自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第22章

このエントリーをはてなブックマークに追加
733S・F ◆Pf7jLusqrY
>>732ありがとうございます!
http://hobby3.2ch.net/test/read.cgi/army/1081338122/773-続き

帝国の戦争 特殊機材の搬入・2

馬の足音は、徐々にその音量と数とを増していった。その内に道の向こうに、足音の元らしい馬車が
数台見えてきた。見慣れない型の二頭立て馬車が、護衛の騎兵を従えてゆっくりと近付いてくる。

馬車列がある程度門に近づくと、その側にいた護衛の騎兵が一騎飛び出してきた。
「止まれぃ!」番兵の二人は互いの長槍を交差させ、飛び出して来た騎兵に大声を掛ける。

声に応じて、騎兵は番兵の少し前で馬を止める。騎兵は馬から下りることなく番兵達に言葉を返した。
「私は中央軍第3兵団騎兵小隊長オール!我が小隊は本日の会議に出席する、東方の王たちを
連れ参った!通していただきたい!」

番兵たちはその小隊長を見て、槍の交差を解いて垂直に戻した。二人の見るところ護衛や馬車に
怪しい所は認められなかったし、その小隊長は番兵たちとは顔見知りであったからだ。

番兵たちは内心とは裏腹に、大声で相手に返答を返す。
「遠方からの護衛と案内、ご苦労様でありました!どうぞお通り下さい!」

「かたじけない!では、参りますぞご客人がた!」
小隊長は大声で後ろの御者に声を掛けると、顔を引き締めてゆっくりと進んでいった。
それに続いて、後方の馬車が移動を始める。

番兵たちは謹厳な表情で馬車を見送りつつ、内心で毒づく。
その対象は任務ではなく、小隊長である。
734S・F ◆Pf7jLusqrY :04/04/29 01:05 ID:???

現在、彼らは都市の警護部隊に属している。とは言っても儀仗兵という訳ではなく、
ただの休暇配置で後方に居るだけの話なのだ。

普通なら大した任務もなく、のんびりと過ごして英気を養う為の仕事だ。
彼らも約一月ほど前に、そのつもりでこの街へやって来ていた。

しかし番兵二人にとって、不幸な事がいくつか起きた。一つ目は、休暇配置直後に
出現した「悪魔の軍勢」が味方の主力を潰走させた事だ。このために後方に
来る負傷兵や逃亡兵が大量に現れ、休む暇もなく仕事続きになってしまった。

二つ目は、オールと知り合ってしまった事である。オールは帝国の貴族であり、基本的に
見栄と派手とをひたすら好む質の男であった。中央軍本陣との連絡の為に町を何度か訪れており、
その際に二人はこの男と知り合いになってしまった。

そして三つ目は、今回の護衛当番に廻された事である。本陣には本職の儀仗兵が
居なかった上に、戦況は混乱を極めていた。しかし交渉の場では、絶対に弱みを
見せる訳には行かない。そのため警護部隊の精悍な兵を選りすぐり、儀仗兵として
「でっち上げる」という計画が本陣では持ち上がったのである。

二人は自分自身を精強とは考えて居なかった為、特に関係は無いと考えていた。
しかしオールの口利きによって、強制的に儀仗兵の一員に「させられた」のである。

そして二人は、無理矢理儀仗兵としての教育を叩き込まれた。もちろん、若い貴族の横槍で
不機嫌極まりない護衛隊長に、である。悪魔も逃げ出すようなしごきを受けて、数日間で
二人は急速錬成の儀仗兵になった。
735S・F ◆Pf7jLusqrY :04/04/29 01:07 ID:???
もっとも二人は、オールの事を強く憎んではいない。彼は口は出したが、金も出してくれた。
個人的に特別手当と、武具や装備の手入れを完璧にする為の銀貨を大量に握らせてくれたのだった。
それを使って鎧は買った時よりも磨き上げられていたし、槍も目立つ傷の殆どを直してあった。
しかしそれはそれとして、特訓の日々の『原因』に素直には感謝できない部分があったのだった。

二人は自分たちが選ばれた理由が、「金で釣られるから」だというのを良く理解していた。
四角四面で、ゴーレムかと見まごうような兵よりも面白味があり、また兵としての威圧感が
期待できると言うことなのだろうとも。

すなわち、自分たちは「儀式屋」ではなく、戦場で生き残った「兵隊」として見込まれたと
言うことだろう。そう考えると、何とも皮肉が効いている。

二人はそんな事は表情に一切出さずに、いかにも真面目そうな顔で槍を構えている。
精神では毒づく部分もあるが、彼らも結局は兵である。そんなに簡単に気を取られたりはしない。