVE(2/3) ◆vWptZvc5L. :2005/12/25(日) 02:06:10 ID:114Ta/ue0

そっけない返事が返ってくる。やっぱり苦手だ、この人。
本当のことを言ってるのか、嘘をついてるのか全く見抜けない。
嘘をつく必要はない。けど、そんなことをわざわざ自分に言う必要もないのだ。
何を企んでいるのだろう。自分の困惑を見て楽しんでいるとでもいうのか。
「俺は金澤を信じてる。あいつはそんなことする奴じゃない。あんたとは違う。
 仮に…もし仮にそうだったとして、絶対に何か事情があるはずなんだ。
 俺はあんたが言うことになんか、騙されないからな」
(そうだ、俺は金澤を信じてる。こんな誰も信じられない孤独な人とは違う。
 目の前で冷たい顔をしている人を信じるのか、今まで浦和でともに
 戦ってきた友を信じるのか。そんなのわかりきったことじゃないか)
声に出すことで、浅間はもう一度それをしっかり胸に刻む。
「信じる信じないは、そっちが決めればいい」
淡々と言い返される。冷たい口調。いつだったか「俺は人殺し」と言ったのは、
はずみで出た言葉ではなかったんじゃないかと思わせるほど。
けれど、浅間は気づいていない。晋吾の目元にも涙の跡があることを。
「あんた、かわいそうな人だ。その目は誰のことも信じていない。
 見るもの全部敵だと思ってる。堀さんに対して涙ひとつ見せやしない。人として終わってる」
哀れみの目で見下しながら、浅間はしゃべる。
今、目の前にいる者の姿は、信じることを失った人間のなれの果て。
晋吾をそう蔑むことで、自分はそんな人間とは違うのだと思い込もうとしていた。
それでも晋吾は表情一つ変えない。涼しい目で浅間を見上げている。
どれだけなじっても、その顔に漂わせる余裕。それが浅間のしゃくに障った。
上からものを言っているはずなのに、自分の方が逆に追い詰められている。
「…かわいそうなのはお前だろ? 金澤の本性も知らないで」
何がおかしいのか、晋吾が含み笑いを見せる。
「さっきお前が言ったこと、そっくりそのまま返す。
 俺は将を信じてる。あいつは殺されるようなことをする奴じゃない。
 じきに真相がわかるときが来る。……楽しみだよな。
 俺が将に裏切られるのか、お前が金澤に裏切られるのか」
そう言いながら、晋吾は自信たっぷりに笑う。
あざけるように笑みをたたえた口元からは、八重歯がのぞく。
540I BELIEVE(3/3) ◆vWptZvc5L. :2005/12/25(日) 02:06:45 ID:114Ta/ue0
浅間は背筋に寒いものを感じた。この自信はどこから来るのだろう。
自分たちよりも長くバッテリーを組んできた年月か、信頼関係か。
それとも相手に自信があるからなどではなく、
自分が知らず知らず金澤を疑っているからそう感じてしまうのか。
浅間はいつしか、後ずさりを始めていた。意識してないのに、足が勝手に動いてしまう。
(これじゃまるで、俺が金澤を信じてないみたいじゃないか…)
これ以上ここにいれば、一気に波に飲まれてしまいそうな気がしたのだ。
相手に言い負かされるのではなく、湧き上がる疑いが抑えられなくなりそうで。
数歩下がったところで、体の向きを変えて逃げ出した。
「それまでせいぜい生き延びるんだな、浅間」
背後から聞こえる声。生きてその目で裏切りを見ろよという悪意を孕んで。
聞く人によっては、歪んだエールだと解釈できたかもしれない。
なのに、それを悪く捉えてしまうほど、気持ちは揺れている。
何を信じているのか、何を信じていいのか、自分で自分のことがわからない。
(信じてる……信じてる……)
何度も胸の中で繰り返す。自分に言い聞かせるように。
(そうだ、金澤がこのゲームに乗ったかどうか、この目で見たわけじゃない。
 人が戸惑うのを見て、おもしろがるような奴になんか騙されない)
もう一度、揺らぐ気持ちを立て直そうとする。それでも、そこに入り込んでくる疑い。
それなら、金澤に合流を断られたのは何故?
それなら、金澤があんなに敵視されていたのは何故?
首を左右に振って、邪念を振り払う。
「信じてる。信じてる…」
もう一度、言葉にする。他人がどう思っているかなんて関係ない。
大切なのは自分がどう思うか。金澤本人に会えれば、真実はわかるはず。
(俺は人を信じられないような奴とは違う。
 金澤だって望んで人を殺すような奴とは違う。
 信じてる。信じてるからな、金澤……)
541代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 02:25:10 ID:PL5CwuH20
職人さん乙です!
浅間ぁ〜っ・゚・(つД`)・゚・
西岡と会うのと金澤と会うのどっちか早いかな…ってか会えるのかな…
542代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 02:50:34 ID:jmjJvASv0
職人様乙です!!!
浅間…ガンガレ…。
543代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 04:10:03 ID:qhujrv9OO
職人様乙です!
浅間ぁ…ガンガレ(ノД`)
>>541
西岡と会えれば少し救われるんじゃないか…。
と期待してみる。
544北へ  ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/25(日) 09:51:54 ID:v3YqB1h80
 内はいつまで経っても泣き止まなかった。それを咎めることなく小宮山は、内の背中を
優しくぽんぽんと叩いてやっていた。
 そうしながら、小宮山は側に座っている薮田の方へ視線を移した。
「…薮田。さっきの話なんだが…」
「はい」
「筏を作って海に出て、愛甲さん達に会って船でこっちに戻ってきたって言ってたよな?」
「はい」
「―その船、使えないか?」
 小宮山は一縷の望みをその船にかけていた。
「発信機があるのにお前は筏で海に出て行けたんだろ? だとしたら、きっとそういう形での
逃亡は可能だということだ。もしその船がまだ動かせるような状態であれば…。―早くしないと、
船を泊めたところも禁止エリアになっちまうかもしれない。そうなる前に、そこに行く必要がある」
 山本の言葉では禁止エリアでは発信機が爆発するということだったが、島から出てしまえば
それは機能しないのであろうということが薮田の話から理解できた。そうでなければ、今ごろ
彼とこうして会話をすること自体不可能であろう。
「ボビー達はヘリもあるし兵士だっている。正面からいっても、…正直、玉砕するだけだろう。
今は命を守ることを最優先させるんだ。島の外へまた出られれば、他の手段だって考えられるだろう」
 それに…、と小宮山はチラリと内の方へ視線を落とした。
 薮田はそれを見て、小宮山の言いたいことをなんとなく理解する。
「まず、船が使える状態かどうか確認しに行こう。それから、後のことを考えよう」
 その言葉に、薮田は頷いて同意を示した。

 内はどうやら泣き止んだらしく、しゃくりあげる声も聞こえなくなった。
 それを確認した小宮山は、そっと体を離して内を体育座りさせてやった。
 泣いたことで感情が出たのか、先程よりは目に生気が宿っている印象を薮田は受けた。
 ―それはきっと彼の願望を含んでのものだったが。
545北へ(2/5)  ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/25(日) 09:53:54 ID:v3YqB1h80
「行こう。時間がない」
「はい!」
 そう言ってふたりは立ち上がった。
「ホラ内、お前も…」
 薮田はそう言いながら内の手を引っ張ろうとした。
 しかし小宮山が、その手を抑えた。
「コミさん?!」
 小宮山の思わぬ行動に、薮田は驚きを隠せず大きな声を出してしまった。
「内はここにいさせるんだ」
「! こんな状態で置いてくなんて無理ですよ!」
 泣きはらした瞳の内を指差して、薮田が困惑気味に告げる。
「もし俺達の動きが気づかれたらどうするんだ? 内を庇いながら行動するのか? それで内を
守ってやれなかったらどうするんだ? お前はそれだけの力が残されてるのか?」
 矢継ぎ早に問いかけられ、薮田の瞳が一瞬揺らいだ。
 自分の無力さを、暗に叩きつけられている気がした。
「俺はっ…」
 感情が昂ぶってしまい、薮田は今度こそ泣きそうになる。
「―すまん。言い方がキツかったな。…力がないとかいうのは、腕っ節の問題だぞ? お前は
怪我もしてるしな。内を庇いながらの行動じゃ、痛みが増すばかりだと思う」
「ですが…」
 それでもまだ納得しきれない薮田は、俯いて黙ってしまった。言うべきことが、上手く言葉に
ならずにいた。
「ここにいた方がもしかしたら会わないかもしれないだろ、誰とも。誰もが誰も『やる気』ばかりの
やつじゃない。もしかしたら、俺達より体力があって内を守ってやれるやつがここに来るかもしれない。
確かにリスクもある。でも、三人で一緒に行動するよりは少ないと思っている。俺達は今から危険な場所に
行くってことだけは、解っているからだ。…深い茂みに移動させておこう。念のため、誰かに見つかる
可能性も、少なくしておこう」
 小宮山の言葉に、薮田は唇をきゅっと結んだ。
546北へ(3/5) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/25(日) 09:55:16 ID:v3YqB1h80
 小宮山は内を立たせて、今いるところよりもっと深い茂みへと連れて行った。
 薮田は黒木の体を抱え、それについていく。
(ジョニー…。お前なら内にどうしてやる?)
 もう起きることのない彼に、そう問いかけてみる。
 今から自分達がやろうとしていることは危険を伴うものだ。
 それにこの状態の内を同行させるとなると、それはまるで彼を狙ってくれとでも言うべきことに
なるのだろう、と感じた。
 それでも、内がここにひとりでいる危険を考え薮田は葛藤していた。
 先ほどの場所より少し離れた、深い茂みへ内を座らせた。内は言葉は発さないものの、不安そうに
小宮山の方を見つめた。それに気づいた小宮山は、彼を安心させるように小さく微笑んで見せた。
「こいつも持たせておこう」
 小宮山はコルトガバメントを取り出した。
 内の足元に、そっと置いておく。
「いいか。いざとなったら、お前がこれで自分を守るんだ。…お前は若いからな。今すぐ立ち直れとは
言わない。―いや、俺なんかに言う資格はない。だから、お前の意志で動くこいつを置いていく」
 小宮山はそう言うと、さっと立ち上がった。
 内は置かれたコルトガバメントを見つめていた。
「行こう」
 その言葉に、薮田はすぐに頷くことができない。
「薮田。心配する気持ちも解る。でもな…、きっと、内は大丈夫だ。なんとなく、そんな気がするんだ」
 小宮山の言葉には根拠も何もなかった。それでも、きっとそうだと思わせるような力強さがあった。
「誰かが将来のエース候補って言ってたけど、なんとなくその気持ちが解る気がするよ。おまけに
黒木を慕っていたみたいだしな」
 黒木の名前を出したところで、少し小宮山が悲しそうな顔をしたのを薮田は見逃せなかった。
「危険な目に遭うのは俺だけで十分なんだ。船の場所が解れば俺一人で行くんだが…。お前には
道案内させることになっちゃって悪いな」
 そう話す小宮山の表情を見て、薮田は一瞬ある疑問を感じる。
(もしかして、この人は自ら犠牲になることを覚悟しているんじゃ…)
 
 小宮山の贖罪。それは何かのために、自分の命を捧げること。
 薮田はそれに、気づいてしまった。
547北へ(4/5) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/25(日) 09:56:06 ID:v3YqB1h80
「…納得できたか。いや、お前がしなくてももう行かなきゃいけない」
 小宮山はそう言って薮田を見つめた。
「…大丈夫です。コミさんの方がひとりにさせられないことに気づきました」
「おいおい、俺は」
「何があったかは解りません。でも、コミさん。自分の命も大事にしてください」
 その言葉に、小宮山ははっとする。
「お前…」
「さっきの話振りからして、なんとなく…コミさんは自分を責めているようでした。それで、命の
危険を冒してまで行動するようなことを言っているような気がして」
「……」
 小宮山は黙っていた。
「ひとりで苦しみを背負わないでください。俺も…いろんな人を巻き込んで…、…。それでも前に
進まなきゃいけないと思ってます。その人達のためにも。生きて、帰ろうと思ってます。きっとそれが
俺にできるせめてものことです。この出来事で苦しみを背負ってない人間なんていません。だから、
ひとりで背負わないでください」
 フィルダー、そして愛甲。薮田が筏を作り、海に出たことで出会った人間。
 自分があの船に引き揚げられなければ、ふたりは命を失わずに済んだのだろう。
 それでもふたりは自分を責めることなく、命懸けで勇気と望みをくれた。
 ふたりのためにも、この状況を打破し、生きることが自分にできることだと薮田は考えていた。  
 小宮山のことをまっすぐ見つめながら、薮田ははっきりと自分の気持ちを伝える。
 その彼の表情を見て、小宮山は微かに笑んだ。
「…お前、強くなったな」
548北へ(5/5) ◆1Y1lUzrjV2 :2005/12/25(日) 09:57:35 ID:v3YqB1h80
 その言葉に、薮田は首を振る。それを見た小宮山は、それ以上は何も言わなかった。
「―もう行こう。船はどこにあるんだ?」
「北の方にあります。ええと、地図でいうと…、Aの…4か6辺りだったと…」
「よし。行こう」
 ふたりは、北の方へ体を向ける。 
「行きましょう。絶対に、諦めちゃいけない」
 力強い薮田の言葉に、小宮山はこくりと頷いた。

 足を踏み出す前に、小宮山は内の方を振り返る。
 内は自分を置いていくふたりの存在に気づいたのか、先ほどと同じく不安そうな視線を向けていた。
 小宮山は親指を立て、そしてまた背中を向ける。
(俺では―いや、俺達の力ではお前を立ち直らせることはきっとできないだろう。もし、できると
したら、それはきっと…)
 黒木のことを思う。彼が執着していたという、黒木のことを。今は内の隣にその体を横たわらせて
いるが、彼はもう何も語ってはくれない。
(ジョニー、お前ならあいつを立ち直らせてやれるかもしれないな。……。…自分で立ち直ってくれよ、
内。きっと、お前なら大丈夫な筈だぞ)
 そう心の中でエールを送りながら、小宮山は先に駆け出してしまった薮田の背中を追った。
 

 遠くなる背中を内は目に映していた。
 20と14の背中が、どんどん遠くなっていく。

「…い、かない、で…」
 小さく、殆ど消え入りそうな声で、内は無意識のうちにそう呟いていた。
549代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 10:04:11 ID:D6nkSHrKO
職人さん乙です!
リアルタイム投下にドキドキでした…
550代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 10:05:18 ID:D6nkSHrKO
職人さん乙です!
リアルタイム投下にドキドキでした…
コミさんカコイイ!
内くんがんがれ!
扉を開けると、そこに想像もつかない光景が広がっていたらどうするだろうか―
もちろん、吉鶴はそんなことを考えたことはない。
(・・・とりあえず)
吉鶴はドアノブに再び手をかけた。
(見なかったことにしよう)
そして開けかけた扉をすぐに閉めてしまった。

「・・・どうしたの?」
その様子を見て、ポケットをぱんぱんに膨らませた荘が尋ねた。
「い、いえ・・・あの・・・。」
吉鶴は返答に窮した。
なんと答えればよいものか迷ったが、深呼吸をしてから改めて答えた。
「あの・・・、見てはいけないものを見てしまったらどうすればいいんでしょうか?」
「え・・・?まさか、高沢さんがカツラはずしてたとか!?」
「確かにそれは見ちゃいけないと思いますけど・・・。って言うか高沢さんヅラなんですか?」
「話の流れからすると、そうかなって。」
「言ってませんって、そんなこと・・・。」
吉鶴はため息をついた。

「でも、高沢さんがカツラかどうかはぜひ確認しないとね。」
「だから違いますって!」
吉鶴の言葉も聞かずに、荘は扉を開け放った。
「あっ・・・!!」
―そして一瞬の間をおき、夜空に大きな声が響いた。

「あっはっはっは!!」
荘の笑い声が。
この光景はまるでコントのようだった。
「フークザーサーン、フークザーサンハドーコディスカー!!」
カラフルな頭髪に派手なメガネ、金ぴかの服を着た男が、ベルをちりんちりんと派手に鳴らしながら、自転車を乗り回していた。
そして、先ほど寮から出たはずの高沢が無茶苦茶に進んでいる自転車から逃げ回っていた。
「うわあ、こっち来るな、来るな!!」
高沢は喚きながら男から必死に逃げ惑っていた。
「知リマセンーカ!!知リマセンーカ!!」
「知らないってば!!」

「あっはっはっはっは!!」
その光景を見て荘は腹を抱えて笑っていた。
(何で荘さんは普通に笑えるんだ・・・)
吉鶴の困惑をよそに、やがて高沢たちは、追いかけっこをしながら夕闇の向こうへと消えていった。
「ははははは・・・」
荘はまだ笑っていた。
「何なんだよ、いったい・・・。」
ひょっとして、今見ているものはすべて夢じゃないのか?
吉鶴はそんな気さえしてきた。

・・・ちりんちりん。
夢ではないことを確かめさせるかのように、遠くから自転車のベルを鳴らす音が聞こえてきた。
「こ、この音は」
吉鶴は音のしたほうを振り返った。

ちりんちりん、ちりんちりん、ちりんちりん、ちりんちりん・・・。

けたたましいベルの音とともに、暗闇からライトがゆらゆらと近づいてきた。
「ハーイ、ミナサーン!!」
先ほどの男が再びやってきたのだ。
男は荘たちの目前でブレーキをかけた。
「タアッ!!」
そしてそのまま派手に自転車から飛び降りた。
「グハアッ!!」
わざとなのか自転車ごとひっくり返るかのように派手に転んだ。

「あーはっはっは!!」
「・・・。」
荘は再び笑い出した。
しかし、吉鶴には笑っていいのか、それとも他のリアクションを取ればいいのか分からなくなっていた。
「あれ?動かないよ?」
「・・・え?」
しばらく経っても男はぴくりとも動かなかった。
荘の言葉を受けて、吉鶴は恐る恐る男に手を伸ばした。
「イヤァ!!」
男は跳ね上がるかのように派手に立ち上がった。
「ひっ!!」
吉鶴は驚きのあまり尻餅をついてしまった。
男は吉鶴を傍目に、服についたほこりをぱんぱんと軽くはたきおとすような仕草を取り、
それを済ませると、大きな手振りで話しかけてきた。
「オゥ、アナタ達、フクザーサン知リマセーンカ!!」
「さ、さあ・・・。」
吉鶴は、視線をわずかに逸らして小さく首を振るのが精一杯だった。
「ソウデスカー。」
「って言うか、何で福澤くん探してるの?」
「ギクウッ!!」
荘の一言に、なぜか男がうろたえだした。
「ひょっとしていけない事?」
しかし男は質問には答えなかった。
「チョット待ッテクダサーイ。」
突然男は慌てて服の中をまさぐりだすと、内ポケットから携帯電話を取り出した。
着信音は鳴らなかったから、おそらくマナーモードだったのだろう。
吉鶴はそんなことをなんとなく考えていた。
「はい、もしもし、はい、え・・・。」
「・・・喋れるじゃん。」
吉鶴はぼそっとつぶやいた。

吉鶴の言葉を聞き取ったのか、男は慌てて携帯電話に向かって叫んだ。
「ノーノー!!違イマース、違イマース!!人違イデース!!ニホンゴ話セマセーン!!」
再び片言の日本語で話したかと思うと、乱暴に携帯電話を切ってしまった。
「まずいな・・・。」
そうつぶやくと、男は自転車に飛び乗り、よろよろと走り去っていった。
「マタ会イマショー!!」
(もうたくさんだ・・・。)
吉鶴は心の中でつぶやいた。
マリーンズ寮は、先ほどの喧騒が嘘のように再び静まり返った。
(もうすぐ夕食だって言うのに誰も帰ってこないし、誰か来たと思ったら変なおっさんだし、
それに荘さんはお菓子を食べてばっかりだ・・・。)
「はぁ・・・。」
吉鶴は何度目か分からないため息をついた。
そんな様子を見て、荘は人差し指を立て、軽く左右に振りながら話しかけた。
「吉鶴くん、ため息を一つつくたびに、幸せが逃げていくんだよ。」
「はあ、そうですか。」
言っている事は確かにそうかもしれないが、
荘にいわれると、かえって力が抜けてしまうような気さえした。

そんな吉鶴には構わずに、荘は何かを指差した。
「あ、あれなんだろう?」
荘が指差した先に何かが落ちていた。
吉鶴が手にとって見ると、それは良く見慣れた円盤状の物だった。
「・・・DVD?」
「やっぱりDVDだったんだ。高沢さんったらこんなの隠しちゃって。」
「は?」
「だ、か、ら、高沢さんの秘蔵DVDだよきっと。これは一見の価値があるよね!!」
「いやちょっと待って・・・。」
確かに高沢が落としたものが知れないが、他の人の遺失物かもしれないし、
それに他人のものを見るのは正直気が引けた。
しかし、荘は吉鶴の話など聞いていなかった。
「よーし、早速見るぞー!!」
荘は玄関に駆け出していった。
「ちょ、ちょっと!!」
あわてて吉鶴も追いかけた。
そんな二人を呼び止める声があった。
「おーい・・・。」
「あれ?福澤さん・・・?」
「福澤くん、どしたの?」
二人を呼び止めたのは福澤だった。
息はひどく荒くなっており、頭から湯気が出ているのが街灯からでも分かることから察するに、
相当に走り回っていたことが分かった。
「どうしたのって・・・、大谷さんを探していたんだけど。」
「あっ、そうだった!!」
「ごめん、すっかり忘れてた!!」
「・・・。」
二人とも数々のどたばたで、福澤が大谷を探していたことが頭からすっぽり抜け落ちていた。
「すいません。それで大谷さんは?」
「・・・。」
福澤は小さく首を振った。
「そうですか・・・。」

夕食はいったい何人分にすればいいのだろうか。
そんなことを吉鶴は考えていたが、福澤は意外なことを言い出した。
「ちょっと来てくれないか?」
「え?もう夕食の時間ですよ?」

福澤は吉鶴の問いに、静かに、しかししっかりと答えた。

「時間が、無いんだ。」
(続く)
557 ◆GDAA.BMJxc :2005/12/25(日) 11:35:29 ID:jsalHi9M0
またトリップ間違えた・・・orz
558代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 11:52:21 ID:opdhwmPGO
職人様乙です!
荘さん食べ過ぎワロスw
559代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 13:45:44 ID:PNVtTKuYO
最近投下ペースが早いですね。職人様達乙です!
助っ人達やマーくんたちに比べ、いまいち緊迫感に欠けるコーチ陣もいよいよ核心に絡んでくるんでしょうか…
560代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 13:52:43 ID:qhujrv9OO
大量にキテター!!職人様乙です!
561代打名無し@実況は実況板で:2005/12/25(日) 16:04:58 ID:bwHb352p0
職人様乙華麗です。
オフは投下ペース速くて嬉しい!
562代打名無し@実況は実況板で:2005/12/26(月) 00:45:59 ID:/sbSz7r70
保守
563代打名無し@実況は実況板で:2005/12/26(月) 17:18:56 ID:CslKH1tSO
青松捕手
564一粒の種(1/1) ◆vWptZvc5L. :2005/12/26(月) 21:19:29 ID:GIwd5VdF0
なぁ浅間、なんで俺がわざわざあんなこと言ったと思う?
里崎みたいな勘のいい奴に邪魔されるおそれがあっても、
あんなこと言い残していったのは何故だと思う?

堀さんが死んだとき、お前見て思ったんだ。あの泣き方は異常。
里崎や成瀬、初芝さんとも明らかに違う、ひとりだけおかしかった。
だからそこを利用させてもらった。不信の種を一粒落としてやったんだ。
金澤はお前と同期だろ? 同期ってのはそれなりに思うところがあるもんさ。
高卒ならなおさら。俺も高卒同期は多いからわかる。
立川はもう他所にいってしまったけれど、それでもまだ福浦、大塚。
何の腐れ縁だか知らないが、10年経ってまだ二人もいる。
入団したときはみんなピッチャーだったのに、今じゃ俺だけ。
あいつらも今ごろ何やってんだろうな。まだ死んじゃいないみたいだけど。
ま、とにかくその同期ってやつに裏切られれば、受けるショックは格別。
不信は不安定な土壌でよく育つ。多弁は自信のない証拠。
本当に違う奴は「違う」なんてわかりきったこと、意識しない。
本当に信じてる奴は「信じてる」なんて当たり前のこと、口にしない。
いつか気づくよ。お前も同じ。俺と同じ。
どんなに違うと思っても、否定できなくなるときが必ず来る。
誰も信じられない。誰か死んでも何とも思わない。
この手が誰かの血に汚れても抵抗を感じない。
そういう負の部分に気がついてしまうときが来るんだ。
自分は違う、なんて最初は誰でもそう思うんだよ。俺もそうだった。
なのに、何かのはずみでまっとうな線路から外れてしまう。
修正できずに深く迷い込めば、見渡す限り荒野の中。そこは線路の外の風景。
独りでこんなところまで飛び出してくること自体、線路から外れてる。
俺と同じさ。違わない。お前はもうまともじゃいられない。
お前の中に芽生えた不信が、どう育つかは俺も知らない。
でもその不信が金澤の正体に向き合ったとき、お前はどういう行動をとるんだろうね。
楽しみだよ。俺はお前が金澤の毒になってくれると思ってるからな。
だから、それまで死ぬんじゃねぇぞ、浅間。
565代打名無し@実況は実況板で:2005/12/26(月) 22:26:17 ID:+m/OQP+s0
小野の独り語りテラコワス…でも何だかセツナス
職人さん乙です!
 薮田と小宮山の背中が遠ざかっていく。
 それを見つめながら内は、「行かないで」とうわ言のように呟いていた。
 次第に意識が遠くなっていく。薄っすらとしか、周りの景色が見えなくなっていた。
 緩やかなフェードアウト。
 あまり睡眠をとっていなかった体は、精神的な限界を察知してくれたのか内を眠りに誘った。……
  

 内は駆けていた。
 必死に、駆けていた。
 暗がりの中を。ここがどこだか、まったく解らない闇の中を。
 息が上がってしまっている。
 それでも必死に駆け続けた。
 その内の足を、誰かの手が掴んだ。
「う…、わあっ」
 そのはずみで、内は転倒する。うつ伏せに倒れてしまった体を起こし、足を掴まれた方向を
恐る恐る見る。
 そこには死んだ筈の井上純がいた。
「ふふっ、お前はまだ若くていいなあ。まだ生き残っているのか…。喜多のように誰かを殺したのか?
ベテランは…いつだって…若い世代に脅かされてばっかりだ……」
 時折不気味な笑みを浮かべ、井上は内にそう告げる。喜多に命を絶たれたときと同じく、彼は
全身血塗れであった。
「うわあああああああ!!!」
 内は恐怖のあまり絶叫した。立ち上がることもできず四つん這いの格好で井上の方から逃げようと
方向転換し、少しでも彼から離れようと手足を動かした。
 すると、視界に誰かの足が見えた。ユニフォームを通した足が。
 思わず顔をあげて、誰かを知ろうとする。
「俺を殺してエースやるんやって?」
 放送で早々と名前を呼ばれたマリーンズのエース・清水直行がそこにいた。
「一番、か。お前の考えは甘いなあ」
 直行のユニフォームは血塗れだった。吐血したのか、口から流れた血の跡もあった。しかし
直行はそれを気にすることなく、内に話しかける。
「エースって、そんな甘くないで」
「や、やめてっ…。もう、やめてくださいっ…!」
 腰が抜けそうになるのを、必死に抑えた。
 立ち上がることもできない内は、その場にぺたんとしゃがみこんでしまった。
 恐怖のあまり、もう体がこれ以上動いてくれなかったのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい…。うう…」
 頬に温かさを感じたと思ったら、それは自分の涙だった。
 ―内の周りには今まで放送で名前を呼ばれたピッチャー達がいつの間にか立っていた。
「俺達を踏み台にして一番になるのか?」
「それで満足なのか?」
 口々に自分を責めたてる言葉に、身を切り裂かれるような思いがした。
 一番になるために皆を殺そうとしていた自分。
 今、その罰を受けている。そう思った。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
 内はただそれしか口にできない。両手を覆い、涙をただ流し続けていた。
 今までの自分が一気に思い出される。

 皆を殺すんだと息巻いていた自分。
 それで一番になれると思っていた自分。
 愚かな過去が、今すべて暴かれている。そう感じた。いくら「ごめんなさい」と繰り返しても、
許されない過去が目の前にすべて何かの骨董品のように綺麗に並べられているような気がした。

 内の側から、急に人の気配が消えた。
 そしてふっと見上げると、そこには内が―もうひとりの自分とでもいうべき存在が―いた。

 もうひとりの内は顔を血に染めていた。於保に殺された諸積の血が附着したとき、鏡で見たあの自分の顔だった。
 そいつは内に向かって何も言わず、ただにやりと笑ってそこに立っていた。

 ―過去の自分に、復讐されているような気がした。
 そいつは口を開いた。
「一番になる為には犠牲も必要。ですよね?」
 また、そいつは口を開いた。
「一番になる為には犠牲も必要。ですよね?」
「やめろ! やめろおおお!!!」
 内は手をぶんぶんと振りまわし、もうひとりの自分を追い払おうとする。
 心臓は今までに感じたことのないような動きをして、内の精神的な崩壊を促している。
「やめろ!!!」
 必死に、手を振る。そして意識が不意に覚醒した。内は視線を、そいつの方に向けた。
 冷静になり、そいつを見つめると、ただ内の方を見つめて同じ言葉を繰り返しているだけだった。

 こいつは僕を責めているんだ。―何のために?

「一番になる為には犠牲も必要。ですよね?」
 また言ってる。
 
 過去の自分が復讐してくるほど、あのときの自分は脆弱な人間だった。虚勢を張って。なのに
いざとなったら何もできないで。
 
 その自分が今の自分を責めている。わざわざ、愚かな過去を暴いて。
「僕を試しているのか?」
 答えはない。内は唇をきゅっと噛んだ。
(こいつは答えないけど、きっとそうだ。僕は、過去の愚かな自分に試されているんだ)

 決して消せない過去。それと向き合えるかどうか。
 内は心の中で、戦っていた。
 一番になると息巻いていたあのときの自分。
 於保と行動しているとき、主導権を握っているように振舞っていたけれど、すべては彼の
掌の上であった自分。
 黒木のことを「裏切った」と冷たく言い放った自分。
 
 すべての過去が、一気に内を飲み込もうとする。
 今までのことがフィルムで高速回転しながら、内の脳裏を駆け巡る。
 
「違う! 僕はもう…、そんなことをっ…」
 
 試されている、と思っていてもその愚かな過去に流されそうになり、内は目を瞑り耳を塞ぐ。
 それでも、脳裏にはさまざまな過去がはり付いて離れてくれない。
 
「ううっ…。違うんだあっ…」
 負けたくない。過去の自分に。
 そう思っていても、もう限界であった。

「ううっ…」
 感情が昂ぶり、泣きそうになる内に、すっと誰かの声が耳に入る。


「目指したらいい。お前なら、なれるかも知れない」  


 ―黒木の声だった。
570代打名無し@実況は実況板で:2005/12/26(月) 23:14:28 ID:+m/OQP+s0
職人さん乙です!
内ガンガレ内!そしてジョニー・゚・(ノД`)・゚・内を頼むよ…
571代打名無し@実況は実況板で:2005/12/26(月) 23:21:57 ID:JcLjirJEO
職人様乙です!
内ガンガレ…
572代打名無し@実況は実況板で:2005/12/26(月) 23:28:51 ID:y8MqAUug0
うはー職人さん、乙です。コミさんと薮田様も気になるけど
ガンガレ内!超ガンガレ!!ジョニーも内を助けてやってくれ(つД`)
573代打名無し@実況は実況板で:2005/12/27(火) 17:44:50 ID:tPXOiP3HO
574代打名無し@実況は実況板で:2005/12/27(火) 18:46:04 ID:LUnC4zD+O
575代打名無し@実況は実況板で:2005/12/27(火) 19:12:00 ID:mO8Us000O
576代打名無し@実況は実況板で:2005/12/27(火) 20:45:38 ID:ujrMS2R10
保守
577代打名無し@実況は実況板で:2005/12/27(火) 21:47:52 ID:bhnRt/LmO
久々に直行が出てきてちょっと嬉しかった…
職人様ありがとう。
578代打名無し@実況は実況板で:2005/12/28(水) 12:08:08 ID:IBNhBYynO
保守
579代打名無し@実況は実況板で:2005/12/28(水) 14:43:52 ID:5/3c4i6s0
落ちそうなのでage
580代打名無し@実況は実況板で:2005/12/29(木) 00:35:56 ID:L/AwRPFRO
捕手
581代打名無し@実況は実況板で:2005/12/29(木) 13:31:49 ID:PZztMT5a0
http://016.gamushara.net/bbs/geibun/html/f108468.html

―──────────,,----、,,,,,,,,,、、   |! 人 从
────────── / ,,-‐―、ヽヽヽヽゝ|! )ひ (
 見た人の数 → 8000〔/  u  ))))ヾヽヽ|! )い (
 この人を探しています /.,,,,、、 , ヽξ\ヽΞ)ぃ (
   ,,----、,,,,,,,,,、、   / ==/  .,==-u  レi!ii ) ぃ (
  / ,,-‐―、ヽヽヽヽ  〔 ヾ(_,、ノ( "",,ノ u゚ );i) っ (
  〔/     ))))ヾヽヽλ:: iにニ`i,::::::::::::::::::::(@w荒(
  /.,,,,、、 ,ヽξ\Ξ/ λ::::ー‐'"ン ...::::u::::::つ: ii(⌒⌒
. / ==/  .,==-   レi!   λ!:::::.u::.. ::...:::::::::::/ ミi|l
〔、 ,(_,、ノ( "",,ノ:: 6)   | \::::::::::::::::::/,;;ミ ||i
──────────┘ _|彡"  ,' ; /'||
582代打名無し@実況は実況板で:2005/12/29(木) 20:29:24 ID:e5nULLxuO
583代打名無し@実況は実況板で:2005/12/30(金) 00:17:28 ID:PmunILMBO
ディアズ捕手
584代打名無し@実況は実況板で:2005/12/30(金) 02:27:36 ID:jdwXw2ao0
wktkしながら保守
585代打名無し@実況は実況板で:2005/12/30(金) 09:56:27 ID:J8skrKS2O
kwbtしながら保守
586代打名無し@実況は実況板で:2005/12/30(金) 12:33:13 ID:jdwXw2ao0
>>585が見えない保守
587代打名無し@実況は実況板で:2005/12/30(金) 19:26:56 ID:Zgpg0twKO
保守
588代打名無し@実況は実況板で:2005/12/31(土) 10:54:12 ID:luDx9tXGO
589代打名無し@実況は実況板で:2005/12/31(土) 15:07:56 ID:jLjr2+D6O
590代打名無し@実況は実況板で:2005/12/31(土) 21:38:36 ID:IQp9NwkF0
ほす
591代打名無し@実況は実況板で:2005/12/31(土) 23:08:37 ID:95kcoysPO
新年に期待捕手
592代打名無し@実況は実況板で:2005/12/31(土) 23:15:56 ID:dz3OEj7j0
今年一年職人様をはじめ皆様お疲れ様でした保守
593番外 園川一美と愉快なコーチたち26 ◆GDAA.BMJxc :2006/01/01(日) 00:01:17 ID:YuGkkV/r0
「まったく・・・、あの野郎」
苦々しげな口調とは裏腹に、園川はいつもの顔のため、
本当に怒っているのかは判別がつかなかった。

「どうしましたかな?」
先ほどまでグラウンドの外で雑談に興じていた老人が尋ねた。
「あいつ、どうせ暇だろうから、めしに誘ったのに・・・。」
「・・・ほう。」
「いきなり外国人の物真似をしだして、電話切りやがったよ。」
「ははは。なかなか愉快な方ですな。して、その方は・・・?」
「昔の、知り合い・・・かな。」
園川はふっと遠くを見つめた。
その視線の方向には「sonokawa81」のフラグを掲げた人がいた。

「さてと・・・。」
園川は立ち上がった。
「おや、どこへ?」
老人の問いに園川は自らの腹を示した。
「夕食の時間なのでね。」

そういって園川はグラウンドを出ようとしたが、園川は去り際にあることを思い出した。
「ったく、あいつら、どこで油売ってんだよ!」
そうはき捨てる園川の後姿は、いつもの園川だった。
594代打名無し@実況は実況板で:2006/01/01(日) 01:42:54 ID:5XTiG2l3O
新年早々職人様乙です!!
今年もよろしくお願い致します

園川コーチ久々登場でなんだか嬉しいなあw
595代打名無し@実況は実況板で:2006/01/01(日) 04:41:01 ID:xb576nzcO
捕手
596代打名無し@実況は実況板で:2006/01/01(日) 18:52:12 ID:wd9jfpN3O
 
597代打名無し@実況は実況板で:2006/01/02(月) 03:04:59 ID:zT7nNEwPO
保守
598代打名無し@実況は実況板で:2006/01/02(月) 18:01:31 ID:JxPbDVfwO
捕手
599さよならの向こう側(1/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:19:31 ID:0tJbEd5P0
「あ…」
 その声に、内はスタジアムでの会話を思い出す。
 黒木は自分に語ってくれた。
 エースというのはどういう存在かということを。
 それで内は愚かな過去を打ち消そうとしたのだ。
 そして、銃弾が――――。

「うわああああああ!!!!!」
 そのことをまざまざと思い出してしまい、内は恐怖のあまり叫んでしまう。
 するとまた、声が聞こえた。
「目指したらいい。お前なら、なれるかも知れない」
 
 内の目から一気に涙が溢れる。
 また助けてもらってしまった。あのときもそうだ。自分の過去を悔やませてくれた。
 そんなことを、ふっと考える。
 
 今まで内を飲み込もうとしていた愚かな過去を、黒木の一言が救ったような気がした。

「そうだ…。僕は…」
 何かを決意したように、ぎゅっと唇を噛んだ。

「僕は…、過去の僕に負けちゃいけないんだ…。そうじゃないと、エースになんてなれない…!」
 彼の言う『エース』。それはゲーム当初のようなものではなくて。
 スタジアムの中での会話を思い出す。あの人は、言った。

「内、お前がそれを目指すなら、みんなのことを考えろ。他人に感謝しろ。そして、自分を諦めるな」

 諦めちゃいけない。だから。だから、僕は――。
600さよならの向こう側(2/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:20:38 ID:0tJbEd5P0
 内はある決意をもう勝手にしてしまっていた。若いからこそできるような青臭い決意かもしれないが。
 だからこそ、こいつにも打ち勝たなくてはならない。過去の愚かな自分に、打ち勝たなくては
ならない。そうしないと、きっと何も乗り越えられない。内はそう思っていた。
 だから必死に手を振った。
「僕は、過去の自分を許さない…。でも許さない代わりに、救うんだ。愚かな過去を変えてやるんだ…」
「僕の味方を僕自身がしてやれないでどうする? 確かに僕は愚かなことを考えていた。だから、
それを今後悔しているから、今の僕は過去の僕を変えてやるんだ!」
「だから! だから、もう来るな! 弱い自分を…『お前』を…今から僕が精一杯行動することで
変えてやるから…! 僕にはそれしかしてやれないけど、絶対にそうするから!」
 
 ―内は最早自分が何を喋っているのか解らなくなってきてしまった。
 ただ言えるのは、今までの自分を闇に葬るのではなくて、受けとめ、変えてやるのを決意したこと。
 過去の自分を、救ってやること。
 それだけは言いたかったのだ。
 
 時計の針は戻らない。過去の自分も、取り戻せない。
 だから、せめて、これからまっすぐと進むこと。
 内はその思いを胸に秘めていた。
「だから、お前が…いくら僕を責めても、僕はそれを―受けとめてやる! 弱かった自分を
全部受けとめられる位強くなってやるんだ!」
601さよならの向こう側(3/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:21:39 ID:0tJbEd5P0
 内が立ちあがる。きっともうひとりの自分に視線を向けると、既にそこにそいつはいなかった。
 途端、今までの暗闇から、一筋の光が差した。
「あ…」
 内は縋るような視線をそこへやる。
 そこから、手が伸ばされる。
「内、行くで!」
 薮田の手だった。
(―そうだ、薮田さんはこんな俺をスタジアムから連れ出してくれて―…)
 走ろうとしても走れなかった自分の体を、押してくれた薮田の手を思い出す。
 自分とひとつしか違わないのに大きく見えた「20」の背番号。
 内は暗闇から抜け出し、その手へと必死に駆け出した。
(たとえ少なくても、こんな僕を救ってくれる人がいる…!)
 すべての過去を、振りきるかのように彼は駆け出した。

 ―後悔?
 いくらでもした。いや、今もしている。これからも、ずっとする。
 でも、今は。
 愚かで弱かった自分を救ってくれたほんの僅かな人のためにも。
 僕は行かなければいけない。
 過去の自分を変えるのは、きっと今の自分なのだ。
 あの血塗れのもうひとりの自分を救うのは、自分しかいないのだ。
 だから。
 僕は走る。
 僕は生きる。
 僕は途方もない道を進む。 

 内の足取りは力強かった。
「薮田さん…!」
 その手を掴もうとした瞬間、薮田の手はすっと光の中に消えていった。
602さよならの向こう側(4/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:24:26 ID:0tJbEd5P0
「薮田さん…?」
 内は呆然と薮田の手が今さっきまでそこにあった場所を見つめる。
「光に…消えた?」
 信じられないような出来事に内が立ちすくんでしまうと、今度は少し遠くに小宮山の姿が見えた。
 彼の姿を見て、内は自分を抱き締めてくれた、あの大きな手を思い出した。
(小宮山さんも、こんな僕に手を差し伸べてくれた人だ)
 親指を立て、去っていく姿を思い出した。あのとき自分はただ座っているだけで「行かないで」と
言っていた。そうだ、今から追いかけよう。そんな決心をした。

「きっと、内は大丈夫だ。なんとなく、そんな気がするんだ」
「誰かが将来のエース候補って言ってたけど、なんとなくその気持ちが解る気がするよ」

 ぼんやりと耳に入っていた彼の言葉を反芻し、内は強い眼差しを取り戻す。
 初マウンドで見せた、堂々のピッチング。今、彼はそのときに見せた表情をしていた。 
 その直後、小宮山の姿はいつの間にか見えなくなっていた。まるで彼のその眼差しを
確認したかのようなタイミングで。

「皆、必死にこのゲームに抵抗してるんだ。僕だって…」
 その為にはここから抜け出さなくては、と内は考える。

 そもそもここはどこなのだろう? と根本的な疑問が湧く。
 とにかく、この光の差す方へ向かおうと内は一歩踏み出した。

 そこに現れた一人の影。

 内にはなんとなく解っていた。

 薮田がいて、小宮山がいて、そして―――。

「…黒木さん…」
 内の目の前に、黒木知宏が立っていた。
603さよならの向こう側(5/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:25:25 ID:0tJbEd5P0
 黒木の姿が見え、内の瞳が一瞬ぼやける。
「黒木さん…」
「ジョニー、でいいよ」
 そう言って笑う黒木。何故か近寄ることができず、内は少し離れたところで黒木と言葉を交わす。
「…ジョニーさん。僕は―弱い人間です。まだガキだし、愚かだ。このゲームが始まってからの
僕は、まさにそうでした。ひとりで生きてきたような気になって…誰かを貶めようとして…。
でも、貴方に会えたことで…気づきました。僕は生かされている。言い方は悪いかもしれないけど、
僕は生かされている」
 内の言葉に、口ひとつ挟むことなく黒木は頷いている。その優しい眼差しに励まされた人間は、
一体どれくらいいるのだろうと内は思った。
「家族や友達…、チームのスタッフの人達…、そしてチームの皆…。あと、一年目の僕なんかに
よくしてくれるファンの人達…。そういう人達の支えで、僕は生かされていると感じました。
…黒木さんが死んでしまって絶望している僕に、薮田さんや小宮山さんは手を差し伸べてくれました」
 黒木はうんうんと頷いている。小さく「コミさんは見た目ああだけどすごく優しいから」と
呟いているのが聞こえてしまい、内はくすりと笑ってしまった。
「…もう、手遅れかもしれません。何もかも遅すぎるかもしれません。愚かだった自分は、皆に
許されないかもしれません。でも…、それでも…」
 そこまで言って、内は言葉を詰まらせる。
「それでも…僕は、エースになろうと決めました。黒木さんの言葉を無駄にしたくないんです。
皆に支えられる資格なんてないかもしれません。でも…やらなきゃいけない気がするんです。いえ、
そうしたいんです。自分を…諦めたくないんです」
 それが内の出した答えだった。
604さよならの向こう側(6/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:26:34 ID:0tJbEd5P0
「二十歳の坊主にしては、なかなかいい答えだと思うぞ」
 黒木がそう言って笑った。内もつられて笑ってしまい、そのときに「ああ、やっぱりジョニーさんには
笑顔が似合うんだな」などと少々呑気なことを思ってしまった。
「…俺は志し半ばだったが…。お前は若いんだ。頑張れ。―ただ、俺や他のピッチャーの命までは
背負わなくていい。それは重すぎるし、そうする必要はない。約束してくれ」
「はい」
 はっきりと返事をし、頷く。
「…いい表情してるな。安心したよ」
 そう言って黒木は背中を向けた。
「―ジョニーさん!」
 内が手を伸ばす。これがきっと、最後の別れだと気づいていたから。
 追いかけていた背中。54。手を伸ばした。
 でも、届かない。きっと触れてしまってはいけないのだ。だから、届かないのだ。
「エースになるの、見守っててやるから、な。―じゃあな」
 黒木はそう言って背中を向けたまま右手の拳を高々と挙げた。
 その姿は、すっと光に溶けて消えていった。
「ジョニーさん…」 
 伸ばした右手が、宙を彷徨った。
605さよならの向こう側(7/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:27:48 ID:0tJbEd5P0
「ジョニーさんっ…!」
 ガバリと起きあがった内は、その自分の叫び声で意識を覚醒させる。
 キョロキョロと辺りを見まわす。
「あれ…? 僕は確かに今ジョニーさんと…」
 そして自分の隣にいる黒木を見て、びくりとする。
 先程まで自分と会話していた穏やかな表情の彼は、もうそこにいなかった。
 そこにあったのは、残酷な現実。
「……」
 内はすべてを思い出していた。今のは自分がいつの間にか寝てしまったときの夢だったのだ。
 黒木との会話は夢の中での出来事だったのだ。それにしてはリアルな感覚があったような
印象を内は受けていた。
 そして、また思い出す。
「僕はずっと放心状態だったんだ…。……」
 ぼんやりとした意識の中でのことを、記憶の糸を手繰って思い出す。

 自分の決意したこと。
 こんな自分を救ってくれた、薮田と小宮山の手。
 過去に呑み込まれそうになった自分を救ってくれた、黒木の言葉。
 光に消えていった、大きすぎる背中。
 
「…行かなくちゃ。追いかけなくちゃ」
 ぽつりと呟く。
606さよならの向こう側(8/8) ◆1Y1lUzrjV2 :2006/01/02(月) 21:30:55 ID:0tJbEd5P0
 内は小宮山が置いていったコルトガバメントを手に取り、立ちあがった。
「これをちゃんと小宮山さんに返すんだ」
 先程までの虚ろな眼差しはどこかへ消えていた。
 夢の中での出来事が、彼を立ち直らせた。
「僕は何度皆に助けてもらったんだろう…」
 夢の中でも、現実でも。「他人に感謝しろ」という黒木の言葉を、内は身をもって感じる。
 内は走り出そうとして、黒木の側にしゃがんで語り掛ける。
「…ジョニーさん、僕を守ってくださいとは言いません。これ以上は迷惑をかけられませんし…。
ただ、僕のことを見ていてください。お願いします」
 そう言って、ぎゅっと右手を握る。
「…ありがとう、ございました…」
 その手を離して、内は駆け出した。
 先程ぼんやりとした意識の中で見えた、薮田と小宮山の背中が遠くなっていった方へ。
 涙が溢れて止まらなかった。

 本当に、本当にさよならなんだ。

 そう思うと、涙が止まらなかった。

 それでも―、それでも。
 走ることを決めたから。
 自分を諦めないと決めたから。

 生と死の極限状態の中を、少年は泣きながら走っていった。
 走り出した先に何があるかは解らない。それでも、彼は走っていった。
607代打名無し@実況は実況板で:2006/01/02(月) 21:37:24 ID:rCSuO3Ev0
職人さん、長編乙です!
更新する度に涙が…。・゚・(ノД`)・゚・。
内超ガンガレ内!!気を付けて走れよ〜
608代打名無し@実況は実況板で:2006/01/02(月) 21:40:26 ID:zT7nNEwPO
職人様乙です!
ジョニー…( っДT)内ガンガレ!!!
609代打名無し@実況は実況板で:2006/01/02(月) 22:08:39 ID:sVHWhfWo0
職人さん、乙です。ジョニ〜ッ相変わらずいい男だ
内!内ガンガレ!コミさんと薮田神に追いつけよ!
610 ◆3pUr9Dftdo :2006/01/03(火) 03:33:48 ID:21vLEgp6O
番外編「選ばれし者」

とある北国―
大きなバッグを抱えた少年達が厳しい練習を終え、帰路につく。
名門野球部に身を置き、普段は全員がライバルという緊迫した彼等が、唯一リラックスして語り合える一時である。
厳しい環境に置かれた彼等にとって、たわいもない談笑を交わしながらじゃれあうその一時は、泥と汗と血と涙にまみれる過酷な戦いに暮れる日々の疲れを癒す。
その中でも一際大きい一人の少年が足を止め天を仰ぐ。

「どうした?ピッツァ?」
「いや・・・デカい流れ星が・・・モグモグ。」
パイの実を頬張りながら少年はまだ天を見つめている。
―次のヒーローは君だ―
「え!?誰?」
何処からか少年に語りかける声がする。
―君は幕張のヒーローになるんだ―
「誰だ?幕張?」
少年は何処から聞こえているかわからない声に戸惑う。
「おいピッツァ、何やってんだ、先行くぞ。」
「柳田先輩、お先っス!」
「おい!ピッツァ置いてラーメン食いに行こうぜ!」
少年達は彼を置いて走り出す。少年も遅れをとるまいと走り出す。
「おい待てよ、俺もラーメン食うからモグモグ。」
その巨体からは想像のつかないダッシュを魅せる少年。しかもパイの実を食べながら。
(さっきの声は何だったのだろう・・・・・・味噌と醤油どっちにしよう?チャーシューは何枚のせようかな?)
少年の疑問はラーメンによってすぐにかき消された。
そして、彼が見た流れ星の辺りに、新たに蒼白い星が生まれていた。

その星は、一人のヒーローの死に代わり、新たな伝説の誕生を祝うかのように、こうこうと夜空に輝いていた。
611代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 07:02:28 ID:c/bghnTkO
>>610
空気読めてなさ杉と思うのは俺だけ?
04’シーズン終了直後の話で、久保とかだって出てないのに、柳田って・・・
話の本筋と関係ないし、ただの>>610の自己満にしか感じられない。
“ピッツア”って書きたかっただけと違うか?
612代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 09:47:39 ID:iymfna7V0
それだと久保ならいいってことになるが(内容的には空気読めてないし面白くもなんともないが)
番外編だからな
番外と書けば単発で何を書いても許されると思ってるんだろう
そして参加した気になれる

可否は他の住人に任せます
613代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 10:09:51 ID:dhM9gScGO
まずこの番外編が本編を読んでる人にとって意味があるとは思えないし
本編と関わるようなら登場があまりにも遅いと思う
614代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 10:35:57 ID:c/bghnTkO
>>612
いや、久保なら出ていいって言ってる訳じゃないよ。
今の展開で05'ルーキー出したとしても>>613の言うとおり今更終盤に何やってるの?なのに
04'の話にイキナリ06'ルーキーの柳田って所が、更に空気読めなすぎ&自己満だと思ったのよ
ただ柳田の話を書きたかったんだろうなって
615代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 20:46:51 ID:eeRkhhGk0
>>612
だったら久保の話も書いておけばいいんじゃないか?
616代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 20:56:44 ID:eeRkhhGk0
>>612
>>615
もう一つ。久保・柳田だけじゃなく、
残りのルーキー全員(手嶌・竹原・大松・青松・木興・細谷・林・末永・根元・川崎・相原・古谷の話も書いておけばいいと思う。
617代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 20:59:28 ID:dhM9gScGO
>>616
そこまで書いても意味があるのだろうか?
せめて去年のルーキーなら時期的につながりがあるが…
618代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 21:19:20 ID:iymfna7V0
>615
何を言いたいのかわからない
久保を出せと言ってるわけではないぐらいはわかるよね?

フィルダーとか出てるぐらいだから基本的には誰が出てこようと構わないだろうということ
>613-614には全面的に同意、>610はなくていい話か、ない方がいいような話に思える
だがNGにする決定的理由もないのでこのまま採用するかはどちらでもいい
でもこんな話でルーキー全員やられたら悪夢としかいいようがないね
619代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 22:41:19 ID:4xjm+VDF0
がんがって脳内アボーンしるw
620代打名無し@実況は実況板で:2006/01/03(火) 22:44:00 ID:dhM9gScGO
俺にとってバトロワパロの醍醐味は
「あの選手ならこういうことやりそう」
「あの選手がこんなことやってるの想像すると面白い」
とか想像することだから入ったばかりの新人の話されても正直あまり興味がわかないな
完全に個人的な考えなんで、だからダメと言うつもりはないけど
621代打名無し@実況は実況板で:2006/01/04(水) 12:42:49 ID:wlnXqGIX0
結論が出てない(完結してない)現時点で、来年再来年(05,06)の『マリーンズ』の話をされてもなぁ。
千葉に球団が存続するかどうかも分からんだろうに。
もし久保を出すんだとしたら、もっと早い段階で新入団選手として出てくるのが良かったかと。
契約しに行ったら球団事務所無くなってて、鴎トリオやスン辺りと同じく(または協力して)外側から解決を試みる、とか。

とりあえず、パラドックスを引き起こすような後付けはナシの方向で
622代打名無し@実況は実況板で:2006/01/04(水) 16:41:21 ID:6ZP0eKvx0
折角完結に向かって盛り上がっていた展開を「番外」の一言で切りやがって。
だいたい'04のバトロワに'06ルーキーって何でだよ…。
623代打名無し@実況は実況板で:2006/01/04(水) 19:14:38 ID:LuTq1jh2O
こんだけ話題になってるのに書き逃げか?>>610は・・・。
ちゃんと取り下げ宣言するなりしないと荒らしと変わらないぞ。

624代打名無し@実況は実況板で:2006/01/04(水) 21:47:59 ID:DLQJNG1a0
保管庫さん乙です!
625代打名無し@実況は実況板で:2006/01/04(水) 23:08:06 ID:OUuyq4oS0
いいから黙ってあぼーんでもしとけ、クズが!
626代打名無し@実況は実況板で:2006/01/05(木) 09:28:47 ID:8E2Y6PHx0
とりあえず>>621の意見でいく?
確かに球団が存続するかどうかわからないのに06年のルーキーにつながるような展開は
オチを球団存続の方向に強制するようなものかと
(入団予定の05年ルーキーならともかく)
627代打名無し@実況は実況板で:2006/01/06(金) 01:32:59 ID:Ugp+/EGjO
スルーってことで捕手
628代打名無し@実況は実況板で:2006/01/06(金) 01:49:27 ID:dMrHXnCh0
保管庫さんが>>621だけ更新してないから反応待ちと思われる。
だから採用希望かどうか言いたい住人は言ったほうがよいと思う。

個人的には>>621のケチがついたしNGでよいと思う。
629逆襲の薮田リターンズ(1/3) ◆vWptZvc5L. :2006/01/06(金) 17:31:03 ID:7RbwnSRI0
「ふぅ、グラウンドの方はひと段落着きましたよ……って、え?」
モニタールームへ続く階段を降り切ろうとした筒井良紀を出迎えたのは、
佐々木信行の構える銃口だった。筒井はすぐに両手を挙げる。
「よくここがわかったな、薮田」
「へ? 薮田ぁ?? 俺が、……ですか?」
全く理解不能な言葉に筒井はきょとんとしている。
「ったく、筒井の成りまでしやがって。ボビーも顔負けの変装じゃねぇか。
 でもな、どんなに悪あがきしようが、お前の動きはこっちにはお見通しなんだよ!」
佐々木の背中越しにあるモニタのひとつには、発信機の場所を示す探知画面が映されていた。
拡大表示されたスタジアムの中、ちょうど筒井がいるあたりには赤く光る20の文字。
佐々木が自分を薮田と呼ぶ理由が、筒井にはまだ理解できない。
「佐々木さん、何言って…」
「とぼけても無駄だ。早く出て行け! わかってんのか? 
 7時までにここを出ないとお前、死ぬんだぞ!?」
「は? 7時…? あっ…」
そこでようやく、筒井は気づいた。
今降りてきたばかりの階段を急ぎ足で駆け上がると、扉を開ける。
ポケットから小さな金属塊を取り出すと、すぐさま廊下に投げ捨てる。
再び扉を閉めたところで、筒井は大きく息を吐いた。
「やべぇ、すっかり忘れてた…」
額に浮かんだ汗を拭う。
「薮田、今、何をした!? 」
階段の下から佐々木が尋ねる。佐々木の誤解はまだ続いているらしい。
「違いますって。俺は薮田じゃありません!
 俺は薮田の発信機を持ってただけですってば」
「はぁ?」
「第一、薮田がこんな部屋の存在に気づくわけないでしょう! 山本ですら気づかなかったのに」
「お前…本当に筒井なのか……?」
「だーかーらー、見ればわかるじゃないですか。
 薮田が俺に化けるなんて発想、どっから出てくるんですか!?
 薮田が外に出て行くところがそこのモニタにも映ってたはずですよ!
 だいたい、俺と薮田じゃ声も見た目も」
630逆襲の薮田リターンズ(2/3) ◆vWptZvc5L. :2006/01/06(金) 17:31:31 ID:7RbwnSRI0
そのとき、廊下から癇癪玉を投げつけたような破裂音がした。
筒井の言葉が中断される。さほど大きな爆発ではない。
たとえポケットの中で今と同じ爆発が起きても、命を落とすことはないだろう。
ただし体内でそんな爆発が起きようものなら、生きていられる可能性は限りなくゼロに近い。
「何だ、今の音は!?」
何が起きたのかモニタで確認しようとして、佐々木は振り向く。
20が死亡者リストに新たに加わっているのに気づくと、顔面蒼白になった。
探知画面には、ちょうど19:00という時刻が表示されていた。
「薮田が、死んだ…?」
「違います! 今のは発信機が」
「説明は後でいい! 先にこっちを頼む」
筒井が説明しようとすると、佐々木がトランシーバーを突き出してきた。
そこから聞こえてくるのはノイズ交じりのC.Q.
このタイミングでの呼び出し。用件はわかりきっていた。
筒井はそのトランシーバーを受け取ると、ごくりと唾を飲み込み、意を決して呼び出しに応じる。
「はい、こちら筒井」
『C.Q. C.Q. こちら中曽根。おい、薮田が爆死しちまったぞ。どうなってんだ!』
案の定、トランシーバーの向こう側からは罵声が飛んでくる。
また一から説明し直すのかと思うと、もううんざりだった。
「違います、今のは誤作動です! 実はかくかくしかじかで――ええ、そうです。
 おそらくは薮田が発信機を吐き出して、それが禁止エリアにかかって爆発しただけかと。
 …まさか。そう簡単に死ぬようなちょろい奴なら、こっちも苦労しませんよ。
 え? はぁ……まぁ、そういうことになりますね」
筒井の顔から、再び冷や汗が噴き出してきた。
目線は宙を泳ぎながらも、必死で言い逃れる道を探している。
「あ、でも監視カメラがあります! それで薮田の位置も生死も掴めると思います。
 場合によっては薮田を捕らえて、もう一度発信機を飲ませても構いませんし。
 はい…薮田の位置は確認でき次第、報告しますので。……はい、了解しました」
通信を終え、トランシーバーを置くと、筒井はふぅとため息をついた。
631逆襲の薮田リターンズ(3/3) ◆vWptZvc5L. :2006/01/06(金) 17:31:58 ID:7RbwnSRI0
「…というわけで、薮田を探してもらえますか」
「またか! でも、そうは言ってもこの中を探すのは骨だぞ」
佐々木がモニタを示す。野外の監視カメラは夜の闇を映し出していた。
夜間はどうしてもモノクロの粗い画像になってしまい、人や物の区別がつきにくくなるのだ。
「あ、そうだ。内と一緒にいるんじゃないですか?
 まさか、あの薮田が内を見捨てたりはしないでしょう」
筒井の提案に従って、内竜也の位置を探す。
地図上で21の数字を見つけると、その近辺にある監視カメラの映像を映し出した。
「あぁ、これですね」
筒井がモニタに映る人影を指す。
茂みに隠れていても、白いユニフォームはすぐに見つけることができた。
「…で、薮田は?」
再び、画面をじっと見つめる。
どれだけ目を凝らしても、モニタに映るのは座っている少年ひとり。
二人揃ってがっくりと肩を落とした。
「薮田め…。あいつ、あんな気の弱そうな顔して、かなりしたたかだな」
「ですね。次は一体何を仕掛けてくる気か…」
「ま、薮田が生き残らせる方だっただけ有難いと思うか」
佐々木の返答を聞くと、筒井は腹立たしげに舌打ちした。
632代打名無し@実況は実況板で:2006/01/06(金) 18:36:41 ID:cCnLbTSsO
職人様乙です!
633代打名無し@実況は実況板で:2006/01/07(土) 11:43:58 ID:vfwMHbOeO
薮田リターンズきたぁぁぁ
職人さま乙です!
634代打名無し@実況は実況板で:2006/01/07(土) 13:15:35 ID:DZlP3N740
逆襲の薮田キタコレ!
すげええ乙です!
635代打名無し@実況は実況板で:2006/01/07(土) 22:14:17 ID:MUEm1bSa0
薮田も何時の間にか吐き出していたんですね
他の皆も吐き出してしまえば
汚い事になるけど
636代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 00:35:22 ID:m3CGKNXY0
>>635
比較的最初の方で吐き出してませんでしたっけ?
637代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 01:00:41 ID:qZH90yisO
>>636
それはたぶんコバヒロじゃない?
薮田はスタジアムに近づいてからだった気がする。
638代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 01:06:36 ID:WTl9uXCw0
船の中で愛甲さんに吸い出されました
639代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 01:25:33 ID:z6dTfhL+0
薮田が発信機を吐き出していたことがわかるのが204章。ここから先は愛甲が発信機を持つ。
愛甲が発信機をスタジアム近くで落としたことがわかるのが281章・285章。
筒井がその発信機を拾ったのが293章。
ただし、どの章でもそれが発信機であるとは明記されていないので、文章から読み取らないといけない。
204章の時点ですぐに気づいた人も多いはず。
640代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 02:07:37 ID:lk+oICQCO
うわぁ、読み込んでないと分かんねぇな
…ってか、俺の読解力が足らないのかorz
職人さますげぇな
641代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 02:21:14 ID:+K88I9ZcO
はっきり言ってはいないけど複線張ってるネタはけっこうあるよね
リストの追加メンバーとか
そういうとこまで考えるとさらに楽しめる。本当に職人さまには感謝してます
642代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 20:16:48 ID:QMY/GKzpO
保守
643代打名無し@実況は実況板で:2006/01/08(日) 23:37:01 ID:HTaTOF3M0
久しぶりに来てまとめ読みしたら、だいぶ人数が減っていて衝撃
福浦…堀…orz
644番外 李承■と愉快な同士たち25(1/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2006/01/09(月) 02:12:43 ID:NE2CdsDk0
「オー、ヤリチン!」
ネイサン・ミンチーの持つ猟銃の先から火花が上がる。
銃声がリングの上を突き抜け、硝煙がミンチーのすぐ前に立ち昇る。
「仕損じたか」
ミンチーの放った弾丸の先には、標的のマット・フランコの姿はなかった。
すんでのところで転がるようにして身をかわしていた。
リングの上をでんぐり返りながら、フランコが膝を立てた状態で停止する。
すかさずミンチーの銃口はそこに移動する。
ためらうことなく引き金は引かれた。
「オー、ヤリチン!!」
また身をかわそうとしたフランコだったが、散弾のいくつかがその足を捉えていた。
右足を抱えながら、しかし停止しないようフランコは体を転がす。
ミンチーは更に狙いを定める。その動く先を狙っている。
「危ない!」
リングの下、檻の中から谷歩恵美が叫ぶ。
ミンチーは次なる弾丸を今まさに発射しようとしていた。

「ほほっ。こりゃいいぞ、撃て撃て!」
ソファから身を乗り出すようにして重光武雄がはしゃいでいる。
その身振り手振りは老人とは思えないほど大仰で素早い。
その様子を見ながら、背後では重光昭夫が安堵のため息をついていた。
とりあえず、当座のしのぎにはなりそうなことは確かなようだった。
「父さん」
「当たれい! そこじゃ、ほおれっ!」
画面に夢中になった老人は、息子の呼びかけなど耳に入らないようである。
こうなっては邪魔をした方が面倒なことになる。
「私は仕事が残ってますので、失礼します」
息子が後ろで呼びかけるが、相変らず老人には聞こえていないようである。
ため息をつくと、息子は部屋を足早に出て行った。
ドアが閉まる。途端に、老人は大げさな動きをやめ静かになった。
「……暇つぶしにはまずまず。しかし待たせすぎじゃ。
 あのボンクラ息子め、まだまだ使えんわ」
645番外 李承■と愉快な同士たち25(2/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2006/01/09(月) 02:13:09 ID:NE2CdsDk0
 襲い来る銃弾、しかしフランコはなんとかそれらを避ける。
ミンチーは所構わず銃弾を発する。
フランコの動きが鈍くなる。肩で息をし始めた。
なんとか近づこうと、ミンチーの周囲を回り続けるだけだ。
しかし動きこそ緩やかなミンチーだったが、そこには隙がない。
その長身から全てを見渡すように、確実にフランコを追って来る。
「オー、ヤリチン」(訳:ミンチーよ、目を覚ますんだ)
しかしその訴えはミンチーの耳に届かない。
再び銃口が向けられる。フランコはその時気づいた。
「オー、ヤリチン…」(訳:しまった、これは…)
「あ……」
谷保が同時に呟いた。
彼の後ろにあるのは谷保の檻である。もし銃弾を避ければ、その先は。
フランコの動きが止まる。
「逃げて早く!」
谷保が叫ぶ。しかしフランコは、覚悟したように立ち止まる。
次の瞬間、猛然とミンチーの方へ突っ込む。
しかしミンチーの銃口は既にフランコの巨体をとらえていた。
引き金を引く。だがその瞬間、何かが銃身に当たり銃弾は天井へと逸れた。
そのままフランコがミンチーに体当たりする。
巨体同士がリングの端から端へ飛んでいく。ロープに当たり、ミンチーは銃を落とした。
その銃を拾ったのはフランコだった。そしてリングの下を向く。
「オー、ヤリチン」(訳:助かったぜ、ベニー)
「フランコ、逃げなかった! ミンチー、だから、動き止まった。
 俺、石投げる、当たった!」
歓喜で吼えるベニーにサムアップすると、フランコは銃を高々と持ち上げる。
そしてリングの外へ思い切り放り投げた。
それを困惑しながら見つめていたミンチーにフランコは真っすぐに目を合わせる。
何かを訴えかけるような目をしていた。
しかしミンチーはそれを意に介さぬように、今度は突進を開始した。
大きく振り上げる右手、体重の乗った拳がフランコの顔めがけて向かってくる。
両手を挙げてガードする。辺りが揺れるような重い振動が起こり、フランコが後ずさった。
646番外 李承■と愉快な同士たち25(3/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2006/01/09(月) 02:13:29 ID:NE2CdsDk0
更にミンチーはフランコに襲い掛かる。右と左の拳が交互にフランコに打ち込まれる。
フランコはそれをガードする。ガードし続ける。
その合間を縫って顔を拳が捉え始めた。今度は腹に拳がめり込む。
ロープ際に追い込まれ、フランコがうめき声を上げた。しかしフランコはガードするだけだ。
「フランコ、やり返せ!」
ベニーが吼える。しかしフランコはニヤッと笑うと、更にガードを硬くした。
ミンチーのパンチは大振りではなく的確に、フランコの体を捉える。
避けようとするも避けきれない。ただ攻撃を喰らうだけだった。
「なんでだ、戦え、フランコ!」
「時間を稼ぐって」
ベニーの声に答えたのは谷保だった。
「言ってたわ、スンヨプさんが来るまで時間を稼ぐんだって。私が戦えないから」

ついにたまらず、フランコが横に逃げようとする。
待っていたかのようにミンチーはその背中を蹴りつける。バランスを崩しフランコは倒れた。
後ろから馬乗りになると、後頭部を何度も殴打し始めた。
フランコはただ頭を抱えて、それに耐えていた。
次第にその体がミンチーのなすがままになる。ついにミンチーの手が止まる。
フランコは動かない。うつ伏せに倒れたままだ。
「フランコさん!」
「フランコ、立て、早く!」
ミンチーが立ち上がる。指示を仰ぐように上を見た。
『止めを刺しなさい』
瀬戸山隆三の声がスピーカーから響く。
ミンチーがゆっくりと足を上げた。その足の裏が、フランコの後頭部にさしかかる。
踏みつけようという体勢だった。
「フランコ! マット・フランコ!」
谷歩が何度も叫んでいた。
フランコは気を失い、うつろな目のままだった。
しかしその声は耳を震わせていた。フランコの名前を呼んでいる。聞き慣れた声だ。

――マリーンズのバッター、5番、サード、マット・フランコ!
647番外 李承■と愉快な同士たち25(4/4) ◆CpgsCDAZJ6 :2006/01/09(月) 02:14:10 ID:NE2CdsDk0
 はっきりしない意識の中で、フランコは千葉マリンスタジアムの打席にいた。
歓声が上がる。大きな歓声が、その球場を包みこむ。
東洋の島国で出会ったファン達は、外国人の彼にも変わらない声援を送ってくれる。
次はお馴染みのあの歌が来るはずだ。ヘルメットを直して打席に立った。
……オー、マティ、オー、マティ……
スローテンポで彼の名前を呼ぶその歌。初球は振らないでおこうか。
徐々に歌のテンポが早くなってくる。気分が高まってくる。
さあ、この歓声に応えなくてはいけない――

ミンチーが足を振り下ろす。その瞬間ベニーが一際大きく吼え、谷保は目をつぶった。
地響き。しかしその音はリングが叩きつけられた音だった。
ミンチーの足の下にフランコの頭は無い。
目を覚ましたフランコがすぐ横へ体を転がしていた。そして飛ぶように立ち上がる。
そこを狙ってミンチーの右拳が飛ぶ。
しかしをそれを待っていたかのように、フランコの手の平がその拳を掴んだ。
もう片方の手をすかさず抑える。ミンチーの両手をふさぐと、そのまま強く握りしめた。
ミンチーの顔に始めて動揺と、そして苦痛が浮かんだ。
「オー、ヤリチン……」(訳:ミンチー、思い出せ。あの声を)
「声……?」
顔の触れそうな距離で、その眼光がミンチーを睨みつけていた。
フランコがゆっくりと口を開く。
「オー、ヤリチン」
(訳:なんとしても勝って千葉に戻りたい。
   ロッテを応援してくれるファンの声はオレのところまではっきりと聞こえているよ)
「あ……」
ミンチーの表情がこわばる。その目が遠くを見るように変わった。更に両手を強く握る。
「オー、ヤリチン!」(訳:お前にも聞こえているだろう!)
「ああ、あああああ!」
断末魔のような叫び声。叫び続けた後、魂が抜けたような顔でミンチーはフランコを見た。
「……聞こえたよ、フランコ」

【同士6名  ※■は火へんに華】
648代打名無し@実況は実況板で:2006/01/09(月) 02:33:41 ID:rW7nlc1n0
職人さん乙です!
フランコテラカコヨス!!同士が徐々に増えてますね…ますます楽しみです!
649代打名無し@実況は実況板で:2006/01/09(月) 02:37:27 ID:Qq6JHo9dO
うおおおお!職人様乙です!!
すげぇドキドキした。
650代打名無し@実況は実況板で:2006/01/09(月) 07:29:20 ID:icB1F9+sO
職人様乙です!
マティーカッコヨス!ガンガレ!
651代打名無し@実況は実況板で:2006/01/09(月) 21:08:04 ID:nDTOEesjO
マティかっこいいのにセリフがこの一言ってのが…
このギャップがマリバトのすごさだよなぁ
谷歩さんネイトの名前も呼んだげてー!!
652代打名無し@実況は実況板で:2006/01/10(火) 00:59:25 ID:B5hnYau00
セリフの元ネタはこれですね
ttp://www.so-net.ne.jp/marines/score/html/top/0605.html
653代打名無し@実況は実況板で:2006/01/10(火) 12:30:51 ID:umITJ9Mz0
昨日成人式だった内竜也。
同じ川崎のアイドル小倉星羅と密会してた
654代打名無し@実況は実況板で:2006/01/10(火) 14:02:07 ID:32q0PHNrO
そんな女シラネ
655代打名無し@実況は実況板で:2006/01/11(水) 00:05:18 ID:yvP/QzS3O
保守
656代打名無し@実況は実況板で:2006/01/11(水) 00:21:54 ID:bfPPXbU10
>652
オーヤリ(ry の元ネタが載っているのかと思ったw
しかも、観に行った試合だ、それ
657代打名無し@実況は実況板で:2006/01/11(水) 12:44:54 ID:LDaRtXHT0
◇ファイナルファンタジーっぽくロッテを語る◇
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1136820202/l50
658代打名無し@実況は実況板で:2006/01/11(水) 18:38:55 ID:wurU6QY0O
谷歩さんじゃなくて谷保さんだよね?
659 ◆CpgsCDAZJ6 :2006/01/11(水) 23:00:05 ID:hn1efYnZ0
誤変換して気づいてなかった部分がありますね
>>644の中段と
>>646の最後の方

指摘どうもです。
660代打名無し@実況は実況板で:2006/01/12(木) 19:03:16 ID:Fr3igFVgO
661代打名無し@実況は実況板で:2006/01/13(金) 09:13:53 ID:fZPq9d66O
保守
662代打名無し@実況は実況板で:2006/01/13(金) 18:15:57 ID:7o405sVxO
捕手
663代打名無し@実況は実況板で:2006/01/13(金) 22:57:15 ID:1wUHOBSzO
補修
664代打名無し@実況は実況板で:2006/01/14(土) 00:20:59 ID:W5bcmgvEO
オー、マティーじゃなくって、ゴー、マティーじゃないですか?
665代打名無し@実況は実況板で:2006/01/14(土) 14:09:58 ID:IMWdR0jN0
捕手
666代打名無し@実況は実況板で:2006/01/14(土) 20:35:20 ID:54236+GmO
667代打名無し@実況は実況板で:2006/01/14(土) 23:30:54 ID:VGba9oJxO
668番外 愉快なカモメたち16(1/2) ◆vWptZvc5L. :2006/01/15(日) 01:24:27 ID:6bdkmPOi0
パソコン上の図をじっと眺める。この数字が背番号を表していることは明白なのに、
見方がわからない。おそらく地図なのだろうが、それすら怪しい。
仮に地図だったとして、この場所がどこにあるのかもわからない。
考えに行き詰って、マー君は画面からそっぽを向いた。
「あーもう、インターネットなんて使えないっ! もっといい方法があるよ」
「何?」
「これ!」
マー君は携帯電話を取り出した。
「これで今から友達に電話をかけまくる。そして情報を集める!」
「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」
リーンちゃんとズーちゃんが非難の声を上げる。
そんなことで本当に情報が集まるかと、マー君に不審の視線が集まる。
「何だね、君たち。マスコットの情報網を舐めるのも大概にしたまえ!
 それじゃ、まずはパリーグで一番近所のアイツから…」
マー君は突き刺さる視線を無視して、ボタンを操作する。
登録してある番号さっさと選び出すと、電話をかけた。
「もしもし、レオ? 僕、マーだけど。ちょっと相談したいことが……って、え?
 あっ…すいません、すいませんっ!」
「?」
リーンちゃんとズーちゃんは思わず顔を見合わせた。何か様子がおかしい。
マー君の口調がいきなり変わった。そして、時折意味のわからない言葉が聞こえてくるのだ。
「……うん。あっ、そうなんだ……うん、ありがとう。
 カムサハムニダ。それじゃ、またね。最強三星(チェガンサムスン)!」
最後にまたよくわからない単語を残して、マー君は電話を切った。
「兄ちゃん、何話してたの…?」
「ゴメン。間違って西武じゃなくて、三星の方のライオンズにかけちゃった…」
脱力のあまり、リーンちゃんとズーちゃんは体制を崩しそうになった。
「あはは、ゴメンゴメン! でもいい情報も手に入ったよ。
 三星の本拠地にスンちゃんが来てたんだって」
「じゃあ、スンちゃんは元気なのね。よかった」
リーンちゃんがほっと胸をなでおろす。
669番外 愉快なカモメたち16(2/2) ◆vWptZvc5L. :2006/01/15(日) 01:25:12 ID:6bdkmPOi0
「へぇ……でも兄ちゃん、言葉わかったの?」
「マスコットに国境などない!」
マー君はきっぱりと言い切った。
「あっ、僕、三星のマスコットって会ったことないんだけど、どんな感じなの?」
ズーちゃんが興味深々に尋ねるが、マー君は言いづらそうに言葉を濁した。
「うーんとね、何ていうかその……イラストは悪くないんだけど、実物が……
 特に女の子の方がちょっと、ね。同じライオンでも、ライナはあんなに可愛いのにさ…」
「…ライナが、何ですって?」
突然、横から殺気を感じてマー君はビビった。その殺気はリーンちゃんから放たれている。
顔はいつもの笑顔なのに、本心では決して笑っていないのが一目瞭然だった。
(兄ちゃん、余計なこと言わないでよ! リーンちゃん、怒るとコワイんだから)
早く何とかしてと言わんばかりに、ズーちゃんがマー君を小突く。
「えっ、いや、その……えっと…ライナは可愛いけど、
 リーンちゃんは、もっと可愛いよねって話! あっ、そうだ! 知ってる?」
マー君はとにかくごまかそうとして、慌てて話題を変えた。
「三星のマスコットってさ、バク転するとき凄いんだよ! 自分で首外してからバク転して、
 で、終わったらまた首を元に……ってあれ? どうしたの?」
ふと異様な空気を感じて、マー君は話しやめる。
見れば目の前の2羽の動きが固まっていた。
「な、ななななな何いってるの、マー君! 首なんか外れないし、
 中の人なんかいないんだから! ねっ、…ねぇ、ズーちゃん!?」
「そっ、そうだよ! 首ポロリだとか首ちょんぱだとか、あり得ないんだからっ!!
 兄ちゃんも、そんなマスコットトリビアいらないから、早くレオに電話しなよ!」
ズーちゃんがひどくうろたえた様子で、マー君をバシバシ叩いてくる。
「ちょっ、痛いって。やめてよ、わかったから…(僕、なんか悪いこと言ったかなぁ…?)」
2羽が動揺している理由など、マー君は知るはずもなかった。
670代打名無し@実況は実況板で:2006/01/15(日) 03:43:27 ID:bSpRsKabO
職人様乙です!
サムスン…スンちゃん…タイムリーすぎて笑うに笑えないorz
671代打名無し@実況は実況板で:2006/01/15(日) 23:00:42 ID:WOm/QFSVO
672代打名無し@実況は実況板で:2006/01/16(月) 08:52:47 ID:TYMsH2hpO
673代打名無し@実況は実況板で:2006/01/16(月) 15:20:34 ID:Z711PygVO
674代打名無し@実況は実況板で:2006/01/16(月) 22:05:44 ID:p9pqZZwD0
675代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 12:41:49 ID:F1krETLzO
676代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 15:51:51 ID:IoYSz1Az0
677代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 16:14:17 ID:O5N4zNDa0
678代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 18:53:30 ID:j35KSOO60
679代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 19:31:02 ID:56Hg1lOZ0
680代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 19:47:56 ID:oCNfc5a4O
681代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 20:58:50 ID:9KeZqELc0
682代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 21:12:38 ID:kJYMrh8H0
683代打名無し@実況は実況板で:2006/01/17(火) 23:10:56 ID:ION6L8UV0
何このチームワークw
684代打名無し@実況は実況板で:2006/01/18(水) 11:03:42 ID:SFwetrXa0
微妙に危ないからage
685677:2006/01/18(水) 11:18:02 ID:amoHkw9r0
ぎゃほー

ナイスチームワークww

優☆勝
686代打名無し@実況は実況板で:2006/01/18(水) 14:08:51 ID:7sRhOLoz0
687代打名無し@実況は実況板で:2006/01/18(水) 14:52:16 ID:YrwGRxmKO
688代打名無し@実況は実況板で:2006/01/18(水) 16:00:56 ID:/MXnKoD40
689代打名無し@実況は実況板で:2006/01/18(水) 16:02:53 ID:WQkX3SD2O
690代打名無し@実況は実況板で:2006/01/18(水) 17:08:09 ID:WRuoTyEUO
691代打名無し@実況は実況板で:2006/01/18(水) 17:12:43 ID:c11ZZ57H0
堀の豚?




ヒデェ
692代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 08:12:13 ID:cM1K1x3fO
693代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 10:40:57 ID:6M11dU7vO
694代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 11:18:39 ID:PvmGcDee0
695代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 15:02:09 ID:w4MLGEbi0
696代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 15:27:38 ID:2UjXLF5E0
697代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 15:39:24 ID:PvmGcDee0
698代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 16:12:41 ID:uosLyoagO
699代打名無し@実況は実況板で:2006/01/19(木) 17:01:50 ID:EYgFKNx50
詞ね
700代打名無し@実況は実況板で:2006/01/20(金) 07:52:54 ID:YjugkAjSO
701代打名無し@実況は実況板で:2006/01/20(金) 09:57:12 ID:g3HIRfKG0
702代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 09:53:38 ID:6lY+NzDdO
703代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 10:21:38 ID:9Py0Sojz0
704代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 15:45:34 ID:ALAYUY1T0
705代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 17:10:39 ID:IvopaQ300
(Θ щ Θ)つ☆ では俺が頂こう。
706代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 18:08:35 ID:lQHTPZntO
ウルァッ(((((;`Д´)≡⊃)Θ щ)、;'.・
707代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 23:04:25 ID:lj8nW2QK0
708代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 23:20:33 ID:ubZG16Uy0
709代打名無し@実況は実況板で:2006/01/21(土) 23:48:43 ID:C+HSf7lrO
710揺りかご(1/3) ◆QkRJTXcpFI :2006/01/22(日) 00:01:46 ID:1m8Q+IjA0
 当てもなく急ぎ足で歩いていると、帽子が木の枝にかかり半分脱げた。
合わせるように首を後ろに傾けると木々の合間に月が見えた。
満月に近いキレイな月、それに今気づいたのは帽子を目深にかぶっていたからだ。
少し呆けて半開きの口を閉じると、帽子のつばを持ちかぶり直す。
髪と繊維の摺れる音、それに混じって焦げ臭さが漂う。爆発の熱を思い目は更に下を向く。
帽子の後ろにザラザラとした感触、化学繊維が溶けた後固まったのだろう。
 今江敏晃は森の中にいた。
福浦の亡骸を置いて小屋を出て、もう何時間も経った気がする。
でも歩いた距離を数えれば、おそらく1時間か2時間ぐらいだろう。
散乱した枝切れと茂る雑草、ぬかるんで足場の悪い地面を急ぎ足で進んでいた。
彼自身考えようとしないが、急ぐ理由など何もない。
行く当てはないのだから。
ただ、立ち止まればすぐにそこに福浦が現われ、自分はその最期を看取ろうとするのだ。
足を次から次へと踏み出すことで、何もかも足の裏の感触に紛れていく。
神経質なほどに帽子をかぶり直す。それは福浦のものだった。
かぶり直して焦げ跡に触れる度に、今江は歩調を早める。だが思考は止まらない。
 もし歩いていく先に誰かに会うとしたら、誰に会いたいのだろうか。
守れなかったこと。うかつにも、自分の想像力の乏しさがそれを引き起こした。
ふと暗闇の中に、一番会いたい人間は浮かぶ。そして会いたくない。
福浦はどうしたと聞かれれば、その先に彼は何と言うだろう?
「西岡」
俺なら守れたと罵るだろうか。
怒られてばかりだ。ぼけとかあほとか、そんな程度で済むだろうか。
あるいは優しく肩を叩くだけで済むのだろうか。
うつむきながら首を振る。
どちらにせよ福浦を守れなかったという結果が浮き彫りになるだけだ。
何より自分が許せなくて、そして体から力が抜けそうになる。
風に吹かれる砂のように、自分の手から命は次々とすり抜けていった。
それをすくい取ることができなかったその手は、間違いなく自分のものなのだ。
「あっ」
ぼうっとしていたのが災いしてか、足元の凸凹につまずく。
両手から地面に手をつくと、手の平に妙な感触があった。
711揺りかご(2/3) ◆QkRJTXcpFI :2006/01/22(日) 00:02:07 ID:1m8Q+IjA0
「砂だ」
雨を免れたかその辺りの地面は乾いていた。手の平には細かい粒。
それを確かめようと手を上げると、砂粒がパラパラとこぼれ落ちた。
辺り一帯を探ると、どうやら砂混じりの地面になっているようだった。
「ここは……?」
はっと思い当たるように前を向く。向こう側には森の切れ目が見えている。
そこに向かって走っていく。
パッと視界が開ける。暗闇の中、月明かりに照らされた白い線が向こうを幾重にも横切る。
寄せては返す水のしぶきの音が、遠くから微かに聞こえてくる。
同時に背後から風が吹き付けてくる。砂が運ばれて首筋に当たった。
海は無言で今江を迎えていた。彼は責められる事も、許される事もなかった。
「?」
周囲を見回すと、切り株が並んでいることに気づいた。
誰の仕業かその一帯の小さな範囲だけ何本も木が切られているのだ。
不思議に思いながらも今江はまた海に向き直る。

 海を見て、自然と今江の足は前に進んでいた。
幾つもの泡の弾ける音に耳を奪われ、消えては現れる波しぶきに目を奪われて。
一歩一歩、砂浜と言うには石や岩のごつごつと現れた岸辺を歩いていく。
海の色は黒ではなく、深く全ての色を飲み込んでいるようだった。
今江はそこへ向かって歩いていく。ただ心を奪われて。
その間、彼は憎しみも情けなさも悲しみも全て忘れていた。
むしろそれらを海が飲み込んでくれているような気さえする。
波打ち際まで来て立ち止まる。
風の音と波の音だけが聞こえる。
なぜか心が安らいでいた。ずっとそこに居たいという気さえしてきた。
振り返れば暗い森が佇む。
見つめるだけで、そちらの方に恐ろしい何かが立っているよう感じ体が震えた。
もうそこに戻りたくないと思った。
傷ついて死んでいった人間たち。傷つける人間たち。
それらは全て森の向こう側にあるのだ。
海のほうを向く。彼の心は安らいだ。もうあの向こうに行きたいと思わなかった。
712揺りかご(3/4) ◆QkRJTXcpFI :2006/01/22(日) 00:04:47 ID:1m8Q+IjA0
 波打ち際を歩く。時折、靴が水しぶきをかぶる。それすらも楽しいことのように思える。
もう、向こうに戻るぐらいなら。
今江は暗い空と暗い海の境界線を見つめた。真っ暗なのに、二つの色は確かに違う色だ。
海の向こうは、もっと全てのことを飲み込んでくれるだろうか。
ふと、海岸線の向こうに白っぽい物が見えた。波の動きにあわせるようにゆらゆらと揺れている。
何かと思い小走りに近づく。やっと輪郭がはっきりした頃、今江の眼の色が変わった。
今度は急いで走る。砂の上でも持ち前の足腰の強さが速度を失わせなかった。
息切れしながらその前にたどり着く。呼吸を整えながら、それを確認する。
「ボー……ト?」
数人乗りのゴムボートが、岩場につながれている。
713揺りかご(4/4) ◆QkRJTXcpFI :2006/01/22(日) 00:07:08 ID:1m8Q+IjA0
「誰がこんなとこに」
ボートに近づく。小型のエンジンがついているのが見えた。
そうこうしていると、靴が波をかぶってかなり濡れる。
少し考えた後、今江は思い切ってボートの上に乗った。
特に穴が空いているわけでもなく、今江一人を乗せてボートは海の上に浮かんでいた。
しばらく考え込む。
(誰かがボートでこの島に来た? そういえば監督、ボビーに代わったけど。
 でも置きっ放しにしてたら、参加者の誰かがこれで逃げるかも知らん。
 それとも海の外へは逃げられんと、そんな自信でもあるんだろうか)
「うん……分かんねぇ」
こういうとき西岡がいれば、これも上手く利用するだろうに。自分は途方に暮れるだけだ。
海の向こうは相変らず暗い水平線が見える。
船に揺られている内に、先程よりも海に飲み込まれる感じが大きくなった。
いっそ、持ち主が来るまでずっとこうしていようか。
大の字にボートの上に寝転ぶと、星空が広がっていた。
急に疲れを感じる。体が重くなって、非常にけだるい。
揺れが心地よい。揺りかごの中にいた頃なんて覚えてないが、こんな感じだろうかと思う。
「そうか、ずっと、寝てなかったんだ……」
島へ来てからのことを思い出す。たった二日なのに二年ぐらいは経ったように感じる。
胸が締め付けられるような思いは、しかし海に揺られていると和らぐ心持ちがした。
次々に去来する辛さを忘れたいかのように今江は眠りに身を委ねた。彼は気づいていなかった。
寝転んだ拍子にボートを係留していたヒモが外れ、陸風に乗って沖へ流され始めたことに。
714代打名無し@実況は実況板で:2006/01/22(日) 00:27:57 ID:4fQyt2ISO
久しぶりにキター!乙です。
今江どうなるんだ…。
715代打名無し@実況は実況板で:2006/01/22(日) 00:33:14 ID:Wy4H2ukYO
職人様乙です!!
久々に今江キタ…って一体どうなっちゃうんだ…。
716月へ向かって 1  ◆prGJdss8WM :2006/01/22(日) 03:28:39 ID:cUYXy+i30
スタジアムの方から大きな花火が上がった瞬間。それはまるで開戦の雄たけびのようだった。
どちらのものとも言えない、叫びよりも気迫のようなものがドドン、ドン、とその音に紛れる。
殺気が紛れる。
「荷物しょっとけ!!」
大塚が叫ぶ。さっきとは動きが違う。
もう足場が暗いのに、あの膝なのに、彼はほとんど西岡と並ぶようにして走る。それに西岡は軽く舌を巻いた。
少なからずスピードスターの自負はあったからだ。
「何でっ…」
「背中見せんな!!」
がうん、背後で響く音がしてひょおっと、近くを何かが引き抜けた音がした。100%銃弾だ。
しゃがむな!そのまま走れ!!と大塚は叫ぶ。
ざざざざざ、足に絡む草葉と夜の空気が目の前を駆け抜けては過ぎていく。まだ息は上がらない。
この闇だ。もう夜だ。あちらとて視界は良好ではないはずだ。
ががががっと何度も銃声はする。さっきは何度か手榴弾も飛んできた。その度がくんと角度を変えて、大塚が走るのに西岡はついていく。
ついて来いと言われていた。どう考えても自分は囮だ。
たまに彼がすっとスピードを緩めたり、わざと急カーブをえがいたりする。追っ手とつかず離れずの距離を保っているように、西岡には思える。
それは計算のうちだと思っていた。
「大塚サンっ、この先っ」
「わーってる!いい!」
ごごっと水音が聞こえ出して、川の流れが近いことを知る。昼間の雨で流れはきっときつくなっている。
空に白々と十六夜月は浮かぶが、夜の川の混沌としたくらさを思うと眩暈がしそうだ。
獣道を飛び出し右手を支柱に、大塚は薮木の間を抜けていく。

「…っは、…っは…まだ、足りん」
河原べりの平地に不意に抜けた。一瞬立ち止まった彼が、荒い息の下から呟く。
「…っ?」
どっどど、どお、川音に紛れそうな一言の後、大塚は下流を目指して方向を変えた。
「っえええ?」
ばしゅうっ、銃弾の音。さっきより近い。
仕掛けたのは確かにこちらだ。だがこの執念と言うかしつこさはどうだ。
相手にしたくない、とやっぱり思った。あの守護神はやっぱり並みの強心臓じゃない。
2対1なんやぞ、普通なら。
717月へ向かって 2  ◆prGJdss8WM :2006/01/22(日) 03:29:51 ID:cUYXy+i30
「どこ、行くねん!」
「勝負なんざ一瞬なんだよ!!」
「はっ!?」
「一瞬引っ掛けるんだよ!!」
大塚は小さくかすれ声で答えて走る。スタジアムから遠ざかっていた。
背後のそれから、さっき何かあったような声か、音か、した。花火にしろ、その後に見えたヘリのようなものにしろ、明らかに異質だ。
けれど今はそれどころではなかった。
丘の上、雑木林の端っこを駆け上がる。ごつごつした岩場がせりあがっている。
「隠れろ」
大塚がいきなり西岡の腕を引くから、そのひとつに滑り込むようにして、西岡は軽く頭を打ってしまった。
「いたあ!」
「…来るぞ」
小さい息。数秒でその音を消す息。西岡は慌ててあのモニタを腰から引っ張り上げた。
二つの点と、ゆっくりその側を揺れて動くもう一つ。それ以外見えない。
調度いいと大塚は言う。もう少し範囲を広げればまた見えるかもしれないが、今はそれで充分だ。
相手がひとりで、そしてその背番号が30と確認できれば充分。

雅英にしろ計算外だった。何だあいつは。
西岡の殺意はわかる。あいつは何か知っているから。ただ大塚に関しては完全な計算外だった。
よく知っているあいつなら、こういう場合どうするかと思えば、不利だと思えば確実に一目散に逃げるはず。
あっちから来ることはないと思っていた。出来るならやり過ごすかと思っていた矢先、その二つ星が不意にスピードを増して突っ込んできたのだ。
やっぱり西岡は何かを知っていた。あいつか。あいつが何か言ったのか。
そうでなければ俺を、あいつらが狙えるわけがない。大体俺の後を追えるはずなんて無いんだ。
「…っ!」
そう思ったら雅英の背中を、今まで経験したことの無いような怖気が駆け抜けた。
見えない敵に常に喉元に刃を向けられているあの感じだ。その恐怖だ。
何でわかる。俺のことが。
西岡は何を言った!?
718月へ向かって 3  ◆prGJdss8WM :2006/01/22(日) 03:31:37 ID:cUYXy+i30
「…追って、きてる?」
「来る」
「…なんでわかるんすか」
「俺だったら、お前ももろともに殺したい」
「!?」
「おかしいだろ、狙うのには慣れてても…こんな風に、狙われたことなんかないはずだ、あの人」
お前を除いて、としゃがみ込んだ大塚は低く呟く。月明かりがほとんど無い。あっても表情は見づらい。
川の流れる音が、水しぶきが岩にぶつかり轟く音が、気のせいか体の下のほうから聞こえる。
「だから来る」
「……。」
「ヤバイ種はてってー的に叩くんだ、あの人」
ぴたりと止まったもうひとつの点を、西岡の持ったモニタの上からコツコツ叩きながら、大塚は言った。
「…何にせよ、バクダンはもう無いみたいだな」
それは救いだな、と言った。じゃこっとマシンガンを抱えて、多分眼を閉じて、こちらを見てもいないのはわかっていた。
岩を背にして、息が整っていた。

これは対峙だ。深く息を吸い込む。
距離はある程度ある。だが手榴弾はもう無い。銃撃戦に持ち込むしか。
さてこうなると大塚の手持ちがマシンガンなのは不利だ。西岡のそれは、昼間見た小さな銃か。あれなら大した距離は持つまい。
雅英はもう一丁、背中の荷物から銃を取り出す。銃などよくは知らない。
けれどそのごつさは淡々と、その殺傷力と威力を物語っていた。
がしょん、と構える。両手で抱えてもまだ余る。
薮からすっとかざしあげれば、不意にその銃身がなめらかに月光に撫でられた。
月が出たらしい。
指は震えてはいない。

多分俺たちは背中同士。背を向け合って構えてる。
719月へ向かって 4  ◆prGJdss8WM :2006/01/22(日) 03:33:38 ID:cUYXy+i30
「大塚」
「へーい」
さやさやとした風と川音が以外の沈黙は、雅英によって破られる。
「…お前に恨みはないんだけどな」
呟くような言い方。我ながら弱気にすら思える。
さっきから心がグラグラするんだ。ガツンと一発アッパーで喰らったみたいな気持ちだ。
福浦のあの声が根底から覆す。だから弱気にすらなりそうだった。
「俺たちの生き様か」
そう言われたら、殺すしかなかった。もう自分を護るために殺したのだと、雅英は気付いていた。
最初は家族のためだった。それから自分の誇りと自尊心のためでもあった。
けれどもう今は、ただ自分を護るために動いている。
信念を覆されたら、今までの自分の行為は無に帰すばかりか、殺した相手のことを思うと息が詰まって死んでしまう。
それに負けない手段として、さらに自らの命を護る手段として、雅英は殺すことにした。
心を殺すやつも、命を狙うやつも同じだ。どちらも蹂躙してその上に立つこと、その完全勝利を、雅英は目指していた。

「恨みは無いとか言うてますよ」
「無駄に耳いいな、お前」
「そんなんわかってるっちゅーねん。…あ、これ雅さんのことな」
「…」
「大塚ぁ」
やっと出た月明かりに透かしてみれば、大塚は相変わらず眼を閉じたままだ。
「…福浦が」
雅英も眼を閉じた。あいつの親友の名を口にするのは卑怯だとわかってはいた。
「地獄の一丁目で待ってるぜ」

あの時月明かりなのに、大塚の顔色は一瞬蒼白になったと、西岡は覚えている。
そして西岡の理解が及ぶより先だった。大塚が岩場から半身飛び出したのは。
低く寝そべるようにして、怒号と銃声が猛る。
獣の叫びのようで、あちらからの連射もその威勢に負けてか周囲の岩にぶつかるだけだ。
それでも岩は粉々に砕け散っていた。一撃打ち抜かれるたびどごおっと、貫通され粉砕されたかけらが周囲に飛び散った。
計算なんてもうなかった。目指しているのは殺戮そのものだった。
720月へ向かって 5  ◆prGJdss8WM :2006/01/22(日) 03:34:13 ID:cUYXy+i30
「大塚サン!!」
西岡はフルパワーで叫んだ。音と迫力に耳をやられる。自分にももうクールさも余裕もかけらも無い。
背後から彼を羽交い絞めにして盾の岩へ引きずり戻そうとしたとき、だだだだだん!左腕を激しく突かれた。
まるで左腕がもげたかと思った。
「が…っ!」
痛みではない。掠めただけにしては威力が違う。
「大塚サン!!」
彼の声は聞こえない。ただ火傷をしそうな感触が、腕からも耳からも。
「死ぬぞ!!」

首根っこにその左腕を回してねじりあげる。背中から倒れ落ちるように。
右腕は右肩を絞める。足も引っ掛ける。完全な羽交い絞めだ。
がふ、ふうっ、はあっ、息の音が耳元で聞こえる。嵐が去る。
そしてやっと思った。あの言葉のことを。あの人の、おそらく最期のことを。
大塚が激昂した理由。
焼け付くような怒りの理由。

「…弾切れか?」
さっきとあまり変わらない、雅英の声が聞こえる。
当たっていないのか。大塚の撃った、その方向がわずかでも違ったのか。
「っ」
「大塚サっ…!?」
いきなり髪を掴まれて、西岡は体を引きずられる。右手と足の戒めも振りほどかれる。
「が…った…っ!!」
「殺したのか!!」
彼が叫ぶ。
「殺したのか!!!!」
721月へ向かって 6  ◆prGJdss8WM
彼は叫んだ。

激昂が、ひとつになっていく感触。ソリッドに纏まって。
夜の帳がベールを脱ぐように消えていく。目の感覚までも冴え渡る。
髪を掴んだ西岡が何か喚いていた。うるせえな、ガキ。
「雅さん」
大塚は立ち上がる。弾なんて弾き返せるとわけもなく見下す。
「…殺す」

不意に体が、さらに引っ張られた。
「お、おあ、ああああ!?」
左腕を庇う暇すらない。引きずり出された体は信じられない力で、薮へ向かって突き飛ばされる。
蹴り飛ばされた感触すらした。
「がっ…!?」
大塚が西岡を踏み台にして飛ぶ。月を背にしたか。
囮なんは、盾なんはわかってた。ユニ交換した時点で影武者なのは自覚していた。
けどこんなのは、踏み台にされるなんてのは、聞いてへんかったぞ、おい!!