「泉こなたを自殺させる方法」を考える24

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1名無しさん@お腹いっぱい。
こなたSTEP

■前スレ
「泉こなたを自殺させる方法を考える」23
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1215273793/

■保管庫等
こなた自殺Wiki
http://www34.atwiki.jp/konataowata/

つかさビッチWiki
http://www10.atwiki.jp/tsukasa-bocchi-owata/

VIPのらきすたSSまとめ
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/

らきすた呼称リスト
http://www.syu-ta.com/luckystar/luckystar-namecalled.shtm
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/30(水) 23:06:01 ID:CIqN8lBP
        /二二ヽ
         |    |
         |  |||  |
         |..ε  |  >>1
         |  |||  |
         | ・  .|
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     |´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ソ
     ソ::::::::::::::::::::::::::::::::ソソ
   / ソ ̄|;;;;;;;lll;;;;;;;| ̄ソ \
   |´ ̄ ̄ |. [廿] .|´ ̄ ̄.|
   |:::::::::::::::|      |::::::::::::::|
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    . ̄ ̄ ̄|_______|´ ̄ ̄゛
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/30(水) 23:06:28 ID:/VeI2Wia
>>1続き

こっそりと、つかさビッチも兼ねてたりします。
目指せ独立。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/30(水) 23:07:57 ID:/VeI2Wia
ああ、言い忘れた。SS投下とかは、なるべく前スレ使いきっちゃってください。
それまでは、このスレの保守も必要だろうけど。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/30(水) 23:22:50 ID:NhnnPRI8
         / /         |    ヽ   /      , ´
 気 方 こ 弋´  /     ___| \  〉-/_,. -‐     /
 持  が な   .> /   /――-ヽ__Y^y      /
 ち  も ち  (_ /   /-―- ./ /   爪     /
 悪  っ ゃ  (/   /´ // /`/  /://:::|`―< ヽ
 い  と  ん   \ /  //_∠__/  /://::::,' |l \〉 .ハ
 よ    の /⌒ 7 /ィ≠''''ニミヽ/:://::::/ /l l:| |‖ |
!!      |   //_イ/ /  ', }}::::::〃::::/./:/ヽl:| | l| |
         弋 //::::  /  / / ::::/::::::/厶〈 ハ | | ‖
         /⌒,/:::::::  l   /.::::::::::::::::/,イΞミ〈// 人_人||人_ノ
ヽ/⌒ヽ(⌒Y  /:::::::::::ヽ _ー::::::::::::::::::::::::: / } |l<
   | .|| | |l  |       ::::::::::::::::::::: / / / jj::::::} は は あ
   ヽ|| | |l ∧   ト⌒\   ::::::::: し _〃:<  は は っ
     ヽ从ハ | ヽ   |  \ ` 、 ′ ヽ..::::::::::/  ) ぁ. は は
   _ /ヘ| \ ヽ   `ヽ、__フ   :::::::/<   l   は は
         |   \   _)/      / / ヽ !! は は
            l:::>  __,   -‐ ´ /_ノ     は は
            l:/ =ニ二三≠イ //  `ヽ
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 03:59:33 ID:tIxkmMRY
コミュニケィションブレイクダンサーッ
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 10:23:06 ID:Hbn5tU51
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 18:37:54 ID:FCa3Vet3
さて、前スレが埋まったわけだが。
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 21:15:24 ID:5c91otJP
>>1 乙こな
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 21:39:19 ID:kIJsU8qA
そこそこの評価を得ているようで安心しています。
少し早いですが今夜も投稿してよいでしょうか。
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 21:40:41 ID:hZfqy8/C
わざわざ訊く必要は無い
投下宣言だけしてくれれば良いよ
12虚像と実像8:2008/07/31(木) 22:02:40 ID:kIJsU8qA
了解。
では今回もキリよく止めます。



 つかさやみゆきが放った言葉よりも遥かに残酷だった。
聞かなければ良かったと思う反面、聞けて良かったとも思えた。
『前の学校でいじめに遭ってたんじゃないの?』
はぐらかされるのを恐れ、かがみは単刀直入に訊ねた。
言ってからもっとマシな表現はなかったかと後悔したが遅い。





思ったとおり、こなたはいじめられていた。
小学校の低学年から中学卒業までずっとだと言うから、10年近くいじめられていたのだろう。
小さい頃からマイペースだったこなたは、よく大人から協調性に欠ける子だと言われていた。
我が強いほうで、クラスやチーム単位で行う行事でもおかしいと思うことには毅然と主張した。
といって狷介不羈(けんかいふき)な性格ではなく、周囲に合わせるところは合わせていた。
前述の協調性云々という評はつまるところ、
『他の子に比べて事物に異を唱える回数が多いのが目立つ』
という程度で人格的にはさほど問題ではなかったハズだった。
しかし大人もそうだが、子供は特に和を尊び異を忌み嫌う。
こなたは良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎた。
たとえば体格をとっても、彼女は平均を遥かに下回るほど背が低く華奢だ。
身体的特徴も子供にとっては格好の標的となる。
いじめは突然に始まった。
物を隠される、机の中にゴミを入れられる、黒板にあらぬ噂を書き並べられる。
そういうところから始まり、殴ったり蹴られたりとエスカレートしていく。
おそらく小さな体躯がいじめられやすい要因のひとつとなったのだろう。
小学5年生頃になると完全に無視されるようになり、こなたの居場所はなくなった。
先生にも何度も助けを求めた。
しかし、他の子も見ないといけないからという理由でまともに取り合ってはくれなかった。
担任にとって、こなたいじめは無くてはならない存在だった。
すでにクラスメートはこなたという共通の敵を作ることで強く団結している。
勉強にも身が入り成績も上がったし、運動会ではクラス対抗の種目で必ず勝利を得た。
ケンカもなくなった。学級会の話し合いもすぐに終わる。
クラスメート全員が強い絆で結ばれていたからだ。
こなたをいじめることでストレス発散になり、その行為自体がクラスの価値をあげた。
教師たちはそろって、
「あんなにまとまりのあるクラスは初めてだ。自分も見習いたい」
と言っていた。
皮肉にもこなたはそれを聞いてしまった。
自分のことなど誰も助けてくれない。
大人は大多数がまとまっていればそれでよく、まとまりを切り崩してまでたった一人を助けようとはしない。
毎日、新しい傷を作って帰ってくるこなたに、そうじろうは幾度となく訊ねた。
その度にこなたは転んだとか、ぶつけたとかと言ってごまかした。
父親に心配をかけたくなかった。
言えば騒ぎになる。
そうなればまたいじめられる。
中学校に進学してもそれは続いた。
違う小学校からやって来た生徒と友だちになる。
お互い入ったばかりで緊張しているから、こういう時は見知らぬ相手でもすぐに打ち解けられる。
だがそれも長くは続かない。
こなたをいじめていた連中が陰で手を回していたからだ。
13虚像と実像9:2008/07/31(木) 22:04:15 ID:kIJsU8qA
あっという間にこなたは孤立。
小学生当時よりもさらに酷いいじめを受けた。
部活もやらず、学校に行く以外はずっと自宅にこもっていたこなた。
本を読んだりテレビを観たりしていたが、入ってくる情報はどれも虚しいものばかり。
ある時、そうじろうが隠し持っていたゲームを見つけたこなたは、こっそり自室に持ち込み遊んでみた。
典型的なギャルゲーだった。
恋愛重視で過激な描写は抑えられている、全年齢対象のソフトだ。
主人公の男の子は転入したばかりの学校の文化祭の準備を手伝わされる。
転校初日から文化祭当日までにフラグを立て、登場する女の子と結ばれればクリアだ。
ストーリー自体はつまらなかった。
誰でも書けそうなプロットだった。
が、こなたは何年ぶりかに誰かに声をかけてもらった気がした。
小学校高学年から続いた無視といういじめは、舞台が変わってもそのまま受け継がれている。
彼女が話す相手は今やそうじろうだけになった。
だからキャラクターがこっちを向いて喋ってくれるゲームは、こなたにとってはオアシスも同然だった。
『ありがとう』とか『大好き』という何度も聞きたい言葉はロードを繰り返せばいい。
気に入らないキャラや嫌なセリフがでるところはスキップすればいい。
こなたはそうじろうに頼んでこの手のソフトを何本も買ってもらった。
そうじろうはゲームに没頭する娘を不憫に思ったが、それが娘のためだと分かると彼女の望むとおりにした。





「でも3年の時は一生懸命勉強したんだ。陵桜は成績のいい子が集まるって聞いてたから。
そしたら私をいじめる子もいないんじゃないかなって……それに家から遠かったし」
淡々と語る口調がかがみには怖かった。
「知らなかった……あんたがそんな……」
かがみは言いよどむ。
先ほど異常なくらい取り乱していた理由はこれだったのか。
『話しかけないでほしい』
2人のこのセリフは、つまりこなたを無視したいというのと同義だ。
もちろんあの2人が今後、こなたを陥れたりすることはないだろう。
あくまで距離を置きたいというだけでそれ以上の意味はないハズだ。
しかしこなたにとってはそうではない。
毎日が地獄だったあの頃の記憶が甦り、何とか食い止めようとした。
その結果がこれなのだ。
「ゲームばっかりやってて、人付き合いができなくなった、なんて言わないよ」
こなたは自嘲気味に言った。
「みんなのこと、ちゃんと考えてなかったのは私だから――」
あんな風に拒絶されても仕方がない、とこなたは言った。
「…………っ!?」
かがみは無意識のうちにこなたを抱きしめていた。
少しでも彼女の苦痛が和らげばそれでいい。
ツンデレと揶揄われてもかまわない。
辛辣な過去を持つ友人を放っておけるほど、かがみは薄情ではない。
「…かが……み……?」
強く抱擁されて息苦しい。
なのに心地よかった。
14虚像と実像10:2008/07/31(木) 22:05:36 ID:kIJsU8qA
「こなた」
かがみが呼ぶ。
こうしておけばその間だけ、こなたと苦痛を共有できる気がした。
2人がこなたに絶縁を言い渡した一因は彼女にもある。
しかし過去、彼女がいじめられる理由はない。
だから先ほどの彼女の反応は本来ならあってはならないことだ。
「あんたがどれだけつらかったか、私には想像しかできないけど。
でも、なんであんたがそんな風になったのかは分かった」
陵桜に入ってもこなたはオタクであることを辞めなかった。
今までと違っていじめられることもなく、彼女が望んでいた交友関係も広げられた。
しかしもはや生活の大部分を占めるゲームやアニメからは離れられない。
楽しいからだ。
かがみやつかさ、みゆきといるのも楽しい。
だが不安は常につきまとった。
プログラムと違い、生身の人間は先の行動が予想できない。
響きのいいことばかり言ってくれるとは限らない。
いつも笑顔でいてくれるとは限らない。
そのために死神のようにまとわりつく恐怖がある。
今回はその死神がいよいよ手にした鎌をこなたの首筋にあてがっている。
そこから救い出せるのは今のところかがみしかいない。
「寂しかったんだろ? ずっと……心を許せる友だちがいなくて……」
こなたは頷いた。
「嬉しかったんだ。みんなと知り合えたこと」
「…………」
「つかさは料理が得意な優しい子だし。みゆきさんは何でも知ってる優しいお嬢様で。
かがみは怒りっぽい感じだけど、でも一番優しいんだって思った」
こなたはみんなに”優しい”という単語をつけて評した。
優しい人間が絶縁状を叩きつけたりするだろうか。
冷静な状態ではそうも考えるが、こなたもかがみもそこまで思考が及ばない。
たとえうわべだけでも付き合ってきたのも、あるいはその優しさの為せる業かもしれないのだ。
「だから、つい甘えちゃったんだよね。私の話、みんな笑って聞いてくれるから。
本当はどう思われてるのかなんて考えたこともなかった……」
こなたが望んでいたハズの友だち。
だがそれを得るのが少し遅かった。
ゲームにどっぷりと浸かっていた彼女にとって――。
現実の友人は、画面の向こうのキャラクターの延長だった。
「迷惑な話だよね。ずっと私に付き合わされてたんだもんね」
ここに来て、つかさの言っていた”ずっと”の意味を考えてみる。
”ずっと”とはいつからだったのだろう。
みゆきも同じ時期から我慢していたのだろうか。
先に痺れを切らせたのはどちらなのだろう。
「こなたがそこまで思いつめる必要ない」
気がつくとかがみも落涙していた。
今までそんな素振りをまったく見せずに気丈に振舞っていたこなたに。
過去を押し殺して明るいキャラクターを演じていたこなたに。
かがみは底知れない強さを感じた。
同時にそれに気付けなかった自分が牴牾(もどか)しくもなる。
ディープな話題を振りまく彼女に、かがみは呆れ顔であしらったことがある。
もっと健全な趣味を見つけろとか、社交性がないとか。
仮想も現実もひきこもりか、と突き放したことがある。
――何より。
15虚像と実像11:2008/07/31(木) 22:06:52 ID:kIJsU8qA

『あんた、私たち以外にリアルな友だち作ったことあるのか?』

こう言い放ったことを、かがみは今でもハッキリと憶えている。
あの時は話の流れで出た言葉だったが。
それを言われたこなたがどれだけ心に傷を負ったか。
かがみは今まで考えもしなかった。
今にして思えばあの時、妙な沈黙があったような気がする。
(私……なんてひどいことを言ってしまったんだろう……)
かがみは悔いた。
今さらそれを蒸し返して謝るのもおかしい気がした。
せっかく陵桜に入学し、陰惨な過去と決別して新たな道を進もうとしていたこなたに。
わざわざ昔の傷を突く発言をしてしまったこと。
知らなかったとはいえ、それも立派ないじめだとかがみは思い悩んだ。
こなたが今のこなたである理由は分かったのだ。
その事実を知っている数少ない人物として――。
かがみにはやるべきことがある。
「こなた」
もう一度呼ぶ。今度はやんわりと包み込むように。
「つらいだろうけど、このこと、つかさとみゆきに話すわ」
こなたの体がビクンと震えた。
「やめて」
「こなたの気持ちは分かる。ううん、分かってるつもりだけど……分かってあげたい」
「だったら言わないで。かがみにしか言ってないんだよ? 他の誰にも知られたくないよ」
「どうして?」
「だってまたいじめられる……」
こなたは小動物のように震えていた。
それが恐怖によるものであることは明白だ。
「あの2人がそんなことすると思うか?」
かがみは問うた。
みゆきは他人だが、つかさは双子の妹だ。
彼女が馬鹿がつくほど正直で優しいことは、姉であるかがみが一番よく分かっている。
「でも……」
と、こなたは逡巡する。
するとは思えないといっても、実際に2人は付き合いをやめたいと言ってきている。
話したところで元の関係に戻るとはどうしても思えなかった。
「ただの空気の読めないオタク、なんて普通誰も思われたくないわよ」
つかさは優しいし、みゆきは良識がある。
こなたの過去を知れば、きっと分かってくれるに違いない。
かがみは確信していた。
だが、当の本人にはまだ迷いがあるようだ。
昔いじめられていた人間と付き合いたいと思うだろうか?
同情しながら接することを面倒だとは思わないだろうか?
こなたは思った。
新しい環境で楽しい学園生活を送ろうと思っていたのだ。
本来なら誰にも知られたくない封印したい過去だったハズだ。
なのに、なぜかかがみにだけは打ち明けてしまった。
その理由が今もって解らない。
もしかしたら彼女なら何とかしてくれる、という期待があったのかもしれない。
絶交を言い渡されて傷ついていたために、つい口をすべらせてしまったのかもしれない。
「ちゃんと話そうよ? このままじゃこなた、ずっと誤解されたままだよ?」
ついさっきまで自分も誤解していたかがみは、何とかして関係を修復したいと思った。
「2人ならきっと分かってくれるわ。隠し事しないのが友だちだろ?」
「…………」
こなたは何も言わない。
しかし彼女は数秒の後、こくんと頷いた。
16虚像と実像12:2008/07/31(木) 22:09:19 ID:kIJsU8qA
 その日は寄り道もせずに帰った。
心配したかがみが家まで送ろうかと言ったが、こなたは大丈夫だと断った。
その後ろ姿に不安を覚えながらも、かがみは自信に満ちた顔で帰路につく。
明日になれば、ひとまず片がつく。
こなたの傷はそう簡単には癒えないが、少なくともいつもの4人でいられるハズだ。
そう確信するかがみの表情は凛々しく、這い寄る闇をはねのける強さがあった。




今夜はここまでにします。
それではまた明日。
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 22:38:02 ID:MnCoR867
イイヨイイヨ〜
つか、出来が良すぎて脳内で公式設定化しそう
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 22:38:39 ID:dpwZlnHB
投下乙。昔のパターンに似ているけど、違いがあって面白いな。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 22:47:15 ID:pCgXrC7U
立体化しても自殺。>1乙
http://jun.2chan.net/b/src/1217511672677.jpg
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 22:52:25 ID:tIxkmMRY
過去スレのログってdatからhtmlに変える方法ってどうやるの?
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/31(木) 23:22:50 ID:FCa3Vet3
>>16
乙。これは期待。
構成自体ハイクオリティだけど、
キャラのメイキングが特にいいね。

>前スレ筋肉氏
またまた笑いました。つかさの飛びぬけたギャグセンスに。
相変わらず個性突き抜けてるなぁ。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 00:15:41 ID:NybKbzon
>>16
乙。
これはまたハイクオリティな文章。期待。
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 01:59:25 ID:ijwqjY/4
>>19
ワロタw
こなたぶらーん
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 03:17:11 ID:z7c2rriv
大学でスレ保持40なのに最後まで保守してる時を思い出した
懐かしいな…
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 08:32:21 ID:A+D8+S9r
結局あの時のdatって上がってないよね
26名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 08:39:09 ID:32mE84V5
持てるよー
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 11:20:28 ID:prOrY5vC
足に重りをつけてですね
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 13:16:12 ID:i62g1rsn
>>10
評判悪かったら続き載せないのかい?
上でも言われてるけど過去の作品のネタ被りがあるから、そこまで面白くないよ。今は。
ラストまで読まなきゃ評判なんて分からないよ。
書き溜めてるならさっさと載せればいいのに。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 17:29:50 ID:2EvT2FQw
そんないじめてやるなよ
30名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 18:01:06 ID:rkKz7Qtd
てか実際、スルーされたり批判されたりしたら、
途中でも撤退しちゃう人が居るからな。
SS書きに必要なのは、スルー耐性だと思う今日この頃。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 18:49:36 ID:nvN0CsNa
スルーというか
自分が投下したレス後直ぐに上手い絵師が来ると正直落ち込む時があるよ
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 21:12:50 ID:h/XyMKtp
みなさん、こんばんは。
少し早いですが今夜も投下させていただきます。
33虚像と実像13:2008/08/01(金) 21:14:08 ID:h/XyMKtp

「つかさ、ちょっといい?」
夕食を終え、一息ついたところに部屋を訪ねる。
「うん、いいよ」
マンガを読んでいたつかさはポンと置くと入室を促した。
「ごめんね、勉強してた?」
していないと分かっていて訊く。
つかさは苦笑いを浮かべて、うん、とだけ答えた。
「あ、今日はごめんね。ちょっと用事があったから先に帰っちゃって」
つかさは罪悪感を顔いっぱいに出して謝った。
彼女の嘘はすぐにバレる。
そんな妹を可愛いと思いながら、
「隠さなくていいよ。こなたのことでしょ?」
と前半は笑顔で、後半は真顔で問う。
数秒の間があり、つかさは言い逃れできないと悟ったか、
「うん、知ってたんだ……」
観念したように認めた。
「つかさがあんなこと言うとは思わなかったな」
怒っているというより残念そうなかがみの声。
その口調から子細に知っているのだと確信する。
「私も言い過ぎたかも知れないって思うけど……」
つかさはもう姉の顔は見られない。
かがみがこなたを大切に思っているのは分かっているから。
それと同じくらい自分を大切に思ってくれているのも分かっている。
だから揺れた。
「でも本当なんだもん……その、私たちがそんな風に見られてるって……」
そんな風とはもちろんオタクとして見られているということだ。
国際的に高い評価を得ているのはアニメやゲームなどの作品であって、それを愛するオタクは違う。
依然として差別的な目で見られていることをつかさは知っている。
自分とは関係のない事柄で世間から笑われるのは我慢ならない、とつかさは言う。
その気持ちも分かるかがみは一瞬迷ったが、このままでは誰のためにもならないと思い真実を告げることにした。
「あのさ、つかさ――」
かがみはこなたから聞いたとおりに話した。
一切の主観は排してある。
それをしてしまったら不公平だ。
事実だけを告げ、それをつかさがどう受け止め、どう思うか。
そこに関係を修復する鍵があるとかがみは踏んだ。
「本当なの……それ?」
現実離れした話につかさは驚く。
普段のこなたからは到底想像もつかない辛辣な事実だ。
「本当よ」
そう答えるかがみに、それが本当だと証明する術はない。
しかしあの状況でこなたがいじめられていたと嘘をつく動機がない。
こなた自身が証拠だ。
「知らなかった……」
つかさは言う。
当然だ。
知っていたらあそこまで酷いことは言わなかった。
「だからさ、あいつがああなのはそういう理由があるのよ」
「…………」
「何もかも許してやれってことじゃないよ。ただ、そういう事があったってのは知っておくべきだと思う」
判断はあくまでつかさに委ねることにした。
ここから先はかがみがわざわざ言わなくても分かっているハズだ。
「お姉ちゃん、わたし……明日こなちゃんと話すよ」
つかさがそう言ってくれたことが、かがみには何より嬉しかった。
34虚像と実像14:2008/08/01(金) 21:15:22 ID:h/XyMKtp
 翌日、昼休み。
屋上に4人が揃った。
朝一番からつかさはこなたに声をかけようとしたが昨晩、かがみが止めた。
みゆきにも真実を明かしてからのほうがよいと判断したからだ。
午前の4時間はどこかぎこちなさを漂わせながらも、険悪な雰囲気になることはなかった。
やつれたようなこなたに、つかさはごく普通を装って挨拶した。
その時の彼女の表情はとても幸せそうで、この当たり前の笑顔の裏に陰惨な過去があるのかと思うと、
つかさはいてもたってもいられなかった。
「お話とはなんでしょう?」
着くなり言ったのはみゆきだ。
このメンバーでここにいるのは不愉快極まりない。
突き放すような口調がそう語っていた。
視界にこなたが映るのが厭なのか、みゆきはわざとそちらを向かないようにした。
「つかさには昨日話したんだけどね」
かがみはちらっとこなたを見やる。
今にも泣き出しそうな顔で俯いたままだ。
かがみはどうか知らないが、こなたにとっては分の悪い賭けのようなものだ。
自分の惨めな――思い出したくもない――過去を無様に曝け出すには大きな勇気がいる。
かがみが代行してくれるからいいが、望まない結果になった場合に傷つくのはこなたなのだ。
(…………?)
みゆきは3人の顔を順番に見回した。
昨日の件でつかさのこなたに対する感情は分かったが、かがみはどうなのだろうか?
”昼休みは屋上で”
そう言ったのはかがみだった。
わざわざこのメンバーを引っ張り出してきた点からして、こなたには嫌悪していないように見える。
「こなた、いいわよね?」
こなたは頷く。
かがみに打ち明け、そこからつかさにも伝わっているのだ。
今さら隠す理由はない。
一応の了解を得たところで、かがみはこなたの過去をみゆきに述べた。
こんな重い話、昼休みの1時間で収めるべきではない。
しかし放課後ではバラバラになる可能性が高く、チャンスといえば昼休みくらいしかない。
かがみの語りの途中、つかさが落涙した。
(つかさ…………)
その様子を見るとはなしに見ていたこなたは、もうこれで十分だと思った。
こうして涙してくれるだけで十分だ。もう何も要らない。
陵桜に入ってよかった、とこなたは思った。
35虚像と実像15:2008/08/01(金) 21:17:03 ID:h/XyMKtp





「それがどうかしましたか?」
しんみりとした空気の中、それを苛立たしげに破ったみゆきの一言に。
全員が目を見開いて彼女を見た。
「どうかしたってあんた…………」
それ以上言葉が出ない。
予想もしないセリフが、予想もしない人物から出てきたのだ。
同情を求めているわけではないこなたでさえ、みゆきの発言が信じられないでいる。
「みゆき……何か感じなかったの? っていうか、何も思わなかったの?」
かがみは怒っていいのか驚いていいのか分からないままになじった。
「とても感動的なお話でした。映画公開でもすれば多くの人が泪(なみだ)するでしょうね」
みゆきはにこりともせずに言った。
冗談で言っているわけではなさそうだが、この小馬鹿にした口調に。
「ゆきちゃん、ひどいよっ!」
噛み付いたのは以外にもつかさだった。
「こなちゃん、ずっといじめられてたんだよ!? ずっと酷い目に遭わされてたんだよ?
私……悲しいよ…ゆきちゃん、なんでそんなこと言うの……?」
「つかささん、心外です。あなただって、泉さんとは距離を置きたいと仰っていたではありませんか」
「そうだよ、そう言ったよ。でも、こなちゃんがこんなつらい想いしてるなんて知らなかった!
分かってたら……あんなこと言わなかったよ!!」
「……つかさ」
心の優しい妹を持ったことをかがみは誇りに思った。
こなたはと思い視線を移すと、彼女は唇を噛んで様子を見ていた。
「仰る意味がよく分かりません。百歩譲って泉さんがいじめられていたというお話が事実だとしましょう。
ですが、そのお話が私たちにどう影響するというのですか?」
眼鏡の奥の瞳に黒い光を宿したまま、みゆきは一歩踏み出してきた。
「私はお付き合いをやめさせていただきたいと申し上げたハズですよ。それがなんですか。
つかささんまでそんなありふれたお話に感化されて――」
「……ありふれた話だって?」
かがみが肩を震わせた。
「みゆき、あんたいい加減にしなさいよっ!」
「お、お姉ちゃん!?」
「こなたがどれだけ苦しんだか分かってるの? 誰ひとり味方がいなかった生活を想像できる?
この娘がどれだけ追い詰められてたか……あんただって分かるでしょ!?」
「まるで見たように仰いますね。かがみさんこそ泉さんの気持ちがお分かりになるのですか?」
「私はこなたじゃないもの、完全には分からないわ。でもね、分かりたいとは思うわよ。
ゲームやアニメに没頭しなくちゃならないほど傷ついたこなたの気持ちをね」
力強い訴えだったが、斜に構えるみゆきにはまるで通じていない。
それどころか彼女は不敵に笑んで、
「かがみさん、感情的になりすぎです。泉さんとのお付き合いに関してこのお話は関係ありませんよ?」
静かに圧倒してくる。
「関係あるじゃない!」
感情的と言われて、かがみはいよいよ穏やかではなくなった。
「周りに誰もいなかったのよ? それで自分の居場所を見つけるために趣味を見つけたんじゃないの。
確かに度を越してるとは思うけど、でもこなたがされてきたことを考えたら――」
「説得力に欠けますね。いじめられていたから……その、オタク……でしたっけ?
そういうものに興味を持ったというのは分からなくはありませんよ?」
ですが、とみゆきはやはり低い声で、
「周囲を省みず、辟易している私たちに押しつけてよい理由にはなりません」
言い放った。
「味方がいなかったからゲームやアニメに走った。そう仰いましたよね?
でしたら今もそれを引きずっているのは何故なのです? 泉さんが今も没頭される理由は何なのです?」
「そ、それは…………」
「泉さんはいじめられていないのですから、そんなものはもう必要ありませんよね。
それとも……私たちがいじめているとでもいうのでしょうか?」
36虚像と実像16:2008/08/01(金) 21:18:06 ID:h/XyMKtp
みゆきはくすりと笑った。
笑顔のまま、ちらりとこなたを見ると、彼女はまだ震えていた。
が、今の震えはこれまでとは少し理由が違うのだろう。
「そうじゃないよ、ゆきちゃん。それがこなちゃんの好きなものだったっていうだけだよ。
確かに今はもういじめられてはないけど、だからってせっかく見つけた趣味を捨てることなんてないの」
「分かっています。私が申し上げているのは、なぜそれを押し付けるのかということです。
話題なら他にもあるでしょうに、泉さんはその類のお話ばかり……うんざりです」
慇懃すぎる口調がかえってこなたの傷口を開いていく。
これ以上傷つくまえに――。
「みゆきさん……」
こなたはここに来て初めて口を開いた。
「ごめん、本当にごめんなさい。私が馬鹿だったよ」
「…………」
「謝ればすむことじゃないけど、でも本当にごめん。そうだよね、みんな迷惑だったよね」
耳を澄まさなければならないほど弱々しい声だ。
「もっとみんなのこと、ちゃんと考えるべきだったよ。みんなの話、ちゃんと聞くべきだった……!」
「ちょっと待って、こなた。みゆき、私が説明するわ」
こなたの言葉を制し、かがみは再度説得をはじめた。
「話、聞いてたでしょ。こなたはずっと独りだったのよ。話し相手はお父さんとゲームくらいだった。
ずっとそうやって生きてきたから、こなたは友だちとの接し方が分からないだけなのよ」
「どういうこと?」
訊いたのはつかさだ。
「こう言えば相手が喜ぶとか、こうしたら相手が怒るとか。こなたは友だちと付き合った経験がない。
だからその……結果的にちょっと鬱陶しいと思うことがあったかもしれないけど……。
でもそれはそれでこなたなのよ。”うんざりだ”なんて言うのは間違ってるわ」
「――ですから私たちに我慢せよと? 泉さんは可哀そうな人だから少々のことは大目に見ろと?
かがみさん、あなたはそう仰るのですね」
「まぁ、言い方は気に入らないけど、私が言いたいのはそういうことよ」
我ながら巧い説得だった、とかがみは思った。
つかさも子供のように目を輝かせてかがみを見た。
「かがみさん……」
みゆきは何かを考えるように俯いた。
その様子をこなたは心配そうに見つめる。
静謐が場を支配した。
屋上には彼女たち以外に誰もいない。
3人は待った。
みゆきは俯いたまま顔を上げようとしない。
かがみの言葉を受けて考えているのだろう。
数秒が経った時、みゆきはおもむろに顔を上げ、
「――論外です」
と、少し怒ったように言い捨てた。
これまでは理解に苦しむ発言があったとはいえ、見かけ上は柔和な顔つきを保っていた。
しかしここで見せた表情はこなたやかがみに対する敵愾心をまざまざと叩きつけている。
「仮に泉さんがそうなった原因が私たちにあるのなら、一考の余地はあると思います。
ですが彼女がいじめられていた事と、私たちに対する付き合い方に関しては話が別です。
少なくとも私は泉さんに不快な思いをさせたつもりはありません。
なのにどうして私が彼女の勝手な趣味に振り回されなければならないのですか?」
みゆきは早口でまくし立てた。
納得のいかない事柄に関してはみゆきも強く出るが、言葉尻にはこなたへの悪意が感じられた。
37虚像と実像17:2008/08/01(金) 21:19:10 ID:h/XyMKtp
「泉さんによって迷惑を被るべきなのは彼女をいじめた人たちであって、私は関係ありません」
ハッキリと突っぱねるみゆきに、つかさは涙目に訴える。
「ゆきちゃん、おかしいよ! 関係ないとかそんなのどうだっていいじゃない!
こなちゃんがかわいそうだよ。お願いだからそんなこと言わないでよ」
ほとんど弾みでモノを言うつかさが、みゆきには滑稽だった。
自分が理路整然と噛み砕いて説明しているのに、柊姉妹は相変わらず勢いで迫ってくる。
「私は可哀そうではないのですか?」
「えっ――?」
「同情から泉さんに付き合ってさしあげることはできます。私もそこまで冷徹ではありませんから」
ニッコリと笑い、すぐに真顔に戻って、
「ですがその分だけ私は我慢を強いられますよね? その対価はどこに求めればいいのですか?」
一歩、にじりよる。
反射的につかさは退いた。
みゆきは冷静に、理論で詰めてきたがつかさには理解できなかった。
友だち付き合いに対価など必要ない。
時にはケンカすることはあっても、損得勘定を抜きにして交わるのが友だちじゃないか。
みゆきのようにいちいち価値を見出して付き合いを求める考えが理解できないつかさは、
「分からないよ、ゆきちゃんの言ってること……」
いやいやをするようにかぶりを振った。
「つかさ、もういいよ……」
見かねたこなたがつかさの袖を引っ張った。
「ありがとう、もういいから。2人が味方してくれただけで嬉しいんだ。
それに……みゆきさんの言うことも正しいと思うから……」
口調はいまだ暗いままだが、絶望しているという感じではない。
かがみ、つかさが後押ししてくれる心強さがあるからだ。
「みゆき、あんた本当にそれでいいわけ? こなたの話聞いて何も思わなかった?」
こなたはもういいと言ったが、かがみはまだ納得してはいない。
「ですから感動的なお話でしたと申し上げたではないですか」
やはりみゆきは罪悪感の欠片も抱いていないらしい。
今もこなたを見る彼女の目つきからは、低劣なものを蔑(なみ)していることが窺い知れる。
「周りがどう思っているかは知りませんが、私は自分を秀才だとは決して思っていません。
とはいえ私にもプライドがあります。泉さんの過去には憐憫の情を催しますが、それだけのことです。
自分の評価を落としてまで泉さんを助けて差し上げようとは到底思えませんね」
とんだ女だ、とかがみは思った。
才色兼備で物腰優雅だったみゆきは、心の奥底はここまで腐りきっていたのだ。
先ほど自分を秀才とは思わないと言っていたが、とんでもない。
評価を落としたくないというセリフから、やはり彼女は周囲から羨望の的として見られたいのだ。
だからこなたの相手などできない。
こなたとは対照的に、かがみの中で怒りがふつふつと湧いた。
「みゆきさん、ごめんなさい――」
不意にこなたがその場に崩れ落ちた。
「嫌々私に付き合ってくれてるって分かってたら……わたし、みゆきさんには近づかなかったよ。
ううん、今からそうする。だから……ごめんなさい」
「あんたが謝ることないわ」
「私がずっと我慢させてたから。みゆきさんにつらい思いさせてたか……だから……」
こなたの足もとが涙で濡れる。
粗造りのコンクリートに染み込んだ涙は、音もなく吸い込まれて消えた。
「泉さん、泣かないでください。これではまるで私がいじめているみたいではありませんか」
1対3でもいじめは成立するのだろうか、とみゆきは考えてみた。
数の問題ではない。
1対1でもいじめにはなるし、複数対複数でもそれは同じことだ。
が、みゆきは口ではそう言ったものの、これがいじめであるとは考えていない。
自分はこなたと付き合えない理由を滾々と言い聞かせているだけで攻撃ではないと思っている。
外野がうるさいのが癪に障るものの、主張そのものは間違っていないという絶対の自信がある。
「あんた、よくそんなことが言えるわね……!」
そのうるさいのがまた噛みついてくる。
(もう少し分かりやすくお話したほうがいいかもしれませんね)
みゆきは内心で優越感を味わいながら、かがみに向きなおった。
38虚像と実像18:2008/08/01(金) 21:21:10 ID:h/XyMKtp
「お話を少し戻しましょう。泉さんはいじめられて友だちがいないからゲームに没頭した……でしたね?
それに対して、なぜ今も没頭しているのかと私は問いかけましたが、その答えがいま分かりました」
「なっ、なんなのよ?」
射すくめるような視線に、不覚にもかがみは気圧された。
「実に簡単です。泉さんにとって私たちは友人でもなんでもなかった、というだけのことです」
「はあっ!?」
何を言ってくるのかと身構えていたかがみだったが、あまりにも荒唐無稽な発言に呆れた。
ネチネチといたぶるような物言いから一転、みゆきはストレートに述べてきた。
「そんなわけないよ。私たち友だちでしょ? だからこなちゃんと寄り道したり、コンサート行ったりしたんだよ?」
さすがにこれにはつかさも呆れたように返した。
そうでしょうか、とみゆきは身じろぎひとつせずに言う。
「友人なら相手が嫌がることを押し付けてきたりするでしょうか? いえ、少し違いますね。
かがみさんはどうか知りませんが、私もつかささんも表面では取り繕ってきたのですから。
最初から迷惑だと言っておけば、ここまで引きずることはなかったかもしれません。それは私のミスでもあります」
ですが、と間髪入れずに付け加える。
「私たちが迷惑がっていることすら察しようとしない泉さんと、これ以上お付き合いするメリットがありませんから」
真顔で言う怖さがあった。
完全な拒絶だ。
みゆきは自分の中から、泉こなたという存在を完全に抹消しようとしている。
そんな気がしてくる。
「泉さん、私になにか仰りたいことはありますか?」
質問の形にしたものの、みゆきにはこの後こなたが何を言うかは分かっていた。
「みゆきさん、今までごめんなさい……」
ほら、これだ。
思ったとおり、一字一句予想していた言葉が聞こえてきた。
いじめられて傷ついたのはこなただが、そのこなたにこっちも傷つけられたのだ。
せめて、
「謝るというのは反省しているからではなく、自分が楽になりたいからしているのですよね?」
これくらい言ってやらなければ気がすまない。
「謝りさえすれば丸く収まるという考えの人が多くて困りますね。
そんな安い言葉ひとつで私が受けた苦痛がどうにかなるとでもお思いですか?」
打ち明けることで楽になった思っていたこなたの精神は、もはや崩壊寸前だった。
かろうじて2人が支えてくれるから耐えられるものの、みゆきの一言一言が重くのしかかってくる。
「昔いじめられていたというのも、もしかしたら泉さんに原因があったのかもしれませんね」
「…………ッ!!」
突然、こなたは激しい眩暈に襲われてその場に蹲(つくば)った。
傍にいたつかさが慌てて支える。
「……許して……もう、許してよ……お願い……だから許して……」
こなたはうわ言のように何度も何度も呟いた。
「こなちゃん、どうしたの!? 大丈――」
顔を覗き込もうとしたつかさの表情が凍りつく。
こなたの顔は真っ青になり、視線も定まっていない。
特徴的な唇だけは動き続けていたが、その動きは同じ言葉を繰り返しているように見えた。
「許して……ごめんなさい……許して……」
もう誰に向かっていっているのかも分からない。
ほとんど聞き取れないほどか細い声で、こなたは延々と許しを乞うた。
「いい加減にしてよっ!!」
つかさが見たこともないような憎悪まじりの目でみゆきを睨みつけた。
「こなちゃんが何したっていうの? ゆきちゃんだってそんなこと言われたら嫌でしょ?」
責めるというより嘆願に近かった。
一度はこなたを突き放してしまったが、悲しい過去を知った今、元の関係に戻りたいと願っている。
そこに多分の同情が入ることになるが、仲良くさえいられればそれで良い。
「……泉さんはなぜ急にそんなお話をする気になったのでしょうね」
つかさの言葉が聞こえないみたいに、みゆきは遠い目をして言った。
なぜか錯乱しているこなたの耳に届いていないことは百も承知で、
「普通、そういう過去があったら何としてでも隠し通したいと思うのではないでしょうか?」
かがみとつかさを交互に見ながら言う。
39虚像と実像19:2008/08/01(金) 21:23:44 ID:h/XyMKtp
「私たちがあんなこと言ったからだよ。だから、こなちゃん……」
「理由としては不十分ですね。あの程度のことで簡単に過去を曝け出したりするとは思えませんが?」
「ゆきちゃんにとっては”その程度”でも、こなちゃんは違うんだよ。一緒にしないで」
「そうですか? 私には――」
何らかの効果を狙ってか、クイズの司会者が正解を告げる時のように間をおいてから、
「かわいそうな自分をアピールすることで同情を買おうとしているように見えますね」
厭らしい笑みを浮かべる。
「あんた…………最低だわ……!!」
いっそこの女を殴ってやろうか、とかがみは拳を握り締めた。
頭がいいだけで他人の気持ちなど全く察しようともしない醜女だ。
「ひどいよっ…………!」
つかさは涙を懸命に堪えながら、ぶつぶつと呟き続けるこなたの体を支えた。
「ひどいですって? つかささんは些か思慮に欠けているようですね」
みゆきは秀才らしく眼鏡の位置を戻しながら言った。
「本当にそれでいいのですか? あなたの今後を思えば今の――」
言いかけたところで昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「あら、仕方ありませんね。では私はこれで」
不気味な笑みを浮かべて、みゆきはすっと踵を返して校舎の中へと消えていく。
その間際、肩越しに振り返り、
「早くしないと皆さん、授業に遅れますよ?」
みゆきは言ったが、誰も動こうとはしなかった。
「つかさ、あんたは先に戻ってな」
「え、お姉ちゃんは?」
「こんな状態だから……こなたを保健室に連れて行くわ」
言いながらかがみはこなたの肩を掴んで引き寄せると、やや強引に立たせた。
「だったら私も――」
「1人で大丈夫。さ、つかさは教室に戻って」
「う、うん……」
みゆきの辛辣な投げかけによって、こなたもつかさも疲弊している。
嘘でも気丈に振舞えるのは自分だけだ、とかがみは自らを鼓舞した。
ほとんど全体重を預けてくる華奢な少女は軽かった。
うわ言のように何を呟き続けるこなたからは、まるで生気が感じられない。
少しでも支える手を緩めれば、そのまま崩れ落ちてしまいそうなほどだ。
「ごめんなさい…………」
かがみの耳元で少女は囁いた。
(こなた……)
これは誰に対しての言葉なのだろう?
一段一段、慎重に階段を降りながらかがみは考えた。
あそこまで言われれば罪悪感や悲しさを通り越して、普通は激怒するところだ。
少なくとも自分ならそうしている。
逆ギレだと罵られようとも黙ってはいられない。
こなたもどちらかと言えばそういう性格だと思っていた。
しかし彼女は何かに怯えるように許しを乞い続けるばかりだった。
もしかしたら、まだ知らない彼女の過去があるのかもしれない。
あるいはまだ語られていない”いじめ”があるのかもしれない。
複雑な想いから複雑な表情を浮かべながら、かがみは保健室のドアを叩いた。



以上、今夜はここまでです。
冗長になってますが、3分の2ほど終わりました。
それではまた。

40名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 21:27:56 ID:nvN0CsNa
GJ
やっぱり黒幕はみゆきだったか
41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 21:31:02 ID:Vufc9exr
みゆきの黒幕率は異常
まあ仕方ないことなんだろうけど
42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 22:14:20 ID:fLcwDrIA
GJ
みゆきは概して黒くなるしそれが自殺スレの伝統だね。
このSSのみゆきは流石にかがみの首を切断したりはしないだろうけど、
その分、その黒さに現実味があって生々しいわwww
43名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/01(金) 23:04:57 ID:rkKz7Qtd
これまたレベル高いな。表現力だけじゃなく、
ロジックも心理描写もしっかりしてるわ。
キャラも活き活きと描写されてて素晴らしい。
あとはインパクトがあれば、完璧だ。それもラスト次第、か。

残り1/3で、こなたの死にどう結びつけるのか、非常に気になるわ。
どの要素がこなたのトリガーになるのかwktkして待ってるぜ。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 00:08:43 ID:ax5Ub9/V
ここの住人はまだ優しい方だと思う
オカルト板とかはちょっとおかしい奴らがいっぱいいるからきつい
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 00:26:09 ID:U2R3UITZ
意識的にやっているか分からんが
かがみがこなたの味方をする動機みたいなものも
どことなく歪みを感じて俺によし
46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 00:27:25 ID:HMom0uHL
みゆきの言動が単なる黒さや悪意じゃなくて
精神的に強く成熟しているが故の冷たさと言うか
秀才のみゆきらしい思考に基づいてるのが良いね
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 01:27:38 ID:IoGGyeKG
久しぶりにスレが沸いたな。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 02:29:17 ID:aBI3ZwNz

               ,. -‐ 、
            , '  ,ハ 、 ` 、
           /   .,'  `゙ヽ、、`ヽ
            !  ィ'._ニ .._ ,  `ヽノ
            l ,' ゙!| ``’`  {ェテ}
           |.! !}      i. !    
               },゙r1  , _`_′'     ……タラン、君は何年私の部下をやってるのかね?
           ´}!_ \.   -  ,'      ハイパーデスラー砲用意だぁぁぁぁぁーっ
           /: : :`: ‐= _ ...,./       目標、こなたをいじめる奴等全員だ!!
 ,......、_ ,, .. -‐ '"\: : : /:/: ハ:',
;;;;;;;;;;;;;;;`:;:,.,.,_        ` :、:.':./  ';.',、
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49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 02:53:05 ID:rJofDqn/
俺の嫁真っ黒だwwwwwwww
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 13:10:10 ID:O3L+uXVh
とても久しぶりです
以前うつすたのテーマソングを作ったものですが
その後たぶんこれで完成版という状態になったんで
ニコニコ動画でうpしました。
http://www.nicovideo.jp/watch/nm4157304
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 21:19:52 ID:HHnpjh7x
そろそろ降臨される時間帯かな。
全裸待機の態勢に入るか。
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 22:03:03 ID:Mf8Gm879
皆さん、こんばんは。
今夜も投下いたします。
53虚像と実像20:2008/08/02(土) 22:04:14 ID:Mf8Gm879

 その後の2時間は気が気ではなかった。
憔悴しきったこなたは保健医のふゆきに任せてある。
顔を見るなり深刻そうに、
『少し休ませてあげましょう』
とふゆきがさっさとベッドまで連れて行ったため、かがみは話を切り出すタイミングを失った。
打ち明けたほうがいいだろうか。
本来なら担任のななこに相談するべきなのだろうが、あの人はこういうデリケートな問題を解決するのは不得手そうだ。
どちらかというメンタル面も診てくれるふゆきに持ちかけたほうがいいような気がする。
かがみはそう思っていたが、なぜか躊躇われた。
言うのはもう少し先でもいいかもしれない。
解決を急いでこなたの傷口を広げることにでもなったら、きっと後悔する。
今は保健室という生徒が学園内で最も安心できる場所にいる。
それだけで十分じゃないか、とかがみは自分に言い聞かせる。
「ではお願いします」
と、短く言い置いてかがみは保健室を後にした。
ふゆきが詮索してこなかったことがありがたかった。
教室に戻ると、みさおが興味津々といった様子で遅れてきた理由を訊いてきた。
ちょっとね、とかがみが答えると、言えないことかよ、となおも詰め寄ってくる。
結局、あやのがやんわりと止めに入ってくれたおかげでそれ以上の追及はなかった。



 みゆきは何事もなかったように授業を受けている。
黙々とノートをとり、黒板の見えづらい字を読もうと眼鏡のかけ位置を変えたりしている。
その様子をつかさは眉を顰めて見ていた。
悪いとは思わないのだろうか?
こなたが気の毒だとは思わないのだろうか?
平然と顔色ひとつ変えずに秀才・高良みゆきとして振る舞う姿に恐怖すら覚える。
(わっ――!?)
不意にスカートのポケットが振動し、つかさは危うく声をあげるところだった。
担当教諭の目を盗んで、そっとまさぐる。
かがみからのメールが届いていた。
ノートをとる振りをしながら、音を立てないようにケータイを開く。

”こなたは保健室に連れて行ったわ。放課後、もう一度3人で話しましょう”

当然、向こうも授業中だからメールも簡素なものになっている。
つかさはさらに慎重にバレないように返信した。

”お姉ちゃんはこなちゃんについててあげて。ゆきちゃんとは渡しが離すから”

急いでいて変換がおかしくなったが、つかさはかまわず送信した。
この程度なら文意は正しく伝わるだろう。
送信完了のメッセージと同時にケータイを閉じ、再び授業に集中する。
みゆきがクスッと笑ったような気がした。


54虚像と実像21:2008/08/02(土) 22:05:09 ID:Mf8Gm879
 チャイムが鳴るとほぼ同時にかがみは教室を飛び出した。
後ろであやのが何か言っていたが、今はかまっていられない。
まずはこなたの様子を見に。
落ち着いたところでもう一度、みゆきと話すつもりだ。
昼休みの態度からして、みゆきに悔悛の情を期待するのは無駄だろう。
ああいう冷徹な考え方を持っているなら、それはそれで仕方がない。
しかし一言。一言でいい。
彼女の口から直接、こなたに謝罪させたかった。
はやる気持ちを抑えて保健室のドアを開けた。
平素なら必ずノックするかがみだが、そこまでの余裕はなかった。
「こなた」
ベッドを見やると、ちょうど起きたところなのか背中を丸めて座っていた。
「よかった……」
何がよかったのか分からないが、かがみは安堵した。
「あら、柊さん、心配して来てくれたのね?」
みゆきとはまた違った意味でおっとりしているふゆきが、書類を手にしてこちらに向かってきた。
「ちょうど良かったわ。申し訳ないんだけど、少し職員室に用事があって――。
すぐに戻ってくるからちょっと待っててくれないかしら?」
もう少し早く喋ってほしいとかがみは思ったが、彼女は微笑んで、
「分かりました。先生、こなたのこと、ありがとうございました」
ペコリと頭を下げる。
ふゆきもそれに倣って会釈すると、そっと保健室を出て行った。
窓から差し込む陽光が部屋の半分ほどを照らしている。
わざわざ日陰のベッドにこなたがいたのは、ふゆきの気遣いなのだろうか。
「かがみ」
声をかけようとしたところに先に呼ばれ、かがみは一瞬たじろぐ。
「調子はどう?」
意味のない質問だ。
調子が良ければとっくにこの部屋を出て行っているだろうに。
「うん……」
しおらしく、こなたは俯き加減に答えた。
続いて、
「ごめんね」
という言葉が空気を伝ってかがみに届く。
その単語、もう何度繰り返しただろうか。
あんたが謝ることないのに、かがみは歯痒い想いをした。
彼女は無言のままベッド横の椅子に腰をおろす。
陽が当たっていないせいなのか、やはりこなたの顔色はすぐれない。
「さっきみゆきさんに言われたこと……」
おもむろにこなたが呟く。
(さっき……?)
すぐにはピンとこなかった。
そうか、こなたは保健室に来てすぐに眠ったのだ。
だから彼女にとって2時間前の出来事は、”さっき”なのだと思い当たる。
「おんなじこと先生に言われたんだ」
搾り出すようにこなたの独白。
55虚像と実像22:2008/08/02(土) 22:06:06 ID:Mf8Gm879
 小学生の頃、いじめが始まった当初はこなたもやり返していた。
当時の彼女にはまだ立ち向かう力があったから、毅然とした態度でいられた。
いじめなんてやる奴はバカだ、と自分に言い聞かせながらの反撃だ。
が、所詮は多勢に無勢。
次第にこなたの立場は悪くなり、ついには孤立し、心身ともにいじめに抗う力はなくなっていく。
いじめっ子にとっては、最初は威勢があった標的がだんだんと凋(しぼ)んでいく様が愉快でならない。
まともな人間ならそこで引き返すものだが、群集心理もあっていじめはエスカレートしていった。
もう駄目だ、とこなたが思った時、彼女は担任や他の先生に相談した。
助けて欲しかった。力になって欲しかった。せめて、味方が欲しかった。
だが、面倒事を嫌う者や、こなたが仕返ししていた頃から見ていた者は、
「あなたにだって原因があるんじゃないの?」
という残酷なワードだけを残して去って行った。
この時点ですでに共通の敵を突くことでクラスが団結していたから、担任はわざわざいじめを止めようとはしない。
こなたにとってさらに不幸だったのは、その場面を複数のいじめっ子が目撃していたことだ。
教師が熱意をもって問題に当たるようであれば、彼らは表面化しにくいもっと陰湿なものにやり方を変えなければな

らない。
しかし担任たちは、こなたにも原因があるとして問題解決に取り組まないことが明らかになったのだ。
これは見方を変えれば、教師陣がこなたいじめを容認しているということになる。
お墨付きを得た彼らは他のクラスとも共謀してこなたを責めた。
今まで見て見ぬ振りをしていた連中も加わった。
ついには下級生までもが手を出し始める。
こなたにとって学校は地獄そのものであったと表現しても差し支えない。


 気がつくとシーツが濡れていた。
涙を流したのはこなたではない。
新しい話を聞かされるたび、こなたの辛辣な過去が明るみになる。
いじめっ子にとっては単なる昔なのだろう。
今頃は自分たちがしたことも忘れて、のうのうと生きているに違いない。
そう思うと歯痒かった。
ここに、こんなにも傷ついた友だちがいるのに。
慰めの言葉ひとつ見つけられない自分が許せなかった。
「私もつかさもいるからな」
涙を拭いながらかがみが静かに言った。
「話してないけど日下部や峰岸だってきっと力になってくれる。あんたは独りじゃないから」
こう言うのが精いっぱいだった。
これ以上は気休めにもならない。
せめてみゆきが――と思ったが、今はあえて考えない。
大切なのはこなたに孤独を感じさせないことだ。
自分やつかさが傍にいると思わせれば、少しは痛みも軽くなるハズだ。


56虚像と実像23:2008/08/02(土) 22:08:15 ID:Mf8Gm879

 同時刻。校門前。
どう見ても仲が良さそうには見えない2人がいる。
「なんでしょうか?」
昼休み以後、みゆきの言葉には険があった。
早々と帰ろうとしたところをつかさに呼び止められ、ようやく会話にこぎつけたのがここだった。
「ゆきちゃん」
自分でも驚くほど低い声が出た。
他人を責めるなど今までしたことのないつかさにとって、この時間は人生で貴重なものだ。
「あの時、何を言いかけたの?」
「はい? あの時とは?」
みゆきはもちろん、つかさが何を知りたがっているのか分かっている。
昼休み、わざわざチャイムが鳴る瞬間を計って意味深な言葉を吐いたのだ。
つかさなら今日中にその続きを訊いてくると踏んでいた。
「ああ、あのことですね」
はにかみながら、みゆきは今のはさすがに演技が過ぎたかと思った。
「私の将来が何だって言うの?」
つかさは精いっぱい怖い顔をして言った。
そうでもしなければみゆきの言葉に呑み込まれそうだ。
「そうお怒りにならずに。私はつかささんを心配しているんですよ?」
言いながらつかさに向き直る。
「つかささんは可愛らしいですから、じきに異性の方とお付き合いすると思います。
今までいなかったのが不思議なくらいです。ええ、これは私の本心ですよ」
「…………?」
「そうですね……つかささんに相応しいのは……同じく家庭的で面倒見のいい方でしょうか。
良識があって優しくて、勇敢な方もお似合いですね」
「話をはぐらかさないで!」
「ですがその方はその……オタクというものに理解があるでしょうか?」
「え……?」
「つかささんとお付き合いするのですから、自然と交友関係は広がっていきますね。
そうなるとその方もつかささんを通して泉さんを知ることになります」
そこでみゆきは少し間を置き、
「さて、そうなったらその方はどう思うでしょうか?」
つかさの脳に直接叩き込むように語る。
「ご存じのとおり、泉さんのような人柄は忌み嫌われます。事実、つかささんがそうだったようにです。
その方はきっとガッカリなさるでしょうね。まさかつかささんがあんな人と友だちだったなんて、と。
そうなれば自然、あなたから離れていきます。これはかがみさんにも同じことが言えます。
かがみさんが異性とお付き合いすることになっても、やがてたどり着くのはやはり泉さんです。
白眼視され、陰で笑われるかもしれません。あらぬ噂を広められるかもしれません」
みゆきの言っている事はただの予想に過ぎない。
所詮は彼女の頭の中で広がる物語でしかない。
だが彼女の語り口調と、彼女が聡明であることからあたかも現実のようにつかさは受け止めてしまった。
予想ではあるものの荒唐無稽ではない。
十分にあり得る。実現する可能性のほうが高い物語なのだ。
「それだけではありません。泉さんと知り合いだったということで、他の方からも避けられるでしょう。
もしよければつかささんのご友人を数えてみて下さい。それができれば今度はかがみさんも」
言われるままにつかさはそうした。
記憶をたどって数えてみる。
数秒経たないうちに気付く。
つかさの表情から全てを悟ったみゆきは、
「お分かりのようですね」
勝ち誇ったように言った。
「泉さんと交誼があるとこうなるのです。つかささんが彼女と親しくすると、かがみさんもその煽りを受けます。
あなただけの問題ではないのですよ?」
つかさの思考はほぼ完全に支配した。
みゆきはさらに詰めにかかる。
57虚像と実像24:2008/08/02(土) 22:09:31 ID:Mf8Gm879
「泉さんがいじめられていた……それをあなたたちが助けた。これは尊いことだとは思います。
ですが世の中の摂理のひとつとして、”いじめから救った側が今度はいじめられる”というものがあります。
この場合はつかささんとかがみさんがそうですね。さて、そうなった後を考えてみます。
お2人は善意から泉さんを助けました。ところがどこからか泉さんの過去が広まってしまった――。
いじめられて然るべき人を助けたお2人は周囲から目の敵にされます。では…………」
「………………」
「そうなった時、泉さんはあなた方を助けてくれるでしょうか?」
形式上問いかける恰好となっているが、元よりつかさの回答など期待していない。
これはただの演出だから。
言葉のひとつひとつをつかさに植え付け、思考を意のままに操るための儀式のようなものだ。
「もちろん助けてはくれません。彼女はいじめられるつらさを知っているからです。
せっかく自分が苦痛から解放されたのに、わざわざまたそこに飛び込む人はいませんからね。
そうそう、言い忘れていましたが、”いじめられていた側は救った者をいじめる側に変わる”。
これがもうひとつの摂理です。この先については言うまでもありませんね」
みゆきの言葉は恐ろしい。
ここにかがみがいれば彼女の強さがこの薄汚い物語を打ち砕いてくれたかもしれない。
みゆきを薄情者と断じてくれたかもしれない。
(思ったとおり、かがみさんがいないとぬるいですね)
ここでみゆきが注意すべきは、今の感情を表に出さないことだ。
「そんなことないよ」
何の前触れもなくつかさが言った。
鼓舞するための虚勢ではない。
つかさはハッキリとそう言ったのだ。
「ゆきちゃん、”いじめから救った側がいじめられる”って言ったよね? でも、そんなことないよ。
こなちゃんがいじめられてたなんて誰も知らなかったんだから。だから当てはまらないよね?」
「…………?」
「だって陵桜じゃこなちゃんはいじめられてないんだよ。誰もこなちゃんの過去なんて知らない。
私たちがこなちゃんを助けても、その後どうかなるなんてありえないよ」
つかさにしてはよく頑張ったほうだ。
みゆきの論理の盲点を突いた、効果的な反撃ではあった。
「私が広めます」
が、一応こういう返し方を予測していたみゆきは顔色ひとつ変えない。
「泉さんの通っていた小学校、中学校から当時の生徒には簡単にたどりつけます。
その方たちから裏をとって泉さんの過去を広めるのは造作もありません。
ですから皆さんの関係は学園中の知るところとなるわけです。
人間の心理の面白いところは、ある情報を得るとそれまで無視していたものを無視できなくなることです」
「それ、なに……?」
「ある小説がドラマになり映画になり……と評判になると、それまで見向きもしなかった人がそれに群がります。
そんなに面白いのなら自分も読んでみよう。皆が観ているから自分も映画を観てみよう。実に単純な話です。
いわゆる社会現象というのは、思いの外こうした簡単な心理の作用が引き起こしているものなのです」
みゆきのもったいぶった言い方が、なぜか説得力を伴った重いものになってくる。
彼女は眼鏡をかけなおした。
「泉さんは昔いじめられていた。この話が学園中に広まるとどうなるでしょう?
それまで気にも留めていなかった泉さんのことが気になって仕方がなくなります。他学年からも見に来る人があるか

もしれません。さて、その注目の的をよく見てみると、世間から白い目で見られる…その……オタクだと分かりまし

た。ここまで来れば、泉さんは小中学校で受けた傷をまた受けることになります」
「そうとは限らないよ! みんな言い人だもんっ!」
「彼女は昔いじめられていた、という事実がいじめる側の心理を正当化させるんです。
”泉さんはいじめられて仕方がない”という具合に人間の心が勝手に解釈してくれるんですよ。
そこに群集心理が手伝いますから、これはもう誰にも止められません。
先ほども申し上げたように、泉さんを助けるならお2人もその犠牲になるのですよ?」
周到なみゆきの策は、つかさ程度では食い止められない。
「どうして……どうしてそんなことするの? ゆきちゃん、私たちのこと嫌いなの?」
「ご冗談を。泉さんと違ってつかささんもかがみさんも良識ある方だと思っています。
できれば末永く交誼を結びたい。だからこそ泉さんの肩を持つのが許せないだけです」
「なんでそうなるの?」
「泉さんを見ていると不愉快だからですよ」
悪びれもなく言い切る。
58虚像と実像25:2008/08/02(土) 22:11:08 ID:Mf8Gm879
「人目も憚らずにセクハラまがいの発言をされたこともありましたし、趣味を疑いたくなるような人形を見せつけら

れたこともあります。
そのくせ要領だけはよくて、提出物などもかがみさんや私に頼ってばかりでしたね」
「…………」
「ご自身だけに留めるならともかく、私まで巻き込まれることが業腹なんです。不愉快なんですよ。
人間、生きていれば誰しもつらいことや悲しいこと、苦しいことを経験します。私だってそれは同じです。
泉さんはそれを言い訳に傍若無人に振る舞っていました。無関係な人を巻き込んでまで、です。
世の中はそう甘くはありません。自分の受けた傷を盾に同情を買い、そうかと思えば義務や責任からは逃れて私たち

をあてにしようとする……あの要領の良さが私には堪らなく不愉快なんです」
その点はつかさにも反論できない。全く事実だ。
「不愉快なんです」
みゆきはもう一度言った。
「泉さんとお付き合いをすると災いを招くばかりです。先ほども申しあげたように、あなた方も同じなのですよ。
つかささんもかがみさんも彼女を救いたいとお思いのようですが、その後でどのような咎を受けるかお考えになるべ

きです。
災いはあなた方のみならず家族にも及ぶかもしれないのですよ?」
この一言はつかさに強烈な打撃を与えた。
こなたを助けたいという想いはもちろんある。
かがみも同様だろう。
しかしその結果、災いが身内にまで及ぶとなるとこれは一考しなければならない。
酷い目に遭うのが自分だけならまだいい。
一度はこなたを突き放した負い目もあるから、その程度の罰を受けるのは仕方がないとも思える。
だが家族は……家族は関係ない。
「嫌われ者を支持する者は同様に嫌われる。これも摂理ですよ」
この後、すっかり口を閉ざしてしまったつかさに、みゆきはさらなる追い討ちをかけた。
内容は前述の”摂理”と同じものだ。
いじめる者といじめられる者、それを助ける者と傍観していた者などを事例を挙げて教え諭す。
どの物語も結末は悲惨だ。
つかさやかがみの立場にいた者が、最終的にどうなるのか――。
みゆきの語り口は聞く者に、物語の登場人物と自分とを置き換えさせる。
「お話は終わりです。つかささん、よくお考えになってください」
最後はあくまでつかさの判断に委ねた。
つかさも子供ではないから、この先どうするかは自分で考えて答えを出す。
が、その答えはつかさが自ら導き出したものではなく、みゆきに吹き込まれているものだ。
それからもうひとつ、と歩き出した足を止め、
「いま私がお話したことはかがみさんには内密にお願いしますね。あの人は正義感が強いですから……」
彼女らしからない鋭い眼光をつかさに叩きつける。
”もし漏らしたらどうなるか……お分かりですね?”
無言の圧力につかさは何も言えなかった。
しばらく茫然と立ち尽くす。
ケータイが鳴っていたが彼女はそれにも気付かず、みゆきが去って行った方向をずっと見つめていた。



今夜はここまでです。
改行がうまくいかず見苦しい点もありますが平にご海容を。
それではおやすみなさい。
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/02(土) 23:02:49 ID:HHnpjh7x
乙&gj
つかさが意外と粘ってくれて何より。
みゆきが今までにない頭脳プレイを見せているな。
そういや原作はヘタレキャラじゃなくて、頭いいキャラだったな。
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 00:51:19 ID:UcFdhps8
原作でも最終回がこなた自殺とかだったら、俺は美水先生に一生ついていく。
でも原作キャラって、こなたが自殺してもドライに受け止めそうだな。
変わらずゆるーい日常続けてそう。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 01:25:15 ID:I7amn+xN
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 11:45:36 ID:U4P+JULP
ふぅ。皆コードギアスに流れたか。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 11:46:54 ID:RVKSRMHU
ギアス今日?
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 11:50:28 ID:U4P+JULP
あーいや、流行の話ね。
何処行ってもギアスギアス…らき☆すたの話なんか見る機会減ったわ。
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 12:09:04 ID:nglz971Z
今のギアスってそんなに流行ってんのか

てからきすたとギアスじゃ比較対象にならんだろ
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 12:18:47 ID:BvjU0qHL
>>50
聴きながら漫画読んだらマジで泣いた……
誰か動画作ってくれ
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 13:42:38 ID:RVKSRMHU
らきすたとかギアスに比べたらマイナーだろwwつか比べてやるなよwww
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 17:07:08 ID:z6rl/cT6
ぶっちゃけ、DVD売り上げでいうと
ギアスがやや上だけど、似たようなもん
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 18:02:17 ID:obSZ6XdY
夏休みの工作
題名「泉こなたを自殺させる方法を考える夏」
ttp://uproda.2ch-library.com/src/lib043205.jpg
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 18:24:46 ID:AZDjEol3
>>69
これはワロタわw
こなたはリアルでも死ぬ
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 19:08:36 ID:/3REn58m
>>69
風鈴か……風流だな
72ガンガン:2008/08/03(日) 21:14:21 ID:G9eE72k4
こないだの中尉じゃないが
唐突にパソが逝きやがった…
それだけならまだしも、何よりも大事なHDDまで
クラッシュしやがりました。
修理屋に見せると、パソ買ったほうがマシレベルの修理費かかる言われたし…
市ね詩ね氏ね


自分事ですまんす…
ttp://uproda11.2ch-library.com/src/11107486.jpg
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 21:17:21 ID:AZDjEol3
このスレのPCクラッシュ率は異常。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 21:18:20 ID:hkYzafv4
まあこんだけ殺してりゃ呪われもする罠
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 21:58:39 ID:Oukyqb9w
皆さん、こんばんは。
本日も虚像と実像、投稿いたします。
76虚像と実像26:2008/08/03(日) 21:59:49 ID:Oukyqb9w
(おかしいわね…………)
こなたに不安を悟られまいと、かがみは背を向けた。
つかさとの連絡がとれない。
彼女はみゆきと話しているはずだから、もたついているのかもしれない。
そう思ってはみたものの、一向に電話に出る気配がないのが気になる。
(まあ、大丈夫だとは思うけど)
不安は拭えないが連絡がとれないのでは仕方がない。
かがみはケータイを閉じてこなたに向きなおる。
「帰れそうか?」
塞ぎ込んではいるが、昨日のように取り乱したりする様子はない。
その点だけはかがみも安心していた。
「……うん」
こなたは力なく返してくる。
よし、と手を打ってかがみが、
「先生呼んでくるからちょっと待ってな」
と勢いよく飛び出した。
なぜか走っている理由は分からない。
律儀な彼女は走ってはいけない廊下を早足で歩くことすら嫌う。
とにかくふゆきだ。
こなたの気が変わらないうちに学園を出よう。
今のこなたにとっては外のほうが落ち着くだろうという考えだ。
逆に落ち着かないのはかがみのほうだ。
つかさが気になる。
一緒にいるハズのみゆきは?
「失礼します!」
職員室のドアを開けると同時に短く挨拶し、視線をさまよわせてふゆきを探す。
いた。
他の教師と談笑している。
(こんな時に……)
と思ったが、これは仕方がない。
かがみはこなたを連れて下校することを告げた。
「あらあら、それじゃあ……」
ノートと鍵を手にし、ふゆきは足早に職員室を出た。
かがみも後に続く。
「ごめんなさいね、ついつい話が長引いちゃって」
ふゆきは恥ずかしそうに言ったが、その話が長引いたおかげでまたひとつ、こなたの過去を知ることができたのだ。
そういう意味では感謝したいくらいだった。
「…………あらぁ?」
やけに間延びしたふゆきの声。
何事かとかがみが身を乗り出した。
「えっ……?」
ベッドにこなたがいない。
横に置いてあったハズの鞄もなくなっている。
「なんで?」
かがみはふゆきに訊いた。
もちろん彼女には分からない。
ふゆきを呼びに行ったわずかの隙に帰ってしまったというのだろうか。
あれこれ考えていると、ベッドに何か落ちているのが目に留まった。
紙切れだ。
小さく丁寧に折りたたまれているそれを開くと、
”ごめんね”
と書かれていた。
クセのある、こなたの字に間違いなかった。
77虚像と実像27:2008/08/03(日) 22:01:01 ID:Oukyqb9w
胸騒ぎがした。
つかさの件もある。
まさかとは思うが、みゆきの言葉に思い悩んで――。
不吉な考えを必死に振り払う。
「先生、失礼します!」
かがみは言うや保健室を飛び出した。
追いつけるかもしれない。
もしはやまった真似をするようなら、引っぱたいてでも止めてやる。
かがみは走った。
校舎を駆け抜けて中庭へ。
運動部がランニングしている。
その中にあやのがいたが今は無視した。
歓談している生徒にぶつかりそうになった。
肩越しに謝った。
そろそろ校門が見えてくる。
そこに、
「つかさ!?」
妹がいた。
気が抜けたみたいにボーッと一点を向いたまま突っ立っている。
3度目の呼びかけにようやくつかさが振り返る。
「あ、お姉ちゃん……」
「あんた、ずっとここにいたの?」
「うん」
「こなたは!?」
「帰ったよ」
つかさは抑揚なく答えた。
「あいつ何か言ってなかった!?」
「ううん、べつに――」
……おかしい、とかがみは思った。
つかさから不気味なほど感情が抜け落ちている。
その理由はと考えてみたが、思い当たるのは、
「みゆきはどうしたの?」
こいつしかいない。
「みゆきと話してたんでしょ?」
「うん……」
困ったような表情を浮かべたまま、つかさは何も言おうとしない。
みゆきに何か言われたのか。そのせいでこなたが素通りしたのを見過ごしたのか。
いろいろと思考を巡らせたが、かがみも疲弊していたために答えは出てこない。
その時、2人のケータイが同時に鳴った。
(こなた!?)
(ゆきちゃんから?)
慌てて取り出す。
メールだ。
2人は急いで本文を確認する。
78虚像と実像28:2008/08/03(日) 22:01:52 ID:Oukyqb9w


”ごめんね、もう大丈夫だから”


送信元はこなただった。
「お姉ちゃん」
「つかさ」
互いのディスプレイを見せ合う。
こなたは2人のケータイに同時に送信したらしい。
文面こそ前向きだが、こなたの状況を考えれば不吉な予感がつきまとう。
つかさは不安げにかがみを見る。
”大丈夫”の意味はまだ分からないが、こうやって向こうからアプローチをしてくれるのだ。
かがみが想定した最悪の事態はひとまず避けられそうだ。
「とりあえず帰ろうよ」
珍しくつかさが提案してくる。
が、ここでは帰宅以外に道はないだろう。
かがみは返信しかけたが、つかさの誘いにそのままケータイを閉じた。
今のこなたは敏感だから、たとえメールでも言葉は慎重に選びたい。
すぐに思いついた文章ではなく、じっくり練ってから送信したほうがいいだろう。
それに……彼女も疲れているのだ。
こなたはもちろん、つかさも同じ。
状況をここまで悪化させたみゆきには憤りを覚えるが、その感情も今だけは封印しておく。
とにかく平穏が欲しい。
こなたに元気になって欲しい。
2人が共通して抱く願望だった。




しかし――。


79虚像と実像29:2008/08/03(日) 22:02:34 ID:Oukyqb9w

 この日を境に4人は変わった。
帰宅してまずかがみがつかさに訊ねたのは、放課後のみゆきとの会話だ。
校門で立ち尽くしていた妹の様子は明らかにおかしかった。
みゆきに何か吹き込まれたであろうことは間違いない。
だがかがみが何度問うても、つかさがそれに答えることはなかった。
語調を曖昧にしてはぐらかし、無難な受け答えに終始する。
はじめこそ食い下がったものの、やがてかがみも追及することをやめた。
問い質した時のつかさのつらそうな顔を見ていられなかった。
これがかがみの今の苦しみ。
一方でつかさも別の種類の苦痛を味わっている。
本音はかがみに全てを明かしたかった。
みゆきが何を言ったか。何を語ったか。
かがみとこなた、そして自分。
3人でみゆきに立ち向かいたいという気持ちは確かにあった。
しかしそれはできない。
直情的なかがみは、おそらくみゆきを激しく責め立てるだろう。
内密にと釘を刺された話を漏らしたこともその時にバレる。
怒ったみゆきは……宣言どおりの行動をとるに違いない。
賢しい彼女だから、噂の広め方もひねった方法をとるだろう。
そうなればこなたはまたいじめられる。
それだけでなく、当然彼女をかばった自分やかがみも巻き添えを食らう。
みゆきの物語が全て正しいなら、その害は家族にも及ぶ。
(でも…………)
換言すれば、みゆきさえ怒らせなければ彼女が噂を広めることはない。
こなたはいじめられずに済むし、自分たちも巻き込まれない。
(…………)
こなたを見捨てるつもりはなかった。
ただ自分が犠牲になってまで、家族を巻き添えにしてまで助けようという勇気が湧かなかった。
それに、と考える。
余計なことをしてみゆきの機嫌を損ねたら、何をしでかすか分からない。
これがいいのだ。
何もこなたを進んで陥れようというのではない。
むしろ彼女を守るために、みゆきの言いつけに従うのだ。
(こなちゃん……ごめん……)
これがこなたにとっても自分たちにとっても一番いいのだ。
つかさは無理やりにそう思い込むことにした。
80虚像と実像30:2008/08/03(日) 22:03:38 ID:Oukyqb9w
 次の日も、その次の日も。
こなたは真っ青な顔で登校してくる。
ほとんど集中できていないが、授業中はきちんと机に向かってノートもとっている。
しかし頭には入っていないのだろう、羅列された文章には脱字が多かった。
(なにが”大丈夫”よ)
かがみは休み時間ごとにこなたのクラスに顔を出した。
こなたにとって彼女だけが唯一話せる友だちだった。
あれから、みゆきとは会話していない。
顔すら合わせてくれなかった。
まるでこなたがいないように振る舞う。
そのくせ、つかさにはいつもの柔和な顔で話しかける。
つかさはそれにぎこちない笑みで答え、一応はこなたにも朝の挨拶くらいはする。
しかしその表情も口調も相当無理をしているとすぐに分かる。
つかさとのやりとりも、義務的な挨拶くらいで会話らしい会話はしていない。
みゆきはともかく、なぜつかさまで?
こなたは思い悩む。
あの時、つかさは泣いてくれた。
錯乱した自分を支えてくれた感触もまだ覚えている。
なのに、なぜ――?
時間が逆戻りしたみたいで嫌だった。
このクラスにいると孤独だ。
だから休み時間になってかがみが来てくれるのは嬉しい。ありがたくもある。
それと同じくらいつらいこともある。
かがみもまた、つかさやみゆきとは話をしないのだ。
みゆきに対しては敵意、つかさに対しては遠慮があるようだった。
同じ教室に、比較的近い位置にいるのに。
2対2に分かれているようで心苦しい。
孤独を感じているこなただが、かがみが来ている時は別の種類の孤独を感じた。
もう以前のようにはなれないのだろうか。
4人でくだらない話で盛り上がり、カラオケに行ったり、ゲーセンで遊んだりできないのだろうか。
自分がボケて、かがみが突っ込み、みゆきは博識を披露して、つかさはちょっとドジなところを見せる。
当たり前だと思っていた日々に戻れないのだろうか。
気を遣ってか、かがみが何かと声をかけてくれる。
こなたはほとんど聞いていなかった。
「…………」
つかさがちらりとこちらを向く。
申し訳なさそうにこなたを見る。
が、みゆきに呼ばれてすぐに視線をはずす。
その様を見てかがみはグッと拳を握り締めた。
『なんでちゃんとこなたと話さないの!?』
そうつかさに言ってやりたかった。
これではみゆきと同じじゃないか、となじりたかった。
が、そうできないのは、やはり時折みせるつかさの表情が悲痛だったからだ。
彼女も本意でそうしているのではない、という事実が双子の姉だからこそ分かる。
かがみの握られた拳を、こなたはぼんやりと眺めていた。
それから視線だけを上にあげてかがみを見た。
彼女の顔は疲れているようだった。


こなたは3人の間に何があったのかを知らない。

かがみはつかさとみゆきの間でどのような会話がなされたかを知らない。

つかさはこなたの辛辣な過去の半分しか知らない。

みゆきは見返りもないのに献身的にこなたを支えるかがみの行動が理解できない。
81虚像と実像31:2008/08/03(日) 22:04:34 ID:Oukyqb9w
 そうした関係のまま何日かが経った。
みゆきは委員会の仕事を意欲的にこなしていた。
つかさはそんな彼女に追従する振りをしながら、その陰でこなたの心配をした。
すっかり元気をなくしたこなただが、休み時間になればかがみが来てくれる。
それにつかさとて完全に無視するわけではないから、気概のいくらかはかろうじて保たれている。
しかし、ごく稀に。
背中にみゆきの刺すような視線を感じたとき、こなたは激しい動悸に襲われる。
「あんた、顔色悪いわよ?」
かがみが訝しげに訊く。
この質問はほとんど毎日しているものだ。
最近のこなたは特に様子がおかしい。
かがみが見る限り、彼女はいつも下を向いている。
話しかけても上の空だし、そもそも顔を見て会話した覚えもほとんどない。
「あ、うん、そんなことないよ! やだなあ、かがみん……」
とぼけて返そうとするが、もはや作り笑いのやり方すら忘れてしまった。
胸が苦しい。
無理をしていることは表情を見ればすぐに分かる。
「保健室に――」
連れて行こうか、とかがみが言いかけたところでチャイムが鳴った。
同時に担当教師が入ってくる。
それと入れ違いに出て行こうとしたかがみに、
「――今までありがとね」
こなたは小さく言った。
「え……? 今、なんて――」
「おい、授業始まるぞ。席につけ」
担当に追い出されるようにかがみは教室を出た。
その後ろ姿を、こなたは眠そうな目で見送った。




 次の日、こなたは学校を休んだ。
ホームルームでななこが風邪のためだと言ったが、つかさは嘘だと思った。
みゆきは平然とした顔で1時間目の準備をしていた。


 その次の日もこなたは休んだ。
風邪をこじらせたのだろうと、誰も特に気にしていない様子だった。
心配したつかさがこなたにメールをすると、すぐに、
”なかなか熱がさがらなくてね。でも明日は学校行くよ”
と返ってきた。
その文面をかがみに見せると、不安げだった彼女の表情が和らいだ。
みゆきは相変わらず何事もなかったように1日を過ごした。

 
 翌日もこなたは休んだ。
心配が不安に変わってくる。
気になったかがみはこなたの家に直接電話してみた。
3コール目に出たのは父そうじろうだった。
彼によれば、熱は下がったが大事をとって今日一日休むということらしい。
お大事に、とだけ言ってかがみは電話を切った。
またメールをしようとしたつかさは、かがみが電話したと知って送るのをやめた。
心配しているという気持ちは伝えたいが、あまりしつこくすると重荷になるかもしれない。
みゆきは難しい顔をして1日を過ごした。

82虚像と実像32:2008/08/03(日) 22:06:27 ID:Oukyqb9w

 明くる朝。
いつもより少し遅めにななこが入ってくる。
「お前ら、いつまでも騒いどらんと席につけ」
彼女の発するエセ関西弁はいつ聞いても倦怠感が伝わってくる。
やたら不機嫌そうに、ゆっくりと教壇に立つ。
あちこちに固まっていた生徒らが足早に席についた。
ななこは視線だけを動かして教室の端から端までを見て回る。
ある一点をしばらく凝視した後、ため息をついて、
「授業に入る前に先生からひとつ、大事な話がある」
柄にもなく真剣な口調で言った。
険しい表情から少なくとも良い話でないことは分かる。
いつもと違った雰囲気に、心なしか教室中が緊張しているような気がした。
「泉がな…………泉が……」
独特のイントネーションでこなたの名前を出す。
「泉が……亡くなった」
「…………ッ!!」
ざわめいた。
あちこちでひそひそと話し声がする。
「静かにせえ。信じられんかもしれんけど、今朝、泉の親御さんから電話があった」



今夜はここまでです。
明日は来られないので、次回投稿は火曜日になります。
それではまた。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 22:27:10 ID:bDAo6X3a
乙でしたー
王道をふまえつつしっかりと作りこまれていて読むのに苦労しなかった.

個人的にはみwikiに天誅が下って欲しいところw
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 23:13:24 ID:/QsEleQF
乙です
85名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/03(日) 23:18:33 ID:MwqyBzNz
>>82
そう来ると思った
86名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 00:19:01 ID:f5KNXPFN
さってと、投下させて頂きますか。
>>82
深くまで掘り下げられた心理描写に惚れました。
出番が少ない黒井先生のキャラ掴んでるのも凄い。
明日読めないのが残念。
87if star:2008/08/04(月) 00:19:40 ID:f5KNXPFN
 別れの季節である3月が終わり、出会いの季節である4月が始まった。
出会いへの期待と不安に包まれながら、稜桜の生徒達はクラス発表の掲示板を見つめていた。
「今年こそ4人同じクラスになれるといいね。
今まで、2年間ともお姉ちゃんだけ別のクラスだったから」
「そうね。でも、こなただけ別のクラスでもいいんじゃない?
教科の担当教師が違えば、宿題も自分の力でやるようになるだろうし」
「そういうフラグ立ててると、またかがみんだけ別のクラスになるよ」
「あ、でも」
つかさははたと思い出したような声をあげた。
「全員同じクラスだと、教科書忘れちゃった時に困るね」
「アンタは…」
「つかさはやっぱりつかさだね」
呆れたようなかがみの声と、何処か安心したようなこなたの声が桜並木の下に響く。
「仲いいですね」
少し離れて後ろを歩いていたみゆきは、微笑みながら声を発する。
「いつまでも、こんな関係が続くといいですね。
同じクラスになれれば、いつもこんな優しいやり取りが見られそうで」
振り返った3人の瞳に映ったみゆきの顔は、本当に穏やかだった。
仲がよい4人を誇るでもなく、ひけらかすでもなく、
その中に自分が入っている幸運を噛み締めるようなようなみゆきの表情を前に、
かがみは素直な自分を見せた。
「そうね…いつまでも、友達でいたいわね」
いつになく素直なかがみに、こなたも茶化す事を忘れて本音を呟く。
「うん、同じクラスになれるといいね」
「賛成。でも、違うクラスになっても今まで通り友達でいようね」

*

 掲示されている場所に到着した4人は、自分の名前と他の3人の名前を合わせて探し始めた。
初めに自分の名前を見つけたのは、こなただった。
88if star:2008/08/04(月) 00:20:15 ID:f5KNXPFN
「また、B組か。担任はまたもや黒井先生」
「私も見つけました」
少しがっかりしたようなみゆきの声がこなたの耳に届く。
「E組、ですか。残念です」
「私も見つけた。D組だって」
A組のクラス割りから初めに見始めたかがみ達と違って、
みゆきは逆から、つかさは真ん中辺りから見始めていた。
「やっぱりそう上手くはいかないものね。アンタ達3人とも二年間同じってのが
できすぎだったのよ。せめて私だけでも誰かと被ってるといいんだけど」
諦めたようにかがみは呟くと、自分の名前を探す作業に戻った。
「でも、いつまでも4人一緒に居られるよ。同じ学校の同学年なんだし」
「そうですね。そんなに悲観するほどの事でもないですね」
果たしてそうだろうか、とこなたは考えた。新しい出会いによって、
古い友人関係が疎遠になるという事はないのだろうか。
(いや、私達に限ってそれはないはず。大丈夫だよ)
こなたはその考えを振り払うと、未だ自分の名前を探し続けているかがみを
手伝おうとクラス割りに目を向けた。
その時、後ろから声が明るい声が聞こえた。
「C組だぞ」
八重歯をみせて明朗に笑うショートカットの少女と、
髪をかき上げてカチューシャで留めているロングヘアの少女がかがみに話しかけていた。
「え?確か日下部に峰岸…」
「ほら」
日下部と呼ばれた少女は、C組のクラス割表に書かれた柊かがみという文字を指し示した。
「よろしくね、柊ちゃん。中学時代含めると5年連続だね」
2年連続なんて出来すぎでもなんでもない、と思えるような数字だった。
「え?え?あれ?そうだっけ?」
困惑したようなかがみの声に、日下部は峰岸の肩に手を置くと
呆れたような声を出した。
「居るよなー。自分の第一志望しか目に入らない薄情君って」
「まぁまぁ、これから親交深めていけばいいよ」
峰岸のその言葉は、ずしりとこなたの心に響いた。
「そ、そうね。こんな時期だけど、改めてよろしくね」
89if star:2008/08/04(月) 00:21:04 ID:f5KNXPFN
かがみはその二人と連れ立つと、こなた達に会釈をしてC組の教室へと入っていった。
「流石お姉ちゃん。早くもクラスに溶け込めそうだね」
「羨ましい限りの社交性ですね」
みゆきとつかさも、自らの教室へと歩き出す。
「大丈夫…だよね?」
心の中に閉じ込めていた不安が、こなたの口を衝いていた。

 B組の教室に入ったこなたは、溜息をつきたい気持ちを押さえ込むと、
座席表を確認する。「い」で始まる彼女は、丁度真ん中の席が宛がわれていた。
どうせクラス担任が到着してから席替えは行われるのだろうから、
一時的な席順でしかないが。
(周りに話が合いそうな人居ないかな…)
こなたは辺りを見回すが、既にグループは形成されていた。
3年生という事を考えれば、誰しも交友範囲を広げていて当然だろう。
去年もB組だった面子はちらほら居たが、彼女達も既に親しそうに周囲と話していた。
 こなはいかに自分がつかさ達に依存していたか、それを痛感した。
他の人間はクラスの人間と浅くとも広く付き合うことで、
クラス替え時のリスクが分散されている。
しかしこなたは狭い交友範囲の中に引きこもる事で、つかさ達と離れてしまった時の
リスク管理を怠ってしまっていた。
(いや…まだ間に合う。これが最後のチャンスだ)
新しいクラスになった初日、誰かに話しかけても不自然ではない。
そう思って、近くに居たグループに話しかけようと思うのだが、
口が石化したように動かない。仲よさそうに談笑する彼女達に、
こなたが入り込む余地が見あたらなかった。隙間さえ、見えない。
 汗ばむ拳を握り締めたまま時が過ぎ、気がつけばホームルームが始まっていた。

*

 新学年が始まり一週間が過ぎた。春風が心地よく教室内を吹き抜け、
机に突っ伏しているこなたの長い髪を揺らした。心地よさは実感できるが、
居心地の悪さは拭えない。既に新しい友達を作るタイミングを完全に失ってしまったこなたは、
休み時間は寝てるように装うか、携帯電話を操作する事が多くなっていた。
 かがみは日下部や峰岸と一緒に居る事が多いが、つかさが心配なのか
時折つかさの教室へと遊びに行っているらしい。
みゆきもまた、学級委員長に推薦されたりとクラス内で早くも頼りにされているとの事だった。
 まるで自分だけが孤独であるかのような感覚に、こなたは苛まれた。
授業間の休み時間であればまだいい、寝たふりか携帯電話からのサイト閲覧で
手持ち無沙汰を解消できるのだから。
 しかし、昼休みはいつも苦痛だった。ご飯を食べ終わると、やる事がなくなる。
周りが机を寄せ合って昼食を採る中、一人でご飯を食べるのが惨めに思えたこなたは
いつも昼食は素早く食べてしまう。既にそれぞれのコミュニティを築いているであろう
かがみ達の昼食に割って入るのも気が引けたので、
こなたは余所のクラスに出かける事もできなかった。
90if star:2008/08/04(月) 00:21:55 ID:f5KNXPFN
 今日もこなたは、寝たふりで昼休みを乗り切ろうと思っていたが、
日増しに強くなる孤独感は彼女の精神を確実に蝕んでいた。
周囲の笑い声が、まるで自分を嘲笑しているようにすらこなたには感じられる。
(限界だ…)
こなたは音をさせないように席を立つと、C組の教室へと向かう。
別のクラスに入り浸ってでも、孤独を紛らわせたかった。
それに日下部からは気が合いそうな雰囲気が醸し出されていた。
かがみと雑談がてらに、彼女も巻き込んで友達を増やすのも悪くはなかった。
 そう思ってC組の教室を覗き込んだこなたであったが、
実際に談笑しているかがみ達3人を見ると、足が竦んでそれ以上動けなかった。
自分が居なくても楽しそうに笑っているかがみ、それを見ていると
自分の存在価値さえ根底から壊れていきそうだった。
 踵を返すと、こなたは校庭の片隅に向かう。どうせつかさやみゆきを訪ねても
同じ想いを抱くだけだろうから。
校庭の片隅にある木に背中を預けながら、こなたは天を仰いだ。
木漏れ日を見つめながら、独り言を呟く。
「もう、居場所ないのかな」
その独り言に、記憶が反応する。
『でも、いつまでも4人一緒に居られるよ』
つかさが、クラス割の掲示を見た直後に言った台詞が、独り言に答えるように
脳内でフラッシュバックされた。
「うそつき」
脳内で再現された記憶に、律儀にもこなたは返答していた。


*

「お早うございます、稜桜学園職員課です」
「あ、3年B組の泉こなたといいます。黒井ななこ先生お願いできますか?」
「はい、少々お待ちください」
クラシック調の保留音がこなたの耳に響いた。不思議と心が和らぐ音階だった。
それでも、こなたの心臓は相変わらず激しく動いている。
「なんや、泉か?」
「黒井先生ですか?ごめんなさい、今日は風邪で欠席します」
「ほうかー。まぁ季節の変わり目やさかいな。
ちゃんと治して明日は出てこいよ?」
「はい、ごめんなさい」
「ほな、お大事に〜」
91if star:2008/08/04(月) 00:22:19 ID:f5KNXPFN
携帯電話を切ると、こなたは大きく溜息を付いた。
仮病がばれるのではないか、と内心冷や冷やしていたのだ。
重い足を引きずって家を出たはいいが、どうしても学校へ行くのが億劫になってしまった。
最早こなたにとって学校は、嘲笑されている、
という被害妄想と戦うだけの場所に変わり果てていた。
そして気付いた時には、稜桜から離れた場所にある公園のトイレの個室内から、
学校に電話をかけていた。

 公衆トイレを出たこなたは、当てもなく繁華街へと足を向けていた。
学校を休んだはいいが、本当に行く当てはなかった。
家にはそうじろうが居るから、普段通りの帰宅時間まで何処かで時間を潰してから
帰らなくてはならない。
 しかし、繁華街を歩くこなたはここでも居心地の悪さを感じていた。
既に授業が始まっている時間なのに制服姿の少女が一人で繁華街をうろついている、
というのはやはり衆目を引くらしい。
 ゲームセンターやカラオケボックスに行けば、即補導されるかもしれない。
けれど、街中をうろついていても稜桜に連絡が行く恐れがある。
こなたは途方にくれた。その時、こなたの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「こなたさん?」
びくり、とこなたは声のするほうを振り向いた。
稜桜関係者に見つかったかと気が気ではなかったが、
そこに居たのは中学時代の親友だった。
「デン?デンだよね」
心臓は未だ早鐘を打ち続けていたが、ほっとした感覚がこなたを包み込む。
 かつて授業参観の時に、将来の夢が魔法使いであると公言した少女である。
それ以来こなたは、電波をもじってデンと彼女の事を呼んでいた。
「久しぶりだね。どうしたの?こんな時間に制服で」
「ちょっとね、サボっちゃった。今は帰宅時間をいつも通りにする為に
時間潰す場所探してるところ。デンこそどうしたの?」
デンはこなたと同い年であるにも関わらず、制服すら着ていなかった。
「うーん、私もサボリかな。バイトはやってるけどね。
こなたさんと違って、親公認だけどね」
どこか翳りのある表情を見せながら、デンは答えた。
「ねえ、時間潰したいならウチ来ない?
そのカッコじゃ、何処行っても怪しまれるよ?
最近は警察も厳しくなってるからね」
渡りに舟の提案だった。
「そうだね、じゃ、お邪魔させてもらうね」
逡巡せずにこなたは承諾する。どうせ行く当てはなかったし、
久しぶりに人と親しく話せる機会でもあるのだ。
92名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 00:24:10 ID:f5KNXPFN
>>87-91
キリがいいので、今日はここまです。
デンの元ネタは、第一巻30ページの「お友達」。
ではまた。
93名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 00:30:07 ID:U3uVxSfF
>>92
これは切ない。
かがみ以外の3人がクラスばらばらになっちゃったSSって今まであったかな?
しかし、早速雲行きが怪しいぞ。こなたがヤバそう。
94名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 10:30:23 ID:uCntJ3eh
>>82
みゆきの言い分の方が正しいのが分かるからこそ辛いと言うか
色々と考えさせられる展開が本当に素晴らしいと思う

>>92
こなたの状況が俺の高校時代と丸被りすぎる(´;ω;`)
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 11:23:52 ID:neSmKwS3
リミット
96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 18:57:31 ID:5PNeXWrU
さて、投下させて頂きます。
>>87-91の続きです。
97if star:2008/08/04(月) 18:58:11 ID:5PNeXWrU

*

 二階にあるデンの部屋は、昼前だというのに遮光カーテンが閉められていた。
部屋の明かりをデンは点すと、こなたに寛ぐように呼びかける。
「ベッドなり床なり、適当に座っちゃっててよ。
今飲み物持ってくるからさ」
 デンが部屋を出て行った後で、こなたは部屋を見回した。
デンがこなたの家に来た事はあったが、デンの家へとこなたが
訪れたのは初めてであった。
 部屋は片付いてはいるが、物が多い為にあまり綺麗な部屋という印象はない。
色々と物があるこの部屋で一際目を引くのは、本棚と灰皿である。
デンもまたこなたと同年齢、つまり未成年である。
にもかかわらず、灰皿にはタバコの吸殻が落ちていた。
本棚は比較的整頓されてはいるが、書籍だけではなく、
アルバムやファイルが所狭しと並べられている。
そのファイルの背表紙に貼られた、ラベルに書かれた文字を読み取ろうとした時、
階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「お待たせー」
程なくしてデンがドアを開けて部屋の中へと戻ってくる。
デンが手に持ったお盆には、グラス二つと氷、
そしてカクテルや各種の清涼飲料水が並べられていた。
「デン、それお酒でしょ?大丈夫なの?」
「いや、飲みたくないなら無理に薦めないよ。オレンジジュースとかもあるし」
デンはグラスを二つガラス張りのテーブルに置いて氷を入れると、
確認するようにこなたの顔を覗き込みながら尋ねてきた。
「何飲む?」
「オレンジジュース」
こなたは短く答える。正直、アルコールに手を出す事には抵抗があった。
 デンは指示通りにオレンジジュースをグラスに入れると、こなたに手渡した。
その後、もう一つのグラスにカシスとソーダ水を注ぎ込み、混ぜ合わせた。
「お酒なんて飲むようになったんだね。タバコもデンの?」
「まあね。薬に手を出すよりは、マシじゃない?
そっちにはタッチしてないんだ。興味はあるけど、怖いしね」
デンはゆっくりとグラスを傾ける。真っ赤な液体が、この部屋の中では妙に映える。
「ねぇ、さっき言ってたけど、デンもサボリなの?
親公認って羨ましいね」
「サボリっていうか…。休学してるんだ。ほら、私って昔から電波入ってたから、
クラスで浮いちゃって学校行きづらくなっちゃって」
「えっ。私と似てるね。実は私も、3年になってクラス替えがあってから、
クラスで浮いちゃって行きづらくなっちゃってんだよ。今までサボった事はあったけど、
こういう理由でサボったのは今日が初だね」
98if star:2008/08/04(月) 18:59:09 ID:5PNeXWrU
「あー、今ならまだ間に合うじゃん?明日からでも、学校行った方がいいよ?
去年オナクラだった人の中には、友達居たんでしょ?
たまたま他のクラスになっただけで。
それに、どうせ後一年我慢すりゃいいだけじゃん」
デンのその口調には、自分は一年我慢しても状況は変わらない、
というニュアンスが含まれていた。また、自分は学校内に一人も友達が
居ないというニュアンスも。こなたはそれを敏感に感じ取る。
「うん、他のクラスには居るんだけど、既にクラス内で話し相手見つけてるみたいでね。
入っていきづらいんだよ。ところでデンは、どれくらい休学してるの?」
不躾な質問ではあるが、中学時代は腹を割って話せる仲だったので
こなたは遠慮なく尋ねた。
「うーん、一年半以上かな。一年の時から休学してるからさ」
何でもないことのように、デンは答えていた。
「それは随分と長い間休学してるんだね…。
ずっと引きこもってるの?退屈じゃない?」
「んー、いちおバイトとかはしてるし。それにネットがあるから、
退屈とかはしてないや。そうだ、これ見てよ」
デンは立ち上がると、本棚からファイルを取り出してきた。
その中には、美麗なイラストや写真が多数収められていた。
「綺麗でしょ?ネットからこういう画像集めてきて、
プリントアウトして眺めるのが趣味なんだ」
こなたはファイルを捲りながら、その中に収めてある写真やイラストを眺めていく。
人の絵であったり、機械の絵であったり、あるいは洞窟の写真であったり…
様々なものが収められていたが、それらには共通している点があった。
「確かに綺麗だね。でも、暗いイメージの画像やファンタジックな画像が多いね」
「現実逃避…かな?何かこう、惹かれるんだよね、
こういう非現実的な美しさを持ったものって」
「確かに、下らないリアルの煩わしさを忘れさせてくれるよね」
カーテンを閉めているのも、そういった理由からかもしれない。
青空が見えていては、或いは街の明かりが部屋に入ってきてしまっては、
幻想の世界に埋没する事は困難となる。すぐ外にリアルがあるのだから。
「そうだ、こなたさんに取っておきの絵、見せてあげるね。
いや、私が見てほしいのかな。ちょっと思うところあるからさ」
99if star:2008/08/04(月) 18:59:41 ID:5PNeXWrU
デンは別のファイルを持ってくると、付箋が付けてあるページを開いた。
そこには、少女の絵を写した写真が収められていた。
額縁には、「願い」と絵の名前が記されているが、描いた人間の名前は見当たらない。
 真っ直ぐな長い髪を湛えたその少女は、絵の中で椅子に座りながら穏やかに微笑んでいた。
背景も詳細に描かれており、少女の後ろに聳え立つ木や、
足元の草もまるで生きているような躍動感があった。
けれどもその少女の身体は、今にも崩れてしまいそうな危うさがあった。
生を表現した背景と、死をイメージさせる身体、そしてその身体と対照的な笑顔。
それらが見事なまでに調和され、明るい色調にも関わらず幻想的な絵となっていた。
 けれどもデンがこの絵をこなたに見せたかったのは、
この絵がお気に入りだからという理由からだけではないだろう。
なぜならその少女は──
「ねぇ、似てると思わない?私、この人がこなたさんと瓜二つに見えてしょうがないんだ」
「確かに似てるよね。瓜二つではないけど」
(いや、違う。私に似てるんじゃない…)
「やっぱりこなたさんもそう思うんだ。でも、ちょっとだけ違うよね。
髪の毛跳ねてないし、泣き黒子もない。でもね、何処となく似ている気がしたんだ」
(これは…お母さんに似てるんだ。それだけじゃない、この背景…)
こなたは背景にも目を転じた。デジャヴ、それをこの背景に覚えていた。
(私の家の庭…。いや、ちょっと違うか。でも、昔はこんな感じだったのかもしれない)
「やっぱりこなたさんも気に入ってくれたんだ。私もね、この絵に出会った時、
こなたさんに似てるかどうかに関係なく惹かれていたよ。
色々と幻想的な絵を見てきたけど、この絵が一番好きだな」
気に入ったから見入っていた訳ではないが、
その事を指摘するよりも聞きたい事があったので、こなたは敢えて訂正しなかった。
「デンはどうやって、この絵を見つけたの?
この写真って、雑誌を切り抜いたものじゃなくて、
自分で撮って写真屋で現像したやつだよね?この近くに現物あるのかな?」
綺麗な切り口と、艶が切抜きではない事を示唆している。
「ん?市内の美術館。でも自分で撮ったわけじゃないよ。
展示してる絵画の写真が売ってるんだよ、あっこ。
あの美術館さ、別に高価な絵とか展示してるわけじゃないけど、
そういう所は律儀なんだよね。派遣で行ったときに偶然見つけちゃって、
それ以来虜だよ」
100if star:2008/08/04(月) 19:00:21 ID:5PNeXWrU
 市の美術館にこなたは訪れた事がなかった。そもそも目玉となるような絵画が
展示されている訳ではないので、利用者自体が少ない。
所謂第三セクターだからこそ、保っていられるのだろう。
 市がバックアップしているから、市民が描いた絵の展示が主な目的らしい。
かなたがこの絵のモデルだったとしても、驚くような事ではないのかもしれない。
「ふーん。そこに行けば、現物見れるんだ…」
「今度見に行く?その格好でこの時間帯じゃ、怪しまれるし。
夕方以降だと、先生に見つかった時に言い訳効かないしね」
こなたはグラスを傾けて、オレンジジュースを飲み干してからデンに返答した。
「いや、いいよ。写真で十分だよ」
「そっか」
デンは落胆の様子を見せずに、
空になったこなたのグラスに再びオレンジジュースを満たした。
「ありがと」
「ん、勝手に注いじゃってもいいよ」
デンは煙草を口にくわえると、ライターに手を伸ばしたが、
その手はライターを掴むことなく止まる。
「あー、ごめん。家帰ったときに煙草の匂いがしたらまずいか。
よく考えてみれば、お酒勧めるのもまずかったね。ごめんごめん」
「いや、いいよ。気にしなくて」
「ん、止めとくよ」
デンは煙草を口から外すと、ボックスの中に再び仕舞った。
中学では変わり者扱いされながらも、こういう所は、
気遣いの利く人間だった。
(思い出しても、いい人だったな。高校入ってから出来た友達に夢中になっちゃって、
デンの事、放置しちゃってたな)
もし、こなたが中学卒業後もデンとコンタクトを取り続けていれば、
デンは高校を休学するような事態にならなかったのだろうか。
こなたは自問した。
(いや、やっぱり休学してたんじゃないかな。私だって、デンと再び知り合ったけど、
明日学校に行こうって気にならないや。辛いのは、内部で孤立しちゃってる事だから)
 こなたは気持ちを切り替えると、デンとの会話に興じた。
昔話、今見ているアニメ、話題は尽きなかった。
久しぶりに気兼ねなく人と話した、という充実感がこなたにはあった。
教室では孤独を感じつつも、この部屋では孤独感は消え失せていた。

 気がつけば、夜の帳が部屋にも落ちていた。
「あ、もうこんな時間だね」
こなたはベッド脇にあった目覚まし時計を見やると、鞄を手繰り寄せた。
「そろそろ、帰るね。また、遊びに来てもいいかな?」
101if star:2008/08/04(月) 19:01:23 ID:5PNeXWrU
「いいよー。こなたさんと話せて、本当に楽しかったし。
あ、でもアルバイト行く時あるから、事前に一応電話かメールしてね」
「うん」
既に携帯電話の電話番号や、メールアドレスの交換は済ませていた。
「あ、でもね」
デンは少し陰のある表情を作ると、遠慮がちに発言した。
「本当は、学校行った方がいいと思うんだ。
今更周りに溶け込むのって勇気いると思うし、喧騒の中の孤独って辛いものだけど、
このままでいいわけないよ。それに、今の内にかがみさん?やつかささんとかって人と
話しておかないとさ、本当に付き合い途絶えちゃうよ?」
「ん、努力するよ。デンも、頑張って?」
「あー、うん。その内復学するよ。1年生からやり直しになるんだろうけど、
自業自得だしね。それに、このままだと人生詰んじゃうや」
自虐的にデンは笑ったが、こなたは笑わなかった。
笑えなかった。
 こなたは玄関でデンに別れを告げると、足早に帰路へとついた。
明日はきちんと学校へ行こう、そう己に誓いながら。

*

 その日以降も、こなたは学校を休みがちだった。
デンと出会った次の日は学校へと出席したものの、体調不良を理由に早退してしまっていた。
 その日の事は、思い出すだけでも身を焼かれる錯覚に囚われる。
勇気を出してクラスメイトに話しかけたはいいが、その後が問題だった。
仲良くなろうと焦って、まだ信頼関係を築けない内に携帯電話の番号や
プライベートに関わる事をしつこく聞いてしまったのだ。
今まで塞ぎ込んでいた人間がいきなり馴れ馴れしく接してきたのだから、
当然警戒もされるだろう。
結局、苦笑いで迎えられ、怪訝の目で見られる結果となってしまったのだ。
 その日以降も、学校へは行ったり行かなかったりを繰り返した。
そしてデンの部屋で、孤独を埋めるように話し込んでいた。

 そんな日々が続いたある日の事だった。
そうじろうがこなたに二人きりで話がしたいと言い出してきたのは。
「なぁ、こなた。お前最近学校休みがちらしいじゃないか」
こなたが食卓の椅子に座るなり、そうじろうは開口一番本題を切り出してきた。
普段温厚なそうじろうにしては珍しく、声音は尖っている。
(来るべき時が来たか…)
いい加減、学校から家に連絡が行くだろうと思っていた。
最近は、黒井や天原にカウンセリングルームに呼ばれた事があるくらいなのだから、
当然家にも連絡は行くだろうと覚悟はしていた。
102if star:2008/08/04(月) 19:02:12 ID:5PNeXWrU
「うん」
俯き加減に答える。せめて反省するフリだけでも装って、
嵐が過ぎるのを待とう。そういう思惑がこなたにはあった。
「なぁ、このままだと、出席日数も危ないらしいぞ」
「うん」
数泊の沈黙の後、そうじろうは優しげな声でこなたに問いかけてきた。
割れ物を扱うような腫れ物に触るような態度で。
「なにか悩みがあるなら、お父さんに相談しなさい。
進路の事で悩みでもあるのか?それとも、学校に行きたくない理由でもあるのか?
かなたの代わりにはなれないかもしれないけど、できる限り力になるから」
頼もしげに胸を叩いて見せたが、こなたがつられることは無かった。
「いや…。何となく、調子悪くなっちゃって」
「お前…それ本当か?明日にでも病院に行くか?」
そうじろうは穏やかな態度をかなぐり捨て、身を乗り出してきた。
一瞬、そうじろうの態度急変に驚いたこなただったが、
その顔に冷や汗を見て取ると、態度が急変した意味も理解できた。
(あー、私の場合コレはタブーか。お母さんが若くして死んじゃってるから。
じゃ、別の手でやり過ごすか)
 正直にクラスで孤立している事を話すつもりはなかった。
いや、クラスで孤立している事だけが不登校の原因ではなく、
実際には他の人間と仲良くしているかがみ・みゆき・つかさを見たくないというのもある。
何れにせよ、理解は得られまい。或いは、何とか友人を作るようにと、
安っぽい精神論を交えながら諭してくるだろう。
精神論のような具体的解決策を提示できないものは、こなたにとって嫌悪の対象でしかない。
「いや、大丈夫だよ。ちょっと気分悪くなっただけで行きたくなくなる、
っていう甘えみたいなものだから。明日から頑張るね」
「そうか…。まぁ、あまり無理はするなよ。
それと、何か悩みがある時は、本当に俺に相談するんだぞ?」
「うん、分かった。そうだ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「なんだ?」
こなたは話題の転換を図る事にした。いや、話題転換だけが目的なのではなく、
前から確かめたかった事だ。
「お母さんってさ、絵のモデルになった事ある?」
「え?」
「市内の美術館にさ、お母さんそっくりな絵があるんだけど」
実際には自分の目で確かめてはいないが、友達から聞いた、
だと話がややこしくなりそうなのでその説明は端折ってこなたは訊いた。
103if star:2008/08/04(月) 19:03:08 ID:5PNeXWrU
「あー、あれか。お前が20歳を迎えたときに話そうと思ってたんだけどな、
あれは俺が描いたものだ。かなたが死ぬ前にな、自らの姿を残しておきたいと
俺に言ってきたんだ。それも写真ではなく、俺の目に映ったかなた、
それをお前の為に残しておきたい、とな」
「そうなんだ…」
「描きあげた直後に、かなたは死んでしまったけどな。あれ以来、
絵は描いてない。絵心なんてまるで無かった俺だが、あの時だけは
自然と筆が進んだのを覚えているよ」
「じゃあ、なんでそれが美術館にあるの?」
そうじろうは気まずそうな表情を一瞬見せたが、
意を決したように口を開いた。
「情け無い話なんだがな、近くにあの絵があると、どうも寂しくてな。
だから、当時できたばかりのあの美術館に、展示をお願いしたのさ。
市が運営していて、市民の絵を飾るというのがあの美術館の目的でもあったから
あっさりと受け入れてくれたよ。
それに、こなたにこの話をするのを躊躇っていた、というのもある。
家に置いておくと、覚悟が決まらないうちに見つかりそうだったからな。
お前の為にかなたが残した最後の姿、それがどういう風にお前の瞳に映るのか、
その答えを知るのが怖かったんだ。悪いな」
「いや、いいよ。あの絵のお母さん、幸せそうだったね」
そうじろうは一瞬言葉に詰まると、当時を思い出すように遠い目を浮かべた。
「そうだな。実際、言っていたよ。最後に、幸せだったよ、てな。
そういう風に思ってもらえたのなら、俺の模写も一応は成功なのかもな」
「一応、か」
「ああ。かなたも俺も、同じ思いを共有しながら、モデルと画家という
それぞれの役割を務めていた。まぁ、その思いがお前に伝われば
大成功なんだが、流石にそれは無理か。絵に込める思いにしては、
具体的過ぎるからな」
「伝える事はできるよ。絵じゃなくて、言葉で」
こなたは促した。一体どういう意味を込めていたのか。
それが気になった。
「それはな」
そうじろう真っ直ぐにこなたを見つめて、言葉を紡ぐ。
「こなたが幸せになりますように」
ゆっくりと─
けれども真摯に──
かなたの声すら代弁するように厳粛に─
真っ直ぐにこなたを見つめながら、その言葉は紡がれた。
104if star:2008/08/04(月) 19:03:39 ID:5PNeXWrU
「よく分かったよ」
こなたは席を立つと、キッチンを出て自分の部屋へと向かった。
(なるほど、それであの絵の題名…願いというわけだ。
ふん、お陰さまで)
一昨年から去年までは幸せだったよ──
こなたは心中皮肉交じりに呟くと、部屋のドアノブに手をかけた。
その時だった、遠慮がちな声が聞こえたのは。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
振り向くとそこには、ゆたかの不安げな顔があった。
「何かあったら言ってね?私、今までお世話になったぶん、力になれるように頑張るから」
「大丈夫だよ」
こなたは言葉短く答えると、素早く部屋の中に身を滑り込ませた。
 黒井から話があったのか、はたまた別ルートでこなたの不登校を知ったのかは
分からないが、ゆたかもこなたの不登校を知っている様子であった。
ゆたかの不安げな態度を見たこなたは、ゆたかに心配をかけている事を
申し訳なく思うよりも、腹立たしい気持ちが心中渦巻いていくのを感じていた。
 一番弱さを見せたくないと思っていた人間に、弱さを知られてしまった。
苛立たしげにベッドに身体を投げて、その事を噛み締めていた。
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 19:04:31 ID:5PNeXWrU
>>97-104
む、キリいいところまで書き込めたか。
んでは、また。
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 19:37:56 ID:3NnV2gg6
そうじろうは小説家だけでなくて絵描きでもあったのか
多才だなぁ
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 20:00:13 ID:uCntJ3eh
絵描きって言うか、かなたへの愛ゆえに筆が進んだんだろ
実際の画家でもゴッホなんかは絵は下手だけど心を打つようなの描いたんだし
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 20:48:26 ID:vETr1C4P
門外漢の書いた、心打つ絵を実例として挙げるなら分かるが
ゴッホの名前出されて、下手でも心打つ絵は書けるといわれてもw
109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 21:32:04 ID:uCntJ3eh
色覚異常とか手や腕の障害とかが無い限りは
初めてだろうが不器用だろうが絵は描ける

やり直しが不可能な水彩画とか彫刻とか色鉛筆なんかと違って
油絵なんかは乾かしながら数ヶ月かけて地道に描き上げる代物だし
ひたすら対象を観察して絵の具を乗せていけば段々と完成していくよ
まあ画家とかが描いたのと比べると一目瞭然でショボくはあるけど
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 22:49:23 ID:LkuHTKOW
>>94
うーん、みゆきの言い分はかなり傲慢な気がするけど。
なんというか、被差別部落出身者に対するそれと同じ感じ。
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 22:50:42 ID:LkuHTKOW
>>105
新しいパターンだよね。
次の展開が気になる。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 22:52:31 ID:N3ops/T0

こなた「ねえ、みゆきさん、これは一体コーヒーなの?それとも泥水なの?」
みゆき「お分かりになりませんか?」
こなた「うん、分からないよ。」
みゆき「だったらいいじゃありませんか。」
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 22:57:10 ID:uCntJ3eh
>>110
いや、俺自身が中学から高校にかけて虐め→不登校を2回経験して
どっちも酷い虐めじゃなかったから半年で復帰できたけど、今になって考えれば
みゆきの考えの方が正しいと思う。虐めを理由に被害者ぶるのは甘えだ、って。
虐められた方に罪は無いけど、だからってそれを免罪符に調子に乗ってるとまた虐められるんだぜ……
114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 23:27:18 ID:LkuHTKOW
>>113
ダメだよ。このみゆきに説得されちゃ。
苛められる側にそれを誘発する要因があったとしても、悪いのはやっぱりそれを実行する側。
苛められる側が悪い、と言ってしまうのは例えは悪いかもしれないけど、
通り魔事件の被害者に対してあなたは隙が在ったから刺された、と言うようなもの。

あと、私が問題だな、と思ったのはこの辺↓
>「泉さんとお付き合いをすると災いを招くばかりです。先ほども申しあげたように、あなた方も同じなのですよ。
>つかささんもかがみさんも彼女を救いたいとお思いのようですが、その後でどのような咎を受けるかお考えになるべ きです。
>災いはあなた方のみならず家族にも及ぶかもしれないのですよ?」
もう、単にオタクが鬱陶しいってレベルを超えてる。

あ、念のため。
作者さんを批判してる訳じゃありませんので。
あくまで作中のみゆきに対する批評です。
115名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/04(月) 23:31:35 ID:kJi6+OlI
今日も乙でした
明日は実像と虚像の人も投下なさるそうなのでいい夢が見れそうです
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 07:33:40 ID:n6JTUQik
つかさ達の事も案じてるみたいにいいながら
つかさの行動次第では
つかさ達の立場も危うくなる行動を取ろうとしてる矛盾
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 09:00:21 ID:wPnBnfNT
伊賀市、昨年度までの「在日」の減免認める 市県民税を半額に

三重県伊賀市が数十年前から市内の一部の在日韓国人や在日朝鮮人を対象に市県民税を減額していた措置について市は12日、
「昨年度まで市県民税を半額にしていた」と認めた。同県内では桑名市で本年度も同様の減免措置を講じていることが判明。
四日市市に合併前の旧楠町でも減免していたことが分かった。
伊賀市の減額措置は、昭和30年代から40年代にかけ、当時の上野市(現伊賀市)が、地元の在日本大韓民国民団(民団)や
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)との交渉を経て開始。市長が特例で認めたという。当時は納付しない人も多く、半額でも徴収したい、と始めたらしい。
35年ほど前は算定額を低くしていたり減額率が細分化していたりと方式は一定ではなかったが、最近10年は納付額を一律に半減。
市は2004年11月の合併前まで市市税条例にある減免条件「(市長が)特別な理由があると認める」場合に相当するとして
慣例として単年度の市長決裁を受けずに適用していた。
昨年度に半減措置を受けたのは市内の定住韓国・朝鮮人約400人のうち個人事業主を中心に在日韓国人35人と在日朝鮮人18人。
市が該当者分の納付書を民団と総連にまとめて送付。それぞれの団体が取りまとめて納税していた。
他町村との合併協議の中で「減免措置があるのはおかしい」との指摘を受け、民団、総連と協議。05年11月に翌06年度で全廃することで合意した。
民団三重県伊賀支部の申載三・支団長は「3年前に支団長になって措置を知った。参政権などを求めるのに日本人と違うのは不公平だと改善に応じた」と話す。
総連伊賀支部の金栄泰委員長は「過去の経緯は話せない」と語った。
伊賀市は市民税と合わせて徴収する県民税も半額にしていたが、伊賀県税事務所は「減額は市の裁量だが、半減措置は知らなかった」という。
県市町行財政室は「地方税上、条例の定めのない減免はできず、条例がないなら問題」、総務省市町村税課は「減免は各市町村が判断し条例で定めるが、
このような例は初耳」としている。
(中日新聞)
ttp://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2007111302063852.html
118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 11:32:36 ID:gR/DsIe+
こなた「何度でも蘇るさ」
119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 13:59:12 ID:dsuiubhY
上の方でイジメがどうとか議論されてるけど…
虚像と実像のみゆきのやってる事ってイジメなのかな。
みゆきの主観面で言えば、報復。
こなたも、「みゆきさんにいじめられてる」という思考はしてないね。
加害者の側に「いじめてる」という自覚がなくともイジメは成立するんだろうけど、
被害者の側に「いじめられてる」っていう自覚抜きにイジメは成立するんだろうか。
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 14:46:13 ID:TsK0Zf07
>>114
いや、それは分かってるよ
でも個人的には柊姉妹の思考回路が受け付けない
被害者を労って「私が保護してあげてる」って
自己満足したいだけじゃないのかな、って感じ
虐め経験すると友情とか信用出来なくなるよ

>>119
こなたの「自分勝手」でみゆきが被害を蒙って、
さすがにもう我慢の限界だと思ってこなたと距離置こうとしたら
かがみに「こなたが自分勝手なのは虐めで仕方ない」って言われたら
みゆきじゃなくてもムカつくと思う。こなたは絶対に悪くないけど
虐めは免罪符にはならない。「こなたがみゆきに迷惑かけた」事実は消えない。

ていうかこういうスレに関係ない暗い話題は駄目だよな
黙って続きをwktkしとくわ
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 19:41:36 ID:9sFjPndg
さって、投下しますか。
>>97-104の続きです。
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 19:41:49 ID:uWkGSTEv
実際自分勝手の被害にあったからって、こなたを許さず距離を置き続けるだけならまだしも
展開次第ではこなたの過去の秘密を周りに広めるつもりでいる時点で
こなた以下のクズ確定だろう
123if star:2008/08/05(火) 19:42:31 ID:9sFjPndg


*

 これ以上は休むと、またそうじろうにあらぬ心配をかける。
その思いから、どうにか重い足を引きずってこなたは教室に到着した。
自席に座るなり、突っ伏して物思いに耽る。
 この日々は、いつまで続くのだろうか。デンは高校卒業までの一年、
などと言っていたが、大学に進学しても結局は変わらないだろう。
スタートダッシュに失敗すれば、今度は4年間孤独を味わう事になる。
 けれども、就職という選択肢は進学以上に有り得なかった。
社会における人間関係は、学校以上にドライであろう事はこなたにも察しがついていた。
父親と編集者の関係を見ていれば、それが痛いほどに分かった。
いや、それ以上に、学校だからこそ孤立が許されているのであって、
職場で孤立したらもう終わりだろう。
 だからこそ、4年間の孤独を耐え抜くか、どうにか友人を確保するように努めるしかない。
けれども、新しい友人を作る自信は既に打ち砕かれていた。
 そこまで思考してから、こなたは気付いた。
(そうだ、その4年間が終われば…職場での孤立が待っているんだ…)
結局は問題の先送りでしかない。閉塞感、それがこなたをゆっくりと包み込んでいった。
 こなたはひたすら、授業開始を待った。ノートに黒板の文字を書き写す、
という単純作業でも、集中して取り組めば取りあえずは孤独を考えずに済むからだ。
尤も、休みがちなのでノートは飛び飛びになっている。
今更授業に集中しても、ついていけるか不安ではあるが。
(そうだ…今の私には、ノートを写させてくれる相手すら、クラスには居ないんだ…)
その事に気付いて一瞬絶望しかけたが、すぐにそれを利用する事を
こなたは思いついていた。

 昼休みが始まると、こなたは素早くパンを胃に詰め込み、
足早に教室を出てE組へと向かう。
そこはみゆきの教室だった。
(ノートのコピーをお願いする、そういう名目でみゆきさんを訪ねよう)
そう思い立って、E組の敷居を跨ぎ、みゆきを目指して歩く。
 みゆきは、クラスメイトと机を囲んで昼食を摂っていた。
前、かがみを訪ねた時には、峰岸や日下部と楽しそうに談笑している姿を見て
引き返してしまったこなただったが、今回は引き返しはしない。
もう、後が無かった。みゆきを皮切りに、昔の関係を取り戻したい、
その想いを込めてこなたはみゆきの前に立った。
「あら、泉さん。ご無沙汰してますね」
みゆきはこなたに気付くと、にっこりと微笑みながら迎えた。
124if star:2008/08/05(火) 19:43:15 ID:9sFjPndg
「いや〜、そういえば最近話してなかったよね。
そうそう、みゆきさんにお願いしたい事があってさ」
「何でしょう?」
「最近体調崩し気味で、結構学校休んじゃっててさ。
ノートのコピーお願いできないかと思って。
勿論、担当教師被ってる科目だけでいいんだけど」
「構いませんよ。では、担当教師を確認してみましょうか」
以前と変わらない態度で、みゆきは接してくれていた。
こなたは懐かしさを覚えながら、確認作業を進めていく。
「あら、二科目だけですね」
「みたいだね」
科目毎の担当教師が多いというのも、マンモス高の弱点だった。
「では、この二科目のノートのコピー、家で取って来ますね。
どの辺、お休みされているのでしょう?」
「あ、私が取るよ。コンビニとかで」
「ごめんなさい、午後からこちらの科目は授業があるので、
今お渡しする事ができないんです」
申し訳なさそうに、みゆきは目を伏せた。
「そっかー。ありがとね、みゆきさん。他の教科は、
かがみとか頼ってみるよ」
みゆきと一緒に机を囲っていた女子達は、二人のやり取りを見ているだけだったが、
ここに至ってその内の一人が割って入ってきた。
「ねー、泉さんっていうの?」
「あ、うん。泉こなた」
こなたは期待に胸を躍らせながら、その女子に自己紹介をする。
もしかしたら、ここから友達が増えるかもしれない。
そんな期待を、胸に抱いていた。
 しかし、その女子の次の発言は、こなたの期待を恐怖へと変えてしまうものだった。
「ねぇ、クラスメイトに頼むのが一番効率いいんじゃないの?」
不思議そうな顔で、その言葉が放たれていた。
「えっ、それは…」
こなたは答えに淀んだ。見ず知らずの人間にも、また親友であるみゆきにも、
クラスで孤立している事など知られたくは無かった。
いや、少なくとも公言したくはなかった。絶対に。
125if star:2008/08/05(火) 19:43:55 ID:9sFjPndg
 こなたの態度から事情を察したのか、別の女子が肘で、こなたに話しかけた女子の
腕を小突いた。小突かれた女子も自らの失言に気付いたのか、慌てて取り繕った。
「いやごめんごめん。不躾だったね。忘れて」
気まずそうなその女子の顔を見て、こなたは不安げにみゆきに視線を転じた。
みゆきさんは天然だから気付いていないかもしれない、そう願いながら。
 こなたと目が合ったみゆきは、気まずそうな笑みを浮かべていた。
こなたは居たたまれなくなった。みゆきにまで、知られてしまった。
「あ、私、そろそろクラス戻るね。じゃ、ありがとね、みゆきさん」
「あ、泉さん」
追い縋るようなみゆきの声を無視して、重くなった雰囲気から逃れるように
こなたはE組の教室を後にする。
 途中、D組の教室も覗き見る。そこに、つかさの姿はなかった。
救いを求めるように、C組の教室へと向かった。
かがみと何でもいいから話がしたい、それだけだった。
 C組の教室を覗き込むと、かがみは居た。
峰岸や日下部と四人で、昼食を採っていた。前見たときに比べて一人増えているが、
その存在をこなたは知っていた。その増えた一人もまた、
かがみと同じ中学に通っていた人間だ。
 その一人とは、つかさだった。

*

 つかさもかがみ達と一緒に居る、その事はこなたにとって不利な要素であった。
単純に考えれば、友人が1/3のグループに話しかけることより、
1/2のグループに話しかけることの方が心理的障壁は少ないのだが、
この場合は少し事情が違う。
 同じ中学、という共通点を持った4人が固まっている。それはつまり、
こなたが部外者であるという事を意味していた。
共通点をもった3人のグループよりも、4人のグループの方が排他性が些か高いように
今のこなたには感じられた。1人増えたぐらいでは、大した違いがないようにも見えるが、
その1人増えたという事が致命傷とすら思えるほどまでに、
彼女の精神は神経質になっていた。
 それでも、なおもこなたは一歩を踏み出そうと逡巡していた。
足が鉛のように重いが、またかがみやつかさと仲良くやりたかった。
 こなたは集中し、耳を研ぎ澄ませた。話しかけるのはタイミングが肝心だ。
話の切れ目を探して教室内に入っていこう、そうこなたは決意を固めた。
必死の思いで、4人の会話を聞き取る。
126if star:2008/08/05(火) 19:44:39 ID:9sFjPndg
 4人の会話の内容は、主に中学時代の思い出話だった。
少なくとも、話題が変わるまでは中学が違うこなたが入っていけるような雰囲気ではない。
なおも集中して、こなたは4人の会話が途切れるのを待った。
しかし、それが不運となった。こなたにとって聞きたくない会話、
それすら耳が拾ってしまう結果となるのだから。
「中学んときから、アンタは私から色々借りてたわね。
あ、借りてるって言えば…
日下部前に貸したゲームさ、そろそろ返してー。
他にやりたいって人がいるから」
「あいよー。明日持って来るわー。
でも柊凄いなぁー。
誰に何貸したかとか、誰から借りてるかとか、
普通忘れね?」
「それはアンタがずぼらなだけなんじゃ」
「いーや、貸借主忘却の法則は絶対あるって」
「お姉ちゃんと日下部さんって、本当に仲いいんだね。
中学含めて五年連続同じクラスなだけあるね」
「そういえば中学時代、妹ちゃんとはあまりお話しなかったね」
「そうそう、柊とは何気にしょっちゅう話したんだけどな〜」
「つかさ、親交深めるためにも、また明日も昼食はこっちで食べなさいよ」
この会話までだった。こなたが平常心を保っていられたのは。

「うーん。甘えさせてもらおうかな。
ありがとね、お姉ちゃん。お昼ごはん誘ってくれて」

 こなたは自らの心から、ぽきり、という音が聞こえた気がした。
(え…。かがみから誘ったんだ。私、誘われてないよ)
自分が除け者にされたような感覚にこなたは囚われた。
(いや…今日は私、昼ご飯を急いで食べて、みゆきさんの教室に行ったんだ。
その時に入れ違いに私の教室を訪ねていたのかも…。
いや、だとしてもみゆきさんを誘っていないのはおかしいか。
かがみがみゆきさんを誘っていれば、必ず鉢合わせていたはず…。
という事は、みゆきさんも誘われず、つかさだけ誘われたってことかな?
…まさか)
こなたは自らの思考に、背筋が凍りついていくのを感じていた。
けれども、”その可能性”を考えずにはいられなかった。
(まさか、E組の教室を覗いた時に、私が居たからみゆきさんを誘わなかった?)
 と、その時、不意につかさと目があった。
つかさが口を開きかけたが、こなたはその視線から逃れるように足早に立ち去る。
学校も結局、そのまま早退してしまった。

*

 学校を早退したこなたが行くところなど、最早一つしかなかった。
こなたの居場所は、ここにしかない。
127if star:2008/08/05(火) 19:45:06 ID:9sFjPndg
 予め連絡した所、今日も大丈夫とのことだった。
玄関の鍵は開けてあるから、そのまま部屋まで上がってきていいとの事である。
共働き家庭らしく、この家で彼女の家族と鉢合わせた事はない。
 階段を上がりきり、二階の隅にある一室のドアノブを回すと、
そこにデンは居た。
ドアの開く音で振り向き、こなたと目を合わせて来た。
「ま、いつも通り適当に座ってよ」
デンは見ていたファイルを閉じると、予め用意してあったグラスをこなたに渡す。
烏龍茶と氷で満たされたそのグラスを受け取ると、
一口飲んでからこなたは言葉を発した。
「お邪魔します。というか、またソレ見てたんだ」
こなたはデンが仕舞ったファイルを指差しながら言った。
それは、かなたをモデルにした絵画、
『願い』の写真が綴じられているファイルである。
「うん。ここのところ、部屋に居る時は眺めてる事が多いかな」
デンはここの所、その絵を見ている事が多くなった。
こなたが家に来ると、必ず『願い』を見ている。
まるで、こなたが居なくても『願い』があれば満足だと言わんばかりに。
(ここですら、居場所じゃなくなる日が来るのかな)
こなたは恐れた。その日が訪れるのを。
デンを失えば、もうこなたの理解者は居ない。
その事はまるで存在を否定されているような、
いや存在を誰からも認識してもらえないような薄ら寒さを内包していた。
「ねー、こなたさん。前から言おうと思ってたんだけど…」
デンはそこで言葉を区切ると、躊躇う素振りを見せてから言葉を続けた。
「やっぱりね、学校行ったほうがいいよ。まだこなたさんはやり直せる。
私はここに留まるけど、こなたさんは先へ行けるよ。
学校で寂しくなったら、私にメール送ってくれて構わないからさ」
デンの口調にはこなたを気遣うようなニュアンスが感じ取れたが、
こなたはもうデンでさえ信じられなくなってきていた。
「迷惑、かな」
ぶっきらぼうにこなたは呟く。
128if star:2008/08/05(火) 19:45:41 ID:9sFjPndg
「いや、迷惑だなんて思ってないよ。こなたさんと一緒に居る時間は本当に楽しい。
でもね、こんな所に居続けたら、こなたさんまで駄目になっちゃうよ」
「もう既に、駄目になってるよ」
「大丈夫、こなたさんしか友達の居ない私と違って、
こなたさんは今の高校に友達が居るじゃない。
友達の事を見捨てる人間なんて居ないよ。きっと皆、自分の事で忙しいだけだよ」
「どうだか」
今日の出来事を思い出しながら、投げやりにこなたは呟いた。
「だからね、元居た場所に戻ろうよ。今は辛くても、いつかはきっと幸せになれるよ」
幸せになれますように──こなたの脳内で、
絵画『願い』に込められた意味がフラッシュバックされ、
神経を逆撫でされた気分になった。
 こなたは言葉を返さず、黙りこくる。
デンはこなたの沈黙も構わずに続けた。
「私はね、この部屋で絵を見続けながら、こなたさんの幸せを祈るから。
だから、こなたさんは前に進も?」
「…。今日は取りあえず、帰るね。ちょっと気分悪くなっちゃった」
こなたはゆっくりと腰を上げると、荷物を手に持ちドアに向かった。
「大丈夫?送っていこうか?」
「いいよ」
こなたは冷たく返答すると、デンの部屋を後にする。
 帰宅途中、こなたは暗澹たる思いを抱えていた。
デンからも見限られつつある、こなたは今日のデンの態度をそのように解釈していた。
(あの絵のせいだ…)
 こなたは力なく歩きながら、絵画『願い』に想いを馳せる。
いや、憎悪を募らせた。
あの絵にデンを盗られた、こなたはそう信じて疑っていなかった。
実際、デンは言っていたのだ。
『私はね、この部屋で絵を見続けながら』と。
残された唯一の居場所、それが絵画に奪われようとしている。
皮肉にも、こなたが幸福になるようにとの願いを込めて描かれた絵画によって、
こなたの最後の幸福が奪われようとしているのだ。
(時間の問題だ。私が、いよいよ存在意義を失うのは。
日を追う毎に、デンのあの絵に対する依存は増して来てる。
このままじゃ、孤独のまま終わる。それよりもいっその事、死んでやろうか。
もう自分の精神は耐えられそうにない。ならばせめてデンがあの絵に心を貪り尽くされる前に、
デンの中に私の居場所がある内に、死んでしまったほうがマシだ。
お父さん、先立つ不幸を許してなんて言わない。そもそも許さないと言う権利が、
お父さんには与えられていないから。だって、お父さんが描いた絵のせいで、
私は最後の拠り所さえも奪われようとしているんだよ)
 こなたは家には向かわず、美術館へと向かった。
(あの絵を、切り裂いてやる)
その上で、死んでやろう。そうこなたは心に決めた。
つかさやみゆき、かがみと同じクラスになれなかった不運より、
溶け込めなかったクラスの雰囲気よりも、絵に込められた皮肉めいた願いを
こなたは呪っていた。
 願わくば、ズタズタに切り裂いた絵の上で死ねるよう。
皮肉を皮肉で返せるような死に様を遂げられるよう。
こなたもまた、願った。
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 19:46:23 ID:9sFjPndg
>>123-128
ここまでです。
ではまた。
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 20:28:17 ID:d8JNZZpj
>>129
乙。雰囲気が大好きだ。
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 21:23:59 ID:IxE53rKL
皆さん、こんばんは。
一日越しです。
いつの間にかちょっとした議論になってますね。
僕自身、思うところがありますがそれは完結させてからにしたいと思います。
では投下いたします。
132虚像と実像33:2008/08/05(火) 21:25:33 ID:IxE53rKL
 そう言うななこももちろん信じられなかった者のひとりだ。
新聞を開いてもテレビニュースを観ても、人の死の報せはすぐに見つかる。
事件にしろ事故にしろ、この国のどこかで常に誰かが死んでいる。
ただそれが身近に、よもや自分の受け持つクラスから出るとは夢にも思わなかった。
学園外でもネトゲを通して繋がりがあっただけに、ななこにとってもショックは大きかった。
そうじろうから聞かされた時、何かの冗談かと思った。
しかし平日の朝、わざわざ職員室に電話してまでするようなジョークではない。
悪趣味だしまったく意味もない。
こなた死亡の報せもだったが、死因はさらに衝撃的なものだった。
「本当なんですか……それ……?」
あやうく受話器を落としそうになる。
電話の向こうのそうじろうは淡々と事実を語る。
先ほどまで泣いていたのか声はかすれていたが、口調はしっかりしている。
「……分かりました。ウチからはそう言うときます――」
ななこは静かに電話を切った。

 教室のあちこちからすすり泣きが聞こえる。
「…こなちゃん……ッ!!」
つかさは泣いた。
悲しくて悔しかった。
自分に泣く資格なんかないと思った。
(なんで……昨日まで元気だったのに! 明日には学校くるってお父さんが言ってたのに!)
突然すぎた。
泣いてもこなたは戻ってこない。
こぼれた涙も拭かずにつかさは教室を見回す。
男子も女子もほとんどは素知らぬ顔をしていた。
が、中には悲痛な顔で俯く者や目元をハンカチで押さえる者もいた。
たとえその涙が嘘でもいい。
自分をよく見せるための演出でもかまわない。
こなたの死に何かを感じてくれることが、こなたへのせめてもの手向けだと思った。
「どうして死んだんですか?」
誰かが訊いた。
ただの興味本位だと、つかさにはすぐに分かった。
井戸端会議をやっている知りたがりの連中と同じ目をしていたからだ。
(これっぽっちも心配してないくせに!)
奥手な彼女には泣きはらした目でそいつを睨みつけることしかできない。
「ああ、それはな……」
訊く際に”死んだ”という言葉を使った生徒に内心では腹を立てながら、
「病気や。3日ほど前から休んどったやろ。風邪をこじらせて……肺炎でな……」
どこか後ろめたそうに、視線を落としてななこが答える。
それを聞いてまた教室内がどよめく。
「こなちゃぁん…………」
一度は涸れた涙がまたこぼれた。
こんなことになるなら、もっともっと話しておけばよかった。
みゆきの脅迫なんてはねのけて、少しでも永くこなたと一緒にいればよかった。
せめて最期くらい、こなたの”友だち”としていたかったのに。
「ごめんなさい……ごめんなさい…………」
つかさは呟くように何度も何度も懺悔した。
謝って済む問題ではない。
生きていれば許してもらえるかもしれないが、こなたはもうこの世の人ではない。
つかさがどんなに悔いても許しようがないのだ。
「みんな、目ぇ閉じ。黙祷や」
ななこが言い、生徒たちがそれに倣う。
(………………)
つかさは謹んで黙祷を捧げた。
みゆきはななこに言われる前から目を閉じていた。
133虚像と実像34:2008/08/05(火) 21:26:28 ID:IxE53rKL

「つかさっ!」
チャイムが鳴るのとほぼ同時にかがみが飛び込んできた。
「こなたが……!」
分かってる、と言いたげにつかさはかぶりを振った。
認めたくないのは2人とも同じだ。
まさかこんな形でこなたを喪うことになろうとは夢にも思わない。
ぎくしゃくした関係の中でも彼女は確かに存在していたのだ。
つらい過去にも負けず、みゆきの残酷な言葉にも耐えた。
窶(やつ)れてはいても、こなたは明るいキャラを演じようと頑張っていた。
それが今日、全て無駄になった。
「お姉ちゃん……こなちゃんが……」
言葉が詰まる。
かがみも想うところがあるのか、つかさの頭を撫でながら視線は遠くにあった。
別れにしてはあまりにも呆気なさ過ぎる。
何故こなたが病死しなくてはならないのだろう。
(こなた…………!)
かがみは神の存在を疑いたくなった。
神がいるなら――。
どうしてここまで酷い仕打ちをこなたに与えたのだ。
こなたが何をしたというのだ。
独りで不幸を背負い込んで、それでも自棄にならずに頑張ってきたじゃないか。
ようやく掴みかけた幸せを、なぜ神はわざとそれを遠くに投げ捨てるんだ。
悔しかった。
どうしようもないが、どうにかしたかった。
「ちょっとええか?」
想いに耽っていたせいで、ななこが自分を呼んでいることに気付かなかった。
「あ、あ、黒井先生……すみませんっ!」
かがみは慌ててつかさから一歩離れ、頭を下げた。
「かまへん。こんな状態や、お前らも想うとこがあるやろしな……」
こなたが死んで悲しいのは自分たちだけじゃない。
ななこを見て、ほんの少しだけかがみは気が楽になった。
「高良、こっち来てくれるか?」
黒板の字を消していたみゆきを呼ぶ。
はい、と短く返事をして彼女は顔色ひとつ変えずにやって来る。
この女、何も感じないのだろうか?
頭はいいが冷徹なみゆきを見て、かがみはまた怒りがこみ上げてきた。
「すまんけど昼休みに職員室来てくれるか? 大事な話があるんや。あ、食べてからでええからな」
神妙な顔つきで、しかも小声でそっと告げる。
何か秘密めいたものを感じる口調だ。
分かりました、と3人は短く答える。
みゆきは誰とも目を合わせなかった。
何か言わなければ気がすまないかがみだったが、ここで彼女をなじっても仕方がない。
俯いたままのつかさの頭にそっと手を乗せ、
「大丈夫」
聞こえるか聞こえないかの小声で囁く。
何が大丈夫なのかは分からないが、つかさにはひどく相応しい言葉のような気がした。
134虚像と実像35:2008/08/05(火) 21:27:41 ID:IxE53rKL
 特に約束したわけでもないのに、2人は廊下で顔を合わせた。
「なんだかお腹が空かなくて」
と言って、つかさは恥ずかしそうに苦笑した。
「私もよ」
ダイエットにちょうどいい、と嘯いて腰に手を当てた。
この仕草は安堵を隠すため。
つかさが食欲がない、と言ったことにかがみは内心ではホッとしていた。
もし彼女がいつもと変わらずに昼食を取るようなら、その神経を疑ってしまうところだった。
腕時計を見やる。
昼休みが始まってまだ5分も経っていない。
「どうしよう、先生は食べてからでいいって言ってたけど」
つかさが言った。
教師だって昼休みは当然、昼食を摂る。
大事な話らしいが、今すぐ職員室に行ってはななこに悪い。
そう思う反面、早くそれを聞きたいという気持ちもある。
「行こっか」
かがみは無意識につかさの手をとった。
一瞬よろけそうになったつかさだったが、その手を握り返すと職員室へと歩き出す。
途中、すれ違う生徒はみな笑顔だった。
これから食堂に行くのか、それとも弁当を持ち寄って外で食べるのか。
人の波に逆らって2人は廊下を足早に進む。
「失礼します」
ドアをノックし、開けるのはかがみの役目だ。
何人かの教師は弁当を食べているが、中にはパソコンに向かっている者もいる。
「柊です。あの、黒井せんせ……」
ななこの席に視線を移すと、すでにみゆきがいた。
この時間帯では彼女も昼は食べずに来たということになる。
やはり平然とした様子の彼女を見てかがみは、
”面倒な用事は早いうちに片付けたいから先に来ているのだろう”
と思った。
「ああ、自分らも来たんか。ちょうどええわ」
おもむろに席を立つ。
「小会議室行こか」
そう言って3人を別室に連れて行く。
職員室と続き部屋になっている小会議室は10人ほどを収容するスペースがある。
密かに話をするにはちょうどよい場所だ。
「適当に座ってくれ」
無造作に置かれたパイプ椅子を引っ張り出し、ななこは3人と対面する形で席についた。
みゆきは2人からやや距離を置くように腰をおろす。
「黒井先生、お話というのは?」
眼鏡の縁をつまみながらみゆきが言う。
こんな時まで秀才・高良みゆきを演じるのかとつかさはムッとした。
「自分ら、泉と仲よかったやろ?」
違います、とかがみは叫びそうになった。
ななこは4人が一緒にいたあの頃しか知らない。
この数日間に何があったのか言おうとしたが、かがみは思いとどまった。
仲が良かったのは確かなのだ。
「それでな……お前らにはどうしてもホンマの話をしときたくてな」
「本当の――?」
かがみは訊き返した。
「泉は肺炎で亡くなったっていうことになっとうけど……ホンマは違うんや」
これにはさすがのみゆきも驚きを隠せなかった。
「…………」
まさか、という想いがかがみの脳裏をよぎった。
厭な汗が流れる。
135虚像と実像36:2008/08/05(火) 21:28:57 ID:IxE53rKL
「ホンマは――自殺なんや」
(自殺…………)
かがみは気を失いそうになった。
心のどこかでは考えてしまっていたことだ。
こなたに限ってそれはありえない、と懸命に否定し続けてはいた。
だが不安はつきまとっていた。
それが、まさか――。
「手首を切ってな。親御さんの話やと、何度も試みた跡があったらしいんや」
その様は想像できない。
想像したくはない。
自分の体を傷つけるなんて並大抵の勇気ではできない。
よほどの理由がなければできないことだ。
「手首にいくつも傷があってな。4度目に切ったんが致命傷やったって……」
つかさは両手を握り締めて体の震えを抑えようとした。
涙が止まらない。
私のせいだ、とつかさは自分を責めた。
「気付いてやられんかったウチが悪いんや……あいつは――4日前から毎晩な……自分の……手……!」
言い切る前にななこは泣いた。
教師が不安になったり涙したりする姿は、間違っても生徒に見せてはならない。
教員になる前、嫌というほど叩き込まれていた禁忌を彼女は破った。
(4日前!? そんな…こなた……!!)
また後悔だ。
してもし足りない後悔をかがみはした。
どうして電話ですませたんだ!
こなたを心配していたのなら、なんで家に行ってやらなかったんだ!
悔恨の念はつかさも同じだった。
彼女にしてもメールで安否を確かめただけで、結局は何もしなかった。

”明日は学校行くよ”

そのメールをこなたは傷だらけの手で打ったのだ。
「こなちゃん……ごめん…なさい……」
つかさは拳を握り締めた。
「なんで自殺したんかウチには分からん。親御さんも家におったけど気が付かんかったらしい。
ホンマ…あほやで……そんな事して誰が喜ぶっちゅうねん……ホンマ…………」
ななこは袖で涙を拭った。
「すまんな…こんな話してもて。聞きたなかったやろ?」
「いえ、そんなことは……」
「自分らには言うときたかったんや。あいつと仲良かった自分らにだけはな……」
ななこは目元を押さえて溢れる涙を何とか堰き止めた。
それから二呼吸ほどおき、
「あいつな……陵桜に入るまでいじめられとったんや……」
ぽつりと語る。
「えっ――!?」
2人は思わず顔を見合わせた。
みゆきでさえ驚いたようにななこを凝視している。
「こんな話、ホンマはするべきやないんやろうけどな」
と一応の前置きをしてから彼女は遠い目をして語り始めた。
「入学式のちょっと前に泉の親御さんが来られてな。その時に聞いたんや。
小・中学校とずっといじめに遭うとったらしい。内容は言われへんけど酷いもんやった。
まだそんなしょうもない事する奴がおるんか、って思ったら腹立ってな。
でな、親御さんから泉をよう見たってくれって頼まれたんや」
ななこにはまだその時の様子が鮮明に思い出されるのだろう。
時々、語りながら小さく頷いている。
「依怙贔屓したらあかんねんけど、そういう理由やったら話は別やからな。
教員同士で連携取り合おうって話になったんや。それで去年、ウチがあいつの担任になったんやけど。
最初見た時、とてもやないけどいじめられるような子には見えへんかったんや。自分らもそうやろ?」
問いかけられ、3人は曖昧に頷いた。
136虚像と実像37:2008/08/05(火) 21:30:15 ID:IxE53rKL
「まあ、それも無理に振る舞っとんかもしれへん。いじめなんか陰湿なもんやからな。
もし今も同じ目に遭っとんやったら、どっかでサインを出してるんちゃうかなって。
ウチが担任になったからには面倒見なあかんからな。泉のことは見てきたつもりやった」
ああそうか、とかがみは納得した。
こなたとななこが喋っているところをよく見かけたが、こういう理由があったのか。
あれは仲の良い教師生徒の関係に見えたが、ななこがこなたを気遣っていたのだと分かる。
それこそ小さなサインも見逃さないように。
「もしかしたら学校では隠し続けるかもしれへん思て、ネトゲにも誘ったんや。
ネットやったら普段は言われへんことも吐き出すんちゃうかと思ってな。あ、これは内緒やで。
教委なんかに知られたらややこしい話になるからな」
と、ちゃっかり釘を刺す。
ななこは自嘲気味に笑った。
「しばらくそうしとったけど、心配しとったことは何にも無かった。元気そのものやったわ。
去年のいつやったかな、あいつ、ウチんとこに来て言うたんや。
”ななこ先生、私にも友だちができたんだよ”って。めっちゃ嬉しそうやった。
ウチも嬉しかったけど、一番喜んだんはやっぱり親御さんやったやろな…………」
魂が抜けてしまったようなななこの声に。
つかさは涙した。
かがみも泣いた。
「…………」
みゆきは何も言わずに俯き、しきりに眼鏡をかけなおす。
「しばらく見とったけど、前みたいにいじめられるようなことはないやろって……職員会議でも決まったんや。
あんまり泉だけ特別扱いしとったら、他の生徒がやっかんだりして余計に悪化するかもしれんからな。
遠くから見守るって形にしようって……みんなそれに賛成やった」
あまりにも生々しい話だ。
空気が重い。
「もう大丈夫やろって思っとった――それが……これや……なんでや…………!!」
ななこが肩を震わせた。
「兆候はあったんかもしれん、いや、あったんや……。それをウチが見逃したんや……ッ!!」
誰の顔には後悔の色があった。
『全部みゆきが悪いんです!』
かがみはそう怒鳴ってやりたかった。
過去に受けた傷を残酷に切り開き、こなたを自殺に追いやったのはみゆきだと。
今、この場で叩きつけたかった。
だができなかった。
現実にこなたは亡くなったのだ。
自分もつかさもみゆきを止められなかったし、こなたの自殺も防げなかった。
それに誰にも相談しなかった。
ななこにもひかるにもふゆきにも。
力になってくれそうな大人は周りにいたのに、誰にも助けを求めなかった。
今さらみゆきを責めたところでどうにもならない。
こなたを死なせた以上、何の策もとらなかった以上……。
自分にはみゆきを断罪する資格などない。
「うわああぁぁぁん……ッッ!!」
つかさは慟哭した。
泣いても何も変わらない。
こなたが死んだのは自分のせいだとつかさは思った。
助けを求めていたのに助けなかったから。
保身ばかり考えて何の行動も起こさなかったから。
もっと話を聞いていればよかったのに!
もっと声をかけてあげればよかったのに!
もっと傍にいてあげればよかったのに!
結局、何もしなかった。
137虚像と実像38:2008/08/05(火) 21:31:16 ID:IxE53rKL
「柊…………」
ななこは困ったようにつかさを見た。
「…ひくっ……ひっく…………」
淀んだ空気の中、つかさのすすり泣きだけが響いた。
みゆきは深くうな垂れたままだ。
つかさが落ち着くまで10分ほどかかった。
おもむろにななこが立ち上がる。
「昼休みやっちゅうのに、こんな話して悪かったな。自分ら、午後の授業はええから。
天原先生には後でウチから言うとくから、保健室で休ませてもらい」
「いえ、大丈夫です…大丈夫です……」
立ち上がってみゆきが言った。
「私は平気だけど、つかさは……?」
「うん、私も平気……」
つかさが真っ赤な目で無理に笑った。
「ほんまにええんやで。ちょっと横になっとったほうがええんちゃうか?」
ななこは何度も気遣ったが、かがみたちはかぶりを振った。
そうか、と最後は諦め、ななこはやんわりと退室を促す。
「失礼します……」
3人が丁寧に頭を下げたので、ななこもついそれに倣った。
「………………」
再び静寂を取り戻した部屋の中。
ななこはつかさが座っていた席に腰をおろした。
「なんでこんなことになったんや…………」
ところどころ剥げかけている天井を眺めて呟く。
「泉……」
自分がそう発した少女の名前が、狭い会議室をぐるぐると巡る。
呼んでも彼女はもう帰ってはこない。
野球の話もゲームの話もできない。
授業中に舟を漕ぐこなたの頭を、教科書の角で叩き起こすことも。
休日前に徹夜でネトゲに興じることも。
もう何もできない。
「もっとちゃんと見とったらよかったんや。ただの寝不足やと思っとったウチがアホやった。
風邪やいうて休んだんも、今考えたら怪しい話やった……すまん、泉……ホンマすまん……!!」
ななこは目を閉じた。
元気な頃のこなたを思い浮かべようとする。
だが、できなかった。
あの特徴のあるクセ毛も、あのチビっこい体も想像できるのに。
顔だけが思い出せない。
そこだけが切り取られて、雲か霞で覆われたみたいにハッキリとしない。
(責任はウチにある。そやけど……分かってくれ……ウチも一応担任や。他の生徒も見なあかん。
お前のこと忘れるんとちゃうで。ウチかて寂しいし悲しい。それはホンマや)
涙を拭った。
(でもな、いつまでもこんな顔でけへんねん。ウチがいつまでも塞ぎ込んどったら、他の生徒にも示しがつかん。
無理でも笑わなあかん時があんねん……。泉……許してくれ……ホンマに…すまんかった……!!)
心で何度も懺悔するななこは、ぼんやりと天井を眺める。
あちこちが傷んでいるのに一向に修理する気配がない。
校長がケチなのか面倒くさがりなのか。
狭い会議室はいつ来ても薄汚れた内装のままだ。
きっと明日も明後日も。
下手をすれば来年もこのままなのだろう。
ななこは無性に腹が立った。


138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 21:35:01 ID:IxE53rKL
キリがよいので今夜はここまでにします。
急遽思いついた結末がありますので、その進行具合で完結まで伸びるかも知れません。
が、今週中には必ず完結させます。
それではまた。
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 21:39:07 ID:W3aDiXEC
遅れましたが>>1

ttp://uproda.2ch-library.com/src/lib043679.jpeg

久しぶりに絵を描いたがやっぱり駄目だw
漫画描くのは遅れそうです
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 21:39:52 ID:DrjqEgwZ
>>139
だあれ?
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 21:42:16 ID:d8JNZZpj
絵柄が毎回変わる奴か
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 21:46:19 ID:FtdAa7pO
まじだれ
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 21:48:00 ID:DrjqEgwZ
ひょっとして兵庫氏かな?
なんとなくだけど
144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 22:13:59 ID:uWkGSTEv
>>138
乙でした
なんというか……重いな……
追い詰められる側、追い込む側 庇う人 揺れ動く人 それぞれの心情がしっかりしていて
何だか色々と考えさせられる。
私的に色んな意味で大作だわ
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 22:42:53 ID:IxE53rKL
if star 面白いですね。
4人がいったんバラバラになった後に、それぞれがグループを作る場面が好きです。
こなたが最も頼りにしたいかがみが、実は最も輪に入りにくいグループを形成しているというのも。
絵画とともに死ぬのだとしたら、それも一種の芸術なのかもしれませんね。

>>144
大作と言って頂けると恐縮至極です。
こなたのいじめについて、ななこが知っていたという件は投下する直前に思いついて、
慌てて書き足しました。
ななこの訛りがところどころ神戸弁になってしまったのが惜しいところです。

146名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 22:47:01 ID:DrjqEgwZ
>>145
あなたは兵庫の人か
147名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 22:54:12 ID:rD+gTieS
おふたりとも乙でした
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 22:55:48 ID:IxE53rKL
>>146
生まれも育ちも神戸です。
もう20余年になります。
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 23:02:58 ID:DrjqEgwZ
>>148
へぇ、神戸ですかwかなり親近感w
自分は北摂ですw
150(≡ω≡.)神奈川:2008/08/05(火) 23:04:27 ID:ZN9Cq0il
規制と私用で全然載せれなかった・・・・・・
なんか離れてる間に才能ある人が増えてるし、もう潮時かな。

結構前の奴の後編を日付変わった辺りに載せます。
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 23:06:05 ID:KWuVtB9A
マジwww神戸住みがこんな近くにいるとはwww

因みに俺は福島です
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 23:06:45 ID:W3aDiXEC
兵庫多いな
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 23:11:30 ID:o6LfIhCa
ほんと西日本多いよね
154名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 00:42:19 ID:Y0wIrDUx
>>138
乙。
流暢な文章に引き込まれたわ。
かがみの感情描写も素晴らしいわ。
結末に期待しつつ、今週をwktkで過ごさせてもらおう。
>>139
ほう、こういうのは好きだ。
情緒感があるわ。
155名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 01:07:33 ID:chfr9ieZ
ペガサス幻想

ジャララララーララージャララララーララー ジャララララーラララーーーッ
セ ンセ ヤーーーッ(セイヤーセイヤー) ※エコー
ジャララララーララージャララララーララー ジャララララーラララダカダカダカダカドゥクドゥクドゥンッ
だーーきしめたーーーー(ビィユリーン) こーころのコスーモォーー
(ペガサス聖衣装着!星矢の両足キィ!腰キュウ!左腕キュイン!右腕クキュ!胸チイュン!左肩キュン!右肩キュゥ!頭部チュイ!*順注意!!)
熱くぅ 燃やせぇ 奇跡ぃーーーをーー起こせぇーーっ!!
(バゴオォオン!)
きーずついたーーーー(ドゥッタンドゥドゥタン) まーまじゃいないーとーー ドゥッタンドゥドゥタン)
誓いーーーああーーった はーるーかーなー銀河ーーーー(謎のサイレン音 プアァーーーーーーー)
(トートタラテレレレ)
ペーガサスファンタジー!(キシュイイ)そーさゆーめーだーけはーーーーー(ブガアアシ)
だれもーーーう−ば えーーーない こーころの 翼だーーーかーーーーらーーーー!
(ダカダカダカダカドゥン)
センシーヤッ!(ZUBAAA)!しょおーーねーーんはーーーみーーんなーーーー
センシーヤッ!(テュイーーーーー)あしーーたーーの勇者ーーーー オウヘーーーイ
センシーヤッ!(チュプシーー)ぺガァサァースゥのよぉーーーにーーー(ズガゴオオオオオ)
センシーヤッ!(デュ プアーーーーーーー)今こそっ!(プアーーーーー)
はーーばーーたーーけーーー!
(ダー ダラララー ダラララー  プアーーーーー ジャッジャッ ジャッーーーーー)

156(≡ω≡.)神奈川:2008/08/06(水) 01:17:47 ID:spXA2Twg
ちょっと遅れたけど前スレ160の続きです。


みさお「柊、ごめんな。事情も知らずに冷たくしちゃって。」
かがみ「別に気にしてないわよ。」
みさお「でもさ、友達なのに柊の苦しみ気づけてられないなんて…… 」
かがみ「日下部…… 」
???「やめてぇ〜〜!! ヽ(≡皿≡.)ノ」
かがみ「何!? 」
みさお「隣のクラスからだな。どうせ、ちびっ子が虐められてるんだろ? 」
かがみ「ええっ! こなたが? 」
みさお「そりゃ、同級生を脅す奴なんか虐められて当然じゃん♪ 」

男子生徒「おらおらっ! どこに隠してるんだ? 写真よ〜 」
「無いって! そんなの何処にも無いよ! (≡皿≡.)」
男子生徒「嘘つけ! どうせ俺らの盗撮写真も撮ってあるんだろ? 」
男子生徒B「おい、鞄の中には無いぜ。」
男子生徒「どこに隠してるんだ〜? ロッカーも無いし…… 」
男子生徒C「服の中じゃね? 」
「!! Σ(≡ω≡.)!」
男子生徒「ナイスひらめき! おいっ! 泉。脱げや。そのちっこい身体に隠してんだろ? 」
「なに馬鹿なこと言ってんの! そんなワケないじゃん! (≡皿≡.)」
男子生徒B「どうだか? 友達脅す最低野郎だからな。潔白晴れるまでクラスの誰も信じてくれないぜ? 」
「みんな…… (≡Д≡.;)」
女子生徒「そういえば、泉さんって何時も体育はさっさと更衣室に戻ってたよね。」
女子生徒B「もしかしてカメラ回収してたんじゃない? 」
女子生徒C「えっ! それヤバイじゃん! うちらも撮られてるの? 」
女子生徒「どっかに写真売られてたりして…… 」
女子生徒C「マジ最悪! 」
男子生徒「ったく、脱がないんじゃ脱がせるぞ! 」
「やだよ…… (≡ω≡.;)」
男子生徒B「じゃあ持ってるんだな。最低だな。」
女子生徒B「何もないなら脱ぎなさいよ! 」
「ヒック…… ヒック…… (TωT.)」
157(≡ω≡.)神奈川:2008/08/06(水) 01:18:37 ID:spXA2Twg
男子生徒「泣いたってゆるさねぇからな! このクソヲタ! 」
みwiki「いい加減にしてください! みんなで寄ってたかって泉さんを虐めて。」
「みゆきさん…… (TωT.)」
みwiki「大丈夫ですか? 泉さん。」
男子生徒C「なんだ? 高良は泉の肩持つのかよ。」
みwiki「ええ。泉さんはそんな卑劣なことをする人ではありません。きっと何かの間違いなんですよ。」
黒井「ウチもそう思うで。」
「先生…… (TωT.)」
黒井「確かに泉は馬鹿でオタクで人の気持ちの分からん奴や。でもな、盗撮なんて最低の行いするような奴や無い。」
「ありがとう。二人とも、本当にありがとう。 (≡ω≡.)」
男子生徒「ったく、何かしらけちまったな。また今度に…… なんだこれ? 」
男子生徒「ほら見ろ! 泉の奴。やっぱり盗撮してるじゃねえか! 」
「何これ…… こんなの知らないよ! (≡Д≡.;)」
つかさ「ゆきちゃん。これって…… 」
みwiki「昨日の…… 体育の時間ですね。そんな…… 」
女子生徒「ちょ! 泉! ウチらのも撮ってるんじゃないんだろうな!! 」
女子生徒B「マジ腐ってる。庇ってくれた友達まで裏切るとかあり得ない。」
女子生徒C「人じゃないね。」
「違う! こんな事してない! 誰かが私を虐めるために…… (≡ω≡.;)」
男子生徒C「言い訳してるんじゃねえよ! このゴキブリ女が! 」
「痛い! Σ(≡ω≡.)!」
男子生徒C「死ねよ! もう死ね! 」
男子生徒B「謝れよ! この口は飾りか!? 」
男子生徒「おっ、黒井先生のもあったぞ。」
黒井「嘘や…… 」
男子生徒「本当ですよ〜 でも先生、思ったよりHな下着つけてるんですね〜 」
女子生徒「もしかして勝負下着? 」
男子生徒B「いや、黒の下着は欲求不満とも…… 」
黒井「黙れ、黙れ、黙れ〜!! 」
黒井「泉! こんな最低の事やったんか。」
女子生徒C「もう犯罪よね。警察突き出しましょう。」
男子生徒B「いや、そんな事したら泉に撮られた写真ばらまかれちゃうぜ。」
女子生徒「それは嫌! 」
男子生徒「泉! お前恥ずかしくないのかよ!! 」
黒井「あ〜〜! もうやかましいっ!! 」
黒井「泉! 放課後に職員室来い。」
「先生は信じてくれないの? 私がやってないって。 (≡ω≡.;)」
黒井「…… 」
「そうだよね…… どうせ私を犯人にしたいんでしょ。 (≡ω≡.;)」
黒井「?」
「なんの取り柄もない、空気も読めない、頭も良くない、このクラスのお荷物だもんね。 (≡ω≡.;)」
「そう! 盗撮したのは私! これで良い? 満足? ヽ(≡∀≡.)ノ」
「あははは! そう、家にはあんたらの恥ずかしい写真がワンサカあるよ! ヽ(≡∀≡.)ノ」
「これも私に優しくしてくれなかった、ヲタクだってバカにした罰だよ!! (≡ε≡.)」
男子生徒「泉…… 手前ぇ!! 」
「あはは! これからは私の言う通りにしてよね。そう…… しないと…… (≡ω≡.;)」
「ひど…… いん…… グスッ! だ…… グスッ! から…… (TωT.;)」
「ウワァ〜〜ン!! (つ∀T.)」
黒井「泉…… 」
「違ヴボン、ワダシジャナイモン。 ワァ〜〜ン!! (T∀T.;)」
つかさ「……」
158(≡ω≡.)神奈川:2008/08/06(水) 01:19:16 ID:spXA2Twg


ヴ〜 ヴ〜 ヴ〜

ピッ!

「かがみん? やっと出てくれたね。 (≡ω≡.)」
「あのね。お父さん死んじゃった。 (≡ω≡.)」
「出版社に契約切られちゃったんだって、どうして今回の事分かったんだろうね? (≡ω≡.)」
「……かがみん、チクったでしょう? (≡ω≡.)」
「お父さんね、居間で風鈴みたいに揺れててさ、紫色の顔して、目玉飛び出て、おしっこもうんちも垂らしてて、部屋はすんごく臭くて…… (≡ω≡.)」
「ゆーちゃんが第一発見者だったんだけどね、ショックで白目剥いて倒れてたよ。身体弱いし、たぶん死んじゃうね。 (≡ω≡.)」
「そしてさ、私はお風呂。手首切って死ぬところ。 (≡ω≡.)」
「どう? かがみん。私達家族をみんな殺したんだよ? かがみんの嘘で。 (≡ω≡.)」
「私達が何したのさ。普通に楽しく暮らしてただけじゃん。そりゃ少し変だったかもしれないけどさ。 (≡ω≡.;)」
「酷いよ…… ちょっと人と違うからってさ…… (≡ω≡.;)」
「だからさ。私の死に際を聞かせちゃうよ。一生苦しみなよ。あはは、ザマミロ。アハハハ…… (≡∀≡.)」
159(≡ω≡.)神奈川:2008/08/06(水) 01:24:50 ID:spXA2Twg

つかさ「だから、こなちゃんはバカなんだよ。」

「つかさ!? Σ(≡ω≡.)!」
つかさ「お姉ちゃんの携帯だからって本人が出るわけじゃないじゃん。 」
つかさ「残念だね。命をかけた最後の嫌がらせも不発なんて。」
つかさ「こなちゃんの人生って何だったんだろうね? うん。」

つかさ「無 意 味」

「つか…… さ…… (≡ω≡.;)」

ピッ!

つかさ「生まれながらの負け組なんだから、分相応の生き方すれば良いのに…… 」
かがみ「つかさ〜 私出たからお風呂入っちゃいな〜 」
つかさ「は〜い。」
つかさ「(ただ分からないのは、ゆきちゃんと黒井先生の写真。あれはまぎれも無くこなちゃんの物だったんだよね。)」
つかさ「(こなちゃん。あれで何しようとしてたんだろ…… )」

(終)
160ヤク中大分:2008/08/06(水) 08:45:15 ID:DNV8z/Ab
パソコンのデータが綺麗にぶっ飛びました…
なるべく早く復帰したいです…
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 09:22:05 ID:Hr3tSqgu
「ふふふ。みんな私の呪いにかかったようだネ(≡ω≡. )」
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 11:10:27 ID:GA6KUjUl
>>159
GJ、やっぱり神奈川氏のこなたはウザくて良いな
163名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 14:58:11 ID:E66TKkl6
>>160
うつすた大分がんばれ
164ヤク中大分:2008/08/06(水) 15:10:00 ID:t7ewKFsI
モビルスーツ耐重力性が落ちてきましたた…
一回の旋回で12Gはかかります…
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 16:57:42 ID:Hr3tSqgu
どうせならカッコよく自殺したいもの

ttp://uproda11.2ch-library.com/src/11108187.jpg
166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 17:00:53 ID:t4MmSAa7
やってることは全然かっこよくないです、ハイ
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 18:45:06 ID:g82gfOdC
かがみ「こなたのカッコいい自殺見てみたい!」
つかさ「ハイハイハイハイ!見てみたい!」
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 19:22:28 ID:4QG26j2i
さて、続き投下します。
>>123-128の続きです。
169if star:2008/08/06(水) 19:23:12 ID:4QG26j2i


*

 こなたが部屋を出て行った後で、デンはファイルを取り出してきて、
また『願い』を眺め始めた。
「少し、偉そうな事言っちゃったかな」
学校に行ったほうがいい、などと言えるような資格が自分にあるのだろうか。
デンは考えた。自分だって学校に行っていないのに、と。
 だが、この部屋に訪れたりせずに学校に行った方がいいというのは、
本音だった。それがこなたの為であると信じていた。
「間違った事は言ってないよね。私に言う資格がないってだけで」
独り言が口から漏れる。だがデンは、独り言を言っているつもりなどなかった。
絵の中の人物に、語りかけているのだ。
 返答などない事は分かっているが、それでも語りかけずにはいられなかった。
「こなたさんは、まだ間に合うよね?
私間違ってないよね?どう思います?
───泉かなたさん」
 実はデンは初めから分かっていた。偶然あの絵を美術館で見つけたときから、
かなたをモデルにして描かれたものであるという事が。
こなたの家で見た、写真に写されていたかなたとそっくりだった。
また、絵に込められた意味も、何となくだが分かっていた。
 描かれたかなたの病弱な身体から、死期が近いことが伺えた。
彼女が最後に願うものは一つしかなかっただろう。
そうじろうと、こなたの幸せだ。
だからこそ、デンは絵画『願い』に惹かれた。
デンもまた、こなたの幸せを願っていたのだから。
奇抜な発言が目立ったデンと仲良くしてくれた者など、こなたしか居なかった。
だからこそ、あの絵の写真と共に、こなたの幸せをこの部屋で祈り続けてきた。
 そして月日は流れ、デンはこなたと再会を果たした。
頼りなく街を彷徨うこなたを見つけたのだ。
こなたが置かれた状況を聞いたデンは、居ても立ってもいられなくなった。
そこでデンは、こなたに絵画『願い』を見せた。
 かなたのご加護がありますようにとの、祈りを込めて。
170if star:2008/08/06(水) 19:23:58 ID:4QG26j2i


*

 こなたは自室の中で、溜息をついた。
絵画『願い』の現物を見てきたが、写真で見るよりもより一層幻想的な
雰囲気が醸し出されていた。写真では感じることのできなかった厳かさ、
それがあの絵画にはあった。
それでも憎悪の炎は消えることはなかったが。
いや、本物を見たことで、より一層その炎は勢いを増した。
 だが、その美術館の展示品は、切り裂けるような展示方法はされていなかった。
鑑賞者から一定距離をとらせるように、ロープが美術品の前には張り巡らされていた。
そして中には、ガラスの中に入れられたものすらある。
絵画『願い』もまた、ガラスの中に納められていた。
加えて警備員も巡回しており、ブラフか本物かは分からないがご丁寧に
防犯カメラまで設置されていた。
防犯シールが貼られたガラスを破って、警備員に捕まる前に絵を切り裂くのは
不可能に近い。
 正直な話、こなたは幸手市の美術館を舐めていたのだ。
貴重な絵画があるわけでなないから、どうせ警備体制も大した事はないと
タカをくくっていた。
 窃盗のプロならともかく、一介の高校生では到底突破できない警備体制を前にして
絶望していた。
 予め隠れておき夜間に実行する、という方法でも、見つかるリスクがある。
「駄目…なのかな」
思わず独り言が漏れる。どうしても、破る方法も盗む方法も思いつかない。
 こなたはもう一度大きく溜息をつくと、ベッドに寝転んだ。
天井を見上げながら、リラックスするように大の字に身体を伸ばした。
身体も心も疲れきっているのが分かった。
 思い返せば、今日は色々な事がありすぎた。
美術館で『願い』の実物を見た事、デンから諭された事、
みゆきとその友達にクラス内で孤立している事を看破された事、
また早退した事、そして仲良く語らっていたかがみ達の会話…
それらの記憶を何度も脳内でリピートする。
 と、その時。こなたの頭の中で何かが閃いた。
171if star:2008/08/06(水) 19:25:48 ID:4QG26j2i
(そうだ…あの時…)
脳の回路に電流が走り、頭の中で火花が散る。
あっさりと、絵画を切り裂く方法が提示されたのだ。
「そうだ、その方法があったんだ」
こなたは思わず飛び起きていた。盲点だった。
そしてその方法は、今置かれている状況を活用すればこそ、
簡単に行使できる方法だった。
 こなたは勝利を確信して、静かに笑った。
声すら出さずに、笑っていた。

*

 こなたは部屋を出ると、ゆっくりと階段を下りていった。
あまり元気そうに振舞うわけにもいかない。
「お父さん、話があるんだけど」
居間に居たそうじろうに声をかける。
ゆたかと二人で、ぼんやりとテレビを見ていたが、
こなたの声を聞くとテレビの音量を小さくした。
「ん、そうか。俺でよければ、何でも聞くぞ」
そうじろうは頼もしげに笑うと、姿勢を正した。
 こなたはゆたかに視線を向けようとしたが、ゆかたが気を利かせる方が早かった。
「あ、私宿題片付けてきますね」
そそくさと立ち上がると、階段を駆け上がっていった。
 二階からドアを閉める音が聞こえてくるのを確認してから、
こなたはそうじろうに向き直り、言葉を発する。
「お父さん、ごめんね。今日も早退しちゃったよ」
「そうか。まぁ、明日行けばいいさ」
既に学校から連絡が来ていたのか、そうじろうは特段驚きもせずに答えていた。
「自信、ないな」
「おいおい…。そうだ、明日お守りか何か買ってこようか?」
神仏に縋るのも藁に縋るのも一緒だ。
こなたはそうじろうの短絡的な解決策を鼻で笑ってやりたくなったが、
辛抱して話を続ける。
172if star:2008/08/06(水) 19:26:19 ID:4QG26j2i
「いや、お守りじゃ頑張れないや。でもね、お母さんのあの絵…
あれが手許にあれば、頑張れる気がするよ。
1人じゃない、その事を実感できるから」
無論、口からでまかせを言っているに過ぎない。
絵を切り裂く、その為だけの虚言だった。
 脳内で、もう一度今日の出来事が蘇る。
絵を切り裂く方法を思いくきっかけとなった、出来事の記憶が。

『日下部前に貸したゲームさ、そろそろ返してー。
他にやりたいって人がいるから』
『あいよー。明日持って来るわー』

そう、貸したのなら、期限が定められていない限り、貸主の請求に応じて
返却しなければならない。
元々、美術館内で事に及ぶ必要性も、また絵を盗み出す必要性もなかったのだ。
正当な方法で、手に入れてやればいい。
異常な目的があったとしても、手段まで異常である必要はない。
絵を切り裂いて自殺、という不穏当な結末を思い描いていたこなたにとっては、
思いもよらなかった方法だった。
闇を目指す者が、日陰を歩くとは限らない。
闇を目指す者も、日向を正々堂々と胸を張って歩けばいい。
 そうじろうは逡巡する素振りすら見せなかった。
「『願い』の事か。そうか。分かった。明日にでも、返してもらえるよう相談してみるよ。
しかし…」
そうじろうは言葉を切ると、憂いを込めた表情で呟いた。
「そうだよな。俺では、母親の代わりにはなれないよな」
こなたが母性をあの絵に求めている、とそうじろうは誤解している様子だった。
尤も、それで構わない。絵が手に入れられればいいのだ。
「代わりなんて、要らないよ」
「そうか」
少し慰められたように、そうじろうは呟いた。
こなたも心の中で呟いた。
(本人も要らないけど)
173if star:2008/08/06(水) 19:26:52 ID:4QG26j2i


*

 シャワーを浴び終えても、つかさの頭はすっきりとしなかった。
まだ、今日学校で見たこなたの絶望に憑かれた顔が、
頭の中にこびり付いている。
 あの時、こなたと目が合った時に声をかけようと思った。
声をかけないと取り返しのつかない事になる、
そうつかさの勘が告げていたから。
だが、声をかけようと思い、口を開きかけたその時には、
こなたは踵を返して立ち去ってしまった。
 こなたがクラス内で孤立しているであろう事は、つかさにも察しがついていた。
何度かクラスを覗きに行った事があったが、こなたはいつも机に突っ伏しているか、
携帯電話を操作していた。そしてその行動は、
つかさ自身が教室内でよくやっている事だった。
つかさもまた、クラス内で孤立していた。
 何度もこなたに声をかけようと思ったが、出来なかった。
お互いに、傷を舐めあう事はできるだろうが、それをやってしまうと
こなたのクラスに入り浸る事になりかねない。
もう自分のクラスに復帰することは不可能になりそうだった。
それが恐ろしかった。依存してしまう事が、怖かった。
 それでもつかさは、それほど辛いと感じる事はなかった。
かがみが時々、つかさのクラスに遊びに来てくれていたので、
強烈な孤独を感じた事はない。疎外感はいつも感じていたが。
今日に至っては、いつも独りで昼食を摂っていたつかさを見かねたのか、
かがみのクラスの昼食に誘ってまでくれた。
 だが、こなたはどうなのだろう。つかさにとってのかがみのように、
こなたの孤独を埋めてくれる存在が居るのだろうか。
その事を考えると、つかさの胸に痛みが走った。
「つかさ、どうしたの?深刻な顔して」
「お母さん…」
洗面室にはいつの間にか、みきがやってきていた。
「何かあったの?」
労わるような暖かい声が、つかさの心に滲みた。
「んーん。大丈夫だよ。私は」
(うん、私は大丈夫。お姉ちゃんが居るから。でもこなちゃんは…)
つかさの双眸から、涙が滴り落ちた。
親友の心中を察すると、悲しくて仕方がなかった。
「泣かないで」
みきは何も聞かず、つかさの身体を優しく抱きしめた。
つかさは母の温もりを感じながらも、瞳から流れ落ちる涙は止まらなかった。
いや、より一層強さを増していた。
(それに、私にはお母さんが居る。でもこなちゃんは…
この温もりさえ、知らないんだ。この温もりに届かないんだ)
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 19:28:04 ID:4QG26j2i
>>169-173
ここまでです。多分、明日で完結。
規制にかからないよう、今から祈っときますw では。
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 20:25:38 ID:GA6KUjUl
GJ!
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 21:17:19 ID:cqd7M0V9
みなさん、こんばんは。
何とか完成の形までこぎつけたので、今夜完結させます。
177虚像と実像39:2008/08/06(水) 21:19:00 ID:cqd7M0V9
 あれから時が止まっている。
かがみはそう思いたかった。
時間の流れは何をしていても厭でも感じる概念だ。
いつもつけている腕時計ははずした。
無くても困らない。
時間に対するかがみの小さな抵抗だった。
空を見上げる。
雲が流れる。
それを見ているだけで、やはり時間はいつもと同じように同じ早さで流れているのだと思い知らされる。
こなたの葬儀に参列したあの日から4日。
心にポッカリと空いた穴はまだ埋まっていない。
本当は生きていて、涙目になる自分に、
『かがみんが泣いてる〜、ついにデレの部分が出てきたね』
とか言ってしたり顔で迫って来るんじゃないか。
自分は顔を真っ赤にして視線をそらし、
『誰がツンデレだ!』
と言い返して殴る真似をする。
そういう想像をしてみたことがある。
虚しかった。
するだけ無駄な想像だと、いつも後になって分かるから。
(………………)
横を歩くつかさの顔はすっかり変わってしまった。
こなた曰く天然で、おっとりしていて――。
自分とは正反対のたれ目は誰にも好かれる、まさしく妹みたいな女の子だった。
それが今はまるで違う。
常に敵を探すような鋭い目で周囲を見る。
あの丸っこい顔も輪郭がハッキリし、やはり敵愾心に満ちた表情を浮かべている。
そうかと思えば、時おり小学生のように元来の甘えた顔にもなる。
葬儀の後、つかさは隠していたことを全て話した。
みゆきに何を言われ、どう受け止め、その結果こなたを避けていたという事実だ。
今頃言っても遅い、とかがみは一度だけ怒鳴った。
が、振り上げた拳は結局、反省という形で自分に返ってきた。
つかさがこなたを避けていたのにはちゃんとした理由があった。
保守的な思考もあったが、紛れもなくこなたを守りたいという想いからだ。
それに、とかがみは思い起こす。
冷静に考えれば、みゆきが言っていることもあながち間違いではないように思える。
あの時は頭に血が昇っていたから感情的に反論してしまった。
冷たい女だと罵りもした。
しかしあれはあれで、受け止め方によってはこなたのためになったのではないか。
責められるならむしろ自分だ。
現実にもうこなたはいない。
10年近くを苦痛とともに過ごし、陵桜では新たな一歩を踏み出そうとしていた。
こなたは友だちができたことを喜んでいた、とななこは振り返っていた。
彼女が喜んでいたのは事実だろう。
しかし――。
(あんたはたとえ友だちができなくてもいいから、無難に過ごせればそれでよかったんじゃないのか?)
かがみは思った。
こう考えることが逃げであることは分かっている。
どんなに気遣っても、結局こなたを助けることはできなかったのだ。
生まれ変わろうとした彼女に、楽しいが短すぎる夢を見させたのは誰あろう自分たちだ。
こんな結末になるなら、最初からこなたに友だちなどいなかったほうがよかったのではないか?
後悔しても遅いが、自分はとんでもなく残酷な仕打ちをこなたに与えてしまった。
そう思えてならない。
178虚像と実像40:2008/08/06(水) 21:20:25 ID:cqd7M0V9
「お姉ちゃん、のど渇かない?」
見られていることに気づいたのか、つかさがパッと顔をあげた。
いつも俯いている妹のちょっとした行動にかがみは驚いたが、
「ううん、別に。つかさはのど渇いてるの? どっか寄ろうか?」
驚いたことを悟られまいとつい早口に返す。
「……訊いただけ」
つかさはまた俯いた。
嘘でも合わせて喫茶店にでも入るべきだったか。
かがみは思ったが、そう切り出すタイミングをすっかり失ってしまった。





電車を降り、見飽きた街を2人並んで歩く。
今日は風がやけに冷たく感じる。
帰ったらお風呂に入ろう。
久しぶりにつかさと一緒に入るのもいいかもしれない。
女の子はお風呂が大好きだから。
人を近付けない雰囲気になったつかさも、温かいお湯に浸かれば本音を晒してくれる。
そんな気がした。
「ただいま」
「ただいま……」
せめて家では明るく。
努めてかがみは笑顔でそう言った。
「お帰り。あのさ、あんたたちに手紙が来てたわよ」
まつりが迎えてくれた。
表情が暗い。
「え? 誰から――」
つかさが言いかけたところで、まつりは踵を返して居間に戻る。
2人が靴を脱ぎ終えたのとほぼ同時に戻ってきた。
「これ…………」
手にした2枚の封筒を見せる。
ファンシーショップで売っているような赤い水玉の絵が描かれている。
表書きにはそれぞれ、かがみとつかさの名前がある。
手が震えているまつりからそれを受け取り、裏を返したかがみは声をあげそうになった。
「お姉ちゃん、これ……!?」
つかさも自分宛の封筒を見たらしい。
背筋を冷たいものが流れた。
「かがみ」
封を開けようとしたかがみを、まつりが神妙な面持ちで制する。
「……そういうのは……自分の部屋で開けたほうがいい」
まつりに言われ、もっともだと彼女は思った。
「じゃあ――」
奇妙な笑みを浮かべて2人はまつりの脇をすり抜けて部屋へ向かう。
残されたまつりは義務を果たした、という開放感にひとまずの安堵を得た。
179虚像と実像41:2008/08/06(水) 21:21:36 ID:cqd7M0V9

「なんで……ねえ、お姉ちゃん……!」
怖くなったのか、つかさは自分の部屋に入らずに直接かがみのところに来た。
「分からないわよ! こんな……」
鞄を投げ捨てるように置き、かがみは手にした封筒をまじまじと見つめた。
差出人はこなただった。
封筒の裏に手書きで、『泉 こなた』と記されてある。
イタズラだとしたらこれほどタチの悪いものはない。
(あっ…………!)
裏返したかがみは気づいた。
封筒には切手が貼られておらず、そのために当然消印もない。
何が何だか分からない。
手が震える。
開けない方がいいんじゃないか、と頭では考える。
だが、かがみは魅入られたように封を――。
丁寧に丁寧に開けた。
180虚像と実像42:2008/08/06(水) 21:22:28 ID:cqd7M0V9




   かがみへ



ごめんね。
手紙の最初がごめん、なんておかしいけどとにかくごめん。
なんであんな事したんだって怒ってるよね、きっと。
しちゃいけないって分かってたよ。
皆いてくれたから、私だけ勝手なことしちゃいけないって自覚はあったんだよ?
でももう耐えられなかったんだ。
あ、でもそういう意味じゃないよ。
私のせいでみんなバラバラになったことが耐えられなかったんだ。
誰が悪いわけじゃないんだもん。
私がいなかったら良かったんだよね。
そしたらかがみとつかさとみゆきさんで楽しく過ごせたのに。
本当にごめんね。
最後の最後まで足引っ張るような真似しちゃって。
これは少し前から気になってたんだけど。
かがみとつかさは双子なんだからもっと仲良くしないと駄目だよ?
学校でもほとんど喋ってなかったよね。
私に気なんか遣わなくてもよかったんだよ?
一番最初にいじめられてるって打ち明けたのはかがみだったよね。
あの時、私なんかのために泣いてくれて本当に嬉しかったよ。
ありがとう。
でもね、今だから言うけどあの時、私はかがみに甘えてたんだ。
同情して欲しいっていうわけじゃないけど、何とかしてくれるかもしれないって。
結局、自分では何もしようとしなかったんだよね。
だからこんな風になったんだって反省してる。
本当にごめんね、かがみ。

それともうひとつ。
みゆきさんのこと、責めないでほしいんだ。
私のためを想って言い返してくれたのは嬉しかったよ。
でもみゆきさんの言うことも正しいと思うんだ。
ううん、きっとみゆきさんのほうが正しいと思う。
私頭悪いから、みゆきさんに言われるまで気付かなかったよ。
そうだよね。
私なんかのためにみんな迷惑してたのに。
本人だけが知らなかったなんて笑えないよ。
こんなだからいじめられても仕方ないよね。
だからさ、難しいかもしれないけどみゆきさんと仲直りしてほしいんだ。
勝手なお願いだと思うけど、私のせいでバラバラになったままなんて嫌だからね。

最後になって悪いけど、かがみにはいっぱい助けられたよ。
ツンデレだなんて言ってからかったりしてごめんね。
でもかがみといる時が一番楽しかった。本当だよ。
友だちって思ってもいいよね?
かがみ大好きだよ。
ありがとう。




181虚像と実像43:2008/08/06(水) 21:23:20 ID:cqd7M0V9
「こなたぁ…………ッ!!」
間違いなくこなたの字だった。
乱雑で止めも撥ねも適当で、書き順さえもバラバラの不均衡な字。
涙が滂沱として流れる。
「なに言ってんのよ……私たち……ずっと友だち……だったじゃない……!!」
かがみは泣きながら何度も何度も読み返した。
手紙の中でさえこなたは卑屈だった。
もっとできたことがあったハズだ。
みゆきを引っ叩いてでも止めればよかった。
つかさを説得して、こなたの傍についてあげればよかった。
それができなくても……。
あの日、電話に出たそうじろうの言葉を真に受けるんじゃなかった。
電話ではなく、直接行って確かめればよかったんだ。
後悔だけが残った。
もしあんな過去がなかったら――。
彼女は一体どんな女の子だったのだろう。
「こなたのバカ……友だちならなんでこんな事するのよ……っ!!」
かがみは手紙を握り締めた。
薄水色の便箋から、クセのある文字から。
こなたの悲痛な叫びが伝わってくるようだった。
そのさなかに得た小さな幸せ。
「…………」
楽しいが短すぎる夢はもう終わったのだ。
182虚像と実像44:2008/08/06(水) 21:24:13 ID:cqd7M0V9



   つかさへ



泣いてるかな?
もしそうだったらごめんね。
そういえばつかさとは最初に知り合ったんだよね。
キッカケは何だったかな?
ああ、そうだ。外国の男の人にからまれてたんだったね。
ついつい蹴り飛ばしちゃったけど、あれってやっぱり道を尋ねてただけだったんだよね。
悪いことしちゃったな。
小さい頃格闘技習ってたって言ったけど、あれウソなんだ。
そういうゲームしてた時期があったからはずみで言っただけ。
ウソついてごめんなさい。
私、つかさと知り合えて良かったと思ってる。
本当だよ。
だってそのおかげでかがみやみゆきさんとも話せるようになったんだから。
私ひとりじゃ何もできなかったと思う。
本当に感謝してるよ。
今までありがとう。
直接言いたかったけど、こんな手紙に託すみたいでごめんね。
もっともっとたくさんお話したかったよ。
旅行にも行きたかったな。温泉とかね。
でもそれもできなくなっちゃった。

つかさにお願いがあるんだ。
難しいことじゃないよ。
かがみと仲直りしてほしいだけ。
最近、全然かがみと喋ってないでしょ?
ずっと気になってたんだ。
もう私のことで気を遣わなくていいから、かがみと前みたいに仲良くしてね。
それからみゆきさんとも。
見ててつらかった。
ギクシャクした関係なんて続けてほしくないよ。
みんな仲良くしてほしい。
もう迷惑かけないから。
お願いだよ。


183虚像と実像45:2008/08/06(水) 21:24:53 ID:cqd7M0V9
 読み終えても涙は出ない。
悲しいという線はもうとっくに越えてしまった。
あるのは虚脱感だけ。
こなたからの最後のメッセージ。
「うぅ……こなちゃ……ん……」
手紙を持つ手が震える。
もっと早く。
もう少し早く手を打てばこんなことにはならなかったのに。

”明日は学校行くよ”

あのメールが蘇る。
こなたはどんな想いで返信したのだろう。
(ごめん……ごめんね……こなちゃん!! ごめんなさい…………ッ!!)
あの時、彼女の家に行っていれば止められたかもしれない。
行って抱きしめてあげればよかった。
みゆきの言葉なんてはねのけて、こなたの傍についていてあげればよかった。
自分たちの安全ばかり気にした結果がこれだ。
卑怯者だ。これじゃいじめと何も変わらないじゃないか。
つかさは何度も――
何度も何度も懺悔した。
許してほしいなんて思わない。
泣いても謝ってもこなたはもう戻ってこないのだ。
184虚像と実像46:2008/08/06(水) 21:25:53 ID:cqd7M0V9

 風が暖かい。
一日を終え、帰路につくみゆきは不意に空を見上げた。
青い空が視界いっぱいに広がっている。
面白いのは同じ青でも、部分部分に薄かったり濃かったりする点だ。
子供に真っ白な紙を渡して、空の色を塗らせればおそらく一色で染めてしまうだろう。
自転車に乗った中学生が追い越していく。
みゆきははためいたスカートを押さえた。
家はもうすぐそこだ。
何度目かの角を折れ曲がる。
(今日は誰もいないのですね)
広くとられた私道を歩きながら思う。
たいていは噂好きの連中が道の真ん中にあつまって歓談しているのに。
今日は話題になるようなものはないのかもしれない。
頑丈な門を開けて敷地内へ。
「…………?」
ふと足を止める。
洒落た郵便受けに白い封筒が覗いている。
ためらいがちにそれを手にした。
自分宛の手紙だ。
(…………ッ!?)
差出人を見て、思わず顔がこわばる。
見なかったことにして郵便受けに戻そうかと逡巡。
しかし宛てられた手紙を見ずに捨て置くのは失礼だ。
若干の恐怖があったが、みゆきはそれをポケットにしまった。
「お帰りなさい。今日は早かったわねえ」
みゆきよりもさらに間延びした声でゆかりが迎える。
「今日は委員会の仕事がなかったので――」
にこりと笑う。
実際、仕事を割り振られると軽く1時間は費やしてしまう。
段取りよくこなす彼女も、量の多さにはかなわない。
「着替えてきますね」
ポケット越しに封筒の感触を確かめながら自室へ向かう。
「はぁ…………」
後ろ手に閉めたドアにもたれ、みゆきは小さく息を吐いた。
このところ、妙に気だるい感じがする。
睡眠もよくとれているし、学校でも家でも無理な姿勢をとったりはしない。
なのになぜか疲れがとれない。
「…………」
鞄を部屋の隅に置く。
そのまま勉強するかのように机に向かい、年季の入った木製の椅子に腰をおろす。
ゆっくりと封筒を取り出す。
何もおかしなところはない、ごく普通の封筒だ。
間違いなく自分に宛てて、間違いなくこなたが差し出した手紙だ。
表書きを見て、差出人を見て、もう一度裏を返したところで気がついた。
切手も消印もない。
誰かが直接投函したことになる。
「……死者からの便り、といったところでしょうか……」
寒気を感じながらも、みゆきは丁寧に開封していく。
185虚像と実像47:2008/08/06(水) 21:26:57 ID:cqd7M0V9




   みゆきさんへ



あ〜よかった。
読んでくれなかったらどうしようかと思ったよ。
正直、何を言えばいいのか分からないよ。
ごめんなさいって言いたいし、ありがとうも言いたいんだ。
私、みゆきさんにいっぱい迷惑かけたよね。
謝って許されることじゃないけど。
ごめんなさい。
もしかして最初から嫌だったのかな?
そんなこと考えたくないけど、でもそれって私のワガママなんだよね。
みゆきさんに言われてやっと分かったんだ。
私って自分が知らないだけで、みんなに迷惑かけてたんだなって。
笑ってくれるからそれに甘えてたんだよね。
みんなの気持ちなんて考えたこともなかった。
気を遣って無理に私に合わせてくれてるなんて思わなかったんだ。
だから、ずっとみゆきさんにつらい想いさせてたんだね。
本当にごめんなさい。
みゆきさん優しいから、だから笑って合わせてくれたんだよね。
私、恥ずかしいよ。
恥ずかしいし情けない。
なんだか同じことばっかり書いてる気がするけど。
でもこれが私の本音だから。
それから、ありがとうって言いたかったんだ。
こんな私とも付き合ってくれて、本当に嬉しかったよ。
私がもっとちゃんとしてたら、みゆきさんともずっと友だちでいられたかな?
って今さら言っても仕方ないことだよね。
またみゆきさんに怒られちゃうね。

お願いがあるんだ。
かがみやつかさと仲直りしてほしいんだ。
私にそんなこと言う資格なんてないって分かってるよ。
みゆきさんは多分怒るだろうけど、仲直りしてほしい。
だって私のせいでみんながバラバラになるのってつらいもん。
もう誰も私に気を遣わなくていいから。
だからもうケンカしないで。
かがみは私をかばってくれただけだから。
みゆきさんと仲違いしようなんて思ってないよ、きっと。
つかさも同じだと思うから。
最後の最後まで鬱陶しいこと言ってごめんなさい。
読んでくれてありがとう。



186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 21:51:04 ID:GA6KUjUl
連投規制?続き待ってるぜ
187虚像と実像48:2008/08/06(水) 22:00:54 ID:cqd7M0V9
 読み終えてから数秒。
宙を浮くような読後感にみゆきはしばらく酔った。
文字も文体もまぎれもなくこなたのそれだ。
小学生が書いたのかと思わせるほど、まとまりのない記号の羅列。
誤字脱字が見つからないのは、下書きを何度も重ねたからかもしれない。
「………………」
背もたれに体をあずけ、中空を見るとはなしに見る。
倦怠感が脱力感に変わった。
間の抜けた字体と差し迫った内容とのアンバランスが、読み手を奇妙な感覚に誘うようだ。
(私の手で直接開封できてよかったですよ。母にでも見られていたら面倒になっていたかもしれませんものね)
取り戻しつつある意識の中、まず思ったのがそれだった。
「泉さん……」
便箋に向かって呟く。
(あなたは私が最も嫌いなタイプの人間です。それにしても――あなたらしいですね。
こんな方法で私にメッセージを遺されるなんて…………感動的ですよ)
嘲るように口元に笑みを浮かべる。
(最後までこんな言葉を遺すあなたには……私がいじめられていたことなど想像もつかないでしょうね……)
笑みはさらに深く、さらに厭らしく歪む。
(私もそうだったのですよ? ええ、あなたと同じように陵桜に入るまでずっといじめられていました。
理由なんてありません。ただ、たまたま私が彼らの目に留まった……それだけのことです)
汚いものを蔑(なみ)するように便箋を俯瞰する。
光の宿っていない瞳は視界の中央にそれをおぼろげに捉えている。
(苦しいという言葉では表しきれない想いをしました。ですが私は耐えました。
いつか、いつか必ず報いる日が来ると信じていましたから。あなたもそれは同じだったのではないですか?
だからこそ必死に勉強して陵桜に入ったのではありませんか?)
開けていない窓から一陣の風が舞い込んだ気がした。
188虚像と実像49:2008/08/06(水) 22:02:20 ID:cqd7M0V9
(いじめをする人の心は病んでいます。明確な病名は認定されていませんが、間違いなく病です。
私は医学の道に進もうと決めました。心理学とも併せれば、いじめをする人の心の病を取り除ける。
そう信じていましたから。いじめる人がいなければいじめられる人がいなくなるのは当然のことです。
私にはそうしたいという強い想いがありましたが、あなたは……泉さん、あなたはどうでしたか?)
おもむろに立ち上がる。
「あなたはゲームやアニメに奔(はし)った……あなたは逃げたのですよ。
自分の境遇を嘆くばかりで、何も変えようとしなかった。これが事実なのです、泉さん」
思っていたことがいつの間にか口をついて出てきていた。
「似たような立場にいた私がなぜ手酷いことを、とお思いだったでしょうね。
過去の傷を盾に愚劣な趣味を押しつけるのが我慢ならなかったのですよ。分かりますか?
私に近い境遇だったからこそ、ああいう手段で周りを巻き込むあなたが不愉快だったんです。
あなたはずっと逃げていた……そうは思いませんか?」
問うても答える者はもういない。
「私は自分の過去をかがみさんやつかささんには打ち明けませんし、今後も誰にも言うつもりはありません。
世の中の全ての人がかがみさんのような優しい方とは限りませんから…………」
手にした便箋を丁寧に折りたたみ、開けっぱなしの封筒の上に置く。
ゆらりと体の向きを変え、装飾用に置いてあった小さなトレイを手に取る。
「あなたのように身の不幸を嘆いてそれに溺れるような真似はしません。
私は苦痛を糧にします。苦痛を糧に私は私を高みに押し上げてみせます」
机上に置いたトレイに折りたたんだ便箋と封筒を乗せる。
今度こそ本当のお別れだ。
「泉さん…………」
この名を呼ぶのもこれが最後になるかもしれないと。
感慨に耽りながら。
みゆきは――。
封筒に火をつけた。
パチパチと弾ける音がする度、真っ白だった封筒が黒く染まっていく。
橙色の手が緩やかに伸び、便箋にもほのかな火を灯す。
「自ら命を絶つ勇気があるのなら……どうして立ち向かわなかったのですか?
抗うことは……死ぬよりもずっと簡単なことなのですよ……泉さん…………」


 ゆらゆらと。
懸命に踊る火を眺めるみゆきの頬には濡れた跡があった。





 終
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 22:04:13 ID:cqd7M0V9
すみません。
大丈夫ではないかと思いながらあとちょっとのところで規制に。
ともあれ何とか完結させることができました。
お読みくださりありがとうございました。
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 23:19:15 ID:niUz7Zpw
>>189
乙。読み終えて暫く余韻に浸ったよ。
凄く考えさせられるし全てにおいて
素晴らしかった。
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/06(水) 23:35:19 ID:/aEcRLsR
これは……最後の場面を見る限り仲直りは……orz
このSSのみゆきさんは取り繕う様な感じじゃないしな……

それにしても手紙の差出人は結局謎のままだったか。
普通に考えれば泉家の誰か……なのだろうけど……
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 00:03:39 ID:jEJOmkSO
良いなぁ
でもいつかみゆきも罪に気付いて欲しい

素晴らしいSSありがとうございました
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 00:08:14 ID:c2w0/MTY
>>160
中尉、ガンガンと来て今度は大分のパソが逝ったか…
次は神奈川か?
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 00:24:51 ID:8UqI3r3V
神奈川容赦なさすぎワロタw
ここまでこなた嫌いなら、PCクラッシュの呪いも弾けるな、うん。
>>189
乙。そしてgj。
みゆきの過去は読めなかったわ。
みゆきの描写が今回すげぇ。
強がり言いつつも、泣いちゃう辺りにツンデレの素質を感じ取った。
感情殺してまで自分の考え貫いている辺り、かがみとの仲直りは絶望的っぽいな。

ところで、最初はどういうラストにする予定だったん?
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 01:26:09 ID:kkflxQWJ
>>50
勝手にまとめサイトにリンク作っといたけど、良かったかな
>>189
マジでGJ! 久々にものすごく読み応えがあったわ
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 01:31:12 ID:kkflxQWJ
あげちまった
すまんこ
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 02:43:32 ID:b9e15thj
乙でした
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 11:53:25 ID:1PMW55gh
アメリカ留学中ホームステイ先の白人家庭にて、4歳男児と6歳女児の姉弟を、
2007年12月18日から2008年1月28日まで、1ヶ月間のうち少なく
ても20回以上性的暴行した疑いで逮捕。

幼児レイプ犯・朴ハンス(19)〔Hanse Park〕
現地ニュースと顔写真
ttp://www.wcax.com/global/story.asp?s=7817086  写真つき
ttp://WCAX.images.worldnow.com/images/7817086_BG1.jpg
Exchange student charged with molesting children
ttp://www.boston.com/news/local/vermont/articles/2008/02/04/exchange_student_charged_with_molesting_children/
MSJ student facing felony sex charges
ttp://vermonttoday.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/RH/20080202/NEWS02/802020378/0/FRONTPAGE
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 12:04:37 ID:6YDnCCdR
この黒みゆきには同情せざるを得ない
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 12:25:13 ID:FduZcvMw
虚像と実像、お読み下さりありがとうございます。
改めて御礼。

>>191
手紙の差出人は謎のままです。
みゆきの言うように本当に死者からの手紙なのかもしれません。

>>192
みゆきが罪に気づいた時には、柊姉妹と仲直りできるかも……。

>>194
当初はななこが3人を呼んで、実は自殺だった――ところで終わってました。
それだけでは物足りないので、ななこがこなたの過去を知っていたくだりを追加。
ポッと出だったななこにも悔恨させました。
その中でみゆきだけは心情面を書いていなかったので、このままでは中途半端な感じになるかなと。
そこで最後の手紙を出し、みゆきも同じ目に遭っていたという設定に変えました。
場つなぎな感じがしますが、結果的にみゆきの心理面を書かなかったのが巧く働いたかなと。

>>195
ありがとうございます。
また投下すると思いますので、お読みいただければ幸いです。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 12:30:55 ID:O587GyLm
【北海道】携帯掲示板で友人中傷 事情聴取の教諭に「死ね」と言われ 高2自殺 稚内市
1 : ◆KIHA55jUA2 @キハ55φ ★:2008/08/07(木) 12:01:43 ID:???0
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1218078103/l50
【稚内】道立稚内商工高(川崎博正校長、三百三十七人)の二年生の男子生徒(16)が七月下旬、
携帯電話サイトの掲示板に同校生徒の誹謗(ひぼう)中傷を書き込んだことから、学校側に事情を聴かれ
その日の夜に自宅で自殺を図り、今月四日に死亡していたことが六日、分かった。
生徒は自殺直前に書き残した文章に、教諭から「死ね」などと言われたと書いている。

202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 19:26:29 ID:9h9q3vXs
さて、投下しますか。
>>169-173の続きです。
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 19:27:15 ID:9h9q3vXs

*

 次の日には、そうじろうは絵画『願い』を家に持ち帰ってきていた。
手続きはそうじろう本人である事を証明すればそれで足り、
美術館閉館と同時に、絵画はそうじろうの手へと引き渡されていた。
 こなたは絵画を受け取ると、部屋に閉じこもり深夜を待った。
窓から覗いた夕陽は、空を焼きながら夜の闇に呑まれるのを待っていた。
最後となるであろう夕焼けを目に焼きつけながら、
こなたは椅子に座り好物のチョココロネを齧る。
 夕焼けから、窓の真下にある庭に目を転じた。
恐らく、あの場所でかなたをモデルに模写が行われたのだろう。
絵は青をイメージさせる昼下がりの情景だったが、今この時間のその場所は
夕陽に照らし出され赤く染まっていた。
時の経過は、情景を赤く染めただけではなく、
絵の持つ意味すらも変容させていた。
幸福を願うものから、居場所を奪うものへと。
「本当はさ、こうなる事、分かってたんじゃないの?」
こなたは皮肉めいた笑みを浮かべながら、絵の中のかなたに語りかける。
勿論、返答はない。ただただ絵の中のかなたは、穏やかな笑みを浮かべているだけだ。

 そしてついに、真夜中の時間帯がやってきた。
電気スタンドの電源を入れると、室内灯を消した。
電気スタンドの茶色い光で、室内が仄かに照らし出される。
 事に及ぶ前に、こなたは携帯電話を取り寄せると、
最後となるメールの作成に取り掛かった。
かがみ、つかさ、みゆき、そしてデン…
それらの者には、最後くらい知らせておきたかった。
生に対する未練はないが、友人達に対する未練はあったのだ。
『さようなら』
そう文字を打ち込むと、送信ボタンを押そうとした。
が、思いとどまると、本文を消して、新たに打ち直す。
そうして、今度こそ、送信した。
目を閉じて思い出に一瞬だけ浸ったが、感傷を断ち切るように携帯電話の電源を落とした。
204if star:2008/08/07(木) 19:28:07 ID:9h9q3vXs
 こなたは絵を床に置くと、手に持ったナイフでかなたの右手首を切り裂いた。
その動作に躊躇いはなかった。続いて、自らの右手首もナイフで切り裂く。
血が吹き出て、絵を赤く染めていく。
続いてこなたは、かなたの頸部を切り裂いた。
同じように、自らの頸部にもナイフで切りつける。が、上手く力が入らない上に、
頸部の筋肉は思っていたよりも硬く、上手く切れなかった。
それでも、血液がかなりの勢いをもって首から流れていくのが分かった。
 当初の予定では、絵画中のかなたの切り裂いた場所と自らの傷口をリンクさせ、
かなたの切り裂かれた部位にその血を垂らす事で、かなたも出血している、
というアートを作ることを予定していた。
私が傷ついた分、お前も傷つけ。そういった皮肉を込めるつもりだった。
 しかしながら、既にその企ては失敗に終わっている。
手首を切った時点で、思っていた以上の勢いで血が噴出し、
絵画全体に霧のように、血がかかってしまったのだから。
 けれども、せめて傷口のリンクだけは行うつもりでいた。
それだけは完遂しよう。こなたはそう決めると、引き続きかなたの胸部にナイフを突き入れる。
(これで終わりだ)
早くも朦朧とし出した意識の中、自らの心臓にもナイフを突き立てる。
一般の高校生に比べて胸部に膨らみがないにも関わらず、奥までは入っていかない。
骨で突っ掛からないよう、ナイフを横向きに寝かせてはいるが、
切っ先だけが胸部の肉に刺さっているに過ぎなかった。
ナイフで心臓を貫くのは、自力では無理なようにも思えた。
 こなたはふらつきながらも立ち上がると、胸にナイフを突き立てたまま机の上に登った。
絵画を見下ろすと、ナイフの柄を持つ両手に力を込める。
衝撃を感じても、決して離さぬようにと。
 こなたはもう一度絵画を仔細に観察する。
血飛沫で染め上げられた絵画は、先ほど見た夕焼けに照らされた庭を想起させた。
まるで絵画の中の時間も、経過してしまったような錯覚に囚われる。
いや、錯覚ではないのだろう。こなたの幸福を願ったものは、
十数年の時を経てこなたの絶望を決定付けるものへと変わったのだから。
「地獄とかありませんように」
──あっても、かなたとは別の地獄へと堕ちますように──
最後の願いを呟くと、こなたはバッタのように絵画目がけて跳躍した。
ナイフの柄が、真っ先に地面へとつくように。
205if star:2008/08/07(木) 19:28:34 ID:9h9q3vXs
 狙いは寸分たがわず、ナイフの柄はかなたの刺された胸部と接触した。
そのまま絵を突き破り、フローリングの床へと柄が激突する。
その衝撃音は、ゆたかやそうじろうの部屋にも届いたが、
二人とも目を覚まさなかった。深い眠りに就いている二人は、
明日の朝まで目を覚ますことはないだろう。
こなたは、目を覚ますことはなくなった。永い眠りに就いたこなたは、
二度と目を覚ますことはないだろう。


 あくる日の朝、目を覚ましたそうじろう達がこなたの凄惨な死体を見つけたとき、
かがみ、つかさ、みゆき、デンの4人もこなたからのメールに気付いた。
深夜に送付されていたこなたのメールの本文には、たった一言
『今までありがとう』
とだけ書かれていた。
 かがみとみゆきはそのメールを不審に思った。
 つかさはそのメールを不安に感じた。
 デンは思うよりも感じるよりも前に、こなたの携帯電話にダイヤルしていた。
 けれどもその電話は、もう繋がらない。つながらない。

*

 デンは暗い部屋でグラスに入れられた緋色の液体を見つめる。
中身はカシスソーダだが、口をつけていない。アルコールに逃れようと作ってはみたが、
飲む気にはなれなかった。より正鵠を射た表現をすれば、逃れる気になれなかった。
 電話が繋がらないのをもどかしく思い、こなたの家まで出向いていって、
先ほど帰ってきたところだ。

 家にはそうじろうの他に、小さな少女と眼鏡をかけた女性がいた。
そうじろうは力なく座り、デンに挨拶をするのがやっとという状態だった。
上手く喋る事すらできないそうじろうに変わり、眼鏡をかけた女性が説明してくれた。
その眼鏡の女性は、ゆい、と名乗った。
206if star:2008/08/07(木) 19:29:17 ID:9h9q3vXs
 結論から先に言えば、こなたは自殺した、という事だった。
朝、中々起きてこないこなたを心配したそうじろうがゆたかに部屋を覗いてもらった所、
血に染まった床の上に倒れているこなたを発見したという。
急いで救急車が呼ばれたが、到着した救急車の隊員から、
既に絶命している事を告げられたのだという。
 こなたが自殺した、その話を聞いた時には、デンは今立っている地面が
割れていくような感覚に襲われた。
「そういえば、君はこなたの友達かな?」
立っているのも辛かったが、デンは毅然とした態度で答えていた。
「はい」
少なくとも私はそう思っています、と心の中で付け加えた。
「そういえば…君は確か中学時代たまにウチに遊びに来ていた…」
そうじろうが我に返ったように、デンを見上げながら呟く。
「はい、あの時はお世話になりました」
「そうか。最近も遊んでたりしてくれてたのかな?」
「はい」
「そうか。なら、少し聞きたい事があるんだが…。
こなたの死に方が、おかしいんだよ。その事について…」
「叔父さんっ」
ゆいが悲しげに叫んだ。あの悲惨な情景は思い出したくもないと言うように。
「ごめんな、ゆいちゃん。でもどうしても、知りたいんだ。
だから、喋らせてくれ」
そうじろうに錯乱した様子は見受けられなかった。
最初に応対した時に比べ、幾分か落ち着きを取り戻したように見える。
「聞かせてください」
ふらつく足に力を込め、そうじろうの目を強く見据える。
「実はな…」
そうじろうは、詳細にこなたの死んだ状況を語りだした。
絵画『願い』の説明から話は始まり、
絵画に付けられた傷とリンクされたこなたの傷口の話などがなされていった。
「そういう訳なんだ。俺には分からないよ、こなたが自殺した理由も、
絵画を傷つけた理由も…。もし、何か心当たりがあるなら、聞かせてくれないか?」
「…すいません。お力になれず」
デンは力なく呟くと、挨拶すら忘れて泉家を後にした。

 思い出すだけでも、脱力感が身体を支配する。
「やっぱり、あの絵にはそういう意味があったんだね」
放心したように、デンは呟いた。
207if star:2008/08/07(木) 19:30:01 ID:9h9q3vXs
そうじろうの説明により、絵画『願い』はこなたの幸せを願って描かれたものだという
デンの予想は正しかった事が裏付けられた。
そしてまた、こなたもその意味をそうじろうから聞かされて知っていた、
という事も分かった。
「でも、意味無かったね」
祈りなんて、誰も聞き届けやしない。ただただ、祈る人間に束の間の気休めを与えるだけだ。
「どうやって、生きていこう…」
こなたに依存していた。こなたの幸せを願うという形で、
こなたにデンは依存してしまっていた。
そのこなたは、もういない。これから先、何十年も続く心底冷えるくらいの長い地獄の中で、
何を足場に生きていけばいいのだろう。
新たな足場なんて、見つけられそうにも無い。
デンの友達なんて、もう生涯現れないだろうから。
そのような存在に期待するよりも、まだこなたの幻想を愛していく方がマシだとすら思えた。
(再会した場所に行けば、また会えるかな…)
異常な思考だとは理解している。それでも、確かめずには居られなかった。
もしかしたら、デンの精神は壊れてきているのかもしれない。
「構わないよ。貴女の居ない世界で、正気なんてどうせ保てやしないんだ」 
 だったらいっそ狂ってしまえ。
デンは起き上がると、あの時と同じ格好をして家を出た。

*

 つかさは当ても無く繁華街を歩いていた。
こなたが自殺した、その事が大きな喪失感となって彼女を襲った。
もし、かがみやみゆきが、こなたにも目を配っていたのなら、
彼女の自殺は防げたのではないか。そう思わないでもなかった。
(違うよね。私がこなちゃんの側に居てあげれば、良かったんだよ)
依存したら逃げられなくなる、という理由で躊躇ってしまった。
だが、人と人の繋がりなど、相互依存で成り立っているのではないのか。
人は一人で生きていけない、というフレーズは、繰り返し繰り返し聞いてきた。
(やっぱり、側に居るべきだったんだ)
喧騒の中に身を置くことで、押し寄せる自責の念から逃れようと思い繁華街まで出てきたが、
結局は自責から逃れられない自分に気付いた。
208if star:2008/08/07(木) 19:30:50 ID:9h9q3vXs
(帰ろう、お姉ちゃんも心配するだろうし)
かがみもみゆきも悲しんではいたが、同時に怒りも露にしていた。
『どうして相談してくれないのよ』『なぜ、一言悩みを打ち明けてくれなかったのでしょうか』
つかさの口から溜息が漏れる。無自覚とはいえ壁を作ったのはどっちだ、と言わんばかりに。
 帰ろう、そう思い踵を返した時だった。
「こなたさん…こなたさん…」
友人の名前に反応し、その声が聞こえる方向に視線を転じた。
非常に小さい囁き声だったが、特別な文字列なので聞き漏らす事はなかった。
 そこには、虚ろな目をしながら放心したように歩く少女の姿があった。
(あの態度…そして珍しい名前…。もしかしたら、こなちゃんの関係者かも)
傍目にも危険な雰囲気を醸し出してる少女ではあったが、
つかさは構うことなく話しかけた。
「あの、すみません」
「あっ、はい」
我に返ったように、少女はつかさの方へと顔を向けた。
普通に話すことくらいは、できるようだった。
「もしかして、泉こなたさんのお知り合いの方ですか?」
少女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに遠い目をしながら言葉を放つ。
「友達、です。少なくとも、私はそう思っています」
「私も、こなちゃ…泉こなたさんとは、友達でした。
もうその資格は、ないのかもしれませんが」
「資格がないのは、私のほうこそでしょうね。
結局は、こなたさんを救ってやることができなかった…」
少女は悔やむように言葉を放つと、その場に崩れ落ちそうになった。
慌ててつかさは支える。
 少女は微笑むと、つかさに語りかける。
「ありがとうございます。もう、私を支える存在なんて居ないと思っていました。
こなたさんだけが、友達でしたから。
でも、もう大丈夫です」
とても大丈夫な風には見えなかった。少女のその弱りようは、
こなたに対する思いの深さと強さを伺わせた。
(この人も、独りなんだね)
こなたと同じく。あの時はこなたの側に居てやることは出来なかったが、
その後悔を振り切る事が今ならできそうな気がした。
「んーん、私が貴女の友達だよ。こなちゃんの事をこんなにも想っている人、
無碍になんてできないもん」
209if star:2008/08/07(木) 19:31:39 ID:9h9q3vXs
少女は信じられない、といった表情でつかさを見つめた。
こういった時にどうすればいいのか、つかさはもう知っていた。
みきがそうしてくれたように、つかさは少女を抱きしめた。
「こなたさん…私、私…ごめんなさい、こなたさん…」
少女が泣いているのが分かった。
周りの視線など気にせずに、つかさは少女を抱く腕に力を込めた。
少女が──デンが──泣き止むまで、つかさは胸の中で彼女を守り続けた。
(今度こそ、ずっと一緒だよ)

*

浮遊感の中に居る。
視界に靄がかかっているのに
何故か景色は明るい。
そこには少女と青年の姿があった。
青年の後ろの揺りかごからは
すやすやと穏やかな寝息が聞こえてくる。

麗らかな午後の日差しは
庭の緑を際立たせている。
緑で彩られた庭とは対照的に
椅子に座った少女の身体は透き通って見えた。

「そうくん、上手く描けてる?」
「ああ。不思議なくらいにな」
「完成したら、見せてね」
「ああ」
「そうくん…」
「何だ?」
「ごめんね」
「違うだろ?」
「ああそうか、ありがとうございました」
「それも違うよ。これからもよろしく、だろ」
少女は答えなかった。
青年は寂しそうに笑うと、再び描く作業に戻った。
「題名は『願い』でいいよな」
「そうだね…二人とも、今この瞬間に抱いている思いは一緒だもんね」
二人は笑いあうと、その願いを口にした。
「こなたが幸せになりますように」─かなたは俺が幸せにするから─
                ─だから神様、時間を下さい─
「そうくんとこなたが幸せになりますように」─もう見守ることしかできないから─
二人の願いは、微妙に違っていた。
「かなた、描けたぞ。…かなた?」
「そうくん…今までありがとう。最後まで我侭につき合わせちゃって、ごめんね」
「何言ってるんだ。これからじゃないか」
「今まで充分過ぎるほど」
言葉が途切れた。神様、時間を下さい。最後に一言言うだけの時間でいいから。
「幸せだったよ」
だから、あとはこなたとそうくんが幸せになってくれますように───
少女は眠りに就いた。
観測者は浮遊感から解き放たれ、眠りから覚めた。
210if star:2008/08/07(木) 19:32:29 ID:9h9q3vXs

*

「いやっ」
 デンは目を覚ます。今見たのは、頭の中で作り出された夢なのか。
それとも現実にあった光景なのか。
何れにせよ、辛い夢だった。誰かに側に居てほしい、
そう思わせる程には辛い夢だった。
「大丈夫?うなされてたみたいだけど」
つかさの顔が間近にあった。つかさの太腿の感触を後頭部に感じながら、
デンは温かみに包まれているのを感じていた。
窓から差し込む昼の日差しは穏やかに、二人を包み込んでいる。
幸せだった。辛い時にも楽しい時にも、いつでも側に居てくれる存在が
間近に居るのだから。これが幸福というものなのだろう。
それを自覚した時、デンの瞳から涙が零れ落ちた。
「私、盗っちゃったのかなぁ?こなたさんの幸せ、私が盗っちゃったのかなぁ」
押し寄せる罪悪感の波に、抗えない。
この暖かさは、本来こなたの為のものではないのか。
かなたが最後の一際に、こなたに望んだものではなかったのか。
そう思うと、涙が止まらなかった。
「そんな事ないよ」
つかさは優しくデンの髪の毛を擦ってくれた。
罪悪感は消えないが、精神状態は落ち着いていくのが分かった。
 瞳を閉じる。まどろみの中へと、意識が落ちていく。
(ごめんなさいこなたさん)
心の中で何度も何度も謝りながら、再びデンは眠った。

 つかさは、膝の上で再び眠りに就いたデンの顔から、
ハンカチで涙の跡を拭った。
「幸せ、盗ってないよ。だって、デンちゃん、今幸せじゃないよね」
夜な夜なこなたの事でうなされているデンが、幸せだとは思えなかった。
つかさ自身、こなたの事を思い出しては後悔の念に囚われ続けている。
 『願い』というこなたの幸せを願って描かれた絵画の存在も、
デンがこなたの為に祈りを捧げながら生きてきた事も、
つかさはデンから聞かされ知っていた。
複雑な思いに囚われる。祈りは誰も聞き届けやしないのだろうか。
 神社の娘であるつかさは、祈りを捧げる数多の存在を見てきた。
そういった人たちの行為は、無駄でしかなかったのか。
行為によってしか、人は救えないのか。
身近な人の幸福を願う、それですら願う側の自己満足に帰結されてしまうのだろうか。
だとするならば
「心なんて要らないよ」
自責と後悔に苦しめられるだけだ。つかさはうんざりしたように吐き捨てた。

<FIN>
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 19:33:52 ID:9h9q3vXs
>>203-210
以上で完結です。この度もお付き合い頂き、有難うございました。
では、次の機会に。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 20:11:37 ID:RJSfcZgW
>>211
乙。
なんだろ、ノルウェイの森映画化記念なハルキっぽい作品。
ネタは面白いけど、文章がちょっと残念。
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 20:31:46 ID:kkflxQWJ
>>212
それよりノルウェイ映画化にびびった
うれしいんだけど
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/08(金) 01:53:53 ID:5Y7U/bwS
>>188
遅れたが乙。
かなり面白かった。
心理描写がすげえwwwww
珍しく、あまりラノベっぽく感じないものだった。
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/08(金) 18:43:15 ID:lfBoq8wA
もうすぐ一周年。
死んだ回数だけローソク立てたケーキで独りお祝いするこなちゃん。
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/08(金) 22:33:08 ID:fSw+cFP6
因みにいつが一周年なんですか?
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/08(金) 22:39:26 ID:Srrot3MP
1スレ目の1が2007/08/13(月) 00:35:55
218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/08(金) 22:52:11 ID:fSw+cFP6
ありがとござます
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 00:49:03 ID:KpJYQ2a/
オリンピック過疎か?
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 00:53:06 ID:Ugbz+vn2
しかしオリンピック長すぎだろこれ
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 00:53:10 ID:lAMwmc/9
そいつはまた健全な嗜好だ。
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 00:56:31 ID:nb/YzWG3
このまま落ちれば良いn
おや、こんな時間に誰か……来ないな。
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 01:23:19 ID:KpJYQ2a/
意外とあがってない作品ってあるんだな
224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 01:34:01 ID:Ugbz+vn2
あがってないって
wikiにか?
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 01:44:35 ID:KpJYQ2a/
YES
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 11:09:21 ID:xUvUArYt
一度上がっても編集合戦で消されてそのままになってるヤツも在る気がする。
ログじゃなくて保管庫で読んだり見たりした記憶のあるヤツが見つからなかったりするんだよな。
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 12:04:12 ID:Ugbz+vn2
俺は上げる気は無いけど
「誰かあげるかなー」とか思う程度
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 17:24:06 ID:9okUTPII
>>219
古参のPCが軒並みクラッシュしたのが痛い。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 18:21:46 ID:TYiwfIDb
恐喝未遂と脅迫容疑で逮捕 /福岡

18日、八幡西区黒崎4、会社役員、権栄樹容疑者(30)を。5月7日、10万円を貸した同区内の男性(45)に携帯電話で
「お前の指を詰めるぞ」と電話して、利息として現金を脅し取ろうとした疑い。
3日後には男性の知人(41)にも電話し「2人そろってばかにしよるんか。ぶち殺すぞ」と脅した疑い。
大筋で容疑を認めている。無許可で貸金業をしていた疑いもあるとみて追及する。
毎日新聞
ttp://mainichi.jp/area/fukuoka/news/20080619ddlk40040519000c.html
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 19:56:36 ID:1PBsXUIh
あーこなたにミミズジュース飲ませてえ
http://thumb.imgup.org/file/iup664457.jpg
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 20:32:18 ID:9okUTPII
なwるwたwるwわwるwたwwwwwwwっうぇ
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 21:25:13 ID:gyzRiUDl
古参のクラッシュとか関係ねーよ
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 22:19:02 ID:Ugbz+vn2
こなきもシリーズ再来かな?
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 00:35:04 ID:N9F1bx3+
そいつは素敵な提案だ。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 02:05:43 ID:sitDX/kN
この際俺達で新たなシリーズを考案するというのはいかがだろうか
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 02:11:08 ID:j/oTgFf2
「確かにそれはありますね」シリーズとか?
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 02:45:16 ID:FmTvIzhi
それは元祖ですね
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 05:07:55 ID:09NB7pvs
かがみ「べ…別にあんたがわるいんじゃないんだから!!」シリーズ
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 05:15:24 ID:Yi18vSeH
つかさビッチシリーズが少なくなってしまいファン的にはさびしい限りである。
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 06:34:13 ID:09NB7pvs
というかアニキャラに移転した以来ぼっちスレの消息が不明
生きてるの?
241名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 06:37:35 ID:wYtXMJwC
242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 17:35:50 ID:wYtXMJwC
豪快な過疎
243名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 17:41:18 ID:tJFJ4wRJ
飽きられちゃったこなたカワイソス
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 17:58:03 ID:zX/98Bds
わざわざ過疎とか言うやつ何なのしぬの?
245名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 18:48:34 ID:fsF0RKqF
>>244
ツンデレなりの精一杯の保守だよ
246名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 19:19:42 ID:6xPKtKq2
木曜以来SS来てないwwww
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 19:34:59 ID:tJFJ4wRJ
その木曜も新規じゃなく、途中物。
まぁまったり待とうぜ。恐らく一周年記念にあわせて、各人準備してると思われる。
248名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/10(日) 21:00:48 ID:kwv2y0tk
そいや中尉のゆーちゃんのヤンデレ化するSSってもう続き書かないのかな・・・
個人的には一番楽しみだったんだけど
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 01:00:41 ID:fsVJtBAN
>>248
もう一度起こしなおしてる最中なんで
出来上がったら再度投下するつもりです

もちょっと待ってて下さいね
有難うございます!
250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 02:51:14 ID:4kLFu/LV
オリンピックで深夜アニメ潰れまくって、絶望のあまり自殺するこなぴょん
>>249
SS途中で消えると、マジでモチベ下がるよね。
再現しようとしても、どうしても風味が変わってしまう。
251名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 03:13:10 ID:fsVJtBAN
>>250
そうなんですよ・・・
本文はバックアップ取ってあったのでとりあえず大丈夫なんだけど
折角練った構成とか、メモとかはPCのデータと一緒にドーン・・・っと

そして、ひよりがみなみの手にかかる所から先が足りない始末
書いたっけ・・?書かなかったっけ・・・みたいな感じです
誰か助けてください、マジで
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 08:39:29 ID:kqgpNkoP
 へ へ⌒l /⌒,
 (=ω=.)trfy  助けにきたよー
  へ   へ js/'
   ヽ ヽ ヽ
    ヽ_,ヽ、_)
         ミ
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 13:54:31 ID:fZ3uUIXO
朝鮮の宗教って基本的に無断フランチャイズで自称○○教ってのばっかだぞ。
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 15:23:30 ID:ezM82uFP
>>252
おひさしぶり
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 16:02:18 ID:fl7Q8wEW
というかみんなSSの構成の仕方ってどうやってるんだろうか
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 16:22:30 ID:4AyjkTbH
>>252
羽化したか…
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 16:24:09 ID:fsVJtBAN
俺は

@まず自殺方法を決める
A登場キャラを決める
B生き残るキャラを決める
C大雑把にルートを決める
D5〜6箇所ほどイベントか分岐場所を考える
Eイベント間のキャラの心理に合わせて方向を決定
Fあとは思いついたところは文章化して保存
G実際文章を作成、読み直して投下

って感じです

言わせたい台詞なんかがあっても無視したほうが無難
台詞を言う為に作風が乱される可能性が大きい
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 16:30:49 ID:fl7Q8wEW
>>257
なるほど…ありがとう
そうか、だから俺のはどこか無理やりな展開があるわけだな
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 18:03:54 ID:2ndTdYXs
いろいろな意見を聞いてみたいな。
ほかの人も頼めるかな。
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 18:23:36 ID:73r+64Pb
このスレにSS投下するとPCクラッシュしそうで怖いw
……自分は元々書いたこと無いけど
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 19:49:59 ID:fl7Q8wEW
しかし、「こなたが自殺して『死ぬ』」という絶対条件がある訳だから
如何に読者にこなたの自殺までの展開を魅せる展開が必要な訳だな
下手に壮大なネタ振りをしてしまうと
結末までの展開を読者に先に読まれてしまうことにも成り得るから難しい
逆に自殺から離れすぎると「これ本当に自殺するのか?」と急かされることにもなる
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 20:45:34 ID:g1IBX21a
>>259

僕の場合は、まず大まかなストーリーを先に作ります。
こなたの自殺方法、登場キャラはその後で。書いている途中に変わることも。
ただしこなた以外で最低1人、話の根幹と言うか最重要の人物を予め決めておきます。
僕は>>257の人とは逆で、キャラの台詞にこだわります。
この台詞を言わせたいというのがあったら、その台詞が最も映える形に前後の文章を変えます。

……といっても、まだひとつしか投下してませんけども。
何かの参考になれば。
263名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 21:26:28 ID:/ybm6WW+
>>259
基本的には、ラストかクライマックスを決める。
お次に、そのラスト(ORクライマックス)に相応しいと思われるキャラをチョイス。
後はそれに向かって、伏線ばら撒きながら物語進行させてく。
適宜、ラスト(ORクラ)が不自然にならないような背景描写を行う。
ミスリードできそうなら、心理描写でミスリードしとく(叙述トリックはあまり好きじゃない)。
んで、仕上がったらカットできそうな部分はカットして、
縮められそうな部分は縮める。不自然な部分はカットしちゃうか、
適当な背景事情加える。
自殺方法は特に拘らない。それより、
自殺に至る動機に合理性持たせる事の方に神経使う。

こんな所です。他に気をつけている点は、
視点の混在を避ける、って点ですね。視点キャラ変えるときは、大きく改行。
複数人同時の心理描写はまず行いません。
敢えて行う時は、視点キャラが推量するという形を用います。

>>257
>B生き残るキャラを決める
流石は中尉、と感心したw

>>261
絶対条件…。未遂もありかな、と思ってる。
264(≡ω≡.)神奈川:2008/08/11(月) 22:20:34 ID:uSYeYSF8
>>255
・適当にムカつく物を見つけて、こなたに変換。
・携帯でプロットを書いて、それを基に書く。
・AA貼りながら呼称とかを見直し。
・憎しみを込めながら投下(w

個人的に気をつけているのは
・長編にしない。(SSだもん。)
・必ず「自殺」させる。(こなただもん。)
・感動系にしない。(24時間TVのドラマじゃないんだから。)
って感じです。文体があれだから参考にならないかな?
265名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 22:25:14 ID:HqrMYwgR
何日かぶりに覗いたらSSノウハウな流れに。
たまにはこういうのもいいね。
読み手の側からでも面白い。
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 22:55:20 ID:fsVJtBAN
>>263

ありゃw
正体ばれてるんですかぃ(汗
だったたらこれも追加しておかなきゃ

『※お漏らしさせるキャラとタイミングを自然な流れで決定!』

ありがとう〜?ですかね?w
267名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/11(月) 23:09:34 ID:IYvjQk6N
まあIDがあれですよね
268名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 02:15:59 ID:qyn8top6
>>266
名前割れて政界だと思う
>>255の人も、どのSS投下した人か分かった方が参考にしやすいと思われ
269名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 02:17:06 ID:qyn8top6
正解
270名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 07:53:41 ID:OyT7NhsY
ナルホド・・・ww
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 10:03:18 ID:IAO323E1
私も(書ければの話ですが)SSを投下したいと思っています。
しかし(ここで聞くべき質問ではないと思いますが)、
よく言われるsageというのがよく分からないので、誰か教えてください。
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 10:31:48 ID:RFiKKtqh
メールアドレスを入れる欄に
半角でfusianasan、もとい半角で「sage」と入れればおk
273名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 10:39:53 ID:zd93kTRL
関係ないけどこいつがいなければ俺はらきすたを見ていたかもしれない
274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 12:22:57 ID:IAO323E1
>>272
どうもありがとうございます。
>>259
長くなりますが、私の場合「5W1H」をできるだけ心がけてます。
5W1Hとは、
When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(なにを)、Why(なぜ)、
How(どうしてtoどのように)のことです(ちょっと違う気もしますが)
書き留めておけば、どんな話なのか大体分かります
次にあらすじ
本の裏にあるような作品を簡単に説明できるような文章を作ります。
その次にラストのオチ
最後にこうなるというのを大体考えて、最終的にはこのラストに辿り着けるようにする。
次にキャラクターの設定を作り上げて、最後に文章を大胆に作り上げてから
後から細かく修正する。
あとは個人的に言えば、何かの元ネタを入れたりするぐらいです(例えばある小説の話とか)。

自殺スレSSの名作「こなたのボランティア」で例を示すと
いつ(本編から四年後)、どこで(糟日部中心)、誰が(こなた、かがみ他)
何を(こなたが自殺)なぜ(かがみを助けるため)
どうして、どのように(出産が原因でかがみが死にかけているのをこなたが知り、
           自分の臓器を提供することにした)
あらすじ
こなたは大学を中退し、堕落した生活を送っていた。そんな中、かがみに子供が
できたとこなたは知った。しかし、出産直後、かがみは心臓に大きな影響を及ぼし、
助からないと医師に宣告された。そこで、こなたが下した決断とは……

ラスト
こなたは死んでしまうが、かがみの心臓として生きている。子供に「こなた」という
名前を付け、こなたに素晴らしい友人の話を聞かせて物語は終わる。
以下略

非常に読みにくい文章ですみません。しかし、無断で作品を例にするのは
どうかなと思ったのですが、分かりやすいかなと思ったので使ってみました
275お漏らし中尉:2008/08/12(火) 14:43:16 ID:kxwvnuA0
中途のSSが完結したんだけど
一度投下した当たりも少し変化がある場合は
投下したほうが良いですか?

ちょっと長編っぽくなって困ってます
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 15:55:38 ID:idKhZdiO
>>274
お、おれの作品は判りやすいと思われているのか…
なんだか複雑な気分だ…w

>>275
どんどんやってくださいよw
277263:2008/08/12(火) 18:56:52 ID:ZQTfjZDC
>>268
失礼。
WIKI登録されてる中ですと、
「そして私は無を望む」「psychedelic」「夢という呪い」「幸福拘束」辺りですね。
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 18:58:01 ID:ZQTfjZDC
みWIKIが正式名称か。
279255:2008/08/12(火) 19:04:23 ID:idKhZdiO
>>277
いえいえ、「ミスリード」とか「叙述トリック」という言葉を使っているだけで
あなたであることは大体判断できていました
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 21:28:17 ID:kxwvnuA0
>>276
では、どんどんいかせてもらいますw

深夜0時を超えて 一周年を迎えたら
記念投下開始します!
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 22:01:18 ID:idKhZdiO
1周年記念投下は中尉が務めるのか
頑張ってくれたまへー
282ヤク中大分:2008/08/12(火) 23:21:44 ID:pbbzbU5f
ttp://upload.jpn.ph/img/u23995.jpg
少し早いけど時間なさそうなので今日うp。
未だにらきすた絵描いてるのもこのスレのおかげです。
1周年おめでとう。ありがとう。
そして10月頃までさようなら。
283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 23:42:38 ID:09yk9vKW
さらっとさよならしないでください(´・ω・`)
284お漏らし中尉:2008/08/12(火) 23:52:11 ID:kxwvnuA0
>大分氏
氏の絵はいつも綺麗ですね
このつかさにいじめられたいですw


そろそろ投下開始します!
285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/12(火) 23:53:16 ID:OyT7NhsY
>>284
ガムバレヨ。
俺もずっと見よくわww
286お漏らし中尉:2008/08/12(火) 23:59:45 ID:kxwvnuA0
【小早川ゆたかの純愛】

真っ赤に燃える夕日に染まり
木々や地面、空さえも朱色の中に浮かび上がる
鳥も雲も今日一日の仕事を終えてしまい残ったのは家路に着く子供たちの声
「また明日ね」、「ばいばーい」と大きく手を振る子供達にまぎれて
明るい声がこだました

「ゆーちゃんおいでー!」
「こなたお姉ちゃん、待ってよー・・・」

夕焼けに見える小さな人影
元気に走る女の子を一生懸命に追いかけるのは幼い日のゆたかである

「きゃ!」

すでに夕暮れの道なりでは小石なども影で隠れ
少女の行く手を遮った
やさしい夕日に染まった砂利道が鋭い棘で少女の柔肌に噛み付き
影が体を縛る

「大丈夫?ゆーちゃん・・・・」
「ふ・・・ぐす・・・」

ゆたかはそのまま地面に座り込んでしまった
287お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:00:38 ID:JZ+5gIWV
こなたはゆたかに駆け寄る、右足を軽く擦りむいてしまった様でゆたかは泣いていた
少女は罰が悪そうに頭をかいた
涙目のゆたかに幼い心も罪悪感を抱いたのだろう

「・・うん・・・大丈夫・・・・」
「よかった・・・ほら、手つなご?」

ゆたかは涙を拭い差し出されたその手に、笑顔が輝きを取り戻す
こなたの顔からも気まずさは消え、笑顔が覗いた

すでに闇に近いこの道も、二人でいれば怖いものなど無い



体が弱いゆたかは友達も少なく、一緒に遊んでくれるのは従姉妹であるこなたと姉のゆいだけ
少女は自分の体を呪っていたが
それと同時にこなたと過ごせるこの時間が好きだった

こうして一緒に遊んでいるだけで胸が弾んだ
時折感じる惨めさもこなたと一緒なら平気だった

それは恋愛にも似た感情

幼かったゆたかの心に小さな愛が芽生えている事など
そんな事、周囲はおろか本人ですら気が付かなかっただろう

知らぬ間に空一面は闇へと変貌していた

「お姉ちゃん、ずっと一緒だよ?」

  ・・・・・
  ・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・
288お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:01:02 ID:JZ+5gIWV



「ん・・・・お姉ちゃん・・・」

眩い光がカーテンの隙間から朝を知らせる
桃色の髪は枕に絡み、寝ぼけ眼が天井を見上げた
時計の針は七時と五分を指している

「・・・・夢かぁ・・・・懐かしい夢だったな・・・・・へへ」

泉家の朝は遅い
それは母親がいないことだけが原因では無く
そうじろうの職業とこなたの趣味が関係していた

半年ほど前から始まったゆたかの高校生活、拠点は泉家にある
朝が弱い従姉妹と叔父の為に朝食の準備に取り掛かるゆたかは
すでにパジャマから制服に着替えていた
ピンクのエプロンも眩しく、一見幼な妻に憧れる少女の様な爛漫さが伺える

「叔父さんも夜遅くまで執筆してるし、お姉ちゃんはコミュニケーションが忙しいからね・・・」

鍋をかき混ぜつつ、知らぬ間に覚えた独り言を呟くゆたか
居候の身を心地よいものにするべく始めた料理などの家事もすでに手馴れたものである

味噌汁の味見をし「うん」と頷くと食卓を作り上げてから未だ起きて来る気配の無い家主たちの寝室に向かった

「お姉ちゃん、叔父さん、朝ですよ〜♪」


「ゆーちゃん、おはよー」
「ゆたかちゃん、いつも悪いね・・・」
「♪♪」

身づくろいせずにうとうととしたこなた
目の下のクマを一層大きくしたそうじろうがこの一杯の味噌汁で迎える一日
すでにゆたかにとっても泉家にとっても恒例と化している朝だ

いつもの風景、そしてあたりまえの日常
幸せなこの生活・・・・それがもうすぐ壊れてなくなってしまう事など
泉こなたは知る由も無かった

それがこの小早川ゆたかの手によるものだという事も・・・・

『お姉ちゃんは私のもの・・・・』

  ・・・・・・・・
289お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:02:12 ID:JZ+5gIWV
その日はいつもと少し違っていた
いや・・・・明らかにと言うべきだろうか

「おはよう〜♪」

「こなちゃんおはよ〜」
「おはようございます、泉さん」
「・・・・・・・・・・」

いつもの挨拶、いつもの四人・・・・・
制服に身を包んだ少女たちは眩しくかがやく学び舎で笑顔の交換をする
それは朝のお決まりの儀式だ
だが挨拶の声は一人分足りなかった

親友の・・・・・かがみの声が足りない

「おはよう、かがみ様〜ん♪」
「・・・・・・・・・・」

こなたは笑顔でかがみの挨拶を試みるが、返事は無い
それどころか親友は目すらも合わそうとしない

「かがみ・・・?」
「・・・・」

「お姉ちゃん、どうしたの?」
「かがみさん・・・?」
「・・・・・うん、ちょっと・・・・ね・・・」

朝の雰囲気は一変して重くなる
笑顔も逃げてしまい、氷の様な冷たい空気が少女たちを包んだ

「かがみ・・・・どうしたの?まさかあの日?」
「・・・・違うわよ・・・・ただ、あんたと話したくないだけ・・・・」

「ちょっと、お姉ちゃん?」
「どうなさったんですか・・?」

状況が飲み込めなかった
いつもと変わらない朝を過ごすはずだったのにも関わらず
大きな変化を帯びた朝、しかも最悪のこの始まり
こなたは背中が冷たくなっていくのを感じた

「・・・そんな・・・・私、何か悪いことした?ねえ、ごめんかがみ・・・怒ってるの?」
「・・・・・・何でもないわよ・・・」

さすがに空気の重さを理解したこなたは軽口を叩くどころか真剣である

「なんでも無いなんて・・・そんな事ないでしょ・・・・?」
「・・いいの・・・あんたのせいじゃ無いのよ・・・・だからもう放って置いて・・・・・」

「かがみ、訳を話して・・」
「放っておいてって言ってるでしょ!!」

「おねえちゃん!?」
「かがみさん!?」
290お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:02:39 ID:kxwvnuA0
かがみはそのまま階段へと走り去る
振り向きざまに見せた雫はきっと涙だろうか
濡れた頬を隠すようにして、親友は姿を消してしまった

まるで時間が止まったようだ

「お、お姉ちゃん待って!」

数分・・いや数秒ほどたった後にかがみに続いてつかさが走っていく
みゆきは呆然としているこなたに「大丈夫ですよ・・」と励ますと
浮かない顔のこなたを連れて教室へと向かうが
二人の足取りは鉛のように重い、まるでこなたの心をあらわしている様に廊下は鈍く光って見えた



『かがみはこなたを避けてそそくさと自分のクラスに帰ってしまった』
つかさはそう思ってかがみのクラスに行っては見たが、何処にも姉の姿は無い

「お姉ちゃん・・?どこ?」

確かにかがみは階段を駆け上っていったのだが・・・・・?
姉の姿はどこを見回してもこの教室には無い

「よう、妹ぢゃねーか?」
「おはよう、妹ちゃん・・・・どうしたの?」

後ろから声がしたので振り返ってみるとみさおとあやのがいる
二人は仲が良く、登校も一緒にしている
こうなったら頼みは姉の中学からの同級生
何度かしか話したことは無いが姉との付き合いはこなた達より長い

・・・・この二人に聞けば解るかも

つかさはほんの少しの救いを求めてかがみの行方を聞いてみる

「お姉ちゃん見ませんでした?」

「ん?一緒ぢゃねーのか?」
「まだ見て無いわねぇ・・・後で見かけたら言っておきましょうか?」

小さな期待は無残にも消えてしまう
いや予想通りだった・・・・
どうやらかがみはこの階には来ておらず
クラスにも顔を出していない様である

つかさは仕方なく「お願いします」と肩を落として傷心の友人が待つ教室へと引き下がることにした
姉がこんな行動を取るのは珍しく、正直言ってどうして良いか判らない・・・・・・

『こんな時にお姉ちゃんが居てくれたら』

そう思いかけて、つかさは自分の情けなさに惨めに呟いた・・・・やはり、姉の名を・・・・
今はその姉が心配だというのに・・・

「・・・かがみお姉ちゃん・・・」





  ・・・・・・・・
291お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:03:08 ID:kxwvnuA0
三年の階はただでさえ不慣れな上に
注目を浴びての緊張に足を絡ませながらのゆたか
強行も一苦労である
やっとたどり着いた3−Bの教室でゆたかは涙目になりながら震えていた

「あの・・あのあのあの・・・あの・・・・すいませ・・・えぐ・・・・」
「あ・・ちょっと・・・うわあ泣かないで・・・・・!?」

声をかけられた白石は返事をするまもなく
涙目の少女の餌食となった

「すいませ・・・いいいいいず・・・・すみま・・えく・・・えく・・・」
「ちょ、何で?泣かないでって・・・ああ助けて・・・」

クラスの視線が入り口に集中する
ゆたかの頭と熱を帯び視界はグルグルと回り始めた
白石もすでに泣きそうである
それを見かねたみゆきは入り口へ、仲裁・・・というか
二人の救出に向かった

「小早川さん・・・どうしたんですか?」

凛とした声がゆたかの気持ちを落ち着ける

「あ・・・・・・高良先輩・・・・」
「おお・・・高良の知り合いかぁ・・・・良かった、後は任せていいか?」

愛しいみゆきが救いの女神に見えた白石は気恥ずかしそうに両手を合わた
みゆきは笑顔で頷いて「ふふ」と笑ってみせる・・・まあ、愛想笑いなのだろうが
顔を赤くしたたじたじの未成年はみゆきをチラチラと見ながらそそくさと席に戻っていく
腰を下ろした白石は男子たちにからかわれながら頭を掻いていた
健全な高校男児というやつだろう

「あの、高良先輩・・・・」
「ええ、どうなさったんですか?」

ゆたかはピンク色の包みを両手にもって「お姉ちゃんにお弁当を・・・・」と申し訳なさそうに呟いた
お弁当を届けるだけの為に涙を流してみたり、怯えたり
実にゆたからしいと思いながらみゆきはこなたを連れてきたが
こなたの方は沈んだ様子で足取りも重い

「お姉ちゃん、お弁当持ってきたよ・・」
「あ・・・うん、ありがとう」

こなたは笑顔でお礼を言うが、どこか無理をしている様に見える
そういえばいつもは笑顔のつかさも机に座ったままでしょんぼりと元気が無い

朝はあんなに元気だった従姉妹が数時間の間に屍のように息も絶え絶え・・・・
ゆたかの瞳にはその姿が実に愛らしく映った

『・・・うまくいってるみたい・・・・良かった』
292お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:04:10 ID:JZ+5gIWV
一瞬見せたゆたかの深い笑みなど何処吹く風
少女たちの纏う空気は時間とともに重いものへと変わって行く
こなたは弁当を受け取った後、すぐに席へと戻ってしまった
その背中を心配そうに見送るみゆきは「ふう」とため息をつく

「・・・・・・高良先輩・・ちょっと良いですか?」
「・・・ええ・・・・・・」

  ・・・・・・・

屋上の風は爽やかで、鬱蒼とした空気などきれいに流れていく気分だ
みゆきはコンクリートの床を歩き空に向かってゆっくりと深呼吸
ゆたかも一緒に空を見上げると少し大きく呼吸する

「・・・屋上は気持ち良いですね・・・・・・」
「はい・・・あの・・・・」

「泉さん、かがみさんと喧嘩してしまった様でして・・・・」
「・・・・・・・・」

みゆきは申し訳なさそうに言葉を連ね始めた
まるで「自分が至らないばかりにこんな事になって申し訳ない」と言わんばかりの口ぶりだ

「きっと、ささいな事だと思うんです・・・なんとか・・・・」
「それ・・・喧嘩じゃないんです・・・・・」

ゆたかは意を決したように口を開く

「ええきっとお二人とも・・・・」
「私が頼んだんです・・・・・高良先輩」

「・・・・・え?今なんて・・・」

突然の話の流れについて行けず、みゆきはゆたかに向き直った

「私が・・・私からかがみ先輩に頼んで、お姉ちゃんを避けてもらったんです・・・・」
「・・・・・・・・」

考えにくいことだ、ゆたかもそんな事ができる娘でも無い筈
もしそうだとしても
かがみはそんな事を頼まれて友人を裏切る人間ではない

「疑ってるんですね・・・私にそんな事ができないと思ってるんですよね?」
「・・・・・ええ・・・」

「それにかがみ先輩の事も信じてる、そうでしょ?」
「・・・・・・・・」

「じゃあ、『大好き』なつかさ先輩の事は?」
「え・・・・?」

背筋が凍る
一瞬にして体が硬直した、手に汗が滲む
風が、言葉がみゆきの体温を奪っていく

「高良先輩はつかさ先輩の事好きなんでしょ?言ってる意味・・・わかりますよね?」
「・・・・・・・・・・」
293お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:04:57 ID:kxwvnuA0
みゆきはゆたかの笑顔が恐ろしくなった
普段と変わらない声のトーンと、愛らしい瞳が酷く恐ろしい

一枚の写真が大きく見開かれたみゆきの目前にかざされる
見知った女性が男と映っている
場所は・・・・・風俗街のホテルの入り口
看板には『VIP』と書かれている

男は少女の体に手を回し、その唇をなめる様にして塞いでいる
少女は虚ろな瞳でそれに応えていた
どう見ても健全な関係ではなく、恋人にも見えない

「〔えんこー〕って言うんですよね?こういうの・・・・」
「・・・・・嘘・・・・」

ゆたかは恥ずかしそうに、そして汚らわしそうに言葉を並べていく

「嘘じゃないですよ、みなみちゃんがちゃんと跡を着けてくれてたんですから・・・・」
「かがみさんがこんな事する筈がありません・・・・それにみなみちゃんも・・・・」

静かに言い知れぬ何かがこみ上げてきた
みゆきの表情は硬くなる
判っているのだ、この写真が偽物であればかがみがあんな行動を取る筈が無い
そう、これは紛れも無い真実なのである

だが・・・どこかでそれを否定していたのだ、根拠も無く

「あんな不潔な女がお姉ちゃんを好きだなんて許せない・・・・・・」
「私にその事を教えてどうしろと言うんですか・・・・?」

「・・・・・先輩はいいんですか?つかさ先輩の双子の姉が〔えんこー〕少女で?」

みゆきの体がピクリと動く

「それにこのままじゃつかさ先輩に気持ちを伝えることなんてできませんよ?」

振るえがみゆきを襲った
それは自分の信頼を裏切っていたかがみへの怒り
それはゆたかの言葉によって芽生え、覚醒したつかさへの独占欲からくる物だ

「私はあの人さえ居なくなってくれれば良いんです」
「・・・・・・そうですか・・・・」
294お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:05:29 ID:kxwvnuA0

みゆきは肩を抱き、溢れ出しそうな感情をその体に押し込めようと必死に抗う

「支えを失ったつかさ先輩をやさしく励ます高良先輩・・・きっとロマンチックですよ?」
「・・・・ロマン・・・・チック?」

「御伽噺に出てくる王子様とお姫様みたいに・・・・・・・」
「ロマンチック・・・・・つかささん・・・・・かがみさん・・・・・」

数分の後、みゆきは「考えさせてください」という返事を残して教室へと戻っていった
恐らくみゆきを味方に引き込むのは時間の問題である
桃色の髪の少女はリボンを直しながら力なくため息をつく

「良いのかな・・こんな事しちゃて・・・・」
「・・・・判らない・・・でも、ゆたかが決めた事なら・・・・・・」

もう一人の少女が何処からか現れる
長身で物静かで、優しく・・・そしてどこか冷徹な少女はゆたかに近づくと
優しくその頬にキスをする
みなみだ・・・・岩崎みなみ
もしもみゆきが乱心したときの為に隠れて様子を伺っていたのだ

「そうだね、みなみちゃん」
「うん・・・ゆたかは正しくない・・・・けど間違ってないと思うから・・・・・」

風が二人に吹き付けたが、二人はよろめく事無くその場に留まる
まるで全てを敵に回す覚悟を露にするかの様に、その佇まいは優雅ですらあった

「もしも高良先輩が、お姉ちゃん達にこの事を言っちゃったらどうするの?」
「・・・大丈夫・・あの人は弱いから・・・・・・そんな真似できないよ・・・」

みなみの鋭い瞳をまるであざ笑う様に細めると「それより・・・」と言葉を続ける

「ひよりはどうするの・・・・・」

もともとかがみの目撃情報はひよりによる物である
それを基にして今回の計画は練られたといっても過言ではない
したがって何もかも思わず喋ってしまうひよりはみなみにとっては煙たい人間だ
いずれゆたかを危機に追いやるに違いない
だが、友人には甘いゆたかはそれほど気にしては居ない様子だ
それでもみなみの具申が気になって少し考えた後、軽く頷く

「田村さんかぁ・・・一応、みなみちゃんが付いててくれると嬉しいな・・・」

なんとなく不服そうなみなみだが、口には出さない
それがみなみだからだ

「判った・・・ゆたか・・冷えるから・・・・教室に戻ろう・・・」
「うん、ありがとうみなみちゃん」

無邪気なゆたかの笑顔は罪を自覚している
絡み合う思念はすでに、歯車を軋ませて時を刻み始めた





  ・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・
  ・・・・
295お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:06:21 ID:kxwvnuA0



翌日、その時間が始まった

「昨日のこなたはありえなかったデスネー・・・」
「どうしたの?パティちゃん・・・」

珍しくパティーは怒っている
理由はバイト先でのこなたの失敗にあった
そのフラストレーションを学校の昼休みを使って晴らそうと
なるべくこなたに近いゆたかに愚痴っているのだ

「なってないデスネ、コーヒーと紅茶を間違えるなんて・・・」
「・・・・そうなんだ・・・きっとお姉ちゃんも疲れて」

「NONONO−!仕事とプライベートは別デスネ!お客第一がメイドのプライドデスョ〜」
「・・・・・そうだね・・・・」

肉親では無いが、同居人であるゆたかにこの出来事を話して
こなたの欠点を分かち合いたかったのだろう
多かれ少なかれ、人間にはそういった感情がある
悪意の有る無いに関わらず同じ時間を共有していれば目に付く事も少なからず有る
だが、相手が悪かった

「まったくナゲカワシーデスネー・・・・ニッポンのナデシコガールの風上にも置けませんネ〜」
「・・・・・・・」

一通りのこなたバッシングを終えたパティーは時計を見ると「オウ、タイムアウトネ」
といって自分の席へと戻る

「ああ・・・パティも悪気が有るわけじゃ無いっスから、ゆたかちゃんも気にしないであげて」
「・・うん、大丈夫だよ☆色々、大変なんだもんね・・・何かあったのかなぁ・・・」

「何でも最近ストーカーに着けられてるらしくって、それがお客さんらしいんすよ・・・・あ、先生・・・
 パティーには後で私から言っておくから許してあげてね・・・・」
「うん、大丈夫だよ〜・・・・・」

ひよりが席に着くと同時にチャイムが鳴る
休み時間を終え、残る気だるい時間が始まろうとしている中で
笑顔のまま、たった一言呟くゆたか

「・・・・・・・・・・・・許さない・・・」

みなみはゆたかのこの小さな声を聞き逃さなかった
明らかに純粋な殺意を帯びた可愛らしいその声を・・・・・



  ・・・・・・・・
  ・・・・・
296お漏らし中尉:2008/08/13(水) 00:06:55 ID:JZ+5gIWV



「こんな所に呼び出して・・・・・何の用なの・・・・・・?」

うっすらと淡い髪を二つに纏めた少女は制服のまま、学園の裏庭で吐き捨てる

「少し・・・お話がありまして・・・・・・」
「みゆき・・・・」

二人の優等生が授業を抜け出して秘密の対峙
人通りがあれば出来ない会話であることは明白である
そしてかがみはその内容をあらかた理解していた

「あんたも見たの・・・・?」
「・・ええ・・・・・」

「そうなんだ・・・、もう誰かに言っちゃった?」
「いいえ・・」

「なんであんな事したのかって言いたいんでしょ?」
「泉さんを・・・・・私やつかささんの信頼を裏切ったのには・・・・理由があるとでも?」

かがみは自虐的な笑みを浮かべてみゆきに視線を合わせる

「みゆき・・・あんた男に抱かれた事ある?」
「・・・な!??」

突然の質問に顔を強張らせ赤面するみゆきは
友人の行為を想像してしまい慌ててメガネを直すふりをした

「どうせ、そうだろうと思ったわ・・・あんたらしいものね・・・」
「・・・・そ、それとどう関係があるって・・・」

「男はね!」

みゆきの非難を押しのけて、かがみは会話を続けた

「忘れさせてくれるの・・・あの時間は、あの快感は全部を忘れさせてくれるのよ・・」
「・・・・・・」

「あの体を味わうような舌の感も、いとおしむ様な愛撫も、私の体を貪る様な激しい抱擁も・・・」
「・・・・・・・」

「アンタが毎晩やってる悲しい慰めなんかよりずっとずっとずーーっとよ!」
「・・・・・・・」

「私はこなたが好き・・・でもそれは許されない事なの・・・・・」

知らぬ間にかがみの声がみゆきを釘付けにする

「男達は私にお金と愛情を与えて、優しくしてくれて・・・・快感をくれる・・・」
「・・・かがみさん・・・・」

「こなたの事を・・・女の子のことを好きな私をまともにしてくれるのよ・・・・」
「・・・・・・」

「みゆきにも判るでしょう?つかさは普通の娘なの・・・みゆきとは付き合わない・・・」
「・・・あなたも・・・知ってるんですね・・・」
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 00:10:47 ID:fSrTmh3k
支援
って遅かったか…
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 00:33:22 ID:BpUpdlbg
数分速いけど一周年記念うp
ttp://upload.jpn.ph/img/u24012.png
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 00:35:56 ID:BpUpdlbg
298です。一周年おめでとう
300お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:16:36 ID:JZ+5gIWV
「判ってたわ・・・私と同じ匂いがするもの・・・だから、あんたもコッチに来なさいよ・・・?」
「・・・私は・・・」

かがみの声は震えている
瞳は涙を零し、頬は紅潮し声は次第に弱弱しいものへとなっていく
かがみにとってこなたへの愛はそれほど重いものだったのだ

「ね、みゆきもしよ?私と一緒にさ・・・・きっとあんたなら沢山気持ち良い事できるよ・・・?」

すでに行き場を失った友人は、道しるべを無くし
哀れにも助けを求め始めた

「忘れようよ・・・私、どうしたらいいか判らなくなって・・・でもきっと、あんたと一緒なら・・」
「・・・・・かがみさん・・・・・」

かがみはみゆきの手を握り必死に懇願する
その瞳は『私を助けて、どうにかして』と訴えかける様に見えた
だが、みゆきはその行為自体を冷やかに眺める

「こんな女がつかささんの姉だなんて・・・・」
「え・・・?」

パシ!という音とともにかがみは頬を押さえて地面に倒れた
赤く腫れた掌をさすりながら「汚らわしい」と唾するみゆき
現実は・・・甘くない

「自分の心の弱さを猥雑な逃避で隠した上に、他人まで巻き込む気ですか?」
「・・いたい・・・よお・・・・どうしていいか判らないのよ・・・・」

「友人が這い蹲る姿は心地よいものでは有りませんが、今の貴方にはお似合いですね・・・」
「教えてよ・・汚れちゃった私は・・・・・どうしたらいいの?」

すでに気高い柊かがみの姿など風前の灯火である、いや無いに等しいだろう
目の前にいるのは哀れにも行き場を失った汚れた少女だ
その懇願も嗚咽に塗れて土に流れる涙は血液を模している

言葉が空を斬る

「・・・・・・・・終わらせてしまったらどうですか・・・?」
「・・・え・・・?」

「このまま汚れた体でつかささんの姉として生き、泉さんに見放されるよりも・・・・」
「・・・終わる・・」

「美しく気高い、妹思いで友達思いの柊かがみとして自ら命を絶てば良いんですよ・・・」
「・・・・死ねって事?」

かがみはみゆきの顔を見上げた
信じたかった、きっと何かの冗談なのだと
自分を立ち直らせるための叱咤なのだと信じたかった・・・・・
だが、みゆきの視線には優しさなど微塵も感じられない
301お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:17:56 ID:JZ+5gIWV

「貴女が潔さを見せるのであれば、私も美しい思い出だけを胸に秘めて生きていくつもりです」
「・・・・・・」

「さあ、どうしますか?」

かがみは理解した・・・これは脅し
私がこの世から存在を消さなければこの秘密を暴くという脅し
小早川ゆたかはみゆきを味方に引き入れたらしい・・・・
恐らく・・・・抗う術はもうないのだろう、この現実からも
自分の葛藤からも・・・・・

みゆきは震えるかがみに背を向けると冷たく鋭い声で一言だけ
たった一言だけ残してこの場を去る

「かがみさん・・貴女は・・私を失望させた初めての人間ですよ」

その言葉は厳格であったかがみの心を無残にも引き裂き崩壊させる

吐き捨てるような、哀れむようなその言葉は何時までも
かがみの耳に木霊する

かがみは声を押し殺して泣いた
やがて涙は枯れて、嗚咽のみがその場を曇らせる

空は・・・

先程まで青々と輝いていた空はすでに一面のどす黒い曇が隠し・・・
いずれ降り注ぐ雨・・・・

予報外の豪雨の中、生ける骸と化したかがみの姿はすでにそこには無かった


 ・・・・・・・・
 ・・・・・
302お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:19:38 ID:JZ+5gIWV
あくる日の朝、いつも通りに寝坊したこなたはニュースを見て絶句した

『・・・・容疑者の名はパトシア=マーティン(Patricia Martin)・・・・・・・・なお少女は
 高校一年生の彼女はストーカー行為によって・・・・・ストーカー行為を・・・・・・・・
 被害者はストーカー行為をはたらいていた男、それと容疑者の同級生である田村ひよりさん・・・
 二人とも刃物で胸部を数回刺されており、病院に運ばれましたが間もなく死亡・・
 目撃情報では金髪、長身、右利き・・・・一致した為、因果関係について・・・・・・・・
 ・・・・某所のメイド喫茶の従業員だった少女は・・・・・・只今事情聴取を・・・・・・・・・』
 
「パティ・・・・・」

その日・・・・・こなたは学校を休んだ・・・

・・・・・・

「上手くいったね、みなみちゃん・・・・」
「ええ・・・・・上手くいった・・・」

全校集会の後、ゆたかとみなみは屋上へと足を運んでいた
名目は「気分を悪くしたゆたかを涼ませに屋上へ・・・」である

しかし、本当はみなみの心を落ち着ける為であった
みなみは自分の右手に残る『あの感触』に体を震わせている
なにも命までとる事は無かったのではないのだろうか?
そんな考えがみなみの良心を襲うのだ、しかしその恐れもゆたかの笑顔を見ると紛れた

「ごめんね、私の為に・・・・みなみちゃん・・・」
「・・・大丈夫・・・私はゆたかの味方だから・・・・・」

ゆたかは愛しいこなたを愚弄したパティを許せなかった
それでみなみにパティの姿を真似させて、ストーカー殺害の濡れ衣を着せる事を思い付いたのである
田村ひよりの情報のお陰で男を見つけるのは容易かったし、
みなみの背格好が胸を除けばパティに似ていたために出来た計画である

303お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:20:28 ID:JZ+5gIWV
誤算は・・・ひよりと出会った事
おそらく、ストーカーについてあまりにもしつこく聞いた為に
ゆたかが「ストーカーの説得」を試みる物と勘違いした様なのだ
そして駆けつけてみれば、パティに扮したみなみが犯行を行った後だった

「仕方なかった・・・・悪いこと・・・した・・」
「うん、田村さんには可愛そうな事しちゃったね・・・・」

状況を把握できず、やっと動いたかと思えば自首を勧めてきたひより
彼女は良い娘だった・・・良い友達だった

だが、だからこそ共犯者にはなれない人間である

「でも、生かしておいたら・・きっと喋った・・・なにもかも台無しになる・・・」
「そうだね、田村さんには悪いけど・・・・仕方ないよ・・・パティちゃんが全部悪いんだ」

ひよりはパティを味方した人間である
それは同時にゆたかの敵を意味した
ゆたかにとってはこれは事故ではなく、計画の一部・・・・・・
全ては思惑通りの出来事なのだがみなみにはこの事を知らせていない
ただ一つ確かなのは
この時のゆたかの笑顔は・・・初めてみなみに恐怖を抱かせた事・・・

「パティちゃん全部が悪いんだからね・・・・ふふ・・・」
「・・・ゆたか・・・・」

ゆたかの愛は数年の歳月を経て、別の何かへと変貌を遂げてしまっていた事など
すでにゆたか本人にも解らない・・・・・・

悲劇は未だ終わりを遂げることは無い


 ・・・・・
 ・・・・・・・・
304お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:21:09 ID:JZ+5gIWV
この日、学校を休んだのはこなただけではなかった

「ゆきちゃん、お姉ちゃん見つかった・・・?」
「いいえ・・・・いったい何処へ行かれたんでしょう・・・?」

平日の昼間に女子高生が私服で町を徘徊している
制服ならばとっくに補導されていても可笑しくなかった
それを見越しての私服での行動だ

あの日、みゆきに罵倒されたかがみはそのまま姿を消してしまい
翌日につかさはみゆきに連絡してきたのだ
何故翌日かというと

その日一度かがみは帰宅しているからである
両親や姉の話では思いつめた表情でずぶ濡れになって帰宅したと思ったら
部屋に篭りきって出てこなかったらしく
時間通りに帰宅したつかさがドアの外から問いかけても返事が無い
変に思ったつかさはかがみの部屋の合鍵を使ってドアを開けて見たのだが
中には姉の姿が無かったとの事だった
それが・・今日の朝という訳である

不安に思ったつかさはこなたとみゆきに連絡したが、こなたは電話に出ないらしく
みゆきと二人で町の中を探し回っていると言う訳だ

すでに家族は警察に連絡しており、学校にもこの事を知らせていたのだが
昨夜の事件のせいで学校はそれどころでは無い様だ
立て続けに事件を起こす生徒を疎ましくすら思う対応を向けられた柊家は
そんな事はお構いなしに一家総出でかがみを捜索している
もちろん警察も一緒だ

「一年の子達の事件と関係有るのかな・・・・・」

つかさの意外な一言・・・・
予想外の勘の良さにみゆきは少し戸惑ってしまい、しどろもどろの返事を返す

「それは解りませんが、きっと大丈夫ですから・・さあ、かがみさんを探しましょう・・・」
「・・・うん・・・・」

一言で町といっても埼玉は広い
電車で東京にでも何処にでも行けるのだから探しようなど無いに等しいのだ
305お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:21:34 ID:JZ+5gIWV
だから二人はありとあらゆる思い出の場所を探した
秋葉原も行ったし近くの公園も行った、花火を見に行ったあの場所も
花見に行った公園にも足を運んだ・・だが、かがみの姿はどこにも無く
時間だけが過ぎていく

すでに時間も遅くなり周囲は夜へと染まりかけ
二人は一度家に戻りかがみが見付かっていないか確認する事にした

「きっと見付かっていますよ・・・・」

みゆきの必死にも思える慰めでなんとか持っているつかさの精神状態も限界に近く
つかさの小さな胸に諦めにも似た感情がわき始めた頃
携帯電話に着信・・・・電話の主は母・・・

「かがみが・・・・見付かったわ・・・・」

その声は酷くか細い

電話の時点で家まで既に100余メートル
今までの人生でこれほどまでに走った事は無いと言わんばかりにつかさは走る
みゆきもそれに続いて走った・・・その口端はうっすらと笑みを浮かべ、それを堪える

かがみが見付かったのは神社の境内の裏・・・・
御神木が祭られている広場から僅かに数メートル離れた木の・・・・・上である
無残にも皮の剥がれた枝には何十にも巻かれたロープが縛られており
長く細い自分と同じ色の髪の毛が絡まっている

そして・・・・・・

「・・・・お・・・姉・・・・ちゃん・・・?」

変わり果てた姉の姿・・・

首は有らん角度に曲がり、目を虚ろわせたかがみがつかさを睨んでいる
木の枝で出来たであろう無数の切り傷は雨風にさらされてその衣服からも覗き出て
すでに虫が集っていた

健全だった頃はその健康的な美しさを誇った美脚や胸も惜しげもなく露にされており
今では見る影も無いほどに朽ち果てて、下着は糞尿によって異臭を放ったまま
家族や警察など無数の人間の前に恥じらいも無くその肌を晒す

『お似合いの最後ですね・・・』

みゆきはハンカチで口元を多い、目を伏せるふりをして・・・その姿を嗤った・・・・・
しかし、そんな事など誰も気づきはしない・・・・

この状況である・・・・・
306お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:22:03 ID:JZ+5gIWV
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!?」
「いけません、つかささん!」

咄嗟に姉に駆け寄ろうとするつかさをみゆきが制す
木の傍らでは姉や母達が涙を流して地面に突っ伏し
父親はそれを必死で慰め、落ち着かせながら涙を流す

みゆきの胸が痛まないでもない・・・
だが、事はすでに起こってしまったのだ
どんな事をしてでも手に入れたいものが、この世にはある

検察がかがみの死因を入念に調べている最中、
みゆきは自分の愛撫に答えるつかさの甘い声を想像していた
その想像も異臭によって掻き消された
目の前にはかつての友人の変わり果てた醜態・・・・・・

その虚ろな瞳はまるで・・・・泣いている様に・・
これで全てが終わったことを安堵しているようにみゆきの目にはそう映っていた・・・

 ・・・・・・・
307お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:22:57 ID:JZ+5gIWV
数日の内に柊かがみの葬儀が行われたのは
皮肉にも神社の境内である

こなたは引っ張り出した喪服を着て、かつての親友の家へと出向いていた
ゆたかは田村ひよりの葬儀に出ている
同じ日に二人の友人の葬儀・・・・・・何とも切ない心境

「こなちゃん・・・・」
「つかさ・・・・大丈夫・・・・?」

泣き明かしたであろうつかさの瞳は腫れており
目の下には大きなクマが出来ているが、つかさはそんな事お構い無しにこなたに近寄る

「こなちゃん・・・・帰って・・・・・」
「つかさ・・・・?」

突然の拒否に胸を痛めるこなた

「こなちゃんがお姉ちゃんを殺したんでしょ・・・・」
「・・・・・かがみを私が・・・・」

「だって、お姉ちゃんはこなちゃんと変になっちゃって・・それで!!」
「そんな・・酷いよ、つかさ・・・」

次第に大きくなるつかさの声
情緒不安定なつかさは地面に突っ伏して泣き始める

「ああ、つかささん・・・大丈夫ですか?泉さんも気を悪くしないで下さい・・・」
「・・・みゆきさん・・・」

「ゆきちゃん、なんで?こなちゃんが悪いんだよ!?」
「いけませんつかささん、泉さんのせいじゃ無いですよ・・・・」

そうだ、これはみゆきとゆたかの策略なのだ
『ひょっとして、ゆたかさんはこうなる事を予測して・・・・・』

「だって、そうじゃ無かったらなんでお姉ちゃんが・・・・・・」
「つかささん落ち着いて下さい・・・・・」
『まあ、私には関係ない事ですね・・・』

一応確認する必要は有るかも知れないが
どの道この状況をなんとかしなければならない

「こなちゃんのせいだよ!こなちゃんが悪いんだ!」
308お漏らし中尉:2008/08/13(水) 01:23:18 ID:JZ+5gIWV

つかさの大きな声が周囲の注目を集める
邪魔者が消えた今、無駄な騒ぎは起こしたくない

『この場は仕方ありませんか・・・』
「泉さん・・・申し訳ありませんが・・・・」

どうやらこなたがこの場にいる限り、つかさは落ち着きそうに無い
そう思ってのみゆきの言葉にこなたは寂しそうに頷く

「うん・・・また今度にしとくよ・・・」

バイトの同僚は後輩を殺して逮捕され
一番の親友は自分のせいで自殺・・・・そしてその葬儀にもでる事を許されない
今のこなたは惨めな気持ちで押し潰されてしまいそうだ
悲しすぎて涙も出ない

一体この先どうすればいいのだろうか・・・・?
こなたはぼんやりと家路に着き、慣れた足取りでいつもの道を歩いていく
涙で前が見えなくなっても道なりが判るのは、ここが自分が育った街だからだろうか?
こなたはでそうじろうがいない自宅に無感動に帰宅する
そうじろうは編集の人と一緒に取材旅行へと出かけているのだ
したがって暫くはこなたとゆたかのみの生活である

誰もいない家がこなたの気持ちをさらに暗くした
こなたは喪服のまま、自室で枕を抱いて大声で泣き喚く

「うわあああああああああん、かがみいいいん!かがみいいん!!」

不仲のままで散っていった親友
なぜ一言も相談無しに自殺などしたのか・・・・・
自分達の関係は親友より、もっと特別なものだと信じていたのに
一体どうしてこんな事になってしまったのだろう

こなたは全てを悔いた
強引にでもかがみに詰め寄っていればこんな事にはならなかったんじゃないだろうか?
後悔の念が全てを支配した

 ・・・・・・
309お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:06:10 ID:JZ+5gIWV
「高良さんすまないね、手伝ってもらって・・・」
「いいえ、かがみさんとは親しくさせてもらいましたから・・・・」

「そうかい、かがみもきっと喜ぶよ」
「・・・・そうですか・・・」

ただおはみゆきを信じきっている
かがみの親友であると信じきっているのだ

「それにしても・・・なんでこんな事に・・・」
「・・・・・・・・・」

かがみの葬儀も一段落つき、つかさも落ち着いた
人が死んだというのに残された者たちは多忙を極めるこの時間は
もしかしたら悲しみを忘れる為のものなのかも知れない

「かがみは・・・真面目な良い子だったんだよ・・・・」
「・・ええ・・・・」

みゆきの心にある種の緊張が走る

『もしも・・・・この場で、かがみさんの秘密を喋ったら・・・どうなるんでしょう』

言い知れぬ高揚が下腹部を刺激した
きっとただおは目をむいて「嘘だ!」と騒ぎ立てながら命を絶つか
はたまた発狂するのか・・・

『喋ってしまいたい・・・・ばらしてしまいたい・・・・・』

「高良さん・・・どうしたんだい?何だか、楽しそうな顔をして・・・・」
「え・・・・・?あ、いえ・・・不謹慎ですよね・・・思い出に浸ってしまって、つい・・」

「そうか、いつまでも楽しい思い出の中にあの子を・・・・・・頼むよ・・・」
「・・はい、解りました・・・・」

『きっと、この優しそうなお顔が絶望に打ちひしがれて・・・ああ・・・見てみたい・・・・きっと素敵に違いありません・・・』

父親と姉を失ったつかさはきっと自分のところに助けを求めるに違いない
そうだ、それに家族が生きている限りつかさには別の居場所が存在するのだ

『なるほど・・・そういう事ですか・・』

みゆきは昼間の出来事を思い出す
つかさに拒否されたこなた・・・・・きっと、ゆたかの仕組んだ罠にまんまとはまったのだ
こうやって少しずつ相手の居場所をなくして行き・・・そして・・・

『ふふ・・・でしたら、躊躇う事などありませんね・・・』

みゆきは周囲を見回した後、ゴクリと生唾を飲んだ・・・・・
そして静かな声で話を切り出す

「おじ様・・・・・お話があります・・」

  ・・・・・・・
310お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:06:31 ID:JZ+5gIWV
みゆきはただおを連れて
検察のチョークやかがみの名残の有るあの木の下にやってきた

「・・・・なんだい?高良さん・・・」
「・・・・かがみさん・・・娘さんが死んだ理由・・・知りたくないですか?」

ただおの温厚な顔に鋭い影が落ちる

「・・・・・理由・・・・かがみが死んだ理由を・・・?」
「・・ええ・・・しかし、その話はあまりにも刺激が強いものになりますが・・・・」

「君は知っているのかい?」
「ええ・・・」

みゆきはただおの目の前にあの写真をかざす
そう、あの日ゆたかが自分にした様にしてみせた様にだ

「・・・・・・!?」

ただおは一瞬にして声を失ってしまった

「どうでしょうか?娘さんの秘密のお話・・・・・」
「・・・かがみが・・・・そんな・・」

「かがみさんは援助交際に手を染めていらしたんです・・・・」
「・・・あの子がそんな事・・・・」

ただおは一瞬にして精神的なショックを受ける
その衝撃は多大なものだ

「私はその相談を受けまして・・・・」

みゆきは淡々と有りもしない会話をでっち上げ、ただおの心を破壊しようと試みる
しかし、そんな話もこの男には届かない
ただおは頭を抱えて「かがみ・・かがみ・・・」と目を剥いて声を絞り出すだけだ

『お父さん〜ほらほら可愛いでしょ〜』
ツインテールの少女は今年から幼稚園だ・・・・
双子のつかさと区別する為に始めた髪形も気に入ってくれて良かった・・・
「ああ、可愛いねかがみ・・・」

『大きくなったらお父さんのお嫁さんになってあげるね〜』
「ずるいよ〜つかさもなる〜」
双子の娘に囲まれて、父親である幸せを感じた日々
この子達が嫁に行くのを想像して少し涙が出そうだった
「はいはい、二人ともありがとう」
311お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:07:22 ID:JZ+5gIWV

『ただいま!お父さん、私達合格したよ!!やったよ!!』
「わーい、お姉ちゃんと同じ高校だよ〜!」
無邪気に戯れる二人の娘も既に高校一年生・・・・
時が経つのは早く、そして成長する二人を見るのは喜ばしい事だ・・・・

『・・・・・・・・・・・・・』
かがみは・・・・境内の木陰から私を睨んでいた・・・・
その瞳は物言わぬ人形のような・・・・
私には、あの子に何かをしてあげれる様な力は無い・・・・
どうして援助交際なんか・・何故自殺なんか・・・

どうして・・・・・

「ですから・・・かがみさんは自ら命を絶ったんではないかと・・・・」
「そうか・・・うん・・そうだねかがみ・・・そうだね・・・・・」

先程まで聞こえていたただおの嗚咽は既に聞こえない
その代わりに、ただおの瞳は何かを失った様に怪しく光る

「・・・・・どう・・・なさったんですか・・・?」
「娘がね・・・言ってましたよ、高良さんは真面目で・・・優しい、良い友達だって・・・」

「そ・・そうですか・・・・・」
「生前は・・・娘がお世話になって・・・」

徐々にただおとの間隔は狭くなり、みゆきの背中には木の湿った感触が触れる
何故か体が逃げるのだ・・・
何か危険な感じがするのだ

「やめ・・・」

みゆきが声を上げようとした瞬間、ただおの両手が華奢な少女の首に絡みつく

「あ・・・・く・・・・・」
「かがみはね・・・寂しがりやなんですよ・・・」

みゆきは抵抗するが、大人の男性と少女では力の差は圧倒的だ
徐々に絞められる気道・・・・頚動脈の拍動が遅くなっていくのをハッキリと感じる

「た・・・・す・・・・け・・・」
「きっとあの子も喜んでくれますよ・・・・高良さん・・あの子と仲良くしてやって下さい」
312お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:08:22 ID:JZ+5gIWV

薄れ行く意識の中でいよいよ視界はぼやけ始める・・・・
誤算から生じた、自らの死・・ひょっとしたらこれもゆたかの策略の内だったのかもしれない

『・・・・結局・・私はつかささんと一緒にはなれませんでした・・・』

もしかしたら、あの日ゆたかに声を掛けられた時から
こうなる事が決まっていたのかも知れない

視界がノイズの様にチカチカと点滅し始めた
ブラックアウト・・・と言うも奴だろう
しかし、この知識を他人に話すことはもう無い・・・

体の力が抜けて、股間に生暖かい液体が走る
失禁だ・・・・
そういえば首吊りや絞殺などでは膀胱の調節不全や
尿道の括約筋が弛緩してしまうと何かで読んだ事が有る

いくら死に際だからといってみゆきは恥じらいを感じた
しかしただおは暴れるみゆきをさらに締め上げると後頭部を木に何度も叩きつける
その度にスカートを濡らした飛沫は足を伝い
美しい白い足を汚物で汚していった

頭にジンジンと電気のような感覚・・・
ぬるりとした血液がみゆきのうなじを伝って背中を紅く染める
視界が遠のいていくのを感じた

『・・・・かがみさん・・あなたもこんな風に苦しんだんですか・・・?』

みゆきが最後に見た光景は・・・・・

ただおの後ろで嘲る様にして笑う、今は無き友人の・・・・柊かがみの顔
一瞬強い風が吹き木々に絡まったかがみの髪の毛がみゆきの頬を掠め

そして何かが折れる様な、小さな音と共に少女の意識は完全に消える

『みゆきも・・・こっち側ね・・・一緒に・・・しよ♪』

ざわざわと鳴る木々の隙間から、かがみの声が聞こえた様な気がした・・・・・

 

  ・・・・・・・・・・
 
313お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:11:25 ID:JZ+5gIWV
路地裏
真っ暗な路地裏にその少女はいた
金髪のカツラを被り、使い慣れない右手には真赤な包丁を握り締めている

「はあ・・・は・・・はあ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

ぬるりと生暖かく滴る血液は、過去いかなる記憶を遡ってみてもその感触に勝る不快感は無い
息を荒げる少女は目の前の死体から目を逸らせずに鼓動が収まるのを待った

『みなみちゃんは、ただ私のお願いを聞いてくれるだけでいいの』
「・・・・・ゆたか・・」

何時からだろうか、親友である小早川ゆたかが悪魔の片鱗を除かせ始めたのは
一学期?二年になってから?それとも・・・・最初から?

目の前の男はただ愛しい人間に振り向いて欲しく、足掻き
伝わらないその感情を表現しようと躍起になっていた不器用な男だったはず

パティは友人で、こなたの同僚だ、たまには愚痴だって言いたくなるに決まっている
それを聞いてしまったからといって濡れ衣を着せるなんて・・・・・

じゃあ・・・私は?
私もこの男と同じだ・・・
今は宙を見つめ、愛しい人への贈り物を胸に抱きしめたまま笑顔で息絶えた哀れな男
この男と同じ・・・・・

『パティちゃんに刺されるなんて・・本望だな』

この男の最後の言葉が耳を掠める
この男は最後まで彼女を愛し、その相手に殺されたんだと信じて死んでいった
どんな形であれ、彼女に重いが届いたと信じて死んでいったのだ

「・・・・・幸せそう・・・」

真赤なドレスを纏った少女は金髪のカツラを外し、その男の瞳を
掌で優しく閉じてあげる

「・・・・・・・・・」

ったったったったったった・・・・・・・・

みなみが感傷に浸っていると暗闇に足音が響く
軽く、そして早い・・・・恐らく女の、少女のものだろう

「みなみちゃん!?」
314お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:11:51 ID:JZ+5gIWV

足音と共に聞きなれた声が体を震わせる
気配は・・・息を切らした驚愕の声を放った
声の主は眼鏡を掛けた黒髪の

かの少女・・

彼女の視線はみなみの服に付着した血液に釘付けになる

「ひより・・・・」
「どうしたんすか!?凄い血が出てるよ!」

どうやら彼女からは、男の姿が死角になって見えないようだ
みなみは一瞬安堵したが、それも束の間
駆け寄ろうとするひより
みなみは柄にも無く声を荒げる

「待って!来ないで!」
「いやいや、手当てしないとダメっすよ!」

悲痛の叫びはもひよりに届かない
このままではひよりに悟られてしまう

そんなみなみの心中に気付く事無く、一歩一歩と足を進めるひより
後戻りは出来そうに無い

「ええ!?」
「・・・・・・・・・」

みなみまでの距離は余すところ二歩・・・・
だが、ここでひよりの視界に男の姿が映った

眼を丸くした少女は地面にへたり込むかと思いきや
プレゼント箱を大事そうに抱えた男の亡骸に駆け寄る

「大丈夫ッすか!?・・・・・・・・・・!!?」
「・・・・ひより・・・・」

何やら様子が変である
どうやら、胸にある刺し傷を見たみなみは
この男性がすでに事切れている事を悟ったのだろう
さっきまで荒かった呼吸が静かなものへとなっている
先程までの空気とは一変して、冷たい汗がみなみの肌を伝った

「まさか・・・この人殺したの・・・みなみちゃん?」

振り返った彼女の眼は静かにみなみを射抜く
シンとした空気の中でみなみは一度深呼吸して、口を開いた

「・・・ええ・・・・その男を殺したのは私・・・・」
「・・・そうなんだ・・・・」

ひよりの声がくぐもって聞こえる
泣いているのだろうか?ストーカー男のために?
それとも人間を殺めてしまった友人のために?
315お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:12:12 ID:JZ+5gIWV

「ひより・・・・?」
「・・みなみちゃん・・・この人・・ストーカーじゃないんだよ・・・・」

ストーカーじゃない?
みなみはハッと息を呑むと男の亡骸へと視線を送った
そう言えば、追いかけてくる人間だったというだけで判断してしまったが
ひよりから聞いた外見とは随分かけ離れている

太ってもいないし、リュックもカラっていない
メガネもそこそこのブランド物・・・・

まさか・・・

みなみはひよりに視線を戻し、メガネの奥の悲しげな瞳を見る

「・・私の・・兄貴・・・だよ・・・・・」
「・・・嘘・・・・・そんな・・・」

「兄貴・・ずっとパティの事が好きで、今日は告白するんだって家を出たんす・・・」
「・・・だって・・・・・嘘・・・」

ひよりは男が持っていたプレゼント箱を手に取ると
中に入っているメッセージカードを取り出した

「これ・・・・兄貴の字・・・・・」

差出人の所に書かれた名前は『TAMURA』・・・・・田村である

「なんでっすか!?」
「そんなつもりじゃなかった・・・・・そんなつもりじゃ・・・・」

「なんでこんな事したんすか!?なんで殺したんすか!?」
「違う・・違う・・・・・・知らなかった・・・お兄さんなんて・・・・・・・」

みなみの脳裏に男の最後の笑顔が浮かんだ
パティに刺されて本望だと言ったあの男の優しい声が木霊する
その間にも怒りを懸命に押し殺したひよりの声がみなみを責めた

「・・・・・・・・」
「とにかく・・すぐに自首してみなみちゃん・・・・じゃないと」

「・・・・じゃないと・・・?」
「・・・・じゃないと・・・私・・私・・・・」

おそらく彼女は『お前を殺しそうだ』と続けたかったのだろう
しかし、家族を殺されたとはいえ友人だ
しかも過失の疑いもある・・・・・
争いを好まないひよりは人道的な方法でみなみに罪を償わせようと考えた
316お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:12:38 ID:JZ+5gIWV

だが、ここでみなみが逮捕されれば
おそらくゆたかにも危険が及ぶだろう
人が死んでいるのだ、みなみが口を割らなければ済む問題でも無い


「さあ、一緒に警察に・・・」
「出来ない・・・・・」

「え・・・・・?」
「ゆたかの為なの・・・・」

そして、ゆたかを救うべく彼女が取った行動は・・・
残酷なものだった

ドン・・・・・

先程まで感じていた友人同士の距離
安全だった筈の間合いは一気に近付き『0』になる

「・・・・ごめん・・・」
「・・あ・・れ・・?みなみ・・・・ちゃん?」

みなみはそのままひよりを壁に押し付けるようにして
少女の体に刃をねじ込んでいく
ギシギシと肋骨がゆがみ肉が千切れる嫌な感触を感じながら
みなみは両手を血で染める

「ゆたかの為・・・ゆたかの為・・・ゆたかの為・・」
「ああ・・・・・?あ・・・あああ!!ああ!!」

ひよりは言われもない痛みに眼を剥きながら
声にならない声を上げる

みなみはその刃を引き抜くと、そのまま後ろへと血液の帯を振り払った
既に二人の少女の体は真赤に染まっており

現状を把握しきれないひよりは、痛みが走った方に目を向けて
そのまま倒れこんだ

「・・・なんすか・・・これ・・・・・?」

現状を把握できないのはみなみも同じだった
まるでゆたかの魔法に掛かったかのように体が動いたのだ
意識を残したまま体を乗っ取られたような感覚・・・・・

目の前には瀕死の少女・・・・
317お漏らし中尉:2008/08/13(水) 02:13:41 ID:JZ+5gIWV
とめどなく溢れ出る鮮血を両手で塞ぎ
必死に考えを纏めるが到底答えにはたどり着けない
その視線は先程までの憎悪よりも驚愕のほうが勝っている

問いを仰ごうと友人であるみなみへと視線を向けたが
返ってくるのはみなみの困惑の視線と・・・

「何で・・・泣いてるんすか・・・?」

大粒の涙・・・

「お兄さんにも・・ひよりにも・・・後でちゃんと謝るから・・・・・きっと・・・」
「・・・兄貴・・・・・」

「ごめん・・・・きっと、全部終わったら謝るからね・・・・」
「・・・・絶対・・・すよ・・・・?」

『みなみちゃん・・早く田村さんを殺してよ、さあ・・早く・・・早く・・・早く』

みなみの頭の中で悪魔の声が響いた
悪魔はゆたかの声をしている

『早く・・・早く・・殺して・・邪魔ものを・・・殺して・・私のために・・早く・・早く・・・』

「う、うわあああ!!」

かつての同級生は何かに取り憑かれたかのように苦しんでいる

この状況はなんだろう・・?

昨日までは何事も無く過ごしてきた
それなりに幸せだったひよりの学生生活
沢山友達も出来たし、面白かった
今ここで死んでも御釣りがくる程の人生だったと思う

心残りがあったとすれば

兄とパティの行く末を見守れなかった事・・・・

納期が近い原稿をまだ挙げてないこと・・・

そして

目の前の友人を救えなかった事だろうか・・・

彼女が最後に目にしたのはみなみが自分目掛けて包丁を振り下ろす姿
鮮血は再び地面を濡らす

ガシュ・・・・・ビシャ!

少女のチャームポイントだった眼鏡は無残に二つに割れ
命の危険を感じる間もなく彼女は事切れた
後に残ったのは二つの亡骸

月夜が照らす自分の両手には既に血の色が染み付いている

「・・・・ごめん・・・ひより・・・・・・ごめん・・・・」
318お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:09:33 ID:JZ+5gIWV
仕方が無いのだ・・・・・
仕方が無い・・・・

彼女は絵が上手だった、話も面白かった、コアな知識も豊富だった
その彼女も今では体と頭に直径数ミリの穴が開いたただの人形と化した

大きな罪を犯してしまった
許されない罪だ・・でも仕方が無い罪、・・・・・・・・本当にそうだろうか?
みなみはがたがたと踊る体を抱いて一度目を瞑り深呼吸をした後、ゆっくりと目を開ける

「・・・?」

おかしい・・・
そこにはさっきまで有った田村ひよりの死体が無いのだ

「どうして・・・」

言い知れぬ寒気が背後を襲う
辺りを見回す暇も無く
すぐに静かな息遣いがみなみの耳元を襲った・・・・

『痛いよ・・・苦しいよ・・・・・・ふふ・・ははは』
「ひより・・・・ひより・・・?」

冷たい手がみなみの首に絡みつく・・・・・

『あは・・あはは・・あはははははははははは!!』

けたたましく鳴り響く笑い声
それは・・・・それは田村ひよりの声では無い、それは・・・・・小早川ゆたかの・・・・
助けて・・・助けて・・・助けて・・・・・・・・いや・・・

「やめて!!」

大きな声が部屋に響いた

 ・・・・・・・闇・・・・・・

闇だ・・・・・・


ヒンヤリした空気は徐々にみなみを現実へと引き戻す
ここはゆたかの部屋だ
ひよりの葬式が終わった後で気分が優れなかったみなみは
泉家で少し休憩していくつもりが
どうやら眠ってしまったらしい

「・・・・・・・・夢・・・?」

そう、夢を見たのだ
ひよりを手に掛けてしまったあの日以、来毎日の様に見る夢である
319お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:10:10 ID:JZ+5gIWV


みなみはあの時のひよりの眼が忘れられない
裏切った者すらも最後まで信じようとするあの眼を忘れることが出来ない

あの時の男の眼差しに心が痛む
自分を殺めた者に大きな愛情で答えようとするあの眼差しを
忘れられない

みなみは頭に響く頭痛を鎮めようと、慣れない部屋を抜け出して
台所へと向かった

泉家のゆたかの寝室は二階のこなたの部屋の隣になる為
少女は体を引きずって階段を這い下りていく

とにかく喉が渇くのだ・・・
頭痛も定期的に訪れる罪悪感の波も、全てがみなみの細い体にのしかかり
体の自由が奪われているような錯覚

数分の闇の後、その光景はあった

「みなみちゃん?どうしたの・・・?」

やっとたどり着いた台所にはゆたかの姿
テーブルに肘掛けて、まるで待っていたかのようにこちらを眺めるゆたか
その愛らしい桃色の髪が血に染まって見えたのは錯覚だろうか?

「はい、お水でしょ?」
「・・・・うん、ありがと・・・」

ゆたかは透き通ったタンブラーに冷蔵庫から取り出した冷たい水を注ぐと、みなみに手渡す

五感にしみる水分をゴクゴクと喉を鳴らして体に流し込む
熱と罪悪感を帯びたみなみの体は一杯の水によって浄化された様だった
タンブラーをテーブルに置いて
一応の平静を取り戻したみなみは異変に気付いた
いや、違和感を感じたのだ

ゆたかは笑顔でみなみの眼差しを受けている
みなみは違和感を眼で追い、ゆたかの視線にたどり着いた後に
その違和感の正体に気付く

「・・・ゆたか・・・それ・・・・」
「へへ・・・・・気付いた?でも、ムダだよ・・・・・何をしても・・」

冷蔵庫の中に見える『アレ』・・・・・・
間違いない・・・・違和感はそれからくるものだろう
寒気を感じたみなみは重い口をやっとの思いで開く

「ゆたか・・・もう、やめようよ・・・・・・」
「どうしたの?」

体が震えているのが解る
今まで流した血はあまりにも多く
みなみの犯した罪は大きすぎた

「やっぱり、こんな事良くない・・・・・・・・」
320お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:10:51 ID:JZ+5gIWV
「・・・・・・・・・・・・・そっか、そうかもね」

「今からでも遅くない・・・自首すれば・・・・」
「・・・・・・・あはは・・・」

「ゆたか?」

聞きなれない笑い声・・・・
いや、夢の中で何度も聞いたあの笑い声だ
まさしくゆたかの声だ
その声がみなみの頭に響くと同時に今までにない不快感がみなみを襲った

「・・・げえ!?・・・・うええええ・・・・!!!」
「・・ふふふ・・・・あははは・・・・」

みなみはテーブルにもたれかかるが足も痺れだし、そのまま床に倒れこむと
嘔吐を繰り返した
まるで胃の中で大きな蛛が暴れ回る様な感覚が絶え間なく少女を襲う

「げええええええ・・・が・・・っがああ・・・・」
「どうしたのかな?みなみちゃん・・・気分悪いの?」

「ゆ・・・た・・かぁ・・・・・!?ぐうううううえええ・・・・」
「なあに?みなみちゃん?」

ゆたかは苦しむみなみの顔を笑顔で覗き込んでいる
まるで動物虐待を楽しむ異常者の様に・・・・

「・・・・・・・うげえ・・・・・ううええ・・・・・・う・・・・・・う・・・・」
「♪」

やがてみなみの体は幾度か大きく波打つと
プシィと音を出して泉家の台所を少女の小便で汚していく
ゆたかはその光景を「もお、みなみちゃんったら・・・・」と言いながらニコニコと眺めるのだ

数分後、無限とも思える苦しみが終わったあと
すでに全身の力も入らず体中が鉛の様
声を上げようにも口が動かない
それどころか眼まで霞み出す

「・・・・うううげえ・・・・ううう・・・・・・・・・・」

これもきっと友人とその家族を手に掛けた罰なのだろう
いくらゆたかの為とはいえ、やりすぎたのだ
しかし、悔いても仕方の無いこと
甘んじて罰を受けるしか無い・・・・・・・

『そう思いたい・・・・・でしょ?』

桃色の髪の少女は
みなみの諦めを敏感に感じとった
悪魔は残念そうにみなみの頬にキスをすると

金槌の鈍い音がキッチンに響き・・・鮮血がゆたかの幼顔に紅を塗った
321お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:11:57 ID:JZ+5gIWV

ゆたかとしては、もっとみなみにもがいて欲しかった様だが
事の外、諦めが早かった様だ
悪魔は立ち上がり、少女の亡骸から引き抜いた金槌を流しに置くと
表情の確認できない親友に、目一杯の笑顔で弔いの言葉を投げかける

「みなみちゃん、田村さんによろしくね♪」

その言葉を最後に・・・
今、この瞬間を最後にして
小早川ゆたかの中で
岩崎みなみの価値は消滅したのだった

 ・・・・・・

全てが計画通り
そう、計画通りに事は進んでいる

こなたの親友である柊かがみの死
計画を知った高良みゆきの死

姉を冒涜したパティへの濡れ衣は計画外だったとして
田村ひよりの暗殺に一役買った訳である

そして・・・今しがた始末した手駒、岩崎みなみ
既に息を引き取った硝子玉の様なその瞳
かつての友人の変貌にもゆたかは動じることは無い

むしろ、微笑を隠せないでいた

「お姉ちゃんは私のもの・・・」


 ・・・・・・・・・・・・
322お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:12:28 ID:JZ+5gIWV


気がつけば外は真っ暗・・・・
かろうじて見える時計の針は九時と十分を挿している
どうやら知らない内に眠ってしまったようだ
一階には人の気配・・・おそらくゆたかであろうが下に降りる気にはなれない

が、変わりにゆたかの方から部屋に来た

「お姉ちゃん・・・起きてる?」
「・・・・うん・・・・・」

心なしかゆたかも元気が無いように見える・・・
そういえばひよりの葬式に行っていたのだから当たり前といえば当たり前である

「ご飯が出来てるけど・・・・食べる?」
「・・・・うん・・・・・食べようかな・・」

忙しくても、悲しみの最中でも、ゆたかが作ってくれた夕食だ
食べなければ従姉妹として失格だ

それに・・・・泣き疲れて空腹、悲しむのにもエネルギーがいるなんて
人間の体は本当にもどかしく出来ている

そうこう考えていると、目の前にスプーンが差し出された
水面が震えるそのスープからは何やら芳ばしい香りが漂ってくる
病人でもないこなたは自分で食べようかと思ったが
せっかくのゆたかの好意だ・・・素直にその好意を受け取ることにする

「さ・・お姉ちゃん」
「・・・あは・・・・なんか昔とは逆の光景だね・・・」

昔、ゆたかが熱を出して床に伏せていた時
こうやってこなたがご飯を食べさせたことがあった
その時はこんな暗い状況じゃなかったが
あの幼い日の事が何故か思い出された

ズズ・・・・

「・・・・どう?」
「・・・・・・」

丁度良く冷まされたスープからは程よい塩気と出汁の味
多分肉をベースにして野菜と少量の調味料であっさりに仕上げているのだろう
コンソメが嫌いなゆたかなればこその味付けだった
323お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:12:50 ID:JZ+5gIWV

「ゆーちゃん、美味しいよ・・・・」
「えへへ・・まだまだ有るからね♪」

いつもなら物足りなく感じる味付けも
極度の悲しみから来る口の渇きには優しく染み渡り
自分の体に血が通った気がした

「はい、あーんして」
「あー・・・ん・・・」

こんな状況だからこそ、この風景に気持ちが和む
スープ皿の中身を全て平らげた後、「もう少し食べたいな」と
こなたが甘えてみるとゆたかは「うん♪」と頷いて
もってきた鍋の蓋を取る・・・・

鍋から湧き立った湯気は、その香りで部屋を覆いつくす
なんとも幸せな気持ちにしてくれた
幸福な気持ちだった
少しだけだが、満たされた気持ちだった
ゆたかが・・・・・スープ皿にのった『アレ』を笑顔で差し出すまでは・・・・

「・・・ひいい!!?」
「・・・・?どうしたの?」

こなたは目の前のそれを見て思わず悲鳴を上げてしまった

「ゆ・・ゆーちゃん・・そそ・・・・それ・・・それって・・ててて・・」
「それなんて呼び方は失礼だよ〜、今まで育ててくれた人の・・・・・」

「いや・・・うそ・・・・・・・いやあ・・・・・」
「大切な利き手なんだからさ♪」

こなたは思わず目を覆った
まるで胃液が逆流してくるようだ

こなたは先程口にしたそうじろうのスープを全て吐き出してしまう
「げえええええええええ!!」と咳き込む姉を
ゆたかは心配そうに眺めたが
こなたの憎悪の視線を受けた瞬間、その表情は消えてしまう
324お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:13:14 ID:JZ+5gIWV

さっきまでの優しさが見られないゆたかの目
それは今までに見た事のない従姉妹の表情

「おじさんがね、取材旅行に行ってるなんて嘘なんだ」
「・・そんな・・・・・いやあぁ・・・」

ゲホゲホと咳き込むこなた
胃液は口を伝い、手に糸を引いている

「おじさんね、死んじゃったんだよ?」
「なんでこんな事するの・・・」

少女は今だ信じることの出来ないこの状況で
なんとか正気を保つ
気を抜いたら狂ってしまいそうなこの世界で
こなたはマトモであった筈の現実にしがみ付く
いや、今のこの状況を否定したかった

「なんでって?」
「なんでこんな酷いことするの!?」

「だって、おじさんったらお姉ちゃんで・・・その・・アレ・・・・」
「・・・?・・」

「お・・・お・・オナニー・・・・してたんだもん」

ゆたかはとても恥ずかしそうにその言葉を搾り出す
人の命を何とも思わない少女とは思えない程、うぶである
が、それゆえ純粋なシリアルキラーの素質があったのだろう

そして、それを聞いたこなたも驚きを隠せなかった

「おじさんったら・・お姉ちゃんの事、そんな目で見てたんだよ?」
「・・・・だからって・・・・」

ゆたかは思い出し、その光景が蘇る

とある夜に見てしまった最悪の光景・・・・

父親であるはずのそうじろうが実の娘であるこなたの写真と下着で自慰行為に励んでいるその姿

「私だって驚いたんだから・・・・おじさんがあんな下衆だったなんて・・・」

そうじろうは洗濯物かごから抜き出したであろう
いまだこなたの匂いがする下着に口を付け
大きく息を吸って愛娘の体から湧き出た分泌物を味わい、その香りを堪能した後
下着でそそり立った悪根を激しく包む

「お姉ちゃんだって、うすうすは気付いてたんでしょ?」
「・・・・」
325お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:14:00 ID:JZ+5gIWV

「だって、お風呂やトイレの隠しカメラもお姉ちゃんの下着が消えるのも・・・・」
「・・・・・」

「知らないうちに出来たお姉ちゃんの体の赤い虫刺されも・・・・・・」
「・・やめてよ・・・・・・」

「全部この男が犯人だったんだよ?」

こなたの前にそうじろうの手首から先が投げ捨てられる
ビチャッ・・・と音を立ててベットに転がる見慣れた手
これはその汚れた左手だ

「おじさんたら『こなた、こなたぁ〜』って何度もお姉ちゃんの名前を呼びながら左手を動かしてたんだよ?」
「やめてよ・・・聞きたくないよ・・・・・」

「お姉ちゃん、この前凄く眠いって言ってすぐ寝ちゃった日が有ったでしょ?」
「・・・・・・」

「あの日、お姉ちゃん・・・・おじさんにレイプされそうだったんだよ?」
「・・うそ・・・うそうそ・・・・!!やめてよおお!」

「おじさんがお姉ちゃんのお茶にね、お薬を入れてるの・・・見ちゃったんだ・・・・・」
「・・やめてやめてやめてやめて!」

こなたは耳を塞いで目を瞑るが、ゆたかの声が消えることは無い

「おじさんが死んだのはこの部屋なんだ・・お姉ちゃんのお腹の上で白目向いちゃってさ・・・・
 だってあんまりキモぃ顔でお姉ちゃんの体を嘗め回すもんだから・・・・・
 思いっきり金槌で頭を殴ってやったの♪そしたら、『助けて!誤解なんだ!』だってさ・・・・・」

ゆたかは少しだけ唇の端を上げ、恍惚とした表情でこなたに近付く

「私、頭にきちゃって何度も何度もおじさんの頭を殴ったんだ・・・・そしたら、頭に穴が開いちゃって
 気がついたらお姉ちゃんの上でおじさんが死んでたんだ、お陰でしょーこ隠滅が大変だったんだよ?」

最後まで言い終えたゆたかは
こなたに密着した形でキスをせがむ

「私はお姉ちゃんを守ってるんだよ?だーい好きなお姉ちゃん♪」
「・・・・・うう・・・・・」

「ねえ、お姉ちゃん・・・私の恋人になってよぉ」
「・・・・・・・」

しかし、こなたからの返事は無い
それどころかこなたの表情は正気のそれではなかった
少女は自らの髪を引き抜き、時折嗚咽交じりに「お父さん、お母さん」としきりに呟いている

「おねえちゃん?寂しいんでしょ?私がいるよ?」
「・・・・ひいぎぃ・・・・・・いいいいいい!!」

ぶちぶちぶちぃ!
ベットは青く、長い髪で覆われていく
やがてそうじろうの汚れたその手も、こなたの髪に包み込まれて見えなくなる

「おねえちゃん!やめて!!」

326お漏らし中尉:2008/08/13(水) 03:24:35 ID:JZ+5gIWV
愛しい人の突然の変貌にゆたかはこなたの両手を掴み
その行為を止めさせる

「お姉ちゃん!・・・・お姉ちゃん・・?」
「・・うう・・・・・ぐすぅ・・・・」

「・・・・・・・・・・?」

いつの間にかこなたの瞳は正気に戻っていた

「ゆーちゃん・・・私、どうしたらいいの?もう、生きていけないよ・・・」
「何言ってるの?お姉ちゃんには私がいるじゃない?」

「お母さんも・・・かがみも・・ひよりんも・・・お父さんも死んじゃって・・・・・・・・」
「・・・え・・・?」

「パティも・・・つかさも・・・みゆきさんも・・・皆私から離れて・・・・・」
「・・・私が・・・・・」

「んんんん・・・・んんんんんん!!」
「・・・お姉ちゃん!?」

こなたの様子が急変した
垂れたその目を大きく見開いて、何かを必死に訴えている様だった
そして、次に瞬間

ブチイ・・・・ゴボン・・・・・・

「!・・・ごほおお・!?・・ぎょおおお・!・・げえ・・げええええ!!・・・・」
「!?」

ゆたかはハッとしてこなたの口を強引に開く
・・・そこは真赤に染まっており、血液の泡がこなたの口端から流れ出てきた

こなたは舌を噛んだのだ
この耐えられない現実から逃れる為に、こなたが最後にとった行動は
自らの手で命を絶つ事だった

だが、この方法はあまりにも壮絶な苦しみを伴う
咽頭に詰まった舌の根が少女を苦しめている
こなたは文字道理もんどりをうちながら、ゆたかの体を振り払うと
部屋中の壁に爪あとを残していく
327お漏らし中尉:2008/08/13(水) 04:00:07 ID:JZ+5gIWV

「・・・・んんんんん・・・・げえ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

喉を掻き毟り苦しみから逃れようとするその姿、ゆたかにはどうすることも出来ない
悪魔と化した筈のゆたかの瞳には、涙がとめどなく溢れ出てくる

そして、血走ったその瞳を剥きながら床に倒れこむこなた
既に苦しみのあまり部屋中で失禁を繰り返しており
床からは異臭が立ち込めている

「・・・・・・・・ご・・・・・げ・・・・・・」
「・・・お姉ちゃん・・・・こなたお姉ちゃん・・・・・・」

散乱した部屋の中
虫の息のこなたを膝枕するのはゆたか・・・・
ゆたかは涙を流し続けたまま、こなたの顔を自分の服で綺麗に拭う

「・・・こんなになって・・・・・・こんなに傷ついて・・・」

いつの間にか優しさを取り返したゆたかの声は
苦しみの果てにたどり着いたこなたに、どう聞こえたのだろう?

「どうしてこんな事したの?どうしてこうなっちゃったんだろ・・・・?」

こなたは最後の力を振り絞ると
ゆたかの手を握り締める・・・それがこなたの最後の答えだった・・・・・

少女はゆっくりとその瞳を閉じて
眠りにつく

「お姉ちゃん・・・おねえちゃん!?・・・お姉ちゃん!!・・・」

こうして、可愛そうな少女の一生は・・・・幕を閉じたのだった

「・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・・?また・・・私を置いていくの・・・・?」

こなたは自分を必要としなかった
自分以外の人間の名を呼んだ

ゆたかには、それが理解できない
何故?どうしてだろう?
こなたの顔を見て思い出すのは、夕暮れの道なり
涙でぬれたゆたかの手を、そっと握り締めてくれるこなたの手は
あの日と同じ優しさを秘めていた


「・・・お姉ちゃん・・・・わかったよ・・・・・」


 ・・・・・二日後・・・・・・・
328お漏らし中尉:2008/08/13(水) 04:00:29 ID:JZ+5gIWV
つかさは泉家の前にいた

「・・こなちゃん・・・また電話に出ない・・・・」

こなたと連絡が取れなくなってすでに二日が過ぎてしまった
姉の葬式の日、取り乱した自分はとんでもないことを口走って
折角姉の弔いに来てくれた親友を傷つけてしまった

『こなちゃんのせいだよ!こなちゃんが悪いんだ!』

今思えば、なんと酷い事を言ってしまったのか
こなたはただ悲しんでいたというのに
こなたに謝りたかった、仲直りしたかった
それに、こなたなら行方をくらましてしまったみゆきの居場所を知ってるかもしれないし
そうでなくても一緒に探してくれるはずだ
なんにせよ、今のつかさにはこなたしかいなかった

「都合の良い話かもしれないけど・・・・・・でも・・・」

少女は様々な覚悟の上、呼び鈴に手を伸ばす

ピンポーン♪


・・・・・・・返事が無い

ピンポーン♪・・ピンポーン♪・・・・・ピンポーン♪

「・・・?いない・・・のかな?」

つかさは何となく不安になってこなたの部屋の窓を見るが
部屋の明かりは消えたままで何の反応も無い
もしかしたら出掛けているかも知れない
そう考えるのが自然なのだが、何故かそうは思えなかった

それは何となく感じる気配のせいかもしれない
とにかく『いる』感じがするのだ
329お漏らし中尉:2008/08/13(水) 04:00:56 ID:JZ+5gIWV

つかさは何となくドアに手を掛けてみる

ギイイイイ・・・・

ドアの軋む音

「開いてる・・・やっぱり誰かいるんだ・・・・・」

ドアは無機質な音を立てながら泉家の入り口を開放した
中から何ともいえない臭気が立ち込める
もう、何年も人が使っていないような・・・・・不思議な・・・そして不気味な感覚が頬を掠めた

「・・・うう・・怖いよ・・・」

しかし、つかさは何度か深呼吸した後再び、この家に踏み込む覚悟を決める
いつもならここで引き下がるのだが、今はなんと言っても非常事態・・・だと思ったのだ

「おじゃましまーす・・・・」という声もまるで闇に吸い込まれるかの様にして
廊下につかさの足音が響く

 ・・・ボソボソボソ・・・

「え!?」

今、確かにだれかの声が聞こえた気がしたのだ
つかさは涙目で辺りを見回した、いつの間にか鼻水も少し垂れている

「・・ふううう・・・・こ、こなちゃん?・・ぐす・・・・」

不安の中兪人の名前を口にしてみるのだが

 ・・・・・・・・

返事は無い
恐る恐る足を進めるつかさ・・・階段まで差し掛かったところで
何かの気配を察する
台所に誰か立っている気がしたのだ
それは点滅する蛍光灯に見え隠れする岩崎みなみの姿

「・・みなみちゃん?」

見ればみなみは2回を指差して悲しそうな顔をしていた
まるで何かを懇願する様なその眼差しも、二回目の電気の点滅で幻だと解った
それとほぼ同時に階段から赤いボールが落ちてくる

ポン・・ポン・・・・コロコロ・・・・

それはつかさの足にぶつかって動きを止めた
330お漏らし中尉:2008/08/13(水) 04:01:39 ID:JZ+5gIWV
いつもなら気にも留めないこの感触も
この状況であれば恐怖を呼び起こす

「およよ〜!?」

がたーん!

つかさは臆病風を全開にして壁に頭を強打するが
その音も無音の泉家に響き、消えてしまった
ふと見た二階、階段の先には闇が広がっている
きっと何かがあるのだろう・・・

つかさはもう一度深呼吸をすると、今度は階段を昇り始める
踏み外さないようにゆっくりと・・一段ずつ昇る

・・・ボソボソ・・・・

「・・・・・ひい!?」

またあの声だ・・・どうやら二階から聞こえる声らしい

何度か聞いたことのある声だがどうも思い出せない
一体誰の声なのだろう?

やがて階段は終わり、見慣れた風景が目の前に広がった
歩きなれた廊下に軋む足音が何かの悲鳴に聞こえる
もしかしたら小さな小人たちを踏み殺してるのかもしれない・・・・と
つかさは心配になって床を見るが
虫一匹いなかった

「気のせいかぁ・・・」

そして、こなたの部屋の前に来た
ゆっくりとノブに手を掛けて、その扉を開く・・・

ギチギチギチ・・・

嫌な音と共に部屋から立ちこめる腐乱臭・・・・
つかさは思わず口を覆った・・・

「・・・うう・・・え・・・」

ふと下ろした視線の先にはこなたの姿
喪服を着たままの友人には、無残にも虫がたかり
その緩みきった表情は血で汚れている

「・・・げえ・・・・こなちゃ・・・・」

ドン・・・・・・

『!?』

ドサ・・・・・

331お漏らし中尉:2008/08/13(水) 04:02:14 ID:JZ+5gIWV
一瞬で視界が変わった
床に寝ている?のだろう・・・・目の前にはこなたの横顔があった
耳の後ろの辺りに違和感を感じたつかさは手を伸ばす・・
熱い様な感触・・・・・
立ち上がろうにも体が思うように動かなかった・・・
やっとの思い出目の前に持ってきた自分の手を見て、つかさは驚く

「・・・・・血・・・・・?」

疑問を解消する為につかさは体を捻り
後ろの様子を伺う・・・

そのには真赤な髪をした小早川ゆたかが立っていた
少女は悪魔の様に笑っている

つかさは一瞬安堵の表情を浮かべると助けを求めるようにその笑顔を見上げたのだが
次の瞬間、思いもよらぬ言葉

「お前のせいだ・・」

グシャ・・グシャ・・・・ガシュ!

つかさの意識はその言葉と何かが砕ける音を最後に・・・途切れた

「お前がお姉ちゃんを傷つけたから・・・お姉ちゃんは・・・」



 ・・・・・・



血に塗れた少女たちの大きな墓標は真っ赤に燃える夕日に染まり
木々や地面、空さえも朱色の中に浮かび上がる
鳥も雲も今日一日の仕事を終えてしまい残ったのは家路に着く子供たちの声
「また明日ね」、「ばいばーい」と大きく手を振る子供達にまぎれて

血塗られた

少女の声がこだました



「・・・・お姉ちゃん・・・・・・・・まってよ・・・・・・」


END
332お漏らし中尉:2008/08/13(水) 04:04:24 ID:JZ+5gIWV
なんとか完結です
途中 規制を4回も受けましたが
バッカーノを6話も見て頑張りました
そしてなんとか終わり

途中でコメをくれた人ありがとう!

一周年おめでとう!
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 04:34:09 ID:HfBvR1x7
>>332
まじ乙です!!
一気に読めてよかった
こなた凄く可哀想…


そしてスレ1周年おめでとうです
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 07:02:44 ID:E+Y5T4QG
>>282
アンバサwww懐かしいww
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 10:09:24 ID:22qbaywK
>>322
長編乙
つかさだけは生き残ると思ってた俺涙目

もう一年経ったのか、アラバマが光臨してた頃が懐かしいな
とにかく一周年おめでとう
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 17:48:27 ID:2WssFASi
>>332
こなた・自殺
つかさ・殺害
かがみ・自殺
みゆき・自殺
ゆたか・発狂
みなみ・殺害
ひより・殺害
パティ・冤罪逮捕

うむ、見事なバットエンドだった。
面白かったw
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 18:00:14 ID:fSrTmh3k
>>332
大長編乙でした
やはり読み応えが凄い

ttp://uproda11.2ch-library.com/src/11110032.jpg

ペンタブいいよペンタブ
1周年おめ
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 18:38:08 ID:zc7TrUkS
ひぐらしみたいだ。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 20:21:52 ID:UDJL0cWW
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 22:55:08 ID:j7s3OikB
漏れそう・・・トイレ行ってくる
341ゆめこい:2008/08/13(水) 22:56:44 ID:fSrTmh3k
ss出来たんで投下します
一応1周年記念ということで
規制されるまで


『ゆめこい』



彼は無言で私の手を引いて走る
身長は私の頭2つ分位上で、身体は細い
顔も凛々しく、清楚さを醸し出していて、どちらかと言うと私の好みである
私は反射的に頬を紅潮させながら彼に連れられる
彼が立ち止まった先で彼は振り向き、こう口を開く

「俺と、付き合ってくれ」

…そこで眼が覚めたんだ

「それはあんた、心底にそういう願望がある訳よ
夢ってのはそれを具現化するものだから」

さらさらのツインテールを翻しながらニヤリとかがみが笑う

「実はこなちゃんも恋したいって思ってる証拠だよ」

横からつかさが介入する
かがみとこなたが二人で話しているといつも割り込んで来る
それがつかさである
カチューシャは可愛いほど似合っている

「でも、私好きな男の子はいないよ?」
「それは恋愛妄想するほど恋に飢えているという事でしょうね」

絶えず微笑みながらやって来るみゆき
ドジな面も多いが、やたら物知りのWikipediaである
全員の意見に説得力はあるために、頑なに否定する事は出来ない
実際に、こなたは生まれてこのかた異性との付き合いが皆無だったからだ

普段はギャルゲーでフラグ等をきめ細かに頭に入っているが
それは単なるプログラムの世界であり現実的恋愛では無いことくらいはこなたにも判っていた
だからこそ、心のどこかでは恋をしたかったのかもしれない

でも、何で今なんだろう

やはり、思春期真っ盛りとか発情期とかそういうものなのだろうか
しかし、自分がオタクである立場からしてどうも恋愛感情には謙遜を入れてしまう

とはいえ、自分が一人の女である以上は男に関して興味を持ち
放送禁止のような行為に欲情を持つ
こなたは特にギャルゲーやネトゲーに関しての知識は凡人を逸する豊富さだ
エロティックな知識も相手の落とし方も心得ている
でもそれはいかんせんプログラムに制された世界だ

…と、そんな無限ループに陥る

「でも、たまにはあんな夢もいいかなって…思えてくるよ」

こなたの四角い眼が微かに輝いていた
342ゆめこい:2008/08/13(水) 22:57:15 ID:fSrTmh3k
「あーあ、こなたに先を越されそうね。私も頑張らないと」

かがみは微笑みながらも僅かな蟠りがあった
こなたに恋人が出来るというのは友人として喜ばしく祝福すべきことだが
いつものように談笑する4人に戻れる事はほぼ無い
あったとしても、こなたの彼氏というオマケが着いてくるだろう

だから、本当は反対だった
まあ、まだ付き合ってもいないのに気が早過ぎるか

つかさ達も内心そういう気持ちであってもおかしくはない
あの鈍感なつかさでも判ると思う

でも、私も信じていない訳では無い
こなたがたとえ彼氏と付き合っているとしても
私達と今まで通りに接してくれると





短針が270度位回転し、やっと放課後になった
かがみは鞄を早急に提げて教室を出る

「バイバイ日下部、峰岸」
「おぅ。じゃーな、柊ぃ」
「バイバイ、柊ちゃん」

教室に入るとつかさが待っていたかのように飛び出して言う

「お姉ちゃん、またこなちゃん夢見たんだって」
「え、また授業中に寝たのか!」
「そんな事はどうでもいいんだよ
こなちゃんね、またあの夢の続き見たんだって」
「へー、どんな?」
「彼氏と手を繋ぐ夢だって」
「じゃあ、告白はOKしたのね?」
「そうみたい」

あー先が思いやられるわ
授業中に何を妄想してるんだか
夢で終わればいいんだけど





「…駄目だ」
「だから夢だってば、お父さん」

そうじろうは真剣な眼差しをこなたに向ける

「駄目だ、許さん、ぶちのめす」
「いや、だから夢だから無理だって!」
「うーむ…ギャルゲーをやらせて3次元方向に走らせないようにしたのだが
逆効果だったか…」

そうじろうはテーブルに頭抱え込む
これでは本当に付き合いたくても無理かもしれない
343ゆめこい:2008/08/13(水) 22:57:50 ID:fSrTmh3k
「ただの夢の話だよ」
「だから駄目なんだ。要するにお前の脳が恋という病を患っているんだ
最近の男は信用出来ないからな…お父さんと結婚するならいいけど」
「ちょっ…お母さんはどうするのさ!」
「ははは…冗談だって。まあ、お前が男の夢を見るなんて
随分成長したじゃないか
だが、言っておくけどそれはあくまでも夢だからな?
現実を見失うんじゃないぞ」
「大丈夫だよ」

こなたは寝床に着いた
またあの夢を見るのだろうか
そういえば、名前も聞いていない
こなたは物思いにふけつつ眠りについた





「初めて見た時から君が好きだったよ」

唐突な彼の言葉
こなたは彼の顔を見やる

「何で…私の事が好きになったの?」
「その控えめで優しい性格に惹かれたんだ」

彼はこなたの小さな手を握る
こなたは彼に視線を合わせることすら出来ない

「でも…私達はまだ会って1週間も経ってないのに…」
「えっ…そうか…君は忘れてしまったのかな…俺の事は覚えてない?」
「…うん、ごめん」

彼は悲しそうに俯く
彼のその姿さえこなたの性欲を擽り刺激する
だが、こなたは最低限の自制心で阻止する

「あの…名前を教えて頂けます?」
「俺は…」





「そこで眼が覚めたの?」

かがみがこなたの顔を覗き込む

「うん」
「もっと早く聞きなさいよ」
「…いやぁ。でも結構格好よくて…かがみんにも紹介したいくらい」
「へぇ…そんなに格好いいなら一度見てみたいわね」

こなたは完全に恋をし始めてしまった
単に夢の中だけど
まるでメルヘンチックな話だけど
344ゆめこい:2008/08/13(水) 22:58:36 ID:fSrTmh3k
こなたの夢はこれからの何を意味するのだろう
私達が何か出来るのならサポートしたいが
いかんせんこなたの頭に入れない限りは不可能だ
こなたの夢の中の彼氏は確実にこなたを恋の道に引きずり込んでいくだろう

果たして、こなたは夢の中に逃げているだけではないだろうか
そんな現実逃避な恋より、こなたには現実世界で恋愛を深めて欲しい
それは友人としての願いである
ふと、かがみはそんな想いから思わず口にしてしまう

「こなた。もしあんたに現実で彼氏が出来たとしても
今まで通り私達と親友として付き合ってくれる?」
「え?当然だよ。かがみん達とは死ぬまで親友だよ」

こなたは素っ頓狂な返事をよこして堂々とした口調で答える

「ありがとう、こなた。約束だからね」
「うん、約束」
「…またこなちゃんの夢の話?」

つかさが割り込む
しかし、みゆきの姿は無い

「あれ、みゆきは?」
「あぁ、生徒会だよ。放課後もあるらしいから先に帰っててって言ってたよ」

すると突如、こなたがバランスを崩したのか地面に膝をつく

「ちょっとこなた、大丈夫?」
「あぁ…うん。変だな…」
「こなちゃん!ひ、貧血かな?保健室行こう?」
「いや、これくらいで大袈裟だよ…」
「でもこなちゃん…」
「大丈夫!大丈夫だから…」
「つかさ、もういいわよ。こなたは大丈夫だから」
「でもこなちゃん…」

かがみはつかさを連れて教室を出る

「つかさ、何でそんなに必死になったの?」
「…だって、こなちゃんが貧血なんておかしいもん」
「貧血なんて誰でもなるわよ」
「でもこなちゃん、顔色悪かったよ?」
「全く心配性ね、あんたは」
「だって…」

かがみの思惑通りつかさの心配は杞憂に終わり
こなたはいつもの顔に戻っていた
そしてみゆきを除いた3人で帰途につく

「今日も彼氏の夢見るのかなー」
「こなた、夢でなく現実で作りなさいよ
現実で作らないからそんな虚像の彼氏が出てくるのよ?」
「分かってるよもう…かがみんは五月蝿いな」




345ゆめこい:2008/08/13(水) 22:59:52 ID:fSrTmh3k
「なあこなた。俺って格好いいか?」

そうじろうがポーズを決めてこなたをじっと見る

「何を唐突に…まぁ、どうかな…標準よりは上かな?
うん、一応格好いいよ。お父さんを基準として」
「基準としてじゃあ丁度真ん中になるじゃないか!
これでも昔は結構モテたんだぞ?」
「昔の写真とか無いの?」
「残念ながら俺の写真集は行方不明だ。ここには無いと思う」
「そんな写真集みたいな言い方しなくても…」

ふと、こなたはある写真を探す

「ねえお父さん。赤ちゃんの私とお父さんとお母さんが写ってるあの写真は?」
「あれ、おかしいな。何処行ったんだろう」

そういえばあの写真じっくり見たことないから
お父さんの若かった顔ってよく知らないなぁ

そうじろうはそこら中の棚を探し始めた
やがて時計の短針が1を指したにも関わらず
そうじろうは延々と探し続けている

「お父さん、もういいよ。明日早いんでしょ?」
「いや、あの写真は俺が一番大切にしてきたものなんだ。必ず見付けないと」
「…んー、私明日も学校だし、寝るね?おやすみ」
「あぁ、おやすみ」

私は後ろ髪を引かれる思いで棚の中身が散乱するその部屋を去った
後ろからお父さんの姿を振り返る
何時になく必死なその姿は、今までで一番格好よく見えた
やっぱり愛し合う二人って良いよなあ





「なあ、お前は俺の事を本当に愛してるのか?」
「えっ!?いや、何をそんな…」
「答えて欲しいんだ」

彼はこなたの手をぎゅっと握る
その眼差しはこなたの揺らぐ瞳を貫いていた
しかし余りに質問は唐突過ぎた

「判らない。判らないよ…」
「そうか…本当に何も覚えていないんだな…
姿はあのままなのに、心は何処かへ行ってしまったんだな…」
「私とあなたはそんなに愛し合ってたのかな?」
「そうさ。でも俺は最悪な男だったよ…自殺したんだから」
「え…」
「その報いか判らないが、お前にも会えなかった
会えたとしても全てを忘れているという始末だ
カミサマさえも許してはくれなかったんだろうな」
「よっぽど好きだったんだね…」
「好きだったんじゃない。今でも愛してるんだ。お前の事を」
346ゆめこい:2008/08/13(水) 23:00:33 ID:fSrTmh3k
こなたはその言葉に胸を打たれ、反射的に声が出てしまう
何故だろう…これが本能ってやつなのだろうか
何だかずっと前から本当に愛し合っていたかのように思えるよ…

こなたの頬も彼の顔も微笑ましいほどに朱に染まっている

「わ、私も…」



目覚まし時計が心地よい夢の世界から、現実世界への掛橋を渡す
こなたは寝ぼけ眼で立ち上がろうとするが
どうも身体が言うことを聞いてくれない
1階に降りると既にお父さんは居なかった
もう家を出たのだろうか
まだ7時にもならないのに

こなたは鉛のように重い脚を引きずって壁伝いに進んだ
全く食欲が起きないので、とりあえず朝食は抜きにし
昼食のための弁当を詰める事にした

キッチンがかなり片付いている
まさかお父さん弁当も作らずに行ったのだろうか…

それはともかく立っているのもやっとなので
炊飯器にあったご飯を適量粧い、昨日の残りを詰め込むだけにした

今日は休んだ方がいいのかな…
だが、自分はもう受験生の身
授業に出なければ将来にも関わってくる

こういう時だけの自分の律儀さを呪いつつ
こなたは小瓶に入った風邪薬を2粒程飲んで家を出た

目眩を感じながら学校へ歩く





「おーっす、こなた…?」
「こなちゃん…?」

途中でかがみとつかさに出会う
しかし、こなたの異常は余りに歴然としており
こなたが返事がてらに辛うじて見せた笑顔さえも逆効果だった

「顔色悪いわよ?こなた」
「…ん、だ…大丈夫」
「どう見ても大丈夫には見えないよ!」

つかさが一目散にこなたに詰め寄る
こなたの顔は火照り、眼は虚ろで息遣いも荒い

「こなちゃん、今からでも帰った方がいいよ!」
「…いいよ…今日は体育ないし…第一帰っても誰も居ないし…」
「じゃあ、私が一緒に家に帰るよ!」

つかさがこなたの前に屈む
こなたは既に肩で息をしており、身体を屈していた
347ゆめこい:2008/08/13(水) 23:01:44 ID:fSrTmh3k
「じ、じゃあ私も行くわ」
「いいよお姉ちゃんは。私一人で大丈夫だから、学校に行きなよ」
「で、でも…」
「お姉ちゃんは先生とゆきちゃんにこなちゃんのこと伝えて」

つかさは今まで誰にも見せた事の無いような真摯な眼差しをかがみに向けた
あまりに頑ななつかさの言動に、かがみは安堵の顔を見せる

「…分かった。ありがとう、つかさ」

かがみはそう言うと振り返らずに学校へと駆け出して行った
つかさは意識が朦朧としているこなたを背負い、帰途についた

「こなちゃん、帰るよ」
「本当にいいのに…」
「駄目だよ。だから昨日保健室に行っておけば良かったんだよ」
「そだね、つかさの言う事聞いておけば良かったよ…」

すると、つかさはこなたの前に回って屈んだ

「こなちゃん、ほら」
「いいよ…そんな…私重いよ?」
「大丈夫。大丈夫だから」

こなたは遠慮がちにつかさに身を預ける
つかさの運動神経は如何程のものか判らない以上心配は隠せなかったが
つかさはこなたをゆっくりと持ち上げ、そのままゆっくり歩き始めた

「…重くない?」
「大丈夫だよ」

火事場とまではいかないが、つかさは今までに無い力を出してくれた

「そういえば、こなちゃん今日もあの夢見たの?」
「うん…見たよ」

こなたは夢の一部始終をつかさに話す

「素敵な話だね、ずっと愛してたなんて
私もそんな夢見たらその人のこと好きになっちゃいそうだよ」
「でも、何だかあの彼、誰かに似てるような気がするんだ
それに、本当に昔から付き合っていたみたいな…」
「こなちゃん…」

そして電車に乗り、ようやくこなたの家に辿り着いた
電車の中では流石におんぶは控えたが、それ以外は終始おんぶである
こなたはとうとうつかさの背中で寝息を立て始めた

家の場所は電車でこなたに聞いておいたので迷うことは無いが
いくら気温が涼しくても熱を持った人間を背負うと汗が出る

漸く家に辿り着いた時には
つかさの心臓が眼に見える程大きく鼓動を打ち鳴らしていた

「こ…こな…ちゃん、ついた…起きて…はひぃ…」

こなたは家の鍵を開け、急いで入った

つかさは1分程玄関で仰向けになって荒い息を撒き散らしていたが
こなたと眼が合うと直ぐに起き上がり、こなたを部屋に連れて行った
348ゆめこい:2008/08/13(水) 23:02:55 ID:fSrTmh3k
つかさはこなたをベッドに寝かせ、タオルを水に濡らして、つかさもコップ1杯の水を飲んだ
そして、つかさはこなたの頭に濡れタオルを乗せた

「つかさ…ごめんね」
「謝ることなんてないよ。親友だもん」

こなたの頭を撫でるつかさの制服は汗臭かったが、それを超越したものがそこにはあった
親友はきっと恋愛よりも素晴らしいものなんだ
恋愛をすれば親友とは結局離れ離れになるかもしれない
つかさもこの事を勘付いていたのだろうか

「そうだよね…私達は親友」
「こなちゃん、寝なよ。後は私に任せて。雑炊も作っておくから」
「本当にありがとう。つかさ、大好きだよ…」
「え…こなちゃん…」

思わぬこなたの言葉につかさは一瞬たじろいだが
寝ぼけているんだろうと直ぐにくすりと微笑んで部屋を後にした





「すまない…もう一度言ってくれるか?」
「別れよう」
「…どうしてだ?あんなに固く誓ったじゃないか。俺と愛し合うことを
思い出してくれ!頼む!!もうこれ以上は俺を苦しめないでくれ!!」
「ごめん。私には記憶がないんだ
例え誓ってたとしても、それは私じゃない」
「…駄目だ」
「えっ…?」

こなたははっとした
この声は何処かで聞いた事がある
頑なにこなたとの別離を拒否する声…

誰だっただろうか…

「どうした?」
「貴方の名前を…教えて」
「…いいさ。それで思い出してくれるのなら…俺は」





「…んぅ」

部屋のドアが開き、こなたの眼が開く

「あ…起こしちゃった?ごめんね……もしかして起きてた?」
「いや、寝てたよ」
「ごめん…じゃあ、夢見た?」
「うん…見たんだけど夢っていつもいい所で途切れるんだよね…」

今更つかさのせいだなんて言えないよ

「だよねー。私もそうだもん。で、どんな夢見たの?」
「私、彼氏と別れようって言ったんだ」
「へ!?どうして?」
349ゆめこい:2008/08/13(水) 23:04:09 ID:fSrTmh3k
つかさは目を丸くする

「もう、どうでも良くなったんだ。私には親友が居るんだって」
「そっかぁ…まあ、こなちゃんがそれでいいならそれもいいと思うよ」
「うん」
「もうちょっとでお姉ちゃんとゆきちゃんが来るよ。さっき連絡があったの」
「ん、そっか…」
「雑炊作ったんだけど、食べられそう?もうお昼過ぎちゃったけど」

時計を見ると、既にお八つの時間だった

「うん、折角だし頂くよ。悪いね」
「気にしないで。じゃあ少し温めて持ってくるから待っててね」
「判った、ありがとね」

そして、つかさは再び部屋から出て行った

こなたは回顧した

『駄目だ』という言葉は私にとって妙に意味深に感じた
あの声を聞いてふと思い浮かべた人間が一人

お父さんだ

この間私が夢の中の彼氏を紹介した時に真剣な眼差しで断られた
あの声にそっくりだった
でも、どうしてなのだろうか…

すると、つかさが入ってきた
つかさはゆっくりと湯気立った鍋を持ってくる

「こなちゃん、出来たよ。ちょっと熱いから気を付けてね」
「うん、ありがとう」

つかさはドジっ子とばかり思っていたが
肝心な所ではかなり確りした子である
こなたはつかさの意外な一面に驚いていた

つかさはお茶を入れに1階へ降りた

こなたは鍋の中を覗くと、おいしそうな雑炊がそこにはあった
ただの雑炊とは違う、特別な雑炊のような気がした
こなたは御袋の味というものを知らないが、正しくその様な感じだった

すると、つかさはかがみとみゆきを連れて部屋へ入ってきた

「おーす、こなた」
「こんにちは、泉さん」
「やほー」
「やほーじゃないわよ、あんた大丈夫なの?」
「心配しましたよ?」
「大丈夫大丈夫」
「お見舞いと言っちゃなんだけど、これ」

かがみはこなたに果物の入った籠を渡した

「なんだ果物かぁ〜、陳腐だねぇ。どうせならフィギュアとか同人誌なら良かったのにー」
「なっ…あんたという奴は」
「でも、ありがとうね、かがみん」
「い、いやぁ…そんな」
350ゆめこい:2008/08/13(水) 23:05:10 ID:fSrTmh3k
全くかわいい奴め
でも、お見舞いは嬉しいものだな…

ふと、私の脳裏にフラッシュバックする記憶

私がベッドに居て、そこに誰かが来て…
お父さん…?
すると、お父さんは私に微笑みながらかがみと同じような果物籠を渡す

―ありがとう、大好きだよそう君





「こなちゃん?どうしたの?」
「あっ…ご、ごめん」
「もう、呆けてるから意識無くなったのかと思ったじゃないの」
「いやいや、大丈夫だよ」
「やっぱりこなちゃん、もうちょっと寝てた方がいいんじゃない?」
「う、うん。そうするよ…」
「じゃあ私たちは部屋出ておいた方がいいかな、安眠妨害になりそうだしね」
「確かにそうですね」
「じゃあお休み、こなた」
「うん、お休み…」

こなたはゆっくりと眼を閉じた





そこには、背中を見せた彼が居た
ここはとある部屋の中のようだ
彼はそこら中を散らかして何かを探していた

「何を探してるの?」
「大切なものさ…俺と…かなたの一番」
「かなた…?何でお母さんの名前を…?」
「…お母さん?何を言ってるんだ。お前だよ」
「えっ…私が?」
「おっ!あったぞ、これだこれだ!」

そこには、病室でそうじろうとかなたが映っていた写真があった

「俺とお前が映ってる最後の写真だ」
「えっ…あの…私が映ってないよ?」
「何言ってるんだよ。これがお前だよ」

そうじろうは写真に映っているかなたの顔を指差す
それでもきょとんとしている私に手鏡を差し出す

「こ、これが…私?」

鏡には、はっきりと頬に黒子のないかなたの姿が現れた

「判ったか?」
「ってことはあなたは…」
「そうじろうだ」
「な、何で…」
351ゆめこい:2008/08/13(水) 23:06:05 ID:fSrTmh3k
「お前はかなたなんだよ。まだ思い出せないのか?
この日に渡したお見舞いの果物籠、結構高かったんだぞ?」

その言葉は私の記憶を完全なものにした
さっきふと思い出しかけた記憶の欠片
あの病室で渡されたお見舞いの果物籠
結局食べる前に死んじゃったけど

「ほら、アルバムも出てきたから一緒に見よう」

そうじろうの目は優しく微笑んでいた
私は思わず顔を火照らせる

表紙に書かれてあった、『そうじろうとかなたのアルバム』
タイトルは安直そのものだったが
ページを捲るごとに私はあるはずのない記憶をありありと目の前に感じていた






「お姉ちゃん、こんなお話があるんだけど聞いてくれる?」
「何?つかさ」

1階のリビングでつかさは話し始めた

「ある夢の中で出会った人がその夢を見ている人を夢の中に連れていっちゃうの」
「そんな話聞いたことないわね」
「説話か何かですか?」
「うん、本で読んだの。『ゆめこい』っていう本」
「それが何?」
「今思ったんだけど、もしこなちゃんとそれが関係していたらと思うと…」
「それは考えすぎよ、つかさ」
「それはあり得ませんよ、つかささん」
「でも、もしかしたら…」
「つかさ、いい加減にしなさい」
「縁起でもないことは言うものではありませんよ」
「ぇぅ…」

そのまま3人の会話は途切れ、時計の針の音だけが聞こえてくる

「私、ちょっとこなちゃんの様子を見てくるね」
「あぁ、うん。行ってらっしゃい」

つかさはこなたを起こさないようにとゆっくり階段を登る
また起こさないようにゆっくりドアを開けたつかさは

口から泡を吹くこなたを見て悲鳴を上げた





「はー懐かしかったなぁ、かなた」
「…そう君」
「か、かなた…お前…?」
「私、やっと思い出したの。そう君と二人で笑い合ってた日々のこと」
「そうか…ありがとう、ありがとうかなた…」
352ゆめこい:2008/08/13(水) 23:07:51 ID:fSrTmh3k
そうじろうは私を思い切り抱きしめた
もう、私という中には既にこなたの存在は無かった

私は、かなたなんだ





「こなちゃん!!」
「目が覚めた?良かった…全く心臓止まるかと思ったじゃない!」
「良かったです…泉さん」

3人の泣き顔が見える

「ここは…?」
「ここは病院だよ、あんた心臓麻痺起こして倒れてたのよ?」
「そう君は…?」
「え、そう君って…?」
「そうじろう…泉、そうじろうは…?」
「え、泉そうじろうって…誰かな?こなちゃん」
「私の…彼氏…」
「ふふ、何だこなたまた夢見てたの?いい加減起きなさいよ」
「早く会わせて…そう君は何処?」
「何処と言われましても…誰かも判り兼ねますので…」
「こなた…あんたどうしたの?
夢の中の彼氏とは別れたんじゃないの?」
「そんな…せっかく育んできた愛を引き裂こうなんて残酷なこと言わないでよ」

こなたは冷徹な口調と目つきでかがみを睨む
かがみとみゆきはたじろいで声が出なくなってしまった
そんな中、つかさだけは座っていた椅子から立ち上がり
血走った眼のこなたに顔を近づける

「あなたは…誰?」

つかさが真剣な眼差しで尋ねる

「ちょ、つかさ!何言って…」
「お姉ちゃんは黙ってて」
「…うん」

つかさは神妙な顔をして再び尋ねる

「あなたは…誰?こなちゃんじゃないよね…?」
「私は…かなた」
「私達の名前は…判る?」
「…判らない」
「やだなぁ、こなちゃん。親友のつかさだよ?」
「つかさ…?」
「そして、あなたはこなた。泉こなただよ?」
「こな…た?」

すると、こなたの瞳孔は大きく見開いてつかさを焦点に捉える
その眼には涙が溢れ、こなたの手はつかさの頬に優しく触れていた

「つかさ…」
「思い出した?こなちゃん」
「ごめん…つかさ」
「こなちゃん、泉そうじろうって誰?」
353ゆめこい:2008/08/13(水) 23:09:20 ID:fSrTmh3k
「…お父さんだよ」
「こなたのお父さん?」
「ゆきちゃん、悪いけど市役所行って泉そうじろうの戸籍を調べてくれない?」
「は、はい…判りました」

つかさはこなたに向き直ると、涙を拭いて話す

「こなちゃん…かなたって誰かな…?」
「私の…お母さん…」
「こなちゃんのお母さん?」
「うん…」
「夢の中で何があったのか、教えてくれるかな…こなちゃん」
「…分かったよ」

そして、こなたは夢で起きた出来事を全て話した
かがみは信じられないような顔をしていたが
つかさは冷静に相槌を打っていた

「こなちゃん、本当は彼の事を愛してるんだよね
でも、二人が愛し合うと
こなちゃんは夢の中に連れて行かれて二度と戻れなくなるよ?」
「…正直、それでもいいと思うんだ、私」
「こなた…それって…」
「私、あの人とはもう離れられないよ…全て思い出したんだ
私は…本当はこなたじゃないって
こなたというのはかなたの生まれ変わりの仮の姿なんだって」

その時、みゆきが荒い息遣いで病室に戻って来た
みゆきは眼鏡を正しながら言う

「そうじろうさんは…18年前に自殺しています
妻のかなたさんの後追い自殺とかで…」
「本当なのみゆき!?」
「ええ、間違いはありません…
当時の新聞記事を拝見しましたが、ピッタリ一致していました」
「…ってことは…あんたは…」

こなたは溜息をついて言う

「私、ずっと忘れていたんだ
そう君が死んだ入れ代わりにこなたとして再び生まれてからずっと
カミサマに後追い自殺したそう君の罪を許して貰えるまで
今まで見て来たお父さんというそう君の存在は
単なる私に記憶を戻さないために植え付けた空想だったんだって
泉こなたという存在は、ただの私や皆の夢だったんだって」
「じゃあ、私達はずっと夢を見続けていたという事なの?」

頬を涙に濡らすかがみが言う
こなたは寂しそうに頷く

「何よそれ、そんなの納得出来ない!
こなたはこなたよ!これからもどんなことがあってもこなたよ!!
私の親友なんだから!!
だって約束したじゃない!!死ぬまで私と親友だって!!」
「かがみん…」
「そうよ、あんたをそんなにしたのはそうじろうとかいう悪魔よ!
こなたを返しなさいよ!!こなた!ねえ、お願いだから…」
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 23:10:59 ID:JZ+5gIWV
支援
355ゆめこい:2008/08/13(水) 23:11:35 ID:fSrTmh3k
かがみはこなたの両手を握り、泣き叫びながら必死に
こなたにトートロジーを訴えかける
しかし、こなたはゆっくり首を左右に振る
もう、このこなたはこなたであってこなたではない
赤の他人がこなたに入っていることは判っていた
かがみ達の知っているこなたは、こんな話し方はしない

「かがみ…私はいつまでもかがみの親友だよ
でも、この世界に居ないそう君の事を愛してる以上
かがみ達の傍にはもう居られない
このまま私がそう君の所へ行かなくても
記憶が戻ってしまった私はもうかなたの身体
この病弱のかなたの身体である以上はそう遠い命じゃないし
明日にはこの世界の事を完全に忘れて二度と思い出さないかもしれない
剰え、皆に危害を加えてしまうかもしれない
だから私は皆にショックを与えないうちに、そう君の元に行く事に決めたの
そう君も18年間待ち続けてくれていたんだから」

「夢に帰るってことは、私達もこなちゃんのことを忘れちゃうのかな…」

つかさは遠くを見つめるような眼で言う

「こなたぁ…やだよぉ…ひぐっ…行かないでよぉ…」

かがみは子供のようにこなたに擦り寄る
みゆきもハンカチを取り出して溢れる涙を拭っていた

「本当にごめん、みんな。でも最後くらい笑ってよ
泣き顔見ながらさよならなんて私も嫌だよ
ほら、かがみもそんな泣かないで
そのままじゃツン要素が無いぞ」
「う、うるさいわよっ…」

かがみは涙の中にほんのりと笑顔を見せた
つかさは涙目になりながらも微笑んでくれた

「こなちゃん、今まで夢のように楽しい毎日だったよ。ありがとう」

みゆきも瞼を腫らしながらも言葉をかけてくれた

「泉さん、本当に色々とお世話になりました…」
「いやいや、私がみゆきさんにお世話になり過ぎてたよ。ありがとう」
「…泉さん」

みゆきは眼を閉じて再び零れそうになった涙をごまかした

「…こなた。あんたと居た日々は私にとって最高の日々だったわ
あんたとゲーマーズに行った事も
一緒にゲームをやったこともコミケに行った事も全部大切な思い出よ
私、忘れないわ。あんたのこと…絶対に」
「かがみん…みんな、ありがとう」

そうして、ナースコールすら押す間も無くこなたは息絶えた





「つかさ、最近どう?もう軌道に乗った?」
「うん、何とかね。お姉ちゃんも弁護士の仕事大変じゃない?」
356ゆめこい:2008/08/13(水) 23:12:22 ID:fSrTmh3k
かがみとつかさは、埼玉のとある喫茶店で久闊を叙すと共に
それぞれの仕事について話し合っていた
かかみは東京都内の裁判所に勤め
つかさは埼玉県内でカウンセラーの仕事をしている
みゆきは既婚で主婦として神奈川県に暮らしている

それぞれがばらばらとなった今
つかさが突然何かを思い出したかのようにかがみとみゆきを呼んだ
みゆきは家庭の事情から来られなかったが、かがみは運よく盆休みだった

「でも、あんたがカウンセラーに合ってるなんて思いもしなかったわ」
「私も何故か分らないんだ。不思議だね
そうそう、それを思うと何か思い出しかけるの」
「へぇ…何を?」
「あのね、この前受け持った人が悪夢ばかり見て悩んでるらしかったんだけどね
私、その人の顔を見ても同じように思い出しかけたの
何だか前者よりもはっきりと」
「何かって…何?」
「とりあえずこれを見てくれる?
まだ子供みたいなんだけどね、青い髪なんて珍しいでしょ?」

つかさはショルダーバッグから一枚の写真を取り出す
かがみもその写真を見て一瞬眼を細める

「…確かにそうね。まあ紫も珍しいとは思うけど」
「それはともかく、左目の下を見て。黒子があるでしょ?
私ね、ふと私のこと何か知ってるかどうか聞こうとしたんだけど
それは無いだろうなと思って…」
「でも、高校生だった頃の事って記憶にある?」
「…そういえば記憶に無いね。何でだろう?」

かがみとつかさは眉を潜めて考え込む
二人の脳裏には不思議なシルエットが浮かぶ





「なあ、かなた」
「何?そう君」
「俺達で、子供作らないか?」
「子供…名前はどうするつもり?」
「おいおい、気が早いな…何にしようか…」

するとかなたは、真っ青な空を見上げながら呟いた

「……こなた」
「え、こなた?」
「うん…ふと思いついたの」
「こなた…か。うん、いい名前だな」
「あれ…?」
「ん?どうしたんだい?かなた」
「…ううん、今ちょっと何かを思い出しそうになって」
「ふうん…そうか」

その時、ほんの一瞬二人だけが腰を降ろす草原の丘と
何の変哲もない埼玉の喫茶店が
時空を越えて3文字のハーモニーを生み出した

(終)
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 00:00:52 ID:G1bLAr4i
1周年なんですね、おめでとうございます。
ここ来たのは最近ですが、僕もできればそれに相応しいSSをと執筆しています。
近日中に投下できると思いますので、その時はまたお願いします。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 00:09:06 ID:pF5aL9xR
最後の最後に規制されてしまいましたorz
終わりです
支援ありがとうございます、中尉w
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 00:39:21 ID:oFZ8AVNo
>>358
え!?た、たまたまIDが同じだけなんだからね///
偶然よ偶然・・・

お疲れ様ですw
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 00:54:29 ID:xNijoIJx
夜の公園に涼しげな風が吹き、4人の髪の毛を揺らした。
その髪の毛の動きに合わせて、影も僅かに揺れる。
「1時間って、思ってたよりも早かったわね」
かがみの寂しげな声に、3人は身体を僅かに震わせる。
「お姉ちゃん?」
「ともあれ、つかさより先に死ねて良かったわ」
かがみは最愛の妹に優しく微笑むと、こなたに視線を向ける。
「ねぇ、1年って長かった?」
「長かったよ、私にとっては」
こなたはかがみの顔を見ずに、答えた。
最期なら、他に何か言う事があるだろうに。
「そう、お疲れ様」
結局こなたの望んだ言葉を発しないまま、
かがみは膝を折った。
「お姉ちゃんっ」
つかさは弾かれたように叫ぶと、崩れ落ちたかがみを抱きかかえた。
つかさの叫びは一瞬だけ静寂を切り裂いたが、すぐに公園は元の静けさを取り戻した。
 みゆきから受け取った薬は、1時間以内に効果が現れる致死毒入りのカプセルだった。
心臓の機能そのものを停止させ、効果が現れるとほぼ同時に死ねる。
その薬を4人同時に飲む、というのが約束だった。
こなたはそれが義務だと自分に言い聞かせながら、
3人は自殺に追い込んだ罰だとの自覚を持って。
いや、こなたもまた、自殺した事に対する罰だと思っていた。
「こなちゃん、本当にごめんね。私が一番、酷かったよね」
姉の亡骸を抱えたまま、つかさはこなたに謝罪の言葉を述べた。
「いいよ、気にしてない」
実際には、既に麻痺している。虐めも、死も。
だからかがみの最期を見ても、特段の感慨はこなたに湧いて来なかった。
ただ一言、「好き」と言って貰えなかった事だけが心残りなだけだ。
生憎、かがみに同性愛の気などないらしい。
「気にしてない、か。嘘ばっか。でも、優しいね」
つかさは姉を胸に抱きながら、静かにその瞳を閉じた。
つかさを傷つけないためにこなたが優しい嘘を言った、
そう誤解したままつかさはこの世界での意識を閉じたのだ。
──誤解…なのだろうか。
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 00:54:51 ID:xNijoIJx
「泉さん、二人っきりになってしまいましたね」
みゆきは寂しそうに笑った。
「泉さん、お願いですから私より先に死なないでくださいね」
「私だって最期の1人にはなりたくないよ。
だからさ、競争しようか。先に死んだ方が負けってことで」
「いいですね」
みゆきは愉しげに微笑んだ。その笑みからは、寂しさは消えうせていた。
微笑みながら、みゆきの身体は傾いていく。
「良かった。私の負けみたいです」
笑顔を顔に張り付かせたまま、みゆきの意識は闇へと呑まれた。
倒れこんだみゆきの身体を器用に受け止めると、こなたは呟いた。
「確かに、私は嘘つきだ」
麻痺していると、自分に対して嘘をついた。
頬を伝う水の感触、その感触が嘘を付いている事を証明してくれていた。
「ああ、それともう一つ。嘘があったね」
こなたはポケットからみゆきから受け取った薬を取り出す。
さっきは飲んだように見せかけただけだ。
自分に罰を与える為に。残された者の悲しみ、それを体感しなければならないから。
「思っていたよりも、辛いね、これは」
こなたは薬を飲み込むと、事切れている少女達に語りかける。
「やっぱり私は、残されるより自殺する方がいいや」
その瞳には、一つの決意が宿っていた。
「これからも、私は自殺を続けるよ。こんな想いはもう沢山だから」
優しい少女の心には、友人の死は重すぎた。

祗園精舎の鐘の声、
諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、
唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、
偏に風の前の塵に同じ。

「春の夜の夢が、どうかずっと醒めませんように」
醒めさせないで下さい、こなたは誰かに祈りながら瞳を閉じた。
「ああ、それと、今までありがとう。これからもよろしく」
その誰かに向かって、瞳を閉じたまま最期の言葉を囁いた。
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 00:55:17 ID:xNijoIJx
>>360-361
タイミング遅れましたが、一周年おめでとうございます。
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 04:02:02 ID:7D+aobun
364sf655:2008/08/14(木) 08:57:30 ID:/CvpkFi2
母は不思議な物や声を聞く人だった

『これは魔法の鍵なの…』

子供の自分から見てもどこか儚げで……

「お母さんがおばあちゃんからもらったものなのよ」
「お母さん」

そういって鍵を渡してくれた。

母の笑顔を見たのはそれが最後だった。

[かなたとこなた]

「……てこずってしまいましたが、ついに不老不死の魔導書を手に入れました」
「サン・ジェルマン伯が所有していたと伝えられるこの本があれば私の長年の夢が…」
「!? 封印がかかっている? …あの鍵がなければ開くことすらできないのかっ」
「あの女…!!」
365sf655:2008/08/14(木) 09:20:37 ID:/CvpkFi2
>>364

15歳の夏休みの始めに一通の手紙が届いた。
差出人は『泉かなた』母方の名前だった。
『母の店で休みの間バイトをしてほしい』という内容で、つまり自分からすればおばあちゃんに値する人だ。
その人は骨董店を営んでいたらしい。
亡くなったはずの母からの手紙と母の実家とは疎遠だったこともあり少し興味がわいて
…。
その申し出をうけたんだけど…。

「…………」
店のドアの前で少女が寝ていた。
なんでこんな所で寝ているんだろう? きっと店の人の子供なんだろうけど……。
『泉骨董店』…この店で間違いないし…。
「アルバイトに来た泉こなたですけどー」
少女を抱え、ドアを開けつつそう叫んだ。
366sf655:2008/08/14(木) 09:32:28 ID:/CvpkFi2
>>365
「すみませーん、誰かいませんか?」
誰もいないのかな…?
ふと、店の棚を見ると呪文のような文字の彫られた石やいかがわしい香炉などがあった。
これも売り物なのかな…。

ともかく、こんな子一人に店番させるなんて不用心な店だよね。
「しかも寝っぱなしだし……」
仕方ない、帰ってくるまでまたしてもらうかな…。
やることもないし宿題やらなきゃ…。

…………
…………

今思うとおばあちゃんとは一度も会ったことないのにどうして引き受けたんだろう…。

自分でも不思議だ…。
お母さんも…店番とかしてたのかな……。
367sf655:2008/08/14(木) 09:51:11 ID:/CvpkFi2
>>366

「イカンイカン…寝すぎてしまったぞ…、もうコボルト達でも起き出す時刻じゃ」

ガチャガチャ……

…ん…いつの間にか寝ちゃったんだ…。まぁ、私が勉強すること自体が無理な話か…。
やろうとしただけすごいな、私は…。

ガチャ…ガチャガチャ

あれ……誰だろ……?
…なつかしい感じがする…。

「ん? こなた、起こしてしまったか?」

え? …この声は…。
そこで私は覚醒した。

「お主に会うのは初めてだったな」

…お母さん?
そこにいたのは紛れもなく声も容姿も同じかなたの姿があった。
店の入り口に寝ていた少女だったのだが、寝ていたので起こしちゃいけないと思ったから気づかなかった。

けれど…。
「わしはかのんじゃ、魔法使いをやっておるいわゆる魔女じゃ」
「……は?」
368sf655:2008/08/14(木) 10:05:40 ID:/CvpkFi2
>>367
「こなた! お主が持っておる鍵は悪い奴に狙われておる」
なっ…なんだ?
「わしが守ってやるから案ずるでないぞ」
「はあ…」
何かのごっこ遊びのつもりなのかな……。
「そんなことでは立派な魔法使いになれんぞ…。今のままでは……くどくど…」
この子はいいとしても…。まいったな…まだ誰も帰ってきてないんだ。
「私のおばあちゃんは?」
「?知らんぞ。それより聞いておるのか?」
グキッ
「!?」
「そもそも人間と魔物というのは……くどくど……だから発生の段階においてから……くどくど…」
はあ…。
「ん?どうしたのじゃ」
「……別に」
早く誰でもいいから帰ってきて…。…首痛い……。
369sf655:2008/08/14(木) 10:09:20 ID:/CvpkFi2
>>364-368
休憩します。続きは夕方か夜中にでも。
370ガンガン福岡:2008/08/14(木) 23:29:33 ID:zuueIYNn
そうか…もう発生して一年になるのかこのスレ
おめでとうこなた、これからも頑張って死んでくれ

ttp://uproda11.2ch-library.com/src/11110321.jpg
371名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 23:43:02 ID:JvvW+6Ci BE:965412375-2BP(0)
お久しぶりです、初期に大阪府の名でSS投稿してた者です。
一周年おめです!まだまだ盛況の様で、久々に覗いて感激しました。
最近らきすた熱再燃してるんで、また何か書ければ・・・と思います!
372名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/14(木) 23:44:09 ID:S4vacdJm
>>370見て俺もかがみ様に言葉責めされてみたいなぁと一瞬だが思ってしまった
373名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 00:14:09 ID:YuHhA5UP
>>371
あ、どうもはじめまして
自分も北大阪の者です
今後ともどうぞよろしくお願いします
374名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 11:20:15 ID:cFMChZR8
>>373
ウザッ!!
375名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 13:17:26 ID:dwW9M85y
どうでもいいけど、トートロジーの意味分かって使ってるのかと
376名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 13:38:49 ID:YuHhA5UP
>>375
反復表現
377名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 14:18:17 ID:cFEFVtgE
北大阪野球ツエェwww
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 14:22:52 ID:YuHhA5UP
>>374
すみません
テンション上がり過ぎて思わず「かまってちゃん」になってしまいましたorz

>>375
どうやら解釈を取り違えていました
トートロジーというのは「○○だから○○なんだ!」という反復表現なんですね
訂正しておきましたので指摘ありがとうございます
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 19:02:58 ID:EMCHGtB5
偽装結婚で弁護士逮捕 戸籍に虚偽記載容疑…大阪府警

交際中の韓国人女性に在留資格を取らせるため偽装結婚させたとして、大阪府警外事課は6日、大阪府吹田市古江台、
弁護士・島田和俊容疑者(58)(大阪弁護士会)を公正証書原本不実記載・同行使容疑で逮捕した。
島田容疑者は、日本永住を希望する韓国人女性に頼まれ、偽装結婚と知りながら仲介者らに謝礼など計55万円を渡していた。
「申し訳ない」と容疑を認めている。
また、同日までに島田容疑者の共犯として▽交際相手の大阪市中央区島之内、韓国クラブホステス・朴喜児(35)
▽同区日本橋、会社員・橋口米男(57)▽同区島之内、同・北村隆史(46)――の3被告が逮捕、起訴された。
発表では、4人は共謀し、昨年12月4日、朴、橋口両被告の婚姻届を中央区役所に提出し、戸籍に虚偽の内容を記載させた疑い。
北村被告は橋口被告の同僚で、今回の仲介役だった。
府警によると、島田容疑者は昨年11月初め、韓国クラブで朴被告と知り合った。4人は同月末、大阪市内の喫茶店で会い、偽装結婚を計画したという。
大阪弁護士会の上野勝会長は「事実なら、誠に遺憾」と話している。

ttp://osaka.yomiuri.co.jp/news/20080807-OYO1T00239.htm?from=main2
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 21:27:59 ID:RPiMtFyQ
>>357
虚像と実像の人か?
マジで期待している。
>>371
うつ☆すたの人とは別?
381名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 21:30:00 ID:YuHhA5UP
>>380
初期ってことはうつ☆すたの人なんじゃないのか?
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/15(金) 21:38:43 ID:o0kiAn23
かなたが生存した事によって、こなたはオタにならず、得意の運動を伸ばす様な育て方をされる
             ↓
その甲斐あってオリンピック選手になる
             ↓
      世界の競合を下して金メダル
             ↓
しかし、こなたが年齢不相応に幼いせいで
「小学生を年齢詐称させて出場させてるのでは無いか?」と他国からクレーム
             ↓
日本選手団が戸籍等でこなたが18歳である事を証明しようとするけど他国は信じない。
             ↓
結局年齢詐称扱いにされてメダル剥奪
             ↓
           こなた自殺
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 00:30:05 ID:bKCAvKMo
コミケっていや、つかさはこなたに無理矢理連れ出されたSSあったなぁ。
で、つかさは風邪こじらせて帰らぬ人に。
あのつかさは不憫だった。かがみのこなたに対する恨みも良かった。
神奈川作だったっけか。
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 00:42:37 ID:fzpinNgC
NHKにコミックマーケットのニュースが出た時にはマジで吹いた
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 16:46:08 ID:RSBuKrRp
こなたはコミケで人に潰されて 死ね 氏ね 市ね
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 18:24:44 ID:8kJudRvr
コミケ行き過ぎワロタ^^
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 18:31:47 ID:fzpinNgC
え、全員コミケなのか!?
ここの住民は西日本が多いはずなのに
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 19:32:35 ID:E9utEmdC
九州の職人はJRの大幅遅延で家に帰れないんだよ、きっと。
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 20:38:23 ID:RSBuKrRp
単に飽きただけだろ
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 21:50:45 ID:l+swtRfM
飽きたんじゃなくてネタが無いんだろ
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 23:30:57 ID:8kJudRvr
かがみ「今日は自殺について、考えてみたいわね」
みゆき「と、言いますと?」
かがみ「こなたが自殺しても、こなたは罪に問われない、っていうのは分かるわね?」
こなた「そりゃ、死ぬんだから当たり前じゃん」
かがみ「未遂に終わった場合は?」
つかさ「そう言われると、自殺未遂で逮捕された人居ないね」
みゆき「罪刑法定主義の観点からは、当たり前でしょう。
     自殺罪も自殺未遂罪もないんですから」
かがみ「じゃ、なんでそれが法定されていないのかしら?
     おかしいと思わない?自殺幇助や同意殺人は罰せられるのに」
つかさ「確かにそれはあるね」
かがみ「それはね、色々な考え方があるのよ。例えば、自殺はそもそも悪い事なんだけど、
     本人が死ぬから罪に問えないとする説。ただ、この説だと自殺未遂を
     罪に問わない事の説明が困難になる」
つかさ「確かにそれはあるね」
かがみ「後は、命を専ら個人が自由に処分できるものとする説。この説に依ると、
     自殺幇助や同意殺人の可罰性は、善良の風俗を維持する観点から
     説明される事になる」
つかさ「確かにそれはあるね」
みゆき「うう、二人とも、私の台詞とアイデンティティを取らないで下さい…」
つかさ「もうゆきちゃん要らないね」
かがみ「まぁ、ウィキペディアがあるから、元々みゆきは要らなかったけど」
みゆき「酷いです。死を持って抗議します。
     こなたさん、一緒に自殺して下さい」
こなた「おーけー、自殺なら慣れてるからね。任せてよ」
みゆき(でも、何だか怖くなってきました…。やっぱり止めた方が…)
こなた「みゆきさん、一緒に死んでくれるんだね」
みゆき「!?え、ええ、勿論です」
こなた「えいっ」
みゆき「ひぃっ、こ、これが自殺…血があんなに飛び散って…」
つかさ「あーあ、こなちゃん死んじゃった」
みゆき「わ、私やっぱり止めます。コンタクトレンズより、歯科医より怖いです…
      途中で自殺する気は消えうせてましたけど…」
かがみ「あーあ、みゆきったら殺人犯ね」
みゆき「え?」
かがみ「昔ね、一緒に服毒自殺しようとしたカップルが居たのね。ただ、男の方は、
     本当は死ぬ気なんてなかった。途中で心変わりしたのね。
     でも、毒薬を飲む女性を止める事はなかった。
     で、女性は死んじゃったのよ。男は毒薬を結局飲まなかった。
     そしたら、裁判所は男を殺人罪で処罰したわ。
     最高裁第二小法廷昭和33年11月21日の判例ね」
みゆき「そ…んな…」
かがみ「女性は追死してくれるものと信じて、自殺した。
     でも男には死ぬ気なんてなかったんだから、
     女性の自殺には真意に沿わない重大な瑕疵があった。
     結果、男は女性を欺罔して自殺させた、つまり殺人罪として評価されたってわけね」
つかさ「じゃ、ゆきちゃん人殺しだね〜」
かがみ「そういう事。まぁ、天才なんて二人と要らないんだし、
     ドロップアウトして良かったんじゃない?」
ふぃん
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/17(日) 02:55:56 ID:a2K53yyT
かがみ凄ぇwww

書いた人は法学部?
瑕疵だとか殺人罪の適用だとか、法学部に籍置いてなきゃ中々書けないと思うが。
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/17(日) 06:54:32 ID:y/0trTEm
凄い!
なんだか知的だ!
ぼっちスレのかがみと違いこのかがみならロースクールから試験も楽々だな
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/17(日) 17:49:58 ID:WA3bt6IO
保守
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/17(日) 23:00:42 ID:5loQRAFO
SS書いてますが、つらつらと長くなってしまいます。
皆さんが読みやすいと思われる文量はどのくらいなのでしょうか?
短編が好き、読み応えのある長編がいい、などいろいろあると思いますが。
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/17(日) 23:25:49 ID:Yph1rDg7
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/17(日) 23:43:31 ID:L7vI7vw9
>>395
量というか、10レスくらいかな一度に読むのは
それ以上は分割して読む
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/17(日) 23:44:14 ID:UmCX24u0
久しぶりじゃないか
店長きたねえw
つかさがあまりビッチに見えない
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 00:25:51 ID:C+hGFSPd
お前らなんなの?
いくらこなたが嫌いなキャラとはいえやり過ぎだろ

ある程度までのアンチなら多少過剰でもスルーしたさ
こういうアンチ系のスレでアンチを止めろと言うのも空気が読めなさ過ぎだしな

ただ明らかにこれはやり過ぎだし余裕で許容範囲を越えてるだろ
お前らがなんでこんな事をするのか聞きたいんだが
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 00:32:39 ID:/Dq7Pnhz
つ、釣られないぞ
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 00:36:50 ID:RRnk6rAr
>>396
終わらせる気ねえwww
402名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 00:37:28 ID:EDdPCrQd
盛大な勘違いが…
別に嫌いだから自殺させてるわけじゃない
ただのネタスレ
つーか変な趣向持った奴らの隔離スレ

例えば陵辱スレあんだろ?
君のやってる事は、陵辱スレで「俺の萌えキャラを汚すな」って喚いてるのと同レベル
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 00:47:45 ID:C+hGFSPd
ネタスレか…
まぁ納得出来たよレスありがとう
そしてスレ汚しすまんかった
404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 01:30:33 ID:YM8XQxDg
というか結局はこなたへの歪んだ愛から生まれたスレなんだけどな
405名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 01:31:35 ID:T7Xeko4b
なんと言うか、こういう愛情表現もわかってほしいな。
まぁ自分はこなた嫌いだけど。
406名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 01:43:31 ID:YM8XQxDg
このスレは紳士的だとよく言われるのは
荒らしを間に受けずにスルーしたり
マジレスにも適切な返答を返して荒れない最善の方法を選ぶからなんだろうな
407名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 10:16:08 ID:7vsprGJN

 
        ;. ::◎.:,:
          ヽ|〃
  ____ .l ̄l___
  \     (__)    \
  ||\            \
  ||\|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|| ̄
  ||  || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
  ||  ||              ||
     .||              ||

こなちゃんへ。今まで無視しててごめんね。
もう思い出すことすらないけど、
お陰で楽しく充実した学校生活だったよ。

 アンタがいじめられるたび、みんなで笑ってた。
今思い返すと、貴女が登校してすぐ飛び降り自殺した最後の一日がこれまでの中で
一番、ほんとうに心の底から笑ったわ。

これからみんなは貴女の分も幸せになりますから、
あたたかく地獄の底から見守ってて下さいね。

                  学年代表 柊つかさ、柊かがみ、高良みゆき
408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 11:33:48 ID:YM8XQxDg
反省の色無しだなwww
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 14:01:15 ID:31oLet8y
>>396
貴重なつかさビッチネタ乙ですw
寿司職人つかさカコイイw
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/18(月) 23:46:48 ID:YM8XQxDg
そういえばみゆきスレって無いよな
411名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 00:49:31 ID:DZv9RRp9
>>406
>このスレは紳士的だとよく言われる
そ、そうだっけ?
412名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 01:30:42 ID:xWZcYj5O
そういえば春日部共栄って準々決勝まで行って北埼玉代表の本庄一に負けたのか
まずまずの成績だな
結構野球部に気合入ってるのかね
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 02:25:48 ID:/qjaz6kB
まず、それなりに人数がいて、勉強も運動もそこそこ力入れてる学校だからな

つーか、在校でオリンピックにも出てる奴もいるじゃん
414名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 05:41:49 ID:tu4etaxt
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 08:24:58 ID:Lc8MzWZJ
まあ、間違ってはないわなwww
416名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 10:30:07 ID:xWZcYj5O
>>414
相変わらずシュールだwww
417名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 10:58:43 ID:b28LU2tE
>>414
吹いたwwwww
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 14:03:21 ID:lOv2a4rs
こなたんしねぇ
419名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 19:49:04 ID:6zMUYQq5
数日前からSSアップ予告がちらほらと散見されるが…
wktkして待ってます
420名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 21:19:20 ID:Sl+YHul2
皆さん、こんばんは。
SS完成の目処が立ったので、何もなければ明日の夜、投下させていただきます。
421名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 21:34:51 ID:xWZcYj5O
>>420
虚像実像の人ですかい
422名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 21:37:51 ID:Sl+YHul2
>>421
そうです。
1周年ということで何か貢献をと。
昼休みにちまちま書き溜めたのがそろそろ出来上がりそうなので。
423名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 21:53:44 ID:qZLogV0v
スタンダードなイジメ
ttp://uproda11.2ch-library.com/src/11111745.png
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 23:13:50 ID:tksp8NKg
>>423
確かに普通のイジメだがこっちの方が新鮮に見えるw


ところでビッチまとめの絵チャって誰か使ってんの?

425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 23:17:20 ID:xWZcYj5O
>>423
アホ毛がないのが残念だ
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/19(火) 23:24:32 ID:soQK++91
>>424
むしろチャット機能いらねだろw
427名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 01:29:40 ID:i1OQE5qR
そーいや最近、ガチのイジメってねーな。
初期型が逆に新鮮にすら思えてくる。
428名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 05:05:30 ID:bMr2ZKLQ
<反日映画「パッチギ!」に補助金の怪!文化庁は支援金三千万円を国民に返還せよ>

【週刊新潮07.6.7】
<『泣き叫ぶ朝鮮人の若い女性たちを日本の官憲が無理矢理にトラックの荷台に押し込み連れ去る。すでに実証的に否定されているにもかかわらず、
慰安婦狩りを連想させるシーンを映し出す』と。何たる映画であろうか。

【反日映画に文化庁から支援金三千万円の怪!】
現在、上映中の映画『パッチギ!LOVE&PEACE』(制作・シネカノン、監督・井筒和幸)を見た国民の圧倒的多数は、日本を意図的に貶めるあまりの「反日」振りに怒りを抑えきれないでいる。
何と文化庁はこの反日映画に、あろう事か三千万円という巨額の補助金を与えている。いうまでもなく補助金は国民の「血税」である。

この「血税」が国民の文化・芸術振興にではなく、「血税」を支出している日本国民を愚弄・蔑(さげす)む反日映画に、気前よくタダで差し出された。
シネカノン代表取締役の李鳳宇氏と監督の井筒和幸等は、幾多の場で「在日という立場は決して不利なものではなく、目標を定めその実現のために努力すれば、
必ず夢はかなえられるということを強調した」【朝鮮新報 2005年9月15日(同社サイトより)】
とあるように、二人が正真正銘の在日朝鮮人である。
しかも李鳳宇の父親は歴とした朝鮮総連幹部である

。さらに、井筒和幸は平成3年に起こした撮影死亡事故で巨額の慰謝料を背負っていたが、李鳳宇にその慰謝料を全て肩代わり・精算して貰った借りがある。
朝鮮総連は、云うまでもなく多くの日本人拉致に深く関与しては、我が国の治安並びに安全を著しく脅かし、金正日独裁体制を支える準「破防法」適用組織である。

これらの組織と密着した輩の反日映画に、国民の「血税」三千万円が補助されたのだ。
どう考えても、誰が考えても、逆立ちしてもおかしい。おかしいというよりも、文化庁が狂っているとしか言いようがない。
文化庁が朝鮮総連に乗っ取られたと言ってもいい。
在日朝鮮人が企てる「補助金」を装う血税の詐取と、チェック機能を放棄した文化庁の怠慢を我々国民は決して許さない。

http://homepage2.nifty.com/shukenkaifuku/KoudouKatudou/070613.html
429名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 05:10:10 ID:kiHPxVRu
こなた「返還ったって、一人25銭位じゃんw」
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 06:37:16 ID:+Tp1lbYX
こなた「よくニュースでやってるけど竹島位韓国にあげちゃえば良いのにねえw
     ついでに靖国問題とかあるし宗教も層化だけにしちゃえば
     アジアの人たちに嫌われずに済むのにw」

かがみ「…」
つかさ「…」
431名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 08:39:02 ID:2YCFciXg
こなた「竹島は日本領だよね」
みwiki「そうでもありませんよ。戦前は日本領でしたが、
    戦後に韓国軍が上陸して島民を虐殺しましたから
    軍事侵攻によって韓国領になった、とも考えられます」
かがみ「へぇ、そうなんd」
こなた「あーみゆきさん売国奴だ!韓国贔屓するとか在日?在日?」
みゆき「え、ちょっと泉さん……」
かがみ「みゆきは一言もそんな事言ってないじゃない」
こなた「二人は朝鮮の恐ろしさを知らないんだよ!あー在日はいやだねー」
つかさ「(どんだけ過剰反応なんだよ、お前の方が怖いよ)」
かがみ「(こな虫死ねw)」
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 08:41:14 ID:hiw1j6E0
憂国ニートの素質ばっちりだね☆こなちゃん
433名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 10:22:30 ID:CJVOzRTT
つかさ「国際法廷で正々堂々決着つければいいのに
    どうして韓国は出てこないのかな?」
こなた「さあ、空気が読めないんじゃないの?」
かがみ「(お前が言うなw)」」
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 10:23:39 ID:wuQzYPZl
この流れは…
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 11:32:06 ID:2YCFciXg
>>434
そうじろうから実は泉家は在日だと告げられて責任上自殺するフラグ
436名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 15:23:59 ID:ldWebGAp
100万回死んだこなた
437名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 20:42:37 ID:8xLL8ulH
私は1億万回も自殺したのだよ(≡ω≡.)
438名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 21:44:20 ID:LswSLZAj
皆さん、こんばんは。
予告どおり今夜よりSSの投下をいたします。
439名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 21:44:46 ID:/I6Hztf4
待ってたよ
440罪咎深き賤しい女1:2008/08/20(水) 21:47:02 ID:LswSLZAj
 空はいつ見ても青い。
しばしば雲が邪魔をするが、同じ場所、同じ時間に見る空はほとんど同じ色を保ち続ける。
同じなのは――空だけだ。
その真下でうごめく2本足の生き物と、その生き物が作り出す地上の世界は。
常に変化している。
それが良い方向か悪い方向かに関係なく、同じであり続けることを厭うために。
闇雲に変わり続けた。
大きくいえば世界が。小さくいえばある国のある町のある学校だ。


「えっと……高良さん……だったっけ?」
少女はためらいがちに呼んだ。
人の名を間違えることは失礼極まりない。
初対面だからといって、間違えてよい理由にはならないのだ。
その点、半分現実に住んでいないこの泉こなたもきちんと弁えていた。
「はい。あなたは……泉さんでしたね」
このいかにもしとやかで、頭の良さそうな少女は見た目のとおり記憶力がよいらしい。
「うん、そうだよ。泉こなた」
名乗って少女はにこりと笑う。
裏表のない、自然な笑みだ。
「高良みゆきと申します」
つられてみゆきも微笑む。
一瞬だけ慌てたのは、自分よりも先に相手が名乗ったことが失礼にあたったかも……という思考が働いたためだ。
もちろん、こなたはみゆきのそうした僅かの変化に気づかない。
失礼とかどうとかも考えない。
ただ、単純に。
こうしてお互いの名前を確認できたのが嬉しかった。
「お昼ごはん、一緒に食べない?」
こなたにとって、これは勇気ある第一歩。
周りを見ると同じ中学の出身なのか、いくつかのグループが既にできあがっている。
「えっ…………」
みゆきは顔を曇らせた。
普通は喜ぶところではないのだろうか。
表情を読み取ったこなたは、もしかしたら彼女には先約があるのかもと思い至る。
「あ、ごめんね。迷惑だったかな……それじゃね!」
気まずい空気を破ろうと、こなたは空回りする笑顔で言う。
「あ、あのっ……!」
その後ろ姿に向かって、みゆきは、
「ご一緒します。泉さん」
優雅な笑顔を見せた。
441罪咎深き賤しい女2:2008/08/20(水) 21:48:08 ID:LswSLZAj


 陵桜学園、入学式から3日。
新入生歓迎のレクリエーションも終わり、そろそろ通常授業が始まろうとする頃。
ここしばらくは考える必要のなかった悩みが頭をもたげてきた。
1日を誰と過ごすか。
よい思い出などひとつもないこなたは、敢えて家から遠いこの陵桜を選んだ。
ここならまさか地元中学の出身者も入ってこないだろうという読みだ。
小・中学校に関わる一切と決別したかった。
最初は揶揄(からか)われ、それが執拗になり、やがて陰湿になり……。
世に言う”いいめ”を体験させられた。
味方などひとりもいなかった。
積極的にいじめに加担していなくても、見ているだけなら間接的な加害者だ。
こなたの周りには直接的な加害者と、それを遠巻きに眺める者しかいなかった。
教師も頼りにならない。
証拠がないの一点張りで、もとより解決させようという気はなかったようだ。
悔しいという感覚は通り過ぎた。
あてにしていい人間など誰もいないのだと。
子供ながらに達観したこなたは、ただただこの苦痛まみれの数年が過ぎるのを待った。
中学さえ出てしまえば、ある程度自由に進学先を選択できる。
どうせいじめをするような連中はバカばかりだから。
だったら自分は遠くの、賢い生徒が集まる学校へ行こう。
優秀な生徒と交わり、人生の糧にしよう。
こなたは前向きだった。
今日のこれは第一の関門。
いじめに遭っても塞ぎ込むことなく、一定の社交性を堅持してきたこなただ。
陵桜の生徒は賢しいから。
だから声もかけやすいし、その後の対応もどこか大人だ。
さしあたって午後。
さて、誰とお昼休みを過ごそうか。
そう思い、周囲を見渡したところに佇立していた高良みゆき。
……ひとりだ。
もしかしたら自分と同じように、時間を過ごすパートナーを探しているのかもしれない。
こなたの足は自然と彼女の元へ向かっている。
生徒などあちこちにいるが、いきなりその輪の中へは飛び込みにくい。
お互いに独りの状況の方が声をかけやすいハズだ。
442罪咎深き賤しい女3:2008/08/20(水) 21:49:07 ID:LswSLZAj
 中庭で食べるお昼ごはんは、1人よりも2人でのほうが美味しい。
こなたはそう思った。
みゆきはそう思いたかった。
「泉さんはそれだけなのですか?」
おずおずとチョココロネを見ながら問う。
「そだよ。私、これ好きなんだ」
時々垂れそうになるチョコを舐めながら、こなたは明るく言った。
その表情を羨ましそうに見つめるみゆき。
しかし慌てて視線をそらし、そわそわと辺りを見渡す。
「……? どしたの、高良さん?」
どこか落ち着かない様子のみゆきに、落ち着き払ったこなたが心配そうに訊ねる。
「え? あ、いえ、なんでもありません!」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、思い出したように弁当を口にする。
控えめな彼女は昼食の量も控えめらしい。
彩りと栄養バランスを考えてつくられたおかずは、見た目から賑やかさが伝わってくる。
(………………)
楽しくないのかな、とこなたは思った。
もしかしたら、やはり彼女には先約があったのかもしれない。
良識を弁えていそうなみゆきだ。
自分の誘いを無碍にしないために、先約のほうをキャンセルしたのだろうか。
そう考えると申し訳なく思えてくる。
やっぱり自分には友だちなんてできないのだろうか?
それとも踏むべき手順というものがあって、自分は先を急ぎすぎたのだろうか?
「あれぇ……高良じゃん?」
どこかから声が聞こえ、顔をあげると3人組の女子がいた。
どの顔も活発そうだ。
「…………ッッ!!」
その時のみゆきの表情は主に驚愕。
続いて怯えの色が見えるのだが、3人組に視線を送るこなたはそれには気付かない。
「奇遇だねぇ、同じ学校だったんだぁ」
「ホントホント。高良、どこ受けるか教えてくれなかったから――」
「ひどいよね。友だちなんだから言ってくれればよかったのにサ」
3人は口々に話し始めた。
その内容からみゆきと同じ中学校の生徒だと分かる。
(高良さんの友だちなんだ…………)
こなたは急に居心地の悪さを感じた。
出身が同じならこの4人で共通の話題も多い。
さっき声をかけたばかりの自分がすっかり蚊帳の外に置かれるのも時間の問題だ。
「あ、高良さんの知り合いなんだ! あはは……そ、それじゃねッ!」
慌てて立ち上がろうとするこなた。
(…………?)
しかしスカートの裾をみゆきが引っ張った。
目立たないように、3人からは見えないように掴んでいる。
妙な感触を感じつつも、
「と、思ったけど他に行くとこないや!」
大袈裟に笑って座りなおした。
何かがおかしい、とこなたは気づく。
こういう光景には心当たりがある。
「でもさ、これでまた3年間一緒にいられるわけだよネ」
「そーそー、なんてったって私たち、大の親友なんだもんね」
3人はみゆきを見下ろして笑った。
(なんだろう……?)
傍目には思わぬところで再会した旧友という構図だ。
なのに、この寒々とした雰囲気。
3人の笑みの中に黒い悪魔が棲んでいるような奇妙な錯覚だ。
「え、ええ……そうですね……皆さん、改めてよろしくお願いします……」
跳ねるように立ち上がったみゆきは丁寧にお辞儀をした。
――丁寧すぎる。
下位の者が上位に対してする礼に近い。
443罪咎深き賤しい女4:2008/08/20(水) 21:50:24 ID:LswSLZAj
「そっちの子は?」
1人がこなたに目を留めた。
興味津津といった様子でじっと見つめてくる。
「あ、私、泉こなたっていうんだ」
言ってから名乗るべきではなかったのでは、とこなたは思う。
なぜそう思ったのかというと、
「ふぅ〜ん、高良にも友だちができたんだぁ」
という憐れみに近い言葉がその一瞬後に放たれたからだ。
厭な雰囲気だ。
この3人とは親しくなれそうにない。
こなたは即座に直感した。
「私、吉田っていうんだ」
「私は橋本」
「大原だよ、よろしく」
こなたに倣ってそれぞれも名乗る。
一度では覚えられそうにない。
握手を求められたのでとりあえず返す。
が、やはり感触はよくない。
本能は彼女たちから離れろと囁いている。
気になってみゆきを見た。
彼女もまた居心地悪そうに視線を彷徨わせている。
額に汗が浮かんでいるのを、こなたは見逃さなかった。
「それじゃあね〜」
ここで話し込む気はないのか、3人はひらひらと手を振って立ち去った。
ホッとしたようにみゆきが息をつく。
「高良さん、あの人たちって……」
「なんでもありません!」
姿が完全に見えなくなるのを待って、こなたは訊こうとしたがみゆきがかぶりを振る。
現実味のある恐ろしい想像をしてみた。
みゆきが3人にいじめられている様だ。
想像力が豊かなほうではないこなたにさえ、その様子は容易に思い浮かべられる。
思い出すだけだ。
記憶から消し去りたい小・中学校時代の自分を思い出すだけ。
ただその際、自分とみゆきを入れ替える必要がある。
確信はない。
もしかしたら違うかもしれない。
だが、あの3人組が来てからのみゆきの挙動。
それを見た瞬間、みゆきに対して湧いた強い親近感。
これが嘘でないのなら、こなたの予想は大きくはずれてはいまい。
「誰にも言わないよ。ただ、ちょっと気になって……高良さん、もしかして……?」
自分と同じ匂いがするのだ。
卑屈なほど礼儀正しい彼女から。
振る舞いは優雅なのだが、ただの”優雅”で片づけてはいけない気がする。
「なんでもありませんから。それより早く食べないとお昼休みが終わってしまいますよ」
話題を変えたがるみゆきに、こなたはようやく確信する。
やはりそうなのだろう。
あの無邪気な3人組にはどこか黒いオーラのようなものを感じた。
思い返せば、彼女たちの言葉も不自然な気がする。
みゆきが独りでいた理由も。
これで繋がるのだ。
まず間違いないと思ったこなただが、そうだとしたらいじめの経験を持つ者の気持ちは誰より理解できる。
横目にみゆきを見ながら、そうだねと頷いてチョココロネをほおばった。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 21:51:36 ID:LswSLZAj
キリのよいところで、今夜はここまでとします。
それではまた明日お会いしましょう。
445名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 22:29:48 ID:hgE4VJ6X
>>444
みゆきさんも過去に訳ありか……
半月前程に投下された、虚像と実像を思い出します。
あっちではこなたとみゆきは残念な関係になってたけど
その分なんか色々期待してしまうw
続き楽しみにしてます。
446名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 23:19:10 ID:/I6Hztf4
gj
447名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/20(水) 23:25:35 ID:hgE4VJ6X
もしかして虚像と実像と作者さん同じだったり?
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 00:48:08 ID:pbWMG674
発言遡る限り、そうだろうね。
449名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 02:02:47 ID:3ArxFMmx
>>437
ダイヤ乱れのことを配慮して東横線みなとみらい線全駅のホームの有効長を10両化にしてほしい。(そうすることで10両が各駅停車として運行することが可能になる)
10両しか持たない東武車や西武車および東京メトロ10000系、7000系10編成、東急5000系(一部)は間合い運用があるときのことも考えて。
(今現在、副都心線で間合い運用として8両の他に10両も各駅停車の運行も行っている。)
東横線はワンマン運転は出来そうもなさそう。(日比谷線の列車も混じるから)
俺の考えとして混雑緩和として田園都市線に導入している新型車両の5000系の増備で8500系のほかに2000系も置換えて田園都市線の東急車は5000系に統一し
8500系は長野電鉄へ譲渡あるいは廃車して2000系は東横線に持ってくる(列車増発用として)といったことかな?東横線の5000系は8→10両と1編成につき2両増備以外はない。
450名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 03:30:50 ID:/cBCoL4z
451既にその名前は使われています。:2008/08/21(木) 08:00:34 ID:s5sS/yJ0
「小早川ゆたか」の陰謀で最後にゆたかがホームから転落して原因は?
1 事故
2 かがみ
3 黒井先生
4 泉かなた
5 キラ(夜神月)にデスノートで裁かれた。
452名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 08:26:13 ID:i7Wfs6UW
>>450
パンツ程度で許すと思ってるんですか?^^
453名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 08:26:59 ID:Wjt2yIlv
>>451
6:そのように仕向けたのも私だ。
454名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 09:35:27 ID:SKSiCnB1
デスノの松田に追いつめられた
455名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 12:45:57 ID:K6vDbDJp
>>444

虚像と実像の人?
ハンネ名乗ったほうが分かりやすくね?
456名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 21:08:17 ID:8ds1kAXC
こんばんは。
少し早いですが昨日の続きを投下します。
457罪咎深き賤しい女5:2008/08/21(木) 21:09:27 ID:8ds1kAXC

(吉田さんと、橋本さんと……誰だっけ?)
こなたは手元のクラス表を見た。
これは入学式の日に渡されたもので、1年の全クラスの生徒の名前が載っている。
(私と高良さんがここで……あ、吉田さんと橋本さんって隣じゃん!?)
何か厭な感じがする。
クラスが違うから日中、彼女たちの顔を見ることはない。
まれに合同授業があるだろうが、大人数になるのだからさほど気にはならないハズだ。
(…………)
残る1人が思い出せないが、考えてみれば同じクラスであるわけがない。
3人ともが自分やみゆきと違うクラスだからこそ、昼休みにあのような声のかけ方をしたのだから。
となれば、多少の安心感は生まれるだろうと。
そう思い、みゆきの方へと目をやったが、彼女は病にかかったように暗い表情でうな垂れていた。
「おい泉、よそ見するな」
注意されて気がつく。
今は授業中だった。
慌ててクラス表を机にしまい、教科書に集中する。
『人間失格』
太宰治の作品だ。
どうしてこんなものを読ませるのだろう、とこなたは思った。
作者に罪はないが、こんな作品を書いたがために後々まで残り、今こうして読まされる羽目になっている。
気分のいい内容ではない。
時代も考え方も今とは違うのだから、もっと最近の小説を読ませればいいのに。
(あ〜あ、ラノベだったらいいのにな…………)
担当教師の子守歌を、こなたはまどろみながら聞き流した。


458罪咎深き賤しい女6:2008/08/21(木) 21:10:32 ID:8ds1kAXC
 1週間が経った。
レクリエーションの類は全て終わり、授業も通常通りに行われている。
新入生の顔からもいつしか緊張の色がとれ、いよいよ学園生活が始まったという雰囲気になる。
「おはよう泉さん」
「おはよ〜」
朝、教室に入ると何人かがこなたに声をかけてくる。
それに対して笑顔で返す。
まだどこか初々しさが残る関係では、互いを下の名で呼び合うことはない。
まずは顔と名前を一致させるところから始まるから、今はこうやって声をかけあうだけで十分だ。
こなたは満たされていた。
ここには自分をいじめるバカな奴らはひとりもいない。
まだまだ打ち解けるには時間がかかるが、あの頃に比べれば天国のようなものだ。
「高校って思ってたよりも課題多いよね」
鞄を置きながら、隣の席の生徒に声をかける。
「そうだよね。うちの姉さんなんかバイト三昧で全然勉強してないみたいだよ?
やっぱり学校によって質も量もいろいろなんだね」
この程度の会話はできるようになった。
友だちを作るのはそう難しいことではない、とこなたは感じた。
ちょっとだけ勇気を出してアプローチすれば、相手は必ずそれに答えてくれる。
活発な子とは会話が弾むし、奥手な子とはじっくりと話すことができる。
陵桜に来てよかったと思った。
もし地元の高校に通っていたら、こうはいかなかったに違いない。
クラスにあるいは学年に必ずひとりは、自分の過去を知っている者がいる。
そういう人間は狡猾だから、周囲を巻き込んでまた自分をいじめるに決まっている。
その点、この学園は違う。
家からも離れているし、おまけに頭の良い生徒が揃っている。
いじめをやるような人間に秀才はいないから、連中では到底陵桜には入れない。
それが分かっていたからこそ、こなたは受験勉強に集中できた。
ここに合格しなければ、滑り止めに受けた地元の私立しかない。
だから必死に勉強した。
大好きなアニメやゲームも封印して、合格し歓喜する自分を強くイメージした。
もともと孤独を紛らすための趣味だったから、封印するのは簡単だった。
入学が決まった時は録り溜めていたアニメを片っ端からかたづけた。
そうじろうには合格祝いとして、18禁のゲームも買ってもらっている。
こなた自身はオタクだという自覚はあるが、学校ではそのテの話はしないようにしている。
オタクがまだ世間に溶け込めないことを知っているからだ。
言葉は浸透していても、どこか暗いイメージが先走り、居心地は悪い。
アニメもゲームもほどほどに嗜む少女、というキャラクターをこなたは貫こうと思った。
ヘタに趣味を押し通して、ウザったく思われたらおしまいだ。
「おはよう、みゆきさん」
やや遅れぎみにやって来たみゆきに声をかける。
親しみを込めて、彼女のことは下の名で呼ぶことにしたのだ。
一方のみゆきはといえば、
「泉さん、おはようございます」
相変わらず苗字で呼ぶ。
よそよそしいという感じはしない。
むしろ彼女らしい優雅さというか、誰に対しても分け隔てしない呼び方には公平性がある。
とはいえ、少しは寂しいという感情も湧いてくる。
あの日以来、彼女の存在が気になるこなたはよく声をかけていた。
その度にみゆきは微笑みを返してくれるのだが、その表情にはどこか翳りがある。
やはり3人組に何かしらの原因があるのでは?
そう思うこなただが、深く問いただすような真似はしない。
ようやく手に入れた平穏だ。
みゆきのことは気にかかるが、わざわざこちらから行動を起こして面倒になったら厄介だ。
それよりもこうやって挨拶すれば返してくれる、今の環境。
これこそを大事にしたい。
決して贅沢ではない。
誰もが当たり前に享受するべきささやかな幸福である。
459罪咎深き賤しい女7:2008/08/21(木) 21:11:36 ID:8ds1kAXC

 その幸福が遠のき始めたのは、さらに1週間が経過した頃だ。
クラスの雰囲気がどことなくおかしい。
新入生もいい加減、学園生活のペースを掴んでいるからピリピリしたムードではない。
しかし――。
何かがおかしい。
「なんかヘンじゃない?」
こなたは隣席の女子に訊いてみる。
「ヘンって何が?」
「いや、なんていうか……クラスの空気がさ……」
「何とも思わないけど」
女子はそう答えるが、その口調も何か寒々したものを感じる。
こなたは独り、取り残されているような感覚に陥った。
自分を含めて40人もの生徒がこの一室に押し込まれている。
授業中はもちろん、休み時間でも視界に入るメンバーは変わらない。
もう全員の顔と名前も覚えた。
入学してから数日かけて、挨拶もかねて全員に声もかけている。
みゆきを除いて特別親しい仲間はいないが、かといってあからさまに敬遠するような者もいない。
ほどよい距離間での付き合いができているハズなのに。
やはり何かがおかしい、と。
この感覚を捨て切れないこなたは、みゆきに訊ねてみることにした。
「さ、さあ……私は何も感じませんが…………泉さんの思い違いなのでは……?」
彼女までこう言う。
嘘だ、とすぐに分かる。
2週間ほどかけてこなたが見てきたみゆきは、嘘をつくのがヘタだ。
一言否定すればすむのに。
何かを隠そうと要らない言葉を付け足して、語調に怪しさを残してしまう。
「あの、泉さん……」
訝っているところに呼ばれる。
「すみませんが、予備をお持ちでしたら消しゴムを貸していただけませんでしょうか?」
「うん、いいけど? 珍しいね、みゆきさんが忘れ物するなんて」
意外だった。
優美に見えてみゆきは天然なところもあるが、身の回りには手ぬかりのない女性だ。
「ええ、すみません」
みゆきは心底申し訳なさそうに俯く。
「いいよいいよ。なんなら持っててもいいから」
返却の日時を指定するほど、こなたも細やかな性格ではない。
この程度の貸し借りはよくあることだ。
消しゴムひとつではあるが、自分に貸してほしいと頼んでくれたことが嬉しかった。
頼られている、信用されている気分になる。
「本当に申し訳ありません」
みゆきは卑屈なほど頭を下げた。
その様を――。
遠巻きに生徒たちが見ていることに、こなたはまだ気づいていない。
460罪咎深き賤しい女8:2008/08/21(木) 21:13:03 ID:8ds1kAXC
 翌日。
寝坊したこなたは、いつもより一本遅い電車に乗った。
ホームを出たら人混みを避けて全速力で駆ける。
昔、いじめっ子から逃げ続けていたおかげで足だけは速い。
雑踏を掻き分け、ちょっと前に見つけたショートカットを抜け、校門をくぐる。
俊足のおかげで予鈴が鳴る10秒前に駆け込むことができた。
肩で息をしながら教室に入る。
「おはよう」
ドアにもたれるようにして声をかけた。
「あ、おはよう」
「おはよう、泉さん」
近くにいた女子たちが気づいて挨拶を返してくる。
自分の席につこうとして、ふと教室内を見渡した時。
みゆきが俯いているのが見えた。
何をするでもなく、膝に手を乗せて椅子に座っているだけの。
その様子が痛々しい。
(そういえば……みゆきさん)
鞄から筆記具を取り出しながら思う。
みゆきが自分以外の誰かと話しているのを見たことがない。
休み時間はたいてい自分と喋っているからかもしれないが、だからといって毎時間ではない。
みゆきの休み時間の過ごし方は、自分と喋っている時以外は、常にああやって不動のままでいる。
移動教室の際は誰よりも先に移動し、誰よりも先に戻ってくる。
「もしかして…………」
知らず口をついて出ていた言葉に半ば確信を抱く。
しかしハッキリと形を作り始めた想像は、直後に入って来た担任の声によって霧散した。


「申し訳ありません、泉さん…………」
1時間目が終わった直後、今にも泣き出しそうな顔のみゆきがやって来た。
「昨日、泉さんにお借りした消しゴムを……」
「ん? どしたの?」
「消しゴムを……失くしてしまいました……」
「え、そうなの?」
「本当に申し訳ありません。放課後、代わりの物を買ってきますから……!!」
「あはは、いいっていいって。消しゴムくらいで」
こなたは大仰に笑った。
返せなどとケチくさいことは言わない。
悲痛な表情のみゆきに、そんな態度をとることはできない。
それに貸した消しゴムだって自分の使いかけだ。
新品を返してくれと言うのも図々しい。
それよりも。
みゆきが借りた物を失くした、という事実が気になる。
本当に失くしたのだろうか?
「みゆきさん、ちょっ――」
「泉さーん!!」
問おうとしたところに、教室の入り口のほうから声がかかった。
クラスの女子だ。
「あ、ごめん。行ってくるね」
呼ばれているのに無視はできない。
後ろ髪を引かれる思いでこなたは自分を呼んだ女子の元へ急いだ。
「どしたの?」
と、言うと女子たちはバツ悪そうに、
「う〜ん、ここじゃちょっと…ね……」
廊下に出るように促す。
(…………?)
分からないままこなたはその後を追った。
教室から数メートル離れたところで。
「泉さんさあ、前から言おうと思ってたんだけど」
女子たちは互いに顔を見合わせる。
461罪咎深き賤しい女9:2008/08/21(木) 21:14:05 ID:8ds1kAXC
この続きを誰が言うか、無言のまま視線だけで押しつけ合っているようだ。
やがて観念したように船井という女の子が、
「あんまり高良さんと関わらないほうがいいよ」
憐れむような視線をこなたに向けた。
その言葉の意味を理解するのに数秒がかかった。
「なんで?」
なんとか問い返す。
不愉快極まりない発言だった。
どういう理由があって関わらないほうがいいのか。
「だって泉さんまで巻き込まれちゃうよ?」
「なにに?」
今度は即座に問えた。
船井たちは互いに顔を見合わせ、
「その……ねぇ……」
ぎこちない笑みを浮かべる。
だいたいは見当がついている。
こなたも経験済みのアレだ。
(じゃあ、あの消しゴムの話も……?)
だが分からないことがある。
みゆきがいじめられているところを見たことがない。
確かに彼女は自分以外の人間とは話さない。
が、話さないからといって周りが無視をしているというわけでもない。
それとも表面化しないよう、陰でやっているのだろうか。
その辺りを探る必要がある。
「船井さん、もしかして高良さんっていじめられてるの?」
直截すぎたかもしれない。
まだ疑いの段階で”いじめ”というワードを出したのは間違いかもしれない。
が、船井がみゆきに関わるなと言ったのは、つまりこなたを案じてのことだ。
ならばこなたから見れば船井は信用できる。
出会って日は浅いが、これには答えてくれそうな気がした。
「ハッキリ言うわね、泉さんって。でも、まあ……そうよ」
答えてくれたことよりも、歯切れの悪い答え方をしてくれたことがこなたには嬉しかった。
ここで笑いながら言おうものなら、この船井には罪の意識の欠片もないことになる。
声のトーンを落としたことから、彼女が少なくとも積極的に関わっていないことが分かる。
「なんで、いじめられるのかな?」
こなたの問いは半分は空虚に向けて放たれたものだ。
いじめるにも、いじめられるにも明確な理由はない。
多くはたまたま目についたから、という程度のものだ。
仮に理由があっても、いじめる側が正当化したもので、やはりいじめていい理由は存在しない。
「分かんないけど、泉さん明るい性格なんだからさ」
こなたの呟きをしっかりと聞いていた女子が言った。
(じゃあ暗い性格なら駄目なの?)
説得力に欠ける。
いじめられてもいい性格なんてあるのだろうか。
「とにかくそういうわけだから。ね、このままじゃ泉さんがかわいそうだから」
その言葉にムッときた。
情けをかけられているみたいで嫌だった。
こういうのは善意とは言わない。
「分かった。一応気にとめておくよ。ありがとう」
とりあえず忠告として受け止めてはおく。
しかしこれでみゆきとの付き合い方を変えるつもりはなかった。
陵桜には賢い子が集まるのだから。
仮にいじめがあったとしても、それは単なる気の迷い。
一過性のものですぐに消え去るハズだ。
462罪咎深き賤しい女10:2008/08/21(木) 21:16:36 ID:8ds1kAXC


 結局、みゆきは新しい消しゴムを買ってこなたに返した。
こなたは何度も拒んだのだが、みゆきはそれでは気が治まらないからと無理やり渡した恰好だ。
丁寧で律義な子だな、とこなたは思った。
この程度の貸し借りでも顛末をきちんとさせるのは好感が持てる。
だらしない自分とは正反対だ。
(あ、みゆきさん)
電車を降り、通学路を歩いていると目の前に見知った少女の後ろ姿が見える。
(立てば芍薬――とかいうけど、みゆきさんみたいな人を言うんだろうな)
そう思いながら、その後ろ姿に声をかける。
「………………!?」
振り向いたみゆきの顔は。
ひどくやつれていた。
何日も寝ていないみたいに腫れぼったい目でこちらを見る。
「おはようございます……」
それでも慇懃に振る舞うみゆきを見て、こなたは悲しくなった。
「あのさ、みゆきさん――」
「できましたら……もう私には関わらないでください」
「…………ッ!!」
信じられない一言に、こなたは時間が止まったような感覚を味わった。
(みゆきさん、今なんて……?)
何かの間違いであってほしい。
寝ぼけて聞き間違えたのかもしれない。
「勝手な申し出ですみませんが…………」
そう云い捨て、みゆきは足早に校門をくぐった。
しばし呆然と立ちすくむこなた。
後ろからなだれ込む生徒に背中を押されるようにして、彼女は重い足を引きずって校舎へ。
(嘘だよね、みゆきさん?)
だって嫌われる理由がないのに。
好かれることはなくても、だからといって拒絶されることをした憶えはない。
あまりに急な展開に思考が追い付かない。
とにかく理由を聞かなければ。
463罪咎深き賤しい女11:2008/08/21(木) 21:17:24 ID:8ds1kAXC
逃げるみゆきを追いかけるように教室に入り――。
そして見た。
入口に呆然と佇むみゆきと、そのみゆきの視線の先。
教室のほぼ中央にありながら、なぜか隔離されたような印象を与える机。
その上に花瓶が置かれている。
白や黄色の美しい花を咲かせて。
(なんで…………?)
疑問がぐるぐるとこなたの頭を駆け回った。
何もしてない。何もしてないのに。
横ではみゆきが相変わらず魂が抜けたように佇立している。
計り知れないショックを受けただろう。
よもや自分の机に花を置かれるなど誰が想像できようか。
こなたは怖くなった。
誰が置いたのかはもちろん問題だ。
こういう事をやっておいて、平然といられる人間の精神など理解できない。
理解できない人間に苦しめられる理由などないのだ。
しかし最大の問題はそこではない。
むしろ――。
この様を見て誰ひとり、それを片づけないところだ。
教室内にはすでに多数の生徒がそれぞれにグループを作って喋っている。
ひそひそと憚るように…声を落としてはチラリとそれを見やり、また視線を戻す。
そして談笑。
やがてみゆきはふらふらと自分の席に歩み寄り、花瓶を窓際に置いた。
その一挙一動もクラスメートはひそみに見ている。
こなたもまた、その様子を眺めているしかできなかった。
「チャイム鳴ったぞ。さっさと席につかんか」
いつの間にか担任が入ってきた。
クラスの連中は蜘蛛の子を散らしたように素早く移動し、それぞれの席につく。
「泉、お前も早く座れ」
恫喝するような声にこなたは動悸を覚えながら席についた。
みゆきは――じっと下を向いたままだった。

464名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 21:19:38 ID:8ds1kAXC
以上、今夜はここまでとします。
HNは名乗るに相応しくなってからにします。
それではまた明日。
465名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 22:53:14 ID:03h5b1F0
gj!
とっくにコテ名乗るに相応しいレベルに到達してると思うぜ。
遠慮なく名乗ったらいいと思う。コテ減ってきてるし
>>450
エロ過ぎwwww
一緒に自殺したくなる。
466名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/21(木) 23:27:04 ID:vamvwBfO
最近実力ある癖に名無しの人が多くて困るね。嬉しいけど
虚像と実像の人=サイケデリックの人?
まぁなんでもいいけどおまえら名乗れww
467名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/22(金) 00:07:14 ID:rLgf9D5s
乙、つかさ空気だな
468名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/22(金) 00:46:20 ID:yyTSsK4A
>>466
虚像と実像の人≠サイケデリックの人
469名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/22(金) 00:54:36 ID:RXg6fEhk
こなた「そ、そんな〜チョココロネがない〜」
かがみ「え?知らないわよ・・」
つかさ「もしかして落としちゃったとか!」
みゆき「よろしければ私のお弁当を・・」
こなた「人生ヽ(=ω=.)ノこなた」
こなたは動かなくなった・・
470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/22(金) 10:10:31 ID:j4rxFI6C
ハヤテ君は宿題やってなさい
471JEDI_tkms1984:2008/08/22(金) 21:40:57 ID:i6KwPP2+
皆さん、こんばんは。
少し迷いましたが、HNを名乗らせていただきます。
今後は JEDI_tkms1984 として投下しますのでよろしくお願いします。
それでは今夜も昨日の続きを。
472罪咎深き賤しい女12:2008/08/22(金) 21:41:56 ID:i6KwPP2+
 厳密にはこの時から、こなたを取り巻く環境が変わった。
みゆきの持ち物がなくなる。
切り刻まれたノートや教科書が見つかる。
授業中、みゆきの背中に紙くずが投げつけられる。
そのどれもが――。
みゆきに対してのものだ。
だから厳密には、こなたには何ら影響はない。
船井たちが言うように、彼女に関わりさえしなければ。
こなたは待望していた平穏な生活を送ることができる。
(みゆきさん、大丈夫かな……?)
厭でも視界に入ってくる、みゆきへの辛辣ないじめ。
積極的に加わっているのはクラスの半数ほど。
残りは見て見ぬふりを決め込んだらしい。
陰湿で、巧妙で、容赦のないいじめは――。
普段その場に居合わせない教師には絶対に見つけられない。
たとえば誰か1人が密告するだけで悪夢は終わる。
証拠になりそうな写メなり物件なりを押さえて、担任にでも突きつけてやれば済む。
きわめて簡単なことなのだが、それを行うにはきわめて大きな勇気がいる。
だから誰も密告しない。
高良みゆきはかわいそう。
そう思うことで、実際には見ているだけで何も行動を起こさない自分を綺麗に見せようとする。
こなたも同じだった。
陵桜で最初に喋ったみゆきを。
かつての自分と同じ境遇に立たされているみゆきを。
助けてあげたいとは思う。
しかし、それをしてしまったら――。
その後どうなるかを想像できないこなたではない。
(みゆきさん……ごめんね……)
だからこなたは見て見ぬふりをした。
ヒソヒソと話し声が聞こえる。
女子グループがみゆきをちらちら見ながら、何か良からぬことを企てているようだ。
なんで女の子ってこうなんだろう?
こなたは思った。
暇があればいつの間にか固まり、そこにいない人の悪口を言っては嗤(わら)う。
何が楽しいのか理解できない。
こなたは机に伏して耳を塞いだ。
ついでに目を閉じる。
こうすれば陰惨な現実を見聞きしなくてすむ。
自分だけの世界に浸っていられる。
だが、いつまでもこうしてはいられない。
数分もすれば昼休みが終わる。
5時間目、6時間目が始まる。
(また嫌なものを見ちゃうんだろうなあ……)
どうせならみゆきと違うクラスになればよかったのに、と思った。
そうすればこの罪悪感からも少しは解放されるのに。
チャイムが鳴った。
外で待っていたのではないかと思うほど、教科担当が同時に入ってくる。
「はいはい、席につきなさいよ」
もう定年退職してもよさそうな、おじいさんだ。
優しそうな風貌のために逆に威厳がなく、一部の生徒からはナメられている。
生徒らはのそのそと自分の席につく。
「では、始めますよ。んん?」
教師が間延びした声を出す。
「そこの席……高良くんはどうしたのかね?」
その言葉にこなたはみゆきの席を見る。
いない。
「トイレでも行ったんじゃないですか?」
誰かが笑いながら言った。
473罪咎深き賤しい女13:2008/08/22(金) 21:42:52 ID:i6KwPP2+
「それより早く授業やってくださいよ。敦盛の最期の話、してくれるって言ってたじゃないすか」
みゆきの存在を消したがるように、生徒たちは口々に授業を促した。
誰も心配していないどころか、気にも留めていない。
こなたは唇を噛んで成り行きを見守った。
「ううむ、そうだなあ。じゃあ始めるか。そのうち戻ってくるだろう」
教師までもがみゆきを探そうともせず、クラスの雰囲気に押されて教科書を開く。
(…………)
こなたも仕方なく教科書を開く。
授業中は先生が支配者だから。
従うしかないのだと自分に言い聞かせる。
5分ほどした時、教室のドアが遠慮がちにノックされた。
教師がのそりと顔をそちらに向け、擦りガラスの向こうの人影を確認する。
みゆきだった。
青白い顔をして教室に入ってくる。
「遅れて申し訳ありません……」
蚊が鳴くよりも小さな声だ。
口調は、ただ遅刻したことを反省しているだけではない。
「今度から気をつけなさいよ。で、なんでそんな恰好をしているのかね?」
「すみません。制服を汚してしまいまして…………」
みゆきは体操着姿だった。
それを見たこなたの体内を熱い何かが恐ろしい速さで駆け巡った。
昔の自分と同じだ。
中学2年生の夏に同じ経験をした。
(あの時は……体育の授業が終わって戻ってきたら制服がなくなってたんだよね……。
後で探したら焼却炉から燃えカスが出てきたっけ……)
汚したというのは嘘だろうとこなたは思った。
隠されているかもしれない。
もし手元にあったとしても、それは”汚された”ものだ。
「まぁいいか。早く座りなさい」
「……はい」
教師はさっさと再開したいのか、みゆきには何も聞かない。
(なんでおかしいって思わないの!?)
こなたは憤る。
教室のあちこちからクスクスとひそみ笑いが聞こえる。
席についたみゆきは表紙がぼろぼろのノートを取り出す。
続いて落書きだらけの教科書。
「――そういうわけで、敦盛は壮絶な最期を遂げたわけですね」
言い終わると同時にチャイムが鳴った。
みゆきもこなたもこの重苦しい時間から解放され安らぎを得た。
が、休み時間もそれと大差ないことをすぐに理解し、深いため息をついた。
474罪咎深き賤しい女14:2008/08/22(金) 21:44:24 ID:i6KwPP2+
「ごめん、ちょっと写させてくれない?」
休み時間になると同時にこなたの所へ女子がやってきた。
「さっきの年表のところ。私の席からじゃ黒板が見えなくてさー」
「うん、いいよ」
「ありがと」
中腰のまま、女子は流れるような書体でこなたのノートを複写していく。
今のこなたは満たされている。
こうやって普通に話しかけてくる級友がいる。
10年近くいじめられていたが、社交性はまだ残っていたから会話もそれなりに弾む。
いっそこのまま。
このまま3年間が過ぎれば――。
こなたは考えた。
そうとも。
みゆきという少女は1人しかいない。
このクラスには38人がいる。
みゆきが全てではないのだから、何も彼女に負い目を感じることはないじゃないか。
むしろ他のクラスメートと親交を深めたほうがいいに決まってる。
確かにみゆきには同情する。
だからといってヘタに彼女に手を差し伸べたりしたら、残る38人を敵に回すことになる。
(…………)
みゆきには悪いが、自分はこのまま無難に学園生活を乗り切りたい。
彼女を犠牲にすることでこのクラスがまとまるなら……。
それでもいい、とこなたは強引に思いこんだ。


 一度は割り切ったこなただったが、罪悪感は日を追って膨れ上がってきた。
3日前、制服を汚したと言って体操着で午後からの授業を受けたみゆき。
その制服が見つかった。
ズタズタに寸断されてただの布切れと化した制服は、体育倉庫横のゴミ置き場にあった。
近くを通りかかった管理人が見つけたために、ちょっとした騒ぎになる。
だがそれには名札の類もなく、持主の特定はできなかった。
みゆきも翌日には予備の制服で登校していたため、それが彼女のものであるとは誰も思わない。
――このクラスを除いては。
こなたはすぐにその制服がみゆきの物であると分かった。
汚したというのはやはり嘘だ。
おそらく自分の知らない間に、どこか人目につかないところでやられたのだろう。
(あんなにいい人なのに……)
無駄だと分かっていながら、彼女がいじめられる理由を考えてみた。
おとなしいから?
優雅だから?
慇懃だから?
利発だから?
どれも素晴らしい点だと思う。
誇るべき長所ではないか。
いじめる側は彼女の何が気に入らないのだろう。
目立つから……は理由にならない。
髪の色、声の大きさ、存在感。
どこかしら飛びぬけた個性で目立つ生徒はいくらでもいる。
なら、どうして…………?
「あっ…………!!」
こなたの思考は、小さく声をあげるみゆきに掻き消された。
見ると彼女の指先から鮮血がぽたぽたと零(こぼ)れている。
次の授業の用意をと机に手を入れたところだった。
おおかたノートの縁にカッターの刃でも貼り付けていたのだろう。
色白の柔らかい皮膚がさっくりと切れている。
それを見たこなたの頭の中で何かが爆発した。
「なんでこんな事するのッ!?」
考えもしないうちにそう口にしていた。
475罪咎深き賤しい女15:2008/08/22(金) 21:46:03 ID:i6KwPP2+
「みゆきさんが何したっていうの? 何もしてないじゃん!
なのに……こんなの酷いよ! 酷すぎるよ! なんでこんなことするの!!」
「い、泉さん……」
みゆきが慌てて止めようとする。
「こんなのやめようよ! 皆だってこんなことされたら嫌でしょ!?」
眠そうな目を瞋(いか)らせて、遠巻きに見ている連中を睨みつけた。
我慢ならなかった。
保身がどうこう言っていられない。
現にみゆきは怪我をしたのだ。
「泉さん、もういいです……いいですから……」
みゆきは遠慮がちにこなたの袖を引く。
いじめられる者は注目を浴びることを嫌う。
これがキッカケでさらに酷い目に遭わされたら――。
そう思うと気が気でなかった。
「みゆきさんは何も悪くないんだから。悪いのはみゆきさんをいじめてる人のほうだよ!」
聞こえよがしに言った。
指先からしたたる血を見た瞬間に理性が飛んだ。
やっていい事と悪い事がある。
いじめなど以ての外だが、今までは物を隠したり壊したりで、少なくとも身体的に直接の害はなかった。
だが今回は違う。
たまたま軽傷で済んだが、ヘタをすれば大怪我をしていたかもしれないのだ。
「………………」
2人は異様な雰囲気を感じ取った。
教室にいる10数名のうち、後ろめたそうに俯いているのはわずか2人。
残りは嘲るような、哀れむような目でこなたをじっと見つめている。
どうやらこなたの訴えは誰の耳にも届かなかったらしい。
「行こっ!」
強引にみゆきの腕を掴んでこなたは教室を飛び出した。

「ちょ、ちょっと待ってください! どこに行くんですか!?」
みゆきは振りほどこうとしたが、こなたはしっかり掴んで離さない。
「保健室行くの!」
珍しくこなたは怒気を露にした。
保健室にはまだ一度も行ったことがないが、場所だけは知っている。
「あの、もうすぐ5時間目が……」
みゆきは言うが、もとより引き返すつもりはない。
小さな切り傷でも放っておけば雑菌が入り、深刻な症状に至ることもある。
そういう知識の有無に関係なく、こなたは彼女を放っておけなかった。
今の今まで見て見ぬふりをしていたせめてもの贖罪だと。
そう思い込むことが保健室に向かう足を速めてくれた。
「失礼します」
行ったのは後から入室したみゆきだ。
「どうしました?」
寝起きのような声でふゆきがやって来る。
「みゆきさんが指を切ったんです。診てもらえませんか?」
「あらあら、それは大変ですね」
口調とは裏腹にふゆきの行動は素早い。
すぐに消毒液とガーゼを手に傷の手当を始めた。
切り傷や打撲で訪れる生徒は多い。
ふゆきはこれが悪質ないじめによるものだとは思わない。
保健室はいわば生徒にとって心のオアシスのようなものだから。
この校医に相談してみようか、とこなたは思った。
もしかしたら良いアドバイスをもらえるかもしれない。
(でも…………)
その反面、ふゆきからあちこちに伝わって騒ぎが大きくなるおそれもある。
(この先生、うっかり喋っちゃいそうだしなあ……)
「はい、これで大丈夫……どうしました……?」
こなたの視線にふゆきが訝る。
476名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/22(金) 21:48:35 ID:jzCAdxbK
>>464
自殺スレやぼっちスレでは何故かほとんど見かけないけど
他のSSスレでは初めて作品を投下した時のスレ数&レス版をそのままコテにする
「数字コテ」ていうのがある。
>>464さんの場合はこの作品が初作品なら>438から投下してるから「24-438」ってなるかな。
数字の羅列だとあんまり気兼ねもしないで済むしこれも一つの方法かも?
477罪咎深き賤しい女16:2008/08/22(金) 21:48:44 ID:i6KwPP2+
「な、なんでもないです!」
こなたは不自然なほどかぶりを振った。
(やっぱりやめよう。なんか不安だし)
「…………?」
ふゆきは首を傾げたが追及はしなかった。
指を切ったくらいでいつまでも保健室にいるのも怪しまれる。
「ありがとうございました」
みゆきは丁寧にお辞儀をすると、さっさと出て行こうとする。
こなたもそれに倣って頭を下げると、みゆきの後を追った。
「お大事に〜〜」
間の抜けたふゆきの声が何かの声援のように感じられ、こなたは奇妙な感覚で保健室を出た。
廊下の角を曲がったところで、
「――みゆきさん」
憚るようにそっと声をかけた。
みゆきは何の反応も示さない。
「私のこと……庇ってくれたんだよね?」
「……何のことでしょうか?」
振り向きもせず、みゆきは冷たくあしらう。
「関わらないで欲しいって……あれ、嘘なんでしょ? 私が巻き込まれないように言ってくれたんでしょ?
みゆきさんがあんな目に遭ってるの、全然知らなかったから……ごめん、ごめんなさい……」
言いながら、自分は卑怯者だとこなたは思った。
いじめの実態を知ってからも、ずっと遠巻きに見ていただけの卑怯者。
今日、みゆきが文字通り血を流したからこそ、あのような行動がとれたが。
もしそうでなかったら。
悪いと思いつつも、結局はみゆきの傷ついていく様を眺め続けたかもしれない。
(こんなに優しい人なのに、なんでいじめられなきゃいけないの?)
敢えて突き放すことで、自分を守ってくれたみゆきを。
こなたはもう、今度こそ無視することはできない。
みゆきを庇ったことで、矛先が自分に向けられるかもしれない。
かまうもんか。
いじめられる事には慣れている。
それに――みゆきがいる。
そのつらさを知っているからこそ、彼女を助けたい。
盾になろうなどとおこがましい考えは抱かない。
ただ助けたいという。
本来、人間なら持っていて当然の感情を表に出すだけだ。
「私がした事を……無駄になさるおつもりですか?」
みゆきが不意に足を止めた。
「あなたの仰るとおりです。私のせいで泉さんまで酷い目に遭わされたら……私には堪えられません」
「…………」
「泉さんは大切なお友だちですが。ですが、だからこそ分かってください。お願いです……」
「イヤだよ!」
こなたは拒否した。
「みゆきさんの事、放っておけないよ!」
「ですが……!」
「間違ってたらごめん。みゆきさん、昔いじめられてなかった……?」
(…………ッ!!)
みゆきは硬直した。
何も答えない。
だが、その沈黙こそが答えだ。
「やっぱりそうだったんだね?」
知られたくない過去をあっさりと言い当てられ、みゆきの中で血が逆流するのを感じた。
「私もそうだったんだ」
あの三人組と相対した時、こなたはうっすらとみゆきの過去に気付いていた。
だが、みゆきのほうは。
よもやこの泉こなたが、自分と同じようにいじめに遭っていたなど想像もできなかっただろう。
「……どうして…泉さんが……?」
「理由なんてないよ、そんなの。いつの間にか標的にされてた」
478476:2008/08/22(金) 21:49:38 ID:jzCAdxbK
タミングワルスorz
割り込み申し訳ありませんでした…
479罪咎深き賤しい女17:2008/08/22(金) 21:50:08 ID:i6KwPP2+
こなたは自嘲気味に笑った。
笑える話ではないのにおかしかった。
「それでここを受けたんだ。家から遠かったし、そんな子もいないと思ってたから」
私と同じだ、とみゆきは思った。
過去も陵桜を選んだ理由も。
何ひとつ変わらない。
違うのは今、置かれている立場だけ。
その立場もこなたは安全な位置を保っていられるハズなのに。
わざわざ自分に合わせようとするなんて――。
「だから、みゆきさんの気持ち、何となく分かるんだ。すっごく嬉しかったけど、やっぱりイヤだよ。
だってみゆきさん、独りになっちゃうんだよ?」
「……泉さんが同じ目に遭う必要はありませんよ。あなたはもう過去と決別されたのですよね?
そんなことをしたら、せっかく陵桜に入ったことが無駄になっ――」
「そんなの関係ない!」
「…………?」
「さっき言ったじゃん。放っておけないって」
この台詞が、みゆきにどれほど勇気を与えたか。
どれほど心強いと思ったことか。
「泉さん……」
みゆきの周りには、こんな人間はいなかった。
ずる賢くて陰険で、他人を平気で蹴落とす。
そういう種類の人間しかいなかった。
こなたにしてもこれは同じだ。
自分以外のいじめられっ子には逢ったことがない。
集団はたったひとりをいじめるから愉しいのだ。
ひとつの組織の中には2人以上のいじめられっ子は存在しない。
だから互いに嬉しかった。
意識のほとんどを共有できる、鏡のような存在だ。
「チャイム鳴っちゃうから教室行こう」
こなたはみゆきの手をとった。
(………………)
彼女が流した涙を、こなたは見ないことにした。
480JEDI_tkms1984:2008/08/22(金) 21:51:56 ID:i6KwPP2+
以上、キリがよいので今夜はここまでにします。
3分の1ほどが終わりました。
それではまた明日。
481JEDI_tkms1984:2008/08/22(金) 22:00:19 ID:i6KwPP2+
>>476
僕が書いたのは「虚像と実像」、今投下中の「罪咎深き賤しい女」だけです。
名乗るのは早いとも思いましたが……。
482名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/22(金) 23:43:57 ID:wgIUlPYB
>>480
乙ー。
wktkせざるを得ない展開だ。
ジェディ神よ、明日が待ち遠しい。
483名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 02:21:15 ID:g49hQwPK
>>450
むしろパンツの下をですね
484名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 03:39:25 ID:R/eOzaBp
485名無しさん@お腹いっぱい。 :2008/08/23(土) 13:32:48 ID:I6l3SlgU
>>484
うわぁ・・・
見つかったら止められて精神科行きになりそう・・・
486名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 14:06:21 ID:TnltHn2l
>>369
^^
487名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 14:36:10 ID:g3bDLHOE
従軍慰安婦と創価学会
ttp://mixi.jp/show_friend.pl?id=17006310
488名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 15:36:41 ID:sTfnD0Qu
489JEDI_tkms1984:2008/08/23(土) 20:57:50 ID:EB51zLc2
皆さん、こんばんは。
少し早いですが今夜分の投下いたします。
490罪咎深き賤しい女18:2008/08/23(土) 20:58:32 ID:EB51zLc2

 劇的に世界が変わったと思ったのは、教室に入ってすぐだった。
室内にいた全ての生徒の視線が注がれる。
みゆきはビクンと体を震わせた。
いつものことなのだが、この刺すような視線には耐えられない。
「泉さん」
小さく呼ぶ。
早く私から離れて自分の席に、と言っているようだ。
こなたは逡巡したが、じきに授業も始まる。
軽く頷くと、足を摺るように席に向かう。
「痛ッ!?」
腰をおろした瞬間、全身を突き抜けるような痛みにこなたは思わず立ち上がった。
(な、なに?)
椅子を俯瞰して驚愕した。
こんなもの今どき漫画でも見ない。
椅子の真ん中あたりに、針を上に向けて画鋲が貼り付けられている。
丁寧に木目に合わせて色づけが施され、一見して分かりにくくしてある。
思わず教室内を見渡す。
クスクスと笑いながらこちらを見ている生徒たち。
この中の誰かがやったのは間違いない。
やったのは1人だが、それを知っているのは大勢だ。
みゆきはと思い、そちらを見やると彼女は何事もなかったように座っている。
彼女には害は及ばなかったようだ。
それは素直に安心できるが……。
(やっぱりそういうこと…なのかな……)
覚悟していた恐怖はあまりに早く来すぎたようだ。
忌々しげに画鋲を取り除いたこなたは、再び席につく。
次の授業は数学だが、その用意をする気にはなれない。
「…………」
こなたは慎重に。
慎重に机の中に手を入れ、中の物を取り出す。
まずは教科書。
落書きだらけで読めないページがあった。
次いでノート。
昨日、板書した部分がまるごと切り取られている。
筆記具も見てみる。
鉛筆の芯は全て折られており、消しゴムは消えていた。
シャーペンは残っていたが、中の芯は巧妙にも全て抜き取られていた。
(ホントに漫画でもやらないよ、こんなの……)
泣いていいのか笑っていいのか。
口の端を歪めてポケットをまさぐる。
予備のペンが見つかった。
この時間はこれでしのぐしかない。
(みゆきさんは……大丈夫みたいだね)
担当教師が入ってくる。
この悲惨な教科書を見られませんように。
こなたは祈りながら時間が過ぎるのを待った。
もはや授業内容など頭に入らない。

491罪咎深き賤しい女19:2008/08/23(土) 20:59:28 ID:EB51zLc2
「泉さん、大丈夫でしたか?」
授業が終わると、いつもは俯いたまま不動のみゆきがやって来た。
「う、うん。どうもしないよ?」
「でも、さっき……」
言いよどむみゆきは、こなたを見ていたようだ。
椅子に仕掛けられた画鋲も、壊された筆記具も。
さすがに教科書やノートの変化までは直接見ていないだろうが、ここまでくれば想像できる。
「泉さん、やはり……」
距離を置きましょうと言いかけるみゆきを、
「やだなぁ、みゆきさん。さっき言ったじゃん。それに私もこういうの慣れてるし」
精一杯の笑顔で遮るが、力の無い虚しい表情しか浮かばない。
それとは逆にみゆきの顔にはどこか清清しい雰囲気が漂っている。
こなたという頼れる友だちができたからかもしれない。
「それにさ、こういう時はいい方法があるんだ」
言いながら鞄からセカンドバッグを取り出す。
無理やりねじ込まれたそれは開くとしわだらけで、とても年頃の女子が手にする物ではない。
「教科書とかこれに入れとくんだよ。で、ずっと持ち歩くの」
「なるほど――」
これならたとえばトイレなどで席を離れても、連中は持ち物に手が出せない。
経験から得たこなたの知恵だ。
しかしこうして会話している間も常に感じる視線。居心地は悪い。
あらゆる方向から注がれる黒いオーラには、
『たった2人で団結しても何も変わらない』
という辛辣なメッセージが込められているような気さえする。
「お互い、こんなつまらない事に負けちゃ駄目だよ」
こなたはわざと大きな声で言った。
これは宣戦布告だ。
高校生にもなってくだらない”いじめ”をする愚かな連中に対しての。
みゆきは困ったように俯いた。
立ち向かおうとするこなたと違い、彼女は避けようとしているようだ。
長い間いじめられたために抗うことすらできなくなったのだろうか。
それもひとつのいじめ対策だと思いなおし、こなたは頷いた。
1人と2人では大きく違う。
以前と違うのはそこだ。
勇気が湧いてきた。
姿勢は異なるが、みゆきという心強い仲間がいる。
か弱い少女は大きな支えだった。
492罪咎深き賤しい女20:2008/08/23(土) 21:00:32 ID:EB51zLc2
 今日も、明日も、明後日も。
おそらくこの先ずっと。
休み時間はこうしているんだろうな。
中庭のベンチに腰かけ、こなたは空を見上げて思った。
手元には泥土まみれのセカンドバッグ。
中にはボロボロの教科書類が入っている。
どんなに予防策を施しても、つい机の中に忘れてしまう時がある。
連中は目聡くそれを見つけては、お得意の方法でいたぶる。
バッグを開け、ささくれだったノートに触らないようにして中からチョココロネを取り出す。
購買部では買わない。誰と顔を合わせるか分からないから。
朝、少しだけ早めに家を出て近所のコンビニで買ってくる。ついでにお茶も。
なぜか昼休みの中庭は空いているから、こなたはいつもここで昼食をとることにしている。
(みゆきさん…………)
垂れ落ちそうになるチョコを懸命に舐めながら、あの優雅な少女を思い起こす。
みゆきとはほとんど会話らしい会話をしていない。
どちらからともなく、互いに距離を置くようになったのだ。
あの日以来、いじめっ子の標的はみゆきからこなたに移った。
やり方は何ひとつ変わっていない。
まだ制服に手を出されていないだけマシかもしれないが、こなたの疲弊はピークに達していた。
今、この状態でみゆきと接すれば彼女まで害を被る。
矛先が自分に向いているなら、わざわざみゆきが巻き込まれるような真似はしたくない。
もともとはいじめに立ち向かいたい、みゆきを放っておけないという感情からとった行動だ。
これはこれで目的は達成しているといえる。
(そのうち飽きてくれればいいけど……)
小さくため息をつく。
こなたにとってもみゆきにとっても、それが一番ありがたい。
その後、クラスメートと普通に付き合えるほど優しくはない。
が、せめて無難に高校生活を送りたい。
「落としたよ?」
上から声が聞こえ、見上げるとツインテールの少女がこちらを覗き込んでいた。
その手に持っているのは、先ほどまでこなたが飲んでいたハズのペットボトルのお茶。
思考に耽っていたせいで、落としたのに気付かなかったようだ。
「あ、ありがとうございます」
遠慮がちに受け取る。
ツリ目でいかにも勝ち気な雰囲気の少女だ。
「ひとり?」
訊いてきた。
早くどこかに行ってくれればいいのに。
内心では疎ましく思いながら、
「はい」
とだけ答えておく。
正直、”ひとり”という言葉が今の自分には重い。
「敬語使わなくていいわよ。私、1年生だし。あなたもでしょ?」
自分が小さいせいか、知らない顔はみな上級生に見える。
言われてようやく同級生だと分かる。
立ち去ってくれればいいのに、その少女はなぜかすぐ横に腰をおろす。
反射的にバッグを反対側に移動させようと掴んだ。
だが力加減を誤り、下を向いた開け口から見られたくない物がばらばらと落ちてしまった。
「なに……それ……?」
少女は顔色を変えて落ちたそれらを見た。
「な、なんでもないよ!」
慌てて拾い集めようとするが、そのひとつを少女が手に取った。
「ひどい……!!」
切り裂かれたノートを見れば、この幼い体躯の少女に何があったのかはすぐに分かる。
こなたは少女から強引にノートをひったくってバッグに詰め込んだ。
「もしかして……?」
こなたはぎゅっと目を閉じて俯いた。
「いじめられてるの?」
493罪咎深き賤しい女21:2008/08/23(土) 21:01:41 ID:EB51zLc2
なんて無神経な人なんだろう、とこなたは思った。
普通はこんな質問はできない。
こういう訊き方をする人はただ興味本位で知りたいという好奇心から近づいてくるだけだ。
その先は何もない。
知っても意味のないことを知りたがる。
「先生に言おうよ。これは酷すぎるわ!」
少女は声を荒げて激昂する。
人より少し正義感が強いのか、それともただのお節介焼きなのか。
(この人、いじめの事なんて何も分かってない)
親や先生に訴えることがどれほど無意味で恐ろしいか。
大人に相談すればいい。
みんなそう言うのだ。
その後のことなど誰も考えない。
「そんなの無理だよ。チクッたって言われてもっとやられるよ」
それに訴えるなら当然、みゆきについても報告しなければならなくなる。
ようやく解放されつつあるみゆきを、またこんな陰惨な現場に引き戻したくない。
彼女を助けるなら黙って耐え、嵐が過ぎ去るのを待つべきだ。
それが自分にとっても一番いい。
「だけど……こんなの放っておけないわよ」
少女の口調がさらに厳しくなった。
「先生も親も駄目なら、私たちが力になるわよ。何ができるか分からないけど……。
でも何とかする。こんなの見過ごしていい話じゃないだろ?」
少女はまくし立てた。
「こういうことする連中なんてさ、どうせ1人じゃ何もできない臆病者なんだから。
相手が孤立してるから叩けるだけ。だったらさ、こっちもグループを作っちゃえばいいのよ」
「なんで……?」
「え?」
「なんでわざわざ? 普通、いじめられる側にそこまで肩入れしないよ?」
「そうか?」
「だってヘタな事したら、今度は自分が標的にされるかも知れないんだよ?
それが分かってるから、みんな見て見ぬフリするのに」
「そういうの大っ嫌いなのよね」
「…………」
「自分が痛い思いするのは嫌だから、目をそむける。それっていじめてるのと何も変わらないわ。
本気で止めるつもりなら、とにかく行動を起こす。それが解決の道だと思わないか?」
(男の子みたいな喋り方するんだね、この人。見た目も勝ち気っぽいし)
勇気と無謀は違う。
少女の言いたいことは分かるが、これでは何の解決にもならない。
「……分からない」
こなたはかぶりを振った。
正直、ここまでこの話に食いついてくる人がいるとは思わなかった。
「まぁ、当事者じゃない私が言えたことじゃないけどさ。ムカツクのよね、そういうの。
特にいじめられてる子を助けて、今度はその子が犠牲になる――なんて我慢ならないのよ」
「えっ……?」
反射的にこなたは顔を上げ、好戦的な彼女の顔を見る。
「泉さんでしょ?」
「え、えと……なんで?」
「つかさに聞いたのよ。あ、つかさってのは私の妹ね」
「……妹?」
「双子なのよ。私は柊かがみ。あなたは泉……こなたさんだったわね」
「う、うん」
(ひいらぎ……柊…あっ、柊つかささんの!)
記憶の中に柊姓を探ってみると、確かにそういう名前の生徒がいた。
かがみは今に至るまでのつかさとのやりとりを話した。
494罪咎深き賤しい女22:2008/08/23(土) 21:02:52 ID:EB51zLc2

 入学直後にはこれといった問題は無かった。
初々しい新入生の集い。
柊つかさもその中にいた1人で、新たに始まる学園生活に期待と不安を抱いていた。
通常授業が始まってしばらくした頃、いかにも優等生に見えるみゆきの様子がどこかおかしい。
よくよく見ると、おかしいのはみゆきではなくこのクラスだと分かる。
何が発端かは分からないが、クラスの連中はみゆきがいない間に私物を物色する。
ノートやら教科書やらを引き裂いたり、落書きで埋め尽くしたりする。
そういう現場をつかさは幾度となく見てきた。
止める勇気はなかった。止められる雰囲気ではなかった。
何かに取り憑かれたように、婉曲にみゆきをいたぶる連中の顔が怖かった。
全員がみゆきいじめに加担していたわけではない、とつかさは分かっていた。
直接手を出す者、それを観て楽しむ者、いじめは駄目だと思いながら傍観しかできない者。
つかさ自身は3番目にあたる存在だと自覚している。
情けないと思いながら、陰からみゆきの無事を祈るしかできなかった。
ところがこのどれにも当てはまらない人物が出てきた。
泉こなただ。
いじめっ子がやったノートへの細工で、みゆきが指を怪我した時。
こなたは大きな声でいじめを止めるように言った。
たったそれだけのことで連中が手を引くとは思えなかった。
しかし教室の真ん中で、38人に向けてそう怒鳴ることのできる彼女をつかさは尊敬した。
その時も結局は観ているしかできなかったが、胸がスッキリしたという。
こなたのとった行動はみゆきにとっては幸いだった。
これによってみゆきはいじめの的から外れたのだ。
新たにターゲットに選ばれたのはこなただった。
みゆきよりも彼女は少しだけ打たれ強いのか、泣き言ひとつ漏らさずに耐えた。
はじめこそ自分の身代わりみたいになってしまったことを詫びるみゆきだったが――。
最近はこなたに近づこうとすらしない。
ヘタに近寄ればまた自分がいじめられるのでは、と危惧しているらしかった。
みゆきは卑怯だ、とつかさは思った。
ただ傍観している者よりも、みゆきはもっと卑怯だと。
自分を助けてくれたこなたが同じ目に遭ってるのに。
近頃のみゆきは日に日に衰弱していくこなたを、まるで他人事のように見ている。
何とかしたい。このままではこなたがあまりにも可愛そうだ。
つかさは強く思ったが、行動に移すだけの勇気がもうひとつ足りない。
悩んだ末に彼女は姉に相談した。
かがみは怒った。
妹の性格は分かっているつもりだったが、苦しんでいる人をこれまで見捨ててきたのは事実だ。
かがみはつかさに、いま持っている優しさと一緒に、強さも持つようにと諭した。
それから妹の頭を撫でる。
つかさのとってきた行動は褒められたものではない。
しかし今、つかさがとった行動――かがみに相談したこと――は間違いなく苦しむこなたを助けるためのものだ。
一緒に戦おう。
他人のために勇気ある決断をした、心優しいつかさと。
自分の身も顧みずにみゆきを救った、心優しいこなたと。
かがみは一緒に戦おうと思った。
495罪咎深き賤しい女23:2008/08/23(土) 21:03:52 ID:EB51zLc2

(クラスにそういう子がいたんだ……)
つかさの話を聞いたこなたは嬉しくなった。
それにこの柊かがみ。
クラスも違うというのに、妹から聞いただけで自分を助けてくれようとする。
(優しいんだろうな。優しくて強いんだろうな……)
「だからさ…なんていうか……うまく言えないけど、あんまり思い詰めるなってことよ。
さっきも言ったけど、皆が敵ってわけじゃないんだし。私たちもいるからな」
かがみは笑った。
清々しい笑顔だ。
(何も分かってない人だと思ってたけど、今の私にはすごく頼もしいよ)
思うと涙が溢れてくる。
「ちょっ、泣くなって。私が悪いみたいだろ」
言葉とは裏腹に、かがみは苦笑混じりにこなたを見つめた。
こうして誰かに涙を見せることを今まで我慢してきたのでは、とかがみは思った。
泣けばいじめっ子はつけ上がるから。
自らを鼓舞する意味も含めて気丈に振る舞ってきたのではないだろうか。
「柊さん……ありがと……」
かがみの言動に一切の偽りがないのなら――。
彼女は唯一の、最大の味方だ。
自分はずっとみゆきを友だちだと思ってきたが。
友だちというのは、かがみやつかさのような行動がとれる人のことではないだろうか。
「お礼なんていらないわよ。まだ何もしてないし」
「ううん、そんな事ない。柊さんのおかげで少し気が楽になったよ」
「……そう? それならいいけど……」
言うものの、かがみは楽観視しない。
断片とはいえ、いじめの対象になった現物をこの目で見ているのだ。
こなたの傷心はそう浅いものではないだろう。
「あっ」
昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
(鳴らなければいいのに)
時間と時間を勝手に区切るこの鐘の音を、こなたは生まれて初めて呪った。
「もう時間か……」
かがみは後ろ髪を引かれる想いで立ち上がる。
「休み時間、つらかったらうちに来なさいよ。授業中はさすがにどうしようもないけどさ。
あ、お昼ごはんも毎日ここで食べてるんだろ?」
「え? う、うん……」
「だったら私もここで食べようかな。つかさも誘って」
その一言が情けから来ているものだとはすぐに分かった。
素直に喜んでいいのか分からない。
嬉しいハズなのだが、これでは柊姉妹を巻き込んでしまい、みゆきの時と変わらない。
「私たちのことは気にしないで。泉さんの味方だから」
こなたの心情を悟ってか、明るくかがみが言った。
「いい? 困ったことがあったらすぐに言いなさいよ?」
「うん……柊さん、ありがと……」
移動教室だからと、かがみは荷物も持たずに視聴覚室の方向へと消えた。
(頑張れるだけ頑張ろう)
不思議と湧き上がる勇気が、こなたの足をゆっくりとだが教室に進ませた。
入った瞬間、氷柱をあてがわれたような冷たさを感じる。
向けられた視線をはねのけるように、こなたは早足で自分の席につく。
念のために椅子や机に細工されていないことを確認。
相変わらず身の置き所はないが、この教室にはつかさがいる。
そう思うだけでほんのわずか、気持ちが楽になる。
496罪咎深き賤しい女24:2008/08/23(土) 21:05:01 ID:EB51zLc2

 授業が終わると、こなたはすぐに席を立つ。
ここにはいられない。居場所がないのだ。
いつの間にか、みゆきがクラスメートと普通に会話をしている。
何の話題か時おり笑う声も。
それが堪らなく苦痛だった。
あんたの為に私は犠牲になったのに。
最初は彼女が楽になれるのなら、それでいいと思っていた。
が、執拗ないじめを受け続けるうち、その優しさもなくなっていった。
何事もなく談笑しているみゆきが腹立たしかった。
散々に自分を虐げてきた者たちと、どうしてそうも平然と会話ができるのだろう。
(分からないよ、みゆきさん……)
かがみのクラスに行こうかと思ったこなただったが、急にトイレに行きたくなって方向転換する。
セカンドバッグはしっかり携えて廊下奥のトイレへ。
個室の鍵をかけてしばらくすると、何人かがぞろぞろと入ってくる音がする。
「サイコーだったね。あんなの、久しぶりに見たよ」
「っていうか、結構しぶといね。すぐ音をあげそうな奴なのに」
「意外と我慢強い方のようですよ。気丈に振る舞っているだけのようにも思えますが――」
ドクン、と心臓が強く打ったのを感じた。
(今のって…………?)
「椅子に画鋲ってのも芸がなかったかもね。次はどうする?」
「どうも泉さんは休み時間も私物を持ち歩いているみたいですから、仕掛けるなら机か椅子しかありませんね。
体育の時間なら服を……とも考えましたが、特に持ち物には警戒しているようですね」
間違いない。
この声の主。
上品で優雅で、誰に対しても敬意を表したものの言い方をする。
「高良も案外やるじゃん。あいつが置き忘れたノートとか目ざとく見つけてさ」
(………………ッ!!)
全身を強く打ちつけたような衝撃が走った。
高良……高良みゆきだ……。
ドア1枚隔てて何人かと談笑しているのは、高良みゆきだ。
それ自体がショックだったが、もっとつらいのは――。
みゆきもいじめっ子グループに加担していたことだ。
「移動教室の際に私たちが最後に出るなど、いくらでも方法がありますから。それに泉さんは孤立無援。
少々、事が大きくなっても私たちで口裏を合わせておけば問題ありません」
みゆきの笑い声が聞こえた。
(そっか……そういうことなんだね…………)
こなたは自然と笑っていた。
声も出さずに、数十センチ前にある壁に向かって笑んだ。
みゆきは寝返ったのだ。
自らの保身のためにいじめる側についた。
彼女は自分の行為を仇で返したのだ。
悔しいという感情はない。
あるとすれば自分自身への嘲りだ。
黙っていればこんな惨めな想いをせずに済んだのに。
つまらない情のためにみゆきの身代わりを引き受けてしまった。
(私がみゆきさんの立場だったら……逆にみゆきさんをいじめたりはしないよ……)
あのお嬢様は恩など微塵も感じていない。
こなたの存在を救いの主とは思わず、お人好しの馬鹿としか認識していないのだ。
(ひどいよっ…………!!)
みゆきたちが出て行っても、こなたは個室に籠り続けた。
しかしすぐにチャイムが鳴る。
(柊さん……)
1時間ほど前に得た勇気は、たった1時間で粉々に打ち砕かれた。
497罪咎深き賤しい女25:2008/08/23(土) 21:06:37 ID:EB51zLc2


「3秒ルールも時と場合ってことで――」
地面に落ちたミートボールを恨めしげに見つめながら、みさおが傍に置いてあったお茶を飲んだ。
「そんなに慌てて飲んだら駄目よ」
やんわりと諭すのはあやのだ。
その様を微笑ましく眺めるつかさとかがみ。
「そういやチビッ子はいつもそれだけだよなー」
みさおがチョココロネをまじまじと見つめた。
「大好きなんだよね、これ」
食べ方に全く上達が見られないこなたは、垂れるチョコを舐めながら答える。
あの日から、昼休みにはかがみがこうしてつかさやみさお、あやのを伴って中庭に来てくれた。
せめてこの時間くらいは賑やかに、楽しく。
苦痛を和らげてあげたい、というかがみの配慮だ。
もちろんそういう想いはつかさたちにも同様にある。
特につかさはクラスが同じとあって、ことさら気遣ってくれる。
一度は拒もうとした彼女たちの好意を、こなたは受け容れていた。
学園の中でただ、この時だけが温かい。
「それで……こなちゃん……」
いつしか、つかさはこなたをこう呼んでいた。
「あのことだけど」
と切り出した瞬間、場の空気が変わった。
みさおもあやのも食べるのをやめてこなたを注視する。
「保健室はどうかな? 最近はフリースクールっていうのも増えてるみたいだけど。
まだそこまでっていう抵抗がある人は、保健室でも授業が受けられるって」
つかさがおずおずと提案する。
かがみに相談するまでこなたを放置していた負い目から、つかさはいろいろと調べたらしい。
辛辣な現実にもこなたはまだ耐えていた。
授業など到底集中できるものではないが、学校に来ることを止めてしまえばそこで終わりだ。
たとえ仮病でも1日休んでしまえば、もはや登校する気力など湧いてくるハズがない。
「私はやっぱり先生に言ったほうがいいと思うわ。このままじゃ何も変わらないわよ」
「駄目だよ、お姉ちゃん」
かがみの案をつかさは真っ向から否定した。
「そんなことしたら、こなちゃん、仕返しに今よりもっと酷いことされるよ」
「私も妹ちゃんに賛成ね。先生が上手く対応してくれればいいけど、そうでなかったら……」
あやのもつかさの考えに乗ってくる。
「そうか? 鶴の一声って言うじゃん? こういう時は大人を頼ってもいいと思うけどな」
対してみさおはかがみの肩を持つ。
まず行動を起こすタイプと、思慮深く考えるタイプ。
ここで意見が対立する。
だが、誰も自分の意見に絶対の自信を持って推そうとはしない。
当事者はこなたなのだ。
彼女が今より悪い環境に置かれるかも知れない。
そう思うとこれが正しいとは誰にも言えないのである。
「私は……」
こなたは言った。
「みんなが飽きてくれたらそれでいいんだ」
力なく。ほとんど嘆願だった。
いじめられるのは嫌だ。
といって、いじめる側も嫌だ。
どちらでもなく、ただ無難に高校生活を送りたい。
498罪咎深き賤しい女26:2008/08/23(土) 21:07:35 ID:EB51zLc2
「チビッ子はそれでいいのかよ?」
「…………」
「そいつらのこと、許せるのか?」
「……分かんないよ」
「飽きて忘れてそれで終わりなんて、あんまりじゃないのか? 自分がされたことを考えたら――」
「日下部!」
かがみが慌てて制した。
「あんたはこなたじゃないんだから」
問題を解決するにはやはり行動するべきだ。
かがみはずっとそう考えていたが、最後はこなたの意思を尊重することにした。
自分の軽率な判断でこなたをさらに窮地に立たせたくはない。
「ありがとう…かがみ。みさきちも、ありがと。正直、どうしたらいいか分かんないんだ。
悔しいっていうのも許せないっていうのも多分……違うと思う…………」
「こなちゃん……」
こなたは考えることにすら疲れていた。
なんでもいい。
この苦痛から逃れたいと。
願うのはこれだけだ。
「もう少し頑張ってみるよ。そのうち飽きるかもしれないしね」
空虚なこなたの笑みに、4人は気まずそうに俯いた。
「みんなには本当に感謝してるよ……ありがと……それから、ごめんね……」
この時――。
虚ろな目のこなたは気付かなかったが、4人は互いに顔を見合わせた。
「…………」
――こんなにも憔悴しているのに。
――絶え間ない苦痛を味わっているのに。
それでも気丈に振る舞い、いじめと戦おうとしている少女を。
かがみたちは何としてでも助けたいと思った。

499JEDI_tkms1984:2008/08/23(土) 21:08:32 ID:EB51zLc2
以上、キリのよいところで今夜はここまでにします。
それではまた明日。
500名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 22:19:34 ID:0eGp01Ou
乙です。てかみゆきひでぇ。苛められて当然だな。
501名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 23:15:08 ID:kP06OEHl
みゆきみたいな奴いたなー…
502名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 00:39:47 ID:XDw9qAtG
こなた視点だとみゆきさんウザすぎだけど現実ではこんなものだろうなぁ…
503名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 02:28:37 ID:owLfMlyM
みゆきワロタw
虐める悦びに目覚めちゃったのかな
504名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 06:48:39 ID:1MwSUyZq
スレ1ヶ月近く経ってまだ半分かよ…
前は1ヶ月で2スレ分は使ってただろ
505名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 10:43:15 ID:/6cY3NLY
こなたいじめが終わったらまた自分に戻るだけなのに、そういうことわからず目先に走っちゃうんだよね‥‥
まぁ、わかっててもそうするしかないのか。

とマジレスしたくなるくらい続きが楽しみです
506名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 11:08:29 ID:5ZLSx2+B
>>504
盛り上げたいのか?
つ【人気投票】
荒れるの嫌なら別スレ立てるよろし
投票所辺りにな
507名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 12:44:24 ID:36X4Hy74
>>504

そんな勢いが続くわけねーだろ
速ければいいの?



人気投票はイイかもな そんなに荒れないだろ
ダイナマよりは自演しにくいし
508名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 12:52:37 ID:tmUtNRqb
そういや確か大生は自演し放題だったんだよな……
大生板壊滅の遠因もそこにあったわけだし
509名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 15:10:46 ID:nj2FDC2s
何気にこのスレって、らき☆すたスレの中じゃ流れ早いほうなんだよな。
こなた好きもきっと喜んでくれるでしょう。大半がツンデレだが。
510名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 17:09:38 ID:36X4Hy74
むしろこなたの本スレの方がクソスレだもんなー
511プチ西尾風味に過去作メドレー:2008/08/24(日) 19:32:17 ID:hb1i7P3U
「かがみさんは泉こなたさんのことが本当は嫌いなのではないですか?」
みゆきはいきなり、遠慮も躊躇も逡巡も淀みすら見せずに、
私に問いかけてきた。否、問いかけるという表現はおかしいかもしれない。
みゆきの自信に満ちた表情は、その発言は質問ではなく自分の推理の
確認作業に過ぎないことを伺わせた。
『そーよ。別にこなたの事なんて何とも思ってないんだからね』
などと茶化すようにツンデレを演じてみせようかとも思った。
だが、演じきれる自信はなかった。演技にならないような気がした。
 みゆきは、ハデスと呼ばれた女は私の沈黙などお構いなしに、言葉を続けた。
「泉さんという存在はかがみさんを苦しめる存在でしかありませんよね。
もし、泉さんと出会わなければ、貴方はまた違った学校生活を送れていたと思いませんか?
少なくとも、何度も巻き込まれ、殺されかけ、いやいや殺されてしまう事もなかったでしょう」
『アンタだってその殺人者の一人なんだけどね』
そう皮肉ってやりたいが、言葉は喉の奥に詰まったまま出てこなかった。
泉さんと出会わなければ、というみゆきの言葉は、確実に私の心を深く抉っていた。
「かがみさんは考えたことがありますか?その、進学校稜桜学園屈指の頭脳で
もって考えた事はありますか?どうして彼女がこうも自殺させられるのかを。
また、青夢死──デッドブルーなどと物騒極まりない呼称で以って形容されているのかを」
 私の反応を伺うように、みゆきは眼鏡の奥の目を細めた。
「貴方の泉さんに対する感情は、嫌い、なのでしょう。
憎しみと言い換えてもよいかもしれません。ですが、彼女に対する恐れはありません。
そこが、私達と貴方の違いなのですよ。私達には彼女に対する恐れがある。
あの才能は異端です、だからこそ排斥する。自殺に追い込むという方法によって。
私も泉さんに恋慕の情を抱いたことはありましたが、恐れがゼロという訳ではなかった。
その点、かがみさんは違いますよね?」
 答えない。答えられない。舌が動かない、口が動かない、空気が震えない。
512プチ西尾風味に過去作メドレー:2008/08/24(日) 19:34:01 ID:hb1i7P3U
「例えばこの私、ハデスなどという冥界の王の如き上等な称号を頂いておりますが、
それでも泉さんと対等に渡り合えるとは思いません。
貴方も会ったことのある、小早川ゆたか、人を操る点にかけては私すら凌ぐ
彼女ですら、赤い悪魔と恐れられた彼女ですら、
泉さんと対等に付き合おうとは思わないでしょう」
 溜息の一つでも吐きたい気分に襲われる。
こんなにも恐ろしい人間に囲まれた自分が哀れで。
そして何一つ知らずに彼女らと付き合い、私は幾度となく殺されてきた。
「そんな存在である泉さん、それと貴方は対等に付き合ってきました。
優しさを与え、愛を与え、救いの手を差し伸べてきました。
泉さんにとって、貴方は不可欠の存在だったのでしょう。
かがみさんが居れば、泉さんは救われた。そのぐらいに彼女にとって、
貴方は大事な存在であり、それと同時に重い実在だったのです。
例えば、もし貴方が泉さんに死ね、と言ったのなら、
泉さんは死んでのけるでしょうね。喜んで死ぬか悲しんで死ぬかの違いはあるにせよ、
きっと貴方の頼みを拒みはしないでしょう」
 否定できない。なんとなく、私が「死ね」とこなたにお願い…否、命令すれば、
こなたは死んでのけるような気がした。
命令を受けたこなたに、躊躇や反論や逡巡があったとしても、
最終的には私に逆らうことはないのではないか。
それでも、否定はしたかった。こなたは私の持ち物ではないのだから。
「ふふ、美しいお顔が歪んでいますよ?私の言葉がお気に召しませんでしたか?
ですが、かがみさん。かつて薬漬けになった彼女は、貴方に無様な姿を見られた故に
飛び降りた。また、貴方に臓器移植が必要になった時には、
臓器提供の為に見事に死んで見せた。そこまでして貴方を愛した泉さんが、
貴方の頼みを無碍に断るとでもお思いですか?」
513プチ西尾風味に過去作メドレー:2008/08/24(日) 19:35:13 ID:hb1i7P3U
 私は何も答えない。いや、沈黙でもって答えていた。
「ふふ、さて、本題に戻りましょうか。貴方は泉さんの事がお嫌いですよね?」
声が出ないのなら、せめて首を振ろうと思った。
だが、首すら動かない。自分の意思に体が従わない。
まるで人形だ。
「きっとかがみさんの心の中に、こういう声があるのでしょう。
『確かにこなたの側に居ることで不遇な目に遭ったけど、
それは全て私の選択の結果だ。私が好んでこなたの側に居ただけだ』と。
ですが、それは本当にそうでしょうか?確かに貴方が首を突っ込んだケースも
なくはありません。ですが、貴方は二つ重大な事を忘れていませんか?」
二つ?確かにさっきから、私の心にわだかまりがある事は事実だ。
だが、複数だろうか。心の奥底に封印して、鍵をかけている記憶は一つしかない気がする。
「一つ目は、泉さんが積極的に貴方に加害を加えたケースです」
それは憶えている。
「二つ目は、彼女に非があるケースです。そういえば私達の交換日記、
禁断の扉とも言える他人の日記を彼女は無断で見ましたね」
それも憶えている。
「あ、すいません。もう一つありましたね」
みゆきはわざとらしく笑った。
 不意に私の心に警告のランプが点った。聞くな、と。
耳を塞げと繰り返し繰り返し防衛本能が命令を繰り返す。
でも、体は動いてくれなかった。
514プチ西尾風味に過去作メドレー:2008/08/24(日) 19:36:04 ID:hb1i7P3U
「泉さん、貴方の心を試そうとしましたよね。日下部さんと結託し、
キスをすると見せかけてドッキリで終わらせた事、ありましたよね」
プツン、と、何かが私の中で切れた。同時に記憶が蘇ってくる。
あの後私は事故死した。許せない思いが込み上げて来る。
ああ、そうだ。確かにみゆきの言うとおりだ。私はこなたを
「貴方は本当は、泉さんの事が嫌いなのではないですか?」
三度みゆきはその言葉を口にした。私は自信を持って答える。
全身で確信しながら答える。全霊で渾身を込めて答える。
「当たり前じゃない」
私は立ち上がった。こなたを自殺させる為に。


「こなたー、話があるんだけど」
「なに?」
「死ね」
こなたは小動物のような目で私を見上げてくる。
「死ね」
もう一度口にする。
「か、かがみん。どうしちゃったの?」
「死ね」
三度目だ。何度でもリピートしてやる。アンタが死ぬまで。
「分かったよ…」
こなたは立ち上がると、道路を見つめた。
トラックが来るタイミングに合わせてスタートを切った。
耳障りなクラクションとブレーキ音が響き渡り、一拍遅れて大きな衝突音が響いた。
小さなこなたの体は宙を舞い、放物線を描きながらアスファルトへと叩き付けられた。
辺りには脳漿が飛びちり、内臓がばら撒かれ、四肢が四散していた。
515プチ西尾風味に過去作メドレー:2008/08/24(日) 19:36:49 ID:hb1i7P3U
 私は背を向けると、家に向かって歩き出した。
家に帰って今日の授業の復習と、明日の授業の予習をしよう。
読みかけの本も読もう。明日からは普通の日々が始まる。
今までと変わらない普通の日々が。
「お見事でした。かがみさん」
背中から、みゆきの声が聞こえた。反射的に振り向き、
その優雅な顔立ちを睨みつける。
「ふふ、そんな目で見ないでくださいな。
別にどうしようという訳ではありませんから。
そうそう、これ、聞いておきたかったんですよ」
「何よ?」
「貴方は、柊つかささんの事も、お嫌いなのではないですか?」
確かにつかさは私を殺そうとしたこともある。こなたに付いた私を、
虐めの標的に据えた事も。
「分からないわよ」
それでもつかさを憎みきれない自分が居た。
こなたやみゆきと出会わなければ、つかさは純真な少女のままで居られただろう。
「そうですか。それともう一つ」
みゆきは遠慮も躊躇も逡巡も淀みすら見せずに、
私に問いかけてきた。否、問いかけるという表現はおかしいかもしれない。
みゆきの自信に満ちた表情は、その発言は質問ではなく自分の推理の
確認作業に過ぎないことを伺わせた。
「貴方は私の事が嫌いなのではないですか?」
「いや、大好きよ」
みゆきは訝しげに眉根を寄せた。
「八つ裂きにして食べてしまいたいくらい、大好きよ」
「ああ、そういう皮肉でしたか」
みゆきは苦笑したが、その苦笑も一瞬で凍りついた。
「皮肉ではあるけれども、比喩ではないわ。
大好きっていうのは嘘だけど、その前の発言は本音。
アンタもこなたに私の体、食べさせたでしょ?
瓶の中に私の頭だけ残してさ。アレ見てて、私も人肉試してみたくなっちゃった。
そうそう、見えたのよ。生首だけだったのにね」
肉付きのいい体を恍惚の表情で眺めながら、私は答えた。
516名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 19:38:11 ID:hb1i7P3U
<FIN>
西尾っぽくないな。
サイコロジカル冒頭より
517JEDI_tkms1984:2008/08/24(日) 22:39:14 ID:9TnVlT4v
皆さん、こんばんは。
少し遅くなりましたが続きを投稿します。
518罪咎深き賤しい女27:2008/08/24(日) 22:40:06 ID:9TnVlT4v


「よし、今日の授業はここまでにする。各自、明後日までに課題をやっておくように。号令!」
「起立!」
「それにしても泉の奴、どこ行ったんだ? 俺の授業をボイコットしやがって」
「礼!」
「誰か、泉を見かけたら職員室に来るように言え。まったく、いい度胸だ」
目つきの悪い教師は悪態をつくと、荒々しい足取りで教室を出て行く。
生徒たちは示し合わせたように教室後ろにある掃除用具入れを取り囲んだ。
一番近くにいたみゆきが取っ手を掴んで一気に引き開ける。
両手両足を縛られ、猿轡を噛まされたこなたがいた。



「ん? どうした泉? そんな恰好で?」
「すみません……制服を汚して…しまいました……」
「しかたないな。まあいいや、今日はそのまま受けろ」
「はい……すみません……」
「おおかた車がはねた泥でも被ったんだろ。風邪引かないように気をつけろよ」
「はい…ありがとうございます……」



「教科書を忘れた?」
「……ノートもか」
「きみ、最近忘れ物が多いんじゃないか?」
「なにか悩みごとでもあるのかしら? 先生でよかった相談に乗りますよ」
「高校生にもなって恥ずかしいぞ。自覚はあるのかね?」
「また体操着で授業を受けるのか……。いいからさっさと座りなさい」
「なんでお前は忘れ物ばかりするんだ! いい加減、高校生としての自覚を持て!」
「保健室に行ってた? ふん、どうせまた仮病だろ。それともまた指でも怪我したのか?」
「今日も見学か。お前、体弱いのか? それとも女子特有の”あの日”ってやつか?」
「あー分かった分かった。保健室だろ。天原先生から聞いてるよ」



「……泉は休みか。おい、誰かあいつの近くに住んでる奴はいないか?
早めに渡しておきたいプリントがあるんだが――」
「今日も休みだな。風邪をこじらせてるらしい。みんなも気をつけるように」
「相原! 秋山! 生田! 泉! ……泉…は今日も休みか」
「4日目だな。今年の風邪は馬鹿でも引くらしいな」
「もうすぐ中間考査がはじまる。範囲は近いうちに渡すから、しっかり復習するようにな。
いいか、誰かみたいに仮病を使ってずる休みしないように。俺の採点は厳しいぞ。
病欠しても追試はない。体調管理できない奴が悪いんだからな。しかしだ!
ちゃんと勉強すれば絶対に満点をとれる問題だ。では各自、頑張るように!」
「ん、柊か……どうした? 泉? 親御さんからは風邪だと聞いてるよ。いや、見舞いはやめとけ。
考査があるだろ。伝染されたらどうする? まあ、本当に病気だったらの話だがな、ははは」


519罪咎深き賤しい女28:2008/08/24(日) 22:41:03 ID:9TnVlT4v
 1年生が初めての中間考査に向けて勉強を始めた頃。
休み明けには考査があるということで、今日の授業は昼までで終了した。
午後からは時間を有効に使い、試験に臨めということらしい。
熱心な者は図書室にこもるか、勉強会を開くか。
楽天的な者は仲間と連れ立ってカラオケやゲーセンに繰り出す。
時間の使い方は様々だ。
悠々と廊下を行くみゆきの前に、人影がはだかった。
普段、俯き気味に歩く彼女はまずその足先を見、ゆっくりと視線を上げる。
「高良さんだよな? ちょっと話があるんだけど」
眼前にいるのはわずかに八重歯が覗く、活発そうな少女だ。
見た目どおりなら、みゆきが最も嫌うタイプの人間である。
「はあ……? あの、どなたでしょうか?」
いきなり名指しされ、そのくせ自分は名乗らずに話があると用件だけ伝えられては不愉快極まりない。
「ああ、ごめん。日下部っていうんだ。それで、ちょっと来て欲しいんだけどさ」
(なんだか失礼な方ですね……私を見る目つきといい……)
これが安っぽい恋愛ドラマで声をかけてきたのが男子なら、間違いなく告白シーンへの布石だ。
しかしこれは違う。
日下部と名乗った少女は、少なくとも自分に好意的ではないように思える。
「手短かにすませていただけるのでしたら」
本音は今すぐ立ち去りたかったが、この日下部が何を言うのかも気になる。
それにつまらない話ならさっさと帰ればいい。
先生ではなく、生徒に呼ばれているのなら強制力などないのだ。
「ああ、サンキュ。ここじゃ話しにくいから、こっちに来てくれ」
言うが早いか、みさおは返事も聞かずにどんどん廊下の向こうへと歩いていく。
こういう強引なところもまた、みゆきの嫌いな部分だった。
たどり着いたのは中庭だった。
あまり喜ばしくない状況だった。
”話がある”のはどうやら1人ではなかったようだ。
(待ち伏せ……ほとんど自分の意思で来たから、それはちょっと違います…か……)
目の前にいるみさおを含めた4人は、明らかに敵意をもって睥睨している。
「そんな風には見えないけど……?」
カチューシャをした少女が隣の子に囁いた。
立ち居振る舞いがどことなく自分に似ている、とみゆきは思った。
つまりは華麗で優雅で、どこか儚げな――。
「間違いないよ。高良さんだから」
そう言ったのは……柊つかさだ。
呼び出しておいて、仲間内でこそこそ話されるのは気分が悪い。
内心では嫌な予感を抱きつつ、そうと悟られないように、
「ところでお話とは?」
努めて冷静を装って訊ねた。
「こなたのことよ」
この中で最も好戦的と思われる、ツリ目の少女が前に出てきた。
嫌な予感はあっさり的中した。
みゆきは困ったように視線をさまよわせる。
その反応が4人に確信を抱かせ、詰め寄る隙を与えた。
「あなた、自分が何をしてるか分かってるの?」
鋭く射抜くような視線。
みゆきは眼鏡をかけなおす素振りで動揺を隠す。
「仰る意味が……それより私はあなた方をよく存じません。よろしければお名前を――」
「柊かがみよ。こっちは妹のつかさ」
「峰岸あやの」
みさおだけは頭の後ろで腕組みしたまま、無言で睨みつけている。
(………………)
滑稽だが不気味だった。
普通、フルネームで名乗るだろうか?
みゆきにはこの名乗りが、大昔に戦国武将がやっていたものとダブって見えた。
だとすればこれは宣戦布告。
互いに名前を呼び合い、親睦を深めようとしているとはとても思えない。
520罪咎深き賤しい女29:2008/08/24(日) 22:42:23 ID:9TnVlT4v
「話を戻すけど、自分が何をやってるか分かってる?」
再びかがみだ。
「いえ……お話の内容がいまひとつ……」
「嘘つかないで!」
つかさが怒鳴った。
「私、知ってるんだよ。こなちゃんのノート隠したのも、制服を水びたしにしたのも高良さんでしょ?
ひどいよ! どうしてそんなことするの!?」
同じクラスである点が厄介だった。
つかさは教室内で起きたことを子細に知っている。
「チビッ子……泉はお前を助けてくれたんじゃねーのかよ?」
つかさに続いてみさおも噛み付いてくる。
(私を呼びつけた理由はこのお話だったんですね)
ということはこの4人はこなたの味方だ。
どういうバックアップをしてきたかは分からないが、みさおの先ほどの言葉から、
ずいぶん前の事まで知っているということになる。
「あなたは恩を仇で返してるのよ? あなたの身代わりになった泉ちゃんが可哀相だとは思わないの?」
あやのは見た目からくる清楚さに反して、かなり強い口調で迫ってくる。
しかも発言の趣旨が肯綮に中(あた)っているだけに、聞く者が受けるダメージは大きい。
「こなたがどれだけつらい想いしてるか……知らないわけないわよね?」
今度はかがみ。
代わる代わるになじられ、冷静に考えれば明らかに自分に非があると分かっているみゆきも、
「あなた方には関係のないことですよ」
と、つい感情的に返してしまう。
「関係ないって……! よくそんなことが言えるな!」
みさおが怒気を露わにした。
「そうじゃありませんか。これは私と泉さんの問題であって、あなた方には関係のないお話です」
「…………ッ!! じゃあ、こなちゃんはどうなるの? 高良さんをかばったせいで……」
「それは泉さんが勝手になさったことです。私は別に助けてほしいと頼んだ憶えはありません」
完全に開き直りだった。
今の自分の――安全な立場を堅持したい。
その一心から出た単なる開き直りだ。
みゆきにとってはこなたなど思ってもみない幸運に過ぎない。
「あんたの身代わりになったのよ? 本当にそう思ってるの?」
「ええ。私がお願いして……というのであれば、もちろん私が責任をとるべきでしょう。
ですが先ほども申しあげたように、泉さん自身がこうなるように行動しただけです」
「そのおかげで自分はいじめられなくなったのに?」
「それは結果です。ゴミ同然の欲しくもない贈り物を勝手に送りつけられ、いちいちお礼に出向きますか?」
「少なくとも私ならお礼は言うわね」
あやのがすかさず口を挟んだ。
「では私も泉さんに対し、ひと言お礼を申し上げればいいわけですね?」
「話をすり替えるなよ」
みさおが憤った。
「分かりやすく譬(たと)え話をしただけです。そうお怒りにならずに」
口の端に様々な想いを織り交ぜて、みゆきは小さく笑った。
とにかく屁理屈でもいいから、この4人に反論の余地を与えないことだ。
そうすれば自分も罪悪感を抱かずに済むし、論破することで相手も何も追及してこなくなる。
「ずいぶん卑劣な人なのね」
あやのが蔑むように言った。
「こなちゃん、もう何日も学校来てないんだよ? どうして何とも思わないの?」
つかさはストレートだ。言いたいことをうまくまとめて文章にできないのではないか。
みゆきはここは余裕の表情で、
「先生は風邪だと仰ってましたよ?」
521罪咎深き賤しい女30:2008/08/24(日) 22:43:44 ID:9TnVlT4v
さらりと受け流す。
「嘘だよ、そんなの!」
もちろん嘘だと、みゆきも分かっている。
しかしそれを明らかにする方法がないことも分かっている。
「こなたはね――」
かがみはみゆきから目をそらさないようにして語る。
「ずっと独りで戦ってたわ。あんたにいいように裏切られてもね。昼休みはずっとここにいたのよ。
ひとりでご飯食べてた。教室にはいたくないからって――」
(ご飯ではなくパンなのでは?)
と思ったが下品な揚げ足取りだと気付き、みゆきは口にはしなかった。
「つかさにその話を聞いて、いてもたってもいられなくなったわ。同じ学年にそんな子が……。
そんな事が起こってるなんて思いもしなかったからね」
みゆきはちらっとつかさを見た。
つかさは可愛らしい目で精一杯こちらを睥睨している。
(そうですか……やはり、つかささんが……)
事態はおおかた呑み込めた。
つかさからかがみに、それからこの2人に伝わり、こなたを助けようとしたのか。
そんな事をしてこの4人に何のメリットがあるのだろうか、とみゆきは思った。
報酬を受け取るわけでもない、誰かに褒められるわけでもない。
4人がそうする意味が見出せない。
「だから、せめて昼休みは一緒にいてあげようと思ったのよ。つかさも日下部も峰岸も。
休み時間にはうちのクラスに来るようにも言ったわ。こなた……泣いてたわ。
あの子はどんなに酷い目に遭わされても泣かなかったのよ。そうよね、つかさ?」
問われ、つかさは強く頷いた。
生の現場を目撃しているのは、この中ではつかさとみゆきだけだ。
「……ここまで言っても分からない? こなたの気持ち」
かがみはみゆきに熟考する時間を与えた。
誰も何も言わない。
みさおは落ち着きなく拳を握ったり開いたりしている。
「あいつ――」
永い沈黙に耐えられなかったか、みさおが言った。
「何があっても二言目には”頑張ってみる”って耐えてたんだぜ? どんなに酷いことされてもさ。
それに……あいつはお前のこと、ただの一言だって悪く言ったことねーんだぜ? 恨むよな、普通。
でも泉はお前には触れなかった。私らだって柊の妹に聞くまでは、お前のやってること知らなかったもんな。
そういう奴なんだよ、チビッ子は。された事は話しても、”誰に”なんて言わねーんだ」
「………………」
いじめの事実そのものはこなたも4人に打ち明けている。
しかし具体的に誰に何をされたか、は一切話していない。
唯一知っているつかさが3人に明かしたことで、ようやく真実が見えてきた恰好だ。
「お前があいつの立場だったら、そんなことできるか?」
みさおはさらに語気を強めて迫った。
胸を打つ話だ。
こなたという健気な少女の物語。
「……日下部さんこそ話をすり替えないでほしいですね」
みゆきは喉の奥から搾り出すように言う。
「それですと泉さんは現況にはそれほど嘆いていないということになりませんか?」
絶望的な中に光明を得たとばかりにみゆきは強気に出た。
「とても前向きな方です。境遇を悲観しないで、打開しようとされているのですよね」
「どういうことだよ?」
「聞いていますと皆さんは泉さんに対し、親身に相談に乗るなどされたようですが、間違いありませんか?」
「当たり前でしょ? こなちゃんが可哀相だもん! 誰だってそうするよ!」
つかさが躍り出た。
「みんな、あなたと違って苦しんでいる人を放っておけないだけよ」
さらりと、しかしやはり棘のある言い方であやのが援護する。
「――それは泉さんが望んだことなのでしょうか?」
みゆきの一言に4人の顔つきが変わった。
「泉さんが皆さんに助けて欲しいと言ったのですか? 力になって欲しいと頼んだのですか?」
「………………」
答えられない。
522罪咎深き賤しい女31:2008/08/24(日) 22:44:52 ID:9TnVlT4v
答えられるハズがない。
みゆきの言ったとおりだからだ。
「そうではなく、あなた方が自発的に泉さんを支えているのではないですか?」
「そ、そうだよ! それの何が悪いの!?」
つかさが額に汗を浮かべて反論を試みた。
「頼まれたとかそんなの関係ないよ! 人を助けるのに理由なんかいらないもん!」
彼女らしい弁にかがみは安堵した。
みゆきは鼻で笑って、
「いいえ、むしろ尊い行為だと思います……が、それを泉さんが望んでいるかどうか、です。
ところで皆さんは泉さんを支えることで何かメリットがあるのですか?」
眼鏡の縁を指先でつまむ。
「あんた、何言ってんの?」
怒りにかがみが震えた。
「メリットって何? っていうか、そういう風にしかものを考えられないの?」
これ以上刺激させれば、掴みかかって来そうだ。
内包していた憤りが、みゆきの挑発めいた言動に容易く表に出てきてしまう。
「黙ってお店の物を持ち出せば、それは窃盗になりますから。商品が欲しければお金を払う。
何事も対価を得なければ成り立たないのですよ」
1対4――数では圧倒的に向こうの側が有利だ。
しかしこの瞬間、自分は完全に場を掌握した、とみゆきはほくそ笑む。
少し前から彼女の中に湧いた疑問。
”こなたを助けて何のメリットがあるのか?”
明確な答えは出なかったが、この疑問を逆手にとる方法を思いついたのだ。
「バカバカしいわ。あなたの言いたいことは何?」
あやのが急かす。
いいぞ、とみゆきは思った。
この中で一番穏健そうなあやのが焦れているのだ。
彼女たちをやり込めるチャンスは十分にある。
「皆さんもきっちり対価を得ているということですよ」
みゆきは表情を変えずに言った。
「頼まれもしないのに泉さんを支える理由は何ですか? 単なる正義感ですか? それとも義務ですか?
立場的に劣る泉さんを慰めることで、”助けてやっている”という気持ちよさを得ているのでないですか?
本当はいじめられっ子を救うヒーローを気取りたいだけなのではないですか?」
「なっ…………!!」
絶句した。
ここまで言い切る人間を4人は見たことがない。
怒りよりも驚きか呆れのほうが大きかった。
「街頭で募金箱にお金を入れる人は無償でそうしているのではありません。
10円なら10円分、100円なら100円分の善人になれるという”気持ちよさ”を買っているのですよ」
みゆきは早口でそこまで言った。
反吐が出そうなほどの詭弁だと、自分でも分かっている。
が、ここまで来たらもう後には退けない。
「あなた方も同じです。無意識かどうかに関係なく、そうした見返りを得ることに快感を覚えているのです」
「そんなわけないでしょ!」
一蹴したのはかがみだ。
「こなたは友だちよ。見返りなんていちいち求めないわ」
「……頼まれもしない手助けをして”友だち”ですか? あなた方はそれでよくとも泉さんはどうですか?
本当は迷惑しているのではありませんか? 手助けと称しての、ただの親切の押し売りではないのですか?
一方的な優しさを押し付けるだけの、似非(エセ)の友情とは思いませんか?
泉さんを助けるのはあなた方のエゴなのではないですか?」
どんどん厭な女になっていく――淀みなく詭弁を弄しながらみゆきは思った。
自分を守るにはこんな方法しかないのかと嫌悪もする。
試しに4人の顔を順番に見てみる。
かがみとみさおは爆発寸前といった具合に怒りを露わにしている。
つかさは言葉の意味を理解しきれていないのか、曖昧な憤りをどこにぶつけようかと思案しているようだ。
あやのは彼女たちから一歩退いた位置にいるが、表情は明らかにみゆきを憐れんでいる。
「サイテーだな、お前」
濁ったような低い声でみさおは罵った。
523罪咎深き賤しい女32:2008/08/24(日) 22:46:06 ID:9TnVlT4v
まさか殴りかかってきたりはしないだろうが、しかしこの中ではみさおが最も短絡的で行動派だと踏んでいたみゆきは、
彼女がこのように感情を押し殺して自分を罵ることが意外だった。
「誹(そし)りは甘んじて受けますが、私はあなた方が期待するような答えはしないと思います」
「…………」
「元々は泉さんが勝手になさったこと。その結果、彼女が目の敵にされるのを見かねて、あなた方が勝手に泉さんの
手助けをした……それでなじられるなど……私はいつもそれら”勝手”の被害者ですよ?」
「――――ッッ!!」
「私からは以上です。試験勉強に取り組みたいので、これで失礼します」
皮肉たっぷりに恭しく頭を下げ、優雅に踵を返す。
誰も呼び止めようとしない。
ここで互いに交わることのない議論を続けても不毛なだけだ。
4人の中にみゆきに対する憤りが改めて強く湧き上がり、同時にこなたに対する憐憫の情もより深くなった。



524罪咎深き賤しい女33:2008/08/24(日) 22:47:40 ID:9TnVlT4v
 この翌日、こなたは何食わぬ顔で登校した。
担任には再三電話で学校に来るように言われ、そうじろうにも発破をかけられた。
どちらもいじめの実態を知らないから、こなたはただの怠け者扱いされた。
もはや学ぶ気など微塵もないこなたは、重い足を文字通りひきずるように教室に入る。
ずいぶん久しぶりに見る顔を、クラスメートは歓迎した。
みゆきなどは満面の笑みをたたえて横を過ぎるこなたを見送ったほどだ。
(………………)
予想のとおり、机の中にはくしゃくしゃに丸められた紙クズが押し込まれていた。
その中のひとつを取り出す。
カッターの刃などが仕込まれていないことを確かめ、ゆっくり開いてみる。

”ウザい”

震える手で他のも手に取った。

”キモい きえろ”

”人間失格”

”クソ泉 じごくに落ちろ”

”学校来るな”

筆跡も書体もバラバラの悪辣雑言だ。
やり口も書いてある内容も、小学校の時から変わっていない。
こなたは乾いた笑みを浮かべた。
(”地獄”くらい漢字で書きなよ……学校来るなって言うわりに、私が来たら嬉しそうにしてたじゃん…………)
思いつきで書き殴った悪口は、今のこなたにはほとんど痛手ではない。
この程度のいじめは慣れてるし、内容も幼稚だ。
遠巻きにクスクスと笑う声が聞こえる。
それに合わせて揺れ動く視線が、断続的に自分を嘲笑うように注がれる。
こなたは構わず鞄からボロボロになった教科書類を取り出した。


 無駄だと知りながら。 
無意味だと分かっていながら。
虚しいことだと思いながら。
それでも一縷の望みを抱いていた。
辛辣な目に遭わされ、数日とはいえ登校拒否になった自分を。
”泉こなたがいない教室”
些細だが、ポッカリ空いた穴に対し、彼らが何かを想ってくれればと。
ほんの僅かでいいから、自分たちがやったことに罪悪感を持って欲しかった。

”失って初めて気づく想いがある”

それは自分にとって大切な所有物にのみ適用される常套句ではないハズだ。
広い意味ではこのクラスの、泉こなたという特定の人物に当てはめて欲しかった。
――しかし無駄だった。
525罪咎深き賤しい女34:2008/08/24(日) 22:49:01 ID:9TnVlT4v
数日程度では何も変わらなかった。
むしろ中途半端に時間を空けたばかりに、ほどよく餓えた彼らの食欲を彼らに都合の良いように刺激してしまった。
健気に耐える少女は、やはりいじめっ子にとって恰好の獲物だった。
ハイエナのように眼をぎらつかせ、音もなく忍び寄ってくる。
すれ違いざまに「死ね」「ウザい」などと本人にしか聞こえないように罵られる。
後ろからゴミを投げられる。
目を離した隙に私物を傷つけられる。
やはり何も変わらなかった。
(私ってこの世に必要ないのかな? ……それとも、違うのかな…………)
自問した。
いじめっ子にとって必要、だとしたらこれほど皮肉なことはない。
嫌いな勉強を一生懸命にして、ようやく入ったこの陵桜。
苦しい後には必ず楽があると信じていたのに。
もう何も信じない、何も期待しない。
ほとんど絶望の淵に立たされたこなたは、意識もしないのに中庭にやって来た。
地獄のような4時間をしのぎ、今は昼休みだ。
頭で考えなくても、体はこの唯一のオアシスを欲していたようだ。
「こなちゃんっ!? …………良かった……」
何が良かったのか、半分涙目でつかさが寄ってきた。
「つかさ……」
久しぶりに見る顔に、こなたの心が和んだ。
「お〜、来たなチビッ子〜〜」
最後に会った時と変わらない様子でみさおが手を振る。
かがみ、あやのもそこにいる。
「………………」
わっ、と泣きそうになるのをこなたは懸命に堪えた。
「あんた、お昼は?」
かがみが訝しげに訊く。
いつも持っているチョココロネがない。
おまけにいつも持ち歩いているセカンドバッグも。
言われてようやく彼女も気付いたようで、
「あ、忘れてたよ」
と力なく笑う。
ぎこちない笑みと、彼女のそのちょっとしたミスが4人の不安を煽った。
「泉ちゃん、私のでよかったどうぞ」
あやのが弁当箱を差し出す。
「だったら柊からもらえば? ダイエットにちょうどいいしな」
したり顔でかがみを見やるみさお。
これは彼女なりの配慮だと、かがみは少し経ってから理解した。
「こなた」
あやのの卵焼きを頬張るこなたに、かがみは妙に真剣な顔で言う。
「あんた、ケータイ持ってたわよね? 今さらだけど番号とアドレス教えてくれない?」
「えっ……?」
突然の申し出に困惑した様子で訊き返す。
「なんで今まで気付かなかったのか……。それならいつでも連絡とれるでしょ?」
「そうね。私たちの分も一緒に交換しましょう」
あやのも同調する。
身近なツールなのに、それを使う機会を4人ともが忘れていた。
少なくともこなたはいつも、この時間になればここに来ると思い込んでいたからだ。
明日も明後日も。
休み時間になればクラスを抜け出してやって来る。
授業中を除けば、彼女たちが接触する時間は十分にあったのだ。
ところがこなたが学校を休みだしたために、4人はようやく気付く。
――こなたと連絡をとる方法がない。
個人情報の管理に厳しくなったために、住所や電話番号の記載されている名簿の類はない。
担任は知っているが、もちろん同校の生徒だろうとそれを漏らすようなことはしない。
「あ、私いいの持ってるよ」
間延びした声でつかさがポケットからケータイを取り出す。
「ほらほら、赤外線〜。これならいちいち入力しなくても済むんだよ〜」
送信部を指差して得意満面に言う。
526罪咎深き賤しい女35:2008/08/24(日) 22:49:55 ID:9TnVlT4v
そんなつかさに微笑を浮かべ、こなたはすぐに目をそらした。
「……ごめん、今日ケータイ持ってくるの忘れたんだ」
その一言が暗く、搾り出されるように発せられた。
「じゃあさ、とりあえずこなたの教えてよ。後でこっちから発信するからそれで登録できるでしょ?」
と、かがみが食い下がるのだが、
「いや〜、ケータイなんて滅多に触らないから、番号とか覚えてないんだよね」
今度はやや明るく返す。
そこまで言われれば、この話題を続けるわけにもいかない。
4人は少々不審に思ったものの、
「明日持ってくるよ」
というこなたの付け足しに、深くは詮索しなかった。
(ごめんね、みんな……みんなの気持ちは嬉しいけど…………)
後ろめたさを隠すように、こなたは下手な作り笑いを浮かべた。
「ん」
みさおが小さく折りたたんだメモを強引にこなたに握らせた。
「なに、これ?」
言いながら開くと、電話番号とアドレスが書いてある。
「みさお様のだぞ。帰ったらちゃんと登録しとけよ」
突き放すような口調だが、実はこの中で一番こなたを気遣っているのはみさおではないか。
やりとりを見ていたあやのは思った。
これなら明日まで待たずに連絡を取り合うことが可能だ。
「うん、ありがと」
みさおに倣い、各々も手帳などに番号やアドレスを書き込んでこなたに渡す。
こなたはそれら一つひとつを丁寧に受け取り、ポケットにしまいこんだ。
(今日で最後なのにな…………)
スカート越しに紙片の感触を確かめながら、こなたはこみ上げる感情を押し殺した。
527名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 22:58:30 ID:6GahoTxp
規制か。
解除支援
528JEDI_tkms1984:2008/08/24(日) 23:01:31 ID:9TnVlT4v
以上、キリのよいところで今夜はここまでにします。
改行がうまくいかず読みにくい箇所がありますがお許しを。
明日は来られないので、次回投下は火曜日の予定です。
「罪咎」の読みは「つみとが」でも「ざいきゅう」でもどちらでもいいです。
それではまた明後日。
529名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 23:04:25 ID:GD7lUWtQ
どうもなんかみゆきを応援してしまうのはなぜだろう…
530名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 23:19:24 ID:0l336CCC
>>529
みゆきにあるフラグが立ってるからなぁ
531名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 23:48:56 ID:5ufW++23
532名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 00:00:04 ID:qypUlSHC
>>528
乙です。
あいかわらず人の心の弱さの現実を痛感する心理描写に感心します。
同じクラスでつかさが協力してることも明るみになったのが嫌な予感がする……


>>531
寿司の形フイタww
こなた達が制服ということは高校生時の話か。
こなたが微妙に黒そう…
533名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 01:23:06 ID:udSyQGS7
>>528
みゆきtueeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!!!!!!!
しかしみゆき辛いよな。
みゆき標的時代には、味方はこなた一人。
こなた標的だと、味方4人。
でもみゆきらしいよねw密かにかがみよりもみゆきの方がボッチが似合うと思ってる。
ともあれ乙。火曜日が待ち遠しいです。

>>531
久しぶりに見たわw
乙gj

そういや、つかアルの人は元気かね?
534名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 01:50:07 ID:34ohD+/W
ビッチすぎんだろwww
535名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 07:50:17 ID:tLAJ4s7a
俺もメリット・デメリットで判断してしまう人間だ。俺も外道だな
536名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 08:20:03 ID:T/VaQkHu
「長崎国際テレビ」営業社員が馬乗り強姦容疑

マンションに侵入して女性を脅し乱暴したとして、警視庁は29日、強姦容疑などで、東京都中央区築地、
長崎国際テレビ東京支社社員、栄紀祥容疑者(24)を逮捕した。
栄容疑者は「身に全く覚えがない」と否認している。
同じマンションでは平成18年9月以降、同様の被害が計4件相次ぎ、一部遺留物のDNA型が一致していることから、
同署は栄容疑者の犯行とみて追及している。
調べでは、栄容疑者は18年9月8日午前5時ごろ、中央区のワンルームマンションで、鍵のかかっていない部屋に侵入。
寝ていた女性(28)に馬乗りになり、「言うことを聞かないと殺すぞ。顔を見たらナイフで刺すぞ」と脅し、乱暴した疑い。
昨年12月28日に同じマンションでわいせつ行為した際、現場に掌紋を残していたことから、栄容疑者が浮上した。
栄容疑者は長崎国際テレビ東京支社で営業を担当している。同支社は「逮捕の一報を聞いたばかりで、コメントのしようがない」としている。

ttp://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080129/crm0801291152008-n1.htm
537名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 11:41:27 ID:Zn5cnD1H
>>255
貴方はどうやってるん?
>>271
期待しとります
538名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 13:58:31 ID:ygM4PJGj
ぼっちスレと違って、SSは新しい人どんどん来るね
絵師はいつの間にか少なくなったが、少数精鋭
539名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 14:35:44 ID:yJeimJQd
ゆめこいってデフォ北だよな?
コテ止めちゃったの?
540名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 18:34:18 ID:7bqVDaG4
ガンガン最近見ないな…
541名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 21:05:12 ID:f74IOSz9
>>540
PCが逝っちまったらしい・・・・・・
このスレか前スレかに本人からそんな報告カキコがあった。
542名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 22:41:16 ID:lNpesM/F
ガンガンは10日くらい前に見たような
543名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 22:54:41 ID:5H+xxACF
>>516
乙。思えばこの1年色々な自殺があったものだ。
全ての記憶があるなら狂わざるおえないw
それにしても最近のみゆき単独で凄く黒いなw
昔はつかさとタッグが多かったけど
544名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 23:09:36 ID:kYcGR/5q
嫌いなキャラ想像の中で虐めたら楽しいWWWWウハッWWWストレス解消WWW派23%
虐められてるこなたに萌えるんだ(笑)派34%
このスレには魔力がある(笑)派16%
俺グロい話とか虐め系の話とか大好きなんだよね(厨2)派27%
545名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 23:44:09 ID:XnI91oLv
こなた「そういえば・・・・・」
みゆき「どうしたんですか?」

こなた「北京オリンピックで試合中バットが折れたって知ってた?」
つかさ「え?そうだっけ?」
かがみ「放送されなかったんじゃない?」

みゆき「泉さんは情報通なんですね、うふふ」
つかさ「そうだね〜♪」
かがみ「だけど、そんな事ってあるのね〜・・・・」

こなた「うん、だって北京だし・・・”ペキン”っとねw」

みつか「・・・・・・。」

こなた「ぺキ・・・・」

バキ!
こなた「あぶぅ!」
みゆき「おらおら!クダラネー事いってんじゃねーぞ!」

ボコ!
こなた「あ〜言うんじゃなかった!言うんじゃなかった!!」
つかさ「バルサミコス!バルサミコス!!」

ぺキン!
こなた「後悔ってこうかい!なんちゃって!!なんちゃって!!」
かがみ「こなた可愛い!!」

みつ「!?」


らきすた・・みゃー
546名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 23:46:34 ID:XnI91oLv
下げ忘れごめんなさい
547名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 01:24:00 ID:DXxDSkk7
最近は黒つかさ減ってきたな。昔はみゆきパシるくらいにハッスルしてたんだが。
>>546
ちょうど下層の方だったんだから、丁度いいんじゃない?
ともあれ乙。
548名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 01:31:50 ID:zJEzux67
>>546
アンバサ買ってこいよ
549名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 01:38:36 ID:7hBiunhv
>>545これ書いたのこなたじゃない?
どうでもいいが>>548
550名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 12:13:49 ID:kzT8/62+
今連載中の漫画ってなにがあるんですか?
551名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 12:53:57 ID:vt1xA9un
ないなら作る
552名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 13:47:08 ID:Qbg+Bi+s
TBS 北星学園 西野瑠美子 北朝鮮 オウム真理教 武富士
ロバート ロッテ 統一教会  ドンキホーテ モランボン  CAPCOM
日本テレコム 創価学会 朝日新聞 あびる優 ジャパンタイムズ
カタログハウス MKタクシー 島田紳助 岡崎トミ子 ネクシィーズ
都留文科大学 松嶋菜々子 K-1 岩城滉一 キリスト教愛真高等学校
初鹿明博 電通 積水ハウス 共同通信社 辛淑玉 聖神中央教会
イオン 中国 NHK 野中広務 三省堂 中川秀直 福井県敦賀市
石毛えい子 ソフトバンク 岐阜県各務原市 ユーキャン NIKE
ブルボン avex 加藤尚彦 筑紫哲也 高岡蒼甫 細田学園高等学校
山形学院高等学校 ユニクロ 鼠先輩 塚本和人 家系のラーメン屋
コカ・コーラ スターダストプロモーション 吉岡美穂 USEN 氣志團
敬和学園高等学校 リーブ21 中央出版 ジュエリーマキ 山本太郎

ロッテ、独島商品を開発

ロッテドットコムのユン・ヒョンジュ次長は「鬱陵島から船に乗り、
独島の周辺海域を2時間ほどかけて周ることができる」とし、「4月には
一般の観光客が直接独島を見学できる旅行商品も出てくるものと思われる」と語った。
ロッテ百貨店本店は今月18〜20日、小学生以下の子どもを伴った顧客の
中から先着で20人に独島の写真入りタオルを無料で配る。ロッテマート
の全国21か店舗は昨年4月から「独島を愛するTシャツ」を販売している。

ttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/03/16/20050316000057.html
553名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 13:54:34 ID:/mAuBg2J
こなたは2ちゃんねるの中でもいじめられているような気がする
554名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 14:04:27 ID:g1MNSbcR
いえ、愛されています^^(色々な層に)
555続・虚像と実像:2008/08/26(火) 14:34:36 ID:dZLSxKCO
空気を読まないで、投下させていただきます。
wiiからなので、遅いのはご了承ください。

それでは、
556名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 14:50:01 ID:maBmosCp
wiiからだと面倒かも知れませんがsageて下さい
557続・虚像と実像:2008/08/26(火) 14:53:57 ID:dZLSxKCO
「抗うことは??????死ぬよりもずっと簡単なことなのですよ??????泉さん???????????????」
そう言って、彼女は涙を拭った
「みゆき〜、ごはんよ〜」
もう、夜になりゆかりの声がする。
(わかった、もういっかいがんばってみる)
どこからか、こなたの声がした。
「泉??????さん?」
558続・虚像と実像:2008/08/26(火) 14:55:00 ID:dZLSxKCO
文字化けました
559続・虚像と実像:2008/08/26(火) 14:55:47 ID:dZLSxKCO
文字化けました?は?です
560名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 14:57:29 ID:dZLSxKCO
・だろwww
561続・虚像と実像:2008/08/26(火) 15:10:34 ID:dZLSxKCO
「うっ・・・うーん生き返ったの?」彼女は学校の運動場にいた。
「それにしても、振り落とすなんてないよねぇ〜」
こなたは、っと!これ以上いえない。


562名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 15:28:30 ID:x/2P7ZpO
せめて携帯からにしろよw
563続・虚像と実像:2008/08/26(火) 15:31:40 ID:dZLSxKCO
かがみ宅


「ほら、いつまでも泣いてないで」
泣いているつかさを慰めるかがみ
楽しい短すぎる夢はもう終わったかと思われていた。
「うっ・・・うっ・・・こなちゃぁん」
ぴーんぽーん
「だれだろう」
(ドアをあけるとこなたがっ!何てことないか)
564続・虚像と実像:2008/08/26(火) 15:41:29 ID:dZLSxKCO
「かがみーん」
「は?」
「は?じゃないよ、開けてー」
こなたの声がした、
「もしかして、こなた?・・・こなたなの?」
ガチャン ドアが開いた、これは夢なのか、現実なのか、わからなかった
こなたに、抱きついた。
うれしくて、うれしくて、たまらなかった
「ちょっ、泣かないでよー」
565続・虚像と実像:2008/08/26(火) 15:43:07 ID:dZLSxKCO
休憩させていただきます
566続・虚像と実像:2008/08/26(火) 16:07:46 ID:dZLSxKCO
「なっなに〜わっこなちゃん?!」
かがみのなき声にびっくりしたのか、つかさが降りてきた、つかさも
以下同文
「二人でタックル?そんなことしたらまた逝っちゃうぞー」
一向にどく気配がない、
「まあ、いいやゲームでもする?」
「・・・うん!」
「あっあと、みゆきさん!」
「呼んだよ〜」
楽しい短すぎる夢はもういちどはじまった
4人の後ろには、かつて亡くなったかなたが微笑んでいた。



続・虚像と実像
         終
567続・虚像と実像:2008/08/26(火) 16:15:14 ID:dZLSxKCO
gdgdでハッピーエンドになってしまいました、虚像と実像を書いた方これを読んでくださった方々すいませんでした。
もう少し上達して(2〜3日くらい)またきます。
568名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 17:00:26 ID:oj06o84D
何がしたいのか
569名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 18:10:41 ID:5IdY65Nv
>>567
IFストーリで鬱エンドを態々ハッピーエンドにするのはちと抵抗ある。
出来れば逆を頼むわ。
保管庫にある過去作品「こなたの恐怖」
出来ればこれのバットエンド書いてくれないかな?w
570名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 19:03:28 ID:dZLSxKCO
はい、わかりました
571名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 19:15:26 ID:5IdY65Nv
ダメ元で言ってみたら了承されたw
期待してますw
572JEDI_tkms1984:2008/08/26(火) 21:17:56 ID:VnDDf/bN
皆さん、こんはんは。
2日越しとなりましたが続きを投稿します。
573罪咎深き賤しい女36:2008/08/26(火) 21:19:12 ID:VnDDf/bN

 その日。
全ての授業が終了し、担任が教室に入ってくるわずかの間に。
こなたはかろうじて書くスペースが残っているノートに素早く文章を書き込み。
ページをちぎって横を通り過ぎる振りをしながら、それをみゆきの机に置いた。
視野の外から投げ込まれるように置かれた紙切れを、彼女はすばやく手に取る。
「…………!!」
中を見たみゆきは慌てて顔をあげ、こなたを見る。
彼女はもう自分の席についており、いつもの如く感情を読み取れない虚ろな目で俯いている。
(これは…………)
どういうことなのかと問おうとしたところに、担任が入ってきた。
「ホームルームを始める、席につけ」
数分、連絡事項等を担任は伝えていたが、みゆきの耳には全く入らなかった。
この短い時間がじれったい。
こんなメモを置いたこなたの心理が知りたい。
柄にもなくみゆきはそわそわと落ち着かない。
「よし、以上だ。号令」
日直が起立、礼の決まりの型を披露する。
全員の気だるそうな挨拶。それに続いて再び繰り広げられる会話の嵐。
この様子ではほとんどの生徒は試験勉強はしないらしい。
みゆきは鞄を引っ掴むと、すぐにこなたの元へ駆け寄ろうとした。
――が、いない。
持ち前の運動能力を使ったか、こなたはすでに姿を消していた。
「…………っ!」
出血しそうなほど唇を噛み、みゆきはすぐにその後を追った。
行き先は分かっている。
教室を出て、廊下の奥を注視したがこなたはいない。
大した脚力の持ち主だ。
内心で舌打ちしながら、みゆきは豊満な胸が服に擦れる痛みも厭わずに走った。


574罪咎深き賤しい女37:2008/08/26(火) 21:20:04 ID:VnDDf/bN
「お姉ちゃんッッ!!」
つかさが勢いよく教室に飛び込んだ。
「お、妹じゃん。どした?」
すぐ近くにいたみさおが声をかけた。
「こなちゃんが……!」
という言葉に、呑気に構えていたみさおの表情が凍りつく。
「チビッ子がどうかしたのか?」
「ホームルームが終わった途端に飛び出して……」
かがみとあやのがやってくる。
「こなたがどうしたの?」
かがみの姿を見て少し落ち着いたか、
「高良さんの机に何か置いたのを見たの。それからホームルームが終わってすぐに――」
つかさにしては割と順序よく説明できた。
「追いかけようと思ったけど、全然追いつけなくて……」
「それでこっちに来たのね」
つかさは小さく頷く。
とにかくこなたを探そうということになり、4人は早々に教室を出た。
そこまで大層な話ではなかったが、彼女たちは今そうするべきだと思う何かがあった。
こなたがただ飛び出しただけなら問題はない。
学校にはいたくなくて、さっさと帰りたいという気持ちがあるだろうから自然な行動だ。
だが、つかさによれば彼女はみゆきの机に何かを置き、みゆきもそれを確認している。
さらに走り去るこなたを、みゆきが追いかけたのも確認している。
「あ、鞄……」
こなたの机に鞄が置きっぱなしになっていた。
誰かに触れられることを考えれば、絶対に持ち帰るハズだ。
「帰ったってわけじゃねーみたいだな」
言わなくても分かることをみさおが言う。
「まさか…………!」
不意にあやのが驚くほど大声をあげた。
「泉ちゃん!」
弾かれるように教室を出ていく。
一瞬遅れてかがみ、みさお、その後につかさが続く。
「あやの〜! どうしたんだよ!」
みさおの脚力はフライング気味に飛び出したあやのに容易く追いつく。
「泉ちゃん、もしかしたら屋上にいるのかもしれない!」
「おくじょう? なんでそんなとこにいんだよ?」
「峰岸、あんたまさか……?」
いつの間にか横についたかがみが問う。
「分からないけど厭な予感がするの!」
つかさを置いて3人は廊下を走り、階段を駆け上がった。
待ってよ〜、と後ろで聞こえたが立ち止まらない。
「屋上! つかさ、屋上よ!」
とだけ言い置いて、一段飛ばしで上を目指す。
あやのが抱いた危惧をかがみはすぐに察知した。
最悪のパターンだ。
いじめに遭っている子が屋上に行くなら、その理由はひとつしかない。
その事に遅まきながらみさおも気付いた。
ポジティブな思考の持ち主の彼女は、逆にネガティヴな人間の考えをあまり理解できない。
イラだちながら、彼女は軽い身のこなしで階段を昇った。

575罪咎深き賤しい女38:2008/08/26(火) 21:21:16 ID:VnDDf/bN
「泉さん……!!」
肩で息をしながら、みゆきは陽光に照らされ佇むこなたを呼んだ。
こなたの立ち位置、屋上からの風景を合わせれば綺麗な絵になりそうだ。
しかしそれを見つめるみゆきには鬼気迫るものがあり、状況を楽しむ気にはなれない。
「何ですか、これは? ……こんなものを置いて……」
呼吸を整えながら、聞きたかったことを訊く。

”さよなら でも気になるなら屋上に来て”

乱雑な字体で書いてある。
「気になるなら……なんて…来てほしいならそう書けばいいじゃないですか」
珍しくイラついていた。
こなたに振り回されているようで腹立たしかった。
「別に……みゆきさんが気にならないならそれでいいと思ってたよ。どうせやる事は同じだしね」
ほとんど唇を動かさずにこなたは答えた。
目は笑っているのか怒っているのか、泣いた後なのかどうかすらも分からない。
「やる事? 同じ? 何の話です?」
博学のみゆきは探究心が強いというわけではなく、知識として蓄えたいという欲望があるだけだ。
なまじ頭がいいだけに自分が知らないこと、分からないことに対しては人並み以上の恐怖を抱いてしまう。
今がまさにそれだ。
こなたのやろうとする事も、言っている意味も、何も理解できない。
「みゆきさんでも分からないんだね」
一番言われたくない言葉を、一番言われたくない相手から浴びせられてみゆきは拳を握り締めた。
「何のつもりか分かりませんが、そんなに――――!?」
言い終わらないうちに彼女は見た。
こなたの真後ろ。転落防止のフェンスにぽっかりと穴が空いている。
切り取られたような空間は、人ひとりが通り抜けるには十分な大きさだ。
「私さ、みゆきさんとはいい友だちになれると思ったんだ。最初、話しかける時は緊張したよ。
すっごく綺麗な人だから、声かけにくいなって。でも頑張ってお昼ごはんに誘ったんだ。
だってそうしないと何も始まらないもんね」
「い、泉さん…………?」
なぜこのタイミングで思い出話なんだ、と。
みゆきは状況を把握しようとしたが。
熱くなった体が思考までも止めてしまう。
「綺麗なだけじゃなくて頭もいいんだってすぐに分かったよ。同じクラスで良かったと思った。
嬉しかったな。だってこんなに人と親しくなったのって初めてだもん」
「泉さんッ!!」
「だからみゆきさんが私と同じようにいじめられてるって分かった時、どうしようと思ったよ。
本当はすぐに助けたかった。でもやっぱり怖かったんだよね。迷ったよ、すごく」
「いずみさんッッ!!」
「だけどこのままじゃ駄目だと思って……かばうなんて偉そうなこと言うつもりはないけど。
でも助けたかった。それで私が目の敵にされてもしかたないかなって――それで」
「やめてくださいッ!!」
みゆきは怒鳴った。
「みゆきさんが目をつけられたのって、あの3人組のせいでしょ? 吉田さんだっけ?
あの人たちが仕向けたんだよね? 私、分かってたよ」
「………………」
「違うクラスなのになんでって思ったけど。いじめにクラスなんて関係ないもんね。
やっぱり”いじめられやすい人”ってあるんだよ。私もみゆきさんも同じだったんだ。
そういう雰囲気ってすぐに伝わるからね……分かるでしょ?」
淡々と語るこなたの口調が怖かった。
みゆきはすぐにでも飛びつき、その口を封じたかった。
だが、できない。
足を何か、もの凄い力で掴まれているようにその場から動けなかった。
「私もみゆきさんと同じだから……だから助けたんだよ? それなのに…………!!
ひどいよ! ひどいよ、みゆきさん!! 裏切り者ッ!!」
声を限りにこなたが叫ぶ。
(裏切り者……)
その一言が刃となって突き刺さる。
576罪咎深き賤しい女39:2008/08/26(火) 21:22:29 ID:VnDDf/bN
「チビッ子!!」
真っ先にやって来たのはみさおだ。
「こなた!!」
やや遅れてかがみ、そのすぐ後ろにあやのがいる。
光景を目の当たりにしたあやのは眩暈を覚えた。
(泉ちゃん……やっぱり……)
「お前! 何やってんだ!!」
みさおがみゆきを睨みつけた。
彼女の位置からは、みゆきがこなたを追い詰めているように見える。
「…………ッ!!」
――振り向いた。
怯えきった顔で。
レンズの奥に様々な感情を混じらせて、じっとみさおを。
見るのではなく、視界に捉えた。
「みさきち……」
みゆきの後ろに立つ3人を、こなたは愛でるように見つめた。
「こいつに何か言われたのか!?」
みゆきから目を離さないようにして、みさおが問うた。
冷たい風が吹いた。
「はぁ……はぁ……お姉ちゃん…こな…ちゃん…………」
青白い顔をしてつかさがやって来た。
顔を上げた瞬間、飛び込んできた光景にさらに顔が青くなる。
「なに…なに……どうなってるの!?」
状況が把握できない。
ここにいるのは誰もが見知った顔だが、漂う異様な雰囲気が全くの別人に思わせた。
「こいつがチビッ子に――」
「違います! 違います!」
みゆきが慌てて否定した。
しかし虚しい叫びだった。
誰がどう見てもみゆきがこなたを追い詰めているようにしか見えない。
「違うんです! 違うんです、私は何も……!!」
「もういいよ」
取り乱すみゆきを、こなたの凍りつくような声が押さえつけた。
「今さら”何もしてない”なんて言わないよね? みゆきさん」
艶美な微笑を浮かべて――。
身も心もボロボロに傷ついた少女は、この空間に流れる空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「賭けだったんだ」
こなたは背を向けた。
小さな体が今はよけいに小さく見える。
(こなた?)
かがみが目を細めて背中を見つめた。
「何日か休んでみて……それで急に学校に来たらどうなってるかなって」
「…………」
「ほとぼり冷めてるかなって。みんながほんの少しでいいから悪いと思ってくれてたら――。
でもやっぱり駄目だったね。甘かったよ」
細く吐き出す声は全てを諦めているようだった。
「私なんていないほうがいいんだよね、きっと」
相変わらずの眠そうな目で。
文字通り永遠に眠ってしまいそうな目で。
「なにバカなこと言ってんだ!!」
その眠気を吹き飛ばすようにみさおが怒鳴った。
「いないほうがいいなんて言うなよ! そんな奴、世の中に1人だっていないんだぜ!?
自分の値打ちを自分で勝手に決めるな!」
(日下部…………)
かがみはみさおの意外な一面に触れて感銘を受けた。
「そそ、そうですよ泉さん! 考え直してください!」
不細工な作り笑顔でみゆきが同調した。
このままでは、こなたは想定する最悪の行動をとりかねない。
何としてでも食い止めなければ。
この場にいる誰もがそう思った。
577罪咎深き賤しい女40:2008/08/26(火) 21:24:20 ID:VnDDf/bN
「みさきち、ありがとね。でも、もういいんだ。クラスには居場所はないし……それに皆にも迷惑かけたくないし」
「バカ! 誰も迷惑だなんて思ってないわよ!」
かがみが叫んだ。
「思ってなくても、私がいたらそうなんだよ。かがみたちにこれ以上、気を遣わせたくないんだ」
「なんでよ……なんでそうなるのよ……」
「こなちゃん、駄目だよ! 私たちが何とかするから! だからお願い――!!」
「泉ちゃんは何も悪くないのよ? そんな考え方するのは間違ってるわ!」
もう何も見ていない様子のこなたに向かって、彼女たちは口々に呼びかけた。
「みゆきさん」
虚空を見つめながらこなたが吐いた。
「このほうがいいんでしょ? こうなったほうがいいんでしょ? そうだよね……みゆきさん」
「やめて! やめてください、泉さん!」
こなたが一歩、足を踏み出した。
「私がこうするのを待ってたんだよね? 私に隠れて陰で私を嗤(わら)って――。
おかしいよね。助けてあげたのに、みゆきさんにいじめられるなんてね…………」
さらに一歩。
「ち、違うんですッ! 泉さん、あれは――!!」
もう一歩。
「よかったね、みゆきさん――」
フェンスをくぐりかけたその瞬間、みゆきの横を影がかすめた。
巻き込まれた風がそのすぐ後を追い、勇ましい少女の背中を押した。
「チビッ子!!」
地を蹴り、前のめりになりながらみさおは走った。
今までよりもずっと速く。
わずかな距離、わずかな時間である。
心臓が破裂しそうなほどの動悸が襲った。
だが構わず走った。
手を伸ばせば――。
まだ間に合うと。
「………………」
最後の一瞬、こなたは肩越しに振り向いた。
そしてそのまま――。
こなたは落ちた。
「チビッ子オオオォォォォッッ!!」
指先にわずかに触れた袖の感触を残して。
こなたは落ちた。
2秒後に鈍い音が響き――。
――全てが終わった。
「こなた……!!」
かがみも、つかさも、あやのも。
フェンスの穴の向こうを見つめたまま動けなかった。
「今だれか落ちたぞ!」
「ちょ、こっち来てみろよ!」
「スゲェ……」
遠くで声が聞こえる。
「どうして…どうして……」
あやのがうわ言のように呟いた。
「なにやってんだよ……」
フェンスのへりを掴んでみさおが恨めしげにこぼした。
ふらり、とかがみが校舎の中へ入ろうとする。
「お姉ちゃん、どこ行くの?」
「決まってるでしょ。こなたのとこ」
「わ、私も……」
その言葉に呪縛が解かれたように、あやのも慌ててその後を追う。
残されたみゆきは呆然として立ち尽くした。
現実離れした出来事に思考が追い付いていない。
何が起こったのか。それすら理解できずにいた。
578罪咎深き賤しい女41:2008/08/26(火) 21:25:29 ID:VnDDf/bN
「………………」
下の喧騒と上の沈黙が完全に世界をふたつに隔てた。
ゆっくりと、ゆっくりと。
みさおは立ち上がり――。
自分とほとんど同じ表情をしているみゆきの顔を――。
思いっきり殴りつけた。
「…………ッッ!?」
一瞬の激しい衝撃にみゆきが倒れ伏す。
左頬に痛みが走ったが、それが殴られたことによるものだと判るのに数秒がかかった。
顔色ひとつ変えず俯いたままのみゆきを、みさおは憎悪の目で見下ろした。
右手がジンジンと痛む。
同性を、しかも拳で殴るなど後にも先にもこれ一度きりかもしれない。
(………………)
なにか言いたげなみさおは、しかし何ひとつ言葉が浮かばず、歯痒い想いで屋上を後にした。



579JEDI_tkms1984:2008/08/26(火) 21:26:53 ID:VnDDf/bN
今夜分はここまでです。
明日か明後日には完結に運べると思います。
それでは、また。
580名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 22:01:30 ID:dZLSxKCO
空気読まないですみません、PSPから。>>569のことですが明後日になります。
581名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 22:03:39 ID:dZLSxKCO
あわててsage
582名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 22:16:14 ID:5IdY65Nv
>>579
乙です。
さて、これからみゆきさんはどうなることやら・・
何故か虚像と実像のみゆきさんほど憎めないのは何でだろう

>>580
短期間に慌てて急いで書かなくて大丈夫です。
じっくり時間をかけて納得のいくものを作るのもいいかと。
583名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 22:39:10 ID:tARJCMIJ
>>579乙。

さてこなたが身を投げた事でみwikiはいじめられっ子に逆戻りか?
しかも・・・・・っておっとこれ以上は思考回路がシンクロしてそうだから止めとこう・・・・・

どうケリつけるかに今からwktk。
584名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 23:03:45 ID:YB5TlWxl
>>579


後追いで終わりか・・と思ったら違ったな
まあwktkしながら待ってますー

>>583
それはないと思うけどなぁ
585名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/26(火) 23:25:40 ID:oj06o84D
>>579
乙。
文章力凄いなー。思わず引き込まれたよ。
台詞とか凄い迫力。
586名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 00:54:13 ID:TEwLd0EI
>いじめられっ子に逆戻りか?
そうなった場合、かがみ達がみゆきを助けるか否かによってみゆきの考えが正しいか否かが決まるな
587名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 01:02:28 ID:eSYCkg6T
みゆきって今回自分の考え披露してなくね?
みゆきがかがみ達に向かって演説したくだりは、
みゆき自信が切り抜ける為の詭弁だと認めているし。


それはそうと、次スレの時期だな。
588名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 04:14:37 ID:0xdImswR
>>579
乙です。みwikiはどうなるやら・・・。

>>531
乙です。ビッチに乾杯。

>>533
飲んだくれてます。最近筆が進まず。
『アルバイトV』は9月以降に投下したいと思ってます。


てか勢いでペンタブなんぞ買ってしまいました。
美術2だったのに、どうしてくれよう。
ttp://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d441388.jpg
589名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 04:37:11 ID:ITUzQZSl
>>588

>てか勢いでペンタブなんぞ買ってしまいました。

なんという俺
筆が進まなくなると蛇行してしまう気持ちが痛いほどにわかるw
590名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 10:23:15 ID:ofFZ1LrS
>>588なんか俺がいる
591名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 10:36:24 ID:ofFZ1LrS
金曜日にこなたの恐怖投下
592名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 11:05:52 ID:SB9txKYc
やあ (´・ω・`)突然だが、君に【呪い】をかけたよ
今年は「人生最悪の年」になる呪いだ。

ああ、君が怒るのも無理はない。 落ち着いて欲しい。
この呪いを解くには方法はただ一つ、↓のスレに
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1219166879/

どうしておじちゃんたちロリコンなの?

と書くだけなんだ。しかも書けば書くほど今度は幸運度がグングン上がるんだ。

それじゃ健闘を祈るよ。
593JEDI_tkms1984:2008/08/27(水) 12:20:07 ID:wKbdAJ5E
少し前に完成しました。
予定通り、今夜9時過ぎを目途に投下しますのでよろしくお願いします。
594名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 12:58:45 ID:R6Rez1t6
>>593
今から楽しみです
wktkしながら待ってます
595名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 14:51:40 ID:gYJgITak
>>594
楽しみでしょうがない
596名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 21:33:04 ID:cB+AfnLA
【政治】 「ポスト福田は、麻生太郎ではなく"野田聖子"」 野田氏、動き始める…自民・古賀誠氏と公明党の狙い★2

http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1219743898/
597JEDI_tkms1984:2008/08/27(水) 21:40:59 ID:qwCdLceX
お待たせしました。
今夜でラストです。
途中で規制がかかるかと思いますが、最後まで投稿します。
598罪咎深き賤しい女42:2008/08/27(水) 21:42:34 ID:qwCdLceX
こなたは――。
生きていた。
真下の樹木と、その樹木が植わっている土のおかげで。
一命をとりとめた。
しかし全身を強打し、致命傷である。
彼女はまもなく死ぬ。
運び込まれた病院で迎えが来るのを待つだけの。
冷たく寂しい時間を送ることになった。
最期の最期。
こなたは一般の入院室に移ることを強く希望した。
もとより死ぬつもりはではいたが、得体の知れない管やら呼吸器やらに縛られたくない。
医師はそれを聞き入れ、一般病棟の個室に彼女を移した。
感染力の強いウイルスに冒されているわけでもないし、そもそも見舞いなど身内以外には来ない。
真っ白なベッドの上で。
彼女は死ねる。
そう思っていた時だ。
そっと扉が開き、見知った顔ぶれがそこにあった。
「こなちゃん……」
まず名を呼んだのはつかさだ。
「こなた」
「泉ちゃん……」
確かめるようにかがみが、あやのが名を呼ぶ。
みさおだけが言葉を発さず、黙ってこなたを見下ろしている。
「みん…な……来てく…………だね……」
息も絶え絶えにこなたが迎えた。
肺や肋骨が軋むように痛む。
意識はハッキリしており、視界もぼやけていないが、確実に死が近いことをこなたは悟った。
「こなたぁ…………!」
場所柄、かがみは声を殺して泣き叫んだ。
「なんで、こんな……」
つかさも涙を堪えられなかった。
ひどすぎる。
どうしてこなただけが、こんなにもつらい想いをしなければならないのだろう。
何も悪くないのに。
こなたは何も悪くないのに。
「…ごめん…ね……こんな……こと…して……」
ひとつ言葉を口にするたび、全身に激痛が走る。
天井を向いたまま、もう首を傾けて4人の顔を見ることもできない。
「ううん、謝るのは私たちのほうよ。結局、私たち何もできなかった……何もできなかった」
あやのは空虚に向かって謝罪した。
「もっと何かできたハズなのに。もっと真剣に考えていれば」
後悔だけが残る。
こうならない道があったに違いない。
4人もいながら、誰もその道にたどり着けなかった。
こなたの安全を第一に考えすぎ、思慮深くなっただけで何の行動も起こせなかった。
「嬉しかった…みんながいてくれて……つらかったけど……たのしかったよ……本当によかった……」
一語ずつ、丁寧に丁寧に言葉を区切ってこなたは応えた。
「いいわけないだろ!」
それまで黙っていたみさおが、ベッドにしがみついた。
「こんなのあんまりじゃねーか! なんでだよ! なんでこんな事したんだよ!」
「……日下部」
「あいつらにやられっぱなしでいいのかっ! 悔しくないのかよ! チビッ子!!」
「日下部!」
かがみが制した。
今さらそんなことを言っても仕方がない。
こなたが快復してくれればそれでいい。
だが、みさおは違った。
こなたをここまで追い詰めた奴らに仕返しをしてやりたい。
憔悴したこなたを見せつけ、断罪してやりたい。
そうでもしなければ、いつまでも何も変わらない。
599罪咎深き賤しい女43:2008/08/27(水) 21:44:04 ID:qwCdLceX
こなたの苦しみはみさおの怒りだった。
「みさきち……」
落涙した。
ほとんど体を動かせないが、涙だけは自然に流れてくるし、流れる涙を止めることもできない。
「飛び降りて……死ぬと思ってたのにさ……まだ……生きてるじゃん……。
なんで死ね…なかったんだって……思ったけど……」
落ちてさっさと死にたかった、とこなたは言った。
絶え絶えに、しかし淡々と。
「でも……最後にみんなに逢えた……のは良かったかな……」
そう言って笑うこなたの顔には、幸せと絶望と諦めがぐちゃぐちゃに入り混じっていた。
「もうすぐ面会時間、終わっちゃうね――」
壁の時計を見てつかさが言った。
「明日も来るから。明日も明後日も。だからこなた――」
「……分かってる」
最後まで聞かずにこなたが遮った。
かがみたちの歔(すすりな)きを聴きながら。
運よく助かってしまった自分を恨んだ。
あのまま死ぬハズだったのに。
運命は最後まで苦痛を与えてくれる。
「それじゃ――」
「また明日」
「約束だからな」
本心はいつまでもここにいたかった4人は、重い足を引きずって部屋を出た。
心身ともに健康で、衰弱している者の気遣いすらできない人間など友に持つべきではない。
大昔にそういう言葉を残した人物がいる。
これ以上の滞在はこなたの体に障るから。
誰からともなしにそうした想いが伝播し、自然と音を立てないように退室していた。
すぐさま再び訪れる静寂。
(ごめんね、みんな……約束…したけど……)
分かっている。
迎えはもうすぐそこまで来ているのだ。
(お母さんだったらいいな)
眠気が押し寄せてきた。
このまま眠れば――。
もう目を覚ますこともないだろう。
不意に部屋の扉が乱暴に開けられ、何者かがドカドカとうるさく足音を立てながらやって来た。
影が覗き込む気配を感じ、重い瞼をこじ開ける。
「泉さんッ!!」
全身に熱いものが駆け巡る感覚がした。
形容しがたい表情のまま、みゆきはじっと気味が悪いほどこなたを見つめている。
(みゆきさんか…………)
一瞬、本当に母親が迎えに来たかと思ったこなたは、侮蔑に近い笑みを浮かべた。
「死なないで下さい! お願いです! 泉さん、お願いです!」
「…………」
「勝手な言い分だと自覚しています! 私が泉さんにした行為は許されないことだとも分かっています!
ですからお願いです! どうか……どうか死なないでください!!」
髪を振り乱し、知性も品格も失ったみゆきは声を限りに懇願した。
「今さら……」
「私は取り返しのつかないことをしてしまいました。今さら謝っても遅いですが……。
償いは……償いはします! ですから死なないでください! お願いします!!」
必死に呼びかけるみゆきが、こなたには滑稽だった。
あれだけのことをしておいて、いざこの場面になったら”死ぬな”と?
ふざけすぎている。
あまりにも自分勝手で、あまりにも愚かな発言ではないか。
「よく…言えるね。恩を仇で返したくせに……!」
こなたはついに”恩”という言葉を使った。
裏切り者への最後の抵抗だ。
600罪咎深き賤しい女44:2008/08/27(水) 21:45:10 ID:qwCdLceX
「本当に申し訳なく思っています。ですが、あれは……あれは不可抗力なんです。本当です。
ああしなければ危険だったのです! あの人たちに何をされるか考えただけで――!!」
「だから私を”使った”んだね? 私は助けてあげたのに……」
恩着せがましく、責め立てるように言った。
「怖かったんです。次は何をされるのか、誰に何を言われるのか……怖かったんです。
泉さん、あなたも私と同じですから分かるでしょう? 耐えられなかったんです。
毎日が苦痛でした。本当につらかったんです」
(勝手なことばっかり…………)
うんざりだった。
今さらこんな顔で謝られても、もう何も変えられないというのに。
それが分かっていないのか、今になって必死に自分の行いを悔やむみゆきがバカバカしい。
だからこなたはこう言ってやった。
「……悪いと思ってる?」
みゆきはパッと目を輝かせ、
「も、もちろんです! 私が一番悪いんです! 反省しています! 本当に反省しています!」
ここぞとばかりに謝罪した。
「――本当にィ?」
痛みに耐え、こなたはこれ以上ないほど皮肉を込めた目で頭上のみゆきを”見下ろし”た。
いじめっ子にすら見られない嘲りと憤りと敵愾心が含まれたこなたの視線に。
みゆきは体の震えを止められなかった。
「…………」
怯えた様子のみゆきをたっぷり堪能したこなたは、ゆっくりと目を閉じた。
落下の際の衝撃で肺腑にも大きな損傷を負っている。
見た目には分からなくとも、内部から迫る死期はこなたの首筋にすでに鎌をあてがっている。
「い、いず……泉さん……!?」
「…………」
「泉さん! 泉さん! 嘘です! 泉さん! 死なないでください! お願いです、泉さんッ!!」
もう遅い、とみゆきは思いたくなかった。
こなたの体を乱暴に揺する。
「死なないでください! 泉さん! 償いはします! 何でもしますから! お願いです!」
無駄だった。
どうしても、何を言っても。
数秒前にこなたは死んだ。
裏切り者たる自分に呪詛の念を叩きつけて。
こなたは死んだ。
「あああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
かろうじて”高良みゆき”を形成していた最後の理性が吹き飛んだ。
それに伴い、情報の受容を制御していた精神の壁が崩れ、厖大な量の現実がわっと流れ込んでくる。
「どうしてですっ!? なんで死ぬんですかっ!! なんで…なんで……なんで…………ッ!!」
怒鳴り散らすみゆきの中で、こなたの死に対する怒りと、こなたの死がもたらす恐怖とが渦巻いた。
「私はどうしたらいいんですか!? 泉さんが死んだら次は私じゃないですかっ!!
今度は誰が身代わりになってくれるんですか!! なんで…なんで死ぬんですかっ!!」
泣いても喚いても叫んでも。
泉こなたはもう戻ってはこない。
間もなくやって来た医師たちに取り押さえられ、みゆきはこなたから引き離された。



601名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 21:45:15 ID:d53GaTtS
支援
602罪咎深き賤しい女45:2008/08/27(水) 21:46:09 ID:qwCdLceX
 世界は常に変わり続ける。
世界が変化を望む。
人間がそれを手助けする。
良い方向か悪い方向かなんて考えずに。
世界が人間を変え、人間もまた世界を変えようとする。


 翌日。 
みゆきにとって全てが逆転した。
逆転して元通りになった。
これは変化ではない。ただの回帰だ。
できれば戻って来たくはなかった現実だ。
教室に入った瞬間に――。
38人の視線が一斉に注がれるのをみゆきは感じた。
チャイムぎりぎりに登校したために、クラスはたった1人を除いて全員が揃っていた。

”待ってたよ……”

そんな声が聞こえた気がした。
激しい動悸を抑えながら、震える足取りで席に向かう。
机にも椅子にも細工はない。
が、この程度では全く安心はできない。
これまでこなたに向けられていた悪意が、そのまま自分に注がれているのだ。
「席につけ」
なぜか担任はチャイムが鳴る直前に入ってきた。
みゆきは上目づかいに担任の顔色を窺ったが、平時となんら変化はない。
(まだ…………?)
と、思いかけたところで、
「先生から大事な話がある。知っている者もいると思うが、昨夕、泉が屋上から転落した」
途端に教室内でざわめきが起こる。
隣近所の生徒同士が興奮したようにやりとりをする。
既に知っているみゆきとつかさだけは驚かなかった。
「静かにしろ。それでな、急いで病院に運ばれたが、転落した衝撃で肺腑を損傷したらしい。
しばらくは息があったんだが、間もなく死亡した……」
担任はニュースキャスターのような言い回しで事実を伝えた。
再び擾乱。
今度はつかさも驚きを隠せなかった。
面会した時のこなたの顔が頭から離れない。
(………………)
それも知っているみゆきは顔色ひとつ変えない。
ガヤガヤと落ち着きのないこの騒ぎっぷりが、みゆきには不快だった。
クラスの連中は今はじめて聞かされたような反応だが、それは嘘だ。
どこから、誰からどう伝わったか、少なくとも38人は既にこなたが転落したことを知っていたハズなのだ。
そしておそらく彼女が死んだことも――。
そうでなければ、みゆきが入室した際のあの視線が説明できない。
しかしこなたが息を引き取った瞬間に居合わせたのは、みゆきだけだ。
その後、誰から広がったのかは分からないが、こなたの死が伝わった。
転落した事とそのあと死亡したことと。
両方とも知っているのはみゆきだけだ。
ではあの視線は――。
どう考えても、こなたの死を知っている者の目つきだった。
標的がいなくなり、次の標的にみゆきを選んだ時の目つきだった。
どういうことだろうか――。
いろいろと推理してみたみゆきだったが、不意にその思考が途切れた。
そんなことを考えている場合ではない。
どうだっていいのだ。
603罪咎深き賤しい女46:2008/08/27(水) 21:47:48 ID:qwCdLceX
それよりもこの先……。
自分がどうなるか、どうするべきかを考えなければならない。
「いいか。泉のことはショックだと思う。しかし明日、明後日の休みが明ければ中間考査だ。
3年間なんてあっという間だ。お前たちはもう今から進路を考えねばならん。
くれぐれもこんな事で塞ぎ込んだりしないように。今は試験のことだけを考えろ」
担任はこなたの死にはほとんど興味がないようだった。
「うっ……うっ…………!!」
つかさがぼろぼろと大粒の涙をこぼした。
悲しかった。悔しかった。
何よりそんな言い方しかできない担任が憎かった。
「今日の授業は中止だ。お前たちはすみやかに下校して、試験に備えろ。
ああ、言い忘れていたが当面の間は屋上は立ち入り禁止だ。いいな」
人がひとり死んでいるというのに、試験の方が大事なのか?
普段、怒りとは無縁のつかさでさえ激しい憎悪を抱いた。
その少し離れた場所で。
青い顔をして震えと必死に戦うみゆきは――。
今は一切の感情を捨てて、蓄えた知識をかき集め、知恵を絞った。



 連絡事項などで30分ほどかけたホームルームが終わった。
予定のカリキュラムはすべて中止。
他学年も今回の騒動のためにすみやかな帰宅を求められた。
担任がホームルーム終了を告げても、みゆきはしばらく動けなかった。
37人の嘲笑うような視線と、1人の殺意すら感じられる憎悪の視線が彼女の動きを封じ込めている。
やがて1人、また1人と教室を出ていく。
楽しげに話しながら下校する様を見れば、やはりゲーセンかカラオケあたりに行くのだろう。
さすがに今日、さっそく何かをされるわけではないだろうと踏んだみゆきは心を落ち着けようとした。
2日間休みがある。
その後すぐに3日ほどかけて試験が行われる。
それからだ。
こなたと同じ目に遭うのはそれからだ。
それまでに――。
パッとみゆきは顔をあげた。
教室内には誰もいなかった。
(………………ッ!!)
すぐに担任が施錠しに戻ってくるだろう。
その前に鞄を引っ掴むと、みゆきは足早に教室を出た。
彼女の中にひとつの可能性があった。
もしや、という直感に近い。
しかしもはやそれに賭けるしかなかった。
祈るような思いで階段を駆け降りる。



「こなたのバカ…………!!」
かがみが震えを抑えるように拳を握り締めた。
「なんでよ! なんで逝っちゃうのよっ!」
吹きつける風が土を舞い上げた。
あやのが目を細めて風の行方を追った。
「ごめんなさい、泉ちゃん……私たち、何もできなかった……ごめんなさい……」
流れた涙を拭うこともしないで、あやのは謝罪の言葉を繰り返した。
愚かだった。
いじめっ子の報復を恐れるあまりに、結局のところ行動らしい行動を起こせなかった。
迂闊に動くのは危険だ。つかさもあやのもそう思っていた。
しかし――。
何もしなかったことが結果、こなたの死に繋がってしまった。
こうならない手があったのなら、迷わずそうすべきだったのだ。
604罪咎深き賤しい女47:2008/08/27(水) 21:49:03 ID:qwCdLceX
(バカだよ、チビッ子……死んで何になるんだよ? 誰が喜ぶんだよ……? 悔しくないのか?
こんなことで死んじまってさ……お前は悔しくないのかよ……!!)
みさおは目をギュッと閉じて、あの光景を思い浮かべた。
あと1秒――。
あと1秒早く駆けていればこなたを止められたかもしれないのに。
「クソッ――!!」
柄にもなく汚い言葉を吐いた。
1秒だけ遅すぎたのだ。
後悔の念はつかさも強かった。
この中で唯一、同じクラスだったのだ。
誰よりもこなたを見、誰よりも実態を知っていた。
だが何もしなかった。
かがみに助けを求めただけだった。
ここにみさおとあやのがいるのも、かがみを通してであって、つかさの行動の結果ではない。
(あの時だって…………)
こなたがフェンスの向こうに消えるのを、黙って見ていただけだった。
あの状況では飛び降りるだろうことは予想できていたのに。
みさおのようにはできなかった。
「ごめんなさい……っ!」
見捨てたのだ。
自分がこなたを見捨てたのだ。
「……………」
4人は示し合わせたように中庭の、こなたがいつも座っていたベンチを見下ろした。
あの時だけは彼女も笑っていた。楽しんでいた。
今にして思えば自分たちに気を遣わせまいと、無理に笑顔を作っていたのかもしれない。
しかし、それでも――。
彼女の唯一の居場所であったことは間違いない。
「こなちゃん……」
こんな理不尽なことがあっていいのか。
何の罪もない少女が、何の理由もなくいじめに遭って。
助けた相手には裏切られて果てに自ら命を絶つなど。
許されることではない。
「あんたは何も悪くないから」
かすれた声でかがみが言った。
「何も悪くないよ。誰も……誰も悪くない!」
つかさを慰めるつもりでそう言ったが、ほとんどは自分に言い聞かせていた。
怖かったのだ。
こうでも言わなければ、こなたへの罪悪感に押し潰されてしまいそうになる。
みさおにしてもあやのにしても同じだった。
こなたを助けられなかったと。
誰もが自分を責めていた。
だからこそ――。
彼女の登場はそんな自責の念をそらすのに打ってつけだった。

605名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/27(水) 21:50:38 ID:rN+bqrDB
割り込み失礼&支援

次スレ立ててくるわ
606罪咎深き賤しい女48:2008/08/27(水) 21:51:02 ID:qwCdLceX

「助けてくださいッ!!」
最初見たときはそれが誰だか分からなかった。
知性的で優雅で、そのくせ自己中心的で冷徹。
髪を振り乱して走ってきたその少女が、高良みゆきだと認識できるまで数秒がかかった。
「助けてください! お願いです!」
悲壮感を漂わせ、みゆきは血走った目で4人を見た。
みゆきの直感は正しかった。
”こなたは昼休み、いつもここにいた”
かがみの言葉だ。
この4人なら想いを馳せるのに、必ずこなたがいたここに集まるハズ。
彼女を突き動かした根拠はたったこれだけだが、それが見事に奏功した。
「どうか助けてください!」
繰り返し、繰り返しみゆきは懇願した。
「…………なんだよ?」
誰も返事をしないため、みさおが我慢できずにぶっきらぼうに問うた。
「い、泉さんが……! 泉さんがいなくなったら次は私ですッ!! 私の番なんですッ!
ですから――お願いです! どうか私を助けてくださいッ!!」
吐き気がするくらいの詭弁で4人を論破しようとしたみゆきはもういない。
いじめられることをただ恐れる、少し前の彼女に戻っただけだ。
「――調子いいこと言ってんじゃないわよ」
怒鳴りつけたいくらい憤っていたハズなのに、かがみの口からは恐ろしいくらい低く冷たい声が出た。
「あんたがこなたに何をしたか……忘れたわけじゃないわよね?」
ここでみゆきを叩き伏せることが、こなたへのせめてもの贖罪だと言わんばかりに。
かがみは射抜くような視線をみゆきに向ける。
「あれは仕方がなかったんです。たとえ振りでもあの人たちに合わせなければならなかったんです!
でなければ私が犠牲になってたんですよ! 仕方ないじゃありませんかっ!」
「でもこなたはそうはしなかったわ。あんたと違ってね」
「そんな事どうでもいいではありませんか! それより助けてください! 次は私なんです!!」
「ふざけないで!」
あやのが言い放った。
「あなたがやった事、私は忘れないわ。あなたが……あなたが泉ちゃんを殺したのよ!」
そこまで言うつもりはなかった。
「あなたが殺したのよ!」
だが気がつくと言葉にしていた。
「なのに何? 自分の立場が悪くなると助けてくださいですって? ふざけすぎてるわ!
泉ちゃんを裏切った報いよ! この裏切り者!」
可愛い声色をして、言うことはそのひとつひとつがみゆきの胸を貫いていく。
「わ、私は裏切ってなんかいません! そ、そうです! そうなんですよっ!」
何かを思い出したように瞳にわずかに希望の光を灯らせた。
「私だってそうなんです! 私だって一度は泉さんが巻き込まれないように突き放したことがあるんですっ!」
そしてここぞとばかりに詰め寄る。
だがもちろん、誰もそんな言葉など信じない。
白眼視されていることに気付き、みゆきはさらに語気を強めた。
「本当なんです! 信じてください! 私も泉さんと同じなんです!!」
「同じ…………!?」
みさおが血走った眼で睥睨した。
「そうです! 私だって泉さんをかばったんですよ!? 巻き込まれないようにと……本当です!!
つかささん! あなた、見てたんでしょう!? 見てましたよねっ!!」
熱を帯びて必死に訴えるみゆきに、
「知らないよ、そんなの」
つかさは冷たく言い放つ。
「下手な嘘つかないで。こなちゃんを追い詰めたくせに」
怒気をストレートに出すかがみやみさおと違って、つかさは静かに憤った。
いよいよ窮地に立たされたみゆきは自分の襟元を掴むようにして、
「ほ、本当なんです! 私も泉さんを助けようとしたんです! 信じてください! お願いです!
泉さんは救われて、どうして私は救われないんですか!? 私だって――!!」
「ふざけんなっ!!」
みさおが怒鳴った。
607罪咎深き賤しい女49
「チビッ子が一度だってお前に何かしたかよ!? あいつはずっと耐えてたんだっ!
お前に裏切られてもずっとずっと我慢してたんだぞ! それで……それで…………!!
何が救われない、だ! ふざけんなッ!!」
もう何度感じたかも分からない、みゆきへの強い怒り。
ボロボロにされた教科書を見た時。
落書きだらけのノートを見た時。
切り裂かれた鞄を見た時。
憔悴したこなたの顔を見た時。
小さな体で健気に耐える少女を、みさおは守りたいと思った。
――だが叶わなかった。
張りつめた雰囲気の中、それでもみゆきはなりふり構わずに訴えた。
「どうして泉さんは助けて、私は助けてくれないんですか!? 困った人を放っておけないのでしょうっ!?
見捨てられないのでしょう!? だったら私を助けてください! このままでは…………!
このままではあの人たちに何をされるか分かりませんっ! ですから、どうか――――」
懇願は嘆願に変わり、虚しく4人の間を吹き抜けた。
こんな奴を助けたせいで――。
泉こなたは死んでしまったのだ。
理不尽だった。
(こなた……)
(こなちゃん……)
(泉ちゃん……)
3人はほとんど同時に天を仰ぎ、青い空の彼方にこなたを思い浮かべた。
空はいつも青いのに。何も変わらないのに。
どうしてその下では否応なしに変化し続けるのだろう。
(チビッ子…………)
みさおだけはこなたがいつも座っていたベンチを見下ろす。
もういないのに、それでもあの小さな輪郭を中空に描いてしまう。
生きていればもっといろんな事を話せたのに。
遊びにも行けたし、旅行だってできたのに。
(………………)
感慨に耽る4人に、みゆきはなおも喚き続けていた。
ほとんど言葉になっておらず、かろうじて聞き取れるのは、”助けてください”だけ。
ひとり現実に取り残されたまま、それでもすがろうとする彼女に。
4人は面倒臭そうに振り返った。
そしてみゆきの背後に起きた変化を認めると、
「ほら、あんたのこと待ってるわよ」
代表してかがみが顎をしゃくった。