自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第13章

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722間違った世界史
>>537-541の続き

 標的はすでに石提を降りて、陸に引き上げられた船の合間に逃げ込もうとしていた。
 狙いを定めるが、いまだ荒い彼女の鼓動が集中を乱す。
 ふと訓練を思い出す。そう、鼓動のリズムに射出タイミングを合わせればいいのだ。
 ドラゴンと感覚を共有し、一つのシステムに昇華したトルオール。2秒かけて3つの火球を放った。
 轟音とともに閃光が走る。余波を受けた地上の船が将棋倒しに転がり、破片とともに不快な騒音を撒き散らす。
 灼熱と崩壊が支配する領域、その手前を狙ったはずの人間が駆け抜けていった。
「ばかなっ!?」
 こんな近距離で外すはずがない。
 呆然と上を向き、ひたいに手を当て、失敗の理由に気づいた。
「頭環が無い!」
 エルフたちが身につける頭環にはドラゴンの鱗が使われている。
 正六角形のそれは、有機高分子が強力に脱水されてできた極細の炭素単結晶繊維が巻きつけられて形成されている。
 年経るごとに成長、積層されて、表面は緻密で打撃をはね返し、内側は柔軟な多孔質で衝撃を吸収する。
 7.62mmNATO弾程度なら軽くはじくだろう。
 その特性ゆえにスケイルメイルなどに利用されているが、もう一つの重要な特性、マナの整流機能も持っている。
 ドラゴンはこの鱗を持つがゆえに、他の何者にもまねできない飛行能力を持つ。
 エルフたちはこれを身につけることで、魔術を扱う感覚を数倍にも拡大していた。
723間違った世界史:04/02/12 23:24 ID:???
 ソリトン火球は空気よりも比重が大きいため、長距離狙撃では狙点を上方に修正する必要がある。
 頭環を着けているつもりで着けていないとは、望遠鏡を覗いているつもりで素通しのパイプを覗いているに等しい。
 トルオールの失敗は、距離を実際の数倍に勘違いして、標的の上を狙ってしまったことにあった。
 訓練も大事だがとっさの時には野生の勘に従った方がいい、という教訓と引き換えに、彼女は頭環と心を盗まれた。
 初歩的な失敗は彼女の怒りを鎮め、あの人間に対する感情は賞賛へと変わっていく。
 なにせドラゴンとエルフに戦いを挑み、生還したのだ。名前ぐらい聞いてみたかった。
 もう見えなくなった彼に心残りを感じながらも本来の任務を思い出す。
 植物の試料の採取と、置換前の島の地形との差違の確認。
 自分のせいだが、周囲が騒がしくなってきた。
 人間でも集落を作り組織化されていれば、軍隊か、それに順ずるモノが出てくる可能性がある。
 その場を離れようとドラゴンを飛翔させ、どこへ行くか思案する彼女の耳に、聞き慣れた爆音が響く。
 さっと視線を巡らせれば、青空に突き立てられた白煙の柱。
 その隣に上昇して行くオレンジの火球。かなりの高度に達したところで、安定化エネルギーを使い果たして崩壊、爆発した。
 直上への火球2発は緊急時の集合信号だ。誰かの身に何かあったらしい。
 彼女は愛騎とともに仲間の下を目指して翔んだ。


次回に続く