>>501(お、501大隊)続き
「社長。本気ですか」
神保は社長の机の前で直立不動の姿勢を保ったまま口を開いた。
「本気もなにも政府からの要請でね・・・私にもどうにもならんのだよ」
社長は、机の上で両手をくみながら神保の問いに答えた。顔には疲労の色が濃く滲み
でていた。
「公官庁は他の専門の部隊がいるじゃないですか、そこの担当では・・・」
「公共は他の件で手がまわらない」
「しかしなぜうちの局なんです、他にも優秀な局がゴマンとありますよ」
神保は自分の心情に耐え切れなくなって、社長の机に両手をついた。
「君は総研に出向中にドイツにおける第二次大戦時の広報の研究調査をしていたね」
「確かにしました、でもあれは・・・」
神保は電通の研究部門である電通総研に一時期出向していた。その時に研究していた
のがあのナチスドイツの広報体制や戦略だったのだ。しかしそれは自分で決めたもので
はなく社の命令によって決められた研究テーマだった。
「会社とはあらゆる状態にそなえるものだ。神保君、社長命令だ。本日をもって営業第九
局は戦時広報統合局へと改変、あらゆるメディアに対して国民の戦意高揚をはかるもの
とする。戦時広報統合局は各媒体部を強化、あと去年誕生したリスクコントロールチーム
もつけてやる以上だ。」
社長は神の信託を告げる神父のように静かに言った。顔に表情はなかった。
「・・・わかりました、社命である以上はやります。ただ私の遣り方でやらせていただきます。」
「君がゲッペルスになることを期待しているよ、行ってよし」
神保はなにも言わずに社長室を去った。くそ、俺がゲッペルスだと。冗談じゃない、あの大
嘘つきの野郎といっしょにするな。おれは広告において嘘なんかついたことはないぞ。だが、
国民の世論が自分の意図した方向に進む。なかなか愉快な仕事かもしれない、よし決めた。
俺が向けてやる、どんな方向かはわからんがな。
(続く)