千葉マリーンズ・バトルロワイアル第4章

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358full of Gratitude(1/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 05:58:27 ID:x0RO3BRd0
町並みには、誰の声も響いていない。
人のにおいのしなくなった道に広がる空気は重く
自分の歩みを進めるのを阻もうとしているかのようだ。
なんの音もしないのもいやだけど、かといって誰かの声がするのも怖いのも事実。
そんな矛盾した思いを抱えながらユウゴーはひとり路地を駆けていた。
孤独ははじくりと自分の胸を恐怖で埋め尽くそうとするけれど
今の自分に出会った人をどちらかなんて見分けられる自信は無い。
それならもういっそ誰にも出会わずにすむことを願いたい。
たった今まで、自分の横には常に声があった。誰かがいた。
それらがなくなってしまっただけで、先程まで感じることのなかった恐怖が
少しずつ増殖していくのがわかる。

細い路地で地図を開き、目的地を再確認する。
武器の投下場所へ行くためには先程の場所、平下と遭遇した場所のそばを再び通ることになる。
当然違う道を使って避けていくことも可能だ。
ユウゴーは地図を凝視し自分の行く道を模索していた。
戸部と別れた理由、うまく逃げてきた相手の懐にまた飛び込もうとしている自分、
そんな危ないことに巻き込みたくないというのも事実だが、もうひとつ。
やはりあの後どうなったのか、自分の目ではっきりと確認をしておきたかったのだ。
曽我部がどうなったのか、見なくても結果はほとんどわかりきっているのに
それでも放送まで待つのも耐えられそうもない。
そんなことに戸部を付き合わせることは、まるで曽我部を置いて逃げることを選んだ戸部を
無言で責めているような気がして、どうしても一緒に行くことは出来なかった。
「さきに武器を手に入れるか、それとも・・・」
どちらが最適な方法か、考えあぐねては見るものの、どこに誰がいるのか
全くわからないこの状況で、どちらがいいかなんてことはさっぱりわからないだろう。
ただ、自分の探すべき相手、平下はきっと人がたくさん集まりそうな場所に行くはずだ。
だとしたら、いまはまず投下場所に向かう確率が高い。
それなら、やるべきことを終わらせてからのほうがいい。
逃げてきた道とは微妙に違うルートを使い、先程までいた場所に向けて走り出した。
359full of Gratitude(2/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 05:59:16 ID:x0RO3BRd0
その場所に近づくにつれて、逃げ出すときに背中で聞いた銃声が頭によみがえった。
その音は頭痛のようにぎりぎりと頭を締め付ける。
平下を止める、なんてかっこいいこといったけれど、どうやって止めるのか
とりあえず武器は必要だとは思うがそれを使って止めるのか、明確な答えは見出せない。
おそらく、曽我部さんもおんなじような状況に陥っていたんだろうな、と
ユウゴーは少し考える。結局ちゃんとした答えは出せなくて
でも相手を殺す道はとりたくなくて、そして、あんな結末を迎えてしまった。
「あいつは、悪くないんだ」
曽我部の言葉がよみがえる。
「こんなとこにほおりこまれて、ちょっと気が動転してしまっているだけだと思うんだ」
ああ確かにそうだと思います、曽我部さん。
憎むべき相手は、確かに平下じゃない。
本当に憎むべき相手は、こうやっておろおろする俺たちをどこかで笑いながら眺めている
こんなばかげたことを思いついたやつだってことくらい自分にも解りきっている。
それでも、あいつは必ず止めなければいけないんです。
根本の悪をつぶしてくれる人は、必ずどこかにいる。
ユウゴーの頭に、まるで何ヶ月も前に交わしたような遠い記憶になっていた
川辺での会話がよみがえった。たとえば、あの人たちとか。
だから自分は今できることをやる。
このゲームに乗ってしまったやつがあの人たちの邪魔をしないように。
なにもかも、かっこいい言葉だけを並べているかのように聞こえるけれど
そう思うことでしか今の自分は足を前に踏み出せない。

もうすぐ、あの場所に着く。あと数回角を曲がればあの場所に。
近づくにつれて次第に足が自分の意思に反抗し、歩みが遅くなっていく。
そして、最後のひとつの曲がり角に来たときにユウゴーの足は完全に止まってしまった。
ここを曲がれば、きっとすべてが見渡せる。
そこになにもなければ良いのにと、途方も無いことを願ってしまう。
でもわざわざ戻ってくることを選んでしまったのだからその先は必ず見なければいけない。
たとえどんな結末だろうとも。
ひとつ小さく深呼吸をし、ユウゴーは角を曲がった。
360full of Gratitude(3/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:18:43 ID:XKo9rG0K0
予想通りの光景がそこには広がっていた。
うつぶせに倒れている白いユニフォーム。その周りの地面は赤い水溜りのようになっていた。
背番号は、65。
こういうことはちゃんとわかっていたはずなのに、足元から一気に力が抜け落ちていく。
あふれ出しそうになる悲しみが喉の奥をしめつけようとするが
ユウゴーは飲み込んだ空気と共にそれを押さえ込んだ。
踏み出そうとしない足に必死で命令を送り、ゆっくりと曽我部に近づく。
肩、背中、左胸あたり、そしてさらには頭も赤黒く染まっていた。
がくん、とへたりこむようにユウゴーはそばにかがみこむ。
「曽我部、さん」
帰ってくるはずも無い返事を待った。
ぼんやりと、泣くわけでもなく、叫ぶわけでもなく、ユウゴーは
曽我部の横で彼の背中、背番号が赤の所為で読みづらくなった背中を見つめ続けた。

どのくらいそうしていただろう。
なにかを決意したようにうん、と首を縦に振り
ユウゴーは倒れる曽我部の腕を取り、そのまま自分の肩にまわした。
バランスの取れない重みに何度か倒れそうになりながら
足を踏ん張り、曽我部の身体と共に立ち上がった。
上手く曽我部の身体を自分に寄りかからせ、腰あたりに手を回し
ゆっくりと多少引きずるようにだが進んでいく。
あのまま、道の真ん中に倒れさせておくのは耐えられなかった。
どこか人の目に触れないようなところ、ゆったりと、少し日陰になっていて
落ち着けるようなところ、そんなところで休ませてあげたかった。
自分のユニフォームにも血液がじくじくとにじんでいくのが解るがそんなことは気にかけない。
それにしてもなんて重いんだろう。ユウゴーは思う。
こんなにも重たいのに、この人はもうここにはいないなんて。
361full of Gratitude(4/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:19:37 ID:XKo9rG0K0
一番近かった家の庭に曽我部の身体をゆっくりと下ろす。
もっときれいな場所を探したかったけれど、正直ここまで運ぶのがやっとだった。
多少伸び放題で手入れが行き届いているとはいいがたい芝生にそっと曽我部の身体を横たえる。
青白い顔、少し開いた、なにか言いかけたような血の気のない唇。
すべてを目に焼き付けようとユウゴーは真っ直ぐ曽我部の顔を見た。
この光景を忘れるわけにはいかない。
自分たちがいかに狂った状況にほおりこまれたのか
どんなにばかげたことがここでくりひろげられたのか
その怒りと悲しみを忘れないために、自分はすべてをきっちり見つめないといけない。
「曽我部さん」
返事をしない身体に呼びかけ、そして彼に向かって頭を下げた。
「曽我部さん、ありがとうございました。
あなたがあのとき良平にとびかかってくれなかったら、次の弾で死んでいたかもしれません。
助けてくれてありがとうございました。
ただ、それだけが言いたかったんです。それでここまで戻ってきました。
ありがとうございました。ありがとうございました。本当にありがとうございました。
でも、でも・・・」

ちゃんとあなたに返事してもらえるうちに言いたかったです。

それ以上の言葉は喉から出てこなかった。


いつまでもここにいるわけにはいかない。
ユウゴーは立ち上がり、最後にもう一度だけ曽我部を見る。
なにか掴もうとしていたかのような右手にふと目をやる。
良平は、曽我部を見て改心してくれただろうか。そうだとしたらあいつも助けてやりたい。
曽我部さんが最期に助けようとしたあいつをなんとかして助けてやりたい。
あの怪我だし、さほど遠くに入っていないはず。
とりあえず、どこまでできるかわからないけれどやれるだけのことはしてみるしかない。
「それじゃ、行きますね」
眠るように横たわる曽我部に声をかけ、ユウゴーは背中を向けた。
362full of Gratitude(5/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:20:29 ID:XKo9rG0K0
民家の門を抜け、先程の路地に出ようとしたそのとき、
道の真ん中に白いユニフォームの背中が目に飛び込んできて
ユウゴーはとっさに身を隠した。
それはじっと道の真ん中に立ち尽くし、赤く染まった地面を見つめている。
曽我部がつくった血だまりただその1点だけに視線を落とし微動だにしなかった。
ちょっとまってくれ。
どうして、なんであいつまでここに戻ってきてるんだよ。
背番号24はそこから1歩も動こうとはしなかった。
たしかにいま探していた人物だが、まだこんななんの準備もしていない状況では
絶対に会ってはいけない相手がそこにいる。
どうする?逃げるか?体勢を整えてから挑むか?
二の舞になってはいけない。そんなことは戸部さんにも、曽我部さんにも申し訳ない。
だったら、いまは逃げるしか、ない。
もっと身体を隠そうと後ずさりをしたその拍子に
足元においてあった植木鉢にガツンとぶつかる。
あわてて倒れないようにしようとするが、無情にも鉢は音を立ててそこにごろりと横たわった。
まるで漫画のようなお約束の失敗をしてしまう自分をぶんなぐってやりたくなる。
やっぱり、気づかれただろうか。
そっと門のかげから向こうをうかがう。
相手はまだ背中をこちらに向けたまま、先程と変わらず地面を見つめていた。
気づかれなかったのか?
心臓からの血流が急激に早くなり、そのどくどく言う音が耳を支配する。
その音が無駄に身体を硬直させ、落ち着かせたい頭をかきまわす。
そっと、今度は用心深く足元を確認し門から離れ、裏口あたりに進もうとしたそのときに
早まり続ける心拍音を打ち消すように、ずしりと響く声が耳に飛び込んだ。

「だれか、いるんですか」
こちらを振り向きもせず、平下がいった。
363 ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:22:58 ID:XKo9rG0K0
朝投下途中に鯖が落ちてたみたいで
2と3のあいだにものずごいタイムラグが出来て
非常に申し訳ない orzorz
364 ◆vWptZvc5L. :05/02/21 12:23:45 ID:3a1q9/t00
◆Ph8X9eiRUwさん、乙です。ユウゴーがんばれ。
鯖落ちは仕方ないことなので気になさらずに。

>>357
うっ、その詞を出してくる方がいらっしゃるとは…
>>237氏=>>357氏なんでしょうか。

この世見据えて笑うほど 冷たい悟りもまだ持てず
この世望んで走るほど 心の荷物は軽くない
365代打名無し@実況は実況板で:05/02/21 12:31:26 ID:CJPiZ6DPO
職人さん乙です!!
青野と良平でも泣きそうになってユウゴーと曽我部でも泣きそうだった…。
ユウゴーガンガレ〜
366代打名無し@実況は実況板で:05/02/22 02:47:46 ID:2/nHH7qn0
保守
367代打名無し@実況は実況板で:05/02/22 16:03:34 ID:Evd1e5YKO
保守
368一般people:05/02/22 23:38:45 ID:yF+AOH3p0
職人乙です 良平&青野最高でした。゜゜(´□`。)°゜。
369代打名無し@実況は実況板で:05/02/23 14:57:20 ID:AQrC0ugD0
保守
370代打名無し@実況は実況板で:05/02/24 20:43:35 ID:1dksgr/bO
保守
371夢も現も(1/3) ◆vWptZvc5L. :05/02/25 16:37:27 ID:QiQ6OOyR0
橋本将はその夢から覚めようとしてもがいていた。
何も見えない暗闇で何かを探している。
何を探しているのか、なぜ探しているのかわからない。
なのに絶対に探し出さなければならないという焦りと不安とでぐちゃぐちゃになる。
何を探しているかわからないのに、そんな何かは見つかるはずもなく、
それでもどうしても探さなければならなくて、泣きながら探している。
そんな、よくわからない場面を何度も繰り返して見ていた。

――「…将!将!!」
誰かに呼ばれて、ようやく目を覚ます。
その誰かが自分を心配そうに覗き込んでいる。
熱を帯びてぼんやりとうまく働かない脳でその主を認識した。
それが今まで探していた相手、小野晋吾だとわかって気持ちが和らいだ。
「大丈夫か?すげぇうなされてたぞ?」
あれは熱が見せた夢か…、そう安堵したのも束の間、自分の置かれた境遇を思い起こす。
目が覚めてみたところで、悪夢が続いていることに変わりない。
いっそのこと、あの夢が現実でこの世界が夢だった方がまだ幸せだったかもしれない。
「顔赤いな。熱あるのか?」
「何か体調崩したみたいで…」
もう体温も上がりきってしまったのだろう。寒気は収まったが全身が熱い。
体じゅうにびっしりと汗をかき、焦点の定まらない視線が宙を泳ぐ。
「さっきまで雨降ってたもんな。薬とか飲んだか?」
橋本が頭を振る。額に手をあててみると、思ったとおり熱い。
見ているだけでも辛そうだ。このまま放って置いても回復は望めない。
372夢も現も(2/3) ◆vWptZvc5L. :05/02/25 16:38:31 ID:QiQ6OOyR0
「うーん、どっかで解熱剤でも手に入ればいいんだけど…」
薬が手に入りそうなところと言えば、昼の放送で言っていたG-5か。
あの辺りはさっきから銃声や爆音が聞こえてくる。できれば近寄りたくない。
それに13時なんか当の昔に過ぎている。危険を冒して向かった所で薬が手に入る保証もない。
どこかに病院や薬局が見つかればいいが、最悪の場合はやはりG-5に行くしかない。
それに、こんな状態の橋本を連れていくべきかどうか。
薬を捜しに行くだけなら自分ひとりの方が身軽だし、連れ回せばかえって悪化するかもしれない。
休ませてやりたいのが本音だが、かといってここに橋本ひとり残していくのは危険すぎる。
このゲームに乗った誰かに見つかれば、きっとろくな抵抗もできないうちにやられてしまう。
自分だってたいした武器を持っているわけじゃないが、それでも二人でいた方がまだなんとかなる。

「将、ちょっと辛いかもしれないけど、ここから移動しよう。
 これから日が沈むと冷えてくるし、休むなら屋内の方がいいだろ。
 薬も探そう。薬飲めばちょっとは良くなるって。な?」
晋吾に促されて橋本がゆっくりと立ち上がった。
その足取りはふらふらと危なっかしく、とても見ていられない。
踏み出そうとすると、身体が方向を失ってよろめく。
そのまま倒れそうになるのを慌てて晋吾が抱きとめた。
373夢も現も(3/3) ◆vWptZvc5L. :05/02/25 16:39:19 ID:QiQ6OOyR0
「おまえ、ダメだ。全然歩けてねーよ。俺が背負ってやろうか?」
「そんなことして腰、大丈夫っすか?」
「…大丈夫じゃない、かも」
弱みをつかれて、晋吾が苦笑いを浮かべる。
「いいっすよ。晋吾さんは帰ったときに、ちゃんと投げてもらわないと困るんですから。
 そのときはまた俺が球受けるんですから。今は肩だけ貸してください」
そっか、と晋吾の顔が少し緩む。
その一方でそのふわふわとした頼りない喋り方に不安を覚える。
熱で相当やられているらしい。早く薬を見つけなければ。

「ああ、そんな重いもん持つな。俺が持つから」
橋本を制して、晋吾は傍らの小型のチェーンソーを拾い上げた。
こんなものまで支給されているのか。これを人に向けるかと思うとぞっとする。
「これ、お前の武器なのか?すげーな…」
「…預かりものなんです」
橋本は小さく呟く。
(金澤、お前にもきっといるよな、こういう信頼できる人がさ。
 そいつのためにも早く自分の過ちに気づけよ。そんときは、きっとこれ返すからさ。なぁ金澤…)
晋吾の肩に身をもたせ掛けながら、橋本はぼんやりと金澤のことを思っていた。
「はあ…はあ…。」
大谷は浦和球場を飛び出し、闇雲に走っていた。
さいたま市内とはいえ、浦和球場は駅から少し離れていることもあり、行き交う人はまばらだった。
「もう…嫌だ!」
大谷は走りながら叫んだ。
どこへともあてはないが、とにかくここから逃げ出したい。
そんな思いがはっきりと表情に出ていた。

どれぐらい経っただろうか、浦和球場が視界から消えたころ、
大谷は足をとめ、壁に手をついて大きく深呼吸をした。
「ふう…。変なこと思い出しちゃったよ。」
思い出したくないことを思い出してしまったかのように、顔に苦悩を浮かべていた。
しかし、それを振り払うように首を振り、
「だめだ、こんなことじゃ。しっかりしないと!」
大谷は息を落ち着かせ、意を決したかのように声をあげた。

「…あ、カバン置いてきた。」
大谷は忘れ物をしたことに気づいた。
「いまさら戻るのもなんだけど、一応大切なものだし…。」
そして、一旦浦和球場に戻ろうと振り返った。
ところが、その目の前に、見覚えのある人物が立ちふさがっていた。
「…やっと見つけた。」
「…!!」
大谷は声にならない悲鳴をあげた。
そのころ、浦和球場では、
「あはははは。吉鶴くん、大谷さんに間違えられたからって落ち込まないでよ。」
「…違いますよ、きっと。」
吉鶴は、荘の話を必死に否定していた。
(2年間一緒にやってきて、まだ名前を覚えられていないわけないはずだよなあ。)
しかし、大谷が吉鶴の顔を見て「袴田さん」といったのは事実だった。
(やっぱり、大谷さんに名前間違えられたのかな…。)
吉鶴は大きくため息をついた。

落ち込んでいる吉鶴を尻目に、荘はカバンの中を漁り続けた。
「あっ、あったあった。」
そういいながら、荘はカバンの中から『秋季キャンプのしおり』を取り出した。
「ほら、多分この中に書いてあると思うよ。」
そして『秋季キャンプのしおり』をぱらぱらとめくり出した。
「ええと…。」
吉鶴はしおりを覗き込んで、あることに気づいた。
「ちょっとこの部屋暗くないですか?」
「う〜ん、そうかもね。」
秋もだいぶ深まっているということもあり、外はもう日が沈み始めていた。
そのせいか、薄暗い部屋の中では、どうも字が見にくくなってしまっていた。
「明かりつけようか?」
「そうですね…。」
吉鶴は荘の提案に同意しかけたものの、あることを思いついた。
「どうせなら、寮に移動しませんか?ここだと何かと不便ですし。」
「あ、そうだね。」
マリーンズ寮は浦和球場から歩いてすぐの場所にある。
日没が近いことを考えて、球場より寮にいたほうが何かと便利かもしれない。
「それなら、福澤さんに電話しないと…って、そういえば。」
吉鶴はあることを思い出した。
「そういえば、荘さん電話…。」
「あ、ごめん。電池切r」
「いいです、僕が電話します。」
荘の言葉をさえぎり、吉鶴は携帯電話を取り出し、福澤に電話をかけた。
しかし、
「あれ、通話中だ。」
吉鶴の携帯からは、ツーツーと通話中であることを知らせる音が繰り返されるだけだった。
「どうしようか。」
「とりあえずメールでも送っておきます。」
吉鶴は手早く携帯メールを打ち込み、送信した。
『暗くなってきたので、寮で待っています。 吉鶴』

「それじゃあ、行きましょうか。」
吉鶴と荘は、浦和球場を後にした。

福澤は一体誰と電話しているのだろうか。
そんな疑問が二人に浮かぶことは無かった。
377代打名無し@実況は実況板で:05/02/27 14:38:23 ID:gn992xwB0
ほす
378一般people:05/02/27 22:34:55 ID:RSyFdhHx0
保守っぺ
379代打名無し@実況は実況板で:05/02/28 12:19:07 ID:r1K2qyqU0
コリアン星
380代打名無し@実況は実況板で:05/02/28 18:18:22 ID:OxhrGjXT0
>>379
保守はしなくても良くなったんじゃないか?
381代打名無し@実況は実況板で:05/03/01 18:12:26 ID:Y3lLlHub0
保守
382代打名無し@実況は実況板で:05/03/01 22:50:19 ID:V5vJ+krE0
 
383代打名無し@実況は実況板で:05/03/01 23:24:05 ID:ZYpER1Zt0
ちょうど1週間後がn日ルール適用かな。
384代打名無し@実況は実況板で:05/03/02 00:36:07 ID:XuZ2L/xI0
適用されたら、また立てればいいだけ。
3羽は新宿から千葉マリンスタジアムへの帰り道を走っていた。
ただし、通っているのは来たときとは違う人気のない裏通りだった。
「ねぇ兄ちゃん。何でこんな裏道走ってるの?」
「だって、また検問に引っかかったら困るだろ」
「そしたら、また中の人の免許使えば…」
「ズー、おまえそれ以上言ったらどうなるかわかってんだろうな!?」
急にマー君がドスの効いた声をだしたので、ズーちゃんはビビった。
(どうなるんだろ。試しに言ってみようかな…)
そんな好奇心をくすぐられたが、自分も同じような追及をされるとヤバイので黙る。
「もうあんなことしたくないんだよ…あんなの、マスコット最大の屈辱だ」
どうやら、検問の時によほど嫌なことをさせられたらしい。
「それにしても、マー君も本社であのまま引き下がらずに粘ればよかったのに」
「うん、でも受付の人は何も知らないみたいだったし、警備員さんも多かったからね。
 ちゃんと別の作戦も考えてあるから大丈夫、大丈夫」
話し相手がリーンちゃんになると、マー君の口調はコロッと変わる。

(兄ちゃん、ヒドイよ。もうちょっと弟に対する思いやりってものを持とうよ。
 そりゃあ、しつこく「中の人が…」とか言い続けてる僕も悪いけどさ)
ズーちゃんはため息混じりに窓の外をみる。そこでサイドミラーに映るものに気づいてはっと振り返った。
頑丈そうな黒い車がずっとあとをつけている。人通りの少ない道なので、他には車は見当たらない。
(あの車、本社から出て来た時もいたような気がする。行き先が同じ方向なのかなぁ?
 でも、変じゃないか?なんでわざわざこんな裏道を…)
そのとき、助手席の窓から何か光るものがのぞいているのが見えた。拳銃だ。
「うわぁぁあ、逃げて逃げてー!兄ちゃん、逃げてー!!」
「何だよ?また検問――」
そこまで言う暇もなく、爆音が響いた。
バックガラスの隅に穴が開いて、そこから亀裂が走る。
「ひょえぇぇーーっ」
そこでマー君もようやくズーちゃんが騒いでいた理由がわかった。
どうも検問どころの騒ぎでないピンチに立たされているようだ。
「何だ、この安い刑事ドラマみたいな展開は!?」
「知らないって。とにかく逃げて!!」
「マー君、ここで事故ったら東スポどころか一般紙にも載っちゃうわ!」
逃げろと言われても、こんな狭い一本道では満足なスピードも出せない。
蛇行を繰り返して銃弾をよけるのが関の山だ。
それも長くは通用するはずがなく、やがて出たT字路で角を曲がりきれずに
ガードレールに激突した。その様子を見届けると、黒い車はUターンして去っていった。

ぶつかった衝撃からズーちゃんが起き上がる。
(イタタタ、頭ぶつけちゃったよ。うわ、左頬もケガしてる。
 あぁ、これは仕様か。でもたいしたケガもしてないっぽいし、よかった)
あまりスピードが出ていなかったのが幸いしたらしい。
(兄ちゃんとリーンちゃんは無事かな…?)
そう思ったとき、
「キャアアァァーーー」
高い悲鳴が聞こえて、ズーちゃんが前へ身を乗り出した。
「何?どうしたの、リーンちゃん!?」
「マー君がっ…マー君がっ…」
そう言われて、運転席を見る。

そこには額が真っ二つに割れたマー君がハンドルに突っ伏していた。
387代打名無し@実況は実況板で:05/03/03 04:16:02 ID:Xg8KJi9pO
>あぁ、これは仕様か。
ワロタw
388代打名無し@実況は実況板で:05/03/04 04:46:26 ID:3Gl+RDqn0
保守
389予感(1/1) ◆vWptZvc5L. :05/03/04 22:49:58 ID:8FEeu12Q0
スタジアムの入り口付近では多勢の兵が警備に当たっている。
佐々木信行はその中で兵を統率している男、井上祐二に近寄って話しかけた。
「ご苦労さん。そろそろ交代しよう」
「もうそんな時間ですか」
「何か変わったことは?」
「特にありません。強いて言えば、この周辺に人が集まってることぐらいですかね」
井上が手中の探知機に映る一角、赤い光点が集まっている箇所を示す。

「やっぱりG-5に物資を投下するっていう、あの影響か?」
「そうみたいです。皆そっちに気が向いてるようで…
 この分だと此処を狙われるかもしれない、っていう山本さんの心配も杞憂ですみそうです。
 仮に狙われたとしても、そう簡単には侵入できませんよ。
 指示どおりに兵の数も増やしましたし、誰かが接近してきてもコレで把握できますからね」
「…だといいけどな」
「何か不安な点でも?」
佐々木の深刻ぶった表情に井上は思わず聞き返す。
「いいや、なんとなくそう思っただけだ」
「じゃ、あとはよろしくお願いします」
井上はそう言って、持っていたサブマシンガンを佐々木に託した。
390代打名無し@実況は実況板で:05/03/05 02:05:46 ID:x6in+ahvO
チョン球団いらねー
391僕らはみんな生きている  ◆1Y1lUzrjV2 :05/03/06 00:44:21 ID:yrv1H9jo0
 杉山の思考を中断させた銃声は、彼らの居場所と近いところから聞こえてきた。
 小宮山が「ここから近いぞ!?」と叫び、鋭くその音の方へ振り向く。
 そして間髪入れずに、「行くぞ!」とその方向へ走り出そうとする。
「こ、小宮山さん!!」
 あまりにも突然の事態に、杉山はどうしたら良いのか解らず小宮山の名前を呼ぶ。
「何してんだ、近くで誰か狙われているかもしれないんだぞ? …方向としては、
金澤がいるかもしれない位置だ」
 自分を落ち着かせるためか、小宮山は冷静な口調で杉山に言う。
「でも…」
「さっきみたいにはいかないかもしれない。でも、まだ狂ってないやつだっている。
言っただろう、足掻くんだ。誰にも会わないでいられることなんて、ないんだからな。
誰かがいるってことは、仲間になる可能性のあるやつに会えるかもしれないってことだろ」
「……」
 杉山は黙ってしまった。
「もしお前がこのままがいいんだったら、俺だけでも行くことにするよ。さっきの答えも
まだ聞いてないけど…。これが答えだと受け取ることにする」
 『さっきの答え』――。
 仲間にならないか、と言われて杉山は嬉しかった。それは、泣いてしまうほどに。
 銃声によって中断された思考が、また、すうっと心の中に甦ってきた。
 今、走り出さなければ、いつ走り出すのか。
 ここでずっとひとりで怯えたままで、何ができるというのか?
 チームを愛する人―小宮山とならば。
 杉山はふとスタート時のことを思い出した。小宮山と黒木。このふたりを探そうとしていた自分を。
 チームを愛しているふたりならば、きっと、こんな『試合』に勝ってくれると――。
 彼がこうしている間に、小宮山は短く「じゃあ、俺行くな…。死ぬなよ」と言って立ち去るべく
背中を向けていた。杉山はその足音に気付き、慌てて「俺も行きます」と言って後に続いて走り出した。
 それからどのくらいの時間が過ぎたかは解らない。もう感覚が麻痺していたのだ。
 はあはあと息があがってしまい、ふたりはしばらく歩くことにした。
 「確かこの辺りだと思ったんだが…」
 小宮山がきょろきょろと辺りを見回す。杉山も、それを真似るように辺りを見回していた。
 先程の銃声の『狙撃者』がいたら、ひとたまりもない。慎重に様子を窺っていると、遠くに人影を
見つけた。相手から見えぬように身を隠し、近くにいた小宮山にそっと合図を送る。
 そっと杉山の隣にしゃがんだ小宮山は、杉山がじっと見つめる方を慎重に窺った。
 そこにはマシンガンを手にしたひとりの男がいた。
 ウィンドブレーカーを着ていて、見た目だけでは解らない。
 (本部のやつらか…?)
 小宮山は息を呑む。なぜこんなところに…? 自分達の知らない間に何か非常事態が発生しているのか?
 さまざまな思いが頭をよぎる。
 こちらはマシンガンに比べれば丸腰も同然だ(一応)。
 本部のやつら…せめて誰なのかだけでも解れば…、と小宮山はその男をじっと見つめる。
 フードを目深に被っているため、顔全体を見ることはできなかったが、整った唇と顎鬚が良く知った
人物の特徴と一致していた。
「宏之…?」
 小宮山は思わずそう呟いてしまった。
 違う、そんなことあるわけない。彼は放送で死亡したと言われたじゃないか。
 そう言い聞かせようと思った小宮山だが、唯一見える口元が彼以外の何者にも見えなかった。
 だから、彼の名を呟いてしまった。
 それが過ちだった。
 「う、うわああああああああ!!!!」
 小宮山が「宏之」と呟いてから十秒ほど経ったとき、突然杉山が叫んだ。
 あまりの大声に小宮山は驚き、すぐに口を塞ごうとして振りほどかれた。
 「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!」
 杉山はすくっと立ち上がり、叫んでいる。
 「嘘だ、殺し合いなんて嘘なんだ! 俺は帰りますよ!」
 矢継ぎ早にそう言うと杉山は走り出した。驚くほど早いスタートダッシュに、小宮山は虚を突かれた形になった。
 (しまった!)
 今の状態は危険過ぎる。彼の精神状態はまったく安定していないというのに、刺激するようなことを
言ってしまった、と小宮山は悔いた。ウィンドブレーカーの男(宏之)のことが頭から離れないが、杉山を
そのままにしておくわけにはいかないと思い、小宮山は後を追って走り始めた。
 一瞬、ウィンドブレーカーの男の方を振り返った。
 杉山の大声に反応して、こちらを見てフードを取ろうとする男の姿をみとめた。
 しかし杉山の奇声が聞こえ、早く追いつくことが先決と考え、その顔を見ることなくまた走り始めた。
 
 杉山は奇声を上げながら走っていた。
 『宏之』。
 宏之と、小宮山は言った。
 その言葉で、杉山の頭は一瞬でゴチャゴチャになった。
 
 え、宏之さん?
 さっき、放送で、呼ばれてなかったっけ?
 あの放送って、確か死んだ人の名前を呼ぶんだよな?
 てことは、宏之さんは死んだってことじゃなかったっけ?
 あれ? 俺の思い違いかな?
 宏之さんが死んでないなら皆ももしかして死んでないんじゃないか?
 もしかしたら、この『試合』自体が嘘なんじゃないのか?
 澤井さん以外、誰も死んでないんじゃないのか?
 黒木さんだって、空砲を撃っただけだ。誰も殺してない。
 金澤だって、その気になってるとかなんとかって感じだったけど、あれももしかしたら演技じゃないのか?
 もしかしたら俺だけにそれが聞かされてなかったとか? 何か性質の悪いドッキリなんじゃ?
 出発前もそんなこと初芝さんが言ってて監督(なのか? あいつは)に撃たれてたけど…、もしかしたら
あれもドッキリのための『二重の仕掛け』なんじゃないのか?
 そもそも、最初の澤井さんの死だって、もしかしたら何かトリックがあって、後で「俺面倒臭がり屋だから
あの役で最初に降りて楽しようと思ったんだよ」とか、笑顔で言われるんじゃないのか?
 そうだ、きっと、全部、嘘だったんだ。
 試合も嘘。
 銃声も嘘。
 殺し合いも嘘。
 死も嘘。
 こんなミリタリーチックなことに、俺は付き合っていられないぞ!
 俺は、俺は、野球をやるんだ!!
 
 ―そして彼は叫び、走り始めたのである。

 杉山の思考は殆ど壊れかけていた。この異常な状況においては仕方の無いことである。
 今までの杉山の恐怖や葛藤が、宏之の生存という事態によりグチャグチャになってしまったのである。
 それまで自分の心の中にしまっていた思いが、総て自分の都合の良いように解釈されて吐き出されてしまったのである。
 
 俺は野球をやる! こんな馬鹿げたことには付き合っていられない!
 何が死だ! 何が殺し合いだ!
 俺は生きているぞ、生きているぞ!
 だからさっきだって泣いたんだ!
 生きているから泣けるんだ! 生きているから笑うんだ!
 生きているから怒るんだ! 生きているから楽しいんだ!
 だから今だって、こうしていろんなことを考えられるんだ!
 こうして拳を握っていられるんだぞ! 
 こうして走っていられるんだぞ!
 それよりなんだ、死ぬってなんだ?
 そんなもの、俺には訪れないぞ!
 現に宏之さんにだって訪れないんだからな。放送で呼ばれたのに、あの人は生きていた。
 だから皆生きている!
 僕らは皆生きている!
 アハハハハ、生きているっていいことだよなあ。
 こんなに身体が軽いのなんて久しぶりだなあ。
 ああ、何でもできそうな気がしてきたよ。
 俺もしかして一生死なないのかなあ? なんて! ああ、でももしかしたらそうかもしれない。
 皆生きているから、こうして走っていても大丈夫! 死にっこない!
 死ぬわけがないよ!
 だって、殺し合いなんて、嘘なんだから―――。
 
 奇声を上げながら走る杉山は、何故か幸せそうな表情をしていた。
 混乱から派生したやさしい狂気を、止める術を今は誰も持っていなかった。 
396代打名無し@実況は実況板で:05/03/06 02:32:45 ID:gF3aZ9StO
新作乙です!

( ゚Д゚)杉山…


あと一点。宏之は杉山より年下です
397代打名無し@実況は実況板で:05/03/06 03:31:38 ID:eHbdrhEI0
まぁ杉山は生真面目な性格そうだからみんなさん付けってことで

いい狂い方してるなぁ
398代打名無し@実況は実況板で:05/03/06 06:54:27 ID:FwM5lJdc0
スギシュン壊れちゃった。゚(゚´Д`゚)゚。ワォーーン
399一般people:05/03/06 12:36:39 ID:uzw9VZ5h0
スギさん・・・((((;゚Д゚)ガクガクブルブル
400代打名無し@実況は実況板で:05/03/07 12:26:04 ID:y6U7h811O
だれか携帯用保管庫のURL貼ってくれ・・・
401代打名無し@実況は実況板で:05/03/07 13:05:34 ID:gB8VnL5TO
>>400
>>1のとこから行けるよ。
402代打名無し@実況は実況板で:05/03/07 22:14:40 ID:y6U7h811O
(;´Д`)うわぁ・・・マジスマソ
403TURN ON (1/3) ◆UpgPqRu.6s :05/03/07 22:22:30 ID:W4mMw3Tw0
背後から何か叫び声のようなものが聞こえてきて、小林宏之は一瞬足を止めた。
振り返ると、白いユニフォームが二人。
目深に被ったウィンドブレイカーのフードが視界を所々遮って、それが誰と誰なのかは判別できない。
フードを外そうとした時、一人が奇声を上げながら走り出した。
93、杉山さんだ。もう一人は───
声をかければ、きっと協力してくれるであろう人だった。
14番、小宮山悟。
喉までその名前が出かかったが、小宮山は杉山を追って程なく視界から消えた。

暫くその場所に立ち尽くし、二人が消えた方向を息を殺して見つめていたが、
一つ小さい息を吐くと、宏之はフードを被り直し、再び歩き出した。

さっき見つけた小屋に差し掛かった時、もう一度宏之はドアを開け、壁に丁寧にかけてあった鎌を手に取った。
ウィンドブレイカーの裾をたくし上げ、ケースに収められたままのそれをベルトに挟む。
他は大き過ぎて持って歩くには苦労しそうなので、そのままにしておいた。

小屋を出て、水田の脇の軽トラックがやっと通れる位の細い道の端を、足早に進む。
暫く歩いた後、ふと思いついて、その道を逸れ、もっと東側に移動した。
地図の上から言えば、ここは既に禁止エリアになっている筈だ。
そのまま木立の中をゆっくりと探るように歩く。
農作業に使う為の小屋が所々にあり、その内の一つの中に宏之は身を置いた。
鎌を腰から外し、地面に置く。
マシンガンを抱えたまま、無造作に積み上げられた木箱に腰掛けてリュックの中から地図を取り出した。
禁止エリアの中をこのまま歩いていけば、誰かに会う事もないだろう。
Dの6の南西の端から出れば、スタジアムはもうすぐそこだ。

404TURN ON (2/3) ◆UpgPqRu.6s :05/03/07 22:22:56 ID:W4mMw3Tw0
コンパスと地図を見比べて、進むべき方向を決め、地図とコンパスをリュックに入れた直後、不意にそれは宏之の目に止まった。
自分が座っている物と同じように、積み上げられた木箱の一つ。
次の瞬間、宏之は立ち上がり、即座にマシンガンの安全装置を解除していた。

───全ての感覚が遠のき、銃声も、自らが上げている悲鳴のような声すら宏之には聞こえなかった。

62、と掠れかけたインクで書かれたその木箱は、間髪を置かず、木っ端微塵に砕け散った。
その向こうの湿気た板の壁にも無数の穴が開く。

衝撃に痺れた指が引き金から外れて、ようやく宏之は我に返った。
冷たい汗が全身を流れ落ちる。
マシンガンを傍らに置き、肩で大きく息をしながら、宏之は薄暗い小屋の中を見回した。
目の前に砕けた木片が飛び散っているのを見て、思わず後退る。
自分がさっきまで座っていた木箱に躓き、そのまま後ろ向きに倒れ込む。

「はッ…あ……くッ!」

腰の辺りに転がった木箱にも、同じ数字が印刷してあった。
その箱を掴んで体を起こし、力任せにそれをへし折る。
茶色く変色したそれは、6と2の間で真っ二つに割れた。
壊れたそれを投げ出してから、掌にちくちくとする痛みを感じた。

405TURN ON (3/3) ◆UpgPqRu.6s :05/03/07 22:25:22 ID:W4mMw3Tw0
構わずに立ち上がり、荷物を持って小屋を出た。意志と反して、足元はふらついた。
一瞬、目眩を感じて宏之は眉間を押さえて立ち竦んだ。

目を開けたその視線の先にも同じ数字が見えた。
何もかもを取り落とし、足元に転がっていたバールのような物を拾い上げ、宏之はそれに飛びかかっていた。
「うあああぁっ!」

それは多分、小屋の中にあったのと同じ木箱だった。
何度も鉄の棒をそれに打ち付け、ただの木片になっても宏之はその行動を続けていた。

目眩に似た、意識の離脱から我に返り、バールのような物をその木片の上に投げ捨てる。

───なんなんだ。なんでこんなに62ばかり。

荒い息を吐きながら、宏之はリュックを拾い上げた。
───行かなければ。

フルイニングを投げて、負けた時のような虚脱感を感じながら宏之は重い足を進めた。
406代打名無し@実況は実況板で:05/03/08 02:44:49 ID:knxWogBV0
あ・・・宏之も壊れちゃっ・・た・
407代打名無し@実況は実況板で
保守