>>671-675の続き
人には人生の節々にその後に大きな影響を与える転機が訪れることがある。
何気ない一言や風景でもそこからインスピレーションを受ける人もいれば
友人との別れや肉親との死別、または運命的な出逢い・・・人それぞれの転機を
迎えそれを乗り越え人は自分の人生を歩んでいく。
椎名つばさもこの1年で多くの体験を重ねた。それは普通の人の数十年にも
匹敵するかそれ以上のものであった。
その小さな身体に背負わされた宿命はあまりにも重く凄惨なものであった。
しかし少女は生来の消極的な性格にも関わらず見事にそれらを乗り越えていった。
だがそれでも心の端に残る払いきれない想いが未だ少女の心に重くのしかかっていた。
だが時として思いがけないところから救済が訪れることもある。
そして今、椎名つばさにもその救済が訪れようとしていた。
学校の帰り道、何気に立ち寄った街角で幼子と出会い、そしてなりゆきからその
危機を救ったつばさ・・・。
街のショウウィンドウに映ったのものはつばさが喪った自分の半身の姿であった。
つばさ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・カル・・・・ゃん・・・・・」
時間にしてそれは十数秒程度のものであった。
しかしつばさにとってそれは思いもよらない再会であった。
窓ガラスに映ったもの・・・それはあくまでつばさであった。しかしその表情は
まぎれもなくヒカルそのものであった。これはどういう事なのか?
つばさはずっとヒカルに理想の自分の姿を追い求めていた。はじめはヒカルのように
なりたいと思っていたつばさであったが、やがてヒカルがいれば自分がそれになる必要は
ないと努力を怠るようになり、やがてヒカルの真意を知り前向きに生きはじめたつばさで
あったがそれでも結局はヒカルの顔色を伺ってばかりであった。
ヒカルを喪ったあともその面影を求めもっと肝心な・・・根本的なことを見失っていたのだ。
ヒカルは元々つばさの中から抜け出したもの・・・つばさの中に眠っていた可能性そのもの
であった。
そしてヒカルと過ごした日々の中でつばさ自身その可能性を少しずつ芽吹かせていった。
だがそれでもつばさはヒカルを意識しすぎて自分の中の力を信じきれなかった。
それが皮肉な事にヒカルを助けようとした瞬間・・・その時だけはつばさの頭からヒカルの事が
忘れ去られていた。
なにもかも忘れその一瞬だけはつばさは己の力だけで事を成したのだ。
MMを倒した時も同じだったがそれもつばさにしてみればヒカルがいたればこそだった。
そして今・・・つばさは本当に自分だけでなにかを成し遂げた。その瞬間、つばさはとうとう
成る事ができたのだ。
”わたしがなりたかったわたしに”
つばさはやっと気付いたのだ。この世に生を受けたその瞬間からヒカルはつばさと
共に在り、そしてこれからもずっと在りつづけるのだと。
永久に別れることの無い存在・・・・・決して引き離されることの無い存在・・・
ヒカルはまさに自分そのものだったのだとつばさはこの瞬間悟ったのだ。
誰にも頼らず自分独りの力でなにかを成し遂げ、その自信からあふれた微笑・・・
それこそがつばさが憧れつづけたヒカルの微笑みそのものであった。
つばさ 「・・・・・・・ヒカルちゃん・・・・・・・ずっとここにいたんだね・・・・・・・・・・・・」
警官 「お、おい つばさちゃん!大丈夫かい!?やっぱりどこか怪我でも・・・」
つばさ 「いえ・・・なんでもないです・・・」
涙をぬぐいながらつばさは返事をした。
警官 「今ごろになって震えがきたのかな・・・まだ小さいんだから無理も無いか・・・」
DD 「つばさ!」
ようやくDDが迎えにきた。
DD 「・・・・なにかあったんですか?」
警官 「お?つばさちゃんのお兄さんですか?いゃあ大変だったんですよ!それが・・・」
DD 「・・・・・そんなことが・・・・・」
つばさ 「DD・・・・・・」
つばさに呼ばれふとその顔を見たDDはハッとなった。
DD 「ヒカル・・・・・・・・・?」
ヒカルはつばさの映し身ゆえ同じ顔なのは当然だがそれでも他の者から
見分けがつくくらいふたりの表情には明かな違いがあった。
しかし今ののつばさの表情はそれを知る者も見紛うほど見分けがつかなかった。
警官 「・・・・・・DD?ヒカル??」
事情など知る由も無い警官はふたりの会話にかみ合わないものを感じた。
警官に見送られつばさはDDと共に帰路についた。そして家に着き
父やかけつけたオルディナたちの前で事のあらましを説明した。
オルディナ「やはりその子を助けたことがつばさにとってなんらかの影響を与えたと
考えるべきでしょうね。」
DD 「それにしても本当に驚いた・・・こんな事もあるんだな・・・」
つばさ 「みんな・・・・・本当に心配掛けてごめんなさい・・・・・でも、もう大丈夫だから。」
英夫 「ああ。・・・・・そういえば思い出したことがあるんだ。」
つばさ 「・・・?」
英夫 「つばさが産まれる時、お父さんとお母さん、二つ名前を考えていたんだ。」
つばさ 「え・・・?」
英夫 「ひとつは、つばさ。もうひとつは・・・ヒカル。お母さんと二人でどっちがいいか
最後まで悩んだっけ・・・。」