【バンブーブレード】☆千葉紀梨乃 18☆【キリノ】
キリノ「おっはよーん、サヤー。」
サヤ「おお、キリノ、おっはよう!そういえばキリノも今日は一限からなんだっけ?」
キリノ「だよー。英語だね。」
二人は今年から早應大学の大学生である。先日入学式を終え、いよいよ今日から授業が始まる。
教育学部と文学部、入学した学部は異なるが、二人とも大学で剣道を続けるつもりであり、友情は続きそうである。
サヤ「英語・・・ってことはクラス授業かぁ。私は文学史だからどうも大教室っぽいよ。」
キリノ「いかにも大学っぽいねぇ。」
サヤ「うんうん!大学だよねー!」
サヤは「大学」という響きに甘美なものを感じ取っていた。たいていの学生は、一ヵ月後にはそのような思いは失ってしまうのだが。
キリノ(サヤは最後まで新入生のようにキラキラしてるんだろうなー)
いつもパワフルな親友がたまにうらやましくなる。
サヤ「で・・・キリノ。キリノは大学行ったら剣道部はいるの?」
キリノ「もっちろーん。って、あれ?サヤも大学入っても剣道続ける気なんでしょ?」
石橋先生からノートをもらってるのに、と付け加える。
サヤ「あ、それはもちろんね。でも剣道だってサークルと体育会があるでしょ?どっちにしようかなって。」
キリノ「あ、なるほどねー。」
サヤ「大学生活をほとんど剣道に費やすか、いろいろなことやるか。剣道部のほうが思いっきり打ち込めるとは思うけれど・・・でも・・・」
キリノ「うーん、ちょっと難しいね〜」
いつものように、口を猫のようにして悩むキリノ
キリノ「私は、教師になりたいから。」
それは、あの時決めたこと。コジローがいなかったとき。
剣道をはじめとする「部活の楽しさ」を教えられる人間になりたい、そう思った。
サヤ「って、すごいね・・・」
キリノ「うん・・・。」
人・人・人。見渡す限り人。
日本でも有数の大学であり、有数の規模でもある早應大学。それだけあって、キャンパスは人で埋め尽くされており、目当ての教室に行くだけでも一苦労である。
サヤ「入学式のときよりもすごくない?!」
キリノ「入学式は一年生とサークル勧誘の人だけだったからねぇ。でも今日は四学年ほとんどが集まってるから。」
サヤ「これは鍛えられそうだわ・・・。入学式のときでもきつかったってのに・・・。」
キリノ「入学式・・・か。」
サヤ「キリノ?」
キリノ「あ、いや、なんでもないよ?」
入学式。親子連れの人もいれば、友人たちと一緒の人たちもいた。そして、仲よさそうなカップルたちもいた。おそらく高校時代からのカップルなんだろう。
キリノ(ミヤミヤとダンくんも、来年はあんな感じになるのかなぁ。)
学力は明らかにダンのほうが上だが、なんだかんだ同じ大学に行ってしまうのだろう。そんな感じがする。
キリノ(カップル・・・か)
当然だが、キリノの入学式に一番きて欲しい人はこなかった。
室江高校の入学式が同じ日にある以上、やむをえないことである。
キリノ(コジロー先生の復職はもちろん嬉しいんだけどねぇ。ちょっと複雑かも。)
とっくに家族公認なのだからコジローもいてほしかったが、そうはいかない。その日はキリノは家族だけで過ごした。
キリノ「しょうがないんだけどね。」
サヤ「え、な、なにが?」
キリノ「なんでもないよー。ほら、早くいこ!授業はじまっちゃうよ!大学では無遅刻無欠席めざすんでしょ!」
サヤ「あ、うん。」
何かがほころびかけていた。気づかないほどに小さなほころび。
サヤと別れて、いよいよ初めての教室に飛び込む。いきなりクラス授業というのはちょっとドキドキする。
キリノがドアを開けると、そこにはすでに数名の男女が座っていた。
女子A&B「おはようございまーす!」
いきなり元気な声をかけられる。
キリノ「・・・おはようございます!」
(うわぁ、仲良くできそう、嬉しいな!)
キリノの大学生活がはじまる。希望にあふれた大学生活。そこの先に幸せがあると信じて。
椅子に座ると、既に男女がそれぞれ談笑を始めている。
やはり最初のうちは、男女に分かれて座る傾向があり、キリノたちも女子で固まって、自己紹介をしている。
レイナ「私、宮本玲奈。」
セリナ「私は一条芹菜よ。セリナとか、リナって呼んで!」
チサト「あたしは片桐千里。」
キリノ「あ、千葉紀梨乃、です。」
レイナ「って、敬語はやめようよー。」
なぜか、同年代なのに敬語を使ってしまった。フレンドリーを自負するキリノには今までになかったことである。相手もすぐにそれを制する。
キリノ「あ・・・。うん!よろしく!キリノって呼んでね!」
セリナ「うん。私のこともレイナって呼んじゃってね。」
(きれいな人だなぁ・・・しかもいい人っぽい。)
素直にそう感じた。どことなく雰囲気がミヤミヤに似ている(裏の顔があるかはおいといて)。
周りの人を見ると、みんなしっかりとした化粧をし、きれいな服をきている。
(あー、最初敬語使おうとしたのはそのせいかも。)
なんか、いかにも大学生っぽい気がした。
(ふふ、タマちゃんもミヤミヤに対してこんな感じだったのかな。)
セリナ「あ、英語の先生来たよ。」
英語のあとは教育概論。同級生数名とキリノで一緒に行動。
どこでも最初のうちの行動は同じで、その日はずっと高校時代の話をしていた。
セリナ「えー、キリノって中学から高校までずっと剣道やってたんだ!」
レイナ「なんか・・・意外。」
キリノ「へっへー!インターハイ出たんだよ!でもそんな意外かなぁ?」
チサト「意外だよぉ。剣道って感じしないもん。」
レイナ「だよねー。キリノかわいいのに。竹刀振ってる感じとかしない。」
チサト「どっちかというとバレー部っぽい。」
キリノ「そんな、私かわいくなんかないよー、あ、でもね。私の高校の剣道部かわいい子いっぱい集まったんだよ。ほら、この写メみてみて。この子はタマちゃんっていうんだけど、一番強いんだよ!」
レイナ「うわー、かわいい!この子が剣道部のエースなの?!」
チサト「お人形さんみたい。しかもインターハイチームだしねぇ・・・。」
セリナ「あー、逆にこっちの人すごい美人!先輩?」
キリノ「いやー、むしろ後輩でねぇ。ミヤミヤって言うんだけど、このころは高1だったかな?」
チサト「・・・ちょっとショックかも。今の私よりかっこいい・・・。」
キリノ「うんうん、ほんとこの子はかっこいいんだよー。」
レイナ「ホント、剣道部かわいい子おおいねー。男子も結構わるくな・・・一人変なのいるけど。」
その人がミヤミヤの彼氏で、しかも部長なんだよー、というと、予想通りの反応が返ってくる。
そんな他愛のない会話が繰り広げられる。その中でも、やはりキリノは気づけば会話の中心になっていた。
キリノ(嬉しいなぁ、これからの大学生活が楽しそうで!)
帰り。キリノはサヤと待ち合わせて、帰りの電車にのっていた。早應大学には全国から学生が集まるため、キリノやサヤのように電車で長時間通学する学生は珍しい。
実際、キリノのクラスにもサヤのクラスにも、同じ方面の電車で帰る人はいなかった。
キリノ「どうだったー?」
サヤ「いい・・・すごくいい!大学ってすごくいい!あたしゃ燃えてきたよ!大学でやってやる、やり遂げるんだ!将来は芥川賞を取るんだ!」
キリノ「おー、燃えてるねー。」
サヤ「で、キリノは?」
キリノ「へへ、あたしも。クラスのみんなもすごくいい人たちだったし。」
サヤ「・・・うん。よかったね。」
キリノ「うん!」
密かにサヤもキリノを心配していた。コジローがいない大学生活。遠距離恋愛ではないけれど、毎日のようには会えない二人。だからサヤはキリノが心配だった。
平気なように見えて、強がっていることがあるキリノだから。
サヤ「で、キリノは決めた?部活かサークルか。」
キリノ「うん!私は部活にするよ!打ち込みたいから。教師になりたいから。大学たのしいし、大変だろうけど両立してみせる!・・・サヤは?」
上目遣いでサヤにキリノが問いかける。心底期待する目
サヤ「うん、あたしも部活にするよ。高校時代も大変だったけど、執筆と両立したしね、そのほうが楽しい紀がするよ。」
あれは両立したって言えるのかなー、と心の中で思いつつ、キリノは嬉しかった。
また剣道に打ち込めることが。またサヤと剣道ができることが。
キリノ「ただいまー。」
そうざい屋・ちば。キリノの実家。そこに帰り着くと、予想外の人物が出迎えてくれた。
コジロー「おう、おかえり。」
キリノ「えっ?!先生、どうしたの?!」
コジロー「今日は新学期はじまったばっかだからな。授業も午前で終わったんだよ。そう毎日会えるわけじゃないから。こういう日ぐらいは、な。」
キリノ「ああ、そういえば高校の最初の一週間って短かったっけ。」
弟「ねーねー、先生!はやくゲームの続きやろうよ!」
妹「つづきつづきー!ってねーちゃんだ!」
弟「あ、ほんとだ、おかえりー!」
キリノ「ただいまー。二人ともあんまコジロー先生を疲れさせちゃダメだよ!」
コジロー「大丈夫だって。こっちもいい息抜きになるしな。一緒にゲームやれる奴がいるってのはいいわ。」
弟「ほらー!先生もこう言ってるじゃん!っていてっ!」
調子にのらないの、といいながらポカッとたっくんの頭を小突くキリノ
キリノ母「もう完全に家族の一員ねぇ・・・跡継ぎになってもらえそうにないのが残念だけど。」
*
夕食の時間。キリノ父を除く千葉家と、コジローで大きなテーブルを囲む。
キリノ母「どうだった?大学は。」
キリノ「うんうん、楽しそうだよー。」
コジロー「剣道部にはもう入ったのか?」
キリノ「うん、そのうち入るつもり。でも、そういえば先生はなんで大学で剣道部に入らなかったの?」
コジロー「まぁ・・・な。なんとなく離れたくなったんだよ。」
キリノ「むー。もったいないですよ!そんな悪い人からはメンチカツ没収!いけ、たっくん!」
弟「おーう!」
コジロー「っておい!俺のメンチカツ!」
弟「いいじゃん、コジロー先生今日は部活やってないんでしょ?いただき!」
パクッ。
コジロー「・・・俺の・・・メンチカツ・・・。」
キリノ母「はいはい、おかわりはいくらでもありますから。先生どうぞ。」
コジロー「・・・すみません。いつもお世話になりっぱなしで。」
キリノ母「いえいえ、先生もいずれ大事な家族になるんですから。」
弟「あ、お母さん、俺もー!」
妹「おにーちゃん、食べすぎ。」
いぬ「ばうあう!」
コジロー「それじゃ、そろそろお邪魔します。」
妹「先生、またねー!」
弟「また勉強教えてねー!」
コジロー「おう、また今度な。」
キリノ「あ、送りますよー。」
コジロー「いいって・・・どう考えても立場が違うだろ。」
キリノ「おりょ?じゃあせめてお見送りしますねー」
そのままコジローが扉を開けると、同時に冷たい風が吹き込んでくる。
コジロー「うおっ、さみっ。」
キリノ「まだ夜は冷えますからねぇ。昼は暖かいんですけれど。」
コジロー「んだなぁ。大学生になると帰りも遅くなりがちだから、お前も気をつけろよ。」
キリノ「ほいほーい。」
門のところまでたどり着いたところでコジローが身を翻す。
コジロー「・・・」
キリノ「あれ?どうしたんですか?」
コジロー「あまり遠慮はするなよ?四年間しかない大学生活なんだからな、思う存分満喫してこい。」
キリノ「あ・・・」
コジロー「それこそ、もしも俺との予定と大学の予定・・・例えばクラス会がぶつかったら大学の予定を優先して構わないからな。大学の人とも充分仲良くしたいだろ?」
キリノ「えへへ、バレました?少し葛藤とやらをしてたんですよ。」
コジロー「ったく・・・お前は気を使いすぎなんだっつーの。んじゃ、行くからな。」
キリノ「はーい。・・・せんせい?」
コジロー「ん?」
キリノ「ありがと。」
コジロー「おう。ってぇ」
キリノの唇がコジローの唇に触れる。やや高い位置にキリノがいたからこそ成功した不意打ち。計画的犯行。
コジロー「ったく。いつもお前は不意打ちだな。」
キリノ「コジロー先生が隙だらけなんですよ。剣道部顧問としては微妙ですなー。」
コジロー「うううううるせえ。お、俺は帰るからな、じゃあな!」
照れ隠しのように、早歩きで去っていくコジロー。顔が真っ赤だから全然照れを隠せていない。
キリノ「もう、相変わらずコジロー先生は照れ屋さんだなぁー。」
そう独り言をつぶやいたキリノ。照れくさいから不意打ちしかできない自分の事は棚に上げていることは自覚済みである。
自分の顔が真っ赤なことも自覚しつつ、胸を昂ぶらせながら家に戻っていく。
その光景を二階から見ていた弟と妹に、あとでキリノがからかわれたのはまた別のお話。
サヤ「ドキドキするねぇ」
キリノ「うん・・・。」
今、キリノとサヤは剣道部の活動場所である武道館の前にいる。
早應大学は私立であるためスポーツ推薦の学生も多い。剣道部もその例に漏れず、全国でも有数の強豪である。
サヤ「よし・・・行こうか!」
キリノ「うん!」
サヤが勢いよく扉を開ける。
サヤ「たのもー!」
キリノ「サヤん・・・道場破りじゃないんだから・・・。」
いきなりのサヤの行動で、キリノもろとも変な注目を浴びてしまう。
女性「あら、新入部員かしら?」
キリノ「は、はひ。ぜひよろしくお願いします。」
日ごろにょほほ〜んとしているキリノには珍しく、緊張のあまり噛んでしまう。
上地「ふふ、私は部長の上地っていうの。よろしくね。じゃあとりあえず二人とも入部届け書いてくれるかしら?」
言われるままに入部届けを書いている間、ふとした疑問がサヤに沸き起こる。
上地「ええと、千葉紀梨乃さんと、桑原鞘子さんね。」
サヤ「あ、あのー、上地先輩。男性の方はいらっしゃらないのですか。」
上地「あら、知らなかった?うちの剣道部は男子と女子に別れてるの。ふふ、残念?」
サヤ「いや、かえって燃えてきます!・・・あまり男子にいい思い出ないですから。うう・・・。」
キリノ「サヤ・・・もう外山くんと岩佐くんのことはいいじゃん・・・ダンくんとユージくんだっているんだし。」
サヤ「うう・・・ダンくんはミヤミヤといちゃついてるし・・・ユージくんはタマちゃんといい雰囲気だし・・・なまじ男子がいるからあてつけられるんだ・・・いっそ男子がいなければ・・・」
キリノ「・・・そっちも気にしてたんだ。」
上地「ふふ、面白い後輩が入ってきたわね。ちなみに高校はどこかしら?」
キリノ「あ、室江高校です。この前はインターハイなんて出ちゃったりしました。」
上地「あら、予想以上に期待の星が来ちゃったかしら。でも、ここはそういう人も多いから、甘く見ちゃダメよ!」
サヤ「わかってます!頑張ります!」
サヤ「剣道さいこーう!男子なんて、男子なんてー!」
一気飲みをしてハイテンションになったサヤが暴れて(?)いる。結局あのあと軽い練習に参加し、今は新歓コンパに参加している。昨日のコジローの一言のおかげで気楽に参加できる。
ちなみにサヤは初めてのお酒を飲み、酔っ払っている。
最初は飲むのをためらっていた(桑原家はタバコとかに厳しい)サヤだが、先輩の薦めでいざ飲み始めると一気にハイテンションになってしまった。
キリノ「でも、思ったより部員の数が少ないですねー。」
上地「ええ、女子剣道の人口がやはり少ないからね。うちでも毎年新入部員は4〜5人よ。それでもチームは作れるし、少数精鋭で頑張るつもり。あなたたちが入ってくれて本当に嬉しいわ。」
キリノ「えへへ・・・私、頑張りますね!」
上地「あなたたちなら大丈夫よ。二人とも思った以上に強いのね、本気出さなきゃ勝てそうにないわ。高校時代、いい指導者に会えたのね。」
(いい、指導者・・・。)
剣道を教えてくれた、という点だけで言えばコジローより珠姫のほうが重要かもしれない。それでも、部活を支えてくれたのは紛れもなくコジロー。だから、キリノは自信を持って答える。
キリノ「はい、私たちの自慢の顧問です!」
上地「あら、これじゃうちの顧問の立場が危ないかも?」
先輩A「そうだよねー。うちの顧問わりと適当だし。」
先輩B「でも自由にやらせてくれるし、それが強さになってる気もするよ。」
キリノ「あはは、そこは私たちの顧問も似たようなものでしたよ。でも、やる気になるとほんと一生懸命やってくれるんです。嬉しかったなぁ・・・。」
先輩たち「・・・」
キリノ「あ、あれ・・?先輩?」
先輩A「かわいいー!」
先輩B「すっごい健気な感じ!」
サヤ「キリノ、かわいいよー!」
キリノ「え?え?えええええ?」
サヤと先輩二人に抱きつかれてしまう。ちょっと苦しい。
上地「ふふ、二人ともかわいいわよ。」
大人の余裕で笑みを浮かべる上地。
キリノ(先輩・・・大人だなぁ。)
二年間、ずっと「みんなのお姉さん」だったキリノ。それだけに、新鮮な気分だった。
レイナ「おっはよ、キリノ。」
キリノ「レイナちゃんおっはよ〜ん。」
セリナ「相変わらずキリノは今日もかわいいねぇ。」
キリノ「え、そんなことないよー。リナもレイナも美人だし。」
セリナ「ふふ、ありがと。」
キリノ(また、かわいいって言われた。)
嬉しい。嬉しいはずなのだが、何か引っかかる。
昨日上地や先輩に可愛がられてからなんとなく感じていた「違和感」。
キリノ(あれれ、私素直じゃなくなってる?)
気にしないのが一番。そう自分に言い聞かせる。
*
勉強を終えて、次は部活。
サヤ「さー、いこっか!」
キリノ「サヤ、あれだけ昨日酔っ払ってたのに今日は元気だね・・・。」
サヤ「え?あたし昨日、そんなに酔っ払ってた?おかしいな、カクテル二杯しか飲んでないんだけど。」
キリノ(あー、激弱なんだ。しかも笑い上戸。)
サヤ「まぁいいや、行くよ、キリノ。」
キリノ「わわわ、ちょっと待ってよ、サヤ。にょわっ。」
サヤに強く引っ張られて、キリノがつい転倒する。
サヤ「ご、ごめんキリノ。大丈夫?」
キリノ「あたた・・・だいじょーぶだよぉ。」
サヤ「ごめんね・・・。でも、その靴歩きづらくない?」
キリノ「うん、ちょっと歩きづらいかも。」
その靴は、コジローが卒業祝いに買ってくれたおしゃれな靴。安物でもなく、かといってキリノに不釣合いな「けばけばしさ」がなく、とてもキリノに似合っている。
キリノ「大学入ってから私服だからねぇ。靴選びってむずかしいなー。」
サヤ「だよねぇ。制服ってラクだったし。でもあたしは私服好きだけどね。」
そういうサヤの服装には、いかにも長身のサヤにふさわしい「かっこよさ」が漂っていた。
もともとサヤとミヤミヤは室江剣道部でも「大人っぽい」雰囲気を持っていた。
私服を着ることが多くなった大学生になって、改めてその魅力に気づく。
キリノ「・・・サヤ。」
サヤ「ん?どうしたの?」
キリノ「サヤってかっこいいね。」
言われた瞬間、真っ赤になってあわてるサヤ。
サヤ「なななななにいってるのいきなり。」
キリノ(しかもかわいい面ももってるし。)
チクリ。その瞬間、キリノはまた胸が痛んだ気がした。
プルルルル
コジロー「はい、石田です。」
キリノ「やっほー、先生、元気?」
コジロー「おう、キリノか。元気だぞ。今日もいろいろあってな。」
キリノ「いろいろって?」
コジロー「ダンとユージが抽選会で出かけててな。代わりに東が代理部長やったんだが、もうこれがひどくてな。あれは笑えたぜ。」
キリノ「ダメですよー、さっちんも一生懸命頑張ってるのに。」
コジロー「はは、そうだな。・・・ぷくく、でもやっぱり笑っちゃうわ。」
キリノ「ちょっとあたしも見てみたかったかも。」
コジロー「おう、たまには見にこいよ。日曜以外は毎日練習やってるし、今度の日曜も練習試合やるからさ。お前もいい部長だったし。今後もお姉さんっぷりを発揮してくれ!」
キリノ「はい!あ・・・でも・・・。部活があるからあたしもあんまり暇じゃないかも。」
コジロー「お、そうか。まあしょうがないな。剣道続けるって決めたし、それは出ないとな。頑張れよ、応援するぜ。」
キリノ「えへへ、ありがとセンセ。」
コジロー「って、わりぃ。いきなりだけど電話切るわ。」
キリノ「どうしたんですか?」
よく耳を済ませると、受話器の向こうからもう一人男の声が聞こえる。よく聞き取れないが、コジローの家に来る男性といえばそんな多くない。
コジロー「・・・先輩が泣きながら入ってきた。たぶん、吉河先生と何かあった。」
キリノ「うわぁ。心中お察しします。じゃあ、きりますね。」
コジロー「ああ、じゃあな。」
プツッ
電話が切れる。
キリノ「うん、寝よう。」
コジローと話すとすごくスッキリする。その幸せをかみ締めて、キリノはベッドに入る。
キリノ「おやすみ、先生。」
セリナ「でさー、ほんとひどいんだよね、あいつ。」
チサト「うわー、それはデリカシーないねぇ。」
友人三人組が、きゃいきゃい騒いでいる。いくら「大人」な大学生でも一度騒ぐと止まらない。
キリノ「おっはよー。何はなしてるの?」
レイナ「あ、キリノおはよう。いやね、セリナの彼氏の話。」
キリノ「おおー、どうしたのー?」
セリナ「いやね。彼氏と学部と違うし、ここんとこ私もちょっと新歓とかいっぱい出たから数日間あってなかったんだけど。
それで昨日あったら「お酒の飲みすぎで太ったな」とか言うんだよー!私もちょっと気になってたけど、そんなズカズカ言われるとへこんじゃうわ。」
レイナ「まぁまぁそれだけ彼氏がしっかりセリナのこと見てるって証拠だよ。彼氏が今いない私よりいいじゃん!」
チサト「そうだよー。」
セリナ「そうなんだけどね・・・。そういえば、キリノの彼氏はどうなの?」
キリノ「ほえ?」
予想に反して自分に話題をふられ、戸惑いが生まれる。
レイナ「あ、そういえばキリノにも彼氏いるんだよね。」
チサト「そうそう、指輪なんてしちゃってさ。どんな人?」
キリノ「え、えーと・・・。」
レイナ「って、あっ、先生来ちゃった。」
セリナ「しょうがないね、また今度じっくりキリノには聞かせてもらうわ。」
キリノ「あははは・・・。」
キリノ(彼氏・・・かぁ。)
その言葉一つで、キリノは家で思い悩んでいた。
間違いではない。コジローとはすでにそういう関係、むしろ家族ぐるみの関係になっている。
本当はすぐに結婚する予定だったが、キリノが大学に行くということで、卒業するまでは待とうということになった。結婚しているとなると大学生活はなかなか面倒くさいからである。
しかし、コジローのことを「彼氏」というのはなんか違和感 ―むずがゆさとは別の― がある。
例えばダンはミヤミヤの彼氏だし、仮にユージがタマと半ばよそよそしくつきあったとしても、そのときはユージはタマの「彼氏」と言っていいだろう。
それでも、コジローのことを「彼氏」として言うのはどこか抵抗感がある。
昨日とはうってかわって、もやもやとした気分で夜を過ごす。
キリノ「むー。先生に電話しちゃおっかな。」
そう呟いて、キリノは携帯電話に手をかけた。
上地「めぇぇぇぇんっ!」
道場で上地をはじめとする剣道部の声がこだまする。
キリノ「こてぇぇぇっ!」
サヤ「でやぁぁぁぁぁ!」
キリノとサヤも、先輩に負けず大きな声を出し、稽古に励んでいる。
先輩A「小手っ!」
キリノ「あっ・・・。」
先輩B「小手あり!」
先輩がキリノから小手をとる。いくらインターハイ経験者のキリノでも、先輩からすればいきなり新入部員には負けられない。
キリノ「ありゃ、負けちゃいました。」
先輩A「いやぁ・・・さすがキリちゃん強いなあ。危ないよー。」
先輩B「来年は期待していいかも。中明大学に今年は勝てるかな。」
先輩A「去年負けちゃったからねぇ。横尾とかいう先鋒の新人がすっごく強かった。」
キリノ「ほえー。」
上地「これなら、二人とも今度の練習試合に出してもよさそうね。」
上地が優しく声をかける。もっとも優しさの中にも凛とした声があり、さすが部長と思わせる。
キリノ自身が室江部長のときにはなかった「力強さ」を備えている気がした。
サヤ「でも、いいんですか?いきなり試合でちゃって。」
上地「ああ、大丈夫よ。練習試合だから枠とかあるわけじゃないし。もしかしたらこっちのほうが人数多くなっちゃうかもしれないけど、
その場合向こうの人が二回出てくれたりするわ。練習試合だからそこらへんは柔軟にきくのよ。」
サヤ「あはは、賭けとかなければ二回でても問題ないもんねぇ」
キリノ「あー。そんなこともあったねぇ。」
上地「あら、それ以前話してくれた顧問の方の話?」
サヤ「そうでーす。」
先輩A(ほんとあの二人、高校時代の顧問の話するとき楽しそうだよね。)
先輩B(特にキリちゃんのほうがねー。見てみたいかも。)
上地「じゃあ、今度の日曜日は試合だけど大丈夫かしら?」
サヤ&キリノ「はい!」
サヤ「試合かぁ・・・。久しぶりだね、インターハイ以来。楽しみだねぇ。」
キリノ「だねぇ。私もドキドキしてる。って・・あ・・・。」
日曜日。それは今度室江の練習試合がある日。滅多にない、キリノがコジローと、室江高校のメンバーと会える日。
キリノ「どうしよう・・・。」
サヤ「うーん・・・あたしもそれ出たかったけど。ま、しょうがないんじゃない?」
キリノ「・・・だよね。」
キリノ「・・・てことになっちゃって。」
コジロー「ああ、そうか。わかった、試合頑張ってこいよ、練習試合だからって手を抜くんじゃないぞ。」
キリノ「剣道部どころかサークルにすら入らなかったコジローせんせーに言われたくないでーす。」
コジロー「こんにゃろ。」
キリノ「えへへー。」
日課のようになってきたコジローとの電話。平日はあまり会えないからこそ、この電話が二人をつなぐ。
高校・大学と進んだ以上キリノは一人暮らしをするお金はないし、コジローが今の段階で千葉家に住み込むわけにもいかないので、しばらくはこの関係が続くことになる。
キリノ「でも、ごめんね。タマちゃんたちにも謝っといて。」
コジロー「ああ、気にするな。」
キリノ「うん。ありがと先生。」
コジロー「おいおい、近頃お前はお礼言いっぱなしだぞ。みずくせぇな。」
キリノ「そっか、そうだね。」
コジロー「おう、もっと頼ってくれて構わないからな。」
キリノ「えへへ、ありがと先生。んじゃ、きるね。」
コジロー「またお礼言ってるよ、お前は。んじゃな。」
プープープー。
キリノ「なんだかんだ、コジロー先生は大人だね・・・。」
キリノ「でも・・・少しは「寂しい」って言って欲しいかな。」
胸が痛かった。一つではなくて、二つ痛いところがある気がした。
とりあえず本日投下分終了です。相変わらず長ったらしいSSですいません。
明日は一日中出かけるんで、続きは4/29に投下かな。
繰り返しになるけど、一応「守るべきものと守りたいもの」の続編になります。
最初は、部分的なネタは思いつくものの、それをまとめて作品にできると思えなかったのでアフターを作ろうとは思えませんでした。
でも希望してくれる人がいたし、なんか今朝やる気になったので突発的に書いてみました。
アフターということで既に二人が付き合ってる話なので、前回ほどに恋愛ドラマチックにはできないし、するつもりもないです。
ただ、恋愛を通して人間は成長すると思うんで、バンブーらしく「キリノの成長」を主軸にかいてみようかなぁと。
だからコジキリっていうよりはコジキリを利用したキリノSSだと思っていただければ。
つきあったあとのSSではあるけど、いちゃいちゃ系ではないです。最初はそれもいれようかなとも思ったけど、雰囲気壊すと思うんでやめました。
スレ的にはいちゃいちゃ系が好まれるかもしれませんが、こんなSSも読んでくれれば嬉しいです。
なに土塚みたいなあとがき書いてるんだ自分w
おお、頑張ってる!GJGJ
相変わらず土塚さん乙w
GJ!
いいですね、自分の中のもう1人の自分に気づいて違和感を感じ、
悩み、成長していく。続きを期待しています。
流れに乗り損ねたけど、
>>938思いついたので一つ。
サヤ「ちち、ちょっとアンタら道場で何を?」
キリノ「えっとね、うどん作ってるとこ」
コジロー「キリノの好きな関西風に作ろうと思ったんだけど、醤油味のダシ汁買って来ちゃったんだよなぁ」
キリノ「いいよもう。関東風のも好きですし。
鍋の中に出しちゃえー出しちゃえー」
サヤ「道場でうどん作ってんじゃねー!!」
またメガSSの人ktkr
見た所、連投規制に引っ掛かってない…
と言う事は●持ちなのか、いいなぁ。
そんなもんよく見つけたな
さてそろそろ次スレ立ててみよっかー
>>973 おお、気付かなかったwお見事!
へ
_ r―‐┘ \
/ /l ム \
ム / .l _ V -L「 はいはいこっちだよー
V ∧ .{_| | rァノ .┌――┐
l | `‐ァヘ.ト<―┐| 次スレ|
>―-、 L__l / ̄\| |__|○ |
z'_,ィ_:::::::\ く / .| |l. |____| "
, へY' ○|___:::::::l○ヽへ/: ̄\ "
, -┴<.l込 ○レ'○ | : : : : : :\ "
○-く <∠≧‐'´/ .|: : : : : : : : \
.へ.:.:.:.:`く .,∠イ´ .|: : : : : : : : : : > "
(_:>'´>、.:.:.:.:.>へ/ |____/
(_:>へ/ し′し’
【バンブーブレード】☆千葉紀梨乃 19☆【キリノ】
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1209296487/
>>973 これは気付かなかった。
どこまでシンクロしてんだこの二人w
これはアニメスタッフが相当読解力があったのか
土塚の指示かどっちだw
しかしこんだけシンクロしてると実に円滑に結婚生活を送れそうだな
「あれどこだっけ」とか「それとって」で楽勝で通じるんだろうなあw
コジローが浮気しても瞬時に見抜く恐妻家キリノ
>>989 そもそも言葉なんかなくても通じ合えそうな二人だよな
夕食にメンチカツが出た日は…
いかんいかんいかんwエロパロだなw
イエスノー枕を使う必要がないんですねw
>>991 でも時々は言葉が欲しいキリノ
なので月に一度くらい、サプライズ的にはぐはぐすりすりして「ただいま」って言って貰うの。
コジローもいい加減周期が分かって来ると「あー、今日は飛びついて来るなあいつ…」とか織り込み済みとか。
>>994 家族いるのににやけてしまったじゃねえかw
>>843のシチュと
>>823の設定を借りる
結婚16〜7年目。
「(また、朝からメンチか…)」
「んっ?どうしたのあなた、早く食べてよ」
「あ、ああ。…いや、すまんな。いただきまーす」
「(…じーっ…)」
「な、何だよ?俺の顔になんかついてるか?」
「…ごめんね…朝からこんなのばっかで…」
「ブッ!…な、何がよ!?」
「メンチカツ…」
「あ、ああ…気にするなって。おいしいぞ?ホラお前も食べろよ」
「…センセーが…」
「んぐんぐ……あん?」
「センセーが一番ホメてくれた料理だから、ついレパートリーに困ると頼っちゃうの」
「………」
「……下手な言い訳だよね…えへへ。ごめんなさい」
「……なあ、お前のメンチカツも貰っていい?」
「…え?あ…うん!……ハイどうぞ、あ〜ん?」
「あ〜ん…もご、もご、もむ」
「…おいしい?」
「世界一うめぇ」
長女「(いつかわたしもセンセーと。キャー、いつになるかな?)」
長男「(朝から見せつけやがって。この中年バカップルめ。
こちとら全然うまくいっていないのに。チクショウ、今日も道場破りに行くかな?)」
次女「パパー、ママー、あたし弟が欲しいな」
いわゆる「一緒にイク」というのが容易に出来ると
コジキリって、いざ本出すとなると需要ありすぎて内容の質が問題になってそう
なんというか、そろそろエロパロにコジキリSSが投下されてもおかしくない頃合だと思ってる
二人にはエロスは必要ないと思ってる住人も少なくないと思うが、俺には必要だ
誰か頼む
1000ならキリノとコジローが駆け落ち
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もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。