AC Character Battle Royal 7th
てすてす。スレ汚しゴメンよ
☆基本ルール★
・参加者全員で残り一人になるまで殺し合いを行う。
・参加者全員には以下の物が平等に支給される。
布袋
会場内の地図
方位磁針
食料、水
着火器具、携帯ランタン
その他にランダムで選ばれた武器に準ずる『支給品』が各自の袋に最低一つ入っている。
これはACゲームにある物を基本とするが、実在する銃火器類に関してはその限りではない。
各キャラの最初の作者が支給品の説明を書くのが望ましい。
・午前午後の1日2回、主催者が会場内に『放送』を行う。
この間に死亡した参加者は放送中に名前が発表される。
・生存者が一名になった時点で、その人物は主催者側の本部へ連れて行かれる。
☆首輪関連★
・参加者には『首輪』が付けられる。
この首輪には生死判別用のセンサーと小型爆弾が内蔵されている。
参加者が禁止された行動を取る、首輪を無理に外そうと力を加える事で自動的に爆発する。
ただし、デフォルトの状態では外部からの力を無効化する結界が張られている。
また運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押した場合も爆発する。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・いかなる状況下においても誘爆は絶対に起こらない?(結界解除後は?)
・もし何らかの理由で首輪が外れた場合も会場からは脱出は不可能?
☆会場について★
・会場の周囲には脱走者を監視する役割の、主催者側の兵士が配置されている。
・兵士は殺害可能だが、殺害に成功しても会場外に逃亡は不可能。ボンドサの可能性高し。
・建造物には鍵さえ掛かっていなければ基本的に自由に出入り出来る。
建物内の設備の使用も制限は無し。
・電気、ガス、水道等が通っている場所、及び集音マイクつき監視カメラは会場内にランダムで点在。
☆必殺技及び特殊能力★
・必殺技を一定量使うと『疲労』が発生するが、休息により回復可能。
・超能力、魔法、召喚系は発現する効果自体に制限が掛かる。
程度は作者の判断に一任するが、異論が出た場合は雑談スレにて審議。
・パワーアップ系は原作の設定に関係なく時間制限を設ける。
・回復系は原作の設定より効果半減。
・ネクロマンサー系の技を使用する際、死体に意志を与えるのは禁止。
武器としての死体はあくまで『物体』扱い。
・キャラが原作で武器を所持している場合、ACBRでは基本的に没収される。
但し支給品として他参加者の手に渡っている場合は回収可能。
また主催者が武器と判断出来なかった物等は没収の例外となる。
☆禁止事項★
・一度死亡が確定したキャラの復活
・新規キャラの途中参加・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
・中途半端な書きかけ状態の作品投下
但し、長編を期間を置いてに分割して投下するのはこの限りではない。
☆書き手の注意点★
・トリップ推奨。
・無理して体を壊さない。
・リレー小説である事を念頭に置き、皆で一つの物語を創っていると常に自覚する。
・ご都合主義な展開に走らないように注意。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・各作品の末尾には以下の情報を必ず表示する。
行動目的
所持品
現在位置
作品内で死亡者が出た場合は死亡キャラの確認表示も忘れずに。
・完結に向けて決してあきらめない
☆読み手の注意点★
・煽り、必要以上の叩きは厳禁。
・寝る前に歯を磨く。
・各キャラ信者はスレの雰囲気を読み、言動には常々留意する事。キャラの運命と死は平等。
不本意な展開になったからと言って関連スレで暴れるのは論外。
・朝ご飯はしっかり食べる。夜食はなるべく控える。寒くなってきたので防寒もしっかり。
・書き手にも生活があるので、新作を急かすのも程々に。
書き手が書きやすい雰囲気を作るのも読み手の役割。
・完結に向けて決してあきらめない
☆第1回ACBRについて★
主催者:ルガール・バーンシュタイン
会場:サウスタウン
参加者:男50人女36人 総計86人
【龍虎の拳】
ジョン・クローリー、リョウ・サカザキ、藤堂竜白
【餓狼伝説】
アルフレッド、テリー・ボガード、ビリー・カーン、タン・フー・ルー
ロック・ハワード、山崎竜二、ブルー・マリー
双葉ほたる、不知火舞
【THE KING OF FIGHTERS】
アッシュ・クリムゾン、K'、草薙京、八神庵、矢吹真吾、七枷社、クリス
二階堂紅丸、椎拳崇、霧島翔
神楽ちづる、シェルミー、ウィップ、クーラ、マチュア、バイス、レオナ
【月華の剣士第二幕】
楓、御名方守矢、鷲塚慶一郎
一条あかり、真田小次郎(香織)、高嶺響
【サムライスピリッツ】
緋雨閑丸、牙神幻十郎、ガルフォード、六角泰山、風間蒼月、風間火月
橘右京、タムタム、
ナコルル、リムルル
【GUILTY GEAR XX】
ブリジット
蔵土縁紗夢、ミリア
【THE RUMBLE FISH】
譲刃漸、アラン・アルジェント、ヴィレン
ガーネット
【STREET FIGHTERシリーズ】
リュウ、火引弾、ガイル
春日野さくら、神月かりん、春麗
【ヴァンパイアセイヴァー】
バレッタ、リリス
【MARVEL VS CAPCOM2】
ケーブル
【燃えろ!ジャスティス学園】
鑑恭介、山田栄二
水無月響子
【VIRTUR FIGHTER】
日守剛、結城晶、ジャッキー・ブライアント、リオン・ラファール
梅小路葵、サラ・ブライアント
【DEAD OR ALIVE】
かすみ、エレナ、あやね
【豪血寺一族 闘婚】
花小路クララ
【ソウルキャリバー 】
ソフィーティア
【サイキックフォース】
エミリオ・ミハイロフ
【ファイターズヒストリーダイナマイト】
カルノフ、溝口誠
【ワールドヒーローズ】
ジャンヌ
【式神の城2】
ニーギ・ゴージャスブルー
【METAL SLUG】
フィオリーナ・ジェルミ、エリ・カサモト
【ぷよぷよ通】
アルル・ナジャ
【ファイナルファイト】
ハガー
【わくわく7】
ライ
【悪魔城ドラキュラ】
シモン・ベルモンド
【クイズ迷探偵NEO&GEO】
ネオ
【武力 〜BURIKI ONE〜】
西園寺貴人
現在生存者は17名
ニーギ・ゴージャスブルー、結城晶、梅小路葵、アラン・アルジェント
ヴィレン、ケーブル、エッジ(山田栄二)、かすみ、アルル・ナジャ、楓
二階堂紅丸、シェルミー、リュウ、リョウ・サカザキ、水邪(風間蒼月)、日守剛、ネオ
その他の人々
【サイキックフォース】リチャード・ウォン
【KOF】イグニス
【ストリートファイターV3rd】トゥエルヴ
アイテム扱いのキャラ
【すくすく犬福】犬福
【メタルスラッグ】ヒャクタロウ
10 :
1:2006/11/11(土) 00:49:56 ID:arB/fBbG
関連スレだけなぜか貼れませんでした
誰か代わりにお願いします。
11 :
代理:2006/11/11(土) 01:04:46 ID:gV7/0e0z
>>14 いっそかさぶた&感想スレとして共用してみてはどうかと思った。
…しかし板が違うと規制食らったときの解除支援カキコができないか
即死回避
新作本投下まで保守!
19 :
ゲームセンター名無し:2006/11/15(水) 16:24:54 ID:o/hyx97K
今日本投下か
大変長らくお待たせ致しました。
それではこれより開始します。
途中規制に引っかかる可能性もありますので
その時は間を置いて再開しますのでご承知おき下さい。
念のためこの文は携帯から、本文はPCからです。
「結局、果たせなかったな…約束」
昨晩は共に過ごした拳崇の変わり果てた姿と、薄暗い路地裏で無言の再会を果たしたアランは、やり切れない気持ちで呟いた。
───もしどうにもならない窮地に立たされた時、俺が近くにいるなら、一度だけ、お前に力を貸してやろう
───男と男の約束か。よし、じゃあオレもあんたがピンチになったら、一回だけ駆け付けたるで
別段、互いの約束が履行されるのを期待していた訳ではない。
ただ、掛け替えのないものに対する熱い想いを内に秘め、孤独な闘いを続ける姿が己自身と重なり、
他人事には思えなかったから、つい陰ながら応援してやりたくなったのである。
束の間のひと時に築き上げた友情は、儚くも砕け散っていった。
遺体の周りに散らばる金属の破片と同様、二度と元には戻らないのだ。
剛と共に赴いた7区での任務の後、この5区に至るまで拳崇に一体何があったのか。
確実に言えるのは、路地裏の更に奥で死んでいる男も交えて、この場所で新たな戦闘があった、
そして参加者の枷となっている、主催者側の切り札とも言うべき首輪が何らかの理由で爆発した、これだけである。
彼女の無念を晴らすまで、まだ死ぬわけにはいかない
こう叫んだ彼はいまわの際に、果たして何を思ったのだろう。
唯一の救いが、想い人と同じ死に方だったというのは、皮肉と言うべきか。
志半ばにして散った同胞のために、アランはそっと十字を切った。
アランは知らない。
主催以外で首輪の爆破爆破方法を、参加者の一部が既に体得している事を、
そしてここにあるもう一つの遺体が、今は亡きフィオリーナと昨晩合流するはずだった、日本人の男であるという事を、
知ろうとしなければ、おそらくこの先も知らないままであろう。
豪華絢爛な女と衝撃的な出会いを果たしてから、それまでゆっくりと動いていた彼等の周囲は急展開を見せる。
脱出の手掛かりを得ながらも、主催者側から抹殺対象としてマークされた葵と晶、
2人を本来仕留めるはずだった剛の代わりに監視しつつ、ゲームを内部から崩壊させる機会を密かに窺っていたアラン、
その殺し合いゲームに敢然と立ち向かうニーギ・ゴージャスブルーとの邂逅により、
今ここにそれぞれの思惑が見事に一致したのである。
限られた時間の中、互いの胸の内を一通り明かした後、アランは3人と別行動を取ることにした。
主催側から始末せよと催促がきている以上、このまま共にいれば裏切りと見なされるだろう。
さしずめ焼け跡でジョーカーである事が判明、戦闘状態になるも1対3では分が悪く
殺害に失敗したアランは取りあえず彼等が持っていた首輪の一つを奪って逃亡、
残った3人は騙されたという気持ちで命からがら焼け跡から抜け出す、
こんな状況を想定し、演技をしつつ間を置いて別れれば主催側もさほど疑いは持たないはず、とこれは葵の提案であった。
何かあったら互いの所有する携帯に、と言いたいところだが、元々は主催側から貸与された物である以上
傍受される可能性は恐らく限りなく高いだろう。
使えるのは何も連絡に限ったことじゃない、というニーギの言う活用方法が未だ解らなかったが、
その時は間違いなく彼女からコンタクトが来るだろうから、今は気にしないことにする。
念の為、比較的安全に合流できる場所も決めておいた、この焼け跡と7区北部にあるという病院である。
再び落ち合うことを約束して彼は3人と別れた。
それは命が命を食いつぶす狂気の街で、余りにもあてにならない約束だというのに――
そして、アランの携帯に主催側から連絡が入ってきたのは、再び一人になったのとほぼ同時であった。
数時間後、彼はサウスタウン中心部に到着した。
東西に地下鉄が走っている地区でもあり、街の大動脈とも言えよう。
今までは行動範囲が3区より北側に限られており、ここまで遠出したのは初めてかもなと思いつつ、
アランは指定された白いビルに入り、地下のフロアへと降りていく。
そこには視聴覚ホールと思われる一室があり、観覧席と大画面が設置されていた。
彼がその中の椅子に腰掛けたのを待ち構えていたかのように、大画面に突如として電源が入る。
重厚な音楽と共に禍々しい『R』のロゴマークがしばらく流れた後、切り替わった画面に現れたのは
あの見慣れた男ではなく、東洋系と思しき若い女だった。
「初めまして、Mr.アルジェント。ルガール様の秘書を務めております、アヤと申します。以後、お見知りおきを…」
「やあ、君の様な素敵な女性に出会えるなんて、嬉しいよ。あのおっさんも気の利いたことするんだな、
もっと早くに会えれば良かったんだけど」
女性に対して半ば条件反射的に軽口がついて出てくるアランの素振りに、アヤは僅かに口元を緩めたが
すぐに事務的な表情に戻りこう続ける。
「それでは現在のサウスタウンの状況について、詳しく説明したいと思います。
貴方には是非知っておいて頂きたい情報ばかりですが、今までお伝えする機会が中々なかったものですから」
そう言うや否や、サウスタウン全体マップへと画面は切り替わる。
マップの上に顔写真と名前とともに、幾つかの光点が現れた。
「最新の生存者及びその位置情報です…参加者の居場所は数分間隔で更新しております」
アランはその光点の数をざっと目計算で数えてみたが、ルガールが先程の放送で公表した19人より
減っていることを把握した。顔見知りの中である者は存在し、またある者はもうこの中にはいない、
光点の真上の顔写真が否応なしにその事実を裏付けている。
「…成る程、ちなみに青く光ってるのがこの俺って訳ね」
色々と問いただしたくなるのをこらえて、アランは漫然と呟く。
「はい。それでは生存者の動向を、もう少し詳しく見ていくことにしましょう」
と、アヤは何色かに分かれた光点について説明し始めた。
「まずは赤いランプから、『優先』です」
梅小路葵、結城晶、ニーギ・ゴージャスブルー、先刻まで顔をあわせていた面々が並ぶ。
「この期に及んで、本来の目的を果たさずに会場から脱け出そうと企てている輩です。
さすがの貴方にも、3人をまとめて始末せよという指令は、いささか荷が重すぎた様ですね…」
先程のコンタクトの際に告げた、始末に失敗したという彼の言葉をそのまま受けて、アヤは含みのある表情で答える。
その他にケーブル、山田栄二といった名前が同じ色のランプで彩られていた。
「緑色のランプは『有望株』、目ざましい働きが期待できる者達です」
楓、アルル・ナジャ、リョウ・サカザキといった名前が挙がっている。
いずれの面々も、距離からしてここからそう遠くないところに存在していた。
「もし彼等と遭遇しても、極力交戦は避けて下さい。勿論、自身に危険が及ぶ様であれば、その限りではありませんが…」
ここまで大体目を通したアランは、一連の疑問が浮かび上がってきた。
生存者の情報及び動向は、昨晩から今朝方にかけて剛経由である程度の情報は得ていた。
もちろん最新の情報ではないので、今やあまり当てにはならなくなってはいるが。
現に主催側にとって不都合な、逆に好都合に動いている参加者は変化の様相を見せている。
死亡による脱落は仕方がないにしても、生きているにも拘わらずそれぞれの枠から外されるのは
一体どういう基準をもってしてなのだろうか。
特に気になったのは、今までの面子を押しのけて不穏分子から一気に有望株へと転じた少女、アルルの存在である。
まだ1日も経たない内に、一体彼女にいかなる心境の変化があったのか。
はっきりとは聞かなかったが、ニーギの言う「魔力を解除できそうな子」というのは彼女に間違いないだろう。
だとすればアルルの捜索をしているだろう3人にも相当な危険が及ぶのは避けられまい。
あのニーギに大火傷を負わせた張本人でもあるというのだから。
「…じゃあ、残った黄色い点の連中はどう対処すれば?」
「今後の状況に応じて如何様にも動向が変化する可能性があり、赤や緑に比べてはっきりとしたスタンスが
定まっていないと言えるでしょう。臨機応変な対応が求められますので、ゲームの進行を妨げぬ様、
その時その時に応じた適切な処置を行なって下さい。
勿論、各生存者の動向はあくまでも今現在のもので、この先突然の針路変更は十分に有り得ますけどね」
何とも抽象的な指示に微妙な態度を見せるアランに、アヤは念を押した。
「この街で今生きてるのって、本当にこれだけなんだな…」
ゲーム開始前、あれだけいた人数の残りは骸となってしまっている。
様々な思いが胸中に湧き起こる中、口から出てきたアランの言葉であった。
「剛は生きてるのか。あんたらの内情を知ってる奴を放置してたらマズいんじゃないのか?」
「たとえそうだとしても、自らのみで現状をどうこうしようなどという力は、今の彼にはありますまい。
この先出会ったら、利用するもよし、邪魔ならば始末してもよし、お好きにどうぞ」
と冷淡に言い放つ秘書の言葉に、まだ剛を簡単には処分できない裏事情が何かあるのではないかと、彼は思った。
「では、いよいよ本題に移りたいと思います」
今まではあくまでも前置きに過ぎないという指示に身構えるアランに向けられたのは、予期しようもない映像だった。
「今残っているのは貴方を含めて16人、光点からリアルタイムで情報が伝わり、死亡した時点でデータから抹消されるため
その数には間違いはない、筈でした」
マップの画面に差し込まれた映像、不鮮明ではあるがそこには若い女の姿があった。
「光点の中にはカウントされていない人物を、5区に設置した監視カメラの一つがとらえた映像です」
その言葉と映像で、アランは瞬時にして全てを理解した。
ジョーカーも含めた参加者にとって、主催から嵌められた首輪は未だ脅威の対象である事、
しかしその呪縛の切り札が、ごく僅かではあるが崩壊し始めている事、
そしてニーギ、葵といった要注意人物を差し置いてまで、わざわざ自分がここに呼び付けられた本当の理由を。
「ルガール様はこのゲームが滞りなく進行する事を、何よりも望んでおられます。
たとえ些細であっても、それを妨げる事態は決してあってはならないのです」
「つまり、その娘を処分しろってことだな、できれば大事にならない内に」
既に女子供に3人手をかけた彼にとって、もう一人犠牲者が増えたところで今更どうこう言う問題ではない。
「ゲームの進行を円滑に行なうべく、背後の憂いを絶つ、これが今回貴方に与えられた任務です」
そうアヤが言うと、画面にもう一枚若い女の顔写真が現れる。
標的となる少女よりも気の強そうな表情をしているものの、どこか重なるところがある。
「貴方の前任として働いていた女忍者です。参加者と戦闘中に惜しくも命を落としてしまいましたが、
おそらくより多く手柄を立てようと気が急いていたのも、敗因の一つだったのかも知れません」
まるで貴方とは正反対に、とそんな嫌味も含まれているような気がした。
「選手No22かすみ。今回のターゲットですが、データ上では1日目の夜に死亡した事になっています。
前任のあやねとは血縁関係にあり、若いながらも忍びとしての腕前は彼女と同等以上とも言われ、決して油断はできません」
「だからどうした」
標的となる少女の事細かな情報を伝えることによって、己の気持ちが揺らぐかどうか試しているのだろうか、この秘書は。
「若い女の子に手をかける真似はこれ以上勘弁願いたい、俺がそう言うとでも?」
だがそんな脅しにも近いアランの問いかけにも、アヤは動じなかった。
「手段は問いません、一番やりやすい方法で殺害を実行していただければ結構です。
そして任務が成功した暁には、貴方の身柄を本部に回収する事も考えている、とルガール様は仰せられていました」
「………」
アランの表情に今までとは違う光が入ってきたのを、アヤは見逃さなかった。
サウスタウンにおける移動手段や、点在する私兵との連絡の取り方など細かい情報を幾つか伝えた後、彼女はこう告げる。
「私からは以上ですが、最後に一つだけ。
この会場の中で、貴方が我々と唯一繋がりを持っている人間である事を忘れないで下さい、Mr.アルジェント」
「…分かった、肝に銘じておくよ」
「それでは、ご武運をお祈り申し上げます」
一通りの挨拶を交わし、本部との交信はようやく終わりを告げた。
白い建物から離れ、歩き出したアランが首なし拳崇を発見したのは、それから間もなくの事であった。
主催側から見せられた生存者情報からは外されていたため、もう死んでいるだろうという認識はあったが、
こうもタイミング良く出くわすとは、彼の死体を見せつけたいがために、
わざわざ場所を選んだのではないかと思えてならなかった。
その一角が崩壊しかけているとは言え、首輪の脅威は未だ健在であり、
下手に動けばこいつと同じ目に遭わせるぞという警告にも取れた。
拳崇の遺体を眺めながら、アランは今後の行く先をぼんやりと考えていた。
まずは主催から指示が出た以上、かすみという娘の元に真っ先に向わなければならないだろう。
殺害対象がガーネットと言った顔見知りでなかっただけに、幾らか気持ちが楽だったのは正直な思いだった。
同時に彼女と接触すれば、首輪解除の重要な手掛かりがつかめる事はまず間違いない。
そして近くには、ケーブル、山田といった『不穏分子』なるものも存在する。
何故かヴィレンまでも近くにいるのが気がかりではあったが。
可能な限り近辺の情報を収集し、ニーギ達に伝えることができれば彼女らにも大きなプラスとして働くだろう。
そして、任務を果たせば身柄を回収するというルガールからの伝言。
もちろん100%信用できるものではない。
しかしある時は主催者の言う事に従い、ある時は反乱者の手助けをする、自分がこんな矛盾に満ちた綱渡りを続けているのは
全ては大切なあの人のため、思い出したように切ない想いが胸をしめつける。
(…結局、最後の最後まで俺はどっちつかずの存在か)
拳崇の死体と一緒に、アランは首輪の残骸を見つめていた。何故か頭部だけが見当たらず、探すのを諦めて
破片の一部をさりげない動作で懐にしまい込む。手掛かりはあればあっただけ困ることはない。
そしてもう一人の男の遺体に近づく、あちこち刺されており身体の損傷は拳崇よりもっと酷いものであったが
注目すべき部分はそこではなかった。
首輪から不自然に飛び出した差し込みプラグ、自分を含め他の参加者にもちろんそんなものは見当たらない。
出来れば調べたいところだが、うかつに触れば爆発しかねないだろうし、未だ監視下に置かれている立場から、
辛うじて思いとどまった。今はできる事から一つずつ、確実に行なえばいい。
(だからどうした!)
豪華絢爛な女が教えてくれた呪文を心の中で叫び、自らの勇気を奮い立たせる。
あの人のためにここから何としても脱出し、その為に任務は果たす。
そして会場にいる限り、ゲームを引っ掻き回し続ける決意は変わらない。
これまでも、そしてこれからも。
当面の課題は支給武器の残弾数であり何とかならないかと、先程アヤにそれとなく尋ねてみた。
すると答えの代わりに、会場に放置されたまだ使えそうな武器の位置情報を教えてくれた。
つまりは現地で調達せよということで、さすがに新たな補充は他の参加者から不自然と疑われるという判断なのであろう。
男の心臓に、止めさしたかのように包丁が突き立てられていおり、不気味ではあったもののこれも回収することにした。
出来るだけ武器を回収して身の安全を守ると共に、殺気立った参加者の力を少しでも削ぐことができれば、
という気休めにしかならないが、両方の思惑があった。
(俺はこの会場から、必ず、生きて抜け出してやる)
幾許かの戦利品を収め、アランは路地裏から離れて再び歩き出す。
(無念の死を遂げた、連中の分までもな…!)
思いも新たに見上げた夜空の向こうに、懐かしい人の笑顔を、一瞬垣間見た様な気がした。
吹き抜ける風によって、シャツにくくり付けた、首もとにぶらさげた、銀色のネックレスが、
そのいずれもが、いつまでも揺れていた。
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ、首輪、
出刃包丁(霧島の遺体より回収) 目的:ゲームを内側から壊す、プローブの情報を盗む為に本部へ潜入
(当面は可能な限り武器の回収及び脱出に関する情報収集)主催よりかすみを抹殺せよという指示】
【現在位置:5区路地裏より移動中】
アランは知らない。
仮に拳崇と生きて再会できたとしても、昨晩と同じく歩調を合わせることができたかどうか疑わしかった事を、
そして薄暗い路地裏の、2つの遺体の更に奥の奥の突き当たりに何があったのかを、
知ろうとしなければ、おそらくこの先も知らないままであろう。
路地裏の突き当たりにうず高く積まれたゴミの山から、黒い長傘が強風に煽られて倒れる。
その先端には、耳や鼻を削がれ、両目を抉られ、頬肉も切り裂かれ、
頭皮ごと髪の毛をむしり取られ、散々叩きつけられた末踏みにじられた、
探しても見つからなかった拳崇の頭部の成れの果てが
傘の先端部分に突き刺さっていた。
この街に存在する生きとし生けるもの全てを滅ぼさんとする、憎悪に満ちた暗黒の渦は、
未だ衰える事を知らずに増殖を続けていた。
何とか無事に投下できました。
試験投下から余計な部分を足してしまったので、ご意見苦情等引き続き受け付けます。
ちなみに拳崇の頭が何でこうなったかは、これまでの話で察して下さい。
場合によってはパーツの一部分が持ち去られているかも知れません。
さて、改めましてご挨拶をば。
長い間書けない時期が続いており、
このスレをのぞく度に申し訳ない気持ちで一杯でした。
しかしフラッシュの人をはじめ皆さんの心温かい書き込みのおかげで
もう一度書いてみようという勇気がわいてきたのです。
アケロワを応援して下さった皆さん、本当にありがとうございます。
たとえ書き手としてのこの先参加が難しくなっても、
このロワを行く末を見届けるつもりです。
最後に、新規古参問わずこれを機にまた活気が戻ってくる事を願って止みません。
超乙!!
・・・ただ、したらばでネタバレがあったからか新鮮味が・・・
ネタバレは出来るなら無しがいいな
したらば見なきゃいいじゃん
そんなあっさり言うなよ・・・
乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙(ry
信じよう、ゴールの時が来ることを
ほら、したらば落とすと本投下まで感想書けないじゃん?
そうなると見たときのキター感をぶつけられないんだし、訂正が出る時は出るんだし、出来れば仮投下とか無いほうがいいな。
乙ー!!
ネタバレ防止のためにしたらばに投下してくれたのに、したらば見てネタバレしちゃうっていうのは本末転倒のような気が。
いっそしたらばにネタバレ専用スレでも立てた方がいいのかな?
そんなことしなくてもしたらば見なければいい事じゃん
読み手のワガママに付き合う必要はねーよ
それでネタバレスレに投下しましたと来て
スレ見て新鮮味がと言い出すわけだな
肉まん男の頭部を傘でMr.フルスイングした奴は誰なんだー!?
六角さんを殺した人と同様、世の中に走らなくていいこともあるんだぜ?
シェ留美遺産のことかー!!
←樹海| フッジッサーン
 ̄|| ̄ /^o^\三
|| ┏┗ 三
少なくとも道連れ二人は、彼が他人の行動に接した時、小指の先についた耳垢のカスほどの許容も見せないと思っていた。
だが実際は、その尊大かつ強大な神魔は、大方の予想を裏切って、彼女へ意識を傾ける素振りを見せている。
「そうか……」
中空で足を組み、肘をつく。常人にとっては空気椅子と呼ばれる難姿勢だが、蒼月はどうやら本当に空気を椅子としているらしい。
一体いかなる執着か、先ほどまで見せていた下位の者に対する熾烈な傲慢さを微塵も出さず、表情を消し、むっつりと目を閉じた。
「……まったく、あの娘にも困ったものだ」
長考に入る蒼月に、取り巻きその1ことネオは気が気ではない。
「おおい蒼月、急いでくれよ。あいつ危ねえ状態なんだよ」
「騒がしい」
察するに、蒼月あるいはこの魔物は、かすみを他の平民よりワンランク上に位置づけているように思われる。
蒼月がかすみを優先したら、リョウは捨て置かれることになるのだ。
切れ長の目が糸ほどの細さに開いた。視線が剛を突き刺している。
「愚民よ。貴様は蒙昧なれど、塵ほどは我の深遠なる思考の滋養としてやろう」
超高空からの物言いに難癖をつけようとして、思いのほか鋭い視線に刹那たじろいだようだったが、剛はすぐに例の貌を取り戻した。
「あっちからこっちまでは直線だ。ついてくる気があるなら、ほっといても来るだろうよ。
わざわざ出迎えに行く手間ァ、かけたいか? カミサマよ」
「口の利き方に気をつけよ下郎」
眉が不快の側に寄ったようだったが、提案はもっともだと考えたらしい。
「貴様は、連れを救済してほしいのだったな」
「お、おう! 急がねえと、アイツ怪我してるし! 頼むよ!」
「手負いか……」
「で、でもよ、そいつカラテ強えんだよ! なんかムテキの龍とかで有名だっつってさ!」
「ほう」
あまり興味を惹かれていない様子だった。いや、蒼月よりも明敏な反応を見せた男が一人。
「無敵の龍だあ? おいボンクラ探偵、てめえのツレの名前もういっぺん言ってみろ」
「なんだよ……リョウっつってた。リョウ=サカザキ。何とかカラテのムテキの龍っつって、サウスタウンでも有名なんだってよ」
「手負いっつったな? どの程度だ?」
「あー……」
怪我人と聞いた蒼月が渋い反応を見せた手前、あまりその話はしたくない。
誰がどう見てもそう判断するであろうほどの重傷だったのだ。
症状を聞いて、せっかく発掘に向かおうと思っている蒼月の気分が変わってしまっては元も子もない。
「……まあ、いや、大丈夫だかんな。気にすんな。深く突っ込むな。喋んな」
鼻を鳴らして、剛はもういいとあごをしゃくった。
その反応で、少なくとも行動に支障が出るレベルの負傷だと推測できた。
今の剛でも互角に渡り合える程度の重症なら、言うことはない。
「さあ、どうすんだカミサマ?」
余裕を取り戻し、唇の端を吊り上げさえしながら蒼月を見る。
剛にはいくつかの懸念があった。
かすみがノートPCの正体を理解してしまった以上、剛の持つ情報価値は既にないに等しい。
それでも蒼月の水術の範囲に居座るには、かすみの存在価値が低いままに見せかけておかなければならない。
蒼月がかすみに何らかの執着を抱いているのは予想外だったが、この分ならかすみから再接近してこない限り
当分は彼女を蚊帳の外へ置いておくことが出来るだろう。
どさくさに紛れて、PCだけ残して死んでもらえれば、手間も省けて良い。
そしてもうひとつ、リョウの存在である。
今までこの抜け作が適当な言い方をしていたために気づかなかった。
よりにもよって、自分を仇と付け狙う相手を助けに行く馬鹿がどこにいる。
と考えていたのは先ほどまでの話。楽観は出来ないが、そうそう悲観することもなさそうだ。
この期に及んでリョウを助けに行くのも嫌だと言い出せば、集団での信用が落ちる。急がないと危ない状況だというなら。
仮に間に合ってしまったとしても……。
懸念は消えた。
念のため、ウージーに僅かに残った弾は、リョウに会うまでとっておきたい。
「よかろう。かすみは一時捨て置く。ついてくればそれで良し、無様にさすらっているようなら、躾け直しを考えねばならぬな」
展開としては上出来である。
「よし、それじゃあ行くか」
かすみのことで足がすっかり止まっていた。なるべく時間をかけながら行きたいところだが
そろそろ歩き出さなければ変に疑われかねない。
「いや、待て」
細く目を開いた蒼月が、そのままの姿勢で5区大通りの東を透視している。
「また、卑賤の輩が現れたようだな」
「んあ?」
夜だというのに手で目庇を作って遠望しようとするネオの首根っこを掴んで壁際に引き寄せ、剛もそちらを窺う。
数は三人、いや四か。どちらが正しいかは、倒れている人間が死人かどうかで決まる。
もっともこんな危険な場所で倒れている人間が、戦力として数えられるかと言えば答えはもちろん否だ。
「どうだ? 知った顔はいるか?」
「随分と気を回してくれるじゃねえか」
「何。知己を通じて我に従うよう説かしめようと考えたまでのこと。高貴なる我の神気に打たれて気を失ってしまわぬようにな」
言ってろ、と思った。口には出さなかった。その一言の返事が、おそらくこの神魔が最も嫌う応対だろうと予測がつく。
宵闇に透かして、あまり友好的とは言えない凝った空気を漂わせる集団を覗く。
一人はすぐに見当がついた。白い胴着に標準的な体型。リュウで間違いない。
とすれば倒れている包帯のカタマリは、ガタイから言って七枷社か。
他の二人は、実際に見るのは初めての人間だった。
キングオブファイターズ常連、二階堂紅丸と、もう一人は確かシェルミー。
こちらの二人の人となりは知らないが、あの状況を見るに、いきなり仕掛けてくるような相手ではないと十分に判断できる。
とすれば、先刻遭遇した二人が問題となる。
「あの胴着の奴」
声を潜めて傍らの二人へ聞こえるようにささやく。
「放送で言っていた四人殺しのリュウだ。俺も殺されかけた」
「ほう、威勢がいいな。我に謁する権利を与えよう」
「はおっ!?」
蒼月の能面が好意的な色を浮かべる横で、ネオが変な顔をした。
「会うのかよ!? やめた方がいいだろどう考えても!?」
「卑しき者は、下らぬ献策をするにもいちいち騒がなければ気が済まぬのか?」
どんな相手であろうと、危機をもたらされることは有り得ないという強固な自負が、神魔にある。
その絶対性に疑問を投げかけられて、蒼月は不快そうに視線を巡らせた。
機嫌を損ねるのはまずい。無理にとりなそうとしても、面倒が大きくなるだけである。無視して話を続ける。
「リュウの野郎は石頭の甘チャンだ。まかり間違っても先制で仕掛けてくるなんてのは有り得ねえ」
甘チャンと聞いてネオの変な顔がさらにバリエーションを見せるが、何も言ってこないので放置。
「あとの二人は知らねえが、あの様子だ。俺の掴んでるネタをちらつかせりゃ、少なくとも牙を剥いてきたりはしねえだろう」
問題は、包帯の社である。この男は、自制が些か薄い。
感情的に剛を拒絶する選択肢を採る可能性が極めて高い。
ともかく、やるだけやってみる価値はありそうだ。どうせ社はミイラなのだ。例え彼の拒絶に跳ね返されたとしても、
自分がもうジョーカーでなく脱出組であると知らしめておくのは、後々有効になってくる可能性はある。
方針は決まった。可能であれば仲間に引き入れよう。そのためにはまずアプローチから細心の注意を……
と、蒼月が目を開く。
「ほう。よく見ればあやつら、あの蛇めの眷属か」
「……なんだと?」
目に映らぬ椅子から立ち上がり、蒼月は地上数センチの花道に降り立つと、そのまま滑るように前へ出る。
「おい、どうするつもりだ!?」
返事が返ってくることはない。制圧した宮殿を往く王よろしく、悠然と倣岸に、神魔は進んでいく。
「おいおい、リョウは……」
「言ってる場合か! クソッ」
苛立った一睨みを残し、剛は流れていく蒼月の背を足早に追いかけていく。
ネオは取り残された。
このまま抜けてしまってもいいようなものだが、一人ではリョウを瓦礫から掘り起こせないという弱みがある。
「あーっ、うまくいかねえなーっ!」
剛と似たような気を吐き、ネオも後に続いた。
【ネオ(全身打撲、主に足) 所持品:魔銃クリムゾン・食料等、多目的ゴーグル、使い捨てカメラ写ルンDeath、
目的:アクセスポイントに行き外のジオと連絡を取って事件解決!(推理が当たっているかどうかはまだ不明)メモを舞の遺族に渡す。リョウを助けたい】
【風間蒼月(水邪) 所持品:なし 目的:蛇めの眷属に我が威を知らしめてやろうヒョオーーーウ!!】
【備考:蒼月は現在完全に水邪が表に出た状態。蒼月自身の意識は消滅していない】
【日守剛 所持品:ウージー(残り弾僅か、一度撃ったら空になる程度)、包丁、果物ナイフ 目的:仲間集め、当面は蒼月についていく
左腕欠損。蒼月の力により止血。】
【現在位置:5区・東方近距離に紅丸シェルミー・リュウの位置】
く、空襲警報!空襲警報!新作が来てるぞ!
雷ーズと水邪様組が早くも接触ですかっ!?
俺たちは突然走り出した犬福を追って、線路の脇を移動する。
とはいえ、ダッシュで飛び出した犬福と違ってこっちは
満身創痍のおっさんと足の折れたチンピラ、そんで俺。
「こっちだ、エッジ」
三人が三人とも体を引きずるようにしながら移動している中、
ケーブルのおっさんが犬福の思念ってやつを読みながら俺たちを誘導する。
怪我をした左肩がジンジンと痛むけど、前を歩くおっさんの体は
俺なんかよりずっとひどい状態で、弱音なんかかっこ悪くて吐けやしなかった。
犬福は線路に飛び降りた後、ホーム端の出口から駅を出て、地下街に入ったらしい。
「おい…やっぱ動きづらいからこれはずせ」
イリヤの野郎が俺を睨みつける。
これ、とは後ろ手に縛られた右腕のことらしい。
犬福を追うと決まった直後、さすがに縛ったまま置いておくわけにもいかないと、
おっさんがイリヤの拘束を両腕から片手にして、軽く間接が極まるような感じに縛り上げたらしい。
足が折れているイリヤは、自由になった左腕で俺の肩につかまってなんとか動いている。
俺の怪我が左肩で、イリヤの怪我が左足だから、まあバランスは取れてるような気もするが
やっぱり俺たちを襲ったヤツに肩なんぞ貸すのはひどくいけ好かなかった。
まあ何よりも、おっさんのボディチェックで一応安全宣言は出たものの、
こいつに密着するってのがどうにもアブない気がして仕方なかったってのもあって
俺は不安と野郎の体を引きずりながらずりずりと移動していた。
「もう少し向こうだな、多分次の角を曲がって少しいったところだ…と、これは」
おっさんが険しい顔をする。
「誰か一緒にいるようだな…だが、犬福の思念が妙だ…ひどく荒れているというか」
「さっきもおかしかったもんなあ、急に噛み付くし」
俺は手についた歯型を見る。歯、あったんだなあいつ…
「おいおい、誰かいてあのケダモノが殺気立ってるんだろ?危ないんじゃねえのか?」
俺の隣でイリヤが声を上げる。
「確かに、犬福が飛び出した原因が一緒にいる相手だとして、それが飼い主、まあいるのかは知らないが
犬福にとって敵性をもたない人間ならば、この思念の乱れは説明がつかない」
「つまり、少なくともあのケダモノにとっちゃ『敵』ってワケだ」
しゃくだが確かにイリヤの言うとおりだった。あののほほんとした犬福が怒る相手…もしかしたら
犬福はそいつが何かしているのを見たのかもしれない。ヘタすると、何かされた可能性だってある。
「つーわけで、これ外せ」
「ダメだ、もう少し近づけば相手の思念が読める、敵かどうかはそれで判断すればいい」
「なるほど、頭ん中まで覗き込むわけだ、ケッ、モンスターが」
「ミュータント、だ…」
呟いて、おっさんは壁に背中をつける。曲がり角の店の柱、そこから曲がった先の通路を覗き込む。
「ふむ、なるほど、敵味方は別として、なかなかできる」
感心したようにおっさんが言う。
「少し向こうに小さく姿が見えただけだが、思念がなんとか読めた、こちらの気配から人数までほぼバレたぞ」
「うぇっ!?なにそれ、ヤベェんじゃねえのか?」
「いや、出方を伺うつもりのようだ、少なくとも襲い掛かってくる気はないようだし、犬福も気になっているようだな
どうする?呼びかけてみるか?」
「うーん、犬福の様子が気になるけど、このままにらみ合っててもしょうがねえしなあ」
「その犬福なら、床に転がってる」
「まさか!?」
俺はしたくもない血まみれの犬福を想像してしまってぶんぶんと首を振った。
「大丈夫だ、ただ、襲いかかって避けられ、ヘバった様子だな、回収するにせよ、彼女に接触しなければならん」
「女ァ!?」
俺が思わず声をあげたところで、コツコツという靴音と共に、そいつが近づいてきた、とおっさんが言った。
身構える俺たちに聞こえてきた声は、はっきりいって予想の斜め上をきりもみでかっ飛んでいくものだった。
「すいませーん、そこの人たち、この子の飼い主の人知りませんかー?」
「なるほど、君の話はわかった」
ケーブルは物怖じせずに近づいてきた少女、かすみの話を一通り聞いてそう言った。
彼女の話は要約すれば、
・ジョーカーと間違われて殺されかけたが奇跡的に生き返った。
・そしてそのせいで首輪がオフになり自由になったのを利用して主催側の兵士を襲った。
・その後、主催側から見放されたジョーカーに首輪をはずしてもらった。
・主催側の兵士から手に入れたノートパソコンを見ようとした隙にその元ジョーカーに襲われて
・逃げてきたところ、最初に自分を殺そうとした連中といっしょにいたイキモノが襲ってきた。
といったところだった。
「興味深い、全て信じるならば、特に首輪に関してはな」
彼女の話した「首輪が死亡を判別するとオフになる」「オフになった首輪は外せる」という点は
ケーブルだけでなく、その場にいたエッジやヴィレンの興味をも大いにひいた。
「でもよ、話が本当だとしたら、犬福の飼い主っぽい人がこの人を殺そうとしたんだろ?」
「それもジョーカーだと思って、な」
珍しくヴィレンがエッジに合いの手を入れる。言わんとしていることはテレパスを使わずともケーブルにもわかった。
「彼女にジョーカーだと思わせる何かがあったか、もしくは…本当にジョーカーか」
その言葉に応えるように、エッジの腕の中の犬福が息を切らしながらも唸る。
愛らしい顔に似合わぬほどに、殺気を放っているのが見て取れる。
「でも本当にジョーカーなら自分のことをジョーカーと間違われて、なんていうか?それにおっさんの…」
「そう言うことでジョーカーではない、と思わせるためかもしれん。それにな、一流のウソつきは
自分の心の中でもそのウソをつきとおすことが出来るものだ」
その言葉にかすみは応えない。ヘタな弁解は疑惑を深めると悟り、判断を委ねているようだった。
「判断はひとまず保留。とりあえずは、駅に戻ろう、誰か来ているかもしれん。かすみ、と言ったな
我々は主催者に抵抗する意思のあるものを集めている。信用してくれるなら、一緒に来てくれ」
しばしの沈黙の後、ケーブルはそう言うとゆっくりと駅に向かって歩き出す。
かすみは小さく、はい、と呟いてその背中を追った。
エッジとヴィレンは顔を見合わせ、やれやれといった表情になった後、
はたとお互いがいがみ合っていることを思い出し、にらみ合って、そっぽを向いた。
「そろそろ、動くべきかもしれんな」
無事に駅のホームに戻るとケーブルはそうこぼした。
「列車に乗って例の駅に行くってことか?」
エッジの問いかけに頷き、かすみを見やる。
「かすみ、信用のために言っておくが、私はテレパス、つまり心を読むことが出来る、わかるか?」
「隠し事ができない、ということですか」
かすみは後ろ手に持ったノートパソコンをケーブルに向ける。
「そうだ、君がさっき語った内容で一つだけ、言葉と心に矛盾があった。それがそのパソコンについてだ」
「え、なに、どゆこと?」
エッジがたずねるとケーブルは少し険しい目になって言った。
「彼女は心で『このパソコンに入っている内容はまだ知られたくない』と『思い』ながら
パソコンを『見ようとした隙に』襲われたと『言った』」
かすみは沈黙を守り、ヴィレンは成り行きを眺め、犬福は相変わらず唸っていた。
「内容を隠しながらそう言った真相を、私はその内容にあると見ている。つまり、その中に
『元ジョーカーから見て都合の悪い情報』つまり『我々参加者に有益な情報』が入っている、とね」
「なんでだ?元ジョーカーって今は参加者なんだろ?そしたら元ジョーカーに不利なもんは参加者にも」
「違うなエッジ、元ジョーカーがその身分を明かしているということは、己の情報を種に、優位に立とうとした結果だろう
つまり、そのジョーカーが持つ情報、すなわち主催側の情報が公になると、自分の優位性が失われる」
「利用価値がねえ元主催側なんぞ、危なくて生かしちゃおけねえ、ってこったな」
沈黙していたヴィレンが納得したように、そして吐き捨てるように言った。
「そうだ、もし我々に協力の意思があれば、そのノートパソコンの中身を見せて欲しい」
かすみは黙ったまま、三人と一匹をじっと見つめる。
信用に足る相手かどうかを慎重に値踏みしている様子だった。
「わかりました、ただしさわりだけです。最後までは、できるだけ監視のない場所で」
最後までは、から後の台詞はケーブルの耳にささやかれるように伝えられた。
言葉どおり、監視と盗聴を警戒して、表向きは警戒を続けている様子を取り繕ったのである。
つまりそれは、ケーブルたちを信用して、列車に同乗する、という意思の現れだった。
ゆっくりとノートパソコンを開こうとしたところで、向こうから列車の近づく音が聞こえてきた。
「ちょっと待ってくれ、誰か乗っていないか確認する。乗るのは次の列車にしよう」
ケーブルはかすみを制止して列車のほうを見やる。
ブレーキを軋ませ、ゆっくりとホームにはいった列車のドアが開き、
しかしだれも降りてくる者はなかった。
「ふむ、今回も誰も乗っていないようだな…」
と、列車の近くまで覗きに行ったケーブルが、こちらに戻りながら呟いた瞬間―――――
「にょぉぉぉ!!」
ぼすっ
犬福がかすみに体当りをした。
先ほどまでと違い、パソコンと列車に意識の向いていたかすみはそれを避けきれず、ノートパソコンを取り落とす。
「マヌケがッ!!」
その声と共にヴィレンが体を横に転がす。足が使えない以上、最速の移動手段だった。
そして、間一髪コンクリートに衝突する前に、『右手で』ノートパソコンをキャッチした。
「ふぅ、ナイスキャッチ、イリヤ!」
エッジが叫ぶと、今度は左手がかすみの足元にいる犬福の尻尾を掴んだ。
「にょ!?」
そしてそのまま、パソコンをかばうように抱えてホームを転がる。
格好悪く転がる先は、停まっている目の前の列車―――
「エッジ!イリヤを止めろ!『拘束を解いている』!!!!!」
ケーブルの叫び。
「にょおぉぉぉ!?!?」
犬福の叫び。
「しまった!!!」
かすみの叫び。
「ダメだ撃つな!犬福とパソコンに当たる!」
エッジの叫び。
「出し抜いてやったぜ、フリークスども!!!」
そして、閉まりゆく列車のドアから放たれる、ヴィレンの叫び。
列車が折り返しの出発をするまで、ドアの窓からヴィレンがパソコンと犬福を掲げる。
近づけば両方とも叩きつけ、壊す、という脅迫だった。
列車が動き出し、遠ざかっていくのと同時に、ケーブルが駅の出口へ駆け出す。
「おっさん!?どこ行くんだ!」
エッジが後を追いながらたずねる。
かすみは音もなくケーブルの横を走っていた。
「コントロールセンターに戻る!!」
「なるほど、列車を止めるんだな!」
「逆だ、列車を終着まで一切止めない」
ケーブルの言葉に首を傾げるエッジ。
「もし犬福を置いていけば、テレパスの通じないイリヤを追うことは出来ない。駅で停車すればどこで降りたかわからない
だから終着、例の駅まで止めずに走らせる、そうすればヤツのいる場所は一箇所だ!」
「おっさんがこっそりテレポートで列車に乗り込むってのはダメなのか?」
「動いている列車にボディスライドできるほどの精度が出せる自信はないよ、万が一列車の前に出てしまえばひとたまりもない」
「なるほど…んじゃ、急ごうぜ」
「そうだな、次の列車で追いかけたい、急ご…グッ…」
ケーブルの足がもつれる、が、転ぶ寸前脇を走るかすみが支える。
「すまない、かすみ」
「いえ、気にしないでください…それに、私思い出しました」
「へ?なにを?」
あたりを見回しながら言うかすみに不思議そうにエッジが尋ねる。
「このビル、私が火月さんと出会ったビル…きっと、彼が導いてくれたんです。あなたたちと出会ってからずっと、
火月さんの気配がするんです。だからきっと、あなたたちは信じられる…」
かすみのいう火月という名前に覚えはなかったが、その顔は決意に満ち、
エッジとケーブルはつられるように頷いた。
ケーブルは知らなかったが、彼のバッグに入っている忍刀は炎邪を封じるための、火月の半身ともいえる刀であった。
かすみも当然、そんなことは知らないが、一つ微笑むと、ケーブルを軽々と背に乗せて、コントロールセンターに至る階段を駆け上がる。
「す、スゲー、忍者がスーパーマンかアンタ!?」
どう見ても自分より大きな男性を背負ってるくせに苦もなく階段を駆け上がる彼女の姿に心底感動してエッジが感嘆の声をあげる。
「あれ、言いませんでしたっけ?私忍者ですよ?」
「ハハハ、これは心強い味方ができたな、エッジ」
ケーブルは笑い、かすみも笑い、エッジだけがぽかんと口をあけて、勢いよくセンターに駆け込む。
「それに大丈夫ですよ、あのパソコン、私の持ってるカードがなければ中は見れない…って、あーーーー!!!」
「いけ好かねぇケモノだが、まあ偽善者どもへの盾にゃ使えるか、あのバケモノが追ってきたときにでもな」
疾走する列車の中、ヴィレンはそう言って犬福をぶにぶにと弄ぶ。
「にょぉ〜〜」
尻尾を掴まれたまま回転された犬福は目を回して目下ヴィレンのなすがままである。
と、人質代わりにと咄嗟に掴んだ時には気づかなかったが、犬福の顔に違和感を覚える
「ん?なに咥えてやがんだ?」
犬福の口の中からはみ出している、よだれまみれになったそれを嫌々ながらヴィレンが引き抜く。
「…カード…?」
【ヴィレン(左足骨折・全身打撲、リリス憑依中、拘束中)所持品:ノートパソコン、IDカード、犬福 目的:ゲームに参加・生き残る】
【現在地:隠し駅までノンストップの地下鉄車両内】
【補足:犬福はノーマル状態です】
【かすみ 所持品:拳銃(残り14発+1カートリッジ)目的:ケーブルたちに協力 首輪なし、戦闘服着用】
【ケーブル(負傷 大消耗中) 所持品:衣服数点、忍者刀青龍、サブマシンガン、首輪、工具類、テーザー銃、暗器多数(ヴィレンから没収) 目的:イリヤ(ヴィレン)を追う、風間蒼月にメモの内容を伝える。首輪の構造を調べる】
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷) 所持品:十徳ナイフ、忍者刀朱雀、衣服類・食料多数、犬福、アーミーナイフ(ヴィレンから没収) 目的:みんなに会う為、いつも行く喫茶店に文句を言いに行く為に生き残る。ケーブルについていく】
【現在地:2区地下鉄コントロールセンター】
【補足:ヴィレンパートに移った時点で地下鉄と終着と始発以外にノンストップにする作業は終了済】
う、うわぁ。
まさか同時に書いている人がいるとは夢にも思わず書いてました。
実はこの話、水邪組がノンストップになった列車(隠し駅行き)に乗っちゃうパートがあったんですが
投下前にリロードしたら見事にかぶっていて没。
とりあえずしたらばにでも投下しておきます。まさかこの時期にかぶるとは驚きですが
投下かぶりは活気がある証拠なので喜んでおくことにします。
矛盾点等ありましたらなんなりとご指摘ください。
今誤字みつけたんで修正、最後の補足部分です。
×【補足:ヴィレンパートに移った時点で地下鉄と終着と始発以外にノンストップにする作業は終了済】
○【補足:ヴィレンパートに移った時点で、地下鉄を終着と始発以外にノンストップにする作業は終了済】
なあ、俺は夢でも見ているのか…?
一晩に新作が2本…そんな馬鹿な話あると思うか…?
けど、事実なんだ…うはwwwwwおkwwwww俺ハイテンションで読んでくるwwww
62 :
ゲームセンター名無し:2006/11/18(土) 20:01:25 ID:kac38tIr
勢いスゴス
感動した
ははははは、まさかそんな。新作が一度に2本なんてこのアケロワで今更そんなことが起こるわけが。
……涙出てきた。
, -‐;z..__ _丿
/ ゙̄ヽ′ ニ‐- 、\ \ ところがどっこい
Z´// ,ヘ.∧ ヽ \ヽ ゝ ヽ ‥‥‥‥
/, / ,リ vヘ lヽ\ヽヽ.| ノ 夢じゃありません
/イル_-、ij~ ハにヽ,,\`| < ‥‥‥‥!
. N⌒ヽヽ // ̄リ:| l l | `)
ト、_e.〉u ' e_ ノノ |.l l | ∠. 現実です
|、< 、 ij _,¨、イ||ト、| ヽ ‥‥‥!
. |ドエエエ「-┴''´|.|L八 ノ -、 これが現実‥!
l.ヒ_ー-r-ー'スソ | l トゝ、.__ | ,. - 、
_,,. -‐ ''"トヽエエエエ!ゝ'´.イ i l;;;;:::::::::::`::ー/
ハ:::::::::::::::::::::| l\ー一_v~'´ j ,1;;;;;;:::::::::::::::::::
. /:::;l::::::::::::::::::::;W1;;;下、 /lル' !;;;;;;;;;::::::::::::::::
/:::::;;;l:::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;|: :X: : : : : |;;;;;;;;;;;;;;::::::::::::
/:::::;;;;;;|:::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;|/: : >、: : :|;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::
いや実に嬉しいことだけど お二方GJ
二度あることは三度あるとよく言うが、
まさか今晩も新作が…
ところで最初の話は鳥無しだけど新規さん?
新規さんでも古参さんでもいいじゃないか
別にトリップ「推奨」であって「必須」ではないんだから
どっちにしろ投下できる人は総じて凄いと思うよ
なるほど。
鳥が違う、もしくは無いが実は同じ人間が書いてたって
作品も今までにあるんだろうな…
ヴィレンとかすみは一応面識あるわけだけど、それは置いといて良かったん?
しかし、丸腰で単独行動か。電車が止まらないからいいけど、
正直、いいの!?とは思ったかな。
>>69 そういうフラグを上手く利用するのも面白いもんだwww
>>70 いや、フラグ利用云々じゃなくて、単純に読み手としての感想な。
蛇対水神も、温和に進むにしろ対決になるにしろドッキドキだぜ。
ROMを務めていた
>>72(22)は
その時の様子をこう語る
ヴィレンが電車に乗るまでの時間ですか?
いや……もう2 3秒かそこらで……ええ
ですから その後にヴィレンが使用するであろう数々の道具も……ええ
これから調達するということになります
ハイ 逃げられました
いえ……一気にです
こう……一気にザザって感じで……
え? 「丸腰で一人になるわけがないだろ?」って……ヴィレンがですか?
……………… ん〜〜〜〜〜
やっぱりあなた達はワカってない ひとつ上の男を――
そりゃアンタ ああなっちまうとふつうは長いものに巻かれますわ
ふつうはね
だけどこれはヴィレンのハナシでしょ
意地ですわ そう子供みたいに
一応多少冷静には考えてたみたいですけど
まァ あとはヒドいもんですわ
ROMやってるワケだから チンピラ ヴィレンの話は当然耳にはしてます
しかし見ると聞くではねェ…… 鬼気迫るっていうか……
ROMのワタシが言うのもなんですけど……
チョット頑張ってもらいたいですね トリックスターとして……
まあヴィレン側やかすみ側からの描写がないので推測しかできないが
互いに今言い出してもいい結果にならないと踏んだとか
丸腰一人旅は環境利用闘法の上野ならムチャして銃を奪うより拘束からの離脱が優先
またそこらの雑貨を武器にすればいいし、とか?
でもノンストップになると何分先に着くかしらないが終点で探すしかないんだよね、武器
74 :
ゲームセンター名無し:2006/11/19(日) 21:14:29 ID:+H4wk+SJ
感想スレってどうなったの?
かすみはリアルデンデ
無理でした…
必要ないだろ
>>78 いやあ、一週間にいっこのペースで作品投下されるなら必要あるんじゃね?
>>79 更新乙!仕事中いつも見ております!!
>>79 お帰りなさいませ!いつも携帯まとめ見させていただいてましたよ!
新作投下?携帯まとめ更新?それがどうした!!!!!!
ありがとう、愛してる。
ってニーギさんと葵さんが言ってた。
そう言えばネオ水邪剛組書いた作者はどうなったん?
あれから何もコメントがないから、万が一問題が発生しても
連絡が取れなさそうで不安なんだが。
投下被ったけど早い者勝ちだし、どうせこの状況ならまず通るから
黙っていてもいいやとか、そういう問題じゃないだろ。
たとえ元常連書き手で名乗りたくない事情があったとしても
やっぱり何か一言欲しいと思う。
>>83 誰か特定できなきゃ不安か。
そしてIFを考えちゃって議論の用意を万全にしてないと恐いか。
あそこまでフラグチェックしてる人がここ見てないと思うか?
トリがないと信用出来ないか?
破棄宣言とかの事を考えないとダメか?
前向きにいこうよ・・・一度は死んだんだしさ
いや、現に偶然だが投下被りが発生し、後続の
書き手が一部破棄せざるを得なくなったんだから
一言もなく書き逃げというのは失礼な態度だと思うがな。
一度死んで復活したロワだから何でもありで
大目に見ようという以前に、人としての問題だと思う。
匿名掲示板である以上好意的な人間だけが
ここを見てるとは限らないしな。
そして必要以上に擁護しようものなら
>>84本人乙と言われるのがオチだぞ。
・・・俺、釣られた?
88 :
ニーギ:2006/11/20(月) 19:48:19 ID:S4tbJsQX
だからどうしたっ!
何もアイデアがなくて暇だったから、生存者の性別/身長/国籍をわかる範囲でまとめてみた。
特に深い意味はない。間違ってるかもしれない。「だからどうした!」
ニーギ・ゴージャスブルー 女/155cm/日本?
結城晶 男/180cm/日本
梅小路葵 女/162cm/日本
アラン・アルジェント 男/181cm/イタリア
ヴィレン 男/179cm/ロシア
ケーブル 男/203cm/アメリカ?
エッジ(山田栄二) 男/173cm/日本
かすみ 女/158cm/日本
アルル・ナジャ 女/158cm/?
楓 男/約179cm/日本
二階堂紅丸 男/180cm/日本
シェルミー 女/173cm/フランス
リュウ 男/175cm/日本
リョウ・サカザキ 男/179cm/日本
水邪(風間蒼月) 男/約173cm/日本
日守剛 男/176cm/国籍無し
ネオ データ無し
ニーギが一番小さいのかよ!!!!!!!!!!!!!1!!1!
hydeよりちっさいニーギってwwwwwwwww
91 :
ニーギ:2006/11/20(月) 20:34:29 ID:S4tbJsQX
だからどうしたっ!(体重36kg)
年齢も出してみたが時間軸や作品がバラバラで不確定要素が多すぎるので資料にもならない……。
カッコ内は年齢設定を抜粋しているゲームタイトルゲーム。
ニーギ・ゴージャスブルー:15歳(式神の城2)
結城晶:27歳(VF3)/28歳(VF4)
梅小路葵:17歳・高校3年生(VF3)/18歳・大学1年生(VF4)
アラン・アルジェント:23歳(TRF)
ヴィレン:21歳(TRF)
ケーブル:40代後半〜50歳
エッジ(山田栄二):17歳・外道高校2年生(燃えろ!ジャスティス学園)
かすみ:17歳
アルル・ナジャ:16歳
楓:17歳(月華1)/18歳(月華2)
二階堂紅丸:21歳(KOF)
シェルミー:21歳(KOF)
リュウ:2の時点で確か27歳
リョウ・サカザキ:24歳(KOF)
水邪(風間蒼月):21歳(サムスピ天草降臨)
日守剛:年齢不明。資料によっては23歳説も(VF4)
ネオ :データ無し
ニーギが一番幼いのかよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!1!!!121
ニーギ15歳!?中学三年!?
うわどーしよう、思いっきり大学生とかそのくらいのつもりで書いてた!!読んでた!!
まあゲームキャラ年齢はあてにならないものだが…。
あと155cmで36kgは詐欺だと思うよ(150cmで45kgの私でさえ標準体型扱いなんだぞー)
ネオは確か24歳だったと思ったぞ
>>93 よくある話だ、特にゲームの女キャラの設定は体重設定が異常なことが多い。
あとニーギ、世界を移動しまくってるから実年齢以上に色々経験してるような気もします。
がアルファ設定は色々突っ込んだらどつぼなんでこの辺で。
…彼女の骨ってプラスチックなんだよなぁ。その分軽かったりするんだろうか。
おお、ネオは24歳か……。資料が見つからなかったので嬉しい。
>>93 >>91が気になったので体重、3サイズもわかる範囲で調べてみた。
ニーギ・ゴージャスブルー:155cm 36kg B?W?H?
結城晶:180cm 79kg B115W90H94
梅小路葵:162cm 47kg B83W53H86
アラン・アルジェント:181cm 76kg
ヴィレン:179cm 69kg
ケーブル:203cm 156kg
エッジ(山田栄二):173cm 60kg B88W59H72
かすみ:158cm 48kg B89W54H85
アルル・ナジャ:158cm 46kg B80W58H80
158cm 53kg B86W60H85(なぜか二種類ある)
楓:約175cm 約58kg(月華1)
約179cm 約60kg(月華2)
二階堂紅丸:180cm 68kg(70kg?)
シェルミー:173cm 68kg B92W63H87(H90?)
リュウ:175cm 68kg B112W81H85
リョウ・サカザキ:179cm 68kg(75kg?)
水邪(風間蒼月):約173cm 約60kg(約64kg?)
日守剛:176cm 66kg B105W79H85
ネオ :データ無し
これこそ「だからどうした!」
シェルミーカワイソス
リスト見てて思い出したが、楓とリョウどうするんだろうな…
長文二人以外に扱いきれそうな人間がいないんだけど
俺がやってやる!って人出てくるかな…
リストだぁ…?一体以下略
みんなええ体してるのう
ヌィーギが15歳? 葵のほうが年上?
かすみと山田がタメ? ケーブル2m超え?
シェルミーより楓や剛の方が体重軽い?
山田のウエストが59cm?
またまたご冗談を・・・・
展開予想が膨らみまくるな
ぶっちゃけ男連中も、バランス満たしてそうなのは晶とアランぐらいのもんだ
あの筋肉ならもっとあってもいいと思うが、あまり野暮なことは言いっこなしだな
ここまで生き残った奴らなんだ!夢が詰まってるZE!!
新作書いてる人いる?
106 :
F(ry:2006/11/22(水) 23:09:25 ID:MtmTX3lJ
すげえ書きたいネタできたんだが俺かいていいものか。
書く人がたくさんいるならあまり俺ばっかりってものあれだが、いいかな?
いいとも━━(゚∀゚)━━!!
遠慮なさらずにボンッ ドサッ コロコロっと書いて下され!
wktkwktk
もしよろしければ、使用キャラをしたらばにて教えてくれると嬉しいっす。
もしかしたら、ネタが出来たら初参戦させていただくかもしれないので…。
でも、俺のことはお気になさらず。
断片的に書きたいネタはあるものの、
それまでの話が思いつかず…
ところで生存者も残り少なくなってくると、
書きたいネタもキャラも被る可能性が格段に高くなってきている。
前もって「これ書きたい」とすり合わせをしとけば
スムーズにはいくが、待たせる時間がロスとなり
過疎化を引き起こした要因にもなった。
一方匿名のリレー小説なんだから投下ぎりぎりまで
何もかも伏せておくべきという考えもあると思う。
そうなると新作が来た時の喜びは計り知れないが
予期せぬ投下に考えてたネタを白紙に戻さざるを
得なくなり、その分完結への道のりが遠ざかる。
或いはごちゃごちゃ余計な事は考えても無意味で、
たとえ行き当たりばったりでも要は完結さえ
すればいいんだという意見もあるだろう。
完結へ向けてこの先どう動くべきか、1人で
考え込んでも結論は出ないから、皆の意見が聞きたい。
連休中には一本ぐらい来るかな?
111 :
F(ry:2006/11/24(金) 15:48:48 ID:QDiZRZtT
い、いつが連休なのか…教えてくれないか…割とガチで…(修羅場モード)
書くけどね!
したらばが止まっているけど、
当面議論の必要はないのかな…
保守代わりに明日投下できるといいなあ…
今日12時ごろ投下
115 :
ゲームセンター名無し:2006/11/26(日) 18:04:26 ID:XiFnxMXq
おらっしゃー!
もしかして新作投下以外の雑談禁止、
投下まで登場キャラは明かさない、また投下の
メドが立つまで投下予告自体も控える、
今大体こんな流れになっているのか?
>>116 い、いや、新作というよりも保守代わりの外伝を書いたので…このスレの新作に影響が出ない程度の…
このスレって予想展開NGなの?
>>118 別にかまわないんじゃないかと思う。
以前は展開予想は書き手のプレッシャーになるから良くないとの世論があったことがあったんだけどねぇ。
嫌がる書き手がいるならば別だけど。
120 :
ゲームセンター名無し:2006/11/26(日) 22:19:25 ID:zL+08spx
ここで書いていいのか
そろそろかな
では、投下します。
1日目の外伝的なお話ですので、フラグとか気にしないで読んでくださいね?
では、とある支給品の外伝ですが、どうぞ。
悪趣味な祭典の前夜、彼──アーデルハイドは父ルガールに連れられてある一室に連れて行かれた。
私の他にも、この祭典の重要人物と思われる外道達が数人、彼の後を付いていく。
厳重なる警備がなされる部屋のロックを解除する彼の父。
暗闇に包まれた部屋に光が当てられる。
そこには様々な武器が置いてあった。
禍々しい呪われた銃、神々しい光を放つ剣。ロケットランチャー。
中には蠢く正体不明の袋まである。
彼の父は外道達に説明する。
『この中の物は祭典をより美味しくする、まさにスパイスです。』
『皆様のご協力により、古今東西、様々なスパイスが手に入りました』
と。
そして彼の父は各武器の説明を始めた。
武器の使い方、性能、歴史。そして出資者の話。
正直、アデルは聞いていても面白くもなんともなかった、むしろ反吐がでる気分になっていた。
「さて、このスパイスも中々面白いものでしてな」
紹介する武器も半数ほど終わった頃だろうか。父は何の変哲も無いラジカセを手に取った。
「このラジカセはSONY純正の名機、発売後20年たった今でもキチンと綺麗な音がでます。オークションにだせば中々の高値が付く事でしょう」
会場から落胆の溜息が聞こえる。
武器の中には参加者を絶望の淵に落とす”ハズレ”と言う、武器にならない、悪趣味なものも混ざっている。これもそのうちの一つだろうと、私も含め誰もが思った、
父と、一人の男を除いて。
「ふふふっ…これもゲームを面白くする”はずれ”とお思いでしょう。しかし!ここにいるウォン氏の協力を得て、このラジカセは素晴らしい兵器となったのです!」
ラジカセが置いてあった場所の奥の布を引っ張る父。
下種どものどよめきが歓声に変わる。
布に囲まれていたせいで気づかなかったが、布の奥には強化ガラスに囲まれた四角い空間があった。
その中に、少女が展示されていた。
この倉庫に置かれる”物”の一つとして囚われた。
肩翼が引きちぎられた、羽の生えた少女が物として展示されていた。
彼女は虚ろな目で、天井しかない空を見ていた。
ACBR外伝
act024.5
はーぴーのうた
【──一日目 VIPルーム大会場】
『KOFではアテナの犬だった彼が、中々どうして──』
『まさか病死者がでるとは…結核菌に1億でもかけて見ましょうか?』
『お兄様!あの赤頭巾の子とは私友達になれる気がするんですの!!』
祭典の始まりが終わり、最悪が始まった。
スタートして15分経過。既にこの馬鹿げたゲームの被害者がチラホラと出始めている。
一人、また一人と映し出される映像。
その巨大なスクリーンに映し出される映像。
…吐き気がする。
そう、昨日もそうだった…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
──『では、これの威力をVTRで見てもらいましょうか』
父、ルガールが指を鳴らし、それを合図に巨大スクリーンが下りてくる。
そこに写る白い空間。耳を塞ぐ父、銃を構えた父の私兵達。
その中心で歌う少女、そしてボリュームを下げてても分かる彼女の強烈な歌声。
30秒程たっただろうか、VTRの中の父がもういい、と言わんばかりの表情と共に私兵に合図を送る。
その合図を切っ掛けに私兵達が彼女を乱暴に押さえつける。
そして顔を押さえつけ、彼女のたった一つの武器を封じるためだろうか…
彼女の、舌を…ハサミで切った…
彼女は断末魔にも似た叫び声を上げ、鮮血が止まらない口を押さえ、その場にうずくまる。
鮮血が滴り落ちるその彼女に、私兵たちは追い討ちをかけるかの如く彼女を押し倒し…
そこで映像は止まった────
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「────様、お兄様!」
「ん…ああ、ローズか…」
妹の声で我に帰る。
「んもう、折角盛り上がってまいりましたのに…ほら!アレが八神庵ですのよ!今回の優勝候補の!!」
スクリーンに映し出される赤髪の男。その男の出現に、妹は声を荒げている。
妹が熱を上げれば上げるほど、アデルの興味は冷めていき、再び有翼の少女の事を再び考えてしまう。
『──こんな所で何をやってるんだ!早く彼女を助けに行かないか!』
『──何を言っている。彼女はもう手遅れだ。今更助け出した所でそれは偽善にしか過ぎない。』
『──うるさい黙れ!』
『──あんな死にかけの少女一人助ける暇があるのならこのふざけた大会を止めて見せないか。』
『──黙れ!!少女一人助けられなくてこの大会が止められるとでも思っているのか!!』
「──しかし…今回の優勝候補が何故あんな女と共に行動なんて…お兄様?どちらへ?」
妹が彼に何か語りかけている。しかしその声もアデルには聞こえなくなっている。
大会が開始し、熱気覚めやらぬ人ごみを抜け、気づけばアデルの身体は彼女の元へと向かっていた。
【──VIPルーム大会場 → 武器庫】
「…警備も無し…か。」
全ての支給品が配り終わられ、役目を終えた武器庫。
価値のある物が無くなったここに、警備など必要ないと言う事なのだろうか。
「…ここには価値がある物はない…と、言いたいのか…?」
名も知れぬ少女に対するこの仕打ちに沸々と怒りが沸いて来る。
こんな馬鹿げたゲームの支給品として連れて行かれて
社会復帰が不可能な程身体をボロボロにさせて
客の興味を引かせるためだけに見世物にされて
最後には監視する価値も見出さずに
一人、逃げる事も許されず…
「くそっ!まだ中にいるんだぞ!少女が!!」
警備の無い武器庫の中に入る。
馬鹿げたゲームに翻弄された悲劇の少女を助けるために。
【武器庫】
重い扉を押し開ける、音も無く開く扉、それにあわせ、暗闇に一筋の光が差し込む。
懸命に赤い目を凝らしてはみるが、照らし出された先に少女の姿はなかった。
彼女の証を呻きのひとつ、身じろぎのひとつたりとも逃すまいと、彼は全五感を振り絞る。
無機質なコンクリートの床に響く自らの靴音が邪魔をする、一歩、また一歩と歩くたびに彼女の気配を消すような気がした。
それにしても、この雰囲気が懐かしく感じる。そう、幼いころを思い出す。
父がよくする、マフィアやギャングとの取引の現場はこんな感じだった。
例えばうらびれた港の倉庫の中。銃器が発する鉄の匂い。重苦しい雰囲気。そしてそう低く無い頻度で転がる「邪魔者」の屍骸から漂う酸敗した脂肪の――――。
「――――っ!」
違和感を感じ、アデルははっと顔をあげる。。
今この現場にはあの時と違って、そう多数の銃器は置かれていなかったはずだ。だとすればこの決して薄く無い鉄の匂いの出所は──
────血────!?
木箱と木箱の間に少女はいた、手首に鎖を付けられたまま”物”として。少女はそこにいた。
あの鉄の匂いの元となったのだろう、舌を切られた時に出したと思われる出血で赤く染まった服を着た彼女が。
ボロボロになった片翼を弱々しく垂らし、ピクリとも動かない彼女に駆け寄る。
「っ…!!おい!しっかりするんだ!!」
口元に手をかざす。かすかだが吐息を感じる。それについてはホッと息をなでおろす。
ただかなり衰弱しているのだろう、アデルの声にまったく反応を示さない。
「…もう大丈夫だからな、絶対助けてみせるからな!!」
彼女を縛る鎖を外し、アデルは彼女を抱きかかえる。
この馬鹿げた大会を止められないのならば、せめて彼女だけでも助けてみせる。
それが父を止める事ができなかった彼の、せめてもの抵抗だった。
【会場内、客用個室】
『(…ここは…?)』
──浅い、浅い眠りから目を覚ます。
そこにあったのは、明るい光、見慣れない天井、美味しそうなスープの匂い、真っ白いワンピース、そしてふかふかのお布団。
目を瞑る前の風景を思い出す。暗く、薄汚れた天井、すえたカビと血の匂い、自分の血で赤く染まったワンピース、そして冷たい無機質な石の床。
彼女は思う。ああ、私はとうとう天国へいっちゃったんだと。
しかし、引きちぎられた片翼と、声を出せなくなった彼女の舌、そして体中の痛みにより、まだ生きているのだと気づいた。
「あ、目を覚ましたのか!よかった…」
突然の声にビクッと身体を振るわせる少女。逃げ出そうとベットの端へと後ずさる。
「…あ…か…!?」
また酷い事をされる、そう思うとも今の彼女には声を上げる事も、抵抗する事も出来ずただ震える事しかできない。
「…!!!」
声の主は彼女に近寄り、手を伸ばす。また行われるであろう惨劇を想像し、彼女は背中を丸め、ぎゅっと目を瞑る。
「…怖かっただろう…もう大丈夫だ…」
目を瞑り、ガタガタと震えている彼女の髪をそっと撫でる声の主。
その手は、とても冷たかったが、とても優しく、そしてとても暖かかった。
「私の名前はアーデルハイド、アーデルハイド・バーンシュタイン。君の、味方だ…」
恋の予感支援
「──そうだハーピー、スープを作ってみたんだ。飲むかい?」
アデルの問いかけにハーピーと呼ばれた少女は手に持ったスケッチブックにペンを走らせる。
そしてアデルに向けてその内容を見せる。
その書かれた内容にアデルは微笑を浮かべ、キッチンへと向かっていった。
彼はハーピーがしゃべれない事を察知していて、スケッチブックとペンをあらかじめ用意していた。
ベットから起きてすぐに筆談という訳にはいかないと思っていたのだが、人間ではないからなのだろうか、すぐにペンを走らせた。
彼女と筆談で会話して分かった事。彼女がハーピーという名前である事、彼女がこの世界の住民では無い事。
そして、羽が生えている以外は歌とおしゃべりが好きな普通の女の子であること。
『…普通の少女なのに…』
スープを皿に注ぎながら、そんな普通の女の子をこんな目に合わせた父に、そしてそれに協力して楽しんでいた会場の皆に、アデルは行き場のない憤りを感じていた。
「…ハーピー、出来たよ。こういうの作る事はあまり無いから味は保障できないが。」
アデルはハーピーにそっと先ほどスープを注いだ皿とスプーンを手渡す。
具はニンジンとキノコしか入っていない、簡単なコンソメスープだが、とても良い香りがする。
ハーピーはそれをスプーンですくい、口に入れる。
「………っ!?!」
口に入れた瞬間、ハーピーはもっていた皿とスプーンをベットに落とす。
そして声にならないうめき声を上げ、顔色を変えて苦しそうに口を押さえる。
「は、ハーピー!ど、どうしたんだ!?」
アデルが切羽詰った声を上げた。何か彼女に食べさせてはいけないものを食べさせてしまったのかもしれない。
慌てているアデルを目で制すると、彼女は左手で口を抑えたまま震える右手でペンを走らせた。
『大丈夫です、スープが熱かっただけです』
そう書かれたスケッチブックを見せて、心配をかけまいと思ってか、ハーピーはどこか無理のある笑顔を見せる。苦しげな笑顔に、アデルははっと息を呑んだ。
「…!ハーピー!ちょっと口をあけて見せてくれ!」
ハーピーの口の中を覗き込む。その中にあったものは、血は止まっているものの、生々しい赤の傷口。
こんな状態であんな熱い、塩気があるコンソメスープなど飲んでしまえば激痛が走るのは当然の事だった。
何故、私は気づかなかったのか。後悔の念が彼を襲う。
「…すまなかった、痛かっただろう…」
アデルの言葉に対して、ハーピーは申し訳無さそうな顔をする。
『ごめんなさい、折角私のために作ってくれたのに』
そう書かれたスケッチブックが、余計にアデルの胸を締め付けた。
「そんなのは良いんだ、君の体が治ったら、私のスープでよければ、いつでも作ってあげるから」
そういいながら、ハーピーの頭を軽くなでる。
(…しかし、ものが食べられないとなると…)
本当ならばこの大会が終わる数日間、ハーピーをこの部屋に匿っておこうと考えていた。
そしてほとぼりが冷めたころ、ハーピーを病院に連れて行けばいいと。
しかし何も口にできないとわかった今、ここに長時間滞在させるのは無謀すぎる。
どこかきちんとした医療機関に連れて行かないといけない。
この会場にもそういった医療機関はあるものの、父やら関係者にばれてしまっては元も子もない。
ならば…
「ハーピー、私と共に今すぐここを出よう。」
先ほどのスープの激痛がまだ残るのか、口を押さえるハーピー。その口を押さえる手を、アデルはそっと握る。
いきなり手を握られたうえ告白にも似た言葉を受けたハーピーは、血の気がうせて青白くなった頬をほんの少し染めてアデルの顔から目をそらした。
「本当はここに数日間隠れていて貰おうと思ってたのだが…ここに居たのでは君は死んでしまう。君を、ちゃんとした医療機関に連れて行く」
ここから出れるかどうかはある種の賭けだが、ハーピーを助けるにはそれしかない。アデルはそう思っていた。
この施設内にも医療機関はあるが、当然のことながらすべて父の息がかかっている。仮に命が永らえたとしても、ハーピーが元の世界へと戻る事は永遠になくなってしまうだろう。
「目を覚ましてすぐだから辛いかもしれないが、早くでた方がいい。…立てるかい?」
「………」
その問いに対し何かを思い出したのか、悲しそうな顔をしてハーピーは首を横に振った。
「どうしたんだい?…歩くのも辛いかい?」
ハーピーはもう一度首を振ると、つま先だけを覗かせていた長いワンピースをそっと捲った。
すらりとした白い足のアキレス腱を指差すハーピー。一見するとよく分からないが、良く見てみれば両の足首に切り傷が入っている。
「………っ!?」
動揺を抑えられず、アデルは両手で口を押さえた。
傷口が目立たなかったのは鋭利な刃物で両断されたからだろう。その目立たなさに反して、傷はよほど深いものだと知れた。
「舌だけじゃなく…靭帯も、切られたのか…?」
彼女は伏目がちな目に涙をためたまま、ゆっくりと、首を縦に振った。
「…ハーピー!」
「…☆△〒○■$!?!?!!!!」
アデルは彼女のやせ細った細い体をギュッと引き寄せる。
突然のアデルの行動にハーピーは軽く動揺し、ペンを走らせる。
『ちょ、ちょっとまってください!わたし、まだこころのじゅんびが…!』
「大丈夫、安心してくれ…」
『だ、だいじょうぶじゃないです…!そ、その!あ、アデルさんのこと信用できるいいひとだとおもいますけど、わたしたちであったばかりですし…』
「そんな事関係ない、私に任せて…さあ…力を抜いて…」
「…」
ハーピーは少し考えた後、コクリと頷き力を抜く、そしてアデルにすべてを委ねる。
「痛かったら、すぐに言ってくれ…」
やさしく微笑むアデル。その笑顔が直視できなくなり、ハーピーは目を瞑る。
彼はそんな彼女を抱き上げ、そして…
「よっ…っと!」
背中におぶった。
『…あれ…?』
「ん?どうしたんだ、ハーピー?」
そしてそこで彼女は気づく、自分の勘違いに。
『えっと…その…なんでもありません…』
顔を真っ赤にしてスケッチブックを見せるハーピー。
「…ん?そうか?それならいいんだが…さあ行こう、外に出るために!!」
そんなハーピーを尻目に彼女を抱きかかえ、外に出るための第一歩を歩むアデル。
希望に、望みに、二人とも満ち溢れていた。
──満ち溢れていたのだ。
【──VIPルーム】
『ほう…ロシアのチンピラマフィアがあの大物を食ってしまうとは…』
『カルノフですか、彼も堕ちたものですなぁ?』
『神月財閥のあの少女がいとも簡単に…くっくっく…たまらないですなあ…?』
朝蝿暮蚊、その言葉が似合う愚者どもの退屈な羽音。
「ウォン様、少しお話が…」
その羽音をかきわけ、黒服の男がメガネを掛けた東洋人に耳打ちする。
「ほう…彼があの”実験動物”を…」
「どうされますか、ウォン様」
ウォンと呼ばれた東洋人の男は、あごに人差し指を当て少し考えるしぐさをする。
「別に”アレ”自体は破棄するつもりでレンタルさせたのでね、どうでも良いのですが…外に出されてしまうのは困りますねぇ…」
「どうしましょうか、もしよろしければ我々が…」
本来なら部下に任せ、”実験動物”ごと消してもらうのが一番楽なのだが…
「いえ、今回は私がでますよ。…挨拶ついでにね。あなたは下がっていてください。」
相手は主催者たるルガールの息子、そんな事はできない。
そう伝えるとその黒服の男は再び人ごみの中に消える。
「彼は父とは違い明哲保身…道理をわきまえた話が分かる方だと思っていたのですが、残念ですよ。」
そうつぶやき、ウォンは烏合の集をかきわけ、会場を後にした。
彼に改めて挨拶をするために、そして”アレ”を”破棄”するために。
【客用個室→通路】
「ハーピー、もう少しで出口だ。あと少しだけ、我慢できるかい?」
背負ったハーピーに声をかけると、返事の代わりに可憐な笑顔が返ってきた。
にしてもこの施設は恐ろしく広い。アデルたちが部屋を出てから、かれこれ10分近くは歩いているというのにまだ出口の光は見えない。
「早く外に出て、適当な病院で治療して……君を元の世界に帰してあげないと」
ハーピーの温もりを背に感じながら、アデルは返事の無い会話を続ける。そうすることが彼女との絆を深めることになるような気がしたからだ。
「っ!?」
だが、そんな暖かな時間をほんの小さな風切り音がさえぎった。鋭利な何かが、彼をめがけて投げつけられたのだ。
「ちぃ!誰だ!?」
アデルは背中人一人背負ってると思えない機敏な動きで射線を外すと、油断無く相手がいると思しき方向に目を向けた。
「…ほう。拙者のクナイを避けるとは…お主、中々の手馴れと見た」
暗い壁に溶け込むかのような漆黒の影が、壁から湧き出してくる。
「我が名は如月…如月影二!!如月流忍術の使い手、そしてこのフロアの守り人!!」
背の少女の無事を確認すると、アデルは柳眉をひそめて名乗りを上げる影を見つめた。
「雇われ傭兵か…!」
傭兵という言葉に、どうやら忍は気を害したらしい。黒いマスクの下の口を歪め、彼はアデルの言葉を正面から否定した。
「否!我は傭兵など無粋な者にあらず!!腕を買われて雇われた忍者也!!」
もっとも、アデルにとっては相手の気分や立場などどうでもよいことだったのだろう。軽く伏せられた赤い目がかすかな苛立ちを宿す。
「小僧!黙って去るなら深追いはせぬ!しかし!これ以上進むと言うのな―――――ぐふぉ!?」
青年に向けられた誇り高き忍びの口上は、彼の足を襲った鋭い衝撃に中断を余儀なくされた。
「邪魔だ、そこをどけ!」
自ら放った衝撃波を追いかけ滑るように移動したアデルは、体制を崩した影二の足をめがけ槍のような鋭い蹴りを繰り出した。
狙うは正確に膝の正面。力がほかに逃がせない分、当たれば確実に膝間接を破壊する。
「ぐ!」
アデルの本気の殺気が込められた蹴りを、影二は鎖帷子に守られた脛でかろうじて受けた。
もっとも完全にその勢いを殺すことは叶わず、彼のアデルに比べて幾分小さい身体は造作も無く吹き飛ばされる。
「き、貴様!口上中に」
受身を取って飛びのき、礼儀知らずの青年を咎めかけた彼の口が引きつる。
一流の忍びである影二ですら驚嘆を禁じえないほどの速さと静かさで、アデルは既に己の蹴りの射程内に影二をおさめるまでに迫ってきていた。
影二にガードの姿勢をとる暇も与えず、アデルの足が風を切って跳ね上がる。
「ぐぶぁ!ひ、卑劣な―――」
真空の刃で影二の腹を、その爪先で彼の顎を打ち抜いたアデルの足は、間髪いれず鉈のような重さで振り下ろされた。ようやく彼の足を防ごうと上がってきた影二の交差させた腕を、そのガードごと打ち崩す。
「ぐがぁ!」
小手に守られているはずの決して柔でない影二の腕で、みしりと身体の芯に響く嫌な音が響いた。
「…ちょ…!!」
本能的な危険を感じた影二が後ずさる。後ずさるその胸倉を、アデルの手は逃さなかった。
本能的な危険を感じた影二が後ずさる。後ずさるその胸倉を、アデルの手は逃さなかった。
己の下に引きずり込んだ獲物に、彼は無言のまま容赦の無い蹴りと拳の雨を降らせる。止めとばかりの一撃に鳩尾を前蹴りで痛打され、影二の身体は再び宙を舞った。
「ぐ……ぐがぁ!」
哀しいかな強者にめぐり合えたという武人の喜びはとうに消し飛び、代わりに獣の本能が警鐘を鳴らしていた。
あれは捕食者だ。いかな努力とて越えられぬ絶対の壁。決して敵対者として関わってはいけない。
「流影……」
それでもけなげに振り上げられた両腕は相手を打ち据えるためのものではなく、再び目前に迫ってきたアデルからの気弾を返すためのものであった。
攻撃としては期待できなかろうが、放った飛び道具をそのまま返されるということはいくらかでも相手の意表をつくことになる。追い詰められた側としては決して悪い選択ではなかったであろう。が、
「な!」
「ふっ!」
彼の淡い期待はアデルの腕に展開された翠緑の光に即座にかきけされた。
己の気を受け止め、さらに増幅したアデルの腕が胸の前で大きく開かれる。懸命にアデルの肩にしがみ付くハーピーの、その血塗れた片羽と白いワンピースが煽りを受けてばさばさと広がり、その姿はあたかも光輝背負う天使のように。
「おおおおおおおおおっ!」
「ま、…まて…っ!」
制止の声もむなしく、すさまじい衝撃とともに影二の意識は漂白した。
【通路→会場内ヘリポート付近】
『あの〜…さっきの人殺していないですよね?』
優しいハーピーには、先ほど倒した忍者が気になって仕方がないのだろう。そう書かれたスケッチブックをアデルの前に差し出す。
「大丈夫、手加減はしておいた。気を失っているだけだろう。それより…」
彼らの面前に聳え立つ、頑丈にロックが施された巨大な扉、そしてその前に置かれた小型ヘリコプター。
アデルは到着したのだ、目的地に。いや、目的地に行くためのスタート地点に。
「私はロックを外してくるから、ここで座って待ってくれ。」
ハーピーをヘリコプターの助手席に乗せる。片羽となったとは言え、空を飛ぶための翼がただでさえ狭いコックピットを狭くする。
「すぐ戻るから、そこで待ってて」
そうハーピーに告げると、彼は鍵を外しに扉まで駆け出した。
【──通路】
「う…うう〜ん…」
先ほどの圧倒的な戦いから数分、如月影二は真っ白な世界から現実へと目を覚ます。
「せ、拙者は…!?不覚!!」
先ほどの一方的な敗戦の結果を思い出し、膝を突き項垂れる。
「フロアの守人が人を通すなど…夏炉冬扇…本当、役に立ちませんね」
うなだれた彼の真後ろから、突然声が聞こえる。
「…なっ!?」
気配はまったく感じなかった。気配を消したとかそんなレベルではなく、突然その場に現れた、そんな感覚が如月影二を襲う。
「貴様!何者だ!名をな…」
名を名乗れ、そう言おうとしたその瞬間、彼の体が壁に叩きつけられる。
「ぐぶぁ…」
何をされたのかすら分からない、気づいた時には如月影二は壁に叩きつけられていた。
「何が…起き…」
最後まで言い切る事無く、如月影二の命は事切れる。
「ここにはジャパニーズ忍者がいると聞いて心わいたのですが、外剛内柔…見掛け倒しでしたね…」
そう吐き捨て、彼は歩みを進めた。
【会場内ヘリポート、自家用機メンテナンスルーム】
「ハーピー、待たせてしまってすまない。」
厳重なる扉のロックを外し、ハーピーが待つヘリコプターのドアを開けるアデル。
彼の顔を見て、安心したかのように天使の笑顔を向けるハーピー。
彼女の頭をそっと撫で、コクピット内に乗り込む。
「さて…」
操縦席の電気系統のスイッチを入れる、ドルルル…という激しい音と共に上部にあるプロペラが回りだす。
「よし!かかった!」
エンジンがかかった事に小さく拳を握る。後は出発をするのみ。
「ハーピー、少しゆれるが我慢をし…」
我慢してくれ、そう伝えようと後ろを振り向き、愕然とするアデル。
彼女が、いないのだ。
「…!?ハーピー…!?」
エンジンを切り、ヘリのドアを開け外にでる。
靭帯を切られ、翼をもがれた彼女。自分から外にでれるはずがない。
アデルに冷たく、激しく嫌な予感が過ぎる。
「ハーピー!どこだ!!」
狭い出口内に鳴り響くアデルの声。
「ほう…”これ”の名前はハーピーというのですか」
アデルの叫び声にも似た木魂が静まり返った頃、ゴスッという鈍い音の後、彼の後ろから少し高めの声が返ってくる。
「誰だ!!」
声のする方向に振り向く。
そこには、長髪の東洋人──ウォンが立っていた。
彼の横にはハーピーが倒れていた。先ほどの鈍い音は腹部を蹴られたのだろうか、体と羽を丸め、苦しそうに震えている。
「…っ貴様は…ウォン!?」
「これはこれは、私の名前を覚えて下さっていたのですか。アーデルハイト君。」
細い瞳がアデルに向けられる。眼鏡越しでも分かるその深い闇。
「しかし…君がこんな事をする人間だったとは…別に"コレ"自体には価値はありませんから、どうされても構わないのです、が!!」
そう言い放ち再び倒れているハーピーを石ころか何かのように蹴転がす
石ころのように転げるハーピー、その姿はアデルの中にある『殺意』という感情を燃え上がらせるには十分な行為だった。
「なら!ハーピーから離れろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
叫ぶや否や、ウォンに向けて駆け抜けるアデル。
「やれやれ…人の話は最後まで聞きましょう。」
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
その勢いのまま、憎しみの元凶の体をつかもうと、渾身の力を込めた左腕を伸ばす。
「!?」
だが、その左腕は空を切った。
「風声鶴唳…こう見えても私は臆病でして、些細な事も気になってしまうんですよ…」
本来なら眼前にいるはずのウォンが背後にいた。高速で動いたというより、元々そこにいたかのように平然な態度で先ほどの続きを話しながら。
「ちぃ!!」
何故自分の後ろに?そんな疑問が彼の頭を過ぎる。が、今はそんな事を考えている時ではない。そう自分に言い聞かせ二の撃を与えんと足を振り上げる。
が、再びその攻撃は空を切る。
「確かにこれ自体はどうでもいいのですが…外に連れ出そうとするのは感心しません。どこから足が付くのか分かりませんから…ね」
気づいた時にはウォンはハーピーの真横にいた。アデルを挑発するかの如く、ハーピーに三度目の蹴りが打ち込まれる。
「…貴様!!ハーピーから離れろと言った筈だああああぉっ!!」
アデルの左手に赤い闘気が付加される。怒り、憎しみ、そのようなネガティブな感情が篭ったその左腕は、今まででの攻撃の中で一番のスピードを出しながらウォンに向かっていく。
「やれやれ…本当、話を聞かない愚かしい人だ…」
かぎ爪のごとく開かれた赤い左手がウォンの体を捕ら「
」える。初撃の時とは違い、今回は手ごたえがあった。
「うううううおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
掴んだ勢いを殺さない内に、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
怒りと憎しみを込め、
「はあああああああああああああああああああああ!!」
その体を、
「だあああああああああありゃあああああああぁぁぁぁぁあ!!!!」
壁に叩き込む。
ドゴォ!と言う激しい音と共に揺れる空間。
なおも力を緩めずに壁に押し付ける。
線を覆うように舞い上がる土煙。
手から伝わる内臓が破裂する特有の感触。
それに伴う鉄の匂い。
そして、舞い散る一枚の羽。
「………え?」
土煙の中に、1枚、又一枚と、羽が舞い上がる。
「は…ね…?」
「いやあ、凄い凄い、こんな物を食らってしまってはまさに七花八裂…いかな私とはいえバラバラになっていたかもしれませんねぇ。」
"壁に叩き込んだはず"の者の声が後ろから聞こえる。
「あ…あ…?」
後ろを振り向く、そこには"壁に叩き込んだはず"の”彼”が立っている。
「何が起こったかわからないと言った顔をしていますねえ…?」
土煙が引いていく。
「冥土の土産に教えてあげるのが筋…と言いたい所ですが、私に貴方を殺す気はありません。ですから教えて差し上げるわけにはいきませんねぇ、残念ながら。」
そこにあったのは、飛び散る翼、視線を隠す土煙、破裂した内臓の血の匂い。
「うそ…だ……」
再び赤く染まったワンピース、そして────
「うあ…あ…ああ…あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…ああ…あああああ…」
慟哭が、響く。
「──しかし…ここまでグチャグチャにするとは…可愛そうに…」
ハーピーの成れの果てを見ながら、悲しみの言葉を投げかけるウォン。言葉とは裏腹に口元を吊り上げる。
「…貴様が…」
「…おや?どうかしましたか?」
「貴様が殺したんだろうがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
行き場のない悲しみが、再び彼を動かす。
「おやおや?これは愚なる事をおっしゃる…」
その様子を見つつ、右腕を前に出すウォン。
「あなたの言葉はまるで得手勝手…」
右腕に灰色の闘気が集中し、その気は剣に形をかえる。
「責任転嫁…彼女を殺したのは…」
「貴方だ!」
剣となった灰色の闘気がアデルに向かい放たれる。
それが──彼を──
【会場内ヘリポート自家用機メンテナンスルーム→???】
──Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me
I once was lost but now am found──
──歌が、聞こえる
「…ここは?」
歌声に引かれたように目を覚まし、あたりを見渡す。
太陽の優しい光、青く透き通った空、風にのってやって来る潮の匂い、一面に広がる青々と茂った草原
そして 翼を広げ 歌う 少女
「now I see────♪あ、アデルさ〜ん♪」
少女が自分に気づき、彼の名前を呼びながらこっちに駆け寄ってくる。
「ハーピー…?ハーピー!生きてたのか!」
その問いに彼女は優しく微笑む。
「いいえ〜♪私はお亡くなりになってしまいました〜♪」
「…と、言うことは…そうか…私も彼の一撃を受けて…」
「それも違いますよ〜♪ここは〜あなたの〜夢の中ですよ〜♪」
「…夢?」
「そうですよ〜♪アデルさんは今気絶している最中です〜♪」
その答えに言葉を失ってしまうアデル。先ほど起きた事はすべて現実。彼女を守れなかったどころか、彼女をこの手で殺してしまった事も──
「暗い顔をしないでください〜♪私がここにいるのは〜♪アデルさんにお礼をしたいからなんです〜♪」
「…お礼?」
「はい〜♪助けてくれたお礼です〜♪サタン様に頼んで〜♪用意してもらったんですよ〜♪」
満面の笑みを浮かべ両手を広げる。次の瞬間、ポンっと言う音と共にサイズが違う二つの箱が何処からともなく落ちてくる。
「はい〜♪大きい箱と小さい箱〜♪どちらでも〜♪好きな方を選んでください〜♪」
その二つの箱を彼の前に差し出す彼女。
それに対して彼は俯き、拳を握り締めたまま、何も返事をしなかった。
「あれぇ〜♪アデルさ〜ん?どうしたんですか〜♪」
何も反応を示さない彼の顔を覗き込もうとする。
「…ふざけて…いるのか…?」
覗き込もうとする前に、彼が重々しく口をあける。
支援
支援
支援
支援
支援
「…アデル…さん〜?」
「ふざけているのか!お礼だと!何故!!何故私が君からお礼を受け取らなければならないんだ!?」
段々と荒々しくなる。彼女を助けられなかった悲しみ。彼女を殺してしまった自分への怒り。そのような者が彼の中に渦巻いていた。
「私は!君を救えなかった!それどころか君に止めを刺したのは私なんだ!!それなのに!お礼だと!?私は…!!」
話終わる前に彼の口を人差し指でそっと抑える。
「いいえ〜♪私は貴方に救われたんですよ〜♪」
「何を…何を救ったというのだ!!?」
「貴方に救ってもらったのは心ですよ〜♪あのまま苦しい気持ちで人知れず死んでいくだけだった私の〜心を〜助けてくれました〜♪だから〜そんな顔はやめてください〜♪」
「しかし…私は…」
まだ、自分自身が許せないといった表情をする彼。
彼女は少し背伸びして、瞳に溜めた涙をぬぐい、彼の頭をそっとかき上げる。
そして、彼の額にそっとキスをする。
「これが〜♪どちらも選ばなかった時の、お礼です〜♪」
「ハーピー…君は…」
「ちなみに〜♪大きいプレゼントの中身は北海道直送毛蟹の詰め合わせ〜♪小さいプレゼントの中身は富山県名物ますのすしでした〜♪どちらもとっても美味しいのに、残念でした〜♪」
「はは…どっちも…私にはいらないな…」
アデルは目に涙を溜めながらも、ここに来て初めての笑顔を見せた。
「あっ♪やっと笑ってくれましたね〜♪」
そんな彼を見て、満面の微笑みを浮かべる彼女。
「貴方みたいな人には〜♪笑顔が似合ってますよ〜♪」
彼女の体が、少し宙に浮かぶ。
「これからも…そうやって…」
「ハーピー…?」
徐々に、徐々に空へと上っていく。
「笑っていて…くださいね…?」
そして、その体は…天に昇って
「ハーピー!!」
太陽の優しい光、青く透き通った空、風にのってやって来る潮の匂い、一面に広がる青々と茂った草原
そして 翼を広げ 天に向かう 少女
彼女の歌声が、再び聞こえてくる──
──Through many dangers
Toils and snares I have already come
Tis grace have brought me
Safe this for
And grace will lead me home──
──さようなら
ありがとう──
【会場内ヘリポート、自家用機メンテナンスルーム】
「うっ…っ…!」
浅い、浅い眠りから目を覚ます。
そこにあったのは、薄暗い蛍光灯、見慣れない天井、腹部の激しい痛み。
「…私…は…ぐうっ?」
痛みが残る腹部を見てみる。ウォンの一撃が痛々しいアザとなっている。が、貫かれた分けではないらしく、致命傷にはなっていない。
「何故…私は…」
腹部を押さえながら痛みを堪え周りを見渡す。ウォンも、彼女も居ない。
証拠を消すためにウォンが"処理"したのか、それとももしかしたら、すべて夢だったのでは。
そう思うアデルの面前に一枚の羽が舞い落ちる。
「…少なくとも、夢ではなかった、か…」
その翼を握り締め、その場に屈みこむ。
「ハーピー…」
そして、静かに嗚咽を漏らした。
「私には…無理だ…」
静かに
「さすがに…笑えないよ…ハーピー…」
嗚咽を漏らし続けた。
規制のために書き込む事すらままならないですが…
これにて終了です。
数ヶ月ほどSSから離れていたのでリハビリがてら書いていた外伝がまさかこんなに大作になるとは…
協力してくださった皆様、ROMってくれた皆様、さまざまな人に、ご協力ありがとうございますを伝えたい気分だ…
以上、書きたい事かけてすっきりしました!
さあて!後は本編書くぞ!!
今書いてる人たちの進行具合が気になるな……
一作書くのにどれくらいかかるものなのかな?
つーか新作にゃ誰も何も言わんのかい
なら俺がとっ始めに言ってやる!GJ
最初ムツさんかと思ったけど途中から代理になってので、
もしかすると合作だったのかな。まあそれは置いといて
乙、とにかく乙。
新作イイヨイイヨー! GJ!
投稿自体は代理じゃなくて回線切ってつなぎ直しただけらしい(by交流スレ)。
多分「代理」の部分が合作部分なんじゃね?
まあそんなことはおいといてとにかく乙だ!すげー乙だ!
アデルがいい感じにヘタレでハーピーがいい感じに悲劇のヒロインしてたぞ!
それから影二、ようやく正式に殺してもらえてよかったなと言っておく。
165 :
F(ry:2006/11/28(火) 01:16:51 ID:DTC+Wyhi
まずは新作乙。
アデルとハーピーの切ない出会いもさることながら
ええと、あの忍者の人…きさ…
木更津キャッツアイさんの死亡秘話まで入ってお得っした!
さて、俺のじゃないだろうけど何らかのレスを待っていそうな方へ俺の見解だけ
>>109 後で書きますが、投下が続くのであれば、本当にギリギリまでは
(節度を守りつつ)書いたもん勝ちかなという気はします。
極論ですが、たとえばAが死ぬ話を考えて、書いて投下した場合
もしもAが別の行動をする話を考えてた人がいた場合、後者は没になりますが
どっちが先に投下されても1話は1話で進みます。
だからまあ、投下されるのであれば作品に問題ない限りは突発で容認していいんじゃないかなあ
とは思います。
ただ、「俺は自分の遅筆を自覚している、だから2週間くれ」という場合
3日で書ける人がいても、待ってあげたいなあとは思います。
特にそれが新規の人だったり、久しぶりに投下する人ならなおさらです。
「2週間っていったら長くとも2週間半で投下する」くらいには
期限を守っていただけることを前提として、ですが。
キャラに予約をいれて安心して書かずにズルズルとかだとみんなが切ないし。
2週間の時点で8割書き上げて「どうしても時間とれないんでもう1週間」くらいは許せるかなあ、どうかなあ
8割完成してるのが証明できりゃいいかなと思います。
>>116 普通に雑談しておk
投下の予告は自己責任で。書き始めてもいないのに明日には、とかはアレですが。
登場キャラに関しては予告する方はしたらばで明かしたほうがかぶり防止にはいいと思いますが
サプライズ要素もあるので良し悪しってとこでしょうか。臨機応変…便利な言葉です
166 :
F(ry:2006/11/28(火) 01:39:29 ID:DTC+Wyhi
>>118 予想で出た展開と自分の考えてたプロットが被った時に出しづらいっつー理由で
自粛の方向だった気はしますね。以前は。
ただ、人数が減ってくるとできることって限られると思うんで、気づかない選択肢が見つけられる可能性もあるし
話題づくりのためにもいいんじゃねえかなあ、と思うます。
ただ、もし予想で出た展開に近い話が投下されてもそれに対してあーだこーだ言わないという前提で。
あーだこーだ言うなら自分でその展開の話投下しろっつー話ですし。
まあ俺なんかプロット書いてくれ文章書くからって上で言ってるくらいだしプロットと実際のSSは別モンだと考えておるです。
レス前後してゴメソ
>>112 このまま投下が続くのであればとりあえずは止まってても問題はないかと。
でもいつかは絶対必要な議論ではありますので
本スレの動きに関係なく、エンディングの迎え方に関してはやっててもいいんじゃね?と思わね?っていうか思う。
あとはキャラ動向はこのあいだみたいな事例もあるので多少のすり合わせはしてもいいと思います。
でもこっちに関しては書き手の思惑が様々(サプライズが欲しい、使用キャラ言うとプレッシャーかかる等)なんで
それぞれのケースに合わせてでいいんじゃないかなあ。
ただ、被って破棄してモチベ下がるのもアレなんで、投下キャラくらいはしたらばで言ってもバチあたらんと思うです。
さて、また長ったらしく書きましたが2レス分のまとめ
・投下が安定してあるならば今しばらくは投下を見守り、今まで通りで
・今後エンディングがさらに近くなった場合はさすがにきちんと話し合いたい
・キャラ数現象=とれる行動の減少によって一人の思考パターンには限界があるので、
展開予想や、プロットを投下してコレ使えね?的なのもヒントにならね?後者はしたらばへ。
・書く側は速筆を強要するわけではないが、自分の筆速を自覚し、予約は無理なく
・読む側はスレの維持と適度な盛り上げをお願いします。
つーわけで、俺ももうちょっとプロット練りあがったら使用キャラしたらばに書いてがんばります。
2.3箇所詰めないと不自然になる部分が残ってて悩み中。
フラッシュの人も書いているのか…だれ書いてるんだろう
で、フラッシュの更新マ(ry
そう言えばだいぶ前に楓に封雷剣持たせたら
どうなるだろうとよく話題になっていたな。
書き手の構想を強制するような話題イクナイと
軽く揉めたような気がする。
もしこの話題が出なかったら
ここまで楓が最強キャラに成長しただろうか。
今にして思えば雑談で展開予想がタブー視される
きっかけになっていったのかも知れない。
楓のあれは失敗した
こんな厨キャラになるとは
馬鹿だな、厨キャラという展開も又、長い目で見たら面白いんだ。
カレー班反則だとか言っていたあの頃も今じゃいい思い出さ。
長い目で見ようぜwww
>>168 出なくても持たせる気マンマンだった俺ガイル
サマソ
>>171 ムツ氏乙。
まあ予想なんて当たらなかった予想の方が大量にあるからそんなに神経質にならなくてもいいよ。
と、いうわけで大胆予想!
ニーギ、なんとなく死亡フラグが付いている気がするんだ…いや、具体的に何処がと言われたら困るんだが、こういう展開で先頭に立つ奴って…
まあ持つだけで死亡フラグのクリムゾンの持ち主、ネオが生きているからなんともいえないがな。
どうせアルルか楓かニーギが優勝だろうなってわかるから、参加しなくなったっていうのもある
そうかと思えばレオナのオロチ化とか
早々に折られたフラグもあるしな。
そんな訳でアケロワにおけるオロチパワーは
陽の目を見ることなく終わりそうだ。
シェルミーさんがオロチ最後の希望?なのか?
>>173 アルルは精神不安定で
楓は心身共にボロボロで
ニーギは比較的健康なのかな…
でも俺も
>>172の言うようにニーギにはどうにも死の影がみえる。
フラグというよりはなんというか空気的なもので。
ということで全滅エンドを推しておこう
>>175 シェルミー?そう言えばまだいたな。
しかしそれなりにダメージは負ってるし、
中途半端な力しか得られてないからそれが仇となって
近い内に消されそう。何しろ生き残りの女キャラでは
唯一20歳以上だし、今回のパートになってから
まだ男しか死んでないからそろそろやばい。
リーダー格の歴戦の傭兵は最後に近づくにつれて
「ここは俺に任せろ! なあにすぐに追いつく」
「少し休んだら後を追うさ」
「ヒヨッ子は足手まといなんだよ!」
の三大死亡フラグがな……
>>175 _ ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!
( ⊂彡 おっぱい!
リアルデンデのかすみが唯一の生き残りだったりしたら泣くよ
前回優勝キャラと仮死状態復帰キャラってのはどうにも最後のほうで死んじゃうイメージがある
妄想はよそうと言われても勝手に妄想予想
ニーギ:親分らしく映画版バトロワの山本太郎のような散り方をしそうだが、生きてそうな気もする
アラン:イケメンらしい死に方をするのか?無事に生還できるのか?
アキラ:アオイをかばって死ぬのか?無事に生還できるのか?
アオイ:ブチギレお嬢は敵と相打ちか、実は生還するかのどっちかっぽい
カエデ:バトロワ映画版の安藤政信の役みたいになりそう
アルル:ニーギが正気に戻してくれて生還?死ななそうなんだよなー
エッジ:こいつが死ぬところをイメージできない
ケーブル;漢らしく死んで伝説を作りそう
ネオ:同じく
紅丸:オロチねーちゃんのナイトとして散ったりしたら伝説になりそう
シェルミー:ラストオロチ族。悪女の威力を発揮して欲しいような、綺麗に生きてほしいような。
リュウ:ニーギと同じ香りがする・・・
リョウ:ゴウと相打ちって言うのが一番ありそう
かすみ:強運オッパイパワーで
>>179の展開になりそうな・・・
ゴウ:リョウやお嬢に殺られるか、別の死に方をするか・・・死亡フラグに最も近い男?
蒼月:死んでも死ななさそうな・・・
上野:忘れてたんじゃない、想像できなかっただけだ
上野は足がネックで大立ち回りができないからな・・・・
フラグ大事にしすぎて空気化か、フラグ活用できずにあっさり死ぬかかなあ・・・・
予想はよそうとか言われても俺も予想してみる
ニーギ:「じゃあ3手に分かれようか。君たちはこっち、あんたらはそっち。私?私は一人で大丈夫よ!」フラグ
アラン:最後の最後の最後の最後、生還END寸前でヘマ「わりぃ…先言っててくれないか?」的END
アキラ:地味に生還
アオイ:思いつかん
カエデ:ロックと共にルガールのエサに…
アルル:ラスト手前の山場で劇的に死亡…
エッジ:ここまで伸ばして伸ばしまくったのに本当に情けない(上から物が落ちてきたり等)であっけなく死亡。
ケーブル;『以上を持ち、今回の事件の報告書とする。』的ラストの〆的存在に…
ネオ:「そうか!そういうことだったのか!?」とか何かの謎を解いた瞬間死亡
紅丸:女の子をかばってシボンヌ
シェルミー:生還、その後行方不明に…
リュウ:ニーギと同じ香りがする・・・
リョウ:生還するも廃人に…
かすみ:強運
ゴウ:とりあえず自爆
蒼月:ラスト戦後、行方不明、生死不明に…
上野:魂は不滅
禁止とか言われてたが、モチベーション上がるだろ。便乗便乗
ニーギ:大前提であるはずの生存を度外視すべしと自覚した時でなかったか
アラン:離反癖! このような者を脱出に参加させてよいものだろうか
アキラ:綴られた手記は 死亡により情報が雲散するのを防ぐためだ
アオイ:あの人らをかかる破目におとしいれた 日守剛を仕置つかまつりまする
カエデ:サウスタウンは自分探しをするところではござらぬ
アルル:心と言う器は ひとたびひびが入れば二度とは 二度とは
エッジ:主催本拠地へ向かう一般人の表情は 弔辞のそれである
ケーブル:サイオニックの酷使により ケーブルは既に残り半分を失っていた
ネオ:これは尋常の死に方ではない 読めぬ…魔銃の力が 全く……
紅丸:シェルミーが支払ったのは神槌であった
シェルミー:戯れるには手ごわき相手 放送者め はめおった
リュウ:敵手との立合いにて拳を止め 不覚を負うたは自分の未熟
リョウ:ち 違う こは仇討ちなどではあらぬ な 何ゆえ!?
かすみ:とっととサウスタウンを出て行くべきであったな
ゴウ:青胴着を殺めたるは無敵の龍にあらず
蒼月:一般人の執念か 狙いのない魔銃の弾丸が神の胸郭を貫いた
上野:死に体であったはずの上野は 正体不明の何かに変質していた
るがーる:これで私が新しき神……誰じゃ!?
つーか、これからどうなるかマジ分からないな、脱出なるか
話は変わるが、アケロワを影で支えてくれた、もせさんはもう来ないのかな・・・
あの人の絵、大好きだったから・・・
このレス数で分離させてもなあと思うんだがどうよ
逆に考えるんだ。
感想スレ使う位盛り上がろうと考えるんだ
一応感想スレできたからこちらは保守
まあアケ板はそう簡単には落ちないから大丈夫。
ただスレの半分以上が保守書き込みで
埋まっていると悲しくなってくるがな。
新作期待保守
ほしゅ
新作期待保守
ほしゅ
ほし
ほ
h
200 :
ゲームセンター名無し:2006/12/09(土) 14:41:12 ID:cZE9gVaA
涙の200
新作に期待。。。
・一時間前
「言葉は悪いかもしれないが、愚直で、男らしい男だった」
社の遺体にすがりつき、声を殺して泣いているシェルミーに
数歩先の暗闇から現れたリュウがそう告げると、
シェルミーは少し顔を上げ、また少し泣いた。
・40分前
「どうしても言えない、ということね」
「もし社君が生きていても、決して言わなかっただろうことを
俺の口から告げることはできない。すまないが…」
落ち着いたシェルミーに促されたリュウが、ここまでの
そう長くもない社と出会ってからの事を話すと、
シェルミーはその一言一言を、聞き漏らさないように、
こぼさないように、噛み締めるように、聞いた。
しかし、話が社に致命傷の火傷を負わせた相手のこととなると
執拗にその詳細を聞きだそうと身を乗り出した。
前髪に隠れてほとんど見えない目では復讐の炎が燃え盛っているのは明白だったが
リュウは一瞬、シェルミーの胸で眠る男の顔を見て、さっきのように答えた。
シェルミーはリュウの言葉と視線の先を見て、それ以上の追求を止めた。
その時だった
・37分前
―――パーン
シェルミーの頭の後ろを掠めて飛来した何かが、後方の建物のガラスを砕く。
「敵か!」
「銃か、それとも…」
リュウと紅丸があたりを見回す、が、その目に攻撃の主は見当たらない。
「銃じゃないわ…これ」
シェルミーが長く束ねた後ろ髪を手で持ってパタパタと揺らす。
水滴が散る、つまり掠めたものは
「水使いね」
シェルミーの言葉に男二人がはっとする。
今でこそ晴れて月も見える空ではあるが、目を落とせば二日目に降った雨は
未だ乾ききらずにところどころ水溜りが見える。
と、ひときわ大きい水溜りが波打ち、大きく盛り上がる。
「ヒョウヒョウ!憎たらしきは蛇の手駒、我に屈するがいい!」
盛り上がった水は人を形作り、その口から高慢な言葉を発し、その手から何発かの水弾を放った。
・39分前
「な、なあ、止めなくていいのかな」
「馴れ馴れしく話しかけるな、ほっときゃいいだろうが」
標的から少し離れた位置で一旦立ち止まり、
とぷん。
と目の前の水溜りにとけるように消えた水邪様が最後に残した言葉は
「そこで貴様らの主がどれだけ偉大か見ておれ」
だったので、下僕であるところの剛とネオは動くに動けなかった。
しばらくの間の後、ガラスが割れる音が響き、水邪が躍り出るのが遠目に見える。
ネオはオロオロするばかり、剛は自分の血止めの範囲さえ超えなければと静観を決め込んだ。
水邪の放つ水弾を相手の女と男がそれぞれ弾き、剛がリュウだと言った胴着の男がなにやら叫ぶ。
相手の男と女は何事かこたえ、リュウが身を翻す。
「なんで七枷は動かねえんだ…?」
そう剛が呟いた時、反転したリュウが地に身を横たえたままの社を担ぎ、
建物の影にそっと隠すように寄りかからせた。
それを見て剛はもちろん、ネオも悟る。
「なあ、あっちのやつ」
「死んだか、あっけねえもんだな」
自分が引っ掻き回した数刻前の状況を思い出し、苦笑し、自分を省みる。
「絶対、あんなことにはならねぇぞ…」
「おい、あのリュウってやつこっちに向かってるぞ!?」
生への終着をぼそりと呟いていた剛がネオの言葉にはっとする。
どうやら水邪はシェルミーと紅丸を追うのに夢中らしく、射程から外れたリュウを無視したらしい。
あっ、と言う間もなく、ネオと剛はリュウを見上げることとなる。
・35分前
「蛇の眷属よ、我の力の前に平伏せよ、服従を誓え、ヒョーウ!」
次々と繰り出される水弾をかわし、弾きながら紅丸とシェルミーは顔を見合わせる。
「なんなんだこいつは!」
「わからないわ、でもオロチのことを知ってる!」
「愚鈍なり、無知なり、浅薄なり!我は水邪!神に等しきものなり!
貴様の主人である蛇のこともよく知っておるというのに、全く罪なことよ」
喋りながらも水邪の攻撃の手が緩むことはない。
水弾に加えて、足元の水溜りから次々と水柱が上がる。
一帯はさながら巨大な水芸の会場の様相を呈した。
「シェルミー君、ヤツはいったい!?」
少しの流れ弾以外ほとんど受けていない様子のリュウがバシャバシャという水音の中で叫ぶ。
「知らないわ、でも狙いは私みたい…だから社と…あっちを!」
「リュウって言ったな、アンタが放送で呼ばれたことはこの際忘れる
本当に殺人鬼だって死体をどうこうしないだろうし、多分あっちはコレの仲間だ、任せるぜ」
シェルミーと紅丸の言葉を受けて、リュウは紅丸たちの横をすり抜け、水邪もすり抜け前に出る。
「死した者に用はない、貴様を従えれば蛇めは眷属を奪われた物笑いの種よヒョウヒョウヒョウ!」
その背に圧倒的な力を感じながら、リュウは水邪の少し後方で、
置き去りにされた社の亡骸を抱きかかえ、水溜りのない物陰に置いた。
そしてすぐさま、さきほどから気配を感じる物陰に向かい駆けた。
・30分前
バシャッ
紅丸が水柱の一つに掠められ、体制を崩して倒れこむ。
「紅丸!」
「大丈夫だ、それに…ヘタに逃げないほうがいいかもしれないぜ」
紅丸は腰を落としたまま向かいくる水邪を見やった。
「さっきからアイツの攻撃には殺意がない、どっちかと言うと遊んでる感じだ」
「紅丸、立って!」
「いや、だから大丈夫だろうとヤツは多分俺達を殺す気は…」
そう紅丸が結論付けた頃、水邪はもはや眼前に迫っていた。
「飽いた」
目の前の長髪の神気取りはそう漏らした。
「わかったわかった、降参…ん?」
紅丸がお手上げのポーズを取る、が水邪はもはやそれを見てはいない。
「素直に服従すればよかったものを、我は貴様らを追うのに飽いた、もうよい」
「立って、走って!」
シェルミーの叫びが聞こえるが、目の前のバケモノは今までの水弾とは比べ物にならない
到底走ってどうにかなるレベルではないその水の塊を掌の上で弄んでいた。
「あの手の輩は相手の命は紙くず位にしか思ってないのよ…【殺す】と【生かす】の境界が曖昧って言うのかしら」
「なるほど、つまりおれらの命はご機嫌一つってことか…」
被害を最小限に抑える策を巡らしながら言う。シェルミーの手に雷の力を感じ、それしかないかと倣う。
しかし疲弊しきった自分たちの力で気が通ったあの巨大な水塊をどこまで防げるか…考えたくもなかった。
「蛇の手の者とその下僕よ、神たる我が力によってその命に幕を閉じることを光栄に…」
・31分前
「日守…剛か」
呟いたリュウに、銃口がつきつけられる。
しかしそれは剛の持つウージーのそれではない。それは呪われた銃
ネオの手にしたクリムゾンの銃口だった。
「う、ううう動くな!」
「全く、やりづらくしてくれるよ、うちの連中は…」
右手で髪をかきあげて、震える手で銃を持つネオと、様子を伺うリュウを見る。
こいつが放送で呼ばれたリュウだと教えたのは早計だったか、と剛は少し後悔する。
バカみたいに接して自分の話が出来なくては困ると考えていたが
必要以上に警戒させてしまったのでは余計に話ができない。ちょうど今のように。
「あー、その、なんだ、リュウさんよ」
「まだ、こんなことを続けるのか」
発した言葉を切って捨てるリュウの言葉と睨みに剛はため息をつく。
剛の意思でも、また指示でもないが、水邪が先制したのは痛かった。
確かにリュウは先ほど剛が言ったようにそこまで物分りの悪い男ではない。
だがこちらに戦闘の意思があると思えば話は別だ。
リュウを含む大多数の前で最悪と言って差し支えない印象を与える立ち回りを行った剛に
非抵抗以外でまともな会話の余地があるわけもなかった。
「わかった、わかったよ…」
剛は足元に置いてあるウージーに手を伸ばす。冷たい鉄の感触を確かめ、ゆっくりと持ち上げる。
急に動けばリュウに何をされるかわからない。あくまで、威嚇と牽制であることを示さなければならない。
「リュウさんや、あんたとやりあう気はねぇ」
カチャリと音を立てて、リュウに向く銃口が2つに増える。
「その態度を見て信用しろと言うほうが無理だろう」
「ああそうだな、俺が主催者に見捨てられ、いち参加者に落ちぶれて、今や脱出を図っている、と言っても」
「本当なら気の毒だが…」
「いいさ、信じなくて、ただアンタは俺を見逃してくれればいい」
剛の言葉にウソはないし、剛は基本的に手にしたウージーの引き金を引く気もなかった。
ただリュウがどう思うかは別である。言葉を信じさせるには剛はあまりにやりすぎだった。
背を向ければ撃たれるかもしれない、挑めば隣の男、ネオが引き金を引くかもしれない。
リュウの脳裏には最悪のパターンがいくつも浮かんでは消えているだろうことは剛にもわかった。
一番警戒されているであろうネオは、事態の変化についていけず目を白黒させて二人を見ていたのだが。
膠着したまま、三人は無言で、動くべき時を待つ。
・29分前
「光栄に…ウぐっ!?まさか!?」
目前の神気取りが急に苦しみだしたのを見て、シェルミーと紅丸は同時に飛び退く。
「なんだってんだ?」
「わからないけど、ラッキーだってことは確かね…」
距離をとり、建物の影に入りながら大きく息を吐く。
「あら?アイツ…」
シェルミーが怪訝な顔をしながら少し小さく見える水邪を見つめる。
「どうした?」
「なにか、急に不安定になったわね、アイツから漏れ出る力が」
「特殊な力に関しちゃわからないが、たしかに、威圧感が薄らいだ気はするな」
と、二人の見ている前で、一度大きくのけぞり、何事か呟いて
直後、現れた時の逆回転のように、襲撃者は水溜りに消えた。掌の上の大きな水塊と共に。
「!?」
また近くの水から現れるのではないかとあたりを警戒する二人だが予想に反して
近くに水邪が現れることはなかった。
「あそこだ!」
紅丸がその姿を確認したのはリュウが向かったもうひとつの気配のあたりであった。
・30分前
どれだけの間こうしているのだろうか。数十秒が1時間にも感じられる。
手にしたクリムゾンが重い。
この状況をネオはどうしていいのかまったくわからなかった。
なりゆきで一緒になった剛と、放送で何人も殺したと耳にしたリュウ。
今向けている銃口は正しいのか、それとも銃は仕舞うべきなのか。
動くに動けない状態で、ネオが唯一動かせたのが頭であった。
会話の端々から得た情報をなんとか整理しながら二人を見比べる。
リュウは「まだこんなことを」と言った。
信じるなら剛は今までにも「こんなこと」をしたということである。
今した、咎められる「こんなこと」は突然の襲撃のことしか思いつかない。
剛は「主催者に見捨てられ」と言った。
信じるなら、剛はもともと「主催者に見捨てられていない立場」だったということだ。
そう言えば、長くもない道中であったが、剛はほとんど自分のことを語ろうとはしなかった。
そして、放送で晒されたリュウ。主催者によって晒されるということはどういうことだろう。
ネオの脳内におなじみの4択が浮かぶ。
放送で殺人者として晒された人間に主催者が期待しない結果はどれか
1.孤立
2.結託
3.戦闘
4.暴走
1は、当然起こる。目の前の人間が放送で公然と殺人者と呼ばれた名前の人なら
真偽は別にして手放しで信用する人間はまずいないだろう。よってバツ。
4はどうか。もしその人が殺人者でなくとも、孤立無援の上、会う人会う人に石をなげられたなら
キレてしまうことはないとは言えない。自分でもまず冷静でいられる自信などない。バツ。
そして3、キレたその人か、疑心暗鬼に駆られた他人かはわからないが、攻撃を仕掛けて
戦闘になるであろうことは想像に難くない。つまりこれもバツだろう。
残ったのは2。
つまり、主催者は晒した人間が信用され、他者と結託し、戦闘を避ける事を期待していない。
歯車の噛み合った音が聞こえるようだった。
ネオはリュウに向けていたクリムゾンの銃口を、ゆっくりと横にスライドさせる。
「何のつもりだてめぇ」
「お、オレはクイズ探偵だからな。自分の選んだ答えにプライドと命を賭ける…」
格好よくキめてはみたが、水邪からの出題を間違えた挙句に逃げ出したことを思い出し少し自己嫌悪になる。
それでも、震える手と声を抑えるようにクリムゾンのグリップを強く握りなおした。
「クソが…」
剛が呟くのと、リュウが飛び出すのと、ネオが引き金を引くのと―――
・28分前
3人の中心に紅丸とシェルミーを追っていたはずの水邪が現れるのは同時だった。
「はっ!」
自分を中心に球形の水のバリアを展開する。
リュウはそれに触れる直前に踏みとどまり、剛はそれをじっと見つめ
ネオの放った弾丸はそのバリアに射線を逸らされて彼方へと消えた。
半歩退いてリュウが構える。
ぐるりと三人を見回して蒼月はネオを見定める。
「あ、あの、水邪様?急に出てきたからで、オレは決してアンタを狙ったわけじゃ」
「ネオ」
「は、はいっ」
「地下を高速で移動する何かに心当たりは」
急な問いかけにネオの脳は真っ白になる。
地下を高速で…?地面を見て、すぐに近くの階段に気づく。
「地下鉄か?それがなにか?」
「地下鉄とは何です?」
バリアを解除して、ネオに近づきさらに問う蒼月。
ネオは一瞬何か気づいた顔になり、問いに答える。
「地下鉄っていうのはえーと、乗り物だよ、地面の下を人を乗せて走る鉄の箱だ」
そしてなにか決意したような顔で続ける。
「そんなことも知らないのか、バカだなあ蒼月」
ネオは目を瞑る。もし自分の考えが間違っていたら次の瞬間、自分は死んでいるかもしれない。
リュウと剛はおそらく気づいていなかったろうが、最後の言葉は命を賭けて発したものだった。
「あなたに言われたくありませんね。まあいい、案内しなさい」
蒼月の言葉にネオが小さくガッツポーズをとって叫ぶ。
「あの階段を下れ!」
蒼月は言われた階段に向けて、水邪の貯めた水の塊と自分の力の及ぶ範囲であつめた雨水を
全て階段に向けて流し込み、その流れの中にネオを投げ込んだ。
そしてまた、自らは水に溶けるように消えた。
・20分前
リュウが向かった先に水邪が現れ、少しの後突然激流が地下鉄の駅に続く階段へと流れ込んだ少し後
紅丸とシェルミーは当面の危険は去ったと判断し、社の亡骸のところへ戻っていた。
シェルミーはその頭を膝にのせ、その顔を覆うように手を乗せてうつむいていた。
紅丸が何か言おうとして、その前に近づいてくるリュウに気づいた。
少し辺りを警戒してまわり、戻ってきたといった風である。
「おお、何があったんだい、いったい」
「俺にもよくわからない、ただ、全員この場からいなくなったことは確かだ」
「向こうにいたのは?」
「日守剛というジョーカーと、もう一人、仲間かどうかよくわからなかったがネオと呼ばれていた」
リュウの答えに紅丸は少し思案して、そうか、と頷いた。
そう言えばさっき自分の名を告げたときも、この男はそうか、と頷いただけだったな、とリュウは思う。
紅丸にしてみれば、判断を保留しているだけなのだが、リュウにとっては
頭ごなしに拒絶されなかっただけでも相当気が楽になったものだった。
今もそうだ、紅丸にしてみれば、突然出たジョーカーという単語と目の前の男と、
襲ってきたバケモノと、その他いろんなものを天秤にかけて、何に対しての対応を優先すべきか
考えているだけだったのだが、自身も混乱しているリュウにとっては矢継ぎ早に質問をぶつけられるよりは
だいぶ精神的な余裕を与えてくれる対応だった。
「アンタ、これからどうする」
「そうだな…できれば君達に同行させて貰いたいところだが」
「あー、済まないな、ちょっと今からやることが出来ちまった」
「俺に手伝えないことかい?」
リュウのまっすぐな瞳に紅丸は真吾を思い出した。
社のことを愚直と評した彼だったが、紅丸には彼のほうがずっとそうであると確信できた。
「ああ、悪いな。別行動で頼む」
紅丸がそう言うと、今度はリュウがそうか、と頷いた。
「では俺はとりあえず別れた知り合いを探そう」
言って背を向け、歩き出してすぐ振り向いた。
「ニーギと言う少女に出会うことがあったら東へ向かったと言っておいてくれ」
「わかった、達者でな」
「君達も気をつけて」
歩き出したリュウの背中が見えなくなると、紅丸は一息ついて、押し黙ったままのシェルミーにむけて言った。
「で、何を話したいんだい?かしこまって」
【リュウ 所持品:釣竿、ホアジャイ特製スペシャルドリンク(残り1本)
目的:ニーギを探して合流する、アルルを助ける、ルガールを倒す】
【現在位置:5区を東に移動中】
・27分前
目の前で起こったまさに激流のような状況の転換に剛とリュウは一瞬あっけにとられていた。
しかし、次の瞬間に取った行動は剛のほうが早かった。
「クソがっ!!」
転身、そして疾走である。
リュウが駆け出そうとするも、剛はウージーを後方に向けて牽制する。
踏みだせずに数秒が過ぎるとリュウの視界から剛の姿は消えて失せた。
「ちっ!!!!」
大きく舌打ちをして剛は走る。そして走りながら左腕を見る。
真っ赤に染まった、左腕の傷に巻かれた布からジワジワと血が染み出す。
だが水邪に施された血止めと共に行っていた止血が少しは効いたのか
今すぐ出血だけで命に関わるレベルではなくなったと判断できた。
頼みの綱の水邪は大量の水と共に地下鉄へ向かう階段に飛び込んでしまったのだ。
それもリュウの後方にある階段に、である。
アレを追いかけるには状況が悪すぎた。無事に逃げおおせただけでも運がよかった。
息を切らして物陰に倒れこむ。さっきの連中も、水邪もネオも、追ってくる様子はなかった。
「畜生が…畜生どもが…」
自分の声が空しく夜空に響く。
右手のウージーと左手の傷を見比べ、ギリ、と歯軋りする。
自分の取れる選択肢があまりに少なくなってしまったことを改めて思い、剛は強く目を瞑った。
・15分前
「紅丸、あなた私と出あった時、死体を見たわよね」
「ああ、見たな」
「私がやったわ」
「そうか」
シェルミーの言葉に頷く。薄々、というか大分確信を持ってそうだと思っていたことなので
驚きは少ないが、なぜ今その話を始めたのか、それがわからずに紅丸は態度を保留した。
「空中に何か魔法陣のようなものを描く術者でね、でも箒じゃうまく発動しなかったみたい」
「そして戸惑っている隙に頚動脈をザックリ、か」
「ええ」
確認するように聞いた紅丸に静かに頷いて、また数瞬の沈黙。
紅丸は根気強く次の言葉を待った。きっとこれは、本題に入るための地ならしなのだと考えて。
「私や、社、クリスやゲーニッツの力っていうのはね」
紅丸は思いもよらない話題の転換に戸惑うが、表情には出さずに聞き入る。
「体の中にあるオロチの因子、いわゆる『血』っていうのが力を持ってるの。
パソコンで言うとハードね、個々の人格はOSってところかしら」
唇に指をあてながら呟くシェルミー。いつもなら妖艶に映るその仕草も
なぜか思いつめた心を紛らわしているように見える。
「紅丸、私がオロチの力を解放した時の二つ名、覚えてる?」
「ああ、レディーのことなら何でも覚えてるさ。確か『荒れ狂う稲光』…」
「そう、それが私の中のオロチを制御する、ドライバよ」
紅丸の中で何かが繋がりそうな予感がする。しかし確信には至らない。
なので、とりあえず浮かんだ疑問をぶつけて様子を見る。
「つまりキミはその力を常に持っているが、振るうためにはそのドライバがいる、と。
じゃあ八神やレオナちゃんはどうなんだ?彼らにもその力はあったろう?」
「彼らにはドライバがないのよ。だから基本的には使えない。それを無理に使うと…わかるでしょう?」
シェルミーの答えに肉体が死してなお暴走していたレオナを思い出す。
と、同時にその時のことも思い出し、紅丸の中でひとつの答えが出た。
「キミはあの時、雷の力を使っていたね。いや、さっきもだ…
俺はてっきり、徐々に力が戻っているんだと思っていた。だけど」
またシェルミーは押し黙る。
「ドライバがない状態で力を得る方法はいくつかあってね」
はっきりと問いかけてはいないが、紅丸の口調は答えを求めていた。
そして、シェルミーの口調から、これが答えなのだと、紅丸は悟った。
これだけの会話の中で、自分はまだしも、彼女から冗談も軽口も出ないことは
この会話の先に待つ言葉を予感させる。
「一つは、古典的に生贄。これは遠くにいるオロチの眷属の精神体を引き寄せるのが主ね。
一つがバイパス。近い属性の力を持った相手を通じて、自分の中の力を少し解放できる。
もう一つは、血の略奪。オロチでも、そうでなくても血に力を持つものから、
その血に秘めたモノを奪い取って、その力で自分の力を動かす。力技ね」
紅丸は、見えないシェルミーの目の位置をじっと見つめ、言う。
「ひとつめがあのときの死体、ふたつめが俺…みっつめが―――」
どこまでも熱く、まっすぐに生きた、親友によく似た男を思い出して、紅丸は
「…霧島か」
噛み締めるように言った。
・35分前
「かすみ、ひとつ聞いておきたい」
おそらく移動する、しかも地下では監視は困難だろう、と車両についた監視装置をあらかた破壊した後、
ケーブルは座席に腰掛けて向かい合わせたかすみに問いかけた。
「あの男のことを知っていたな?なぜ何も言わなかったんだ?」
あの男、重要な手がかりと犬福と呼ばれていた奇妙な獣を持って逃げ去ったあの男のことだろう。
なぜだろう、自分でもわからなかった。ただ、ケーブルたちの後ろに彼の姿を認めたとき
とても切ない思いに駆られたことだけは確かだった。
かすみはヴィレンの名を知らない、だからその時心の中に去来したのは
「あの人、あの子と離れちゃったんだ、ひょっとしたら死んじゃったのかも…」
という思いだけだった。最終的には後ろから襲われたにもかかわらず、
圧倒的な蒼月による蹂躙から怪我した体で必死に少女をかばって逃げた彼にかすみはあまり敵意を持っていなかった。
ケーブルは結局、かすみの思考からは「少女をかばっている彼に会った」くらいしか読み取れず、保留しておいた。
だがその後の展開でさすがに捨て置くことのできる疑問でもなくなったので問うたというわけだ。
もしも彼女があの男と通じているならば大変な罠のど真ん中にいるわけだから、これは仕方ないことではあった。
「ええとですね、私も別によく知っているわけじゃないんです。ただ、襲ってきた女の子を助けてて…ええっと」
かすみはうまく言葉にできないヴィレンの印象をポツポツと語り、ケーブルは納得したのかひとまずこのことへの追求を止めた。
「なあオッサン、なんか聞こえねえか?」
エッジがふと、真っ暗な窓の外を見つめて発した言葉にケーブルははっとなる。
「水音…?ここは地下だぞ」
列車の音にかき消されてかすかにしか聞こえなかったが、確かにそれは大量の水が流れている音のように聞こえた。
「少し向こうに思念がある…遠くて思考までは読めないが、一人…いや、二人か?よくわからんな」
「向こうっつったって地下鉄だぜここ…あ、駅か、誰か乗ろうとしてるんじゃねえか?」
「どうかな、まあどのみち終着まで停車しないのだから乗り込めはしないがな」
・27分前
「何故あんな危険な真似を?」
激流に揉まれながら階段をウォータースライダーのように滑り落ちるネオに
その流れの上で平然と直立している蒼月が訊いた。
「だっておわっぷ、ガボッ…おま…ちょゴボ…!?」
流れに翻弄されながら必死に答えようとするネオだったが、もちろんまともに話せるわけはなかった。
だが数秒後には大きく開けた口から流れ込んでくると覚悟した水は入ってこなくなっていた。
ネオがはっとして横を見ると、水の上に立つ蒼月の姿がすこしゆがんで見える。
そしてしばらく悩んだ後、自分がバリアのようなもので保護されていることに気がついた。
もしかしなくても蒼月の力に違いなかった。
「こういうのできるならもっと早くやってくれよ!」
「助けたのに文句言うんじゃありません。で、何故です?」
蒼月の問いかけの意味はすぐにわかった。あの危険極まりない発言についてだ。
「もし私が水邪に乗っ取られたままだったら、次の瞬間首が飛んでいてもおかしくなかったですよ」
「そうじゃないと思ったから言ったんだろうが。それにあの場の二人にゃとっちゃあの場から消えるまで
お前にはバケモノでいてもらわんと乱戦になりかねないからな」
ネオの言うとおり、リュウも剛も、圧倒的な力を見ているからこそ、目の前に突如現れた蒼月に手を出しあぐねていたのだ。
あの場でネオが蒼月と「普通っぽい会話」を始めたら戦局がどう変わるかわかったものではない。
そこでネオは一か八か「俺は気づいているから」というサインを一言の罵倒に込めたのだった。
剛を「危険人物」と判断したネオだったがだからといってリュウが安全と決まったわけではなく、
ネオにとってあの場で最良の判断は二人ともから離れることだったわけで、彼は賭けに大勝ちしたのだ。
「まんざら阿呆でもないのですよね、アナタは」
そう蒼月が言うとネオを包む水のバリアの一部が盛り上がり、ゴン、とネオの頭を殴りつけた。
「ってー!!なにすんだ蒼月!」
「それでも私を莫迦と言ってただで済むとは思わないことです」
・First Bet:26分前
バシャン、と音がして大量の水が自分と蒼月の回りの地に落ちる。
それまで二人を運んでいた水は一旦、ただの水へと成り果てて辺りを濡らしていた。
濡れた足元を見てようやくネオは自分が階段からホームまで運ばれてきたことを知った。
「さて、ではそのチカテツと言うものを止めましょうか」
「どういうことなんだ、簡単にでいいから説明を」
「水邪を封印するカギがそれで運ばれています」
「もう少し詳しく…」
「予想外に早くそれが近づいてきたため戯れに夢中だった水邪が気づくのが遅れ、
水邪の力が抑制されたことで、私が意識の表層に返り咲きました。
そのカギ、青龍という刀ですが、それを手に出来れば水邪を完全にコントロールできます」
蒼月の言葉を聞いてネオはぞっとした。彼の言葉が本当ならば、水邪は未だ蒼月の中で暴れ
彼はそのカギの余波と自分の意思で水邪を押さえ込んでいるということだ。
そしてもっとぞっとしたのは、この機会を逃すと、おそらく蒼月は
二度と水邪から風間蒼月に戻る事はないだろうと悟ったからだった。
ついでに言うと地下鉄を止めるという無茶な発言にも相当ぞっとしていた。
「でもな、蒼月、お前が想像している地下鉄がどんなものか知らないが…」
「来ましたね」
徐々に轟音が近づき、遠くに光るライトが見え、かすかに車体が確認できた時、蒼月が予想外の声をあげた。
「…なんで大きいと言わないのです!」
「だ、大丈夫だって、ここ駅だからきっと止まって…」
しかし、一向に減速する気配をみせない列車を見て、
地下鉄を知るネオにも、それが最低でもこの駅を通過するだけの速度であることがわかる。
「やばい、アレ止まらないぞ!どうすんだよ蒼月!」
「強引に止めるか…どうにか中へ乗り込むしかありませんね」
己の自我を賭けて、蒼月は手を伸ばした。
【ネオ(全身打撲、主に足) 所持品:魔銃クリムゾン・食料等、多目的ゴーグル、使い捨てカメラ写ルンDeath、
目的:アクセスポイントに行き外のジオと連絡を取って事件解決!(推理が当たっているかどうかはまだ不明)
メモを舞の遺族に渡す。リョウを助けたい】
【風間蒼月 所持品:なし 目的:青龍を手に入れるため列車に乗り込むor列車を止める】
【現在位置:5区中央駅ホーム(ケーブルたちの乗った地下鉄と接触寸前)
・Second Bet:18分前
剛は歩き出していた。
目的は決まった。
数少ない選択肢を一つ一つ潰した結果だった。
最初に考えたのは、やはり水邪の後を追うことだった。
しかし、まだリュウがいるかもしれないあの場所へ戻るのはリスクが大きい。
それに一瞬の出来事だったが、水邪の態度がおかしかったような気がした。
ひょっとすると、次に会っても自分の力にはなってくれないのではないか。
そんな予感がして、この選択は露と消えた。
次に思ったのはこのまま息を潜め隠れることだった。
だがそれには左腕の傷は深すぎた。
いくら残りが20人足らずとは言え、終わりが見えないこの祭りの中
緊張と恐怖に耐えながら滴り落ちる血を見つめ続けるのはどう考えても無謀だった。
いっそ死のうかとも思った。しかしそうするには彼は生きることに意地汚すぎた。
ひっそりと自分の人生に幕をおろすくらいなら最初からあの場で戦うことを選んでいたはずだ。
最後に残った選択肢は
「ジョーカーに戻ること」
だった。主催者側に、自分がまだ有用な始末屋であることを知らしめ、ジョーカーに返り咲き
手厚い看護をうける。これが現在考えられる最も生き残れる策だと思えた。
しかし、そのためには「仕事」をしなければならない。
といってもニーギやリュウに今の自分が対抗できるとは到底思えない。
数刻前のネオの言葉を思い出す。
「急がねえと、アイツ怪我してるし!」
そう、とりあえずはアイツ、自分を探しているはずのアイツを殺そう。
そして、俺は生へのロープを手繰り寄せるんだ。
決意して歩く。ネオを見つけた瓦礫を目指す。
己の生を賭けて、剛は追われる者から追う者へと変貌した。
【日守剛 所持品:ウージー(残り弾僅か、一度撃ったら空になる程度)、包丁、果物ナイフ
目的:リョウを見つけ、殺すことで主催側にアピールしてジョーカーに戻り、治療を受ける
左腕欠損。血は多少止まったが放置すればいずれ命に関わる。】
【現在位置:3区】
・8分前
「最初の人は、効果なかったわ、この街に張られている結界みたいなもので、そもそもオロチの眷属としての
精神体とのリンクは完全に遮断されていたみたい」
シェルミーは空を見回す。そこには月夜に流れる雲が見えるだけだったが、彼女が見ていたのはその結界だろう。
「そしてアナタと出会った。本当、こんなに相性がいいとは思ってなかったわ…かなり自由に使えてたのよ、力」
「相性ねぇ、本当、ベッドの上で聞きたい台詞だよ」
「それでも、本来の力には遠く及ばなかったわ…それで、命が尽きる奴隷クンから、血の力を奪おうとした」
「だが、うまく行かなかった、と」
「彼ね、自分の心とともに、力のほとんどを持って、翔んでっちゃったわ」
紅丸はあの時のシェルミーの言葉を思い出す。『翔んだわ』と、彼女は言った。
なるほど、と心の中で呟いて「アイツらしいよ、ほんと」とその後に続けた。
・5分前
「それで、キミが言いたいことは、それだけじゃないだろう?」
もうシェルミーは沈黙しなかった。ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「本当はね、あの剣があれば、可能だったのよ、力の解放」
あの剣、少女が持ち去った雷の力を凝縮したようなアレにはそれほどの力があったのだという。
たしかに、アレが起こした惨状を目の当たりにしている以上、素直にそうだろうな、と思えた。
「後はね、それを持ってたボウヤ、あの子でも多分可能だった、でもね」
社の亡骸を胸に押し付けて体を強張らせる。
「そこまでしなくても、社と合流できたら、なんとかなるって。クリスの仇も取れるって、思ってたのよ…」
そして、その後は語るべくもない。
社の最期を看取り、わけもわからない人魔に翻弄されて、己の無力さを痛感する。
紅丸も同じ想いではあったが、シェルミーの言いたいことはそれではない。
まだ、先がある。
紅丸は、その言葉を促すように、最後の質問をした。
「もしキミが全ての力を解放したら、さっきのヤツには勝てるのかい?」
「………正直に言うと、それで五分以下ね…おそらくアレの全力はオロチクラスよ」
「今の俺とキミで挑んだら?」
「………400%死ぬわ」
そして
「だから、だからね…紅丸…」
Final Bet:現在
「アナタの命を…私に頂戴」
己の全てを賭けて、シェルミーはパートナーの肩に手を置いた。
【二階堂紅丸(消耗気味、左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本 ボウガン(矢残り4本)
目的:シェルミーの言葉に応えるor拒否する】
【シェルミー(左肩、右腕負傷 全身打撲) 所持品:リボルバー式拳銃(装填数2)
目的:力を開放する】
GJ保守
新作キテター!超GJ!!
それぞれのキャラがどんな方向に歩き出してくか気になる展開だ
こわっ!保守
保守するしかねえ…
今は保守が精一杯
かさぶたが落ちたな
保守
かさぶた普通にあるじゃん
こわいよ!
HOSYUせよ!HOSYUせよ!
板移動で過去ログいってたから落ちたのかと思ってかなりあせったYO
保守でございます
保守
ぶっちゃけこのまま1000までいったらどうするよ?
241 :
ゲームセンター名無し:2007/01/22(月) 22:21:45 ID:OWFH3aUPO
その前にこっちを……
242 :
ゲームセンター名無し:2007/01/22(月) 22:57:02 ID:nlUWktVe0
>>240 メルブラ、アルカナハート、DOAキャラに清き一票を
>>242 ごめん響と八角さんに入れちゃったから無理w
このまま終わってしまうんだろうか保守
いいやまだ終わらんよ保守
ずっと見てる俺がいる
保守
保守あげ
保守
ほしゅ
保守あげ
251 :
ゲームセンター名無し:2007/02/27(火) 01:05:16 ID:jkWyOik6O
ひよこーっ
253 :
ゲームセンター名無し:2007/03/05(月) 18:14:20 ID:ciu2JvW6O
こっちも保守だ!
254 :
ゲームセンター名無し:2007/03/10(土) 00:11:09 ID:M3m80XEiO
保守
久しぶりに来たら話がすすんでる、感動した
保守
↑保守で書き込みが進んでて感動したとかじゃないよね?
たまには保守以外の書き込みもするべきではないだろうかと思いつつ、一体なにを話せばいいのやらわからないのであった。
258 :
ゲームセンター名無し:2007/03/25(日) 00:23:48 ID:57sGx1AVO
ホスト
レッツ保守
ほ
このスレを見ている人はこんなスレも見ています。(ver 0.20)
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アニメキャラ・バトルロワイアル感想雑談スレ16 [アニキャラ総合]
まだ見てくれてる人もいるんだな。
二、三日前に見つけたから、途中から読めないのが悔しい。
脱出組の合流も見えてきたし、なんとかならんかなあ。
>>261と逆のパターンをしてみたが
取りに行ったけどなかった。次は一時間後に取りに行くです。
なんだこれ
265 :
ゲームセンター名無し:2007/04/20(金) 13:41:01 ID:So5wR/3DO
Fの方は元気だろうか
ここって読み手しか残っていないのか?
今までの書き手は他に移ったか、たまに見ていても
新作が出来ない内は名乗り出ずに沈黙を続けているとか?
268 :
ゲームセンター名無し:2007/04/24(火) 19:30:40 ID:daEb9ScmO
だれもいない
269 :
ゲームセンター名無し:2007/05/02(水) 23:18:21 ID:T1Ll0XrxO
HO〜HO〜HO!
このまま終わっちまうのかなあ。
外伝みたいなのは妄想できても、
本編の方はぜんぜん思い付かん。
271 :
ゲームセンター名無し:2007/05/19(土) 14:22:49 ID:YagJdfOs0
もうすぐ終わるのに…
誰かいないのか
住民はいなくなり外部の人間しか見ていない、
書き手はいなくなり読み手だけ残っている
実は書き込まないだけで書き手も読み手もいる
さあどれだ?
274 :
ゲームセンター名無し:2007/05/27(日) 10:58:09 ID:JOcj7i4jO
゚。(p>∧<q)。゚゚
275 :
ゲームセンター名無し:2007/05/27(日) 11:36:07 ID:rqoxZMmdO
F氏が結婚なされた今、過疎
276 :
ゲームセンター名無し:2007/05/27(日) 23:22:30 ID:Djx5z/Y5O
F氏結婚説の真偽のほどは定かではないが、
取りあえず今ここを見ている人間だけでも
感想スレに行かないか?
277 :
ゲームセンター名無し:2007/05/31(木) 20:40:41 ID:MJA4RKBYO
ぐるぐる
278 :
ゲームセンター名無し:2007/06/04(月) 16:27:42 ID:Dq3SNr4IO
(´,_ゝ`)プッ
まだ書き手が完全に離れたワケじゃない筈
証拠は?
素朴な疑問なんだけど
>>280みたいなのはここに何しに来てるの?
続けてほしいようでもないしただ煽りに来てるだけなのかなあ
283 :
ゲームセンター名無し:2007/06/11(月) 04:07:24 ID:U5PzJZVkO
ε=┏( ・_・)┛
284 :
ゲームセンター名無し:2007/06/15(金) 02:44:34 ID:czNYpinJO
こちらも保守
煽りはいらんよ
保守だっていらね。
新作が欲しい(´・ω・`) 。
保守がなければ消えてしまうよ
287 :
ゲームセンター名無し:2007/06/19(火) 23:44:52 ID:8ZarM4n9O
頑張れ
ほ
し
ひ
291 :
ゲームセンター名無し:2007/07/03(火) 12:07:50 ID:KUSnS98KO
心配だよ
292 :
ゲームセンター名無し:2007/07/09(月) 05:35:25 ID:CWq1ZxqUO
寂しい
293 :
ゲームセンター名無し:2007/07/14(土) 04:00:47 ID:5ptYaqypO
保守
294 :
ゲームセンター名無し:2007/07/19(木) 01:22:50 ID:yUIKRs/ZO
更に保守
保守の人は何か書かないの?
こまめに保守してくれるのは有り難いけど、
ただ待ってるだけじゃ何も変わらないよ…
296 :
ゲームセンター名無し:2007/07/19(木) 02:03:04 ID:yUIKRs/ZO
書けるならとっくに書いてるっつーの
297 :
ゲームセンター名無し:2007/07/19(木) 02:03:50 ID:yUIKRs/ZO
下手くそでなおかつプレイしてないゲームがある状態で書いてもいいなら書きますが
まあ新作ばっかりは書ける人でないと
どうにもならないからなあ…
後は過疎ロワスレにもあったが、
各作品に感想をつけたりするのも、スレの
モチベーションを上げるのに効果があるみたいだ。
結局ここが書きたいからこのキャラキープさせて><とか言ってたはいいがそのまま音沙汰も無くなってしまう人もいたしな
責任もってやっぱり無理です、他の方お願いしますって断っておけばよかったのに
300 :
ゲームセンター名無し:2007/07/20(金) 01:41:37 ID:bQ35g5IAO
悲しいね
>>301は住人のフリをしたアケロワアンチと見た。
ゲーム知識のない、下手糞な人間に書かせてまで無理やりにでも終わらせるってアホか。
帰ってくれ。
この前新規ロワスレの宣伝してた人間だったりしてなw
>ゲーム知識のない、下手糞な人間に書かせてまで無理やりにでも終わらせるってアホか。
君、正論に紛れて何気に酷いこと言ってるね
>>302
そもそもこれだけブランクがあって何もしてない人間が書くわけがない
306 :
ゲームセンター名無し:2007/07/24(火) 23:44:25 ID:rI7WycPPO
結局書いていいんですかね
やばい雰囲気ならやめときます
ゲームやったことなくとも、文書くのが初めてでも、
ちゃんとこれまでの話を読み返して、ネットとかである程度調べてればそれなりのものは書けるもんだ。
一番大事なのは前の話をしっかり読んでることなんだが、それができてるなら書いてみればいいだろ。
308 :
ゲームセンター名無し:2007/07/30(月) 00:03:30 ID:cEgKT2wUO
只今執筆中
309 :
ゲームセンター名無し:2007/08/09(木) 06:56:44 ID:KwShnE+SO
まだ終わらない
310 :
ゲームセンター名無し:2007/08/18(土) 10:50:22 ID:GawCW8rUO
終わらないし人いないし
やる気ねぇならもうやり直せよマジで
アニバトもう2ndまで行ってんぞ
312 :
ゲームセンター名無し:2007/10/23(火) 00:31:45 ID:M+GCm20AO
みんな、幸せにくらしましたとさ。
313 :
ゲームセンター名無し:2007/10/23(火) 20:20:25 ID:mofh3Ril0
315 :
ゲームセンター名無し:2007/11/07(水) 18:13:38 ID:FIwFNtm80
316 :
ゲームセンター名無し:2007/11/22(木) 21:56:50 ID:FYHTEWxWO
317 :
ゲームセンター名無し:2007/11/30(金) 23:09:51 ID:BCDRjUKIO
あるる
ねんのためほしゅ
男はただ前を見て歩いていた。
目的の場所に着くまで、いろいろなことが頭をかけめぐった。
思い起こせば、自分に求められていたのはいつでもその「有用性」であった。
組織の中でも、この会場の中でも、ただひたすら、その「有用性」を以ってのみ特権を許されていた。
逆に言えば、自分から「有用性」がなくなればすなわちそこらの十把一絡げと何一つ変わらないということである。
「有用性だ、俺の有用性をもう一度見せつけるんだ」
呪文のように呟いて、失った立場と左腕を取り戻すため、ただただ歩く。
確かに、その組織には力があった。有用と認めたものには何もかもが与えられるだけの力があった。
しかし、その「有用性」とは他者からの評価、つまりは常に上に何者かが居てのみ存在しうるレッテルである。
男はそれに気づけない。
いつまでも、誰かから評価されることを望み、誰かから与えられることを望んでいた。
男はそれに気づけない。
全て奪い取れると思っていた力も、誰かから搾取していると思っていた財力も、己を包んでいると信じていた自由も。
その手にあったのはいつゴミになるとも知れないものであると、最期まで気づくことはなかった。
男の名は、日守剛といった。
「ん…あ!?」
楓は目を覚まして青ざめた。
どれほどそうしていたのだろう、1分か、10秒か、完全に意識は眠りに落ちていたようだった。
電灯をつけたままの室内は明るく、その眩しさに眉をひそめながら楓は状況の把握につとめた。
「アルル!?」
今まで自分が寄りかかって眠っていた入り口のドアから身を離し立ち上がる。
思わず声に出すと、その足元から声が聞こえた。
「ん…かーくん?」
不意に名前を呼ばれたアルルは、同じように眠っていたのだろう、目をこすりながら眩しそうに顔をあげた。
「二人して寝ちまってたみたいだ、どれくらいかわかんねえけど……」
すべての責任は自分にあるといった表情で告げる楓に対してアルルは薄く笑って語りかける
「えっと、だいじょーぶ!さっき時計を見たときが8時だから…うげ、2時間くらいたってる……」
「なんだって!?」
「ま、まあなにも異常ないし……」
そう言って、ふと楓の足元に転がるバッグに目をやる。
「念のため、探知機で近くに人が居ないかだけ確認しとこう」
言って、取り出した機械のスイッチを操作した。
そして、二人が見たのは信じがたいほど近くに表示された2つの光点だった。
日守剛は依然、体を引きずるように歩いていた。
リョウが下敷きになっているかも、とネオの言っていた瓦礫(らしき場所)にたどり着いたが、そこには目的の人間も、その人間であった死体もありはしなかった。
もちろん怪我の重さから捜索はそう丹念にできたわけではないが、それ以上のものを見つけた剛は、捜索を打ち切ってそれを追うことに決めた。
その瓦礫付近から一本伸びる、細い棒を引きずったような跡である。
それを追って、ただただ歩いていた。
数分後、奇妙な物を見つけた。
この危険地帯でせっかくの暗がりの中堂々と明かりをつけた家と
その家の窓に、まるでショーウィンドウのトランペットを眺めるがごとく張り付いた男の姿だった。
遠くからその姿を見つけたと思っていた剛だったが、意外にも先に声をかけられた。
とはいえ、もう何度目か分からない、自分より上の存在をいくらもみせつけられた剛は驚きもしなかった。
その男が、自分を怨敵と憎み探し、自分が標的と狙い探していた、リョウ=サカザキであると確認するまでは。
リョウ=サカザキはただじっと、気配を殺してその窓を見つめていた。
無防備にも明かりの中眠るこの家の人間から、どんな手を使っても情報を取り出そうと思っていた。
すぐにでもどこかの入り口を破って中に入るつもりだった。
ただ、それはたまたま、例えば「玄関から入るより明かりの着いた部屋に直接入るほうが早いだろう」とかそんなことだっただろう。
リョウは窓を見た。その中の部屋を見た。
栗色の髪をした少女の、穏やかな寝顔を見た。
心の中に言い知れぬほどの感情が渦巻いた。
それは絶望であり希望であり、悲しみであり喜びであり、憎悪であり親愛であり……
彼が一部を除き、この街で押し止めていた、あるいは失ったと思っていた沢山のものだった。
顔立ちは似ても似つかない、ただ自分より年下の、髪の色が同じ少女というだけである。
しかしどす黒い濁流を胸の中にせき止めていたダムは、そんな小さな穴から崩壊してしまった。
「うぁぁぁあ…」
うめくような声をあげ、リョウの眼から涙があふれた。
小さな声と共に膝をつき、地面に顔を向けポタポタと雫を落とした。
自分の心は壊れてしまったのだと思った。
しばらく泣くと、リョウの心に平穏が訪れた。
この街に来てから、いや、愛する妹が壊れてから一度も訪れなかった平穏である。
リョウは子供のようにキラキラした瞳で、寝息を立てる少女の姿を見つめ続けた。
ずっとそうしていようと思った。
愛する妹を、ずっと守ってやると約束したあの日から、思い続けていた。
しかし、穏やかな心と裏腹に、研ぎ澄まされた五感は健在であった。
視界の端にもかからない位置に、人の気配を感じ、彼は振り向いた。
右手の刀を支えにして体を伸ばし、その方向に向かって歩き出す。
「俺からまた、妹を奪おうというのか」
そう、聞こえるように言い放った。
相手が誰であるか、見るまでもなく知っている気がした。
ずっと会いたかった相手だぞ、と誰かが耳元で囁いた気がした。
気配が2件ほど先の路地に身を潜めたのを見て、リョウは少し歩調を早めた。
「こんな近くに!」
最大範囲だと自分達に重なるほどの位置にその光点はあった。
アルルが縮尺を変えると、正確には住宅をいくつか隔てた先、およそ100mくらい先だとわかった。
「これ、なんて読むんだ?」
そう聞いた瞬間、楓は尻餅をついた。
「リョウと……ゴウだね」
それはその名前になにかあったからではない。
そもそも、アルルの答えはもはや彼の耳に入っていなかった。
楓は壁の向こう、おそらくはその二人がいるであろう方向を見つめたまま、口をぱくぱくさせている。
彼は感じていた。
過去の誰と戦ったときも、ロックと戦ったときも、ここまでのものを感じたことはなかった。
殺気である。
それも、ロックや自分の中の力が持ち得る超常的な力の結果でも、殺し屋の類の向ける刺すような殺意でもない。
それは憎悪であり、悲哀であり、憤怒であり、歓喜であり、安堵であった。
そういう圧倒的な感情の奔流に気圧されて楓は立ち上がれずにいた。
戦いの前、路地で待ち構えていた剛をじっと見たまま、微動だにしなかった。
目の前のその男が仇であると、確認する言葉すら発しなかった。
見た目は多少なりとも情報と違っていたはずである。しかしながら、体中の細胞がこいつの死を願っている。
その純然たる衝動を証拠として、リョウは確信した。
剛が「俺はツイてる、これで俺の有用性を再び示すことが出来る」と呟いたとき、おそらく剛ではないどこか
を見つめ「これまで、済まなかった」と、リョウは一言だけ呟いた。
次の瞬間、二つの影が躍った。
剛は間合いを計りながらリョウの状態をチェックした。
だらりと垂れさがっただけの左腕は、フェイクにみえないこともなかったが、その脱力具合で動かないと判断
した。おそらくこれがネオの言ったケガと言うやつだろう。
フットワークは軽く見えたが、少し上体がおぼつかなく見えるのは左腕が使えないせいでバランスがとりづら
いのだろうと自分の左腕を見ながら思った。
次に自分の状況を把握、結局十分な止血ができなかった左腕からは血が滴り、おそらく戦いという激しい動き
の中では数分が限度だと思われた。つまりそれまでに決着をつけなければならない。
剛の立てたプランはこうだった。
銃を持っていては関節を極められない、が関節を極めずに銃は当たらない。ならば関節を極めてから銃で撃て
ばよい。
目の前には片手で嵐のように剣撃を振るう修羅が一人、かいくぐるのは容易ではなかったが所詮は隻腕の素人
、リーチから外れればもう然と襲いかかってくる知能の低い動物と大差ないように思われた。
剛はまかり間違っても斬られることのないよう大きめの回避行動を繰り返しながら、ある一点へと向かってい
た。
それはリョウがこちらへ向かってきてすぐ路地に隠れた際、左の電柱の脇に立てかけたウージー。
建物の壁や電柱に押し付ける形で関節を極め、数本折って動きを封じて撃ち殺す、現時点で出しうる最善のプランだ
と思えた。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
息継ぎをするのも忘れるように、リョウは刀を振るった。
上段から振り下ろすと仇の男は大きく右へ避けた。すぐさま横に凪ぐとすでに間合いから2歩分ほどバックス
テップをしていた。
踏みこんで袈裟斬り、返す刀は下から上へ、逆袈裟、胴、突き、どれも仇を捕らえることは出来なかった。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
何度目か、仇がバックステップをしたところで、リョウは右手の刀を左手に持ちかえた。
いや、左手には握力もそれを振るう腕力も残されていない。ならばリョウはどうしたのか。
正気を疑うかのような眼差しで仇がこちらを見ていた。
リョウの左手甲より掌に向けて刃が生えていた。リョウは左手を振るうがまま斬りつける武器とすべく、自分の手に八十枉津日太刀を突き刺したのだった。
「コオオオオオオオオ!」
その異様な行動に一瞬ひるんだ仇の姿をリョウは見逃さなかった。
左の肩を浴びせるように振るうと、重心を増した左腕がその刃と共に大きく弧を描いた。
仇はそれをすんででかわしたが、リョウの右手にはすでに怒気を孕んだ必殺の気が練りこまれていた。
「がっ!?」
仇の水月に至近距離から叩きこまれた虎煌拳は、仇の内臓や骨をズタズタに引き裂いて、左に見える電柱に叩きつけた。
「ごふっ……」
血を吐きながら剛は後悔していた。
戦う前、冷静な分自分のほうが上であると剛は過信していた。
傲慢と言う名の火がその身を焼く段になり、ようやくその熱さに気づいた。
目の前のこれは人間でも獣でもない、復讐という無限の活力で暴れる鬼であると、認識するのが遅すぎた。
制御できない左手に刃をつけたその鬼は、振りぬいた左腕から伸びた刀で己の身をも傷つけている。
ざっくりと腰の辺りが斬れているのが見えた、しかしそれを苦にする様子もなくこちらへ寄って来た。
辛うじて後方を見た眼球が、自分のもたれた電柱を捕らえた。
ぐらぐらする意識の中で、剛は自分の悪運の強さに心から感謝した。
動け、動けと体に念じるが、激痛で薄れそうな意識の中、自分の右腕が電柱の裏に届いているかさえ怪しかった。
しかし、やっと届いたらしいその手の先に冷たく硬い感触を覚え、この期に及んで剛は口の端を歪めた。
鬼から見えない角度で、右の手をむすんではひらく。
激痛と共にだが、確かに動くことを確認する。
いつのまにか左手から刀を引き抜き、もとのように右手一本で上段に構えた鬼は、目前まで迫っていた。
剛はとうに失った左腕をかばうような動きで右手を動かす。しかし、その寸前で手は懐に消えた。
「くたばれっ!」
怒号と共に放たれたのは剛の隠し球、懐に隠し持った果物ナイフ。
そして振り切った手をそのまま背中に回して、服に貼り付けていた包丁を投擲する。
「ヌッ!?」
眼前の復讐鬼は一本目のナイフを避け、二本目をその手の刀で弾き落とした。
ダメージはない、しかし無理な体勢から振った刀に重心をとられ、その体はぐらりと傾いていた。
「俺の勝ちだ!」
自分が背を預けた電柱の後ろへ手を伸ばし、それを取り出す。
一気に自分の目の前へとかざし、引き金を―――
そう思った瞬間、鬼の背中越しに反対側の電柱から覗く本当の切り札が目に入った。
仇が取り出したのは、ボロボロの傘だった。
一瞬、静寂が場を支配する。警戒するも、その傘が開く気配さえなかった。
変わりに開かれたのは、仇の口であった。
「ク ソ が あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !!!!!」
リョウは、その声に応えるように下段に垂れていた刀の刃を返し、上に向かって振った。
とさっ、という思ったより軽い音と共に仇の右腕は、希望と勘違いしたそのゴミをつかんだまま切り落とされた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
仇の絶叫が耳に届く。失った両腕をぶんぶんと振り回しながら、壊れたおもちゃのように雑音を放つ。
どこかを斬ったらおとなしくなるかもしれない、ふとそんなことを思って刀を振り下ろす。
大した抵抗もなく仇の太ももは輪切りとなった。
「がぁぁぁぁぁ!!!!」
絶叫は止まない、噴出す血は止まらない。仕方がないのでもう一方の足も切り落とす。程なくして絶叫は止んだ。
「俺を…ハァ、いたぶるつもりか?……妹があったのと同じように…」
挑発なのか、懺悔なのかもわからない言葉を仇が放った時、リョウの脳裏にはさっき見たあの家の少女が浮かんだ。
「お前は俺から妹を奪い、また妹を奪うつもりだろう。妹を弄り、妹を弄るつもりだろう?妹のために俺ができるのは妹を壊したお前から
妹を守り妹を助けることだ。そうすれば妹は、ユリはきっと帰ってくる」
自身の発言の矛盾などとうに意識の外である。
「バカ……が…お前の妹はもう…壊れちまったよ。俺が壊してやった……」
仇が何事か呟いている。リョウはじっと、その顔を見つめ、噛み締めるように言う。
「お前のような悪党が相手ならば、覇王翔吼拳を使わざるを得ない」
リョウがまだ幼い頃、まだ極限流の基礎の基礎を習っている頃から口伝されている言葉があった。
「本当に悪と断じる相手には、覇王翔吼拳を使わざるを得ない」
リョウはこの言葉を度々呟いた。
まだちょっと喧嘩が強いだけのガキだったころ、近所のガキ大将に苛められたユリをかばって言ったこともある。
面白半分に、ヒーローごっこの中で使ったこともある。
が、歳を重ねるにつれ、その言葉には深い意味がある気がして声に出すときはいつも神妙な面持ちになった。
それは奥義であるこの技を会得してからもである。
試合で覇王翔吼拳を使うこともあった。しかし、そのたびにこの言葉を呟いて、思索にふけった。
「本当に悪と断じる相手には……」
そんな相手には、未だ会ったことのなかった頃のことである。
そして今、リョウはこの言葉を発した。
本当に悪と断じるならば、その者が一切救いの得がたい悪であったならば、してやれることは
全身全霊の奥義を持って、葬り去ることだけ、ただそれだけである。
それがこの口伝の真意であると、そう思って発した。
腰を落とす。
左手がだらりと下がってしまった。
このままではいくら気が練れていてもそれは虎煌拳である。
相手の全てを包むがごとく両手で放たねば、それは覇王翔吼拳ではない。悪を消し去る奥義足り得ない。
しかし、その左手はもう気が通うことがないのは一目瞭然、リョウはヒューヒューと息を吐く仇を見下ろし、次に動かない左腕と右手に持った刀を見比べた。
右手を大きく上げ、刀を突き刺す体制となるのを見て、仇は硬く目をつぶった。
しかし、その衝撃は仇ではなく、リョウ自身の体に訪れた。
骨の、神経の、血の、経絡の代わりとして、その左腕に飲みこませるように肩口から八十枉津日太刀を突き刺していた。
そして、相変わらず上がりはしなかったが、その芯に妖刀を挿しこんだ左腕は下に向けてまっすぐに伸びていた。
気を練ってみる。
挿しこんだ八十枉津日太刀が動脈のように気を通じるのを感じた。
よし、と頷いて、リョウは気を込めた。
眼前の仇はもはや、結果として消えるだけの対象であった。
その奥義のために練りこむ気によって、リョウは己自身と対話をしたような気分だった。
明かりの少ない夜中であると言うのに、その腕は温かみを帯びた光に包まれていた。
力強く、物悲しく光った腕から、怒号一閃。
「覇王翔吼拳!!!!」
小さな太陽が、サウスタウンの裏路地に堕ちた。
ズゥン、と地に響く音を聞き、アルルと楓は身構えた。
「あ!」
手にした探知機より光点のひとつが消えたのを見てアルルが声をあげた。
「残ったのは?」
「んと、リョウってほうだね」
「つまり、リョウって奴が剛って奴を殺したってわけか」
楓が呟くと、残った光点、リョウが移動を始めた。
向かってくる先は間違いなく今自分達のいる建物である。その移動速度はえらく遅く、ひょっとするとゴウという奴との戦いで負傷したのではとも考えた楓だったが、
なによりもこの建物が狙われていると言う事実に対応すべく、手荷物を持ち、アルルを連れて玄関から飛び出した。
先ほどの地響きがリョウの手によるものであるとするなら、大規模な爆発物や超常的な力を持った参加者であることは明白だった。
建物ごと攻撃されるよりは見晴らしのいい場所で対応すべきと考えた結果だ。
もちろん、探知機で可視範囲に別の参加者がいないことを確認した上での行動である。
「来た!」
路地からその足が見えたところで探知機をバッグに押し込んで、楓は封雷剣を構えた。
が、しかし、すぐにその構えをといてすぐに動けるように心積もりをするだけに警戒の度合いを引き下げた。
この暗い道でもわかるほど、その男はボロボロの死にかけだった。
全身がみえるとさらに顕著にわかった。
腹から血を流し、左腕からは折れた刃のようなものが何本も突き出していた。
足取りは引きずるほどに遅く、目はどこを見ているのか定かではないようだった。
しかし、ゆっくりと、間違いなく最期の力を振り絞って、その男はこちらに向かっていた。
「どうしよう、かーくん」
「あ、ああ、もう何もしなくても死にそうだけど仕留めたほうがいいかもしれない。死にかけと思って後ろから撃たれるのは御免だしな」
再び楓が剣を構えようとした時、近づいてくる影は声をあげた。
「ユリ…!ユリ…!無事だったか…!」
そのあまりの笑顔に、結局逃げることも斬りつけることもなく対峙してしまった楓とアルルは次の行動を起こしかねていた。
敵意があれば敵だが笑顔とて味方とは限らない。もちろんそんなことは分かっていた。分かってはいたが、この死に際の男の心の底から嬉しそうな顔を見てどうしろというのだ。
その男、リョウはその血まみれの体でアルルの前に膝をついた。
アルルの体が硬直し、半歩あとずさる。血の色に恐慌が湧き起こりそうになる。しかし
「ああ、ごめんな、こんな汚れた格好で。でも、お前をいじめる悪い奴はちゃんとやっつけてきたからな」
「…え?」
言葉の意味がわからず、アルルは楓を見やる。
「でもな、兄ちゃんちょっと張り切りすぎて疲れたから、あとはロバートに任せる」
そう言って、今度は楓を見上げた。
「え…俺?」
少し腰を上げて、アルルと同じ目線になるリョウ。
そのまま、ゆっくりとアルルの頭へ手を伸ばす。
<血ダラケノ手、死、怖イ…嫌…!>
あと数秒遅ければアルルは絶叫し、魔法を放ち、リョウを殺していただろう。
しかし、リョウの大きな手がアルルの頭をくしゃくしゃと撫ぜると、アルルの恐怖は空に溶けるように消えてしまった。
とても安心できる、頼もしい大きな手だった。
それは家族の手、兄の手、護る者の手だった。
「いいかロバート、ユリを泣かせたら絶対許さないからな」
脅すような口調でそう言って、楓を睨みつけた。
「え、あ、ああ……」
決して心地悪くないその迫力に気圧されて、何故か楓は頷いてしまった。
「ユリも、極限流の家に生まれたんだ、何でもかんでも泣かないこと、いいね」
相変わらずくしゃくしゃとアルルの頭をなでながら、諭すように言うリョウに、アルルもまた戸惑いの中首を縦に振った。
「よし、約束だ。ユリはずっと笑顔でいること、ロバートは俺の代わりにユリをずっと守ること、あ、あと俺が借りてた金は水に流すこと」
「う、うん」
「ああ……」
「お?!いいのか?いやぁ勢いで言ってみるもんだなあ、ラッキー!」
リョウはにこやかに笑って、アルルの頭から手を離した。
そして次の瞬間、リョウの姿はかき消えた。
「え!?」
「消えた!?」
それまでの異様なまでの穏やかな空気が消し飛んで、涼しげな風が吹きつけた。
楓は剣を構え、周囲を警戒する。
アルルも楓に寄り添い、すぐに動けるように備えた。
しかし、何も起こらない。数秒がたち、1分以上が過ぎても、周りにはなんの気配もなく、何も起こらなかった。
ふと、楓はバッグから探知機を取り出し、リョウの位置を確認する。
しかし自分達の周辺はおろか、おおよそこの場から立ち去れるであろう位置まで、まったく何の反応も存在してはいなかった。
「どういうこと…?」
「さあ、まさか寝ぼけてるわけじゃねえよな……」
アルルが渋い顔をしたのを見て、楓はゆっくりと歩き出す。
「さっきの戦いの場に行ってみよう」
そう呟くと、アルルは何事か考えながら頷き、その背を追った。
楓がその路地を曲がった時、まず目に入ったのは小さな、といっても人一人分ほどのクレーターであった。
コンクリートの地面がいびつな形にえぐれ、ちょうど大人が一人入れるほどのくぼみができていた。
よく見るとその中央には、自分達にもつけられている忌々しい首輪が落ちているようだった。
そして、次に目に入ったのは、そのクレーターの横に倒れる人影だった。
「リョウ…?」
警戒しながら近づくと、体を丸めるように倒れているのはさっきまで自分達の眼前にいたはずのその男だった。
格好やケガの箇所に至るまで楓とアルルが見たそのままであったが、すでに息はなかった。
「ココまで一瞬で戻って死んだ…?」
「ううん…多分違うよ」
アルルが楓の言葉を否定した
「かーくんも知らない?強い想いが形を成すことがあるって」
「霊魂の類の話か?」
「そうとも言えるし、違うともいえるけど……」
アルルは腰から前に折れているその血まみれの死体をゆっくりと起こし、その顔を確認した。
「ボクなんかで、よかったのかな……」
その満面の笑みを見て、アルルは急速に熱を失って行くリョウの手をその両手で包みこんだ。
もう、恐怖はなく、逆にその死体の手を握ることで暖かい気持ちが湧きあがりさえした。
楓はそれを見て、先ほど確かに会話を交わしたはずのリョウの言葉を思い出していた。
「ずっと守ること…か」
夜空を見上げると、龍を思わせる星の連なりの中から、一つの星が流れて消えた。
【日守 剛:死亡】
【リョウ=サカザキ:死亡】
【アルル・ナジャ:所持品:1/10ウォーマシン(電池切れ、充電は可能)、草薙京のグローブ、ハーピーの歌声入りラジカセ
目的:利用できる全てを利用し生き残る】
【楓(覚醒状態、肉体・精神共にそれなりの疲労)
所持品:探知機(有効範囲1q程度、英語表記)、K´のアクセサリー、封雷剣、
目的:アルルをずっと守る】
【捕捉:八十枉津日太刀は負荷をかけすぎてリョウの腕に刺さったまま破壊、果物ナイフ、包丁は暗がりの路地裏に落ちたため回収不能、
ウージー(残り弾薬わずか)は剛が死んだ電柱とは反対側にある電柱に立てかけたまま放置。アルルの流血恐怖症がかなり緩和。精神的にも少し安定。】
「なぁ、シェルミー……」
緊迫した雰囲気を振り払うように俺、二階堂紅丸は、頭をがしがしと掻いてわざと軽めのトーンで言った。
「なに?」
対するシェルミーはもはや取り繕うことなど何一つないという様子で至って簡潔に応える。
正直、この対応はショックだった。
こういった態度のシェルミーはこの街で出会ってからはもちろんのこと、キングオブファイターズで戦う前後、さらにはあのオロチと対した大会での『本性の彼女』とすら違ったからだ。
「落ち着いて考えないか?なにか方法だってあるはずだ、たとえば――」
「あのお嬢ちゃんの持ってる剣を奪う?異能者の力を略奪する?それが出来ないほど今の私達が弱いから貴方に頼んでいるのに?」
俺は二の句が次げない。シェルミーの言うことは確かだ。
あの雷の力を持った剣を奪うのならあの少女を、ルガールの手先と名乗り、目の前で信じられないような方法
で虐殺を行った彼女を倒さなければならない。異能者にしても、その異能者に並ぶための手段が異能者を倒し
ての略奪…馬鹿げていた。
例えるなら遥か彼方ガソリンスタンドまで行く方法が今乗っているガス欠の車しかないようなものだ。
「仲間を探すっていうのは」
「いるの?今の時点で命を預けられる仲間が?」
俺は自分が把握する限りの、放送で呼ばれていない人間の顔を思い浮かべる。
先ほど別れたリュウ、戦った水使い、その仲間と思われる二人、あとは、復讐の鬼となったリョウ=サカザキ……俺達からあの剣を奪った少女も生きているだろうし、その剣を持っていた少年はどうだろうか……
今挙げた人間はリュウを除き現時点で全て敵だ。前の放送で告げられた残り19人、自分とシェルミーを除き、目のまえで死んだ人間を除くと、間違いなく絶望的と言える人数しか残らなかった。
「でも、俺の命で本当に君の力は戻るのかい?」
思案の末に俺が発した言葉は、結局彼女の選択に対する確認だった。
彼女の出した洗濯は俺が持っているガソリンを奪って給油すること。しかし、それが本当にガソリンなのかど
うか、どうしても俺には疑問が残った。軽油や灯油だったら?車は動くことはないんじゃないのか?
「十中八九大丈夫…バイパスとして使ってこれだけ出来たなら血肉を取り込めば内部から引き出せる」
えーと、なんであろうと彼女の体内でガソリンに変えるから相性さえあえば、ってことね。エコロジーなことだ。
俺は大きく溜息をついて、いつもなら絶対しない行動に出た。
すなわち、肩に置かれた手を振り払い、レディを睨みつけるというフェミニストにあるまじきそれだ。
「お断りってことね?」
「君のたっての願いだ、オトコの甲斐性としては叶えてやりたいんだが……」
言いかけたところで俺の眼の前に柔らかそうな彼女とは対象的なカタいものが突きつけられた。
「同意の上じゃなくても、別にいいのよ」
おでこのど真ん中に拳銃の冷たい感触を突きつけられてなお、いや、だからこそ俺は彼女から目を逸らさない。
「こちらこそ、説得されてはくれないかい?」
「……御免なさい」
俺は右足で地面を蹴り、左に跳ぶ。
一瞬前まで俺の頭があった場所を鉛の玉が通過するのを確かに見た。
左脚を伸ばし、右手を地面についてブレーキをかける。
左手でボウガンを取り出して構え、彼女に叫んだ。
「こんなこと、望んじゃいないくせに!」
「勝手に人の心を決めつけないで!」
もちろん俺には彼女を撃つ気はさらさらないけどこうでもしないと均衡がとれない。
語り合うために武器を持つなんて悲しいね、なんていつもの俺なら吐いているところだけど今回ばかりはそういったことさえ許してくれそうになかった。
「私は、貴方の命を使って、力を取り戻して、復讐を…するの…!」
一言ずつ噛み締めるように、いや、あれは自分に言い聞かせるように、かな。
でも、女性の嘘を見抜けない俺じゃない。
「それで、復讐して、死ぬのかい?」
彼女の顔がはっ、と固まる。
まあ髪で隠れて表情は分からないけど、体をこわばらせたからきっとそうさ。
「今の君は死に場所が欲しいだけだ。死ぬ理由を求めてるだけだ」
「違う!」
そう言って、俺はゆっくりと歩み始める。
「もちろん俺だって殺された奴らの仇はとりたい!」
「だったら!」
あと4歩。
「それでも、死んじゃダメだ」
「でも!」
あと3歩。
「俺の命をあげて君が笑っていられるならやるよ」
「え……」
あと2歩。
「でもやっぱり、俺のキャラとしては」
「……」
あと1歩。
「泣いてるレディを慰めるのが先だろ?」
ぽすん。
ゴール、見事彼女は俺の胸の中、と言うわけだ。
「紅丸……」
胸の中のレディが俺の名を呼び、ゆっくりと手をとる。
「いや、当然の、ってシェルミー?」
「ごめんなさい」
彼女がとったのは俺の左手。
「ちょ……」
「ありがとう」
絡めた指はその引き金。
「シェ…」
バスン、と音がした。
しなやかな彼女の指に絡められた俺の指が
彼女の胸にむけてゆっくりと持ち上げられたボウガンの矢を放つ音だった。
ズン、と音がした。
美しい彼女のバストラインに鋭い矢が飲みこまれる音だった。
「なんだってこんなバカな真似を!」
「…ンフフ…」
魅力的な胸から全然似合わないアクセサリーを生やした彼女が、俺にゆっくりともたれかかる。
「俺の命を使うんじゃなかっ…!?」
俺は最後まで言葉をつむぐことさえ許されなかった。
俺の口はカギをかけられてしまった。
死に際の彼女の情熱的な口付けによって。
彼女の手で体が抱き寄せられるのを感じた。
彼女に刺さった矢が俺の胸に当たり、ずぶりと彼女に一層深く突き刺さるのを確かに感じた。
彼女の舌が俺の口をこじ開けるのを感じた。
俺は拒まなかった、その唇から伝わる熱と、何も出来ない悔しさに立ち尽くしていた。
彼女は少し口をズラして咳き込む。
俺の体に彼女の痛みが伝わってくる気がする。
俺がなにか言う前に彼女はすぐに再びの熱い口付けを俺に押し付けた。
そして次に感じたのは、繋がったままの口から流れ込んでくる彼女の血の味だった。
「…ぷはっ、ふふ…ごちそうさまでした……」
しばらくの後、唇を離した彼女は、いつものように怪しげに微笑んでそう言った。
そして、崩れ落ちた。
「シェルミー!いったい何だって言うんだ!どうしてこんな!」
俺はすんでのところで地面に叩きつけられる彼女を受け止め、抱きかかえたままで問う。
「やぁねぇ、あんなに愛し合ったあとにそんな野暮な……ゴホッ」
軽口の合間にも彼女は咳きこんで血を吐く。おそらく重要な器官のどれかを矢は貫いたのだろう。
彼女の思惑通り、正確に。
「貴方が、私のために泣いてくれたときに、ああ、もういいかなって、思っちゃったのね」
「俺が?君のために?いつだよ!そんな覚えもないことで俺は!」
「気づいてなかったのね……」
そう言って、彼女はゆっくりと手をあげて俺の目の下をぬぐった。
「さっき、私を説得しているとき、貴方泣いてたのよ……」
そういった彼女の指はかすかに濡れていた。
「…でも…」
俺は反対の目の下を指でなぞる。
確かに、涙を流した跡があった。その道ができたのはきっと、彼女を抱きしめるため歩いていたあの時のことだ。
「それでね、なんだか満足しちゃって」
「満足って……なんだよ…」
俺は彼女の言葉の意味を図りかねたまま、その顔を覗きこんだ。
「きっと私はこの男を殺せないし、この男は私を死んでも守るだろうって、それがわかったの」
「そりゃ、俺は君のナイトだから…」
「ええ…そうだったわよね」
彼女は苦しそうに微笑んだ。
「だから、そのナイトさんに全て賭けてみようかなって」
「…賭け?」
「オロチの血と、私のできる限りの力、貴方に渡したわ。多分拒絶反応とかすっごいけど…貴方なら」
「な、なんだって!?」
俺はさっきの情熱的な口付けを思い出した。
拒絶反応……なんだか心配な単語はさすがに聞き流せなかった。
彼女の話が本当なら、さっきの俺のたとえで言うと軽自動車にハイオクを入れるようなもんだ。
いや、ひょっとしたらストーブにガソリンとかそういう…
どう考えても走らない組み合わせばかりが思い浮かんだが、考えないことにした。
「変な人よね、死んじゃダメって言ってるのに、私が笑えるなら自分の命はいらない、なんて」
「変…そうかな…これでもいい男で通ってるんだけど…」
俺は突然告げられた大バクチにたいする動揺を必死で抑え、失態を見せまいと伊達男の仮面をかぶりなおした。
「そうね、本当にいい男、喧嘩はあんまり強くないけど…男前だったわ……」
手の中で彼女の体から力が抜けていくのを感じる。
「ダメだ!死ぬなシェルミー!俺は…俺は君を……」
「ダぁメ♪安い同情で告白すると後悔するわよ」
風が吹いた。
彼女の髪が風になびいて、ひょっとしたら初めて俺は、彼女の目を見た。
イタズラっぽくウインクした、キュートな瞳だった。
「私、今この世で一番紅丸が好きかも」
「え…」
「でも、あの世まで含めたらやっぱり、社が一番ね」
「…そっか」
力なく笑う俺に、彼女は微笑んだ。
「貴方さっき…私が…死に場所を探しているって言ったわよね…」
「…ああ」
「あれは間違い。私、死に場所はずっと昔に決めてあるの」
「……」
「好きな男の胸の中で、ってね」
俺は声が出ない、彼女の精一杯の笑顔に応えてやるのがいい男だろうか。
きっぱり振られたことに自虐的に笑って見せるのがいい男だろうか。
2番目とはいえ好きと言われたことに感謝の言葉を言うのがいい男だろうか。
だとしたら俺はいい男なんかじゃなくていい。
「シェルミー!!」
何も考えず彼女を抱き寄せた。
涙でぐしゃぐしゃの、レディには見せたことのないダサい顔をそむけもせず彼女を見つめた。
ゆっくりと動く彼女の唇を見つめながら、自分の口は震えるばかりで何ひとつ気のきいた言葉が出なかった。
彼女は、そんな俺を見て穏やかに微笑んだ。
「バイバイ……紅丸。社とクリス以外の男といて……初めて……楽しかったわ」
「シェルミーー!!!!なんで、なん…グッ!?」
俺は彼女の亡骸を抱えたままの慟哭の矢先、激しい眩暈に襲われた。
眩暈だけではない、なんとかシェルミーの遺体を地に横たえてから、自分自身ももんどりうって倒れてしまった。
耳にはこの世のものとは思えない怪音が響き、脳裏には血や破壊のイメージがあふれ出る。
激痛につぶった目をなんとか開けば、そこにはまだら模様の世界がある。
骨という骨が砕け、内臓が食い破られたように感じた。
血が沸騰し、血管からあふれ、体が内側から焼かれていると思った。
心臓が信じられない速度で脈打ち、沸騰した血液を送るたび、俺の体は焼かれ続けた。
俺の血をオロチの血が食い荒らしているのだと、薄れ行く意識の中で気づいた時、シェルミーの笑い声を聞いた気がした。
目を開く。
ゆっくりと立ち上がり、周りを確認する。
辺りはまだ暗い。丸1日寝ていたのでないとすれば、そう何時間もは経ってはいないだろう。
足元を見ると、すっかり冷たくなってしまったシェルミーの亡骸があった。
俺はそれを大切に持ちあげて、近くにもたれさせてあった社の亡骸に寄り添わせる。
「ちょいと妬けるが、向こうじゃ仲良くな」
そう告げて背中を向けようとした時、頭上からきしむような音が聞こえた。
どうやら二人を寄りかからせた建物についていたネオンの看板が、先ほどの水使いの弾で壊れたらしく、ぐらぐらと揺れて今にもおちそう
だった。
俺は自分の力を確認するように、大きく息を吸った。
少し強い風が吹き、巨大なネオンがぐらりと揺れ、轟音と共に落下して来た。
俺は二人の亡骸に背を向けた形で、タイミングを計る。
「暗黒雷光拳!」
いつもと異なる黒味を帯びた雷が俺の拳に纏われていた。
落下の速度とその重さを全て受け止めてなお、その拳はネオンを俺達に被害が及ばない位置まで飛ばしてのけた。
体の中で暴れたオロチは、今はおとなしく俺に従っていた。
認められたわけではないだろう、暴走の危険もあるだろう。
しかし、今はこの力がありがたい。この先に進むには力がいる。
確かめるように拳を握りなおしたとき、俺の耳に今一番殺してやりたい相手の声が聞こえてきた。
『諸君……』
「社、シェルミー……行ってくる」
放送を最後まで聞くと、俺は今度こそ二人に背を向けて、ヤツの待つ場所へと歩き出した。
【シェルミー:死亡】
【荒れ狂う稲光の二階堂紅丸(左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本、ボウガン(残り矢3本)、リボルバー式拳銃(ラスト1発)】
【現在位置:5区中央付近より放送で告げられた場所へ移動中】
【備考:以降紅丸は通常よりかなりパワーアップし、「荒れ狂う稲光のシェルミー」の技をいくつか使えるものとします。ただし、本来使える力ではないのでヘタすると暴走する可能性があります】
「ケーブルさん?」
「ああ…どうやら来客のようだな」
規則的な列車の音に混じる、こんにゃくを叩きつけるような音にまず気づいたのはかすみだった。
それに続くように、この列車に乗った人間以外の思考を感じ取ってケーブルが視線をずらす。
どうやら場所は今彼らの乗っている車両の前方のドア付近のようだった。
ケーブルが座席から腰をあげようとすると、かすみが軽く手で制してからすばやく立ち上がった。
かすみと同行してまだ時間は浅いが、気を使える女性だなとケーブルは感心していた。
瀕死と言っても差し支えない体には少しの負担も軽減されるに越したことはないので、申し出には素直に従った。
ちなみに、優しいが気の使い方がヘタというか不器用なもう一人の相棒は疲れからか、電車の音を子守唄にすやすやと眠っていた。
まあこれが普通の人間だろう、とケーブルが決して侮蔑の意味ではなく、むしろ羨ましそうにながめていると、かすみがニンジャの肩書きにそぐわぬ大声を出したので結局彼も立ち上がる。
「どうしたかすみ」
「で、でっかいスライム!スライムが列車に!」
そう言われてドアのガラスから外を見ると、なるほど確かにスライムとしか形容しようのない粘液の塊のようなものが電車に張り付いていた。
ガタン、ガタンと電車が揺れるたびに少し剥がれた部分がびたんびたんと音を立て、衝撃に欠片をびちゃびちゃと落としていた。
「珍しいクリーチャーだな」
「うへぇー、気持ち悪い……」
各々が感想を述べると、そのスライムが応えるようにびたびたと音を立てた。
そしてそれは少し収縮し、どうやら前に向かって縮んでいるのがわかった。
今自分達が見ているドアより少し先、かすみは恐る恐る、ケーブルは興味アリといった体で連結部分を越えると、次の車両に移ってすぐの窓に奇妙な物を見た。
もちろんスライム自体が十分奇妙ではあったが、そのスライムに包まれて顔を窓に押し付けられている青年と瞑想するように腕を組んでスライム内に体を横たえた青い服のニンジャは、間違いなくそれ以上に奇妙であっただろう。
窓を開けるとその奇妙な塊はなだれ込むように車内に流れ込んできた。
「グボァッ!?」
「ふぅ、ようやく乗り込むことが出来ましたか」
「ネオさん?蒼げ…水邪様?」
スライムの破片を口から勢いよく噴出す若者と、体にそのスライムの一片すらつけずに溜息をつく男が知った顔であることに気づき、かすみが声をかける。
傍若無人な水邪の行いを思い出したのか、どこか緊張した面持ちである。
ケーブルは事の成り行きを見守ってはいたが、この奇妙な闖入者に対する警戒は決して解いてはいない。
「ふむ、愚鈍の身と言えど躾は忘れぬその姿天晴れ。ようやく従者らしい態度になったではありませんか」
「……あれ?蒼月さん?戻った?戻ったんですね!?」
「おい蒼月、バレてんぞ」
「……冗談が通じないと世の中渡るのに苦労しますよ」
いったいこの娘はどこで違いを見抜いているのだろうと呆れた顔をする蒼月と、よかったーかすみさんだーと
胸をなでおろすネオを見て、ようやく微笑んだかすみにケーブルが説明を促した。
かすみは思わず「読んじゃえばいいじゃないですか」と言おうとしたが、その視線が言下に「あまり情報を渡
したくない」という光を放っていたのでおずおずと切り出した。
「こちらは蒼月さん。私がこの街に来てからお世話になった忍者の先輩です。こちらはネオさん、えーーーーっと……面白クイズ人間です」
「どうも、不肖の連れが世話になりました」
「おい、俺はコメディアンか何かか!?」
それぞれの反応を見てからケーブルは少しテレパスで思考を読む。
なるほどネオと言う男は騒がしいほどの心の声が響く、いわゆるエッジのようなタイプであったが、蒼月の思考を読むに至って驚いた。
この男、イリヤほどではないが思考の殆どが読めないのだ。もちろん快不快、喜怒哀楽の程度であればぼんやりと伝わってくるのだが、実質的に「考えていること」に関しては緞帳の降りた舞台の裏のようにシャットアウトされて伺い知ることができない。
訓練によってこういった技能を身につけることが可能なのは知っていたが、その完成度は驚嘆に値した。
そしてそれは同じ忍者を名乗るかすみのオープンさに比べると意外でもあった。
「なるほど、けえぶる殿はみゅうたんと、と」
「本当に分かってるか?蒼月…」
つっこみがてら拳骨を頂くネオの正面に視線をあちこちへと揺らすエッジが座り、ケーブルは蒼月の正面の席、かすみは少し迷ってから蒼月の隣へと腰を下ろしていた。
「つまり相手の考えていることを読んだり、瞬間的に移動したりするのでしょう?忍の者とあまり変わりませんよ」
自分の能力を聞いてなおそう言ってのける蒼月にケーブルは苦笑し、そのまま蒼月たちへと話を振った。
「それで、君達があんな無茶をしてまでこの列車に乗った理由は?駅のメッセージは止めたはずだが?」
「メッセージ?」
ネオが首を傾げると、かすみが主催者へ抵抗する意思のある者への呼びかけについて説明した。
「なるほど、しかし確かにそれは理由ではありません。私は実はこの列車というものにも、あなた達にも用はありませんからね」
「聞かせてくれるか」
そう言った時、彼方の暗闇から別の列車がやってくる音が聞こえた。
ケーブル達は知らなかった。
先に列車に乗ったヴィレンが10分ほど前に、すでに終着の隠し駅に到達していたことを。
そして数分の停車の後、折り返し運転となるその列車に怪我を押してまでしておいた細工を。
ガシャーンという派手な音が聞こえ、前方からやってきた列車が軋んだ音を響かせながらその車体を大きく揺らす。
ケーブル達の乗った電車はそれと同時に揺れ、同時に停車した。
「何があった!?」
非常用のシステムが作動したのだろう。車内には薄暗い電灯が灯っていた。
「わかんねぇ!向こうから来た車両にぶつかったっポイけど」
そう言ってエッジが前方の車両に移ろうとする。
ケーブルが動こうとすると、またもかすみが制し
「私が行ってきます」
と言ったが、状況を鑑みて「全員で行こう」とケーブルが提案し、残りメンバーも異論なくそれに従った。
最前部の車両は思ったほど酷い有様ではなかった。
というのも列車自体になじみのない蒼月を除いてほぼ全員が「正面衝突した」と思っていたからだ。
実際のところ列車同士はぶつかっておらず、1両目の正面に当たっているのは何か鉄の棒のようなものだとわかった。
「なるほど、これが原因か」
どうやらそれは細めの鉄骨のようだった。
それが数本窓から大きく突き出した状態で車内から伸びていたのだ。
列車がすれ違えば当然のようにその鉄骨は相手の電車に当たるだろう。
途中の鉄柱に当たるリスクなどもあるだろうが、おそらく駅に程近いこの位置でなら鉄柱よりも後発の列車に
当たるほうが早いと判断したのだろう。
ひょっとすると当たればラッキー程度のトラップかもしれないが、どのみちこれでケーブル達を倒すという類の仕掛けではなく足止めが目的であろう事は明白だった。
「イリヤの仕業だな…駅は近いようだ、警戒して歩きながら話を聞こう」
ケーブルは2両目のドアをゆっくりと開けると車外へ降りたった。
地についた足に痛みが走る。
おそらくは今まで無事であった側のつま先あたりからテクノウイルスが侵食して来ているのであろう。
満身創痍の体を維持するだけでも厳しい彼にとっては、ただ歩かせるだけでも消耗が激しい。
ヴィレンの狙いは見事的中したと言えた。
「なるほど、しかしそう聞いてはなお渡すのを躊躇するね」
蒼月より青龍による水邪封印の話を聞いてケーブルはそう告げた。
「信用に値しないと」
「いや、かすみが全幅の信頼を置いているのだから、とは思っているのだがどうにも君の思考が読めないので確信が持てなくてね」
「職業病と言う奴です。こればかりは治しようがない」
「でもケーブルさん!」
ネオが追従するように声をあげると、ケーブルは少し厳しい口調で続けた。
「そもそも、私は命の恩人であるエッジ以外とはついさっき会ったばかりだ。もしも君達が大掛かりな芝居を打っていた場合、つまりかすみもグルだった場合、我々二人はなす術なく殺されるだろう」
「お、おっさん……」
命の恩人という言葉を誇らしく思ったのか、殺されるという言葉にたじろいだのか、微妙な表情でエッジがケーブルの長身を見上げていた。
「つまり、君の話が本当であれウソであれ、このバッグの中身は過分に交渉の材料となりうる、と考えている」
「なるほど、確かに合理的な考えですが、力ずく、という手段もありますよ?」
「まあ、それなら最初からそうしているだろうし、だから違うだろうという思いのほうが強いのだけどね」
そう言ってケーブルは腰に手を当てたままトンネルの脇にもたれかかった。
「とにかく、この距離であればとりあえずの問題はないのだろう?少し保留とさせて欲しい」
ケーブルが提案すると蒼月は射殺すような視線を彼に向けたが、ケーブルが微塵もたじろぐ様子がないのを見て観念した。
「済まないな、少しだけ休ませてくれると助かる」
そう言って、バッグを抱え込むようにそのまま腰を下ろした。
「さて、見えて来たようだ……」
しばらくの休憩の後歩き出してから15分ほどで、トンネルは大きく開けた。
そこにあったのは予想よりも小奇麗で近代的なホームと「覇我悪怒」という駅名が目に入った。
「ああ、これか……」
エッジが駅の隅に並べられている細身の鉄骨を見つけて呟く。
どうやらこの駅は100%の完成度というわけではないようで、所々に資材や塗料などが放置されているのが見て取れた。
「うむ、さて逃げたか隠れたか……警戒していくぞ」
体を引きずるように歩くミュータントを先頭に忍者が二人に探偵が一人、不良が一人という、何の因果で集まったのか分からない運命共同体は駅の中へと入って行く。
そこはまさに、希望を孕んだ災厄の塊、パンドラの箱のようだった。
「どうも、不肖の連れが世話になりました」
「おい、俺はコメディアンか何かか!?」
それぞれの反応を見てからケーブルは少しテレパスで思考を読む。
なるほどネオと言うほうは騒がしいほどの心の声が響く、いわゆるエッジのようなタイプであったが、蒼月の思考を読むに至って驚いた。
この男、イリヤほどではないが思考の殆どが読めないのだ。
もちろん快不快、喜怒哀楽の程度であればぼんやりと伝わってくるのだが、実質的に「考えていること」に関しては緞帳の降りた舞台の裏のように伺い知ることが出来なかった。
同じ忍者を名乗るかすみのオープンさに比べると意外でもあり脅威かつ驚異だった。
ふと、ケーブルは気づいて蒼月に尋ねる。
「蒼月、と言ったかな、もしかして君は「風間蒼月」では?」
「ええ、しかし私の名前は特に呼ばれた記憶はありませんが?」
蒼月が訝しげにそう返すと、ケーブルはまたも気づいた様子でかすみに言う。
「かすみ、君はたしかあのビルで「カヅキ」と言っていたな?」
「あ、はい、風間火月さん、言いませんでしたっけ?」
「……脳内でもずっとカヅキカヅキと言っていたから気づかなかった…」
「はあ…火月さんをご存知なんですか?」
あっけらかんと言ってのけるかすみに、ケーブルは柄にもなく膝から崩れそうになる。
「エッジに聞いたらあの文字を「カザマカゲツ」じゃないかと答えたんだ、ずっと探していたというのに…」
大きく溜息をつくケーブルを不思議そうに覗き込むかすみと、それを見てなにごとかとかすみを睨む蒼月にケ
ーブルは力なく微笑んだ。
「では、この文をその生き物が持っていたと」
「ああ」
蒼月はケーブルから渡された血文字のメモを食い入るように見つめ、何度も視線を往復させた後、ゆっくりと顔をあげた。
「そうですか、ええと、かすみ」
「はい?」
珍しく歯切れの悪い態度の蒼月に小首を傾げて応じるかすみに、次の瞬間、蒼月は土下座した。
「え?え?や、ちょ、やめてください蒼月さん!いったい何を!?え?!」
「この文によれば、不肖の弟が悪鬼と成り果てたのは仲間の少女を失ったがためだそうです」
「…はぁ、仲間の………ってもしかして」
「もしかせずとも間違いなく貴方でしょう。そして、それほどまでに奴の中で貴方の存在が大きかったということです最期こそ見てはやれませんでしたが、あの莫迦が少しでも貴方に救われていたのなら、有難う」
そう言って、蒼月はゆっくりと顔をあげた。
泣いてはいなかった。ただ、顔の周りに不自然な水の玉がいくつか浮かんでいるのをネオは見た。
そして思った。やはり、蒼月は弟のことがどうでもよくなったわけではないと。どこまでもどこまでも心配して、結局自分も鬼になって、廻り廻る人との縁に触れて、ようやく素直になれたのだと。
ネオは心底微笑ましい気持ちでそれを見ていた――
「さて、では話が早い」
1秒前までは。
すっくと立ち上がり今までそこにいたのは幻だと言わんばかりにケーブルに詰め寄る蒼月。
「これにある鬼とは、私と亡き弟の体に封印された化け物です。制御にはこの箱の中にある刀が必要です。お持ちではないですか?」
至って簡潔に問う。答えなければ力ずくも辞さないといった表情の蒼月に気圧されるように、ケーブルは自分のバッグを手に取った。
「これ、だな」
そう言って二振りの忍者刀を取り出す。
「おお……!」
今にも奪い取りそうな蒼月に、ケーブルは大きな掌を向けた。
「君の話、信じたいとは思う。しかし万が一、大掛かりな、それこそそのメモから全てが芝居だと仮定することもできる」
「ほう……」
「なにか、対価をくれないか。金品などではない、君の覚悟や意思を示す何かだ」
しばし見つめあうケーブルと蒼月。
やがて決意したように視線を落とすと、意外にもエッジに声をかけた。
「そこな異人」
「お、俺は日本人だ」
「どちらでもいい、なにか小さい刃物はないですか?できるだけ危なくないほうがいい」
言われてエッジは思案顔の後にバッグから十得ナイフを取り出す。
「これでいいか?」
エッジが恐る恐るそれを投げ、蒼月がキャッチするのをケーブルもかすみも、傍らのネオもただ見つめていた。
「では」
そう短く言うと、小さなナイフの刃を出した蒼月は躊躇なく自分の首にそれを走らせた。
「蒼月さん!」
「かすみ!」
かすみの大声は蒼月の怒声にかき消された。
次の瞬間、蒼月の首筋からは一瞬噴水のような血が吹き出る。
しかし蒼月が目を瞑り集中するそぶりを見せるとその血はゆっくりと勢いを弱め、止まった。
「術により出血を止めています。しかし生身では数刻もせずに術が切れ、私は死ぬでしょう」
「なるほど、それで、このニンジャソードがあれば?」
「負担なくこの術をかけ続けられます。自然に出血が収まるであろう時までね」
ネオとエッジは蒼月の言わんとすることが今ひとつわからず、おろおろと顔を見合わせていた。
「貴方が私を信用できないと言うならば、それをこの箱から外へ投げ捨てればいい。私は放っておいても死ぬ
でしょう」
「……」
ケーブルは沈黙する。
「しかし、もし信用していただけるなら」
「わかった」
言葉の途中にケーブルが割り込む。
手に持った刀を両方とも蒼月の足元に投げ落とし、後ろを向いて無防備な姿を晒した。
意識は読めなくても、その真剣さ、命を賭けた己の証明は十分にケーブルの胸をうっていた。
これは、そちらこそ信用できぬならば今ここで斬れ、という意思表示だった。
「かたじけない」
蒼月は忍者刀の一方をふわりと持ち上げて腰に据え付ける。
そしてその柄を確認するように握り、満足げに頷いた。
「火月の形見です。持っていなさい」
水邪とまではいかないが、いつも通りの尊大な態度に戻った蒼月に投げ渡された朱雀を、かすみはいとおしげに胸に抱いた。
「なるほど、けえぶる殿はみゅうたんと、と」
「本当に分かってるか?蒼月…」
つっこみがてら拳骨を頂くネオの正面に視線をあちこちへと揺らすエッジが座り、ケーブルは蒼月の正面の席、かすみは少し迷ってから蒼月の隣へと腰を下ろしていた。
「つまり相手の考えていることを読んだり、瞬間的に移動したりするのでしょう?忍の者とあまり変わりませんね」
ケーブルの能力を聞いてなお言ってのける蒼月にケーブルは苦笑し、しかし頼もしく、そして嬉しく思った。
この街には特殊な人間が多い。特殊能力があるという意味だけではない。
自分がミュータントであることさえも受け入れられる器の大きな人間がいることが嬉しく、少し羨ましかった。
「そろそろ、到着するころだろうか」
ふと前の車両を見つめながらそう言った時、彼方の暗闇から別の列車がやってくる音が聞こえた。
ケーブル達は知らなかった。
先に列車に乗ったヴィレンがすでに終着の隠し駅に到達していたことを。
そして数分の停車の後、折り返し運転となったその列車にしておいた細工を。
ガシャーンという派手な音が聞こえ、前方からやってきた列車が軋んだ音を響かせながらその車体を大きく揺らす。
ケーブル達の乗った電車はそれと同時に揺れ、2台は同時に停車した。
「何があった!?」
非常用のシステムが作動したのだろう。車内には薄暗い電灯が灯っていた。
「わかんねぇ!向こうから来た車両にぶつかったっポイけど」
そう言ってエッジが前方の車両に移ろうとする。
ケーブルが動こうとすると、またもかすみが制し
「私が行ってきます」
と言ったが、状況を鑑みて「全員で行こう」とケーブルが提案し、それに従った。
最前部の車両は思ったほど酷い有様ではなかった。
というのも列車自体になじみのない蒼月を除いてほぼ全員が「正面衝突した」と思っていたからだ。
実際のところ列車同士はぶつかっておらず、当たっているのは何か鉄の棒のようなものだとわかった。
「なるほど、これを固定したのか」
どうやらそれは細めの鉄骨のようだった。
それが数本窓から大きく突き出した状態で車内から伸びていたのだ。
列車がすれ違えば当然のようにその鉄骨は相手の電車に当たるだろう。
途中の鉄柱に当たるリスクなどもあるだろうが、おそらく駅に程近いこの位置でなら鉄柱よりも後発の列車に当たるほうが早いと踏んだのだろう。
もしくは当たればラッキー程度のトラップかもしれないが、どのみちこれでケーブル達を倒すという類の仕掛けではなく足止めが目的であろう事は明白だった。
「イリヤの仕業だな…駅は近いようだ、警戒して歩きで行くしかない」
ケーブルは2両目のドアをゆっくりと開けると車外へ降り立った。
地についた足に痛みが走る。
おそらくは今まで無事であった側のつま先あたりからテクノウイルスが侵食して来ているのであろう。
満身創痍の体を維持するだけでも厳しい彼にとっては、ただ歩かせるだけでも消耗が激しい。
ヴィレンの狙いは見事的中したと言えた。
「うっ……」
線路の砂利に足をとられてケーブルがよろける。
「大丈夫ですか?」
かすみが声をかける。
「おっさん、肩貸そうか?」
エッジが心配そうな顔をする。
「……」
蒼月は無言で歩くが、率先して前を歩き警戒を怠らない。
「え、ええと、肩かそうか?ってカブってんなこれじゃ…あ、水飲むか水?おい蒼月水出せみz」
ごいん。青龍から伸びた水の拳がネオの頭に当たって戻る。
ケーブルは心から笑う。
この仲間と会えてよかった。
この絶望に塗り固められた街で、この暗黒のトンネルで、希望を捨てずにいられたのは傍らに誰かがいてくれたからだ。
微笑んで片手を挙げ
「大丈夫だ」
そう言ってまた歩き出す。
砂利にとられた足は、くるぶしのあたりまで、人のものでもミュータントのものでもない、無機質な何かに変わっていた。
「さて、見えて来たようだ……」
しばらくの休憩の後歩き出してから15分ほどで、トンネルは大きく開けた。
そこにあったのは予想よりも小奇麗で近代的なホームと「覇我悪怒」という駅名が目に入った。
「ああ、これか……」
エッジが駅の隅に並べられている細身の鉄骨を見つけて呟く。
どうやら先客はこれを使って彼らの足を止める事に成功したようだった。
「うむ、さて逃げたか隠れたか……警戒していくぞ」
体を引きずるように歩くミュータントを中心に忍者が二人に探偵が一人、不良が一人。
何の因果で集まったのか分からない運命共同体はその大きなパンドラの箱へと挑むのだった。
【かすみ 所持品:拳銃(残り14発+1カートリッジ)、忍者刀朱雀 目的:ケーブルたちに協力 首輪なし、戦闘服着用】
【ケーブル(負傷 大消耗中) 所持品:衣服数点、サブマシンガン、首輪、工具類、テーザー銃、暗器多数
目的:イリヤ(ヴィレン)を追う、首輪の構造を調べる】
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷) 所持品:衣服類・食料多数、犬福、アーミーナイフ
目的:みんなに会う為、いつも行く喫茶店に文句を言いに行く為に生き残る。ケーブルについていく】
【ネオ(全身打撲、主に足) 所持品:魔銃クリムゾン・食料等、多目的ゴーグル、使い捨てカメラ写ルンDeath
目的:アクセスポイントに行き外のジオと連絡を取って事件解決!(推理が当たっているかどうかはまだ不明)
メモを舞の遺族に渡す。リョウを助けたい】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍 目的:かすみたちに同行】
【現在位置 11区ギースタワー地下隠し駅】
【備考 青龍を手放さない限り水邪復活しません。また、手放してしばらくすると首の傷から血が出て蒼月は死にます】
-1つ目の部屋-
ホームの階段を上がると、そこは予想と違う風景だった。
駅と言えばまず改札、または最近流行りの駅の中に広がるショッピングモール。
そんなものを想像していただろう4人の目の前にあったのは、ただ無機質な長い廊下と
両側に並ぶそれぞれ3つ、計6つの部屋、突き当たりに見えるエレベーターホールだけだ。
ちなみに近代的な駅の概念のない蒼月だけは別段驚く様子もなく、そういうものと認識して辺りを見回してい
た。
1つ目の部屋、一番手前右側の扉を見つめ一同黙り込む。
「一つ一つ調べていくしかあるまい……」
ケーブルの呟きはこれまで何度も全員の同意を得ていた。
だが、今回は違った。
「ここは別にいいんじゃねえか?」
エッジの言葉に全員が、いや、この記号の意味を解さない蒼月以外が無言で同意していた。
「どう見ても……」
「トイレですね」
扉のガラスの向こうに赤と青の簡略化された男女を示すマークを見て、しばしの沈黙の後ネオが言う。
「あ、じゃあ俺トイレ行きた…あ、えっと、ほら、蒼月のせいで水飲みまくっちゃって」
視線に質量があったならネオの眉間には綺麗な穴が空いていただろう。
やれやれと言ったポーズを大袈裟にとってエッジが声をかける。
「仕方ねえな、俺がついてってやるよ。イリヤが用足してたら困るしな!」
言い切ってから周囲を見回す。
タイミングからして自分も我慢していたのは明白だった。
「じゃ、じゃあ私女子トイレ調べてきます!」
言うが早いか扉の向こうに消えたかすみに関しては、3人の男がに「なるほど、女の子は大変だもんな」という顔をして見つめあっていた。
ちなみに、ここでも過去に生きる忍びの男が「トイレとはなんです?」と残ったケーブルに訊いていたことは得に重要な事項ではない。
-2つ目の部屋-
ガチャリ。
蒼月が重めのドアを開けると、そこにはまたも彼の理解できない光景が広がっていた。
「これは確か、こんぴゅー太とかいうからくりでしたか?」
振り向いて言った蒼月の顔の横から覗き込む一同。
その中からいち早く飛び出したのはネオだった。
「やった!やったぞおっさん!」
「まったく騒がしい、なんだと言うのです」
「蒼月、君には分からないかもしれないがここは、全てを終わらせることができるかも知れない部屋だという
ことだ」
続いて部屋に入っていくケーブルを目線で追うと、その後ろからかすみが声をあげた。
「通信室!」
-3つ目の部屋-
「そんで、あの二人残してきてよかったのか?」
「まあ、ケーブル殿がいれば問題ないでしょう、それに貴方達にはあのからくりを使いこなせないのでしょう?」
尋ねたエッジに対し、さも「貴方達の為に付いて来たのですよ」という顔をする蒼月におもわずかすみが噴出す。
「なんです、かすみ」
「い、いえ、なんでもないです!さあ、次の部屋を調べましょう!」
言って今度は最初にノブに手をかける。
トイレとも通信室とも違う、もっとずっと重い扉だった。
警戒しつつその扉を開いていったかすみの眼が大きく見開かれる。
「これは……」
眼前に広がっているのはずらりと並んだ棚や、壁を埋め尽くす銃器や爆発物。
薄暗い部屋は手探りで見つけたスイッチを押すと一瞬でその全貌を3人の前に現した。
「うっわ、こりゃすげえ」
大型のマシンガンから大口径の拳銃、サバイバルナイフやスタンロッドに至るまで、近代武器の博覧会のようだった。
防弾チョッキやガスマスクなどの数から見て、20人前後の部隊を想定した武器防具の揃いであるようだった。
「なんでこんなに武器が……」
恐る恐るいくつかを手に取りながらエッジが首を傾げると、蒼月がかすみに問う。
「この建物は隠された場所だといっていましたね」
歩きながらケーブルからでも聞いたのであろう、確認にかすみは頷く。
「先ほどの部屋の用途は?」
「そうですね、今ネオさん達がやってると思いますけど、外部と連絡を取るための場所、ですかね?」
「ふむ、なんとなく分かってきましたね」
「何が?」
エッジが数本のサバイバルナイフを感触を確かめるように弄ぶ。
「この建物の目的です、多分、次の部屋は食料庫あたりでしょう」
「え?なんでわかんだよ?」
言いながら鞘に入ったナイフを数本、抜き身のものを数本服とバッグに備える。
「私の推理が当たっていたら次の部屋で説明してあげましょう、にしても」
「ええ、足りないですね」
蒼月とかすみは壁や棚を見て呟く。
温かみのない金属の棚の上に並ぶ装備の数々の、所々に空白があった。
そこにあったであろう武器を想像して、かすみが呟く。
「小型から中型の火器、拳銃と手榴弾の類が中心ですね」
「さっきのちかてつとやらを壊した下手人の仕業ですか、誰なのです?」
「あ、ええと、蒼月さんが水邪さんになってたときに会った人です。羽の生えた女の子と一緒だった」
「ああ、あの……」
白痴、と言いかけてそれは水邪の物言いだったなと思い留まる。
「雑魚ですか」
思案の後に出てきた言葉は、考えた割には特に慈悲は含まれていなかった。
かすみは自分の銃に合うマガジンを、エッジは一番手馴れているナイフを、蒼月は青龍さえあればと言って何も取らずに部屋を出た。
彼らは気づいていなかった。あったことを知らなかったのだから気づくはずがなかった。
並んでいた中ではない、中央にたった一脚置いてあった「それ」がなくなっていたことに。
-2つ目の部屋-
「よーし、やるかぁ!」
「うむ、私はこの街で使われているネットワークに侵入、ネオ君は外部との通信を頼む」
ちょうどワンルームのマンションの一室くらいの部屋に詰め込まれた機材の数々を二人で眺める。
「この場所がこの街の支配者のシークレットスペースだとすると、恐らく」
「ああ、俺はずっとアクセスポイントでと思ってたけど、多分ココなら独立したラインがあるはずっ!」
ネオは数ある機材の中に電話機を見つけ手に取る。
「では私も始めよう」
ケーブルは椅子に座り、コンピュータの電源を入れる。
ブゥンという低い唸りと共にそれは起動し、真っ黒だったモニタの中央に「覇我悪怒」の文字が映る。
一瞬たじろぐケーブルだったが、その後開いたOSが一般的なものであったことに安堵して、高速でキーボードを叩きだした。
「ピポパ、の…パっと…さぁ、出てくれよー!」
「ネオ君、どこに?」
「俺の相棒のところ、大丈夫、ちゃんと盗聴対策とかしてるぜ!」
親指を立ててニッカリと笑うネオに対し、この主催側の能力からしたらあまり意味はないだろうと思いながらも、ケーブルは目をモニタに戻していた。
プルルル、プルルル……ガチャリ
希望の糸が繋がる音が聞こえた気がした。
「ジオ!ジオか!」
もしも、自分の事務所にこのゲームの主催者達が訪れていたら。
もしも、この電話が傍受されていて、今にもジオが殺されていたら。
もしも、そもそも電話をとったのがジオ以外の誰かだったら。
ネオの様々な不安をその声はかき消してくれた。
『おー!ネオ、今どこ?3日も連絡しないでー』
「どこってお前、サウスタウンだよ!そっちはどうなってんだよ!」
『どうって、依頼者ナシ、いつもの通りだけど?』
「違うだろ!行方不明者とか騒ぎになってるだろうが!俺達殺し合いを」
『行方不明?あー、噂の話?サウスタウンって言ったよね、ネオも見に行ってるの?』
会話が全く噛み合わない。
心の通じる相棒と思っていたジオの言葉にネオは困惑する。
「ちょっと、少しずつ、整理して話してくれ。今世間じゃ、サウスタウンのことなんて言ってる?」
焦っていはいけない、まず自分が落ち着かなければ。
自分の言いたいことだけ伝えて信用される話でないことは承知だったはずだ。
ネオはゆっくりと、一語ずつ選びながらジオに問いかける。
『えー?今ちょうどテレビで生中継してるよ?シークレット格闘技大会でしょ?』
「はぁ!?」
聞けば数日前、世界中から著名な格闘家がこぞって行方不明になったという噂が流れたと言う。
しかし、おとといになってサウスタウンで大企業の主催した格闘技の大会を行うため、
極秘裏に集められていたのだと言う報道と、その大々的な中継が特番で「今」流れているというのだ。
ちなみに現在はワイルドウルフ「テリー=ボガード」と燃える留年「草薙京」の大一番がメイン会場で行われているらしい。
「そういうことかよっ…!」
ネオは拳を床に叩きつける。
自分達は「いなくなったことにさえなっていない」のだ。
今テレビに映っているのが合成やCGの類か、そっくりさんやクローンかはわからない。
しかし、それだけのことをできるだけの力が、このゲームの主催にはあるということを嫌というほど感じる。
『いいなー、ネオどこで見てるの?カメラ近い?』
「ジオ!」
『わっ、なに、大声出して』
「これから4択クイズを出す。答えてくれ」
『え……うん』
「いくぞ!俺のお気に入りのウッフンなビデオのタイトルは!?」
『……』
「1.エマージェンシーウーマン! 2.サウスタウンの夜! 3.エロティックアーミー! 4.コールガール!」
『んもー、もうちょっとマシな問題思いつかないの?』
「うるせー!クイズ考える脳はさっき水邪様相手に使い切っちまったんだよ!」
『誰それ。まぁいいや、まちがいないね、そのクイズ。特に2番と3番』
「ああ、答えろよ!」
『わかった、4番、ファイナルアンサーで』
「オッケー正解だ、早く――」
ブツリと音がして通話が途切れる。
ケーブルが振り向く。
「切断されたな、こちらもだ」
接続が切られた類のエラー画面を見せながらネオに近づく。
「こっちはオッケーだったぜ、ギリギリな」
「暗号か?」
あの意味不明なクイズは耳に入っていただろうが、おそらく自分の作業で手いっぱいだったのだろう。
興味深げにケーブルが尋ねてくる。
「ああ、電話で4択クイズをしたときは調査とかでヤバいことになってる合図でな」
「4択が指示、ということか」
「ご明察。1番が危険度、2番が場所で3番が連絡する相手」
「4番は連絡方法か?」
「いや、本当の俺のお気に入りだ。特に決めてないからつい本当のことを……」
フフフと笑うケーブルに照れ笑いと共に頭をかくネオがふとモニタの方を見る。
「ケーブルさんはおわったのかい?」
「いや、本当は主催側のシステムを破壊するところまで行きたかったんだが」
くい、と親指でモニタを指す。
「あそこが限界だったな」
画面には、今自分達を縛っている忌々しい銀色の首輪の設計図のようなものが映し出されていた。
-4つ目の部屋-
「うわ、ホントに食料庫だ、怖ッ!」
エッジは扉を開けるなり大袈裟に一歩ひいてみせた。
「なんで分かったんですか?蒼月さん」
「洞察が鈍いですねえ、つまりここは城を攻められた時に篭城するための建物なんですよ」
「篭城?」
「敵に襲われて少人数で落ち延びた場合に必要なもの。助けを呼ぶ連絡に抵抗のための武器、生きるための食料。厠もまあ、その一部ではありますね」
「なるほど」
うんうんと頷いて中に入る。
まだ完成していない施設だということもあって置いてあるのはほとんどが缶詰やレトルトといった保存食だったが、
エッジは目を輝かせてそのいくつかをバッグに放り込んだ。
「ここも荒らされてますね」
「まあ、あの雑魚はまさに今落ち延びている状態ですしね」
見れば整然と並んだ缶詰の山が一部欠けていたり、シンクの下の扉が少し開いたままになっている。
入り口付近でかすみと蒼月が会話をしていると、満足げな顔でエッジが戻ってきた。
「これでしばらく食いもんには困らないぜ!」
「そんなに長引くのは嫌ですけど…」
かすみが苦笑していると、蒼月が至極真剣な顔でエッジに問いかけた。
「こうひぃはありましたか?」
-6つ目の部屋-
彼らが5つ目の部屋を飛ばしたのには理由があった。
忍者二人が「気配がする」と言ったためである。
それはおそらく逃げた男、ヴィレン以外に考えられず、(雑魚と言っても)討伐を優先すべきというかすみの意見に蒼月が渋々同意したためだった。
今までで一番軽そうな木のドアを開く。
中は奥行きのある広い部屋。
中央に置いてある楕円形の机と、それを囲むように置かれた椅子によって「会議室」のように見えた。
その机の一番奥。
並ぶ簡素な椅子の一番奥に、一つだけ「それ」があった。
入り口に背を向けるように置かれたひと回り大きな皮の椅子。
そのひじ掛けの部分にわずかに袖が見えた。
「さて、名前はなんと言いましたっけね」
「イリヤだ、蒼月さん」
「ふむ、初耳です。まあ雑魚の名前などなんであろうと構いませんが。さて、いりやとやら」
投げた声を受けて、その椅子はゆっくりと回転する。
邪悪な笑いを貼り付けたその顔をこちらに向け、ヴィレンが口を開いた。
「あんときのバケモノ野郎か…エッジ、ケーブルはくたばったのか?」
「生きてるよこのクソッタレ!」
「とすると、いまごろ感動のご対面ってとこかな?」
「何?」
言ってからエッジは気がつく。
ケーブルや自分が対面する相手などこの男以外にいただろうか、いや、いる。一匹確かにいる。
「お前犬福を!」
「騒ぐなよ、元気なもんだぜ?」
「俺、見てくる!」
エッジが蒼月とかすみの間をすり抜けて入り口のドアに走る。
しかし、入るときあれだけ簡素に見えたドアは決して開くことはなかった。
「罠…!」
「ここは権力者の秘密基地らしいな。向かいの資料室にいろいろ書いてあったぜ」
「なんであろうと関係ありません」
蒼月が腰から青龍を抜き放ち、大きく横に振ると小さな水の弾が幾つも放たれた。
ヴィレンは微動だにせず、水弾はヴィレンの体のどこかしらを貫くだろうと思われた。
しかし、それは一つとして彼に届くことはなく、全てその数センチ手前で弾けて落ちた。
「妖術か!」
「いえ、多分!」
言いながら腰から拳銃を抜き予備動作なくかすみが数発打ち込む。
その弾もまた、ヴィレンに届くことはなかった。
今度ははっきりと銃弾が食い込み、ヴィレンの座る椅子と机の間の空間がひび割れるのが見えた。
「ヒャッハッハ!バズーカでも止め切る防弾ガラスだってよ!」
「透明な厚い鉄板だとでも思ってください!」
「心得ました」
蒼月の疑問が来る前に答えてのけるあたり、かすみの判断力もさすがと言えた。
「ならば相応の攻撃をするまでです」
「バケモノが!いつまでも人間様をナメてんじゃねーぞ!」
蒼月が構えるより早くヴィレンがリモコンを取り出し、ボタンを押す。
蒼月はその動きに構わず青龍を上に振りぬくと、大きな水の柱がヴィレンの足元から立ち上る。
しかし、一瞬早くヴィレンは「椅子に座ったまま高速でそれを避けた」
「何ですかアレは?」
かすみは答えられない。
ヴィレンが座っているそれはかすみも知っているものだった。
しかし、そんな動きをする「それ」をかすみは知らなかった。
彼の腰掛けているのは車椅子。
しかし、それはとある東洋人科学者によって作られたテクノロジーの結晶。
ギースが密かに買い上げて有事のために隠しておいた「殺人車椅子」だった。
「驚いてる場合かよ?」
ヴィレンが心底嬉しそうに笑う。
「蒼月さん!あれ!」
入り口から戻り蒼月に寄り添うようにしていたエッジが指差す方向、壁である。
普通の壁と違うのは、そこかしこに穴が空き、そこから銃口が彼ら3人を狙っていることだけだった。
「穴ボコだらけのチーズになりなっ!」
ヴィレンが高笑いと共にリモコンを操作すると、防弾ガラスを隔てた部屋の奥におそらくは隠し通路であろう扉が開く。
機銃の音が部屋中に木霊するのを背に受けてヴィレンは悠々と部屋を後にした。
-2つ目の部屋-
「さて、ネットワークは切断されたが出来ることをしよう」
ケーブルはそう言うと、ゆっくりとした足取りで椅子へと戻りキーボードに向かった。
「俺はどうすっかなー、蒼月に合流するか…ん?」
どこからか音が聞こえた気がした。
ムームーという、携帯のバイブが鳴っているような低いくぐもった音が確かに聞こえる。
「携帯?」
「待つんだネオ君、ん、これは?」
ケーブルは集中するそぶりを見せる。
部屋の中に自分とネオ以外の思考を感じてその方向に目をむける。
入り口付近の機材の中にひとつだけ、小さなロッカーがそこにはあった。人が入るには少し小さい気がしたが
、ケーブルが感じ取った思考の「彼」はすんなりそこにはいれるくらいの大きさだった。
「犬福、我々が連れていた獣がいるようだ。何かに縛られている。出してやってくれ」
画面に向き直りながらケーブルが言う。
「いぬふくぅ?」
そう言いながらネオはロッカーを開ける。
「む〜!むぅ〜!!」
その中にはロープでグルグル巻きにされた上にご丁寧にさるぐつわまで噛まされた丸っこい謎の生物が涙を流してばたついていた。
「これが…いぬふく」
「そうだ、かわいいもんだろう」
「なんだろう、俺と同じジャンルの臭いがする」
「ん?」
「いや、なんでもねえ。よしよし、ほーら大丈夫だぞ」
ぷち。
「ん?なんかひっかかってた?」
ネオが未だぐるぐるまきの犬福を持ち上げると、一瞬のごく軽い抵抗と小さな音が生じた。
犬福を抱えてロッカーを覗き込む。
次に犬福の尻尾を見る。
「手榴弾だ!!!!」
「奥に跳んで伏せろ!」
ケーブルが椅子から飛び出し、ネオが部屋の奥に向かってダイブする。
ロッカーから閃光と衝撃が噴出し、入り口のドアを捻じ曲げ、近くの機材が砕けて飛ぶ。
奥に衝撃を届かせまいとサイコキネシスを全開にしながら飛び出たケーブルの体に止め切れないその破片が幾つも突き刺さった。
「ケーブルさん!」
ネオが叫ぶ。
「だ、大丈夫だ…そっちは?」
「あ、ああ」
間一髪でケーブルの作り出す障壁の後ろに入ったネオは特に外傷もなく、手の中の犬福もまた目を白くしてはいるが怪我はなさそうだった。
「よかった……私が使っていた機材も…無事だな」
自分の座っていた椅子の前のモニタがついたままなことを確認し、ケーブルはほっと息を吐く。
そして体を引きずるようにそこへ行き、またキーボードを叩きはじめた。
「な、なにやってんだよ!?逃げようぜ!」
見れば爆発したロッカーの回りから火が出始めている。
火が回るのも、この部屋の機材が全てダメになるのも時間の問題だった。
「少し、待っていて…くれ。もうすぐ…終わる…」
苦しそうに声を出しながら依然手を止めないケーブルの肩にネオは手を置こうとする。
が、次の瞬間、ネオは「部屋の外」にいた。
「え!?」
おそらくケーブルのサイキック能力で飛ばされたのだろう。外から見ると入り口のドアは予想以上に大きく歪み、押してもひいてもビクともしなかった。
ただ右下の部分が大きく波打って隙間があった。
ネオはそれを見て思いつく。
「蒼月にここから水入れてもらえば少なくとも火は消える!あとはみんなでドアブチ破れば!」
-2つ目の部屋から6つ目の部屋-
ネオは駆ける。
左右のドアを次々に開けていく。
武器が沢山置いてある部屋があったが誰もいなかった。
食べ物が置いてある部屋にも誰もいなかった。
資料が乱雑に積まれた部屋にはいった時、向かいの部屋で何か音がしているのに気づいた。
「…ミシン…じゃねえよな?」
ドアに耳を近づけるとタタタタという軽い音が幾重にも重なっているのが聞こえた。
ドアを開けようとしたが、こちらもやはり押しても引いて開く様子はなかった。
ふと、顔を右に向けると、廊下の突き当たり、エレベーターホールに椅子に座った誰かがいるのが見えた。
ネオが声をかけるまもなく、その人影はエレベーターに乗って上へと登っていった。
部屋の中では未だに沢山のミシンがせわしなく働いているような音が鳴り響いていた。
-6つ目の部屋-
「だ、大丈夫なのかよ!」
「問題はありませんが、動けませんね」
蒼月が涼しい顔をして言う。
「弾切れを待つしかないですね」
かすみが自分達を包む厚い水の膜を見て呟く。
その外側からは未だ無数の銃弾がその巨大なスライムのような物体目掛けて突き進んでいた。
表面に当たり、数センチ進んだところで完全に勢いを失い下に落ちる。
上方向から来た銃弾はそのまま蒼月たちの頭から無害な鉛の粒としてポロポロと降り注いでいた。
「いつ切れるんだよ!」
「弾が無くなった時でしょう?」
蒼月はやれやれという顔をしながら、決してその手を青龍から離そうとはしなかった。
-2つ目の部屋-
「すまない、犬福、ネオ君を飛ばすので精一杯だった」
ケーブルが申し訳なさそうに足元のパピィに話しかけると、気にするなというように一声「にょっ」と鳴いた。
「これだけは完成させないとな」
呟きながらモニタに向かうケーブルと、いよいよ勢いを増してきた入り口の炎を交互に見てパピィは泣きそうな顔をしていた。
(ケーブルさんが死んじゃう。部屋も燃えちゃう。ボクはまた何も出来ない。何も出来ずにごしゅじんさまたちが死んでしまう。
助けたい。ケーブルさんを、みんなを助けたい!)
犬福が走る。火のついた機材に体当たりをする。
ぶつかるたびに肉のこげるような臭いがたちこめ、それでいて火の勢いは一向に弱まることはなかった。
「やめるんだ犬福!気持ちだけで十分だ!」
ケーブルは振り向けなかった。あの小さな生き物の悲壮な決意が嫌というほど頭に流れ込んできていた。
「にょぉ〜!にょおおおお!!!」
(ダメなんだ、気持ちだけじゃ守れないんだ!僕にもっと力があればごしゅじんさまたちは死ななかったんだ!)
何度目かの体当たりの末、犬福はその場に倒れ、意識を失った。
直前までぶつかっていた炎の塊がゆっくりと手を伸ばし、その体を包もうとしていた。
(熱い…体が熱い…死んじゃうのかな。何も出来ずに、このまま…)
そして、犬福の体は完全に炎の中に消えた。
-どこかの空-
<起きなさい、パピィ>
(ん…誰?)
<お前は、何になりたい?>
(何…?ここはどこ?)
目をあければそこは眩しい世界。
一面が光に覆われ、雲の中にいるようなふわふわとした感じがした。
あれほど熱かった炎ももう感じない。自分は死んでしまったのだと、そう思った。
<お前は、何をしたい?>
ぼんやりと、人のような姿が空に浮かんでいた。
白いゆったりとした服に真っ白いヒゲ、頭に光る輪がついているようだった。
(僕は…)
少しずつ意識がはっきりしてくる。白い人影の言葉が頭の中をぐるぐるとかけめぐる。
<お前は、何を守りたい?>
その人影は問いかけた。
少し考えて、パピィは顔をあげた。
そして力強く、はっきりと、こう叫んだ。
「僕はニンゲンになりたい!強くて優しい、誰かを守れる人間になりたい!みんなを守りたいんだ!」
<そうか、ならば、行くがよい>
「…え?」
すっと意識が遠のいた。
眩暈のする頭を押さえようとし手を挙げる。
最後に見たのは、5本の指がまっすぐに伸びたニンゲンの手だった。
「ケーブルさん!」
「…誰だ?いや、誰でもいい、すまない、あと1行、あと1行なんだ…」
突然現れた少年に、ケーブルはテレパスを行使することもなく嘆願した。
「言う通りに打ってくれ、この手をどかして…」
少年が見ると、キーボードの上のケーブルの手は完全に機械と化し、動く様子はなかった。
いや、手だけではない、おおよそ見てとれるその体の殆どが、あとは首から上を残して命のない機械となっていた。
「わかりました……」
そう言うと、少年はケーブルを椅子後とゆっくりと後ろに下げ、その綺麗な指をキーボードに置いた。
「どうぞ、時間がありません」
「ああ、頼む」
少年の指が、綺麗な音楽を奏でるようにキーボードの上に希望の旋律を描くのをケーブルはまだ見える目で確かに見届けた。
「有難う……あとは、それを」
少年がケーブルの目線を追うと、今まで打っていたコンピュータの本体に刺さっているフラッシュメモリが目に入った。
「あと、そこにメモがある。…字は書けるか?」
「ええ、任せてください」
ああ、おそらくこの人はわかってくれた。
その嬉しさで少年は胸がはちきれるようだった。
「言う通りに書いて、外にいる私の仲間に、お前の友人に、渡してくれ」
「はい…!」
目にいっぱい涙をためて、少年は頷いた。
-2つ目の部屋の外-
「にょぉぉぉぉ……」
ネオは後方から聞こえたか弱い声に気づき、大急ぎで駆けつけた。
そこにはゆがんだドアの隙間から必死に体を出したのだろう、全身に大きな火傷を負いながら倒れこんでいる犬福がいた。
「お、おい!大丈夫か!ケーブルさんはどうした!?」
「にょ…べ…」
小さな声と共に犬福が何かを吐き出した。
ネオはそれを拾い上げ、目を見開いた。
「ケーブルさん!ケーブルさ、熱ッ!!」
ドアを叩こうとして、もはや焼けた鉄板となったそれから手を離す。
「くそっ!蒼月!かすみさん!ケーブルさんが!誰か助けてくれよ!ちくしょぉぉぉぉ!!!」
ドンドンと手に持ったクリムゾンを2つ目の部屋のドアに打ち込む。
しかし今クリムゾンに入っていた至って普通の銃弾はすべてドアに弾かれる。
引き金を引き続けるとカチカチと弾切れの音が空しく響いた。
「ちっくしょぉぉぉぉぉ!!!!」
ネオの絶叫が廊下に響いた。
跪いて拳を床に叩きつける彼の足元には犬福が吐き出した一つのフラッシュメモリと、小さなメモがあった。
メモにはこうあった。
「このメモリには首輪の2段階目のロックを解除するプログラムが入っている。
もし1段階目、これは私には解除できないものだったが、それが出来る者に出会ったなら、これで首輪は外れる。
こんなことしか出来なかった私を許して欲しい。願わくばこれが君達に希望を与えんことを。
蒼月、短い間だったが君がいてくれて本当に頼もしかった。ありがとう。
かすみ、君のおかげで私はココまでこれた。ありがとう。
ネオ、君の頑張りで、きっと助けがやってくる。ありがとう
エッジ、君は弱い。しかし誰よりも優しい。その優しさに私は救われた。
どうしようもない絶望の街で、君のような強い男に会えて本当によかった。
どうか、君が嫌でなければ親友と呼ばせて欲しい。ありがとう、親友よ。
そして犬福、パピィよ、君のおかげで希望は繋がった。人間を愛してくれて本当にありがとう。
大丈夫、きっと全てうまくいく。人間の力を信じて、進め」
-2つ目の部屋とその外-
ケーブルは笑っていた。
炎に包まれながら、物言わぬ機械になりながら、その顔は穏やかに笑っていた。
パピィは笑っていた。
体を炎に焼かれながら、元の小さく非力な犬福に戻りながら、やっぱり満足げに笑っていた。
「だれか、だれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ネオの絶叫が廊下に響く。
遠くで、エレベーターが爆破される音が聞こえていた。
【ケーブル:死亡】
【かすみ 所持品:拳銃(マガジン複数個:ほぼ弾切れの心配なし)、忍者刀朱雀 目的:弾切れまで水のバリアの中で待つ首輪なし、戦闘服着用】
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷) 所持品:衣服類・食料さらに多数、アーミーナイフ 、サバイバルナイフ数本
目的:みんなに会う為、いつも行く喫茶店に文句を言いに行く為に生き残る。弾切れまで水のバリアの中で待つ】
【ネオ(全身打撲、主に足) 所持品:魔銃クリムゾン(弾切れ)、食料等、多目的ゴーグル、使い捨てカメラ写ルンDeath
目的:ケーブルを助けたい】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍 目的:弾切れまで水のバリアを張り続ける
【現在位置 11区ギースタワー地下隠し駅】
【備考:支給品「犬福」が死亡】
【ヴィレン(左足骨折・全身打撲、リリス憑依中) 所持品:ノートパソコン、IDカード、殺人車椅子、銃器及び爆発物複数 目的:ゲームに参加・生き残る】
【現在位置 11区ギースタワー】
【備考:地下の駅とタワーをつなぐエレベーターは爆破済み、使用不可】
-ギースタワーの南
海中深度100m-
「ルガール様、ご報告が」
扉を開き入ってきたのはアヤである。
「何事だ」
振り向きもせず答えた男、もちろんルガール=バーンシュタインである。
「はい、例の駅にどうやら通信施設があった模様です。外部への連絡を探知しまして」
「処理は?」
「は、すでに当該ラインを切断。ただ、ギース時代の専用回線らしく傍受には至りませんでした」
「してやられたな」
その段になって振り向くルガールの目元は少し緩んでいた。
数時間前までの焦りから開放されたかのように、逆に穏やかになっていく主をアヤは礼を欠くと知りながら不気味であるとしか形容できなかった。
「アヤ、放送の用意を」
「しかし、定時放送まではまだ…」
言いかけたアヤをルガールは視線だけで制する。
「は…はい、只今!」
潜水艦の船室から飛び出すように出て行くアヤをルガールは微笑むように見つめていた。
「予定よりは幾分早いが、まあよかろう」
呟いたルガールの目には、モニタに映る参加者の姿すら写ってはいなかった。
ザ…ザザ…
浮上したとはいえ、この潜水艦「ディープノア」に搭載した通信機器ではやはり雑音の混じる放送となることにルガールは心を痛めていた。
きっと自分の声が明瞭に聞こえるほど、威圧感や絶望が増すのではないかと思っていたからである。
実のところ、心理的にはこの発言の前の雑音が逆に参加者にはプレッシャーとなっていたのだが、それは深海という名の高見から見下ろす彼には知る由もないことであった。
マイクのスイッチを入れる前に一つ大きく息を吐く。
自分が更なる高みに登ったような感覚を得て彼、ルガール=バーンシュタインは話し始めた。
「御機嫌よう、諸君。 お休みのところ、または食事中、あるいは殺し合っている最中の諸君。
その平穏なる時間を阻害して実に心苦しいのだが、出来れば耳をお貸し願いたい」
尊大なのか丁重なのか判断しかねるが、間違いなく不快に分類されるその口調で彼は続ける。
「いつもならば午前7時に報せているこの放送だが、少しばかり状況が変わった」
手元の会場MAPを弄びながら大して嬉しそうにでもなく微笑む。
「まずはここまでの死者をお伝えしておこう。ケーブル、霧島翔、椎拳崇、シェルミー、七枷社、日守剛、リョウ・サカザキ。以上7名だ」
手元にある資料と、アヤの入れた紅茶に視線を落とす。
しかし、そのどちらも手に取ることなく、一瞬の間の後、ルガールは続ける。
「望外の成果だ。正直、この時間に至りここまでやってくれるとは思わなかった。思わなかったのだが……」
ルガールは数分前のアヤとのやりとりを思い出した。
「それで、全体の状況は」
ルガールは随時モニタに写る報告で8割方のことを把握していた。
改めてアヤに問うたのは確認のためと、思案の時間を稼ぐためだった。
「はい。我々の手駒は日守剛、リョウ=サカザキ共に死亡。反抗的なケーブルと"イレギュラー”かすみが合流しました」
「アラン=アルジェントは?」
「は、ニーギ=ゴージャスブルー他と接触後、殺害を断念して離脱と報告が」
「信用度は?」
「40%と言ったところでしょうか。接触中の監視をほぼ完全に防がれておりまして」
無様な、という言葉を外に出すことなくルガールはアヤに背中を向け、腕を組んだ。
生存者は13名、そのうちにこのゲーム、すなわち殺すことに対し積極的な者はおそらく
アルル=ナジャ、ヴィレン。この2名しかいなかった。
序盤から接触していたアラン=アルジェントは、ニーギ=ゴージャスブルーとの接触の状況から考え、ほぼ中立以下と考える他ないと判断しての数字である。
「極楽台風、殺意の波動、禁術水邪の位置は?」
「それぞれ1区中央、7区東部、11区近辺となっています」
「近辺?えらく曖昧な報告をしてくれるな」
ルガールの威圧感におびえるようにアヤが慌てて口を開く。
「あ、あの、例の駅に入った集団にいたようで、トレースが難しく」
「わかっているよ」
半ばからかうように笑って彼は背を向ける。
そして、モニタの一つをじっと見つめて、言った。
「殺意の波動に関しては完全に間違いだ」
「え、しかし現在もリュウは7区の東に」
「違う」
言って、押し黙る。
彼の見つめているモニタに移っているのは、この町のかつての支配者が建てた象徴的なバベルの塔の外観であった。
「いささか、マンネリと言う感じがしないかね?」
ルガールには珍しい尊大というよりはコミカルなイメージの口調だった。
「それに、状況が膠着していると、私は感じるのだが、いかがかな?」
無論確認の声は聞こえないが、唯一聞こえる波の音のみを返事として話を続ける。
「現在生きている者は13名」
波間に会場のざわめきが聞こえるようだった。
「その13名に、素晴らしい権利を与えよう」
その呼吸に意味があったかは分からない。
しかし、次の言葉を聞くものに印象付けるには十分な間であった。
「我と謁見する権利だ」
「もう御存知とは思うが、我々は諸君らの位置をほぼ把握している。その上で、諸君らの一番集まりやすい場所を指定させてもらう」
手元のMAPにはアヤがつけたと思われる綺麗な赤い円が、それを囲んでいた。
「11区、ギースタワーの1階ロビーに集まって欲しい。期限は本来放送のある午前7時。これを越えると非常に残念ではあるが―――」
呼吸の間に、くい、と親指で彼方を指し示す。アヤがうやうやしく一礼して部屋を出て行くのが見えた。
「前回の放送でご紹介した「禁止エリア」を、ギースタワー以外全てに発動させていただく。禁止エリアに侵入、または滞在していた場合、数秒の警告音の後、首輪の爆弾が自動的に爆発する」
ルガールは言い切ってから自嘲的に笑う。
これは自分の焦りを吐露しているに等しい行為だ、しかしこれを出来るということはなんと独裁的で、なんと快感なことであるか、と。
「時間になったら使いの者をそこに寄越そう。それでは、くれぐれもパーティーには遅れてくれるなよ。道中や待ち合わせ場所でせめて和やかに談笑してくれれば幸いだ、それでは」
マイクのスイッチをオフにした。
目線は未だタワーの映像。
ルガールは無言で艦のハッチへと足を進めた。
「来たか」
「お待たせしてしまったようだが、『来たか』というのは私の台詞だと思うがいかがかね?」
ギースタワーの最上階の上、すなわち屋上に佇むのはかつてまみえた拳鬼。
「殺意あるところ我あり。我あるところ殺意あり。さりとてこの殺意は紛い物、作り物也。紛い物の殺意を集めなんとする」
「拳を極めし者よ、己の身上を忘れたのかね?語り合うが君の流儀ではあるまい」
ルガールの声に、じっと視線を飛ばすその男の姿がぐらりと揺れた。
「よかろう、我の真なる殺意によって滅せよ!物言わぬ屍となりて後、全てを語らせようぞ!」
「そうこなくては!私とて借りを忘れたわけではない。リュウからは手に入れられなかったその力、弄りつくし、溜飲を下げた上で取り込んでくれる!」
午前4時、階下に集まった11人が一斉に天井を見上げた時間である。
同時刻、11区南海上停泊中の潜水艦「ディープノア」内部。
返り血で深紅のドレスに装いを変えたアヤが、拳銃を片手に火花散る11区のモニタをじっと見つめていた。
【ルガール・バーンシュタイン 所持品:謎のマント、謎のリモコン 目的:拳を極めし者を倒し参加者を待つ】
【現在位置 11区ギースタワー屋上】
【備考 放送終了時がだいたい午前1時ごろ 最終状況の午前4時には生存者全員がタワー1階に集合済み】
Team-A「拳を握る者」
放送が流れる前、ニーギ達はこの町に無数にある空き家の一つで眠っていた。
アランと別れてから少ししてニーギの提案で、もちろん交代で見張りはたてていたが、
仮眠と言うよりは本格的に体を休める睡眠をとることになった。
ニーギ曰く「今この街に大きな二つの流れがあって、それがもうすぐ形になりそうだから」とのことで、
晶も葵も首は傾げたものの休むことに異論はなかった。
放送があった時、最初に気づいたのは見張りの晶ではなく寝ているニーギだった。
ちょうど見張りを交代したばかりでまだ眠気を引きずる晶を、ニーギがいましがた横になったばかりのソファから跳ね起きる音が強引に覚醒させた。
床に毛布を敷いて寝ていたはずの葵もまた、今まで寝ていたとは思えないほど優雅に正座の体勢を取っていた。
雑音から意味を成す声へと変わった時、全員の間に緊張が走った。
「なるほど、誰かがやってくれたみたいね」
ニーギがニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべるのを見て晶が不思議そうな顔をする。
「多分、どうにかして私達が戦わないといけないルールを提示してくるんじゃない?焦ってるみたいだし」
聞かれもせずにニーギが答えた頃、どこから聞こえているのかすら分からない声が死亡者の名を読み上げる。
「日守剛!」
唯一よく知った因縁ある名を、失望とも歓喜とも取れる声で葵が叫んだ。
「あの傷が原因かな……いや」
ニーギが顎に手を当てて考え込む。
放送は残り生存者の数を告げる。13名。
晶が首を傾げた。
「あれ?おかしいぞ?」
慌ててバッグからノートを取り出してパラパラとめくる。
その動きを待つわけもなく、放送は淡々と進む。
残り生存者を集めること、禁止エリアを発動させること。集合場所に迎えが来ること。
晶はページをめくる手を止め、余白の大きなページに必要な事項を走り書きする。
「全員集合か、思いきったことするわね。こりゃ敵さんかーなーりヤバいかな?」
ニーギの言葉に葵が応える。
「やはり手駒の日守を失ったからですやろか?」
「んー、でもあいつもう役立たずだったと思うし、それが理由ならもう少し早く」
「やっぱり!」
女性二人の話は耳に入っていなかったのか、放送が終わると同時にノートをめくりなおしていた晶が叫ぶ。
「わっ、どうしたの?」
「なにがやっぱりなんどす?」
「ほら、前回の放送!生存者は19人だって!で、今死亡者が7人だろ?でも残り13人だって」
「…参加者が…増えた?」
ニーギは視線を宙に飛ばす。
「間違えたんとちがいますのん?」
葵の言葉に晶がシュンとなる。
「でも、間違えるかな、こんな大事なこと…」
信頼を置く彼女の言葉に、自分の発見が大したことでなかったような気がして声がだんだんフェードアウトしていた。
「脱出者が出て補充?いや、だとするともっと切迫した条件を言うか、問答無用で殺しに来るわよね…
んー、参加者が増えたんじゃないと…」
「ウソをついとるんでは?」
「意味がないね。少なく言うよりもメリットないし」
「せやったら手駒を送り込んだとか」
「完全に手駒なら言わないほうが有利だから違うと思う」
「分裂したとか、死人が生き返ったとか……」
自信をなくした晶はもはややけっぱちの体で思いつくままに喋っている様子だった。
しかし、ニーギはその言葉に鋭く振り向いた。
「晶、今なんて言った?」
「分裂…」
「なんでお約束のボケなのよ!そっちじゃない!」
「生き返った、か?」
「それ。あとはもう一つくらいなんか不利なことが決め手であったんだろうけど」
ニーギは一人納得したような顔で頷いている。
「つ、つまり?」
当の晶は半笑いで問いかけている。
「死人と言うと正確じゃないけど、運営してる側が把握してない生存者が確認された、ってことね
以前に名前を呼ばれた誰かだと思うけど…」
「そんなことが可能なのか?」
「んー、可能性の問題じゃなくて、事実としていたんだと思うよ。位置の把握すらできてなかったんなら
首輪も機能してない、逃げようと思えばこの場から逃げられるような参加者が」
「もし逃げおおせたら、前にニーギはんの言うとった儀式が破綻してまうから……」
「そう、『知っているぞ、逃がさないぞ』ってアピールのためでしょうね。でももしその事実がみんなに伝わったら、どうする?」
「んー、そいつに首輪の外し方を聞きにいくかなあ」
「儀式のことを知っとったら逃げるようにも教えるやろね」
晶と葵は共に、言ってから当を得た顔になった。
「そ、みんなを集めるのはそいつも含めて監視下に置きなおすか……直接会うなら多分まとめて殺すほうが早いかな」
「だったら行かないほうが」
「いーえ、それを行うなら間違いなくルガール本人が来るし、その場にその『死人』がくるならさっき言ったこともできる。
罠ではあるけど間違いなくチャンスでもあるわ」
ニーギはすっくとソファーから立ち上がる。
「リミットは6時間、ここからタワーまで普通に歩いて大体2時間ってとこかな」
「いきましょう、ニーギはん」
「ああ、行こうぜ!」
晶の袖に寄りそう葵と、立ち上がりノートを閉じて拳を握る晶。
二人に微笑みかけて、パラダイスタイフーンと呼ばれたその少女は力強い風と共に歩き出した。
Team-B「困惑する男」
アランは放送を3区で聞いていた。
先刻主催側から教えられた武器情報のうち、近場にあって使えそうだったサムライソードと銃を探していた最中だった。
教えられた広場では、すぐにそれは見当たらなかった。
広場の脇にすこしうず高く積もったような土、何かを埋めたような跡を見つけて近づいた時には放送が流れはじめていた。
あまりにも不可解な放送だった。
明らかに自分のジョーカーとしての働きを無視した内容に聞こえた。
しかし時間が気になった。
現在およそ午前1時。集合のリミットが7時。
禁止エリアの効果で殺すつもりなら長すぎる。明らかにその場所に集めるつもりだ。この自分も含めて。
ふと地図で自分の位置を確認して考える。
ひょっとすると自分が一番集合場所に近いのではないか?その場所に真っ先に辿り着き不意打ちで誰かを殺す。
死体を隠して「自分が最初だった、まだ誰も来ていない」と言えば来た相手を順々に、全て殺すことも可能かもしれない。
そう言う作戦なのだろうか?
期待されている動きをするように見せなければならない。いや、必要とあらば改めてそれをしてみせなければならないかもしれなかった。
表向きでもなんでも、自分はこの首輪の他に「ジョーカー」という血統書に縛られた犬なのだから。
犬が何かするにはご主人様に確認が必要だ。
自分に対する皮肉に苦笑しながらそう思い、携帯を取り出す。
連絡用の番号を呼び出して、コール。
1回、2回、3回、4回。
コールは続くが電話が取られる気配はなかった。
アランは動物園の熊のようにうろうろと歩き回った。
さっきの指示の時見た状況からすればこのあたりに他の参加者はいないはずであるが、危険な行動である。
5回、6回、7回、8回。
アランは携帯を耳に当てたまま首を傾げた。
ふと、遠くの木陰に何かが光った気がして歩いていく。
「おいおい、留守なんてことはねえだろ」
9回、10回。
ふと、さっきの放送が思い出された。
もしや、自分はもうジョーカーとしての扱いをされていないのではないか。
もともとただの参加者、被害者といってもいい身だ。見捨てられた、というのはおかしな感覚だろう。
しかし「あちら側」との繋がりが絶たれることは恐ろしく思えた。
ニーギの話を聞く限り、優勝したとて自分の望む情報は得られないらしい。
よしんば与えられても、冥土の土産として。生前の情報など金と違って地獄で使うこともできない。
ゲームのバックにアプローチする術がなくなることは酷く絶望的な事だと、続くコールが囁いているようだ。
19回、20回、21――
ガチャリ。
『お待たせしました、アラン=アルジェント』
先刻自分に指示を与えた女の声だった。
指示されたときは苛立っていたが今は救いの女神の声に聞こえないこともなかった。
「おお、悪いね。取り込み中だった?」
『ええ、まだ少し残っております』
ズダン。
「あ、そう。メシでも食ってるの?どうよ、このゲーム終わったら俺と」
『用件はなんでしょう?』
ズダン。ドサリ。バスン。悲鳴。
いい返事を期待したわけではないが、完璧すぎる事務口調はなんともやるせない気分にさせてくれた。
「あー、そうそう。さっきの放送のことなんだけどさ」
叫び声。バン。悲鳴。ドン。ドサリ。
『お聞きいただけたならその通りの意味ですが』
「……アレを利用した作戦とかそういう指示は」
『ご自分の判断で我々に利すると思われる行動をとれ、とルガール様からの伝言がございます』
叫び声。倒れる音。命乞い。銃声。銃声。銃声。
「済まなかった、どうやら邪魔したみたいだ」
『はい、では後ほど』
ブツリ、という音の後プープーという機会音。
――銃声は、もう聞こえなかった。
「何人殺してたんだよ、今の女……」
放任とも放置とも、戦力外通告ともとれる会話の内容よりも、
その後ろからずっと響いていた惨殺の音声が耳から離れなかった。
不可解な放送と異常な電話、アランはひとしきり考え込む。
「……好きにしろってことだよな」
仕方なくそう結論付けて靴の紐を縛りなおす。
「とりあえず一番乗りしとくか…ニーギ達が来たら覚悟決めよう」
先ほど木陰に見えた光るそれ、足元に突き刺してあったサムライソードを引き抜いて、アランは走り出した。
月夜と言えど未だ目的地は遥か闇の中に輪郭すら見せていない。
Team-C「眠る狩人」
放送で集合場所が告げられた時、ヴィレンはまさにその「ギースタワー1階ロビー」にいた。
彼は地下の隠し駅からエレベーターで上階に上がった後、追っ手からの時間をかせぐためにそれを爆破した。
エレベーターの中でいろいろ見た限り、上の階からは特殊な操作がなければ隠し駅のある階までは降りられなそうだったが、
念には念をというやつである。この街ではそういう気持ちがない奴から死ぬのだと思い知らされている。
放送でケーブルの名が呼ばれたとき、彼は愉快そうに笑った。
「やってやったぜ!バケモンがよ!」
『ヴィレン選手1ポイントげーっと!』
周りも気にせずそう叫んでいた。
頭の中に響く声は強引に意識の外に弾いた。
しかし、集合場所が今自分のいるところだと聞いて表情が固まる。
今の放送では下の階で罠にはめてやった連中、自分を白痴よばわりした青髪のバケモノ、確か蒼月と呼ばれていたア
レの名前は呼ばれなかったし、一緒にいたはずのかすみやエッジの名前もなかった。
少なくとも現時点では生きているらしい。どこか遠回りするか無理やり地上を目指すかは分からないが、来ない理由がない。
さらに言えば自分の足を折った白い胴着もバケモノも死んだかどうかわからない、雷を落としたバケモノ、光の柱を出すバケモノ、
そのうちどれだけがこの街で未だ生きているのだろう。そしてそのどれだけが、ここに来るのだろう。
「ここがバケモノ博覧会の会場かよ……」
『おっかないねー』
ヴィレンは思う。
ケーブル、あれだけのバケモノをトラップで殺しきった。これは素直に金星だと思う。
ひょっとすると、このままこの車椅子に乗りトラップを仕掛けながら逃げればまだまだ戦えるのではないか。
しかしここは場所が悪い。見晴らしがよくて広い。そもそも自分がいることが複数の人間にバレている。
ここに大人数が集まるとなれば並大抵の戦力では太刀打ち出来ないのは明白だった。
とりあえず、と中央の階段に目をやる。
『あれ?集合しないの?』
「ここ全部吹き飛ばすだけの爆薬がありゃ一発なんだけどな」
できるだけ独り言のようにそう言いながら車椅子を操作すると、通常のそれは絶対にしないバーニア噴射によって
ヴィレンの体はゆっくりと浮き上がっていった。
2Fの一室に入り込むと、そこはビルに入っている企業の事務所のようだった。
折れた腿と車椅子に挟むように持っていたノートPCを机に広げスリープ状態から復帰させる。
タイムスタンプ、参加者名簿と見て、生存者の情報のファイルをクリックするとIDカードの読み込みを求められた。
他に首輪の情報や警備の情報もあったが、ゲームに従う方針のヴィレンにはさして必要に思えなかった。
「さて、一匹でもバケモノが減ってやがるかな」
パスの認証を終えた画面に映った複数の人間の情報を見て、ヴィレンはガックリを肩を落とした。
名前や特徴の他、この街に来てからの行動が載っていた。
自分に関わったものや、大きな力を行使したものがひと目で分かる。
「全部生きてやがる…」
『ふりーくすどもめぇー』
自分が把握する限りの「正面からやりたくない相手」の全てが未だ健在であることが判明してしまった。
随時更新されていたであろうデータが午前の1時、放送を境に更新を止めていることは引っかかったが
理由が分かるわけでもないので捨て置いた。
「やっぱり、ドブネズミらしくいくか…」
『ちょっとー、ヴィレン君ー。そろそろ相手してよぅー』
ずっと無視されていたリリスの声が不満を抑え切れない様子になり、仕方なく返事をする。
「おい、ゲームを完成させる前にルガールが死んだらどうなる?」
『おぉー、返事きたぁー』
「やっぱいい」
ぶんぶんと首を振って思考を切り替えようとする。
頭の中のこいつもフリークス。仏心を出したり頼ったりすればバカを見るに決まっている。
『あーごめんね!えっと、モリガンが言うには『それをさせないために貴方がいるのよ』って言ってたけど、
『ルガール一人になったらゲームが終わっちゃうから、その前。二人の時点で抜くのよ』とも言ってたし…
ひょっとしたらルガールじゃなくても最後の二人ならいいのかも』
無視してやろうと思ったリリスの言葉がどこかに引っかかって、つい訊いてしまう。
「おい待て、ルガールが一人ってどういう」
『このゲームの終着点がそこだからねー。優勝者を呼んで、褒めて、殺しちゃうんだって』
「お前俺を優勝者にするっつったよな」
『言ったよ?』
「優勝者はどうなるって?」
『死んじゃう』
「こんのバカ!」
『きゃん!!』
自分の怒声で耳がキンキンしたが、頭の中のリリスにも(物理的にはどうだかわからないが)効果があったようだったので
意味のない叱責でなかったことに少しほっとする。
しかしすぐさまキンキンする耳元に声が聞こえた。
『だからー、その前にどっちかの魂をヌクんだってば。あ、もしかしてヴィレン君ヌかれたい?』
「あぁ?」
『優勝したら、ルガールに会う前にヌイてあげよっか?そっか、やっぱり男の子だもんね。リリスもそのほうが楽しいし』
「ちょ、ちょっと待て」
『そうだよね、一度くらいカワイイ女の子にヌかれてこそ一つ上の男に…』
「…コラァ!」
不穏当な方向に進みつつあるリリスの思考に危機感を覚えて発言を遮ったヴィレンだったが、ふと、思う。
「…………俺がお前にタマシイ抜かれたらどうなる」
『モリガンのとこに持ってって、んー、モリガンが吸うのかなあ。何かに使うかも。あ、でもでも、お願いして闇の住人にしてもらうのもいいよね!
そしたらずっと一緒だよ!』
話を聞く限り、無事でいられるという項目は一つもなかったのだが、ふと、思ってしまったのだ。
「お前と一緒にバケモノとして暮らすってことか」
『うん!試験も病気もなんにもない楽しい暮らしだよ!あ、モリガンのおつかいはあるけど』
「……やめだやめ。俺の体もタマシイとかも全部おれのもんだよ。てめえはルガールか、別の奴か。どっちでもいいから俺以外のもう一人から
タマシイ抜いてとっとと行っちまえ」
『ぶぶぶのぶー』
意味のわからない抗議の声を無視してヴィレンは部屋の入り口にトラップを仕掛け始める。
「終わったら少し寝る。騒ぐなよ」
手を止めずに見えない少女に釘を刺す。
『だから集合はー?』
「バケモノが集まってルガールと会うんだろ?間違っても無事じゃすまねえよ。俺はおこぼれをもらう」
手際よくワイヤーと爆発物のトラップを仕掛け、その爆風から逃れる場所に位置どって車椅子から机に足を投げ出す。
『もー!ゲーム壊されたら怒られるんだからねー!』
「少なくとも10人以上のバケモノに仕掛けるような真似はゴメンだ。いいから少し寝かせろ」
そう言ってまぶたを閉じる。
『甘えん坊さんですねー』
そう言ってリリスが子守唄を歌い始める。
誰も頼んじゃいねえよ。その言葉を飲み込んでヴィレンは眠りに落ちていく。
Hush-a-bye, baby, on the tree top―――
目が覚めたらバケモノ全部と一緒に消えてればいいなと思った。
さっき、ふと、「それも悪くないな」と思ってしまった事実と、想いが。
Team-D「覚醒のディテクティブ」
「なんでだよ!ネオさん!なんで!」
エレベーターホールに悲痛な声が響く。
ネオの胸倉を掴んで揺するエッジの姿を、かすみは声も出せずに見ていた。
肩の傷から血が滲んでいる、痛いはずだ、そう思ったがやはり何も言えなかった。
「すまねえ……」
「犬福も、ケーブルさんも!畜生!畜生!」
しばらく歪んだ通信室の扉に触れていた蒼月が戻ってくるのが見えた。
「でもお前たちだってあいつに足止めされてたんじゃねえかよ!俺だって!」
「でもあんたは一緒にいたじゃねえか!」
「あの状況でお前ならどうにかできたのかよ!」
「ッんだと!?」
何も出来なかった悔しさが苛立ちとなって二人がぶつかる。
エッジの拳が飛ぶより早く、掴み合う二人を引き離すように水弾が二人の顔をしたたか打った。
「やめなさい見苦しい」
「でも蒼げぷわっ!?」
抗議の声は水弾のおかわりを要求したと取られたようだった。
反対側ではエッジがもう声を荒げることもなくうずくまって泣いていた。
手にはケーブルが残し、犬福が運んだメモが握られている。
「おっさん…畜生…イリヤの野郎…!」
その様子を見てネオはびしょびしょの顔をゆっくりと拭う。
目の辺りを丁寧にこすりながら顔をあげると、蒼月が睨みつけていた。
「ネオ、貴方はどうします?」
「どう……って」
「放送は聞きましたね」
「ああ……」
蒼月の口調は子供を諭すようにゆっくりと丁寧だった。
「では、どうします?」
「……蒼月が考えてくれよ」
かすみの腕の中で冷たくなっている犬福を見て捨て鉢にそう言う。
ぱしゃん。
三度目の水弾は今までよりも勢いがなかった。
「…私は貴方に指示を仰いでいるのですよ、ネオ」
「はぁ?」
蒼月の言葉にネオは目を丸くする。
「この場所に来てから痛感しました。私にはこの世界の知識が圧倒的に足りない。エッジには冷静さが、
かすみには戦闘外での判断力も足りません」
聞こえてはいたが、かすみは聞こえなかったかのようにそっぽを向く。
「俺だって…!」
「いえ、貴方にはあります。知識も判断力も、ここ一番の度胸もね。水邪相手に人間の身で渡りあったのを忘れましたか?」
蒼月は表情を見せないように顔を伏せて言った。微笑んでいるような気がした。
「さあ、ネオ、今我々のすべきことは何ですか?」
ネオの胸に熱い物がこみ上げる。
蒼月はこんなにも自分を認めてくれていたのだと誇らしい気持ちになった。
それはおそらく、メモを読み返し、自分へのメッセージを見つめているエッジのそれと同じものだ。
「…蒼月」
「はい」
「特別冷たい水かけてくれ」
「…ふむ」
ざばぁ。
器用にも顔から上だけをずぶ濡れにして水の塊はネオの後ろへ落ちた。
「つ、つめてー!いや、これでいい。頭が冴えてきたぜ!」
宇宙人と戦ったときも、時間を越えて捜査した時も、いつだってそうだ。
クイズ探偵ネオは土壇場に強い男なのだ。
ネオは顔に手を当てる。
「考えろ、考えろ考えろ考えろ。上に行ったイリア、ケーブルさんのくれた解除キー、集められる参加者、ここにある施設、
放送の意味、最善のルート、蒼月の力、参加者の同調…」
独り言を呟き続けるネオの目は焦点が定まらない。
完全に思考に没入し、ネオの傍らから移動して壁に身を預けた蒼月の動きにも気づいていないようだった。
「よし」
数分後、おもむろに顔をあげたネオはすさまじい勢いで指示を出した。
「俺は今から武器庫に行ってくる。かすみさんはエレベーターの穴を登って調べてくれ。いけるところまでで構わない。主には大きさと、
破壊具合を見てきて欲しい。このゴーグルを貸すから暗闇でもある程度見えると思う。蒼月はそこのドア、どうにか切り出してかすみさんの
調べた穴の幅にできるか?そう、そっちのやつ。エッジは食料庫とトイレを調べてビニールの大きなゴミ袋を探してくれ。
あ、食料庫に調理器具があったらついでに持って来てくれ。以上、各々10分で済ませてここ、エレベーターホールに集合、いいか?」
「ええ」
蒼月は微笑んだ。
「は、はい!」
かすみは面食らいながらも返事を、エッジは
「よくわからねえけど、それで、道は開けるんだな?前に進めるんだな?」
「ああ、頼む」
「わかった!」
涙を拭って駆け出した。
――およそ10分後
「これでいいですか?」
蒼月はトイレの入り口の大きめのドアを抱えて現れた。
大きさはちょうどそこにあったエレベーターの床と同じくらい。
先に戻っていたかすみに聞いたのだろう、穴に合わせて余分な辺が綺麗に斬られているのがわかった。
おそらくは刀ではなく水を変質させたか、ウォーターカッターの要領でで切ったのであろうが、青龍の力を行使したのであれば
厳密には「刀で斬った」といえるかもしれなかった。
かすみは蒼月より少し前に戻り、穴の大きさや上までのおおよその距離を測ってきていた。
「穴自体は特に異常ないです。でも、登れる範囲にエレベーターの箱はなかったので、多分爆破されたまま1階で止まってるんじゃないですかね」
と言って両手を胸の前で合わせていた。
エッジは存外に遅く、時計もろくにない中で10分という時間が正確に測れるものではないにせよ、
大量のゴミ袋と共にざるやボウルの入った大鍋を両手に抱えて、おそらく時間ギリギリに戻ってきた。
ただ、食料庫でそれらを調達したであろう後、ケーブルが死んだ部屋の前に犬福の亡骸を置きなおし、
そこにかがんでじっとしていたのを他の全員が見ていたため誰も何も言うことはなかった。
ネオは見た目何も変わらず、しかしその実バッグの中にはあの部屋にあったほぼ全ての弾薬を詰め込んで戻ってきた。
逆に銃器の類は一切手にしておらず、かすみやエッジは首を傾げたものだった。
ネオに尋ねると「これだけあれば十分さ」と応え、なにやら紙の束と共にクリムゾンを振って見せるだけだった。
「さて、じゃあ上の階に行こう。さすがに俺達が一番乗り、あ、イリヤがいるんだったっけ。まあ行こう」
「といっても、あのからくりは壊されていますよ?」
「蒼月、お前水どれくらい出せる?」
「……この刀があればほぼ無尽蔵に」
青龍に触れる蒼月を見てうん、と満足そうに頷いてネオはエレベーターのドアに手をかける。
かすみがこじ開けて登ったままだったので半開きになっていた。
「この穴にそのドアを入れて、水をぶっこむ。できればその水圧で持ちあがればいいけどこういうので人を持ち上げるのにはすごい力がいるんだ。
だから、この穴に水、膨らませたビニール袋、ドアの順に入れて浮かす。まあいかだと水のエレベーターだと思ってくれ。」
「どこかから水は抜けませんか?」
かすみが心配そうに聞いてくる。先ほどのチェックではその密閉性までは確認できていない。
「多少は抜けると思うけど、この階から地上までに別の階はないだろうからいけると思う」
「なるほど」
「上に行ったら、メシにしようぜ。後はそのあとに教える」
「メシぃ?」
エッジが調子のはずれた声を出すのに苦笑しながらネオはみんなを促した。
「急ごう、早くしないとイリヤがトラップを仕掛けちまうかもしれない」
蒼月が目を閉じると地のそこから水が湧きだすような音が聞こえた。
やがてそれは先に落とした扉を浮かせ、その上に四人の体を乗せたまま、ゆっくりと上に進み出した。
心なしか蒼月の表情が険しい気がしたが、かすみもエッジも緊張した面持ちで似たり寄ったりなので特に気には留めなかった。
「おっさん、犬福、仇は取る。アンタの親友が、絶対イリヤを……」
ただ、一番近くに立つエッジが聞こえるか聞こえないかの声で呟いているのだけが気がかりだった。
Team-E「AとK」
リョウとの一件の後、アルルと楓はもといた家屋へと戻っていた。
別の家でもよかったが、ある程度部屋や物の位置を知っている場所のほうが多少なりとも安心に感じたからだ。
近くに敵がいないことを探知機で確認し、体と心を落ち着ける。
先ほど消えたリョウ、いや、リョウだったかどうか確証のない何かとの邂逅は二人を大きく動揺させた。
それぞれが部屋の対角で押し黙ったまま膝を抱える。
アルルはポケットから草薙のグローブを取り出す。
少し丸まったそれを綺麗に広げると乾いた血がパリパリと音をたてて剥げ落ちた。
目的があったわけではないが少し魔力を引き出してみる。
暖かな赤から無色へと、浮かんだ光が徐々に消えていくのが暗闇のなかで楓にもわかった。
「さすがに空っぽだね…」
そう言った所で事情はわからないであろうが、弱々しく微笑みかけるアルルに楓もまた意味もなく微笑み返してきた。
ポケットではなくバッグにグローブを仕舞う。
「アルル…」
その仕草を黙って見つめていた楓がふいに口を開いた。
「なに?かーくん」
「ずっと守る、俺がお前をずっと守るから」
あの男が言った言葉を繰り返す。
アルルはもともとそのために楓を保護したはずなので当然といえば当然の発言である。
数刻前ならば「絶対だよ」くらいは言ってのけた少女は、今はただ「うん」と頷くのみだった。
再びの沈黙が部屋を包んでしばらくすると、放送が聞こえた。
二人はその間もずっと押し黙ったまま、時折互いの顔を見合っていた。
「リョウさん、サカザキって言うんだね」
放送が終わり、三度訪れた静寂からしばらくして、アルルが先に口を開いた。
「そう、言ってたな」
『ずっと守ること』
応えてすぐ、リョウの言葉が楓の脳裏に響く。
「なんか、集まれって言ってたね」
「そう、みたいだな」
みんな、という単語に二人の脳裏には今までに出会って、今だ放送に出ない人間が浮かぶ。
アルルがまず思い浮かべたのは白い胴着と赤い血のイメージ。
恐怖が体の芯から蘇る気がする。寒気と怒り、憎悪と嫌悪が湧き立つ。
歯の根が合わない。両腕を抱きかかえて身震いをする。
しかし、なぜだろうか。そのイメージ、その男に恐怖を抱いている理由は靄がかかったように思い出せなかった。
楓がまず思い浮かべたのは細身で金髪の伊達男。
『残念ながら、俺は傲慢な男なんだよ』
『ずっと守ること』
『あばよッ!』
それを引き金に次々に幻聴のように浮かぶ言葉に体をこわばらせ、頭を抱えた。
生きている者も、死んでいる者も、自分が殺したものも、その幻影が自分を取り囲んでグルグル回りながら語っているようで眩暈がした。
電気を消した部屋で、どれだけそうしていただろうか。
暗闇の中で、寄り添うこともせず、ただ体を震わせる二人。
きっと死ねれば楽だろう、しかし、それを選ぶには二人はまだ強すぎる。
やがて、どちらともなく呟いた。
「行こう」
「ここにいたら死んじゃう…」
「俺はアルルを守る…死なせない」
立ち上がる。荷物を持つ。扉を開ける。
歩き出す二人を見つめているのは夜空の月。
道を行く二人を見つけたのは―――
Team-H「蛇を飼う」
紅丸は歩きながら考えていた。
この力は果たして自分が使っていい物なのだろうか。
考えても無意味なことはわかっていた。
それでも京と共にオロチに関わるものの血、力、宿命――
そんなものを見てきた男には、それがいかに重く恐ろしいものか痛いほど分かっていた。
今暴走していないのも血の気まぐれ、あるいはシェルミーの恩恵に違いないだろう。
それでも、この力を使って為さねばならないことがあった。
為した後は……そう考えて、結局自分もシェルミーと変わらないと自嘲する。
「喧嘩が強い上に男前、か。いい女の理想は高いね」
歩きながらいつも以上の静電気で髪をまっすぐに立てると、遠方に同じようにそびえ立つ塔とそこへとのびる大きな橋が見えた。
お堀を越えて魔王の城へ姫を助けに行く騎士のようだと思った。
そうだ、もう一度ナイトになろう。想っても届かぬ姫のために命がけで戦うナイトに。
涼しい風が吹いて、紅丸は乾いた唇をペロリと舐めた。その仕草が少し、蛇に似ていた。
Team-G「リュウ」
放送を聞いて、リュウは歩いていた。
いや、聞く前も、聞いている間も歩いていた。
さっきまではあてどもなくだったが、今目指す先は勿論ギースタワー。
それが罠であろうと、ルガールに見えるとあらば行かないという選択肢は存在しない。
もちろんニーギにとってもそうだろう。この先には必ず彼女がいる。
しかしいるのは彼女だけではない。
放送に名前のなかったあの少女、アルルも、生を諦めていなければ来るはずだ。
リュウは決意していた。
あの少女を救う。
それは偽善でもない、償いでもない。
強いて言えば「命を賭してすべきこと」、大袈裟に言えば人生の目標のように感じていた。
「誰よりも強くなる」
今までそれしかなかった男はこの街であまりに多くの物を失い、手にしたのはたったそれだけだった。
彼女を救い、ルガールを倒し、その後は、拳を捨てよう。
リュウはそう決めていた。
切り落としてもいい、神経を無くしてもいい、二度と外れぬ枷をはめるのでもいい。
この拳は、この拳に宿った全てはこの街に置いて行こう。
リュウは歩みを止めない。
歩んでいるのは全てを失う道と知ってなお、彼の足取りは力強かった。
Team-?
―――あれは、まさか
視界の遥か先、二つの人影が写る。
―――いや、きっとそうだ
確証はないが、そう思った。
―――運命なのだろう
まだ数百メートルはあろうかと言う位置で相手がこちらに気づく。
逃げるそぶりを見せたが、一方がそれを制して対峙する姿勢を取った。
駆け寄ろうか迷った。
しかしこれ以上警戒されてもと思い、そのままのゆっくりとした歩調で距離を詰めていく。
「探したよ」
「ひっ……」
「お前は…!」
近づく男、リュウ。
おびえる少女、アルル。
睨む少年、楓。
月夜に夜風が吹いていた。
【ニーギ・ゴージャスブルー(全身の広範囲にわたってダメージ+中程度の火傷)
所持品:ゼロキャノンコントローラ(チャージ完了)、雑貨、ゴーグル、長ビス束、コンドーム、首輪
剛のバッグ…スペースハリアーバズーカ、マカロフ、携帯電話(アランの連絡先登録済)
目的:ゲーム盤をひっくり返す、ギースタワーに行く】
【結城晶 所持品:大学ノート(死亡者の名前とハガーメモの要点写しと手記、およびニーギたちとの会議メモ)と鉛筆、首輪
目的:葵を守る、ニーギについていく】
【梅小路葵 所持品:釣竿とハガーのノート
目的:晶たちとともに生きて帰る。ルガールをブッ倒す、ニーギについていく】
【現在位置:1区東から11区ギースタワーへ移動中】
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ、首輪、出刃包丁、日本刀「紅鶯毒」
目的:ゲームを内側から壊す、プローブの情報を盗む為に本部へ潜入、ギースタワーに一番乗りする】
【現在位置:3区より11区ギースタワーに移動中】
【ヴィレン(左足骨折・全身打撲、リリス憑依中) 所持品:ノートパソコン、IDカード、殺人車椅子、銃器及び爆発物複数
目的:ゲームに参加・最後の2人(ルガール含む)になる、少し休む】
【現在位置 11区ギースタワー2F事務所内】
【かすみ(首輪なし、戦闘服着用) 所持品:拳銃(マガジン複数個:ほぼ弾切れの心配なし)、忍者刀朱雀、多目的ゴーグル
目的:1Fロビーに行く】
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷) 所持品:衣服類・食料さらに多数、アーミーナイフ 、サバイバルナイフ数本、調理器具
目的:みんなに会う為、いつも行く喫茶店に文句を言いに行く為に生き残る。1Fロビーに行く】
【ネオ(全身打撲、主に足) 所持品:魔銃クリムゾン(弾切れ)、食料等、使い捨てカメラ写ルンDeath、弾薬複数種類大量
目的:1Fロビーに行く】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍
目的:1Fロビーに行く】
【現在位置 11区ギースタワー地下隠し駅よりエレベーターの穴を上昇中】
【アルル・ナジャ 所持品:1/10ウォーマシン(電池切れ、充電可能)、草薙京のグローブ(魔力切れ)、ハーピーの歌声入りラジカセ
目的:生き残る、11区ギースタワーに行く】
【楓(覚醒状態、肉体・精神共にそれなりの疲労)
所持品:探知機(有効範囲1q程度、英語表記)、K´のアクセサリー、封雷剣
目的:アルルをリュウから守る、11区ギースタワーに行く】
【現在位置 8区東部】
【荒れ狂う稲光の二階堂紅丸(左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本、ボウガン(残り矢3本)、リボルバー式拳銃(ラスト1発)
目的:ルガールを倒す】
【現在位置:5区中央付近より11区ギースタワーへ移動中】
【リュウ 所持品:釣竿、ホアジャイ特製スペシャルドリンク(残り1本)
目的:アルルを助ける】
【現在位置:8区東部】
Team-B「困惑する男」
アランは放送を3区で聞いていた。
先刻主催側から教えられた武器の所在で近くだったサムライソードと銃を探しに来ていたところだった。
大まかな位置しか伝えられていなかったアランはその周辺、つまりパークに入ってようやく気がついた。
「ああ、サムライソードってアレか」
しばらく前に葵や晶と共にこの場所にいたことを思い出す。
たしかサムライの遺体を埋めてやったときに晶が盛り上がった土に突き刺していたはずだ。
「どっちだっけなぁ」
一度来たとはいえ広いこの場所のことである、しばらく見覚えのある景色を探して右往左往していると、
しばらくの雑音の後、どこからともなく放送が聞こえてきた。
それはアランを困惑させるのに十分な、違和感あふれる放送だった。
明らかに自分のジョーカーとしての働きを無視した内容に聞こえた。
その中でも、特に時間が気になった。
現在およそ午前1時。集合のリミットが7時。
禁止エリアの効果で殺すつもりなら長すぎる。明らかにその場所に集めるつもりだ。この自分も含めて。
ふと地図で自分の位置を確認して考える。
ひょっとすると自分が一番集合場所に近いのではないか?その場所に真っ先に辿り着き不意打ちで誰かを殺す。
死体を隠して「自分が最初だった、まだ誰も来ていない」と言えば来た相手を順々に、全て殺すことも可能かもしれない。
そう言う作戦なのだろうか?
期待されている動きをするように見せなければならない。いや、必要とあらば改めてそれをしてみせなければならないかもしれなかった。
表向きでもなんでも、自分はこの首輪の他に「ジョーカー」という血統書に縛られた犬なのだから。
犬が何かするにはご主人様に確認が必要だ。
―――風が吹いた
背中から刺される男
広がる鮮血
白い胴着の男
叫ぶ自分の声
アルル=ナジャは思った
ああ、これはあの時の光景だ
―――風が吹いた
遥か後ろ、何かが動いた気がしてアルルは振り返った。
「かーくん……」
「…ああ、後ろにいる」
対照的に全く振りかえろうとせずに楓は応え、ゆっくりと立ち止まった。
後ろの人物から見えないようにバッグに手を入れる。
「この距離なら映ってると思うんだけど、アルル、見てくれ」
「うん……」
楓が体で隠すように取り出した探知機には3つの光点。
一つにARLE、一つにKAEDE、そしてもう一つにあった名前を見てアルルは絶句した。
「RY…りゅ……ウ?」
「リュウ?またさっきの奴の亡霊…じゃないな。確かルガールに名前を呼ばれていた…」
「うん、裏切り者の……殺人鬼」
アルルの探知機を持つ手に力が入る。しかしその動きに反して声は戸惑いを孕んでいた。
「どうする?どうせ向かう先は一緒だけど」
楓の言葉にアルルは応えない。
じっと探知機に視線を落としたまま黙っていた。
「アルル?」
再度呼びかける楓の声にアルルははっと顔をあげる。
「あ、え、なに、かーくん?」
「いや、やるのか、やらないのかってさ」
「やるって、なにを?」
訝しげに問い返すアルルに楓はいよいよ心配そうな表情を浮かべた。
「リュウって奴を殺すかどうかって話だ……大丈夫か?」
「殺す?リュウさんを?」
「大丈夫か、アルル?」
楓の声は聞こえていた、だが、本質的には聞こえていなかった。
殺す?リュウを殺す?殺さないと?殺される?誰かみたいに?
何かを求める問いがアルルの頭の中で洗濯機に入れられた洗濯物のようにぐるぐると勢いよく回った。
リュウを殺すのか、リュウに殺されるのか。本当はその2択のはずである。
しかしアルルの頭はその選択肢だけを残すことを拒んだ。
さっきまで、「リョウの姿をした何か」に出会うまでは、暗く沈んでこそいたがはっきりとしていた行動理念。
そこに白い絵の具をほんの少し垂らしてかき混ぜられた、そんな気分だった。
「くそっ……!」
楓の目にはただ困惑し、動かないアルルが写っている。
強引に片腕を掴み、引っ張ろうとする。
後ろには歩調を変えず悠然と近づいてくる気配。
撤退ならば、いや、闘争であっても一刻を争う。
しかし、楓が覚醒か追従かを求めて手を引いた少女は思いもかけない言葉を発した。
「うん、殺そう。裏切り者で殺人鬼のリュウさんを殺せば、きっとこのモヤモヤもなくなるはずだよ」
―――運命なのだろう
リュウはもう一度そう思った。
突然攻撃を仕掛けてくる様子こそないが、しかしアルルの傍らにいる少年…
彼と、その手にした剣から漏れ出る尋常ならざる力が自分の肌を刺すように感じて
リュウは強く拳を握り、気を入れ直した。
「探したよ」
リュウは知らない。
今少年の後ろで振るえている少女が先ほど自分を殺そうと発言したことを。
だから、やさしく、そう声をかけた。
「ひっ……」
しかし、その思いも空しく少女は少年の服を持つ手を強め、身をすくめるのだった。
「お前は…!」
楓の口から「アルルに何をするつもりだ」という言葉は続かなかった。
無駄な言葉を発する隙がない、そう見えたからだ。
楓にはその男の覚悟が体から煙のように立ち上っているように見えた。
その迫力と威圧感、自分の体の疲労、アルルを守り戦うこと、いまだ震える彼女。
楓は直感する。
自分はここで死ぬのだと。
この男と刺し違えて、アルルを守って死ぬのだと。
アルルは自分の体が恨めしかった。
殺す、リュウを殺す。確かにそう言った。
しかしいざ、目の前にその姿を見てしまった時から体は動かくなった。
リュウを信じる力強い少女も、リュウに加担する大男も迷いなく燃やしたはずだ。
そう思いなおす。
ルガールの使いを名乗り、かーくんの使う剣を持っていた少年も迷わず殺したはずだ。
そう思いなおす。
何故だか分からない。
思いなおすたびに心が締め付けられ、涙があふれ、恐怖で足がすくんでいった。
リュウが近づいてくる。
止まらない涙を拭こうともせず、アルルは楓にしがみついていた。
それ以外、何もできなかった。
「アルル、悪い!」
そう言って目の前の少年がアルルを突き飛ばすのが見えた。
「くたばれ!」
垂らすように片手で持っていた剣を振り上げざまもう一方の手で支える。
大上段の構えとなりすさまじい速度で振り下ろされる。
刀身には雷を帯び、例え斬り込まれずとも掠りでもすれば動きが封じられるであろうことが分かった。
しかし、リュウは焦らない。
今襲い来る少年は間違いなく強い、しかし、その動きには焦りがある。
その剣から、その体から、覚悟と同量の焦りが見て取れた。
半歩横に避けて振り下ろす刃をやり過ごす。
「くそっ!」
すぐさま続けての攻撃が来るだろう、しかしリュウはそれを許さなかった。
無言のまま右手を引く。
腰を回転させ、全身のバネを反発させ力のベクトルをその腕に向けて収束させる。
それは動作にして1秒を切る動き。
何千回、何万回と打ってきたパンチの一発である。
「グボァッ!?」
わき腹に深く突き刺さる拳に悶絶し、膝をつく楓。
しかし顔を地に向けたのは一瞬である。
直後、リュウの足刀がその顔面を襲う。
蹴り上げる甲が顎を捕らえ、声を発する間もなく楓が「少し浮いた」。
ぐらん、と首が揺れて、どさり、と音がした。
楓の体が地に伏せ、動かなくなるのを確認して、リュウはアルルに向かって歩みはじめた。
本当は振るいたくなかった拳である。
できれば穏便に、そうでなくてもあしらうに止めておきたかった戦いだ。
しかし決死の覚悟で剣を振るう少年の思いがそうさせてくれなかった。
もちろん殺してはいない。
しかし、完全に意識を断ち切る一撃でなければならなかった。
これから為すべきことのためには。
最初に求めていたのは闘いそのものだった。
あらゆる大会に出た。路上で闘い、リングで闘い、大きな舞台でも闘った。
次に求めたのは強さだった。
勝利が全てではない。そう言いながらも勝利には敗北にない満足感と充実感、なによりも達成感があった。
最後に求めたのは意味だった。
なぜ闘うのか、なぜ強くなければならないのか、その意味を知りたくて、また闘い続けた。
結論は出なかった。きっと一生かけても完全な答えを得る事はできないだろう、解っていた。
それでも、もしかしてこれが正解ではないかと思える意味が一つだけあった。
「拳を交わすことで思いを交わす」
闘いたいということは思いを伝え合いたいということと同義だと考えた。
強くあることで、より多くの者と思いを交わし合えるのだと、そう考えた。
リュウは信じていた、いや、今でも信じている。
人の拳には思いが宿るのだと。
思いの最果てに殺意を見た今でもなお強く思う。
殺意もまた「思い」だと、
相手を否定する究極の思い「殺意」、
その向こうにきっと拳に乗せることのできる最後の「思い」があるはずだと考えていた。
目の前に今居るのはこれまで闘ってきた強敵とは比べ物にならないほどか弱く見える少女。
もちろん、今まで拳を交わした中に少女が居なかったわけではないが、
この少女のように足元で震えながら涙を流す者と闘ったことはない。
自分の拳は、思いは少女に届くのだろうか。
リュウは改めて拳を握る。
その手の中にはなにもない。しかし、確かに何かを握りこんだ気がした。
「い、いやっ…」
アルルが泣きじゃくっている。
「聞いてくれ、アルル君」
「いやっ、嫌だよ!人殺し!何人も…何人も殺して…真吾君を、真吾君まで!裏切って!ころ…ころし…」
そこまで言って目を押さえていた手を口に当てるアルル。
何度も嘔吐した上にろくに食事をとっていない彼女の指の間からは透明な液体が漏れ落ちる。
「いくら言葉を尽くしても納得してもらえないかもしれない」
リュウは懺悔のように言う。
アルルは咳き込み、ぜいぜいと苦しそうに息を吐いている。
リュウの言葉が耳に入っているかは、定かではない。
腕を振り、切れ切れに何か呟いていた。
その手が淡く光り、すぐに消えるのが見えた。
ニーギや社を焼いたように、なにか魔法を使おうとしたのかもしれない。
それが発動しないのは集中できないからか、力が足りないからかはリュウにはわからない。
「やってきたことを否定することはできないし、すぐに償えることでもない」
次にアルルは手にしたバッグから人形のようなものを取り出す。
「あぁ…あぁぁぁ…」
もはや呻くような声で、震えながらそれを地面に置く。
しかしそれは動くことはなかった。
慌てて手に取りいろいろな方向から見つめるが、途中で取り落としガシャリという音が響く。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
いよいよもって半狂乱の様相であった。
バッグの中身を取っては投げ、とっては投げつけてきた。
数少ない食料さえも意に介さず放り続けた。
リュウはそれを最小限の動きでかわし、ほとんどその足を動かすこともない。
幾度目か、投げようとしたアルルの手に少し重い物が掴まれた。
それはラジカセで、アルルは救いの神に出会ったような表情をした。
しかし、震える手から無情にもラジカセは地面へと落下した。
派手な音がして部品が飛び散り、電池が転げた。
衝撃でテープが飛び出し、リュウの足元に滑った。
「う、あ……」
その手を掻くように動かして、リュウの足に触れそうになり手を戻す。
絶望、そうとしか見えない表情をして、アルルは頭を垂れた。
それきり、彼女はうつむいてただ泣くだけの子供となった。
「だからこそ……」
リュウはまた、握った拳を見つめてた。
昔、誰かに言ったことがある。
「これは強くなるための修行じゃない、弱くならないための修行さ」
巻き藁か何かへ突きを繰り返す単調な反復練習の時の言葉だ。
決して嘘ではない、しかし真実でもないと後に思った。
一度突くたび
ほんの少し、合理的に動けるようになっているのではないか。
一度突くたび
ほんの少し、より思いが伝わるようなるのではないか。
一度突くたび
ほんの少し、数値にできないほどの僅かでも、修行とは前に進むためにあるのではないか。
そして、そのほんの少しが積み重なって、いつかどこかに辿り着けるのではないか。
いつの日かそう思ったことを思い出した。
脇を締め、腕を引く。
目を瞑り、大きく息を吐く。
右足を引き、左足を曲げる。
左手を突き出し、アルルの額の前で止める。
右手を引き、拳に力を込める。
大きく息を吸い、目を開ける。
後ろで物音が聞こえた。
しかし、リュウは振りかえることもなくその動作をゆっくりと、丁寧に行った。
最後の動作を前にリュウは思う。
今まで何度拳を突き出してきただろう。
何千回?何万回?何億回?もっとだろうか?
今、リュウは思う。
―――全てはこの一回のためにあったのだ
アルルはなぜか顔を上げた。
怖かった、殺されると思っていた。
しかし、なぜか顔を上げた。
自分を殺すであろう拳を真正面から見つめていた。
なんだか、リョウの手に似ているな、そんなことを一瞬に思う。
それはすごい速度のはずなのに、やけにゆっくりと見えて
自分の顔に触れる直前でぴたりと止まった。
―――風が吹いた
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
アルルの絶叫と楓の絶叫がまるで歌のように同調した。
アルルは見た。
背中から刺される男
広がる鮮血
白い胴着の男
叫ぶ自分の声
アルル=ナジャは思った
ああ、これはあの時の光景だ
真吾君があの少年に、[自分が殺したあのケンスウという少年に]殺されたときと同じ光景だ。
心の靄は全て消えていた。
風がさらっていってしまった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!リュウさん!ボク…うわぁぁぁ!!!!」
仰向けに倒れる自分にすがって泣く少女に、リュウは優しく微笑んだ。
剣の引き抜かれた胸からは血と共に記憶も、思いも、全てが流れ出す気がした。
だからこそ、全てが流れて消えてしまう前に……
「アルル君…よかった。もとの…きみだね。心優しい…」
「ボク!ボク…やさしくなんかない!人も殺した、リュウさんにひどいことも…!
「俺は…いいんだ」
すがる少女の手をその大きな左手で包み、微笑んだままリュウが言う。
遠くには剣を地に突き刺すように持ち、頭を押さえてうなだれる少年の姿があった。
「俺は、きっと…辿りつけたから」
「え……」
「俺は…君を救いたかった。思いあがりかもしれないけど、俺にしか…出来ないと思った…」
アルルはどうしていいかわからず、ただただリュウを見つめて涙を流し続けた。
「君には、君にしか…救えない人がいるんだ。君を必要と…する人が…この街に」
「ボクを……」
リュウの首についた首輪がアルルの目に止まる。
ケンスウの首を吹き飛ばしたことが脳裏によぎったが、嘔吐感をこらえて代わりに悲痛な声を吐き出した。
「でも、ボクの力だけじゃダメなんだよ!それに力だってもう空っぽで!」
リュウの返事はなかった。
地に広がる血はリュウの胴着を赤く染め、その血溜まりのなかに落とされた右の拳が
閉じられたリュウの瞼とは反対に、ゆっくりと開いた。
―――風が吹いた
その中にアルルは「生きて」というリュウの声を聞いた気がした。
アルルの叫び声が天に響いた。
【リュウ:死亡】
【アルル・ナジャ 所持品:1/10ウォーマシン(電池切れ、充電可能)、草薙京のグローブ(魔力切れ)、
ハーピーの歌声テープ
目的:自分に救える人を救う、11区ギースタワーに行く】
【楓(覚醒状態、肉体・精神共にそれなりの疲労)
所持品:探知機(有効範囲1q程度、英語表記)、K´のアクセサリー、封雷剣、
リュウのバッグ(釣竿、ホアジャイ特製スペシャルドリンク(残り1本)
目的:アルルをずっと守る、11区ギースタワーに行く】
【現在位置 8区東部】
【備考 ラジカセは破損のため放置。リュウのバッグはそのまま楓が所持】
「アルル…」
どれだけの間そうしていたのか、リュウの遺体に沿い続けるアルルを見かねて楓が声をかける。
絶叫から嗚咽へとかわったその声すら聞こえなくなってしばらくたつ。
反応がない。
楓は心配になって歩み寄り、顔を覗き込む。
「…うん、ごめんね、かーくん」
途端に思いのほかはっきりとした返事が返ってきて当惑する。
「いや、うん…とりあえず、行こうぜ。ずっとここにいたらなんとかって言うので死んじまうんだろ?」
「そう…だね…それもいいかも」
楓の顔色が蒼白となるのを見て、アルルは意地悪く微笑んだ。
「とも思ったんだけど、うん。行こう」
「おいおい……」
ゆっくりと立ち上がったアルルは、崩れ落ちそうな楓を置いてスタスタと歩き出す。
「おい、待てよ!」
「急ごう、禁止エリアっていうのが動く前に辿り着かなきゃ!」
楓は少女の後姿を見て自問する。自分がしたことは正しかったのか。
あれで、あの白い胴着の男を刺し殺すことで彼女を守れたのか。
あの男は振りかえりもせず自分の剣を受けた。
強者が見せた隙だ。あの瞬間に殺せた相手だ、殺さなければいけなかったはずだ。
本当にそうか?あれは正しいことだったのか?
あれを見過ごすことは――――本当に傲慢なことなのか?
答えは出ない。
風はもう止んでいた。
<3:50 アルル=ナジャ・楓、到着>
「な、なんだよこりゃあ……」
「まさか、本当に…?」
楓は想定外の事態に、アルルは想像と違わぬ光景に思わず絶句する。
手を振る人影が見える。
「やあ、いらっしゃい。君達で11人、あと一人か…」
その人影がそう言って微笑むのが見えた。
<2:55 二階堂紅丸、到着>
「おいおい、これはなんの冗談だよ」
「うわ、なんかすごいのが来…ん?そっちの子のお兄さん?」
「ちげーだろ!たしかにエッジと髪型はカブってるけども!…え?マジでお兄さん?」
「……おや、もう一人はどうしました?いや、違いますね…確かにそこにいる…」
男の言葉に紅丸の気が膨れ上がる。
「お前はッ…!」
彼の拳を包みこむ「それ」は本来彼が持ち得ぬ力である。
<2:31 ニーギ=ゴージャズブルー・結城晶・梅小路葵、到着>
「おー、すっごーい!」
「いや、確かにすごいが…これは」
「いい香りどすなぁ」
「げっ…ニーギ…」
男がその姿を認めて思わず怯んだ声を出す。
「げって何よ悪党君。うわ、なにその物騒なの。やっぱりまたなんか悪事を」
「だから悪党じゃ…いや、もういいや」
がっくりとうなだれる彼の奥から別の男が声をかける。
「おぉ!美少女にゲイシャガール!これは何か!?ここに来てハイレベルな合コンでもはじまるのか!?」
「意味はわかりませんが顔が下劣ですよ」
パシャンと水の弾ける音がした。
<2:08 アラン=アルジェント、到着>
「……違うと思いたいけど、やっぱ間違いないよなあ」
アランは困惑していた。
彼は今ギースタワーの入り口、大きな自動ドアの手前で立ち止まっている。
「カリー……だよな」
その隙間から漏れ出る香り。
スパイシーなそれは間違いなくカレーである。
自動ドアの向こうにはこちらに気づいた様子の男女が4人。
「うわ見つかった、でもなあ、まさか……」
一方の手で頭を掻きながら一歩踏み出す。
もう片方の手に持った刀を決して手放すことも、眼前の人々に警戒を怠ることもないが、どう考えても戦闘になる気はしなかった。
「なんで先に着いた連中がカレーパーティーしてんだよ……」
呟きは自動ドアの音にかき消されている。
<1:45 ネオ・エッジ・かすみ・風間蒼月、到着>
「よっし、到着!」
無言で先に階段を上ったかすみに続いてネオが1Fのフロアに立つ。
水の力で動かした即席エレベーターは地下1階で止まっていた。
見上げれば案の定爆発で歪み、止まっている本来のエレベーターが見える位置だ。
そこからネオ達はフロアに出て、階段を使って地上へと出た。
いくらかのトラップは覚悟し警戒していたものの、結局そのホールに至るまでには妨害はなかった。
所要時間約30分。本来のエレベーターとは比べるべくもないが、間違いなく最短距離を現状で最も早い方法で到達したと言える。
「これだけ広けりゃトラップも無理だろ。狙撃くらいはされるかも知れないけど…蒼月、かすみさん」
「ええ、問題ありません」
「あの椅子を使っていても足を引きずっていてもさすがに気配は分かると思います」
1Fのエントランスを抜けてすぐ、一番広いホール部分でネオ達は小さな円を作って外向きにしゃがみこんでいた。
平面からの侵入は4人の視界がほぼカバーしている上、唯一見える階段は中央に大きな物が一つ。
降りてくるのが分からないような位置ではない。
なによりも忍びの者が2人もいるのだ。
人数に対して防衛には広過ぎる空間のようで、当面の敵であるヴィレンへの対応、
また外からやってくるであろう新たな人物に対応するにも現状でベストの布陣だといえた。
「オッサンが生きてりゃ来る奴の思考読んでもらって楽だったんだけどな……」
ぽつりとエッジが呟く。
「エッジ、ケーブルさんは…」
「ああ、わかってる、だから俺が…!」
何かを決意しているその瞳にネオは改めて不安を覚えた。
「さて、それじゃさっきも言ったけど、メシにしようぜ」
「さっきも言ったけどさ、メシィ?」
眉をひそめるエッジに対してネオはそのバッグの中の食材を全て出すように促した。
渋々とエッジはそれに従い、目の前にそれを全て広げる。
レトルトのカレーにコーヒーが大半を占め、乾パンやインスタントラーメン、少量ではあるがライスなどがそれに続いた。
あとは細々とフルーツの缶詰や乾物、ジャーキーやら魚の干物などが床に並べられ、
エッジの前はさながらフリーマーケットかどこかの国の市場のようである。
「ほらよ、これで全部だ」
そう言うエッジにネオはさらに指示をする。
「んじゃ、レトルトのカレーを「封を開いて」鍋に全て移して温めよう。きっとうまそうな匂いがするぜ。
鍋は2つか、そしたらもう一つの鍋ではお湯を沸かしておこう。何にでも使えるしな」
ネオの言葉にエッジは渋い表情をする。
「と、言われても水も火もねえよ…レトルトなんてそのままでも食えるだろ?」
「お湯はまあなくてもいいけど、カレーはなんとかして匂わせないと…でも確かに火がねえな…燃やすものもちょっと…」
ぶつぶつと呟くネオを見て蒼月が声をかける。
「水は私が出しましょう、ただ、火がいるのですか?」
「ああ、鍋の中のカレー、えっと、まあ煮物だ。これを温めるくらいの火が欲しい」
ネオが答えると蒼月はしばし思案の表情を見せる。
そして珍しく、躊躇する様子の後諦めたように言った。
「わかりました…かすみ、朱雀を抜きなさい」
<2:08 アラン=アルジェント、到着>
「すげー!ほんとに沸騰してきた!」
「封印の刀をこのようなことに使うことは不本意ですが…」
アランの右手の力がへなへなと抜け、サムライソードを取り落としそうになる。
そんな場違いなコントに向かって歩みを進める。
念のため、と手に力を入れなおすと手にしたソードがカチャリと音をたてる。
その瞬間にアランは後悔した。
音と共に自分に腰を抜かすほどの殺気が向けられたのを感じたのだ。
心構えもなくぶつけられた強い気迫に尻餅をつきそうになるのを必死にこらえ、アランはぎこちない笑みを作る。
「や、やぁ。アンタらも参加者かい?」
「おー!ようこそようこそ!おい蒼月、誰か来たなら言えよ!」
「それほど害はなさそうでしたからね」
そう言い放つ青髪の男、さきほど殺気をぶつけてきた張本人に向けてアランは弱々しく笑う。
実際は自分を明らかに見下したその言動に胸の中である程度の怒りが渦巻いたが、その隣でニコニコする男に毒気を抜かれてしまう。
「まあ、とりあえず座りなよ!カレー好きかい?あ、自己紹介がまだだったな!オレはネオ!そっちがかすみさんで後ろのがエッジ、
んでこの仏頂面が蒼月だ。おれは探偵、エッジは不良、蒼月とかすみさんはニンジャだ!さ、あんたは?」
まくし立てるように喋られて、その気もなかったアランは引きずられるように答えてしまう。
「アラン…アルジェント。ええと、あー、参加者だ」
そう言えば自分を一言で表す言葉というのはなかったなと思い頭をかく。
ジョーカーと言うわけにもいかないし、かといって探偵やらニンジャみたいな個性は……
「ニンジャ?」
現実社会であまり聞かない肩書きに思わず聞き返してしまう。
「ネオ、忍びというのは身分を明かさないから忍びなのですが?」
「わ、悪ぃ…」
蒼月に向かってしょぼくれるネオを見てアランは思わず笑う。
見ればカレーの香りを発する鍋を持った女性(たしかこいつもニンジャと言われていた)も笑っていた。
自分に背を向けたツンツン髪の不良はどんな表情をしているのか分からなかった。
「まあ、まずはカレーでも食ってくれ。毒が心配なら先に俺らも食うし、腹減ってないってんなら無理にとは言わないけど」
「んー、んじゃま、念のためそこのお嬢さんが毒見した食べかけを頂こうかな?」
「…その発想はなかったわ…かすみさん!オレにも食べかけを!」
ぱしゃんぱしゃん。
突然の衝撃に身を固めるが、次の瞬間に自分の顔に水をかけられたのだと気づく。
どこからかけられたのか全く分からない。しかし顔全体と髪が少し、間違いなく濡れていた。
「な、なんだぁ!?」
「かすみを下劣な目で見るんじゃありません」
「蒼月……」
「なんですか、ネオ」
「お父さんみたいだぞ」
ぱしゃん。
そのやりとりで自分の身に起きたことを理解する。
どうやら青髪のニンジャが水の弾をぶつけたようだった。しくみはまったくもって不明だったが。
「あ、あの、どうぞ」
視界に何かが入ってきたので注意を向けると、どうやらそれはさっき自分が話題に挙げたニンジャの女性の手だった。
そこにはカレーの入った皿が持たれていて、見ればスプーンで一口すくった跡があった。
「あ、ど、どうも」
「…かすみ!」
「ひゃっ」
「貴方も何をしてるんですか!」
蒼月の叱責を受けてしゅんとするかすみを横目に、アランは笑顔でカレーを食べはじめるのだった。
<2:31 ニーギ=ゴージャズブルー・結城晶・梅小路葵、到着>
ニーギはわくわくしながら自動ドアをくぐった。
こんな殺し合いのど真ん中でカレーみたいな匂いの強いものを堂々と食べるその根性が気に入った。
なによりも中から聞こえる笑い声が「よきゆめ」の象徴のように思えて心強かった。
「おー、すっごーい!」
「いや、確かにすごいが…これは」
「いい香りどすなぁ」
ロビーに座ってカレーをほおばる集団を確認して改めて各々が呟く。
晶はこの状況に未だ疑念を抱いているようだったが、ニーギは近づくにつれ心強さを確かにしていた。
湯気の上がる各々の皿と置かれた鍋から発せられるスパイスの香りがいやがおうにも腹の虫を活発にさせる。
「げっ…ニーギ…」
集団の中に見知った顔を見つける。
「げって何よ悪党君。うわ、なにその物騒なの。やっぱりまたなんか悪事を」
どうやらしばらく前まで一緒にいたジョーカーの男が傍らに置いた刀にツッコミを入れるが、それを脅威とは感じない。
彼もまたこの空気に呑まれて談笑してしまっていたようだった。
「だから悪党じゃ…いや、もういいや」
言葉を遮ったにもかかわらずアランの顔は抵抗を諦めたような苦笑いに占められていた。
「おぉ!美少女にゲイシャガール!これは何か!?ここに来てハイレベルな合コンでもはじまるのか!?」
アランの横の横、青髪の青年の隣に座った男が声をかけてくる。
「ご、合コン…?」
晶が思わずたじろぐ。
「晶ちゃん?ごうこん、ってなんどすか?」
「いや、それはだな」
ニーギは後ろの二人の様子を見て笑う。
なるほど、この男がこの場所に広がるよきゆめの中心だ、そう確信した。
「意味はわかりませんが顔が下劣ですよ」
ぱしゃんと言う音とともにその男の顔に水が弾ける。
青髪の男がやったのだろう、その力をニーギは見逃さない。
同時に彼の持つ刀と、うしろのカレー鍋からも同じような力を感じた。
カレー鍋の方からはかすかに覚えのあるような火の力を感じたが、些細な記憶はカレーの匂いにかき消されてしまった。
「それにしてもおいしそうだねー。私達も食べていいの?」
青年の濡れた頭越しにカレー鍋を覗き込む。
鍋の横にしゃがみこんだ女性がゆっくりとおたまでかき混ぜているのが見える。
ただ、よく見るとカレー鍋のふちを持っていると思っていたもう一方の手は鍋の底に当てた刀を持っていた。
「もちろん!と言いたいところだけど、一つだけ条件がある!」
いまだ顔を濡らした男がそう言うとかすかに後ろの葵と晶が身構えたが、ニーギは別段警戒することもなく次の言葉を待った。
「自己紹介をしてからだ!」
「なるほどオッケー。私はニーギ、ニーギ=ゴージャスブルー。豪華絢爛にしか生きられない女よ!」
言うが早いか毒見の有無も聞かずに鍋の前の女性が皿に持っているカレーをひったくる。
その様子に唖然としながら、葵と晶も続いて自己紹介をする。
「結城晶、格闘家だ」
「梅小路葵、高校生どす」
ニーギはもう、何口目かのカレーを口へ運んでいた。
<2:55 二階堂紅丸、到着>
「おいおい、これはなんの冗談だよ」
紅丸はそれまでそこを訪れたものが全員したようにドアの前で立ち止まった。
中から漂ってくる香りと漏れ聞こえる談笑は命を賭してルガールを討つ覚悟を決めた自分の心を笑われているようで不快だった。
オレがこんなに悲壮なのにお前達は何だ、何を笑っている。何カレーなんて食ってるんだ。
…ぶっつぶしてやろうか。
ふとそんな言葉が心に浮かんだ。
この期に及んで危機感もないような連中、きっとルガールのところに行っても足手まといになるに決まっている。
だったら今のうちに自分が……
無言のまま一歩踏み出す。自動ドアが開く音が遠くから聞こえたように感じた。
「うわ、なんかすごいのが来…ん?そっちの子のお兄さん?」
「ちげーだろ!たしかにエッジと髪型はカブってるけども!…え?マジでお兄さん?」
聞こえてくる声はやはりどこまでも能天気で、紅丸をいよいよ苛立たせた。
睨みつけようとしたその時、座りこんでいる集団の中に見覚えのある特徴的な人影を見つける。
青い長髪に着流した和服、あの時シェルミーと自分、リュウを襲ってきたあの尊大な人魔に違いない。
あちらも自分が先刻襲った相手であると気づいた様子だった。しばらく思案する様子を見せた後、声を発した。
「……おや、もう一人はどうしました?いや、違いますね…確かにそこにいる…」
男の言葉に紅丸の気が膨れ上がる。
もう一人、シェルミーのことに間違いないだろう。
奴が自分の中のシェルミーの気を感じて「そこにいる」と言い放ったのだ。
シェルミーが絶望する切欠を作った奴が。
問答無用に襲いかかって来た奴が。
自分と違って仲間を引き連れ談笑する奴が!
「お前はッ…!」
紅丸の拳を包みこむ「それ」が目に見える程に大きく激しく弾ける。
「ちょっと蒼月!?アンタ何言ったの!?めちゃくちゃ怒ってるじゃない!」
「別に、事実を述べただけなのですがね」
相手の言葉などもう聞こえていない。
紅丸はその腕を大きく引く。
一瞬の後、呆けたその顔に必殺の雷光が叩き込まれるだろうと確信して。
しかして、それは未遂に終わった。
彼の拳よりも早く、別の拳がその男の顔面を捉えていたからである。
「蒼月、このバカヤロウ!」
それは確か青髪の男を連れて逃げた青年である。
紅丸は知らなかった。
今彼が放ったパンチが、水邪と相対して腰のひけまくった彼のへっぽこパンチではなく
クイズ勝負の名のもとに数多の敵を沈めてきたクイズ探偵本来の腰の入った全力パンチだったことを。
紅丸は知らなかった。
蒼月が紅丸の死角から迎撃の態勢をとっていたことを。
それを見つけたネオが危険を覚悟の上で飛び込んできたことを。
何も知らない紅丸にとってはネオの行動は仲間割れというにも唐突過ぎて意味がわからない。
「すまねぇ!」
その彼が間髪入れずに紅丸にした土下座の意味も、また図りかねていた。
その手の雷光は行き場をなくして落ち込むように静かに収まっていく。
「いや、俺も大人気なかったよ」
「いやいやいや!本当にすまなかった!あの時は俺らが完全に悪かった!ほら蒼月も謝れよ!」
思わぬ仲間の攻撃にたじろいだのか唖然とする青髪の男の頭に手を当ててぐいぐいと押す青年。
「いやです」
よく見ればその男のすねたような顔はあの時見た傍若無人な邪神のその印象とはずいぶん違って見えた。
<3:50 アルル=ナジャ・楓、到着>
アルルは橋を渡ったあたりからそわそわしていた。
楓はそんなアルルの様子に少し不安を覚えたが、それが彼も捉えている何やら香ばしい匂いによるものだとは思ってもみなかった。
アルルは困惑していた。
それは間違いなくカレーの香りだった。
懐かしい香りである。自分が好きな食べ物、もちろん思い出もいくらかはあった。
しかし、思い出されたのはやはりこの街に来てから加わった思い出である。
がっつくようにカレーをかきこむK’の姿を思い出し、隣を歩く楓の首元を見る。
そこには彼のチョーカーが光る。
そう言えば、あのアクセサリーにも開錠の魔法を込めてるんだっけ…
正気をとりもどして、いや、果たして今自分がいるのが正気の中か狂気の中かは判然としないがすくなくとも
はっきりとした頭で思うことは一つだった。自分に出来ることをする、自分に助けられる人を助ける。
ずっとずっと、守られて、助けられて、置いていかれた少女の思いが楓の首元でぼんやりと光を帯びていた。
「一応、見とく?」
「そうだな」
アルルの問いにそう言って楓はギースタワーを目の前に探知機を取り出す。
まだ中から気配を悟られるような位置でもない、内部に何人いるかだけでも知っておくべきだと考えた。
「……ダメだ」
「え、ダメ?壊れちゃったの!?」
「ちげーよ、ほら」
そう言ってアルルに探知機を投げ渡す。
先刻まで楓の目に映っていたのは集合しすぎて名前の文字がかぶり、判別の難しくなった光点の集合だった。
「わ、これじゃわかんないね」
「だな、すくなくとも6.7人はいるんじゃねーか?」
「知ってる人、いるかな……」
「でも、行くしかねえんだろ?」
「うん」
アルルの頷きを合図として、楓が先に歩き出す。
ギースタワーの入り口、扉の目の前で止まろうとしたらその扉がひとりでに開いたので身構える。
その脇でアルルがならって立ち止まるが、やがて何事もないと判断して二人はホールに足を踏み入れた。
「な、なんだよこりゃあ……」
「まさか、本当に…?」
楓はまさかここで食事会のようなことが開かれているとは夢にも思わなかった。
アルルはカレーの匂いの発生源はここしかないと思いながらもどこか自分の幻覚なのではと疑っていた。
その二人の困惑を悟ってか、一同の中でも比較的誠実そうな外見の男性が二人に声をかけてくる。
「やあ、いらっしゃい。君達で11人、あと一人か…」
男は笑顔でそう言った。
白い胴着に鉢巻、目つきこそ多少鋭いが誠実で一本気といったイメージの彼はアルルにあの人を思い出させるのに十分だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、リュウさん、ごめんなさぁぁぁぁい!」
突如泣き崩れる少女を目の前にして胴着の男は狼狽する。
彼に声をかけたのは楓だった。
「俺達の他に一人しか残ってないなら、来ないぜ……俺が殺した」
その場の空気が張り詰めるのを楓は肌で感じた。
只一人2階で眠る狩人を除くロビーに集まった11人。
ただならぬ気のぶつかり合いに反応して、またはビル全体を襲う衝撃に驚いて
彼らが見えもしない屋上を仰ぐのはこれより10分後のことである。
【ニーギ・ゴージャスブルー(全身の広範囲にわたってダメージ+中程度の火傷)
所持品:ゼロキャノンコントローラ(チャージ完了)、雑貨、ゴーグル、長ビス束、コンドーム、首輪
剛のバッグ…スペースハリアーバズーカ、マカロフ、携帯電話(アランの連絡先登録済)
目的:ゲーム盤をひっくり返す、カレーをおかわり】
【結城晶 所持品:大学ノート(死亡者の名前とハガーメモの要点写しと手記、およびニーギたちとの会議メモ)と鉛筆、首輪
目的:葵を守る、ニーギについていく】
【梅小路葵 所持品:釣竿とハガーのノート
目的:晶たちとともに生きて帰る。ルガールをブッ倒す、ニーギについていく】
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ、首輪、出刃包丁、
日本刀「紅鶯毒」 目的:ゲームを内側から壊す、プローブの情報を盗む為に本部へ潜入】
【かすみ(首輪なし、戦闘服着用) 所持品:拳銃(マガジン複数個:ほぼ弾切れの心配なし)、忍者刀朱雀、多目的ゴーグル
目的:みんなにカレーをよそう】
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷) 所持品:衣服類、アーミーナイフ 、サバイバルナイフ数本、調理器具
目的:みんなに会う為、いつも行く喫茶店に文句を言いに行く為に生き残る、ケーブルの仇を討つ】
【ネオ(全身打撲、主に足) 所持品:魔銃クリムゾン(弾切れ)、食料等、使い捨てカメラ写ルンDeath、弾薬複数種類大量
目的:みんなをまとめる】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍
目的:ネオを助ける】
【アルル・ナジャ 所持品:1/10ウォーマシン(電池切れ、充電可能)、草薙京のグローブ(魔力切れ)、ハーピーの歌声入りテープ
目的:自分に救える人を救う】
【楓(覚醒状態、肉体・精神共にそれなりの疲労)
所持品:探知機(有効範囲1q程度、英語表記)、K´のアクセサリー、封雷剣
目的:アルルをずっと守る】
【荒れ狂う稲光の二階堂紅丸(左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本、ボウガン(残り矢3本)、リボルバー式拳銃(ラスト1発)
目的:ルガールを倒す】
【現在位置:11区ギースタワーロビー】
「なんだよ、今の揺れは…」
午前4時、ネオが天井を見上げたのは単純に「建物が揺れたから」である。
エッジ、晶や葵といった特殊な能力を持たない面々の理由は総じてそれであった。
「リュウさん……じゃないね」
「だから言ったろ」
ニーギの言葉に応えたのは楓である。
残りの面子はほとんどがその「力」を感じて天井の先を見上げていた。
「片方は、ルガールのヤツで間違いないだろうな」
紅丸の拳に力が入る。
本来ならば彼がその力を感じ取る強度は弱かっただろう。
しかし今の彼にはわかる。ルガールの力に混じった「同族」のそれが。
「もう一方は?あの時の男ではないのでしょう?」
「なあ蒼月、片方とかもう一方とかってなんだよ?」
知った顔で話し合う異能組の中で一番親しいであろう蒼月にネオが問いかける。
「上の方でぶつかっているのですよ。あのルガールという男と、それに匹敵する何かが」
「何か、って…なんだよ」
10分前、楓はリュウを殺したことを告白した。
楓にとっては告白という大層な物ではなかったのだろうが、リュウは良きにつけ悪しきにつけ
多くの者達と関わってきたため、その場の人間にとっての衝撃は決して小さくはなかった。
「でもさ、今上に居るよね、リュウさんっぽいの…」
ニーギの言葉がその楓にそれを上回る衝撃を与えたのは言うまでもない。
「何バカなこと……!」
言葉が途中で途切れることは肯定と同義である。
楓もまた、遥か頭上にいる強大な力を捕らえていた。
いわばそれは「質量を持った殺意」で、おそらくは普段のリュウからすれば全く異なった力の波動である。
現在この場所にいる面子で、殺意に支配されたリュウと交戦したものはいない。
ただ、ニーギが堕ちかけた彼を近くで見ていたし、楓は殺意を越えた迫力をリュウから感じた経緯がある。
その2人が感じているのだから、そのほかの者にそれを判断することはほぼ不可能だった。
「でも、殺気が向いてるのはこっちじゃないな」
口を開いたのは紅丸である。
彼はいわばその殺気はサーチライトのようなものだと説明した。
ある一方を完全に向いているのだ。しかし明るすぎるために周辺もおのずと照らしてしまう。
その漏れ出た光、つまり強烈な殺気の一部を自分達は感じているのだろうと紅丸は独り言のように言った。
「たしかに、リュウさんかどうかは別としてすっごい殺気だけど今すぐ殺されるって感じじゃないわね」
ニーギも同意する。
しかし、そのことは誰の脳裏にも一つの推論を浮かばせる。
すなわち、「その殺気の主がここに来る何かを待っている」ということ。
そしてその推論は10分後にこの場に到達する事実である。
「アルルちゃん、いくつか聞いていい?」
時間は現在へと戻る。度々揺れるビルのロビー、ニーギがアルルに詰め寄っている。
楓が割って入ろうとするのをアルルは制して答える。
「…うん」
残りの面子は大半が天井を見上げていた。
確かに強大な力や大きな揺れで危機感は煽られたがどう行動すべきか決めかねている様子である。
ルガールの放送以後、彼らに与えられた選択肢は悲しいほどに少なく、ここに来ること以上の確固たる
方針を持っている者はおそらくいなかったのだろう。
一人、カレーの皿を持ったままブツブツと呟くネオを除いては。
「まず、えーっと、真吾クンが死んだときのこと、覚えてる?」
アルルの顔からさっと血の気が引くのがニーギの目に映る。
しかし、アルルにもニーギが何を確認しているのかはわかっている。
崩れ落ちそうになるのをこらえて必死に自分の「本当の記憶」を思い出す。
「後ろから……ケンスウって人に刺されて」
「そう…」
搾り出すようなアルルの声にニーギは一つ頷き、続けた。
「次、リュウさん殺したヤツとなんで一緒にいるの?」
「違うんだよ…かーくんはボクがリュウさんに襲われると思って、僕を守ろうとして……」
「…………」
アルルの後ろで割り込むに割り込めず無言のままニーギを睨みつける楓。
「そう、じゃあ最後。リュウさん、なんて言ってた?」
「……ボクにしか救えない人がいるって、それと……」
すすり上げるように涙を流し、嗚咽と共に吐き出した。
「生きて、って」
ニーギはもう何も言わずにアルルの頭を撫でていた。ばつが悪そうな楓は天井に視線を移している。
「みんな、聞いてくれ!」
3人の後方、残りの参加者の輪の中でネオが声をあげた。
「ええと、すまないけどちょっと仕切らせてもらう」
ネオは輪から少しはみ出して立ち、全員の視線が彼に注がれている。
「これからのことについて、話し合いたいんだが、いいかな」
同意を求めるようにネオが全員の顔を見回す。
「さっきカレー食ってる間に各々から大体の情報は教えてもらったんだけど、それを総合して少し方針を作った。
それで、出来ればオレの作戦に協力をして欲しいと思うんだが……」
そこまで言ってようやく他の者から声があがった。
言葉を発したのは紅丸である。
「あんたらはあんたらで勝手にやってくれて構わないけど、オレは好きなようにやらせてもらいたいね」
「いや、できればやめて欲しい。」
ネオがきっぱりと拒否すると、視線に迫力を上乗せして紅丸が問い返す。
「嫌だと言ったら?」
「今のカレーに何が入ってたか聞きたいか?」
ネオの言葉に同行していたかすみやエッジの表情すら曇る。ニコニコしているのはニーギひとりだ。
一瞬の沈黙はやはり紅丸に破られた。
「……ハッタリだね」
「ああ」
「他にも俺らを脅す材料があるのか?」
「いや、脅すんじゃない、全員にとって利益になる材料だ」
「……オレの負けだ、聞こうじゃないか」
紅丸の言葉にいざと言うときのためにネオの後ろで構えていた蒼月が笑みと共に緊張をとく。
「まず、オレの持ってるカードを開いておく」
そう言ってポケットからフラッシュメモリを取り出す。
「首輪のカギだ」
「何だって!?」
「マジで!?」
「それこそハッタリじゃないのか?」
大声こそ出さないが全員が口の中で疑念を渦巻かせていた。
「ただし、これだけじゃ外せない」
「あー、なるほど、ウソじゃなさそうだ」
ネオの注釈に答えたのは晶である。
「せやね、少なくとも首輪については知っとるようどすな」
「私はカレーおいしかったから信用してるよー」
葵とニーギが同意を見せると、また紅丸が遮った。
「説明が欲しいな、きちんとした」
「わかった、じゃあ順をおって作戦と一緒に説明する。質問は順次してくれて構わない」
「………」
紅丸の沈黙を肯定と受け取って、ネオは話し始めた。
「まず人数の話だ。さっきの放送があった時点での人数が13人。
ここにいるのが11人。ここに来るまでにそこのヤツ、えっと……」
「……楓だ」
「そう、楓が言った通りなら一人、そのリュウさんって人が死んでる。
んで、俺らより先にこの階に来てるはずの野郎がいるんだが、そいつを入れれば今この場に生き残りが全員いることになる」
「その御仁はどこにおるんどす?」
「わかんねえ、ただ11対1で仕掛けてくるようなバカじゃないから成り行きを影から見守ってると思う」
「仕掛けてくる、ってことはこの殺人ゲームに乗ってるってことね?」
「ああ、俺らの仲間もやられた……間違っても協力を求められるような相手じゃない。それで……」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「えっと、アランさんだっけ」
「ああ。今いるのが全員だとしたら、上でドンパチやってるのは誰と誰だ?」
「蒼月、ああ、オレの後ろにいる青髪の仏頂面だけど、コイツの言うには片方はルガールで間違いないらしい。
ただもう一方は完全に不明。でも現時点でルガールと戦ってるなら、作戦の計算には入れられない」
「ま、なんにせよまともなヤツじゃないだろうってことか」
「そういうことだ。不確定要素は最悪を想定するのが基本だからな。
さて、ここまではいいと思う。次にこの殺し合い全体の話だけど…ニーギちゃん」
「言いわよ、別に教えても」
「サンキュ。まずこのゲームは『蟲毒』っていう呪術の一種らしくて、これはえーと……平たく言うと
壷に入れた毒蟲に殺し合いをさせて最後まで残った最強に毒が強まっている蟲を呪術に使うんだと。
んで、その方法の一つに『最後の蟲』を食って自分の力にするっていう方法があるらしい」
「ちょっと待った」
「はいエッジくん」
「いや、オレバカだからよくわからねえんだけど、その蟲って食えるもんなのか?」
「エッジさん、そういう問題じゃないんじゃ」
「いや、エッジのいう通りだかすみさん。呪術の主はその蟲は食えるのか?そこが問題なんだ」
「は、はあ」
「これは蟲が食用とかそういうことじゃない。俺らに置き変えて考えてみてくれ
『全ての参加者の毒を吸い上げた相手をルガールは殺せるのか』ってことになるだろ?」
「俺らに毒なんてないぜ?」
「毒ってのは力のこと。蒼月とかケーブルさんとか、普通じゃない力あるだろ?」
「ああ、なるほど」
「それを全部集めた奴を倒すってことは、ルガールにそれ以上の力があるってことになる。だったら?」
「……最初からこんなことする必要がない、ってことか」
「エッジのお兄さん(仮)ご明察!」
「紅丸だ、二階堂紅丸。やれやれ、もうちょいメジャーかと思ってたんだけどなあ」
「わりィ紅丸さん。さて、そしたらルガールはどうするかっていうと、一番カンタンな方法があるんだ」
「自分が最後の一人になって力を吸い上げる、って私が教えたんだよね」
「おう、感謝してるよニーギちゃん!」
「しかし、最後の一人になるってことはヤツもまた」
「そうだ、参加者の一人ってことになる。だからこそ、今上にいるんだろうし、俺達を集めたんだろう」
「でも、それなら最後の一人、ルガールを含めて二人になった時に出てくればいいんじゃないのかい?」
「そこで、これの出番だ」
「さっきのカギってやつか」
「そう、おそらくこれと、そこにいるかすみさんが引き金だと、オレは考えている」
「え、わ、わたしですか?!」
「実は、と言っても見りゃわかるんだが、かすみさんは首輪をしてない。ただすごく特殊な方法で外してるんで、俺らには真似できない」
「具体的に聞いてもいいの?」
「平たく言えば『一度死んでる』らしい。生命活動が止まって首輪がオフになった後、蘇生したんだとさ」
「うーん、誰かこの中で心臓自由に止められる人ー」
「さすがに居はらへんのと違いますか……」
「さて、そこでこのカギだけど、さっきも言った通りこれだけじゃ外れない」
「あ、そうだ晶、もういいよ、あのノート回してあげて」
「いいのか?ニーギ」
「もう監視は意味がない、ってことよね、ネオ」
「ああ、そうじゃなきゃ今頃オレの首はもう飛んでるよ」
「……わかった」
「あ、どうも。ふむふむ、あー……うわマジかよ……うへー…あー、うんうん、うえっ……」
「ネオ……早くしなさい」
「あ、悪い。ええと、ノートは順に見てもらうとしてとりあえず今は首輪の話だから、そこだけ話すな?
まず、この首輪は2つのロックがかかってる。これは俺らの仲間がハッキングしたデータからと、あと
そこのノート、どうやら以前にこれと同じ殺し合いに参加した人が書いたものらしいが、それにも書いてあった。信憑性はかなり高いと思う」
「あー、ええとオレそれ読んだからとばしていいよ。納得してるぜ」
「ボクも、納得できるよ」
「紅丸さんと楓は?」
「オレは保留だね、まあ話を進めてくれ」
「アルルがいいなら、俺はいい」
「じゃあ、正しいという前提で話を進める。そのロックの、二つ目を解除するのがこのメモリだ」
「それはどうやって?」
「今言った仲間がハッキングしたデータを解析して作った。ただ一つ目を外さないと、これだけじゃ使えないんで作動するかは保障しない」
「オッサンが作ったんだ、間違いねぇよ!」
「オレもそう思うが、まあ試すことも出来ないから信じるしかないな」
「もし一つ目解除できるならオレが真っ先に使ってやるよ!」
「……んじゃ、そうだな、頼むわエッジ」
「なるほど、つまりそのカギはこのノートに書いてある特殊なフィールドってのを消せなきゃ使えない
ってわけか……バカバカしい……」
「待って!ええと、紅丸さん!」
「いやだね、無駄な時間をすごすくらいなら上に行って……」
「かわいいアルルちゃんが待てって言ってるでしょ!フェミニストっぽいくせにとんだジコチュー男ね!」
「悪いが今のオレは一人だけのナイトでね」
「あ、あの、あの……ボクそのフィールドっていうの消せます!」
「なんだって?」
「マジか!やった!これで全てのパーツが揃った!」
「ネオ、まさかそこについて考えずに話していたのですか」
「えーっと…まあ、なんとかなるかなとか、そういうわぷっ!?」
「頭を冷やしなさい」
「ぶはっ!!い、いいじゃねえかよ!結果オーライだよ!」
「なるほど、じゃあお嬢ちゃんの力で一つ目、そのカギで二つ目のロックをあけて首輪を外す。
首輪を爆破される心配なしにルガールと戦えるってわけか。それなら聞いてもいい」
「あの、でも……」
「確かにそれもあるんだけど、紅丸さん、さっきオレが首輪の話を始めたきっかけ、覚えてるかい?」
「そっちのレディが首輪を外して、あんたがカギを手に入れたからだろ?」
「そう、そしたら急に放送が入って、半ば強引にここに集められた」
「何が言いたいんだ?」
「ルガールが一番恐れてるのは『逃亡されること』だってことだ」
「逃亡?」
「そうさ、この儀式だか呪術は、全員が殺し合って最後の一人が決まらないと完成しないんだ」
「そうだね、まあ1人じゃわかんないけど4人も5人も壷の外に出たら儀式が破綻すると思うわ」
「だから、オレはもし首輪が外れるなら『脱出』を推奨したい」
「バカな!アイツを放って逃げろっていうのかよ!」
「そうは言ってない。いや、実際そうしてくれたほうがいいんだけど、絶対に許せない相手だってのも解る。
ただ、おそらくオレみたいなヤツが言っても足手まといだろ?」
「……そうですね、ここに居る者で言うと、エッジ、そこの娘とそちらの二人は歯が立たないでしょう」
「…だ、そうだ…気を悪くしないでくれ、蒼月の独断だからな!」
「事実を言ったまでですから」
「蒼月はもう少し申し訳なさそうな顔くらいしてくれよ……」
「いや、わかってるさ……」
「晶ちゃん…」
「ということで、オレみたいな邪魔になりそうなやつは脱出にむけて動き、少しでもこのふざけたゲームの完成を阻止したほうがいいと思うんだ」
「気になってたんだけどよ」
「かーくん?」
「もしその儀式が完成したらどうなる?」
「それについてはニーギが詳しいみたいだから頼む」
「オッケー。まあ、平たく言うと世界が滅ぶ、かな?」
「………」
「………」
「おいおい、誰もつっこまないのか?今ニーギすごいこと言ってるんだぜ?」
「この力や、それ以上なら不可能じゃないことを知ってるからな」
「同感ですね。水邪も炎邪も取り込まれればタダではすまない力です」
「世界が滅ぶ……常世が消える、ってことか」
「具体的にはなってみないとわからないけど、なってみたときにどうにかできる状態じゃ100%ないね
あくまで推論だけどルガールが望み、ルガールが支配するルガールのための世界になってるんじゃないかな」
「アルルは」
「……え?」
「常世が消えたら、アルルも……」
「そうだね、アンタの守りたい人も、世界ごと消える。もし次の世界に生きてても、ルガールの慰み物だね」
「…続けてくれ」
「ああ…といっても大体終わりだ。一つ目のロックを解除できる人も見つかったし、首輪を外して動こうぜ。
手を打たれる前に動きたいからリミットはルガールの使いがくるまで。
チームをルガールぶっ倒す人と脱出する人に分けて、お互い出来るだけ協力をだな……」
「あ、あのねっ!!」
「どうした?アルル」
「あの、ごめんなさいっ!ボク……魔力が空っぽなんだ……!」
アルルが泣きそうな顔で告白したのを、全員が見つめていた。
「え、っと、空っぽっていうと?」
「そのフィールドって言うのを消す魔法、すごく魔力を使うんだ。ボクの力だけじゃ安定しなくて。
補助に使ってた草薙さんのグローブももう、力が残ってないし。あともう一つ問題があるんだよ…」
「問題、とな?」
これ以上聞きたくないと言う顔のネオに、これ以上言いたくないという顔のアルルが告げる。
「あの魔法、ものすごく時間がかかるんだ。もし魔力があって、うまくいっても1時間以上。
7時にはルガールの使いの人がここに来るんだよね……それまでだと1人……本当にうまくいって2人解除できるかどうか…」
「それじゃなんとかなって脱出する奴1人かよ……」
「さすがにそれだけだと儀式のシステムが崩壊する保証はないかな…」
ニーギが顎に手を当てて首を傾げていた。
「なにより、魔力ってのが足りないとどうしようもないんだろ?」
「うん、何か、純粋な力が引き出せるものがあればどーにか……」
「そんなもん都合よく……それに外せて一人じゃなあ…」
ネオの後ろで蒼月が思案顔をして爪先立ちしていた。
殆ど重心が片足に乗っていたので、一見すると空中に腰掛けているようにも見える。
頭を掻いて悩むネオが振り返っていれば「あれ?」と言ったかもしれなかった。
「それでも、外さないよりマシなのでしょう?」
そう言いながら蒼月はつかつかと歩いていった。
向かった先はかすみの前にあるカレー鍋。
そこで左手に鍋を持ち、右手の朱雀を浮かせた鍋の底に当ててカレーを温めているかすみに朱雀を渡すよう促した。
「え、これですか?」
「はい、試す価値はあるようですから」
そう言うとかすみから受け取った朱雀をアルルに差し出す。
「アルル、危ない!」
抜き身の刃を向けられたことに楓が反応したが、アルルは気にせずその刀へと近づいた。
「……すごい!」
「封印すべき魔と扱うべき主を失ったこの刀はいわばくすぶる炭のようなものです。
もしこの力に風を吹きかけ、炎とできるのならばお使いなさい」
「うん…うん!これならいけるよ!」
「お、おおお!さすが蒼月!…つっても1人しか外せないんだよな」
喜んだり落ち込んだりの百面相を披露するネオに向かい、アルルが微笑みかける。
「ううん、これだけすごい媒体があれば別の方法ができるよ!」
「ふえ?」
朱雀から舞い上がった火の粉がアルルの周りを踊るように舞い落ちていく。
「もしかしたら全員、ボクの力で助けられるかもしれないんだ!」
「それじゃあ、始めるよ」
アルルの指示に従って、その場の全員が一定の間隔を空けて並ぶ。
「ああ、やってくれ!」
アルルが朱雀を何かに捧げるように掲げて、ネオの顔に近づける。
ネオは事前にアルルに言われた通り、目を瞑って心を落ち着かせようと努力していた。
呪文を呟くと、アルルの手に渡って以来火の粉を撒き散らしていた朱雀がぼんやりと
温かみのある白い光を帯びてその粒子を舞わせた。
「コ・インイ・ッコイレ・ルー!」
アルルの呪文の締めにチャリン、という音が頭上で響いた気がしてネオが目をあける。
「うお……これが……」
「うん、『ネオさんの首輪のカギ』だよ、頑張ってね!」
「ふふ…フフフフフ……」
位置的にはネオの後ろに立つ蒼月が、肩を振るわせ始めたネオを訝しげに見ていた。
「フハハハハハ!ハーッハッハッハ!もらったぜ!!」
突如笑い出したネオを他所に、隣ではアルルがすでにエッジに術をかけ始めていた。
午前5時。
夜明け近いこの塔の中で、最後の戦いの命運を決める信じがたい戦いが始まろうとしていた。
【状態表省略。後編投下時にまとめます】
新作祈願保守
「ふっふっふ、このクイズ探偵ネオ様にクイズとはなめられたもんだぜ!」
ネオの目の前には半透明の板のようなものが浮かんでいる。
その板の表面でははモニタのように映像が動いており、
その中に「QUIZ」の四文字を見つけたネオは俄然テンションが上がっていた。
そして、テンションの上がったネオは忘れていた、この魔法に入る前にアルルがいっていた言葉を。
「このフィールドを解除する術、ボクは開錠魔法って呼んでるんだけど、これをかけると
『ボクの場合は』ぷよ、ええと、4つくっつけると消える魔物なんだけど、それを消すような映像が浮かんで、それを全部消すと開錠が完了するんだ」
そう言ってアルルは自分の首輪に向けて魔法をかける。
角度を変えて全員に見えるようにすると、そこには確かに色とりどりの光の塊が積みあがったパズルのような画面の映った半透明な板が浮かんでいた。
「これが全部消えると魔法のロックは開錠できる。でも、誰がやっても、大体早くて一時間以上。苦手な人はもっと。」
「それじゃあ全員で10時間以上かかっちまう!間に合わないんだろ!」
怒鳴るエッジを楓が睨みつける。
アルルは手元の板を消すとそれをとがめるように視線を送って答えた。
「そうなんだよね。でも『みんなの場合』ならわからない」
「私たちにも魔法が使えるってこと?」
魔法という言葉に嬉しいような切ないような、なにかトラウマでもあるような複雑な表情をしてニーギが尋ねる。
「厳密には違うけど、だいたいそーだね。ボクが魔法をかけて開錠のためのパズルを起動して、それをみんなが解くの。そしたらボクが一つずつ開錠しなくても大丈夫だよ!」
「つまり、各々が解ければ1時間かそこらで全員が開錠完了ということですね」
唯一首輪をつけていないかすみが笑顔を見せる。
「すげえ!すげえぜアルル!これで万全だ!」
「ただ、パズルの種類は人それぞれ、難しさは『その人が解けるギリギリ』になるから、頑張ってね!」
「さあ、どんときやがれ!ジャンルが幅広かろうがノルマが多かろうが!」
『それでは、トーナメントの前に予習をしておきましょうね♪』
「む、トーナメント?まあいいや、やっぱノンジャンルかな…て、あれ?」
ネオは映像の映った板の下、ただの空間に手を泳がせる。
「……4択ボタンどこだ?」
自分の思ったものが存在していないことに少し焦りを覚えるネオ。
きょろきょろと周りを見回すも、彼の求める物はその視界にはなかった。
「う、うーん…あ、もしかして…」
そう呟いて画面を触る。
軽やかな電子音と共にノンジャンル、と書かれた部分が発光して画面に変化があった。
「おお、すげー!ハイテクだ!しかし、このほうが直感的でやりやすいぜ!」
-ROUND1 NEO vs QMA-
「っしゃ、どんとこい!…ん?クイズセレクト?」
画面では先ほど光ったノンジャンルの文字のところにいくつかのクイズの種類が表示される。
「○×、四択はわかるとして……タイピング?並べ替え?エフェクトってなんだ…?」
先刻と同様、表情に曇りが見えはじめるネオ。
「ま、まあいいや、クイズにゃ変わりねえだろ!んじゃあランダムで!」
シュワシュワという音と共に画面が切り替わると学校を思わせる背景に2人のキャラクターが立っている。
左側には先ほどまで自分に案内をしていた眼鏡の女性、右側はネオそっくりの男性である。
「よし、どんとこい!」
画面の上にはノンジャンル、ランダム3の文字が並んでいた。
「まずは4択か、えーと、誤植で有名なゲーム誌、『ゲーメスト』を出版していたのは?
えーと、3の新声社だ!2のエンターブレインは今の『アルカディア』の会社だ!」
『グレイト!』
画面の中の女性がサムズアップと共に笑顔で正解を讃える。
「へっへー!やっぱ4択だよな!次は…なるほどタイピングクイズ…ってうげっ!自分で答え打つのかよ!
問題は……衆参両議院で過半数の正当が違う状態をなんという……『ねじれ国会』だな!
ね…ねねねねね…あった!じ……れ…こっか……い!おっしゃー決定!!」
『ざーんねん…』
画面の中の女性、おそらくは教師なのだろう、その悲しそうな顔と対象的にネオは目を見開き固まる。
「なんでだよ!だって……あー!出題文に○○○国会って書いてある!『ねじれ』だけか!チクショー!」
すぐに次のクイズが表示される。問題形式は並べ替えクイズ。
並んだ文字を並べ替えて答えの言葉にするクイズである。
「おお!これはなんとなくわかるぞ!答えは『ボトルシップ』だな!おりゃあ!」
『ざーんねん…』
「なんっ…あー!『ボトルッシプ』になってる!」
続く問題は4択だった。ネオの目が輝く。
「4択ならオレの…うわぁ!」
画面では問題と、4つの窓で答えを示す動画が動いている。
「答えが動いてる!?ど、どうしたら…あ、でもこれか、これが正解の『ステーキ』だ!」
『グレイト!』
「よし!そうだよな!問題形式が違ってもクイズはクイズだ!答えさえわかりゃなんとでも!」
正解して意気込むネオは、これが予習であることすらすっかり忘れていた。
『問題:サッカーで通常フィールドにいるプレイヤーの人数は』
「4の22人!」
『22人ですが、野球では何人?』
「なんだそりゃーーー!!!!」
ネオの絶叫が木霊する。
クイズ迷探偵ネオ、新時代のクイズとの死闘はまだ始まったばかりである。
<ノルマ 〜トーナメントで優勝〜>
-ROUND2 EDGE vs NSN-
チャリン。
隣で奇声を上げるネオ同様エッジの目の前にもまた、板のようなものに映像が映し出される。
「何でも解いて…うぐぁ…」
負けず劣らずの奇声である。
ネオの画面に映し出されていたものは、遠く故郷でその帰りを待っているのかいないのか、総長の妹にしてゲド高のヒロイン、ドクロのメットにライダースーツを着たアキラだった。
「なななななんでアキラが……」
『なんだお前、オレに何か用か』
「ん、なんだこれ、えっと『メットを外させる』『おはようございますアキラさん』?なんでオレがアキラに敬語だよ!メット外せアキラ!」
『何をする!』
画面の中でエッジそっくりのキャラクターが吹き飛んでいくのがみえる。
「……なんだこりゃ」
続いて画面に出るゲームオーバーの文字。
「痛くねえけど気分悪ィな…」
『なんだお前、オレに何か用か』
画面の中では振り出しに戻ってアキラが同じ問いかけをしていた。
「くそっ、じゃあこっち選ぶしかねぇじゃねえか!」
『ああおはよう。今日からゲド高に入る新入生か?オレはアキラ、よろしく頼む』
「あ、また選ぶのかよ。えっと『よろしくな』っと」
『先輩に対してあまり褒められた態度じゃないな』
『おう、アキラ、どうしたんじゃい!』
アキラの横から現れる山のように大きな男。
見覚えのあるなどというレベルではない、どこからどう見てもマブダチの岩である。
生意気だと吹っ飛ばされるエッジ。画面に輝くゲームオーバーの文字。
「岩、てめェ!!!!」
『なんだお前、オレに何か用か』
とっくに切り替わった画面ではアキラがエッジの答えを待っている。
「マジかよ、これどうなったらクリアなんだ……」
ツンツンと立った頭を抱えてエッジが膝をついた。
生きて帰ったら会いたいと願う人々が今、最強の敵としてエッジを悩ませる。
<ノルマ 〜アキラのメットを取る〜>
-ROUND3 AOI vs NT-
葵は横目で一足先にはじまったネオとエッジの戦いを眺めていた。
自分にはいったいどんな試練が下されるのだろうか。
ネオのクイズやエッジの恋愛ゲーム、アルルのパズルは自分に向いているとは到底思えなかった。
そもそも、ゲームの類に極端に疎い葵のことである。
通常のレバーやボタンの操作では慣れるだけでも時間を取られる。
ネオのようにタッチパネルでの操作ならばあるいは、と思われたが、そういった操作方法で自分に向いたものがあるとは思えなかった。
「葵さん、準備いい?」
アルルの声にはっとなり、慌てて向き直る。
「やっておくれやす」
「うん!」
アルルが呪文を唱えるとチャリンという音が響く。
葵は驚いた。
目の前には前の二人と同様の画面、しかしそれだけではなかったのである。
自分と並ぶように、人間ほどの大きさがある人形。
やはり魔力で形作られたのか半透明のそれは格闘技で使う打ち込み用の人形にも見えた。
『ナ〜イスツッコミ〜!』
「つ、つっこみ、どすか?」
画面から響く声に葵が聞き返す。もちろん返事はない。
『漫才のネタにタイミングよくツッコミを入れるゲームや!例えば〜』
映っている一昔前の漫才師といった風貌のキャラクターが隣のキャラクター、どう見ても不釣合いな着物姿の女性に話しかけている。
おそらくそれは葵をデフォルメしたものであろう。3.5頭身と言った感じの目の大きな可愛らしいキャラクターだった。
『いやー、暑いなー』
相槌!というマークが出る。葵がそれを黙って見つめていると、「画面の中の葵」が漫才師に叩かれた。
『どアホ!ここは相槌を打って盛り上げるところや!何でもいいから言うてみい!』
そう言うと漫才師は同じ言葉を繰り返す。
『いやー、暑いなー』
「ほ、ほんまどすなあ」
画面にはGOOD!という目立つ文字が光る。
『7月でこんだけ暑かったら…12月はどんだけ暑いんやろな!』
今度はツッコメ!の文字が表示される。
あまりの唐突さに葵はまたもそれを見送ってしまう。
『どアホ!今のナイスボケはツッコまなアカンとこやないか!隣の人形をド突いてツッコミや!』
漫才師がそう言うと画面には今葵の横で立っている半透明の人形と同じようなものが映り、葵のキャラクターがそれに平手の裏拳を叩きこんでいた。「なんでやねん」の文字が空しい。
「こ、これをやれ言いはりますの…?」
『ほないくで!いやー、暑いなー』
「ほんま…どすなぁ」
『7月でこんだけ暑かったら…12月はどんだけ暑いんやろな!』
「な、なに言うてはりますの!」
びしっ、という小気味いい音と共に隣の人形が揺れる。
それに合わせて画面のキャラクターもツッコミを受けてよろめく。
画面に映るGOOD!の文字が今のツッコミが成功であることを示していた。
『そしたら練習は終わりや!2人でコンテスト優勝を目指して頑張るでー!』
「え…え…?」
画面の中の小さな葵とその漫才師がガッチリと握手をしたところで本物の葵はがっくりとうなだれた。
<ノルマ 〜コンテストで優勝〜>
-ROUND4 AKIRA vs MK-
チャリン。
「お、オレの課題はなんだ……」
前3人の惨状を見て晶は冷や汗と共にそれの実体化を待っていた。
大きな溜息を残して次に向かうアルルから視線を正面に戻すとそれは少しずつ形を成していたが
どうやらこれまでの誰とも違うものが出てきているのだということは確かだった。
「小さい画面、と、なにか突起…ん?」
晶の触覚が何かを察知した。感じ取ったのは掌、そして指先である。
そこにはなにやら、カードが握られている。
『カードがもらえるよ!』
画面からの声に体を硬直させて、晶は自分の手のカードと画面の中のCG、リアルな質感で表現されたその昆
虫を交互に見つめた。
「……カブトムシ?」
しばらくの間、晶は黙って画面を見続けていた。
それはどうやら操作方法、というほど複雑な物ではなく「あそびかた」という類の映像である。
しかし晶は至極真剣にそれを見て、「強弱のあるじゃんけんということか」と真顔で呟いた。
手元には数枚のカード。やはり魔法によって構築されているのであろう、目の前の画面や隣で葵が格闘してい
る人形よりは幾分はっきりとした色合いだがうっすらと透けるそれには昆虫の画像が印刷されていた。
「ノコギリタテヅノカブト…こっちはローリングクラッチホールド…わざというやつか」
晶の表情は相変わらず極めて真面目である。が、ほんの少し口の端に笑みが含まれていた。
「カブトムシのケンカか、ふふっ」
今でこそ修行に明け暮れる格闘家、八極拳の師範代である晶ではあるが、彼とて少年時代がなかったわけではない。
やはりその心のどこか「男の子」の部分を刺激されずにはいられなかったのだろう。
「よし!」
カブトムシのかっこよさもこのワクワク感も、きっと女性陣が見ても理解できるものではなかった。
小さな画面の下、読み取り部にカードをスラッシュする晶の表情は童心にあふれかえっていた。
<ノルマ 〜10連勝〜>
-ROUND5 BENIMARU vs DOML-
「早くやってくれ」
紅丸はいらついた口調を隠そうともせずにアルルに言った。
ロビーに並んだ一同は4人ずつの列。紅丸からがちょうど2列目だ。
彼は後ろから先に「鍵」を解きはじめた4人の様子を観察していたが、それが進むに連れて徐々に機嫌が悪くなっていった。
緊張感、危機感、焦燥感、そういったものが足りない。それが不満だった。
「あっ、うん!」
額に汗を滲ませるアルルを意に介することもなく目を伏せる。
チャリンという音の後、視線を上げるとすでにアルルの姿はなく、その場所には先の者達と同様半透明の板に映像が映ったもの。
開錠という建前はあるもののゲーム画面と呼んで差し支えないそれがあった。
「デキるオトコ?モテ…ああ、そういう」
画面に映る文字を見て紅丸は溜息をつく。
今でこそ女性に構う余裕を失っている彼ではあるが、DNAレベルで染み付いた色男の性か、それは「女性にモテるテクニック集」のようだった。
「まあ、クイズみたいなものなら」
そう言って画面にタッチすると、切り変わった映像には女性の姿と問題文、そして選択肢。
『同僚の彼女をデートに誘うならどこ?』
「ふん、まあシャレたバーか、少し砕けて個室ダイニングってとこ…ウッ!?」
突然の眩暈。
ふらつく指。
うっすらと頭の中で響く声。
[やっぱヨシノヤかしら]
選ばれた選択肢は『ファーストフードのチェーン店』、響いた音は明らかに低評価である。
「なっ……」
首をブンブンと振り回し、自分に何かした相手を探す。
画面ではかわいげのないキャラクターが『大人のオトコとしてシャレたバーくらいは知っておきたいもの』と落胆にしか見えないジェスチャーをとっていた。
切り替わって会社と思しきシーン、泣いている同僚の女性にかける声を選ぶ問題が表示されていた。
「くっ、そりゃ慰めがてら食事に誘って…」
[あら、なにこの女ウザいわね]
今度ははっきり聞こえた。
眩暈と共に選ばれた選択肢は『泣くなブス』である。
画面の中の彼女は見えもしないこちらの顔を睨みつけて去っていった。
紅丸はがっくりと肩を落とす。どうやらこの「鍵」というやつは確かに相当いやらしい問題を出すらしい。
「頼むシェルミー、自重してくれよ……」
しかして嫉妬心と力だけを残して死んでいった名前の主からは返答はなく、画面からはまたも不正解の音が鳴り響いていた。
<ノルマ 〜モテ指数100%〜>
-ROUND6 SOUGETSU vs ???-
「大事ありませんか?」
「えっ?」
息の荒いアルルを見咎めた蒼月が「空中に」腰掛けたまま問いかける。
「あっ、ああ、ぜんぜんへいきだよ!」
「……では、お願いします」
少しの戸惑いを隠すように勢いよく答えたアルルを少し見つめてから会釈をした。
「うんっ!」
しばらく前まで弟の封印を司っていた刀に目をむけて複雑な表情をしている蒼月の前でアルルが呪文を唱える。
額のあたり、目線より少し上から先ほどまでと同様に金属が落ちるような音が響いたのを蒼月は確かに聞いた。
しかし何も起こらない。
仕組みはわからないが、今までの者はアルルというこの少女の方術によってなにかしらが各々の近くに出現していた。
おそらくそうなるのだろうと蒼月も予想していた。
しかし、何も起こりはしなかった。
何も目の前に現れることはなかった。
「あ、れ?失敗?でもそんなはずは……」
アルルが首を傾げている。理由はわからないが、どうやらなにか問題があったらしい。
「普通ならば何か現れるのですよね?」
「うん」
「そうか、失敗したのか小娘が。我にそのような失態を晒して何事もなく済むとでも思うておるのか?」
「!?」
「ひどい…」
アルルがその言葉に顔を強張らせるより早く、蒼月は後ろを振りかえった。
しかしそこには何者もおらず、遥か後方、ホールの隅でひとり柱によりかかるかすみが見えた。
そのかすみが血相を変えてこちらを指差している。
「なんですかかすみ?」
「横!いや、自分です!自分でいいのかな、えっと、ブレて、ええとー」
そう叫んでしきりに指を2本突き出している。
「ふたつ?いや…ふたり?」
呟いて、かすみと同じように立てた2本の指を、蒼月は見た。
僅かだが、その指がブレている。
指先から徐々に体幹部に目をやると、やはり全身がブレているのがわかった。
蒼月は悟った。自分に現れたのは半透明な画面や人形ではない。
「半透明な自分、もうひとりの自分、押し止めている自分」彼の鍵はやはり最高の悪辣さをもってそこに現れていたのだった。
「ようやく知の浅き人の身で理解したか?我の器よ、我を封じるという愚行の報いを受ける覚悟はよいか?」
無表情な自分の口がブレて、ニタリと邪神の笑みを浮かべていた。
<ノルマ 〜水邪を抑える〜>
-ROUND7 NIIGI vs PM-
蒼月の「あとはこちらでやりますので」という言葉に押し出されてアルルはニーギの前に来た。
今生き残っている人数は12人。
どこかに隠れているというイリヤと呼ばれた男性を除いて11人。
さらに首輪がすでに外れているかすみを除いて10人。
珠となった汗をぬぐってアルルは深呼吸した。「まだイケる……」そう呟くのがニーギに聞こえたかは分からない。
ただ、その様子を見てもニーギは何も言うことはなかった。決意の前に言葉が無力であることを知っているかのように。
「ルー!」
コインの音と共に今までで一番分かりやすいものがニーギの前に現れていた。
頑張ってという言葉が吐く息に消えそうになりながらアルルが進むのを見届けて、ニーギはそれに向かった。
「せーのっ!」
大した予備動作もなくドゴン、という派手な音とともに表示される230kgの数字。
しかしその機械――パンチングマシンの画面はガッカリした様子のキャラクターと「不合格」の文字、ヘロヘロとした調子ハズレの音までおまけについてニーギを嘲笑っていた。
「んじゃ、マナー違反だけどっ!!」
ズガン!先ほどとは比べ物にならない轟音。
マシンに突き刺さったのは豪腕ではなく健脚。ニーギ必殺の蹴り技である。
画面の数字は400kgを遥か越えていたが相変わらずの不合格だった。惜しいという様子すらない。
「なるほど、なんとなく読めたけど……どうしようかなあ……」
珍しくニーギは悩んだ。
今彼女の中では天秤が傾いている。
両皿に乗っているのは果たして。
<ノルマ 〜規定パンチ力クリア〜>
-ROUND8 ARAN vs -
「おい嬢ちゃん…」
「さ、えーっと、アランさん!アランさんの番だよ!」
「いや、だから少し休…」
「いっくよー!」
「あーくそ!」
彼はニーギほど物分りがよくなかった。
いや、単純な意味ではニーギのほうがよほど頑固である。
アランとニーギの決定的な違い。それは相手の意思を優先するか否かということだった。
ただ、ニーギの場合は自分の意思と相手の意思が完全に対立するならば真っ向からぶつかる。
打ち砕くか、わからせるか、とにかく誤魔化すことなく自分の意思を相手にぶつけるのだ。
逆にアランはそういう場合は誤魔化してしまう。圧倒的に自分の意思がうわまらない場合、たとえば今回ならば
「アルルを止めようとする意思」とアルルの「魔法を行使しようとする意思」がぶつかったが、その意思が同程度、あるいは自分のほうが弱いと見るや「止めようとした」という大義名分で自分を納得させて誤魔化した。
どんな手を使ってもプローブの情報を得る、という最大の意思のために殺人をも厭わないのは、そういう意味では相手の「生きようとする意思」を知らぬうちに軽く見ていることと同義だったのかもしれない。
さて、止める間もなく発動してしまった魔法によってアランの前「にも」それは現れた。
TVの画面のようなものでも、ツッコミ用の人形でもない。
「それ」は強いて言えば蒼月のものと同じである。
「自分」がそこにいた。
自分の意思と自分の意思がぶつかる時彼はどうするのだろうか。
人は往々にしてその状況を「葛藤」と呼ぶ。
<ノルマ 〜意思決定〜>
-ROUND9 KAEDE & ARLE-
「おまたせ、かーくん……」
楓は近づいてきたアルルの顔を見てその顔色と同じくらいに自分も蒼白になった。
「アルル!」
「あー、そういえばかーくんには……」
何か言いかけて、アルルはそのまま踏み出した楓の胸へと体を倒れこませた。
「アルル!」
「だ、だいじょーぶ、ちょっと連続して使い過ぎちゃっただけだし」
「なら休め!」
「でもかーくんで最後……」
「いいから!」
そう言って羽織っていた着物を一枚、彼が暮らす世界には存在しようもない冷たく平たい床に敷いて、その上にアルルの体を横たえた。
「いいから、俺はいいから休むんだ」
「ごめんね、でもすぐすむから、お願いだから……」
泣きそうな顔のまま、体を床に預けたまま、アルルは朱雀を構え呪文を唱えた。
「やめろ!」
楓の言葉は彼女の意思を止めるに至らなかった。
構えた朱雀がほのかな光を帯び、アルルの呪文を引き金としてまた、ひとつのゲームにコインが入れられる。
「じゃ、かーくんもがんばって…」
「おい!アルル!おい!!」
その言葉を最後に、アルルは朱雀を傍らに投げ出して目を閉じた。
息をしているのを確認して、楓は今にも死にそうなのは彼であるかのように溜息をついた。
5分としないうちに静かな寝息が聞こえたのを確認して楓はどっかりと腰を下ろす。
「無茶しやがって…お前になにかあったら、俺はどうしたらいいんだよ……」
楓の前では半透明の板に移された珍妙な生物がサイコロのようなものを転がしている映像が流れていたが、少しも興味を示すことなく楓はアルルの顔を覗きこみ続けた。
鍵はたしかにそこにあった。首輪の鍵ではない、楓の存在を繋ぎ止める鎖の鍵だ。
寝ているのは自分が守ると決めた人だというのに、それを見つめる楓はまるでその人に存在全てを守られているかのようだった。
<ノルマ 〜ムサピィを操作してチョコを全て消す〜>
【状態表省略 後編終了時一括記載】
501 :
高井:2008/02/15(金) 15:19:57 ID:88fUgSRv0
神様仏様高井様
-winners-
『エッジ…実は……』
「お、女だったのかアキラ!」
思わず声を上げたエッジの方を振り向いたのは手にいっぱいのカードを広げた晶だった。
「ん?」
「あ、ああ、晶さんじゃねえよ、こっちの話だ」
「そうか、ならいいんだ」
そう言ってその手のカードに熱い視線を注ぐ晶から視線を戻すと画面の中ではアキラがゆっくりと外したメットを胸に抱えていた。
『隠していてごめんなさい』
「いや、でも口調まで変わって……」
『エッジになら本当のこと、教えてもいいかなって思ったの』
「そっか、ずっと無理してたんだな…」
『エッジ……』
アキラが頬を染めると、ゆっくりと画面が白くフェードアウトしていく。
白い闇の中に消えていくその姿を泣きそうな顔で見つめながらエッジは呟く。
「アリガトな、それと……ワリィ……」
真っ白な画面の中に浮かぶClearの文字さえもが消え、映像を映していた板が消滅するとエッジはその場に座りこんだ。
最初こそ見慣れた友の姿に「いつもの」態度をとってしまって苦戦したエッジだったが、途中であることに気づいた。
実際、このゲームは彼の「虚勢」を障害として作られているのだが、そういった難しい概念は彼には分かっていない。
ただもっと単純で大切なことに気づいたのだ。
彼はこの町で自分の、普通の人間にできることの限界を嫌と言うほど思い知らされた。
かけがえのない友を得て、かけがえのない友を失った。
単調で平和な過去が、生きている今が、当たり前にあると思っていた明日が、尊い物だと気づいた。
そして単純にエッジはこう思ったのだ―――たった一度の人生、もう少し素直になろう。
この画面の中のアキラは番長に紹介された「自分が出会った時のアキラ」とは違う。
しかし「こうして出会ったかもしれないアキラ」そして「仲間達」の姿だ。
無事に帰ったらまた虚勢を張ってツッパった自分になってしまうかもしれない。
だからせめてこの画面の中の「突っ張った自分を知らない」アキラに、仲間達にだけは見せてもいい気がした。
ゲド高の特攻隊長エッジではない、高校生山田栄二の姿を。
そこからの彼はほぼノーミス。数度のやり直しはあったものの破竹の勢いで進み、結果的に一番初めに鍵を開けることとなった。
アルルの言った一時間以上という目安を越えて58分でのクリア。
ポケットの中で親友から託された希望が指に触れた。
「じゃあな」
もう何もない空間に一つ言葉を吐いて、首輪に現れた端子に鍵を差し込んだ。
<エッジ 首輪解除 所要時間58分>
「おーい、それ貸してくれ」
エッジが首輪を解除して数十秒後、後方からアランが声をかけた。
「お、アンタも解けたのか」
鍵を放り投げるエッジにアランは答えない。
その代わりに受け取ったそれを少しいじって、首に当てた後すぐに投げ返す。
「OKか?」
エッジからは後列のアランの首輪まではよく見えない。
「いや、どうもダメだったみたいだ。解けてないや」
「あー、そっか、そりゃあ」
「ま、もうちょっと頑張ってみるわ」
そう言ってアランははにかみ、手を振った。
「うーん」
エッジが首輪を外してから数十分後。晶が腰を下ろして唸っていた。
手には相変わらず沢山のカードが握られていた。そのうち数枚は文字が金色に輝いており、レアリティの高いカードであることが見て取れる。
「晶ちゃん、難しいんどすか?」
その様子を見下ろして葵が尋ねる。額にはうっすら汗が浮かんでいたが、笑顔だった。
「そうだな、なかなか奥が深い……」
そうどすか、と呟いて葵は自分の画面と人形に向き直るが、ふと晶を見直す。
いつの間にか立ち上がった晶が鍵となるゲームをプレイしていた。
その手際たるや凄まじいもので、相手の行動を全て読んだ上で最適な手を打っているのが初心者の葵にすらわかった。
本物のゲームではない、幻想の産物であるがゆえにローディングやラグなどのストレスは一切ない。
一瞬一瞬で攻防の結果が映し出され、晶は危なげのない勝利を積み重ねていく。
ただ、おかしかった。
それほどまでに完璧なプレイを行っているにもかかわらず、敵に勝つたびに晶は溜息をつくのだ。
「ダメか……」
画面表示は間違いなく勝利である。葵は自分の画面に向き直りながら首をひねった。
『あと1勝!』
晶の方から聞こえてくる声が彼も終盤であることを予見させたが、自分の鍵も「ファイナル」の表示を出している以上、おそらくはプレイしている本人にしか分からない苦悩があるのだろうと納得して意識を切り替えた。
「がんばってな、晶ちゃん」
そう言って微笑む。
瞬間、画面ですでに始まっていた漫才のボケに反応する。
「なんでですのん!」
ビシッという小気味いい音と共に爆笑と拍手が聞こえる。
もはや熟練の域である。笑いは途切れることなく、勝利は間違いのないものだった。
「おおきに、おおきに」
スタンディングオベーションと共に画面に光る優勝の文字にお辞儀を繰り返す。
『ようやった!これで葵ちゃんも』
「ええ」
今まで一緒に漫才をしていた相方のキャラクターが微笑んで握手を求める。
『立派な女芸人やで!』
「なんでですのん!」
ビシィッ!
『ええツッコミやったで!』
画面を構成する物質ごとその映像を薄めながら相方が親指を立てる。
まだ軽く揺れる隣の人形ももはや触れないほどに存在が薄くなっていた。
「おおきに」
葵は輝くような笑顔でその消滅を見守り続けた。
<葵 首輪解除 所要時間1時間27分>
葵は自分の首輪を解除してすぐ、晶の後ろに腰を下ろした。
邪魔をしてはいけないと思っていたが、晶の方が逆に葵など眼中にないかのようにゲームに没入していたため先ほどの違和感の理由を見極めるべく、葵はじっくりとその様子を見た。
そして、あっけないほどすぐにその理由に気がついた。
「晶ちゃん……?」
返事はない。手元のカードと画面を見つめてブツブツと呟き続けている。
葵が感じた違和感の正体はその直前の行動だ。
晶の鍵となるそれは、素人目にもそれほど難しいゲームではない。
晶はその直前、そんなゲームで「わざと負けた」
どう見ても打つべき手を、避けたように見えた。
晶の手にはもはやゆうに50枚を越えるカードが広げられている。
つまり50戦以上はしているはずだ。しかもあの手際のよさ。
さすがに間違いということもないだろう。
そして葵にわざとだと確信させた最も大きな理由、それは負けた後になぜかほっとした顔だったことである。
「晶ちゃん…なんで……」
葵の声はまたも彼の背中に弾かれて落ちた。
呟きが中断され、また猛然とした勢いで勝ちを積み重ねる。
試しに1戦の長さを数えると約2分。
9勝したところで画面が「あと1勝!」の声をかけた。
時計は6時45分。
ルガールから使いが来るまで15分。おそらくはこれが最後のチャンスだ。
「晶ちゃん!」
葵は飛び出していた。
晶の横顔がさっきと同じだったから。
肩に手を置かれて初めて晶ははっきりとした反応を見せた。
「あ、葵、どうした?」
「どうしたもこうしたも、晶ちゃんなんでそんな顔してはりますの?なんでさっきはわざと負けはりましたの?」
「……そのことか…」
「何か理由があるなら言うて!ウチに手伝えることやったら…」
「……出ないんだ」
「え?」
「憧れだった………」
長い沈黙。
そして続けざまにいくつかの音が連なる。
一つ目は晶の声。「ヘラクレスオオカブトのカードが出ないんだよ!」
二つ目は葵の声。「なにを言うてはりますのん!」
三つ目はビシッという音、それも二つ。
四つ目は晶の後頭部と胸部に叩きこまれた平手を基点に晶の体が回転し風を切る音。
そして最後にその体が地面に激突する音。
鍛え上げられた葵の反射神経とツッコミ精度が奇跡のツッコミ合気を完成させた瞬間である。
「い、つつつ…痛いじゃないか葵…あああああ!!!」
「え、え?」
突然の大声に葵のみならずホールにいる全員の視線が集まる。
その視線に構わずに、大きく開かれた晶の目が向く先は自分の画面。
『大勝利!』の文字と共に消えていく輪郭とその映像。
おそらくは投げられた瞬間、体が最後の一手を選択するボタンに触れたのだろう。
戦闘の画面を見ることもなく、晶は鍵を解き終えたのだった。
「あああああ!!」
見れば晶の手の中のカードも同様、役目を終えて細かな光の粒子となって散っていく。
「次は出たかもしれないのに!」
晶の悲痛な叫びに葵は困ったような怒ったような顔で言う。
「でも次は間に合わへんでしたやろ?」
ちょうど母親が聞き分けのない子供に言い聞かせる顔だった。
「急げばもう1巡くらいできっ」
最後の言葉を言い終える前に晶は宙を舞った。
興奮していた晶はまともな受身も取れずに、したたか脳を揺さぶられて意識を彼方の世界に飛ばした。
「男って……ガキんちょどすな…」
夢の中で目当てのカードでも手にしたのか、意識のない晶が口元を緩めると冷ややかな視線で見下ろす葵が呟くのだった。
晶の首輪は寝ている間に葵が外した。
<晶 首輪解除 所要時間1時間43分>
訂正:晶の首輪解除時間が間違ってました。
×<晶 首輪解除 所要時間1時間43分>
○<晶 首輪解除 所要時間1時間46分>
時間調整したの忘れてました。
「ッしゃあああああああああああああああ!!!!!!」
晶の大騒ぎから5.6分ほどたって、再びフロアの視線が一点に集中した。
見ればネオの画面が先ほどまでにクリアした面子と同様、消滅しようとしている。
クリアである。
決勝戦で2位になったあの激戦、予選1回戦での足切りラインからの復活劇、徐々に新世代クイズに順応するその勇姿、本来ならばその戦い全てに喝采の拍手が送られるのであろうが、彼に対する視線はどこか冷ややかだった。
実はネオは、クリアした、またはクリアを放棄したメンバーの助けを一切断って黙々とクイズに挑んでいたのだ。
周りの人々はもちろん口々に祝ってはいるが、プライドを優先した挙句時間切れスレスレになった彼に少し呆れていた。
あるいはネオが負い目からそう感じていただけかもしれなかったが、一同の中で一番優しいであろうかすみの目が笑っていなかったのでおそらく気のせいではない。
ちなみに晶の件については葵があまりの形相なので他のメンバーは何も言わなかった。
<ネオ 首輪解除 所要時間1時間54分>
もちろんさっきの態度は冗談で済む範疇である。
が、ネオは結構ヘコんでいた。
首輪をはずしてもうなだれている彼を盟友である蒼月の水弾が一喝するように打ちつけた。
「早く指示をなさい、時間が迫っているのでしょう」
時計を見れば7時まであと5分。
「わかった」
すっくと顔を上げてみんなの視線が集まったのを確認する。
首輪をしていないのはネオを含め5人。残りの首には未だあの忌々しい枷が見てとれる。
「ちょうど半分か」
見回して一呼吸おいてからネオは勢いつけて話し出した。
「今からルガールの使いがここにやってくるはずだ。もはや監視はほぼないと思っていい。俺達首輪を解除した人間はは捕捉されない。
なので、その『使い』と入れ替わる形でここを出ていく。目標は純粋に脱出。ひとりでも多くこの街から外に出るのが目的だ。手段は問わない」
自分の首を確認するように幾人かが手を首に当てた。
「なぁ」
大きなこぶをさすりながら晶が尋ねる。
「さっきも言ってたと思うが、なんでもう監視はないんだ?」
「報告すべき相手が上でドンパチやってるからな」
「さっきはそうじゃなかったろ?」
「ま、そのへんは俺はニーギに確認しただけだから」
「あー、私ね、ここに来る途中に携帯から敵の本部に連絡して聞いた」
「は?」
「もしもし、そこってどこー?ってね」
「え、はぁ?」
素っ頓狂な声を出す晶を尻目にニーギは続ける。
「そしたら女の人が出てね、『集合場所でお待ちください』って言って切られたんだけど、後ろですんごい人が死んでる『音』がしてたのよ」
「音…?」
「そう、普通の人には聞き慣れない音。銃声、断末魔、血の噴出す音、骨が砕ける音、そんなのがたくさん」
「もう少し分かりやすくならないか?」
「つまり、相手の本部の中で、誰かが大虐殺を行ってたってこと。多分監視係とかオペレーターとかも全部殺してたの」
「…何のために」
「そりゃもちろん、『この街で生きている人間をルガールひとりにする準備』でしょ」
言い切ったニーギを晶は呆然とした表情で見つめていた。
「話の腰を折って悪かった、続けてくれ」
「ってことで、おそらくこのビルから出てもなんらかの妨害は間違いなくあるってことだな」
晶の言葉を受けてネオが話を再開する。
「でも、やるしかない、やるしかねぇんだ」
ネオと同時に晶がぐっと拳を握る。
「残りの面子はルガールの使いって奴に従って、おそらくルガールと対面することになるだろう。判断は任せる。
ぶっ倒すのが最善だとは思うがどう考えても罠なんで無駄死にだけはしないでくれ。冷たいようだけど感情的な話じゃなく
―――ひとり死ぬごとに世界が終わりに近づくからな」
「まっかしといて!」
放っておいても謁見組のリーダーの位置になるであろうニーギがガッツポーズを見せる。
おそらくその意図は「ちゃんとぶっ倒すから」に相違ないだろう。
「んじゃあ俺ら脱出組はルガールからの使いが来たのを確認してから出てくんで、一旦隠れるわ」
きょろきょろと辺りを見回していると、かすみがネオに声をかける。
「こっちがかなりの範囲から死角ですよ」
待っていた2時間の間にホールの作りを理解したらしく、迷うことなく入り口近くの通路を指差した。
「サンキュ、かすみさん。えっとそれじゃみんな」
ネオの視線が全員を辿ると、数人を除いてその視線に頷きを返した。
「死ぬなよ!」
背を向けて歩き出す5人、ネオ、エッジ、晶、葵、かすみ。
互いに未だ相容れぬままそれを見送る6人、ニーギ、蒼月、アラン、紅丸、楓、アルル。
舞台は開演を待っていた。
-loosers-
「んで、みんなの敗因は?」
「うわ、聞くの?それ」
首輪のない5人が物陰に隠れたのを確認するとニーギは唐突に訊いた。
ただ反応しただけではあるが、ニーギの問いに少しでも応えたのはアランだけだった。
「いや、別にいいんだけどね、楓君とか解く気のなかった人も見てたし」
名前を出されても楓は気に止める様子もなく、依然アルルの寝顔を見つめていた。
「ほら、一応名誉のために言っとくと私も解けなかったんじゃなくて解かなかったんだから…ってどうでもいいか…」
苦笑いするアラン以外はニーギを見てすらいない。
「うーん、急ごしらえのチームワークってのも嫌いじゃないんだけど……」
ニーギは頭を掻いてじっと手を見る。
先ほどまでの苦悩が思い出された。
「これはイヤらしいなあ……」
視界に収まる程度の大きさの機械、パンチングマシーンは打ってみろとばかりにそのミット部分を直立させている。
が、ニーギは先ほどのキック一撃の後全くそこに衝撃を与えることはなかった。
「間違ってたら赤っ恥だし、一回だけ、んー、でもなあ」
うんうんと唸る姿はどこかコミカルでこれがこの殺し合い最大の枷を外すための戦いであることを感じさせない。
「決めた、6割で一回だけ!」
そう言うと声と気を一旦沈め、詠唱を始める。
「偉大なる青にして青の王、そは絶望と悲しみより出で勇気と願いに変わる純粋なる炎 青にして群青の我は万古の契約の履行を要請する
完成せよっ 精ー霊ー脚(弱)ぅー!」
轟音と共にミットが奥へと倒れこむ。
普通の人間に放てば四肢が爆散するであろう威力のそれを受けても、魔法によって構築されたパンチングマシンは傷ひとつつかない。
画面の数値はバグって数字ではないなにかを表示していたが、そこに成功の気配はなかった。
代わりに残念そうな間の抜けた音と「まぁまぁかなぁー」という声がニーギに降りかかる。
それでも全く相手にしていなかった前回からすると僅かながら進展があったとみえる。
「うん。予想通り、それじゃ」
満足そうな顔をして、ニーギは床にあぐらをかいた。
「こりゃ間違いなく『私の持てる全力で攻撃すること』がクリア条件だね、ほんっと性悪だわ」
そう言って頬杖と溜息をつく。
クリアは不可能ではない、が、ニーギはそれをしなかった。
開錠に必要な攻撃を放てば、隠れているもう一人の参加者や、上で激突を続けるルガールと謎の相手に手のうちを見せるだけではなく、100ある力が70にも60にも落ちることが確実だった。
まして今の体調であればその上限は100ですらなく、失えば回復は難しい。
ルガールか、戦っている相手かはわからないが、ごく近い未来に対峙するにあたって自分にできる備えはその力を温存しておくことだけ、そう考えてニーギは完全にその鍵を放り投げた。
「んじゃあ、余った時間でせめて休ませてもらおうかな…あ、かすみちゃん!」
「…え?はい!?」
離れて見ていたかすみが突然の呼びかけに戸惑う。
「カレーまだ残ってる?」
紅丸はその場の誰よりも鋭い目つきでビルの入り口を見つめていた。
結局シェルミーの意思に翻弄され、首輪の解除はできなかった。
もちろん自分の十八番である女性への接し方でひどい成績を残したこともショックではあったが、なによりもオロチの力がやはり自分の思い通りにならないことに対しての動揺が大きかった。
紅丸は以前、ルガールがオロチの力を取り込んでいるのを見たことがある。
倒した後こそ暴走に近い状態だったが、少なくとも戦っている間は完全にその力を掌握していたようだった。
つまり使いこなせていない分、今の彼はあのときのルガール以下である。その事実が重かった。
ガラスの遥か向こうに小さな人影が見えた。おそらくアレがルガールの使いだろう。
紅丸は予感する。おそらく、自分はルガールには勝てない。
この状況で勝てないということはつまり、死ぬということだ。
人影が近づいてくる。
ネオの言葉が思いだされる。
『ひとり死ぬごとに世界が終わりに近づくからな』
世界など知ったことではない。終わったところでその世界に自分はいないのだ。
「それでも」
それでも、もし自分が死に、ルガールの支配する世界が出来たとして、その時に……
「毎日思い出してイヤな気分になるくらいのことはしてやるか」
生きている限り忘れられないような傷を、屈辱でも、後悔でも、恐怖でもなんでもいい。
ルガールの心に自分より深い傷をつけてやろう。この無能な自分にもそのくらいの力はあるような気がした。
そう言えば、自分の心の傷は死ねば消えるのだろうか。
ふとそんなことを考えて、バカらしいと肩をすくめた。
楓はアルルの肩を揺すった。
遠くにルガールからの使いと思われる人影を見て、寝かせたままではまずいと判断してのことだ。
入り口の自動ドアが開くのと、アルルが瞼を開くのはほぼ同時だった。
シルエットから女性だと判断できるその影は徐々に近づいてくる。
アルルは目をこすり、自宅以外で寝ていた人間がするように、今自分がどこにいて何をしているのかをゆっくりと思い出していた。
「…あっ!かーくん…首輪…」
楓の首輪を認めてそう言ってからその場にいる人間の首を確認する。
「えーっと、みんな、ダメだった人?」
「アルちゃん、ダメはないでしょダメは…」
「あ、ごめんね」
「うっわ、おっそろしい女だぜ」
「あら?レディに向かってその口は」「ボクのこと?じゃないか」
「どっちも違う」
アランの軽口に反応した女性2人を戒めるように紅丸が近づく女性を指した。
ニーギはすぐに気がついた、アルルは気づかなかった。
最初、その女性が暗めの赤色の服を着ているのだと思った。
「ひっ!?」
朝の光に照らされて、その姿が確認できるとアルルは尻餅をついた。
ゆっくりと楓に引き上げられながら焦点の定まらない視線でそれを見た。
「お待たせいたしました、参加者の皆様。ルガール様のもとへご案内致します」
うやうやしく礼をしたその女性は、全身を血に染めていた。
「おい、アンタ……」
アランが声をかけようとすると遮るようにその女性は続けた。
「お見苦しい格好で申し訳ありません、アヤと申します」
それがジョーカーであるアランを無視するという気遣いでなく、事務的に事を進めようとしているだけだということは明白だったがアランは好意的に受け取っておくことにした。
もう一度礼をして、直る。その動作で服に染みて固まった血がバリバリと音をたてていた。
「ねぇ、アンタのご主人様上でドンパチやってんだけど、いいの?」
ニーギの問いにもアヤは表情を変えない。
「私が命じられたのは午前7時にここにいる方を屋上までお連れするということだけです」
「そ、んで人数についてはいいの?」
「おい、ニーギ」
おそらくいない人間については触れずに誤魔化したかったのだろう、アランがニーギを肘でつつく。
「いいのよ。さあアヤさん?この場所にいない人間はどうするの?」
「手配は済んでいます」
それだけ言ってアヤは歩みを進めた。
「あ、っそ」
ニーギは心底つまらないという顔をしてその後ろについた。
ヒールの高い靴をカツカツと鳴らしながら歩くアヤの後ろをぞろぞろとついていく6人の中で、楓とアルルだけが寄り添っていた。
「かーくん、やっぱり難しかった?」
囁くように尋ねるアルル。
楓はなんのことかと少し考えた後、それが自分の首輪の鍵についての質問だと悟って答えに窮する。
彼は結局のところ一度もその鍵に触れずに、アルルの寝顔を見ていただけだった。
そして今後悔しているところだった。
自分達が近づいていっている気配、強大としか形容しようのないその力の持ち主とアルルを向き会わせることの危険に今更ながらに気がついたのだ。
とはいえ、もしも楓が首輪を解除していたとして、アルルが寝たままでは彼女の首輪は残ることになる。
もちろんその場合でもアルルについていく気ではあったが首輪がないからと言う理由でアルルと引き離さそうにならなかっただけ、
今の状況はマシかもしれない。
そういう結論に至ってようやく「まぁな」とアルルに微笑みかけた。
アルルはずいぶんと考え込んだ楓を不思議そうに見つめて、その首輪にダブるように首に輝くチョーカーに気がついた。
思い出したように鈍く光るそれを見て「あ」と小さく声を発した。
楓が何事かと尋ねたが、「それ」をルガールの使いのいる前で行使することは危険に思えたのでなんでもないと誤魔化して歩き続けた。
先頭ではその使いの女が動かないエレベーターを見て溜息をついているのがみえた。
-drow-
蒼月はそのエレベーターを見て先ほど自分が使った力のことを思い出していた。
大量の水を使って鉄の扉ごと人間を押し上げたあれのことである。
あたり前のような顔をしていたが、あれは普段の自分には到底無理な術であったな、と今更思い出して自嘲する。
アルルの術によって現れた水邪は、その横柄で尊大な物言いとは裏腹に妙におとなしかった。
その身からは邪気をほとばしらせているというのに、その力を行使しようとはせず、ひたすら「服従しろ」だの「崇めろ」という命令を蒼月に下すだけだったのだ。
当然、蒼月はその言葉を拒否し、水邪こそ自分に協力すべきだと主張した。
どちらも自分を傷つけるわけにいかないがゆえの果て無き論戦である。
1時間ほどしたところで、蒼月が折れた。
「もしこの街を脱出したら、体を明け渡してもいいですよ」
そう言った。
水邪は喜び、その案に飛びついた。
もちろん、蒼月のそれは本気ではない。
腰に刺した青龍を以ってすれば水邪の封印を完全に解かれることはない。そう考えてのことだった。
本来ならば、単純な水邪を騙して助力を得るという選択肢のためにすぐにでも提案すべき手段だった。
蒼月がそれほどまでに渋ったのにはやはり、理由がある。
蒼月はこの町に来てから数度、完全に水邪に体を乗っ取られている。
そしてその際に、封印が弱まっているのに気づいていた。
もちろん、それでは水邪にまた体を支配される危険性があるわけで、青龍を手にした際にすぐにでも術式を用いて封印を強化すべきだった。
実のところ、あの首輪の鍵というのはおそらく「水邪の再封印をすること」が条件だったのだと彼は思う。
しかし、事実として蒼月はそれを現在に至るまで行っていない。
それは決して水邪を抑えきれるという慢心からではない。
彼は弱まった封印と引き換えに「人の身にありながら水邪の力を引き出して使うことができた」のである。
本来ならば、あのイリヤという男の罠を凌ぐほどの長時間水の障壁を出し続けることは困難であったし、大量の水で数百キロを持ちあげるなどそれこそ人間の所業ではない。
戦うにせよ、脱出するにせよ、この力はきっと必要だ。その判断において彼は再封印をしなかった。
水邪は期待し、蒼月は恐れていたのだ。
『体を明け渡す』
この言葉が近い将来、実現するのではないかという可能性を。
再封印の間もなく水邪が蒼月にとって代わる時が来るのではないかと。
その言葉を発し、鍵の解除を放棄した時点で水邪の姿は消えた。
高笑いと共に蒼月の体に溶けるようにして完全に見えなくなった。
それなのに自分の身が未だにブレて見える気がして、蒼月は軽く首を振った。
-liar-
別のエレベーターに乗って屋上に向かう。
体が床に押し付けられるような感覚を覚えながら、アランはバッグの中身を確かめた。
そこに2時間前と異なるところが2つあった。
ひとつは増えたもの、ひとつは無くなったもの。
バッグの中に入っている首輪からは解除用の端子が出ていた。
2時間前、アランはアルルの魔法が作り出した自分と見つめあっていた。
が、それはものの数分で、すぐにもう一人の自分は消えて失せた。
アランに課せられた課題は「意思の決定」
参加者としてルガールと戦うのか、ジョーカーとしてどこかで参加者に牙を剥くのか。
後者は、ニーギの目をなんとかしなければならぬ上、この異能の集団を相手にしての裏切りは限りなく自殺と同義だった。
前者を選ぶなら、負ければ死、勝ってもおそらく自分の望む情報は手に入らない。
そもそもこの儀式の仕組みを聞いてしまった今、例えルガールに与しても得になることなどないのは明白である。
これだけ悩む要素があったにもかかわらず、アランはものの数分、たったそれだけの時間で
首輪を、解除した
今彼が首につけているのは以前ニーギから受け取った、死者の分。
解除したものと同様、起動していない首輪をはずすことは簡単であった。
そして、首にはめるのも。
アランは途中でエッジから受け取ったキーで首輪を解除し、皆が鍵と格闘している隙にそれを外してバッグの中の「死んだ首輪」と交換していたのだ。
こんな回りくどく危険な事をした理由はたった一つ。
彼はなにがなんでも「強い仲間たちと共にルガールと対峙」しなければならなかった。
アランの力では、首輪の解除がバレたら脱出組に割り振られることはほぼ間違いがなかったため、自分は首輪を解除出来ていない、だから一緒にルガールの所へ行く。
そういう状況が必要だった。
扉の前に立つアヤは身動きひとつせず、
エレベーターは最後の地へ向けてひたすらに上昇を続けていた。
屋上まで5階を切ったあたりで、それまで散発的に響いていた屋上からの轟音が消えているのに皆が気づいた。
屋上ではエレベーターの扉が開き、朝日が差し込んだ。
1階では入り口の自動ドアが開き、3つの人影が躍り出た。
2階ではとある部屋のドアが開き、男が出てきた。
3つの舞台で最終章の幕が開き、全ての役者が芝居の終焉に向けて走り出した。
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷、首輪解除) 所持品:衣服類、アーミーナイフ 、サバイバルナイフ数本、調理器具、外した首輪 目的:ケーブルの仇を討つ】
【ネオ(全身打撲、主に足、首輪解除) 所持品:魔銃クリムゾン、食料等、使い捨てカメラ写ルンDeath、弾薬複数種類大量、外した首輪 目的:脱出のサポートをする】
【結城晶(首輪解除) 所持品:大学ノート(死亡者の名前とハガーメモの要点写しと手記、およびニーギたちとの会議メモ)と鉛筆、首輪、外した首輪 目的:葵を守る、街から脱出する】
【梅小路葵(首輪解除) 所持品:釣竿、ハガーのノート 外した首輪 目的:晶たちとともに生きて帰る、街から脱出する】
【かすみ(首輪なし、戦闘服着用) 所持品:拳銃(マガジン複数個:ほぼ弾切れの心配なし)、忍者刀朱雀、多目的ゴーグル 目的:街から脱出する】
【ニーギ・ゴージャスブルー(全身の広範囲にわたってダメージ+中程度の火傷) 所持品:ゼロキャノンコントローラ(チャージ完了)、
雑貨、ゴーグル、長ビス束、コンドーム、首輪、剛のバッグ…スペースハリアーバズーカ、マカロフ、携帯電話(アランの連絡先登録済) 目的:ゲーム盤をひっくり返す】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍 目的:ルガールを倒す】
【荒れ狂う稲光の二階堂紅丸(左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本、ボウガン(残り矢3本)、リボルバー式拳銃(ラスト1発) 目的:ルガールに消えない傷を残す】
【アルル・ナジャ 所持品:1/10ウォーマシン(電池切れ、充電可能)、草薙京のグローブ(魔力切れ)、ハーピーの歌声入りテープ 目的:ルガールと会う】
【楓(覚醒状態、肉体・精神共にそれなりの疲労) 所持品:探知機(有効範囲1q程度、英語表記)、K´のアクセサリー、封雷剣 目的:アルルをずっと守る】
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ、首輪、出刃包丁、日本刀「紅鶯毒」 目的:プローブの情報を手に入れる】
【現在位置:ギースタワー屋上、ロビー出てすぐ、2Fのいずれか】
「ようこそ、諸君。実際に会うのは3日ぶりかな?」
手にした「それ」を引きずりながらその男は悠然と歩く。
「改めて、今まで生き延びた諸君らに敬意を払い、自己紹介しておこう」
朝日を背に神々しくも傲慢にその影を伸ばす男。
「私がルガール・バーンシュタイン、このゲームの主催者だ」
引きずるその死体からどす黒い怨念が形を為して天へと昇っていった。
「ひ、人!金!アハヒャァァ!!」
男は手にした銃器をその人影に向けて、戸惑いながらも引き金を引いた。
男の体は返り血に汚れ、何事か、間違いなく凄惨な何事かの形跡を示していた。
「あっ、このバカ!」
人影は瞬時に姿を消す。操作するものを失った画面に弾が撃ちこまれ、ブラウン管から火花が飛び散った。
この場所は静寂と死が満ち溢れるこの街にあってずいぶんとやかましかったが、それでもおそらく、その男は
自分が死ぬまで背後に立たれたことに気づいてはいなかっただろう。
「あーもーバカ!初めてジェネラル倒せると思ったのに!そうそう筐体に入ってる代物じゃないんだぞバカー!」
その少女のふくれ面と足元の惨殺死体のギャップは、もし見るものがいたなら首を傾げる画であったろう。
しかしそれを見つめているのは最新とは言いがたい、少しひなびたゲームセンターのモニター達だけだった。
「うーん、もうちょいレトロゲーに酔っていたかったのに、感じわるー」
手にした端末に視線を落とすと、数時間前に入っていたメールが表示されたままだった。
『この街で生きているもの全てを殺せ。1人につき300万。もし午前7時以降に参加者を発見し、それを殺した場合1人につき1億の報酬を出す。G』
「あ、でもこいつ一人で300万か、チョロい。アストロやブラストどころじゃなくてネットだろうが大型筐体だろうが買えちゃうじゃん。やりぃ」
少女はニヤリと笑って倒れた男、サウスタウン各地にいたルガールの私兵の一人からドッグタグを毟り取る。
少女は知らない。その男がこの街で生きている最後の兵士だったことを。
少女は知っていた。この街で生きている兵士が数箇所に集められ、先ほどのメールの配信後に殺しあったことを。
しかし少女は知らない。自分すら、死ぬことを前提としてこの街に投入されたことを。
しかし少女は知っていた。「ゴミ処理係」という名で雇われた自分がこれからすべきことを。
少女、ナガセは動き出す。これから街の掃除を行わなければならない。
「あー、でもどーだろ。あいつももう始めたのかな」
脳裏に浮かんだのは自分と同じくゴミ処理の名目で雇われたもう一人の忍びの者。
先ほどのメールが、実際のところ自分とあの男だけに向けた指令であることを感じていた。
「まわりくどいっつーかなんつーか」
眼下の死体にひとつ八つ当たりの蹴りを入れ、これがホントの死体蹴りなんつって、と一人で笑って店を出た。
葵と晶、そしてかすみの3人は走る。
常に建物を遮蔽物として扱えるよう、警戒を怠らずに間をすり抜けて行く。
かすみだけならば倍近い速度での移動が可能だっただろうが、できるだけ大きな人数で脱出することが望ましい以上、孤立したかすみが殺されることも残された葵と晶が殺されることも避けたかった。
一網打尽に重火器や爆弾での攻撃もありえるので、必ずしもこれが正しい選択ではなかっただろうが規模によってはどう動いても一緒なのでお互いかばい合えるほうがマシであろうと3人で決めたのだ。
「でも、本当によかったのやろか…」
「あのお二人のこと、ですか」
心配そうに言う葵に答えたのはかすみだった。
「たしかに、ネオさんの言わはることはわかりましたえ?それでも、そしたらお強いかすみさんが残ったほうがよかったんと違います?」
「それでも、あの男は二人が倒すべき相手だと思います」
かけがえのない友を奪った男に復讐を誓ったごく普通の不良少年と、目の前で恩人を助けられなかったごく普通のクイズ探偵の決死の覚悟を、邪魔することはきっと出来なかっただろう。
「よし、皆行ったな。それじゃあかすみさん、晶さんと葵さんをよろしく頼む」
「え?ネオさんとエッジさんは?」
やってきたルガールの使いの女が他の生き残りを連れてホールからはなれるのを確認して、その死角にいたネオは言った。
かすみが聞き返すのも無理はない。
先ほどできるだけ大人数での脱出をと言った張本人が遠まわしにチームの分散を宣言したようなものである。
しかもほぼ戦闘力で言えば一般人の二人が別れると言っているように聞こえた。
かすみでなくとも心配になる発言だ。当然、晶も尋ねる。
「リスク分散のためにルートをわけるのか?」
「いや、俺らはここに残る」
「ちょちょ、ネオさんちょっと待ってくれ」
遮ったのは当事者のエッジだ。打ち合わせ等があったのではないことは、その焦りようからして間違いなさそうであった。
「俺は別に残るとかそんなことは」
「思ってるだろ?もしくは、どうにかして俺たちとはぐれるつもりだったか?」
図星を突かれてエッジの顔からごまかしの笑みが沈み、代わりに照れ笑いが浮かんだ。
「かなわねえなぁ、探偵サンには……」
「説明してくれないか」
勝手に意思疎通してしまった二人に割り込むように晶が尋ねる。
「俺はこのビルに隠れてるイリヤの野郎をぶっとば…いや、殺す」
「俺はそれのサポートだ、一緒に残ってイリヤを探す」
すでに熟練のチームであるように、エッジとネオは晶に告げる。
「脱出はどうするんだ」
晶の表情には少量の怒りが見て取れた。自分で出した作戦を覆す司令官に対する不信感の現われだっただろうか。
「もちろんイリヤを…殺すかどうかは別として、無力化してから追いかけるさ」
「しかし!」
「いや、晶さん。これは必要な作戦なんだ。もしイリヤを放っておいたら、ルガールを倒して帰ってきたニーギ達が待ち伏せられるかもしれない。
そのとき、こりゃ縁起でもない仮定だけど、もし誰も脱出に成功していなかったら、イリヤの世界が出来上がっちまう」
「確かに、ルガールとの戦いで消耗していたらわからない…か」
晶は渋々自分の意思を曲げた。
「とはいえ、相手は怪我してるし普通の人間なんだ。2対1だし、武器も豊富に持ってる。とっとと片付けて追いつくよ」
そう言って、ネオは手に持ったクリムゾンをブンブンと振った。
走り続けながらかすみは思う。
あれは半分本当で半分ウソだと。
イリヤを残しておいたら危険なのは本当、でもそのために残ってまで戦うのはウソだと思った。
おそらくあれはエッジ個人の純粋な復讐。
放っておいたら単身挑んで無駄死にになるだろうエッジのため、無念さにガソリンをかけて復讐心にまで強引に燃やしたネオが残ったのだ。
葵と晶はエッジとケーブルの関係を知らないし、あの場で説明しても納得したとは限らない。
かすみは信じていた。
意思は何よりも強い。きっと二人は追いかけてくる。そしていずれ、ルガールを倒した他のメンバーも続いて脱出するだろうと。
かすみは忘れていた。
この街はそんなまばゆい希望から忘れ去られた場所だということを。
この街にあったのはいつもどす黒い暗闇と絶望ばかりだったことを。
そして、復讐という意思はどんな理由の下でもいつもどす黒い暗闇の中にあるということを。
「ネオさん、本当にいいんだな…」
エッジは柱の影でネオに確認する。
おそらくそれはただ一緒に戦うという意思の確認ではない。
自分と同じ覚悟の確認、それはおそらく―――
「当たり前だろ!行くぜ!」
勢い良く飛び出し、一つのドアの前に立つ。エッジは一瞬遅れてネオの後ろにつく。
ネオはあの通信室での惨劇を、エッジは閉じ込められた会議室での罠を思い出していた。
ネオの推理ではイリヤの居場所は2Fだった。
3Fより上であれば1Fの様子をうかがい知ることはできず、1Fでは気取られる可能性が高い。
それに、彼の行動方針からすれば罠を張って敵を待つはずであった。あまりはなれた階では探すほうも守るほうも苦労するばかりである。
ということで片っ端から部屋を捜索することにしたのだった。
しかし、普通にドアを開けて侵入するのならば、ハズレはまだしも当たりだった場合ほぼ間違いなく罠にかかる。
いや、もしかしたらハズレの部屋にすら罠がある可能性がある。
ネオはそれを考慮して、大胆かつ確実な突入方法を選択した。
「ドアごとぶっとばす」ことである。
クリムゾンのグリップの底にバッグから取り出した大きめな銃弾の帯をあてがう。
ぐにゃりとグリップが変形し、いびつな形になりながらその弾を飲み込んでいく。
クリムゾン、進化する魔銃。その呪われた銃はどんな弾をも飲み込み、撃ち出すことが可能だった。
そればかりではない、どんな大口径の弾を撃ち出してもほとんど反動がないのだ。
もともと射撃の腕がよくないネオにあってはその利点があまり発揮される機会はなかったが、「こういうモノ」であれば話は別である。
引き金を引く。普通ならば人の手で支える事などかなわぬであろう衝撃をその砲身に飲み込ませてそれは飛び出していく。
それは小型のバルカン砲の弾。本来はM134ミニガンと言う名の銃器から発せられるはずの、
ミニと言う名にふさわしくもないその威力が木製のドアをあっという間にバラバラの木片へと崩し去った。
537 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:44:37 ID:NNz4w31I0
「いねえな」
しばらくの沈黙、銃声が止み煙が晴れ、静寂を確認してから中へと入ったエッジが言う。
「次、だな」
ネオが新しい弾薬を取り出しながら部屋を出る。隣のドアの前に立ち、先ほど同様に弾を込める。
「なぁ」
エッジが尋ねる。
「なんだ?」
ネオが答える。
「もし、もしもこれでそのままイリヤ撃ち殺しちまったらどうするんだ?」
「あまり考えたくないけど、結果的には……それでも」
「いや、うん、そうだよな……」
エッジは納得していない顔で頷いた。
こんなことでイリヤに死んでもらっては困る、そう言っっているように見えた
538 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:46:09 ID:NNz4w31I0
ずっと上から聞こえていた激突音が消え、代わりに同じフロアに騒々しい音が流れ出したのを、ヴィレンはま だリクライニングさせたままの椅子の背にもたれて聞いていた。
「そろそろ動く頃か」
そう言って机に載せたノートパソコンのデータを参照する。
が、出ない。
数時間前までは更新こそないものの表示に支障のなかった生存者のデータなど一切合財がサーバーエラーの名 目で閲覧不可能となっていた。
ヴィレンはニーギの話を聞いていたわけではない。しかし直感的に悟った。
「このゲームが終わりに向けて突っ走ってるってことか」
彼の目的は「最後の二人」となること。
自分がルガールと戦うような状況を避け、ルガールか、それを倒したヤツと生き残った二人としてこの街に生 きていること。
あとは彼の頭に巣食った能天気な夢魔が何とかしてくれるであろう。
539 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:47:08 ID:NNz4w31I0
知らぬうちに最後の一手を完全にリリスに任せていることに気づかないまま、考えを整理した。
彼がルガールとの戦闘を嫌ったのは単純な理由である。主催者を名乗るものと、参加者として連れられてきた もの。
戦闘力云々を抜きにして、真っ向からぶつかって勝ち目があるとは思えなかった。
「相手はこのゲームの『ルール』なんだからな」
呟いて、車椅子は動き出す。
恐ろしい銃声が隣の部屋のドアを破壊する音が聞こえた。
540 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:50:13 ID:NNz4w31I0
屋上にいたのは、アランを除けば殆どが超自然の力を今現在宿した者たちである。
彼らには見えただろうか。晴れ渡る朝の空に一点濁った渦ができたのが。
それは濁流のように勢いを増し、渦から竜巻へと姿を変えた。
空気中の水分が、光の粒子が、精霊のカケラが、その渦へと巻き込まれ、聞こえもしない轟音を伴ってそこにあった。
「ふむ、本来ならば儀式の中に溶けて一部となるはずの力だが、そういえばアレはそういうモノであったな」
ルガールはかつて殺意の波動を持った男であったその肉の塊を投げ捨てて、両手を掲げる。
「行き場無き殺意よ、前のようにはゆかぬぞ…来いッ!」
「ダメッ!!」
叫んだのはニーギである。
手にした長ビスに力を纏わせて、常人に止められぬ速度で投げつける。
一瞬遅れて、蒼月が水弾を撃つ。
紅丸と楓、アランとアルルはそれを見つめていた。
ニーギは何を期待しただろうか。
ルガールにそれが当たることか、あるいは弾いて隙が出来ることか、そして、今彼が途方もない力を得ようとしているのを止めることだろうか。
それは全く、少しも叶うことはない。
541 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:50:40 ID:NNz4w31I0
「完ッ全にチートじゃない!」
ニーギの放った長ビス烈火は、少しの音も漏らさずにルガールの肌の手前で止まる。
落ちて初めて、金属の音を響かせた。
それは蒼月の水弾も同じであったが、それを見てニーギが先ほどの言葉を漏らしたのだ。
蒼月の放った一撃はなんとも奇妙な動きをした。
もしもルガールを守る「何か」に「触れた」のならば、弾けるのが道理だ。
しかし、それは壁に流した水のように、勢いと形を失って流れ落ちた。
「開錠方法からして妖しいとは思ってたけど、やっぱり可逆結界…!」
ニーギが叫ぶ。
ルガールの首に、自分たちのものより少し大きな首輪が見えた。
542 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:54:38 ID:NNz4w31I0
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷、首輪解除) 所持品:衣服類、アーミーナイフ 、サバイバルナイフ数本、調理器具、外した首輪 目的:ケーブルの仇を討つ】
【ネオ(全身打撲、主に足、首輪解除) 所持品:魔銃クリムゾン、食料等、使い捨てカメラ写ルンDeath、弾薬複数種類大量、外した首輪 目的:脱出のサポートをする】
【ヴィレン(左足骨折・全身打撲、リリス憑依中) 所持品:ノートパソコン、IDカード、殺人車椅子、
銃器及び爆発物複数 目的:ゲームに参加・最後の2人(ルガール含む)になる】
【現在位置 ギースタワー2F】
543 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:55:11 ID:NNz4w31I0
【結城晶(首輪解除) 所持品:大学ノート(死亡者の名前とハガーメモの要点写しと手記、およびニーギたちとの会議メモ)と鉛筆、首輪、外した首輪 目的:葵を守る、街から脱出する】
【梅小路葵(首輪解除) 所持品:釣竿、ハガーのノート 外した首輪 目的:晶たちとともに生きて帰る、街から脱出する】
【かすみ(首輪なし、戦闘服着用) 所持品:拳銃(マガジン複数個:ほぼ弾切れの心配なし)、忍者刀朱雀、多目的ゴーグル 目的:街から脱出する】
【現在位置 11区屋外】
544 :
最終章一幕:2008/03/02(日) 21:55:33 ID:NNz4w31I0
【ニーギ・ゴージャスブルー(全身の広範囲にわたってダメージ+中程度の火傷) 所持品:ゼロキャノンコントローラ(チャージ完了)、
雑貨、ゴーグル、長ビス束、コンドーム、首輪、剛のバッグ…スペースハリアーバズーカ、マカロフ、携帯電話(アランの連絡先登録済) 目的:ゲーム盤をひっくり返す】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍 目的:ルガールを倒す】
【荒れ狂う稲光の二階堂紅丸(左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本、ボウガン(残り矢3本)、リボルバー式拳銃(ラスト1発) 目的:ルガールに消えない傷を残す】
【アルル・ナジャ 所持品:1/10ウォーマシン(電池切れ、充電可能)、草薙京のグローブ(魔力切れ)、ハーピーの歌声入りテープ 目的:ルガールと会う】
【楓(覚醒状態、肉体・精神共にそれなりの疲労) 所持品:探知機(有効範囲1q程度、英語表記)、K´のアクセサリー、封雷剣 目的:アルルをずっと守る】
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ、首輪、出刃包丁、日本刀「紅鶯毒」 目的:プローブの情報を手に入れる】
【現在位置:ギースタワー屋上】
【備考:ルガールはギースタワー屋上に。豪鬼は死亡。ナガセともう一人はサウスタウンのどこかに。】
キチガイのしおり
〜〜 ここまで読んだ 〜〜
「カギャクケッカイ?」
ニーギの言葉に問いかけたのはアランである。
目のまえではどす黒い殺意の風を纏ったルガールが涼しげに笑う。
止められない。絶望的な力が目の前の敵に染み込んでいくのを誰もがただ見ているだけだった。
「そう、可逆結界。またの名を論理の牢獄(ロジック・プリズン)。見えてはいるけど、ルガールと私たちの間には世界と言う名の壁があるわ」
「よく、分かりませんね」
蒼月は腰から抜いた青龍の切っ先をルガールに向けたまま視線をニーギに飛ばす。
「この首輪にかかっている衝撃を消す術と同じもの。私が知ってる結界術でも最強よ。ただ…」
「ただ?」
紅丸はすでに黒い稲光を拳に纏っている。
「アレは少し違う…かな」
「……」
楓はアルルをかばうように腕を伸ばし、反対の手で持った封雷剣を正眼に構える。
「面倒な説明は省くけど、コンパクト過ぎるのと、本来のあの絶技のあり方からするとおかしいのよね」
「おかしい?」
楓の後ろで震えをこらえるアルルの呟き。
「可逆結界で防御に使うなら”陽”、簡単に言えば攻撃で破ることは不可能なバリアなんだけど…」
そう言いながら、アルルに向けてウインクひとつ、ニーギは右手をポケットに突っ込んだ。
「ああ、ルガール様…」
ルガールを睨みつける一行を他所に、一人駆け出した者がいる。アヤだ。
止めるまもなく、もっとも、止めるならばルガールの間合いに入る位置でだれもそうしなかったことは当然だ
が、アヤはルガールのすぐ横に当然のように従っていた。
「ご苦労だったな」
「勿体無いお言葉です」
「わかっておろうな?」
「はい」
ごく短いやり取り。
ルガールはその直後、アヤを抱き寄せ。
そのまま体をへし折った。
さらに、その直後、ありえないほどの閃光と衝撃がその場に訪れる。
何が起こるかわかっていたただ一人を除いて、全員がその光に一瞬視力を失う。
唯一それが起こることが分かっていた、それを起こした張本人、ニーギの右手にはスイッチ。
視力を戻してなお、その意味をわかったものはいなかっただろう。
この街にかつて2度降り注いだ最強の支給品、ゼロキャノンのピンポイント射撃である。
轟音の中、ニーギの声が各々の耳に届いたかは定かではない。
屋上の床、つまりは最上階の天井に小さな穴があいていた。
ゼロキャノンの最小単位、個人狙撃によって狙われたその部分が地上まで続く半径1M程度の穴となっていたのだ。
ニーギがそこに駆け寄る。下を覗き込むと、やれやれといったポーズをとって、すぐさま仲間の位置まで飛びのいた。
「ダメだこりゃ」
直後、その穴から何かが飛び出してきた。
間違いなく、それは撃たれた張本人、ルガール・バーンシュタインである。
「やあ、ご無沙汰だね諸君」
穴から現れたルガールは、その穴の後ろに立って仰々しくお辞儀をした。
服にはよごれすらなく、ダメージなどという話はすることすら馬鹿馬鹿しかった。
「ニーギ、何が起きたか説明してくれよ!」
一瞬にあまりに多くのことが起きすぎてパニック寸前のアランに答えたのは誰あろうルガール本人だった。
「いやいや、お教えしよう。今の一瞬の出来事についてだったね、アラン・アルジェント」
ニヤリと笑うその表情に精一杯のガンを飛ばしてアランは構える。
「順を追って行こう、まずアヤについてだが」
「この街で生きているものが自分だけになるという儀式ならばあの女も例外ではないというだけでしょう?」
蒼月の的を射た嫌味をそよ風のように受け流してルガールは続ける。
「もちろん、その通りだが、彼女には救いを与えてある。この世界が終わり、私の世界が出来た暁には必ず私の横に置いてやろう、とな」
「…ウソ、だな」
「さすが、オロチの女すら手なずけただけのことはあるな、二階堂紅丸」
その言葉に紅丸の腕が振られる。
呼吸すら乱さず暗黒の雷が刃となってルガールの体に突き刺さる、その直前、やはり消えうせた。
そうなることをわかっていたのだろう、両者とも焦りの色すら見せない。紅丸はそうしたことで怒りを表現したのだろうか。
「しかし、死にゆくものには救いが必要だろう?あの女がそれを信じて素直に死んでくれるのならばそれに越したことはない。
もっとも、もうこの世界にはあの女はチリすらも残っていないがね。」
「あの光、か」
「そう、ゼロキャノンと呼ばれる衛星兵器だ。この会場で何度か目にしただろう?もっとも、ずっとそこの風渡りが持っていたからほとんど誰も詳細は知るまい」
ルガールの指した先、ニーギがはにかみでも自嘲でもなく、少し微笑んだように見えた。
「さて、そこの女が君らにすら隠していただろう切り札を今使った理由を当ててみせよう」
言葉はニーギに向けられているのは確かだったが、返答はない。
全員の目がニーギに向けられていてなお、彼女はルガールの言葉を待って沈黙していた。
「私が可逆結界をON/OFFしている、と思ったのではないかね?」
「はいはい、正解よ」
「そして、それは間違いだった」
ルガールはさも残念そうな表情をしてみせる。お芝居の一場面のようだった。
「つまり?」
「さっきも言ったけど、本当の可逆結界なら空間そのものを隔ててしまうのよ。つまり、相手に触れることなんて出来ない。
だからあの死体を持ってる時やあの女に触れた時、オフにしていると思ったわけ」
「なるほど、だからあのタイミングだったわけだ」
アランはうんうんと大袈裟に頷く。
「しかし、その理屈ならばルガールにあの光の柱が当たっているはず…だから違う、と」
「さて、それでは答え合わせといこう」
一応納得した風の蒼月の言葉で会話が途切れると、ルガールがそう宣言した。
「ニーギ・ゴージャスブルーは知っていると思うが、この結界はこの世界の技術ではない。私の協力者が別の世界より持ち込んだものだ」
誰もその言葉に疑問を投げかけるものはいなかった。
国や地域はもとより、時間すら越えて集められた自分たちがそれを口にするのはあまりに滑稽だと知っていたからだろうか。
「名は先ほどから言われているように可逆結界、だが、そう、これは特別製だ」
「おおかた、一方通行ってことでしょ。自分から外へは通すけど、外から自分へは通さない」
「ふふふ、さすがに仕組みを知っている者は物分りがいい。その通りだ。名を可逆結界”落陽”」
その名を聞いてニーギが先ほど同様に微笑む。
「そう、それがセプテントリオンの実験したかったものね」
ぐにゃり、音をたてるようにルガールの表情が歪んだ。
「さて、こんどはこっちのネタばらしかしらね」
ニーギの微笑みは意地の悪い笑顔へと塗り変わる。一方のルガールの表情は良く見えなかった。
「まず、今回この儀式をするにあたってアンタはいろんな組織と協力したはずよ。でも、金銭や人員、そんなものが殆どじゃない?
実際に、一番の後ろ盾、ほとんど黒幕って言ってもいいわね、それが」
ニーギはわざと間を空けて忌々しいその名を告げた。
「セプテントリオン」
「せぷてん?」
横文字に慣れていない楓と蒼月が訝しげ他の面子を見る。しかし誰もその名を知っているものはいないようで、言葉自体にあまり意味はなさそうだと感じた。
「世界を、国家じゃなくてほんとうに世界を股に架ける武器商人。その武器や技術と引き換えにその世界の未来を奪う死の商人ね」
「世界の未来?」
「まあ、有り体に言えば掌握か消滅。目的は世界の可能性を消すことと言われてるわ」
ルガールはその言葉を聞いてようやく尊大な表情を取り戻す。
「その通りだ、私がこの世界を消す条件でヤツらから協力を取り付けた。もちろん。新たな私の世界には不可侵であるという条件も」
「はい、そこがダウト」
「なんだと?」
今度は平静を保とうとすらせず、ルガールは明らかな嫌悪感を見せた。
「アンタはあの連中が約束を守ると思ってる?」
「知らんな、どのみち儀式が完成すれば干渉は…」
「それが間違い。言ったでしょ、ヤツラの目的は世界の可能性を奪うこと」
目の前にいる男は100人に近い参加者をあつめ、殺し合いをさせた張本人であり、ほんの少し前に衛星砲の直撃で傷一つつかなかった相手である。しかしニーギの口調はまるでダメな男を叱るように鈍らない。
「これが世界の消滅だけなら納得するけどね。WTGも開かない、手を出しづらい世界が一つ生まれる、こんな条件でヤツらが協力する目的なんて一つ」
「実験、か」
紅丸の言葉から感情は読めない。
もっとも、自分たちの生死をかけた戦い、そして世界の命運すら左右する戦いが「実験」と称されて面白いわけはなかった。
「そう、おそらくはこの首輪、そしてその結界装置の実験、あわよくば大規模蟲毒のデータ取り」
「だったら、実験だったらなんだと言うのだ!」
ルガールの言葉はついに怒気を孕む。
「アンタの敗北、儀式の失敗まで織り込み済みってことよ!このダイバカ!」
「フ…フフフフ…」
ルガールの怒気は先ほどの殺意の風を具現化させ、立ち上る黒い風が体を台風の目として渦を巻き始める。
「だから、だからどうした!?お前の言った通りだとして、それがどうした?ならば儀式を成功させればヤツらとて容易に手出しできないという証明ではないか!」
「そうねえ、だから、失敗してもらうわ」
「できるものかよ…」
「私たちはさ…」
ニーギの口調が挑発の度合いを弱める。至って普通の口調、拍子抜けしたというわけではなかろうが、友人に語りかけるようなそれにルガールの発する殺気が一瞬弱まる。
「ここに、決着をつけに来たんだよね…おしゃべりをしに来たんじゃないの」
「もちろん、私とてそのつもりだが、それがどうしたね?」
「意味のないおしゃべりなんてしない、ってこと!アルちゃん!」
「はいっ!」
この数瞬後ルガールは目を疑う。
ニーギの声と同時に自分に放たれたのは蒼月の水弾、もちろんそれは可逆結界”落陽”の前に消える運命だ。
ルガールもそう思い、防御らしい防御もせずに立っていた。何もできるはずがないという「油断」。
大きな力を得たものを必ず殺すその毒が全身に回っていた。
蒼月の水弾は結界の手前で止まり、その場に停滞した。それは普段蒼月が使う澄んだ水ではない、濁った泥水だった。
そしてその位置は、ルガールの目の前である。
「ぬっ!?」
「開錠!!」
泥水の水塊を打ち払ったルガールの前には一人の青年と一人の少女がいた。
少女の手からは淡い光が溢れ、それは帯を引いてルガールの首輪へと触れた。
「もらったぁ!!!」
すぐさまアルルを後ろへかばった楓が封雷剣をルガールの首に突き刺す。
全てはこの一瞬のため。
ニーギの意図を汲み取ったアルルがかつてない速度、ものの数分で組み上げた開錠魔法をルガールに放つ。
それによって結界が解除された隙を狙って楓が結界の発生装置であろう首輪を狙う。
アルルに視線を移しそうになったルガールを紅丸が牽制し、注意を逸らしたのもこれの布石である。
蒼月が後方で開錠魔法を組んでいるアルルに気づいてサポートしてくれたのはニーギの想定外の働きだった。
アランはその作戦にあえて加わらなかった。打算的な問題ではなく、入る余地がなかっただけのことである。
なにもしないのが自分の役目だと知っていた。
おそらく、今急ごしらえでできる最高のコンビネーションであったに違いなかった。
「なるほど、してやられた…」
鮮血が伝う剣を見つめながら忌々しげに呟く。
刃はルガールの首輪に数ミリ届かず、咄嗟にかばった腕を突き刺して止まっていた。
「くそぉぉぉ!」
楓は腕に力を込める。しかし力を込めたルガールの腕の中、刃はそれ以上少しも前に進むことはなかった。
不意にその腕が振られ、楓は封雷剣から手を離してしまう。その隙にルガールは剣を抜き、その場に投げ捨てる。
ガラン、という音が響き、その音にニーギはようやく自分を取り戻す。
「まずい!!」
叫びとダッシュは同時だった、しかし、間に合わない。
最悪の光景までほんの少し届かなかった。
ルガールが血の滴る腕で掴んだもの、アルル・ナジャの首筋であった。
「…小さき者と侮るなかれ、ということだな」
「ぐっ…」
ルガールの言葉と共にアルルが小さく悲鳴を上げる。
「やめろルガール!やめろ!!」
楓が叫ぶ、封雷剣を拾い上げ、真っ直ぐにルガールに突進する。
「かー…くん…」
か細い声が楓の耳に届く、封雷剣がルガールの体に触れる。
しかし絶望の歯車は軋んだ音で回り続けている。
その剣は弾かれるでもなく折れるでもない、ましてや刺さりなどせず、ピタリと止まってしまった。
「結界が、復活した…」
ニーギはこの街に来て初めて絶望的な顔をした。
急ごしらえ、もともと一瞬の穴ができれば十分という開錠魔法だった。オートロックのドアに足を挟んで無理やり開けておいたようなものである。
足は引き抜かれた。扉は閉ざされてしまったのだ。
「やめろ、やめてくれ、ルガール!殺す!殺す殺す殺す絶対殺すぞ!放せ!アルルを放せ!オレの守る人を放せ!放せぇぇぇぇぇぇ!!!」
「かーくん!!!」
心を搾って無理やり出したような叫び、二人のそれが消えた時
ぽきん。
あまりに軽い音と共に、アルルの首がありえない方向へと曲がった。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
楓の絶叫を他所にルガールが一歩飛びのく。
腕を広げ、親が子を呼ぶような格好で生ける者全てに告げた。
「さあ、いよいよクライマックスだ。かかってきたまえ。何、躊躇することはない。良くある悪役のように同情すべき点があるわけでもあるまい?
自分たちの正義に自信がないわけでもあるまい?ただ少し絶望が大きすぎるだけだ、何も問題はない」
高笑いと共に、手にしたアルルを投げ捨てた。
「さあ来たまえ!せめて挑んだという自己満足の中で殺してやろう!私こそが諸君らの対峙した敵の中で最も傲慢で、最も悪辣で、最も非道で」
楓がアルルの遺体にすがりつく。ニーギは唇を噛み締めて構える。蒼月と紅丸、アランの表情は読めない。
「最も強い相手だ」
【アルル・ナジャ 死亡】
【ニーギ・ゴージャスブルー(全身の広範囲にわたってダメージ+中程度の火傷) 所持品:ゼロキャノンコントローラ、雑貨、ゴーグル、長ビス束、
コンドーム、首輪、剛のバッグ…スペースハリアーバズーカ、マカロフ、携帯電話(アランの連絡先登録済) 目的:ゲーム盤をひっくり返す】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍 目的:ルガールを倒す】
【荒れ狂う稲光の二階堂紅丸(左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本、ボウガン(残り矢3本)、リボルバー式拳銃(ラスト1発) 目的:ルガールに消えない傷を残す】
【楓 所持品:探知機(有効範囲1q程度、英語表記)、K´のアクセサリー、封雷剣 目的――――】
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ、首輪、出刃包丁、日本刀「紅鶯毒」
目的:プローブの情報を手に入れる】
【現在位置:ギースタワー屋上】
【備考 アルルの所持品はメンバーの後方に放置】
雑談もこっちに統合されたの?
向こう落ちたね。
で、とりあえず容量オーバーか1000まではこっち統合。
その後改めて統合スレとして立てる、でいいのかな。
で、ですね。
唐突で申し訳ないんですけども…
できちゃったので投下します。
俺だって続き超かきたかったんだよもん!!!!
ルガールの手からもう何度目かも分からない烈風が吹き荒れる。
渦巻く風の螺旋はビルの屋上をえぐりながらニーギたちへと襲い来る。
「うっさい!」
ニーギは怒声とともにビスを投げつける。
精霊の力を纏ったそれは烈風を切り裂いてルガールの下へと飛び行き、そして落ちる。
ずっと同じだった。
先ほどから歩み寄るルガールが何度も牽制の技を打ち、ニーギや蒼月、紅丸が相殺する。
遊ぶようにルガールはそれを撃ち続け、それを消すだけでニーギ達の力は削られていった。
牽制といってもコンクリートに何本もの傷跡を残す威力のそれだ。
人外と言っていいレベルの力を持つ者たちでさえ、あしらうことが難しいそれをルガールはすでに20を超えて撃ち続けている。
アルルの遺体にすがって呻き続ける楓にはルガールは基本、目もくれずにいたが、時折楓達の方向へ攻撃を向けては慌てて相殺するニーギをニヤニヤと眺めていた。
「何か…何かないかな…」
いつでも飄々、余裕を保って敵と対峙していたニーギの見せた少しの焦りはチームの士気を下げるのに十分だった。
単純な戦闘力でも、ベストコンディションにほど遠い面々のそれとは大きく差がついているように感じたし、
何よりも結界の存在が絶望感をさらに煽った。
「絶対に攻撃では破れないのですか?」
蒼月の問いにニーギは首を横に振る。
「論理の牢獄とは良く言ったものでね、アルちゃんの魔法みたいに理屈を積み上げて構築する術じゃないとムリだわ。
攻撃性ではあれは決して破れない、それこそ、世界を改変するレベルの力じゃないとね」
ニーギの脳裏にはよく知った青年の顔が浮かんでいる。
彼は今どこでどうしているだろう。今でも折れぬ正義を貫いて真っ直ぐ走っているだろうか。
そんな彼との思い出に少し力をもらう。彼の一番すごいところはその力ではない。
周り全てに前向きな思いを与える「よきゆめ」だ。
この街の「よきゆめ」であるネオは今、下で必死に戦っているはずだ。自分達がそれを裏切ることがあってはならない。
少女はうつむきかけた顔をすっと前に向け、そして少しだけ後悔した。
「少し、強くいこう」
顔を上げた先には忌々しいあの男。ルガールが大きく手を広げて笑っている。
真横から少し背中側に逸らせたその手には、今まで自分がかき消してきた烈風の数倍の気がすでに見て取れ、
それは秒単位で爆発的に大きくなっていった。
「これは消せまい?」
気の増大に合わせて両手はどんどん背に向けて反っていく。
全員が悟る。消すことはおろか、その巨大さゆえに避け切れない。
「カイザー……ウェイッブ!!」
一瞬の間を置いて突き出された両手の気は、ルガールの胸元で一つに合わさり凄まじいまでの衝撃波となって一同を襲う。
「水邪よ!今が約束の時!」
蒼月が叫ぶ。
一同の目の前に巨大な水球が現れる。幅や高さだけ見ればルガールの攻撃をすべてカバーできる大きさのそれは、ただの水ではない。
蒼月が借りた水邪の力が篭った強靭極まりない水の盾である。
それでも蒼月はそれを破られるはずはない、とは思わなかった。
だからこそ叫んだ。
「続けてください!」
叫びと同時にニーギは懐に手を突っ込む。
残りのビス全てを指の間に挟み、力を纏わせる。
蒼月の水球にカイザーウェイブが触れ、水が沸騰するような奇妙な音と共に大気が震えた。
ニーギはタイミングを待つ。
バシュン、そしてバシャン。
只の水へと還ったそれが地に落ちた瞬間、ニーギの手から幾筋もの青い光が伸びた。
その巨大な水の盾を破ってなお殆ど衰えることのない衝撃波にその光の数とおなじだけ穴が穿たれた。
巨大な一つの塊だった衝撃波はその穴によっていくつかの欠片となる。
そのうちいくつかは別れた影響で彼方へと消え、いくつかはそのまま真っ直ぐ突き進んだ。
「ちっ!」
紅丸が暗黒の雷でそれを弾く。
「ふっ!」
蒼月が水柱で受け止める。
「おわっ!」
アランがすんでの所でかわす。
「このっ!」
ニーギは精霊脚で蹴り飛ばす。
殆どの欠片はそれでどこかへ消えていった。
しかし、一つだけ消えずに進んでいる欠片があった。
ニーギは懐に手を入れる。
もう武器はない。結果は分かっていたかもしれない、それでも叫んだ。
「避けて!楓!」
振りかえる楓、腕の中には熱を失った少女。
一人ならば避けられただろう、遺体を捨てれば間に合っただろう。
欠片といえど車にはねられたほうがマシなレベルの衝撃だった。
それを全身に受けて、楓はなおもアルルの遺体をかばったままふっとんだ。
支援! 支援!
支援ダー――――――!!
「いやお見事、と言いたいところだが一人だけ無様な者がいるようだな」
ルガールはそう言うと倒れた楓に向かって歩き出す。
ニーギたちの横を通って散歩でもするようにゆっくりと歩いていく。
「まてこのっ!」
バッグに手を入れたニーギが手にしていたのは脇に抱えるほどのバスーカだった。
まさに通り過ぎようするルガールの腰にピタリと押し当てて迷わず引き金を引いた。
バシュッ。
一瞬砲身が光を帯びて打ち出されたのは、実弾ではなくエネルギーの弾丸だった。
それはルガールに触れることなく、遠い空に飛んでいく。目の前のルガールはうっすらとぼやけて霞んでいた。
「残像だよ」
倒れた楓を足元に見ながらルガールはそう言った。
「こっの…!」
ニーギは一瞬期待した。結界があればこの武器も避ける必要はない。
ひょっとしたら、まだ試していなかったこの武器は通じるのではないか。
そう思って、何度も引き金を引いた。
「フフフフフ…」
ルガールはその場から動こうとすらしなかった。
腕に、胸に、当たっているように見えるその弾はやはり結界の前に消滅を余儀なくされていた。
ただ、戯れに避けただけだ、効く物がないことは君が一番知っているだろう。そう言われてニーギはついに膝をついた。
世界の秩序と戦ってすら毅然と立ち続けた少女のその姿は、彼女をよく知る者が見れば卒倒したかもしれない。
「さて、おろかな青年、楓よ」
ルガールはアルルの遺体を抱きしめて体を丸める楓の背を踏む。
自分の守りたかった人を汚されまいと必死に、ひょっとするとまだ、彼は守り続けていたのかもしれない。
「なあ、君はそんなものだったかね?」
ルガールは楓の髪を掴んで強引に立たせる。
蒼月や紅丸は動かない。
紅丸はまだしも、蒼月は楓を助けることで勝算があがるのならば動いたかもしれなかった。動かなかったということは、つまりそういうことだ。
「アルル…アルル…」
死んだものの名を呼び続ける。
「情けない…」
心底失望したという表情でルガールはもう一方の手で楓の腕の中からアルルを引きはがす。
「あ、アルル!アルルを!」
じたじたと暴れるその姿は、幕末の世に四神の一つを司る天才剣士の面影などどこにもなかった。
「まあ、君にはゲームの中で大分楽しませてもらった借りもある」
そう言って、ルガールはアルルの遺体を投げ捨てる。
「これはその駄賃だよ」
すとん、と楓の足が屋上の床についた。
「G・エンド!」
荒れ狂う連撃の宴、吹き荒れる虐殺の交響曲。
一撃一撃が普通の人間には間違いなく致命傷である、それを数百発という単位で体に受けて、
楓は四肢が砕け五臓が破れ六腑がすりつぶされるのを感じた。
間違いなく、絶命するだけのダメージ、それが誰の目にも妥当な判断だった。
「かーくん♪」
「あ、アルル!?生きてたのか?」
言ってから楓は気づく。生きているはずがない。
だったら今目の前にいるのは何だ?亡霊かなにかか?
亡霊だとしたら、なぜ見えるんだ?
そこまで考えて結論に辿り着く。
なるほど、自分は死んだのだ、だから死んだアルルと会えたのだ。
「でも、おかしいな」
「ん?何が?」
「だってほら、俺がアルルと同じところにいけるわけないじゃないか」
「そんなことないよ、ボクだってたくさんひどいことしたもん、かーくんといっしょだよ」
そう言って、少し悲しそうにアルルは微笑む。
「…そんなことないさ。でも、案外殺風景だな、地獄門の中ってのはもっとどろどろとした怨念渦巻く世界と思ってたぜ」
真白く、どこまでも広がる世界の見えぬ果てを眺めるようにして楓はそんなことを言った。
「じごく、もん?」
「ああ、そっちの世界にあるかはしらねぇけど常世と幽世をつなぐ門だ。死んだってことは地獄門の向こう側に来たってことだろ?」
たった一人の支援TY
楓の言葉に、アルルは少し考える様子を見せた。
「かーくんは、もういい?」
「え?」
「もう、疲れちゃった?」
「疲れた?」
死んだ自分に何の疲労があると言うのだろう。楓は不思議そうにアルルの目を見た。
吸い込まれそうな丸い瞳に自分の顔が映っている。
確かに、死んだ亡者と言うよりは疲れた生者のようだった。
「そう…だな、なんか疲れた」
「がんばったもんね…がんばって、守ってくれたもんね」
「守る…?」
アルルの言葉が楓の中で熱を持つ。
守る?守るとは何だ?一緒に死ぬことは守ることなのか?俺はアルルを守ったのか?
思い出せ、俺が今何をしていたか思い出せ、守ったのか?守れたのか?
俺は
アルルを
守りきって死んだのか?
しえんぷよ
支援でございます
それがどうした! 支援!
「ごめんね、まだダメみたい。でも、ありがと。守ってもらったよ。たくさん」
アルルが消える。世界に溶ける。白くなって、目の前で消える。
まだ開く、瞼が開く、世界が見える。真っ赤な、血にまみれた本当の世界が見える。
「る…」
誰もが耳を疑った。
絶対に、絶命しているはずだ。
そう思ったボロきれのような身体から声が発せられたのだから。
ルガールですらその思いは隠しきれなかった。
「バカな…」
その言葉は、はたして意図して出たものだったろうか。
「ルガァァァァァァァァァァァァァァル!!!!!!!!」
楓の首についていたちぎれかけのチョーカーが、咆哮と共に光を抱いて、落ちた。
「なんだ?なんだというのだ!?」
それは最後の鍵。
少女が、裏切りと愛を込めて作った最後の鍵。
この街にただひとつだけ残っていた完全な解除魔法だった。
チョーカーから広がった光はルガールの身体を包み、一瞬まばゆく光って消えた。
「ルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
もう無事な骨などはひとつもあるまい。散々にひしゃげたその腕でルガールの、憎き怨敵の顔を殴りつける。
「ふっ、バカなこぶっ!?」
ルガールの顎が揺れる。
それは全てがありえない光景。
それがなにかと言うならば、
死してなお想う心と、死してなお守る意思とが起こした最期の奇跡
それ以外に表現しようがなかった。
「結界が解けている?」
「今の光、開錠魔法…?え、でも、なんで…」
様子を伺う蒼月と、呆けているニーギ。
いち早く駆け出したのは紅丸とアランだった。
「八咫薙ッ!」
紅丸の手から半月状の雷が飛ぶ。
楓の髪を掴んでいたルガールの腕にヒットし、電撃が走った。
「な…!?」
思わず取り落とした楓の身体を支えたのはアラン。
そのまま抱きかかえて走り出す。振り向きざまに撃ちこんだ銃弾がルガールの頬をかすめ、血の線がそこに現れる。
「おい、おい!しっかりしろ!」
なんとかルガールのリーチの外まで抜け出して、アランは楓に呼びかける。
「ア…ル…」
「ああ!よくやったよ!あんたよくやったよ!アルルだってきっと!」
消え入りそうな声、目線はアランを捕らえず、動くはずのないその手をゆっくりと持ち上げた。
「疲れた…さすがに…今度こそ疲れたぜ…アルル」
伸ばした手は空を切ったように見えた。
しかし、楓は満足そうだった。
きっと彼は掴んでいたのだろう。
守るべき人から伸ばされた手を。
そして歩み出したのだろう、守るべき人とともに、もう一度。
ルガールの咆哮が轟いた。
【楓 死亡】
【ニーギ・ゴージャスブルー(全身の広範囲にわたってダメージ+中程度の火傷) 所持品:ゼロキャノンコ
ントローラ、雑貨、ゴーグル、コンドーム、首輪、
剛のバッグ…スペースハリアーバズーカ(エネルギー残量少)、マカロフ、携帯電話 目的:ゲーム盤をひっくり返す】
【風間蒼月(頚動脈に傷) 所持品:忍者刀青龍 目的:ルガールを倒す】
【荒れ狂う稲光の二階堂紅丸(左耳欠損) 所持品:果物ナイフ数本、ボウガン(残り矢3本)、リボルバー式拳
銃(ラスト1発) 目的:ルガールに消えない傷を残す】
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り6発)、携帯電話、折り畳みナイフ、首輪、出刃包丁、日本刀「紅鶯毒」
目的:プローブの情報を手に入れる】
【現在位置:ギースタワー屋上】
以上!
ゆっくりお読みください!
感想その他もろもろお待ちしてます!
書いたーッ!一年以上温めていたパートをついに書いたぞーッ!!!
リアルタイムで読めた……K'のチョーカーがこんなところでッ!
楓の最後の咆哮がもうなんとも……。
まさに最終決戦って感じですな。
HEROESより続きが気になってしょうがないです。
投下お疲れ様でした!
いよいよ最後来たな・・・
色んなロワ見たが俺にとってのスタートはここで有った支援
投下乙!
コレは…・・・わからなくなってきた
一時は全滅エンドか、とまで思われたからなあ
だがニーギよ。青のお前さんがあきらめてどうする!
なんというどんでん返し…K'のチョーカーなんてフラグすっかり忘れてたw
しかしここからが正念場、頑張れ対決チーム残り4名!
602 :
ゲームセンター名無し:2008/03/12(水) 22:38:49 ID:rm0SmsfRO
やっと見つかった。アルルが死ぬなんてひどすぎる。
乙!
そうか!チョーカーがあったか!俺もすっかり忘れてたぜ。
さて、これで四対一。ルガールの圧倒的不利に見えるけど……どうなるんだろう。
かすみやあきらや葵や山田や上野やネオの遺体をいけにえにしてルガール復活
605 :
ゲームセンター名無し:2008/03/12(水) 23:48:22 ID:rm0SmsfRO
アルルは最後まで生き残ると信じていたのに、こんな糞企画応援するんじゃなかった。
アケの醍醐味で有ると同時に
キャラ好きの欝にもなる諸刃の剣 それがロワよ
…ま、まあ次が有れば良いね?前有った風雲サタン城みたいな?
今なら案外楽しく作れるかもよ?などと無責任な事言っちゃってみる
結局サタン城ってどうなったの?当時忙しくってあっちには気が回せなかった
ちゃんと完結したんだろうか
未完で過疎って終了だった筈
内容が明確にし辛かったせいか、中々書き辛そうだった雰囲気。
ACキャラでやり易いクロスオーバー的なSSってのも難しいな。
>>608 天下一武道会
第一回チキチキマシーン猛レース
610 :
ゲームセンター名無し:2008/03/15(土) 23:47:29 ID:wUKXoZhsO
あるる
お気に入りのキャラが殺されてそんなに悔しいか。
もとよりそういう企画だから諦めろ。
どうしても何とかしたいなら書き手として参加するより他ないんだから。
ここまで来ると安置のネガキャンに思えてくるぞっと
デンデの出たあかりや七色光線発射した響に比べればこの程度…
こんばんわ、週末です。
明日は月曜日です。
では、参るます。
>ヴィレン
入り口のドアが爆発する。
アレはオレの仕掛けたトラップだ。
なるほど、シンプルでクソったれた方法だ。その異形の力に任せて罠も何も吹き飛ばしちまおうって算段か。
しかし少し気になる。
さっきから聞こえていたのは、どう聞いても銃声だ。
生存者には少なくともオレが把握しているだけでも銃など使わずにドアをぶち破れる程度の力を持ったヤツが
ごまんといたはずだ。
それよりも気になることもある。
「正義気取ってクソ主催者とバチバチやってりゃいいものをよぉ!」
爆煙止まぬ入り口に車椅子についた機銃を掃射する。
もちろん、こんなものが効くとは思っていないが、牽制というのはそういうものだ。
「なんでいちいちオレを構うかね…」
銃声と共に新たな埃が舞い上がり、その奥に誰がいるかはいまだ判然としない。
>ネオ
案の定、ドアにはトラップが仕掛けてあった。
ただ、これが正解かどうかは中に入ってみないことにはわからない。
そう思っていた矢先、入り口近くに銃弾が食い込む音が聞こえた。
「あたりだ」
おそらく自分で仕掛けたトラップからの安全距離にヤツはいて、こちらを牽制しているのだろう。
今飛び込んでこのばら撒かれた弾に当たるのはあまりにバカらしい。
次の手を準備するまで待つのが賢明というものだろう。
しかし、オレの相棒はそうは思っていないようだった。
銃声の途切れたタイミングで、エッジは身体を部屋の中へ転がり込ませた。
バラバラになった扉の破片が当たって痛かろうに、構う様子はない。
「あのバカッ!」
そう言ってから思う。こういうのはジオの役目だったはずなんだがな、と。
>エッジ
飛び込んだ先、そこにヤツがいた。
正確にはヤツが座っているであろうあの車椅子の背だ。
「イリヤァァァ!!」
オレは手に持ったナイフの一本をそこに投げつける。
ボスン、と音がしてナイフは弾かれた。
あー、なるほど、ヤツが背を向けている理由はこれか。おそらくあの椅子には銃弾も通らないんだろうな…
オレはまだうっすらと煙と埃が舞う入り口に向かって手招きをする。なにちんたらしてんだアイツは!
「早く来いネオ!」
ネオは一瞬渋い顔をしてから、ゆっくりと部屋に入りイリヤの奴が背を向けているのを確認してからすばやくデスクの後ろに隠れた。
手だけ出してネオがオレを招くので、オレも同じデスクの下に行く。
「このバカ!」
「なに言ってんだよ!イリヤのヤツがあそこに…」
オレの言葉はネオの手によって止められた。要するに口を塞がれたってことだ。
ネオにきつめに睨みつけられて俺はおとなしく黙っておいた。多分、なんかやらかしたんだろうなあと思ったしな。
>ヴィレン
オレは自然に笑っていた。
マジかよ、少なくとも背中越しに聞こえた声はエッジのバカだ。
そして、アイツの呼んだ相手はネオという男だ。
データベースで見る限り、こいつはただの一般人。
エッジの頭のレベルからして、もしあのフリークスどもを連れてくればそっちも呼ぶだろう。
つまり、現時点で考えられる相手の戦力はエッジとネオ、ただそれだけ。
なめられたもんだ、オレなんか普通の人間二人いりゃ十分ってことかよ。
イラついていたはずなのに、オレは口元が緩んでいるのに気づいた。
なんだよ、なにがおかしいってんだよオレよぉ。
「まあ、わからねえことじゃねえけどな」
ずっと戦い、逃げ、負け続けていたクソバケモノどもとは違う。
人間と命のやり取りが出来ることがこんなに嬉しいとは思わなかった。
オレはくるりと車椅子を回して、叫ぶ。
「久しぶりだなエッジ!」
>エッジ
イリヤの野郎がオレの名を呼んだので、思わず顔を出す。
ちらり、とヤツの顔が見えた途端にネオにデスクの下に引きずりこまれた。
「うかつに顔出すなよ」
「わ、悪ィ」
「とにかく、これで正面きって戦うしかなくなっちまった」
「最初からそのつもりだろ?」
オレの言葉にネオが苦い顔をする。そうしてる間にもイリヤはオレの名を呼んで挑発する。
「うるせー!ちょっと待ってろ!」
オレがもう一度顔を出して怒鳴りつけると、イリヤはきょとんとしてから馬鹿笑いをした。
「待て?オレに言ってんのか?おいおいエッジ、お前は…ハハハハハハ!」
なぜそんなに笑うのかオレにはさっぱりわからなかったが、バカにされてることだけは確かだ…多分。
「だーかーらー!」
またもネオに頭を掴まれる。
「じゃあ20秒だけ待ってやる!いくぞ!20〜、19〜」
イリヤのカウントダウンがオレをイライラさせていた。
>ネオ
オレも推理以外、特にこういう局面で頭を使うほうじゃないがエッジはそれ以上だった。
敵の射程にいきなり飛び込む、こっちの戦力がバレるようなことを言う、バリケードから平気で顔を出す…
とりあえず強引にデスクの中に引き込んだところであのイリヤという男がカウントを始めた。
「18〜!」
間延びした、こちらを舐めきった口調だったが、この機会を逃すわけにはいかない!
「せーのでこの机の両側に飛び出して攻撃、その後は別の机に入れ」
「お、おう」
「14〜!」
「あと、おそらく遠距離からは仕留められないから、隙を見て前に!」
「おう」
「10〜」
「よし、じゃあアイツのカウントが5になったところでいくぞ」
「おう!」
「…なげえな、飛ばしてゼロっとぉ!」
オレ達の隠れていた机に銃弾が打ち込まれた。
>ヴィレン
『ずいぶん楽しそうだねぇ』
「うるせーバケモノ、すっこんでろ!」
オレは頭に響く甘ったるい声を怒鳴りつける。
エッジ達は石を投げ込まれた鳩の群れみたいに慌てて机から飛び出してきた。
こんなくだらないひっかけに焦るなんて、たまらなく楽しい。
こちらが優位に立つことの素晴らしさを久しく忘れていたが、これはやはりいいものだ。
「ネオ!さっきの!マシンガン!」
「…よ!」
「んだよ!弾切れかよ!」
「お前もう黙れバカー!」
ハッハッハッハ!やはりバカ二人だ。こいつは愉快だ。
ずっとバケモノどもとの駆け引きで貯まった鬱憤を晴らすのにこんないい相手はいない。
散々からかって、惨めにぶっ殺してやろう。
そう思った矢先にエッジの手にナイフが見える。隣のネオの手にはおかしな形の銃。
それを弾こうとまた車椅子を反転させて背を向ける。
取り扱いのマニュアルを信じるならば、こいつの背もたれはロケット砲くらいまでは受け止めるらしい。
ナイフや通常口径の銃などどうということはあるまい。
そう思った俺は、思わぬ衝撃に身体を揺らされることになった。
>ネオ
エッジの言葉は意外だった。
俺が撃ったのは最後の1帯。さっきまで扉を破壊するのに使っていたミニガンの弾だ。
弾切れではない。イリヤは扉を破壊しているオレ達に気づいていただろうし、当然その武器は警戒していたはずだ。
その車椅子がどれほどの防御力を持っているかはわからなかったが、避けられるよりは当たったほうがいいに決まってる。
電動ならば故障だって期待できる。
だからエッジの言葉「弾切れかよ!」とその手に持ったナイフは最高の伏線となった。
オレはヤツの椅子の背にありったけの弾(と言っても掃射でものの数秒)を撃ちこんでやることが出来た。
撃ち終えてやつを見ると、その椅子の高級な革張りは破れその下からおそらく防弾素材であろう、分厚い壁材のようなものが覗いていた。
「ハッタリかよ、ナメたマネしやがって…」
イリヤの呟きが聞こえた。ダメージはなさそうだが、余裕は崩してやれたようだ。
さて…今度こそ一番強力な弾は弾切れ、どうするか…
>エッジ
不意打ち返し成功!意味があったかはわからないけど、突入前に弾薬の確認をしておいたからハッタリに使ってみた。
ネオの顔を見ると俺に向かって頷いた。よかった、間違った作戦じゃなかったらしい。
イリヤの野郎が車椅子を反転して、また銃を撃つ。
おれ達はどうやら事務所らしいこの部屋に豊富にあるデスクに隠れながら移動する。
アイツは車椅子に乗ってるから後ろを向いて弾を止める場合は動きが止まる。
避ける方法もあるが、オレとネオが挟むように攻撃すれば逃げ場はないはず……
オレはネオから離れるように動いて、ナイフを一本投げる。
「ちっ!」
手元のレバーを動かしてイリヤが車椅子を下がらせると、オレのナイフは後ろへ飛んでいってしまう。
「ネオ!」
叫ぶまでもなく、ネオはクリムゾンを構えていた。
斜め後ろに逃げたイリヤはちょうどネオと向かい合う角度だった。
「食らえっ!」
ネオのクリムゾンが火を吹く。直前、反転したイリヤの車椅子がそれを防ぐ。
「クソムシどもがぁ!」
背を向けたまま叫ぶイリヤは、ちょっとかっこ悪ぃなと思った。
>ヴィレン
クソ!クソクソ糞糞!どうなってやがる!
なんであんなただの人間どもにオレが押されてるんだ!
そもそも、なんであいつらはオレを狙って来てるんだ!
仲良しこよしの甘ちゃんじゃなかったのかよ、少なくともオレが知ってるエッジはそうだったはずだぞ!
「ふざけやがっ…!!」
反転しようとしたところで、またネオから銃弾が来る。
今度はグレネードらしい。いったいあの銃がどういう仕組みかはしらねえが、どんな弾が飛んできてもおかしくねえとだけは思っておく。
しかし、動けねえ…
前を向かなければ機銃は撃てない。
一応この車椅子にはメカニカルアームもついているのだが、操作に慣れていないそれを攻撃に使うほどの博打を打てるかといわれたら、ノーだ。
「なんでてめえらオレを!」
焦っちまってるらしい、思っていたことが口から出た。
「ケーブルのおっさんの、オレの親友の仇だからに決まってんだろうが!」
エッジのバカが吠えた。
>エッジ
オレはイリヤの声にキレた。
アイツは、自分がなんで狙われるのかわかっていなかった。
もちろん、ネオが言った理由もある。「上に行った連中が後ろから撃たれないため」、確かにある。
でも、やっぱりオレの目的は一つだった。
復讐、仇討ち…そういうもんだ。
オレは、ネオに気をとられこちらに少し見えているイリヤの手元目掛けてナイフを放った。
人生で最高の一投だったと思う。
>ネオ
エッジが放ったナイフは、イリヤの手元に突き刺さる。
それは、イリヤを狙ったものではない。それはその手元にあるレバー。
あの殺人車椅子を縦横無尽に動かしている操作レバーの溝に完全にはまっていた。
イリヤの意思とは無関係に後ろに向けて走り出した車椅子は、ホワイトボードのかかったオフィスの壁にぶつかって止まる。
タイヤがフローリングの床にこすれてキュルキュルと音を立てて下がることのできないことに抗議するように空回りしていた。
オレはクリムゾンにグレネード弾をあてがう。
歪な銃の底からそれは飲み込まれ、引き金に重みが生まれた。
「完璧だぜエッジ!」
引き金を、引く。
>ヴィレン
ナイフに手をかける。
ダメだ、完全にはまり込んでそう簡単には抜けない。
そうこうしてるうちに背中は壁にブチ当たる。レバーは動かず、反転などしない。
あの鉄壁を誇った車椅子も、こうなればただの椅子だ。
相手を狙うことも、弾を防ぐこともできはしない。
オレは折れていないほうの足で椅子を強く蹴り、車椅子を捨てる。
そのままの勢いでヤツらと同じようにデスクの下にもぐりこむ。
振りかえると、さっきまで俺が座っていた椅子が火に包まれていた。
「仇…か」
なんて人間臭いくだらない理由だ。
エッジの言葉を思い出して、気づいた。
オレはアイツに恨みを買っている。
だから狙われる。
打算などない、純粋な復讐心によって今ヤツはここにいる。
なんて人間的、なんて人間的なんだ。
そして、オレはなんでこんなにもバケモノみたいな思考をしてるんだ。
「おい、バカ蝙蝠」
『すっこんでろっていわれたもん』
「お前、オレの頭になんかしてるか?」
『なんかって?』
「たとえば、催眠でオレが自分を人間と思わなくなるとか、油断するとかそういうのだよ」
『してないよ?シてほしいの?』
「いや、もういい、また黙ってろ」
どうやら、オレはバケモノの中に居過ぎたらしい。
折れた足でデスクを強く蹴りつける。
激痛で飛びそうになる意識を何とかつなぎとめて、その痛みをじっくりと味わう。
そうだ、オレは人間だ、人間だからこそ…
身につけていた分の武器を確認して、デスクから顔を出す。
「人間だからこそ、殺し合うんだよな!命がけでよぉ!いくぜ、クソ野郎ども!」
手榴弾の爆風が、オレの髪を揺らした。
まだ、オレはクソ弱ぇ人間として生きている。
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷、首輪解除)
所持品:衣服類、サバイバルナイフ(残り2本)、調理器具、外した首輪 目的:ケーブルの仇を討つ】
【ネオ(全身打撲、主に足、首輪解除)
所持品:魔銃クリムゾン、食料等、使い捨てカメラ写ルンDeath、弾薬(残りは通常弾のみ)、外した首輪 目的:エッジのサポートをする】
【ヴィレン(左足骨折・全身打撲、リリス憑依中)
所持品:ノートパソコン、IDカード、銃器及び爆発物複数 目的:ゲームに参加・最後の2人(ルガール含む)になる】
【現在位置 ギースタワー2Fオフィス】
以上〜。
今日のは繋ぎの話なのでさらりと読んで頂ければ。
殺人車椅子を失ったヴィレンvsアケロワ最弱の基本性能を持つ二人のパートでした。
ヴィレンさん、車椅子という死亡フラグを捨ててどうなるのやら
(チート兵器は一般人相手に使うと大抵破られるものですから)
乙!
最近は超人バトルばっかだったんで、人間同士の戦いは何だか新鮮。
あれだけいろいろあった末、やっぱり人間にしがみつくヴィレンがどうしようもなくカッコイイ。
こいつもこいつなりに殺し合いで成長したんだなあ……
続き期待してます!
何故だろう
何故か最後にナイトメアギース様が出てきそうな気がしてきた
>>644 …それならナイトメアロックだろう・・・傲慢的に考えて・・・
最近ブログ更新されなくなったが、毎週日曜夜に新作投下という認識でいいのかな…
いや今週は20日も祝日だからここも期待か
そしてこのペースだと完結は今月中か?
読み手「投下するの!?これ、投下するの!?ねぇ!新作!新作投下する!?」
書き手「あぁ、投下するよ」
読み手「本当!?大丈夫なの!?未完成じゃない!?」
書き手「あぁ、完成したから大丈夫だよ」
読み手「そうかぁ!僕読み手だから!読み手だから完成したかわかんないから!」
書き手「そうだね。わからないね」
読み手「うん!でも完成なんだ!そうなんだぁ!じゃぁ支援していいんだよね!」
書き手「そうだよ。支援していいんだよ」
読み手「よかったぁ!じゃぁ投下しようね!新作投下しよう!」
書き手「うん、投下しようね」
読み手「あぁ!新作完成したから書き込めるね!ね、書き手様!」
書き手「うん。支援してていいよ」
読み手「あぁー書き手様と僕は今スレに書き込んでいるよー!規制に気をつけようねぇー!」
かすみ達がギースタワーを出てから、すでに1時間近くが経過していた。
そのうち半分、大体30分くらいが経った時だろうか、ビルに細く点から落ちる光を彼女たちは見た。
「あれは…」
しかし、一瞥しただけで、止まりはしない。
止まることはあそこで戦っている者らを裏切ることだと知り、信じていた。
もしあれがルガールの手による攻撃だったとしても、それで皆が全滅していたとしても。
それでも止まらず、戻らず、走りきるのが自分たちの役目だ、そう誓っていた。
だからそれを見ても誰も止まりはしなかった。
それは今までこの街で見なかったもの。正確にはかすみだけは見ているもの。
参加者ではない、兵士たちの死体だった。
ある者は銃で、ある者はナイフで、爆発物で、鈍器で…死因は様々だったが、向き合うように倒れる彼らの姿を見ればそれが互いに殺し合った跡であることは瞭然だった。
「どういう…いや、他に理由はないか」
晶は言いかけて言葉を飲み込んだ。
ニーギやネオが語ったように、この街に生き残りがいてはいけないのだ。それの具体的な例の一つに過ぎない。そう悟った。
「こういう方法をとったってことは…」
かすみも同様に言葉を飲み込んだ。
悟ったことは晶より幾分多い。だがそれを告げなかったのは意地悪でも躊躇でもない。
その答えを「感じ取った」からだ。
「待てぃ!」
異様だった。
かすみが直感で感じ取っていたのは「忍」独特の気配である。
もちろん、一般的に知覚されるレベルのそれではない。
神経を研ぎ澄ませる忍同士がその技量の差によって僅かに感じ取ることのできる相手の気配、それによりかすみは思ったのだ。
この兵士たちは殺し合うように命令を受けた。が、殺し合ったなら今の自分たちと同じように残るものが必ず出る。
逃げ出すものもいるだろう。自分たちにジョーカーがいたように、兵士たちにもいるはずだ。
生き残りを殺すための者が。そしてそれがこの忍!
そういったかすみの推理、もしくは幻想は完全に打ち砕かれた。
今、3区の中心部、ハワードアリーナの前の広場を通過しようとしたかすみ達の前に立ちはだかるその漢は、贔屓目に見積もっても忍びの者ではない。強いて言うならば…プロレスラーに近い。
「うぬら、兵士ではないな」
その言葉に身構えながら、身体の力が抜けるのを感じる。言外に自分が兵士を始末する係であることを告白しているようなものだ。
やはり、忍ではないのかもしれない。そう思った。
「なんだ…お前は!」
晶は相手の格好や言動で油断するということはなかった、きちんと警戒し反応を待った。
葵は晶に並びその一挙手一投足を見逃すまいと神経を集中させている。
脱力したかすみも、確かに尋ねたかった。
なにせ忍であろうと思っていたその男は、筋骨隆々の半裸に頭巾というあまりに何者かわからないいでたちだったからである。
「不破刃…うぬらを始末する…すごい漢だ」
その答えがかすみの頭をさらに混乱させた頃、そのすごい漢はこちらに向けて動き出すのだった。
「おらぁ!」
「ふんっ!」
晶の揚炮は不破の分厚い胸板に弾かれ、その身体にダメージを与えたようには到底見えない。
「ちっ…」
弾かれた拳を構え直し、体勢を整える晶の横をすり抜ける影は葵だ。
力に対抗するのは技。葵の合気であればあの筋肉の塊を制することも用意に思えた。
「頂きますえ!」
小手を掴む。並の相手であれば間違いなくこのまま投げ捨て、腕関節を極め、折りきるまで放しはしなかっただろう。
しかし、相手はすごい漢だ、並の相手ではない。
「ふっ!」
次の瞬間、葵は一足飛びに後ろへ飛び退いた。
葵の掴んでいた不破の腕は凄まじいまでの速度で振り切られ、そのままの勢いに彼は全身を回転させた。
その腕は研ぎ澄まされた刃の如く振りぬかれ、そのままその位置にいたら首がへし折られていただろう。
いや、下手をすると首が落ちていたかもしれない。そういう技である。
「この戯けが」
言葉数少なに威圧してくるその迫力にたじろぐ晶と葵。後方で構えるかすみも、攻め込めずにいた。
もちろん、不破の戦闘力に驚嘆し、またその隙を突くことが困難であることも事実であったが、彼女が動かなかった理由はそれだけではない。
「違う…この男じゃない…」
かすみは呟きの直後に目を閉じる。
本来ならば戦闘中に行う行為ではないが、晶と葵がひきつけている以上それほど危険はないと思えた。
集中しなければならない、もっと危険なのは…
「そこっ!」
振り向きざまに拳銃を抜き、ワンモーションで三発打ち込む。
それは広場の一画にある生い茂った木の一本。
銃弾は幹に当たり、しかし、効果は抜群だった。
「おー、すっげー!」
そこから、もう一人の刺客を飛び出させることに成功したのだから。
彼女、ナガセこそがかすみの感じ取っていた「忍の気配」だったのだ。
「おまえすごいじゃん、よくわかったなー」
足音もほとんどたてずにかすみの眼前まで迫ったその少女はあっけらかんとそう言った。
「アタシは流星(ナガセ)、お前は?」
「霧幻天神流くのいち、かすみ」
「かすみかー、楽しめそうじゃん!」
そう言うとナガセはかすみの視界から姿を消す。
「おりゃーっ」
「甘いっ!」
ガキンという刃物のぶつかり合う音。
かすみの抜いた朱雀がナガセの打ち下ろした白刃を弾き返す。
一合、二合、斬り結んで、離れる。
「おおーっ」
驚嘆の声をあげたのはナガセ、無言のまま見つめたのはかすみである。
朱雀の柄を握り直し、ナガセの持つ獲物を見やる。
その忍者刀二振りは、どちらも可愛らしいパンダの顔が柄についていた。
言動ももちろん、これでは彼女もやはり忍びの者には見えない。しかし、その技術は本物である。
「シューティングスターッ!」
一方の刀を腰の鞘に収め、すばやく懐に差し入れた手から手裏剣が放たれる。
かすみは手裏剣を持っていないので、それを朱雀で弾いた後、片手の拳銃でナガセを撃った。
銃弾はナガセの腕に当たり、弾かれる。
「手甲か…」
「プロテクターって言ってよ、ダサいなあ」
「そいやっ!」
晶は踏み込んだ足を掴まれ宙を舞う。
勢い良く回転した身体は数秒とたたずに地面へと叩きつけられるであろう。
死にはしないだろうが、どこかを痛めることは確実な速度だ。受身は間に合わない。
そんなことを空中で考えながら晶は激突に備え身体を丸めかけた。
しかし、その瞬間は訪れず、代わりにゆっくりとその足は大地を踏みしめた。
「ほう」
感嘆の声をあげたのは不破、浮いた晶を別のベクトルからかけた技で着地させたのは葵である。
「楽しませてくれる」
「遊びではあらしまへん…」
睨みつける眼光は不破を射抜いたが、当の不破はそんなことを気にもかけずに歩みを進める。
「強いな…さすがに…」
「それでも、負けられへん…ですやろ?」
「もちろんだ」
晶は歩み寄る不破に向けて背を向ける、もちろん逃走の意ではない。
八極拳の代表的な技であり晶の十八番、鉄山靠がその巨体をよろめかせる
かに見えた。
晶の身体はまたも宙を舞っていた。
その衝撃を受け止めたまま、当て身投げを食らったのだ。
今度は不破の後ろ側に投げられたため、葵の助けは得られない。
身体を丸めて背中から落ちる。
「ぐはっ」
したたか打った背中に呼吸を乱し、もんどりうって転げる。
今度は宙を舞ったのは不破の巨体である。
「ぬんっ」
肘を突き出し、地面の晶を狙う。
体重と高さ、肘の硬さからして、おそらく当たった位置は骨折ですめば幸いという威力のフライングエルボーだ。
その名を鎌落としと言った。
「晶ちゃん!」
「くそっ!」
強引に身体をひねってそれを避ける。打った背中と、ひねった筋に痛みが走る。
地響きがするのではという圧力が晶が今までいた位置に落下する。
不破の巨体は目標を失ってその場に倒れこんでいた。
晶が起き上がるのと不破が起き上がるのはほぼ同時、互いに構えたがダメージの差は隠せない。
晶の息は荒く、不破はズボンについた汚れをパンパンと払う余裕を見せた。
「おまえやるね!でもだんだんムカついてきた!」
「そうですか」
かすみは依然ナガセとの戦闘を繰り広げていた。
しかし、その表情からは段々と鬼気迫る様子が薄くなっていた。
「貴方、その術はどこで?」
「そんなの関係ねーじゃん!」
「そうですね」
そう言ったが、かすみの目には明らかだった。
ナガセの使う忍術、それは正当な忍術ではないということ。
忍術を基礎とした暗殺術であることは確かだが、どこかの流派ということはない。
おそらくではあるが、様々な忍術をデータとして取り込み、一つの体系としたもののように感じた。
「ふむ…」
ナガセの振り回すパンダの刃がかすみの服をかすめ、地に落ちる。かすみが叩き落とした。
「まだ、やりますか?」
もう一方の腕を動かすに動かせないナガセ。その喉下には熱を帯びたかすみの刃、朱雀があてがわれていた。
所詮、ナガセのそれは忍者の技ではなかった。もちろんプロフェッショナルの技であることは確かだ。
しかし最も恐れるべき「術」、古来から受け継がれるべき秘伝が一つもないそれはただの「忍者的な動き」である。
流派を名乗らない時から気にはなっていたが、蓋を開ければそういうことである。
抜け忍となり、本物の忍者に追われ、数々の修羅場をくぐったかすみとは場数が違いすぎた。
支援
「む…ムッカー!」
大声を出すナガセを見て、思わずかすみは微笑む。
「まあよいでしょう。私は向こうの加勢をしてきますから、襲うなり逃げるなり、好きにしなさい」
「なんで殺さないんだよ、ぶー!」
「出来れば逃げて欲しいからです。貴方とて、死ねばこの儀式が完成に一歩近づきますから」
「儀式?なに言ってんのお前?」
「まあ、何も聞いてないのでしょうね。まだ子供ですし、利用されてるだけ、死ぬにも不憫です」
「ガキ扱いすんなー!」
「ふふ」
かすみは跳ぶ。苦戦している晶たちのもとへ。ナガセはその背中を見つめ、唇を尖らせていた。
「かすみさん!」
「お待たせしました、あちらは大丈夫です!」
「大丈夫、って…」
「ほんまどすか?」
「ええ!」
言いきったかすみに二人はそれ以上問いかけることはない。
不破を取り囲むように三人が位置取り、隙をうかがう。
「たっ!」
飛び出したのはかすみ。手にした朱雀を振りぬくが、予想外に早いその動きに刃は空を切る。
身体をひねって倒れこむように銃を撃ちこむ。
「流影陣!」
不破の手元に現れた気の壁はその銃弾を跳ね返し、その弾はかすみの頬をかすめて消えた。
「…強いですね」
隙あらば追撃しようという構えであった晶と葵はまたも動けずにいた。
が、晶が円を描くように横に動き、葵に耳打ちをする。
「…本気どすか」
「ああ、頼む」
「晶ちゃんの頼みでは…断れまへんな…」
葵が折れると晶は葵からうけとったそれを手に駆け出す。
迎え撃つ構えの不破に向けて背を向ける。
それは先ほど同様、必殺の鉄山靠の構えであった。
支援だ
「戯けが!」
晶は宙を舞う。
同じように受け止められ、同じように投げられた。
同じように背中を打ち、同じようにもんどりうつ。
そして、やはり同じように不破が宙を舞った。
追撃の鎌落とし。その肘が晶の心臓を狙う。
「待っておくれやす!」
葵が止めたのは不破ではない。
身動きがとれないであろう空中の不破に向けて銃を構えているかすみだ。
「!?」
「はぁぁ!」
こうなることが分かっていたからこその動き。
さきほどよりダメージを軽減し、体勢を立て直しやすい状態で落ちた晶は、なんとかその必殺の肘から逃れることに成功した。
そして、またも不破の巨体は轟音と共に地面に倒れこんでいた。
「ふん」
別に避けられても構わないという体の不破が息を吐いた瞬間、葵は叫んだ。
「今どす!」
先ほどと違うのは、不破の倒れた両脇、晶が倒れていた際に両手を伸ばした位置に置いたそれ。
二つの解除済みの首輪である。
「なるほど!」
飛び上がり、数メートルの上空から地に伏せた不破を見下ろすかすみ。
不破は寝転んだまますでに流影陣の構えにはいっている。が、かすみの狙いはそれではない。
銃声二発、そして爆発音が二つ。
不破の周りに小さな爆炎が上がった。
「たあっ!」
爆音と煙、土埃に五感のいくつかを塞がれた不破は、今度は自分の意思でなく宙を舞った。
起き上がりきってないその身体を投げ飛ばしたのは葵。
そして、そのまま腕をへし折る。躊躇はなかった。
「ぐあっ!!!」
メキリという音とともにひしゃげた腕を引いて、葵の掛け声が響く。
「やっ!」
もう一投、しかし今度は叩きつけない。
先ほどの晶同様、足から落としたことで、不破はなんとか着地に成功した。いささか不恰好に。
それは、意図された罠。不破の鎌落としのように倒れた相手に効果を発揮する技もあれば、当然、立っていないと成立しない技というものもある。
懐に、晶がいた。
「食らえっ!」
みぞおちに突き刺さる崩拳。
くず折れた身体を逆側から弾き飛ばす鷂子穿林。
そしてその身体をさらに押し出すように放たれる双掌。
格闘技界にその名をとどろかす晶の最大の技、崩撃雲身双虎掌。
格闘技フリークの間ではアキラスペシャルの名で呼ばれるその連撃を受け、今まで倒れぬ者はいなかった。
だから、不破がその一人目である。
よろめき、地につきそうになるその膝を必死に押さえ、踏みとどまった。
だが、それまでである。
ナガセの時と同様、かすみの持つ朱雀が不破の喉笛にしっかりと触れていた。
「斬れ」
「断ります。貴方はこの儀式、貴方の本当の役目を聞いていますか?」
「何のことだ?」
その口調にウソがないことを確認し、かすみは刃を退く。
「ならば、どうぞお願いです。この島から出てください」
「生き恥を晒せと?」
「晒す相手もいない世界になるのが嫌ならば」
「…解せん」
そう言って、不破はどっかりと腰を下ろした。
その姿に戦闘の意思がないことは明らかである。
晶はかいつまんで、この街で行われていた事や今の状況について説明する。
訝しげに聞き入っていた不破の表情は、次第に険しくなっていった。
「ならば、任務を果たしたら如月との決着をつけさせてやるというあの男の言葉は…」
「もちろん、偽りでしょう」
かすみの返答に、しばらく無言でうつむいた後、不破は立ち上がる。
一応構えたかすみや晶達の横を、ゆっくりとした足取りで通り過ぎる不破。
「どこへ?」
「奴に確かめる」
奴とは確認するまでもなくルガールのことだろう。
「馬鹿な!ムダ死にだぞ!」
晶は道を塞ぐように手を広げた。
「黙れ…」
晶の腕を身体で押して通り抜ける。
それ以上はなにも言わず、折れた腕をぶら下げたまま、不破は遠ざかっていった。
向かう先はギースタワー。おそらくそれは、不破忍道最期の場所である。
「…すごい漢だ」
晶の声が彼に届いたかはわからない。
「おいおまえー!」
不破の背を見送って歩き出した面々に声をかけたのは遠巻きに様子を見ていたナガセだ。
「どうしました、ナガセ」
返事をしてから、かすみはなんだか自分が蒼月になったような気がした。
「さっきの話、マジ?」
「ええ」
「とんでもないクソゲーじゃんか」
「糞…毛?」
言葉の意味がわからないかすみに、ナガセは畳み掛ける。
「おいお前」
「かすみです」
「じゃあかすみ!」
「なんですか?」
「交換条件!」
ナガセはかすみの前に立ち、人差し指を立てて突き出した。
「なんのですか?」
「ここから逃げるの手伝ってやる!その代わり!」
「その代わり?」
「出たらアタシと戦え!逃げんなよ!」
支援
「うーん…」
かすみは顎に手を当て考える。
数秒の後、ニッコリ微笑んで言い放つ。
「イヤです♪」
「なんでだよー!バカかおまえ!」
「私は抜け忍なんです。だから逃げるのが仕事みたいなものですから…なので」
なんだかかすみは嬉しそうだ、晶も葵もそう思って事態を見送っていた。
「勝手に挑んでくるなら他の追い忍と変わらないからいいですよ」
「…んー、じゃあそれでいいや!」
「交渉成立…なのか?」
「みたいどすな…」
呆れ顔の晶と葵に微笑んで、かすみは動き出す。
「行きましょう、急いで」
先導するように駆け出したナガセに離されまいと三人は再び全力疾走を始めた。
遥か上空、雲よりもずっと高いその位置で、何かが唸りをあげ始めたのとほぼ同時刻のことである。
【結城晶(首輪解除)
所持品:大学ノート(死亡者の名前とハガーメモの要点写しと手記、およびニーギたちとの会議メモ)と鉛筆、首輪 目的:葵を守る、街から脱出する】
【梅小路葵(首輪解除) 所持品:釣竿、ハガーのノート 目的:晶たちとともに生きて帰る、街から脱出する】
【かすみ(首輪なし、戦闘服着用)
所持品:拳銃(マガジン複数個:ほぼ弾切れの心配なし)、忍者刀朱雀、多目的ゴーグル 目的:街から脱出する】
【現在位置 3区中央 ハワードアリーナ広場から北上】
お疲れ様!
凄いくのいちたちだ!(かすみとナガセ的に)
凄いコンビだ!(晶と葵的に)
凄い漢だ!(不破的に)
本日分終了で御座います。
さて、思いのほかヌルいパートになってしまいまいしたが…
ここまでやらかしといてなんですが、正直なところ、参加者でもないゲストキャラ相手に死人が出るのは問題あるかなあと思いましてこういう形に収まりました。
ナガセは原作(PS2版)でも舞にあしらわれて粘着する描写があったのでこんなんで間違いない…んじゃないかなあ。
すごい漢は…MAPにずっといるし、如月が外伝で死んでるし、いいかなって。
さて、時間軸としては現在一番進んでるこのチームは、とりあえず置いておいて次回からまたギースタワー二大決戦に戻る予定です。
このチームは、このまま行くと他に敵がいないので脱出出来ちゃうことになるんですが…果たして?
なんで今日はこんなに投下後喋るかっていうと、このパート書くのすげえ楽しかったからテンション上がってるんです、ご勘弁。
感想や間違い指摘などお待ちしております。
投下乙! 今回は死人は出ませんでしたか、やれやれ。
しかしナガセはともかく、師範は登場しただけで笑えてしまうw
>参加者でもないゲストキャラ相手に死人が出るのは問題あるかなあと
妥当な展開だと思いますよ。
でも他にリレーする人いないんだったら、はっちゃけても良いかと思ったり。
記憶が確かならアニキャラバトロワでも
最後辺り、解決の為確か死亡者の1人蘇らせて
脱出したケースもあったしね
・・・凄い男だ!
674 :
ゲームセンター名無し:2008/03/27(木) 20:07:55 ID:ivmL0DuWO
新作きてた!乙!
おっす、オラ駄目人間!
ちょっと明日は一日出かけてしまうので投下無理っぽいです。
普通にウィークデーのどこかに投下するかもしれませんが、明日は申し訳ない。
今日ねー、できればよかったんだけどねー…
出かける間がんばって続きを練っておきます。ゴメンネ。
676 :
ゲームセンター名無し:2008/04/01(火) 21:17:09 ID:bcTyyocfO
頑張れ!
せめて・・・保守くらいしか俺に出来る事は・・・もうない!
F氏が何らかの事情で書けなくなったら、今度こそこのスレオワタになるだろうな
無茶しやがって…
ちょっち早いけど、そろそろいこうか…
680 :
ゲームセンター名無し:2008/04/06(日) 20:48:37 ID:hSb7cu7NO
ハ,,ハ
( ゚ω゚ ) お断りします
/ \
((⊂ ) ノ\つ))
(_⌒ヽ
ヽ ヘ }
ε≡Ξ ノノ `J
もしも、ネオとエッジに蒼月やかすみのような気配を読む技能があれば分かったかもしれない。
目の前の手負いの獣から油断や慢心が消え、この部屋に彼らが突入したときより数段危険な存在になったことに。
しかし、悲しいかな二人はあまりに普通な人間過ぎた。
だから、気づくのは「何かあってから」なのである。
「ぐあっ!!」
エッジは右足の甲を押さえた。
押さえた手からは血がこぼれ、そしてその熱さから撃たれたのだと気づいた。
倒してバリケードにしたデスクの隅からはみ出した部分を撃たれたのだ。
無論ヴィレンにそこまでの技量があったわけではない。
ただ、足が出ているのにいち早く気づいて乱射したに過ぎなかった。
もしこれがドラマや映画なら、バリケードは破られるまで安心で、狙わずに撃った弾など当たらなかったに違いない。
エッジも、どこかでそんなことを思っていた。
彼が目にしたことのある作り物の銃撃戦では、主人公に「意味のない弾」は決して当たらなかったからだ。
「くそっ!チクショウ!イリヤの野郎!」
叫ぶと、意外にも返答があった。
「ああ、そうだ、一つ教えておかなきゃな」
悠然と立ち上がる彼に、ネオが銃を向ける。が、クリムゾンが火を吹くより早くネオの身体を銃弾がかすめ、通り過ぎて弾けた。
ネオが反射的に身を隠すと、彼らがイリヤと呼んだ男は続けた。
「俺の名前だがな、イリヤってのは偽名だ」
「あぁ?」
バッグに入っていた衣類から肌着を取り出し、破り、傷口に巻きつけながらエッジが声をあげる。
「俺はヴィレンだ、覚えとけ…」
カチンという軽い音。次いで、なにか硬いものが床に触れた音が聞こえる。
「冥土の土産になぁ!」
「手榴弾だ!」
ヴィレンとネオの叫びを合図にするように、彼らの中央でそれは爆発する。
先ほどから数えて二発目の手榴弾。
それなりに広い部屋である。その爆風は互いに被害を与えるには至らない程度のものだったし、破片も全てデスクで防げる程度だった。
一発目もそうやって防いだが、態勢を整えるための牽制であった可能性が高かった。
ダメージはない。それは相手も一発目でわかったはずだ。
しかし投げた二発目…つまり、その目的は攻撃ではない。
「くそっ!」
周囲にある程度の静寂が戻るとネオがバリケードから顔を出す。
しかし、ヴィレンの姿は見当たらない。
バリケードの後ろに身を潜めているのか。少なくとも目視で確認することはできなかった。
それがとても悪いことであるようにネオは感じた。
顔を出しているのに全く撃たれる気配がないことがそれに拍車をかける。
「…どうしたよ!」
エッジが大きめな声を出す。ヴィレンに向けたのか、ネオに向けたのかはわからない。
よって、ネオは簡単に返事をした。
「多分、移動してる」
「ご名答!」
その答えを待っていたというわけではないだろう、しかしそのタイミングで姿を現したヴィレンが発砲した。
位置は、バリケードの左前方。エッジの側。
先ほどまで撃ちあっていた真正面ではない。
その角度からは、普通の会社の普通の机はその普通の少年の身体を全て遮蔽することが出来ない。
「なっ、ぐっ…」
エッジが先ほどと同じ足の違う場所を手で押さえる。ネオは身体でデスクをずらすように押して向きをかえた。
エッジを軸にするように、盾となるべきデスクの板はヴィレンに向いた。
ヴィレンの位置は5M程度先のデスクの後ろ。
ネオたちからすると先ほどに比べかなり近づかれたと言える。
「アイツ、足に怪我して素早く動けないはずじゃ…」
「だから隙を作って移動したんだ…」
ネオの呟きにエッジは絶望的な顔をする。
「手榴弾の爆発に合わせてか?なんだよ、それ…」
「明らかに戦い慣れてるな…俺たちより」
ここにきてようやく、彼ら凡人にもぼんやりとわかる。
ヴィレンとの場数の差。足の怪我に加え油断があったからこそ渡り合えたと言う事実。
そして今、片足が使えなくなったエッジにとっては、相手の怪我すらハンデでなくなった絶望が。
しかし、それを絶望と感じるヒマなどはなかった。
「考えるな、感じろ」という有名な言葉がある。今の彼らにはそれすら生ぬるい。
二人の脳裏に浮かぶ言葉は、「信じて、動け」。それだけだった。
「チクショウ!イリヤ!」
「ヴィレンだっつってんだろ?」
「うるせ…」
その時、部屋の外に轟音が響く。
「あん?」
それは屋上から1階に至るまで突きぬけたゼロキャノンの光。
ごく小規模ながら数100mを突きぬけた破壊の閃光がもたらした音だ。
本来ならばその中を落ち、地面に叩きつけられたルガールの音もするはずだったが可逆結界が効いていたためそれはない。
純粋に砕けた建材の破片が降り注ぐ音に、ヴィレンは意識を奪われた。
はたと気づいて当たりの気配を探るがその音が邪魔をしてよくわからない。
仕方なく顔を出すと、その目線の数ミリ先をナイフが通り抜けた。
「チッ!」
またも仕方なく、顔をひっこめる。
穴のわかったもぐらたたきのようなものだ。あいてが叩く意思があるうちはどうやっても先手をとることはできない。
音がやむと、訪れたのは静寂である。
ヴィレンの脳裏に疑念が湧いた。
果たして、今の喧騒の中でネオは俺と同じことを考えなかったか。
しかし、その疑念はすぐに払拭した。
あの音は突発的、そして偶発的なものだった。
あらかじめ爆発させる前提で動いた自分とは違う。
まだ二人ともあのデスクの後ろにいるはずだ。
そう思って何発か銃弾を撃ち込む。小さな衝撃音が響き、また消える。
反応は、ない。
しかしヴィレンは確信を強める。これは罠だ。
沈黙することで俺が疑念を抱き、確認しようとするアクションに対して攻撃をしようとしているに違いない。
ならば、今は動くべきではない。
が、心配の種を取り除くことも確かに大事だ。
ようは、動かずに仕留めればいい。合理的な思考である。
ヴィレンはポケットのひとつから先ほど投げたのと同じ手榴弾を取り出す。
ピンを抜く。
そして、彼らがいるはずのデスクの「後ろ側」目掛けて投げた。
近づいたのはそもそもこのためだった。
埒のあかない銃撃戦を作り出した要因であるバリケード、それを飛び越して爆発物を投げ込む。
それができれば敵のバリケードは途端に自分のバリケードへとかわり、安全だったはずのその向こうに死体が転がる寸法だ。
死を呼ぶパイナップルが床に当たる音。
爆発までおそらく1秒。
一瞬のカウントダウン。
1
0
ヴィレンは自分の耳を押さえた。
爆音が響くのが手を隔てても聞こえてくる。
それを確認して開放した耳に飛び込んできたのは
断末魔でも、苦痛の呻きでもない
咆哮だった。
「イィィリヤァァァァァ!!」
撃ちぬかれた足に強く巻いた肌着、そこに大きく広がる血を滴らせながらエッジが突進していた。
「何ッ!?」
ヴィレンは動揺した。生きていたということよりもまず、エッジがそこにいたことに動揺した。「ネオではない」ことに動揺したのだ。
彼ははなから「エッジは移動していないもの」と思っていた。
あの轟音の中で一瞬顔を出した自分を狙ってきたのはナイフだった。だからエッジはそこにいると考えた。
もし、そのあとに大きく移動するならばあの足では無理だろうと思ったからだ。
しかしそれは違った。あのナイフを投げたのはネオである。
偶然、狙いはそれなりによくついたがそれは布石に過ぎなかった。
ビルの破壊音が響いた瞬間エッジはナイフを一本置いて体を躍らせ(といっても不恰好に転げながら)、近くのデスクへと移った。
残ったネオはそのナイフを投げて牽制する。
その間にエッジは次々とデスクを渡り歩き、ヴィレンの近くでチャンスをうかがっていた。
そしてネオもまた、牽制の直後から移動を始めていた。
つまり、ヴィレンが狙ったバリケードの後ろはとうの昔に空であった。
エッジとネオ、二人は屋上に向かった仲間を信じていた。
だから、音が聞こえた瞬間に思ったことは「やってくれた」である。
それのルガールへの有効性に関わらず、もしもそれがたとえルガールの攻撃だったとしても関係はなかった。
信じていた以上、それは「やってくれた音」だと思えたのだ。
ヴィレンにとってそれは「異常音」でしかなかった。だからこそ、警戒せざるをえなかった。
そして今、エッジのナイフがその腕を大きく切り裂いた。
「ぐっ…クソ!」
「観念しろイリヤ、ケーブルのおっさんの仇…!」
鮮血を滴らせてなお、ヴィレンは銃を放さない。その引き金が引かれると、ナイフを掴んだエッジの腕から血が噴き出す。
「チクショウ!チクショウチクショウ!」
エッジもまた、ナイフを放しはしなかった。まるでそのナイフが己の復讐心そのものであるかのように強く握る。
ナイフは応えるかのように血に濡れて煌く。
振り上げて、斬りつける。
また、ヴィレンの体に僅かに傷がついた。
「…クッ…クククク…ハハハハハハハ!」
その傷を見て、狂ったかとも思えるほどの笑い声を発したのは当のヴィレンだ。
笑い声に戸惑い、一瞬固まったエッジの腕をあいている手で掴む。
撃たれたあたりを強く握られ、うめき声をあげるエッジと、なおも笑うヴィレンが対照的だった。
690 :
支援:2008/04/06(日) 21:23:39 ID:PaTt8yedO
「チクショウ!放せ!何笑ってんだ!」
「コレが笑わずにいられるかよ!」
そう言って、銃口をエッジの顎に押し当てた。
「ぐ…」
熱を帯びた銃口に触れてエッジの表情が歪む。ヴィレンはそれを満足そうに見て振り返る。
「撃ってみろよ!」
その視線の先にはクリムゾンを構えるネオの姿があった。
もちろんヴィレンが言外に「お前が撃つなら俺もこいつを撃つ」という意図を含ませていることにネオも気づいているから、
突然撃つような真似はしなかった。
「カカカ…やっぱりお前もそうか…」
ヴィレンは笑う。
「何がだ…」
「この期に及んで、人を殺すのが怖いのかよ。エッジは斬るばっかりで刺そうともしねえし、お前はお前でこいつを気にして
絶好のチャンスに何もしやがらねえ」
「撃て!いいから撃っちまえネオ!」
「黙れよ」
銃をひねるとエッジの顎でごりごりと音がした。
「いやはや、本当、いい気分だぜ。人間の命なんてゴミともおもわねえような連中と散々会ったあとだ、
お前らみたいなお人よしと会えてよかったよ。おかげで人間らしさを取り戻せた」
「お前が、人間らしいもんかよ!」
「黙れっつったろうが!」
腕を捻りあげるとエッジはたまらず膝をついた。
エッジが苦痛に一瞬瞑った目を開くとヴィレンの足が見えた。
蹴られる、一瞬エッジはそう思った。顔面を蹴られ、血を流す姿が脳裏に浮かぶ。
が、それは来ない。瞬時にエッジは理由を悟る。そして、首を反らす。
ネオは黙っていた。
黙ってクリムゾンを構え、決して視線をヴィレンから逸らしはしなかった。
彼には2つの覚悟と1つの信じるものがあった。
どれだけ復讐に燃えても、エッジに人殺しは出来ない。これまで同行してそれに気づいていた。
だから、彼の代わりにヴィレンを殺すつもりだった。これがひとつ目の覚悟。
信じるものは先ほどと変わらない、ただひたすら、「仲間」である。
かならずエッジが隙を作ると信じて、それを見極めようと目に力を込めていた。
「くらえよぉっ!」
エッジの頭突きがヴィレンの体を揺さぶる。
狙った足は骨折しているほうだったらしい、バランスを保てず小さな呻きをあげヴィレンは崩れ落ちる。
「うおぉぉぉぉぉ!」
駆け出すネオは疾風を纏い、腕を振り払うエッジは炎を纏うかのようだった。
そして、倒れたヴィレンは閃光を纏った。
「な、なんだ!?」
一瞬、ほんの数秒だっただろう。
ヴィレンが投げたスタングレネードに完全に意識を飛ばされたエッジは視界が回復するのを待つのももどかしく闇雲に手を伸ばす。
ナイフを握ったままの拳が、何かに触れた。人の体であると感覚で分かった。
「ネオ?ネオか?」
「残念だったな」
絶望する。それは紛れもない仇の声。
「ネオは!」
徐々に取り戻される視界のほとんどを占めるのはいやらしく笑うヴィレンの姿。
その後方、机の影にうずくまるひとつの影が見えた。
「さあな?」
無事ではない、それは確実だろう。
ならばどうするか。決まっていた。
「イリヤァァァァァァァ!!!」
生死など考える間もなく大きく振り回したナイフは、空を切った。
「くそ!」
避けられたと判断したエッジはとっさに視界を巡らす。しかし、そこにヴィレンの姿はなかった。
「どこだ、どこ行きやがった!」
前にも、後ろにも、横にも上にもヴィレンはいなかった。
いたのは―――下だ。
「…バカが」
足元で、相変わらず人を馬鹿にした男が血塗れで倒れていた。
胸から湧きだすように溢れる血がその衣服を全て赤く染めていくのがわかった。
「イリヤ!?」
「チクショウ…俺は死ぬ気なんてなかったのによ…全部ぶっ殺して、生きる気だったのによ」
「おい、お前…」
エッジは思わずその体を抱きかかえてしまった。
あの閃光の中、おそらく二人は撃ちあったのだろう。
何が起こるかわかっていたヴィレンと、何があってもと覚悟していたネオ。
互いが目測だけで、狙いもつけずに何発も何発も撃ったのだろう。
その一発が、たまたま当たったに過ぎない。
しかし、たまたま当たっただけの凶弾は、偶然の名の下にヴィレンの命を終わらせようとしていた。
「エッジ…」
「お前は、お前は俺が!!」
「てめぇにゃ殺れねえよバカが。ぬくぬくと生きてるてめえにはな…」
その言葉は嘲笑ではあったが、しかし賞賛のようであった。
「どうしてもってんなら、この死にかけの胸でも突くか?できねえだろ?」
「…!?」
その時ようやく、エッジは自分がナイフを落としていることに気がついた。
「ケッ」
そう言って、ヴィレンは中指を立てた。
立てたまま、事切れた。
エッジの絶叫が、続いて嗚咽が響いた。
ネオはうずくまったままその光景を見ていた。
満足そうに微笑む。
彼の二つ目の覚悟は見事に貫徹されるだろう。
それは、「自分も死ぬこと」。
わき腹から流れ出続ける血が砂時計のようにその体の限界を告げる。
これでいい、そう思った。
ネオもまた、ここまで狂った世界の中ですら殺人を認められない男だったのだ。
何度も死ぬ目にあい、目の前で何人も死に、いくつもの死体を見てすら、その優しい男はそれを当たり前だとは思わなかった。
だが、エッジがその復讐心をあらわにした時に二つの覚悟をした。
自分よりももっと優しい男が戦おうと、人を殺そうとしている。させてはいけないことだと思った。
だから、命を等価交換するという覚悟をもって、それを肩代わりしてやろうと思ったのだ。
もしヴィレンの銃弾が当たらなかったとしても、いずれ自殺するつもりだった。
泣きながら、エッジがようやく近づいてくる。
負傷した足を引きずりながら。
ネオの脳裏に人生最後の4択が浮かぶ。それはいつか聞いた難問だった。
しかし、ついにそれに解答をすることなく、彼のラストクイズはタイムオーバーとなった。
【ネオ:死亡】
【ヴィレン:死亡】
【山田栄二(エッジ)(左肩負傷、首輪解除)
所持品:衣服類、サバイバルナイフ(残り2本)、調理器具、魔銃クリムゾン、食料等、
使い捨てカメラ写ルンDeath、弾薬(残りは通常弾のみ)、外した首輪2つ 目的:なし】
【備考:落ちていたナイフ1本回収。ネオの荷物はエッジが引き継ぎ。ヴィレンの持ち物はエッジには扱えないので放置】
同時刻、某国クイズシティ。
事務所でジオがパソコンを叩いている。
ネオからの連絡により軍へと通報しようとした彼の元に、いち早く連絡を入れた者がいた。
その者達と専用回線で何度目かの通信しているところだった。
[Geo:状況変化なしです。そちらは]
[Ralf:突入まであと2時間ってとこだ、ただ…]
[Geo:ただ?]
[Ralf:準備ができても突入できないかもしれねえ]
[Geo:なんでです!?]
[Ralf:上空、宇宙にキラー衛星のでかいヤツがある。1基はさっき発射が確認されて、次回発射までは12時間ほどかかるとの見込みだ]
[Geo:”1基”…は?]
[Ralf:そういうことだ。今うちのハッキングチームが全力で”そっち”を沈黙させにかかってる]
[Geo:下手に突入したら全滅ってことですか…でも!]
[Ralf:わかってる、そうならないように今やってる。まあ、俺はそれでも行くけどな]
[Geo:あ、メールです]
[Ralf:ん、一旦落ちる。また1時間後に定時連絡を入れてくれ]
[Geo:待ってください!]
[Ralf:どうした?]
乙!
上野とネオさんが散ったか……
そこで、通信はしばらく沈黙を保った。
異常を感じ取ったのか、相手はその沈黙にそれ以上追求することはなかった。
5分ほどたっただろうか。
画面が更新され、ジオの打った文章がそこに表示される。
[Geo:相棒が、ネオが]
[Ralf:ああ]
[Geo:死にました]
[Ralf:連絡があったのか!?]
[Geo:いいえ…]
それきり、今度は完全に通信が途絶えた。
ラルフはそれまで敵にかぎつけられぬよう遠巻きにしか配置していなかった仲間の兵士に、
ネオ&ジオの事務所に突入してジオの身柄を保護するように命令した。非常事態と判断したのだ。
数分もたたずに、扉を破り突入した兵士が見たのはディスプレイを真っ直ぐに見据えて只ひたすら涙を拭う青年の姿だった。
「大丈夫か!」という兵士の問いかけにジオは「ええ」とだけ短く答えた。
ディスプレイで開かれていたのは一通のメールだった。
-------------------------------
送信者:
日時:
宛先:
[email protected] 件名:
答え
4
-------------------------------
たったそれだけ。
件名はもとより送信者も日時も表示されない「ありえないメール」。
その文面を見てジオは思う。
アイツはやりきったんだと。
それは確か、ジオが酔った時に唐突に出したクイズだったはずだ。
『ねえネオ、一番カッコイイ死に方ってどんなだと思う?』
『あ、お前あの映画見ただろー。確かにありゃ名作だけど、俺たちに当てはめるにゃあ…』
『いいから、ほら』
『うーん、せめて選択肢をくれよ』
『しょうがないなあ。じゃあえーと、
1.後世に名を残す偉業を成し遂げて死ぬ
2.自分の大切な物を守って死ぬ
3.愛するものに看取られて平穏に死ぬ
4.ただ笑って死ぬ』
『んー……』
『僕はやっぱり2かなー。ハードボイルドって感じがするよね』
『んー……』
『あ、でも1もかなあ。やっぱり探偵業やってる以上は名探偵として名を残したいよね』
『……んー…』
『4はまあ、適当に思いついたんだけど。抽象的過ぎるかな』
『……』
『3は平凡かなー、でも普通が一番とも言うし…』
『zzzz…』
『あれ?ネオ?ネオ?静かに考えてると思ったら寝ちゃったの?もー』
「もー!」
ふわふわと漂う少女の姿は実体を伴わず、常人にはそれを感じ取ることすらできなかっただろう。
「うるせーな、死んじまったもんは仕方ねーだろ」
男が同じように少女の隣でふわふわ浮かぶ。
スネたような顔で、手を少女に引かれている。
少女の背中には蝙蝠の羽が生え、それがパタパタと羽ばたく度に体が上下して青空に揺れた。
「で、お前の世界はどこにあるんだよ」
「んー、言ってもわからないと思うけどなあ。…じゃなくてもー!なんで死んじゃうの!」
「だからよー…」
「でも…今通ってくるとき見たらどっちみちムリっぽかったし」
「……だな」
少女はふくれっ面を笑顔に変えて飛んでいく。
男はバツの悪そうな顔から溜息を吐いてぶらさがっていく。
「モリガンに一緒に謝るんだからね!」
「へいへい」
「しばらくモリガンのドレイになっても文句言っちゃダメだよ!」
「へいへい」
「怒るとすっごい怖いんだからね?」
「へいへい」
「もー、ホントに聞いてる?」
「へいへい」
「でも、お願いしてリリスのドレイにしようかな」
「へいへ…何?」
「なんでもない♪」
少女の笑い声が死に彩られた街から遠ざかる。
一緒に消え行く男は全てから開放されたように満足げだった。
放心するエッジ。
抱きかかえたネオの体は重く、まだ残る熱が死を感じさせはしなかった。
それでも、エッジは絶叫した。
涙が止まらず、一歩も動くことなんてできなかった。
何故。こんな恐ろしい街で、こんな狂ったゲームの中で、こんな壮絶な最期を遂げて。何故。
その思いが胸を締め付けると、意味もわからないのに際限なく涙が溢れた。
先ほどのヴィレンの死体もそう、この、ネオの死体もそうだった。
二人は笑顔のまま―――逝っていた。
ういーーーーーっす。
今回終了ー!
いつもの如くご意見ご感想その他お待ちしております。
さて、4月となりましたが……
どうやら目途がたったので一応宣言しておきます。
残り4話(予定)です。
長かったような…長かったような気がします。つまり長かった……
ただ週1だと5月入っちゃいますね。どっかでスパートしようと思います。
今月20日はまた投下できない予定なので。
それでもズレこんだら、完結はGW。そのまま勢いでラジオまでやっちまう予定です。
ここまでホント長らく突っ走らせていただきまして感謝しております。
あと4回。この数にエピローグ含めるかどうかは未定ですけど、とりあえずお付き合いいただければと思います。
それでは。
gj!ついにカウントダウンに突入ですか…
あと勘違いして割り込んで申し訳ない
>>707 この書き方久しぶりに使ったから仕方ないッスよ
いいってことよいいってことよよいではないかよいではないか
うおお、来てる来てるよ!
投下乙です!
ネオオオオオオオオオ
乙です
タイトルや外部を活かした演出がかっけーな、しびれた
カウントダウンにwktkして待つぜ
乙!!
超常能力の絡まない戦闘に手に汗握りました。
バリケード越しの駆け引きが渋い。
いやー、一般人同士の戦いは生生しくていいですね。
何だか原作を思い出してしまった。
そして、逝ってしまったネオ&ヴィレンに合掌。
二人ともあまりにカッコイイ死に様だったので、柄にもなく涙ぐんでしまいました。
ロワの中でもかなり目立ってきたこいつらが死んだのかと思うと、本当に感慨深い。
ここまで来たらラストまで見守ります。
残りの執筆頑張ってください。
∩_
〈〈〈 ヽ
〈⊃ }
∩___∩ | |
| ノ ヽ ! !
/ ● ● | /
| ( _●_) ミ/ <こいつ最高にアホ
彡、 |∪| /
/ __ ヽノ /
(___) /
∩___∩
| ノ ヽ !
/ ● ● | こいつも最高にアホ
| ( _●_) ミ
彡、 |∪| / .\
/ __ ヽノ / \ ...\
(___) / .│ ..│
│ │
/ ヽ
l..lUUU
.U
_人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人
) て
) 吃驚するほどクライマックス! て人__人_
) 吃驚するほどクライマックス! て
⌒Y⌒Y⌒Y) て
Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒
_______ ∧__∧
|__ ヽ(・∀・*)ノ
|\_〃´ ̄ ̄ ヽ..ヘ( )ミ ∧__∧
| |\,.-〜´ ̄ ̄ ω > (∀゜* )ノ
\|∫\ _,. - 、_,. - 、 \ ( ヘ)
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\ || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
\||_______ |
上野は結局リリスに目をつけられた時が運命の転機だったか…
うらやましくない、うらやましくないぞ!
持ち主はろくでもない死に方をする呪いの銃とか言われてて、
ネオが舞を止めたいと願ったときはひどい叶い方をしてたのに
ヴィレンを殺して自分も死ぬ、という願いは普通に成就したな。
クリムゾンさんもさすがに空気読んだか。
それともこれから山田に恐ろしい厄災が降りかかるのか・・・
だからクリムゾンなんかに関わるとろくな死に方しないんだぁ!
今夜もまたぁ!誰かがしぬぅ!
おつかれぇ
いや既にクリムゾンの呪いは発動している。
書き手がいなくなってスレが過疎るという呪いがな!!!1!!1!11
落とします。
どうやら、予定より短く、残りはこれを入れて3話かもしれない
…結局予定通り4話かもしれない
「矮小な屑どもがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その男はもはや人間ではない。とはいえ体の大きさが変わったりはしないずだ。
しかし、その叫びをあげた瞬間その体躯が大きく膨れ上がったように感じた。
周りを見回し、どうやらそう思ったのは自分だけらしいと気づいてアランは人知れず苦笑する。
彼と肩を並べた者は皆、人とはかけ離れたほどの力を持っている。
彼らの表情からは「怒鳴る事でルガールは小物に成り下がった」という一種侮蔑とも余裕ともとれる感情が見てとれる。
アランは、自分の目的が遠く霞んでいくのを感じた。
「結界を壊した程度で!私と並んだ心算か!その程度で!その程度の力で!」
叫びと共に滅茶苦茶に腕を振るうと、烈風がルガール以外の全てを襲った。
先ほどまでと同様、蒼月や紅丸はその身に宿る人外の力で打ち払いアランは身体能力によって辛うじて避ける。
只一人、先ほどまでと違う動きをしたのはニーギ。ニーギ・ゴージャスブルーその人だ。
「そう、そうだ…私らしくない…」
ルガールは目を見開く。己の放った烈風拳がその少女にぶち当たった瞬間を見たはずだ。防御も、相殺もしていなかった。
しかし彼女は倒れるどころか、膝を折ることもない。
ひたすら、ただひたすら毅然と直立し、ルガールを睨みつけていた。
「ルガーーーーーーッル!!」
叫びは風に乗り、鼓膜を揺らし、声として認識されて自分が呼ばれたのだとルガールは気づく。
「あんたを、ぶっとばすよ!」
ニーギは拳から人差し指を一本突き出して突き付ける。
すでに憤怒が頂点に達しているルガールを走り出させるのに十分な挑発だった。
筋肉が膨らみきった腕と広げた掌、おそらくは必殺のゴッドプレス。
ニーギといえど喰らえば辛うじて屋上に残るエレベーターの壁にでも叩きつけられてただではすまないだろう。
しかし、叩きつけられたのはニーギではなくルガール。場所は壁ではなく床である。
カウンター気味に延髄に蹴りこまれた必殺の精霊脚がルガールの顔面を陥没したコンクリートの床の一部たらしめていた。
「口上くらい聞きなさいな…ま、あんたはそこがお似合いね…」
ぐぐ、と顔をもちあげるルガールを見下ろしてニーギは怒鳴る。
「私の名はニーギ!ニーギ・ゴージャスブルー!悪をぶっとばす美少女戦士!豪華絢爛にしか生きられない女よ!」
「はははは、いいね、俺もやっておこう」
アランが続く。
「俺はアラン、アラン・アルジェントだ。ルガール、悪いけどあんたにゃ死んでもらう」
「風間蒼月…推して参る…」
「本来、こういうのは俺が率先してやってたんだがな…紅丸だ。今は只、一人のレディのために…」
自分の決意を新たにするように各々が名乗り、元凶との対決を宣言する。
「……よかろう」
ようやくその体とプライドを支えなおしたのか、黙ってそれを聞いていたルガールもまた彼ら4人に向けて言い放った。
「ルガール・バーンシュタイン。このゲームの執行者にして新世界の神だ。神に楯突く愚か者ども…死ぬがよい!」
「ルガール?神?もう誰だろうと関係あるもんか!ワン・ツー・スリーでぶっとばす!」
ニーギが、跳んだ。
運良く投下に出くわした支援
「美少女パーンチ!」
「ジェノサイッ!」
ルガールの足刀から放たれる虐殺の刃がニーギの拳に触れる。
ルガールが万全ならばニーギの腕は千切れとび、ニーギが万全ならばルガールの足は砕かれていた。
しかし今はそのどちらでもない。ニーギは消耗し、ルガールは力の均衡を失いかけていた。
「無月…!」
着地したルガールの右腕を球形の雷が捕らえる。少し離れた位置から紅丸が放ったものだ。
「チッ!」
強引に腕に通した気で振り払うルガールの、今度は左腕を蒼月の水弾が絡める。
「小五月蝿い蝿どもがぁぁぁ!!!」
叫んだ横面、本来ならば即死するそのこめかみにアランが撃った銃弾が直撃し、ルガールの頭は大きく揺られた。
オロチの血と殺意の波動、さらに科学や化学によって強化されたルガールの体は銃弾が致命傷となることはなかった。
アランとて期待して撃ったわけではない。が、それは一層ルガールの怒りに火をつけ平静さを失わせる。
膨大な力を行使する彼にとって、精神の揺れはそのまま自滅へのカウントダウンのようなものだった。
ニーギはすでに着地して、次の攻撃の準備をしていた。
「このような下種にまで…おおおおおおのれええええぇぇ!」
「アンタは神の器じゃなかったってことさ!」
下種と揶揄されたアランが告げる。
「そう、神とは我…オホン、貴方にふさわしい呼び名は「只の愚かな人間」程度ですよ」
「黙れェェェェェ!」
両腕を広げるように蒼月とアランの双方に向けて片手でカイザーウェイブを放つ。
さきほどまでの烈風拳よりはるかに威力の高いそれを蒼月は正面から見据え、上着をはだけた。
「愚か!」
一瞬にして全身に浮き上がった紋様はおそらく水邪封印のそれである。
その紋様が怪しく輝くと蒼月の足には水が纏われた。そして、文字通りの一蹴。
ルガールが渾身で打ち出したはずのカイザーウェイブは煌く水滴となって大気に散った。
「バカな…!」
決定的な隙だった、しかし蒼月は打ち込まなかった。
その視線は驚いたようにルガールを挟んで自分と反対側、アランの方を見ていた。
さすがに威力、大きさからしてかなりの身体能力はあるものの一般人に近いアランに今の衝撃波をどうにか出来たとは思わず、
おそらく死んでいるだろうと思って見たのだ。
ルガールもまた、そう思って捨て置いた。だからこそ驚き、彼もまたアランを見た。
「悪いね、紅丸さん」
「…男は助けない主義だったんだけどな」
そう言う紅丸は両手に先ほど出したものより幾分小さく、しかしずっと凝縮された雷を貼り付けるようにして
カイザーウェイブを押し止めていた。
「ば、バカな…」
ルガールの表情に占める怒りの割合はもはや少ない。ほとんどが驚きに塗りかえられていた。
「雷光拳!」
「ヴァンガード!」
紅丸が砕いたその気の塊をアランが霧散させていく。
二人がかりとはいえ、自分が取り込んだオロチ程度の力と普通の人間にその技を全て消された事をルガールはにわかには信じられなかった。
「バカなぁぁぁ!!」
「莫迦は貴方でしょう」
冷ややかに、蒼月が言った。
その光景をニーギは一歩後ろから笑顔で見つめていた。
すでに詠唱は終わり、いつでも精霊脚を放つことはできる。
おそらくあと一撃加えればルガールがギリギリのラインで保っているあの無謀なパワーバランスを崩すことができるだろう。
しかし、目の前の仲間たちの頼もしさについ見とれてしまっていた。
各々が覚悟を持って最高の動きをしている。だから、そう、だから今感じているこの喪失感はさして問題ではなかった。
「彼」もまた、覚悟の上で散った。物分りなんてよくなりたくないとずっと願っていた少女ですら、それを認めるしかない。
今彼女の足に宿る青き光の中に、この町で一番輝きを放っていたよきゆめが乗っている。
つい今、天に登る途中でほんの少し自分に寄り道してくれたそれに感謝しながら、少女は歩いた。
「バカなんてもんじゃないわ」
決意と、笑顔。
「ダイバカよ!」
右の足にリューンが集まる。
「紅丸!」
突然呼びかけられて戸惑う色男の顔色などうかがうこともせずに命令する。
「さっきの雷玉、出せる?」
言って、自分の足元を指差す。
「ああ、そういう…まぁ、いいだろう」
ルガールはそのやり取りにはっとする。自分を失っていた事に気づき咄嗟に腕を振るった。
烈風拳が出る…はずだった。
振り抜くことなく腕は止まっていた。その腕が途中から逆を向いている。
「まったく、大莫迦とは良く言ったもの」
ルガールが信じられないものを見る目で自分の折れた腕を見つめる横で、それを折った張本人が宙に腰掛けて冷笑していた。
「暗黒雷塵纏!」
ルガールを挟んで対角線上から紅丸が叫ぶと黒い雷の玉がニーギの足元に置かれるように現れた。
「本当は、飛ばないんだが」
「今なら平気でしょ?」
「まぁ、な」
自分の中の女性のことまで見透かされているようで紅丸は苦笑する。
ニーギは大きく足を後方へ振り上げる。
「おお、なるほど」
蒼月はそれを見てすぐさまニーギの後ろへと転身した。
「片方は絶技じゃないけどまあ、いいや!轟雷蹴球!!」
ニーギの蹴りがその雷を一瞬歪ませ、黒に新たな色を加えて弾き飛ばす。
青黒いその塊は呆然とし続けるルガールの体を直撃し、弾けて、天へ梯子をかけるように伸びた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
己を包む雷と青の力に身を裂かれるようにルガールは悶える。
「さあ、出ていきなさい!かわいそうな力たち!」
ニーギの声に従うのではないだろうが、ルガールの体から雷の色ともまた違う黒いオーラがじわりと溢れだす。
それは、殺意の波動。取り込んだ最大の力に見放されかけルガールは吠える。
「まだだ…まだだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一喝。いまだ雷に包まれる体を強引に動かし、その黒き波動を押し止めてルガールは駆けた。
「ちっ!」
自分で撃った技とはいえ紅丸の技と合わせた以上触れるのは危険、だからそのまま突っ込んでくるルガールをニーギも蒼月もとりあえずは避けた。
その後ろにあるものをほんの一瞬、忘れて。
「しまった!!」
気付き、駆けた。が、届かない。
「フゥハァァァーー!!」
ルガールが手にしていたのは封雷剣、そして楓の死体だった。
「まだだ、まだやれる!青龍の力とこの神器の力!取り込んでくれるぞ!!」
叫ぶルガールに未だ残る攻撃の残滓は全て封雷剣に吸われるように消え、折れた腕こそ戻っていなかったがその顔に苦悶はなかった。
掲げた楓の胸に突き刺した指から流れる血を浴びるように飲む。
一瞬の静寂。零れた血がパタパタと床に落ちる音すら聞こえた。
そして開放。高らかな笑い声と共に広がった衝撃波で屋上に唯一突起として残っていたエレベーターへの入り口が消し飛んだ。
「くうっ…!」
ニーギが自分の前面に青く光る力場を出現させて後ろの3人をかばった。
「さあ、続けよう…!」
ルガールに笑みが戻った。
「まったく、次から次へと!!」
「女」
悠然と歩くルガールを睨む後ろから声をかけられたニーギが振り向く。
この物言いは間違いなく蒼月だろうと思っていたのでかなり近くに顔があったが辛うじて平静を保てた。
「あ、はい、なんでしょ」
「先ほどの技、今一度」
「え?轟雷蹴球?でも今あいつ雷の属性は多分」
「阿呆、私がその程度の事もわからんと思ってか」
ぎろりと睨む蒼月の視線に応える様に体に浮き出た紋様が光った。
一瞬苦悶の表情を見せて、すぐにそれを笑顔の仮面にしまって蒼月が言いなおす。
「失礼。それではなく、これで」
そう言って掌から巨大な水球を出して見せる。
「なーるほど…やってやろうじゃない!」
ルガールに背を向けてニーギはガッツポーズをして見せた。
もちろんルガールはそれを見逃しはしない。素早く両手後ろへ引く。折れていても問題などないようだ。
カイザーウェイブの構えである。
「それだったら…!」
ニーギの前に出ようとした紅丸の足が止まった。
その技が、「違う」と分かった。
その技に対して今までのように相殺を試みることは絶命と同意である事を感じ取った。
「カイザァァァァァ…」
ニーギが軽く地を蹴ってふわりと宙に浮いた。
「フェニックス!!」
「水皇蹴球!!」
3連続したカイザーウェイブは一瞬でひとつに集まり雷を宿したフェニックスとなって、オーバーヘッドでニーギが蹴った水球と激突した。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
「ぶち破れ!」
「フン…」
紅丸だけはその相殺劇を鑑賞しなかった。その間にせめて一撃を、そう思って駆け出していた。
しかし動いていたのは紅丸だけではない。
ルガールもだった。
せめぎ合う奥義のすぐ隣でぶつかる二つの影、そして一方は為す術もなく後方へと吹き飛ばされた。
「いい判断だ、力さえあればな…」
せせら笑うルガールの隣で爆発するように二つの技が弾け消えた。
732 :
支援:2008/04/13(日) 21:57:28 ID:ALE6ChejO
「今こそ!私は神となる!」
そう叫ぶルガールの首を狙ってニーギが精霊脚を放つ。
ルガールはそれを無事な片腕で止める。
「真空片手独楽!」
紅丸が地に手をついて回転する。もちろんその手にも、回りながら蹴りを加える足にも雷の力を纏って。
「はあっ!」
蒼月も同様。水に覆われた足でルガールの足を狩ろうと狙った。
「温い!!」
その全てを受け止め、ルガールは弾き飛ばした。
両手と両足に力をこめ、大きく体を開く。
アランは全ての力を込めて地を蹴った。
「インフィニティー!!!」
ルガールの腹部、鳩尾にアランの最大の技が突き刺さる。
両手足に力をいれる事、腹部に隙を作る事、腹部が気を練る際の重要な部分である事、全ては計算された上でのことだ。
しかし、ただの人間であるアランの技はそこを貫くことはない。
僅かにめりこんだ拳が膨大な筋力に押し戻され、事態を察知したルガールが軽く手を払うとそのただの人間は数メートルの距離を飛んだ後、
バウンドして地に倒れた。
「ダメか…!」
「あとちょっとなのに!」
歯軋りするニーギたちは気づかなかった。
アランは倒れたまま、首と手をルガールに向けていた。
投下順間違えたー。
733の前にこれです。
「一発…どうにか…」
ニーギの呟きを聞き取って蒼月が応える。
「そうですね、おそらくはそれで…」
「チッ…!でもあれに一撃ってのは…」
さらに後ろから立ち上がった紅丸が体を引きずるように近づく。
「あの、俺は…」
理解できていないアランは3人から一瞥されてシュンとなる。
そもそもここまで無事でいることが奇跡のような一般人(彼らからすればそうだろう)に対する視線は冷たく感じた。
「いや、それ、アリかも」
ニーギはそれだけ言い残して走り出した。
「俺は反対だけどな…」
紅丸もまた、同じく。
「一撃でいいのです、それならばあるいは…」
蒼月も目の前で水となり、次に視界に現れたのはルガールの目の前だった。
アランは数秒かけてようやく自分の役目を悟り、笑うしかなかった。
「俺が…俺がやんのかよ!?」
愚痴りながらも、駆けだす態勢で「その時」を待った。
「これでも…」
連続する発砲音。
「喰らえ!」
手にした銃に残った残り5発。全てそれることなくルガールの体を捕らえた。
本来ならば先ほど同様、人を超えたその体に弾かれて終わる銃弾であったろう。確かに、弾かれていた弾が地に落ちる。4発。
「やった!」
ニーギが叫ぶ。
ルガールの腹部から滲む血。アランの放った銃弾の一発が、そこに当たっていた。
そこは先ほど彼が渾身の力で拳を打ち込んだ急所、鳩尾である。亀裂は入っていたのだ。
「グ…オォォ…ガァァァァァァァァァ!!!」
その体から立ち上るのは黒を基調とした様々な色の波動だった。
渦を巻いて螺旋となって天に向かって伸びたそれをルガールは自身で見て悟った。己の敗北を。
「強い力で飽和状態の体をまた強い力で縛り付けたんだもん、縛ってるロープに亀裂を入れればはじけるのが道理よね」
つかつかと歩み寄るニーギに、ルガールは自嘲する。
「私の世界は、作れなかったか…」
「ダイバカ……」
ニーギは再びルガールを見下ろして言葉を吐く。
「誰だって、自分の世界は自分の中にあるのよ……私のような存在だって、それを信じて世界をまたぐの。
次の世界でも自分がきちんと自分である事をいつも誓ってる。あんただけの世界を他人にも強要するなんてのは、傲慢通り越して臆病よ」