あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part316
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part315
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1345905903/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
わっはっは!
よく乙だ
>>1よ。
オレサマの強力な水中バレエを見て、思いきり笑ったあとは、魚も泳ぐ戦国風呂を味わうがよい!!
>>2 このオレ様がおまえらのハナミズを飲みつくしてくれるわ!
ふと思ったが、グルグルの草の精霊ならタバサママンとカトレア治せるかもしれんw
あの大地の治療って何気にどんな奇妙な症状でも時間かければ治せるようだし
んで、見かけは変だが恐らく大抵の魔法を無効化できる装備まで持ってる…
癌すら治す野菜が作れる工藤流念法なら一発だ
どっち呼ぶんだよ 親父か息子か
7 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/28(金) 01:47:44.65 ID:lp2d0yBb
今更だが絵はあるのに仮面ライダーWのクロスって無いんだな。映画終了基準だと無双になりそうな気がするけど
久々に書き込んだからミスした……。あとWはなくもなかった……
仮面ライダーはエタ的な意味で鬼門だからなあ
クロス相手の知名度としては最高なんだけど、ひとつとしてまともに終わらないんだよなライダーは
ちゃんと終わりを考えて書けばいいのに
仮面ライダーよりも『仮面ライダーの敵』を呼んだほうが、短編としては面白くなるかも。
オーズのウヴァとか、能力が高いのに小物っぽかったですし、人の欲望を怪物に変える力なんて面白いじゃないですか。ゼロ魔世界だと欲望が強そうな人に事欠きませんし……タバサパパンとか。
……まあ、書く時間も能力も無いのが残念ですが。
Wならメモリ回収終わったら終わりとかも出来そうなんだが。翔太郎だけが飛んじゃって
とりあえずギーシュは親子丼メモリでいいんじゃないかな
おっと尻彦さんの悪口は
オーズなら博士が飲み込んだメダルが
偶然つながったハルケにばら撒かれてジョゼフが紫メダルに
取り付かれたあたりにしてエイジを呼べば話しはつくりやすいんでね
ハルケならメダルがあってもごまかしはきくし
タ・ト・バ! タ・ト・バ!! タ・ト・バ!!!
ル「今の歌、なに?」
?「歌は気にするな!」
>>15 ( ゚∀゚)o彡゜タ・バ・サ! タ・バ・サ!! タ・バ・サ!!!
に見えたw
ジュリオ「だがオレのふとももは!いつの日か、必ずお前にヤング弁当食い放題だ」
仮面ライダーのクロスなら一番どの作品がゼロ魔の世界に合うんだろうね
あとは、どのキャラかな?
鷹!飛蝗!犀!
>>18 響鬼さんとかどうよ?
スーパー1とか他のライダーみたいにメンテナンス要らないよ
しかもディスクアニマルで色々出来るぞ
シエスタは猛士の子孫でディスクアニマル創れる事にするとかで補充も出来るようにするとかさ
>11
「ちとシャクだが、面白いぞ」といわせる使い魔か。
>>18しかし変身するたび着てた服が燃えて無くなるという問題がw
相性的にはアギトやアマゾンじゃねえの
アギトはアンノウンをハルケの歴史に介在させてもいいし
アマゾンは野生児なのでキャラ的に絡ませやすい
メンテナンスね。固定化で代用効かんかな
Xライダーなんて明らかにバイオ系の改造人間じゃなくて
機械系の改造人間なのにズタボロにやられても簡単に自動で修復されるぞw
これのせいで同じ明らかな機械式のスーパー1が性能高くても虚弱に見えて困るwww
ウィザードは完結さえしていればー
>>27 放送終了の一年後に期待かな
今すぐ呼び出したいなら、オモシロ外人のケット・シーあたりをオススメw
ケット・シーと聞いてFF7のほうを連想した
1号2号と出て来て最終的に10032号とかが出てきたりして
コピーをする度に変異を繰り返し、9999番目の固体はもう原型をとどめていない・・・
というところまで妄想したがケットシーの「ケット」って確かキャット=猫のことだから
スペルはKじゃなくてCだと気づいた
>>29 だが中の人はいい歳のおっさんやで〜
しかもロボット、でもケアルで回復できるからメンテフリー?
機械系の敵もケアルで回復出来る世界ですし
それより一晩寝て全回復出来るのが
何もなければ12:50くらいから「ウルトラ5番目の使い魔」代理投下いきます
34 :
代理:2012/09/30(日) 12:50:29.41 ID:ba8ro/b5
では始めます。
↓↓↓
35 :
代理:2012/09/30(日) 12:51:49.01 ID:ba8ro/b5
第九十九話
第二部最終回
故郷への帰還! 砂漠に舞う神秘の雪
神秘群獣 スノースター 登場
「全速前進! ヨーソーローヨー!」
「燃やせ燃やせ! おーいもっと罐を焚け。もっと速く、もっと早く飛べ、進め進め! 鳥のように風のように」
「走れ走れ、おれたちの東方号、目指すはハルケギニア。待ってろ、我らのトリステイン王国よ!」
轟音を上げて真っ赤な石炭の炎をうねらせ、巨大な四基のプロペラを回転させるコルベール製水蒸気機関。
歌うように叫びながら、罐に石炭をくべる少年たちの表情は明るい。
砂漠の白色の大地に黒い影を投げかけ、東方号は一路西を目指して航行を続けていた。
「おーいギーシュ、石炭が足りないぞ! もっとじゃんじゃん持って来いよ」
「ぼくのワルキューレは人夫じゃないぞ。あーあ、せっかくの美しい造形がすすまみれになってしまった。こら! 火のメイジは
さぼるんじゃない。火力が落ちてるぞ」
「だからそのために石炭持って来いって言ってるんだよ。さすが、エルフの技術と魔法で作り直された罐は違うぜ。これだけ
ぼんぼん炊いてもちっとも壊れる気配がねえ」
「わかったよ。みんな、力を惜しむなよ。一刻も早くトリステインへ帰って姫さまに……いいや、女王陛下に我々の大殊勲を
ご報告申し上げるんだ!」
水精霊騎士隊の、割れんばかりの大歓声が東方号の機関室に響き渡った。
来るときは、何人が生きて戻れるかという悲壮な決意を固めていたからろくに笑う余裕もなかったが、帰りは意気揚々の極みである。
ギーシュたちはすっかり舞い上がり、今からすっかり英雄気分であった。
「やれやれ、うちの男どもときたら、女王陛下に拝謁がかなうとなると舞い上がっちゃって。その後が大変だってこと、わかってるのかしら?」
積荷のチェックをしていたモンモランシーが、広い艦内を通り抜けて響いてきた男子の歓声に呆れた声を出した。
「でも、やっとお国に帰れるんですよ。うれしいのは仕方ないんじゃないですか」
手伝っているティファニアも、鉄の壁に反響してうっとおしく響いてくる大声に苦笑いしながら答える。
船舶の仕事は、外からの補充要員が効かないためにひとりで複数個所を兼任するのが普通だ。増して、人手不足の
東方号に遊ばせておく頭数なんてあるわけがない。女生徒だろうと誰であろうと、立っている者は親でも使わせられる。
今、彼女たちは急いで積み込まれた物品のリストを作成しようと紙とペンを手に、倉庫の中を行ったり来たりしていた。
「まったく、いくらスペースがあるからって積み込みすぎよ。ほんとに、男のやることってのは適当なんだから!」
「まあまあ、またネフテスに行けるのがいつになるかなんてわからないんですし。それに、ルクシャナさんたちエルフの
皆さんの、トリステインでの生活道具もあるんですから」
「だからよ! あの女、最近調子に乗りすぎじゃない。正式にネフテス代表に選ばれたからって、我が世の春とばかりに
やりたい放題言いたい放題! ほんと腹立つっ!」
「あはは……」
雑用を押し付けられて、貴族らしからぬ仕事ばかりさせられているストレスもあって、モンモランシーは思いっきり怒鳴った。
ティファニアは、とても人目にはさらせない友達のそんな姿に乾いた笑いをするしかなかった。が、内心ではまたルクシャナが
トリステインにやってきてくれることや、エルフの仲間が増えることがうれしかった。以前は人に対してはどこかよそよそしくて、
他人行儀だったところがすっかり変わって、皆に自然と溶け込めるようになっている。
36 :
代理(2/12):2012/09/30(日) 12:52:29.80 ID:ba8ro/b5
トリステインに帰ったら、マチルダ姉さんに預けている子供たちに会いに行こう。みんな元気にしているだろうか、大仕事を
やり遂げた自分を早く見せてあげたい。そして、いつか隠れることなくハルケギニアでエルフが過ごせる世界を作る。それは
もう夢物語ではないのだ。
「コスモス、わたし、がんばるからね」
ペンダントにして首から下げている輝石を握り締め、ティファニアは誓った。
期待に胸を膨らませているのは少年たちだけではない。ティファニアも、自信という新しい力を手に入れて力強く前へ
足を踏み出そうとしている。皆が、この旅で得たものはそれぞれ形は違えど、誰しも大きかった。
故郷への帰還に沸く人間たち。彼らの無邪気な騒ぎはやむことはない。
一方で、未知の世界へと足を踏み入れようとしているエルフたちは、一室を与えられながらもうかない表情が続いていた。
「なにをみんな深刻そうな顔をしてるの? 全ネフテスの代表なんて名誉をもらったのに、蛮人の朝食は口に合わなかった?」
「ルクシャナ、君はいいかげん自分が特別なんだって自覚したまえよ。確かに、蛮人の中にもいい奴がいるんだってことは
わかってるよ。でも、彼らの国には我らを敵視する者のほうが圧倒的に多いだろう。正直、戦争に行くほうがまだ気楽だよ」
「まったく、あなたたち男はすーぐ深刻に考えるから、物事を悪いほうに持っていくのよ。あなたたちの半分も生きてない
子供たちがネフテスに乗り込んできたのに比べたら、楽なものだと思わない? アリィー、そんな意気地なしとは婚約解消して
人間の男でいいの探そうかなあ」
と、何度目になるか数えるのもめんどくさい挑発をルクシャナがして、それにアリィーが反応してむきになるという、このふたりの
間では定番のやり取りがおこなわれ、それを仲間のエルフたちは嘆息しながら見ていた。
「おれたちは人生の選択を誤ったんじゃないだろうか」
「言うなイドリス。どのみち、我らはアリィーの婚約者どのに命をゆだねるしかないんだ。しかし、実際彼女はすごいよ。もしも
彼女がいなかったとしたら、我らの歴史はアディールとともに終わっていたかもしれん」
アリィーの仲間たちは、ルクシャナの型破りな異端さを敬遠しながらも、彼女の実績を否定できない複雑な気分だった。
「それがわかってるなら、ちゃんと責任を自覚しなさいよ!」
「うわっ! ルクシャナ、いつの間に」
気づくと、怖い顔をしたルクシャナが彼らの後ろに立って睨んでいた。
「ヤプールみたいに世界規模で侵略してくる相手に国だの種族だの言ってられないの。いつまでもウルトラマンが来てくれるとは
限らないし、世界が一丸とならなきゃ大厄災の繰り返しなのよ。あなたたちにはほんとに危機感ってものが欠落してるわね。いーい?
かっこばかりつけて働かない男なんて最低よ。わかった!」
「わ、わかったわかった!」
ビダーシャルが来られないので、今回の実質的なリーダーとなっているルクシャナの威勢はすごかった。男たちも、これから
行く土地では右も左もわからないので、ルクシャナには頭が上がらない。
それぞれの思いを乗せて、東方号はひたはしる。
そして、その後部航空機格納庫にて、物語の主人公たる少年は愛機ゼロ戦を磨きながら思っていた。
「みんな張り切ってるなあ。よっしゃ、おれも気合いれてやるかっ! これからも頼むぜ、相棒!」
37 :
代理(3/12):2012/09/30(日) 12:53:23.06 ID:ba8ro/b5
「なあ相棒、その相棒っておれっちのことだよな? そんな鉄の塊じゃねえよな。な、な?」
「女々しいぞデルフ。別に、相棒はひとりじゃないといけないってことはないだろ。こいつは日本人にとっちゃ特別な代物なんだよ。
年中背負われてるお前は先輩らしく後輩にゆずりやがれっ」
と、今回出番らしい出番がなかったデルフをからかいつつ、才人はボロ布でジュラルミンの機体を磨いている。
だけども、影の薄いことを気にするデルフの心配など、本当は無用なものであった。単に武器の扱いやすさでいえば、デルフより
いいものはいくらでもある。なんだかんだいっても、どちらも短くない付き合いの戦友として互いを信頼している。憎まれ口はいわば
愛情の裏返し、些少の悪意はコミュニケーションの手段なのである。
「なあデルフ」
「なんだい、相棒?」
「お前は、簡単に壊れてくれるなよ」
「どうかね。おれっちには寿命はねえが、物はいつか壊れてなくなるもんだ。そういうところは人間といっしょだな。だから、
大切にしてくれよね」
「はいはいわかったよ。ところで……刃物って研いでくと少しずつ減ってくよな」
「へっ? おま、何を。あっ、アーーーッ!」
万事がこんな調子のふたりである。からかって、からかわれて、どちらにとっても気楽な話し相手。
人間と剣なのだから、それ以上もそれ以下もない。才人にとっては気楽に話せる年上の相手、デルフにとっては長い人生で
久しぶりに出会えたおもしろい持ち主。それでいいのだから、無理に変えることはない。
いつか、この関係が壊れるのだとしても、それはそのときのこと。戦いの中に生きる者にとって、それは無価値な心配だ。
奇妙なコンビは、今日も変わらず、明日もそうだと願ってのんびりと語り合う。
やがて日は沈んで、砂漠にも夜がやってきた。
「ぶるるっ、やっぱり砂漠の夜はいちだんとこたえるな」
防空艦橋の露天で見張りをしている才人が、防寒の毛布の上からでも響いてくる寒風に身を凍えさせてつぶやいた。
すでに時刻は地球時間の午前一時をまわり、気温は零下へ達している。昼の灼熱と真逆の極寒を作り出すのが、
砂漠という不思議な世界なのである。
くるりと首を動かせば、下には黒く塗りつぶされた砂漠。地平線を挟んでその上には、名も知らぬ星星が無限の輝きを放つ
宇宙がどこまでも続いている。その大自然の芸術とさえいえる光景は、サハラに来てもう何度も見ているものの、いまだに
日本育ちの才人を圧倒してあまりあった。
「すげえな自然って、デジカメあったらぴゅーりっつぁ賞ってのも夢じゃ……って、おれの腕じゃ無駄か」
くだらない独り言を言って、才人はくすくすと笑った。ほんと、写真なんてもので伝えられることはたかが知れている。
どんなにうまく撮られたプロの写真でも、こうしてじかで見た感動には到底及ぶものではない。それはつまり、人間の技術なんて、
自然の前にはまだまだ遠く及ばないということだろう。
38 :
代理(4/12):2012/09/30(日) 12:54:01.22 ID:ba8ro/b5
寒風に耐えながら交代時間を待つ才人。そこへ、ポットを片手にしたルイズがやってきた。
「寒そうね、テファが東方のお茶を淹れてくれたんだけど、飲むかしら?」
「うひょーっ! もちろん! ……熱っちーっ!」
熱湯で舌を焼いた才人は、ひいひい言いながら手のひらで舌をあおいで冷まし、ルイズは呆れた笑いを返した。
「あんた猫舌だったかしら? 慌てて飲むからそんなことになるのよ」
「だって、お茶なんて久しぶりだからうれしくってさ。ああ、このカフェインの芳醇な香りときたら」
「バカ?」
「うるせ、おれの国じゃ未成年飲酒禁止って言ったろ。おれんちでは飲み物は基本お茶だったんだよ。父さんはコーヒー党
だったんだけど、母さんが味噌汁にコーヒーは合わないって譲らなくてな」
「そう」
故郷の思い出話を始めた才人を、ルイズは暖かい眼差しで、自分も冷ました茶を飲みながら聞いていた。
「親父が紅茶なんて気取ったもの飲めるかなんて言うと、お袋はコーヒーなんて泥水よって、しょっちゅう張り合ってた。
おれはどーでもよくて一人でテレビ見ながらオレンジジュース飲んでたな。とにかく、うちの両親は普段はおとなしいくせに
飲み物に関しては妥協しなくてなあ。で、中立で緑茶を基本にしてたわけさ」
「あんたのお父さまとお母さまだもんね。愉快そうなご一家だわ」
「そういうこと、ほかにも焼酎とウィスキーはどっちがうまいかとか、酒の好みも全然合わねえの。で、呆れたことにおれに
意見を求めてくるんだな。で、おれは言ってやったよ。「そのグラスの中身がバーボンだろうが泥水だろうがおれには関係ない。
だって両方飲んだことないんだから」ってな」
「あははは! ほんと、あんたのご両親っておもしろいわね。まるで、魔法学院の日常みたいじゃない」
言葉の意味の半分以上はわからなくても、情景は簡単に想像できてルイズは笑った。
堅苦しい貴族の生活とはまったく違う、ささやかでもくだらなくても本音で語り合える家族。ルイズは、そこに優劣が存在するとは
思わなくても、そんなふうな触れ合いをおこなえる才人をうらやましいと思った。
「笑うなよ。そういえば魔法学院か、もうけっこう長い間まともに帰ってないけど……みんな、元気でやってるかな」
才人は、ハルケギニアでの家ともいえる魔法学院の風景と、お世話になった人たちのことを思い出した。
メイドや使用人の人たちは最初の頃、右も左もわからなかった自分にいろいろ気を使ってくれた。いつもうまい飯を食べさせてくれた
マルトー料理長、飛び入りで働き出したリュリュの作ってくれたデザートもどれも絶品だった。
それに、お茶といえばシエスタの淹れてくれたお茶もしばらく飲んでない。ここのところ、大事件が続いて学院でのんびりする
暇なんてまったくなかったから、すっかり疎遠になってしまっていた。元気のよさは人一倍で、少々押しが強すぎるところが
玉に瑕ではあるが悪い子ではなかった。
「なあ、トリステインでのいろいろが片付いたら、また学院が始まるんだよな。シエスタにいっぱい土産話もできたし、この自然の
美しさも、早く教えてやりたいぜ」
「ねえサイト……あんた、なにかというと自然がどうたらって言うけど、あんたの故郷には自然はないの?」
「ないことはないさ。むしろ、おれの国は自然の豊かなところだって言われてる。ただ、おれの世界は技術はすげえと思うけど、
エルフたちほど自然の扱いはうまくなくってな」
才人はルイズに、地球で起きた環境破壊や公害、それによって起きた問題などを噛み砕いて教えた。要は、人の住むところ、
物を作るところを確保するために山を崩し、見境なく毒を撒き散らして多くの人が苦しんだこと。今では多少はましになってきているが、
それでも世界には命ない荒野になってしまったところが山ほどあることなどを……
しえん
何やってんの?
規制くらった?
42 :
5/12:2012/09/30(日) 15:09:10.95 ID:iQchvqFD
「あんたの世界も、理想郷じゃないのね」
ルイズは、ハルケギニアよりもずっと優れているであろう才人の世界にも、だからこそハルケギニアにはない問題を抱えている
ことを認識して表情を曇らせた。
「コルベール先生は、進歩することが世の中をよくすることだって信じてるけど、これを知ったらどう思うかしら」
「だから、無闇に地球を真似してくれないでくれって頼んでる。コルベール先生はいい人だけど、他の人間はどうか知らないしな」
世界各国で環境保護を叫ばれているが、いまだに決定的なものはない。それどころか、自然保護を金儲けに利用しようとする
卑怯者もいる始末だ。ハルケギニアを地球の二の舞にしてはいけない。
一説では、地球上の人間がいなくなったら東京は百年かそこらでジャングルに戻るという。つまりは、自然保護だのなんだのと
偉そうに言ったところで、人間の文明なぞ地球規模の自然と時間の前ではたいしたものではない。人間がいなくなれば
適当な生物が取って代わるだけ、地球環境保護というものはあくまで『人間に都合のいい環境の保護』というものだということを
勘違いしてはならない。
美しい風景。しかし、この光景の中で人間は邪魔者でしかないのだろうか。
ふたりがそんなふうに物思いにふけっていると、そこに三人目の声が響いた。
「どうした? 先客がいたから気を使って帰ろうかと思ったが、ずいぶんと暗い様子じゃないか」
「あらまあお邪魔虫のご登場ね。副長殿、仕事はどうしたの?」
「心配するな、今は休憩時間だ。仮眠をとろうかと思ったが、うちのうるさい連中がサイトの手伝いに行けとうるさくてね」
やれやれとルイズは肩をすくめた。同時にミシェルも苦笑してみせる。銃士隊のおせっかい焼きも遠慮がなくなってきた。
実は、一週間前の戦いが終わった日、ルイズとミシェルで誓いを立てた夜からしばらく経って、ある日こんなことがあった。
アディールのあちこちから呼ばれ、誰もが忙しく駆け回っている頃。ある夕食会のこと。才人がいないときに、その一幕で、
ルイズとミシェルはすれ違いざまに視線を合わせた。
「……」
「……」
互いに視線のみを合わせて、一言も発することはなかった。いまやふたりは戦友であると同時にライバル同士、下手な馴れ合いを
するつもりはなかった。日常こそがふたりの戦場、そこは孤独で、何人にも邪魔されない聖戦の場……
と、思っていたのだが。
「副長! 我ら一同、全力を持って副長をサポートさせていただきます! あんなちんちくりんがどんなもんですか! 大丈夫です。
副長のほうが魅力じゃ全然上なんですから絶対勝てますって」
「ルイズ、話は聞いたわよ。いいこと、最近はばをきかせてきてるあの女どもに勝ち誇らせるなんて絶対あっちゃだめよ。わたしたちも
全力で応援するから、死んでもサイトをものにしなさいよね」
と、どこで気配を察したのかミシェルには例によって銃士隊一同。ルイズにはモンモランシーほか女生徒が応援団について、
当人たちの意思とはまったく関係なく全面抗争の様相を見せてきてしまった。結局、どの歳になろうと女子の最大の関心事は
他人の色恋沙汰ということなのか。
本人たちより外野が盛り上がるあたり、ありがた迷惑としか言いようがないのだが、もはや止めようがなさそうだった。
ルイズとミシェルは顔を見合わせあって、今度は仲良くため息をつきあった。
43 :
6/12:2012/09/30(日) 15:09:43.60 ID:iQchvqFD
「はぁ……」
前途多難は覚悟していたが、こんな斜め上の方向から来るとは完全に想定外だった。今からこんな調子では、トリステインに
帰った後ではどこまで火の手が広がることやら。頭が痛くなってしょうがない……ただ、どちらが勝つことになろうと結婚式は
非常ににぎやかなものになるのだけは確実だろう。喜んでいいのか、悲しんでいいのやら。
そんな様子を、男子は遠巻きに眺めていたが、ギーシュは親友の多難を予感してせめて祈った。
「サイト、君は幸せなのか不幸なのか。正義の味方といえど、こればかりはウルトラマンもどうしようもしてくれないだろうしな。
せいぜいがんばりたまえよ。愚痴くらいは聞いてやるさ」
もっとも、そのウルトラマンの先人たちも恋や愛に悩んだのを彼らは知る由もない。どんな宇宙のどんな時代でも、男と女が
いる限り、惚れた腫れたの問題からは永遠に逃れることはできないようだ。
が、恋に関してはキュルケのようなタイプはともかくとして、大半の者がいざとなったら尻込みしてしまうものだ。ミシェルも
自分のそういう方面での臆病さを自覚しているので、尻を蹴っ飛ばしてくれる部下の存在に一面では感謝していた。
「思ったとおり凍えているようだな。これを飲め、あったまるぞ」
「あ、ありがとう」
ミシェルの持ってきた水筒の中身を注いだカップを、才人はルイズといっしょに受け取った。中身は無色無臭の液体で、
ルイズの持ってきたお茶のように熱くなかったことから、ふたりはそのまま口に運んだ。
ところが、口内に強烈なアルコールの味がしたかと思ったときには遅かった。喉を通った液体はそのまま喉を焼き、
吐き出す暇もなく飲み込んだ後で、ふたりは激しく咳き込んだ。
「こ、これ! 酒じゃないの!」
しかも度数は並でなく高かった。先日飲んだエルフの酒よりも強烈な刺激がして、口の中がしびれて痛い。しかし
ミシェルは悪びれるでもなく、いたずらっぽく笑って言った。
「火酒というやつだ。アルビオンでは冬季作戦用に常備していて、銃士隊でも冬場はこれを持ち歩く。まずいだろうが、
体は焚き火をしたりするよりもずっと温まるぞ」
「やってくれたわね。この、性悪女!」
「で、でも、確かに体はポカポカしてきたな。さすが、現場の知恵ってことか」
才人はしてやられたと思いながらも、さっきまでの凍える感覚が遠のいて、代わりに熱がこもってくるのを感じていた。
アルコールは体内の血流を活発にし、体温を上昇させる。それは寒冷地において暖房の代わりとなることは地球でも
実証されている。低体温症や凍傷防止にも効果があり、山岳救助犬がブランデーを首輪につけているのもこの一例であるし、
ロシア人がウォッカを飲むのも単なる嗜好の問題だけではない。
「飲みすぎるもよくないが、そういう奴のために火酒はわざと無味無臭に作ってある。軍の冬季訓練では、こいつだけで
寒さをしのぎながら一晩耐えるというのもある。そのうち、水精霊騎士隊の連中にもやらせてやろうかな」
「やめてあげてくださいよ。ギーシュたちなら、なにも考えずに酔いつぶれて、そのまま凍死コースまっしぐらしか思い浮かばない」
勇敢さはあっても狡猾さとか思慮ぶかさに欠けるトリステイン軍人の欠点を見事に受け継いでいるギーシュたちに、下手に
冬季訓練なんかさせたものなら、有名な八甲田山みたいに悲惨な末路が簡単に想像できてしまう。才人自身だって、
寒いのは大の苦手だ。
44 :
7/12:2012/09/30(日) 15:10:16.13 ID:iQchvqFD
とはいえ、一応は火酒は体温を一気に取り戻してくれた。さすがにそのまま飲むのはふたりとも耐えられないので、
ルイズのお茶で適当に薄めて口に運ぶと、酔う手前で寒さを忘れることが出来た。
「ところで、ふたりで深刻な顔をしてなにを話していたんだ?」
「たいしたことじゃないですよ」
才人は、さっきまでのルイズとの会話の内容を簡単に説明した。
「そうか、難しいものだな。しかし、言わせてもらうなら、あまり考えないほうがいいと思うぞ」
「なぜですか?」
思いもかけないミシェルの一言に、才人は思わず尋ね返した。
「今、それを考えたところでどうなるかってことさ。確かに、お前の言ってることは重要だろうけど、今それが必要なときじゃない。
サイト、お前はいい奴だけど、いい奴すぎるところがある。もっと、感情のままに素直に行動したほうがいい。初めて会ったときの
お前はうだうだ考え込むような、暗いやつじゃなかったぞ」
ぱんと肩を叩かれて、才人ははっとしたような気分になった。
言われてみたら、ここ最近はなにかと考え込むようなことが多かった気がする。世界の危機、それは間違いなく重大なこと
だけども、才人ひとりで考え込んだってどうにかなるわけがない。ハルケギニアと地球の未来についても同様だ。ひとりの
頭で出た考えなどは、ひとつが優れていても次々とやってくる問題にはすぐ対処できなくなる。
考えてくれる人ならたくさんいる。自分は、必要なときに意見をひとつ言えればそれでいい。サルは一匹のボス猿が群れを
支配するが、人間は助け合ってこそ人間たる意義がある。才人は、肩の荷が下りたようなさっぱりした気持ちになった。
「ありがとう。おかげで、気持ちが楽になった気がします」
「なんてことはないさ。姉が悩んでる弟を助けるのは当たり前のことだ……なんて、適当な名目を言えるように作ってくれた
姫さまには感謝だが、そろそろ必要ないな。サイト、わたしはお前の元気な顔が好きだ。それだけだよ」
にこりと笑顔を見せたミシェルに、才人は酒精とは違う意味で顔を赤くした。ルイズは、またこの女にポイント稼がせて
やっちゃったかと内心で舌打ったが、こればかりは年の功というやつかで真似できない。地球には、年上の女房は
なんとかということわざがあることをルイズは知る由もないが、なかなかに的を射ているといえよう。
星空の下、三人に増えた見張りはそれぞれ空と地上を見下ろした。
風の音だけがする世界は、地平線のかなたまでなにもなく、ひたすら同じ風景が続いている。このあたりはエルフの
生活圏内からもかなり離れていて、すでに村やオアシスの類もなく、国境警備のネフテス空軍の駐屯所が広範囲に
点在するにすぎない。
45 :
8/12:2012/09/30(日) 15:10:48.23 ID:iQchvqFD
しかし、見張りは欠かすわけにはいかない。行きのときのように、なんの前触れもなく怪獣の襲撃を受ける可能性は
常につきまとっている。東方号はどんな遠方からでも発見は容易なほどの巨大船だ。ほとんどが視力のいいことで共通する
鳥型の怪獣にとっては、見逃すわけもない目標と映るだろう。万一、バードンのような化け物クラスの相手に奇襲を受けたら
東方号とてひとたまりもない。
ただ、それは大幅に精神力を削る集中力と、なにより退屈に耐える根気がいる作業であった。寒風に耐えつつ、何もない
空間を凝視し続けるのは、時間の経ち方を遅く感じてしょうがない苦行である。才人は、最初のときこそルイズやミシェルと
たわいもない会話で気を紛らわせたが、すぐに無言になって虚空に目をやるだけの作業に戻ってしまった。
時折、火酒や茶で寒さを紛らわせ、目を凝らし続けるだけの時間が無限のように過ぎていく。
そんなとき才人の目に、東方号の前方に低く垂れ込める巨大な雲塊が映りこんできて、彼は伝声管に向けて叫んだ。
「艦橋、進路方向に雷雲を発見! 避けられたし、どうぞ!」
「了解した。高度を上げてやりすごす。今よりさらに冷えるから気をつけたまえ」
コルベールの声が聞こえてきてから少したって、東方号は上げ舵をとって艦首を空に向けた。
ぐんぐんと、プロペラ出力にものを言わせて上昇していく東方号。前方に壁のように立ちふさがる黒雲に挑戦するかのごとく、
その頭上をとった東方号が水平飛行に戻ったとき、そこには海が広がっていた。
「うわぁ……」
「これは、まるで神の世界だ」
感嘆し、つぶやきの声が風に流れていく。
高く飛び上がり、雲の上の世界に出た東方号を待っていたのは、一面の雲に埋め尽くされた光景だった。
すべての方向を見渡しても、下界に広がるのは雲のみ。その雲が月光を反射して明るく輝き、まるで海のようにうねりながら
どこまでも広がっていた。
「空の上の、海……ね」
それは、まさしく雲海。神話の世界で、神や天使が歩くとされる天上界の風景を、そのままここに再現したような幻想的な世界。
東方号は、その海の上をゆっくりと航海している。
「船乗りの間では、幸運の印として語り継がれているそうだが、これほどまでとはな」
ミシェルも圧倒されたようにつぶやいた。
この星の赤と青の月光は、それを浴びる雲海にえもいわれぬ彩を加えて、反射光は真昼のように明るく雲上を照らしている。
さらに、雲上なので頭の上にはさえぎるものはなにもなく、ふたつの月が輝く大宇宙が広がっていた。
まさに、ハルケギニアならではの大絶景。地球ではありえない自然の大芸術に、才人だけでなくルイズやミシェル、そのとき
起きていた面々すべてが圧倒されて息を呑んだ。
46 :
9/12:2012/09/30(日) 15:11:21.62 ID:iQchvqFD
「ミス・エレオノール、すまないが全員を起こしてくれないか」
艦橋で、眼鏡のくもりをふき取ってかけなおしたコルベールが言った。エレオノールもうなづいて、手すきのものは甲板に
上がるようにと艦内に伝える。
寝ぼけ眼をこすったギーシュたち、なにごとかと身構えた銃士隊が甲板に上がってくる。
寒風が目を覚まし、次いで眼に入ってきたのは、この世のものとは思えない美しい光景。その絶景には、エルフたちすら目を見張った。
「おい、こりゃあ……」
「きれい、おとぎ話の世界みたい」
魔法でも、科学でも作り出すことは不可能な光の世界。東方号は、その大いなる海の上を粛々と進んでいく。
「この船に乗った、すべての人たちへ」
コルベールの声が魔法で増幅されて甲板に響いた。ギーシュたち男子や、ティファニアやモンモランシーら女子たち、
ルクシャナたちエルフたちや銃士隊も思わず月明かりに輝く艦橋を見上げた。
「この船に乗った、すべての人たちへ。突然呼び出してすまない……しかし、その理由はもうわかってもらえたと思う。諸君、
我々のこの世界は美しい。しかし、ヤプールの跳梁を許せば、この美しい世界は汚されて、二度と元には戻らなくなって
しまうだろう……諸君、君たちは、それぞれに戦う理由を胸に秘めていることと思う。それでも、君たちは皆、この美しくて
かけがえのない世界に守られて生きているのだということを、忘れないでほしい」
コルベールの願いは、人間とエルフたちの胸に刻まれた。
我々が、なにげなく生きているこの世界は、こんなにも儚く美しい。自分たちは、この世界を守らなくてはならない義務がある。
名誉とか、意地とか、そんなものと引き換えにはできない、あって当たり前だが大切なもの。これを、ヤプールなどに、絶対に渡してはいけない。
決意を新たにする若者たち。彼らの瞳は、今は曇りなく前を見据えている。
だが、世界を背負っても、その手に掴みたいものも確かにあった。
コルベールの言葉を聞き、身の引き締まる想いをした才人は、その想いをルイズに伝えようとした。
「先生、いいこと言うぜ。なあルイズ、おれたちはなにがあってもこの世界を……っと!?」
才人の言葉は、右腕に抱きついてきたルイズにさえぎられた。なんのつもりかと問い返す暇もなく、ルイズは才人をきっと鋭い
目つきで見上げて、こう告げた。
「サイト、あんたの志の高さは大切だと思うわ。でもね、それって進んで危険に突っ込んでいくってことよね? たとえ世界が
救えても、あんたがいない世界なんてわたしにはなんの意味もないわ。あんたのぶんまで生きてやろうなんて思わない。
あんたが天国に行くならわたしも行く。覚えておきなさい」
「ルイズ……」
説得する余地など欠片もない、命をかけたルイズの意志の固さは才人の言葉を凍らせた。
するとミシェルも。
「そうだな。わたしも今さらサイトのいない世界で生きたいとは思わないな……なあサイト、お前が自分より世界を大切に
思っているように、世界よりお前を愛している女が少なくともふたりいることを、覚えておけ」
誰よりもなによりも、あなただけを愛する。それは利己的だが、逆に宇宙でもっとも尊い利己心であろう。
47 :
10/12:2012/09/30(日) 15:11:53.68 ID:iQchvqFD
愛とは決して、一言で語りつくせるような単純なものではない。けれど、ひとつだけ確かなことがあるとしたら、愛とは
理屈ではないということだろう。
「サイト、今なら何度でも言える。好きだよ、わたしはお前といっしょのときに一番幸せになれる」
ミシェルはそう言うと、才人の左半身にぴったりと体を寄せて抱きしめた。
「ひ、え!? ミ、ミシェルさ!」
「酒の勢いだ。気にするな」
そんなことを言われたって、鎧にまとっていてもトップモデルなみにスタイルのいい彼女に密着されたら、健康な男子が
なにも感じないわけがない。さらに、甘えた表情を見せられると、大人の魅力と少女の弱弱しさが絶妙な割合で合わさっていて、
庇護欲まで感じるようになってしまう。
目を白黒、顔を赤くしてうろたえる才人。口からは、あわわなどと頼りない言葉しか漏れてこないところから、相変わらず
女性に対する免疫はたいして進歩していないことがうかがえる。
「ちょっとサイトぉ!」
もちろん、ライバルにここまでされてルイズも黙っているはずがない。ただし、可愛いという点では右に出る者はいないルイズは、
女性的魅力という面に関しては同年代の女性たちから圧倒的に引き離されているのは周知のことである。彼女の名誉のために
細かいことは避けても、世の中には向き不向きというものがあることを自覚すべきであった。
「おいおい、サイトたち、またやってるよ」
気配をかぎつけたのか、甲板からギーシュたちが見上げて笑っていた。彼らのあいだでは、もうこの三人のことはなかば名物に
なってしまってきている。
「あんた! いいかげん離れなさいよ、仕事しなさい!」
「寒いんだ。もう少し、ぬくもっていたい」
不肖の弟子を見るようなギーシュ、うらやましい奴だなと他人事のように言うギムリやレイナール。仲がよくてうらやましいですと
言うティファニアはややずれている。そして、ルクシャナに「いい男ってのは見てくれじゃないのよ」と言われて、困惑するアリィーを
情けなさそうに見るエルフの騎士仲間たちと、才人は心ならずも笑いを振りまいていた。
ルイズとミシェルに熱烈に迫られて、うろたえるしかできない才人。全世界の平和を守るという志も、この相手にはまったく形無しだった。
〔もうこうなったら、怪獣でも超獣でも宇宙人でもいいから出てきてくれぇーっ!〕
しまいには、正義の味方としてあるまじきことまで考えてしまう始末である。
だが、意地悪な運命の女神様もさすがに勘弁してやろうと思ったのか、才人の願いは少々形を変えて叶えられることになった。
将来の嫁候補ふたりに挟まれてもだえる才人の視界に、ふと映りこんできた白い小さなもの。
「ん……? お、おぉ! おい、まわりを見てみろよ!」
「なによ? え、わぁ!」
「これは……雪、雪か」
なんと、いつのまにか東方号のまわりを、純白にきらきらと輝く雪が舞っていた。
そう、それこそ春の桜の木の下を歩くように、手を伸ばせば届くようなところを無数に舞っているそれは、月光を浴びて
ダイヤモンドダストのように神秘的な光を東方号に降らせていた。
「きれい……宝石の海みたい」
「なんだこりゃ……すっげえ……」
女性も男性も、驚き疲れるほどに美しすぎる光景に、目も心も奪われて見とれた。
しかし、ここは雲の上、普通に考えて雪があるわけはない。おまけに、雪は上から降るのではなく、眼下の雲から空へと
舞い上がろうとしている。
ティファニアは、たまたま近くに寄ってきた雪の欠片をじっと見つめた。
48 :
11/12:2012/09/30(日) 15:12:25.81 ID:iQchvqFD
「これ、雪じゃない。生き物だわ」
なんと、雪に見えたひとつひとつの結晶は、すべてが小さな純白の生物だったのだ。
蛍のように、光りながら東方号のまわりを舞う小さな不思議な生き物たち。その輝きを見て、ルクシャナははっとしてつぶやいた。
「これ、スノースターだわ」
「なんだい? それは」
「古い文献で読んだことがあるの。見たものに幸運をもたらすって言う、空に向かって降る雪があるって。ほとんど迷信だと思ってたけど、
実在したんだわ。すごい!」
興奮するルクシャナの前で、スノースターは雲から現れては空に向かってゆっくりと飛んでいく。
伝説を目の当たりにしているという充足感、そしてなによりも筆舌に尽くせない美しさに、人もエルフも問わずに見とれ続けた。
「伝説の、空に降る雪か。おれたちは、本当についてるのかもしれないな」
「そうかもしれないわね。そういえば、スノースターに願いを託せばかなうって言い伝えがあるそうよ。蛮人の伝承だけど、試してみる?」
ルクシャナの一言に、少年少女たちはわっと空に向かって手を合わせて祈りのポーズをとった。
願い事はそれぞれなんなのか、人には誰だって未来への希望があるだろう。一部の考えがあけすけな者たちを除けば、
それらの内容を明かすのは無粋であろうけれども、祈りそのものは誰もが無邪気であった。
少年少女、大人たちにエルフたち。誰もが世界に抱かれて、明日への希望を胸に秘めて生きている。
そして、スノースターの輝きの中で、才人たちも、ひとつずつ願いをかけていた。
「なあ、ふたりとも。どんな願いをかけたんだ?」
「世界平和」
「同じく」
百パーセント嘘だとわかる答えをミシェルとルイズは返した。
が、才人もここまできてふたりの考えが読めないほどバカではない。聞いてみたのは一応で、少々うぬぼれかもしれないが
少しいたずらっけを出してみようかと思った。
「で、サイトはなにをお願いしたの?」
「ん? かわいいお嫁さん」
ただ、これは少々悪ノリが過ぎたようだ。ふたりそろって後頭部を、「調子に乗るな!」とこづかれてしまった。
「あいてて」と、殴られた箇所を押さえて顔を上げる才人。今頃になって自分の発言の失敗を悟り、こういうところが日本で
自分がもてなかった原因なのだろうなとあらためて反省する。
「間違えた。おれも世界平和」
「しらじらしい。わたしより可愛い女の子がほかにいるわけないでしょ、冗談にしたって笑えないわ」
才人は、それは自意識過剰だろと思ったが、さすがに地雷を二回連続で踏んだりはしない。ぐっと口を抑えて、我慢した。
でも、才人はうそはついていなかった。本当は、願い事はいろいろあって決められなかったから、一番基本に戻ることにした。
世界の平和がなければみんなの幸せもない。けど、かわいいお嫁さんがほしいというのも本音ではあるところが、才人の
才人らしさであろうか。
しかし、このままふたりにやられっぱなしで終わるのは、男としてどうにも我慢できない。
そろそろと、ルイズとミシェルの背中から肩に手を伸ばして。
「よーし……それっ!」
「きゃっ!」
「うわっ!」
なんと、才人はふたりの首に手を回して自分のところに引き寄せた。すかさず、三人の顔が密着しそうなほど近づいて、
ルイズとミシェルの顔がみるみる紅に染まっていく。
49 :
12/12:2012/09/30(日) 15:12:57.99 ID:iQchvqFD
「サ、サイ!?」
「お、お前。なんの!」
「あー、さっき飲んだ酒が今になって回ってきたなあ。こりゃ、明日にはなにも覚えてないかもしれねーな。というわけで……
言いたいことをズバッと言うぞ」
ごくりと、ふたりがつばを飲み込む音が聞こえた。
「うんっ! まだ愛してるとは言えないけど、おれはルイズもミシェルも大好きだ! この戦いが終わるときまでには、
おれも必ず答えを出す。そのときにもし、まだおれのことが好きだったら……おれと結婚してくれ!」
「なっ!」
「へうっ!?」
いきなりの、嫁になってくれ宣言は、それまで主導権を握っていたふたりの意表を完全についた。
そして最後に才人は、酒の勢いだとなかば自分に言い聞かせて、ふたりの頬に一回ずつ唇をつけた。
「ひぅ! サ、サイトトトト」
「あ、あわわわわわわ」
「ははっ、そういえばおれのほうからキスしたのは初めてだったかな。ようしっ、じゃあ後は……さらばっ!」
この後、照れ隠しと逆ギレしたふたりがどういう行動に出るかが容易に想像できたため、才人はふたりを離すと即座に逃げ出した。
なお、結論から言えば、このときの才人の読みは完全に当たっていた。
「サイトぉぉぉぉぉっ!」
「よーしっ! なにはともあれ一発殴らせろ! 安心しろ、一発ですませてやるから!」
「はーっはっはっは! 今日だけは死ぬ気で逃げ切らせてもらうぜぇーっ!」
不器用で未熟な愛の表現。悩み、苦しみ、それでも若者たちは毎日を明るく楽しく生きようとする。
艦橋からあっというまに甲板に降り、おっかけっこをする才人たちを見て、ギーシュたちはおかしそうに笑った。
「がんばれサイト! 男の意地を見せろぉ!」
「ルイズがんばれ! バカな男に女の怖さを教えてやるのよ」
「副長ファイト! 気絶させて部屋に連れ込んでしまえば勝利ですよ!」
陳腐でこっけいな光景。しかし、人から見れば笑われるようなことでも、彼らはいっしょうけんめい前を見て生きている。
逃げる才人に、追うルイズとミシェル。不器用な三人はなかなか進歩しないが、少なくとも今日、彼らは一歩未来へと進みだした。
はてさて、将来才人の隣でウェディングドレスを着るのは誰か? 未来は無限の可能性を見せて、誰にも答えようとはしない。
そして、彼らを静かに見守る者がもうひとり。
ウルトラマンA、北斗星冶は才人とルイズの心の中から、彼らの姿に自分の若いころを重ねていた。
〔そうだ、笑顔を忘れるなよ。子供は元気が一番だ!〕
北斗は、エースと一体化する前から子供好きだった。TACに入隊した後も、子供と触れ合うことは多かったし、孤児院に
顔を出したこともよくあった。
子供が笑えないことほど悲しいことはない。エースは、北斗はそれぞれ孤児だったから、その悲しみをよく知っていた。
でも、才人とルイズは悩み、苦しみはしても、最後には笑って終わらせる。笑顔を忘れず、まわりにも笑顔を振りまく。
〔君たちなら、ヤプールにも決して負けまい。そして、いつかきっと必ず、戦いを終わらせられるだろう〕
すべてに決着がつく日は、恐らく遠くはない。それまで、想像を絶する苦難が何度も立ちふさがってくるだろうが、彼らならば
きっとそれらも乗り越えていけるはずだ。
明日の戦いに備え、今日はひとときとはいえ平和を楽しむ。
笑いながら走っていく才人たち。それを見守る人たちの笑い声が、寒空を暖めていく。
空のかなたへと去っていくスノースターの輝きに照らされて、東方号は西へ西へと飛んでいく。
双月に見守られた、宝石のように輝く星。それをもっとも美しく輝かせる光は、確かに今ここにあった。
第三部へ……
紫煙
51 :
あとがき:2012/09/30(日) 16:22:55.08 ID:iQchvqFD
以上です。
第二部、とうとう終結しました。
いろいろと詰め込みすぎたような感がありますが、とりあえず書きたいことは書ききったつもりです。
長かった。ずっと読み続けてくださった方々、ありがとうございました。
特にラストは悩みました。ゼロ魔ですからラブコメ要素は欠かせないのですけど、原作とぜんぜん違う組み合わせと関係ですからね。
「ルイズもミシェルもおれの嫁になるのだぁーっ」
というのも本気で考えましたが、才人のキャラと合わないのでやめました。それにウルトラヒーローにあまりドロドロした恋愛はまぜたくなかったので……
いえ、ティガ劇場版は見ましたよ。でも、南原隊員のほうが好きなもので、「ウルトラの父と花嫁がきた」は私の中でベストです。
才人の嫁に誰をするのかは未定です。これについては、原作を尊重しつつ、あくまでパラレルワールドということでいきたいと思いますが、
たぶん私も書くまでは悩み続けるでしょうね。
スノースターが現れたのは、たまたま下にアルケラがいたからです。理屈付けすることもできたのですが、テンポ悪くなるのでここでは奇跡としてください。
では、次は第三部ですが、正真正銘これで完結編にするつもりです。
ハルケギニアに巣食う悪の勢力、そしてヤプールとの最終決戦。ウルトラ兄弟、平成ウルトラマンたちの活躍。
まだ残してある謎や、伏線も回収しつくして終わらせます。
それで、プロットの再構成や、書き溜めをしなくてはならないので、一ヶ月ほど充電期間をいただきます。
11月には帰ってくるつもりですので、それまでしばしさようなら。これからも、ひとりでも多くの人に楽しんでいただけるように切磋琢磨してまいります。
最後に、これまで支援してくださった方、代理投下してくださった方、まとめwikiに登録してくださった方、応援してくださった方々に心よりお礼を申し上げます。
以上です。代理投下お願いします。
--------------------------------------------------------------------------------
以上代理終了
作者及び代理の人乙
最近になって少しずつ知り始めたホライゾンから召喚されるなら
点蔵とか二代とかが戦闘系として、喜美とかベルさんとかが補助系として面白そうかな
乙
VAVA…
コスモスも出た以上、代表的なウルトラマンはほとんど登場したことになるなあ
ゼロは時系列的にムリとして、マックスやグレートパワード、ゼアスやナイスはギャグトラマンだからどうかね
ドシリアスなノアさん(ネクサス・ザネクスト)がいるじゃないか
シリアスというか、なんでコスモスの後にあんなもん作ったのやら
>>57 コスモスの後だからこそ、問答無用で殺すにはあんな凶悪生物どもじゃないといけなかったんだよ
普通の怪獣や宇宙人と違って同情の余地ゼロの強烈なヤツでないと
確かにスペースビーストはBETAじみたグロさと凶悪さがあったな
グロテスクな口の中に人が放り込まれるシーンなんか、子供に見せたらトラウマもんだろと思った
みんなのトラウマ
ペドレオン&ノスフェル
無能王&教皇がかなり臭い感じだけどな
まあダークザギさんに出てこられると
ヤプールの立場がなあ
ネット紳士のザギさんなら並行世界でゼロ魔のことも詳しく知っていそう。
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説10巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック1巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!シ、シエスタ!!タバサぁああああああ!!!ティファニアぁあああ!!
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!
>>62 老人に化けたヤプールの虜にされた子供たちがそんなふうに狂わされたっけな。
カルト宗教と萌えは紙一重、オリオン星人の話はシンナー吸引に見えるし、Aはリアルに怖い話が多い。
投下してもいいよ?
週末には投下できそう
テファに召喚されウェストウッド村で生活する事になるジャギ様。
世紀末とは無縁の村で農民生活をしつつ、時折イタズラしてくる子供達にノリノリでリアクションを返すとか…
ジャギ「俺の名を言ってみろぉ!!」
村の子供1「ジードォ!!」
村の子供2「ジャッカル!!」
ジャギ「何ぁ故だっ!?」
テファに召喚された奥森かずいというネタが一瞬過ぎった。過ぎっただけだが。
原作版ルイズがアニメ版ルイズを召喚する…ってネタはこのスレ的に認められるのかね?
原作ルイズがアニメルイズを召喚すると同時にマンガルイズが原作ルイズを召喚し、
さらにアニメルイズがマンガルイズを召喚していて綺麗に入れ替わるんですねわかります
原作版は桃色がかった金髪で、アニメ版はドピンクで、漫画版は白黒なのか
原作→かわいい
アニメ→かわいい
漫画→かわいくない
74 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:01:59.26 ID:fvHfs9cQ
避難所に無重力巫女の投稿が来ていたので、0時10分頃から代わりに投稿しようと思います
75 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:13:51.51 ID:T4Lx01OA
では始めます
日暮れの時が迫りつつあるチクトンネ街。
その一角でルイズと魔理沙の二人は、予想だにしていなかった相手と鉢合わせになっていた。
花も恥じらう美女の姿をしたその者は異国情緒漂う白い導師服に身を包んでおり、周囲に場違いな雰囲気を放っている。
彼女の名は八雲紫。霊夢と魔理沙の故郷である幻想郷の創造者で境界を操る程度の大妖怪だ。
「久しぶりね二人とも、元気にしてたかしら?」
まるで故郷で旧友と再会したかのような気軽さでもって、紫は目の前にいる二人へ話しかける。
本来ならこのハルケギニアにいないであろう彼女を前にして、ルイズは恐る恐るといった感じで返事をする。
「ユカリ…一体何の用かしら」
「別にコレといった用事はありませんけど、アレといった用事で少し足を運んでみただけですわ」
まるで尋問のようなルイズの質問を、暖かい笑みを浮かべる紫はワケのわからない言葉で返した。
ルイズ自身後ろにいる魔理沙や今この場にいない霊夢とは違って付き合いが短いせいか、その言葉の本質をすぐには見出せない。
しかし、あまりにも深く考えすぎるとこの妖怪の手中に嵌ってしまうようが気がするので、敢えて考えないようにしていた。
そしてここ最近、霊夢や魔理沙にデルフと言った厄介すぎる連中と同居し始めた所為かルイズ自身の沸点は少しだけ高くなっている。
おかげで、ある程度ワケのわからない事を聞いても言われてもあまり怒る気にはなれなくなっていた。
「じゃあ言うけど、アンタの言うアレといった用事は…霊夢の事よね?」
一月前なら不機嫌になっていたであろうルイズは冷静な表情と気持ちでもって、二度目の質問を投げかけてみる。
思いのほか怒らなかったことに、紫は「あらあら?」と不思議そうなモノを見る目で首を傾げた。
「流石にあの二人と暮らしていると、一々怒るのにも飽きてしまったのかしら?」
以前彼女に杖を突きつけられた紫はそんな事を言いつつ自身の右足をスッと動かし、一歩前へ進み出る。
飾り気はないものの綺麗に手入れされた黒のロングブーツの底が石造りの地面を軽く叩き、景気の良さそうな音が周囲に響く。
街の喧騒と比べればあまりにも儚すぎるそれは、あっという間に聞こえなくなってしまう。
ただ単に生まれ、何も生み出さずに消えた音の事を気にする者はおらず、その一人であるルイズが返事をする。
「言っておくけど、これでも結構我慢してる方なのよ。そういう風には見えないのかしら?」
怒るのに飽きたという紫の言葉に対して返された彼女の言葉には、僅かではあるが怒りの念が滲み出ていた。
その念から並の妖怪を退ける何かも出ていたのか、紫はヤレヤレと言わんばかりに肩を竦める。
「その様子だと色々あったようですわね。私から見れば、まずまずといった所ね」
何がまずまずといった所なのかは知らないが、それでもルイズは突っ込まない。
地面に腰を下ろしている魔理沙とは違いジッと佇んで身構えており、その姿は人見知りの激しい猫そのもの。
正に動かざること山の如しな今のルイズの態度につまらない何かを感じてしまったのか、紫はフゥとため息をついた。
「…何よそのため息?アタシは何もしてないんだけど」
しかし偶然にも、残念なモノを見た時の様な反応がルイズの癪に障ったらしい。
思わず顔を顰めた彼女を目にして、咄嗟に右手で口元を隠した紫は目を細め「ふふふ」と小さな声で笑う。
「別に何もありませんわ。ただ、目の前の貴女が水で固めただけの砂の城だとわかって安心しただけですのよ」
「は…?砂の城…?…水で固めた…どういう意味よ」
先程のため息とは一変して楽しそうな雰囲気漂う彼女の言葉が、またしてもルイズの耳に入る。
言葉の意味がよく分かっていないルイズの怪訝な様子に、笑顔を浮かべる紫自身がその答えを告げた。
76 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:14:28.85 ID:T4Lx01OA
「水で固めた砂の城は中々崩れないけど、その気になれば赤子の手足でも簡単に壊れてしまうものよ」
「つまり?それと私に何の関係があるっていうの?」
これが最後の質問だと言いたげな嫌悪感を放ち始めたルイズに、紫はトドメの一言を放つ。
「今の様に突けば突くほど、面白いくらいに反応を見せてくれるわね。貴女という人は」
「な――――……あ!」
叩いて蹴って崩れてしまう、砂の城みたいにね。最後にそう付け加えて彼女はその口を閉じる。
それを聞くまで何を言われているのか理解できなかったルイズは、今になって気づいてしまった。
自分が今の今まで、言葉を使ってからかわれていたという事に。
からかわれないようにと自然に気を付けていたのにも拘らず、気づかぬ間に彼女のペースに嵌っていたのである。
それを理解したと同時に沸々と心の底から小さな怒りがゆっくりと湧きあがり、ついでその両手がゆっくりと震え始めた。
「あらら、思ってたよりも随分溜まってたのかしら。手が震えていますわね」
そして追い打ちともいえるその一言に、ルイズの怒りがその一部をさらけ出してしまう。
「よ、余計なお世話よ!」
今まで頑なに閉じていた口を開けてそう叫んだ彼女は、慣れた動きで腰にさした杖を手に取った。
幼少の頃から使ってきたソレの先端が、風を切る音とともに紫の方へと向ける。
何の迷いもなく向けたそれはしかし、持ち主の手が震えている所為かそれと連動するかのように小刻みに動いている。
だがその震えは恐怖からくるものではなく、怒りからくるものであった。
そんな時であった、ルイズの後ろから魔理沙の声が聞こえてきたのは。
「お、何だ何だ?今から派手で面白そうなモノが見れる気がするな」
今まで黙っていた魔理沙が杖を抜いたルイズを見て、興味津々と言いたげな表情でもって呟く。
その姿はまるで、路上で行われる大道芸を見れることにドキドキしている子供そのものである。
彼女の声に気づいてか、ルイズと対峙する羽目になった紫はその視線を魔理沙の方へと向けた。
「今から私が大変な目に遭いそうだというのに、随分したたかにしているわねぇ」
「何を今更。お前ならあのインチキじみたスキマでどうとでもなるだろう」
「あらひどい、まるで私のスキマが何でも出来るみたいじゃないの?」
「そうか?私が見てきたものだと並大抵の事はできたような気はするが?」
そんな二人の会話をしている間にも、怒り心頭となってしまったルイズは詠唱を行っていく。
鋭く細めた両目でもって自分を睨みつけてくる彼女に対して、紫は至極冷静であった。
まるでずっと遠くで大暴れしているハリケーンを見つめるかのような、物見遊山な雰囲気がある。
一方の魔理沙も山の時の様にルイズを止めることなく、その場に腰を下ろしたままルイズの詠唱を見物している。
霊夢を探してここまで走ってきて疲れていた事もあるが、別に紫とは特別親しい間柄でもない。
何より、ルイズの使う魔法を拝めるチャンスがようやく舞い込んできたのだ。
この三つの理由のおかげで魔理沙は立ち上がる事もなく、楽しそうにルイズの背中を見つめている。
そして詠唱を終えたルイズはというと、震えが止まった右手で握る杖を振り上げ…
「エア・ハンマー!」
と覇気のある声でそう叫び、勢いよく振り下ろした。
瞬間、紫とルイズの間でパッと閃光が走り―――爆発が起きた。
77 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:15:22.28 ID:T4Lx01OA
本来なら風で出来た不可視の鎚となるはずだった魔法は、周囲を巻き込む衝撃波と煙幕に変わったのである。
爆発の威力自体はそれほど無かったが、それを引き起こした張本人とその後ろにいた魔理沙にとって只事ではなかった。
「うわ、な…うぅっ!?」
全く予想していなかった事態に直面した彼女は、ルイズの近くにいた為かモロにその衝撃波を喰らってしまう。
灰色の煙幕と共にやっきてたソレに、魔理沙は思わず左腕で顔を隠して凌ごうとする。
着ている服や右手に持っていた帽子がバタバタと揺れ、露出した肌を容赦なく撫でて通り過ぎていく。
それから五秒ほどして衝撃波も無くなり、周囲には煙だけが不気味に漂っている。
「あ〜、アレか。空気を叩いて爆発させた……のか?」
薄くなっていく煙の中で魔理沙は冗談交じりにそう呟いて立ち上がり、ルイズの方へと目を向ける。
爆発の威力自体はさほど大したものではなかったおかげで、彼女が被った被害は微々たるものであった。
服やマントに破けた所は無く、自慢のピンクブロンドや白い肌にも傷一つ付いていない。
もっとも魔理沙より至近距離にいた為か所々煤けており、まるで工場の煙突から出る黒煙の中を通って来たかのような姿だ。
「ケホ…ケホッ!」
そしてルイズはというとつい煙を吸ってしまったのか、左手で口を押えて咳き込んでいる。
咳き込む彼女の後姿を見つめていた時、魔理沙はふと紫の事が気になった。
スッと頭だけを動かしてあの大妖怪が立っていた場所を見てみると、案の定その姿は消えている。
最初からそこに存在して無かったかのように、何の痕跡すらも残さず。
「ケホッコホッ……あれ?ユカリの奴は何処に行ったのよ」
魔理沙に続くかのように咳が止まったルイズも気づき、煤けた出で立ちのまま目を丸くする。
ついカッとなって唱えてしまったし「エア・ハンマー」は見事に失敗し、爆発魔法へと変異したのだ。
ここ最近、授業でも日常でも魔法を使っていなかった事もあってかルイズ自身も驚いてしまい、咳き込んでしまった。
「まさかあの爆発で木端微塵…って事はないわね」
杖を持っていない方の手で顔についた煤を拭きながら、そんな事を呟く。
あの爆発が大したものではないと彼女自身も理解できるほど、思考に冷静さが戻っていく。
(ムシャクシャしてやった…ってのはこういう事なのかしら)
死んだとは思えないが先程まで自分をからかってきた相手が目の前から消えたことに、怒りという名の刀身が鞘に収まる気がした。
それを体の内側で感じていた時であった、上の方から紫の声が聞こえてきたのは。
「結構な爆発でしたわね。ちょっと驚いてしまいましたわ」
ルイズと魔理沙がそれに反応して頭上を見上げた瞬間、目の前の空間に横一文字の線が現れた。
まるで先端が少し太めの羽ペンで引いたかのようなソレが、ジッと空中で静止している。
現実とは思えない光景を目にしたルイズはハッとした表情を浮かべ、その場から数歩後ろへ下がった。
下がる間にも頭上からは尚も紫の声が聞こえてくる。人ならざる者の妖美なる声が。
「何もない所から爆発の力を引き出す程の魔力、中々の代物ね」
その言葉と共に細い線の真ん中が突如パカッと開き、中から一本の手が飛び出してくる。
ついで、二本目の手も同時に飛び出して来たかと思うとそのまま上半身まで抜け出てきた。
ルイズや魔理沙とは違いその服に傷や煤は付いておらず、新品同然といっても過言ではないだろう。
「でも未だ扱いきれてないせいか、コントロールはイマイチといった感じかしら?」
空中に出来た一本の線――スキマから上半身を出している紫は、後退るルイズへとその目を向ける。
78 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:17:01.29 ID:T4Lx01OA
「正に癇癪玉と言って良い様な貴女を、今の霊夢がいる場所へ行かせるのは危険極まりないわ」
眼下の少女へ向けてその言葉を放った紫は、不敵な笑みを浮かべていた。
この言葉の後に彼女がどのような事を喋り、どのような行動を移すのか予想するかの様に。
自分の最大の敵は、自分自身である。
その言葉をどこで知ったのか、霊夢自身あまり覚えていない。
自身が何時の頃にどのような経緯で、そしてどんな媒体から得たのか。それすら忘れてしまっている。
物心ついた時には既に、頭の中に入っていた様々な知識の中の一つとしてこの言葉がこっそりと入っていたのだ。
しかし。そんな言葉に拘るような性格をしていない彼女にとって、あまり役に立つ知識ではなかった。
彼女が日々考える事は今日一日をどのようにして過ごそうか、何で神社にまともな人間が参拝しに来ないのか。
幻想郷の平和を維持する博麗の巫女にしてはあまりにもふしだらな事を、お茶を飲みつつ暢気に考えているのが霊夢であった。
だが…今日に限って、彼女の脳内に一つの言葉が浮かんでいる。
自分を見つめ直し、生き方を変えようともしない博麗霊夢には似つかわしくないその言葉が。
「自分の敵は自分…ねぇ」
トリスタニアの繁華街から少し離れた公園の中。
ルーンが刻まれた左手が不自然に光っている霊夢はひとり呟きながらも、四メイル先で佇む゛もう一人の自分゛を睨みつけている。
不機嫌さを隠そうともしない彼女の視線の先には、文字通り二人目の゛レイム゛がいたのだ。
紅白の服や白い袖に赤いリボン。肌や髪の色にその顔立ちや瞳の色に青白く光るその左手まで。
まるで鏡に映りこんだ自分自身のように、生き写しやそっくりさんというレベルでは済まないその姿。
その全てが全く同じ過ぎるあまり、不気味な印象を周囲に漂わせている。
最も、周囲には霊夢以外の人はいないので大した意味は無いのだが。
だが…その印象を感じている唯一の人間である霊夢にとって、目の前のレイムは非常に苛立たしい存在であった。
ルイズによってこのハルケギニアに召喚されて以降、彼女は色々な相手と戦ってきた。
学院の生徒から魔法使いの騎士といった人間や、野犬から得体の知れない合成生物。
そして人間などあっという間に踏み潰せる巨大なゴーレムまでその種類は幅広く、そして一応は勝利している。
それ等を相手にしていた時の彼女は、今よりも大分落ち着いていたし冷静であった。
常に自分がどう動けばいいのか考慮し、相手がどの様な手を打ってきても対処できるよう構えておく。
幻想郷で度々起こる異変を解決し、時には凶暴な妖怪と戦う博麗の巫女にとってそれは当たり前の事。
我を忘れて攻撃すれば致命傷を喰らいかねないし、逆に相手が冷静ならば罠に嵌ってしまう可能性もある。
歴代の巫女と比べて一番ヒドイと評される彼女であっても、戦いの時は常に冷静であれと心がけている。
どのような相手を前にしてもペースを崩さず落ち着いた気持ちで対応し、自分のペースを忘れずに戦ってきた。
しかし、今目の前で佇む相手はこれまで目にしてきたどんな相手よりも、腹立たしい気持ちを感じていた。
79 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:18:48.58 ID:T4Lx01OA
まるで鏡に映った自分が自分とは違う意思を持ったようなソイツに、今の霊夢は憤っている。
他人には決して分からないであろう、自分がしないような事をしているもう一人の自分を見るようなある種の不快感。
例えるならば禁酒を始めた自分の目の前に突如、酒を嗜むもう一人の自分が現れた…と言えば良いだろうか。
普通ならば決して有り得ないであろうが、今の霊夢が直面している状況は正にそれであった。
自分と似た姿を持ちながら、自分とは絶対的に違う何かを含んだ歪な存在。
そんな存在を前にして珍しくも、霊夢は自身の体から拒絶にも近い嫌悪感を放っていた。
こんなモノを目にするのは不快だ。今すぐ消し去ってやりたい―――という意思と共に。
「何処の馬鹿が仕組んだのかは知らないけど…悪趣味にも程があるわね」
ただいま不機嫌キャンペーン中の彼女はそんな事を呟きながら、右手をゆっくりと頭上に掲げていく。
まるで届きもしない太陽を掴もうとするかのような右手は、三枚のお札を握り締めている。
そして一度目を瞑って軽く深呼吸したのち、その手を勢いよく振り下ろす。
瞬間。握っていたお札が手から離れたと同時に、まるで自我を持ったかのように偽者へと突撃した。
風を切る音を出しつつ迫りくる紙切れに対し身構えた偽者は、左手をスッと胸の前まで上げる。
奇妙な事にその左手は青い光に包まれており、誰が一見しても異常だという言葉を漏らすほかないだろう。
まるで鬼火のように妖しい光を放っているソレでもって、もう一人の霊夢は迫りくるお札を受け止めようとしているのだろうか?
遅くもなくかといって速くもないお札は、四メイルの距離を僅か三秒の時間を使って通過し、偽者の方へと突っ込む。
当たれば二度目の直撃になるであろうその攻撃に対し、偽者は青く光る左手を振った。
まるで水平チョップのようにして振られた光りの尾を引くその手は、飛んできたお札と見事衝突する。
先程ならそのまま左手に貼りつき、妖怪や幽霊が苦手な゛ありがたい言葉゛が籠った霊力を周囲にばら撒いていたそのお札。
しかし…
そのお札以上に不可思議な光を放つ左手の前では、単なる長方形の紙も同然であった。
水平チョップの要領で振られた偽者の左手が、霊夢の投げつけたお札と衝突した瞬間。
霊力の籠った゛ありがたい言葉゛が書かれた三枚の紙は、いとも容易く引き裂かれたのである。
まるで障子に張られた薄い紙を子供がイタズラで破くように、たった一瞬で紙屑と化す。
邪気を払う霊力や゛ありがたい言葉゛も、単なる紙くずに付与されていては何の意味もない。
文字通り力を奪われた元三枚のお札は塵紙となって、偽者の前でヒラヒラと地面へと舞い落ちる。
それを見ていた霊夢は軽い溜め息をついてから、服と別離した左袖の中へと右手を伸ばす。
「何でアンタの左手が光ってるのか大体分かったけど、私の方の原因が分からないのはどうも癪に来るわね」
対峙してからまだまだ五分も経ってもいないが、相手の攻撃方法(?)が何なのか霊夢は既に理解していた。
彼女の偽物の左手は濃密な霊力に包まれており、青白い光となって目視できている。
そして余りにも力が濃いせいか盾と矛…つまりは攻防一体の武器と化してしまっているのだ。
80 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:20:15.35 ID:T4Lx01OA
(あんなに強いと、そりゃお札も破れるわな)
左手がそのまま武器となっている自分の偽物に対し、心底面倒だと言いたげな霊夢は心の中で呟く。
先程は成功した自分の攻撃が防がれたのにも関わらず、その体からは新たに余裕の雰囲気が伺える。
相手の攻撃方法がある程度分かった以上、対処法はあっという間に思い浮かべられるのだから。
まだ手札が残っている可能性は否定できないものの、その手札を出す前に潰すのだから問題は無い。
不快な程に瓜二つな偽物をどのように対処するか既に考えた霊夢は、それを実行する前に一つだけ聞きたい事があった。
彼女は知りたかったのだ。自分をここまで導いた゛何か゛の正体を。
折角の休日だからとルイズや魔理沙と一緒に街へ赴いた今日という日。
サプライズのつもりで買ってもらった服の事について、街中のレストランで話をしていたのがついさっきの事。
素直になれないルイズに自分の意見を述べようとしたところで、思わぬ横槍が入ったのだ。
突然周りの音が聞こえなくなり、それに便乗するかのように光り出す左手。
この世界で伝説と呼ばれた使い魔のルーンが刻まれたその手は、今もなお輝いている。
そして自分の身に降りかかった出来事を冷静に対処しようとしたところで、妨害が入ったのである。
音が聞こえなくなった耳に入ってくる、博麗霊夢自身の声。
口からではなく自分の周りから聞こえてきたその声に、あの時の彼女は驚いた。
更に追い打ちをかけるかの如く現れた謎の女性と、「奴を追え」というノイズが混じった謎の声。
博麗の巫女である自分とよく似たその女性は霞の様に消え去り、ノイズ混じりの声は男性とも女性でもなかった。
その声に導かれるかのようにここまでやってきた霊夢は、自身と全く同じ姿をした存在と対峙している。
ブルドンネ街のレストランからここに来るまでの原因となった謎多き出来事、そして辿り着いた先にいたもう一人の自分。
あまりにも不可解過ぎる出来事の真実から正しい答えを探すことは、非常に困難であろう。
しかし霊夢は、その答えを自分の偽者へと聞こうとしていた。
ここまで自分を連れて来たのはお前か?それとも別の誰かなのか?
そして、お前をけしかけたのは誰なのか…ということも。
「アンタ。一体何の目的があってやってきたのかしら?…っていうか、何で私の姿をしてるのよ」
右手を左袖の中に入れたまま投げかけた霊夢の質問に対し、意外にも偽者は反応する。
しかし…それは言葉としてではなく、首を横に振るだけであった。
言葉が無くとも相手の言いたい事が理解できたのか、霊夢は澄ました表情で肩をすくめる。
「まぁ、簡単に言うワケ無いわよね…。何となくそんな気がしてるから期待もしちゃいなかったけど」
ここぞと言わんばかりに、彼女は自分と同じ姿をした存在へ嫌味な言葉を容赦なく投げかける。
もしもこの光景を第三者が見ていたら、とても奇妙な光景だと思う事は間違いないだろう。
しかし。偽物であっても霊夢の姿をしていた所為か、一方的に文句を言われるのはキライだったらしい。
本物が呆れた表情で毒づいてから数秒後、偽物がゆっくりとその口を開けて呟いた。
「―――…いわ」
「………ん?何よ?岩?」
虫の羽音程小さくはないソレに本物が気づくのには、数秒ほどの時間を要した。
自分の文句より小さすぎる偽者の声に気づいた霊夢は、怪訝な表情を浮かべる。
もしかしたら何か思い出しかのと勝手に思い、右手を左袖の中に入れたまま次の言葉を待ってみる事にする。
二度目の言葉は、霊夢が予想していた範囲内の時間で偽者の口から出てきた。
ただし、それを耳に入れたと同時にまたも自分の期待を裏切られたと勝手に落胆することとなったが。
81 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:21:26.89 ID:T4Lx01OA
「…わからないわ。何もかも」
まるで自分自身に言い聞かせるかのような言い方に、霊夢はまたもため息をつきたくなった。
今までこの世界で戦ってきた敵と比べて変わっていたから何か知っているかと思ったが、それは過剰評価だったらしい。
「あっ、そう。じゃあ言いたいことはそれだけ?他に言いたい事があるのなら手短に述べなさい」
もうすぐ夕食の時間だから。最後にそう付け加えて、左袖の中に入っていた右手をスッと引き抜いた。
服と別離している袖の中から出てきた右手は、四本の細い針をしっかりと掴んでいる。
裁縫や針治療に使うとも思えない程の長さを持つそれを、霊夢やその周りにいる者たちは「退魔針」や「封魔針」と呼ぶ。
その名の通り妖怪退治などで使う武器の一つで、妖怪だけではなく実体を持たぬ幽霊相手にも一応刺すことは出来る。
他にも普通の人間や動物相手なら普通に凶悪な武器として使えるのでお札より幾らか便利なのは確かだ。
唯一の欠点を挙げれば、お札と違って使った後の手入れが面倒な事と補充しにくいという事だけだろうか。
つまり二つの短所にさえ目を瞑れるのなら、非常に使い勝手のいい武器なのだ。
「本当にわからないのよ…。自分が誰で、アンタがどんな名前なのかも……」
霊夢が手にした針の方へ目を動かしつつも、偽者は独り言を呟いている。
身構えた体勢のままじっと相手の武器を見つめる姿は、正に戦士そのものと言ったところか。
いつでも戦えるという偽者とは対照的に、一方の本物はこれから戦うという意思を見せていない様に見えた。
まるで街角に佇む暇な若者のように、一見すれば体の力を抜いているかのような雰囲気が伺える。
こうして見比べてみると、本物夜も偽者の方が強そうに見えるのは火を見るよりも明らかだろう。
しかし本物である霊夢の体からは外見とは真逆である怒りの気配を放っており、近寄り難い雰囲気を漂わしている。
一方の偽者も並々ならぬ雰囲気をまき散らしており、一触即発としか言いようのない状況。
どちらか一方が攻撃を始めてしまえば取り返しのつかない、所謂冷戦状態と言っても過言ではないだろう
「でも、自分の中にある゛怒り゛が導くままにここへ来て――――…私と瓜二つのアンタと出会った」
「瓜二つって言いたいのはコッチの方なんですけど、それはどうなのかしらねぇ?」
まるで劇に出てくる役者のセリフみたいな言葉に突っ込みを入れながら、霊夢は針を持つ手に力を入れた。
既に針全体の霊力は通っており、このまま投げて命中すれば致命傷を与えられる。
仮に相手が普通の人間だったのならば、単に刺さるだけだがそれでも接近して一撃を与える事はできるだろう。
82 :
代理投下:2012/10/05(金) 00:23:06.58 ID:T4Lx01OA
(どっちにしろ早く片付けないと。…全く、何だって今日はこんなにも面倒事が多いのかしら)
霊夢は心中で愚痴を漏らしながらも、ここに来る羽目となった原因は何だったのか考えていた。
突然耳が聞こえなくなった事に、今まで光らなかったルーンが突如として光った事。
自分の声が自分の耳に入ってきた事や、博麗の巫女みたいな姿をした女性の幻影まで見てしまった事。
そして男とも女とも断定できない、ノイズ混じりの声が聞こえてきた事を思い出したところで、霊夢はふと思い出す。
女性の姿が掻き消えて少なからず動揺していた時、あの声が聞こえてきた。
その後、まるで声に導かれるようにしてここまでやってきたのである。
そこまで思い出し終えた時だ。霊夢の脳内で一つの結論ができあがったのは。
(もしかして…あの声の主が、私をここまで連れてきた張本人?とすると、ソイツが…)
―――――幻想郷に未曾有の異変をもたらしたっていう、黒幕なのかしら?
霊夢がその様な結論を下した直後であった、彼女の偽者が突如地面を蹴って跳躍したのは。
地面を覆う雑草を幾つか吹き飛ばし、飛蝗の様に跳びあがったレイムを霊夢はハッとした表情で見上げる。
彼女と同じ姿をした偽者は霊力で光る左手を振り上げた姿勢のまま、本物の方へと落ちて行く。
もしもこのままジッとしていれば振り下ろし左手に脳天をチョップされてしまうだろうが、それを受け入れる霊夢ではなかった。
「人が考え事してる最中に攻撃してくるなんて、とても出来の酷い偽者ね!」
こちらへ向かって落ちてくる偽者へ他人ごとではない言葉を投げかけつつ、霊夢は右手に持った針を投げつける。
襲いかかってくる相手が何なのか、一体何が目的なのかも未だわからない。その相手が何もわからないと言っているのと同じように。
ただ一つ。自分を殺しに掛かってきている事は確かだと、絶対的な確信を得ることは出来た。
夕刻の時が間近に迫りつつあるトリスタニアの一角。
歴史と伝統で飾られた街から離れてしまった公園で、戦いがはじまった。
以上で、第五十九話の投下を終了します。今回は前三話比べて短め。
今月は残暑から来る気怠さと仕事の疲れというダブルコンボで執筆に力入らずのひと月でした。
しかし、これからどんどん寒くなっていくので頑張って執筆を続けていきます。
では今月はこれにて、また来月にお会いしましょう。
以上で代理投稿の方、終了します。
乙
るろうに剣心が熱い!
ゼロ戦について、もし仮に、その時代背景も読み取れるとすれば
「黒船来航から100年もせずにアメリカと戦争するなんて・・・」
という展開になるのだろうか?
アンドロメダを召喚
「ポワチエ将軍、前方にアルビオン艦隊主力を確認しました」
「全艦マルチ隊形をとれ」
アンドロメダなんて呼んだらどこからとも無くフェニックスまでやってくるで
対抗してプレアデスを召喚
「アルビオン大陸を背にしろ。そうすれば奴らも撃ってはこれまい」
>>87 フェニックス一輝さんか
あの人ルイズより年下なんだぜ 嘘みたい
声優つながりでパタリロのプラズマX・・・整備する人が居ないか
>>89 かなり頑丈(深海や宇宙でも問題なく活動できる)だから少々無理させても問題ないだろうけど
エネルギーの補充がかなり特殊だったような
>>89 沙織お嬢さんを喚んだ日には年齢と胸の関係的意味でルイズぶちキレるな
神オーラとプレッシャー垂れ流しの女神相手にぶちキレる余裕あるのか
間違いなく発生するだろう事がひとつある
マルコメ「俺が馬になります!!」
いつも思うがルイズの使い魔には才人よりマリコルのほうが適任だったのではあるまいかな
原作読んでる?
こうしてみると特に原作初期のルイズって普通にイヤな奴で魔法以外は基本他の貴族連中と同じ穴の狢だよな
サイトにはことあるごとにヘイミンガー、ゲルマニア人と見ればヤバンジンガー、中盤もサイトの記憶を消されればシソガー、セイセンガー
ゼロの使い魔って女の子とキャッキャウフフするハーレムラノベってだけじゃなくルイズの成長の物語かもな
マリコルの底無しのMには驚嘆すら覚える。
ルイズは底辺から山あり谷ありで登っていくタイプ。
沙織お嬢さんが女王となり君臨するとかw
聖帝サウザーとは異なる人物表現だが、本質は大差ないとか?
(いや、そうなるとギャグ要素のある物語っぽいなw)
つーかあのお嬢さんって戦闘能力どのくらいなんだろ?
冥王編クライマックスで身に纏ってた神衣みたいなの着てれば
大抵の魔法は効かなさそうだが
聖闘士は性能おかしいからな…
戦闘力とか魔法が効く効かないはどうでもいいから面白いSS書いてよだれか
言い出しっぺの(ry
るろ剣こないな
やっぱりゼロ戦の扱いが難しかったのかな
なんでもかんでも無理して原作なぞらなくていいのにね
なぞらないと書けない素人ばかりが集まるんだから仕方ない贅沢いうな
ゼロ戦イベントがないと割と詰むからな:…
ここで甲鉄級装甲艦が出ても扱いに困るだけだし
>>105 ウル魔は原作なぞりを探すほうが難しいが。テンプレを使ったのはせいぜいフーケ編だけじゃね
手紙イベントなんて全カットでアルビオン編を終わらせてしまった
もっとみんなフリーダムでいいってばよ
だからテンプレとか基本的に原作コピペの悪口に使われてるんだから乱用するなと
ルイズ達は戦闘経験が皆無なので、実戦経験豊富で戦略も立てられる使い魔がベターだな
何かあったら「私にいい考えがある」とか言い出して無事に何事もなく万事解決くれそう
それで、その攻略本有りのRPGみたいなSSはなんか面白味あんの?
>>110 >私にいい考えがある
それ失敗フラグじゃないですか……
攻略本/wiki見つつのRPG程度には面白いんじゃね?
>>107 装甲艦(ストーンウォール)と聞いて榎本武揚を思いついたが
これだ!という作品が決まらないなあ。
コルベール先生とコンビを組んで、装甲艦を空中戦艦に改造!
はさすがに荒唐無稽すぎるだろか。
あとアルビオンの戦いでは五稜郭の戦い(規模は桁違いだが)を
回想する榎本武揚だとか・・・。
人事なら成功フラグだぞ
作戦なら結果オーライ的に5割の確立で成功する、具体的には敵の仲間割れで
1600頃投下
「虚無の使い魔」
茫漠たる宇宙空間。
星々の虚空に、頭部だけの石像が浮いている。
粉々に砕け、眠っている。
1個の惑星にも匹敵する巨大な石像。
目が開いた。
『……オオ
ついにここまで来たか』
思念が光となって両眼を灯す。
『あと少しだ
まだ私は、虚無に帰すわけにはゆかぬ』
銀河の輝きをじっと見つめている。
『ラ=グースの真理を見極めた
私の意志を引き継げる
ただ一つの生命体に、すべてをたくすまでは』
彼の背後で、邪悪なる宇宙の漆黒が蠢いている。
『私の旅は終わらせられぬ……!』
その悪意が、ドス黒い触手を伸ばし、彼を捉える直前──
『飛ぶぞ
最後の如来光だ』
石像は、忽然と姿を消した。
……2つの月が
不気味な輝きで、静かに地上を照らしている。
その夜
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストが飛び起きた理由は、
隣部屋から響く凄まじい絶叫であった。
「──ルイズ!?」
ドアを蹴破った彼女は、ベッドの上で己が身を抱きしめ、
錯乱したように叫び続ける級友の姿を見た。
全身から血の気が失せ、元々白い肌が死体のように青白く変色していた。
「ルイズ! ちょっとどうしたってのよ!? しっかりしなさい!!」
肩を掴んで揺さぶっても、級友はまったく反応しない。
ただ焦点の合わない瞳で虚空を見つめながら、ぽっかりと開いた唇で
人の言葉にならない悲鳴を喚き続けている。
「ルイズ──ッ!!」
彼女の顔を掴み、無理やり自分の方を向かせた。
指が彼女の汗で濡れた。ぞっとするほど冷たい汗だった。まるで氷のように。
そしてキュルケは見た。級友の瞳に浮かぶ恐怖の色。
魔王を見てもこうはなるまい。悪魔の拷問を受けてもこうはなるまい。
そう思えるほどに怯え、乱れ、震えている、一対の瞳を。
「ルイズ……」
はっと息を呑み、キュルケは四度、彼女の名を呼ぶ。
瞳の中に、見慣れた人物の姿を捉えたからだろうか。いつのまにか、
彼女の絶叫は止んでいた。
ただ、呆然とこちらを見上げていた。
その夜、キュルケは一晩中、彼女と一緒にいた。
暗い夜の漆黒の中で、並んでベッドに腰かけ、級友を抱きしめていた。
常は犬猿の仲。喧嘩の絶えることのない間柄。
けれど今が尋常の時ではないことは、お互いに理解していた。
キュルケは、熱病を患った小鹿に対して、母鹿がそうするように、自分の体
温で彼女を暖めた。
級友は、ただ静かに、そのぬくもりを受け入れていた。
『キュルケ……わたし、夢を見たわ』
『そう』
『気がついたら、叫んでいて、目の前にキュルケがいて……』
『怖い夢だった?』
『……うん』
誰よりも嫌いだと思っていた級友に、髪を撫でられながら、少女はぽつり、
ぽつり、とその光景を口にしていた。
それは太陽よりも眩く天空をつらぬく無数の銀光だった。
それは惑星全土を舐め尽くす地獄の業火だった。
それは彼女の知りうる世界の全てを無に帰す徹底的な破壊だった。
百万の同胞が
炎の中で、黒い影を揺らめかせながら、悲鳴を上げていた。
嘲笑が聞こえた。少女が振り向くと、そこには十二柱の殺戮の神々。
おびただしい血が流れている。
死体の焼け焦げる臭い。
悪意の光が、無数の巨大な御柱のように、天を貫くたびに
死んでいく……
……死んでいく……
…………死しんでいく……
彼女には分かった。
この『戦争』には勝てない。
きっと、みんな死んでしまう。
自分も、家族も、友達も。
みんな……
『馬鹿ね、ルイズ。いくら明日、進級試験だからって、緊張しすぎよ』
『……そう、なのかしら』
『ええ、そう。だって、考えてもごらんなさいな。
戦争なんてどこにあるの?
このハルケギニアはどこもかしこも平和そのもの。
アルビオンだけは内乱で揺れてるみたいだけど、
あんなの、わたし達には全然関係ないんだから』
『……』
『失敗することばかり考えてるから、不安になって、変な夢を見るんだわ。
落ち着いて、ゆっくりとまぶたを閉じなさい。大丈夫。ずっと
一緒にいてあげるから』
『……うん』
『……』
『……』
『……キュルケ』
『なに?』
『ありがとう』
『よしてよ。後で、あんたをからかうネタにしようと思ってるだけ』
そして、どれほどの時間が経っただろう。
窓から差す月明かりが
暗闇の中の2人の少女を、静かに照らしている……
かすかな寝息を立て始めた級友を、やさしく抱きしめながら
キュルケは夜空を見上げている。
そこには、星々の無限の輝き。
──むかし、書物を読んでばかりいる親友が言っていた。星にも
生と死があるのだ、と。
いにしえの占星術師たちは、ある種の星が、突如として明るくなったかと思うと、
やがて忽然と消えてしまう現象に気づいていた。有史以来数千年にわたる
彼らの観測結果は、分厚い記録となって、各国の天文台の書庫に
積みあがっている。親友は、むかしガリアのそれを
見せてもらったことがあるらしい。
毎晩、変わることなく瞬いているように見える星々。
毎年、変わることのない天球の運行を続ける星々。
それがいったいどうして死んでしまうのだろうか。
窓の向こうの星空を見上げながら、キュルケはそんなことを考える。
老衰で死ぬのだろうか。
病で倒れるのだろうか。
それとも、哀れな野生の獣のように、他の誰かに食べられてしまうのだろうか。
もし、そうだとしたら
その『星を食らうもの』とは、いったいいかなる……
「……」
「ルイズ?」
級友が何かを言った気がして、キュルケは振り返る。
彼女は眠っていた。
閉ざされたまぶたの端で、長いまつげがかすかに揺れていた。
また、なにかの夢を見ているのだろうか。
キュルケに抱かれているためだろう。先ほどまでとは異なり、その寝顔に怯えの色はない。
桜色のくちびるが、ただ同じ単語を繰り返し発していた。
「……ス」
何度も。
「……ース」
深く深く、眠りに落ちていきながら
何度も
何度も
「……ラ=グース」
「……」
級友の口元から耳を離し、ふたたび、キュルケは彼女の寝顔を見つめる。
ルージュのくちびるを開いて、ぽつりと呟く。
「『ラ=グース』」
そっと目を伏せる。
「なぜかしら……ものすごく、いやな感じのする言葉ね」
そんな感じの名前の悪魔か何かが、古代の文献にあっただろうか?
夜が明ければ、本好きの親友に聞いてみようと、キュルケは思う。
そして眠った。
腕の中で寝息を立てる、小柄な級友とともに。
悪夢は見なかった。
投下終了
元ネタは石川賢の虚無戦記でした
乙
ルイズたちの戦いはこれからだ!
>110
裏目音の鳴る使い魔か。
……そこさえ理解していればある意味頼もしいな。
ハーレム系なキャラだし、中の人的には双子に縁が深いからタバサとシャルロットもばっちり。
>123
乙。
クトゥルフみたいな読後感です。
22:30頃から投下予定
第15話『決別』
滅亡を迎えるアルビオンに朝が訪れる。
ルイズが眠りから覚めると、もう日は昇りきっていた。
「もう昼過ぎかしら……」
太陽の位置から何となく時刻を察する。
眠りすぎたのを若干悔いつつ、手早く着替えを済ませた。
「お早う、ルイズ」
ルイズが扉を開けると、そこにはワルドがいた。
「おはよう、ワルド。ずっと待っていたの?」
「いや、まだ起きないようなら昼食を置いておこうと思って運んでもらったんだ」
老紳士然としたメイジが、食器を運んでいた。
「お目覚めですかな。
私、皇太子様の世話役を任されておりましたパリーです。以後お見知り置きを」
老メイジが深々と頭を下げ一礼する。
「昼食後で結構ですが、後に国王陛下が会見を望まれております」
「ええ、是非」
ルイズは作り笑いを浮かべようと努力する。
声がかすれながらも、何とか誤魔化せたようだ。
「ありがとうございます、国王陛下も喜びになられます」
パリーは笑顔でそう答えると、部屋を後にする。
老メイジの笑顔とは対照的に、ルイズの心は晴れないままだった……
* * *
国王への謁見も終わり、夜を迎える。
ルイズはずっと部屋にいたかったが、そうもいかずパーティにだけは出席する。
表向きは華やかな宴、実態は最期の晩餐。
国王が逃亡するよう斡旋するも、部下達は笑って皆その場を立ち去ろうとしない。
誰もが陽気に笑い、破滅に向かう。
会場の光景がルイズには虚しさしか感じず、直視できない。
「アセルス……」
バルコニーで外をぼんやりと眺めていたアセルスにルイズが近寄る。
「どうしたの?」
ルイズに掛ける言葉は優しさに満ちている。
自分の心が砕けそうになった時、アセルスは受け止めてくれた。
一方で他人の命を躊躇いもなく奪う。
アセルスの二面性に、ルイズは戸惑いを覚える。
笑顔で滅びようとしている、アルビオンの貴族達のように。
「どうして彼らは笑っていられるのかしら……死ぬのが悲しくないの?」
「さぁ……私には分からないわ」
ルイズの望む答えはアセルスにも分からず、素直に告げる。
「アセルスは命の奪い合いが怖くないの?躊躇したりとか……」
ルイズの口調にいつもの明るさはない。
人が死に向かう姿を目の当たりにした経験はなかった。
「戸惑っていたら、その間に大切な人を失うから」
崖での尋問や宿での交戦。
殺さなければ、こちらが殺されていたかもしれない。
理屈は分かっていても、心の未成熟な少女の感情は揺らいだままだった。
「私も……アセルスにとって大切な人なの?」
「当然じゃないか」
アセルスはルイズの質問した意図が理解できない。
「私、ワルドに婚約されたの」
アセルスに衝撃を与えるルイズの告白。
「……ルイズは……どうするの?」
曖昧すぎるアセルスの問いかけ。
止めるにせよ決心させるにせよ、何か言わなければならないのに何一つ浮かばない。
「分からないのよ……自分でもどうすればいいのか」
弱々しく首を振って、目を伏せた。
「だから、アセルスに聞きたかったの。私は一体どんな存在なのか」
ルイズの一言一言に、アセルスは胸が締め付けられた。
動悸が激しくなり、何もしていないのに嫌な汗が流れる。
「……ルイズにとって、私は何?」
ルイズの質問に息が詰まりそうになりながら、かろうじて言葉を絞り出す。
「理想よ。貴族の理想、こうなりたいと願う憧れ」
アセルスの問いに、ルイズは即答する。
ルイズがアセルスを追求しだしたのは、ほんの些細な重ね合わせから。
ワルドの求婚。
アセルスの人生を追憶する夢。
人と妖魔の関係に気づいてしまった事。
最大の理由は、自身が理想が揺らいでしまった事。
名誉を守る為、滅びを恐れぬ彼らの姿は紛れもなく貴族の精神だ。
同時に愛する者を捨ててまで、死に行く彼らがルイズには納得できない。
「ねえアセルス……お願い、答えて」
か細い声と共に、アセルスのドレスの裾を掴む。
理想が揺らいだから、ルイズはアセルスを求めた。
求められる事で、自分が間違っていないのだと信じたかった。
無論、求められたからと言って正しさを証明できる訳ではない。
ルイズが行おうとしているのは、単なる現実逃避だ。
誰より孤独を嫌うから、他人に必要とされようと求める。
何もルイズだけに当てはまる事ではない、アセルスも同様だった。
「私は……」
傍にいてくれればそれだけで良かった。
かつてルイズに告げた台詞だが、アセルスは肝心な関係を伝えていない。
主従として、友として……或いは愛する者として。
どのように寄り添って欲しいかまではアセルスは告げていない。
追求された今、何と返せば正しいのか言葉が浮かばない。
いや、この問答に正解など無い。
アセルスは単に嫌われまいとしているだけだ。
だから、アセルスは自分の感情ではなく当たり障りの無い答えを返す。
一番愚かな過ちだとも知らずに。
「私は貴女の使い魔よ」
「そう……」
明らかに落胆したルイズの声。
アセルスには何が間違っていたのかが感づけない。
「私は人間よ……」
ルイズの口から出てきたのはアセルスからすれば拒絶にも等しい言葉。
「それは……」
二の句が継げない。
関係ないとでも言うつもりか?
かつて白薔薇に妖魔と人間は相入れないと言っておきながら?
「いつか別れがくるわ……」
死について考えた時、自分も同じ立場だと気付いてしまった。
人間に過ぎない自分はいつかアセルスを置いて、死んでしまうと。
ルイズの宣告は、アセルスが気づきながらも考えようとしなかった問題。
「言ってたわよね、傍にいてくれるだけでいいって」
アセルスは声が出せない。
いくら足掻いても、喉が枯れたような呻き。
「でも、私じゃダメなのよ……」
ルイズの顔も悲壮に満ちていた。
「私はいずれアセルスを孤独にしてしまうわ……」
構わない、わずかな間でも孤独を忘れさせてほしい。
アセルスの頭に引き止める言葉は浮かぶも、口に出来ない。
何故なら、アセルスの本当の願いは自分と永遠を分かち合う存在。
人の身であるルイズには、決して叶えられない願い。
「ねえ……私、どうしたらいいかな?」
離れたくない、しかし種族の違いが二人の前に立ちはだかる。
思わずアセルスはルイズの腕を逃がさないように掴んでしまった。
「痛っ……アセルス…………?」
ルイズがアセルスを呼びかける。
掴んだ腕で華奢なルイズの身体を引き寄せる。
見慣れたはずのアセルスの紅い瞳。
それが今のルイズには、まるで別人に見えた。
「アセルス……怖い……!」
振りほどこうとするが、ルイズの力ではアセルスに適うはずもない。
怯えたルイズに対して、アセルスに過去の光景がフラッシュバックした。
オルロワージュを倒して、妖魔の君となった時。
ジーナを寵姫として迎えた時に残した彼女の言葉。
『アセルス様…………怖い……』
ジーナが怯えていたのは、慣れない針の城に迎えた所為だと思っていた。
ルイズの姿がジーナと重なる。
怯えていたのは自分にではないかと今更気づいた。
「止めないか!」
会話の内容までは知らないが、ただならぬ雰囲気にワルドが間に割って入る。
「とうとう本性を現したな、妖魔め!」
ワルドは杖を突きつけると、ルイズを庇う。
ルイズはワルドの背後でなおも恐怖から震えていた。
自分の何を恐れているのか?
疑問の答えはアセルスには決して紐解けないものだった。
人は常に最善の答えを探し出せるとは限らない。
しかし、限られた選択肢の中から次善策を見つけて生きる。
ジーナが陰鬱な針の城を嫌いながら、ファシナトールから離れられなかったように。
行く宛などなかったし、抜け出すだけの大金がある訳でもない。
結果、彼女は現実を妥協する。
だが、アセルスは城から逃げた。
受け入れねばならないはずの現実から逃げるようにして。
半妖の証明である自分の紫の血。
人間でなくなり、妖魔となった事実。
この時点でもアセルスに残された選択肢はいくつかあった。
例えば半妖として、蔑まれながらも生き続ける。
或いは主であるオルロワージュを討ち滅ぼして、妖魔の血を消し去る。
前者であればジーナがアセルスから離れはしなかった。
後者なら永遠の命を捨て、代わりに平穏な人生を得られたはずだ。
彼女は何の選択も行わず、逃げた。
妖魔として生きる道を選んだのではない。
自分の運命を呪うばかりで、選択を行わずに妖魔に堕ちたのだ。
シエスタの祖父が娘に語ったように、アセルスは運命を言い訳に使ったに過ぎない。
アセルスに残されたのは上級妖魔の血を継いだ事。
ルイズが貴族の自尊心に縋ったように、アセルスはオルロワージュを超えようと確執した。
寵姫の数や他者を支配するという目に見える成果だけを求めて。
決断を先延ばしにした結果、白薔薇を失った。
アセルスは白薔薇を自分勝手な使命感で失った自覚はある。
だが、後悔するだけで省みれなかった。
ジーナも失ってようやく、白薔薇が自分の下から去ったのではと気付かされた。
白薔薇は自分よりあの人を選んだのだろうかと、妬みにも似た感情に支配されるのはアセルスの稚拙さ。
現実を見ようとしなかった代償が押し寄せる。
その時、アセルスが選んだのはいつもと同じ行動だった。
「アセルス!」
ルイズの叫び声は空しく響きわたった。
アセルスはルイズの前から逃げ出したのだ……
ルイズもアセルスも気づいていない。
お互いが相手を求めながら、相手を見ていなかった現実。
ルイズはアセルスの半生を見て、彼女が苦悩を乗り越えた気高き存在だと思っている。
アセルスはルイズが自分で決断した目標、立派な貴族になるまで挫けないのだろうと思いこんでいる。
人の心はそれほど簡単ではないのに。
二人は擦れ違い続ける。
傍にいながらお互いの存在を正しく認識していないのだから。
* * *
「どうして……」
残されたルイズがアセルスの消えた闇夜に呟く。
「ルイズ、無事かい?」
ワルドが振り返る。
「どうしたんだい?今にも泣きそうな顔だ」
ワルドがルイズに語りかける。
「分からないのよ、何が正しいのか……」
誇り高いはずの貴族の行動が理解できない。
アセルスも、自分の前から逃げ去ってしまった。
何が間違えていたのか、答えをいくら求めても見いだせない。
「あれが妖魔さ……人を裏切る事など露程も思っていない」
ワルドは吐き捨てるように言い放つ。
「大丈夫、君の傍には僕がずっといるとも」
今にも泣きそうなルイズの肩に手を置いた。
優しい一言にルイズの頬から一滴、涙が溢れ落ちる。
「君は優しすぎる……だから、好きになったんだけどね」
泣いたルイズをそのまま抱きしめる。
張りつめた精神が緩んだ結果、泣き疲れてルイズは眠ってしまった……
* * *
次にルイズが目を覚ましたのはベッドの上だった。
昨日割り当てられた自分の部屋なのだろうと、感づいた。
「やあ、起きたかい?」
ワルドの声がした扉の方を振り向く。
ワルドは給仕に暖かい飲み物を運んでもらっている最中だった。
飲み物が入ったポットを暖めてルイズに手渡す。
「落ち着いたかい?」
「ええ、ごめんなさい。みっともない所見せちゃって」
立派な貴族になるという志がルイズにはある。
だが、それをなし得たと思う出来事は一度もなかった。
魔法は未だに扱えないままだし、人に弱音を見せてしまうのはこれが二度目だ。
一度目の時。
その相手だったアセルスは何も言わずに立ち去ってしまった……
また戻ってくるかもしれないが、ルイズの心に暗鬱とした感情が溜まる。
再び会ったとして何を言えばいいのだろうか。
初めて、アセルスが妖魔である事を怖いと思ってしまった。
バルコニーでのアセルスの瞳。
信じていた相手にすら畏怖を与えるだけの重圧があった。
同時に、心に引っかかるのはアセルスが消える前に見せた表情。
既視感を覚えながら、ルイズには感覚の正体が何思い出せない。
「ルイズ」
ワルドの呼びかけにルイズが顔を上げる。
「もう一度言わせてくれ。ルイズ、僕と婚約して欲しい」
事の発端となったワルドのプロポーズ。
「ワルド、それは……」
「分かっている、君がまだ学生なのは。
不安なんだ、君がまた妖魔に殺されるんじゃないかと」
ルイズが否定しようとするより、ワルドが強くルイズの手を握る。
「アセルスは……」
そんな事はしないと言おうとして、言葉に詰まる。
ルイズの心情に構わず、ワルドは手を握り締めたままに捲し立てた。
「何も今すぐにと言う訳じゃない。
学校を卒業してからでもいいし、君が立派な貴族になったと思ってからでもいい。
ただ式をここで挙げたいんだ、二人っきりで」
「こんな所で?」
思わず、率直な意見を口にしてしまう。
「ウェールズ皇太子は勇敢な貴族だ。僕は皇太子に神父役を御願いしたいんだ」
ルイズが沈黙して考える。
ワルドに対しては少なからず好意を抱いている。
突然のプロポーズに困惑しているが、嬉しいと言う気持ちも無い訳ではない。
むしろ、自分なんかでいいのだろうかとすら思える。
グリフォン隊の隊長という立場にあるワルドと、魔法すら未だ使えぬゼロの自分。
「……本当に、私なんかでいいの?」
「君を愛しているんだ」
ワルドはルイズの質問に即座に答えてみせた。
「……うん」
長い沈黙の末に、ルイズが頷いた。
「本当かい!」
喜びにワルドは大声をあげ、ルイズの手を取る。
「ありがとう!必ず君を幸せにしてみせるよ」
ワルドが何気なく言った言葉。
幸せとは何か?願いが適う事だろうか?
アセルスの願いは自分と傍にいる事だった、ワルドの願いは……婚約?
自分の願いは……何か?立派な貴族になるという目標は少し違う気がした。
ここまでの疲れが出たのだろうか、カップを戻そうと立ち上がるとふらついてしまう。
そんなルイズの肩をワルドは優しく抱きとめた。
「僕がやるよ、君は明日の式に向けて休んでおくといい」
就寝の挨拶を交わして、ワルドは部屋を立ち去る。
ベッドの上に仰向けになったルイズを月明かりが照らす。
ぼんやりと何も考えられずにいると、ルイズはいつの間にか眠りに落ちていた……
* * *
逃げ出したアセルスは何処とも分からない森にいた。
崖下には奈落のように暗く深い、夜空だけが広がっている。
『相棒……』
デルフが呟くが、何と声をかけていいのか分からなかった。
素人玄人問わずに多くの人間に使われてきた記憶は存在する。
大小問わず悩み、苦しむ使い手もいた。
しかし、アセルスのように半妖の悩みを抱えた者はいない。
彼女の心に混沌とした感情が渦巻いているのだけは伝わる。
300年生きたオールド・オスマンがルイズに何も言えなかったように。
デルフも何も言葉をかけられない自分の無力さに、歯があれば歯軋りしただろう。
「ルイズ……」
朧げに彼女の名前を呟く。
初めは好奇心に近かった。
自分を召喚した少女の境遇はあまりに自分と似ていた。
同時に、彼女ならば自らの苦悩を理解してくれるかもしれないと考える。
事実、ルイズは受け入れてくれた。
他人に見せられない弱さも自分の前では見せた。
それでも成長しようとするルイズを見て、美しいと思った。
問題は幾度も悩んだ、種族の差。
加えて、アセルスにとっては新たな苦悩があった。
白薔薇の頃はまだ無自覚だった。
友達や姉のように思っているだけだと自分に言い聞かせた。
『自由になってほしい』
白薔薇が最後に告げた台詞はオルロワージュからの支配の脱却だと思っていた。
『くだらないことに捕らわれるんだな。
姫も言ってたじゃないか、自由になれってね』
だからこそ、他人に指摘された時に動揺する。
──本心では、私は白薔薇を愛していたのだと。
ジーナは生まれて初めてはっきりとアセルスが愛情を抱いた相手だった。
だが、ジーナも失った。
未だ理由が分からないまま、彼女は自らの命を絶った。
アセルスは二度の喪失から誰かを求めるのが恐ろしくなる。
自分を受け入れてくれた存在をまた失うのではないかという不安。
アセルスは気付き始めていた。
いつの間にか、他人を妖力で支配していた事実。
嫌悪していたはずの妖魔の力を当然のように扱い、欲望のままに行動していた。
「だって私は妖魔の君……」
違う、妖魔の力なんていらない。
人としてただ、平穏に暮らしたかった。
誰でもいいから必要とされたかった、妖魔ではなく自分自身として。
だから……
「その為に、ルイズを利用した……」
寂しさや孤独を嫌った。
妖魔として生きると言いながら、人間のように理解者を求めてしまった。
召喚で呼び出された相手、ルイズが鏡写しのように思えたから。
一人の少女を地獄への道連れにしようとする行いだとも気づかず……
『違う!相棒が嬢ちゃんを思う気持ちは本物だったはずだ!』
デルフの制止にも構わず、左の拳を地面に叩きつける。
地面を容易く抉ると同時に、アセルスの皮膚にも微かに血が滲む。
「紫の血……妖魔でも人間でもない血の色……」
見慣れたはずの血の色が、汚らわしく見えた。
デルフを掴むと自分の手に何度も何度も突き立てる。
叶わないと知っていても、自分の血を全て流してしまいたかった。
『よせ!相棒!!こんな事したって……』
妖魔の血がなくなる訳じゃない。
デルフが言葉を引っ込めたのは、アセルスの悲痛な表情を見たからか。
「ルイズは……結婚するって……」
アセルスの言動は、もはや支離滅裂。
それでも、ルイズから告げられた事実を噛み締める。
婚約。
もし自分が人間のままだったなら、誰かと結ばれた人生もあったのだろうか?
そうなればジーナも……そう、ジーナも同じだ。
──ただの人間として。
──平凡だが、幸せな人生を満喫する権利が彼女にもあったはずだ。
──彼女から全てを奪ったのは……
「私だ……私がジーナを……」
アセルスが思い出すのは、針の城でジーナと二人になった時の事。
怯えるジーナにアセルスはこう告げた。
『大丈夫、二人で永遠の宴を楽しもう』
即ちジーナに自らの血を分け与えようとした。
人から妖魔になる。
どれ程の苦悩かは自分が一番知っていたはずなのに。
ジーナさえ傍にいてくれれば良かった。
だが、ジーナは本当に永遠を共にしたかったのか?
彼女はあくまで『人』として自分の傍にいたかっただけではないのか。
永遠を望んだのはアセルスのみ。
自分がジーナに妖魔として生きる事を強要していたと気づく。
──寵姫をガラスの棺に閉じ込めていたオルロワージュのように。
『あの人』と自分が同じ過ちを繰り返していた。
一度陥った悲観的感傷に、己の愚かさを否応なく見せつけられた。
どれほど後悔しようと手遅れだった。
ジーナが目を覚ます事はもう二度とないのだから。
失うのを恐れた続けた結果、人から全てを奪ってしまった。
白薔薇の居場所も……ジーナの命も……ルイズからも全てを奪うだろう。
アセルスは立ち上がると、浮浪者のように彷徨い歩く。
『相棒、どこ行くんだ!城は反対の方向……』
「私はもう、ルイズの傍にいられない」
デルフの叫びに力なく頭を振ると、ルイズの元に戻らない事を伝える。
『何を言ってんだ!?』
「きっと彼女を不幸にするもの……」
ジーナや白薔薇のように。
ルイズも自分の運命に巻き込んでしまうのを恐れた。
いや、既に巻き込んでしまっている。
これ以上、自分に付き合わせてはいけない。
運命に負けた敗残者の自分。
掲げた目標に向けて進むルイズ。
彼女の重りにしかなりえないと思い込んで、アセルスは姿を消した……
投下は以上になります
アルビオン編終了までの流れは出来ているので、次回こそはもう少し早めに投下を目指します
乙!
アセルスの人乙でした(´ω`)
時の君の人のも続きが見たいなぁ><
そういやギュスターヴの人のも止まってるな、似たような境遇にあったジョゼフとの一騎打ちまで見たかったんだが(´・ω・`)
日跨ぎで乙でした。
アセルスが可愛すぎてサガフロアーカイブから買ったぜ
140 :
るろうに使い魔:2012/10/08(月) 08:54:27.88 ID:Vg3BYUpW
アセルスの人、乙でした。
さて、色々あってすっかり遅くなってしまいましたが、
9時丁度に、新作を投稿しようと思います。
141 :
るろうに使い魔:2012/10/08(月) 09:00:05.56 ID:Vg3BYUpW
それでは始めます。
剣心は今、シエスタに誘われて、草が生い茂る壮大な平原へとやって来た。
視界一辺を、見渡せるほどの雄大さと、陽の光が照りつける美しさが、そこにはあった。
隣では、私服姿のシエスタが、思いを馳せるような目で平原を見ていた。
「それにしても驚きました。ケンシンさんとうちのひいおじいちゃんが、同じ国から来たなんて…」
あの後、剣心はタルブの墓標跡地へと赴き、そしてシエスタの曽祖父の墓を見た。
刻まれている文字は、ハルケギニアではさっぱりわからない字体だったが、剣心は何とかそれが読めた。
「海軍少尉佐々木武雄 異界ニ眠ル」
ここでもう、剣心は確信した。彼は間違いなく、自分と同じ日本から来た人間なのだ。それも遠い未来から。
何故未来の遺産がこんなところに置いてあるのか、その理由は知る由もなかったが、こうして今、その実物が安置されているのもまた事実なのであった。
同時に、シエスタの雰囲気にも納得が行った。彼女も祖国の血を引いているから、通りで懐かしいと思えるわけなのだ。
元々、先代の比古清十郎も、この地を訪れていたのだから、いつか必ず手掛かりは見つかるだろうとは思ってはいたが、それがこんな形になるとは思ってもみなかった。
そして、その後にシエスタから見せたいものがある、と言われてこの草原へとやって来たのだ。
第二十七幕 『想いと想い』
「本当に、あれは貰ってもいいでござるか?」
「はい。そう遺書にも遺していましたし」
何でも、シエスタの曽祖父は、「墓標が読めるものに、『竜の羽衣』をさずける」と書き残していたようだった。
そして、同時に「これを陛下の元へと返上して欲しい」との願いも書かれていた。
「そうでござるか……」
142 :
るろうに使い魔:2012/10/08(月) 09:01:19.01 ID:Vg3BYUpW
剣心は、少し寂しそうに空を見上げた。
あのゼロ戦を見て、未来の日本の姿を、剣心は垣間見てしまったからだ。
恐らく、自分がいなくなっている頃には、また戦争が起こってしまったのだろう。それも大規模で、世界を巻き込むような。
(まだ…戦いは終わらないのでござるな…)
左頬の十字傷をなぞりながら、剣心はそんな思いに耽っていると、ふとシエスタが覗き込みように見ていた。
「あの、ケンシンさん」
「何でござる?」
「父が言ってました。祖父と同じ国から来た人に会えたのも、何かのめぐり合わせだろうって…」
顔を赤らめて、草原を見上げながら、シエスタは言葉を紡ぐ。剣心は、何も言わずに彼女の言葉を待った。
「あの、もしよろしければ…私と、一緒に…ここで住みませんか? そうすれば、私もご奉仕をやめて、二人で…」
それは、紛れもない『告白』だった。今度はシエスタが、恐る恐る剣心の返答を待った。
剣心は、少し影のある様な、優しい笑顔をすると、彼女にこう言った。
「気持ちは嬉しいでござるよ。けど、拙者には向こうで待っている人がいるでござる」
その言葉に、シエスタは胸に何かが深く刺し込まれるような感覚を覚えた。胸が動悸で高鳴っていく。身体が固まり、何も言えなくなる。
それでも、絞るかのようなか細い声で、シエスタは言った。
「…恋人…さん、ですか…?」
「…そうでござるな」
シエスタは、今度は刺し込まれた何かが、体を抉るように暴れるのを感じた。息が苦し
くなって、立つ足は震え始めていた。
それでも、シエスタは諦めきれずに、剣心に聞いた。
「やっぱり…帰っちゃうんですか…元の世界に…」
シエスタは、剣心が、この世界で言う『東方』とは違う、全く別の『異世界』から来たと、本人から聞いたのだ。
それは、もう簡単に会えるような場所じゃない。どこか遠く、本当に遠くの世界。そうとも教えられた。
143 :
るろうに使い魔:2012/10/08(月) 09:03:49.91 ID:Vg3BYUpW
剣心がいなくなる。そんな事態を認めたくないかのように、シエスタは言ったのだ。
そのシエスタの、若干涙声を含んだ言葉に、剣心はゆっくりと告げる。
「取り敢えず、東方と呼ばれるところへ、あのゼロ戦を使って行くつもりでござる。そうすれば、何か手掛かりが見つかるかもしれない」
まだ、帰る手段の目処が立っていない。あくまでも目標だけだ。だが、やってみる価値はある。
実際に帰るかどうかは兎も角として、今は方法を見つけることが大事だ。そう剣心は思っていた。
だが、同時にルイズの事も思い出す。彼女に約束をした以上、あまり勝手なマネをして心配させるのもどうかと考えているのだ。
手段を見つけるにしても、暫くは当分先になるかな…そんな風に思案していると、シエスタが決断するように言った。
「じゃあ…もし…帰る手段が見つからなかったら…そしたら…その時は…」
「…シエスタ殿…」
「私…待ってますから…いつまでも…」
そして、涙を見せないようにシエスタは、その場を走り去っていった。
剣心は、その後ろ姿を、切なそうに見ていた。
さて、この一部始終を、遠巻きに見つめていた連中がいた。ルイズ達である。
「ふぅん、面白いことになってるじゃないの」
「へぇ、彼もスミにおけないなぁ。あんな可愛い子を…」
そんな風に、キュルケとギーシュが呟いた。剣心に気付かれないように、かなり遠くで見守っていたため、声までは聞こえなかったが、雰囲気から察するにかなり良いムードであるのは確かだ。
隣では、ルイズが燃えるようなオーラを滾らせながら、歯を食いしばって見ていた。
もしキスの一つでもする気配を見せていたら、即刻消し飛ばそうと杖を構えていたのだったが、どうやらそんな事はないようなのが救いだった。
暫くして、おもむろにシエスタが小走りに何処かへと行ってしまったので、キュルケ達は何があったのかと議論し始めた。
「フラれた、とか?」
「案外告ったんじゃないかしら。それで恥ずかしくなって逃げたとか……」
と、キュルケはここで、言葉を切った。隣のルイズが、急に立ち上がって駆け出そうとしたからだ。
144 :
るろうに使い魔:2012/10/08(月) 09:05:27.94 ID:Vg3BYUpW
「お、落ち着きなさいって! まだそうと決まったわけじゃ…」
「うう、うるさいわね!!! ききき、今日という今日はアイツにたた、立場ってものをおお教えてやるわよ!!」
震える声で若干どもりながら、ルイズは杖を振ろうと身構えたが、寸前でキュルケに止められた。
「全くもう、好きじゃないとか言ってたくせに、完全に嫉妬じゃないの」
「だだだ誰が、あああんなバカ犬、すすす好きなもんですか!!」
完全に敵意をむき出しにしながら叫ぶルイズに対し、キュルケは呆れたようにため息をついた。
「あんた、あんなにダーリンに助けられた事、もう忘れたの?」
その言葉に、ルイズはハッとした。確かにそうだ。アルビオンでの任務では、彼がいなかったら最悪命を落としていたかもしれないのだった。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いは無い筈だ。
そう思うと、自然と杖を持つ手から力が抜ける。
でも…とルイズはイヤイヤと首を振る。キュルケは、ルイズが何に葛藤してるのか良く分かっていた。
「ま、理屈じゃないんでしょうけど、確証もないのにいちいち目くじら立てたってしょうがないでしょ? 主人を名乗るならもう少し余裕を持ちなさいな」
「でも…」
「ケンシンは、あんたの玩具じゃないのよ」
反論の余地を与えないようなキュルケの言葉に、ルイズは言葉を詰まらせた。
うん……自分でもワガママだっていうのは分かっている。
剣心は私の使い魔なんだから、自分だけを見て欲しい。内心そう思っているのだが、同時に貴族としてのプライド故に、そんなことを堂々と言えるはずもなかった。
だから、シエスタと仲良くするのを見ていると、すぐ制裁を与えることしか考えられなくなってしまうのだ。
「取り敢えず、後でちゃんと話を聞いてからにしなさいな。でないと本気であんた、いつかケンシンに見捨てられるわよ?」
ルイズは、顔を俯かせた。悔しいが、キュルケの言っていることは正しい。まだそうと決まったわけじゃないのだ。
でも…とルイズは思う。もし本当に、シエスタは剣心に告白したらどうすれば良いのかと、それを剣心が受け入れた時、自分はどんな反応をしたらいいのか、と。
その夜、シエスタの家で一泊してから、朝一番で学院に帰ることになった。さすがにこれ以上は休暇を認めるわけにはいかないと、学院から手紙が来たからだ。
シエスタは、そのまま残ることとなった。どうせ結婚式でお暇をもらえるので、このまま帰省することにしたのだ。
ただ、彼女の表情は、どこか暗く、そして寂しそうだった。
剣心とも、中々顔を合わせようとはせず、と言うより、何をどう切り出していいか迷っているようだったのだ。
そんなギクシャクした二人を見て、ルイズは怒るより悲しくなった。
夕食も済んで、就寝する前、ルイズは剣心に聞いた。
「ねえ、これからどうするの?」
直接的に言えば、昼間のシエスタとの会話の事を聞きたかったのだが、どうしても遠回りするような調子になってしまった。
剣心は、そんなルイズを見ながら、うーんと唸ったが、ルイズには正直に話すことにした。
「あのゼロ戦で、東方に向かう手掛かりを探そうと、今は考えてるでござる」
その答えに、ルイズは不安と安堵をいっぺんに抱えた。取り敢えず、シエスタとは何事もないようでホッとしたのだが、同時にそれ以上の不安に押しつぶされそうになった。
「でも、あれは飛ばないって言ってたじゃん…」
確かにそうだった。今のゼロ戦には燃料がない。だから飛ばすことも動かすことも不可能だ。
しかし、剣心には考えがあった。
「コルベール殿なら、何か思いつくかもしれないでござるよ」
あの授業の時、魔法に頼らない科学を見出そうとするコルベールの熱心さを見て、彼なら何とかなるんじゃないか、と剣心は思っていたのだ。多分、喜んで手を貸してくれるだろう。
それに『ガンダールウ』の能力のおかげで、あのゼロ戦を動かすには、どうすればいいのか等は大体分かっていた。
剣心の見る限り、目立った外傷や破損箇所は無いため、単に『燃料』があれば、理論上は動くはずだ。
それを使って、東方の地へ行く。直ぐに帰れるかは兎も角、手段さえ見つければ後はどうにでもなる。
145 :
るろうに使い魔:2012/10/08(月) 09:07:22.73 ID:Vg3BYUpW
「でも…さあ…」
ルイズは俯いた。というより、軽い自己嫌悪に陥っていた。
手掛かりを探す。と剣心に言ったくせに、いざその手段が見つかるとなると、どうしても否定的な意見ばっかり口に出てしまう。そんな自分に嫌気がさしたのだ。
剣心は、今にも泣き出しそうにするルイズを見て、安心させるように頭を撫でた。
「大丈夫でござるよ。そんな直ぐって訳じゃないでござるし」
そう言ってくれるが、ふと舞踏会で剣心が言ってたことを、ルイズは思い出した。
『拙者には、確かに帰るべき場所がある。だけどそれだけが理由じゃない。向こうには、
何も告げずに置いてきてしまった人がいる。だから連絡だけでも取りたいのでござるよ』
そうだ、剣心にも帰るべき場所がある。待っている人だっている。それを無理やり召喚させてきて、危険な目にも遭わせておいて、でもそれでも剣心は優しく接してくれる。
でも…とルイズは思うのだ。いつかは別れなきゃならない。でもその悲しみを、私は堪えることができるのかと…。
一夜明けて次の朝、快晴の中をシルフィードと何体かの竜たちが、空を飛んでいた。勿論竜が運んでいるのはゼロ戦だった。
最初それが学院に来たとき、生徒たちは怪訝な顔持ちをしていたが、コルベールだけは興味津々といった風でそれを見ていた。
「何と、これが空を飛ぶというのかね!!?」
「まあ、理論上は…そうでござるな」
と言っても、剣心自体このゼロ戦がどうやって飛ぶのか、見当がまるで付かなかった。
只、『ガンダールウ』のルーンが、頭の中で「これは飛べる」とずっと囁いてくるのだ。だからこれは、自身の勘以上に信じてもいいと、剣心は思った。
「成程面白い。構造上どうすれば動くか、分かるかね?」
「動かない原因は燃料不足なだけでござるから、燃料さえあればもしくは…」
「ほほう、いいとも。乗りかかった船だ。是非ともこの私にも協力させてくれ!!」
案の定、コルベールは二つ返事で受け入れてくれた。というか、ダメと言われても彼はやる気だろう。
剣心は、燃料の成分の大体をコルベールに教え、コルベールは何とかそれを作り出そうと色々と試してくれた。剣心は、彼を手伝うようにアレコレ走り回った。
その内試作品を何度も作っては、何度も爆発を繰り返し、失敗こそしながらも、少しづつそれらしく近づいていくのが実感できた。
146 :
るろうに使い魔:2012/10/08(月) 09:14:34.85 ID:Vg3BYUpW
やがて、完成品の一つ『ガソリン』を、何とか作り上げたときには、剣心とコルベールは達成感で喜びあった。
「やったな、ケンシン君!!」
「コルベール殿のおかげでござるよ」
気付けば、かなりの日数剣心達は研究に没頭していた。コルベールは、授業の合間合間を縫ってすぐ自室に籠り、成分の分析に余年を欠かさなかった。
剣心も剣心で、暇を見てはコルベールと共に研究の成果を見守ってきたのだ。
そんな彼等だったからこそ、完成した時の喜びもひとしおだった。
しかし、ここで言いづらそうに剣心は、コルベールに告げた。
「けど…あれを飛ばすとなると最低でも、樽分で五つぐらい必要かなと…」
一瞬その言葉に、気落ちしたような表情をしたコルベールだったが、直ぐにやる気で蘇り、顔を輝かせた。
「良し、なら五樽分作ってやろうではないか。私は絶対にこれを飛ばしてみせるぞ!!」
そしてさらに数日後。剣心達の知らないところで事件は起きた。
それは、トリステインとゲルマニアによる、結婚披露宴でのこと。
新アルビオンの誇る巨大戦艦『レキシントン』号の上で、志々雄は感慨深げに眼下の船の軍団を見下ろしていた。
トリステインの並べ立てる空軍戦艦は、『レキシントン』号とは比べ物にならないほど小さく、吹けば飛びそうなくらいだった。
今頃奴等は、これから何が起こるのか想像もつかないのだろうな。と、そう思いながら志々雄は煙管の煙を燻らせていた。
やがて、志々雄の後ろへと、ワルドが膝をついて現れた。
「シシオ様。艦長より、手筈が整ったとの知らせが」
「良し、始めろ」
それと同時に、ドンドンと轟くような音がトリステイン側から飛んできた。無論それは只の礼砲であり、実弾はない。
しかしアルビオン側は、まるでさもその砲撃で撃ち落とされたかのように、一隻の船を炎上させた。予め火薬と爆薬を乗せていたその船は、ドゴンと大きな衝撃音を響かせながら墜落していった。
戦争が始まった。と言っても、それは一方的な虐殺に過ぎなかった。
仕返しと言わんばかりに、『レキシントン』号の大砲から実弾を込めて装填していく。
「撃っ!!!!!」
志々雄の命令と共に、『レキシントン』号の大砲から一斉掃射が開始される。
キィィン…と弾丸が飛んでいく音を響かせながら、弾はトリステイン側の『メルカトール』号に着弾、爆発した。
直ぐ様、相手側から返信が届いた。
「『砲撃ヲ中止セヨ。我ニ交戦ノ意思アラズ』」
「構わん、続けろ」
志々雄の無慈悲な言葉と共に、再び『レキシントン』号による砲撃。轟音と共に命中。
「『繰リ返ス。砲撃ヲ中止セヨ!! 我ニ交戦ノ意思アラズ!!』」
「うるせぇよ、続けろ」
三度目の砲撃。『メルカトール』号だけでなく、あちこちの船から火の手が上がり始めた。
ここまで来ると、ようやく相手側もこちらの意図を理解したのか、反撃に映るが、所詮は焼け石に水の状態だ。
一隻、また一隻と確実に沈められ、もはやトリステイン側は風前の灯。勝敗は火を見るより明らかだった。
「シシオ様、新たな歴史が今刻まれましたな」
「らしくねぇな、ワルド。只戦争が始まっただけじゃねえか」
しかし、志々雄の顔は、まるで宴を楽しむかのように狂喜の笑みを浮かべていた。
これが、これから長きに渡る抗争の始まり。後に確実にハルケギニアの歴史に残る『戦争』の幕開けだった。
「さあ、お前はどう出る? 抜刀斎よ」
今回はここまでです。やっと投稿出来ると思ったら、こんな中途半端な時間になってしまい、
申し訳ありませんでした。タルブ編は難しいですね。
来週こそはちゃんと投稿できる…筈です。
それではここまで見て頂き、ありがとうございました。
147 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/08(月) 11:33:20.54 ID:WCB9MkO1
るろうにの人乙です。
148 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/08(月) 12:59:38.00 ID:q8U/Oz00
るろうにのひと 乙
22:15に投下します
「キスしたくない使い魔」
.
「ケツだけ星人ぷりっぷりっ」
と、例のごとくのポーズで近所の通りを疾走していた幼稚園児は
たまたますれ違ったお姉ちゃんのおパンツに気を取られていたため
前方に突如として鏡らしき物体が出現したことに気づかず
その姿勢のままハルケギニアへ突入したのであった。
「──おいコラ、コッパゲ。『コレ』にキスしろってのか『コレ』に」
「ぎ、儀式ですから! これは神聖な儀し──いだだだだ!?こめかみを
グリグリするの止めてぇええ!?」
絶叫するコルベール。
彼の頭蓋骨を左右から拳で圧迫するルイズ。
2人の足元には、ぷりぷりと揺れながらひたすら奇怪な高速運動を続ける
『謎のケツ』が存在していた。
禿げと少女、そしてケツ。
三者を遠巻きに見守る魔法学園の生徒たちは大混乱である。
「ゼ、ゼロのルイズが、『ケツ』を召喚したぞォ!」
「なんだアレは!? 尻から直接手足が生えてるだと!?」
「あんな幻獣、図鑑でも見たことねぇぞ!?」
先ほどまで、ルイズが召喚に失敗するたびに爆笑していた男子も
予想外の事態を前にしてオタオタと戸惑うばかり。
そんな中、比較的冷静に混乱の中心を眺めやっていたキュルケは、
ふと何かに気づいたような様子で親友を振りかえり尋ねた。
「ねぇタバサ。契約の口付けって、普通は口と口でするわよね?」
「少なくとも顔のどこかするのが普通」
彼女は本のページをパラパラとめくりながらこくりとうなずいた。
謎の生物に視線を戻し、キュルケは独り言のように呟く。
「……あの生き物の顔って、一体どこにあるのかしら」
「お尻らしき部位が、顔と胴にもなっているように見える。
原始的な無脊椎動物のように、口が排泄腔を兼ねているのかもしれない。
とても興味深い」
本に目を向けたまま、興味なさそうに答える親友。
ルイズは尻の穴にファーストキスを捧げなくてはいけないのだろうか?
さすがにそれは酷だなぁ、とキュルケは思った。
だってほら、一応年頃の女の子だし。
……謎のケツの正体が、アクロバティックなポーズを取っていただけの
ただの平民の男の子だと判明したのは
コルベール先生が頭部への圧迫に耐え切れず鼻血を垂らしながら気絶した
数分後のことだった。
つつがなく契約を果たした男の子は、
数ヵ月後
伝説のガンダールヴとしてインテリジェンス・ソードを
ケツに挟んで国家間の戦場に立ち
アルビオン軍7万を相手に無双したそうな。
以上、投下終わり
乙です。
とりあえず生存報告。
お盆休みもない状態で仕事してたので全然公開できるレベルに達していませんorz
できれば今月中には公開できるレベルに持って行きたいですが……
そういえば、ここってコミック版ゼロの使い魔シュヴァリエとか一騎当千
レベルの読者サービスシーンって大丈夫でしたっけ?
もし無理なら次の話は避難所で、ということになりますね。
それでは。明日(もう今日ですか)も仕事です……
>>150 乙
戦国みたいなシリアス度の強い話になりそうだけど、みんなかっこよくなりそう
>>152 楽しみにしています
サービスシーン程度なら問題ないかと、既損の作品にもけっこう際どいシーンがありますが直接的な描写さえなければ
というかご立派様が悠然とそびえ立ってるのに、その程度がなんですか
ご立派様は何度も全年齢対象ゲームに出演実績のある超健全体だろうが!
そしてるろうに乙!
しかしデビチルにご立派様出してたらPTAがパニックになってたろうな
人類の半分?に付いてるものを否定してまでヒス起こすあれは異様
土曜朝7:30がカオスになるわ。セツナとミライにアレは早過ぎる
>>157 オブラートに包んだ表現というわけだな!
サービスシーンとは逆にグロテスクなシーンってどのくらい許されるのかな?
例として
寄生獣
ハンターXハンター(ヒソカとか修正海苔部分とか)
ジョジョ(1,2部)
ハカイジュウ
バイオハザードシリーズ
ホラー得意じゃないからこの程度しか出てこないが、他にどんなのあってどれくらい許されるだろう?
好みの問題だが世間でもエロよりグロのほうが厳しいと思う。
特に食人描写はほぼ確実にアウト。原作でもオークやミノタウロスは出るがそういったシーンは直接的にはやらない。
やるならアニメで教皇が食われたときみたいに、血を出さずに一瞬で終わるべき。
NHKで頭削られて脳みそはみ出た子供の標本とか出たことあったっけねぇ
抱き上げた幼児がその瞬間バラバラに千切れたり
伯母に火炙りにされて黒焦げになった少女とか
その怨念で黒焦げにされて現在も地下をさまよう同級生(赤ん坊?)の亡霊とか
アメリカさんじゃ子供を犠牲にするのタブーだったんちゃうんかい
まぁアレ元々がゲーム版の没クリーチャーらしいけど
バイオ一作目の被爆ゾンビも今じゃ絶対出来ないよなぁ
投下の皆様乙ですー
随分間が空いてしまって申し訳ないですが、
他に予定の方が無ければ23:00ごろから投下させてください
「………ウーン、これも特に問題は無いみたいだね」
ここはトリステイン魔法学院近くの森の中。
予定していた最後の呪文を調べ終わると、ディーキンは傍にあった手ごろな大きさの石に腰を下ろした。
最初は学院の中庭らしき場所で作業をしようと思っていたのだが、召喚の儀式の時に見た青い竜が中央に寝そべっていたために予定を変えてここまで足を運んだのである。
フェイルーンのコボルドは、一般的に自分達がドラゴンの末裔であると同時に、その奉仕種族でもあると考えている。
大抵のコボルドはドラゴンを畏敬し、もしドラゴンに出会えれば採掘と収奪で溜め込んだ宝を惜しげも無く差し出して忠実に仕えようとするものだ。
ディーキンはコボルドの典型からは大きく外れているものの、彼もまたドラゴンに対しては強い憧れを抱いている。
……が、前の主人の影響もあって正直なところ普段は恐れの気持ちの方が強い。
中庭を避けたのも、ひとつにはそのドラゴンに対する畏怖からである。
まあ今では自身もドラゴンなのだし、アンダーマウンテンでは仲間と共に強力なドラゴンを倒した経験もあるのでそこまで怖いというわけでもないのだが……。
普通の人間だって、用もないのに無闇に寝ているドラゴンを起こしたいとは思わないはずだ。
第一、気持ちよく寝ているのを意味も無く近くで作業して起こしても申し訳ない。
ディーキンは一息つくと、改めて先程見たドラゴンの姿を思い返してみた。
あのドラゴンは体色はブルー・ドラゴン(青竜)に若干似ていたが、額に角は無かったし明らかに見たことのない種類だ。
昨夜見た本の記載からすれば、あれはおそらくウィンド・ドラゴン(風竜)とかいう種の竜だろう。
流石に一回通し読んだ程度では全体的にうろ覚えだが、ドラゴン類に関しては特に個人的に関心が強いのでよく覚えている。
この世界には、トーリルで一般的にドラゴンと呼ばれる、トゥルー・ドラゴン族はいないらしい。
過去に存在した韻竜とかいう種類の竜は知能が高く言葉を解し、魔法を使ったとあるのでトゥルー・ドラゴンだったのかもしれないが…。
彼らは遥か昔に絶滅し、今では動物としては賢い部類と言う程度の、言葉を解すことさえできないドラゴンしか残っていないようだ。
またワイヴァーンのような亜竜族も、ほぼ動物並みの知能しか持っていないという。
コボルドと同様、ここでは同じ名称の種族でも随分な違いがあるようだ。
この世界にはまだ知らない生物も多いだろうし、時間を見て図書館へ足を運びさまざまな本を繰り返し読んでおく必要があるだろう。
さておき、ディーキンは暫しの精神集中によって呪文の力を回復させた後、自分の使える様々な呪文を順々に試してみた。
それらはいずれもフェイルーンと同じように、問題なく機能していた。
女神ミスタラの“織”が存在しないであろうこの世界で、果たして全ての魔法が問題なく機能するのか若干不安だったが、杞憂だったようだ。
以前に読んだ本によれば、“織”は魔法というテーブルの上に掛けられたテーブルクロスのようなものであるらしい。
テーブルクロスという魔法の彩りが無くなっても、テーブルそれ自体が無くなるわけではないということか。
無論そうはいってもいきなり“織”が無くなったら、つまりテーブルクロスが引き抜かれでもしたら、上に乗っているものはみな酷い影響を受けるだろう。
あちこちで物が転倒したり割れたりして、テーブルのそこら中で酷い惨事が起こるに違いない。
だが今の場合は、ディーキンは“織”の無い世界に……、いわば別のテーブルの上に手で持ち上げて穏便に移された食器のようなもの。
ゆえに特にこれといった悪影響は受けなかった、といったところだろう。
どうやらハルケギニアは基本的にはトーリルと同じような性質の物質界らしい。
特定の元素や属性への偏りはないし、影界やエーテル界、アストラル界などの中継界ともちゃんと接している。
おそらくは別の宇宙に属するであろうこの世界で招来呪文が正しく機能するかは、昨夜のエンセリックの話もあって特に念入りに調べたのだが……、
ルイズがディーキンを別宇宙から招請したのと同様に、ディーキンも中継界を通じて元の世界から同じクリーチャーを招来できるようだ。
「とにかく全力で魔法が使えるみたいでよかったよ、こっちにいる間、ずーっと魔法が使えなかったりしたら不安だもの。
それに、魔法が使えないとボスに連絡もできないし、ルイズの仕事もちゃんとしたいからね」
呪文でトーリルの宇宙に接続できるなら、仲間と連絡を取る手段などいくらでもあることだろう。
こちらの事もだいぶわかってきたが、まだ本で読んだだけだし……とりあえず数日実際に経験してみて、暮らしが落ち着いてきたら一度報告を入れるつもりだ。
帰還して直接報告することもできるだろうが、それは避けた方がいいとディーキンは判断した。
こちらでの魔法の使用には制限がないようだが、外から来訪者の類が入ってこないという点からしてまだ安心はできない。
仮に昨夜のエンセリックの説の通り、この世界全体に障壁のようなものがあるとすれば、その障壁には随分と奇妙な性質があるに違いない。
例えば一方通行の性質があって、こちらかから召喚したり出て行ったりは自由でも外から入ることはできない……、というような事だってあり得るだろう。
フェイルーンに一旦報告に戻ったはいいが、さてハルケギニアに引き返そうとしたらできなかった、などという事態になりかねない。
それに関しては今ここで試すこともできないし、とにかく確信が得られるか戻ってもよくなるまではこの世界からの出入りは避けるべきだ。
もしも戻れなければ自分もガッカリするし、彼女やオスマンら教師達にも迷惑が掛かってしまうだろうから。
ルイズにもう一度招請してもらえれば問題ないのだが、召喚する対象は自由に選べないという事なので彼女をあてにするわけにもいくまい。
「呪文を試すのは終わったから、次は……、アア、洗濯に行かないとね。
ええと、確か中庭の傍に水場っぽいのがあったような……」
いきなり寝ているドラゴンに出会ったので、そちらに気をとられていて記憶が曖昧だが、確かそれっぽいものを見たような気がした。
森の中で小川でも探して洗ってもいいが、水場で洗う方が綺麗だろうし干す場所にも困らないだろう。
自分の洗い物なら別に小川でも気にしないし、ドラゴンの寝ていた中庭に戻って洗うよりむしろそっちを選んだだろうが……。
使い魔として仕事をすると約束した以上、ドラゴンが怖くて洗い場でちゃんと洗えませんでしたなどといういい加減なわけにはいかない。
「……うーん、ディーキンはちょっと胃が痛いかも……、
(ゲップ!)―――あ、大丈夫だ。
♪ あ〜、不運なディーキン、だけどとっても勇敢〜。
ディーキンはとっても勇敢なディーキン。
ディーキンは……」
あのドラゴンがもう起きてどこかに行ってるといいなあ〜……、と考えつつも、
ディーキンは洗濯物を入れた鞄を背負って、景気づけに鼻歌など歌いながら学院の方へ戻って行った。
・
・
・
・
場所は変わって、ここはトリステイン魔法学院の敷地内。
教師生徒らが起きてくる前に掃除洗濯や朝食の準備などの雑務を終えなくてはならないため、学院で働く平民たちの朝は早い。
今日もエプロンドレスとホワイトブリムを着た若いメイドが一人、早朝から大量の洗濯物を運んでいる。
彼女の名はシエスタ。
少し長めのボブカットにした艶やかにきらめく漆黒の髪と瞳を持ち、素朴だが愛嬌のある顔立ちをしている。
輝くような白い肌にはシミ一つなく、そのきめ細かさは貴族の子女にさえ早々及ぶものはいないだろう。
「うんしょ、っと。早く運んで洗ってしまわないと……」
「♪ 長グツはいて 苦しみもとめて 幸せすてて〜。
ディーキンはイカすコボルドだから〜。
オ〜……」
「え?、……っ!?」
シエスタは唐突に後ろから妙な歌が聞こえてきたために振り向き……、ぎょっとして洗濯物を取り落とした。
歌声の主は、見たこともない異様な姿の亜人だったのだ。
小さな子どもくらいの身長しかないものの、ドラゴンのような大きな赤い翼と剣呑そうな鋭い爪を持つ人型の爬虫類めいた姿。
しかも革の鎧を着こんでおり、腰には小剣を帯びるなどして武装している。
シエスタは咄嗟に亜人の傍から飛び退くと何か身を守るものを求めてあたふたと懐を探りながら、声を上げて人を呼ぼうとした。
が、亜人の方はその様子を見ると慌てて両手を広げ、首を振る。
「アー、待って、待って!
ディーキンはあんたを、誰もを傷つけるつもりはないよ。
どうかディーキンを殺さないで。ディーキンはただ、水場を探していただけなの」
「だ、………あ、……ええ、と……?」
シエスタはその様子を見て、困惑した。
ここは学院なので使い魔の類である猛獣や幻獣は珍しくないが、亜人などを見たのは初めてだ。
いきなり遭遇して驚いたが、もし友好的な相手なら敵意を向けるべきではない。
それは、正しくないことだ。
だが、しかし……、学院内に何故、亜人が入り込んでいるのだろう?
人間、それも多数のメイジが住むこんな場所へ、何が目的で?
(……に、人間の言葉を話す亜人は先住魔法を使うって聞いたことがあるし……。こっちを油断させる罠かも)
動きを止めながらも懐の果物ナイフから手を離さず、困惑と緊張が入り混じった顔でこちらを見つめてくるシエスタにディーキンは軽く溜息を吐いた。
「……ディーキンはね、よくこんなことを言うんだよ。たくさん、何度もね。
ディーキンは、時々ディーキンに話しかける代わりに棒とか鋤とかで攻撃しようとする人には慣れてるの。
でも、たまに一日中そんなことをして、すごーく疲れる時があるよ」
「……え、ええと……、あの、あなたは?」
「ン? ディーキンはディーキンだけど、もしかして名前を言うのを忘れた?
それならディーキンは謝るよ。ディーキンはディーキンだよ」
「え? あ、あの……」
「……ウーン、あんたは耳が悪い人なの?
ならもう一度言うよ、ディーキンはディーキンだよ。
それともあんたは、ディーキンのフルネームとか、もっと教えてほしいの?
ディーキンはディーキン・スケイルシンガー、バードで、ウロコのある歌い手、危険を切り抜ける冒険者、そして物語の著者だよ」
「そ、そうではなくて……、あ、いえ、ご丁寧にどうも……。
わ、私はシエスタです、この学院のメイドをやってます……」
シエスタはディーキンの大人しい態度と奇妙な話し方に戸惑いながらも、懐から手を抜いてお辞儀をしつつ、どう扱ったらいいものかと考えた。
依然として状況はよくわからないが、とりあえずこの亜人にはどう見ても悪意はなさそうに思える。
となると、まずはここに来た事情を聴くべきだろうか?
だがどんな事情があるにせよ、この子が他の人間に見つかれば騒ぎになる。
何せここには大勢のメイジがいるのだ、不審な亜人の子などは見かけ次第弁明の暇も無く魔法で始末されてしまうだろう。
ここは事情がどうあれすぐにここから立ち去ってもらう方がお互いのためだ、とシエスタは判断した。
「……あの、ディーキン、さん?
いきなり失礼な態度をとってしまってすみません、あなたが悪い人でないのはよく分かりました。
でも、何の用でここに来たんですか?
ここは人間の住む魔法学院で…、メイジの方に見つかったら魔法で殺されてしまうかもしれませんよ?
もしあなたが迷い込んでここにきたのなら、他の人が起き出してこないうちに出口まで案内しますけど……」
「ンー……、ディーキンは水場を探してここに来たの。
ディーキンは普段は人間が入るなっていうところには入らないよ、でも今日はちょっと理由があって……」
「あー、いえ、私はあなたを咎めているわけじゃないですよ?
でもですね、どんな理由か知らないですけど、他の人があなたを見たらどうなるか、
………え? コボルド……?」
「そうだよ、ディーキンはまさにコボルドだよ。
最後にディーキンが鏡を見たときはね……、ディーキンはあんまり鏡を見ないんだ。
ディーキンにとって、人間が使う鏡の位置はたいてい高すぎるからね」
シエスタはきょとんとして、まじまじとディーキンの顔を見つめた。
コボルドを見たことはまだないが、聞いた話では犬に似た頭部を持つ亜人のはず。
目の前の亜人はどう見ても姿は犬とは似ても似つかない…が、そういえば喋り方や何かに仔犬を思わせるような部分もあると言えばある…。
「……、あ………」
シエスタはふと、ディーキンの左手の甲にヘビがのたくっているような奇妙な模様があるのに気が付いた。
それを見て唐突に、あることに思い当たる。
「……もしかして、コボルド……の、使い魔……?
昨夜、ミス・ヴァリエールが召喚したって噂になってた……」
「オオ、ディーキンはここでもう噂になってるの?
なのに誰もケチなコボルド野郎を追い出せとか言ってこないんだね、ここは本当にいいところだとディーキンは感動するよ。
……うーん、そういえば、さっきの挨拶にルイズの使い魔っていうのを入れ忘れたかな?
それじゃあ、ディーキンはあんたとルイズに失礼したよ…、今度は忘れないようにするね」
シエスタはそれを聞くと、慌てて姿勢を正してお辞儀をする。
「そ、それは失礼しました!
貴族の使い魔の方とは思わず、失礼なことを……」
ディーキンはその様子を見て首を傾げると、とことことシエスタの方に歩み寄り、下げた頭の更に下から彼女の顔を見上げる。
シエスタは貴族の使い魔と知らずここから出て行けと不適切な要求をしたことで彼の機嫌を損ね、そのために彼の主の怒りを買うのではないかと不安だった。
が、自分を見上げてくる亜人の顔には笑みと思われる表情が浮かんでいる。
「別にあんたたちがいろんな所に住んでコボルドに出ていけって言うとしてもディーキンは非難したりしないよ。
ディーキンだって普通のコボルドはあんまり好きじゃないし、ディーキンは違うって、みんながすぐに分かってくれるとは思わないもの。
それにディーキンはあんたが失礼な人だとは思わないの、コボルドに謝ってくれる人は滅多にいないからね」
見慣れない爬虫類の笑みは一見意地悪いものにも思えたが、その瞳に純粋に穏やかな歓びが浮かんでいることにシエスタは気付いた。
一方ディーキンはシエスタの顔を間近で覗き込んで、内心でおや?と首を傾げた。
……が、まずは本題をいい加減に片付けなくてはと考え、それを確かめることは後回しにする。
「……それで、さっきも言ったけど。
ディーキンはルイズから洗濯を頼まれて、水場を探してるの。
もしかして、あんたもこれから洗濯なの?」
・
・
・
・
「……それじゃあ、ディーキンさんは詩人として遠くを旅してきて、物書きもされるんですね。
これまでにどんな物語を書かれたんですか?」
「ディーキンは主に叙事詩物語とか、旅の長編大作を書くよ。
一緒に旅してきた英雄のボスと助手のコボルド、それにみんなの物語をね。
ディーキンは高い天性を持った芸術家なの、手っ取り早いお金儲けだけを求める作家じゃないんだよ」
シエスタは水場で洗濯を干しながら、ディーキンと雑談を楽しんでいた。
初対面では驚かされたものの、話してみるとシエスタはすぐにディーキンと打ち解けて、彼の異様な外見も気にならなくなっていた。
最初シエスタはお詫びも兼ねて洗い物も自分が引き受けると申し出たのだが、ディーキンは自分が頼まれたことだしやり方も覚えたいからといってそれを断った。
貴族の繊細な下着をウロコや鉤爪が生えた手で洗って破いたりしないかとシエスタはハラハラしながら見守っていたのだが……。
いざ始めてみるとディーキンはほんの少しコツを教わっただけで、シエスタとほぼ同じくらい早く上手に、てきぱきと洗い物を片付けてしまったのだ。
しかしディーキンでは背が低すぎて難儀するため、洗い終わった洗濯物を物干し台に干すのはシエスタがすべて引き受けている。
その代わりに、暇な時間ができたディーキンからいろいろと話を聞かせてもらっているというわけだ。
なお、中庭にいた青い竜は既に目が覚めて主人の少女を乗せ、どこかへ飛び立っていったためにいなくなっていた。
「……ふふ、私、英雄なんて物語の中の、自分には縁のないものだと思ってました。
だけどディーキンさんは、英雄と旅をしてきたんですね」
「ディーキンも最初は本の中でしか英雄を知らなかったの、コボルドの洞窟で暮らしてた時にはね。
でも、ディーキンは洞窟の外に広い世界があって、どこかに英雄がいて、新しく英雄になる人もいることはきっと知ってたよ。
だからボスを初めて見た時、『ああ、この人が英雄だ』ってわかったの。
もしも彼がディーキンを導いてくれたら、ディーキンもいつか彼のような冒険者に、英雄になれるかも知れないって思ったんだよ」
シエスタはその言葉に何か思うところがあったのか、ふと手を止めてディーキンをじっと見つめると首を傾げて微笑んだ。
「……ディーキンさんは体は小さいけど、私よりずっと大人なんですね。
私もいつか、そんな英雄さんに会ってみたいなあ……」
「ン? それは分からないの、ディーキンはシエスタの年齢を知らないもの。
ウーン、でも、大して違うとは思えないけどね……」
ディーキンはシエスタの言葉を聞いて首を傾げた。
シエスタは、外見から判断すると20歳にはなっていないくらいだろうか……まあ、たぶん大差はない程度だろう。
「けど、ディーキンもシエスタにボスの事を知って欲しいと思うよ。
ここに棲んでいる大勢の人たちにもね。
ウーン、ディーキンは前に出版した本を一冊持ってるけど……文字が違うみたいだからここの人には読めないね。
今は新しい物語を書くのが先だけど、落ち着いたらディーキンはいつかきっと翻訳するよ。
もしシエスタがボスの事を早く知りたいのなら、ディーキンが聞かせてあげるよ?」
「いいんですか? じゃあ、今度是非ゆっくり聞かせてください。
残念ですけど、今はまだ仕事がありますから……」
シエスタは洗濯物を干し終えると、少し屈み込むようにしてディーキンに丁寧にお辞儀をして、学院の方へ戻って行った。
ディーキンはぶんぶんと手を振ってそれを見送り、ふと首を傾げた。
そういえば初対面のシエスタからまともな扱いを受けてちゃんと会話できたことが嬉しくて、彼女の出自について確認を取るのを忘れていた。
まるでアダマンティンのように艶やかな、金属めいた光沢を帯びた漆黒の髪。
奥底に星のような煌めきを宿した、深みのある黒い瞳。
ただきめ細かいというばかりでなく、一点の曇りも無く仄かに輝く白い肌。
愛想がよく親しみやすい優しげな雰囲気を満身に纏っていながら、ほんの微かにだが街娘には不似合いな、凡百の貴族にも勝る高貴さをその根底に感じる。
それらのささやかながら常人離れした特徴から見て、シエスタはおそらく――――。
「………ウーン、まあ、今考えても仕方ないね。
今度ボスの話をするときに、ついでに聞けばいいかな」
別段急ぐ話でもないし、そもそも彼女が自分の血筋について知っているという保証もないのだ。
仕事があるシエスタを引き留めてまで、今聞き出すほどの事ではないだろう。
ディーキンはそう結論すると考えを打ち切り、リュートをしまうなどの後片付けをして、ルイズを起こすために自分も学院へ戻って行った………。
・
・
・
・
「………ウーン、そろそろルイズを起こした方がいいのかな?」
洗濯から帰ってきてもまだルイズが寝ていたので、ディーキンはしばらく部屋の隅で本を読み返したり、物語をまとめたりして静かに過ごしていたのだが……。
冒険者としての生活やドラゴンへの変化によって得た鋭敏な感覚は、他の部屋の生徒たちが既に大方起きて動き出しているらしいことを伝えてくる。
ルイズが食事や授業に遅れては申し訳ないし、使い魔として起こすべきだろうか。
毎日学生として過ごしているのだからちゃんと間に合う時間に起きるだろうとは思うが、昨夜は遅かったし今日に限って寝過ごしているのかもしれない。
ディーキンはベッドの上でいまだにすやすやと寝息を立てているルイズのあどけない寝顔を眺めつつ、首を傾げた。
窓からはすがすがしい朝の光が差し込んでおり、暗闇に適応した種族であるディーキンにとってはやや眩しすぎるくらいだ。
よくこんな明るい中で平気で寝ていられるものだなあ、と少し呆れた。
……というか、ルイズは貴族とはいえ修行中の見習いメイジなのに、こんなのんびりした生活を送っていていいのだろうか?
フェイルーンでは大抵のメイジは弟子の育成など面倒だと考え、自分の関心事に注力したがるものだ。
そのため、見習いメイジは師匠から教授の見返りとして相当の対価を要求されたり、雑務を大量に命じられたりするのが普通である。
悪名高いサーイのレッド・ウィザード達のように、弟子を奴隷のように扱い虐待するものさえも、決して少なくはない。
勿論、ボスの師匠であったドワーフのウィザード・ドローガンのように、高徳な人物も中にはいるのだが……。
ここではフェイルーンとは違って、不公平な一対一の師弟関係は一般的ではなく、多くのメイジ候補者に組織的に公平な教授を与える制度が整っているらしい。
それ自体はとても素晴らしいことだと思う……が。
それにしても見習いならば普通は多少の雑務ぐらい与えられ、こなして然るべきではなかろうか。
雑用は雇い人任せで、見習いの身分でこんなふうにぐーたら惰眠を貪っていても咎められないというのは、フェイルーンの基準で見れば甘やかしすぎな気がする。
まあディーキンには人間の文化、それも異世界のそれに口出しをする気など毛頭ないし、別にどうでもいいことである。
軽く首を振って雑念を振り払うと、とりあえずやはりルイズを起こそうと決めた。
気持ちよく寝ているのを起こすのも気が引けるが、まあ遅れる方がもっと問題だろうし、仕方あるまい。
ディーキンはベッドにぴょんと跳び乗ると、ルイズの枕元あたりをぼふぼふと手で叩いて揺さぶりながら声をかけた。
「ルイズ起きて、朝なの。
今、ディーキンは、うるさいニワトリなの。ルイズを起こすよ!
♪ コッカ ドゥ ドゥル ドゥ〜〜〜〜!!」
「ZZZ…、………、な、なななによ! なにごと?
………ひっ!? あ、亜人!?!」
ルイズはいきなり耳元で妙な音響を鳴らされて飛び起きた。
…と、すぐそばで爬虫類めいた顔が自分を覗き込んでいるのに小さく悲鳴を上げ、毛布を引き寄せて身を隠すようにしながらベッドの上を後ずさる。
ディーキンはその反応に首を傾げたが、すぐに起き上がった時のルイズの眠そうな目とふにゃふにゃした痛々しい顔を思い出して状況を察した。
「ンー、もしかしてまだ寝ぼけてるの?
忘れたのなら自己紹介するよ、ルイズ。
ディーキンはディーキンだよ。バードで冒険者、物語の著者、そして昨夜からはルイズの使い魔だよ。
……アー、ついでにさっきは、あんたを起こしたうるさいニワトリだったよ」
「あー……、そうね、昨日召喚したんだっけ。ディーキン。
……っていうかニワトリってなによ、さっきの妙な鳴き声はあんたの仕業?
起こしてくれるのはいいけど、明日からはもう少しソフトな起こし方にしなさい!」
「ウーン? ……わかったの。
ニワトリは嫌なんだね、ディーキンは何か他の事を考えておくよ」
「……変わった事はしなくていいから、普通にそっと肩を揺さぶるとかしてくれればいいのよ」
溜息を吐いてそういうと、ディーキンの左手の甲にルーンがあるのに気が付いた。
「あ……、ルーン、左手に入れたのね」
ディーキンはこくこくと頷いた。
手の甲にルーンを入れたのは、衣服に隠れる胸部や足の裏などより自然に皆の目につきやすく、使い魔だと分かってもらいやすいだろうという思惑からである。
皆がルーンの事など気にも留めなくなった頃に隠しやすい場所なら更に都合が良く、その意味でも手の甲の方が同じ目立つ場所でも額などより良いだろう。
ディーキンは普段グラブを装備しているので、しばらくの間はグラブを外して皆にルーンを見せ、誰も気にしなくなった頃にまたグラブで隠せばいい。
《秘術印》は生物に刻むと徐々にかすれて一か月程度で消えてしまうので、誰も使い魔だと疑わなくなった後は衆目に晒し続けたくないのだ。
また、ルーンは既存の物を<呪文学>知識でディーキンなりに分析し、蜥蜴や竜などに刻まれるものと類似した特徴・様式のオリジナルを創作した。
既存のルーンをそのまま刻んで『このルーンは蜥蜴に刻まれるはずなのに何故未知の亜人に?』ということになってはまずいだろうという考えからだ。
参考にしたルーンにはメイジの属性を示すらしい特徴が表れているものも多かったが、主のルイズの属性がよくわからないのでそこはぼかしておいた。
ディーキンが赤竜の血を引くことを考えれば[火]かもしれないが、その力は後天的に訓練で目覚めさせたものなので断定まではし難い。
コボルドは洞窟に住みどちらかと言えば[地]に親和性の高い生き物だし、音を扱うバードであることを考えれば[風]だってありえる。
早計に判断して、後でルイズの属性が判明したときにそれと違っていたら疑いを招く恐れがある。
偽物ひとつ刻むのにも、結構頭と時間を使ったのである。
「そう、まあ偽物とはいえ、あとでコルベール先生に報告しておかないとね。
……ディーキン、着替えるから私の服と下着を出して」
ディーキンはそれを聞くと、首を傾げた。
「ンー……、いいけど、どこにあるの?
ディーキンは場所を知らないし、そのくらい、自分でできるでしょ?
説明してもらって探すより、ルイズが自分で取る方が早いんじゃないかな」
「亜人のあんたは知らないだろうけど…、貴族は下僕がいる時は自分で服なんて着ないのよ」
「ディーキンは下僕じゃなくて、使い魔なの。
命令なら取るけど、本当にルイズが自分でやった方が早いと思うよ?」
ルイズはそれを聞くと拗ねたように唇を少し尖らせ、指をぴっと立てて説明する。
「そりゃそうだけど…、普通は貴族なら、着替えみたいなちょっとした物は召使いに用意させるか、魔法で取るのが嗜みなのよ。
だから私は、使い魔のあんたに取って来てもらいたいの。
…自分が召喚した使い魔に持って来させれば、つまり自分の魔法で取ったのと同じことになるんだから」
ディーキンはそれを聞いて昨日の話を思い出し、納得した。
にわかには信じがたい話ではあるが、ルイズは異世界から自分を招請するほどの高等魔法を使っていながら、今までは魔法が使えなかったらしい。
あたりまえの貴族、あたりまえのメイジらしい事を、初めて成功した魔法の成果である使い魔を使ってやってみたいということか。
「わかったの、ディーキンはルイズのために取って来るよ。それで、どこにあるの?」
「服はその椅子に掛かってる制服を取ってくれればいいの、下着はそこのクローゼットの一番下の引き出しに入ってるわ。
これから毎日用意してもらうから、覚えときなさい」
「わかったの、ディーキンはルイズの指示を了解したよ」
ディーキンは返事をすると、とことことクローゼットまで歩いて行って下着を一枚取り出す。
それから椅子の所へ行くと、少しだけ背伸びするようにして制服を取り外すと、下着と一緒にルイズの所へ持っていった。
「着せて、……っていうのは難しそうね。まあいいわ」
ルイズは脚をぴんとのばしても100サントあるかないか程度のディーキンの身長や手に生えた爪やウロコを鑑みて、着替えさせるのは断念した。
だるそうにしながら自分でネグリジェを脱ぎ、新しい下着と制服に着替えはじめる。
「……にしても、何も背伸びなんかして椅子から服を外さなくてもいいじゃない。
あんたは昨日魔法で物を動かしてたでしょ、それで取りなさいよ」
「ディーキンのいたところでは、普通は服を取るくらいのことで魔法を使わないの。
魔法を使わなくても取れるものは手で取るし、歩いていけるところに行くのに飛んだりはしないんだよ。
ウーン……、でも、ルイズがどうしても魔法で取る方がいいなら、そうするけど」
「ふーん。魔法でできることを体を使ってやるほうがいいなんて、変わってるわね」
ハルケギニアのメイジは高貴な貴族としての血統の証である魔法の力に誇りを持っているし、魔法は社会に浸透して日常的に用いられることが当然になっている。
ルイズがそうであるように、普段からまったく魔法を使わず平民と同じように体を使って歩いたり運んだりするメイジはむしろ嘲笑される。
そのような常識の元で生まれ育ったルイズがディーキンの説明したような社会を変わっていると思うのは、無理もないだろう。
「……まあ、あんたは随分離れたところから来たみたいだし、場所が違えば習慣も違うのかも知れないわね。
そうね、いつもかもとは言わないけど、大変じゃなければ魔法を使ってくれる方がいいわ。
ちょっとした雑用みたいなことはメイジならちょくちょく魔法でやるの、それが私たちの嗜みよ」
「そうなの? ウーン、魔法で雑用とかはあんまりしたことがないけど……。
ルイズがそういうなら、ディーキンはなんとかしてみるよ」
ディーキンは請け負ったものの、さてどうしたものかと考え込む。
本によればここのメイジたちは精神力という概念を持っており、それを消費して呪文を使うのだという。
高レベルの呪文ほど精神力を大量に消費するが、ちょっとした雑用に使う程度の低レベルの魔法なら気軽に何度も唱えられる。
フェイルーンにおけるメイジは、呪文のレベル別にスロットを持っている。
下位のスロットでは上位の呪文は唱えられず、上位のスロットは下位のスロットの代わりに使えるものの一対一交換しかできない。
こちらにはこちらの利点もあるものの、ハルケギニアの魔法よりも燃費の悪いシステムだといえる。
雑用で頻繁に呪文を唱えていたらスロットがあっという間に枯渇してしまい、本当に呪文が必要な時に困ったことになるだろう。
……となると、魔法の使い方を少々効率よく工夫しなくてはなるまい。
そもそも日常生活で魔法を使わなければいいだけの事であって正直考えるのが面倒だが、それが使い魔としての仕事なら仕方ない。
一度かければかなり長い間持続して魔法効果を起こせる《奇術》を使うという手もあるが、効果が微弱すぎて出来ない雑用が多い。
なにせ、かろうじて制服の上着を持ち上げられる程度の力しか出せないのだ。
「ほら、ディーキン。着替え終わったから食堂に行くわ、ついてきなさい」
「わかったの」
(ウーン……、まあ、どうとでもなるかな……)
ディーキンはいくつかの案を頭の中でぼんやりと練りながら、着替えの終わったルイズに続いて部屋を出た………。
今回は以上になります
なかなか進みませんが、なるべく早く続きを書きたいと思います
それでは、失礼します
乙
会話を声優さんの脳内再生してみたがディーキンは声が可愛くないのが欠点だな・・・
金朋で再生される俺に隙は無かったが問題は有った
ディーキンの人up乙、
ディーキンの声は目玉の親父と同じで良いんでないか
ディーキン乙!
待ってましたよ。
投下乙!
乙です。
17話を23:40分頃から投下します。
――二日酔いは免れたものの、起きればもう昼時に近かった。
隣で眠っていたルイズをそのままに、支度をしてからすぐに城下町へと繰り出す。
活気溢れる道中で軽めに胃袋を満たしつつ、どうやって言い詰めていくかを頭の中でまとめる。
"目的地"に到着したところで、立ち止まって眺めた。幼少時から知ってはいたが、同時に畏怖を抱いてた場所。
善良な一般市民には馴染みがなく、ある種の象徴とも言えるその敷地内へ足を踏み入れた。
トリステイン城下において、際立って監視・警備が厳重な"チェルノボーグ監獄"。
ただ歩を進めるだけなのに、得も言われぬ居心地の悪さがあった。
シャルロットは牢番に王女から預かった令状を渡して、いくつか言葉を交わす。
好奇心によってか、陰鬱な雰囲気に新鮮味も覚えながら、牢番の後についていった。
案内されたのは一つの独房。最低限の薄明かりに照らされる牢内には当然一人だけ。
周囲いくつかの房に収監されている人間がいないのは好都合であった。
「面会だ」
牢番がそう言うと会釈だけを残し、通常業務へと戻っていく。
本来であれば監視下におかねばならないが、王室直属の命による色々と特別な計らいだった。
「・・・・・・誰だい」
しばらくして、牢の中にいる人物はシャルロットを見もせず、ぶっきらぼうに口を開く。
牢屋に直接面会しに来るような奴なんてどうせロクなもんじゃない、と。
下手をすれば判決が不服であると、恨みを持つ貴族が人をやって殺しに来てるなんてことも考えられる
た。
「お久し振りです、『土くれ』のフーケ」
知人らしいことを示すその言葉に、フーケはようやく訪問者をその目で見据えた。
「アンタ・・・・・・」
ベッドに腰掛けたままフーケは目を見開いた。
見覚えがないわけではないが、知人という程でもない。だからと言って忘れよう筈もない。
魔法学院でも何度か直話したことはあっただろう。
少女は色々な意味で学院内において有名でもあった。
何より自分をぶちのめして、ここにぶち込んだ人物を忘れられるわけがなかった。
「確かシャルロット・・・・・・だったっけ、名前。わたしを笑いにでも来たってのかい」
自虐的なフーケを見つめながらシャルロットは顔色を窺う。
多少やつれてはいるようだが、憔悴しているような様子はない。
隙あらば脱獄くらいやってのけそうな印象も受ける。とりあえず話し合いにはなると踏んだ。
「いえ、少しばかり話をしようかと。犯罪者の心理――私、気になります」
フーケは鼻で笑う、お高く止まった少女に対して。
「まあいい・・・・・・どうせ暇で死にそうなくらいだしね。くだらない話でもありがたいくらいさ」
スムーズに事が進むことにシャルロットはほくそ笑む。
「さて、どこから話したものでしょうか」
「話す? 私に聞くんじゃなく?」
「段取りがあるんですよ」
「・・・・・・好きにしな」
シャルロットは少しだけ考えてから語りだす。
「ついこの間、貴方の故郷に行って来たんですよマチルダさん」
「・・・・・・へぇ、どうしてだい?」
マチルダは今更ながらに、自分の素性を自白してしまったことに後悔する。
こんな小娘にまで本当の名前を知られてしまうなんて・・・・・・。
メイジである以上は大概が元貴族だ。没落し、消滅していても、言わねば立場は悪くなると見た。
黙秘を決め込み心象を悪くするよりは、裁判で不利にはなるまいと思い日和ってしまった。
結果論で言えば大した効果がなかっただろう。極刑は免れたものの、長い懲役刑。
残るは所定の手続きの後に、然るべき場所へ送られる。出て来る頃にはもう・・・・・・――。
「アンリエッタ様からの所用です。貴方を捕まえたことで王女から信頼を得たもので」
「そりゃ何よりだね、アンタの糧になれてこっちも嬉しいよ」
シャルロットはフーケの皮肉をさらりと流しながら続ける。
「それで諸々あって、道中でメイジ集団と戦ったんですよ」
「はっ! 猫被っていて、その実とんでもない使い手だったアンタからすればさぞ余裕だったんだろうね。
なんせこのわたしを軽くあしらったんだ。学院じゃ落ちこぼれに見せといてね・・・・・・ったく」
「それがそうでもなかったんですよ。私は生死分かつ境界線に立たされました。
『白炎』のメンヌヴィル率いる精強な傭兵部隊です、本当に強かった――」
「はあ!?」
フーケは思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。『白炎』と言えば名うての傭兵だ。
やることは残虐極まりないと聞くが、味方から見れば英雄とも呼ぶべき実力者。
己の土ゴーレムは戦場でもそう簡単に遅れはとるまいが、戦場向きに鍛えた本物のメイジとは比べられない。
「へ・・・・・・へぇ〜、よく勝てたもんだ。流石、と言っておこうかい」
「えぇ、ギリギリでした。勝てたのが不思議です」
フーケはむしろ納得する。負けるべくして負けたのだと。
『白炎』のような人間に、まがりなりにも勝てるメイジなら自分が敗北を喫したのも無理はない。
「その戦いの後にですね、村へ赴いたんですよ」
「村・・・・・・?」
そこで初めてフーケに含みの込められたような声音が漏れる。
「はい、ウエストウッドという森の中にある――」
フーケは驚愕を押し止めた。なんとしてもバレてはいけない。そんな思いを封じ込めて平静を保とうとした。
シャルロットはその反応を見て、正真正銘の確信を得る。
「そこで少し休ませてもらおうとしたら、なんとエルフがいたんですよ」
「まさか!?」
フーケは叫ぶ。"まさかエルフがいるなんて"という意味ではない。
"そのエルフをまさかどうにかしたのか"という意味。
少女の実力と気性なら、敵性種族たるエルフと知れば殺られる前に殺るくらいやっても――と思ったのだった。
「はい、友人になりました。聞けばハーフエルフだそうなので」
フーケはほっと胸をなでおろしたと同時に察すした。
目の前の忌々しい少女は、わかっていてこうして喋っているのだ。関係を知った上で話しに来たのだと。
「テファ・・・・・・私とは比較するのもおこがましいほど良いコですね」
「――ああ、自慢の妹だよ」
"マチルダ"も観念する。全てがお見通しといったシャルロットに。
「ここで話を戻しましょうか、犯罪者の心理について。あんなに可愛い妹と子供達がいる・・・・・・。
それなのにどうして貴方が盗賊なんてやっていたのか、是非その考えが聞いてみたいんです」
マチルダは目を瞑り考えた後に、ゆっくりと口を開いた。
「別に・・・・・・大した理由はないさね。世間の噂通り、盗まれた貴族が慌てふためくのを見るのがおかしかったのさ。
実入りも悪くなかったし、わたし自身も酔っていた・・・・・・万が一なんて考えず調子に乗り過ぎていた」
「・・・・・・なれば今は当然後悔していると?」
「当たり前さ、失うとわかってようやく自覚したよ。ホント馬鹿だ、どうしようもない」
マチルダは自己嫌悪に俯く。震える肩が暗い牢獄の中でもはっきりと見てとれた。
シャルロットはその姿に同情しつつ、お灸を据えるのもこのへんでいいかとも思ったその時――。
マチルダは神妙な表情で、縋るような声音で訴える。
「アンタに言えたギリじゃないのはわかってる。でもどうか・・・・・・テファと子供達を頼む。
わたしは獄中で罪を償う。だけどあの子達は何も悪くない、何一つ罪はないんだ。
あの子達だけは幸せにならなくちゃいけない・・・・・・だから頼む。この通りだ」
マチルダは座っていたベッドから崩れ落ちるように、両膝を床に跪いて頭を下げる。
そんな様子を見ながら、あらゆる筋書きを想定し掌に収めるシャルロットに仄かな嗜虐心が湧いてきた。
(まぁ・・・・・・もうちょっと念押ししておこう)
そもそもが"破格"なのだ、ドン底まで落としてからのほうが効果的だ。
「無理ですね」
シャルロットはマチルダのことをバッサリと斬った。マチルダの言ったことはどっちみち無理なのだ。
「なっ・・・・・・ぐ・・・・・・今さっき友達と言ったじゃないか!!」
「そうですよ、友人として出自や持っている秘宝のことは報告しませんでした。
テファを不幸にするわけにはいきませんからね。でもたとえ金銭的援助をしたところで――。
――不幸にはならずとも幸福にすることには出来ないんですよ・・・・・・"私には"」
マチルダは言葉を飲み込む。それは自惚れとかではない。自分自身理解している。
こうして捕まった己に資格なんてないのだ。もはやどうしようもないのだ。
されどシャルロットは容赦なく、マチルダが呑み込んだことを突き付ける。
「他ならぬ家族が居ずして幸せなんてないんですよ、"マチルダ姉さん"」
ティファニアと子供達の言葉を代弁するように叩き付けた。
マチルダの噛んだ唇から血が流れる。さらに床を拳で何度も殴り、骨が砕けるような音まで聞こえてくる。
シャルロットは静かに・・・・・・マチルダの怒気が晴れるまで見つめる。
声にならない声を上げながら悔い続け、いつしか肩で呼吸をし始める頃には落ち着いたようだった。
「――さて、話は変わりますが三日後に御結婚なさるウェールズ王子とアンリエッタ王女のことはご存知ですか?」
「・・・・・・ああ、獄中でもその程度の噂はね」
マチルダはズケズケと心に踏み込み、荒らした少女に辟易していた。
今すぐにでも追い出したかったし、当然何も話したくなかった。
思い切り罵倒してやりたくもあったが、今はシャルロットだけが頼りなのも事実。
テファ達を知り援助すると言った少女を、何より友と言った少女を無下には出来なかった。
虚ろな心地のままマチルダは気の抜けた会話を続ける。
「その結婚の立役者というのが、他ならぬ私です。・・・・・・自分で言うのも難ですが」
「・・・・・・そりゃあ良かったね。報酬も凄いんだろう? だから――」
喉から言葉が続かない。「今更言っても」という思いがマチルダの中で渦巻く。
そんなマチルダの言葉をシャルロットが受け継いだ。
「――だから頼みました、恩赦を出してくれと」
「・・・・・・?」
呆けて状況認識が追いついてないマチルダを、シャルロットは無視して続ける。
「同盟と結婚、とてもめでたいことです。名目は十分、後は恩を着せた私の口添え」
シャルロットは見上げてマチルダと視線を交わし合う。
「貴方がこれまで強奪した盗品の賠償、及び王家への奉仕を義務付け――」
アンリエッタとマザリーニ枢機卿と話した条件はここまで。ここからはシャルロット個人からの条件。
「――ウエストウッド村の孤児院の運営、ならびに住む者の笑顔を守ること。
トリステインとアルビオン両王家への忠誠をもって貴方を仮釈放します。
始祖ブリミルでも両王家でもなく・・・・・・テファと子供達に誓えますか?」
いくつも読んできた娯楽小説の一節のような、芝居がかった大仰な口上。
言うのも顔から火が出そうなほどに、臭くて恥ずかしい台詞。
ルイズが結婚式で読み上げる詔と違って、無理に体裁作る必要はなかったのだが・・・・・・。
されど心身共に疲弊したマチルダにとっては、計算通り効果覿面であった。
とはいえ実際に言ってみると昨晩の酒が残っていなければ、自ずから失笑して台無しにしていたやもと思う。
「誓うよ――わたしの家族に」
マチルダははっきりと意志を込めた誓約を立てる。
父を殺して家名奪い、ティファニアをも殺そうとしたアルビオン王家は未だ許せない。
しかしいつまでも過去に囚われていては仕方がない。
最も大事なのは、大切にすべきなのは、今の幸福なのだ。
「もし裏切りに相当する行為をした場合は・・・・・・こうして動いた手前、私自ら誅殺しますのでお覚悟を。
正式な手続きは結婚式を終えて諸々が収束してからでしょうから、それまではここで反省して下さい。
それと学院での一件、少々話が変わっていますので今から説明します。一応口裏合わせが必要でしょうから」
シャルロットは改竄された内容を語る。実際とを互いに確認しながらゆっくりと――。
マチルダが聴取の際に証言したことは、既にアンリエッタ王女の方で対処してある。
あとは当事者間で齟齬をなくせば特に問題はない。
次いで地下水を後ろ腰に握りつつ、水魔法の『治癒』を唱えて傷を治してやった。
「色々すまないね」
「テファの為です。貴方が恩に着るのは自由ですが・・・・・・くれぐれもテファ達には内密に」
尤もそんなことはマチルダにとっても百の承知だろうとシャルロットは思う。
「・・・・・・いや、正直に話すよ。あの子もいつまでも子供じゃない。家族として戻る為にも、ね」
マチルダの返事にシャルロットは目を丸くする。こんなにも殊勝なことを言うとは思ってもみなかった。
精神的にギリギリまで追い詰めた効果なのか。生来の気質が優しき姉で、思うところがあるのかはわからない。
それはマチルダ本人が楽になりたいエゴなのではとも一瞬思うが、分かり合うには必要だと考え直す。
ここから先は家族の問題だ。そう決めるのであれば、特段隠し立てするような理由もない。
「わかりました、それならそれで構いません。――それではまたいつか、ウエストウッド村で」
「ありがとう」
マチルダからの感謝の言葉を耳に残し、シャルロットは一礼して去った。
†
暗く、狭く、圧迫感のあった空間から解放されて、シャルロットは燦々と照りつける太陽に向かって大きく伸びをした。
とりあえず肩の荷はこれで全ておろした。ようやく諸々から開放された清々しさに素直に身を委ねる。
シャルロットにとって首都トリスタニアは故郷である。
シャルル達にとっては滅びたガリアだが、娘達にとっては生まれも育ちもトリステイン。
学院に通い始めてからは定期的に戻って来る程度なので、極々普通な程度には懐かしく思う。
勝手知ったるなんとやら、"次の目的地"へ行くついでに古巣を堪能することにした。
本に武具、衣服や装飾品、雑貨屋など、店を順繰りに回りながら歩いて行く。
そうして久しぶりに少女らしい生活を謳歌をしていると、丁度良く"見知った顔"と出くわした。
(魅惑の妖精亭・・・・・・)
チラリと目を向けた先に書かれた店名。
確か選り取り見取りな少女達に、お酌をさせる一風変わった酒屋だ。
「二人とも、昼飲み帰りですか」
「あー・・・・・・」
"ワイルドバンチ"の片割れ。キッドに肩を貸して抱えるブッチは、気怠そうにこちらに視線を返す。
よくよく考えれば、真昼間から開店するような店でもなさそうだった。
朝まで飲んで酔い潰れ――今ようやく出てきたといったところなのだろう。
「キッドがこのザマでな」
完全に意識をなくしていた。昨夜のパーティから通して相当飲んだのだろうことはわかった。
「・・・・・・まぁキッドさん、私といた時はハメはずさないようにしていたようですし・・・・・・しょうがないですね」
正直『ミョズニトニルン』には大いに頼り過ぎた。今回のキッドの手柄は最も重要なものだ。
多少だらしなくても責められない。大仕事をやり遂げたのだから。
「・・・・・・ブッチさん、今いいですか?」
「おう」
シャルロットは地下水を引き抜くとブッチへと渡す。
「これを・・・・・・」
「あ? これって」
ブッチはキッドをそのまま地面へと寝かせて、ナイフを受け取る。
「うお!?」
一瞬驚いた後に黙りこむ。ナイフに込められた意思と心の中で会話しているのだ。
デルフリンガーは元々『ガンダールヴの盾』である。
普通には死ぬことがない為、お互い話し相手にと長年地下水に宿っていた。
されどデルフリンガー本来の役割とあらば、本人は『ガンダールヴの盾』と戻るのも吝かでない。
寂しくもあり戦力減となるものの、シャルロットはデルフリンガーの望むままにさせてやりたかった。
それにブッチに使われるのであれば、永遠の別れということもない。
当分は近くにいるのだろうから、話そうと思えばいつでも話せる。
しばらくボーッとした後に、ブッチは地下水をシャルロットへと返した。
「いらん」
「えっ?」
(断られちったい、"本来の相棒"に)
デルフリンガーの心なしか悲しげな声。とりあえずシャルロットは事情を聞く。
「話は聞いたんですよね?」
「まぁな、だがいらん」
「魔法を吸収出来るし、武器なら好きなものに――」
デルフリンガーの特性であれば宿る武器は選ばない筈であった。
元々の大剣でも、今のようなナイフでも、そして銃でもである。
「だってうるせえし」
「・・・・・・ぁぁ」
(えっ)
(ははっ)
シャルロットはどこか納得したように相槌を打ち、地下水は密かに笑う。
「それに大事なもんなんだろ」
「・・・・・・それは――まぁ、そうですけど」
もしかしたらブッチは、こちらをわざわざ気遣ってくれたのかとも思う。
「珍しいし、面白いが、流石に喋る武器と四六時中一緒なんてウザってぇよ」
シャルロットは自然に漏れる微笑をブッチに投げかけた。
それえは年相応の少女が持つ繊細で柔らかなほほえみ。
「・・・・・・ありがとうございます」
「礼を言われる筋合はねえよ」
どこかホッとした。やはり寂しいものは寂しいし、デルフリンガーの魔法吸収特性も惜しい。
「で、話はそんだけか?」
「はい」とシャルロットが頷くと、ブッチはキッドを持ち上げる。
「今度奢りますよ」
「・・・・・・ああ、期待しとく」
ブッチは空いた片手で緩く手を振りながら城の方へ歩き、シャルロットはその背を見届ける。
(まさかフられるとはなあ・・・・・・)
と、デルフリンガー。
(残念だったね)
と、シャルロット。
(・・・・・・まあ"こっちの相棒"も悪くないからいいけどね)
(ありがと)
(折角居候が出ていくチャンスだったのだが――)
と、地下水。
いつもの面子。いつも一緒の家族。いつも通りの会話。
いつものわかりきった口論が始まる前にシャルロットが制する。
(私は二人が一緒にいてくれて嬉しい)
(ぬっ・・・・・・)
(むっ・・・・・・)
隠し事なしの真っ直ぐな気持ち。
今までもこれからも、私が死ぬまで二人は一緒なのだ――。
以上終わりです。
ではまた。
アセルスの人、遅まきながら乙
なにげなく裏解体新書読み返してたら、未使用リージョンシップに「イザベラ二世」ってのがあってびっくりした
超お久しぶりです
半年以上も離れてるとそもそも戻ってくる事自体にどこか引け目を感じる
ともあれ、空いてるようなので45分頃から投下します
翌朝、ニューカッスル地下の港は人と物でごった返していた。
降伏勧告の期限まではあと6時間程もあるとはいえ、事実上の最後通告とあっては一刻も早く脱出したいのだろう、二隻の船の前には長蛇の列が出来上がっている。
しかし最後まで王党派と共に逃げ続けてきた民衆だけはあって、混乱や暴動などといった類はほとんどなく整然とした喧騒が港の中に満ちているだけだった。
そんな港の一角で、柊達は新たに自分達の行動に加わる人物――ウェールズを迎えていた。
彼はしばしの間避難民達の様子を眺めた後柊達を振り返り、幾分自嘲気味に口元を歪めて言う。
「あれだけ見栄を張っておきながらこの様では、どうにも格好がつかないな……」
ウェールズのニューカッスル脱出を柊達が聞かされたのは朝になってからである。
侍従のパリーから事情を伝えられた時には驚きもしたが、彼等には彼等なりの事情があっての選択なのだろう、柊達としては断る理由もない。
もっともエリスと――本来ならいるはずのもう一人にとっては事情とは関係なく歓迎すべき事なのだろうが。
「格好がつかないなら、挽回すればいいだけだろ。……『これから』な」
柊がそう言うとウェールズは僅かに顔を俯かせて瞑目し、やがて吹っ切れたように笑みを浮かべて「そうだな」と返した。
そんなウェールズに柊は風のルビーを差し出す。
「これ、返しとくよ。もう姫さんに渡す必要ねえだろ?」
「……いや、それはそのまま君が持っていて欲しい。ただし形見分けではなく、友誼の証として」
「そっか、わかった。……けど、俺指輪なんかつけねえぞ?」
「持っててくれさえすればそれでいいさ」
破顔するウェールズに応えるように柊も笑みを漏らす。
それにつられたのか、隣にいたエリスも嬉しそうに笑みを浮かべた。
そんな彼女を見やったウェールズは心配そうな表情を浮かべて、エリスに尋ねた。
「ところでミス・シホウ、ヴァリエール嬢の姿が見えないようだが」
「あ……それは」
エリスは表情を翳らせて俯く。
なんでもルイズは朝から調子が良くないらしく、今だ部屋で横になっているというのだ。
酷く顔色が悪く、朝食もほとんど口に通さなかったらしい。
ウェールズ王子が城を脱する事になったのを知った時は嬉しそうにしたものの、この場に来ることさえできなかったのだ。
それを聞いたウェールズは眉根を寄せた。
「そこまで思い悩ませてしまったか。ゆっくり休ませてあげたい所だが、それならば無理をしてでもトリステインに戻った方がいい。
……やがてここは戦場になってしまうからな」
「はい。殿下を見送った後、ルイズさんを迎えに行きますから」
ウェールズはティファニアに会いにいった後現在出港準備中の二隻と合流をする予定になっているので、先んじて城を脱する事にしているのである。
それならばと柊達も同じタイミングで城を出ようと思っていたのだが、ルイズの不調で少しだけ出発を遅らせる事にしたのだ。
「その事についてだが、一つ提案がある」
と、エリスの言葉を受けるようにワルドが口を開いた。
「ヒイラギとミス・シホウは殿下と共に出発したまえ。私が城に残りルイズを看よう」
「え……ワルドさん?」
「……いいのかよ」
ワルドの言葉にエリスは目を丸くし、柊は怪訝そうに眉を潜めた。
彼は軽く頷いて見せた後、柊に目を向けて言葉を続ける。
「幸い私にはグリフォンがあるゆえ、いつでも脱出はできる。彼女が持ち直すか、ぎりぎりまではここで休ませる」
「あの、ワルドさん。そういう事なら私も……」
「いや、君もヒイラギと共にトリステインに戻りたまえ。グリフォンは三人でも乗れないことはないが、行きの時のような事も起こりかねない。
ましてここは戦場で、戦闘間近だからな」
「あっ……」
学院からラ・ローシェルに向かう時に体勢を崩しかけた事を思い出してエリスは思わず息を呑んでしまった。
流石にそれ以上食い下がる事もできず黙り込んでしまうと、ワルドは優しく彼女の肩を叩いた。
そして彼は柊に目を向けて言う。
「どうせ手紙を渡すつもりはないのだろうから、私とルイズが遅れても問題はあるまい?」
「……」
言われて柊は僅かに沈黙を返した。
ワルドを正面から見据え、次いでエリスにちらりと視線を流した後、小さく息を吐いて口を開く。
「わかった。ルイズは任せる」
「言われるまでもない。彼女は私の婚約者なのだからな」
「……そういやそうだったな」
言い含めるような台詞にしかし柊は特に反応は見せずそんな言葉を返した。
ワルドは少し鼻白んだ表情を浮かべたが、気を取り直すようにエリスに向き直る。
「すみません、ルイズさんのこと、お願いします」
ぺこりと頭を下げて言った彼女に僅かに笑みを見せて応えてから、ワルドは改めて動向を見守っていたウェールズを振り向いた。
「そういうわけですので、私はこれで失礼させて頂きます」
「わかった。ミス・ヴァリエールをよろしく頼む」
「無論です。……トリスタニアで再びお会い致しましょう」
「ああ。……また」
互いに軍隊式の敬礼を交わしてから、ワルドは踵を返して城内へと歩き去っていく。
柊はその姿が消えるまでじっと彼を見続けていたが、不意に脇からウェールズを呼ぶ声が届いてそちらに目を向けた。
こちらに歩いてきたのは侍従のパリーだった。
「パリーか。後の事はよろしく頼む」
「承知いたしております。我が身命にかけまして、避難民は一人も損なう事なく城を脱出させ殿下にお預けいたします」
深々と頭を垂れるパリーを見やり、ウェールズは小さく頷いた。
やがて顔を上げた彼を見つめ、ウェールズは表情を歪めた。
悔恨とも苦痛とも言えない様子で口を開きかけ、そして噤む。
そんな仕草を数度繰り返してから、彼はパリーから目を背け、顔を俯かせてから呟いた。
「……すまん、パリー。お前を始めとして多くの臣下や兵達を差し置き、私だけが――」
「お黙りなさい」
ぴしゃりと言葉を遮ったパリーに、ウェールズは思わず目を丸くして彼を見つめた。
パリーは軽く頭を下げると、静かに口を開く。
「ご無礼を。しかしながら、殿下はこれより城を脱する民の命を背負う事になるのですぞ。それを軽んじられるおつもりか」
「いや、そのような事は……」
「ならば謝る必要はありますまい。我等には我等の務めがあり、殿下には殿下の務めができた。ただそれだけの事なのです」
師が弟子を諭すように、あるいは親が子を諭すように語るパリーに、ウェールズは眉根を寄せて沈黙し、そして皮肉気に笑みを零す。
「そう……だな。未練がましいとはこの事か」
「ですな。昨夜何があったかは存じませぬが、在りし日の王も戻ってこられた。ここでの殿下はお役御免という訳です」
「貴様……言いたい放題言ってくれる」
皺だらけの顔を不遜に歪めて笑うパリーに、ウェールズもまた苦笑に満ちた顔で吐き捨てる。
「いいだろう。ならば私は私の務めを果たそう。……だがな、一つだけ訂正しておくぞ」
「……は」
「私が背負うのは城を脱する民の命だけではない。この城に残る者達の命もまた、背負う。
――私は生き延びるのではない。偉大なる父ジェームズと勇敢なる兵士達の魂によって、生かされるのだ。
お前達によって繋がれたこの命、決して粗末にはしないと誓おう」
言って彼は杖を抜き、掲げる。
パリーはそんなウェールズの姿をしっかりと目に刻みつけた後、深々と頭を垂れた。
「――ご武運を」
「お互いにな。神と始祖の祝福があらんことを」
ウェールズは踵を返して柊達を振り返り、大きく頷いた。
それを見届けて柊はタバサに目を向ける。
ウェールズはマチルダやタバサと共にシルフィードでサウスゴータへ向かい、柊は自らの箒でエリスと共にトリスタニアへと向かう手はずになっている。
「タバサ、すまねえけど頼むな」
柊がシルフィードの傍にいるタバサに言うと、彼女は小さく頷いてシルフィードが代わりといわんばかりにきゅいっと鳴いた。
※ ※ ※
ウェールズ達を乗せたシルフィードはニューカッスルを脱した後、岸壁に沿って南に進路をとった。
しばしの南下の後、地上に上がりサウスゴータに向けて空を翔ける。
森林地帯を見下ろしながら進む道中、騎乗の三人は全くの無言だった。
元々無口なタバサは勿論、マチルダもフードで顔を隠し表情を一切見せない。
ウェールズは北の空をじっと見続けていた。
大きく迂回しているため戦地であるニューカッスルは地平の向こうであり、城はおろかレコン・キスタの布陣もその空域に浮かぶ艦影すらも見えはしない。
だがそれでもウェールズは空の果てにあるそれらを見つめ続ける。
やがて彼は小さく頭を振ると、嘆息と共にマチルダへ顔を向けた。
「マチルダ。君はこれからどうするんだ?」
「……さあね。とりあえず裏家業は廃止する事にしたけど、就職先は決まってないよ」
これから政変で慌しくなるアルビオンでは素性を隠して全うな職に就くのは難しいだろう。
トリステインはフーケとして巷を騒がせた手前ほとぼりが冷めるまでは動けない。更に言えばレコン・キスタの次の標的になるのも、直近のトリステインだ。
ならば後はガリアかゲルマニア、ロマリアぐらいだが――それならばしがらみが余り必要にならないゲルマニアが良いかもしれない。
実の所ティファニアを養う上で一番手間と費用がかかるのは食い扶持そのものではなく、マチルダがいない間のそれらを賄う『信用できる世話役』なのだ。
幸いにしてそれにうってつけの人間――エルフに一切頓着しないサイトができたのだし、いっそ全員纏めてゲルマニアに移った方が効率がいいような気もする。
そんな事を考えながらマチルダは、知らず口の端を歪めてしまっていた。
本当に、吹っ切れている。
心の裡にあったもやもやとしたものがほとんどなくなっているのを実感した。
「それなら――」
少しの沈黙の後、ウェールズはマチルダに向かって言葉を――
「お姉様!!」
三人の誰でもない声が響いて思わずマチルダとウェールズは辺りに目を向けた。
ただ一人その声の正体を知るタバサだけが、僅かに眉を潜めて呟いた。
「シルフィード?」
普段禁止していた人語を使ったことは咎めなかった。
それよりも、彼女が唐突に発した切羽詰ったような声色の方が気になった。
ウェールズとマチルダが訝しげな視線をシルフィードに送るのをよそに、当のシルフィードは更に悲鳴のような声を上げる。
「何か来る! ヒイラギじゃない!!」
「……?」
言葉の意図はともかく、尋常でない雰囲気に三人は周囲に視線を巡らせた。
そしてタバサとマチルダがほぼ同時に気付く。
現在シルフィードが飛行する進行方向の遥か彼方。
恐らく実際見た事がなければ気付かないようなかすかなモノ。
空に溶けてたなびく――光の輝線。
「シルフィード、降りて!」
弾けるようにタバサが言うのと同時、ほぼ墜落するような勢いでシルフィードは眼下の森林に向かって滑降した。
枝をへし折りながら地面に降り立ち、マチルダとウェールズはシルフィードの背から降りてその場を離れる。
最後に残ったタバサは、シルフィードの鼻頭を撫でて言った。
「逃げなさい」
「で、でも――」
「早く!」
刺すような声に気圧されるようにシルフィードは翼をはためかせて空へ飛び去った。
それを見届けながらタバサは二人の後を追う。
時間にして数分だろうか、三人の上空を『何か』が鮮やかな輝線と共に通り過ぎた。
ソレは空で弧を描くようにして周囲を旋回し、やがて空で制止する。
「……ゴーレム?」
木の影から天を仰ぐマチルダが、眉を潜めて呻いた。
ソレは例えていうなら、甲冑を着込んだ重装兵だった。
空にいて比較物がないので正確にはわからないが、おそらく人間よりも遥かに大きい。
おまけに城門用の破砕槌と見紛うほど巨大な棒を抱えていた。
背中から両脇に吐き出されて広がる燐光はまるで翼のようで、遠目で見れば鳥のようにも見えたかもしれない。
「――まさか、『凶鳥(フレスヴェルグ)』?」
木の影から天を見上げながらウェールズが呻いた。
正規の航路でアルビオンに渡ってきたマチルダは勿論、タバサも街の情報収集でその名は知っていた。
アルビオンの空域に出没しフネを派閥に関わりなく沈めるという凶賊。
レコン・キスタの新兵器と言う噂もあったが、一方で明確に貴族派を掲げるフネすら沈めている事から単なる凶事だという話も聞いた。
しかし、こうして航路でもない場所に現れ、そしてこの場に留まってウェールズ達のいる森林を睥睨している以上アレがレコン・キスタの手の物だと言うのは間違いなさそうだ。
ともあれ、問題はここからどうするか。
並び立つ木々によって身を隠せてはいるが、完全に視界を遮る程には生茂っていないので移動をすれば気付かれる可能性がある。
相手が空にいる以上こちらから打って出ることもできない。
シルフィードがいたとしても相手をする事はできないだろう。
何故ならシルフィードが示唆したように、アレが背から放つ光は柊の乗っていた箒に酷似している。
さしずめ箒の騎士(Broom-Knight)とでも言うべきなのだろうか、もしアレが箒と同等の機動性を持っているのなら空での戦闘は話にならない。
(――箒?)
そこで、タバサがふと気付いた。
マチルダもその事実に思い至ったのか、表情を険しくした。
あの『凶鳥』自体もそうだが、アレが手にしている巨大な棒。
あれも箒だとすると造詣は柊の持っていた『破壊の杖』よりはウェストウッド村で見たヴァルキューレとやらに近い。
そして箒には用途で分類されていて――
同時に上空の『凶鳥』が動く。
手にした巨大な棒を振るい、大地に向けた。
疑念が確信に変わり、二人はほぼ同時に叫ぶ。
「避けろ!」「避けて!」
向けられた砲口から魔方陣が展開される。
その中心を穿つように火線が疾り、轟音と共に大地が破裂した。
※ ※ ※
ニューカッスル城の礼拝堂に、一組の男女がいた。
荘厳なステンドグラスとそれを背負って鎮座するブリミル像に見下ろされ、少女は静かに椅子に座っていた。
眠っているのか、瞑目したまま動かない少女に傅く形で男が彼女の手を取り、恭しく口付ける。
そして彼――ワルドは少女を見上げ、酷く優しく声をかけた。
「……本当なら、ウェールズ王子に立ち会って欲しかったのだけどね」
『本来の予定』ではこの場にウェールズ王子もいるはずだったのだが、『下準備』を終えて彼に話を持ちかけようとしたが捕まらなかったのだ。
ようやく捕まえたと思ったら今度は翌朝に城を脱するという話になっていたためこちらの話を切り出す機を失ってしまったのだった。
だが、ワルドにとってそれらは何も問題はなかった。
レコン・キスタにとっては大いに問題があるだろう。
何しろ彼等が求めていた『二つ』の両方ともに達成できないのだから、ワルドが与えられた任務は失敗と言ってもよかった。
しかし、それでも彼には何ら問題はない。
そもそも、手紙があろうがなかろうが王子が生きていようが生きていまいが、いずれ地上の三国に対して戦端を開く事には変わりはないのだ。
レコン・キスタに与えられた任務を達成できていればそのための手間が多少なくなるというだけにすぎない。
ワルドにとって最も重要なのはこの『三つ目』だけなのだ。
始祖が神より与えられたと言う『虚無』。
レコン・キスタの首魁クロムウェルが持つと噂される伝説の系統。
その真偽は定かではないが、少なくとも『こちら』は間違いなく本物なのである。
仮にクロムウェルのそれもまた本物だったとしても、ヴァリエールの名を背負う彼女は格が全く違う。
ならばどちらがブリミルの遺志を継ぎレコン・キスタの意思を掲げるに相応しいかは、論ずるまでもないだろう。
「……間もなく迎えが来る。
些か"よごれて"はいるが、正統なブリミルの意思を戴くキミがいればいずれ下賎な輩は淘汰され、本来の意義に即した崇高な場所へと変わるだろう」
ワルドはゆっくりと立ち上がり、瞑目したままのルイズの頬に軽く手を添えた後優しく髪を梳く。
「僕と共に世界を手に入れよう。キミはブリミルの意思の体現者として世界を統べ、そして聖地へと至るんだ……!」
どこか陶酔した様子で彼は天井を仰ぎ呟いた。
決して大きくはなかったが、静謐な礼拝堂の中にワルドの声が響く。
「……寝言を言うのは寝てるルイズの役目だろ」
その響きに、まさに水を差すかのような声が返ってきた。
「――!」
ワルドが腰の杖に手をかけ振り向くと、入口近くに二人の男女が立っていた。
デルフリンガーを肩に担いだ柊と、その背に守られるようにして彼を見つめるエリスだった。
「……何してんだよ。それがお前の看病の仕方なのか?」
柊の台詞にワルドは僅かに沈黙を保ち、やがて鼻を鳴らして杖を引き抜いた。
「疑われるような動きはしなかったし、疑われるほど接触はなかったはずだがな」
言いながらワルドはちらりとエリスを見た。
柊は表情を険しくしてワルドを睨みつけているが、その一方でエリスは驚きと困惑に満ちた表情を浮かべている。
つまりエリスが疑念を抱いていたという事はないはずだ。
そして柊とはほとんど接触しておらず、その時の態度もあくまで貴族然としたものであったはずだ。
すると柊はふんと鼻を鳴らしてワルドに吐き捨てた。
「お前が姫さんから全然事情を聞いてねえって時点で怪しすぎるだろ」
「……何?」
柊の言葉にワルドは思わず眉を潜めた。
エリスもワルドと同じような表情を浮かべて柊を見たが、彼はワルドから目を話さないまま口を開いた。
「俺がいる以上姫さんは護衛なんか頼まねえよ」
「……随分自信過剰だな」
「俺自身はそうでもないが、やたら持ち上げてくれやがった奴がいてな。ソイツが推薦した以上姫さんが俺の力量を疑うことはねえ」
何しろフール=ムール――国家レベルで盟約を交わす相手がある事ない事吹き込んでくれたのだ、アンリエッタの性格からして疑う余地はない。
実際彼女は柊が平民である事も一切気にしなかったし、その力量を疑う事もなく諸事に渡って一切の裁量を柊に任せていた。
それはそれでやりやすかったので複雑な所である。
「……そもそも、今回の件でルイズは全然関係ねえし。姫さんが話を持ちかけたのは俺で、任されたのも俺。
ルイズは勝手についてきただけだ。そのルイズに更に護衛をつけるとかないだろ」
フール=ムールがアンリエッタに推薦したのはあくまで柊であり、ルイズはたまたま柊が世話になっていただけにすぎない。
もしも柊が一人でトリスタニアなどに住んでいたとしたら、本当にルイズは一切この件に関与はしていなかったのだ。
「馬鹿を言え。箱庭暮らしの姫君が何故貴様のような平民に――」
「姫さんからちゃんと事情を聞いてたらわかるはずだぜ?」
柊に言葉を遮られ、そしてワルドはそれ以上何もいう事ができなかった。
僅かに歯を噛んで柊を睨みつけ、ややあってどこか力が抜けたように溜息を吐き出す。
「……意味がわからんな」
それをワルドの落ち度と言うのは些か酷な判断と言うべきかも知れない。
何故なら今回の経緯はハルケギニアの常識ではまず有り得ない事なのだ。
皮肉にも常識的な想定で事を起こしたが故に破綻してしまったのである。
「で、何のつもりだ?」
柊がワルドに重ねて問う。
ワルドが嘘をついている、というのは最初からわかっていたが、それだけで彼の意図や行動を判断することはできない。
確証は何一つなく、本当にアンリエッタから指示を得た可能性もゼロではないのだ。
ルイズやエリスも彼を信用しているようだったので提案を受け入れたのだが……結果的に裏目に出てしまった。
ワルドは口角を吊り上げ、嘲るように鼻で笑うと告げた。
「彼女を相応しい場所へと導くのだ。その持つ力に相応しい場所に。その力を振るうに相応しい座にな。彼女もそう望んでいる」
「そういう台詞は――ルイズに言わせるんだな!」
言うと同時に柊が地を蹴った。
デルフリンガーを構え滑るようにワルドへと疾走するが、両者の距離は一足で詰められるものではない。
柊の動きを見て取ってワルドがルイズに手を伸ばす。
同時に、疾走の最中柊がデルフリンガーで空を斬った。
放たれた《衝撃波》が床を抉りながらワルドへと殺到する。
彼は咄嗟に《エア・シールド》を展開し――後方に飛び退った。
固められた空気の壁が耳を裂く破裂音と共に弾け飛び、なお勢いを減ずる事なく衝撃波がワルドへと叩きつけられた。
「ぐっ……!」
ワルドの表情が歪む。
最初のエア・シールドが破られた直後、再び同じ魔法で壁を作ったと言うのにそれすらも打ち砕かれたのだ。
大きく吹き飛ばされたワルドはたたらを踏んで体勢を整え、柊を睨みつける。
立ち塞がるようにワルドに剣を向ける柊の背後で、今だ意識を取り戻さないルイズにエリスが駆け寄っていた。
「ルイズさん!」
エリスがルイズの肩を揺らすと、彼女の眉が僅かに動き……やがてうっすらを目を開いた。
それを横目で窺いつつ、柊は再びワルドに目を向けた。
こちらを睨むワルドの眼光は鋭かったが、しかし何をするでもなくただじっとこちらの様子を窺っている。
僅かな違和感を覚えて柊は眉を寄せたが――異変は彼の背後から起きた。
お・・・つ?
「きゃあっ!?」
「!?」
エリスの悲鳴に思わず柊がそちらに目を向けた。
意識を取り戻したルイズが、エリスともみ合っているのだ。
「離して!」
「ル、ルイズさん……!?」
怒りも露にエリスの手を振りほどこうとするルイズと、それを引きとめようとするエリス。
明らかに様子がおかしい。
「おいルイズ、お前――っ!」
思わず制止しようとした柊だったが、それは叶わなかった。
間隙を突いて風のように距離を詰めたワルドが手にしたレイピア状の杖を振るい、柊は反射的にそれをデルフリンガーで受け止める。
拮抗した両者の視線が交錯し、そして柊はワルドの口元が僅かに動いていることに気付く。
「ちっ……!」
思わず舌打ちして柊は片の手でエリスの服の襟首を掴んだ。
同時に身体に強烈な衝撃が叩きつけられ、柊が吹き飛んだ。
引き摺られる形でエリスも吹き飛び、ルイズを掴んでいた手が引き剥がされる。
その衝撃で体勢が崩れたルイズの懐から、何かが転がり落ちた。
「悪ぃ、エリス」
「いえ……けふっ」
体勢を整えながら柊が言うと、エリスは苦しそうに咳き込みながら呻いた。
エリスには申し訳ないが、ワルドの直近に彼女が取り残されたまま柊だけが吹き飛ばされるという事態は避けられたようだ。
問題は……意識を取り戻しているにも関わらず、ワルドに守られるように佇むルイズの方だ。
「ルイズ、お前……?」
「彼女に言わせろ、と言ったな?」
怪訝そうに呟く柊の声に被せるように、ワルドが不敵な表情でそう漏らす。
彼が視線を送ると、ルイズは僅かに頬を赤らめて微笑を浮かべ、そして柊達を見やって言った。
「わたしは彼と一緒に行くわ。ワルドはわたしを認めてくれた……わたしを総てから守ってくれると言ってくれてるの」
「……」
その言葉に柊は表情を険しくする。
ワルドは彼女の宣言を受け止めると満足そうに口の端を歪め、柊に向かって言い放つ。
「そういう事だ。お前の要求通り、彼女自身の――」
「洗脳か」
今度はワルドの台詞にかぶせる形で、柊が一刀両断した。
表情を凍らせ絶句するワルドに委細構わず、柊は誰かに問いかける。
「できるか、デルフ?」
『できるな。《制約(ギアス)》っていう水のスクウェアスペルだ。『条件付け』じゃなくて『洗脳』までいくと水の秘薬やら相当手間が要るはずだが……ってか反応早ぇな、相棒』
「あのテの態度は何度か見た事ある」
『そっすか。もう驚くのも面倒くせえ』
嘆息交じりに漏らしたデルフリンガーには一瞥もくれず、柊は改めて剣を構え切っ先をワルドに向けた。
視線の先のメイジはもはや殺気を隠そうともせずに柊を睨みすえ、同じように杖を柊に向ける。
「どうやら、思った以上に危険な男だったようだ」
メイジならばともかくとして、平民や傭兵が即座に《制約》に思い至るなどまずありえない。
素性は全く知れないが、その性情から言っても捨て置いて害はあっても益はない。
ワルドはそう結論して杖を振るった。
同時に彼の前方が僅かに霞がかり、その内から弾けるように紫電が漏れた。
「――!」
放たれた《ライトニングクラウド》を見るや否や柊は動いた。
脇で蹲ったままのエリスを片腕で抱きとめると、後方に地を蹴りながらデルフリンガーで放たれた雷撃を受け止める。
《護法剣》と《ライトニングクラウド》の衝突が周囲に激しい雷光を飛び散らせ、柊は僅かに苦痛に眉を寄せた。
以前同じ魔法を使ったギトーとはレベルが違う。相殺しきれなかった。
だが、ダメージはともかくとして、問題はワルドがそれを柊にではなくエリスに向かって使った事だ。
「エリス、下がってろ!」
おそらくこのままではワルドは自分が庇うのを見越してエリスに攻撃を仕掛けてくるだろう。
そう判断して柊は言ったが、エリスは何故か呆然としたまま何かをじっと見つめていた。
柊はワルドから注意は逸らさないまま彼女の視線を追う。
エリスが見つめていたのはワルドでもルイズでもなく、その傍の床に転がったオルゴールだった。
「……?」
つい先程まであんなものはなかった。
エリスも多分持ってはいなかっただろうし、ルイズが持っていたものなのだろうか。
古ぼけたオルゴールは蓋が開いていたが、壊れているのか何の音も奏でてはいない。
「そのオルゴールが気になるか?」
と、不意にワルドが声を漏らし柊は訝しげに意識をワルドに戻す。
彼はどこか楽しそうに口の端を歪めると、ちらりとルイズに眼を向けた。
「いいだろう。従者であったよしみだ、彼女自身の手で決別させてやるとしようか」
「……何言ってやがる?」
言葉の意図が読み取れずに柊がそう返すと、ワルドは更に口角を吊り上げてルイズを見つめると、彼女は虚ろに笑みを浮かべて瞑目した。
そしてワルドが宣告するように、言った。
「――ルイズは手に入れたのだよ、自らの力を!」
呼応するようにルイズが両の眼を見開き、鳶色の右眼と『銀色』の左眼で眼前の二人を射抜く。
瞬間、堂内のすべての空気が固形化したような圧力が叩きつけられた。
「っ!」
身体と意識の両方を吹き飛ばすような圧力に柊は思わず歯を噛んで身構える。
ルイズが特に何かをしているという訳ではない。
ただそこに『在る』だけで周囲のモノをひれ伏せさせるようなプレッシャー。
これほどの威圧感を放つ相手は幾柱もの魔王と対峙してきた柊でもほとんど経験した事がない。
それこそ裏界でも頂点に近しいベール=ゼファーや――
(……銀の眼?)
そこで柊は奇妙な既視感を覚えた。
ルイズとは造詣が全く違うので印象は異なるが、この威圧感と射殺すような銀眼はまるでかつて闘った『あの魔王』を思い起こさせる。
「素晴らしい! これが『虚無』か!」
柊の思考を遮るように感極まったワルドの叫びが響いた。
彼は陶酔した表情でルイズを見つめたまま、更に言葉を続ける。
「さあルイズ、もっと君の力を僕に見せてくれ! 世界を統べ聖地に至る力を!」
当のルイズは返答はおろか表情さえも変わらない。
ただ、立ち尽くす彼女を覆うように『金色』の光が溢れ、そして堂内を満たす圧力だけが更に重さを増す。
「おいデルフ! ワルドを倒せば《制約》ってのは解けるのか!?」
『解けねえ。精神に沁み込んだ呪を水メイジ辺りが洗い流すか、揮発するまで待つだけだ。禁呪と呼ばれる所以さ』
つまり現状ルイズを止める術はないという事だ。
柊は舌打ちしてデルフリンガーを構えた。
ほぼ同時にワルドがルイズを守るように一歩踏み出し、獰猛な笑みを浮かべて杖を構えた。
ともかく、ワルドを排除してルイズもどうにか無力化するしかない。
「エリ――」
「……大丈夫、です」
柊が改めてエリスを下がらせようと声をかけると、それを遮るようにエリスが声を漏らした。
普段の調子とは違う、心なし低い彼女の声に少し違和感を覚えるが、眼を向ける余裕はない。
「よし、じゃあここからなるべく離れてろ。ルイズは俺がどうにかする」
「……いえ、大丈夫です」
「……?」
やはりいつもと違うエリスの態度に柊は思わず彼女に眼を向けた。
僅かに顔を俯け、頭痛を堪えるように顔を手で覆い表情が見えない。
「エリス?」
「――大体"覚え"ました」
柊の問いに答える代わりに、エリスは顔を上げた。
露になった顔には決意の表情。そしてはっきりと眼前の二人を見据える翠の右眼と――『蒼の左眼』。
堂内の重圧を吹き払うような烈風が迸った。
「なん……っ!?」
愕然として柊は呻く。
その彼女の姿を忘れようはずもない。それはかつて『宝玉の継承者』として力を宿していた頃のエリスの姿だったからだ。
強いて違う部分を上げるとすれば、今の彼女にはその持つ遺産たるアイン・ソフ・オウルがない代わりに、彼女の胸元で使い魔のルーンが輝いている事だ。
「使い魔風情が主の真似事だと!?」
激昂したワルドの怒声が響く。
虚無の使い魔、リーヴスラシル。
同じ虚無の使い魔であるガンダールヴにはあらゆる武器を使いこなす能力が備わっているとサイトやデルフリンガーから聞いている。
であれば、コレがリーヴスラシルの能力なのだろうか。
立て続けに事態が急変して理解が追いつかない。
ただ、あれこれと詮索したりする時間などないのは確かだ。
それを後押しするように、エリスが力強く言った。
「ルイズさんは、私がなんとかします!」
力の復活と変容は気になるが少なくとも『このエリス』は『志宝エリス』のままだ。
ならば信頼するに寸毫の迷いもない。
ルイズの事を完全に思考から切り離し、柊はワルドだけを見据えてデルフリンガーを握り締める。
怒りに身を震わせたワルドは大仰にマントを払うと、柊を睨みつけたまま叫んだ。
「謳え、ルイズ!」
「頼んだ、エリス!」
ほぼ同時に発した二人の青年の声に、二人の少女は同時に応えた。
虚無の咆哮が吹き荒れる礼拝堂の中、合わせ鏡のように少女達が詩を紡ぐ。
賛美歌のように響き渡る歌声の中で、激しい剣戟が轟いた。
今回は以上。前倒しで虚無対虚無。ジョセフがやりたかった夢の対決
PC1だと思っていたらNPCでボスだった。何を言ってるか(ry
余談ですが、今回書きながら必死に我慢してた事。
この流れって調子に乗ったワルドがルイズに「邪魔」とか言われて消滅するパターンでしたよね
そんでプレイヤー達が(一同爆笑)すんの
すみません。連続投稿規制を食らっていました
さるさんでなく以前あった連投規制とも違うっぽくよくわかりません・・・
夜闇乙。
最初から読み直そうかな
ご久しぶりです。
待ってましたぁ!!!
ワルドがたしかに小物っぽいwww
乙。エリスが魔装を装備したか。
魔装の画期的なシステムには、初めて知った時に震えたものです。
さすがはえんどーちん、ただバンダナを巻いて聖杯を探すだけじゃない。
アバドンを召喚
夜闇の人乙です
もうこないかなと思ってたww
夜闇ってどう読むん?
よやみ?よるやみ?やあん?
それはそうと乙です。
やあん
日本語って難しいな
永遠にと書いてとわにと読む
漢と書いておとこと読む
最終砲撃と書いてt
宇宙と書いてそらと読む
やぁんばかぁん
鉄と書いてクロガネと読む
でもクロガネは黒鉄と書くこともある
サモンナイト復活したし、再開しないものか
若しくは、新作とか出ないかな?
夜闇の人乙!
待ってたよー!
なんかめっちゃ熱い展開!
>>220 (ググって)探せ、そうすれば見いだすであろうって聖書に書いてあった気が
新選組と書いてカスと読む
将軍と書いて松平健と読む
ま、常識だな
>>222 松平健と言えば、小ねたで暴れん坊将軍があったな。
新さん召喚だと、厨房がめ組みたいな雰囲気になるだろうか?
将軍様は出しても仮面ライダーは出さないほうがいーだろな
将軍様がブラカワニのメダルを持ち出してくるのかw
226 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:13:24.77 ID:qy+PMQQp
こんばんわです。一日遅れてしまいましたが、予約がなければ20分頃から投稿を開始します。
227 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:20:45.55 ID:qy+PMQQp
それでは始めます。
アルビオンによる宣戦布告、トリステイン軍の壊滅の報が王国に届いたのは、それからすぐ後だった。
上層部による、終わりを見せない話し合いの末、トリステイン側も徹底抗戦すべく、アンリエッタを筆頭に出陣。根城にすべくアルビオン側が侵入を始めたタルブへと殺到した。
そして、少し遅れてその報告は、トリステイン学院にも入ってきた。
その頃、剣心は丁度燃料がノルマまで達成できたとの事をコルベールから聞いて、それにルイズと共に向かう途中だった。
「ホントにあれが飛ぶの?」
「まあ、今からそれを試しに行くところでござ――――」
そのすれ違い様、オスマンと勅使の会話を聞いて、剣心は顔色を変えた。
「現在の戦況は?」
「敵の竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです」
「…その様子だと、見捨てる気のようじゃな」
その瞬間、剣心はルイズの制止も聞かずに走り出していた。
「ま、待ってよ、ケンシン!!」
しかし、ルイズの声はもう、剣心には届かない。
剣心は、手頃な窓を見つけると、腰の逆刃刀で叩き割り、そこから外へと、なんの躊躇もなく飛び降りた。
このまま落ちたら、間違いなく大怪我じゃ済まないほどの高さだったが、剣心は壁についてる小さな窪みや穴に、的確な動作で手を引っ掛けて、軽業師のように地面に着地した。
ルイズが窓から見下ろした時には、剣心はもう中庭を駆け始めている最中だった。
「……ケンシン」
第二十八幕 『因縁の出会い、虚無の誕生』
「コルベール殿!! 大変でござる!!」
「なっ…どうしたんだね、急に!!」
剣心は、そのままコルベールの研究所まで向かい、これまでのいきさつを手短に説明した。
228 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:22:04.83 ID:qy+PMQQp
「何だって!? タルブがそんな事に!!?」
「それで、直ぐに試運転をしたいのでござるが」
「…分かった。準備しよう」
剣心の眼を見て、どうにも止められないと悟ったコルベールは、急いで燃料を掻き集め、それをゼロ戦に補給した。
剣心は、コックピットに乗り込み、離陸の手筈を整える。正直に言えば、戦いのためにこれを使いたくはなかったが、今は一刻を争う。
「シエスタ殿…」
昨日まで世話になった、自分を好きと言ってくれた無垢な少女。そして、暖かく迎え入れてくれた家族。平和で安穏な村。それが今、戦争に巻き込まれている。
それを知って放って置くことなど、剣心は出来る訳がなかった。
コックピットを閉めて、燃料の確認…大丈夫。操作手順…抜かりなし。目的地は、タルブの村に駐在する敵軍。
出発の準備が整った所へ丁度、ルイズが息を切らしてやって来た。否、ルイズだけじゃなく、様子を見に来たキュルケやタバサも、一緒に来ていた。
「ま…待ってよ…ケンシン!!」
ルイズは必死に叫んだ。一人で行ってどうするの、死ぬだけなのよ、と。
しかし声は回り始めたプロペラの音に、殆どが掻き消されたが、少なくとも剣心は、ルイズがいることには気づいたようだった。
剣心は、ルイズを安心させるように、身振り手振りで様子を伝えた。
(直ぐに帰るから。安心して欲しい)
それだけを伝えると、剣心はレバーを引いた。それと同時に、左手のルーンが輝き出す。
離陸の仕方、飛行の方法、それらが頭の中を駆け巡っていく。
と同時に、離陸するには距離が足りないということも知った。
(コルベール殿、風起こしを頼む)
今度は、コルベールにジェスチャーをして、剣心はこのことを伝えた。コルベールはすぐに理解したのか、直ぐに杖を振って風を吹かせる。
それと合わせるように、剣心は、ゼロ戦を一気に動かした。
「今だ!!!」
最初は不安定な動きだったが、ゆっくりとゼロ戦は上昇を始める。起動を上手く見ながら、剣心は動かした。
すると、一気に風に乗ったのか、ゼロ戦は空に浮き、それからルイズ達の目にも止まらぬ速さで飛んでいった。
「ほ、本当に飛んでいった…」
その場に残ったコルベールは、ただポカンとして空を見上げていた。
229 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:24:22.26 ID:qy+PMQQp
「…ケンシン」
ルイズもまた、ただ寂しそうな表情で空を見ていた。
自分は、無力だ…。今でこそ、それを実感したことはなかった。剣心は、話を聞いてから直ぐに行動に移ったというのに。
分かったように戦争についての恐ろしさを語ろうとして、でも剣心の方は明らかに慣れている手際の良さで、自分の入り込める隙間なんてなくて…。
「やっぱり…私はゼロなのかな…」
同じゼロでも、あの『ゼロ戦』と私は偉い違いだなぁ…。そんな自虐めいた考えが頭をもたげていた、その瞬間だった。
「…うん…?」
何となく嵌めていた『水のルビー』が、急に光り始めた。それと同時に、懐に入れてた『始祖の祈祷書』も、共鳴するように輝き始める。
一体何…? そう思って、ルイズは祈祷書の一ページをめくり、そして驚きに目を見開いた。
これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。
以前見たときには、何も書かれていないはずだった紙の空白に、確かにそれは記されていた。
ルイズは、読み続ける内に鼓動が高鳴っていくのを感じた。自分の中に秘めている、『何か』が開放されそうで…。
それは間違いなく、始祖ブリミルが遺した文章。そして最後には、呪文と共にこう書かれていた。
初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン』
「……ねえ、タバサ…」
「何?」
ルイズは、肩を震わせながら、隣にいるタバサに聞いた。
「シルフィード…貸してくれない……?」
「何故…?」
「ねえルイズ、あんたまさか…」
ルイズの様子に気付いたキュルケが、詰め寄るように近付いた。だが、ルイズはもう止まらなかった。
「お願い!! 今知りたいの、私の力は、一体何のためにあるのか!!」
杖を振ると、必ずと言っていいほど爆発する。
思うように魔法を使えなかったので、いつしかそれを『失敗』と呼ぶようになった。
そのせいで、今まで何故爆発が起こるのか、深く考えたことはなかった。
でも…今は思う。それは、もしかして伝説の力の片鱗なのかもしれないと。
存在すら疑わしいような話、『虚無』の力は、最初から自分の中に眠っているだけなのかも知れないと。
そして、今この時をキッカケに、それが目覚め始めているのではないのかと。
最初は、ルイズのこの剣幕に、少し困惑気味のタバサだったが、彼女の眼には強い意志が宿り始めているのを見て、共感するように頷いた。
タバサは、コルベールに気づかれないように隠れて、シルフィードを呼んだ。直ぐ様、シルフィードは翼を羽ばたかせてやって来た。
「全く、一体何なのよ!?」
状況は全く理解できないながらも、放ってはおけないとキュルケも、シルフィードに乗った。
230 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:29:22.17 ID:qy+PMQQp
タルブの村上空に鎮座する、『レキシントン』号。それを遠目で見据えながら、剣心はゼロ戦を飛行させた。
途中、襲ってきた竜騎兵は何人かいたが、皆初めて見るゼロ戦の風貌と性能に、すっかり恐れ戦き、無闇に突っ込んだ者はその風圧に吹っ飛ばされていった。
「なあ相棒、武器は使わねえのか?」
座席の隣にかけてあるデルフが、剣呑な口調で剣心に聞いた。
「銃は、加減が効かない」
「敵さんも、殺さねえでいくつもりかい?」
「その通りでござる」
屈託なく返す剣心の言葉に、デルフはさも面白そうに笑った。勿論、侮蔑とかの意味はなく、単純に気に入ったからである。
「面倒な戦いになるぜ? それでもその信念、貫くつもりかい?」
「無論でござるよ」
「面白ぇ! 今回の相棒は、かなり楽しい奴だなぁ! その信念、どこまで貫けるか、このデルフリンガー様がちゃんと見届けてやるよ!!」
竜騎士の攻撃を躱しながら、徐々に『レキシントン』号との距離を縮めていく。遂にあちら側も、砲弾で攻撃を始めたのだ。
その、竜騎士とは比べ物にならないほどの攻撃に、流石の剣心もこれ以上は進行できなかった。
「どうするよ? 上から攻めるか?」
しかし、剣心が銃を使わない限り、上から攻め行っても意味はない。乗組員に直接被害が出るからだ。
しかし、剣心は妙案とばかりに、上空へと旋回させ、『レキシントン』号の真上へと近付いていった。
「目標、『レキシントン』の上空へと接近!! 竜騎士の展開、間に合いません!!」
その頃、アルビオンの兵たちは、この事態に一時の恐慌状態へと陥っていた。
謎の竜が、次々と軍を蹴散らしていく。その報告が来たときには、その噂の竜の姿が、こちらにも視認できる距離にいたのだ。
「シシオ様、どうなさいますか?」
隣のワルドが、伺うように志々雄に聞いた。何時でも出撃は出来る。後は彼の命令だけだ。
しかし、志々雄は上空へと飛び回るゼロ戦を一瞥して、何の気もなくこう答えた。
「ほっとけ、どうせ奴は銃器を使うタマじゃねえ」
「?…それは一体…」
「まあ、風竜の準備はしておけ。奴はもうじきここへ来る」
志々雄には、感覚で分かっていたのだ。あのゼロ戦の正体、そして今誰が乗っているのかを。
それなら、あの面倒な動きをしているのにも納得がいく。彼は探しているのだ。どこか降りられる安全な場所を。
暫くして、おもむろにゼロ戦から何かが飛び降りた。それは、急速に接近し、どんどん大きくなっていく。
そして、ドン!! と大きな落下音と共に、兵士たちは驚きで目を見張った。
そこには、高いところから着地した剣心の姿が、そこにあったからだ。
「相棒…おめぇ…武器使いたくねえからって…そこまでするか普通…?」
デルフが、呆れ半分怖さ半分の調子で言った。まさか飛び降りて直接『レキシントン』号の上に着陸するなんて、考えても見なかったからだ。
乗り手を失ったゼロ戦は、そのまま落下して、大きな湖の上へと着陸した。その様子を遠巻きに見ながら、兵士たちはハッとした様に武器を、杖を剣心に構えた。
「なっ何奴!!?」
「貴様…何者だ!!!」
剣心も、それに応えるように逆刃刀に手をかけた、その時だった。
「久しぶりだな、先輩」
(……この感じは―――!?)
その声は、剣心の上から聞こえてきた。
聞き覚えのある声、それに剣心は弾けたように、上の方を見やった。
「――――なっ!!?」
そして驚きで目を見張る。
「馬鹿な…何故お前が…こんなところに…」
「さあね。だがまあ、一つだけ言えることがある」
全身くまなく包帯でまかれ、優雅に煙管を吸っているその男。
かつて、『人斬り』の後継者であり、運命を懸けて全力で勝負した剣客。
業火の炎に焼かれ、確かに地獄へと落ちていった筈なのに…。
「俺とあんたは今、間違いなくこの世界に存在するということだけさ」
「―――志々雄真実…」
剣心はそう呟いて、かつての仇敵に目を向けた。
231 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:30:24.11 ID:qy+PMQQp
ルイズ達は、シルフィードに跨りながら、タルブの村へと直行している最中だった。
ゼロ戦の速さは、風竜と互角位のものだから、直ぐに追いつくわけにはいかなかったが、それでも数分としないうちに、タルブ上空に構える『レキシントン』号の姿が見えてきた。
「敵兵がもっといると思ったのに…案外さっぱりね」
キュルケが、辺りを見回しながらそう言った。もう敵戦区域に入ってるだろう筈なのに、竜騎士の姿は影も形もなかった。
「多分、ケンシンが倒していったんだと思うわ」
ルイズは、大事そうに『始祖の祈祷書』を抱えていた。それを見かねたキュルケが、不思議そうに聞いた。
「ねえ、あんた一体どうしたの? 何かへんよ?」
「確かに…ヘンよね私。というよりヘンだわ」
キュルケの言を肯定するかのように、ルイズは頷いた。これが変でなくて何だろう? 常識で考えれば、こんな事、ありえない筈だってのは分かっている。
仮に自分が『虚無』の担い手だとして、それをキュルケ達に話しても、「頭がおかしくなったの?」と言われることだろう。
でも、今のルイズには何か「可能性」が満ち溢れていた。あの祈祷書の中身を見たとき、そして呪文の一文を見たとき、今まで失っていた歯車が、ガッチリと噛み合ったかのような感覚を覚えたのだ。
今なら、何かが起こせる気がする。それは理屈ではないのかも知れなかった。
そして今、眼前には巨大戦艦『レキシントン』が、その全貌をルイズ達に晒していた。
「この一連の事件の黒幕は、やはりお前の仕業でござるか?」
志々雄を見上げながら、鋭い目で剣心は聞いた。
「『君』位つけろよ。何だか暫く見ないうちに、随分ふてぶてしさが上がったな。先輩」
対する志々雄も、剣心を見下ろしながら、ニヤリと口元を歪ませた。
「お前も、その不遜な性格はどうやら直っていないようでござるな」
皮肉たっぷりに返しながら、剣心は遠くに写るタルブの村を見た。
「……何故この村を襲った?」
「まあ、この国の占領の拠点兼、あんたの挨拶も予てだ。村の一つや二つ燃やせば、あんたは間違いなく飛んでくると踏んでたからな」
その言葉に、剣心はその目に怒りの炎を燃やした。
「また…お前自身の勝手な正義のために…この国を、この村を…利用しようというのか?」
それを聞いて、志々雄はフッと笑った。
「相変わらず、そういう頑固さだけは変わらねえな、先輩。あの時言ったはずだぜ…」
志々雄は、目の前で握り拳をして、語るように口を開いた。
232 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:32:49.77 ID:qy+PMQQp
「俺の国盗りは、この世界での摂理。貴族だから何だのと、弱者が喚くような腐った世界は要らねえ。『聖地』を奪い返したいのなら、俺がそれを叶えさせてやる。そして俺が覇権を握りとってやる。それが、俺がこの世界を手に入れる正義であり、そして全てだと!!!」
「その時、拙者も言ったな…お前の願いを叶えるのに犠牲になるのは…今下にあるタルブと同じ、今を平和に生きていた人々だと」
剣心は、シエスタや家族、そして平穏に暮らしていたであろうタルブの人々を思い起こしていた。
一瞬、左手のルーンが光り輝くが、それを剣心はもう片方の手で抑える。
しかし志々雄は、相変わらずの不遜な笑みをしたまま言った。
「『所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ』これぐらいで死ぬようなら、ハナからそいつには生きる資格がねぇ、てなだけだ」
「その資格を決めるのは、お前ではない!!」
叫びと共に、剣心は抜刀。兵士の誰もが見切れぬ速さで、志々雄の元まで斬り込んだ。しかし、その間を割って入るように、ワルドを乗せた風竜が立ちはだかった。
「むっ!」
風竜のブレスと共に、剣心は一度大きく距離をとる。反応が出来なかった兵士たちは、そのまま叩き付けられ、吹き飛ばされていった。
「会いたかったぞ抜刀斎!! まさかこの腕の借りをすぐに返せる時が来るとはな!!」
「…何だ、またお前か」
歓喜の声を上げるワルドに対し、剣心は冷ややかな視線を送った。
「その様子だと、未だに懲りていないようだな」
「ほざけ、シシオ様に刃を向けたくば、まずこの俺を倒してみろ!!!」
ワルドの殺気に反応するかのように、風竜も大声で剣心に威嚇した。
そんな事態が起こっている『レキシントン』号に、ルイズ達を乗せたシルフィードもゆっくりとやって来ていた。
233 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 00:37:29.55 ID:qy+PMQQp
これにて今回は終了です。
改めて書いてみると、ゼロ戦に乗る剣心ってかなりシュールですよね。
自分でも分かっているのですが、まあ今回限りということでどうかお願いいたします。
明日の投稿で一応、タルブ編は終了となります、それでは。
234 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/14(日) 02:30:08.20 ID:C/sw4wQt
るろうに乙
それにしても剣心が飛行機を操縦なんて
すごい違和感
るろ剣で飛べるのって蝙也と縁ぐらいだっけ
機械がないから仕方ないね
それ以前に志々雄がゼロ戦に驚かないのは…
機銃が搭載されてるってなぜわかる
避難所に新規の作品がありましたので、これから投下します。
タイトルは『エクゾスカル零』より、葉隠覚悟召喚。
予約がなければ、10分後に始めます。
それでは代理投稿を始めます。
「正調零式防衛術 葉隠覚悟」
促されるままに名乗った途端、浮足立った場が一転して静寂に包まれる。
何事かと眉を潜めた一拍後に、どっと笑いが巻き起こり。
それを皮切りとして、同じ背格好をした少年少女達が口々に何事かはやしたてた。
曰く『着衣も持たぬ平民を喚んだ』『ゼロがゼロを召喚した』
「……」
あまりにも一方的なその有様に閉口しつつ、我は暫し考える。
御伽の国の住人が如き装いの彼らが操る言語が、正しく理解出来る。
しかし彼らが口にする単語の意味が、尽く理解出来ぬ。
それでも、此方に向けられた悪意は十二分に伝わるものなり。
侮蔑と憐憫の色濃い嘲笑。
それらを向けられる理由は以前として不明。
しかしどのような理由があろうとも、歓迎すべき類のものではない。
「う、ううう、うるさーい!!」
震える声で場を一喝したのは我に非ず。
先ほど目覚めたばかりの我に口づけを施した、淡い桃色の髪と大きな鳶色の瞳を持つ少女。
理不尽に憤るその意気や良し!
ただ惜しむらくは紅潮した頬と、目尻に溜まった涙一粒。
外見から推し測る年の頃、恐らく12かそこらであろう。
そんな少女の怒声では、この場を鎮めるに至るまい。
「じゃあ皆、教室に戻るぞ」
代わりに、引率と思しき中年男性がそう言って踵を返し――
次の瞬間起こったその事柄に、さしもの我とて瞠目せざるを得なかった。
「人が……飛んでいる」
「そりゃ飛ぶわよ。メイジが飛ばなくてどうするの」
中年男性――教室と言うからには教師であろうと推測す――に続くようにして、次々と宙を行く生徒達。
阿呆のように茫然と立ち尽くし呟いた我の言葉に、少女がさも当然と言わんばかりに答える。
『ゼロのルイズ』
確かにそう呼ばれていた少女は、口々に投げかけられた嘲りの言葉に対してひとしきり喚き返し。
やがて肩をいからせ、我へと向き直る。
そうして紅潮した頬を、何故かさらに真っ赤なものへと変えてゆき。
「あ、あんた! い、い、いい加減前くらい隠しなさいよーっ!!」
再三の怒声は最早絶叫にも近しき。
……不肖葉隠覚悟、長き眠りより目覚めた我は、一糸纏わぬ裸体を晒せり。
今はただ、我が傍らに在りし白ランに感謝。
少年の名は葉隠覚悟。
彼は代々「牙を持たぬ人」を守るため
世界征服を企む超能力者や科学者、カルト教団と戦ってきた『正義を行う者』の一人である。
『正義を行う者』達は人類に安息をもたらした後、恒久の眠りに赴く事を強いられた。
役目を果たした刃は鞘に収まるべき。
それが人々の判断であり、葉隠覚悟もまたそれを受け入れ眠りに就いた。
そこからどれほどの時が経過したのか、それは覚悟自身にも分からない。
目覚めた時にはもう、眼前に見知らぬ世界が広がっていた。
この身を委ねた筈であった冷凍睡眠カプセルなど、影も形も存在しない。
――すわ夢幻でなければ、我が目覚めたるは異世界なりや?
冷凍睡眠によってどれほどの時間が経過しようと、このような尋常ならざる状況は起こり得まい。
少女の小さな背に従いながら、覚悟は己の置かれた状況を正しく理解した。
恐慌に陥る事も無ければ現実逃避に耽る事もしなかったのは、偏に彼の非凡な精神力があればこそ成し得た事である。
「別の世界……? あんたの言ってる事、ぜんぜん分からないわ」
だから桃髪の少女改め、ルイズ・ド・ヴァリエールに一応の事情説明を試みたものの、
全くもって理解を得られなかった事もまた『致し方無し』として、恐慌に陥る事は無かった。
己の常識が全く通用せぬであろうこの世界では、彼女の庇護を受けるより他無い事も既に承知である。
任務遂行中であれば断固拒否したであろう一方的な契約も、役目を果たし眠りに就くだけであった身であれば許容可能。
――否。彼女こそが私を必要とし目覚めさせたのならば、私はそれに応えねばなるまい!
覚悟が無言無表情で強い決意を固めたのは、左手に施されたルーンによるものでなく、覚悟自身がその身に刻んだ使命が故。
ようやく辿り着いたルイズの部屋にて、使い魔としての心得を座して説かれる運びとなった。
一つ、使い魔は主人の目となり耳となる事。
二つ、使い魔は主人の望む秘薬及びその材料となる素材を収集する事。
三つ、使い魔は主人を護る事。
一つ目については召喚された側の問題か、それとも召喚した側の問題か。
感覚の共有化は果たして成し得ず、ルイズはじっと手を見る。
ともあれ同じ二本足なれば、行動範囲にさしたる差は無しとして仕切り直す。
二つ目に関しては葉隠覚悟が『秘薬』について全く無知である事を確認する作業から始まった。
この時点で絶望的とルイズは感じたが、秘薬についてを説けば真剣に聞き入る覚悟の態度に興が乗り、ルイズによる解説は熱が入った。
魔法も知らぬ田舎者なれど、この学習意欲と勤勉さには期待が持てるとルイズは確信する。
三つ目。元より接吻から始まった接触の段階で、鍛え抜かれた裸身を見せつけられたルイズである。
鋼の如き五体、人間の衛士一人分の働きは十分にするものと覚えたり。
そこでルイズは今後における自身の護衛と雑務一般を行う代わり、衣食住の保証を提案。
当の覚悟もまた、相応の危険が伴う役割に憶するでもなく『問題無し』の一言で了承。
かくして『使い魔兼護衛・葉隠覚悟』としての役割は決定したのだが。
晴れて主人となったルイズ・ド・ヴァリエールの表情は未だ沈痛なものであった。
(こいつ、何者なのかしら?)
目の前で正座の形を取り、静かに瞑目する葉隠覚悟をじっと見詰める。
異世界がどうだのという話は苛立ちに任せて一蹴してしまったものの、自室にて一息ついてみれば不可解な点が多すぎるのである。
(傭兵……? す、すごいからだだったし……)
戦についてずぶの素人であるルイズにも分かる、闘争のための肉体……左半身から肩甲骨にかけて鉄球が8つほど埋め込まれていたのは不可解だが、部族的な装飾として一先ず捨て置き。
生まれて初めて目にした男性の裸体を思い出して知らず知らず赤面しつつも、自身が出した『傭兵』という可能性に首を捻る。
召喚直後は混乱した様子であったが、今の彼は冷静にして寡黙。それでいて、どこかしら気品のようなものを感じるのだ。
それらを勘案すれば、この葉隠覚悟には正しく『戦士』や『軍人』という表現こそが相応しく思えるが。
(でも、軍人なら魔法を知らない訳がないし……)
様々な可能性を思い浮かべるが、どれも確信には至らない。
暫し自問自答を繰り返すルイズだったが、そこで「ふぁ」と小さい欠伸を漏らして瞼を擦った。
就寝には早すぎる時刻であったが使い魔召喚の儀式と、現れる使い魔への期待に慎ましい胸を膨らませていたルイズ。
さながらプレゼントを待つ子供のような心地であったため、前夜における睡眠不足も已む無しと言えた。
「……わたし、喋ってたら眠くなってきちゃったから」
そこでルイズは一旦思考を打ち切る。
瞑目したままの覚悟へと声を投げ、敢えて目の前で服を脱いだ。
部屋の照明は小さなランプの灯一つ。薄暗いとはいえ、注視されれば最早健全とは言い難い。
それらを意に介さず全裸となったルイズは、下着を含めた着衣の全てを覚悟へと投げ渡す。
「これ、明日になったら洗濯しといて」
「了解した」
打てば響くような返事に少し気を良くする一方で、ルイズは僅かに唇を尖らせる。
何故かと言えば返事を返した覚悟のその声色に、動揺の欠片も感じられなかったが故である。
ルイズとしては、使い魔に裸を見られようと別に仔細無しと――そう覚悟に教えるつもりで、目の前で脱衣完了したのだが。
全くそれらしい反応が無いのも、それはそれでプライドの危機なのだ。
「ルイズ」
「様をつけなさいよ。……なに?」
女として否定された気分のまま不貞腐れたようにネグリジェを頭から被るルイズ。
そこでこの寡黙な使い魔が、初めて己の名を呼んだ事実に少なからず胸が弾むが
彼女の傷付いたプライドが優先したものは、不遜にも主人の名を呼び捨てた事への咎めであった。
「次からは、脱ぐ前に一言」
そんな咎めを無視した覚悟による、静かに諭すような言葉であった。
ルイズが見返ると、僅かに俯く形でルイズの裸体から視線を逸らした覚悟の姿。
父に無体を窘められたような、教師に道徳を説かれたような。
恐らく同年代であろう平民の使い魔が見せるこの落ち着き払った振る舞いに対し、何とも形容し難い居心地の悪さを覚えたルイズは、
「ふぇ? あ、うん……」
そう答えてただ頷く事しか出来なかった。
ぱちんと指を鳴らして消灯し、すごすごとベッドに潜り込むルイズ。
敗残兵が如きうつろな瞳で放心したように天井のシミを眺める事、十数分。
そこでふと、使い魔の寝床を完全に失念していた事に思い至り、上体を起こす。
光源は、窓から差し込む僅かな月明かりのみ。
それでも暗闇に慣れた瞳は、先程までと変わらぬ様子で座する覚悟を映した。
まさか、あのままの姿勢で夜を明かす気であろうか。やんごとない生まれのルイズにはとても考えられる事ではない。
とはいえ己のベッドを使わせるわけにもいかない。しかし座ったまま動こうとしない使い魔に対し見て見ぬふりをしてよいものか。
ひとしきり悩んだ後、ルイズは苦肉の策として自分が包まっていた毛布の一枚を丸めて、覚悟に投げつけた。
「……気遣いに感謝する」
「べ、別に……そんな風に座られてると寝辛くてしょうがないのよっ」
まだルイズの体温が残るそれは、予想以上の勢いを伴い覚悟の顔面へと激突。
思わず青くなったルイズであったが、幸いにも宣戦布告とは判断されなかったらしい。
覚悟が足を崩しやがて横になるのを確認してから、ルイズはようやく眠りに就いた。
翌朝。
一流の戦士は休息中であっても、僅かな環境の変化で目を覚ます。
然るに窓から差し込む日の出の陽光や小鳥の囀りなどは、葉隠覚悟の起床を促すには十分過ぎた。
目を覚ました覚悟の視界、最初に映ったものは昨夜ルイズに投げ渡された小さなぱんつ。
――やはり夢に非ず。ここは現実の世界なり!
自分の置かれた状況を、図らずしもぱんつを見つめる事で再確認。
それを握り締めたまま立ち上がり、続けて豪奢なベッドへと視線を移す。
「んぅ……ふへへ、わたし、魔法が使え……」
毛布に包まり、緩みきった表情で眠る部屋の主を確認。
床に散らばったルイズの衣類を拾い集め、覚悟は音も立てずに退出する。
何やら幸せな夢を見ているらしい少女を起こさないようにする配慮が、葉隠覚悟にも存在した。
「洗濯か」
部屋の扉を背にした覚悟は、確認するように小さく呟く。
真剣な眼差しで見据える先には、両の手でもって広げられたレース付のキャミソールと、ぱんつ。
滑らかな手触りはシルクに近い。しかし覚悟が知る生地に比べて薄く、耐久性に疑問在り。
例えば、僅かな切れ目一つで裂けて悲劇を招いてしまうような、非常に頼りない印象を受ける。
この御伽の国が如き世界に、洗濯機などという文明の利器は存在し得まい。
――委細承知。手もみ洗いにて仕る。
検分を終えた葉隠覚悟の表情に、油断の色は一切無い。
早朝ゆえ、女子の下着をじっと見詰める覚悟の姿が誰にも目撃されなかった事は僥倖であった。
洗濯を行う場所を訪ねていなかった覚悟だが、水場についてはルイズの部屋を訪れる際に確認済みである。
衣類を小脇に抱え、淀みない歩調で前進し曲がり角に到達した時。
「あっ」
衣類でてんこ盛りとなった洗濯籠を両手で抱えた少女と接近遭遇。
目的地を同じくしていたためか衝突こそしなかったものの、早朝には予期せぬ人の存在に驚いたのか。
間の抜けた声と共に、少女は派手に転んだ。
「すまない、驚かせてしまった」
散らばってしまった衣類を二人で拾い集めた後で、互いに名乗るだけの簡単な自己紹介を交わす。
カチューシャで纏めた黒髪と黒い瞳を持ち、そばかすが特徴的なこの少女の名はシエスタ。
この学校で使用人として働く平民だという彼女は、覚悟が小脇に抱えた洗濯物を目敏く発見し。
「あの、お洗濯なら私の仕事ですから」
「否。雑務とて与えられた仕事、何より私は貴族ではない」
このような押し問答を数回繰り返した後、結局一緒に洗濯を行う運びとなった。
ついでに転ばせてしまった詫びとして荷物持ちを買って出た覚悟に対し、当初シエスタは不安げな表情を見せていたものの。
軽々と洗濯籠を持ち上げ、無表情ながらも道中に文句一つこぼさぬ覚悟の態度が功を奏したのか。
「ミスタ・覚悟も私と同じ黒い髪と目なんですねっ」
「珍しいのだろうか?」
あるいは『同じ色の髪と目を持つ平民』という点が親近感を誘ったのか。
いずれにせよ目的の水汲み場に辿り着く頃には、シエスタはある程度警戒を解いてくれていた。
「すみません、ミスタ・覚悟。ヴァリエール様の使い魔に、荷物持ちなどやらせてしまって……」
「……ルイズの事を知っているのか?」
「えぇ、有名な方ですから……なんでも召喚の魔法で平民を喚んでしまったって、噂になってますわ」
そう言って、屈託の無い笑みを浮かべるシエスタ。
覚悟にとってこの世界で初めて見る邪気の無い笑顔である。
素朴な雰囲気を持つ彼女がそうやって笑うと、きめ細かい肌に散ったそばかすと相俟って幾分幼く、愛らしく見えた。
「シエスタ」
「はい?」
問いかければ裏表の無い調子で返る、素直な返事。
そこで浮かんだ『有名とはどういう意味か』という疑問を、覚悟は咄嗟に飲み込んだ。
昨日の調子ではきっと、この真面目そうな少女が言い辛い答えが返って来るであろうと予想したためである。
「……“ミスタ”は不要なり」
一先ずそれだけ告げて、シエスタの案内を受けて使用人宿舎から借りた洗濯板を手に取る。
――どうやらこの世界では『人間の使い魔』とはよほど珍しい存在らしい。
そんな事を考えながら、覚悟は一心不乱の洗濯を開始した。
たっぷり三十分ほどの時間をかけて初めての洗濯を終えた覚悟。
シエスタと別れて部屋に戻ると、部屋を出た時と同じ姿で寝こけるルイズの姿を観測する。
帰り道においても人の気配は少なかった。起こすにはまだ早いと思われる時刻である。
しかし初日の朝ともなれば、早くて困ることもあるまいと覚悟は判断し。
「起きよ、朝だ」
椅子に掛かっていた制服を手にベッドの傍らに立ち、短く声をかけるものの今一つ反応が薄い。
続いて毛布に包まった体を軽く揺さぶると、ルイズは瞼を擦りながら上体を起こした。
「なによ、何事……――って、誰よあんたっ!?」
寝ぼけ眼で覚悟をぼんやりと見つめる事数秒。
我に返ったように怒声をあげながら、尻を引き摺るようにしてベッドの上で後退る。
「……あぁ、使い魔か。そうね、昨日召喚したんだったわね」
如何したものかと閉口した覚悟を見つめたルイズが、安堵したようにため息をつき。
(あぁ……わたし、本当に平民を召喚しちゃったんだ)
と同時に、心中で己の不実を嘆いては頭を抱えるルイズである。
覚悟はと言うと、数秒足らずの短い時間でころころと反応を変えるルイズに対して、僅かに困惑の表情を浮かべるものの。
「着替えだ」
短く告げつつ手に抱えた制服を、彼女のベッドへと置いた。
表情や声色に変化は無いものの、くるりと踵を返し背を向ける事でルイズの着替えを促しているらしい。
「……ん、ありがとう」
なかなかに気が利く使い魔だと、寝ぼけた頭も手伝ってルイズは珍しく素直に感謝した。
そうして気だるげにネグリジェを脱ぎ捨てた所で、程無くして彼女は一つの問題点に気が付く。
「下着」
「なに?」
「下着とってーって言ってるの。そこのークローゼットのー、一番下ー」
椅子に掛かっていた制服はともかく、下着までは考えが及ばなかったのであろう。
低血圧故か間延びした調子で言うルイズの言葉に、覚悟はぴくりと肩を震わせたものの。
数拍の逡巡を経て、言われた通りにクローゼットへと向かい下着を取り出す。
そして視線を明後日の方向に固定したまま、しかし無表情でルイズへと手渡した。
――あ、こういう反応もするんだ。
下着を受け取ると共に、初めて目にする人間らしい覚悟の態度を物珍しげに見つめるルイズ。
こいつは少なからず動揺している。その事実に、傷付いたプライドが回復してゆくような心地であった。
「着替えるのも手伝って」
「……。了解した」
だからダメ押しにそう言った瞬間の、苦虫を噛み潰したような覚悟の表情をルイズは決して忘れまい。
この時覚悟は『中世の貴族的価値観であれば必然の事柄』として己を納得させるのに大変な努力を要していたのだが、ルイズには全く関係がない。
武骨な手によって行われたぎこちない着替えは常よりも多くの時間を要したが、ルイズは実に満足であった。
着替えを終えたルイズと共に部屋を出ると、計ったように隣室の扉が同時に開いていた。
そこから現れたのは、燃えるような赤毛と褐色の肌を持つ女性。
身長体型を含め、こと外見に限って言えばルイズとは正反対の特徴を持った女である。
「あら、珍しく早いのね。『ゼロ』のルイズ」
「ふん、珍しいは余計よ。『お熱』のキュルケ」
「私の二つ名は『微熱』よ。記憶力までゼロになったの?」
外見については兎も角、内面については似通う部分も少なくないのか。
視線と視線がぶつかるや否や、流れるような舌戦を交えて真っ向睨み合いを始める両者である。
ルイズの背後に控えた覚悟は困惑しつつも黙って見守るのみ。
そうして睨み合う事約数秒、やがてどちらともなくそっぽを向いたが。
「それにしても『サモン・サーヴァント』で、平民を召喚しちゃったなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」
ちら、と流し目で覚悟を見遣って赤毛の女性……キュルケは言う。
ぐぐ――とルイズが低く唸る声を覚悟は聞いた。視線を遣れば、白い頬にさっと朱がさしたのが見て取れる。
「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ。おいでフレイム!」
それを受けたキュルケが、勝ち誇った様子で何者かの名前を呼ぶ。
すると開いたままのキュルケの部屋の扉から、熱気を伴う何かがのっそりと這い出す。
フレイムと呼ばれた彼は深紅の体表と、燃える尻尾を持つ大蜥蜴であった。
「これって、サラマンダー?」
「そうよ! 火トカゲよ! 見てよ、この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の――――」
悔しそうに言うルイズの言葉に、待ってましたとばかりの勢いでキュルケが使い魔自慢を始める。
ぎりぎりと歯軋りを漏らすルイズを横目に所在無く立ち尽くす覚悟であったが、そこで強い熱気と自分を見上げる視線に気が付いた。
……話題の渦中にある火トカゲがいつのまに近寄ったのか、サイズ相応に大きな縦瞳孔の瞳でじぃっと覚悟を見つめている。
炎を纏った見た目とは裏腹に大人しいその様子は、可愛いと表現出来ない事も無い。
視線を合わせるべく膝を折り、戯れにその喉元へと手を伸ばす。
暖かな体温を確認するように撫でさすると、フレイムはきゅるきゅると機嫌良さげな声をあげる。
未知なる変温動物が見せる意外な愛嬌にほとほと感心する覚悟であったが。
「あら、フレイムが懐くなんて……。ねぇあなた、お名前は?」
「……葉隠覚悟」
その声に気付いたキュルケが、興味深げに覚悟へと問う。
名残惜しげに鳴くフレイムより手を放して立ち上がり、キュルケへと向き直った覚悟は短く名乗ってみせる。
……先日嘲笑を買った『零式』の名は伏せて、だが。
「ハガクレ、カクゴ? ヘンなお名前っ」
この遣り取りは今後暫く、名乗る度に繰り返されるであろう。
くすりと笑みを返しては颯爽と去るキュルケと、ちょこちょこと体躯に見合わぬ愛らしい動作で後に続くフレイムを見送り、覚悟は小さく息をつき。
何やらぷるぷると震えるルイズに、『ゼロ』の二つ名についてを問う事はついにしなかった。
ややあって、ルイズが語るツェルプストー家との因縁を聞くでもなく聞きながら、覚悟は食堂へと辿り着く。
学園の敷地内で最も背の高い、真ん中の本塔。
きっと教職員を含めた学院関係者の全てが此処で食事を取るのであろう、広大な施設。
まず目に入ったのは、優に100人が座れそうな長いテーブルが三つ。
向かって正面、左隣のテーブルに座る大人びた生徒達は紫色のマントを身に纏い。
右隣に座る生徒達は茶色のマントを羽織っており、どことなく初々しい雰囲気を持つ。
真ん中のテーブルに座る者達はルイズと同じ、黒のマントを身に着けていた。
暫しの思考を経て、学年毎にマントの色が違うのだと気付く。
覚悟の知る教育施設においてもベターな区分に、世界が違えど同じ人間であると思い知る。
最奥に見えるロフトは中階となっており、教師と思しき年長者達が談笑を交わしていた。
「……メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。
だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの。
感謝しなさいよね、あんたみたいな平民――――」
ルイズの背に追従しながらしきりに食堂内を見回し黙考する覚悟。
その様子をどう受け取ったのか、ルイズがどこか得意気に解説を入れつつ歩を進める。
覚悟がそれらの解説に一つ一つ頷き返していると、やがて真ん中のテーブルにある一つの席でルイズが立ち止まった。
やけに隅っこの席であるのは周囲の視線から逃れるためであろうか?
そのまま席に着くものとばかり思っていた覚悟だが、ルイズは何故か動こうとしない。
何事かと逡巡する覚悟であったが、やがて得心して椅子を引いてやると。
「ふふん、よろしい」
この時ばかりは貴族らしく殊更優雅に腰かけるルイズである。
キュルケとの邂逅によって傾いていたご機嫌も、多少は回復傾向にあるようだ。
「それで、あんたの食事だけど……」
そう言って、ルイズは覚悟に悟られないようにちらりと食堂の床へと視線を這わした。
申し訳程度に肉のかけらが浮いたスープが、貧しげな皿の上で揺れている。
硬そうなパンが二切ればかり、皿の端にちょこんと乗っていた。
「……」
無言で自身を見詰める覚悟の視線を感じながら、ルイズは腕を組んで思考する。
このみすぼらしい料理は他ならぬルイズが前例の無い『平民の使い魔』の食事として用意させたものである。
曰く、貴族と平民との差を理解させるために必要な躾……であったのだが。
この口数が少なく、それでいてルイズの言葉には無表情ながらも素直に従う使い魔に、果たして躾が必要であろうか?
加えて、覚悟に与えられた主な役割はルイズの護衛である。
来たるべき時――と言っても思い付かないのだが――に備えて、体力を付けさせる必要があるのではないか?
(さ、さすがに怒るかしら……?)
というか、この使い魔とてついに怒り出さないとも限らない。
昨日から混乱するばかりで冷静になれなかったルイズだが、ここへきてようやく事の重大さに思い至った。
使い魔、葉隠覚悟は人間である。
喚び出される前にはそれなりの生活があった筈だし、家族だって居たであろう。
(わたし、とんでもない事しちゃったんじゃ……)
他の生徒達はおろかコッパゲ教師に至るまでさらっと流していた事実だが、
つまるところルイズは人間一人の人生を大きく狂わせてしまった事になる。
……彼女が敬愛してやまない次姉の影響か、あるいは彼女本人の性格によるものか。
それを『平民如き』と一笑出来るほど完成された価値観を、幸か不幸かルイズは持ち合わせていない。
「ルイズ?」
平坦な言葉に僅かな心配の色を乗せた覚悟によってルイズは我に返る。
覚悟は『サモン・サーヴァント』で喚び出され『コントラクト・サーヴァント』によってルイズと契約を結んだ使い魔である。
彼は彼の意志でもって、ルイズの召喚に応じた筈なのだと、ルイズは自身に言い聞かせた。
「……ほら、ぼさっと立ってないで座りなさいよ」
が、見慣れぬ白装束の下に恐るべき筋量を積載した彼が怒り出す可能性は拭い去れず。
結局ルイズは覚悟の同席を許可するに至った。
貴族のものである席に覚悟が着席すると、周囲の生徒達が奇異の視線を向けたがルイズはこれを無視。
「ねぇ、あんたの故郷ってどこなの?」
代わりに朝食の間、覚悟の故郷についての情報を聞き出す事にルイズは腐心した。
しかし、歯切れ悪く答える覚悟から聞き出せたのは『ニッポン』なる耳慣れない地名のみ。
それきり黙々と食事を行う覚悟を横目に、いずれ彼の故郷を訪ねてみようと考えるルイズであった。
これにて一話投下完了。次回は一週間後と考える次第
ここまで代理投稿でした。途中さるさんに引っかかってしまいましたが、何とか無事終えることができました。
それでは。
投下&代理乙
原作版シエスタとは、SSじゃ珍しいのかな?
初期はそばかす少女だったんだよなシエスタ
そばかすはそんなに悪いものとは思わんが
大嫌いだったそばかすをちょっと一撫でしてため息をひとつつくシエスタか・・・・・
アリだな
アニメの場合は書くのが面倒だからだろうなぁ
毎回ソバカスの位置や数が変わりそうだもんな
>>252 赤毛のアンを見習え、と言いたいところだなそれ
ホクロ一杯付けてる主人公の弟がいたアニメもあったというのに
萌えキャラで売りたいって商業的な思惑もあったんじゃね
257 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 22:52:20.17 ID:3bHHh0RB
皆さんこんばんわです。
もし大丈夫でしたら11時頃より、新作を投稿いたします。
258 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:01:05.13 ID:3bHHh0RB
それでは始めます。
タルブ上空で、未だに鎮座している、『レキシントン』号。
村から離れた森の中で、シエスタは弟達を匿って隠れていた。
あの後、急に竜騎士達が攻め行ったかと思うと、村を根こそぎ焼き払い、目に入るもの
全てを消し去っていった。
シエスタ自身、もう駄目だ。と思うような事も何度かあった。それでも可愛い子供たち
を守りたい一心で、ここまで逃げ延びたのだ。
(ケンシン…さん…)
子供の前で不安にさせたくない手前、なんとか堪えてはいたが、内心泣きたい感情で一
杯だったシエスタは、祈るように彼の名前を口にした。その時だった。
激しい唸り声を上げながら、シエスタ達の上空を何かが駆けていった。ほとんど一瞬の
ような出来事だったが、シエスタは確かに見た。
あれは間違いなく、家に祀ってあった『竜の羽衣』そのものだったのを。
そして、機敏な動きと速さで、数々の竜騎士たちを翻弄していく姿を、その目で確かに
見た。
「ケンシンさん!!」
祈りが通じた、シエスタは喜びと安堵で嬉し涙を流しながら叫んだ。
アンリエッタも見た。タルブ前で布陣を敷いている時、確かにこの眼で。
「あれは…一体…?」
「さあ…私も、あの様な竜は初めて見ます…」
隣で補佐するマザリーニ枢機卿も、呆然とした様子で答えた。だが、あれが何にせよ、
自分たちの味方というのだけは分かった。
先陣を切って、数々の竜騎士を打倒し、そして単騎で『レキシントン』号まで一気に飛
んでいく。
そして、それを追うかのように、一匹の風竜が、空を駆けていった。アンリエッタはそれを見て、ふと彼女の顔が思い浮かんだ。
「ルイズ…?」
どこか期待を込めるかのような声で、アンリエッタは小さく呟いた。
第二十九幕 『虚無の力、決意と邂逅』
「はあっ!!!」
ワルドの叫びに応えるかのように、風竜は動いた。
259 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:04:44.62 ID:3bHHh0RB
一旦空へと上がった風竜は、そこから一方的にブレスを放つことで剣心の反撃の手段を潰していくつもりのようだった。
「どうだ抜刀斎!! 手も足も出なかろう!!」
しかし、巨大戦艦とはいえ、船の上で戦う訳なのだから、ただブレスを放てば良いという問題でもなかった。
乗組員や重大な機関に傷を付けでもしたら、戦力はガタ落ち、それこそ剣心の思惑通りになってしまう事には、ワルドも十分注意しなければならなかった。
(だが、この布陣に対して俺の勝利は動くまい!!)
「………」
対する剣心は、風竜のブレスを的確に回避しながら、同時に人を巻き込まないよう気を配りながら、どうやってワルドを叩き落とすかを検討していた。志々雄からの視線を感じながら…。
先程まで冷笑浮かべて豪胆に自分の野望を語っていた彼だったが、闘いが始まった途端にあの表情。
今の剣心の実力を確認しようと、それこそ一挙手一頭足全て漏らさずに見極めようとしている目だった。
(相変わらず油断も隙もないな…)
無論剣心も、その視線には気付いていた。だから剣心は回避を入れながら、いかに技を繰り出さずに相手を倒すかを思案している最中…。
「ん? 何だ…?」
おもむろに志々雄の方は、興味を剣心から別のものに変えたようだった。
それが気になった剣心は、一瞬だけそちらの方へ視線を移して、そして驚いた。
「ルイズ殿…!」
見覚えがある風竜に、ここからでも見える桃色の長髪。
ルイズ達の姿が、どんどんこちらへとやって来ていた。
すかさず砲撃を始める『レキシントン』号に、ルイズ達もこれ以上近付けないでいた。
「で、どうする気よ?」
お手上げ、そう言わんばかりにキュルケは聞いた。タバサも、これはどうにもならないと首を振る。
だが、ルイズは諦めなかった。
「砲撃は、ケンシンがきっと止めてくれる。だから、合図をしたら向かっていって、その周りを旋回してて!!」
言葉の意味をとれば、何を言い出すんだと言いたくなるような内容だった。剣心が、ゼロ戦から飛び降りて『レキシントン』の所へ乗り込んだのは、遠目でルイズ達も分かっていた。
だが、普通ならそれを理由に闇雲に突っ込むというの無謀そのものだった。返り討ちは必定ともいえた……『普通』なら。
しかしアルビオンでの旅のおかげで、剣心の力量を知っているルイズは、これくらいの事ならどうにかしてくれると信じているからこそ、そう言えるのだ。そしてそれはタバサ達も同じだった。
「…分かった」
正気か、と思うかもしれない。だが、これから何かが起こる。そう予期させるからこそ、タバサもキュルケも何も言わなかった。
「今よ!!」
そのルイズの言葉と共に、シルフィードは怯えながらも旋回。砲弾の嵐へと突っ込んでいった。
260 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:06:47.59 ID:3bHHh0RB
砲撃の中を駆け抜けるルイズ達を見ながら、志々雄は的確な指示を下す。
「一斉掃射、用意!! 目標、あの風竜!!」
「何!!?」
それを聞いた剣心が、ハッとしてそちらを見やった。それはワルドからしてみれば、千載一遇の隙であり、そして好機だった。
「隙ありだ、抜刀斎!!!」
風竜の放つ、特大のブレスが剣心の真上から、突如襲い掛かった。ブレスは、剣心を巻き込み甲板に大穴を開けながら、剣心を船の中へと追いやった。
普通なら、まともに喰らえば生きてはいない。ワルドは大きく高笑いをした。
「シシオ様、やりましたぞ!! 人斬り抜刀斎、恐るるに足らず!!!」
しかし、志々雄から返ってきた言葉はこうだった。
「…ワルド、お前、しくじったな」
「はっ……?」
刹那、船の中から喧騒が聞こえてきた。何かと戦っている様な声と音。そして悲鳴も上がってくるのがワルドの耳にも入ってきた。
「なっ…なんだてめえ!!?」
「ぐああっ!!!」
まさか、と思いワルドは船の大砲の方を見る。そこは、志々雄が命じたにもかかわらず、シンと静まり返っており、弾一つ放つ気配はない。
ここに来て、ようやくワルドは、『わざと』攻撃を誘われていたことに気づいた。油断すれば、必ず甲板を破壊するような大技を放ってくると、奴は踏んでいたのだ。
そして、中へと潜入して、恐らく今、砲撃を準備していた兵士たちを薙ぎ払っているのだろう。そうやってルイズ達を守っているのだ。
だがどうやって…あのブレスを…。しかし、その答えはすぐにピンと来た。
(あ…あの喋る剣…あれで吸収し、難を逃れたのか…!!!)
ワルドは、ギリと歯軋りをした。あの一連の行動から、ここまで正確に読んでいたとでも言うのか。
そして改めて身震いをした。恐るべき機転の速さ。そして今成すべき対応への迅速な行動。これが、最強の人斬りと謳われる所以なのか……? と。
ともあれ、こうしている場合ではない。ワルドは頭を切り替えた。犠牲は出るかもしれないが、やむを得ない。
甲板の中から、何度でもブレスを放ってやる。幾らあの剣でも、怒涛のブレスを何回も吸収出来るはずがない。
そう考え、ワルドは風竜を甲板に着陸させ、そこから覗かせる様に顔を突っ込ませた。しかし――――。
「なっ…!!?」
声にならない叫びをワルドは上げた。風竜がブレスを放とうとしたとき、ここぞとばかりに剣心の姿が躍り出てきたのだ。
(しまった、これも計算の内か!?)
そうワルドが逡巡したときには、もう遅い。
「飛天御剣流 ―龍巻閃・『旋』―!!!」
空中で回転しながら放つ、遠心力の一閃。それが風竜の脳天に強かに打ち込まれた。
「グッ…!! グゥオアアアアアアアアア!!!!」
風竜はその衝撃で口を閉ざされ、結果、ブレスは口の中で暴発。大きな身体を宙を舞いながら、風竜は崩れ落ちていった。
261 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:08:30.22 ID:3bHHh0RB
「バカな…あの男は何者なのだ…」
この戦いを、艦長であるボーウッドは唖然として見ていた。
急に飛び込んできたと思えば、風竜のブレスを的確にかわし、あまつさえ一回の攻撃を
受けただけでこちらの対抗手段を悉く粉砕した。
そして、一瞬の隙をついて風竜までも倒した。殆ど無傷同然の格好で。
(本当に…奴らは一体…?)
風竜を倒したにも関わらず、その余韻に浸ることなく志々雄を睨む剣心と、それを受けても悠然としている志々雄を見て、ボーウッドは、そんな感想を抱かずにはいられなかった。
「ぐおっ!!! がぁあああ!!!」
ワルドは、風竜に振り落とされ、乱暴な形で甲板へと叩きつけれた。その顔は屈辱と羞恥で歪んでいる。
(何故だ!! 何故……)
またしても圧倒的な敗北。しかも剣心は、もうワルドでは無く、志々雄の方を見ていた。
自分など敵ではないということか、その事実が、ワルドにとって、とても悔しかった。
「絶対に…俺も…あそこまで…上り詰めてやる…」
拳で床を何度も叩きながら、ワルドは誓うように、震える声で呟いていた。
「終わりだ、志々雄真実」
逆刃刀を向けながら、剣心はゆっくりと告げた。
対する志々雄は、どこか含んだような笑みをして言った。
「終わり…か」
志々雄はそう笑って、外の方を親指で差した。そこには、『レキシントン』号程ではないにせよ、まだまだ艦隊がずらりと鎮座していた。
「幾らあんたが足掻いたところで、この数はもう止まらねえぜ。それでも闘るっていうのか?」
「それでも、お前を止めねばこの国の全てが犠牲になる。そうはさせん」
剣心は毅然とした態度を崩さず言った。普通の人間なら絶望するかのような戦いでも、一歩も引かない。
「本当に頑固だな。あんたも…」
志々雄もまた、そんな剣心を見て、『剣客』としての顔を覗かせた。ニヤリと笑い、腰の刀の柄に手を触れる。
途端に弾けるような剣気が、辺りを漂う。
「まあいい。それじゃああの時つけられなかった決着の続きを、今始めようじゃねえか」
262 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:10:38.90 ID:3bHHh0RB
剣心も、それに応えるように腰を落とし、逆刃刀を強く握る。
周囲がゴクリと、固唾を呑んで見守る中、二人は同時に動いて、そして…。
エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ
お互いの剣が交わる瞬間、剣心の頭の中に、朗々とした声が響き渡った。
よく見れば、片方の目はいつの間にかルイズの視線が移り、耳には呪文の声が聞こえてくる。
オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド
剣心は、ルイズ達の方を見やった。志々雄もまた、興が削がれたのか、そちらに視線を移す。
外では、ルイズが杖を掲げて長い口上を唱えていた。
べオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ
ルイズは、不思議そうな顔をしているキュルケはタバサをよそに、呪文を読み上げていった。
今の自分には、何も聞こえない。何も見えない。ただ、体の底から溢れてくる力を、言葉にして吐き出していた。
力はルイズの中でうねり、循環していく。
そして感じる。今から使う呪文は、それこそ今までのとは規模が違う大魔法だということも。
選択を迫られる。『殺すか』、『殺さぬか』
(ケンシン……)
ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・べオークン・イル……
呪文が完成した。後は杖を振るだけだ。
だが、このままでは向こうで戦っている剣心をも巻き込んでしまう。
だから、その分『抑える』。
『レキシントン』号には機関部辺りを狙い付け、他には人を殺さないよう、船だけを破壊する。
そう決めて、ルイズは杖を振った。
『エクスプロージョン(爆発)!!!!!』
「―――――――――!!!?」
263 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:13:36.09 ID:3bHHh0RB
瞬間、誰もが目を疑った。
突然大きな光に包まれたかと思いきや、船が炎上を始めたのだ。
辺り一面、燃え上がる船。無事に難を逃れたものは一隻もなかった。それは、『レキシントン』号も同じだった。
「マ…マスト破損!! これ以上舵は効きません!!」
「か、『風石』消失!! 浮力が足りません、墜落します!!!」
あちこちで、船員の慌てた声が飛んでくる。臆病風に吹かれた連中は、既に脱出の準備まで始めていた。
「シシオ様、指示を、脱出の指示を!!」
しかし、このような事態にも関わらず、志々雄は平然として剣心と睨み合っていた。
「…やられたか。成程…あれがそうか…」
燃え上がる戦場の中、二人は対峙する。
「…煉獄の時といい、これで二度目か。…ここは一旦退くしかねえな」
「そうだな」
「決着も、少しの間先延ばしだな」
無論、続けようと思えば、今始めても剣心は出来た。
だが、それでは志々雄に忠誠を誓っている部下の何人かは、志々雄と共に残る決意をするだろう。
それだと、脱出が間に合わず、結果死人が出る。志々雄をタルブから追い払えたのだから、現状、今はこれで良しとするしかなかった。
悠々な姿勢ながら、剣心と離れる際、志々雄は言った。
「抜刀斎、俺とあんたとの決闘は、あくまでも『余興』に過ぎなかった。それは言ったな」
「…ああ」
「だが、この戦いでやはり再確認させられた。この世界を盗るには、やはりお前達を消さねばならないとな」
そして、最後に剣心に向かって、志々雄は凄惨な笑みを浮かべた。
「精々気をつけるこったな。これから先あんた達の元には、様々な刺客を送り込む。だが、それを全て倒し這い上がってこれたなら、それでもまだ生き残っていられたら、今度こそ『あの時』の決着をつけようじゃねえか」
そして高笑いを残しつつ、志々雄もまた、墜落寸前の『レキシントン』号から離れていった。
「あばよ『ガンダールヴ』。精々この国を守る『盾』とやらに、なってみるんだな」
264 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:15:56.52 ID:3bHHh0RB
燃える船の中、剣心は一人佇んでいた。思いを馳せるように。
そんな彼に業を煮やしたのか、デルフが口を開いた。
「さっきの奴、相棒の知り合いか?」
「…元人斬りの後輩で、時代を懸けて剣を交えた宿敵でござるよ」
剣心は、昔を思い返すように口を開いた。
あの時もこんな風に炎が猛っていた。
『死闘』。そうとしか言い表せない激戦だった。
燃え盛る炎の中、互いに持てる力全てをぶつけたあの戦い。勝ちこそ拾えたが、一歩間違っていれば自分の方が死んでいてもおかしくなかった。
何故今、奴がこの世界にいるのか…それはもうどうでも良かった。
だが、このまま奴を野放しにしておけば、いずれこの世界は志々雄の手中に収まってし
まうだろう。
あの男にはそれを可能にする力があると、剣心が一番身をもって知っていたからだ。それだけは絶対に阻止せねばならなかった。
奴を生み出したのは、他ならぬ自分の所為でもあるのだから……。
「何にしてもアイツはヤベェぜ。見た瞬間震えが来ちまった。色んな奴俺は見てきたが、アイツみたいなのは初めて見たぜ」
「…だが、引くわけには行かぬでござるよ」
改めて決意し直すように、剣心が言った瞬間、突然上に影が現れた。
見上げてみれば、そこにはシルフィードに乗り出して、手を差し伸べているルイズの姿があった。
「早く、捕まって!!」
最早あちこちで船が爆発するような音が聞こえてくる。
剣心は、迷わずルイズに向かって思い切りジャンプし、その手を掴んだ。
その時、同時に大爆発を起こし炎上。ハルケギニア最強と謳われた船『レキシントン』
号は、あえなく墜落していった。
その光景を遠くで見守りながら、ルイズ達はその場を後にした。
「あれは…ルイズ殿がやったことでござるか?」
ルイズ達の手を借りて引き上げられる中、剣心は聞いた。
キュルケとタバサも、興味深気にルイズの方を見る。
ルイズは、どう言おうか迷っているようだったが、意を決したのか思い切って口にした。
「実はね…選ばれたみたいなの…『虚無』の力に…」
その言葉に、キュルケとタバサは唖然としてルイズを見た。剣心は、むしろ驚きというより、先行きの心配そうな顔をした。
ルイズは、そんな剣心の心配を知らずか、困ったような口調でまくし立てた。
「あのさ…これ、内緒にしてくれない? ほら…ね…」
「分かってるわよ。それくらい」
真っ赤な髪を掻き上げながら、キュルケは言った。タバサも同じように頷く。
いきなり伝説の話をしたって誰も信じないだろうし、逆に信じてもらっても、戦争や政治の道具に利用されたりするのは目に見えたことだった。
こう見えても、キュルケはしっかり者だし口が堅い。タバサも喋らないだろうし、剣心だって口を滑らすようなマネはしないだろう。
そう考えると、ルイズはホッとした。そして安心したら、急に眠気が襲いかかった。
すっかり疲れたのか、ルイズはそのまま剣心に寄りかかるように身体をあずけると、そ
のままスヤスヤと寝息を立て始めた。
「伝説の虚無ねぇ…まさかルイズがね…」
「…これから大変」
感慨深そうに呟くキュルケと、端的に言葉に表したタバサ。
この二人の話を聞いて、剣心は、これから待ち受けるであろう戦いと、それを知らないで安らかに眠るルイズを思いながら、空を見つめていた。
265 :
るろうに使い魔:2012/10/14(日) 23:19:02.76 ID:3bHHh0RB
今回はここで終了です。タルブ編は自分の力不足を結構実感した回でした。
次からはまた新章へと入っていきます。どうかこれからもお付き合いくださいませ。
それでは今日はここまで。ありがとうございました。
るろうに乙
最近エンバーミング読んでゼロ魔クロスねえかなと思ったが案の定一つも無かったぜ
>>256 そばかす萌えという開拓をおこなわずにかわいいだけの美少女にしたアニメスタッフの罪はでかい
んなことだからアニメはシリーズごとに凋落していったんだよ
どこかで戦闘妖精が召喚されてるに違いないと思って検索したら
案の定出てきた俺は大満足
まとめ眺めてたら夜闇きてたー!!!
続きが読めて本当に嬉しい
虚無対虚無はワクワクする
覚悟&るろうに乙!
覚悟るろうに乙!
両方好きな作品だからどうなるのか楽しみにしてる
272 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/16(火) 11:17:23.27 ID:1xwzbnqt
パパーダの人へ、新しいmissonを書き込むのを楽しみにしてます。
sageてな
ねえねえ?ルイズが234年の中国に飛ばされる
すなわち召喚ではなくてルイズが違う世界に行く
SSは駄目?
スレタイ嫁
前例がないわけじゃないが、クロスオーバーであることは最低条件
>>274 らきすたの小ネタの短編でルイズが
現代に来るというのはあった。
ルイズが留守番中にFF4のゲームに夢中になっていたなw
もしSSを書くなら、避難所投下が宜しかろう
中国って、なにとクロスさせるつもりなんだろか
クロスさせたらおもしろそうな中国系のキャラといえば、チュンリー、シャンプー、サイ・サイシー、王大人、恋姫無双のキャラとかか
>>280 王大人の場合、「ウェールズ皇太子、死亡確認!」で
生存フラグになるだろうか?
中国だったら探せばいっぱい出てくるだろ
あと王大人が出てきてるのになぜ紫龍が出てこないw
紫龍が召喚されると頻繁に死んで契約解けまくりそうなイメージ。
実際そんな死んでないかもしらんが、あkまでもそんなイメージ。
歴史に詳しくはないが、234年というと三国時代の後期あたりかな?
実は日本の中国地方説
中つ国だったりして
>>284 「わしの死後、蜀の丞相はルイズに任せたらよい、彼女ならきっと我が蜀を救い
必ずや魏賊を打ち倒し先帝陛下の悲願を達成するであろう
それから姜維、そちが無事漢中に退却した暁にはルイズを嫁にするがよい」
/ ___
_,/_, -−'´ヾヽ ヽ,
______,,, -―一、| くく_,-, ヾヽ ヽ、
.ヽ<< , -`_´,_,i
ヽゝ`´,.,ィ;> ,,___ヽ
, --,、_ 〉´:::::||/ ´ くi!} ヽ、
/ /, ) r-r-、/:::::i´`|l ´" ノ
l l.`ー'- __ _____i i i:::::::::``Y|l /-ーi /i
ヽ, ヽ l;;;;;;;;;;;;;l`ーヽ;;;;、-‐'ヽ,ヾ、、_.ノ / ヽ --z_
| ̄| ̄ ̄ ̄ ̄l;;;;;;;;;;;;;;;l-// \ 〉し´ヾi) /' ヽ | ,>
| | _______/;;;;;;;;;;;;;;;// \ \´ ヾ、|l| /' i、_ _,-'| l;;;;
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| | i : : l;;;;;;;;;;;;;;;;;;| ヽ ヽ. ! |` .i .i i i .l;;;;;;;;;;;;;;} ヽ-、;;;;;
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| | i: : :l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;| 、 `,! `' | ヽi/ ゝiillノ 〉ヽ、__, -、}
| | i: : : l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;| ヽ、. \ .! >,((i;r-ー '、 /l,`ー'ー、 /ヽ----
| | i: : : :l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;| \ \rゝ、,i 〉--ー-〈 / .| ヾ 、ヽ, / i \
| | i: : : : l;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ `ー !`7ー----、''´ l ヽ / | ヽ
指輪物語か
中国か・・・
侍魂の王虎がいるな
>>288 ホビットの冒険かも知れん
映画公開が近い的な意味で
古代中国に召喚されるといえばジャッキーとジェットが競演した映画
その2人にデルフの変わりに如意棒を手にしたルイズと功夫映画オタのサイトが師事して修行
サルマンに召喚されTTTでオークヒーローに代わって角笛城の排水口に突撃し城壁を吹っ飛ばすルイズ
サモンサーバントを唱えて気がついたら
ベアー号のコックピットにいたルイズ
マジンガーZを見てたらジョゼフとシェフィールドであしゅら男爵をと
やっぱりやめとこう
>>293 それ死亡フラグだから!(それも極太)
>>294 今川版だったら生身のほうが強くなりそうだな……
魔法いらないんじゃね?
あしゅら男爵は夫婦をくっつけたもんだけど、ゼロ魔の夫婦やカップルをくっつけても女の尻に敷かれるか左右でケンカするかしかなさそう
アベンジャーズから…と思ったが言うこと聞きそうな奴がいねえw
社長とかスパイとか弓使い召喚とか面白そうだがw
「エイリアン」を召喚したルイズさえいたんだ
(寄生されて死んだ)
たとえ言うこと聞いてくれなくても
それをネタにして話は作れるさ
逆に自主的に絶対服従してくれる使い魔を
召喚させても面白いと思うぞ?
アイザック・アシモフのR・ジスカルドとか
>>298 自分から服従してくれそうな使い魔
そらのおとしものから初期のイカロスなんてとこかな。ルイズが周りから変な目で見られるはめになりそうだが
ホラー的な要素、首なし騎士の召喚とかおこなわれないかな
ゼロ魔的にしたら首なしの銃士ってとこになるかいな
セルティ・ストゥルルソンを召喚と申したか
マッキースマイル
キラッ
>>300 スリーピーホロウの首なしの騎士の骸骨召喚したら、それを追いかけて首なし騎士までやってきて
追い詰められたルイズは骸骨と契約のキスをしてとりあえず難を逃れるが…
って感じの出だしを思いついた
…最後にはBADENDになりそうだがw
304 :
代理投下:2012/10/20(土) 20:59:34.32 ID:YQ/2KfdH
避難所にThe Legendary Dark Zero氏の新作がありましたので、
予約がないようでしたら10分頃に投稿を始めます。
305 :
代理投下:2012/10/20(土) 21:10:30.53 ID:YQ/2KfdH
時間になりましたので。
Mission 35 <侵略への予兆>
ケルベロスが邪魔者を制するために作り出した氷の山はスパーダが戦っている間に少しずつ崩れていった。
氷塊が降ってきた際、タバサが咄嗟に作り出したエア・シールドによる突風の障壁は二人を包み込み、辛うじて押し潰されることはなかったのである。
原理としてはラグドリアン湖で水の精霊を倒そうとした際、水に触れないようにするのと同じだ。
その後、内部でキュルケが炎の魔法を使って氷を溶かし、何とか抜け出そうとしていたのである。
こんな閉鎖空間で大技は使えないため、発火の魔法で地道にやるしかなかった。タバサもその間、エア・シールドを維持し続けるために精神を集中させていた。
外の様子は氷に阻まれて見えなかったものの、音だけは氷を隔てて微かだが二人にも伝わっていた。
魔獣ケルベロスの咆哮はもちろん、スパーダの拳銃の銃声が何発も聞こえてくる。
外の音を聞く度に二人はいち早くここを抜け出して戦線に復帰しなければと発奮していた。
やがて氷の壁を溶かしきり、無数の小さな氷塊をいくつか溶かすと外の光が見えてきた。
ここまでやればもはや遠慮はいらない。キュルケはファイヤボールの魔法を放ち、一気に薄くなった氷を吹き飛ばす。
その衝撃で氷の山が崩れてしまったが二人はすぐ様外へと飛び出ていた。
「ふぅ〜! やっと出られたわね!」
キュルケが歓声を上げ、杖を構えるタバサと共にいざケルベロスに挑みなおそうとした時だった。
――バウゥンッッ!!
「グガアァ!」
耳が裂けんばかりの鋭い轟音と共に、ケルベロスの呻き声が響き渡った。
二人が目にしたのはあのケルベロスの全身を覆っていたはずの氷がほとんど剥がされ、その巨体が吹き飛ばされていたのだ。
見ればスパーダがケルベロスの真正面に立ち、ルーチェの拳銃を構えたまま佇んでいる。
キュルケとタバサはケルベロスが倒れ伏してしまった姿に呆然とする。
自分達では歯が立たなかったあの巨体を、スパーダは拳銃だけで制してしまったのだ。
伝説の悪魔である彼は剣など使わずとも充分に力を示せることを改めて実感する。
(もっと、力を……)
勇猛なスパーダの姿を目にし、タバサの杖を握る手に力がこもる。
復讐を果たし、大切なものを取り返すために力を欲している彼女としてはスパーダが力を示すのを目の当たりにする度にその思いはさらに強くなっていた。
どうすれば更なる力が手に入るのか。どうすれば己の力を更に磨き上げられるのか。……どうすれば彼のように強くなれるのか。
飽くなき力を欲する欲求、渇望、願望、研鑽、羨望――様々な思いがタバサの中で渦巻いていた。
スパーダがケルベロスの魂を取り込む事で、戦いは終わりを告げた。
氷を操るケルベロスがいなくなったためか、足元に漂っていた冷気の霧が瞬く間に晴れていって地面が姿を見せる。
ルイズ達は凍り付いてしまった聖碑の石版を眺めているスパーダの元へと集まっていった。
「キュルケ! タバサ! 大丈夫なの?」
「ま、何とかね。タバサのおかげよ」
ルイズは氷の下敷きになっていたタバサとキュルケが無事であった事に一安心した。
スパーダの方も見やるが、彼はいつものように毅然とした涼しい顔を浮かべている。この様子ならばそう心配する事もないだろう。
どうやら左手に装着している篭手のデルフのおかげのようだ。
「あ、あの……大丈夫、なんですか?」
閻魔刀を抱えながらやってきたシエスタは不安げにスパーダの身を気遣う。
何しろ、先ほどのケルベロスが放った全力の攻撃でスパーダの服は所々が凍ってしまっている。
まともに食らえば今の争いで砕かれてしまったオーク鬼達のような無残な最期を遂げることになっていたというのに。
306 :
代理投下:2012/10/20(土) 21:11:22.79 ID:YQ/2KfdH
「心配はいらん」
凛然と答えつつ振り向いたスパーダは恐る恐るシエスタが差し出す閻魔刀を受け取り、腰に収めた。
その時、スパーダは微かに目にしたシエスタの表情に不安と緊張が未だ残っている事に気付く。
それは先ほどのケルベロスに対してではなく、自分に対して抱いている事をスパーダは察していた。
「なぁーに。この俺が相棒へのダメージを和らげてやったからな。……ちと寒かったけどよ」
デルフが楽天的に答えると、シエスタはホッと安堵の溜め息を吐く。
「っていうかスパーダ。何なのよ、さっきの銃は? あんな物を持っているだなんて聞いてないわよ」
ルイズはスパーダの少し凍っているコートの裾に手を触れようとしたが、あまりの冷たさに手を引っ込めてしまう。
「ああ、ルイズは見てないから知らないのよね。ゲルマニアのペリ卿に特注で作ってもらったんですって」
スパーダの代わりに答えたのは、先日の実演を見ていたキュルケだった。
正確にはペリと名を名乗る魔界の銃工マキャベリーの作品である。ハルケギニアはおろか人間界の技術ですら作ることはできない一品だ。
「わざわざ銃を使わなくても、剣を使った方があの悪魔を倒すの速かったんじゃないの?」
「実戦でも使えるか確かめねばならなかったのでな」
ルイズからの指摘に答えたスパーダは聖碑の石版から視線を離さぬまま目の前まで進んでいく。
ケルベロスの攻撃のおかげで石版の表面はほとんどが凍りついてしまっており、真下の祭壇に至っては氷の中に閉じ込められていた。
災厄兵器パンドラを持ってきていれば氷を溶かす兵器に変形させていたのだが……。
「どうしたのよ、スパーダ。こんな石版がどうかしたの?」
やけに石版に食い入っているスパーダにルイズはもちろん、他の三人も疑問を抱かずにはいられなかった。
「キュルケ。祭壇の氷を溶かせるか」
「オッケー。タバサも手伝ってね」
スパーダからの要求に快く答えたキュルケは杖を取り出し、タバサと共に前へ進み出る。
先ほどのケルベロスとの戦いで消耗していたため、キュルケだけの力では大きな炎は起こせない。タバサの風の魔法で威力を増強しなければならないのだ。
「ねえ、一体何なの? あの石版がそんなに珍しいの?」
キュルケ達が氷を溶かす中、ルイズは再三、聖碑の石版に興味を持つスパーダに尋ねていた。
隣で佇むシエスタとしては何も無いただの遺跡であるはずのここにスパーダがこうも関心を示していることに不安を抱かずにはいられない。
「そういうわけではない。だが、あれはただの遺跡などではない」
「ど、どういうことなんです? 一体、あれは……」
スパーダの返した言葉にシエスタの不安はさらに大きくなっていった。
だが、スパーダは腕を組んで氷が溶かされていく聖碑の石版を凝視したまま、沈黙している。
普段以上に真剣な目付きに二人は呆気に取られていた。
「おい、相棒。あの石版……俺も嫌な力が感じられるぜ」
「それ以上を言う必要はない」
デルフも妙に真剣な口調で喋りだしたが、スパーダは一蹴して黙らせる。
(何よ? 一体、何を知っているっていうの?)
スパーダはおろかデルフさえも真面目になっていることにルイズもまたシエスタと同じように不安が湧き上がる。
この石版は一体、何だというのだ。
ただの遺跡でなければ、何の目的でここに建てられているのか。
何か、自分達では想像もつかない特別な力がこの石版にはあるというのか。
それを……スパーダは全て知っているというのか。
307 :
代理投下:2012/10/20(土) 21:12:53.27 ID:YQ/2KfdH
「ふぅ〜! ざっとこんなものね」
タバサの協力で氷を溶かし続けていたキュルケは一息をつきつつ歓声を上げていた。
炎で氷が溶かされ、その下から円筒上の小さな台座が姿を現す。恐らく、ここに何かを祭っていたのだろう。
しかし、見た感じ何も特別面白そうなものはないみたいでキュルケの興味は薄れていった。
「どうしたの、タバサ?」
タバサが台座の隅で屈んでいるのを見てキュルケも覗き込んでみる。
「何かあったの?」
その元にルイズ達もやってくると、立ち上がったタバサは妙なものを抱え上げていた。
「何なの、それは」
タバサの抱えているそれは何とも奇妙な代物であった。
固定化がかけられているのか、鏡のように磨き上げられた白銀の塗装は日の光を照り返すほどに輝いていた。
篭手のようにも見えるがそれにしてはかなりの大きさだ。大人の腕をすっぽりと覆ってしまいそうである。
おまけにその形状も変わっており後部の左右からは羽状、上部には湾曲した爪状の突起が後ろに向かって突き出ているなどかなり手の込んだ装飾が施されていた。
「変わった形ね〜」
「どうやって使うのかしら」
ルイズ達は不思議そうにその物体を見つめて触れたりしている。もちろん、それ以上のことは何もできない。
タバサも何かを感じているのか、じっと物珍しそうに見つめていた。
(ここにも奴の品、か)
だが、スパーダは氷に閉じ込められていた時からこの物体を目にしてそれが何であるかを即座に理解していた。
それをどう使うかも既に心得ている。
「スパーダ」
タバサから取り上げたその篭手のようなものをスパーダはすんなりと右腕に装着する。
「下がっていろ」
一同はその言に従い、聖碑から10メイルほど離れていく。
あれもマジックアイテムのようなものなのか。スパーダは今度は何かしでかすつもりなのだろう。
剣だった時のデルフにしろ、ルイズは見ていないがルーチェとオンブラの銃にしろ、手に入れた代物はすぐに試そうとするのが彼の性分らしい。
「相棒? そいつもまさか……」
デルフが語りかけた途端、スパーダは右腕の篭手をまだ凍り付いている聖碑の石版に突きつけていた。
スパーダが篭手内部の引き金を引くことによって先端には桃色の光が生み出され、低い唸り音を響かせている。
魔力が収束していくことで、徐々にその光は大きくなっていた。初めは握り拳程度の大きさだった光はその倍にまるで膨れ上がっている。
そこまで大きくなった所で、スパーダは内部の引き金を離した。
「きゃっ!」
閃光を発し、ルイズ達は思わず目を腕で覆った。
そんなに強い光ではなかったため、すぐに視線を戻す。
そこではスパーダが右腕に装着する白銀の篭手から一筋の光線を放っていた。
石版の表面を覆う氷に放射されていくその光は熱を持っているのか氷を徐々に溶かしていく。
スパーダは腕を動かしては光線を当てる場所を変え、少しずつ氷を取り除いていった。
「何か、変なやり方をしてるわ」
「そうねぇ。何をやっているのかしら」
スパーダはあの白銀の篭手から発せられる光線で氷を剥がしているが、何故か所々に点のような氷を残しており、それに光線を当てようとはしない。
明らかにわざとやっているようであるが、ルイズ達にはスパーダの意図がよく分からない。
「彼は的を作ってる」
じっと観察していたタバサが彼の意を察したようにぽつりと呟いた。
「的を?」
またルーチェ、オンブラの射撃でも行うのというのか。わざわざ自分で的を作ってまで試そうだなんておかしな話だ。
既にあの二つの拳銃の性能は実証されているというのに。
308 :
代理投下:2012/10/20(土) 21:14:49.40 ID:YQ/2KfdH
「相棒の銃に比べると何かえらく地味だな」
左腕のデルフが肩透かしを食らったように呟く。
やがて石版の氷のほとんどを剥がしきったスパーダは光線の放射をやめ、最後に意図的に残した10ヶ所の氷の的を凝視していた。
これで全ての準備は整った。この篭手――魔具の真価は標的が多数存在する時にこそ発揮できるのだ。
かつてテメンニグルでも同型の代物を見たことがある。あれは塔内部の道の一角を封印するための仕掛けとして利用されていたはずだ。
魔力を無数の矢として放出し、多勢の敵を射抜くために生み出された魔銃。
災厄兵器パンドラと同じく魔界の銃工マキャベリーが作り出した一品。
――魔閃弓アルテミス。
今、デルフが地味だとぬかしたがならばその真価を試してみるとしよう。
そのためにこうしてわざわざ的を作ってやったのだ。
スパーダは再びアルテミスの銃口に魔力を溜め始める。先ほどと同じように銃口に生み出された光が収束し、大きさも調整されていった。
先ほどは標的を定めずに溜めた魔力を一点に集中させて放出させたが、今度は違う。
視界に映る20の氷の的を意識しつつ、溜めた魔力を分割させていく。
ただそれだけで良い。無理にスパーダ自ら狙いをつける必要はない。
「何っ!」
「きゃっ!」
アルテミスの銃口に集まっていた光が放出と同時にさらに小さな20の光へと分裂していった。
その光から射出される魔力の矢が尾を引いて次々と氷の的目掛けて飛んでいく。
分裂した魔力の矢は的確に氷の的を射抜き、次々と撃ち砕いていた。
当然、これだけで済ませるつもりはない。自分で作った的はもうないが、的がなくてもアルテミスの力は行使できる。
スパーダが頭上にアルテミスを掲げた途端、各所のパーツが瞬時に変形し展開された。
展開されたパーツが露になった右手を包む銃身を軸にして勢いよく回転し、次々と光球が上空に打ち上げられていく。
ルイズ達は天高く打ち上がった光球を呆然と見上げていた。
やがて上空で四散した光球から無数の光が地上へと降り注ぐ。
アルテミスのパーツを収納していたスパーダは空を見上げ、細かい雨のように降りかかる光を凝視していた。
スパーダの周りに降ってきた光は次々と大地に突き刺さっては小さな傷痕を残していく。
何故かスパーダ自身には落ちてはこず、必ず彼を中心にしてその周りにだけ光の雨は降り注ぐ。
「すごい……」
ルイズ達は思わずその光景に目を奪われ、息を呑む。
彼が悪魔である以上、やることなすこと不思議なことばかり。平民であるシエスタはもちろんのこと、貴族でありメイジであるルイズ達の心を度々捉えていた。
「こいつはすげえな! 良い花火になりそうだ!」
侮っていたアルテミスの力を見せ付けられたデルフは興奮し、歓声を上げていた。
(まあまあだな)
魔具も重要な戦力の一つであるため、ここで手に入ったのは幸いだった。ルーチェとオンブラやパンドラのことも含めてマキャベリーには感謝せねばなるまい。
アルテミスの実証が済んだため、スパーダは何の感慨もなく振り返るとルイズ達の元へと戻っていった。
「ちょっと! 一体、何なのよそれは! 何で」
「そうだな。破壊の魔銃≠ニでも言っておこう」
アルテミスの力を目の当たりにして驚くルイズにスパーダは手短にそう答える。アルテミスの理論をここで話した所で時間の無駄だ。
「ここにはもう用はない。村へ戻るぞ」
「あ! 話はまだ終わってないのよ! 待ちなさい!」
足早に広場を去ろうとするスパーダの後をルイズは慌てて追いかけ、後の三人も続いていった。
ルイズは何としてもスパーダから全てを聞き出さなければならないと感じ取っていた。さもなければ必ず後悔してしまう。
「何なのよ! あの石版もそのマジックアイテムも色々知ってるんでしょう!? あたし達にも話しなさいよ!」
「今ここでは話せん」
スパーダはちらりと肩越しに振り返ると、広場の奥に建つ聖碑とシエスタ達が呼ぶ門を……己の故郷へと続く扉を見つめていた。
309 :
代理投下:2012/10/20(土) 21:16:43.54 ID:YQ/2KfdH
タルブの村へと戻ってきた頃にはすっかり日が傾き、空は赤茶けていた。
スパーダ達はシエスタの生家で泊めてもらうことになり、シエスタの両親は遺跡に居座っていた幻獣――ケルベロスをスパーダが打ち破ったことを
シエスタの口から聞かされると、娘が世話になったことを含めてすっかりスパーダに対して敬服していた。
シエスタの弟達はケルベロスを倒したというスパーダにすっかり懐いている。
一件落着ということで、各々は夕食の準備ができるまで休息を取ることになった。
ルイズ達はシエスタの家で待機しており、スパーダが右腕から外していたアルテミスを預かっている。
スパーダは外へ出ると村の側に広がる草原へと足を運んでいた。
夕日が草原の彼方に山の間に沈んでいく。そこは広大な草原と小高い丘が連なっており、スパーダも思わず感嘆する景色だった。
「なあ相棒よ。例の石版のこととか娘っ子達に話さないのかい?」
「安々と人前で話せることではない。お前も今日はよくやってくれた。戻っていいぞ」
左腕に装着したままのデルフが話しかけてくるが、スパーダはデルフを魔力に変えて体内へと戻していた。余計なことを喋ってもらっては困る。
それからすぐ、草原の中にシエスタの姿を見つけるとスパーダは傍へと近づいていく。
(スパーダさん……)
草地に腰を下ろしていたシエスタは気配を感じ取り、それがスパーダであるとすぐに分かってしまった。
びくりと震え上がり、自分の隣に立つスパーダを恐る恐る振り向き見上げる。
得体の知れない本能のおかげでスパーダさえも恐れるようになってしまったシエスタはいつものように屈託なく話すことができないでいた。
力無き者が力ある者に気安く話しかけるなど、無礼な行為なのだ。
その本能に自然と従っていることにシエスタは自己嫌悪を感じていた。
認めたくなどなかった。今、ここにいる人が、自分を人間と認めてくれた人が、自分と同じかもしれないだなんて。
それだけで彼を恐れてしまうなんて。
「私もブラッドと同じだ」
唐突に口にしたスパーダの言葉にシエスタは目を見開き、愕然とした。
「私を恐れるのも仕方のないことだ。だが、それで己を否定することはない」
スパーダも既に分かっていた。シエスタが悪魔の血を目覚めさせたことでその血に宿った悪魔の本能も目を覚ましたことに。
本来、下級悪魔は己より力のある格上の悪魔を恐れるもの。それが弱肉強食の魔界の住人達の性分だ。
悪魔の血を宿すシエスタもその本能に従い、スパーダやケルベロスなどの上級悪魔を恐れていたのである。
「申し訳ありません。スパーダさんは本当はとても良い人なのに。……わたし、とても失礼なことを」
「気にするな」
「スパーダさんは怖くないんですか? ……悪魔であることを知られても」
「私を拒む者がいるのであればその前から消える。それだけのことだ」
躊躇いなく冷徹に答えるスパーダにシエスタは驚く。
スパーダは人間の血が混ざっている自分とは違い、曾おじいさんと同じ純粋な悪魔。自分なんかとは考えも違うのだ。
「わたし、やっぱり怖いんです。……得体の知れない何かがどんどんわたしを変えていきそうな気がして」
膝を抱え、顔を埋めるシエスタ。
「もしも自分が悪魔の血を引いていることで誰かに拒絶されたらと思うと……。学院のみんなやこの村の人達……それまであったはずのものが失われでもしたら……」
「そうなるまでに己を認めさせてやればいい」
スパーダの言葉にシエスタは顔を上げ、振り向く。
彼の左目に付けたモノクルが夕日の照り返しを受けて微かに煌いている。毅然とした顔で彼は沈みゆく夕日を見つめていた。
「君は紛れもなく人間だ。だが己を否定し続けていれば、他の者に己の存在を認めさせることもできはしない。
君が人であることをその時までに他の者に認めさせ続けていれば、たとえ君の真実を知ったとて拒みはせん」
現にスパーダもルイズ達やオスマンにも認められたのだ。悪魔ではなく、人間として。
「人として生き続けたいのであればそのようにするがいい」
踵を返し、スパーダは村の方へ戻ろうとする。
310 :
代理投下:2012/10/20(土) 21:18:39.66 ID:YQ/2KfdH
「あ、あの……!」
立ち上がったシエスタはスパーダの背中に向かって呼びかけた。
スパーダは振り向かぬままその場で立ち止まってくれた。
「も、もしも……わたしの行く所が失くなったら……その、スパーダさんのお傍にいても良いですか!?」
「メイドとしてなら構わん」
即座に返してくれた答えにシエスタは嬉しさを感じずにはいられなかった。
「だが、そうならぬように力を尽くせ」
再び歩き出したスパーダの後を、シエスタは主に付き従うように付いていく。
やっぱり彼も紛れもない人間なのだということに改めて感じ入っていた。
深夜、シエスタを含む村の者達が寝静まった頃。
スパーダは自分に宛がわれた部屋にルイズ達を集めていた。
結局、ルイズ達に深夜になったら全てを話すということを伝えてその時を待っていたのである。
念のためにタバサによって部屋の壁や扉などにサイレントの魔法をかけたため、音が外に漏れることはない。
「それじゃあ話してちょうだい。あの石版は一体何なの?」
腕を組んだまま椅子に腰掛けるスパーダと向かい合い、仁王立ちするルイズが単刀直入に問いかける。
「ダーリンがあんなに気にするくらいだもの。何かあるんでしょう?」
キュルケもタバサも同じように例の聖碑≠ニ呼ばれている石版の詳細について気になって仕方がなかった。
悪魔であるスパーダは気にかけるのだから、曰く付きな恐ろしいものではないかと薄々感じているくらいである。
「あれは聖碑などではない。……地獄門≠セ」
「地獄門?」
かつてスパーダが領主として治めていた地、フォルトゥナ。
そこで暗躍していた悪魔達の手により建造された人間界と魔界を繋ぐ力を持った巨大な装置であり、門なのだ。
昼間、あの広場で目にしたあの石版はサイズこそ小さいが紛れもなくその地獄門に間違いなかった。
「あれが、魔界に続く出入り口なの?」
話を聞かされたルイズ達は驚きを隠さずにはいられなかった。あの一見、何の変哲もない石版がそんな恐ろしいものだったなんて。
「私が封印したものよりは小さいがな。だが、あの地獄門でもある程度の数の悪魔達も、ケルベロスのような強力な悪魔ですら通ることができる」
スパーダが告げる真相にルイズ達は息を呑む。
「このアルテミスは動力源として使われていたのだろう。……動いていなかったのは幸いだが」
スパーダは箱の上に置かれた魔銃アルテミスを顎で指す。
もしも地獄門が起動していれば今頃、悪魔達は魔界からあの門を通って直接ハルケギニアに押し寄せて来たのだろう。
タルブの村などとっくの昔に全滅していたのかもしれない。
「で、でも……どうしてスパーダが封じたものがここにもあるの?」
「分からん。だが、悪魔の手により建造されたのは間違いない」
シエスタによると、あの地獄門は六十年前にブラッドがいなくなってからすぐにあれが見つかったという。
ブラッドがタルブを訪れていたのは地獄門を建造するための暗躍だったのだろう。そのための動力源であるアルテミスを用意したのもそうだ。
だが、入り口そのものは開かれなかった。アルテミスが動力源として設置されていなかったからだ。
ブラッドがハルケギニアを侵略されないように細工をしてくれたのだろうか。……さすがにスパーダでもそれ以上のことは分からない。
「当然、スパーダはあの地獄門を壊すんでしょう?」
そんな恐ろしい物が放置されていては、いずれあそこを通って悪魔達が攻めてくるかもしれない。
スパーダならばあんな厄介な物を放っておくはずがないとルイズは考えていた。
「うむ。だが今すぐにではない」
「どうして? 放っておいたらあそこから悪魔達が溢れて来るんでしょう?」
キュルケが納得できずに尋ねる。
すると、スパーダは膝を組みだし今まで以上に深刻な面持ちになって一同の顔を見回した。
「……今のうちに、お前達に伝えよう」
重々しく口を開いたスパーダにルイズ達は真顔になって彼を注視し、耳を傾ける。
「今度、日食があるのを知っているな」
「ええ。確か、姫様の結婚式の二日前よね」
「十三年ぶりの皆既日食」
スパーダの問いにルイズとタバサがそれぞれ答える。
311 :
代理投下:2012/10/20(土) 21:20:35.68 ID:YQ/2KfdH
「その日にアルビオンのレコン・キスタが攻めてくる可能性が高い」
「レ、レコン・キスタが!?」
スパーダが口にしたとんでもない言葉にルイズは吃驚していた。サイレントの魔法を施していなければ部屋の外に漏れていたであろうほどの大声だった。
キュルケとタバサも同様に驚いている様子を示す。
「ど、どうしてそんなことが分かるの!?」
「そうよね。不可侵条約を結んでいると言ったってそんなものどうにでもなるようなものだけど、どうしてレコン・キスタが攻めるのがその日だって分かるのかしら」
問いただすルイズとキュルケにスパーダも頷く。
「連中の裏には悪魔達の存在がある。レコン・キスタは奴らの手駒に過ぎん。……その悪魔の勢力も同時に攻めてくるかもしれんのだ」
「どうしてそんなことが分かるのよ?」
再度問うルイズに、椅子から立ち上がったスパーダは腕を組んだまま一行に背を向け、窓辺へと向かう。
ルイズ達はスパーダの背を見つめたまま答えを待った。
「我が故郷とこのハルケギニアは人間界と同じだ。普段はその境界線は厚いために直接侵攻される恐れはない。
だが……これまでの調べでこのハルケギニアと魔界は日食が起きている短時間だけだが、一時的にその境界が薄まるようだ」
スパーダが語る詳細に、ルイズ達は顔を顰めた。
「それってつまり……」
恐る恐るルイズが呟き、その後をタバサが引き継ぐ。
「日食が続いている間に、悪魔達はこっちに直接やってくる」
「それじゃあダーリンのマスターだった、あのムンドゥスみたいのが攻めてくるっていうの?」
「その可能性は高い。もっとも、レコン・キスタを操っているのは我が主ではなさそうだがな」
スパーダは魔帝の勢力下で活動していたのだ。自分がかつて属していた勢力の特徴など熟知していることだろう。
ルイズ達はムンドゥスが攻めてくることはないと知って、少しだけ安心する。……気休め程度にしかならないが。
「何にせよ、万が一の時にはお前達にも少し協力をしてもらいたい」
「あったりまえじゃない! あたしはスパーダのパートナーなんだから!」
新調中の杖もそれまでには手に入れていることだろう。スパーダのパートナーとして、彼をサポートするのが自分の役目だ。
この間みたいに悪魔との戦いを舐めてはまたその時と同じ結果になりかねない。ルイズはスパーダに言われたように自分の立ち位置を間違えないことにした。
「私も手伝う」
「当然じゃない。微熱≠フ名にかけて、魔剣士スパーダと共に戦うことを誓うわ」
タバサとしてはその時に多くの悪魔達が狩れれば母を治すホーリースターを作るためのレッドオーブをたくさん稼げると踏んでいた。
それも目的の一つだが、もちろん魔界からの侵略に黙っているわけにはいかない。
まだ先の話だというのに、杖を握る手に力が入る。
「私も一度、地獄門を通って故郷に戻らねばならん。故にあれを今、破壊するわけにはいかない」
「え、ええ!? どうして!? 何でわざわざ魔界に行っちゃうの?」
スパーダが魔界に里帰りしようとしていることにルイズは驚きを隠せない。
「必要なものがあるからだ。これからの戦いのためにも、それを取りに行かねばならない」
魔界の奥深くへと封じたスパーダの分身。今のスパーダの力では魔界の勢力に対して短期戦を仕掛けることはできない。
特に、ムンドゥスに匹敵する最上級悪魔が現れるようであれば長期戦に持ち込んではハルケギニアに甚大な被害をもたらしてしまう。
スパーダはあの地獄門を通り、己の力を封じた分身を取りに行くことを決めていた。
もっとも、今あの地獄門を不用意に開けば悪魔達がなだれ込んでくるかもしれないのでもう少し様子を見てからだが。
ゆっくりと振り返ったスパーダ三人の顔を見回し、告げる。
「ハルケギニアの民達よ。私と共に、戦ってくれるな?」
重々しく威厳に満ちた声のスパーダにルイズ達は黙したまま首肯していた。
一瞬たりとも決して気を抜けない戦いが始まろうとしている。
相手は同じ世界を生きる人間ではなく、異世界からの侵略者。人間の力を遥かに超越した存在。
その恐ろしい者達との戦いを生き抜くためには自分達にできることを精一杯やるしかないのだ。
今回はこれでおしまいになります。次回よりタルブ戦へと移ります。
なお、作中に出てくるアルテミスについてですが、イベントでしか使えない技を使わせていますのでご了承ください。
以上、代理投稿終了です。
312 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/21(日) 03:00:39.75 ID:Qq0QCphC
パパーダの人、乙です。
まさかパパーダが故郷の魔界に帰るとはさすがに命懸けですね。
>>300 鉄拳からアリサ←首ポロリ
タイラーからクライバーン(老)←眼球ポロリ
パラドキシアから人体模型←内臓ポロリ
ええと後あったっけ?
ワンピースにバラバラになる人いたよね
315 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/21(日) 11:35:02.47 ID:6EZTlZhF
あれか、青い鼻のピエロみたいなやつか
首ポロリ…
猛毒怪獣ガブラ
くの一超獣ユニタング
百足怪獣ムカデンダー
蜃気楼怪獣ロードラ
首をはねられたくらいじゃビクともしない連中
ルイズに御せるかは知らんがな
ルイズが将門公を召還するようです……だめだ、作者が原因不明の病気にかかってエターな未来しか見えない
>>317 将門と言えば海音寺潮五郎原作の大河がある。
小ネタっぽいが、キュルケの誘惑イベントで
将門の場合→狼狽する様子が浮かんだ。
平貞盛の場合→ルイズが乱入してきて一体、何をしているのよ!喚くが
貞盛「こうして男女が床を共にしていることの意味がわからぬのか?」
という展開が思いついた。
生首女神と聞いて
ゆっくりしていってね!
誰かがブロッケン伯爵を言い出すと思ったんだが……
ブロッケン伯爵は自分の首を床に叩き付けて
痛がった事がある人(なのか?)だよね
>>323 身体を真っ二つにされて「大丈夫か私の体! しっかりしろ!!」と
胴体を心配したこともあるぞ。
妖魔夜行から首酒を呼ぶのか。
「ゼロのルイズが酒を……いや、首を召喚したぞーっ!?」
「ル、ルイズ……大丈夫か?」
「……(グビリ、ゴクゴク)……大丈夫……むしろ調子が良くて最高の気分よ……」
酒と首……間をとって吸血鬼さんを…紳士さんを呼び出そう。
まあ、契約がベーゼだなんてお下品ザマス!
…ごめんなさい
行くでガンス
時代劇とのクロスオーバーってあんま見ないよな
破れ傘刀舟とかだったらガンダールヴと相性良さげだし医者だからカトレアとタバサの母相手に活躍出来そう
あとデュープリズムの人待ってます(´・ω・`)
時代劇ですか。
何時の頃からかタルブに伝わる異国の領主、水戸黄門の話を聞き、本編どおりの(結構迷惑な)行動力を発揮して諸国漫遊にでるアンリエッタ姫……ありうるな。
アンアンだとむしろ吉宗の方かも・・・・・
その場合情報元がOOOの可能性もあるが
「海坂の使い魔」とか「ゼロに覚えあり」とか「坂の上のゼロ」か。
木枯らし紋ゼ郎
ゼロ長三国志
小ネタ的な展開なら、暴れん坊将軍の吉宗召喚。
縁談話を持ちかけられて、逃亡する新さんw
何故かウェールズ皇太子がレコンキスタのアジトに乗り込む。
「愚か者が!世の顔見忘れたか!」→「ウェールズ皇太子だ。ははーっ!」
→「皇太子はアルビオンで死んだ!こやつは偽者じゃ!」
という荒唐無稽な展開が・・・。
ジョナサン召喚はよ
ジョジョスレの方にあるでしょ<ジョナサン
いや、SF小説の「ジョナサンと宇宙クジラ」の主人公のことかもしれん
カモメのジョナサンとかもう素でファンタジーの住人だよね
FFTのウィーグラフ、ミルウーダが召喚されたら色々面白そうだよなアンチになるだろうけど
アルガスが召喚されたら平民からめちゃくちゃ嫌われそう。ヴィリエとかクズ貴族等とは馬が合いそうだが
>>311 フォースエッジは持って来なくても今のままで充分と思うけど。
せっかくリベリオンとヤマトがあるのに。
ヤマトは見てみたいなあ
『氷原のラグドリアン!反射衛星砲撃破せよ!』
>>340 ウィーグラフとミルウーダだと、
ゼロ魔世界の平民達からは、「そりゃ確かに貴族は嫌いだけど殺すなんてそんな…」とドン引きされ
アルガスだと、
ルイズ含む学院の貴族達から、「いくら相手が平民でもそんな非道なやり方は許せないわ!」と言われそうな気がするw
そういえばムスタディオ召喚されたのあったけど、フーケがルカヴィ召喚する直前で止まっちゃってたな…
>>343 アルガス「俺は没落したが貴族だった」
他「嘘乙」
ラムザとその仲間達のような悪く言えば理想主義者な連中だと
ゼロ魔世界でも馴染めそうだけど(イヴァリースに比べれば遥かに平民にも優しい世界だし)
敵に回ってる連中だと、ゼロ魔世界はぬるま湯で馴染めないような気がする俺
ちょっと流行りっぽくなりそうなのを俺得すると、
『Re : Monster』のゴブ朗だな。
どの段階で呼ぶかにもよるが、三日目あたりまでに呼ばないとゴブ美が包丁を腰だめに構えたり「お兄ちゃんどいてそいつ殺せない」とか言い出したりしそうだ。
ルイズ「どうしてこうも良くしてくださるんですか?」
バロン「かつての思い出、貴公と同じように辛いものばかりだったからだ」
ジョナサンといえばこっちだろう
バロンの中身?言わずもがな))
>164
>またワイヴァーンのような亜竜族も、ほぼ動物並みの知能しか持っていないという。
四版のことか―!
349 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/23(火) 00:39:47.56 ID:xuhHJEfJ
上の方で書かれてたけど、デュラハンみたいな「パッと見人間っぽいけど数分後には人外である事がはっきりする」っていう度合の人外が召喚される作品も見てみたいな。
吸血鬼系のキャラが召喚されるのはあるけど大体パッと見人間と見分け付かない連中だし。
でもそういうキャラってデュラハン以外に何かあるっけ?
R・田中一郎ともうしたか
>ぱっと見人間首ポロリ
アラレちゃん。人間そのものだが、平気で人前で首を外す
寄生獣の方々。キャラにもよるけど3秒で皆殺しアンド胃袋へ……ってグロじゃねーか
首がとれるというと鉄腕アトムかな
なんでか知らんがよく取れてるイメージが
顔からうどん玉ほどの……
首が取れるのなら、小泉八雲の怪談からろくろ首を召喚すれば済む話
アンパンマンは人間にはちょっと無理があるか
耳ないし
首ポロリが持ちネタのキャラクターってけっこういっぱいいるんだな
>>352 田宮先生なら理性的なうえに、一対複数の戦いで『〇匹いれば勝てると思ったのか?』を披露してくれるぞ
マーラ「ポロリ?」
ポロリどころかモロ出しじゃないですか
なら愛野狩人を呼べば・・・
「愛野君がまた死んでるぞ―」
サールティーロイヤーリー
巴マミ
たこルカやゆっくりを呼べばいいと思うよ。
そして ようこそ! 我が永遠の肉体よ!
>>361 残念だったな、既に小ネタで愛野君は呼ばれているのだよ
首ポロリはしていないが
>>363 ポロリ以外にも属性のデパートみたいな人だから召喚された後もネタには事かかなそう
見たいのはテファに呼ばれて「お友達になりましょう」と言われたときのパターンとかかね
パプワくんのアラシヤマ思い出した
誰もいないようなら十分後に投稿を開始します。
既に30分後だが
それでは開始。
朝食を終えたルイズと覚悟はその足で教室へと向かう。
ルイズが言うには使い魔のお披露目を兼ねる大切な授業であり、拒否権は無いとの話である。
尤も、授業内容に強く興味を惹かれていた覚悟に断る理由など無く、これを了承。
そうして辿り着いた石造りの教室。
教師が用いる教壇と、それを中心にして階段状に配置された机が並ぶ。
覚悟の知る日本の大学で用いられていた講義室。それが最もイメージに近しいものであった。
「……」
二人を迎えたのは一瞬の沈黙。
教室内に足を踏み入れるや否や、先に到着していた生徒達の視線が一斉にルイズへと集まった。
その沈黙が少し続いたかと思えば、くすくすと小さな笑いが漏れ聞こえ始める。
「……いくわよ」
その様子に憮然とした表情を作り立ち竦んだルイズだったが、すぐに大股で歩き出した。
ピンと張ったルイズの背に続きながら、覚悟は周囲へと視線を巡らせる。
各々に使い魔を連れた生徒達によって、教室内はさながら動物園のような有様であった。
室内を飛び交うカラスや猫、生徒の肩に乗った大きな梟。
窓から教室内を覗き込む巨大な蛇や、その先の中空で旋回する鮮やかな水色の竜。
数人の男子を侍らせたキュルケの椅子の下では、彼女の使い魔であるフレイムが寝こけている。
凡そ覚悟にとっての常識では考えられない光景だったが
それでもなお生徒達の視線がルイズと覚悟へと向かう事実に、やはり『平民の使い魔』という存在の異質さを否応無く認識させられた。
嘲笑と奇異の視線を浴びながらも、やがて最奥最上段の席の一つにルイズは腰掛ける。
覚悟はその背後にて、ただただ仁王立ちするのみであった。
「あんたも座りなさいよ」
直立不動のまま動かぬ覚悟を見兼ねるようにして、ルイズが不機嫌そうに言う。
本当は貴族用の席だけど、と釘を刺したうえで。突っ立ってられると邪魔だから、と着席を促す。
確かに、と一つ頷いて覚悟はルイズの隣に腰を落とした。
程無くして紫色のローブを纏い帽子を被った中年女性が現れ教壇に立つと、教室内を見回した。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ
……ミス・ヴァリエールもよく召喚を成功させましたね」
そして、ルイズとその隣で座る覚悟に一瞬目を丸くしたシュヴルーズだったが、すぐに満足そうな微笑みを浮かべてそう言った。
ふくよかな外見から受ける印象そのままに、穏やかで優しい口調。
そこには一切の悪意が含まれていなかったものの、その言葉を受けて教室内はどっと笑いに包まれる。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、変な格好の平民なんか連れてくるなよ!」
一人の男子生徒がからかいの言葉を投げかける。続けて周囲からあがるのは、既に聞き飽きた感のある嘲笑。
白ランを『変な格好』呼ばわりとは心外だったが、ここまで来るともはや呆れが先に立つ覚悟である。
故に反応を返す必要も無しと判断したのだが、隣のルイズは違ったらしい。
さっと頬を紅潮させたルイズは椅子を蹴る勢いで立ち上がると、声の主である小太りの生徒を睨み付けた。
「違うわ! きちんと召喚したわよ!」
「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう!?」
長いブロンドの髪を揺らし、外見相応に可愛らしい声に必死の怒りを込めて叫ぶルイズだが。
特徴的なガラガラ声で返ってきたのは、やはり挑発の言葉であった。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」
癇癪を起こしたルイズが握り締めた拳を振り上げるのを見て取ると、シュヴルーズが手にした杖を軽く振った。
するとマリコルヌと呼ばれた男子生徒とルイズが、まるで糸の切れた人形の如く、すとんと席についた。
これには何事かと目を見張る覚悟であったが、ただしょんぼりと俯いているルイズを確認して口を噤んだ。
「お友達を侮辱してはいけません。分かりましたか?」
「ミセス・シュヴルーズ。ルイズの『ゼロ』は事実であって中傷ではありません」
穏やかに諭すように言うシュヴルーズの言葉に被せるようにしてマリコルヌがまた口を開いた。
途端、静まり返った教室内に再びくすくすと笑いが漏れ出すと、シュヴルーズは厳しい顔になって室内を見渡す。
そして再びシュヴルーズが杖を振った時、教室内は元の静寂を取り戻していた。
どこから現れたものか、赤土の粘土が笑っていた生徒達の口をぴったりと塞いでいる。
「あなたたちはその格好で授業を受けなさい。では、授業を始めますよ」
穏やかにそう言ってのけたシュヴルーズの姿と彼女が行使した魔法の威力に、覚悟は瞠目して頷くのみだった。
「私の二つ名『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに講義します」
このような自己紹介を前置きとしたシュヴルーズの授業は、一年のおさらいのような内容から始まった。
『火』『水』『土』『風』そして伝説と呼ばれる『虚無』の五系統に分かれた魔法の概念。
それらを確認した後、その中における『土』の役割とその重要性を説いてゆく。
東方における陰陽五行や西洋の自然崇拝とはまた異なるその体系は、覚悟にとってこの世界の道理を知る上で非常に興味深いものであったが。
どうやら他の生徒達にとっては、既に聞き飽きたような内容だったらしい。
熱心に講義へと聞き入っているのは覚悟と、その隣に座すルイズくらいのものである。
ルイズと覚悟はお互いに会話も無いままに、やがてシュヴルーズの講義は実技の段階へと進む。
「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である『錬金』を覚えてもらいます。一年生の時に覚えた人もいるでしょうが……」
基本は大事です、と続けてシュヴルーズは小石を置き、それに向けて杖を振り上げる。
そして短く何事かを呟くと、見る間に小石が光に包まれてゆく。
光が収まった時には、ただの石ころであった筈のそれは黄色の光沢を放つ金属に変わっていた。
「ごご、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」
席から身を乗り出し、興奮した様子で問うたのはキュルケである。
対してただの真鍮だと答えながら、シュヴルーズは今一度教室内を見回し始める。
そうして何かを探すように視線を彷徨わせ、やがて目当てのものを見つけたようににっこりと微笑んだ。
「さて、では一通り説明が終わったところで――ミス・ヴァリエール、この石を錬金してみてください」
シュヴルーズの視線の先にはルイズの姿。
しかし、それを受けたルイズは返事もそこそこに顔色を青ざめさせるのみ。
教師からの指名にも関わらず動こうとしないルイズに、覚悟が訝しげな表情を浮かべた時であった。
「先生、危険です」
キュルケが再び、きっぱりとした口調で言い切った。
その言葉にぴくりと肩を跳ねさせたルイズだったが、抗議の声をあげることはついに無く。
先のマリコルヌを相手にした時のような威勢はどこにいったのか。首を傾げるのは覚悟である。
そんな中、相変わらずゆったりとした調子で『何故』と問い返すシュヴルーズだが、キュルケは頑なな口調で言葉を続けた。
「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ。ですが彼女が努力家ということはよく耳にしていますよ」
そう言ってにっこりと屈託の無い微笑みを浮かべたシュヴルーズにキュルケは返す言葉も無い。
そして目前で行われるこの遣り取りに背を押されたのか、満を持してルイズが立ち上がった。
瞬間、周囲の生徒達の間で――特に教壇に近い席に座った者達――どよめきが起こる。
「ルイズ。やめて」
何故か顔色を蒼白へと変えたキュルケが、教壇へと進むルイズの背に言葉を投げる。
そこでルイズは一度立ち止まるものの、振り返ることなく再び教壇へと向かってゆく。
それは不可思議な光景であった。
ルイズが教壇へと一歩一歩と近づくたびに、生徒達が我先にと机の下へ身を隠すようにして潜り込む。
窓際に座った生徒が、己の使い魔らしき小鳥を外へと放し……否、逃がしている。
状況を理解していないのは未だ微笑みを絶やさないシュヴルーズと、ルイズの背をじっと見送る覚悟のみだった。
ややあって教壇へと辿り着いたルイズが、子供に言い聞かせるようなシュヴルーズの指導を受けて杖を握り締める。
傍から見れば微笑ましい光景だが、覚悟はルイズの表情に『真剣』を見て取り息を呑んだ。
人間が真剣になるとはいかなる意味であろうか?
真剣になるとは、真剣と化すという意味である。
真剣と化すとは、心技体が真剣の如く武器化している状態である!
何事か呟きながら杖を振り上げたルイズは、今まさに真剣そのもので――――
地獄開始。
脳裏を過ぎる四文字を、覚悟は首を振る事で思考から追い出した。
更に拳を握りしめる事で冷静を回復しながら、覚悟は周囲へと視線を巡らせる。
左を確認。叩き起こされたキュルケのサラマンダーが、火を噴いて暴れている様を観測。
右を確認。大型の幻獣――マンティコアと云うらしい――が飛び上がり、窓を突き破る形でのダイナミック逃亡を敢行。
そこで覚悟は一旦目を閉じる。
「俺のラッキーが蛇に食われた! 俺のラッキーが!」
阿鼻叫喚の中で、不幸な誰かの悲鳴が聞こえた。
ゆっくりと瞼を上げ、中央の教壇を見下ろす。
どうやら気絶したらしい煤だらけのシュヴルーズと、よろよろと立ち上がるルイズの姿を確認した。
その有様は、一言で言うなら無残に尽きる。
ブラウスが破れて白く華奢な肩が剥き出しになり、スカートは裂けて可愛らしいぱんつが丸見えになっている。
美しい髪と整った顔立ちは、今や見る影も無く煤で汚れ真っ黒である。
「ちょっと失敗しちゃったみたいね」
背筋を伸ばし腰に手を当てすました調子で言ってのけるルイズだが、返ってくるのはブーイングの嵐。
怒号と悲鳴が吹き荒れる教室内で、一人冷静を保った覚悟は思考する。
――早急にルイズの着替えを用意すべし。次いで掃除用具と、割れた窓ガラスの交換が望まれる。
自分が行うべき事を的確に判断し、覚悟は迅速に行動へと移した。
「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」
「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
怒声に背を追いかけられながら、覚悟は確りとした足取りで教室を後にする。
早朝シエスタと出会った事で、使用人宿舎の場所を把握していたのは不幸中の幸いであったと言える。
それから二時間後、息を吹き返したシュヴルーズによってルイズへと命じられた教室の片付けは、予想外に早い完了を見せた。
どれくらい早かったかと言うと、今現在のルイズが『アルヴィーズの食堂』にて昼食の配膳を悠々と待つ余裕がある程度には早く終わった。
数分前に「汚れた衣服を片付けてくる」と言って、今はルイズと別行動を取っている覚悟の働きによるものである。
だが配膳を待つルイズの表情は酷く暗く、その胸中はこの上なく悲痛なものであった。
「……」
騒ぎが沈静化する前に、ぼろぼろのルイズへと着替えを手渡したのは葉隠覚悟である。
ルイズが混乱に乗じひっそりと教室を抜け出し、着替えを終えて戻ってくる頃にはもう、重たい机を運び出している最中だった。
『おーい平民! 『ゼロ』の使い魔なんかやらされて、大変だなぁ!』
その間浴びせられる生徒達の視線や、たびたび投げかけられる心無い言葉など一切気にも留めない。
替えの窓ガラスを教室へと運び、濡れ雑巾で煤だらけの教室を拭っていく。
最初は面白半分でルイズ共々からかっていた生徒達も、ひたすら作業に没頭する覚悟に興を削がれたのか三々五々散ってゆき。
運び出された机をルイズがもたもたと拭き終える頃には、教室の清掃完了していた。
「……」
その間、覚悟はルイズに対して何も言わなかった。
彼女が『錬金』に失敗した事についても、その尻拭いをさせられているという事に対しても。『ゼロ』の二つ名が示すその意味についても。
舌打ち一つこぼさず、文句一つ口にせず、白ランを煤で真っ黒に汚しながら黙々と教室の清掃に従事したのだ。
「なんで、何にも言わないのよ……」
ルイズは理不尽な苛立ちをぼそりと口に出して呟いた。
いっそ皮肉な言葉を口に出し『ゼロのルイズ』をからかう歌でも歌ってくれていれば、まだ良かったかもしれない。
そうすればルイズは侮辱された怒りという形に任せて、この屈辱を発散し一時でも忘れる事が出来た筈である。
だが、覚悟はそれをしなかった。
――否。しなかったのではなく、出来なかったのだ。
シュヴルーズの授業を受けた覚悟は、魔法がもたらす威力と利便性とにただただ驚くばかりであった。
脅威から身を守る術のみならず、日々の生活にも深く根ざした魔法の数々。
それを操る事が出来る『貴族』という存在が、この世界においていかに大きなものであるかを痛感した。
過剰に思えた朝食の豪華さや学院の豪奢な造りも、その力の大きさ故にと納得せざるを得なかった。
そして、自身を喚んだルイズもまたその力を持っているのだと、覚悟はついさっきまでそう思っていた。
彼女が自身を召喚せしめたという事実が故にである。
だが、実際には彼女は『ゼロ』……曰く、魔法の成功率を指して『ゼロ』のメイジだった。
講義を聞くところによれば、魔法の力は貴族の血統であれば大なり小なり備えているものであるという。
逆に言えば、魔法が使えないという事はすなわち、貴族でないという事を意味している。
……にも関わらず、ルイズは魔法を使えないという。
貴族であれば、持つべくして持っている筈の力を備えていない。
少々情緒不安定ながらも、共に授業へと臨んだルイズの姿勢は、極めて勤勉なものであった。
そして嗤われながらも気丈な態度を崩さぬその振る舞いから、ルイズには貴族としての強い矜持が感じられた。
恐らくきっと報われぬ努力を続けてきたであろう少女の胸中は、はたして如何なるものであろうか?
先のマリコルヌによる挑発に真っ向から反発した理由も、今ならば理解出来る。
葉隠覚悟の存在は、ルイズが『召喚』『契約』という魔法を成功させたという証拠に他ならない。
その事実を無視したという、その一点がルイズには許し難かったのだろう。
唇を真一文字に結んで机を磨くルイズの小さな背中に『痛み』を見出し、しかし覚悟は沈黙した。
仮初にも主従の契りを交わしたとはいえ、出会って二日も経たぬ関係。
その失敗を朗々と笑い飛ばしてやる事は『痛み』を知りすぎている覚悟には出来ない。
しかし、同情を向ければその傷口を抉るだろう。だからとて彼女を嘲う者を殴り飛ばせば、彼女の抱く誇りをも貶めるのだ。
無敵の鎧を着装い一触必殺の技を以て悪漢どもを打ち倒し、屍山血河を築いた葉隠覚悟。
しかし今。
目の前で静かに出血を続ける心に対して、彼と彼の修める零式防衛術はあまりにも無力過ぎた。
(人類を守りたもう我が力! たった一人の、少女の心すら救えず!!)
覚悟が嘆いたのは、共に泣く頬すら差し出せぬ己の未熟。
葉隠覚悟にルイズを嘲う事など、不可能であった。
一方で、使い魔の心境などあずかり知らぬルイズは、配膳が終わり食事が始まっても未だ立ち直れずに居た。
空腹も忘れたルイズはうつろな表情で、皿に乗せられた鳥のローストをひたすら細かく分解する作業に腐心する。
周囲の生徒が怯えたように視線を逸らす中で、そうやって行き場の無い苛立ちを持て余していた時であった。
己の背後が妙に騒がしいことに気が付き、ルイズは食器を握る手を止めた。
「君のおかげで二人のレディーの名誉が傷付いてしまったよ。どうしてくれるんだい?」
「申し訳ございません、申し訳ございません…!」
見覚えのある金髪の少年……ギーシュ・ド・グラモンが、何故か顔をワインで染めている。
そして地面に顔を擦りつけるようにして這い蹲って謝る、黒い髪を持つ使用人の少女。
経緯は分からないものの、使用人が貴族の八つ当たりに晒されているという事は理解できた。
普段のルイズであれば、すぐに収まる下らない事として傾注もしなかったであろう。
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ……!」
そばかすと黒髪が特徴的なその少女の名を、ルイズは知らない。
しかし別段、ルイズに限った事ではない。
この学院に存在する生徒に、平民である使用人の名前を訪ねる者など何人居るだろうか?
それでも少女に対してルイズが苛立ちを憶え、席を蹴る至ったのは、卑屈に謝るたびに揺れる黒い髪と瞳が己の使い魔を連想させたからか。
「ごめんなさい、じゃないだろう? 僕はどうするのかと聞いているんだ平民!!」
鬱積をぶつけるギーシュの姿が、物言わぬローストチキンを解体する自分自身と重なり酷く滑稽に思えたからか。
ルイズは溜め息を交えながらも騒ぎの中心である二人の元へ歩みを進める。
「いい加減にしなさいよ、男のくせにみっともないわね!」
呆れと苛立ち、同族嫌悪。
そしてルイズ自身が自覚しない、もっと別の『何か』がルイズを突き動かしていた。
肩をいからせ使用人の少女とギーシュの間に割って入ったルイズは、渾身の力を込めてギーシュの頬へと平手を見舞った。
これにて第二話投下完了。次回はまた一週間後ほどに
以上、代理投下終了。投稿する直前にPCの不具合があり、遅れたこと誠に申し訳ない。
>>368 友情といえばボンちゃんだろ
漢の心を知るオカマ
8:20からepisode6を投下します。
「ゼロみたいな虚無みたいな episode6」
「ついに来たのね……」
教室に集合したルイズ達は、憂鬱そうな表情でそうざわめいていた。
「わかっていたけどこんなに早く来るなんて、あの日が……」
「お姉様……、嫌なのね……」
「シルフィード……」
「今が辛くても終わりは来るよ」
ルイズは覚悟の表情を浮かべ、シルフィードは瞳を潤ませ、タバサはそんなシルフィードを勇気づけようと声をかけ、あぽろはそんな一同を慰めるように言った。
フライング申し訳ありませんでした。
「そんな訳でっ、期末試験週間ですっ。みんなっ、頑張ろーね♪」
『おー……』
気合たっぷりでそう檄を飛ばしたあぽろに、他の面子は体がとろけるのではというほど弱々しい声で返した。
「何でみんな元気無いの? テスト中って授業短くなって楽なのに」
「それはそうだけど……」
一同が憂鬱な表情をしている理由がわからないという顔のあぽろに、キュルケは涙を流しつつ答えた。
「テストっていえば、学校でのあたし達の評価が出るって事でしょ? それって緊張しない?」
「ふにゅー」
「アポロは今日から勉強するの?」
「んにゃー、しないー。勉強嫌い……」
「えっ、余裕? それとも覚悟決めちゃった?」
「んむー」
自分の机に顎を乗せたあぽろの頭を撫でたりツインテールを持ち上げたりしつつ、あぽろとそんな会話を交わしていたキュルケだったが、
「こいつ馬鹿だけど頭はいいのよ。むかつくったら」
ルイズがそう言いつつあぽろの首を抱える形で机から引き離した。
「あうー♪ ルイズちゃん褒めすぎ〜ん」
「褒めてないから……」
自分の胸に顔を埋めてそんな声を上げたあぽろに、ルイズは呆れた視線を向ける。
「えー、意外だね、それ」
「でしょ」
「あ、じゃあさ、しばらくアポロ先生に勉強教えてもらうってのは?」
こうして、テスト前の勉強会開催が決定した。
「……という風に計算してー」
「なるほど」
「へー、あたし(体積の求め方)って苦手だったんだけど、克服できそう」
「あ、アポロちゃん、ここはどこの(式を当てはめるの)?」
「どこどこー?」
あぽろ指導の元勉強会が順調に進んでいくのを見てルイズが、
(何か、こういうのって尊敬しちゃうわ。みんなもアポロの事尊敬してきちゃってるし。嬉し--)
と嬉しそうな視線を送っていたところにキュルケが、
「ルイズ……、あれいいの?」
「ん?」
赤面しつつそう声をかけてきた。
キュルケの視線の先では……、
「……この透け透けは……」
「あ、それはルイズちゃんのお姉ちゃんがくれたんだって」
タバサ・あぽろが引き出しを開けてルイズの下着を手に取っていた。
「ななななにしてるのよーっ!!」
「あのねー、ルイズちゃんの下着の説明だよー」
慌てて2人に駆け寄り、2人の手から下着を奪ってかき集めるルイズ。
「もう、やめてよ、人のパンツ広げて見るの〜!」
「別に臭い嗅ぐ訳でなし、許してよ」
するとタバサが小ぶりな下着を手にあぽろに問いかける。
「……この小さなパンツにルイズの大きなお尻は入りきるの……」
「少しはみ出る」
「あほーっ!!」
あまりにあけすけな2人の態度に、ルイズは思わずキュルケの膝に顔を埋めて泣き声を上げる。
「あーんあーん、ツェルプシュト〜」
「よしよし」
ルイズの頭を撫でつつあやしていたキュルケだったが内心では、
(でもあたしも、ルイズの下着は派手すぎると昔から思ってるわよ……)
と考えていた。
一方この騒ぎから1人取り残されていたシルフィードはというと……、
「猫なのねー」
窓の傍にある木の枝にいる猫に手を振っていた。
「あっ、もうこんな時間!」
その後大きく脱線する事も無く勉強会は進み、気付いた時にはすっかり夜が更けていた。
「じゃあそろそろお開きに……」
とルイズが言いかけた時、キュルケ・タバサ・シルフィードは宿泊用具一式を取り出して彼女に見せた。
「……泊まってくの?」
「……そう……」
平然とした表情でタバサはそう答えた。
「っても、みんなこの寮に住んでるんだから、帰ればいいのに……」
しばらく後、寮の大浴場にルイズ達の姿があった。
「たまにはいいじゃん、こういうのも」
「んー」
そう答えつつ並んで背中を流し合っているタバサ・シルフィード・あぽろを湯船に浸かって眺めていたルイズだったが、
「っていうか、テスト前にこんなゆっくりしてて大丈夫なのーっ!?」
「あははっ、だね」
思わず声を上げたルイズにキュルケも笑みを浮かべた。
「でも去年よりずーっと楽しいね」
「うん……」
と呟きつつ、ルイズはシャボン玉で遊ぶあぽろ・シルフィードに視線を向ける。
「(アポロがいると楽しいと思う日が増えたわね。もうちょっと素直になろうかな)……もう今日は夜更かししちゃおうかしら」
「おっ、いいですな」
翌朝。
「寝坊したーっ! 急げ急げ!」
寮から教室まで全力疾走するルイズ・あぽろ。
と、何かに躓いたのか体力の限界が来たのか、あぽろはルイズの後方で転倒した。
「はう〜」
「アポローっ!」
「あ、あたしはもうらめ……。構わず先に行ってえ……」
息も絶え絶えという様子でそう告げるあぽろにルイズは、
「わかったわっ、じゃあね!」
そう言うとあぽろを残し駆け出していってしまった。
1人残されたあぽろが目に涙を浮かべつつ起き上がろうとした時、戻ってきたルイズがそっと手を差し伸べた。
「ルイズちゃん……」
「早く立ちなさいよ、のろま」
「うん」
「世話焼かせすぎよっ」
そう言いつつも、ルイズはあぽろを背負い校舎への道を急ぐのだった。
そして数日後……。
(あー、やっぱり遅刻したから全部できなかったものね……)
お世辞にもいいとは言えない点数の答案用紙を見てそんな事を考えていたルイズの元に、
「見て見て、98点♪」
と満面の笑みで自分の答案を見せに来たあぽろの姿に、思わずルイズの頭部から鮮血が噴出した。
以上投下終了です。
386 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/27(土) 11:19:14.24 ID:r1Lh/zqB
朝から投下お疲れ様
あれ?今日はこれだけ?
現在、2ちゃんねるの書き込み規制の強化につき、本スレも代理投下依頼の急増および書き込みの大幅減少が起きています。
そのため、本スレの活動内容を避難所に一時移転する提案が運営議論スレにて出されています。
ご意見のある方はぜひ運営議論スレにて書き込みください。賛成か反対かの一言のみでもけっこうです。
あの作品のキャラがルイズに召喚されました 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/
規制強化ってまた何かきたの?
テスト
なんか書き込みが少ないと思ったら大量規制が始まってたのか
規制関係ないよね、今の過疎っぷり
規制は追い討ちなだけだな
まぁ、追い討ち防止…かな
全盛期だと流行りもののアニメ主人公が呼ばれてたりしたもんな
そして放送が終わる頃にはエタる
ゼロ魔自体が既に消えてるようなもんだしな
それでもssのブランドとしてはまだ一大勢力ではある
異世界召喚はロマンだよな
魔砲使いは復活したと思ったらまた沈黙状態?
一度書いてみたいけどここの住人に変な奴いるからちょっと気後れするよね
人修羅の人と魔砲使いの人は元から更新スパン長いから気長に待つべ
>>402 元々それで一気に執筆者が逃げた前科がある場所だからな
なんかもっと素晴らしい使い魔が呼ばれないもんかな
「使い魔になってやろうか?ただし、真っ二つだぞ」
ポケモンの人結構楽しみにしてる
寄生獣からミギーが不思議パワーで記憶残したまま幼虫にもどってルイズの腕に寄生っての妄想したが
貴族連中の考え方とか戦争参加とかミギー嫌いそう
アンリエッタとかミギーが一番嫌いなタイプだと思う
んでんでんで?
>アンリエッタとかミギーが一番嫌いなタイプだと思う
それがいいんじゃないか…(AA略
まず最初に「こんな化け物になってしまってはもうウェールズ様に会う事など出来ない!」
とか言って自殺しようとするがミギーに止められる
んでその後色々非論理的な行動に出ようとしてはミギーに実力行使されて止められ
その内に少しづつ考え方に変化が出てくるとか
アンリエッタがミギーに寄生されてるぞw
こんばんは、先々週は規制で書き込めませんでしたが丁度解除されたので5分後くらいに投下します
監獄の後にシャルロットが次に向かった目的地は、巨大な塔であった。
階層にして30にも及ぶそれは、首都においても王女住まう城に負けぬほどの威容を内包している。
そこはトリステイン王立魔法研究所。通称"アカデミー"。
元々は研究と言っても神学のようなもので、実用性よりも純粋に魔法を探求する機関であった。
その中には非人道的実験もあったが、20年前の"変革"によりその有り様が変わる。
体制が一新されてより実践的な研究も盛んに行われるようになり、人道に背くようなことも行われなくなったと言う。
シャルロットはアポイントをとるとすぐに通される。
かつて――自力で魔法を使うことが出来ず、己の進路に迷い続けた日々で興味を持ったのがココがあった。
幼き頃から何度も足を運んでいたし、自分の往く道を決めた後も通っていたのでもはや馴染みであった。
監視や案内もなく、慣れ親しんでいる塔内を軽い足取りで歩いていく。
風石を利用した昇降装置を使い、規定の階で降りると目的の研究室の扉をノックして入った。
「こんにちは、ジョゼフ伯父様」
「おぉ! シャルロット、久し振りだな我が姪よ」
己が父シャルルの兄にして、従姉イザベラの父親。
髭をたくわえてシャルルよりも渋みを増した、これまたワイルドな美形。
「少々散らかっているが、好きなところへ座るといい。何か飲むか?」
「大丈夫」
シャルロットは首を横に振り、適当な椅子に座るとジョゼフの作業が落ち着くのを待った。
ジョゼフはシャルルと比べれば、魔法の才能にはさほど恵まれていなかった。
昔は多少なりとシャルルと共に戦場にいたこともあったそうだが、本人が合わないと若くして研究員となった。
そうしてジョゼフの資質は、何よりも研究分野でこそ存分に発揮された。
その発想力と実現力でメキメキと頭角を現し、すぐに主席研究員へと上り詰めるに至る。
20年前の事件の時には主導者の一人として動き、"変革"を起こした立役者でもある。
アカデミーの"一新された意思決定機関"。評議会員候補にも推薦されるほどの古株で信頼も厚い。
ジョゼフは元ガリア王族という立場を考え、また本人も日がな研究することが好きだった為、これを断る。
結果として今も一研究員としてアカデミーに勤め、その才覚を存分に奮っていた。
シャルロットにとって、ジョゼフはある意味最も頼れる相談相手だった。
伯父と姪っ子の関係は、適度に近く適度に遠い。
考え方も似ている――というよりはジョゼフに大きく影響された、と言っても過言ではない。
博識で合理的な伯父は、特に実際的な指針や具体的な答えが欲しい時に助言を求めたものだった。
またジョゼフの持つ人脈や権力にも、助けてもらうことが多かった。
シャルロットの武装の殆どはジョゼフのツテで手に入れた物だ。
「シャルルから聞いたぞ、大活躍だったそうじゃないか」
「うん・・・・・・、初めて人を殺した」
「俺の言葉が必要で来た・・・・・・ようには見えんな」
「既に私の中で答えは出ているから。そっちは問題ない」
いつだって考え続けると――決めている。ジョゼフは姪っ子の様子に「うむ」と頷いた。
「『白炎』か、大物をよく倒したな」
「地下水とデルフリンガーのおかげ。・・・・・・それはそうと『白炎』のメンヌヴィル、20年前の――」
「ん? ・・・・・・あぁ――そういえば20年前に実験小隊を脱走した男だったな。本人が話したか?」
シャルロットはコクリと頷きながら答える。
「ベラベラと。それで・・・・・・その時メンヌヴィルと争って、村を焼いた隊長を知ってる?」
ジョゼフは美髯を弄りながら考えた。なにぶんかなり前のことで正確に覚えているとは限らなかった。
「確か・・・・・・コルベール、二つ名は『炎蛇』だったか。詳しく調べるか?」
「その名だけで充分」
ジョゼフは疑問符を浮かべてシャルロットは一人で納得する。
"『炎蛇』のコルベール"とまで言われたなら間違いはないだろう。
「アレが変革期の発端でもあったからな。小隊は解体され、今はどこにいるのやら」
「・・・・・・今は学院で教師をやっている」
「なんとっ!! それで聞いたわけか。当時はかなり評判の男だった筈だが」
忠実に命令だけを確実にこなす。軍属であればまさに鑑のような男。
実力も折り紙付きで、実験小隊の中にあってもその優秀さは評価が高かったという。
「今は温和で生徒にも慕われている・・・・・・良い教師」
「なるほど、人は変われば変わるものだな」
一つの疑問が氷解したところで、シャルロットは本題へと入る。
右腰から引き抜いた物を、無言で机の上に置いた。ジョゼフは"それ"を手に持って観察する。
「"これ"は、銃か・・・・・・」
「以前に手紙で書いたから知っていると思うけど、ひょんなことから漂流者を使い魔にして・・・・・・。
その人から譲り受けたのがそれ。異世界のその国、その時代では主流らしい連発式の銃」
「ふぅむ・・・・・・」
「似たようなものとか、見たことは?」
「漂流物そのものが非常に珍しいものだからな、しかも壊れていない現存品はなおのこと。
価値のわからん者が知らず・・・・・・なんてことも少なくないだろう。とりあえず俺は初めて見た」
シャルロットは弾薬をベルトから抜くと、ジョゼフへと投げて見せる。
「それが弾丸――正確には起爆薬と、発射薬と、弾丸を、金属の筒で一体化させた物」
――シャルロットはジョゼフの目の前で、実際に撃って見せる以外のことを実演しつつ説明した。
輪胴弾倉に弾薬を入れて、六連発も出来る機構だということ。
弾薬の底を撃鉄で叩く衝撃で雷管を起爆させ、それが発射薬を爆発させて弾丸が飛んでいくということ。
他にもガトリング銃のことなど、自分が見聞きした限りのことを話す――
「凄いものだな」
ジョゼフはただただ感嘆の声を上げる。ジョゼフはメイジでもある研究者だが偏見はない。
魔法であってもそうでなくとも、一歩引いた視点で観察し、そこから新たな発想が生まれると知っている。
「どう? 生産とか」
その言葉にジョゼフは銃と弾薬を触りつつ考え込み――しばらくしてから否定した。
「難しいな」
「やっぱり、無理・・・・・・か」
「技術的課題も多くあるが、公にこれほどの物の量産体制を整えるには、各所から反発が大き過ぎる。
旧い貴族はやはりまだまだ多いからな。ここアカデミーも未だにやっかみとの戦い・・・・・・頭が痛いものだ」
神の御業たる魔法に手を加えようとすること、また蔑ろにするような研究は異端とされる。
20年前にある程度緩和され、アンリエッタ王女の意向も含め、かなり研究の幅は広がっている。
それでも漂流物を端とした、いわゆる"科学技術"の研究であれば、評議会に通さざるを得ない。
協議して承認を得るにしては規模も大きく、貴族全体の考えとして実現するのはほぼ不可能に近い。
ロマリアの一部では、漂流物そのものを異端として排斥しようとする活動もあると聞くほど。
「――だが個人で、秘密裏にやる分には問題ないだろうな」
「・・・・・・そう、わかった。ありがとう」
銃を機構的に再現し、その生産は可能だろう。
しかし大っぴらに開発出来なければ、以後の進化は見込めない。
発展させられないのであれば、今持っている銃だけでも十分過ぎる。個人で製作する必要はない。
しかし少なくとも、弾薬は消耗品である以上は生産する必要がある。
「この雷管とやらの成分は調べておこう」
ジョゼフがシャルロットの考えを察してそう言った。別の研究に役立てる意図もあるのだろう。
「お願いしとく。そういった解析は不得手だから・・・・・・」
シャルロットはガンベルトに挿してある弾薬をいくつか抜くと、ジョゼフへと渡した。
「それと・・・・・・話は変わるけど、この銃を持っていた漂流者の話――」
シャルロットはそこまで言って迷ったが、意を決して言葉にする。
昨夜の段階ではテンション上がっていたが、一晩経つとやはり不安になる。
時間を置いて考え始めると頭が冷えてきたのだった。
「――『ミョズニトニルン』」
「ミョズニトニルン? ・・・・・・"虚無の使い魔"か」
「そう。私が召喚して、私がそのルーンを刻んだ」
「ほうそれは初耳だ・・・・・・、男だったな?」
「男性だけど、そういうんじゃない。歳の差あるし」
色気づくことでもあったかと、少しからかってやろうと思った伯父は姪に先んじて釘を刺される。
「――つまり自分が"虚無の担い手"なのではないかと、そういうことか?」
皆まで言わずともわかってくれるから、ジョゼフとの会話は楽だった。
いちいち説明する手間がいらない。むしろ逆にこちらが説明されてしまうこともあるくらいだ。
「・・・・・・ありえるかもな」
「っ!? えっ?」
シャルロットは目を丸くする。何故ありえるとジョゼフはあっさりと言い得たのか。
まだ己の持っている情報を全て吐き出したわけでもなく、話せないことも多いというのに。
「自分で言い出しておいて何をそんなに驚く?」
「いや・・・・・・その、虚無は伝説だから」
「確かに伝説ではある。が、歴史を紐解けば該当すると思しき人物はいる」
「・・・・・・そうなんだ」
シャルロットの知識などは所詮市井にある書物ばかりだ。
ジョゼフの持つ本物の知識とは比較にならない。だからこそジョゼフは頼れるのである。
そして――今最も欲してやまぬ回答でもあった。
「確かトリステイン王家の秘宝の中に、既存の系統に囚われず、まるで"虚無を凝縮させたような物"があった筈だ」
「それを昔の虚無の使い手が作ったと・・・・・・?」
「だろうな、ブリミル本人の手による物の可能性もないとは言えんが」
「・・・・・・それで、虚無を発現する人物の共通点とかって――?」
シャルロットの喉が渇いてくる。既に"虚無の担い手"が二人いることはわかっている。
共通点も多くある。その上でさらに考察要素が増えるのならば・・・・・・より確信出来る。
「そこまではわからん。なにせ資料そのものが少ない・・・・・・すまないな」
「いえ・・・・・・――」
シャルロットはどう切り出そうか迷う。ルイズとテファのことを言うわけにはいかない。
デルフリンガーが語る虚無のことも・・・・・・あまり深く話せば、伯父には感付かれるかも知れない。
もちろん知った上で、察して黙ってくれるとは思うものの、いまいち踏み出せない。
シャルロットが悩んでいるのをジョゼフは静かに待ち続けていると、ノックが部屋に鳴り響いた。
「む・・・・・・」
「あっ私のことはお構いなく」
「すまんな、少しだけはずすぞ」
ジョゼフは扉の前まで行くと、来訪者と話し出す。シャルロットは思考を続けながらも、会話を耳の端に捉えていた。
「――"例の件"でミセス・ワルドが・・・・・・。それでロマリアとの――」
「あぁ・・・・・・すまんが明日以降では駄目か?」
ジョゼフは話の内容に慌てて止める。部外者がいるところで話すこと内容ではなかった。
「立て込んでおいでで?」
「客人がいるのでな」
ヒョイッと来訪者が部屋の中のシャルロットを覗き込む。
眼鏡を掛けた凛々しい女性であった。会釈に対してシャルロットも返す。
「流石に親子水入らずを邪魔するわけにはいきませんね」
来訪者は髪色を見て判断する。彼女自身の妹と近い年頃の娘がいると、聞いたことがあったからであった。
「俺の娘ではないがな・・・・・・弟の娘だ。可愛い姪っ子だよ」
「あら、そうでしたの」
シャルロットは思考を中断して立ち上がると、二人の元へと行く。
折角だから顔見知りとして、コネを作っておくのも悪くないと。
昔から通っていたおかげで、特に古株の人達から娘や孫のように可愛がられていた。
しかし引退した人も多く、比較的若年な人達とは所詮部外者である以上、なかなかお近付きにはなれていない。
研究室は個々で独立していて基本排他的である為、出会う機会がそもそもない。
今みたいにジョゼフを間に挟むことで作られる貴重な交友関係だ。
「初めまして、シャルロットと申します」
最大限の礼節を込めた優雅な所作で挨拶をする。
「これはご丁寧に。エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールよ」
(――ラ・ヴァリエールって・・・・・・)
トリステインでその家名を持つのは――ルイズと友人になったばかりの頃の話を思い出す。
彼女が話していた家族関係。目の前にいるのはきっと特徴から判断すれば三姉妹の長女なのだろう。
なるほどそう思い出してから見れば、確かに似ていた。金髪ではあるが、眼鏡の下のキリっとした目元など特に。
「ルイズの・・・・・・姉君ですよね?」
「あら、不肖の妹を知っているの?」
シャルロットは表情には出さずに少しだけムッとする。
家族だからこその関係で言えることもあろうが、わざわざ"不肖"の妹と他人の前で言うのは如何なものかと。
それに今のルイズは伝説の虚無の担い手であり、不肖とは程遠い。
もちろんそんなことを知らないのだから仕方ないのではあるが、それでもままならぬ感情。
「同級生で、友達です」
「おお、そういえば以前にそんなことを言っていたな。はっはっは、貴族の世間は本当に狭いものだ」
「そうだったの、あの子ったら本当に――」
――と、エレオノールは言いかけてやめる。今は二人を邪魔するわけにはいかないと。
「失礼、すぐに退散しますわ。ルイズとよろしくやってあげてちょうだい」
流石にアカデミーに属しているだけはあった。ルイズと違って空気は読める。
そして口ではああ言いつつも、お節介焼きな姉ならではな部分をエレオノールに感じた。
エレオノールは書類だけを渡して部屋を去る。ジョゼフはすぐにそれを机の奥へとしまいつつ言った。
「彼女は土系統専攻の主席研究員でな。たまにああして俺に聞きにくる」
それ自体は特に珍しいことではなかった。研究員は研究員同士で相互に助け合うこともあるからだ。
「どことなく似てる。気が強そうなところとか」
いやむしろあの姉にして今のルイズがあるのか。ある程度聞き及んでいたが実際に会うと印象が違う。
「――そういえば・・・・・・"ロマリア"とも交流が?」
ついつい耳まで届いてことを質問してみる。
ロマリアはオルテを挟んで向こう側だ。共同で何かをするにはかなり不都合が多いだろう。
それにアカデミーでやっている内容は、ロマリアでは異端と判断されそうなものも多い。
アルビオンやゲルマニアの小国家ならともかく、ロマリアと通じているというのは些か引っ掛かった。
「聞こえていたか・・・・・・まあロマリアも一枚岩ではない。時には組む時もあるさ」
なんとなく、なんとなくではあるがシャルロットは察した。
伯父の表情や声音。態度に含まれる、装うような不吉な匂いを敏感に感じ取る。
踏み込んではいけない境界線、単純に自分如きが知ってはいけないようなほどの予感が走った。
「・・・・・・わかった、それじゃあロマリアに用が出来た時は、渡りでもつけてもらうことにする」
「はっはっは! 良かろう。だがあまり期待はするなよ、公の付き合いではないのでな」
こちらが訝しんだこともジョゼフは気付いて、そこはかとなく釘を刺してきたこともシャルロットは受け入れる。
アカデミーには優秀な人材が集まっていて、国家機密クラスですら扱っていてもおかしくない機関だ。
非人道的なことはやっていなかったとしても、裏でどれだけのものが渦巻いているかはわかったものではない。
主席研究員どころか、所属すらもしていない私に教えられる情報などあるわけもなし。
「――さて、考えはまとまったか?」
「え? あぁ、・・・・・・ん。――実はとある情報筋から虚無の条件を聞いて・・・・・・」
シャルロットは中断されていた話を戻す。
弾薬の件もあったが、もう一つの理由は相談する為に来たのに相違ない。
どれだけ話すことを悩もうと今更無駄だと、シャルロットは語ることを決める。
「情報源は明かせない、と」
「ごめんなさい。――それでその条件というのが、才能ある者が"始祖のルビー"と"始祖の秘宝"を持つこと・・・・・・」
「珍しく土のルビーを着けていたのはそういうことか」
ジョゼフはシャルロットの指に光る"始祖のルビー"へと目をやる。本来は嵌めて持ち歩くなど畏れ多いものだ。
「そして"必要な時"来たれば、秘宝が呪文を教えて目覚めさせてくれるということ・・・・・・」
「お前がそこまで言うほどだ。よほど確かな情報なのだろうな」
されどその"必要な時"というのが問題であった。あまりにも漠然としている。
地下水を持つ自分に『爆発』や『忘却』を覚えるに迫られる状況が来るのか。
だからと言って今更地下水は手放せるようなものでもない。
危機的状況に、甘んじて身を投げるのも憚られる。
重大な秘密を然るべき人間に暴露して、わざと『忘却』を覚えようとするなんてことも出来るわけがない。
自分が虚無の担い手である絶対の確証は存在しない。
さらに自分から状況を作り出しておいて、覚えられるとも限らない。
「だから伯父様――呪文について知らないかと」
「んむ、先刻話した"虚無を凝縮したらしい魔道具"というのが、確か人の大きさ程もある姿見でな。
それが二つあって、そこを潜ることによって遠く離れている土地でも互いを行き来可能なもの、だったか」
「サモン・サーヴァントのようなもの?」
「似ているが違う。互いを自由に行き来出来るわけだからな」
(そんなものがあるのなら――)
ウェールズ王子とアンリエッタ王女は、互いの国にいたとしても何不自由なく逢瀬を楽しめるだろう。
浮遊大陸アルビオンという、トリステインと離れている上に独立した土地。
互いに離れて暮らさざるを得ないというのは、二人の婚姻に当たってネックの一つであった。
単なる政略なら良いが、二人は愛し合っている男女で、立場が立場。
されどそんな魔道具があるのであれば、いとも簡単に解消される。
まさかとは思うが・・・・・・そこまで計算済みで結婚し同盟を組もうとしたのならば、少々やり手と言わざるを得ない。
「つまるところ"ゲート"のような魔法・・・・・・」
「そうだな。他には覚えがないが、そこら辺も俺の可能な範囲で調べておこう」
「ありがとう。それと・・・・・・言うのも難だけど、"始祖の香炉"は本物?」
もう一つ確認しておきたかった素朴な疑問。根本的に秘宝が贋物であったら意味がない。
土のルビーの方は、本物である水や風のルビーと意匠が共通している以上、本物で間違いないだろう。
「流石にそれは、俺もまだまだガキだった頃で何とも言えんなあ。ただ由緒ある物ではあった筈だ。
ガリアが滅亡寸前にして、宝物庫に眠る数ある物品の中から、わざわざ持ち出して来た物の一つだからな」
「そっか」
仮に贋物だったとしても、本物がどこにあるかわからなければ意味がない。
そういう意味では、確実な祈祷書やオルゴールを借りるのが一番ではあるのだが。
「そうそう、そういえば――」
「そういえば?」
「んむ、確か虚無は"王家に宿る"と聞いたことがある」
シャルロットの目が見開かれる。ティファニアはアルビオン王家の血が半分、ルイズのラ・ヴァリエールもトリステイン王家と近しい血筋。
自分に至っては滅亡したガリアの直系。であるのならば、虚無の条件としてはこれ以上ないだろう。
「親父がそんなようなことを俺達に言っていた」
「お祖父様が?」
「そうだ、王家に密かに語り継がれる話だったか・・・・・・」
シャルロット達の祖父にあたり、ジョゼフ達の父。
直接に会ったことはない。まだ自分達が生まれる前に亡くなってしまった。
ジョゼフやシャルルとは別にガリアから脱出し、その後に再会したらしいが程なくして逝ってしまったと聞いていた。
秘密としてわざわざ語ったことであれば、信憑性もあるだろう。
「――・・・・・・虚無が必要か? シャルロット」
突然そう問い掛けるジョゼフの双眸は真剣味を帯びていた。
伯父のそんな表情はいつ以来だったか、シャルロットは戸惑う。
「えっ・・・・・・はぁ、まぁ・・・・・・」
「はっきりと言えるのか? 伝説が欲しいと」
(あぁ・・・・・・そういうことか)
シャルロットは少しだけ考えて、ジョゼフが何が言いたいのかを理解した。
このジョゼフの真剣味は、かつて進路について話した時と一緒だった。
虚無はただの魔法とは違う。それがどういうことを意味するのか。
始祖ブリミルの使ったとされる伝説。それを扱うことでさらに複雑になる立場。
強大な力を誰かに利用されるかも知れない。宗教的に祭り上げられるか、もしくは不遜だとして抹殺されるやも。
「俺はな、イザベラも、ジョゼットも、そしてシャルロット・・・・・・お前も――
普通に育ってくれれば良いとも思っている。魔法もいらぬ、人も殺す必要もない」
「・・・・・・うん」
「お前達がどれだけ成長しようと、親にとってはいつまでも経とうとも子供なのだ。
害意があるなら俺達大人が振り払う。お前達がわざわざ戦う必要はない、まして虚無など――」
持て余しかねない力。無理に使う必要などないかも知れない。
だが虚無のことは別としても、少なくとも戦うことに関してはもう決めたことだ。
父のようになりたい。私も何かを守りたい。
国の為に、友の為に、家族の為に――全てが繋がっている。オルテに、黒王軍と、脅威が絶えぬのだから。
――だが、果たして『虚無』が必要なのだろうか。
少なくとも自分には地下水がある。今のままでも不都合はない。
自分自身で魔法が使えるようになりたいというのも、所詮は自己満足だ。
(だけど・・・・・・)
ルイズも言ってたように、力とは使い方次第だ。
本当に欲した時に力がなくて後悔するようなことだけは・・・・・・したくないのだ。
感情論かも知れない――けれどそれもまた自分が立つ場所だ。
(うん・・・・・・)
伯父様は家族という立場から、素のままの心情を敢えて言葉にして煽り、揺さぶっている。
私が安易にではなく、信念をもって虚無を得ようとしているのかを、確かめようとしている。
だから真っ直ぐに答えよう。私は私の決意と覚悟を以てここにいるのだと。
「――私は、"虚無の担い手"になります」
「そうか、ならば楽しみにしていよう」
ジョゼフはフッと笑う――あくまで可能性としての話だったのを、確信をもって言い切った私に。
伯父が先程までのやりとりの中でどこまで察し、理解しているのかはわからない。
だけど私が相応の情報と、何かしらの根拠を携えているということに――その覚悟に対して笑った。
虚無の覚醒、強引にでも関連付けた状況証拠だけでも充分。
そもそもその真偽すら実のところ関係ない。
今まで通り・・・・・・私は諦めずに、我が道を踏破し続けるだけ。
それが虚無であっても、四系統であっても、所詮ついてくる結果に過ぎない。
「えぇ、楽しみにしてて」
改めてシャルロットの中に掛かっていた心の霧が晴れていく。
「んむ、そうやって晴れやかに笑っているほうが美しいぞ」
「っ・・・・・・うぅ」
ついつい見せた油断を突っつかれてシャルロットは気恥ずかしさに俯き、ジョゼフは豪快に笑う。
「――さて、シャルロット。時間はあるのか?」
「・・・・・・? まぁ後は家に帰るだけ。その時にまた――」
「お前の話を聞き、諸々頼まれてやったんだ。俺の話も聞いていけ。
イザベラやジョゼットも、学院に通い始めてからなかなか会えんのでな。
それに聡明なお前だからこそ、俺も気兼ねなく話せることもある」
「ん、付き合う。私にとっても貴重な時間――」
ジョゼフとの会話は楽しいし、アカデミーと研究室には浪漫が詰まっている。
一時はアカデミーへの進路も考えたくらいだったし、知識欲は尽きることがない。
「――でも姉さんとも、たまには語り合うことも約束」
「・・・・・・イザベラと? あいつはこうしてやって来ることもないからなあ」
シャルロットは溜息を吐く。頭は良いが、時に身近な人相手のことほど心の機微に疎い。
「娘心がわかってない、イザベラ姉さんは私やジョゼットがいたから、年長として育ってきた。
思春期や反抗期でもない。半ば諦めと恥ずかしがっているだけで、親に甘えたくない娘なんていない。
別にここでじゃなくてもいい。多忙とは思うけど・・・・・・休日にでも都合つけて、街にでも連れて行ってあげて」
押しを強く訴えるシャルロットのジョゼフはタジタジになる。
昔から割とそうであったが、年を重ねるに連れ、とみに立派になっていく。
物怖じせずにズバズバと――本当にいつの間にか大きく成長しているものなのだと。
「ぜ・・・・・・善処しよう」
「善処じゃ駄目。お膳立てくらいはしてあげるから」
「ん、んむ。わかった、その時は情けないが頼もう。だがひとまずはお前との時間だ。
我がアイデアに思うところあれば忌憚ない意見を聞かせてくれ。お前は意表を突くことがあるからな」
おもちゃ箱さながら、乱雑に置いてある試作品や草案を次々と語り合う。
時に愚痴を零しながら久々に互いに話し、時間はいつの間にか過ぎていった。
――熱くなり過ぎて二人揃って夕餉の時間に遅れ、母と伯母に窘められる伯父を――。
父と共に微笑ましく眺めて笑ったのは・・・・・・また別のお話。
以上です。
本作を書くにあたり、どうしても書きたかったシーンの一つです。
漂流者が存在することで変わっていった多様な関係の内、さらに原作とは乖離する綺麗なジョゼフ。
次回を終えると、そこからは各キャラにスポットが当たっていきます。
ではまた。
乙です
前回投下があってから10日ぶりか……
ドリフターズの人乙でした
やっぱりしばらく過疎ってたのは規制の性なのかな?(´・ω・`)
ディーキンの人とかデュープリズムの人のも続きみたいお(´;ω;`)
「出来る人は本スレに、出来ない人は避難所に」って、ようするに今まで通りだよね
>>424 できない人は代理だから、微妙に違うかと
マスターチーフの人は、今頃4をやってるのかな
移れ移れ言うわりにあちらに投下されたところでほとんど感想付かないのは一緒という
別に移りたくない人はそのまんまでもいいんだよ
ただ投下に関しては、規制で全然機能してないから避難所の方がいいよってだけ
ここで投下できる人は特に関係無い、告知何度もしてるのはどっちかというと読み手の誘導
なんというか、避難所は実力主義なイメージがある、もちろん俺の勝手なイメージだがw
誘導されたはずの読み手が感想付けてないって意味じゃないのか?
432 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 21:57:40.72 ID:CYT8Gxsk
皆さん本当にお久しぶりです。色々あって長らく投稿できませんでしたが、なんとか帰ってきました。
予約がなければ新作を10時丁度から上げようと思います。
>>431 読み手は感想書くことが仕事じゃないしな
日当たりの少ない避難所だから誘導しても本スレより人が少ないのは仕方ない
支援
434 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 22:01:53.77 ID:CYT8Gxsk
それでは始めます。
タルブにて勃発した、トリステインとアルビオンによる抗争。
誰が見てもアルビオン側が圧倒的優位だったにも関わらず、結果は…突如として起こった『謎の光』による現象で、艦隊は全滅。何もしていないトリステイン勢の勝利と相成った。
兵の大半は捕縛され、おまけにこちら側の被害は、全くではなかったがこの戦果を鑑みれば贅沢と言えるほどに少なかった。
まさに完璧な『勝利』。人々はアンリエッタを『聖女』と称え、騒ぎ立てた。
第三十幕 『人斬り』
ここトリステイン魔法学院は、そんな喧騒とは程遠かった。
オスマンからタルブでの勝利について語られただけで、あれから特に何も変わってはいない。
そこは学び舎であるからして、政治関係や戦争とはあまり無縁なのである。
剣心は、暖かい日を浴びながら一人散歩していた。暇な時にする日課の一つにもなっていた。
(……志々雄真実)
まさかあの男まで、この世界にやってこようとは…。
剣心は、これからどうするか本格的に考え始めた。あれだけの敗退だ。志々雄とて暫くはそう迂闊な攻めは行っては来ないだろう。
(だが、もしあの男が刺客を差し向けるとするなら、これまでとは一筋縄ではいかない筈だ)
最悪、戦場の場はこの学院にもなりかねない。
それだけは…避けねばならなかった。今やこの学院は、剣心にとってもう一つの居場所になったのだから。
そんな風に歩いている内、不意に剣心に声が掛かった。
「あ、ケンシンさん!!」
「おお、シエスタ殿」
声の主、シエスタはいつものメイド服に身を包み、待っていたと言うような体で、剣心の所まで来た。
「あの、タルブを救ってくれてありがとうございます!!」
そう言って、シエスタは深々と頭を下げた。あのゼロ戦を飛ばしていたのは誰か、シエスタには分かっていたからだ。そして、誰があの戦艦達と戦ってくれたのかも。
「いや、拙者はそれらしいことは…というか、ゼロ戦をあんなにして逆に申し訳ないというか…」
剣心は、しどろもどろになりながらも答えた。
あの時、剣心は銃器を使いたくないがために、ゼロ戦を乗り捨てたからだ。
勿論、壊れないように最低限の処置はとったのだが、あの後学院に持って帰った時、結構内部の色んなところを破損させたりしたのが分かった。
目立った外傷は無いとはいえ、それでも家宝をぞんざいに扱ったことに対しては引け目を感じていたのだった。
「いいですよ。あれはもうケンシンさんのものですし」
シエスタも、特に気にすることはないような風で言った。そして、剣心に和かに笑ってみせた
「あの時、嬉しかったんです。ケンシンさんが来てくれたって分かった瞬間、凄く安心したんです。ああ、もう大丈夫なんだなって」
「そんな、買いかぶりでござるよ」
「いえ、買いかぶりとかじゃありません! 本当にそう思ったんです!!」
シエスタは力強く言った。こればっかりは嘘なんかじゃない。本物の気持ちだった。
「だから、お礼を言いたいんです…本当に、ありがとうって」
「シエスタ殿…」
そこまで言うと、シエスタは改めてはにかんだ笑顔を見せた。そして、それとなく剣心の散歩に一緒に付いて歩いていく。
それは、端から見ればカップルにも見えなくもなかった。
((へ(へ´∀`)へ
((へ(へ´∀`)へ カソカソ
((へ(へ´∀`)へ
436 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 22:03:27.21 ID:CYT8Gxsk
さて、その後ろには何か掘り進めたような跡があった。
まるで剣心達の後を追うかのように、ピッタリ追跡して放さない。
穴の中にはルイズと、連れてこられたデルフと、掘った主のウェルダンデがいた。
「ねえ…何でアイツはメイドなんかといちゃついてんの…?」
「いちゃついてんのか…あれ」
遠巻きに見る? デルフにはそうは見えなかったが、少なくともルイズにはそう感じたようだ。肩を震わせて様子を伺っていた。
ルイズが丁度見たときには、シエスタと剣心は普通に歩いてる途中だったため、その前の会話については知らなかった、というのもあるが。
「娘っ子の嫉妬も、えらいもんだぁね。もうちっと相棒を信用しろよ」
「分かってるわよ…」
「じゃあ何で覗きみたいな真似してんだ?」
ルイズは、口をモゴモゴさせて何やらボヤいた。
「だって…私は虚無の担い手なのよ…こんなに私が不安がっているのにさ…アイツは人の気も知らないであのメイドなんかと…」
あのタルブでの戦い、最後に起こった現象は人々にとって『奇跡』の一言で片付いた。
まさかあの光を起こした張本人がルイズだと、誰も思わなかったらしい。
だけど、虚無の力を使っていけばその内バレる。ルイズは不安だった。いきなり手にした力の強大さに。
だから、剣心に相談しようとした矢先、あのメイドと一緒に歩いているのが物凄く気に入らなかった。やっぱり何かあるんじゃないか、そう勘ぐってしまう。
「そういえばさ、何でアイツはあんたを使わないのよ、折角買ってあげたのに!!」
と、ルイズは怒りの矛先をデルフの方へと向けた。ルイズの見る限り、デルフの使用はワルドとの戦い以降、全然使ってはいないようだった。
それに関しては、デルフも大きくため息をつくかのような声で言った。
「仕方ねえよ。相棒は『不殺』を掲げてるんだ。俺じゃあどうしたって斬っちまうもんな」
「…前から思ってたけど、何でアイツはあんな面倒臭い戦い方するんだろ?」
ルイズは思った。あれほど強いにも関わらず、剣心が一度も人を斬るのを見たことがない。強いからなせる手加減なのだろうが、時々過剰にも思えるくらい『人を殺さない』事にこだわっているみたいだった。
『不殺』の為にゼロ戦を乗り捨てた事を聞いたときは、そこまでするか? と思うくらいだった。
「さあな、けどだけ一つ言えることがある」
「へえ? 何なのよ、勿体ぶらずに教えなさいよ」
ルイズの問いに、デルフは遠い向こうを眺めるかのような口調で言った。
「少しだけでも、振るわれて分かった。『飛天御剣流』だっけか…あれは相当えげつねえってことさ」
「…どういうこと?」
困惑する様子のルイズを他所に、デルフは続けた。
「あれはな、何というか…人をどれだけ速く、かつ正確に、そして一斉に斬れるかっていうのを重点に置いてある。手加減なんて効きやしねえ本当に実質本意な『殺人剣』さ。
もし相棒が逆刃刀じゃなく俺や普通の剣で戦っていたら、娘っ子は今頃沢山の惨殺死体を目の当たりにしてきたことだろうぜ」
ごめん支援
438 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 22:06:42.74 ID:CYT8Gxsk
「………」
「だから相棒にとって逆刃刀ってのは、かなり特別な存在なんだろうな。まあ、出番が全くない訳じゃねえし、俺は今のままでも構わないっちゃあ構わないけどな」
どこか諦めたような風に呟きながら、デルフは言った。
ルイズは、遠くにいる剣心を見やった。そう言えばワルドを相手にしていた時も、最初の決闘はデルフの峰で戦っていたし、最後の決戦も結局命までは奪わなかった。
やろうと思えば出来た筈なのに。
ルイズに気を使って殺さなかった、というのもあるのだろうが、それ以上に剣心は自分に『殺す』という事を戒めている感じだった。
するとまた、デルフが再び口? を開いた。
「少なくとも、あの信念を見つけ出すのに相棒はかなり苦労してきた筈だ。挫折しかけたことだって一度や二度じゃないだろう。
だからこそあんなに風格が身についているんだ。そんな相棒が、本気で娘っ子の事を考えてねえとでも?」
「う……」
「キュルケって娘も言ってたろ? もう少し使い魔を信用してみな。娘っ子だって、相棒が頼れると心の中で思っているから相談しようとしてんだろ?」
諭すようなデルフの口調に、ルイズは渋々ながらも頷いた。
「そうね…分かったわ。てかあんた、いい加減娘っ子って呼ぶのやめなさいよ」
そんな中、丁度ギーシュが使い魔を探しに通りかかってきたので、この追跡ごっこも取り止めとなった。
その夜、ルイズはいつもの様にベットに寝転がり、座るように目を瞑る剣心を見た。
「ねえ、ホントにベットはいいの?」
「大丈夫でござるよ」
「良いって言ってるのに……」
ちょっと不満そうに口を尖らせたが、これ以上は変に勘ぐられそうなので、ルイズは仕方なく諦めた。
だけど、ルイズはそんな事を話したいんじゃなかった。もっと色んなことを剣心に聞きたかった。シエスタの事、虚無の事、知りたいこと確かめたいこと。
でも、まず最初に質問したのは、こうだった。
「ケンシンさ、何で逆刃刀なんて使っているの?」
剣心は、それを聞いて少しの間固まっていたが、やがてゆっくりとルイズを見て、切なげな表情で言った。
「拙者の剣は、そのままでは人を殺めかねない。だからこそこの刀は拙者にとって重要なものなのでござるよ」
「どうして、『不殺』をそんなにも貫いているの?」
剣心は、押し黙ってしまった。言おうか言うまいか、迷っているようだった。それを見かねたルイズは、余程言いたくないことだろうと思い、追及をやめた。
「いいわよ、そんなに話したくないなら。聞いた私が悪かったわ」
「…済まないでござる」
そのままルイズは布団に潜り込んだ。ただ、時々顔を上げては剣心の横顔…についている十字傷を見た。
普通の斬り傷なら、あのくらい時間が経てば直ぐに消えてしまうだろう。でも剣心のそれは、一生掛かっても消えないかのように今でもくっきり残っていた。
まるで、恨みかなにかを込められたかのように…。
(一体何で傷つけられたんだろう…?)
というより、そもそも剣心に傷を付ける相手がいたのだろうか。そんな事を考えながら、ルイズは眠りについた。
この時はまだ、本当に分からなかった。『不殺』の意味。『逆刃刀』の意味。
その日、ルイズは夢を見る。遠い記憶、昔の話。それは、彼のもう一つの顔の時の夢だった。
439 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 22:08:52.11 ID:CYT8Gxsk
「…あれ…ここは?」
ルイズは、辺りを見回してそう呟いた。
「…こんな建物、見たことないわ…」
既に暗い夜道の中、ルイズは一人佇んでいたのだ。
周りには、木で出来た、ルイズから見れば納屋の様な家が一列に並んでいる。明かり一つ存在しない真っ暗闇だったが、それだけは何とか視認できた。
ただ一つ、上から照らす光を見上げてみれば、そこには月が一つしかなかった。
(じゃあこれ…またケンシンの…)
すると、不意に話し声がこちらに聞こえてきた。声は小さいながらも大きくなっていき、こちらに近づいてくるのが分かった。
慌てて隠れようとするが、これは剣心の夢だということを思い出し、それなら堂々としてもいいか、とやって来る人影を見た。
やがて、姿を現したのは三人の男達だった。先頭が提灯(無論ルイズは知らない)を持っているおかげで、その三人の顔がルイズにはよく見えた。
前から順に、優しそうな青年、好々爺に見える老人、筋骨隆々な大男と続いていった。
皆剣心と同じ服装に刀を差しており、改めてここが剣心の世界であることをルイズは実感させられた。
「遅くなりましたね、少し急ぎましょう」
先頭を歩いていた青年が、後ろの老人へと話しかけた。老人は頷くと、朗らかな口調で青年に話しかけた。
「聞いたぞ清里、来月祝言だそうじゃないか。あの幼馴染の器量良しを貰うか、果報者め」
清里、そう呼ばれた青年は幸せそうな笑みを浮かべた。
ルイズには、会話の内容から、あの青年が結婚するんだということは分かった。
そして思い出した。アンリエッタが結婚すると聞いたときにした、悲しい表情。そしてウェールズがあの晩に一瞬だけ見せた、やるせなさそうな表情を。
「やっぱり、結婚ってああいう風な顔をするわよね…」
ルイズも一度、結婚というのを考えさせられたのだから、清里の笑顔はよく理解できた。本当に幸せそうで、
多分相手の女性も嬉しいんじゃないかなって、そうルイズにも思わせるような笑顔。
何というか、ウェールズやアンリエッタの様な二人を見てしまっただけに、彼には幸せになって欲しいな、とルイズに思わせていたのだ。
というより、あの笑顔にウェールズの姿を、無意識に重ね合わせていた節があったのかもしれない。
「でも、悪い気もするんですよ。世の中が荒んでいるというのに自分だけ…」
「コラコラ、何を言っとる」
どこか申し訳なさそうにする清里に対し、真ん中を歩く老人は優しく諭した。
「世の中がどうであろうと、人一人が幸せになろうとするのが、悪いわけがなかろう」
「そうよ、良いこと言うじゃない」
いつの間にか、すっかり共感したようにルイズが言った。勿論、これは夢なのだから見えないし聞こえないのだが。
結婚かぁ…ルイズは思った。そして何故か無意識に、アイツの姿が現れた。
(な、何でアイツが出てくんのよ…!?)
振り払うようにその事を頭から追い出しながら、ルイズは改めて清里を見る。
そしてやっぱり、ルイズの中にあの男の姿が出てきた。
「アイツとは、ただの使い魔の筈なのに…」
そんな顔を赤くしながら一人悶々としているルイズに…いや、本当は夢の三人に向けてだろう…声が掛かった。
「京都所司代、重倉十兵衛殿とお見受けする」
440 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 22:15:31.51 ID:CYT8Gxsk
聞き覚えのある声、ルイズはハッとしてその方向を向いた。
「…ケン―――」
そして、ルイズは目を丸くした。
「―――シン…?」
声を聞いて、三人もそちらの方を見る。そこには、ルイズのよく知る男が立っていた。
いや、よく知るなんてものじゃない。一緒に暮らし、今さっきまで勝手に現れてルイズを悶々とさせていたその男。
緋村剣心は、その深い相貌でルイズ達を見つめていた。しかし……。
(違う…ケンシンじゃない…)
ルイズは何故か無意識に首を振った。そして改めて彼の姿を見やる。
まず頬の十字傷がない。髪の括り方も変わっており、そして身長も少し低く、どこか若々しく見えた。
そして何より違うのが、その身に纏う雰囲気。
ルイズ達を見る瞳は、刃のように冷たく、鋭く、そして深い。いつもニコニコしている、あの優しそうな笑顔が、今は無表情で塗り固められてどこにもなかった。
この彼には覚えがあった。確かアルビオンで、ウェールズが殺された時…これに近い雰囲気を彼は醸し出していた。
けど…今感じる殺気は怒りによる荒々しさこそないものの、あの時以上に冷徹な雰囲気をルイズに語らせる。
「ねえ…どうしたの……?」
そんな彼の変わりように、ルイズは軽く戸惑っていると、三人に向かって剣心は冷たく言い放った。
「これより、天誅を加える」
「ケンシン……?」
呆気にとられるルイズを他所に、その意味を悟った他の三人は慌てて刀の柄を手に取って叫ぶ。
「刺客か!!?」
「たかが剣のひと振りで、世が動くと思うのか?」
「名乗れ!!!」
一番強そうな大男が、剣心に向かって叫ぶ。しかし、彼は何も言わず只そこに佇むばかり。
「名乗らんかぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
遂に痺れを切らしたのか、男は大声を上げて突進した。
「ちょっと…待って!!!」
ルイズが止めよう動いたとき、男は刀を振りかぶっていた。
剣心は、それを刀の鍔で受け止めると、おもむろに鞘尻を男の目に向かって抉るように突き立てた。
「ぐあっ……!!!」
ドゴッと、嫌な音を立てて悶絶する男に、剣心は鞘から、逆刃刀ではない…本物の真剣を抜き放った。
閃く一筋の光。一瞬のうちに横一文字に斬られた男は、その腹に真っ赤な血の花を咲かせて、そして崩れ落ちた。
「え…?」
未だに状況が呑み込めないルイズは、飛び跳ねる血の跡をただ呆然と立っているだけだった。
その間にも剣心は他の二人に向かって駆け出し、一気にその距離を縮めていく。
二人も呆気にとられていたが、すぐさま本能的な危機を悟ったのか、刀を構えた。
だがもう間に合わない。重倉と呼ばれた老人は、清里を突き飛ばして庇った。
「清里、お前は今死んではいかん!!!」
その次の瞬間に、重倉の顎から脳天に向かって刀が深々と刺さっていた。一時の沈黙の後、剣心は刀を強引に引き抜いた。
重倉は顔の血を縦から流し、そのまま倒れていく。
「し、重倉さん!!!」
清里がそう叫んだ時には、剣心は彼に刀を振りかぶっていた。
清里は、奇跡的な反応でそれを防いだが、そのまま剣心に壁へ押し迫られていく。何とか切り返しその剣幕から逃れた清里は、改めて剣心と対峙した。
441 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 22:20:05.37 ID:CYT8Gxsk
この間約数秒の出来事。
「あっ…うっ……」
ルイズが、ようやく事の顛末を理解したときには、既に剣心によって二つの屍が築かれていた後だった。
「何…で…?」
ルイズは、只々愕然としていた。涙を流し、腰砕けになりそうな身体を震わせ、吐きそうになる気分を必死に抑えて、理性を何とか保とうとしていた。
(どうして? この人達はそんなに悪い人なの…?)
だけど、今この場ではルイズは、どう見ても剣心が悪役にしか見えなかった。
なんの躊躇もなく、人を殺した。
それでいて、表情は依然として変化を見せず、感情のない眼で清里を睨んでいる。
死への恐怖を感じながらも、勇気を振り絞り必死で刀を構えている清里に対し、剣心はどこまでも冷たく言い放った。
「……諦めろ」
生きること全てを捨てさせるような言葉。絶望しか覚えないような言葉でも、清里は諦めず、刀を握る手を強くした。
「そうはいかん!!」
清里は立ち向かった。拙い剣術ながらも、それでも必死に剣心に食らいついていった。
だが、徐々に実力の差が現れ始めたのか、刀で所々を斬られていく。
(死ねない…今死ぬわけにはいかない…)
腹を斬られ、悶絶するも清里は必死で刀を振るう。
(死にたくない…死んでたまるか…!!)
肩を斬られ、血が噴き出すも、清里は耐えて立ち上がった。
「死なん…絶対に……っ」
最早ボロボロの状態にも関わらず、それでも清里は諦めなかった。
おそらく待っているだろう婚約者を想って、その先の幸せへを願って……。
それなのに、剣心はどこまでも変わらない。ただ彼を生かしてはおけない。目がそう語っているだけだった。
「いや…やめて…」
ルイズは、震える声で呟いた。それを合図に、清里は最後の抵抗を試みる。刀を突き出し、大声を上げて特攻をかけた。
「うおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ!!!!!」
「やめてええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
ルイズの悲鳴と清里の叫び。それが街中に響き渡った。
だが、二人の声の願いは、届くことなく終わった。
「がっ…ぁ…!」
交差気味に走ってきた剣心のすれ違いざまの一撃、それが清里の止めの一撃となった。
清里も、真っ赤な血の雨を撒き散らしてその場に倒れ込む。
だがそれでも、清里は生きていた。震える手を動かして、その先にいるルイズに訴えかけるように呟いていた。
「…死に…た…く…ない…」
頬から涙を流し、そうルイズに話しかける清里は、本当に…本当に悲しかった。
多分、普通に大切な人の幸せを願っただけだろうに…こんなことになるなんて、きっと夢にも思わなかったことだろうに…。
「今は…まだ………死に…たく…ない…」
剣心は、彼がまだ生きていることを知ると、真剣を向けてこちらにゆっくりとやって来た。その目は、どこまでも感情のない瞳をしていた。
「と…も…ぇ…」
その最後の言葉を遺して、清里は事切れた。否……剣心が首筋向けて剣を突き立て、息の根を止めたのだった。
なのに、剣心は激昂するでも悲しみを見せるわけでもなく、ただずっと変わらない無表情で、彼の死体を見下ろしていた。
ルイズは、何も言えなかった。ただショックで…放心するしかなかった。限界が来たのか、遂に腰を抜かして剣心を見上げていた。
(何…で…こんな…)
そしてルイズは見た。彼の左頬に、一つ目の傷が出来ていることに。
(どう…して……ねぇ…何か…言ってよ…)
それを最後に、ルイズは意識を手放していった。
(ケン…シン……)
鋭く冷たい、彼の表情をその目に焼き付けながら…。
442 :
るろうに使い魔:2012/11/11(日) 22:27:12.12 ID:CYT8Gxsk
今回はここで終わりです。随分久々の投稿になってしまいました。
まだ色々と多忙なため、投稿スピードは遅くなるかもしれませんが、失踪だけはしない(まだストックも十分あるし)
ようにしていきたいと思います。
それでは今回はここまで、また来週に。
投下乙ー
乙っした
割り込みで変なAA貼っちゃってごめん
乙っしたぁ!
あかん、これはあかん・・・
脳漿、臓物、血の雨はキツいでぇ・・・
るろうに乙!
話に聞くよりもまざまざと見せ付けられるのはキッツイだろうな。
千年極めようと、万年極めようと、築くのはただ屍山血河、か。
メンタルレベルがまだまだ低いルイズにはこれをあげよう
「ドラッグオンドラグーン 〜雷の塔は紅く染まった〜」
久しぶりにここ見たんだけどラスボスの人ってもういないの?
450 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/15(木) 18:50:45.38 ID:TTRs2NTX
今別に新しいのとか落としても平気だったり?
むしろお願いします
452 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/15(木) 22:14:03.99 ID:TTRs2NTX
一月に一回くらいのペースだし、
ほかの人が書いてたり、
超厨二だったり、
誤字が多かったり、
しつこかったりとかするけど。
とりあえず、タイトルは灰色のゼロ
召喚するのは仮面ライダーファイズから、
乾巧くん。その他ライダーズベルト。
被召喚者がかぶるのは問題なかったよなたぶん
>>452 でもsageで頼むぜ
454 :
sage:2012/11/15(木) 22:23:04.44 ID:TTRs2NTX
>>453 sageってどうやるっけ
何年ぶりかでわすれたの
出来てるかな?
こっちだっけ…
456 :
灰色のゼロ:2012/11/15(木) 22:34:02.09 ID:TTRs2NTX
それじゃあためしに落としてみます。
あくまでも少しだけです。
問題あったらいってくらはい。
457 :
灰色のゼロ:2012/11/15(木) 22:37:18.47 ID:TTRs2NTX
……ここは何処だ。
一人周囲を見回してそう思う。
確かに自分はあの時灰に成り果ててしまったはずだった。
だというのに何故ここにこうして立っているのだろうか。
目の前には桃色の髪をした少女が一人。
その周囲には彼女と同じ年代と思われる少年少女たちが一様に自分のことを見ている。
服装から推測するに、彼女たちはおそらく学生なのだろう。
一人だけいる頭の輝くおっさんは引率の教師と見たほうがいいだろう。
なにやら桃色の髪の少女が頭の輝く男に何かを訴えているかのようだがそれは聞き届けられなかったらしい。
肩を落とし、少し赤くなりながら彼女はこちらに近づいてきた。
「感謝しなさいよね。貴族にこんなことをされる事なんて、ないんだから」
何を言ったのかは解らなかったが何かをしようとしているのは解る。
「おいお前! 一体何を――」
彼がその言葉をつむぐ前にその口は少女の口で塞がれた。
唐突の事に驚きで言葉を失った。
そして我を失っているその一瞬の後に彼の体に異常が起こる。
左手の甲から全身に広がる苦痛。
焼けるような痛み。
何かが刻み込まれるかのような、そんな痛み。
まるで自分の体に烙印を押されるかのような、そんな歪な苦痛に彼は耐える事が出来ずに気を失ってしまう。
この邂逅が何をもたらすのか。
今はまだ、誰にもわからない。
――――――――――
「夢を持つとね、時々すっごく切なくて、時々、すっごく熱くなるんだ」
「夢ってのは呪いと同じなんだ。途中で挫折した人間はずっと呪われたままなんだ」
「俺には夢がない。でもな、夢を守ることは出来る」
「俺はもう迷わない。迷っている内に人が死ぬのなら……」
「戦うことが罪なら――」
夢を見た。
ひどく懐かしい夢だ。
あれは自分が人として戦う力を得た頃の記憶。
赤いフォトンストリーム、銀色の装甲、黒いスーツ、黄色の複眼。
まるで英雄(ヒーロー)のような姿となって彼が対峙していたのは、灰色の化け物と呼ぶに相応しい生物。
何故今更こんな夢を見たのだろう。
まるで走馬灯のよう。実際彼は死んでいるのだから間違いはないだろう。
「やっと起きたのね」
巧が目を覚ますとそこはどこかの部屋だった。
昼間いた場所は広場だったから運ばれたのだろう。
黙って彼は周囲を見渡す。
ベットにクローゼット。小さなテーブルが一つ。
おそらくここは彼女の部屋なのだろう。
小ぢんまりとした部屋だ。シャワールームがないどころか、電気もない。部屋に明かりを灯しているのは蝋燭のみ。
「おいお前。お前は一体なんだ。ここは一体何処なんだ」
「まったく、貴方を運ぶの大変だったんだからね。あんなところで気を失って。ご主人様にいきなり迷惑をかけてから」
巧の言葉など聞こえてもいないかの様に、彼女はただ一人話を続ける。
「お前いい加減にしろ。人の話を聞け!」
彼が叫ぶとルイズは鬱陶しそうに頭を左右に振る。
「ああ、もう。五月蝿いわね! ええっと、確か沈黙の魔法を……」
彼女はそういうと、ぎこちない口調で呪文を唱える。
当然の如く魔法は本来の意図に反し爆発を起こす。
それに驚くことも無くルイズはケホッ、と咳を一つする。
「お前は俺を殺す気か!」
突如と起きた爆発に驚きながら怒鳴りつける。
え? と。彼女はきょとんとした表情で巧の顔を見る。
「というか、一体何が起きたんだ! 何も無い所から爆発が起きるなんて――」
「解る!」巧の言葉をさえぎってルイズは声を上げる。「あんたの言ってることが解るわ!」
「ああ?」
それに対して怪訝そうな表情をする巧。
今まで自分の言葉は理解できていなかったとでも言うのだろうか。
だとするのなら問い尋ねても鬱陶しがるだけで相手に伝わらないのも理解できる。
458 :
灰色のゼロ:2012/11/15(木) 22:44:20.77 ID:TTRs2NTX
とりあえずはここまでです。
半端だけど。
今一使い方もわかんないし、もう少し慣れてからにしようかな、なんて。
大量投入しようと思えば出来るけど。
それなりに書きだめあるから。
ということでおやすみなさい。
一レスだけの投下とは感心しませんな
460 :
灰色のゼロ:2012/11/16(金) 12:34:38.28 ID:ipb/S5Xw
>>459 勘弁してください。
間違ってないかどうか、試しに落としたみたいなものだし。
次からは幾つか落とすんで。
これはアカン
>>458 慣れてないって言うなら避難所に練習スレあるからそっちで試したほうがいいんじゃない?
今は書き込めない人多いし避難所の練習スレで試したほうが反応あるんじゃね
まぁなんだ、頑張れ
とりあえず、戦闘妖精の続きまだじゃろか?
>>465 まえにノボルと同じ病気だって言っていたから……どうだろうね?
ところでこのスレ的に召還はされたけど契約は失敗ってのは無しなの?
例えば魔法そのものが利かない/超強力なレジスト能力持ちのキャラ
とかの場合、呼び出しは辛うじて出来て(抵抗され続けたから20数回も
失敗したとかにして)も、洗脳含む契約魔法は抵抗されちゃって失敗
とかさ。
呼び出して契約したけど,使い魔の魔法で解呪されて逃げられた作品とかあったよ
って,ダイ大の作品だからこれは当てはまらんか
聖帝サウザーを召喚したやつでは最後まで「契約できるものならやってみろ」を貫き通したっけ
強キャラ召喚の理想みたいな形で今でも好きだわ
南斗爆殺拳のルイズか
しかしご立派様との契約では(ry
双方合意の上で契約をしない、とかもある
自分で無理やり解呪パターン
少し流れをぶった切って、と
Wikiで確認してみて、意外かどうかは分からんが、川上系の作品ってクロスがなかったのな
一本くらいはあってもおかしくないなとは思ったんだけど
最近の話題だと全裸マンか?
これはギーシュに宗茂砲をぶちかますSSがくるフラグ?
(これまでのあらすじ)
(今晩はIRC砂嵐がひどい為、あらすじはなんか失われました)
「ははは!祖国への忠誠?私はそんな小さなものはもはや捨てたのだよ!以前の私ならいざ知らず……」
ルイズを嘲笑うワルド!その声には、既に婚約者を気遣うようなそぶりは微塵も見られない!
王子をその手にかけたあの非情さが今の彼の真実の姿であり、かつての優しさは欺瞞としてすら捨て去ったと言うのか!
そして……、おお、見よ!その衣服の繊維が不気味にうごめいたかと思うと、
一旦解けあい、そして組みなおされ、奇妙な装束を形作っていくではないか!
いや、体だけではない!異様に広がっていくその新たな装束は、ワルドの顔までも覆い、
メンポ(訳註:面頬のことか)のように鼻筋から下を隠していく!
これは……この姿は!おお、ブッダよ!
「……この力を手にし、ニンジャとしての自分に目覚めたときからはね!」
野望と殺意と嘲りにぎらつくその目元のみを残し、完全にワルドの体を覆った新たな衣服とメンポ!
チャコールめいた色彩のその装束に身を包んだその姿は!
まさに、ニンジャそのものではないか!
どうしてこのハルケギニアに、日本が地図上に存在すらしない異世界にニンジャが存在すると言うのか!?
「さあ、どうしても君が私に従わないと言うのなら仕方が無い!少々手荒な扱いをするが、気をつけてくれよ?
何しろ今の僕は、少し力をかけただけで君の腕をちぎり取ってしまえるのだからね!」
そう言って、ルイズにその手を伸ばすワルド!しかしルイズは衝撃のために放心しており、抵抗などできるはずもない。
もちろん、ニンジャへの恐怖心が遺伝子レベルで刻まれている日本人と異なり、ルイズはニンジャを見ても
失禁したり発狂してしまったりと言った、NRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)は発症しない。
しかし婚約者が裏切りものであったこと、救いたかった王子が目の前で殺されたことで、
ただでさえ精神が弱っていたルイズには、この婚約者の更なる変貌はメンタルへの打撃が大きすぎたのだ!
茫然自失するルイズの腕をつかむワルド!今の彼女は、まるで操る者のいないジョルリ人形だ!
その時である!
「Wasshoi!」
掛け声とともに飛来した2枚のスリケンが、ルイズに伸ばされていたワルドの腕に突き刺さる!ゴウランガ!
「グワーッ!?」
この礼拝堂の壇上に置かれた始祖ブリミルの巨像、その像が前方に掲げた腕の、その左手!
始祖をも恐れぬかのようにその上には何者かが乗り、腕組みをしてワルドを見据えつつ立っている。
赤黒の装束を身に着けたその何者かが、静かに声を上げる。
「単に武芸も磨いたメイジにしてはカラテが優れすぎているとは思っていたが、なるほどな。
まさかこの世界にもニンジャが居るとは思っていなかったので、油断していた」
そう話す、謎の影!この男が、スリケンを投擲してアンブッシュを成功させたのだ!
「フジキド……?」
聞き覚えのあるその声に、虚ろな目を向けるルイズ。
そう、姿は違えどその声音は、確かに先ほど、彼女自らがトリステインへと追い返したはずの、
彼女の使い魔フジキド・ケンジのものであった!
(((フジキド!なんたるウカツ!この者からにじみ出るニンジャソウルに今まで気付かぬとは!バカ!)))
フジキドの精神の中で、彼にしか聞こえぬ、内なるニンジャソウルの声がこだまする。
(貴様も気づかなかったようだがな、ナラクよ)とだけ内心の呟きで言い返すフジキド。
(((メイジの魔力とやらにまぎれてはおったからな。しかし貴様は、手合わせすらしておきながら、何たる不覚よ!)))
やや自らを棚に上げている、コゴトめいたその言い返しにはもう取り合わぬ。
「Wasshoi!」赤黒のニンジャは、再び掛け声をかけて像の腕からフロアへと危なげなく降り立った。
礼拝堂の中央部に居るルイズと、その傍に立って腕からスリケンを引き抜きつつ
油断無くこちらをにらみつける敵ニンジャの元へと歩みを進めていく。
「フジキド……ルイズの使い魔君か。やはり私がにらんだとおり、君はニンジャ……!」
傷を負わせられたことへの怒りのアトモスフィアは、しかしワルドから徐々に薄れていく。
「同志以外のニンジャとの、命を懸けた戦いは初めてだよ……!」
そして、むしろ目の前のニンジャとの戦いへの愉悦を見せ始めた。
ニンジャ憑依者には時に現われる、強者との闘争を求める性質である。サツバツ!
それを矢のような眼光で見据えつつ、半ば納得したように告げる。
「なるほど、ニンジャという言葉も知っておるというわけか」
「フフフ、ニンジャソウルが私に与えてくれたものは、この常人の三倍の筋力や、
古代ローマカラテのみではない!古来からの知識も共に受け継がれたのさ!
例えばこのような、貴族の名乗りとも似たイクサの作法もね」
そう言って、ワルドはオジギして彼の新たな名を告げた。
「ドーモ、フジキド=サン。フラッシュライトです!」
これは、アイサツだ!
アイサツとは、古事記にも記された、ニンジャ同志のイクサの開幕における絶対的な礼儀である。
オジギをして、自らのニンジャネームを告げる。そして、告げられた側もそれを返す。
どのように酷薄なニンジャであっても、相手のアイサツの最中に攻撃を仕掛けることはまず行わないのだ。
「ドーモ。フラッシュライト=サン。」
赤黒のニンジャもそれに応えて、オジギして名乗りを上げる。
「ニンジャスレイヤーです」
そして、オジギを終えると、カラテを構えつつ告げる!
「ニンジャ、殺すべし!!」
と、こんな感じのが読みたいので誰か書いてくだしあ
アイエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?
481 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/18(日) 13:21:28.82 ID:w68s8k8E
ドラゴンボールのピッコロがルイズに召喚され、契約によってルーンが刻まれ使い魔となる。
しかし、ルーンが刻まれるも左手だったのでピッコロは手首を切断して再生し、使い魔契約を破棄される。
っていう話はどうだろうか?
>481
契約を破棄するプロットに必要なのは破棄の手段ではなく、破棄した後にどうするか、ですよ。
>>481 手首を切り落とすパターンはゼロのエルクゥが通った道だな
死霊のはらわた2みたいに切り落とした手首と長い付き合いになる話もいいかもしれん。
いっそ、Dの左手のみ召喚とか
(結構切り落とされてること多いしw)
口は悪いが結構お人よしだし、戦闘力は高いが吸血鬼の下僕一体始末したらエネルギー切れになるから
そんなにチートではないだろ
……今思ったが、デルフに似てるな
(意思を持つ、炎などを吸い込んで自分のエネルギーに出来るとか)
心臓が止まればルーンは解除されるが、腕を切り落としたところで再生したらはじめからルーンがくっついてそうな気がする。
真実はノボルたけが知ってるわけだが。
じゃあオーズのアンクを召喚したらルーンはどこに刻まれるの?
というかそもそも契約のキスはどこにすればいいんだろうかw
>487
ガンダールブのコアメダルになる。
489 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 21:54:23.24 ID:hzFZS6Fo
皆さんこんばんわです。予約がないようでしたら10時頃から新作を
投稿しようと思います。
490 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:01:52.61 ID:hzFZS6Fo
では始めます。
「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!」
怖さが極限にまで達した、その叫びでルイズは起き上がった。
そして気がついた。いつの間にか夢の世界から脱し、いつもの学院のベットにいることに。
月夜の照らすベットの中、ルイズは目を覚ましたのだった。
「夢……?」
ルイズは、辺りを見回して呟いた。まだ胸は動悸で高鳴っており、息で激しく上下させていた。
身体は汗でびっしょりで、目からは涙の跡が残っていた。
「ルイズ…殿…?」
そして彼女の隣には、異変を感じた剣心が立っていた。
「ひっ…!!」
一瞬だけ、彼を見て怯えたような目をしたルイズだったが、なおも心配そうな表情をする剣心に、ようやく理性が戻ってきた。
「ケン…シン…?」
「どうしたでござる? 何か悪い夢でも見てたでござるか?」
宥めるように優しく頭を撫でてくれる剣心に、ルイズは自然と涙がこぼれた。
「何でもない…何でもないわよ……グスッ…」
本当に、最悪の悪夢だった。
今でも鮮明に思い出す。飛び散った血の跡、崩れ果てていく人々、悔しさで涙を滲ませて死んでいったあの青年、そして、それを冷徹な視線で見下ろす剣心……。
何より彼が、いつもニコニコ笑う彼が…あんな風に微塵の躊躇いもなく人を殺すことが、ルイズにとって大きなショックだった。
無意識に、ルイズは剣心の胸へと身体をあずけた。親が子供をあやすかのような、剣心の優しい言葉がルイズを暖かく包んでくれていく。
「大丈夫でござるよ。大丈夫…」
「うん…うん…」
そう頷きながらルイズは、改めて剣心の顔を見る。相変わらず、優しげで安堵させるような笑顔。夢で見た彼とはまるで正反対の様子に、
ルイズはようやく心を落ち着かせることが出来た。
そして、ゆっくりと目を閉じた。こうやって剣心のそばにいれば、もうあんな悪夢は見なくて済む。そう感じたから……。
第三十一幕 『強さと優しさ』
その日の昼過ぎ、ルイズ達はトリステインの王宮へと足を運ぶことになった。
491 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:04:08.44 ID:hzFZS6Fo
姫さま…否、正式にこの国の女王となったアンリエッタから、「至急参られたし」との手紙がきたのだった。
余りに急な出来事だったので、多少戸惑いはしたが、親愛なる女王からの頼みとあっては断るわけにもいかないと、早速ルイズは準備を始めた。
そんなわけで今、接客室の扉の前までルイズ達はやって来ていた。
「通して」
向こうから声が掛かったので、ルイズは恭しくも扉を開ける。
そこには、和かな笑みを浮かべるアンリエッタが、嬉しそうにルイズに抱きついて来た。
「ああ、ルイズ!! やっと会えたわ!!」
女王の対応とは思えないはしゃぎっぷりにも、あくまで冷静にルイズは対応した。
「姫さま…いえ、もう陛下とお呼びせねばいけませんね」
「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、最愛のお友達を取り上げてしまうつもりなの?」
歳相応の子供のように膨れっ面をするアンリエッタを見て、なら…とルイズは続けて言った。
「いつもの様に、姫さまとお呼び致しますわ」
「そうして頂戴。ああルイズ、女王になんてなるんじゃなかったわ。退屈は二倍、窮屈は三倍、そして気苦労は十倍よ」
やりきれなさそうに、アンリエッタはため息をついた。
ゲルマニアとの結婚が破談になった以上、母の後を継ぐ形で女王となったアンリエッタは、それはもう多忙な毎日を送っていた。
国内外問わず誰かしらに会っては、女王の威厳を保ちつつも要求や訴えを聞いたりしなければならず、ほとほと疲れ果てているのだった。
だからこそ、幼い頃からの友人に会えるこの時間は、アンリエッタにとってとても裕福なひと時だったのだ。
しばらくの間、そんな話を交えた後、アンリエッタは切り出した。
「本当にありがとうルイズ。あの勝利はあなたのおかげで手にしたのよ。――貴方にも、この勝利の献上を、厚く御礼を申し上げますわ」
そう言って、今度はアンリエッタは、剣心の方を向いて言った。
「いえ…私は何も…殆ど手柄を立てたのはケンシンの方で……」
ルイズは、少し気まずそうな表情をしたが、それを察するかのようにアンリエッタは彼女の手を取った。
「隠し事なんて、しなくとも大丈夫よ。報告書にもちゃんと記載されているんだから」
まあ、しょうがないと言えばそうだった。あの奇跡の光の間近にいたのは、他ならぬルイズ達だったのだから。
「でしたら…もう隠し事は出来ませんわね」
ルイズは仕方なく、今回の出来事についての『真実』を語り始めた。
『始祖の祈祷書』について、『虚無』の力に目覚めた事について、そしてその結果が、あの奇跡の光を生んだことについて。
アンリエッタはルイズの話を一通り清聴した後、ゆっくりと視線をルイズに向けた。
「あなた達が成し遂げた戦果は本当に…このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類を見ないほどです。
本来ならルイズ、あなたには小国と大公の地位を与え、使い魔さんには貴族の地位と爵位を献上してさしあげたいものですが……」
そう言って、アンリエッタは申し訳なさそうな顔をした。
「これで私が貴方達に恩賞を与えたら、ルイズの功績を白日の元に晒してしまうでしょう。…それは危険です」
剣心もそれに頷いた。ここでルイズが『虚無』と知れたら、間違いなく志々雄に目をつけられるだろう。…いや、もう既に手遅れかもしれない。
それだけではなく、必ず自国の上層部も、彼女を利用しようと企むものも出てくるはず。
「だからルイズ。誰にもその力を話してはなりません。これはここだけの秘密よ」
剣心は志々雄、で思い出したのか、早速その事をアンリエッタに話そうとしたが、その前にルイズに先を越された。
492 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:06:39.35 ID:hzFZS6Fo
「恐れながら姫さまに、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」
決心したように、ルイズはアンリエッタに向かって言った。アンリエッタは、少し困ったような顔をしていった。
「いいのですルイズ……。貴方はその力のことを一刻も早く忘れなさい。そして二度と使ってはなりませぬ」
「神は…、姫さまをお助けするために、私にこの力を授けたに違いありません!!」
なおも引き下がらず、ルイズはまくし立てた。その目は必死で、純粋がゆえに危ない目。力に酔うあまり、ブレーキを踏むことを知らない、
かつて剣心がしていた目と同じだった。
「母が申しておりました…過ぎたる力は人を狂わせると。『虚無』の協力を手にしたわたくしがそうならぬと、誰が言い切れるでしょうか?」
「私は…姫さまと祖国の為に、力を捧げたいと思っておりました。
しかし、いつもわたしは失敗ばかり…『ゼロ』なんて二つ名がつけられ、与えられた任務すら満足にこなせず…それゆえに…あんな悲劇まで起こして…」
ルイズは、悲しみに言葉を震わせていた。アンリエッタも、少しその瞳に寂しさをのぞかせた。
ルイズはまだ、ウェールズを死なせてしまった自責に今も苦しんでいるのだ。
ルイズのその目には、いつの間にか涙がたまっていた。
「だから…わたしはこの力を…陛下のために…」
「分かったわルイズ。もういいから…」
そう言って、アンリエッタはルイズをひしと抱きしめた。
「貴方はわたくしの、一番のお友達。ならばわたくしも、あなたの言葉を全面的に受け止めます。
だけどルイズ、『虚無』の使い手だということは、口外しないでください。あなたの安全のためにも…」
「姫さま……」
端から見れば、二人の確かな友情を確認する場面。それを剣心は、何かを思うような風で見ていた。
とても志々雄の事について、話せるような雰囲気じゃなかった。
それからアンリエッタは、ルイズを正式な女官として任命し、さらにトリステインのあらゆる場所を行き来出来る『許可書』をルイズに渡した。
それはつまり、ルイズは女王の権利を直に使うことが出来るということだった。
「あなたにしか解決できない事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします。それまで表向きは、魔法学院の生徒として振舞ってください」
それからアンリエッタは、何やら袋のようなものを取り出すと、それを剣心の方へ見せた。
中には、金銀財宝、宝石などがたくさん詰まっており、輝かしい光を覗かせていた。
「是非受け取って下さいな。本来ならあなたには『シュヴァリエ』の称号が与えられるのに、それが適わぬ無力な女王の、せめてもの感謝の気持ちです」
そう言って、アンリエッタは宝石袋を剣心に手渡そうとした。
勿論受け取ってもらえると思っていたルイズとアンリエッタだったが、剣心は優しい笑みのまま、その手を押し戻した。
「気持ちだけありがたく頂戴するでござるよ。けど何も無理することはござらん。拙者はただの平民で使い魔。それだけでござる」
493 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:09:30.49 ID:hzFZS6Fo
これには、少し呆気にとられたアンリエッタだったが、それでむざむざと引き下がれるわけもない。
「それでも貴方は、わたくしとこの国の為と忠誠を示してくれました。それには報いなければなりません」
「いや…拙者は何も、この国の忠誠とかのために、戦ったのではござらんよ」
「……え…?」
この剣心の言葉に、ルイズとアンリエッタは唖然とした。まさか彼の口からそんな言葉が出るなんて、思ってもみなかったからだ。
しばし呆然としたまま、アンリエッタは当然の疑問を口にした。
「では…何故…あなたは…?」
「タルブには、拙者にとって大事な人たちがそこにいた」
物憂げに話す剣心に、ルイズは少し複雑な表情をした。多分剣心は、シエスタのことを思い出して話しているんだろうなと思うと、何だか嫌だった。
「目の前の人々が大勢、それも拙者の知る人が苦しんでいる。それを放っておくことは拙者には出来なかった。
だから剣をとった。ただそれだけのことでござるよ」
そう言って、改めて剣心は宝石を持つ手を押しやった。それを返す力は、アンリエッタには無かった。
「では貴方は、わたくし達を、この国を…これからも守っては下さらないと…?」
「そうまで言ってはござらんよ。何か困り事があったら、拙者は力になるでござるよ。国事ではなく、姫殿個人の頼みとして」
「随分複雑な事を仰るのですね……」
力なく項垂れていたアンリエッタだったが、意を決したのか、仕方なさそうに顔を上げた。
「分かりました…貴方がそう仰られるなら…仕方ありませぬ。この話は…無かったことに…」
まだどこかで、諦めきれないような様子でもあったが、彼の意見は曲げられないと悟ったのか、アンリエッタは観念したように言った。
「どうしてあんな事言ったのよ! 姫さまが悲しそうにしてらしたじゃない!!」
王宮を出た後、ルイズは咎めるように言った・
当然といえば当然だ。今の剣心はルイズの使い魔。
主人が忠誠を誓うのなら使い魔も忠誠を使うのが普通だというのに、「国の為に戦ったわけではない」? それがルイズには理解できなかった。
しかし剣心は、ルイズの方を振り返って尋ねた。
「ルイズ殿は、あの時何故タルブに行ったでござる?」
唐突の質問に、疑問符を浮かべるルイズだったが、仕方なさそうに答えた。
「何故って…決まってるじゃない。『虚無』の力が本当に顕れたのか、確かめたかったのよ」
「その時ルイズ殿は、国の為とか考えてタルブへ行ったでござるか?」
ルイズは、それを聞いて少し首をかしげた。そう言われるとそうだ。考えてみれば、『虚無』の事で精一杯で、そんなことを考える余裕は無かった。
ただ、一刻も早く剣心の元へと行きたかった。自分も力になれるんだって、教えたかった。
そんな想いだけは、なぜかハッキリと覚えている。勿論剣心には言わないが。
ただ、顔には少し出ていたのか、それを見た剣心は優しく言った。
「それでいいのでござるよ。力というのは、小さな何かを守れるだけでいい。力の向ける先の規模をいたずらに大きくしても、意味がないでござる」
「何よ…分かった風な口聞いて…私が『虚無』をどう使おうと勝手でしょ!!」
ルイズが口を尖らせた。そしてどこか悲しかった。どうしてそうまでして、自分のすることに反対するのか…と。
しかし、ここで剣心はルイズと向き合い、はっきりとした口調で言った。
「ルイズ殿は、『虚無』の力の全てを理解したのでござるか?」
「…それは…まだだけど…」
あの時、最大級の『爆発』を放ったはいいが、あの力をもう一度発揮できるかというと、自信はない。
それにまだ覚えたのは、その『爆発』一つきりだ。
まだまだ不明な点は数多い。もしかしたら、もうあんな力は二度と出ないかもしれない。それが、ルイズにとって一番の不安だった。
「理解できてない力を、ルイズ殿は使いこなせるのでござるか?」
「そんなの…やってみなきゃ…」
「例え使えたとしても、その力を向ける本当の『意味』を知らなくては、いつか掛け替えのないものを失ってしまう」
真摯な目を向け、諭すように剣心はルイズに言う。
「その代償というのは、ルイズ殿が考えているよりも遥かに大きい。それは失ってからじゃ、遅いのでござるよ」
494 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:15:26.59 ID:hzFZS6Fo
「……何でよ…」
暫くの沈黙、ルイズは俯いたままの感じで固まっていると、やがて搾り出すような声で言った。
「…ケンシンだって…見たでしょ…わたしのせいで…ウェールズ殿下が死んでしまったとこ…」
「ルイズ殿…」
「なのに…どうして…」
ルイズは身体を震わせていた。拳を握り締めて悔しそうに歯を食いしばって。そして、怒りとも悲しみともつかないような声で叫んだ。
「どうして分かってくれないの!!!」
「…ルイズ殿…」
剣心なら、分かってくれると信じてた。ルイズの今の意思と信念を。
なのに、彼の口から出たのは、理解してくれるとは程遠いような言葉ばかり。
まるでいけないことをしたかのように諭す剣心の言葉に、ルイズはただ悔しかった。
そしてルイズの頭の中には、あの夢…恐ろしかった悪夢がふと蘇る。
あの羅刹とも言えぬ瞳を浮かべて、優しそうな青年を切り捨てた、あの剣心の姿を…。
一度脳裏をかすめたら、もう止まらない。ルイズはただ叫んだ。
「何よ! ケンシンだって本当に間違いを犯さなかったって言い切れるの!!?
その手で人を殺してこなかったって、心の底からそう言えるの!!」
「…ッ!!?」
その言葉に、ルイズも一瞬驚くぐらい…剣心は驚愕の色をその目に浮かべた。
「………」
そして今度は、少し悲しそうに目を伏せ口を閉ざす。そんなしおれた態度がまた、ルイズを無性にイライラさせた。
「もういいわよ…ケンシンなんか知らない!! バカ!! どっか行っちゃえ!!」
やり場のない怒りをぶつけるかのように、ルイズはそのまま剣心を放って何処かへと走り去っていった。
その後ろ姿を剣心は、ただ遠い目をして黙って見つめるだけだった。
ルイズの今の言葉のせいで、ふと昔の出来事を思い出したのだ。
(このバカ弟子が!!!)
頭の中で、かつてケンカ別れする前との師匠の怒号が蘇る。
動乱巻き起こる幕末の時代。そこに自分の飛天御剣流で幕を閉じようと、師匠に言ったら大反対された。
あの時は、自分の何がいけなかったのか、全然分からなかった。
(目の前の人々が苦しんでいる、多くの人が悲しんでいる!! それを放っておくことなど、俺には出来ない!!!)
この言葉の意味に間違いはない。それは今でもそう思っている。ただ、力の使い方を理解しきれてなかったのだ。
確かに、彼女は恐ろしい才能があるのかもしれない。いずれは『虚無』の力を、ちゃんと理解して使いこなせるかもしれない。
でも、それはあくまでも才能の話。中身はどこにでもいる普通の優しい十六歳の少女なのだ。
精神的にまだ成長しきっていない今の状態で力を振るうとどうなるか、その末路を剣心は身にしみて良く分かっている。
心とその頬に十字傷を負った、剣心だからこそルイズには自分の二の舞を踏んで欲しくない。なのに…。
「師匠の気持ちが、少し理解できたでござるよ」
昔と似ているあの直向きさと素直さ。そしてそれが自分の信念だと思い込んで周りを見れない不器用さと頑固さ。本当に自分そっくりだ。
剣心は、あの頃の過去に思いを馳せながらも、見えなくなる前にルイズの影を追った。
495 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:18:51.87 ID:hzFZS6Fo
「どうしてよ…ケンシン……」
ルイズは、トボトボとした歩調で宛もなく街をさ迷い歩いていた。
街は今、戦勝祝いのおかげでいつもより賑わっており、あちこちに酔っ払った人々で騒がしかった。
(分からないわ…ケンシンが…)
ルイズは、涙が出そうになるのを堪えた。どうしてあんなにも、剣心は否定したのだろう。それが分からない。
再び昨夜見た夢を思い出す。あの冷たい無表情で人を斬り殺した剣心。そして今の剣心。
(どれが…本当のケンシンなのかしら……)
ルイズは分からなかった。どっちが彼の本性なのか、それがさっきルイズを苛立たせた原因でもあった。
「うおっ!!」
「きゃっ!!」
そんな様子で歩いていると、ふと誰かにぶつかった。ルイズは気にせずそのまま行こうとすると、その誰かに腕をつかまれた。
「いてぇな、待ちなよお嬢さん。人にぶつかって謝りもしねえで通り抜けるって法はねえ」
どうやら酔っ払った傭兵の一団の様だった。酒を手に持ってそれを何度も煽っている。相当出来上がっているようだった。
ここで傭兵の一人が、ルイズのマントを見て貴族だと気づいたようだったが、男は掴んだ腕を離そうとしなかった。
「今日は戦勝祝いのお祭りさ。無礼講だ。貴族も兵隊も町人もねえよ。ほら貴族のお嬢さん、ぶつかったわびに俺に一杯ついでくれ」
男は下卑た笑みを浮かべながら、ワインの壜をルイズに突き出す。無論ルイズは嫌がった。
「何よ、離しなさいよ無礼者!!」
それを聞いた男が、途端に怒りで顔を歪ませた。
「なんでぇ、俺にはつげねえってか。おい! 誰がタルブでアルビオン軍をやっつけたと思ってるんでぇ!
『聖女』でもてめえら貴族でもねえ、俺たち兵隊だろうが!!」
そう叫んで、男は荒々しくルイズの髪を引っ掴もうとした。しかし、その手を今度は別の誰かに掴まれた。
「あっ…」
いつの間にか現れ、颯爽とその男の腕を掴んだ彼、剣心は、和かな顔をして男に詫びた。
「いやぁ、連れがすまない事をしたようでござるな。ここは一つ拙者が謝るから、どうか穏便に」
「んだとぉ!! てめぇ、やるってのか……」
遂に男がキレて剣を抜こうとしたとき、途端に剣心の目の色が変わった。
さっきまで蝿一匹殺せない軟弱そうな顔から、急に虎すら睨み殺しそうな獰猛で、それでいて冷たい目に。
「………なっ…!!」
男は身震いをした。長年兵隊をやっている経験と勘が、それを如実に教えてくる。コイツの目はヤバい…と。
(何だ…? コイツは…!?)
自分達よりもっと知らないどこか。想像を絶するような闇と地獄を生き抜いてきた瞳。
戦意を丸ごと削ぐかのような気迫に、男たちはすっかりと萎縮してしまっていた。
「……ちっ、覚えてろよ!!」
結局のところ、そう言って渋々と、だが逃げるように男たちはその場を後にした。剣心は、いつもの朗らかな口調でルイズに向き直った。
「大丈夫でござるか?」
「あ…」
ルイズは、只々キョトンとしていた。さっき拒絶してしまったから、てっきり剣心は怒っているんじゃないかと、そう思っていたからだ。
しかし、剣心のいつもの表情と態度は、そんな感じを微塵も感じない。
496 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:22:41.21 ID:hzFZS6Fo
「あ…あの…その…」
「無事なら、それで良かったでござるよ」
いつもの優しい笑顔をルイズに向け、剣心はそう言った。それを見て、思わずルイズは少しモジモジする。
また助けられた。そのことについてお礼を言おうとして、その前に剣心はルイズの手を取って歩いた。
「折角来たことだし、少し周りを見てみるのはどうでござる?」
「…え? う、うん!」
彼なりに気を使っての言葉なのだろう。それが素直に嬉しかったルイズは、何も言わずにその手に繋がれて歩いていった。
「…ねえ、ケンシン」
「おろ?」
連れられながら、ふとルイズは顔を見上げる。返事をしながら振り向いてくれた剣心は、いつもルイズが見ている、
優しく柔かな微笑みをした剣心だった。
異性と手をつないでいるのを妙に意識しながらも、やっぱりその笑顔を見ると、何ていうか…えも知れぬ安心感が湧き上がってくるのだった。
「…ううん、何でもない」
何も言わない。今はただ、この気持ちだけを信じていたい。そう思うルイズなのであった。
剣心と一緒に歩いていくと、その内段々と楽しくなってきたルイズは、そのまま賑やかな街並みを眺めていた。
こうやって異性と街を練り歩くなんて、初めてのことだった。今はすっかりそのことで楽しさ一杯であり、ルイズの心をウキウキさせる。
そんな内、一つの宝石店にルイズは目を止めた。キラキラさせた沢山の飾り物に、ルイズは思わずわあっ、て声を上げる。
「いらっしゃい貴族のお嬢さん! 『錬金』で作られたまがい物じゃございません、珍しい石ばかりですよ!!」
宝石店の商人が、ここぞとばかりに声をかけた。ルイズは少し頬を赤らめて、若干上目遣いで剣心を見る。
「ゆっくり見たいでござるか?」
剣心のその答えに、ルイズはコクリと頷いた。
改めて見ると、正直貴族が身につけるものとしては、どこか安っぽいものばかりが多く占めていた。
だけどルイズは特段気にした様子もなく、その中から貝殻を掘って作られたペンダントを手に取った。どうやら余程気に入ったらしい。
497 :
るろうに使い魔:2012/11/18(日) 22:25:28.37 ID:hzFZS6Fo
「欲しいでござるか?」
「…うん、でもお金を余り持ってきてないわ」
急使だったためにお金をそんなに持ってこなかったルイズは、今入っている財布の中身を確認してがっくりと肩を落とす。
そんなルイズを横目に、取り敢えずと言った風に剣心は尋ねた。
「これ、いくらでござる?」
「それでしたら、お安くしますよ。四エキューにしときます」
それを聞いて剣心は、考えてるように顎に手を当てると、おもむろに懐から袋のようなものを取り出した。
その中に入っているのは、かつて皆で宝探しに行った時、手に入った端金の貨幣だった。
誰もいらないというので、剣心が持つ形になっていたが、それでも結構な額が入ってあった。ほとんど薄汚れてはいたが使えないというわけでも無い。
剣心は勘定をしながら、貨幣を数えていると、ぴったり四エキューを商人に手渡した。
「まいどあり!」
剣心は、その買ってあげたペンダントをルイズに渡した。
ルイズは、ポカンとして剣心を眺めていたが、やがて嬉しさで頬を緩ませた。
剣心が、自分のために買い物をしてくれた。それがルイズにとって、すごく嬉しかったのだ。
ルイズは、ペンダントを掛けて剣心の方を向いた。
「どう?」
「似合っているでござるよ」
簡単なお世辞だったのだろうが、ルイズは更に顔を赤くした。心臓は高鳴っていき耳から直に聞こえてくる。
剣心にバレないかな…そんな事を考えながら、ルイズは先頭を切って歩いていく剣心の後ろ姿を見た。
買ってくれたペンダンドをいじりながら再び一緒に歩いていると、今度は剣心の方から声をかけてきた。
「…聞かないでござるか?」
「え?」
「だから、拙者の過去のことを…」
何のことだか一瞬よく分からなかったルイズだったが、少し寂しそうな剣心の表情から、その内容をすぐに察した。
「ああ、あのこと…」
ルイズの夢に現れた、もう一人の『剣心』。確かに何故あんなことになったのか、その理由は、聞きたくないといえば嘘になる。
でも…それでもルイズは、今の剣心を信じたかったルイズは、それを生半可な気持ちだけで聞いちゃいけないことだというのも分かっていた。
「ううん、いいの。今はまだいいわ」
きっとあれには理由があるのかもしれない。だからルイズは、剣心が自分から話してくれるまで待つことにしたのだ。それが、恐らく一番いいことなんだろうと思いながら。
「ケンシンが話してくれるまで、私は待つわ。そうすることにしたから」
それを聞いた剣心は、少し嬉しそうに目を伏せ、頷くようにお礼を言った。
「ありがとうでござる。ルイズ殿」
「いいのよ。私はケンシンの主人なんだからね」
ルイズは胸を張ってそう言った。いつもそうだ。ケンシンはいつでも自分のことを気にかけてくれている。
そもそもあの言葉も、剣心は自分のためを思ってこその言葉だっていうのも、ルイズは分かってた。
でも、あの夢を見たせいで、どっちが本当の剣心なのか混乱してしまっていたのだ。
(だけど、もう迷わない)
過去に、人を斬った事もあるのかもしれない。けどルイズは、それでもやはり今の優しい剣心の方を信じたかったのだ。
ルイズは、ゆっくり剣心の隣で歩く。手を繋いで、楽しげに。
「ねえ、今度はあの店に行ってみましょ!」
「…そうでござるな」
せめて一時ぐらい、精一杯楽しみたい。ルイズはそう思った。
今回はこれにて終了です。それではまた来週に。
投下乙!
499 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/19(月) 23:16:08.95 ID:VybGZpaR
481の投稿者です。
ドラゴンボールのピッコロが召喚……はおいといて。
聖闘士星矢の冥王ハーデスがルイズに召喚され、人間如きが自分を召喚し、しかも使い魔にしようとした事に怒り、ヴァリエール領の住人すべてが死に絶えた。
もしくは、ルイズをパンドラの立場(ハーデスの現世の姉ではなく、全権代理の立場)にして、トリスタイン魔法学園のメイジ全員を冥闘士にしてしまう。
なんてのはどうでしょう?
アンチヘイト系なら余所をお勧めする
というかまずsageてくんない?
>499
ポジティブなプロットは無いのか。
星華姉さんやエスメラルダを守って戦うとか、
水晶聖闘士がタバサを鍛えるけど地下水からかばって氷漬けの恥辱を被るが、暗黒白鳥座聖闘士の技でやられるほどの無様さではないとか、
スポンサーがごり押ししなくても鋼鉄聖闘士大活躍とか。
503 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/20(火) 00:34:07.04 ID:rTkoL1kJ
>502
ポジティブですか?
だったらこんなのも考えましたけど。
LC冥王神話の双子座のデフテロスを召喚し、アンドバリの指輪で操られそうになったけど、
「己をも屈服させる自我!」
で、それを撥ね返す……とか。
"ss アルカディア"でググって着いたとこに投げれ
505 :
一慰:2012/11/20(火) 00:46:33.48 ID:QDaMJck1
マダオ
お久しぶりです。
また短いですが(本来なら前話と合わせて一話になる位)、投下させていただきます。
第35話 虚無
「いいか、絶対あいつらを通すな!」
「スクラム組めっ! 攻撃は火力担当のメイジに任せて、我々は防ぐことに専念しろっ!」
再びぶつかり合う二つの軍。だが、先とは大きくその様相が変わっていた。
片方は闇雲に前進するのみ。
片方は壁を作ってその押し込みを受け止め、時折後方から飛ぶ火や風の魔法で相手を打ち据えようとするのみ。
圧倒的な大軍の側が壁を作って受けに回っているため、戦線は完全に膠着状態になった。
その状態を見て取って、小声で何かを言う人物がいた。
「思ったより立ち直るのが早いわね……これは陛下に、少し予定を早めてもらわないと駄目かもしれないわ」
戦線の最後方で、この戦いの黒幕ともいえるシェフィールドは、懐から取り出した鏡に向かって二言三言何かを囁き、その答えが返ってくるのを聞いて、にんまりと微笑んだ。
「さすがは陛下。もう準備は万端ですか。では、いよいよ最終幕の幕開きですわね。なら」
眼前の死者の軍勢を見て、彼女はいう。
「派手に戦い、そして華々しく滅んでください……思ったより、こちらの消耗も大きかったみたいですし」
彼女の視線は、軍勢から手元の指輪に移る。
神秘の力を秘めていた指輪は、色がくすみ、今にも砕け散りそうな有様であった。
虚無の魔法は、原則的に極めて詠唱が長い。そしてそれは、呪文の力に比例する。
ティファニアが唱えていた呪文はそれほど長大なものではなかったが、戦場という環境下では、それはただ唱えるよりも遙かに長い時間を要したように、その場にいた全ての人々に感じられた。
だが、それでも、終わりの時は来る。
緊張のあまりたどたどしく、ゆっくりであっても、ティファニアの唱えていた呪文は、膨大な力を練り込みつつ完成した。
そして最後の、解放のルーンが唱えられる。
「――ディスペル!」
解き放たれたのは、『解放(ディスペル)』。四大、先住、その理を問わず、ほぼ全ての魔法を瞬時に消滅させてしまう、対魔法戦絶対の切り札。
そしてそれは、水の精霊の秘宝の力に対してももちろん有効であった。
最前線の戦士にとって、それは文字通りの『奇跡』であった。
不可視の、それでいて何かを感じる『力』が、後方から前方に掛けて広がると同時に、眼前の軍勢が、文字通りに『魂を抜かれて』倒れ伏していった。
まるで、自分が既に死んでいることを思い出したかのように、呆然とし、そして何かを悟ったかのように、静かに、自然のままに倒れていくのだ。
「――おお」
「……奇跡だ!」
口々に、そんな言葉があふれ出す。
そしてその力が広がりきった時、眼前の軍勢は、最後方の数十名を除いて、全てが死体に還っていた。
それを見つめていた兵士達の視線は、自然に自軍の後方へと向かう。
そこには、『トリステインの虚無』と、その使い魔に支えられて、疲労困憊しつつも立つ、我らが『アルビオンの虚無』の姿があった。
距離があるため、その姿は豆粒のように小さかったが、光り輝く金の髪と豊かな胸は見て取れた。
やがて、
うぉぉぉぉっ!
我らがアルビオン、我らが虚無!
始祖の祝福に栄光あれ!
セント・ティファニア! 我らの姫に栄光あれ!
爆発的な歓声が広がる。その全ては彼女を肯定する声。
ティファニアがエルフの血を引くもので有るという事など、もはや完全に忘れ去られているかのようであった。
そしてティファニアは、
「ほら、みんながあなたを認めてくれているわ」
「ここは頑張って、皆さんに答えてあげてください」
戦場を見渡せるように急ごしらえで設えられた輿の上で、ティファニアは疲労した体を、どうにかルイズとなのはに支えられて立っていた。
本当ならこのままへたり込んでしまいたい。でも、それが許されないことくらい、さすがにティファニアにも理解出来た。
全身からなけなしの力を絞り出し、何とか眼下の兵士達に向けて、手を振った。
――ティファニア!
――ティファニア!
――ティファニア!
――ティファニア!
同時にわき上がる、ティファニアコール。三万を超す兵士達の歓声を受けて、さすがにティファニアも限界だった。
「も、もう駄目です〜」
不死者一万を一撃で消し去ったとは思えない様子でへたり込むティファニア。
ルイズ達も、そんな彼女を支えつつ、彼女を休ませるように、輿を支えていた兵士達にお願いする。
そしてそんな一連の流れを見極め、満を持してウェールズは、『拡声』の魔法を併用して全軍に言葉を響かせる。
「今、精霊の力を悪用し、邪法に身を落とした反逆者の軍勢は、正当なる虚無の力、始祖の祝福によって退けられた! 我々は始祖の栄光を背後に、奪われし首都を、今開放する!」
その宣言に、再び上がる歓声。
「隊列を再編せよ! 今再び我らが白の宮は正当なる王家の元に戻る!」
その言葉を受け、乱れていた軍勢がその陣容を整えはじめる。
存外に早く陣は整い、一時は大混乱に陥っていた軍勢は、再び秩序ある姿を取り戻した。
――その瞬間であった。
ひゅるるるる、という、何かが風を切る音が頭上に複数響き渡った。
その直後に巻き起こる、どごおおおんという音。
それはさんざん聞き慣れた、大砲の炸裂音であった。
幸いか意図的か、そのいずれもが軍勢の外側に落着し、被害は全くない。
だが、間違いなく、アルビオン軍は敵の攻撃を受けた。
しかも今までとは違う、火砲による攻撃。
眼前の首都には、そのような様相は見られない。
ならば、どこから。
……答えなぞ、一つしか無かった。
「う、上だ!」
「……か、艦隊……?」
「くそっ、下からだと所属旗が見えねえ、どこの軍だ!」
兵達が混乱する中、さすがに将であるものは、その軍勢の正体に気がついていた。
「あれは……ガリア両用艦隊! この事件の背後に、ガリアが……あの狂王がいたというのか!」
ウェールズの口から、魂切るような言葉が漏れる。
「くっ、やられた……内乱に外憂を考慮するのは当たり前だというのに」
あまりにも反乱側が優勢すぎたために、うかつにもその可能性を見落としていた。
普通反乱側に外部の手が加わるのは、反乱側が劣勢の時である。足りない武力や補給を補うために外部と手を結ぶのだ。逆に言うと、反乱側が優勢な時に外部と手を結ぶのは全く理がない。
せっかく奪い取った政権に外部から干渉されるからだ。なので反乱側優勢の時は、反乱側はむしろ外部からの干渉を防ぐように動く。それが常識である。
だが、もし――そもそも反乱そのものが、外部からの干渉で起こされたものだったとしたら?
そう、たとえ反乱側優勢であっても、外部の手が入ることは充分にあり得る。そしてその場合、事実上詰みといっても過言ではない。劣勢だった王党側が巻き返せたのも、友好国であったトリステインの援助という、いわば外部勢力の引き込みに成功していたからだ。
そして再び優劣が逆転したが故に、全ての黒幕が、今こうして現れたというところであろう。
そして、首都ロンディニウムと軍勢の、ちょうど中間を占めるように、圧倒的な数の艦隊がこちらを睥睨するかのように布陣した。
……勝ち目は、無かった。
首都攻略、そして平原での戦いという事で、こちらは航空戦力を全く用意していなかった。まさかここでこんな大軍の航空戦力に襲われるなど、全く想定の埒外にあったのだ。
結果として制空権を完全に抑えられている今、こちらの艦隊が押っ取り刀で駆けつけてきても、その前に上を取られているこちらは全滅を通り越して壊滅する。
艦隊の砲門が開かれれば、一斉射でこちらの負けが決まるだろう。
だが、艦隊は不気味なほどに動こうとはしなかった。
と、わずかにその艦隊に動きが見られた。
攻撃ではない。
一隻のフネが、しずしずと降下を始め、こちらの正面を見るかのような位置で停止した。
そのフネは。
「ガリア両用艦隊旗艦、シャルル・オルレアン、だと……」
しかもそのマストに掲げられているのは、間違いなくガリア王旗。
それは今このフネが御座船……王の座する船であるという事を表している。
そして、その人物は、その甲板上に、何一つ恐れることなく、堂々とその姿をさらけ出した。
日に照らされる、ガリアの貴髪たる青い髪をたなびかせて。
そして、王の言葉が発せられた。
「ようこそ、この喜ばしい日に。教皇聖下の御出座はこちらとしても予想外であったが、それはむしろうれしい誤算であった。なぜなら」
そしてアルビオンはさらなる予想外の衝撃を、この狂王と称される人物から叩きつけられる。
「今ここに、余を含めて、四の虚無が一堂に会したのだからな」
短いですけど、とりあえずここまで。
先にも書きましたけど、本来なら前話と合わせて、ここまでで1話の筈だったんですよね。
内容的にも割った方がいいのと、時間が無いのとが合わさってこんな形になりました。
さて、ここまでで舞台は全部整いました。
ここから先は怒濤のネタバレタイムに突入します。
今まで張り巡らせた数々の複線が空かされる時、この世界はどうなるのでしょうか。
六千年の歴史が終わるという言葉の意味は。
プレシア、アリシアといったPT事件の人物と、始祖たちとの関係の真実は。
狂王の本作における望みとは。
原作設定ぶっ飛ばし、蹂躙の汚名もあえて受けて、ハルケギニアと地球、そして時空管理局支配域の間に横たわる、無茶な謎が遂に解き明かされます。
最後の登場人物が現れる時、真実は明かされる。
一日20時間労働の隙間で書いているので、もうちょっと待ってね。
うおおおおおおおおお!!
魔砲さんが帰ってきたあああああああああああ!!
お疲れ様っした!!
待っていた……待っていた!!
待っていたよ!!!!
516 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/20(火) 21:58:13.33 ID:d9KoK4aj
魔砲さんお疲れ様!
続きを待ってますが焦らず書いてくだされ〜
魔砲の続きもう見れんかと思ってたから嬉しい。
お体に気をつけて下さいね!
うわああああああああああ!
魔砲使いの人来てるーっ!
>>508の歓声に鳥肌でそこからあとがきまで鳥肌ラッシュでした。
大好きな作品なのでこれからも楽しみにしております。
ああ感無量だわ・・・
なんかまとめwikiTOPのレイアウト変わった?
見づらいんだけど
wiki全体の仕様変更じゃなかったっけ
他のまとめwiki運営してるけどそんなメールが来てた気がする
テンプレートが変わるよ、CSS引継ぎ無いよみたいなやつか>メール
CSS自体数年ぶりに見てひいひい言いながら弄ったのに
後から延期のお知らせメールが来てイラッとしたわ
延期でまだ猶予ある筈なんだけどな
サーバーによるのかな
524 :
…:2012/11/22(木) 19:17:32.12 ID:VtiVDPad
魔砲の人乙です
テステス
随分ご無沙汰いたしてすみません
他に予約が無ければ、20:30ごろから投下をさせてください
「おはよう、ルイズ」
ディーキンとルイズが部屋を出るとすぐに、廊下にいくつか並んだ似たような木でできたドアの一つが開き、燃えるような赤い髪の女性が顔を出した。
褐色の肌をしていてルイズより背が高い、彫りが深い顔立ちの美しい女性だ。ブラウスのボタンを二番目まで外し、大きなバストの胸元を覗かせている。
身長、肌の色、雰囲気、胸の大きさなど、様々な点でルイズとは対照的な女性だった。
ディーキンは、そのひときわ特徴的な容姿を見て彼女が昨日召喚の場にいた生徒の一人だということを思い出す。
一方ルイズは、彼女を見ると途端に顔をしかめて嫌そうに挨拶を返した。
「……おはよう。キュルケ」
キュルケと呼ばれた女性はルイズを見、次いでそのすぐ後ろに付き添って歩くディーキンの姿を見て、僅かに不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……あら、あなたの使い魔は、その子?」
「そうよ」
「ふーん、そう……」
(昨日召喚したときに見たけど、ルイズの亜人に翼なんか生えてたっけ……?)
昨夜召喚された際にディーキンは《変装帽子》を身につけて羽根を隠していたため、当然キュルケの記憶と現在の姿には食い違いがある。
ディーキンはずっとあの帽子を使用し続ける気などないし、もしその点を誰かに問われた場合には正直に話す気でいる。
姿形を多少変える魔法程度はハルケギニアの系統魔法や先住魔法にもあるし、別に変装用のマジックアイテムを持っていると知られても問題にはならないだろう。
さておきキュルケが記憶を手繰っている間に、話題に上げられた当のディーキンは、一歩進み出てやや大仰に御辞儀をした。
「はじめまして、ディーキンはあんたにご挨拶するよ。
ディーキンはディーキン・スケイルシンガー。バードで、ウロコのある歌い手、物語の著者、そして昨日からはルイズの使い魔もやってるよ」
「ん……、あら。ルイズの使い魔にしては行儀がいいじゃないの。
ご丁寧にどうもありがとう、私はキュルケ・アウグスタ・ フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。ゲルマニアからの留学生よ」
「ええと……、よし。
よろしくなの、キュルケお姉さん」
ディーキンは長い名前を羊皮紙にメモすると、満面の笑顔(コボルドなりの)を浮かべてもう一度会釈する。
牙をむき出した笑顔と、好奇心に満ちてきらきら光る目。
キュルケは微笑ましくそれを眺めながら、先ほどの些細な疑問を頭から追いやった。
記憶違いか、翼が収納可能な亜人とかも世の中にはいるのかもしれない。
あるいはこれだけ流暢に話す子なら先住魔法の一種とか。
どうとでも説明はつくし、案外かわいい子で別段害もなさそうだからこだわることはないだろう。
キュルケはにやっとした笑みを浮かべると、ちらりと視線をディーキンからその主である少女へ移して様子を伺った。
流石に、ただ単に初対面の相手に挨拶することに口をさしはさむほど不寛容な事は控えたようだが…。
案の定、自分の使い魔が“宿敵”へ挨拶をしたことが不本意らしく、むっつりとした表情をしている。
「ええ、よろしくね、ディーキン君?
……にしても、《使い魔召喚》で亜人を喚んじゃうなんて変わってるわねえ。
あなたらしいじゃないの、流石はゼロのルイズ」
それを聞いたルイズの白い頬にさっと朱が差し、眉間に皺が寄る。
「うるさいわね……、ただ物珍しいってだけで人の使い魔にケチをつける気なの?
ツェルプストーにはメイジとしての礼儀も備わってないのかしら」
キュルケはルイズに睨まれても涼しい顔で、ただ軽く肩を竦めた。
「あら、ただ珍しいって言っただけよ、そんな気はないわ。
ちょっと変わってるけどいい子そうね、なかなかの使い魔じゃない?
……じゃ、お返しに私の使い魔も紹介するわ。フレイム〜!」
キュルケが声を掛けると、それを待っていたかのように彼女の部屋からトラほどの大きさがある真っ赤なトカゲが顔を出す。
フレイムと呼ばれたその使い魔がのそのそと近くに寄ってくると、むんとした熱気が感じられた。
見れば尻尾が燃え盛る炎で出来ており、口からもチロチロとだが炎が迸っている。
「これって、サラマンダー?」
ルイズが微妙に悔しそうな顔でキュルケに尋ねた。
それを聞いて、まじまじとそのトカゲの様子を見つめていたディーキンが首を傾げる。
「オオ……、これが、こっちのサラマンダーなの?
そういえば、さっき読んでた図鑑にも出てたかな……」
どうやらこれもまた、フェイルーンとハルケギニアで共通の名称を持つ別種の生物の一例のようだ。
なんとなく見覚えはあったが、言われて初めて本の中で見たサラマンダーの挿絵だという事を思い出した。
やはり一回通し本を読んだだけと、目の前で見るのとではまた違うらしい。
本を読み返したり現地調査をしたりして早くこっちの知識をしっかり身に着けないといけないな、とディーキンは改めて実感した。
フェイルーンの方でサラマンダーと言えば、炎と煙、溶岩で満たされた灼熱の世界、火の元素界に住まう来訪者の一種である。
彼らはたくましい人型生物に似た上半身と鷹のような顔を持ち、腰から下は大蛇のようで赤と黒の鱗、および炎のかたちをしたトゲで全身が覆われた姿をしている。
自己中心的で冷酷、他者を苦しめることに喜びを見出す強靭で邪悪なクリーチャーであり、故郷では輝く金属の都市に軍勢を成して住んでいるという。
また並みの人間を凌ぐ高い知能と炎に対する完全な耐性、優れた金属加工の技術を持ち、金属を火の中に入れたまま加工できる最高の鍛冶職人としても知られている。
ゆえに彼らは戦士としても、鍛冶場の働き手としても、しばしば物質界に召喚される。
一方で、ハルケギニアのサラマンダーは見たところ爬虫類タイプの魔獣、もしくは亜竜の一種のような姿をしている。
少々うろ覚えだが、知能面では通常の動物と大差ないという旨の記述があったような気がする。
もっとも、フェイルーンと同様にハルケギニアの方でも使い魔は通常の動物よりもかなり知能が上がるらしいが。
「こっちの? ……ええ、そうよ、火トカゲよ。
見てよ、ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーね。
ブランドものよー、好事家に見せたら値段なんかつかないわ」
キュルケは得意げに胸を張った。
「そりゃよかったわね……。
ふん、だけどディーキンだって負けてないわよ。
火竜山脈だろうが何だろうがサラマンダーよりずっと珍しいし、魔法だって使えるんだからね!」
ルイズも負けじと小さな胸を張り返した。
それを聞いたキュルケはルイズに応じるでもなく、首を傾げてディーキンを見つめる。
「へえ……、ディーキン君は先住魔法が使えるの?
小さいのにすごい子ねえ。大したもんだわ、主人のあなたはゼロなのにね」
「……ぐっ……!」
痛いところを付かれてぎりぎりと歯を噛みしめて睨んで来るルイズを尻目に、キュルケは屈み込んでディーキンの顔を見つめ、にっこりと笑いかけた。
大きく開いた胸の谷間が丁度見えるような位置関係になっており、それを見たルイズの眉がますます吊り上がる。
流石に色ボケツェルプストーといえども亜人を誘惑しようなどという意図があるわけではないだろうが、とにかく色々と気に食わない。
さて当のディーキンはその胸元を一瞥して……、それからキュルケの顔を見つめ返して、首を傾げた。
ディーキンにも一応人間の美醜や色気の有無くらいは大体分かるが、あくまで経験や芸術的な感性によるものであって本能に根差した類のものではない。
さほど異性に関心はないものの、ディーキンはいたって健全なコボルドの雄である。
爬虫類系生物であるコボルドに、卵も産まずウロコも生えてない、柔らかい肉剥き出しの異質な生物に欲情しろというのは土台無理な相談というものだ。
ディーキンは人間に対してまったく抵抗なく対等の相手として付き合えるが、性的な対象として見てはいない。
彼女にしても、おそらくそれは同様のはずだろう。
色気を強調するような姿勢やそういった仕草をしている時に発する色っぽい猫撫で声は、おそらく身に染み付いた彼女の癖のようなものだろうか。
ウォーターディープの“白のセスタ”みたいな人かな?
……とディーキンは考えた。
セスタは美の女神スーニーに仕える女司祭で、ボス達がアンダーマウンテンに挑戦するのを助けてくれた人物である。
スーニーの使徒たちは、あらゆる美を崇拝している。美しいと感じるものを所有したいと欲し、そして、その望みを隠さない。
どのような美を求めるかは人によって違いがあり、彼女の場合は主として異性との交わりがそれにあたるらしい。
ドロウの暗殺者がウォーターディープの有力者達を暗殺してまわっていた時、優秀な司祭である彼女は無事だった。
自分が無事なのは、「独りでは寝ないように気を付けている」ためだと彼女は言ったものだ。
一度彼女が口説き落とす予定の名簿とやらを見せてもらったことがあるが、ボスの名前も当然のようにその中に入っており、彼には内緒だと釘を刺された。
ボスはその振る舞いにはやや眉を顰めてはいたが、彼女が結局は善良な人物であることは認めていたし、彼女の信念を尊重してもいた。
彼女はアンダーダークからのドロウの進行によってウォーターディープが脅威に晒された時に、自ら進んで危険な地に留まり街を守るために尽力してくれたのだ。
倒れた冒険者たちの治療や蘇生を無償で行い、神殿が所有する多くの貴重な品を仕入れ値で売ってくれたし、
アンダーダークへ先行した冒険者達を救うために貴重な蘇生の魔力を持つロッドを無償で提供してくれさえしたものだ。
ディーキンもまた彼女には感謝しているし、多分に好感を持っている。
少なくともあのロッドのお陰で、自分たちは何度命を救われたことか。
目の前のキュルケからも、セスタとどことなく似たような良い印象を受ける。
分野こそ違えど魅力で人を惹き付ける存在という意味ではバードはまさに専門家であり、ディーキンはその見立てにはそれなりに自信があった。
ルイズの方は、どうも彼女に良い印象を持っていないようだが…。
もっとも、仮にディーキンが人間の男だったとしてもキュルケにさほどに惹かれはしなかっただろう。
キュルケは所詮は貴族の娘であって男を誘惑するのに慣れているといってもアマチュアの域は出ないが、その点セスタは“その分野”の一流の専門家だったのだ。
それにディーキンは自然そのものが肉体的美しさを纏った存在とされるニンフを見たことだってある。
定命の者を誘惑し堕落と破滅へ誘うエリニュス、ブラキナなどといったデヴィルや、高貴なる天上界のセレスチャルなどと戦ったり友好深めたりしたことさえもある。
正しくこの世のものではない美や高貴さを持つ存在との遭遇経験が何度もあるのだから、人間の貴族などに今更取り立てて惹かれることはないのだ。
彼らと比べてみればほとんどどんな人間でも、容姿にせよ立ち居振る舞いにせよ、比較にならないほど凡庸だと感じられる。
更に付け加えて言うなら、ここの人間は……フェイルーンの人間とえらく容貌が違うのである。
ルイズやキュルケは多分可愛くて美人なような気はするのだが、正直言って今ひとつ確証が持てない。
なんというか……、ここの人間はフェイルーンの人間に比べて全体的に華奢で異様に目がでかくて口が小さくて顔が逆三角で……、とにかく珍妙だ。
可愛いといえば可愛いが、見方によっては気色悪いという意見もありそうである。
メリケンチックなフェイルーン人と、ビッグアイ・スモールマウスなハルケギニア人とのデザインギャップに、ディーキンはちょっと戸惑っていた。
そんなディーキンの内心など露知らず、キュルケの使い魔・フレイムはディーキンの傍にのそのそとやって来ると口を開いた。
『よう、ちっこいの。俺はフレイムだ、よろしくな』
「……アー、はじめましてなの、フレイム。
ディーキンはディーキンなの、よろしくお願いするよ、………?」
ディーキンはにこやかに挨拶を返したが、すぐに妙なことに気が付いた。
使い魔は知能が上がるのだから、フレイムが喋ったことを不思議だとは思っていない。
問題は、彼(オスであろう)の喋った言語だ。
言葉を発するのに慣れていないのであろう獣の喉から発せられたゆえのたどたどしさや、聞き慣れない訛りはあった。
だがそれでも、間違いなくフェイルーンで用いられている竜語と同じものだったのだ。
召喚時に付与されたと思しい翻訳魔法の効力だろうかとも考えたが、すぐにその可能性を否定する。
何故なら、これまでに出会った人々の言葉はすべて訛りの感じられない共通語に聞こえていたからだ。
それなのにフレイムの言葉だけが竜語、それも聞いたこともない妙な訛りの入ったものに翻訳される理由がない。
つまり、翻訳魔法とは無関係にフレイムは確かに竜語を喋っているのだ。
しえん
「……ねえフレイム、あんたの種族……、サラマンダーは、竜語を話すものなの?」
『ん? いや、違うぜ。
サラマンダーは……、まあ、人間が俺達のことをそう呼んでるってのは俺も昨日知ったんだが……、普通は言葉とかを喋らないもんだ。
このご主人様の使い魔とやらになったときに自然にできるようになったのさ、会話ってやつは実は今お前としてるのがはじめてだ。
ちっこいの、お前だって同じ言葉を喋ってるじゃないか……お前の方はそうじゃないのか?』
「ふうん……、そうだよ、ディーキンの種族はもともとこの言葉を使ってるの」
『へえ、そうなのか。 まあ、お前さんも人間と同じ二本足の類らしいしな……』
ディーキンはフレイムと情報を交換しながら、考えをまとめていく。
使い魔になった時知能が上がり、竜語での会話が可能になるというのは、ここのメイジが与えた特殊能力の一種だろう。
しかし、ルイズやキュルケの「さっきから使い魔同士で何を話してるの?」という感じの表情を見る限りでは、彼女らの方は竜語を知らないらしい。
フェイルーンでは、竜語は多くの秘術呪文使いが学ぶ基本教養に近いものなのだが…。
せっかく言語能力を与えるのに、一体何故主人と同じ言葉ではなく、主人に理解できないような言葉を話す能力を与えるのだろうか。
ディーキンの話す言葉の方は召喚時の魔法で翻訳されているが、どうもフレイムの方にはそれが掛かっていないようで、彼の言葉は通じていないように見える。
………はっきり言って、どういう意図なのか理解に苦しむ。
まあそれは、とりあえず置いておこう。
今もっとも気になるのは、ハルケギニアでフェイルーンと同じ竜語が使われている理由である。
正確な事実は分からないものの、これもフェルーンとハルケギニアの間に大昔に交わりがあり、今は無いという証拠のひとつだろうとディーキンは推測した。
共通語は交わりを断ってから数千年の間に、双方共にほとんど原型をとどめないほど変化してしまっている。
だが、竜語は共通語とは違い、より古く根源的な、魔法的な言語にも近いものである。
そのような言語は言葉それ自体に力があり、意志の疎通を不可能にしてしまうような根本的な変化に強く抵抗する、と言われている。
事実、フェイルーンにおける竜語は明らかに、ここ数千年の間殆ど変化していない。
異なる種類のドラゴンの間ではそれぞれに違う訛りは見られるものの、意志の疎通自体ができないほど変化してしまったものは無いのだ。
ハルケギニアの竜族および他の古い種族の間に伝わっていたであろう竜語もまた、交わりを断ってから数千年の時が経過してなお、無傷で残っていたのだろう。
そんな風にディーキンが思案を巡らせていると、首を傾げて傍に屈み込んでいたキュルケから声が掛けられた。
「ねえフレイム、さっきからディーキン君と何を話してるのかしら。
……にしてもディーキン君、そんなにフレイムに近づいて熱くないの?」
先程からディーキンは炎をちらつかせたフレイムと話をして考え込んだり、合間に姿形を間近で観察したりしながら、羊皮紙に何やらメモを取っている。
時には尻尾の炎に触れるのではないかと思うほど顔を近づけて観察したりもしているが、まるで熱そうな様子が無いのに気付いてキュルケは首をひねった。
「ン……? ああ、平気だよ。ディーキンには涼しいくらいなの。
でもキュルケお姉さんのおかげでうっかり羊皮紙を焦がさなくて済んだの、ディーキンはあんたの気遣いに感謝するよ」
ディーキンは言われて初めて気が付いたように少し羊皮紙を炎から遠ざけると、キュルケに礼を言ってこちらも少し首を傾げた。
実際のところ、単なるコボルドだった少し前までのディーキンならばともかく、赤竜の血を覚醒させた今のディーキンにはフレイムの火など全く熱くないのだ。
自分がそういう体になっていることを時々失念してしまうので、キュルケに声を掛けられなければ本当に羊皮紙を焦がしていたかもしれない。
「それでディーキンもお返しをするけど、お姉さんも随分フレイムの近くにいるよ。人間なのに熱くないの?
素敵なコボルドのバードと話すのに夢中で、うっかり火傷するのを忘れてるんじゃないかな?」
「あはは! あなた、面白い事をいうわ。
…ええ平気よ、私も涼しいくらいね。私は火のメイジだもの、このくらいの熱ならどうってことはないのよ。
コボルドは土に近しい生き物だ、って聞いた覚えがあるけど……、あなたはむしろ火に近しいのかしら?」
「そうなの? ウーン……。
ディーキンの事は、ディーキンにもよく分からないの」
ディーキンはキュルケに返事をしながら、もう一度じっと彼女の姿を観察した。
フェイルーンの人間とは随分違う造形は人種の差異によるものとしても…、おおよそ人間にはありえないような鮮やかな赤い髪をしている。
洗い場で出会ったシエスタの容貌にはいくつか人間離れした特徴を見て取れたが、僅かにだが彼女の姿からもそれと似たような印象を受ける。
そして普通の人間より優れた[火]のエネルギーに対する抵抗力…。
ハルケギニアのメイジはシュゲンジャの流れを汲むものと昨夜推測したが、彼らの能力はシュゲンジャとは違い、血筋による先天的なものだという。
そして、例外なく生まれつき四大元素のいずれに属するかが決まっているらしい。
フェイルーンには、“ジェナシ”と呼ばれる遠い祖先に元素の次元界からの来訪者を持つ変わった人間が存在している。
そのうちのファイアー・ジェナシにはキュルケによく似た赤い髪を持つ者が多く、[火]に対して若干の抵抗力を持つという点なども共通している。
フェイルーンのソーサラーが己の祖先に竜や天使、悪魔、神などの存在を主張するように、ハルケギニアのメイジはブリミルを祖と仰いでいる。
だがその力の起源は、もしやすれば太古の昔、ハルケギニアに入ってきたであろう元素界の来訪者に求められるのかも知れない。
……まあ、正しいかどうかわからないし、仮に正しかったとしても「それがどうした」という話ではあるが。
一応後でエンセリックにでも話してみようかな、とディーキンはひとりごちた。
そんなディーキンの思案など知る由も無く、キュルケはフレイムの顎を撫でると話を切り上げて顔を上げる。
「お互いに親交を深めたいところだけど、早く行かないと朝食の時間に遅れちゃうし。
……じゃあ、ディーキン君、ついでにルイズも、お先に失礼するわね」
最後にそういって軽く会釈し、炎のような赤髪をかきあげてキュルケは去っていった。
フレイムもディーキンに別れを告げ、ちょこちょこと大柄な体に似合わない可愛い動きでその後を追う。
ルイズはむっつりと睨むようにその姿を見送り、ディーキンは挨拶を返した。
「じゃあまたね、キュルケお姉さん、フレイム。
……ねえルイズ、もう食事の時間ならキュケルたちを見送ってないで、こっちも行った方がいいんじゃないの?」
「ふんっ、何よ、もう。
……ええ、もちろん行くわよ、でもキュルケと一緒に行く気はないの。
ディーキン、私の使い魔として、これからはあんまりあのキュルケに近づかないようにしてちょうだい!」
腰に手を当て、むっつりした顔でそう言い放つ。
ディーキンはそれを聞くとルイズの顔をじっと見て、小首を傾げた。
ルイズは怪訝そうにそんな使い魔の様子を見ていたが……、ふと何かに気が付いたように顔をしかめて、ぼそぼそと言葉を足した。
「………まあ、その。
あのサラマンダーとは仲良くなったみたいだし。
使い魔同士の付き合いくらいは、あんたの気持ちに任せるけど………」
本音を言えば自分とキュルケの使い魔が付き合うのは非常に不本意だが、しかし交友関係まで縛るのは行き過ぎだろう。
あまりに狭量では主人としての度量に障る。
それに内心、正規の契約をしたわけではないディーキンの行動を無闇に縛ることには気が引けてもいるのだ。
「……ウーン……、ディーキンはルイズの使い魔だから、ルイズの頼みは無暗に断らないつもりだよ。
もしルイズがドラゴンと戦えって言うなら……、戦うし、パンを買って来いと言うならそうするの。
でも、キュルケと付き合うなっていうのはディーキンにはその理由がよく分からないの、どうして?」
「それもそうね……、いいわ、説明してあげる。
まず、さっきキュルケも言ってたけど。あいつはゲルマニアの人間で……」
それからルイズはキュルケ、というか彼女の実家であるツェルプストー家が嫌いな様々な理由を並べ立てた。
曰く、キュルケはゲルマニアの貴族で、私は成り上がりのゲルマニアが大嫌いだの。
ルイズの実家もキュルケの実家も共にゲルマニアとトリステインとの国境沿いにあって、先祖代々、戦争のたびに殺しあっているだの。
さらには先祖代々、婚約者や奥さんを寝取られているだの。
「……というわけだから、キュルケには近づかないようにしなさい」
「ウーン……、ルイズの話は、その、分かったの。けど……」
ルイズの話を聞き終えたディーキンはあいまいに口を濁しながら、何やら物言いたげな顔でルイズをじっと見つめた。
「……何よ、まだ何かわからないことでもあるの?」
「ええと、ディーキンは不思議なの。ルイズのご先祖様が、キュルケのご先祖様とケンカしたことは分かったよ。
でも、キュルケ自身はどうなの?
ディーキンには、彼女は悪い人には見えないの」
それを聞いたルイズは、いかにも不快そうに顔をしかめてディーキンを軽く睨む。
「……ふーん、亜人のあんまであいつの色香に騙されてるってわけ?
私に対するあの態度を見たでしょ、あいつはいつも私の事をからかうの。
それに何人もの男をとっかえひっかえして……、ろくなもんじゃないわ、例外どころか野蛮で品の無いゲルマニア人の典型よ。
そうでなくても、ヴァリエール家の一員として自分の使い魔がツェルプストー家の者と慣れ合ったりしたらご先祖様に顔向けできないの!」
それを聞いたディーキンは、少し考えてからじっとルイズの顔を見つめた。
「ええと……、ルイズがゲルマニア人を嫌いな理由は分かったし、それは正しいかも知れないね。昔から酷い目に合わされてきたし、意地悪で汚いんだって。
だけどルイズ、ディーキンは………、コボルドなの」
「………はあ? あんたがコボルドだってのは前に聞いたわよ、一体何がいいたいの」
ルイズは素直に頷かない上に唐突に脈絡のなさそうな話をしだした使い魔にいらいらした様子で眉を顰める。
昨夜は彼女の僅かな癇癪にも少し怯えた様子を見せていたディーキンはしかし、その様子に動じるでもなく、真っ直ぐに見つめたまま話を続けた。
「こっちのコボルドはディーキンのいたところのコボルドとは違うみたいだから、どうかわからないけど。
フェイルーンでは、コボルドはみんなから嫌われてるの。みんな言うの。コボルドには昔から酷い目に合わされてきたし、意地悪で汚いって」
それを聞いたルイズは、ディーキンの言わんとするところを察して少し焦ったように視線を泳がせた。
「そ、そりゃ、そうかもしれないけど。
でもね、あんたのいう話とツェルプストーとの件とはまた話が」
「違うの? でも、どう違うのかディーキンにはよく分からないの」
ルイズの返答が終わらないうちに、言葉を返す。
ディーキンにしては珍しい行動であり、じっと視線を外さない様子と相まって強い意志が篭っているのをルイズもなんとなく理解した。
「ディーキンは、どうしてコボルドがそんなふうに思われるのか知ってるよ。コボルドは意地悪で汚いってみんな言うし、それが真実なの。
ディーキンはコボルドの事なら、ルイズよりずっとよくわかってるよ。コボルドの心もね。
コボルドは言うの、自分たちはノームに人間にエルフにドワーフに…、どいつもこいつもに昔から酷い目に合わされてきた。みんな意地悪で汚いって」
「あん、……、う」
ルイズは何かいい返そうとするが、ディーキンと目が合うと口篭もる。
ディーキンはトリステイン人とゲルマニア人の関係と、人間とコボルドの関係とは、何が違うのかと問い掛けている。
亜人と人間の争いを名誉を持って戦う貴族同士の抗争と同一視されたことは腹立たしく、反射的に怒鳴りつけてやろうかとも思った。
だが、こちらを真っ直ぐに見つめるディーキンの目を見た途端、感情に任せた言葉は喉に詰まって出てこなくなってしまったのだ。
かといって、堂々と説明できるような理に適った反論の言葉も思いつかない。
「―――もしディーキンがバカなら、みんなからぜんぶのコボルドが意地悪で汚いと思われてるみたいに、みんなのことも意地悪で汚いと思うの。
他のコボルドがそうしているみたいにね。
だけどディーキンはバカじゃないし……、みんながコボルドを嫌いな理由はよく分かるの。
でもいつか、コボルドはドラゴンみたいになって、チビで卑怯で怖がりな嫌われ者じゃなくなるよ。
ディーキンはルイズの使い魔の仕事が終わって、他にも色々な事をしたらだけど……、いつか部族の元へ戻って、族長になる。
そうして、みんなを洞窟から追い出すの。きっとそうしてみせる。
ディーキンはもしかしたら文明化された土地へ行くようになった最初のコボルドかも。けど、行きたいと思うコボルドはディーキンだけじゃないと思う。
とにかく、ディーキンは挑戦する最後のコボルドになりたくないの」
「そ、それは、その……、あんたの志は立派だと思うけど……。
けど、この件に関しては、買いかぶりよ……、あいつは、そんな立派な……」
「……もちろん、キュルケやツェルプストーやゲルマニアには、ディーキンはルイズほど詳しくないの。
もしかしたらルイズの言う通りかもしれないし、ルイズがそう考えることはディーキンに止める権利は無いよ。
だけどボスなら、絶対にそんなことは言わないの。
それにディーキンは挑戦する者なのに、他人をダメだって決めつけるのはアンフェアだと思うの」
「……う、うー」
「えーと、つまり……、キュルケが本当に嫌な人だってルイズが確信してるんだとしても、ディーキンに自分でそれを確かめる機会を与えてほしいの。
ディーキンはルイズが寛大な人だってことは知ってる、だからお願いするの。
ルイズは召喚した最初からディーキンの無理も聞いてくれたし、さっきもフレイムとは話してもいいっていってくれたもの。
それはディーキンに気を使ってくれたんだってことはわかるよ、チビのコボルドに気を使ってくれる人はそういないの」
「……、その、あんたの話は分かったし、あの、認めてあげてもいいんだけど……。
ほ、ほら。万が一にも使い魔をツェルプストーの人間に獲られたりしたら、ご先祖様に申し訳が……。
も、もちろん自分の使い魔の事を疑ったりなんてしないけど。な、なんでそこまでしてキュルケと話したがるのかしら?」
ディーキンの話にはルイズも共感できる部分が多かったし、こうも誠実な態度をとられた上にやたらと持ち上げられては、狭量な命令を押し通すのも恥ずかしい。
だが話の筋はともかくとして、そもそもどうしてキュルケと話すなという指示にここまで真剣に反対したのだろうか。
まさか亜人がとは思うが、よもや本当にキュルケに惹かれているなどという事は……、と、ルイズは疑心暗鬼になってきていた。
使い魔を疑うようなことはしないししたくないが…、どうしてもその点が気になる。
「だって、キュルケはディーキンとまともに話をしてくれたもの。
人間でコボルドとあんな風に話してくれる人はそういないってことはディーキンはよく知ってるの。
ここには親切な人が多いし、ディーキンはキュルケを避けてまわるなんて、受けた親切を裏切るようなことはしたくないの。
それはバカなコボルドとか、いやな奴がすることだからね」
「は……? そ、それだけ?」
「それだけで十分だと思うの。だってそれは、人間がディーキンにしてくれる中でも随分いい事だからね。
あとディーキンにはルイズのご先祖様の事はよく分からないけど、ディーキンはルイズの使い魔になるって約束をしたの。
それは、互いに信じあえると思ったからなの。
なのにキュルケに獲られるっていうのは、ルイズはもしかしてディーキンが裏切って、キュルケの使い魔になると思ってるってこと?
ディーキンにはそれが冗談だって分かるよ…、あんまり面白くないけどね。
この辺では、そんな冗談が流行ってるの?」
「……え、冗談って……、いや、その」
「ボスなら絶対にそんな心配はしないし、ディーキンはルイズの事も信頼できる優しい人だって信じてるもの。
だから、そんなことを本気でいうはずはないの。
そうでしょ、ルイズ?」
「……わ、わかったわよ!
キュルケがどんなに節操のない軽薄な女か、時間を無駄にして自分で確かめてみたいっていうなら、そうしてもいいわ!
だけど、その為に私の使い魔としての仕事をおろそかにしたりだけはしないこと、いい!?」
真顔であくまでも真っ直ぐルイズの顔を見つめてくるディーキンの視線にいたたまれなくなったルイズは、逃げるように顔を逸らして返事を返した。
「うん。勿論だよ、ディーキンはルイズとの約束をおろそかにしたりはしないの。
ルイズならきっと思い直してくれると思ったの。ディーキンは優しい大きな親切に感謝するよ!」
ルイズは満面の笑みを浮かべて深々とお辞儀をするディーキンを、さまざまな感情が入り混じった顔で見た。
彼が顔を上げる前に、またぷいとそっぽを向く。
「ふ、ふん。このくらいの頼みを聞いてあげるのは、主人として当然よ。
……ほ、ほら! 話し込んでてすっかり遅くなっちゃったし、朝食に行くわよ!」
つんっとした態度を無理に装って足早に食堂へ向かいながらも、ルイズは自分の使い魔について思い悩んでいた。
見るからに小さな姿から子どもだと思っていたが…、召喚された時の動じない振る舞いと教師達との交渉、そして今の会話。
自分は意志の強い頑固な方だし、他人に安易に意見を左右されない確固とした姿勢が貴族の態度だと弁えているのに、簡単に命令を翻させられた。
見たところ演技じみたところも何もない、ただ素直で真っ直ぐな、誠実そのものといった態度で自分の意見を語っただけでだ。
(……もしかしてこの子って、見た目は小さいけど実は私より年上とか?)
そう考えながら、背後からついてきているディーキンの様子をちらりと伺った。
「♪ ア〜、忘れは しないブルー…
オカマで変態ー、赤いリボン〜」
……上機嫌で妙な即興歌らしきものをうたいながらリュートをかき鳴らしている。
無邪気そうなその姿に、ルイズは溜息を吐いた。
(まさか………ねえ)
アライメント(属性)について:
D&Dの世界において、個々のキャラクターの大雑把な倫理観や人生観を表す指標。
善と悪、秩序と混沌はD&D世界では単なる哲学上の概念ではなく、世界の有り様を決める現実の力なのである。
善・中立・悪と、秩序・中立・混沌の組み合わせから成る9種類の属性が存在する。
トゥルーニュートラル(真なる中立):
アライメントがトゥルーニュートラルの者は、善と悪、秩序と混沌のいずれについてもこだわりをもたない。
彼らは周囲への影響や信頼がおけるという観点から悪よりは善の方を好むが、かといって積極的に善を広めようとも支持しようともすることはない。
あらかじめ交わした契約があればとりあえずは無難に従い、後は状況を見て判断する。
平凡な暮らしを送る多くの一般人、学究に没頭し世俗のしがらみに興味を示さない研究者などはこのアライメントに属する。
他方で、一部のトゥルーニュートラルの者はこういった消極的な中立ではなく、積極的に中庸を推し進めるべきだという考え方に基づいて行動する。
彼らは善、悪、秩序、混沌のいずれもを危険な極端としてとらえ、長期的観点からの中庸を主張する。
2つの勢力が戦っているのなら、彼らは不利な方に加勢し、そちらが優勢になれば今度はもう一方に加勢して常に均衡を保たせようとする。
あらかじめ交わした契約を守るか破るかは、そうすることによって中庸の状態を保てるかどうかということが判断基準となる。
万物の調和を何よりも重視する自然崇拝者、凡人には理解しがたい超越的な思想家などはこのアライメントに属する。
また、動物などの道義的な判断ができないクリーチャーもこのアライメントに属する。
人食いの虎は善悪の同義を判断する能力がないのだから悪ではなく、忠実な犬や気ままな猫も道義的には秩序や混沌に属するわけではない。
トゥルーニュートラルの権力中枢が共同体に何らかの影響を与えることは稀で、権力者は権力の行使よりむしろ個人的目的を追求する方を好んでいる。
トゥルーニュートラルとは偏見や衝動に影響されない自然体を意味する。中立。
今回は以上です
話の進行はひたすら遅くまったりしています……
まあ、日常会話重視気味ですがそのうち戦ったりもすることでしょう、多分
それでは、できるだけ早く続きを投下したいと思います
お付き合いありがとうございました(御辞儀)
乙。
ディーキンの通常運行っぷりは、いろんな人たちに爪の垢でも煎じて飲ませたいね。
乙でした。
読むと暖かい気持ちになれる
魔砲の人にも乙!
乙
相変わらず読み応えがあるね
BEMネタわろた
この流れに乗ってアサクリの人も戻ってきてくれないだろうか
ポケモンの人もカモン
デュープリズムの人とアセルスの人もな
最近SSの投稿が少なくってちと寂しかった(´・ω・`)
よしでは俺がSS書くぞおおおおおおおおおお
と思ったけどアニメしか見てなかった
ストーリー的には日蝕イベントあった方が区切りやすくていいんじゃないか
エタるよりタルブ戦で1部完とかにしたほうがいいかもよ
その先書きたかったらまたアニメ基準でやればいい、アニメは完結もしてるしな
頑張ってオリジナル展開にするより筆も進みやすくていいんでないかい
ソーサリーの人も帰って来て欲しいな
これから第35話投下します。
第三十五話 『逃げろ!!脱兎の如く。』
「ちょっと、ミント…あんた正気?」
母カリーヌに向かっての交戦の意思を露わにしたミントに対してルイズは召喚して何度目かは覚えていないが思わず正気を疑ってしまう。生きる伝説烈風カリンに挑むと言う事はハルケギニアのメイジにとっては死に等しい行いだ。
「あったりまえでしょ。第一ちょっと前まであんた貴族は敵に背中は見せないって偉そうに言ってたじゃないの。」
「うぐ…確かにそうだけど…」
「諦めろ、嬢ちゃん。俺様だって腹は括ってんだからよ。」
カチャカチャと鍔を鳴らしてデルフはルイズを何処か的外れな言葉で励まそうとする。ルイズは内心「腹なんて無いじゃない」と思ったがそれを口に出す元気がもう無い。
互いのやり取りの間にも母親から刺さる厳しい視線…それだけでルイズからは生きた心地が消えていく…
と、ここでミントは両手を広げたままに一歩ずいと前に出る。
「とは言ったものの…取り敢えずこのシエスタだけは先に行かせてもらって良いかしら?巻き込んで怪我させてもいけないし、それ位は良いでしょカリーヌさん。」
「勿論です。元々この様な事に平民を巻き込むなど以ての外ですからね。ただしルイズとミス・ミント、貴女を唯で通すつもりはありませんよ。」
これは大切な事だ。ミントの申し出にカリーヌは当然だと二つ返事の了承を返し二人を通す気が無い事を改めて明確にする。
その間、馬上で自分がどうすれば良いのか解らないままだったシエスタは戸惑いながらもミントに促されるままに馬を進ませる。
「シエスタ、道なりに進んだ所に農村あったでしょ?後であそこで落ち合いましょう。」
「あ、はいっ。ミントさんもどうかご無事で。」
シエスタの馬がカリーヌの脇を通り過ぎ石造りの門をくぐり暗がりへと徐々にその姿を眩ませる。
その間はその場の全員の注目はチラチラとこちらを気にしながら戦場を離れるシエスタに集まり、取り敢えずは本格的に戦うまえの下地作りというか適度な緊張感がある剣呑な雰囲気が辺りを包む。
そして…
「あんたもよ…行きなさい。」
シエスタの避難もそろそろ十分かというタイミングでミントが呟く…
その声は最早口にしたミント自身しか聞き取れない様な小さな呟き声でミントは未だにルイズを背に乗せたままの馬の臀部を強く叩き、シエスタの馬に続く様、前進を促す。
「へっ?」
「ヒッ、ヒヒィィィ〜〜〜〜〜ンンッッ!!!!!!」
「キャアァァァァァーーーーーーッ!!!!!」
突然の衝撃に驚いた馬はそのまま嘶きをあげ、本能的に前を行くシエスタの馬を追う形に真っ直ぐカリーヌに向かって暴走を始める。無論混乱のまま悲鳴をあげるルイズを乗せたまま…
「?!!」
この全く予期せぬ展開にカリーヌはほんの僅かに一瞬戸惑ったがこのままルイズを行かせる訳にはいかぬとウィンドブレイクの呪文を素早く唱えてルイズに杖を向け迎え撃とうとした。
そのまま放たれた風の鎚はルイズとその馬を間違いなく一撃で戦闘不能に出来るだろう桁違いの威力を誇ってはいた…しかしその風の鎚は直撃の瞬間不可思議な事に力無く消失し唯のそよ風となる。
「……………」
カリーヌは無言のままながら目を僅かに細めて一体今己の魔法に何が起きたのかを知ろうとする。
そしてその答えは直ぐに判明した。
「嬢ちゃんそのまま止まるなよ、馬を走らせろ!!」
すれ違いざま確かに見えた、声を張り上げる馬の鞍にまるで突き刺すかの様に強引に取り付けられた白銀の刀身…それは先程までミントの手の中にあったデルフリンガーだった。
(魔法をレジストする剣?!)
一瞬、本当に一瞬…カリーヌの意識はデルフと走り去ろうとするルイズへと捕らわれてしまった。
行かせないとばかりに次いでの魔法による追撃を放とうとしたその瞬間、今度はカリーヌの足下が青白く照らされた…
「もらったぁ!!」
ミントの声がカリーヌの耳に届いた次の瞬間、一筋の電光『ボルト』が天からカリーヌの頭上へと走る…
「シッ!!」
それと違わぬ刹那のタイミングで魔法の予兆を敏感に感じ取っていたカリーヌは雷光を纏った杖で打ち下ろされたボルトを人間離れした反応で切り払う。
「…正直驚かされました。」
「まぁ、そりゃこの程度で倒せる相手じゃ無いわよね…でも。」
雷光と雷光が弾けた閃光の一瞬が開け、一度紫電を纏った鈍い銀色のタクト状の杖を振るって佇まいを正したカリーヌに対し、魔法を撃ち出した姿勢のままのミントがそれぞれ相手の一手に言葉を添えた。
「ミントッ〜〜〜〜あんた、覚えてなさいよっーーーーー!!!!!」
そして暴走する馬が消え去った暗闇の向こうから遠ざかって行くルイズの絶叫がこだまする…
「そうですね…これでルイズはまんまと逃げおおせたという訳ですか…まさかあの様なタイミングでルイズをあの様に扱うとは…」
「ルイズはあれ位しないと離れてくれなかっただろうしね。そのくせ戦う気が折れてる奴が側に居てもしょうが無いじゃ無い。」
暗黙の中であったとはいえお互い交戦の意思が整っていない最中で清々しい程の不意打ち。(無論カリーヌもそれを卑怯とは言わない。)
それも仮にも自分の主人であるルイズを陽動の為にあたかも捨て鉢の如く敵に突撃させるという無茶苦茶。保険としてデルフというカードを切る形にはなったが…
だが、ミントは見事『烈風』を出し抜いた…貴族として感心は到底出来ないやり方だが戦士としてならばルイズの門壁突破というこの結果、認めざるを得ない。
「まぁ良いでしょう。確かにルイズは逃がしてしまいましたが貴女を行かせなければそれは結局は同じ事です。」
言いながら再び構えたカリーヌの杖先に風が纏い付く。余程の魔力が渦巻いているのだろうかその風はもはや実体を持っているかの様に視角化されている。
「シッ!!!」
掛け声と共に振り下ろされた杖、撃ち出されたのは巨大な風の刃、詠唱は最早無い。いや厳密にはカリーヌは詠唱をきちんとしているのだがそれが誰よりも早く正確で小声なのに加えミントには口元が鉄仮面で見えないのだ。
「『トライン』」
ミントもカリーヌとほぼ同時に魔法を発動させながら風の刃を転がる様に回避した。直後背後では風の刃が木を砕き石畳を割る音がミントの耳に響く。
ミントから放たれた以前にはワルドの偏在を仕留めた三つの雷撃はそれぞれが弧を描く様にカリーヌへと襲いかかる。
(面白い魔法ね…)
ミントの魔法に対してそう思いながらカリーヌは続けて杖を横薙ぎに振るい風の魔法を放つ。
風で編まれた龍とでも形容すべきかその驚異の破壊力を持ったエアハンマーはあっさりとトラインの一つを飲み込むと体勢を立て直したばかりのミントへとその牙を突き立てようと食らいつく。
と、同時に簡単な風を巻き起こすだけの魔法で残りのトラインを相殺してみせる。(決してトラインが弱い訳では無い。)
「げげっ!!」
その光景がミントの目にどう映ったかは定かでは無いがミントはその圧倒的とも言える力差を前にしながらもその往生際の悪さを遺憾なく発揮してエアハンマーをも回避した。
カリーヌはこれにも内心驚かされた。正規の訓練を受けた軍人でもしっかり当てるつもりで放った今のエアハンマーを回避できるものは少ないだろう。無論これは自惚れでも何でも無い事実だ。
「危ないわね〜お返しよ。」
次いでミントは手数で勝負と言わんばかりに素早く『サテライト』を発動させ『バルカン』を同時に撃ち出す。ガンダールブの加護を用いれば同系統の魔法の同時施行位は何とかなる物だ。
ミントが放つ圧倒的な密度の弾幕、それに対してカリーヌは突き出した杖から同じく威力を落とし連射性を高めた風の弾丸を斉射し確実に相殺していく。
自然と二人の弾幕勝負は拮抗する…その間ミントの頬を嫌な汗が流れる…実際戦って感じたが残念な事にどうにもこのルイズの母親に勝てるビジョンが浮かんでこない。
勇気の光ならば確実にカリーヌの魔法を凌げるだろうがアレは攻撃に移る瞬間にどうしても無防備な瞬間が生まれてしまう。使うなら使うでタイミングが鍵となる。
そしてその僅かな均衡は直ぐに再び破られた。
「ここまでです。」
「なぬっ!?」
ミントが二つの魔法を同時使用した様にカリーヌもまたミントに悟られぬ様に長い時間を掛けて同時に強力な魔法を唱えていた。
ミントの目の前を塞ぐ様に巻き上がった風の壁、それは怪炎竜ウィーラーフの巻き起こす竜巻に似ていた。違いがあるとすればカリーヌの竜巻『カッタートルネード』はミントを目として発生している事だ。
(……これはやばいわね…)
カリーヌの意志に従ってルイズのトラウマ、カッタートルネードはミントを追い詰める様に徐々にその範囲を狭めていく。勿論風の勢いはそのまま、むしろより強い勢いを得ながらである。
「『ゲイル』『インパルス』『フレア』『リップル』『グラビトン』!!!!」
ミント自身も徐々に近づいてくる風の壁に対し、様々な魔法を撃ち込んで脱出を試みるもそれは流れ落ちる流水に穴を穿つかの様な事でありそれは叶わなかった…
(あ〜………………ちょっとこれは勝てそうに無いわね…正真正銘の化け物だわこの人…)
通常の魔法を粗方撃ち込んだミントは内心でそう愚痴をこぼす…カリーヌに比べればワルドなどどれだけ容易い相手だったか…
だが…それでもミントの表情に諦めは決して無かった…
カリーヌは完全に周囲の風その物を掌握したままゆっくりと収縮していく自らの唱えた『カッタートルネード』を油断無く見つめていた…
時折、風の障壁を貫いたり激しい閃光を放つミントの魔法に風が破られそうになるがそれをこのトリステインにおける最強は許しはしない。
そうしてミントの無駄とも思える足掻きがしばらく続いたがある瞬間からそれはピタリと止まった。
「何が…」
抵抗が無くなればこのまま竜巻は収縮を終えて最終的には周囲の一切合切と共にミントを上空へと巻き上げて決着となるだろう。
しかしカリーヌがその最中に覚えたのは奇妙な風の気配だった…
この一帯の完全に制御している風の中に明らかに異質な風の存在を感じる…例えるならばまるで水の中に浮き続けてている一欠片の溶けない氷の様な異質さ…
それもその場所はまさにミントが居るであろうカッタートルネードのど真ん中。何かがおかしいとカリーヌの中の戦士の感が警戒をしろと告げる。
「とりゃぁぁぁあああーーーーー!!!!」
次の瞬間、気合いの掛け声と共にカッタートルネードをぶち抜いて飛び出してきたのは二つのデュアルハーロウを揃え頭上に構えたミントの姿だった。
「なっ!?」
カリーヌにとってもこれはとても信じがたい光景だった…己のカッタートルネードを身体一つで突破するなど到底信じられた物では無い。触れれば鉄さえ寸断し、巻き込めば大岩ですら天に打ち上げる。そんな暴風を身体一つで突破など…
(それも全くの無傷で…)
カリーヌが見上げる様な高さで器用にも空中で身を捻ったミントはまるで重力を無視するかの様に軽やかで華麗な動きで天地を逆転させる。そうしてその勢いに身体を任せたまま大きくデュアルハーロウを振りかぶる。
ミントの姿がカッタートルネードから飛び出してその瞬間までは時間にして3秒も無かっただろう…
自分の頭上に今振り下ろされようとしている黄金のリングに対し、カリーヌは鉄仮面の下に隠された口元を思わず笑みで歪ませていた。これ程に闘争を楽しませてくれた敵が嘗ていたであろうか?否、いない!!
『ブレイド!!』
振り下ろす様な形で叩き付けられたデュアルハーロウに対してカリーヌは最速で発動させた魔法によって刃となった自らの杖で切り上げる様な形で迎え撃つ…
「ちっ!!」
「はぁっ!!」
魔力と魔力の衝突による凄まじい閃光が二人の得物の間で刹那、明滅する…
強烈な一撃に競り負けたと感じ取ったカリーヌは自分の杖を握る右手に強い痺れを感じながら思わず顔をしかめる…
そして一方で上空に弾かれ、鳥の羽の様にミントの身体が軽やかに再び宙に舞ってはカリーヌが背にしていたヴァリエール領の大門の真正面に着地していた。片膝を地面に着き、両手で体重を支える様な前屈姿勢で…
そこからは二人のとった行動は極めて早く、極めて対照的だった…
所謂クラウチングスタートの姿勢から一切振り返る気配も見せず、無防備な背中を躊躇いなく晒してまさに脱兎の如く全力疾走でその場から逃げ出すミント。
その気配を察してか僅かな時間でつぎ込めるだけの魔力をつぎ込んで最大級の且つ範囲を絞り込んだ『ウィンドブレイク』をミントに向けて発射したカリーヌ。
その結果は…
「じゃあねっ、カリーヌさん!」
まるでカリーヌの超弩級のウィンドブレイクを追い風とするかの様にしてあっという間に走り去ったミント…
「まさか…本当に出し抜かれてしまうとは…」
驚きも隠せず最早更地と言える程に荒れ果てた門前に一人残されたカリーヌはミントが走り去って行った方向を見つめる。
最早追おうとは思わなかった…正確に言えば追う事は出来なかった。
「思えば闘いに負けるというのは初めてですね…」
カリーヌの右手に握られた銀の杖からビシリビシリと不快な音が響く…
ミントからの強力な一撃を防いだ際、この杖にはどうやら限界が来ていたらしくその上で最後のウィンドブレイクを放った際に遂に折れてしまっていたのだ。
端から見れば逃げ出したミントの負けにも思えるが杖を折られるというのはメイジにとってはこれ以上無い敗北の証、そこをこの生粋の武人は誤魔化す気にはなれなかった。
「まさかこの様な結果になるとはな…」
ふと、初めての敗北の余韻に浸っていたカリーヌの背中に声がかけられる。それは少々離れた場所で始終を眺めていたヴァリエール公爵だった。
「それなりの力を示しさえすれば行かせるつもりではありましたが…少なくともミス・ミントは我々が思っていた以上のメイジですわ。策の打ち方、引き際の潔さ、彼女は間違いなく戦の相手にはしたくない相手です。」
言いながら砕けて折れた杖を公爵へと掲示してカリーヌは率直な感想を述べる。これにはヴァリエール公も目を丸くした。
「まさか教練用の杖とは言え君の杖を折ってしまうとは………ルイズの奴とてつもない使い魔を呼び出した物だな…とにかく無事であれば良いのだが…」
「…そうですね………思う所は多々ありますが…今はルイズとミス・ミントを信じましょう。ブリミルの加護があらん事を…」
ヴァリエール夫妻は己の娘とその使い魔の前途への加護を祈るのだった。
___ 森の街道
「はぁ〜〜〜………………流石にここまで逃げれば大丈夫よね…」
精も根も尽き果てたといった様子で道脇の木に手をついたミントはチラリと背後を見やり呼吸を整えた。
「何なのよあの人…何とか逃げ切れたけどあれは完敗だわ。」
ミントは知らないがカリーヌの方もミントと同じように負けたのは自分だと思っていたりしている。
ミントが最後に使った魔法は『緑』の魔法、タイプ『ハイパー』、『疾風の如く』風を身に纏い自身すらも風と同化し、一切の攻撃を無効化するというある意味で反則じみた魔法である。
勿論ハイパーの例に漏れず燃費がすこぶる悪く、城門を突破してから本当に直ぐにミントの魔力は底をついてしまっていた…
「世の中上には上がいるもんね…さて、早い所ルイズ達に追いつかなきゃ…」
気を取り直して顔を起こしたミントは再び走り出した。
ミントはまだ知るよしもなかったがこの辛勝は後にミントにとっての大きな心労の種となるのだった…
以上で35話お終いです。
待たせてしまってごめんなさん。
最近仕事が忙しすぎて56日間もの連続出勤が終わって…もう何が何やらって漢字です
乙!手に汗握る面白い戦いでした!
素敵に無敵はどこで使われるのか!
素敵に無敵はどこで使われるのか!
と、おもったらここできたか
燃え上がる心ってつかったっけ?
投下乙
手に屁を握るほど面白かった
ブリキに狸に洗濯機
やって来い来い大巨人♪
>>566 精神鍛練の一環として自衛隊の演習に参加していた長嶋巨人軍
突然の地殻変動に襲われ、飛ばされたのは戦国時代ではなくハルケギニアだった!
>567
まぁ、何時の巨人軍かで知名度や思い入れが変わるよな。
二番、ショート川相さんなら……
三番、センター松井秀喜で上出来、ナンチテ
志茂田景樹が書いた「戦国の長嶋巨人軍」だね
信長と野球するやつだっけ
そろそろ新作が来てもいいんじゃないかな?
チラッ
>569
知ってるけど未読なんで。
まぁ、スポーツ物をネタにすると「でも、このチームならこの選手も入れて」みたいなのは誰しもちらとは思うはず。
たとえば日ハムなら、センターは新庄か陽か、みたいな。
デュープリの人乙! そういえばルウは来るのだろうか……
久しぶりにきたら投下もいっぱいきてて乙〜
10:00から小ネタを投下します。
何から誰が召喚されたかは投下終了後に発表します。
「Louise's servant's silver hammer」
トリステイン魔法学院。
ここに通う女子生徒の1人、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは変わり者として有名だ。
その日も1人女子寮の自室で香水を調合していた。ここ最近香水瓶とにらめっこしつつの徹夜続きだった。
するとそこに同級生ルイズ・ヴァリエールが召喚した使い魔マックスウェル・エジソンが、
「芝居を見に行かないか、モンモランシー」
と誘ってきた。
丁度新しい香水の開発が煮詰まっていた事もあり、モンモランシーは快諾する。
そして彼女が出かける支度をしていると、何者かが彼女の部屋の扉を叩いた。
扉を開けた彼女の目の前には、銀のハンマーを振りかざしたマックスウェルの姿が……。
--バンバン!
マックスウェルの銀のハンマーが、モンモランシーの頭部に振り下ろされた。
--ガンガン!
マックスウェルの銀のハンマーが、モンモランシーの命を奪った。
翌日。
何食わぬ顔で登校したルイズ・マックスウェルは、ギトーの授業で好き放題にふざけた。
とうとう標的となったギトーの後頭部に紙飛行機が直撃するに至ってギトーは困惑のあまり、
(面倒が起きませんように……)
と心中で祈る以外不可能になった。
当然のように2人は放課後の居残りを命じられて、「もうしません」とそれぞれ50回書かされる羽目になった。
そして2人から50行の「もうしません」が書かれた紙を受け取ったギトーは、職員室に戻ろうと後ろを向いた。
だがその隙に、マックスウェルが背後から忍び寄り……。
--バンバン!
マックスウェルの銀のハンマーが、ギトーの頭部に振り下ろされた。
--ガンガン!
マックスウェルの銀のハンマーが、ギトーの命を奪った。
数日後。
トリスタニア衛兵隊31番隊は上司にこう報告した。
「汚い奴らを捕まえました」
連行されたルイズ・マックスウェルは被告席に立ち、証明画を描かれた。
2人の逮捕を聞きつけたキュルケ・タバサは、
「2人を釈放するべきよ」
と声を上げたものの、裁判官は同意しかねる旨を彼女達に伝えるのだった。
だが裁判官が判決を下す前に、背後で奇妙な音がして……。
--バンバン!
マックスウェルの銀のハンマーが、裁判官の頭に振り下ろされた。
--ガンガン!
マックスウェルの銀のハンマーが、裁判官の命を奪った。
その日以来、学院の生徒達は誰もルイズの事を「ゼロのルイズ」とは呼ばなくなった。
代わりに「銀鎚のルイズ(シルバーハンマー・ルイズ)」と呼び、恐れるようになったのだった。
以上投下終了です。
ビートルズナンバー「Maxwell's silver hammer」から、「マックスウェル・エジソン」召喚です。
ディーキンのSS面白い!
喋り方が可愛くて萌える
原作も結構面白いからやってみてくれw
人気でなさすぎて翻訳でなくなっちゃったし
>ここの人間はフェイルーンの人間に比べて全体的に華奢で異様に目がでかくて口が小さくて顔が逆三角で……、
>とにかく珍妙だ。
ディーキンは、洋ゲーのキャラだから仕方ないよなw
だが、日本のD&Dは、中国嫁の亭主が絵師だぞ?
D&Dは新和版しか知らない自分はどうすればいいのか…
つまりプルトニウム貨とかレゲーアーマーとかワォーハンマーとか10レベル郷土魔法使いとかを出せと
おい、誰か上の小ネタにも触れてやれよ
過疎ってる中、せっかくの新作なんだから
俺は元ネタよく分からんからコメントしようが無いけど…
>>584 二十年離れている間にそんなことになってたのか……
読み直すと、キャラが軒並みディーキンに好印象を持っている。
交渉が高いというのはとても有利であるというのがよくわかる。
591 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/30(金) 01:19:59.68 ID:AGwISnsf
Bang Bang Maxwell's Silver Hammer came down upon her head〜♪
Clang Clang Maxwell's Silver Hammer made sure she was dead〜♪
ということでビートルズネタを持ち込んだわけですか。ははぁ。
日本向けのイラストも相当なレベルだが、
しかし本国製のイラストも昔の雰囲気を残しつつ格段に質が向上しているから古くからのファンも安心だよ
正直、クロス先の話をそのまま持ってきて人名や名詞だけゼロ魔に置き換えただけのだとコメントのしようも…
tst
スレの要領が480kb超えてるから、ちょっと次スレ立ててくる
ラスボスの人帰ってこないかなあ
ユーゼスが再び進化したというかなんというかで爆笑したんだが
ディーキンの出演ゲームはこれまた洋ゲーによくあるユーザー製キャラモデルへの変更が可能だから
ジャパニメーション調モデルとかあるよ
でもここのディーキンのボスは男だからそういう顔の人に逢う機会が無かったんだなw
ねえボス、なんでボスは他の人とそんなに顔が違うの?
何だかNWNは思ったより人気と知名度があるみたいで嬉しい限りですw
私は男主人公の場合はラウンドテーブル製の実写風なイラストをよく使ってましたね
アラゴルン的な人とかフルヘルムで顔が見えない聖騎士風の人とか
ボスの職業はまだ明記してませんが、特に問題がなければパラディン(メイン)/ソーサラーのマルチクラスかな、と思ってます
パラディン無茶苦茶強かったような記憶あるなぁ
専門職であるはずのファイターと同レベルの戦闘力に信仰呪文、加えて強力なセービングスローにスマイトイービルまで
D&D1st、2nd、AD&Dの頃のパラディンやバードは壊れ職だからねぇ。
上級冒険者へのボーナス的なところもあったし。
漢(オトコ)ならミスティック一択!
『漢の使い魔』と言うタイトルだけ浮かんだが、何とクロスオーバーさせたらいいんだ。
プリティ・ベルとかクレオパトラ・ダンディか?
男塾でいいんじゃね?
既存だけど、同じネタで書いちゃいかんわけでもなし
>>607 初代作品は1号生を召喚したが、次回は単独で召喚はどうだろうか?
シルクハットとマントという格好の男爵ディーノは杖持ってたらメイジと間違われそうな気がするw
>>609 確かにそうかもしれないな。
魔法ではなく中国拳法の秘儀だが
「これは一体!?見たこともない魔法だ!」となるかもしれない。
しかし下着はフンドシだ
でもそれじゃ“男”だしぃ?
“漢”だと……『項羽と劉邦』未読だから使えないし……
じゃあ漢字って事で漢字扱うので行けば良いさ
シンケンとか
龍虎の拳外伝
それを推薦するとは…すごい漢だ。
>>615 ショー・疾風 「ブーメランと実戦空手とデルフリンガーを組み合わせた全く新しい武術、それが真の風雲拳だ!」
組合わせんなや。
それじゃただの二天一流だ。
デルフリンガーを投げるのか? ブーメランみたいに
デルフリンガー+99を投げた
デルフリンガー+99はどこかに消えてしまった…
ナイル川の底に沈んだ
そういや日本の昔の王道RPGの主人公ってのはあまり数ないね。
イースのアドルとかなら、新しい冒険できる!とかいってポジティブ
に考えそうだし、剣(というか冒険者/戦闘者として)も達人クラス
でデルフとも相性いいし、性格も穏やかだからハルケギニアに即順応
しそうだ。
ゼロ魔の世界設定もちょっといじればイースの設定と噛み合うの
多そうだし。
ただ、名前的にヒロインはタバサがよさげだけど。
>>619 寝ぼけながらやったトルネコで正義のそろばんを投げてしまったあのとき…
>>622 そしてタバサが現地妻化するのか
ランスの元ねただもんなぁ
デルフにはインテリジェンス鞘が必要なんだと思うの
デルフ「鞘子ォォォオオオ!!」
銀魂に帰れ
>622
東方=ジパングですねわかります
卍丸じゃキャラよくわからんから来るならカブキか絹かなあ
メイジって火と根どっちの血なんだろう
天狗が火が使う術の大部分は根が命と引き換えに奪ったものだって
言っていたから根の方になるかと。
境界線上のホライゾンの浅間あたりどうだろう
というか、剣キャラは目いっぱいいるのに、弓キャラがクロスされたことがあまりないっぽいんで、この選択なんだが
弓キャラか、タバサにはトラウマものだな
>>632 デルフの関係上、剣が多くなるのは仕方ないんじゃね
何でもいいから手持ち武器を矢にする弓が『ブレイド・オブ・アルカナ』にあったな。
うむ、漢と言ったら龍虎の拳外伝
凄い漢だ…
>>632 アルティメットまどか様とか弓ほむとかも呼ばれないな。そういえば。
>>632 まだちらっとしかでてないけど剣を弓で射出する巫女もいるぞ
弓使う。ウルトラマンでいえば妹のウルトラウーマンジャンヌ(使いこなせてないけど)が当たるかな
公式中最弱のウルトラ戦士だからハルケギニアに喚んでもバランスブレイカーにはなるまい
ウルトラ戦士は存在そのものがチートなんで・・・
ジャンヌはたぶんフーケゴーレムにも勝てないくらい弱い
いや多分ワルキューレにも負ける
弓キャラ……
『理想のヒモ生活』の竜弓騎士、ナタリオ・マルドナドか。誰得だな。
ルイズにしてみれば自分以外の対象、それも王族に忠誠を誓った使い魔とかどうしようもないし、
ナタリオも王家に仕える騎士から貴族令嬢の下僕とか受け入れられそうにないし、
向こうの世界でも一人で通常の騎兵の五倍は働いて貰わねばならない騎士がいなくなったら激痛だし、
弓騎兵にただでさえ新たな剣を持たせる意味ないのに両手剣のデルフはさらに不要。
完全な弓キャラじゃないが、弓も剣も使うキャラということならクレイトス
さんも該当するな。
3クリア後ならちょびっと丸くなってる(と思う)から、ルイズがちょっと暴言
吐いたくらいなら、半殺しで許してくれるかも。
ザ・グレイトバトル3のロアでひとつ
素直にロビン・フッド呼べばいいのに
ロビンとマリアンのショーン・コネリバージョンかケビンコスナーバージョン
あるいはロビンフッドの大冒険のロビンはもろルイズと相性いいんだけどな
那須与一のことも思い出してやってください
最近映画で活躍したホークアイで
DARK SOULSの鷹の目ゴーか
弓キャラったら泉野晴凛だな。
山猫姫の相手で多少難がある程度なら扱いも慣れてるだろうし
最新刊付近は公式に王様で主戦力だから抜けられると原作が超やばいけど
リリカルなのはからシグナムでいいんじゃね
剣も弓も使うぞ
弓キャラって言ったらライディーンだろ
ルイズ「ライディーン! フェードイン」たちまちあふれるしんぴのちかーらー
ならばラーゼフォンも忘れてはならない
「サヨナラ」は誰の役目になるのやら……
ランボーもいるだろ
>>651 つまり4つの使い魔が
シグナム・アシェン・ラミア・朔野美景
と
ビックリマンの魯神フッドか。
神帝になれば剣も使えるし……でも、アニメだと他に女がいたか。
弓キャラといえばロードオブザリングのイケメンやろ
今月公開のホビットの冒険が本編より60年前の話なのにガンダルフの容姿がまったく変わってないだなんて!?
弓ゲーと名高いタクティクスオウガからアロセールを…
Cルートからならともかく、Lルートだと最期までアンチ貴族だから話が相当拗れそうだなぁ
弓キャラ最強は普通にホークアイさんだと思った
空中空母落としたりロキ叩き落としたりすごい
>>657 ガンダルフは数千年前に東の地から渡ってきた時からずっと爺だよ。
下位神だしね、そもそも。
>>655 ラミアと会ったらルイズが憤死するな、胸囲的な意味で
双子の妹に決め台詞を横取りされる那須与一とかジバクエル=にゃふぅとか源平の怨念で弓矢を作った天の八幡太郎とか横に構える法螺吹きシーフとか50mダッシュとか恕死公星とか……
TRPG系でも弓キャラはまだいっぱいいるな。
他にも痛天使とか猫耳大司教とか無口姫とか……
弓か、時代に翻弄されたアサシン、コナーさんとか・・・
でもメインっていうよりひとつの手段って感じか
っというかエツィオさんはよ!
弓でロボットの類までだしてるのにグランゾードのウインザードとガスがですね
>>624 蒼き狼と白き牝鹿シリーズだと……SLGの方か
オルドしようよ
アイアンマンは?
コルベール先生と共同開発してとんでもない
パワードスーツ作るトニーが見たい。
終わりのクロニクルからとか考えて色々キャラを考えたが、無理だわ、あれ
概念の扱い方が難しすぎる
キャラが基本チートくさい上に変態の巣窟で、ゼロ使キャラがかすむかすむ
バランス取りが超ムズイわ
ゲームOSAKAの方から姐さんか参仁をですね
川上ファンは結構いてもゲームまで齧ってるのほとんどいないよね
すげー面白いんだけど
流石にアイアンマンレベルの科学技術になるとコルベール先生じゃ
きびしくね?
基礎が全然違うわけだし。
技術力が高すぎるから魔法との融合も一朝一夕じゃいかないような。
逆にあの世界(マーベル世界)の魔法が何でもありすぎて困る
ルイズ「そんな!どうしてコントラクト・サーヴァントが効かないの?」
アル中社長「ああ、性能が低いんじゃないか?」
現実改変能力を持つ機械「コズミックキューブ」を作るあたり、
マーベルユニバースの科学力は魔法の域に達しているとしか思えない。
>>673 とあるSCEBAI(スケベイ)の岸田博士曰く
「充分に進んだ技術は、魔法どころかご都合主義にしか思えん」
だし
西尾のりすか呼んで魔法合戦が見たいなぁ
キズタカも必要かな
>677
安達太良(あだたら)山を呼ぶのか。
うさぎ平とか明智平とか三木のり平とか磯野波平とか間寛平とか……
……呼ぶまでもなくルイズの胸が平らだからな。からね?からさ!
埋めましょ
つまり、八郎潟の八郎とかシヴァ勝家とか道尾堀太とかだな……
こ、工事力ビーム?
光じゃなくてコーンにかける長い棒としてのビームか……
……デルフが剣でなくて首切りスプーンだったり……というか破壊の杖どうしよう。
ラブーリ ラブーリミガメ
聞け この合図、
ラブーリ ラブーリミガメ
わが神にあらず。
されど、ラブーリ ラブーリミガメ
願わくはかなえさせたまえ
運がわれを見放さんことを、
幸運がわれにもたらせんことを
あなたの運勢教えましょう
金貨を恵んでくだされば
あと一枚だけ投げてくれ
二つの願いをかなえてあげる
恵んでくれてありがとう
もう一枚、こんどはあなたの健康に
あと一枚だけ投げてくれ
どんな傷でもたちまちなおる
あと一枚、これで最後
どんな仕事も引き受ける
He’s gonna take you back to the past
to play shitty games that suck ass.
He’d rather have a buffalo
take a diarrhea dump in his ear.
He’d rather eat the rotten asshole
of a road-killed skunk and down it with beer.
He’s the angriest gamer you’ve ever heard.
He’s the angry Nintendo Nerd.
He’s the angry Atari Sega Nerd.
He’s the Angry Video Game Nerd.
When you turn on your TV
Make sure it's tuned to channel 3.
He's got a nerdy shirt,and a pocket pouch
Although I've never seen him write anything down.
He's got a power glove,and a filthy mouth
Armed with his zapper he will tear these games down
He's the angriest gamer you've ever heard,
He's the angry Nintendo nerd.
He's the angry Atari Sega nerd.
He's the Angry video game nerd.
He plays the worst games of all time.
Horrible abominations of man-kind.
They make him so mad he could spit.
Or say Cowabunga....
"Cowa fuckin' piece of dog shit!!"
They rip you off and don't care one bit,
But this nerd he doesn't forget it.
Why can't a turtle swim?
Why can't I land the plane?
They got a quick buck for this shitload of fuck!
The characters names are wrong.
Why is the password so long?
Why dont the weapons do anything....?
He's the angriest gamer you've ever heard.
Games suck so bad he makes up his own words.
He's the angriest most pissed off gaming nerd.
He's the angry...
Atari,Amega,CD-i,Colecovision,Intellivision,Sega,NeoGeo,Turbo Grafx-16,Odessy,3DO,Commedore,Nintendo... Nerd
He's the Angry Video Game Nerd.