【殺陣】AC Character Battle Royal 4rd【腥風】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1ゲームセンター名無し
総勢87名で繰り広げられる、壮絶な殺人ゲーム。
最後に生還するのは果たして誰なのか!?

アーケードゲームキャラ達によるバトルロワイアルを描く、リレー小説スレッドです。
基本的にsage進行。

■前スレ
【死屍】AC Character Battle Royal 3rd【累々】
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/arc/1105318001/
ACキャラバトルロワイアル 2nd
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/arc/1101747756/
ACキャラバトルロワイアル
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/arc/1099468250/l50

■感想雑談・議論スレ
【一人】ACキャラバトロワ感想雑談スレ14【マタ一人】
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/arc/1108225828/

■まとめサイト
初めての方はここをご一読下さい
ttp://roku2.hp.infoseek.co.jp/ACBR/index.htm
(旧まとめサイト→ttp://www.geocities.jp/ffdqbr3rd/ac/index.htm

■参加者現在位置、死亡者一覧、フラグ掲載FLASH
ttp://roku2.hp.infoseek.co.jp/ACBR/ACBR.swf
2ゲームセンター名無し:05/02/16 18:43:05 ID:???
■会場地図
http://www.geocities.jp/ffdqbr3rd/ac/battlemap.gif

■関連サイト
したらばBBS(避難所兼連絡所)
http://jbbs.livedoor.jp/game/19709/

携帯用したらばBBS
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/game/19709/

死者達によるダベりサイト
か さ ぶ た が は が れ ま し た 保 管 庫
ttp://f57.aaa.livedoor.jp/~kasabuta/

お絵かきBBS
ttp://w6.oekakies.com/p/ACITA/p.cgi
3ゲームセンター名無し:05/02/16 18:57:54 ID:lnEHhXBL
4rd
4ゲームセンター名無し:05/02/16 18:59:00 ID:???
☆基本ルール★
・参加者全員で残り一人になるまで殺し合いを行う。
・参加者全員には以下の物が平等に支給される。
 布袋
 会場内の地図
 方位磁針
 食料、水
 着火器具、携帯ランタン
 その他にランダムで選ばれた武器に準ずる『支給品』が各自の袋に最低一つ入っている。
 これはACゲームにある物を基本とするが、実在する銃火器類に関してはその限りではない。
 各キャラの最初の作者が支給品の説明を書くのが望ましい。
 ・午前午後の1日2回、主催者が会場内に『放送』を行う。
 この間に死亡した参加者は放送中に名前が発表される。
・生存者が一名になった時点で、その人物は主催者側の本部へ連れて行かれる。

☆首輪関連★
・参加者には『首輪』が付けられる。
 この首輪には生死判別用のセンサーと小型爆弾が内蔵されている。
 参加者が禁止された行動を取る、首輪を無理に外そうと力を加える事で自動的に爆発する。
 また運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押した場合も爆発する。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・いかなる状況下においても誘爆は絶対に起こらない。
・もし何らかの理由で首輪が外れた場合も会場からは脱出は不可能。

☆会場について★
・会場の周囲には脱走者を監視する役割の、主催者側の兵士が配置されている。
・兵士は殺害可能だが、殺害に成功しても会場外に逃亡は不可能。
・建造物には鍵さえ掛かっていなければ基本的に自由に出入り出来る。 建物内の設備の使用も制限は無し。
・電気、ガス、水道等が通っている場所、及び集音マイクつき監視カメラは会場内にランダムで点在。
5ゲームセンター名無し:05/02/16 19:01:03 ID:???
☆必殺技及び特殊能力★
・必殺技を一定量使うと『疲労』が発生するが、休息により回復可能。
・超能力、魔法、召喚系は発現する効果自体に制限が掛かる。
 程度は作者の判断に一任するが、異論が出た場合は雑談スレにて審議。
・パワーアップ系は原作の設定に関係なく時間制限を設ける。
・回復系は原作の設定より効果半減。・ネクロマンサー系の技を使用する際、死体に意志を与えるのは禁止。
 武器としての死体はあくまで『物体』扱い。
・キャラが原作で武器を所持している場合、ACBRでは基本的に没収される。
 但し支給品として他参加者の手に渡っている場合は回収可能。
 また主催者が武器と判断出来なかった物等は没収の例外となる。

☆禁止事項★
・一度死亡が確定したキャラの復活
・新規キャラの途中参加
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 
6ゲームセンター名無し:05/02/16 19:02:38 ID:???
☆書き手の注意点★
・トリップ推奨。
・無理して体を壊さない。
・リレー小説である事を念頭に置き、皆で一つの物語を創っていると常に自覚する。
・ご都合主義な展開に走らないように注意。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
 但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・各作品の末尾には以下の情報を必ず表示する。
 行動目的
 所持品
 現在位置
 作品内で死亡者が出た場合は死亡キャラの確認表示も忘れずに。

☆読み手の注意点★
・煽り、必要以上の叩きは厳禁。
・寝る前に歯を磨く。
・各キャラ信者はスレの雰囲気を読み、言動には常々留意する事。キャラの運命と死は平等。
 不本意な展開になったからと言って関連スレで暴れるのは論外。
・朝ご飯はしっかり食べる。夜食はなるべく控える。
・書き手にも生活があるので、新作を急かすのも程々に。
 書き手が書きやすい雰囲気を作るのも読み手の役割。
7ゲームセンター名無し:05/02/16 19:03:59 ID:???
☆第1回ACBRについて★
主催者:ルガール・バーンシュタイン
会場:サウスタウン
参加者:男51人女36人 総計87人

【龍虎の拳】
ジョン・クローリー、リョウ・サカザキ、藤堂竜白
【餓狼伝説】
アルフレッド、テリー・ボガード、ビリー・カーン、山崎竜二
タン・フー・ルー、ロック・ハワード、
ブルー・マリー、双葉ほたる、不知火舞
【THE KING OF FIGHTERS】
アッシュ・クリムゾン、K'、草薙京、八神庵、矢吹真吾、七枷社、クリス
二階堂紅丸、椎拳崇、霧島翔
神楽ちづる、シェルミー、ウィップ、クーラ、マチュア、バイス、レオナ
【月華の剣士第二幕】
楓、御名方守矢、鷲塚慶一郎
一条あかり、真田小次郎(香織)、高嶺響
【サムライスピリッツ】
緋雨閑丸、牙神幻十郎、ガルフォード、六角泰山、風間蒼月、風間火月
橘右京、タムタム
ナコルル、リムルル
8ゲームセンター名無し:05/02/16 19:05:11 ID:???
【THE RUMBLE FISH】
譲刃漸、アラン・アルジェント、ヴィレン
ガーネット
【GUILTY GEAR】
ブリジット
蔵土縁紗夢、ミリア
【VIRTUR FIGHTER】
日守剛、、結城晶、ジャッキー・ブライアント、リオン・ラファール
梅小路葵、サラ・ブライアント
【STREET FIGHTERシリーズ】
リュウ、火引弾、ガイル
春日野さくら、神月かりん、春麗
【ヴァンパイアセイヴァー】
バレッタ、リリス
【MARVEL VS CAPCOM2】
ケーブル
【燃えろ!ジャスティス学園】
鑑恭介、山田栄二
水無月響子
【豪血寺一族 闘婚】
花小路クララ
【武力ONE】
西園寺貴人
【DEAD OR ALIVE】
かすみ、エレナ、あやね【ソウルキャリバー 】
ソフィーティア
9ゲームセンター名無し:05/02/16 19:06:23 ID:???
【サイキックフォース2012】
エミリオ・ミハイロフ
【ファイターズヒストリーダイナマイト】
カルノフ、溝口誠
【METAL SLUG】
フィオリーナ・ジェルミ、エリ・カサモト
【式神の城2】
ニーギ・ゴージャスブルー
【ぷよぷよ通】
アルル・ナジャ
【ファイナルファイト】ハガー
【ワールドヒーローズ】
ジャンヌ
【わくわく7】
ライ
【悪魔城ドラキュラ】
シモン・ベルモンド
【クイズ迷探偵NEO&GEO】
ネオ
10ゲームセンター名無し:05/02/16 19:09:37 ID:???
■生存者 残り29人

【龍虎の拳】 1人 リョウ・サカザキ
【餓狼伝説】 1人 不知火舞
【THE KING OF FIGHTERS】 8人 矢吹真吾、七枷社、二階堂紅丸、椎拳崇、霧島翔
シェルミー、マチュア、バイス
【月華の剣士第二幕】 1人 楓
【サムライスピリッツ】 2人 風間蒼月、ナコルル
【THE RUMBLE FISH】 3人 アラン・アルジェント、ヴィレン、ガーネット
【STREET FIGHTERシリーズ】 1人 リュウ
【ヴァンパイアセイヴァー】 1人 リリス
【MARVEL VS CAPCOM2】 1人 ケーブル
【燃えろ!ジャスティス学園】 1人 エッジ(山田栄二)
【VIRTUR FIGHTER】 4人 日守剛、結城晶、梅小路葵、サラ・ブライアント
【DEAD OR ALIVE】 1人 かすみ
【サイキックフォース】 1人 エミリオ・ミハイロフ
【式神の城2】 1人 ニーギ・ゴージャスブルー
【ぷよぷよ通】 1人 アルル・ナジャ
【クイズ迷探偵NEO&GEO】 1人 ネオ
11ゲームセンター名無し:05/02/16 19:10:49 ID:???
■死亡者一覧

【第1日目7:00〜19:00】
麻宮アテナ 花小路クララ クーラ・ダイアモンド 一条あかり
橘右京 ブリジット 真田小次郎(香織) 神月かりん カルノフ 
八角泰山 蔵土縁紗夢 タン・フー・ルー ソフィーティア
藤堂龍白 八神庵 春日野さくら 西園寺貴人 山崎竜二 鑑恭介
アッシュ・クリムゾン クリス ジャッキー・ブライアント
ジャンヌ エレナ 双葉ほたる
【第1日目19:00〜7:00】
鷲塚慶一郎 あやね シモン・ベルモンド ウィップ レオナ
リオン・ラファール ジョン・クローリー  爆皇雷 リムルル 草薙京
【第2日目7:00〜19:00】
火引弾 神楽ちづる テリー・ボガード、牙神幻十郎 御名方守矢
バレッタ 緋雨閑丸 ガイル ビリー・カーン ガルフォード
【第2日目19:00〜7:00】
マイク・ハガー 溝口誠譲刃漸 ミリア・レイジ 水無月響子 ブルー・マリー
タムタム 春麗 フィオリーナ・ジェルミ エリ・カサモト
【第3日目7:00〜19:00】
K' ロック・ハワード
12pierrot:05/02/18 01:39:30 ID:???
「標的はこの2人だ」
ショッピングモールの控え室、朝日を浴びながら剛はアランと拳崇に『仕事』の説明をしていた。
「お前たちがどれほど使えるのかを見せてもらう、働きによってはルガール様から褒美もいただけるかもしれんぞ」
不敵な笑みで説明を続ける剛、彼らの前ではひたすら俗っぽい話に終始していた。
そうした方がやりやすいと思ったからだ。
すでに剛の手には2人の個人情報が握られている、
「質問、こいつらもかなりの使い手なんやろうけど流派は?」
「男の方は八極拳、女は合気系の古武術を使う」
拳崇の質問に応じる剛だが、内心では拳崇をあざ笑っていた。
(流派か…まだ格闘家気分が抜けてない様だな…)

剛にとっては殺しは戦闘ではない、狩りだ…獲物が何を使おうがそんな物は関係無い
仕損じればそれまでだ。
アランの方をちらりと見る…彼は解っているようだ。今回の標的である2名、結城晶と梅小路葵
2人の顔写真を見ながら入念に武器のチェックをしている。
「質問がなければ以上だ、それと最後にもう1度言う」
「お前らだけで今回はやってもらう、俺は見ているだけだ…だか妙なことはするなよ」
別に妙なことをしてもいいのだが…と剛は思ったが、また2人の顔を見る。
この2人、特にアランが何を思っているのかは未だに不明だが今は俺にいかに信用されるかを、
まずは考えねばならぬ時、余計な画策はまだ後の話だろう。
だから自分が知る限り1番厄介な2人の始末をまず行う事にした、願わくば相打ちになって欲しいところだが。
とりあえずここで話を区切る。

話が終わったとみるやアランがまず部屋を出ていく、かんかんと階段を降りる音
どうやらジュースでも買いにいったのだろう、後に残ったのは拳崇と剛だけ、
「早速の活躍の機会だぞ」
「なんでわいに」
嘲るような剛の言葉に反応する拳崇、出会ってからというものやけに挑戦的な態度が気に食わない。
「あのなぁ」
「あの子の敵を討ちたいのだろう?」
13pierrot:05/02/18 01:40:32 ID:???
機先を征する剛の耳打ちにびくりと身体を振るわせる拳崇、反射的に裏拳を放とうとするが
剛の眼光に威圧され、その手は途中で止まる。
しかし剛の手は止まらない、そのまま拳崇の襟元を掴んで裸締めに固める。
「ぐ…ぐおおおっ!!」
叫んでいるつもりだが剛の腕が喉首に喰いこんでまるで声が出ない。

「わいは鬼に…鬼にならなあかんのや…あかんのや」
「理由がなければ誰かを殺せない奴が鬼になるだと?笑わせるな」
拳崇の耳元でさらに屈辱的な言葉を浴びせる剛。
「だが安心しろ…ここでお前を殺しはしないし、密告もしない」
喉に喰いこんだ剛の手が僅かに緩む、と、拳崇はもがきながらも剛の手から逃れ、反撃の拳を振り上げるがしかし
「お前聞いているのか?落ちつけ」
今度もまた喉を掴まれ、しかも人差し指と中指が眼窩につきあてられる。
背後には壁…叩きつけられれば両目をやられる。
ここまで追い詰められてようやく拳崇も抵抗を諦めたようだった。

「あんたが裏切らんゆうのは信じてもええ…でもオレが裏切ったらどないするつもりや?
 あんたヤバいんと違うんか?」
「ああ…でもな」
達観したような口調で話す剛。
「物事にはリスクってやつが必ずついて回る、俺は今まで何人も欺き殺してきた、だから
 いずれ殺される時が必ずやってくる、それが早いか遅いかそれとも選べるかの違いでしかない」
にいと歯を剥き出し笑う剛、この男は命の危機すらも己の楽しみとしていた。
むしろそういう状況にあってこそ実力を発揮できるのだろう。
彼が公の格闘大会などでは今一つ芳しい成績を収められないのも、ある意味納得だ。
14pierrot:05/02/18 01:41:55 ID:???
「お座敷の上で何が戦いだ…」
独りごちる剛、まだ話は続く。
「それに、俺が死ねばまたお前の目的は遠くなる…ルガールの所への道のりは険しいぞ」
剛の言葉を聞いて拳崇の顔がまた険しくなっていく。
この男には勝てない…それに…
目的を果たすためには剛という存在と一蓮托生でなければならないことも拳崇は悟っていた。

拳崇の表情が落ちついたのを見て、ようやく手を離す剛。
「鬼になるんだろう?…鬼にならねばルガールは倒せんぞ」
そう言葉をかけ、剛もまたジュースを買いに階段を降りていく。
後に残された拳崇は、もう何が何だか…という感じで呆然としていた。
彼の頭の中には天秤があった。
そしてそれぞれの皿の上にはアランと剛が乗っていた、今はまだ同じ重さの様だが…果たして?

そして階段を降りながら。
「お前がルガールの元に辿りついたとき、果たしてお前はお前のままでいられるのかな?」
意味深な言葉を誰にも聞こえないように呟く剛。
復讐とは嘆きと憎悪に彩られた血みどろの階段を一段一段己の血を吐きながら登るようなものだ
その果てに人は一体何を見ることになるのだろうか?
「その時は俺はくたばってるだろうから、地獄の底でじっくりと確かめさせてもらうとするか」
15pierrot:05/02/18 01:43:43 ID:???
【日守剛 所持品:USSR マカロフ、ウージー、コンドーム、携帯電話(アランの連絡先登録済) 
 目的:連携を取りながらゲームに乗らない不穏分子の一掃、J6の意向を受けゲームを動かす】

【椎拳崇(左肩負傷、応急処置済) 所持品:スペースハリアーバズーカ 目的:ルガールに信用されるため戦う、男同士の約束を果す】

【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ
 目的:連携を取りながらゲームに乗らない不穏分子の一掃、ゲームを内側から壊す、プローブの情報を盗む為に本部へ潜入】
【現在位置:1区南側、ショッピングモール裏手にある納品所入り口】

(アラン・拳崇両名に結城晶・梅小路葵の殺害命令)
16PAIN ◆C1r.E3SoDI :05/02/19 16:36:35 ID:???
「……どれだけ化け物が参加してたんだよ」
 遠くの空を眺め、ヴィレンは嘆息していた。
 昨日の雨が嘘のように晴れているのに、突如東の空に雷鳴が轟き稲光が走ったのだ。
 あの胴着の男とリリスだけでも辟易していたのに、この上雷を使う奴までいるというのか?
 いい加減、うんざりな気分だ。
 化け物同士で食い合ってくれるならいいが、うっかり自分がそういう連中と遭遇してしまったら。
 ロクでもない結末ばかりが思い浮かび、ヴィレンは不機嫌に舌打ちした。

 ふと、視界を何か赤い物がかすめる。
(……何だ?)
 視線をそちらへと向ける。
 ひらりひらりと飛んでいたのは、赤い蝙蝠という何とも見慣れないものだった。
 ……いや、自分は一度これを見ている。あの時あのホテルで――
「……隠れんぼは終わりか、クソったれ」
 蝙蝠が飛んできた方の路地へとボウガンを向ける。いい加減迷うのはやめだ。
 暗がりになっているそこから、次第に軽快な足音が聞こえてきた。

 やがて、暗がりから日なたへと、少女の影が踊り出た。
「わーい、ヴィレン君見ーっけた……」
 歓声は尻切れトンボとなった。
 いきなり放たれた矢を、リリスは素早く屈んで避ける。
 さらにもう一本飛来。これもかわしたら盛大な舌打ちとともに鉄針が飛んできた。
 更にひょいっと跳んで避け、リリスは唇を尖らせて上目遣いにヴィレンを睨む。
「……女の子には優しく、って習わなかった?」
「生憎、飯の種にならん事には興味が無くてな」
 憎々しげに吐きすて、ヴィレンは新たに矢をつがえる。
 そんな彼に、リリスはくすくすと笑って。
「いいのかなー、リリス殺しちゃっても?」
「……あ?」

「オイシイ話、持ってきてあげたんだけど」
17PAIN ◆C1r.E3SoDI :05/02/19 16:39:26 ID:???

「……偵察?」
 日陰に移り、ビル壁にもたれて座り込みながら会話。
 何が普通の女の子だ、クソ。随分な身軽さと動体視力じゃねぇか。胸中で毒づきながら、それでもヴィレンはリリスの話を聞いていた。
 普段なら機動力には自信があったが、片足が自由にならない今の状態では彼女に翻弄され続けるだけだ。
「そ。この子たちにちょっと見てきてもらうくらいは、やっていいみたい」
 そう言ってリリスは腕を伸ばす。ひらひらと飛び回っていた赤蝙蝠が、そこにぶら下がった。
「といっても行って帰ってくるまでちょっと時間かかるし、あまり遠くまで見てはこれないね。うっかり誰かに襲われたら死んじゃうかもしれないし」
 あとこれも結構疲れるから、一回に出せるのは三匹くらいが限界ね、と付け加える。
「これならリリス、役立たずじゃないでしょ?利用させてあげるからこっちも――」
 言い切らないうちに、彼女の眼前にボウガンが突きつけられた。
 うーん、やっぱりかなり嫌われちゃったか。特に慌てる様子もなく、リリスはお喋りを続ける。
「足折ってるから、逃げるのも大変でしょ?この子たちに見張ってもらえば、怖い人が来てもいち早く気付いて逃げられるよ」
 ぶら下がっていた蝙蝠が、ばたばたと上空へと飛び去る。数回リリスたちの頭上を旋回し、東の方へと飛び去った。
 ヴィレンは、自分の足を見下ろす。
 リリスの言う事はごもっともだ。
 特に例の雷の発生源やら、おぞましいほどの殺意を纏っていた胴着男のような規格外の参加者なんぞ相手にしたら、こちらは逃げしか打つ手が無いのだし。
 だが、彼女の力を借りるのは、非常に癪だった。
「恩を売られるのは御免だぞ」
 ギロリと見下ろすが、リリスはどこ吹く風だ。
「恩売るわけじゃないよぅ。ギブアンドテイク、ってやつ?こっちもお願いがあるの」
 そりゃあこんな状況で、無償で他人に力を貸す奴なんぞ居たら、それはただのアホだろう。
 そういう考えの持ち主なので、ヴィレンは別にリリスが条件を提示する事には文句は言わない。
「誰がテメェのお願いなんぞ聞くか。ここで死ね」
 だから、頑なにリリスの助力を断り続けるのは、ただ彼女が居ると苛々してしょうがないという一点に尽きる。
 喉を掻き切ろうと、ナイフを手の中に滑り込ませるが。
18PAIN ◆C1r.E3SoDI :05/02/19 16:40:51 ID:???

「先手必っしょーう!!」
「うぉあ!?」
 思いっきりリリスに飛びつかれ、そのまま押し倒された。

「きゃっ、マウントポジション♪」
「っぐぅ……」
 ぶっ飛ばしてさしあげたいのだが、飛びつかれたときに彼女がぶつかった左足に激しい痛みが走ってそれどころではない。
「あ、ごめんね痛かった?痛み止め切れちゃったのね」
 謝るが、リリスがヴィレンの上からどく気配はない。
 そのまま、ヴィレンに額同士が触れそうな位置まで顔を近づける。

「ね、こんな状態じゃない。このままだとヴィレン君、死んじゃうよ?」

 くすくすと笑うリリスに、ヴィレンは反論できない。
 小娘一人にこのザマ。クソッたれ。
「死ぬのは、怖いでしょ?君にとって死は敗北だから。死者は惨めな負け犬だから」
 知った風な口を利くな。
 優しげなくせに、妖艶な笑みを浮かべるリリスに、異様に苛立ちが募る。
「テメェが……オレの何を知っている……!」
 搾り出すような声に。
「君は、自分自身の事を、全部知っている?」
 優しく、そのくせからかうような声がかぶせられる。
 ナイフを握りしめた手が汗ばむ。
 この手は、何故動かない。白い喉も、華奢な胸も、すぐ貫ける位置にあるのに。
「オレは……っ」
 どうして、この生意気なガキを罵倒してやれない。
 オレは、どうして何も言えない。
19PAIN ◆C1r.E3SoDI :05/02/19 16:42:09 ID:???

 ファストフードの店の扉を蹴破って、厨房に入り込む。
「ここは電気生きてるね。あ、リリス、ミルクティーが飲みたいな」
「当店はセルフサービスとなっております」
「うわあ、イジワル」
 結局オレは、こいつに勝てない。
 諦めてしまうと、もうどうでもよくなった。
 ついて来たいなら好きにすればいいし、力を貸すっていうならどうぞそうしろ。遠慮なく借りてやる。
 勝手に淹れたコーヒーをすすりつつ、どこか疲れきった思考でそう思う。
 苦味が、ささくれだった気分を落ち着かせてくれた。
 
 リリスの言う『お願い』というのは、ゲームを必ず完成させる、という事だった。
 つまり、ゲームにのらずに脱出を目論んだり、ゲームを根底からひっくり返そうする参加者がいると困る、始末するのを手伝ってほしい。
 それから、最後に生き残るのは自分ではなく、他の誰かでないといけない。
 詳しくは言えない、でも自分にとって重大なことなのだ、と彼女は言った。
「テメェは生き残らないのか」
「生き残りがリリスとヴィレン君だけになったら、リリスは首輪外して抜けるから」
 リリスがモリガンに課せられたおつかいは、『ルガール・バーンシュタインの魂を最高の状態で持ち帰る事』。
 それには是非ともゲームを完成させ、彼に最上の満足と興奮をもたらさなければならない。
 優勝者を前に上機嫌で演説を垂れる彼の背後から、そっと忍び寄って魂をいただく。
 間違っても参加者に見事脱出され、プライドを砕かれて怒りに震える状態での魂など持って帰るわけにはいかない。
 そして、リリスはイレギュラーな存在だ。このゲームには『存在しない』という事になっている。
 存在しない者が優勝などできるはずもない。それに招かれざる客である自分の存在が発覚したら、ルガールは快く思わないだろう。
 だから、自分以外の優勝者が要る。
「化け物からは逃げるんだろ……どうやってゲーム完成させるんだよ」
「怖い人は、他の怖い人と潰し合ってもらう。その方が面白い戦い見れそうだし。だから逃げる時は、できるだけ強い人同士ぶつかるよう誘導しなきゃね」
 簡単に言う、とヴィレンは嘆息する。
20PAIN ◆C1r.E3SoDI :05/02/19 16:44:41 ID:???

「何で、オレなんだ」
「んー?」
 ぼそりと呟くヴィレンの顔を、リリスが覗き込む。
 声が、いつもよりも弱々しい。
「オレは……弱いぞ」
 足の一本折ったぐらいで、小娘一人に翻弄されるほどに。
 自分で自分がわからなくなって、結局他人の干渉を許してしまうほどに。
 認めたくないが、ここまではっきり己の弱さを突きつけられてしまっては、逃げようがない。
 残酷で冷徹なはずのヴィレンが、今は何だか哀れな野良犬のようで、リリスはくすくす笑う。
「人間ってやっぱり面白いなぁ……強いくせに脆くて、可愛い」
 ヴィレンの短い髪を撫でる。すぐさまその手は払われたが。
「強い人が勝つより、弱い人がドンデン返しで勝った方が、ドラマティックで面白いでしょ?」
 ゲームは盛り上がれば盛り上がるほどいい。ルガールの魂の質も上がるというものだ。
「それに、」コツンと、ヴィレンと額を合わせて囁く。
「リリスの目の届かない所で、君が死んじゃったら勿体無いもの。君が誰かに殺されるなら、その前にリリスが食べてあげるわ……」
「……不味いんじゃねぇの」
 ううん、きっと最高よ。くすくす笑ったまま、リリスはヴィレンの額に口付けて、ティーバッグを探しに行った。

 しばらく店の中を物色していると、赤い蝙蝠がひらひらと店の中に入ってきた。
 それはリリスの周りをしばらく飛び回り、彼女の服にすぅっと同化した。
「ロック・ハワードが死んだって」
「ああ、例の親殺したって奴か」
 結局遭遇する事はなかったが、ルガールがわざわざ名前を晒すほどの者だ、強かったのだろう。
 それが死んだ。いよいよもって、自分たちも油断できない。
「殺したのは楓君かな?ちょっと危なくなってる。しばらく近付くのも厳しいかも」
 あの子とも遊んでみたかったのになー、と残念がるリリス。
21PAIN ◆C1r.E3SoDI :05/02/19 16:45:51 ID:???
「……で、どうするんだ」
「ちょっと様子見……かな?」
 再び蝙蝠を数匹解放し、外へと向かわせる。
 反ルガール派の状況も知っておかないといけない。あまりにも徒党を組まれると、切り崩すのが困難になる。
「見張りはあの子たちに任せてー……寝てよっか?リリス、日の光嫌いだもん」
「オレも苦手だ……」
「ヴィレン君、色白いもんね。あ、そうだそうだー、ボウガンはリリスに使わせてくれる?ちょっと弓矢の扱いには自信あるから」
 ヴィレンは無言で、リリスにボウガンを放る。
「矢の残りは?」
「7本。外すなよ」
 言ってから苦笑。自分が他人にあっさり武器を渡すとは。
 たった二日で甘っちょろくなったもんだ……これは本当に、生き残れないかもな……。
 乾いた笑いが、こぼれた。

 店の二階に身を潜め、偵察に行った蝙蝠たちの帰りを待つ。
 本当に寝る気はない。全てが終わるまで気を抜く暇などありはしない。
 窓からそっと、外を覗く。
 晴れた空が、鬱陶しい。

【ヴィレン(左足骨折、痛み止めは切れた) 所持品:チェーン、鉄針、鉄釘、パチンコ玉など暗器多数、アーミーナイフ 目的:ゲームに参加、生き残る】
【リリス(能力半減、やや疲労) 所持品:組み立て式ボウガン(組み立て済、矢残り7本)支給品は不明 目的:ヴィレンを生き残らせる、おつかい完了】
【現在位置:二区ファストフード店内二階】
22Inconsequential bomb:05/02/20 18:33:08 ID:???
満身創痍で一晩中あてどもなく歩き回っている内にふと気がつくと、サラは兄とライを埋葬した公園に来ていた。
「兄さん、ライ…」
重い足を無理矢理動かしながら、二人を埋葬した場所に向かう。
「必ず、必ず仇を…」
言いかけて途中で止まる。
その兄と仲間の仇を発見したのだ。
身を隠し、様子を窺う。
あの女は空き家の中で誰かに銃を突きつけていた。
だが、二言三言交わすと微笑んでそれを下ろし、横になった。
それを見たサラの心に怨念の暗き炎が静かに燃え上がる。
自分の目標を、希望を奪ったあの女が、微笑みを浮かべられる誰かと共にいる事など断じて許せない。
殺す。
あの女と共に行動している奴も同罪だ。
殺す。
だが今はまずい。
自分は到底素早く動けそうにないし、相手もまだ完全には寝入っていない以上、逃げられる危険がある。
自分に残された時間は少ない。
確実に仕留めねばならない。
しばらく考えて、サラは相手の寝込みを待つ事にした。
23Inconsequential bomb:05/02/20 18:34:30 ID:???
マチュアと交代で見張りにたったものの、バイスは不満だった。
ここへ来てからのマチュアは明らかにおかしい。
具体的にどこがとは言えないが、先程の涙もそうだ。
適当にごまかしたが、見間違えるはずは無い。
マチュアは涙を零したのだ。
だが原因がわからない。
珍しく思索に耽っていたバイスの思考を中断したのはかすかな血の臭いだった。
思わず頬が緩む。
元々考え事なぞ柄じゃあないのだ。
そんな事を思いながら、バイスは臭いの出所を探った。
どうやら外からするらしいと気がつくと僅かに窓を開く。
だが、そこからは雨上がりの湿った空気が入り込んできただけだった。
それを確かめ、マチュアの寝ている方を振り向く。
長年の付き合いで、マチュアの眠りがそんなに深い方ではないのはわかっている。
一旦起こして様子を見に行くべきだろう。
しかし、バイスは結局マチュアを起こさなかった。
今のマチュアを相棒として完全には信用できなかった。
かといって不知火に不意を打たれるとは思わない。
見てわかる程憔悴していたあの女にとっても今は都合のいい状態の筈だし、それもわからずマチュアを襲ったとして、その程度の相手に殺される様では今日まで生き残ってはいない。
そこまで考えると、バイスは窓から姿を消した。
24Inconsequential bomb:05/02/20 18:35:31 ID:???
気が遠くなりそうなほど長い時間に思えた。
だが実際には二時間とたってはいないだろう。
その間サラはあの女の部屋から一度も目を離さなかった。
それでもあの女が完全に寝入ったと確信はできなかった。
しかし、もはやサラの体力は限界に近かった。
胸ポケットからマッチを取り出して念じる。
(兄さん、ライ、もう少しだけ私に力を…!)
それが命取りになった。
気配を殺し、一歩また一歩と近づく。
(コッソリってのは好みじゃないんだけどねぇ)
血の臭いは公園からだった。
銃を持っている可能性もあったので側面から回り込んだのだが、やはりそこには女が隠れていた。
女は不知火の休んでいる部屋を一心に見つめていてバイスには気づいていない。
武器は持っていない様に見えたが、何があるかわからないので、慎重に近づく。
好機はすぐに訪れた。
女はコートから何かを取り出し、事もあろうに目を瞑ったのだ。
即座にバイスは間合いを詰め、渾身の力で斧を振り下ろす。
あっけなく首が落ち、サラはその生涯を終えた。
25Inconsequential bomb:05/02/20 18:36:37 ID:???
力なく倒れたサラの体から血溜まりが広がっていく。
「ふん、他愛ないねぇ」
首と泣き別れたサラの亡骸を見下ろす。
単独にも関わらずこっちの様子を窺っていた女だ。
何か持っていると考えるのが自然だろう。
調べようと身をかがめると、背後で撃鉄の冷たい音が響いた。
「聞きたい事がある」
自分の迂闊さを呪いながらも、聞き覚えのある声にバイスは視線をゆっくりと後ろに向けた。
見覚えのある男が自分に向けて散弾銃を構えている。
「これはこれは、極限流のお兄さん、そいつで何人殺したんだい?」
バイスの挑発に、しかしリョウは感情を動かされなかった。
「会話を楽しむ気はない。
仲間は向こうの家の中か?
答えないなら殺す」
その言葉にバイスはリョウをマジマジと見つめた。
全身から静かに漲る殺気、こちらを向いたままピタリとも動かない銃口と視線、これがKOFで会ったあの甘ちゃん空手家だろうか。
ともあれ本気なのはわかった。
何より、何故だか知らないがこっちの潜んでいる場所を知っている様だ。
ならばやるべき事は一つ。
「生憎仲違いしちまってねぇ、どうだい?しばらくアタシと…」
言いながらサラの亡骸を掴み、瞬時にそれに身を隠して突進する。
「遊んでおくれよォォォォッ!」
即座にリョウは発砲した。
26Inconsequential bomb:05/02/20 18:37:39 ID:???
無数の散弾は、しかしバイスの目論見通りにサラの体に防がれた。

暗転。

リョウが目を覚ました時、辺りは瓦礫の山と化していた。
一瞬呆然としたものの、すぐに思い出した。
あの女が盾にした死体が爆発したのだ。
体を起こそうとして余りの激痛に思わず呻きをあげ、それでも無理矢理起き上がる。
酷い状態だった。
全身至る所に爆風による火傷と裂傷を負っており、特に左腕は感覚さえ無い。
当然、散弾銃も失っていた。
しかし、リョウにとって一番の痛手は、これでマチュアを討つどころの話ではなくなったと言う事だった。
やっと得た手がかりだっただけに断腸の思いだったが、こうなった以上長居は無用だった。
仲間が来る前に立ち去らねばならない。
「ヤツを殺す、までは…」
リョウは痛む体を引きずりながら、公園から遠ざかっていった。

【リョウ・サカザキ(重傷・左腕使用不可)
所持品:無し(爆風でロスト)
目的:日守剛の殺害】

【サラ・ブライアント:死亡】

【バイス:死亡】
27稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:40:11 ID:???
「……ついに戦争でも始まったのかね……」
遠方から聞こえてきた二つの轟音に、紅丸はそんな事を言った。

とある民家の中で一夜を過ごした紅丸とシェルミーは今後の方針について語り合っていたのだが、
突如響いてきた爆発音と、その少し後に続けざまに響いた轟音にそれを中断されていた。

「それともありゃあ花火かなにかかな?荒んだ俺達の心に一服の清涼感を与えてやろうという主催者の粋な計らいとか……」
「こ〜んな明るいウチから花火だなんて、ルガールってばやっぱりお間抜けさんなのねぇ〜」
紅丸の冗談にウフフと笑いながらシェルミーはそんな風に返した。
そんなシェルミーの調子に紅丸は何だかんだで随分と救われている気がした。
この極限状態の中、自分がまだまだ平静を保っていられるのもこの彼女の気質のお陰である。
しかし紅丸はそんな彼女を完全に信用しているワケではない。彼女は恐らく俺の知らない所ですでに一人殺している。
あの箒を持って眼鏡をかけていた死体の事を思い出す。
あの時もしも彼女の申し出を断っていたならば、今頃あの死体の隣に自分か彼女が仲良く並んでいたかもしれないのだ。
そんな事情のお陰で、彼はこういう状況においては好ましい程に常に気を張り詰めていられた。
逆説的な二つの要素のお陰で、紅丸はなんとか自分を見失わないでいられるのだ。
自分の顔馴染み達が次々に死んでいくこの極限状態の中で。

先程の定時放送で発表された名前の中には、彼らの知り合いの名は一つしかなかった。
しかし、その名が放送の数時間前に自分達と戦ったブルー・マリーという事が、二人の心を僅かながらに曇らせている。
ついさっき自分達と一緒だった者が死ぬ…これはこの状況においてはとてつもないプレッシャーである。
自分達の傍らに控えている【死】という事象を、リアルに感じる様になるからだ。
更に言うなら、彼女は腕利きのエージェントであり、自分達よりもこういう事に慣れている筈であった。
そんな彼女があの数時間後に死んだという事実、それはやはり衝撃的である。
28稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:43:04 ID:???
「…さて、あの花火の事は置いといて……」
紅丸はこの暗い空気を何とかしようと、話を戻そうとしたが
「あら紅丸、あの花火がなんなのか調べに行かないの?」
「……………」
気ままなお姫様のトンデモない発言に、お守役のナイトは言葉を失った。

「…シェルミー、俺だって君の様な素敵な女性と一緒に花火鑑賞とシャレ込みたいさ。こんな状況でさえなければね」
紅丸は、額に手を当ててシェルミーに説明した。
「この街には無粋な輩が多すぎる。
 俺と君のような絶世の美男美女が並んで歩いているのを見ただけで嫉妬に狂って襲ってくるようなヤツもいるだろう」
こんな時でも彼はジョークを交える事を忘れない。それも彼の強さなのだろう。
「それにあの花火、あれはやはり大型火気か爆弾…そういった類の音だろう。そんなモンを持った危険人物が徘徊しているような場所に、
 君のようなレディを連れて行くなんて事、俺にはとてもできないな」
あくまでレディファーストとしてシェルミーにそう説明した紅丸だったが、
「あら〜、そんな時の為にアナタが居るんじゃないの、私のナイト様♪」
口元に手を当て、キャハっと笑いながらお姫様はそう言った。
「…いいかい、シェルミー」
もう一度彼女を説得しようとした紅丸だが、その前にシェルミーが口を開いた。
「それにあの花火が、ケンスウの上げたモノっていう可能性もあるのよ?」
「……………」
ケンスウの持っている武器には、確かにバズーカがあった。
以前彼らもそのバズーカによって吹き飛ばされそうになったのだ。そして、それ以来彼らはケンスウに『お仕置き』するべく、彼を追っていた。
「…成る程ね、確かに俺達の探し物が見つかるかもしれない」
紅丸は得心がいった様に言う。
「しかし、やはり危険すぎる。それにあの音は二箇所であったんだ。どちらかがケンスウだとしても、もう一つは確実に外れって事だ」
それは、ケンスウ並かそれ以上の破壊力を持つ武器を持つ者が確実にあと一人居るという事である。
わざわざ見に行くのは、やはり危険すぎる。リスクとリターンが全く釣り合わない。
「あら、案外冷たいのね紅丸。あの花火に真吾クンやK´が巻き込まれてるかもしれないのに」
29稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:46:13 ID:???
「……シェルミー…」
仲間の名を引き合いに出され、紅丸はバツの悪い顔をした。
そりゃあ自分だってアイツラを心配していないワケではない。
まあK´はともかく、特に真吾の事は心配で堪らなかった。
それに二人とも、京とは縁浅からぬ青年達だ。会える事ならすぐにでも会いたい。
シェルミーもきっと、同じ様に社の事を心配しているのだろう。
「また私達の知らない所でお友達が死ぬのは、紅丸だってゴメンでしょう?」
「………」
コレはシェルミーの挑発だ、乗ってはいけない。
そうは思ったが、シェルミーの言う事は自分の言っている事とは違う意味で全く正しい。
それに、京のヤツだったらどうしたか。
恐らくこんな挑発を受けるまでもなく、自分からそこへ向かったのではないか。
アイツはもう何年も高校を留年をしているような頭の悪い男だが、本当に正しい事……それを間違えるような馬鹿ではないのではないか。

「……やれやれ、困ったお姫様だな…」
そう思い至った紅丸は、シェルミーの提案を受け入れた。
死んだ自分のライバルの事を想い、その彼の強い意思に負けまいと。
「わかったよ、俺の負けだ」
「ありがと紅丸、アナタってやっぱり素敵よ♪」

「そこで、もう一個提案があるんだけどね……」
そしてシェルミーは身を乗り出し、紅丸の耳元で囁いた。
30稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:48:59 ID:???
……
少年は歩く。
雷鳴の咆哮を求め、ただ歩く。
親友との、最後の約束を果たすために。
自らの手で殺めてしまった、その青年との約束を守る為に。

少年の思考は、時間が経つにつれ少しずつ整理されていった。
自分が殺したあの青年、褐色の肌の炎使い。
あれはバーンではない。
確か、K´とか言う名前。

それがわかる程度に、エミリオの思考は整理されていた。
しかし、そんな事は問題ではないのだ。
彼は、自分を許してくれた。
そして、抱きしめてくれたのだ。
自分を殺そうとしていた人間を。
そしてそんな自分に、最後の願いを託してくれたのだ。


───理由なんて それだけで充分なんだ


自分のせいで死んだ人、
自分のせいで狂った人、
自分の手で殺した人……その全てに報いる機会を、彼は与えてくれたのだから。

閑丸君、響さん、楓さん、K´さん……

………バーンに、ウェンディ…………
31稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:50:58 ID:???


頬を、温かいモノが伝った。
もう一生分の涙を流したと思う程に泣いた筈だった。
なのに、この体には、まだ涙が残されてる。
エミリオは、その事実を愛しく想った。
涙を流している内は、僕は狂わないで済む。
その温かさに縋り付き、エミリオは歩き続けていた。

不意に、エミリオの歩みが止まった。
雷の気を感じる。

「……楓…さん?」
エミリオの意識の網が、角の向こうに人の意識の存在を感じた。
そして、その意思の底に、鳴り響く雷鳴を感じ取った。
何かに抑圧された、雷の咆哮を。

「カ…エデさん…!」

よかった、楓さんはまだ生きてた!会う事ができた……!
しかし、次の瞬間

ばたり

32稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:52:38 ID:???
(……ア、アレ…?)
エミリオは全身の力が抜けていくのを感じ、気がついたら倒れていた。
安心してしまい、一気に気が抜けてしまったのだ。
そして角の向こうの意識もその音に気付いたらしく、こちらに駆け寄ってきた。

(…つ・・・伝えなくちゃ……!楓さんに……)

その音を聞きながら、エミリオはなんとか意識を止めようとした。
そして、相手の意識が自分の頭上に来た時、なんとか口を開いた。

「…楓……さん……K´…さんから………伝えたい…事が………」


(楓さんは…一体…………)


しかし、必死の抵抗もむなしく、エミリオの意識はそこで途切れてしまった。

「……あらあら、今この子……K´って言ったわね?」
エミリオの頭上で声が響いた。
その声の主は、確かに雷の力を宿していたが、エミリオの求める人物ではなかった。
「ウ〜ン…紅丸のトコロに連れていったほうがいいかしら?」
今はその意識の底に封じられているが、確かに彼女は荒れ狂う程の雷の力を宿している。
いや、司っているというのが正しいだろう。
なぜなら、彼女はオロチ一族四天王の一人『荒れ狂う稲光』、シェルミー。
「しょうがないな〜…よいしょっと」
シェルミーはエミリオを背負いあげ、この少年が目覚めるまで一旦どこかに隠れる事に決めた。
スースーという寝息が耳をくすぐる。
「ウフフ、こんな時なのにカワイイ子ね…」
33稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:55:34 ID:???

「全く…まさかこんな事になるとはな……」
紅丸は今、このゲームが始まって以来初めての単独行動をしていた。
シェルミーの提案により、紅丸は三区へ、シェルミーは八区へとそれぞれの爆音の元へと向かう事になった。
そしてその後、先程の民家で落ち合うと打ち合わせをしていた。
紅丸にはこの機にあの油断ならない女から逃げる、という選択肢もあるのだが、そんな女性を踏みにじるような事をこの男がするワケが無い。
シェルミーはそう読んでこのような提案をしたのだろう。
実際、紅丸はシェルミーを裏切るつもりはなかった。油断ならないとはいえ、数少ない知り合いなのだ。それが人情である。
(…しかし、彼女もやっぱり焦ってるって事か…)
シェルミーの申し出…二人でそれぞれ偵察に行く、というのは彼女の焦りにほかならない。

もう、時間は残り少ないのではないか。

そんな焦り。
そんな焦燥感に駆られているのだろう。
彼女は自分以上に、知り合いの事を心配している。
最後の一人になってしまった、自分にとって掛け替えの無い男の事を。
「俺というモノがありながら…少し妬いちゃうね」
そう一人ごちながらも、紅丸は目的地に着いた。
恐らくあの轟音があったであろう、半壊した建物の前に立つ。
そして紅丸は人の気配に気付き、物陰に隠れて息を殺した。

気配は複数ある。
眼前に聳え立つ、ハワードアリーナの上階が崩壊している建物───恐らくはあの轟音があった場所───の付近に、複数人の人の気配がした。
訓練された、組織だった気配。
その気配に紅丸は違和感を感じた。
恐らくほとんどの参加者が急ごしらえなチームのはずのこの状況で、こんな見事な連携の取れるチームが居るのだろうか。
紅丸は物陰から覗き込み、目を凝らす。
目に入ってきたのは、見張りとして居るのであろう、同じく物陰に隠れている武装した兵士。
34稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:58:07 ID:???
(…一体どういう事だ?)
なんでこんな所にこんな奴等が居るのだろう。
そんな疑問に頭を巡らせていると、さらに上から他の兵士達が降りてきた。
その手には、なにか機械仕掛けのしてある大掛かりなアタッシュケース、そして一振りの日本刀があった。
兵士達が通信機に語り始めたのを見て、紅丸は遠すぎる声を何とかして聴こうと耳と目を凝らし、唇の動きを読もうとした。
「…ロック・ハワードの遺伝子サンプル、八十枉津日太刀を回収。これより次の状況に移ります……」
(…ハワードのサンプルに……なんとか刀を回収…?)
一体何の事だ?そして何処に通信している?
その男達がどこかへと去っていくのを見送ってから、紅丸もその建物に入った。

「………コイツは酷い……」
そして最上階にて、紅丸はココに来た事を後悔した。
眼前に陰惨極まる光景が広がっていたからだ。
瓦礫と化した部屋、いくつもの血痕に、焦げ痕。
そして、幾つもの焼け焦げた、恐らくは人間の肉片や塊。
極めつけには外を見下ろすと、放射上に広がった血の花と、その中央に人影が見えた。
一体ここで何があって、一体何人の人間が死んだのだろうか。
目を覆いながら、何とか考えを戻す。
あの兵士達は一体なんだったのか。
恐らくはルガールの私兵か何かであろう。そこまではすぐに判ったが、目的が全くわからない。
こんな所で一体何をしていたというのか。
こんな死体しか無いところで。

(…死体………?)

あの兵士達の通信を思いだす。ハワードのサンプルを回収……

35稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 01:59:51 ID:???
紅丸は、再び周りの肉片に目をやる。
こんな状態では誰が誰の肉片かなどは判るまい。
それに焼け焦げた肉片など、『サンプル』としての価値は無いだろう。
再び眼下の花咲いた血の中心の影を見た。
その影に、違和感がある。


首が、無い。


「……あの親父……一体何を企んでやがる…」
戦慄しながら、紅丸は呟いた。
この狂気のゲームに隠された、真の目的を想い。



耳元に吹きかかる少年の寝息を感じながら、シェルミーは階段を下りていた。
「う〜ん…ここら辺で休もうかな〜?」
地下鉄へと続く階段を下り、どこか適当な場所に身を隠そうと辺りを伺う。
「……ウウッ…」
エミリオが呻き、その息がシェルミーの首筋をくすぐる。
「いやんっ…くすぐったいわね〜……」
自分の背で眠り続ける少年にそう抗議の声を上げたが、もちろん少年からの反応は無かった。
しかし、反応は別の所からあった。

「………誰か、いんのか…?」

憔悴しきった声が、前方の暗闇から聞こえてきた。
36稲光が照らすモノ ◆1wxzbbwPmQ :05/02/21 02:06:23 ID:???
「……どうやら先客がいたみたいだわ…」
シェルミーはそう言いながら、背中の少年を降ろした。
そして、身構えながら前方の闇を見据える。獲物を捉えた蛇のような眼光を放ちながら。
しかし、その姿を認めたシェルミーは、警戒を解いた。
「…………あら?あなた確か……」
その青年の姿に、見覚えがあったから。
「…霧島翔、だったかしら?」
自らの仇敵の血に連なる、青年の名を唱えた。


稲光に引き寄せられた二つの罪深い魂。
その先に待ち受ける運命は、果たして贖罪か。
それとも、断罪か。


【二階堂紅丸 所持品:画鋲50個 目的:シェルミーに引きずられるまま、拳崇をシメる、出来たら真吾とK'と合流したい】
【現在位置 3区ハワードアリーナギースの隠し部屋(半壊)】

【シェルミー(全身打撲 まだ少し痛む) 所持品:果物ナイフ 
 目的:社と合流、クリスの仇討ち、ついでに拳崇をシメてルガールにお仕置き】

【エミリオ・ミハイロフ(完全消耗 空は飛べないけどまだちょっと戦える)所持品:無し目的:K´の言葉を楓に伝える】

【霧島 翔 所持品:ハーピーの声(脱力効果あり)入りテープとラジカセ、ボウガン(矢残り5本)
 目的:パピィ(正体不明)を保護する、首輪解除の方法を探す】
【現在位置  5区地下鉄構内】
37Inconsequential bomb作者:05/02/21 04:06:28 ID:???
>>26の最後に、
【備考:リョウ・サカザキの支給品、火薬はその場に放置(誘爆の可能性あり)】
を追加しておいて下さい。
38死闘、女対女:05/02/22 11:13:13 ID:???
爆音、次の瞬間に舞は飛び起きていた。
すぐにマチュアが部屋の中に飛び込んでくる。
何があったのかはすぐにわかった。
子供部屋の窓から見えていた公園に火柱が上がっていた。
それが消えるまで呆然と眺めていた二人だが、マチュアがポツリと零した
「バイスが、いなくなってるのよ」
の言葉をきっかけに正気を取り戻した。
武器を確認し、襲撃を警戒しながら公園にたどり着いた二人が見たのは、今や瓦礫の山と化した公園だった。
「一体何が…」
舞の呟きに、しかしマチュアは答える事なく辺りを見回す。
と、ある一点でマチュアの視線は動かなくなった。
突然固まったマチュアを不審に思い、同じ方を見つめる舞。
視線の先で、歪んだオブジェが電柱にめり込んでいる。
それが何かわかった時、舞は息を呑んだ。
爆風と衝撃で変形、破損して使い物にならなくなっていたが、それは間違いなく斧だった。
幽鬼のごとく立ち尽くすマチュア。
舞は言葉も無くそれを見ていた。
どのくらいそうしていただろうか、不意にマチュアが口を開いた。
「これで組む理由がなくなったわね」
「…そうね」
舞が答える。
ゆっくりと振り向いたマチュアの目からは何の感情も感じ取れなかった。
39死闘、女対女:05/02/22 11:14:25 ID:???
静かに対峙する二人。
またもマチュアが口を開く。
「もしもの時の為にあなたに渡しておきたいものがあるの」
そう言うと、マチュアは二つ折りのメモ用紙を差し出す。
舞は油断無く構えながらもそれを受け取った。
「これは?」
マチュアが答える。
「美味しい紅茶の淹れ方」
キョトンとした舞に構わず、言葉を続ける。
「もしあなたが勝って無事に帰れたら、旦那様に淹れておあげなさいな」
舞の表情が複雑なものに変わる。
マチュアは尚も言葉を続けた。
「でもね、あなたの旦那様に淹れる前にルガールに会ったら彼に教えてあげて。
きっと飲めなくなって残念がってるから」
舞の目が細められる。
「私、倒して帰るわよ。許すつもりないもの」
その舞の言葉にもマチュアは動じない。
「倒されても一旦姿を消すだけよ、どうせまた現れるわ。
あの人はそういう人だから」
舞が皮肉気に笑う。
「かもね、でもあなた随分と弱気なのね」
「言ったでしょう?
もしもの時の為よ。
あなたも何かあれば聞いてあげる」
しかし舞はその言葉に首を振った。
「必要ないわ、負けるつもりないもの」
マチュアは微笑する。
「あなたらしいわね」
話はそれで終わりだった。
40死闘、女対女:05/02/22 11:15:34 ID:???
マチュアが鎌を振るい、舞がとびすさる。、間合いの離れたところで舞が二連射。
身をくねらせてそれをかわし、間合いを詰めてくるマチュアにさらにもう一射。
それさえも横っ飛びにかわしたマチュアだったが、間合いはまた離れてしまった。
二人の間を静寂が満たす。
先に動いたのはまたもマチュアだった。
力を溜め、渾身の勢いで鎌で足元を刈る。
本来届く筈のないそれは、マチュアのリーチが瞬間的に伸びた事で鎌鼬のごとく舞を襲う。
完全に意表をつかれた舞だったが、後方に跳んでそれを凌ぐ。
体勢を立て直す暇もなく、今度は本物の鎌鼬が舞を襲う。
横に転がってかわしたものの、今度はマチュアが眼前に迫る。
立て続けに振り下ろされる鎌を転がり続けながらかわし、方向だけを合わせて一射。
外れはしたが、再びマチュアから距離をとるのには成功した。
片膝立ちになって銃をマチュアに向ける。
その時には既にマチュアは物陰に隠れていた。
お互いに様子を窺う膠着した時間が続く。
その時、舞はふと祖父の言葉を思い出した。
(なまじ銃があるからそれに頼りすぎる…なら!)
デザートイーグルを腰帯に差し込み、扇子を取り出す。
それを見て疾走してきたマチュアに向かって舞も駆けた。
横薙ぎに振られた鎌を扇子で受け流し、肩から体当たりをかける。
水月に決まってよろけるマチュアを更に扇子の連撃が襲う。
なす術もなく空中に舞い上げられたマチュアを、舞は地面に叩きつけた。
41死闘、女対女:05/02/22 11:16:59 ID:???
混濁していた意識を目覚めさせたのは足音だった。
舞が歩み寄ってくる。
鎌は落としてしまっている。
ならばと逃れようとするが身動きがとれない。

完全に致命傷だった。
それを理解したマチュアは、顔だけを舞の方に向けて言った。
「ねぇ…最後にお願いがあるの」
マチュアの言葉に、舞は黙って頷いた。
もはやマチュアには余分な会話をする余力さえ残されていないのは明らかだった。
「お腹に…触らせて」
そう言うと残された力を振り絞って手を伸ばす。
舞は一瞬躊躇う様子を見せたがやがてマチュアの手を取ると、屈んで自らの腹部に触れさせた。
触れた部分から温もりと、そして確かに存在する生命の鼓動を感じた気がして、マチュアの目から涙が零れ落ちる。
「羨ましい…私もそうなりたかっ…」
その言葉を最後に、マチュアの全身から力が抜け落ちた。
舞はマチュアの目を閉じさせて顔を拭いてやると、立ち上がって鎌を拾い、家の中に置き去りだったバッグを回収して振り向く事なく立ち去っていった。

【不知火舞(戦闘により未だ消耗)
所持品:使い捨てカメラ写ルンDeath、IMIデザートイーグル(残り二発)、鎌(マチュアからルート)
目的:休息のできる場所を探す、マチュアのメモをルガールに渡す】

【マチュア:死亡】
42白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:08:09 ID:???
13:25 7区 南東方面

「どうして!? どうして見捨てたの!?」
ガシッと腕をつかんで、アルルは目の前の男を問い詰めたけど、返事は返ってこない。
その男、リュウは何も言わずに顔を背けた。
力じゃアルルはリュウにかなわない、ふりほどこうと思えばあっさりふりほどける。
だが、それが出来ない。
「逃げるんなら一人で逃げれば良かったじゃない! ボクを置いて! 一人で!」
何かが引きちぎれてしまった様な顔。
リュウはそんな顔をするアルルなど始めて見たに違いない。
我慢の限界に達したアルルが、急に無表情になって自分の腕をリュウから離した。
「答えてよ……それともボク、悪いこと言ってる?」
硬く握り締めているアルルの拳。
その手がひどく冷たい気がして、思わず動かしたくなった。
「……すまない」
「!」
リュウがそう言った時……。
いきなりアルルの平手が飛んできた。
リュウは今の今まで逃げる選択をし続けていたせいで、それに反応するのが遅れた。

ばちぃぃんっ!!

リュウが歯を食いしばりそれを受け入れるのが早かったのか。
それとも、アルルが自分のしたことの意味に気づくのが早かったのか。
気づいた時には、全てが終わっていた。
43白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:09:27 ID:???
「……ってぇ」
リュウとアルルの間で、真吾が叩かれた頬を押さえていた。
「…真…吾……くん?」
正気に戻ったアルルは、呆然と真吾を見つめて、それだけ言った。
その言葉に真吾が返事しようとした途端、
ドサッ……
何かが落ちた音が三人の後ろでした。

「あっ」
振り返ると一羽の鷹が地面に転がっている。
巫女が自分達を監視するためによこした鷹が。
怪我をしているにも関わらず、今まで使命を果たすために飛んでいたのだ。
ここで一気にその反動が出てきたのだろう。
「アルルさん」
思わず助けようとしてママハハの元に向かったアルルに、真吾はそう呟いた。
「もうやめましょうよ」
真吾はアルルに向かって、淡々とそれだけ言った。
その言葉にアルルがはっとする。
「リュウさんだって、好きで逃げたんじゃありませんから。K´さんだって死んだって決まったわけじゃ……」
「…わかってる」
これ以上リュウや真吾を責めてもどうしようもないことだ。
そう思いたがる自分がいるけど、そうしたくない自分もいることは、アルルがいちばんよくわかっている。

「そんなの、わかってるよ」
だから、アルルはそれだけしか言えなかった。
44白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:11:24 ID:???
13:30 5区地下鉄 3・7区駅→8区駅

ガタンゴトン……ガタンゴトン……
夢うつつのなかでかすかな物音を聞こえて、エミリオの意識が戻ってきた。

そのまま瞳を開けると、天井から鈍い蛍光灯の光が降り注いでいた。
「……ここは?」
地下鉄を走る電車。
その一車両の中にある客席に寝かされていた。
きょろきょろと辺りを見回すと、前髪の長い女性と黒髪の男が何か話している真っ最中だ。
「あらあら、起きちゃったみたいね?」
エミリオの気配に気づいた女がふっと笑う。
「あ、あの……僕……」
「どうしたのかしら、そんなに怖がらなくていいのよ?」
その女性のどこか不思議な雰囲気に、とっさに言葉が続かなかった。
明るく人懐っこそうなだけどどこか気まぐれな、そんな猫みたいな雰囲気。
決して威圧感を感じないはずなのに、なぜか不安を感じてしまう。
「私はシェルミーって言うの、それでこっちは……」
「……霧島翔だ」
横に居る男がそう答えた。
先程からその男はエミリオとシェルミーの間に入らず静観している。
そしてまるで現実から逃げるように窓へ視線を向けた。
45白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:12:53 ID:???
「どうして、僕を……」
「嫌ねえ、目の前でカワイイ男の子が倒れてくるんだもの。
 それを見捨てる程お姉さんは意地悪じゃないわよ? それに勿体ないし」
エミリオは中途半端にシェルミーと距離を置き、緊張しつつ、会話を続ける。
「所であなた……」
少し真剣さが増した顔でシェルミーが話を切り出す。
「倒れる前にK´さんって言ってたけど。……彼の居場所、知ってるのかしら?」
「………」
案の定、エミリオからは無言が返ってくる。
「私の知り合いに彼を探している子がいるの、教えてくれたらお姉さん嬉しいんだけどな〜?」
続いて、長い深呼吸が聞こえてきた。
そして、エミリオはぽつりぽつりと、K´と自分に関する事柄を話し始めた。

13:45 7区北方面

「羽の生えた少年か……」
「他に、何か特徴はあるの?」
「うーん、綺麗に揃った髪型でしたね。一瞬女の子みたいに見えましたよ」
霧島を探すかたわら、真吾は自分達を襲った少年の話をしていた。
「こう……訳のわからないビームとか出してたっす」
ジェスチャーをしながら相手の様子を伝える真吾。あまり伝わってはいないアルルとリュウ。
「……ビーム」
「なんか……無茶苦茶な人だね」
「俺もそう思うっす」
46白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:14:10 ID:???
精一杯明るく振舞いながら、彼らは歩き始めた。
例え一人抜けたとしても霧島を探す旅を続けなければ、何も始まらないのだ。
「とにかく、俺たちは霧島さんを探しましょう」
耳元で風の音が鳴る。
真吾がそれだけ言い終わると、しんと静まり返った。

「……そうだね」
「……ああ」
沈黙を同時に破る二つの声。
きりっと痛んでいた胸が少し楽になった気がして、真吾は笑った。

13:52 5区地下鉄 8区駅

「……なんだってぇ!?」
シェルミーと霧島がギョッとしてエミリオを見る。
K´が既に死んでいること、そして目の前の少年がK´を殺したこと。
特に霧島は憔悴しきったエミリオが、自分を付け狙っていた男を殺したなどとても思えなかった。
「だから僕は、早く楓さんの所に行かないといけないんだ」
そしてそのまま口をつぐんたエミリオをシェルミーは納得したかの様に眺めていた。
その表情は長い前髪に覆われているのでよくは分からない。
「と、いうことは……こっちでの爆発は坊やとK´の仕業なのね」
言葉を切ったシェルミーが重いため息をつく。
彼女は8区で起きた爆発音を調べるために、電車という移動手段で8区に向かっていたのだ。
言いだしっぺはシェルミー自身だ。
真面目に調べずにただおみやげだけ持って帰るというのも、少し躊躇われたのだ。
もっとも霧島という荷物持ちがいなかったら、そのまま民家に戻って紅丸を待っていたかもしれないが。
47白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:15:35 ID:???
「おい、どうするんだ。一旦戻った方がいいんじゃねえか?」
霧島は彼らの視線を避けるように窓の外のみを見つめ、シェルミーは、そんな霧島の言葉に焦りがこもるのを感じていた。
そしてふと、ある事実に気づいたのである。
「エミリオ君……で合ってたかしら?」
不吉な予感がした。苦しいほどシェルミーの胸が高鳴っている。
「その楓って子とはどこへ向かおうとしてたの?」
「ここからだと北の方の……」
その場所は、ちょうど紅丸が向かった場所だった。

もう一つの爆発音は、彼らの仕業かもしれない。
そして、楓とロックのどちらかがもう既に決着をつけていたとしたら……
「……まずいわね」
シェルミーは、珍しく焦りを浮かべ歯軋りした。

13:55 7区→5区

リュウたちはさらに深い森へと歩を進めた。
生い茂った木々が時折風に揺れてザワザワと音をたてる。
葉と葉の間からこぼれる僅かな光が道を照らしていて、不思議と三人の心を和ませていた。
「ねえ、真吾くん」
「はい?」
「……痛くなかった?」
「え? ああ、あん位のビンタなんかへっちゃらです!」
「……ごめんね」
リュウはママハハを大切に抱きしめているアルルの傍らで、彼女と真吾の会話を聞いていた。
48白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:16:47 ID:???
「アルルさんは、人を憎んだことがありますか?」
しばらくの沈黙のあと、真吾が静かに問いかけてきた。
「……え?」
「殺してやりたい程、誰かを憎んだことがありますか?」
言葉の内容とは裏腹に、澄み切った光のある瞳と、深く心に染みるような声がとても印象的だった。
「や、やだなあ真吾くん! ボクはリュウさんをそこまで……」
そこまで言いかけて、アルルは真吾が今までにない真剣な表情をしていることに気づく。
「……ないよ、そんなの。考えたこともない」
「そうっすか」
考えが一瞬動きを停止した後、同じ場所をぐるぐると回るアルル。なんでそんな当たり前な質問を聞くんだろう、と。
「羨ましいっすね……」
かすれた様なか細い真吾の声が聞こえた。
ただあまりにも音量が小さかったのと、真吾らしくない声色だったので、アルルとリュウは聞き取れていなかった。
「えっ?」
あれ? 何かおかしい感じがする……?
一瞬そう思ったアルルだが、まだこの時は、それがそんなに変だとは思わなかったから、すぐに忘れてしまった。
「あ、いや! 何でもありません!
 いやー、それにしてもアルルさんの機嫌が直って、良かった良かった!
 俺はこわーいお説教おばさんになったらどうしようかと……」
「真吾くん、それってあんまりだよ!」
「あははははは! すいませんすいません!」
……いつもの様に、お調子者でいた真吾。

――アルルさん、何があっても変わらないでいて下さい。
――せめて、俺みたいには絶対に……

「どうしたんだ、真吾君?」
「……何でも、ありません」
49白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:18:15 ID:???
14:05 5区地下鉄 8区→3・7区駅

3・7区へ走る地下列車。それに乗車している三人。
「あーあ、やんなっちゃう。 またさっきの駅に戻ることになるなんて!」
そう言ったのはシェルミーだった。何事もなかったかの様に、席に座っており足を組む。
「いいじゃねえか、わざわざ探す手間が省けたんだからよ」
シェルミーは顔を上げる。そして少し考える。
エミリオがどんな子だったかは十分に分かったが、こっちはまだだ。
この男もエミリオと同じように、不安定な部分が見え隠れしてるとシェルミーは思う。
最初に霧島の態度を見た時は、たんなるぶっきらぼうな一匹狼気取りかと思った。
だが違う、どこかが完全に抜け落ちている。
この男は全てにおいてどうでもよくなっている様だ。

自暴自棄、悪く言えば離人症の一歩手前と言う所か。

「……あなた、何かあったでしょ?」 
その問いに霧島は答えなかった。
下手にごまかせる分、エミリオより性質が悪い。
長期戦になるのを覚悟をして、彼の方をじっと見つめる。
「私に何か隠してる筈よ、良かったらお姉さんが相談に乗ってあげるわよぉ?」
霧島の答えは窓の闇を見つめているだけで、そのまま長い沈黙が続く。
こうなれば後は根競べになる。
霧島が観念して全部話すか、それともシェルミーが諦めるか。
「……探し物があるんだ」
結局根負けしたのは霧島の方だが、本音は喋らない。
50白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:19:28 ID:???
「探し物?」
「ぱぴいって名前の動物らしいんだが……何か心辺りはないか?」
「…ぱぴぃ、それって子犬か何か?」
「俺にもよくわからねえけど、美人の姉ちゃんの頼みだし無碍にはできねえよ。……で、知っているか?」
「いいえ、この町に来てから猫の子一匹見てないわ」

「ぱ…ぱぴぃ…?」
今まで黙っていた少年が顔を上げた。
「知っているの?」
シェルミーの問いに答えないエミリオ。小さく震えながら、あることを思い出す。記憶が蘇る。

今と同じように楓を探していたシーンを思い出す。
『パピィ、これをお願い』
あの女性はその変わった生き物に向かってそう言っていた。

――それで、彼女はどうなったんだっけ? ……どうしたんだ?
――楓さんの場所がわかって、そこに行こうとして、腕が飛んで……

――腕?

「……あ、あ…あああ…」
「ちょっと、大丈夫!?」
頭を抱えるエミリオを、シェルミーは声をかけた。
彼女がとても大切なものに聞こえ、そして自分には相応しくないようにも思い、エミリオは思わずシェルミーから離れた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい」
シェルミーはそれにも関わらず手を伸ばす。泣いているエミリオを見つめよしよしとあやす。
霧島は二人の様子を窺う事もなく、視線を動かさずにいた。
51白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:20:46 ID:???
14:11 5区東方面

「ふう……」
「ここにも居ないみたいだな」
「ホント、どこに居るんでしょうねえ?」
三人はいくつかの民家をしらみつぶしに探していた。
「まさか、こういう分かりづらい所に隠れているんでしょうか?」
真吾はそう言って戸棚をあける
無理をすれば人が入れそうでもあるが、十中八九間接を痛めてしまうだろう。
「そ、それは無いと思うよ?」
いくらなんでも戸棚の中に隠れている様な人間ではないだろう、とアルルは思った。
もっともアルルは霧島が今朝タンスの中で仮眠していたのは知らないのだが。
「とりあえずここにも居ない……と」
アルルはそう言いながら民家のドアを開けた。

外にでて暫く道を歩いていた三人。
「何か…聞こえないか?」
「え?」
最初にその音に気づいたリュウは、周囲を見回す。
「何かが走っている様な音なんだが……」
「あ、本当だ。聞こえますね」
自分達以外に人が居ないせいか、普段は見過ごす様な小さな音でもよく聞こえる。
そして、自分達の近くに地下へ続く階段があることに気づいた。
「……地下鉄か」
「そういえば、ここって電車が使えるんすか?」
「分からないな……」
もし使えるとすればそれなりに便利だろうと、二人は同じことを考えていた。
「……電車って何?」
一人置いてきぼりにされたアルルは訳も分からずそう呟いた。
52白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:22:01 ID:???
14:17 5区地下鉄 8区駅→3・7区駅

「……そう、か」
霧島はエミリオの顔を正視出来ず、言葉を選びながら口を開いた。
結果、彼が春麗を死なせた話を聞いてもその一言だけだった。
「僕が……僕のせいで……」
「そうね、貴女のせいよ」
シェルミーはあざけるように冷たい言葉を吐く。
それは、後ずさりしたくなるような闇をはらんだ口調だった。
「その言い方はどうかと思うぜ……」
「あら、だって事実じゃない」
そう呟いた霧島には目もくれず、さらに冷たい言葉を投げつけた。
そしてシェルミーはエミリオの前に膝をつく。
「だって、だってあの時、僕は……」
「自分の目的に夢中になって、周りが何も見えなくなって、結果的に殺しちゃったんでしょう?」
「!!!」
エミリオの胸に突き刺さる言葉。
だがそれよりもエミリオを驚愕させたのは、彼を覗き込んだシェルミーの瞳であった。
普段は前髪に覆われて隠れているが至近距離だったので、ほんの少しだけ髪の間から見えたのだ。
「そんなことで一々後悔する位なら、目的なんかもたない方がいいわ」
まるで宝石の様にも見えるが、まるで蛇を思わせる様な冷たく輝く瞳だった。
表情の変化を笑って観察し、口を開いたシェルミー。
「今度からはちゃんと自分の行動に責任を持ちなさい、そしてもう二度とそんなことはしないの……ね?」
「……うん」
なんだか自分の未熟な所を見透かされたみたいで、エミリオは恥ずかしかった。
とにかく、楓を助けようとエミリオは更に決意を固めた。
その難しさや途中の過程についての考えは置いておき、結果だけは決めた。
53白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:23:13 ID:???
プシュー……
列車が止まりドアが開く。
話をしている間に、いつの間にか元の場所に戻っていたようだ。
「早く……早く楓さんの所に行かないと……!」
「あ、ちょっと! そんなに無茶しちゃ駄目よ!」
シェルミーが落ち着かせようと声をかけるが、エミリオの耳にはあまり入らなかった。
ただ、床を叩く自分の足音だけを聞いて、先を急ぐ。

「………」
霧島だけがそこから動けずに居た。
自分は何を期待してこの電車に乗ったのだろうかと考えていた。
そして無理に彼らの後をついていこうと身体を動かした。

14:20 5区地下鉄 3・7区駅

「うわあ〜……」
止まっていた電車を見たアルルは眼を輝かせた。
初めて見た乗り物にわくわくしながら飛び乗る、慌てて追いかけるリュウと真吾。
「すごいよ、本当にこれが動くの?」
「うーん、遊園地の乗り物とはちょっと違いますね」
「……だが、これはどこの駅に向かっているんだ?」
「とりあえずこの車両の異常は無いみたいっすよ、アルル隊長!」
真吾は片手をあげ敬礼しながらそう告げる。
「うんうん、ご苦労様だね」
「それではこちらの車両の安全確認を……」
真面目なのかふざけているのか、そう言いながら隣の車両も確認しようとする。
54白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:24:51 ID:???
「ん?」
ドアから身体を乗り出してホームの様子を見ていたリュウの眼に、何者かの姿が入る。
人数は二人、若い女性と少年。歩き方からしてどちらも怪我を負っている。
「アルル君、真吾君。……誰か居るみたいだぞ?」
「……大丈夫そうかな?」
「二人とも怪我をしているな……今は手ぶらだからいきなり襲ってはこないと思う」
リュウは電車からゆっくりと降りた。
アルルもそれに続き、ジャンプすかの様に軽やかに降りる。

だが彼等は、敵か味方か分からない二人組に気を取られて気づかなかった。
車内から降りたのが二名だという事実に。

14:22 5区地下鉄 3・7駅

「クエエエエエエェェェェェェェッ!」
「うわ!?」
最初にそれに気づいたママハハが血を吐くように叫ぶ。
「何、何、どうしたの!?」
いきなり眼を覚まし暴れだした鷹にアルルは驚き、慌てて口を塞ごうとする。
その瞬間、リュウとアルルの後ろで扉が閉まった。
音に振り返ったアルルは眼を見開いく。
「………え」
扉の向こうには、青い学生服の少年がこちらに背を向けていた。
閉ざされたドアに勢いよく手をつけ、アルルは彼を呼んだ。
55白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:26:07 ID:???

どん!
「……真吾くん」
どん! どん! どん!
「真吾くん!」
どんどんどんどんどんどんどんどん!
「真吾くん真吾くん真吾くんっ!」

アルルは必死に扉を叩き、真吾を呼び続けるが反応は返ってこない。
こんなにも近くに居るのに、何故か遠く感じる。
目の前の少年が行ってしまう、自分達の手の届かない所に。
いつか見た彼の笑顔がアルルの脳裏に浮かぶ。
無常にも列車は動き出す。
「危ない、アルル君!」
「待って! 待ってよ、行かないでえっ!」 
必死で叫びながら追いかけるアルル。

「……何だろう」
エミリオはぽつりとそれだけ言った。
彼らの前で走り去る列車を追いかける二人。それは栗毛色の少女と道着姿の男だった。
「随分と騒がしい人達なのは、間違いないわね」
それを見ながらシェルミーは呟く。
56白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:27:15 ID:???
「何で、どうして置いていくの!? ボクとリュウさんを置いて、どこに行くの!?」
半分、涙声になりながらもアルルは必死で走り続けていた。
もう誰も失いたくはないと思っていた。
さっきまで楽しそうに自分達と話ていた彼が、何故自分達を置いていくのか。
アルルはその理由を知る術がなかった。
「いやだ! いやだ! 置いてかないでえええぇぇぇっ!」
真吾が今振り向けば、顔を泣きながら追いかけるアルルが窓の外から見えただろう。
だが彼は決して振り向かなかった。

「あっ」
どしゃっ!
足がもつれ派手に転んだ音。
「アルル君、大丈夫か!?」
「…う…ううっ……」
リュウは転んだアルルの肩を貸した。
勢いがついていたせいかあちこち擦りむいている。
倒れる時、抱いていたママハハを守ろうとしたせいで余分に箇所が多い。
「……どう…して?」
アルルはうわ言のように問う。その質問にリュウが答えられる筈もなかった。

呆然としながらエミリオはその光景を見ていた。
彼らの事情は何一つ知らないが、見ていると苦しくなってきた。
ふと、その横でシェルミーがあることに気づいた。
人数が一人、足りない。
「………逃げられちゃった」
57白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:29:01 ID:???
14:25 5区地下鉄 3・7区駅→2・6区駅

車内に一人残さった真吾。
ただ一点を見つめたまま動かない。
そして、そこに居たのは……







べちゃっ

真吾の中で、白い布がコールタールに落ちた気がした。


【リュウ 所持品:釣竿、ホアジャイ特製スペシャルドリンク(残り1本)、ママハハ
     目的:1.ルガールを倒す(スタンスは不殺 揺らぎまくり)】
【アルル・ナジャ(流血恐怖症気味) 
 所持品:1/10ウォーマシン(持ってあと2日の電池、充電は可能)、K´のアクセサリー
 目的:1.霧島翔(京そっくりらしい)に会う 2.首輪を外す 3.生きてゲームから抜ける】
【シェルミー(全身打撲 まだ少し痛む) 所持品:果物ナイフ 
 目的:社と合流、クリスの仇討ち、ついでに拳崇をシメてルガールにお仕置き】
【エミリオ・ミハイロフ(完全消耗 空は飛べないけどまだちょっと戦える)所持品:無し 目的:K´の言葉を楓に伝える】

【現在位置  5区地下鉄構内】
58白と黒 前編  ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:30:18 ID:???
【矢吹真吾(尖端恐怖症気味)
 所持品:竹槍、草薙京のグローブ(炎の力がちょっとあるかも) 目的:霧島翔への復讐】
【霧島 翔 
 所持品:ハーピーの声(脱力効果あり)入りテープとラジカセ、ボウガン(矢残り5本) 闇の幸運種ぬいぐるみ
 目的:パピィ(正体不明)を保護する、首輪解除の方法を探す】

【現在位置  5区地下鉄車両内 列車は2・6区方面へ進行中】
59 ◆Kinki/aahg :05/02/25 05:31:52 ID:???
訂正
×真吾が今振り向けば、顔を泣きながら追いかけるアルルが窓の外から見えただろう。
○真吾が今振り向けば、泣きながら追いかけるアルルが窓の外から見えただろう。

×車内に一人残さった真吾。
○車内に一人残った真吾。

・・・いやはやすいません
60巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:24:10 ID:???

トントントン


一秒間に3回
時計の針の音の様に正確そのものに音は続いていた。
一分の狂いも無く、この暗い部屋の中での時を刻み続けている。
それは、今朝の午前7時から今までずっと。


トントントン


一秒間に3回
一分間に180回
一時間に10800回
ただ一分の狂いもなく、正確無比に時を刻み続けている。
今朝の放送で、風間火月の名が放送で流れてから途切れる事なく、ずっと。


トントントン


1秒間に3回
1分間に180回
1時間に10800回
今までですでに54000回、時間にして5時間。
正確に、一分の狂いも無く、今まで一度も途切れる事なく。
今朝の放送で風間火月の名が流れて以来、風間蒼月はその音を正確に刻み続けていた。
61巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:26:36 ID:???
部屋の隅、風間蒼月は額に手をやり、指で額をトントンと叩き続けている。
5分間、音の回数にして900回。その目はどこか宙の一点を見つめ、瞬き一つせずにじっと動かさない。
そして続く10分間、音の回数にして1800回。その間はじっと目を瞑り瞑想しているかのごとく動かない。
今朝の放送から今までずっと、蒼月の様子は先程からこの繰り返しであった。
5分間と10分間、合わせて15分間の繰り返し、それを10回積み重ね今では5時間、音にして54000回、機械の如く正確にただひたすらその繰り返し。

そんな男の様子を心配そうに見守り続ける少女───かすみは思い出す。
男がこうなるまでの事を。

かすみと蒼月は、火月の行方を求めて二区から一区へと移動していた。
とはいっても何もアテがなかったので、とりえず蒼月言う所のこの出島───サウスタウンの外周を一周しながら捜索する事になった。
そうして火月を探しながら、ついでに蒼月言う所のこんぴゅー太───ノートパソコンのデータを呼び出す為に、先程別れたガーネット達の事も探していた。
「…成る程、あなたは今は主催者達からは死亡扱いされているというワケですか」
「ええ、恐らくはそうです」
影から影、闇から闇へと移動しながら、常人には聞こえない程の声での会話。
二人の忍はお互いの状況を整理していた。
「…でももうそろそろ気付かれてる頃かもしれません。あの船を奪ってかなり時間が経ちましたし、
警戒はしてきましたけど、街中に仕かけられてるだろう監視カメラに映ったとも限りしませんし」
現代に生きる忍として、かすみは当然監視カメラの位置の基本や発見法、それに対する処理などを心得ているが
執拗極まるこの街の監視体制を鑑みるに、その全てを欺くのは不可能と判断していた。
「…監視…亀?何です?」
「…………」
もっともこのもう一人の忍者は乱世を生きる本物の忍者であり、監視カメラだの盗聴機だのはそもそも存在を知らなかった。
62巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:28:43 ID:???
「…ええと、詳しい説明は省きますけど…私達を見張る為の絡操です」
「…よくわかりませんが、それら全てを欺くのは不可能なのですか?」
「はい」
この街に来てからあらゆるモノを見てきた蒼月は、無理矢理納得する事にした。
それに一応はこの娘もこの時代に生きる忍者である。その忍者がそう言うのだからそうなのだろう。
「…わかりました。とにかくその監視亀だかの監視を完全に掻い潜る事は不可能という事ですね」
とにかく、今の会話の要点はかすみの事は主催者側にすでに知られている可能性が高い事、自分達は常に監視されている事の二点である。
監視亀だかの詳しい正体などどうでもいいのだ。

二人が一区の半ばまで移動した頃には、うっすらと空が白んできた。
一応の休息を取る為、二人は手近な建物の中へと身を潜める事にした。
そして交代で睡眠を取る事になったが、蒼月としてはこの娘を完全に信用してはいない。
…というよりは忍者としての意識の欠けている感があるこの娘に見張りを任す事が不安だった。
「それじゃ私が見張ってますから、お兄さんは先に休んでてください」
そんな蒼月の心配など露知らず、かすみはそう提言してきた。
まあこの忍としては問題な気質の分、能天気そうな少女の事である。自分を裏切るような事はないだろう。
それに自分の体もいい加減に休ませないといけない。
不本意ではあったが、一応少女の提言通りに蒼月は先に休息を取る事にした。
「…何かあったらすぐに私を起こしてください」
そう一言釘を刺して。

蒼月が奥の部屋で壁にもたれて眠りそろそろ2時間、かすみは彼の弟の事を思い出していた。
風間火月、およそ忍者とは思えないような性格をした男。
忍者としては致命的であろう優しい性格の持ち主であるそんな彼の事だ、きっと自分の事で思い悩んでいるだろう。
『俺のせいでかすみは死んだ』なんて思いつめているかもしれない。
そんな自責の念は、この状況では命取りになりかねない。
彼の刃を鈍らせ、判断を濁らし、行動を妨げるかもしれない。
その自責は、確実に彼の枷となっているだろう。
だから、もし火月さんが死んだら、私のせいなんだ。
63巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:31:08 ID:???
「…火月さん………」
お願いだから、そんな風に思い詰めていないで。
なぜなら、私はここにこうして生きていますから。
あなたを待ってる妹さんの為にも、あなたは必ず……
「…あやねちゃん……」
そこで思わず涙が零れかけたが、自分が泣くわけにはいかなかい。
あやねちゃんが繋いでくれたこの命の為にも。
それに、蒼月はもっとつらい筈だ。
それなのにそんな様子は微塵も見せず、忍として毅然としたままに行動している。
私も蒼月さんを見習わなくちゃ。

『───諸君、おはよう』

かすみがそんな決心をした時、あの声が響いてきた。
かすみ自身は久し振りに聞く、しかし忘れられない嫌な声。
そして演技の過ぎる芝居かかった声で笑いながら、いよいよ運命の時が近づいてきた。

『───無駄話もここまで、今朝7時までに死んだ者の名を告げるとしよう』

  ドクン

運命の一瞬。
かすみは思わず息を殺し、耳をすましていた。
大丈夫、火月さんはきっと大丈夫。きっときっと大丈夫だ。
高鳴る鼓動をそんな言葉で落ち着けようとするかすみの健気な努力は、しかし無常にもあっさりと打ち砕かれた。

───風間火月

その名は、他の参加者の名前と同様に、実にさらりと読み上げられた。
あまりにもあっさりとその名が出たので、かすみは暫くその事実を受け入れられずにいた。
64巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:34:24 ID:???
「……風間…火月……」
その名を一度反芻し、そしてようやくかすみは思い至った。
風間火月は、すでに死んだのだ。
「……………!!」
かすみは思わず声を上げて泣きそうになった。しかし、そんなわけにはいかない。
自分はさっき誓ったばかりではないか。
それに、あの忍のお手本のような彼の実の兄の前で、自分が無様に泣くなどと───。
そうだ、奥の部屋で眠っている男は火月の実の兄なのだ。
そんな彼に、自分は今の放送の事をなんと説明するべきなのだろう。

背後に、人の気配。
かすみはすぐさま振り返り、そして目を見開いた。
「……そ、蒼月さん…」
「………」
風間蒼月が、すでに後ろに立っていた。
その顔はいつも通りの能面のような無表情。
しかし、その目からは光が失われていた。
「…蒼月さん。………火月さんが……」
そんな蒼月の様子に躊躇いながらもなんとか説明しようとしたかすみだったが、

トントントン

蒼月は額に手をやり、指で額を叩きだした。その音は正確に一秒間に三回。
無言のまま、その目は光を失い、どこか一点を見つめながら、瞬き一つせずに。
65巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:36:35 ID:???
「…そ、蒼月さん……?」
「…………………」
そんな蒼月の鬼気迫る様子にかすみは声をかけたが、
それには応えず蒼月はその場にドカッ、と座った。
「……………………」
そしてやはり無言のまま、どこか一点を見つている。
「……蒼月さん………」
蒼月のその尋常ならざる様子に、かすみは火月が死んだという悲しみもどこかに吹っ飛ばされた。
そして、何も言えなくなった。

部屋には、トントントンという音のみが響いていた。


それから5時間、回数にして54000回、その音は正確に時を刻み続けていた。
その音は例えるなら精密なコンピューターが膨大な情報を処理している音である。
ただひたすらに、何かに耐えるかのように。何かを呑み込む為に。頭の中を整理する為に。
兄弟の死を唯の一つの事象として呑み込む為に、蒼月は必死にその頭脳を巡らせていた。

「すいません、お心遣いは有難いのですが話かけないでいただけませんか」

そんな様子だった蒼月が突然、声を出した。
それは、蒼月の傍らで不安そうに侍るかすみに向けられたモノであった。
「…………はい」
先程から5時間近く、一切身動きせずにそのままだった蒼月への心配が頂点に達したかすみはついに声をかけようとしたのだが、
蒼月本人から出鼻をくじかれて素直に引き下がった。
しかし実際には、かすみにとっては出鼻をくじかれたどころではない。
かすみが声をかけようと思った瞬間、まだ喉に力がかかるより以前、もの音一つ身動き一つ立てる前にかすみは蒼月に制されていた。
こんな状態でも、この男は周囲への警戒を一切怠っていない。むしろその感覚はいつも以上に研ぎ澄まされているのではなかろうか。
しかしそれほどの男が、今はこの有様である。
66巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:40:52 ID:???
彼にとって弟の存在は───決して表には出さなかっただろうが、それほど大きかったのだろう。
そんな男の前で、自分は尚更無様にも涙を流すわけにはいかない。
かすみは改めてそう決心したが、しかしこの状況をどうすべきか、その答えは見出せずにいた。
(……蒼月さんが落ち着くまで待つしかないかなぁ…)
結局は、時間に任せるしかないのか。そう結論したかすみだったが、
「………『こうひぃ』」
「……はい?」
「…『こうひぃ』を、いただけませんか」
蒼月は突然沈黙を破った。


「…はい、どうぞ」
「申し訳ございません」
かすみは台所に運良くあったインスタントのコーヒーを蒼月に振舞っていた。
「……苦いですね」
「あ、砂糖を入れた方が良かったですか?」
「…いえ、結構……。これで大丈夫です」
「…………」
カメラもパソコンも知らない男が、なぜか珈琲の事は知っていた。
その事にひどく興味を持ったかすみだが、そんな事はどうでもいい。
「…蒼月さん……大丈夫ですか?」
一番重要なのは、彼の心理状態である。
蒼月は、弟の死から立ち直れたのだろうか?
「……かすみさん」
「……はい」
蒼月が口を開く。
かすみは緊張して、続く言葉を待った。
「忍が見張りの最中に泣くなど、以ての外ですよ」
「……はい?」
しかし、続く蒼月の言葉にかすみは面喰らった。
67巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:44:08 ID:???
「そもそもあなた、忍としての自覚に欠けています。お陰で私も安心して眠れなかったじゃないですか」
蒼月は、かすみの見張り振りに駄目だしを始めた。
「…お、お、お、起きてたんですか!?」
泣いていた事を指摘された上、忍としての資質まで問われたかすみは、真っ赤になりながら蒼月に問うた。
「だから言ってるじゃないですか、あなたの見張り振りが不安で眠れなかったと」
「………そ、蒼月さん………!!」
さらに憎まれ口を叩く蒼月にかすみは抗議の声をあげようとしたが、言われている事は正論なので何も言い返せなかった。
「そんな事じゃあ、アナタまで殺されてしまいますよ」
「…!」
しかしさらに出た言葉で、かすみは蒼月の真意を悟った。
「…蒼月さん……やっぱり、火月さんの事……」
「あなたを見ていると、あの出来の悪い弟の事を思い出してしかたありません」
「…………はい」
「危なっかしくて、見張りすら任せられない」
「…はい、すいません」
「心配で、とても目を離す事すができない」
「はい」
蒼月の目に、光が戻ってきた。
声にも、呆れた様な響…彼の感情が込められている響。
きっと火月さんは、こんな風に怒られてきたのだろう。
その光景を想像して、かすみはクスリと笑う

「だから、あなたは今後も私の指示に従うようになさい」
「…はい!」

そしてその説教はきっと、何時もこんな風に締めくくられていたのだろう。
68巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:48:18 ID:???
「それでは、行きましょうか」
「はい」
蒼月の提案で、二人は今度はネオとガーネットを探す事にした。
「その『こんぴう太』から、『でいた』を取り出す事にしましょう」
そのイントネーションは悪化していたが、とにかくコンピューターからデータを引き出す為に彼らは再びガーネット達と合流する事に決めた。
「彼らと別れたのは五区ですので、戻る事になりますが…」
「蒼月さん」
蒼月の説明を遮り、かすみが口を開いた。
「…はい、なんでしょうか」
何か質問でもあるのだろうか。そんな風に考える蒼月だったが、
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
かすみは、さらりととんでもない事を言った。
というか、恐らくは意味を勘違いして使っている。
「……あなた、頭悪いでしょう?」
そんなかすみに呆れきった蒼月は、さらりとかすみをそう評する。
しかしそんな蒼月の言葉に、かすみは笑顔でこう返してきた。
「はい!悪いです!」
「だからご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします!」
「………」
ああ、この娘は本当に馬鹿だ。
蒼月はいつかの時のように深々と溜息をついて、しかし少しだけ笑いながら。
「無駄口叩かない、とっとと行きますよ」
「はい!」
そして二人の忍は駆け出した。
風間火月の死を背負って。
69巣食う魔 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 03:55:31 ID:???


───自分は急がなければならない

風間蒼月は焦っていた。
青龍無き今、自分にはアイツを完全に御する事ができないかもしれない。
自らの身に巣食わせた魔は、今や着実にその機を伺っている。

そっと、脇腹に手をやる。
そこには、何か紋章のような模様が僅かながらに浮かび上がっていた。



【かすみ(戦闘服) 所持品:ノートパソコン 拳銃(残り14発+1カートリッジ) IDカード 衣類等 目的:火月捜索】
【風間蒼月 所持品:カッターナイフ 目的:火月捜索、ノートパソコンを扱える人間(できればガーネット)に預ける】
【現在位置:2区西ブロック】

※拳銃弾の予備カートリッジは、オートマチック拳銃であれば流用可能、また弾丸に分解すればリボルバーも可能とします
70訂正 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 04:01:05 ID:???
【かすみ(戦闘服) 所持品:ノートパソコン 拳銃(残り14発+1カートリッジ) IDカード 衣類等 目的:ガーネット達の捜索】

に訂正します。
ご迷惑おかけしてすいません。
71訂正2 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/28 04:06:36 ID:???
蒼月の目的からも火月を抜かしてください……
72魂の慟哭修正版 1/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:49:23 ID:???
記憶が巻き戻される。
あれはいつの頃だったのだろう、あの少女と出合ったのは。

気まぐれに草薙の試合を観戦しようととした霧島。
だが試合時間に遅刻した彼は大慌てで観客席へ走る。
トーストをくわえ鞄を持っていたら、まるで彼が好きな少女漫画の主人公そのものだろう。
これで異性(転校生で美形)とでもぶつかれば完璧だと思いながら角を曲がる。
そしてぶつかった。

「草薙!?」
「京様!?」
草薙と同じ顔の霧島。草薙と同じ服装の少女。
二人は互いを草薙京と間違える。

その後、霧島はその少女と同じ方向を歩きながら会話をした。
自分は草薙と似てる理由、少女はある意味奇抜な格好の意味。
それぞれが説明を終えた後は、少女の草薙トークを聞いた記憶しかなかった。
放っておけば1時間は余裕で語れるのではないかと、当時の霧島にはそういう印象が残っている。
面白半分に現物に会わせたら、霧島には目もくれずにすっ飛んでいった。
京様京様と言う少女を見て、草薙を半分羨ましいと思いもう半分は大変だろうなと思った。

その程度だった。少女についての記憶は。
73魂の慟哭修正版 2/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:50:39 ID:???
霧島はボウガンを握りしめ自動改札を抜けて行った。
恐らく、後ろからは自分を殺し損ねた敵が追いかけてくるだろう。
だが止まる事はできなかった。
どうしてもあの人影の正体を確かめたかったのだ。
「何でだよ……お前も……参加してたのか……?」
霧島は走りながら振り返り、さっきの奴が追ってこないか確かめ、さらにホームに入っていく。
しばらくホームを走りまわった霧島はついに足を止めた。
「…………」
霧島は肩で大きく息をしながらベンチに座った。
「せっかく……知っている奴に会えたと、思ったんだがな」
そう思った霧島がうなだれながら、真っ直ぐ自分が通ってきた道を見つめていた時だった。

その呟きに、思わぬ反応が背後から返ってきた。
「どうしたんですか?」
「!!!」
霧島はびくっと驚き、顔を上げ振り返る。
「………な……」
見知った顔の少女が立っていた。
「フィオ!」
フィオリーナ・ジェルミ。
かつて霧島と共に行動し、霧島と離れ、そして死んだ筈の少女。
「お前、お前生きてたんだな!」
感極まった霧島は叫びながらフィオに抱きついた。確かな温かみが感じられ、それが余計に喜びの元となる。
「よかった……本当に…よかった!」 
泣きそうになるのを堪えて再会と無事を祝う霧島。
彼は気づかない。フィオの笑みがほんの少しだけ歪んでいたことを。
「霧島君、帰りましょう」
「あ?…帰るって、どこへだよ?」
いきなりの誘いに霧島はぽかんと口を開けた。身体を離し、フィオの顔をまじまじと見る。
74魂の慟哭修正版 3/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:52:00 ID:???
その姿はかつて霧島が見たフィオとは何も変わらない。
少女の可憐さと兵士の気丈さを持ち合わせた様な彼女と何一つ変わっていない。
「もう怖がることなんてありません、全部嘘だったんですよ」
そう言いながらフィオは優しげな笑みを浮かべ、霧島に手を差し出した。
「さ、私と一緒に帰りましょう」
「フィオ、冗談はよせっての。流石に悪趣味だぞ?」
霧島はあっけらかんとその手を拒む。
俯くフィオ。髪の毛がわずかに蒼味がかった瞳の前に垂れ下がる。
「………そう、ですか」
「そうだ、ここに誰か来なかったか?多分、俺の知り合いだと思うんだがよ」
そう言って霧島はホームをきょろきょろと見渡していた。
その背後で、フィオは品定めするように床に打ち込んである時刻表の立て札を見ると、それに手を触れた。
「なあ、フィ……」と霧島が振り向いた時、

べきゃっ、メキメキメキメキ……
フィオは当たり前の様に、
 時 刻 表 を 床 か ら 引 き 抜 い た 。
霧島が目の前の光景を認識するためには暫くの時間がかかった。
ずがぁんっ!という音と同時に足下の床が欠片となり舞い上がる。
「……畜生っ!」
避けようとして体勢を崩しかけた霧島は落としたボウガンも拾わずに逃げ出した。
今更思い出した様にさっきの敵の様子も気になり後ろを見ようとしたが、フィオの投げた公衆電話が飛んできてそれどころではなくなった。

「どうしたんですか、待ってくださいよ〜♪」
「待てるかあああああああああああああああっ!!!」

飛んでくるベンチやらゴミ箱やらを必死で避け、自動改札に続く階段の陰に隠れ、フィオの位置を確認する為に耳を澄ます。
軽やかな足音も、手当たり次第に飛んでくる物も、楽しそうに追いかける鬼の声も、聞こえてこない。
ひとまず追跡をやり過ごした、そう考えた霧島は苛立ちながら思考を巡らせる。
75魂の慟哭修正版 4/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:53:15 ID:???
フィオの変貌ぶりに霧島は何が何だか分からなくなっていた。
その時、自分の近くに先客が居ることに気づく。
「……やっぱりお前だったのか!」
いつかの記憶と全く同じ少女が、そこに居た。草薙と同じ服装の少女が。
例え時間は短くとも、やっと自分を知っている人間に出会えた。そしてまだ生きている。
そう思うと嬉しくて笑みが出てしまう。寂しさ似た孤独感も消える。
「確か草薙のファンやってたよな?つーか今でも現在進行形みたいだけどよ……」
フィオが来ないか見張りながら小声で少女に話しかける。
少女の反応はない。
「あー、やっぱ忘れちまってるよな…
 俺の名は霧島翔、少女漫画読破と切手集めが趣味の19歳!前に一度会ったろ?」
霧島が自己紹介を始めても何も答えようとしない。
「安心しろ、別に怪しい奴じゃないぜ?草薙と同じ炎が使えるただの現役暴走族なだけだ」
「……同じ…京様と…おんなじ…」
少女はうわ言の様に霧島の言葉を呟く。
草薙を失ったショックでこうなったのだろうか、霧島は勝手にそう推測する。
「えーとだな、とにかく俺と一緒に来ないか?つぅか来い!
 俺だって草薙が死んで悲しいけどよ、アイツの分まで生きないと報われねえ!」
とにかくコイツを何とか励ましてやろう、そしてフィオを落ち着かせて3人で一緒に行こう。
霧島は蜘蛛の糸を掴んだ。その先が天上ではないと知らずに。
「そんで………んー、名前何つったか?」

その時、霧島は背後からとんととん、と肩を叩かれた。
「???!!」
すぐ後ろにフィオが眼鏡を光らせながら不気味に存在していた。

76魂の慟哭修正版 5/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:55:14 ID:???
「やっと見つけましたよ、霧島君」
フィオの両腕に何かがぶらさがっている。
(…………?)
それを見ようと眼を向けた霧島に、風を切る鋭い音が聞こえた。
ぶうぅんっ!―――と風音。
その瞬間、何か黒い固まりが霧島に向かっていった。
「な、何だあ!?」
フィオは霧島に狙いを定めて持っていた何かを振り回していた。
霧島は反射的に身をかがめながら避ける。
 ぶぅん!   ぶぅん! ぶぅん!   ぶぅん! ぶぅん! ぶぅん!   ぶぅん!
(いつの間に? 何故だ? どうやって? やばい! 当たる! 振り回すな! くそっ!)
「霧島く〜ん、これはどうでしょうか〜!」
 ぶううぅん! ぶううぅん!      ぶうぅん!    ぶううぅん!
(何だこれ! ちょっと待ってくれよ! やべえ当たる! だから回すんじゃねえっての!)
ふと何かが霧島の顔に当たった。赤い小さな肉片の様なもの。
「!」
出所は勿論、フィオが振り回している物体。
避けるのに夢中になっていた霧島は初めてそれの正体に気づいた。

(……………………………………………死体だ)

既にフィオの握力で裂け頚骨が出かかっている首根っこを掴みながら、人間であった物が振り回されている。
フィオはそれを辺りの壁に叩きつけながらクルクルと踊るように回転した。勢いで頭皮がむしりとられ、四肢がこぞって胴体から離れようとしてる。
ついには鼻が潰れ、額に亀裂が走り、その裂け目から詰まっていた物が飛び出る。
ぼふしゅっ!!
ぱくぱくと金魚の様に口を開けて呆然としていた霧島に、胴体から離れ遠心力で飛んだ生首が当たる。
「どうですか、とっても面白い武器でしょう?」
フィオが顔を抑えている霧島を見て笑っている。眼鏡に返り血がこびりついていた。
77魂の慟哭修正版 6/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:56:23 ID:???
霧島は顔を引きつらせながら自分のすぐ足元に落ちた首に視線を向けた。
「!!」
それは、滅茶苦茶にされた、大きくて柔らかいドロドロとしたものだった。
腐食が始まっているのか白い小さな虫があちこちから出入りしていた。
だが霧島を驚愕させたのはそれが原因ではない。
原因はかろうじて分かった顔が霧島のよく知っている人物だったこと。それは……
「フィオ……お前、どうしちまったんだよ……」
もはや上半身半分になった死体を持ったフィオは、霧島の問いにもにこりと笑うだけだ。
「こいつは…俺の知り合いだったんだぞ!!」
そう、フィオの振り回していた死体は草薙京のものだった。
「なあ!一体何があったんだ?頼むから正気に戻ってくれ!!」
霧島はフィオの細い肩を揺さぶり、必死で呼びかけた。尻尾の様な後ろ髪がゆらゆらと動く。
「フィオ!!!!」
霧島はさすがにフィオの存在に疑いを持ち始めた。
そして、今の状況について思考を働かせ答えを導き出そうとする。

「京様」

だが最悪のタイミングで、もう一つの仕掛けが動き出した。

78魂の慟哭修正版 7/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:57:47 ID:???
散らばった臓腑をかき集め顔をうずめて泣いている少女。
「きょうさまぁ」
ヘアスタイルも何もあったものではない程、髪が崩れて血がへばりつきぐしゃぐしゃになった。
霧島は思わず少女に手を伸ばす。
悲しかったんだろ?辛かったんだろ?少女にそう言って慰めてあげようとする。

「きもちわるい」

瞬間、霧島は自分に走った衝撃の意味を理解できなかった。
しばらく呆然と立ち尽くし、まるで思い出したかの様に己の身体に視線を動かす。



右腕がなかった。

「あっ、う、うわああああああああああああああああ!!!!!!」
霧島は、既にない右腕を掻き抱こうとする。
少女の細い手に霧島の求めるそれがあった。そして鮮やかに赤い斑点がそこから自分まで続いている。
無造作に、けれど流麗な所作でそれは放り投げられ、フィオの足元に落ちた。
79魂の慟哭修正版 8/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 00:59:35 ID:???
「おおおい、おちつ…」
   そう呼びかける霧島が見る世界の半分で指と歪みと滲みが順番に襲い掛かる。

「その顔、気持ち悪いの」
   最後は黒い闇しか残らなくなり、無事な右目の瞳孔が針の穴のように収縮した。

「……あ、ぅ?あ?」と、再び事態が理解できずにいる霧島。
   挿入された指がぐりぐりと動き、引きぬくと眼球があっけなく外れる。

「い! ぎ! おあああぁぁぁああああああ!!!!!!!」
   血塗れた肉の水晶を見て、霧島の左腕が「返せ」と言わんばかりに動く。

「なんであなたは生きてるのようぅ、なんで京様みたいに死なないのようッ!」
   床を赤く染め、霧島は動かせる所を全部動かしながら蠢いた。

「…あぐ、お……ぎぃ、う、あ…ぁぁぁ」
   不規則に呼吸を続ける霧島は、片方になった視線をフィオに向け救いを求める。

「どうしたの、霧島君?」と、笑いながら見てるフィオ。
   フィオへの疑問を知覚するいとまをすら与えず、霧島は少女に倒され馬乗りにされた。

「同じなんでしょ、同じなんでしょ、ねえ同じなんでしょうっっっ!?」
   狂気の涙と忘我にあふれた唾液が霧島の顔に落ちる。右肩が裂け、飛んだ血飛沫が少女の頬や髪に散った。

「や、め、やめっ、やめろおおおおおッッッッ!!!!!!!!」
   何もわからずに霧島は少女の動きを止めようとした。そして、残された左腕を動かした。
80魂の慟哭修正版 9/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 01:00:43 ID:???
どぼっ、という嫌な音。
爪が肉を切り裂き、霧島の手に背中へと抜けた絶望的な感覚と赤い命のしたたりが伝わる。
我に返った霧島が見上げると、少女が病的に顔を引きつらせ舌を無意味に突き出していた。
「キ、きょ、ウ、ううう、うさ、さっ、マ、ま」
はらわたと血の粘りに絡まりながら抜かれる腕が、てらてらと赤く光る。
霧島の見る前で空ろな目は急速に光を失っていく、その瞳が微笑んでいる様にも見えた。
“京様”という少女の声が霧島の耳に響いた。少なくとも響いたつもりだった。
それきりだった。

どさり。
腹部から背中に穴を穿たれた少女は、やがて霧島の上に倒れた。

 殺した
     俺が
        彼女を
            この手で
                 ……殺した
                        あ
                           …ぁああ…
                                 ああああああ!!!
81魂の慟哭修正版 10/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 01:02:19 ID:???
残された理性が破壊された。
霧島の優しさが、何十倍の苦痛となり自らに返ってきた。
八神の時の様な事故ではなく、明らかに自分の意思で殺した。しかも、仲間にしようとした少女を。
霧島は少女を押しのけ立ち上がろうとしたが、すぐにその場に崩れ落ちる。
「…畜生…畜生…ちくしょお」
血塗れの手で頭を掻き毟った。少女の鮮血で、霧島の髪はその色相を禍禍しく変えていく。
優しい声が霧島の心に応えてきた。
「大丈夫ですよ、全部嘘なんですから」
うそだうそだと逃避する彼の思いを読み取ったかの様に声がそう告げる。
「だから、何も心配要らないんです。これでもう終わりなんですから」
その声は優しく包み込んで全てを許してくれるかの様にも聞こえた気がした。
まるで神託の様にすら思えてしまうが、その考えはすぐに消される。
「……フィオ……」
違う、これはフィオの声だ。そう、フィオ。
そう思った霧島は目線を上げて、声の主を見た。
「ふぃお、おれ、おれは……」
返される柔らかな笑顔に霧島は深く安堵する。
にこりと笑んだままの少女を、拒む程の思考は残されていない。
フィオの手が霧島の頬に触れる。
(…あったけぇな…)
このまま何もかも溶けて無くなりそうな感触に霧島は顔を緩ませた。
フィオに身体も心も抱き込まれた感じがして、全てが空ろになっていく。


「「さあ、おしまいの時間よ」」
フィオの声にもう一つの声が重なり合う。
最後の仕上げが終わろうとしていた。
82魂の慟哭修正版 11/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 01:05:09 ID:???
霧島の眼に丸い何かが映る。
(……草薙)
そして、倒れてる少女にも目を向ける。
二つの見知った顔の死体。
普通なら狂気に走らせそうな光景が、霧島の中で小さな火種となる。
ふつふつと、霧島の心が戻ってくる。
(……駄目、だ……)
フィオが霧島を抱き込みながら顔を近づけさせているのに、彼はようやく気づいた。
このまま全てを終わるのを望んでいる筈が、霧島のどこかで警鐘を叩く音がする。
(…るか)
火種は蝋燭の様な小さな灯火となり、やがて炎に成る。
一瞬フィオを見てためらうが、頭を振りフィオではないと自分に言い聞かせる。
これはフィオの姿をした何かだ。本当の彼女が見せた優しさはもっと違う輝きをしていた気がしたから。
心の中でフィオに謝りながら、安全装置を一つ一つ確実に外していく。
(こんな所で…終わらせて……)
周囲に炎が充満していく。
「!?」
異変に気づいたフィオが離れようとしたが、既に遅かった。
「たまるかってんだよおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」


閃光。
赤い炎が全てを焼き尽くした。
83魂の慟哭修正版 12/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 01:06:21 ID:???
(以下、原文の「きゃあっ!」から、赤い瞳が深みを〜まで同文)


眼を開けるとそこはベンチの上だった。
「………」
霧島は辺りを見回す。
少女も、草薙も、そしてフィオも、全てが消えていた。
はっとして身体を触る。右腕も、左眼も、ちゃんとある。
変化は何も無い、最初にここでうなだれていた時と全く同じだ。
「……夢……か?」
ふと傍らに何かがあるのが見えた。
ドラゴンの姿をしたぬいぐるみがぽつんと、翔を見つめていた。
「お前がぱぴぃ……じゃ、ないよな」
霧島はぬいぐるみを指で小突き、小さく息をついた。目を細めて宙を見る―――睨むように。

フィオと草薙が死に、何故自分だけがのうのうと生きているのか。

霧島が心の奥で小さく小さく折りたたんでいたもの。
それを無理矢理に無限の回数だけ開かされ、見せつけられた様な夢だった。


(以下、原文のヴィレンは路地の〜から、いくら考えてもその問いに〜まで同文)
84魂の慟哭修正版 13/13 ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 01:07:46 ID:???
霧島はベンチに座り、夢の意味を考えていた。
あの少女は、もう一人の霧島だ。
姿形は記憶の中の少女そのものだが、一つだけ違っていた。
霧島が頭の片隅にこっそりと隠していた想いを、彼女が目の前に押し付けた所だ。
何故、生きているのかと。
そして、そう思った瞬間湧き上がった何かに後押されるように、瞳からこぼれ落ちるものがある。

「……なんだあ、これ」

それは涙という液体だ。だが、言葉が思いついてこない。
体がとても重い気がする。まるで随分と長い間眠りについていた感覚。
高尚な感情を表現するものにはとても思えないただの水。
草薙が死んだ時に出し尽くした筈なのに、それが馬鹿みたいに止まらない。

霧島は泣いていた。
今だけは、一人で泣いていたかった。
悲しみも虚しさも、ここで全部焼き尽くしておきたかった。
そしてこの涙が終わったら、新しい霧島翔に生まれ変わっておきたかった。

霧島は涙を流しながら、自分でも知らない内に叫んでいた。
「生き残ってやる」と。
今だ止まらぬまま暴走する電車がホームを通り過ぎる。
だがその通過音に霧島の叫び声がかき消されることは決してなかった。
85魂の慟哭修正版  ◆s7xVRD8NOA :05/03/02 01:13:04 ID:???
【霧島 翔 
 所持品:ハーピーの声(脱力効果あり)入りテープとラジカセ、ボウガン(矢残り5本) 闇の幸運種ぬいぐるみ
 目的:パピィ(正体不明)を保護する、首輪解除の方法を探す】
【ヴィレン(左脚骨折・やや痛みが出始めている)
 所持品:チェーン、鉄針、鉄釘、パチンコ玉など暗器多数、アーミーナイフ、組み立て式ボウガン(組み立て済) 目的:ゲームに参加、隠れられる場所を探す】
【リリス(能力抑えられ気味・少し疲弊) 所持品:支給品は不明 目的:おつかい完了、ヴィレンに追いついて守ってもらう】
【現在地:2区・霧島は地下鉄ホーム内 リリスとヴィレンは地下鉄から少し離れてます】
86ゲームセンター名無し:05/03/05 23:47:32 ID:???
ホス
ルガール「保守、と後は送き込みボタンを押して…
ヒメーネ「ルガール様!それは自爆スイ
ルガール「ん?(ぽちっ)






    ∧ ∧         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄( ゚Д゚) ̄ ̄|   <   うおああぁぁあぁぁ
|\⌒⌒⌒⌒⌒⌒\   \ ……夢か
|  \           \    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
\  |⌒⌒⌒⌒⌒⌒|
  \ |_______|
88ゲームセンター名無し:05/03/11 01:30:44 ID:???
    ∧ ∧         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄( ゚Д゚) ̄ ̄|   <   うおああぁぁあぁぁ
|\⌒⌒⌒⌒⌒⌒\   \ ……朝か
|  \           \    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
\  |⌒⌒⌒⌒⌒⌒|
  \ |_______|
89闇逝き列車修正:05/03/14 13:00:42 ID:???
「……いつまでここに居るつもりだよ」〜抑えきれず声に出し霧島は笑った。自分の愚かさを。
この段落を全て削除。代わりに以下の文を追加。

霧島は手で頭を払った。水の欠片が落ちる。
「……はぁ」
ひとしきり泣いた後、霧島は駅の洗面所に向かった。
そしてまとまらない頭を元に戻すために水を頭から被っていた。
「フィオはともかく、何であんな奴の夢まで見たんだが」
目の前の鏡を見ながら霧島はそう呟く。
「そういや、もう一人似たような奴が居た気がするな……」
草薙を慕っている少年が居たのを霧島は思い出した。
「名前、何だったかな、シンジだったか?」
その少年はインパクトだけなら少女に負けない位あったのだが。
大して気にも止めていない、話もしたことがない、おまけに野郎。
その条件で遥か彼方に忘却したので名前までは思い出せなかった。
「ま、いいか」
とりあえず思い出せないのだから仕方がない。
そう考えながら霧島は手まで洗おうとした。
自分の手には血など付いていないのにも関わらず、だ。
それに気づき、思わず苦笑する。

「帰ったら……」
洗面台の手前側に手を付き、はぁ、と溜まっていた物を吐き出すような息をして、
「会って話がしてぇな」
誰にも聞かれないような声で霧島はそう呟いた。
90闇逝き列車修正:05/03/14 13:02:25 ID:???
「さて、戻るか」
霧島はそう言いながら地上への階段を登ろうとした。
そこで完全に忘れてたことを思い出す。
「……って、戻ったら不味いじゃねえか!」
自分は何者かの襲撃に遭って逃げ回っていたのだ。
「もし、ここでのこのこと戻ったら……」

かつかつかつ。
「いやっほう!太陽がまぶしいぜ!」
どすっ!ばたり。
きりしまはしにました。

「それは不味い……」
冷や汗を流しながら霧島は打開策を考え始める。
そこでもう一つの事実に気づく。
「そうだ、電車に乗って逃げればいいんじゃねえか」
念の為にボウガンを持ちながらホームに向かって走る。
すると、ちょうどそれらしき音が聞こえてきた。
「よっしゃあ!おーい、止まってくれー!」
向かってくる電車に手を振る霧島。
ゴオオオオォォォォ…
だが、電車は無常にも霧島の眼の前を通り過ぎていった。

霧島は固まっていた。
電車が通り過ぎたことに固まっていたのではなく。
先頭車両に顔がへばりついていた、それと眼があったことに固まっていた。
91闇逝き列車修正:05/03/14 13:07:28 ID:???

ちょうどその頃。
霧島が地上に向かって歩きだした時だった。

ゴオオオオォォォォ…
一つの車両がホームに向かって走ってきた。
(お前もどうせ、俺を無視するんだろう?)
そう考えた霧島が去ろうとする。

上記の文を以下の文に変更してください。

ちょうどその頃。
「だあああ!何で止まらねえんだよ、この駅は!駅の意味あるのか!」
何度か通り過ぎた列車に暴言を吐く霧島。
「仕方ねえ、一か八か外に出て……」
覚悟を決めて霧島が地上に向かって歩きだした時だった。

ゴオオオオォォォォ…
一つの車両がホームに向かって走ってきた。
(……いや、流石にもう止まらないよな)
そう考えた霧島が去ろうとする。
92魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:17:44 ID:???
記憶が巻き戻される。
あれはいつの頃だったのだろう、あの少女と出合ったのは。

気まぐれに草薙の試合を観戦しようととした霧島。
だが試合時間に遅刻した彼は大慌てで観客席へ走る。
トーストをくわえ鞄を持っていたら、まるで彼が好きな少女漫画の主人公そのものだろう。
これで異性(転校生で美形)とでもぶつかれば完璧だと思いながら角を曲がる。
そしてぶつかった。

「草薙!?」
「京様!?」
草薙と同じ顔の霧島。草薙と同じ服装の少女。
二人は互いを草薙京と間違える。

その後、霧島はその少女と同じ方向を歩きながら会話をした。
自分は草薙と似てる理由、少女はある意味奇抜な格好の意味。
それぞれが説明を終えた後は、少女の草薙トークを聞いた記憶しかなかった。
放っておけば1時間は余裕で語れるのではないかと、当時の霧島にはそういう印象が残っている。
面白半分に現物に会わせたら、霧島には目もくれずにすっ飛んでいった。
京様京様と言う少女を見て、草薙を半分羨ましいと思いもう半分は大変だろうなと思った。

その程度だった。少女についての記憶は。
93魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:18:46 ID:???
霧島はボウガンを握りしめ自動改札を抜けて行った。
恐らく、後ろからは自分を殺し損ねた敵が追いかけてくるだろう。
だが止まる事はできなかった。
どうしてもあの人影の正体を確かめたかったのだ。
「何でだよ……お前も……参加してたのか……?」
霧島は走りながら振り返り、さっきの奴が追ってこないか確かめ、さらにホームに入っていく。
しばらくホームを走りまわった霧島はついに足を止めた。
「…………」
霧島は肩で大きく息をしながらベンチに座った。
「せっかく……知っている奴に会えたと、思ったんだがな」
そう思った霧島がうなだれながら、真っ直ぐ自分が通ってきた道を見つめていた時だった。

その呟きに、思わぬ反応が背後から返ってきた。
「どうしたんですか?」
「!!!」
霧島はびくっと驚き、顔を上げ振り返る。
「………な……」
見知った顔の少女が立っていた。
「フィオ!」
フィオリーナ・ジェルミ。
かつて霧島と共に行動し、霧島と離れ、そして死んだ筈の少女。
「お前、お前生きてたんだな!」
感極まった霧島は叫びながらフィオに抱きついた。確かな温かみが感じられ、それが余計に喜びの元となる。
「よかった……本当に…よかった!」 
泣きそうになるのを堪えて再会と無事を祝う霧島。
彼は気づかない。フィオの笑みがほんの少しだけ歪んでいたことを。
「霧島君、帰りましょう」
「あ?…帰るって、どこへだよ?」
いきなりの誘いに霧島はぽかんと口を開けた。身体を離し、フィオの顔をまじまじと見る。
94魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:19:49 ID:???
その姿はかつて霧島が見たフィオとは何も変わらない。
少女の可憐さと兵士の気丈さを持ち合わせた様な彼女と何一つ変わっていない。
「もう怖がることなんてありません、全部嘘だったんですよ」
そう言いながらフィオは優しげな笑みを浮かべ、霧島に手を差し出した。
「さ、私と一緒に帰りましょう」
「フィオ、冗談はよせっての。流石に悪趣味だぞ?」
霧島はあっけらかんとその手を拒む。
俯くフィオ。髪の毛がわずかに蒼味がかった瞳の前に垂れ下がる。
「………そう、ですか」
「そうだ、ここに誰か来なかったか?多分、俺の知り合いだと思うんだがよ」
そう言って霧島はホームをきょろきょろと見渡していた。
その背後で、フィオは品定めするように床に打ち込んである時刻表の立て札を見ると、それに手を触れた。
「なあ、フィ……」と霧島が振り向いた時、

べきゃっ、メキメキメキメキ……
フィオは当たり前の様に、
 時 刻 表 を 床 か ら 引 き 抜 い た 。
霧島が目の前の光景を認識するためには暫くの時間がかかった。
ずがぁんっ!という音と同時に足下の床が欠片となり舞い上がる。
「……畜生っ!」
避けようとして体勢を崩しかけた霧島は落としたボウガンも拾わずに逃げ出した。
今更思い出した様にさっきの敵の様子も気になり後ろを見ようとしたが、フィオの投げた公衆電話が飛んできてそれどころではなくなった。

「どうしたんですか、待ってくださいよ〜♪」
「待てるかあああああああああああああああっ!!!」

飛んでくるベンチやらゴミ箱やらを必死で避け、自動改札に続く階段の陰に隠れ、フィオの位置を確認する為に耳を澄ます。
軽やかな足音も、手当たり次第に飛んでくる物も、楽しそうに追いかける鬼の声も、聞こえてこない。
ひとまず追跡をやり過ごした、そう考えた霧島は苛立ちながら思考を巡らせる。
95魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:21:18 ID:???
フィオの変貌ぶりに霧島は何が何だか分からなくなっていた。
その時、自分の近くに先客が居ることに気づく。
「……やっぱりお前だったのか!」
いつかの記憶と全く同じ少女が、そこに居た。草薙と同じ服装の少女が。
例え時間は短くとも、やっと自分を知っている人間に出会えた。そしてまだ生きている。
そう思うと嬉しくて笑みが出てしまう。寂しさ似た孤独感も消える。
「確か草薙のファンやってたよな?つーか今でも現在進行形みたいだけどよ……」
フィオが来ないか見張りながら小声で少女に話しかける。
少女の反応はない。
「あー、やっぱ忘れちまってるよな…
 俺の名は霧島翔、少女漫画読破と切手集めが趣味の19歳!前に一度会ったろ?」
霧島が自己紹介を始めても何も答えようとしない。
「安心しろ、別に怪しい奴じゃないぜ?草薙と同じ炎が使えるただの現役暴走族なだけだ」
「……同じ…京様と…おんなじ…」
少女はうわ言の様に霧島の言葉を呟く。
草薙を失ったショックでこうなったのだろうか、霧島は勝手にそう推測する。
「えーとだな、とにかく俺と一緒に来ないか?つぅか来い!
 俺だって草薙が死んで悲しいけどよ、アイツの分まで生きないと報われねえ!」
とにかくコイツを何とか励ましてやろう、そしてフィオを落ち着かせて3人で一緒に行こう。
霧島は蜘蛛の糸を掴んだ。その先が天上ではないと知らずに。
「そんで………んー、名前何つったか?」

その時、霧島は背後からとんととん、と肩を叩かれた。
「???!!」
すぐ後ろにフィオが眼鏡を光らせながら不気味に存在していた。
96魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:22:47 ID:???
「やっと見つけましたよ、霧島君」
フィオの両腕に何かがぶらさがっている。
(…………?)
それを見ようと眼を向けた霧島に、風を切る鋭い音が聞こえた。
ぶうぅんっ!―――と風音。
その瞬間、何か黒い固まりが霧島に向かっていった。
「な、何だあ!?」
フィオは霧島に狙いを定めて持っていた何かを振り回していた。
霧島は反射的に身をかがめながら避ける。
 ぶぅん!   ぶぅん! ぶぅん!   ぶぅん! ぶぅん! ぶぅん!   ぶぅん!
(いつの間に? 何故だ? どうやって? やばい! 当たる! 振り回すな! くそっ!)
「霧島く〜ん、これはどうでしょうか〜!」
 ぶううぅん! ぶううぅん!      ぶうぅん!    ぶううぅん!
(何だこれ! ちょっと待ってくれよ! やべえ当たる! だから回すんじゃねえっての!)
ふと何かが霧島の顔に当たった。赤い小さな肉片の様なもの。
「!」
出所は勿論、フィオが振り回している物体。
避けるのに夢中になっていた霧島は初めてそれの正体に気づいた。

(……………………………………………死体だ)

既にフィオの握力で裂け頚骨が出かかっている首根っこを掴みながら、人間であった物が振り回されている。
フィオはそれを辺りの壁に叩きつけながらクルクルと踊るように回転した。勢いで頭皮がむしりとられ、四肢がこぞって胴体から離れようとしてる。
ついには鼻が潰れ、額に亀裂が走り、その裂け目から詰まっていた物が飛び出る。
ぼふしゅっ!!
ぱくぱくと金魚の様に口を開けて呆然としていた霧島に、胴体から離れ遠心力で飛んだ生首が当たる。
「どうですか、とっても面白い武器でしょう?」
フィオが顔を抑えている霧島を見て笑っている。眼鏡に返り血がこびりついていた。
97魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:23:48 ID:???
霧島は顔を引きつらせながら自分のすぐ足元に落ちた首に視線を向けた。
「!!」
それは、滅茶苦茶にされた、大きくて柔らかいドロドロとしたものだった。
腐食が始まっているのか白い小さな虫があちこちから出入りしていた。
だが霧島を驚愕させたのはそれが原因ではない。
原因はかろうじて分かった顔が霧島のよく知っている人物だったこと。それは……
「フィオ……お前、どうしちまったんだよ……」
もはや上半身半分になった死体を持ったフィオは、霧島の問いにもにこりと笑うだけだ。
「こいつは…俺の知り合いだったんだぞ!!」
そう、フィオの振り回していた死体は草薙京のものだった。
「なあ!一体何があったんだ?頼むから正気に戻ってくれ!!」
霧島はフィオの細い肩を揺さぶり、必死で呼びかけた。尻尾の様な後ろ髪がゆらゆらと動く。
「フィオ!!!!」
霧島はさすがにフィオの存在に疑いを持ち始めた。
そして、今の状況について思考を働かせ答えを導き出そうとする。

「京様」

だが最悪のタイミングで、もう一つの仕掛けが動き出した。
98魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:25:35 ID:???
散らばった臓腑をかき集め顔をうずめて泣いている少女。
「きょうさまぁ」
ヘアスタイルも何もあったものではない程、髪が崩れて血がへばりつきぐしゃぐしゃになった。
霧島は思わず少女に手を伸ばす。
悲しかったんだろ?辛かったんだろ?少女にそう言って慰めてあげようとする。

「きもちわるい」

瞬間、霧島は自分に走った衝撃の意味を理解できなかった。
しばらく呆然と立ち尽くし、まるで思い出したかの様に己の身体に視線を動かす。



右腕がなかった。

「あっ、う、うわああああああああああああああああ!!!!!!」
霧島は、既にない右腕を掻き抱こうとする。
少女の細い手に霧島の求めるそれがあった。そして鮮やかに赤い斑点がそこから自分まで続いている。
無造作に、けれど流麗な所作でそれは放り投げられ、フィオの足元に落ちた。
99魂の慟哭修正版(全文バージョン):05/03/16 01:26:33 ID:???
「おおおい、おちつ…」
   そう呼びかける霧島が見る世界の半分で指と歪みと滲みが順番に襲い掛かる。

「その顔、気持ち悪いの」
   最後は黒い闇しか残らなくなり、無事な右目の瞳孔が針の穴のように収縮した。

「……あ、ぅ?あ?」と、再び事態が理解できずにいる霧島。
   挿入された指がぐりぐりと動き、引きぬくと眼球があっけなく外れる。

「い! ぎ! おあああぁぁぁああああああ!!!!!!!」
   血塗れた肉の水晶を見て、霧島の左腕が「返せ」と言わんばかりに動く。

「なんであなたは生きてるのようぅ、なんで京様みたいに死なないのようッ!」
   床を赤く染め、霧島は動かせる所を全部動かしながら蠢いた。

「…あぐ、お……ぎぃ、う、あ…ぁぁぁ」
   不規則に呼吸を続ける霧島は、片方になった視線をフィオに向け救いを求める。

「どうしたの、霧島君?」と、笑いながら見てるフィオ。
   フィオへの疑問を知覚するいとまをすら与えず、霧島は少女に倒され馬乗りにされた。

「同じなんでしょ、同じなんでしょ、ねえ同じなんでしょうっっっ!?」
   狂気の涙と忘我にあふれた唾液が霧島の顔に落ちる。右肩が裂け、飛んだ血飛沫が少女の頬や髪に散った。

「や、め、やめっ、やめろおおおおおッッッッ!!!!!!!!」
   何もわからずに霧島は少女の動きを止めようとした。そして、残された左腕を動かした。
どぼっ、という嫌な音。
爪が肉を切り裂き、霧島の手に背中へと抜けた絶望的な感覚と赤い命のしたたりが伝わる。
我に返った霧島が見上げると、少女が病的に顔を引きつらせ舌を無意味に突き出していた。
「キ、きょ、ウ、ううう、うさ、さっ、マ、ま」
はらわたと血の粘りに絡まりながら抜かれる腕が、てらてらと赤く光る。
霧島の見る前で空ろな目は急速に光を失っていく、その瞳が微笑んでいる様にも見えた。
“京様”という少女の声が霧島の耳に響いた。少なくとも響いたつもりだった。
それきりだった。

どさり。
腹部から背中に穴を穿たれた少女は、やがて霧島の上に倒れた。

 殺した
     俺が
        彼女を
            この手で
                 ……殺した
                        あ
                           …ぁああ…
                                 ああああああ!!!
残された理性が破壊された。
霧島の優しさが、何十倍の苦痛となり自らに返ってきた。
八神の時の様な事故ではなく、明らかに自分の意思で殺した。しかも、仲間にしようとした少女を。
霧島は少女を押しのけ立ち上がろうとしたが、すぐにその場に崩れ落ちる。
「…畜生…畜生…ちくしょお」
血塗れの手で頭を掻き毟った。少女の鮮血で、霧島の髪はその色相を禍禍しく変えていく。
優しい声が霧島の心に応えてきた。
「大丈夫ですよ、全部嘘なんですから」
うそだうそだと逃避する彼の思いを読み取ったかの様に声がそう告げる。
「だから、何も心配要らないんです。これでもう終わりなんですから」
その声は優しく包み込んで全てを許してくれるかの様にも聞こえた気がした。
まるで神託の様にすら思えてしまうが、その考えはすぐに消される。
「……フィオ……」
違う、これはフィオの声だ。そう、フィオ。
そう思った霧島は目線を上げて、声の主を見た。
「ふぃお、おれ、おれは……」
返される柔らかな笑顔に霧島は深く安堵する。
にこりと笑んだままの少女を、拒む程の思考は残されていない。
フィオの手が霧島の頬に触れる。
(…あったけぇな…)
このまま何もかも溶けて無くなりそうな感触に霧島は顔を緩ませた。
フィオに身体も心も抱き込まれた感じがして、全てが空ろになっていく。


「「さあ、おしまいの時間よ」」
フィオの声にもう一つの声が重なり合う。
最後の仕上げが終わろうとしていた。
霧島の眼に丸い何かが映る。
(……草薙)
そして、倒れてる少女にも目を向ける。
二つの見知った顔の死体。
普通なら狂気に走らせそうな光景が、霧島の中で小さな火種となる。
ふつふつと、霧島の心が戻ってくる。
(……駄目、だ……)
フィオが霧島を抱き込みながら顔を近づけさせているのに、彼はようやく気づいた。
このまま全てを終わるのを望んでいる筈が、霧島のどこかで警鐘を叩く音がする。
(…るか)
火種は蝋燭の様な小さな灯火となり、やがて炎に成る。
一瞬フィオを見てためらうが、頭を振りフィオではないと自分に言い聞かせる。
これはフィオの姿をした何かだ。本当の彼女が見せた優しさはもっと違う輝きをしていた気がしたから。
心の中でフィオに謝りながら、安全装置を一つ一つ確実に外していく。
(こんな所で…終わらせて……)
周囲に炎が充満していく。
「!?」
異変に気づいたフィオが離れようとしたが、既に遅かった。
「たまるかってんだよおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」


閃光。
赤い炎が全てを焼き尽くした。
「きゃあっ!」
発せられた灼熱の炎に少女は悲鳴をあげ、抱き寄せていた人物を慌てて突き飛ばした。
アメジストを思わせる短い髪に移りそうになった炎を必死で払い落とす。
身体のいくつかに出来た軽い火傷を見ながらリリスは「む〜」と子供のようにふくれていた。
「痛いなあ、もう。乱暴な男はきらわれちゃうよ?」
不満と驚きが入った瞳で倒れている霧島を覗き込む。

先程の少女と草薙は彼女が見せた夢。
普通ならあのまま魂を飲み込まれるはずが意外な反撃を食らい、リリスは少々驚いていた。
その原因は二つに絞られる。
霧島がかなりの強靭な精神力を持っているか、それとも……
「……本当に力が弱くなっちゃってる、モリガンのケチ」
モリガンに「おやくそく」を言われた時から何となく予想は着いていた。
元々リリスは自分の欲求に素直な分、あまり約束は守ってない。というより進んで守らない。
例えばもし霧島の魂を食べてそれについて言及されてもリリスはこう答えるだろう。
『人の前で使ってないならいいんでしょ? それにごはんとお菓子は別腹なんだもん』と。
それを見越した上でいくらか能力へ制限がかけてあり、有事の時の為に半分の力しか出せないようにされているのだ。
「あーあ、疲れたぁ。いつもならこんなの簡単に出きるのに」
本当かどうか確かめようと適当な人間に試したが、火傷と疲労と言うお仕置きをされてしまいリリスは軽くため息をつく。

単なる実験とちょっとした味見、それが霧島に夢を見せた理由だった。

「……まあ、いっか。ヴィレン君がいるんだから。この子の夢もなかなか面白かったしね」
倒れている霧島の様子を見て、リリスが悪戯を成功させた子供のように、くすくすと笑い始めた。
いくら力が制限されているとはいえ、あのまま抵抗していなかったら確実に鑑恭介の二の舞だった筈だ。
「はい、努力賞あげる♪」
霧島の横にぬいぐるみを置いてリリスは外へ出ようとした。だが、その前に後ろを振り返る。
「おもちゃは二つもいらないもんね、バイバイ」
赤い瞳が深みを増して霧島を映していた。
眼を開けるとそこはベンチの上だった。
「………」
霧島は辺りを見回す。
少女も、草薙も、そしてフィオも、全てが消えていた。
はっとして身体を触る。右腕も、左眼も、ちゃんとある。
変化は何も無い、最初にここでうなだれていた時と全く同じだ。
「……夢……か?」
ふと傍らに何かがあるのが見えた。
ドラゴンの姿をしたぬいぐるみがぽつんと、翔を見つめていた。
「お前がぱぴぃ……じゃ、ないよな」
霧島はぬいぐるみを指で小突き、小さく息をついた。目を細めて宙を見る―――睨むように。

フィオと草薙が死に、何故自分だけがのうのうと生きているのか。

霧島が心の奥で小さく小さく折りたたんでいたもの。
それを無理矢理に無限の回数だけ開かされ、見せつけられた様な夢だった。
ヴィレンは路地の死角に隠れながら息を潜める。
「………」
獲物が地下鉄に降りていくのを見たが、あえて追いかけずそのまま待っていた。
あまり自分らしいやり方ではないが、骨折した左脚が気になっていたのだ。
かなりの距離を追いかけていたせいか、さっきから時々軽い痛みが走っている。
その足を気力で動かしてまでホームに降りるより、ここで待っていて狙撃した方が体力も減らない。
誰かがホームを走る電車を操作さえしていなければ、のこのこと階段を上がり戻ってくるだろう。

かつかつかつ……。
「!?」
誰かが階段を登ってきている。ボウガンを構えて狙いをつけたヴィレンの眼に意外な人物が映った。
(アイツは……)
階段を登ってきたのは追っていた男ではなく、かつて行動を共にしていた少女だった。
(まさか、さっきの奴を殺ったのか!? それとも……)
自分を見限り、あの男と行動を共にしているかもしれない。だとしたら厄介なことになる。
だがヴィレンのその考えも杞憂だった。
「すーっ……」
リリスは大きく息を吸い込み、

「ヴィ〜〜〜レ〜〜〜ン〜〜〜く〜〜〜ん!」
探し人の名前を大きく叫んだ。
「なっ!?」
自分の名を呼ばれた当の本人は、驚きに一瞬反応が遅れた。
(あの馬鹿! そんなことしたら殺されるぞ!?)
その考えがリリスへの心配だとは気づいていない。
「ヴィ〜〜〜〜〜レ〜〜〜〜〜ン〜〜〜〜〜く〜〜〜〜〜ん!!」
名前を呼びながらリリスは隠れている自分を楽しそうに探している。

「くっ……!」
ヴィレンはたまらずその場を離れようと無意識に逃げ出す。
先程まで重くて動かなかった左足が、意思に反して進んでいった。もちろん痛みはあったが、思った程ではない。
(何故逃げるんだ? 利用できないなら殺せばいいじゃないか!)
いくら考えてもその問いに答えは出てこなかった。
霧島はベンチに座り、夢の意味を考えていた。
あの少女は、もう一人の霧島だ。
姿形は記憶の中の少女そのものだが、一つだけ違っていた。
霧島が頭の片隅にこっそりと隠していた想いを、彼女が目の前に押し付けた所だ。
何故、生きているのかと。
そして、そう思った瞬間湧き上がった何かに後押されるように、瞳からこぼれ落ちるものがある。

「……なんだあ、これ」

それは涙という液体だ。だが、言葉が思いついてこない。
体がとても重い気がする。まるで随分と長い間眠りについていた感覚。
高尚な感情を表現するものにはとても思えないただの水。
草薙が死んだ時に出し尽くした筈なのに、それが馬鹿みたいに止まらない。

霧島は泣いていた。
今だけは、一人で泣いていたかった。
悲しみも虚しさも、ここで全部焼き尽くしておきたかった。
そしてこの涙が終わったら、新しい霧島翔に生まれ変わっておきたかった。

霧島は涙を流しながら、自分でも知らない内に叫んでいた。
「生き残ってやる」と。
今だ止まらぬまま暴走する電車がホームを通り過ぎる。
だがその通過音に霧島の叫び声がかき消されることは決してなかった。
【霧島 翔 
 所持品:ハーピーの声(脱力効果あり)入りテープとラジカセ、ボウガン(矢残り5本) 闇の幸運種ぬいぐるみ
 目的:パピィ(正体不明)を保護する、首輪解除の方法を探す】
【ヴィレン(左脚骨折・やや痛みが出始めている)
 所持品:チェーン、鉄針、鉄釘、パチンコ玉など暗器多数、アーミーナイフ、組み立て式ボウガン(組み立て済) 目的:ゲームに参加、隠れられる場所を探す】
【リリス(能力抑えられ気味・少し疲弊) 所持品:支給品は不明 目的:おつかい完了、ヴィレンに追いついて守ってもらう】
【現在地:2区・霧島は地下鉄ホーム内 リリスとヴィレンは地下鉄から少し離れてます】
「………」
ケーブルはあの妙な物体の持っていたメモに眼を通す。
昨夜一通り読んだが、もう一度情報を整理したかったのだ。
『風間火月という若者を救うために風間蒼月という人物を探しています。
 彼に会ったらこう伝えて下さい。
 風間火月は仲間の少女を失った悲しみで、鬼と化した。風間火月を救うのは貴方しか居ませんと』

そして地図のサウスタウンブリッジという場所に点が打ってありこう書いてある。
『強大な光がここ一点を狙いながら落ちました。注意して下さい』

ケーブルは額を押さえた。
このメモを自らの血で書いた者はどの様な気持ちでこれを記したのだろう。
だがこのメモが読まれた時には既に風間火月はこの世にいない、その事実がひどく胸に痛んだ。
ともかくこのメモにより新たな情報が手に入った。

まずは風間蒼月。
名前からして彼は風間火月という人物の身内か何かだろう。
だがケーブルはそこで一つ、あることに気づいた。
風間火月という人物は仲間を失い鬼になったという文。
もしかしたら蒼月という者も鬼―具体的には何の事だか分からないが―になる可能性があるだろう。
そうだとしてもこのメモに書かれている言葉を伝えれば、もしかしたら……?
「伝えておく必要があるのかもしれないな……」

次に地図に書かれていた点と文章。
強大な光。どうしても自分を襲ったあの少年をイメージさせるが全く別のものかもしれない。
ピンポイントで狙える強大な力、それを持つ者が存在する―もっともとうに死んでいる可能性もあるのだが。

得られた情報を整理しながらケーブルは一つ目的を決めた。
まずは風間蒼月という人物に探し出し、メモに書かれていた言葉を伝えておこう。
危険かもしれないが、伝えないでいるよりはよっぽどマシだ。
とりあえず山田と犬福を起こそう。そしてこれからの方針を……

「おい、頼むから落ち着けって!」
「にょー! にょー!」
「……?」
何やら様子がおかしい、ケーブルは慌てて彼らの元に駆け寄る。

「一体どうしたんだ?」
その問いに山田は心底困った顔で振り向いた。
「……さっきの放送を聞いてから、コイツの様子がおかしいんだよ」
「にょぉおおお! にょおおお!!!」
「どこに行くんだ! 外は危険だって言ってるだろぉ!?」
「にょー! にょぉー! にょおぉー!!」
必死に何かを探すかのように犬福は外へ出ようとしている。
「………」

恐らく、この犬福の飼い主はもう……
犬福の様子を見ながらケーブルは、ほんの少しだけ、顔を歪ませた。

「にょ?」
ケーブルはドアへ向かう犬福の前に立ちはだかり、同じ視線になるようにしゃがんだ。
そしてはっきりと、犬福の眼を見ながら、口を開いた。
「お前のご主人様はな、もうここには居ないんだ」
その言葉に犬福は「にょー!」と必死で否定する。

「ここよりずっとずっと綺麗な所で、お前をちゃんと見守っているんだ」
その言葉に犬福は「にょー……」と弱々しく答える。

「お前が立派に役目を果たしたのを見ていて、きっと喜んでいるさ」
その言葉に犬福は「……」と黙り、


「にょおおおおぉぉぉーーーーー!」


わんわんとケーブルの腕の中で泣いていた。
それを見てもらい泣きするエッジ。

泣き声が収まるまでには暫しの時間が必要だった。
霧島は手で頭を払った。水の欠片が落ちる。
「……はぁ」
ひとしきり泣いた後、霧島は駅の洗面所に向かった。
そしてまとまらない頭を元に戻すために水を頭から被っていた。
「フィオはともかく、何であんな奴の夢まで見たんだが」
目の前の鏡を見ながら霧島はそう呟く。
「そういや、もう一人似たような奴が居た気がするな……」
草薙を慕っている少年が居たのを霧島は思い出した。
「名前、何だったかな、シンジだったか?」
その少年はインパクトだけなら少女に負けない位あったのだが。
大して気にも止めていない、話もしたことがない、おまけに野郎。
その条件で遥か彼方に忘却したので名前までは思い出せなかった。
「ま、いいか」
とりあえず思い出せないのだから仕方がない。
そう考えながら霧島は手まで洗おうとした。
自分の手には血など付いていないのにも関わらず、だ。
それに気づき、思わず苦笑する。

「帰ったら……」
洗面台の手前側に手を付き、はぁ、と溜まっていた物を吐き出すような息をして、
「会って話がしてぇな」
誰にも聞かれないような声で霧島はそう呟いた。
「さて、戻るか」
霧島はそう言いながら地上への階段を登ろうとした。
そこで完全に忘れてたことを思い出す。
「……って、戻ったら不味いじゃねえか!」
自分は何者かの襲撃に遭って逃げ回っていたのだ。
「もし、ここでのこのこと戻ったら……」

かつかつかつ。
「いやっほう!太陽がまぶしいぜ!」
どすっ!ばたり。
きりしまはしにました。

「それは不味い……」
冷や汗を流しながら霧島は打開策を考え始める。
そこでもう一つの事実に気づく。
「そうだ、電車に乗って逃げればいいんじゃねえか」
念の為にボウガンを持ちながらホームに向かって走る。
すると、ちょうどそれらしき音が聞こえてきた。
「よっしゃあ!おーい、止まってくれー!」
向かってくる電車に手を振る霧島。
ゴオオオオォォォォ…
だが、電車は無常にも霧島の眼の前を通り過ぎていった。

霧島は固まっていた。
電車が通り過ぎたことに固まっていたのではなく。
先頭車両に顔がへばりついていた、それと眼があったことに固まっていた。
「何だあ、ここは?」
「良くは分からないが、何かを管理するシステムの様だな」

ホテルで十分に休息をとった彼等は動き出した。
蒼月という人物を探すために、ケーブルはそれらしき思念を手探りで探していた。
あのメモに書かれていた鬼という記述。
風間蒼月は人間から突然変貌するミュータントの様な者かもしれないと、ケーブルは考えたからだ。

そしてあちこちと足を進めた結果、たどり着いた場所。
それがこの精密な機械が溢れる部屋だっのた。
だが何者かによって部屋が破壊されており、今や見る影も無い。

「おっさん、こんな所に何の用があるって言うんだ?」
何だかんだ言ってついてきた山田がケーブルに尋ねる。
「何か、特別な残留思念が残っていたので、手がかりになるかと思ったが……」
ほんの僅かに残された、炎を思わせる特殊な思念。
何の因果か、そこに残る思念は風間火月のものだったがケーブルには知る由も無い。

「……無駄足だったか」
彼らがその場を立ち去ろうと背を向けたその時。
「にょー!」
エッジの足をぐいぐいと犬福が引っ張った。
「……ん? どうした?」
「にょー、にょー」
犬福がぽむぽむと何かの機械に足を載せる。
「んん〜?」
エッジはその機械のディスプレイをまじまじと覗き込んだ。

そのディスプレイには何かの状態が表示されている。
エッジの頭では内容がよく理解出来なかったが、とにかく二十四時間ノンストップで動いているらしい。
「……おっさーん、これ何の機械だ?」
見ていても不良の頭ではチンプンカンプンだったので、彼は間の抜けた声でケーブルに質問した。
その質問に答えようと、ディスプレイを覗き込んだケーブルは息を呑んだ。
「これは……!?」


無駄足では無かったかもしれない。
僅かな期待を抱きながらケーブルはキーボードを叩き始めた。
ちょうどその頃。
「だあああ!何で止まらねえんだよ、この駅は!駅の意味あるのか!」
何度か通り過ぎた列車に暴言を吐く霧島。
「仕方ねえ、一か八か外に出て……」
覚悟を決めて霧島が地上に向かって歩きだした時だった。

ゴオオオオォォォォ…
一つの車両がホームに向かって走ってきた。
(……いや、流石にもう止まらないよな)
そう考えた霧島が去ろうとする。

キィィィィィーー、プシュウ。

(……止まった!?)
後ろを振り向いた時には既に車両の扉が開かれていた。
「………」

自分の向かおうとした出口に光が射し込んでいても。

霧島はそこへ向かわなかった。

それが向かうのは真っ暗な闇だと分かっていても。

霧島はそれに向かって歩き始めた。


何かが闇の向こうで呼んでいる、そんな気がしたのだ。


霧島は何の戸惑いも無く電車の中へ足を入れる。
例えこの先に何が待っていようとも、全てを受け入れる覚悟が出来ていたのだ。
電車のドアが音を立てながら閉まる。
彼は知らなかった。その行動で近くにあった探し物が再び遠ざかったということに。


この電車はどこへ行くのだろうか、自分の行き着く先はどこになるのだろうか。
窓の向こうに見える底なしの闇を見つめながら、霧島はそう思った。
【ケーブル(負傷 消耗からは回復) 所持品:衣服数点、忍者刀青龍、忍者刀朱雀 サブマシンガン  目的:風間蒼月にメモの内容を伝える】
【山田栄二(エッジ) 所持品:十徳ナイフ・衣服類多数・食料多数
 目的:第一目的、出来れば信用できる仲間を探す。第二目的、いつも行く喫茶店に文句を言いに行く為に生き残る。】

【霧島 翔 
 所持品:ハーピーの声(脱力効果あり)入りテープとラジカセ、ボウガン(矢残り5本)
 目的:パピィ(正体不明)を保護する、首輪解除の方法を探す】

【現在地備考 ケーブル山田犬福は2区 地下鉄コントロールセンター内 犬福はノーマル犬福 
       霧島は2区の地下鉄の駅から電車に乗っています】
 
【地下鉄備考 地下鉄の路線は5区を中心に走っています。現在片道一時間程度で反対側の端に着く速さで走行中。
       2〜9区に面している位置に駅が存在、各駅に5分程度停車します。ルガール側でも操作可能としておきます】
耳元に吹きかかる少年の寝息を感じながら、シェルミーは階段を下りていた。
「う〜ん…ここら辺で休もうかな〜?」
地下鉄へと続く階段を下り、どこか適当な場所に身を隠そうと辺りを伺う。
「……ウウッ…」
エミリオが呻き、その息がシェルミーの首筋をくすぐる。
「いやんっ…くすぐったいわね〜……」
自分の背で眠り続けている少年にシェルミーは抗議の声を上げた。
最も、眠り続けている少年がその小言に何か反応を返すはずもない。
それを承知しながらもシェルミーは更に愚痴を零した。
「…全くぅ、呑気に寝ちゃって……」

「………誰か…そこに、居る、の……?」

その時、少年の口から言葉が零れた。
エミリオは唇を僅かに震えさせ、顔を起こし、視線を前方の闇へと注いでいた。
「……あら、起きたの、坊や?」
予期せぬ少年の反応にシェルミーは少しだけ驚いた様だったが、エミリオの視線に気付いた彼女も眼前の暗闇へ意識を染み込ませた。

「……暗闇の、中で………」
はっきいりしない意識のまま、エミリオは闇に潜む気配の印象を口にしていく。
「燻ってる…炎が………」
寝言のように呟き続ける。
感じたモノは、炎の揺らぎ。
「ホノオ?」
シェルミーも炎という単語に反応を示したが、その時暗闇から声が飛んできた。

「 ―――おぉい!ソコにいる奴!!手を上げな!!」

やたらと威勢の良い男の大声。あまり品はよさそうではない。
「…私は別にいいんだけどぉ、あんまり大声出さない方がいいと思うなー?他の参加者とか来ちゃうかもしれないしぃ?」
「…ぇ?」
しかし背中の少年をゆっくり降ろし手を上げながら、シェルミーは暗闇の男にそう言った。
そして当然の事をシェルミーに突っ込まれた闇の中の影は
 あ そっか 
と呟いたようだった。
「…う、うううっせえ!コッチゃあ今お前にボウガン向けてんだ!!大人しく言う事聞けぃ!!」
「………」
そして勝手に自分の武器をバラし始めた。どうやら頭もよくなさそうだ。
「まぁ、それも私は別にいいんだけどぉー……実はコッチはすでに銃構えてるわよ?」
「………!」
暗闇の人影がギクッと息を止めた。
そして当然、その隙をシェルミーは見逃さなかった。
「まぁ嘘なんだけどぉ―――ね!」
「―――!?う、うおおおおお!?」
暗闇の男はとっさにボウガンを構え直したが、それと同時に階段を上から下に向かって一気に飛び降りたシェルミーに組み付かれてしまった。
「ハァイ♪大人しく―――なさいっ♪」
「ういっ……ってたたたたたたたたぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そして暗闇の男は、そのまま腕を極められてしまった。
「痛ぇいてえイテエェェェ!!放せぇ!!放せってぇ!?いった!!いってぇっいて、いてぇ!」
腕を極められながら男は喚き散らしている。
……なんというかこの参加者、色々と問題が多すぎる。よくこれまで生き残ってこれたものだなと、シェルミーは思った。
「ちょっとちょっとぉ!本当に誰か来ちゃうじゃない!!静かにしないと本当に殺―――」
言いながらシェルミーがその青年の顔を見た時、二人の動きは止まった。
「…………あら?あなた確か……」
「…あ、あれ?アンタ………?」
お互の姿に、見覚えがあったから。

「…霧島翔、だったかしら?」
「…シェルミー…か?」

その名は、互いにとって同じ意味を持つ名。
自らの血の、数百年来の仇敵の血に連なる名。


稲光、光の翼、紅蓮の炎。
三つの意思が新たに集う。

三つの歯車が回りだす。
新たな運命が動き出す。

そしてもう、運命は止まらない。
>>120
>>121
>>122
以上の部分をこのスレの
>>35の17行目以降から丸々差し替えでお願いします。
124ゲームセンター名無し:2005/03/22(火) 07:24:10 ID:???
圧縮が来そうなので保守します。
125誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 01:55:26 ID:???


そこには、彷徨う影があった。
影は人影で、髪は金色で、そしてその目は真紅に濁っていて、その深紅の眼光は、まるで黄昏時の夕陽のようで。
剣を携え、その身に雷の神気と、静かな、神々しい程の殺意を帯びて。
ただ純粋に、悪意のかけらもないままに、神々しい程の殺意に従い、人を殺す為に。

その佇まいは、その殺意は、およそ殺人者には相応しくなくただひたすらにどこまでも神々しい。
目に映る全てを滅殺せしめんとするその少年の落とす影は、ただひたすらにどこまでも神々しい。

少年は神人然としたままに殺意を放ち、少年は狂気の街の辻を往く。

内なる神気に宣り、少年は往く。
その神託を成就させんが為。
己が殺意に宣り、少年は往く。
我が修羅よ、天よ、地よ、罪よ罰よ、ただ刮目せよ。
我が命の行く末を。

少年は黄昏の様に濁った深紅の瞳に殺意をたたえ、暗くて昏い街の辻を往く。
神人は沈みゆく太陽を追い、黄昏時に向かい、死の辻を往く。
楓は往く。
誰そ彼の辻を。

126誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 01:57:31 ID:???

―――あれから 一時ほどが経ったのだろうか

己の鏡像のような男との戦い。あれから二時間ほどが過ぎた。
楓は人を探してしばらく当てもなく付近を徘徊していたが、何も成果は得られなかった。
この付近にはもう誰もいないのかもしれない。
しかしそれも当たり前かもしれない。
考えてみれば建物一つを吹き飛ばす破壊があったのだ、この付近に誰か居たとしてもとっくに去っているだろう。
更にその破壊に伴った轟音で、遠くに居た奴等もここには当分近寄ろうとはしないはずだ。
少しだけ体温の戻ってきた思考で、楓はそう考えた。
そしてそんな事を考えながら、今は東へと歩を進めていた。
なぜなら、そこには二人の人間が居る筈だからだ。
彼の手元の機械には、二つの光点が映っている。
この付近にはもう誰も居ない、そう結論付けてから楓は自分の所持品の機械を思い出した。
どういう仕組みか知らないが、この機械の光点は人の位置を表しているという。
その機械を見ればどちらに人がいるか、どこに向かえばいいのかがわかるではないか。
近くに誰も居ないのならば、自分から行くしかないのだ。
その事にやっと気付いた楓の思考は、更に熱が戻ってきたようだった。
見れば自分を表す光点から東側に二つの光点―――楓には読めなかったが『AKIRA』と『AOI』というふたつの光点がある。
それを認めた楓は一路そこへと向かい歩を進めていた。
以前はこの異国の文字が読めず随分歯痒い思いをしたが、今は関係ない。
この光点が誰であろうと、ただ殺すだけなのだから。

「…それにしても……」
―――ああ それにしても 頭が痛てえ
127誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 01:59:11 ID:???
「…それにしても……」
―――ああ それにしても 頭が痛てえ

先程から、酷い頭痛がする。
それはきっと、あれから誰も殺していないからだろう。
だからきっとこの頭痛を鎮めるには誰かを殺せばいいんだ。
そうに違いない。
間違いない。
それにあの二つの光点の事に想いを巡らせると、少し頭痛が和らいだ気がした。
楓は頭痛の鎮痛の為にもう一度その機械を見ようと視線を落とす。
そして、その光点に少し変化があった事に気付いた。
見れば、自分から西の方に一つ光点が増えているではないか。
しかし点の変化はそれだけであり、東の二つの点には未だ変化はなかった。
距離にしても、もうこの東側の二点の方が近い。わざわざ引き返す事はない。
このまま無視して構わないような些末事だろう。
そして楓は再び視線を上げ、歩を進めようとした。

―――ズキン
「……!?」

頭を抱えこみ、楓はその場で立ち止まった。
再び、脳に鈍く鋭い痛みが走ったのだ。
「…なん……だってんだよ…?」
この頭痛は何なのか。この頭の疼きの源は何なのか。
128誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:00:52 ID:???
再び、片手の機械に視線を戻す。
新たに現れた光点。それに心騒がせられる。
それは何故か?
楓はその光点の位置が表すモノに気付いた。
その位置は、ほんの一時ほど前に自分が居た場所。
あの死闘があった場所。
あの、暗い昏い部屋があった場所。

―――ああ なんだ
「……そういう事かよ」

理由はわからないが、しかし気に食わない。
何となく、癇に障る。
あの場所に誰かが足を踏み入れた。
あの場所を誰かに見られた。
何故かわからないが、しかしその事実が酷く癇に障るのだ。
しかし、
「理由なんざ、それで充分だ」
楓は踵を返し、来た道を戻り始めた。
彼の地に足を踏み入れた愚か者を殺す為に。
そうハッキリ意識した時、いつのまにかあの頭痛は消えていた。

その小さな光点には、小さく『BENIMARU』と表示されていた。

129誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:04:27 ID:???
「惨たらしい死体を尻目に火事場泥棒たぁ、俺様も落ちたモンだな……」
瓦礫を掻き分け惨状の跡地を漁りながら、紅丸は今の己の境遇を嘆いていた。
正確な数は解らなかったが(解りたくもなかったが)、ここではどうやらかなりの人が死んでいるようだ。
ひょっとしたら、何か武器が残されているかもしれない。
こんな大袈裟な破壊があったトコロにはしばらく誰も寄ってこない筈である。
勿論、自分という例外を除いて。
ならば、と思った紅丸は、込みあがる怖気を堪えながら瓦礫を退かすという肉体労働に励んでいた。
「恐らくは、世界一肉体労働が似合わないであろう、美貌の持ち主の、この俺が……」
大きな瓦礫を退かしながら、彼は嘆き続ける。
「あろう、事か、火事場泥棒に、汗を流している………っと!」
ゴロン、と一際大きな塊を退かす。その下からは四つ目のお宝が発掘された。
「…フゥ。こんなトコロを世界中のレディ達に見せようモンなら、皆その場で泣き出しちゃうな……」
埃で汚れた顔を拭い、そのお宝を拾い上げる。名前はわからないが、映画などで美しい女スパイが隠し持っていそうな小さな拳銃だった。
コイツはいい、我がお姫様には実に似合いそうではないか。そう思いながら紅丸は弾倉を確認し、そして顔をしかめた。
「…またハズレ、か」
弾倉には一発の弾も入っていなかった。
この火事場泥棒で紅丸は今までに三つの銃を発掘したが、どれもこれも弾切れであり、その成果は散々な物であった。
「結局、まともなお宝はコイツだけか」
二つ目に発掘した火炎放射機に目を向け、紅丸はため息を漏らす。

―――稀代の美貌の持ち主である紅丸様に肉体労働を課し、世界中のレディ達を悲しませたこの罪……
「ルガールの野郎…この罪絶対に償ってもらうぜ……!」

そんな事を呟きながら、決意も新たに紅丸はその場を後にした。
130誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:07:41 ID:???
人目に付かないように小汚い路地裏を通り、紅丸はシェルミーとの集合場所に向かっていた。
そして手にした火炎放射機の重さを確かめながら、苦々しい顔をする。
決して銃器に詳しいわけではなかったが、他の三つの拳銃と違いこの火炎放射機だけは全く使われていない。
その事実自体はありがたい事であったが、紅丸は素直に喜べないでいた。
なぜなら、紅丸にはこの武器の元の所有者の見当がついてしまったからだ。
美しい女エージェント、ブルー・マリー。
以前紅丸達がマリーとその仲間のダサい髪型をした男と交戦した時、彼女は確かに火炎放射機を持っていた。
しかしその時は結局彼らは別れ、紅丸達もその後彼女がどうなったかは知らなかった。
今朝の放送で彼女の名を聞くまでは。
この火炎放射機が彼女の持っていた物かどうかは判らない。
…いや、同じ物と考えるべきであろう。
武器の一致、今朝の放送との時間関係などから考えれば、そう考えるのが自然だ。

ブルー・マリーは、あの場所で死んだ。

そしてあの肉片の一つとなって、先程まで自分の足元に居たのだ。
そう思い至った時から、紅丸の中で再びある事象が鎌首をもたげた。
傍らに控える死という事象。
それを感じ取り、紅丸は思わず身を震わせた。
「………全く、俺らしくないな…」
この武器は彼女の使っていた物。
二階堂紅丸ならば、コレを武器とは思わない筈だ。
コレは、あの美しいい女性が俺に残した形見だと思うだろう。
そしてこの形見から感じるべきは死の予感では無い筈だ。
美しいレディの死を悼み、そして怒りをたぎらせる筈ではないのか。
この馬鹿げたゲームを主催する、あの男への憤りに身を焦がすはずではないのか。
それが、二階堂紅丸という人物であるべきだ。
131誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:10:50 ID:???
「なかなかに美しい顔立ちだが、そんなくら〜い表情してちゃあ女の子には好かれないなぁ」
そこに立っていたのは、剣を持った青年。
服装は…和装とも洋装ともいえる、少し変わった物である。
髪の色は金色だが、顔立ちは日本人のソレである。
放つ雰囲気は、どこまでも暗く、どこまでも危うい。
そして闇に浮かぶ眼光は、真紅。その赤い光が、青年の印象を決定付けているようだった。
しかし…なぜだろうか。その姿、その雰囲気、その全てに、何か相反するモノを感じる。
そんな印象に戸惑いつつも、紅丸は更に言葉を続けた。
「なんならこの俺が女の子のもてなし方をレクチャーしてやってもいいが…どうだいボーイ?」
しかし、青年は答えない。
「……あんたおっかないなぁ…痺れちまいそうだよ」
言いながら、紅丸は火炎放射機を構える。
「言ったろ?そんな暗い顔してちゃ駄目だって」
ジリ、と間合いを計る。
「そんな面した奴はな、女の子には勿論男にも好かれないんだよ」
言いながら、少しずつ距離を詰める。
相手は剣の他にも何か武器を持っている可能性があるが、その手に握られているのは未だ剣のみで、構えてもいない。
他に武器を隠し持っている可能性は低いだろう。
それにもしその武器が銃であろうと、この距離ならば相手も容易に構えられない。
この暗い路地ならば遠目には火炎放射機も機関銃とは識別がつきにくいであろうし、もう少し近づければ構えた瞬間に黒焦げにできる。
確実に分は自分にある。
そう感じながらも、しかし紅丸の肌は未だ泡立ち、心は静まらない。
この上自分は何を予感しているというのか。
人を殺す予感に震えているのか。
132誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:13:35 ID:???
「…大人しく武器を下に置け」
青年に降伏を促し、紅丸は更に距離を縮めた。
「俺は、無駄に人を殺したくないんでね」
近づき、青年の顔がハッキリ見えてきた。
その髪は金色で、その瞳は赤い。
「……殺したくない…か」
ククっと笑いながら、青年が口を開いた。
その眼光は、真紅。
「……偉そうな奴だな…アンタ」
暗く濁った、血の様な深紅。

「…この状況だぜ、どっちが偉いかはハッキリしてんだろ?」
引き金に指をかけながら紅丸は静かに言い放つ。
青年が、口を開く。
「…俺の命はお前の手の中…か」
自分は、この青年を殺す予感に震えているのか。

「……そう思ってんなら…とっとと殺すといい」
否、そうではない。

「殺せる奴を殺さないってのは」
この、神気。

「傲慢、なんだとよ」
この青年が纏う神々しい威に、全身が畏れ反応しているのだ。

「…だから俺は、アンタを殺す」
「……大人に素直になれねぇガキには、キツめのお灸が必要だよな…!」
紅丸は意を決し、引き金にかけた指に力を加えた。
そしてその瞬間、
133誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:16:33 ID:???
バチィ!

青年の周囲の空間が青白く輝き、爆ぜた。

「!?」
閃光から目を庇いつつ、その直後の衝撃に紅丸は弾き飛ばされた。
「ックゥ!?」
何とか無事に着地し、白む視界で何が起きたのかを確認しようと青年の方へと目を凝らす。
少しづつ回復してきた視界に入ってきた映像は、しかしおよそ紅丸の理解を超えたモノであった。
まるで何かのファンタジーアニメの様に、青年の剣の切っ先に光が集まってゆく。
「………んな、馬鹿な……!!」
「…いいや、まさに馬鹿面だぜ?」
驚嘆した紅丸の叫びに楓は切り返し、
「―――今のアンタの、面はよおぉぉぉぉぉ!!」
刃を振るい、紅丸へと光を放った。
「……!!」
身を翻し、紅丸は光の矢を避ける。
避けた後方からバチィと音がして、瓦礫が飛び散った。
「くっそぉぉぉぉ!!」
紅丸は青年から距離を取る為に走り出し、相手の思惑に合点がいった。
距離を縮めて有利なのは、自分ではなく青年の方だったのだ。
相手はあの剣を振るうだけで、謎の殺人光線を放つ事が出来るのだ。
「逃がさねぇ…ぜぇ!!」
構えながら、楓は今度は光を眼前に停滞させていた。
そして先程よりも一回り大きな光が蓄積され、
「……思う存分、痺れなぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫と共に光の刃が放たれる。
「…まぁったく!ギャアギャア騒ぎやがって……!!」
紅丸は向き直り、真っ直ぐのその光を見据えた。
「スマートじゃねえなあ!!」
134誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:19:10 ID:???
紅丸の右手に光が集まり、
「……雷光拳!!」
それを拳に纏い、光の矢へとぶつけた。
二つの光が弾け飛び、薄暗い路地裏は眩いばかりの閃光に包まれる。
「……………」
「…………フゥ、どうしたボーイ?」
額の汗を拭いながら、言葉を無くした青年に紅丸は語りかける。
「俺の勇姿に痺れたのかい?」
そう言って、ウィンクを一つ。そして再び右手に雷の気を集める。
涼しい顔で必死に思考を巡らせながら、紅丸は今の交錯で得た情報をまとめ始めた。
あの光の正体、あれは雷だ。
但し、その源…その質は、自分のモノとは何か根本的に違う。
どちらかというと、シェルミーのモノに……オロチのモノに近い。
しかし、それとも何かが違っている。
オロチの雷の様な暗黒の気ではなく、何かその対極に位置するような。
神の雷、とでもいうべき神々しさを持っている。
そんな印象であった。
「…へぇ、アンタもか」
暫くの沈黙の後、青年が口を開いた。
「…俺の頭痛は……アンタのその力を感じ取っての事だったのかもな」
コツコツとこめかみを叩きながら、実に愉快そうに語る。
「とりあえずは雑魚じゃねえって事か……なかなか楽しめそうで安心したぜ」
「おいおい、子供にゃ過ぎた遊びだと思うがね?」
雷鳴の刃を構え、雷光の拳を構え、両者は対峙する。
刻が凍りついたようだった。
135誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:21:56 ID:???
「……消し炭にする前に、聞いといてやる」
「……アンタ、名前は?」
青年が、そう問うた。
「…二階堂紅丸ってんだ」
そう答え、紅丸も問い返した。
「そういうアンタは……何て名前なんだい?」
刻がゆっくりと動きだし、
「………俺の…名前は……!」
切っ先が迸り、拳が瞬いた。
「―――カエデ、だ!!」
「―――雷靭拳!」
光の矢が放たれ、それを光の拳が打ち消す。
カエデ、その名に聞き覚えがある。
いつかの放送で、名を晒された殺人者。
ウィップを殺した、殺人鬼の名ではなかったか。
「…そうか!お前がカエデか!!」
確認するように、紅丸は青年の名を呼んだ。
「なら、俺も安心してお前を殺せるぜ!!」
「精々…!吼えてなぁぁぁ!!」
二度三度と振り下ろされる刃から、絶え間無く雷の矢が放たれる。
その姿は、神が地上へ己の怒りを放つ様に、恐ろしくも神々しい。
カミナリとは神鳴りの意であり、イカヅチとは怒鎚の意である。
そんな事を思い出しながら、幾つもの矢に晒された紅丸はたまらず脇の小道へと避難する。
「うわわわっと!!」
バチバチと音を立てながら、神の怒りは傍らを通りすぎていく。
「…隠れても…無駄、だ………」
そう呟き、楓は剣を天にかざす。
「―――終わりに、してやるっっっっっ!!」
ビッシャアン、と一条のイカヅチが楓に降り注ぐ。
「…ッグ、オ、オ、オオオオ、オオオオオオオオアアアアアアアアッッッッ!!!!」
136誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:24:11 ID:???
そして天上の神より放たれた怒りの鉄鎚は、その切先へと凝縮されていき、眩いばかりの光を撒き散らした。

楓の周囲の空気が帯電し、バチバチと弾けている。
今にも爆ぜそうな付近一帯の空気を感じ、紅丸は想う。

―――あんなモノを放たれたら こんな路地裏一帯が吹き飛んじまいそうだ

つまり、逃げ場は無い。
しかし、不思議と思考は穏やかだ。
神の力を以って刃を振るう―――正にファンタジーヒーローの様、正に物語の勇者の様ではないか。
しかし紅丸は、神の使者たる青年を崇める気などさらさら無かった。
例えこの身はその神気に震えようと、そんな神など、そんな勇者など認めない。
女性を、人を殺める英雄など、この俺が認めない。

「……いや、ちょっと違うか」
否、そうではない。
ヒーローは、何時だってたった一人の筈だ。

―――英雄は たった一人

大きく呼吸をし、そして懐に手を入れた。
「ようカエデ!よく聞くんだな!!」
そして紅丸は大声を張り上げ、楓に語りかけた。
「ヒーローはたった一人!!つまりはなぁ!」
右手に雷を集め、左手に小箱を握りしめ、
「―――この二階堂紅丸、唯一人って事だ!!」
高らかに宣言し、紅丸は飛び出した。
137誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:25:22 ID:???


「吹、き、飛、べ、え、ええ、えええええああああああああぁぁぁぁぁぁー!!!」
眼前の男をその戯言ごと消し飛ばすべく、楓は刃を振り下ろし―――

キラキラと金色に輝く光の粒の塊が舞っていた。
「!?」
それらは少しずつ拡散しながら、楓に向かってきている。
「雷靭拳!」
紅丸は手刀を振るい、右手に纏っていた雷を放った。
それが金色の粒子を捉えた時、それは輝きを増し、そして楓の視界を奪った。
「―――――――――!!!!」
思わず顔を背け、手元が狂う。
「Do you understand?」
そう呟き、紅丸はウィンクする。
切っ先の神の鉄槌は、そのまま天へと放たれ―――





138誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:29:47 ID:???


………

この世のあらゆる輝きを集めたかのような閃光の後、轟音が響き、瓦礫が舞い、埃が立ち込めた。
薄暗かった路地に光が差し込み、一つの影を映し出す。

「……やれやれ…トコトン俺らしくなかったな………」
軽口を叩きながら、二階堂紅丸は埃を払う。
「ガキ相手に、ムキになっちまった」
眼前の瓦礫、その下には楓が埋まっている筈だ。
これならば、いくらあの青年といえども命は無いだろう。
そこまで思い至りようやっと納得して、紅丸は安堵の息を漏らした。
「…何が役に立つか、解らないモンだな」
足元に散らばる焦げて変形した画鋲を眺めながら、紅丸はそう一人ごちる。
自分の支給品…画鋲50個に、まさか命を救われる事になるとは。

あの一瞬の交錯の時、紅丸は楓に向かって画鋲を投げつけた。
そして自分の美学に反する為今まであまり使う事の無かったが、
『放つ雷靭拳』でそれらを捉えたのだ。
電撃を受けた50個の画鋲は当然眩い程に輝きを増し、楓への目くらましとする。
この目論見自体、一か八かの賭けには違いなかったが、紅丸はその賭けに勝った。
そして目くらましがうまくいったならその後は再び雷靭拳で楓を打ち、痺れきった所を一気に接近し止めを刺すつもりであった。
しかし…
「…まさか自滅とは、ね」
結末は思わぬものとなった。
楓が放とうとした電撃は、目くらましで手元が狂ったのかそのまま頭上へと放たれた。
そして、上方の壁や屋根などを穿ち、楓の頭上に瓦礫の雨をもたらしたのだ。
およそ考え得る最上の結果に、紅丸は再び安堵の息をついた。
139誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:30:41 ID:???

―――コイツのお陰 かもな

黒光りしている、形見となった厳つい火炎放射機を拾いあげながら、紅丸はそんな風に考える。
そして戦果を確認した後、紅丸は早々にここを立ち去る事にした。
楓の持っていたあの剣…あれは魅力的な武器だったが、この瓦礫からアレを掘り出している時間は無い。
それにあの閃光と轟音だ、やはりここに長居するのは危険であるし、何より自分もかなりの疲労をしてしまった。
今誰かと遭遇するのは非常に危険だ。
少しよろめきながら、紅丸は歩きだした。
片手に、勝利の女神の形見をぶら下げながら。
「Thank you. 」
そう囁き、勝利の女神に向かってウィンクを一つ捧げる。
そしてシェルミーとの合流地点へと向かい、歩きだした。

140誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:33:13 ID:???


―――…… 

あれから一刻が過ぎ、その路地には誰も居なくなったかのようだった。
しかし、墓標と化したその瓦礫の下、それはしっかりと息づき、呼吸を繰り返している。
そして、瞬間

―――バッシャアアアン!

瓦礫の海と化した路地に、閃光と衝撃が駆け抜ける。
巨大な塊だった墓標は吹き飛ぶ、瓦解し、塵へと還る。
そして埃の海から、人影が現れた。

「――――――――――――ア"ァァァァァァァァァァァァァア”ア”ア”ア”!!」
怒りとも歓気とも採れる咆哮を上げ、神人は再び地上に舞い降りた。
その眼光は深紅に濁り、暗く、まるで黄昏時の夕陽のようで。
その意思は昏く、しかし神々しき威を纏い。

気が付けば、頭痛は跡形もなく消え去っている。
でもまだだ。
まだまだだ。
まだ、この神気は静まらない。
141誰ソ彼ノ辻 ー雷綴舞踏 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:38:25 ID:???
―――今度はどうしようか 先刻の紅丸とか言う男を追うか
―――それともやっぱり 最初の予定通りに東の二人を殺しに行くか
―――弱い奴でも 二人がかりでくれば俺を殺せるかもしれない

快。
楓の心を包むは、快。
ひたすらに命を貫き穿つ為、その快を満たす為、英雄は往く。
誰そ彼の辻を。


暗黒の街に、黄昏が近づいていた。





【二階堂紅丸(かなり消耗) 所持品:火炎放射機 目的:シェルミーと合流、拳崇をシメる、出来たら真吾とK'と合流したい】

【楓(自我喪失、覚醒状態、かなり消耗) 所持品:封雷剣、探知機(有効範囲1q程度、英語表記)
                    目的:参加者を全て殺し自分が生き残る】
【現在位置:3区】
142 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 02:56:11 ID:???
>>127の冒頭の

「…それにしても……」
―――ああ それにしても 頭が痛てえ

の一文は重複です。すいませんがまとめ時に訂正ねがいます
143更に訂正 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/24(木) 03:44:58 ID:???
以下の文を、>>130>>131の間に加えてください。重ね重ねすいません……


そこまで考えて、紅丸は再び身を震わせた。しかし、それは恐怖からのモノでは無い。
「…今度は武者震いときたか……ますます俺らしくないな」
恐怖を闘争心で退け、紅丸は立ち止まる。
その存在を感じた瞬間、全身が泡立った。
そしてそれに気付かぬふりをして、その追跡を振り払うべく複雑な路地を歩き回っていたが、それももう止めだ。
なぜなら、それはどこまで行っても彼に付き纏うモノの一つなのだから。
ならば、やるべき事は一つしかない。
背を向けていた死の予感に向き合い、紅丸は口を開いた。
「―――よう、ご機嫌いかがかな?」
振り返り、それを見た。
その死を振りまく存在を。
144誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:23:03 ID:???

彷徨う影が、一つ。

その影は人影で。
その髪は金色で。
その瞳は真紅に濁っていて。
その深紅の眼光は、まるで黄昏時の夕陽のようで。

剣を携え、その身に雷の神気と、静かな、神々しい程の殺意を帯びて。
ただ純粋に、悪意のかけらもないままに、神々しい程の殺意に従い、人を殺す為に。

その佇まいは、その殺意は、およそ殺人鬼には相応しくなくただひたすらにどこまでも神々しい。
目に映る者全てを滅殺せしめんとするその少年の落とす影はただひたすらにどこまでも神々しい。

少年は神人然としたままに殺気を撒き散らし、少年は狂気の街の辻を往く。

内なる神気に宣り、少年は往く。
その神託を成就させんが為。
己が殺意に宣り、少年は往く。
我が修羅よ、天よ、地よ、罪よ罰よ、ただ刮目せよ。
我が命の行く末を。

少年は黄昏の様に濁った深紅の瞳に殺意をたたえ、暗くて昏い街の辻を往く。
神人は沈みゆく太陽を追い、黄昏へと向かい死の辻を往く。
楓は往く。
誰そ彼の辻を往く。
145誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:26:25 ID:???


―――あれから 一時ほどが経ったのだろうか

鏡写しの己の像との戦い。
あれから、二時間近くの時が過ぎた。
楓は、何かを探すようにしばらく当てもなく付近を徘徊していた。
だが、楓の求めるモノは一向に見つからない。
なぜなら、楓は自分が何を求めているのかをわからないでいたからだ。
己に下された神の託宣を、壊れてしまった心は理解する事ができない。
だからもう、その身はその神託に突き動かされているのみ。
理解できない欲求を満たす為に突き動かされているだけであった。
「…………誰も、居ない、のか…」
もはや言葉は脳を経由せず直接喉から零れ落ちてくる。
壊れてしまった心は意識の宙空を彷徨うのみ。たった今零れた言葉の意味を拾う事もできないでいる。
楓にはもう、己が身に宿る神が殺めるべきニンゲンを求め彷徨っているという事を理解できずにいた。
「……それに、しても……」

―――ああ それにしても

「…アタマが……痛て、え……」
今の楓にわかる事は、ズキズキと襲ってくるその頭痛だけだった。
ズキズキ、ガリガリと襲ってくるその痛みは、体温を失い痩せ細ってしまった楓の思考を更に容赦なく削り取っていく。
そんな痛みに紛れてしまいそうになりながらも、楓はボンヤリと振り返る。
探しても一向に見つからず、見つけても何も手に入らない。
考えてみれば、此処に来てからはそんな事の繰り返しだった気がする。
色んな人の顔が浮かび出しそうな気がした。
しかし、痛みに邪魔された思考はそれらの映像を再生できず、その像は古く痛んだ記録フィルムのように不鮮明であった。
刃を突き刺す感覚。穴だらけになった女。ヒューヒューとしか言わない女。喉の痛み。太陽の神との対面。
少年と少女との出会い。そして離別と死別。神の覚醒。兄との再会。その兄を背負い、何処かへと向う自分。
そして、仇である男……己の鏡像のような男との、戦い。
146誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:31:46 ID:???
空へ、落ちていく男。
落ちていく、自らの鏡像。
落ちていく、カエデという一人の人間―――

気が付くと、不鮮明なその映像の中で落ちていく男が自分自身になっていた。
楓はなんだか、あの時落ちていったのが自分だった様な感覚を覚える。
ひょっとしたらその像は、あの時どうしようもない程に壊れてしまった、大切なモノを暗示していたのかもしれない。
穴だらけの女達、燃え尽きていく神、去った少年、死んだ少女、死んだ兄、落ちていく男、落ちていく自分―――

ズキリ

それらの映像が頭をよぎった時、一際大きな痛みが襲ってきた。
あまりの痛みに楓は、自らの頭を砕き散らしてしまいたい衝動に駆られる。
「…なん……だ…ってんだよ…?」
頭を抱えこみ、楓はその場にうずくまる。
ドシャ、と地に膝をつく。荷袋の中身が散乱した。
鋭く鈍い痛みの中、ぶちまけられた荷の中身の一つが目に入ってきた。

―――ああ 確かコレは………

自分は確か、コレを使って探しモノをしてたんだっけ。
それの表面には、いくつかの光点が映っている。
「……確か…コレが、俺、か…」
探知機の画面を見ながら、楓は呟く。
以前コレを使った時は、探していたモノを見つけられた。しかし結局、それを手に入れる事はできなかった。
そんな事を考えながら探知機の画面を眺めていた楓は、一つの光点を見つけた。
それは自分を表す光点の西側の方向にあった。

147誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:34:49 ID:???
―――西側には 何があったっけ
ズキズキと、痛みがする。

―――俺は確か 西側から来たんだっけ
ギリギリと、思考を削る。

―――この点は あの男の点があった場所にある
ビキリビキリと、頭蓋骨に亀裂が走ったかのようだった。


―――この点は今 あの場所に立っている
―――あそこに 誰かが足を踏み入れた
―――あそこに今 誰か居る

―――あの場所に今 俺以外の奴が踏み入った


ズキン
「―――グウゥウッ!?」
今までで最も酷い痛みが襲い、楓は声を上げた。
そしてその痛みから後は、頭痛は少しずつ和らいでいった。
再び、傍らの機械に視線を戻す。
たった一つの光点。それに心騒がせられる。
それは何故か?
その光の位置は、ほんの一時ほど前に自分が居た場所。
あの部屋があった場所。
あの、暗い昏い死闘があった場所。
映像の中のカエデが落ちていった、あの場所。
あの場所に、誰かが足を踏み入れた。
148誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:38:02 ID:???
「……気に喰わ、ねえ…」

―――気に喰わねえ

「……気に、喰わねえ………!」
理由はわからない。しかし気に喰わない。
何故だか、とても癇に障る。
あの場所に誰かが足を踏み入れた。
あの場所を誰かに見られた。
何故かわからないが、しかしその事実が酷く癇に障るのだ。

―――理由なんて それだけで充分だ

「……理由なんざ……それで、充分、だ…!!」
楓は立ち上がり踵を返し、来た道を戻り始めた。
その表情に恐ろしくも神々しい殺意をたたえ。
何時の間にか頭痛はほとんどかすかなものとなっている。
思考は体温を取り戻し、余分なモノは一切削り落とされている。
彼の地に足を踏み入れた愚か者を、殺す。
その神託を成就する為に必要な物以外は、全てがそぎ落とされていた。

―――ああ 俺は 人間を 殺す

「――――ああ!俺は!!人間を――――――」
「――――殺す!!!」
気が付けば、頭痛はすっかり消えている。
神々しい殺意をたたえ、楓はハッキリとそう口にした。


楓には読めなかったが、その小さな光点の下には名前が表示されている。
そこには『BENIMARU』のという名が、小さく表示されていた。
149誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:42:56 ID:???


「惨たらしい死体を尻目に火事場泥棒たぁ、俺様も落ちたモンだな……」
瓦礫を掻き分け惨状の跡地を漁りながら、紅丸は今の己の境遇を嘆いていた。
正確な数は判らないが……いや。判らないというより判りたくもなかったが、ここではどうやらかなりの人が死んでいるようだ。
しかしそれだけの人間が死んでいるのだ。
ひょっとしたら、瓦礫の下に彼らの武器が残されているかもしれない。
他の参加者達のことを考えればこんな開けた場所であまり長居をするのは避けるべきであったが、
これだけの派手な破壊があったトコロである。他の参加者達も警戒してしばらくは寄ってこない筈である。
つまり、逆にここはしばらく安全と言えるのだ。
もっともこの理屈は、そもそも紅丸がここに来ている時点でもはや穴だらけな気もするが。
ともかく紅丸は自分で出したその理屈に従い、込みあがる怖気を堪えながら瓦礫を退かすという肉体労働に励んでいた。
「恐らくは、世界一肉体労働が似合わないであろう、グ……!、美貌の持ち主の、この俺が……」
大きな瓦礫を退かしながら、彼は嘆き続ける。
「あろう、事か、火事場泥棒に、汗を流している………っと!」
ゴロン、と一際大きな塊を退かす。その下からは四つ目のお宝が発掘された。
「…フゥ。こんなトコロを世界中のレディ達に見せようモンなら、皆その場で泣き出しちゃうな……」
埃で汚れた顔を拭い、そのお宝を拾い上げる。名前はわからないが、映画などで美しい女スパイが隠し持っていそうな小さな拳銃だった。
コイツはいい、我がお姫様には実に似合いそうではないか。そう思いながら紅丸は弾倉を確認し、そして顔をしかめた。
「…またハズレ、か」
弾倉には一発の弾も入っていなかった。
この火事場泥棒で紅丸は今までに三つの銃を発掘したが、どれもこれも弾切れであり、その成果は散々な物であった。
「結局、まともなお宝はコイツだけか」
二つ目に発掘した火炎放射機に目を向け、紅丸はため息を漏らす。

―――稀代の美貌の持ち主である紅丸様に肉体労働を課し、世界中のレディ達を悲しませたこの罪……
「ルガールの野郎…この罪絶対に償ってもらおうか……!」

そんな事を呟きながら、決意も新たに紅丸はその場を後にした。
150誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:46:34 ID:???
人目に付かないように路地裏を通り、紅丸はシェルミーとの集合場所に向かっていた。
そして手にした火炎放射機の重さを確かめながら、苦々しい顔をする。
どうやらあそこにあった他の三つの拳銃と違い、この火炎放射機だけは全く使われた様子が無い。
その事実自体はありがたい事であったが、しかし紅丸は素直に喜べないでいた。
なぜなら、紅丸にはこの武器の元の所有者に心当たりがあったからだ。
美しい女エージェント、ブルー・マリー。
以前紅丸達がマリーとその仲間のダサい髪型をした男と交戦した時、彼女は確かに火炎放射機を持っていた。
その時は結局彼らは別れ、紅丸達もその後彼女がどうなったかは知らなかった。
そして今朝の放送で彼女の名前を聞き、その結末を知ったのだった。
「…この火炎放射機が彼女の持っていた物とは限らないが……」
…いや、同じ物と考えるべきであろう。
武器の一致、今朝の放送との時間関係などから考えれば、そう考えるのが自然だ。

ブルー・マリーは、あの場所で死んだ。

そしてあの肉片の一つとなって、先程まで自分の足元に居たのだ。
そう思い至った時から、紅丸の中で再びあるモノが鎌首をもたげ始めた。
傍らに控える、死という事象。
それを感じ取り、紅丸は思わず身を震わせた。
「………全く、俺らしくないな…」
自嘲するように笑いながら、紅丸は考える。
この武器は彼女の使っていた物。
二階堂紅丸ならば、コレを武器とは思わない筈だ。
151誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:48:16 ID:???
コレは、あの美しいい女性が俺に残した形見だと思うだろう。
そしてこの形見から感じるべきは死の予感では無い筈だ。
美しいレディの死を悼み、そして怒りをたぎらせる筈ではないのか。
この馬鹿げたゲームを主催する、あの男への憤りに身を焦がすはずではないのか。
それが、二階堂紅丸という人物であるべきだ。

そこまで考えて、紅丸は再び身を震わせた。
しかし、それは恐怖によるモノでは無い。
「…今度は武者震いときたか……ますます俺らしくないな」
恐怖を闘争心で退け、紅丸は立ち止まる。
その存在を感じた瞬間、全身が泡立った。
そしてそれに気付かぬふりをして、その追跡を振り払うべく複雑な路地を歩き回っていたが、それももう止めだ。
なぜなら、それはどこまで行っても彼に付き纏うモノの一つなのだから。
ならば、やるべき事は一つしかない。
背を向けていた死の予感に向き合い、紅丸は口を開いた。
「―――よう、ご機嫌いかがかな?」
振り返り、それを見た。
己の、死の予感に。


濃密な空気を呼吸しながら、そこには人影が一つ。
「…なかなかに美しい顔立ちだが、そんなくら〜い表情してちゃあ女の子には好かれないぜ」
立っていたのは、剣を持った青年。遠目にも判る整った顔立ちをしている。
その顔立ちは日本人のソレであったが、髪の色は金色。
服装は…和装とも洋装ともいえる、少し変わった物である。
放つ雰囲気はどこまでも暗く、そしてどこまでも危うい。
そして闇に浮かぶ眼光は、真紅。その赤い光が、青年の印象を決定付けているようだった。
152誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:49:15 ID:???
しかし…なぜだろうか。その姿、その雰囲気、その全てに、何か相反するモノを感じる。
そんな青年の印象に戸惑いつつも、紅丸は更に言葉を続けた。
「なんならこの俺が女の子のもてなし方をレクチャーしてやってもいいが…どうだいボーイ?」
紅丸の言葉に、青年は一切反応を示さない。
ただ、少しだけ空気が冷えたような気がした。
「……あんたおっかないなぁ…痺れちまいそうだよ」
言いながら、紅丸は火炎放射機を構える。
「言ったろ?そんな暗い顔してちゃ駄目だって」
ジリ、と間合いを計る。
「そんな面した奴はな、女の子には勿論男にも好かれないんだよ」
言いながら、少しずつ距離を詰める。
相手は剣の他にも何か武器を持っている可能性があるが、その手に握られているのは未だ剣のみで、構えてもいない。
他に武器を隠し持っている可能性は低いだろう。
それにもしその武器が銃であろうと、この距離ならば相手も容易に構えられない。
この暗い路地ならば遠目には火炎放射機も機関銃とは識別がつきにくいであろうし、もう少し近づければ構えた瞬間に黒焦げにできる。
確実に分は自分にある。
そう感じながらも、しかし紅丸の肌は未だ泡立ち、心は静まらない。
この上自分は何を予感しているというのか。
人を殺す予感に震えているのか。


「…大人しく武器を下に置け」
青年に降伏を促し、紅丸は更に距離を縮めた。
「俺は、無駄に人を殺したくないんでね」
近づき、青年の顔がハッキリ見えてきた。
その髪は金色で、その瞳は赤い。
「……殺したくない…か」
ククっと笑いながら、青年が初めて口を開いた。
その眼光は、真紅。
「……偉そうな奴だな…アンタ」
暗く濁った、血の様な深紅。
153誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:50:13 ID:???
「…この状況だぜ、どっちが偉いかはハッキリしてんだろ?」
引き金に指をかけながら紅丸は静かに言い放つ。
青年が、口を開く。
「…俺の命はお前の手の中…か」
自分は、この青年を殺す予感に震えているのか。

「……そう思ってんなら…とっとと殺すといい」
否、そうではない。

「殺せる奴を殺さないってのは」
この、神気。

「傲慢、なんだとよ」
この青年が纏う神々しい威に、全身が畏れているのだ。

「…だから俺は、アンタを殺す」
「……大人に素直になれねぇガキには、キツめのお灸が必要だよな…!」
紅丸は意を決し、引き金にかけた指に力を加えた。
そしてその瞬間、

バチィ!

青年の周囲の空間が青白く輝き、爆ぜた。

「!?」
閃光から目を庇いつつ、その直後の衝撃に紅丸は弾き飛ばされた。
「ックゥ!?」
何とか無事に着地し、白む視界で何が起きたのかを確認しようと青年の方へと目を凝らす。
そして少しづつ回復してきた視界に入ってきた映像は、しかしおよそ紅丸の理解を超えたモノであった。
白刃が輝き、唸り、その刃の周囲を無数の青白い光が走り、迸り、暴れまわっている。
まるでファンタジーアニメか何かの様に、青年の剣の切っ先に光が集まってゆく。
「………んな、馬鹿な……!!」
154誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:50:57 ID:???
「…いいや、まさに馬鹿面だぜ?」
驚愕した紅丸の叫びに楓はそう切り返し
「―――今の…アンタ、の、面、は、よお、おおおオォォォォォ!!」
バシバシと猛り続ける刃を振るい、その咆哮を紅丸へと放った。
「……!!」
とっさに身を翻し、紅丸は光の矢を避ける。
避けた後方からバチィと音がし、瓦礫が飛び散った。
紅丸は一瞬だけそちらを顧みる。
砕け散った瓦礫は飛び散る先かか一瞬で塵へと還ってゆき、そして最後には跡形もなく消えていった。
―――あんなものにカスリでもしたら………
「―――くっそぉぉぉぉ!!」
その想像の結果にゾっとし、紅丸は青年から距離を取る為に走り出した。
そして、相手の思惑に合点がいった。
距離を縮めて有利なのは、自分ではなく青年の方だったのだ。
なにせ相手はあの剣を振るうだけで謎の殺人光線を放つ事が出来るのだ。
「逃がさねえ…ぜぇ!!」
構えながら、楓は光を今度は眼前に停滞させる。
そして先程よりも一回り大きな光が蓄積され、
「……思う存分、痺れなぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫と共に光の刃が放たれる。
「…まぁったく!ギャアギャア騒ぎやがって……!!」
紅丸は向き直り、真っ直ぐにその光を見据えた。
「スマートじゃねえなあ!!」
紅丸の右手に光が集まり、
「……雷光拳!!」
それを拳に纏い、光の矢へとぶつけた。
二つの光が弾け飛び、薄暗い路地裏は眩いばかりの閃光に包まれる。
「……………」
「…………フゥ、どうしたボーイ?」
額の汗を拭いながら、言葉を無くした青年に紅丸は語りかける。
「俺の勇姿に痺れたのかい?」
そう言ってウィンクを一つ。そして再び右手に雷の気を集める。
155誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:52:08 ID:???
涼しい顔で引き続き必死に思考を巡らせながら、紅丸は今の交錯で得た情報をまとめ始めた。
あの光の正体、あれは雷だ。
但し、その源…その質は、自分のモノとは何か根本的に違う。
どちらかというと、シェルミーのモノに……オロチのモノに近い。
しかし、それとも何かが違っている。
オロチの雷の様な暗黒の気ではなく、何かその対極に位置するような。
神の雷、とでもいうべき神々しさを持っている。
紅丸はそんな印象を受けた。
「…………へぇ、アンタも、か…」
暫くの沈黙の後、青年が口を開いた。
「…俺の頭痛は……アンタの、その力を感じ取っての事だったのかも、な……」
コツコツとこめかみを叩きながら、どこか愉快そうに語る。
「とりあえずは…雑魚じゃねえって、事か……なかなか楽しめそうで安心したぜ」
「おいおい、子供にゃ過ぎた遊びだと思うがね?」
雷鳴の刃を構え、雷光の拳を構え、両者は対峙する。
刻が凍りついたようだった。
「……消し炭にする前に、聞いといてやる」
「……アンタ、名前は?」
青年が、そう問うた。
「……二階堂、紅丸」
そう答え、紅丸も問い返した。
「そういうアンタは……何て名前なんだい?」
刻がゆっくりと動きだし、
「………俺の…名前は……!」
切っ先が迸り、拳が瞬いた。
「―――カエデ、だ!!」
「―――雷靭拳!」
光の矢が放たれ、それを光の拳が打ち消す。
156誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:54:42 ID:???
カエデ、その名に聞き覚えがある。
いつかの放送で、名を晒された殺人者。
ウィップを殺した、殺人鬼の名ではなかったか。
「…そうか!お前がカエデか!!」
確認するように、紅丸は青年の名を呼んだ。
「なら、俺も安心してお前を殺せるぜ!!」
「精々…!吼えてなぁぁぁ!!」
刃が二度三度と振り下ろされ振り上げられ、絶え間無く雷の矢が放たれる。
その姿は、神が地上へ己の怒りを放つ様に、恐ろしくも神々しい。
暗い路地裏は今や光の刃で埋め尽くされ、痛い程に照らされている。
それはまるで、神の威光が悪魔の闇を照らし尽くすように。
カミナリとは神鳴りの意であり、イカヅチとは怒鎚の意である。
そんな事を思い出しながら、幾つもの矢に晒された紅丸はたまらず脇の小道へと避難する。
「うわわわっと!!」
バチバチと音を立てながら、神の怒りは傍らを通りすぎていく。
「…隠れても…無駄、だ………」
そう呟き、楓は剣を天にかざす。
「―――終わりに、してやるっっっっっ!!」
ビッシャアン、と一条のイカヅチが楓に降り注ぐ。
「…ッグ、オ、オ、オオオオ、オオオオオオオオアアアアアアアアア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァァァァァァッッッッ!!!!」
そして天上より放たれた神の怒りの鎚は、その切先へと凝縮されていき、眩いばかりの光を撒き散らした。

楓の周囲の空気が帯電し、バチバチと弾けている。
今にも爆ぜそうな付近一帯の空気を感じ、紅丸は想う。

―――あんなモノをブっ放されたら この路地裏一帯が吹き飛んじまいそうだ

つまり、逃げ場は無い。
157誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:56:14 ID:???
そう結論した紅丸の思考は、しかし不思議と穏やかだった。

神の力を以って刃を振るう―――正にファンタジーヒーローの様、正に物語の勇者の様ではないか。
しかし紅丸は、神の使者たる青年を称える気などさらさら無かった。
例えこの身はその神気に震えようと、そんな神など、そんな勇者など認めない。
罪の無い女性を、人を殺める英雄など、この俺が認めない。

「……いや、ちょっと違うか」
否、そうではない。
ヒーローは、何時だってたった一人の筈だ。

―――英雄は たった一人

紅丸は大きく呼吸をし、そしてポケットに手を入れた。
「ようカエデ!よく聞くんだな!!」
そして紅丸は大声を張り上げ、楓に語りかけた。
「ヒーローはたった一人!!つまりはなぁ!」
右手に雷を集め、左手に小箱を握りしめ、
「―――この二階堂紅丸、唯一人って事だ!!」
高らかに宣言し、紅丸は飛び出した。


「吹、き、飛、べ、え、ええ、えええええぁぁぁあああああああああ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ!!!」
眼前の男をその戯言ごと消し飛ばすべく、楓は刃を振り下ろし―――
158誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:57:00 ID:???
キラキラと金色に輝く光の粒の塊が舞っていた。
「!?」
それらは少しずつ拡散しながら、楓に向かってきている。
「雷靭拳!」
紅丸は手刀を振るい、右手に纏っていた雷を放った。
それが金色の粒子を捉えた時、それは輝きを増し、そして楓の視界を奪った。
「―――――――――!!!!」
思わず顔を背け、手元が狂う。
「Do you understand?」
そう呟き、紅丸はウィンクする。
切っ先の神の鉄槌は、そのまま天へと放たれ―――









………

この世のあらゆる輝きを集めたかのような閃光の後、轟音が響き、瓦礫が舞い、埃が立ち込めた。
薄暗かった路地に光が差し込み、一つの影を映し出す。

「……やれやれ…トコトン俺らしくなかったな………」
軽口を叩きながら、二階堂紅丸は埃を払う。
「ガキ相手に、ムキになっちまった」
眼前の瓦礫、その下には楓が埋まっている筈だ。
159誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:57:40 ID:???
これならば、いくらあの青年といえども命は無いだろう。
そこまで思い至りようやっと納得して、紅丸は安堵の息を漏らした。
「…何が役に立つか、解らないモンだな」
足元に散らばる焦げて変形した画鋲を眺めながら、紅丸はそう一人ごちる。
自分の支給品…画鋲50個に、まさか命を救われる事になるとは。

あの一瞬の交錯の時、紅丸は楓に向かって自分の支給品である画鋲を投げつけたのだ。
そして自分の美学に反する為今まであまり使う事は無かったが、
『放つ雷靭拳』でそれらを捉えた。
電撃を受けた50個の画鋲は当然眩い程に輝きを増し、楓への目くらましとなる。
この目論見自体、一か八かの賭けには違いなかったが、紅丸はその賭けに勝った。
そして目くらましがうまくいったならその後は再び雷靭拳で楓を打ち、痺れきった所を一気に接近し止めを刺すつもりであった。
しかし…
「…まさか自滅とは、ね」
結末は思わぬものとなった。
楓が放とうとした電撃は、画鋲の目くらましで手元が狂ったのかそのまま頭上へと放たれた。
そして、上方の壁や屋根などを穿ち、楓の頭上に瓦礫の雨をもたらしたのだ。
およそ考え得る最上の結果に、紅丸は再び安堵の息をついた。

―――コイツのお陰 かもな

黒光りしている、形見となった厳つい火炎放射機を拾いあげながら、紅丸はそんな風に考える。
そして戦果を確認した後、紅丸は早々にここを立ち去る事にした。
楓の持っていたあの剣…あれは魅力的な武器だったが、この瓦礫からアレを掘り出している時間は無い。
それにあの閃光と轟音だ、やはりここに長居するのは危険であるし、何より自分もかなりの疲労をしてしまった。
今誰かと遭遇するのは非常に危険だ。
少しよろめきながら、紅丸は歩きだした。
片手に、勝利の女神の形見をぶら下げながら。
「Thank you. 」
そう囁き、勝利の女神に向かってウィンクを一つ捧げる。
そしてもう一人の女神の元へ馳せ参ずる為、紅丸は歩きだした。
160誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:58:44 ID:???
―――…… 

あれから、一刻。
光の濁流に呑まれ廃墟となったその路地には、もう誰も居ない。
ただ、墓標と化した瓦礫の山があるのみである。
此処にはもう、人は居ない。

―――ああ

そう、此処にはもうヒトは居ない。
今この路地に、ヒトは存在していない。

―――それにしても

だから、彼はここに居る。
なぜなら、彼はヒトではないのだから。

―――頭が 痛てえ

ビリビリと空気が震え出し、カラカラと音を立てて小さな瓦礫が転がり落ちてゆく。
瓦礫の奥の闇の中から、僅かに青白い光が漏れ出している。
バシバシと音を立てながら、青い光は墓穴の中で暴れまわっている。
それは、龍の息遣い。
その瓦礫の下、それはしっかりと息づき、呼吸を繰り返している。
彼はもう、ヒトではない。
光が白熱し、瞬間
161誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 03:59:25 ID:???
―――バッシャアァァン!

瓦礫の海と化した路地に、閃光と衝撃が駆け抜ける。
巨大な塊だった墓標は一瞬で吹き飛び、瓦解し、塵へと還る。
それはまるで、龍の息吹。
龍の目覚めの様な瞬間。

濛濛と立ち込める埃の海。
そこには、佇む影があった。
その影は人影で、しかしヒトに非ず。
その髪は金色で、それは天で輝く龍の鬣。

「――――――――――――――――――――――――………・・・・・・・・・!!!」

そしてその眼光は深紅に濁り、暗く、まるで黄昏時の夕陽のようで。
その意思は昏く、しかし神々しき威を纏い。


「――――――――――――ア"ァァァァァァァァァァァァァア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”―――――ァ”ア”!!」

怒りとも歓喜ともつかない咆哮を上げ、神人は再び地上に舞い降りた。
龍が咆哮し、神が雄叫びをあげ、神器は鳴動する。
封雷剣は、瓦礫の下敷きになったにも関わらず全くの無傷だ。
刀身が歪んでいるという事もなく、それどころか刃こぼれ一つ傷一つついていない。
楓はそんな封雷剣を支えにして立ってる。その刀身は、楓の身長程もある。
楓の生死を分けたのは、正にその二つの点にあった。
あの崩壊の瞬間、楓は反射的に刃を盾として身を防いだ。
その頑強な刀身は盾としての役目を十二分に果たした。
そしてその長い刀身が巨大な瓦礫を支え続け、楓は圧し潰される事も無く、生き埋めになる事も無かった。
それは恐らく、天佑と呼ばれるモノ。
162誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 04:02:31 ID:???
天は再び、楓を生かしたのだった。

ズキン
再び痛みが襲ってきた。
しかし、今度のそれは頭痛ではない。
どれだけ天佑が積み重なろうと、流石に無傷というワケにはいかなかった。
なんだか全身が痛い気がする。
歩く事は出来そうだが、暫くは走る事は出来無そうだ。
左腕も、あまり重い物は支えられそうにない。
暫く武器も片手で扱うしかないだろう。


でもまだだ。
まだまだだ。
まだ、この神気は静まらない。

―――今度はどうしようか 先刻の紅丸とか言う男を追うか。
―――それともあの機械を使って 他の手近な人間を探して殺そうか。
―――それとも 流石に少し休んでおこうか。
―――ああ そういえば 腹が減ったかもしれないな……

まるで休みの予定を立てる子供の様な心持軽ちで、楓はそんな思考をしてゆく。
その顔に、神々しいまでの殺意をたたえながら。

快。
楓の心を包むは、快。
ひたすらに命を貫き穿つ為、その快を満たす為、英雄は往く。
誰そ彼の辻を。


暗黒の街に今、黄昏が近づいていた。
163誰ソ彼ノ辻 修正版 ◆1wxzbbwPmQ :2005/03/26(土) 04:04:08 ID:???
【二階堂紅丸(かなり消耗) 所持品:火炎放射機 目的:シェルミーと合流、拳崇をシメる、出来たら真吾とK'と合流したい】

【楓(自我喪失、覚醒状態、かなり消耗 全身に重度の打撲) 所持品:封雷剣、探知機(有効範囲1q程度、英語表記)
                             目的:参加者を全て殺し自分が生き残る】

【現在位置:3区】
164ゲームセンター名無し:2005/03/30(水) 12:49:19 ID:???
165ゲームセンター名無し:2005/04/04(月) 01:14:59 ID:???
あげときますよー
166闇逝き列車修正版(全文バージョン):2005/04/06(水) 23:49:48 ID:???
また圧縮が近そうなので保守します。
167166:2005/04/06(水) 23:51:28 ID:???
うっかりやっちゃった…_| ̄|○
168ゲームセンター名無し:2005/04/10(日) 02:01:27 ID:???
新作が投下される事を期待しつつ
今までの死亡者の冥福を祈りつつ
謹んで保守いたす。
169Inconsequential bomb(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:42:49 ID:???
満身創痍で一晩中あてどもなく歩き回っている内にふと気がつくと、サラは兄とライを埋葬した公園に来ていた。
「兄さん、ライ…」
重い足を無理矢理動かしながら、二人を埋葬した場所に向かう。
「必ず、必ず仇を…」
言いかけて途中で止まる。
その兄と仲間の仇を発見したのだ。
身を隠し、様子を窺う。
あの女は空き家の中で誰かに銃を突きつけていた。
だが、二言三言交わすと微笑んでそれを下ろし、横になった。
それを見たサラの心に怨念の暗き炎が静かに燃え上がる。
自分の目標を、希望を奪ったあの女が、微笑みを浮かべられる誰かと共にいる事など断じて許せない。
殺す。
あの女と共に行動している奴も同罪だ。
殺す。
だが今はまずい。
自分は到底素早く動けそうにないし、相手もまだ完全には寝入っていない以上、逃げられる危険がある。
自分に残された時間は少ない。
確実に仕留めねばならない。
しばらく考えて、サラは相手の寝込みを待つ事にした。
170Inconsequential bomb(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:44:12 ID:???
マチュアと交代で見張りにたったものの、バイスは不満だった。
ここへ来てからのマチュアは明らかにおかしい。
具体的にどこがとは言えないが、先程の涙もそうだ。
適当にごまかしたが、見間違えるはずは無い。
マチュアは涙を零したのだ。
だが原因がわからない。マチュアの寝顔を見ながらため息をつく。
珍しく思索に耽っていたバイスの思考を中断したのはかすかな血の臭いだった。
思わず頬が緩む。
元々考え事なぞ柄じゃあないのだ。
そんな事を思いながら、バイスは臭いの出所を探った。
どうやら外からするらしいと気がつくと僅かに窓を開く。
だが、そこからは雨上がりの湿った空気が入り込んできただけだった。
それを確かめ、マチュアの寝ている方を振り向く。
長年の付き合いで、マチュアの眠りがそんなに深い方ではないのはわかっている。
残り時間も後30分程だし、一旦起こして様子を見に行くべきだろう。
しかしバイスは結局マチュアを起こさなかった。今のマチュアを相棒として完全には信用できなかった。
かといって不知火に不意を打たれるとは思わない。
見てわかる程憔悴していたあの女にとっても今は都合のいい状態の筈だし、それもわからずマチュアを襲ったとして、その程度の相手に殺される様では今日まで生き残ってはいない。
そこまで考えると、バイスは窓から姿を消した。
171Inconsequential bomb(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:46:15 ID:???
気が遠くなりそうなほど長い時間に思えた。
だが実際には二時間程度だろう。
その間サラはあの女の部屋から一度も目を離さなかった。
それでもあの女が完全に寝入ったと確信はできなかった。
その時、どこからか放送が流れだした。
『諸君、おはよう…』
余りの衝撃に呆然とするサラ。
放送の事を完全に失念していた。これであの女が目を覚ましたかもしれない。
いや、今の状況を考えたら確実に目を覚ましただろう。
奇襲の機会を逃してしまった。
しかし、もはやサラの体力は限界に近かった。
「もう、やるしかない」覚悟を決め、胸ポケットからマッチを取り出して念じる。
(兄さん、ライ、もう少しだけ私に力を…!)
それが命取りになった。
172Inconsequential bomb(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:47:53 ID:???
(コッソリってのは好みじゃないんだけどねぇ)
血の臭いは公園からだった。
微かな血の臭いだけで探したおかげで随分手間取ってしまったが、やはりそこには女が隠れていた。
銃を持っている可能性もあるので側面から回り込み様子を窺っていたが、女は不知火の休んでいる部屋を一心に見つめていてバイスには気づいていないようだ。
武器は持っていない様に見えたが何があるかわからないので、慎重に近づく。
と、その時放送が流れ出した。
とっさに身を隠す。
(何だ、例の放送かい)
誰が死のうと関係ない、今はただ殺すだけだ。
耳障りな声を意識の外に出し、女に意識を集中する。好機はすぐに訪れた。
女はコートから何かを取り出し、事もあろうに目を瞑ったのだ。
即座にバイスは間合いを詰め、渾身の力で斧を振り下ろす。
あっけなく首が落ち、サラはその生涯を終えた。
173Inconsequential bomb(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:49:51 ID:???
力なく倒れたサラの体から血溜まりが広がっていく。
「ふん、他愛ないねぇ」首と泣き別れたサラの亡骸を見下ろす。
単独にも関わらずこっちの様子を窺っていた女だ。
何か持っていると考えるのが自然だろう。
調べようと身をかがめると、背後で撃鉄の冷たい音が響いた。
「聞きたい事がある」
自分の迂闊さを呪いながらも、聞き覚えのある声にバイスは視線をゆっくりと後ろに向けた。
見覚えのある男が自分に向けて散弾銃を構えている。
「これはこれは、極限流のお兄さん、そいつで何人殺したんだい?」
バイスの挑発に、しかしリョウは感情を動かされなかった。
「会話を楽しむ気はない。
仲間は向こうの家の中か?
答えないなら殺す」
その言葉にバイスはリョウを見つめた。
全身から静かに漲る殺気、こちらを向いたままピクリとも動かない銃口と視線、これがKOFで会ったあの甘ちゃん空手家だろうか。
174Inconsequential bomb(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:52:04 ID:???
ともあれ本気なのはわかった。
何より、何故だか知らないがこっちの潜んでいる場所を知っている様だ。
ならばやるべき事は一つ。
「生憎仲違いしちまってねぇ、どうだい?しばらくアタシと…」
言いながらサラの亡骸を掴み、瞬時にそれに身を隠して突進する。
「遊んでおくれよォォォォッ!」
即座にリョウは発砲した。
無数の散弾は、しかしバイスの目論見通りにサラの体に防がれた。
瞬間、閃光と熱波がバイスを襲い、何が起こったかもわからぬまま、バイスの意識は蒸発した。

暗転。

リョウが目を覚ました時、辺りは瓦礫と肉片の山と化していた。
一瞬呆然としたものの、すぐに思い出した。
あの女が盾にした死体が爆発したのだ。
どういう事かはわからないが、この様子では生きてはいないだろう。
175Inconsequential bomb(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:54:06 ID:???
そこまで考えて体を起こそうとした瞬間、全身に激痛が走った。
余りの痛みに呻きをあげ、それでも無理矢理起き上がる。
酷い状態だった。
全身至る所に爆風による火傷と裂傷を負っており、特に左腕は感覚さえ無い。
当然、散弾銃も失っていた。
しかし、リョウにとって一番の痛手は、これでマチュアを討つどころの話ではなくなったと言う事だった。
やっと得た手がかりだっただけに断腸の思いだったが、こうなった以上長居は無用だった。
仲間が来る前に立ち去らねばならない。
「ヤツを殺す、までは…」
リョウは痛む体を引きずりながら、公園から遠ざかっていった。

【リョウ・サカザキ(重傷・左腕使用不可)
所持品:無し(爆風でロスト)
目的:日守剛の殺害】

【サラ・ブライアント:死亡】

【バイス:死亡】

【備考:リョウ・サカザキの支給品、火薬はその場に放置(誘爆の可能性あり)】
176死闘、女対女(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:55:59 ID:???
「ん…」
頬をそよ風に撫ぜられ、半分微睡みながらも意識は起きる時間である事を告げる。
目を開くと丁度放送が聞こえてきた。
それが最後の一押しとなってマチュアは目を覚ました。
放送に耳を傾けながらバイスの姿を探す。
当然ある筈のその姿は無く、半開きになった窓からは風が入り込んできていた。
窓に近づいて辺りを見渡したが、変わった様子は無い。
どういう事かと考えを巡らせるマチュアに、背後から声がかけられた。
「どうしたの?」
窓に写りこんだ舞の姿を油断無く見据えながら、マチュアが答えようと口を開いた次の瞬間、爆音が響いた。
177死闘、女対女(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:57:14 ID:???
何があったのかはすぐにわかった。
子供部屋の窓から見えていた公園に火柱が上がっていた。
慌てて駆け寄り、それが消えるまで眺めていた二人だが、マチュアがポツリと零した
「バイスが、いなくなってるのよ」
の言葉をきっかけに正気を取り戻した。
武器を確認し、襲撃を警戒しながら公園にたどり着いた二人が見たのは、今や瓦礫と肉片の山と化した公園だった。
「一体何が…」
舞の呟きに、しかしマチュアは答える事なく辺りを見回す。
と、ある一点でマチュアの視線は動かなくなった。
突然固まったマチュアを不審に思い、同じ方を見つめる舞。
視線の先で、歪んだオブジェが電柱にめり込んでいる。
それが何かわかった時、舞は息を呑んだ。
爆風と衝撃で変形、破損して使い物にならなくなっていたが、それは間違いなく斧だった。
178死闘、女対女(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 00:58:45 ID:???
幽鬼のごとく立ち尽くすマチュア。
舞は言葉も無くそれを見ていた。
どのくらいそうしていただろうか、不意にマチュアが口を開いた。
「これで組む理由がなくなったわね」
「…そうね」
舞が答える。
ゆっくりと振り向いたマチュアの目からは何の感情も感じ取れなかった。
静かに対峙する二人。
またもマチュアが口を開く。
「もしもの時の為にあなたに渡しておきたいものがあるの」
そう言うと、マチュアは二つ折りのメモ用紙を差し出す。
舞は油断無く構えながらもそれを受け取った。
「これは?」
マチュアが答える。
「美味しい紅茶の淹れ方」
キョトンとした舞に構わず、言葉を続ける。
「もしあなたが勝って無事に帰れたら、旦那様に淹れておあげなさいな」
舞の表情が複雑なものに変わる。
179死闘、女対女(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 01:00:03 ID:???
マチュアは尚も言葉を続けた。
「でもね、あなたの旦那様に淹れる前にルガールに会ったら彼に教えてあげて。
きっと飲めなくなって残念がってるから」
舞の目が細められる。
「私、倒して帰るわよ。許すつもりないもの」
その舞の言葉にもマチュアは動じない。
「倒されても一旦姿を消すだけよ、どうせまた現れるわ。
あの人はそういう人だから」
舞が皮肉気に笑う。
「かもね、でもあなた随分と弱気なのね」
「言ったでしょう?
もしもの時の為よ。
あなたも何かあれば聞いてあげる」
しかし舞はその言葉に首を振った。
「必要ないわ、負けるつもりないもの」
マチュアは微笑する。
「あなたらしいわね」
話はそれで終わりだった。
180死闘、女対女(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 01:01:48 ID:???
マチュアが鎌を振るい、舞がとびすさる。
間合いの離れたところで舞が二連射。
身をくねらせてそれをかわし、間合いを詰めてくるマチュアにさらにもう一射。
それさえも横っ飛びにかわしたマチュアだったが、間合いはまた離れてしまった。
二人の間を静寂が満たす。
先に動いたのはまたもマチュアだった。
力を溜め、渾身の勢いで鎌で足元を刈る。
本来届く筈のないそれは、マチュアのリーチが瞬間的に伸びた事で鎌鼬のごとく舞を襲う。
完全に意表をつかれた舞だったが、後方に跳んでそれを凌ぐ。
体勢を立て直す暇もなく、今度は本物の鎌鼬が舞を襲う。
横に転がってかわしたものの、今度はマチュアが眼前に迫る。
立て続けに振り下ろされる鎌を転がり続けながらかわし、方向だけを合わせて一射。
181死闘、女対女(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 01:06:11 ID:???
外れはしたが、再びマチュアから距離をとるのには成功した。
片膝立ちになって銃をマチュアに向ける。
その時には既にマチュアは物陰に隠れていた。
お互いに様子を窺う膠着した時間が続く。
その時、舞はふと祖父の言葉を思い出した。
(なまじ銃があるからそれに頼りすぎる…なら!)
デザートイーグルを腰帯に差し込み、扇子を取り出す。
それを見て疾走してきたマチュアに向かって舞も駆けた。
横薙ぎに振られた鎌を扇子で受け流し、肩から体当たりをかける。
水月に決まってよろけるマチュアを更に扇子の連撃が襲う。
なす術もなく高々と空中に舞い上げられるマチュアを、共に上昇しながら扇子で追撃し、更に地面に叩きつける。
受け身も取れずに叩きつけられ、血を吐くマチュア。
混濁していた意識を目覚めさせたのは足音だった。
182死闘、女対女(時系列修正ver.):2005/04/12(火) 01:09:33 ID:???
舞が歩み寄ってくる。
鎌は落としてしまっている。
ならばと逃れようとするが身動きがとれない。
完全に致命傷だった。
それを理解したマチュアは、顔だけを舞の方に向けて言った。
「ねぇ…最後にお願いがあるの」
マチュアの言葉に、舞は黙って頷いた。
もはやマチュアには余分な会話をする余力さえ残されていないのは明らかだった。
「お腹に…触らせて」
そう言うと残された力を振り絞って手を伸ばす。
舞は一瞬躊躇う様子を見せたがやがてマチュアの手を取ると、屈んで自らの腹部に触れさせた。
触れた部分から温もりと、そして確かに存在する生命の鼓動を感じた気がして、マチュアの目から涙が零れ落ちる。
「羨ましい…私もそうなりたかっ…」
その言葉を最後に、マチュアの全身から力が抜け落ちた。
舞はマチュアの目を閉じさせて顔を拭いてやると立ち上がって鎌を拾い、家の中に置き去りだったバッグを回収して振り向く事なく立ち去っていった。

【不知火舞(戦闘により未だ消耗)
所持品:使い捨てカメラ写ルンDeath、IMIデザートイーグル(残り二発)、鎌(マチュアからルート)
目的:休息のできる場所を探す、マチュアのメモをルガールに渡す】

【マチュア:死亡】
183ゲームセンター名無し:2005/04/16(土) 12:37:31 ID:???
死ね
184ゲームセンター名無し:2005/04/20(水) 16:58:33 ID:???
hosu
185Sure wo Hoshu
携帯が鳴り響く。
大方ルガールからの指令だろう。
『是非ともやって欲しい事がある。
 いつも似たような仕事ではつまらないだろうから、今回は少々毛色の違う仕事を用意した』
「不必要に回りくどいのは好きじゃない。用件を言ってくれ」

  『スレを保守しておけ』


ホシュ、っと
          ∧_∧
    ∧_∧  (´<_` ;) これマーダーの仕事とちゃうやろ
   ( ´_ゝ`) /   ⌒i
   /   \     | |
  /    / ̄ ̄ ̄ ̄/ |
__(__ニつ/ ACBR  / .| .|____
    \/____/ (u ⊃

( ´_ゝ`)「来た仕事を簡単に断るようじゃ不況の世の中食っていけないぞ」
(´<_` ;)「…オレら本当にマーダーなのか?」