あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part312
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part311
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1337584697/l50 まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
今週は以上です。
人間とエルフvs超獣軍団の決戦。どんでん返しの連続ですが、たのしんでいただけているでしょうか。
さて、大いなる使命を持ってやってきた新東方号の冒険もそろそろ要点に差し掛かってまいりました。
冒頭、ティファニアの言葉にありましたが、争いの原因とは相手の立場に立って考えられないことに大きな原因があると筆者は思います。
実はこの言葉、ウルトラシリーズのある方がおっしゃっていたことで、筆者としてはウルトラシリーズで一番好きな言葉であるので
筆者なりの解釈と意味を持たせてテファに言わせてみました。
ですがヤプールも黙っているわけもなく、そろそろ本気でアディールを滅ぼしにきました。エースはパワーアップした超獣軍団に勝てるのか?
そして、新たに現れた怪獣とはなにか。クライマックスは近いです。
追伸:あと、たびたびですみませんが来週も休みます。モチベーションは回復して、大筋は整っているのですが、なにせ二部の締めですから
最高の出来にしたく、書いては納得いかなくて書き直しを繰り返しているうちにあっというまにストックがなくなってしまいました。
楽しみにしてくださる方には大変申し訳なく思いますが、投稿速度のために内容を妥協しては本末転倒です。また、読み物は
どんなものであっても質がすべてであり、小細工をもちいてのごまかしは絶対にやりたくないので、再来週の進み具合によっては
隔週にすることもあるかもしれません。
やっと代理完了。 次スレ建てる前に容量オーバーさせてしまい申し訳ありませんでした。
ウルトラさん、代理&スレ立てさん乙
読むの久しぶりでもなんとなく分かるってのはウルトラマンぽくていいな
ゴモラや、ゴモラが来たで
サボテンダーがマザリュースに改造されるのにはついニヤリとした。
>>4 まさかエースと他の怪獣たちに“ウルトラリンチ”されたりして・・・?
ルイズ〜
8 :
るろうに使い魔:2012/06/16(土) 21:55:29.76 ID:PQZabvkj
皆さんこんばんわです。誰もいないようでしたら、
これから十時に投稿したいと思います
どうぞ
10 :
るろうに使い魔:2012/06/16(土) 22:00:22.96 ID:PQZabvkj
それでは、始めたいと思います。
ここ最近、トリステインの貴族の間では『ある問題』を抱えていた。
『土くれのフーケ』と呼ばれる、神出鬼没な盗賊のことだ。
性別年齢出身、その全てが謎に包まれているその盗人は、高価な宝石や陶芸があるところ必ず現れ、その巧みなテクニックで華麗に盗み出している。
分かっていることは、そのフーケが、かなりレベルの高い『土』系統のメイジであることだけ。時に堅固な壁を文字通り『土くれ』に変えて侵入したり、
巨大なゴーレムを使役して力任せに強行突破したりと、その時その時で応変に対応して攻めてくるのだ。
おかげで、今のトリステインの噂ではフーケで持ち切りとなり、貴族達は下僕に剣を持たせてみたり、『固定化』などの防御魔法で対策を立てたりするものの、
未だにフーケを捕えるどころか、その正体すら掴めないでいた。
そして今、フーケはあるマジックアイテムの所在を突き止め、それが保管されている場所、トリステイン魔法学院へと忍び込んでいた。
第七幕 『土くれの盗賊』
「さすがは魔法学院本塔の壁ね……物理攻撃が弱点? こんなに厚かったら、ちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃないの!」
時刻はもはや夕暮れ。大きい月が二つ重なる夜の中、塔の壁に垂直に立つ人物が一人。
五階の宝物庫の丁度外壁に立ち、足で壁の厚さを測っていたフーケが、やり切れなさそうに呟いた。
『錬金』で穴を開けようにも、強力な『固定化』の呪文のおかげで思うようにいかず、唯一頼りにしていた情報『強力な衝撃には脆い』も、
この厚さでは容易に突破できない。
まず十中八九、見つかってしまうだろう。やるにはあまりにリスクが高すぎる。
どうしたものか…と考え込むフーケの耳に、何やら話し声が聞こえてきた。
そちらに視線を移すと、ルイズ・キュルケ・タバサの三人がいがみ合いながら中庭へとやって来た。
正確には、ルイズとキュルケの後をタバサが追っている形なのだが。
ここにいては見つかる。そう思ったフーケは、とりあえず身を隠し、彼女達の成り行きを見張ることにした。
「ケンシンに相手にしてもらえないなんて、ツェルプストー家の名折れねぇ、キュルケ」
ルイズが、ここ一番というばかりにしたり顔でキュルケを見た。
ルイズからしてみれば、実力容姿ともに勝ちの目が薄い(負けてるとは絶対に思っていない)
キュルケに対して、今だけ唯一反撃できるこの状況は楽しいことこの上ない。
「あらあら、ちょっと上に立てたからってまあそんな大はしゃぎしちゃって、相変わらずヴァリエール家は単純ねぇ、ルイズ」
キュルケも、負けじにそう言い返す。その口調に焦りや怒りなどはない。むしろルイズと比べてもまだまだ余裕そうな雰囲気を漂わせている。
二人がこんな風に睨み合っているのには、当然ながらワケがある。
武器の購入も終わって、あの後部屋でしばらくしていると、急にキュルケ達がやってきた。
何でも、剣心のためにと、ルイズ達が訪れたのと同じ武器屋に行って、そこでゲルマニア産の高級な大剣を仕入れてきたのだという。
一瞬、旗色が悪そうに顔をしかめたルイズだったが、剣心は感謝の意を感じながらも、それを丁重に断った。
「ルイズ殿にも言ったけど、拙者には逆刃刀がある。この剣以外の武器を扱うつもりはござらんよ」
「オイ相棒、ってぇことは俺も使ってはくれねえってことか?」
不満げに漏らすデルフを、剣心は担ぎ上げると、鞘から取り出して刀身を見た。
斬れるのか、と思うくらいに錆び付いた状態だったが、特に剣心は気にしなかった。
「喋る剣なんて、拙者のいた場所だったら想像もできなかったから、それだけで充分興味を引いただけでござるよ」
それに聞きたいこともある、と剣心はデルフにそう呟くと、今度は少し一人にして欲しい、とルイズ達に告げた。
支援でござる
12 :
るろうに使い魔:2012/06/16(土) 22:03:28.24 ID:PQZabvkj
「だから、その剣は拙者なんかにではなく、将来本当に自分を大切にしてくれる殿方のために、取っておくでござるよ」
優しい笑顔でそう返されると、キュルケも何も言えなくなり、剣心がデルフを持ってドアを閉めるまでただ目を丸くして呆然と立っているだけだった。
次の瞬間聞こえたのは、ルイズの高笑いだった。
「――あっはっはっはははぁ!! ねえ今どんな気持ちよキュルケ? ねえねぇ!!」
正直、デルフより高級そうな大剣を見たとき、どうしようと本気で悩んでいたルイズだったが、それをあっさりと断られたときのキュルケのあの表情。
それを思い出して、久々に腹を抱えて、涙まで流して笑い転げるルイズに対し、キュルケはピクリと眉を釣り上げてルイズを睨んだ。
その後の展開は、最早推して知るべし。当然のことながら口論ではとても解決できず、熱も上がってやがて決闘にまで発展していった。
「あたしね、あんたの事、大っ嫌いなのよ」
「気が合うわね、あたしもよ」
二人の間には、かつてないほどの緊張感が漂っていた。
こうなった以上、剣心だろうとタバサだろうと止められない。
やがて、真っ赤な髪をかきあげながら、キュルケがせせら笑うように言った。
「確かに、プレゼント勝負では負けを認めるけど、あたしはあんたと違って攻める手段を沢山持っているのよ」
嘘ではない、言葉の端々からそう感じるルイズは、平常心を保ちつつも反撃した。
「フンだ、色仕掛けやプレゼントなんかしても、あんたのなんてケンシンは受け取らないわよ」
「あらぁ、あんたにどうしてそんなことが言えるのかしらぁ?」
ここぞとばかりに、顎に手の甲を添えてキュルケは高笑いする。
「別にケンシンは、今回が『剣』だったから拒否されただけであって、それ以外を受け取らない保証なんて無いじゃないの!!」
うっ、とルイズは言葉を失う。確かに、たまたま買うものが被っただけだったから良かったものの、もし別の物だったら、
剣心の性格だ、喜んで受け取っていたことだろう。
平常心平常心…と心の中で呟くルイズに対し、キュルケの口撃は続く。
「ケンシンは確かに、他の男と違って難攻不落だけど、それはあたしとて望むところ。恋は燃えれば燃えるほど強く舞い上がるものよ」
キュルケは未だに剣心を諦めてはいない。むしろ、中々射止められないことに対して、やる気で満ち溢れているようだった。
先程の余裕もどこへやら。完全にキュルケのペースにはまってしまったルイズは、ギリと歯を食いしばって耐えるしかなかった。
「ま、あたしが何もしなくても、いずれあんたに愛想を尽かしてケンシンもあたしの元へ来るでしょ。
ゼロのルイズの使い魔なんて、彼もさぞかし不憫でしょうからね!!」
この発言が、ルイズの『平常心』という紐を断つ、止めの一言となった。
ただ、怒りに身を任せて杖を引き抜くと、なんの躊躇いも見せずキュルケの顔面に向けて『ファイアー・ボール』の魔法を放った。
一瞬ギョッとしたキュルケだったが、間一髪スレスレのところを何とか回避した。ルイズの魔法はそのまま、本塔のあらぬ壁へと激突し、爆発を起こした。
「…まったくもう、危ないじゃないの。顔に傷が付いたらどうするつもりよ」
キュルケはそう言うと、さっきまでの余裕な笑みを消し、鋭い眼でルイズを睨みつけ、胸から杖を取り出した。
ルイズも、それに答えるように杖を前に構える。
この一触即発の空気の中、どうやって二人の仲を取り持とうかと思案するタバサの目にふと巨大な影が目に写った。
やがてルイズとキュルケにも、その存在に気づき、そして目を疑った。
夜の闇に紛れて、そこには巨大なゴーレムが佇んでいたのだ。
13 :
るろうに使い魔:2012/06/16(土) 22:06:23.69 ID:PQZabvkj
―――そんな事態が起こる、少し前のこと。
「…で、聞きたいことってぇのは何でぇ?」
あの後剣心は、どこか人目につかない、廊下の突き当りくらいの所まで来て、誰も見ていないことを確認すると、
ゆっくりとデルフの柄を手にとった。
鍔を浮き出し、カチカチ鳴らせながらデルフは聞いた。
「まぁ、そうでござるな…」
しばらく考え込んでから、デルフが出し抜けに言った『使い手』という言葉を使ったのを思い出し、まずそれを聞くことにした。
単純に、自分の実力を見抜いての発言かもしれなかったが、それでも何故そうもハッキリと言い切れるのか、それはそれで腑に落ちないからだ。
しかし、デルフの答えは、そんな剣心の予想の、斜め下をいった。
「うーん、勘」
「か、勘って……」
「わかんねえよ、俺も。ただお前さんに握られたとき、ビビッときたんだ。コイツなら俺を使いこなせるってな」
その後も、剣心は出来る限りの思いついた質問をぶつけてみた。
どこから作られたのか、この世界についてとか、左手のルーンについても聞いてみた。
しかしデルフの答えは、「知らない」「忘れた」「思い出せねぇ」の三つしか言わず、何とも要領の得ない回答ばかり。
流石の剣心も、これには落ち込んだ。
「買った意味がないでござる……」
「まあまあ、そう落ち込むな。その分ちゃんと働くからよ!!」
「いや、だから拙者はこれ以外に使わないって…―――」
がっくりと肩を落とす剣心の前に、ふと大きな影が覆いかぶさった。窓の外には、石で出来た巨人が立っていた。
フーケは、ゴーレムの上でルイズ達を見下ろしながら、薄ら笑いをしていた。
先程飛んでいった魔法は、偶然か否か、丁度宝物庫を納めている壁に当たった。
強力な『固定化』をかけているにも関わらずその壁には、爆発音と吹き上げる煙の向こうに、大きなヒビを残していった。
まさに思わぬ僥倖。フーケはそう思うと、そのヒビ割れた壁に向かってゴーレムの巨腕を叩きつけた。
その瞬間、ガラガラと大きな音を立てて壁が崩れ落ち、ポッカリと大きな穴があいた。
その中に侵入したフーケは、多々ある秘宝の中から、一つの黒い箱に手をかけ、蓋を開けてその中身を確認した。
あった…。フーケはニヤリと口元を歪ませると、杖を振って壁にこう刻んだ。
『破壊の剣と英雄の外套、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
そう書き込むと、用済みとばかりにゴーレムの肩に乗り、そのまま闇へと消えていった。
その場に残ったのは、呆気にとられたルイズ、キュルケ、タバサの三人と、慌てて駆けつけた剣心だけだった。
その次の朝、学院は慌ただしい騒がしさで包まれていた。
優れた実力を持つ教師の目を掻い潜り、堅牢な城塞を突破して、秘宝を奪われたのだ。
当然、その喧騒は留まることを知らず、教師たちは互いの責任の擦り合いをしていた。
やがて、機を見てオスマンが騒ぎを治めると、コルベールに尋ねた。
「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
「この三人です」
コルベールがそう言って、後ろに控えているルイズ達を差した。その中に剣心もいたが、平民で使い魔のためか数には入れなかった。
「ふむ、君たちか…詳しく説明してくれるかね?」
ルイズ達は、昨夜の起こった事態をありのままに説明した。
一通り聞き終えたあと、今度は今まで不在だった秘書のミス・ロングビルが、興奮した様子で現れた。
何でも、逃走中のフーケを見たという農民がいたらしく、そのことについて詳しく調査したところ、
森の近くの廃屋に黒いローブを羽織った人間が入っていったという情報を掴んで来たようだ。
早速、フーケ捜索を名乗る同志を、オスマンは募り出したが、案の定誰も名乗りを上げない。王室へ報告しよう、という案も出たが、
それをしている間にフーケは逃げてしまうだろうということ、みすみす侵入された魔法学院の沽券にも関わるということで却下された。
14 :
るろうに使い魔:2012/06/16(土) 22:09:13.28 ID:PQZabvkj
(沽券とか、今はそういう問題なのでござるか…?)
心中で呟く剣心の前で、ふとルイズが杖をあげた。その光景に、一瞬誰もが驚いた。
「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです? あなたは生徒ではないですか! ここは教師に任せて……」
「誰も掲げないじゃないですか!」
ルイズがキッとなって叫んだ。確かにそうだ、皆が皆、『誰かがなんとかしてくれる、だから自分はやらなくていい』
そんな安堵と不安の入り交じった表情をしている。
だからルイズが杖を上げても、一斉に反対したりせずにガヤガヤと話し込むだけだった。
どうもここの教師達は、心身共に頼りないなあ…と思う剣心をよそに、今度はキュルケが杖を上げた。
「ヴァリエールには負けられませんわ」
そして、次に間髪いれずにタバサも掲げた。
「タバサ、あんたはいいのよ。関係ないんだから」
「……心配」
一言、そう呟くと何故か剣心の方を向いた。興味のあるような瞳で。キュルケは、そんなタバサに抱きついて嬉しそうに言った。
「ありがと、タバサ!」
そしてそれを見たオスマンが、笑ってルイズ達を見据えた。
「そうか、では頼むとしようか」
「いやいやいや…本気でござるか……?」
誰よりも先にそう言ったのは、教師ではなく剣心だった。何故自分達ではなく生徒達に、犯罪者の潜む危険なところへ追いやろうとするのか、理解できない。
ルイズ達の身を案じての発言だったが、それを制してオスマンは言った。
「彼女達は敵を見ている。それに君が言うほど、この子達はヤワじゃない」
そう言うと、オスマンは深い瞳でタバサの方を見た。
「ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておる。実力もお墨付きじゃろうて」
「えっ? 本当なのタバサ!」
キュルケやルイズはおろか、教師たちですらその言葉に、驚きでざわついた。
本人はとぼけた表情をしているが、『シュヴァリエ』の称号は、純粋に行なった偉業の数によって与えられる、いわば実力の証明でもあった。
最下級とはいえ、それをこんな年端も行かぬ少女が持っているのだから、周囲は驚きを隠せない。
「そして、ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」
次いでそう言うオスマンの言葉に、キュルケも自慢気な表情で『心配無用』とばかりに剣心を見た。
それを恨めしげな瞳でルイズは睨みながら、次は自分の番とばかりに胸を張った。
オスマンは、一瞬言葉が詰まった。褒めることが何もないのだ。しばらく心の中でう〜んと唸りながら、言葉を探り探りにして選ぶように言った。
「ミス・ヴァリエールは……その、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、うむ、なんだ……将来有望なメイジで、しかもその使い魔は!」
何故かさっきより熱っぽく語るように、オスマンは剣心の心配そうな表情を見た。
「平民ながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」
「そんな、たいしたことはしてないでござるよ」
謙遜しながら、剣心はそう言った。オスマンにもそれが伝わると、キラリと目を光らせてこう言った。
「彼女達は行く気満々じゃ。さっきの通り、この子らは有能な実力者じゃし、お主も主人と共に搜索に行ってくれるじゃろ?」
「それは…まぁ」
どこか納得いかないような様子で、剣心は頷いた。
オスマンは思った。ギーシュとの決闘、あの時見せた実力が本物なら、決してフーケ相手にも遅れをとったりしないだろう。
ましてや、彼があの伝説のガンダールウなら――。
隣でコルベールが、興奮して何か言いたそうなのを目で制して、改めてオスマンは四人を見つめた。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
それに応えるように、三人は直立し、「杖にかけて!」と唱和してスカートの裾をつまみ、恭しく礼をした。剣心も、取り敢えず頭を下げて彼女達にならう。
こうして、剣心達一行は、フーケ搜索のため目的の廃屋へと出発することとなった。
15 :
るろうに使い魔:2012/06/16(土) 22:13:19.35 ID:PQZabvkj
さて、今回はここまでです。そして一つお知らせがあります。
実は途中で失踪したりしないよう、予めストックを書き溜めておいたのですが、
それが四十近くを切ったので、(この時点で原作で五巻辺り)投稿スペースを週に二つにしていこうと思います。
なので、明日また次を投稿したいとお思います。本日はどうもありがとうございました。
乙です!
明日も楽しみにしてます
うーむ…しかしどうなるのか
デルフを使わせるために逆刃刀がフーケの錬金で分解されてしまうとか、
…そんな展開じゃないよなあ…
むしろニュー刀と師匠のマントも来そうだけど
マントの師匠と聞くと俺はレオを思い出すなあ
乙でござる
四十ストックとかすごいな
ストックしまくるタイプはちゃんと完結することが多いから安心して読める
乙でござる
ガトリングガンかアームストロング砲を予想していたよ
そこまでゴツいのは流石に銃・砲の類いとわかるんじゃね?
銀魂のキャラを召喚したら宝物庫にネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲が置いてあんのかな。
ストーリー展開上そんな形状の物を盗まなきゃならないおマチさんに涙。
なあに、中にはザクUを盗もうとしたオマチさんだっていたんだ。どうってことない。
そういやザクバズーカを盗み出したおマチさんもいたなあ…
テファのためとはいえ、おマチさん少しは仕事選べ
ピンサロとか?
才人のジョイスティックは精密ドライバーくらいの価値はあるのかな
ただまぁ…剣心も鬼じゃないから
デルフにも「ゴーレムを切るだけの簡単なお仕事」くらいはさせてくれるさ!
というか魔法の世界の初見の巨大土ゴーレムに愛用の逆刃刀を仮借なくぶち込めるもんなのかなぁ、と。
地面に叩き付けてるのと大して変わんないだろ。
20:58頃から続きの投下を行ないます。
すみません。ファイルがクラッシュしてしまったので、修復し直します。また後で
楽しみにしております
るろ剣こないな・・・
35 :
るろうに使い魔:2012/06/17(日) 23:18:21.64 ID:Vxllt4gK
スパーダの人さん、修復頑張ってください。
さて遅れてすみませんでした。
これから三十分丁度に、予定通り投稿を始めようと思います。
支援
37 :
るろうに使い魔:2012/06/17(日) 23:30:17.37 ID:Vxllt4gK
それでは、始めたいと思います。
フーケ搜索の任を、仕方なくも受け入れた剣心は、ルイズ、キュルケ、タバサと案内役のミス・ロングビルと共に馬車に乗り、目的地である廃屋に向かっている最中だった。
ゆっくりと、しかし確実に進んでいく馬車の中で途中、キュルケが不思議そうな顔でロングビルに聞いた。
何故面倒な案内役を自らかって出たのか?それを受けて、ロングビルはどこか遠い目をして、こう返した。
「いいのです。私は、貴族の名をなくしたものですから」
しかし、キュルケはますます不思議そうに首をかしげた。彼女はまがりなりにも学院長オールド・オスマンの秘書役である。貴族でないものを何故雇ったのか。
「…オスマン氏は、貴族とか平民とかに余り拘らない御方なんですよ」
それに一度は納得したのだろうが、しかしキュルケの好奇心はもう止まらない。今度はどうして貴族の名をなくしたのか聞き始めた。
それを見とがめたルイズが、キュルケの肩をつかんで押し戻した。
「何よ、ヴァリエール」
「よしなさいよ。昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」
一瞬、本当に一瞬だが、その言葉を聞いて剣心がピクリと反応した。
ルイズとキュルケ、御者のロングビルは気付かなかったが、本を読みながらも、視線を剣心に向けていたタバサだけは、その仕草を感じ取った。
「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」
「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを無理やり聞き出そうとするのは、トリステインじゃ恥ずべきことなのよ」
そして今度は、フッとにこやかな笑いを見せた。無論タバサ以外はわからない。
次に顔を上げると、相変わらずの飄々とした表情に戻ってから剣心も言った。
「キュルケ殿、人には語りたくないものが、必ず一つや二つあるでござるよ」
「ん〜、ケンシンがそう言うなら」
と、今度はキュルケは剣心に抱きつき、それを怒りの眼で睨んで叫ぶルイズ。相変わらず本から顔を上げないタバサをよそに、
やがて目の前に鬱蒼とした森が広がってきた。
第八話 『騒がしき日』
「ここから先は、徒歩でいきましょう」
森に入ってある程度進んでから、ロングビルが出し抜けにそう言った。
皆もそれに習い、馬車を降りて小道を歩く。
しばらくすると、広い空間の中に一件の小屋が見つかった。人気は感じないことからまず間違いなく空家だろう。
「私の聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
ロングビルはそう言いながら、森の中から指差した。
ふと、何か腑に落ちないような表情で剣心は言った。
「思ったことがあるでござるが…その情報に真偽は確かでござるか?」
「え、ええ。とある情報から得た確かな筋です」
少し焦ったような顔をするロングビルに対し、剣心はその目に疑問の色を強くする。
キョトンと様子を見ていたキュルケが、覗き込むような感じで聞いた。
「何かおかしいことでも? ケンシン」
「……どうにも、怪しい」
剣心は顎に手を当て考える。思い返せば返すほど、そう感じるのだ。
まず学院にあっさり侵入した点。確かにザル警備だったとはいえ、それでも過去誰一人侵入を許したはずのない学院の宝物庫になぜ簡単にも入ることができたのか。
次に、フーケの居場所があっさりバレてしまっている点。今にしても思うが、聞けばフーケは神出鬼没で正体すらつかめない謎の盗賊だという。
そんな大盗賊が、こんなにも容易く居場所を発見されるドジを踏むだろうか?あったとしても十中八九罠に違いない。剣心が、ロングビルに真偽を確かめた理由もこれだった。
最後に、何でわざわざ休息にこんな小屋を選んだのか。まだ中にいるとしてもあまりに無防備だ。昨晩のゴーレムを使えば、追跡や追っ手をいくらでもまけるだろうに、
まさか途中で疲れて休憩が必要になるほど、無計画だったわけでも無いだろう。
38 :
るろうに使い魔:2012/06/17(日) 23:32:16.88 ID:Vxllt4gK
慎重な盗人ほど、作戦や計画は「あらゆること」を想定して練り込む。当然、「この小屋の中にいては見つかるだろう」という危険も、
正体不明を隠し通してきた盗賊ならば視野に入れるはずなのだ。居場所が漏れる情報の点も踏まえると、ますます怪しい。
このことから、剣心は一つの答えを導き出した。これまでの事態は、仕組まれている可能性があるということ。そしてもう一つ――。
「拙者の推測では…恐らく学院に潜り込んでいる者がいる」
「それって…内通者がいるってこと!?」
その言葉に、ルイズとキュルケが息を呑む。そう考えれば、この状況にも納得がいく。
何かを理由に、学院に住み着いていれば、見取り図や侵入に役立つ情報を得るのは造作もない事。おまけに、こうやって誘い込む情報を流して逃亡の手助けをしたり、
何かしらの目的があって、待ち伏せするように仕向けることも容易なはずだ。
フーケに手引きをしている誰かがいる…。辺りに重い空気が流れた。
「当たらずとも遠からず、とも思うでござるか…どう見るでござる? ロングビル殿」
剣心は、涼しげな顔をしてロングビルを見つめた。
ロングビルは、何故か剣心のその眼を逸らせないまま、冷や汗を流してどう言い繕うか考えていた。
やがて、震えているとはっきりわかるような言葉で、ロングビルは言った。
「はい…まあ…そうですね…よくよく考えると…フーケを見たという情報は、確かに自分でも怪しかったような気も――」
「そっちではござらんよ。拙者が聞きたいのは、学院でそういった類の者は居なかったか…そこを聞きたいのでござる」
可笑しそうに苦笑しながら剣心は言った。別に高圧的ではない。寧ろ親しみを覚えるような笑顔なのに、何故かそれが逆にロングビルにプレッシャーを与えていた。
実はもう、剣心は気付きかけていたのだ。
彼女こそが、土くれのフーケ本人、もしくはその内通者なのだろうと。
勘や推測が多くを占めているが、これまでの彼女の行動と言動、それらを踏まえ、そして自身の『読み』に絶対の信頼を置いている剣心は、まず九分九厘そうだろうと読んでいた。
ロングビルも、そういった剣心の雰囲気を察したのだろう。察して、何も言い返せないからこそ、ロングビルは黙って剣心の目を見るしかない。
そしてそれが、剣心の中の確信をより強くしているのだ。
だから、端から見れば何でもないただの質問のはずなのに、ロングビル本人にはまるで問い質すように聞こえるわけなのだ。
そんな困った様子のロングビルを見かねて、キュルケが助け舟を出した。
「とりあえずさあ、中に入ってみない? それから考えても遅くないと思うけど」
「そ、そうです! 結論を出すにはその後で良いと思います!!」
ここぞとばかりに、ロングビルが堰を切った。
確かに、ここで机上の空論をしていても埒があかない。むしろ本当は今、偶然に偶然が重なってフーケを本気で追い詰めているのかも知れない。そういう可能性もまたゼロではない。
ここでその話は、一旦打ち切ることにして、今度はどうやって小屋に潜入するかの作戦を考え始めた。――そして一つの案がタバサから出された。
作戦の案は、こうである、
まず一人が囮を兼ねた偵察役になり、小屋の周辺を探索する。
フーケが中にいたら、挑発して誘き出す。
囮を追ってフーケが外に出たら、そこを全員で一斉に攻撃する。
要は奇襲である。何もさせずにとっとと倒す。シンプル故に強力である。
肝心の囮役は満場一致で、本人も含めて剣心に決まった。
「では、行ってくるでござる。そっちは任せたでござるよ」
行く際、剣心は微笑みながらそう言うと、タバサだけ何故か畏まったように深く頷いた。
つまるところ、その言葉の意味を深く受け止めたのは、タバサ一人だけということだった。
剣心は、隠れる素振りすら見せずに悠々と小屋に近付いた。
素人が見れば、ただ歩いているようにしか思えないが、戦闘においては、それなりに熟練者であるタバサは、その歩き方一つにも感心を覚えた。
気配をまるで感じない、足音一つ立てていない。
仮にあんな風に歩かれたら、目の前から近づいてきても気づくのに時間がかかるだろう。
そう感じるほど、敵意や殺気を綺麗に消し去っていた。
ゆっくりと、そして堂々と小屋にやってきた剣心は、窓から部屋を見て中を窺ったが、人気は感じなかった。
39 :
るろうに使い魔:2012/06/17(日) 23:34:32.14 ID:Vxllt4gK
(やはり罠か……仕方ない)
一回りして部屋を見渡して、やはり誰もいないことに剣心が確認すると、改めて扉の横壁に立ち、――少し腰を落とした。
横のドアを見据え、ルーンの刻まれた左手で鍔を弾き、右手でゆっくりと柄に手を置く。
静かに流れる時の中、暫くそうして佇んでいた剣心が―――遂に動いた。
カッと眼を見開いてから刹那、右手で逆刃刀を完全に抜き放ち、扉を一閃。斬り裂いた。
それから間を開けず、素早くドアを蹴り飛ばすと、荒々しくも中へと潜入していった。
そして、再び辺り一面が静まり返った。
「………っ……」
その一連の動作を、端から見ていたルイズ達はポカンと口を開けていた。
殆ど瞬足に近い動きだったが、何よりも驚いたのは、剣を抜く瞬間まで殺気を隠しきっ
ていたことだった。
腰を落として構えてからは、表情の変化や気配の機微を、少しくらい変えてもいいはず
なのに、扉を斬り飛ばすまで何の気配も悟らせなかった。
そして抜き去ってからは抜き去ったで、とにかく速い。そして流暢で一切の無駄がない。もし今、フーケが仮眠中であれば、この奇襲は一溜りもないことだろう。
こういった経験は、これが初めてでは無いのかもしれない。でなければこうも綺麗に相手の不意を突くことなんてできないはずだ。
――それがタバサの感想だった。
そしてそれは、ルイズ達にも近い感想を抱かせていた。
「ねぇ、彼……私達の力無しで…自力でフーケを倒してくるんじゃないの……?」
ポツリと呟くキュルケの言葉が、それを端的に表していた。
その隣で、それを肯定するかのように、ロングビルが真っ青な表情で小屋を見つめてい
た。
しばらくの沈黙の後、斬られた扉の中から剣心が一人で現れた。
刀を持っていることから、警戒はしているのだろうけど、大きな危険は感じないようだった。
手を大きく振って、ルイズ達に呼び掛けると、彼女達も恐る恐る小屋へと近付いた。
「フーケはいたの?」
「いや…やはりもぬけの殻でござったよ」
部屋に招き入れながら、剣心は言った。
フーケの気配は勿論、あらゆる罠を想定して潜り込んだが、中身は散らかったあとだけで特に怪しいものはない。
「あの…私、周辺に何かないか偵察してきま―――」
「いや、フーケのいない今、ロングビル殿の情報が唯一の手掛かりでござる。偵察はキュルケ殿に任せて、何か気になることはないか探して欲しいでござるよ」
相変わらずの喰えない表情で剣心はそう言うと、今度はキュルケの方を向いて頼み込んだ。
案の定、剣心の言うことならと、キュルケはそのまま偵察へと赴いてしまった。
どうやら、あくまでも手元に置いて監視する腹づもりのようだ。ロングビルはそう感じた。
しかし、これでもう、ここを離れる理由がなくなってしまった。無理を言って現場を離れようとしても、絶対に剣心は納得しないだろう。
少しでも妙なマネをすれば、さっきから背中を見張っているタバサが勘づくだろう。
今は何とかしてやり過ごすしかない。そう思ったロングビルは、形だけでも探索を始めた。
やがて、ルイズがチェストの中から、黒い箱を見つけると、それを剣心達に見せた。
「もしかして、これじゃない?」
期待を込めた口調で、ルイズは箱の中身を見るために蓋を開けた。
そしてそれを見て、――剣心は驚きで目を見開いた。タバサも、何だろうと視線を箱の方へと移した。
その後ろで、ロングビルがニヤリと口元を歪ませた。
40 :
るろうに使い魔:2012/06/17(日) 23:36:13.77 ID:Vxllt4gK
(何で……これが、こんなところに…?)
中に入っていたのは、なんの変哲もない、ただの刀だった。刃の色合いや錆び具合からするに、相当昔の業物のようだ。どうやらこれが『破壊の剣』らしい。
しかし、剣心が驚いたのは、もう一つの方、『英雄の外套』と呼ばれるマントだった。
白を基調とした二メイル程もある大きな衣は、ずっしりとした重量感をもって、丁寧に折りたたまれていた。
剣心は、このマントのことを見たことがあったのだ。しかも幾度となく。珍奇で妙な形のそれは、一度目に入れば忘れるはずがない。これは―――。
「きゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
不意に聞こえたロングビルの叫び声で、剣心は我に帰った。
後ろを振り向けば、窓の外から巨大なゴーレムが誕生し、その影で剣心達を覆っていた。
悲鳴の主、ロングビルは慌ててゴーレムから逃げ出そうとするも、その腕に掴まれてしまい、高々と宙に打ち上げられた。
「た、助けてくださぁぁぁぁぁぁ……―――」
力なく叫ぶ懇願も届かず、そのままロングビルは、思い切りゴーレムに投げられてしまい、森の中へと落ちていった、
「ケ……ケンシン…」
「――御免なさい」
ルイズが小さく剣心の背中に隠れ、タバサが申し訳なさそうに頭を下げる。
外では、キュルケのファイアーボールがゴーレムに命中しているが、いかんせん大きすぎるだけに効果が薄いようだ。
何故あのマントがあるのか、ロングビルが本当にフーケなのか、とりあえず今はそんな疑問から頭を離す。
ひとまず、この状況をどうにかしなければな…そう考えた剣心は、手に持っている逆刃刀を構えた。
41 :
るろうに使い魔:2012/06/17(日) 23:38:39.27 ID:Vxllt4gK
とまあ、ここで終了です。今回は少なめですみません。
取り敢えず、これからはこんな調子で投稿できたらなぁ、と思います。
それではお付き合い頂きどうもありがとうございました。
乙です!
破壊の剣とは何なのか
火竜倒せそうなの結構いるしなあ
安慈が遼当てに使ったとみた
うーん…
実は師匠じゃなくて読みきりの戦国の三日月の方のマントで、
破壊の剣も彼が持っていた刀とか
修復がようやく終わったので、1:11に投下したいと思います。
Mission 29 <禁断の魔法薬> 後編
「スパーダはあたしの使い魔よ! だからあたしのものなの! 秘書のおばさんは黙ってて!」
「誰がおばさんだい! 私はまだ23だよ! ガキのくせして、威張るんじゃないよ!」
夕日は徐々に沈み、宵闇が訪れようとしている中、ルイズとロングビルは互いに罵り合いながら激しく取っ組み合いを始めていた。
ロングビルに至っては理知的な秘書の装いをかなぐり捨て、素の状態を晒しだしている。
ルイズは腕っ節は強いもののそれは同世代のひ弱な生徒達に限る。相手は大人であり、かつては土くれ≠フフーケとして修羅場を潜り抜けているロングビルであり、実力差は歴然としていた。
二人とも草地の上を転がり、体を汚しながら自分達が愛したスパーダを巡って争い合う。
(何だこれは)
二人を尻目にスパーダはルイズとロングビルが落として割れていたワイングラスの破片を手にして匂いを嗅いでいる。ルイズ達がおかしくなったのはちょうど、このグラスのワインを飲んでからだ。
そして、ほんの僅かだが破片に残っていたワインの匂いの中に違和感があり、何か別の物が混ざっていることを察していた。
それがグラスに注がれる前から入っていたことはあり得ない。あのグラスおよびワインは元々、モンモランシーが用意したものである。
くるりと、スパーダは座り込んでいるギーシュとモンモランシーの方を振り向いた。
状況が理解できず唖然としているギーシュであったが、モンモランシーはこそこそと地を張ってこの場から離れようとしていた。
「Freeze.(待て)」
スパーダの冷徹な呼びかけに、モンモランシーはびくりと体を竦めて固まった。
まずい、まずい。惚れ薬を作ったことがバレたりしたら……ただではすまない。
モンモランシーの全身からどっと冷や汗が溢れ出る。……恐る恐る、後ろを振り向くと。
「どういうことか、説明してもらおう」
悪魔のように冷徹な視線で見下ろす、スパーダの姿がそこにあった。
視線を浴びせられるだけでも恐ろしい瞳で見つめられ、モンモランシーは震え上がりながらこくりと頷いていた。
本来ならばこの後は夕食の時間であったのだが、スパーダはルイズとロングビルを女子寮のルイズの部屋へと運んでいた。
二人はやたらとスパーダにくっ付いてくる上に「スパーダに触れていいのは自分だけ」などと叫んでは喧嘩を続け、あまりにもやかましいために閻魔刀の鞘と柄による当身で昏倒させることでようやく静かになったのだ。
気絶している二人をベッドの上に預けると、スパーダは腕を組みながらくるりと振り返り、連れてきたモンモランシーを見やる。
「あのワインに何を仕込んだ?」
単刀直入に、スパーダはモンモランシーに問いかける。モンモランシーは青い顔をしながら気まずそうに呟いた。
「ほ、惚れ薬です……」
「惚れ薬って……! モンモランシー! それはご禁制の品じゃないか!」
付いてきていたギーシュが驚き、大声を上げる。
「そんな大声を出さないでよ! バレたりしたらあたし、タダじゃすまないのよ……」
「だったら、何でそんな物を作ったんだね。君の言うとおり、バレれば莫大な罰金か牢獄行きなんだぞ。もしも君がそんなことにでもなれば、僕は……」
詰め寄ってくるギーシュに対し、俯いていたモンモランシーはいたたまれなくなって突然大声で叫びだす。
「……大体、あなたが悪いのよ! ギーシュ!」
「え、ええ?」
唐突に逆上しだしたモンモランシーに、ギーシュは面食らっていた。
きっとギーシュを睨みつけ指差してくる彼女の目元には薄っすらと、涙が浮かび上がっている。
「あなたがミスタ・スパーダとばかり一緒にいるから! あたしのことなんか放って!」
「な、何を言っているんだね。僕は毎日、君の気を引こうと必死だったじゃないか。それにスパーダ君の稽古を受けていたのは、君を守れるように強くなるためで……」
「だからって! あたしはあなたに変わって欲しくなかったのよ! キザで、ナルシストなのが本当のギーシュなのよ! それがミスタ・スパーダから稽古を受けているうちにすっかり変わって……」
嗚咽を漏らしながら号泣するモンモランシーの悲痛の言葉にギーシュは唖然としていた。
「……それで、僕に惚れ薬を飲ませようと?」
「他の女の子に浮気されるのも……ミスタ・スパーダとばかり一緒にいられるのも嫌よ……。あたしの知らないギーシュに変わってしまうのも……。」
ギーシュはモンモランシーを守れるような強い男になるべく魔剣士スパーダから地獄のような特訓を受け続けていた。
その結果、以前と違って自分の力に自信がついたし、己の力量も見極められるようになった。
思えばアルビオンから戻ってきてから他の女子達と付き合ったことなど一度もない。モンモランシー一筋だった。
スパーダと共にいることで、そして彼の影響を受けることでギーシュは以前とは全く違う存在へと変わりつつあった。
「モンモランシー……そんなに僕のことを」
だが、ギーシュはモンモランシーの本当の気持ちに気づいてあげられなかった。彼女は苦しんでいたのだ。愛する人と共にいられない寂しさと、彼女の知らない存在へと変わってしまうのが。
顔を両手で覆って泣き続けるモンモランシーの体を、ギーシュはがばっと抱き締めた。
「ごめんよ。君の気持ちに気づいてあげられなくて。愛する人を悲しませるなんて、僕は貴族失格だ。……だが、信じてくれ。僕は僕だ。
ギーシュ・ド・グラモンという名の一人の人間だよ。決して、君の知らない男になんかなりはしない」
モンモランシーは涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔を上げ、間近でギーシュの顔を見つめていた。
「僕はずっと、君の永遠の奉仕者だよ……」
モンモランシーの顎を持ち上げ、ギーシュはその唇に接吻をしようとする。モンモランシーも目を瞑り、自分の唇を重ねようとした。
「……ふげっ!」
バシッという音と共にギーシュは情けない声を上げていた。
スパーダが閻魔刀の鞘でギーシュの頭を小突いたのだった。
「後にしてもらおう」
「……や、野暮天だなぁ。君は」
頭を擦りながらギーシュは渋い顔でモンモランシーの体を押し出してスパーダを見やる。
せっかく良い所だったのに邪魔されたのが不服だったモンモランシーも彼を恨めしそうに睨みつけていた。
支援だ
「それで、あの二人を元に戻せるのか」
顎で未だ目を覚まさぬルイズとロングビルを指すスパーダ。
対するモンモランシーは困ったように顔を曇らせていた。
「うう……一応、解除薬を作れば何とか。でも、惚れ薬を作るのに希少の材料を全部使っちゃって……」
「それは何だ」
「ラグドリアン湖に住んでいる水の精霊の涙、という秘薬なんだけど……。闇屋であたしが買ったのが最後の物だったのよ……。おまけに入荷がもう絶望的らしくて」
「何故だ」
以前、読んだ本にその水の精霊とやらの説明を見たことがある。そいつは人間よりも遥かに長く生きている存在であり、六千年前、始祖ブリミルが生きていた時代から存在していたという。
水の精霊の涙というのはその精霊の体の一部であり、水のメイジが交渉することによって手に入れるものだという。
「話によると、その水の精霊達と連絡が取れなくなってしまったそうで……」
「それじゃあ解除薬は作れないということじゃないか」
ギーシュはどこか他人事のように言う。下手をすれば自分が飲んでいたというのに呑気な発言だった。
「でも、しばらくすれば元に戻るはずだし、ミスタ・スパーダだって、別にあの二人が相手だったら悪くは……」
「まあ、その道をとるのも悪くはないかもしれん。私は待ってやっても良い」
嘆息しながら言ったスパーダに、モンモランシーも安堵の顔を浮かべる。彼が納得さえしてくれればこちらもこれ以上は……。
「だが、あれだけの効き目だ。他の者達、特に教師達が彼女達の状態を見ればその異常に気づかぬはずはない。とりわけ、オスマンなどはな」
淡々と言葉を口にするスパーダに、モンモランシーはうっと唸った。
あまりに豹変した彼女達が目立ちすぎると、その異常を教師達が調べることであろう。そして、惚れ薬を使われたということが分かれば必ず捜査が入る。
……ずっと隠し通せるとは思えない。
「それでバレても私は知らん」
「……分かったわよ! じゃあ、近いうちにギーシュがラグドリアン湖に行って秘薬を直接、取ってくれば良いんでしょう!」
「お、おい! 僕が行くのかい! 第一、水の精霊は水のメイジの交渉が必要なんだろう?」
突然、自分を指名されてしまったためにギーシュは慌てた。
「あたしは嫌ですからね! 水の精霊って滅多に人前に姿を現さないし、ものすごく強いのよ! 怒らせでもしたらたいへ……」
モンモランシーは言葉を止め、絶句していた。
気づけば、スパーダの手にはいつの間にか一丁の短銃が握られており、その銃口をモンモランシーの顔面に突きつけていたのだ。
「お、おい! やめてくれ! 何をするんだね、スパーダ君!」
思わずギーシュはスパーダの腕を掴み懇願する。
「己の責は自分でとれ」
「はい……」
スパーダは別に怒っているわけではないのだが、モンモランシーは異国の貴族としての威圧感に背筋を震わせた。
観念したモンモランシーは、がっくりと肩を落としていた。スパーダも銃を収める。
「では明朝、出発することにする」
「明朝って……学校はどうするのよ!」
「一日休んだくらいでどうにもなりはせん」
冷たく突き放すスパーダに、モンモランシーは大きな溜め息を吐き、頭を押さえていた。
その時、抱きついていたルイズの腕が突如として離れだし、さらには体もスパーダから引き離されていた。
部屋の中には、コモン・スペルの念力による魔力が感じられるのが分かる。
「きゃああっ! 助けて、スパーダ! 助けて!」
振り向くと、引き離されたルイズは天井付近に浮かばされてじたばたともがいている。
さらに身に着けていたマントがするすると外され、ルイズの体と両手を器用にロープのように縛り付けていた。
「痛いっ!」
「子供はそこで大人しくしてなさい」
いつの間にか目を覚まし、杖を握っていたロングビルが冷たい顔で床に落ちたルイズを睨みつけていた。土くれのフーケとしての本性を現したその表情には秘書としての装いは全くない。
「ふんだ。婚期を逃したおばさんになんてスパーダの相手は勤まらないもん!」
「言ってなさいな。小娘め」
冷笑を浮かべ鼻を鳴らすと、ロングビルはスパーダに近づいていった。
艶かしい顔を浮かべ、そっとスパーダの胸の中に抱きつく。
「さ、あんな子供なんて放っておいて、私達だけで楽しみましょうよ……」
スパーダの頬にロングビルの細い右手が伸び、左手の指先がツツッとスパーダの胸元でなぞられていた。
その姿はさながら妖艶な女悪魔に等しいものであり、並みの男ならばこの誘惑に負けてしまうかもしれない。
同じタイプのキュルケが霞んで見える。
(ネヴァンみたいになってしまったな……)
思わず溜め息を吐くスパーダ。
かつてスパーダが魔界にいた頃、魔帝ムンドゥスの勢力に共に属していた上級悪魔妖雷婦<lヴァン。
スパーダが戦いを終えると毎度のように誘惑をしてきて迫ってきたあの女。娼婦そのものであるあの女は魔界でも珍しい享楽主義者であった。
一時の強い刺激を味わうのが趣味であるネヴァンは幾度となくスパーダに誘惑を繰り返してきたものだ。
彼女にとっては魔界も人間界もあまり関係がなく、ただ自分の楽しみのためだけに生きている。
スパーダが魔界と決別する際も魔界も人間界も関係なく、ただより強い刺激を味わうためにスパーダと戦い、結果として封じられたのだ。
「だめ! だめよ! スパーダはあたしの使い魔なんだから! あたしだけのものなのよ! 他の女の人は近寄っちゃだめぇ!」
後ろ手に縛られているルイズは喚きながらも暴れ、何とかマントを外そうとしていた。
そんなルイズのことを無視し、ロングビルはスパーダの顔を悩ましげに見上げながら彼の顎に手をやった。
「ねぇ……覚えている? あなたが私のゴーレムをそこの破壊の箱やあなたの剣で粉々にした時のこと……。あの時は本当に痺れちゃったんだからぁ……」
本当にどうでも良いことを引き出して、話題を広げようとしている。
「私はもっと刺激を味わいたいのよぉ……。今夜は私の部屋へいらっしゃって。こんな小娘なんかと朝まで過ごすことなんてないわ……」
「断る」
本心ではない中途半端な感情で、そんなことをされてもスパーダには良い迷惑だ。
身も心も、人生さえも捧げる覚悟もなしに悪魔と契約の契りを交わすなど、御免こうむる。
「ほらやっぱり! 23のおばさんなんかにスパーダが振り向くはずないもん!」
未だ縛られた手を何とかしようと躍起になっているルイズが勝ち誇ったように言った。
「ふん。主人と使い魔の関係でしかスパーダと繋がりを持てないくせに、威張るんじゃないよ」
だが、ロングビルも負けずに余裕の表情で言い返す。
「そんなことないもん! スパーダはあたしのことをちゃんと認めてくれてるもん!」
「あら。何だかうるさい犬がさかり鳴いているようね。……ほら、もう行きましょう。こんなうるさい所にいたって、何にもないわ。今夜は私が付きっきりで相手をしてあげる……」
ルイズを無視しスパーダに寄り添ったままのロングビルは自ら扉を開け、外へと出ていった。
「嫌だぁ! スパーダぁ! そんなおばさんなんかと一緒にいちゃだめぇ!」
その後、女子寮を離れていったスパーダは夕食をルイズの元へと運ぶためにロングビルと共に食堂を訪れていた。
「おいおい……あの秘書さん、ミスタ・スパーダとできてるのか?」
「意外と一緒にいる時が多かったみたいだけど、まさかあそこまで進んでいたのか……」
「あんな大人の女性に寄り添われて……うらやましいなぁ」
普段は決して見せぬ妖艶な大人の魅力を発揮するロングビルがスパーダに寄り添っている姿を、食堂中の人間が唖然としながら見つめていた。
男子達はあんなに美人な大人の女性を傍に置いて引き連れているスパーダをうらやましく思い、スパーダに憧れている女子達はロングビルが殿方に寄り添っているのが悔しくて、嫉妬を露にした表情で睨みつけていた。
そんな様々な思いのこもった視線を受けながらもスパーダは給仕をしている最中のシエスタを見つけて近づく。
「何よぉ。こんな平民の娘なんてどうでも良いじゃない……」
「シエスタ。すまないが、ルイズの元へ食事を運んでやってくれ」
(スパーダさんは……ミス・ロングビルのことが好きなのかな……)
ロングビルを無視して話しかけてきたスパーダを振り向いたシエスタであったが、傍に寄り添っているロングビルを目にすると哀しそうな顔を微かに浮かべていた。
二人とも色々と事情があって正式な貴族ではないのだという。時々、シエスタは二人が一緒にいる所を見届けており、お互いに気が合う様子に悔しさを感じていた。
やはり、元貴族同士の方が良いのだろうか……。シエスタはスパーダがロングビルに惹かれてしまうのではと、いつも不安であった。
そして今、こうして自分の目の前でまるで恋人のような姿を見せつけている……。
「彼女のことは気にするな……」
スパーダはべったりとくっ付いているロングビルに鬱陶しそうな顔で呻いていた。
(あれ? でも、スパーダさんのあの態度じゃ……)
そのスパーダの様子を見て、シエスタはロングビルが一方的に彼にくっ付いているということを察し、安心していた。
自分にもまだまだチャンスはある。
「はい、かしこまりました。スパーダさん達もごゆっくり……」
微かに笑みを浮かべ、シエスタはちらりと冷たい目でロングビルを睨みつけていた。
そしてスパーダに言われたとおりに食事をルイズがいるであろう女子寮へと持っていく。
「わたしも……負けられないっ」
道中、誰ともなく強く意気込むシエスタであった。
ロングビルがこの状況では食堂で夕食をとるわけにもいかないため、教師達のテーブルに用意されていた自分達の食事を持って夜のヴェストリ広場のベンチへと移動していた。
そこでのロングビルは二人分の食事がちゃんとあるというのにスパーダに自分の食事を「ほらぁ。口を開けて。私が食べさせてあげるわ……」などと言って与えようとしたのだ。
スパーダは無視して黙々と自分の食事を口にしていたのだが、ロングビルはあまりにもしつこくスパーダに食いついてきた。
これがもしもネヴァンだったら、容赦なくその身を閻魔刀で貫いて大人しくさせていただろうが、彼女は人間だ。そんなことはできない。
「もぅ……あなたが悪魔だからってそんなに冷たくしないで……。それとも、人間の私なんて興味がないのかしら?」
「さてな」
惚れ薬の効果が出ている状態では何を言っても無駄だ。だからスパーダもよほどのことがなければ生返事しかしないことにした。
「ああ……。明日はどうしようかしら。テファに会いに行くのもいいけど、それじゃあスパーダがあの子になびきそうだし……」
「悪いが、明日は急用ができてしまった。明後日以降に回してもらう」
「どこへ行こうというの……私を一人にしないで。それだったら、私も一緒に行かせてもらうわ。私はいつまでもスパーダと一緒よ……」
(付き合いきれん……)
黙々と食事を続けつつ、スパーダは娼婦のように様々な誘惑の言葉を囁き続けるロングビルをあしらっていた。
食事を終えたスパーダはそのままルイズの部屋に戻るとまた厄介なことになりそうだったので、このまま外で夜を明かそうとしたのだが、ロングビルが本塔の自分の部屋へと連れ込んでいた。
外で構わない、とスパーダが断っても「あなたが一緒に寝てくれないと、安心して眠れないのよ……」と言って無理矢理引っ張っていったのである。
おまけに扉にはロック≠フ魔法までかけて。
秘書である彼女の自室は平民用の宿舎と似たような質素な部屋であった。小さな机とベッド、そしてチェストがあるのみである。
スパーダはその机に備えられた椅子に腰掛け、閻魔刀を抱えたまま眠りにつこうとしていた。
ロングビルは目の前に男がいるにも関わらず衣服を脱いでいき、やがて生まれたままの姿となった。
「もぅ……そんな所で座ってないで……こちらへいらっしゃいよ……」
ネグリジェに着替えることなく、ベッドの上にしゃがみこむロングビル。胸元をシーツで隠し、まるで焦らすように誘う姿はとても魅力的なのかもしれない。
普通の男ならばこんな状況になりでもしたら、たまらずに抱きついたり押し倒してしまったりするであろうが、そこはスパーダである。
魔界の女悪魔の扱いさえも熟知している彼は相変わらず無視を続けていた。
「ねえったらぁ……」
シーツを体に巻きつけ、スパーダの元へ歩み寄るとロングビルは顔を彼の首筋に近づけ、優しく息を吹きかける。
その時であった。
扉がガチャガチャと乱暴な音を立てて開けられようとしていた。しかし、ロックの魔法がかけられているために力ずくで開けるのは不可能である。
ロングビルは扉の方をちらりと向き、僅かに顔を顰めたがすぐに鼻を鳴らす。
ここはもう二人だけの世界だ。誰にも邪魔はさせない。
「気にしないで……。今夜は私達二人だけで楽しみましょう。そうだわ……ここにいる時は私のこと、マチルダって呼んでちょうだいな……」
無表情のまま瞑目しているスパーダの口元に、ロングビルの唇が触れようとしたその瞬間……。
――ズドンッ!
鋭い炸裂音と共に扉が粉々に吹き飛んだ。
あまりに予想しなかった状況にロングビルは慌てて振り向く。
「スパーダは渡さないわっ!」
杖を構えて立つ、ルイズの姿がそこにあった。
シエスタが夕食を届けに女子寮へ赴いた時、ルイズはようやく縛られていたマントを外すことができた所であった。
現れたシエスタは食事のトレーをルイズに差し出したものの、物凄い剣幕で「スパーダはどこに行ったの!」などと叫んで追求してきたため、思わずシエスタは怯んでしまった。
あの後、スパーダはロングビルと食事を持って食堂とはどこか別の場所へ行ったのだけは確認したがそれ以上は分からなかった。
ルイズは乱暴に食事を奪い取り、部屋に閉じこもると貴族としての慎みなど全くない、やけ食いのような速さと動きで夕食を胃袋につめこみ、スパーダとロングビルを捜し求めて学院中を駆け回っていたのであった。
道中、運悪くルイズと遭遇してしまったギーシュとモンモランシーからもスパーダ達の居場所を聞き出そうとして、杖を突きつけて脅したりもしていた。
その時のルイズの表情は、まるで鬼か悪魔のようなものであったという……。
「ちっ、まったく無粋な小娘だねぇ! 私達の時間を邪魔するだなんて!」
「スパーダはあたしのものなの! 年増のおばさんは一人で寝ていればいいんだわ!」
椅子に腰掛けているスパーダにルイズも抱きついた。
「スパーダ。ご主人様を一人にしないで。あたしと一緒に眠ってよ。使い魔が一緒じゃないと、安心して眠れない」
「ふざけるんじゃないよ! あんたみたいな小娘にスパーダが振り向くものかい!」
ルイズを突き飛ばしたロングビルはスパーダの体にがしりと強く抱きついた。その拍子にシーツが剥がれ、彼女の細くしなやかな裸体が露となる。
尻餅をついたルイズは顔を顰めてロングビルを睨みつけた。
「やったわね! 許さないんだもん!」
ルイズは杖を振り、シーツを念力で浮かべてロングビルの顔を包み込んだ。
「むぐ! むぐ!」
「ファイヤー・ボール!」
そして、間髪入れずにとても小さな爆発の魔法を叩き込み、ロングビルを吹き飛ばす。
威力が抑えられたその一撃では昏倒することはない。
「この小娘め!」
ロングビルも机の上に置いておいた己の杖を手にし、身構える。
「決闘よ! 決闘! どっちがスパーダといっしょに眠る権利が……」
『Shut up.(黙れ)』
突如、微動だにしなかったスパーダが地の底から響くような恐ろしい声で呟いた。
思わず、二人はその声に身を震わせて振り向く。
見ると、スパーダの全身から赤黒いオーラが煙のように吹き出ている。
『Why you can't even sleep in quiet? Foolish scum.(お前達は静かに眠ることもできんのか? 愚か者が)』
悪魔としての本性を露にしたスパーダは瞑目したまま、腕を組んで喋り続ける。その静かな声は明らかに、怒りが込められている。
下手をすれば、抱えている閻魔刀を抜き出すかもしれない威圧感を発していた。
『For me any more, don't wrath.(私をこれ以上、怒らせるな)』
その一言を最後に、スパーダの全身からオーラが静かに消え失せていた。
ロングビルとルイズはごくりと息を呑み、スパーダを見つめていたがやがて互いに睨み合う。
だが、その口からはもうこれ以上、互いを罵る言葉は出なかった。
「……今夜だけよ。ここにいていいのは」
「明日からは、スパーダには指一本触れさせないもん」
床に座り込んだ二人はスパーダの膝に寄りかかったまま、眠りについていた。他の女がスパーダの近くにいるだけで我慢ならなかったが、これ以上暴れればスパーダが本気で怒るので自重する。
二人が愛する男は静かに眠ることを望んでいる。ならば、その願いを叶えるために二人は今にも互いに魔法をぶつけてどかしてやりたいのを必死に抑えていた。
※今回はこれでおしまいです。ラブコメパートを書くのが苦手なので、あまり長続きしない……。
そして、自分で書いておいてなんですが、スルースキル高すぎただろうか……。
最近萌え萌えの人来ないなあ、前は毎週投下してくれてたのに
(本当はこれを使っても良いのだがな)
モンモランシー達が去った後、部屋に残っていたスパーダは懐から二つの青く光る星形の石を取り出す。
ちらりと、まだ目を覚まさない二人とその石を交互に見比べていた。
あらゆる毒を浄化し、肉体を正常な状態に戻すという触れ込みのホーリースターだが、別に毒だけを浄化するというわけではない。
肉体を内側から侵食している存在であれば、それが純粋な毒物でなくても構わない。それこそ、彼女達が飲んでしまった惚れ薬とて同じことだ。
心を操作する力のある魔法の薬であろうと、それさえも浄化できるはずである。
これを今すぐこの二人に使ってやっても良いのだが、この世界における適切な解決手段があるのであれば可能な限りそちらに任せるべきである。
それに、その水の精霊とやらを直接目にする良い機会なので、ちょうど良いきっかけができた。
(交渉次第では使わざるをえんが)
もちろん、水の精霊の涙が手に入らなければ即座にこれを使わせてもらおう。
その時まで、スパーダはこの二つの青い霊石を懐に納めることにした。
「ん……んん」
その時、ベッドの上に横たわっていたルイズが目を覚まし始めた。
先ほどスパーダの閻魔刀の一撃がみぞおちに決められたせいでまだ少し痛む。だが、それは自分がいけない子だからということは分かっている。
むくりと体を起こしたルイズは自分が愛するスパーダが部屋から出て行こうとしているのを目にし、思わず声を上げた。
「……いっちゃだめぇ!」
そのままベッドから飛び下り、スパーダの背中に体当たりしながら抱きつく。
……ああ、まるで父様みたいに大きくて逞しい背中。こうしているだけで、不思議とスパーダが父親のように思えてしまう。
ギーシュが厳しい特訓を通して彼を父親のように思うのと同じように、ルイズもスパーダの父親のような包容力をその身に感じ取っていた。
彼が本当は悪魔であることも、忘れてしまいそうだ。
「あたしを置いていかないでっ。もっとあたしのことを見てよぉ!」
スパーダは夕食をシエスタに頼んで持ってこさせようとしていただけなのだが、目を覚ましたのであればこのまま連れて行っても構わないだろう。
「食堂に行くだけだ。君も来ればいい」
「だめっ! 外に出たら他の女の子と仲良くしちゃうわ! そんなの嫌っ! ずっとここにいるの!」
相当、惚れ薬によって心が変異させられてしまっているようだ。普通の惚れ薬ならここまでの効果はないだろう。水の精霊の涙とやらの力が効いているのだ。
「飢え死にしたければそれでも構わんが」
スパーダは冷徹に一蹴しようとするがルイズも諦めない。
「いいもん。スパーダさえいてくれれば、何もいらないもん」
「……とにかくここで待っていろ。シエスタに頼んで食事を持ってきてやる」
「だめっ! あのメイドの所に行って仲良くするつもりなんでしょ? そんなの許さないんだから」
ぷくっと頬を膨らませたルイズはスパーダの体を抱く腕に力を込め、離れようとしない。
「スパーダはあたしの使い魔だもん。だからご主人様のお相手をしなきゃだめなんだもん」
拗ねた子供のように反抗するルイズに、彼女の本心ではないとはいえいい加減スパーダも辟易としてきた。
「他の女の人なんてどうでもいいの。ご主人様のあたしだけを見て?」
これ以上、付き合っていても埒があかない。スパーダは無視を決め込み、ルイズに抱きつかれたまま部屋を出ようとした。
※
>>49>>50間、不足分。1レスのみ。不覚でした……。
乙です
59 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/18(月) 16:39:02.56 ID:fGBo8/S+
パパーダ乙です。
ザボーガーの人や三重の異界の人もできれば生存報告してほしい
ルイズタンぼくのおよめさん
誰かゲートキーパー召喚しないかな
ウルトラマンゼロ召喚はもう他所であったから、ウルトラマンジャンヌがハルケにやってこないかな
ルイズ「サイト!わたしウルトラマンになっちゃった!」
才人「いや、お前女だから『マン』じゃないだろ!」
>>62 主人公なのに続編ではヒロインと結ばれず非業の死を遂げていた浮矢俊とか?
ニャル子さんのアニメから見て原作よんだら、何故かゼロのミーディアム思い出した。なんかノリってかパロやシリアスの方向が似かよってなーって
帰ってきてくれないかなぁ銀様
ニャル子から召喚するならニャル自身は召喚されてもアレすぎてヤバそうだから、ハス太なら相性良さそうだな。中の人的にも
むしろルイズの中にイースの偉大な種族が押しかけてくる、と
イース……果てしない冒険の旅に出るのか。
そして最後はかぶと虫になってコロニー落としされる……
>>66 つまり、魂魄とはイースの偉大なる種族のことだったんだよ!
な、なんだってー!(MMR)
九時からデュープリズムゼロ第二十五話投稿します。
長い事不在にしてましたが…
第二十五話 『閃光』
「フム…圧倒的ですな陛下。」
眼前にて繰り広げられるトリステイン軍と神聖アルビオン王国軍の戦闘を見やり裏切りの子爵ワルドは冷酷な笑いを浮かべて同じく戦場を見つめるクロムウェルへと声をかけた。
「あぁ、だが予想よりもトリステイン軍は健闘しておるようだな。どうやら王女自ら前線に立っている事が奴らの士気を高めておるのが大きいか。」
「ですが既にレキシントンある限り制空権は絶対的に我等の物です。それに…ククク…私よりも腕の立つ幻獣のりはトリステインには居りませんからな。」
「ハハハ、頼もしいな子爵。」
ワルドの言にクロムウェルは上機嫌に笑う。神職に就いていたこの男には戦の事はよく分からない部分であったが自軍が圧倒的に有利なのは素人目から見ても理解が出来る。
もはや制空権を奪われたトリステインはそれを覆さぬ限りどれだけ勇猛果敢に奮戦しようと勝てる見込みはあろう筈も無い…
「フム…しかし子爵、君はどこか退屈そうに見えるな。」
「はい、恥ずかしながら私はどこまで行っても所詮戦士ですからこれ程までに一方的な戦は些かに退屈でして…」
「ハハハ、勇ましい事だな。」
曖昧な取り繕った笑顔でクロムウェルにそう言ったワルドは義手で強く拳を握ると視線は遠く、地平線に隠れそうな魔法学園を恋い焦がれるような思いで見つめていた…
(どうしたガンダールブ、ルイズ生きているのならば私の前に現れて見せろ!!)
「『ハッ……クシュンッ!!!』……う゛〜…誰かあたしの噂でもしてんのかしら…」
盛大なクシャミを一つしてミントは高高度の冷えた風を浴びて思いの外冷えた自分の身体を抱くようにして前方の船団を睨みながらヘクサゴンを飛ばす。
「それもこれも全部あいつ等のせいよ…ボコボコの地獄巡り決定ね。」
ミントの乗るヘクサゴンは魔法学園からこの戦場へと直行してきた為、偶然とは言え丁度トリステイン軍と真正面から戦闘を行っているアルビオン軍の柔らかい横腹をつくような形で戦域へと進入している。
当然とも言えるが真っ赤に塗装されたヘクサゴン(スカーレットタイフーンエクセレントガンマ)の姿は晴れ渡った青空に良く映え、アルビオン艦隊の一隻が自分達に結構なスピードで接近するミントは捉えて迎撃態勢へと移行する。
「未確認飛行体本艦へと接近!!」
「伏兵か!?少なくとも味方では無い、カノン砲発射、用意急げよ、打ち漏らした場合は速やかに火龍隊で迎撃に当たれ!!」
見張りの報に艦長は素早く判断を下すと適切と思われる指示を風の魔法に乗せて全乗組員へと伝える。
「アイサー!!」
統率の取れた動きでカノン砲が接近する目立ってしょうが無い目標へと向けられると接近するヘクサゴンが射程範囲に収まるのを船員達は今か今かと待ち構えるのだった。
「よぉ嬢ちゃん、やっこさんこっちに気が付いたみたいだぜぇ。」
ミントの背中で暗にこのまま行くのか?とでも言いたげにデルフが鍔を鳴らす。勿論目の前の軍艦が側面にずらりと並んだ砲塔をこちらに向けている事などミントも判っている。
だが、高度を上げるのも下げるのもまして転身後退などという選択肢はミントは持ち合わせてはいない。前進突破あるのみ、立ちふさがる物は撃滅必至!!いつだって多少の狡猾な打算と共にミントはそうしてきた。
軍艦から轟音と共に吐き出された鋼鉄の砲弾は何かしらの魔法の補助なのか、はたまた砲兵の練度の高さ故なのか幾つかの砲弾がミントへの直撃の軌跡を描いて飛来する。
「ヘクサゴン!!」
ミントの声紋に反応してヘクサゴンはその一対の蛇腹の豪腕を振り上げミントの乗る背中を守るように交差させる。
『ズドォォォ〜〜ンッ!!!!!!!』
という轟音と共に揺さぶられた足下にミントはぐらついた足を踏み込んで体勢を整える。
「危ない危ない、結構揺れるもんね…」
事も無げに言ってミントは前方の軍艦を睨む。直撃を受けたヘクサゴンの腕部といえば…
「命中、直撃です!!」
ヘクサゴンへの砲撃の着弾を確認した観測主が喜色入り交じった声を上げる。すると軍艦の内部で、歓声と口笛が沸き上がり、隣に立つ戦友とハイタッチを交わす砲兵達。
「良くやった!!だが警戒を怠るな!!」
その様子を満足げに見つめていた艦長はだが一度声を張り上げると各船員達へ檄を飛ばす。
有能な軍人である彼の言葉に喜びもつかの間、船内に再び程よい緊張と覇気が満たされ各員が再びそれぞれの軍務へと戻る…そして…
「艦長!!未確認飛行物体、尚も接近中です!!………しかも……ダメージ、ありません!!!!」
「何だとぉっ!!!」
観測主の報告に艦長は驚愕を隠す事も無く声を上げた…
ミントは砕け散った砲弾から発生した独特の匂いのする煙を突き抜け、一気に自分の魔法の射程距離まで軍艦へと接近する事が出来た。最早射角の都合上カノン砲は役には立たない。
「相変わらずこいつは頑丈ね。」
ミントはデュアルハーロウを構えながら足下を、つまりはヘクサゴンの背中をみやり呟いた。
かつて何度かベルが自分にヘクサゴンを差し向けてきた時も全力の蹴りをぶちかまそうが強烈な魔法をぶち込もうが結局ヘクサゴンにはダメージらしいダメージを与える事すら出来なかった。
そんなヘクサゴンが唯の砲弾の直撃ごときでどうにかなろう筈も無い。『ヘクサゴンに弱点は無いよっ!』とはベルの言葉だったが結局の所ヘクサゴンを止めるには背に陣取った操者を倒すしか無いのだ。
「嬢ちゃん上だっ!!」
デルフの声に従ってミントは魔力の螺旋を頭上に掲げる…そこには目の前の軍艦から出てきたのであろう火龍に乗ったメイジが二組急速接近していた。
「上等よ!!」
火龍の口から放たれた灼熱の吐息…それを容易く霧散させ、ミントの放った『緑』の魔法タイプ『サークル』『サイクロン』は火龍の巨体二体を纏めて錐揉み状に吹き飛ばし、その意識を刈り取った。
___トリステイン軍 本隊
「このままじゃ…」
ルイズは戦装束を身に纏ったアンリエッタの直ぐ側で歯痒そうに上空を見上げて言葉を漏らしていた。
『このままじゃ負けちゃうわ。』そう最後まで言葉にはしなかった物のルイズの…否、アンリエッタにも慌てて戦列に加わったマザリーニ卿にも戦場に居る誰もがその事を悟り始めている…
太陽を遮り、影を大地に落とす軍艦の群れ…陸上では何とか均衡を保てているようでも砲撃と火龍等の航空戦力の前では碌な準備も出来ていないトリステイン軍には些かに厳しい闘いであった。
前線は後退し、国内に残されていた魔法衛士隊の幻獣達も傷つき戦列を離れていく…
それを認め、アンリエッタも無論マザリーニを始め各将校達の表情は苦い…
ルイズはその戦場という物を恐怖と共に体感しながら少しでも強く始祖への祈りが届くようにと水のルビーを身につけ、始祖の祈祷書を抱いて瞳を閉じると祈りを捧げる…
『おぉぉっっ!!!』
と、突然兵士達の間に歓声に近いような響めきが響いたことでルイズは目を開く…周囲の人達の視線は一様に上空、ルイズ達から見て左舷の方向へと向けられていた。
「あれ…は?」
ルイズの目に映ったのは燃え上がるメインマストに、まるでゴーレムの豪腕で抉られたように傷ついた船体が徐々に高度を下げながら積載していた火薬類に火が回ったのか派手に爆散していく光景だった。
その光景によって火が付いたように兵達の歓声が沸き上がる。
アンリエッタも少しの困惑と大きな安堵に絶望に打ちひしがれそうだった気持ちを何とか繋ぎ止めた。
全員の視線は自然、何があのアルビオン艦に起きたのかを確認しようとその周囲の空を注視するがそんな中、誰よりも早くその姿を発見したのはルイズだった。
空を行く赤い巨体は接近する火龍や風龍を叩き落とし、あるいは握りつぶし。迫る砲弾さえ意に介さずひたすらに敵陣中央を突破していく。
「ヘク…サゴン…」
ルイズはそれが先日までミントが自分を置いて冒険した末に何処かから拾ってきたガラクタだと認識するとその名を口にする。
(でも何で赤いのかしら…?)
そしてルイズの呟き、それを耳ざとく聞いていたのはマザリーニだ…
「諸君聞け!!空を行くあの紅の暴風こそかつてエルフすら震撼させたブリミルの遺産『ヘクサゴン』だ。我がトリステインの危機にブリミルが答えたのだ!!この戦勝てるぞ、各々今一度奮い立て!!」
無論マザリーニはそもそもヘクサゴンが何なのか知りもしない。口から出たのは戦意を高揚させる為だけの出任せである。
『ウオオオォォォォォ〜〜〜〜〜〜!!!!!』
士気が低下していた兵士達に再び闘志が宿る。
「マザリーニ様、あれは「ヴァリエール嬢、アレが例え何であれ今は関係ないのですよ。」」
マザリーニはそう言ってルイズの言葉を遮ってまるで誤魔化すように気恥ずかしそうに軽く笑った。ルイズは何とも言えぬ思いを抱きながらも高揚する兵士達に気圧されて呆れた様な苦笑いを浮かべるしか無い。
「ルイズ、もしやアレは?」
「はい。恐らくミントです姫様。」
ユニコーンの背から馬上のルイズの耳元に口を寄せたアンリエッタの問い。それは答えに半ば確信めいた物を持っていた。
そしてルイズもそれが他の兵達に伝搬しないよう小さな声で、しかし力強くアンリエッタに答えると上空を見上げる。また一隻、アルビオンの軍艦の船底にヘクサゴンの豪腕が突き入れられた…
「やはりそうですか……」
「姫様…わたくし…」
ルイズはアンリエッタを真っ直ぐに見つめ、アンリエッタもまたルイズのその真っ直ぐな瞳から何を伝えたいのかを何となく理解していた。
「えぇ、ここまでわたくしに付き添ってくれてありがとうルイズ。行って下さい、メイジと使い魔は一心同体。いえそれ以上にわたくし達の友人の為に…わたくしはここまでに貴女達に十二分に勇気を分けて頂きましたから。」
「はっ!!ありがとうございます!……行ってきます姫様。」
戦場に似つかわしくない柔らかで暖かい笑顔でルイズを促すアンリエッタ。それにルイズは臣下の礼と友人としての態度を持って答えると意を決し、馬の腹を蹴る。
手綱をグイと力を込めて引いた。ルイズを背に乗せた馬は前脚を擡げて嘶くと引き絞られた矢のように戦場へと駆けだしたのだった。
___レキシントン甲板
ワルドは伝令より伝えられたその情報に両の手を握りしめ微かに震えていた…怒りでも恐怖でも無く、無論歓喜でも無く…もしかするとその全てであったのかも知れないがとにかくわるどの身体は闘いを前に溢れ出る感情に打ち震えていた…
伝令の報告は__曰く、空を飛ぶ赤いゴーレムの進撃を受けている。
曰く、物理攻撃は一切通用せず、さりとて魔法を放てども魔法は何故か何かに吸い込まれるように掻き消されてしまいその勢いは留まる事を知らないと。
曰く、ゴーレムの背では剣を背負い、一対の金環を手にした少女があり得ぬ魔法を行使して艦を落としていると…
ワルドは己の心の赴くままに足を運び始める。その先はレキシントンの甲板後部、火龍や風龍を係留しているエリアである。
報告と予想だにしていなかった緊急自体に狼狽えるクロムウェルが何か訴えるように声をかけてくるがもはやワルドの耳には夜耳元で飛ぶ蚊の羽音並みに鬱陶しいだけであった。
臣下の礼はとっているもののワルドはクロムウェルを皇帝の器と認めてはいなかった…
「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!風龍で出るぞ!!」
勇ましく出陣の名乗りを上げてワルドは風龍の手綱を引いた。ハルケギニア最速の飛行生物はその翼を広げて真っ直ぐ情報へと飛翔する…
「フハハハハハッ待っていろ…ガンダールブッ!!!」
アルビオンで切断された右腕…本来痛みなど最早感じぬ義手となった筈の右腕に走る確かな痛みに口元を歪ませてワルドは笑いながら戦場へと飛翔した。
水蒸気の塊である雲の中、ミントは濡れた髪が頬に張り付いてくる事を煩わしく感じながらもアルビオン艦隊の中央を唯々強引に圧し進む!!
「見つけた、あれが本命ね!?」
幾つかの軍艦を墜として雲を抜けたミントはようやくレキシントン号のその巨大な姿をはっきりと視界に捉えた。
しかしミントとて流石にずらりと並ぶ砲門からの斉射は怖いのでレキシントンよりも高い高度を維持する。もっとも恐れるべきは振動故のヘクサゴンからの落下なのだから。
「見つけたぞ、ガンダールブ!!!」
と、レキシントンを見下ろす形を取っていたミントの更に上空から何者かの怒声と共に凄まじい速度で風龍がミントの視界を横切った。
「あんたは…ワルドッ!?」
一瞬とは言えミントははっきりとそれが誰で在るかを確認していた。自然と表情は不機嫌な物になる、生きているとは思っていたが出来れば二度と出会いたくは無かった男だからだ。
「嬉しいぞガンダールブ、再び相まみえる事が出来るとは!!」
「しつこいわよ!!」
ワルドが放ったエアカッターをミントはデルフで吸収するとヘクサゴンのソーサルドライブを全開にしてワルドの駆る風龍を追う…現状、ミントの魔法の射程範囲には若干遠いし追尾性の高い魔法でも風龍相手では分が悪い…
しかしハルケギニア最速は伊達では無い…ヘクサゴンではスピードにおいて風龍との間に埋まりそうに無い差が存在していた。
そしてさらにミントにとって喜ばしくない事態が迫る。
「ワルド殿!!助太刀します!」
ワルドの後を追って出て来たのであろう如何にも練度の高そうなメイジがそれぞれ飛龍に乗って四人ワルドの援護に現れたのだ…
ミントはこの厄介な状況に内心歯がみした…
しかしここでミントの予想だにしない事態が続けて起きる事となった…
「邪魔を…するなっ!!!」
ワルドは自分に追従する編隊を組む為に近づいてきた部下に当たる筈のメイジ達をあろう事か、一瞬の内に発生させた偏在達でそれぞれ首を撥ね、心臓を貫き、その飛龍達を強奪したのだった。
まさか味方に攻撃されるなどとは思っていなかったメイジ達は「何故?」等という言葉を残す間もなく眼下に広がる緑の大地へと落下していく。
「あんた相変わらずね…」
ワルドの外道な行いに憤りを隠せずミントは避けられる事を承知で魔法を放つ。
「フン、どうせ奴らはクロムウェルの虚無で人形として蘇る!!死ぬ事で私の役に立てるのだ…哀れに思うなら素直に首を差し出せガンダールブ!!」
「ふざけた事いってんじゃないわよっ!!」
魔法による五方向からの同時攻撃、ヘクサゴンのボディがワルドのエアハンマーとウインドブレイクで大きく揺れる…
ミントも自身に襲いかかるエアカッターをデルフで凌ぐがここまで統率が取れた連携を相手にするのは骨が折れるであろう事は容易く察する事が出来た。
「ガンダールブ、貴様がフライを使えぬ事を私は知っているぞ!!そんな貴様が空で私に勝てる通りは無い!このまま奴らのように地面に叩き付けてくれる!!」
「くそっ…一対一で戦いなさいよ!!この卑怯者!!」
四方向からの同時攻撃を何とか凌ぐミント…だが
「嬢ちゃん、上だ!!」
ミントの認識の外からの攻撃にデルフの注意が響く。
「とったぞっ!!!」
詠唱しながら飛龍の背から飛び降り、自由落下を駆使した偏在ワルドの上空からの特攻…
ミントは咄嗟にデルフリンガーを振るったがワルドが唱えていた魔法は『エアニードル』唯一デルフの魔法吸収を凌ぐ魔法…
刹那の交差…
ワルドの偏在は霞に消えた…
そして…
「げげっ!」
「あ〜れ〜〜〜。」
一度高く舞い上がった後で空を切り裂くように真っ逆さまに落下していくデルフリンガーの間抜けな声が戦場に響いた。
「ここまでだなガンダールブ。」「切り札を失った貴様はもう終わりだ。」「まずは腕を切り落とす。次は足だ。」「散々なぶった後で一思いに地面に叩き付けてやろう。」
四人となったものの勝利を確信したワルドが口々にそんな下卑た言葉をミントに向けてイヤらしく笑う。その姿はもはや貴族では無く唯の外道だ。
「何言ってんの…切り札?デルフが?」
「何?」
とさっきまで少なくともワルドから見ても狼狽えたような調子だったミントが再び冷静な様子を取り戻す…否、それは闘いの中でする賭けに対し腹を括った様に見て取れた。
ミントは素早くデュアルハーロウを構えるとそのままいつでも魔法が放てる体勢に移行する。
「ライトニングクラウド…討ってきなさい。あたしの魔法とあんたの魔法どっちが早いか勝負しようじゃない…」
「…良かろう、この『閃光』に早さで挑むか…おもしろいではないか。」
ワルドは知らず感じた圧力と精神の高ぶりにに思わず唾を飲み込むと、本体含め全員でライトニングクラウドの詠唱を行う。幸いと言うべきかミントの真正面のワルドは偏在なのだ…
次の瞬間、トリステインの上空には轟音と共に以降、『裁きの雷』と評され伝説とされる小さな紫電を伴った『眩き閃光』が走った。
以上で二十五話投稿完了です。ドラゴンズドグマクリアしたのでまた少しずつ書きためていきますので良かったら呼んでやって下さい。
なんだかデュープリのどこかのどかな雰囲気から離れつつあるな〜。
乙!
デュープリ乙です!
乙
ゲームやった事無いからスカタン号の腕は
ツインビーみたいな感じだと脳内変換してるw
予想どうりワルドは「眩き閃光」で仕留めたか
ワルド……あれが本当の「閃光」だ!
デュープリの人、乙でございました。
夜分遅くになりますが、続きが書けましたので0:45頃に投下したいと思います。
Mission 30 <ラグドリアンを侵す者> 前編
「スパーダはあたしのものなの! おばさんはもう近づかないでって言ったじゃない!」
「朝っぱらからうるさいわねぇ。静かにできない小娘がスパーダに近づく権利なんてないよ」
翌日の早朝、誰よりも早く起きたはずのスパーダであったが、ルイズとロングビルはスパーダの起床に合わせて起きだしたのだった。
そして、再び始まる口論と喧嘩。スパーダは頭を抱えたくなった。
(まだネヴァンの方がマシだ)
そう心の底で呟くと、自分から離れない二人を引き連れてまずは女子寮のモンモランシーを起こしに行く。
「スパーダ! モンモランシーなんかに何の用があるの!? あたしだけを見てって言ったじゃない!」
ノックをしてモンモランシーが出てくるなり喚きだすルイズ。ロングビルは無言でモンモランシーを睨みつけ、威嚇していた。
「……相変わらず苦労しているのね」
「すぐに用意しろ。出発する」
他人事のように呟くモンモランシーであるが、スパーダは用件だけを伝えて促す。
「それと、眠りのポーションか何かはあるか」
嫌々そうに制服に着替えたモンモランシーに、さらにスパーダは要求した。
「一応あるけど、どうしてよ? ……まさか、二人とも着いてくるって言うんじゃ」
「あたしはスパーダから離れないわ! ずっと一緒にいるの!」
「こら! 離れなさい! 小娘め! 傍にいていいのは私だけだよ!」
がしりと抱きつくルイズをロングビルが引き剥がそうとする。
それを見たモンモランシーは納得したようにうな垂れると、自室の棚の中から不眠用に作っておいた眠りのポーションの瓶をポケットに押し込んでいた。
「一応、持っていくか……」
スパーダはついでにルイズの部屋へ戻ると、愛剣リベリオンと共に破壊の箱こと――災厄兵器パンドラも持っていくことにする。
次にギーシュを起こしに本塔の男子寮へ向かう……ことはなかった。
ドッペルゲンガーをスパーダの体から分離させて眠っているギーシュを正門前に連れ出すように命じており、既にその命令は果たされていた。
そして、ひっそりとスパーダの元へ戻っていったのである。
「ちょっと、ギーシュ。何でこんな所に寝ているのよ?」
「う〜ん……むにゃむにゃ。モンモランシー……だめだよ。……こんな所で」
一体、どんな夢を見ているのか。寝言を口にするギーシュに顔を羞恥に紅潮させたモンモランシーはギーシュの体を蹴りつけた。
「ぐはっ! な、な、な、何だい!?」
「さっさと起きなさいよ!」
寝ぼけ眼で飛び起きたギーシュに、モンモランシーが話しかける。
「あ、あれ? どうしてこんな所に……」
状況が理解できないギーシュはきょろきょろと辺りを見回すが、大柄なトランクを担ぐ師匠のスパーダとそして惚れ薬を飲んでしまった二人の女性の姿を目にすることでようやく覚醒した。
もっとも、ルイズとロングビルはつい先ほどモンモランシーの眠りのポーション……正確にはお香のようなものだが、それを使うことで眠らせており、草地の上で再び熟睡していた。
「起きたな。では、出発する」
「出発って……馬はどうするのよ? ここから歩いてなんて何日もかかっちゃうわよ。馬でさえ半日はかかるのに」
ギーシュを一瞥したスパーダが言うと、モンモランシーは彼に食ってかかる。
だが、スパーダは右手を前に突き出すと掌から現れた蒼ざめた光球を浮かべだした。
その光球はゆっくりとスパーダ達の目の前で浮遊している。まるでおとぎ話にでも出てきそうな精霊のように幻想的な姿に思わず、モンモランシーとギーシュは溜め息を吐く。
だが、次に二人は腰を抜かすことになる。
――ヒヒィーーーンッ!
「うひゃあっ!」
「きゃあっ! 何ぃーーー!?」
ゆらゆらと浮かんでいた光球がたちまち大きくなり、やがて巨大な蒼ざめた馬へと変わってしまったのだ。
二人は先日、ゲリュオンが暴れる所を目撃していなかったため、初めて目にする威圧感溢れる巨体の幻獣の姿に唖然とした。
「モ、モンモランシー! 僕の後ろに下がるんだ!」
即座に立ち上がったギーシュは蹄を鳴らしているゲリュオンの前に立つと、造花の杖を振り上げた。
「あだっ!」
「落ち着け。害はない」
スパーダの閻魔刀の鞘がギーシュの頭を小突く。
既にスパーダを主としてゲリュオンは、自らの意思で暴れるようなことはない。
ゲリュオンの足はそこらの馬よりも速いので、より早くラグドリアン湖に到着するはずだ。
スパーダはゲリュオンが引いている馬車に飛び乗ると、パンドラを置いて腰を下ろした。
「お前達も早く乗れ。二人も一緒にな」
「……い、一体何なのよ。あなたの師匠は……」
「はは……か、彼はとても偉大な男なのさ」
乾いた笑みでモンモランシーの言葉を受け流すギーシュ。スパーダが悪魔であると、正直にいうわけにもいくまい。
二人は眠っているルイズとロングビルをレビテーションで馬車の上に乗せ、自分達も同じように乗り込んでいた。
――ヒヒィーーーンッ!
高く嘶いたゲリュオンは、一行を乗せた馬車を引いて駆け出した。
「きゃああっ!」
「うわっはぁ! すごいな! これは!」
朝の草原を力強く駆ける妖蒼馬<Qリュオンの上でギーシュとモンモランシーは歓声を上げた。
こんな大きな馬車を引きずっているというのに、その速さは馬などとは比べ物にならない。それどころか魔法衛士隊が乗っている幻獣さえも凌ぐ。
あまりの爽快さに思わず二人は楽しくなってしまっていた。
馬で約半日という距離を、ゲリュオンはその約3/4の時間で到着することに成功した。
ただ速いだけでなく、ゲリュオンの空間干渉能力によって本来ならば自由に走れないはずの鬱蒼と茂った森の中であろうと、存在次元がずらされている一行は何の苦もなく走り続けたのだ。
トリステインの南方、大国ガリアとで挟まれている場所に位置するラグドリアン湖は六百万平方キロメイルにもなる巨大な湖である。
比較的高地に位置するこの場所は周囲が緑豊かな森に囲まれ、さらに澄んだ湖水が織り成すコントラストによってまるで絵画のように美しい光景であった。
昼過ぎの陽光を受け、宝石のように輝く湖の少し手前の丘の上で一行を乗せたゲリュオンは停止していた。
何故なら、既に目の前は湖の岸辺であったからである。
ゲリュオンの馬車から降りたモンモランシーは怪訝な表情でじっと湖面を見つめていた。
スパーダはゲリュオンを魂に変えて体内に戻すと、周囲を注視するように見回している。
「これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやぁ、なんとも綺麗な湖だな! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ!」
一人、旅行気分のギーシュは初めて目にするラグドリアン湖を前に浮かれ、はしゃぎ回っていた。
「変ね……水位が上がっているわ。ラグドリアン湖の岸辺はもっと向こうのはずなのに……」
「村も水没しているらしいな」
スパーダが顎で指した先、湖面にはここら一帯の村のものであろう藁葺きの屋根が見えた。
立ち上がったモンモランシーは困ったように首を傾げる。
「どうやら水の精霊はお怒りのご様子ね」
「そうか。君は水のメイジだったな」
「そ、我がモンモランシ家は代々トリステイン王家とここに住む水の精霊とを旧い盟約で結びつける交渉役を務めていたんだから」
腰に両手を当て、どこか得意げに語るモンモランシー。そこにスパーダから厳しい一言が突き刺さる。
「だが、今は他の貴族がその任を預かっているらしいな」
その言葉にがっくりと力なくうな垂れるモンモランシー。
「……そ、あたしが小さい頃、父上が領地の干拓を行なう時にここの精霊に協力を仰いでもらったわ。でも、父上ったら失礼な態度を取ってしまって、精霊を怒らせてしまったのよ。
おかげで我が家は干拓事業に失敗して、今じゃ領地の経営が苦しいのよ。……だから水の精霊は怒らせるとただじゃすまないわ」
「それで交渉はできるのか」
「うん。ちょっと待って、って……何をやっているのギーシュは」
見ると、はしゃいでいるうちに足を滑らせ湖の中に落ちて溺れかけているギーシュの姿がそこにあった。
「た、助けて! 僕は泳げないんだよ! モンモランシー! スパーダ君! 助けて!」
ばしゃばしゃともがきながら必死に助けを求めていた。
その情けない様を目にし、モンモランシーは頭を抱えた。
「……付き合いを変えた方がいいかしら」
「君の自由だ」
湖から何とか這い上がってきたギーシュを無視し、モンモランシーは腰に下げていた袋から何かを取り出す。
それは鮮やかな黄色い体に黒い斑点がいくつも散っている一匹の小さなカエルであった。
モンモランシーが従える忠実な使い魔、ロビンである。
「いいこと、ロビン? あなた達の旧いお友達と連絡がとりたいの」
掌の上に乗るロビンにそう命じ、モンモランシーはポケットから針を取り出すとそれで自らの指先を突いた。
赤い血の玉が膨れ上がり、その血をロビンの体に一滴垂らす。
「血による契約か。中々高等なものを使うのだな」
「そ、これで相手はあたしのことが分かるはずだわ。覚えてればだけど」
指先の傷を魔法で治療し、モンモランシーはロビンに再び顔を近づけた。
「それじゃあロビン、お願いね。この湖に住まう旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げてちょうだい」
ロビンは小さく頷き、ぴょんと跳ねて水の中へと消えていく。
「でも、そう簡単に水の精霊が交渉に応じてくれるかしら」
「それは君次第だ。クビになったとはいえ代々、水の精霊との交渉役を務めていた一族だ。しっかりやれ」
モンモランシーの肩をポン、と叩くスパーダの注意は湖などではなく、周囲へと向けられていた。
この場に僅かに残されている魔力の残滓……そして、異様な禍々しい気配。
どうやら、これから一悶着がありそうだ。
「あーっ!」
突然、後ろの方から叫び声が響いた。
眠り薬の効き目が切れたルイズがめを覚ましたのだった。
そして、スパーダとその傍にいるモンモランシーを指差すなり、ずんずんと近づいてくる。
「他の女の子と一緒になっちゃだめって言ったじゃない! 離れてよ! モンモランシー!」
「え? ちょっと! きゃあ!」
ドン、とモンモランシーを突き飛ばされて湖の中に落とされてしまった。
「ああっ! モンモランシー!」
ずぶ濡れになった服ちマントの水を搾り出していたギーシュが再び飛び込み、モンモランシーを救おうとするが……。
「うがばぁ! 助けてぇ! ガボガボ……」
「泳げないくせして何やってるのよ!」
逆に水泳が得意なモンモランシーに助けられ、岸に上がった二人はびしょ濡れになってしまった服の水を搾り出していた。
そんな二人を尻目にルイズはスパーダに縋るように抱きつき顔を見上げていた。
「ねぇ、スパーダ。あたしとこのラグドリアン湖とどっちが綺麗?」
「分からん」
少なくとも、今の状態のルイズとを比べた所で何の意味もないのだ。
にべもない返答にルイズは拗ねたようにむくれる。
「はっきり言ってよ。……じゃあ、あたしとそこのおばさんと、どっちが好き?」
「どちらでもない」
まだ眠りについているロングビルを指差し尋ねるが、スパーダは冷たい反応しか返してこなかった。
「うぅ〜っ……やっぱり、あたしのこと嫌いなの? だからそんな風に冷たくするの?」
「当たり前じゃない。誰があんたみたいな小娘なんか綺麗って言うのさ」
と、ここでロングビルまでもが目を覚まし、ルイズを冷笑しだした。
「少なくとも、あんたは私以下でしょうよ」
「むぅ〜っ! そんなことないもん! おばさんなんて、せいぜいラグドリアン湖と比べたらミジンコと白鳥、ヤモリとサラマンダーよ!」
「モンモランシー」
またしても不毛な争いを始めようとしたため、スパーダはルイズ達を顎でしゃくった。
「まったくもう……貴重な秘薬をこんなことに使う破目になるだなんて」
嫌々とモンモランシーはポケットから取り出した眠り薬の瓶を開け、その口を二人の鼻先に突きつけた。
「ふにゃ……」
「ん……」
地面の上に崩れ落ち、ルイズとロングビルは再びまどろみの中へと落ちていく。
そして、ここにいては邪魔になるのでパンドラを置いたスパーダは二人を少し離れた林の中の木陰へと運んでいった。
と、その直後に岸辺より三十メイルほど離れた水面の下から眩い光が溢れ始めていた。
「あっ、来たわ!」
モンモランシーが声を上げる。
水面がごぼごぼと音を立てながら蠢き、徐々に膨れ上がるようにして盛り上がると、巨大な水柱が飛沫を上げながら立ち上った。
そして、ぐねぐねとまるで意思を持つスライムのように形を変え始めた。
湖からモンモランシーの使い魔のロビンが上がってきて、ぴょこぴょこと跳ねながら主人の元に戻ってくる。
「ありがとう。きちんと連れてきてくれたのね」
屈みこんだモンモランシーは己の使い魔を迎えると、指でその小さな頭を撫でると立ち上がり、水の精霊に語りかけた。
「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。
覚えていたら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をしてちょうだい」
その言葉に反応し、水の精霊らしき水の塊は大きく蠢き、形を変え始める。やがて、その水の塊は不定形なものから人間……モンモランシーを模した姿へと変わっていた。
(ちょっと恥ずかしいわね……)
モンモランシーは自分より一回りほど大きい、透明な裸の己の姿にちょっと恥ずかしくなった。
ギーシュも初めて目にする精霊の姿に呆気に取られているみたいだ。
水の精霊はさらに蠢き、笑顔、怒り、泣き顔と様々な表情に変わっていく。
『覚えている。単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した』
どこから喋っているのかは全く分からないが、水の精霊は透き通った女の声で言葉を発する。
「良かった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」
モンモランシーからの願いに対して水の精霊は沈黙する。
これですんなり交渉が成立すれば良いのだが。
しばしの沈黙、未だ答えが返ってこない中、スパーダが林から戻ってきた。
(ほう。これが水の精霊か)
初めて目にする精霊とやらの姿にスパーダは感嘆と頷く。メイジ達とは全く性質の異なる強い魔力をありありと感じ取っていた。
その時、水の精霊の身に異変が起きた。
『――――――――――!!』
「えっ! ちょっと、何よ!」
言葉にならない高い悲鳴を上げだす水の精霊はモンモランシーを模した姿から一変、全方位に弾けるよな不定形の塊と化していた。
「ど、どうしたんだね? 一体」
「あ、あたしに聞かないでよ!」
予想しなかった事態にギーシュとモンモランシーは困惑する。
『――――――――――!!』
未だ悲鳴を上げ続け、その水の塊をあらゆる方向に向かって弾けさせている水の精霊であったが、再びモンモランシーの姿に戻ると突然体の一部を伸ばし、その先を鋭利な槍のような形に変えていた。
そして、その先端をモンモランシー目掛けて突き出してきた。
「危ない! モンモランシー!」
即座にギーシュがモンモランシーに飛びつき、伏せさせると水の精霊の攻撃が頭上をかすめていた。
外れた攻撃は地面に突き刺さるが、やがてするすると収縮して戻っていく。
「な、何をするのよ!」
ギーシュと共に起き上がったモンモランシーが突然の攻撃に文句を言った。
もしかして、怒らせてしまったのか? やっぱり、自分の体を分けてなどと言ったからだろうか?
『断る。単なる者よ』
ようやく先ほどの願いの答えが返されてきた。
やっぱり、そうらしい。これで明確に怒りを表していなければ諦めて大人しく立ち去る所だったが、あまりの恐ろしさに動けないでいた。
こんなことなら、やっぱりついてくるんじゃなかった……。
だが、次に精霊が発した言葉にモンモランシーは不審を抱くことになる。
『貴様は忌まわしき魔の眷族と共に我が元に現れた。我は魔の眷族と契約する者を許すわけにはいかぬ』
「ま、魔の眷族ってどういうことよ?」
いきなりそんなことを言われたって何のことだか分からない。
困惑するモンモランシーとは逆にギーシュはちらりと、平然と水の精霊を見上げているスパーダを見やった。
(ま、まさかスパーダが悪魔だって分かるのか?)
(ほう。私が分かるのか)
スパーダは顎に手をやり、水の精霊を睨みつけた。
『貴様もこの地を脅かす奴らと同じ魔の眷族。我が守りし秘宝を盗みし、忌まわしき者。これ以上、この地を汚させるわけにはいかん』
「性急なことだ」
ふむと唸ると水の精霊は問答無用と言わんばかりに無数の触手を槍のように伸ばしてきた。
だが、そこには既にスパーダの姿はなく、空しくも大地に突き刺さるのみである。
連続で空間転移を行い、モンモランシーとギーシュを岸から離れた場所に運んでいた。
「お前達はここにいろ。決して動くな」
そう告げ、パンドラを預けるとスパーダは再び空間転移で水の精霊の前に立つ。
「If you were boring, I'll let's give you play.(退屈なら少し遊んでやろう)」
水の精霊は沈黙したままさらに己の体から次々と鋭い触手を伸ばし、スパーダに突き出していった。
背中のリベリオンを抜いたスパーダは軽々と両手で力強く振り回し、水の精霊の攻撃を捌いていく。
騎兵槍のごとき太い槍のように突き出された攻撃を身を翻してかわすと、そのままリベリオンを大上段から振り下ろして水の精霊の触手を叩き斬っていた。
だが、水の精霊に単純な物理的攻撃を加えようと、元々形を持たぬ水であるためすぐに再生してしまう。
変幻自在な水は時にあらゆる攻撃を防ぎきる無敵の盾となり、あらゆる鎧をも貫く強靭な矛となるのである。
スパーダは容赦なく繰り出される水の精霊の攻撃をかわし、リベリオンでいなし続けていた。
「もう! 何でこんなことになるのよぉ!」
離れた位置からスパーダと水の精霊の戦いを見届ける二人であったが、モンモランシーが癇癪を上げていた。
いきなり訳の分からない因縁をつけられて攻撃をされてしまうだなんて、実に不愉快である。
「しかし、スパーダ君も怖いもの知らずだなぁ。……水の精霊に正面から戦いを挑むなんて」
乾いた笑みを浮かべる顔を引き攣らせ、ギーシュは師匠の勇ましい戦い振りに息を呑んだ。
もっとも、彼が悪魔である以上、人間とは思考が違うのかもしれないが。
水の精霊は自らの体を槍だけでなく、無数の水の鞭として振るって四方八方から攻撃を仕掛けている。
手練れのメイジでさえ決して対処できないであろう手数でありながら、それらの攻撃をスパーダは難なくあしらい続けていた。
水の精霊はそうした直接攻撃だけでなく、大気中の水蒸気を一瞬にして大量の水の塊にして集めると何筋もの高圧の水流として撃ち出したり、スパーダの頭上から巨大な滝を降らせるなどしていた。
それさえもスパーダはよけるなり、頭上でリベリオンを回転させるなりして防ぎきっていた。
「どっちも化け物ね……」
思わずモンモランシーが呟く。強力な水の先住魔法を操る水の精霊を相手に魔法もなしにああまで互角に戦うことができるだなんて、もはや人間の常識を超えている。
「あれがスパーダ君の力なのさ。……僕はそれに惚れこんでしまったんだ」
伝説の悪魔である彼なら、このまま水の精霊を倒してしまいそうでギーシュは思わず武者震いをしてしまった。
突如、水の精霊の攻撃がぴたりと止んだ。一方的な攻撃を全て捌ききったスパーダはリベリオンを肩に乗せたまま静かに佇む。自ら攻撃を仕掛けようとはしない。
どうしたのだろうとギーシュ達は目を見張っていた。
すると、水の精霊が浮かんでいる穏やかな水面の手前に変化が現れる。
水面には徐々に小さな渦が出来上がっていき、みるみるうちにその勢いと大きさが増していく。
そして、ついにはその渦が巨大な水柱となって噴き上がった。
高さはゆうに二十メイルに昇り、しかも竜巻のような渦は未だ巻いたまま、勢いは止まるどころかさらに激しさを増すばかり。
まるで巨大な大津波が押し寄せてくるかのような威圧感であった。
「ちょっ、ちょっと! 何をする気!?」
モンモランシーは水の精霊がとんでもない攻撃を仕掛けようとしているのを目にして肝をつぶしていた。
あんなものが直撃すれば、人間はおろかちょっとした城さえひとたまりもないだろう。
「に、逃げましょうよ! ギーシュ!」
「いや! 僕はスパーダ君を信じる!」
モンモランシーが叫ぶが、ギーシュは決してこの場から動きはしない。
自分の師、スパーダはあんな恐ろしい攻撃を前にしながらも、堂々と佇んだまま微動だにしない。
伝説の魔剣士である彼なら、あの巨大な水の竜巻さえもきっと打ち砕いてくれるに違いない。
彼の弟子である以上、その戦いの場から逃げることは、決して許されないのだ!
(そこまで、彼を信じているんだ)
モンモランシーはギーシュの真剣な顔を目にして、ここまで彼から人望と信頼を得ているスパーダが羨ましかった。
いつものギーシュであれば、恐れをなして逃げ出してしまうというのに、今の彼は違う。尊敬する師匠がこうして目の前で戦っているからこそ、安心できるのだ。
……それに勝る安心を、自分は彼に与えられるのだろうか。
(相当、気が立っているな……)
スパーダは先ほどから肩に乗せているリベリオンに己の魔力を注ぎ込んでいた。
さすがに彼とて、これほどの一撃を食らえばただではすまない。悪魔とて、決して不死身というわけではないのだから。
だからといって、このまま自分を飲み込もうと押し寄せてくるであろうこの竜巻を正面から受け止める気はこれっぽちもない。
不可能ではないが、今のスパーダはそんなつまらないことをしている暇などないのだ。
リベリオンの刀身には徐々に赤いオーラが纏わりつき、さらに濃くなっていき、やがて刀身を完全に包み込む。
その間、バチバチという魔力が弾け散る音と共に、魔力が唸りを響かせていた。
溜めた魔力を全て一度に開放して放ち、竜巻を打ち消すこともできただろうが、今回はそんなことはしない。
スパーダは膨大な魔力を内包させたリベリオンを、激しく荒れ狂い、渦巻く竜巻に目掛けて投げ放った。
竜巻とは逆の向きに激しく回転するリベリオンは空を切り裂く音を響かせながら飛んでいき、竜巻の中へと潜り込んだ。
その直後、より巨大となった竜巻は動き出し、スパーダ目掛けて殺到した。
「「危ない!」」
後方で見守ることしかできなかった二人は一斉に声を上げる。
だが、それでもスパーダは臆することなく水の竜巻を睨んだまま腕を組み、動かない。
そして、スパーダを飲み込んでしまうと思われた竜巻は急激にその激しさと勢い、回転力が衰えていき、最後にはただの水の塊と化し、滝のようにばしゃんと湖と陸の間で崩れ落ちた。
未だ全く衰えない激しい回転を続けながら留まっていたリベリオンは、役目を終えたと言わんばかりに主の手元へと戻っていく。
スパーダは掴み取ったリベリオンを、静かに背中へ戻すと、再び目の前に現れた水の精霊を見上げていた。
水の精霊は攻撃をすることもなく沈黙している。先ほどまでの殺気は感じられない。
「ほら、僕の言った通りだろう」
「……もう常識外ね。あなたの師匠は」
師を信じた甲斐があったと言わんばかりの笑みを浮かべるギーシュはモンモランシーを連れ、スパーダのパンドラを運びながら傍へと近づいた。
とんでもない光景を見せられて、モンモランシーは唖然とするしかなかった。
『……貴様、あの魔の眷族の者共とは違うのか』
ようやく水の精霊が発した言葉は、困惑と驚愕であった。
『貴様の体、そして貴様の振るいし剣からは邪まな気配が、我への敵意は感じられぬ。何者だ』
「さてな。どう思うかはお前次第だ」
腕を組むスパーダは冷徹にその問いを一蹴する。
『……何にせよ、貴様達が忌まわしき魔の者達と関わりがないことは明らかだ。我が非礼をここに詫びよう』
と、精霊の姿が再びモンモランシーを模したものへと変化していった。
態度を一変させた精霊にモンモランシーはほっと安心すると同時に、怒らせた精霊をここまで静めてしまったスパーダに驚くばかりだった。
『旧き盟約の一族たる、単なる者よ。貴様は先ほど、我の一部を欲すると言ったな』
「え!? ……え、ええ。そうよ」
いきなり自分に話を振られてしまい、モンモランシーは焦る。
『ならば、貴様と共にする高潔なる魔の眷族の力を見込み、我は願う。我に仇なす貴様達の同胞を、退治してみせよ』
「た、退治?」
突然の精霊からの願いにギーシュが声を上げた。
「さよう。我は今、水を増やすことで精一杯で、襲撃者の対処にまで手が回らぬ。その者どもを退治すれば、望み通り我が一部を進呈しよう」
そのくせに、自分達にはあんなに積極的に攻撃してきたくせに。
モンモランシーとギーシュは目を細めて水の精霊を見つめていた。
「良いだろう」
スパーダが精霊からの願いを聞き入れ、首肯していた。
「ちょっと! 言っておきますけど、あたしはケンカなんて嫌ですからね!」
「大丈夫だよ、モンモランシー。彼の弟子の、僕がいるからにはね」
抗議するモンモランシーの肩に手を回したギーシュはバラの造花を手にし、得意げに笑っていた。
※今回はこれでおしまいです。前回のミスはしていない……はず。
2人とも乙です
パパーダ乙
>>61 ルイズタン 死んだダンプにひかれてルイズタン 死んだ
死んだダンプってなんだ?トランスフォーマーか?
>>98 だれや!?
ルイズタン殺したのん だれや!?
>>99 「チコタン」で動画検索
今日って剣心の誕生日なのか
今日るろうにの人の投下あったら良かったなー
定期さいや
ちらっ
ちらっ
>>103 確かにまだ時間はあるな
あ、もちろん自分のペースで書いていただくほうが大切ですが
いや、あの人はストックしてるんだっけ
じゃあ、あるいは…?
106 :
るろうに使い魔:2012/06/20(水) 23:18:09.95 ID:9jyXkRDi
バイトで今帰ってきましたが、呼 ば れ た 気 が し た の で。
今日は剣心の誕生日なんですね…。すっかり忘れてました。
ストックにも余裕があるし、特別に今日の三十分丁度に一本投稿しようと思います。
107 :
るろうに使い魔:2012/06/20(水) 23:30:29.71 ID:9jyXkRDi
それでは、始めたいと思います。
剣心達を見下ろす、三十メイルほどはあるだろう巨大なゴーレムは、ゆっくりとその手を大きく挙げた。
そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さで、剣心達に向かって振り下ろした。
轟音と共に屋根はガラガラと崩れ、音を立てて小屋は壊されていく。
それを見て呆気に取られていたキュルケは、皆は大丈夫なのかとふと不安になった。
「ルイズ! タバサ! ケンシン!」
するとそれに応えるように、もうもうと立ち込める煙の中から、一つの影が飛び出した。
ルイズとタバサを両脇に抱えながら、剣心が外へと脱出していたのだ。ルイズはその手に、黒い箱をちゃんと大事に持って来ていた。
「とりあえず、みんな無事でござるな」
彼女達に怪我がないことを確かめると、剣心は改めてゴーレムの方を向いた。
そして逆刃刀を構えながら、鋭い眼で睨んだ。
「皆下がって欲しい。この土人形の相手は、拙者がする」
第九話 『土くれvs飛天』
「ホラ、ルイズ! 何ボーッとしてんのよ!?」
退く途中で、急に足を止めたルイズに対し、キュルケが叫んだ。あのゴーレムは、やり手強い。
キュルケの『ファイアーボール』はおろか、タバサの『ウィンディ・アイシクル』さえも難なく耐えたその土の壁は、たとえ傷を付けたとしてもすぐ地面の土を拾って元通りにしてしまうのだ。
自分達では歯が立たない。――そう思ったタバサは、せめて剣心の邪魔にならないようにと、シルフィードを呼んで空中から援護することにしたのだ。
キュルケもそれに賛成し、てっきりルイズも乗るものかと思った矢先、当のルイズは手に抱えている秘宝の入った黒い箱を見つめると、何とそこから『破壊の剣』だけを取り出したのだ。
それを見たキュルケが叫ぶ。
「何やってんのよ! ケンシンの邪魔でもするつもり!?」
「あいつを捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズとは呼ばないでしょ!!」
ルイズは本気だった。元より、フーケを探す志願をしたのもそのためだった。
フーケを捕まえれば、誰も自分を馬鹿にしなくなる。『ゼロ』と陰口も叩かなくなる。
だから、怖くて足が竦んでしまっても、逃げ出したい気持ちを抑えてでも、勇気を持って立ち向かっていかなくてはならない。
自分も立派な貴族だということを、証明するために―――。
「ちょっと! ルイ――」
キュルケの制止も聞かず、ルイズはそのまま剣を持ってゴーレムに走っていった。
一方、ゴーレムと対峙している剣心はというと。
ゴーレムの猛攻を難なくかわしながら、どう突き崩すせばいいものか…と思案していた。大きさとタフさに惑わされがちだが、攻撃自体はかなり単調だ。
回避に支障は無い。しかしこれほど大きいと、こちらも逆刃刀だと決め手に欠けるのだ。
馬鹿正直に正面突破で、そのまま手足を切り飛ばす……という荒業も出来なくはない。
しかし、このゴーレムは、普段は土だが攻撃する瞬間『錬金』で鋼鉄に変化するのだ。
斬鉄は出来るが、風を切る速さと、木の幹のような野太い腕だと、斬るのは至難の技。
それにそんな面倒な戦いをせずとも、これを操る主、フーケを倒したほうが手っ取り早い。そう剣心は結論づけたのだ。
では、そのフーケはどこにいるのか。ふと、過去にある『芸術家』が動かしていた、絡繰り機械を思い出す。
あれは最初から中に入って操作していたが、このゴーレムはただの岩の塊だ。中で操っている可能性はまず無いだろう。
となれば、次に考えられるのは周りの森の中。恐らく茂みに身を隠し、こちらを観察しながら、杖を振って操っているに違いない。
しかし、それらしい気配は探っているが特に何も感じない。さてどうしたものかと再び思考すると、ふと剣をブンブン振り回すルイズが目に入った。
108 :
るろうに使い魔:2012/06/20(水) 23:31:36.31 ID:9jyXkRDi
「き、来なさいよ! こっちには『破壊の剣』があるんだから!」
「ル、ルイズ殿!! 危な―――」
剣心はハッとした。ルイズとは距離が離れすぎている。直ぐに助けにいけない。
そして、そんな彼女に気がついたのか、ゴーレムは標的を変更し、ルイズ目がけて腕を振り上げた。
(ま、負けてなるもんですかぁ……っ!!)
剣を前に出して、防ぐように身構えるルイズの上に、鋼鉄となった拳が影になって覆われた。
やっぱり、私死ぬのかな…一瞬そう思ったルイズは、恐怖のあまり目を瞑って―――
ドガン!!と、目の前に大穴が空いた。
空で見ていたキュルケが息を呑み、タバサは唖然とした表情で見下ろす。
そんな中、ゆっくりとゴーレムは腕を上げると、そこには誰かが潰された跡―――は残っておらず、窪んだ大穴だけポッカリと空いていた。
(―――っ……わたし…)
目を閉じたまま、ルイズは思った。
痛みは感じない。それとも感じる間に死んでしまったのか。
(ゴーレムに…潰されたはずなのに……)
ようやく自分の中に、体の感覚が戻ってきた。どうやらまだ生きているようだ。
そして寝かされている。いや、これは手で支え持ってくれている感じだ。
(一体……何が…)
ルイズは、恐る恐る目を開けた。
そして見たのは、いつも隣にいてくれる自分の使い魔。
強くて…そして心のどこかで頼りにしてしまう私の従者。
緋村剣心が、ルイズを抱き上げてこちらを見つめていたのだ。
「ケン…シン…?」
「危ないところでござったな」
剣心がホッと安堵の息を漏らした。正直かなりギリギリだったのだ。
ルイズが走ってきた方角は、丁度ゴーレムの真後ろ。そんな中、あの速い腕の振りでルイズに襲いかかったのだ。
普通ならまず間に合わない。しかし、それでも助けようと足に力を込めた瞬間、再び体に羽が生えたように軽くなった。
神速の如き速さで、ルイズがゴーレムの腕と共に押し潰されようとしたその間に入り込み、間一髪助け出したのだ。
「っ…そうだ…『破壊の剣』は…?」
ルイズは、ふと剣を握っているはずの自分の手を見た。そこには、ボロボロになって破片が散らばった『破壊の剣』の姿があった。
「どうして……伝説の武器じゃないの…」
力なく項垂れるルイズに、剣心は優しく言葉をかける。
「それは、そんな大層なものではござらんよ…分かったら、ルイズ殿も早く避難を――」
そこまで言ったとき、振り切るようにルイズが首を振った。そして、決意するような目で剣心を見つめた。
「ケンシン、貴族はね、魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないの――敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
「でもそれは、命を懸けてまで守る大切なものなのでござるか」
剣心が、諭すような声でルイズに言い聞かせた。言葉が詰まる。何せ今さっき死にかけたのだ。そう言われると、ルイズも上手く反論できない。
違う、違うの…と嫌々首を振るルイズの後ろに、巨大な腕がまた降り掛かる。
剣心は、ルイズを担ぎ上げながらその攻撃を躱すが、これでは反撃もできない。
手助けに来たはずなのに、いつの間にか足でまといになっている。
それが、ルイズの心の中に抱えている、不安の火を更に強くした。
実はずっと、気にかけていることがあった。ここ最近のルイズに出来た、新しい不安。
それは、昨晩でのキュルケの言葉にあった。
『ま、あたしが何もしなくても、いずれあんたに愛想を尽かしてケンシンもこっちへ来るでしょ。ゼロのルイズの使い魔なんて、彼もさぞかし不憫でしょうからね!!』
そう、この言葉が、ルイズの心を苦しませていたのだ。
剣心が、本当に自分を見捨てて、遠くへ行ってしまう。
最初に召喚したときは、微塵もそんなこと考えなかった。しかし、失敗の時は慰めて、決闘の時は自分のことのように怒ってくれて、寂しい時はいつもニコニコ隣をついてきてくれる。
109 :
るろうに使い魔:2012/06/20(水) 23:33:00.50 ID:9jyXkRDi
そうしている内に、彼の存在がまるで当たり前のように、そしてかけがえのない存在へと感じ始めてきたのだ。
使い魔としては、まだ抵抗があったけど、少なくとも召喚した事への後悔はしてなかった。
それだけに恐かった。いずれ才能の無い自分を見限るのではないかと。そしていつしか、本当にキュルケに心奪われるのではないかと。
だから、証したかった。自分は、魔法が無くても立派に戦える。そしてその上で、自慢のご主人様であることを剣心に教えたかった。
なのに、それすら叶わず、結果的に剣心には呆れられる始末。
何もできない自分が情けなくて、気づけば涙をボロボロと流していた。
剣心は、胸の中で泣いている彼女に気づきながらも、変わらず攻撃を回避し続け、様子を探っていた。
そんな中、下を見つめるキュルケをよそに、タバサはシルフィードに何事か命じると、援護のために近づくのではなく、周囲を旋回するように飛び回り始めた。
ふと、何かに気付いたかのように、タバサはある方向を注視した。そして確信めいたように一人頷くと、おもむろに呪文を唱え、氷の槍を作り出す。
しかし、それをゴーレムにぶつけるのではなく、まるで剣心達に知らせを取るかのように真下へと落としていった。
剣心も気付いたのか、降ってきた氷の槍を見て、真上の方を見上げる。タバサはそれを確認すると、杖をあらぬ方向にかざし、何か教えるような仕草を取った。
その意味を感じ取った剣心は、一旦ルイズを降ろして、肩に掛けたデルフを抜くと、何事か呟き始めた。
「へえ、面白そうじゃねえか、ま、一丁やってみな」
剣心は頷くと、一度デルフを完全に抜き出した。そしてそれをタバサの向けた杖の先目がけて思い切り投げ飛ばした。
風圧を切るような音を立てて、デルフはすっ飛んでいくと、森の中へと消え、茂みの中へと隠れた。
――これでいい。剣心はそう思った。
タバサの指した方角は、無論フーケの気配を感じる場所。援護に回らずに、ひたすらシルフィードを駆り散策していた中で、大まかながらも居場所を突き止めてくれたのだ。
デルフを投げたのは、フーケの様子を探るためだった。
もしビビってそのまま逃げ出してくれれば御の字。秘宝は既に奪還してある。
隠れる場所がバレて移動すれば、上にいるタバサ達が捕捉してくれるだろう。
シラを切って出てきたとしても、投げたのは意思を持つ剣、デルフリンガーだ。そして後はゴーレムを倒せば、フーケも出てこざるを得なくなる。
しかし本来ならこんな面倒なことをしなくても、剣心がそのまま殴り込みに行けば済む話である。
では、なぜそうしなかったか?
このままフーケを追い詰めて、捕まえてきたとしよう、しかしそれだと結局、剣心達の手柄になり、何もしていないルイズは、これからも馬鹿にされ続けるだろう。それだとせっかく命を懸けて決めたルイズの心意気に、水を差してしまう結果になる。
彼女にも、それなりの活躍をさせたい。そしてフーケを捕まえる手助けをしたと、胸を張って帰らせてあげたい。
そう思った剣心は、落ち込むルイズを見て、改めてこう言った。
「ルイズ殿、ちょっと相談があるでござる。あれを倒す手助けをして欲しいでござるよ」
パッと、一瞬驚いた顔でルイズは剣心を見上げた。
しかし今度は、ふと表情を暗くする。魔法も使えない自分の力なんて、必要なのかと……。でも、剣心は、そんな不安を吹き飛ばすような笑顔を見せた。
自分の使い魔だもん、ケンシンを信じてみよう。ルイズは意を決し、杖を取り出してゴーレムへと向けた。
「それで、どうすればいいの?」
剣心は、こそこそと耳元で何やら呟いた。
そして再び、巨大な土人形の目の前へと、剣心は合間見えた。
その隣でルイズは、杖をゴーレムの足元へと構えている。
まず、大きな腕を振り上げて、今までと同じように剣心を潰そうとする。
剣心はそれを回避し、股の間をくぐり抜けてルイズに背を向けさせるよう仕向ける。
案の定、ゴーレムは剣心の方を狙っているのか、くるりと向きを変えた。
110 :
るろうに使い魔:2012/06/20(水) 23:34:43.66 ID:9jyXkRDi
ルイズは深く深呼吸した。自分に自信を持て。絶対に出来ると。
生半可な魔法を唱えても、失敗して爆発しか起こさない。ならば、その爆発の力を今は最大限に利用する。
「―――今だ!!」
剣心の叫びと共に、ルイズはゴーレムの膝下を爆発させた。
強力な『固定化』の壁を崩した威力の爆発に、ただの土が耐えるはずもなく、見事に粉々に砕け散った。
「おお、倒れるわよ!!」
片足を失い、バランスを崩したゴーレムは、前のめりに倒れ込む寸前、両手をついて何とか支え込んだ。
しかし、その両手を突き出した先は、寄りにもよって剣心の目の前―――。
「度が外れた人形劇も、これで幕引きでござるな」
誰にでもない、フーケに対して剣心はそう言うと、刹那の速さで抜刀。逆刃の『刃』の部分を裏返し、そして目にも止まらぬ荒業で二本の腕を両断した。
『錬金』による硬化すら間に合わず、激しく宙に舞う土の柱が落ちてくると同時に、ゴーレムも音を立てて崩れ動かなくなった。
「…す…凄い…」
「ゴーレムを…倒しちゃた…」
「………」
ルイズ達が驚きで唖然とする中、剣心は油断なくゴーレムに向けて刀を構えていた。
しかし、ゴーレムは最早ピクリとも動く様子は見受けられない。
恐らく、動かしても無駄だと悟ったのだろう。剣心は上を見ると、丁度シルフィードが降りてくる所だった。
やがて、タバサの指していた方角からロングビルがやってきた。手には、デルフリンガーを持っている。
今までどうしてたかを聞こうとした時、ロングビルはそれ遮るようにまくし立てた。
「皆さん大丈夫ですか? それより、この剣が刺さってた所にフーケらしき人影がありました。今ならまだ間に合います、探しましょう!!」
成程、と剣心は思った。どうやらそれを言い訳にここから逃げ出す算段らしい。
ゴーレムが倒されたときに直ぐ逃げなかったのは、タバサ達が上で見張って動くに動けなかったからだろう。
おまけに心配するフリをして、それとなく剣心からは離れるようにしている。捕まえる機会は、今しかない。
「いい加減芝居もやめたらどうでござるか? ロングビル殿――いや、土くれのフーケ」
タバサが、警戒する目でロングビルを見つめる。キュルケとルイズは、驚きで口を開けた。ロングビルは、オーバーすぎるリアクションで体を仰け反らせた。
「そ、そんな……心外ですよ! どうしてそんなことを言うのです、ケンシンさん?」
「悪いけど、一部始終を見ていたのはフーケとお主だけではござらんよ…なあデルフ?」
それを聞いて、デルフはカチカチと鍔を鳴らした。
「おう、ばっちりだ。この女嘘ばっかだぜ! ゴーレムを操る呪文の声を、俺はちゃんと聞いていたからな!」
ロングビルはギョッとした。流石に持っているのが喋る剣だったとは思わなかったようだ。
「観念するでござるよ。もう逃げ場はどこにも無いでござる」
剣心の言葉に、ロングビルはガックリと項垂れる仕草をした。それを見て、ルイズは嫌な予感がした。
暫く黙っていたロングビルだったが、やがてポツリとこう呟いた。
「……そう、なら仕方ないわね」
その瞬間、手早い動きでルイズを捕まえると、持っているデルフを首元に近づけた。
「私も顔を見られたあんた達を、初めから生かして返す気なんてなかったのよ!!」
遂にベールを脱いで、本性を表したロングビル――もといフーケは、獰猛な目付きで剣心達を睨んだ。
「動くな! ちょっとでも動いたらこの小娘の首を跳ねるわよ…全員武器を下ろしなさい」
錆び付いたとはいえ、刃物は刃物だ。切られたらまず助からないだろう。流石に部が悪い…そう判断したタバサとキュルケは杖を放り投げた。
しかし剣心は動じず何もしない。フーケにしてみれば、この男こそ一番危ないのだ。けど今は、逆刃刀は鞘の中だ。もし不穏な動きを少しでも見せたら直ぐに首を切る。そう決心した。
「教えてはくれぬでござるか? 何故こんなマネをしてまで待ち伏せをしたのか」
「…冥土の土産にするって言うんなら教えてあげてもいいわよ」
剣心に対する警戒は崩さずに、フーケは説明を始めた。
あの後、肝心の秘宝は手に入れたはいいものの、中身の剣は錆び錆びだし、マントは無駄に重くてとても着ることができなかった。
何か別の使い道があるのか、とフーケはそう思い、今回の騒動を使ってどう使いこなすのかを見るつもりだったのだ。魔法学院の人間なら、使い方を知っていてもおかしくはないだろう。
111 :
るろうに使い魔:2012/06/20(水) 23:36:14.44 ID:9jyXkRDi
しかし、いざ観察してみれば、剣は折れるしマントは使わずで全く役に立っていない。
がっくりと落胆する中、その上無駄に勘の鋭い奴らを引き連れてしまったために、自分の正体すら危うくなってきた。
そこで、何とか誤魔化して一人一人闇討ちをしようかと思った矢先、その正体がバレて今に至る、という訳である。
「成程、内通者もお主自身で決行したことか」
「そうよ、わかったらホラ、あんたも武器をこっちへ投げなさい」
刃の上に少量の血を走らせながら、フーケが言った。キュルケとタバサも、不安げな表情で剣心を見やった。二人とも、心の中で剣心なら何とかしてくれると頼りにしていたからだ。
ルイズは、今不安と恐怖で一杯だった。そして怖かった。もしかしたら、彼は本当に私を……見捨てるんじゃないかと。
そんな考えが一瞬頭をもたげたが、剣心の微笑みがそれをかき消してくれた。
(大丈夫、必ず助けるから)
そう顔に表してくれるだけで、安心感で体が満たされる。
そしてルイズは気付いた。この安心感はどこから来るのか、やっと分かったのだ。そうだ、彼が自分を見捨てるなんて、有り得ない。
だって、彼はこんなにも優しいから。
ケンシンなら、この場は任せられる――そう思ったルイズの前で、遂に剣心は動いた。
「分かった、今捨てるでござるよ」
そう言って、腰から鞘ごと取り出し、フーケに見せつけた。フーケはニヤリと笑い、キュルケとタバサはもうダメなのか…と顔を落とす。
しかし、ルイズは最後まで剣心を信じた。
「よーし、そのままこっちに投げな」
フーケの言葉に剣心は、言われたとおりに鞘を腰に下げると――
差し上げるように腕を突き出し、親指で鍔を弾いて、刀だけフーケに飛ばした。
「――――へっ……?」
完全に不意をつかれたフーケが、その神速の飛刀に反応できるはずも無く。
キョトンとした顔のまま、額に柄尻がガツンと直撃した。
その衝撃たるや、当たったフーケは吹っ飛びながら宙を舞い、そして目を回して完全に気絶して倒れ込んでしまった。
「『飛天御剣流』抜刀術 ―飛龍閃―」
そう呟くと、ポカァ…ンとしている三人をよそに剣心はゆっくりとルイズに近寄って、首筋の傷を見つめた。
「怪我は大丈夫でござるか?」
その言葉に、やっと思考が追いついてくると、早速三人は剣心に詰め寄った。
「平気……って何なのよさっきの!?」
「何? 今何したの!?」
「抜刀術…? 飛天御剣流……?」
三者三様に驚くルイズ達をおいて、地面に刺さった逆刃刀とデルフを拾い上げると、フーケの方を向いた。
「説明は後、フーケが目を覚ますうちに、早く学院に帰るでござるよ」
ルイズはハッとした。そうだ、後半人質になったりしたけども…フーケを捕まえたのだ。あの悪名高い土くれのフーケを。
殆ど手柄は剣心が立てているけど、それでも自分は足で纏いにならずに済んだ。ちゃんと戦うことができた。
『土くれのフーケを、捕まえたぞぉぉぉー!!』
嬉しさと達成感で、ルイズ達は思い切り万歳をした。
112 :
るろうに使い魔:2012/06/20(水) 23:40:35.85 ID:9jyXkRDi
今回はここまでです。取り敢えずフーケ編は次で終わりです。何とかギリギリ間に合ってよかった…。
基本的に、土日に投稿しようと思うので、今回は特別ということでお願いします。
今週も普通にやろうと思うので、アルビオン編まで入るかと。
それではお付き合い頂き、どうもありがとうございました。
乙でござる
乙でござる
絶対に乙でござる
乙でござるよ
乙ござ
ハルケギニアにも台風ってあるのかな?
ないとしても台風怪獣バリケーンを召喚、7万だろうが吹っ飛ばせる上に干ばつも解消
さらにサハラを緑化できればエルフたちの好感度も上げられるぞ
作家の皆さん乙です!!
>>95 水の精霊って具体的にはどれくらい強いのだろう。
召喚されたキャラが水の精霊にケンカを売る話ってあまりない気がする。
そこでキングボンビーやハリケーンボンビー召喚
じゃあ気象コントロールマシーン・テンカイを召喚。コルベールが食いつくぞ
うおお寝てしまってた…orz
るろうにのかた、遅くなりましたが乙です!
>>120 今まで公開された話の大半は、水の精霊云々の所になる前にエターナってるからね。
正確な割合は出してないけど、ワルドとの対決が終わった時点で9割方は作者失踪しているはず。
だから戦う話は少なくなるさ。
ワルド戦以降は現代兵器かそれに代わるものがないと
3巻の戦いあたりで詰む可能性が高いからな…
戦うかどうかはともかく友好的にいかなそうなやつらっていうと
ロックマンやエックスなんかの「生き物じゃないのに自意識があるもの」
NARUTOのナルトやサタン〜666〜のジオみたいな「体になんか宿しちゃってるもの」
とかかねえ、SeeD戦記のスコールは退治のために自分から喧嘩売ってたけどwww
ウェールズを生存させつつトリステインとレコンキスタなアルビオンを戦争させようとすると
アンアンは彼氏の領地を取り戻すために兵を送るビッチになって困るw
原作は敵討ちもかねた、ウェールズ達アルビオン貴族の遺志をついだ上での奪還だからまだマシに思えるけど
まあ所詮ジョゼフの手の平の上の暇つぶしなんだけどね、その戦争
ワルドがアンドバリの指輪の形を知ってたらクロムウェルのカラクリを見破ってたかも。
後付け設定だけど母親が学者だからなんらかの形でワルドが知ってても不思議じゃない。
ウェールズが死んでようが生きてようがやることはかわらんしょ。
戦端開いたのはレコンキスタだし。
逆にウェールズが生きてたら反乱軍に占拠された国を取り戻すためにトリステインが出兵しなきゃいけないんじゃね?
ルイズパパの言ってた「アルビオンを兵量攻めすればいい」はウェールズにはつうようしないし。
ビッチとは一体何なのだろう
初期ルイズはわりとビッチ
すごいビッチビチなキャラ、そうかタンノくんのことか!
煮てよし焼いてよし!
このナマモノが!!
同性愛はいかん。非生産的な。
微妙な時間ですが予約無さそうなので数分後から第二十六話を投稿させて貰います。
第二十六話『虚無のルイズ』
静寂…
そう…それはまさに静寂…
戦場にいた全ての人間の視線を釘付けにする眩い閃光が残したのは唯、絶句と静寂だけだった…
どれ程その静寂が続いたのだろうか?ミントはライトニングクラウドをも飲み込んで空を走った雷光に焼き尽くされ、跡形も無く消滅したワルドがつい先程までいた空間を見つめてツインテールの髪を掻き上げ、風に遊ばせる。
「アルビオンじゃルイズが近くにいたから使わなかったけど。これがこのミント様の切り札よ。」
『黄色』の魔法タイプ『ハイパー』『まばゆき閃光』と呼ばれるそれはミントの習得している魔法の中でまさに切り札と呼ぶに相応しい、ミントを中心として優に半径100メイルを軽く超える凶悪なまでの破壊力を誇る雷の魔法。
消費する魔力はそれに伴い、掛け値無しの残魔力の全放出という極端な仕様…
「………流石に疲れたわね…一旦下がろうかしら…」
疲労を顔に浮かべ、げんなりとした表情でミントは呟くと背中のリュックから飲料水の入った瓶を取り出してそれを口につけると一つ安堵の溜息を漏らしたのだった…
一息ついてミントはヘクサゴンを戦域からゆっくりと後退させることにした。
そしてその直後…ミントの目の前で戦域全てを包み込むとてつもなく巨大な爆発が起きたかと思うとそれはレキシントン含むアルビオン艦隊を一瞬の内に焼き尽くしたのだった。
____
それは遡る事数分前…
ルイズはとにかく馬を走らせていた。
「ミント…」
勢いよくアンリエッタの元から飛び出したのは良いが情けない事に空を行くヘクサゴンにルイズは辿り着く術を持ち合わせていなかった。すぐにその事には気が付いたのだがルイズはそれでも愚直にミントの直下目指して馬を走らせていたのだった。
と、そこへまるで導かれるように上空から何かがルイズ目掛けて一直線に落下してきた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」
「………………え?」
それは太陽光を反射しながら絶叫を上げるデルフリンガーに間違いなかった…
デルフリンガーはそのままルイズの駆る馬の脇を掠めるように地面に突き刺さり、馬はその事に驚き嘶きを上げると取り乱したように暴れ始める。
「ちょっ…ちょっと、良い子だから落ち着いて!!……って、あっ!!!」
ルイズは慌てて手綱を捌き、馬を落ち着かせようと奮闘するがその最中懐からポロリと『始祖の祈祷書』が地面に転がり落ちた…
ルイズは慌てながらもある程度馬を落ち着かせるとその背から軽やかに飛び降り、始祖の祈祷書を拾い上げると自然とその視線は地面に突き刺さったままのデルフリンガーへと向けられる。
「あ〜…よう、嬢ちゃん元気にしてた?」
「元気と言えば元気よ…残念ながら空から飛び降りる程じゃ無いけど…」
「ま、それ位が丁度良いぜ…」
「ところであんたがここに居るって事はやっぱりあれは…」
「あぁ、相棒だぜ、今はワルドの野郎と戦ってるが…まぁ心配ねぇだろうな…」
ルイズは開口一番に軽口を叩くそんなデルフリンガーに呆れたた様子でやり取りを行いながら始祖の祈祷書に付着した土汚れを払って、中身が無事かとパラパラとそのページを適当にめくる。
「ワルドとですって……ん?何これ?」
と、ここでルイズは白紙であった筈の祈祷書に何やら長ったらしく文章が綴られている事に気が付いた。
何とは無しにその文章に視線をむける。間違いなくさっきまでこんな文章は存在していなかった筈だ…
序文。
これより我が知りし真理をこの書に記す。
この世のすべての存在は、虚ろを宿る。
四の系統はその虚ろに干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。
ルイズはその祈祷書に記された文章が何であるかを理解するとその文章を食い入るように熟読し始める。
神は我にさらなる力を与えられた。
四の系統が影響を与えし虚ろは、虚ろなる闇より為る。
神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。
我が系統は虚ろなる闇に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり 。
四にあらざれば零。
零すなわちこれ『虚無』。
我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。
「おい、嬢ちゃんどうした?」
デルフリンガーはそのルイズの様子が明らかにおかしい事に気が付いて、ルイズに声をかけるがとうのルイズは祈祷書から視線を外す事無くデルフに震える声で答えた…
「…デルフ…どうしよう…私選ばれちゃったみたい…」
「何だそりゃ?」
ルイズの物言いに疑問符を浮かべたデルフがそう言った次の瞬間、上空でとてつもない轟音と雷光が発生した。と同時にルイズの馬が怯えたように何処かへ走り去る。
「何だ?何だ!?」
突然の事に困惑しながらデルフリンガーがルイズを見るとどういう事だろうか?ルイズは先程の雷光と雷鳴にまるで気が付いていないかの様に祈祷書を見つめたまま小さく唇を動かし、ひたすらに長い長い詠唱を行っていた…
これを読みし者は、我の行いと贖罪と器を受け継ぐ者なり。
またそのための力を担いし者なり。
志半ばで倒れし我とその同胞のため、『異界の亡霊』を『聖地』に封じるべき努力せよ。
『虚無』は強力なり。
また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。
詠唱者は注意せよ。
時として『虚無』はその強力により命を削り、器に潜みし虚ろなる闇を増幅させる。
したがって我はこの読み手を選ぶ。
たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。 されば、この書は開かれん。
ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ
以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン』
祈祷書の持つ魔性に取り込まれでもしたのか…そのうつろな瞳からは輝きが失われており、ルイズがある種のトランス状態である事がデルフには読み取る事が出来る…
「おいっ!おいっ嬢ちゃん!!………クソッ駄目か…それにしてもこの呪文は一体…?聞き覚えがあるのか?俺様に…」
そして…ルイズの歌うようなその詠唱は未だ錆び付いたままのデルフリンガーの記憶を激しく揺さぶった…そうそれは確かに遙か昔、何処かで聞いた事がある不思議な詠唱だった。
その詠唱の完了と共にルイズは意識を覚醒させると自身の中に眠る『虚無』の力を理解する…同時にこんな非合理的な封印を施していたブリミルへの不満も湧いたのだが…
淀みなく練り上げられた桁違いの魔力の奔流、ルイズはそれを完全に制御する術をしる。
(すごい…解る、狙える…これなら!!)
魔法の射程は視界の全て、対象はルイズの意識一つで取捨選択さえできる。後は魔力の解放の為、呪文と共に杖を振るうだけ…
ルイズは狙う…対象は上空に群がるアルビオン艦隊。その動力たる風石と船体を支える竜骨とマストのみを焼き尽くす。
ルイズは瞳を閉じると大きく一度深呼吸を行い大きくその瞳を見開いてその小さな肺に収まった空気を身体に渦巻く魔力と共に一息に吐き出すように…全身全霊、万感の思いを込めて『虚無』を解き放った…
「エクスッ…プローーーージョンッッ!!!!!!!」
レキシントン号を中心に、ルイズの解き放った魔力は光となって艦隊を包み込む、それはさながら突然太陽が現れたかのようで…音の無い爆発と閃光が再び空を覆った。
全てが終わった後の光景は、艦隊の全てが炎上する姿。
それら全部が、火の玉となって一斉に地上へと墜落していく。途中、小型の脱出艇が戦艦から統率など一切取れぬ様子で幾つも飛び出してはいた。
その光景はまるでこの世の物とは思えぬ大惨事でありながら、だがしかし、トリステインにとっては何よりもの奇跡の光景だった…
「フヘヘ……ざまぁみなさい…」
スッカラカンになった精神力で辛うじてルイズは言ってほくそ笑むと草原に受け身も取らず清々しい勢いで大の字に倒れる…
「ミント…は…無事かしら…」
今まで生きてきて魔法が使えないというコンプレックスから溜まり続けていた膿を全て吐き出したかのような晴れやかな気分のままルイズはその意識をゆっくりとまどろみの中へと落としていった…
____
「何よアレ…?」
ミントは口を開いたまま閉口出来ず、唯々先程目の前で起きたデタラメな威力の爆発の後を見つめていた…
魔力の回復の為と落下したデルフリンガー回収の為、戦域を離れ高度を落としていたミントは何とか爆発を免れていたがあのままあの場に留まっていたと思うとゾッとする。
「誰の仕業か知らないけど、このミント様もろとも吹き飛ばそうだなんて…見つけたら唯じゃ置かないわ…」
無論、ヘクサゴンはエクスプロージョンの対象から外れていたのだがミントはそれを知るよしも無い。
そんな事を考えながらもミントは取り敢えず恐らくはデルフリンガーが落ちているであろう場所へと向かうのであった…
大爆発を引き起こした犯人兼、ご主人様が満足そうに倒れているその場所へと…
数日後____________
トリステイン城下町、ブルドンネ街では派手に戦勝記念パレードが行われていた。
狭い街路にはいっぱいの観衆が詰めかけている。
聖獣ユニコーンにひかれた馬車から覗く王女アンリエッタの姿を一目見ようと人々は通り沿いの窓や屋上からパレードを見つめ、口々に歓声を投げかけた。
「アンリエッタ王女万歳!」 「トリステイン万歳!」
群衆達は熱狂していた。
あの後、奇跡の戦勝を飾ったトリステインはゲルマニアとの婚姻を伴った条約を白紙へと戻し、新たに同盟協定を結ぶ運びとなった…
理由は言わずもながらアルビオンがトリステインへと攻め入った際、ゲルマニアは未だ条約が不締結であったとはいえまるでトリステインを見捨てるかのように軍を動かさなかった…
故に、ゲルマニアは強硬には出られずまたトリステインとの同盟は絶対不可欠であった。アルビオンの脅威に怯えるゲルマニアにとって、トリステインはいまやなくてはならぬ強国であるのだから。
馬車の中でマザリーニはアンリエッタの民達へと笑顔を向けるその姿に内心驚いていた…
ウェールズの死を伝え聞いて以来悲しみに暮れていたアンリエッタ…ほんの二月前まで蝶よ花よと愛でられるだけの『王女様』。それがマザリーニの知るアンリエッタだった。
それが何か今までとは全く違う…そう…それは一言で表すならば…
「お強く…なられましたな。」
アンリエッタは観衆に手を振りながら、マザリーニに答える。
「いいえ、わたくしは未だ弱く情けない小娘です。しかしわたくしは彼女達の友人として恥じる事無く生きる為に戦う事を決めました。ですからマザリーニ、これからもこの無知で愚かな『女王』を支えて下さい。」
「…御意に。」
マザリーニはアンリエッタの覚悟の言葉に喜色を浮かべて傅いた…
未だ次の戦乱を感じさせぬ程トリステインは湧いていた。
投下完了。
取り敢えずはこれでこれで第一部が終わった。何で最後マザリンなんだとも思ったけど
緒戦はただの節目、ミント様の活躍はまだ続くので大丈夫だ問題ない。
ミント様に魔法効果『ゼロ』をこの場で習得させようかとも思ったけど流石にそれは止めたです。
乙乙
デュープリズムゼロの人、第一部完結乙でございました。
17:27頃から続きの投下を行ないたいと思います。今度も絶対にミスはしない……。
Mission 30 <ラグドリアンを侵す者> 後編
水の精霊曰く、襲撃者というのは二人組のメイジであり、深夜になると魔法を用いて水中に潜り、ラグドリアン湖の遥か湖底を住処にする水の精霊を襲うという。
また、そのメイジはトリステイン側ではなくちょうど反対側のガリア側から現れるそうだ。
未だ夕方にさえなっていないため、一行はひとまず日が落ちるまでトリステイン側の湖畔で待機することにした。
ルイズとロングビルはモンモランシーの眠りのポーションのおかげで未だ目を覚ますことはない。
「……へっくし! しかし、その襲撃者とやらはどうやって水の精霊のいる湖の底まで潜るんだろうね」
ギーシュは濡れてしまった服とマントを乾かすために焚き火の傍で座り込んでいた。モンモランシーも同じようにギーシュの傍で火に当たっている。
スパーダは地面に突き立てたリベリオンに凭れながら腰を下ろし、閻魔刀を抱えて目を閉じていた。眠っているようである。
「たぶん、風の使い手よ。自分達の周りに空気の球を作って水を遮っているのよ。水の使い手なら水中でも息ができる魔法を使うでしょうけど、
水の精霊を相手に水に触れるなんて自殺行為だもの。よほどの風の使い手じゃなきゃ無理だわ」
「しかし、あんな水の精霊をどうやって攻撃するんだろうね? 水なんだから傷はつかないんじゃないかい」
「きっと近づいて、強力な炎であぶって蒸発させるんでしょうね。いくら水の精霊だって、気体になっちゃったらどうにもならなくなるもの」
「うーむ……」
すらすらと答えるモンモランシーにギーシュは唸った。
しかし、その襲撃者とやらはとんでもない命知らずだ。たとえ水に入らずに陸から攻撃しようと、先のスパーダの時のように精霊は
湖の水はおろか大気の水蒸気さえ先住の魔法で利用して怒涛の攻撃を仕掛けてくるのだから。
「……ねえ、ギーシュ。ミスタ・スパーダって本当に異国の貴族なの?」
「何だい、突然」
モンモランシーが眠っているスパーダを見つめながら怪訝そうに尋ねていた。
「さっき、水の精霊が言っていたじゃない。魔の眷族≠チて。……それって、彼のことでしょ? 一体、何者なの?」
「あ〜……いやぁ、そのぉ……」
顔を引き攣らせたギーシュは狼狽し、視線を泳がせている。
まずい。スパーダが悪魔であることがバレる。もし、そんなことにでもなれば……。
「じ、実はだね。スパーダ君は、異国では剣豪であると同時にちょっとした魔法も使えるのさ。ほら、さっきだって一瞬で移動したりしただろう。あれがそうなんだ。
それに彼が従えていた巨大な馬! あれはいわば彼の使い魔なのさ! 僕達メイジとは全く違う魔法を使うから、そのことについて言ったんだよ」
何とか誤魔化そうと、しどろもどろになりながらもギーシュはそのように説明した。
彼は悪魔だから、あながち間違いでもあるまい。
「……あっ、そう」
モンモランシーはどこか納得しきった様子ではなく、訝しんでいたがそれ以上の追求はしてこなかった。
やがて、完全とはいかなかったが二人が衣類を乾かした頃には日が落ち、さらに六時間が経過していた。既に深夜だ。
スパーダも起きだし、湖畔の反対側へと行くために再びゲリュオンを呼び出し、一行は馬車に乗り込もうとする。
これから湖畔を迂回して向こう岸へ向かう。ゲリュオンならば三十分とかからないはずである。
「どうしたんだね、スパーダ君。早く乗りたまえよ」
レビテーションの魔法で未だ目を覚まさないルイズとロングビルを静かに馬車に乗せたギーシュは、未だ乗り込まないスパーダに呼びかける。
パンドラを肩に担ぐスパーダは何かを確認し、警戒するかのように湖畔を見回していた。
(気配が消えているな……。いや、移動しただけか)
昼間にスパーダが感じ取っていた悪魔達の気配は、日が落ちる前から全く別の場所に移動しているようだった。その痕跡からして、どうやらガリア側の湖畔へと移動したようである。
いつ、自分達に攻撃してくるか分からない状況であったが結局、襲撃さえしてこなかった。
だが、反対側へ移動したということはすぐに出くわすことになるだろう。
夜空に浮かぶ二つの月は天の頂点を挟んで光っている。
その月光に照らされる静かなラグドリアンの湖面を見つめながら、スパーダもゲリュオンの馬車に乗り込んだ。
ラグドリアン湖のガリア側の湖畔に、二人の人影が姿を現していた。
漆黒のローブを身に纏い、深くフードをかぶっている二人は一人が長身、もう一人は反対に背が低かった。
その背の低い方が、手にする節くれだった大きな杖をふりかざし、呪文を唱える。
これから自分達の周りに風の障壁をまとい、湖底に潜む水の精霊を退治するのだ。少しでも集中が途切れれば水に触れてしまい、水の精霊に心はおろか魂さえ奪われてしまう。
昨夜と同じように、水の精霊を背の高い方が火の魔法で攻撃することになる。
決して、油断はできない。
――ゲハハハハ……。
――グハハハハ……。
突如、どこからともなく響き渡る不気味で濁った笑い声。
背の低い方が真っ先に反応し、呪文の詠唱を中断すると背後を振り向き、身構えていた。
「ちょ、ちょっと。何よ、今の声は」
長身の火のメイジ――キュルケは突然聞こえてきた謎の笑い声に狼狽する。
背の低い風のメイジ――タバサは湖畔の周囲や林などを注意深く見回していた。
今の笑い声は間違いない、悪魔達のものだ。
水の精霊を退治するためにこの湖を訪れていたのだが、まさかの予期せぬ敵の存在に息を呑む。昨夜は現れなかったというのに。
奴らはそこらの亜人や魔物などと違って、絶対に油断ができない相手なのだ。少しでも気を抜けば、殺される。
――グハハハハ……。
――ゲハハハハ……。
凶悪な笑い声はまるで二人を嘲笑うかのように続いていた。しかし、肝心の悪魔の姿はどこにも見えない。
タバサと背を向かい合わせるキュルケもいつでも己の炎の魔法を放てるように杖を構えていた。
「な、何!?」
「……!?」
突如、二人の周りに落下してきたのは、数本の節くれだった大きな杖だった。それらは地面に突き立てられるなり先端から幾筋もの漆黒の魔力の紐が伸び、
他の杖や魔力の紐と繋がり、やがて二人を取り囲む巨大な柵が出来上がった。
閉じ込められたようだ。どうやら、確実に自分達を仕留めようとしているらしい。
「おでましのようね」
魔力の結界による牢獄の外、陸の地中と湖面の中からすり抜けるようにして姿を現した二体の悪魔達。
その悪魔達は傷だらけの漆黒のマントを身に纏い、頭は血にまみれている湾曲した角を備えた牛の頭蓋骨という恐ろしい姿であった。
一体は弧を描いた鋭い刃を持つ長大な鋏を、もう一体は文字通りに巨大な大鎌をそれぞれ手にしている。
全身から赤黒いオーラを炎のように揺らめかせ、まさしく死神と呼ぶにふさわしい禍々しさに満ちていた。
(あの悪魔の亜種?)
タバサは以前、スパーダの悪魔退治の仕事に付いていった際に似たような悪魔を目にしたことがある。
そいつらはシン・シザーズ、シン・サイズという仮面を着けた死神のような下級悪魔だった。
だが、今目の前にいるこの悪魔達はそいつらよりも明らかに格上のようであることは明らかだ。
――ゲハハハハ……。
――グハハハハ……。
宙に浮かびながら二体の死神、中級悪魔のデス・シザーズとデス・サイズは凶悪な笑い声を上げながら結界の中に閉じ込めた二人を威嚇している。
「ファイヤー・ボール!」
「ジャベリン!」
キュルケがデス・シザーズを、タバサがデス・サイズに対して攻撃を行なった。
キュルケが放った火球はデス・シザーズのマントをすり抜けてしまい、全く効果がなかった。
逆にタバサはデス・サイズの頭を狙って氷の槍を放ったためか、デス・サイズは即座に鎌を正面で回転させて弾いていた。
「もう! 何で当たらないのよ!」
「頭を狙って」
以前、タバサは倒したことのあるシン・サイズは着けている仮面が弱点だという話を聞いていたため、亜種らしいこいつらも頭が弱点だと踏んでいた。
「え? ――きゃああっ!」
再び呪文を唱えようとしたキュルケとタバサであったが、突如として足元に数メイルに昇る竜巻が発生し、二人を宙へ打ち上げていた。
――グハハハハ……。
そこへデス・サイズが大鎌を構えて体の自由が効かない二人目掛けて結界をすり抜けて突進してくる。
「ブレイド!」
大鎌が薙ぎ払われようとする寸前、タバサは杖に魔力の刃を宿した。
デス・サイズの大鎌を自らの杖で弾く。
一瞬、デス・サイズが怯んだがすぐにタバサはフライの魔法を唱えて体の制御を効かせるとキュルケの体を掴んでさらに上空へと舞い上がった。
――ゲハハハハ……。
その時間差で二人の真下をデス・シザーズの巨大な鋏がジャキンッ、と音を立てて閉じられていた。
少しでも回避が遅ければ二人の体は真っ二つに両断されていたことだろう。
「ファイヤー・ボール!」
フライで浮かぶタバサに体を持ち上げられながら、キュルケがデス・シザーズの頭めがけて火球を放った。
――グガアッ!
今度は先ほどのタバサの助言通りに頭を狙ったために見事命中し、火球が炸裂した。だが、それでも一撃で倒すには至らない。
タバサは今のうちに体の自由が効く地上へと降下すると、体勢を整えたデス・サイズを迎え撃とうと杖を構える。
ふと、足元に目をやると奇妙な渦状の文様が刻まれていることに気がついた。
「避けて」
咄嗟にタバサはその場から飛び退き、キュルケも慌てて反対側へと移動する。
二人がいた場所、地面に刻まれていた文様から先ほどと同じ竜巻が巻き上がっていた。
――グハハハハ……。
そこへ両手に大鎌を握ってタバサに斬りかかってきたデス・サイズだがブレイドの魔法をかけた杖を振るい、応戦する。
二刀流の大鎌による攻撃はリーチが長い上に手数が多いが、タバサも持ち前の身軽さでかわしながら隙を突いてデス・サイズの頭を狙って攻撃していた。
「これでどう!?」
キュルケは結界の外でゆらゆらと浮遊しているデス・シザーズ目掛けて炎の渦を放ったが、ヒラリと横に移動されてかわされる。
さらにそのまま鋏の刃を開きながら突進してきたため、キュルケは慌ててその場に屈んでかわす。ジャキンッ、と鋏の閉じる音が頭上で響いていた。
「後ろがガラ空きよ!」
そのまま地面を転がり、デス・シザーズの背後に回ると近距離からファイヤー・ボールの火球を放った。
またしても見事に直撃し、今度はデス・シザーズの右の角を吹き飛ばしていた。
さらに追撃しようとしたキュルケだったが、上空へ浮かび上がるデス・シザーズの全身から湧き出るオーラが突如としてより濃くなりだす。
――ゲハハハハ……。
デス・シザーズは頭上に閉じた鋏を構え、その刃先をキュルケに向けたまま己の体を高速で錐揉みさせだし、そのまま突っ込んできたのだ。
背後には自分達を閉じ込める結界。追い詰められていたキュルケは横に飛び退ってかわす。突っ込んできたデス・シザーズは地面をすり抜けていった。
「後ろ!」
デス・サイズの頭をブレイドをかけた杖で斬りつけていたタバサは、地中からキュルケの後方に飛び出してきたデス・シザーズを見て叫ぶ。
未だ錐揉みしながら突撃してくるデス・シザーズをキュルケは必死にかわし続けていた。しかし、あらぬ場所から突撃を仕掛けてくるため、ほとんどが間一髪の回避であった。
そして、回避に夢中でデス・サイズが地面に設置している風の精霊の罠には気づかない。
「きゃああっ!」
再び竜巻に打ち上げられてしまったキュルケ。
そこをデス・シザーズが逃がすはずもなく、錐揉みから体勢を戻すと鋏を広げて更なる追い討ちを仕掛けてきた。
宙を舞うキュルケの体が、デス・シザーズの鋏の間へと入る――。
――ズダァンッ!
――グガアアアッ!
突然、何処からか轟く鋭い銃声。それと共にキュルケを両断しようとしていたデス・シザーズの頭が砕け散り、断末魔が響き渡った。
霊体であったマントもデス・シザーズの撃破と同時に消滅し、落下した鋏も地面に突き刺さった後に砕け散っていた。
「痛たっ」
そのまま地面に落下してきたキュルケは体を起こすと自分達を閉じ込めていた結界が消滅し、その源であった杖も消えたことを確認する。
それにより行動範囲が広くなったため、タバサは容赦なくデス・サイズへの攻撃を激しくしていた。
何だか分からないが当然、キュルケも炎の魔法で援護を行なうことにする。
「何の音?」
「馬」
二人は遠くから馬の蹄の音が届いてくるのをはっきりと耳にしていた。
「すごいわ、すごいわ! さすがあたしのスパーダね!」
「破壊の箱と言われているだけのことはあるね! ……私のスパーダにくっ付くんじゃないよ!」
スパーダ達を乗せるゲリュオンが間もなくガリア側の湖畔へと辿り着こうという時、止まっている馬車の上で
先ほど目覚めていたルイズとロングビルが歓声を上げつつ愛する男を取り合って争いだす。
馬車の上で立膝を突いていたスパーダは遠眼鏡を覗き込み、キュルケとタバサがデス・サイズと戦っている様を窺っていた。
もっとも、それはただの遠眼鏡ではない。ハルケギニアで使われる一般のマスケット銃よりもさらに長大かつ大柄で
全体が鈍い輝きを放つ金属で出来ている銃に付いているものであった。
マスケット銃よりも二回りも大きい口径の銃口からは硝煙が静かに棚引いている。
それはスパーダが持参していた災厄兵器パンドラが彼のイメージに合わせて変化した姿であった。
「はは……。初めて見るけど、すごいな……」
「一体、どうやってあんな箱が変わるっていうのよ……」
ギーシュとモンモランシーは唖然としながら、パンドラを構えるスパーダを見つめていた。
あと少しで反対側へと辿り着こうとしていた時、スパーダ達はその湖畔で誰かが戦っている所を目撃していた。
遠目の上にこの暗さでは正体が分からなかったものの、スパーダは微かに感じていた魔力からその二人がタバサとキュルケであると即座に理解していた。
そして、同時に二人が悪魔達を相手にしていることも察していたため、パンドラをこの遠距離狙撃用の銃に変形させて窺ってみたのだ。
すぐには手を出さずに戦いを見届けていたスパーダであったが、キュルケが危うくやられそうになったため、ここから狙撃を行なったのである。
そのためにこうしてパンドラを狙撃できる銃に変形させたのである。おまけに確実に狙撃をするため、三脚付きだ。
「後は二人でも大丈夫だろう。行くぞ」
パンドラを元の箱に戻すと、ゲリュオンは再び走り始めた。
「しかし、キュルケとタバサがその襲撃者だって言うのかい?」
「う〜ん。どうかしら」
ギーシュとモンモランシーが首を傾げる。
本来、襲撃者と戦う予定だったのはスパーダの弟子であるギーシュであり、彼も意気込んでいたのだが思いもせぬ正体を知って気合いが空回りしていた。
また、ルイズとロングビルもスパーダに自分達の力を見せて気を惹こうとしていたが、同様にがっくりしていた。
「二人から聞けば分かることだ」
「だめよ、スパーダ! ツェルプストーなんかと話をしちゃ! ツェルプストーは代々、あたし達ヴァリエール家の恋人を奪ってきたんだから!」
「あんな雌豚にスパーダは渡さないわよ! あんたも離れなさい!」
走る馬車の上でルイズとロングビルはスパーダに引っ付き、取り合いながらキュルケに対する罵りを口にしていた。
夜遅くだというのにあまりにもやかましいこの状況に、スパーダは頭を痛めたくなった。
これはもう、水の精霊の涙を受け取り、モンモランシーに解除薬を作らせる暇はないかもしれない。
ゲリュオンがガリア側の湖畔に到着した時、キュルケとタバサはデス・サイズを撃退し終えた所だった。
一行はゲリュオンから降りると、二人の元に歩み寄っていく。ルイズとロングビルは未だスパーダの傍で争い合っていた。
「ほ、本当に君達だったのか」
「こんな所で何してるのよ」
「それはこっちのセリフよ。どうして、あなた達が……」
ギーシュとモンモランシーが開口一番に問うと、キュルケも驚いていた。
「ちょっとした野暮用だ」
「だめっ! キュルケと話をしちゃ! スパーダはあたしとだけしか話をしちゃいけないんだもん!」
スパーダが答えると、ルイズが頬を膨らませながら食って掛かった。
「スパーダは私のものだって、言っているでしょうが!」
ロングビルがルイズを突き飛ばそうとするが、スパーダのコートに掴まっていた。
その様子をキュルケは目を丸くして見つめる。二人はこんなにスパーダに積極的であっただろうか?
だが、面白そうなのでちょっとからかってみる。
「あら、ダーリンってば女の扱いがとても上手だったのね。まさか二人も一度に手懐けるだなんて」
「そんなことはどうでも良い。それより、水の精霊を襲っていた襲撃者というのはお前達だな」
スパーダは争い合うルイズとロングビルを無視し、事の次第を説明する。
モンモランシーが惚れ薬を作ってしまったこと。
それをこの二人が飲んでしまったこと。
解除薬を作るために水の精霊の涙が必要なこと。
それを得るためには襲撃者とやらを撃退しなければならないこと。
そして、その襲撃者が二人なのかを問い詰めた所、どうやら間違いないようであった。
「でも、惚れ薬だなんてどうしてそんな物を作ったの?」
事情を聞かされたキュルケが問う。
「実はだね、愛しのモンモランシーが僕を……あだっ!」
「ちょっと作ってみたかっただけよ!」
身振り手振りに説明しようとしたギーシュの足をモンモランシーが踏みつけ、誤魔化していた。
キュルケは困ったように隣のタバサを見つめる。本人は無表情のままキュルケを見返していた。
「参っちゃったわね……。ダーリンと戦うわけにもいかないし、そもそも勝てる相手じゃないし……」
何しろ、相手は伝説の悪魔。キュルケとタバサがどんな手段を使おうが相手になるわけがない。
「でも、水の精霊を退治しないとタバサが立つ瀬がないし……」
「何で君達は水の精霊を退治しようと?」
「ええと、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。水の精霊のせいで水かさが増えて、タバサの実家の領地も被害にあっているから」
ギーシュが尋ねると、キュルケは慌ててまくし立てる。
スパーダはルイズとロングビルにしがみ付かれたまま、タバサを見つめていた。
「……そして、例の悪魔達と遭遇したわけか」
「そういうこと。あんな奴らと戦うなんて、あたしも初めてだったわ。でも、ダーリンのおかげで助かったわよ」
キュルケはスパーダにウインクをすると、ルイズとロングビルが彼女を睨みつけていた。
「では、解決の糸口が見つかったな。水の精霊が増水している理由を問い詰め、その上で交渉を行なう。お前達も増水が治まれば問題はないな」
腕を組み、ふむと唸るスパーダが提案する。
タバサはその提案に、こくりと頷いた。
その後、数時間前と同じようにモンモランシーがカエルのロビンを使って水の精霊を呼び出していた。
またしてもモンモランシーを模してその姿を現す精霊。昼間とはまた違う、精霊の神秘的な姿が夜景に映る。
「精霊よ。お前を襲う襲撃者はもういない。安心しろ」
今度はモンモランシーではなく、スパーダが直接交渉を行なっていた。
『礼を言う。高潔なる魔の眷族よ。襲撃者だけでなく、忌まわしき魔の眷族共も屠ってくれたことに感謝する』
「お前は何故、湖の増水を行なう? お前を襲う人間も、悪魔達が現れるのもお前が増水をするのが原因だ。
それではまた奴らが現れるだろう。一時凌ぎにすぎん」
悪魔達は精霊が発する魔力に惹かれてこの地を縄張りにしているらしかった。故に水の精霊が大人しくすれば、少なくとも中級の悪魔達はこの地に現れなくなる。
水の精霊はモンモランシーの姿を模したまま、様々な仕草をとり始める。
『高潔なる貴様ならば信用して話しもよいと思う。……数える程も愚かしい程月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、単なる者達の同胞と忌まわしき魔の眷族が盗んだのだ』
そう言えば、昼間にケンカを売られた際もそのようなことを言っていた。
精霊の言葉からして、犯人は人間と結託した悪魔のようだ。
『その秘宝が盗まれたのは、月が三十程交差する前の晩のこと』
「およそ二年前ね」
モンモランシーが呟く。
正確には二年と六ヶ月ほどになるだろうが。
「お前は人間達に報復でもする気か?」
『我はそのような目的は持たぬ。ただ秘宝を取り返したいと願うのみ。ゆっくりと水が浸食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。
水がすべてを覆い尽くすその暁には我が体が秘宝のありかを知るだろう』
ずいぶんと気の長いものだ。スパーダも不死というわけではないが、既に何千年という時を生きている。だが、精霊は完全に不死の存在だ。
故に明日も昨日も違いなどないのだろう。
『だが、我の行なったことが忌まわしき魔の眷族共を引き付けてしまった。奴らは常々、我を滅ぼさんと攻め入ってきたのだ。
単なる者達のように心を持たぬ奴らには、我が水の力も通じはせぬ』
水の精霊でさえ、悪魔達に手を焼いていた事実にギーシュ、モンモランシー、キュルケ、タバサが驚いていた。
『高潔なる魔の眷族よ。我が頼みを聞いてはもらえぬか』
「何だ」
『我はこの湖の水を元に戻そう。その代わり、我が秘宝を取り戻してもらいたい。そうすれば、我も水かさを増やす理由はなくなる』
まさかの精霊からの依頼にスパーダは顎に手を当てる。
「その秘宝とは何だ」
『アンドバリの指輪♂艪ェ共に、時を過ごせし指輪だ』
精霊が発した言葉にモンモランシーが考え込む。
「何よ、それ?」
「聞いたことがあるわ。確か、水系統のマジックアイテムで偽りの命を死者に与えるとかいう……」
キュルケからの問いにモンモランシーは答える。
『その通り。誰が作ったものかはわからぬがな。死は我にはない概念ゆえ理解できぬ。死を免れぬお前たちにはどうやら『命』を与える力は魅力と思えるかもしれぬ。
しかし、アンドバリの指輪がもたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ、所詮益にはならぬ』
「でも、誰がそんなことを?」
『風の力を行使して、我の住み処にやってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、忌まわしき魔の眷族の力を借り秘宝のみを持ち去っていった』
ギーシュが呟くと、即座に精霊は返してきた。
『個体の一人はこう呼ばれていた。クロムウェル≠ニ』
その単語に、キュルケが反応した。
「聞き間違えじゃなければ、確かアルビオンの新皇帝の名前ね」
「レコン・キスタか……」
その男は悪魔達の力を借りて秘宝を盗み出したのか。レコン・キスタの裏には悪魔達が暗躍している以上、そんなことは造作でもないだろう。
これから連中とは相手になる以上、本当にそいつが指輪を持っていれば取り戻すことは不可能ではない。
『引き受けてもらえるか。高潔なる魔の眷族よ』
「一応、覚えておくとしよう。お前が不死である以上、期限は私が果てるまでで構わんな」
『それで良い』
これで交渉は成立した。スパーダが暇があればアンドバリの指輪を奪還し、その代価として精霊は水かさを元に戻すことになる。
これで全ての用事が済んだため、水の精霊はごぼごぼと水の中へ姿を消そうとする。
「待って」
その時、タバサが前へ歩み出て水の精霊を呼び止めた。
スパーダ以外の全員が少々驚いたようにタバサを見る。彼女が他人を呼び止めるなんて初めてだからだ。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」
「なんだ?」
「あなたはわたしたちの間で誓約の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違うゆえ、深く理解はできぬ。しかし我が思うには、我の存在自体がそう呼ばれる理由であるのだろう。我に決まった形はない。
しかし、我は不変の存在。お前たちが目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と共にあった。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
タバサは頷き、それから瞑目して両手を合わせる。
誰に何を約束しているのかはスパーダにも分からないが、キュルケは彼女の肩に優しく手を置いていた。
その様子を見たモンモランシーは隣のギーシュを突こうとしたが、既に彼はタバサと同じように手を合わせていた。
「我、ギーシュ・ド・グラモンはここに誓います。これから先、このモンモランシーだけを愛し続けることを……」
その言葉に、モンモランシーは口を手で覆い、驚いていた。思わず、嬉し涙が出てしまう。
さらにギーシュは続けていた。
「そして我が師、スパーダのように強くなることを。……あだっ! 何をするんだね!」
スパーダの名が出た途端、思わずモンモランシーはギーシュを殴ってしまった。
「あらあら、お熱いことねぇ」
キュルケが楽しげに笑っていた。
「誓って」
ルイズがついついとスパーダのコートを引っ張り、不安そうな顔で見つめてきた。
スパーダは腕を組んだまま水の精霊を見上げたままだったが、そこへロングビルが割り込む。
「誰があんたなんかに誓うのさ。それより、私に誓ってちょうだいな」
ロングビルもまた、スパーダに抱きついて懇願するが、スパーダは黙ったままである。
「祈ってくれないの? あたしに愛を誓ってくれないの?」
「スパーダ……」
目に涙をたたえるルイズが、哀しげな表情のロングビルが尋ねる。
だが、本人の口から出たのはあまりにも冷徹な一言だった。
「あいにく……偽りの愛になど興味はない」
所詮は惚れ薬によるまやかしの愛情。そんなものには何の価値もないのだ。
本当の愛というのは、互いの本物の心を通わせることで育まれるものである。スパーダはその人間の愛を知ったからこそ、今のルイズの愛を拒絶していた。
「う……うぅ……うわあああああああああんんっ!」
あまりに冷たい悪魔の言葉に、ルイズは溢れんばかりの涙を流し、慟哭していた。ロングビルもまた、哀しげな表情のまま彼から顔を背けていた。
『では、高潔なる魔の眷族よ。さらばだ』
「あっ! あっ! ちょっと!」
そう言い残し、今度こそ水の精霊は湖の中へと姿を消していく。それをモンモランシーが呼び止めるが、既に遅かった。
焦ったように湖面を覗き込むと、すぐに立ち上がってスパーダに食って掛かる。
「ど、どうするのよ! 水の精霊の涙を採るの忘れちゃって! これじゃあ二人とも元に戻らないわよ!」
ここへ来た本来の目的を果たさなかったスパーダに全力で抗議した。これでは学院に戻ってもいずれ自分が惚れ薬を作ったことがバレてしまう。
「そうよねぇ。どうするの? ダーリン」
「案ずるな。手はある」
キュルケからの問いに平然と答えるスパーダは懐を探り、中から二つの青い星形の石を取り出す。
それを目にした一行、時空神像について知っているタバサやキュルケ、ギーシュはすぐにそれで作られたものだと察したが、モンモランシーだけは事情が分からず首を傾げるのみ。
「何よ、その石は」
モンモランシーが尋ねるが、スパーダは掌の上で弄びながら悲しみに暮れて蹲っている二人の乙女に近づいた。
「うぅ……ひっく……」
まずは嗚咽を漏らすルイズに、スパーダは青い霊石ホーリースターを一つかざした。
するとホーリースターから淡い光が放出され、ルイズの全身を包み込んでいた。
それが約十秒ほど続き、ホーリースターは青い光を発したままスパーダの手の中で溶けるように消えていく。
次にもう一つのホーリースターを同じようにロングビルにかざし、魔力を放出していった。
その様子を四人の生徒達は神秘的なものでも見るような眼差しでじっと見守っていた。
二つのホーリースターが溶けて消えた後、ルイズとロングビルは地面に座り込んだまま魂が抜けてしまったかのように呆然としている。
「――いやああああああああぁぁぁぁっ!!」
「……っっっ!!」
顔面を羞恥と屈辱に真っ赤に染め上げ、ルイズは絶叫した。ロングビルも同様の表情を浮かべ、スパーダから顔を背けだす。
「へ? も、元に戻った?」
モンモランシーは目の前の光景に唖然とする。水の精霊の涙はいわゆる先住の魔法そのもの。先住の力を打ち消せるのは同じ先住の魔法のみ。
それをスパーダが取り出したあの石は一瞬にして無力化していた。あれは一体、何なのだ? 水のメイジであるモンモランシーは驚きの中に興味も交えてスパーダを見つめる。
同じように見届けていたタバサもまた、魔法の薬で正気を失っていた二人が一瞬にして完治してしまったことに驚いていた。
そのギラギラと光る視線がホーリースターを使ったスパーダへと向けられる。
「……ねぇ、タバサ」
キュルケが小声で耳打ちをしてきたが、無言で頷いていた。
「馬鹿! 馬鹿!! 馬鹿!!! 馬鹿!!!! 何てことするのよ!」
ルイズは惚れ薬の呪縛であったとはいえ、自分があそこまで惚れこんでしまったこの悪魔に怒りをぶつけていた。
本来ならば怒るべきはスパーダの方だというのに、当人は全く平然としたままだ。
ポカポカとスパーダの胸を殴りつけると、今度は怒りの矛先をモンモランシーへと向けだす。
「モ ン モ ン ラ ン シ イ ィ ィ ィ……!!」
全身から憤怒のオーラを発するルイズ。先日、ギーシュとモンモランシーが目にしてしまった恐ろしい悪魔のような形相を浮かべていた。
「な、何よ! 元はと言えばあなたがグラスを横取りなんかしようとするからでしょう!」
「うるさい、うるさい、うるさい!! あんたが禁制品を作ったのがそもそもの原因でしょうが!!」
モンモランシーに突っかかろうとするが、そこへギーシュが庇うように前へと出てきた。
「待ってくれたまえ! モンモランシーは何も悪くないんだ! やるなら僕を……ぎええええええっっっ!!!」
ギーシュの股間を思い切り蹴り上げ、突き飛ばしたルイズはずんずんとモンモランシーに詰め寄っていく。
「そこを動くんじゃないわ! あんたもスパーダも殺してあたしも死んでやるぅ!!」
顔を羞恥と怒りで真っ赤に染め、杖を取り出したルイズは呪文を詠唱しようとする。
「モンモランシー」
そこにスパーダが冷静に一声をかけた。
もはあ阿吽の呼吸と言っても過言ではない動作で、モンモランシーは慌てて眠り薬のポーションを取り出し、今にも杖を振り下ろさんとするルイズの鼻先に突きつけた。
「ふにゃ……」
間一髪、ルイズはまたしてもその場に崩れ落ちて眠り込んでしまった。
スパーダは正気に戻ってから未だ動かずに蹲り続けているロングビルに歩み寄る。
(……何だ?)
屈みこんだスパーダが肩を揺すると、ロングビルは無言のままさらにスパーダから顔を背けられてしまう。
ロングビルは密かに顔を真っ赤に染め、バクバクと高鳴る胸を押さえ続けていた。
どうして拒絶されているのか分からないスパーダは仕方がなく、溜め息を吐いたがその時、ルイズに半殺しにされかかったモンモランシーがスパーダにずんずんと歩み寄ってきた。
「ちょっと! 何なのよさっきの石は! あんなの持ってるんだったら、わざわざここに来ることなんてなかったじゃない!」
不服そうに表情を歪め、食って掛かる。だが、スパーダは腕を組んでどこ吹く風と言わんばかりの無表情であった。
「元々は君が騒動の原因だ。即座にあれを使っても、君は自らの行為を悔いはせんだろうからな。私は最低限の責を果たさせたまでだ」
「今までの苦労は一体、何だったのよおぉーーっ!」
腹立たしく憤慨するモンモランシーの絶叫が、ラグドリアン湖に虚しく響き渡っていた。
「良い経験になっただろう。では、学院に戻るか」
そう冷徹に一蹴し、スパーダは再びゲリュオンを召喚していた。
スパーダが眠っているルイズを抱え上げ、モンモランシーがレビテーションで股間を押さえて蹲っているギーシュを浮かべて馬車に乗せていた。
ロングビルはスパーダに顔を合わせぬまま、とぼとぼと一人で馬車へと乗り込んでいく。
スパーダもパンドラを肩に担ぎ、ゲリュオンの馬車に乗り込もうとした。
その時、コートをくいくいと誰かが引っ張ってくる。
振り向くと、そこにはタバサの姿があった。隣に控えるキュルケも何故か真面目な顔になっている。
スパーダを見上げるタバサはいつものように無表情ではあるが、その瞳に宿っているのは懇願の意であった。
「何だ」
「さっきあなたが使った石。あれは何?」
「ホーリースターだ。肉体を侵す毒物を浄化することができる。効能は先に見た通りだな」
淡々と語るスパーダに、タバサはさらに言葉を続けた。
「それは、魔法の毒薬にも効き目がある?」
「特に問題はないが」
あっさりと返答をしてきたスパーダに、キュルケが何故か喜ばしそうな顔を明るくしていた。
「どうしたの? 早く乗りなさいよ。あなたがいないと、この馬動かないのよ?」
と、馬車に乗っていたモンモランシーが声を上げて急かしていた。
ちらりとスパーダは肩越しに振り返り、荒く息を吐いて蹄を打ち鳴らしているゲリュオンを見やる。
「先に学院へ戻って待機していろ」
――ヒヒィーーーンッ!!
「ちょっと!? きゃあっ!!」
その命令だけでゲリュオンは高く嘶き巨体を持ち上げると、湖畔の岸辺を駆け出し、トリステイン方面に向けて疾走していった。
モンモランシーは激しく揺れる馬車の上で翻弄され、絶叫を上げ続けていた。
ゲリュオンがあっという間に遠目に小さくなっていくのを見届けると、スパーダは残っていた二人に顔を向ける。
「帰りはシルフィードに乗せてもらう。いいな」
こくりと、タバサは頷く。その表情はいつになく真摯なままであった。
※今回はこれでおしまいです。
157 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/22(金) 19:26:45.58 ID:OiyJmP1F
パパーダ乙です。
デュープリの人もパパーダの人も乙
これからも 一番いいのを頼む(ドヤァ)
乙
デュープリズムの人乙です
デュープリもパパーダも乙
さて明日はるろうにの日だね楽しみに待ってるよ!
162 :
るろうに使い魔:2012/06/22(金) 23:51:26.71 ID:HFK8Qpsw
皆さん乙です。
さて、予定がなければ0時丁度に十話目を投稿しようと思います。
163 :
るろうに使い魔:2012/06/23(土) 00:00:26.21 ID:fpTrwcvH
それでは、始めたいと思います。
「それで、さっきの技は何なのよ?」
乗ってきた馬車の中で帰る途中、ルイズは出し抜けにそう言った。
土くれのフーケを捕まえ、秘宝を取り返したルイズ一行は、悠々と今魔法学院へと帰る途中だった。
フーケはまだ気絶していたが、念のためにと縄でグルグル巻きに縛り上げている。そんな中発したルイズの言葉にキュルケとタバサも興味深気に剣心を見た。
「そういえば、ケンシン言ってたわよね。ヒテン……なんちゃらって、もしかして、ケンシンの戦い方ってその流派?」
「是非教えて欲しい」
好奇心を抑えない三人組が、目をキラキラさせて剣心を見つめた。余程知りたいのだろう。
隠すのも何だな、と思った剣心は、簡単に説明することにした。
第十話 『飛天の剣』
『飛天御剣流』。
それは戦国時代に端を発する、日本より古くから伝わる古流剣術の一つ。
一対多数の斬り合いに優れた、実質本位の殺人剣。
正式な伝承者は、その名のごとく天にも昇る跳躍力と、地をも駆け抜ける強靭な脚力、そして予知能力に近い勘を持って、戦場を走り抜けて敵を斬る。
知る人とぞ知る秘密の流派だが、未だ敗北を知らない比類なき絶対無敵で最強の豪剣。
それが、剣心の扱う飛天御剣流なのである。
「とまあ……そんな感じでござるが」
剣心の説明に、ルイズ達は首をかしげた。当然である。住む世界が根本的に違うのに、そんな流派見たことも聞いたこともないのは当たり前だ。
だが、一つだけ分かることがある。剣心は強いということだ。
なら、彼の持つ飛天御剣流も、自然とルイズ達の中で価値を上げてくる。実際にその目で見て、強さを実感しているのだから、その言葉も鵜呑みにできるというものだ。
何より、この世界の強さは魔法のレベルと相場は決まっていた彼女達にとって、己の鍛えた体一つでメイジに立ち向かうという彼の戦い方は、かなり斬新だったのだ。
「まあ、凄いってことだけは分かった」
「そうね、むしろケンシンの強さに納得がいったわ」
「………」
ここでタバサが、何か言いたそうに剣心を見つめていたが、そろそろトリステイン魔法学院の姿が見え始めてきた。
それに気づくと結局タバサは何も言わず、再び本に視線を落とした。
「何と、ミス・ロングビルが土くれのフーケだったとは!」
学長室にて、一通り報告を聞き終えたオスマンが、嘆くように天を仰いだ。
よくよく考えると、彼女はオスマンの秘書を務めていたのだ。ならば事の発端は彼にあるといえた。
「一体、どういった理由で採用なされたのですか?」
コルベールが聞くと、オスマンは遠い目をしながら語り始めた。
「街の居酒屋でな、客として訪れた私を、給仕としてもてなしてくれたのが始まりじゃ。あまりに美人でのう……ついつい尻を――うん、いい触り心地じゃった」
隣のコルベールが、冷めたような目でオスマンを見た。
「それで、それでも怒らないので、秘書をしてみんかと、そう言ったんじゃ」
今度はルイズ、キュルケ、タバサが白い目でオスマンを睨んだ。剣心も、呆れたように腕を組んで首を振った。
「おまけに魔法も使えるというもんでな」
「……死んだほうがいいのでは?」
ぼそりと呟くコルベールをよそに、さも自分は悪くないというようなで口でオスマンはまくし立てた。
「今思えば、あれも魔法学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。だって…」
「要は、オスマン殿がしっかりしていれば、こうはならなかった――でござろう?」
グウの音すら出させない剣心の言葉が、オスマンの胸に深々と刺さった。コルベールも、どこか申し訳なさそうに顔を赤くした。その理由は彼のみぞ知る。
ウンウンと頷くルイズ達を見て、もう弁解の余地は与えてくれんだろうなと思ったオスマンは、仕切り直しとばかりに話題を変えた。
164 :
るろうに使い魔:2012/06/23(土) 00:03:21.02 ID:fpTrwcvH
「ま、まあそれは置いといて、君たちはよくぞフーケを捕まえて『破壊の剣』――」
と来たとき、ルイズはバツの悪そうな顔をして俯いた。
あの剣は、ゴーレムに思いっきり叩きつけられて粉々にされたからだ。
ルイズの表情を見て、オスマンは嫌な予感を覚えながらも、とりあえず言葉を続けた。
「と、『英雄の外套』を取り返してくれた。礼を言いたい、ありがとう」
そう言うと、オスマンはルイズ達の頭を撫でさらにこう告げた。
「君たちに、『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。ミス・タバサには、精霊勲章の授与も申請しよう」
それを聞いたルイズ達は、ぱあっと顔を輝かせる。しかし……。
「あ、あの…ケンシンには、何もないのですか?」
ルイズが、不憫そうな目で剣心の方を向いた。今回の騒動は、彼の活躍なくしてはありえない。特に終盤は、もしかしたら命を落としたかもしれない戦いだった。
一番頑張った剣心が、何にも授与されない。爵位は喜ばしいルイズ達だったが、これには納得いかないような目でオスマンを見つめた。
しかし、オスマンは静かに首を振った。
「残念ながら…彼は貴族ではない」
「別に拙者、名誉とか権威欲しさに赴いたのではござらん、ルイズ殿達を危険な目に遭わせないために行っただけでござるよ」
剣心は、特に気にしない様子でそう言った。
剣心のその言葉に、少し嬉しそうに、けどどこか不服そうな表情をしたルイズだったが、ここでオスマンがパンパンと手を叩いた。
「さて、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり、秘宝も戻ってきたし、予定通り執り行う。今回の主役は君達じゃ、用意してきたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」
「そうでしたわ! フーケの件ですっかり忘れておりました」
キュルケは、そう言ってタバサを連れ出すと、オスマンに礼をしてその場を後にした。
剣心は、「話したいことがある」と、ルイズに言ってその場に残り、オスマンもコルベールを下がらせた。
剣心は、改めてオスマンの方を見た。
「聞きたいことがある、という顔じゃな? 出来るだけ力になろう。せめてものお礼じゃ」
「あの、秘宝と呼ばれる二つのものですが」
剣心も、年長者ということでどこか畏まった口調でオスマンに告げ、そして持ってきた黒い箱を開けた。
原型の留めていない『破壊の剣』を見たとき、一瞬悲しそうな目をしたオスマンだったが、それは直ぐに元に戻った。
「剣はまだいい、これはただの刀です。だけどこちらの方は――」
剣心は、『英雄の外套』と呼ばれるマントを手に取った。
初めて見たときは、状況が状況なだけに混乱していた節があったが、改めて間近で見ると、これはもう間違いない。
「飛天御剣流継承者が、代々受け継いできた白外套です」
自分を鍛えた師匠が、いつも身に付けていた、あのマントそのものだった。
飛天御剣流は、その強大すぎる力故に、それを平時抑えるため、常にそれを身に纏う。
重さ十貫の肩当てに、筋肉を反るバネを仕込んだそのマントは、奥義継承と共に、それを受け継いでいく。
そして、飛天御剣流の理と共に、剣を振って生きることを誓うのだ。
剣心は、自分の身の上の出来事を全て話した。こことは全く違う異世界から来たこと。
飛天御剣流のこと、このマントの意味のことも。
そして、一つの疑問をぶつけた。一体これをどこで見つけたのかと。
飛天御剣流の飛の字も知らないような世界に、突如現れた見慣れた『秘宝』。その所在を知れば、もしかしたら帰る手がかりになるかもしれない。そう思ったのだ。
165 :
るろうに使い魔:2012/06/23(土) 00:04:55.36 ID:fpTrwcvH
オスマンは、剣心の話を興味深そうに静聴すると、やがてその重い口を開いた。
「あれを私にくれたのは、私の命の恩人じゃ」
そしてどこか、遠い昔を思い出すように剣心に語り始めた。
「今から三十年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われたことがあってな、それを救ってくれたのが、そのマントと剣の持ち主じゃった。
彼は、人間とは思えぬ素早さとジャンプ力で、ワイバーンと互角の死闘を繰り広げた…今でも目に焼き付いておるよ。あれほどの戦いは、そうそう見れんじゃろうて」
一旦間を置いて、息をつくと、オスマンは再び口を開いた。
「永遠とも思える瞬間じゃったが、決着は直ぐだった。一瞬の隙を付いて、彼は死角に回ると、その見事な剣捌きでワイバーンの首を吹き飛ばしおった。
…そして糸が切れたように、彼もその場に倒れ付した。
どうやら彼は、戦う最初から大きな怪我をしていたようでな、斜めに思い切り裂かれたような傷跡があった。
私は彼を学院に運び込み、看護したのだが……まもなくしてな…」
オスマンは言葉を伏せた。剣心もその意味はわかる。だから何も聞かずに待った。
「私は、彼を手厚く弔うと、使っていた剣とマントはそれぞれ『秘宝』として、宝物庫に仕舞い込んだのじゃ。恩人の形見としてな……」
それだけ言うと、オスマンは深いため息をついた。やや一拍置いて、剣心は聞いた。
「それで、彼はどこから来たとかは……」
「わからん、どうやって来たか、その謎は解明されぬままじゃった……だけど…そうか、通りで君の動きは、彼に似とると思っとったよ」
剣心は、ゆっくりと頭の中を整理し始めた。もう疑いようのない。オスマンを救った恩人は間違いなく、飛天御剣流伝承者『比古清十郎』だ。
と言っても、自分の師匠のことでは無いだろう。おそらく師匠の師、先代『比古清十郎』の事だ。
そもそも、『比古清十郎』という名自体、飛天御剣流の開祖から取ったもので、世間から身を隠すための隠し名としてマント共に受け継がれるものである。
そして、死の原因となったという、大きな傷跡は間違いなく、奥義習得による最後のやり取りによるものだということは見当がついた。
飛天御剣流は、その力の強さゆえに、技の習得も命懸けだ。それの奥義ともなると、互いの命を懸けた全力勝負になるのは必死。
剣心自身も、それで一度は師の命を奪いかけた。
剣心はふと、あの自信満々な笑みを浮かべる師匠の顔を、思い出した。
(師匠も、やはり拙者と同じように加減はしたのかな…)
傲岸不遜、唯我独尊という言葉がよく似合う人だ。だけどやはり情はあったのだろう、すぐには死なないように、無意識に抑えたのかもしれない。
そして余命を与えられた先代の師も、この異界の地でその命を全うした。恐らく、最後まで飛天御剣流の理を貫いて。
しかし、これで帰る手掛かりが見つかると思ったら、結局それらしい情報は手に入らなかった。自分もまた、彼と同じようにこの地でその生き様をしていかなければ、いけないのだろうか。
「お主のこのルーン、これなら知っておるよ」
と、オスマンが剣心の左手のルーンに手を触れて言った。
確かに、これについても聞きたかった。時々力が湧いてくる現象は、このルーンのせいだということは、薄々感づいていた。
そしてそれは、ルイズに関することで引き出されるということも。
「これは『ガンダールウ』。伝説の使い魔の印じゃ」
「……伝説の使い魔?」
「そうじゃ。一説によれば、その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたという噂じゃ」
何故それが自分に…? と剣心は首をかしげたが、やはりオスマンはわからん、とだけ言った。
分からないことばかりだな、と剣心はため息をついたが、そんな彼にオスマンは笑いかけた。
「お主がどういった理屈で、ここに来たかは、私もできる限り調べようとも思う。でも分からなくても、恨まんでくれよ。なあに住めば都じゃ。嫁さんも探してやるぞ」
「いえ、それは遠慮願います」
丁重に断りながら、剣心も学長室から去っていった。結局、有意義な情報は何一つ得られぬまま―――。
その日の夜。
魔法学院は、着飾った生徒や教師たちが、賑やかに歓談している最中だった。その外れのバルコニーで、剣心は月のある空を見上げていた。
「どうしたよ相棒? こんなに大盛り上がりだってのにしんみりしやがって」
隣に立て掛けたデルフが、不服そうに言った。
キュルケは、何人もの男と一緒に笑っており、タバサは美味しそうに料理を平らげている。
そんな彼女達と交われないのは、やはり遠くに置いてきた『仲間』を思ってのことだった。
166 :
るろうに使い魔:2012/06/23(土) 00:07:49.08 ID:fpTrwcvH
気づけば、ここに来てかなりの日数が経った。向こうは、今頃どうなっているだろう……?
流浪人だった頃の自分だったら、こんなこと考えなかったかもしれない。
でも今は、帰るべき場所と、共に闘った仲間がいる。
苦しいこともあったけど、最後まで一緒にいてくれた。楽しいことも辛いことも含めて、支え合ってくれた頼りになる友人達。
(俺は負けねェ! 絶対に負けられねェ!!)
直情的で喧嘩っ早いが、誰よりも頼りになる親友。
(ちくしょう…強くなりてえ…)
強さにひたすら純粋で、成長が楽しみな愛弟子。
(最期の最期であなた達に出会えて、本当に良かった)
悲しい過去を持ちながらも、気丈に振舞う優しき女医。
(せめて最強というあでやかな華を御庭番衆に添えて、誇りに換えてやりたかった)
寡黙で無愛想だが、心に熱いものを持っている御頭。
(一番想っている人を忘れることの、一体どこが幸せなのよ!!)
その彼を心から慕う、無邪気でも芯のある少女。
(『悪・即・斬』 それが俺達新撰組と人斬りが、ただ一つ共有した真の正義だったはず)
最後まで相容れなかった、共に灼熱の時代を生き抜いた強敵。
今は殆どが、それぞれの道を歩んで離れ離れになってしまったが、それでも一緒にいて欲しいと願ってくれる人だっていた。
(私は…剣心と一緒にずっと居たい)
そう、置いてきてしまった。彼女を――何の知らせもなく。
それが、今の剣心の心に影を落とす。
「せめて、何とかこの事を伝えられれば……」
自分の身の上だけでも、向こうに伝われば――剣心はそう思った。
でも、今はその手段すら分からないまま。オスマンも探してくれるとは言ってくれたが、正直あてにはできない。
だけど、オスマンの話を聞く限り、他にもこの世界へ来る人は、いないとも限らない。そういった人に、上手く接触できれば、あるいは……その可能性はゼロではない。
また明日から、探してみよう――そう剣心が意を決すると、後ろで声が聞こえた。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな〜〜〜り〜〜〜!」
振り向くと、そこには綺麗なドレスに身を包み、高貴な上品さが漂う、美しさを見せるルイズがいた。
そんな彼女に、いままで馬鹿にしていた生徒達でさえ、すっかり見惚れてしまったのか、盛んに群がり我こそは、とダンスを申し込んでいた。
しかし、というかやはり、ルイズはそんな男共には目もくれず、その足でバルコニーまで行くと剣心を見た。
167 :
るろうに使い魔:2012/06/23(土) 00:09:56.09 ID:fpTrwcvH
「楽しんでる感じじゃないけど、どうかしたの?」
「生憎、こういった所は初めてでござってな、どう楽しめばいいか、よく分からんのでござるよ」
困ったような顔を見せる剣心に対し、ルイズはふーんと言うと、何も言わずに剣心に向けて手を差し出した。
「だったら、どうやって楽しめばいいか、私が教えてあげるわ」
そして、今度はドレスの裾をつまんで、恭しく礼をした。
「わたくしと一曲踊って下さいませんこと? ジェントルマン」
剣心はどうするか考えた。ダンスなんて生まれてこの方やったことなんてない。
断ろうかとも考えたが、他の男と断ってまで、せっかく誘ってくれているのに、それはあんまりにも可哀想だろう。
悩んだ末、剣心はルイズの手を取った。
「拙いダンスでも良ければ、お相手するでござるよ」
流れるような音楽の中、剣心とルイズは踊っている。
ダンス初心者の剣心は、最初はルイズに合わせてステップを踏んだ。
最初はどこかぎこちない動きだったが、そこは飛天御剣流、的確な読みと動きでルイズの行動を予測し、上手くルイズにリードしている。
「ねえケンシン、私信じるわ。あなたが別の世界へ来たってこと」
急に、ルイズはそう言った。
無論、全てを鵜呑みに出来たわけじゃない。異世界なんて自分にはまだピンとこない。
でも、剣心は嘘をつく人間じゃない。それだけは、この暮らしの中で分かっていた。
そして、彼の強さ、優しさにも直に触れて、少しずつ剣心のことを分かり始めてきた。
だからこそ、今聞きたい。
「やっぱり、帰りたい?」
「…そうでござるな」
一瞬、ルイズの掴む手が、ギュッと強くなった。まるで手放したくないように。そんなルイズの心情を察してか、剣心は小さな声で続けた。
「拙者には、確かに帰るべき場所がある。だけどそれだけが理由じゃない。向こうには、何も告げずに置いてきてしまった人がいる。だから連絡だけでも取りたいのでござるよ」
それを聞いて、ルイズは俯いた顔のまま、呟くように言った。
「………ごめん、急に喚んじゃったりして」
「何、気にしてないでござるよ」
剣心は優しい笑みを浮かべた。その笑顔に、ルイズも思わず微笑んでしまう。
「私も、元の世界に帰る手伝いをするわ。出来るだけ、力になる。だから……」
「それまでなら、拙者もルイズ殿の世話を務めるでござるよ」
言葉を引き取るように、剣心はそう言った。それを聞いて、ルイズの心の中が暖かくな
るのを感じた。
彼の笑顔には、何ていうか、そういった安らぎを送ってくれる。だから、ルイズの顔に
も自然と笑顔が浮かんだ。
「―――ありがとう」
その言葉と共に、音楽が鳴り止み、ダンスは終了を告げた。
168 :
るろうに使い魔:2012/06/23(土) 00:13:54.72 ID:fpTrwcvH
これにて終了です。いよいよ次はアルビオン編に移ります。
剣心はこれからどうなっていくのか…! ぜひお楽しみくださいませ。
それでは今日もお付き合い頂き、ありがとうございました。
原作終わりのほうなんかな
乙でした
乙乙乙
>>156 タバサのお母さんを召喚されたキャラの能力もしくは技術で治すパターンになるのかな。
原作の難題をクロス相手の能力で簡単解決はギャグでなければ駄作化しやすい
見せ方次第
エピソード省略のためという場合もある
乙!
週末は豊作で嬉しいねえ
狂乱しているタバサママの口に自作の甘くないジャムを流し込んで正気に戻す某主婦。
更に敵対した時に気が付くと同人格闘ゲームの技っぽく食卓に着席させられているジョゼフ。
ごめん元ネタがわからない
元ネタはKanonか。しかし、なんとも古いネタだな。
10代は勿論だが、20代でも知らん連中は多いだろう(1999年に販売されたエロゲーなので)。
鳥坂「大丈夫!まーかせて!」
ルイズ「大丈夫じゃないわよ!」
グローブ・オン・ファイトが混ざったりは……
>178
コルベール「私はアカデミーに復讐してやるー!」
エレオノーラ「だーいじゃうぶ、まーかせて……あ、つい……」
ギトー「オールド・オスマン、素手で触られては……」
校長「わ、儂は見た……あれは間違いなくブリミルの時代の生物じゃ……!?」
シェフィールド「ガンダールブ、あなたは堕落しました」
ギーシュ(確かに堕落したかもしれない……)
マリコルヌ(ダラク……ダラクはあざなえる縄のごとし……)
ミシェル(堕落はいかん、間抜けは仕方がないが堕落はいかん)
……かくして、“無能王”ジョセフは自らの目的を思い出したのである。
アカデミーにフランケンシュタインの心臓が運び込まれたら?
さいや...
フランケンシュタインズ・プリンセス?
ふがふが
>181
うっかり窓が開いて灰になるのか。で、その灰を集めて……
186 :
るろうに使い魔:2012/06/24(日) 22:54:30.77 ID:MRygruV2
皆さんこんばんわです。早速ですが、11時丁度に11話の方をあげようと思います。
187 :
るろうに使い魔:2012/06/24(日) 23:04:12.94 ID:MRygruV2
それでは、始めたいと思います
その夜、ルイズは夢を見た。
ずっと昔、まだ家で貴族の教育を受けていた頃。
良く出来た二人の姉に比べられるのが嫌で、いつも何か言われれば、逃げるようにそこへ行き、今では嫌なことが起きると、自然とそこに足が向くようになった。
誰もいない、池のほとりで、小舟の上に乗っては、自分はそこでよく泣いていた。今日も、母からのお叱りと使用人の小言から隠れるために、
一人そこで蹲っていると、上から優しい声が聞こえた。
「泣いているのかい? ルイズ」
フードを纏い、帽子を被った青年、目深で顔はよく見えないが、ルイズには誰か直ぐわかった。
「子爵さま、いらしてたの?」
最近、近所の領地にやってきた、自分にとって憧れの貴族。優しく、強そうで、尊敬にも似たような感情を持っていた。
「今日は君のお父上に呼ばれてきたのさ、あのお話のことでね」
「まあ、いけない人ですわ。子爵さまは……」
あの時の私は、まだ十にも満たない年だった。だから、その言葉の意味がよくわからずに、どう答えていいか分からなかった。
二人の父が交わしたという、ルイズと、彼との間の約束。幼き頃よりの誓い。嬉しくないと言ったら嘘になる。でも―――。
「ミ・レイディ。手を貸してあげよう。安心なさい、怒られたのなら、僕からお父上にとりなしてあげよう」
そう言って、彼は手を差しのべる。大きくて、頼りがいのある手。あの頃のルイズは、ニッコリと笑って、その手を握ろうとした時。
ビュゥゥウ…と、大きな風が吹いた。帽子が外れ、宙に浮く。
そこには、いつも知っている彼の姿が無い。ルイズの前に立っているのは―――。
「ケン……シン…?」
優しい表情のまま、彼のいた場所には剣心が佇んでいた。
そして、いつの間にかその剣心も、池のほとりも小舟も、全てが闇へと消えた。
第十一話 『夢現』
「……ここは、どこ…?」
気づけば、ルイズは知らない世界へと踏み込んでいた。体もいつしか、成長して元通りの姿になっていた。
ルイズは、周りを見回した。そこにあるのは、明るい夜空と風がなでる草木の草原。そして、闇を照らす大きな満月が一つ。
(月が、一つ……? ってことは……)
ルイズは、当惑しながらも確信した。ここは、剣心のいた世界なんだと。
その中に、ぞろぞろと歩いていく集団を見つけた。
そしてその一人、小さいながらも見覚えのある赤い髪を束ねた少年がいた。
(あれって……小さい頃のケンシンかな?)
夢の頃の幼いルイズより少し歳上な様子だったが、間違いない。あれは少年時代の剣心だ。
ってことは、これは剣心の夢の中―――?
ルイズの足は自然とそこへ向いた。幼い剣心はまだあどけない顔立ちで、三人の優しそうな女性に連れられて歩いていた。
お姉さんなのかな? と思うルイズの耳に、劈くような悲鳴が聞こえた。
「きゃああああああああああああ!!!」
「や、野党が、野党が来たぞ――――ぐぁ!!」
声を上げた男の胸に、深々と刀が突き刺さり、大量の血を撒き散らした。
事態に気付いた集団は、蜘蛛の子を散らすように必死で逃げ始めた。
しかし、そんな彼らに構わず、野党共は手当たりしだい斬り殺して突き進んで行く。
女も、子供にも容赦はしなかった。
「なに、何なの……?」
ルイズは、この出来事にただただ呆然として見ることしかできなかった。
何の抵抗も、命乞いすら許さず、次々と人を殺していくその野党と、とにかく生き延びようと走るその集団の人々。
その中に剣心の姿が見えたルイズは、とにかく何とかしなきゃと足を踏み出した。
188 :
るろうに使い魔:2012/06/24(日) 23:05:17.46 ID:MRygruV2
既に野党共の手により、その大半が倒れて血溜まりを作って動かなくなっていた。
残った人たちも、逃げる気力が無くなったのか、ただ蹲って神に祈るばかり。
手当たりしだい叩き斬られて、とうとう、生きている者は幼い剣心と、守るように抱える三人の女性だけになった。
「お願い、この子だけは―――きゃああ!!」
「この子だけは、どうか……ああっ!!!」
必死でかばう二人の女性に対しても、野党は容赦なく斬り捨てる。唯一残って、剣心を抱いている一人の女性が、倒れ込むように剣心の盾になった。
「心太…心太! あんたはまだ小さいから、私達みたいに自分で生き方を選ぶことはできないの。だから今死んじゃ駄目……あんたは生きて。
生きて自分の人生を選んで、死んだ人達の分まで―――」
涙を流して訴えるその女性をよそに、野党はなんの慈悲も与えずに、荒々しくその髪を引っつかんで剣心と引き離した。
「心太……生きて…」
そして野党は、躊躇いもなく彼女の首を差し貫いた。
力なく倒れる女性は、それでも最後まで、剣心に向かって祈るように呟いていた。
「生き……て…心…太……私の…分…まで…」
それを最後に、野党は女性の胸を貫いて息の根を止めた。そして、その足で剣心の方へと向かう。
「やめ…てよ…」
ルイズが、震える声でそう言った。
次の瞬間、庇うように剣心の前に立った。
「止めなさいよ!! 何でこんなことするの!! 何で――」
ルイズは、野党の目を見て、言葉が詰まった。
生きるのに必死な、野獣のような眼。
好きで殺しているわけじゃない。ただ、そうしなければ生きられない。だから相手に対してなんの情も持たない。…そうルイズに語るような眼だった。
ルイズの生きてきた世界とはまるで真逆のように違う。血と飢えで作られたような修羅の世界。
なじられようと、後ろ指をさされようと、それでも裕福な育ちをしてきたルイズにとって、あんな眼は生涯できないことだろう。とルイズにそう思わせた。
そして野党は、そのままルイズごと剣心を刺し殺そうと刀を構えた。
ルイズは、思わず目を瞑った。その時、今度は野党の方から悲鳴が上がった。
「ひっ……ぐわあ!!」
目を開けてみれば、野党を霧でも払うように斬り飛ばす。一人の男がいた。
残された野党共は、集団で立ち向かうが、皆刀を振り上げる前に絶命していく。
最後の一人、剣心を殺そうとした野党が、恐怖で震えている声で叫んだ。
「誰だ、貴様ぁ!!」
「これから死ぬ奴に名乗っても意味がねえよ」
野党は、刀を握り締め、声を上げて突貫していくが、間合いに入った瞬間、野党の体は散り散りになって飛散した。
「通り合わせたのも何かの縁、仇は討った」
月明かりに照らされて、少し周りが明るくなった。
ルイズは、颯爽と現れて、野党を一瞬で皆殺しにした、その男を見た。
二十代前半の若い顔つきとは、似合わないような体格と身長。そして何故か、秘宝であるはずの『破壊の剣』と『英雄の外套』をその身に纏った大男だった。
「恨んでも悔やんでも、死んだ人間は黄泉返らん」
刀についた血を拭きながら、憮然とした目で剣心を見下ろす。まるで、こういった光景は見慣れているような感じだった。
「己が生き延びれただけでも、良しと思うことだ」
そう言って男は、刀を仕舞うと、未だに夢を見るような顔をしている剣心を置いて、そのまま何処へと消えていった。
残ったのは、数々の遺された死体と、幼い剣心ただ一人となった。
189 :
るろうに使い魔:2012/06/24(日) 23:06:37.23 ID:MRygruV2
「うん……?」
朝、陽の光に照らされて、ルイズは目が覚めた。
目がしょぼしょぼする、夢で泣いていたのかな、とまだ起きない頭でふとそう思った。
辺りを見渡すと、隣には、既に支度を整えた剣心がいた。
「おはようでござる、ルイズ殿」
相変わらずの屈託の無い笑み。ルイズの知っている、いつもの剣心の姿がそこにあった。
「ちょっと目が腫れてるようだけど、大丈夫でござるか?」
「だ、大丈夫よ!! ジロジロ見ないで!」
心配そうにのぞき込む剣心を、慌てて振り払うと、ルイズはすっくと立ち上がって顔を洗い始めた。これ以上、自分の泣き顔なんて見せたくなかったのだ。
(あれが……ケンシンの過去なのかな…?)
ルイズは、夢の中の出来事を思い返していた。
立ち上る血と、数々の死体の山と、最後まで剣心を守った女性達。そして、伝説の秘宝を持ったあの男。
本当は、沢山聞きたいことがあった。彼は誰なのか、どうして襲われたのか、あの後どうなったのかとか―――。
だけど、それは聞いちゃいけない過去だというのも分かっていた。あんな悲惨な経験を、嬉々として語る人なんて、まずいないだろう。
だから、自分は何も見なかった。今は、そういうことにしておこう。
あの夢は、早く忘れようと思った。それが、自分と剣心にとっても良いことだろうから。
「…ルイズ殿、いつまで顔を洗っているでござるか?」
そんなルイズの気を知らずに、呆れたような口調で剣心はそう言った。
そして、今日の授業が始まった。担当するのは、どこか根暗な雰囲気を漂わせる教師、
ミスタ・ギトー。
フーケの騒動の時、やたら揉めては色んな教師を批判していた、あの男だ。自身の扱う系統をよく自慢しているが、そのくせフーケ捜索には名乗りを挙げなかった。
要は、その程度の器量の持ち主なのだ。そのため生徒からも人気はなかった。
今回の講義も、そう言った自慢の系統について嫌味ったらしく語っている最中だった。
「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ」
ピクリ、とキュルケが眉を釣り上げた。
「『火』に決まってますわ。全てを燃やし尽くせるのは炎と情熱、そうじゃございません?」
自信げに胸を張って答えるキュルケに対し、ギトーは「ほほう」と含みある笑いを浮かべると、急に杖を引き抜いてこう言った。
「なら試しに、君の得意な『火』の魔法をぶつけてみたまえ」
周囲がどよめき出した。キュルケもである。明らかに舐められてる態度が出ている。
「……火傷じゃすみませんわよ?」
「構わん、本気で来たまえ。その有名なツェルプストー家の赤毛が飾りでないならな」
とうとうキュルケの顔から笑みが消えた。
杖を取り出し、呪文を唱え始めると、直径一メイルはあろうかという炎の塊を、躊躇いなくギトーに向けて放った。
しかし、ギトーは小馬鹿にした表情を崩そうともせず、余裕の態度で杖を振った。
すると、たちまち突風が起き、キュルケの火の玉をかき消すと、その舞い上がった風がキュルケに向かって押し寄せてきた。
190 :
るろうに使い魔:2012/06/24(日) 23:08:40.91 ID:MRygruV2
吹き飛ばされる―――目を瞑って身構えたキュルケの前に、颯爽と目の前に影が現れた。
それは、吹き荒れる風を前にしても堂々と立ち、腰の刀で一閃、振り抜くとその衝撃と共に突風を起こした。
ギトーの風とその突風は衝突し、しばらく拮抗していたが、やがて大きな音と共に消えて静まった。
その突風を起こした本人、剣心が憮然とした態度で告げた。
「力を誇示したいのは構わんさ、だがそのために生徒を利用するのはいかがなものか?」
その剣心の姿を見て、周りの生徒達も賞賛と賛同の目を向けた。キュルケは、自分が剣心に助けてもらったことで、すっかり舞い上がっていた。
「さっすがダーリン、頼りになるぅ!!」
そして、いつもの小馬鹿そうな顔をして、ギトーに向かって、思い切り手を挙げた。
「ミスタ・ギトー! 最強なのは『火』でも『風』でも、ましてや『虚無』何かでもなく、彼の使う『飛天御剣流』であると思います!!」
その言葉に、コクコクと隣でタバサが頷いた。
ガヤガヤと、口々に話し出す声が聞こえてくる。皆程度はあれど、驚きを隠せないようだ。ギトーはそれらを静止させ、今度は憎たらしい目付きで剣心を見た。
「どうやら君達は勘違いをしているようだ。最強の系統は『風』。あの程度の突風を弾いた所で、誇るべきものじゃない」
そう言うと、ギトーは剣心に向かって杖を指す。
「最強の系統とはどんなものか…その前では君の力など無力だということを教えてやる」
「興味がござらん、キュルケ殿が危なかったから出しゃばったまで。力で争う気は無いでござる」
剣心は、それだけ言うと刀を納め、見咎める様子のルイズの隣の席へと戻った。
この勝負、どちらに軍配が上がったかは、周りの反応で一目瞭然だ。しかし、たかが平民に自慢の鼻っ柱をへし折られたギトーとしては、この状況は面白くないことこの上ない。
「そうか、ならこれならどうだ? 『ユビキタス・デル・ウィンデ』――」
そこまで唱えたとき、急にバァンと、大きな音を立てて扉が開いた。
「おっほん、今日の授業は全て中止であります!」
扉を開けた本人、ミスタ・コルベールは、いつもとは違う珍妙な格好をしていた。
ロールした鬘を被せ、変な飾りをつけた服を着ている。普段の彼を知るものから見れば、その姿は、滑稽甚だしい出で立ちだった。剣心ですら唖然としていた。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
コルベールは、勿体つけた調子で口を開いて、その途中カツラが取れ、挙句タバサに「滑りやすい」と指摘されて、大笑いされる生徒たちを怒鳴って宥めた。
「黙りなさい! 小童共が!……えー、皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、良き日であります。」
そう言うと、改めて生徒達の前に向き直り、声高で口を開いた。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます!」
途端に、周囲がざわめき出す。当然だ。アンリエッタ姫は、トリステインの間では知らないものはいない程、有名な王家の一人だ。
ギーシュなどを始めとした貴族が、皆彼女のために命と杖を捧げる者が後を絶たない高嶺の花であり、人気者だ。
その彼女が、ここトリステイン魔法学院へと訪れるのだから、この反応は当然といえた。
「姫さまが、来る……?」
剣心は、そう呟くルイズの横顔を見た。キョトンとした顔で、何とも夢を見ているような、そんな惚けた表情をしていた。
コルベールは、辺りを見回して静まり返るところを見計らうと、最後にこう叫んで締めくくった。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!」
191 :
るろうに使い魔:2012/06/24(日) 23:12:14.77 ID:MRygruV2
今日はここまでです。今回の夢は抜刀斎ではなく、あえて心太の過去から持ってきました。
抜刀斎については、このあとおいおいやっていこうと思っています。
それでは短いですがこれにて。また来週お会いしましょう。
192 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/24(日) 23:20:38.42 ID:C50RHsJv
乙でござる
>>191 るろうにの人乙です!
あいかわらず師匠かっけー
師匠ならヨルムガンドに生身で勝てるんじゃ・・・
乙
ひょっとこの時の刀ぐるぐるで防ぐのかとちょっと期待した
乙です
ふむ、野盗に殺されたのは人買いだったはずだが、
3人の姐さん方は同じように買われた娘さんかな
しかし年頃の娘を犯すでも捕えて売るでもなく惨殺する野盗って、一体何が目的なんだ
人買いのツテがなくて、単純に金目のもの狙いだったんじゃない
細けェ事はいいんだよ!
女は犯すもの、売るものと考えてる方が怖いわ
ルイズがさらわれて売られたら怒り狂った烈風によってハルケギニアは灰燼と帰すな
いや犯すでも売るでもなく、意味無く皆殺しにするほうが怖いだろ
所持金目当てなら女子供まで全て殺すか普通?
ルイズは生きるのに必死云々を感じたらしいが、弁護の余地がないくらいいかれたたちの悪い連中だ
北斗の拳のモヒカンどもなんかズバリその口だわな
モヒカン(世紀末)「食い物や水の為の殺人ならセーフじゃね?」
モヒカン「新鮮な肉だぁ!」
外道勇者「ひゃっはー、種籾をよこせ女ー!」
>>201 >弁護の余地がないくらいいかれたたちの悪い連中だ
自分でそう感じたんならそれでいいじゃん
>>204 あの作品世界、それやってないのがモヒカン連中わりと理性的
208 :
妖精の使い魔:2012/06/25(月) 20:27:06.56 ID:sKB788yK
とりあえず、「fairy tail」のナツをルイズが召喚したssを書こうと思います
まずはsageを覚えてください。
それから、これから書くつもりというけど、書きながら投下はここじゃご法度だから。
>>208 とりあえず、物語全体の9割がた書き終えてから投稿しろよ。
じゃないと必ずエタる。
つかその「書こうと思います」って書き方してる奴は絶対に完結しない。
>>208 偉そうな事は言うつもりはないが、とりあえず一話ぐらい書いて投稿するべし。
後はストーリーの大筋だけ考えることと、書き続けられる意志があればうまくいく。
このスレに新しい書き手が来ることを祈る。
キュルケが志々雄様を知ったらどう思うのであろうか
ぐれんかいなする暇があったら直接斬りつけろよ、と
こんばんは、5分後くらいから10話投下します。
216 :
一尉:2012/06/25(月) 23:41:35.50 ID:HH4V4iYS
月島仁兵衛
「お前達の名が聞きたい」
近くにいたウェールズが焼かれ、シャルロットは全身で戦慄を感じていた時に敵首領がそう発した。
ウェールズを殺した"つもり"になって、また開戦前の時のように饒舌に語り出すのか。
聞く耳はあまり持ちたくはない・・・・・・が、貴族派の情報を持っている可能性が最も高い人物である。
ここは騙したまま聞き出すのが良いだろうと判断する。
「・・・・・・"タバサ"」
もちろん馬鹿正直に本名を言う気も必要もない。物心ついた頃から持っているお気に入りの人形の名だ。
「嘘だな」
「・・・・・・ッッ」
シャルロットは動揺を内に押し込める。流石に人形の名は怪しすぎたか?
確かに人に付けるような名前ではない。嘘臭いと言えばそうかも知れない。
だけれど――こうもはっきりと間髪入れず、嘘だと断じられるとは思わなかった。
「まあいい、教える気がないならそれでもな。もうお前達は"覚えた"」
そこでメンヌヴィルははたと気付く。"あれはおかしい"――。
まだ生きている連中の周囲に倒れる死体の不自然さ。
(チッ・・・・・・)
メンヌヴィルは内心で舌打ちしつつ考え、理解した。最初から"はめられていた"。
途中で入れ替わってないと聞いていた――であるならば、一番初めから"偽物"だったということか。
「セレスタン!!影武者だッッ!!」
自分の後方で一切動かず、伏せていた最後の部下に向かって大声で叫ぶ。
すぐさまセレスタンが移動するのを"感じた"後に、メンヌヴィルは自嘲を含んだ哄笑をあげた。
「くく・・・・・・くは、ははっハハハハハ!!!」
笑いと同時に驚愕によって見開かれた瞳のシャルロットはすぐに即応する。
「キッドさん!父様!見敵必殺!!逃さないでっ!!」
キッドとシャルルも言われるまでもなく状況を理解した。
理由はわからない。わからないが、「影武者」と敵首領が叫んだ以上看破されたのだ。
シャルルとキッドはメンヌヴィルに細心の注意を払いながら走る。
本来なら二人まとめて『飛行』して行きたかった。
しかし二人も飛ばしながら別の魔法を使うのはシャルルでも至難の技。
攻撃されれば危うく、かと言って三人掛かりでもまともに倒そうとすれば、時間を稼がれるだろう。
だからここは防御に専念してまずは射程外へと走って抜く。逃げた敵を追うにはそれが最速だ。
シャルルの心中としては愛娘が心配であったが、"命令"も含めてここは割り切る。
「奴は『白炎』のメンヌヴィル!!踏まえて判断するんだ!!」
そう叫んで忠告する。今までの戦い振りと外見の特徴から見ても恐らく間違いないだろう。
戦場では要注意人物として挙げられる、狂った強者の一人だ。
そんな狂者相手でも"魔法"戦闘ならば"問題ない"。勝てはしないまでも、"負けはない"筈だ。
シャルロットは頭が良い。分が悪いと見れば決して無理はしない子だ。
「ふんっ・・・・・・」
メンヌヴィルは追撃しない。自分の名前だけが知られたこともどうでもいい。
「『白炎』のメンヌヴィル・・・・・・その悪名は私も聞いたことがある」
どうせ目の前の少女に邪魔される、無駄なことはしない。
ハメられた以上ウェールズ暗殺は成っていない。今頃はもうアルビオンにはいない可能性も高い。
任務失敗とあらば、もはや存分に楽しむとしよう。二人がセレスタンを追ったことで体よく決闘の形になった。
セレスタンはいずれ捕まるか殺されるかだろう。あの二人から逃げ切れるとは思えなかった。
しかし腐っても俺の部隊で戦ってきた部下だ。ただでやられもしない筈だ。
充分過ぎる時間は稼いでくれる筈・・・・・・。後は戻って来た二人を改めて殺せばいい。三人同時でなければ問題ない。
「・・・・・・何故、"わかった"の?」
少女の問いにメンヌヴィルは笑いが込み上げて来る。随分と図太いことだと。
「こちらの質問には嘘で返し、自分はのうのうと聞くか」
メンヌヴィルの言うことは尤もであった。なんと都合のいいことだろうか。
しかしシャルロットの苦い表情とは裏腹に、メンヌヴィルはあっさり躊躇なく答える。
「俺はな、視力がないのだよ。・・・・・・これは義眼だ」
そうであることを証明するように、空いた左手で眼球を取り出す。
カラコロと二つの義眼をぶつけて音を立てながら弄ぶ。
空っぽになった眼窩は何もかもを吸い込み、全てを見透かすような深さを帯びていた。
メンヌヴィルは思ったよりも涼しげな少女の反応を"見て"、つまらないと音を立てて握り潰す。
「――それにしても、貴様のような色々とないまぜになったような感情は初めてかも知れんな」
「・・・・・・温度」
「頭も悪くない」
盲目・・・・・・それでいて現状を把握するメンヌヴィル。そこからシャルロットは推理した。
個人差はあるし不得手な者もいる。しかし総じて四系統には傾向がある――。
風系統のメイジなら、他の者より空気の流れや音に敏感である。
土系統のメイジは、地面を通して地中の様子や壁の厚みなどを測量したり出来る。
水系統のメイジであれば、触れるだけで水の流れを感知し生体を理解出来ると言う。
火系統のメイジにとって、微細な温度変化を感じるなどお手の物なのだ。
さらに盲目であることが感覚をより鋭敏にしたのだろう。そういう例は少なくない。
そしてメンヌヴィルは特に異常なのだ。それほどまでに特化しているなら"気付く"ことが出来る。
「俺は今まで老若男女問わず、人も亜人も獣も、メイジも平民も、軍人も民間人も・・・・・・。
誰もに平等な死を与えてきた。だから知っている。死んだ後の、死に逝く者の温度というものがな」
ウェールズの温度は"おかしかった"。自分が焼いたものだからなおのこと気付けた。
そこに気付けば、他にも転がっていた"死体と思っていたもの"。
それらも同じようにおかしかったことも感覚的に理解する。
温度変化が希薄で唐突。それはまるで――。
「・・・・・・人形のようだった」
風の『遍在』であれば消えるし、形が残っている以上はマジック・アイテムの類である。
つまりは精巧なガーゴイル。温度や実力まで際限された、スクウェアクラスの土メイジ熟練の技。
だからこそ己ですら騙された。そして黙したままの少女の温度が、その感情が真実だと告げていた。
「よくわかった。・・・・・・私の名はシャルロット」
「礼儀のつもりか?まあいい、その名は覚えておこう」
「・・・・・・やっぱり、嘘も見破れると」
メンヌヴィルは唇の端が上がる。わざわざ試してくるとは、不思議な少女だ。
得体の知れないオーラ。乱戦にあって平静を保った胆力。
それでいて影武者ウェールズが炭と化した時には、人間らしい感情も垣間見えた。
戦場に慣れているようで、だけど初めてでもあるような、そんな織り交じったような心理状態。
どんな風に育ち、どういう経験を積んだらこうなるのか。今まで焼いてきた者の中には該当しない。
「そうだ、なまじ目が見えていた頃よりも見えるようになった。あらゆるものを感じることが出来る。
温度は正直だ、心理を如実に表し、隠すことも出来ない。それもこれも・・・・・・あの男のおかげだ」
「あの男?」
思わず聞き返してしまったことにシャルロットは後悔する。
情報を引き出すにしても、あまりに無関係過ぎた。
「遠慮することはない。こうして語らい合うのもたまには悪くないものだ。
近しく感じた貴様を焼き、その肉の焼ける香りを嗅ぐことを思えばより一層楽しめる」
(・・・・・・下衆)
シャルロットは心の中で毒づく。記憶にある噂通りの男。歴戦の傭兵。
戦場で名を馳せ、残虐非道を絵に描き、狡猾で強力な炎のメイジ。
偽物のウェールズごと仲間を焼き殺す、情の欠片もない異常者。
(それにしても・・・・・・)
温度から感情を読み、心理まで把握されるなど何ともやりづらいことか。
頭の中までは読めないにしても、ペースを無理やり引きずり込まれてしまう。
闘争において、こちらの出方が――攻撃のタイミングが読まれることがどれほど致命的なことか。
メンヌヴィルの闘争における圧倒的なアドバンテージを覆さねば勝ち目は薄くなる。
(とりあえず・・・・・・開き直る)
考えれば考えるほどドツボに嵌まりかねない。だから今だけは感情に重きを置く。
異常者の考え、心理、経験を知ることは単純に好奇心もある。
メンヌヴィル本人が乗り気になっているし、不意討ちしてくる性格でもないようだ。
時を稼げば父様とキッドも戻って来るだろうし、流れを握られるよりはマシである。
「そう、なら昔話を聞かせて。今のアナタがあるキッカケ・・・・・・」
シャルロットの虚偽のない態度に、メンヌヴィルは上機嫌に語り始める。
「――20年前だ。当時俺は『王立魔法研究所』の実験小隊に所属していた。
その折、疫病の発生した村を住民ごと焼却処分しろという任務があった」
「・・・・・・新教徒狩り?」
「んっ?知っているのか、まだ貴様なぞ生まれてもいない頃だろうに」
シャルロットは記憶の端っこを辿っていく。『アカデミー』実験小隊、聞いたことがある。
王都トリスタニアにある、魔法を研究する施設『王立魔法研究所』。
その機関が、公に出来ない鬼畜な実験をおこなっていた頃に、汚れ仕事を直接的に担当していた部隊。
凶賊などを相手に、攻撃魔法が人体にどのように効果を与えるのか調べたり。
戦場で範囲魔法を放った際に、一体どれほどの被害が及ぶのか調べたり。
秘密裏に捕えた罪人や、極刑を待つ囚人を相手に拷問に近いことを敢行し、その限界を調べたりしていたそうな。
そして伯父――ジョゼフ――は、さらに当時のことを語ってくれた。
ロマリアからの圧力で、教義に邪魔な新教徒を抹殺する任務。
賄賂を受け取った地位ある人物が、強引に伝染病が蔓延しつつあるとして村ごと処理しようとした非道な事件。
そんな中でジョゼフ伯父様を含み真実を知った数名が、最終的に差し止めた。
ついでに国内を蝕む害虫達を吊るし上げて糾弾した。
それは同時に、トリステイン王立魔法研究所変革の時でもあった。
以降は人道に背く実験や研究は行われなくなった・・・・・・と聞いている。
「――あの時はいざ村を焼こうという直前に命令が来てなあ。疫病など誤情報だから中止しろと。
その隊長ってのがこれまた無骨でな。命令通り中止しようとしたんだが、副長だった俺は抗議した。
途中で命令が変わることなど今まで前例がなかったからな。その時に俺が隊長に成り代わろうと思った」
メンヌヴィルは少しずつ体を震わせて語り続ける。
当時の鮮烈な記憶をまるで昨日のことのように。色褪せることなく思い出せた。
「誤情報というその命令が、さらに誤ったものなら実際的な被害が拡大してしまう。
まあ俺自身は疫病の真偽なんてどうでもよかった。ただ日和った隊長に嫌気が差した。
もう目の前だってのにつまらないと。命令が遅れたことにして焼いちまえばいいとな。
――結果として村は燃えた。隊長と俺の炎でな。それはもう美しかった」
(そう、村は確かに燃えた。でも・・・・・・)
ジョゼフから聞いた話では奇跡的に――。
「――だけどなあ、隊長が部下達に村人の保護と退避を最優先に命令して、全員がそれを聞きやがった。
もっとも当時の俺ですら一目は置いていた隊長だ。明確に命令を拒否出来るほど合理的な理由もなかったしな。
後から聞いた話では、その所為で一人も死ななかったらしい。あれだけ燃やし尽くしたってのに・・・・・・。
そして最終的に俺は、隊長の『炎の蛇』を脳裏の奥まで灼きつけた。それが"最後に目で見た"光景だ」
(炎の・・・・・・蛇?)
「我が身を焼く匂いを嗅ぎながら、俺は半狂乱で炎を放った。その時にガキの声が聞こえた。
それを庇ったんだろうなあ・・・・・・隊長を焼く匂いをも嗅ぐことが出来た。おかげで逃げ果せた。
あの戦いと二つの香りで理解した。俺が俺である本質。それを教えてくれた隊長。
隊長のおかげで俺はさらに強くなった。光を失い、自身を知り、高みへと昇れた。隊長に感謝したい。
またあの香りを嗅ぎたい。だから俺は決着をつけねばならない。その為に俺は戦い続けている節もある」
シャルロットは素直に、ある意味感心した。人も狂いに狂えばこうまでなれるのかと。
もはや人ではない・・・・・・"化物"だ。"コレ"を人間と呼ぶことはもう不可能だ。
だけどそれもまた一つの到達点なのだ。人を殺すことに何も感じなくなるどころか、喜びを見出す。
死に慣れるどころではない、死そのものをその身に宿している。絶対的強者の在り方。
「今は素晴らしき戦乱の時代だ、戦場には事欠くことがない。本当に様々な場所を巡って殺し続けたものだ。
各国の連中はもちろん、エルフをも相手にしたこともあったが・・・・・・あれは極上だったなあ。
――隊長が未だにどこにいるかはわからない。それらしい人間を方々当たっているがハズレばかり。
だがなあ、俺も隊長も戦場でしか生きられぬ人間だ。だから必ずどこかにはいる、それを俺は捜し続けている。
そして同時に、戦場で貴様らのような強き者達を焼くのもまた、俺にとって大きな愉悦のひとときであり目的だ」
メンヌヴィルは空虚となった瞳で、シャルロットをギョロリと覗き込む。
「だから聞いておこう。まさか貴様まで人形・・・・・・ということはあるまいな?」
魔法まで使えるガーゴイルは聞いたことがない。だが実際に存在した以上は疑う余地はない。
そして魔道具の種類は豊富で効果も様々だ。そんなものがあっても不思議ではない。
「大丈夫、安心して。私は正真の人間で――」
シャルロットは一息置いてから、確固たる意志を込めて言葉を紡ぐ。
「――アナタを殺す"人間"だから」
このどうしようもない怪物は殺すしかない。手加減して倒せるような相手でもない。
ただ存在するだけで厄災を振り撒く害悪だ。自分の命を守る為にも殺す。
(この化物は・・・・・・私が打ち倒す)
口に出した言葉を、改めて心の中で噛み締め反芻する。生命を奪うということの意味を――。
「いいぞ、いい!!俺も素晴らしい貴様を殺し、戻って来た二人も殺してやろう」
戻って来ないという想定はないのか、改めて杖を構えるメンヌヴィルをシャルロットは睨む。
いざ始める前に聞いておかなければならないことを尋ねる。
「そう・・・・・・殺したら尋問出来ない。だから最初に聞くわ。依頼者――いえ、アナタが知っている限りの貴族派の名前を教えて」
「本当に筋金入りの度胸をしている・・・・・・いいだろう」
メンヌヴィルは一枚の羊皮紙を取り出すと、器用に極小の火で焦がして名前を書いていく。
依頼された時に会ったわけでもないし、貴族派も代理人を立てて偽装してきた。
しかし傭兵としては雇用主を調べるのは当然であった。使い捨てにされることもしばしばある稼業。
場合によっては謀略に利用され、傭兵そのものが続けられなくなる場合もある。
だからこそ依頼者は正確に把握しておく。そうすることで互いに対等でいられる。
「ここに記したが・・・・・・逃げられても困るのでな」
メンヌヴィルは先刻ウェールズの人形を殺した際の炎で、溶解させて開けた穴に羊皮紙を放り捨てると足で崩して埋める。
「万が一俺を殺せたなら、後で掘り起こすといい」
メンヌヴィルの「無理だろうがな」という笑み。それをシャルロットは冷ややかに眺めていた。
――いよいよ始まる。手加減の余地なしの絶対強者。さらには一般的な尺度で見れば悪人に相違ない。
初めて殺す相手にしては申し分ない。昂揚感で不思議な気分だった。これならいけると確信めいた意志を灯す。
あの強力で凶悪な炎を使うメンヌヴィルに対する戦術も練り終わっている。
もはや互いに言葉なく、闘争の火蓋は切られた――。
メンヌヴィルは纏っていた炎を増大させ、大業火を放つ。
杖から吹き出続ける火炎が、周囲一帯の酸素を燃焼し尽くさんというほどにシャルロットを襲う。
逃げる隙間もないほどに、最速にして、最短距離を、風も、水も、土も、火そのものすらも、全てを呑み込む獄炎。
阻むものを一切合切焼き尽くし、灰燼に帰する究極にして至高の炎。
それでも少女はきっと死なないだろう。死んだら己の"眼"は節穴だったということだ。
この極炎ですら減衰させ、せめて重症に留めるか。下手すれば相殺してくるほどの魔法を放つやも。
それほどのオーラを宿していた。それくらいの得体の知れなさを感じ取っていた。
この炎すら上回ってこの俺の方がダメージを受ける――それも良い。
全力をして己を追い詰めるほどの術者こそ燃やしがいがある。
――そして、極大火炎が包み込むようにシャルロットを覆った。
(・・・・・・ああ?)
魔法を放った形跡はなかった。耳には聞こえずとも詠唱はしていた筈だが・・・・・・ついぞ開放はしなかった。
まさか間に合わなかったとでも言うのか。
(馬鹿な・・・・・・こんなもので)
節穴どころではない。これでは有象無象の木偶と何も変わらないではないか。
「ふっ――!!」」
メンヌヴィルが感極まって「ふざけるな」と叫ぼうとした怒号が詰まる。
蛇のように温度を感じる"眼"は、確かに"無傷"のシャルロットを見ていたのだった。
以上です、ではまた次回。
境界線上のホライゾンから葵・トーリが召喚される。
……もちろん全裸で。
225 :
妖精の使い魔:2012/06/26(火) 08:39:34.50 ID:dibvGzA8
妖精の使い魔
第1話 ナツ 異世界に召喚される
「…宇宙の果ての何処かにいる私の僕よ!気高く、美しく、そして力強き使い魔よ!私は心より求め、訴える!…我が導きに応えよ!」
夕方になりかけた空に少女の声が響き渡った。
どこまでも続く平原である。
初夏の趣を感じさせるその場所に、少女は立っていた。ピンクに近い金髪の少女である。
ピンクの髪の下の鳶色の瞳は、今にも泣き出しそうだった。いや、すでに目の端には、透明の雫が浮かびかけていた。
それもそのはず、彼女は使い魔の召喚を何度も失敗しているのだから。そのせいか、遠くで彼女をバカにする声が聞こえる。
「成功するわけないだろ」「ゼロのルイズだからな」「いい加減あきらめろよ」
自分を指す明らかな声に、彼女の心は折れそうになる。だが諦めずに杖を振り、詠唱をする。
そして、本日300回目になる『爆発』の結果、向こうも見渡せないほど濃い煙が上がった。その煙の中から…
「う〜…」
土煙の中から何者かの声が聞こえた。
「いてて…ここは何処だ?アースランドでも、エドラスでもなさそうだけど…」
煙の中から現れたのは、桜色の髪の青年だった。鱗のマフラーに、黒いベストと腰巻をしている。
「ルイズのやつ、平民を召喚したぞ。」「平民を召喚するなんて、さすがゼロのルイズだな」
「誰が平民だぁー!!俺を誰だと思ってんだーー!!喰らえ、『火竜の咆哮』ーーー!!!」
平民呼ばわりされ、青年は大激怒。口から炎を吐き出した。
「うわー!」「あちー!」
しばらく炎を吐いて、青年の怒りはおさまったようだ。
「あんた、何者?」ルイズがそう言うと、青年は応えた。
「俺はナツ・ドラグニル。人呼んで『サラマンダーのナツ』だ!」
昨日から心配だったけどもしかして掲示板に直で書き込んでる?
先にメモ帳でもワードでもいいから完成させてから書き込むのがマナーだよー
ルイズさんだけに何故魔法が使えないのか、私、気になります!
もしやこれで一話おしまいか…?
投下開始の宣言もなかったしそこらへんのこともわかってなかったのかな?
ルールも守れないならにじファンで書けばいい
231 :
妖精の使い魔:2012/06/26(火) 18:54:21.01 ID:ZwXYZKH5
今日の夜7時に書き込みます。
232 :
妖精の使い魔:2012/06/26(火) 19:13:58.93 ID:ZwXYZKH5
思い切り遅れましたが、それじゃ投稿しますね。
「火の系統…あなたメイジなの?メイジならメイジって最初からそう言いなさいよ!」
「ん〜、メイジって、魔導師のことか?」
「まぁ、魔導師とも言うけど…」
「何だ何だ?ルイズのやつ、メイジを召喚したのか?」
周りの者達は、ルイズがメイジを召喚したと思っているようだ。
「あなたの魔法、系統魔法とは違うみたいだけど…」
「ああ、俺の魔法は滅竜魔法。竜迎撃用の魔法だ。」
「滅竜魔法?聞いたことないわね。」
どうやらこの世界には、滅竜魔法は存在しないようである。
「まあ、今後よろし…んっ!」
いきなりルイズがナツに口付けを交わす。使い魔との契約の儀式である。
「ぶはぁっ!な…何しやがる!…ってぐわぁーーー!あちぃーーー!いてぇーーー!」
「大丈夫、契約のルーンの痛みはすぐに消えるから。」
こうして、ナツはルイズの使い魔になったのであった。
荒らしでなく真面目にやる気があるならまず人の話を聞け
投下終了なら投下終了の宣言も書き込んでください。
>>1にあるテンプレにもある注意事項の一つです。
他にも
・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらい
など書き手にとって有益な情報がいくつも書かれていますので。
235 :
妖精の使い魔:2012/06/26(火) 19:23:00.51 ID:ZwXYZKH5
じゃ…じゃあ今回の投稿は終わりです。元ネタは、フェアリーテイルです。
ちゃんとテンプレ読んでね。
・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
とか大事なこと一杯書いてあるから。
必須事項として、まず
>>1にもある通り、
・sage進行
・投下予告と終了宣言を行うこと
次に必須ではないが、
・一話の分量はもう少し多く
他作者の作品を見ればわかるが一レスしかない投稿で一話というのは短すぎる
上手い下手についてはとやかく言わないが
荒らしだろ、さわんなよ
注意に反応なしとかもう意図的にっしょ
こんばんは。
2月のシステムクラッシュから復旧したけれど今度は多忙で身動き取れなくなってました。
53話の投下前にウルトラ5番目の使い魔 91話の代理投稿を21:40から開始します。
第九十一話
不屈の希望
古代怪獣 ゴモラ
地底エージェント ギロン人
カオスリドリアス
カオスゴルメデ
高原竜 ヒドラ
大蟻超獣 アリブンタ
磁力怪獣 アントラー
地獄超獣 マザリュース 登場!
ようやく生まれた人間とエルフの間の希望の光を、再び絶望の闇が覆い尽くそうとしていた。
勝利まで、あと一息だったときに降り注いだヤプールのマイナスエネルギーの波動。その絶大なる威力は自然の摂理すら
歪めて、全滅寸前だった超獣軍団に新たな悪魔のパワーを与えた。
瀕死だったアリブンタとアントラーの目に紅い狂気の光が宿って蘇る。
死んだはずのサボテンダーの死骸が悪霊に操られるかのように再生し、新たな超獣マザリュースとなって蘇生した。
死の淵から帰ってきた超獣どもは、ヤプールの代行者として破壊活動を再開する。ティファニアのエクスプロージョンで
鎮火していた火がまた立ち上がり、エルフたちの誇りであった街が無に帰していく。
「わああっ! もう、だめだぁ!」
エルフたちは、死さえも武器として操るヤプールの悪魔的能力に絶望を感じて逃げ惑い始めた。彼らエルフの技術でも
死人を蘇生させることはできると言われているが、それはあくまでも治療の範囲内の話であって、蘇生可能なのは精々
仮死状態までが限界、体を両断された完全な死体を復活させることはできない。
アディールを闇に閉ざし、精強を誇った軍を壊滅させ、死んだ僕を再生させる。そのすべてが彼らに絶望しろと言っていた。
そしてもう一体、超獣ではないがヤプールが絶対の自信を持って地底から呼び起こしてきた怪獣がいる。
「ヌワァァッ!」
エースの巨体が軽々と弾き飛ばされて宙を舞い、建物を巻き込んで墜落した。
〔くそっ! なんてパワーだ〕
体がしびれ、受けた衝撃の大きさにショックを受けながらエースはつぶやいた。ただまっすぐに突っ込んできただけの
突進攻撃だったというのに、この計り知れないパワーは並の怪獣に出せるものではない。
瓦礫に手を突き、立ち上がろうとするエースの眼差しの先には、空に向かって遠吠えをあげる太古の恐竜。いや、大地の
怒りの化身ともいえる大怪獣の恐るべき姿があった。
〔古代怪獣……ゴモラ〕
才人は畏敬の念を込めてその名を呼んだ。
ゴモラ……ウルトラマンの歴史を聞きかじったことがある者ならば、その名を知らない者はいないと言っても過言ではあるまい。
その記録は、ドキュメントSSSP、初代ウルトラマンと科学特捜隊が活躍していた頃に遡る。ゴモラはその正式な学名を
ゴモラザウルスといい、一億八千万年前から一億五千万年前の地球上に生息していたといわれる恐竜の一種である。
太平洋地域を中心にかなり広い範囲にわたって分布していたと思われ、同種族の存在が南太平洋のジョンスン島を
はじめとして、日本や北米でも確認されている。
〔ハルケギニアの古代にも、ゴモラが生息してやがったとはな〕
才人は、エースのダメージの反動で痛みを感じ始めてきたのをごまかすように言った。前々から、ハルケギニアと地球は
よく似た星だと思ってきたが、以前にも火山怪鳥バードンが現れたことから考えても、何万年も前まではハルケギニアは
地球とほとんど同じ生態系を持つ惑星だったのだろう。
〔サイト、あいつはそんなに強い怪獣なの?〕
〔ああ、超獣じゃないのにヤプールが自信たっぷりに呼び出してきたのも理解できるぜ。ちくしょう、こいつが敵になるのは
勘弁して欲しかったぜ!〕
尋ねるルイズに、才人は舌打ちとともに答えた。ゴモラが強いかと問われたら、その答えはひとつ……強い!
〔くるぞっ!〕
〔くそっ! 待ったなしかよ!〕
雄雄しい叫び声とともに、ゴモラは突進攻撃を仕掛けてきた。トリケラトプスに似た、三日月形の角を振り立てて、地響きと
砂煙とともに突撃している様は小山が飛び込んでくるようだ。あれをまた食らったら危険だ! エースは受け止めるのを
あきらめて、空高くジャンプした。
「トァーッ!」
空振りに終わったゴモラの突撃が、その勢いのままで市街地に突っ込んだ。するとどうか、強固な石で、しかもエルフの
魔法で固定化に近い補強を受けているはずの住宅群が、砂糖菓子を潰すようにもろくも叩き壊されていくではないか。
〔な、なんて破壊力なの!〕
百聞は一見にしかずというが、実際目の当たりにすると、そのケタ外れの破壊力には戦慄するしかない。超高層ビルでも
これを食らったら一発でコナゴナだろう。アントラーの破壊力もすごかったが、ゴモラの攻撃力はその上を確実にいっている。
これが、古代怪獣ゴモラの力。恐竜の一種でありながら、怪獣と同格といわれるわけは、非常に強靭な肉体を持ち、恐竜の
枠組みからはみ出してさえいるため。古代において広大な生息範囲を成し得た理由も、天敵となる恐竜がいなかったからだとも
言われるくらいなのだ。
単純なパワーで捉えれば、ウルトラ戦士が戦ってきた数百の怪獣たちの中でもトップクラス。
ただし、いかつい外見に反して本来の性質はおとなしく、普段の行動は鈍くて他者に危害を加えるようなことはまずない。
だが、一度怒らせて凶暴性を目覚めさせてしまうと抑えようがなく、手当たり次第に破壊を繰り返す凶悪怪獣となってしまう。
このゴモラが昭和四十二年に生きたままの状態でジョンスン島で発見され、日本に空輸された。しかし、途中で逃げ出し、
怒ったゴモラは大阪市街で大暴れし、こともあろうに迎え撃ったウルトラマンをも撃退してしまった。このとき、ウルトラマンは
得意の格闘技でゴモラに挑んだのだが、ゴモラはウルトラマンを圧倒的にしのぐパワーで完膚なきまでに叩きのめし、
悠々と土中に逃げ去ってしまった。ウルトラマンがここまで手も足も出ずにパワーのみで一方的に敗れたのは、才人の
知る限り他に例はない。
そのゴモラが、今こうして敵となっている。しかも、ヤプールのマイナスエネルギーを注ぎ込まれたことで暴走している。
〔ただ眠っていただけなのに、無理矢理起こされて戦わされるなんて……ヤプールめ、ひどいことを。だが、戦うしかない!〕
やりきれない思いはしたが、ウルトラマンAはゴモラを倒すために構えをとった。
だが、エースの敵はゴモラだけではなかった。いや、より以上の危機はエルフたちにこそ迫っていた。
「きゃぁぁーっ!」
〔くっ! アリブンタか!〕
少女の悲鳴を聞きつけて振り返ったとき、そこには街を叩き壊しながらエルフたちに迫っていくアリブンタの姿があった。
狙っているのは一つしかない、少女たちの生き血だ。たとえマイナスエネルギーを得ても飢えは満たせていない。
このままでは、多くの少女たちがアリブンタのエサにされてしまう。エースは、いったんゴモラを置いてでもアリブンタを
止めようとジャンプしようとした。しかし、エースの背後から砂煙が吹き付けられ、視界を封じられて動きを止められてしまった
エースを、巨大なハサミがくわえ込んで投げ飛ばした。
〔くそっ! 今度はアントラーか〕
不意を打たれた。マイナスエネルギーで完全に蘇ったアントラーは、鈍重そうな外見からは想定できないほどの足の速さで
エースに迫り、そのアゴのハサミで首を刈ろうと狙ってくる。
むろん、エースはそれには乗らず、アントラーの突進の勢いを利用して投げ技をきめてやるが、頭から地面に叩きつけられたにも
関わらずアントラーにはほとんどダメージが見えない。それどころか、逆方向からはゴモラが建物を壊しながら迫ってきて、
エースは前後から完全に挟撃されてしまった。
〔挟み撃ち……か〕
ヤプールは、この二体でエースを葬るつもりらしい。しかも、アントラーの磁力光線がある限り、飛んで逃げることもできない。
エースの体には長引く戦いで疲労とダメージが蓄積し、才人たちにもダメージが伝わるくらいに万全とはほど遠い。果たして、
この二匹の凶獣を相手に勝つことが出来るだろうか。いや、勝てなくとも、このままではエルフや人間たちを助けることができない。
「ハッハッハッハッ! ようやく最初から貴様たちに勝ち目などなかったことに気づいたか!」
そのとき、勝ち誇った声がアディールに響き渡った。
何者だ!? ヤプールか? いや、この声は確か!
エースが、耳の奥にしまいこんでいた過去の戦いの記憶を呼び起こしたとき、街の中に緑色の複眼を持つ星人が巨大な姿で現れた。
「フハハハハ! 久しぶりだな、ウルトラマンA!」
「ギロン人、やはり貴様だったか!」
「ハッハッハッ、貴様に復讐したがっている宇宙人はごまんといることを忘れるな。さあて、今度もまんまと罠にはまったな。
貴様らはバルキー星人どもが我々の主力だと思っていたようだが、奴らはただの露払いにすぎん。連中を相手に手の内を
見せすぎたな。おかげで、俺は無傷であの光もやりすごすことができたぞ。残念だったなあ」
「くっ!」
ティファニアの渾身のエクスプロージョンも、無駄な努力だったとあざ笑うギロン人に対してエースたちは歯噛みしたが、
ヤプールの非情な姦計に一杯食わされたことを認めざるを得なかった。
「貴様、仲間がやられていくのを黙って見ていたのか」
「仲間? 笑わせるな、あんなゴミどもなどいくらでも替えが利くわ。死ねば死んだで、利用の方法はいくらでもあるしな。
そんなことにこだわっているから、貴様は余計なエネルギーを使ってしまったのだ。そんなことを言うならば、ほれ、貴様の
仲間どもを見てみるがいい」
「なに! なっ!?」
ギロン人の指差した先を見てエースは驚愕した。なんと、エースとともに超獣軍団と戦っていたゴルメデとリドリアスが
マイナスエネルギーの黒い波動に侵されて苦しんでいる。それどころか、ゴルメデの頭部に赤い結晶体のようなものが
生えてきて、リドリアスも腕に長い爪が生え、角が生えた凶悪な顔つきに変貌していくではないか。
「貴様、彼らになにをした!?」
「別になにも? だが、アリブンタとアントラーにエネルギーを与えたとき、奴らが近くにいて影響を受けてしまったようだな。
しかしこれは我々にとってうれしい誤算だったようだ。マイナスエネルギーの波動が、奴らの遺伝子に眠っていた記憶を
呼び起こしてしまったようだな」
眠っていた記憶、その言葉で才人とルイズははっとした。リドリアスたちの、あの変異した姿は、始祖の祈祷書の
ビジョンでブリミルたちが戦っていた変異怪獣たちと同じ。あの謎の光に取り付かれて暴れていた頃に戻ってしまったというのか!
変異してしまったリドリアスとゴルメデ、カオスリドリアスとカオスゴルメデは破壊衝動に突き動かされるように暴れ始める。
「やめろ! 正気に戻るんだ」
「ムダだ、ヤプールのマイナスパワーを甘く見るな。さあ、新たなヤプールの僕どもよ、存分に破壊を楽しむがいい」
凶暴化してしまったリドリアスとゴルメデは、目を狂気に染まった赤色に変えて暴れまわる。すでに理性は失われて
いるようで、あれだけ献身的に守ろうとしていた街を手当たり次第に破壊している。
「こっちに来るぞ、逃げろ!」
向かってくるカオス怪獣たちから、街に残っていたエルフたちは一目散に逃げ始めた。あの二匹はもう味方ではない。
悪霊に取り付かれて狂わされてしまった。そのことも彼らの絶望を助長し、道は我先に逃れようとするエルフたちで
あふれ、無理して飛んで逃げようとした者たちが空中で衝突して群集の上に墜落する惨事が多発した。
このままでは、あの二匹のために大勢の犠牲者が出てしまう。狂ってしまった二匹の前に、唯一正気で残っていた
ヒドラが立ち向かっていくが、カオスゴルメデが口から火炎熱線を吐いて襲い掛かってくる。ヒドラも口から高熱火炎で
応戦するが、空中でぶつかって相殺しあった爆風は一方的にヒドラに向かい、ヒドラは吹き飛ばされて建物に衝突してしまった。
だが、それでもヒドラは翼を羽ばたかせて立ち上がり、戦おうとする。
〔やめろ! もういい、無理をするな〕
テレパシーを使ったエースの呼びかけにもヒドラは答えず戦おうとする。カオス怪獣とアリブンタの行く先には子供たちがいる、
それは子供の守り神であるという地球の伝説にある幻の鳥のような、気高くも痛々しい光景であった。
しかし、ヒドラの力ではカオスゴルメデを足止めするだけで精一杯だった。アリブンタとカオスリドリアスは悠然と進撃を
続けて、カオスリドリアスは翼を広げて飛び上がった。その先には、海が、そして東方号がある。まずい! だが止めようがない。
破壊されゆく街をギロン人は高笑いしながら眺めて言った。
「アディールを壊滅させれば、残ったエルフどもも絶望してたやすく御すことができるだろう。超獣どものエサにするもよし、
奴隷を欲しがっている宇宙人どもにくれてやるもよし。だがまずは、貴様はそこでなぶりものになりながら、守ろうとしていた
エルフと人間どもがアリブンタのエサになっていくのを見ているがいい」
「待て! そうはさせんぞ!」
ギロン人を止めようとするエースだったが、その前にゴモラが立ちふさがる。ヤプールに操られたゴモラは、大蛇のような
尻尾を振り回してエースを吹き飛ばし、さらに背後からアントラーが大アゴでエースをはがいじめにして締め上げてきた。
「ウッ、グァァッ!」
「その二匹の包囲からの脱出は不可能だ。慌てずとも、貴様はあとでじっくりと始末してくれるさ。今度はゾフィーは
助けに来ないぞ。フハハハ!」
アントラーの怪力で締め上げられるエースの全身を激しい痛みが貫く。こんなところで立ち往生している場合ではないのに!
焦る気持ちとは裏腹に、身動きのとれないエースにじりじりとゴモラが迫ってくる。このままでは……絶対の危機に陥った
エースを、悪魔たちの冷たい眼差しがせせら笑いながら見つめていた。
初代ウルトラマンが、いずれも単独では勝てなかった強敵を相手に絶望的な戦いを強いられているエース。
仲間との非情な戦いを強いられているヒドラ。ヤプールは、彼らが絶命するときを心待ちにしながら、次元の闇から
愉快げに見物している。
が、今はそれらよりもヤプールは楽しみに観戦しているものがあった。
「くっはっはは! エルフと人間の和睦だと? そんなものがなんになる。ゴミどもが結託したところでゴミのままよ。
貴様らにこれからほんとうの恐怖というものを見せてやる! 貴様らすべて、暗い水の底に沈むがいい!」
アディールから追い出され、海の上を漂う大勢のエルフたち。陸からはアリブンタが迫りつつあり、空からはカオスリドリアスが
滑空してきている。精霊の力を得ている彼らといえども、すでに先ほどのバルキー星人を葬った魔法で精神力を完全に
使いきり、浮くだけでもやっとになってきている。
空から狙われる恐怖と、溺れる恐怖がエルフたちを襲う。かといって、超獣の迫り来ている陸には戻れない。そのとき、
海上に東方号から魔法で増幅された声が響いた。
「アディール市民の皆さん! この船に避難してください。この船はちょっとやそっとじゃ沈みません! 早く!」
はっとして、エルフたちは洋上に停泊している巨大船を見た。あの島のような巨艦なら、確かに海に漂っているよりは
安全に違いない。宇宙人や超獣の攻撃にさらされ、傷ついてはいるが喫水線が下がった様子は欠片もなく、船体が
並外れて丈夫なのもわかる。それに、最悪の場合でも浅瀬に各坐してしまえば沈むことだけは絶対にない。
我先にと、エルフたちは東方号に殺到した。飛ぶだけの魔法も使えなくなっている者のために、舷側からタラップだけでなく、
縄梯子やロープなどがありったけ下ろされる。そして這い上がってきた人たちを、モンモランシーたち女子生徒が船内に
誘導していった。
「慌てないで、ひとりずつゆっくり奥に進んでいってください! 大丈夫です。何万人でも、入る余裕はたっぷりありますから!」
新・東方号の元は世界最大の戦艦と空母であったのだから、余剰スペースは売るほどあった。大和型戦艦の乗員数は
通常二千五百名、しかし航空機格納庫等を合わせればその何倍も乗せられる上に、全体が強固な装甲で覆われている。
無理をすればアディール市民全員を収容することはなんとか可能だろう。実際、太平洋戦争末期に日本海軍は戦艦を
輸送船代わりにして、主砲の周りから航空機格納庫まで物資で詰め込みきった作戦をおこなっている。
しかし、いかに世界最大の巨艦といえども怪獣の攻撃の前には無力だ。海中からの攻撃こそなくなったものの、今度は
空からの攻撃が襲い掛かってきた。空中を高速で飛ぶカオスリドリアスは、東方号にエルフたちが避難してきているのを
見ると、口から光線を吐いて攻撃してきた。
「きゃあっ! ど、どこをやられたの! はやく報告しなさい!」
「ミス・エレオノール、落ち着いてください! 艦首甲板に損傷、火災が発生しています。早く消し止めろぉ!」
東方号艦首の木製の甲板がめくりあがり、火と煙を吹いている。大和型戦艦といえども重量の節約から、装甲には
薄い部分もあり、特に長い艦首は弱点ともなっている。
悲鳴をあげるエルフたちをなだめながら、水精霊騎士隊と銃士隊は消火と迎撃に当たっていった。
「あちちっ! 誰か水の使い手って、もう誰も魔法使えないんだっけか」
「しょうがない。みんな! ありったけのバケツを持ってくるんだ。それを飛べる使い魔を持ってる人に渡して、海水を
汲み上げてこさせよう。あとは全員でバケツリレーだ!」
「あーっ、あんな下らない訓練を実戦でやることになるとはな。つくづく、ぼくらは体を動かす仕事に縁があるらしい」
ぶつくさ言いながらも、ギーシュたちは延焼がこれ以上広がらないようにするための努力を始めた。
また、再度接近をしようとするカオスリドリアスに対しては、銃士隊が生き残っていた機銃を総動員して弾幕を張る。
当たっても効きはしないだろうが接近を阻めさえすれば御の字だ。ミシェルは、一部の人数をそれに割くと十人ばかりを
集めて別命を下した。
「ようし、ここは連中にまかせてボートを出せ! 格納庫にあったぶんをありったけだ、急げ!」
まだ洋上には多くの市民が取り残されている。中には精神力が切れて、立ち泳ぎだけで必死に耐えている者もいて、
放っておいては溺死者が大量に出てしまうだろう。元は大和と武蔵の格納庫に残されていた、大型のカッターと呼ばれる
ボートが次々に海上に投下される。
「これで全部か! よし、泳ぎに自信がある者は私に続け」
「副長!? 危険です。ここは私たちが!」
「馬鹿者! 我々が一番の危険を買って出ないでどうする! ボートを操るには一人でも人手がいるんだろう」
自分だけ安全な場所で指揮をとろうなどと彼女は考えていなかった。それに、もう指揮がどうとか言ってられるほど
落ち着いた状況ではない。銃士隊がこの百倍いても足りないであろう今、各人がそれぞれの判断で行動するしかないのだ。
「飛び込め!」
東方号の甲板から海中へ、ちょっとしたビルほどの高さから彼女たちは飛び降りた。海面に上がると、手近なボートに
這い上がって、モーターの代わりにつけられている推進用の魔法装置のスイッチを入れる。
一人でも多くを助けるんだ! 人間もエルフも、命の重さに違いはない。どちらも、ヤプールなぞにむざむざ踏みにじらせて
なるものかと、ミシェルたちは目を皿のようにして洋上に漂うエルフたちを見つけてはボートに引き上げていった。しかし、
懸命な救助活動にもまた、ヤプールは水溜りに落ちてもがく蟻に石を投げつけて喜ぶ子供のように、無慈悲な攻撃を
仕掛けてきた。
「フフフフ、こざかしい水澄ましどもめ。お前たちがいくらあがいても無意味だということを教えてやる。超獣マザリュースよ!
幻想と現実の境界から、愚か者どもに死をくれてやるがいい!」
その瞬間、アディールにまるで赤ん坊の泣き声のようなけたたましい鳴き声が響き渡った。さらに、覆う闇の結界が揺らめいて、
洋上の闇の中から蜃気楼のように巨大な超獣が浮かび上がってきた。死んだサボテンダーがマイナスエネルギーで
再生された超獣マザリュースだ。
「ひっ、あっ!? 空に、超獣が浮いてる!」
水面を漂うエルフたちの真上に、糸で釣られているかのように超獣が無音で不気味に浮きながら、ぎょろりと輝く黄色い目で
こちらを見下ろしている。その気味の悪すぎる光景に、エルフや銃士隊は背筋を凍らせた。だがむろん、ただ驚かせるためだけに
ヤプールが超獣を出現させるはずはない。マザリュースは、その不気味な容姿からは不釣合いに、おぎゃあおぎゃあと赤ん坊の
ような声をあげながら、豚のように大きく広がった鼻から白い毒ガスを噴射してきた。
「うわぁぁっ!」
「ぎゃぁぁーっ!」
「く、くそぉ、なめるなぁっ!」
逃げ場のない海上に無数の悲鳴があがり、流れてきたガスから逃れようとさらに多くが必死に泳ぎまわる。
一方で、数人わずかに精神力を残していたエルフが海水で水の矢を作って反撃を試みた。しかし、エルフたちの攻撃は
マザリュースの蜃気楼のような体に当たりはするものの、すべてすり抜けてしまって効果がまったくなかった。
「あいつ、実体がないのか!」
エルフたちは愕然とした。実体がない幻のような相手なら、どんな魔法も効きようがない。しかし、超獣のほうは確かに
存在するといわんばかりに、毒ガスだけでなく、口から火炎弾まで吐いて、確かに実体のある攻撃を仕掛けてくるではないか。
これが、今回出現したマザリュースの特性であった。かつてのマザリュースは異次元エネルギーを固定化している最中の
出来かけの状態で、毒ガスや火炎を撃つことはできたが幻にすぎなかったのに対し、今回サボテンダーという肉体を
ベースにして生まれたこいつは、実体を限りなく”ない”状態に近づけて存在することができる。いわば、幽霊とゾンビの
中間体のようなものであった。
「ハッハッハッ! 逃げろ逃げ惑え、それができるのも今のうちだぞぉ!」
闇を背にして、赤ん坊の声を撒き散らしながら浮遊して襲ってくるマザリュースはまさに悪夢そのものであった。
ガスから逃げ惑い、火炎弾から逃れるために水中に潜って顔を出さなくなったエルフも少なくない。銃士隊のボートも、
一艘、また一艘と転覆させられてはせっかく助けたエルフたちが海中に投げ出されていく。
東方号も無事ではない。対空機関砲は牽制の役割しか果たせず、何の害にもならないことがわかったカオスリドリアスは
再接近して光線を食らわせてきた。
「ぎゃああっ! あちぃっ! 水っ、水ーっ!」
「暴れるな! よせっ、海に飛び込もうとするんじゃない」
鎮火しかけた火災が再度発生し、まともにあおりを受けた水精霊騎士隊の少年が服とマントに燃え移った火を消そうと
暴れ狂い、ギーシュたちがバケツの水をぶっかけてやっと消し止めた。しかし火傷はかなりひどく、何人かが担架を
持ってきて、モンモランシーたち女生徒の救護班が水の秘薬を使いながら運んでいく。
「おぇ……だ、だめよ。これくらいで気をやったら、わたしたちだってこんなときのために訓練してきたんじゃない!」
「モンモランシー、頼む。なんとか助けてやってくれ!」
「わかってるわよ。わたしはあんたたちを殺してやりたいとは常々思ってるけど、葬式をあげてやりたいと思ったことは
一度もないんだからね」
遠まわしに皮肉をぶつけながらも、負傷者は彼女たちの手によって運ばれていった。が、負傷者がそれで終わりで
すむはずがない。水精霊騎士隊、銃士隊、エルフの騎士団と次々にやられて運ばれていき、交代の人員はいないために
甲板で戦う人数はどんどん減っていく。
しかし、消し止めては火をつけられるいたちごっこでもやめるわけにはいかないのだ。いまや、この東方号の船内のみが
唯一残された避難場所なのである。実際、カオスリドリアスの光線は甲板をえぐり、火災を引き起こしてはいるが、
装甲を貫通して船内にダメージを及ぼしてはいない。さすが、元は世界最大の戦艦であり宇宙人の侵略兵器であった
といえるが、火災を放置しては船内の換気がうまくいかずに酸欠状態を引き起こしてしまう。
「必ず、必ずウルトラマンがなんとかしてくれる。だから、それまでぼくらはなんとしてでもここを守りきるんだ!」
他力本願ではない。人にはそれぞれ分と役割というものがある。ならば、そこで全力を尽くしてできることをやりきらねば。
次々と仲間が倒れていく中で、ギーシュはすすだらけで消火作業を続けているギムリたちに叫んだ。
だが、カオスリドリアスの攻撃は止まらない。口から吐かれる破壊光線は絶対的な威力を持ってこそはいなかったが、
それゆえにじわじわとなぶりものにするような破壊をもたらしてくる。東方号は今はなんとか持ちこたえているが、それも
いつまで持つかわからない。
カオスリドリアスは変わり果てた姿で、人間とエルフたちに牙を向けてくる。その凶悪な様を見つめ、ティファニアは
悲しげな目に涙を浮かべていた。
「やめて、あなたたちはそんなことをするのを望んではいないでしょう。目を覚まして、正しい心を取り戻して、お願い」
しかしティファニアの願いも虚しく、ヤプールに洗脳されたリドリアスは破壊光線で東方号をじわじわと削っていく。
同じようにゴルメデは懸命に食い止めようとするヒドラをもついに、口から発する破壊光線『強力怪光』で倒してしまった。
〔ヒドラ! くそぉっ!〕
横目でヒドラが倒されるのを見ていた才人は、助けに行けなかったことを歯噛みした。ヒドラは胸に強力怪光を
まともに受けてしまい、白煙をあげながら体を痙攣させている。あれでは、もう……
ヒドラを倒したカオスゴルメデは、今度は強力怪光を街に向けて放ちはじめた。かろうじて戦火を逃れていた街並みが
爆発の渦に飲まれて粉々にされていく。さらに、その石くれや粉塵は逃げようとしているエルフたちの頭上に降り注いで、
さらなる恐怖とパニックをまねいた。
それでも、エースは彼らを助けにはゆけなかった。エースを襲う二大怪獣、ゴモラとアントラーの脅威はそれほどだったのだ。
「ジュワァァッ!」
アントラーの牙を掴んだまま、力づくで持ち上げて投げ飛ばした。だが、間髪いれずに突進してきたゴモラの頭が
エースの腹の下に潜り込み、鼻先の角が鋭く食い込んでくる。
「ヌッ、ウォォッ!」
必死に抵抗しようとするエースだが、ゴモラはそのままエースの体を頭で持ち上げて、かちあげるようにして放り投げてしまった。
背中から地面に叩きつけられて、舗装された道路に大きなひび割れが走る。人間であれば、あばらの何本かは確実に
へしおれていたであろうほどの衝撃を受けてもエースは立ち上がるが、その足は震えてすでに力は少ない。
〔くそっ、首だけの力なのに、なんてパワーだ!〕
エースの体重だって決して軽くはないのに、それをまるで感じさせない圧倒感こそ、ゴモラのゴモラたるゆえんのようなものであった。
力強く響き渡る雄たけびをあげ、疲れを知らないように飛び掛ってきて、その度に隕石のような突進力がエースを襲う。
すさまじすぎる野生のパワーは、超能力などに頼らなくても充分すぎるほどにエースを圧倒していた。初代ウルトラマンも、
ゴモラを倒せたのは、すでに科特隊の攻撃によって角や尻尾を失って弱りきった後から挑んだからで、ゴモラが万全だったら
一度目同様負けていた可能性も大きい。接近戦では、とてもではないがゴモラには勝てない。
かといって、距離をとっての光線技での戦いに移行するのはアントラーが妨害してきた。緒戦でエースがゴモラの
リーチの外からメタリウム光線を放とうとしたときである。アントラーが虹色磁力を放ってくると、メタリウム光線のエネルギーが
拡散して消滅してしまったのだ。
〔そんな! 磁力光線にこんな使い道があったなんて!?〕
才人は初代ウルトラマンが戦ったアントラーは使用しなかった磁力光線の能力に驚愕していた。これでは、どんな光線も
発射前にすべて打ち消されて無効とされてしまう。唯一、ゴモラの弱点である飛び道具がないという攻めどころも役に
立たなくなった今、ゴモラはなんのためらいもなく突撃してくる。
支援
「フゥワァッ!」
受け止めようとすれば弾き飛ばされ、避けるにもスピードがあっておもうにまかせない。おまけに、勢いを殺すために
接近戦を仕掛けようとすれば、鋭い爪に牙と角だけでなく、ひじの鋭いとげを活かした技『ゴモラ肘鉄』が襲ってくる。
ただ単なる怪力ならば、どくろ怪獣レッドキングや用心棒怪獣ブラックキングのほうが上だといわれるが、ゴモラは
全体的にバランスがよくて、どのリーチでも隙がない。
さらに、ゴモラにはそれ以上の恐るべき武器があった。
〔このっ! 尻尾がっ!!〕
距離をとろうとするエースを、くるりと背を向けたゴモラの長くて太い尻尾がすごい速さで飛んできて打ち据える。
それは鞭というよりも竜巻で巻き上げられた大木が叩きつけてくるといった感じで、とてもではないが受け止めるなどと
いったことができるレベルではなかった。
〔これが、初代ウルトラマンを倒したゴモラの……ルイズのお仕置きが優しく感じるぜ〕
才人は擬似的ながらも全身を貫く痛みにのたうちたいのを、毒ずくことでなんとか我慢していた。苦痛の大半をエースが
カットしてくれているというのにこの痛み、生身だったら全身内出血で青黒くなっていることだろう。
〔ちょっとサイト、あんた……こんなときに昔を蒸し返すんじゃないわよ。最近はこっちも我慢してあげてるのに、まだ根に持ってるわけ……?〕
〔うっせ……最近は鞭をやめて平手に変わっただけだろうが。お前、絶妙に痛いポイントわかってるからな〕
〔ふん、あんたはわたしだけを見てればいいの。モンモランシーは甘いけど、わたしは厳しい……んですからね!〕
ルイズも強がっているが、ダメージは隠し切れなくなってきていた。それでも、エースがかばいきれなかった分のかなりを
才人が請け負い、ルイズにはそのまた溢れた部分しかいってないのだが、それだけゴモラのパワーが度を越している。
それに、ルイズは女の子だ。
カラータイマーが激しく鳴る中で、ゴモラはよろめくエースを容赦なく攻めていく。エースもパンチやキックで反撃するが、
ゴモラはまるで疲れることを知らないようだ。仕方ない、ゴモラは地底怪獣としての性質も持っており、陸上と同じくらいに
地底での行動も得意であり、かつては大阪の地底を自分の巣のように自在に動き回って科特隊を翻弄した。
ゴモラの尻尾攻撃がエースの顔面に炸裂し、目の前が真っ白に染まったような衝撃が襲ってくる。なんとか朦朧とする
意識を奮い起こすものの、左目の視力が失われていた。遠近感が失われて、ぼやける視界でゴモラの位置がつかめなくなった
エースはとっさに距離をとろうと後ろに下がった。
だが、下がったそこには罠が待ち構えていた。
〔し、しまった! アントラーが、いつの間に!?〕
気づかぬ間に忍び寄っていたアントラーが、背後からエースをその大アゴでがっちりとくわえこんでしまった。暴れるが、
万全の状態であるならば力づくで脱出もできるが、カラータイマーが点滅して大きなダメージも受けている今ではふりほどく
余裕があるはずもない。身動きのとれなくなったエースの前にゴモラが足で砂煙をあげながら助走をつけ始め、ギロン人の
勝ち誇った高笑いが響いた。
「ウルトラマンA! 今度こそ貴様の最期だな。そこで死ね!」
ギロン人の振り下ろした手を合図としたかのように、ゴモラは角を振りかざし、地響きをあげて突進してきた。猛牛、犀、
いいや動物に例えられるレベルではなく、火山弾が天空から大地に降り注いできて焼き尽くそうとするかのように、
数百メートルの距離をないも同然の速さで突進してきたゴモラは、エースの胴に頭から激突した。
「フッ! グォォォーッ!」
受け身をとることもできず、直撃を許したエースの体にとてつもない衝撃と痛みが襲い掛かった。骨がきしみ、内臓が
悲鳴をあげる。わずかに残っていた体の力が抜けるように消えていき、エースの目の光が点滅して消えかける。
だが、ゴモラの一撃はこれで終わりではなかった。ウルトラ筋肉を突き破って、エースの腹に深々と突き刺さった
ゴモラの角……ゴモラは地底を掘り進むとき、頭部の角から振動波を放って掘削をおこなっているのだが、そのゴモラの
三日月形の頭部が赤くスパークすると、突き刺さった鼻先の角から強烈なエネルギー振動波がエースの体内に叩き込まれたのだ。
「グアァァァーッ!」
地底の、高圧で固められた岩石をもたやすく粉砕する振動波が直接体内に叩き込まれる衝撃は言語を絶するものであった。
苦痛というレベルを通り越した感覚が神経を伝わって脳をも破壊しようとしていく。才人とルイズはそれぞれ、悲鳴をあげる
ことすらできないままのたうち、もしエースが痛みの遮断をおこなっていなかったらふたりとも精神が壊れていたかもしれない。
が、ふたりを守ったことでエース自身も失神は免れたが、ダメージは覆いようもなかった。
「ウ……オォォォ……ッ」
アントラーの拘束から放たれたエースががっくりとひざを突き、前のめりに崩れ落ちた。
静寂……刹那の静寂が場を支配する……だが、非現実に逃避したいと思われるそれも、ゴモラの勝利の雄たけびが打ち砕いた。
「ウ、ウルトラマンが……負けた」
わずかなうめき声だけのみで、地に伏したウルトラマンAはぴくりとも動かない。消えそうなカラータイマーの点滅と、目の
輝きだけが、エースが生きているのだということを示し……そして、もう立ち上がる力が残っていないことを伝えていた。
絶望……もはや、超獣軍団にとって恐ろしいものはなく、ギロン人は追い討ちをかけるように宣言した。
「見ろ! ウルトラマンAは我々が倒した。もう、お前たちを守るものはない。お前たちに残された道は、絶望して滅び去ることだけだ。
さあ、苦しみぬいて逝くがいい。ハッハハッハハァ!」
高笑いし、ギロン人も手のハサミからの光線『ギロン光線』で街を破壊し始め、ゴモラとアントラーも破壊に加わっていく。
エルフたちの阿鼻叫喚、それはヤプールに滅ぼされた星の断末魔がまたひとつ再現されていくことである。しかし、エースには
すでにそれを止める力は残されてはいなかった。
「ま、待て……」
「ファハハハ、ウルトラマンA。貴様はそこで、この街のものどもが皆殺しになっていくさまを見ているがいい。簡単に殺しは
するなとのことだ。己の無力を悔やみながら、最後に八つ裂きにされるのを楽しみに待っていろ!」
ギロン人はエースを足蹴にして笑いながら、超獣軍団に攻勢を強めるように命じた。
すでにさえぎるものはなく、ゴモラ、アントラー、アリブンタ、カオスゴルメデが街を壊す。海に逃れる人々にも、空から
マザリュースとカオスリドリアスが襲い掛かる。それはもはや戦闘ではなく、一方的な蹂躙であり虐殺であった。
しかし、一方的な戦況にも関わらず、ヤプールは異次元のすきまから不愉快な眼差しで地上を見下ろしていた。
「おかしい……これだけ追い詰めているのに、マイナスエネルギーの発生が少ない。おのれ、あの連中のせいか!」
ヤプールの視線の先……そこには、傷だらけになりながらも、なおあきらめずに戦っている人間たちの姿があった。
ボロボロになった東方号の甲板で。
「ふむ……ギムリ。残ったのは、あと何人だね?」
「おれを含めて、五人。ずいぶん寂しくなっちまったなあ……いや、医務室に運ばれてった連中が今頃女子に手厚く
看護されてると思うと、なんかうらやましい。はやめに怪我しとけばよかったな」
「なるほど、それも一理ある。しかし諸君、ここでいいところを見せておけば、あとでエルフのご婦人方にモテモテになるのは
うけあいだ。ここに残った諸君は、そのチャンスが濃厚にあるのだぞ!」
「なるほど! さすがギーシュ隊長。一生ついていきますぜ!」
荒れ狂う海原で。
「副長! これで三人目です。引き上げてください!」
「よし、海底にはあと何人残ってる?」
「五人です。今、ケイトとノリが引き上げに行ってます」
「よし、さすがエルフだ。先住の力で、これだけの時間水中にいたのにまだ息がある。しかし急げ、この海ではあと何分も
持たないぞ!」
「はっ!」
「最後の最後まで、命を救うことをあきらめない。そうだろう……だから、わたしたちも絶望はしないよ」
絶望しかないと思われる地獄で、時に笑顔さえ見せながら戦い続ける人間たちの姿が、エルフたちの心を闇に食われる
寸前から守っていた。彼ら、彼女らはその行動だけを見れば狂気とさえ見えたろうが、戦いの目的は敵を倒すことではなく
命を救うことだった。
生きたいと望む心は、人間もエルフも変わりない。そして、同じ命の危機の中でこそ人間の本性というものが隠さずに
露呈される。そんななかで人間臭さを失わずに、海中から溺者を掬い上げ、少しでも安全な避難場所に誘導しようとする
人間たちの姿を見て、演技だと思うような腐り方をアディールの市民たちはしていなかった。
「さあ早く、急いで!」
「すまん、感謝する……」
少しずつ、少しずつエルフたちは東方号の船内に避難していった。パニックに陥らずに、希望を保って。
ウルトラマンがいないことなど関係ない。なぜなら、それが彼らの使命なのだから。
しかしヤプールはそれらの努力を続ける人間たちよりも、東方号の頂上で声を張り上げ続けるひとりの少女を忌々しげに見ていた。
「皆さん、あきらめないでください! お子さんや怪我をした人を助けながら、慌てずに避難してくださーい!」
同じことを何回叫んだかはわからない。しかし、途切れずに続くその声が、恐怖に負けそうになるエルフたちを支え続けたのは間違いない。
ほとんど意思の力だけで体を支え、ティファニアはこれが自分の使命だと魂を奮い立たせる。何度も、何度も……体力の
限界などはとうに超えているはずなのに、ティファニアは叫び続けた。
だが、正直ティファニア本人にも、どうして自分にこれだけの力が残っているのかはわからない。いや、ティファニアは過去にも
一度、こんなふうに疲れを忘れて走り続けたことがあったのを思い出した。それは、森の中で過ごしていた頃、ひとりの子が
帰ってこずに、一晩中森の中を捜しつづけた時、あのときも不思議な力が何度も倒れそうになる自分を奮い立たせてくれた。
それが、大切なもののために困難に立ち向かおうとする心、勇気だということをティファニアはまだ知らない。けれど、その手の
中には、彼女の勇気に反応するかのように、輝石が静かな輝きと暖かさを放ち続けていた。
エルフの伝説に残る、奇跡の勇者の残していったという青い石。それは、まるでティファニアの心を試しているかのように
じっと沈黙し、同時になにかを待ち望んでいるように、常に彼女のそばから離れずに見守り続けている。
だが、希望を捨てずに立ち続けているティファニアにヤプールは狙いをつけた。超獣を動かし、目障りなものはすべて葬り去ろうと、
悪意の炎を燃え上がらせる。エースが倒れ、アディールを守る人々の最後の希望の灯火も、無残に吹き消されてしまうのだろうか。
空を闇に閉ざされたアディール。だが、闇をも小さなものと見下ろす大空の、太陽と月のあいだにひとつの星が輝き始めていた。
果てに広がる無限の大宇宙……そこに生きる者にとっては、数千年のときも一時の瞬きにすぎない。六千年の時を超え、
彗星が夜空に幾度も輝くように、この星に向けて再会を約束した青い光が向かいつつあることを、まだ誰も知らない。
続く
以上、お楽しみいただけたでしょうか。
ウルトラマンとエルフと人間の連合軍と、超獣軍団との決戦もいよいよ熱を増してまいりました。
エースのピンチ、ですが人々はあきらめません。ウルトラシリーズのよいところは、昭和から平成にいたるまで、ヒーローと怪獣の
単純なプロレスではなく、そこに生身の人間が関わって、時にウルトラマン以上の力を発揮することだと思っています。
特別な力を持っているからヒーローになれるのではなく、普通の人間でもヒーローを超えられる。それを教えてくれる、姿は
巨人でも、心は等身大のヒーロー、それがウルトラマン。
今作でも、その点については開始から心がけてきました。地球を地球人の手で守ることが当然であるように、ハルケギニアを
守るのもまたこの地に住む者たちでなくてはならないと。
さて、怪獣たちですが、ゴモラをようやく出せました。現在では有名になりすぎて、出しどころが難しかったのですが、この局面ならば
問題ないでしょう。
なお、ゴモラの振動波は初代ゴモラにもちゃんと備わってることが資料で明言されてます。
ただし、飛び道具形式での超振動波は使いません。あれはレイのゴモラだけの特権みたいなものですから。
以上です。代理投下お願いいたします。
---- ここまで ----
以上。我代理投下完了せり、ということで。
途中でさるさんに引っかかってしまいました。
私の方は感想タイムと再度のさるさんを避けるため、23:30ごろから
開始する予定です。
代理投下乙です
乙、そして支援。
あ、失礼。時間が長すぎましたね。
投下前に再度予告しますので、さっきの時間は無視してください。
投下したいのに予約があるから、で機会を逸されるのは本意ではありませんから。
それでは進路クリアなら23:45ごろより第53話の投下を開始します。
支援
それではいきます。
「ミスタ・ラルカス?」
ふがくたち、それに遅れること一日で学院に戻ったコルベールたちから
さらに遅れること一日。魔法学院に戻ったばかりのタバサは、戻るなり
ルイズに捕まった。
「そう。三十年前にガリア王国南薔薇花壇騎士だったって聞いたから。
タバサはガリアの出身でしょ?だからどこにいるか聞いたことがないかな?って……
有名な人だった、って聞いたし」
ルイズは言葉を選びながらタバサに問いかける。この間のタルブの村の
一件で多少距離が縮まったとはいえ、まだタバサの纏う雰囲気はルイズに
打ち解けてはいない。突き放しはしないが親身でもないその態度は、
ルイズにも緊張を強いる。
しばしの沈黙。思わず息を呑むルイズに、タバサは静かに告げた。
「……その人に会うのは諦めて」
「え?」
いきなり何を言い出すの?――そう口にしようとしたルイズに、
タバサはとどめの一言を突きつける。
「……私が……殺したから」
タルブの村から戻ったコルベールは、自分の研究室に真ん前に鎮座
していた『竜の羽衣』に思わず腰を抜かしそうになった。
それでも事情を聞けば俄然奮発するのは、彼も立派な癈じ……もとい
技術者の一人だと言えるだろう。
旅装を解くのももどかしく、コルベールは早速『竜の血』ことガソリンの
合成に取りかかった。ルーリーからふがくに手渡された手引き書を元に
手持ちの材料と格闘するその傍らには、ふがくと、そして成り行きで
巻き込まれたギーシュがいた……
目の前に置かれたグラスに少しだけ入った無色透明な液体。ふがくは
グラスを手で仰いでにおいをかぐと、意を決したようにくいっと中身を
飲み干した。
そして……顔をしかめる。
「これ……軽油……。少しだけなら発動機の掃除にいいけど……」
「うーん。難しいな。『錬金』の配合がまだ甘かったか……」
苦々しく顔をゆがめるふがくと、考える仕草のコルベール。
その横から、ギーシュが別のグラスを差し出した。
「これはどうかな?」
ふがくはグラスを受け取ると……無言で中身を床にぶちまける。
「ああ!何をするんだ!?」
思わず声を上げるギーシュに、ふがくは怒りの表情をあらわにする。
「アンタねぇ!私を壊す気?何さりげなく廃油なんて出してくるのよ!」
「廃油って……それはさっき僕が作った油なんだけど」
「できばえが廃油だって言ってるの!さっき出してきた重油の方が
まだマシよ!それとも何?こんな短時間で腐るほど足が早いって言う気!?
どっちにしても使えないわよ!」
それを聞いてうなだれるギーシュ。彼にしてみれば先のフィールドワークに
引き続いて巻き込まれただけ(単位がもらえると言われたのもあるが)なのに、
やってみれば怒りの矛先を向けられるだけ。ドットとはいえ『土』メイジの
端くれとして、『錬金』でここまでけちょんけちょんにのされるのは
凹むどころの話ではない。もっとも、ふがくにしてみれば無茶な油で
壊されるのは真っ平ごめんとばかりに態度が硬化するのも無理はない
ことであるが。
「まあまあ。ミスタ・グラモンも悪気があってやったわけじゃないから」
「悪気があったら困るわよ!」
コルベールのフォローも役に立たず、ふがくの怒りは収まらない。
混乱の度合いを深める研究室を、モンモランシーとルイズが遠巻きに
見つめていた。
「……何やってるのよギーシュは……」
思わず額に指を当てて溜息をつくモンモランシー。タルブの村で見た
『竜の羽衣』が自分たちより先に戻っていることは、馬で走る自分たちの
真上を轟音ととも飛び去っていったことで知っていた。ここに一機しか
ないということは、もう一機は見送りだけで引き返したのだろう。
その乗り手がシエスタだということにも驚いたが。
その横で、ルイズは無言のままだ。モンモランシーがここに来た時には
もうルイズが先にいたが、そのときから一言も言葉を交わしていない。
(わたしにあんなことを聞いてきた時から悪くなってるわね。タバサとも
話していたようだったけど、何かあったのかしらね?)
ルイズの様子にモンモランシーは内心で小さく溜息をついた。
そして、フィールドワークから戻ってすぐのことを思い出す――
「……それで、話って?」
旅装を解くのももどかしく、珍しい来客にモンモランシーは秘薬の
原料保存用冷蔵庫から冷えたハーブティーを取り出してルイズに振る舞う。
もっとも、ケティのようにお菓子作りに使うわけでもなく、懐にも厳しいのを
承知で何とか頑張って買った代物だったが、こういうことにも役立つとは
モンモランシー本人が思っていなかったのではあるが。
ハーブティーのカップを前にして、もじもじと言葉を選ぶルイズ。
急かした割にはそんなに言いにくいことなのだろうか?とモンモランシーは
いぶかったが、とりあえず本人が言い出すまで待つことにする。
それから数分経ってから、ルイズはようやくまともな言葉を口にした。
「あ、あのね。あなたの、おばあさまのことなんだけど……」
「うちのおばあさまが、どうしたの?先に言っておくけど、おばあさまは
もう十年以上前に死んでしまっているわよ」
「うん。それは知ってる。あかぎに聞いたから」
その名を出されて、モンモランシーはルイズが聞きたいことを悟った。
「……『命を移す秘法』かしら?聞きたいのは?」
そう言って自分のグラスを指で弾く。澄んだ音が響き、部屋に木霊する。
「う、うん。あなたか、あなたのお母さまが、その技を受け継いで
いないかな?って……」
虫の良い話だと思っているのだろうか?ルイズの言葉には遠慮ばかりで
全く自信が感じられない。
モンモランシーはこれ見よがしに溜息をつくと、ルイズにきっぱりと
言い放つ。
「ああ、もう!いったいどうしたのよ?さっきから遠慮っていうか、
煮え切らないわね!」
「ご、ごめんなさい」
しょげるルイズ。そこにモンモランシーがもう一度溜息をつく。
「……ひょっとして、あなた、わたしがあなたのこと嫌ってるって思ってる?
そう思われているなら心外だわ。
確かにちょっとからかったことはあるけど、他の娘みたいに公爵家に
喧嘩売った結果も考えずにいじめに回った事なんて一度もないわよ。
第一、うちはあなたの家に足を向けて眠れないくらいなんだから」
モンモランシーの言葉を、ルイズは反芻する。そういえば――入学した
ときも、自分の評価が『ゼロ』に定まった後でも、モンモランシーの
態度は一貫して変わっていなかったっけ、と。
縮こまっていたルイズが顔を上げると、モンモランシーは「しっかり
しなさいよね」と言わんばかりの表情でルイズを見る。そして、言った。
「……ちょっと長くなるけど、いい?先に言っておくけど、昔話。
つまらないかもしれないわよ?」
「え?あ……うん」
ルイズの返事を聞いてから、モンモランシーは語り出す。
「……実はね。わたしは、小さい頃おばあさまの笑顔が怖かった。
おばあさまはいつも笑っていて……笑うことしかできなくなっていたの」
モンモランシーはそこで一度言葉を切る。そしてルイズに問いかけた。
「ルイズ、あなたは三十年前にこのハルケギニアで何があったか知ってるわね?
あかぎさんに会ったんだし」
「ええ。『キョウリュウ』って化け物が暴れ回って、たくさんの人が
死んだって。わたしの母さまもあかぎのおかげで助かったって聞いたわ」
「そこまで知っているなら話が早いわ。『キョウリュウ』の毒ってね、
目に見えない空気みたいなものなんだって。生き物の根幹を破壊するもので、
たくさん浴びて吸い込めばすぐに死んでしまうけど、そうでなくても
じわじわと苦しめられて死んでいく……そういう毒。鉛に変えられた
『キョウリュウ』の死体がうずくまる旧クロステルマン伯爵領のその場所は、
今も立ち入りが禁止されているって話よ。心臓から毒が放たれ続けて
危険だからって。
わたしのおばあさまはあかぎさんからその毒の治療方法を教わったけど、
それは非常に限定的で、施術の難しい術式だった。それにね、平民の
あかぎさんを認めない多くの貴族はおばあさまにだけ目を向けた。
このトリステインだけじゃない。ゲルマニアもそうだったわ――」
そう。このハルケギニアにおいて、『放射線』というものはまだ理解の
埒外に存在するものだ。それは今でもほとんど変わらない。
かつてこの世界に召喚された大日本帝国の秘密兵器、試製核動力二足
歩行型超重戦車『キョウリュウ』との戦いにおいて、臨界に達して暴走した
原子炉は大量の放射線をばらまき、この世界に未曾有の被害をもたらした。
急性放射線障害によって多くの人間が苦しめられる中、多少なりとも
その実情を知る鋼の乙女であるあかぎによって、大日本帝国でも
まだ臨床試験の段階にすら達していなかった骨髄移植手術が実施され
重篤な患者が救済されたことは、たちまちハルケギニア中に驚きと称讃を
伴って伝えられた。
しかし、その際にいずこかの者によって、この世界では平民扱いされる
あかぎの名は伏せられ、トリステインのモンモランシ夫人とガリアの
騎士ラルカスが共同で治療方法を開発したとねじ曲げられた。
そして、同じく『キョウリュウ』による大きな被害を受けながらも
その治療方法開発において蚊帳の外に置かれていたゲルマニアは、
外交チャネルを通じてガリアに治療方法の提供を要請するが、時の王
ルイ一三世は全く相手にせず、やむを得ずラ・ヴァリエール領近くの
国境においてゆるやかな交戦状態が継続していたトリステインに協力を仰ぐ。
その際、停戦条件としてゲルマニアは数多くの条件を突きつけられることに
なるのだが、それらをすべて丸呑みしてでも国民を救いたいと願う
時の皇帝アルブレヒト一世は、何一つ言い訳もせず事実上の降伏文書とも
いえる停戦文書にサインしたと伝えられている(そしてそれが国内に波紋を
投げかけ、現在のアルブレヒト三世が即位するまでの血を血で洗う凄惨な
お家騒動の元になったのだが……それはここで語られることではない)。
そのようないきさつもあり、トリステインからモンモランシ夫人を
中心とした医療チームがゲルマニアに派遣される。
だが、今や『命を移す秘法』として知られる骨髄移植手術を施術できるのは
トリステインではあかぎを除けばモンモランシ夫人だけであるため、
他のメンバーは彼女のサポートしかできない有様だった――
「――わたしはおばあさまの日記でしかその状況は知らないけど、
派遣された当日の日記にはたった一言、『地獄(エンフェル)』とだけしか
書かれていなかったわ」
その言葉にルイズは息を呑む。モンモランシーは続けた。
「その日から、おばあさまの日記には、自分の無力さと絶望ばかり
書かれていた。助けたいのに助けられない。そんな自分を助けてくれる人も
そばにはいない。それでも手を止めるわけにはいかない。治療を旨とする
『水』メイジにとって最悪な状況よね。わたしだったらたぶん折れてる。
そんな状況で、おばあさまは一年間ゲルマニアで治療を続けた――」
放射線被害の回復に最も貴重なものは時間だ。治療までの時間が延びれば
延びるほど、その患者の生存率は絶望的な数値にまで落ちる。
そんな放射線を知らない、というハルケギニア、そして帝政ゲルマニアの
状況は、その中でも最悪なものとなっていた。
モンモランシ夫人は、ガリアのサナトリウムで見た光景以上の凄惨な
状況に言葉を失った。だが、それでも、彼女は表向きはその感情を表に
出さず、患者に笑顔と希望を振りまき続けた。奇しくもかつて騎士ラルカスが
してきたことと同じ事を彼女は祖国から遠く離れたこの地ですることになり、
彼女は四六時中休むことなく動き続けた。
そうして――派遣された一年間で百人ほどの人間を救い、その百倍近い
人間を見送った彼女がトリステインに帰国した時。彼女を見た国王
フィリップ三世は、その変わりように絶句した、と伝えられている。
祖国に戻ったモンモランシ夫人は、終始笑顔だった。そう。何があろうとも。
今回のゲルマニアへの人道的派遣で、多くのメイジが心を壊した、
との報告を国王は受けていた。当初より期限を短縮させて一年間で彼女たちを
呼び戻したのも、そういう理由からだ。
今回の派遣で、トリステインはゲルマニアへの治療方法そのものの
提供を厳に禁じていた。施術は派遣したトリステインのメイジだけで
行い、道具一つもゲルマニアに用意させなかった。
それが完全に裏目に出た。
『お客さん』扱いのモンモランシ夫人たちにゲルマニアの対応は
決して親身ということにならず、それが彼女たちの心をすり減らした。
一人、また一人と心を壊し、最後に残ったのはモンモランシ夫人と
あと一人の若い女メイジだけだった、と記録には残っている。彼女の名は
今に残っていない。アカデミーの将来を有望視された人材だった、とあるが、
この派遣から時を置かずトリステインを出奔してしまったためだ。
その行方は杳として知れない。
そこまで話してから、モンモランシーは一息つく。そしてすっかり
ぬるくなったグラスでのどをしめらせた。
「帰国してから、おばあさまはその秘術について一言も口にしなくなったわ。
トリスタニアのサナトリウムではまだ毒に苦しむ患者が多くいたし、
フィリップ三世陛下すら、その毒でみまかられたというのにね。とはいえ、
トリステインだとまだあかぎさんがいたから、おばあさまがそんな状態に
なっても何とかなったみたいだけど。
でもね。その派遣でうちは昔ほどじゃないけど結構盛り返したわ。
転封された領地は戻してもらえなかったけど、傷ついた家格は雪ぐことができた。
だけど、十年前、おばあさまが死んでしまった後でお父さまが先物で
大失敗して、うちは屋敷も何もかも売り払わなければならなくなりそうになった。
そんなある日の夜、あなたのお母さまが突然従者一人だけ連れて訪ねて
こられたのよ。公爵家の奥方様がそんなのありえないわよね。
しかも、そのときあなたのお母さま、何て言ったと思う?」
モンモランシーの言葉に、ルイズは小さく首を振った。
その様子に、モンモランシーは一つ釘を刺した。
「……わたしが言ったってこと、絶対に内緒にしてよね?
あなたのお母さま、うちの両親に『二十年前の手術代をお支払いに
来ました』って、そう言ったのよ。その上で、従者に運ばせていた
トランクいっぱいに詰められた金塊をうちの両親の前に差し出したの。
そりゃ一ドニエでも欲しい時だもの。うちの両親も驚いたって聞いてる。
それに、うちのおばあさまがラ・ヴァリエール公爵夫人の手術をやった、
なんてそのときまで聞いたこともなかったし。第一、仮にそうだとしても、
ラ・ヴァリエール公爵家ともあろう家がそんなに支払いを滞らせるはず
なんてないわよね。だけど、あなたのお母さま、それ以上のことは言わなかった。
おかげでうちはクルデンホルフへの借金を完済して、ボロボロだった
屋敷も修理することができた。本当に、感謝してもしきれないくらいなのよ。
うちは」
モンモランシーはそう言って、ようやくルイズの問いに答える。
「そういういきさつもあって、うちはあなたの家に足を向けて眠れないし、
おばあさまはお母さまやわたしにその秘術を伝えることなく死んでしまったわ。
道具もほとんど残ってないわね。おばあさまの遺言で壊したから。
それ以外だと……確かトリスタニアの博物館に注射筒が一つあったと思うけど。
あれはギーシュの大伯父さまが作ったものだって聞いてるし」
「そう……なんだ」
「悪いわね。あなたの期待に応えられなくて。
それに、昔話聞かせちゃって、退屈だった?」
「ううん。こっちこそ、あなたの家の恥を無理矢理聞いたみたいになってゴメン」
「いいわよ。それよりも、あなたの身内にあの秘術が必要な人がいるって
いう方が心配よ。もしかして……お姉さま?」
「うん。あかぎもはっきりとは言わなかったんだけど……」
「そう。大変ね」
「今はあかぎの秘薬で落ち着いてるんだけど……。
やっぱり、ちい姉さまに元気になって欲しいって思ったから。
わたしのわがままね」
「そんなことはないわよ。
……もし、待っていてもらえるなら……わたし、学院を卒業したら
あかぎさんに師事しようかな?トリスタニアのアカデミーとサナトリウムで
研究が続けられてるって聞いたことがあるけど、おばあさまのこともあるしね」
――意外なところで、道、見つけちゃったかな?とモンモランシーは思う。
あのタルブでの戦いで見た、あかぎの『癒しの抱擁』。
あれを習得できるとは思えないが、ハルケギニアではまだ遠く及ばない
遠い異国の医術を学び、それが活かせるなら、きっと多くの人を救うことが
できるだろう。『水』のメイジとして、それに勝る喜びはない。
祖母の悲劇を繰り返さないためにも、孫である自分が何かできるのであれば、
それは何よりのことだと、モンモランシーは思った。
モンモランシーがそう思いを固めた時。研究室にマチルダが息せき切って
入ってくる。コルベールが何事かと彼女に駆け寄ると、マチルダは
それを振り払ってふがくに懇願した。
「ふがく!あたしをタルブの村に連れて行って!学院長の許可はもらってるから!」
うちひしがれるコルベールに目もくれず、マチルダはふがくの両肩を
掴んでそう言った。普段の落ち着いた様子で己を包み隠すことも忘れるほど
焦るその姿に、ふがくはまず落ち着かせようと慎重に言葉を選ぶ。
「落ち着いて!深・呼・吸!それに地が出てるって!」
「そんな暇ないんだよ!アンリエッタ姫より先にタルブに着かないと
あの子が!」
「それ?どういうこと?」
その声にマチルダがはっと振り返る。そこに立っていたのは、ルイズだ。
「ねぇ?どういうこと?姫さまが、何?」
ルイズの問いかけに、マチルダは答えられない。ここにはコルベールや
ギーシュ、モンモランシーもいる。そんな中で、言えるはずもない。
言いよどむマチルダに、ルイズは疑惑の視線を向ける。それは信頼して
いたものを侮辱された目だ。そして、言う。
「わたしも行くわ」と。
ルイズがそんなことを言い出してマチルダたちのタルブ到着が遅れるのをよそに。
ワルド子爵の駆る風竜は、タルブの村をその視界に捉えていた。
魔法衛士隊の保有する最速の風竜だけあり、通常の風竜の二割増しの
速さで空を駆け抜ける。訓練の際に集合地点の目標にする全長一リーグほどの
『竜の道』を目にした時、ワルドは自分の背中に掴まるアンリエッタ姫に
話しかける。
「ご気分はいかがですか?」
「悪くはありませんわ。でも、かのふがくはこれよりももっと速いのですよね?」
「はい。あの速度……万が一敵に回ったとすれば、その強襲を防ぐ手立ては
今のトリステインにはありません」
「今日のことで、それが現実になってしまうかも知れませんわね」
「ご冗談を」
「そうとも言い切れませんわ。ルイズ・フランソワーズがどう動くか……」
アンリエッタ姫のその言葉に、ワルドは返す言葉が見つからなかった。
ワルドがタルブの村の『竜の道』に降り立った時。村の警護を隊長
アニエスから委譲されていた第七小隊小隊長エミリーは突然の来客に
驚きを隠せなかった。
「ひ、姫殿下?」
その驚きは、エミリーの隣に立つ第一小隊第一分隊長のエルザも同様。
だが、エルザにとって、今日は驚きばかりの日になった。
最初の驚きは、今朝早くに到着した高速乗合馬車から降りてきた人間だった。
ミス・エンタープライズの知人からの紹介だと名乗ったティファニアという、
同性の自分から見てもはっと息を呑むような雰囲気とスタイルの少女と、
彼女が連れているチハという貧相なんだがすごいのかよく分からない
装備に身を包んだ少女の二人は、数人の幼子たちを連れてこの村にやって来た。
次の驚かされたのは、ティファニアたちと一緒にやって来たシンが、
実は今まで知らされていなかった銃士隊小隊を率いてやって来たということ。
第八小隊など、隊長のアニエスからは聞かされたこともなかった。
だが、シンはアニエスから『自分付きのゲスト』と紹介されたことが
あったため、アニエスは当然知っていて話さなかったのは明白。
だが、彼女が驚いたのはそれだけではなかった。
(シン小隊長と一緒に来た三人だけでなく、先に一人身分を隠して村に
来ていたというのが、ね……)
エルザは自分の横にいるシンにちらりと視線を向けてから内心嘆息する。
あのティファニアという少女は、それだけ重要な存在なのだろうか?
帽子を目深にかぶったままで、身体検査もシンがすでにやったと言うことで
省略――妙におどおどした感じで、人慣れていないあの少女が……と
そこまで彼女が考えたところで、ワルドに手を引かれてアンリエッタ姫が
風竜から降り立った。
「みなさん。ご苦労さまです」
アンリエッタ姫はそう三人に声をかけた。それを受けて、先任のエミリーが
質問する。
「あの、姫殿下?ひょっとして、ここに来たのは誰にも告げずに……
なんてことありませんよね?」
「もちろんです。ワルド子爵しかわたくしがここにいることは知りませんわ」
「やっぱり……」
苦笑するエミリー。それを聞いてエルザは卒倒しそうになった。
一人シンだけが平然と答える。
「でも、これで王宮の膿が出せますよね。アニエス隊長は今頃大変
でしょうけど」
「王宮の……膿?」
「あーそういうことですか。シンさん、その辺全部知ってますね?」
困惑するエルザと、地球でのシンの話を聞いたことがあるエミリーは
対照的に諦めたような顔をする。シンは間違いなくアンリエッタ姫が
突然王宮から姿を消したことに関係している。今まで表に出なかった
小隊を率いているということは、そういうことだ。
(シンさんはMI6にいたわけじゃないはずだけど……)
エミリーは内心そう思ったが、だからといって諜報活動ができない
わけではない。それでも、今までシンにそういう任務を与えていたのも、
このタイミングで秘密にしていた小隊を白日の下にさらしたのも、
間違いなく目の前のアンリエッタ姫。その理由が、エミリーには理解
できなかった。
そして、シンはエミリーの質問には完全な答えを出さなかった。
「そのことはノーコメント。でも、ボクが今日この村に到着すると
知らせたから、姫殿下はこうして足を運んでくださったわけで」
「そうなのですか?それではどうしてアニエス隊長にも内密に事を
進めたのですか?」
「後顧の憂いを絶つ絶好の機会だから、ですわ。それに、わたくしの
師であるあかぎさまが目覚めたと聞いてご挨拶にも伺わないとは失礼にも
ほどがあります」
アンリエッタ姫はそう言って目の前のエルザを納得させる。真の理由を
知るワルドはその滑稽さに思わず笑みを漏らしたが、素性が良いだけに
それすら様になるだけだった。
アンリエッタ姫がエミリーたちに案内されてシエスタの家に到着した時。
そこにはルーリーとティファニア、チハもいた。アンリエッタ姫到着の
報を聞いて、あかぎは思わず溜息を漏らす。
「……今日はなんだかすごい日ね。はぁ〜」
「ずっと眠りに就いていた恩師が目覚めたと聞いて駆けつけない弟子は
おりませんわ」
アンリエッタ姫が通された食堂には、今この五人しかいない。あかぎの
態度にも動じないアンリエッタ姫に、あかぎは一言釘を刺す。
「私は確かに『女の子の武器はここぞという時には最大限に使いなさい』とは
教えたけれど、だからといってこういうことは感心しないわね」
「今がそのときですわ。あかぎさま。できうるならば、もっと教えを
請いたいと思います」
「それは私に参謀になれ、ということかしら〜?」
ジト目でアンリエッタ姫を見るあかぎ。だが、アンリエッタ姫は信念を
持った目でそれに応えた。
「そうであって欲しいと思っておりますわ。それに……」
アンリエッタ姫は視線をティファニアに移す。
「はじめましてティファニア。わたくしはアンリエッタ・ド・トリステイン。
あなたの従姉です」
「え?あ、あの……は、はじめまして……」
アンリエッタ姫の雰囲気に、ティファニアは完全に呑まれてしまっていた。
おどおどと返答をするティファニアに、アンリエッタ姫はにこやかに
微笑んだ。
「わたくしがこの村に急ぎ足を向けた理由は二つ。一つ目はあかぎさまにご挨拶すること。そして、もう一つは……」
アンリエッタ姫はそこでいったん言葉を切る。そして、ティファニアに
向き直った。
「ティファニア。あなたに、王族としての務めを果たしてもらいたいと
思ったからです」
「は、はいっ!?」
ティファニアはその言葉に心底驚いた。そして、あかぎとルーリーは
その表情に険しさを加える。
「……そういうこと、ね」
あかぎは一際大きな溜息をつく。だが、ティファニアはその溜息の
意味に気づかず、ただおろおろとするだけ。そこにアンリエッタ姫が
たたみかける。
「ティファニア。あなたのご両親、モード大公とシャジャルどのを粛清した
王家を恨んでいるでしょう。ですが、王家なき今のアルビオンは、
簒奪者どもの手によりこのハルケギニア全土を巻き込む戦乱を企てる
悪しき国となってしまいました。始祖の系統たる王家を復興し、
アルビオンを元の平和な国に戻すには、あなたの力が必要なのです」
アンリエッタ姫はそう言ってティファニアの手を取る。
「わた、わたし……が?」
「ええ。あなたの従姉として、わたくしが支えます。このタルブに
身を寄せているアルビオンの民を率いて、起ってもらえますか?
正当なアルビオン王家最後の姫であるあなたが旗を掲げれば、彼らは
すぐにあなたの元にはせ参じることでしょう」
「わたしが?アルビオンを……取り戻す?」
ティファニアはチハとあかぎ、ルーリーに視線を移す。だが、門外漢の
チハはそれに明確な回答を持たず、あかぎとルーリーは無言のまま。
誰も救いの手をさしのべてくれない状況で、ティファニアは下を向いて
思案する。
「……わたしに、そんな資格……あるのかな?だって、わたしは……」
『まじりものだし』――そう言おうとしたティファニアの唇に、
アンリエッタ姫の指先が触れた。
「あなたはあなた、そうではありませんか?ティファニア?
誰に恥じることもない。あなたはアルビオン王弟モード大公と、
騎士シャジャルどのの忘れ形見。大きな心ですべてを受け入れ愛した
大公と、勇敢さと優しさを兼ね備えた騎士の娘。
それ以外の何だというのです?」
「アンリ……エッタ……」
顔を上げるティファニア。その目の前には、優しく微笑むアンリエッタ姫の
顔があった。
「もし……わたくしとあなたの立場が逆であったとしても、わたくしは
王権復興のために立ち上がることでしょう。それが、王家に連なる者の
宿命(さだめ)なのですから」
そう言って、アンリエッタ姫はティファニアの頭を優しく抱きしめる。
「……本当に、わたしで、いいのかな……こんな、わたしでも」
そうつぶやいて目を細めるティファニア。その様子にルーリーが
アンリエッタ姫に注進しようとしたまさにそのとき。家の外からこの世界には
未だあり得ない音――レシプロエンジンの高回転ピストン音――が響き渡った。
それから間を置かず、食堂に三人の女たちが入ってくる。
先頭で息せき切るのはマチルダ、そしてルイズが続き、最後がふがく。
三人の闖入者にティファニアとチハは驚いたが、アンリエッタ姫やあかぎ、
ルーリーは動じなかった。
ルイズのおかげで遅くなったものの、ふがくに目一杯飛ばしてもらって
タルブの村までやって来たマチルダだが、銃士隊の制止を振り切って
シエスタの家に乗り込んだ時――自分は遅かったのだと知った。
そこにはアンリエッタ姫と以前魔法学院で出会った魔法衛士が、
あかぎやルーリー、そしてティファニアたちと一緒にいた。ティファニアは
マチルダたちが乗り込んだ時にアンリエッタ姫の手を握って怯えた表情を
見せたが、それがマチルダだと知ってまた驚いた顔を見せた。
「マ、マチルダねえさん?」
「あら?どなたかと思えば……サウスゴータどのではありませんか」
ティファニアを抱いた姿勢のまましれっと言い放つアンリエッタ姫に、
マチルダは頭にかあっと血が上るのを抑えきれなかった。
その横で、ルイズは事情が飲み込めずに困惑する。自分が連れて行けと
駄々をこねて出発が遅れたからこうなった?でも、あかぎの家には
アンリエッタ姫とワルド子爵がいて、それにアンリエッタ姫に抱かれるように
怯えた風を見せる見たこともない綺麗な女の子と、どことなく気弱そうな
雰囲気のある、こちらも見たこともない鉄の鎧を身につけた黒髪の少女。
そしてアンリエッタ姫はロングビルに向かって『サウスゴータ』と言った。
ルイズの記憶では、それは四年前にアルビオンで起こった内乱、
『モード大公の叛乱』で逆賊側に付いた貴族の家名だ。思わずマチルダに
視線を移すルイズを横に、マチルダは舌打ちした。
「……やってくれたね。お姫様」
「あらあら?なんのことでしょう?」
マチルダの貫くような鋭い視線を柳に風と受け流すアンリエッタ姫。
それがいっそうマチルダの激情を呼び覚ます。
「ざけんじゃあないわよ!あんた、テファにいったい何を吹き込んだ!」
「控えよ。ミス・サウスゴータ」
今にもつかみかからんとするマチルダに、ワルドがそう言って掣肘する。
いつの間にその位置に移動したのか、アンリエッタ姫の後ろに控えていたはずの
ワルドが、後ろからマチルダの肩を掴んでいた。
「な……いつの間に」
「トリステイン王国第一王女アンリエッタ・ド・トリステイン殿下の
御前である。言葉遣いに気をつけたまえ」
ワルドはそう言ってマチルダに自制を要求する。ルイズには、そんな
ワルドの様子に違和感を覚えた。そしてアンリエッタ姫にもう一度視線を
移して――まだ彼女に抱かれたままのティファニアの耳にようやく目が
行った。
「……エ、エルフぅ〜っ!?」
驚愕に目を見開くルイズ。
だが、そのリアクションはルイズただ一人だけだった。
「……何かおかしな事でもありましたか?」
と、アンリエッタ姫。
「彼女、ティファニアちゃんはシャジャルちゃんの娘だから〜。
別におかしな事はないわよ〜」
と、あかぎが言う。ワルドも、あかぎの横にいるルーリーも、事情を
知っているためか何も言わない。この世界でエルフが人間からどう思われて
いるかなど知らずティファニアと一緒にいたチハは別段驚くことなどなく、
チハと同じくこの世界のエルフのことなど知らないふがくも驚くことはなかった。
そんな周りの反応に、ルイズは思わず赤面する。自分だけ騒いで
バカみたいと思ったからだ。
そのルイズの反応を見て、アンリエッタ姫はティファニアの体を離して
椅子から立ち上がった。ワルドが無言でその後ろに従う。
「とりあえずの用事が済みましたから、わたくしは戻ります。ティファニア」
「は、はいっ!?」
名前を呼ばれて思わずかしこまるティファニア。
その表情に、アンリエッタ姫は笑いかける。
「良い返事を期待していますわ」
そう言うと、アンリエッタ姫はシエスタの家を後にした。
ワルドとアンリエッタ姫を乗せた風竜がタルブの村を飛び立ったのは
それからすぐのこと。村長や銃士隊にはアンリエッタ姫が今日ここに
来たことは内密にするよう強く言い含められた。その理由を知っている
シンは別格として、何をするのかを理解したエミリーは小さく溜息を
ついたのは余談だ。
二人がいなくなったシエスタの家から、ルーリーもまもなく出て行った。
その背中に、あかぎは話しかける。
「ルリちゃんはどうする気?」
「……さあね。アタシももう年だ。けれど……」
そこでルーリーは立ち止まる。背中を向けたまま、彼女は続けた。
「誰かのために何かがしたい、というなら、まだ手伝えるかもしれないね。
失ったものはどうやっても戻っては来ないがね」
その言葉に、ティファニアも、マチルダも、揃って言葉が出なかった。
そうして見えなくなったルーリーのその背中に、明確な返事ができたのは
あかぎだけだった。
「……確かに失ったものは戻ってこないわね。けれど、まだなくして
いないものだったら、取り戻せるかもしれないわ。
そう思わない?みんな?」
「私には全然話が見えないんだけど」
あかぎの言葉にふがくがそう答える。そして、チハに視線を向けた。
「日本の鋼の乙女、ね。陸軍?どっかで会ったことなかった?」
ふがくにそう言葉をかけられて、チハは感極まった。自分が守ろうとして
守れなかったはずの妹。あのときとは雰囲気が少し異なっているけれど、
その姿は忘れようはずもない。
もしも時間軸が少しずれていれば、南方のどこかでともに戦っていたかも
知れない。だが、チハの知っているふがくは、あの硫黄島で再起動直前の
状態のまま米軍に破壊されたフガクだ。一言も言葉を交わしたこともなければ、
こうして向き合ったこともない。だから、チハはこう答えた。
「そうです。はじめまして。私は大日本帝国陸軍の鋼の乙女、九七式中戦車 チハです」
「チハちゃん……」
あかぎはチハの言の葉ににじみ出る寂しさを感じ取った。大戦中盤の
ミッドウェイ海戦で戦没したあかぎは、大戦末期の硫黄島の戦いは知らない。
あかぎが知っているのは、終戦の日をその目で見た白田技術大尉から
聞いたことだけでしかない。鋼鉄の暴風と米軍が呼称した凄惨な戦いだった、
とか、日本の鋼の乙女はその戦いでほぼ壊滅した、とか。その程度のことだ。
陸軍の無理解に端を発する作戦の稚拙さからフィリピンで米軍に鹵獲され
連合軍として戦った期間が長かったとはいえ、チハは海軍のゆきかぜと
並んであの大戦を生き残った日本の鋼の乙女だったが、その話を聞く前に
アンリエッタ姫が訪れてしまったのだった。だから、あかぎにはチハが
何故そんな寂しさを感じさせるのか、その理由はうかがい知ることが
できなかった。
ふがくもチハの雰囲気が変わったことに気づいたが、それが何故なのかは
思い当たらなかった。どこかで会ったような気がする――記憶の片隅に
確かにおぼろげな形が見え隠れするものの、それを肯定する材料がない。
だから、ふがくも努めていつもと変わらない返事をする。
「そう。私はふがく。見てのとおり超重爆撃機型の鋼の乙女よ。
アンタも災難ね。こんなところに飛ばされて」
「確かにそうかも……。でも、そのおかげでテファと出逢えたです」
「チハ……」
チハはそう言ってにこりと笑う。それを見て、ティファニアもようやく
さっきまでの緊張が解けた気分になった。
「ありがとう。そう言ってもらえると、すごく嬉しい」
「テファは大事なお友達です。テファがそう願ったから、私はテファの
力になることに決めたんです」
チハのその言葉には、確かな自信が込められていた。そんな二人を見て、
ルイズは疎外感に囚われる。
(――わたしだけ、何も知らないんだ……)
さっきのアンリエッタ姫のことも、ワルド子爵のことも。
そして、今目の前にいるティファニアという少女とチハという鋼の乙女のことも。
さっきだってロングビル――マチルダの言葉に突っかかって駄々をこねて
ここまで付いてきたけれど、結局何もできないばかりか時間を取らせて
何か取り返しの付かないことになってしまった。
そんなルイズの思いは、誰にも伝わることはなかった。伝えようとして
いないのだから当然だ。ルイズは、自身のことをさらけ出すことが苦手だった。
それはそうできる相手がカトレアしかいなかったことと、育った環境が
大貴族の三女というものも大きかった。
しかし、思いは伝わらなかったが、そんなルイズの心の揺らぎを
感じ取った者はいた。あかぎと、ふがくだ。
「……何してるのよ?」
「え?あ……」
「あ、じゃないでしょうが!アンタが駄々こねて無理矢理付いてきたんだから、
何がしたいのかはっきり言えばいいじゃない」
「え……あ……ご、ゴメン……」
ふがくにそう言われて、ルイズは思わず謝った。そこにふがくが
さらに続ける。
「わかんないことがあるんだったら、聞けばいいでしょうが!
アンタ、まさか自分が何でも知ってるなんて思い上がってるんじゃない
でしょうね?」
「そ、そんなことないわ。だって……さっきの姫様のことだって、
どうしてあんなことになっていたのか全然わからないし」
「それは私も気になったわね。あかぎ、何か知ってる?」
ふがくにそう問われて、あかぎは小さく溜息をついた。
「そうね。彼女は私の優秀な生徒、ということね。少し優秀すぎたかも
知れないわ」
「どういうこと?」
次にそう聞いたのはルイズ。あかぎは視線をティファニアに移してから、
続ける。
「ティファニアちゃんのお父様ね、アルビオンのモード大公殿下なの。
ルイズちゃんなら、これで話がつながるかしら?」
「……それって!?」
あかぎの言うとおり。ルイズにはそれだけで十分だった。
「つまり、姫様は、ウェールズ皇太子様の敵討ちをするおつもりなの……?」
「立派な大義名分ね。モード大公家を滅亡に追いやったテューダー王家が
滅んだ今、ティファニアちゃんは正当な、最後のアルビオン王位継承権を
持つから。ティファニアちゃんを旗頭にして、生き残った王党派を
まとめ上げることができれば、アンリエッタ姫殿下はティファニアちゃんを
支援する名目でアルビオン本土奪還と王権復古に向けて堂々と兵を
向けることができるわ。トリステインにいるアルビオン王家の遠縁を
担ぎ出すよりもよっぽど効果的ね。そもそも、そうする気なら姫殿下
ご自身がテューダー王家の血筋でもあるわね。ただ、そうしてしまうと
今度はトリステインがアルビオンを併合するという余計な詮索を招くかしら。
ともあれ、そうやって今の共和政府の首魁クロムウェルを打倒する
つもりなのね」
「無茶ね」
あかぎの溜息交じりの話を聞いて、ふがくは一刀両断した。
「兵力は今度のゲルマニアとの同盟でそっちも引っ張り出せば都合が
付くでしょうけれど、保有兵器に技術差がありすぎるわ。蒸気機関と
施条砲を実用化している国に、今のトリステインじゃ勝ち目はないわね
……私たちが手を貸さない限り」
「内戦でどこまで灰燼に帰してくれたか、というところね。それでも
厳しいわね。……さて」
そこまで言ってから、あかぎはもう一度ティファニアに向き直る。
「ティファニアちゃん」
「は、はいっ!」
名前を呼ばれてティファニアは思わず姿勢を正した。あかぎの表情は真剣。
それ故に、ティファニアも思わず息を呑んだ。
「あなたにその覚悟はあるかしら?アンリエッタ姫殿下にどう返事する
つもりなのかしら?」
「え……あ……あの……」
ティファニアの声には明らかな迷いがある。あかぎも誰も先を促さない。
そうしてしばらく時間が過ぎて――ティファニアは意を決したように
あかぎに告げた。
「わたし、自分にしかそれができないってことだったら、やります。
アンリエッタにも、そう返事します」
「いいのかい?テファ。今聞いただろ?あの姫様、テファを利用する
だけかも知れないんだよ?」
マチルダはそう言って翻意を促すが、ティファニアは譲らなかった。
「そう。ルリちゃんもあなたがその気になったら手を貸すことを
いとわないでしょうし、あなたも、そうでしょ?」
それを見て、あかぎはマチルダに視線を送る。マチルダはティファニアの
決断を内心苦々しく思ったが、それを顔に出したのは最小限に留める。
「あの姫様に手引きしたのはスピノザだろうし。あたしらかつての
モード大公家の直臣三家が揃ってテファに手を貸すことは、どうせ織り込み
済みだろうしね。
ただ、あんたが見てのとおりテファは……」
「それについては心配することはないでしょうね。確か、魔法の中には
偽りの姿を与えるものもあったはずだし、何なら装身具として常に耳当てを
付けていてもそんなに違和感はないわね。姫殿下がそのあたりを見落とす
はずがないもの」
「『フェイス・チェンジ』だね。『水』と『風』のスクウェアスペルだよ……
って、まぁ一国の姫がやる謀ならそれくらいは用意するか。気にくわないねぇ。
何から何まで掌で踊らされている感じだよ」
「それも政よ。とにかく、みんな、今日はうちに泊まって行きなさい。
夜も遅いし、村長と銃士隊には明日の朝、私から話をしておくわ」
「あ、あかぎさん。私とテファは、あのおばあさんのところにご厄介に
なるってことに……」
チハが申し訳なさそうに言うと、あかぎは思い出したように舌を出す。
「あ、いけない。そういえばルリちゃんがそんなことを言っていたわね。
私もティファニアちゃんにお母さんのことを聞きたかったけれど、
それはまた今度にするわね」
「あたしも一緒に行くよ。少し話したいことがあるからね」
そう言ってマチルダもティファニアとチハと一緒にシエスタの家を
後にする。それを見送って、ルイズはぽつりとつぶやいた。
「……わけわかんない……どうして姫様がそんなことを……」
「宮廷に上がったことのないルイズちゃんには難しいかも知れないわね。
でも、アンリエッタ姫殿下も考えた上でのことだと思うわ」
理解できない風のルイズに、あかぎが言う。それを聞いてふがくが続けた。
「確かに。今の神聖アルビオン共和国、だっけ?この前のタルブの村
襲撃にも絡んでたみたいだし、近いうちにしかけてくるでしょうね。
その前に叩く、か……あかぎ、いったいあのお姫様に何を教えたわけ?」
ふがくの問いかけに、あかぎは目を伏せた。
「……戦略と戦術よ。海軍軍令部で実施していた対米戦に関する数々の
演習問題を、姫殿下は十二才の時にたった一年でものにしたわ。
私が休眠してからも、独学で研鑽を続けたみたいね」
「冗談でしょ?」
「姫殿下も、自分にできることが何か、を真剣に考えているのよ。
ずっと以前からね」
「その演習問題って、何のことなの?」
ふがくが呆れたような声を出したのに、ルイズが問いかける。
それに答えたのはふがくだ。
「簡単に言えば、自国の十倍の国力を持つ敵国に勝つための方法よ。
最初はこっちを甘く見て油断してるけど、本気になったらこっちの攻撃が
届かない造船所から毎日補助艦艇、毎週準主力艦、毎月主力艦を量産
してくるような国を相手にね」
それを聞いてルイズは言葉が出なかった。逆を言えば、あかぎやふがくの
いた大日本帝国は、そんな国を相手に戦うための方法を考えなければ
ならなかった、ということになるのだから。
「ふうん。面白いことになってきたわね」
そう言って、人形のような白い顔の少女は、手にした袋からオブラート
(これもタルブの特産だ。ハルケギニアで祭祀に用いられる無発酵の薄焼き
パンと同名だが、世間には『食べられる紙』として認識されている)に
包まれたキャラメルを一つ取り出して口に含む。銃士隊の出立ちをしているが、
髪は長く、一般の隊員とは違った風体。その鋭い翠眼は、『竜の道』
近くにある庵から離れない。
そこに後ろから声がかかる。少女が振り向くと、そこにいたのは純白の
マントを纏い、金髪をショートカットにした少年のような風体の銃士――シンだ。
「それにしても、まさかキミがいるとはね。ジャネット」
「たまたまですわ。シン小隊長もお一つどうです?」
「ありがとう」
ジャネットと呼ばれた銃士は、そう言ってキャラメルの袋をシンに向ける。
シンは袋からキャラメルを一つ取り出すと、ぽいっと口に放り込んだ。
「うん。やっぱりアルビオンのタフィーもいいけど、タルブのキャラメルの
方がボクは好きだな。懐かしい味がする」
「小隊長のお国の味だったんですか?」
「ううん。違うよ。これはチハさんの国のお菓子だからね」
「そうなんですか……」
そう言って、ジャネットは再び視線を庵に向ける。彼女の興味は
もうシンから離れていた。
ジャネットと呼ばれたこの少女。彼女はトリステイン王国銃士隊で
諜報活動を担う第八小隊の隊員であると同時に、ガリア王国の非公式
組織であるガリア北花壇警護騎士団でも凄腕で知られる『元素の兄弟』の
末妹でもある――が、それを知る者はここにはいなかった。
以上です。
36KBと長くなったので分割しようかとも思いましたが、これで区切りよく
次の話に入れるので、そのまま出すことにしました。
次回の舞台は王宮に。内容的にもしかすると避難所に投下することになるかも
知れません。
それでは。また次にお目にかかれるよう頑張ります。
乙でした
誰もいないみたいなので、13:09頃から投下を開始します
Secret Mission 03 <雪風への試練>
ルイズ達を乗せたゲリュオンは先に学院へと帰らせ、スパーダとタバサ、キュルケの三人はラグドリアン湖のほとりで夜を過ごしていた。
キュルケとタバサは焚き火を挟んでスパーダと向かい合う。その表情はいつになく真剣だ。
腰を下ろすスパーダは己の武器を全て地面に置き、二人の顔をじっと見つめている。
焚き火から発せられる淡い光は三人を照らし、地面に影を映しだす。スパーダの影は、本来の姿である悪魔のものと化していた。
「この周辺の土地はガリア王家が統治をしている直轄領」
最初に口を開いたのは、タバサの方からだった。
「かつての統治者はシャルル・オルレアン公。現ガリア王の弟……」
「君はその王族の一員というわけだ」
無表情に、淡々と言葉を口にする彼女にスパーダが反応した。
先ほどのいざこざの際、キュルケはタバサの実家が近くにあると言っていた。つまり、タバサはそのオルレアン公爵家の人間であり、ガリア王家に属する者であることもすぐに察せられる。
意外な出自の判明とはいえ、あまりスパーダは驚かない。タバサという名前はどうせ素性を隠すための偽名なのだと思っていたからだ。
だが、タバサはふるふると小さく首を振っていた。
「違う。オルレアン家は今、王族の権利を剥奪されている」
そこからタバサは無表情ながらも、普段の無口さとは裏腹で饒舌に、自らの身に起きたことを話し始めた。
キュルケは自分が代わりに話そうかと持ちかけたが、タバサは「いい」と返して自らの口で目の前にいる悪魔に告げようとしていた。
その姿が痛ましそうに見えて、キュルケは切なく俯いた。
彼女の本名は、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。まごうことなきガリア王家の人間であり、オルレアン公爵家の公女であったという。
だが、タバサの口から語られた通り、今は王族としての権利は剥奪されている身だった。
五年前、タバサの祖父ガリア前国王が崩御する際、長男ジョゼフとその弟シャルルのどちらが新たな王として相応しいかで継承争いとなり、ジョゼフ派とシャルル派の二つに分かれたという。
その二人の王族についてはスパーダもトリステイン魔法学院の図書館である程度の情報は得ている。
ジョゼフという男は正統な王族の人間でありながら魔法の才能に恵まれず、とても王の冠を被るには器の釣り合わない、暗愚な人物だったらしい。
普段は政治も顧みず、表舞台に立たずにチェスなどの一人遊びに耽っているという。
そんな彼は無能王≠ネどと呼ばれて馬鹿にされているらしいが、ガリア王国が未だ破綻していない所を見ると、実際は裏の政治家としての能力は高いようである。
メイジとしてはまさに無能なのかもしれないが、それは人間の個人差があるために仕方があるまい。
魔法で政治を行なうことはできない。政治が行なえるのは人間が持つ能力そのものなのだ。故に、魔法が使えなくともジョゼフは政治家として活動することはできる。
そして、タバサ……シャルロットの父である次男シャルルは暗愚な兄に反して魔法の才能も人望も溢れていたそうで、誰もが彼こそが次の王に相応しいと考える者も多かったそうだ。
もっとも、そのシャルルには兄と違って欠点らしいものがまるでない。人間は決して完璧な存在でないことは、スパーダはよく知っている。
どんな人間であろうと、その人生には浮き沈みがある。それが無く美談しかないものは単なる作り話か、真実は隠されているのがほとんどだ。
そのシャルルという男の話を読んで、スパーダはこう思った。
(絵に描いたような偉人だな)
それこそ、作り話に出てくるような。
もちろん、そんなことを口にしてしまえばタバサは怒りだすだろうからやめておこう。
彼女にとっては、愛すべき父親なのだろうから。
話を戻すことにしよう。
二つの派閥に分かれたガリア王国であったが、最終的にはジョゼフが王位に就くことになった。
弟、シャルルをその手にかけて。
表向きの理由は反乱を企図したことによる暗殺ということであったが、あれだけ多くの人々に愛されていたはずの父がそんなことを企むはずがない。
兄のジョゼフは王座が欲しいばかりに、有能な弟を疎ましく思い、その命を奪ったのだ。
ジョゼフが戴冠をしたのも実際は異なり、やはり弟のシャルルに王位が譲られていたという話もガリアの貴族達の間で囁かれてもいた。
きっと、ジョゼフは弟の家族……すなわちシャルロット達の命を盾にして王位を奪ったのだ。そのために口封じとして弟を暗殺したのだろう。
それだけでは飽き足らず、今度はその娘のシャルロットまでも狙ってきたのだ。
父が殺されてからすぐに母と共に宮廷へ呼びつけられたシャルロットは晩餐会の席に招かれたが、そこに用意されていた料理には毒が盛られていた。
シャルロットの母は娘をかばい、自らその料理に手をつけたのである。
それはただの毒ではなく、水の先住魔法で作られた心を狂わせる毒が仕込まれたものであった。以来、シャルロットの母は心を病み、実家の屋敷に軟禁されてしまっているのである。
王族の権利を剥奪されたシャルロットはジョゼフの娘が団長を勤めるガリアの暗部・北花壇騎士団へと入団させられ、さらにトリステイン魔法学院へ厄介払い同然に留学させられた。
そして、何かしらの厄介事が起きればその都度呼び戻され、任務中での死を目的とした危険な仕事を押し付けられ、こき使われているのだという。
今回のラグドリアン湖の件はもちろんのこと、たまに魔法学院からいなくなるのもそれが理由だ。
こうしてシャルロットは自らの名を捨て、タバサと名乗っているのである。
だが、彼女とてこのままで終わりはしない。
「わたしは父を殺し、母にあんな仕打ちをした伯父を許さない」
淡々と、まるで物語を聞かせるかのように喋り続けていたタバサの言葉。彼女の心に刻まれている冷たく鋭い感情をスパーダははっきりと感じ取っていた。
「復讐、か。……それで力を求めるわけか」
スパーダの悪魔絡みの仕事についてくるのも、仇を倒すために力をつけるためなのだ。
力を手に入れるためならば、どんな危険なことが待っていようと、決して惜しまない。
「でも、いつか母様の心を元に戻してあげたい。わたし達メイジの力ではどうにもならない」
「だから、ダーリンがさっき使った秘薬でこの子のお母様を治してもらいたいの」
無二の親友自ら口にする話を黙って聞いていたキュルケが、言葉を引き継いだ。
二人の瞳にはスパーダに対する懇願の思いが宿っている。特にタバサはようやく見つけられた治療の手段に大きな期待を抱いていた。
それこそ、母が治るのであれば悪魔にさえ魂を売り渡すと本気で考えるほどに。
スパーダはじっと自分を見つめてくる二人の顔を見回し、しばしの間熟考していたがやがてゆっくりと腰を上げた。
「とりあえず、その母親とやらを見てやろう。……だが、その前に少し休め」
水の精霊や悪魔達と戦い、消耗していたであろう二人を気遣い、スパーダは勧めた。
スパーダの言う通り、朝になるまで眠りについた二人はすぐ近くにあるタバサの実家の屋敷、旧オルレアン公邸へと彼を招いた。
ラグドリアン湖から歩いて一時間とかからない距離に彼女が生まれ育ったであろう屋敷がひっそりと建っていた。
さすがに国の王族が住んでいたというだけあって、立派な造りであった。しかし、同時にどこかうらぶれている雰囲気が漂っていた。
(なるほど、確かに剥奪されているな)
正門に刻まれていたの紋章はまごうことなきガリア王家の紋章。だが、その紋章にははっきりと×状に傷がつけられている。
王族ではあるがその権利を剥奪されている意味である不名誉印だ。
(きゅい、きゅいーっ! お姉様、お帰りなさいなのねー!)
と、玄関に近づこうとした一行の前に降りてきたのはタバサの使い魔、シルフィードであった。
嬉しそうに鳴きながらタバサに頭をすり寄せ、主人は使い魔の頭を優しく撫でた。
ふと、その視線がスパーダに向けられるとびくりと竦みあがりだす。
(きゅいっ! お姉様、悪魔と一緒にいたのね!?)
シルフィードは歓迎と同時に悪魔に対する驚きを露にしていた。主人がスパーダの素性を知ってから、「彼は怖くない」などと言いつけてきたのだが、やはり悪魔は怖い。
それから一行は玄関から屋敷の中へ入るが、誰も出迎えはいない。早朝で誰もまだ起きていないのではなく、本当に人気がないのだ。
……いや、一人だけ出迎えの者が現れた。
「おかえりなさいませ。お嬢様、ツェルプストー様」
深く、恭しく一礼したのは執事らしき老僕だった。
どうやらこの屋敷に勤める執事らしい。彼以外の使用人はいないようだ。
その執事の出迎えに、タバサとキュルケは軽く会釈をする。再び面を上げた執事はスパーダの方を怪訝そうに見やっていた。
「ただいま、ペルスランさん。こちらはスパーダ・フォン・フォルトゥナ。あたし達がお世話になっている魔法学院の教師よ」
キュルケがペルスランという執事にスパーダのことを紹介しだす。
勝手に家名付け、および教師として紹介されてしまったことにスパーダは呆気にとられた。
ペルスランはそれに納得した様子を見せる。
「おお、さようでございますか。わたくし、このオルレアン家の執事を務めておりますペルスランと申します」
と、スパーダに一礼をしてきたペルスラン。スパーダは僅かに一瞥をしただけだった。
それから一行はタバサを先頭にして屋敷の中を進んでいく。
「さっきのは何だ? 私は教師ではないぞ」
「ダーリンだって元は貴族でしょう? それに男子達に剣を教えてるんだから、教師と対して変わらないじゃない」
道中、スパーダはキュルケに小声で話しかけるとそう面白そうに返された。
もう自分は貴族などではないとはいえ、フォルトゥナを治めていた時は一応、貴族としての名前も持っていた。
もっとも、正式にはどんなものであったかはまるで覚えていないのだが。
やがてスパーダ達は屋敷の一番奥の部屋の前へと辿り着いた。
タバサがその扉をゆっくりと二回ノックするが、中からは返事がない。
扉を開け、中へ入るとそこはあまりにも殺風景な部屋であった。そこは中々に広い部屋で、開け放たれた窓の外には庭園が見え、穏やかな朝日が射し込んでくる。
だが、ここにあるのは一つのベッドと椅子、そしてテーブル以外に何もありはしない。無駄に広い部屋だった。
そのベッドの上には一人の女性が横になって蹲っているのが窺えた。
執事のペルスランは部屋のすぐ外で控え、三人はベッドへと近づいていく。
その時、ベッドに横たわっていた女性が目を覚まし、スパーダ達の存在に気付くなり突如叫び声を上げた。
「……何者! また、王家の回し者ね!」
起き上がり、スパーダ達を拒絶するのはやつれ果てた女性だった。
タバサと同じ青い髪は全く整えられておらずにボサボサに伸ばされ、病によって痩せこけた顔は二、三十年は老けたように見えてしまう。
そのあまりにも見るに耐えない姿に、キュルケは思わず顔を背けた。
だが、タバサは切なげにその女性を――己の母を見つめていた。もう五年間、本当の母の姿を目にしてはいない。
子供のように怯え、わななく母は狂気に満ちた瞳を爛々と光らせて喚き続ける。
「この無礼者どもめ!! 夫を亡き者にするだけでなく、わたしのシャルロットまでも奪おうというのね! 誰がお前達にシャルロットを渡すものですか!」
タバサの母、オルレアン公夫人は己の腕の中に抱いていた人形を庇う。
ずっと肌身離さずその手に抱いていたのであろう。その人形は所々がすり切れて綿がはみ出し、さらには目などの部品が外れかけてしまっていた。
(重症だな……)
スパーダは狂気に支配されているオルレアン公夫人を見つめ、溜め息を吐く。
ルイズやロングビルが飲んでしまった惚れ薬とやらも水の先住魔法そのものである精霊の涙とやらで作られたから、あれだけの効力を発揮したのだ。
この夫人の体を侵している毒とやらも相当な効き目であることは明白である。
それによって完全に精神を崩壊させられてしまっている。あの人形を自分の娘にしか見ていないなど、もはや正気の沙汰ではない。
スパーダは右手に持っていたパンドラを床に置くと、夫人に近づいた。すると、先ほど以上に極端に怯えきっていた。
「ひっ……!! 夫を亡き者にした汚らわしい悪魔め! それ以上近づくことは、許さないわ!! シャルロットはわたしの大切な娘よ!!」
その狂気でありながらも気丈な発言と行動がまるで一致していない。
おまけに正気ではないとは言え、的を得た言葉にスパーダは僅かに肩をすくめる。
スパーダはじっと夫人の狂気と恐怖に満ちた瞳を凝視していたが、やがて興味が失せたように踵を返し、パンドラを持って先に部屋を出て行った。
残った二人もその後を追っていったが、タバサだけは「また会いに参ります……母様」と寂しそうに呟いてから部屋を後にした。
一行は客間へと移動し、スパーダは備えられていたソファーへと腰を下ろす。所持していた武器も傍に立てかけていた。
「どうかしら? ダーリンのホーリースターって秘薬は効きそう?」
隣に立つキュルケとタバサはスパーダに縋るような視線を投げかける。
一息を吐き、天井を仰ぐスパーダは瞑目したまますぐには答えを返さない。
二人、特にタバサはスパーダの答えを期待と不安が入り混じった表情で見つめ、待ち続ける。
「五年間、あの状態だったのだな」
ようやく発せられたのは、タバサに対する問いだった。
スパーダは瞑目したままだったが、タバサはこくりと頷き肯定をする。
「君の母親を侵している毒とやらは彼女の肉体に留まりながら、心を狂わせる力を持続させているわけだ。つまり、このまま放置していては治らない」
ここでスパーダはタバサの方へ顔を向け、毅然とした目付きで見つめていた。
「ホーリースターを使えば、彼女の体に潜んでいる毒を全て浄化させることができるだろう。あれぐらいの毒ならば、問題はない」
その言葉にタバサの表情が微かに輝いた。キュルケに至っては、まるで自分のことのように喜びを露にしている。
客間の隅で控えていたペルスランは、スパーダが夫人の心を取り戻す手段を握っていることを知り、驚きと安堵の表情を浮かべていた。
「だが、あの二人に使ったのが最後のストックだ。学院に戻らねば作れん」
それでもタバサは自分の母を救うことができる手段を見つけることができて心から安心と嬉しさを感じていた。その喜びははっきりと表情にも現れる。
ペルスランはシャルロットが久々に見せてくれた笑顔に思わず、目元に涙を滲ませる。
「良かったわねっ! タバサ! これであなたのお母様も元に――」
「しかし」
キュルケが思わずタバサに抱きついたが、そこでスパーダが毅然とした表情を崩さず、両腕と膝を組んで言葉を続けた。
「私は君のためにホーリースターを作ってやるつもりはない」
冷徹に吐き出されたその言葉に、喜んでいた三人は愕然とする。
「どうして!? この子は五年間もお母様とまともに会うことだってできなかったのよ! それをようやく、元に戻せるチャンスを見つけたっていうのに! ひどいわ!」
「だからこそだ」
キュルケは思わず噛み付いたが、スパーダは態度を変えぬまま冷たく返していた。
スパーダに拒否されたことに納得できない様子で睨んでくるタバサの顔を見つめ返したまま、スパーダは続けた。
「ミス・タバサ。……いや、シャルロット。お前の望むことは何だった」
突然の問いかけであったが、タバサは考えるまでもなく即答する。
「わたし達を陥れた者達への報復。そして、母様をこの手で助けてあげること」
自分が望むのは、父の無念を晴らすための復讐。そして母の救済。
母は心を狂わせられる前、仇討ちはするなと言ってきたが、それは守れなかった。何としてでも自分の力でそれは果たさねばならなかった。
「そうだ。確かにお前はそう言った。そのためにこの五年間、ありとあらゆる苦難を乗り越え、努力を重ね、孤軍奮闘していたのだろう」
ここで一度言葉を切り、スパーダはゆっくりと腰を上げた。その視線はタバサから外さないままだ。
タバサもまた、スパーダの瞳から視線を逸らさなかった。
「その努力を、中途で投げ出す気か?」
タバサに対する咎めの言葉に、キュルケでさえ面食らった。
「確かに私がホーリースターを作り、彼女に使えばそれで全ては解決するだろう。だが、君は母を助けるために何をしたことになる?」
「何をしたって……タバサは……」
スパーダの言葉にキュルケが思わず呻いた。
タバサも思わず熟考する。スパーダがホーリースターの秘薬を作り、母を治してもらう。では、その時自分は……?
失望したように短く溜め息を吐くスパーダ。
「君はその場合、何もしたことにはならない。全てを私だけに任せ、自分は見物するだけだ。君の母である以上、君が自らの手で救うことに意味がある。
彼女が君でも救うことができなければ私が救ってやっただろうが、あれは君の手でもできることだ」
スパーダが力を貸すのは、人間では手の打ちようがない時だけ。可能な限り、人間の手で目的を成すことにこそ真の価値がある。
「でも、あの秘薬は……」
「時空神像でホーリースターを作ることは一行に構わん。受け売りだが、私が教えてやっても良い。
だが、そのために必要な物は自らの手で手に入れろ。私が力を貸せるのはそれだけだ」
キュルケが縋りつくが、スパーダは構わずに続けてそう告げた。
つまり、スパーダはこう言う訳だ。悪魔達を狩ることで得られるレッドオーブを集め、自分の手でホーリースターを作り出し、それで母を救えと。
スパーダは懐を探り、先ほど彼女達が倒していた悪魔達からこっそり回収していた無数のレッドオーブを取り出し、タバサへと差し出した。
「それが今回の報酬だ。どれだけ集めれば良いかは、自分で時空神像に聞くがいい」
スパーダの掌の上で浮かび、ぼんやりと輝きを放つ赤い結晶の塊。それをじっと見つめていたタバサは無言で受け取る。両腕で抱えなければならない程の大きさと量であった。
「私は構わない。母様を救える手が見つかっただけでも」
だが、そのためにはこれからあの悪魔達と戦い続けなければならない。奴らは決して油断はできない狡猾で残忍な存在。
少しでも気を抜けば自分が奴らの餌食となる。そうならないためにも、これまで以上に気を引き締めなければならない。
それに奴らと戦うことで、己の力を更に高めることになる。一石二鳥だ。
「ならば努力は最後まで惜しむな。雪風よ。これはお前に与えられた試練だ」
スパーダからの言葉にタバサは決意を固め、強く頷いた。
「タバサ。あたしも手伝ってあげるから、いつでも呼んでちょうだいね」
キュルケがタバサの頭をそっと撫でる。
「それと復讐を果たしたいのであれば他に拠り所を見つけておけ。友人でも、他の目標でも何でも構わん。復讐のためだけに他を切り捨てても何にもならん」
「それじゃあ、あたしがこの子の拠り所になってあげるわ」
スパーダからの口添えに、キュルケがひしとタバサの体を抱きしめていた。
それからタバサは今回の任務の報告のためにリュティスへと向かい、スパーダ達は戻ってくるまでこの屋敷で待たされた。
そこでキュルケはペルスランから効いていたタバサの身の上話をスパーダに話していた。
シャルロットは元からあんな性格だったのではなく、昔は快活で明るかったのだという。それが今ではあんな人形のように変わってしまったことにキュルケは哀れんでいた。
そして、タバサという名前は夫人が抱いていたあの人形のものであり、タバサが幼い頃に多忙だった母が寂しい思いをさせぬようにと自ら選んで贈ったそうである。
あの人形をタバサは妹のように可愛がっていたそうだが、今ではもう見る影もない。
やがて、それほど時間をかけずにタバサは戻ってきた。
一行は学院へ戻るためにシルフィードに乗り込もうとする。
「フォルトゥナ様。どうか、シャルロット様をよろしくお願いいたします」
シルフィードが離陸する寸前、執事のペルスランはスパーダに向かって厳かに一礼をしていた。
スパーダは僅かに一瞥を返し、無言で頷く。
(まあ、その名を名乗るのもいいか)
魔法学院へ戻ってきた時、既に一時限目の授業が終わった頃だった。
授業をサボっていたタバサとキュルケは何事もなかったように二時限目の授業へ出席する準備を進めることにする。
その際、通りがかった生徒達、とりわけキュルケに惚れ込んでいる男子達はどこへ行っていたのかと尋ねてきたが、キュルケは軽くあしらっていた。
スパーダはルイズの部屋に戻ると、ベッドの上で毛布をかぶったまま蹲っているルイズの姿を目にする。
「……うぅ〜、どこへ行っていたのよ」
パートナーであるスパーダが帰ってきたことをルイズは察し、そのままの体勢で声をかけた。
モンモランシーの眠り薬で眠らされている間の記憶はない。だが、その前に自分が何をしたのか考えるだけでも恥ずかしくなる。
貴族の……ヴァリエール公爵家の人間たる自分があんなはしたないことを……。
しかもその惚れた相手はこの悪魔。ルイズにとってはあくまで尊敬すべき相手だというのに……。
これでもしもスパーダにキスなんてことまでしたら、羞恥と怒りを入り混じった怒りは治まることがなかったかもしれない。
だからルイズは何もかもが恥ずかしくて、目を覚ましてから一歩も外に出られなかった。
「ラグドリアン湖にまだ悪魔達が蔓延っていたのでな。ミス・タバサ達とそれを狩っていた」
ルイズの問いかけに、スパーダはそのように誤魔化した。タバサの秘密をあっさりと喋ってしまうわけにもいくまい。
「そ、そう……。普通だったらあたし、スパーダにあんなことしないんだから。もうっ、早く忘れてしまいたいわよ」
「だろうな」
生返事をしながらスパーダはパンドラを時空神像の傍に置き、リベリオンと閻魔刀も壁に立てかける。
「ね、ねぇ、スパーダ。聞いてもいい?」
「何だ」
「どうしてあたしが、あ、あの、忌まわしい薬でおかしくなっちゃった時にあなたは何もしなかったの? それにミス・ロングビルにだって手を出さなかったし」
あれだけの誘惑をスルーしまくっていたスパーダの感覚がルイズには不思議に思えていた。
自分みたいな子供はまだしも、大人の女性であるロングビルにさえ手を出さなかったのだ。悪魔の感覚とは一体、どうなっているのだろうか。
「正気を失っていたのだから当たり前だろう」
何とも真っ当な答えだ。だが、ルイズはあれだけ自分達をスルーしてきたスパーダにもう一つ疑問がある。
「じゃ、じゃあ……もう一つ聞いてもいいかしら? ス、スパーダってもしかして……その……えと……」
「はっきり言え」
「その……お、奥さんとかがいるの?」
あまりに突然な質問にスパーダは呆気に取られた。
「何だ、突然」
「だって、あんなにあたし達に言い寄られてもまるで関心がなかったみたいだもの。スパーダってもしかして、誰かとけ、け、け、結婚でもしていたのかしら」
聞くだけでも恥ずかしくなってしまう質問であったが、ルイズは何故かそのことを聞かなければならないような気がしていた。
スパーダは千年以上もの間、人間界で暮らしていたのだ。もしかしたら人間の女性と付き合ったりなんてこともあったのかもしれない。
あんなクールな性格なのであまり想像はできないが。
「……いや、まだないな」
椅子に腰掛け少し黙ってからスパーダは答えていた。その態度から、何か思う所があるのをルイズは感じ取っていた。
「まだってどういうことよ?」
「私は人間界に留まってから、色々な人間の女と巡り合って来た。だが、その誰ともつがったことも無い」
「そもそもスパーダの好みってどんな女性なのよ」
「さてな。だが、これだけは言える」
ルイズはようやく体を起こし、未だ不機嫌な顔でスパーダを見やる。
「己の身の心も人生さえも捧げる覚悟がなければ、私と共になるのはやめておいた方がいい」
「どうして?」
「私は悪魔だ。悪魔と契ることは、その人間の全てを悪魔に捧げることになる。それこそ、その人間に何か夢があるならばその夢も目標さえも捨てなければならない」
つまり、悪魔と結婚をするというのは自分の人生を犠牲にするということなのだろう。
「私はそうした覚悟を持つ人間に出会ったことがない。中途半端な思いで迫られたとしても、良い迷惑だ。
それこそ君には自分の夢があるのだろう。その夢を台無しにするわけにはいかん」
スパーダはあくまで、その人間の思いを尊重しているのだろう。人間を愛するようになったとはいえ、自分が悪魔であるという自覚もある。
だから自分と結婚をし、妻になることでその人間の全てを奪うような真似をしたくないのだろう。
たとえスパーダ自身の方から誰かを愛するようになったとしても、その女性の思いを大事にして自ら妻にすることもないかもしれない。
「まあ、いずれはそうした覚悟のある女と共に生きたいものだ。見つかるかは分からんが」
(きっと見つかるわよ)
スパーダは人間として生きようとがんばっているのだ。いつかその努力が実り、人間として誰かと結婚できる日が来る。
そして、彼の血を引く子供が生まれることも。
その資格が自分にはないことをルイズは理解していた。
自分の人生を全て犠牲にできるほどの覚悟は、ルイズにはないのだから。
※今回はこれでおしまいです。
突然ですが、しばらくの間ストックのために投下を中断させてもらうことにします。
作品のプロットは既に完結まで出来上がっていますので、生存をしていれば続けていきます。
乙です
285 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/27(水) 16:16:58.22 ID:DJCzSx/i
パパーダ乙です
おつ
萌え萌えさんおつおつ
パパーダはいい先生だな
定期DB待ち
定期QB待ちに見えた
ハルケギニアに鬱フラグクラッシャーに成れそうなのが居ないよ……
えっ定期クイーンズブレイド待ち?
>>291 欝フラグクラッシャーも一緒に召喚するんだ!
>>293 上条さんなら召喚されたけどエタってるからなあ…
他の欝フラグクラッシャーは…コブラ?
スパロボ的には万丈とダイターン3
メガノイドを肯定する台詞を吐いたら最期だがな
>>292 そういやQBからの召喚ってまるでないな
唯一のアイリもとっくの昔にエタったまんまだし
QBは召喚したらバッドエンド確定だから……
>>283 タバサのお母さんを治せるのに、自分ではあえて治さないって厳しい……
最近は万丈さんの代わりにネゴシエーターが便利使いされているよね
シャーリー助けたりとか
UN-GOの因果さんとか
>>301 なんでもかんでもスパーダ一人で解決させてたらゼロ魔側の人物は大体眺めてるだけとかなるぞ。
>>300 クイーンズ・ブレイドから召喚したらバッドエンド…?
ああ、ルイズの服が吹き飛んでルイズがバッドエンドか
QB「ルイズの泣き顔でオ○ニーするのは良い…だがルイズを泣かせるオナ○ーだけは許せんのだ!!」
クイブレとのクロスは面白そうだが、主要男性キャラをTSしないとなぁ
ギーシュやワルドが脱衣して何が悪い!
クロスアウッ!
>>296-297 の流れで欝った奴にゴーフラッシャーするクロスの流れかと勘違いしたかけた
>>308 ほぼ全裸のオーウェンがいたし
ギーシュやワルドが脱衣してもなんら問題あるまい
>>308 >>311 男のままじゃ、クイーンズブレイドに参加できないじゃないか
まぁ、ルイズが召喚したゲームブックで仲良く遊んでるってオチでも良いが
>>312 クイブレからの召喚であって誰もハルケで女王決めるとは言ってないぜ
>>300 魔法少女にディスペルかけたら元に戻らないかな
ソウルジェムから魂が開放されて死体が残るだけじゃね?
肉体に戻ればいいけど
QBをギアスで洗脳して洗いざらい吐かせてみては?
ただの端末に意味があるのか
それ以前にハルケでQB殺したら代わりは来るのか
某SSでは食っても減らない非常食とか呼ばれてたが、シルフィのエサにはどうかね
「グルメなシルフィはあんなお腹まっけろくろすけなゲテモノ食べないのね!!オーク鬼やトロール鬼にでも食べさせればいいの!!」
>>320 魔王ジロウスズキとか呼んだらアンアンのいい先生になりそうではあるが
下手うつと即殺されるか自力でかえっちゃいそうだ
>>320 いつもニヤニヤ貴方の不安に這い寄る混沌 とかいう不穏なキャッチフレーズ思い浮かんでしまった。
アレが出てきたら戦争がカオスになってジョゼフ歓喜だろうけども
狂犬桜召喚が一番話的には面白くなりそうかな
25分からデュープリ二十七話投稿させて貰います。
今回からモンモン騒動になります
第二十七話 『特製ワインは恋の味』
トリステインに置ける戦勝ムードに落ち着きが見え初めてきた頃、ルイズとミントもまた魔法学園にて、いつもと変わらぬ平穏を取り戻していた。
しかし、それは『取り敢えず』であって何もかもが以前のままとは行く訳が無い。
ルイズは『虚無』の力に覚醒した。それは夢の中で出会ったミントの世界の魔法使いファンシーメルがルイズへと向けたかつての予言道理に…
とにもかくにもタルブ戦役の祝勝パレードとアンリエッタの女王就任式の後、当然の如くミントとルイズはアンリエッタから城へと招かれ、直々に感謝の言葉を向けられた。そしてその場で幾つかの案件が決定される事になる。
艦隊を消し飛ばしたルイズの虚無、それと単身一騎当千の力を振るったミント、特にマザリーニの士気を呷る為の出任せのせいで一気にその存在を神格化されたヘクサゴンの存在の隠匿。
これらは公に明かせばその奇跡を後押しとしたアンリエッタが女王の座についたばかりのトリステインを恐らく大きく揺るがす事になる。
又、それはトリステインに身を置く限り、二人のこれからに対してしがらみとなるであろう事は容易に想定できた。ともすればロマリア法王庁に保護という名目の元、その身柄を拘束されるかも知れない。
今回の戦乱一番の功労者二人に対し、アンリエッタとしても心苦しいが此度の決断はそれ故の判断であった。
そしてもう一つ、ルイズはその場で己の目覚めた虚無の力を王女アンリエッタに捧げる事を誓い、『王女陛下付き女官』という肩書きを負う事となった。以降ルイズはアンリエッタから勅命の任務を受ける事となる。
アンリエッタにも友情を覚えないでも無いが、結局は打算を持って全てを決めるミントにはそのルイズの決心に対して理解は出来なかったがルイズの決めた事をとやかく言う事理由も特に無いので何も言わなかった。
ただ「面倒な任務の手伝いはごめんよ。」という一言以外は…
___ 魔法学園
「久しぶりね…あなたとこうしてゆっくりするなんて…」
金髪ロールの少女モンモランシーは憂いを秘めた儚げな表情を浮かべ、そんな台詞を穏やかな口調で学園の中庭にあるガーデンテーブルの向かいに座る少年、ギーシュへと向けた。
「あぁ、そうだねモンモランシー。君とこんな素敵な時間を過ごせて僕は幸せさ、今宵はあんなにも月が綺麗だ…無論、君の美しさには遠く及ばないがね。」
淀みなく繰り出されるギーシュの歯の浮くような台詞にモンモランシーは思わず頬を朱に染めそうになるが浮つきそうな心を何とか静め、ここは努めて平静を保つ。
「あら、ありがとう。でもその台詞、私以外にも言ってるんじゃ無いの?ここ最近の貴方ったら私よりもあのルイズの使い魔と一緒にいる時間の方が長い位だわ。アルビオンから帰ってからはキュルケともタバサとも仲良くしちゃって…」
「そ、そ…そんなことは無いよモンモランシー。僕の心には君以外は住んではいないさ。」
少しだけ、だが確実にギーシュに動揺が現れた事にモンモランシーは眉をひそめる。本来ならここで平手打ちでも入れて尋問してやりたい所だが今は我慢する。
そう、計画の為に…
「まぁ良いわ。それよりもワイン飲みましょう。これ貴方が私にくれたタルブのお土産のワインよ。(そういえばあのタルブの田舎メイドにもこの前声をかけてたわねこいつ…)」
まこと恐ろしいのは女の嫉妬…それを知らぬは男ばかりである…
「あぁ、そうだね。」
言ってモンモランシーは持参したワインの栓を抜いて用意しておいたグラスに慣れた手つきでワインを注ぎ入れた…
そしてその最中、ギーシュのグラスには袖元に潜ませている小瓶の中身をほんの数滴混入させる事に成功する。無論ギーシュは気が付いていない。
「それじゃあ、乾杯といこうか。」
「えぇ、乾杯。」
二人はロマンチックにも月を赤い水面に映すグラスを軽く触れさせ、心地よい鈴の音の様な韻を奏でるとそれぞれの口へとグラスを運ぶ…
そしてそのままギーシュがグラスを空にしたのを見てモンモランシーは己の計画がこれまで全て順調に上手くいっている事に内心でほくそ笑んだ…
後は薬の効果が現れ、ギーシュが自分を見つめれば全ては終わる。
と、そこへモンモランシーの予想だにしない…否、恐れていた事態が起きた。
「おーい、ギーシュ〜。」
お客さんだ。
このモンモランシーにとって最悪とも呼べるタイミングでギーシュの名を呼んだのは誰あろうとミントであった…
自分を呼ぶ声に気が付いたギーシュの視線の先、つまりはモンモランシーの背後から何食わぬ顔で軽く手を振りながらミントは二人の元へと歩いてくる。
「ギーシュ、あんたの注文通りヘクサゴン、ナイトフライト用に準備しといたわ。コルベール先生の研究所の広場に出してるから好きに使いなさい。全く、このあたしを小間使い扱いするなんてあんた良い度胸してるわ。」
「あぁ、すまないとは思ってる埋め合わせは必ずするよ。でも、ありがとう感謝するよミント君。」
「ま、あんたにはそこそこには世話になってるからね…それにしてもモンモランシーと夜空のデートがしたいだなんてあんたも良い所あるじゃ無い。」
ミントは不満を溢す様に言いながらも仲睦まじげな二人を見て満足そうに笑う。
「へ?それじゃあ最近ミントとギーシュが一緒にいる事が多かったのって…」
話が見えないのはモンモランシーだ。
実はここ数日ギーシュは何度も何度も、ミントへとヘクサゴンを一晩だけ貸して貰えないかとそれはもう何度も何度も…頭を下げて頼み込んでいたのである。
ミントがアンリエッタの要請を受けてヘクサゴンを封印する前にと。全ては最近構ってあげられなかったモンモランシーの為に…
「そういう事よ、モンモランシー。それじゃあ精々楽しみなさい。おやすみ〜。」
それだけを言い残してミントは二人のテーブルの上のベリーパイを掠め取るとその場を去ろうとする。その姿をモンモランシーは半ば呆然と見つめ、ギーシュも感謝と共にその背中を見送る。
だが、これが不味かった…
「待ちたまえっ…ミント君!!」
突如、ギーシュが大きな声でミントを呼び止める。それはいつかの決闘騒動の時の様に堂々とした呼び止めッぷりであった。
モンモランシーはそのギーシュの突然の行動にハッとなる…全身から血の気が引くような感覚を覚えるもそれはもう遅い!!
無論、呼び止められたミントは多少訝しみながらも何の気なしに振り返る…
「何よ?」
「ギーシュッ、駄目ぇっ!!!」
「好きだっ!!愛してる!!君の事が何よりも!誰よりも!!僕と、このギーシュ・ド・グラモンと結婚して下さい、ミント王女殿下!!」
「は?」
モンモランシーの制止の声も虚しく、ギーシュの熱烈な愛の告白にミントの世界が停止する…
もしかしたら今ミントはベルが『年増』呼ばわりされた時と同じ様な表情だったのかも知れない。
「アハハ……………終わったわ…何もかも…」
モンモランシーはその広めの愛らしい額を手で押さえて力無く笑うと唯一言呟いた…もはやそれが限界だった…
____ 魔法学園 モンモランシーの部屋
「で…きっちり説明しなさい…」
ミントは底冷えするような冷たい口調でモンモランシーに問う…
「ギーシュが最近また浮気しているんじゃ無いかと思って惚れ薬を作って飲ませたのよ。そうしたら悪いタイミングで貴方が来て…ギーシュが貴女に惚れちゃったのよ…」
消え入りそうなボソボソ声でそう端的に返答したモンモランシー、彼女は今石畳の上で正座状態である。
「…………呆れてものも言えないわ…で、どうするのよ『コレ』。」
ミントの視線の先にはこれでもかと言う程にミントにボコボコにされ、十二分に地獄巡りを楽しんだ挙げ句に猿ぐつわを口にはめられ簀巻き状態にされて冷たい床に転がされている気を失ったギーシュが居た。
ギーシュはあの後、事もあろうに固まったままのミントに飛びかかり、その唇に自分の唇を寄せた…無論、一瞬の内に叩き伏せられたギーシュは地面と口づけする事となったが…
無論、愛するミント様からの愛の鞭というご褒美に気を失っているギーシュは今恍惚の表情である事は語るまでも無い。
モンモランシーはギーシュの可哀想な姿に思わず唾を飲む…もしここで返答を間違えれば次は本格的に自分なのかも知れないと…(既に一度逃走を図って修正済み。)
「げ、解毒剤は作れるわ…材料が揃えば多分一晩で出来ると思う…」
「そう、なら急ぎなさい…ギーシュに又言い寄られるだなんて考えるだけで寒気がするわ。」
ミントが震える身体を抱くようにそうキッパリとモンモランシーに言い放つとモンモランシーは今度は非常に何か言葉を言い淀んだ様子を見せた後、意を決した様子で衝撃の事実をミントへ告げる…
「無いのよ…材料が…」
「しょうが無いわねぇ、なら明日、朝一で城下町まで買いに行きなさい。それ位は待ってあげる。」
「それがもう売ってないのよ…『精霊の涙』は品切れでしかも今後の入荷も未定なのよ。」
「……嘘…でしょう?」
ミントは目の前が途端に真っ暗になるのを感じた…気が付けば目の前の全ての元凶モンモランシーもへたり込んだまま溢れ出る涙を袖で拭い続けている…
そのまましばらく二人の間に呆然とした時間が流れたがここでようやくミントは一つの苦渋の決断を決める…
「はぁ…分かったわ…こうなったらあたしが精霊の涙を手に入れる…」
「はぁ!?何言ってるの、無理よ!水の精霊に会うには由緒ある交渉役の水のメイジの力が要るし。第一、運良く出会えたとして精霊の涙下さいと言って貰えるような物じゃあ無いのよ…万一水の精霊の怒りに触れでもしたらそれこそ…」
モンモランシーは勢いよくそう言うとミントに呆れた様に伏し目で首を横に振るう…
「下さいだなんて言わないわ。精霊の涙ってのは水の精霊の涙なんでしょう?だったら話は早いわ、このミント様の魔法で水の精霊をボッコボコにして泣かせてゲットすれば良いのよ。」
不敵にミントはハルケギニアの常識で考えればとんでもない事を言う。
モンモランシーは当然そんなミントに抗議の声を上げる。
「バカを言わないでよ!!あんた精霊に喧嘩を挑む気!?正気じゃないわ!!」
モンモランシーの主張は常識で考えれば当然だ、だがミントで無くとも今回の騒動の根本であるモンモランシーにそんな事を言う資格があるとは思わないだろう。
当然ミントはキレる…
「っ…勝手な事言うなーーー!!!!こっちはあんたのせいでどれだけ迷惑してると思ってんのよ!!」
「ひっ!?」
怒りの叫びと共に、モンモランシーの部屋の石畳を踏み抜かんばかりの勢いで地団駄を踏んだミントにモンモランシーは小さく悲鳴をあげると頭を押さえて身をすくませる…
「言っとくけどモンモランシー、交渉役はあんたよ。何があろうと絶対連れて行くからね…」
「ちょっ…何であたしが!?」
ミントの死刑宣告にも似た言葉にモンモランシーは当然抗議の声をあげたがジト目で睨み付けてくるミントの視線は冷たい。それはそれ以上のモンモランシーの言葉を許さなかった。
「明日、朝一で出るわよ、このミント様から逃げられるだ何て絶対に思わない事ね。いいわねっ!?」
そうとだけ言い残してミントは部屋を出ると勢いよく扉を蹴って閉める。その際、蝶番が衝撃に耐えきれず変形したせいで以降モンモランシーの部屋は非常に扉の立て付けが悪くなるのだがそれは些末事…
「そ…そんな〜…」
その場にへたり込み、ただ己の不幸を呪うモンモランシー…心底逃げ出したかったが確かにギーシュがこのままなのも不味いしそもそも惚れ薬は禁薬である。
事が大きくなって表沙汰にでもなればどうなるか…そして何より怒り狂ったミントが怖い…
そうして今夜、魔法学園の女子寮塔でそれはもう盛大な溜息が二つ零れたのだった。
今回はここまでです。
なんと言いますかモンモンは屑可愛い。
ミント様も割と屑可愛い。
乙です
デュープリの人、乙です
まぁ、寄こさないなら泣かせてしまえ、ってなるよねw
>>293 欝フラグクラッシャーになれるのは超絶チートのラスボスキャラか、殺しても死なないギャグキャラかな
ぶっちゃけ安心院なじみや球磨川禊がいたら半端な欝じゃ相手にならなそ
ゼロ魔の欝展開はほとんどタバサとか外伝ばっかで本編ではほとんどルイズたちの自業自得で不幸を招いてるよな
なんやかやでメインキャラで人死には少ないし極端な不幸にもならない
ウェールズみたいなぱっと出のキャラが死んでもぶっちゃけ使い捨てだし
それでも不幸な展開は打ち砕かねばならない
それが鬱フラグクラッシャー!
じゃあもう宮坂お父さん喚んじまえ
思いつきで流れぶったぎるがエルザに桃太郎印のきびだんごを食べさせたら効くのかな?
あらゆる動物(人間含む)に効くんだから効くんじゃね?
水の精霊とかだと分からんが
乙!
来たか、惚れ薬イベント!
ミントが惚れ薬飲んじゃって並の奴らじゃ止められないって展開でも面白かったかも
P4Gが神リメイク過ぎてなんか書きたくなってきた。
男ども呼んだ話はもうあるし、女の子たち呼んだ話なんてのも楽しいかもね
344 :
るろうに使い魔:2012/06/29(金) 23:52:10.31 ID:xJ8Edp7y
こんばんわです。予約がなければ0時丁度に12話を投稿したいと思います。
345 :
るろうに使い魔:2012/06/30(土) 00:01:38.64 ID:UDDQNnVI
それでは、始めようと思います。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな〜〜〜り〜〜!」
その声と共に、門が開かれて歓声が巻き起こった。
敷かれた絨毯の上を、優雅に歩きながら、アンリエッタはその声に応える。手を振って返せば、ただでさえ大きな歓声が、より大きく響きわたった。
すごい人気だな……と思う剣心は、ふと隣のルイズを見た。
相変わらず、気の抜けた顔でボーっと、王女を見つめるように立っていた。
と、ふと剣心の先に、アンリエッタの側を護衛する一人の男に目が行った。
見事な羽帽子と、逞しい顔つきの壮年の貴族。鷲の頭と獅子の体を合わせた、見たこともない野獣に跨り、隣を付いていく。
(ルイズ殿が見ているのは、あの男か―――)
結局、姫が学院に招き入れられる、その始終まで、ルイズは惚けた表情のままだった。
第十二話 『密約』
その日の夜。
あの後も変わらずネジが三本ほど外れたような、気の無い表情のルイズは、そのままベットでボーッとしていた。
試しに二、三何か話しかけてみたが、何をやっても返事すら返さない有様。
やはり昼間の男性のせいなんだろうか、と思いながら剣心は暇潰しにデルフを磨いていた。
「なあ相棒……」
「何でござる?」
錆び付いた部分を落としながら、剣心は答える。するとデルフは不服そうな声を漏らした。
「そりゃあ、俺は相棒の立派な武器と比べれば、チンケなもんさ。でもな、そうやって磨いてくれると、期待っていうの? しちまうんだよな。俺が言いたいことわかるか?」
「………」
剣心は何も言わずに錆を落とす。そんな様子に構わず、デルフは続ける。
「武器ってのはな、使ってナンボなもんだろ。磨いてくれるのは嬉しいよ。ああ嬉しい。けどな、俺みたいなものを芸術品に仕立てあげようってんならまず無理だし、
俺自身もそんな道お断りだ。俺が言いたいこと、分かってくれるな?」
「…………」
やはり剣心はだんまりを決め込む。そんな空気に耐えられずに遂にデルフが叫んだ。
「何とか言ってくれよ相棒!! ここんとこずっと磨いてばっかじゃねえか!! たまには俺も活躍してぇんだよ!! その刀と同じように俺も振るってくれよ!!」
「それが本音でござるか……」
はぁ、とため息付く剣心に対し悪いかよ、とデルフは開き直る。
「じゃあ次! 次だけでもいいから使ってくれ。なあそれくらい、いいだろ相棒!」
「分かった分かったから、暴れないで欲しいでござるよ」
「ようし約束だかんな!! 次は絶対俺だかんな!」
子供の様な取り決めを交わされて、苦笑する剣心の耳に、ふと小さな音が聞こえた。
こんな夜更けにコツコツと、段々と大きく聞こえる足音。誰かがこっちにやって来ているのは明白だった。
念のためと、剣心はすっと立ち上がると、デルフを降ろし、腰の逆刃刀の柄に手をかける。その瞬間、構わずデルフが泣き出した。
「ひでえよ相棒! さっきの約束もう反故にしちまってよ!! そんなに俺よりそっちの方がいいのかチクショー!!!」
もう警戒もへったくれもない。呆れたようにガックリとする剣心をよそに、トントンとドアを叩く音がした。
それを聞いて、止まった時が動き出したかのようにルイズが跳ね上がると、慎重な顔つきで扉を開けた。
入ってきたのは、黒いフードを被った少女だった。
彼女は、そそくさと部屋に入り、ゆっくりとドアを閉めると、杖を取り出し何事かを唱え始めた。すると辺り一面、光の粉が宙を舞った。
「『ディテクトマジック』?」
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
そのまましばらくの間、注意深く周囲を探っていたが、やがて何もないと分かると、少女はフードを取った。
その顔を見て、ルイズと剣心は驚きの表情をした。
「姫殿下!!」
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」
それは、昼に歓声を受けながら歩いていた、アンリエッタ姫その人だった。
346 :
るろうに使い魔:2012/06/30(土) 00:04:18.53 ID:UDDQNnVI
「ああ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所になんて……」
嬉しそうにルイズに歩み寄るアンリエッタに対し、ルイズは畏まったように膝を付く。それを見て、悲しそうな表情でアンリエッタは言った。
「ああ、ルイズ! そんな堅苦しい行儀はやめて頂戴。ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしてよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!
ああ、もうわたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
一気にそうまくし立てると、もったいないお言葉とばかりに、ルイズも顔を上げた。そして、楽しそうに昔の話に花を咲かせていた。
「幼い頃、一緒になって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの。泥だらけになって!」
「ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ポルトさまに叱られました」
「そうそう。あとふわふわのクリーム菓子を取り合って、つかみ合いになったこともあるわ! 喧嘩になると、いつもわたくしが負かされたわね」
「いえ、姫さまが勝利をお収めになったことも、一度ならずございました」
「他にもほら! 覚えているかしら? わたくし達がほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦のこと!」
と、時間も忘れてしばらく二人は、あの頃への小さな記憶を思い出しては、それを幸せそうに語って、過去に浸っていた。
やがて、話すことを話し終えると、正気に戻ったように辺りを見回した。
「ああ、嫌だわ。すっかり話し込んだりして…そう言えば、あなたの使い魔はどこかしら?」
「はい、ええと……あれ?」
ルイズは、さっきまで剣心がいた場所を振り返る。しかしそこに彼の姿はなく、いつの間にか、何も言わずにスッと消えていたのだった。
「あれ…君…どうしたんだい…?」
「おろ?」
その少し前のこと。
二人の邪魔をしないようにと、そそくさと部屋を出た剣心は、その行きあたりでギーシュとすれ違った。
あまりに急なことだったので驚きの声を上げるギーシュに対し、剣心は聞いた。
「お主こそ、こんなところでどうしたでござるか?」
「いや何、麗しきアンリエッタ姫の姿が見えたのでね、一目だけでもと思って――」
相変わらず、気障ったらしく振舞うギーシュに、剣心は呆れたような表情をすると、そのままギーシュを連れてその場を離れた。
「ちょ……何をするんだい!?」
「今は大事な話の途中でござる。割り込みは野暮ってものでござるよ」
少なくとも、彼女たちの楽しいひとときは邪魔はさせない。剣心はそう意を決めて、暴れるギーシュを引きずるように歩いた。
そのまま、女子寮の前まで引っ張って来ると、しばらく待っていようと剣心は壁に背をあずけた。
ギーシュは、不服そうな顔をしながらも同じように佇んだ。ここにいれば、最後の最後に姫に会えるから、おそらくそう考えてのことだろう。
ふと、剣心はギーシュの方を向いた。
「あの時の約束、覚えているでござるか?」
あの時…ヴァストリ広場での決闘――を思い出し、少し身震いしながらも、ギーシュは憮然と言い張った。
「大丈夫さ、彼女を馬鹿になんて、君がいる以上もう出来ないし、ちゃんとケティとモンモランシーにも手厚く謝罪したさ」
最後に、はぁ……とギーシュはため息をこぼした。謝ったのは事実だろうが、彼の表情から察するに、あれから上手く関係を取り持ててはいないようだ。
しかし、ギーシュは特に恨みを持っているような様子はなく、気さくな感じで剣心に話しかけた。
「しかし聞いたよ、フーケを捕まえたそうだって? あの神出鬼没の怪盗をよくあっさりと成し遂げたものだなあ」
「拙者一人の力ではござらんよ。皆の力があってこそでござる」
「そうは言うけどね、キュルケが嬉々として語ってくれたよ、その時の様子を」
と、ギーシュはキュルケが話した内容のことを説明しだした。小屋の奇襲やゴーレム退治、鋭い観察眼で正体を暴き、なおかつ人質を取られても動じず反撃したことまで。
そして、昼間に見せた、メイジの起こす風をいとも簡単に防いだあの剣腕。
「他の生徒達は、まだ君の力を疑問視する声も大きい。当然さ、メイジに勝てる平民なんて、いるはずないと…僕もそうだったさ、でも今は違う」
羨ましそうに語りながら、自然とギーシュの言葉にも熱がこもる。
347 :
るろうに使い魔:2012/06/30(土) 00:08:32.51 ID:UDDQNnVI
「飛天御剣流といったね、あれはまだ、僕たちの想像を、はるかに上回る力を持っているんだろう? 隠さなくてもいい、僕にはわかるさ」
確信めいた口調でギーシュは言った。一度剣心と決闘したこともあってか、ある意味ではギーシュが一番、剣心の実力を最も垣間見た人物の一人だった。
だから疑いの余地がないように強く言葉に表せるのだった。
「……何が言いたいでござるか」
どうも何か引っかかるような彼の口調に、とうとう剣心が核心を聞いた。
すると、気障ったらしい格好を改め、急に畏まった態度をとると、ギーシュは言った。
「どうか僕に、飛天御剣流を教えて欲しい」
長い沈黙の後、剣心は答えた。
「ダメでござる」
「どっ…どうしてだい!?」
断られるとは思っていなかったのだろう。慌てた様子で詰め寄るギーシュに、剣心は冷静に返す。
「飛天御剣流は、人に教え広めるものではござらん。後世に残す気も、誰かに伝える気も、拙者はこれっぽっちもござらんよ」
「そ、そんな! だってあれほど強いのに!?」
納得できなさそうに、ギーシュは語気を強める。今の時勢、国力の小さいトリステインは来るべき戦争に備え、
一人でも優秀なメイジを見つけ出そうと躍起になっている。
愛しい姫を守るため、そしてグラモン家の名に恥じぬため、少しでも強く有りたいギーシュにとって、
彼のその強さ…飛天御剣流は、まさに理想だった。
まだ会って何日も経ってはいないが、不思議と『手柄を立てる未来の自分』というと、
彼の姿を思い起こさせる程、剣心には強烈な魅力を持っているのだ。
だから、断られたこのショックは、ギーシュにとってもかなり大きかった。
「僕には、守りたいものを守るという動機と、戦で名を上げたいという気概もある! そ
の他に、どんなことが必要だと言うんだい!?」
ここだけは譲るまいと、胸を張って声高に叫ぶギーシュを見て――一度だけ、昔の自分を重ね合わせて――剣心は少し黙り込んだ。
やがて、小さく、だけどギーシュの耳にもはっきり聞こえるような声で、剣心は口を開
いた。
「剣は凶器、剣術は殺人術。どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」
決闘の時に見せた、あの鋭い眼でギーシュを見据えて、剣心はさらにこう続けた。
「『守るもの』といったが、それは規模によって見方を変えてくるし、『名を上げる』というのも力を誇示したいのか、
言われるがままにそうするのかで意味が違ってくる」
言葉に詰まるギーシュを無視して、最後にこう告げた。
「お主は、一体『何』になりたいでござるか……?」
何に…と言われて、ギーシュは一瞬、頭が真っ白になった。何になりたい…さっきも言ったとおりだ、戦で名を挙げて…姫様をお守りして…それが全てだ。
じゃあそうするにはどうすればいいか…簡単だ、戦で活躍すればいい。それだけじゃ足りないのか…?
分からない。ただ、さっき剣心が言ったあの言葉。――剣は凶器、剣術は殺人術。この言葉が、頭にこびりついて離れない。
頭を抱えて考え込むギーシュを見かねてか、剣心が優しい笑みでフォローした。
「要は、拙者の飛天御剣流は、お主の理想を叶えるにはあまりにも手に余る代物でござる。お主は、自分の魔法で強くなったほうが得策ってことでござるよ」
「いや…でも、しかし…」
「もし、それでも納得いかないようなら、さっきの拙者の言葉、もう一度よく考えて欲しいでござるよ」
この言葉に、ギーシュは最後に思いっきり考え込んでいると、しばらくしてようやく落ち着いたのか、不服ながらも頷いた。
「……わかったよ―――ん?」
不意に、コツコツとこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。
その音は段々と大きくなり、やがてフードを被った女性が姿を表した。
女性は、一瞬二人を見て、驚いたような悲鳴を上げたが、その一人がルイズの部屋で見た人間と、もう一人がこの学院の生徒だということがわかると、安心したようにホッと胸をなでおろした。
「驚きました…もしかして夜抜け出したのが、バレたのかと思いましたよ」
そう言って、フードの中から剣心の方を見た。勿論、フードの中身はアンリエッタその人だった。彼女を見て、ギーシュは恭しく膝をついた。
アンリエッタは、そんな彼を見かねて立つよう促すと、剣心をまじまじと眺めた。
348 :
るろうに使い魔:2012/06/30(土) 00:11:02.83 ID:UDDQNnVI
「あの、貴方がルイズの使い魔なんですよね」
「まあ、そういうことになっているでござるな」
そう答える剣心をよそに、アンリエッタはなおも不思議そうな視線を送っていると(その隣でギーシュが羨ましそうに見ていた)、ふと耳打ちするようにこう囁いた。
「貴方でしたら、もうわたくしたちの会話は全部聞こえているのでしょうけど」
「おろ?」
アンリエッタの言っていることは、要は使い魔としての誓約の一つだ。『主人と使い魔は目と耳を共有する』。
その理論で行けば、剣心はずっとルイズ達の会話を聞いていたことになる。
しかし、未だにそんな現象どころか兆候すら起きない剣心からすれば、何のことだかさっぱり分からないのだが。
ともあれ、首をかしげる剣心をよそに、アンリエッタは頭を下げる。
「どうぞ、ルイズのこと、よろしくお願いしますね」
そう言って去っていこうとしたとき、ギーシュがそれを止めた。
「お待ちください、姫殿下!! 事情は飲み込めませんが、何やらただならぬ様子とお見受けいたしました。
その任、このギーシュ・ド・グラモンにも是非参加のお許しをいただきたい!!」
その言葉に、アンリエッタは足を止めると、くるりとギーシュの方を向いた。
「グラモン?…あの、グラモン元帥の?」
「息子でございます。姫殿下」
やっと僕を見てくれた、と嬉しそうな表情を隠そうともせず、ギーシュはキリッと背筋を伸ばして杖を掲げる。
「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」
その言葉を聞いて、アンリエッタは嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、貴方もその血を受け継いでいるようね。では、お願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」
その瞬間、イヤッホウと両手を上げてギーシュは、ガッツポーズした。
よほど感動したのか、嬉々として後ろにのけぞってそのまま失神する始末。
やれやれ、と倒れそうになる彼を支える剣心を見て、アンリエッタはもう一度深く頭を下げた。
「本当に…よろしくお願いします…」
膝のドレスをギュッと掴んで、どこか震えているような手で、搾り出すようにそう言うと、今度こそ足早でその場を去っていった。
その背中は、どこか儚げな雰囲気を纏わせていた。
(取り敢えず、ルイズ殿から話を聞かなくてはな…)
剣心は、なおも気絶しているギーシュを、一旦起こすと、その足でルイズの部屋へと戻った。
349 :
るろうに使い魔:2012/06/30(土) 00:14:12.16 ID:UDDQNnVI
「全くもう! 急にどっかいなくなんないでよ、恥かいちゃったじゃない!!」
ドアを開けると、それはもうカンカンなご様子の、ルイズが仁王立ちしていた。
ご立腹の彼女を数分費やして何とか宥め、ギーシュについても一通り説明すると、今度は剣心が、一体何があったのかをルイズに聞いた。
「手紙を探しにニューカッスルへ行くわ。出発は明日。今のうちに準備なさい」
それだけじゃ分からんだろと、ギーシュが憤慨した様子で言った。
どうやら彼も、愛しき姫の任務ということですっかり舞い上がっているようだった。横で頷く剣心と一緒に見て、ルイズは仕方なさそうに事の顛末を話し始めた。
トリステインの親戚にあたる国。『アルビオン』。始祖ブリミルが授けた三本の王権の一つであるその国が今、『反乱』を起こしていた。
反乱軍は『革命』と名乗り、アルビオン打倒を切っ掛けに、このハルケギニアを統一せんと戦争を引き起こしていたのだ。
いずれ反乱軍が勝利するのも時間の問題。そしたら今度は、このトリステインに攻め行ってくるかもしれない。そうならない内に、ゲルマニアと同盟を結んで戦力を強化する手段に出たという。
「姫殿下が……結婚……そんな…」
同盟の代わりにアンリエッタが嫁ぐ。と聞いたとき、ギーシュは悲しみの余り暫く放心状態だった。ルイズもこれには思うところがあるのか、少ししんみりとした顔だった。
しかし、それに悲しんでいる場合ではない。納得がいかないのは、向こうだって同じなのだ。
反乱軍の連中は、何か同盟の妨げになるものは無いかを必死に探していた。そして、案の定それは存在した。
「それが、手紙と?」
剣心の問いに、ルイズはコクリと頷く。内容は詳しくは知らないようだが、少なくともそれが反乱軍の手に渡れば、ゲルマニアとの同盟を破棄させるほどのものらしい。
そしてその手紙は、今にも潰えそうな現アルビオン王家の元にあるという。そこで極秘裏に、ルイズ達に手紙を回収して欲しいとのことだった。
それを聞いて、剣心は不思議に思った。そういったのは私兵を使えば済む話なのに、なぜわざわざルイズに頼んだのか、その理由を考えた。
余程バレたくない内容なのか、至極個人的な情報なのか…。そして、最後に会ったアンリエッタの表情と仕草、――『誰か』を心配しているような様子――
それらを加味すると、その中身に何となくだが辿り着く。
(何だろう…恋文か何かか…?)
それなら、アンリエッタのあの言葉の本当の意味も、それとなくだが理解できる…。というより、そっちの方が剣心にとってもしっくりきた。
「ケンシン、一緒に来てくれるわよね?」
ルイズが、剣心の目を見つめて言った。本人はもう行く気満々だ。余り乗り気はしないが、アンリエッタにああも頼まれたとあっては仕方がない。
それに答えるように、剣心も頷いた。
「分かったでござる。拙者もその任、引き受けるでござるよ」
>338
“蒼の守護者”宮沢祥吾か。
351 :
るろうに使い魔:2012/06/30(土) 00:16:46.40 ID:UDDQNnVI
今回はここまでで終了です。お付き合い頂きどうもありがとうございました。
おつ
るろうにの人乙!
>>350 投下終了宣言が出るまで待てないのか
宮坂薬局の食っちゃ寝オヤジにそんな大層な二つ名なんて、と思ったら別人だった
るろうにの人乙です
召喚してすぐにルイズをハサミで突き刺そうとして
「僕に逆らうやつは、マスターでも殺す」
と言うマジキチな使い魔はどうだろう
面白いと思うなら他の人の意見を求めるより先に自分で書き始めるんだ!
そういうタイプのキャラ(ルイズと絶対合いそうにない奴)でのSSは何度か投下されてるけど大抵途中で止まってるな…
話が大幅に変わるから難しい
そもそも赤司はまだキャラがわかんないからな。
というかスポーツ漫画から出すとなると、話をどうしたらいいかっていう
359 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 16:59:30.01 ID:2rOQ5W/6
るろうの人、投下おつかれさまです。これからいよいよアルビオン編ですね。
ワルドとのやり取りや対決がどうなるのか今から楽しみです。
さて。特に何もなければ、こちらも17時05分から投下を開始したいと思います。
トリスタニアの時刻は、既に昼の十二時を迎えていた。
街の各所にある大衆食堂にレストラン、そして露店からは美味しそうな匂いが漂ってくる。
丁度腹を空かした人々は各々が気に入った店へと入り、腹を満たす。
平民や下級、中級の貴族たちは自宅で食べるか、もしくは仕事で得た雀の涙ほどの賃金や年金だけで十分に食べれる場所へと足を運ぶ。
露店や食堂はたちまち賑やかになり、人々は笑顔を浮かべて始祖ブリミルから与えられし糧に感謝の念を送る。
それなりの地位と領地を持つ上級貴族たちは貴族専用のレストランへと足を運び、この国の安泰を願ってフルコースランチを頂く。
三つ星シェフの手によって作られた仔羊のソテーを頬張る彼らの顔にもまた、笑みが受かんでいる。
こうして見ると浮かべる笑みの意味はバラバラではあるものの、誰もが皆笑顔を浮かべて昼食を頂いている。
それは正に、「食べる」という行為が何事もなく行えることを有難いと思っている証拠でもあった。
気温は高く太陽も眩しくなってきたが、それよりも人々が浮かべる笑顔の方がはるかに眩しい。
もしもこの街に旅の絵描きが訪れているのなら、きっと人々が浮かべる笑顔を一つの絵としてメモ帳に描いている頃だろう。
自分の昼食を食べるのも忘れて絵を描くのに夢中になった彼は、きっとこう思うに違いない。
『あぁ、この国は平和なんだな――――』と。
そうして街が笑顔で溢れている中、とあるブティックの二階にある一室で、ルイズは落胆の表情を浮かべ項垂れていた。
「あぁ〜…駄目だわ。全然、思い浮かばないじゃないのぉ…」
椅子に座った彼女の目の前に置かれた大きな丸テーブルの上には、鞄に入れて持参してきたメモ帳と【始祖の祈祷書】が置かれている。
ルイズは今、幼馴染であるアンリエッタ王女とゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式で詠みあげる詔を考えている最中であったが、何を書こうか未だに悩んでいた。
デルフにこの事を説明してから一週間ほどが経つが、一ページ分どころか未だ一文字も書けないでいる。
もしもこの詔が授業でいつも出るレポートや作文であるのなら、ルイズなりの文章で書いたモノを素直に提出するだろう。
しかし…これは幼少のころから共に遊び笑い合った幼馴染が隣国のゲルマニアへ嫁に行く事を盛大に祝う詔だ。
いつも提出しているレポートの様な文章では無理だとルイズは理解していたが、それと同時に自分の文才の無さに嘆いてもいた。
ここへ来てから何とか書こうとしてそれでも書けず、既に四十分近くもの時間が経過していた。
「こんな調子じゃあ、姫様の結婚式に間に合わないっていうのに…」
「わざわざ鞄に入れて持ってきた本は何なのかと思ったが、まさか例の祈祷書だったとはな。感心するなぁ」
苦悩が垣間見える言葉を呟くルイズとは対照的に、向かい側の椅子に座っている魔理沙は面白いものを見るような目で向かい側の椅子に座るルイズに言った。
その言い方にムッとしたのか、不機嫌な表情を浮かべたルイズは魔理沙の方へとその顔を向ける。
「そこまで言うのならアンタが書いて…イヤ、下手に任せたら適当に書いちゃいそうだからやめとくわ」
ルイズは途中まで言って、魔理沙の性格なら自分の代わりに詔「じゃない何か」を書きそうな気がしてきたので、言うのはやめた。
「それは残念だ。今なら何か良い詔とやらが書けそうな気がするんだがな」
魔理沙はニヤニヤと笑いながらそう言うと、最後に確認するかのようにルイズは質問した。
「…アンタ、この世界の文字とか…もう書けるようになったの?」
ルイズの問いに、魔理沙は軽く頷きながら返事をする。
「意味は分からないが、とりあえず見様見真似で書くことは出来るぜ?」
彼女の口から出た答えに、やはり書かせなくてよかったとルイズは安堵した。
ブルドンネ街の中央通りから少し外れた所に、今ルイズ達の居るブティックがある。
この店は基本一人の客に対し数人の店員が対応し、服のリクエストからサイズの調整までを身振り手振りで教えてくれるのだ。
客層は主に商家の平民から下級の貴族までとトリステインではかなり幅広いのだが、客層の三分の二が魔法学院から来る生徒たちであった。
将来この国を支える貴族の卵たちはここで舞踏会などの行事用に着る服やドレスを発注したり、店内で販売しているアクセサリーなどを買ったりしている。
そのアクセサリーの一つ一つも店側で雇っているデザイナー達が作ったモノで、手作りなので値段もそこそこ高い。
しかしそれ故にオリジナリティーに溢れており、値段の方も貴族の子供たちが青春時代の記念にと買える程度に設定されている。
トリスタニアを遊び場とする貴族の子ども達にとって、正に流行の発信場とも言えるところだ。
その店の二階部分には幾つか部屋があり、今二人がいる控室は階段を上ってすぐ右手にある。
大きな観音開きの窓の傍に丸テーブルと椅子が二つ、そしてテーブルの下にゴミ箱が置かれているだけで他の家具は見当たらない。
精々テーブルの上に羽ペンが数本入ったペンケースとインク瓶にメモ帳兼インク際にふき取るための紙が置かれているだけだ。
部屋の中に明りを灯すものが無いのは基本夕方頃には店を閉めるからであり、決して売り上げが悪いからではない。
その代わりなのか天井には大きなファンが取り付けられており、魔法によって羽根が回転して風を作り出す仕掛けとなっている。
この部屋は順番待ちをしている客や客の友人などが控える為の部屋であり、無礼がないよう中はちゃんと綺麗にされている。
魔理沙は窓から入ってくる微妙な風を受けながら窓の外から見える通りを眺め、ルイズは回転しているファンのちょうど真下でアンリエッタへの詔をなんとか書こうと奮闘している。
時折思い出したかの様に魔理沙が色んな話を持ち出し、ルイズは羽ペン片手に返事をしたり突っ込んだりしていた。
しかしその部屋にいるのは彼女達だけで、二人と一緒にいる筈の霊夢はどこにも見当たらない。
そもそも何故ルイズと魔理沙がこんなところにいて、あの巫女がいないのか…?
それにはちゃんとした理由があった。
ルイズと魔理沙が詔について会話をしてからしばらくして、ふと誰かがドアをノックしてきた。
突然のノックに魔理沙は一瞬誰なのかと思ったが、ルイズは慣れた様子でドアの方へと顔を向け「どうぞ」と言った。
その声が聞こえたのか、ドアの向こうにいた店のボーイが「失礼いたします」と言ってドアを開け、部屋に入ってくる。
利発そうな容姿のボーイは店が用意した専用の服を着た平民で、しっかりとした教育を受けているのかルイズと魔理沙に対し恭しく頭を下げた。
「ミス・ヴァリエールにミス・マリサ。ミス・レイムの゛着替え゛が終わりましたので、最後のお目通しをお願い致します」
「あら、もう一時間経ったのね…。わざわざご苦労様」
ここにいない巫女の名前を口にしたボーイの言葉に、ルイズはそう言って満足げに頷くと鞄から財布を取り出し、そこからエキュー金貨を二枚ほど取り出した。
ルイズが金貨を手に取ったと同時にボーイも頭を上げるとその顔に笑みを浮かべ、ルイズの方へとスッと白手袋をはめた右手をそっと差し出す。
「やっぱりこの店は最高ね。平民の従業員もしっかりしているから嫌いになれないわ」
彼女はそう言って、差し出されたボーイの手のひらに金貨を置くとテーブルの上にあった始祖の祈祷書やノートを鞄に入れて部屋を後にした。
それに続いて魔理沙も部屋の隅っこに置いていた箒を手に取って出ようとした時、ふとボーイのすぐ横で足を止めた。
足を止めた魔理沙に前方のルイズとすぐ横にいるボーイがキョトンとした表情を浮かべると、魔理沙は何かを探すように懐に手を入れた。
「おぉ、あったあった!」
ゴソゴソという音が辺りに五秒ほど響いたところで、何かを見つけた魔理沙が大声を上げた。
その顔には喜びの色が浮かんでおり、一体何なのかと魔理沙以外の二人は怪訝な表情を浮かべる。
黒白の魔法使いが懐から取り出したのは…小さな包み紙に入った一個の飴玉であった。
白い包みに水色の斑点模様がついた包み紙に入った飴玉は、ゴルフボール程では無いにせよ普通の飴玉よりも若干大きい。
そして、金貨や銀貨どころか銅貨二枚で買えそうなそのお菓子を彼女は先にルイズの金貨が乗ったボーイの手の上に置いた。
362 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:12:05.28 ID:2rOQ5W/6
「ま、チップの代わりに食べといてくれ」
魔理沙はその顔に笑顔を浮かべてそう言うと、ボーイを残したまま部屋のドアを閉めた。
パタンという音ともに閉じられたドアの向こうから聞こえてくる二人分の足音を耳に入れながら、ボーイは視線を下に落とす。
キラキラと輝くエキュー金貨が二枚に、何味かも知らされていない正体不明の飴玉…それが彼の手の上にあった。
金貨はともかく、飴玉を渡されるとは思ってもいなかった彼はただただその顔に苦笑いを浮かべた。
「まぁ偶には、こういうのも良いかな?」
ボーイはそう言って金貨と飴玉を、ポケットの中にしまいこんだ。
入れた瞬間、心なしか少しだけ元気になったような気がした。
部屋を出た後、後をついてきた魔理沙にルイズは開口一番先程の事を口にした。
「全く、何をするかと思ったら飴玉なんてね…」
「別に良いじゃないか。きっと初夏の思い出になると思うぜ?」
対して魔理沙はルイズの後ろを歩きつつ、彼女の言葉に笑顔を浮かべて返事をする。
ルイズはそんな黒白の態度に小さなため息をつきつつも、目の前に見える階段をゆっくりと降り始める。
(さてはて、レイムの奴はどんな姿になったのかしら…?)
ルイズはひとり呟きながら、一階にいるであろう紅白巫女の事を思い浮かべて心の中でひとり呟く。
背後に魔理沙を従えて歩く彼女の顔には、期待に満ちた笑みが浮かんでいた。
店のメインフロアがある一階に降りてきたルイズと魔理沙は近くにいた女性従業員の言葉に従い、奥にある試着室へと向かう。
そこには既に他の女性従業員が二人いて更にその向こうには姿こそ見えないものの、二階にはいなかった霊夢がいた。
何やら話し合いをしていた彼女らは、やってきたルイズたちに気づいて振り向くと頭を下げた。
「これはこれはミス・ヴァリエール。貴女様のご注文通り、彼女は生まれ変わりましたよ…文字通りの意味でね?」
やけに気取った喋り方をする右の従業員の言葉と共に彼女らはスッと横にどき、ルイズたちに゛今゛の霊夢の姿を見せた。
そしてルイズと魔理沙は…彼女の言葉に嘘偽りは無かったと目を丸くして驚く。
何故ならそこには、文字通り゛生まれ変わった゛博麗霊夢がいたのだから。
赤いセミロングスカートの代わりに履いているのは、足首まで隠す黒のロングスカート。
スカートと同じ色の服と別離していた白い袖は身に着けておらず、代わりに纏うは新品の匂いが仄かに漂う白のショートブラウス。
そして袖や服と同じく彼女の外見的特徴の一つであった赤いリボンは外されていて、代わりにスカートと同じ色のショートハットを被っている。
黒のロングヘアーを白いリボンでポニーテールにし、以前よりも若干サッパリとした印象を放っていた。
そんな容姿を持った少女が、つい一時間ほど前まではこの街ではかなり目立っていた存在だったのだ。
もしも着替える前の彼女を知らぬ者たちに、その事を詳しく説明してもすぐには信じないであろう。
霊夢を召喚しもう二ヶ月近くも一緒にいるルイズと、霊夢とは数年の付き合いがある魔理沙がそう思ったのである。
それ程までに彼女のイメージがガラリと変わった。――――否、変わり゛過ぎてしまった゛。
「ご予約の際に承った注文通り、これからの季節に合わせて当店の既製服でコーディネイトいたしましたが…どうでしょうか?」
二人して驚いている姿を目に入れながら、左にいた女性従業員がルイズの顔色を伺うかのように問う。
「これは…もう完全に別人ね」
店員の問いに答えるかのように、ルイズはその顔に苦笑いを浮かべながら呟く。
装い新たな霊夢の姿を見て、やはり彼女に新しい服を着させたのは正解だったと改めて思いながら。
「く、くく…え〜っと、どちら様だったっけ?」
一方の魔理沙は、意地悪そうな笑みをその顔に浮かべて霊夢に向けてそう言った。
黒白と同じくモノクロな印象漂う服装とは対照的な、どっと疲れた゛元゛紅白の表情を見て笑いを堪えながら。
「私の服が変わっただけで、何がそんなに可笑しいのかしら…」
着慣れぬブラウスの襟を左手で摘みながら、霊夢は照れ隠しするかのように呟く。
しかし色々と従業員にまとわりつかれた所為なのか、その顔には疲労の色が浮かんでいた。
363 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:15:08.82 ID:2rOQ5W/6
場所は変わって、ブルドンネ街中央に建てられた市中衛士隊の詰所本部。
街の各所にある詰所と比べ二回りもでかい砦の様な外観を持つここには、総勢五十人近くもの平民出身の衛士やその関係者がいる。
市内で有事が起こった際には増援の衛士を派遣し、事件の規模が大きければ大きいほど重要な場所となってくる。
有事を起こした下手人がメイジであった場合は王宮から魔法衛士隊が駆けつけてくるが、その間は衛士たちが命がけで下手人の逃亡を阻止しなければならない。
衛士たちの方も下手人を逃がしては市民の命と自分の給料と出世に関わるので、文字通り命を懸けて日夜街に潜む悪と戦っているのだ。
その詰所本部の中にある一室で、女性衛士のアニエスがテーブルに突っ伏していた。
彼女の顔にはこれでもかと言わんばかりに疲れの色が浮かんでおり、医者が見れば彼女の睡眠時間が短いことにすぐ気づくであろう。
本来は過去にあった事件の記録などを閲覧する為の部屋で、彼女は空気が抜けて萎んでいく風船のようにため息をついていた。
部屋の中には多数の本棚があり、その棚の中にある本には過去トリスタニアで発生した事件の詳細が事細かに記録されている。
しかし長方形の木製テーブルにはそれらしい本が一冊もなく、テーブルの上には突っ伏しているアニエスの上半身だけが乗っていた。
どうしてここに彼女がいるのかというと、その理由はあるのだが実際のところそれ程大したモノでもない。
ただ、この時間帯には多くの衛士たちが詰所本部の中にいるので、一人でいられる唯一の場所がここだけであったからだ。
まぁこの時間帯ならばこんな部屋に来る者もいないだろうと、アニエスはこの部屋で昼寝をすることにしたのだ。
しかしいざ寝ようとしても中々寝付けず、窓を開けて部屋の中に風を入れても目を瞑って夢の世界へ入る事も出来ない。
誰も呼びに来ないせいか気づけば一時間という貴重な休憩の時間を、テーブルに突っ伏しているだけで終わらせてしまった。
「はぁ〜…」
結局眠れなかったか。彼女は心の中でそう呟いてからゆっくりと上半身を起こす。
「…!っうぐぅ…!」
瞬間、腰の方から襲ってきた刺激が脊椎を通って頭に到達し、うめき声と共にトロンとしていた彼女の両目を無理やり見開かせた。
まだ二十代前半だというのに疲労の溜まった腰の関節がパキポキと音を立て、彼女の体に強烈な刺激を与えたのである。
その音がハッキリと耳に入ってきた彼女はハッとした表情を浮かべて部屋を見回し、誰もいないことに安堵してため息をついた。
「なんてこった。まさか二十代にしてこんな体になってしまうとは…」
アニエスは自分の体に向けて「情けない」と叫びながら鞭打ちたい気分に駆られた。
いくら衛士隊として鍛えていると言われても結局は人間であり、体の疲労には耐え難いものがある。
しかも女性である為か男性隊員の倍より努力し、体を鍛えなければいけないのだ。
普通なら女性は男性よりもある程度優しく扱われる筈だが、ここではそんな常識は通用しない。
女性だからという理由で生ぬるい訓練をしていては、街に潜む悪党外道な犯罪者を捕まえるどころか碌に近づく事さえできないのだから。
だからこそ彼女は努力した。
いつか果たそうと心に誓う一つの゛願い゛を胸に秘めて。
「本当なら休暇でも貰いたい所だが…貰ったとしても気になって休めそうにないな…」
彼女はそう言って、今からもう二週間ぐらい経とうとしている出来事を思い出した。
あの日…月が隠れた夜に「鑑定屋」がいるという場所を、物乞いの老人゛だった゛者に案内してもらった時の事だ。
364 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:17:26.89 ID:2rOQ5W/6
そこは、旧市街地の中にある古びた扉の先にあった。
古びた階段を物乞いの老人を先頭にアニエスとその同僚であるミシェル、そして彼女らが所属する部隊の隊長という順で降りていく。
明りに照らされた階段を降りるのは造作なく、老人を含め誰一人転ぶ事もなく降りた先に作られた部屋へとたどり着いた。
「これはこれは。今夜は少し変わったお客が、三人も…」
扉を開けて待っていたのは、椅子に座って薄い本を読んでいた初老の男性であった。
外見で判断すれば四十代後半から五十代半ばなのだろうが、顔に刻まれた皺の数はそれ程多くもない。
白が混じっている茶色の髪をオールバックにしており、顔に浮かぶ表情も非常に穏やかなものであった。
着ている服もゲルマニアにいる平民出身の上流商人が好むような長袖の白いブラウスの上に黒いベストを羽織り、ズボンは茶色の革モノといった組み合わせだ。
「我が主。ご覧のとおり今日は衛士隊の者が三人…見てもらいたい物品があるとの事で」
ここまで案内してくれた老人がそう言うと、男性はアニエスたちの顔を見てウンウンと頷く。
「逮捕しに来た…って感じじゃあ無いな。ウン」
男はそう言うと座っていた椅子から腰を上げ、机の前にいる老人の傍に立った。
平均的な共同住宅の一室と比べて少し大きめ程度の部屋の中には、人がまともに住める環境が作られていた。
書類や本が置かれた大きな机と比べてやや小さめなベッドをはじめとして洋服ダンスやクローゼットもあり、奥にはキッチンかバスルームへ続くであろうドアが見える。
部屋の両端にそれぞれ二つずつ壁に沿って置かれている本棚は五段もあり、その中に本や書類などがこれでもかと納められている。
もはや年代物と化した古い石造りの床の上に赤茶色の絨毯を敷いていて、その場で座っても苦にはならないだろう。
部屋自体が地下にあるという利点と魔法で動くシーリングファンのおかげで室温は暑過ぎずまた寒過ぎることもなく、申し分はない。
しかし部屋を照らす明りが天井の二箇所から吊り下げられているカンテラだけなので、部屋全体の雰囲気はかなり薄暗い。
もしもここに普通の人が住むのであらば、壁の方にもカンテラを取りつけるべきであろう。
「まぁお客なら歓迎するよ。ようこそ、旧市街地にある『鑑定屋』――――もとい『私の部屋』へ」
男は目の前にいる三人の客にそう言って、両手を思いっきり横に広げた。
客と認められたアニエスとミシェルは、隊長の言っていた゛噂゛が本当なのだと今確信した。
『旧市街地の何処かにいるという盲目の老人に金貨を渡すと、元学者がやっているという鑑定屋へと案内してくれる』
その噂は、何処で誰が言い始めたのかは知らない。
ただ消えることも広がることもなく、チクトンネ街に住む平民たちや下級貴族達の間でハチドリの様に忙しなく飛び回っている。
そして噂というのは人から人へと伝わる度に尾ひれがつくもので、この話もまた例外ではなかった。
曰く…その元学者はガリアで何かの研究をしていたのだが事故により職を失ってトリスタニアにやってきた。
曰く…彼はハルケギニアやアルビオンといった大陸を歩き回った平民で、古今東西の出来事を知っている。…など、飛び回る内に様々な姿へとその身を変えていた。
その変化した噂の中には盲目の老人は幽霊で、彼の後ろをついていくとあの世へ連れて行かれるといったオカルト要素が入り混じったものまで存在する。
ある貴族は単なる怪談話だと笑い、ある平民は実際にいるのだろうと心躍らし、ある浮浪者はその老人を見たことがあると嘯く。
結局はどれが真実かは誰もわからず、今でも真夜中の酒場でそれを話し合う者たちがいる。
何人かは酒の勢いでテンションが上がり、その噂が真実なのかどうか確かめるべく旧市街地へ赴くのだが大抵は何の収穫も無しに戻ってくる。
例え酔っていたとしても廃墟が立ち並び、歩く屍のような姿になった浮浪者や街に住めない犯罪者たちの巣窟にそう長時間といたくはないのだろう。
何せ昼間でも恐ろしい雰囲気を放っている場所なのだ。真夜中ならば尚更であろう。
365 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:20:02.77 ID:2rOQ5W/6
「どれくらいかは分からんが…これで足りるか?」
部屋の主人からの歓迎に隊長は懐を漁って手のひらに収まる程の革袋を取出し、机の上に放った。
体を机の方に向けた男がその袋の口を締めていた紐を解くと、中から六枚ほどの新金貨が転がり出てきた。
それに続いて銅貨と銀貨がそれぞれ二枚ずつ袋からその姿を出し、合計十枚の貨幣が机の上でその存在をアピールしている。
たったの十枚だけであるが、この十枚だけで下級貴族が一週間ほど仕事もせずに暮らしていける程の金額になるだろう。
「先月出た俺の給料の残りだ。これで調べてくれるくらいのことはしてくれるだろ?」
隊長の質問に、部屋の主は机の上に出した貨幣を手に取りながらも答える
「コレは趣味でやってるから金は充分なんだが……まぁ、明日のランチは美味しそうなものが食えるよ」
遠まわしに礼を言われた隊長は微かな笑みをその顔に浮かべつつ、今日ここへ来た目的を彼に告げた。
「今日は、アンタに見せたいものがあってここへ来たんだ」
隊長はそう言ってまたも懐を漁り、ここへ来る途中アニエスとミシェルにも見せた゛ある物゛を男と老人の目の前で取り出した。
それは先程貨幣が入っていた革袋と同じサイズのもので、その中には青い水晶玉の破片が入っていた。
破片の大きさはコガネムシ程度しかなく、うっかり落としてしまうとこの薄暗い部屋で見つけるのは困難を極めるだろう。
「実は昨日、ブルドンネ街の方で妙な事件があってな…現場を調べていたらこんなものを見つけたんだ」
隊長はそう言って袋から破片を取出し、男の目の前に突き出した。
男はその破片を見て怪訝な表情を浮かべたが、それを手に取ろうとはしない。
「これよりもっと小さいのを最初に見つけたんだが不思議な事に溶けて無くなっちまってな、それで気になって現場を調べてみたら溶けて無いコイツを見つけたのさ」
訝しむ男を前にして話を続ける隊長に、後ろにいるアニエスは彼が『最初に見つけた破片』の事を思い出した。
昨日起こった『妙な事件』の現場で見つけた小さな破片は、あの後一分も経たずに溶けて無くなってしまった。
後に残ったのは青色の小さな泡と、それを掴んでいた隊長の指から上がる白い煙だけだった。
あの後、別に火傷の心配はないと隊長自身が言ってひとまずは現場にあった遺体と内通者としての証拠品である書類などを持って詰所へと戻った。
しかし帰ってきて直後…隊長が「スマン、忘れ物をした」と言って現場であるホテルへ戻り、一時間もしないうちに帰ってきた。
その時はなんとも思わなかったのだがその翌日に隊長からの手紙を読み、旧市街地へと来たアニエスとミシェルはその破片を見て驚いた。
何せ最初に見つけたモノよりもおおきい破片を、隊長は一人現場に戻って見つけ出していたのだから。
「あの後部屋のどこかにまだあるんじゃないかと思ってな、箪笥やクローゼットの裏とか下を見てみたらドンピシャッ!ってワケさ」
まるで推理小説に出てくる少年探偵の様な軽い口調で得意げに言った彼を見て、二人は思った。
あぁ、この人は探偵業とかやりたかったんだろうな――――と。
そんな風に彼女が回想の最中にいる間に、隊長から詳しい話を聞いていた男はその顔を顰めていた。
先程の怪訝なそれから一変した事を見逃す三人ではなく、この破片に関して彼は確実に何か心当たりがあると察した。
表情を変えた男は顎に手を添えて何か考えた後、横にいた老人に声を掛けた。
「君、右の棚の三段目から四、五年前のレポートを取ってくれ。…あぁロマリアじゃなくてガリアのヤツな?」
「了解です。我がある…―先生」
゛先生゛と呼ばれた男に命令された老人は自分の言葉を途中で訂正しつつ、懐から杖を取り出した。
ここへ通じる錆びたドアを開き灯りを作って階段を照らしてくれたその杖の先を、老人は自らの顔に向ける。
アニエスたち三人は老人がこれから何をするのかもわからず首をかしげると、彼はぶつぶつと呪文を唱え始めた。
366 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:23:02.69 ID:2rOQ5W/6
蚊や蠅のような虫の羽音の如きか細い声で唱えるルーンは五秒ほどで終わり、詠唱を終えた老人は自らの顔に向けて杖を軽く振った。
するとどうだろう。突如老人の顔が青白く光り出して、薄暗い部屋を幻想的でありながら不気味な雰囲気が漂う場所へと変える。
しかしその終わりは早く僅か十秒程度であったが…光が消えた時、老人――否、老人゛だった゛者の姿を見てアニエスたちはアッと驚いた。
そこにいたのは先程まで物乞いをしていた老人ではなく、四十代半ばの男であった。
顔を隠すほどに生えていた白髭は消え失せ、代わりにほろ苦い渋味を漂わせる壮年男性の顔を、驚いている三人の客に見せつけている。
服は老人の時に来ていた物と同じであるのだが、逆にそのみすぼらしい身なりが「学会を追放された賢者」というイメージを作っていた。
「いやぁ、驚くのも無理はないかな?こうでもしないとあの場に溶け込めないものでね」
゛元゛老人であった男性は驚きの渦中にいる三人に向けてそう言うと、自分の顔に向けていた杖を右側の棚へと向ける。
そして『レビテーション』の呪文を唱えて杖を振ると、棚の中から数枚の書類がサッと飛び出してきた。
書類は数秒ほど空中で静止した後、゛元゛老人の操る杖によってフワフワと浮遊しながらも゛先生゛の手元へと舞い落ちていく。
゛先生゛はそれらを一枚も地面に落とすことなく丁寧にキャッチすると、書類に書かれている内容を流し読む。
恐らく探していた物かどうか確認しているのだろう。一通り読んだ後に軽く咳払いをしてから、目の前にいる三人を相手に喋り始めた。
「今から丁度数年前かそれよりも少し前までかのガリア王国でキメラの開発が行われていたらしい。
開発のテーマは、キメラを戦場に投入してどれだけ味方の被害を減らせるかどうか―――というものだったとか」
書類を見ながら喋り始めた゛先生゛の前にいるアニエスたちは何も言わず、ただ黙って聞いている。
゛先生゛はそれに対してウンウンと頷きながらも、話を続ける。
「軍用キメラの開発…というより研究自体は今から五十年前に始まったが、当初は単なる生物実験としての趣が強かったそうだ。
しかし当時のゲルマニアやそれに味方する小国との戦争が激化したことによって人的被害が増え、これに対し人の手で兵器にもなれるキメラにスポットライトが当たった…」
゛先生゛はそこまで言って一旦言葉を区切ると三人と゛元゛老人の目の前で一息ついた後、話を再開した。
「戦争が終わっても開発は細々と続いたんだが、数年前に開発していたキメラどもが暴走して研究所は崩壊。
そこにいた学者も殺されちまって別のところにいたキメラ研究の学者たちも、責任を追及されて路頭に迷った。
しかし…噂だとガリアがまたその学者たちを国に呼び戻して、以前よりもずっと安全な場所で研究を行わせてるんだとか」
そう言いながら、男は手に持った書類の中から一枚を取出し、それを隊長たちの前に突き出した。
三人は何かと思い薄暗い部屋の中でその書類に目を通してみると、驚くべきものがそのレポートの右上に描かれているのに気が付いた。
恐らく゛先生゛の手書き思われる文字が並ぶレポートの右上に、生まれてこの方見たこともないような奇怪な姿をした生物たちが描かれている。
それは人間を素体にして、イナゴの頭部をはじめとした様々な昆虫の部位を体中に取り付けた怪物と呼ぶにふさわしい存在であった。
その横には『クワガタ人間』という名前でそのまま通じそうな怪物の絵も並んでいる。
レポートを持っていた隊長はゴクリと喉を鳴らし、ミシェルは驚きのあまり右手で口を軽く押さえていた。
アニエスもキメラの絵に目を丸くしながらも、目の前にいる゛先生゛がその顔に薄い笑みを浮かべたのを見逃しはしなかった。
彼女がその笑顔をチラリと見ていたのに気が付いてか、すぐさま表情を元に戻すと話を再開した。
367 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:26:03.71 ID:2rOQ5W/6
「そこに描かれているのは、追い出された連中が開発していたキメラだそうだ。
対メイジ戦を想定して作られたそいつ等には見ただけではわからんが、多様な攻撃方法を持っとるという。
そいで詳しくは知らんのだが、そのキメラを特定の場所に呼び出す為の道具というものも―――あるらしい」
゛先生゛は話を続けながらも先程のようにレポートを一枚取出し、それを隊長たちに見せる。
そして、さっきは驚いたものの声を上げなかった三人は用紙の真ん中に描かれていた゛呼び出す為の道具゛を見て、「アッ!」と驚愕の声を上げた。
花の様に綺麗ながらも鋼の様に鍛え抜かれた二人の女性と、今まで数多くの悪党と渡り合ってきた歴戦の勇士の声が、薄暗い部屋の中に響き渡る。
「隊長…こ、これは」
動揺を隠しきれていないミシェルの言葉に、隊長は確信を得たかのように頷いた。
「ウン、間違いない…色が同じだ!」
そう言って隊長は左手に持っていた破片と、レポートに描かれている゛キメラを呼び出す為の道具゛の絵を見比べた。
ご丁寧に色までつけられたそれは、手に持った破片と似たような色をした―――青色の水晶玉であった。
まるで生きた人間を誑かして地獄へ引きずり込もうとしている死者たちが集う湖の様に、何処か恐怖を感じさせる澄んだ青色の水晶玉。
今隊長が手に持っているモノは、その湖に住まう死者たちの怨念を取り入れたかのように濁った青色のガラス片。
そして水晶玉の絵の横には、殴り書きの文字でこう書かれていた。
『この゛水晶玉゛は呼び出されたキメラが破壊し、証拠隠滅の為に一部が溶解して消滅する』
たった一行だけであったが、そこに書かれていた事はアニエス達ににある確信を持たせるのに充分であった。
まるで頭上に雷が落ちてきたかのようなショックを受けた三人は、目を見開かせ口をポカンと開けたままその文章に目が釘づけとなる。
『溶解して消滅』…。それは正に、隊長が最初に見つけたあの破片の末路とあまりにもソックリであったからだ。
「はははは…どうやら、気になっていた物の正体が何なのかようやく分かったようだね」
゛先生゛は驚愕の表情を浮かべたまま固まった三人を見て、乾いた笑い声を上げる。
明りの少ない部屋の中に響き渡るその声は、予想もしていなかった意外な真実に直面した三人の体を包み込んでいた。
回想を終えたアニエスは、開いた窓から見える人ごみと街の様子を見つめて呟く。
「ガリアの、キメラか…」
あの後、早々に退室を促された彼女らは゛元゛老人に『ここでの事は他言無用でお願いします』と釘を刺されてあの場を去った。
時間にすればほんの十分程度の話し合いであったが、とてもそんな短い時間では知る事の出来ない゛何か゛を三人は知ってしまった。
神聖アルビオン共和国の内通者を殺害した存在が人間ではなく、『何者かが用意したガリアのキメラであった』という可能性があるという事実を。
しかしそれと同時に、『何故ガリアのキメラがトリステインにいたのか』、『そもそも何故キメラを使ってまで殺したのか』という疑問も浮上してきた。
退室する前に部屋にいた゛先生゛にその事を聞いても、流石にそこまでは分からないと首を横に振るだけであったが、付け加えるかのようにこんな事を言っていた。
『案外、地上で起きた妙な事件ってのは…君たちの想像よりもずっと大きな事件なのかもね』
まるで何もかもお見通しと言わんばかりの言葉であったが、確かに彼の言う通りであった。
最初こそアニエス達は、捜査の中止を要求した連中だけがこの事件に関わっていたと思っていた。
しかしそれは単なる予想に過ぎず、実際にはもっと複雑な構造をしているのかもしれない。
「確かに隊長の言う通りだ。もう私たちではどうしようもない…」
アニエスはそう言って、自分の上司がこれ以上の詮索をしてはならないと警告してくれた時の事を思い出した。
368 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:30:05.84 ID:2rOQ5W/6
あの部屋を訪れてから翌日、アニエスとミシェルを部屋に呼び寄せた隊長は言った。
『昨日の事は忘れろ。俺たち三人だけでは手に負えない』
常に市民を守るのは自分たち衛士隊だと豪語して自身に満ち足りた表情を浮かべていた彼の顔には、諦めの色が浮かんでいた。
その事に納得がいかなかったミシェルとアニエスはその判断に対して食い下がりたかったが結局は隊長の心情を察し、大人しくその言葉に従った。
動けるのであれば彼は動いていたであろう。内通者といえど、殺人を行った者たちが誰なのか探るために。
勿論それが雲を掴む様な行為だとしても彼は躊躇うような事は無く、例えこれまで積み重ねてきたモノが崩れようとも真実を確かめたであろう。
いくら殺した相手が国を売ろうとした者で、殺せば国益になったとしても…殺人は立派な犯罪、それに変わりは無い。
それを知っていて尚自分たちの゛正義゛を信じてやまない者たちは俗にいう゛正義の味方゛ではなく、単なる犯罪者だ。
彼ならば決して許しはしないであろう、゛正義゛という名の無秩序な暴力をトリスタニアの中で振るう様な輩を。
しかし、もしも――――もしもの話だ。
この事件の黒幕が『王宮の一部』ではなく、『王宮そのもの』だとすればどうだろうか。
そしてそこに、大国であるガリアの手も加わっているというのならば――――もはや自分たちが抗っても何の意味もない。
だから隊長は二人に教えたのだ。この世には、どうしようもない事が沢山あるという事を。
「キツイものだな…ただ黙って見過ごすというのは…」
まるで不治の病に侵された患者が呟くような言葉とは裏腹に、彼女の顔には憎しみが浮かんでいた。
彼女は許せないのだ。人の命を奪っておきながらも、それで利益を得るような奴らを。
例え相手が大貴族や国家そのものだとしても――――その様な行為を平気でする輩は滅ぶべきなのだと。
東の砂漠に住まうエルフですら思わず怯んでしまいそうな目つきで、アニエスは窓越しに空を見上げた。
彼女の今の心境など関係ないと言わんばかりに、天気は快晴であった。
時刻が午後十二時を過ぎて丁度午後の一時半になったところ。
昼の書き入れ時が終わり、働いている人々は夕方や夜まで続く午後からの仕事に戻るため急ぎ足で街中を歩く。
その為かブルドンネ街やチクトンネ街の通りは朝や昼飯時以上に混み合い、酷いときには暴力事件という名の喧嘩が起きる。
暴力事件の元となるトラブルは多種多様で。コイツが俺の足を踏んだといった愚痴から財布を盗もうとして殴られたといった自業自得なものまである。
王都トリスタニアで夜中に次いで暴力事件が多発するこの時間帯は衛士隊の市中警邏が強化され、夜中よりも若干人数が増えるのだという。
善良な人々はそんな彼らに無言の賞賛を送りつつ、自分たちが暴力事件の容疑者や加害者にならないよう注意して通りを歩く。
トリスタニアで暮らしている人たちにとって何てことは無い、休日の午後の風景であった。
そんな時間帯の中、比較的人の少ない通りにあるレストランにルイズ達が訪れていた。
新しいティーポット探しや霊夢の服選びに購入したソレを学院に届ける為の手配で想定以上の時間が掛かってしまい、今から遅めの昼食を食べるところであった。
大通りにあるような所とは違い中はそれなりに空いてはいるが、それがかえって店全体に物静かな雰囲気を醸し出している。
店内の出入り口から見て右側にある台の上にはショーケースが置かれており、中に入っている演奏者を模した小魔法人形のアルヴィー達が手に持ったミニチュアサイズの楽器で演奏をし、店内に音という名の彩りを加えている。
演奏している曲は今から二、三年前に流行った古いモノだが、静かで優しい曲調が店の雰囲気とマッチしており、ガラス一枚隔てた先から聞こえてくる街の喧騒とは対照的であった。
いらっしゃいませぇ!という女性店員の声と共に最初に入店した魔理沙は、入ってすぐ横にあるショーケースの中身に見覚えがあることに気付く。
「おっ、アルヴィーじゃないか。こんな所にも置いてあるんだな」
大の男が握り締めるだけで壊れてしまいそうな小さな体とそれよりも少し小さな楽器で演奏をこなす人形たちの姿に彼女は興味津々と言いたげな眼差しを向けている。
そんな魔理沙に続いて入ってきたルイズは、子供の様にアルヴィーを見つめてルイ黒白に呆れつつもそちらの方へと足を運ぶ。
369 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 17:33:52.84 ID:2rOQ5W/6
この店にあるアルヴィー達は見た目からして大分古くなってはいるが、それでもまだまだ現役だと意思表明しているかのようにキビキビと動いている。
きっと彼らの手入れをしているのだろう。店長である五十代半ばの男性がカウンター越しに、ショーケースの前で立ち止まっているルイズと魔理沙を見て微笑んでいた。
彼らの姿をショーケース越しに五秒ほど見ていると、ルイズはふとアルヴィーと同じ類の人形が学院にもある事を思い出した。
「そういえば、ウチの学院にも幾つかあるわね。アルヴィーとかガーゴイルが…」
「知ってるぜ。確か食堂の中にある人形だろ?あれって、真夜中に踊ってるよな」
「あら、知ってたのねアンタ」
意外な答えに少しだけ驚いた振りをして見せたルイズに、魔理沙は当然だぜと言わんばかりに肩をすくめる。
「この前シエスタが教えてくれてな。それでまぁ真夜中の暇な時に見に行ったんだ」
魔理沙がそう言った時、ふとルイズは聞きなれぬ言葉を耳にして首をかしげた。
「真夜中の暇な時って…そんな時間に何もすることないでしょうに?っていうか一体なにをするっていうのよ」
「何言ってるんだ、真夜中にする事っていえば寝るだけだろ?」
黒白の口から出た予想の遥か斜め下を行く答えにルイズは、何だそんな事かと小さなため息をつく。
「つまり寝付けない時に見に行ってたって事よね?」
「まぁいつもは本とか読んでるんだがな。珍しいものが見られるならそれを見に行くだけの事さ」
興味のある物の為なら夜更かしも平気だと言わんばかりの彼女に対し、ルイズは勉強熱心な奴だと感心した。
しかし、それと同時にいつかアルヴィー手を出すのではないかと内心心配もしている。
霊夢から魔理沙の普段やっている事をある程度聞かされていたルイズは、どうにも不安になってしまう。
「…念のため言っておくけど、もしも食堂のアルヴィーに何かしたら怒るわよ?アレは学院の物なんだし」
「それなら大丈夫だよな?何かをする代わりに持って帰るつもりでいるから」
警告とも取れるルイズの言葉に、魔理沙はイタズラを企てた子供が浮かべるような笑顔を見せてルイズにそう返した。
「あ、あのお客様…は、三人でよろしいですよね?」
「そうねぇ…。あぁ、でもあの二人は喋るのに夢中だから放っておいてもいいわよ」
そして最後に入ってきた巫女服姿の霊夢が、隣にいる二人を見つめつつ目の前の女性店員に三人で来たことを教えていた。
ルイズたちに声をかけて良いか迷っていた彼女は「で、ではこちらの席へどうぞ…」と言って窓際のテーブル席へと霊夢を案内する。
二人の後ろでは、ルイズと魔理沙が物言わぬアルヴィー達の目の前で言い争いをしていた。
「やっぱり盗む気満々じゃないの!」
「相変わらず人聞きの悪いヤツだぜ。手土産の一つ二つなんだから別に良いだろ?それに私は盗むんじゃなくて借りてるだけさ」
霊夢が一足先に席に着いてちょっとメニューを見ていたところで、ようやくルイズと魔理沙がやってきた。
それに気づいた彼女はため息をつきながら、読めない文字だらけのソレから目を離すとルイズの方へ顔を向けた。
「全く、楽しそうな話し合いも程々にしなさいよね。ここはアンタの部屋じゃないんだから」
「何処が楽しそうに見えたのよ、何処が」
「ルイズの言う通りだ。やっぱりお前は冷たい奴だぜ…っと」
嫌味が漂う紅白巫女の言葉にルイズは軽く毒づきながらも反対側の席に座り、魔理沙も続いて言いながら彼女の隣に座った。
二人の返事に霊夢はただただ肩をすくめると、全く読めなかったメニューをルイズの手元に置く。
しかし目の前に置かれたソレを取ることは無く、狭く混雑した通りを歩いてきてようやく腰を落ち着かせる事の出来たルイズは、まず最初に軽い深呼吸を行った。
しえんぬ
371 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 18:00:03.34 ID:2rOQ5W/6
店内に漂う微かな埃と厨房から漂う食欲をそそる匂いを鼻腔に通らせて、それをゆっくりと吐き出す。
そうすることで気休め程度ではあるものの何となく落ち着く事が出来たルイズは、霊夢が置いてくれたメニューを手に取る。
比較的分厚い紙で作られたそれは二、三ページしかないが、そこに書かれている品目はバランスがとれていた。
前菜代わりのスープやサラダをはじめ肉料理や魚介料理も数多く。ロマリア生まれのパスタ料理もある。
他にもバケットやサンドイッチなどのパン類も申し分なく、デザートやドリンクも豊富であった。
(クックベリーパイが無いのは贔屓目に見ても駄目だけど…まぁ初めて入った店にしてはアタリといったところね)
デザートの品目を見て目を細めていたルイズは心の中で呟きながらも、何を食べようか迷ってしまう。
ルイズ自身こういう店に入るのは初めてではないが、自分でメニューを選ぶのは実のところ苦手であった。
いつも行くような所は上流貴族たちが集うような高級レストランで、今日のお勧めメニューをオーダー・テイカ―がとても優しく教えてくれるのだ。
だが、そういう所は貴族だけではなく従者にもそれなりの品位を求めてくるものである。
(どう見たって…二人を連れて行くとなれば、十年くらい掛けて再教育でもしないと無理ね)
ルイズはメニューと睨めっこしつつ、厄介な異世界の住人二人をチラリと横目で見ながら物騒な事を考えていた。
何の因果か知らないが、召喚して使い魔契約までしてしまった空を飛ぶ博麗の巫女。
そして彼女の知り合いであり、おとぎ話に出てくるメイジの様に箒を使って空を飛ぶ普通の魔法使い。
先程訪れた高級雑貨店ではなんとか従者扱いしてもらったが、きっと誰の目から見てもそういう感じには見えなかっただろう。
(友人…って呼ぶにしてはどうなのかしら?二人の事は大体わかってきたけど友人としては…何というか、作法を知らないというか)
メニューを選ぶはずがそんな事を考え初めたルイズが考察という名の渦に飲み込まれようとしていた時、彼女の耳に霊夢の声が入ってきた。
「とりあえず適当に冷たい飲み物を三人分持ってきてちょうだい。あぁ、料金はコイツ持ちで頼むわ」
何かと思い顔を上げると、いつの間にかウエイトレスを呼んで勝手にドリンクを頼もうとしている博麗の巫女がそこいた。
貴族であるルイズを気軽に指差して「コイツ」呼ばわりする霊夢の態度にある種の恐怖を感じているのか、ウエイトレスの体が若干震えている。
―――ナニヲシテイルノダロウカ?コノミコハ。
流石に許しかねない無礼な巫女に対し決心したルイズは、右手に持っていたメニューを素早く振り上げ…霊夢の頭頂部目がけて勢いよく下ろした。
下手すれば相手が気絶しかねない攻撃をルイズは何も言わず、そして無表情で繰り出したのである。
「え?…うわっ!!」
トリステイン王国ヴァリエール公爵家三女の放った恐怖の一撃はしかし、直前に気づいた霊夢の手によって防がれた。
流石の博麗の巫女もテーブルを一枚挟んだ相手が突然攻撃してくる事など予想していなかったのか、その表情は驚愕に染まっている。
渾身の一撃を防がれたルイズの隣にいた魔理沙は今まで外を見ていたせいか「な、何だ…!?」と声を上げて驚き、その勢いでまだ手に持っていた箒を床に落としてしまう。
霊夢の隣にいたウエイトレスが悲鳴を上げ、それに気づいて店にいた店員や他の客達はルイズたちのいる席へとその顔を向ける。
時間にして僅か五秒程度の出来事であったが、その五秒はあまりにも衝撃的であった。
「ちょっ…ちょっと!何すんのよイキナリ!?」
突然攻撃されたことに未だ驚きを隠せない霊夢は、自分の頭を叩こうとするルイズの魔の手を何とか防いでいた。
彼女の言葉を聞いてルイズの表情が一変、怒りの感情が色濃く見えるモノへと変貌する。
「人が食べるモノ選んでる最中に、何で私の許可なく勝手に注文してるのよアンタは!?」
「アンタがモタモタしてるから先に飲み物を…―イタッ!」
爽快感と痛快感を同時に楽しめる景気の良い音が、店内に響き渡る。
ルイズの文句に対し霊夢も反論をしようとしたのだが、いつの間にか左手に持ったもう一つのメニューで見事頭を叩かれてしまったのである。
372 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 18:03:32.46 ID:2rOQ5W/6
「今更言うのもなんだし言っても無駄だと思うけど…ちょっとは遠慮ってものを考えなさいよね!」
痛む頭頂部を両手で押さえている紅白巫女を指差し、ルイズは声高らかに叫んだ。
一体いつの間に持ち出したのよ…と霊夢はルイズの早業に驚きつつも、頭を押さえながら机に突っ伏した。
その様子をウエイターと並んで見ていた魔理沙は軽く咳払いした後、一連の出来事を纏めるかのように呟いた。
「…流石霊夢だぜ。何があってもその厚かましさは変わらないもんだなぁ〜」
「そんな事言える暇あるなら、コイツを止めなさいよね…」
「だ・れ・が…コイツよ!誰が!!」
強力な一撃を食らったダウンしても一向に口の減らぬ紅白に向けて、ルイズはとうとう怒鳴り声を上げた。
もはや店中の人間に注目されてしまった二人を遠い目で見つつ、魔理沙は他人事のようにまたも呟く。
「まぁ、こればっかりはルイズに分があるよな」
やれやれと首を横に振りながら、黒白の魔法使いは目を逸らすかのように窓の外へと視線を移す。
窓越しに見える空模様は、店内のバカ騒ぎにピッタリ似合うくらいに晴れていた。
◆
『あなたの記憶は、誰のモノ?』
また声が、聞こえてくる。自分の頭の奥にまで響く程の声が。
それは決して大きくはなく、どちらかと言えば小さな声だ。
きっと自分が声の主を一度見たからだろう。あの小さな体には相応しいと思える程小さいが、ハッキリと聞こえる。
しかし、その声が聞こえてくると無性に頭が痛くなるのは、何故だろうか。
まるで自分の頭の中をキツツキが突いているかのようにコンコンと痛みが自らの存在をアピールしている。
追い払いたくても追い払えないその声を意識するたびに痛みは酷いものになり、無意識の内に頭を掻き毟ってしまう。
クシャクシャと音を立てて掻き毟る度に黒い髪が一、二本抜け落ちて地面へ向かって舞い落ちる。
『あなたのキオクは、ダレのモノ?』
それでも声は頭の中で響く。誰にも理解されない痛みに一人苦しむ自分をあざ笑うかのように。
どうして苦しまなければいけないの?どうしてこの言葉をすぐに忘れられないの?
痛みに悶えながらも、頭の中でそんな疑問がフワフワと浮かんでくる。
そしてその疑問を解決するために考えようとすると痛みが酷くなり、口から苦しみの嗚咽が漏れてしまう。
この声が一日に数回聞こえるようになってからもう一週間近くも経つが、未だに解決の方法は見つからない。
それどころか、日増しにこの痛みが強くなっているような気もした。
『アタナノ記憶ハ、誰ノモノ?』
まただ、また聞こえてきた。
どうしてそうしつこく食い下がる?私に何か恨みでもあるのか?
373 :
無重力巫女の人:2012/06/30(土) 18:06:08.00 ID:2rOQ5W/6
私はこの声に対し、次第に途方も無い゛怒り゛が込み上げてくるのを感じた。
まるで二、三メートル程の高さがある柱の上に置かれた角砂糖を狙うアリの様に、脇目も振らずに私の頭へと゛怒り゛が登ってくる。
そして最初からそれを待っていたかのように痛む頭がその゛怒り゛をすんなりと認め、頭を中心にして自分の体へ溶け込んでゆく。
森の中を走り、逃げ回ってきた私の体はボロボロであったが、その゛怒り゛を受け入れられないほど疲弊してはいなかった。
不思議なことに゛怒り゛が頭の中を駆け巡ると、ゆっくりとではあるがこの一週間自分を苦しめていた頭の痛みがどんどん和らいでいくのを感じる。
どんなことをしても治りそうになかったソレがあっさりと治ってしまったことに、私は拍子抜けしてしまう。
なんだ、こんなにも簡単に治るとは―――――と。
しかし、痛みが和らいでいくと同時にその゛怒り゛が私に教えてきた。
『お前は今から、ある場所へ行け』と。
アナタノキオクハ、ダレノモノ?――――
また声が聞こえてきたが、もう頭は痛まない。痛みはもう消えた。
どうしてあの時の言葉がずっと頭の中で響き続けていたのかは知らないが、実害が無いのなら無視すれば良い。
それよりも今は、゛怒り゛が示す場所を目指すことが先決だ。幸いにもここから見える所なのですぐにたどり着けるだろう。
何故そこへ行かなければ行けないのか、という新しい疑問が一つできてしまったが…それはすぐに解決できるかもしれない。
きっと゛怒り゛の示す場所に、その答えはある筈だから。
あなたの記憶は、誰のモノ?―――――
「それはこっちのセリフよ」
先程と比べ殆ど聞こえなくなった声に対し、私はひとり呟いて歩き出した。
午後の喧騒で大きく賑わう街へ向かって。
―――――――
これで第56話目の投下は終わりです。
途中さるさんに引っかかってしまい、正直言って焦りました。
それでは、また来月ぐらいにお会いしましょう。
霊夢乙
しかし、魔理沙の「死ぬまで借りるだけ」理論は、
妖怪相手だから(かろうじて)成り立ってた言い分じゃないのか?w
定期サイヤ
376 :
ゼロの騎士団:2012/07/01(日) 05:07:31.07 ID:qE7okBd4
突然ですが、このまま誰もいなければ5分後あたりに投稿させていただきます。
召喚されるのはSDガンダム外伝・円卓の騎士団全員です。
かなり展開に違いが出てくるかと思いますが、そこはご容赦を。
なんたってこいつら全員、生身で機兵倒せるぐらいのチートだし…
そういうわけで俺TUEEEEEEE展開を許せる方のみ、ご閲覧ください。
377 :
ゼロの騎士団:2012/07/01(日) 05:12:53.53 ID:qE7okBd4
では短いですが、いきます。
「……ここは、どこだ?」
一人……いや、そういえるのかどうか疑問符がつくが……は辺りを見回して言った。だが言ったそれの姿は、あまりに周りの目を引いた。
恐ろしく豪奢な姿だった。背にある金糸が縫いこまれた真っ赤なマントはもちろん、金や銀、青など、色とりどりの装飾が施された鎧は華美ではあるが、しかし勇壮さも失っていない絶妙なバランスを備えていた。
おそらく彼の姿を見れば、誰もが王たるものの姿と考えるのではないだろうか。
現に周りを囲む生徒たちは、それが無意識に発している威厳に打たれて口を開けずにいる。いつもなら散々な悪口や嫌味を呼び出した当人に言ってもおかしくないのに。
「おいおい、俺たちは円卓の間にいたはずだろ!? だったらなんだってこんなとこにいるんだよ!!」
「……さて、な。しかしそれよりも、いちいち大声を出すな。相変わらず品のない」
「あんだとー!?」
「おい、やめろって! 今はそんなことしてる場合じゃないだろ!」
見るからに重そうな黒い鎧を纏った一人が大声をだし、豪奢な装飾が施された赤い鎧の一人がそれを見咎める。喧嘩になりかけた二人を、銀の鎧を身に着けた一人が間に入ってとめた。
「兄さん、ここの風景に見覚えは?」
「……ないな。遠征、諜報にと数多くの地を回ったが、このような場所は初めてだ。それにこのようなモンスターは見たことがない」
「闇騎士もか。しかしそうなると、まさしくもって何がどうなっているのだか……」
緑の鎧、スパイクが随所に付けられた黒い鎧、神秘的とも言える形状をした銀色の鎧を身に着けた三人が口々に疑問の声を上げた。
378 :
ゼロの騎士団:2012/07/01(日) 05:14:04.44 ID:qE7okBd4
「お前たちでも見覚えはないのか……となると」
「あー、悪い、親父」
「ぜんぜん分からない」
「……他の二人と同じなのは癪だけど、僕もだ」
「……だろうな。まあ、期待はしていなかったが……」
ため息をつき、あきらめの言葉を吐いた一人に「おい親父、どういうことだよ!」「父さん、さすがにそれは聞き逃せないよ!」と、それよりも一回り小さい三人が囲んで口々に文句を言っている。
「……やれやれ、こういうときでも元気があるのは結構じゃが……」
「もう少し状況を考えてほしいものですね。……とはいえ、いい加減このままでいるわけにもいきますまい。珍妙なものを見るような視線には、少々飽きました」
「……うむ、そうじゃな」
他と少し違った風貌をしている一人が首をやれやれと振る。黄金色の鎧を身に着けた一人も同意とばかりに首を縦に振っていたが、そこで意を決したかのように杖を持った方が立ち上がった。
そして向かうのは、王の下。直前で跪き、頭を垂れた。
「キング様、この状況、どうやらこれは……」
「……ああ、なんとなくではあるが、見えてきた。思えば、父の代にもこのようなことがあったというが……まさか、今度は我々がそのような立場になるとは思いもしなかった」
ひとつ頷き、キングと呼ばれた者が立ち上がる。
「とはいえ、こうなった理由も分からぬままではな。まずは、そこから明らかにするとしよう」
そして威厳を伴った声で、周囲のものたちに宣言した。
「ここにいる貴殿らに問う! 我々はブリティス王国、『円卓の騎士団』!」
高らかと謳い上げるは、かの世界で最強の称号を冠する騎士団の名。その騎士の強さは、機兵にすら匹敵するといわれた――
「我が名はキングガンダムU世――ブリティスの王にして、円卓の騎士団の長。見知らぬモンスターを従える者達よ! まずは名乗り出て自らの名を述べよ。そして我らを呼んだ、その真意を明らかにするがいい!!」
スダ・ドアカワールドただ一人のMS族の王の声は、嵐のような激しさで学園の敷地内に響いていった。
379 :
ゼロの騎士団:2012/07/01(日) 05:14:35.83 ID:qE7okBd4
※
(ちょ、ちょっと……なによこれー!?)
ルイズはパニックに陥っていた。
トリステイン魔法学院における重要な儀式、使い魔召喚の儀はつつがなく行われた。
みなそれぞれに呼び出した使い魔たちを自慢しているのを見て自分もという気持ちと、もしかしたらこの儀式もという気持ちがわいてくる。
そしていよいよ自分の段となって、じわじわと沸きあがってくる怖さを忘れようとして――
「宇宙のどこかにいる強くてかっこよくて気高くてともかく素敵な使い魔よ! 私の呼び声に……応えなさい!!」
……冷静になって考えると頭のネジの緩んだ詠唱で、使い魔を呼んでしまった。で、その結果が……
(こんな変なの13人(?)ってどういうことよ!? しかも自分のこと王様って言ってるし!)
頭の中で文句を言う。まあもっとも、彼女が変というのは、この世界の人間であれば当然である。
彼ら13人、全員が人間ではなかった。
肌は金属のように硬質で、肉と思しき部分はどこにも見出すことができない。人間で言う太ももにあたる部分が無いように見える分、体は人間よりも小さいという、なんとも奇妙な生き物だった。
だが、
(なん、でよ……なんで誰も、喋らないの!?)
さっき頭の中で言った言葉……口に出そうとして、しかしなにひとつ出せずに終わってしまった。現に今も「あんたたちを呼び出したのは私よ!」といいたいのに、口を開けない。
理由は明白だ。王を名乗ったそいつの迫力が、尋常ではないからだ。
いや、それだけではない。キングガンダムU世が名乗りをあげ、自分たちを問い詰めた瞬間、言い争いをしていたり辺りを見回したりしていたほかの連中も一斉に大人しくなり、思い思いの得物に手を掛けている。
彼らから感じる威圧感も、戦闘の素人であるルイズにすら感じられるほどの強さを持っていた。
(も、もしかして……私、とんでもないやつらを呼び寄せちゃった……?)
しかも、そんな奴らが13人。思わず、背筋に悪寒が走り……
「お、お待ちください!」
ルイズたちの教師である、コルベールの声が上がった。
380 :
ゼロの騎士団:2012/07/01(日) 05:15:34.93 ID:qE7okBd4
今回はここまでです。
しょっぱなあたりから飛ばしていこうと思っているのよろしくお願いします。
騎士団の人乙
次も期待してます
SDガンダムなつかしいな
王様と騎士団呼び出すとかマジやばい
回復騎士鈴木の剣とか懐かしいなオイ
鈴木を仲間にするだけで10以上もレベルアップしたよな
乙です
ただ、まとめサイトに「ゼロの騎士団」という同名のSSが既にありますね
しかも召喚されたのは同じSDガンダム外伝からアルガス騎士団…
「ゼロの円卓の騎士団」とか名前変えた方がいいかも?
SDガンダム直撃世代の俺歓喜
そいやナイトガンダムって呼ばれてたっけ
魔竜剣士ゼロガンダムはあったような
ガンダムフリーダムとフリーダムガンダムみたいに名前がに似てもまったく違うガンダムもあるんだから「騎士団のゼロ」でもいいんじゃない
外伝だと円卓の騎士だけスペリオルドラゴン関係ないんだよね
>>389 一応スペドラ由来のものはあったらしいけどね
シャッフル推薦の理由がスペドラ介入なしで解決たからね
ハルケじゃニュータイプはどういう受け取られ方をするんだろうか
ふと思ったが、なぜCDもとい銀の円盤使わんのかな
獣騎士の亜空間から帰還出来たんだから使えそうなのに
まあ通用したらお話じゃなくなるけど
懐かしいな銀の円盤w
騎士団の人乙です
しかしなんという懐かしの面々w
これは今後に期待すぐる
しかし
>>385さんの言う通り同名のSSがあるので
タイトルは変えた方が判りやすいかもしれませんねー
乙です。
ですが、すでに複数の方から意見があるように、同名の既存作品があるため
今回登録を見合わせました。
できれば次回投稿時に変更してもらえると登録できるかな?と。
#ログがあればもう少しさかのぼろうかと思っていたのですが……
# 直近のログだけだと以外と未登録作品がなかったです。
あう……変換ミス見落としorz
意外と、です(汗
了解しました。確かにログみると同名のSSがありますね。
今後はゼロの円卓の騎士団と改名します。改めてよろしくお願いします。
それにしてもるろ剣のひとマダカナー(チラッ
ということで、その題名で登録しました。
ログが310まで抜けてるからこれ以前の未登録作品があっても登録できないんですけれどね……orz
期待をちょっともらしたところで、このまま誰もいなければ連投いきます。
今回も短いですがご容赦を。5分後ぐらいからはじめます。
ではいきます。
「……」
「あー……えー……と、いうことなんですがの……キング殿?」
先ほどまでの草原、魔法学院校庭から学院長室に彼らは場所を移していた。教師コルベールは猛るキングガンダムをどうにか説得し、事情を説明するということで新たに学院長オスマンを加えて話し合いに臨んでいた。
そしてオスマン丁度今、トリステイン、引いてはハルケギニアの説明と、使い魔の儀式についてのあらましを喋り終えた。しかし喋り終えて返ってきたのが深い嘆息だったためうろたえた。
「ど、どうしましたかの? なにかご不明な点でも……」
「不明な点、どころではない!!」
突然キングガンダムの横から怒声が上がる。続いて机を叩く音。
僧正ガンタンクR。法衣と二振りのロッドを身に付け、先代の王の頃より仕えている円卓の騎士たちの古株だ。
普段は温厚な彼が、このときは珍しく怒気を顕わにしていた。……まあ、王への忠誠心の深い彼である。その彼を使い魔にしようなどと言われれば不思議ではないだろうが。
「おぬしたちはふざけておるのか!? 我々はこのような場所で使い魔などというものをしている暇など無い! そも我らが王を使い魔などというものに貶めようなど、言語道断!!」
「あ、いや、それは、その……」
めずらしくオスマンがあわてている。ガンタンクの怒りに面食らったというのもあるが、事実として一国の王をこの世界に連れてきてしまった、という罪の意識もあった。
ちなみに当事者の一人であるルイズもこの場にはいるのだが、場の雰囲気の重さとガンタンクの剣幕の激しさに飲まれて何も言えずにいる。
(スダ・ドアカワールド……まさかそのような世界があるとはの……)
その世界においては、目の前にいる彼らのような種族、MS族というものが普通に存在し、生きている世界らしい。そして彼らは、その中のひとつの国、ブリティス王国を治める王なのだと彼らは説明した。
……まあ、説明されて事情が分かった分、問題の大きさも浮き彫りになったのだが。
召喚された当人たちからすれば、これはもう国際問題以外の何者でもないわけで……
(うう……マジで王族なんかい……ミス・ヴァリエールも何ちゅうもんを召喚してくれたんじゃ……)
生徒に心の中で愚痴をもらす。
一応彼らには賓客ということで学院内において最上の部屋である客室の上座に座らせ、少しでも機嫌を直させるために贅をつくした食事を運ばせたりしているのだが
「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」
それでも説明した後に返ってくるのは、冷たいまなざし×12である。
ちなみに残った一人、ガンタンクRはもっと激しく怒りの視線と怒声を上げていた。
「聞いているのですかな、オスマン殿!?」
「ひゃい!? ああ、いえいえもちろん聞いていますとも!!」
意識がそれていたことを咎められ、あわてて背筋を伸ばす。それにどうもオスマンとしては、目の前のガンタンクRが苦手である。
飄々とした態度で相手の怒りをのらりくらりとかわすのがオスマンのやり方なのだが、どうにも通用しない。それだけ相手が怒っているというのもあるのだろうが、こういったことに対する年季の差もあるのかもしれない。
「しかも我々を送還する魔法すらないと!? どうすればよいというのだ、王にとり残された我らの臣民は! 貴族を名乗るあなた方ならば、分かるはずだ。これがどれほどの大事であるのかが!!」
「い、いえ! それは勿論承知しております! 承知しておりますとも! ですがそのための魔法がない、いや、少なくとも我々は知らないというのも事実ですし、ともかく一旦落ち着いて……」
「これが落ち着いてなど……!」
「……そこまでにしておいてくれ、ガンタンク」
それまで口を閉ざしていたキングガンダムが、そこでガンタンクを抑えた。
「しかし……!」
「ガンタンクの言うことももっともだ。私を信じてくれている民たちを思うと、
私も心底申し訳がない。だが彼が言う返す魔法がない、もしくは知らないとい
うのも事実なのだろう。それぐらいは彼の様子を見れば分かる。ならばこれ以
上彼に怒りをぶつけても仕方が無いのは、普段のガンタンクなら分かるはずだ」
「む……」
「勿論、使い魔などという話に怒ってくれたのも分かっている。だが、こういっ
たときに一番頼りになるのがガンタンクだ。そのあなたがこう怒ってばかりでは
話がすすまない。違うか?」
たしなめると共に、深い信頼を宿した声を彼に向ける。その様にほう、とオスマンはうなった。
なかなかに懐が深い……しかも、一般的にプライドの高いといわれる王族でありながら、使い
魔にするなどいう説明をされてなお冷静さを保っていられるとは。
キングガンダムにたしなめられ、少し考えていたガンタンクだったが、やがて彼に頭を垂れた。
「……失礼いたしました。確かに、少し冷静さを欠いていたようです。申し訳ありません、キング様」
「いいさ。……だが」
恥じ入るガンタンクから目をオスマンに移すキングガンダム。
一直線に、何のごまかしも許さないと無言の圧力をかけてくるその眼力に、オスマンは肝が冷えるのを感じた。
「ガンタンクが言ったことも、本当のことなのだということは理解してもらいたい。……事実、我ら円卓の騎士団が欠いたことで、故国は滅ぼされるという憂き目に一度逢っている。今は再興しているが、我が臣民をそのような目には二度と合わせたくない」
「……」
「我らを賓客として歓迎してくれたことには感謝しよう。だが、それならば早急なるこの事態の解決もお願いしたい。今後全力でもって、帰還の方法を探してくれること……誓ってくれるな?」
「あ、い、いえ、そ、それは勿論ですが、しかし……」
オスマンは口ごもる。自分たちがやる分にはやぶさかではない。それほどこの問題を軽視しているわけではないからだ。
だがキングガンダムが言った『全力で』の意味……おそらく国を挙げて、というものには、躊躇が入る。
どうするか迷っていると、コルベールが弁明の声を上げた。
「し、しかしですな、わ、私たちは魔術学院の院長、教師をしていますが、いってしまえばそれだけの存在でして。私たち個人ならともかく、国で以って、というのは我らの一存では……」
「……そう硬くならずとも良い。全力でとは言ったが、王といっても私は異世界の存在なのだし、突然このようなことを言われて国を挙げて探すなどできるはずもないことは理解している」
「……」
「だが、繰り返すがそうであっても我らの事情も理解してもらいたいのも事実なのだ。この際あなた方だけでもよい。……改めて問う。誓ってくれるな?」
「は、はい! 勿論です!」
勢い込んで返事をしつつ、内心ほっと息をつく。彼は物の分別もある王らしい。
先ほどの懐の深さといい、部下を抑える冷静さといい、かなりの名君であることがその行動の端々から伺える。
(惜しいのう……これほどの分別がウチの貴族どもに少しでも備わっていれば……)
ふと、そんなことを考えてしまう。とはいえ、誓ってしまった以上こんなことを考えている暇などこれからは無いだろう。明日から本気で、全力で以ってことにあたらなければなるまい。
もっとも、ここでの会話などたかが口約束だ。その気になれば無視する、ということもできなくもないだろうが……
「なぜか、それだけはしちゃいかんとつげとるんじゃよなあ……わしの勘が」
「ええ、それは私も同じです。彼らを怒らせてはいけない……それだけは、はっきりと分かる」
小声で隣に座っているコルベールと話す。そう、何故かそのことだけははっきりと二人には理解ができた。
ともかく今後、トリステイン魔法学院は全力でもって彼らの帰還する方法を探すことが決定し、かつ今後彼らがどうするかの確認をある程度して、この話し合いは終わることになる……はずだったのだが
「ま、待ちなさい!!」
ルイズの声が、そこで部屋に響いた。
今回はここまでです。国を背負ってるとなると結構きつい態度になるかなーと思って書きました。
それでもまだ描写としては甘いでしょうが。
そしてまだ契約にすら話がいっていないルイズの話は次回ということで……
円卓の騎士団の人乙です
キングU世はかなり若いはずなのに威厳ありまくりだな
ガンタンクの分際で
乙ですー
今後の展開に期待してます…ルイズが何言うやら
若干一話が短い気もしますね
最初のと今回合わせて一話でも決して長い方ではないかと
円卓の人乙。これからも期待してるよ
しかし、
>>407の人の言う通りもう少し長くしても良いと思うよ
まぁそこら辺は個人差だからなんとも言えないが
なかなかストックが貯まりませんので今週は休みます。すみません。
>>409 了解しました。お気になさらずに。
待ってますよ。
予定がなければ、23:30ごろから投下させていただきたいと思います
召喚キャラクターは『ポケットモンスターブラック・ホワイト』主人公のデフォネーム『トウヤ』です
某ラボメン一同を呼んだら
世界扉をあくまで自分の実験が成功した結果だと言い張ったり
フーケ事件を機関の仕業と断定するオカリンが浮かぶ
ポケモンか
期待
それでは始めます
抜けるような青空、というのはこういった空のことを言うんだろうか。
ぼんやりとした思考で、少年はそんなことを思った。
視線を落とせば、豊かな草原が一面に広がっている。暖められた草の、青臭い匂いが鼻をくすぐる。
遠くに、石造りの立派な城が見えた。彼が居たはずのイッシュでは、余り見ないタイプの建物だ。
だけどよくよく考えれば、以前に『彼』と雌雄を決したのも『城』だったなと思う。そう考えれば、そんなに不思議でもないのかもしれない。
ただそれも、彼が直前まで居たのが『海底遺跡』でなければの話だ。
海の底にある古びた遺跡のそのまた最奥に居たはずの自分が、何故こんな開けた場所に居るのか。
混乱している思考でそんなことを考えているところに、背後から声をかけられた。
「あんた誰?」
振り返れば、見慣れない格好をした女の子が、腰に手を当ててこちらを睨んでいる。
いや、白いブラウスにグレーのプリーツスカートと、服自体はそんなに妙でもない。ただ、首元のブローチによって留められた黒いマントが異彩を放っている。
顔は、まず可愛いと言って間違いはない。白い陶器で作ったようなつくりの良い顔に、強い光を放つ鳶色の眼。背中までかかっている柔らかくウェーブした髪は、ちょっと珍しい桃色がかったブロンドである。
周囲には同じような格好をした少年少女が、彼と女の子を取り巻くようにして立っていた。物珍しげな視線を向けられ、なんとも居心地が悪い。
マントがなければ、学生の集団のようにも見える。まるで昔見た映画の魔法学校のようだ。
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』でヘイミンを呼び出してどうするの?」
どこかからそんな声が上がると、意地の悪い笑いのさざめきが少年少女の間に広がった。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
目の前の女の子が、声の上がったほうをきっと睨みつけて口を開く。
「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」
「流石はゼロのルイズだ!」
誰かがそう言うと、人垣がどっと笑う。
どうやら目の前の彼女はルイズと言うらしい。
とにかく、「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け」である。
まずは名前を答えようと口を開いたところで、集団に混じっている『彼ら』に気づいた。
ほぼ習慣と化している手順でバッグを探り、手帳サイズのそれを取り出して開く。
そして最新技術の結晶であるそれのカメラを、彼らのうちの一体――青い髪の小柄な子の隣に控える、やっぱり青いドラゴン――に向け、ボタンを押した。
<<ERROR:対象はポケモンではありません>>
「あれ……?」
思わず首を傾げた。これは、人間や単なる無機物に対してそれ――ポケモン図鑑を起動した際に出るメッセージだ。ならアレは、ポケモンではないのだろうか。
とりあえず他の彼らにカメラを向け、同じようにボタンを押してみる。モグリューやきわめて小さいニョロトノのようなそれらにも、図鑑は反応しない。
嫌な予感がして、今度はタウンマップを取り出し起動した。
イッシュではない。カントーでもない。ジョウトでもない。ホウエンでもない。シンオウでもない。
該当データ、なし。
海底遺跡の調査が終わったら他の地方を回ってみようと思っていたから、マップデータはあらかた詰め込んだはずだ。それこそ、普通は入れないような細かいデータまで。
目の前がまっしろになりかけた。
先ほど彼の前に居た女の子が、人垣を割って現れた髪の薄い男性になにやら喰ってかかっているが、そんなことを気にしている場合ではない。
無意識に、腰元のボールを手で探った。『そらをとぶ』を使えば、例え見知らぬ場所であろうと、ポケモンの優れた方向感覚によって見知った街に飛ぶことができる。
だが、手はそこで止まった。今の彼に、それを試してみる勇気はない。試してみて、万が一失敗してしまえば、どうしようもない事実が確定してしまいそうだったから。
ポケモンではない、青いドラゴンやモグリューのような生き物が存在する世界。
果たしてそれは、彼の居た世界と同じものなのだろうか?
「彼はただの平民かも知れないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなくてはならない。古今東西、人を使い魔にした例はないが、この儀式のルールは他のあらゆるルールに優先するのだから」
「そんな……」
視界の隅では、男性に諭された女の子ががっくりと肩を落としていた。
男性がこちらを指さしていた辺り、彼にも関わる話なのだろうが、内容は全く分からない。
「召喚には手間取ったけれど、最後は成功したんだ。きちんと契約まで済ませて、儀式を完遂しなさい」
「……はい」
男性に厳しさと優しさの混じった微笑を向けられて、女の子――ルイズがくるりとこちらを向く。
そのまま近づいてきた彼女は、困ったような表情で彼を見つめて言った。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」
キゾク? 貴族、だろうか。ならさっきの「ヘイミン」というのは平民のことか。
困惑する彼の前で、ルイズは諦めたように目をつむり、手に持った小さな杖を振る。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔となせ」
まるで呪文のような文言を唱えると、杖を彼の額に置いた。
そして、呆気に取られる少年の頬を手で支えると――小さな唇を、彼のそれに重ねた。
「っ!?」
「……終わりました」
すっと立ち上がり、顔を真っ赤にしつつ報告したルイズの背中を、少年は呆然と見つめた。
『ちょうおんぱ』に『あやしいひかり』を重ねがけされた上で『ばくれつパンチ』を喰らったような気分である。分かりやすく言うと、なにがなんだか分からないということだ。
「『サモン・サーヴァント』は何度も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
頭の薄い男性が、嬉しそうに言った。
それを皮きりとして、またしても人垣が騒ぎ立てる。
どうやら、ルイズというこの女の子は基本的にからかわれる立場らしい。『洪水』『香水』『ゼロ』などの言葉が飛び交うが、頭に入ってくることはなかった。
駄目だ。完璧に混乱してしまっている。とりあえず、あの男の人にでも話を聞いてみよう。
そう決めたところで、身体が妙に熱くなった。
特に右手の甲が熱い。むしろ痛い。熱したヤカンに手の甲を押しつけたらこうなるだろうか。思わず右手を抑えてうずくまる彼に、ルイズが苛立った声をかける。
「『使い魔のルーン』を刻んでいるだけだから、すぐ終わるわよ」
それは、時間にすれば確かにすぐ終わるのかもしれなかった。ただ、これまで強い負荷を受け続けてきた彼の精神は、そんな痛みに耐えきれず。
トウヤは めのまえがまっしろになった!
「ねえ、ちょっと、大丈夫!?」
ゆさゆさと身体を揺さぶられて、少年は目を覚ました。眼前には、女の子――ルイズの顔。
バックに広がっているのは青い空だ。どうやら彼は、草原にあおむけで横たわっているらしい。痛みの酷かった右手の傍では、髪の薄い男性がなにやらスケッチを取っていた。
大丈夫、と言って起き上がると、ルイズがじろりと睨みつけてくる。
「ルーンを刻まれた程度で倒れるなんて……まぁ、大事でなくて安心したけど」
後半が良く聞こえず聞き返そうとするも、その前に周囲から野次が飛んだ。
「契約で使い魔を殺したのかと思ったよ!」
「そしたら、ゼロどころかマイナスじゃない。ルイズのキスは『あくまのキッス』ってやつ?」
ルイズの鳶色の眼が怒りできらめく。そのまま唇を開いて反撃の言葉を吐き出そうとしたところで、男性がパンパンと手を叩いて場をおさめた。
「そこまでです。……じゃあ皆さん、部屋に戻りましょうか」
そして男性はくるりときびすをかえすと、ふわりと宙に浮いた。
周囲の人垣も、同じように宙に浮く。そしてそのまま、城のような石造りの建物へと飛び去った。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ、『フライ』どころか『レビテーション』すら使えないんだぜ」
「その平民、『ゼロ』の使い魔としてお似合いよ!」
口々に叫んでは、紐で引かれるように城へと飛んでいく。
少年は口をあんぐりと開けてそれを見送った。彼の常識では、人は飛ばない。個人で使える飛ぶ手段はあったはずだが、どうにも思考がはっきりしなかった。
少年と二人残されたルイズは深いため息をつくと、疲れたように彼に問いかけた。
「あんた、なんなのよ」
訊かれたのでとりあえず名前を答えようとして、すんなり出てこないことに戸惑った。それどころか記憶全体にもやがかかっているようで、なにも思い出せない。
思い出せないので首を振る。ルイズが慌てたように「名前は?」とか「住んでいた場所は?」などと訊いてくるが、ことごとく返せない。
「まさか、記憶喪失……?」
「そう、みたい」
恐る恐るといったその言葉に、彼はこくんと頷く。
「よりによって召喚したのが平民で、しかもそれが記憶喪失だとか……ああもう!」
「……ごめん」
ルイズは苛立ちを込めて彼を睨みつけるが、恐縮したように縮こまってしまっている相手に怒り続けることは難しかったらしい。
彼女は再び肩を落とすと「部屋に戻るわよ」と気の抜けた声で言った。
417 :
るろうに使い魔:2012/07/01(日) 23:36:47.63 ID:pbmxrhcz
ウルトラの人さんも頑張ってください。円卓の人さん、続き楽しみにしています。
さて、遅くなりましたが、誰も予約がないようであれば、40分に13話の方、投下しようと思います。
418 :
るろうに使い魔:2012/07/01(日) 23:38:02.62 ID:pbmxrhcz
しまった、かぶらせてしまいました。
予約は取り消します。どうもすみませんでした。
「記憶喪失ってのは本当みたいね」
ルイズがこちらの世界のあらましを語り、少年が分からないところについて訊く、といった形でいくらか会話した後、彼女はそう頷いた。
地名や歴史はともかく、貴族と平民の違いやメイジ、更には魔法についてすら知らないというのは、ハルキゲニアではあり得ない。幼児ですら持っている知識だ。
例え東方にあるとされる『ロバ・アル・カリイエ』から来たと考えても、魔法についての知識まで欠けているというのはおかしい。かの地の近くには、あの恐ろしいエルフが居るはずなのだから。
「……とりあえず、明日にでも校医に診て貰いましょう。ここまでなにもかも忘れてると、日々の暮らしにすら支障が出かねないわ」
「ありがとう」
にこりと笑いかけられ、つい溜息が洩れる。この使い魔は、事態の深刻さを理解しているのだろうか。
「使い魔の健康管理も主人の仕事よ。気にしなくて良いわ」
「……俺がゴシュジンサマのツカイマだってのは分かったけど、具体的にはなにをすれば良いんだろう?」
そういえば、彼の立場については説明したが、使い魔の仕事の詳細までは話していなかった。
記憶が戻るにしろ戻らないにしろ、知らせておいて損はないだろう。
「使い魔の仕事は主に三つよ。まず、主人の目となり、耳となること……なんだけど、これはダメね。わたし、なんにも見えないもの」
「そうなんだ」
使い魔は申し訳なさと安堵の入り混じった微妙な表情で頷いた。
「次に、特定の魔法を使う時に必要な秘薬を見つけてくること……なんだけど、これもダメね。記憶喪失じゃ、コケやら硫黄やらって言っても分からないでしょ?」
「うん」
平民では記憶が戻ったとしても駄目な気がするが、あえてそれは考えまい。
「そして最後に、主人の身を守る存在であること……なんだけど、これもダメよね。あんた、腕っ節があるようには見えないし、なにか特別な能力があるわけでもないだろうし」
「……ん、ああ、そうだね」
身を守る、と言ったところでなにか引っかかっていたようだが、大したことではないようだ。
しかし整理すると、この使い魔は使い魔らしいことは何一つ出来ない、ということになる。
平民を召喚してしまった自分のふがいなさにちょっとだけ泣きたくなったが、それよりまずは彼の仕事を決めることにした。なにが出来ずとも、遊ばせておくわけにはいかないのだから。
「ということで、あんたには洗濯と掃除、後はその他の雑用をやってもらうわ」
「了解」
能力と種族はともあれ、従順なのは美点だ。使い魔としてはそれが普通なのだが、ヒトであり、かつ常識に欠ける以上は、もう少し軋轢があってもおかしくなかった。
記憶喪失から来る不安もあるのだろう。それが、自分の行った『コントラクト・サーヴァント』が原因である可能性を考えると、ちょっとだけ後ろめたくなった。
そんな後ろめたさを振り払うように、ルイズは話を変えた。
「ところで、あんた召喚された時になんかごそごそやってたけど、あれはなにをしてたの?」
「ごそごそ?」
「いや、このバッグ漁って、なにかやってたじゃない」
そう言ってバッグを手渡してやるも、使い魔は首を傾げている。やはり、自分の持ちものについてすら忘れてしまっているらしい。
もしかすれば、バッグが記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないと思ったのだが、そう簡単にはいかないようだ。前途多難である。
ルイズは一つ首を振ると、疲れ切ったように言った。
「いいわ、忘れて。……たくさんしゃべって疲れちゃったから、寝るわ」
「分かった」
そう簡潔に答えると、使い魔はごく自然な動作で部屋を出ようとする。慌てて止めた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 何処に行くのよ!」
「……? ツカイマは外、じゃないの?」
「いやまぁ普通はそうだけど! 使い魔用の厩舎もあるけど!」
ご主人様と使い魔の関係をはっきりさせておこうとは思っていたけれど、流石にそこで寝ろとまでは言わない。むしろ言えない。
あれだけの思いをして契約した使い魔が、大型の幻獣に餌と間違われて美味しく頂かれてしまいました、なんてなったら、泣くに泣けない。
毛布を投げ渡しつつ、ベッドから離れた床の一角を指指す。
「これ貸してあげるから、そこで寝なさい」
「……ん、ありがとう」
反抗的なのは大変だろうが、理解が良すぎるのもそれはそれで疲れるものだ。
そんなことを思いながら、ルイズは寝るために着替えることにする。ブラウスのボタンを全て外したところで、使い魔に視線をやると、毛布にくるまり既に寝息を立てていた。
「……はぁ」
本来なら怒鳴ってでも起こしてやるべきところなのだろうが、今日は色々とあり過ぎて気力がない。洗濯に関しては、明日にでも改めて言いつけることにしよう。
ルイズはランプの灯を落とすと、寝台に横になる。するとよほど疲れていたのか、使い魔に負けず劣らずの早さで寝息を立て始めた。
ポケモンの方乙です
乙ですー
るろうにの方は、投下は今夜は止められたのかな?
424 :
るろうに使い魔:2012/07/02(月) 00:52:09.53 ID:OwXJcG4t
ポケモンの方乙でした。そして申し訳ありません。
今後このようなことがないよう、もっと気をつけます。
それでは、今度こそ誰もいないようなので、1時ちょうどに投下しようと思います。
425 :
るろうに使い魔:2012/07/02(月) 01:02:17.79 ID:OwXJcG4t
それでは始めたいと思います。
ルイズ達がアンリエッタの勅命を受けて、アルビオンへと向かう決心をする、その前の晩のこと。
トリステインの城下町に存在する、チェルノボーグの監獄にて、盗賊、土くれのフーケが牢屋越しに自身の処遇について聞いている最中だった。
「…という訳で、裁判は来週中に行われる。何か異論はあるか?」
ある訳ないじゃないの、とフーケは何も言わずに手を振った。どうせ死刑確定だろう。良くて島流し。弁護なんてものは存在しないだろうと思っていた。
「まあいい、あと脱獄なんて考えるんじゃないぞ」
監視員の男は、そう告げると厳重に鍵をかけて、その場を去っていた。コツコツと、足音はだんだんと小さくなる。
脱獄かあ…とぼんやり考えこみながら、フーケは寝そべった。どの道杖を取られている身の上に、強力な『固定化』の掛かった壁、おまけに手に入る食器は全て木製という徹底ぶり。現状、脱獄は不可能に近かった。
「全く、か弱い女一人閉じ込めるのに、この物々しさはどうなのかしらね?」
そんな事を呟きながら、ふと自分を捕まえた、あの優男を思い出す。
途中で自分の正体に勘づく程の洞察力。幾度も実戦を乗り越えてきたであろう身のこなし。
ゴーレムですら、あの男の前では無力に等しい。そして間違いなく、あれが実力の全てではないことは分かっていた。
正直、あの男に追い掛けられるぐらいなら、まだ牢屋の中がマシと思えるほど、圧倒的な力を持つ青年。
とんだ貧乏クジ引いちゃったなあ、とか思いながら、でもまあ今はどうでもいいか…と思い直し、さてどうしようか、と考えながら、取り敢えずフーケは眠ることにした。
それから、数時間後のことだった。
「……ぁ…っ…!!」
「ひっ…うわああああああ!!」
突然の悲鳴が、牢屋の中にも響いてきた。それにガバリと起き上がったフーケは、何事かと耳を澄ませてみるが、あれから何も聞こえない。
次に聞いたのは、バァンと轟く大きな音。扉を開けたようなその音の次に、今度はコツコツと小さな足音が、こちらに向かってやってくるのを告げていた。
「うふ……うふふ…」
「…何だい……?」
警戒しようにも杖がない。その音に緊張感を覚えながらも、フーケは出口を見やった。やがて、そこから一人の人間が表れた。
その身なりを見て、フーケは全身鳥肌が立った。
そいつは、かつて見たあの青年と同じような服を着ていた。腰に刀、頭に黒傘を被さった、長身の男。だがそれより何より、異形なのはその眼だった。
人を殺すことを何とも思わない眼。いやむしろ、人を殺すことに生きがいを感じている眼。
それなりに強い傭兵や、戦いなれたメイジは何人か見てきたが、コイツはそのどれも当てはまらない、
イレギュラーな存在を思わせるような雰囲気を纏わせていた。
「…で、あんたは何のようだい…?」
内に芽生える恐怖心をひた隠しにしながら、フーケは聞いた。
貴族に雇われた刺客か、それとも全く別の目的からか、いずれにせよ、こんなところまで来るということは普通じゃないことだけは確かだ。
426 :
るろうに使い魔:2012/07/02(月) 01:04:33.59 ID:OwXJcG4t
しかし男は何も答えない。
やがてそんな男を見かねてか、もう一人の人物が姿を現した。黒傘を被った男と、変わらずの長身で、黒いマントを掛けているが、素顔は仮面のせいで窺い知ることはできない。
「『土くれ』だな?……話をしにきた」
話…と聞いて、フーケは怪訝な顔をする。自分の弁護でもしてくれる物好きだろうか?どうでも良さそうに手を振るフーケに対し、仮面の人物は言った。
「単刀直入に言う、アルビオンの革命に加わる気はないか? マチルダ・オブ・サウスゴータ」
それを聞いて、フーケはハッとして仮面の人物を見る。それは、遠い記憶に捨ててきたかつての名前。それを何故こいつらが知っている……?
「どういうことよ……?」
先程から一変、緊張したような表情をみせるフーケに、仮面はこう答えた。
「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない。ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」
「……バカ言っちゃいけないわ」
下らなさそうにフーケは鼻を鳴らした。統一する? アルビオンを、トリステインを、ゲルマニアを、ガリアを? おまけにあの強力なエルフから、聖地を奪取すると?
寝言は寝て言え。と思うフーケだったが、ふと目に、黒傘の男が移った。相変わらず自分を切り刻む玩具か何かの目で見つめている。
下手な回答をすれば、牢屋越しからでも刃が飛んでくるだろう。
それに、この男……どことなくだが、自分を捕まえたアイツに似ている。
表面上は、全然そうではないのだが、どこか根っこでは、シンパシーに近い何かをこの男とアイツから感じるのだ。
「『土くれ』よ、お前は選択することができる。我々の同志となるか―――」
「その男に、斬り殺されるか……でしょ?」
フーケがその言葉の後を引き取った。どの道自分に選択権などない。なら最初からそう言やいいのに、もったいつけて…と心の中で思った。
「あんたらの貴族の連盟とやらは、なんていうのかしら?」
「味方になるのか? ならないのか? どっちなんだ」
「これから旗を振る組織の名前は、先に聞いておきたいのよ」
それを、肯定の意味だと悟った仮面の人物は、黒傘の男を一瞥する。男は、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべると、腰の刀の柄に手を当てて――
「『レコン・キスタ』だ」
その言葉と共に、鉄格子が真っ二つに切り裂かれた。
第十三話 『始動』
そんな事態にも露知らず、ここはトリステイン魔法学院。
朝日が昇り、太陽が庭や建物を照らす中、う〜んと背伸びする三人の人影があった。ルイズ、ギーシュ、剣心の三人だ。
ここからアルビオンへは、馬でも何日かかかるらしい。そのため丹念に馬の手入れや持ち物の準備をする中、ギーシュが聞いた。
「僕の使い魔も、連れていきたいんだが、いいかな?」
「おろ?」
427 :
るろうに使い魔:2012/07/02(月) 01:06:49.71 ID:OwXJcG4t
そういえば、ギーシュの使い魔なんてまだ見たことはなかった。どこにいるのかと辺りを見回すと、急に下の地面が盛り上がり始めた。
そこから出てきたのは、かなり大きいサイズのモグラだった。
「ヴェルダンデ! ああ僕の可愛いウェルダンデ!」
そう言って、ギーシュは愛おしげにモグラを撫で始めた。それを見て、呆れた様子でルイズが口を開いた。
「ねえギーシュ、私達、アルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物なんて連れてけないわよ」
一瞬、その言葉を飲み込むのに時間を要したギーシュだったが、やがてその意味を悟ると、今度は悲しげにウェルダンデを抱きしめた。
「お別れなんて、辛い、辛すぎるよ……、ヴェルダンデ…」
この会話に剣心は疑問を覚えた。何故連れてけないのか? 歩く分には問題ないと思うのだが……。
しかし、当のウェルダンデは、何やら鼻をひくつかせる様な仕草を見せると、急にルイズの方をむいて、
あろうことかそのまま押し倒して擦り寄り始めた。
「ちょ…やっ…どこ触ってんのよ!」
「……何しているでござるか…?」
モグラと戯れるルイズを見て、剣心は呆れたような感じで呟いた。ギーシュはギーシュで、眩しいものを見るように見守っている。助ける気はないようだ。
しばらくして、剣心はウェルダンデはルイズの右指にはまっている、指輪を目指していることに気づいた。
「成程、指輪か。ウェルダンデは宝石が大好きだからね」
どうやらギーシュのウェルダンデは、宝石や鉱山を追い求める習性があるようだ。
納得したように、ギーシュが頷くと同時に、急に突風が吹き荒れてウェルダンデを空高く打ち上げた。
「誰だ!!」
激昂したように、ギーシュが風の吹いた方向を見て構えた。そこには、羽帽子を被った一人の男がいた。
剣心は、彼に見覚えがあった。式典のとき、アンリエッタの隣を護衛していた騎士の一人。ルイズが熱を持った視線を送っていたあの男性だ。
「すまない、婚約者が襲われているのを見かねてね。僕は姫殿下より、君たちに同行するよう命じられたのだよ」
そう言って、男は帽子を取って一礼をする。
「女王陛下の魔法衛士隊、『グリフォン隊隊長』、ワルド子爵だ」
それを聞いて、ギーシュはサッと顔色を変える。グリフォン隊と言えば、愛しい姫殿下直属の部隊であり、憧れの的だ。流石に相性が悪すぎる。
しかし、剣心はそれよりもワルドが最初に言った言葉を思い返していた。婚約者…?
そしてそれを肯定するかのように、ワルドは嬉しそうにルイズを抱き上げた。
「久しぶりだな! ルイズ! 君は相変わらず羽のように軽いな!!」
「お、お久しぶりですわ…ワルドさま」
ルイズも、今まで剣心に見せたことのない、はにかんだ様子でワルドを見つめた。
しばらくそうやって戯れていると、ルイズを降ろし、急に真顔になって剣心の方を向いた。
「君が、ルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」
「緋村剣心でござる。以後お見知りおきを」
婚約者と聞いても、少し驚いただけで特に何かを思う風でもなく、剣心は軽く頭を下げた。ワルドは、そんな剣心に頭を上げるよう促した。
「僕の婚約者が、お世話になってるよ」
「こちらこそ」
当たり障りのない二人の会話。それを傍目でルイズは見ていた。なんていうか、すごくもどかしそうな目で。
ワルドは、そんなルイズの視線の気付いて軽く微笑むと、口笛を吹いてグリフォンを呼んだ。
それにワルドはひらりと跨ると、ルイズを一緒に乗せて、剣心達の方へと向き直って言った。
「では諸君、出撃だ!!」
そんな一行を、アンリエッタは学院長室の窓から心配そうに眺めていた。今はただ、ルイズを、彼らを信ずるしかない。そう思って、一心に祈った。
しかし隣では、そんな雰囲気をぶち壊すように、オスマンが鼻毛を抜いていた。
「見送らないのですか? オールド・オスマン」
「ほほ、姫。この老いぼれは見てのとおり、鼻毛を抜いとりますのでな」
どこまでも暢気そうな彼の態度に、はぁ…とアンリエッタはため息をついた。そしてそれを見計らったように、次の瞬間、コルベールが勢い良く飛び出してきた。
428 :
るろうに使い魔:2012/07/02(月) 01:10:03.51 ID:OwXJcG4t
「いいいい、一大事ですぞ! オールド・オスマン!!」
「君はいつでも、一大事ではないか。どうも君は慌てんぼでいかん」
「慌てますよ、チェルノボーグ牢獄が、何者かに襲撃されました!!」
コルベールは、まくし立てるように説明し出した。魔法衛士隊が、王女と共に出払った隙を狙ったかのような襲撃。
目撃者もなく、関わった門番や兵士は皆斬殺された死体に変えられており、さらに恐ろしいことに、それに乗じて土くれのフーケが脱獄してしまったのだ。
城下に裏切り者がいる……その事実に、アンリエッタは唖然とする。
「間違いありません! アルビオン貴族の暗躍ですわ!!」
「そうかもしれませんなぁ…あだっ!」
痛そうに鼻毛を抜いてコルベールを下がらせるオスマンに、アンリエッタは心底呆れたような口調で聞いた。
「トリステインの未来がかかっているのですよ? 何故そのような余裕の態度を…」
「既に杖は振られたのですぞ。なあに、彼ならちゃんとやってくれましょう」
変わらず泰然自若の体をを崩さないオスマンの、その言葉を聞いて、アンリエッタは考えた。何でこんなにも余裕でいられるのかと…。そして『彼』とは?
普通で考えれば、ワルドの事かと思うが、オスマンの態度から見るにそれは違う気がした。ではギーシュの方かと言われると、それも違うだろう。となると―――。
「まさか、ルイズの使い魔のことですか? しかし彼はただの平民ではありませんか!」
腑に落ちなさそうな様子のアンリエッタに対し、オスマンは静かな声で言った。
「姫は、『ガンダールウ』のくだりはご存知か?」
「始祖ブリミルが用いた最強の使い魔のこと? まさか彼がそうと……!?」
目を丸くして驚くアンリエッタを見て、オスマンは一瞬しまった、と思ったが、まあいいかと思い直し、なおも面白気に口を開いた。
「では、『飛天御剣流』をご存知ですかな?」
「……聞いたことがありませんわ」
明らかに知らないのを承知で聞くような質問に対し、アンリエッタは首をかしげる。そして、オスマンはそんなアンリエッタの様子を見て、楽しむように言った。
「これは私の体験談なんじゃが、三十年程前に、一度ワイバーンに襲われましてな、そこを一人の恩人に助けて貰ったのですが、彼は魔法も使わずに、
剣一本だけで、しかも最初から瀕死に近い状態にも関わらず…ワイバーンと互角に戦い、そして倒してしまったのですじゃ」
「ワイバーンを!? ご冗談でしょう!!」
魔法も使わずに? 剣だけで? 瀕死なのに? あのワイバーンを一人で?
予想通り、信じられないといった感じを見せるアンリエッタは、しかしオスマンが嘘でからかっているわけでなく、本気で言っていることに気付いた。
「残念ながら、本当ですじゃ。これはただの伝説や噂ではない。私が証人なのですからな。このオールド・オスマン、誓ってこの話には、嘘偽りを並べたりはしない、全て真実の出来事ですぞ」
この言葉にアンリエッタは、しばし言葉を失った。もし、それが本当だとしたら…。
「では、『飛天御剣流』というのは……」
「左様。その恩人が振るっていた流派の一つ。恐らくその強さはメイジの比ではない、もしかしたらエルフにも、正面から太刀打ちできると私は思っとります」
「しかし、そんな流派なんて聞いたことも……」
なおも納得できなさそうに、首を振るアンリエッタを見て、オスマンはいい加減喋りすぎか? と思った。
しかし、ここまで言ってしまったらいずれ真実にたどり着くだろうし、何より彼は力の使い方を分かっている。そうそう権力に利用されるような下手な事はしないだろう。
だったら、今ここで語っても問題無い。そう思ってオスマンは続けた。
「まあ、信じるか否かは姫に任せるとして、要は、彼はその『飛天御剣流』の全てを受け継いでいるということ。
そして彼も恩人も、この世界ではない『どこか』から来た人間だということ。それを知る上でこその余裕なのですじゃ」
異世界、と聞いて再び混乱し始めたアンリエッタだったが、一つだけ理解したことがあった。
あの時、何故彼に対してあんなにも、頭を下げてお願いしたのか、あれは、自分でも不思議だったのだ。
しかし、今なら何となく分かる気がした。なんというか、彼には期待してしまう雰囲気があるのだ。
切羽詰った状況で、親友にも晒せなかった本音を、会って間もない筈なのに、彼だけは理解してくれたのではないかと、そう感じたのだ。理屈ではなく本能で。
「ならば祈りましょう。異世界から吹く風に」
アンリエッタは祈った。親友と、その使い魔である彼と一行に。良い結果が訪れるようにと。
429 :
るろうに使い魔:2012/07/02(月) 01:15:32.76 ID:OwXJcG4t
これにて終了です。ここまで見ていただきありがとうございます。そして本当にすみませんでした。
ポケモンの方も、続きを楽しみにしています。記憶喪失の中でどんなポケモンを使うのでしょう?
それではまた来週、この時間にお会いしましょう。
みなさん乙です
最近新作が増えているようで何よりだわ
以前とまではいかなくても活気が戻ってきて嬉しいです
乙乙
皆様お疲れさまです!
ポケモンの人は私の趣味も兼ねて特に応援してますよー!
…トウヤさんはともかくNさんは2に出てきちゃってるけど、彼は出ないのかな?
この上ないヴィンダポジだと思いますが…本人死ぬほど嫌がりそうな能力なんですけど
やはり彼には艱難辛苦というか不幸が似合う気がしてなりませんな
ポケモンは金銀までしかやってないなあ。愛用したのはニドキングだったが、リメイク版じゃどうなってるのか
ミュウを出す裏技がはやって、クソ重い旧型GBを持ち歩いて交換を楽しんだ遠き日の思い出
ニド様は本当にシナリオで輝くお方…
身長1hyde未満とか本当に信じられないわ
GBA版リメイクでもそれは変わらなかったと思うぞ
・・・昔は通信するのに一々邪魔臭いケーブルとか持ち歩いてたなぁ…
GBAに目立つ通信アダプタつけたり…懐かしい…
今じゃ通勤中の電車ですれ違いを狙う日々だよ…
3つの世代、5つの地方を渡り歩いた相棒がいるんだぜ!
乙です!
GBで思ったけど、
ゼロ魔って横スクロールアクションゲームになったら面白そう
対空火力の高い火の赤クリスタル、対地攻撃のできる土の黄クリスタル、反射攻撃で避けながら攻撃する水の青クリスタル、追尾攻撃が便利な風の緑クリスタルを武装にする横スクロールSTGか
MMORPGでいいよ
>>435 こんな感じですかね?
才人…剣による近接専門、ボタン連打で3回まで連続攻撃
ルイズ…威力の高い爆発を出せるが一定の位置にしか出せない
キュルケ…チャージできる炎弾を撃てるが連射性が低い
タバサ…威力が低いがボタン押しっぱなしで氷弾を連射できる
ギーシュ…地面からワルキューレがタケノコのように並んで生えてアッパーカットで攻撃。対空性能ゼロ、足場が少ないと詰む
るろうに乙。
黒笠キタ!!
>>438 小説投稿サイトでよくあるやたら細かいキャラ設定(イメージCVとか書いてあるやつ)を見た時と同じうすら寒さを感じた
それとは別だろw
復旧きた?
手塚作品からはたいしてないなあ。マグマ大使VSヨルムンガンドとか楽しそうだけど
ハルケの魔法は味噌でキャンセルされるのだろうか?
ココの分隊召喚するならルイズの所じゃあんまり輝かない気がするなぁ・・・
ジョゼフんとこで世界平和の為に魔道具作ってアレコレする方が面白そうだ
…って、途中まで書いてて気づいたが
>>444のはそっちのヨルムンガンドじゃねぇやw
ヨナ坊はアリだな
契約もいらない
ギーシュ決闘で撃ち殺されそうだなw
バルメが来たら話が進めば進むほどキマシ
爆発つながりでワイリもいいな
一発ネタになるが
そういえばSTGの召喚は何があった?
ベルサーのお魚天国とか提督とか
453 :
ゼロのOOO:2012/07/04(水) 20:17:50.47 ID:TCCoi4vt
予定がなければ20:30頃に投稿いただきたいと思います。
拙い文章ですので展開がわかりにくいかもしれません。
その点は申し訳ありません。
召喚キャラクターは「仮面ライダーOOO」より「火野映司」です。
>>453 拙い文章だとか、作品に自信が無いなら避難所の練習スレに行ったほうがいいよ。
いいよ
456 :
ゼロのOOO:2012/07/04(水) 20:31:23.64 ID:TCCoi4vt
>>454 確かにその通りですね。
申し訳ありません。投稿取消させてもらいます。
自信が出来たらまたチャレンジさせていただきます。
お騒がせしました。
>>454 お前みたいなクズがいるからスレがつまらなくなる
別に本人の判断だからいいんじゃね
定期サイヤ
容量が危ない
五分後に第二十八話投稿させてもらいます。
容量もてばいいんだけどな〜
第二十八話 『ラグドリアン湖の激戦』
「はぁ…」
水の精霊の涙を求めてラグドリアン湖を目指しているミントは一つ溜息を漏らして何故自分が今こんな目に遭っているのかと考え、その馬鹿馬鹿しさに改めて悲観に暮れる…
「おぉ、どうしたんだい僕の愛しき麗しの女神!その憂いを秘めた「うるさい!くだらない事言ってないであんたは馬の操作に集中しなさい…」」
ミントは自分の馬の手綱を代わりに操っているギーシュがやたらとキラキラした瞳で自分を見つめてくる事にうんざりしながら力無くギーシュを睨み付ける。
「うぅ…ギーシュ…」
「我慢なさい、そもそもあんたが全部悪いんだから。」
「うっ…それは…分かってるわよ…」
ミントとギーシュのやり取りを恨めしげに見ていたのはそもそもの原因であるモンモランシー、そしてミントに無理矢理に連れてこられたルイズである。
今ルイズとモンモランシーはそれぞれ一人で馬に、ミントは非常に不本意ながらギーシュの馬の後ろに乗っている。
それは四人が学園を発つ為、学園の馬を借りようとしたのだが生憎と空いている馬が三頭しか居なかった故の苦肉の策。
そもそもミントはギーシュを学園に置いていくつもりであった。
が、厄介な事に薬の影響下にあるギーシュはミントが目を離すと他の生徒達にミントの魅力を説いて回ったり…挙げ句実家にミントの事を恋人だの紹介したいだのと手紙を綴り始めたりとやりたい放題だったのでしようが無く連れて行く事にした。
「だったら私は行かずに残るわ。」
そう言ってルイズが面倒事から逃れようとするも巻き添えを求めるミントはそれを許さずそもそも馬に乗り慣れていないミントがここは誰かの馬に相乗りするという話しに相成った。
そしてその役目を買って出たのは勿論絶賛ミントにベタ惚れ中のギーシュで、ミントもこれに関して深く考える事も無く了承した。
しかしそんなミントの安易な考えを裏切るかのようにミントの視線の先で手綱を操りながら愛を詠うギーシュはそれはもうひたすらにうざかった…
(馬の操作をしなくて済むのは楽だけど精神的にきついわね…これならルイズ置いて自分で馬に乗ってくれば良かったわ…モンモランシーもこいつの何が良いのか全然分からないわよ…)
そんなミントの心を知らずギーシュの駆る馬の足取りは軽く、一行は昼を大きく回った頃に目的地であるラグドリアン湖へと辿り着いたのであった。
____ ラグドリアン湖
「……変ね、ラグドリアン湖の水位が上がってるわ!」
「水位が?」
ラグドリアン湖に到着した途端、モンモランシーはその変わり果てた光景に驚愕した様子を浮かべた。
「ええ、ラグドリアン湖の岸はここよりもずっと向こうだったはずなのよ。……ほら、あそこに屋根が出てるわ。村が湖に呑まれてしまったみたいね。」
「うわ、ほんとだ……」
モンモランシーが指差した先には、確かにワラぶきの屋根が湖から突き出ている。更に水面をよく注意して見れば、家が丸ごと水の中に沈んでいることが分かった。
それを興味深げに観察しているミントとルイズを放置しモンモランシーは波打ち際まで歩いていって水に手を触れて精神を集中させる為、目を閉じる。
因みにミントにとって用済みとなったギーシュは起きていると鬱陶しいだけなので現在モンモランシーのスリープクラウドの魔法で夢の中である。
「……水位が増えてるのはやっぱり水の精霊の仕業みたい。理由までは流石に分からないけど水の精霊は、どうやら怒っているようね。」
「触っただけでそんな事が分かるなんてやるじゃない…あんたを連れてきたのは正解だったわね。」
自分の世界には無かったそのメイジの技能にミントは素直に感心する。
「ふんっ…当然よ、『水』のモンモランシ家は、水の精霊との交渉役を何代も務めていたんだから。」
「務めていた?何?今はその交渉役じゃ無い訳?」
「うっ……そ、それは……」
ミントのその指摘に、思わずモンモランシーは口ごもる。
「モンモランシ家は結構前に干拓事業をする際に水の精霊を怒らせて交渉役を降ろされたのよ。トリステインじゃ結構有名な話よ。」
言い淀んでいたモンモランシーの代わりにルイズが簡潔な説明をミントに行う、家の恥を晒されるのは悔しいが事実なのでモンモランシーとしても肯定せざるを得ない。
「でも少なくとも水の精霊を呼び出すのは問題ないでしょ、モンモランシー?というかそれ位は最低限やってもらわないとね…」
「ぐ…分かってるわよ、黙ってみてて。」
ミントの挑発的な言葉に応え、モンモランシーは腰に下げた袋から自分の使い魔のカエルを取り出した。
「ひっ、カエル!!」
「情けないわね〜…たかがカエルじゃない?」
情けない声を上げたのはルイズでそれを嘲笑ったのはミント、ルイズはカエルがどうも生理的に苦手なのだが言われっぱなしも癪である為ルイズは頬を膨らませた。そして…
「あっ、カボチャ!!」
「ひぃっ!!?」
仕返しとばかりのルイズの嘘にこれまた情けない悲鳴が湖畔に響く…咄嗟に反応したミントだったがそれは直ぐに嘘だと気が付いたので恨めしそうな目でルイズを睨む。
「…あんたも人の事言えないじゃ無い…」
「ルイズ!!」
「あ〜〜〜もう!二人ともうるさいから静かにしてなさいっ!!水の精霊を今ロビンが呼びに言ってるんだから騒がないでよ!!」
二人の言い争いの間に使い魔のロビンを湖へと放したモンモランシーが二人に怒鳴りつける事で取り敢えず二人の言い争いは鎮静化したのだった。
程なくしてロビンがモンモランシーの元に戻って来る。すると大きく湖の水面が膨らみそこから不定型な水柱が現れた。
水柱は一行をしばらく観察するような様子を見せた後その姿を徐々に人間の女性のシルエットへと変形させていった。そして、ようやく形作られたそのシルエットはモンモランシーの姿を模していた。
これで取り敢えずの最低条件はクリアできた。それを確認したモンモランシーはルイズとミントが見守る中、水の精霊に向かって一歩前に出る。
「水の精霊よ、私ははモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で旧き盟約の一員の家系に連なる者。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたならば私達に分かるやり方と言葉で返事をしてちょうだい。」
その言葉に反応したのか、モンモランシーの姿を模している水の精霊はフルフルと震えるように会話を始める。
「………覚えているぞ、単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を我は覚えている。お前に最後に会ってから月が52回交差した。」
水の精霊の覚えているという言葉にモンモランシーは心底安堵する。
「良かった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を私達に分けて欲しいの。」
「……………」
今度は何か考えるかのように沈黙をする水の精霊。その様子に一行はどうもイヤな予感を感じずにはいられなかった。
「断る、単なる者よ。」
その水の精霊の一言を聞いてルイズとモンモランシーは内心当たり前かと一応の納得をする。「下さい。」「はいどうぞ。」という話がそもそもあり得ないのだから…しかしミントは違う。
「はぁっ?けち臭い事言ってんじゃ無いわよ!良いからほら、あんたの涙を寄越しなさい。それがないとあたしが困るのよ。」
恐れも遠慮も一切無く、ミントは水の精霊に両手を突き出して軽い催促のステップを踏んでみせる。
これにはモンモランシーもルイズも思わず絶句する…
「断る、ガンダールブよ、我にはお前達へ我が一部を差し出す理由が無い。お前が我が一部を求めるならば我にその力を認めさせ、契約の元で求めるが良い。」
水の精霊には感情が無いのか、ミントの暴言にも特別怒った様子も無く淡々と切り返した。
「ガンダールブって?」
モンモランシーが水の精霊の言葉に疑問符を浮かべるもそこまで怒った様子が見られない水の精霊のその反応にミント以外は胸を撫で下ろした。
が、ミントの続ける言葉に更に精神をすり減らす事となる。
「成る程、涙が欲しかったら自分とバトルして力を見せてみろって事ね?な〜んだ、あんた案外話せるじゃ無い。」
そう、青ざめる連れ二人等意に介さず、ミントは精霊の先の発言にとあるシンパシーを感じ、つまりは何を求めているのかを察していたのだ。
「あんた何言ってんのよ!!!!バカなの!?いいえバカよ!!」
「お願いミント、止めて!!これ以上水の精霊怒らせたら私の家取り潰しになっちゃう!!」
大泣きしながすっかりやる気になったミントに縋り付くルイズとモンモランシー、それを正直鬱陶しく感じながらもミントは手にしたデュアルハーロウを水の精霊に突きつけると高らかに宣言した。
「うっさいわね〜…ほら、下がった、下がった。、…さ、レッツバトルよ!!」
「………来るが良い…単なる者よ。」
「…嘘でしょう…」
嘆く二人を置き去りに弾かれたようにミントが岸辺を走る。するとミントがつい先程まで居た地点へと高圧縮された水塊がまるで鞭の様に連続で叩き付けられた。
不定形故のしなやかな動きがミントの蹴った地面を次々と水が穿つ…
「相棒、あの水には当たるなよ!水の先住には心を狂わす力がある!」
「オッケー。切り裂け!!」
デルフリンガーの助言を受けてミントのステップは更に鋭さを増す…
勿論ミントは防戦をする気も無く、デュアルハーロウから放たれた魔法、高水圧の水の鋭い刃は未だモンモランシーの姿を模したままの水の精霊の胴を袈裟に切り裂いた。
水の飛沫を巻き上げ、一瞬その形を崩した水の精霊、だが次の瞬間には当然とでも言うか元の姿へと戻っていた。誰が見てもダメージが入っているとは思えない。
「やっぱ効かないか…」
ミントは予想していたとはいえその光景にやはり驚きつつ自分に迫る水の弾丸をたたき落とし次の魔法を放つ体勢に移った。
そしてミントの今の一撃に一番驚いていたのは誰あろう水の精霊であった…
『系統魔法』とも『先住魔法』とも違う永遠を生きる自分にも知り得ない未知の魔法とそれを操る人間等、自然と興味が湧く…
続いて水の精霊を襲ったのは紫電を放つ巨大な暗黒の球体。それは水面を削り取るようにしながら高速で真っ直ぐ水の精霊に向かう。
ハルケギニアには存在しない属性の魔法は水の精霊をそのまま周囲の水もろともに飲み込むと強烈な力場を生んで何も残さず消滅した。
消滅した水面を補うようにして大きく波立った水面…そこにはもうモンモランシーのシルエットを模った水の精霊は居なかった。
しばらくの後、水面が穏やかさを取り戻す。すると姿は見えないにしても再び湖畔に水の精霊の声が響いた。
「…そなたの力我は存分に見せてもらった。我はそなたを認めよう。武器を納めよガンダールブ…」
とミントも半ば予想出来ていたかのように素直にデュアルハーロウを背に納めると戦闘態勢を解除する。
「ったく…判れば良いのよ。」
不遜に言ってミントはルイズとモンモランシーが居た場所へと戻る。ウィーラーフもそうだったが所謂人智を超えた存在というのは人の力を試すのがやたらと好きなようでミントは実際この流れは予測が出来ていた。
だがルイズ達はそうも行かない。
「何なのよ…一体…」
と、理解の追いつかないままルイズとモンモランシーの二人は呆然と水面とミントを見つめていた。
事態に収拾が付いた事で一行はようやく再び水の精霊との交渉を再開する。
水の精霊もまずミントの存在に疑問を抱いた為、ミントが何者であるかを問い、またミントも自分の身分、置かれている状況などを掻い摘みながら水の精霊に答える。
思わぬ形ではあるがミントが王女である事を知ったモンモランシーは「ありえない…ありえないわ…」と譫言のように呟いていた。
そうして互いにある程度の情報を交換した後、ようやくミントが『精霊の涙』を要求するも水の精霊は再びこれを拒否した。
これに声を上げてミントは反論したが水の精霊曰く、ここ数日水の精霊は何者かの襲撃を受けて実際困っており、その襲撃者を何とかすれば『精霊の涙』をミントに譲ると言う。
なんにせよお宝を手に入れる為に、何かと『お使い』を頼まれるのはミントにとっても馴れた物である。無論、面倒だとは思うがこればっかりは仕方が無い。
こうしてミント達は今夜、水の精霊を襲う襲撃者に備える事となったのであった…
これにて今回は終了です。後半駆け足ではしょり気味ですがそこはお許しを。
あつ
もてばいい じゃなくて、計算くらいしろよ
ID:2COy7tfd
なにこいつ
紳士は黙ってNGID
にじファンが閉鎖するからってこっちに流れてきたか……
それはさておきデュープリズムの人乙
ついに閉鎖すんのか
いやさすがに容量計算は当たり前にやることだろ
途中で埋まって乱立とかになったら目も当てられない
自分の書いたバイトとスレの残りを足し算引き算するだけだし
計算はしてるけど合いの手を入れてくれる人もいるから
もしかしたらってこったろ、それぐらい察しろよ
AA貼るんじゃないだから合いの手や支援程度で変わる容量じゃないだろ
そんなギリギリなら予め立てておくべきだし
擁護にしても意味がわからんぞ
作者責めるとアレってのはわかるけど、こうするべきって当たり前のことを言って逆に責められるのは頭おかしいってか気持ち悪い空気
もちろん何事も言い方ってものがあるが
デュープリの人、乙でした
水の精霊が話の分かる精霊で安心したw
最近投下はあっても感想がほとんどないからレス伸びないままにスレ埋まること多いけど、
だからといって毒吐きじゃなくここで今作者責めてまで言わなきゃなんないことなんかね
言っちゃ悪いけど、だいぶ余裕あるのに容量が危ないなんて直前に言った人がいたせいでしょ
途中で埋まって一つ二つスレが余分に立ったからってどうってことないだろ。
たった時間の早い順に使って残りはDAT落ちするか再利用されるかなんだから
言葉尻捕まえてgdgd言ってんじゃねえよクソ自治厨がwそれとも乱立すると誰か死ぬの?
しょーもな
>>482 こういう開き直った低能が全員に迷惑掛ける害悪なんだよな
>>484 そういうお前にはスレ汚してる自覚はないの?
みんなに迷惑?俺にレス返した時点でお前もみんなの迷惑だから死ねば?
ぺいっ!!
-─フ -─┐ -─フ -─┐ ヽ / _ ───┐. |
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( | ( | / / l /\ | /
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し し ヽ__ / ヽ___,ヽ _ノ
・次スレは
>>950か480KBからお願いします。
まだ470KBです
>>469 召喚キャラが水の精霊にケンカを売るパターンが増えてきた気がする……
確か、スパーダもそうだったような……
>>489 あれは水の精霊の方が先にケンカ売ってきたじゃん
491 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/07/05(木) 06:52:50.90 ID:XbpMzHZF
容量持つかなって言いながらも余裕があるから書き込んだんでしょう?
色々好き勝手言われてますがデュープリの人乙です。次も楽しみにしてます!
オリ主も許容する懐の深いスレ民がこんなことで争いあうなんて・・・
アトリームにも争いはありましたよ…
ミストさんは帰っていいです
水の精霊って話の序盤で仲良くなっていればすごい有利なキャラだから扱い難しいよね。つい都合いいだけの解釈したくなっちゃう。
水の精霊ってそんな役立つキャラだっけ?
指輪くらいしか役割ないような
涙はあらゆる秘薬の材料でしょ
デスピサロを元に戻したのもロザリーの涙だったしな
干からびた大地を蘇らせたのもアクエリオンの涙だったしな
涙は女の武器だぜ
もしも水の精霊が全面協力してくれるなら
タバサの母ちゃんもカトレアも治し放題じゃね?
水の精霊の体が秘薬の原料になるというだけで、
水の精霊自身が治療方法や薬の作り方を知ってるかはわからんぞ
水の精霊の体を薬に使う方法はメイジも知っているが、精霊の涙を使用したものも含めてメイジの作る薬では歯が立たない
そのような毒や病を水の精霊が治せるかどうか
問題はどうやって協力をとりつけるかだ。
そんな簡単にいくならヴァリエール公爵もタバサも試みてるだろう。
指輪返したくらいじゃ無理じゃね。
治療法もクソもあの世界の水の力で可能な事は全部できるんじゃないの?
触れただけで心ぶっ壊せるけど、その逆は全くできまへん!てのは想像しづらい。
水の精霊が扱える水の力に得手不得手あるとかしょぼい。
>>504 所詮もしもの話だよ
カトレアの所までたどり着いてるSSは少ないけど、どれもクロスキャラの力を持ってしても容易に解決しないパターンばかりだよね
原作でも回収される見込みもないし、扱いづらいんだろうな
最強系最低系とかならパパっと解決されてんだけど
>>505 ならば原作でタバサが水の精霊に対面したとき、
祈るだけで何ら頼みも縋りもしないのは不自然だろ
アニメ設定を採用すればいいだけじゃない?カトレアぴんぴんしてるし治す必要なんてないぞ
エルフの使う火石には核兵器に匹敵するかというくらいの威力があるが、
しかしおそらく火の精霊自身にそれだけのパワーがだせるというわけじゃあるまい
同様にエルフの作った水の薬に人間の心を粉砕するパワーがあるからと言って、
水の精霊にそれを逆行させる力があるとは限らない
薬は精霊の力に人為的な加工を加えて作ったものであって、純粋な精霊の力オンリーではないから
どうでもいいよ
作者の気分次第だろアホ
まあそうだがね
そもそも水の精霊ってそんなすごそうに思えん
トライアングルメイジ2人相手に困らされて退治を依頼してくるような奴だし
戦いには得手不得手、相性や弱点とかあるだろう。
ゼットンだってウルトラマンにKO勝ちしたけど人間に負けてるんだし。
そうだね、ウルトラマンを完封したけど生身の人間にナイフ一本で翻弄された宇宙大怪獣だっていることだし
アトリームにもウルトラマンはいましたよ…
ミストさんは召喚してくれる人がいなさそうなのでラグナさんといっしょに農奴2号でもしてください
ミストさんはミストさんでもミストバーンさんが召喚されました。
契約しようとして身体を突き抜けて地べたにキスするルイズ。
まぁ一発ネタだわな、あの人バーン様以外に従うわけないし
ほぼ無敵の秘法が破れなきゃ皆殺し実行。
唯一有効打になりうる虚無でも初撃以降は詠唱中に潰そうとしてくるし無理すぎる。
ダイの方のまとめサイトにミストバーン召喚ものはあったはずだが
これも一興と、バーンの命令で契約させるあたりが妥当な線
人間には過ぎた力の象徴として、虚無を持ってくるとプロットが組めそうな予感
戦闘での主役をルイズにして、ミストは師匠ポジに置くと無理なく話を進められそうだな
バーン様とて虚無は未知の魔法に映るだろうし、研究と称してミストにサポート役を命じるくらいは普通に出来そう
バーン様は強いものは評価するし、ミストも努力して己を高めるものには敬意を払うし
特にルイズが虚無を使えるようになったら一目置いたりして
そろそろディーキンの人にお出で願いたい。
さいやまだー
>>516 むしろあれだ…
マァムを乗っ取ろうとしたとこで鏡が開いて召喚されて、その勢いでミストルイズに(笑
>>520 ネタばれになるがミストバーン召喚モノでバーン様ルイズをスカウトしてたぞ
知らない振りしてミストバーン召喚モノ既に読んでんじゃねーの?ってレスがチラホラ
褐色ルイズかわいい
>>521 確かにディーキン分が足りない。
ディーキン以外にあの世界(グレイホーク含む)から誰か呼ぶとしたら誰になるかね?
銀竜の騎士団から魔法使いの弟子とその弟を呼んできたら色々触発されて良い話になるかも知れないね
個人的には新世紀エルフのスタンダードを召喚しちゃって
魔法学院で教鞭を取るような展開みてみたいけど
D&D(おそらく3.5版)だと行為の魔法使いは自力で契約解除&帰還も可能だから
それ以外ということになるが、そうすると戦闘用特技で名を残したロビラー強ぐらいしかメジャーな人物はいなさそうだ。
ディーキンと同じ世界からなら、ダークエルフの双剣使いで小説の主人公にもなったドリッズドがよさげ。
行為×→高位○
なんか卑猥w
行為する魔法使い
ディーキンもその気になれば多分自力で帰還できると思うけどね
でも今のところすぐに帰還する気はないわけで
帰還する能力があるかないかより、すぐに帰っちまいそうな奴かどうかが問題じゃないかな
>>511 ほぼ全能力を「増水」に使ってるから仕方ない
大陸埋め尽くしだったようだから、本当なら凄いよな
水不足に関しては憂いなしとか
どこから質量を持ってきてるんだろう
海?
容量480kb超えてたからいってくる
乙でござる乙でござる
上のディーキンって作品名かと思ったらキャラ名なのな
北斗の拳のカイオウとかルイズと反りが合う気がする
>>533 日本以外全部沈没ならぬ、アルビオン以外全部沈没(笑
>>540 まぁ、ブツ自体はアルビオンにあったわけだから、アルビオンも結局沈むんだけどな
水没の前に大隆起が待ってるけどな。ふるさとハルケを去る
そういえば今日はウルトラマンAの北斗と南の誕生日だった
もし精霊が止まらなかったら、ハルケ世界何時か全部沈没か。
ラピュタは本当にあったんだ
全球水没に何年掛かるんだろうね。
それともある程度増水したら風石暴走よろしく水の精霊力暴走で陸地が沈んだりするのかな?
あと、アルビオンまで視野に入れてたら惑星直径変わるほど増水すんのか。
本当にそこまで可能かどうかはわからんがパねぇ。
クロムウェルに指輪取られてから増水初めて、一か月でようやく周囲の家がいくつか水没する程度に増えただけだろ
数年やそこらじゃ全然だめだね
水の惑星ラティスみたいになるまで数十年かけるつもりだったし
何年も増水し続けたら間違いなく途中でメイジの討伐隊とか来るし
そうなったら確実に身の破滅で結局指輪も取り戻せない
時間感覚が人間と違うとか関係なく愚かな行為だな
それが精霊ってものか?
湖にいる水の精霊を討伐しても第二、第三の水の精霊が現れるんじゃ……
普遍的に存在する精霊を殺せるならエルフの先住魔法に苦戦しないし。
>>549 そうであるなら、討伐任務など出しても全く無意味だろう
不変的に存在する精霊を殺すことはできる、しかしそれにはトライアングルクラスが2人でかかるほどの労力が要る
しかそエルフは水の精霊だけじゃなくその辺にいる複数の精霊と同時契約もできる
それで苦戦するのがどうしておかしい?
水の精霊がタバサとキュルケをどうにかしろって言ってきたのも
「殺虫剤でも蚊取り線香でも落とせない蚊が居るからどうにかしてくれ」的なニュアンスだったのかもね
水の精霊に詳しいモンモランシーが、精霊と戦う方法について説明してるだろ
風の球で身を護りながら、火であぶって体積を減らしていくと
精霊の体積は人間より若干大きいくらいで固定みたいだし
原作中のキャラが対抗方法まで説明してんのになんで殺せないと思うの?
>>552 それ原作読んでないんで良くわかんないんだけど、水の精霊が水中にいたらどうやって火であぶるの?
そりゃ、永遠不変とか存在の根底が違うとか言われたら早々殺せないと思うよ
桁はずれに蒸発しにくいのか、モンモンのやり方でもじわじわと削るだけっぽいし
ヤバくなったら増水に向ける力削って迎撃に回すんだろう。もっとも、ガリアの目的はそれだろうけど
>>553 精霊の体は魔力を帯びているのでメイジはただの水と見分けられる
水に接触していると水の精霊に力を及ぼされてしまいかねないので、
風の球で身を護って水への接触を避けつつ潜って接近し、高熱で炙って分解していくと説明されている
水中にいても風で周囲の水を剥ぐか、構わず熱して高熱で分解させるのだと思われる
実際にタバサとキュルケは水の精霊の体を削りつつあったことが明言されている
>>554 より正確に言えばおそらく殺すのとは違う
モンモランシーの言によると、熱して分解すると結びつけなくなる
つまり精霊は死ぬのではなく蒸気になって分子レベルまで分解されると無力化するという意味だと思われる
ある程度の年月を経ると再結集して復活することもあるのかもしれないが、
短期的には打倒可能であることは間違いあるまい
で、個人的によくわからんのは、水の精霊の体は魔力帯びてるから分かるって部分かな
精霊の帯びてる魔力は明らかに先住の魔力だと思うんだけど
タバサはカードゲームで化けていたエコーの魔力を感知出来てない
吸血鬼やグールも見分けられないみたいだし
センスマジックは平民とメイジを見分けられるのに
だから先住の魔力はメイジには感知できないと思っていたんだが…何故精霊は分かるのだろう
558 :
553:2012/07/07(土) 23:25:02.27 ID:mgZEFXaH
おおざっぱに言うと風船に入って水の精霊のところに突撃、逃げようとしても構わず周りの水ごと加熱してやればいいってことかな?
解説トン
水の精霊からは格が違うオーラが出ているんだきっと
今日はよーやっと休みだー…一週間疲れました;;
これから作成はいります。レジェンドBB武者も家に来たことだし頑張ろう。
余談なんですが、騎士、武者、コマンドが来るOVAってありましたよね。
余裕があったらやってみようかな。
楽しみにしていますがあまり投下以外で報告が続くと怒られますよ
雑談や馴れ合いしたいなら他所でやれってなるね
>>557 エコーも吸血鬼もグールも肉体がある
対して水の精霊は不定形。その存在を形作るのに魔力で一定量の水を結びつけていると考えてみてはどうだろうか
そのため普通の水とは毛色が違って判別可能とか
もっと言えば、加熱されることで分子運動が活発になり魔力のくびきを離れて飛び出してしまう為、離散した身体を集め再び元の大きさに戻るには時間がかかる、とか
無い知識を絞って考えてみた
内容に則さない雑談はご法度だがな
避難所のほうでやればいい
元々雑談スレだったのが、SSが投下されるようになって現在の形になったわけで……
それを知らないにわかが雑談を追い出そうとするようになったのは、一体いつごろからの話なのかね
投下があっても延々雑談するからだろ
召喚云々の話ならさくっと流れるしスレにも沿ってるが、原作語り、設定語り、クロス先作品語り、作者語り、いずれも度を越せば邪魔なだけ
避難所があるんだからそっちでやればいい、当たり前の話だろう
過疎るよりましだよ
雑談で迷惑するほどSS投下ないし
設定厨や特撮厨の害悪は異常
どのへんが異常に思うほど害悪なの?
>>570 え?知的障害者かなんかですか?過去ログを見ればわかりますよ
そろそろ空気悪くなってきたよ
これ以上は毒吐きスレに行ってくれ
まぁ出る杭は打たれると言うし、多かれ少なかれ苦い顔する人もいる。
フィルタなり色眼鏡なりかけて見られたくなければ大人しくするのが吉。
書き手が出しゃばって酷いことになった歴史もあるしねw
>>571 ログみろじゃなくてあなたがなぜそう思うに至ったかの経緯を聞きたいのですが?
雑談がSS投下の邪魔にならないようにするための投下予告なんだと思うが。
何にせよこのスレはもう500kbまで埋めるだけで、新規の作品投下はないんだ
雑談してて何の問題も無いっていうかそれ以外することないだろ
>>563 液体金属のターミネーターみたいなもんか
んだ、もうあとちょっとで埋まるんだし
9kbで何か書けるだろうかと考えたら『使い魔30』になるんだろうか、と。
それは30レスでゼロ魔全エピを完結させろ、とかそういうゲームか?
ネタ的には30文字のほうがいいかも?
しかしまぁ10kbって微妙な量だな
つかいまさんじゅうろくさい
か
梅
30こすりで絶頂を迎えるサイトさん
AAでも張って埋めるか
敵の先手――案の定とてつもない。単純明快な大炎。ただただ突き詰め続けただけの火力。
『火』系統の最強にして原点。大地を飴のように溶かし、空気を絶する。
あらゆるものを破壊する原初の炎。無駄という無駄を削ぎ落とした結果、完成を見る極み。
シンプルで強大なものほど隙がなく対応策がない。ただ単純に相手を上回らねばならない。
もし自分だったら、一体どれほどの魔力を注ぎ込めばこのような炎になるのだろうか。
似たようなことは出来るかも・・・・・・知れない。しかし練度が圧倒的に違い過ぎる。
温度も、速度も、こうはいかない。範囲だけならこれ以上のものを展開出来たとしても、威力はてんで及ばない。
戦場でモノを言うのはつまりこれなのだ。メイジとしての本領。その最大効率的な運用方法。
微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く、鏖殺する大魔法。人を人と思わぬ殺害方法。
後悔も未練も、思考の暇さえ与えずに、苦痛をも感じさせず、一瞬で焼くどころか蒸発させる『火』。
小手先の戦術など全て消し飛ばす、圧倒的な制圧・殲滅力。たった一人で戦局を左右する単なる"力"。
要所で使えば、それだけで決着がついてしまいかねないほどの。存在そのものが敵軍にとって畏怖の象徴となるメイジの力量。
空間を一色に染め上げ支配する、絶対的な死への誘いを魅せてくれる陶酔感。
思わず「焼かれてしまってもいい」、などと思ってしまいそうなほどの魅力。
まるで炎そのものが、全てを余すところなく優しく包み込んでくれるようで――。
俗世の苦難から解放してくれる。一瞬の内に永遠の安息をくれる。甘美な光景。
戦場で磨き続けたゆえの・・・・・・この炎なのだろう。
だが例えどんな魔法だろうと、やるべきことは何一つ変わらない。
シャルロットの持つ切り札の短剣。その中に数ある奥の手の一つ。
(大変だけどお願いね、"デルフリンガー")
(あいよ、任せとけ相棒)
突き出した左手のナイフが赤色を切り裂く中で、念話によって言葉を交わし通じ合う。
"地下水"とはまた別の、短剣に宿る思考――。
インテリジェンス・アイテムに宿る思考は総じて長寿である。なにせ寿命がない。
老いることがないから、破壊されることなく存在していればそれは即ち長寿なのだ。
大概は本人達も忘れているが、千年単位で生きているのは珍しくない。
地下水とデルフリンガーも例に漏れず長生きで、多くを忘れて刹那的に生きてる。
たまに思い出しては知恵袋的なことを教えてくれたりもする。
元々短剣に二つの思考が混在していたわけではなく、デルフリンガーの『特性』の一つ。
『武器から武器へと存在を移し替える』ことで、地下水が宿るナイフに渡ってきた――らしい。
本人達も記憶は曖昧だったが地下水曰く、いきなりデルフリンガーが住処にあがりこんできたとか。
短い付き合いというほどでもなく、人間の時間感覚で言えばきっと長年の友になろう。
いずれにせよ、私が短剣を初めて手にした時から既に"二人"はいた。
困ったり悩んだりすれば相談に乗ってくれる――"家族"なのだ。
そんなデルフリンガーの『特性』の二つ、『魔法吸収』。
系統魔法を吸収し無効化する。シャルロットに迫る炎熱は全てナイフが吸い込んでいく。
それでも余熱で全身が焼けていくような感覚。そんなことは初めてだった。
銃帯にストックしてある弾薬が暴発したらなどとも考えてしまうが、幸いそこまでには至らなかった。
互いに詠唱した一手目と二手目。炎が放たれた三手目、あらかた吸い込んだ四手目。
そしてシャルロットが詠唱していた魔法を開放する五手目――。
単なる『土壁』を出現させる魔法。しかしその大きさはシャルロットの特性のおかげで規格外を誇る。
厚みにして3メイル、高さは10メイルほど、横幅は20メイルにも至る土壁。
それが三枚。メンヌヴィルの眼前に一枚、その斜め後ろに一枚ずつ。
三方をトライアングル状に、隙間なく構成された巨大な土壁包囲。
まずはこれが大前提にして、布石の役割をも成す。
『白炎』のメンヌヴィルはメイジとしての実力もさることながら、感情を読み取ってくる化物だ。
感情を読まれるということは、攻撃のタイミングも読まれてしまうということ。
それでは決定打を逸し、泥仕合に発展する可能性がある。そうなれば経験差も含めて負ける公算が高い。
だから何よりもまずは、敵が"温度によってこちらを把握してくる"ことを封じる。
一瞬にして囲うように形成された土壁は、メンヌヴィルの眼を一時的な暗闇へと変えた。
デルフリンガーの"吸収"。突如"奪われた視界"。巨大土壁を生成した"私の魔力"。
敵が炎を放ち、こちらが炎を吸い、さらに壁を作って、ようやく攻勢準備が整った。
そして同時に王手詰み――チェックメイト――だ。
メンヌヴィルの土壁を溶かす炎と、シャルロットの魔法。六手目が重なる。
『飛行』で開けている上空へ逃げれば鴨撃ち。地上は壁で逃げ場がない。
強力な土メイジであれば、地中に逃げるような選択肢もあったかも知れない。
しかし『火』系統のメンヌヴィルには、壁もろとも敵を破壊するか、後方の壁を破壊して逃げるのが限度だろう。
そして何よりもメンヌヴィルはこちらの位置が捕捉出来ていない。
シャルロットの周囲は極炎の余波で燃え上がっていたが、それでも逃げ道を作れないこともない。
僅かな一瞬ではあったが、メンヌヴィルは唐突な暗闇の所為で判断が遅れた。
さらに少女の居所がわからないゆえに全方位に大炎を展開したこと、こちらの攻撃速度をも含めて時間差が生じる結果となった。
両腕を真っ直ぐ――ナイフと共に――メンヌヴィルに向けて突き出し、『ライトニング』が放たれる。
駆け抜ける稲妻が、空間を何筋も放射線状に、人の眼には認識出来ないほどに幾重にも迸った。
雷鳴がほぼ同時に聞こえるほどに轟き、それがシャルロットの魔力量に応えるように何度も走り続ける。
雷の性質上、本来それはシャルロット自身にも降り掛かりかねない諸刃の剣であった。
通常は『ライトニング・クラウド』で、雲を基点に指向性を持たせるものである。
されどデルフリンガーの魔法吸収能力を働かせ続けることで、安全かつ全力で放出することを可能とする。
障害物ごと貫く轟雷が標的と周囲一切を撃滅する。敵が展開途中の炎も広がることなく尽きる。
耳を劈く雷音を置き去りに、メンヌヴィルは自覚する間もなく打ち倒された。
シャルロットの膨大な精神力を使った『放射雷撃』。
視覚を埋め尽くす閃光の残像と、聴覚を満たす破壊の残響が、霧が晴れるように薄くなっていく・・・・・・。
初めて殺した実感を噛みしめようとしたその時――倒れた伏したメンヌヴィルは動いていた。
ゾワッと皮膚の下で蟲がのたくるような怖気が走り、その悪寒に全身が総毛立った。
最後の悪あがきかも知れない、それでも手負いの獣が叩き付けてきた殺意と重圧。
それは実戦経験が乏しく、戦闘が終わったと思ったシャルロットの思考と動きを止めるには充分過ぎた。
鉄杖の所為で十二分に電撃が伝わらなかったのか。
幾度も死と共にあったメンヌヴィルだからこそ、致死の最中にあっても動けたのか。
精神が肉体を凌駕する途方もない一念。考えるだけ無駄な執念の底力。
本来であれば一撃必殺の魔法だ。シャルロットが考え得る対人最強の技。
己が身も危険というデメリットは、魔法吸収によって無効化される。
魔力を込めた雷撃の威力は申し分なし。雷の速度は風すらも比べるべくもない。
雷撃の数と範囲も隙なくカバーしている。躱したり耐えることなど、まるで想定していなかった。
メンヌヴィルは上体だけを僅かに起こして電熱で歪んだ杖を振る。と、"白い『炎の蛇』"が噴き出した。
色は違うものの・・・・・・それは奇しくも、20年前にメンヌヴィルを焼いた――憧れた隊長の技であった。
(詠唱を――!!)
――間に合わない。今度はこちらがどうしようもなく遅れてしまった。
そもそも防御しようと考える頃には、メンヌヴィルの白炎が心を焦がすほどに目に映り込んで離せない。
そして――もう"魔法は吸収しきれない"。
既にメンヌヴィルの極炎と、シャルロットの雷撃。二つもの圧倒的な魔法の魔力を吸っている。
その上で死の淵にいながらにして死力で放つあの禍々しい炎を受ければ、キャパシティは間違いなく超える。
吸収途中で地下水とデルフリンガーが宿る短剣は砕かれ、己も業火に身をやつす。
――読み違えた。後悔するよりもまず反射的に頭が回る。
走馬灯のように時間感覚が引き伸ばされて、その中で必死に模索する。
例え詠唱が間に合わなくても、考えることだけはやめるわけにはいかないのだ。
一つ、"文武に優れるシャルロットは突如反撃のアイデアが閃く"。
二つ、"父様やキッドさんが来て助けてくれる"。
三つ、"躱せない。現実は非情である"。
理想的なのは二つ目だが期待など出来ない。この一瞬の間に、都合よく現れるなんて。
"イーヴァルディの勇者"のように登場して、間一髪助けてくれるなんてわけにはいかない。
三つ目だけはありえない、諦めるわけにはいかない。結局は一つ目だ。
多少なりと吸収しながら、炎が届く前に逃げ切れるか――?詠唱が間に合うと言うのか――?
――兎にも角にも試さないとどうしようもない。しかし体は意思に反して動いてはくれなかった。
所詮は精神だけが切り離されて思考している状態。肉体がそれについていけるわけがなかった。
(死ぬ・・・・・・?)
三つ目の選択が頭によぎる。同時にこんなにも現実感がないものなのかと思う。
メンヌヴィルの浮かべる歓喜に打ち震えた決死の笑みが、脳裏に焼き付けられる。
死が迫るその時、ようやく体が――シャルロットの頭とは裏腹に――動いていた。
ガンダールヴで強化されたブッチもかくやというほどの速度で、地面を蹴って飛び退っていた。
止まっていた風景が、味わったことのないほどに一瞬にして流れる。
意識的ではないし、無意識の動きですらなかった。
それは"吸収した魔法の分だけ使い手を動かす"というデルフリンガーの『特性』のその三。
しかも乗っ取りに慣れている地下水も加わっていると感覚的に理解する。
シャルロットとは無関係に、デルフリンガーが身体の限界状態まで引き上げて、地下水が実際的に動かす。
役割を分担することで、最高のパフォーマンスを発揮していたのだった。
されど、吸った魔力量に比べればちょっと動いて消費したところで焼け石に水。再度吸収しきるには到底及ばない。
それにリミッターを取り除いて一時的に強化された速度になったものの、逃げきるのは無理だろう。
あれは十中八九、術者の意による追尾性能を持っているタイプの『火』系統魔法。
その場からちょっと離れようとも意味を為さず、詠唱を完了する前にこちらに届く方が早い。
そもそも使い手を動かす特性というのは、根本的に肉体に多大な負荷を掛ける行為でもある。
通常の状態であれば問題ないが、現状のように極限ともなれば体は容易に壊れてしまう。
次の瞬間には足が粉砕していてもおかしくはない。否、既に折れているかも知れない。
仮にガンダールヴであったなら、この肉体操作も何の問題はなかったことだろうものの・・・・・・。
シャルロットは所詮、"鍛えただけの人間の域"を超えることはない。
魔法を吸収する必要もあって、地下水があるのなら白兵戦よりもまず魔法で敵を粉砕する。
シャルロットの体捌きや射撃・白兵技術も、あくまで地下水がない前提で積み上げられたもの。
またデルフリンガー曰く「疲れるから嫌」と、肉体を動かそうとすることそのものを渋るくらいだ。
ゆえにまず使わない特性であり、使うこともないであろう特性であった。
デルフリンガーと地下水は阿吽の呼吸によって言葉もなく。
弾けるように跳ねたシャルロットの体躯はそのままに、短剣を握ったままの左手が振りかぶられた――。
逃げきることも吸収しきることも不可能なことだとは、二人も判断していた。
既に敵より遅れている上に、先の炎によって周囲の地表は火の海と化し、地面もマグマのように融けている。
最初に吸収した分だけ、シャルロットの周辺は問題なかった。が、逆にその所為で炎は背後に向かわなかった。
つまるところ炎海の街道沿いにあって、崩れている馬車は真後ろに健在。つまり最短の逃げ道は塞がれている形。
メンヌヴィルの放つ――恐らくホーミングする――炎から逃げ切るには、肉体が壊れない前提でも無理である。
――ナイフが手元から投擲された。それ自体は慣れ親しんだ動きだ。
武器の一つに飛ヒョウがある。その練習の為に何度も繰り返した動きである。
ただし速度の桁が違う。飛ヒョウよりも大振りの短剣は、一直線にメンヌヴィルの方に向かって飛んでいく。
炎の蛇も霞む速度。メンヌヴィルが感じていても、避けられる距離ではない。躱せる状態でもなく、防御も間に合わない。