1945年にエンジェル隊がタイムスリップ2

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1名無しさん@お腹いっぱい。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2005/10/28(金) 00:43:13 ID:3zzfBBcX
荒川土手 昭和20年4月4日午前12:10 
10時過ぎに目を覚ましたミルフィーユと蘭花は正光が残した「今日は休め」と言う伝言をちひろから聞き、ありがたくそうさせてもらうことにした。
とはいえ、ショッピングにも出かけられるわけでもなく朝食を食べた後は暇をもてあましていた。
結局見かねたちひろは散歩ついでに二人を近所を流れる荒川の土手まで連れて行ってもらった。
「んん〜天気あんまり良くないけど気分転換になるわ」
蘭花は大きく背伸びをする。
荒川の土手を登るといたるところで家の修理をする音が聞こえる。
紋章機の登場以来米軍は日本全土の空襲を控えているためだ。
「ここで昔よくお友達と遊びました」
流れる風を受けながらちひろは昔を懐かしむように帝都を見つめる。
「皆さんどうされたんですかぁ?」
「そうですね、3月の空襲は酷かったそうなのでわかりません」
「こら、ミルフィーユ!」
蘭花がミルフィーユを軽くコツク。
「いえ、気にしないでください。皆疎開や何やらいろいろ忙しかったので散りジリになっている人もいますよ
ちひろはにこりと笑うと川の方へ土手を下っていった。
「ほら、行くわよ」
「あ、はいはい」
ミルフィーユと蘭花はパタパタと後ろからついて行く。ちひろは草むらにしゃがみこんでいた。

3名無しさん@お腹いっぱい。:2005/10/28(金) 18:40:11 ID:GW+7n6sc
新スレ期待保守
4名無しさん@お腹いっぱい。:2005/10/28(金) 22:40:44 ID:KwRVgp4J
保守がここにも
5名無しさん@お腹いっぱい。:2005/10/29(土) 23:05:59 ID:cQSuvB6S
荒川土手 昭和20年4月4日午前12:15
「残念、食べられる草はやはり生えていませんね」
食料事情が悪化し、配給制度がひかれている中では野草とて貴重な食べ物であった。
ちひろも軍にいた時期が長くここまでの状況とは思わなかった。
「この土手には蓬や筑紫が生えていてよく取りに来たんですけどね・・・」
少し寂しそうな表情を浮かべるとスクっと立ち上がり川を覗き込んだ。
「なんかいるの?」
「お魚取るんですか?」
蘭花とミルフィーユが覗き込むも川は流れが速くよく分からなかった。
「この川の川魚は美味しいかどうか分かりません、でもお魚も見えませんね」
結局これといった収穫のないまま川岸をぶらつく3人。
戦時下においてはのんびりしているように見えた。
その頃、ミントたちは以前角松との話し合いを続けている。
角松自身も終戦直前になって現れたエンジェル隊に困惑しながらも歴史加入への危険性を説いた。
しかし、ミントも角松の理論には理解を示してくれたが時既に遅いと問い返した。
「すでにエンジェル隊として戦闘行為も行ないましたし日本軍の方へも補給、修理の代償をお返しいたしました」
「もう歴史は動き出しているということか?」
「そういうことになりますわ」
角松は落胆し沈黙する。
「だからこそ君達には動かないでもらいたい」
今までの沈黙を破るように米内が口を開いた。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2005/10/29(土) 23:31:21 ID:wsu0y/qf BE:73917942-#
>>1
お疲れ様!!

継続は力なり!!!頑張って!!!!
7猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/10/31(月) 22:16:39 ID:PgY3SeiV BE:53897663-#
料亭 昭和20年4月4日午前12:15
「米内さん・・・・」
双方が静かになる。
「君達はこの時代の人間ではない、演劇で言うならば君たちの出番はまだ先なのだ」
米内はこう切り出すと一つ咳払いを入れ続けた。
「角松さんが言ったとおり君達が時代に介入するのは遺憾だ、しかしミント君の言うとおり既に時代は動き始めている。だからどうであろう、この先は我々に任せていただきたい」
「この時代に生きる人間がこの時代の事を決めるのは当然、だから任せてほしい」
水を打つ静寂が流れる。
合理的な考えであった。こうなってしまった以上、米内が言うとおりにする事は最良の考えであった。
「しかし、米内さん!」
「お待ち下さいフォルテさん」
ミントがフォルテを制する。そして燐と米内を見つめ返した。
「合理的な考えではないかと思いますわ、しかしエンジェル隊の・・・・」
「無論、君たちの安全は保障しよう。戦争が終結すれば元の時代に戻れるよう協力できるようにしよう」
「ありがとうございますわ、こちら側もご協力できることがあればおっしゃってくださいまし」
「ありがとう・・・・」
米内は1礼すると角松の方に向きなおす。
「角松さんもそれでよろしいかな?」
「そうですね、既に歴史の潮流に我々は流されすぎた。米内さんの考えを支持いたします」
「ありがとう、君の艦が見つかるよう直ぐに連絡を取る。後、渡したい物もある」
「承知いたしました」
角松も一礼する。
歴史不介入を約束するエンジェル隊、角松の選んだ道は正しかったのか。


8名無しさん@お腹いっぱい。:2005/10/31(月) 22:46:23 ID:q+T5tRwY

9猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/10/31(月) 22:54:53 ID:PgY3SeiV BE:62880473-#
日本近海 昭和20年4月4日午前12:30
沖縄での敗退を挽回すべくアメリカ軍はカサブランカ型護衛空母4隻に乗せられるだけのヘルダイバーと旧式のドーントレスまで艦載し太平洋を東京に上った。
例のフライングデビルが横須賀に帰ったとの報告をうけたためである。
しかし、劣勢日本軍基地を襲うにしても寂しい数であった。
速力も20ノット未満と鈍足な即席機動部隊であるが戦線を立て直す今とあってはこの空母も必要不可欠であった。
周りを囲む駆逐艦も沖縄海戦から逃げ延びた損傷艦がほとんどで旗艦を勤める重巡洋艦ニューオリンズ型ニューオリンズ
そして同級のタスカルーサの2隻である。
「こちらは足の遅いのを連れているんだ!潜水艦に注意しろ」
この機動部隊の司令長官を勤めるマイク・キンケード少将はしきりにニューオリンズ艦橋でぼやいている。
沖縄作戦には参加していなかった彼にとってフライングデビルの存在は何処吹く風、B-29の本土爆撃見合わせも不満があった。
「司令そろそろです」
ニューオリンズ艦長、グラナス・リチャード大佐は時計を見て作戦開始時間を伝える。
「全空母に打電、これは我々のパールハーバーであるとな」
にやりと白い歯を見せると一番近い空母に目をやる。
すでにプロペラの発動の早さが確認できた。 
10作者・名無し陸戦隊:2005/11/03(木) 22:20:38 ID:5Ii6dL6l
良かったー!!
次スレ立っていたのですね。
やっと見つけました。
11猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/04(金) 00:54:43 ID:BQzDguZR
料亭 昭和20年4月4日午後01:00
エンジェル隊は米内や角松より先に表に出た。ドンヨリ雲が空を覆っている。
「確かにフォルテさんのお気持ちも分かりますわ」
表に出るやミントがムッスっとしているフォルテに話しかける。
「だったら何で・・・・」
「この時代はわたくし達の時代ではございませんの。下手に手出しすれば歴史が変わると再認識しただけですわ」
フォルテの言葉をさえぎるようにミントは話した。フォルテの性格上目の前でやられる人々を放っては置けないことを十分知っているからである。
「でも、あんたはロストテクノロジーを渡しただろ?」
「ですから米内さんの提案を飲みましたの、ミラクルミルクも恐らく米内さんが手を回して回収なさるはずですわ」
「ミント、あんたはこれ以上何もしないってことかい?」
「米内さんとそう約束しましたのよ?戦争が終わるまでは地球のどこか誰もいない無人島にでも・・・」
「そうかい・・・・そうだねぇ日本でやられるのを見るよかましだろうね・・・」
フォルテは寂しそうに笑った。
「賢明な判断でしょう。これ以上の戦闘行為は戦局を混乱させるのみですしね」
「エンジェル冬眠・・・・・春までサヨナラ・・・」
「春ですか・・・」
3人で空を見上げるもまだ空は曇っていた。


 
12エンジェル風味 ◆qM7Yl4CItc :2005/11/08(火) 00:07:28 ID:hnIA2OBo
料亭 昭和20年4月4日午後01:00
エンジェル隊を先に外に出すと、米内は角松に封筒を渡した。
「こ、これは・・・」
中には100円札が数枚入っていた。
「艦が朽ち果てていなければ貴方は艦に戻るのでしょう、そのための餞別だ」
「しかし、こんな大金は」
「艦の皆に土産でも買ってください・・・」
そういうと米内は靴を掃いて外へと歩き出した。
「米内さん!」
角松も急いで後を追う。外には既に迎えの車が来ていた。
既に3人は車に乗り込んでいた。
米内も前の車に乗り込み運転手に新橋行きを伝える。
「何故横須賀へ?」
「君の艦に連絡を取るには彼女らに協力してもらわなならんのだよ」
米内は苦笑いすると車は新橋へ向けて走り出した。
13猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/09(水) 23:02:06 ID:sfiRD/zh
国鉄新橋駅 昭和20年4月4日午後01:30
汽車の煙が数本昇っている。
明治5年に鉄道網の整備と共に帝都の玄関口として大正3年まで活躍した。
「ここが帝都の急玄関口かい?」
「いいえ、この新橋駅は2代目です大正3年に東京駅が完成しましたので12月にここに越したそうです」
「へぇ〜」
フォルテは窓を開けて新橋駅を拝んだ。
すると新橋駅で見たことある男性をみつけた。
「烏丸大佐じゃありませんか」
「お、ようやく来たか・・・・横須賀までは私も同行させてもらうよ」
車が止まると窓越しに会話する。
後方の車も直ぐに停車し、角松と米内が降りてきた。
「米内閣下、横須賀までご同行させていただきます」
「烏丸君、娘さんとは十分に話せたのかい?」
「娘にもしばらく内地休暇を与えてくださいましてありがとうございます」
敬礼ではなく正光は深々とお辞儀をする。
「おいおい、止めてくれ・・・たいしたことではないさ。おっと彼を紹介するのを忘れていた連合艦隊参謀烏丸正光だ」
「はじめまして角松洋介です」
「初めまして烏丸正光だ」
一連の挨拶を終えると6人はすぐに横須賀行きに乗り込んだ。
「ミルフィーユさんや蘭花さんはご迷惑おかけしていませんの?」
「なあに、久々に花が咲いたように楽しかった」
正光はミントの不安にニコニコ答えた。
「どうしました、やっぱりあたし達が珍しいですか?」
角松の様子にフォルテが声をかける。
「いや、そういうわけではない」
「あたしみたいな大雑把な人間をよく隊長に選んだ・・・・顔に書いてありますよ」
「そりゃそうですねアハハ・・・」
「確かに些か情に流されすぎている所はあるがな」
見透かされ少し苦笑いを浮かべる角松。窓枠に尻尾を挟まれたノーマッドを横にフォルテを見る。
「あたしも角松さんは実戦経験のなさが見えますよ」
「あんたは実戦経験があるのか?」
「あたしは元々イレギュラー部隊出身です、机に向かって問題を解いてた経験はすくないですよ」
「そうだと思ったよ、俺の艦にいる奴よりも目が据わっている」
「そりゃ女性に言う言葉ですか?」
「おっとすまんな」
汽車が汽笛一斉発車を告げるとゆっくりと動き出した。
「石炭で動く旧気動車は牽引する列車にのるのは初めてですわ」
ミントは列車の滑り出しの遅さに目を丸くした。実際に蒸気機関車を学んだのは小学生以来それも古来文明の話で創造図しか見た事がなかった。

14名無しさん@お腹いっぱい。:2005/11/13(日) 22:04:52 ID:PJb++c6C
>>9の艦隊はカサブランカ級で編成されていますが
艦隊の平均速度20ノットクラスでは名称に機動部隊は合わないような
機動部隊の名称は速力のある艦で編成された機動力を持った部隊にあてるのだから
>>9の艦隊 この場合は〇〇任務部隊が妥当かもしれません
あるいは護衛空母の部分をインディペンデンス級に差し替えるとかどうとか改訂するとか

エンジェル風味は冬コミ当選したのですか?
激しく気になるのですけど…
15エンジェル風味 ◆qM7Yl4CItc :2005/11/14(月) 23:48:45 ID:U2vxg746
>>14ご指摘ありがとうございます!
そうですね任務部隊のほうがよかったですな編集の際訂正します。

さて冬コミはサークル参加いたします!!
1日目西2い9b(多分・・・・確認したらまたお知らせします)
第一部、第二部の2巻を配布しますのでお楽しみに
16作者・名無し陸戦隊:2005/11/15(火) 20:20:56 ID:+T7/ftm1
エンジェル風味・猛虎☆全勝様、お久しぶりです。
コミケご当選おめでとう御座います。
コミケの日程は可能な限り休みを取るつもりですので
是非、挨拶と本を買いに行かせていただきます。
体に気をつけて頑張って下さい、応援しています。
ではではm(_ _)m
17猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/16(水) 03:16:29 ID:LDwWsoj3
烏丸家 昭和20年4月4日午後01:30
「結局お魚さんはとれませんでしたねぇ・・・」
ミルフィーユがヘラヘラ笑いながら蘭花に話しかけるとチョップが脳天を直撃する。
「蘭花さぁん、痛いじゃないですかぁ〜」
「私はね4月の頭から水泳なんかしたくなっかたのよね・・・・ミルフィーユちゃん」
「あれは、蘭花さんがお魚がいるよっていうから・・・」
「だからって何で突き落とされなきゃいけないの・・・クッチュン!」
「ほらほら、ちゃんと毛布をかぶっていませんと」
濡れた髪を拭いてくれているちひろが毛布をかけ直してくれる。
「もうすぐ千晶が暖かい物を持ってきてくれます」
「ありがとう」
毛布を両手で被りなおして蘭花は小さくうずくまった。
「そういえばミントさん達大丈夫ですかね・・・」
「父様もついてますし大丈夫でしょう、横須賀に行くと聞いてますし夜までにはもどるでしょう」
そう言うとちひろは立ち上がって台所へ湯を沸かしている千晶の様子を見に行った。
「ねぇ、あんたちひろの事どう思う?」
蘭花は唐突にミルフィーユに質問をぶつけてきた。
「ふぇ?そうですねぇ〜最初はちとせさんに似てるなって思いましたけどやっぱり違いますね」
「そうでしょ、私もそう思ったのよね。全然かわいいし性格いいもの」
蘭花は満足そうに頷いた。
「失礼します、蘭花さん」
二人がクスクス笑っていると幸が別の襖を開けて入って来た。
「一晩でやったものなので完璧とは行きませんが」
幸が蘭花の軍服を広げると綺麗に補修され破れた箇所縫った後すら分からなかった。
「すごいです、幸さんは裁縫の天才ですね!」
ミルフィーユは立ち上がると思わず拍手してしまった。
「そんなミルフィーユさん、これくらい誰でもできますよ」
黙って聞いている蘭花にとっては痛い発言である。
「私はそんなに上手に縫えないですよぉ」
「そうですね私もそこまでは無理かな」
「まぁまぁ、お二人も花嫁修行の年頃ですからお早めに、さぁ蘭花さん着てみてください」
幸は蘭花に軍服を手渡した。蘭花も急いできてみたが違和感は全くなかった。
「凄いですね!大丈夫、前と全然変わりません」
何時もの服装に戻ると蘭花をクルリと一回りしてみる。そして鏡台で身なりを整える。
「本当にありがとうございました」
一連のやる事を終えると、蘭花は丁寧に頭を下げる。
「いえいえ、これぐらいのことでしたらいつでも言ってくださいね」
幸もニコリと微笑んだ。
「ところで・・・あなた方の世界には烏丸ちとせさんという方いらっしゃるのですか?」
蘭花はビックとして幸を見つめなおす。
「はい!ツインスター隊って部隊に配属されてるんですよぉ!私とちとせさんはお友達なんですぅ」
ミルフィーユが余計なことを言わないか気が気ではない。
「そうですか!ちとせちゃんと言うのですか」
奥ゆかしい婦人の顔が少女のように微笑んだ。
「どうされたんですか?」
「いえね、まさかとは思うんですが主人の取り決めがそんな時代まで続いているかと言うと・・・」
幸は少し口元を押さえてクスクスと笑っている。
「なんですかぁ?気になるから教えてくださいよぉ」
ミルフィーユも興味津々と言う表情を見せている。
「ふふ・・・そうですねお話しましょうか。実は・・・・」
18猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/19(土) 03:22:45 ID:zo7XKOJ7
広島県江田島海軍兵学校 昭和3年7月7日 12:00
瀬戸内の夏風が教員室の窓から心地よく吹き抜けていく。
「烏丸生まれてからで会いに行くのは良かったのか?幸さん不安がっているぞ」
隣に机を並べる神は正光を気遣って声をかけた。
「いいんだよ、子供が生まれるくらいで騒いで帰ったら生徒達に示しがつかんだろ」
書き物の手を止めると神はその書き物の内容を覗き込んできた。
「お、子供の名前か?」
「昭三、茂、辰雄・・・・どれにするか・・・」
左手で頭をかきながら真剣に悩む正光。
「おいおい、男名ばかりだな!女だったらどうするんだ?」
「女は考えていない女だったら・・・・向こうに着いたら考えるとしよう」
正光は最初の子は男である事を望んで神に言い切った。
「そりゃおもしろいな、女だったら大笑いしてやるとしよう」
神は意地悪そうに笑っている。
「なら、男だったらお前のおごりで祝賀会だ」
正光は負けじと言い返してやった。
「ははは、いいだろうタップリ飲ませてやる!」
豪快に笑い声を上げると午後の授業の陣日に取り掛かる神。そこへ烏丸宛の電報が飛び込んできた。
「烏丸大佐殿電報です」
事務員が電報を手渡すと正光が目を通す前に神が電報を奪う。
「おぁ!貴様、俺の電報だぞ」
「今のお前に電報なんて要件は一つだ!」
そう言うと二つ折りの紙を広げる。
「わっはっはっは!」
その声で正光は第一子の性別を知る事となった。
「おめでとう、元気な女の子だそうだ!」
笑いながら電報を差し出す神の手からそれを奪い取ると正光はため息を一つついた。
19猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/19(土) 03:44:20 ID:zo7XKOJ7
広島県江田島海軍兵学校 昭和3年7月7日 12:30
「よし、じゃあ上京の準備をしろ!」
とりあえず状況が落ち着くと神がいの一番に声を上げる。
「え?午後には一番の授業があるんだ。知ってるだろうお前も」
「馬鹿野郎、早く幸さんと子供の顔を拝んで来い。日の高いうちに広島に出た方がいいだろう」
言われてみると家族に会いたいなという気持ちがわいてきた。
「ほらボサッとするな校長に挨拶に行って来い、お前は今出発したと電報を出しておけ」
正光を校長室に仕向けると事務員に電報の返信を依頼し神は教官室を出て行った。
「俺の娘だぞ・・・」
苦笑いしながらも同期とはいいものだなと神に感謝し正光は校長室に向かった。
正光は校長に挨拶を済ませるとすぐにカバンに物を詰め込み身だしなみを整え旅支度を始めた。
身支度を終えると江田島と呉を結ぶ桟橋へと急ぐ、日の高いうちに広島へは出られそうだった。
「正光〜忘れ物だ!」
桟橋から連絡艇に乗ろうとしていると神が大急ぎで走ってきた。
「ハァ・・・・もって行け!」
桟橋から船に新聞紙に包まれた塊が飛んでくる。
「おっと・・・」
正光はうまくそれをキャッチすると中身を確かめてみた。オニギリが6つほど詰め込まれている。
「食堂からだ!汽車の中で喰え〜後、幸さんと赤ん坊によろしくな〜」
走り出した船に手を振りながら神は大きく叫んだ。
正光も鞄を置いて大きく桟橋に手を振り替えした。
20猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/25(金) 01:32:48 ID:Z6hoswSK
2部の編集作業で執筆が遅れておりますた。
明日より再開します
21猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/26(土) 00:01:45 ID:Z6hoswSK
幸実家 昭和3年7月7日 10:00
赤ん坊の泣き声が部屋に響いている。
「さっちゃんようがんばった」
産婆が幸の汗を拭きながらいたわりの声をかけていた。
「元気な女の子だよ、ほら」
幸は初めての我が子との対面に思わず涙した。
「よく頑張りましたね、これであなたも母親よ」
幸の母、四条まゆみが優しく声をかけてくれた。
「お、お父さんは?」
「正光さんに電報を出しに走っきましたよ、産気づいた時に出せば今日には帰ってこられたかもしれないのに」
少し呆れ顔をしながらまゆみは赤ん坊に目をやった。自分も祖母と呼ばれる時がくるのである。
「安産で安心したわよ、正光さんから名前については聞いていないのかい?」
「男の子だと信じきってたから考えてないかもね・・・・」
「そう、正光さんのご両親も夕方には見えられるから命名でもめるかもね」
まゆみは苦笑いを浮かべながら席を立った。
しばらくすると父、四条利信が帰ってきた。威厳ある予備役海軍軍人で立派なハイゼルヒゲを蓄えている。
「幸、よく頑張ったな。どれどれ初孫を見せてもらおうか?お〜可愛いな」
威厳ある父も孫はかわいいく普段見せない表情を見せている。
「名前は決まったのか?正光君が考えているんだろうがこの父の意見も聞いてもらうぞ!」
「お父さん・・・・」
そのとき後ろの襖ががらりと開いてまゆみが入って来た。
「あなた、外から戻られて手も洗わないうちに赤ん坊に触るなんて病気にでもなったらどうしますの」
少々きつく言い定めると父も元の表情で気まずそうに退散する。
産婆も部屋を離れ赤ん坊と二人っきりになると幸は赤ん坊の表情を見ながら今夜は嵐にならぬよう祈りを込めることにした。

22名無しさん@お腹いっぱい。:2005/11/26(土) 18:59:18 ID:zicbIJ/+
>立派なハイゼルヒゲを蓄えている。

カイゼル髭の間違いかな?揚げ足とってスマソ
23猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/27(日) 01:39:09 ID:QXHveLxR
>>22殿ご指摘ありがとうございます
京都駅 昭和3年7月7日 午後08:00
神のおかげでスムーズに艦載まで出られた正光は、観光ついでに夜行列車の始発大阪から足を延ばし京都へとやって来た。
列車の窓から夕闇せまる東寺の五重塔が見えたときは少し興奮してしまい海軍軍人らしからぬ顔つきをしてしまう。
列車は京都駅のホームに滑り込むと正光はそそくさと列車を降りてしまった。
10時36分発東京行夜行急行列車の2等席を買うと京の駅前を少し散策する事にした。
7月の京都は祇園祭で夏が始まり五山の送り火で終わる。ちょうど七夕といういい時期に来たせいか町も華やいでいた。
駅前の百貨店で夕食をとるとすぐに土産物屋に飛び込んだ。
「いらっしゃいませ!」
愛想のいい娘の声が正光の来店を歓迎してくれるかのようだった。
とりあえず無難に八橋と地酒を購入すると赤ん坊の土産を考える事にする。しかし、女の子のほしい物などを分かるわけもなく途方にくれていると娘が声をかけてくれた。
「何をおさがしどすか?」
京美人にはまだ先かもしれないが可愛らしい娘である。
「今日生まれた赤ん坊に土産を買いたいんだが・・・」
少し照れくさそうに正光が答えると娘は喜んで品物探しに協力してくれた。
24猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/28(月) 22:51:00 ID:vnIHxw7R
駅前土産物屋 昭和3年7月7日 午後08:30
「これなんかよろしおすえ」
娘は福助のぜんまい式回転人形を出してくれた。
「ではそれにしようかな」
正光が土産物の勘定をするため財布の準備をしていると娘はサービスに千代紙をつけてくれた。
「いいのかい?」
「うちからの出産祝い思てとっといておくれやす」
ニコニコしながら包み紙を手渡すと正光もありがたく一礼し受け取る。
「ありがとう、京都よる際はこの店で土産物買えと宣伝しておくよ!」
「おおきに、道中気ぃつけてください」
店の前まで少女に送ってもらうと大きく手を振り駅の方に歩いていった。
出発まではまだ時間がある。居酒屋でも見つけ時間を潰そうかと駅前をウロウロしていると易者を見つけたので少し娘の名前について相談してみる事にした。
「よろしいですか?」
「お〜どうぞ、どうぞ・・・・何のお悩みですかな?」
易者は快く正光を座らせると早速相談に乗った。
「実は今日生まれた娘の名前がまだきまっておりません。父親ながら不覚にも男名ばかり考えていまして・・・」
「そうですか、そうですか・・・・・では見て進ぜましょう・・・」
易者はそういうと占いを始めた。

25猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/11/30(水) 23:41:56 ID:BzKgbQpB
駅前通り 昭和3年7月7日 午後8時50分
市電が通る度に正光の背中が風に揺れた。
正光は易者の占う様子を真剣に見つめていた。普段占いなどには全く興味のない男であったがこういう時こそ神妙に感じるものである。
「あなたは何時の列車に乗るのですか?」
易者は唐突な質問を正光にぶつけた。
「は?あ・・・10時36分の急行で東京に向かいます」
易者は満足にそうにうなずくと改まって占いの結果を告げる。
「それ列車の出発する15分前に裏駅の方に行ってみなされ・・・」
「裏駅?」
正光が理解に苦しむように聞きなおすと易者は京都駅八条口の事をさすと教えてくれた。
「そこに貴方の悩みを解決してくれる方が現れるであろう」
それをもって終了らしかったので正光も腑に落ちない様子で金を払い再び駅前の繁華街に消えていった。
一方、幸の実家では烏丸家と四条家の両親が久々に顔を会わせささやかな祝いを行なっていた。
しかし、酒が進むにつれ名付け事で幸の父利信と正光の父烏丸直正のケンカが始まってしまった。
「下はにぎやかそうね・・・・」
産後である幸は赤ん坊を横に寝かせ自室でその騒音を聞きながら横になっていた。
「ふぎゃぁあああああ・・・・」
声の大きさが増すにつれ赤ん坊は目を覚ませぐずり始める。
「ほらほら、あなたの名前でお爺ちゃん達がケンカですよ〜」
クスクス笑いながら赤ん坊を引き寄せる幸。赤ん坊をあやしながら正光の1秒でも早い帰京を願い続けた。
26猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/04(日) 00:57:14 ID:u1R3UoDC
京都駅八条口 昭和3年7月7日 午後10時16分
平成の今の時代でこそ新幹線乗り場、深夜高速バスの京都起点として栄える八条口であるが、当時は地元で裏駅と呼ばれるほどの寂れ具合だった。
その寂しい場所に正光は半信半疑やってきてみた。
外灯の灯もまばらで通りを挟んで向こう側には町屋が並んでいる。この時間明かりが漏れる家もだいぶ少なくなっている。
その中にむなしく歌う正光の軍靴。ただ夏の星座は美しく夜空に輝いている。
少し酔いがまわり生暖かい夜風も心地いい。正光はベンチを見つけるとそこに腰を降ろして腕時計を見つめる。
蛍光塗料のおかげで時間がはっきりと分かる。
「あと数分という所か・・・・」
諦め半分夜空を眺めていると車の音が聞こえてきた。
「なんだ?」
ふと車の方に目をやるとその車をからはなれたところに怪しい人影が確認できた。そして、車には海軍の軍人の姿が外灯のわずかな光で確認できた。
『あいつはやるぞ!』
そう思い立つと正光は車を狙う者目掛けて一気に突っ走った。仲間はいないようだったので独りでも何とかなると自信を持っての行動だった。
しかし、酔っているせいか足が何時もより遅い、車からは軍人が降りてきた自分より階級は上のようだ。
そして、正光の読みは当たっていた。その暴漢は短刀を抜くと一気に物陰より飛び出しその軍人に襲い掛かる。
警護の者も暴漢に飛び掛ったが大きくかわされてしまった。
「待てー!」
正光は相手の攻撃を一瞬でも止めるべく大声を出して暴漢に飛び掛った。
二人は錐揉みになりながらその場に倒れ、暴漢の短刀が地面に落ち鋭い金属音が響いく。
「なんだ!学生か?」
取り押さえた暴漢の顔の幼さから正光は学生である事を悟った。
その学生は正光を睨みつけていたが間もなく護衛によって来た巡査に引き渡される事となった。
「ご協力ありがとうございました。交番の方でお話を伺いたいのですが?」
学生を連行する巡査とは別の巡査に任意同行を求められる。正光は少し苦い顔をして巡査に同行しようとした時、待ったの声が掛かる。
「すまないがこの人を列車に乗せてやってくれんか?出頭は私の部下に行かせよう」
「うっ・・・しかし、我々も職務なのですが・・・」
「まぁそこはうまくやってくれんか、この山本五十六に免じてだ」


27猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/05(月) 23:06:26 ID:idQpBu+H
東京行急行一等客車 昭和3年7月7日 午後10時35分
東京行きの急行列車は定刻どおり京都駅を後にした。
山本少将のおかげで取調べを回避できた正光は、暴漢からの個人的な礼だと一等客車に招かれていた。
混雑の多い三等客車、空き気味のニ等客車よりもはるかにすいている。
「危ない所を助けてもらい本当に感謝している」
山本は正光に一例改めて感謝した。
「いえ、当然の事をしたまでです」
山本と対面して座る正光は緊張のあまり立ち上がって敬礼する。
「中々実直なところがあるんだな、しかしそこまで硬くなる必要はない」
山本は正光を座らせる。
「ところで君も京都で乗り継ぎ待ちだったのかね?私も大阪で待っても良かったんだが少々祇園を見たくなってね」
「私も生まれた子供に会う前に京の街が見たくなりまして・・・」
「ほう、子供か・・・・君もいよいよ父親になったというわけだなおめでとう」
昔から知ってるかのように、山本は初子の誕生を祝ってくれた。
「それで、男の子か女の子かどっちかね?」
「はい、男だとばかり思っていましたが女でしら。これではお国のために何もできませんが」
「いいやそれでいい、お国には元気な男の子を産んでくれる女子も必要だ。とっ言う事は名前もまだ決めてないのか?」
山本は見透かしたように正光を見た。正光は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ええ、男の子だとばかり思っていまして・・・京都で易者に見てももらいました。そうしたら裏駅へ行くといいといわれたのです」
「ほほう、という事は私の最大の礼はその生まれた子の名前を考えるという事かな?」
冗談好きで知られる山本はその持ち前で正光に尋ねる。しかし正光は黙ってしまった。
「ハッハッハ、戯言と取ってくれて構わんよ」
山本が先に切り出すと正光は立ち上がり一礼した。
「山本少将お願いいたします!」
「おっ・・・・じゃあ考えてみるか」
改まった正光の態度に驚きながら山本は返事を返し組んでいる腕を組み換えて黙り込んだ。
正光も山本の名を待つように黙り込み、夜汽車の会話は途絶えるのであった。
無言が続く中も列車列車は走り続け滋賀県米原駅へと滑り込んだ。
対岸のホームには新潟行きのプレートをつけた列車が待機している。北陸の玄関地である。
『こう見てみると日本は中国よりも狭いと思うが、案外広いものだな』
正光は列車の方をみながらそう考えていると山本は閉じていた目を開いた。
「ちひろ・・・・」
「はい?」
山本が呟くように言った言葉に正光は思わず聞き返してしまう。
「ちひろという名前はどうだろうか?」



28猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/05(月) 23:54:33 ID:idQpBu+H
東京行急行一等客車 昭和3年7月8日 午後0時25分
「千尋・・・何故その名を選ばれたんですか?」
ポケットのメモに山本の言った名を書きながらつい上官と忘れ正光は問い直す。
「いや、千尋ではなくひらがなでちひろだよ」
「平仮名ですか?」
「そうだ、ちひろのちは大地の地からつけたものでこの世界は広いという意味でつけたものだ。それは島国根性に捕らわれず広い地を見よという意味も持っている」
山本は嬉しそうに笑うと正光も無言で頷いた。
「どうだろうか?烏丸君・・・」
「感激いたしました。謹んでその名前にさせていただきます!山本少将の広いお考えに共感いたしました」
「そうか・・・海軍であるわたしが地という名前をつけるのも可笑しい話だがな。ハッハッハ」
山本は大声で笑うと満足したように頷いた。
その後、二人とも酔っていたのか関ヶ原を過ぎるまでに深い眠りに入った。
「品川ー!品川ー!」
駅員の到着場所の声で正光は目を覚ました。
しかし、対面に座っていた山本の姿はもうなかった、おそらく横須賀行きに乗り換えるため大船で降りたのであろう。
『しまった!名付け親になっていただいたのにとんだ失礼をしてしまった』
後悔の念に駆られながら状態を起こすと窓枠に正光のメモ帳がポツリと置いてあった。
[烏丸君、貴重な体験をさせてくれてありがとう。名付け親になれる事ができて本当に幸せだった、これからも共に国とため尽力しよう。山本五十六]
メモには横のページには「命名 烏丸ちひろ」と書かれて自筆で書かれていた。
正光は感激し涙を流して山本のような人材を上に上げるべきだと思ったのである。
そしていつかは山本五十六の下で働きたいと心から思った。
29猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/06(火) 15:44:01 ID:pr5gwNy+
烏丸家 昭和20年4月4日午後01:45
「それでちひろさんはちひろて名前になったんですかぁ?」
「ええ、あの人ったら感激して生まれてくる子が女の子なら皆名前のどこかにちを入れるなんていいだして」
幸はクスクス笑いながら話してくれた。
「じゃあちとせのちもそこから来てるのね・・・なるほど」
蘭花が烏丸家の歴史の深さに神妙そうに納得する。
「いえいえ、たまたまかもしれませんよ」
「うんうん、多分守ってると思いますよ。あの娘も一生懸命な所ありますからきっとちとせのお父さんも」
「そうですと烏丸家の繁栄が約束されていてありがたいですわ、さっお茶にしましょうか?」
幸はスッと立ち上がるとちひろと千晶の様子を見に行く事にした。
「なんか、ロマンチックな話が聞けましたね〜」
「はぁ〜?確かに歴史深い話しだけどロマンチックじゃないでしょ」
蘭花が呆れた顔でミルフィーユを見ると幸やちひろがあたたかいココアを持ってきてくれた。
「え?ココアがあるんですかぁ」
ミルフィーユが湯飲みに入れられたココアを見て少し驚きの声を上げる。
「いえ、ミルフィーユさんから頂いたものですよ」
ちひろが別路で横須賀から東京に帰る時にミルフィーユがくれた物であることを説明した。
「もぉ〜お姉ちゃんもお母さんも先に行っちゃうんだもん」
少し遅れて千晶が部屋に入ってくる。
「ここのココアとっても美味しいんですよぉ、格納庫にまだありますからまた持ってきますね」
「また格納庫に私物おいてるの?また怒られるわよ」
「大丈夫ですよ、箱1個なんですから」
ミルフィーユの自信満々な顔にため息が出た。
30猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/07(水) 02:19:59 ID:JkefLaR5
横須賀行列車内 昭和20年4月4日午後02:50
「それだけのために紋章機に乗っているのか?」
角松は改めて尋ねたミントとヴァニラの入隊経緯に驚いていた。
ヴァニラはまだしもミントに関しては何ともわがままと言うか自分には理解できない理由である。
『感受性の高い方ですわ・・・しかし正に軍人という感じですわね』
角松の表情を見てミントはふとそう思った。
「いやぁ、本来ならこの歳での入隊は難しいよ・・・・この娘達には紋章機を動かせる脳波・・・っていうか力があるんだよ。無論無理やり引っ張ってきてるわけでもないからね」
角松はこの答えに返事はしなかった。
「角松ニ佐だってどうして自衛隊に入られましたのですか?」
「似たような質問をされた事がある。俺の親父も自衛官だったそれだけさ」
『本当に実直なお方ですわね・・・・』
ミントはそう思うと再び窓の外に目を向けた。桜があちこちで美しく咲き誇っている。
「やはり平和が一番ですわ・・・」
ミントはポツリと呟き米内との約束を正解だと願った。
「この平穏な景色を永久に見せるべく私も尽力しよう」
「米内さん」
独り言を聞かれてしまったと思い頬を赤らめながら通路側に座る米内に目をやる。
「この時代を担うものとして・・・・必ずや角松さんや君たちの存在した時代につないでみせる」
そう言うと米内はムクリと立ち上がり窓枠に手をかけ窓を閉める、同時に列車はトンネルへと入る。
漆黒の闇と汽車の煤がガラスの外を通過していくのがミントとヴァニラにも確認できた。
車内灯のあかりがボンヤリト隣に座っているヴァニラを映し出した。
「今の日本のようなもんです、だが抜けないトンネルはない・・・・」
米内がポツリとそういうと再び席に座った。

31猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/16(金) 01:08:34 ID:x5m6eGSs
トランスバール皇国 4月4日
ココモ、マリブが出発したその後もウォルコット中佐はじめメアリー少佐は今回の事件のデータを調査していた。
シャトヤーンが動いた事によりトランスバール皇国軍も重い尻をようやく動かして調査部隊を編成しエンジェル隊の追跡を開始している。
「ようやく皇国軍本隊が動き出してくれましたなよかった、よかった」
「いいわけないでしょ!格納庫のシャープシューターはある事件として供出されたんですよ!」
メアリーは恨めしそうにウォルコットを睨みつけた。
「あ・・・・いや、まぁまぁこの事件が終了すれば返してもらえるわけですし・・・」
気まずそうにウォルコットが返答していると来客を知らせるチャイムが鳴る。
「誰よ?こんな時に」
怒りの矛先で来訪者を知らせるチャイムに目をやるとウォルコットが入り口へと向かって走り出していた。
「ちょっと中佐まだ話が!」
ウォルコットの後を追おうとするが緊急の通信がメアリーをその場にとどめさせた。
「なんだメアリー少佐だけかね?まぁいいこれを見たまえ」
モニターに映し出される士官の顔は曇っていたがすぐニンマリと笑い後方の宇宙空間を映し出した。
複数の軍艦が大きな装置を護衛する宙域映像がモニターをとうしてメアリーにも物々しさ伝えてくる。
「こ、これは?どういうことですか」
装置の中に固定されているシャープシューターにメアリーが驚きの声を上げた。
「なに、おそるる事はない。我々の新技術によるエンジェル隊救出作戦であると思ってくれればよいのだ」
「新技術?まさか!平行世界を切り開くといわれるあれが完成していたんでしょうか!?」
メアリーは皇国軍内部で噂されていた新発見のロストテクノロジー・・・・・絶対領域の扉を開く鍵。
「しかし、まだあの兵器はまだ実験・・・いえ、発見されて間もない物なのですよ」
「だからこうして実験するんだよ異世界と時空の壁を越えるね鍵としてね」
士官がまたにやり笑みをこぼす。
「しかし、シャープシューターは烏丸ちとせでしか動かせないはず?」
「それも解決済みだ烏丸ちとせの精神エネルギーをコピーしたデータを既に搭載している」
「それはつまり・・・」
「その通り、紋章機の無人機化もシアにいれているのだ、これでより効、いや少女達に軍隊を経験させる必要はないからな!では実験の様子を見ているがよい!」
士官がモニターから離れるとメアリーは無言で壁に拳を叩きつけた。
その頃、ウォルコットは来客の応対に向かい思いっきり怪力を見せ付けられてしまう。
「はぅうううう・・・・なんで?」
「すみません!私男の人は苦手なんですぅ」
少女はその場から動く事はしないが倒れているウォルコットに直立不動で謝罪を続けていた。
32猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/16(金) 02:03:46 ID:x5m6eGSs
実験宙域 4月4日
物々しい実験機器に拘束されたシャープシューターを見ながら司令官はほくそえんだ。
『紋章機の無人化に成功すればエンジェル隊は既に用なし・・・そうなれば紋章機を一定の能力で24時間戦場にも置けることとなる』
「時間です」
補佐官の声で我に返ると司令官は救出部隊が使用する回線を開く。
「諸君、いよいよこの一大救出作戦が決行されようとしている。無論これがこのトランスバール始まって以来の大作戦になるであろう!
しかしだ、この作戦、成功の暁には後世に残る歴史の1ページとなるであろう!諸君らの検討を祈る」
華々しいスピーチを終えると一仕事終わったかのように司令官ため息をつく。それと同時に実験機器は慌しく稼動力を強めていった。
「シャープシューターダミー波異常なし」
「鍵へのエネルギーチャージ異常なし」
「システムオールグリーン!カウントは30秒より開始!」
ちとせを失ったシャープシューターの噴射口から鮮やかな廃棄炎が起こり連結部を軋ませている。
「順調じゃ・・・・」
司令官が言葉を言おうとした次の瞬間実験機器より小爆発が起こった。
けたたましく鳴り響きわたる各機器の警告音、科学者や技術者たちが大慌てシステムの再点検に入るがオペレーターはシャープシューターの現状を伝える。
「シャープシューター出力上昇中、このままでは連結器が持ちません!」
「ダミー波コントロール不能!外部よりのリンクオールエラー!」
「何とかせんか!貴様らの作ったものであろう」
さっきまでの余裕などは感じられない司令官の表情はあせりと悲壮感だけが支配している。
「電力供給を遮断しろ!波の元を・・・・」
その瞬間まばゆい閃光が実験宙域を包み込んだ。

第二部終 第3部へ続く。
33猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2005/12/17(土) 02:56:10 ID:4+M4yjCC
コミックマーケット69参戦決定!!
参加日
29日1日目 西い9b
(カタログP361)
配布物
1945GAサイレントラヴァーズ第一部
1945GAサイレントラヴァーズ第二部
共に300円です。小銭をご用意下さい

年刊エンジェル風味その1 0円
配布もあり

たくさんのご来訪お待ちしております
34名無しさん@お腹いっぱい。:2005/12/25(日) 23:01:37 ID:YZJYYWgs
保守
35作者・名無し陸戦隊:2005/12/31(土) 21:32:56 ID:tMaDDMBe
拝啓
猛虎☆全勝様、コミケお疲れ様でした。
サイレントラバーズと天女隊創設のお話、早速読んでおります。
ご挨拶に行った際にも親切に応じて下さり
さらに贈り物まで頂き、大変感謝感激の次第で御座います。
第3部も頑張って下さいませ、一ファンとしてこのスレを見る者として
応援しつつ、自分もサイドストーリーを書いて行く所存であります。
来年も猛虎☆全勝様とこのスレと住人の方々が益々栄えんことを願いつつ
ではではm(_ _)m
36猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/01(日) 01:29:05 ID:1Rdm2EOM
名無し陸戦隊殿
コミックマーケットお疲れ様でした。
サークルの安泰と1945シリーズの祈願を願って06年も行きます!
気の早い話ですが第3部の方もC70で配布予定してます。

お知らせ
1日目サークルに来ていただいた皆様ありがとうございました。
C70も参加を予定しております、またお会いできる日を楽しみにしています。
当サークル絵心を知るものがおらず苦戦しております。
烏丸ちひろはじめデザインしてくださる方お待ちしております!

1945GA第3部は1月2日より再開します
37猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/02(月) 21:40:30 ID:zA766YbX
第3部
実験宙域 4月4日
衝撃波が過ぎ去ると実験宙域の惨状が明らかとなった。
実験機器は崩壊しあちこちでスパークが起っている。分散したパーツが宙域に散乱し周りを固めていた駆逐艦に衝突していた。
護衛のトランスバール艦隊も多少の損害を受け航行不能の船まで現れていたのだ。
司令官の乗る旗艦にも多くの破片が衝突しブリッジに警告音が鳴り響いていた。
「映像はまだ出せないのか!?」
「システム復旧まで後数十秒です!」
「各個被害箇所を報告せよ!」
ブリッジに飛び交う声と姿勢制御仕様とする操舵で艦は大きく揺れている。
だが、日ごろの訓練の成果もあって振動も混乱もすぐに収まった。
「シャープシューター完全にロスト・・・・・20光年宙域には存在しません!」
「なぁぁあぁにぃぃぃ!?」
冷静だった司令官が人が変わったような名声を出す。
「技術班につなげ!」
額の汗を拭いながら技術班の応答を待つ、回線の混乱はまだ復旧していないのだろうかなかなかでない。
「どうなっているんだ!」
自分の前の机をひとたたきした所でようやく技術班長に連絡がついた。
「結果を報告します、シャープシューターは現在単独にてドライブに入りましたおそらく時間移動には成功しているでしょう・・・しかし」
「しかし、なんだ?」
「遠隔誘導装置等の後付した機器が正常に働くかどうかは・・・・」
班長は申し訳なさそうな表情をする。
「それをやるのがお前らの役目だろーが!・・・ん、通信だ後で連絡する」
司令官は一方的に通信を切った。
「司令官殿今の映像拝見しておりましたよ」
司令官の開いた回線にはメアリーが勝ち誇ったような表情で写っていた。
38猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/04(水) 00:19:36 ID:UznBu7QG
烏丸家 昭和20年4月4日午後02:50
ミルフィーユと蘭花が昼寝を始めると間もなく雨が降ってきた。
軒先のトタンが歌いだすと幸は急いで洗濯物をしまい込む。
「ちひろー千晶ー降ってきたのー」
鶴の一声でちひろと千晶が飛び出してくる。干していたものを大慌てで取り込むと軒先へと放り込んだ。
「やっぱり降ってきたねー」
千晶が2人が上がるのを確認して雨戸を勢いよく足で閉める。
「これ、お行儀悪いでしょ」
空襲で多少家が歪んでしまったのか雨戸の閉まり具合も悪くなっているである。
千晶の額をポカリと叩くと幸は台所へと消えていった。
「ふぇ・・・」
「あなたが悪いんでしょ」
姉に同情を求めたがそっけなくふられてしまう。
「ベーだ」
奥の部屋に去っていく姉の後姿に一矢報いると千晶は2階に駆け上がった。
襖を開け姉と共同の自室に入る。ふと見ると姉が沖縄から着て帰ったという烏丸ちとせの軍服がかかっていた。
「これが未来の軍人さんの軍服かぁ・・・・」
誘われるように軍服を撫でてみるととても心地よい手触りが伝わってくる。千晶は思わずその軍服を下ろし羽織ってしまう。
そして、皆に見つからぬようこっそりと鏡台を目指すのであった。

39猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/04(水) 01:26:27 ID:UznBu7QG
日本近海 昭和20年4月4日午後02:50
空飛ぶ悪魔を葬るべくヘルダイバー艦上爆撃機とドーントレス艦上爆撃機の編隊は予定通りの飛行を続けている。
天候は発艦時より悪く本土に近づくにつれ雲は厚くなっていった。上空の気流の状態も悪く小さな艦載機しばしば機体を大きく揺らしていた。
「正に悪魔の登場に相応しい天気だな」
ドーントレスのパイロットは後ろの後部の搭乗員にそれとなく話しかける。
「そうですね、しかしこの気流では報告のような大型機は上がれんでしょう」
「なぁにロケット推進の機体と聞くがおそらく油が切れてて飛ぶこともできんだろうな」
「じゃあ脅威は基地航空隊ですか?」
「それもノープロブレムだ!あいつらがいる」
パイロットの指差す方向に護衛機のヘルキャットが数機飛んでいる。
「皆歴戦のつわものばかりよ、俺たちは悪魔の尻にコイツをぶち込めば後は逃げの一手よ」
爆装している1.000ポンド爆弾を指差すと声大きく笑う。
すでに日本軍航空隊敵にあらず、ベテランパイロットの多くはミッドウェイ、レイテ等の戦闘で命を落としていた。
上がってくる零戦は隊長機を叩いてしまえば総崩れになると飛行機乗りは達は豪語した。
新型機も配備は微々たるもの、技量不足で本来の性能を出し切れないと踏んでいたのである。

40作者・名無し陸戦隊:2006/01/04(水) 11:23:44 ID:6YLEzT6f
昭和20年4月3日 午後2時45分 横須賀飛行場
昼もやや過ぎた頃、横須賀鎮守府に伊豆・白浜を結ぶ警戒線から連絡が入った。
南方ノ海域ヨリ小型機ト思シキ反応ヲ多数確認、警戒ヲ要ス
第一報を入った時、悪天候と風の影響による誤反応か、電探の故障では無いかと思われたが
徐々に詳細を示した連絡が入るに連れて、通信室がにわかに騒ぎ始めた。
「新島・大島の海軍部隊より、部隊の電探から反応が出た模様です!!方角は南西・・・」
「黒潮部隊の哨戒艇より入電!!機影を確認、数は・・・」
次々と入る報告を元に、壁に据えられた巨大な地図には駒が張られていく、
「敵編隊は北東に向けて飛行中」声を聞いた要員が駒を移動させる。
敵に見立てた駒は、相模湾を上へ上へと進められていく。
「陸軍にも確認を取りましたが、該当空域に今飛行中の部隊は存在しないそうです」
参謀の西畑中佐がメモを手に取り申告する。
「そうか、海軍にも該当する部隊が無い、とするとやはり敵だな・・・このまま行くと、こちらへ来るぞ敵さんは」
「しかも敵機は艦載機の様です。先日大打撃を与えたと思っていたらもう態勢を立て直して来ました。迂闊でした・・・」
西畑中佐は沈痛な面持ちで下を向いた。
「仕方あるまい、油断していたのはワシも同じだよ。今はとにかく最善を尽くそう」
横須賀鎮守府長官、塚原二四三中将は一息吐いて声を発した。
「敵機来襲!!警戒警報出せ」

木更津にある第三航空艦隊司令部にも横須賀鎮守府よりすぐさま連絡が入った。
長官室では受話器を片手に木谷長官は迅速に応じた。
「こちら(横須賀)へ向かっているとすれば、敵の目的は一つだけです。」
そう・・今横須賀に向かう理由があるとすれば、5機の紋章機しかあえなかった。
搭乗員が不在である今、紋章機は格好の的でしかないのだ。
それを思うと額に汗が浮き出る。
「幸い敵編隊の規模は小さい様ですので、洋上で迎撃出来れば守りきれるはず!
 うち(海軍)だけで無理なら陸軍にも応援を要請すべきです!!
 何?海軍の面目?そんな物とっくの昔に無くなってますよ!!同じ軍で足引っ張ってる場合ですかっ
 もし紋章機がやられるような事があったら、陛下へどう詫びるつもりです?
 分かったらさっさと行動して下さい!!」
怒声を上げ、受話器を戻した。乱暴に戻した受話器はガチンと音を立てる。
木谷長官もすぐさま隷下の航空隊に出撃の指示を出すと、一考して受話器を再び手に取り、
交換手に飛行場の指揮所へ繋ぐよう告げた。
受話器の向こう側から直属部隊の飛行隊長の声が聞こえた。
「木谷だが空中指揮機は飛べるか?」
41猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/06(金) 00:18:07 ID:9r8p3TWl
横須賀行車内 昭和20年4月4日午後03:20
空襲警報が発令されると列車は運行を逗子で一時運転を見合わせることにした。
乗客も列車から降ろされ防空壕へと避難していく。街にもミント達に聞きなえないサイレンが鳴り響いていた。
「ミント君とヴァニラ君はこれを被りたまえ」
正光が列車から先に降りて婦人会に掛け合い防空頭巾を2枚持ってきてくれた。
「こんなもので爆撃から身を守れますの?」
手製の防空頭巾は肩まですっぽり隠れるタイプで誰かの名前が書き込んである。
「正光さん、これは他の方のではありませんの?」
「使う前に亡くなったそうだ・・・・」
「そうでしたか・・・・」
ミントはヴァニラが被っている防空頭巾の名札に目をやる。
「ご兄弟だったんですわね」
「そうですね・・・・神のご加護があらんことを」
ヴァニラは静かに目を閉じて見知らぬ兄弟の冥福を祈った。
「嗚呼・・・ヴァニラさんはなんて、ちょっとフォルテさんなんで私を被ってるんです!?」
「ワリィ他にないらしいからさ」
「そんな〜助けてヴァニラさーん」
「ファイト・・・・」
無表情でガッツポーズをヴァニラは作った。
「狙いは?」
「たぶん紋章機だろうね」
左隣の角松がフォルテに尋ねる。
「あんたらの機体なら爆弾くらい大丈夫なんだろ?」
「そんな事はありませんわ!わたくしのトリックマスターはレーダー機器を配備しておりますのデリケートなものもありますのよ」
フォルテの向こう側からミントが顔を出す。
「他のパイロットじゃ動かせないのか?」
「あいにくあたし等以外は無理だと思うね、それに下手に動かされても困るしさ」
愛銃に弾丸を詰め込みながら角松の話しにこたえるフォルテ、手馴れた様子に角松も見とれてしまう。
「正光君、車を1台逗子まで回してもらえないかね?鎮守府私の名前を使ってもらっていい」
米内は立ち上がると正光に車の手配を命令する。
「とりあえず、横須賀に連絡が取れれば何とかなりますが」
「でしたらわたくしのノートパソコンから電文をおうちになりませんか?電波はリンクさせてもらいますので」
ミントは手際よくノートパソコンを立ち上げると電文に使う電波の特定を行なう。そして、それと同時にタッチキーが空中に出現する。
「これで伝聞が打てますわ」
「す、すまないな」


42猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/10(火) 00:10:06 ID:IcbYgKgm
相模湾上空 昭和20年4月4日午後03:20
相模湾に侵入した米軍機はその編隊を二手に分けている最中であった。
「ロイ隊は雲に隠れながら沼津方面へ飛べ、作戦通りにきている」
無線が入ると新型機のヘルダイバーのみが沼津方面へ一気に進路を変更した。
キンケード少将は戦闘機の少ない奇襲部隊に少しの不安を覚えていたのである。
先月までならB-29の大編隊がお構いなしに日本の空を飛びまわっていた。しかし、状況はフライングデビルの登場で一変したのである。
上がってくれば部隊全滅の危機つながる事となる。
そこで、日本軍をかく乱させるため奇襲部隊の一部を沼津方面へ飛ばしたのである。
また残ったドーントレスを中心とする部隊も浦賀湾を北上する部隊、三浦半島の反対側からアタックする部隊に小分けしていた。
そして神が恵んで下さったかのような悪天候で雲の中に隠れられるのである。爆撃は難しくなるがありったけのベテランを揃えたのでカバーしてくれるであろう。
「グッドラック!」
隊長からの無線はこの言葉で締めくくられた。
43作者・名無し陸戦隊:2006/01/10(火) 19:04:19 ID:KgeehwLI
昭和20年4月3日 午後3時 横須賀
突然飛行場にけたたましい空襲警報が鳴り響いた。
近藤中尉は廣田一飛曹と顔を見合わせると、指揮所へと向かった。
指揮所には、すでに他の搭乗員が集まっている。非番の者も殆ど基地にいたようだった。
皆が集まってきた時、新谷大佐が姿を現す。
搭乗員達が見守る中、大佐の口から状況が伝えられた。
「相模湾上空を敵艦載機の編隊が2ないし3確認され、
 すでに横須賀航空隊や厚木の302空から迎撃機が飛び上がっている。
 222空や他部隊にも出撃命令が下った、総員かかれ!!」
搭乗員割りは、熟練搭乗員は全員閃電に乗り、
残りの熟練者と若年でも実戦経験・撃墜した事がある搭乗員と
飛行時間500時間以上のジャク(若手搭乗員)に雷電と零式艦戦が割り当てられた。
これは部隊のほぼ全力を出撃させることになる。
滑走路には各種合わせて50機近い機体が並べられた。
地上員が次々と発動機を始動させ、合計にして5万馬力以上の爆音が基地一帯に響いた。
近藤中尉も愛機の閃電に乗り込む、廣田一飛曹も同じく風防の中へ潜り込んだ。
44猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/11(水) 01:42:39 ID:/+16W4f/
荒川土手 昭和20年4月3日午後03:30
降り出した雨はその勢いをますます強めている。
荒川の土手にも水があちこちに浮き始め、地面もぬかるみ始めている。
付近を行きかう人も疎らとなり家の修理をしていた人も引き上げていった。
そんな中数人の子供が橋桁に一時避難している。
「雨強くなるね」
男の子が一人雨の中へ恨めしそうに手を出す。
「本当だな、川の水が増えないうちに家に帰ろうか?」
「もう少し様子を見ようよ、やむかもしれないじゃん」
手を出していた少年がそういって空を見上げると雲が渦を巻いていた。
「おいすごいぞ、こっちに来て見てみろよ」
上空を指差しながら奥に座っていった友達を手招きする少年。
「なんだよ、面白いものって・・・」
めんどくさそうに友達の少年が立ち上がると隣まで来て上空を見上げる。
「うぁ、何だ竜巻か?」
さっきとは打って変って目を丸め上空を見上げる少年、その横で最初に発見した少年も上空を見上げていた。
ピカ!
目まぐるしい閃光が上空から届いたと思うと凄まじい音の雷鳴が響き渡る。
「うぁあああ!」
「おへそをとられるな!」
少年二人は急いで橋桁の下へ避難する。そこへもう一撃雷がお見舞いされた。
その雷鳴は烏丸家にも届いていた。
「うぁぁあ!ビ、ビックリしたぁ・・・・」
気持ちよく寝息を立てていた蘭花は最初の雷で飛び起きると隣のミルフィーユに目を向ける。
すいよ、すいよと気持ちよさそうに寝息を立てている。
ポカ!
「ほぇ・・・・イタイ・・」
頭をさすりながらゆったりとお目覚めするミルフィーユにもう一撃食らわせる蘭花。
「あー二回もぶった〜」
「あんたも軍人ならすぐにおきなさーい!」
蘭花の声が烏丸家に響いた。
「ミルフィーユさん、蘭花さん!大丈夫でしたか!?」
ちひろが何事かと慌てて今に飛び込んできる。
ピカ!
もう一回凄まじい雷鳴が響き渡った。
「落ちたんじゃないの?」
「そうかもしれません、火事になってないといいのですが・・・」
やがて表が騒がしくなってくる、近所の住民の足音がたくさん聞こえてきた。
「荒川に何か落ちたそうだぞー」
一人の男性の大声が3人の耳のも入った。
45作者・名無し陸戦隊:2006/01/11(水) 18:53:04 ID:oK4HrnCZ
昭和20年4月3日 午後3時 三浦半島沖
近藤中尉は操縦席に収まると手早く計器類の点検を済ませる。
既に始動している発動機にも異常は見られない、
すぐに近藤機と廣田機にも離陸の出番が来た。
整備員が機体から離れ、中尉はブレーキを解除しレバーを動かした。
無事に滑走路を離陸した近藤中尉の閃電は高度を上げ、他の機体と編隊を組んだ。
今回の戦闘では、222空の部隊は2つに大きく分けられている。
一つは敵攻撃隊の護衛の戦闘機を駆逐して、敵艦爆や雷撃機への道を開く
制空隊、近藤中尉達の総計22機の閃電はこれに組まれている。
そしてもう一つは、制空隊が開いた道を抜けて件の艦爆や雷撃機を阻止する為の
駆逐隊の二つで編成された。
駆逐隊には、残りの中堅搭乗員やジャクが乗り込んだ
零式艦戦52・53型や雷電、総計25機が充てられる。
開戦以来、何度も改良を重ね、去年末には栄から発展させた、
最大1600馬力の水メタノール噴射付き栄改(ハ45・誉とは別)を搭載した
53型まで登場した零式艦戦であるが。
その頃には、燃料の質は最悪80オクタン台に落ち込み、
大部分がやっと飛ばす事の出来る程度の、新米搭乗員が乗り込んでいる状況では
活躍の場は無くなっていた。
一方の雷電は局地戦闘機だけあって速度、武装は強力だが、
プロペラの強度不足による振動や、旋回性能の悪さに搭乗員からは敬遠されがちである。
これらの機体は、米軍のF6Fヘルキャット相手では、分が悪すぎるが、
艦爆や雷撃機を落とすには十分働ける。
編隊を組み終えた制空隊の後ろで、駆逐隊の零式艦戦や雷電が編隊を組み始めた。
小隊は2機1組で編成し2組・4機で組まれる、ロッテ・シュバルム編成を採用している。
2機は熟練か比較的腕の良い者とジャクで組み合わせており、
ジャクをフォロー出来る様になっていた。
編隊を組み終えた駆逐隊は、制空隊の後方を高度を取りつつ追状して行く・・・
目指すは敵編隊の進む空域・・・・・
46猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/11(水) 23:56:08 ID:/+16W4f/
荒川土手 昭和20年4月3日午後03:40
落下物を見逃すなと3人は傘を借りて勢いよく飛び出して行った。
雨の影響もものともせず大きな人だかりができている。
「あそこです!」
つっかけで先頭を走るちひろをミルフィーユと蘭花が一生懸命追いかけていく。
「待ってくださーい」
「ちょっと!ちひろ、この外套重過ぎるわよ」
幸は蘭花がトランスバール軍服を着ていることに気を利かせ正光の外套を羽織わせてくれた。
そんな声に耳も傾けずに前を走るちひろ、やはり病弱なちとせとは似ても似つかぬ所がある。
「ここから土手に上がりましょう!」
泥沼のようにぬかるむ土手を駆け上るとすぐ荒川が開けて見えた。
「あ、あれは・・・・・蘭花さん、ミルフィーユさん!」
土手の中腹に差し掛かったばかりの二人を大慌てで呼びつける。
「はぁはぁ・・・・疲れましたぁ〜」
「はぁはぁ、行っとくけどこんな重いの着てなかったら走れたんだからね」
「そんなことより、アレを見てください」
岸に浮かんでいる機体をちひろが指差す。
「へ?・・・ちょっと待ってよ、何であれがここにあるの?」
蘭花が思わず息を呑んだ。
「あ〜シャープシューター!ってことはちとせさんもこっちの世界に来たんですね」
「もう、呑気な事言ってないで行くわよ!」
蘭花が先にシャープシューターに向かって走り出す。
「あ、蘭花さん」
ちひろがすぐ後を追って行き、ミルフィーユも後を追って土手を駆け下りていった。
47猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/13(金) 03:35:32 ID:AS+3DReS
荒川土手 昭和20年4月3日午後03:40
3人がシャープシューターに駆け寄ると機体は何かに拘束されていたかのような無数の傷がついていた。
「何だかやられてますね〜ちとせさん大丈夫でしょうか?」
ミルフィーユが心配そうにコックピットの方を見つめている。
「大丈夫だってもうすぐヘロヘロになって降りてくるわよ」
「烏丸ちとせさん、どんな人でしょう楽しみです!」
右隣のちひろは子孫かもしれないちとせとの対面を心待ちにしている様子だった。
「うーんちょっとひねくれやさんだからね、期待するような・・・まぁいいわちょっと待ってみましょう」
数分間3人はシャープシューターの前で様子を見続けていた。
「降りてきませんね」
「そうですね」
「おかしいんじゃないんですか?」
「おかしいと思いますよ」
そういうとミルフィーユとちひろは蘭花の方に視線を向ける。
「なによ?まさか、あたしに見て来いって言うの?」
2人がウンウンと頷く。
「そのうち出てくるわよ」
蘭花はツンとそっぽを向いてしまう、しかしやはり気になったのか無言で機体内へと入って行った。
「全く、先祖共々やってくれるんだから」
格納庫からコックピットへ上がる階段を急いで駆け上る蘭花。しかし途中に事件現場によくある立ち入り禁止とかかれたテープが張ってあった。
「何よこれ!まぁいいわ」
テープを破くとコックピットに入っていく。
「コラ!ちとせーって・・・・あれ?」
コックピットはもぬけの殻である。
48作者・名無し陸戦隊:2006/01/13(金) 12:42:03 ID:gjOxFqYp
昭和20年4月3日 午後3時10分 相模湾上空
今回、近藤中尉は第3小隊長として3機を率いていた。
普段後方に付いている廣田一飛曹に加え、
3・4番機として亀岡少尉と阿澄二飛曹の乗る2機がいた。
近藤達の駆る閃電戦闘機は、飛行長の中西大尉に率いられ、敵編隊の予想進路空域目掛けて進路を採るが
空はどんよりと曇っており下方の視界が悪かった。
下には灰色の雲の層だけしか見えない、
この為、先に迎撃に飛び上がった部隊も捕捉出来ずにいる者が多いらしい
中には小規模の編隊へ攻撃をしたらしいがまだ敵機は多数いる筈である。
やむなく制空隊は高度を下げることにした。
駆逐隊の方は、そのまま高度6000を維持しながら追状する。
「高度を下げるぞ、俺に続け」
無線から声がした直後、先頭の中西機が機体を翻し雲海へダイブする。
中西大尉機に続いて他の機体も降下する。
近藤中尉も負けずとレバーを前に倒し、機体を下方へと向けた。
雲に突入した瞬間、途端に前方視界が真っ白になったが、それも僅か数秒の事だった。
ずぼっと雲を抜けると濃紺の海原が視界に広がった。
風防に付いていた水滴が弾かれていく。
後ろを確認すると小隊の3機は遅れる事無く付いて来ている。
さすが南方戦線の生き残りだ。
近藤は軽く笑う。
少なくとも廣田一飛曹はラバウルの生き残りだし、
阿澄に亀岡も撃墜機数は少ないが、飛行時間は1500時間を越えている。
台湾やトラックで生き抜いて来ただけの事はあった。
「いたぞ!!前方5000メートルだ」
感慨にふけっていた近藤も、無線の中西大尉の声に即反応した。
前をよく見ると小さな黒い点の塊が低空を飛びながら横須賀へと進んでいる。
悠々と飛ぶその姿を見るに、敵編隊はまだこちらに気づいていないようだった。
護衛戦闘機を合わせ40機弱と言った所か・・・
49作者・名無し陸戦隊:2006/01/13(金) 12:46:36 ID:gjOxFqYp
訂正
最後の行>護衛戦闘機を合わせ30機弱と言った所か・・・
50作者・名無し陸戦隊:2006/01/13(金) 15:28:33 ID:gjOxFqYp
昭和20年4月3日 午後3時28分 相模湾上空
敵編隊との距離が縮むにつれて機影が鮮明に見えてきた。
機種を特定出来て来た。
敵はドーントレス艦爆が8機程度にグラマンが24機程・・・
護衛機は左右前後に位置を取りドーントレスを囲む様にして飛んでいる。
護衛機の数のわりに攻撃隊の規模が小さい様だが・・・少数精鋭と言う事なのだろうか?
近藤は首を捻る。
大西大尉が抑えるように指示を出す。
「全機まだ仕掛けるな、旋回して後ろに回り込み一撃を掛けるぞ。
 第1中隊は俺に続いて
 第2中隊は反対側から回り込め!」
「了解!!」
近藤も操縦桿を傾け、スロットルを押し込んだ。
速度を一気に増速させ、機首を上げて大きく縦に旋回させる。
機体が傾き、大きな重力がのしかかるのを耐えながら、操縦桿を握り締める。
僅かの時間だが長く感じられた旋回機動を終え、体が急激な重力から開放される。
目の前の風景が大きく変化していた。
敵編隊の後方上へと移動したのだ。
この頃には、敵編隊もこちらに気づいて、護衛機がバラバラと散開しこちらへと向かって来るが反応が遅過ぎた。
中西大尉達の閃電は高度の優位位置を生かして、ダイブしながら一撃を掛けていた。
近藤も前方から上昇しようとしているF6Fの1機に狙いを定め、照準機を覗く。
「よしっ今だ!!」
影が重なった一瞬の間に短く発射握を押した。
51作者・名無し陸戦隊:2006/01/13(金) 15:58:32 ID:gjOxFqYp
訂正とお詫び
>>40>>43>>45>>48の時間経過ですが、本編をよく確認せずに
急いで書いていた為、おかしくなったままでしたので訂正いたします。
正しくは
>>40は午後2時55分
>>43 3時のまま
>>45 3時15分頃
>>48 3時25分になります。
読んでいる皆様、申し訳ありませんでした。m(_ _)m
52猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/13(金) 17:13:35 ID:AS+3DReS
荒川土手 昭和20年4月3日午後03:40
操縦席にはちとせの制服だけがかけてあった。
「なんじゃこりゃ?」
蘭花が上着を引っ張り上げるとちとせのブーツやロングスカート下着なのが床下にバサバサ落ちていった。
『え・・・・あいつこんなのつけてんだ、可愛い〜』
「て、ちがーう!あいつ真っ裸でどこいったのよ〜!」
耳まで真っ赤にしながらコックピットを飛び出した蘭花は少々パニック気味に階段を格納庫まで降りてきた。
「あ、蘭花さぁ〜ん、ちとせさんはいましたか?」
格納庫の入り口まで入って来たミルフィーユとちひろに出会う。
「ちょっと・・・・ちとせ出てこなかった?真っ裸で」
「え〜!」
2人の顔も真っ赤になる。
「ま、まさか・・・・道中何者かがこの戦闘機に忍び込んで私の子孫かもしれないちとせさんに・・・」
俯いたままちひろがぼそりと言い放つと蘭花の両肩を掴んで顔をキッとあげ揺さぶり始める。
「蘭花さん、武器を貸してください!子孫を辱めた奴を私が抹殺します!」
「いや・・・だから・・・知らないって」
目を回しながら蘭花が受け答えする。その後ろでミルフィーユが外の様子を気にしていた。
「あの〜表に・・・」
「後にしてください!さぁ蘭花さん武器を!」
「でもぉ〜憲兵さんに囲まれてますよぉ・・・」
「え?」
53猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/14(土) 00:32:04 ID:1mT84DHh
荒川土手 昭和20年4月3日午後03:50
3人が外の様子をこっそり見ると憲兵と警官が警戒しながらこちらにジリジリと近づいてきている。
「ミルフィーユさん身分証明書を!」
「制服のポケットですぅ」
「では蘭花さんは?」
「幸さんが縫ってくれる時抜いて床の間の上に・・・」
ちひろは無言で頭を抱えた。
「そういうあんたは?」
「家に置いてきました・・・」
「じゃあ、人の事言えないでしょ!」
その間にも憲兵達は包囲網を狭めていった。
「どうします!捕まっちゃたら・・・・ちひろさんどうなるんですか?」
「憲兵隊の取調べは酷いと聞いています・・・・」
ミルフィーユがネコのように背中を震わせる。
「どうします?蘭花さん」
「あたしに・・・・っていいこと思いついたわ!これで逃げればいいのよ」
蘭花がシャープシューターの床を足で叩く。
「えーでも・・・・これはちとせさんじゃないとうまく動かせませんよぉ」
「いるじゃないここにご先祖様が!」
蘭花がビッシっとちひろを指差した。
「ふぇ?」
ちひろは状況が理解できてない。しかし蘭花は格納庫の扉を閉めてちひろをコックピットに引きずっていった。
「蘭花さん無理です!」
「あんたもパイロットなんでしょ?」
「無理ですー航空機は九七式艦攻や隼、零式艦戦21型しか乗ってません〜大型機なんて」
ちとせの軍服をミルフィーユたたんでおくよう支持するとちひろを操縦席に座らせる。
「大丈夫よミルフィーユですら乗りこなせるんだからきっと海軍機や陸軍機よりも簡単よ」
「ですらってどういう意味ですか!ぷ〜」
ミルフィーユが頬を膨らませる。
「わかりました、やってみます!」
「あ〜ちひろさんまで〜」
「じゃあとりあえずH.A.L.Oを起動させてみるわね、これで連動できなかったら憲兵隊に降伏よ」
後ろでご機嫌斜めになったミルフィーユを放置し蘭花はH.A.L.Oを起動させた。
緊張の時が走る。
『お願い・・・・動いて!』
ちひろは思わず目をつむってしまう。
しばらくすると順調なスラスター音が聞こえ、360度モニターが起動する。
「ビンゴ!成功よ」
蘭花が思わず指をならした。


54猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/14(土) 01:15:27 ID:1mT84DHh
荒川土手 昭和20年4月3日午後03:55
「すごい・・・これが皆さんの搭乗する重戦闘機なんですね」
頬に手をあて感動するちひろ、沖縄からの帰還の際にラッキースターに搭乗はしたが本格的に操縦席に座ったのは初めてである。
「とりあえずここを離れましょ、人が集まりすぎてるわ」
土手の人だかりと憲兵が銃に手をかけていたことから蘭花は浮上を指示した。
「あの・・・暖機運転はしなくても、えーと水温計は?」
「全部CPUがやってくれてるし機体は即飛べるわよ」
蘭花がちひろの右手にそっと手を置く。
「いい、紋章機は便利だけど自分の情緒によって性能を左右されるの常に一定の平常心を保ってね」
「蘭花さん滑走距離に問題がありませんか?」
ちひろが指差す方向には200メートル前に鉄橋がそびえている。
「じゃあこの位置で上昇するわ、はい軽くコントローラーを引いて」
恐る恐るコントローラーを引くと機体が上昇する感覚を覚える。
「うぁ〜ちひろさん上手ですよ〜」
ミルフィーユがパチパチと拍手してくれる。
「反重力装置がついてるから失速はしないわよ、じゃあ横須賀に行きましょうか?」
「何故横須賀にいくんですか?」
「ミントたちがいてるでしょ、じゃあちひろある程度高度上げたら水兵飛行に入ってね」
シャープシューターはゆっくりと横須賀方面へ消えていった。
55作者・名無し陸戦隊:2006/01/14(土) 21:09:43 ID:OWUZbRBE
昭和20年4月3日 午後3時40分 相模湾上空
近藤中尉機の両翼から発射された30ミリ機銃弾は、
寸分外す事無く、目の前のF6Fを捉えた。
機銃弾が、次々とF6Fヘルキャットの、機体へと命中していく。
風防のガラスが砕け、外板が吹き飛び大穴が開き、主翼の一部が吹き飛ぶ。
いかに頑丈が売りのグラマンと言えども、
30ミリ弾の乱打には、耐えられなかった。
近藤中尉は、ヘルキャットの脇をすり抜け、機体を翻す。
一瞬に後ろに目をやると、ヘルキャットは煙を吹きながら海へと落下して行く所だった・・・
敵の搭乗員が脱出した様子は無い・・・
おそらく弾が命中したか、脱出する間も無く落下していたのだろう。
だが情けをかける気は無い・・・一歩違えば自分が撃たれているかも知れないのだ。
近藤中尉は感傷に浸る暇も無く、降下を止め、平面飛行に戻すと、機体の高度を上げる。
制空隊は、初めの奇襲攻撃により、近藤中尉の落とした機体も含め、
6機のF6Fを落とした後、散開して高度を取った。
一方、ようやく体勢を立て直した、残りのF6Fヘルキャットも、
閃電を落とさんと立ち向かって来る。
敵味方、互いに入り混じり、混戦へと移っていった。
近藤中尉も僚機の廣田一飛曹の閃電と共に、次の獲物を探すべく乱戦り中へ突入する。
刹那、気配を感じ、操縦桿を横に倒して、
ラダーペダルを思いっきり蹴りつけた。
機体を横に滑らせた一瞬後に、12.7ミリ機銃弾の束が、
数秒前まで近藤中尉の機体がいた場所をザーと通り過ぎて行った。
56猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/16(月) 23:47:11 ID:3fTLdxU/
特殊爆撃隊 昭和20年午後3時40分
基地航空隊をかく乱させるべく沼津方面へ飛行する作戦は悪天候にも恵まれ成功した。
『30機でのジャップ本拠地空爆か・・・・・』
ロイ少佐むこうの部隊の1機でも多くが浦賀水道を突破できる事を願った。
「少佐、箱根峠が見えます!」
「よし全機旋廻!その後雲に隠れつつ横須賀まで飛ぶ!こちらは戦闘機が少ないんだ各自警戒を怠るな!」
「イエッサー」
ヘルダイバーの編隊が一気に進路を変えると小田原方面へと雲に隠れながら飛ぶ事になる。そして偵察用の1機が時々雲の下に下りて位置を確認し横須賀まで編隊をリードする事になっている。
まさに逆潜水艦であった。
しかし、部隊にはそのような余裕を言うもの一人いなかった。
アイスバーグ作戦に参加した者も多く、フライングデビルの性能をまざまざと見せ付けられたのである。
沈み行く旗艦インディアナポリス、スプールアンス戦死、第58機動部隊壊滅的打撃をその目で見たのだ。
当初は部隊の士気にも関わるので編成からはずそうとの意見もあったが、少数精鋭で望む本作戦、フライングデビルの目撃者、しかもパイロットは必要不可欠であったのだ。
そして彼らの多くも特務部隊へ志願したという。
「沖縄でデビルを見たのは俺たちだ!俺たちの手であの機体を葬る」
と、出撃前に意気揚々と答えていた。
57猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/17(火) 00:30:22 ID:p7/ahVQt
逗子駅 昭和20年4月4日午後03:40
正光が車手配の電文を打ち終わると同時に駅員が4時に列車を横須賀まで動かすと教えてくれた。
「よかったですわ、では列車に戻りましょうか?」
ミントはPCのOSを終了させる作業に入る。
「はぁ・・・・上陸する前にパソコンを変えておくべきでしたわ」
ミントが処理作業の遅さに不満を漏らす。
「それでも旧式なのか・・・・・」
角松は思わず驚いてしまう。
「ええ、もう入隊時から使い続けているもので買い替え時期を見あまってましたの、それでこの前やっと新しいのを購入しましたのよ」
「俺たちの時代でもそんなコンパクトなものないな」
そういうと角松は立ち上がり列車の方へと歩き出した。
他の士官や列車利用者も自分の客車へとバラバラ戻っていく。
「あ、待ってくださいまし!」
ミントがすぐに角松の後を追う。
「よっしゃ、じゃあ列車に戻るか」
ノーマッドをヴァニラに投げ返すとフォルテとヴァニラも列車へと戻っていった。
「烏丸君すまなかったな」
「いえ、早く紋章機の中が見たいので助かりました」
正光と米内も急いで列車へと戻っていった。
58猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/18(水) 00:10:18 ID:vA99+O8z
川崎上空 昭和20年4月4日午後03:55
「そうそう、上手上手」
ちひろの操るシャープシューターはうまく川崎上空までたどり着くことができた。
蘭花とミルフィーユが拍手する中ちひろは申し訳なさそうに下の様子を見ている。
「下の人が逃げ惑ってます・・・・対空砲火も撃たれてるみたいですし」
また父に大本営へ侘びをいれてもらわなければならないと思うと少しため息が出る。
「ちょっと、そんなことより横須賀までの道知ってんの?」
「空路ではいるのは初めてです。ですから下の東海道本線沿いに飛行していますが」
ちひろが飛行開始よりよく下を気にしていた理由がわかった蘭花は右側のボタンを押すように指示する。
すると関東一円地図が何もない所突然と現れた。
「きゃ!」
目の前にいきなり地図が現れたので思わず身をのけぞらすちひろ。
「あ、ごめん、ごめん・・・・いい〜説明するわよ」
「はい、お願いします」
「まずここで光ってるのが私達の紋章機がある場所つまり横須賀ね、後は今日は随分飛行機飛んでるんだ」
蘭花が黄色く識別されている点を見て関心している。
「本当は識別コードって言うのがあってそれで確認するんですけどね」
ミルフィーユがアンノウン機を指差して笑う。
59作者・名無し陸戦隊:2006/01/18(水) 23:40:05 ID:9yfbvNFr
昭和20年4月3日 午後3時45分 相模湾上空
「くっ!」
近藤中尉が振り返ると、濃紺色のF6Fヘルキャットが2機、後方から迫って来ていた。
危ないところだった。
後一歩遅かったら蜂の巣になっていた所だ・・・
乱戦の真っ只中に突っ込んでいた為か、思わず熱くなっていた様だった。
「廣田一飛曹はどうなった!?」
左を見ると、廣田一飛曹の閃電が近藤中尉にきちんと追剰している。
どうやら無事なようだ。風防越しに、廣田一飛曹の白い歯が見える。
「廣田の奴・・・よし付いて来いよ」
近藤中尉はスロットル全快で速度を上げた。
2機のヘルキャットは、高馬力に物を言わせて、増速しながら近藤中尉の閃電を追尾して来る。
「なんのーっ!!」近藤中尉は機体を翻し上昇、急旋回に入る。
ヘルキャットは、なお追尾して来ている。
敵は、このまま自分を追い込んで落としてやろう、とでも思っているのだろう・・・
「だが・・・そうやすやすと、落とされるほど俺は安くない!!」
強烈な重力によって、体が後ろに押さえつけられながらも、歯を食いしばり、旋回を続ける。
近藤中尉は、急旋回でヘルキャットを振り切るつもりでいた。
ハー43発動機は2200馬力の咆哮を上げ、激しく唸り、速度計の針が610・・20と目盛りを指す。
ヘルキャットも初めは、閃電について来ていたものの、序々に後方から離されて行った・・・
閃電の旋回半径と速度に追いついて来れないのだ。
閃電には、主翼に装備されている自動空戦フラップが作動して、旋回半径を短く抑える事が出来た。
その為、速度を第一に開発された重戦闘機でありながら、
零戦には劣るが、格闘戦で負ける気がしなかった。
ヘルキャットは旋回から外れ、近藤中尉の目論見どおり振り切る事に成功した。
近藤中尉は、そのままヘルキャットの後方へ向けて、さらに旋回を続ける。
やがて近藤注意の目の前に、大きく太い機体が姿を現した。
一回転して、件のヘルキャットの後ろについたのだ。
まずは少々動きの鈍い、後方の2番機から落とそうと決めた。
近藤中尉は最大速度で間合いを詰めた。
ヘルキャットの2番機も速度を上げるが、反応が遅かった。
4式射爆照準機の中にヘルキャット2番機の影が入る。
射線に入った!ここぞと短く発射握を押した。
30ミリ機銃弾が僅かの間で発射される。
弾は、ヘルキャットの胴体へと吸い込まれるように命中した。
直後、被弾したヘルキャットは、海面へと吸い込まれて行き、小さな水柱を上げて消えていった。
近藤中尉は、さらに返す刀で、浮き足立ったヘルキャットの1番機を狙う、
すでに廣田一飛曹が牽制しており、ヘルキャットは思うように飛べないようだった。
狙いを済まして、近藤中尉は機銃を撃ち込む、
ヘルキャット1番機の尾翼を吹き飛ばして、あっさり撃墜する事が出来た。
この頃には、空戦はほぼ終息へと向かっていた。
閃電と同機以上いたF6Fヘルキャットは大きく数を減らしており、
生き残った数機が離脱し始めていた。
無線から中西大尉の声が発せられる。「追うな、全機集合しろ」
近藤中尉は集合している方へと、廣田一飛曹と共に機体を向けた。
途中で分かれた亀岡少尉と阿澄二飛曹も無事だった。
敵ドーントレス艦爆隊は、駆逐隊と数の上ですでに勝負は付いていた。
多勢に無勢の中、果敢に防御弾幕を張るものの、1機又1機と落とされていき、全滅した様だ。
戦闘が終わり、近藤中尉は、ふぅと一息つく。
「マーカス島の屈辱は果たしたぞ・・・皆・・・俺は勝ったんだ。
今・・グラマンに・・・この閃電はグラマンを超えてる・・
我に適うグラマンなし・・だ・・・」
今は亡き戦友達の事を考えながら、思わず呟いた。
その時だった。「コハク(司令部)より全機へ!コハクより全機へ!
至急横須賀へ帰還せよ!!基地上空に敵機多数来襲中!!」
!!悲壮な声が無線機から流れた。
「なんだと・・・では我々の戦っていた相手は・・・一体?」
近藤中尉はただ唖然とするしかなかった・・・
米攻撃隊の囮達は、その役目を果たした。自らの犠牲によって・・・
60猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/19(木) 01:07:24 ID:5VmycJ7Q
国鉄横須賀駅 昭和20年4月4日午後04:10
列車が横須賀駅に滑り込むと同時に奴らはやって来た。
ミント達の耳に聞きなれない爆音が聞こえると同時にヘルダイバーの大群が横浜方面から来襲したのである。
横須賀基地も対空砲火を開始したが敵はタンク、倉庫類には目もくれず潜水艦桟橋方向に向かっていった。
「やはり、紋章機が狙いだったか・・・」
米内が上空を見上げながら呟く。
「紋章機はまだドッグへは入っていませんの?」
ミントは米内の横で迎えに来ている下士官にたずねる。
「中破しているカンフーファイターは既に格納済みですが・・・・他の四機は」
下士官が答える前に潜水艦桟橋付近で爆発が起こった。
「被弾したぞ!」
角松は頭を低くして帽子が飛ばないように抑える。
「とにかく待避壕へ!皆さんを案内してくれ、後横須賀航空隊をさっさと呼び戻すように伝えるんだ!」
正光は表情をガラっと変えると迎えの下士官に指示をだす。
「烏丸大佐はどちらへ!」
「俺は紋章機の様子を見てくる、後係留してる駆逐艦にも対空戦闘をやらせろ!」
「待ってください!あたし達も行くよ大佐」
後を追うようにフォルテ、ヴァニラが正光の後を追う。
「お待ちくださいまし!」
「ミントは残って角松さんの船に連絡をとるんだ!米内さんとの約束だろ」
後を追おうとしたミント制し3人は潜水艦桟橋の方向へ消えていった。
再び桟橋付近で大爆発がおきた。
「急いで待避壕へ!」
下士官の指示でミントたちも待避壕の方へ走り出す。
目の前を爆弾を放した後のヘルダイバーが超低空で迫ってきた。
「危ない!」
角松はとっさにミントを突き飛ばした。
ミントの軽い身体は軽く数メートルろへと飛ばされその後を7.62mm機銃がなめていった。
「機銃の餌食になりたいのか、もっと早く走れ!」
「わたくしはそこまで専門的な訓練は受けていませんわ!」
この時ミントの顔が角松には幼いように見えた。
「と、とにかく急ぐぞ!」
「あ、はいわかりましたわ」
角松が差し出した手にミントがつかまると角松はミントをおぶるようことにした。
「か、角松さん子供扱いは止めてくださいまし!これでもヴァニラさんより年上なんですわよ」
「お前の足の遅さに合わせていたら俺たちがやられる。早く乗れ」
次第に触れる敵機を確認するミント。そして、無言で角松の背中に身を預けた。


61作者・名無し陸戦隊:2006/01/19(木) 18:53:14 ID:8Hx+3xnX
昭和20年4月4日 午後4時12分 木更津飛行場
広々とした滑走路に風が流れていく。
飛行場には、アスファルトで整備された、立派な滑走路が広がっている、
木更津飛行場だが、今見るその風景は、少し寂しく思えた。
木更津基地の近くは、東京湾に面しており
その向こう側には、今空襲を受けている横須賀鎮守府がある筈だった。
敵機来襲の報に、この飛行場からも何機かの戦闘機が飛び立っていったが、
少し前に捕捉出来ずに戻って来ていた。
その後何か知らせが入ったのか、3航艦司令部は、人員の出入りが激しくなった。
その内容はやがて、航空隊の指揮所にも伝わってきた。
どうやら横須賀に入った、特殊戦闘機が爆撃を受けたらしい・・・
木更津に部隊を持つ、各航空隊の幹部達が、まことしやかに論議する。
指揮所の傍らで話に耳を傾けていた指揮官の一人、大沢少佐は、爆撃を受けて当然だろうと、1人納得していた。
まあアメ公の攻撃隊を全部阻止するなんぞ、今の海軍の戦力じゃ無理だろうからな・・・
むしろ一部でも阻止した、戦果を上げた事が賞賛に値する。
長年陸攻乗りとして、前線で戦ってきた少佐には、大体想像がついていた。
膨大な戦力を誇る敵機動部隊へと、雷撃を仕掛ける度に対空砲火で落とされていく部下や、
制空権を奪われて、毎日猛烈な爆撃を受ける自軍の飛行場、叩き落されていく友軍の戦闘機
そんな光景を日常茶飯事に、目の当たりにした少佐にとって、今敵機を阻止できたと言う方が驚く。
だが、それでも放っていく訳にもいくまいて。
その時、入り口の方から、人の来る気配に気づき、
少佐も壁に寄りかかっていた姿勢を正す。
指揮所の中へ、木谷長官と3航艦の参謀達が入って来た。
指揮所の面々を見回すと、木谷長官はその眼鏡越しに、手に持ったメモを覗いた。
「もう君達の耳なら、知れ渡っていることだろうが・・・」
やや大げさな前置きの後
「横須賀が空襲を受けた。
被害のほうはまだ詳細が入ってきていないので何ともいえないが、
もう一つ、つい今しがた、索敵機から連絡が入った。
敵は軽空母4、戦艦ないし重巡2、軽巡らしき艦2・3、駆逐艦約20。
だそうだ・・・思ったよりも規模が小さいな。
てっきりエセックス型の1・2杯は持ってくると思っていたんだがな。」
木谷長官の淡白な台詞に、大沢少佐も同感だった。
いくら沖縄戦で、艦隊が損耗しているとは言え、甘く見すぎている。それとも敵さん、余程慌てていたのか?
木谷長官はさらに口を開いた。
「これより迅雷特別攻撃隊と各飛行隊は出撃する。
私が指揮を採る事も、もしかしたらあるかも知れんが・・・まあ気にせずに飛んでくれ。」
その言葉に周囲が一斉にざわめく、この状況でわざわざ出撃命令が出るのも驚きだが、
それ以上に、自ら指揮を採るかも知れないと言うのは、長官自ら飛ぶと言う事を表していた。
指揮官達が慌てるのも無理はない。3航艦の参謀達は、木谷長官の行動を分かりきっている為なのか、
すっかり諦め切った表情で、木谷長官の方を見ている。
62作者・名無し陸戦隊:2006/01/19(木) 19:53:45 ID:8Hx+3xnX
昭和20年4月4日 午後4時15分 木更津飛行場
各指揮官達は慌て、騒然とする指揮所の中、ただ一人、その光景を面白そうに眺めていた。
大将自ら御出陣かい・・・やってくれるじゃねぇかよ、木谷さんよ・・・
大沢少佐は、ニヤリと表情を浮かべた。
「大沢少佐、大攻の状態はどうか?」
木谷長官の突然の質問にも大沢少佐は、自信を持って答えた。
「無論、連山全機、出撃準備を終えてます。
ケ号兵器の装備も終えて迅雷隊、いつでも出せます!!」

しかし、思えば面白おかしな展開になったものだ・・・
それは大沢少佐が、去年秋に発足した特別航空隊の、陸攻隊の指揮官に就任した直後の事だった。
迅雷特別攻撃隊と大層な名前を付けられた、特別航空隊の任務は、馬鹿な赤レンガ辺りの参謀共が考案した。
人が乗り込んで操作すると言う滑空爆弾を搭載し、敵艦隊の傍まで運ぶというものだった。
話を聞き、あまりに馬鹿げていたその兵器と戦術に憤りを感じていた大沢少佐だったが、ある日突然に事は起こった。
特別飛行隊の司令官が、移動中乗っていた輸送機が、突如現れた敵戦闘機に落とされて、殉職してしまったのだ。
特攻に積極的だった指令官が突然殉職した事によって、迅雷隊の立場が大きく変化した。
この後、航空本部長から、第3航空艦隊司令長官に就任したばかりだった木谷鷹空中将が、
迅雷隊を半ば無理やりに、自分の指揮下に組み込んでしまったのだ。
そこで迅雷隊は、新型の4発陸攻である連山や、銀河、陸軍4式重爆の海軍仕様機等に、機種改変を行いながら、
木谷長官が航空本部時代に、関わっていたと言う、特殊爆弾を使用した攻撃隊へと変貌を遂げた。
木谷長官に指揮下に組み込まれて以来、約半年・・・幾度となく訪れた全体出撃の機会に耐え、
先月も訓練の仕上げに、小規模な攻撃を1度か2度行っただけ・・・
血気にはやる部下を制しつつ、自らの気持ちも抑えて訓練に励んで来た。
今回ようやくその成果を発揮する、晴れ舞台となるであろう。
大沢少佐の興奮は、いつまでも冷めやまなかった。
63作者・名無し陸戦隊:2006/01/20(金) 18:41:23 ID:rWAVQeez
昭和20年4月4日 午後4時30分 木更津飛行場
出撃命令が出た後、それまで平穏だった基地が喧騒に包まれていった。
各航空隊は、慌しく準備を始めて、駆け回り、
整備員達が駐機場から地上員の手で滑走路へと押し出された、機体の簡単な点検をし終え、次々とイナーシャハンドルが回されていった。
その傍らで、巨大なかまぼこ型の格納庫から、次々と巨大な機体がトラクターに牽引され、静々と引き出されて来た。
巨大機は、滑走路へと運ばれて来ると横一列に並べられた。
この巨大機の正体こそ、大型陸上攻撃機、連山である。
連山の数はおよそ10機、これが今の迅雷特別攻撃隊の保有している連山の内、稼動することの出来る全機体である。
数が少ないが、コストが掛かり過ぎ資材不足や製造に時間がかかるのに加えて、
通常の攻撃機型に加えて、最近は、40ミリ機関砲を斜めに取り付けた。斜銃装備の夜間戦闘型に
機内に無線施設を入れた空中指揮機型等のバリエーションに生産機が割り当てられてしまっていた。
そこに追い討ちをかけるように、全国にB29の爆撃が始まり、
これを避けるため、生産工場の疎開を行っているので、思うように生産数が伸びていない為だ。

連山の登場は、昭和18年初頭、海軍から、4発の大型陸上攻撃機の要求が出た事に始まる。
当初、以前に、四発陸攻深山を製作した経験のある、中島飛行機で開発されるはずだったが、
航空本部に、軍令部2部や、空技廠等との、色々な事情が入り混じった挙句、
同じく陸軍のキ85爆撃機の開発を行っていた川崎飛行機を中心に、他のメーカーや陸軍までもが加わり、
紆余曲折の末、翌19年初夏に試作機が完成した。
当初は、誉発動機の不具合や・排気タービンの問題で完成が遅れると思われたが、何度も協議を重ねた結果、
発動機を誉から、生産が始まったばかりの、ハー43に換装して、排気タービン過給機も実用化の目処がつくまでの間、
通常の機械式過給機装備で、代用する事で生産が決まった。
こうして中島飛行機や川崎・立川飛行機(陸軍向け)の工場で、生産が始まり、迅雷隊を中心に、部隊に配備された、連山大攻だが、大型の4発機である為に、維持・整備に大変苦労する事となった。
それでも木更津基地の整備員達は腕を駆使して、整備をこなしていき、さらに性能と維持能力を向上させるために、メーカーから技師を招いて座学指導を受けたり、
効率よく整備するためのマニュアルを作り上げ配布するなどした。
さらには製造元の工場や、各地の工廠を回ったり、時には、不時着した米軍機等から使えそうな部品をかき集めたりもした。
こうして、機体の各部に手が加えられ、発動機も点火栓を米軍機の物と取り変えて、抜き取ったアメリカ製の潤滑油を入れるなど工夫をこらした。
その苦労の結晶こそが、この10機の連山であった。

出撃を目前に控え、整列した隊員達を前に、大沢少佐が訓示を始めた。
「野郎共!!うす汚ぇ根性しくさったアメ公どもが、横須賀まで
遠路遥々やって来た、大切なお客人の飛行機に向かって、闇討ち仕掛けて来やがったぁ。
こいつをみすみす見逃したら、大沢一家の名がすたると言うもんだ!!
土足で上がり込んでおいて、タダで帰れると思ったら大間違いだと、思い知らせてやろうじゃねぇか
一丁出入りと行くぜ!!一人残らず付いて来いやー!!」
「おおう!!」
迅雷隊の隊員達も大沢少佐の独特な口調に、覇気を上げた。
64猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/20(金) 23:39:46 ID:mO8x2EgK
東京湾上空 昭和20年4月4日午後04:00
「やっぱりおかしいです、相模湾沖での旋廻、横須賀へ行く飛行部隊も」
ちひろがレーダーを見ながらそう言う。
「そう、基地航空隊があるんでしょ?演習でもやってんじゃない」
「いえ、蘭花さんどの部隊も燃料不足は深刻です演習なんてやってる暇ありません」
「あ!ちひろさん相模湾沖でウロウロしていた部隊が横須賀の方に飛んで行きますよ」
ミルフィーユの指摘でちひろは感づいた。これは演習ではない敵の奇襲である。
ちひろの表情が変わる。女子特別攻撃隊天女隊烏丸ちひろの表情に。
「シャープシューターに無線は着いていますか?」
「え・・・・あー無線の周波数をリンクさせれば何とかなるかもしれないわ」
唐突の質問に蘭花が慌ててオンラインで周波数をリンクさせていく。
「止めてください!この口調は飛行気乗りの口調です」
「こちらは知覧基地所属女子特別攻撃隊烏丸ちひろ飛行兵伍長です。現在訳有り特別機に搭乗しておりますがこれより
横須賀上空の敵機を殲滅セントス」
通信を一方的に終えるとちひろはふぅと吐息を吐く
「ちひろさんカッコいいですぅ」
ミルフィーユも思わず見とれてしまう。
「えへへー特攻機はほとんど無線なんて着いてないの多いですから座学だけでやったのは初めてなんですよ」
『あ、やっぱりちひろだわ』
スイッチのON、OFFの凄さに内心蘭花は感心した。
「ところで蘭花さん、無線の返答が帰ってきませんけど大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫よ、あっちの電波が弱いだけでこっちのはクリアに聞こえているわ、ほら」
レーダー上の航空機が引き返すのを見てちひろも安心する。
「そういえばこんな事もできるのよ」
蘭花が左舷映像を超望遠してくれる。
「うぁ〜日の丸の航空機がいっぱい見えますよぉ〜でもなんか沖縄で見たのとは違うのもありますね」
「そうですね基地航空隊は新型を多く回せてもらえますから・・・」
ちひろがうらやましそうな目で零戦52型や雷電、そして新型を見つめる。
「雷電と零式艦戦はジャグ辺りが乗ってますねちょっと下手糞です」
「乗り方でわかるんですかぁ?でもジャクって?」
「新米さんの事ですよ。ええ、乗り方ですぐわかります!霞ヶ浦でよく見たものです」
ちひろが少し胸を張って答える。
「じゃああっちの新型機はベテランさんなんですか?」
「おそらくそうだと思いますよ、いいなぁ・・・新型機」
「搭乗経験ないんですか?」
ミルフィーユが尋ねる。
「天女隊は本来本土防空が目的だったんです。でも、女に回す機体なんてないってもっぱら21型か隼に乗ってました」
ちひろが少しむくれた声で話す。
「私たちの方が訓練時間も長いんですよ!あ・・・でも今はシャープシュータに乗れてとても嬉しいです」
「よかったですね、じゃあ頑張りましょう!」
「はい!横須賀航空隊にシャープシューターを操る天女隊隊長の威力見せ付けてやります!」
ミルフィーユがニッコリ微笑むとちひろもニッコリと微笑んだ。
「あ〜お話の途中に悪いんだけど」
蘭花が申し訳なくパネルタッチを終える。
「どうしたんですかぁ?」
「私なんか間違った事しましたか?」
「うんうん、オンラインにしたままだったの・・・」
蘭花が苦笑いを浮かべる。
「もぉ蘭花さんそれじゃこっちの会話いろんな航空隊に丸聞こえじゃないですか」
笑いながら蘭花の肩を叩くミルフィーユ、その横でちひろの操縦桿を持つ手が一瞬緩んだ。
65作者・名無し陸戦隊:2006/01/21(土) 23:26:32 ID:6UI5bJL5
昭和20年4月4日 午後4時40分頃 木更津飛行場
大沢少佐の訓示も終わり、発動機を始動させた連山の列へ向かって、迅雷隊の隊員達が一斉に駆け出した。
周りから、陣太鼓が盛大に鳴らされ、鎧袖一触や一撃必殺等の文字が、墨痕鮮やかに書かれた、旗が掲げられ風にたなびている。
木谷長官も、その様子を満足そうに眺めながら、飛行服を着込み、司令部の建物から出てきた。
士気は万全だ、後は作戦を仕掛ける間隔をうまく取れれば完璧だな・・・
今回の攻撃は、各航空隊との連携をとった、初の全体攻撃になる。
訓練の時は成功したが、本番で失敗したら元も子もない。
そうこうしている内に、滑走路には既に、連山隊に先立ち、かく乱役を勤める、
数機の彗星艦上爆撃機44型と、誘導係の彩雲艦上偵察機が、飛び立つ用意を整えていた。
「さて・・・では私も行くとするか・・・」
木谷長官は、連山の内の1機、空中指揮機のタラップを上った。
「長官はこちらの席へどうぞ」
機長に案内され、木谷長官は機長席の後方に設置されている、指揮官用の座席へと腰を下ろす。
「さて・・・では機長、発進してくれ」
「はっ了解しました。空中指揮機、発進します。」
大型機用の長距離滑走路へと誘導された、木谷長官の乗る、空中指揮機型連山が、
木更津基地整備隊仕様の4発の、特別製ハー43が馬力を上げて滑走路を走り始めた。
走行し始めてから、600メートルを切り、重い機体が少しずつ浮かび上がる。
「今だ!!」機長はすかさず操縦桿を引いた。
機体は一気に持ち上がり、まだ雲が立ち込めている空へと飛び立った。


66作者・名無し陸戦隊:2006/01/22(日) 23:07:04 ID:nhePbXin
昭和20年4月4日 午後4時15分頃 横須賀基地
横須賀基地上空に現れた、30機あまりの米軍機、カーチス・ヘルダイバー艦爆は、見事なまでの奇襲をかけて来た。
敵艦爆は、現れたと思ったら、一目散に、潜水艦桟橋に停泊中の特別機へ、向かって行った。
やがて無数の爆発音が、聞こえてきた。
「飛べる機体は無いのか!?」
横須賀航空実験部所属の神田飛曹長は、目標への爆撃を終えて、基地を縦横無尽に銃撃している。
「飛曹長!!ここは危険だ。早くこっちへ非難しろ!!」
同じ実験部所属の松岡少尉が、神田飛曹長の腕を掴んだ。
「少尉・・・」
「今からじゃ飛ぶのは無理だ、滑走路で的になりたいのか!!こっちへ来い」
神田飛曹長は近くの倉庫へ、腕を引き込まれた。
その傍を機銃弾が着弾して行く・・・
向こう側を見ると、奇妙な格好をした子供が、背広姿の男におぶられ避難して行くのが見えた。
おそらく、どこぞの海軍高官の娘が遊びに来ていて、丁度この事態に巻き込まれたのだろう・・・
「あんな子供にまで・・・かわいそうに・・・奴等、情けと言うものを知らないのか!!」
「とにかく・・・今は耐えるんだ。
もうすぐ迎撃に飛び立った機体も、戻るはずだ。」
己の無力さを嘆く、神田飛曹長を、松岡少尉が慰めた。

軍港では、停泊している戦艦長門を筆頭に、駆逐艦や海防艦、その他小艦艇が、ヘルダイバー艦爆に向けて、各自対空砲を撃ち出した。
その傍らで、港内に佇んでいる、戦艦長門よりも一回り程小さい艦がゆっくりと船体を動かし始めた。

「統制射撃装置異常なし!!」
「33号電探との接続完了!!」
高雄級によく似た、伊吹級の巨大な艦橋内部の電子設備から、操作員達が準備完了を告げていく。
「速度そのまま維持、方角そのまま、電探射撃用意!!使用弾、榴散弾!!」
伊吹艦長の与塚大佐の素早い指示が飛ぶ。
「速度維持、よーそろー!」
微速で前進する新鋭の防空巡洋艦、伊吹と鞍馬は、縦列隊形で間隔を開けながら
前後8基、両舷3基ずつ備えられた。
計14基ある、自慢の長10センチ連装高角砲の砲身を、遊弋する、3機のヘルダイバーへと向けた。
燃料にやや余裕があり、B29来襲時には、東京湾にて遊弋しながら攻撃を加える役目を持っていたため、
敵機来襲以前から、常時機関を始動させていた、防空巡洋艦伊吹とその姉妹艦である、鞍馬の二隻は、
戦艦長門より少々離れた位置に、二隻並んで停泊していたが、彼女達の搭載する新型の対空電探が、横須賀の傍まで来ている、低空飛行する機影を感知した事により。
伊吹級防空巡二隻を指揮する戦隊長、佐藤大佐が、敵機と判断して、伊吹艦長、与塚大佐と、鞍馬艦長、里能大佐へ、独断で移動指示を出したのだ。
その判断は的中し、他の艦に先んじて、潜水艦桟橋に爆撃を加えた、敵艦爆への攻撃準備を、整えることが出来た。
67作者・名無し陸戦隊:2006/01/23(月) 11:25:46 ID:N//fxuKZ
訂正です。
本文5行目>横須賀航空実験部所属の神田飛曹長が、空を見上げると、
ヘルダイバーは、目標への爆撃を終えて、基地を縦横無尽に銃撃している。
68猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/24(火) 00:36:11 ID:spvAjoby
横須賀上空  昭和20年4月4日午後04:10
雲を突っ切ると横須賀の軍港が視界に入っりフライングデビルも直ぐにわかった。
「4機存在していたのか・・・・・いたぞあの桟橋付近をやる!全機アタックポジション!」
爆撃隊に直ぐに浴びせられる対空砲火、しかし意外だったのかその数は少ない。
『今ならやれる!』
青い機体をセンターに捕らえると一気に急降下を開始する。
「今だファイヤー!」
1000ポンド爆弾が機体から外れると一瞬重力から開放されたような気分になる。
『そうだ!いい子だから外れるな!』
機体を引き起こしながら爆弾の命中を祈る。
次の瞬間、大きな爆発音と共に立ち上るきのこ雲。
「隊長ー!命中です!」
後ろから歓喜の声が聞こえてくる。
「よっしゃあー!」
左手でキャノピーを叩きロイは歓喜の声を上げる。他の機体も潜水艦桟橋目掛け爆撃を開始した。
「隊長達はブルーを叩いたか、では俺たちはグリーンを頂くぞ!」
「は!了解しました」
爆弾は面白いようにグリーンのフライングデビルに吸い込まれていき閃光が走る。
「命中です!」
「よし!ロイ隊長ご覧いただけましたか!」
高度を上昇させながら喜びに沸いているとロイからの無線が入る。
「ハロルド大尉、聞こえるか?」
「はい、感度良好であります!」
「見事な爆撃だった。お前の操縦を見込んで新たな任務を命令する」
「イエッサー!」
意気揚々とするハロルドの声にロイは少し目を緩める。この未曾有の奇襲作戦士気は落ちていなかった。
「お前の機はこれより等戦線を離脱、遠州灘方面へ飛行するんだ潜水艦が来ている」
「待ってください少佐!俺たちにも見せてくださいフライングデビルの最後を!」
「俺は裏の裏まで読む男でな・・・・」
無線からロイの声が静かに聞こえてくる。
「今ならジャップは艦爆1機よりこちらへ向かってくるはずだ。その間にお前は中部日本へ待避するんだ」
「隊長!」
「お前達は潜水艦と合流しパールハーバーへ今日見たことを全て報告するんだ!」
「それが終わればバカンスだぞ!俺たちよりも1週間多めに申請しといてやった。ワシントンに戻ってかみさんと子供に会って来い、グレン中尉お前もだ」
「は、はい」
「それからもう一つお前たちに任務を与える」
無線からロイの改まった声が聞こえる。
「ハロルド大尉お前のかみさんが焼いたチーズケーキは最高だった!休暇終了後パールハーバーに20人前持参せよ」
「グレン中尉、お前の実家は酒屋だったな!バーボンを20本持参して来い!・・・・わかったら行け!」
「イ、イエッサー!」
ヘルダイバーが1機西の空へと消えていった。
69猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/24(火) 02:11:29 ID:spvAjoby
東京湾上空 昭和20年4月4日午後04:20
鎌倉の大仏を視認する頃に横須賀で火の手が上がった。
「べ、米軍機め・・・・」
「あ!あれ私たちの紋章機が停泊してる所ですよ蘭花さん」
「わかってるわ、カンフーファイター・・・・大丈夫よね」
それぞれが燃える横須賀を見つめる。
ちひろはレーダーを確認しこの機体が横須賀に一番でたどり着けると判断し蘭花に質問する。
大型機でのドッグファイト、果たして隼や零戦のように戦ってくれるのであろうか?
「蘭花さん、シャープシューターでの戦闘は大丈夫なんでしょうか?」
「この機体の特性は中長距離戦を得意としているの、もう撃てるわよ左手のパッドをクリックしてトリガーを出してみて」
「こうですか?」
戦闘モード画面が立ち上がりロックオン式十字門がちひろの右目辺りに現れ適当なヘルダイバーを望遠して絞り込む。
「いいわ、撃ちなさい」
無言でトリガーを引くちひろ。機関砲とはちがい何の反動も振動もなく美しいレーザーが放たれまるで弓矢のようにヘルダイバーを射抜いた。
しかし威力が強すぎたのか尾翼を軽々と吹き飛ばしてしまった。
「こ、これが紋章機の力なんですね」
「そうですよ〜紋章機はとっても強いんです。あ、これも使えますよ」
今度は目の前にミサイルのシルエットが表示される。
「これは魚雷ですね!この機体は雷撃もできるんですか」
ちひろは紋章機の攻撃バージョンの広さに感心する。
「ちがうのこれはミサイルっていってう〜ん・・・・空飛ぶ爆弾よ」
「爆弾が空を飛ぶんですか!?」
驚愕するちひろは2機目のターゲットをロックしたかと思うとミサイルを発砲した。
上空でヘルダイバーが木っ端微塵に壊れてしまう。
「こんな事まで・・・・・」
操縦桿を持つ手が震えてしまう。
「大丈夫ですか?ちひろさん」
ミルフィーユが心配そうにちひろの顔を覗き込む。
「・・・・大丈夫です・・・・・戦えます!」
一気にスラスターを吹かして横須賀に突入するちひろ、もう誰も死なせないという決意がみなぎっていた。
70作者・名無し陸戦隊:2006/01/24(火) 21:16:00 ID:YD4uzS8Z
昭和20年4月4日 午後4時20分 横須賀工廠沖 防空巡洋艦 伊吹
「砲手、海に出た機体を狙え、基地上空へ向けて撃ったら、弾片が基地に落ちて、下の奴らに、被害が出る。」
「了解」
「今回ばかりは、米軍にしてやられたか!!」
戦隊長の佐藤少将は、双眼鏡を持つ手を悔しそうに震わせた。
防空巡洋艦、伊吹艦長、与塚大佐も闘士をむき出しにしながら、敵機を睨んでいる。
おそらく、伊吹の後方を追上している、姉妹艦、鞍馬艦長、里野大佐も同じ心境であろう・・・
比島沖海戦で2隻は、小沢冶三郎提督率いる。
第一機動艦隊の一員として、盾の役割を果たし、自らも損傷しつつも、大破した空母瑞鶴と瑞鳳、他の損傷した艦艇等を、
敵水上艦、航空機、潜水艦から守り抜いた。
礼号作戦に参加した後、北号作戦に参加して、本土に帰還した後も、
移動防空砲台として、横須賀を根拠地に、
横浜や芝浦、お台場沖を遊弋しながら、東京湾に飛来するB29や艦載機群を多数落としてきた。
守護者としての自負があった。
今回も、横須賀軍港に停泊している紋章機を守るために、横浜沖から、わざわざ呼び寄せられたのだが・・・
それが今、なすすべも無く、敵に攻撃を許してしまった。
せめてここで、何機か叩き落とさねば。
「高角砲、角度上げー!!目標前方のヘルダイバー艦爆!!用意・・・」
今まさに砲弾が発射される瞬間、それは突然に起きた。
「何だ?何が起こった!?」
佐藤少将は、双眼鏡に写る光景を目の当たりにして驚愕の声を上げた。
光の線が一筋、矢の如く飛んできたかと思うと、ヘルダイバーの尾翼を吹き飛ばした。
「艦長、伊吹の攻撃は?」
「いえ・・まだ我が艦の射撃は、まだ行われておりません。鞍馬の砲撃もまだの筈です。」
与塚艦長も目を点にしながら、光の線が飛んで来た空域を見ていた。
与塚艦長だけではない、艦橋にいる要員や外の機銃手達も、同じ様に空を見上げている。
「では一体・・・誰が?」
その時、艦内電話の受話器を手にした副官が、与塚艦長を呼んだ。
「艦長、電探に、北の方角、距離約6000に大型機らしき、反応が出ているそうですが・・・」
「6000だと!!まさか!?んっ・・・あれは!!」
又、爆発音が聞こえたかと思うと、今度は大型の墳進弾がヘルダイバーの1機に吸い込まれるように飛んで行き、命中した瞬間、爆散した。
そして大型墳進弾の、飛んで来た方角には、潜水艦桟橋に停泊している物とよく似た、大型のタービンロケット機が、1機、こちらへ向かって轟然と飛んで来る。
「あの機体が敵機を・・・・・」
佐藤少将達は、黒と紺で塗装された。
細長い砲身を持つ紋章機、シャープシューターを己がするべき事も忘れ、固唾を呑んで見守った。
71猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/25(水) 00:30:52 ID:ROBgPRyF
横須賀逸見乗船場 昭和20年4月4日午後04:20
フォルテ達が停泊しているパイロットボートに飛び乗った所で自分の頭の上をシャープシューターが通過して行った。
「シャープシューター!?ちとせも来たのか」
驚愕するフォルテを他所に船は松ヶ崎に向け急発進した。
「フォルテ君、武器は持っているか?」
正光は操船をしながらフォルテにたずねると彼女はリボルヴァー拳銃をちらつかせる。
「それだけか?」
「ああ、そうですよ!」
「上等だ!」
正光は白い歯を見せると更に船の速度を上げていった。
一方、爆撃隊は横浜方面から現れたシャープシューターに驚いて一瞬の怯みを見せていた。
「1000ポンド爆弾をフライングデビル3機に対して5初づつ命中させています!」
「しかし損傷が確認できない!」
後続の爆撃隊が爆弾を隣に停泊していた新鋭イ号401にも爆弾を数発ぶつけた為大爆発を起こさせてしまった。
そして間もなくイ号401に搭載されていた魚雷に引火し更なる爆発が起こった。



72猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/26(木) 00:06:17 ID:k2BuYKS1 BE:53898236-
横須賀港務部待避壕 昭和20年午後04:20
「こちらです!」
米内、ミント、角松の3人はとりあえず駅西側に陣取る港務部の待避壕へと避難していた。
米内光政海軍大臣の登場に港務部職員達は慌てふためいた。なんせ軍艦曳航業務等に順次するだけで海軍の中では庶務当たる仕事場である。
そんな場所に米内大臣がやってくるとは誰一人思っておらずわざわざ空襲の中事務所まで軍帽を取りに行く者まで現れていた。
「この壕に命を預けさせてもらうよ」
米内がドッシリと腰を降ろす。
待避壕は防空壕まで待避する際に間に合わない一時しのぎ用に掘られたもので塹壕のようであった。
「角松さん降ろしてくださいまし・・・・・」
肩で息をする角松にミントが恥かしそうに声をかける。
「すまんな・・・よいしょ」
子供を降ろすようにミントを降ろすとミントは頬を赤らめながら防空頭巾を取り髪を整え自慢の耳をパタパタさせる。
職員達は唖然とするが米内が動じないよう左手で合図する。
頭の上を無数のアーベンジャーがかすめていく中ミントは再びPCの電源を入れた。
「向こうの電波が弱いとお返事はきませんわよ、覚悟してくださいまし」
「ああ、わかっている」
「とりあえず生存も確かめさせていただきますわ、トリックマスターとオンラインします」
恐るべき速さで空中に現れた仮想キーボードを叩く姿に思わず見とれてしまう。
「でましたわ!トリックマスターのレーダーで捉えた艦船を全て表示いたしますわよ」
角松は祈るような思いで仲間と別れた海域周辺の船を見つめる。
「・・・どうですか?」
「恐らくこれではないだろうか?」
島影に潜む艦船を確認するとミントはその船を拡大する。
トリックマスターだけが持つ特殊機能で船の形が明らかになっていくと厳しかった表情に緩みが生まれる。
「これだ・・・・俺たちの艦、みらいだ」
「これが角松さんの乗艦されているみらいですの?」
1門の砲、シンプルなデザイン。九州沖でであった大和はずいぶんと異なった形にミントはこれが軍艦なのか疑いたくなった。
「これはエート戦艦ですか?それとも巡洋艦ですの?」
通信回線の準備をしながら角松に問う。
「あまり詳しい事は喋れんがこれはイージス護衛艦という種類に入るものだ」
「イージス護衛艦?」



73作者・名無し陸戦隊:2006/01/26(木) 11:03:11 ID:eDsezeba
昭和20年4月4日 午後4時45分 横須賀 追浜飛行場
空襲の合間を縫い、松岡少尉と神田一飛曹の二人は、97式自動二輪車に乗り込むと全速で走らせた。
しばらく走り、ようやく追浜飛行場にたどり着いた。
二人の下に地上員が駆け込んでくる。
「お二人とも御無事でしたか。」
松岡少尉は軽い口調で答える。
「ああ、何とかね、折角の非番が台無しだぜ」
神田飛曹長は側車から降りて飛行場を見回す。
「こっちには被害は無かったのか?」
「はい、敵機は一目散に工廠の方へ向かいました。」
「米軍の目的は初めからアレってことか・・・」
松岡少尉は、煙が昇っている工廠を顎でしゃくる。
「おおっ、お前ら無事だったか」
上官の萩原大尉がうれしそうな表情で、二人の下へ駆けて来た。
「帰って来てすぐで悪いが、飛んでくれないか?
3航艦から要請が来たんだが、ちょっとやっかいな話でな、それでお前達が一番、あの機体に乗り慣れているから・・・」
萩原大尉はそう言いながら、視線を後ろに向けた。
二人が向こう側を覗くと、駐機場から運び出された飛行機に整備員が取り付いて、なにやら作業を行っていた。
よく見ると、その機体は、今年不時着し、捕獲された、グラマンF6Fヘルキャット艦上戦闘機だった。
2機ある機体の尾翼には、横空の所属を示すヨー801・802の文字が刻まれてある。
修復され調査した後は、二人が乗り、迎激戦や模擬空戦に使用していたが。
それで飛ぶとは・・・確かに、厄介な任務のようだ。
整備員達は機銃弾を装填していき、胴体下の増槽と、両翼のラックに取り付けた墳進弾を点検している。
「とにかく用意しろ、他の奴らは準備してあるんだ、時間はあまり無いぞ」
萩原大尉は、二人の背中をポンを叩き、急ぐように促した。
二人はげんなりとした顔で、ずんぐり太った機体を見つめた。
74猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/27(金) 00:29:37 ID:cwBEJclF BE:59886645-
南洋諸島イージス護衛艦みらい 昭和20年4月4日
みらいがこの島に腰を降ろしてから早2年と数ヶ月、241名も島の暮らしに慣れ親しんでいた。
しかし、自艦の整備、雑務は1日たりとも欠かさず腕がなまらないよう訓練も1週間に数回行なっている。
そして本土に渡った角松の連絡を取り逃さないようCICには常に1人が配属されている。
「もうすぐ丸3年かぁ・・・・洋介の奴このままじゃ戦争が終わってしまうぞ」
みらい航海長尾栗康平三佐が同期生の砲雷長菊池雅行三佐に話しかける。
「昭和20年8月15日なれば俺たちはこの泊地を出航し横須賀に帰港しするだけの事さ・・・」
帽子を前向きに被りなおしながら菊池が背伸びをする。
「それじゃあ俺たちが洋介を探す事になるな?」
「そういうことだ」
角松は生きていると2人は信じ甲板を後にしようとしたその時である。
「砲雷長!副長からの電文が届きました」
みらいCICレーダー、通信士担当の青梅一曹が飛び出してきた。
「何、確かなのか?まぁいい直ぐ行く、康平!」
「分かってる艦長に連絡だろ」
菊池はCICへ尾栗はみらい艦長梅津三郎一佐を呼びに島の奥へと走っていった。
75猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/27(金) 01:06:50 ID:cwBEJclF BE:89829465-
横須賀港務部待避壕 昭和20年午後04:25
「すまなかったな」
角松がミントにPCを返そうとするとミントはそれを制した。
「まだ持っていただいて結構ですわ、空襲が止めばまたお話することもできるかもしれませんわよ?」
「そうか?じゃあお言葉に甘えさせてもらうとしよう」
そういうと角松はPCを背広の内ポケットへとしまい込んだ。
「凄い火柱だ!特別機隣のイ号がやられたらしい・・・・」
待避壕から顔を出して外の様子を伺っている兵士がその火柱に驚愕している。
「本当ですの!?」
ミントが慌てた様子で兵士の横から顔を出す。
「迎撃機は上がってないのか?」
角松が後ろにいた下士官に尋ねると彼は無言で空中を指差す。
「あ、あれは・・・・」
大型のジェット機が低空で旋廻しながら敵をなぎ払っていく、しかし旋廻は未熟で大きく距離をとってしまうようだ。
「紋章機・・・・・」
米内も上空を見上げ、目を見開いた。
「ミントさん、エンジェル隊の紋章機は全部で5機と聞いているのだが」
「あれはシャープシューター・・・・トランスバール皇国軍、ツインスター隊所属の機体ですわ」
ミントも何が起こったのかわからないような表情で米内に説明する。
「ミント、まさかもう1機伏せていたんじゃないだろうな」
角松の声に鋭さが出てくる。
「そんな事をしてなんになりますの?どういう理由かはわたくしにもわかりませんわ」
ミントの顔つきも厳しくなる。
「ともあれミントさん、あの紋章機に戦闘を中止するよう伝えてはくれませんか?」
2人の会話に米内が割ってはいる。



76名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/30(月) 19:51:48 ID:eilDuP5p
作者忙しい様だな
まあマターリと保守とくわ
77猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/31(火) 00:09:37 ID:Lhe1tbzo
横須賀上空 昭和20年午後04:30
「数分で3機も撃墜できるなんて・・・・・」
狭い横須賀上空で急旋回を続けながら孤軍奮闘、敵を迎撃しているちひろはその戦果に驚きの声を上げる。
「蘭花さぁ〜ん気持ち悪いですぅ〜」
ミルフィーユは横で目を回している。
「あんた吐いたらぶっ飛ばすわよ!」
狭いコックピットでできるだけ射程距離から蘭花は離れようとしている。
その時、目標のヘルダイバーがこちらに向け後方の機銃を発砲してきた。
「あぶない!」
シャープシューターは大きく右へ回避運動をおこなう。
「あんな豆鉄砲回避しなくても大丈夫よ!」
すぐに蘭花の突込みが入るが日本軍機に乗りなれているちひろにとっては紋章機の重装甲、シールドなどは想定外であった。
「すみません、重装甲戦闘機なんて初めてなんです!」
そういいながらもまたミサイルをヘルダイバーに浴びせる空中で機体が大爆発をおこす。
「やりました!」
「ちとせさぁーんがんばってくらさい」
ろれつの回らないミルフィーユの応援に励まされながらもう一機をロックオンする。
その時、ミルフィーユがたたんだちとせの服からミントの声が聞こえる。
「はい〜?」
「あ・・・ちとせさんですか?ミントですわってミルフィーユさんじゃございません事?」
「はい、そうですよ〜ミントさんこそどうしたんですか?」
「ちとせさんと代わってはいただけませんか?」
ミルフィーユではらちが明かないと感じたミントはちとせにつなぐよう指示する。
「あ〜あの今この期待を操縦してるのちひろさんですよ、ビックリしましたか?」
「えー!でもシャープシューターはツインスター隊の管轄ですわよね?何故ここに」
「え〜と・・・雷さんがドカーンてなった時にお空からぴゅ〜って落ちてきたんです、それでちとせさんが乗ってるかな〜って思ったらいなかったんですよ」
ミントの表情がイ一瞬曇る。
「何故ちとせさんはいらしゃらなかったんでしょうか?その機体はちとせさん以外では・・・」
「私にもわかんないですよぉ、ちとせさんの制服とシャープシューターだけが落ちてきたんですぅ」
「やはり・・・・ミルフィーユさんちひろさん・・・・」
通信がプッツリと切れてしまう。
「え・・・なんですか?ミントさん!ミントさん!」
ミルフィーユが必死に呼びかけるもクロノクリスタルの反応はなかった。


78猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/01/31(火) 03:03:39 ID:Lhe1tbzo
横須賀港務部待避壕 昭和20年午後04:35
唐突の出来事であった。対空砲火に撃ち落されたヘルダイバーが待避壕付近を直撃したのである。
「大丈夫でしたか、あと少しで首を持っていかれるところでしたね」
若い港務部の職員が通信に夢中なミントに覆い被さってくれた。
「だ、大丈夫ですわ・・・重いですから早くどいていただけません事」
少し顔を赤らめながら職員を押すように身体に触れると手袋をとおして手が濡れる感覚がつたわてくる。
手を確認しようとした時職員は横にドッサリ仰向けに倒れた。
「どうしましたの!きゃ!」
鮮血が地面へとあふれ出している。
「無事だったか・・・・ミント君・・・・」
「米内さん!何処にいらっしゃいますの?」
米内が左手を上げるとミントは急いでその場に駆けつけた。
「あぁぁ・・・・米内さん足が」
米内の両足に墜落したヘルダイバーの破片が無数に刺さり血が吹き出していた。
「う・・・あ、大丈夫ですか米内さん!」
一瞬ミントはソッポを向いたが直ぐに心を落ち着け米内の介抱をしようとする。
同じ頃角松も砂利を払いながら立ち上がっていた。
「角松さんお医者様を!」
「わかったちょっと待ってろ!」
角松は待避壕を飛び出すと横須賀海軍病院の方へ駆け出そうと背を向ける。
「角松さんミント君を頼む!」
温厚な米内の怒声が響くとミントを両手で抱え塹壕の外に放り投げた。
角松も振り返った時には何かわからなかったが状況は直ぐに理解できた。
塹壕間近で炎上するヘルダイバーの胴体・・・・爆弾がまだ爆発していない。
放り出されたミントの首根っこを掴むと数十メートル先岸壁へ走る。
『間に合ってくれ!』
岸壁まで後数メートルの所でミント引き上げ抱きしめる形を取った時一瞬重力から解き放たれた間隔が角松を襲う。
そしてその身体を軽々と岸壁から海へと叩き落した。
寒い水中に飛び込んだ瞬間、炎が岸壁を駆け抜けあらゆる破片なども降ってくる。
浮上を待つ間に衝撃波や火柱は止み角松もミントを抱えながら近くの桟橋に這いずりあがった。
「ハァハァハァ、怪我はないか?」
「ケホケホ」
海水を少し飲んでいるのかむせ返って角松の問いかけにミント答えられない。
数分後、ミントの落ち着きを確かめた角松は桟橋から港務部の待避壕があった場所へと様子を見に伺った。
惨状である。
人かも分からない亡骸があちらこちらに転がっている。
「う・・・・」
ミントが目をつむってそっぽを向く。
その時、角松は帝都の料亭や横須賀行きの車内でミントが語った事がフラッシュバックした。
『ミントの住んでいるトランスバールという時代の戦争では人滅多に死なない』
『親の干渉を嫌い、ブラマンシュの肩書きから逃れるため』
その言葉が耳を駆け抜けたとき角松は腸の煮えくり返る思いがした。
「ミントお前も見ろ!」
ソッポを向くミントの顔を無理やり亡骸の方向へ向ける。
「やめてくださいまし!私は、私は!」
ミントは角松の手を振り解こうと必死に暴れる。
「う・・うぅ・・・こんなのって・・・」
「戦争は人が死ぬものだ、血の通った人間同士が戦うのなら必ず・・・・」
手を緩めるとミントはその場にペタンと腰を降ろしてしまう。
「野蛮ですわ・・・わたくしはわたくしはこんな血のいっぱい出る戦場をみたいのではありませんわ!」
ミントは普段絶対に見せない本心で角松に言い放った。
パン!
ミントの左頬を衝撃が襲う。
「馬鹿野郎!これが両親の干渉を嫌ってお前が望んで入った世界だ!」
純白の手袋は真っ赤に染まり角松にぶたれた所をミントは無言で押さえた。
「俺はトランスバール皇国軍がどんな組織だかは知らねぇが、お前もその軍服を着てる以上は今この状況を把握し行動しろ!」
角松は待避壕に手を合わせると、上空を飛ぶシャープシューターにその視線を送る。
『エンジェル隊、俺はお前たちを許さん!』

79作者・名無し陸戦隊:2006/01/31(火) 19:04:32 ID:Mko/Q94F
昭和20年4月4日 午後5時 横須賀沖
急ぎ早に追浜飛行場を離陸する、松岡少尉と神田飛曹長の乗った2機の、鹵獲ヘルキャットは、高度を上げ、
離陸前にあらかじめ指定された、空域へと飛行していた。
後続には雷装した、222空の流星艦攻6機が、追上している。
本当にうまく行くのだろうか?
それが、松岡少尉と神田飛曹長の今の感想だった。
萩原大尉から、聞かされた作戦内容は、全く無茶なものだった。
まず木更津の攻撃隊に先んじて、2機の鹵獲ヘルキャットが、米軍機になりすまし、敵艦隊の旗艦を狙い、指揮系統を混乱させると言うのだ。
その後、空母を攻撃し、直援機が上がるのを阻止しなければならない。
その隙に、6機の流星艦攻が敵の防空体制に穴を開け、最後は迅雷攻撃隊の連山が止めを刺すことになる。
しかし敵も馬鹿ではないだろう、電探に引っ掛かれば、必ずこちらを警戒する筈だ。
その疑問に対して、整備員は、敵の電波識別装置が生きているので、心配いらないと言った。
その答えに、釈然としなかったが、とにかく今は信じるしかない。
そろそろ指定された辺りの筈だが・・・
松岡少尉が、辺りを見回していると、突然、無線機が作動した。
雑音がやんで明瞭な声が入ってくる。
「・・・聞こえるか、そこの横空の機体聞こえるか?
こちら空中指揮官、君達の上右の方を飛んでいる。
分かるか?・・・」
無線の声に従って、右前方を見ると、何本もの空中線が付いた連山が1機、飛んでいた。
「これから君達を敵艦隊まで誘導する。
 指示に従ってくれ。
ヘルキャット2機はそのまま高度を維持。
艦攻隊は高度を下げるように。
では諸君、敵に目に物を見せてやろうじゃないかハッハッハッ」
「本当にうまく行くのか心配になってきた・・・」
松岡少尉は頭に手を当てて呻いた。
80作者・名無し陸戦隊:2006/02/01(水) 19:01:22 ID:et9Viefu
昭和20年4月4日 午後4時50分 伊豆諸島沖
攻撃隊の囮任務を終えた、生き残りのF6Fヘルキャット隊は、ボロボロになりながら帰路についた。
もっとも、隊と言っても数は、出撃前の4分の1程度にまで落ち込んでいたが・・・
損傷がひどい機体は、途中で高度を落として行き、海に没し、残りの機体にも、今も飛んでいるのが不思議なくらいの物もあった。
夕方になって、日も沈み始めており、母艦の位置も合っているのか心配になるパイロット達の目の前に、
今、砂漠で見つけたオアシスの用にも思える、艦隊の姿が現れた。
トーマス・C・キンケード提督率いる、任務部隊の形成する、輪形陣が大きく広がっており、
4隻の空母は、帰ってきた、艦載機の着艦準備を整えていた。
81作者・名無し陸戦隊:2006/02/01(水) 19:57:08 ID:et9Viefu
上の続きです。

空は夜になろうとしており、辺りは暗くなりつつあった。
海上には、時折強い風が吹き荒む。
艦隊上空には、各地に散り散りになっていた、部隊も次々と帰投して来ており、
燃料も残り少ない、F6Fヘルキャット戦闘機やドーントレス艦上爆撃機が、
次々と着艦を開始した。
その中、1機のヘルキャットが空母ガダルカナルに着艦する。
ヘルキャット戦闘機は、着艦フックにロープを引っ掛けて、強引に飛行甲板に乗り上げると、
キャノピーが開く、中からパイロットのジョーンズ中尉が現れ、甲板の上へと飛び降りた。
穴だらけのヘルキャットに、甲板要員が取り付き、大急ぎでエレベーターへと機体を押し出した。
カサブランカ級空母は、排水量1万トンにも満たない護衛空母だ。
航空甲板はタダでさえ狭いのである、早くスペースを空けないと、次の機体が降りられない。
その光景を尻目に、ジョーンズ大尉は、額の汗を拭い、大きく息を吐いた。
「クソッ、誰だ!!本土のジャップの戦闘機隊は旧式ばかりで、パイロットはルーキーしかいないなんて、ほざきやがった奴は!?
サム(烈風)にスタン(閃電)がいるなんて聞いちゃいないぞ。
おまけにパイロットはベテランばかりじゃねーか、
奴らには、エンガノやレイテで散々いやな目に合わされてるんだぞ。
ホラ吹いた野郎、今度見つけ出してぶっ飛ばしてやる!!」
ブツブツとぼやくジョーンズ中尉の脇で突然、悲鳴が上がった。
「ああっホーランディアが!!」
その声のする方へ、振り向くと、後続のホーランディアの艦載機が、着艦に失敗し航空甲板上で燃え上がっていた。
かがり火の様な炎が暗闇に浮かぶ・・・
「クソッタレが!!」
これではしばらく、艦隊は行動を制限されてしまう・・・
消火作業をするホーランディアに、駆逐艦が支援に向かって行った。
82作者・名無し陸戦隊:2006/02/02(木) 19:20:22 ID:XvQFygLt
昭和20年4月4日 午後5時10分 伊豆半島南部海域
木谷長官に続いて、木更津を飛び立ってしばらく経った。
星が出始める空の下、9機の連山隊は翼端灯を点灯させ、横1列に編隊を組み突き進む。
「各機、機銃の試射と装置の調整を済ませるように」
1番機に乗る、大沢少佐は指示を済ませると、
副操縦士に操縦桿を預け、席を立った。
大沢少佐は、操縦席を出ると、ぼんやりと小さな電灯が点いた機内を進み、爆撃手席へと向かう。
爆撃手席には、人影がしゃがんで、何やらいじっていた。
大沢少佐は人影を確認すると声をかけた。
「調子はどうだい?技術屋さんよ」
声に反応した人影は、顔をこちらに向ける。
「あっ大沢少佐、この通り、機械の調子なら万全ですよ。」
作業の手を止めた海軍技術研究所の桜沢技術少佐は、目の前に据え付けた装置を軽く叩いた。
「しかし、わざわざあんた自身が出向かんでも良かろう、危険じゃないか、
もし万が一の事があったら、取り返しがつかんぞ」
「いえ、後方にいるばかりでは有効な兵器は作れませんし、
〇ケ兵器の製作に関わった者としましては、ぜひとも効果を確認して置きたいですしね。」
9機の連山が搭載している爆弾は、桜沢技術少佐達が開発した、特別製であった。
〇ケ兵器と呼ばれた特殊爆弾は、1500キロ鉄鋼爆弾をベースとした電波誘導式のリモコン弾であり重量は2000キロにも及ぶ

日米開戦直後、戦線の拡大が進み、陸海軍はこの兵器に対して、共同で研究を開始する。
基礎研究を進めていた最中には、ドイツ太平洋艦隊の艦船が運び込んだ、豊富な技術資料が日本に提供された。
提供された技術資料には、航空機材、陸戦兵器や各種ロケット弾、陸海空軍の戦闘データに、音響追尾魚雷・ツウァンケーニヒ等があったが、
その中でも〇ケ兵器の開発に従事していた、技術者達の目に留まったのは、
1943年、地中海にて、連合国に寝返ったイタリア軍の戦艦ローマに対して、ドイツ軍が使用した。
フリッツXやヘンシェルHs293誘導弾のデータだった。
これらを参考に製作は急ピッチで進められ、19年夏頃には数種類の試作品が完成した。
19年に入ると、米艦隊の対空防御が格段に強化されており、もはや通常攻撃で対応するのは困難となっていた。
この状況に悩む海軍首脳部は、体当たり攻撃と言った、思いつきを戦法を採っていくのを尻目に、
木谷鷹空中将は誘導兵器に目を付けて、当時発足したばかりの、
連山を装備する迅雷特別攻撃隊と組み合わせる事を思いつき、行動に移した。
その量産型は今、迅雷特別攻撃隊に搭載されて、実戦に投入されようとしているのであった。
ちなみに他には、1400キロのイ号甲型や680キロのイ号乙型も存在する。
83猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/02(木) 23:19:51 ID:chCpBcGN
横須賀港内潜水艦桟橋付近 昭和20年午後04:50
ヘルダイバー30機の猛攻と対空砲火であたりは騒然としている。
横須賀港内に停泊している艦も必死の対空砲火で応戦しシャープシューターも慣れない操縦ながら敵を撃墜に追い込んでいる。
しかし、ヘルダーバーも爆撃の手を休めることなく火災は松ヶ崎地区の造船所でも起こり始めていた。
兵士や整備士はドッグに入港している艦や中破しているカンフーファイターを守るため機銃掃射の雨ふるなかもバケツリレーを続けてくれた。
「くそ!火の勢いが収まらんと桟橋に近づけなそうだね」
遮蔽物から顔を覗かせながらフォルテは舌打ちする。
「ちょっと!ヴァニラさんをまた危険な目に合わせて何を考えてるんですか」
ノーマッドの文句をサラッと無視するともう一度顔を出す。
「走れないこともないがヴァニラは無理だな・・・・」
「すみません・・・・・」
「いやいいんだよ。無理はいけないからね」
その時後ろから正光が兵士数人と走ってきた。
「だめだフォルテ君。火の回りが速い、紋章機の方は大丈夫なのかね」
「そうですね構造上はこの程度の爆撃で壊れるとは思いませんよ」
「ただシールド張ってないからフレームが心配ですね。それに外付けの武装や計器も心配です」
ノーマッドが代弁する。
「分かった。敵機の侵入コースを防がせろ!弾幕を張って紋章機を守るんだ」
「はっ!」
兵士の一人がクルリと後ろを向いて走っていいった。
ヴァニラの額から汗が滴り落ちる。爆撃に晒されイ号が炎上しているため隠れているとはいえかなり暑い。
「フォルテさん退却しましょう、このままじゃローストチキンになりますよ」
「ち!しゃーなー500メートル後退するよ烏丸大佐も下がりましょう、紋章機はこの程度じゃやられません」
「分かった!後退するぞ上空を警戒しながら下がれ」
兵士が先に走って通路を確保する。
「ヴァニラ走れるね!」
「はい・・・」
「よしじゃあ」
ヴァニラの手を兵士が乱暴に引こうとした時、正光が一旦制止をかける。
「彼女は少尉だ。丁重にな」
「はっ、失礼しました!こちらです」
今度は丁寧にヴァニラの手を引き走り出した。
84猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/03(金) 00:05:58 ID:chCpBcGN
横須賀港内上空 昭和20年午後04:50
フライングデビルはまた米軍に牙を向いた。
1番に爆弾投下を成功させたロイは前後20ミリ機関砲と7.7ミリ機銃を駆使し対空砲に浴びせる。
「ジャップの艦船からも撃ってきてますね隊長」
「ああ、 フライングデビルもきている!しかしパイロットはルーキーだ動きで分かる」
しかし、既に僚機数機は悪魔の餌食となっていた。ドーントレス隊も突破できたものはいなかった。
「これでは作戦成功とは言えん!」
キャノピーを強く叩いて旋廻すると燃え盛るフライングデビルに近づこうとする兵士が数名見えた。
「アクロバットやるぞ!」
後方に言い放つとロイはフットバーを叩いて機体を加速させる。そして大空にトンボを描くと対空砲火をものともせず桟橋方向につっこんで行く。
「やらせるかぁぁぁ!」
トリガーを引くと20ミリ砲の弾丸が勢いよく飛び出していく。そして次の瞬間逃げ行く兵士の横にぬいぐるみを持った女の子目撃する。
「何!」
兵士は女の子に覆いかぶさって行ったがおそらく数発は命中してるであろう。
高度を再び上げながらロイは初めて戦場での罪の意識に襲われた。


85作者・名無し陸戦隊:2006/02/04(土) 21:13:58 ID:fgfnSZZh
昭和20年4月4日 午後4時50分 横須賀工廠沖 防空巡洋艦 伊吹
夕暮れ時の暗い、大空を虻の如く、遊弋する、米軍機の周りを、轟音と共に8つの爆発が起きる。
高角砲弾の破片がそばにいた、ヘルダイバーの胴体を砕いていった。
「1機撃墜っ」
「自発装填完了、照準ヨシ」
「1番から4番高角砲、目標右舷敵機群、てぇっー」
前部甲板の長10センチ連装高角砲群が砲身を震わせた。
シャープシューターの出現に驚いた、防空巡洋艦、伊吹であったが、それも一時の事であり、
自らも我に帰ると、すぐに戦闘を開始した。
少しでも攻撃圏内に入ろうとする敵機がいたものならば、電探と光学測定の併用によって統制された、濃厚な弾幕が襲い掛かった。
伊吹・鞍馬の2隻を合わせて、すでに撃墜破、計10機は下らないのではないだろうか?
しかし敵機は未だに、施設に掃射を加えており、一向に勢いが衰える気がない・・・
「艦長、工廠の被害はどうか?」
「入ってきた通信によりますと、桟橋の方面は、伊号潜水艦の炎上が酷いようです。」
「ではこちらも支援するぞ、桟橋の方へ近づく敵機をけん制しろ、
後、そこのフネを援護するんだ。」
佐藤戦隊長の指が指し示す先には、果敢にも、炎上する潜水艦に近づく特務駆潜艇が消火作業に向かおうとしていた。
僅か100トン未満の、特務駆潜艇は簡易製造可能で、漁船程度しか建造していない、造船施設でも生産出来るが
木造艦であるため、機銃掃射でも船体が貫通してしまう程、防御力が無い。
もし狙われようものなら、簡単に沈没してしまうだろう・・・
急いで援護しなければ、消化作業に支障が出る。ここは守ってやらなければ・・・
その時、1機のヘルダイバーが、桟橋付近で消火活動中の兵士達を、機銃でなぎ払っていくのが、与塚艦長の目に写った。
「あの野郎!!」
与塚艦長の頭に怒りがこみ上げる。
「左舷3・4・5番機銃、桟橋付近を遊弋するヘルダイバーを撃て、これ以上やらせるな!!」
与塚艦長は、伝声官に向けて、声を荒げながら指示を下す。
艦橋脇のボ式40ミリ連装機銃が備えられた、電動式台座が作動し自動的に目標の敵機の方角を指向した。
操作要員は砲身の射角を上げ、照準をヘルダイバーへと合わせた。
照準が定まり、機銃手がすかさず引き金を引く、その瞬間、艦橋脇の機銃群から、猛然と太い火線が突き上げた。
米軍の対空砲火で言う所の、アイスキャンデーにも引けを取らない、その機銃弾の嵐は、ヘルダイバーが飛んでいる、桟橋付近上空を目掛けて、一直線に向かって行った・・・
時を同じくして、相模湾上空での空戦を終えて、敵機来襲の報を聞きつけた、制空隊の戦闘機隊も、三浦半島に入り、横須賀へと急ぎ向かっていた。
「まだか・・・落ち着け・・後少し・・・後少しで横須賀なんだ・・・」
近藤中尉は独り言のように呟き、自身に言い聞かせながら操縦桿を握り締めた。
86猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/05(日) 23:19:25 ID:Y360C47p
横須賀港内上空 昭和20年午後04:50 昭和20年午後04:50
「ちひろ右よ!」
「左からもきましたよ!」
蘭花とミルフィーユが左右からヘルダイバーの接近を知らせるとちひろはレーザー砲の照準を合わせ攻撃を加える。
「大丈夫ですかぁ?」
「はい、ようやく戦闘にも慣れてきました。装甲やら被弾を気にせず戦えるのは楽ですね」
「油断はだめよ!地形の入り組んでる所だから下手すると山にぶつかるわ」
「はい、蘭花さん」
ちひろは少し緩んだネジを巻きなおして再び攻撃態勢に入る。
『シャープシューターは私の思うととおりに動いてくれている、大丈夫まだやれるわ』
「あ!ちひろさんあれを拡大してください」
「はい!」
ちひろがミルフィーユが指示した場所を拡大する。そして3人に衝撃が走った。
「ヴァニラさん!」
エンジェル隊の美しい制服をヴァニラの鮮血が深紅色に染め上げている。
「ヴァニラ!」
一向に反応しようとしないヴァニラの身体、すぐにフォルテと正光が駆け寄っているのを発見できた。
「ヴァニラさん・・・・」
ちひろの頬を涙がこぼれる
その時、シャープシューターに振動が起こり始める。
「はっいけないわ!ちひろテンションを上げてでないと紋章機はいう事を聞いてくれないの」
「分かってます!でも、でも、私はまた守れなかった・・・・ヴァニラさんを・・見ごろ」
「大丈夫です!ヴァニラさんは強いです!絶対に死なないです!」
蘭花より先にミルフィーユが目にいっぱい涙をためながら大声を出した。
「ミルフィーユ・・・・」
「ミルフィーユさん」
「わたしをあそこに降ろしてください」
そのまっすぐな指先で潜水艦桟橋の隣を指差す。
イ号の火災で紋章機の様子はうかがえなかったかったがミルフィーユは確実のその先に愛機ラッキースターがあると確信し指をさしたのである。
87猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/07(火) 00:30:19 ID:Dxn0jwgS
横須賀港内潜水艦桟橋付近 昭和20年午後05:00
「ヴァニラ!ヴァニラ!」
「ヴァニラさん!目を開けてください!」
一瞬の出来事だった。ヘルダイバーがヴァニラの背後に現れたかと思うとその放たれた弾丸がヴァニラの身体を打ち抜いたのだ。
「早く担架をもってこい!」
正光が担架の指示を出している。
その時、戦闘をしていたシャープシューターがこちらへと降りてきたのだ。
「シャープシューター・・・」
フォルテはヴァニラの傷口に砂埃が入らないよう上に覆いかぶさる。
「ヴァニラ!」
「ヴァニラさん!」
ミルフィーユと蘭花がなみだ目で飛び出してくる。
そして最後にちひろが姿を見せた。
「ミルフィーユ・・・・蘭花?それにちひろ?」
フォルテはてっきりちとせが搭乗していると思っていたようだった。
「説明は後です!皆さんシャープシューターに乗ってください!」
ノーマッドを拾い上げ入り口に放り込むと正光、ヴァニラを抱えたフォルテそして蘭花をシャープシューターの乗せる。
「行ってください!」
ミルフィーユはそういうと桟橋に走り出だした。
「ミルフィーユ!何処へ行くの」
「ラッキースターを取ってきます!」
ミルフィーユの姿が黒煙の中に消えていった。
「ミルフィーユ!」
「ちひろ出しておくれ!」
フォルテはヴァニラを寝かせるとそう言い放つ。
「はい!」
「そんな・・・フォルテさ」
「今はヴァニラを助けるよ、大丈夫さ蘭花、あいつなら・・・」
「・・・はい」
シュンとしながら飛び降りる体制を解いて蘭花は座り込んだ。
「ちひろ、横須賀海軍病院にいきなさい」
「はい父様・・・」
シャープシューターがゆっくりと離陸していった。
88作者・名無し陸戦隊:2006/02/08(水) 21:39:55 ID:ya3xhkhf
昭和20年4月4日 午後5時40分 米艦隊上空
飛行する事、早約一時間近く経過していた、編隊はだいぶ海上に出て来ていた。
今の所、単調な飛行が続いているが、周囲は夜になろうとしており、松岡少尉の後方を飛ぶ、神田飛曹長機の翼端灯が点滅する。
周囲には目標物の無い一面の海、航法担当の乗る、複座機、三座機はともかく、単座機の搭乗員は、慣れていないと機位を見誤りそうだ。
その時、松岡機の無線に再び、落ち着いた声が入って来た。
前方に高度を取って飛行する、木谷長官の連山からだ。
「各機、敵艦隊が見えてきたぞ、12時方向、距離約五万と言ったところだ。」
その言葉に、松岡少尉も目を凝らして、前へとよく見ると、暗闇の海に小さく光る物があった。
「あれか・・・?」どうやら敵艦隊に何かあったらしい、光る物は炎の様だった。
もしかすると、いずれかの艦に火災が発生しているのかもしれない。
「空母の一隻に火災が発生している模様だ、陣形に乱れが生じている。
松岡・神田両機は、そのまま敵艦隊に、突入せよ。
右側中部が一番外輪が崩れてる。そこから入り込んでくれ。
敵艦隊は、こちらが仕掛けた陽動で、まだ我々に気づいていないはずだ。
目標は、空母の前方付近を航行している、ニューオーリンズ型重巡の1番艦を狙うんだ。
後、攻撃は艦橋に集中してくれ。くれぐれも間違えないように、いいな。
では健闘を祈る。」
「くそっ、やればいいんだろ、やれば、
神田、行くぞ、ああ、もうなるようになれ」
半ばやけ気味の松岡少尉と、神田飛曹長の鹵獲ヘルキャットは、速度を上げると、敵艦隊の中へと突入した。
輪形陣の外延を航行する、フレッチャー級駆逐艦の上空を横切り、火災を起こしている空母を目印に、機体を旋回させた。
前方に一度回り込む為だ。風防越しに艦の乗組員達がこちらを見ているのがわかる。
これからしようとしている事を考えると、松岡少尉は可笑しくて、つい笑いがこみ上げてしまう。
だがまだ油断は出来ない、機体塗装は鹵獲時の濃紺色だが、マークは白い星ではなく、日の丸に書き換えている。
もしばれたら、即対空砲火が飛んで来るだろう・・・
だが、暗くてよく見えてないのか、敵艦からは大きな反応は見られない。
目前には、ニューオーリンズ級重巡洋艦が迫っている。
高度を下げて艦橋に視点を合わせた。艦橋の大きな鐘楼がぐんぐんと迫ってくる。
この頃になって、周りの艦の乗組員が騒ぎ出した。中には盛んに腕を振って声を張り上げている者もいる。
多分、衝突するぞ、とでも言っているのだろう・・・
松岡少尉は照準機を睨み、艦橋の明かりに向けて機銃を発射した。
機銃弾が当たると火花が散り、艦橋のガラスは割れて、細かく飛び散った。
機銃の弾道を確認しながら、墳進弾の発射握を押した。
両翼から飛び出した、6発の墳進弾は、煙を吐きながら緩やかに、機銃の弾道を辿っていき、何発かが、艦橋付近に命中して爆発した。
それと同時に松岡少尉は、操縦桿を引き、艦橋脇をすり抜けた、
後ろをむくと、丁度、艦橋内部に飛び込んで爆発したらしい墳進弾が、艦橋内部で爆発したところだった。
艦橋の明かりは消え、窓ガラスが一瞬にして吹き飛んだ。
後続の神田飛曹長も同じく攻撃を終えて離脱する。
「攻撃は成功だ、とっとと引き上げるぞ」
2機は、高度を上げて、敵艦隊からの離脱を図る。
ようやく日本軍機だと気づいた敵艦艇から対空砲火が現れるが、混乱している為か、どれも明後日の方向に飛んでいく。
2機が敵艦隊の外輪を抜けたと同時に、後方の敵艦艇の船体から、数本の水柱が上がった。
大きく距離をとり対空砲火の射程外に抜けた二人は、一度高度を上げて、敵艦隊の様子を伺った。
見ると右側の駆逐艦が3隻も沈み始めており。さらに1隻も、船体が除々に海面に沈み始めており、乗組員がゴムボートやランチに移り始めていた。
混乱に乗じ艦攻隊が、超低空から雷撃を敢行したのだ。
89猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/10(金) 01:50:20 ID:9C5/RQuD BE:89829656-
横須賀上空 昭和20年午後05:20
30機のうちフライングデビルに爆弾を直撃させたのは13機、撃墜11機と今回の戦果的には略成功に近い形となった。
ロイも敵航空兵力を恐れフライングデビルの破損具合を確認するのもそこそこに洋上へと離脱していった。
ミルフィーユもラッキースターで迎撃に上がったが時既に遅し、爆弾を投下したアーベンジャーはラッキースターの姿を見るなり逃げの一手を取った。
イ号や雑務艦の燃える炎が夕闇を焦がしている。
消火作業も紋章機の停泊している付近を中心に勧められている。
「フォルテさん撤退を確認しました」
「あいお疲れさん、すまないがミルフィーユしばらく横須賀航空隊の対空警戒の協力してやっておくれ」
「はい、了解しました」
ミルフィーユは通信を切ると大きく旋廻し警戒飛行に入った。
一方海軍病院に担ぎ込まれたヴァニラは手術室に入り緊急手術が行なわれた。
「ヴァニラさん・・・・・・」
「ノーマッドさん・・・大丈夫ですよ。私も沖縄で肩に弾を喰らいましたが・・・・」
「何言ってるんですか!あの傷だってヴァニラさんがいなければ重症なんですよ!」
「ごめんなさい・・・・」
ヴァニラの代わりにノーマッドを抱いているちひろはシュンとする。
「ヴァニラ・・・・大丈夫だよな・・・」
フォルテも落ち着かない様子で廊下を行ったりきたりしている。
正光は被害の報告と確認に横須賀鎮守府へと出向いていった。
米内、ミント、角松の3名は連絡がとれず。
エンジェル隊にとってこれはある意味敗北だったかもしれない。
その時である。横須賀海軍病院にも米内光政大将戦死の一方が飛び込んできた。
そして、それと同時に負傷者を運んできたトラックに ミントの姿を見つけ出す。
簡単な治療を受けた後、ミントは下士官に付き添われ手術室前の廊下へと姿を現した。
「フォルテ・シュトーレン中尉ですね。ミント・ブラマンシュ少尉をお連れしました」
頭からすっぽり毛布を被ったまま椅子に座り込んだ。
「ミントさん・・・・」
「ミント・・・・あんた・・・・」
「何もできませんでしたわ・・・・わたくしには」
ミントがポツリと呟くと少し顔を上げる。血に染まった手袋は赤黒くなり、白とブルーの美しかった制服もススと血と泥で汚れている。
腕と足に巻かれた包帯、そして毛布を取った時、自慢の耳も包帯が巻かれフワフワも少しこげていた。
ミントの表情からエンジェル隊の策士家の自信は消えていた。
90名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/10(金) 15:13:49 ID:qXcuG5vQ
>>89
読み方が微妙でつ
アーベンジャー=アベンジャー又はアヴェンジャー雷撃機

1941年12月7日にグラマン社の新工場の除幕式が行われたが、
奇しくもその日は日本軍による真珠湾攻撃が行われた日であり
新工場で生産予定のTBFには「アベンジャー(復讐者)」という名前が付けられることとなった。
だそうな。
91猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/13(月) 23:34:49 ID:OeSODSu/
>>90
ご指摘ありがとうございます。

横須賀上空 昭和20年午後06:00
火災の消火作業も順調に進んでいる。夜空を焦がす炎も小さくなりつつあった。
横須賀海軍病院にも握り飯が配られる。
「そうか・・・・じゃあ角松さんは・・・・」
「ええ、わたくしを負傷者用のトラックに乗せたらそのまま行方知らずになられましたわ」
「あんたのPCも持ってるんだろ?やっかいだね」
フォルテは考え込むように下を向く。
「もうしわけありませんわ・・・・あの時ちゃんと返してもらっておけば」
「今更そんなこといってもしゃあないだろ、まぁみらいとの通信位にしか使えんと思うが・・・」
「え、思うがなんですか?」
蘭花が御握り片手に入ってくる。
「紋章機の詳細情報が入ったディスク、この前の御前会議で発表した事など全てが入っていますの!」
「それじゃ・・・・・」
「解析できればあたしらの弱点を見つけられるかもってやつさ」
「ちょっとあんた何やってんのよ!」
蘭花が何時もの調子でミントを揺さぶる。しかし、いつものミントの返事は返ってこない。
「ごめんなさい・・・ですわ・・・」
「ミ、ミント・・・」
わたくしだってしたくてそうなったんじゃありませんわ!って位の反論を期待していた蘭花には拍子抜けである。
『こりゃあこっちも重症だな・・・・』
フォルテはため息をつくと御握りをほお張った。

92猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/14(火) 00:12:32 ID:atM3rVzB
>>91訂正 横須賀海軍病院

横須賀港内潜水艦桟橋 昭和20年4月4日午後06:00
イ号の火災は何とか沈下へと向かっているがまだ煙が燻っていた。
しかし、紋章機の救出も急務であるために港務部の生き残った職員が何とかタグボートを手配し松ヶ崎の潜水艦桟橋から
荒井堀割りを通って田浦港内へそこからさらに横須賀航空隊や航空技術廠にほど近い深浦湾内へ移る事となったのである。
紋章機にロープがかけられるとタグボートがゆっくりと動き出す。
それにつられる様にハッピートリガーを先頭にシャープシューター、ハーベスターも曳航されていった。
上空警戒に当たっているラッキースター、損傷のカンフーファイター、ちひろ搭乗のシャープシューターの移動は後日に回された。
一方ミントを負傷者トラックに乗せた角松はそのまま横須賀海軍基地を密かに離れ横須賀線の復旧を待って帝都に戻ろうとしていた。
『ん?これは・・・』
角松はポケットに入れたままになていたミントのPCに気がつく。しかし憲兵の目もあるのでそっとそのまましまっておいた。
角松はそれから1時間後に復旧した横須賀線に乗り忽然と姿を消したのである。
93猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/14(火) 20:02:39 ID:atM3rVzB BE:53898629-
海軍省 昭和20年4月4日午後06:30
米内光政の戦死はすぐに日吉、帝都にも伝えられた。
「わけの分からん部隊を沖縄の報告だけで入れるからこんな事になるのだ」
「防空網は完璧だったのか!」
「横須賀、木更津の航空隊は何をやっていた!」
米内を悲しむよりも責任のなすりあいに近い会話が行なわれている。
そして時期海軍大臣の話まで飛び出す始末だった。
「米内閣下が・・・・・・」
神は思わず書き物をしていたペンを落とすほど動揺した。
『正光・・・・いよいよ動き出したぞ』
窓の外を見上げた神は嵐の予感を覚えた。
一方陸軍省も米内海軍大臣の戦死ににわかに混乱の要していた。
「海軍は何をやっていたんだ!」
「エンジェル隊を独占しておきながらこの体たらくとは!」
「だから厚木で管理しておけばよかったのだ!」
陸軍高官の海軍嫌い達からは次々と海軍の悪口が飛び出している。
杉本も陸軍大臣として最高戦争指導会議にて問題視する意思を固めていた。
そして、翌日の各紙には米内光政海軍大臣戦死の記事が国民戦意を高める言葉を羅列し1面に掲載される事となった。
94名無し陸戦隊:2006/02/16(木) 11:29:53 ID:nCEzHd9h
昭和20年4月4日 午後5時55分 米艦隊上空
高度8千・・・・・9千百・・・・・9千5百・・・・・
高度計の針はゆっくりと回る。
艦隊手前の空域に達した連山隊は、一列に隊形を整えると、機体の高度を上げ始めた。
2トン以上の重量物を搭載した機体は、緩慢な動きながら、ゆっくりと確実に上昇をして行く。
7百・・・・・9千8百・・・・・そろそろ限界か・・・
連山隊は高度をギリギリまで上げると水平高度飛行へと移る。
いよいよ投弾に入るのだ。大沢少佐は無線を取った。
「各機、これより我々は攻撃に移る。皆、今まで厳しい訓練によく絶えてくれた。
今日、我々はその成果を見せる時が来たのだ。総員奮起!!出張るぞ!!」
連山隊の近くを飛ぶ空中指揮機の中で、木谷長官が楽しげにその光景を眺めていた。
米艦隊上空の天候が懸念されていたが、この時間になって雲が切れ始めて、投弾に必要な視界も十分にとれていた。
「いいぞ、必要な条件は揃った。後は命中させるだけ・・・
ふふふ、面白い。実に面白いじゃないか、ツキはこちらに回ってきている。」
木谷長官は思わずニヤリとしてしまう。
木谷長官を乗せた空中指揮機は、米艦隊の周域を不気味に旋回して行った。
攻撃態勢を整えた9機の連山隊は、敵艦隊へと進路を向けた。
大沢少佐も自ら操縦桿を握り一番機を操る。
距離約1万メートル、投弾まであと僅か・・・
その時、伝声管から桜沢技術少佐の声が聞こえた。
「大沢少佐、敵旗艦をやらせてください。
あの程度の空母なら残りの機体に任せても十分沈められます。
自分の作ったこの兵器で重巡を沈めて見せたいんです。御願いします。」
「技術屋・・・・・分かったよ。その代わり絶対に当てろよ!いいな!!」
あの普段おとなしい、桜沢技術少佐らしからぬ熱意のこもった真剣な声に、
大沢少佐も、桜沢技術少佐の希望を受け入れようと腹を決めた。
「有難う御座います。必ず」
そうこうする内に敵艦隊までの距離はとんどんと縮まる。
「目標、敵ニューオーリンズ級重巡洋艦!!」
照準機を覗き込み、桜沢技術少佐は位置の修正を細かく伝えていく。
「チョイ右、ああもう少し!!良しそのままそのまま・・・まっすぐ」
炎上している空母が明かりの役目を果たし、炎に浮かび上がったニューオーリンズ級重巡を狙う
先頭を航行するニューオーリンズ級重巡は、必死に回避行動を取ろうとしているが、先遣隊の奇襲によって陣形が乱れており。
自身も中枢部を破壊されたせいか、緩慢な動きをしていた。
桜沢技術少佐は照準機のダイヤルを調整しながら昔を思い返す。
○ケ兵器完成の目処が付き始めた頃だった・・・
当時、特攻兵器の開発に重点を置こうとする黒島亀人軍令部第2部と
誘導弾開発者の桜沢技術少佐達の間で対立が起きた。
この事件がきっかけで、桜沢技術少佐を含む○ケ兵器の関係者は、軍の外部機関にあたる、千代田統合技科学研究所へと追いやられてしまった。
しかし不幸中の幸いか、研究所にて陸軍の技術仕官や民間の各種専門家と知り合う事となり、
彼らの協力の甲斐もあり、○ケ兵器は、問題点の改善と当初の性能を凌ぐ誘導弾として完成した。
その後、木谷航空本部長の根回しとコネと脅しによって、桜沢技術少佐達は元の部署へと配置を戻され。
○ケ兵器は他種兵器を退け最優先で生産される事が決定した。
が・・・ここで成果を見せなければ、また貴重な命を散らす事になるだろう・・・故に絶対に失敗は許されない。
照準機の白い十字線の中に重巡の影が重なった瞬間、桜沢技術少佐は思いをこめて投弾ボタンを押した。
その巨体ゆえに爆弾倉からはみ出ていた○ケ兵器の長い銀色の弾頭は、連山の機体を離れスルリと落下して行った。
一気に2トン以上の重量が減った連山の機体は、勢いついて浮かび上がる。
大沢少佐は操縦桿を巧みに操り、一気に速度が上がるのを抑えつつ、真っ直ぐに姿勢を保ち続けた。
桜沢技術少佐は、照準機に顔を押し当てたまま○ケ兵器の識別灯を目で追い続け、ズレを修正し続けた。
傍らでは偵察員が、ストップウォッチを片手に着弾予定時刻を測っている。
「後5秒・・3・・2・・1・・」
○ケ兵器は見事、ニューオーリンズの前部砲塔上に命中した。
「当たったぞー!命中、命中だー!!」
桜沢技術少佐は喚起のあまり叫んでいた。
大沢少佐は下ろしていたフラップを閉じると全速で離脱に入った。
離脱する中、下方機銃の偵察員の目には、僚機が空母に○ケ兵器を命中させるのが映った。
一方、高見の見物をしている木谷長官は、眼鏡のレンズを光らせながら次の仕掛けに掛かろうとしていた・・・。
95名無し陸戦隊:2006/02/17(金) 10:26:44 ID:IdhO1lWt
昭和20年4月4日 午後8時00分 米任務部隊
何本もの探照灯の明かりが夜の海面を照らしている。
生き残った駆逐艦がカッターを降ろし、海に漂っている乗組員を見つけると次々と引き上げていった。
駆逐艦の中には、救助された戦没艦の乗組員が鈴なりになっている艦もあった。
やはり春に海水浴は早すぎるな・・・・・
沈み行く重巡洋艦タスカルーサの船体を眺めながら、ジョーンズ中尉はそんな事を考えた。
中尉が空母ガダルカナルから退艦して、早1時間近くが経とうとしている。
中尉がガダルカナルに降りた後、艦隊は事故の影響で陣形が乱れていた。
何とか陣形を立て直そうとしている艦隊の下に、レーダーが大規模な機影を感知した。
対空戦闘用意の警報が発せられ、機動していた艦隊は混乱に包まれた。
しかし反応は薄れてゆき、小さな反応だけが残っていく。
IFFの反応が出ているらしいので友軍機らしい。飛んできたのは2機のヘルキャットだった。
まだ降りていない機があったのか・・・そう思っていたジョーンズ中尉の目の前で、ヘルキャットは妙な機動を取り始めた。
2機のヘルキャットは、ニューオーリンズに向けて飛んで行くと、そのまま低空姿勢で突っ込んで行ったのだ。
「危ない、ぶつかる!!」その瞬間、2機はニューオーリンズに向けて射撃を始めた。
中尉は、機体にミートボール(日の丸)描かれているのに気づいたが、もはや遅かった。
奇襲を受けた司令部は一瞬にして壊滅してしまったのだ。
ようやく敵機と気づいた他の艦艇が、対空砲を撃とうとする頃には2機は一目散に去っていた。
同時に外縁の駆逐艦が低空を飛来した攻撃機の雷撃を受けたが、指揮系統がマヒしている為に的確な指示が出せないでいる。
そんな状況をあざ笑うかのように日本の攻撃隊がやって来た。
今までに聞いた事の無い重厚な爆音が辺りに轟いた。
中尉が上空を見上げると、今まで見た事の無い4発機の姿が小さく映った。
「あれはリタ(連山)だ。」誰かが叫んだ。
高高度を縦一列に並んで飛ぶ、リタと呼ばれる4発機の先頭機から巨大な爆弾が離れた。
命中率の低い高高度爆撃ならかわせる。そう思っていた中尉は自分の目を疑った。
投下された爆弾は進路を変えつつ、ニューオーリンズに向かい落下していくのだ。
まるで意思を持っているかのような巨大な爆弾は、吸い込まれるようにニューオーリンズの前部砲塔上に直撃した。
直撃したニューオーリンズから炎が上がり、大爆発を起こしたかと思うと船体が真っ二つに折れて、あっという間に海中に沈んでしまった・・・
爆弾は砲塔を貫通して弾薬庫で爆発したらしい。
「なんてこった・・・」
おそらく生存者はそんなにいないだろう・・・
飛行甲板から沈んでいくニューオーリンズを眺める中尉の脇で、また爆発が起こった。
振り返ると、後部を航行していたホーランディアに爆弾が命中していた。
火災を起こしていたホーランディアにとって、巨大爆弾は止めとなった・・・

日本軍機の第1波攻撃を何とか凌いだ空母ガダルカナルだったが、幸運も長くは続かなかった。
第1波攻撃の騒ぎも収まらぬ内に、第2波攻撃隊がやって来たのだ。
機体はリタではなく中尉も見慣れた双発機、フランシス(銀河)だが数が多い・・・
高高度を飛ぶフランシスの下面には先程と似た爆弾が吊り下げられていた。
今度こそ艦隊は全滅するかもしれない・・・

嵐の様な日本軍機の攻撃が終わった米艦隊は酷い有様だった。
大型艦艇は軒並み沈められ、ガダルカナルにも3発の爆弾が直撃していた。
必死のダメージコントロールの甲斐も空しく、20分後に総員退艦命令が下された。
それが1時間前までの出来事だ。
その後の事はよく覚えていない・・・
無我夢中で脱出した中尉は、今漂っていた木箱にしがみ付いて、他の兵達と共に海に浮かんでいる。
残存の艦艇は、かろうじて生き残った軽巡洋艦が指揮を引き継ぐと、
数隻の駆逐艦を残して安全な海域まで離脱して行った。
「しかし・・・いつまでこうしてなけりゃいけないんだ?さっさと来てくれ、救助隊よ・・・」
中尉はぼやきながらくしゃみをした。一艘のカッターが中尉達に近づいて来るのと同時の事である。
96名無し陸戦隊:2006/02/17(金) 15:17:42 ID:IdhO1lWt
昭和20年4月4日 午後9時00分 海軍省
騒々しい雰囲気に包まれている海軍省の廊下を足早に進む湖西大佐は、
2階にある一室のドアをノックすると、そっと中へ入った。
「お待たせしました。」
湖西大佐は中の面々に軽く一礼した。
ソファーに腰を下ろしている井上次官に、高木惣吉少将、真田少将、上田中佐等
海軍次官室に集まった者達が、湖西大佐の方に視線を向けた。
「ご苦労様、で、どうだったかね?」
報告を待っていた、海軍次官の井上成美は湖西大佐へ声をかけた。
「はい、何とか横須賀の大佐に連絡を取ることが出来ました。
やはり、米内閣下の戦死は確実の様です。
墜落した米軍機は閣下の傍で爆発した模様、遺体もろくに残っていない有様です。」
「ふむ・・・米内さんがこんな事で亡くなるとは・・・信じられん」
井上は深くため息をついた。
「で湖西、例のエンジェル隊の被害状況の方はどうなんだい?」
上田中佐も神妙な面持ちで湖西大佐に問う。
「まあ飛行機の方は軽微で済んだようだが・・・
搭乗員の方が撃たれて1人重体、もう一人が軽症だ。むしろわが軍の方が酷い。」
「陸軍はうるさく言ってくるでしょうな・・・
海軍の根拠地に入れておいて、あまつさえ海軍大臣まで戦死とあっては。
エンジェル隊の指揮権についても色々要求してきそうだ。」
高木少将がぼそっと呟いた。
「同感です、海軍省内でもこんな状況ですからね。」
湖西大佐が、騒がしい廊下の方を見る。
「うちの部内の連中も、あまりに馬鹿馬鹿しい茶番やってるもんで
怒鳴りつけて黙らせましたよ。誰も今後のあり方をまともに考えようとしない・・・」
軍令部第1部部員の真田少将も呆れた口調で語った。
97名無し陸戦隊:2006/02/17(金) 15:26:14 ID:IdhO1lWt
昭和20年4月4日 午後9時10分 海軍省
井上次官は怒りのこもった声で淡々と話す。
「エンジェル隊とやらについての守備には陸軍にも責任はある。
それに彼らは未来からやって来た賓客であって、我々の駒ではない。
トランスバールと言う国も、この世界には存在しないものであり、ましてや日本の同盟国でもない
彼らを指揮下に組み入れようとすること自体おかしいのだ!!」
上田中佐達も井上次官の言葉に頷く。
井上はさらに話を続けた。
「明日の会議で、陸軍大臣は何か言ってくるだろうが、
我々は絶対に受け入れない。
彼らにはとりあえず、何所かに滞在していてもらう。それで良いか?」
無論、全員井上の意見に異論は無かった。
「陸軍が何か言ってきても、反論出来る余地は十分にありますよ。
今回の陸軍側の対応にも問題はあるでしょうから・・・
エンジェル隊が我々と戦うかどうかは、彼ら自身が決める事です。
我々が決める立場でもない。」
「しかし海軍大臣の後任はどうなりますか?」
高木は一番の問題を切り出した。
「おそらく私が代理を務めるか、誰か発言力のある者を推薦しようと思う」
「席次から考えれば現役の豊田長官か、及川総長か、近藤大将になるか・・・
だが豊田長官は陸軍嫌いで有名だ。向こうも納得せんだろう。
かと言って及川さんでは押しが弱いな・・・近藤さんもどうだろう。」
「でしたら予備役の人を現役に戻せばいよいではないでしょうか?
米内閣下も実質そうでしたし、高橋閣下か、荒城閣下は?」
荒城と言う上田中佐の提案に、井上は渋い顔をする。
荒城二郎予備役中将は、米内の同期であり親友でもある。
米内が海軍大臣に復帰した際、陛下が、米内の補佐は誰にするべきかという相談した際に、
井上を海軍次官に推薦したと言う経歴もあった。
しかし井上と荒城の仲は悪く、井上としてはあまり薦めたくない相手だ。
上田中佐の言葉に湖西大佐も疑問を出した。
「人事では向こうもそう簡単には折れてはくれんぞ、その場合にはどうするんだ?拓人」
「これは奥の手だが・・・・・海軍大臣の後任を出さないんだ。
そうすれば、現内閣は総辞職せざるをえない。
陸軍を黙らせる最後の手段だけど・・・」
上田中佐の言葉に、この場の全員の顔に緊張が走る。
「少なくとも終戦内閣を作る足がかりが必要です。
小磯首相では無理ですし、米内閣下の穴を埋めるためにも、
誰かこちら(講和派)が主導権を握れる御仁を出せれば文句なしですが・・・」
そう言うと上田中佐は、冷めた紅茶をじっと見つめた・・・
「とにかく明日の会議、自分も同行します。
今日の空襲が話題に上るのなら、木谷閣下も来られる筈ですからね。」
確かに、空襲に関して責任追及が出るとすれば、海軍の本土防空を担当する、
第3航空艦隊の責任者である、木谷中将が呼ばれてもおかしくはなかった。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/18(土) 00:19:43 ID:UP6V2Uui
横須賀海軍病院 昭和20年4月4日午後11:00
ようやく騒ぎも落ち着きだした頃、正光が鎮守府から戻ってきた。
「父様・・・」
エンジェル隊は皆疲れて眠ってしまっていたがちひろが父の存在に気づき側によってきた。
「ちひろ父さんはこれから海軍省に行って来る、おそらく今回の経緯を井上次官に直接説明するつもりだ、多少ながら遺品も渡さなくてはならん」
「はい、エンジェル隊の皆さんは・・・・」
「大丈夫だ、悪いようにはならない。そうそう明日の朝、ミルフィーユ君とおまえの軍服を持ってこさせるから届いたらそれに着替えるんだ」
そういうと正光は急ぎ足で階段を下りて待たせている車に乗り込んだ。
「父様・・・・」
2階からその車の後姿を見送るとちひろはまた椅子に座って一点を見つめる。
そのころ、帝都のある料亭には早々たる3人が極秘裏に終結していた。
1人目は1934年の内閣総理大臣岡田啓介、2人目は加藤高明内閣で内務大臣を勤め第28代内閣総理大臣若槻礼次郎、
そして39代内閣総理大臣近衛文麿であった。
「大変な事になってしまったな」
若槻は静かに今回の一件を切り出した。
「ええ、エンジェル隊という所属不明部隊を横須賀に入れるとは」
近衛も落胆したように話す。
「いや、問題はそこではない。この戦局の中で米内光政と言う男を失ってしまった事、そして来る次期総理選抜にも大きく影響すると言う事です」
岡田が米内の戦死がこれからの日本にいかに影響するかとため息をつく。
「ああ、今回の件で陸軍はより本土防衛を強調し本土決戦に備えより大臣には畑俊六元帥を押してくるだろう」
「それは分かっています。しかし、戦争続行はこの日本すらも崩壊させてしまうこれ以上陸軍を暴走させるわけにはいかんでしょう?」
「この今だからこそ私は鈴木さんを総理にしなくてはならないと思うのですよ近衛さん」
「ええ分かっていますよ。しかし海軍大臣のポストが開いてますな?」
近衛は岡田の秘策を期待しにやりと笑う。
「井上次官を私が説得するよ米内大臣も政治は彼の方が上だといっていただろう」
「もし誇示されたらどうするね?」
若槻は岡田の案が失敗した時のIFをたずねる。
「その時は私が海軍大臣になりましょうかな?」
岡田は静かに笑った。行動開始が近いかのように・・・・・
99名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/22(水) 18:57:36 ID:WhuPOtkI
保守age
100名無し陸戦隊:2006/02/24(金) 18:55:09 ID:affVrl72
昭和20年年4月5日 午前1時00分 東京湾
前方を警戒する駆逐艦が、艦首を暗い海の中へ白波を立てて進む。
明かりのついていない薄暗い艦橋の中を見回すと、
もう東京湾に入っているにも関わらず参謀達は皆、緊張した面持ちで前の海を眺めている。
細かい表情までは分からないが、おそらくそうだろう・・・
ここ2・3日の間全員、不眠不休で船団を守り、疲労も極限まで溜まっているはずだ。
日本に制海・制空権はすでに無く、勢力圏内に入っても爆撃機・潜水艦・機雷と、脅威は多々ある。
ここで力を抜くわけにはいかなかった。
海上護衛総隊旗下の旗艦、重巡鳥海の艦橋に佇む護衛艦隊司令、
小沢冶三郎中将は、後方を続く空母大鳳・瑞鶴の二隻の艦影へ目をやった。
彼らも良くがんばってくれている。
台湾で合流した輸送船団を横浜へと護衛する任務に着いてからと言うもの、今まで脱落した船は一隻もなかった。
台湾、台北港に入港していた時、丁度沖縄へ米軍が上陸する事態となったが、米艦隊は1日で撤退し、
脅威が少なくなっている今が好機と判断されると、大陸からの他船団とも合流した護衛艦隊は、
橘型護衛駆逐艦と二隻の空母の奮闘によって幸運にも一隻も脱落する事無く、ここまでやって来る事が出来た。
そして小沢自身は、鳥海に二度目の座乗となる。
一度目は開戦当初の馬令作戦時に南遣艦隊司令として、そして今は海上護衛総隊指揮下に入っている第3艦隊の
残存兵力を率いて、この艦に乗り込む事となった。
旗艦となった同艦へ、また司令として乗り込むとは、何か因縁を感じてしまう・・・
この艦も栗田艦隊の一員としてレイテ湾に突入後、反転した後多数の艦載機に襲われたが、
同艦隊の直援に付いていた大鳳の援護もあり、損傷しながらも本土へと戻って来た。
すぐさまドッグに入渠すると、破壊された砲塔は外され、対空兵装が増設され、損傷部分の修理も終わると
生き残った他の艦と共に、南方から物資を運ぶ輸送船団護衛の任に就いていた。
空母瑞鶴も又、比島沖海戦を生き抜いた幸運艦だった。
囮として沈没を覚悟していた瑞鶴は、
飛行甲板に数箇所に大穴を開けられながらも、2隻の防空巡と部下達が考慮した対空網、
それにマリアナ以降、リンガ泊地にて戦力を蓄えていた戦闘機隊の活躍によって瑞鳳と共に何とか生きながらえた。
こうして本土に帰還するも、もはや連合艦隊には、組織的な作戦を行うことは不可能であり、
戦力の大部分を本土との補給路の維持に投入しなければならない今、
出来ることは物資不足に苦しむ友軍や国民を1人でも多く救うことだけだった。
本土に戻った小沢にも軍令部へ転出の辞令が下されたが、小沢は第3艦隊長官の留任を必死に懇願した。
まだ生き残っている空母を、他の者に任せたくはなかった。
結局小沢の希望を受け入れた海軍は、第3艦隊を再編成すると、そのまま小沢に任せた。
こうして小沢は海上護衛総隊へ一時的に組み込まれ、20年初旬より通商路の維持に力を注いでいた。
なけなしの高速タンカーと優良商船を護衛する艦隊司令として・・・
船団は、横須賀港の影を左手に捉えながら10ノットの速度で突き進んでいく。
横須賀工廠は先日の夕方に爆撃を受けたらしく、哨戒艇の姿も幾つか見えた。
それを尻目に、船団は横須賀の脇を通りながら横浜港へと進路を向けて行った。
101猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/02/24(金) 20:02:06 ID:P23/eOpq
すみません。
アイデア充電と諸事情のため3月より再開します
102名無し陸戦隊:2006/02/24(金) 20:12:57 ID:affVrl72
猛虎☆全勝様
ご苦労様です、スレを見つつ気長に待っています。
103名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/25(土) 02:04:33 ID:U9tH4vpW
乙。あまり無理はしないで。
104名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 20:03:09 ID:ET1fkR59
再開まで保守
105猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/02(木) 19:54:55 ID:nc1EYJ2S
海軍省 昭和20年4月4日午前02:00
草木も眠る丑三つ時に正光は海軍省へたどり着いた。
軍服もすすだらけだったが急ぎ報告を優先した正光は次官室に足を向ける。
そして横須賀での経緯を説明した後に兵士達が集めた米内の遺品であろう物を井上に手渡す。
「ご苦労であった。君は少し仮眠を取ったほうがいい会議は昼過ぎからだ。日吉からも君と神大佐、豊田長官に出席してもらうことにしている」
「はっ、ありがとうございます。しかし、車中で作った付け焼刃的な打開策ですが会議までに案をまとめご報告したいと思いますので」
正光は敬礼をすると急ぎ神の元に向かった。
一方、横須賀海軍病院ではヴァニラの手術が終了し廊下で待っていた皆もようやく病室に移ることが出来た。
「今は麻酔で眠っています。一命は取り留めましたが予断を許さない状況です」
「はい、ありがとうございます」
フォルテは手術を担当した主治医と何やら話しこんでいる。
「はいノーマッドさん」
「ああ〜ヴァニラさーん」
ちひろはヴァニラの隣にノーマッドを置いてやった。
「ヴァニラさん、よかったですぅ〜」
「こら!ミルフィーユ、揺らしちゃだめよ」
ヴァニラに抱きつこうとするミルフィーユを蘭花が取り押さえる。
「ヴァニラさん・・・・よかったですわ」
ミントもフラフラと近づくとヴァニラのとりあえずの無事に安堵の表情を浮かべいすに戻った。
皆はしばらくヴァニラの寝顔を見ていると主治医との話を終えたフォルテ声をかける。
「みんな、聞いてほしい」
フォルテの声に振り返るとちひろは席を外そうとした。
「待ちな、あんたにも聞いておいてほしい」
ちひろを静止させるとフォルテは皆を椅子に座らせる。
普段は豪快に見えるフォルテの真剣な表情に皆の顔もこわばった。

106猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/03(金) 20:09:59 ID:llu8xk/5
横須賀海軍病院 昭和20年4月4日午前02:10
「ミント、あんた昼間米内さんが言ってたこと覚えてるね?」
「ええ、この時代のことは私達に任せてほしいということですわね」
「そうだ、あたし等は戦争が終わるまで何もしないって事なんだ。それは米内さんと約束した」
フォルテはミルフィーユ達の方に目を向ける。ミルフィーユは椅子にもたれたまま寝息を立てていた。
「はは、久々の実戦で疲れたのか、蘭花毛布をかけといてやんな」
「もうマイペースなんだから」
蘭花がそっと毛布をかけると話は本題に戻る。
「そこでだ、あんた達どうしたい?」
「え?どういう意味ですか」
「このまま米内さんの言うとおり大人しくしているか、日本軍共にと戦うかだよ」
蘭花の耳をつまみながらフォルテが答える。
「それ以外に選択肢はないんですか?」
「ありますわ」
ミントが二人の会話に割り込んでくる。
「わたくし達が後方支援に周り終戦工作を遂行するということですわ・・・・」
「ええ!」
ミントがテレパシストであるということをこの時、エンジェル隊の面々は再確認することになる。
「米内さんは終戦工作をすすめておりましたの、彼はこの大日本帝国の幕引きをするつもりでしたのよ」

107名無し陸戦隊:2006/03/03(金) 21:08:03 ID:sOnrCdDy
昭和20年 4月5日 午前4時00分 横浜港
横浜港に到着した輸送船団は、油槽船や貨物船を桟橋に停泊させ、
夜も明けない内から荷降ろし作業を開始した。
人がせわしなく動き、用意されていた重機や起重機は、エンジンを唸らせ荷物を埠頭に降ろし始めた。
その間、護衛艦艇は港外にて対空火器を空に向けると警戒態勢に移った。
旗艦鳥海では、小沢冶三郎中将が参謀より荷役作業の進展状況を聞いていた。
「ご苦労だった、兵達には交代で休みをとらせる様に。」
すべて聞き終えた小沢は、参謀にいった。
「わかりました、では失礼します。」
参謀が出て行くのと入れ替わりに、伝令の兵が入ってきた。
「報告します、ただ今、第3航空艦隊長官、木谷中将がお見えになられました。
長官に面会したいとの事であります。」
「木谷が?分かった、長官室に通してくれ」
「はっ了解しました。」
一礼すると伝令は艦橋から出て行った。
木谷の奴め、いったい何しに来たのだろうか・・・小沢は、半ばいぶかしがながらも
艦橋にいる参謀達に後を任せると、足早に長官室へと向かった。
階段を下りて行き、艦橋の下部に位置する長官室の扉を開けると、
可燃物を取り払った殺風景な部屋の中には、すでに人影があった。
「これはどうも先輩、先にお邪魔していますよ。」
人影の声を聞き、思わず顔をしかめた小沢の前には、木谷中将が、1人、簡素な椅子に座わり待っていた。
木谷は小沢と海軍兵学校の3期後輩にあたるはずだが、遠慮と言うものを持ち合わせて無いらしい。
部屋に入った小沢は、長官用の椅子に腰を下ろすと、木谷を見据えた。
小沢は、木谷の高い才能を認めるし、彼の行動にも一目おいているが、性格的に好感が持てなかった。
「ふむ、貴様も相変わらずのようだな、色々と噂は聞いてるぞ。
赤レンガを離れても大暴れしとるそうじゃないか。
まあ、そんな事はどうでもいい、こんな時分にやってくるとは何か急ぎの用だろう?」
木谷は大きくかぶりをとった。
「ええそりゃーもう、積もる話も沢山ありますがね・・・それは置いときましょうか。」
営業用とも言える笑いでしゃべりを止めた途端、厳しい目つきに変わる。
「海軍大臣が死亡されました。」
その瞬間、小沢のただでさえ厳つい表情が、最大限まで引き締まった。
「何だと!!米内閣下がか、なぜだ、暗殺か?」
「いえ横須賀にお出での際に奇襲に巻き込まれたのです。」
「なんと不運な・・・でそれを貴様はわざわざ伝えに来たと言う訳か?」
「いえ、私は積荷の方に用があったのでついでに来たまでの事です。
では時間も惜しいので、そろそろおいとましますよ。」
「もう帰るのか?」
「ええ、明日も忙しい身ですからね、今の内に休んでおかないと、体が持ちませんよ。
ハッハッハッ、まあ小沢先輩もまたすぐに、忙しくなるでしょうがね、それでは失礼します。」
「おいそれはどういう事だ?」小沢が言い終えるよりも先に、扉は閉まった。
まったく・・・あわただしい奴だ。んっ
机を見ると、一通の手紙が置いてあった。どうやら木谷中将が置いていったらしい。
封筒の裏を見ると上田拓人中佐の名があった。
「上田君か、作戦参謀の時は世話になったものだ・・・」
一瞬懐かしさを感じた小沢は、封筒を手に取ると、すぐさま封を開けた。
中の手紙を開き文面を読んでいく。
ふむ・・・これは・・・・・一通り読み終えると手紙を机の上に置き、眼をつむった。
ワシもそろそろ身の振り方を決めんといかんか・・・
甲板に出た木谷は、長官室の方に僅かに顔を向けると、そのまま迎えの内火艇に乗り込んだ。
108猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/06(月) 00:11:57 ID:a1iovBPF
横須賀海軍病院 昭和20年4月4日午前02:15
「終戦工作・・・米内閣下がですが・・・」
ちひろは工作と言う言葉に少し躊躇いを覚えた。陸、海軍共に下の間では本土決戦を推進し士気を高めていたためである。
無論、上もそうであろうとちひろは考えていたのだ。
「そういえば米内さんは言ってたわね、焦土化し国民が一人もいなくなった日本をだれが日本の呼ぶのかって・・・」
蘭花が寂しそうに語る。
「その時わたくしは負けるにも負け方があると申しましたわ、おそらく米内さんもそれを探していたのだと想いますわ」
「ああ、御前会議で米内さんが提案した角松さんとの接触もあたしらの加入を止めるためだったと思うからね」
「その通りですわ。私たちや角松さんを自重させ終戦を予定通りに進めるつもりでしたの」
ミントは包帯の上から自分の傷を撫でる。
「そうであれば大変な事になりましたよ。嗚呼・・・・とうとう重大な歴史干渉してしまったんですよ!」
ヴァニラの横においてあるノーマッドが会話に割り込んできた。
「歴史干渉があるとどうなるんですか?」
ちひろは首を傾げる。
「死んでいる人間が生き残ってしまったり、生きていなければならない人間を殺したりを過去ですると未来が大きく変わる恐れがあるんですよ!
それも米内さんのような日本国の重要な人物でしたらね」
「ノーマッドさんの指摘どおりですわ・・・可能性は分かりませんが私たちの時代まで影響を及ぼす恐れがありますの」
「え?それってどういう影響よ」
「簡単な原理で言えば、あるべきものがなくなるということでしょうか?例えば蘭花さんが先週購入したワンピースとかも・・・」
ミントの一言に蘭花の表情が変わる。
「え〜ダメよダメダメダメ〜!まだちょっとしか着てないし」
「はぁ〜単純な人だ・・・・」
ノーマッドが首を左右に振って慌てる蘭花を呆れたように見つめている。
「コホン、冗談はさておきそんな事よりもっと重大な事が起こってしまう可能性があるって事です」
「で、それって何とかできるの?」
蘭花が哀願するような目でミントを見つめる。
「ええ、簡単なことですわ。米内さんがやろうとしていた事を私たちでやっちゃえばいいんですの」
ミントは少し心がほぐれたのか口元をかすかに緩めた。
109猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/07(火) 00:06:19 ID:kt3tfKVn
横須賀海軍病院 昭和20年4月4日午前02:20
「それで未来は戻せるの?」
蘭花が涙目でミントにすがり付く。
「蘭花さん、ライトのスイッチを押すとどうなりますの?」
「なによ、馬鹿にしてんの、ライトがつくに決まってるじゃない」
ミントに抱きついたまま怪訝そうに蘭花が答える。
「じゃあそのライトは蘭花さんにしかつける事ができませんか?」
「そんなもんスイッチおしゃ誰でも付け・・・・あ!」
「そういう事ですわ、終戦工作をするのは誰でも構いませんのよ」
ミントは蘭花をそれとなく引き離した。
「ただそのスイッチの押し方が分からないけどね」
フォルテが付け加えるように言う。
「それじゃあ・・・だめじゃん」
蘭花はまたションボリとした。
「絶対に無敵強運のミルフィーユにお願いするをもってしてもかい?」
フォルテが流し目でニッと笑う。
「あ、こいつなら・・・・100万通り以上の中からでもそのスイッチが押せるわ」
「むにゃ、むにゃ・・・」
何か寝言を言っているミルフィーユの頬をツンツンと突付いてみる。
「じゃあ、この最初の選択はミルフィーユさんにお任せしましょう」
「さんせ〜」
「そうだね、あたしもこの娘にかけてみようかね」
「ちひろはどうなん・・・・あれ」
ちひろは病室の戸を開けて左右を警戒しながら確認していた。
「どうしたんだい?」
「しゅ、終戦工作の話など憲兵に聞かれたら逮捕されてしまいます!」
ちひろが真剣な顔つきでこちらを見つめてきている。
「お前も不自由な時代にいきてるんだね」
改めてフォルテは同情しちひろのあたまを撫でてやった。
110猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/09(木) 01:24:35 ID:iPyWZ7xw
海軍省 昭和20年4月5日午前06:00
自分の上着を毛布代わりに正光は仮眠を取っていた。
徹夜で神と話し合うつもりでいたのだが神が日吉に帰ってしまい計画はオシャカになってしまったのである。
「すまん、すまん。日吉に急用ができてな」
急ぎ足の軍靴の音が聞こえるかと思うと神が会議室に飛び込んできた。
「う〜・・・ん〜・・・全くこの非常時にどんな野暮用だ」
大きく伸びをして上着を着ると神を席に座らせる。
「先任参謀とは忙しくてな」
白い歯を見せると二人は真剣な顔つきになった。
「米内閣下の件は聞いている・・・豊田長官も嘆かれていた」
「ああ・・・陸軍の反発は避けられんがエンジェル隊は海軍いや連合艦隊が守ってみせる」
正光の表情を見て神は同じ釜の飯を食った何か直感的なものを感じた。
「その様子じゃ妙案があるのか?」
「ああ、付け焼刃だがな。この後の対策会議で発表してやるつもりだ」
「聞いてもいいか?烏丸作戦参謀」
「気持ち悪いいいかただな、仕方ないいいだろう」
正光は軽く頷くと白いテーブルクロスのかかった机を指でさし即席の海図を表した。
「ここを横須賀とする。無論彼女らをこのまま横須賀に留めておくのは恐らく不可能だと思う」
そう言うと正光はテーブルクロスをスゥーとなぞりだした。
「陸軍にそれなりの建前をやり連合艦隊がエンジェル隊を保護できる場所。なおかつ防空網が整えやすく気候もよし
軍都広島を上手に置き連合艦隊旗艦大和の本拠地・・・・呉だ」
「江田島か・・・・舞鶴、佐世保もあるが343航空隊もいる瀬戸内の方が安全だろう」
無難な作戦に神が頷く。
「しかしだ・・・飛べるのはハッピートリガーだけなんだ」
「どう言うことだ?」
「横須賀奇襲でヴァニラ君は腹部を打ち抜かれ重症、ミント君も毅然とはしているがあの様子では戦場恐怖症になってるかもしれん」
神は無言で頷いた。
「そこでだヴァニラ君の容態が落ち着いたらミント君ともども呉にハッピートリガーで移送してもらう。
ヴァニラ君の病院は陸軍の顔たてで広島市内の病院がいいと思う。残ったトリックマスターとハーベスターは
横須賀航空隊のベテランにでも登場してもらうのがいいのだがあの娘らの脳波というものでしか動かないらしい」
「難しいものだな」
「そこで駆逐艦で牽引して海上輸送する。しかしこれは作戦だ千巻とまではいかんが軽巡を旗艦して水雷隊にも帯同してもらいたい」
111名無しさん@お腹いっぱい。:2006/03/09(木) 17:44:14 ID:rjJLygjq
>>110
大和は第2艦隊だから連合艦隊旗艦じゃないはずです。
旗艦勤めたのは武蔵<<大淀<<20年には日吉に上がってます

それに駆逐艦で牽引って機関がこわれませんか?
F1カーでトレーラーを牽引するのと同じと聞いた事があるし
軍艦が牽引するのは非常時だけだと思います
牽引する役目の船として曳船が存在している訳だから
普通に大型曳船に曳かせたらいいと思うのですが

最終行のところは水雷隊じゃなくて水雷戦隊だと思いますよ
それとも駆逐隊の事ですか
水雷戦隊は旗艦を軽巡が勤めないといけないからセットの筈
駆逐隊は駆逐艦4隻程度で編成されています

軍事版に参考になりそうなスレがあったので貼っておきまつ

初心者歓迎 スレを立てる前に此処で質問を 249
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/army/1141670989/

■○創作関連質問&相談スレ 11
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/army/1140629862/

とにかくガンガレ!!
112猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/10(金) 20:10:16 ID:cuqcNecN
>>111
ご指摘ありがとうございます。戦時小説等ではよく駆逐艦が曳航しているので・・・
連合艦隊旗艦というのは正光が「大和ホテル」的な意味でいったものですので。
月曜日には書き上げますのでお楽しみに
113猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/16(木) 00:17:27 ID:jpU26Yv+
海軍省 昭和20年4月5日午前06:00
「護衛に関しては護衛艦艇に依頼を出しておくが2部隊もつけるのは了承してはくれんだろう。ロストテクノロジーだったか?」
「ああ、エンジェル隊から頂いたミラクルミルクだったな」
「油槽船のタンクにたらした所本当に満タンになった。その燃料は長門にぶち込んでおいたから長門は動けるぞ?」
「長門はダメだ。あれが動くと目立つからな・・・・」
正光は苦しいながらも輸送艦隊の編成を神に依頼しておいた。
しばらくは紋章機移送作戦の青写真談義を煮詰めていたが2人の意見だけでは連合艦隊も動いてくれるわけはなく、残りは他メンバーの到着を待つ事にした。
一方、横須賀では病棟から海の方へフォルテが朝の散歩に出かけていた。
「ん〜」
軽く深呼吸し潮風を吸い込むと少し悩みから開放される。
「フォルテさん」
後ろからちとせの制服に身を包んだちひろが声をかけてきた。
「お、ちと・・・ちがうちがう、ちひろ早いね」
「勝手に出歩くと怒られますよ、ここは軍港なんですから」
「わりぃ、わりぃ・・・少し潮風に当たりたくてね」
フォルテが病棟の方に戻ろうとするとちひろはフォルテを制止させる。
「でもここぐらいまでなら大丈夫だと思います」
「そうかい?じゃあ少し横須賀軍港を眺めさせてもらおうかね」
「横に座ってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
フォルテが少し横を譲ってやる。
「シャープシューターを動かしたんだってね、どうだった?」
「今まで搭乗したどの航空機よりも素晴しいものでした」
フォルテがちひろのおでこを軽く突く。
「言葉が硬いよ。まぁあんたらしいかな?しかし、初出撃であのコントロール、パイロットとはいえできたもんじゃないよ」
「いえ、蘭花さんのご指導がよかっただけです!!」
自分を謙遜必死に否定するちひろはますますおかしく見える。
「はっはは、蘭花のご指導かい?あの娘は確かに接近戦はプロだと思うよ。射撃はからっきしだけどね」
「しかし、蘭花さんがおっしゃる通りに戦闘を行なえばこそ米軍機を撃退できたんです」
フォルテは笑顔で自分の腕を叩いてみせる。
「そりゃあんたのここがいいんだよ。よし、シャープシューターが動かせるとなりゃあたしからも訓練をしてやらないとね」
フォルテはニッコリ笑うとちひろの手を引いて病棟へと戻り始めた。
「どうしたんですか?」
「烏丸大佐が戻ってきたらシャープシューターの訓練を申し込むのさ」
114名無し陸戦隊:2006/03/16(木) 14:46:43 ID:j+P13uKH
昭和20年4月5日 ハワイ 太平洋艦隊司令部
「高い出費となったね・・・」
太平洋艦隊司令長官チェスター・二ミッツ大将は、
提出されたレポートを目にしながら、疲れた表情で大きくため息を吐く。
「はい、残念ながら、兵の救出担当艦も明け方には、ほぼ撃沈されてしまいました。
今までの消極的さのない、容赦ない攻撃です。艦の消耗よりも人的被害の方が問題です。」
参謀長のレイトン大佐は申し訳なさそうに二ミッツの表情を窺った。
「肝心の目標、大型機、FDの破壊も失敗した。
さっき電話が来てね、作戦部長にどやされたよ。」
二ミッツは机の上に腕を組んで頭を擡げた。
キング作戦部長の事だ、さぞかしデカイ雷が落ちた事だろうな・・・
そう脳裏によぎった、レイトンは、二ミッツ長官が気の毒に思えた。
「それでレイトン、その後日本に何か動きはあったのかい?」
「はっ、情報部の報告によりますと今のところ変化は見られない様です。
ただ、最近日本軍、特に海軍の暗号の強度が上がったように見られます。
今までの様に、簡単に解読する事が出来ません。」
レイトン参謀長は報告を行いながら、汗でずり落ちた眼鏡のズレを直す。
「そうか、モンスターが健在なのに動きが無いとは、何だか不気味だな。」
「今、日本沿岸の潜水艦と偵察機の数を増やし、情報収集を強化してますので。
近日中に、何か報告できると思います。」
「うん、頼んだよ。」

陽も空高く上り、昼になろうかと思う時刻、横須賀近海には多数の艦影があった。
誘導役の掃海艇から「入港準備ヨシ」の発光信号が出され、艦隊は微速で前進する。
前方警戒を行っていた、島風に続き、艦隊旗艦、鳥海と両脇を秋月・初月が固め、
後ろから空母大鳳、瑞鶴が松型・橘型駆逐艦に守られ軍港内に静々と入港する。最後に殿の防空巡洋艦、五十鈴が港内に入って行く。
南方から運んできた物資を、揚陸し終えた船団と、横浜で別れた小沢艦隊は、横須賀への寄港命令を受けたのだ。
ここで、消耗した機材と燃料の補給と、損傷艦の修理を終えた後に、次の命令まで待機となる。
旗艦鳥海の艦橋に立つ、小沢長官は、横須賀の風景を眺めていた。
港内には戦艦長門やフィリピンで行動を共にした伊吹・鞍馬等がその存在を誇示するかの様に、停泊していたが。
施設内は、うっすらと煙の昇る、爆撃の後や弾痕が痛々しく残っている。
船渠には、爆撃で朽ち果てた伊400潜の残骸が骸を晒していた。
黒々と焦げた残骸は、不謹慎ながら、鯨の丸焼きを連想してしまう。
これからどんな指令が来るかは、分からんが、とりあえずは兵達の英気を養い
暫しの休息を楽しもう、考えるのはそれからだ。
紋章機、そう呼ばれている機体へ、小沢は厳つい顔を向けた。
115猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/17(金) 00:57:04 ID:5j4jyMxe
             昭和20年4月5日午後01:00
会議は物々しい雰囲気の中開始された。
会議には首相、参謀総長、軍令部総長、陸軍大臣が顔を揃え、参謀次長、軍令部次長もゾロゾロと揃い始めていた。
「大変な事になってしまった。米内海軍大臣の殉職、エンジェル隊隊員の負傷、紋章機の損傷・・・・陛下もお悔やみになられていたよ」
米内の座る場所を井上が開けて座ったためより空しさが会議の空気を重くした。
「海軍として今回の失態をいかに考えているのかお聞きしたい」
開口一番に発言をしたのは梅津美治郎(うめづよしじろう)参謀総長であった。
本土決戦を主張する彼は何としてもエンジェル隊の保有する戦力を本土決戦に投入すると決め込んでいたのだ。
そう、本土決戦準備の遅れは全て彼の元に情報として入っている。梅津の中にもそれなりの焦りというものがあったのである。
「横須賀は無防備すぎるのだ。ここは横田基地に入れるべきではないか?」
梅津を援護するかのように杉本は飛行機試験場がある横田基地を推薦してきた。
しかし、海軍側は首を振らずに感情的な言葉も両陣営から飛び出し始める。
海軍側も皆得策を用意しぶつけていくものの陸軍も首を振らなかった。
エンジェル隊の論議は完全に煮詰まってしまい会議は2時間立った所でクールダウンの意味も込め
陸海軍別室による1時間の休憩が取られる事となった。
116猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/18(土) 01:58:40 ID:sYmouLXK
別室 昭和20年4月5日午後03:00
「ふぅ〜」
神は大きく深呼吸すると椅子にどかりと座り込んだ。
「陸軍め、言いたい放題だ。井上閣下や皆も頑張っているがあっちさんも納得はしないだろう」
「ああ、俺の案を切り出す場所もなかった」
正光も疲れた表情で隣に座っている。
「しかし、木谷閣下や上田達も頑張ってくれている。エンジェル隊を陸軍に渡すような事になればこれまで以上にわが国にとっても不利になる事は確かだ」
「分かっているさ、俺だって後半年早くエンジェル隊を迎えていたら連合艦隊に編入を企んでいるところだからな」
「そうだな艦隊殴りこみを豪語するお前なら真珠湾にでも大和、長門を護衛させて突入させているかもま」
「はっはっは。俺はそこまでの凡人ではないぞ」
少し空気が和んだ所で外が騒がしくなってきた。間もなく士官が一人海軍側の部屋に飛び込んできた。
「失礼します、特別顧問としまして石原莞爾陸軍中将がお見えになられました!」
「何!」
場の空気に緊張が走るのもつかの間、皆急いで廊下に飛び出して整列した。
何故予備役の軍人がこの場所に現れたのか、正光は先日の説明会の時を思い出した。
そう石原はその場に出席していたのである。
考える間もなく背広姿で石原は現れた。事情を知らされていない陸海軍将校全てが石原莞爾復帰のシナリオが脳裏を描く。
「いや、いや、予備役にここまでの配慮、ご苦労、ご苦労」
彼はゆっくりと陸軍側の部屋に歩いていった。しかし、部屋に入る手前で彼はクルリとこちらを向きかえり一言言い放つ。
「諸君らは私が現役に戻るとご期待されているが、私は助言と言う立場でこの場所に参上した。なぁに年寄り教授の授業だと思い聞いてくれればいい」
石原はそういうと陸軍部屋に消えていった。
「小磯総理のご指名で石原閣下をお呼びになったそうです・・・」
親しい将校がそっと正光に耳打ちしてくれた。

117猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/18(土) 02:26:32 ID:sYmouLXK
会議室 昭和20年4月5日午後04:00
先ほどとは180度変わり石原の会議は独壇場となっていた。
「この中にはエンジェル隊の説明会に参加していた者も多数いると聞くが、果たして内容を理解していたのかね?」
石原はこう切り出すとまるで学生たちに講義をするように説明を開始した。
「エンジェル隊の降臨は正に天からの恵みである事は変わりはない。しかしだ、エンジェル隊の戦闘力は陸、海合わせても到底いや
今現在戦争を遂行する国々が1つになってかかっても恐らく勝ち目はないでしょうな。結論から言うと彼女らが私たちの陣営についていてくれる事の方が奇跡だと思います」
そういうと石原はチョークをとり黒板に何を描き始めた。紋章機?らしき物体と大きな惑星、そして小さな惑星が描かれている。
「これが彼女らが存在する世界と言うわけです。彼女らの説明を元に私が描いた想像図ですが、おそらくこれで正しいでしょう」
「えーまず彼女らの戦争と我々の戦争のどこが違うのか、そこから説明するべきですな」
石原は黒板を軽く叩くと皆が彼に注目した。
118猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/19(日) 23:34:02 ID:UvA5n4BS BE:161693069-
会議室 昭和20年4月5日午後04:00
「皆さんお忙しいようなので説明は手早く行きますよ」
石原はにやりと笑うと学生に講義やるように話し始めた。
「我々が現在体験しているのは制空権、制海権を交えた三次元の戦争、エンジェル隊が活躍する時代の戦争は更にその上を行く四次元いや五次元の
戦争なのです。つまりは制空権、制海権を超越した宇宙空間における戦争と言う事になるでしょうな」
説明会に来ていなかった将校が宇宙と言う言葉に首を傾げる。
「宇宙とは空のかなた上、天空と言う事になるのですよ。そしてその天空こそが彼女らの戦場であるのです。
まぁ例えるのなら大日本帝国という惑星がありアメリカと言う惑星がある。その間太平洋という宇宙があるといったものでしょうか?
ですからエンジェル隊の時代は戦争ともなれば制宙権の確保を念頭に置かなければならないのであります」
「ですから彼女らから見ればこの大東亜戦争も内戦!鳥篭の鳥達が自分の巣の場所を巡って争っているようにしかてしか見えないと私は思いますがな。
さて、私は以前最終戦争論と言うものの中で無着陸で世界をぐるぐる廻れるような飛行機ができ一発あたると何万人もがペチャンコにやられる決戦兵器が必要であると解いた!」
石原の拳に力がこもる。
「エンジェル隊の乗る紋章機こそその使者ではないのか!」
119猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/23(木) 01:55:41 ID:5G81FqsG
会議室 昭和20年4月5日午後04:30
石原の熱弁は30分続いた。
「しかし、エンジェル隊とてトランスバールという国の主力部隊ではない」
石原の断言に皆が驚愕する。
「ロストテクノロジー回収とやらを雑務にしているようだが戦時下ともなれば月の聖母という人物の護衛にあたる守衛隊にはや代わりするのだ」
「つまりはトランスバール皇国軍と言うものは更なる強大な戦力にてその広大な領土を統治していると言う事なのですよ。数多の火力を抑止力としてね」
石原はそういうと今度はトランスバール本土の衛星を指差した。
「彼女等の守る月の聖母の宮・・・・これも兵器工場だといっていましたぁ。そして聖母はこれを封印していると・・・・・・
ですが白き月と言うのはすでにその役目において重要な部分をもっております。最高の決戦兵器を隠し持てるという真実・・・これこそが最大の武器なのですよ」
石原はグラスに汲まれた水を一口飲むと咳払いをした。
「いやぁ〜久々の講談は疲れますな。まぁですからここに集まっている陸、海軍の皆様はつまらぬ意地など捨てて日本軍としてエンジェル隊に向き合う心構えがありませんとおそらく彼女等は使えませんぞ」
全ての言葉を言い切った石原は陸軍側の用意した席にドスリ腰を降ろし腕を組んだ。
満州事変を画策した名将は満足げに目を閉じ瞑想をするような形で後は高みの見物を図ろうと言うのである。
会議は水を打ったかのように静まり返り、数分が流れるころ首相の小磯が口を開く。
「陸、海軍も分かってくれたか?エンジェル隊の総戦力はこの国の総力、いやこの全世界の総戦力よりも強大であると言う事だ。
大日本帝国内閣総理大臣として私は、対エンジェル隊政策は万全を期す必要性があると認識している。国家としても本土決戦と
同等の腰を入れねばならないと言う事なのだ」
小磯は一呼吸おくと腹に決めていた言葉を発する。
「内閣を解散し、早急に建て直しを図りたいと思う・・・・・」



120名無しさん@お腹いっぱい。:2006/03/27(月) 23:38:31 ID:tyPUIrAS
会議室 昭和20年4月5日午後06:00
会議は小磯の解散を聞きその後もエンジェル隊を巡って一進一退の攻防が行なわれた。
海軍は正光の案を発表しそれを提示した。それに対し陸軍は陸軍第10飛行師団が要求した安全確保の
要求から横田への移動を立ち上げてきた。
上田中佐達も直ぐに帝都からの距離が取れていないとの指摘があったが、陸軍側はソ連警戒を盾に取りそれを排除した。
また、横田に来る前に海軍が敵機を迎撃せよとののしられてしまったのである。
ここで連合艦隊の熱血漢神は机を思いっきり叩き正光案の承諾を求めて声を荒げていった。
「石原閣下の申されたように、今は海軍だ陸軍だと言っている場合ではない!エンジェル隊を呉に入れられれば
被害の少ない広島でヴァニラ少尉の治療にも専念でき、なおかつ優秀な整備士も揃っている。陸軍が心配するソ連も
アメリカから紋章機の戦果の噂は聞きつけているはず、条約が切れてもじだんだを踏むはずです」
神の熱弁は井上次官や真田少将らも丸め込まれそうになった。そして彼と向き合っている豊田長官に少し同情的な感情を抱かせたのであった。
陸軍から見れば東條英機暗殺まで画策した神は煙たい以上の存在であった。
「わかった、ではこうしよう。現在エンジェル隊の紋章機は6機。君たちが主張するように彼女らは駒ではない。しかし、現在1機は中破しており残りの数機も小破以下の損害を受けている
そこでどうであろうか?南洋諸島のとある島で我々も最終兵器極秘建造を行なっている研究部隊がありますな井上次官」
杉元は井上の方に視線を送った。
「いまだにその兵器は一つも仕上がってこない。それどころか東京大空襲以降音信不通、これ以上の国費無駄遣いはありませんよ。そこでだ
カンフーファイターの修理をその機関に任せるとしましょうか?つまり6機ある紋章機を2つの小隊に分けるということだ」

121名無しさん@お腹いっぱい。:2006/03/29(水) 19:08:30 ID:l9H9YdB6
>>120揚げ足取るようですまんが
当時の呼び名は横田基地じゃなくて福生飛行場だぞ横田は戦後にアメリカがつけた名前だ
後杉山元大将の名前が杉本とか杉元になってる
122猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/30(木) 22:01:45 ID:tz3NvkLo
ご指摘ありがとうございます。

会議室 昭和20年4月5日午後06:30
杉本は取って置きのカードをきった。エンジェル隊が駒でないというのであれば駒として使用できる
フラグを立ててしまえばよかったのである。
現にカンフーファイターは先の沖縄戦で中破しており、エンジェル隊側からも修理の要求が着ている。
無論、研究チーム進行状況はわからないが陸軍諜報部によれば相当なものだと耳にしていた。
腕のよい技師を大量に投入し研究員も多い、内地のどの場所よりも技術は進んでいるであろう。杉本はそう思い切って新たな案を海軍にぶつけた。
井上としても悩みどころであった、あの施設ならばカンフーファイターの修理もどこよりも先進に行えるであろうと信じていた。
しかしながら、腑に落ちない部分はある。陸軍将校の中には顔を見合わせているものがいたのである。
井上は陸軍側のこの案には数名しか立ち会っていないと確信したのである。
だが、呉でのカンフーファイター修理は不可能に近い状況。これ潮時かとも思い始めていた。
それからまた一時間の時間が流れ、エンジェル隊対策の流れは陸海軍の双方対立から妥協案へと以降をはじめていた。

123猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/31(金) 02:54:11 ID:oIt0jTXV
横須賀海軍病院 昭和20年4月5日午後06:00
ヴァニラはまだ眠っていた。医師は過労も重なったのであろうと言っていたが不安でたまらなかった。
「ヴァニラさん目を開けてくださいお祈りの時間ですよ・・・・」
枕元におかれたノーマッドは30分おきにヴァニラに話しかけていた。
ミルフィーユとミントは紋章機移動のサポートのためで払っておりフォルテとちひろは新しい泊地になる近辺の横須賀航空隊へ挨拶に行こうとフォルテが言い出したため
ちひろはそれに付き合うこととなった。
蘭花はというとカンフーファイターの移送が中止となったためにこうしてヴァニラの病室にポツンと付き添っていた。
「はぁ・・・・」
小さなため息をひとつつくと窓辺に行って横須賀を見ていた。
ミントの渡したミラクルミルクが広まったのであろうか眠っていた艦に燃料がつぎ込まれ、船独特の機械音がかすかに聞こえる。
「ノーマッド・・・・ちょっと散歩してくるね」
「はいはい・・・まったくヴァニラさんがこんなに苦しんでおられるときになんて自己中心的な方だ」
「帰ってきたら一撃見舞うわよ」
蘭花は病院であることを遠慮して怒鳴るのはやめにした。
病棟を出ると昨日の空襲で重症や重度の火傷を負った患者で息を引き取った遺体を運び出す作業が行われていた。
白い布が被せられているものの蘭花はいたたまれない気持ちになる。
『あたし達が来なかったらこの人たちも死ななかったのかな・・・』
そう思うと胸をわしづかみされた感覚に襲われその場に入られなかった。
月明かりの夜道を少し下っていくと見慣れた花頭がこちらに歩いてくる。
「あ!蘭花さ〜ん」
ミルフィーユが人懐っこい声でこっちに走ってきた。
「おお、お疲れラッキースターはちゃんと格納してきたの?」
「はぁい、紋章機がすっぽり入る迷彩のカバーを作ってもらいました」
「へぇ〜すごいじゃないの!」
「上空から見たら森のように見えるらしいですよ」
「カンフーファイターの修理が終わったら私も被せるの?」
「ああ〜カンフーファイターには直接塗装をほどこすかもらしいですよぉ」
「はぁ?」
少し冷静になって考えてみる・・・・赤と白の美しいコントラスト、大好きな愛機カンフーファイター。
ムーンエンジェル隊として白き月を護衛する機体でもある。
蘭花はカンフーファイターの迷彩色仕様を想像するとゾッと寒くなった。
124名無しさん@お腹いっぱい。:2006/03/31(金) 14:36:13 ID:Ad1k1Fu+
>>122
>杉本は取って置きのカードをきった。

あんま言いたくないけど早速間違っとるぞ'A`:
資料と指摘はしっかり嫁よあと時代考証もな
125猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/03/31(金) 22:45:17 ID:oIt0jTXV
>>124
毎回のご指摘、まことにありがとうございます。
タイプミスに関してはチェックを強化してまいりますので
資料に関しても、日本軍側をもっと重視していきたいと思います。
126名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/02(日) 19:25:14 ID:6DKxMDBt
>>125タイプミスだったのか・・・それならしょうがないな
俺はてっきり素で名前間違えているのかとオモタよ

作者は軍オタじゃないのか?
軍オタでもないのにこの作品書いてるんなら結構スゴイぞ
127猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/04/02(日) 23:20:05 ID:pImEIpoa
>>126
第二次世界大戦位の世界に興味はありますな、名無し陸戦隊さんに助けられての小説ですよW
128名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/07(金) 14:41:16 ID:UQ9JqBYv
保守age
129名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/09(日) 20:52:33 ID:uzg+fwEk
横須賀海軍病院周辺 昭和20年4月5日午後06:10
蘭花は再び夜の散歩を再開した。
「別についてこなくてよかったんだけど・・・・」
となりにピッタリいるミルフィーユを蘭花が見る。
「いいですよ、私も夜のお散歩行きたいです」
「はぁ・・・・軽く運動になるくらい歩くわよ」
「かまいませんよ」
「おんぶしろとか絶対いっちゃだめだからね」
「そんな事、言うわけ無いじゃないですか!」
「はいはい、ごめんごめん」
ミルフィーユを心配して言ったつもりだが彼女は少しむくれてしまった。
しかし、蘭花の少し運動を半端なものではない。この散歩にしてもおそらく軽く数キロは歩くこととなる。
無論ミルフィーユがお供についていることは自覚しているつもりだが集中するとつい忘れてしまう。
そうなったときのために内心蘭花はミルフィーユをおんぶすることを覚悟していた。
「そう言えばミントは?」
「あれ、会いませんでした?先に行くっていってらしたんですけど」
「会わなかったわよ?」
「おかしいですねぇ・・・」
ミルフィーユが首をかしげる。
「そうね。どこに行ったんだろう?」
130猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/04/13(木) 01:50:45 ID:ON5z/DWh
ちょうどその時、ミルフィーユ達の横を遺体を積んだトラックが通り過ぎていっ
た。
するとすぐ近くの茂みからガサガサ草ずれの音が聞こえる。
「蘭花さん!」
驚いたミルフィーユが蘭花にくっつく。
「何よ野良犬かなにかでしょ?」
怪訝そうに蘭花がミルフィーユを降り払おうとするがミルフィーユはさらに蘭花
にくっつく。
するとまたガサガサと音がする。
「やっぱり何かいますよぉ・・・・」
ミルフィーユがおびえた表情で蘭花を見ると蘭花もその表情を硬くする。
草ずれの音は次第に遠くなり病院の方へと消えていった。
「行くわよミルフィーユ」
「いやですよぉ〜こわいですぅ!」
好奇心の沸いた蘭花は草ずれの音を追っていく。月明かりだけが進行方向を照らしているため耳を頼るしかない。
「うっうっう・・・・・」
病院の方を眺める黒い影がすすり泣くような声を上げる。
「ら、蘭花さん・・・・」
ミルフィーユも泣き出しそう・・・・・
「静かにしなさい・・・・・」
ミルフィーユに抱きつかれながらもゆっくり足を進ませる蘭花。
目標が近くなると足を止めそっとその姿を確認する。
『ミ、ミント!?』
一瞬の安堵の後彼女の行動に蘭花は目を疑った。
『あの娘泣いてる・・・・』
131猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/04/17(月) 02:10:11 ID:7Qi1W1lp
横須賀海軍病院周辺 昭和20年4月5日午後06:30
「ミントさ・・・」
「しっ」
声をかけようとするミルフィーユを蘭花が静止する。
そして二人は、ミントの様子をジッと見つめていた。
「もう大丈夫ですわ・・・・私は軍人ですのよ・・・・ハァハァ」
鼓動が早くなりとても息苦しくなる、足が地に付いている感覚がしなかった。
ミントはその大きな目を点にしてトラックが去った今でも震えが止まらなかった。
「わたしは・・・わたくしは・・・」
自分の胸をキュっと抑えているうちに涙が止まらなくなってしまった。
泣くのは何年ぶりだろう・・・・
自分は本当に戦場恐怖症なってしまったのか?角松の行動・・・・頭が爆発しそうになる。
何度も頭を整理しようとしたが無理だった。
『パキ!』
その時、ミルフィーユが小枝を踏んでしまう。
「あ・・・・」
「ミ・・・・」
「ずっとみてらしたの?」
132名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/22(土) 19:28:38 ID:yXeXnMwh
保守上げ
133猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/04/23(日) 22:59:04 ID:EGJTXylM
横須賀海軍病院周辺 昭和20年4月5日午後06:30
「い、いやべつにあの・・・・黙ってみているつもりじゃ」
蘭花が必死につくろうが墓穴を掘ったような感じになってしまう。
「でも、何で泣いてたんですか?ミントさん」
ミルフィーユは見たことを悪気ない様子で質問する。
「あなた達には関係のないことですわ!」
「・・・・・・・・・」
ミントのこわばった表情にミルフィーユは何も返せなくなった。
「そういうわけですから、放って置いてくださいまし」
「でも・・・・私たち同じエンジェル隊じゃないですかぁ〜」
ミルフィーユが目を潤ませながらミントに擦り寄っていく。
「これはわたくし自身の問題ですの!」
ミントはミルフィーユを軽く突き飛ばしてその場を去ろうとするが今度は蘭花がミントの肩をつかんだ。
「言ったはずですわ・・・・これはわたくしの」
「知らないわよ!あんた、ミルフィーユ謝りなさい」
ミントが言い終わる前に蘭花が間髪いれずに怒鳴った。
「わたくしは、わたくしは・・・・とにかく放っておいてくださいまし!」
「あんた、昨日何があったの?フォルテさんやヴァニラと分かれてから」
ミントの脳裏に昨日のことが鮮明によぎる。炸裂する爆弾、吹き飛ぶ肉片・・・・
「米内さんが死んだ時になにがあったのよ」
無言のままミントはうつむいてしまう。
「言いなさいよ。あたしたちは!」
「蘭花さん!」
ミルフィーユが土を払いながら立ち上がった。
「私、気にしてませんから。大丈夫です」
「ミルフィーユ・・・・」
自分にはないやさしさをこういう時に蘭花は感じてしまう。
「ミントさんが悲しむようなことなら私は聞きたくありません」
「ミルフィーユさん・・・・・申し訳ありませんでしたわ。わたくしはこれで」
ミントはさびしそうにトボトボ去っていった。
「あの子絶対へんよ。あなたもそう思ったんでしょ?ミルフィーユ」
後姿を見送りながら蘭花がミルフィーユに疑問をぶつける。
「そうかもしれません。でもきっと悲しいことなんです。でも大丈夫、私またおいしいお菓子を作りますから」
にっこりと笑うとミルフィーユはまた歩き始めた。
普段ボーっとしてるだけにこういうときのミルフィーユは少したくましく見えるのであった。
134猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/04/30(日) 02:21:27 ID:9b/h9rnv
鈍筆でもうしわけありません。

明日は更新します。
135名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/30(日) 20:51:41 ID:Mduj/Ztc
>>134
遅くてもいいから無理はしないで。
今の時期何かと物入りだから仕方ないよ
136猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/04/30(日) 23:14:55 ID:9b/h9rnv
南洋諸島イージス護衛艦みらい 昭和20年4月5日
「本当にお世話になりました」
イージス護衛艦みらい艦長梅津は協力者達に握手をしてみらいへ乗り込んでいった。
島の住民が見送る中、みらいはゆっくりと泊地を離れていく。
「全身ビソーク、全員坊ふれ」
「全員ボウレー!」
みらいの乗組員たちが一斉に数年間お世話になった島の人々に手を振っている。
島の住民も別れを惜しむかのように大きく手を振っていた。
「博士、彼らは日本に迎え入れられるでしょうか・・・・・」
「なぁに心配はいらんさ、ここでもうまくやっていけたんだ。さぁそれより次のお客さんを迎えるとしよう」
白衣を着た二人の男はみらいの姿が夕闇に見えなくなると島の奥へと消えていった。
一方みらいは島が小さくなると航行速度を徐々に上げ公海へと出て行った。
「達する、艦長の梅津だ。みな久々の洋上で浮かれているかもしれんが今は戦時下であることを忘れぬよう。そしてわれわれの目指す日本も今はまだ他国に等しい」
艦長の席に座ると梅津は乗組員全員に放送を流し数年ぶりの航海への浮かれた恐れ等に喝を入れた。
137猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/04/30(日) 23:40:33 ID:9b/h9rnv
海軍省 昭和20年4月5日 PM08:00
7時過ぎにようやく妥協案がまとまると、エンジェル隊への報告が正光には待っている。
しかし、紋章機海上輸送作戦の専任参謀を買ってでてしまったため横須賀に行く暇など無く
自宅にも帰れない状態となってしまった。
「あなた!」
幸がエンジェル隊の制服を風呂敷に包んで駆け寄ってきた。
「よかった、なんだ千晶も来たのか?」
「そんな言い方ひどいよ!」
そばにいた千晶はむぅっとむくれる。
「すまないな、本来なら誰かを家によこしてやるつもりだったんだが」
「いえ、今は軍もお忙しい時なのですから私たちはかまいませんよ」
幸がにっこりと笑うと正光も安堵の表情を浮かべる。
「烏丸大佐!」
その時後ろから士官が声をかけた。崩していた表情をこわばらして正光は振り返ると、士官は耳打ちで何かの報告をおこなった。
「そうか・・・車をまわしてもらえないか」
数日のことが重なり配車ができないことを知らせる知らせだった。
正光は少し困った顔をしていると千晶が正光の手を引っ張る。
「じゃあ私たちでミルフィーユさんに制服を持っていってあげるよ」
「なんだって?」
「そうねまだ列車はあるのでしょ?」
幸も千晶の提案に賛成する。
「いや、駄目だ」
しかし正光は首を横に振った。
「昨日米軍機の奇襲を受けたばかりのところに民間人をやれるか」
「でもこの制服がなければ皆さんお困りになるのでしょ?」
「それはそうだが・・・・」
正光が再び表情を曇らせる。
「では決まりでですね、千晶参りましょう」
幸は正光の許可を取る前にくるりと背を向けた。
「あ、わかった。お前たちで行っても今はややこしくなる、ちょうどエンジェル隊に誰かを伝達にやるつもりだったんだ。それに護衛も頼んでみるよ」
正光はあわてて建物の中に消えていった。
138名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/05(金) 17:44:14 ID:LhgZFH2J
保守
139名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/07(日) 10:21:06 ID:ovJXeINc
保守2
140猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/05/07(日) 23:45:37 ID:ZB8HyN1b
横須賀海軍基地深浦湾内 昭和20年4月2日 PM08:00
シャープシューターが夜の闇を破ってゆっくりと着水する。
「よっしゃ、上達早いね!さすがは飛行兵だ」
フォルテがちひろの方をバンバン叩き上達をほめている。
飛行時間は8時間、大気圏内を高度2万メートルで南極方向へ飛行し大陸をできるだけ迂回して北極、そして横須賀に戻る
飛行ルートにちひろも疲労の色を見せた。
「大丈夫かい?」
ちひろの身体を支える。ちひろは座席の端に手を置いてゆっくりと体制を治した。
「ええ、今まで乗ったどの戦闘機よりもゆったり任務につくことができました」
少々疲労の色は見えるがちひろの目は輝いている。
「明日もお願いできますか?」
まるで子供のように目を大きくしてフォルテを見つめるちひろにフォルテも少々驚いていた。
新人なら紋章機を8時間も動かしたら多少は音をあげるのだが・・・・・
そう思うとフォルテもちひろのすごさに笑わずにはいられなかった。
「あっはっは、蘭花やミルフィーユから聞いたけどあんたはすごいよ。でもあたしは明日行けないんだ・・・・・
たまにはヴァニラのそばに着いててやりたいしね」
「そうですか、すみません無理を言ってしまって・・・」
「いいんだよ、明日はミルフィーユに頼んでおくからね!」
軽くウィンクすると画面の隅から岸に連絡するパイロットボートが近づいてきた。
「じゃあ行こうか、明日も飛ばしておいで」
「はい、明日もがんばります」
二人はにっこり笑うとシャープシュータのハッチを開けた。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/08(月) 20:34:09 ID:4x4iZr7q
エンジェル隊がワンピの大航海時代にタイムスリップ!
142名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/12(金) 22:43:11 ID:p5pvYHRt
ほしゅ
143名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/14(日) 22:32:24 ID:3VZAGGeY
保守…みんな、下げなくてもいいのか?
144猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/05/14(日) 22:40:30 ID:AokehRMs
横須賀海軍病院 昭和20年4月2日 PM08:00
『もぉ!ミルフィーユ、早く帰ってきなさいよ』
ミントと二人気まずい空気の中蘭花はヴァニラの病室に居た。
先ほどの一件はともに決着がつかず何となくケンカをしたような雰囲気が漂っている。
蘭花は相手を泣かせてしまって誤る機会を伺ってる子供のようにミントの方をチラチラ見て視線をそらしている。
ミントも文庫本を取り出し蘭花と背を向けて座っているのだがやはり気になり足をパタパタさせていた。
ミルフィーユはというと元気が出るお菓子のレシピ取ってきますと言って病室を飛び出したのが1時間前のことだった。
『あ〜どーしよ〜出て行ったら何かいやな感じだしなぁ〜。フォルテさんでもちひろでもいいから帰って来い!』
念じるようにドア見つめるもノブはぴくりとも動かなかった。
「・・・・・・・・・・・・・ううう・・・・」
どこからともなく蚊の鳴くような声が一瞬聞こえた。
「!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!!」
二人の方に電気が走る。
何時もなら互いに確認を取り合うところだが今日はそんなこともできない。
互いに平常を装い再び沈黙が続く。
「ううう・・・・・・・ううう」
再び不気味な声が耳に入った。
今度も少し反応を示したがやはり平常心を装う。そして4回目のうなり声でようやく蘭花が口を開いた。
「ねぇ?」
とても業務的な口調でミントを呼ぶ蘭花。
「なんでしょう?」
「さっきからうなり声がするわよね?」
「そうですわね」
「何だと思う」
「さぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
素っ気無く会話は終了した。
「そういえばノーマッドどこいっちゃったのかなー!?」
つらさを紛らわすため蘭花のわざと大きな独り言、しかしミントの反応はなかった。
「ここですよ・・・・・・・」
今度は蘭花のお尻から声がする。
「ひゃあ!」
思わず椅子から飛んで立つ。
「何がひっやぁ!ですか、まったく私を押しつぶすなんて・・・・・」
「ノーマッド!」
文句を聞き終わる前にノーマッドはクシャクシャになされる。
「コノヤロー、びっくりさせやがって!なんであんな声だすのよー」
「私は最初のうちにどいてくださいっと言ってそれ以後はあきらめてましたよ」
「え・・・・じゃあ」
ノーマッドをポトリ落とす。
「うう・・・・・・・・・」
「まさか!?」
蘭花はヴァニラのベッドに駆け寄った。」
「ヴァニラ!」
ヴァニラはかすかに手を動かし蘭花の呼びかけに答えた。

145名無し陸戦隊:2006/05/16(火) 22:31:48 ID:vly0wxqe
昭和20年4月5日 午後8時 サイパン イスリート飛行場
陽が沈んでいき、辺りが暗闇に包まれていった。
滑走路脇の駐機場には、出撃する事の無い100機を越える数のB29が、その巨体を静かに休めている。
よく見ると、所々に灯りが灯っており、整備員が機体に取り付いているのもある。
しかしその規模も、毎日の様に出撃していた頃に比べれば小さいものだった。
寂しいものだな・・・今は、だが
第21爆撃兵司令官カーチスルメーは、窓から顔を背けると机に向かった。
広々とした司令官室内は夜になった所為だろうか、少し涼しくなった感じがした。
天井にぶら下がった電灯に、羽虫がはためく中。
気分もよさげに椅子に持たれ掛けると、机に置かれた書類を手に取った。
その書類には米陸軍航空軍総司令官、ヘンリー・アーノルド大将からの指示が書かれていた。
3日前の爆撃以降、爆撃作戦が延期されている今の状況に不満を持つルメーは、
アーノルド大将へ日本本土爆撃の再開許可を打診していたのだ。
今日になりワシントンからその回答が届いた。
返信文には、オペレーション・アイスバーグを支援する為に、二ミッツ元帥の指揮下に入っていた、
第21爆撃兵団を元の任務に戻す上で、爆撃再開を許可する旨の事が書かれていた。
さらに中国に展開していた第20爆撃兵団の部隊もマリアナへ移動させるとのおまけ付きだ。
どうやらアーノルド大将も今の状況に不満を持っていたらしい、
普段から戦略爆撃だけで日本を降伏させて見せると、豪語しているアーノルド大将は
訳の分からない、たった5機のモンスターの為に爆撃を中止させる程、気弱な性格ではないらしい、
おそらく参謀総長達へ強引に迫って、許可を取り付けたのではないか・・・
昨日は海軍も横須賀に奇襲を敢行させている、陸軍としても海軍に対抗して何か動きを見せたいと思っている筈だ。
理由はどうあれルメーとしては、作戦が再開出来ればそれでよかった。
文面を読みながらルメーは、延期されていた爆撃作戦の内容を頭の中で構築していった。
爆撃を行うのなら、やはり守りの薄い夜間がいいだろう・・・
今までの爆撃で低下している日本国内の生産力を、低空からの精密爆撃で一気に叩く、
日本軍の夜間迎撃体勢は一部を除けば問題にならない。
手始めに延期していた、東京を初め・神奈川・千葉辺りの都市とその一体にある工業施設からだ。
ルメーは壁に掛かっていた地図を軽く叩いた。
146猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/05/19(金) 22:46:04 ID:TUE3zZv7
横須賀海軍病院厨房 昭和20年4月2日 PM08:00
今夜の海軍病院の厨房にはとてもやさしく甘い匂いが漂っていた。
7時過ぎ、唐突にやってきた花の髪飾りを付けた少女は、両手一杯に食材を抱えると厨房を貸してくれと懇願してきたのだ。
夕食の片付けが終了した間際で調理人達は困惑したが彼女の表情を見て必ず完璧に片付けることを条件に厨房を渡すことにしたのだった。
「ミルフィーユさん・・・・・」
「はい?」
一人の調理人はミルフィーユに話しかける。
「見学させていただいてよろしいですか?」
「かまいませんよ!」
鼻の頭にクリームを付けながらミルフィーユは笑顔で答えた。
すると呆れて去った調理人までが厨房に戻りミルフィーユの厨房さばきに食い入る。
手際よく、効率よく動く姿にも感激するが調理人達はミルフィーユの表情に見とれていた。」
彼女の料理を見ていると厨房は戦場という言葉が全く当てはまらないのだ。
その姿は優美にまるで踊るようにも見える。
「ふーふふん♪ふーふふん♪」
楽しい鼻歌に乗せて食材は次から次へまるで自ら変身するかのようにおいしいお菓子へと姿を変えていった。
やがてやさしい香りは、病棟の方へと伝わっていき、昨日の米軍奇襲で傷つついた兵士、神経を尖らせている士官にも届いてゆく。
しかし、誰一人厨房に怒鳴り込もうという人間は居いなかった。
それがミルフィーユの不思議な力かもしれなかったのだった。
147名無し陸戦隊:2006/05/20(土) 21:04:47 ID:BOq4MTWa
昨日の戦闘から一日が過ぎて、222空司令部にも、戦闘の詳細が次々と入って来ていた。
昨夜行われた木更津空の反撃は、敵艦隊に大打撃を与えたらしく、
傍受した敵の通信から、救援を求める符号らしきものを多数確認したと言う。
久々の戦果が上がったにも関わらず兵舎の中では、どことなく元気のない搭乗員達であふれていた。
無理も無かった。敵機を迎撃すべく出撃した222空の戦闘機隊は、当初敵編隊を相手に善戦したが、
戦闘後、司令部から入った無線により、それが囮部隊の一つだったと知らされたのだ。
しかも航空戦の間に敵の攻撃部隊本隊は、まんまと横須賀に侵入してしまった。
近藤中尉達は急いで引き返したが、横須賀に着いたときには、既に敵機は爆撃を終え去った後だった。
その後、役目の終わった222空戦闘機隊は追浜飛行場に着陸した。
疲れた表情の搭乗員を前に、新谷司令はねぎらいの言葉をかけると、
非常時に備えて、休息を取るように言われた。
戦果確認により昨日の戦闘で、グラマン12機撃墜確実、2機不確実、5機撃破、
ドーントレス艦爆8機撃墜の判定が出たが、こちらも無視できない損害が出ていた。
制空隊は2機が自爆、3機が被弾したものの搭乗員は無事だった。
駆逐隊の方はさらに損害があり、深追いした零式艦戦3機が自爆、被弾機は軽微な物も含めて8機、その内2機が不時着した。
さらに着陸時に2機が足を折る等して損傷し、1人が重傷を負ってしまった。
何人か姿の無くなった戦闘機隊員達は、皆意気消沈し重い足取りで兵員宿舎に戻っていった。
こうして一日が過ぎてゆき、ただ黙ったまま何をするでもなく、時は過ぎていった
148名無し陸戦隊:2006/05/25(木) 19:08:32 ID:/grCEAaK
昭和20年4月5日午後13時 追浜飛行場
昼食を終え隊員達は、それぞれ将棋を指したり昼寝を始めた。
一応、警戒態勢が執られているので、全員すぐに出撃出来る様にはしている。
重々しい空気が残る待機所にいる近藤中尉は、何もする事がなく、ただじっとしていた、
中尉自身昨日の戦闘で、2機撃墜確実、1機協同撃墜が認められていたが、
横須賀の防衛が失敗した事を思うとあまり喜べなかった。
爆撃を許してしまったが為に、米内海軍大臣が戦死し在泊艦艇に多大な被害がでてしまった。
その出来事を、今日開かれる軍の会議で、陸軍が責任を追求するらしいとも、隊内でまことしやかに囁かれていた。
上層部の中には、航空隊が不甲斐無いからこのような事態になった、と言う者もいるらしい、
それが一層部隊内の士気に影響を及ぼしていた。近藤中尉もやるせない気分になった。
これではまるで、攻撃を許したのは自分達が不甲斐無い所為だと言っている様なものではないか
体勢の不利な中、各航空隊は健闘したし、こちらにも無視できない損害が出ている。
責任を問うというのなら、敵の目標が分かっていたにも関わらず、
何にも対応していなかった連合艦隊司令部や赤レンガの参謀共が取るべきではないか…
海軍のみならず、非常時に何も動きを見せなかった陸軍はどうなると言うのだろうか?
目標となった物は彼らにとっても重要なはずである。
考えると余計に腹が立ってきた。近藤中尉は、我慢できなくなりすくっと立ち上がった。
ちょっと飛行機を見に行ってくる。
そういい残して、外へ出た。
愛機の整備でもして少し気を紛らわせよう、そうでもしないとやってられない。
149猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/05/26(金) 23:24:31 ID:iOmmcWAY
パイロットボート 昭和20年4月5日 PM08:30
「いやー湾内でも海は気持ちいいねー」
深浦から出してもらったパイロットボートの船首でフォルテは風に頬を当てていた。
湾内はとても穏やかでパイロットボートが蹴立てる波の音が耳に入るだけ。
「フォルテさんは海は久しぶりなんですか?」
ちひろが首をかしげる。
「ああ、中々トランスバール本土に降りる事もないからね。こういう軍艦がたくさん停泊している港も少ないしね」
「え?軍艦は母港を持ってないんですか?」
「いやぁそういうわけじゃない。おおきな艦は衛星軌道上停泊するからめったに大気圏内にはおりないのさ」
「宇宙ですか・・・・・」
「そう、宇宙さ。ちひろは・・・ああ、そりゃあ行ったことないか」
「はい」
ちひろは夜空を見上げながら答える。
「この空の彼方にあるのが宇宙だよ、そうだ明日ミルフィーユと見てくるといいよ」
フォルテは右手で空を指差しながら笑う。
150名無しさん@お腹いっぱい。:2006/06/02(金) 11:17:26 ID:E3hy6Sqg
保守
151猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/06/02(金) 22:11:33 ID:bgt0mA08 BE:134743695-#
東京駅 昭和20年4月5日 PM08:30
「じゃあ上田、頼んだぞ!」
東京駅に海軍の車が滑り込むと幸と千晶がすぐに降ろされ最後に正光と横須賀までの護衛を頼んだ
上田中佐が降りてきた。
「はい、エンジェル隊にもよろしくと言っておきます」
「ああ、お前の方が開けているから話も合うだろう。後、陸軍の諜報部には気をつけろ。それから」
「奥さんと千晶ちゃんも大丈夫ですよ」
少し引きつった表情の正光をなだめる様に答える。
「分かっていればいい、俺はまた海軍省へ戻って練りなおせるとこは練り直しておくからな」
そういい残すと正光は急いで車に乗り込み上田中佐も敬礼でそれを見送った。
「では行きましょうか?列車は2等を取ってもらえましたし不自由しませんよ」
「ご同行ありがとうございます。じゃあ急ぎましょう」
「そうですね。いこう千晶ちゃん」
「はい、お願いします」
千晶が小さな頭をぺこりと下げると3人は東海道線のホームへと歩き出した。
列車は5分後の発車、車掌に切符と席を確認させるとすぐに席が見つかった。
帝都への空襲がめっきりなくなり東京駅も人の移動が若干活発になってきている。
上野での乗り継ぎ急ぐ人が足早にホームから消えていく姿に千晶は目を追っていた。


152名無しさん@お腹いっぱい。:2006/06/04(日) 17:19:32 ID:HdFUApQW
りる 26.9%
パキラ 26.0%
ゆうま 25.4%
鉄子(あいこ) 21.7%

153猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/06/07(水) 02:32:07 ID:jpt9YF8S BE:125761267-#
トランスバール皇国エンジェル基地 4月5日
ウォルコットはエンジェルルームへの道を急いでいた。
メアリーも同じくいそいでいた。
そう、いよいよエンジェル隊救出プログラムを立ち上げるその日がやってきたからである。
「おはようございますウォルコット中佐」
「おはようございますメアリー少佐」
「お、おはようございます。メアリー少佐、ウォルコット中佐」
「おお〜おはようございます桜葉さん、昨日はよく眠れましたかな?」
ツインテールの少女にウォルコットはにこやかに答えた。
「はい、あ!ウォルコット中佐私のことはリコって呼んでもらってかまいません」
「アプリコット・桜葉だから・・・・リコなわけ」
メアリーが後ろで疑問符をつくる。
「えーえーわかりましたよ。リコさん」
「はい!」
元気のいい返事と笑顔が返ってきた。
「さて・・・本題ですがメアリー少佐、軍の方はあれから」
「完全に意気消沈ですよ。シャープシューターも失いましたし」
やれやれという表情にウォルコットもがっくり肩を落とす。
「がんばりましょうよ!今日はエンジェル隊救出の初日なんですよ」
リコがパワー前回に二人をまくし立てる。しかし、この救出隊のメンバーは現在のところツインスター隊とウォルコット中佐、そして遊びに来た妹・・・・
「やる気でた?」
「あう・・・・・・」
リコはカクっと首を落とす。
「でもマリブとココモが調査に向かってくれてるのよ彼らを信じましょ」
メアリーがリコの肩をポンポンと叩く。
「そうですよ。お姉さんは必ず救出しますよ」
ウォルコットも肩を叩こうとしたがその瞬間リコにぶん殴られた。
「きゃー!ごめんなさい、ごめんなさーい!!!!!!!!!」



154猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/06/13(火) 05:21:47 ID:M26436Ob BE:188641297-#
鈍筆で申し訳ありません。

今晩更新です
155猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/06/14(水) 01:00:10 ID:Wtx063qF BE:143726786-#
海軍省 昭和20年4月5日 PM08:45
大急ぎで海軍省に戻った正光は再び紋章機の呉極秘輸送作戦の青写真を引いていた。
トリックマスターとハーベスターの海上輸送、正光の頭には昨年の空母信濃撃沈が浮かんでいた。
突貫工事と工夫の技術不足から欠陥はあったものの無事に呉に送り届けたかった。正光の心にまた悔しさがにじみ出る。
第17駆逐隊の磯風、浜風、雪風の3隻を護衛につけ夜明け前に出向させた。しかし、11月29日に浜名湖南方176km地点で米潜水艦の雷撃を受けたのである。
今回も同じような進路をとることになるから潜水艦の奇襲は必然的であろう。
「青写真は引けたか?」
しばらくすると神が湯飲みを二つ持って入ってきた。
「あー今回も潜水艦に苦しめられそうだな」
湯気のたつ湯飲みを受け取ると茶を一口すすり苦笑いして海図を指差した。神も海図を覗き込み苦笑いを浮かべた。
信濃がやられた所にバッテンがうってあった。
「あれは綺麗だからかなり目立つだろうな。まぁ紋章機は雷撃に耐えてくれると思うが引っ張ってる方がやられたらな」
「そうだ、紋章機だげどこかに流れていったら困るからな」
「どうやっても操縦できないのか?」
「横須賀航空隊に何回かやらせたが駄目だった。本当にエンジェル隊でないと動かせないようだ」
ため息をつくともう一口茶をすする。
「長門を先行させたらどうだ?」
「紋章機の囮になってくださいと頼めるか?仮にも元連合艦隊旗艦だぞ。それに大きな艦が動くとな」
「ああ、どこから聞きつけた分からんがまたわんさかやってくるぞ」
正光の長い夜はまだまだこれからのようであった。


156名無し陸戦隊
昭和20年4月5日午後14時 沖縄 嘉手納海岸
青く澄み切った空には海鳥がゆったりと飛びかい、甲板を海風が流れる様にそよいでいく。
しかし甲板から見える景色は、見るも酷い有様であった。
米軍の上陸地点であった海岸線の地域一帯は後に、鉄の暴風と呼ばれる程の砲撃に受けて
クレーターだらけになっており、元の景色の原型を留めていない。
沖縄の陸海軍の部隊が共同で突貫作業を行っており、海岸線と道路等の復旧作業は進行していたが、
破壊された家屋や畑は手付かずのままとなっている。
現地の兵の話によれば、不発弾等が残っているために作業に移れないらしい。
海岸の方は米軍の放棄した車輌等の回収が進み、すっきりとしている。
今は多数の大発や内火艇が、艦隊が運んできた物資の運搬や人員の移動で忙しなく動いていた。
「少佐、作業完了しました」
「うん、今行く」
風景を眺めていた後藤少佐は、姿勢を正すとゆっくりと作業場の方へと向かった。
沖縄に到着した特設工作艦、常盤丸の上甲板には、大型起重機が備え付けられてあり。
油圧機構で稼動する高性能の起重機は、多少の重量物を引き上げる事が出来た。
後藤少佐が作業現場にやって来ると、その起重機が水中より引き上げたある物体が、
甲板に置かれて調査が行われようとしていた。
「おっ、やっと来たかい」
現場の指揮をとる杉田技術中佐が仁村少佐に手招きした。
「どんな物ですか?」
「うーん、凄いよぉーいろんな意味で、見た目の大きさに比べて予想以上に軽いし、
硬度も今の技術水準を超えているね。未来の金属とは言え理論的に考えられないよ」
目の前の物体、それは沖縄航空戦でカンフーファイターが酷使した為に、
アンカーから外れてしまったクローの部分である。
沖縄の戦闘終了当初、増援等を送るために軍令部は、僅かながら船団を派遣する事にしたのだが。
沖縄根拠地隊の報告によって、米軍の放棄した物資が大量に回収された上、
座礁している船舶が大量に放置されている事が判明した。
軍令部にも頭の回るものがいるらしく、何か戦力になる物があるかもしれないと
急遽、船団になけなしの工作艦と調査の為の技師が追加されて、沖縄まで来たのであった。
「それで、これどうするんです?まさか軍令部は同じものを作れとか言ってるんじゃないでしょうね。」
「まさか、これと同じ金属を作れと言われて、そう簡単にはいなんて言えないよ。
詳細な数値を取った後、持ち主に返還するそうだ」
杉田技術中佐は、腕を広げてだるそうに肩を竦めた。