1 :
代打名無し@実況は実況板で:
落ちたみたいなので作ってみました。
テンプが判らないので保存している人が居たらお願いします
10章であってるか不安ですがお願いします
4 :
まとめサイト:2005/07/15(金) 23:25:46 ID:ATJhWzgd0
5 :
関連スレ:2005/07/15(金) 23:27:50 ID:ATJhWzgd0
スレ立てとテンプレ乙です。
正確には、「千葉マリーンズバトルロワイアル第9章」ですね。
次スレ立てる時はまた10章でいきましょう。
1乙。
気付いたら落ちててびっくりした。
迅速スレ立て乙です
投下しようとしたら落ちてたんで助かりました。
というわけで行きますよと…
「…だといいけどな」
佐々木信行の言葉が頭にこびりついて離れない。
あれは何か、危惧すべき確かなものを見据えたような面持ちだった気がする。
(まさか、な)
手洗いを済ませ、井上祐二はスタジアム内の曲がった廊下をてくてくと歩いていく。
スタジアムの警備は万全だ。武装し、訓練された兵士達。
もっとも本職の軍隊や傭兵と言うわけではないらしい。詳しいことは知らないが。
その上こちらには探知機がある。抵抗者はスタジアムに近づいた時点で知れるのだ。
「そうだ、佐々木さんは心配しすぎだ」
井上は気を取り直し、奥の監督室へ戻ろうと歩き始めた。そのとき。
――ガガガッ……
背後から何かを叩くような高い音。連続して素早く打ち込まれる。何が?
「銃声!?」
踵を返して走り出す。佐々木の深刻ぶった表情が浮かんだ。
程なく正面入り口に到着すると、その光景を目の当たりにし井上は愕然とした。
倒れる4人の兵士達。力なく、声すらあげず横たわっている。
「おい!大丈夫か!」
「うッ……ぐあ……」
1人の兵士を抱え起こすが、苦悶の表情以外を浮かべない。
何度も揺り起こし声をかけるが、意識ははっきりしないようだった。
「侵入者か!? こりゃぁ……大変だ!」
飛び込むようにスタジアムの入り口をくぐる。
「早く山本さんに知らせ……、はっ!」
井上の足が止まる。そういえば、と思った。
「佐々木さんは……どこだ?」
「将も死んだか。俺の計画通り、次々と死んでいくな。
雅英が福浦に近づいた時はどうなることかと思ったが……
青野も良平とやり合って共倒れかなんかしたようだし、ここまでは順調だぜ」
モニターを前にけたけたと笑っている男、山本功児はイスの背もたれに寄りかかるように座っている。
「もうすぐ6時の放送か。次の禁止エリアが連絡されてくる頃だな。
いやぁ、しかしあと2日以上とは、先は長いぜふあぁあ……」
思わずあくびをすると、山本は目に浮かんだ涙をこする。
「おい!新しい死亡者をまとめとけ。俺はこのまま少し寝る」
と言うやいなや、あっという間に頭を垂れる。
「はぁ」
筒井良紀が返事をする前に、安らかな寝息が山本の方から聞こえてきた。
(気楽なもんだね……あーあ、よだれ垂らしちゃって。
この歳でほとんど寝ずにやってりゃ疲れるか。俺も言えた義理じゃないけど)
腕を組んでモガモガと何やら寝言をつぶやく山本の横に立ち、パソコンをいじる。
死亡者とその死亡時間がザッとモニターの中に並べられる。
そそくさとメモを取り、山本の前に置いておいた。
「6時の放送か……間に合わないっぽいな、あの人は」
自分にだけ聞こえるぐらいの声で、ぼそりと呟く。
山本の方を見ると、何だか苦しそうな表情を浮かばせている。嫌な夢でも見ているのだろうか。
その前に置いてある死亡者のメモが、エアコンの風にひらひらと揺れていた。
「並びそうですけどね、あんたの名前も」
また小さく呟くと、ドアノブに手をかけた。
「大変です!」
勢いよくドアが開かれ、その前に立っていた筒井は額をガンと打つ。
よろけている筒井に気づかずに、井上祐二が駆け込んできた。
その大きな音に山本が慌てふためく。
「な、なななんだ!?どうした!?」
「入り口の見張りがやられました!誰か侵入したようです!」
「何ぃ!?」
山本がすぐにモニターに目をやる。マウスを操作すると、地図上のスタジアムが拡大されて表示される。
くまなく目を凝らすが、赤い点はスタジアム内に見当たらなかった。
「……ふぅ。誰もいねぇじゃねぇか!脅かすな!」
「しかし、入り口で見張り4人が全員気絶させられていたんです。
そこまでして侵入しないなんて…」
「そんなこと俺に分かるか!」
山本と井上が声を張り上げ合う。二人の表情は、ひどく余裕を欠いていた。
(いかんなぁ。ああ、いかん)
混乱しつつ、ただ声を上げている二人を目の前に、筒井は思っていた。
(なんで、侵入してるけど発信機はついてないって発想ができんのかなぁ。
頭の固い人達だ。大体あんな小さな発信機一つ、信用しないだろうに普通)
冷めた目線で二人を見つめる。
(まぁ、知らなければそう思わないんだろうな。
宏之のことも、薮田のことも、島内のことを知る手段をこの人達は持たされていないんだから)
「おい、筒井!ボケっとしてねぇで、お前もなんか言え!」
山本が筒井に声を向けた。井上も彼に視線をやる。
(めんどくさいなぁ…)
血走った目の二人に対し、さもわけが分からないという振りをして言う。
「そ、そんなこと言われても……あ、スタジアムの周りには誰もいないんですか?」
「周り?」
そう聞くと、山本は地図の倍率を下げる。スタジアムとその周辺の森の一帯が映し出される。
「あ!」
その森の中、20と書かれた赤い点が光っていた。
止まったまま、じっと息を潜めている。
「近くに潜んでやがったか……そうか、少しずつこちらの戦力を削る気だな。そうはいかんぞ。
おい!薮田を捕まえて来い。怪我はさせるなよ」
「そんな、あれをやったのが薮田だとしたら、銃を持ってることになりますよ!
それを生きたまま捕まえろなんて!」
「口答えするのか!井上!」
山本が怒鳴る。井上が押し黙る。
「俺が行きましょう。何人か人員を借りますよ」
「おお、筒井!話が早いじゃねぇか。よし、行ってこい!」
山本が満足そうにニタニタ笑う。筒井の頭の中でソロバンが動く。
(だって、薮田と宏之はおそらく突入済みだし。外の赤い点もおそらく……
中にいるほうがこれから危険になりそうだからな)
「任せてください。じゃぁ、早速行ってきます」
そそくさと部屋を出ようとする筒井。ふと、山本が首をひねった。
「……そういえば、佐々木はどうした?」
筒井がピタリと足を止める。
「見張りのリーダーをやっていたはずなんですが……駆けつけたときには消えてたんです。
まさか、薮田に捕まったとか?」
「はん、大方しっぽ巻いてどっかに逃げたんだろ。放っとけ」
山本が吐き捨てる。
筒井はため息をついた。
(頭の回らない人だな……ま、仕方ないか。
佐々木さんは迎えに行ってるはずだよ、彼を。
宏之と薮田・愛甲が突入寸前なのはわかってたから、その前にさっさと抜け出してね)
「とにかく、お前は入り口の見張りを補充しておけ。早く!」
そう井上に命じると、山本はイスにドサッと座り込んだ。
いそいそと筒井と井上の二人は部屋を出て行った。
「やれやれ……これで大丈夫だろ。人の眠りを邪魔しやがって……ふああ……」
監督室からは、再び静かな寝息が聞こえてきた。
「筒井さん、すいません。連れて行く人間は集めておきますから」
井上が手の空いている兵士を探しに、小走りで筒井を追い越していった。
対して筒井は、あまり急ぎでない足取りで廊下を歩いていく。
ふと、何かに気づいたように立ち止まる。回りを見渡し、誰もいないのを確認する。
背負った四角いカバンを下ろし、中を探すと四角い物体が取り出される。
トランシーバーが振動し、赤いランプが点っていた。壁の陰に隠れると、イヤホンを耳につけスイッチを入れる。
「もしもし……こちら筒井です。」
周りを窺いながら小声でマイクに話しかける。耳を澄まして相手の声を聞く。
「え!51が地下通路を教えた?
えぇ、彼が54を追っているのは把握していましたが……手が空きませんで」
少し声のトーンが大きくなる。汗が額にうっすらにじんだが、筒井はそれに気づかない。
「そうですか、やはり宏之と薮田はスタジアム内に侵入を、はい。どうも。
山本さんが危険になりますが、どうしますか? わかりました、放っておきます。では」
交信を終え、筒井は困ったように天井を見上げた。
「51め……こちらの指示を聞く気がいまいちないと思ってたが……なんのつもりだ?
地下にいるってことは今から問いただすこともできん。ちっ」
舌打ちを一つ。筒井はトランシーバーをカバンにしまいこみ、歩き始めた。
13 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/16(土) 00:31:36 ID:kX9CK0I00
おー、新スレ乙です!
夕方見たときに保守っとけばよかった・・orz
って新作もキテルーーーー!!!乙です
>1乙です!
筒井も絡んでたのか…orz
確かに余裕あると思っていたが…そこに絡んでるとは(((( ;゚Д゚))))ガクガクブルブル
筒井の腹黒さが(・∀・)イイ!!
そしてエカが何気にピンチ…
どうなるエカ…!先が気になる!
外に気配がないのを確認して、錆び付いた扉を開く。
金澤岳はその中から身を這い出すと、手についた錆を払った。
辺りをを見れば墓石が倒されて銃弾が散乱し、かなり荒れている。
扉越しに聞こえた銃声や叫びから暗に予想はついたが、思ったとおりだ。
「…ったく、墓場で暴れんなよな。バチあたりめ」
そう悪態をついた後、自分が言えた立場かと鼻で笑った。
振り返って、自分が入っていた金属の箱を見る。
このボロい外見に救われたか。
開けられそうになったときは、扉を押さえる手も流石に汗ばんだが、
向こうには、錆び付いているようにしか見えなかったのだろう。
それとも、この扉の意味に気づいて開けるのをためらったのだろうか。
この焼却炉、ただの焼却炉じゃない。この立地に、人ひとりが入れるだけの大きさ。
墓場のそばで燃やして都合のいいものと言えばただひとつ。
これは火葬炉だ。つまりこの扉は彼岸と此岸との隔て、黄泉へ通じる扉。
今でも、こんな火葬炉付き墓地が残る地域があるという。
確かに人が住んでいたのなら、そういう設備もないと困るだろう。
もっともこの廃れ具合からして、今は使われていないようだが。
入っていて気分のいいものではなかったが、別に恐れることもない。
死んだ人間に一体何ができるというのか。
「しかし、あの紺色は何モンだよ…。奴のせいで三人殺るどころか、
あいつが死んだのかすら確認できなかったじゃないか、畜生」
左腕を見れば、鴎のエンブレムが焦げ付いて、薄く血がにじんでいる。
それでもかすった程度らしく、出血ももう止まっていた。
あれだけ感情的に乱射したら、当たるものも当たらないだろう。
いや、それを言うなら、自分だって感情的にならずに
マシンガンを持ってる奴から先に狙えばよかったのだ。
そうすれば反撃も防げたのに。
(しくじったな、あいつに固執しすぎたか…)
当たったのは見えた。問題は致命傷になっているかどうかだ。
どうする。またあそこへ戻るか? 手負いなら、そう遠くへは逃げられないはず。
でも、またあの紺色がいると厄介だ。こんな銃一丁でマシンガンと戦うのは無理がある。
この先の行動を考えあぐねて、金澤は頭を抱えた。
視界に入るのは彼岸花の群生。花の時期などとうに過ぎているが、
それでも枯れかけの花がぽつぽつと見える。その赤が血を思わせるようで妖しい。
そこへ夕日に照らされた自分の影が、長く地面に伸びていた。
(そうか、夕方の放送があるな…)
ふと思い出す。今はそれを待つしかない。
あいつの名前はあるのか、ないのか。
なければ、リスクを覚悟してもう一度。
そう、すべては18時に。
19 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/16(土) 23:58:19 ID:kX9CK0I00
乙です〜
あああ・・・やっぱり金澤はそこにいたのか・・・・・・・・・・・・
(・ェ・)ほしゅしとくサネ
21 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/18(月) 02:12:46 ID:MDwKk7kM0
ほしゅ
22 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/18(月) 12:40:52 ID:g14EBHtx0
hosyu
捕手 コアラのマーチ
24 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/18(月) 21:31:50 ID:tC4I3A51O
ほしゅ
25 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/19(火) 13:36:11 ID:G2JKOTzZ0
段々大詰めになってくるような
1です。
色々とミスを連発していたみたいで申し訳ないっす
ていうか即死判定って今どうなってるの?
ウホッッ
これはカッコイイ壁紙
GJです
即死はとりあえず心配ないようで何より
>>28 うおおおなんじゃこりゃああーっ!!
………ヤブタサマチョーシブス ヒロユキカッコヨス
素直に全員カッコイイと言えないのは俺の心が黒いせいだ、きっとそうだ…
激しく乙です!!
薄暗さを増す廊下に、蛍光灯のしらけた明かりが灯っている。
その中の一本は古くなったのだろう、チカチカと不規則な点滅を繰り返す。
辺りはしぃんと静まり返っている。敵はどこに潜んでいるかわからない。
言い様のない孤独を感じて、小林宏之は携帯電話を取り出す。
電源を入れれば、そこには彼女の笑顔。少しだけ心が安らぐ。
――大丈夫、後悔なんかしない。
画面の彼女に向かってうなずくと、足音が近づいてくるのを耳にする。
携帯をすぐにポケットにしまい、柱の陰に身を隠した。
――井上祐二が早足で廊下を駆けていく。
早く兵を集めて筒井の元に送り届けねばならない。
ある柱のそばを通り過ぎようとしたとき、背後から何者かに取り押さえられた。
上半身に腕を回されてがっちりと固められと、柱の陰に引きずりこまれる。
「何をする!? 離せ!」
その腕を解こうと井上はもがく。やはり侵入者がいたのか。
「騒がないでください」
背後の人物が囁く。聞き覚えのある声。
こめかみには金属の冷たい感触。銃口か。
井上は抗うのをやめる。
「だ、誰だ…?」
「わかりませんか? 投手コーチのあなたが。…悲しいですね。
それじゃ、死んでも死にきれないじゃないですか」
紺のウインドブレーカーに包まれた長い腕、井上に劣らぬ長身、
そしてこの声。一つの人物像が思い浮ぶ。
「まさか…、ひろゆ…き…? そんな…だって宏之は…」
「ええ、死んだんですよ。一人で三途の川を渡るのは寂しいんでね、
化けて出てきました。……山本さんはどこです?」
「知らん!」
井上はシラを切る。侵入者をやすやすと案内できるわけがない。
そんなことしたら、どんな制裁が待っているかわからない。
宏之は銃口を斜め上に向けると、軽く引き金を引く。
ぱらぱらという銃声と同時に、点滅していた蛍光灯が割れる。
飛び散る薬莢が井上の顔に当たった。
「ああなりたいなら構いませんよ。俺と一緒に渡りましょうか…三途の川」
割れた蛍光灯を目で示すと、宏之は言う。
井上の首筋を銃口で弄ぶようになぞりながら。
その緊張に耐えかねて、井上はつばを飲み込む。
額からつうと一筋の汗が流れ出た。
(ここで逆らっても従っても命の危機、か…)
しばらく考え込んだ後、口を開く。
「…わかった。ついて来い」
口では従うそぶりを見せながらも、井上は内心どうするのか決めかねていた。
34 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/20(水) 14:16:16 ID:Zt+l6mvjO
乙です!
職人様乙です!
宏之怖いけどカッコいいよ宏之
36 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/21(木) 00:31:31 ID:/7zkvrWH0
ほしゅあげ
>>37 乙です!
O型マジヤバイ…。今の状況でまともに交渉できそうなの小宮山くらいか?
hosyu
40 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/22(金) 00:37:16 ID:T10HRrhf0
期待あげ
オールスター初めて行くけど応援はどうするの?
やっぱマリーンズの選手のみ応援?
42 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/23(土) 00:50:12 ID:zVk6+QZy0
期待あげ
43 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/07/23(土) 09:35:17 ID:4lEnvlUv0
>41
指揮をとる人が変わるだけで全て応援してる様にテレビでは感じる
トランシーバー?
気になるな〜もうっ!
捕手
捕手蓮元佑
捕手
ひた、ひた、暗闇の中を歩いていく。凸凹した砂利混じりの荒れた道。
慎重に、静かに。自分の足音が響かぬように歩を進める。内竜也である。
その後ろをズケズケと、遠慮なしに足音を立てて於保浩巳が付いて来る。
咎める気にもならない、そんな内のため息は暗闇に消えた。
中に入ってみると地下通路は思いのほか広かった。
背を曲げずに歩けるくらいの高さ、片手ぐらいは伸ばせる横幅。
右手を岩壁に当てながら、一歩一歩進んでいく。
内部に入るにつれ光が届かなくなる。薄暗い道はいつしかただの真っ黒な空間に変わった。
ただ右手に当たるゴツゴツした感触だけを頼りに進む。
時折、後ろから石の転がる音。於保が蹴飛ばしたのだろう。
(本当に黒木さんはこんなトコを進んでるんだろうか?)
フッ。
そう思った矢先、目の前にポツンと橙の点が現われる。
淡くゆらゆらと、その近くの岩に光と陰を与える。
「あっ」
小さな電球が、目の高さぐらいに点っていた。
岩壁を支えるように木の板が張りつけられ、それにコードごと電球とソケットが打ち付けられている。
数m先にもう一つ橙の点、更に先にぼんやりともう一つの点。行く先を示すように続いていた。
「スイッチでも見つけたのかな」
耳のすぐ後ろで於保が囁いた。その近さに驚いて内の肩が跳ねる。
振り向くと、けだるそうに立つ於保のシルエットがぼんやりと見えた。
電球の光がほとんど届かないその位置で、表情までは読み取ることができなかったが。
いや、どうせまた表情などないのだろう。内は踵を返し、前に進み始めた。
「スイッチを見つけたって」
「ん?ほら、この電灯の」
「分かってますよ。見つけて電気を点けたのが誰かってことです」
「他にいないだろう」
於保が坦々と、しかし妙に自信を感じさせる口調で話す。
「良かったじゃないか、この先にいるって分かって」
「後から別の人が来る場合もあるんじゃないですか?」
「あ、なるほど。お前頭いいな」
さっきより大きなため息が、光の届かない闇の方に消えていった。
ずっと歩き続けて、どれくらいの時間が経ったのだろう。
点々と続く淡い光。少し歩くたびに暗闇からぼんやりと次の光が現われる。
それがひたすらに連続するだけ。一瞬、自分が前に進んでいないような錯覚さえ感じる。
あの54を追っていたときは研ぎ澄まされていた感覚が、今はどんどん削り取られていくようで。
(ん……!?)
それは白昼夢のようだった。
目の前の淡い闇をスクリーンにして、ぐるぐると記憶の一部分が次々と映し出されて消えていく。
何故か忘れてしまっていた、少し前までは確かに覚えていたはずの印象深い記憶の断片達。
キャッチボールで暴投してウチの窓を割った。そのあと怒られたっけ。
大事にしていたグラブを失くして探し回った。結局見つからなかったっけ。
部活帰り、自販機の前で友達とムダ話。あの時ポカリをおごらされたのは誰だったっけか。
誘われて自転車で出かけた、行き先は確か――
「確か、プロ野球の試合があるって誘われて……」
その先の映像が浮かぶ。
(え……54?)
「何をブツブツ呟いてるんだ?」
「ぅえっ!?」
ッ――
目の前に一瞬、確かに浮かんだその番号は、あっという間にどこかに消え去った。
まるで最初から何もなかったかのように。後には暗闇とポツポツと橙の灯だけが残る。
「あっ」
思わず手を伸ばすが、当たり前のようにそこには何もない。ただの空気、ただの闇。
何か、彼が忘れていた大事なことがあったはずだった。
「おーい、内。大丈夫かい?」
後ろからカラカラとした軽い声が聞こえる。
内は数秒そこに呆然と突っ立って、振り向くこともなく歩き出した。
「どうした?」
「別に」
あからさまに不機嫌そうなその声を聞き、於保の声の調子が少し上がった。
「なんか邪魔したか?」
「別に、どうもしませんよ」
「黒木さんのことでも考えてたのかと思って」
「だから、別にそんなこと無――」
そんなこと無くはない。ふと内の中でそんな答えが返ってくる。
確信があるわけではない。だが可能性はかなり高い。
何かあったのは薄々思い出した。ただ細々とした思い出は頭のどこかに詰まってしまっているのだ。
自分にとって肝心なことが思い出せない。ちょっとしたきっかけで思い出せそうなのに。
だが、確かにその54に出会ったには違いない。そして、それは彼に違いないのだ。
「やっぱり、黒木さんのことでも考えてたのか」
於保がもう一度問いかけ、内はしばし無言になる。否定してやりたい気持ちがふつふつと沸いた。
だが内自身それについて、まだ決着がつかない。だから何も言えない。
そして於保に言う必要などない、と思った。
「どうしても黒木さんのことを考えさせたいんですね」
逆に聞き返す。後ろの男に関してずっと感じている疑問だ。
この男がなぜそれを気にする必要があるのか。ただ"見てるだけ"だった、この男が。
「そりゃ、お前の反応がちょっと違うからさ」
「違う?」
「ただ『一番になりたいから殺す』なんて言ってたときと比べてさ、なんか、こう違うんだよね」
「何が」
「お前の黒木さんを思い浮かべてる時の、目がな」
振り返り、於保に対峙する。シルエットの中にわずかに顔が見えるが、表情はやはり読み取れない。
内は精一杯於保を睨んでいた。それが於保に理解できたかすら分からなかったが。
「そりゃ、あの人は特別だからですよ。その辺の投手を殺すのとは違う。
直行さんがいても、未だに一部の人にはエースなんて言われるんだから」
「殺せば、一番に近づけるのか?」
自分の話す事が、今どれだけ自分の本心の通りなのか。内にはそれが分からない。
だが目の前の男にそんなことを言っても、それは弱みになるとしか思えなかった。
「言うまでもないでしょ。エース、つまりチームで一番の投手ですから。
殺して、みんな居なくなったあとで僕が一番になる。僕が新チームでエースになるんですよ。
だから黒木さんみたいにエースなんて言われる人は、絶対に生きてここから出しません」
そういって内は身を翻す。逃げるように早歩きで前に進む。
後に残された於保の声が聞こえた。
「なるほど。じゃぁ見ていてやるよ、今までどおり」
その言葉に内は無言を返した。
後ろをついて来る足音が聞こえる。聞きたくもないのに。
彼を納得、させたのだろうか。だが確かに『一番になりたい』という思いは強いのだ。
弱小ロッテで自分が一番の投手となり、ロッテを強いチームへ変えて行くエースになる。
ずっと抱いていた思いは変わらない。
どんな状況にあってもそれは変わらないのだ。
一番になりたい。エースになりたい。一番の投手になりたい。
「内、そういえば」
「なんです」
ぞんざいに答える。怒りをぶつけても効かないのは分かっていた。
「なんでお前、そんなに一番になりたいんだ?」
内はハッとして息を一瞬だけ止めた。
そういえば、自分はなぜ一番になりたいのだろうか。
「さあ? 気づいた時にはそう思ってましたから」
そう答えておく。それ以外の答えが見つからなかった。
本当にいつの間にか、一番の投手になりたいと思っていた。エースというものを目指していたのだ。
(いつから?)
ふと思う。思い出せない。すると、先ほど於保に打ち消された記憶の断片が浮かんだ。
誘われてプロ野球の試合を見に行った。あの日からだったはずだと自分に確かめる。
だがその日に起こったことは一切、どこかに詰め込まれたまま出てきそうもない。
必死に頭をひねり、内はそれを思い出せないかと悩んだ。
(あの日、僕は川崎球場で……)
内の答えに於保からの返答はないままだった。
無言のまま足音だけが二つ、暗い穴ぐらの奥へ吸い込まれていった。