>>537-541の続き
標的はすでに石提を降りて、陸に引き上げられた船の合間に逃げ込もうとしていた。
狙いを定めるが、いまだ荒い彼女の鼓動が集中を乱す。
ふと訓練を思い出す。そう、鼓動のリズムに射出タイミングを合わせればいいのだ。
ドラゴンと感覚を共有し、一つのシステムに昇華したトルオール。2秒かけて3つの火球を放った。
轟音とともに閃光が走る。余波を受けた地上の船が将棋倒しに転がり、破片とともに不快な騒音を撒き散らす。
灼熱と崩壊が支配する領域、その手前を狙ったはずの人間が駆け抜けていった。
「ばかなっ!?」
こんな近距離で外すはずがない。
呆然と上を向き、ひたいに手を当て、失敗の理由に気づいた。
「頭環が無い!」
エルフたちが身につける頭環にはドラゴンの鱗が使われている。
正六角形のそれは、有機高分子が強力に脱水されてできた極細の炭素単結晶繊維が巻きつけられて形成されている。
年経るごとに成長、積層されて、表面は緻密で打撃をはね返し、内側は柔軟な多孔質で衝撃を吸収する。
7.62mmNATO弾程度なら軽くはじくだろう。
その特性ゆえにスケイルメイルなどに利用されているが、もう一つの重要な特性、マナの整流機能も持っている。
ドラゴンはこの鱗を持つがゆえに、他の何者にもまねできない飛行能力を持つ。
エルフたちはこれを身につけることで、魔術を扱う感覚を数倍にも拡大していた。