自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第15章

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133間違った世界史
http://hobby3.2ch.net/test/read.cgi/army/1076157892/722-723の続き

 蒼穹にただよう二酸化ケイ素の白煙。あの下に仲間がいる。
 視力が戻っていない乗騎を誘導し高度を上げると、開けた視界に密集する町並みがとびこんできた。
 かなりの規模だ。
 故国、判定者同盟の首都フタンほどではないが、辺境にある彼女の一族所領などとは比較にならない。
 たいていの建物はドラゴンの翼を広げたほどの大きさもないが、白亜の壁にガラスをはめ込んだ巨大建築もちらほらある。
 よく整備された道には行き交う人間。
 彼女と相棒が姿を見せるたびに、みな足を止めてこちらを見上げる。
 車輪のついた色とりどりな箱が走っている。人間たちが使っている箱馬車にも似ているが、牛も馬も繋げられてはいない。
 目的地はすぐに知れた。濃い黒煙が立ちのぼっていたからだ。
 詳しく観察しようと高度を下げて、そこら中に打たれた石柱から、黒いロープが張り巡らされていることに気づく。
 歴史で習った、かつて人間が使ったという竜阻止柵に似ている。
 安全な高度にとどまり、旋回しつつ黒煙の下を観察する。
 広い十字路の中、石柱から引きちぎれたロープにからまってもだえるドラゴンがいるが、乗り手の姿はない。
 周囲には炎と黒煙を吹く箱が転がり、この高度でも感じるほどの熱を放っている。
 そのドラゴンはプロトプテルス種、彼女のポリプテルス種よりも滑らかな体表を持ち、わずかだが優速である。
 プロトプテルス種は希少なので保有している者は少ない。先行偵察の8騎の中でも1騎だけ。
 持ち主の名はカンマ・プテロ・ラクトン。
 首都プタンへの水運を独占して莫大な富を得たカンマ家の総領息子。
 別にカンマ家の者が水運業務に携わっているのではなく、そのノウハウとインフラを持つ人間を傘下に独占しているのだ。
134間違った世界史:04/02/15 02:10 ID:???
 地球で言うとユーラシア大陸南部に位置する判定者同盟では、人間の往来を制限するため馬車牛車が通るような道がない。
 ドラゴンに騎乗するエルフにとって地面の道などたいして意味はないし、地方の所領なら自給自足できて運輸の必要もない。
 しかし、同盟維持教育のため、ある年齢のエルフ少年少女は首都に召喚される。所領を持たない同盟直属戦士も住居を持っている。
 みなドラゴンを連れているので、周辺では調達できないほど大量の物資が必要だ。
 そこで大河を利用して山岳部からドラゴンのエサとなる木材の供給しているのだ。
 首都にはエルフにはない技術を代替させるためや、単純労働のための人間も多い。
 数多の工房の維持、彼ら自身の生活のための物資も必要だ。
 いまやエルフの文明を維持するために必要不可欠となった人間とは、君臨するが搾取せずな関係を保っている。
 この全ての生活を支えているのが、カンマ家なのだ。
 強い者が正しいとされるエルフ社会において、金で権勢を得る者は好まれない。
 トルオールのように、他国との小競り合いの絶えない辺境境界付近で育った者はその傾向が強い。
 彼は、かの一族の者としては能力は確かだが性格に難があり、一族の権勢で実験計画に送り込まれたとうわさされ、いい感じを持っていなかった。
 トルオールは自分のドラゴンに旋回待機するよう命じて単身降下する。
 すぐに見つかった嫌みな彼は、乗騎を守るように刺突剣を構え、片っ端から人間に魔術を放っていた。
「信号を出したのはおまえだったのか。状況の報告を求める」
「オレの、オレのドラゴンが罠にはめられたっ!。片翼が折れてる。飛べないっ」
 トルオールは眉をしかめ、しばし瞑目する。
 故国でなら治療もできようが、この状況では遺棄するしかない。
 嫌いな相手の乗騎とはいえ、乗り手に似ない、よく出来たドラゴンだったのだ。
 黙祷を終えたら、大事なことを聞き出さなければならない。
「罠とは?、どのような?」
「あれだ、そこいら中に張ってあるロープがからまって、なんとか着地したが、あの四角い奴らがぶつかってきやがったっ!」
 指さすそれは炎上している。ドラゴンの火球を撃ち込んだのだろう。
135間違った世界史:04/02/15 02:11 ID:???
「おれはここに残る。人間どもめ、殺せるだけ殺してから、自爆してやる!」
 言って腰に下げた革袋(ドラゴンに騎乗する時のクッションも兼ねる)にふれる。
 中身は炭の微粉。風に乗せ着火すれば、町の一角は吹き飛ぶだろう。
 任務を忘れた身勝手な言い分だ。
 乗りこなす過程で苦楽を共にした愛騎への想いはわかるが、優先されるは一族の利益であり、エルフ種族の繁栄だ。
 このまま放置してカンマ家に恥をかかせてやろうという考えが頭をよぎる。
 しかし、種族の行く末を決める計画に選ばれたという自負が、彼女の誇りを救った。
 ラクトンの耳をつかんで引っ張り、鼻先がくっつくほどに顔を寄せ、怒鳴る。
「いいか、おまえが為すべきは帰還し報告することだ。それが後続を同じ不幸から救う。もう言わないぞ、わかったか!!」
 大声と正論で怒りを吹き飛ばされた彼は、今度こそ泣き出した。
「うっ、ひっく、だって、こいつをこんなところに残して帰るなんて、えっく」
「わかった、わかるから、もう会えないと決まったわけでもないじゃないか」
 なだめすかして、自分のドラゴンの所まで連れて浮上する。
 その時背後から爆音と熱線が襲った。
 振り返れば彼のドラゴンの周囲で燃えていた塊が、次々爆発していく。
 炎を吹き飛ばそうと大気干渉場を展開するドラゴンだったが、四方を囲まれていては、意味がない。
 呆然とするラクトンの目の前で、断末魔の竜巻とともに、彼の未練は消滅した。


次回に続く